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仮投下・修正用スレ

1名無しさん:2009/05/10(日) 23:38:31 ID:pmy889Lc0
2chの規制や意見を聞きたいなどで本スレに投下できない時にどうぞ。

前スレ
一時投下・修正用スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/10906/1203948076/
避難所スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/10906/1204105308/

75第二回放送案 ◆9L.gxDzakI:2009/08/24(月) 09:58:18 ID:0xaz4vOs0
 12時間。
 早いようで遅いようで、あれから既に12時間だ。
 この81マスの箱庭にて、血と狂乱の殺戮劇が幕を開けてから、実に半日が経過しようとしていた。
 表向きに言及することはなかったが、かの大魔導師が規定したタイムリミットは48時間。
 要するに、間もなく4分の1もの時間が経過しようとしているということだ。

 12時を迎える。
 デスゲーム開幕の瞬間から、実に12時間ぶりに、時計の両針が頂点を指す。
 12とはすなわち正午。
 午前と午後を二分する、境界の時間が目前に迫っている。
 12とはすなわち6プラス6。
 6時間ごとに行われる定期放送の2回目が、間もなく始まろうとしている。

 12時間。
 分数にして720分。
 秒数にして8640秒。
 これから流れる放送は、その膨大な時間の振り返りだ。
 黒髪の魔女が囁く時、彼らは果たして何を思う。
 後悔/恐怖/歓喜/安堵/悲哀/希望/失望/絶望。
 生き残った39人は、果たして何を抱くのか。

 かくて定期放送は始まる。
 個人の感情などはお構いなしに。
 ただ淡々と事実のみを語るため、2度目のメッセージが鳴り響く。



 6時間ぶりね。
 みんな、ちゃんと聞いているかしら。
 現在の時刻は12時ジャスト――第2回目の定期放送の時間よ。
 今回も最初に禁止エリアを発表させてもらうわ。しっかりメモを取るようにね。
 今のところはそんな事態になっていないけど、うっかり禁止エリアに入って、
 そのまま自滅なんて死に方されたら、こちらもあまり張り合いがないのだから。

 13時から
 15時から
 17時から

 以上の3エリアよ。
 ちゃんと記憶できたかしら?
 二度目は言わないわよ。聞き逃したからもう一度、なんて甘えは聞きたくないわね。
 一緒にいるお仲間にでも聞くか、他の参加者を脅して問い詰めるか、もしくは諦めて泣き寝入りでもしなさい。

 ……ああ、そうだったわね。
 これまでに命を落とした脱落者の名前も読み上げていくわ。

 アレクサンド・アンデルセン
 インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング
 ギンガ・ナカジマ
 ザフィーラ
 フェイト・T・ハラオウン
 ブレンヒルト・シルト
 武蔵坊弁慶
 八神はやて
 遊城十代

76第二回放送案 ◆9L.gxDzakI:2009/08/24(月) 10:01:04 ID:0xaz4vOs0
 以上、9名よ。
 前の6時間に比べて少しは減ったけど、まだまだ順調と言っていいペースね。
 貴方達のしたたかさと残忍さには、本当に感心させられるわ。
 果敢に戦って死んだ者、仲間を庇って命を落とした者、些細なミスが命取りになった者、ほとんど事故のような形で死んだ者……
 ……ふふ……全くもって貴方達は、私を楽しませてくれるわね。
 開始からこれまでの12時間は、最高に面白いショーだったわ。
 今後も私を飽きさせることのないよう、パフォーマンスの向上に努めることね。
 えてして観客とは無責任でわがままなもの……私がこの催しに飽きた瞬間に、全員ドカン、なんてことも有り得るのだから。

 ……そうね。せっかくだから、ついでにもう1つ話しておくわ。
 6時間前にご褒美の話をしたけれど、どうやら今のところは、あまり意味をなさなかったようね。
 この期に及んでこのゲームを止めようとする者が、まだまだ大勢いるみたいだわ。
 残虐非道なデスゲームに、敢然と立ち向かう正義のヒーローという構図はなかなかに面白いし、
 そうした連中が転落していくのも、見応えがないと言えば嘘になるのだけど……こうも数が多いと、少し鬱陶しいわね。
 貴方達がこの演劇のスパイスになっているのは確かよ。でも、いい加減食傷気味になってきたわ。
 もう一度言うわよ。
 私はその気にさえなれば、貴方達を一瞬で全滅させることもできる。
 最初に死んだ娘のことを覚えているでしょう? 彼女の末路を、改めて思い出しておくことね。

 ああ、それとも特典がお望み?
 全部終わった後の優勝賞品だけでは、いまいちやる気が湧いてこなかった?
 そうね、それもそうだったわね。
 確かに優勝した後のご褒美だけなら、ひたすら身を隠してやり過ごすだけでも手に入ってしまうものね。
 それはそれで面白いかもしれないわ。
 貴方達の好きなビデオゲームでも、敵を倒せば経験値と資金という見返りがある……そういうボーナスも悪くないわね。
 分かったわ。次の放送までに、何か考えておきましょう。
 何人か参加者を殺したら、他の誰かの居場所を教える、だとか、支給品がもう1つもらえる、だとか……
 改めて考えてみると、色々とアイデアは尽きないものね。この6時間で吟味してみることにするわ。
 貴方達からも何か要望があったら、その間に言っておきなさい。
 確実に採用されるわけではないけど、一応参考にはさせてもらうから。

 それから、最後にもう1つ。
 まさかとは思うけれど……私が心変わりしてこのゲームを中止する、なんて可能性を考えてる人はいないわよね?
 そういう温情は期待しない方がいいわ。
 さっき読み上げた死者の中に、フェイト・T(テスタロッサ)・ハラオウンという娘がいたでしょう?
 私のフルネームはプレシア・テスタロッサ……
 ……ふふ、そういうことよ。
 実の娘が殺されても、黙って見てるような冷酷な人間に、最初から情なんて期待しないことね。
 貴方達が殺し合って、最後の1人になること以外に、このゲームに終わりなんてないのだから――。

77第二回放送案 ◆9L.gxDzakI:2009/08/24(月) 10:02:03 ID:0xaz4vOs0


「……よく言いますね。フェイトのことなど、娘とも見なしていなかった貴方が」
 魔女プレシア・テスタロッサの背に、投げかけられた声が1つ。
 茶髪の頭に猫耳を生やした娘は、かの大魔導師の使い魔・リニスだ。
「いいじゃないの。使える物はいくらでも使うべきだわ。このゲームをより円滑に進めるためにはね」
 くるり、と。
 言いながら、プレシアが振り返る。
 腰掛けていた椅子を180度反転させ、リニスの方へと向き直った。
 その顔は暗い。
 嘲笑気味の放送の割に、実際の表情は深刻なものだ。
「どうにも上手くいかないものね」
「ええ……数字だけは決して悪いものではないのですが、
 うち3人は同じ戦闘で死亡したわけですから、実質死者が出たケースは7つになります」
「一応譲歩はしてみたけれど、すぐにでも適当な特典をつけるべきだったかしら」
 そう。
 現状は、決して上手くことが進んでいるわけではなかった。
 余裕ぶって見せた態度も、ハッタリの要素がなかったといえば嘘になる。
 第1回放送までの6時間で、死者の発生したケースは合計12。
 一度の戦闘で複数死者が出たのは、アグモンとクロノ・ハラオウンの1回のみ。
 カレン・シュタットフェルトと高町なのはは、ギリギリ別々のタイミングと考えていいだろう。
 対して、今回は僅か7回。約半分の数字である。
 ギンガ・ナカジマをはじめとした3人が同時に死亡したことで、現在の数字は稼げたわけだが、
 言ってしまえばそれも運がよかっただけだ。
 2人同時に死亡はともかくとして、3人以上ともなると、そう易々と期待できるものでもない。
 そもそも彼女らが死ぬ直前までは、一瞬「もう駄目か」とも思ったほどである。
「万が一の時には、あの者達を会場に送り込むという手もありますが……」
「あくまでも最終手段ね。それに、今回のゲームの“目的”を考えれば、できうる限り取りたくない手でもあるわ」
 ふぅ、と溜め息をつきながら、プレシアがリニスの言葉に答える。
「まぁ、今はこうして手を打ったことが、どう作用するかを見守るほかないのだけど」
「先ほどのボーナスの話ですか」
「そうね」
 頼みの綱は、今のところそれだ。
 何らかの形でこちらの実力を見せ付ける、という手もあったが、それを取るにはもう少し熟慮を重ねる必要がある。
 下手なことをしてしまっては、ゲームバランスが狂うかもしれない。
 飴と鞭という形で、次の放送の時に、ボーナスと一緒に突きつけておいた方が無難だろう。
「問題は、何を特典につけるか、ということだけど……」
 故に、今はより制約の少ない、特典の方を先に考える。
 果たして彼ら参加者が求めているものは何か。
 一体どんな餌をばら撒けば、奴らは食いついてくるだろうか。
 プレシア・テスタロッサは思考する。
 このデスゲームをより円滑に進めるために。
 その先にある“悲願”を成し遂げるために。
「……貴方ならどうする?」



 第2回目の放送は終わった。
 デスゲームに臨む参加者達は、果たして何を思うのか。
 デスゲームを進める主催者達が、次に打つ手は果たして何か。
 運命は加速する。
 時の流れは加速する。
 個々の思いを流れに乗せて。
 思いを集めて群れと成して。

 次に動くのは、誰だ。

78第二回放送案 ◆9L.gxDzakI:2009/08/24(月) 10:03:28 ID:0xaz4vOs0
以上です。
何かまずいところや疑問がありましたら、ご指摘ください。

79リリカル名無し:2009/08/24(月) 22:54:21 ID:yULA.anQ0
仮投下乙です。
とりあえず気になった点は
>表向きに言及することはなかったが、かの大魔導師が規定したタイムリミットは48時間。
確か今回初めて出てきた事実ですよね。
自分は「気になった」レベルなのでこのままでいいのですが、人によっては意見がありそうな気がしないでもないです。

80リリカル名無し:2009/08/25(火) 20:31:16 ID:YlBvPY9E0
投下乙です。
タイムリミットの48時間については自分も気になりました。
真面目な話、48時間で決着を着ける必要があるのかがちょっと疑問です。
とはいえ、あった方が色々な意味で緊迫感が出るのもわかりますけれどね。
もっとも……現状のペースを考えれば杞憂な気もしますけどね(ペース的に6回ぐらいで終盤かな?)。
他にも意見がある人はいるでしょうか?

81 ◆9L.gxDzakI:2009/08/26(水) 09:08:56 ID:qMYuq2/60
了解しました。
48時間の明言に関しては、反対意見が多数出るようであれば削除することにします。
あと、プレシア達の懸念ですが、改めて見ると僅かに説明不足な感があったので、
この案が通って本投下となった際に、1〜2行説明を追加しておきます

82リリカル名無し:2009/08/26(水) 10:15:27 ID:S3Y3u3Jw0
>>81
その該当部分ですけど、個人的には本投下の前に見せてほしいところです。
あまり影響がないなら別にいいのですが。

83 ◆9L.gxDzakI:2009/08/26(水) 12:05:07 ID:qMYuq2/60
 そう。
 現状は、決して上手くことが進んでいるわけではなかった。
 余裕ぶって見せた態度も、ハッタリの要素がなかったといえば嘘になる。
 第1回放送までの6時間で、死者の発生したケースは合計12。
 一度の戦闘で複数死者が出たのは、アグモンとクロノ・ハラオウンの1回のみ。
 カレン・シュタットフェルトと高町なのはは、ギリギリ別々のタイミングと考えていいだろう。
 対して、今回は僅か7回。約半分の数字である。
 ギンガ・ナカジマをはじめとした3人が同時に死亡したことで、現在の数字は稼げたわけだが、
 言ってしまえばそれも運がよかっただけだ。
 2人同時に死亡はともかくとして、3人以上ともなると、そう易々と期待できるものでもない。
 そもそも彼女らが死ぬ直前までは、一瞬「もう駄目か」とも思ったほどである。
 今はいい。結果として、今は9人もの死者を確保できた。
 だがこのままのペースで減り続ければどうか。
 万が一、半分また半分と、死者の発生するケースが半減し続けていったならば。
 単なる不安材料かもしれない。杞憂に終わる可能性の方が高いかもしれない。
 だが現実化でもしようものなら、よくて20人弱が余ったところで、停滞を招いてもおかしくない。



こんな感じです。
……2行どころか倍の4行になっちまったが

84リリカル名無し:2009/08/26(水) 15:30:36 ID:S3Y3u3Jw0
>>83
素早い対応乙です
読んだらどうやら私の杞憂だったようで

85 ◆HlLdWe.oBM:2009/08/29(土) 01:08:51 ID:6fEBUhDM0
すいません、自分が出した放送案ですが少し思うところあって取り下げます。
色々修正していたら次の回した方が妥当な気がしてきたので。
どうもお騒がせしました。

86 ◆9L.gxDzakI:2009/08/29(土) 21:06:35 ID:zKlHHz820
第二回放送を本投下します

87第二回放送 ◆9L.gxDzakI:2009/08/29(土) 21:07:25 ID:zKlHHz820
 12時間。
 早いようで遅いようで、あれから既に12時間だ。
 この81マスの箱庭にて、血と狂乱の殺戮劇が幕を開けてから、実に半日が経過しようとしていた。
 表向きに言及することはなかったが、かの大魔導師が規定したタイムリミットは48時間。
 要するに、間もなく4分の1もの時間が経過しようとしているということだ。

 12時を迎える。
 デスゲーム開幕の瞬間から、実に12時間ぶりに、時計の両針が頂点を指す。
 12とはすなわち正午。
 午前と午後を二分する、境界の時間が目前に迫っている。
 12とはすなわち6プラス6。
 6時間ごとに行われる定期放送の2回目が、間もなく始まろうとしている。

 12時間。
 分数にして720分。
 秒数にして8640秒。
 これから流れる放送は、その膨大な時間の振り返りだ。
 黒髪の魔女が囁く時、彼らは果たして何を思う。
 後悔/恐怖/歓喜/安堵/悲哀/希望/失望/絶望。
 生き残った39人は、果たして何を抱くのか。

 かくて定期放送は始まる。
 個人の感情などはお構いなしに。
 ただ淡々と事実のみを語るため、2度目のメッセージが鳴り響く。



 6時間ぶりね。
 みんな、ちゃんと聞いているかしら。
 現在の時刻は12時ジャスト――第2回目の定期放送の時間よ。
 今回も最初に禁止エリアを発表させてもらうわ。しっかりメモを取るようにね。
 今のところはそんな事態になっていないけど、うっかり禁止エリアに入って、
 そのまま自滅なんて死に方されたら、こちらもあまり張り合いがないのだから。

 13時からA-4
 15時からA-9
 17時からE-6

 以上の3エリアよ。
 ちゃんと記憶できたかしら?
 二度目は言わないわよ。聞き逃したからもう一度、なんて甘えは聞きたくないわね。
 一緒にいるお仲間にでも聞くか、他の参加者を脅して問い詰めるか、もしくは諦めて泣き寝入りでもしなさい。

 ……ああ、そうだったわね。
 これまでに命を落とした脱落者の名前も読み上げていくわ。

 アレクサンド・アンデルセン
 インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング
 ギンガ・ナカジマ
 ザフィーラ
 フェイト・T・ハラオウン
 ブレンヒルト・シルト
 武蔵坊弁慶
 八神はやて
 遊城十代

88第二回放送 ◆9L.gxDzakI:2009/08/29(土) 21:08:09 ID:zKlHHz820
 以上、9名よ。
 前の6時間に比べて少しは減ったけど、まだまだ順調と言っていいペースね。
 貴方達のしたたかさと残忍さには、本当に感心させられるわ。
 果敢に戦って死んだ者、仲間を庇って命を落とした者、些細なミスが命取りになった者、ほとんど事故のような形で死んだ者……
 ……ふふ……全くもって貴方達は、私を楽しませてくれるわね。
 開始からこれまでの12時間は、最高に面白いショーだったわ。
 今後も私を飽きさせることのないよう、パフォーマンスの向上に努めることね。
 えてして観客とは無責任でわがままなもの……私がこの催しに飽きた瞬間に、全員ドカン、なんてことも有り得るのだから。

 ……そうね。せっかくだから、ついでにもう1つ話しておくわ。
 6時間前にご褒美の話をしたけれど、どうやら今のところは、あまり意味をなさなかったようね。
 この期に及んでこのゲームを止めようとする者が、まだまだ大勢いるみたいだわ。
 残虐非道なデスゲームに、敢然と立ち向かう正義のヒーローという構図はなかなかに面白いし、
 そうした連中が転落していくのも、見応えがないと言えば嘘になるのだけど……こうも数が多いと、少し鬱陶しいわね。
 貴方達がこの演劇のスパイスになっているのは確かよ。でも、いい加減食傷気味になってきたわ。
 もう一度言うわよ。
 私はその気にさえなれば、貴方達を一瞬で全滅させることもできる。
 最初に死んだ娘のことを覚えているでしょう? 彼女の末路を、改めて思い出しておくことね。

 ああ、それとも特典がお望み?
 全部終わった後の優勝賞品だけでは、いまいちやる気が湧いてこなかった?
 そうね、それもそうだったわね。
 確かに優勝した後のご褒美だけなら、ひたすら身を隠してやり過ごすだけでも手に入ってしまうものね。
 それはそれで面白いかもしれないわ。
 貴方達の好きなビデオゲームでも、敵を倒せば経験値と資金という見返りがある……そういうボーナスも悪くないわね。
 分かったわ。次の放送までに、何か考えておきましょう。
 何人か参加者を殺したら、他の誰かの居場所を教える、だとか、支給品がもう1つもらえる、だとか……
 改めて考えてみると、色々とアイデアは尽きないものね。この6時間で吟味してみることにするわ。
 貴方達からも何か要望があったら、その間に言っておきなさい。
 確実に採用されるわけではないけど、一応参考にはさせてもらうから。

 それから、最後にもう1つ。
 まさかとは思うけれど……私が心変わりしてこのゲームを中止する、なんて可能性を考えてる人はいないわよね?
 そういう温情は期待しない方がいいわ。
 さっき読み上げた死者の中に、フェイト・T(テスタロッサ)・ハラオウンという娘がいたでしょう?
 私のフルネームはプレシア・テスタロッサ……
 ……ふふ、そういうことよ。
 実の娘が殺されても、黙って見てるような冷酷な人間に、最初から情なんて期待しないことね。
 貴方達が殺し合って、最後の1人になること以外に、このゲームに終わりなんてないのだから――。

89第二回放送 ◆9L.gxDzakI:2009/08/29(土) 21:08:52 ID:zKlHHz820


「……よく言いますね。フェイトのことなど、娘とも見なしていなかった貴方が」
 魔女プレシア・テスタロッサの背に、投げかけられた声が1つ。
 茶髪の頭に猫耳を生やした娘は、かの大魔導師の使い魔・リニスだ。
「いいじゃないの。使える物はいくらでも使うべきだわ。このゲームをより円滑に進めるためにはね」
 くるり、と。
 言いながら、プレシアが振り返る。
 腰掛けていた椅子を180度反転させ、リニスの方へと向き直った。
 その顔は暗い。
 嘲笑気味の放送の割に、実際の表情は深刻なものだ。
「どうにも上手くいかないものね」
「ええ……数字だけは決して悪いものではないのですが、
 うち3人は同じ戦闘で死亡したわけですから、実質死者が出たケースは7つになります」
「一応譲歩はしてみたけれど、すぐにでも適当な特典をつけるべきだったかしら」
 そう。
 現状は、決して上手くことが進んでいるわけではなかった。
 余裕ぶって見せた態度も、ハッタリの要素がなかったといえば嘘になる。
 第1回放送までの6時間で、死者の発生したケースは合計12。
 一度の戦闘で複数死者が出たのは、アグモンとクロノ・ハラオウンの1回のみ。
 カレン・シュタットフェルトと高町なのはは、ギリギリ別々のタイミングと考えていいだろう。
 対して、今回は僅か7回。約半分の数字である。
 ギンガ・ナカジマをはじめとした3人が同時に死亡したことで、現在の数字は稼げたわけだが、
 言ってしまえばそれも運がよかっただけだ。
 2人同時に死亡はともかくとして、3人以上ともなると、そう易々と期待できるものでもない。
 そもそも彼女らが死ぬ直前までは、一瞬「もう駄目か」とも思ったほどである。
 今はいい。結果として、今は9人もの死者を確保できた。
 だがこのままのペースで減り続ければどうか。
 万が一、半分また半分と、死者の発生するケースが半減し続けていったならば。
 単なる不安材料かもしれない。杞憂に終わる可能性の方が高いかもしれない。
 だが現実化でもしようものなら、よくて20人弱が余ったところで、停滞を招いてもおかしくない。
「万が一の時には、あの者達を会場に送り込むという手もありますが……」
「あくまでも最終手段ね。それに、今回のゲームの“目的”を考えれば、できうる限り取りたくない手でもあるわ」
 ふぅ、と溜め息をつきながら、プレシアがリニスの言葉に答える。
「まぁ、今はこうして手を打ったことが、どう作用するかを見守るほかないのだけど」
「先ほどのボーナスの話ですか」
「そうね」
 頼みの綱は、今のところそれだ。
 何らかの形でこちらの実力を見せ付ける、という手もあったが、それを取るにはもう少し熟慮を重ねる必要がある。
 下手なことをしてしまっては、ゲームバランスが狂うかもしれない。
 飴と鞭という形で、次の放送の時に、ボーナスと一緒に突きつけておいた方が無難だろう。
「問題は、何を特典につけるか、ということだけど……」
 故に、今はより制約の少ない、特典の方を先に考える。
 果たして彼ら参加者が求めているものは何か。
 一体どんな餌をばら撒けば、奴らは食いついてくるだろうか。
 プレシア・テスタロッサは思考する。
 このデスゲームをより円滑に進めるために。
 その先にある“悲願”を成し遂げるために。
「……貴方ならどうする?」



 第2回目の放送は終わった。
 デスゲームに臨む参加者達は、果たして何を思うのか。
 デスゲームを進める主催者達が、次に打つ手は果たして何か。
 運命は加速する。
 時の流れは加速する。
 個々の思いを流れに乗せて。
 思いを集めて群れと成して。

 次に動くのは、誰だ。

90 ◆9L.gxDzakI:2009/08/29(土) 21:09:49 ID:zKlHHz820
投下終了。最終的にはA-4になりました。
三回放送までのSSの予約は、明日か明後日ぐらいかからかな? 楽しみにしてます

91 ◆9L.gxDzakI:2009/08/29(土) 21:10:32 ID:zKlHHz820
アッー!
よく見たらここ本スレじゃねえ!!


orz

92狼煙(修正版) ◆9L.gxDzakI:2009/09/01(火) 19:24:16 ID:JJVmskwY0
俺は貴様を〜の部分の修正版を投下します。


「……もう一度言ってみろ」
 無性に腹が立っているのは。
 ぐ、と右の拳を握る。
 何故こんなにも怒りを覚えるのだろう。
 何故許せないと思うのだろう。
 彼女の生き様を否定することに、何故こうも腹を立てている。
 今まさにこの胸を震わせるのは、他人のために抱く怒りだ。
 己の正義に殉じたギンガの、その尊厳を守るための怒りだ。
 殺人者らしからぬ思考だとは思う。
 殺し合いに乗った自分が、彼女を擁護する理由など全く見当たらない。
 だが、そんなことは知ったことか。
 許せないものは許せないのだ。
 こんな最低な男などに、彼女の生き様を否定させてなるものか。
「その時は――」



あと、全体の備考を書き忘れていたので、これを最後尾に追加しておいてください。


【備考】
F-6にあったレストランにて火災が発生しました。
また、その影響で煙が立ち上りました。どこまでの範囲から確認できるかは、後続の書き手さんにお任せします。

93 ◆9L.gxDzakI:2009/09/08(火) 08:12:55 ID:z6qgAHpg0
ああ、そんな馬鹿な。アレックス達の現在地が、第一回放送で決まった禁止エリアのド真ん中じゃないかorz

というわけで、拙作「這い寄るもの」におけるアレックス達の現在地を、
H-4からG-3に変更お願いします

94リリカル名無し:2009/09/08(火) 08:26:58 ID:3aAw.JhQ0
>>93
別に禁止エリアになるのは11時からですからH-4で矛盾はないと思いますよ

95 ◆9L.gxDzakI:2009/09/08(火) 09:14:16 ID:z6qgAHpg0
>>93
いやいや、時間帯が「昼」だから十分禁止エリアじゃないですか

96 ◆9L.gxDzakI:2009/09/08(火) 09:15:17 ID:z6qgAHpg0
あ、違った。昼じゃなくて朝だったんだorz

じゃあ、修正願いは取り下げで

97リリカル名無し:2009/09/08(火) 09:57:28 ID:3aAw.JhQ0
なんか混乱されているようですが、とりあえず時間軸的に↓のようになっているかと。

【1日目 午前】(AM08:00〜AM10:00)【現在地 F-3 南部大通り上】「変わる運命」にてアレックス・L機動六課へ向かう
 ↓
【1日目 昼】(AM11:00以前)【現在地 H-4 大通り】「這い寄るもの」にて二人機動六課の崩壊確認後、地上本部に向かう
 ↓
AM11:00【H-4】禁止エリア化

98 ◆9L.gxDzakI:2009/09/29(火) 09:14:00 ID:Vh/mQH0A0
うひゃあ、すいません! 遅れました!orz
というわけで、修正版を投下します。

99 ◆9L.gxDzakI:2009/09/29(火) 09:15:26 ID:Vh/mQH0A0
「あっちに行けば、もっと手っ取り早く餌が見つかる……」
『だろうな。で、どうするよ?』
「まぁ……あたしもあっちに行くことに異論はないけど……」
 かがみの回答は、しかし語尾を濁すようにして勢いを失う。
 妙に不安げな色の宿った視線が、紫色のカードデッキを見つめた。
 そしてその不安の理由が、バクラには分かっていた。
『大勢の敵と戦うのは不安か』
 こくり、と。
 先ほどのヒステリーが嘘のように。
 すっかり意気消沈した少女が弱々しく頷き、紫色のツインテールを揺らす。
 恐らくあの狼煙を見た参加者は、自分1人だけではないはずだ。
 であれば、あの2人の剣士と戦った時のように、乱戦になる可能性が高いのは目に見えている。
 手元にある変身アイテムは2つ。
 バイオグリーザが撃破され、ほぼ無力化した仮面ライダーベルデのデッキ。
 高い戦闘能力を持つが、向こう1時間は変身できない仮面ライダー王蛇のデッキ。
 つまり今から約1時間は、ミラーモンスターのみで戦わなければならないということ。
 不特定多数の敵を相手に戦うには、生身というのはあまりにも危険すぎる。
 そうでなくともあの戦闘では、同じ仮面ライダーのデルタに変身していながら、一方的に叩きのめされたのだ。
 一対一のスバルとの戦いとはわけが違った。
『どうしても怖いってんなら、その時は俺が代わってやろうか?』
「アンタが?」
『俺様はデュエリストだったからな。こういうのの扱いには慣れてるのさ。
 それに千年リングのパワーが使えるってだけでも、だいぶ有利になるはずだぜ』
 アドベントカードとバクラの相性はいい。
 事実として万丈目に憑依していた時の対チンク戦で、バクラはベルデのデッキを巧みに使いこなしていた。
 千年リングの念力も、デルタギアの使用によって獲得した放電能力と併用すれば、強力なバリアになるだろう。
『もっとも、俺もいつになったら、また入れ替われるようになるかは分かんねぇけどよ』
 実際には王蛇の変身制限時間の方が、千年リングの憑依制限時間よりも早く切れる。
 だがそうとは知らないかがみにとっては、幾分と気休めにはなった。
「……そうね……じゃあ、その時はお願いするわ」
 ありがとう、と。
 声にならない感謝の言葉が、小さく現実の言葉と重なる。
 心の奥底でそっと囁いた言葉が、バクラの耳には届いていた。
(ったく、面倒なもんだぜ……)
 白髪の頭をぽりぽりと掻く。
 信用を獲得するというのは悪くない。そうすればより利用しやすくなる。
 だが元々盗賊王バクラとは、馴れ合いや友情とは縁の薄い一匹狼だ。
 いちいち感謝されたり恩義を感じられるのは、正直目的うんぬん以前にむずがゆい。
 それもあまり気に入らないタイプの女から向けられるとあれば、なおさらだ。
『まぁともかく、ちゃっちゃと行って済ませちまおうぜ』
 そしてそんな感情はおくびも表に出さず、バクラはかがみに道を促したのだった。
 こくり、と小さく頷くと、アスファルトの道路を進んでいく。
 かつりかつりと靴音を鳴らし、ゆっくりと北へと向かっていった。
『……つーか、防御が不安なんだったら、バリアジャケットぐらいでも着ておけばいいんじゃねぇか?』
「バリアジャケット……ああ、これに入ってる防護服か」
 左手に収められたストラーダへと視線を落とし、思い出したようにかがみが言った。
 バクラも今の今まで忘れていたが、確かにカードデッキの使えない今では、貴重な防御手段である。
『そりゃあ仮面ライダーよりは脆いと思うが、気休めくらいにはなると思うぜ』
「ええ、分かったわ」
 返事と共に、指示を出す。
 腕時計型のデバイスが発光。
 瞬時に衣服が分解され、スレンダーな素肌が露出される。
 衣服の上からは目立たなかったが、確かな膨らみを持つ2つの乳房。
 女性的なラインのウェストに、ややふくよかな印象を受けるヒップ。
 刹那の間に裸身を包むのは、あらゆる猛威を跳ね除ける奇跡の甲冑だ。
 真紅に映える長袖のセーター。漆黒のミニスカートとニーソックス。
 装着は瞬きの間に完了した。
 宿主の記憶を辿ってみれば、どうやら彼女の世界で人気のキャラクターの服装らしい。

100想いだけでも/力だけでも(修正版) ◆9L.gxDzakI:2009/09/29(火) 09:16:01 ID:Vh/mQH0A0
『ゲームキャラのコスプレか……発想は悪くねぇが、もうちょい強そうなのもあったんじゃねえのか?』
「さぁ……私も何でこれを選んだのか、よく分かんないんだけど……」
 分からないはずがない。
 バリアジャケットとは想いの形だ。自身の思い描く最強のイメージの具現化だ。
 故にその形状は、自身の意思と経験に大きく左右される。
 そして元よりこのゲームを知ったきっかけは、同じ学園に通っていた、あるクラスメイトとの交流。
 見た目には脆そうな服装であるにもかかわらず、わざわざこの形を選択した。
 すなわちそのイメージとは、未練を完全に断ち切れていないことの証明。
(思ったよりも殺し合いに向いてねぇのかもな……こいつは)
 柊かがみの未練を垣間見た盗賊王は、ほんの僅かに同情した。



 力がないのが悔しかった。
 だけど、今この手には力がある。
 仮面ライダーやミラーモンスターという武器があるし、バクラという頼もしい相棒もいる。
 だったら、もう生き残るためには何もいらない。
 この力さえあればいい。
 別世界のこなたやつかさが現れても、そんなことはもう関係ない。
 仮面ライダーと千年リングがあれば、もう仲間意識とか想いやりなんて必要ない。
 生き残るために。
 元の世界へ帰るために。

 私はこの仮面ライダーの力で、全てを薙ぎ払う。

101想いだけでも/力だけでも(修正版) ◆9L.gxDzakI:2009/09/29(火) 09:16:48 ID:Vh/mQH0A0
【1日目 日中】
【現在地 G-6】
【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】健康、肋骨数本骨折、バリアジャケット、2時間30分憑依不可(バクラ)
【装備】ホテルの従業員の制服、ストラーダ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    千年リング@キャロが千年リングを見つけたそうです、
    カードデッキ(王蛇)@仮面ライダーリリカル龍騎(1時間変身不可)、
    サバイブ“烈火”(王蛇のデッキに収納)@仮面ライダーリリカル龍騎
【道具】支給品一式×2、Ex-st@なのは×終わクロ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ランダム支給品(エリオ0〜2)、レヴァンティン(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    カードデッキ(ベルデ・ブランク体)@仮面ライダーリリカル龍騎、柊かがみの制服(ボロボロ)、スーパーの制服、
    ナンバーズスーツ(クアットロ)
【思考】
 基本:死にたくない。なにがなんでも生き残りたい。
 1.バクラ以外の何者も信じない(こなたやつかさも)。
 2.煙の上がった場所(=レストラン)にいる参加者を殺しに行く。
 3.2の後で映画館に向かう。
 4.万丈目に対する強い憎悪。万丈目を見つけたら絶対に殺す。
 5.同じミスは犯さないためにも12時間という猶予時間の間に積極的に参加者を餌にして行く。
 6.メビウス(ヒビノ・ミライ)を警戒。
【備考】
※デルタギアを装着した事により電気を放つ能力を得ました。
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています。ただし何かのきっかけで思い出すかもしれません。
※「自分は間違っていない」という強い自己暗示のよって怪我の痛みや身体の疲労をある程度感じていません。
※周りのせいで自分が辛い目に遭っていると思っています。
※Lは自分の命が第一で相手を縛りあげて監禁する危険な人物だと認識しています。
※万丈目の知り合いについて聞いたが、どれぐらい頭に入っているかは不明です。
※王蛇のカードデッキには未契約カードがあと一枚入っています。
※ベルデのカードデッキには未契約のカードと封印のカードが1枚ずつ入っています。
※「封印」のカードを持っている限り、ミラーモンスターはこの所有者を襲う事は出来ません。
※変身時間の制限にある程度気付きました(1時間〜1時間30分程時間を空ける必要がある事まで把握)。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付きました。
※こなたとつかさの事は信用しないつもりですが、この手で殺す自信はありません(でもいざという時は……)。
※ベノスネーカーが疲弊しているため、回復するまではメタルゲラスを主軸として使っていくつもりです。
※バリアジャケットのデザインは、【●坂凛@某有名アダルトゲーム】の服装です。
※千年リングを装備した事でバクラの人格が目覚めました。以下【バクラ@キャロが千年リングを見つけたそうです】の簡易状態表。
【思考】
 基本:このデスゲームを思いっきり楽しんだ上で相棒の世界へ帰還する。
 1.かがみをサポート及び誘導して優勝に導く。
 2.万丈目に対して……?(恨んではいない)
 3.こなたに興味。
 4.可能ならばキャロを探したいが、自分の知るキャロと同一人物かどうかは若干の疑問。
 5.メビウス(ヒビノ・ミライ)は万丈目と同じくこのデスゲームにおいては邪魔な存在。
 6.パラサイトマインドは使用できるのか? もしも出来るのならば……。
 7.かがみが自分の知るキャロと出会った時殺しそうになったら時間を稼いで憑依してどうにかする。
【備考】
※千年リングの制限について大まかに気付きましたが、再憑依に必要な正確な時間は分かっていません(少なくとも2時間以上必要である事は把握)。
※キャロが自分の知るキャロと別人である可能性に気が付きました(もしも自分の知らないキャロなら殺す事に躊躇いはありません)。
※千年リングは『キャロとバクラが勝ち逃げを考えているようです』以降からの参戦です。
※かがみのいる世界が参加者に関係するものが大量に存在する世界だと考えています。
※かがみの悪い事を全て周りのせいにする考え方を気に入っていません(別に訂正する気はないようです)。

102 ◆9L.gxDzakI:2009/09/29(火) 09:18:28 ID:Vh/mQH0A0
修正版は以上です。

真面目な話を書いてたつもりが、いざ完成してみると、ちょっとネタに走りすぎたような気もする。

103 ◆9L.gxDzakI:2009/09/29(火) 09:22:27 ID:Vh/mQH0A0
とと、「ホテルの従業員の制服」は、【装備】じゃなくて【道具】の方がよかったかもしれない。
Wiki編集の際には、

【状態】健康、肋骨数本骨折、2時間30分憑依不可(バクラ)
【装備】バリアジャケット、ストラーダ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    千年リング@キャロが千年リングを見つけたそうです、
    カードデッキ(王蛇)@仮面ライダーリリカル龍騎(1時間変身不可)、
    サバイブ“烈火”(王蛇のデッキに収納)@仮面ライダーリリカル龍騎
【道具】支給品一式×2、ホテルの従業員の制服、
    Ex-st@なのは×終わクロ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ランダム支給品(エリオ0〜2)、レヴァンティン(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    カードデッキ(ベルデ・ブランク体)@仮面ライダーリリカル龍騎、柊かがみの制服(ボロボロ)、スーパーの制服、
    ナンバーズスーツ(クアットロ)

以上のように変更をお願いします

104リリカル名無し:2009/09/29(火) 09:49:58 ID:dY/xhxIQ0
修正乙です。
そういえば今まで色んな人がデバイス持っていたけどバリアジャケットは殆ど無かったなぁ(ブレンぐらいだったか。)
しかし修正された方がネタ的に面白いのもある種すごいなぁ(基本シリアスな話だったけど……)
ネタに走りすぎた? 重苦しい話の中むしろこれぐらいが丁度良い!

105リリカル名無し:2009/09/29(火) 09:53:23 ID:jPpD3BVY0
修正乙です。
とりあえず脱いだわけじゃないので「ホテルの従業員の制服」は【装備】のままでいいと思います。

それと気になった点。
確かデバイスは魔力なしでも機動はできたはずですが、バリアジャケット展開は魔力を必要とするはずです。
ストラーダがカートリッジを消費していないところを見ると、バクラの超能力かかがみの電撃をストラーダが魔力変換したのでしょうか。

106 ◆9L.gxDzakI:2009/09/30(水) 08:12:34 ID:Jh.QFql60
>>105
えーとですね。
以前の話で、つかさが魔力なしでバリアジャケットを展開していたので(フェイトは不審に思っていましたが)、
このロワにおいては、誰でもバリアジャケットが展開可能な仕掛けなり何なりがあると思ったのですが……駄目?

107リリカル名無し:2009/09/30(水) 09:08:27 ID:iaul/YMY0
返答乙であります

108冥府魔道 ――月蝕・第二章(修正版) ◆9L.gxDzakI:2009/10/11(日) 12:49:11 ID:v84.rReg0
修正案ができたので投下します

109冥府魔道 ――月蝕・第二章(修正版) ◆9L.gxDzakI:2009/10/11(日) 12:49:57 ID:v84.rReg0
「大丈夫か? クアットロ」
 労わるような声音を作り、震える少女へと問いかける。
 シャマルに同じことを尋ねなかったのは、特にアクションをかける意味がないからだ。
 仮にツッコまれたとしても、どう見ても大丈夫ではないから、という風に言い訳もできる。
「さすがに、十代君達まで救えなかったのは悲しいですけど……チンクちゃんなら、こう言うはずです。
 くよくよしている暇があったら、自分の身を守ることを考えろ……それが死んでいった者達への一番の恩返しだ……って」
「……そっか」
 気丈に振舞おうとするクアットロの肩を、右手でぽんぽんと軽く叩く。
 慈母のごとき微笑みを湛え、共感するようにスキンシップ。
 しかし。
 その実、その笑顔の裏では。
(駄目やな、こいつは)
 さっぱり共感などしていなかった。
 もう駄目だ。分かってしまった。
 こいつは絶対に味方などではない。
 シャマルからクアットロについて聞いた時、第一回目の放送の後、最初に立ち直ったのは彼女だったと聞いた。
 妹にしてパートナーであるディエチの死を悲しみながらも、自分達を励ましてくれた、と。
 そして今回も同じように、この場の3人の中でも最初に、立ち直る旨を口にした。
 頼りがいのある姿を見せるのは、信用を獲得するにはもってこいの振る舞いだろう。
 だが、それが最大の分かれ目だった。
 その時クアットロの取った行動は、あまりにもシチュエーションに合致していなかった。
(見てみい、シャマルの顔を。家族っちゅうんは、普通はそない簡単に割り切れるもんとちゃうんや)
 シグナムとザフィーラ。
 彼女と同じく、これまでに家族を2人喪った女の姿を見やる。
 陳腐なたとえではあるが、まさに悲しみのどん底といったところだ。
 何か外部からの刺激でもない限り、向こう数分から十数分以内は立ち直れないだろう。
 これが普通の家族なのだ。
 兄弟にも等しきエリオを喪い、殺し合いに乗ったというキャロのように。
 ギンガという唯一血の繋がった姉を喪い、悲嘆に暮れているであろうスバルのように。
 なのはとフェイトという2人の母を喪い、泣きじゃくっているであろうヴィヴィオのように。
 シャマルと全く同じ境遇に置かれ、やり場のない怒りに震えているであろうヴィータのように。
 家族とは最愛の人間の1人だ。
 それを喪うということは、何物にも及ばぬ苦痛なのだ。
 それにひきかえクアットロは、あまりにも平然とし過ぎている。
 家族だけでなく、多くの仲間が命を落とした現在でも、この有様だ。
(情に目覚めたとか言う割には、随分と冷淡な反応やないか)

110冥府魔道 ――月蝕・第二章(修正版) ◆9L.gxDzakI:2009/10/11(日) 12:51:16 ID:v84.rReg0
以上がはやての場面の修正で、以降がクアットロの場面の修正です

(――待てよ)
 は、と。
 軽く両目が見開かれる。
 不意に脳裏にひらめいた仮説が、表情に微かな驚きの色を宿らせる。
 仮にその認識が間違いだったならばどうか。
 何日もかける覚悟など、最初からなかったとするならば。
 元々このデスゲームが、短期決戦であることを念頭に置いてセッティングされていたとするならば。
 つまり。
(タイムリミットがあるっちゅうことか……?)



「ホントに使えない子ばっかりねぇ……」
 ぽつり、と。
 つまらない、とでも言いたげに。
 微かな声で呟きながら、かつりと足で小石を蹴る。
 ふらふらと周囲の見回りをしながら、不満げにクアットロが呟いた。
 言うまでもなく、先ほどまでのリアクションは演技である。
 今更手駒が1人減ろうが2人減ろうが、さして悲しむこともないのだ。
 もっとも、所詮は一般人に過ぎないであろう十代には、最初から特に何も期待していなかったのだが。
(そういえば、さっき言ってたボーナスだけど……あれ、3回目の放送より前の死者も対象になるのかしら?)

111 ◆9L.gxDzakI:2009/10/11(日) 12:52:17 ID:v84.rReg0
修正は以上です。
あと、残り生存人数に間違いがありましたので、まとめ収録の際に、「37人」から「36人」へと変更しておいてください

112リリカル名無し:2009/10/11(日) 13:21:30 ID:hBeu4ark0
修正乙です
ちょっと気になったのははやてパートについては
「大丈夫か? クアットロ」〜(情に目覚めたとか言う割には、随分と冷淡な反応やないか)
部分の差し替えだとは思うのですが、その前に

「ええ……私も、チンクちゃんを喪いました……」
 今やナンバーズ唯一の生き残りとなったクアットロもまた、同じく掛けていた椅子の上で俯いた。

という記述があるのですが……が、流石にこれはその部分削除及び微修正で済む話ですね(wiki収録時で済むかな?)。

ここから感想……冷静に考えるとはやては最早クアットロ未満にまで堕ちた気がするのは気のせいか……
というか例に出したヴィヴィオもスバルも早め早めに立ち直っているし。

113 ◆9L.gxDzakI:2009/10/11(日) 13:34:40 ID:v84.rReg0
あ、間違えてそこ削っちまった。

「ええ……みんな、犯罪者の私達にも優しくしてくれた方ばかりなのに……」
 クアットロもまた、同じく掛けていた椅子の上で俯いた。

というのが正解です

114希望(スバル状態表修正版) ◆7pf62HiyTE:2009/10/17(土) 16:48:35 ID:5tnp2y/Y0
スバルの状態表に首輪の回収の記述が無かったのでスバルの状態表を以下に差し替えます(といっても首輪を回収したいというのが加わっただけですが)。

///////////////////

【1日目 午後】
【現在地 G-6 アニメイト入口】
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康、全身にダメージ小、左腕骨折、ワイシャツ姿、若干の不安と決意
【装備】なし
【道具】支給品一式(一食分消費)、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、添え木に使えそうな棒、救急道具
    炭化したチンクの左腕、チンクの名簿(内容はせめて哀しみとともに参照)、ハイパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【思考】
 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。ルルーシュを守る。
 1.アニメイトに入り、こなたやルルーシュ達を探す。
 2.ルルーシュ達と合流し、かがみを止めにいく。出来ればこなたとシャーリーを優先して探したい。
 3.ルルーシュに無茶はさせない、その為ならば……。
 4.こなたを守る(こなたには絶対に戦闘をさせない)。が、かがみの事はどう説明するべきか……
 5.アーカード(名前は知らない)を警戒。レイにも注意を払う。
 6.六課のメンバーとの合流とつかさの保護。しかし自分やこなたの知る彼女達かどうかについては若干の疑問。
 7.アカデミアに戻って首輪を回収したい。
 8.もしも仲間が殺し合いに乗っていたとしたら……。
【備考】
※質量兵器を使う事に不安を抱いています。
※参加者達が異なる時間軸から呼び出されている可能性に気付きました。
※仲間(特にキャロやフェイト)がご褒美に乗って殺し合いに乗るかもしれないと思っています。
※自分の存在がルルーシュの心を傷付けているのではないかと思っています。
※ルルーシュが自分を守る為に人殺しも辞さない及び命を捨てるつもりである事に気付いています。
 でもそれを止める事は出来ないと考えています。また、自分が死ねばルルーシュは殺し合いに乗ると思っています。
※ルルーシュの様子からデュエルアカデミアから出て行ったのはシャーリーだと判断しています。
※自分に割り振られた調査エリアを調べ終えました。何かを見つけたか否かは後続の書き手さんにお任せします。
※万丈目とヴァッシュが殺し合いに乗っていると思っています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。
※千年リングの中に、バクラの人格が存在していることに気付きました。
 また、かがみが殺し合いに乗ったのは、バクラにそそのかされたためだと思っています。但し、殺し合いの過酷な環境及び並行世界の話も要因としてあると考えています。
※救急道具は及び棒はG-6にある幾つかの建物から見付けました。

115 ◆HlLdWe.oBM:2009/11/23(月) 23:38:56 ID:74IkgbSk0
避難所スレ>>423
これ以上投げたら拾われて〜の差し替え



これ以上投げたら拾われて自分が不利になるだけ。
それに加えてあれは自分がレイを殺した手掛かりになるかもしれないものだ。
だからデイパックの投擲は止めた。
シャーリーはもう無駄な抵抗は止めて逃げ切る事だけに専念した。

「はっ……はぁ……ぁ……ひぃ……」

あとは後ろを振り返る余裕など無いほどただひたすら走った。
どこを走って曲ったか分からなくても自分を追うものから形振り構わず逃げるために一心不乱に走った。
既にシャーリーはいつ果てるともしれない逃避行によって精神的・肉体的に危ういところまで追い詰められていた。
だから当然ながら周りの様子など全く目に入っていなかった。

だがそんな絶望的な逃避行に変化が現れた。

「はっ……はぁ……ぁ……ひぃ……――ぁ!?」

それは空飛ぶ銀色のカブトムシ――ハイパーゼクターだった。
さすがに目の前から飛んで来る銀色のカブトムシにはシャーリーも気づいた。
それはいきなり現れてシャーリーの周りを旋回すると道案内をするかの如くシャーリーを誘導しようとした。
シャーリーにとってそれは地獄に垂らされた一本の蜘蛛の糸のように見えた。
迷う間もなく藁にも縋る思いでシャーリーは銀色のカブトムシの導きに従い、進行方向を西に変えたのだった。

「……はぁ……ぃ……あれは――」

長い逃避行の終着点には何やら派手な建物が見えた。
看板には「アニメイト」と書かれていて店の周囲には何かのキャラクターのポスターが貼られていた。
先導するカブトムシはまるであそこに入れと言っているように見える。
そして自分の役目はここまでだと言わんばかりにハイパーゼクターは姿を消した。
さすがに一瞬戸惑ったが、気づけば誰も追ってはいなかった。
だからシャーリーは銀色のカブトムシを信じてアニメイトに入る事を決意したのだった。

116 ◆HlLdWe.oBM:2009/11/23(月) 23:39:38 ID:74IkgbSk0
>>423じゃなくて>>413でした

117避難所スレ>>423の差し替え ◆HlLdWe.oBM:2009/11/23(月) 23:42:27 ID:74IkgbSk0


ルーテシア・アルピーノはヴィヴィオを背負って聖王のゆりかごへ向かっていた。

なぜ北へ向かっていたはずのルーテシアがこのような状態になっているのか。
それにはいくつかの理由があった。

【放送前後のルーテシアの動向】

元々ルーテシアの目的地はC-9にあるスカリエッティのアジトであった。
目的は本来ならば生体ポッドの中にいるはずの母メガーヌ・アルピーノがいないという証言の確認。
誰にも会わないままアジトに辿り着き、さらに見慣れた場所ゆえに万事順調に進んで第二回放送前には目的は果たせた。
その結果、メガーヌの姿はどこにもない事が判明した。
これで転送前のプレシアの発言と天上院明日香の発言の裏付けが取れた。
しかしだからと言ってルーテシアの行動方針に変更があるわけではない。
あくまで全ての参加者は別々の世界から連れて来られたという事を再認識しただけだ。

それから行われた第二回放送に関してはプレシアからの提案以外は特に興味を引かれるものはなかった。
敢えて言うなら取引を交わした一人ブレンヒルトの死亡だが、それも最初から乗り気でなかったので特に思う事はなかった。
そして放送後ルーテシアは周辺の探索に勤しむ事にした。
ルーテシア自身の体力は全参加者から見れば下位であるが、それを補う足としてマッハキャリバーというデバイスがある。
このデバイスのおかげで行動距離はずいぶんと広くなっているのだ。

目下ルーテシアの探しているものは大きく二つに分けられる。
一つはキース・レッドに頼まれているキース・シルバーや『ベガルタ』『ガ・ボウ』の情報。
だがこれはそもそも乗り気ではないので正直どうでもいいとさえ思っている。
そしてもう一つこそ本命、つまりイフリート以上の戦力の確保。
確かにイフリートの力は並みの参加者にとっては脅威となるだろう。
だがあの剣士のように対抗できる参加者がまだいるかもしれない。
さらに召喚の際に要するタイムラグと疲労も無視できるものではない。
何よりイフリートを渡してくれたキース・レッドはもしもの時に備えて既に何か対策を講じている可能性は十分にある。
つまりイフリートの力を過信して安易に頼ってばかりはいられないという事だ。

それらを探している最中にルーテシアは温泉に向かっていたシャーリーと出会ったのだ。
この時ルーテシアはキース・レッドとの取り決め通り会場の北を中心に捜索するつもりだった。
だが森の中より市街地の方が見つかり易そうと考えてD-5の橋を渡って北西方面に向かおうとしていた。
その途中でルーテシアはあるものを見つけた。
それはE-7の駅からA-8へと伸びる謎の線路。
地図を確認するとこの会場唯一の駅は橋へ向かう途上の近くにあったので探しものがてら少し寄ってみる事にした。
ちなみに廃墟も近くにあったが、何かあるとは思えないので寄らなかった。
シャーリーとはその時に出会った。
だがそれは一方的にルーテシアがシャーリーを発見するという形であったが。

この時ルーテシアはある作戦を思いついた。

――撒き餌だ。

わざとシャーリーを生かして逃がす事で近くの参加者を引き寄せて、そこでイフリートを召喚して一掃するという算段だ。
上手くいけば殺した参加者から有能な道具が手に入る可能性もある。
ルーテシアはその作戦を思いつくと即座に実行に移した。
適度に攻撃射出魔法トーデス・ドルヒを放ちつつ付かず離れずの距離を保って追いかける。
もう既にマッハキャリバーの扱いにも慣れてきたのでシャーリーと違ってルーテシアの疲労は微々たるものだった。
シャーリーは最初こそ銃撃や投擲で難を逃れようとしていたが、全て失敗に終わると後は逃げるだけに徹するようになった。
この際見た感じ役に立ちそうになかった弾切れの銃とバッグ以外は何かに使えると思って拾っておいた。
だがバッグを投げた時に零れ落ちた1枚のカードの存在にはシャーリーもルーテシアも気づく事はなかった。
しばらくそれを続けていたが、予想に反していつまで経っても誰も現れなかった。
実際は数人気づく可能性があったのだが、各々の事情で気付く事はなかった。
だからこの地獄のような鬼ごっこはかなりの間に渡って続いたが、最終的に途中で中断された。

その原因は早乙女レイにある。

118避難所スレ>>424の差し替え ◆HlLdWe.oBM:2009/11/23(月) 23:44:14 ID:74IkgbSk0

【エボニーの試射】

ルーテシアがシャーリーを追いかける事を中断したのは瀕死のレイを発見したからだ。
当然ルーテシアの前を走っていたシャーリーも気づく可能性はあったが、逃げる事で精一杯だったので気づく事はなかった。
しかもレイが倒れていた場所は二人がいた道から少し離れた場所だった上にハイパーゼクターの出現もあって尚更だった。
この時ルーテシアはシャーリーが既に限界に近いと勘付いていた。
だから少しぐらい目を離してもすぐに見つかると高を括っていた。
そうして一応シャーリーが西へ向かった事だけ確認してからレイの方に向かったのだ。

ルーテシアがレイに興味を持ったのは荷物を回収する事に加えてエボニーの試し撃ちをしておこうと思ったからだ。
キース・レッドから貰い受けたもう一つの武器、黒鍵を思わせる拳銃エボニー。
質量兵器が殺傷能力に長けている事はルーテシアも知っていたが、実際の威力までは知らない。
だから本番で不覚を取らないように一度試し撃ちをして威力などを確認したいと考えていた。
そこで発見したのが瀕死の状態のレイ。
動かない的として適任な上に参加者殺害によるプレシアからの見返りも期待できる。

そして十分に近づいたところでエボニーを撃った。
レイは最期まで何をされるか分かっていないようだったが、ルーテシアには関係ない事だった。
結局片手で撃てば無理そうだが、両手で撃てば問題ないという結論に至った。
残念ながらデイパックはなかったのでここでの目的は終わった。
そしてシャーリーの行方を探るのだが、意外にもすぐに見つける事ができた。

その原因はスバル・ナカジマにあった。

【イフリートの召喚】

ルーテシアがシャーリーの居場所を見つける事ができたのはスバル・ナカジマの行動のおかげだった。
スバルが裏口で盛大にドアにぶつかった時、ちょうどルーテシアがアニメイトの前を通っていたのだ。
当初西へ向かって捜索していたルーテシアだったが、意外とすぐにシャーリーを見つける事ができなかった。
そんな時だった。
奇妙な音に気を引かれてアニメイトの中を注意深く覗き込んだ結果、店内にいるシャーリーとルルーシュを発見できたのは。
ちなみにこの少し前にスバルは正面の入口に来ている。
だが日の光の加減で中の様子が見えなかった事に加えて自動ドアが反応しない時点で裏口に回ってしまっている。
この時自動ドアを叩けば中にいるシャーリーとルルーシュが気づく可能性はあったが、所詮は後の祭りだ。
その時とは違ってルーテシアはドアに張り付き目を凝らす事で中の様子を把握できた。
この瞬間スバルとこなたは裏口で談笑していて死角にいて、ルルーシュとシャーリーは感動の再会の真っ只中。
それはまさにタッチの差としか言いようがないタイミングだった。

そして炎の魔人による蹂躙が始まった。
もう撒き餌も頃合いだと判断するとイフリートを召喚して外から一方的にアニメイトを破壊。
天高く振り上げられた剛腕から繰り出される槌の如き一撃でアニメイトはほぼ倒壊。
さらに灼熱の業火を思わせる「地獄の火炎」による焼き払いで残骸は灰塵と化した。
まるで元から会場には地図の通りそんな建物は存在しなかったかのように。
そしてアニメイトを襲撃したルーテシアは北へ戻らず、さらに南下して聖王のゆりかごに向かう事にした。

その理由はヴィヴィオにある。

119 ◆HlLdWe.oBM:2009/11/23(月) 23:45:23 ID:74IkgbSk0
修正版は以上です

120リリカル名無し:2009/11/23(月) 23:52:21 ID:ftUzZJgc0
修正版乙です
あーそうか、ハイパーゼクターがあったか……こりゃアニメイトに行っても仕方ないな

121キングの狂宴/狙われた天道(修正) ◆HlLdWe.oBM:2009/12/31(木) 00:43:57 ID:AHNviENI0


     ▼     ▼     ▼


情報交換。
それは複数の人物が自分の知っている情報を各々提示する事でより多くの情報を得るイベントを指す。
単体では意味を為さない情報でも2つ3つと合わさる事で新たに判明する事もある。
情報交換とはそういう相乗的な面も持ち合わせている。
今回スーパーに集った5人は周囲及び内部の安全を確認すると、改めて情報交換を行う事にした。
放送前に商店街跡地でも行っていたが、あの時は簡単な自己紹介だけだったので今回はもっと詳しい人物相関や今までの出来事などにも触れていくつもりだ。
それに際して事前にいくつか決まりを設けた。

・発言者の話が終わるまで他の者は口出ししない(話の腰が折られる事を回避するため)。
・もし発言者の情報に意見があるなら話し終えてから設ける質疑応答で対応する。
・参加者は自分と同じ世界の人物つまり自分が知っている人物を想定して話す(平行世界は後から考えた方が賢明だと判断したため)。
・他の参加者から聞いた情報の場合、この場にその情報を伝えた者がいるならそれは省く(情報提供者からの方が詳しく聞けるため)。
・とりあえず商店街での情報交換以前の段階の情報を前提で話す(商店街での情報交換が不完全のためこの場できちんとした認識を構築するため)。

この5項目を急場の骨子として情報交換は始まった。

一人目の発言者は高町なのはで発言内容の概略は以下の通り。

・スタート地点はF-2の翠屋。支給品が杖(非デバイス)とデルダギア(説明書は途中まで読んだ)であると確認。
・銃声と叫び声を聞きつけたので現場に駆けつけたところ紫髪の女子高校生に出会う。
・一悶着の後に彼女は紫の大蛇となのはから奪ったデルタギアを使って逃亡。(金居とペンウッドにはその際に出会う)。
・情報交換をした後に施設を回りつつ工場を目指す途中でスーパーに到着。内部を調査したところで弁慶に出会う。
・学校上空にドラグレッダーを発見。すぐさま現場に急行したが誰もいなかった(回収物:龍騎のカードデッキ、デイパック×3、赤い恐竜と黄色い恐竜の死体)。
・第一回放送後、二手に別れる事にした(なのはとペンウッドはこのまま施設巡り、金居と弁慶はまっすぐ工場に向かう)。
・商店街に到着(そこでC.C.と出会う)。商店街を探索した直後にミラーモンスターに襲われてフリードで応戦、今に至る。

その後の質疑応答と参加者観。

・プレシア→PT事件の概要を説明(ただしフェイトの出自については伏せた)。
・紫髪の女子高校生→誰も知らない。
・紫の大蛇→元々は浅倉が持っていたカードデッキが使役するミラーモンスター。つまり彼女はカードデッキを持っている(by天道)。
・参加者が別世界から集められた(知り合いと思っていてもそうではない可能性がある)→全員概ね納得。
・金居→バトルファイトの勝者になりたがっているから皆と協力して元の世界に帰還できる方が得と判断しているなら一応信用できる(byキング)/弁慶だけが死んでいるので注意するべき。
・赤い恐竜→ギルモン。八神はやてによって背後から刺殺された(byキング)。
・黄色い恐竜→アグモン(第一回放送で呼ばれた死者のうち5人が知らない名前はアグモンと神崎優衣と殺生丸とミリオンズ・ナイブズの4人で、同じく死者として呼ばれたギルモンと似た体型な事から黄色い恐竜=アグモン)。
・『銀色の鬼は危険人物でペンウッドとグルかもしれないby金居』→事実無根。悲しむ素振りを見せなかったのは行動で報いたいと思ったから(byペンウッド)。
・情報処理室→他の施設にもパソコンがある可能性は大きい(by天道)。
・ギルモンの首輪→自分達で仮にも整えた死体を傷つける事はしたくなかった。

・安全:(もう一人のなのは)、フェイト、(もう一人のフェイト)、はやて、(もう一人のはやて)、ユーノ、(クロノ)、(シグナム)、ヴィータ、シャマル、(ザフィーラ)、スバル、(ティアナ)、(エリオ)、キャロ、(ギンガ)、ペンウッド、天道≪金居情報≫、(弁慶)
・危険:相川始・キング≪金居情報≫
・要注意:クアットロ、銀色の鬼?、金居
・それ以外:チンク・(ディエチ)・ルーテシア≪どういう行動を取るか判断しきれない≫、ゼスト≪元の世界では既に死亡している≫、ヴィヴィオ≪保護対象≫、アリサ、プレシア、紫髪の女子高校生≪保護対象≫、ギルモン・アグモン≪死体で発見≫

122キングの狂宴/狙われた天道(修正) ◆HlLdWe.oBM:2009/12/31(木) 00:50:06 ID:AHNviENI0

>>121はミス


     ▼     ▼     ▼


情報交換。
それは複数の人物が自分の知っている情報を各々提示する事でより多くの情報を得るイベントを指す。
単体では意味を為さない情報でも2つ3つと合わさる事で新たに判明する事もある。
情報交換とはそういう相乗的な面も持ち合わせている。
今回スーパーに集った5人は周囲及び内部の安全を確認すると、改めて情報交換を行う事にした。
放送前に商店街跡地でも行っていたが、あの時は簡単な自己紹介だけだったので今回はもっと詳しい人物相関や今までの出来事などにも触れていくつもりだ。
それに際して事前にいくつか決まりを設けた。

・発言者の話が終わるまで他の者は口出ししない(話の腰が折られる事を回避するため)。
・もし発言者の情報に意見があるなら話し終えてから設ける質疑応答で対応する。
・参加者は自分と同じ世界の人物つまり自分が知っている人物を想定して話す(平行世界は後から考えた方が賢明だと判断したため)。
・他の参加者から聞いた情報の場合、この場にその情報を伝えた者がいるならそれは省く(情報提供者からの方が詳しく聞けるため)。
・とりあえず商店街での情報交換以前の段階の情報を前提で話す(商店街での情報交換が不完全のためこの場できちんとした認識を構築するため)。

この5項目を急場の骨子として情報交換は始まった。

一人目の発言者は高町なのはで発言内容の概略は以下の通り。

・スタート地点はF-2の翠屋。支給品が杖(非デバイス)とデルダギア(説明書は途中まで読んだ)であると確認。
・銃声と叫び声を聞きつけたので現場に駆けつけたところ紫髪の女子高校生に出会う。
・一悶着の後に彼女は紫の大蛇となのはから奪ったデルタギアを使って逃亡。(金居とペンウッドにはその際に出会う)。
・情報交換をした後に施設を回りつつ工場を目指す途中でスーパーに到着。内部を調査したところで弁慶に出会う。
・学校上空にドラグレッダーを発見。すぐさま現場に急行したが誰もいなかった(回収物:龍騎のカードデッキ、デイパック×3、赤い恐竜と黄色い恐竜の死体)。
・第一回放送後、二手に別れる事にした(なのはとペンウッドはこのまま施設巡り、金居と弁慶はまっすぐ工場に向かう)。
・商店街に到着(そこでC.C.と出会う)。商店街を探索した直後にミラーモンスターに襲われてフリードで応戦、今に至る。

その後の質疑応答と参加者観。

・プレシア→PT事件の概要を説明(ただしフェイトの出自については伏せた)。
・紫髪の女子高校生→誰も知らない。
・紫の大蛇→元々は浅倉が持っていたカードデッキが使役するミラーモンスター。つまり彼女はカードデッキを持っている(by天道)。
・参加者が別世界から集められた(知り合いと思っていてもそうではない可能性がある)→全員概ね納得。
・金居→バトルファイトの勝者になりたがっているから皆と協力して元の世界に帰還できる方が得と判断しているなら一応信用できる(byキング)/弁慶だけが死んでいるので注意するべき。
・赤い恐竜→ギルモン。八神はやてによって背後から刺殺された(byキング)。
・黄色い恐竜→アグモン(第一回放送で呼ばれた死者のうち5人が知らない名前はアグモンと神崎優衣と殺生丸とミリオンズ・ナイブズの4人で、同じく死者として呼ばれたギルモンと似た体型な事から黄色い恐竜=アグモン)。
・『銀色の鬼は危険人物でペンウッドとグルかもしれないby金居』→事実無根。悲しむ素振りを見せなかったのは行動で報いたいと思ったから(byペンウッド)。
・情報処理室→他の施設にもパソコンがある可能性は大きい(by天道)。
・ギルモンの首輪→自分達で仮にも整えた死体を傷つける事はしたくなかった。

・安全:(もう一人のなのは)、フェイト、(もう一人のフェイト)、はやて、(もう一人のはやて)、ユーノ、(クロノ)、(シグナム)、ヴィータ、シャマル、(ザフィーラ)、スバル、(ティアナ)、(エリオ)、キャロ、(ギンガ)、ペンウッド、天道≪金居情報≫、(弁慶)
・危険:相川始・キング≪金居情報≫
・要注意:クアットロ、銀色の鬼?、金居
・それ以外:チンク・(ディエチ)・ルーテシア≪どういう行動を取るか判断しきれない≫、ゼスト≪元の世界では既に死亡している≫、ヴィヴィオ≪保護対象≫、(アリサ)、プレシア、紫髪の女子高校生≪保護対象≫、(ギルモン)・(アグモン)≪死体で発見≫

123キングの狂宴/狙われた天道(修正) ◆HlLdWe.oBM:2009/12/31(木) 00:50:37 ID:AHNviENI0

二人目はシェルビー・M・ペンウッドで発言内容の概略は以下の通り。

・スタート地点は不明。遠くないところから聞こえてきた銃声と叫び声の元へ向かう(金居とはその途中で出会う)。
・ミラーモンスター出現の気配を察知すると大蛇がなのはに襲いかかる場面に遭遇。金居がなのはを救う。
・情報交換をした後に施設を回りつつ工場を目指す途中でスーパーに到着。内部を調査したところで弁慶に出会う。
・学校上空にドラグレッダーを発見。現場に急行したが誰もいなかった(回収物:龍騎のカードデッキ、デイパック×3、ギルモンとアグモンの死体)。
・第一回放送後、二手に別れる事にした(なのはとペンウッドはこのまま施設巡り、金居と弁慶はまっすぐ工場に向かう)。
・商店街に到着(そこでC.C.と出会う)。商店街を探索した直後にミラーモンスターに襲われて負傷・回復、今に至る。

その後の質疑応答と参加者観。

・ミラーモンスター出現を察知する→タイガのカードデッキの複製
・『銀色の鬼がギルモンとアグモンを殺したかもしれないby金居』→少なくともギルモンは違う(byキング)。
・銀色の鬼?→ギルモン殺しの前提が崩れたのでどういうスタンスか予測不可能。
・瀕死の重傷が完治した→ナイトブレスの力かもしれないという事以外は全く分からない。

・安全:(インテグラル)、(ティアナ)、スバル、ヴィータ、天道≪金居情報≫、(弁慶)、金居
・危険:アーカード、(アンデルセン)、相川始・キング≪金居情報≫
・要注意:銀色の鬼?
・それ以外:紫髪の女子高校生≪保護対象≫、(ギルモン)・(アグモン)≪死体で発見≫

三人目の発言者は天道総司で発言内容の概略は以下の通り。

・スタート地点はおそらくA-6付近。どう行動するべきか考えている最中に黒い鎧の仮面戦士に不意打ちを食らって川に転落。
・どうにか川から上がって温泉に辿り着いたところで意識を失う。
・目が覚めるとオレンジの少女(なぜか父の仇ゼロと誤解される)に襲われるが、浅倉とオッドアイの女の子が現れたのでとりあえず逃げる(少女とは途中で別れる)。
・駐車場に止めてあったカブトエクステンダーで南下したところで桃色髪の少女に出会う。直後に再び意識を失う(第一回放送を聴き逃す)。
・目が覚めるとなぜか温泉に戻っていてキングがいた。
・エネルの仕業と思われる落雷を確認。エネルの元に向かうべく温泉を出発。
・その途中フリードとドラグレッダーの戦いを発見。商店街に向かってモンスターとの戦闘、今に至る。

その後の質疑応答と参加者観。

・黒い鎧の戦士→相川始。ジョーカーという全てを滅ぼそうとする危険な存在(byキング)。
・オレンジの髪の少女とゼロを憎む理由→シャーリー・フェネット。ゼロの行動で父を失ったから(byC.C.)。
・オッドアイの女の子→ヴィヴィオ(byなのは)。
・桃色髪の少女→キャロ・ル・ルシエ(byなのは)/放送で名前が呼ばれなかった事からエネルからは逃げられたらしい。

・安全:なのは、(もう一人のなのは)、フェイト、(もう一人のフェイト)、はやて、(もう一人のはやて)、(クロノ)、キャロ
・危険:浅倉、相川始、エネル≪姿は知らない≫
・要注意:(矢車)
・それ以外:(アリサ)、シャーリー、ヴィヴィオ

124キングの狂宴/狙われた天道(修正) ◆HlLdWe.oBM:2009/12/31(木) 00:51:24 ID:AHNviENI0

四人目はキングで発言内容の概略は以下の通り。

・スタート地点は不明。開始直後にエネルに襲われるが何とか逃げ切る(暗かったので姿は見ていない)。
・E-5の地上本部付近で八神はやてがギルモンを殺害する場面に遭遇。その現場を携帯のカメラで撮影する。
・その際見つかったため余計な揉め事を避けるために何とか言い包めて同行する事になる。
・地上本部捜索中に最上階で発見した転移装置が原因ではやてと離ればなれになり、Dライン上の川付近に転送される。
・第一回放送後、川に沿って移動中に気絶した天道を発見する。
・治療のために温泉に向かっている途中で鎌とマントを持った魔法を使う危険人物に襲われかけるが、バイクで振り切る。
・その後に浅倉・ヴィヴィオ・シャーリー一行と遭遇。行き先が違うためすぐに別れた。
・温泉にて天道の手当てをした後、少しくつろぐ。
・天道が目を覚ます。直後にエネルの仕業と思われる落雷を確認。エネルを放っておけないという天道の意見で温泉を出発。
・その途中フリードとドラグレッダーの戦いを発見。商店街に向かってモンスターとの戦闘、今に至る。

その後の質疑応答と参加者観。

・エネル→電撃を操る危険人物。キング以外誰も知らない。
・はやて→何か事情があったのか本人に会った時にきちんとお話したい(byなのは)。
・転移装置→『魔力を込めれば対象者の望んだ場所にワープできます』という看板あり。転移先に望んだ場所は守護騎士の元。
・キャロの行方→天道を見つけた時は近くに誰もいなかった。
・鎌とマントを持った魔法を使う危険人物→勘違いだと思いたいがフェイトの可能性がある(byなのは&天道)。
・浅倉・ヴィヴィオ・シャーリー→ぱっと見た感じヴィヴィオは浅倉を慕っている様子。シャーリー共々酷い目に遭っているようには見えなかった。

・安全:金居
・危険:フェイト?、エネル≪姿は知らない≫、はやて
・要注意:浅倉
・それ以外:(ギルモン)≪死体で発見≫、ヴィヴィオ・シャーリー≪浅倉と同行≫

最後はC.C.で発言内容の概略は以下の通り。

・スタート地点はA-4の神社。そこでゼストと出会う。
・それぞれの探し人に会うために都市部に向かうが、市街地で強大な魔力行使による光を確認したので危険と判断。
・第一回放送後、腹ごしらえのために商店街に向かう。
・商店街の安全を確認するとゼストは一足早く役に立ちそうな黒の騎士団専用車両を取りに向かう。
・なのはとペンウッドに出会う。再び商店街を探索した直後にミラーモンスターに襲われて応戦、今に至る。

その後の質疑応答と参加者観。

・ゼスト→高町なのはが復讐鬼と化した世界から来た。
・市街地での強大な魔力行使による光→直接目にしていないが確かに魔力は感知した。場所が特定できなかったので様子見に徹した(byなのは)。
・黒の騎士団専用車両→ゼロをリーダーとする集団である黒の騎士団が所有する大型トレーラー。内部に色々と役立つ物(首輪の解析など)がある。

・安全:ルルーシュ、(カレン)、シャーリー、スバル、ゼスト、ルーテシア≪ゼスト情報≫
・危険:なのは
・それ以外:(もう一人のなのは)・フェイト・(もう一人のフェイト)・はやて・(もう一人のはやて)・ユーノ・(クロノ)・(シグナム)・ヴィータ・シャマル・(ザフィーラ)・(ティアナ)・(エリオ)・キャロ・(ギンガ)・クアットロ・チンク・(ディエチ)≪ゼスト情報≫

そして5人の意見を総合してできたものが以下の通り(アリサとプレシアは参加者ではないので除外)。

安全:なのは、(もう一人のなのは)、フェイト、(もう一人のフェイト)、(もう一人のはやて)、ユーノ、(クロノ)、(シグナム)、ヴィータ、シャマル、(ザフィーラ)、スバル、(ティアナ)、(エリオ)、キャロ、(ギンガ)、ヴィヴィオ、ペンウッド、天道、(弁慶)、ゼスト、(インテグラル)、C.C.、キング、ルルーシュ、(カレン)、シャーリー
危険:アーカード、(アンデルセン)、浅倉、相川始、エネル
要注意:クアットロ、はやて、銀色の鬼?、金居、(矢車)
それ以外:チンク・(ディエチ)・ルーテシア、紫髪の女子高校生、(ギルモン)・(アグモン)

125キングの狂宴/狙われた天道(修正) ◆HlLdWe.oBM:2009/12/31(木) 00:52:08 ID:AHNviENI0
修正版投下終了
なおこれ以外の修正はwiki収録の際に済ませます

126 ◆Qpd0JbP8YI:2010/01/21(木) 21:39:39 ID:cnzvXrbQ0
Lのお話を投下します

127 ◆Qpd0JbP8YI:2010/01/21(木) 21:41:39 ID:cnzvXrbQ0
辺りは瓦礫が散乱していた。
壁には穴があき、地面には皹が入り、ドアノブはねじ切られ、
ドアそのものは解体されたかのように粉々になって横たわっていた。
法の塔として存在していた地上本部の医務室には、最早かつての面影は見られない。
今は亡きレジアスに代わって歩くその地の主は、ただ幽鬼のように存在していた。




吸血鬼の恐るべきところは、その力の強さだ、とヘルシング卿は言っていた。
その人間を遥かに超えた筋力、鉄さえも容易く引きちぎることができる膂力。
彼らはただ単に強力なのだ。
言葉にすれば、それは容易い。
だけど不幸なことに彼らは、人知を超えるくらいの力を兼ね備えているのだ。
そして今そこに立つ彼はその吸血鬼の中で一等強力な吸血鬼の血を受けた存在。
ならば、弱いはずなく、単に強いはずもなく、ただただ最強なのだ。





その最強が血を求めて歩く。



それはどれほど悲劇を招くのだろうか。





彼に血を求めることに忌避などはない。
彼は有能であれば、犯罪者をも犯罪捜査に役立てようとする性格だ。
その善悪云々という観念を排し、目的達成のために合理性を追求する彼であれば、
吸血鬼化という身体能力強化の恩恵は、このデスゲームの中では僥倖とも取れるもの。
故に人間をやめたということに大して感慨は持たない。




勿論、彼には人を襲う気など微塵もなかった。
自らの思想を人に押し付け、命を奪う。
そんな神と名乗るかつての敵を悪と断じたように
彼には自らの都合で人の命、人としての人生を危ぶませるのは、許せないことだった。



だけど、彼には絶対的に血が足りていなかった。
彼の在り方を決める最も必要な要素がそこにはなかった。
それは最悪にして災厄の光景。
彼が求めた正義ゆえにか、怪我を負い、魂の通貨ともいえる血を垂れ流した。
そしてその負債は悲しいことに今ここに求められる。




血の不足。




それは奔流のような吸血衝動によって彼の確固たる理性を犯す。
それは焼け付くような喉の渇きでもって彼の高潔たる精神を踏みにじる。





「喉が……渇く」






吸血鬼Lは、血を求めて地上本部を徘徊する。

128 ◆Qpd0JbP8YI:2010/01/21(木) 21:42:23 ID:cnzvXrbQ0
【1日目 午後】
【現在地 E-5 地上本部】
【L@L change the world after story】
【状態】吸血鬼化、吸血衝動(大)、多量の失血
【装備】全身にほつれた包帯と湿布
【道具】なし
【思考】
 基本:プレシアの野望を阻止し、デスゲームから帰還する。デスゲームに乗った相手は説得が不可能ならば容赦しない。
 1.血が飲みたい / 喉を潤したい
【備考】
※参加者の中には、平行世界から呼び出された者がいる事に気付きました。
※クアットロは確実にゲームに乗っていると判断しています。
※ザフィーラ以外の守護騎士、チンク、ディエチ、ルーテシア、ゼストはゲームに乗っている可能性があると判断しています。
※首輪に何かしらの欠陥があると思っています。
※アレックスからセフィロスが殺し合いに乗っているという話を聞きました。
※アーカードが残したメモは読みました。自分が吸血鬼であることは把握してます。
※どの程度理性が残っているかは、次の書き手に任せます。

129 ◆Qpd0JbP8YI:2010/01/21(木) 21:43:24 ID:cnzvXrbQ0
以上です。

問題点はLを吸血鬼としてしまったこと。
一応、単に対主催の強化に繋がらないよう吸血衝動という地雷を持たせましたが、
これを良しとすると、ロワに吸血鬼化、グール化が広がってしまう可能性が生じてしまいます。

勿論、Lの意識の根底には人を襲う気持ちはありませんし、
無事に理性を取り戻せば決して人は襲わないということは示したつもりです。

ですが、今のLは危ういですし、またアーカードもLが生き残ったことを知ると
余計に辺りに自分の血を撒き散らすかもしれません。

ここでLを殺したほうが後腐れなくていいかもしれませんが、
自分はLが吸血鬼になった方がこれから面白くなるのではないかと思い、
今回のSSを書かせていただきました。

130リリカル名無し:2010/01/21(木) 23:21:50 ID:LKPNfvaE0
仮投下乙です。
まず元々吸血鬼とグールのどちらかはお任せでしたので、Lの吸血鬼化自体については全く問題ないと思います。
また、吸血衝動についてもダメージが酷かった&単純強化に繋げない事情、クリアして理性が戻れば大丈夫と示しているのでこちらも自分は大丈夫だと思います。

やはり懸念されるのは、これによる今後の吸血鬼及びグール化増殖の問題ですね。
下手にLが周囲を襲い吸血鬼かグールになる人が増えると色々大変というのはわかります。
制限でLに吸われた場合は単純に失血するだけ(吸血鬼にもグールにもならない)という風にするなら大丈夫でしょうが、アーカードがLを吸血化している以上難しいですし……やはり他の人の意見も気になる所です。

個人的な感想になりますが、自分としても殺す及びグール化するよりも吸血鬼化した方が面白いと思っていますので展開自体は良いと思っています。

131リリカル名無し:2010/01/22(金) 05:36:18 ID:xesGRXW.O
展開自体は非常に面白そうなので、特に問題はないかと
吸血鬼化やグール化がまずいなら、元祖吸血鬼であるアーカードだけに許された能力とするのはどうでしょうか
吸血鬼によって吸血鬼にされたキャラの吸血によって吸血鬼になる事はないという制限にするか

もしくは吸血鬼化はギアスのように人外には通用しない事にするか
個人的には吸血鬼化やグール化の危険性を孕んだ方が面白そうだとは思います

132リリカル名無し:2010/01/22(金) 10:13:55 ID:bNnt3piM0
吸血鬼化は問題ないと思います。
参加者を襲って吸血鬼化・グール化に関しては、
「他の参加者によって吸血鬼化した参加者には、他者を吸血鬼化・グール化させる能力を持たせない」というのがやはりいいんじゃないかと。
その方がややこしくありませんし、
アーカードの劣化コピー、っていう印象を演出することもできますし。

133 ◆Qpd0JbP8YI:2010/01/22(金) 23:28:17 ID:IxGv0p/M0
色々なご意見ありがとうございます。

総括すると、Lによる吸血鬼化・グール化を制限すれば、問題ないということですかね。
一応念のために土日を待って、他に意見が出ないようでしたら、
本スレの方でLの童貞認定をしてきたいと思います。

134リリカル名無し:2010/01/23(土) 15:46:42 ID:mjwmxyDY0
アーカードに噛まれただけでかなりの強キャラ扱いにするのはどうかと...
原作で同じように吸血姫化したセラスも、隊長(恋人っぽい奴)の血を吸って真の吸血姫として生まれ変わるまでは、アンデルセンとかアーカードとかに比べてそうとう弱かったわけだし。
あとアーカードとは主従関係になる?のかな(原作的に)今ならアーカードも対主催だしそれでも問題ないかと思う。金居&ヴィータvsアーカード&Lなんてのも考えた。

135リリカル名無し:2010/01/23(土) 21:32:17 ID:Ac1Za3cg0
仮投下乙です
一応吸血鬼の力は原作よりだいぶ劣る描写入れたら>>134も大丈夫だと思います
あとLによる吸血鬼化・グール化を制限はそれでいいと思います

136 ◆Qpd0JbP8YI:2010/01/23(土) 23:50:33 ID:TwvqsQjw0
>>134
吸血鬼化に反対ということでしょうか。
それとも単に強さに対して自分と認識にズレがあるだけなのでしょうか。


アーカードたちと比べて弱いといっても、セラスは人間っは決して扱えない兵器を軽々しく使い、
傭兵稼業など身体を鍛え上げた人間ベルナドットをデコピンだけで圧倒し、血塗れにしたように
人とは隔絶した力を持っています。また彼女には祝福儀礼の剣で身体中を串刺しにされても、
尚生き残れる生命力と再生能力を持ちえています。
これらはかなりの脅威に値するものなのではないでしょうか。
それに何よりLにはアーカードやセラスにはない類まれな知恵を持っています。
ロワの中ではそういった組み合わせは、最強の一角に組み込むに十分な余地があるのではないでしょうか。
少なくとも自分はそう思います。



尤も多くの最強が死んでいったようにLも実際の戦闘では
どうなるかは分かりませんが……。



>>135
Lがセラスより劣化した吸血鬼であることは
既にアーカードが残したメモに書いてあります。

何でもLは日光によって消滅してしまうそうで。

137 ◆Qpd0JbP8YI:2010/01/26(火) 23:25:12 ID:lt/1aP/I0
返信がないようなのですが、これは問題は無事にクリアされたと判断してよろしいのでしょうか?
というか、全く反応がないのは不安です。

138リリカル名無し:2010/01/27(水) 00:16:28 ID:rcDIN5Sk0
>>134>>135ではありませんが、少なくても自分はOKです。(実は雑談スレでスタンス纏め出したんですが、この話通った前提で出しています)

>>134
正直、ヘルシング未把握なのであまり語れませんが自分の見解ではある程度強化されても問題は無いんですよね。
それに、幾ら強化されてもアーカード以上というのはまず有り得ないわけですし、そのアーカードもボロボロである以上極端なバランスブレーカーにはなりえないと思いますけどね。
……さらに、Qp氏も指摘している通り実際どうなるかはわからないわけですし(極端な話次で退場する可能性もある)。

139リリカル名無し:2010/01/27(水) 00:26:43 ID:rBzm2IQI0
解決したと考えて良いですよ

140 ◆Qpd0JbP8YI:2010/01/27(水) 00:38:10 ID:1a9cKkOc0
丁寧な返信ありがとうございます。
これでやっと息をつけます。

それでは本スレのほうに投下してきます。

141 ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 17:53:52 ID:pNHdHYB60
一通りの修正が済んだので投下します。

14213人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 17:55:01 ID:pNHdHYB60
     ●

「……………………………………」

     ●

 太陽の光が強くなり、空は赤色に輝いた。
 一辺倒の赤色ではない。金色ともいえる白い太陽を中心にした朱、だが上方を占めているのは水色から次第に変色していった藍色、そして赤と水色の緩衝となるのは黄緑色だ。
 俗に言うマジックアワー、晴天の早朝と夕暮れ時にしか現れない天然のグラデーションだ。
 全天が虹になったようですらあるこの時間帯は、蝋燭が燃え尽きる寸然のように全てを輝かせている。
 川面、草木の表面、大地、あらゆるものが強い光によって照らし出され、何もかもが熱を帯びたように火照った色合いとして映る。比例して濃くなる影との対比は、それこそ地に降りた太陽を焚き火にして囲んでいなければ浮かびようがないほどの強い落差だった。
 そんな中、一際強く光り輝くものがある。
 窓硝子、そしてそれが密集した市街地だった。
 一棟につき何百枚もの窓硝子、市街地では何百万枚用いられているのだろうか。これだけの数がある市街地なのだから、夕暮れ時に至っては、水晶の柱が乱立しているような光景である。
 そんな市街地の外れにあるガソリンスタンド、何本かの支柱で板きれのような天井を支え、その下に給油機と申し訳程度の部屋を作った施設がある。それはほとんど市街地と平野の境界線に建っている建造物なのであるが、柊かがみの所在地を示す上で、それは分かりやすい目印となる。
 かがみの靴裏は草を踏み始めていた。
 小柄な体躯を支柱に紫の長いツインテールが揺れている。胸元に大きな白い十字架を描いた赤のタートルネック、短いプリーツスカートから伸びるか細い足は、ニーソックスと焦茶の革靴が守っている。手首まですっぽりと長袖に隠された腋にはベルトが通り、背中にデイバックを乗せている。
 そして首からは環状の紐が下がり、落差のほとんどどない胸に金色の装飾品を下げていた。単眼の彫り物をした三角形を輪の内側に連結し、外縁には四角錐の飾りをたてがみのように吊るす。形状としてはペンダントに似ていたが一般的な物より随分大きい。
「は」
 草を何度か踏み、不規則に並び立つ木々の陰りに入った頃、かがみの唇から息が漏れた。
 骨が抜けたような有様で背中から幹にもたれかかり、デイバックを挟んでいるのを良いことに、ずるずると引き摺るように座り込む。両膝を地に着けてスカートの中身を隠す、普段の習慣すら忘れた動きだった。
「ううぅ」
 俯いた口から呻きが漏れる。それは隠しようのない本音を、それでも隠そうとするごまかしだった。
(お風呂、入りたい)
 照った髪、照った肌は夕陽の強さだけが原因ではない。
 早朝0時、朝とも夜ともつかない時間から動き続け、叫び続け、戦い続けた肉体には避けようのない、しかし性別的に忌避してやまない劣化と汚染の結果だった。
 早い話が、全身全霊がくたびれていて、汗やら油やらで垢が大量に生じているのだった。
(うううううぅ)
 おまけあの“移動力”を使った直後から、夕暮れの下で1km近い荒野を革靴で横断したのがいけなかった。日中最後の暑さと運動で汗は滝のごとく流れ、体臭をより強めてしまった。
 この衣服がバリアジャケットという特別な防護服でなかったら、その濃度はより高まっていただろう。
『……神経ぶっといご主人サマだな、オイ』
 かがみの面が急上昇する。
 脳裏に響く声は、自分のそれとは異なる野太い声色だ。空気を振るわせない音色に違和感を覚えるが、今となってはそれも慣れたものだ。
 というよりも、違和感を感じてはいけない。
 この声の主、胸元に下がる装飾品は、今や自分が頼れる唯一の存在なのだから。
『俺が肉体持ってた頃は、風呂なんて王族と金持ちの馬鹿騒ぎだって思ってたがなぁ』
「わ」
 どう話せば良いんだろうか、と一瞬どもって、
「私達の時代と、その、貴方達の時代を一緒にしないでよ。……千年ぐらい間があるん、でしょ?」
『ま、そうだけどな』
 しかし、と口調が改まり、
『ご主人サマ、解ってんのかよ? アンタ今、結構死にそうなんだぜ?』
「……ん」
 解っている。

14313人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 17:57:00 ID:pNHdHYB60
 早朝0時から叫んだのも、嘆いたのも、走ったのも、戦ったのも、そして誰も彼も憎んだのも、全てはこの状況が起こさせるものだったのだ。
 プレシア・テスタロッサに喚び出された者達が絡み合う、殺し合いに。
『そんな中で、そんだけ悠長やってられりゃぁ問題ねぇかなぁ。??俺がいなくても』
「ぇ」
 漏れた声は生理的なものだ。
 頭が、胸の奥が凍りついて、意識的に何かをするなんて出来やしない。
「や、やだ」
 見捨てるの、という思いだけがある。
「行かないでよ。私から離れないで……!」
 えずくような息遣いで、
「バクラぁ……!」
『だったら』
 自分と相手の声色の違いに、いっそ笑ってしまいたくなる。
『ちゃっちゃと動いた方が良いんじゃねぇかなぁ』
 バクラはそれが言いたかったのだろう。
 上がり、しかし胸元の装飾品を見下ろした顔が、今度は一際の高さを見上げる。
 かがみに木陰を提供すべく展開した枝葉だったが、未だ末端であるこの位置では木漏れ日も注ぐ。そんな葉と葉、枝と枝、木と木の間から、しかし樹木ならざるものが覗いている。
 今や遠くにある市街地のそれらと同じく、白亜の外壁に光り輝く正方形を等間隔で埋め込んだ巨体。
 高層ビル、それも市街地にあるものとは一線を画す、趣きのある意匠だった。
「ホテル・アグスタ」
 その名前をかがみは知っている。
『あっち通りゃあちょっとは楽だったろぉによぉ』
「あれって……何か、抉ったみないなやつじゃない。嫌よ、薄気味悪くて」
 そう言ってから見たのは真っ正面にしばらく行った区域だ。
 唐突に木々が途絶えた場所、そこはまるで整地されたように綺麗な濠が刻まれていた。かがみが知る限り、森林の根と湿気で固まった土をここまで綺麗に掘り下げる技術は存在しない。
 ならば、
「多分、そういう参加者の攻撃が抉ったのよ」
 言ってから身震いした。
 これまで“そういう参加者”に会わなかった事の安堵、そして、居たという事実への恐怖だった。
「なんか怪しいじゃない」
『怪しいのはここも一緒だろぉが』
 バクラの言うことは正しい。
 未だ木々に紛れてすらいないこの場所は、周囲からまだ目視できる。これだけの平野ならこちらも気付くかもしれないが、視界に入らないような遠方、もしくは透明になる能力を持つ参加者がいたならその限りではない。
 それを思い至れる程度には柊かがみの思考は柔軟になっていた。
『目と鼻の先だろぉがよ、とっとと行こーぜ? あそこ行きゃスイートルームで豪遊だろぉが。水だって浴びるほどあるぜ』
 何たって風呂もシャワーも完備だからな、とバクラは甲高い声で笑う。時折自分の体を借用するくせに、この男は人の苦労や疲労というものを全く考慮してくれない。
「……解ってるわよ」
『この千年リングに入ってる限り、俺は自分自身で動けねぇんだ。頼むぜオイ』
 それっきりバクラは声を送ってこなくなった。
 そっぽを向いたような変化にかがみは心細くなり、だがそれも、あのホテル・アグスタに行ってバクラの望みを叶えれば、すぐに解消できるだろう。
(そうだと良いな)
 そしてかがみは背後の木に手をついて立ち上がった。
 太ももが引き攣るような、デイバックがずっと重くなったような感覚があるが、しかし、今は我慢するしかない。ここでまたへたりこめば、今度こそバクラは自分を見捨てる。
(見捨てないで。見捨てないで)
 もう他に誰も助けてくれないの。
 自分以外の誰かを憎むだけでは動けない。
 柊かがみの体を動かしているのは、もはや自分の意思ではなく、付き添う誰かがいるという、その受動的な現実だけだった。



 疲弊したかがみの顔を、夕陽に照った千年リングが歪めて映している。

14413人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 17:57:45 ID:pNHdHYB60
     ●

「……あぁ」

     ●

「うわぁ」
 市街地に入るなり、新庄・運切が感嘆を漏らす。
 これまでの平野とは一転した、鉱物と直線が支配する光景だった。地は黒い鉱物で道が敷かれ、左右には長大な立方体が整列している。一体何なのだろうか、その表面には幾つもの透明な板が嵌め込まれている。
 それにしても巨大だ。背を反らせてようやく天辺が見えるかどうかの高さは、何か見下ろされているような気がして、やけに腹立たしい。
 エネルにはこんなものを建てた覚えも、建てるように命じた覚えもなかった。
 つまりこれらは、人間が自分達の手で建てたということになる。
(虫どもの所業にしては不届き。……崩すのが神の責務か)
 思いに腕を掲げた。“自然系”ゴロゴロの実の能力、雷に変ずる能力をもってすれば、大きいだけの物など挫くのは容易い。
 しかし、
「ぬっ」
 壁面に等間隔で埋め込まれた正方形の群が、エネルの目に光を撃ち込む。
 網膜が痛み、思わず瞼が眼球を抱き込んでしまう。
(生意気な……!)
 思わず顔も背け、ようやく痛みが引いたところで視覚を解放する。しかし逸らされた視界の先にあったのは、のぼせ上がったようにあちこちの長方形を見上げる、新庄の後ろ姿だった。
 自分が見上げられなかったものを、砕けなかった物を、安心しきったようにこちらに背を向けて。
「……おい」
「は、はいっ?」
 声を掛けられると思っていなかったのだろう。こちらにしたところで、声をかけるつもりなどなかったのだから当然だ。肩と長髪が大きく跳ね上がり、振り返った新庄の目は気まずそうにこちらを見返す。
「変わり種だなぁ、貴様は」
 言われて、新庄はどこかが痛んだような顔をする。
 今の言葉にどうしてそこまで傷付くのか解らなかったが、傷付いてくれる分には一向に構わなかった。
「無知をひけらかすのが趣味なのか? 大きいだけの墓石を見上げるのがそんなに楽しいか」
 新庄はきょとんとした顔をする。
「こ、これみんな、墓石なんですか?」
「当たり前だろう」
 やはり新庄という男は無知極まりない虫けらだったらしい。
「私のいた島にも居たよ、やたらと先祖先祖と羽音をたてる虫の群がな。ああいう手合いがあるのだ、ご丁寧に先祖全員のために巨大な墓石をたてる奴がいても可笑しくない」
「へぇ……先祖思いの昆虫っているんだね。変わってるなぁ」
「ああ全くだ。変節漢どもの群で、煩わしくてたまらなかったよ」
 顎に手を当てて回想していると、ふと、新庄が感心したようにこちらを見ているのに気付いた。その緩みきった態度に、どうにか下がりかけていた溜飲が、再び上ってきてしまった。
(この私が、神であるおれが、ここまでナメられるとはなぁ……!)
 そもそもあの赤い服を着た優男に出会ってしまったのが始まりだ。
 思い出すだけでも忌々しい、箒のように金髪を逆立てた男。ひょろ長で、何もかもを諦めたような顔をしていた癖に、あんな途方もない力を見せつけた男。
 あんな力を。
(……ッ)
 胃袋の内側に鳥肌がたつ。
 かつて雷を無効化した“ゴムの男”とは違う、根本的な力量差で自分を圧倒した男に植えつけられたこの感覚。夕陽を受けて肌が火照るのは条理であろうに、しかしエネルの体は氷が伝ったように冷える。
「あ、あの」
「………………」
 何時の間にか口元を撫でていた指、その向こうに、こちらを覗き込む新庄が見えた。
「大丈夫ですか?」
「何が、だ」
「だって凄い顔色が悪くて」
 女と見紛うばかりの新庄の細い指先が、だらんと吊り下げられた左手に触れる。
 それが、ひどく暖かく感じる。胸の奥がゆるみ、絹のような手を握り返したくなって、
「ーーッ!!」
 気がついた時には払いのけていた。
「ぁ」

14513人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 17:58:23 ID:pNHdHYB60
 新庄は、何が起こったのか解らない、といった風に目を丸くしていた。肌が肌を打つ甲高い音が響き、真っ白だった新庄の掌がかすかに赤みを増して腫れる。
 その事に、より一層の寒気が過った。
 は、とした動きでエネルは振り向く。冷や汗が飛び散り、血走った瞳が歩いてきた平野を見渡す。しかし、それだけで満足を得る事はできない。右を見て左を見て、上も見て、再び目が光に撃たれようとも最早背けることはない。
 もし恐れが本当になってしまったら、眩しい程度のことではすまないのだ。
 何も変化はない。
 その事をようやく肯定して息をつく。そして、歯を剥き出した表情で新庄を見た。
「変わり種だけではなく、陰険な性格をしているのだなぁ、貴様は。……自ら傷付きに来て、私が“奴”に追い回される未来がそんなに欲しいか?」
「ちがっ」
 何かを言いかけて、しかし新庄は頭を振った。おおかた隠謀が失敗したので歯を軋ませたのだろう。
 そして再びこちらに背を向けた。
「……行きます」
 命令形、絞り出したような声色で歩み出す。
 背を向ける、それが出来るという現状に、再び怒りが沸く。
 新庄は解っているのだ、後ろから強襲されれば必ず死ぬ事が。そして、その結果として赤服の男がすぐさま察知し、自分を追いかけてくるのが。
(結局挑発も継続、なんと陰険なことか)
 舌打ちをして、エネルは新庄に倣って両足を動かした。
 『参加者の現在地と生死を把握する能力』、それが赤服の男が持つ能力だった。まさか、と笑うことは出来ない。似て非なる能力、“心網”を他ならぬエネル自身が持っているのだから。それがある限り自分は新庄を傷つけられない。未だに障る、背後から睨まれているような錯覚を拭うことができない。
 何より皮肉なのは、それによってエネルの“心網”が封じられただった。
 赤服の男と会って以来、エネルは“心網”が使えない。
(あの感情のせいだ)
 使えなくなった理由をエネルは理解してる。
 雷を裁断したあの攻撃、未だに続く監視の力、それらに疼く感情が、“心網”に必要不可欠な平常心を侵している。プレシア・テスタロッサの制限によってゴロゴロの実の能力も削がれた今、周囲を探る能力は生まれ持った五感のみとなってしまった。
(不届き)
 不届きにもほどがある、エネルはそう思った。
 歯が軋んで、最も力が入りやすい奥歯が砕けてしまいそうになる。それさえも“心網”を乱しているのだと自覚して、また一層の怒りとなる。
 “心網”とはエネルが誇る双璧の片割だった。三千世界を把握する無形の耳と、どこに隠れようとも狙い撃つ腕、それこそがエネルをエネルたらしめる、神としての力だったのだ。
 それが欠く形となり、まるで自分が神から降ろされてしまったような気になって、
(……不届きッ!!)
 エネルの胸中は、まさに雷が吹き荒れる乱気流だった。“雷迎”のように黒く、激情を押し留めようと胸筋が張り詰める。
 いっそ新庄を殺してしまおうか、いかに奴とて雷には追いつけまい、そうも思う。しかしそれは、生涯をたった1匹の虫けらから逃げるのに費やすことを意味する。とてもではないが我慢できないものだ。
(どうにかせねばならん)
 殺すのか、逃げるのか。
 赤くなった新庄の掌を見るたびに胸が疼くのを、数少ない反撃に成功した喜びなのだと思って。



 建ち並ぶ市街地の窓硝子はエネルを映し、激情に表情を歪めた同一人物が歩を進めていく。



     ●

「まただ」

14613人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 17:59:09 ID:pNHdHYB60
     ●

 時空管理局地上本部、そう銘打たれた石碑に一閃が走る。
 字を浮き彫りにした鉄のレリーフは、植え込みの中から突き立つ石材に取りつけられている。施設の威厳を示すべく、看板としては破格の資金が投じられたのは明白だった。
 そんな石碑が、右上から左下に向かう直線で切断される。
 レリーフも石材も分け隔てない分割、石碑の左上半分が斜面のままに滑り落ち、植え込みの植物をへし折り、隠れた土へ沈んだ。露になった石碑の切断面に粗はなく、さながら鏡のような一面だった。
 全てはARMS“グリフォン”、超振動の刃が成せる所業だ。
 両腕を刃の生えた異形に変じさせるキース・レッドは、膝をつく姿勢で道路に着地した。飛び退いた際にグリフォンの刃がうっかり石碑に当たり、切断してしまったのだった。
 そして石碑を見ようとすれば、是が非を問わず地上本部ビルの戦禍を見る羽目になる。
(随分派手にやったな)
 キース・レッドは感想を思う。
 ロビーとなっている1階、そこで無事に残っている窓硝子など1つも無い。施設の内外に破片となって散らばっており、正面玄関である自動扉ですらもそれは免れない。外壁も虫食い状に破れ、へし折れた骨子を断面から覗かせる。どうにか残る壁も蔦が這うようにひび割れていた。覗ける内装に至っては見る影も無い。
 だが見るべき影はそこにある。
 廃墟もかくやの地上本部ロビー、キース・レッドはその中に人影を見た。
 全力で右へ跳ぶには、それだけで十分だった。
「……!!」
 ほんの少し前までいた空間を極太の閃光が貫く。収束された熱量は赤色を越えてもはや白色に見えた。
 貫いた空気を陽炎に変え、ご、という威圧を吹かせる。分たれた石碑は一瞬で溶解し、植木は燃える間もなく炭化して散り、ガードレールと道路は水のように弾け、通り道に濠という弾道を遺す。
 向かいの高層ビルは破片を散乱させる事もなく、高熱によって穿たれた。
 光線はエネルギー、光速の攻撃だ。光線と認知できたのは、一閃を真横から見れる位置取りに至ったこと、光速でありながら視認できるほど長時間攻撃が維持されたからに過ぎない。
 避けるためには撃つまでのモーションを絶対に見逃さず、その段階で動く必要がある。陽が赤くなる以前より戦うキース・レッドが死んでいないのは、視覚と反射神経と、それを持続させる執念の賜物であった。
「む」
 光線、荷電粒子砲の熱気に頬がひりひりと痛む。眼球が乾き、自然と瞼は絞られた。
 そこで、か、という音がする。連発するそれは足音だ。
 方向にして地上本部、荷電粒子砲に赤に輝く濠の側を、規則正しい速度で2本の足が歩いてくる。
 見るまでもなく、見たくもなく、しかしキース・レッドは見ざるをえない。“奴”の攻撃が光速である以上、観察こそが唯一の防衛策なのだ。
「ーーーーーー」
 それは1人の青年だった。
 色白の肌は個人差の域を越えた人種的なもの、金髪に碧眼をたたえた長身は、彼の血筋がアーリア人のそれである事を伺わせる。あえて言うのだとしたら、それは自分の外見にも通じるものなのだが。
 無遠慮に視界の隅に入る高層ビルの窓硝子、夕陽に照って鏡の性質を持ったそれは、全く同じ顔をした2人の男を映している。
 目の前の自分と全く同じ顔をした“奴”、キース・シルバーは自分の、否、モデルを同じくするクローンの1体だった。
 キース・シリーズと呼ばれる、生体兵器ARMSを宿すべく生まれながらに調整された人工の人間。自分と奴は、両手で数えるほどにも存在しない、数少ない同胞である。だがそれも、今となっては唾棄すべき現実だ。
(そう、その目だ)
 荷電粒子砲から逃れて再びしゃがんでいたこちらを、キース・シルバーは見下す。
 歩道と地上本部の正面玄関を分ける階段の上にいるから、という訳ではない。クローンである以上奴の方が背が高いから、という事はない。それに例え奴は低所に居たとしても、背が低くても、あの目つきは変えないだろう。
 奴は、奴等は、キース・レッドを不良品として切り捨てたのだ。
 ARMSを本当の意味で使いこなせない、そう言って。
「……糞が」
 唾を吐くようにて憎悪が漏れた。
 全く同じ顔をした同胞達が満場一致でそう言った時の事を、キース・レッドは忘れない。
 貴様等を殺してやる、そう思ったし、むしろ貴様等こそが下等なのだ、と証明したいとも思った。
 故に、こうして対峙している。
「キース・レッド」

14713人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:03:28 ID:pNHdHYB60
 不意に、キース・シルバーが唇を開いた。
 仇敵の声は、ただそれだけで神経を逆撫でする。奴の声は汚泥の香り、声は便器に反響する放屁だ。奴の胃袋には昼過ぎに喰った下痢で満たされているに違いない。
「もうやめろ」
「何故」
「お前が失敗作だからだ」
(そう言うと思ったよ)
 言うや否や、思うとともにキース・レッドは駆け出していた。装備していた2丁の拳銃はすでに弾丸を使い果たして捨ててしまった。砲撃型ARMS相手に、弾を補充する暇はなかったのだ。
 やはり自分の武器は両腕の刃、直角に立てれば、風を裂いて笛のような音が耳朶に叩き付けられる。
「おぉ……!」
 正面からの突撃。懐に入りさえすれば、砲撃型である奴のARMS“マッドハッター”は、最大の特徴が無用の長物に変じる。
 しかしそれは向こうととて知り尽くしている。
 攻撃に本来欠かすことの出来ない、充填、構え、発動、命中、放熱という5つの段階を、光速という攻撃が発動から命中までのセンテンスを限りなく0に短縮する。
 高熱の光が正面から迫る。
「ーーふッ」
 それを、キース・レッドは飛び越えた。
 もちろん如何に光速といえど、自分がARMSを持つ身であっても、ただの跳躍で光線を飛び越えられるはずはない。通り過ぎる前に落下して、両足を焼かれるのがオチだ。
 だから直上には跳ばない。着地するのはキース・シルバーがいる正面玄関を囲む植え込みだ。
 長蛇のプランターとして玄関前の階段を囲うそれは、階段の最上段よりも若干高い。そこに着地することで少しでも高度を稼ぎ、次いでどうにか残されていた1階外壁の窓枠へと跳ぶ。
 ほんの僅かに外壁から迫り出していた窓枠に爪先を掛け、外壁に手を当てて一瞬の安定。そして崩れる前に三度目の跳躍を行う。飛び移った足場の縁を掴み、懸垂のように飛び乗ったのは正面玄関を陰らせる大型のひさしだ。
 キース・シルバーの直上を隠すそれは、上に乗れば広くて平たい良質の足場となる。その1枚下ではキース・シルバーが荷電粒子砲を放ち終えた頃だろう。
 その隙をつく。
「はぁ……!」
 光速で微小に振動する刃は、ARMSでさえも切り裂く事が出来る切断力だ。
 それでひさしを滅多切りにすれば、キース・シルバーへ降り注ぐ瓦礫の群だ。崩れ落ちる直前で跳躍し、あるいはその衝撃によってひさしは分断されキース・シルバーへ落下する。
 普通の人間ならば骨折、当たりどころが悪ければ打撲による死を得て当然の攻撃だ。だがそれも、ARMS保有者同士の戦いでは牽制程度にしかならない。
 ひさしの上はほとんど2階の高さと変わらない。2階の窓枠に足をかけ、ARMSと化した強固な五指を外壁に食い込ませて立つキース・レッドは見る。
 キース・シルバーが砲門の腕を振り上げ、瓦礫の群を一気に蒸発させたのを。
 じ、と瓦礫は煙と悪臭に変化し、その延長線上にある向かいのビル何棟かの屋上が破壊された。ついでにキース・レッドの前髪も何本かが焦がされてしまった。
 ひさしが無くなった今、キース・シルバーの澄まし顔は眼下に見える。
(待っていろ。すぐにその顔を歪ませてやる)
 思いを遂行する力はすでにキース・レッドの手の内にある。
 ベガルタ。ARMS殺しと呼ばれる、最強の兵器であるARMSに修復不能の損傷を与える兵器の1つを。



 キース・レッドが牙を剥いて笑む姿を、飛び移った窓枠に嵌る硝子は克明に映していた。



     ●

「まだ、苛々は消えてねぇ……」

14813人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:04:02 ID:pNHdHYB60
     ●

 写真家として生計をたてていた相川始には、行ったことはなくとも情景は知っている、そういう場所が多い。
 多くの先達が撮影した風景写真を幾つも見てきたからだ。腕の立つ写真家が撮った写真というものは単なる一枚絵では終わらない。その向こうが本当にその場所と繋がっているかのような、そう思わせる窓となるのだ。
 そんな中でも、恐山という場所の風景写真は始の心を捉えた。
 煙立ち、匂い立ち、ただ石の群のみが積もって山を形成する地域。石の砂漠とも言うべき情景には、見る者の胸中に真空を作る。
 無情、そこにはいかなる感情もない。
 ただ見る者が、そこに寂寥を見出すのだ。
 そんな取り留めもない事を思い出してしまうのは、きっとここがそれを彷彿とさせるからだ。
「…………」
 始が踏みしめた瓦礫が割れ、破断する乾いた音が響く。
 だから何をするということもなく、機械的に足を前後させ、掲げた左脚でまた別の瓦礫を踏みつける。そうやって始は、この瓦礫地帯を横断していた。
 派手にやったな、と思う。
 鉱物の塊が積もり、あちこちで薄い煙が立ちのぼる様子は恐山を彷彿とさせるが、こちらにそのような年季はない。この惨状は、つい先ほど自分と浅倉威の交戦によって生じたものだからだ。生まれてから半日も経たない情景に、見る者を感傷させるような爪はまだなかった。
 コンクリートかアスファルトか、もしくは始の知り得ない何かなのか、とにかく人為的に作られた鉱物の断片は、かつてはビルや家屋を形成していたものだ。今や瓦礫の砂漠と化しているが、少し前まではここも市街地だったのだ。
 誰1人住んでいない、ゴーストタウンの様相ではあったが。
「…………」
 拓いてしまったかつての市街地に障害物はなく、背後にしたレストランや進む先にあるガソリンスタンドが、遠目にではあっても確かに視認することができた。
 そして音も。
 未だ辛くも残り、しかし破壊されつつある建造物の向こうで破砕音が轟く。
(誰か、戦っているのか)
 戦闘が行われているのは明白だった。人と人との戦いにしてはやけに大きな効果音だが、始が持つアンデットの活動を悟る能力に反応はない。強大な兵器か、あるいはそれ以外の異能を使って戦っているのだろう。
「…………」
 始は立ち止まり、轟く方を見た。家屋群の先に見える巨大な長方形達が砕かれ、打ち抜かれ、または切断される。
 行くべきなのだろう、否、行っていただろうな、と始は思う。それまでの自分だったならば。
 しかし始は遠目にも解る戦場に背を向け、再びガソリンスタンドの方に向かって瓦礫を踏み始めた。だからといってガソリンスタンドに用があったわけではない。ただ単に、それまで進んでいた方に戻っただけだ。
 あるいは、戦場に背を向けたかっただけだ。
(どうするのが、正解なのだろうな)
 思い、そうと再確認することによって、これは迷いなのだと理解した。
 ジョーカーというアンデットとして、そしてカリスとして戦い続けた相川始は、行動を迷うという経験がそれほど多くなかった。行動の選択肢を得る時は多くが戦場であり、日常にあったとしても、かつて定めたものに固執すれば選択肢を排除できたからだ。
 一に、あの小さな家族を護る事。
 二に、アンデットを封印する事。
 それだけをこなしていれば、自分が迷うことなどないと思っていた。
 だが相川始には予想外なことに、ひょっとしたら誰かにとっては全く当然なことに、今は思い迷うまま、行動の上でも迷っている。
 あれからどれほど時間が経っているのか解らないが、少なくとも確固たる意思を持って歩けば、こうして陽が朱に染まる頃にはガソリンスタンドに着いていただろうに、今も始は瓦礫の上を歩き続けている。
 これまでの法則に従っていれば、選ぶべき答えはすぐに導けた。
 遠くに聞こえる戦場へ駆け、争う者共に奇襲をかけて殺し、そんなことを続けて最後まで生き残ればいい。そうすればプレシア・テスタロッサが自分のいた場所に戻してくれる。護るべき小さな家族のいる場所へ。
「…………」
 なのに、今、始は迷っている。
 何の為に戦えば良いのだろうか、と思い始めている。
 ほんの少し前までは、そんな感傷的なことは、考えもしなかったのに。
 変わったな、もしくは、変わってしまったな、そう思い、始は前を見るでもなく歩いていく。



 俯いた視界で所々に散らばる光、それは、砕け散った窓硝子の破片であることを始は知らない。

14913人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:04:32 ID:pNHdHYB60
     ●

「……お前等もだろ?」

     ●

「思うに、なのだが」
 不意に金居はそう切り出してきた。
 よもや向こうから話しかけてくると思っていなかったヴィータは目を丸くし、長身の後ろ姿を見る。
「……何だよ」
 目つきを絞り、声の調子を落としたのは彼に対する不信感の現れだった。内心を悟られることは不利を呼ぶが、しかし腹芸はヴィータの得意とするところではないし、向こうもこちらの印象ぐらい既に悟っているだろうから、隠すことはない。
 限りなく黒に近いジャケットとズボンは、癇に障るほど長い手足にあつらえられている。襟首からは黄色いタートルネックが覗き、切り揃えた髪から見える耳の根元には、眼鏡の蔓がかかっている。
 どんな表情をしているのだろうか、思っても、金居の背後を歩くヴィータにはそれが確認できない。
 ただ、離れるか見上げるかしなければ捉えきることが出来ない、そんな身長差の青年から目を離さないことだけが、ヴィータに出来る唯一の対抗策だった。
 そうして見つめる先で金居は小さく頷き、
「ーー短い足とはこういう時に不便なのだな」
「うるせぇよ!!」
 感心するような言い振りにヴィータは叫んでしまう。
 肉体的な年齢差もあって、金居とヴィータの足の長さは絶望的なまでの隔たりがある。というよりも、例えヴィータが背伸びしたとしても、金居の腰元まで頭頂が届くかどうかという身長差である。そんな風だから、こうして瓦礫の山を踏み越えていく時はどうしても背後に回ってしまうのであった。
 ほんの少し前まで確かにあった市街地は、たった2人の戦いによって焦土と化した。瓦解したビル群の残骸は不規則に並ぶ階段、いやさ階段というのもおこがましい乱立と不安定で、横断するのも苦心する。
「おぶろうと言っているが」
「出来るか、んな事」
 金居の申し出をヴィータは即決で断る。
 “本物のはやて”以外にそんなことはされたくない、というよりも、触れられたくもなかった。
 しかしそこへ異見が入る。
「でもよぉ」
 金居の声色とは違う、やや甲高い少女の声だ。
 頬に指を当てて考えるような口ぶりはヴィータの耳元で生じている。
「実際、少しでも移動のペースは上がった方が良いんじゃねぇの?」
 何だと、と言いつつも、しかしその理由を理解しているが故に、声の主を見るヴィータの目はどこか自信が無さげだ。振り向いた先でヴィータの双眸は小さな人形を見る。
 否、それは人形ではなく、人形のように小さい少女だった。
 赤い髪に幼い体躯、黒い羽と尾、そして同色の露出度が高い衣服は、小悪魔といった類を連想させる。
 アギトと名乗った彼女は、かつて絶えたはずのユニゾンデバイスの生き残りだという。
 ヴィータから見て左手、肩よりも少し高い位置を浮遊している彼女は、やはり考え込むように頬へ指を当て、眉間に皺を寄せていた。
「だってよぉ」
「そいつの言う通りだ」
 アギトが続けようとした言葉を金居が引き継いだ。
 そうする意図のなかったアギトは唇でへの字を結び、眉間に皺を寄せる理由を金居へシフトしたようだった。それに感づいているのかいないのか、何にせよこちらを見ることもなく金居は続ける。
「好機の足は速い。あれだけの戦闘の後とはいえ、油断していれば何の機を逃すか解らないぞ」
 まるでシグナムのような口ぶりが、それを気取っているような気がして、やけに不快だ。
「だからてめぇにおぶされってか」
「私情を挟める立場か」
 状況か、とも金居は言った。
「お前が文句を言う間に3歩進んだら、俺と並ぶくらいはできたかもな」
「……っ」
 皮肉に、三つ編みに結わえたヴィータの髪が逆立った。
 駆け足で瓦礫を踏みつけ、時々砕いたり転びかけたりするものの、急速に金居に迫る。アギトの、待てよ、という声も今や置き去りだ。金居の左横に並んで、そして遂に男の顔を見る。
 生まれてこの方まばたきをしたことがありません、とでも言いたげな無情の顔が、並走したこちらを見ることさえなく前を見ていた。
 ち、とヴィータは外見にそぐわぬ舌打ちをした。
 追い付いて、どうだよ、とヴィータは金居に言ってやりたかった。しかし当の金居は、こちらの事など歯牙にもかけず、図らずも望みを叶えてやったこちらに見向きもしない。
 ただ背後を見ていた時と同じように、こちらを見ることもなく話しかけてくるだけだ。
「無駄な体力を使うな」

15013人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:05:23 ID:pNHdHYB60
 表情に相応の、感情の欠片もない声だった。思わず足を止めてしまい、再び背中を晒した金居は言う。
「我々の目的は散策ではない。駆け出して足でも挫いたらどうする。目先に捕われるな」
 言いたいことだけを言い放つ奴の背に、これを突き立ててやれたら、とヴィータは握力を強めた。
 五指が締めつけるのは、ヴィータの背格好に似合わない長大な槍だった。幅広の刃を無骨なフレームで固めるアームドデバイス。しかしヴィータの相棒であるグラーフアイゼンと異なり、この槍が話しかけてきたことは一度もなかった。
「お、おい」
 追い付いてきたアギトが、こちらの思うことを悟ったのか制止を呼びかける。その声に、解ってるよ、とヴィータは短く答え、再び金居の後を追って歩き始めた。
(アイツとの約束だ。……殺し合いに乗った奴しか、殺さない)
 金居は自分がそうだと言わなかったし、ヴィータの価値観においてそうだと断定するような行動もとっていない。一線を越えていない以上、誓いをたてた太古の騎士はそれに準ずるしかない。
 と、まるで自分が奴を殺したいと思っているかのようだ、そう思って、ヴィータは頭を振った。
 殺したい奴はいるが、それは金居ではない。
 そして自分は、そいつを殺すために歩いているのだ。
(アーカード)
 その男の名前を思い返し、思考の中で呟けば、それだけで胸中が泡立った。
 怒りと恨みと恐怖、そういったものどもがない交ぜになって新たな感情となり、平たいヴィータの胸を突き破ろうとする。槍を握る五指が更に強ばり、もしも得物が獲物だったなら、すでに絞殺していただろう。
 赤い服を着た長身の男、黒いサングラスから覗く目は、明らかに人間以外の思考を持って相手を見る。
 その逸脱した戦闘力は、“偽者のはやて”を追いかけやってきたセフィロスという男と戦い、こうして眼前に広がる焦土を造った。奴の超人的な身体能力と十字架のような火器、それに拮抗するだけの戦闘力を持っている参加者との出会いが生んだ、最悪の結果だった。
 だがその中にも好機は隠れていた。
(あんだけの戦闘で生きてんなら……もう生き物じゃねぇよ)
 しかしアーカードなら、生き物ならざる戦いを見せる奴ならば、生きているのではないだろうか、とさえ思ってしまう。だがそれでも、何らかの重傷を負う程度の被害は受けている筈だ、と言い出したのは金居だった。
 今のヴィータと金居は、その極細い蜘蛛の糸に望みを託す巡礼者に等しい。
 アーカードには凄まじい治癒力があるらしかった。今こうしている間にも、先の戦いで喰らった傷を癒しているのであろう。それどころか既に移動してしまっている可能性がある。だからこそ金居は、より一層の速度を求めているのだ。
「…………」
 それが理解出来るから、全く順当の考えだから、それを果たせない自分の体が忌々しい。飛行魔法を使えば簡単なのだが、強襲のために魔力は少しでも温存しておきたい。こうして見晴らしの良くなってしまった場所で、飛行魔法を使うわけにはいかなかった。
 だからヴィータは歩調を速める。
 金居に対する対抗意識を右脚に、アーカードに対する敵意を左脚に込め、挑みかかるまで瓦礫に八つ当りをしながら。



 ヴィータが持つ槍は、その様から激情を授かろうと言うかのように、3人の姿を刃に映している。



     ●

「さっきからうるせぇんだよ」

     ●

 前後2つの車輪は止まっている。しかし、ど、ど、という唸りが止まることはない。
 後輪を支える左右一対のフレーム、それに添うようにして設置された角張ったマフラーは振動し、大口の噴射口からとは言わず、その過程で幾つも穿たれた小穴からも排気ガスを吹かしている。マフラーの延長線上には搭乗者の足を置くステップが、後輪フレームから迫り出している。
 後輪のカバーはなく、荷物を仕舞い込むためのバケットがその代わりを果たしている。バケットとハンドルグリップの間には小さな背もたれがあり、搭乗者のためのスペースが設けられていた。
 こうした後ろ半分が無骨で鈍色のフレームを剥き出しているのに対し、前半分は赤い装甲で覆われていた。流線型でくびれた形状だ。さながらイルカを思わせる流麗な造形だったが、しかしヘッドライトを左右に分ける丁の字の突起がある限り、見る者が最初に連想するのはカブト虫で固定されるだろう。
 丁の字、とは表するものの、支柱から左右に伸びる横一線はV字に折れ曲がっている。その合間からは操縦席を守る黒い遮光硝子が設けられ、その直下にはフレームにサスペンションを食い込ませた前輪がある。
 他に類を見ない特徴的な機体だった。

15113人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:06:30 ID:pNHdHYB60
 カブト虫を模したデザインのそれが、こうしてコーカサスカブトのアンデットの物になったのは、自分はキングだというのに、全くをもって成り行きと偶然の結果なのだから非常に驚くべきことだった。
 前後で2色で分かれるこの機体の中央に跨がるキングは、中間にあることが全く相応しく思えるような、3色目の色で全身を覆い隠していた。
 黒色、否、正確には“黒装束”という印象を受けるよう統一された、幾つかの色だった。
 実際のところ黒いのは手袋マントの外側、そして青い単眼を描くフルフェイス式の仮面だけだ。内側は血に塗れたような深紅、そこには紫色の下地に金色の線を引いた燕尾服が包み込まれている。ズボンの柄はそれにあつらえてあったが、裾と靴が一体化しているという奇抜なデザインだ。
 貴族を嘲ったような怪人の衣装、それがとある者達には英雄と尊ばれているのだとキングは知っている。
 ゼロ、そう呼ばれているのだと。
 尤もそんな事はどうでも良い。ゼロという存在が広く知られていないこの状況において、こうした格好は先制を奪うための驚かし、さもなければ正体の露見を隠すための張り子に過ぎないのだから。
 ただ張り子としてはそれなりに優秀だ。全身を包むタイプの衣服に柔軟なマント、極めつけの人面ですらない仮面は変声機能を搭載しているので、装束を剥がされるか、あるいはこちらから悟られるような事をしなれば、基本的に正体が露見することはないだろう。
 キングとしては、こうして強烈な夕陽に目をくらませずに済むのだから、それだけで十分だった。キングが跨がるカブトエクステンダーの更に下には、ぎらぎらと夕陽の恩恵をはねつける水面があるのだから、この働きは大きい。
 ちらつく流水にいちいち目を痛めていたら、折角の情景も台無しにされてしまおうというものだ。
「誰だか知らないけど、やるなぁ」
 フルフェイスの仮面ゆえに声がくぐもり、外以上に自分の耳が声を良く聞いた。
 とはいっても仮面の外にキングの声を聞くような相手はいない。
 右を見ても左を見ても、あるのは等間隔に隙間を作る欄干だけ、その向こうにあるのは眼下を流れていく川面だけだ。夕陽を受けて赤味が増し、流れと風に波とも呼べぬような細波ばかりがたち、小さな乱反射を頻発させて辺りを照らしている。鋪装された濠の縁には、波を再現する光の波紋が浮かんでいた。
 左右の斜線を仕切る白線にバイクを止めるという交通法を無視した暴挙も、当りに咎める人が居ないのだから気にしない。仮にいても、キングは気にしなかったが。
 浅い弧を描いた板状の道でキングは駐車している。見るべきものがそこにあるからだ。
 否、ない。無かった。
 見るべきものがあるのは橋ではなかったし、見るべきものは無いなのだ。
 橋から見えてしかるべきものが見えない、その情景をキングは見ているのだ。
(言葉遊び、言葉遊び〜)
 ふふん、と仮面の内側で鼻を鳴らし、仮面越しの双眸にキングは夕陽を眺めている。キングの顔を包み込む仮面、ゼロマスクとまるで対比を描くような形で、真っ赤な単眼が茜色の空に灯っている。
 まるで地上の焦土を嘲るように。
(思わぬ収穫だよねぇ)
 橋の下を流れる川水の行く先、巨大な長方形が乱立する地域に、しかしそれはない。枝葉を失った竹林か、さもなければ巨大な霜柱のようですらあった界隈は、いまや瓦礫を積み重ねる砂漠の様相だ。
 キングの目は、その崩れ往く様を見ていた。
 我ながら迂闊なことに驚いてしまって、あやうく走行中のカブトエクステンダーを転倒させるところだった。
 これまで出会った中でも生え抜きの参加者、浅倉威を求めて二輪を走らせたのは随分前の事だ。番う車輪が駆けるのに裏打ちされた排気音を市街地に響かせ、当時はまだ残っていたビル密集地へとキングは向かっていた。
 そしてようやく橋を渡ろうかというところで轟音が響き、何かと横目にすれば、ビルが紅茶に沈んだ角砂糖のように崩れ落ちたのだ。

15213人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:07:11 ID:pNHdHYB60
 幾度も断続的に倒壊するビルの群が面白くて、キングはカブトエクステンダーを橋の上で駐車した。そして携帯電話に搭載される撮影機能で、肉眼で、その情景を矯めつ眇めつ観察し、今に至る。
(浅倉の奴、何かベルトでも取り戻したのかなぁ)
 キングがこれまであった参加者というのもそう多くはないが、その知り得る中であっても、浅倉威はああした大破壊を生み出す人間であるように思えた。
 だとすれば都合が良い。
(浅倉威に戦闘力を足してやる手間が省けるもんね)
 キングは天道総司という、浅倉威とは相反するような人間を知っている。
 仮面ライダーだったというあの青年と浅倉威はすでに面識があるらしいが、そんな事実も、ただ単に都合が良いだけの符合だ。浅倉威もまた仮面ライダーらしかったし、かつてのライダーが潰し合う様を見られるのは愉悦だった。
(でも、それだけじゃねぇ)
 かつて、では駄目だった。今、仮面ライダーでなければ派手さに欠ける。それに1対1で参加者が潰し合う程度では、あの女の意表をつくことは出来ない。
 プレシア・テスタロッサ、自分達を殺し合わせるあの女の計画を引っ掻き回してやるためには、もっと趣向を凝らさなければならないだろう。
 どーしたもんかねぇ、とキングはカブトエクステンダーの計器類を机代わりに、頬杖をついた。といっても掌は頬の代わりに仮面をつき、これじゃ頬杖って言わねぇよ、と笑った。
「ま、あの市街地を破壊したのが浅倉と決まった訳じゃないしね」
 自分も今出しうるアンデットとしての力を全壊し、それに拮抗しうる誰かと戦ったならば、ああした戦禍は起こせるだろう。それを根拠に、強い戦闘力を持った奴はまだ何人かいるんだろうさ、とキングは類推する。それに浅倉が力を得ていたとしたなら、それと戦う誰かがいた筈だ。
(浅倉を見つける前に、そういう奴等を何人か見つけられたら良いなぁ)
 キングはそう思う。
 そいつら全員を戦わせれば、少なくとも自分が愉悦を得る程度のお遊びを見れるだろうから。
「……そんな感じでやってみようかな」
 とりあえずに思いついた計略を当座の目的として定め、キングは猫を模していた背筋を正した。仮面を支えていた腕を解き、片割とともにカブトエクステンダーのグリップを握る。
 グリップは黒いゴムで滑り止めがなされ、計器類を埋め込んだ基部から左右へ伸びている。当然のことに右手は右の、左手は左のグリップを握り込み、しかし右手が握るグリップは可動式だった。ゴムの付着が緩いのではない。グリップを捻り込むことによって、カブトエクステンダーは指令を理解するのだ。
 キングはアクセルを意味する捻りを小刻みに行う。それはエンジンや機体を少し暖めたいから、という理由がある訳でもなく、ただ単にそうした方が格好良く見えるからだ。
 グリップの捻りに呼応してマフラーが排気を吹かす。
 ど、ど、という唸り声がカブトエクステンダーの後部から放たれ、今や虫食い状に砕けた市街地に轟く。
「さて、と」
 じゃあ行きますかねぇ、そう思い、キングは強くグリップを捻った。
 走れ、キングの意思を代弁する指令はエンジンに走り、エンジンは燃料の続くままにそれを果たそうとする。
 格別に大きな排気音が鳴った。不細工なファンファーレのようでもあるそれに後押しされ、カブトエクステンダーは、弧を描いた頂点から向こう岸に続く下がり調子を行こうとする。
 渡り終えるには1秒と満たない、距離ともいえないような間だ。そこで転倒するようなことは、仮に搭乗者が自分でなかったとしてもありえないだろう、キングはそう思っていた。



 流々とした川面は、自らをまたぐ橋を恨めしく思うかのように、その姿を歪めて映している。



     ●

「そんなに腹が減ったんなら……」

15313人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:07:51 ID:pNHdHYB60
     ●

 未だ動力の灯らない“聖王のゆりかご”の内部は暗い。
 船艦であるそれに窓硝子というものは殆どなく、そもそもあまりに巨大であるために深部ともなれば外界に通じる場所がないのだ。後付けなのか非常電源があるのか、通路と床が接する隅に蛍光灯のような光源があり、しかしそれも頭を垂れるように眼下を照らす程度で、足下の安全を見定める程度にしか役立たない。
 だが暗がりで視覚がはっきりしないことは、密閉空間の内部という閉塞感を紛らわしてくれるので、不幸中の幸いと言えないこともない。
 と、“聖王のゆりかご”の名もない通路に音が響いた。
 足音だ。鉄製の通路を鉄管楽器のように反響させ、足音は幾重にも重複した和音となって響いていく。だが、あるいは当然のことに、それを音楽に仕立てようという気は足音の主にはないようだったが。
 やがて薄暗い通路に、光源とは異なる光が浮かび上がる。
 金色だ。か細い黄金の群は頭髪、それも右の側頭部で結わえられたサイドポニーの型を成している。歩くたびに揺れる大きな一房は、まさしく馬の尾っぽと呼ぶに相応しい。
 だがそこで、金色は自ら発光しているのが解った。暗闇に我が身を主張する髪は、床の非常灯を最大限活かしたとしても有り得ない光量だったし、何よりそれは単純な光の色合いではなかった。
 プリズムによって解かれた光のそれ、絶えず7色に変動する虹色だった。淡い虹色が金髪にまとわりついている。
 そして現代社会において、虹色の光を従えられる人間は1人しかいない。
 ヴィヴィオだ。
 しかしその姿は、本来あるべき彼女の幼い形ではない。成人、少なくとも子を成すには十分な成熟度を見せる麗人の姿となっている。彼女がこの先健やかに育つのならばこうなっただろう、そういう結果を具現化したような姿が、虹の向こうに浮き上がる。
 緑と赤というオッドアイは相変わらず、しかしその手足は幼女に比べてあまりに長い。肌は色白であったが幼さ特有の青白さはなく、成熟によって血行が良くなった上での、美麗としての色白だった。
 胸には、それこそ幼かったヴィヴィオの頭ほどはある乳房を吊り下げ、反して腰だけは幼いままであるかのように細く、くびれている。カモシカのようにしなやかな足を支える尻は歩くたびに擦れ合い蠱惑的だ。
 身に纏うものも、そうした肉体美を主張しているかのようだ。
 淡い青紫色のラインを引いたボディスーツ、胸下と両足首には同じ青紫色の装甲が付与され、それらの上にはボディスーツよりも黒いジャケットを羽織っている。大きな胸に丈が足りないのか開衿されたジャケットは長袖、その先から装甲で固めた掌がある。
 そうした姿は、彼女の養母である高町なのはのバリアジャケットを思わせた。
 しかしここまでくると、余りに出来過ぎた容姿に思えてしまう。男を扇情し、女を魅了し、そして老若男女を崇拝させるその美貌は洗脳の域に踏み入っている。まさしく、偶像崇拝の化身のようだった。
 そう、偶像。
 まるでヴィヴィオが胸に抱く、憧れと夢で自らを糊塗しているかのように。
 しかし、その表情は苦悶に満ちていた。
 顰められた眉、絞られた瞼、中毒のように震える瞳は狂気を宿し、目元は窪んでいるかのようだ。白い歯も歯茎が見えるほどに剥き出していては魅力が半減する。ぬらぬらと照る唾液に塗れた口内を晒し、熟れた唇から垂れる唾液は、情事に漏らした欲情と取り繕うにはあまりにも穢らわしい。
 姿勢は猫背、だらりと垂れた背筋からは両腕が垂れ下がり、枯れて剥がれつつある蔦のようだ。こうなっては熟れた乳房も、どうにか枝に残ったもののそれが惨めを喧伝することになってしまった腐りかけの梨のようだった。
 よくよく聞いてみれば、足音も聞こえの良いものではない。爪先を擦り付けるようにした歩き方は、床に接するたびに角材を鑢がけするような雑音をたてる。時には引き摺るような音さえした。
 浮浪者か、中毒者か、はたまた幽鬼なのか。
 見ず知らずの者からすれば、美貌を台無しにする、或は美貌ゆえに全てを失いうらぶれた女であるかのように見えただろう。

……うぅ

 と、唸る声がした。
 まさかヴィヴィオの喉が作った音なのだろうか。しかしそうは思いたくない。これほど麗しい外見をした女性が、かくも醜く、憎悪と怨恨を孕んだ低音を、その白く麗しい細首から響くなどとは。

……うううううううぅ

 しかし残念なことに、その唸りはヴィヴィオの喉から響いていた。
 正に千年の恋も冷める唸り。一度聞けば全人類は諦観に涙を流し、海は溢れ世界全土が水没するだろう。

15413人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:08:22 ID:pNHdHYB60
……ママぁ……

 背筋の凍る思いだった。
 唸るだけならばまだ良かったのだ。しかしこの声色で人語を話した時、かくもおぞましい印象を受けるとは思いも寄らないことだった。
 麗しい、赤く膨らんだ唇は唾液に濡れて声を作っている。

……ママぁ……マぁマぁ……

 それは子宮に閉じ込められる恐怖に、思わず母親の腹を裂いて現れてしまった悪鬼のような声だった。そして這い出した悪鬼は泣くのだ。自ら殺した母親の亡骸を、生まれてきてしまった赤子を睨むその形相を抱きしめて。
 今やヴィヴィオは、そこから更に亡骸を取り上げられて悶える悪鬼の胎児だった。
 生まれたての鳥のように細く惨めな胴と不細工に大きな頭、薄過ぎる瞼にぎょろりと大きな瞳を透かし、全身を羊水と母の血に濡らして、金切り声をあげて胎児は涙を流すのだ。
 ママを返せ。
 僕の殺したママを返して。

……フェイトぉ……ママぁ……

……なのはぁ……マぁマぁ〜……

 ふとヴィヴィオの瞳から一筋の涙が流れた。
 虹色の光を映した涙は頬を伝い、顎にいたって零れ落ちる。
 たったそれだけが、今ヴィヴィオに対して、心の底から綺麗だと思えるものだった。



 涙の弾ける鉄の床はヴィヴィオの姿を映す。だがその様に目を背けたのか、多くは暗がりに隠れていた。



     ●

「……どっか適当に……見つけた奴を喰ってりゃいいだろぉが」

     ●
「……ん」
 誰かに呼ばれたような気がして、高町なのはは目を開けた。
 上下を瞼の影に隠した視界は狭く横長で、くわえて長期間暗闇に浸っていたのでぼやけている。どうやら半ば眠っていたらしい。確かな視界が戻るまでに僅かながら時間を要し、その間の気怠さは寝起き特有だ。しかも体育座りのような姿勢でいたために、体のあちらこちらに痛みがある。
(ちがう)
 ぼんやりとだが、しかし確かに解る。体の節々で鈍く痛むのは、風邪をひいて発熱した時の感覚に似ていた。
 最後に風邪をひいたのは何時頃だっただろうか、となのはは思う。
 ユーノとの邂逅から始まる出会いの中で、傷付くことはあっても病を患うことは無かったように思う。それはきっと、目の前の出来事や仕事に夢中で病にかかる暇もなかったからなのだろう。
「………………」
 ようやく戻った視覚で辺りを見回す。
 そこは無骨で簡素な小部屋だ。タイル状の床から直角に生えるうらぶれた壁、それを床とで挟む天井は、相対する床と同じタイル状のものでしかない。等間隔で取り付けられた蛍光灯も曇り、埃が積もってる。
 壁の一角は大型の窓によって費やされ、その手前にはPCを置いた鉄製の作業机が構え、左右にはプラスチックのラックや、所々がへこんだアルミ製の本棚が配置されている。本棚の中には、頭から不揃いのプリントや付箋を生やすファイルケースが所狭しと詰め込まれていた。
 飾り気も何もない事務室のようだった。
 と、なのはにとっての左手側で物音がする。大窓と向かい合う先で鳴ったのは、扉の閉まる音。
「起こしたか」
 曇り硝子を埋め込んだ扉を背後にして、1人の青年が立っていた。

15513人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:09:16 ID:pNHdHYB60
 癖っ毛なのか渦巻いた黒髪に静観な顔立ち、鋭い眉と目つきは鷹を思わせる。体型はしなやかな長身だ。おそらくは絞ったのであろう細くも確かな輪郭は、真新しいシャツとジーンズに隠していたが、教導官として多くの人間達を指導してきたなのはに見抜けぬ事ではない。
 と、シャツの上に羽織る上着の袖から覗く手が、紙コップを持っているのが目に入った。対する右手は2リットル級の大型ペットボトルの首を掴んでいる。親指と人差し指の間からは、白いプラスチックのキャップが覗いていた。
 なのはは、ううん、と青年の問いに首を振り、
「……天道さん、それは?」
「ああ」
 青年、天道総司は右手に持つ紙コップを揺らした。すると、その中で何かが波打つのが薄らと透けて見える。
「欲しいだろう?」
「……ありがとうございます」
 無骨な親切に笑みと感謝を返したが、天道はそれを心地よく受け取ってくれただろうか。
 発熱に腫れぼったく引き攣る頬が表情と声を歪め、なのは自身にはそれらが不出来なものであるように思えた。天道の表情から探れれば良かったのだが、鼻が詰まった時のように思考はぼんやりとしていたし、天道は表情を余り出さない質だったので、悟ることはできなかった。
 かくいう間にも天道は近寄り、壁際の床に座り込んだなのはに視線を合わせた。
 安っぽいスニーカーを覗かせながら天道は座り込み、一升瓶のようにペットボトルを脇において、こちらへと紙コップを差し出す。
「飲めるか」
「それぐらいは」
 受け取り、笑んでみるものの、やはりそれはふやけ緩んだものであるように思えた。
 まずは紙コップを左手で受け取り、胸元に持ってきたところで右手も合わせ、最後に膝を立てて太ももも紙コップの保持に費やす。覗けるようになった紙コップの内側は薄らと白濁した液体、スポーツ飲料の類らしかった。吸水率を考慮したのだろう、と思い、実用的で天道らしい考えだ、とも思った。
 そしてなのはは左右から挟み込む紙コップを持ち上げ、解放した下唇に縁を添え、口内へと飲料を注いだ。
(喉、乾いてたのかな)
 自覚以上の速度で喉と舌は飲料を嚥下していく。1秒もすれば、小さな紙コップの中身など空っぽになってしまっていた。
 なのはは紙コップを下ろし、ほ、息をついた。何時の間にか額が汗ばんでいるのに気付き、給水の効果が出たのかな、と冗談混じりに思う。
 その横で、天道はペットボトルを持ち上げる。
「まだ飲むか?」
「うん、お願いしても、いいかな」
「天の道を往く男に酌を頼むとは良い度胸だ」
 彼なりのジョークだったのだ、となのはは思うことにした。
 それが一体どれぐらい続いただろうか。少なくとも大容量のペットボトルが半分を切るぐらいになって、ようやくなのはは喉の潤いを自覚した。その時、紙コップの中身は最新の継ぎ足しで満ちていた。
 飲まないのか、そういう視線を天道が向けてくるが、ある程度の満ち足りに思考の余裕が出て来たなのはは、これ以上の給水を行う気にはなれなかった。
 天道を見返し、そして視線は彼の脇腹へと突き刺さる。しかしそこには、突き刺さって天道を痛ませる傷口は残っていない。残っていれば、真新しいシャツを赤黒く固めてしまうからだ。
「ーー礼を言う」
 なのはの視線の意味に気付いたのだろう、天道はペットボトルを下ろし、あぐらに曲げた両膝に掌をついて頭を下げた。
 何度目になるだろうか、なのはは不出来な笑みを浮かべる。
「気にしないで下さい」
「それはしない」
 出来ない、とは言わないのが天道の変わったところだった。どんな事も出来る、その上で、あえてやらないのだ、そういうアピールを言外にしているのだろう。
「お前は俺を万全とする為に我が身を犠牲にした。その結果として倒れた女性を捨てる俺ではない」
「……何かその言い方、私が死んだみたいなんですけど」
 思わず半眼になってしまうが、ここまで率直に感謝されて嬉しくない筈はない。
 ここにきて自分の行動がやっと報われたような気がして、胸の奥が少し軽くなる。こころなしか熱も引いたような気さえした。
 このスーパーマーケットに流れ着いてから随分な時間が過ぎた。
 その多くは天道の傷と疲労の補いに費やされていたが、完治以降の時間はなのはの休養に用いられた。魔法に制限がかけられていたのは把握していたが、よもや発熱に至るまでの疲労を強いられるとは思っても見なかった。

15613人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:09:54 ID:pNHdHYB60
 そしてその事が、なのはの胸中に影を落とす。
「結局」
 漏れ出すように呟いた。
「結局、ゼロの言う通りになっちゃいましたね」
「………………」
 天道はそれに答えない。沈黙が事務室に注がれ、犬かきをするようになのはの視線は泳いだ。
 そして事務机の上に置かれる旧式のPCに2つの瞳が定まり、スリープ状態に画面を暗くしたその手前、キーボードの上にメモが乗っていることを思い起こす。
 曰く、天道以外の仲間は彼によって連れ去られ、なのはが再会を望むなら天道の傷を癒してこの場に留まれ、という文面。それを記した人物の名として、文末にはゼロという名が刻まれていた。
 天道の傷を癒すため、そして発熱した自分が体力を取り戻すために時間は浪費され、結局仲間を探しに行くことも、ゼロが何者であるかと考えることも出来なかった。
 少なくとも敵対者であるゼロの言う通りになってしまったことが、その結果如何せんではなく、ただ漠然とした不安として心の陰りになる。
「問題はない」
 と、天道は断言した。
 唐突な発言になのはは急な動きで天道を見直し、彼の慄然とした表情を見る。
「お婆ちゃんは言っていた。……天井を支えるには柱を立てよ、一本の柱は千本の小枝が立つより頑丈だ」
「……その心は?」
「有能な人間が1人いれば、たとえ弱者が千人いても護る事が出来るということだ」
 高町、とここで天道はこちらを見据えて、
「お前は崩れかけていた1本の柱を修復したのだ。ならば、後は心配する必要がない。思い悩む必要はない」
 一息。
「ーー後は俺に任せろ」
「…………」
 言われて、任せたくなってしまうのは、自分が弱っているからだろうか。
(今までそんな風に言ってくれる人は……まあ、いたけど)
 でも、
(良いなぁ)
 タイミングが良いなぁ、と思う。
 今、こんな状況で言われてしまったら、“発熱した自分は何も出来ないのだから任せざるを得ない”という理性的判断と、“弱った自分を護るとこうも断言した貴方に頼りたい”という情緒的判断が重なり、感情にブレーキがかけられなくなってしまう。
 ずるいなぁ、と思い、本当にずるい、と繰り返す。
 だから、天道に答えるのだ。
「御願い、します」
 そう頼んだ自分の顔は、やはり締まりのない笑みだったのだろう。



 なのはが思うほどその笑みは悪くない、その事は、景色を僅かに映す紙コップの中身が証明していた。



     ●

「……………………………………」

     ●

 単なる瓦礫の積み重ねに過ぎなかったそれは、アーカードを迎え入れることで玉座となる。屋内をそうした張本人、セフィロスとの戦いでこの状況を生み出したアーカードの存在感が、単なる積み重ねをあつらえたものであるかのように感じさせるのだ。
 かつてはここも清潔感の漂うオフィスだったのだろうに、哀れにも粉塵と硝子の破片にまみれ、瓦礫の断面からは鉄骨や窓のフレーム、ポスターの切れ端などを張り付かせ、今や惨めな様だ。自らの身で外壁に穿たれた大穴からは夕陽が差し込み、霞のような粉塵を目立たせる。
「………………」
 それだけの存在感を放出しているにも関わらず、そのいたるところに重傷を刻んでいた。
 真っ赤な衣服は泥と埃にまみれ、あちらこちらで解れと破けを起こしている。そこから覗く肉体もまた、内容液を漏らし破れていた。皮膚は削げ、血管は漏洩し、肉はその繊維を解れさせて毛羽立ち、純白の骨格すらも晒されている。血液に混じって流れる脂質やリンパ液は公害の源を思わせる。
 これらの傷を刻んだのはそれなのだろう、左胸には一振りの日本刀が突き刺さっていた。
 しかし刻み付けられた数々の傷も、常軌を逸した速度で埋まろうとしていた。
 映像を巻き戻しているように、といえば過言だが、しかし肉眼で理解するには少し遅いだけで、その通りのことがアーカードの肉体では起きている。

15713人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:10:27 ID:pNHdHYB60
 再生というには余りに実直、空いた穴を塞ぐような手軽さで、捲れ上がった皮や肉が肉体の内層に覆いかぶさり、断面と密着することによって癒着を始めている。肉と肉の融合はむず痒く、少しだけ熱く感じる。
 こうした感覚は今までに味わったことがない。
 プレシア・テスタロッサが押し付けてきた再生力の制限、それによって再生が間延びしたことで感じるようになったのだと、アーカードは思っていた。
「む」
 と、不意にアーカードが唇を尖らせる。
 ごろ、と眼球が瞼の内側で回り、本来白一色であるはずのそこに這う毛細血管が覗ける。その中央にある金色の瞳は左右で一対、それらは揃ってある一点を見つめていた。
 自らの右肩だ。
 アーカードの胴体を左右で挟み込むようにして積もる瓦礫、そこに腕が乗せられているために、右から突き出した瓦礫は手摺か何かのように見える。その指先には爪がなく、腐敗した苺のような、本来爪に隠れている部位を露出させている。
 腕はどうにか形を取り持っていたが、肘からは尺骨が突き出し、貫いた筋肉は彼岸花のように捲れている。二の腕に皮はなく、赤地に白い筋を引いた筋肉が剥き出しとなり、血流の度に小さく鼓動する。所々は削げて血を零し、最も深い陥没では白亜の骨が見えた。
 アーカードの双眸が見定めているのは、ほんの僅かに、しかし不自然に膨らむ肩の一部分だった。
(……混じったようだな)
 思った直後、アーカードは左腕をもたげた。
 右腕とは違ってほぼ完治しつつある左腕の肘を曲げ、しかし五指は伸びきって揃えられている。それらの先端には黒ずんだ爪があり、鋭い先端は刃物のように光ってすらいた。
 その先端を右肩の膨らみに向け、アーカードは何躊躇うような仕草も見せず、鎌を振り抜くようにして左腕を右肩へ走らせる。ぶぷ、と泥沼に勢い良く蹴りを埋め込んだような音がして、五つの爪は肩の肉を切り開き、五指が侵入する先駆けとなった。
 筋肉が指を締め付けて密着しているために、血は流れない。それでも神経は激烈な勢いで脳に助けを買うている筈なのに、アーカードの表情は動かず、他人事のように左腕が右肩を抉る様を見ていた。
 そして、不意に五指の動きが止まった。
 薄皮一枚下を寄生虫が這っているかのように、露骨に浮かび上がった五指は握り拳を作るかのように窄まり、より一層大きな膨らみを右肩に作っている。それは、何かを掴んでいるような形だった。
 事実、治りつつあった右肩の肉と皮を内側から引裂いた左の手は、人体ならぬものを抱き込んでいた。
 石ころだ。
 掌に収まってしまう程度の小さな瓦礫は、血やら油やらに塗れて汚泥の塊のようだ。
「何時潜り込んだんだかな」
 それだけ言って、アーカードは石ころを放り投げた。
 飛んでいく最中にまとわりついた血や肉片を飛び散らせ、少し離れたところで瓦礫にぶつかる音がした。
 それを目で追うこともせず、再びアーカードは感情のない瞳で茫洋とした表情となる。視界の端では、左肩によって傷口を広げた右肩は、波打つようにして結び合い、癒着して傷を塞ぎつつあるのが解った。
 人間の治癒速度ではない。
 吸血鬼、しかもその頂点としての再生力であった。
 瞼は開いているのに、アーカードの目からは何かを見るという集中力が欠落していた。茫洋とした視線は周囲の焦土を映さず、空を赤く染める夕陽を見ず、さりとて何かを見ている訳でもない。漂白されてしまった表情のように、何かを思うこともなく視界を開いているだけだった。
 ただ、聴くともなし戦闘の音が耳朶を叩き続けている。
 待ち望むもの、戦闘だ。
「………………」
 いまだ癒え切らない両腕をもたげて、アーカードは左胸に突き刺さる柄を掴んだ。
 づ、と鈍い音がして、刃が吸血鬼の肉体から抜かれていく。それまで左胸に埋め込まれていた刀身は血にぬめっており、その全容を現すと、切先は断続的に赤い水滴を零して床に斑点を打った。
 ああ、とアーカードは思う。
 龍を従えた少年を、人間の身で自分に拮抗したアンデルセンを、この焦土を創るに至った戦場の伴侶、セフィロスを。
 その誰も彼もが強かったが、しかしアーカードの心が満たされる決着はつかなかった。
 だからこそ、周囲で起こる戦いを狂おしく思う。
「今度こそ私を、ーー殺すか、殺されるかをしてれるのだろうか」



 立てられた曇りのない刀身は、きらめきの向こうにアーカードの姿を映している。



     ●

「……そうか」

15813人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:10:58 ID:pNHdHYB60
     ●

 誰かのものかもしれないし、誰のものではないかもしれないその家から出た時、柊つかさの視界に入ってきたのは、夕陽が溶け込んだ視界いっぱいの海辺だった。
 緩い傾斜に道を開けてくれた家屋の先、もはや金色に輝く海がつかさの感情を刺激する。
「わぁ」
 感嘆の言葉に手を合わせ、大きく開いた瞳は海にも負けず劣らず輝いた。
 青い平原は金色と白色に煌めき、遠く微かに聞こえる細波の音は聴覚からもつかさの中へ入っていく。
 夕陽という巨大な円が水平線に降り立ち、溶けて滲んだように辺りの水面は真っ白に光っている。
 その光に周囲の家屋は陰り、半ば黄色いほどに明々と照らされる一面との対比で、どこか感傷的な印象を受けた。遠くにうっすらと煙を上げる施設や、港にとまる船舶なども風景に合っている。
 空も夕陽に照らされて真っ赤に染まり、しかしその域から外れつつある天上は藍色となりつつあった。
「わわ」
 今度は感嘆とは違う、慌てとしての声だった。
 中世を思わせる鎧でか細い体を守り、走り出せば背中のデイバックと帯剣が揺れる。肩の根元から脇へと伸びるデイバックのベルトを掴み、なるべく揺れないようにして、つかさは夕陽を横目に走る。
 緩いながらも下り坂だ。
 若干の制動をかけながら、つかさは跳ねるようにして、家屋と家屋の合間を行く。
「急がなきゃ、夜に、なっちゃうっ」
 跳ねながらの運動に喋りが乱れ、途切れ途切れになってしまう。
 だがそんな事を気にしていたら真夜中の街を歩くことになる。それはとても怖い事だとつかさは思った。
 だから視界の先、夕陽が沈んだ側から回り込んできた最も近い浜辺に急ぐのだ。そこにある施設までいけば、とりあえずの安全は確保出来ると、そう考えているから。
「……大っきいなぁ」
 近づくに連れて目的地の巨大さが目につく。
 藍色と金色で塗装された四角錐状の施設は船のようにも見える。船底を砂浜に食い込ませる様は、まるで難破船か、漁を待つ漁業船のようだ。
 だがそういった船の事情に精通しないつかさとしては、
(何か、こなちゃんがいつも言ってるお台場のアレみたい)
 という思いしかなかった。ここで固有名詞が出てこないのもまた、つかさがつかさたる由縁だ。
 もしこの場に、自分と同じ顔をしたあの少女がいたならば、語彙が貧困だ、と声を荒げるだろうな、とつかさは思った。
 自分と同じ顔、同じ対格なのに、まるで違う性格と能力を持った、双子の姉。
(お姉ちゃん)
 柊かがみ、そういう名前だった。
 長い髪を左右で結わえツインテールにした彼女は、いつもそれを振るって動き回る。のんびり屋の自分や、マイペースな泉こなたの腕を引っ張り、頻繁に脱線する自分達を牽引してくれるしっかり者だ。
 それでいてどこか間が抜けているというか、頑張り過ぎて空回りする事もあって、だからとっても可愛い。
 つかさはそんな姉の事が大好きだった。
「お姉ちゃん」
 今頃は何をしているだろうか。
 どうやら自分と同じくこの殺し合いに巻き込まれてしまったようだが、プレシアというあのおばさんの放送を聞く限り、まだ生きていてくれているようだ。その事が、体躯よりもか細いつかさの心を支えてくれる。

ーーーーーーもう、折れているのに?

「お姉ちゃん」
 一息、
「ーー助けに来てくれないかなぁ」
 つかさは呟いた。
 そう考えているのは、あの三角形の建物、地図の上では“聖王のゆりかご”へと向かう理由と重なる。
 あの中に立て篭れば当面の危機は回避出来るだろう、そこから更に、誰か自分達を護ってくれるが来てくれるも知れない、その事につかさは望みをかけて走っている。
 少なくとも、市街地の中で竦み隠れるよりかは、ああいう地図の端っこにあって、しかも隠れるところの多そうな施設の方が安全に思えた。
 その上でつかさは思う。
 かがみのことだから、きっと頑張ってるんだろうなぁ、と。
(お姉ちゃん、私と違うもんね)
 自分は鈍くて怯えて竦んで勉強も運動も出来ない、不出来な人間だが、その分かがみは有能な人間だった。
 まるで母親の中で良いところと悪いところが双子に別れたみたい、と思い、一時期はかがみを羨んだ事もある。

15913人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:11:59 ID:pNHdHYB60
 そんな姉の事だから、ひょっとしたら何か大きな力を手に入れて、みんなを護る為に走っているのではないだろうか。
 どうやら殺し合いに参加させられた人間には、それぞれ凄い力を持った武器が与えられているみたいだし。

ーーーーーー○○○○○○○を殺したあの龍みたいに?


「助けて欲しいなぁ」
 かがみに助けて欲しい、つかさはそう思った。



 自分の良いところを全て持っていったというのなら。




 あんなに優秀な能力を持っているのだというのなら。





 その上更にスゴい力をたくさん与えられてるんなら。






 この殺し合いにあってみんなに感謝されているなら。







 わたしが欲しくても手に入らないものを持っているんなら。








 まず最初にわたしをたすけてよ。









ーーーーーー私が○○○を殺す前に助けてよ










 たすけなさいよ











ーーーーーーーーーープつんーーーーーーーーーー

16013人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:12:44 ID:pNHdHYB60
「わあ」
 緩い傾斜に家屋が開けてくれた道の先、もはや金色に輝く海につかさは感嘆の言葉で手を合わせ、大きく開いた瞳は海にも負けず劣らず輝いた。
 もはや目前となった防波堤の先には浜辺があり、その先に光り輝く海原があり、そして目的地がある。
 “聖王のゆりかご”だ。
 金色と藍色の塗装がなされた巨大な建造物は、この位置からであってもその巨体が良く解る。底部で砂浜を貫いた様は船のようで、だとすれば難破船か待機中の漁業船といった風だ。もっとも、それにしては非常に大きいのだが。
「よぉし、もうひと頑張りだっ」
 両手に拳をつくり、ふんっ、と息を巻いたつかさは、防波堤に刻まれた階段を駆け登る。
 それを越え、浜辺を超えれば安全地帯である“聖王のゆりかご”に辿り着ける。
 そうすれば自分は誰かに危害を加えられる心配もなく、安全に助けが来るのを待っていられる。それだけを体躯よりか細い心の支えにして、つかさは防波堤から浜辺へと駆け下りていった。



 心を患うつかさは、忌避の思いで記憶を削る。それは海のように揺れ、だが太陽光を反射する煌めきはなかった。



     ●

「……そうだよなぁ」

     ●

 この戦いにおいて与えられた地図は、アルファベットと数字によって81の区域に分ける。
 つまりA-1という区域は順繰りに見ていったとすれば最初に見るべき区域であり、従って地図を見る者は、その中央に点で示された施設の印を目にする事になるだろう。
 点の上に記された施設の名は、軍事基地。
 その場所に行こうと思ったとき、
(きっとあの女は、人が一番集まり易い市街地から特に遠いから……この場所に軍事基地を置いたんだ)
 そう思った。
 軍事の名を冠するからには兵装の類が溢れる場所なのだろう。自分自身では強い戦闘力を持っていない、そして戦闘力のある支給品を持っていない万丈目準としては、そこに行って武器を得る事はこの殺し合いで生き残る為に必要な行動だった。
 だからこそ長い時間をかけて2本の足を動かしてきた。アスファルトの地面から平野へと至り、空が紅から青に変わりつつこの時間になるまで、万丈目は歩き続けてきた。
 その成果が、今目の前にある。
「すごいな」
 荒涼とした平野の外れに突き立てられたフェンスの円陣、緑の塗装は所々が剥げ、天辺には渦を巻いた有刺鉄線が取り付けられている。その向こう側には、無骨で実用性を重視した造形の立方体が建ち並んでいた。
 鉄と加工鉱物で建造されるそれらに窓はない。万丈目は自分の背丈の十倍はある扉というものを、初めて見る事となった。両開きなのであろうそれらは、接合のない分厚い鉄の一枚板なのだと解る。
 これが軍事基地か、と万丈目は思う。
「……って感動している場合ではない!」
 惚けるには、この平野は見晴らしが良過ぎる。フェンスの内側に入らなければ、安全性も目的も得られない。
 よじ登って入るには有刺鉄線が邪魔をする。しかし万丈目には有刺鉄線を取り除くペンチも、金網に足をかけたままで有刺鉄線を解体するという軽業の経験もなかった。
 だから左右を見渡し、扉がないか確かめる。
 足も使って探しまわれば、開閉するためのフレームを設けた一角が見つかった。
 空くだろうか、と心配になるが、空くに決まっている、とも思った。
「開かなければ……施設として設ける意味がない」
 “この世界”にある以上、施設や道具類は全て自分達参加者のために設けられているのだろう。自分達がよりスムーズに殺し合えるように。
「ち」
 小さく舌を打ち、万丈目は角張った取っ手に手をかけた。

16113人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:13:29 ID:pNHdHYB60
 掌でそれを押せば、ぎ、と耳障りな金属音をたてて扉が開いていく。
 その事が自分の予測を裏付ける結果となったのだが、それが万丈目に喜びや嬉しさをもたらす事はなかった。そして、それでもその意図に乗らなければ殺されてしまう自分の弱さが、腹立たしかった。
「…………」
 それを紛らわすように、万丈目は荒い足取りで敷地の中に入る。後ろ手に扉を閉めると、まるで閉じ込められたような気がして、気構えが据わろうというものだ。
 周囲をフェンスで囲まれた軍事基地の施設は、幾つもの建造物に分かれている。万丈目はその中で最も手近にあった、かまぼこ型の倉庫へと向かう。外見から差異が見つからない以上、しらみつぶしにしていくしかないのだから、迷う必要はない。
 だが、
「どうやって開けろというのだぁーーーー!!」
 眼前にした倉庫の扉は、フェンスの向こうから見た時よりもずっと大きく感じられた。見上げなければ頂点の見えない扉に何の意味があるというのだろうか。当然、それは人力で道を開けるような素直さは持ち合わせていないだろう。
「スイッチ!」
 思わず叫んだ。
「人力で開かないのは誰でも同じ筈だ! ならば何処かに開閉のスイッチがある筈……!!」
 フェンスの時よりも、ずっと鬼気迫る様相で万丈目は左右を睨んだ。
 怒りに裏打ちされた挙動は荒く攻撃的で、そして、
「………………」
 万丈目から見て右手、巨大な扉が動くために刻まれたスリットの先にある人間大の扉を見た。曇り硝子を嵌め込み、塗装もないアルミ製にドアノブを生やしたそれは、仮設住宅の扉に用いられるような安物だった。
 数拍ばかり万丈目は停止して、
「……オぅリャァぁーーーーーーーーーーーーーー!!!」
 三歩の跳躍で扉の正面に走り込み、利き足を突き出すとび蹴りによって扉の向こうへ突入した。
「おちょくるのもいい加減にしろぉ?????!!」
 叫び、苛立ちのままに倉庫の内壁を殴りつけた。
 と、どうやらそこには照明装置のスイッチが合ったらしい。何かを押んだような手応えの直後に、扉よりも高い位置に張り付く蛍光灯の群が一斉に光を灯す。
 そして万丈目は、倉庫の内側に並ぶそれらを目にした。
「…………!」
 それはまるでスーパーマーケットで商品を並べるように鉄の棚に並べられた、火器の群だった。埃とカビと、そして鉄の臭いが充満して霞のようだ。だがそれでも、蛍光灯に照らされた鉄器の群は鈍く輝いて自己主張を止めない。
 小銃、長銃、散弾銃にボーガン、その脇には弾薬を連ねた帯びまである。だがそれらに留まらず、バズーカやロケットランチャー、手榴弾、パンツァーファウスト、スリングショット、バルカン砲にガトリング砲、所によってはサバイバルナイフや折畳式の携帯刀剣まで揃っていた。
 おあつらえ向きに、倉庫の最奥にあるのは装甲車だ。
 全体を鈍い鉄板で包み込み、天井に備えられた機関銃は走りながら敵を撃つためだろう。タイヤや硝子は防弾のために加工されているに違いない。撃たれる事なく敵を撃つための、凶悪な兵器だった。
「…………」
 目つきも鋭く、万丈目はゆっくりとした足取りで銃器の並ぶ棚へと歩み寄った。指紋が埃に隠れるのも構わず、万丈目の五指は棚に並べられた小銃の一つを手に取る。それはプラモデルなどにも見られるような典型的な拳銃で、むしろプラモデルよりも陳腐にすら思えた。
 しかしそれを持ち上げた途端、重力に従順な鉄の塊は地面が恋しいと万丈目の手を引っ張った。
 ずしり、と微動だにしない硬さを有した小銃を支えられない腕ではないが、それでも、自分が感じている重さは実際の重さ以上なのではないか、と万丈目は思う。
「これで、戦うのか」
 目前にして万丈目の胸中に過るのは、この倉庫にある火器を用いた先にある未来の情景だった。
 弾丸を受けて全身を粉々に弾けさせる人体、それを行うのは、自分の両腕。
「……………………」
 この場にいる奴等の一体どれほどに火器が通じるかは解らない。だが、通じる奴等だっているだろうし、通じなかったからと言って自分は引き金を引いて良いものなのか。
 そして何より、万丈目には効く奴と効かない奴の区別がつかない。
 もしも撃った奴が効く奴で、しかも自分に害意を持っていない奴だとしたら、しかしそれでも万丈目にはそれが解らないだろう。効く奴ならば、喰らった直後に死んでしまっているだろうから。
「…………」
 相手にものを言わせない暴力、それが万丈目の前に整列している。
 そのことに、胸中のどこかで震えるような思いがある。

16213人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:14:39 ID:pNHdHYB60
 だが、それでも、
「俺はこれらを得ない訳にはいかないんだ……」
 殺すのと殺さないのがまるで違うように、戦う力があるのとないのとではまるで違う。
 先は自分が殺す可能性に悩んだが、ではそれが効かない奴だったら、そして殺意を始めから持っている奴だったらどうすればいい。そうなった時、抵抗するための力はどうしても必要だ。そして今、万丈目が得られる力は、目の前の火器しかない。
 万丈目は肩にかけたデイバックを下ろし、開いた中身へと小銃を押し入れた。そして持ち得る限りの銃器を、次々とデイバックの中に突っ込んでいく。重くて持ち上がらないものは、逆にデイバックを持ち上げて被せ、内部へと収納した。こういう時にこのデイバックの機能は役に立つ。
「……見分ければ良い、軽々しく使わなければ良いんだ」
 要は使い手の問題だ、と万丈目は自らに言い聞かせる。そして俺ならば問題などないのだ、と。
 そう思わなければならなかった。
 そう思わなければ、万丈目は生き残るための力を手に入れることが出来ないのだから。



 しゃにむににに火器を回収する万丈目の姿を、装甲車は黙ってフロントガラスに捉え続けていた。



     ●

「そういう……事なんだよなぁ!?」
 起き上がった拍子に、下敷きにしていた瓦礫の群が僅かに崩れた。
 くすんだ藍色が占める空にほんの少しだけ星が瞬く空を眺めるのはもうお終いだ。今から始めるべきなのは、残されたビルや家屋の向こうに沈み始めた夕陽のように、周囲を真っ赤に染めるような闘争だ。
 浅倉の周囲に無事な建造物は1つもなかった。何もかもが瓦解し、巨大な石の塊となって降り積もっている。
 瓦礫に横たえていた衣服は泥と粉塵がへばりついて汚れていたが、そうするまでもなくズタボロになっていた。上も下もそこかしこが破れて解れ、剥き出しの皮膚は擦り剥けて真っ赤に濡れた肉を露出している。傷口には砂が混じり込み、重度の日焼けをしたようにひりひりと痛む。
 だが、浅倉威は意に介さない。
 バネ仕掛けを連想させる勢いで立ち上がり、その勢いを殺し切れずによろめく。
 だが浅倉の容態は、本来立ち上がることが許されないような満身創痍だった。致命傷にはいたらないというだけで、擦過傷や打撲、火傷やら切傷やら、服も皮の一部であるように千切れさせている。
 この場に意思がいたならば絶対安静を求めてきただろう。
 そしてその横っ面に拳をくれてやっただろう、と浅倉は思う。
 この高揚を邪魔するものは、すべからく皆殺しにしてやろうとさえ思っていたのだ。
「はは」
 喉が引き攣ったように嗤いを弾き出し、その表情は蛇というよりも野犬のそれに近い。噛み付けるものを見つけたように、その牙から狂犬病を注いで狂気を伝染させようと、口角泡吹いて興奮しているのだ。
「お前等も」
 不意に浅倉は視線を下げた。
 二つの目線が向かうのは足下、瓦礫の上のそこかしこに散らばっている窓硝子の破片だ。夕陽に照って僅かに景色を映すそれらには、しかし景色の中に姿のないものが潜んでいる。
 2体の怪物だ。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA…………』
 かたや大蛇。
 ウワバミと表現しても良い紫色の巨体は長大に長大を極め、そこら中に散らばっている硝子のあちこちに長胴の一部を垣間見せていた。浅倉に最も近い硝子の破片からは、瞳のない黄色い目が浅倉を見返している。
『VOOOOOOOOOOOOOOOO…………!!』
 かたや犀。
 犀とはいっても四つ足の姿ではない。極太ではあったが、2本の足で立ち、4本の指を生やす両腕は人間のシルエットに近い。しかし全身を銀色の鎧が覆い、金色の角や爪を生やす形は、犀の怪物以外の何ものでもなかった。
 前者をベノスネーカー、後者をメタルゲラスというこれらの怪物は、浅倉の手に戻ってきた王蛇のカードデッキに縛られる2体の契約モンスターである。ベノスネーカーとは最も古い間柄で、メタルゲラスとはしばらくしてから契約した。王蛇のカードデッキには契約のカードが3枚存在しているからだ。
 メタルゲラスは本来別の契約モンスターだった。どうやらその持主を慕っていたらしく、事ある毎に強固な肩を怒らせる。今もまた、蒸気機関車のように野太い鼻息を吹いて、浅倉を睨みつけている。
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOーーーーーー!!!』

16313人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:15:14 ID:pNHdHYB60
「あぁ?」
 しかし浅倉も、それに動じることなく睨み返した。
「お前、まだやってんのか」
 は、と嘲笑うように浅倉は喉を鼻を鳴らす。
 そして、メタルゲラスの映る硝子の破片を踏み潰した。
『VOOOOOOOOOO!!』
 硝子の破片は単なる窓口に過ぎない。砕いたからといってメタルゲラスが傷付く筈もなく、別の破片にその姿を映した。
 浅倉も勿論それを把握している。踏み砕いたのは単なる意思表示だ。
「てめぇも化物なら、何時までも人間に懐いてんじゃねぇよ」
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーーーーー!!!』
 その通りだ、と言わんばかりにベノスネーカーが甲高い鳴き声を上げる。応じるようにメタルゲラスも雄叫びを上げ、太い左腕を掲げようとして、
「オイ」
 そこに浅倉の声が入った。
「やるつもりなら、別の獲物をやったらどうだ?」
 その言葉を理解したのだろうか、2体の怪物は一様に浅倉を見た。それから辺りを見回すような仕草を経て、再び浅倉を見据える。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーーー!!』
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO……!!』
 それは抗議の声のようだった。
 事実、この周囲に浅倉以外の人間は存在しない。どこまでも続く瓦礫の積み重ねだけが広がっているだけだ。
 よもや浅倉を襲えということなのか、と怪物達は浅倉の体躯を見る。
「忘れたかよ、お前等自身の力」
 浅倉は獰猛に笑み、破れかかったポケットからカードデッキを取り出した。
 紫を気色に金色のレリーフが上乗せされている。その形状はコブラ、いやさベノスネーカーを模している。
「本当の使い方を忘れちまった奴が、ずっと使ってたのか?」
 にしても馬鹿だよなぁ、と呟くと、講義するように雄叫びが重複した。
 く、とその音に浅倉は喉を鳴らした。
「お前等がいるんだ……。“あれ”だって在るんだろう?」
 言って、浅倉は歩き出した。
 埃に塗れ、所々が剥げた蛇柄の革靴で瓦礫を踏みしめ、足音をたてて焦土の上を横断していく。ベノスネーカーもメタルゲラスもその意図を図りかねているようだった。そこかしこに散らばる窓硝子の向こうで、2体の怪物は浅倉に追随する。
 そうしてどれほど歩いただろうか、浅倉が立ち止まったのは、どうにか無事に残っていたビルのショーウィンドウだった。
 浅倉の背丈よりも大きな窓硝子、その向こうには表彰台のような形をした土台に、高級そうな鞄やサンダルが乗せられている。どうやら女性用の小道具を販売する店を1階に持つビルだったらしい。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA…………!!』
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO…………』
 その窓硝子にベノスネーカーとメタルゲラスが映る。4つの目が浅倉を見下ろし、答えを教えろ、と脅すように唸っている。
 だが浅倉の笑みが、今に解る、と言外に伝えるばかりで、声を持って教えることはなかった。
 それだけに行動は雄弁だ。急な動きで、浅倉は携えていたカードデッキをショーウィンドウへと突き出した。そうして起こるのは出現、どこからともなく現れた機械のベルトが腰に装着される。そのバックルには、カードデッキを装填するためのスロットがある。
 構え、そして浅倉は叫んだ。
「ーー変身!!」
 空気を裂く叫びを追って、カードデッキはベルトに装填される。
 直後、鏡で出来た人のシルエットが幾つも出現し、浅倉の体と重なる。それが砕ける時、浅倉の体は戦闘者としての鎧で全身をまとう、仮面ライダーの1人となるのだ。
 王蛇、そう呼ばれる仮面ライダーだ。
「良いなぁ……、良いよなぁ、やっぱり」
 掲げた腕の先で掌を何度構わして、鎧の感触を確かめる。
 戦うためだけに設計されつつも装着者の動きを妨げないこの作りは、何度味わっても飽きることのない歓喜の感触だった。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA……』
『VOOOOOOOOOOOOOOOOO…………』

16413人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:15:50 ID:pNHdHYB60
 主の戦闘態勢を前にして、いよいよ怪物共の困惑は極まったらしい。
 戦闘狂の主が戦闘態勢になったというのに、その周囲には獲物となるような存在は1人もいない。だというのに何故浅倉は変身したのだろうか、言葉を持たない化物の精一杯の問いかけが視線で届く。
「はは、はははは」
 そこで、浅倉は笑う。
 難しい話じゃねぇ、と続けて、
「本当の。ーー俺達の“仮面ライダー同士の戦い”をやろうってだけさ」
 浅倉は知っている。
 この鎧が、戦闘のためのものであるという以上に、人知れず戦うため潜水服に似た機能も持ち合わせているのだという事を。
 そして浅倉は号令した。
 怪物達を、開戦の使者とするために。



「引きずり込め、ーーーーミラーワールドに!!!」



     ●

 きぃん、と唐突になった耳鳴り。それはARMS同士の激突による聴覚の痛みかと思った。
 しかし違った。それは化物が現れる前兆だったのだ。
 そのことにアレックスが気付いたのは、見上げる先で2階の窓に捕まっていたキース・レッドが、何か長大な触手のようなものによって胴を縛られてからだった。
「何!?」
 キース・レッドが驚く間にその体は牽引され、僅かに光を放って窓硝子へ吸い込まれる。
 だが驚いたのはキース・シルバーも同じだった。
(あれは……!!)
 突如として現れキース・レッドを連れ去った触手に、アレックスには見覚えがあった。あれはまだ太陽が頂上を極める前のこと、突如としてLを襲った化物の片割だ。巨体な猛威を前にして自分やLが生き残れたのは、一重にザフィーラが奴等を引き連れたお陰だったが、
(やはり仕留め切れなかったか……!!)
 見えたのは一瞬だったが、それは同時に動きが鈍くなるような傷を負っていないことの裏返しだ。
 ならばザフィーラは犬死にしてしまったのか。
 犬だけに。
「どこへ……!!」
 仇を撃とうとマッドハッターの砲門が辺りを見回す。
 だがその仇は、すでにアレックスの背後に忍び寄っていた。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA…………!!』
 キース・レッドを連れ去ったのは、奴の尾だったのだ。
 怪物の片割、コブラ型のモンスターがその頭部を、丁度アレックスの両足の間に落ちていた硝子の破片から出現させた。巨大な口はアレックスを胸まで飲み込み、鋭い牙はシートベルトのようにアレックスの両肩を捕捉する。
「……!!」
 荷電粒子砲を打ち込む暇もなかった。
 唐突に現れたのと同じような速さを持って、大蛇の頭はアレックスを窓硝子へと引きずり込んだ。



【全体の備考】
 ※時空管理局地上本部付近に対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル、454カスール カスタムオートマチックが落ちています。どちらも残弾はありません。


     ●

「……? ……!? ……!!!?」
 ようやくホテル・アグスタの正面玄関に辿り着こうとした瞬間、柊かがみの視界は闇に閉ざされた。
 頭を鷲掴みにされる感触、視界が途切れる前に見たものは、胸元の千年リングから突如として豪腕が生えるという、脅威の様だった。
 かがみはかつての主として、その腕の持主を知っている。
(……メタルゲラス!?)
 犀の怪物を支配するためのカードデッキは奪われた。だというのに何故今になって現れたというのか。
 唐突と予想外、二重の驚愕にかがみの行動は遅れてしまう。
 しかしメタルゲラスが待つ事はない。だからこその、こうした結果だった。
『ご主人サ……!!』

16513人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:16:35 ID:pNHdHYB60
 千年リングにより聞こえるバクラの声が途絶える。
 当然だ、ミラーワールドからの干渉によって肉体が流体化したかがみの体は、首にかかる千年リングの輪を潜り、その黄金に照った表面へと引きずり込まれていくのだから。
(……バクラぁ!)
 助けて、という言葉も顎ごと握られたのでは紡げない。
 時にして一瞬、かがみは千年リングが映す情景の向こうへと消える。
 後にはホテル入口前の草むらに千年リングが落ちる、その音だけが作られた。



【全体の備考】
 ※F-9 ホテル・アグスタ正面玄関前に千年リングが落ちています。





 ミラーモンスターが現れる前兆、その耳鳴りに相川始が反応出来なかったのは、一重に迷いのせいだ。始に出来た事は、通り過ぎた窓硝子の破片から伸びる極太の腕が、自分の足を掴むところを見るのが精一杯だった。
「貴様!」
 腕に続いて這い出してくるのはもう片方の腕、そして金色の一角を頂く怪物の頭だ。掌ほどしかない窓硝子からかくも大きな体躯が出現する様は、怪奇以外のなにものでもない。
 しかし、その怪物は全身の外殻を夕陽に照らして、確かにそこにいるのだ。
「変しーー」
 懐からラウズカードを出すのと同時進攻でベルトを発現、カリスの姿に変じて迎撃を果たそうとする。
 しかしそれは、相手がこちらの足を掴んでいる以上、どうしようもなく時間のかかる挙動だった。
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOーーーーーーーー!!!』
 成人男性の中でも体格のいい始の身体を、一本角の怪物は事もげに振り回す。
 足を掴んだ怪物は腕を引き、始の直立を崩した。圧倒的な牽引力によって足は払われ、受身をとる事も出来ずに、瓦礫で波立つ地面へ肩と側頭部を激突させる。
「が……ッ!!」
 肩と腕の境目に突起がめり込み、骨と骨の接合部が押し広げられる感覚は想像を絶する。加えて側頭を打つ打撃は、下手をすれば眼球を貫きかねたい攻撃だ。始といえども、生理的な苦悶は禁じ得ない。
「ぐ、ぅ」
 そして始は同じ轍を踏む事になる。
 痛みに悶えている間に、窓硝子へと沈んでいく怪物に引き摺られて、始もまたその中へと吸い込まれた。

     ●

 新庄の背後で、ざ、という物音が唐突に生じる。
「……?」
 自分を追随するエネルがどうかしたのだろうか、と振り向き、
「え……!?」
 そこには誰もいなかった。
 影も形もなく、分ける草の根もない市街地の中で、エネルの巨躯は消え失せている。
「そんな!」
 確かにエネルは一瞬で移動するような能力を持っている。しかし、ヴァッシュの驚異的な戦闘力を裏付けにしたハッタリを信じ込ませたエネルが、それを行うことは全くの予想外だった。
 それも、携えていた武器まで落として。
「一体どこに……!!」
 急いた動きで辺りを見回す新庄の様を、路上に放置された剣が、その細い刀身に映していることに、彼はまだ気付いていなかった。



【1日目 夕方】
【現在地 C-4 市街地・北端】 

【新庄・運切@なのは×終わクロ】
【状態】全身火傷(軽)、全身打撲(軽)、全身生乾き、男性体
【装備】ストームレイダー(15/15)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】なし
【思考】
 基本:極力多数の参加者とともに生還する
 1.ヴァッシュを死なせない為にも生き残る
 2.エネルが消えた……!?
 3.レイ、フェイトが心配
 4.ヘリコプターに代わる乗物を探す
 5.弱者および殺し合いを望まない者を探す
 6.殺し合いに乗った者は極力足止め、相手次第ではスルー
 7.自分の体質に関しては問題が生じない範囲で極力隠す
【備考】
 ※特異体質により、「朝〜夕方は男性体」「夜〜早朝は女性体」になります
 ※スマートブレイン本社ビルを中心にして半径2マス分の立地を大まかに把握しています
 ※ストームレイダーの弾丸は全て魔力弾です。非殺傷設定の解除も可能です
 ※ストームレイダーには地図のコピーデータ(禁止エリアチェック済み)が記録さています
 ※エリアの端と端が繋がっている事に気付いています
 ※目の前にジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使 が落ちています

16613人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:17:09 ID:pNHdHYB60
 まるで床が水か何かであるかのように現れた影は、成熟した外見となった自分さえも超える巨躯だった。影はやや背を曲げた姿勢だというにも関わらず、ヴィヴィオの目線は影の胸元ほどしかない。荒い息遣いに首と肩を揺らし、今、両腕がもたげられる。
 そして、五指ならざる指が生やす金色の爪が迫った。
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO…………!!』
「うううううううううううううう……ッ!!」
 雄叫びに振り抜かれた2つの巨大な掌を、しかしヴィヴィオの細腕は確かに受け止める。
 適性の問題があるとはいえ、レリックを身の内に秘めた聖王の器は怪物を片手間に払う戦闘力を発揮する。狂気に支配されたヴィヴィオは右脚で巨躯の胸をつき、掌を掴んだまま両腕をもぎ取ろうとする。
 だがそれが出来ないことこそが、ヴィヴィオがこの対峙に敗北する理由だった。
「ううううう……っ!?」
 怪物、メタルゲラスが現れたのは床からだ。誰もいないこの“聖王のゆりかご”でありながら磨き上げたように綺麗な廊下は、淡い非常灯によって鏡に似た性質を発揮しているからこそ、メタルゲラスは床を出入り口にした。
 それはつまり廊下全体が境界線ということ。すでにヴィヴィオの両足は入口と化した床に沈んでいた。
「あ、ぅぅぅぅ……!!!」
 理解不能の生理的な恐怖に顔は引き攣り、抜け出そうと両足がもがく。
 しかしカードデッキ式仮面ライダーを装備しないヴィヴィオに脱出は不可能、飛行魔法もメタルゲラスの腕力を前にしては拮抗することも出来ない。
 そして、
『VOOOOOOOOOOOOOOOOーーーー!!!』
 一気呵成の叫びのもと、ヴィヴィオは鏡と化した廊下に叩き込まれた。

     ●

 砂浜を走る事は想像以上の困難を伴った。
 踏みつけるたびに砂の群は散り散りとなり、一歩ごとに身体のバランスを調整しなければならない。おまけに改めて踏み出そうとすれば、潜り込んだ深度に比例して砂が足にのしかかり、脱出させまいとまとわりついてくるのだ。それでいて蹴散らせばあっという間に散る軽さ、手応えの変動し易さは無意識に足を疲労させる。
 だというのに、
「何これーーーーーっ!」
 叫んだ柊つかさが目にしたのは、もはや海と呼んでも良いような河川だった。
 市街地から流れてくる河川は砂浜を両断して海に流れている。流水に削られた砂の崖はもろく、近付こうものなら足場から崩れ、つかさの小さな体は水没して海に押しやられてしまうだろう。とてもではないが泳げるような水流ではなく、飛び越えるような足場でもない。
 迂回しようにも右手は海辺の浜、左手から流れてくる水流は市街地まで届き、その果てを見せない。
 川を渡るには、大きく迂回しなくてはならないようだ。
「そんなぁ」
 荒い息に肺と喉が痛み、短い髪の毛は振り乱れた。
 頭髪の合間をぬって流れてくる汗に濡れたつかさの顔は、目と鼻の先にある“聖王のゆりかご”を見る。沈みつつある夕陽の中でもその巨体を誇る建造物は、まるで自分を嘲笑っているようにさえ思えた。
(何とかして渡れないかなぁ)
 目の前の河川を越えるだけで良い、その思いが、つかさに川面を覗かせた。
 そして、
「……ぇ?」
 き、という耳障りな耳鳴り。
 そして揺らいだ水面に映っていたのは自分の顔ではなく、見たことも無い異形の面構えだった。金色の角を鼻先から直角に早し、瞳のない双眸はこちらを眺めている。まるで犀のような姿だったが、だとしたら両腕が人間のようになっているのは変だ。
 怪物だった。
「なん、で」
 戸惑いがつかさに行動の行動を遅らせた。尤も、つかさの反射神経では対応できなかっただろうが。
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!!』
 拳が水面から生えてきた、そう思った時には、水面は赤く濁った。
「……ぷふっ」
 鼻と前歯、そして顎が砕ける痛みに舌鼓を打ち、そして広げられた掌がつかさの頭を鷲掴みにする。頭部の下半分が砕かれた直後だというのに、次の瞬間には上半分が握りつぶされそうな圧力がかかる。
「ぁ、が」
 現実離れした事実と痛みに、つかさの双眸は、掌に覆われた暗闇から瞼による暗闇を見るようになった。

ーーーーーーーーーープつんーーーーーーーーーー

16713人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:17:39 ID:pNHdHYB60
     ●

 夕陽に陰る事務室の中で、天道総司の耳朶は不意の高音に痛んだ。
(……これは)
 覚えのある感覚に、壁にもたれて腕を組んでいた天道は面を上げる。思わずジーンズのポケットに手を突っ込み、その奥に仕舞い込んだ黒いカードデッキに指先を触れさせた。
 現在進行形で黒いカードデッキが縛る龍、ドラグレッダーを統べる天道には、この耳鳴りの正体が何であるかを知っている。ミラーワールドの誰かが現実世界側の誰かへ干渉しようとした時、カードデッキの如何せんを問わず発生する前兆だった。
 ドラグレッダーだろうか、と天道は思う。
 何かの規則を破ったのか、それとも自分がそうと知らずと破ったのか、どちらにせよ何らかのアプローチが来る。
「天道、さん?」
 と、眼下で高町が潤んだ瞳にこちらの姿を映していた。
 薄く開いた唇からは吐息が漏れ、両手で握る紙コップはスポーツ飲料に満ちている。それとは対極に、空っぽになった大型のペットボトルが脇に放置されている。飲みきったのだ。
 まずいな、と天道は相互を崩した。
 高町の熱はまだ引いていないようだ。額は汗ばみ、僅かに荒い呼吸を証明するように豊かな膨らみが絶えず伸縮を繰り返す。壁に背をもたれて床に座り込む彼女は、体調の不備を訴えて止まない。
 だがそれでも、ここから離れる必要があった。
「高町、動けるか」
 かがみ込んで高町との目線を合わせ、天道は張り詰めた表情を作る。
「何が……?」
「ミラーモンスターが狙っている」
 彼女には前兆がこなかったらしい、緩み潤んでいた瞳が見開かれ、天道の顔を見返した。
「お前には耳鳴りがしなかったのか」
「私、は、全然、聞こえませんでし、た」
 ということは、ミラーモンスターに狙われているのは自分だけということになる。
 ならば自分が移動すれば高町の安全は確保出来るか、と思い、しかし今1人にすることが高町の安全になるのか、とも思う。
 どれほどの猶予があるのか、それすらも解らない逡巡の時間に一筋の汗が頬を撫で、
「…………!!」
 天道は見る。
 顎先から放たれた汗の注ぐ先、高町が携える紙コップの中身に巨大な獣の頭部が見えたのを。
 しまった、そう言うだけの暇もなく、紙コップに満ち満ちたスポーツ飲料を出入り口にして巨大な舌が出現した。
「なーー!?」
「がぁ……!!」
 驚愕に固まった高町の目前で、天道の首を支柱にして舌が何十にも巻き付いた。
 首を始点にしての牽引、くわえて膝立ちで前のめりという踏ん張りの利かない態勢では、スポーツ飲料の向こう側にいるモンスターに抵抗することは出来ない。ドラグレッダーを喚び出す命令さえも思う暇がなかった。
 底辺に空いた穴へ水が渦巻いて流れ込むように、天道は紙コップの小さな陥没の中へと飲み込まれる。
 靴裏まで取り込まれる直前、現実世界との繋がりが途絶える直前に、高町の声を聞きながら。
「天道さん……!!」



【現在地 D-2 スーパー 事務室】 

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】発熱、魔力消費(大)、驚愕、キングへの疑念と困惑
【装備】とがめの着物@小話メドレー、すずかのヘアバンド@魔法少女リリカルなのは、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式
【思考】
 基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。絶対にヴィヴィオを救出する
 1.天道さんが消えた……!?
 2.極力全ての戦えない人を保護して仲間を集める
 3.フェイトちゃんもはやてちゃんも……本当にゲームに乗ったの?
 4早く騎士ゼストの誤解を解かないと……
【備考】
 ※金居とキングを警戒しています。紫髪の少女(柊かがみ)を気にかけています。
 ※フェイトとはやて(StS)に僅かな疑念を持っています。きちんとお話して確認したいと考えています





「貴様は」
 かかげた刃の中に、アーカードは化物の姿を見た。

16813人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:18:14 ID:pNHdHYB60
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOーーーーーー!!』
 背後には何者もいない。まるで鏡のように光る刀身が窓口だというかのように、そこには人型の犀が映っている。野太い腕を肩ごと上下させ、瞳のない双眸はアーカードを見返している。
 耳鳴りに顔をしかめるアーカードは、視線だけで怪物の意図を悟る。
「私を、狙っているのか」
 肯定するように怪物は鳴いた。まるで汽笛のような咆哮は耳鳴りとの重奏となり、アーカードは更に頭を痛めることとなる。
 だがそれでも、表情は笑みだったのだ。
「面白い」
 思いは一言に尽きる。
「やってみろ化物。私に、修羅場というものを見せろ」
 応じたことが切っ掛けだったのだろうか。
 怪物はこちらへと両手を差し出し、8本の指が刀身から生えてきた。
 一体どういう原理なのか、アーカードには解らない。ただ目前で、携えた日本刀から化物の巨腕が伸びてきて、そして自らの頭を両側から鷲掴みにしたことだけは、実体験として信じていた。
 引きずり込まれたのは、直後のことである。

     ●

「う、うわぁっ!!」
 腰砕けの悲鳴をあげ、デイバック片手に万丈目は装甲車へと駆け込んだ。
 ドアに鍵はかかっていなかった。それどころか運転席の鍵穴にその先端を挿入し、何か認識票のようなものをキーホルダーとして垂らしている。後部座席に滑り込んだ万丈目の目は、運転席と助手席の合間からその事実を覗いていた。
「な、何なのだアイツは!?」
 閉じた後部座席の扉、その一部をくり抜いて埋め込まれた強化硝子越しに見えたのは、紫色をした巨大な蛇だった。瞳の無い眼球で窓硝子を覗き込み、身体をすくませる万丈目の姿を睨みつける。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA……!!!』
 凶悪な目を一端に遠ざけ、直後に迫った再接近は突進と呼べるものだった。
 横殴りの一撃が装甲車を万丈目ごと揺るがす。
「わああああああああああぁぁぁッ!!」
 化物の突進に装甲車が吹っ飛ばなかったのは、一重に装甲車自身の重量と幸運によるものだ。だが激突によって確かな被害はある。万丈目が急いで閉じた扉は、いまや内側に大きく陥没している。突進の被害であることは、そして二度目を受ければ弾け跳ぶことは明白だった。
「に、逃げなければ」
 化物が再び身を引いたうちに、万丈目は這うようにして前部座席へと身を映す。もとより狭い前後座席を行き来するスペースは、武装車両の中とあってはよりせまいもののような気がした。
 辿るように手を添えたのは操縦席のクッションだ。軍用の分厚く角張った座席に座れば、ハンドルと2枚のペダル、そしてエンジンを始動させるための鍵が備わっている。運転経験どころか免許も持っていない万丈目であったが、この状況にあってはどうこう言う訳にはいかない。
(早く、早く鍵を……!)
 座席の陥没に尻を収め、右手をスロットに挿入された鍵穴へと伸ばす。と、そこで万丈目は、フロントガラス越しに1つの行動を見た。
 右のサイドミラーがへし折れており、そこに嵌め込まれた小さな鏡に怪物の尾先が埋まっているのだ。
 刺さっているのとは違う。まるで鏡が水か何かであるように、そこから這い出すようにして尾先がサイドミラーに埋まっている。
「な、何だ? あんな小さな鏡の中から這い出してきたというのか!?」
 小事であった。それそのものは何の危機ももたらさない、ただ、危機の準備だった。
 だからこそ万丈目は、その狼狽えている間に鍵を捻ってエンジンを起こし、しゃにむにでもアクセルペダルを踏み抜くべきだったのだ。
 だがそれも、もはや間に合わないことであったが。
「!!?」
 がくん、と装甲車が揺れた。
 何だろうか、また体当たりを仕掛けてきたのだろうか、と万丈目は思う。だがそれにしては揺れが小さく、また断続的だ。ぎし、ぎし、と装甲車全体が耳障りな軋みをあげている。
 そしてフロントガラスから見える景色が浮上した時、装甲車そのものが持ち上がっているのだと気付いた。
「う、うわ……!!」
 長大な胴をした蛇の怪物は装甲車に巻き付き、万丈目ごと捕らえたのだ。
 螺旋を描くように巻き付いた胴体により、もはや前後の扉は開かない。踏みつける地面がないのでは、エンジンを駆動させてタイヤを回しても何の意味は無かった。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
「ひぃ……っ!」
 フロントガラスから怪物が覗き込んできた。
 目前に迫る凶暴な顔に、思わずデイバックを盾にして身を小さくする。
 そんな風に目を硬く閉じていたから、万丈目は自分や装甲車が流動状に変形し、怪物の尾先についたサイドミラーへ吸い込まれる奇怪な情景を見ることはなかった。

16913人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:18:52 ID:pNHdHYB60
     ●

「「「何!?」」」
 それはヴィータの驚愕でありアギトの驚愕であり、同時に金居の驚愕でもあった。
 赤いドレスから覗くか細い両腕、それが携える槍の刀身より長大な舌が出現して金居の胴を縛ったのだ。
「ぐ」
 金居の姿が陽炎のように揺らぐ。
 何かの特殊能力なのだろうか、ヴィータは思う。それはこの場を逃れうる力だったのかもしれないが、しかし、変化が完了するよりも先に舌は動く。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーー!!』
 どこか聞き覚えのある雄叫びの後、牽引された舌によって金居は引きずり込まれてしまう。
 槍の矛先、鏡面のように光る小さな刃へと。
「……金居!?」
 まるで手品か幻のように、刃よりも遥かに大きな金居の体躯は引かれる胴体を先頭にして輪郭を歪め、まるで穴に流れ込む水のような有様となって刀身の中に消えてしまった。後に残されるのは、武器を持ったヴィータと、傍らのアギトだけ。
 すでにヴィータの平常心は完全に転覆している。額から頬へと流れる冷や汗は幾筋も顎から伝い落ち、足下の瓦礫は通り雨でもあったかのように黒い斑点に彩られる。
 白昼夢というにはあまりにも時間が遅い。だが夢でなければ大の男が一度に2人も消えた事になる。そんなことは、転移魔法かそれに準ずる能力がなければ不可能なように思えた。
 一体どこへ、そう呟こうとして、
「……まさか」
 憶測の言葉が口をついた。
 思い起こすのは牽引とともに聴こえた雄叫びだ。合成音声のような2重の声は聞き覚えのあるものだったが、それをどこで聞いたのか、今ようやく思い出す。
 それはかつて、アーカードと戦ったクロノ・ハラオウンが従える獣のそれに似ていたのだ。
「鏡から出てくる化物」
 糸口を見つけてしまえば、あとは芋づる式で言葉が出てきた。
「誰かが、……あの化物で奇襲をかけてんのか!?」 



【現在地 E-5 市街地】 

【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】
【状態】疲労(中)、奇襲に対する危機感(大)
【装備】ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ヘルメスドライブ(破損自己修復中で数時間使用不可、核鉄状態)@なのは×錬金、アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F
【思考】
 基本:はやての元へ帰る。脱出するために当面ははやて(StS)と協力する
 1.はやて(StS)は様子見、当分同行するが不審点があれば戦闘も辞さない
 2.やべぇぞ……どこから敵が来るか解らねぇ……!
 3.ヴィヴィオ、ミライ、ゼスト、ルーテシアを探す
 4.アーカード、アンジール、紫髪の少女(かがみ)は殺す
 5.グラーフアイゼンはどこにいるんだ……?
【備考】
 ※ヘルメスドライブの使用者として登録されています
 ※セフィロスの遭遇以前の動向をある程度把握しています
 ※はやて(StS)、甲虫の怪人(キング)、アーカード、アレックス、紫髪の少女(かがみ)、アンジール、セフィロスを警戒しています
 ※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています
【アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS】の簡易状態表
【思考】
 基本:ゼスト&ルーテシアと合流して脱出する
 1.とりあえずヴィータやはやてと協力
 2.この状況ってやべぇんじゃねぇの!?
 3.ゼストとルーテシアが自分の知る2人か疑問
 4.金居の事を非常に警戒しています
【備考】
 ※アギトの参戦次期はシグナムとともにゼストの所へ向かう途中(23話)です
 ※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています。ただし具体的には解っていないので現状誰かに話す気はありません
 ※デイバックの中から観察していたのでヴィータと遭遇する前のセフィロスをある程度知っています
 ※ヴィータがはやてを『偽者』とする事に否定的です





 キングがミラーモンスターの奇襲を回避出来た理由は幾つかあるが、その中でも得に重要だったのが、戦うために生まれてきた怪物としての、驚異的なまでの精度を持つ勘によるものだった。

17013人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:19:28 ID:pNHdHYB60
(何か、来る……!?)
 耳鳴りが聞こえたことも、橋の下を流れる川面が不自然に揺らいだことも二の次だ。生理的な危機感だけでけで動くに足る。
 左脚を回してカブトエクステンダーの右手に降りる動き、だが足裏は橋を踏むことはなく、車体の横腹を蹴倒してキングの身体を宙へ押し上げた。背後に重量のある機械が倒れる音、しかしそれを気にする間はない。跳躍から降り立った欄干、そこから見下ろせる水面に異形の顔を見たからだ。
「うぉうっ!!?」
 欄干を蹴ってキングは再び跳躍、ゼロの黒装束をはためかせて川の上空へと自身を打ち出す。
 直後、橋はミラーモンスターの顎によって粉砕された。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーー!!!』
 現れたのは巨大な蛇だった。エラの張った頭部はコブラを思わせ、紫色の長胴は弧を描いて橋を穿った。
 上下二対の鋭い牙が橋を貫き、倒れ伏したカブトエクステンダーは牙に続く口蓋の圧迫に圧迫されて粉砕、おそらくは巨大コブラに嚥下されてしまっただろう。
 自らの眷属を模した乗物を失ったことに欠片も同情を抱かないキングは、その巨大な蛇を見ていた。
 『CROSS-NANOHA』、とある次元世界に存在する様々な物語を記すインターネットサイトを見たキングには、その大蛇がなんという名前であり、いかなる存在なのかが解る。
 名はベノスネーカー。その存在は、浅倉威が使うカードデッキの奴隷だ。
「は」
 その時、我知らずと喉が震えていた。
「はははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
 キングの胸中を満たしていたのは歓喜だった。
 竜巻のように激しく渦巻く感情を体内に収めておくことが出来ず、気がついた時には哄笑として口から漏れ出していた。ゼロマスクのせいで籠った声は耳を叩くが、それさえも気にならない。
 何故なら、ベノスネーカーの奇襲が面白くてたまらないからだ。
「さすが! さすがだよ浅倉威!!」
 ベノスネーカーの主は道具、その使い手に制限はないため、必ずしもこの奇襲が浅倉の命令だとは限らない。だがそれでも、キングは浅倉が命令したのだろう、と考えている。
 こんなことを思いつくのは、カードデッキの本来の使い方を理解していて、なおかつ死に意を介さぬ狂人でなければ出し得ない。
 かつて出会った浅倉威からは、それらの条件を満たす人格がありありと見とれた。
 だから、キングは心の底から浅倉威を賞賛する。
「僕が何かする前から! お前はこの戦いを引っ掻き回してくれるんだね!! 良いね、良いね、良いよ! 乗ってやろうじゃないか!!」
 そうして、落下を始めていたキングは腕を伸ばしてあるものを掴んだ。
 ベノスネーカーが首から生やす長胴の末だ。
 掴んだ途端に全身を襲う牽引力に肩が痛んだ。しかしそれさえも楽しみの一環としてキングは受け入れる。万感の娯楽を前にしては、多少の障害では単なるゲームクリアを阻む敵キャラクターに過ぎない。美味を引き立てるためには、それを引き立てるものとして対極の味が求められるのだ。
 ベノスネーカーの頭部は、すでに鏡面化した川面へと潜っている。
 あ、という間にもゼロマスクの目前に川面が迫り、その下にキングは狂気の笑みを刻んだ。
「さぁ、祭りの場所はどこだい!?」



【全体の備考】
 ※D-5の橋が破壊されました。瓦礫にはカブトエクステンダー@魔法少女リリカルなのは マスカレードの残骸も混じっています。
 ※瓦礫伝いに川を横断することは可能です。ただし対岸に登るには相応の身体能力か工夫が必要です。





 相川始が目を覚ました時、視界一杯を埋めるのは灰色の連山だ。
 中央に敷かれた色黒の一直線を挟む左右の建造物は、多少の個体差はあるものの、一様に薄い灰色で統一されている。壁面には透明な窓硝子が埋め込まれ、多くは地続きの基部に大きめの硝子を備え付けている。ものによっては植え込みやそこから生える植物、2〜3段程度の小さな階段を備えるものもあった。
 連山と色黒の一直線の間には煉瓦が敷き詰められた歩道があり、その緩衝地帯と一直線の間には白く塗られたガードレールが立っている。始の立つ一直線の側に裏側を見せるそれは、こちらからの襲撃を歩道側に出さないために設けられているのが解った。

17113人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:20:14 ID:pNHdHYB60
「どういう事だ」
 詳細にこそ覚えていないものの、始にはこのビル街が記憶にある。
 先刻に浅倉威との戦いで焦土に帰した、瓦礫の砂漠の本来の姿だったのだ。見る影もなく瓦解したそれらは、しかし隆盛を誇るようにして天へと自らの屋上を伸ばし、競い合っているようですらある。そう考えると、ここは連山というよりも竹林のようにも思う。
 自分と浅倉の戦いが無に帰したように、もしくは時間が巻き戻ったかのような情景だ。
「…………」 
 だがそれよりも、始の目を引くものがある。
 壁面の窓硝子や外壁そのものに取り付けられた看板、そこに記された文字だ。
「何だ……?」
 おそらくは1棟全て、あるいは1つの階層に間借りする企業や組織の名を記されているのであろうが、どういうことだろう、どれもこれも一様に同じ誤記がされていた。
 鏡移しに、全くの真逆に定着している。
 一語に思い起こされる記憶がある。自分を襲った化物の事だ。
 金色の一本角をたたえ、灰色の鎧に身を包んだミラーモンスター、そちらは思い出すまでもなく、浅倉が従えていた化物だ。自分との戦いの後に浅倉が奪われた可能性もあるが、あれの人柄を思えば、むしろそれを危機ならざる喜々として、返り討ちにしてしまう情景しか思い浮かばない。
 犀のようにも見えた化物は窓硝子から出現した。夕陽によって周囲の情景をうっすらと反射していた窓硝子は、さながら鏡だ、と表現することが出来るだろう。
(キーワードは鏡か)
 よもやここは怪物達の潜む鏡の向こうの世界なのだろうか、と冗談混じりに思い、
「…………」
 笑い飛ばすことが出来なかった。
 鏡から出入りする化物がいるのだ。別に鏡の中に世界があるとまで言う気は無いが、鏡を出入り口にして行き来できる異次元ぐらいはあっても可笑しくはない。
 それを思える程度に、自分は常軌を逸した化物だった。
(だが、何のために)
 化物を支配する自分とは違う意味での化物、浅倉威は、こういうまどろっこしいことをする人間ではない。殺すのに失敗した、と考えるのも矛盾だ。そもそも怪物に殺させるという間接的な手段自体、浅倉は好まないだろう。
「何のつもりだ、浅倉威……!」
 ひょっとしたら復讐、再戦が望みなのだろうか。だとすれば奴もこの鏡移しな世界にいる筈だ。
 プレシアのように殺し合いを高みから見下ろすような奴でもあるまい、と思い、始は移動しようと自らに命じた。路上の真ん中に座り込んでいた足に働きかけ、手をついて身を起こし、
「……?」
 その時、始は足音を聞いた。
 見上げた視線の先、まっすぐに続く道路の先から人影が現れ、次第に大きくなってくる。その速度と足並み、小刻みな上下運動は、人影の人物が走っているのだと理解出来た。
 それは一人の少年だ。
 つり目に逆立った髪は好戦的な印象を受けるが、今の彼の様相は、何かから逃げ続ける逃亡者の姿だった。顔一杯に恐怖を貼付け、汗を降り散らし、視線は一定しない。荒い息遣いすら聴こえてきそうだ。
 と、そこに至って少年の方も始に気がついたらしい。
 嵐の中に太陽を見たような顔をして、助けを求めるように手を伸ばす。実際彼は助けを求めていた。
「あ、あんた! 助け……」
 喉を痛めたような声は、しかし言葉を言い切ることも出来ずに途絶えることとなる。
 少年の背後に長大な影を見た時、始はそれを確信した。
「ーー避けろ!」
 始の呼びかけを、しかし少年はこなすことが出来なかった。急な命令に心身が反応出来なかったのだ。それは、夕陽を背後にして影に染まる長大な化物、ベノスネーカーの攻撃を受けることとなる。
 とは言っても、ベノスネーカーが放ったのは体当たりでも牙でもない。
 喉の奥から放つ白濁した液体の放出だ。清潔感の欠片もない攻撃は一直線に少年の背後に迫り、
「ひ……ッ!」
 うっかり振り返ってしまった少年は、顔面にいたるまでその液体を浴びる結果となった。
「ぁ、ぶっ!?」
 水圧に跳ばされ、全身が液体に包まれた少年の身体が路上に転がる。
 体躯にまとわりついた液体は粘質でゼリーのようだ。もはや少年のシルエットは見えず、彼の姿は路上に打ち捨てられたクラゲといった風だ。
 そこで、少年は立ち上がろうとした。震える腕を路上についてよろめきながら、
「……ぇ?」

17213人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:21:00 ID:pNHdHYB60
 不意に疑問の声を漏らして、とまった。その理由も始は理解している。
 怪物が人間に向けて放ったもので、人間が得をすることなど、全くと言っていいほどありはしない。その証明は、少年が転がったことで路上に付着した粘液が煙を上げていることに他ならない。
 直後、
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーー!!」
 粘液に小さな一点が穿たれた。
 少年が全力の悲鳴をあげるために開いた口腔だ。
 だがそれは流れ落ちる粘液によって塞がれ、恒常的に放たれる叫びによって泡立ち弾けて、しかし次々と垂れてくる粘液によってまた塞がれ、の繰り返しを起こす。
(……ゼリーのようだった粘液が、今になって垂れてくるのか?)
 始の疑問はすぐに解消する。
 口腔へと注ぐ粘液が本来合った場所、少年の頭部が爛れているのだ。否、頭だけではない、肩と言わず背中と言わず、全身の至るところがぐずぐずと崩れ、衣服と混ざって路上に水溜りをつくる。
 それが次第に赤味を増すのは、恐らく少年の体液が混ざっているからだ。
「痛ェッ!! 何ダこれッ!! 苦ぢぃ、苦ぢいっ!! 熱ぃ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
 もはや姿勢を維持することもままならず、少年は路上を転げ回った。それで少しは粘液を剥がそうとしているのかもしれないが、もう間に合わない。むしろ全身に粘液を塗ったくってしまうだけだ。
「どっ、ドクっ、毒か!!! 畜生ぉおおおおおおぉぉぉぉォォーーーーーー!!!」
 毒、毒には違いないが、より正確に言えば酸の類なのだろう。
 それも、人体を崩すほどに凶悪な濃度を誇る、強酸の。
「おっ! おおぉっ! おおぉぉぉ……ッ! おぉっ、おっ、おお……っ」
 やがて少年の身体からほとんどの粘液が崩れ落ちた時、そこにあったのは、人間かどうかも疑わしいものだった。
 形状の上では、学問の上では人と分類出来ただろう。
 だがそれは、学校の保健室に置かれている人体模型の実物が目の前に合ったなら、ピラミッドの最奥に眠るミイラを分析したら人体だったと、そう言う類の判別でしかないのだ。
「……ゅーー……ゅーー……ゅーー……」
 赤い淀みに濁る粘液の真ん中で、小刻みに痙攣する肉塊があった。
 シルエットとしては赤色の珊瑚に似る。皮膚はなく、露出した真っ赤な肉はぼろぼろに毛羽立って、さながらミンチを塗ったくったようだ。特に深く崩れた場所からは骨が覗き、リンパ液や脂質が零れ落ちている様子は、油の張った海に漂う蛆虫の屍骸を思わせる。
 唇や陰嚢は破れ、内部に秘めた体液を垂れ流しにしている。単なる穴となった口腔を縁取る歯は軒並み零れ落ち、そこら中に落ちている。だがそれにも増して多いのは頭髪だ。豊かな髪を持っていただけに抜け落ちる髪の量も一入だったのだ。粘液の溜りに頭髪が揺らぎ、微細な穴が残った頭皮は崩れて頭蓋を晒す。
 眼球など残っているはずがない。口腔とで三角形の頂点を描く、単なる陥没に成り下がっていた。
 夕空に晒す腹は貫通していた。肋骨を浮き彫りにする胸の下、胃袋の内側は暴露され、半ば消化されて崩れた飲食物を見せつける。生涯で始めて晒した腹腔は、類稀な悪臭を秘めていた。もっとも、今の彼自体悪臭の塊だったが。
 頭、と思しき部位が始の側に向いているので解り辛かったが、どうやら苦悶の中にあってはあらゆる我慢がならなかったらしい。肉体の向こう側に溜まる粘液は気味が強く、黒ずんだ固形物が少しずつ溶けていく。全身が爛れる痛みに排泄を堪える余裕はない。失禁と脱糞をしたのだ。
「……ゅーー……ゅーー……ゅーー……」
 さっきから聴こえる出来損ないの笛の音は、どうやら穿たれた喉が放つ呼吸音らしい。
 あの様相で生きているとは驚愕の至りだったが、もう半死半生、いや九分九厘で死ぬ手前に過ぎない。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA…………』
 それまで少年が転がり回るを見下ろしていたベノスネーカーが動いた。
 開いた口に長い舌をうねらせ、そして一気呵成の勢いで少年だった肉塊を地面ごとの飲み込む。
 ごくり、と嚥下される様を見て、限界まで生きる苦しみを味合わなかったことはむしろ幸いだったのではないか、と始は思った。



【万丈目準@リリカル遊戯王GX 死亡】
【残り 26人】

17313人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:21:36 ID:pNHdHYB60
 驚きはない。
 むしろこれまでの戦いの中でこう言った事態を見なかった方が、幸いだったのだ。
 誰かを死なせ、自らは死ぬこともないアンデットとしての相川始は、無防備に走ってきた見ず知らずの人間の少年が目の前で無惨に腐食し、怪物に飲み込まれた程度のことで怒りはしない。
 ただ、人間としての心が義憤するだけだ。
「…………」
 何一つ語ることもなく始はベルトを出現させる。バックルにハート型の紋章を刻み、縦一線のスリットを刻んだベルトだ。それこそは始が生来に持つアンデットとしての能力、ジョーカーの片鱗だった。
 懐から取り出した1枚のカード、チェンジマンティスを構え、
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーー!!!』
「何!?」
 ベノスネーカーはこちらに背を向け、やってきた道の先へ滑っていってしまった。
 可笑しい、と始は思う。
 あれだけの好戦的な化物が、しかも浅倉威に隷属する怪物が、補食した獲物よりも遥かに強い自分を前にして闘争するとは考えられない。強者を前にして怯える性格でもあるまいに。
(やはり、何か企んでいるのか)
 どちらにせよ今出来ることはそう多くない。
 カードをズボンのポケットに押し込み、始は健脚に働きかけた。
 巨体に反してベノスネーカーの動きは素早い。
 しかし家屋によって前後以外の道を塞がれた現状、化物の長胴は後を追う分には困らない。うねりの最後尾として左右に振り乱される数珠のような尾先に視線を結び、始は長い両足で道路を蹴り付ける。
 そうしてどれほどの家屋を過ぎた頃だろうか、やがて景色は高層ビルの谷底となり、どれほど走ったのか、開けた場所に出た。そこには姿を失った筈の建造物が現存している。
 レストランだ。
 浅倉威によって炎上した筈のそれは、全くの完備といった風に、その外壁を夕陽に照らしている。
「…………!!」
 飲食店を前にして広がる大通りの中央には、いったいどういう訳か武装した装甲車が駐車されていた。しかも車体の上には口を開けたデイバックが打ち捨てられ、装甲車の周囲に大量の火器を散らしている。
 道路の広がりには幾人かが立っていた。見覚えのある者、無い者、歳格好も様々だったが、皆一様にレストランの方を見ている。レストラン入口の手前、スロープと階段が刻まれた段差の上には人影がある。
 レストランに放火した張本人だ。
 紫と黒によって身を固める鎧はコブラの装い。屈強な足は階段の段差を踏み、左腕は小物か何かを握り込み、そして右腕は1人の青年の首を握り締めていた。
 確かあの青年は殺し合いが始まった直後に見つけて強襲した人間だ、とも思うが、そんな事はどうでも良い。
 鎧の人物こそが、この茶番を仕組んだ犯人だからだ。
「ーー浅倉ぁッ!!!」
 始の叫びに、紫の兜がこちらを見た。自分の存在に気付いたのだ。
 頭部ならず全身まで鎧で包んでいるというのに、奴の鼻で笑う声が聴こえる。
「来たか」
 それどころか、今奴が浮かべている表情すら透けて見えるようだ。
 笑んでいる、始にはそれが解った。
「もう少し待ってろ。今、コイツを片付けるからよ」
 言って、浅倉は鎧越しに握る青年の首への圧力を強めた。
「……か、ふっ」
 首で全身を支えるという苦行に青年は息を乱し、しかし握り締める腕を掴み返すという反撃に出た。しかし呼吸を制限され、首以外に身を支えのない腕で一体どれほどの握力が生み出せるものか。
 結果、より一層の威圧を首に受けることになったようだ。
「ぐ、ぉ」
「ははは……っ!!」
 煮え立つような哄笑を漏らして、浅倉は青年を掴んだまま身を翻した。
 右腕で戦陣を切った上半身からの旋回、鎧による身体能力の強化を受けた筋力は青年の胴体を遠心力にたなびかせ、そして、背後に並び立つレストランの大窓へと青年を叩き込んだ。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
 破砕の音はやけに高音で、連鎖して起こるものだから断続的に響いた。
 窓というよりもショーウィンドウに等しい大きな窓硝子は、砕けるともなれば破片の量も凄まじい。青年は破片によって身と言わず服と言わず切り裂かれながら、店内の机を割って床に叩き付けられた。
 青年を放り投げた浅倉は姿勢を再び直立へ戻し、そして左手に握っていた小物を見る。
「あれは」

17413人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:22:10 ID:pNHdHYB60
 遠目であったが、始にはそれが薄っぺらい箱のように見えた。
 真黒に着色されたそれは、浅倉がまとう鎧の腰に巻き付いたベルト、そのバックルに装填されているものと同系統であるように思われる。そして浅倉は箱を握ったまま左手を浅く掲げ、
「ふん」
 鼻で笑うとともに、握りつぶした。
 石版が割れるような音がして、大小無数の黒い破片はレストラン前の階段を跳ねながら下っていく。
 それとともに、
「ーーむ」
 始の視界に新しい影が生じた。
 レストランの脇に拓かれた小道から誰かが歩いてくる。それも、何か大きなものを引き摺る、砂をかき分けて進むような効果音を引き連れながら、だ。
「…………」
 睨んだ先にあるのは人影、しかし影を払ったそれは、人というには余りにも手足は太く巨体だ。
 銀色の外殻に身を固めた怪物、浅倉の従えていたもう1匹の怪物だった。名をメタルゲラスといったか。人型の犀とも言うべき様相をしたメタルゲラスがその右腕に握り締めたものは、靴にくるまった足。
 そして大通りに出て夕陽に照らされた足の主は、
「つかさ!!」
 突如として名が叫ばれ、そして何者かが駆け出した。
 始の左手から現れた声の主は小柄、デイバックを放り捨ててツインテールをなびかせるのは、先の浅倉との戦いで助けた少女だった。通り過ぎ様に見た少女の顔は、いつになく焦りに濡れている。
(知り合い、否、肉親か)
 メタルゲラスへ向かう少女の周囲に変化が生じた。
 少女の細い腰には何時の間にかベルトが装着され、その左脇に小さな影が並走していたのだ。大きく跳ねて並ぶ影はバッタを思わせる動き、少女は小さい影が高く跳ねたところをつかみ取る。
 それを構えて、
「変しーーーーーー」
 やはりあのベルトは仮面ライダーとなるための器具だったらしい。
 だが、
(駄目だ)
 始は少女の行動にダメ出しを入れる。変身するのが遅過ぎる、と。
 今のメタルゲラスの手には、つかさというらしい少女が握られているのだから。
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOーーーーーーーー!!!』
 少女の接近に滾ったのだろうか、メタルゲラスは咆哮とともに腕を振るった。太い4本の指で少女の足を締めつける、その右腕を。
 浅倉が青年をレストランに叩き込んだ時と同じ要領だ。足を起点にして振るわれたつかさの身体は、風圧と遠心力によって伸びきり、さながら棍棒かバットの様相を描いて振り抜かれる。
 その延長線上にあるのはツインテールの少女。
「あぅっ!!」
 遠心力の恩恵を受けたつかさの頭が、少女の頬を殴りつけた。
 抜き放たれたつかさの頭が遠心力を失って道路に叩き付けられるその前で、頬を赤く痛めた少女は背中から道路へと倒れていく。このまま倒れれば、少女もまた頭部を路上に叩き付けるだろう。
 だがそれを、スロープを駆け下りた浅倉が受け止めた。
 しかしそこに親切心や温情などあろう筈がない。そのことは、浅倉が掴んだ部位が少女のツインテールであったあたりで察しがついた。始としては、察する以前から解っていたようなものだが。
「ひぃう……!」
 左右のツインテールを牽引される痛みに少女の顔が歪んだ。引っ張られるだけでは収まらず、彼女は倒れかけた拍子で半分路上に座っているような姿勢なのだ、牽引のリーチは長い。
 浅倉は、そこでも笑っているように見えた。
「お前等」
 浅倉は言葉を発した。
「顔、似てんな」
「双子よ!」
 髪を引っ張られた姿で、少女は浅倉を睨みつける。
「だったら」
 また、嗤った。
「行ってやれよ……!」
 直後に浅倉がとった行動は、少女の後頭部に足裏を乗せる事。両腕によって引っ張られたツインテールの間に、鎧によって包まれた黒い足が出張ってくる。
 意図を察したのか、少女の顔が青ざめた。
「やめーー」
 それがスタートとなったのだろうか。
 ぶ、と糸を引き千切るような音がして、少女のツインテールは頭皮から剥離した。
「ああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーッ!?」


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