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【第1回放送〜】平成漫画バトル・ロワイヤル【part.2】

803『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:58:44 ID:TQm/ytFw0



………
……



 一方は────対、改造銃。
島田の額にて、銃が突きつけられる。


「……ハァハァ………言っとくがなァ…、至近距離戦では…銃よりナイフのほうが遥かに有利なんやからな…………ッ!!!──」

「──なんかの漫画でゆうてたけど、銃はスリーアクションなんやぞ…。『抜き』……──…、」

「『構え』、『引き金を引く』…そのスリーアクション…なんだろ………っ?」

「…あぁ?!」


 もう一方は────対、ナイフ。
左衛門の頸動脈ギリギリにて、仕込みナイフが牙を剥く。


「それに引き換え、ナイフは『刺す』の一動作に終わる………。アンタはそう言いたいんだろ…………っ? とどのつまり……、──『オレのほうが有利〜』と。…そう〆るつもりなんだろ……っ!!」

「……っ。……んや…見透かしたかのように………。お前も読んどったんか、マスターキートン…………」

「答える気はない……っ。そしてアンタとも漫画の話で和気あいあいとする気は……ない…………っ。──」


「──僕にはただ殺意のみっ……!! アンタに今…向けるのは…殺意だけだ……っ!!」

「ッ、お前…ェ…ッ……」


「佐衛門さんっ!!!!」



 狼狽するは────サヤの声、ただ一つのみ。



「………な、なに……。なんなのこの状況…。…ね、ねえ佐衛門さん…何してんのっ………?」

「……サヤさん……・猜疑心重……『信じちゃダメ』ってことさっ……!! 参加者全員…誰もかも…………」

「…え? は、はぁ???!」

「その上…よく見てみるんだ……。こんな見るからに目付きの悪い……輩を相手にしているんだぞっ……。なら尚更じゃないかっ…………!!──」


 島田と左衛門で、互いに伸びる腕。
空気が張り詰める中、その互いの手にて、交差するそれぞれの武器。
互い、互い、互い、互い、互い、互い、互い、たがい。
────疑い。【疑心暗鬼】。


いや、この状況を四字熟語で簡潔に表すとするなら、【疑心暗鬼】ではなく──、



「──ここは僕が引き受けるから……。だから逃げろ………逃げるんだ…サヤさんっ……!!!!」

「なにが逃げろやねんワレッ!!!! お前が急に銃向けてきたんやろがッ!!! ふざけんなやゴラアアアァッ!!!!!」


「ひっ!!」



────【一触即発】だった。



 数分前。
すれ違い──島田の存在を認識するなり、佐衛門が取った行動は、先手必勝。
言葉挟む間もなく颯爽と銃を引き、そして構えた左衛門は、名前も知らぬゴロツキ標準にトリガーを指にかけ出す。
この考える余裕もない刹那の瞬間、佐衛門を支配していた感情は『焦燥』であっただろう。

なにせつい数刻前、兵藤に片目を奪われたという『バトル・ロワイヤルの真髄』をまざまざと見せつけられた彼だ。
唯一残る左目は、誰彼全てが【敵】。傍らのサヤを除いて、全てが敵と視えている。
平時はマイペースで、冷静な観察眼を持つ佐衛門であっても、この時ばかりは、初対面の人間を信用する余裕など欠片も残っていなかった。

──それが余計、島田のような見た目からして反社会的な匂いを漂わせる男と出会ったとあらば、尚更だろう。

804『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:59:02 ID:TQm/ytFw0
 そしてまた、同じく数分前の話。
あっという間もなく銃を向けられた島田であったが、銃弾は放たれることなく。
何せ、過去には違法格闘技で名を馳せ、『復讐屋』となった今でも卓越した格闘術を見せる島田虎信。その人である。
トリガーに指がかかる寸前、反射神経で腕を振るい、仕込みナイフを引き抜いてみせた。
鋭利な刃先は、佐衛門の頸動脈を寸分違わずギリギリなぞり。──もしくは、すでに0.1ミリほど食い込ませた、瞬発の攻撃。

互いの心臓の震えが、互いの武器の先端を微かに揺らす。
刹那ごとに命の天秤が傾く、張りつめた静止。先に動けば、どちらかがフィフティーフィフティーで絶命する。

──この現状下は、こうして出来上がったのである。



汗が滲み出て、

「…………ぃッ!!」


向顔。睨み続け、

「ぐっ……………!」


一方は、首から、か細い一本の血脈がスーッと滴り、
一方は、銃口の奥に宿る冷たい空気に心臓が早鐘を打つ。


二人は膠着を解き放つ何か──『隙』が来るのを待つばかりの。


「……………っ!!」

「…………ぃイッ!!」


────この、緊迫の時間。



『甲子園には魔物が棲む』。
そんな言葉があるが、もしもこのバトル・ロワイヤルにもそのような『神』が宿っているのだとすれば、今この瞬間──。
きっと愉悦に満ちた眼差しで、島田 vs 佐衛門の静かなる死闘を見下ろしていることだろう。
──もっとも、比較的巻き込まれた側である遠藤サヤは不運なものであるのだが。


「え、え………。さ、佐衛門さ……………………」




【Judgment】。
──決着の刻。死の兆し。



ただ、どうであれ。


「…………悪魔がっ………」

「ああァ!?? 悪魔はお前やろがッ! ボゲッ!!──」



膠着下が暗転に包まれる瞬間は、



「──…容赦はせんからな……クソったれ……。ゲームに乗ったクズ野郎がッ…!!!」

「……ブーメラン…っ! そっくりそのままお返しだ………っ。──」


──もう。


「…終わり…もう終わりにしようじゃないかっ………!! うわああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!」

「イィッ!!! ざっけんなやボゲゴラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



眼の前を覆い尽くすほどに、近かった──。








「…やれやれなものだ。たかが缶珈琲一本。まさか豆から挽いていたわけじゃないだろうな? …そう思っていたら………島田め……」



 ──【残り00:08:20.521】──

805『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:59:21 ID:TQm/ytFw0
「「…あ?」」


「え?」



 そんな眼前から離れた向こうにて。

白い廊下に、揺れるカーテン。長く無機質な廊下奥から、コツ、コツ、コツ…と。

戦慄に満ちたこの空間をものともしないかのように、革靴の音と──、




「…案の定。実に愚かな争いだな……」



────独壇場を切り開くかの声が、静寂を引き連れて響きだした。




 ──【残り00:08:01.351】──




「………なっ…!? おま……──…、」

「島田、俺は常々思うんだがな」

「あぁ…?!」



 突然の出現。誰ひとりとして喧噪に夢中で、その気配を察知できなかった。
怒号も罵声も掻き消え、まるでサイレント映画のように静まり返る。──いや、三人を静まらせる力を持つその声。

靴の音が徐々に徐々に、一定のリズムでこちらへと近づいていく中。シルエットの主は淡々と、三人の内の一人、島田に向かって演説口調を発する。



「裁判、スポーツ、家督争い…なんだっていい。──」

「──結局、争い…すなわちバトルってのは『ジャッジマン《公平な第三者》』がいて、初めて成り立つと思っている」



「……え?」 「……………っ」



「そう考えるとだ。この『バトル・ロワイヤル』ってやつは、つくづくお粗末な構造をしていると思わないか?──」

「──なにせ審判《ジャッジマン》もなし。ルールも無用。勝手に始まり、勝手に命を奪い合って、勝手に結論が付く。…『バトル』の定義としては最低のフォーマットじゃないか。…公平性も何もない…。審判がいる分、小学校の球技大会のよっぽど秩序があるだろう」



 コツコツ、コツコツ────。

まるで機械仕掛けの秒針のように響く一つの足音。
佐衛門も島田もサヤも、誰彼もが虚を突かれ、氷と化したこの場で唯一響く音。

ビルの内壁に反射する光も、路面に焼きつく熱も、どこか白んで見える。
それは暑さのせいではなかった。彼が近づくにつれ、空間そのものの輪郭がぼやけていく。



「さて──唐突に割り込む形になってしまったが…、島田。あとそれから……君たちにも一つ俺から提案がある。──」

「──というよりも、…サヤ…だったか。そこの君に任せたいことがあるんだが。…いいか?」


「えっ!?」 「…な……っ?!──」


「──…な、なに……?」



光が邪魔で、なおも顔の判別もつかぬその男の白い輪郭が名指しするは、突飛にもサヤの名。
その口ぶりから察するに、彼は島田と佐衛門の膠着を、初めからどこかで見届けていたのだろう。
にもかかわらず、あえて直接の当事者ではないサヤを指名したことに、誰もが小さな違和感を覚えた。

なぜ彼女なのか。

というより何を言い出したいのか。奴は。

806『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:59:34 ID:TQm/ytFw0
島田。佐衛門。
敵味方関係なく、かの男の存在感に身動き一つ取れなくなるこの空間にて。



窓を通り過ぎた折、やっとその姿をはっきり確認できた謎の男は。

──いや。




────『白銀御行』は。





「案ずるな。簡単な事さ、サヤ」

「…だから……なにって…──…、」




「君に是非『ジャッジマン』をしてもらおうと俺は思う。──島田虎信を始末すべきか、まずは話し合うべきか。──」


「──この場の命運をサヤに預けようじゃないか」





「…えっ、え?──」

「──え、え、え、え、──」


「──えっ!???!」



「「…………え」」





────比較的まだ若いサヤへ、白羽の矢をたてた理由について説明しだした。





「な、え、…は? な、なな、なんで………。急にアタシ………?!」

「道理も筋も『なんで』もあったものか。…まぁ強いて理由づけるとするなら、予行練習と思って審判を担えばいいさ」

「…な、何のっ?!」


「…『裁判員制度』の…かっ………?!」

「…ん。──」


サヤを弁護立てるかのように、佐衛門が割って出る。


「──御名答だ、サングラス男。…選択ってのは、往々にしてある日唐突に突きつけられるもの。国がそうやって制度《裁判員制度》として決めているんだ。ならちょうど良い機会だろう?──」

「──それに、現状この場で一番ジャッジメントに相応しいのは紛れもなくサヤ。君のみだからな」


「え……………」

「御行…………っ、お前……………」



 何を言い出すのか見当もつかない。
佐衛門の視点からすれば、突如現れたこの男の『提案』は、思考回路を乱す渦でしかなかった。

ただ、理には適っている。
冷静に考えれば確かに理には適っている提案とはいえよう。
なにせ、喧噪下にいた三人のうち、対峙の真っただ中にいる島田と佐衛門では、どれほど言葉を重ねたところで歩み寄りは期待できない。
そうなれば、必然的に残る選択肢は一つ。佐衛門の味方と認識されているサヤの判断こそが、唯一この場を収める鍵となる。

確かに、論理としては美しい。納得はいく『裁判員制度』。
無駄のない理ではあった。

807『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:59:49 ID:TQm/ytFw0
──もっとも、サヤの立場からしたらそんな『理』など理不尽極まりないものであるのだが。


「…え、え…え………………、」

「俺としてもこんな不毛な応酬に時間を割く余裕はない。できれば、速やかに判断を下してほしいものだ」

「え?! …いや……ちょっと…………まってよ…」

「悪いな、俺的にはもう十分なくらいに待ったつもりだ」

「はぁっ?!!」


焦るサヤに、迫る白銀。
この理不尽を突きつけてきた諸悪の根源は、なおも忌憚なくサヤに言葉を続けてくる。




「選択肢は二つに一つ。シンプルだろう?──」


「──『殺すか』、それとも『生かすか』──」


「──さあ、判定の時だ。サヤ」




「…い、いや……、ちょ、ちょっと……。なんなわけ…──…、」

「──…あっ……」


そして気がつけば、佐衛門と島田の視線は、ただ一人──サヤへと静かに集束していた。
まるで世界の焦点が定められたかのように、二対の眼差しが彼女を射抜く。



「……サヤさん………っ」

「………ィッ……」


「ぃ、ぁ………あの………………」



その緊迫を帯びた鋭い眼差しは、睨みつけるというよりも、捕らえて離さぬ鎖のようだった。
細身のサヤの全身を、冷たい光が絡みつき、ゆっくりと締めあげていく。
逃げたい──本能がそう叫ぶのに、足は一歩も動かず。
投げ出したい──心がそう嘆くのに、この沈黙の圧は容赦なく肩にのしかかる。
ただ、空気だけが異様に重く、時間だけが冷たく流れていた。


気が付けば、この場の空気は白銀御行一人に完全に支配されていた。



「え、え……。え。…え………」


「さあ早く」


「…ちょ、じ、焦らすなよっ?!!」

「断る。──」




「──さあ、早く……っ」



「…えっ………え、」



一秒ごとに重くなっていく、全身を押し潰さんばかりの圧。
視線、視線、視線──突き刺すような眼差しが脳髄を灼き、目眩が走る。
良く効いた空調など意味をなさず、汗は皮膚を濡らし続けていた。

わずか十六歳。
喫茶店の店主でしかない、ただの少女に、
そんな重圧に耐えきれるはずもなく。



「あ…………アタシは…………………………────」



彼女は唇を震わしながら、やっと。【ジャッジメント】を下した──。

808『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:00:02 ID:MBpdp8rs0


………
……


──Spotifyから流れるは、『逆転裁判3』BGMより。

『〜珈琲は闇色の薫り』
ttps://youtu.be/5uabvR-jCpE?si=I7AnnajviE8agHXJ


……
………



809『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:00:18 ID:MBpdp8rs0




 ──【残り00:01:08.110】──



「…蛇めっ………!!──」


「──選べるわけ無いだろう……、サヤさんが…『殺す』という…選択肢を………っ!!」

「…ま、つまりそこまで計算づくやったちゅうわけやろ。恐ろしいやっちゃで…。なぁ三四郎」

「…くっ…………。………」



 サックスジャズが響く、カウカウファイナンス三階──事務所内。
Spotifyから流れる落ち着きの音色に寄り添うように、珈琲の香ばしさが空間を満たしていく。

『サヤ自家製・特製コーヒー』──四人分。

互いの間にあった疑心暗鬼が解けた──とは、まだ到底言い難い。
それでも、わずかながら緊張は緩和され、──そして白銀にとっては、ようやく念願のカフェインにありつけた次第である。
一応のところ、事態は丸く収まりつつあった。


「ほいよ、ブラックコーヒー」

「……すまないな遠藤。──」


 ──ゴクっ


「──……ほう。これは中々…。酸味と苦味のバランスが秀逸。…美味いな」

「あーへへー…。あーごめん、なんかもう色々疲れすぎて褒められても嬉しく感じないや、ぶっちゃけ……」

「まさに『コピ・ルアク』のようなコーヒー。ここにありだよ」

「…あ? …は? …いやそれ…褒めてんのっ?! …遠回しに『糞』みたいなコーヒーつってない?!」

「……物は言いようさ」

「そこは否定しろよおいっ!!!」


 マグカップから広がる苦い湯気。
一番窓際のデスクにて朝日を浴びながら、パソコンを動かし珈琲を飲む。まるでモーニングタイムの理想郷。
当然ながら本家本元の高級品『コピ・ルアク』とは程遠いコーヒーではあるが、ほろ苦い薫りにつられて、白銀はふと回想をする。


二年の時、

あれは夏休み以前のことか、生徒会室にて。

藤原書記が『コピ・ルアクのです〜』と口走ったせいで、ついつい猫の排泄シーンを想像しながらとなった、珈琲タイム。
無論、生産工程はどうあれさすがは一等品といえる、珈琲の奥深い味、薫りであったが。

その味わいを、三人で。


──隣にいた“彼女”と、同じ味わいを分かち合いながら──カップを口に運ぶ、あの笑顔を──……、



「…………………ふっ…」


──いや、今は、よそうか。──と。
ここまでを区切りとして、白銀は意識を現在に引き戻す。
カップをデスクに置き、タイピングの再開を始めていった。



「………」 「………」



無論、白銀がパソコンを用いて為すことはただ一つ。
──『ウルトラアトミック作戦』準備の続きである。

810『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:00:33 ID:MBpdp8rs0
 ──【残り00:00:58.424】──


当作戦については、自己紹介の時間にすでに佐衛門ら二人へと説明済み。
ゆえに佐衛門は、白銀のパソコンを、まるで目の前に悪魔でも映し出されているかのような眼差しで、睨み続けていた。


「……白銀君…だったよなっ………? ………僕は是非ともキミに勧めたい場所があるよ…………」

「…………勧めたい場所、ですか。…当てても構いませんよね。──…『病院』と仰りたいのでは?」

「…流石だね………っ。──」


「──何が『ウルトラアトミック作戦』だっ…!? こんなの…ふざけている………。何もかもが内容が…滅茶苦茶だっ……!!!」

「…………三四郎……ゆうてそんなん……」

「なんだ島田さんっ……!? これ以外に策がないと…そう言いたいのか…………!?!」

「……………俺やて……。そんなん俺やって…──…、」


「インポッシブルだっ……!! 完全に狂っている……馬鹿すぎる計画だよ……っ!!!」

「ああ勿論自覚しています。バカの発想? その通り。正気の沙汰じゃない作戦なのは確かです。…ただ、俺は『バカと天才は紙一重』という言葉が嫌いじゃなくてね」



 ──【残り00:00:33.443】──


「…天才と言いたいのか……? 自分をっ………」

「…いえ。──」

「──ただ、バカと天才の違いについて分かりますか? …俺の持論を以て然るに、バカは思うだけで終わりますが、天才は行動に移す。…佐衛門さんもそう思いませんかね」


 ──【残り00:00:20.333】──


「………狂人の持論はあてにならないよ………っ」

「──ええ、アンタがそう思うなら自由にしてください。…まぁどう思おうにせよ、病院に行くべきは貴方ですよ佐衛門さん。──」

「──痛まないんですか? その右目」


「え、ちょっと白銀!! …それNGワードなんだけど…」 「…ぐっ………………。──」


 ──【残り00:00:08.133】──


「──…僕は、…間違った発言はしていないつもりだからな……………っ」


 ──【残り00:00:2.214】──


「…そうですか。なら俺とは対照的ですね。自分で言うのもナンですが、俺はこの作戦何もかもが過ちで、完全に間違いきってると思いますよ。──」





 ──【残り00:00:00.333】──




「──……なにせ、全ては一人の『女子』の為だけにあるんですから──────────」





 ──【残り00:00:00.001】──



 ────【Time up】────







 ボンッ──。

  ドッガガガガガガッガァァアオバァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ────



「わっ!!??」 「がっ……!?」


「な、なんやっ!??」

811『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:00:54 ID:MBpdp8rs0

 唐突な爆発音が、事務所の空気を裂いた。
建物が軋みを上げ、大きく揺れる。

思わず窓際へ駆け寄った島田と佐衛門の目に映ったのは、遠くのチェーン店が炎に包まれる光景。
──平穏を絵に描いたような国、日本。──その中でも最も華やぎと平和に満ちた街、渋谷。
その筈だというのに────爆風は届かずとも、炎の残響は胸中を焦がしていく。

恐らく対岸の火事。自分らを対象とした爆破攻撃でないのだろうが、サヤと佐衛門の眉間には汗が滲み、島田は歯を食いしばったまま視線を逸らさない。


「…んやねんッ………。おい………」

「え、え、どうすんのこれ…!? とりあえず……避難──…、」


その『バトル・ロワイヤル』の一破片が飛び交った瞬間。


「──あっ……!」


パッと。
一つ、また一つ。
照明が、パソコンのディスプレイが、何もかも。『電気』の灯りが消え失せて行く。

ふと窓の外に目を移せば、街の灯りまでもが、ポツリ、ポツリと断たれていくのが見えた。──爆発の余波による電気接触の不良。大規模停電であろう。
誰かの指でスイッチを切られるように、街の灯《ライムライト》が、続々と退場していく。

早朝とはいえ、まだ薄暗さ残る渋谷区/外苑西通りは気づけば明かり一つない状態。
文明開化以前の街並みが如く、暗闇に包まれた。この一瞬であった。



──この一瞬。


──この一瞬にて、最後の幕を下ろすが如く、また一つの明かりが消えて行く。



────『パソコン』が壊れたことが起因となり、



「………サ、サヤ。とりあえず落ち着けって……──…、」



「──って、あッ!!!」 「あっ!!」







「……………………つくづく、爆破尽くめだな。…今日の俺は」




────白銀御行の視界は、ゆっくりと暗転していった。────。



 バタリッ─────



「み…御行ィッ!!!!」



………
……


812『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:01:07 ID:MBpdp8rs0



 ピ…

 ──【残り00:00:03.000】──

アメリカ・マディソン郡の橋にて。


 ピ…

 ──【残り00:00:02.000】──


渋滞中であったことが不幸か幸か。
車内にて、赤いカウントダウンが人知れず泣きはらし。



 ピ…

 ──【残り00:00:01.000】──



 ピィーー……

 ──【残り00:00:00.000】──






 ────【Time up】────



──プルトニウム爆弾を積んでいたトラックが閃光と共に大爆破。

──その衝撃波により、周囲の車両は次々と吹き飛ばされ、近郊にあったトルーマン元大統領の墓すら無残に蹴散らかされる。



──前方車両に乗る、現地を視察していたアフガニスタン最高指導者は、光に包まれその生涯に終止符を打った。





────『ウルトラロマンティック作戦』は経過に連れ、後にこう改題されることとなる。



……
………

☩ EPISODE ##.𝟎𝟔𝟔 ☩

────『【Plan 𝓐】 - from 𝓐fghanistan』

☩────────☩




………
……


813『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:01:24 ID:MBpdp8rs0
【1日目/D6/東京ミッ●タウン周辺街/AM.05:00】
【白銀御行@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】疲労(大)、昏倒
【装備】アーミーナイフ@映画版かぐや様
【道具】猫耳@かぐや様
【思考】基本:【対主催】
1:四宮かぐや…。
2:ゲーム崩壊のプラン『ウルトラロマンティック作戦』を指揮。ゲームを崩壊させる。
3:島田、サヤ、佐衛門はとりあえずで引き入れている。

【島田虎信@善悪の屑】
【状態】頭部出血(軽)
【装備】なし
【道具】猫耳@かぐや様
【思考】基本:【対主催】
1:白銀の『策』を信じ、従う。
2:姫(四宮)……。ほんますまんッ……。
3:中年親父(黒崎)に復讐したい。…が、今は後回し。
4:三四郎、サヤと行動。ただ三四郎には嫌な感情しかない。

【佐衛門三郎二朗@中間管理録トネガワ】
【状態】右眼球切創、背中打撲(軽)
【装備】ヘルペスの改造銃@善悪の屑(外道の歌)
【道具】医療用●麻x5
【思考】基本:【静観】
1:サヤさんを守る。
2:白銀、島田は注視しつつも同行。
3:会長に激しい憎悪。
4:『ウルトラロマンティック作戦』に激しい嫌悪感。

【遠藤サヤ@だがしかし】
【状態】疲労(大)
【装備】あやみのヨーヨー@古見さん
【道具】フエラムネ10個入x50
【思考】基本:【静観】
1:佐衛門さん、白銀、島田さんと行動、そして互いに助け合う。
2:ジジイ(兵藤)を絶対許さない…っ。
3:ほたるちゃんを探したい。
4:とりあえずその作戦…ヤバくね……?

814『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:04:53 ID:MBpdp8rs0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①今回の話、意味不明だと思った方。正しいです。
②あえて説明不足で書いたので理解できなくて当然なのです。
③そして、融点とかアフガンについての描写がメチャクチャと思った方。正しいです。
④私は科学とか国勢に興味がないので適当に書きました。これもまた支離滅裂で当然なのです。

【次回。7月22日投下。】
──遠い、
──空をあの日。
──眺めていた。

『男の闘い』…西片、ガイル、サチ

815『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:19:57 ID:nieNARdc0
[登場人物]  西片、ガイル、美馬サチ

816『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:20:39 ID:nieNARdc0
「あはは〜、また私の勝ち。西片はほんと分かりやすいね〜」

「ぐ、ぐぬぬ〜……っ………………」


 …また、負けた……。

 入念に準備して…、恥もプライドも無くイカサマまで仕込んで…、泥水すする覚悟で勝つつもりだったのに………。
高木さんにまたゲームで敗れてしまった……。
……しかも負けた上にからかわれるというダブルパンチ………。なんて屈辱だ……っ!!
よくマンガで「負けたけど、清々しい気分だぜっ!」って、ライバルキャラが負けを認めて笑うシーンあるけど……。
…見習いたい……。…っていうより、オレも欲しいよ〜その心の余裕が〜〜!!!


「じゃ、そういうわけだからね。罰ゲームの覚悟、オーケー?」

「…え。え゙っ?! ほ、本当にやる気なの?! 高木さんっ?!!」

「ん? もしかしてそんなに怖かったの? デコピン」

「…いっ…!! …い、いや………。あ、あんまりに子供っぽい罰ゲームだからさぁ〜。『え? その程度でいいの?!』って思っちゃったんだよね〜オレ〜〜………」

「お〜流石は西片。じゃさっそくいくよ!」

「え?!! いやちょ、ちょっと!! タイムタイム!!!」


くそぉ……。
……高木さんめぇええええ……。
…いつの日か……きっと……。
──いや、オレは、いったいいつになったら……。


「タイムもなし、二言も認めません。『男に二言はねぇぜ…』って、西片の好きな西部映画でも言ってたでしょ?」

「なっ!!? なんで知ってるのそのセリフ?! 見たのっ!?」

「うん。クリント・イーストウッド、渋かったなぁ〜。昔の映画だけど面白かったよ」

「い、いやどうして興味惹かれたのっ?!」

「んーー。西片をからかう為ならなんでも履修の私だからかな〜」

「結局それに行き着いちゃうのかよ〜っ?!!」


……はぁ……。
オレは……。

オレはァ〜〜〜〜〜……………。


「じゃ、いくよ」

「…た、高木さーん…………」

「えいっ!──」


……高木さんにからかい、勝つことができるんだろう………。はあ〜あ〜ぁ……………。



「──…と、見せかけて脇腹にパンチ!! おりゃっ!」







 ────ズッッッバアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァンンンンッッッッッッ!!!!!!!

 ──バキバキバキバキバキバキゴキゴキゴキゴキッッッッッ──ミシミシミシミシギギギチギチギチィィィィィィイイイイイッッッッ




「ぐッがばぁああああああああぁぁぁぁッッッ!!!!!!!!!!???」



 …ご…ぁあ…ァァ……ッ………。

い、痛い゙っぃ………………ッ!!

脇腹を抉るように…めり込んでくる拳………ッ…。
腹肉とあばら骨が、ぐちゃぐちゃのミンチになって、…全身に震える波動が………走る……ッ。
い、息が……できない……ッ………!!
痛みのあまり……呼吸の仕方を思い出せ…ないぃ…ッ……………。

817『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:20:53 ID:nieNARdc0
「ゲホッ、ゴホッ……、た、タイム──…、」

「どうした、もう終わりか? 西片ッ」

「…あ、……うわぁッ!!!?!」



 ────ブンッッ


…わっ…!!
……そして間髪入れず飛んでくる……蹴り………ッ………!!!



…そうだ……。
そうだった………。

頭の上を星とヒヨコがグ〜ルグル………。──そんな混乱状態で忘れていたけど……、

オレ…………、今………。



「フンッ!!!」

「ぁっ──────!!!」



──…『ガイルさん』と……、ガチンコ死闘《Street Fight》をさせられてるんだった…………────。







episode 70
『男の闘い』
〜🅸🅽🆂🅴🆁🆃 ​ 🅲🅾🅸🅽〜





………
……


818『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:21:10 ID:nieNARdc0



い…いや………。

いや。いや……。



…ど、どうして………?



「はぁっ、はぁっ……っ。ひへぇ……、はぁ…っ…はぁ……っ。──」

「──ガ、ガイルさん……っ。ちょ、ちょっとだけ……話を──」



──ROUND【5】────


「──いっ?! も、もう始まるのっ?!!」

「…ッ!!!──」


────FIGHT!!


「──ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──【ソニックブーム】(←ため→+P)
──[腕を交差させて放つ、真空の刃──音を置き去りにするような超速飛び道具。]


「う、うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!──」



なんで………?

どうして…?



「──はぁ…はぁ……。ひぃいいいいいいっっっ!!!」

「逃げるな西片ッ!! ファネッフー!! …──フンッッ!!!」

「うわっ!!!?」


──BUUUNッ!! BANッ!!
──【しゃがみ蹴り】(↓+K)
──[太い脚から繰り出される強烈なローキック。ガイルの圧倒的な体格から生まれる長いリーチが特徴]


「うわぁああああぁぁぁああああああああああ!!!!!」


も、もう……っ。
わけが……、わからない……っ……。


「何度でも言うぞッ…!! …避けるなッ! そして逃げるなッ!! …逃げるな卑怯者ォッッ!!!」


──BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!!
──【ソニックブーム】


「ひ、ひぃいぃぃいいいいいッッ!!! うわあああああああッッッ!!!!」

「…クッ。…西片よ……勝負においてだ」

「え?!」

「逃げて、何が得られる……ッ!? 攻撃を受けずして、何を学ぶというのだ……ッ!! …仮にこれが俺が狼で、貴様が野ウサギだったなら。…逃げることも戦術と呼べたであろう……」

「ひぃ、ひっ……! はぁ、はぁ……」

「だが、俺は貴様を、そんな純粋無垢な小動物だとは思っていないッ!! これは……貴様と俺……餓狼同士の対等な闘いだッ!!!」

「ひい?! ぃいぃいいいいいいいいいわぁああああああああ!!!!!」


「ゆえに、無抵抗を装った逃げなど、断じて許さぬッ!!!! ──フゥンッッ!!!」

819『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:21:26 ID:nieNARdc0
「えっ!!? ぁぁあ!!…──」


──…GASHIッ!!
──投げ技【ジュードースルー】…(→+中P)
[背負い投げに近い技。“柔よく剛を制す”の一手。]
[威力は高くないが、間合いを整えるにはうってつけだ。]



──BANNNッッッ………






はぁ、はぁ……っ。
……はぁ…………。


──……ど、どうして…………………?


オレとガイルさんは……。

────闘わなきゃならないんだっ…………………?!



しょ、初対面だったとはいえ………。
さっきまで、なんとなく仲良さげな…空気だったのに…………。
肩がぶつかったとか、誤解とか、そういう喧嘩のきっかけもなかった……。
ほんとに、なにも……なかったはずなんだ……。

つまり……
オレたちの間には、恨みも怒りも──0。

ついさっきまではそうだった…。
…少なくとも、オレがお腹壊して…トイレ行くまでは…そうだったはずだ…………。

それまでは優しくて、そして頼もしかった…ガイルさん…。
正直オレはバトル・ロワイアルが怖かったし…心もちょっぴり屈していたけども……、
美馬先輩と、…そしてガイルさんとなら……。希望の道を開けるんじゃないか…って……。

……そう思っていたのに………………。


「──ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──BUUUNッ!! BUUUNッ!!
──【ソニックブーム】


「う、うわぁっ!!!!」




────…トイレに行くとき……どんな逆鱗が踏まさったというんだ……っ????



「はぁはぁ……………」


「………………ッ……」





 ……まずい……。

いや本当にまずすぎるっ………!!


『残りカウント』は…たぶん五十秒くらい……。
…長いようで短いとはこのことだっ……!!体は今すぐ終わってほしいと悲鳴をあげてるけど、頭のほうは、もうちょっとだけ考える時間がほしいと訴えている……。

とにかくまずいから……──次の『インターバルタイム』までに…ガイルさんの説得方法を考えつかないと………!!

はぁはぁ………。
考えろ、オレ……!
…なにを考えるって、そりゃもちろん、……何故『今闘わされているのか』について………!
キッカケとなった、トイレ中の『空白の五分間』に何があったかについて考えるんだ………!!

820『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:21:41 ID:nieNARdc0
「サマーソルトキッィィクッッ!!!!」

──BUNNNッッッ………

「うわ!? あ、あぶな〜!!!」

「……クッ!! 逃げ足だけは野ウサギ並みか……。まったく、男の風上にも置けんッ…!!」



 ……もちろん、逃げながら……──考えるんだ、オレぇぇっ!!!

 …たったの五分程度……。
トイレから戻った瞬間、鬼みたいな形相で待ち構えていて、気付いた時にはヘッドロックされて…バトルを挑まれるという………。
兄貴分のような存在だったガイルさんが…なんで豹変したのか………オレにはさっぱり分からないよっ!!?

……いや待てよ…?!
も、もしや……。オレの…その……『トイレの音』があまりにも爆音で、不愉快だったから……とか…。そういう理由…なのかっ………?
……そんな、理由で……?
ここまでの殺意MAXに…っ!?


「ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!!
──【ソニックブーム】


「わ、わぁああああああああああああああっっ!!!!!」



 ──って、違う!! そんなくだらない理由なわけがあるかっ!!!
お、オレだって、美馬先輩の前だからめちゃくちゃ気を使って用は済ませたし……。
ていうか音が漏れるはずなんてないしっ……!! そんな理由は絶対にあり得ない…。
……いやいや、そもそも理由がどうこうじゃなくてっ……!! そうだ、仮に音がちょっとでも聞こえてたとしても……!!

──あんなにナイスガイだったガイルさんが…そんなちっちゃいことでキレるわけがないだろっ……。

…そりゃたしかに、ガイルさんとはこの場が初対面……。
この人について、分からないことや得体の知れない部分なんてまだまだ山程あるさ………。

なんで、アメリカ人なのに日本語そんなに上手いの?!──とか。
あの筋肉と格闘術、どういう人生送ったらそうなるんだ!?──とか。


「──ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──BUUUNッ!! BUUUNッ!!
──【ソニックブーム】


……その『ふぉねっふー』ってのはなに?!! ──
手からグルグルと火みたいなの出てるけど、アレなに!? 武器!? 魔法!!?──
無限に繰り出してきてるけどなんの武器を使ってるの?! ガイルさん、あなたは本当に人間なんですか!?? ──とか……。

…あぁ、そうだ……。
信じられない技といったらこの……、


「…クソッ……。──このッッ!!!」

──GUIッッ

「え。──お、おわっ!??」


「──フンッッッ!!!!」

──BAANッッッ!!!!
──【真空投げ】…←タメ→+強K→中K0同時押し。
[『無』を掴んで投げると、掴まれてもない相手がなぜか吹っ飛ぶ。]
[距離なんか関係なし。……もはや、バグとしか言いようがない『ガイル専用チート技』]


 ──バンッッ

「ぐっはぁああっ……!!!!!」


…どれだけ離れていようが、触れられてもないのに宙へ投げ飛ばされていく……、
「合気道か?!」とか「超能力か!?」って突っ込みたくなるくらいの、意味不明な投げ技も……──。

──質問したくてしたくて仕方ない……。
とにかくただ者じゃないことは確かな格闘家、それがガイルさんだ……。


 …だけど……、
それでも、…ガイルさんだってオレや美馬先輩のことは詳しく分かっていない……そんな中でもっ………!!!

821『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:21:56 ID:nieNARdc0
オレたちはさっきまでのコメダで……和気あいあいと食事を楽しんで…………、
お互いの確かな『心』を分かりあえたはず………!! オレとガイルさんは信頼関係にあったはずっ…………!!
ガイルさんが…この地獄みたいなゲームに巻き込まれた中でも、誰よりも立派で、優しい『男』だってことを──少なくとも、オレは分かってたはずなんだっ………!!!

それだというのに……。
一体、なにが…。
なにがきっかけで…こんな……ことに…………。

オレはガイルさんと闘いたくないのにっ………!!


「──フンッッッ!!!!」

──BAANッッッ!!!!
──【真空投げ】


「ぐえっ!!! …ま、……また…………?」


…まぁ闘うって言っても、実際はただの一方的なボコボコタイムだけどさ…………。
う、ぐぅぅ……! あたま、痛い……っ!!


「……はぁっ、はぁっ、……っはぁ……」



……あれ?
……いや、待てよ……!?
投げられて、頭をゴンッてぶつけたその瞬間──ふと、ひとつの疑念が……脳裏によぎった……。


──“…だけど……。”
──“ガイルさんだってオレや美馬先輩のことは詳しく分かっていない……。”


──“オレや『美馬先輩』のことは……”


「──っ……!!」


 ……あの時、店内にいたのはオレを含めて三人…。
ガイルさんと、美馬先輩とで三人だった………。

もちろん、これからする考察には……なんの証拠もない。言ってしまえば、ただの憶測。……いや、悪意ある邪推とすら言えるよ……。
──だけども、……可能性はそこに賭けても良いくらいだ……………。

…オレもバカじゃない。
前々からずっと、『彼女』はオレに、なーんだかイヤな視線を注いでいたことは…気付いていたけど………──もしかして。


「…『また』、か。真空投げが気に食わんと言うなら仕方ない。俺の肉体で味合わすのみだッ!!! ──フンッ!!!!」

──BANッ!!
──【しゃがみ蹴り】


「わ、わわわ、わっ!!!?」



これは…これは──全部……美馬先輩の仕組んだこと…………!?
オレを亡き者にする為、…彼女が…ガイルさんにウソを吹き込んだんじゃないのかっ…………?


…………………………。


……い、いやいやっ!? なに考えてんだオレっ!?
それって、あんまりにも……最低な妄想じゃないか……っ!! 美馬先輩からしたら「は?」ってレベルの冤罪だぞっ!?
初めて出会った時、美馬先輩は言ってくれたんだろ!
オレに、「私を助けて。信頼して」……って……!!
……くっ、それだというのに……。せっかく出会えた信頼する先輩へ……なんて酷いことを考えていたんだ…オレは。
…疲れているのか?! オレは……っ!!


「ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──BUUUNッ!! BUUUNッ!!
──【ソニックブーム】


「うわ!! ──ひぃっ!! ──ぐっああっ!? いっ……たあぁ……っ!!」

822『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:22:12 ID:nieNARdc0
 ──…いや、そりゃ、疲れてるよな。……オレ………。

 雨のように絶え間なく降ってくる攻撃に、避けようのない未知の技《真空投げ》……。
ここまで長時間避け続けてきたけど…あいにくオレは全てをかわすほどの超人なんかじゃない……。それができるんなら高木さんにここまでからかわれてないよ…………っ。
顔も体も……もう何発喰らったか分かんないくらい、ボコボコ……。
打撲って言葉の辞書が身体中に刻まれてるレベルだ……。
身体は歩くだけで軋むように痛むし、顔の違和感なんかスゴイ…。多分、目とかお手本のように腫れ上がっていると思う……。

おまけに今は真夏……。よりにもよって全く空調がない炎天下、外での闘い……。
ミンミンゼミの声援なんか励みにならない……どころか、イライラブーストにしかならなくっ……!

オレは…もう膝をつくほど………、
限界だった………………。



『──K.O.』

「あ…」 「くッ…!!──」



『────Time Over』

「──ここまで…かッ」



……これで、五回目のKO。
毎回聞こえてくる、どこかからの野太い声が……まるでゲームのアナウンスみたいに、休憩時間を告げてくる……。
…ガイルさんは戦闘態勢を立てた時、必ず、『Round 1,──FIGHT』との声が遠くから響いて、…そして九十九秒が経ったと同時に、この『K.O.(以下略)』が響くんだ……。
…インターバルタイムは、およそ二分ほど……。
そのあいだ、ガイルさんはほとんど動かない……。
唯一することといえば、乱れた髪をクシで整えるぐらいで……まるで銅像みたいに直立不動だ……。


「はぁはぁ…はぁはぁっ………! はぁ、はぁ……」

「………ぐうッ…」


あの声の主は誰で……どこにいるのか……。
そもそも、なんでガイルさんはその声に従ってるのか………。
…オレには全くさっぱりだけども……。(そのサッパリさをこの重苦しい身体中に分け与えてほしいくらいだっ……!!)

ともかく、オレはこの時を…。
インターバルタイム──休憩時間だけをずっと待って……。とにかく逃げ続けてきた………!!
戦闘中は全く聞く耳を持ってくれないガイルさんも、この時間だけは拳を止めてくれる…。
会話ができる…チャンスの時間なんだ……っ!

一回目は「あの……」で終わって、
二回目は「ガイルさ……」って途切れて、
三回目は「が、ガイ……」止まりで、
四回目なんて「……しつ、質問……」が精一杯。
疲れと痛みがひどすぎたせいで、まったく有効活用できなかったインターバルタイムだけども……っ。


分からないことは山積みな今………。オレは言葉の続きを………!!
オレは…ッ、疲弊する体にムチを打ってでも……──ガイルさんと話し合わなきゃならないんだッ────。


「……はぁ、はぁ…………。ぐッ、…美馬先輩…ですよね……ガイルさんっ………」

「………なんだ、西片」


これから話すことは……
自分でもヒドいって分かってる。……最低の勘違いかもしれない。
でも……もうそれしか、思いつかないんだ……。
今は……とにかく、ぶつけるしかない……っ!!


「も、もしかして……っ……。はぁ、はぁっ……ゴホッ! ゴホッ……っ。──」
「──……『西片を殺せ』って……そう……言われたんじゃ、ないですか……ガイル、さん……っ」

「…聞こえていたか」

「……っ!! …く、くそっ………………。はぁっ……はぁ……っ……──」


『聞こえていたか』って……それ、本当だったのか……!?
美馬先輩が……っ……!!
そんなっ……!? くそっ……ぐうぅっ……!!!


「──美馬先輩に……なに…言われたか…分かりません…けど……………、オレを…信じてくださいっ!!!! …あの人の話は、全てウソなんです…!!!」

「…なに」

「そ、そりゃ…あの人が何企んでるかとか…嘘ついてる証拠とか……オレ…頭悪いんで分からないし…説明できませんよ………っ。──」

823『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:22:28 ID:nieNARdc0
「──で、でもッ…ここまで、5Rも闘ってきて…分からないですかッ!?! オレが……そんなに殺されるほどの人間じゃないって……!! 誰かに恨まれるような奴じゃないってことを……ッ!!──」

「──…ってそんなの自分で言うのも、色んな意味でナンセンスですが……。…でも…と、とにかくッ!!!──」


「──オレを……信じてくださいッ!!! 本当に……お願いしますっ……!!」

「……」


「ガイルさんッ………!!!!」



…息があがって、肺が潰れそうになってるのを思い出したのは言い終えたこのときだった……。
『過労死』って死因、授業でつい最近習ったけど……。次の6R目の頃には……多分オレはそれで死ぬ感じだと思う……っ。

インターバルは、たった二分しかない……。
もうあと残り何分残ってるかなんて分からないけど…………それでも、今だけは……!!
ガイルさんが拳を止めてくれてる、この一瞬に……。
オレはこの今に人生の全てを賭けたんだッ………!!


「……………。──」


…何を考えてるか分からない表情で対面し続けるガイルさん…………。

お願いだ……!
聞いてくれ……! 分かってくれ……!! 頼むからッ……!!!

オレの心が通じてくれ………ッ!!!


オレの声が……この心が……届いてくれ……ッ……!!!
オレは……オレは、あなたのことを……。
──強くて、カッコよくて……どこまでも真っすぐな、あなたのことを……。


「──…………。──」



もっと知りたいんだッ…………──────!!





「──…恥を知らんのなら…教えてやるッ!!!」




「…え………」



「…あれだけ彼女を苦しめ、辱め……ッ。それでいていざ自分がピンチとなれば…サチに全部の罪をなすりつけるとは………」


「えっ…」



「…なにが『ここまで5Rも闘ってきて分からないですか』…だ? 俺はもう十分分かったつもりだ。散々逃げ回り、休憩時間を悪用して御託を並べる……。──」


「──そんなお前の本性がッ……!!──」



…え。



「──恥を知れッ!!! 残り十五秒…このラウンドで終わらせるッ、西片ッッ!!!!!」



 …………………ッ…。

…失敗…………?

う、嘘だろ………!?

824『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:22:54 ID:nieNARdc0
…オレの心からの思いが……全く伝わっていない……!
それどころか、余計火に油を注いだ結果……。
レギュラーもハイオクも軽も全て注ぎ入れたような………ガイルさんの……──鋭い殺意しか生まれていないっ………!?

こ、これって………『闘いにおいては話しても無駄』…という教訓の現れなのか………?!
いや……他の人だったら……説得できてたのか?
オレが口下手だから……ダメだっただけなのか……!?

残り休憩時間は九秒…、八秒…、七秒…………。
一秒ごとが異常なくらいに速すぎるっ…………!!
この短い時間で…オ、オレは………。
オレは一体どうすればいいんだ…っ!!?

か、考えろっ……。考えるんだ!! オレの脳みそ、さぼるんじゃない!! 働けぇぇぇっっ!!

そ、そうだ…!!
高木さんなら……。
あの人なら…同じシチュエーションの場合、どうしたかを考えてみよう!!
…いつもオレより一回りも先を行く……彼女なら、この緊迫した状況でどうしたか……………っ。

え、えーと……!! くそ、思い出せ……!
今までの高木さんとのやり取りを……全部……思い出すんだ……!!


高木さんなら、………高木さんならきっと………ッ。



きっと……………………ッ。


 ──五秒、四秒……、


「覚悟をするんだな、外道ッ………」

「いっ!!!」



 ………………………………ダメだ…っ。

なにも……、
…全くなにも思いつかない………………。

…くっ。
……ふふ……あはは……。
考えてみれば……当然か……。



彼女の思いを読み取れるなら……、

オレはここまで負け続けていないのだから、さ……………────。



……残り三秒が経過したとき────。


「…………」


────……すべてを諦めたオレは、不意に思い出した。
…そういえば、学ランの懐に『支給武器』──拳銃があったっけ、って。



……残り二秒が経過したとき────。


「…………高木……さん…」

「むっ…。──」


────気づいたら、もう手は懐に伸びてた。
弾は……入れてある。……撃てるかどうかは分からないけど、西部劇を何本も観てきたオレの勘がなぜかこう言ってた。
「──いける」って一言のみ。


「──なッ!!?! き、貴様ッ──…、」


「………」



……そして、残り一秒が経過しよう、そのとき────。


────もう、何もかもがどうでもよくなって。
………オレは、銃をガイルさんへ向けた。


「……………。オレだって……ッ」

「っ……に、西片……ッ……」

825『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:23:11 ID:nieNARdc0
……さっき、『高木さんならどうしたんだろう』とか頭一杯に考えていたけど……、…オレはそのことを後悔したよ………。

オレだって、…ガイルさんからした美馬先輩のように…守りたい人がいるんだよッ。
オレだって…ただ殴られて蹴られて掴まれて…そして殺されるわけにはいかないんだッ。


「……………っぅ!!!」


………卑怯極まりないし、…本当は撃ちたくない相手だけど、…もう仕方ない……。



「…西片アァァッ──…、」




────この闘いに勝つには、これしかないんだッ…………!!!






 “…あははー。顔赤いよー。”



 “…じゃ、また明日ね。交換日記忘れないでね?”



 “じゃあね、────西片!”







「………高木さん……」




残り0秒が経過。
『ROUND 6』の声が響いた、その瞬間……オレは────。



 カラン──……カラ……カラカラ……

 ……コン……。



「……なッ。………に、西片…………?」


「…………」




────銃を……遠くへ。思いきり放り投げた。

826『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:23:26 ID:nieNARdc0
「…な、…。──」


「──なんの真似だッ……西片………」

「………当たり前だろっ…」

「なに…!?」


…顔ギリギリのところで、ピタリと止まるガイルさんの拳。
視界を覆うその拳の向こうでも分かる、…その面を食らった表情。


「これをやっちゃ…おしまいなんだよッ…」

「……西片、何が………」

「オレはこのバトル……殺し『抜き』の、ぶつかり合いでやりたいって言いたいんだッ!!!!」

「…っ!!!」



…一瞬ではあったけども、その驚きの表情のガイルさん。
──さっきまで見せていた怒り一色の顔とは対象的な、…憤怒のない顔に。
オレはガイルさんの顔に憧れ、仲間意識を持っていた。

…穏やかな顔つきのガイルさんが『好き』でいたんだ。


「大人はみんな『争いは話し合いで』とか言うけどさ……そんなのは違うッ!!! 男なら…男なら己の力を見せ合い、ぶつかり合いッ、そして互いを鼓舞してこそ、初めて分かり合えるんだッ!!!──」

「──そうだろ!! そうだよなガイルさん!!!」

「…………」


「…だったら分からせるまでだ…!! オレの思いを、本当の気持ちを全て……、分かり切るまでバトル…闘ってやる…!!! 拳で、届けるんだッ!!!」



…そして、オレは…。
────もしかしたら、高木さんの…。彼女のこと『も』…、また…………。


……いや、これ以上は言わないでおくか。…小っ恥ずかしいし。



 まぁ、いいや……。
とにかくオレは、あの二つの笑顔を……オレが好きなその笑顔たちを……取り戻し………、


守るため……………っ!!!




「…西片、急に敬語をやめたな。その意思は何が理由だ?」



オレは遠く転がる銃を一目して、ガイルさんへを真っすぐ見据えた───。



「……これで、立場は『対等』だよな………ッ」


「……フっ。……面白い、ならば見せてもらおうじゃないか……。貴様の…『思い』やらを…ッ!!──」




「──確かみさせてみろッッッ!!!! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!!!!!!」


「ッ!!!!!!」

827『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:23:37 ID:nieNARdc0


──【FIGHT】────ッッ!!!!


828『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:23:54 ID:nieNARdc0
「──フンッ!!!!!!」

──POWッ!!!


 至近距離…ともあって想定はしていたけど、ガイルさんが我先に繰り出したのは『しゃがみ蹴り』…!!
分かっていても打てない変化球みたいに、スッと伸びてくるその脚をかわすことできずッ…、


「ぐうッ!!」


オレはもろに食らって滑るように後退りさせられた……ッ。
…ぐ…痛いッ…これ絶対、ヒビ入ってるやつ………ッ!!
正直痛みでもう叫びたいくらい…本気の一撃だっ……。

だが……痛みなんかに……。
そうさ…!! たかが痛みなんかに、オレの両足は屈してたまるものかッ!!!

地面をつかむようにして踏ん張って──必死で、立ち上がってみせた……ッ!!


「ぐううッッッ!!!」

「むっ!! …く、西片………。…行くぞッ!!──」


…ガイルさんの次なる攻撃ッ………。
『行くぞ』の声を込められた、その乱発攻撃も……オレは想像できた…!!


「ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!!


「…来たッッ!!!」


 巣箱を開けた途端のハトの群れみたいに……ッ、一斉に飛び出してくる『ふぁねっふーファイアー』……!!
かわせるものならかわしてみろ、と言いたいみたいに……上下左右から隙間なく飛んでくる回転軸は、脳内による避けルートの構成を阻止してくる……ッ!!
…考える暇もなかった…ッ。
一発、また一発ッ……!! 遠慮も容赦もゼロのファイアーが、顔に、胸に、腹に突っ込んできて…ッ!!
歯が飛んで、血がにじんで、唾液まで巻き散らかして…オレの体が、空中でバラけそうになる………ッ!


「…がアッ!!! ぐうッ!!! イッ!!!!」


欠けた歯の違和感が、神経を直接殴ってくる…ッ。
パンパンに腫れ上がった右目から溢れる、嫌な液体が染みて苦しかった…ッ。

だけど、考えろッ! 思い出せオレッ!!
──……このくらいの痛みッ……あのガイルさんの『拳』に比べりゃ、まだ軽い部類だッ!!!


…ギリギリ耐えられるとなればッ…!!!



「この…このッ!!!!」


 ────PANッ!!!!!



「な、なんだとッ!!?」


────オレは両腕をクロスさせて…、胴体や顔の前に重ねる…ッ。
ファイアーの直撃は上腕筋に任せ、胴体や顔への直撃を防ぐ…──いわば『ガード』ッッ!!!
…勿論、腕の悲鳴は甲高かったけど、…肉体全身へのダメージは防げるから、まだ戦闘への残り体力は温存できる………ッ!!

正直、型なんてなってないし、我流そのものだ。
けど、オレは今──“ガイルさんのガード”を……自分の中に、確かに覚えたッ!!
ファネッフーを受け止める技術を……今、手に入れたんだッ!!!


「……に、西片………。お前は……ッ!! ─栄泉ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!!


「はぁっ……はぁっ……!! っ、はああッ……はぁっ……!!」


 …喋りながらもにじり寄ってくるガイルさん……っ。
そして間髪入れず生成されるフォネッフー……ッ。
…余裕なんかオレにはない…ッ!!!

考えろ、このコンマ一瞬でも頭に導き出すんだッ…!! 思い出すんだ!!
次なるガイルさんの攻撃手段……、今までのラウンドで見てきた…彼の戦法を……!!!

この戦いは……そう、ボクシングと将棋を同時にやってるようなもの…ッ!!!
体も頭も、止まってたら即アウトなんだよッ!!!

829『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:24:10 ID:nieNARdc0
「…クッ…西片…ッ!!!」

「……っ!!」


…!!
そうだ、そうだ……!!

これまでの闘いの軌跡──それはつまり、高木さんとの勝負にて…、オレは負けるたびに彼女からこう言われてきた……ッ!


“西片はクセがバレバレなんだよ”


────オレの敗因はいつも『クセ』…ッ。
単純なオレはいつもそのクセに気づかず高木さんに看過され玉砕していく……。
…本当になかなか曲者だよ、高木さんはッ………。

…つまり、
……どんな一流プロ野球選手…どんな首位打者でも打席前は己の『ルーティン』を成すもの……ッ。

…オレは見切ったぞ。
ガイルさんの次の技は……ッ、



「……ハァァァァァッッ!!!!!!!!」



───(←タメ→+強K→中K0同時押し)



──来るッ……!! あの『真空投げ』だッ!!
触れずに投げる……武道の極致…ッ!!
わずか一瞬……でも、出す前には必ず前後に一歩だけ踏む────『クセ』が…ッ!!
ガイルさんにはあるッ……!


「フンッッ!! ──…、」


──それはお見通しだッッ!!!


「喰らええええええええええええッッッッッッ!!!!」

「──なッ……!?」


投げ飛ばされたらもう手も足も出ないッ。
ならオレは、投げる前に──『投げ返す』までだッ!!!!


「オラァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!」


飛来してきたファネッフーを右手、左手でギッチリ挟み込み…掴むッ!!!

……ズルリと滑る、熱をもった刃…。
指の皮が裂け、掌の肉がえぐれ、血と火花が散る……!!
──でもそんなの、もう関係ないッッッッ!!!!
────痛みを雄叫びで発散して、オレはガイルさんへぶん投げたッ!!!



「ぐぁッ!!!」

──BAGYAAAANッ!!!


「…あっ!!」



…あ、当たった……。
…初めて……ガイルさんにダメージを与えた…………!
顔がフラついている……。めまいに堪えるように、その巨体が……揺れている……ッ!!
あの絶対的な存在に……オレの攻撃が、通じたんだ……ッ!!!


「…いや、違うッ……!! これはあくまでガイルさんの技………。オレが生み出した攻撃なんかじゃない……!!! オレの拳で、心で、ぶつけたわけじゃないッッ!!!」

「ぐうッ…。──」


「──はッ!!!?」

830『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:24:25 ID:nieNARdc0
…ああ、そうだッ……!!
もう6ラウンドも闘って……まだ、オレは“この人”に一歩も近づけていないッ!!!
オレ自身の拳を──この両手でつかんだ想いを……ッ、
まだ、ガイルさんに届けられてないんだッ!!!

だったら……行けるのは、今しかないッ!!!

……その巨人が、わずかに揺らいだ……今しかないんだッ!!!!!


「今しかないだろォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!!」

「──来るかッッッ!!!」


 …来るか、と言われてもオレには必殺技とか持ち合わせていないさっ…!! ガイルさんと違って…!
修行もなけりゃ、格闘術もない…。喧嘩ひとつしたことない、あいにく普通の中学生だからなッ……!!

そんなオレにできるのは、たった一つ。


“シンプルな、まっすぐな拳”だけだッ!!!!


──太陽に誓うように、拳を高く掲げるッ!
空さえも砕く覚悟で、振り下ろすッ!!!
ガイルさんに飛び掛かり…渾身の拳を重力のまま──叩き込むッッッ!!!!


「……クゥッ…!!! ──『サマーソルトキック』ッ!!!!!」

「ぃぎッ!!!」


…対して、ガイルさんはバク宙したかと思えばあの特徴的な長い脚で、オレを蹴りかかってくる…!!
サマーソルトキック…。……多分、ここまできて初めて投じられた隠し必殺技なんだろうッ………!!
無駄の動き一つないその回転蹴りはオレの胴目掛けて襲いかかってくる……ッ!! 避ける間なんて当然の如くなかった………ッ。


…だけど礼を言うよ、ガイルさんッ…!!


『先読み』……ッ!!
オレが拳の打点に向けるのは、アンタ自身に対してじゃないッ……。


──アンタが何かしら繰り出してくる攻撃──『拳か脚』狙いでオレは拳を突き出したんだッ!!


 ──GAKIIIIIIIIIIIIIIIINッッッ!!!!!


「ぐうッ!??」 「うッ…!!」


…分かるだろうッ?
打点を打点で受け止めることは…相殺ッ……!!
すなわち『ガード』になるのさッ…!!!

…身体はもうガードによる痛みに慣れてきた……ッ!!
この痛みを受け止めきれるほどの余裕がオレにはあるッ……!!

…アンタもその通りなはずだガイルさんッ!!
オレと違って百戦錬磨と語っていただろう? だから今更この打撃のぶつかり合いはどうってことないはず…ッ。



──だが、…『サマーソルトキック』を防いだオレの攻撃が……、──どうやらガイルさんには『想定外』のアクションだったらしく…ッ。



「な…俺の………サマーソルトキックが…まさかッ………」



 彼にはハッキリと『隙』が出来ていたッ…──!!!


…勝てる……自信はなかった。
……何もかも、これまでどんな勝負事も負け続けたオレが、ガイルさんを相手に成す術もないと思っていた…。

だから…オレはこの一瞬…。
ガイルさんに想いを打ち付ける可能性のある…勝機を見えたこの瞬間が………、…正直楽しくはあったッ!!
希望の光を掴みかけた…掴みかけではあるけど……その瞬間に歓びを感じたんだッ!!


ならば、…もう決着さッ!!

オレの…──ッ。
オレだけの…──ッ。
オレによる────勝利ッ!! このバトルに勝ってみせるんだッ…!!!

831『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:24:41 ID:nieNARdc0
隙だらけの身体へ、オレは叩き込むッ──。

お返しとばかりに…蹴りを大きく振り切って…叩き込むッ──!!!

怨みも、妬みも、マイナスな感情は一つもない魂の蹴りッ!!!


オレは、…生きてる実感を味わいつつ………、



「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!!!!!」


「なっ!!!!」



 ──BAKIIIIIIIIIIIIIIッッッ──…、



初めてガイルさんへ、一撃を投じていったッ──────。






 ──パシッ





「…え?」




「まだまだだな。モーションが大き過ぎる。格闘とは常に60fpsのハイスピードで生きる世界だ。西片。──」

832『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:24:57 ID:nieNARdc0

……え。
…あっさりと………。
…いとも簡単に……、片手一本で受け止められた…オレの………蹴り……………。


「──しかし案ずるな西片。お前の格闘発想は秀逸。特に感心した点は、ソニックブームを投げ返した点だな。…今まで闘った中で、その術を講じた者はいなかった」

「…え………っ」


「…そうだな……。このバトル・ロワイヤルが終わった暁に、リュウやザンギエフの奴にも教えるとしよう。──」



「──いや、『CAPCOM』に…か────。」



…ガイルさんの右手にて、
『青い瓶』が持たれていることに────この時気付いた。
その瓶をガイルさんは容赦することなく……、呆気にとられるオレの頭へスイング……………。



 ──バリンッ────

内容液の冷たさを感じるのを待たずして、オレは意識が闇へ落ちていった………………。


「…いっだ────…、」


………
……




「…くはない…………。え? ──『痛くない』………?」

833『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:25:12 ID:nieNARdc0



………
……



──…『青ポーション』…ですか?


────ああ。打撲、裂傷、軽度の骨折…。こいつを一瓶分かぶるだけで、どんな怪我でも癒える。…ただ蓋がなくてな、こうして割るしかなかったのだ。…『ゴールデンアックス』とは末恐ろしいゲームだ。…すまない。

──…ごーるでん…あっくす?

────…なんだ知らないのか? …ハルオなら目を輝かして飲み干すアイテムなのだがな……。

──えっ、の、飲むヤツなんですか!? それとも塗るタイプなんですか!?

────……塗り薬だ。言うまでもないだろう、ハルオはそういう男だ。
────俺の、心の友…………ハルオならな…………。

──…………はい。


────…西片、『ゲーム』は好きか?

──ゲ、ゲームですか……。いや、そりゃ……好きって言われりゃ、好きなんですけど……、
──………あ、いや。うーん……好きじゃない、かもです。いろんな意味で……。

────フッ。そうか……。


────俺はこれまで、世界中。中国、ブラジル、日本と、飛行機をまたにかけて戦い続けてきた。1991年、稼働以来何度も。何十度も。

──1991年……。

────相手は力士だったり、タイの格闘家だったり……中には人間ですらない存在もいた。
────そんな相手と、何度も何度も闘い続けて……そのたびに、思っていたことがある。
────「なぜ自分は、闘っているのか」ってな。

──……理由もなく…闘ってきたんですか…?

────いや。理由はある。
────俺たちが闘うことで……喜び、熱狂する者たちがいるからだ。

────画面越しに、レバーを握りしめる老若男女たちのために……な。


──………。



────…すまない、西片。

──い、いや! もういいんですってガイルさん!! こうして分かり合えたんだし、オレも、もうどこも痛くないんですから〜!!

────…違う。お前の怪我のことを詫びているんじゃない。

──え?

────お前の戦いぶりは、見事だった。
────心のこもった拳は、どんな必殺技よりも強い。
────あの魂のこもった一撃……興奮と、熱気……。
────まがい物じゃない、本物の“力”だったよ。

────そんなお前の真価を……6ラウンド目になるまで見抜けなかった。
────それどころか、卑怯だのなんだのと……お前にあらぬ暴言を吐いてしまったことを、悔いている。


────……すまない。……本当にすまない。

──………………。

834『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:25:28 ID:nieNARdc0
──…ふざけないでくださいよ……。謝って済む問題じゃありませんって……。

────…………。

──…そうですよねっ!! ガイルさん!!!!

────…………。


──…いくら謝ろうが……あの…『女』はっ…!!

────…っ!!


──仮に土下座されようが陳謝されようが……、許す気なんてありませんからっ……!

────………!!



──…少し用事…いいですか? 『『ヘリコプター』に乗る前に、ちょっとだけ。

────西片…!


──行きますよ、ガイルさん!



 ブロロロロ………

  ブロロロロ…………



【支給品解説】
【青ポーション@ゴールデンアックス(ハイスコアガール)】
【概要】
回復ポーション。
瓶を割って内用液に触れることで全治癒できる。


【アシストフィギュア No.02】
【タイガーヘリ@究極Tiger(ハイスコアガール) 召喚確認】
【概要】
ガイルのアシストフィギュア。
アーケードゲーム『究極タイガー(1987)』の自機。
軍用ヘリコプター。自我なし。ショット、ボンバーを撃てる。

835『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:25:46 ID:nieNARdc0



………
……



 アホのガイルの奴……。
あんだけ「即死でやってね?」って念押ししたのに肉弾戦やりやがったし……。
さっさと高木ロボの首やっちゃえよ。骨狙えよ。てゆーか、私が持たせたナイフ使えってーの。
……もう、いちいち注意するのもだるいし、なによりあいつ無駄にワチャワチャうるさいから、ブルートゥースのハメちゃったじゃん。ノイキャン全開で。
マジうっざ……。

──というわけで、私は決着(笑)がつくまでの間、『100%片想い』ってLINEマンガで暇をつぶす羽目になった。


「…はぁ………。なーんか…まこっちが勧める漫画って……ウザイのばっかな気がするわ………」


 はァ…………。
暇つぶしがてらに読んでみたけど……本気でこの漫画苦痛……。ページを捲るのさえ苦行だわ。
話は典型的なオタク大好きラブコメって感じで冷めるし。なにより登場人物が痛すぎて全く共感できないんだけど。
なにこれ?
主人公のキュン子ってやつ…、いつも彼氏みたいなやつと弁当食べてるけどさぁ。女子の友達とかいないわけ??
いちいちいちいち語尾が「〜だもん」とか「〜なの♡」とかで鳥肌立つし……、こいつの交友関係が気になってストーリーどころじゃなかったわ。
私的には五巻が精一杯。
これを全巻特に気にせず読める人って、ほんと悩みとか人間関係の不安がない幸せな人なんだろねー。小陽ちゃんがつるんでる二木みたいな。(笑)
マージ、うらやまって感じ?(笑)


ま、そんなマンガとの付き合いは二十分ほどで終了。
アホ達そろそろ殺し終えたかな〜だなんて、イヤホン取って、外の様子を見てきたらさぁ。



「サチ。妖怪腐れ外道にも劣るお前にはもう話すことなど皆無だがな。…二つ、答えてもらおうじゃないかッ…」

「…美馬先輩………ッ」


「…………はァ…」


『【新田】に気をつけろォオオ!!!!』って、どっかのバカがハッキリとその名前を叫び…、
んで、それをBGMにやたら睨みつけてくる筋肉バカとロボ……。
筋肉バカはいやらしく私の胸ぐら掴んできて…、さも「お前の悪事は全部見抜いたぞ」みたいに顔近づけてくる………──。


──この現状……。



…なにこれ。

…………いや最悪でしょ。

836『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:26:01 ID:nieNARdc0
「一つ目だ。何故仲間割れを先導した? もっとも理由が理由なら、俺もお前をまだ見捨てたりはせんがな──…、」

「はい、質問。なんで私を悪と決めつけんの?」


はぁ……。
あーもう…。
なーんかどうでもいいって感じ………。


「…なんだ? …話を遮るな──…、」

「いやだからなんで、私をそう悪者と決めつけてくるの? 今日会ったばかりなのにそう睨んで。なんなの? ねえ私を殺したいわけなの? サイコパスキャラ? わーカッコイイじゃーん」

「…おいサチッ…!! そんな話をしていないだろッ!! いいから聞け──…、」

「は? ちょっと待て。聞けって」

「……こいつ…」 「………」

「なんでさあ、そうやって私を一方的に加害者って決めつけるの? ねえなんで? なんでそう西片くんの肩を持つのか一回説明して? ……あ、いや、説明いらないわ。──」

「──まず謝ってよ、じゃないとその質問だかなんだかも聞く気失せるから。──」

「──ほんっと、そういうのムカつくんだって。ねぇ、なんで? なんで私を悪と決めつけるの?」


「………」 「…話にならん。──」

「──ならもういい。二つ目は『高木さん』という子の話だ。お前は何かその子について行方を──…、」

「あー知らな〜い。知らない知らない興味ないし〜。てかさ、謝らない癖に自分のしたい話はするわけ? 会話能力陰キャになってるじゃん。ガイルさん…大丈夫?」

「……。……言ったろう、西片。こいつと話すのは無駄な時間だと」

「………で、ですが……。…美馬先輩──…、」

「うわ怖っ。こわぁ〜……。急に話しかけられちゃったし…こっわ……。ねぇ西片くん絶対いじめられっ子でしょ? オーラからしてそういう感じ出過ぎだしぃ〜? ウケる〜〜(笑)」


「………行くぞ」

「…はい………」



「は?」



…もう。
なにこいつら…。

急に…なに? なんなの???

いや考えてみてよ。
片や陰キャでしょ? で、片やキモい筋トレオタクじゃん?
それだというのになんで? 何がどう繋がってコイツらはそんな「わかり合えました」みたいな展開なってんの?
どこにそんな共通点あったわけ? 意味不すぎてちょっと面白いわコイツら…。


そんなアホ二人は私を用済みと判断したら、不満そうにズカズカ背を向けだしていって……。
そのまま、どっから出したか分からないヘリコプターへと乗り込んで…。



 ──ブロロロロロロ………



「……………」



……飛んで行った。



────…私がマンガ読んでる間に…………なにがあったわけ…?

837『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:26:13 ID:nieNARdc0
【1日目/B5/上空→タイガーヘリ内部/AM.05:26】
【西片@からかい上手の高木さん】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:ガイルさんを熱くリスペクト。
2:高木さんを探したい。

【ガイル@HI SCORE GIRL】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】くし、ポーション瓶@ゴールデンアックス(ハイスコアガール)
【思考】基本:【対主催】
1:西片を育て上げ、主催者を倒す。
2:上空から『高木さん』を探す。
3:襲われている参加者・力なき者を助ける。
4:サチは屑……。見捨てる。
5:ハルオ…生きろよ……っ!


【コメ●珈琲店前】
【美馬サチ@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】唖然
【装備】なし
【道具】???
【思考】基本:【優勝狙い】
1:つかアイツら置いていきやがったし私の事………。
2:ボッチじゃん私……。……ウけるぅ…。

838 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:26:40 ID:nieNARdc0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①今回の話はからかい上手の高木さんの北条がアシストフィギュアで登場予定でした。
②北条が「何バカなことしてんの」的なこといって仲裁ENDみたいな。あまりに文章が長くなりすぎたため削りましたがね。
③それと今回チャレンジしてみて分かったのですが、私は致命的にバトルシーンを描く文才がないみたいです。
④そのため、平成漫画ロワは今後バトルはほぼしません。大体瞬殺で終わらせます。宣言です。


【次回。7月29日投下。】
──私の好きな人はみんな目の前でいなくなっていく。
──姿が消えるのはいつもいつも、私の方だというのに。

──もう、私を残さないで。


「日々は過ぎれど飯うまし」…飯沼、マルシル、山井、ひろし、海老名、マロ

839 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/28(月) 23:36:29 ID:ZsZDkn5w0
(トリこれ合ってるかな。ま、いいや)

お知らせです。
仕事の都合で、二、三日投下が遅れます。
大変申し訳ありません。

840『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:33:42 ID:kWrg7C0g0

[登場人物]  [[マルシル・ドナトー]]、[[飯沼]]、[[マロ]]、[[野原ひろし]]、[[海老名菜々]]、[[マロ]]、[[山井恋]]

---------------

841『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:34:03 ID:kWrg7C0g0

 ちいさい頃、父から読み聞かせられた一冊の絵本。
まるで子ガモが産まれて最初に見た相手を親と認識するように。
その絵本の内容は生涯、少女──マルシル・ドナトーの心に深く深く刻み込まれる事となる。



〜おうじょさまは、てきのしろにて かくれていました。〜
〜くらいへやの タンスのなかです。〜


「(……はぁっ、はぁっ……。)──」


「──(…お、落ち着いて……絶対大丈夫…。……私なら、大丈夫……っ……。)──」

「──(ウンディーネの挙動は予測済み……、対処法も……把握してる……。詠唱は可能……魔力も乱れてない……。……私は…大丈夫……。大丈夫…大丈夫……)──」


〜そとでは、みずの まものたちが「どこだ」「どこだ」と さがしていました。〜
〜がががー。がががー。〜
〜こうげき を やすむことなく、つづけながら。〜
〜おうじょさまは、ふるえながら、いきを のんで じっとしていました。〜


「(……大丈夫…っ…なんだからぁ…………っ!!)」



〜そのときです。〜


 ガガガガ────ッ


「がぁっ…!!!」

「……えっ?」



〜ふと タンスの すきまから のぞくと、そこに おうじさまが いました。〜



「……う………、嘘…でしょ……?」

「………」



〜おそらく、おうじょさま を たすけにきた、そのおうじさま。〜

〜かれは、みずの まものに おそわれて、うごかなくなっていたのでした……。〜



「……い、……いぃ……っ……!!──」



〜おうじさま、かれの なまえは──。〜



「────い、イイヌマっ!!!!」

842『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:34:18 ID:kWrg7C0g0



………
……


「はぁはぁ…………ッ! 『မင်္ဂလာပါ။ ကျွန်တော်』──────っ………!!!」

………
……


843『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:34:44 ID:kWrg7C0g0



 数刻ほど時を遡っての──回想。
マルシルが山井恋に襲撃され、ウンディーネが蠢く地雷地帯《廊下》へ飛び出した、その折。
彼女の望む王子様・飯沼は、ちょうど真下。六階1682号室にその身を置いていた。
行く先で出会った野原ひろし、海老名菜々の二人と共に、ウンディーネの攻撃から命からがら逃げ延びた彼。

マルシルが危機的状況に瀕している最中、彼は、
──というよりも三人は。
その一室で一体どのような行動に移していたかというと。



 ズルズルズル…────


「うまい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」

「(…うっま………)」

「このラーメン…うんめぇなぁ〜……!!」


「「(あ!! 秋田弁!!)」」



食事をしていた。




【本日のお品書き】
・エースコック クセになるもやしそば ピリ辛仕立ての味噌
・エースコック クセになるもやしそば 胡椒仕立ての塩
・マルちゃん 赤いきつね

カップ麺。以上三品。




──「人がこんな目にあってる時に…なに呑気に食ってんのじゃ!!」──。
──もしマルシルがこの場に居合わせたならそうツッコんだ行動ではあるが、一旦は置いておく──。


 ガガガガ────ッ、ガガガガ────ッ。
部屋の外にて、けたたましい殺意の狂騒が響く中、それでも気にせずして夜食を嗜むひろし一行。

停電はすれど、ホテルの非常用電気のお蔭で電気ポッドが利用できるとなれば、購買から持参したカップ麺に湯を注ぐ。
待ち時間、三分とは短し。されど空腹には酷な三分間。
この待ち時間の間、

「飯沼くんはスポーツしてたの?」→「…あ、いえ。特には……」→「ふーん(…してないのかよぉ〜…)」
「彼女はいるの?」→「いえ、特には…」→「そうなんだ〜(…う〜ん…)」
「出身は?」→「…東京ですね」→「………へー(…う〜む、会話が盛り上がらねぇ〜!!!)」

等々。
ひろしが飯沼との世代の違いで、会話に苦戦を強いられる中。
沈黙を切り裂くようにタイマーが鳴り響いた時、──いざ、食事。

844『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:35:02 ID:kWrg7C0g0
 飯沼が二重の意味でアツアツのお揚げを口に入れれば──、


「はふはふ…っ!! (…このお揚げ、久しぶりに食べたけど…うまいな………)」

「おっ! 飯沼くんはキツネ先に食べる派なのかぁ〜!!」

「…あ、はい。野原さんは最後まで残す派なんですか?」

「当たり前だぜ〜。好きな物は最後まで残す! 秋田県民は皆そーなんだからな!! な、海老名ちゃん!!」

「え……? あ、ごめんなさい! 私もきつねうどん食べるときは…先派…ですかね……!」

「えっ?!! が、がびぃ〜〜〜〜〜〜〜んっ!!!!」


──ひろしが大きく出た主語で玉砕され。

 もやし麺を啜るひろしが、散らばったラベル等を片付けようとすれば──、


「あ、野原さん。ここは僕が…」

「おっ、サンキューだぜ。──」

「──(気が利くなぁ。飯沼くんは若いのに立派だぜ……。…川口のやつなら絶対しね〜ってのによ!!!)」


──飯沼の気遣いに感心し。

 そして、飯沼の食べ顔。光悦で頬を紅くする、汗滴りしその表情に、海老名がふと気づけば──、


「…うまっ…」

「あっ!!! …〜〜〜〜〜〜っ!!!」

「ん? どうしたんだ海老名ちゃん」 「…?」

「あ、い…いえ!! なんでもありません…!!」


──海老名は顔を赤らめ、目を逸らす。


「(…い、言えないよぉ……。タイヘイさんに似てるから……飯沼さんのこと…惚れちゃった…って〜〜!!)」

「?」


────そんな、和気あいあいとした食事風景。



 ガガガガ────ッ、
ガガガガ────ッ。


 『水は油に強く、対して、水は油に弱い』。
──その言葉が示す通り。
ホテルのドアは一般的に、特殊な油(Neatsfoot oil)を塗っているため、ウンディーネがどれだけ鋭い水圧で攻撃をしようとも、完全鉄壁。
ウォーターカッターは油の壁に弾かれ、それ故にひろし等が被害を受ける可能性はゼロ。
自らドアを開かない限り安全地帯となっているのだが、それでもドア前にはウンディーネが二体。
完全包囲の証として、煩いほどに攻撃を続ける現状だ。

あははは、ハハハ!、と室内で咲き乱れる雑談の花。
その花咲く大地に立つ、壁の向こうでは旋律なる殺戮の戦場が繰り広げられている。
いわば──『BATTLE ROYALE』。
今はまだ対岸沿いの水圧カッター音は聞こえぬふりをするひろし等ではあるが。


彼らは如何にしてこの状況を乗り越えるというのか。

────いや、それ以前に。

何故、彼らはこの状況にして、まず飯を喰らうことを選んだというのか。

845『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:35:16 ID:kWrg7C0g0
きっかけは、ひろしの言葉だった。



 ズルズル…

「ハハハ。『窮地に立たば、まず敵を見定めよ。空腹に勝る敵なし』!!」

「…え?」

「あ、あの…どうしたんですかひろしさん! いきなり……」

「あ〜ごめんよ二人とも!! オレがさっき言ったセリフ…なんかカッコいいからもっかい言いたくなってな〜。いや〜悪いぜ」

「あぁ、ははは〜。そういうことでしたか〜」


「…やっぱり、焦った時は飯を食うに限る!! ……ラーメン食べたら、少しは冷静になれた気がした…ってのはオレだけか? 二人とも」


 ガガガガ────ッ、
ガガガガ────ッ。


「…………はい…!」 「……はい。──」


「──僕も、…正直さっきまで落ち着けなかったというか…。自分らしさを見失っていたので、……その通りだと思いますよ、野原さん……!」

「おう!! 飯沼くん!!」



 周知された言葉で言うならば『腹が減っては戦はできぬ』。──とは少し違うかもしれないが。
その精神の元、ひろしの提案でつかの間の食事を行った経緯となっている。
ウンディーネの刃に、少し前までは恐怖しか見出だせなかった三人。
泣き晴らす海老名に、震えが止まらない飯沼、そしてひろし自身も死の影に心を侵されそうになっていた。
そんな怯える三人の、共通点。
──好きな事となればすばり『食べること』。


ごくごく、ぷはっ。
スープまで完飲し、光悦の表情で顔を見合わせる三人。
そして三つの箸が、空のカップにほぼ同時に置かれた。


「……さて、飯沼くん。海老名ちゃん」



 *海老名にとっての『食』。
──それは、どこにいるかも分からない兄との架け橋。そして、何よりも一番幸せな時間だった。


「はい…!!」 「…野原さん……」


 *ひろしにとっての『食』。
──それは流儀。昼飯タイムという短い時間の中で、己のあり方、そしてビジネスの方向を決める、貴重で好きな時間だった。


「………オレの息子にしんのすけっているんだけどな〜。そいつは何か覚悟を決める時に、どこで知った言葉なのか分からないが…こう『決め台詞』を吐く。──…ってのを、さっき話したよな?」

「…しんのすけ…さんですね……!」 「野原…しんのすけ……くん…………」

「…悪いけど付き合わせてもらうぜ…!! すべては脱出…、そしてマルシルさん救出のために!!!」

「「!!!」」

846『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:35:30 ID:kWrg7C0g0

 そして、

 *飯沼にとっての、『食』────。


「…かすかべ防衛隊…ならぬ、しぶや防衛隊〜〜〜っ!!!」


「!!」 「…!」



それは────、



 ガガガガ────ッ、ガガガガ────ッ。
 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
  ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
   ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ




「ファイアアアアアアアアアアァァァ───────ッッ!!!!!!!!!」


「「ファ、ファイアあああああああぁぁぁぁあああ!!!!!!!!──」」




  ────バキィイッ



「────あっ」




────単純に、『好きな時間』だった。
 


 水と油──とはいえど。
ドアに薄く塗られただけの油では、高圧の水刃を完全に防ぎ切ることは叶わない。
漏れ出た『水』は、我先に飯沼に向かって。
津波の如く【絶命までの時間《タイムリミット》】が押し寄せてくる────。


「に、逃げろォオッッ!!! 飯沼く──…、」



──プツンッ




………
……


847『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:35:43 ID:kWrg7C0g0




 魔術詠唱────『မင်္ဂလာပါ။ ကျွန်တော်』。

人間《トールマン》の言語にすると、直訳で────『蘇生せよ』。


……

 “わっ!! え、なになに?!”

 “──ごめん…マルシル。私の魔力を少し分けてあげようと思って……”

 “やだもう…、人に分けるほど魔力ないんだからさ。ファリン…”

 “──…ううん。なんだか調子がいいの…!”

 “──力が湧いてくる…みたいな。…私、さっきまで死んでたのに、不思議……!!”

 “……で、でも……”


 “──ねぇマルシル。…よく思い出せなくてさ…、一体何が起きたのか…教えてくれる?”

……




 “──……あなたの名前は、イイヌマさん……だったよね?”

 「……え?」

 “──ふふっ、ごめんね。マルシルが何度も呼んでたから……覚えちゃって”


 “私は…マルシルが好きだった。お弁当を一緒に食べて、雲を眺めてさ……。好きな人と好きな事を共有する時間が、一番幸せだったんだ……”

 「……」

 “…お願いが一つ。いいかな、イイヌマさん”

 「…お願い………?」



 “────私の好きだったあの子の一口を、守ってあげて…。”


 「…………あの子…」


恐らく妹の夏花と同い年ぐらいだろうか。
無音な銀世界の中、見知らぬ少女は飯沼の両手をしっかり握り締める。


「…すみません。あなたは…一体…。──」


少女の手がふっと離れた、時。


「──……あっ」



飯沼の手中にて。
魔法のレシピ──『一枚のメモ』が握らされていた。



………
……


848『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:35:57 ID:kWrg7C0g0



 …ドクン…………ドクン…………………。

  ────ドクンっ。


「(………あっ…)」


 一波高鳴った鼓動の音で、飯沼は目を覚ます。
何があったかは覚えていない。周囲はひたすらに黒一色で、目を擦って凝らそうとし眼鏡をかけ直しても、闇は晴れなかった。
壁に背もたれをかけ鎮座する、暗闇の空間にて。
足を伸ばそうとすれば、対岸の壁にぶつかり真っ直ぐ伸ばし切れない。
仕方なく立ち上がろうとすれば天井に頭がぶつかる。そういった具合で、この非灯の空間がいかに狭いかを思い知らされる。

──まるで、棺桶のような箱に入れられたかのような、息詰まる狭さ。


「(……あぁ、そういうことか………)」


犬のような獣臭と黴臭さが鼻につくこの空間にて。飯沼は『自分は既に死んでいる』という結論に至った。
朧気な記憶を辿ると、水の塊からの逃走中。ひろし等と離れ離れになった末に、意識が途絶えたのだ。
──ガガガ──ッ、ガガガ──ッ、鼓膜を破るような爆音が最期の記憶で。
過去を整理し、現状を客観的に見れば、間違いなく『死』。
恐らく、今は葬儀中で自分は納棺でもされているのだろうと彼は実感していた。


「(…ふぅ……)」


ただ、死を前にしても特に慌てふためく様子がない点は、マイペースかつ冷静な彼らしい。
ありのまま死を受け入れた飯沼はゆっくりと。
思い残すことなく、再度眼を閉じていった。


「(…あれ。………待てよ……)」


──“ただ、そうだとするなら、何故『心臓』の音が聞こえたんだ”────?


 終焉した筈の身体にて、確かに聞こえ、──目を覚ました起因となる──自分の鼓動。
先ほどの音は空耳だったのか。なにかの幻聴なのか。
不思議に思い飯沼は、自分の胸へそっと手を当ててみる。

ゆったりとした動作で触れたその先に、

──ふんわりと柔らかな髪の感触。
──花のような匂い。


「…え?」


 暗闇に目が慣れ、徐々に明瞭さが増していく視界。
視界の良好さに比例して、不思議と体の力がどんどん漲っていくような気がした。

飯沼の胸へ顔を埋め、小さな体を震わしつつも、確かにギュっと抱きしめてくる。──その彼女。
必然的に、頭を飯沼に撫でられる形となったその彼女は、温かな掌の感触に。

涙は止まりを見せず、ただずっと、ずっと飯沼の体を離さなかった。


「……っ……ひっ……うぐ……っ……。よかっ……たぁ……っ。よかっ……たぁ……っ……!!」

「…………あなたは…もしかして…」

「ほんとに…っ、せ、成功して……生き返ってくれて……よかったんだからぁ……!! ……………うぅ…っ!──」



「──イ、イイヌマっ………!!!」


「…ま、マルシルさん……」

849『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:36:10 ID:kWrg7C0g0
再会────。
エルフとサラリーマン。不釣り合いで奇妙な関係の、再会。


「……あの…。すみませんマルシルさん。僕、よく覚えてなくて…。ここは一体──…、」


「──…ん? …あっ………」


はっ、はっ、はっ、はっ、と。
膝元の違和感に視線を落とせば、何処かで見たような大型犬。
犬がしっぽを振るい、ペロペロと人懐っこく飯沼のスーツを舐めだした折。


「(………………これは、いったい何があったんだろう…)」


今自分がいるこの場が───『タンスの中』である事に気が付いた。


──

□(事情説明中略)□

──

850『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:36:24 ID:kWrg7C0g0
「……はぁっ、はぁっ……聞いて驚かないでね…。私なりの考えなんだけどさ……。──このシブヤは、ただの街なんかじゃない…!! ……【ダンジョンの異界】なんだって!」

「……あ、はい」

「………え? リアクション…薄くない? ま、とにかく説明を聞いて!!」

「はい」


「普通なら、外での蘇生は成立しにくいでしょ? 身体と魂の結びつきが脆すぎて、死んだらすぐに離れていっちゃうから……。そこはまず分かるよね? イイヌマ」

「はあ」

「でもここでは蘇生が成立した……。あり得ない…ほんとにあり得ないことなんだけど……──この通り、私があなたを生き返りを成功できた………………」

「はあ」

「そう、ダンジョン内部は魂が留まりやすい…。だから体と魂を繋ぎ直す蘇生が可能になる、成功率が跳ね上がるの。……ね、理屈は分かるでしょ?」

「はあ」

「……でしょ!? …そう、外では熟練者じゃない限り成立しない蘇生が、ここでできたのだから……。──」



「──つまりシブヤは、ダンジョン以外の何物でもないって結論に至るわけ!! …そうじゃないと…説明がつかないんだから…!!」


「はあ。分かる気がします」



 勿論、嘘である。
東大生が幼稚園児相手に数学問題の講義するかのような。──全く意味の分からない力説ではあるものの、飯沼は黙ってマルシルの話を聞いていた。
ダンジョンが云々、魂が云々と。
何かのアニメかゲームの影響でそんなジョークを言っているのかと思っていたら、マルシルの顔は至って真剣。
どうやらマジな様子のマルシルに、飯沼は何を思うか。ひたすらに無難な相槌を打ち続けた。

ただ、おとぎ話の中に放り込まれたような奇妙な説法の中で、二つ。
飯沼でも理解ができた、『現実』。────認識させられた事実がある。
それは、彼女の説明曰くして、自分がウンディーネの攻撃で一旦は『死』に至ったこと。

そしてもう一つは、


「………はぁ、はぁ……そうなると、一つだけ……。…どう考えても説明がつかないことがあるよ……」

「……え、それは…?」

「……こんなに高度な魔術の一覧が載っていて……。しかも、蘇生術が専門でない私でも唱えれる…安易な手順でできる方法が記されているとか……。なんなの……。──」

「──『このメモ』は誰が書いたものなのっ…?! どこでこれを拾ったの?! もう…わからないっ……!!! 常識が通じないよっ!!! …はぁ、はぁ………」

「…マルシルさん……。──」



──自分の支給品であるメモ一枚が、とんでもない力を秘めているという事。

メモを見せつけながらマルシルは訊いた。『これは一体誰が書いたものなのか』と。
ふと、先程まで自分が見た夢とシンクロしていることに気付き、その『誰か』について口にしようとした飯沼だったが、──何だか思い留まる。


 紙面は古く茶ばみ、サイン書きしたアラビア語のような羅列が埋め尽くされた、そのメモ用紙。
無論、飯沼からすれば何が書いてあるのか、ましてや何が高等なのか全く理解不能。
未解な文字列でしかなかったのだが、どうやらマルシルにとってはこの世をひっくり返すほどの破壊力があったようだ。
彼女のメモを握る手はガクガクと震え、吐息が不規則に揺れており、

851『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:36:40 ID:kWrg7C0g0
「──これ、僕のカバンの中に入っていたんです。野原ひろしさん、海老名さんらと支給品確認したときに見つけて……。それで──…、」

「あっ!! ちょ、ちょっとイイヌマ!! 声が大きいって!! ……もう少し落として……本当にまずいんだから……!!」

「え。…あ、すみません。…ところでマルシルさん、このメモはもしかしてフランス語なんですか? 僕には読めな──…、」


「──あっ…!」


 ──バタリッ。


「……う、…うぅ…………。…ぐっ……」

「ま、マルシルさん…! 大丈夫ですか……」


何よりも、彼女の顔は酷く青ざめていた。
意識はある。ただ、軽い貧血のような症状で、飯沼の身体へとグッタリ、吸い込まれるように倒れ込んでいった。
ふと見れば、マルシルの顔色とシンクロするように、萎れきった杖の先っぽの枝葉。
「もっと声のトーン下げて!!」とは言いつつも、自分の方が断然に声が大きいマルシルであったが、あれは気力だけで無理やり言葉を紡いだものだったのだろう。

──はぁ、はぁ。

息苦しそうに、やっとのことで空気を吸っていたマルシルの吐息。限界に近いその体から、弱々しく伝わる心臓の鼓動。

「……マルシルさん…」


飯沼は医者ではない。
だが、それでも何とかしてマルシルに即効で健康を取り戻す術が欲しかった。
狭く、一畳にも満たない、薄暗いタンス内にて。
ビタミン剤や飲料水といった部類が見当たらない中、なんとかしたい。──なんとかなきゃ、という一心で。
飯沼は、ふと。


「はぁ…はぁ………。い、イイ…──…、」

「……………えーと…──『ကဂစမား』……!」


──無意識のうちに、視線はマルシルが落としたメモを『読み上げた』。



「ヌ……マ……………。……──」


 ──パアァァァァ


「──って、ストップストップストップっ!? ちょっと何やってんの、イイヌマっ!?」

「…あ、すみません。蘇らせる魔術があるなら、回復する類もあるかなって…。つい」

「それは隣の行だし!! イイヌマが詠唱したの、火炎系魔術なんだけど?!! ちょっと適当に詠むのやめてよね!! デリケートなんだからこういうのはぁ!!!」

「あー、それは本当に申し訳ありません…。速攻中止します」

「もう…!!」


 ──シュン……




「──…え。いや……何で……………?」

「……あ、なんですか?」

852『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:36:58 ID:kWrg7C0g0
「……イイヌマ、どうして、それ……『詠めた』の…………?」

「…あぁ、何故だが分かりませんが──『詠めちゃった』んですよ。知らない文字なのに……」


「……え………?」



 火炎系魔術。
暗いタンス内にて、一瞬のみ灯りを広めた火の光。
その刹那の光に浮かび上がったマルシルは──畏怖を帯びた顔でこちらを見つめていたという。

何故、ダンジョンとは無縁な一般人が、魔術を『詠唱』できたのか。
仮に繰り返し問われても、飯沼は困惑を浮かべることしかできないだろう。
感覚、というか。
目にした瞬間、反射のように言葉が口をついて出た──と。それ以上の理屈など、彼には語れなかった。

これは言わば【参加者特権】。
主催者側の設定にして。メタな視点で説明すれば、『誰でも詠唱できるよう施した物』ということなのだが。
当然知る由もない飯沼、そして理論重視派であるマルシルは愕然とするのみである。


「………都市伝説みたいなものだけどさ……。カナリアにいる罪人エルフは耳に刻みを入れられるって聞いたことがある……。……もう分かった…」

「え? マルシル…さん?」

「イイヌマ、あなた元エルフなんでしょ!? そうに決まってる!! 試しに答えてみてよ!! 何歳なの!? 私は百一歳だけど!! ねえ、正直に答えてよ!! 理屈や構文に基づいた魔術はエルフは得意なんだから…っ!!」

「…うーん、困ったな…。………ん? あれ? 今百一歳って言いました???」


 理屈&理屈&理詰めに、時折挟まる支離滅裂な発言。
顔色を悪くしながらもツッコミに夢中なマルシルのお陰で、気付けば今隠れているという現状を忘れさせるほどの騒がしさだった。
彼女が口を酸っぱく注意していた『声のトーン』という概念は一体何なのか。
飯沼の耳を触りながら騒いでくるマルシルには、さすがの飯沼も困りが限界といった様子で。
彼女に共鳴してか、唐突に鳴き始める大型犬を傍らに、メガネの縁を押し上げる動作しかできずにいた。


「わんっ、わんっ、」

「わっ?! い、イイヌマやめてよ! いきなり犬の真似してさ!! 話逸らさないでね!!」

「え…。いや、このマロって犬が鳴いたんですよ」

「へ!? …え……。あっ、ちょっとわんちゃん!! あまり騒がないで!! バレちゃうから!!」

「わんっ、わんっ。ばうっ、…ぅううぅぅっ」

「ねぇもう〜〜〜〜っ!!!!──」


タンスのドア部分に向かって、懸命に吠えだす犬《マロ》。
「このバカ犬め…」──だなんて思ったか否か。飯沼から離れて、マルシルがその口を抑えようと行動に移した。


「──ね、いい子だから!! 落ち着いて!! 怖くない…怖くないから──…、」




「いやバレバレだし。クソ犬よりも声でかいじゃんアンタ」



「…え」 「………えっ…」




「ねえ、マルシルちゃぁ〜〜ん……?」




 そんな時だった。

853『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:37:21 ID:kWrg7C0g0



 犬が鳴くときには、必ず理由がある。
野生の本能として『外からの敵意』を察知すれば、飼い主に危険を知らせる。
マロの吠え声は、ただの騒ぎではなかった。

タンスの薄い壁を挟んでかなりの至近距離。
そこから、じわりと染み込むように声が響く。
──口調は明るく、年頃の女子といった可愛らしさはあるものの、────奥底では人ならざる邪悪を孕む。
何も知らない飯沼でも、そう察知させられる、その声が聞こえた。


「……ッ!」

「…ま、マルシル…さん……?」


マルシルの表情が瞬時に強張る。
先ほどまでの飯沼を責め立てていた真っ赤な顔色は消え失せ、健康状態相応の蒼白さ《恐怖》だけが残るのみ。

──忘れるはずもない。
偽装された明るさの、ついさっき聞いたばかりの声を、マルシルは忘れる訳がなかった。


「………ごめん、イイヌマ。……ここは私に任せてッ…」

「え?」


 十数刻前、突然自分の眼の前にパッ、と現れ。
 何があったのか額を真っ赤に濡らし悶えていた『ソイツ』は、目を合わせた途端、心配の声を待つまでもなく宣言。

 【死ね】──と極めて単純なる、宣戦布告。

 やたら先の尖った菜箸を片手に襲いかかった後、
 暫くしてから、どこからか、自分の使い魔と語る『ウンディーネ』を呼び寄せ、


 『過去のトラウマ《ウンディーネ》』の召喚と、『今起こり得るトラウマ』の生産を、二重の螺旋で見せつけてきた、
────その女。


「……私が…合図出すから……逃げてよね……」

「………逃げるって…。何からですか…?」

「…ッ、そんなの答える必要ないでしょ……。…それは──…、」


「あっ、マルシルちゃん〜♡ さっきはゴメンね〜? 私、ついちょっとだけ酷いこと言っちゃったかな〜って思って、ほ〜んと反省してるの! …ほんとだよ〜?──」

「──ねえ仲直りして遊ぼうよ! 大丈夫大丈夫〜、傷付けたりもしないから〜〜」

「……ィッ!!!」

「……だからさ、──」



「──早くドアを開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ」


 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、
 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、
 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、
 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、
 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、

854『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:37:36 ID:kWrg7C0g0
「う、わ、わぁ……!!!」


「………ッ……!! ──『ウンディーネ娘』ッ…!!!」


 
 時折ドアの隙間から見えるがん開かれた瞳孔と、笑顔。
事情を知らぬ飯沼とて、眼前の少女のおぞましい表情は、すべてを察知させるだけのエナジーがあった。
蝶番とハンガーで施錠したドアは何度も何度も何十度も。
開かれそうになっては開けきれず戻され。また無理やり開かれそうになり。
ドア全体が軋み、タンスが地鳴りのように揺れ動く──この場は一瞬にして恐怖の支柱と化していた。


 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ
 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ──

────見ィ──ツ──ケ──タ。


ウンディーネ娘────山井恋。彼女のその目は地獄の陽炎の如し、邪悪にギラつき揺れ動く。


「…も、もう……。なんでなの………」

「え? なんで隠れ場所が分かったのかって?? だってさぁ〜タンスの前に血ぃべったり付いてんだもん。中にいるのバレバレじゃん☆ それよりも早くドアを開けてよ〜〜」

「…いや違うってッ!!! なんで私を襲ってくるの?! 私……なにか貴方にしたかなっ?!! …わけが……わけがわかんないよっ!!!」

「えー何それウケる〜。勘違いしないでよね? 私は本当にマルシルちゃんと遊びたいだけなんだよぉ〜〜?? …あんたの隣りにいるメガネくんとも、ね♫」

「…っ!!」

「ねえだから友達になろうよ〜。絶対滅多刺しにしないから〜〜。本当に絶対刺さないよ〜。ねっ。刺さない。──」


「──刺さない刺さない刺さない刺さない刺さない刺さない刺さない刺さない刺さない刺さない刺さない刺さない刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい──」


「──殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺」


 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、



「………もう…………嫌ッ……!!!」

「……うぅ………」


 刺さないと口で吐いても、鋭利な菜箸先だけは本音を語る。
ギラつき光を放つその刃は、マルシルらを触れずして羽交い締め仕切っており。
この状況はもはや文字通り。──そして本来の意味通りで『八方塞がり』。

マルシルが「もう嫌」というのも仕方がなかった。


「…………な……何が友達…だ……ッ」


だが、マルシルは八方塞がりの現実を受け止める気は毛ほどない。
背中に冷たい汗が伝い落ちても、視線は決して逸らさず。

──抵抗する。
それ以外の選択肢など、彼女には存在しなかった。


「……私はもう…十分なくらい仲間はいるんだからッ……!!!」


事実──具体的選択肢として、こちらにはあの高等魔術のメモがある。
紙切れ一枚。しかし、その一枚が、生死を分ける高価なキップ代わりであることは確かだ。

855『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:37:50 ID:kWrg7C0g0
「ライオスに……チルチャックに……センシに……ッ! ──ファリンに………ッ!!」


 ただ魔力の消耗は著しい現状。
体力はすでに短い蝋燭の炎のように揺らぎ、息は乱れ、吐き気が収まらない。
むせ返るような暑さと、耳を劈くドアの開閉音が、さらに喉の奥を締めつけた。
まるで短く揺らめく蝋燭の炎のようだった。


ただ──それでも。

それでも、大丈夫。

根拠はないが、絶対大丈夫。



「…そしてイイヌマにッ!!!」



なぜなら、隣には──、
自分の【王子様】がいるのだから──。


「………ッ!!!!」


 マルシルはちらりと飯沼の顔を見やる。
口をぽかんと開け、曇った眼鏡越しにこちらを見る──頼りなくて冴えない顔。
……それでも、彼女にとっては間違いなく王子様。夢見たその人が、すぐそばにいるのだから。

体力も、理屈も、魔力量の残りも──夢の前では関係ない。


 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、
 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、
 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、


マロを強く抱きしめ、杖をどうにか握り。


「…終わらせてやるッ…!!──」


マルシルは一度だけ深く息を整える。


「────何もかもッ!!!!」


そして、足元に置いてあった筈の、あの一枚のメモ用紙へ手を伸ばした。







「『ထမင်းစားချင်တယ်』────。」





「……………………………え?」

856『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:38:08 ID:kWrg7C0g0
「……詠唱って、これだけでいいんでしたよね。マルシルさん」



 そう。足元に置いてあった──『筈』だった。


確たるメモの行方は、隣の──飯沼の手中にて。
『詠唱』を唱えた彼は、笑うわけでも、悲しむわけでもなく。



普段通りのボーっとした面持ちでマルシルを眺めて。
手をかざしていた。



「え…イイヌマ…………。…なん…で…」

「あ、はい。勝手なことしてすみません。──」


「──外には……さっき話した二人がいます。以降は彼らに頼ってください。……それにしても、野原ひろしって……すごい名前ですよね。本名らしいですけど……あ、マルシルさんは外国の方だから……知らないかな」

「……いや…………。…なんで……イイヌマ……」


飯沼が唱えた詠唱。
その響きは──既視感だった。

かつて、マルシルが一度だけ『受けたことのある』魔術の詠唱。再演を彼は繰り出して見せた。


「……なんで……。あんた、その『魔術』…なんなのか………分かってて唱えたの…………?」

「はい。…説明を読めばわかったので」

「……は? …………はっ? ……ふ、ふざけないでよ……………」

「………」


徐々に、輪郭がほどけていくマルシルと、腕に抱いた犬の身体。
二つの影は光の粒となり薄れ始める。


『ထမင်းစားချင်တယ်』。
──さかのぼれば、迷宮に初めてパーティで挑んだ際の、炎竜(レッドドラゴン)戦にて。

自分一人を残して、仲間を全員送還させた──ファリンによる、



 ────【迷宮脱出魔術】。



「ふざけないでよッ!! ねえなんでッ…!! …どうして……そんなことを──ッ…、」

「マルシルさん。モノを食べる時はですね」

「え?」


あの時も、そうだった。
声を伸ばしても、手を伸ばしても、ファリンの背中に届かないまま光にさらわれていく。
残された指先には、ぬくもりの余韻だけがやけに鮮明に残っていた。

857『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:38:27 ID:kWrg7C0g0
「誰にも邪魔されず自由で……。なんというか救われてなきゃダメだと思うんです。独りで…静かで……豊かで。──」


嫌だった。
もう、仲間を失うのは──嫌だった。


「──……僕は大勢で食べるのも一人で食べるのも好きですが、今は『一人食いしたい気分』ですかね」


そう言ってメモを丁寧に彼女の手へ握らせる飯沼。
透明さを増していくマルシルの指先。
涙は頬を伝い、重さを持った雫となって指先へ落ちた。
その手は、溺れる者が最後の浮き輪を求めるようにただ一人へ向かって伸びていく。



「……え………。な、何言ってるのって…聞いてるよねッ……!!!!」


自分の好きな人は、みんな目の前でいなくなっていく。
姿が消えるのは、いつだって、自分の方だというのに。



「ねえ……イイヌマ………。イイヌマッ………!!!」

「それにしても……──」

「……え?」



だから今度こそは。──この光から、誰も奪わせたくなかった。




「──お腹すきましたね……。マルシルさん」




 ──ピシュン



奪わせたくなかった。心からの想いだったのに。



………
……



「イ…イヌマ……っ…!! …うっ……ヌマ……っ……! ……イイヌマぁ……っ……!!!」


「………ひろしさん…」

「……………。──」


「──君が、マルシルさん……だね?」


「……ひっ……ぐ……っ………っ……ひくっ……! ぁ……っ……!!」




────ホテル玄関前の光が、痛いくらいに眩しかった。

858『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:39:03 ID:kWrg7C0g0
【1日目/F6/東●ホテル前/AM.05:39】
【マルシル・ドナトー@ダンジョン飯】
【状態】悲哀
【装備】杖@ダンジョン飯
【道具】高等魔術一覧メモ@ダンジョン飯
【思考】基本:【静観】
1:もう、いや……。

【野原ひろし@野原ひろし 昼飯の流儀】
【状態】疲労(軽)
【装備】銃
【道具】なし
【思考】基本:【対主催】
1:飯沼くん……っ。
2:老名ちゃん、マルシルさんを守る。
3:新田、ウンディーネ娘(山井)を警戒。

【海老名菜々@干物妹!うまるちゃん】
【状態】疲労(軽)
【装備】なし
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:飯沼さん……そんな……………。
2:ひろしさんと行動。

【クン●ーヌ@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【思考】基本:【静観】
1:くーん……。

859『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:39:19 ID:kWrg7C0g0


………
……

 ザシュッ────

  …ぐちゅぐちゅ


「…ぐうッ……!!!」

「はっ……んぁっ……んんっ…!! わ、わけが…分かんない………。なんで…どうして…なの……。ぁ…」


 ホテル廊下にて、粘り気を含んだ水音と、肉と肉がぶつかる鈍い音が響き始める。
出会い頭、即腹部に一突き。──激痛のあまり仰向けになった飯沼を逃さまいと、馬乗りになる山井。
それからは刺す。刺す。刺す。突く。滅多刺し。
菜箸が皮膚を貫き、肉の中で泳ぎ蠢き。
刺される度に、ビクンと揺れる全身に、グズグズと真っ赤に染まる白シャツ。
飯沼は悲痛の汗や唾液、途切れ途切れの声を漏らし続けるが、彼の苦しみなどお構い無しに、山井は刺し続けた。


ぬちゅ、ぬちゅ、ぬちゅっ……。
紅潮した頬の飯沼から、唾液や汗が飛び交い、山井の顔を濡らしていく。


 ザシュッ──

「あぅッ……!!」

「ぁあ………っ、なんで…どうしてなの………っ」


 ザシュッ──

「ぎいッ…!!」

「…体が…疼いちゃう………っ。ドキドキが止まらない………!!──」



「──もう止まらないんだけど…っ!!♡♡」


 ザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッ


「んあッ!! はぁん………、ん、んはぁ……はぁっ…!!!」



 飯沼の下腹部に股がる山井。ピクつく肉感の良い太もも。
片手で胸を触る彼女の口からは、もう言葉というよりも、断続的な喘ぎと甘い声しか出てこなかった。

深く、そして鋭く突き上げるたびに、飯沼の身体が大きく仰け反る。


「っ、ん……っ、は……っ、ふぅ……っ……」

『と、止まらないのっ……♡ あぁっ、すごくっ……きてる、からぁっ……♡──」


最初は慎重だった動きが、徐々にリズムを帯びていく。
ガンッ、ガンッと腰を打ちつけるたびに、山井の胸が制服越しに、下にぶら下がり、ぐるんぐるんと大きく揺れた。

呼吸が乱れ、頬が紅潮し、目が潤む。
────それは、飯沼。そして山井。二人揃ってのシンクロナイズ。

860『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:39:34 ID:kWrg7C0g0
「──なんて…なんて……可愛いリアクション……するの?!♡ アンタはぁ…♡ あっ…♡ んっ、あぁっ!!♡♡」

「っは、あっ……ふ、ひぁぁっ…」


 ぬちゅっ、ざしゅっ、ざしゅっ、じゅぷっ……。
水気たっぷりの音が、湿った空間にいやらしく響く。
まるで、本能のままというか。
自分の意志では止められない身体の奥から突き上げられる欲求に、抗うことなく身を任せているかのようだった。


体液が、太ももを伝ってぽたぽたと床に滴っていく。

声が、甘く蕩けていく。


「っふ♡ くっ、…んぁっ♡ んっ…♡ だめぇっ……♡ もっと突いてぇ!! 突いてったらぁ!!」

「……んっ……ふ……っ……お…お………」

「って…突いてるのは私だしぃ〜〜〜〜っ♥  はっ♥ ふあぁっ♥ あっ…、んっ、あっ!!♥──」


物を食べた時の、光悦かつ淫靡なリアクションは、見た女子全て惚れさせる────。

食べることが好きなサラリーマン、飯沼。


「──あぁああっっ〜〜♥♥♥ あァんっ♥ あぁああ〜〜っ♥♥♥ だめなのにぃい〜〜〜!!!♥♥♥♥♥♥」



彼はまた一人、女子高生を快楽へと陥らせた──。



【飯沼@めしぬま。 死亡確認】
【残り63人】

861『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:39:48 ID:kWrg7C0g0
【1日目/F6/東●ホテル/7F/室内/AM.05:40】
【山井恋@古見さんは、コミュ症です。】
【状態】光悦、額に傷(軽)、鼻打撲(軽)、膝擦り傷(軽)
【装備】めっちゃ研いだ菜箸@古見さん、ウンディーネ@ダンジョン飯
【道具】???
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象︰古見硝子】
1:古見さん、四宮かぐや以外の皆殺し。
※マーダー側の参加者とは協力…かな?
2:こんなドブネズミの巣から古見さんを早く脱出させたい。
3:ホテルにいるクソカス共をとりあえず全員皆殺し。
4:クソ犬(マロ)を使って古見さんを見つける。トリュフ探すブタみたいにね☆
5:クソ親父(ひろし)、脂肪だけの女(海老名)、魔人(笑)(デデル)とその仲間共(うまる、マミ)に激しい恨み。

862 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:40:09 ID:kWrg7C0g0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①ダンジョン飯エミュ度向上の為、『ダンジョン飯 ワールドガイド 冒険者バイブル』購入しました。
②何故か九井先生の短編3冊つきで到着。『竜の子が〜』ってタイトルの短編集です。なんてお得な買い物した気分。
③いずれも、まだ完読には至ってませんが、世界観を堪能できればなと毎日読み続ける次第です。


【次回。8月5日投下。】
──時は平成末期、ラーメンは900円台。
──…未来のラーメンは、果たして値札に味が勝てているのだろうか。

「らぁめん再遊記 第三話〜未来《スパイスガール》!!〜」…芹沢達也、アンズ、佐野、???

863らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:29:33 ID:XG./maZk0
『らぁめん再遊記 第三話〜未来《スパイスガール》!!〜』


[登場人物]  芹沢達也、アンズ、佐野、???

864らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:29:53 ID:XG./maZk0
 ナンダカンダとキレイごとを言ったところで、ラーメン屋というのは所詮、商売だ。
金儲けのことを考えれば、どれだけ評論家やラーメンオタク共に酷評されようとも、大勢の客を招き入れるような一杯を作ることが大切だ。
この世は『売れたら勝ち』なのである。

これは、もちろん俺にも当てはまる。
俺の淡口らあめんは鮎の煮干しと比内地鶏・鹿児島黒豚を合わせたスープに、国産有機醤油と自家製麺…と。
こだわりに拘ってはいるが、売れなければ独りよがりな自慰行為に過ぎない。

一方で、そういう観点からすれば、小娘アンズの来々軒は完全に『勝ち組』だ。
屋台の客単価が六百五十円の中で、売上は日商五万円。
単純計算で一日あたり約七十五食、昼と夜の二部制で回している計算になる。
客単価・回転率ともに、屋台業態としては全国上位数パーセントに入る水準なのだ。

…俺が汗水垂らし、試行錯誤を重ねて『我がラーメン』を自答してる間に、奴は創意工夫皆無な一品でこの数字を叩き出している。
……言いようによっては天才のそれだ。
商売的な意味では間違いなく勝者に値するだろう。


──…そんな天才様()と凡人である俺との差は、もはや胃酸が込み上げてくる程だッ……。



「っ、おええぇええぇぇぇえ…ッ!!! ごぼっ、ごぼっ…、……ゔぉろろろろろろろろろろぉおえええええッ………!!!!──」


 …はぁ、はぁはぁ………………っ。


「──……死ね!!」


 …小娘アンズの陳腐なラーメンを試食され続け早十杯目……っ。
今、俺は奴の屋台から少し離れたコンビニ裏にて、地獄のデトックスタイムに見舞われている最中だ。

確かに俺は奴と出会った際、「最後までとことんサポートする」「お前の味と歩む覚悟だ」…とは言ったが……。
…限度というものがあるだろ…ッ! 限度が……ッ!!
『限度』という単語すら知らないであろう中卒無教養女の『一杯』は……(…というか十杯は)…、三角コーナーの野菜クズを口直しに貪りたい程の味である………。


「…ダメだわ………。どれだけ作り直しても…納得いく味にならないっ……!! …なんなの。芹沢さんとの差はなんなのよ!! もうっ…あの人を見るだけでムカムカしそうだわ!!」

「……………」


……おい、なに嫉妬しているんだこの女は。
不相応にも程があるジェラシーだろ! 俺のラーメンを同じ土俵にあげて語るな!!


……くっ。
………くそっ…。青筋絶叫小娘め……。

865らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:30:10 ID:XG./maZk0
 んぐ、んぐっ……


「ぷはっ…………。はぁはぁ………」


 …吐き散らして空っぽになった胃袋へ、俺は安物のウイスキーを流し入れる。
あぁ、勿論胃と食道が荒れることは承知済みだ。
だが飲まなきゃやってられんとはこの事……。

──五百円のブラックニッカに頼らなきゃいけないほど、今の俺は最大に追い込まれているわけだ……。



「…うん、ごちそうさま。美味しかったよ、アンズさん」

「あっ! ありがとう佐野!! ま、礼なら私のおじさんやおばさんに言ってよね! あくまでこの一杯は来々軒の味を受け継いだまでなんだから!! …へへへ〜!!」

「……それで、あの…。…もう行ってもいいよね?」

「へ? いや、なんでよ佐野!!」

「…なんで、って……。私は瞳さんって【仲間】を探さなきゃならないから……。さっきもそう言ったんだけど……。だから、…うん」

「あ、そっか〜…。…じゃあ、そういう訳でちょっといいかしら!!──」

「──隣に置いてるラーメン…。これは芹沢さんの分なんだけど、…伸びそうじゃない? だから食べてから行きなさいよ! ね〜!!」

「え。何が『じゃあ』……??」



………。
俺の身代わりというか、屋台にはたまたま通りかかった『佐野』という女が毒牙の餌食と化しているが……。…まぁそいつはどうでもいい。

アンズのラーメン拷問よりも、
佐野がペットのタランチュラを卓上に乗せてギャーギャー騒がれてる煩さよりも、

──俺を追い詰めている物………。


「………ちっ、とうとう来たか………」


それは、吐いている途中の俺に突如落ちてきた──、


「…………『ハル』のやつめっ……!!」



──イクラを肥大化させたかのような、『ボール』だった…………。



「…『拝啓 芹沢達也さんへ。アンズさん、佐野さんとご一緒に、このボールを押して、【ライブ中継】をご覧ください』……だと…?」



未来人──ハルからの、ボール。
…ご丁寧にもボールにはメッセージ付きでだ。
要するに、このオレンジボールはライブ配信を移す未来の映写機といった代物らしいのだが。


 ぐむぐむ…
  ズンッ

   ──パッ

 ジジジ────ッ、ガガガガ────ッ、


「…………」



…未来のインターフェイスのセンスが俺にはさっぱり分からない………。

866らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:30:25 ID:XG./maZk0



 calling…
  future…

 calling…
  future…

──────【𝔸𝕌𝕏】──────────────────
 🅲🅰🅻🅻
    ᴘᴜꜱʜ ꜱᴇʟᴇᴄᴛ
─────────────────────────────────


芹沢達也・アンズ・佐野
    ↓↑
    ハル

【通話画面】
ttps://img.atwiki.jp/heiseirowa/attach/181/425/m/musen.png





867らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:30:43 ID:XG./maZk0

……
………


 (芹沢)『…あ?!』


 ────お久しぶり…ですかね、芹沢さん。…アンズお姉さん、佐野さんからしたら初めまして。

 (佐野)『…あ、はい。初めまして…』

 (アンズ)『……えっ、アンタ誰よ……。まさ…、』

 (芹沢)『いや待て待て!! バカか!? 俺もお前のことなんか知らん!! …お前は誰だ!!?


 ────ハハハ、どんな御冗談を。ま、丁度よいので自己紹介に入りますね。ボクはハル。超能力者検体No.12。

 ────……つまりはアンズお姉さんと遠い親戚にあたるわけです。…超人会製ではないのですがね。


 (アンズ)『な、なによそれ…。つまりアンタは未来…、』

 (芹沢)『嘘をつくなっ!! だから誰だと聞いているだろ!!!』

 (アンズ)『ちょっと芹沢さん!! さっきから私の言葉に被せてこないでよ!!』

 (芹沢)『…黙れお花畑!!』


 (芹沢)『…いいか、ガキ』

 ────ええ。

 (芹沢)『確かに以前、俺の元にボールが落ちてきて、お前同様『ハル』と名乗るガキが来たものだ……』

 (芹沢)『お前とそのハルの決定的な違いが分かるか? …口で一々説明するのも馬鹿らしい、極めて単純なものだがな…』

 ────そこはご教示いただきたいたいものです。

 (芹沢)『…俺が会ったのは男だ!! 真っ裸の少年なんだよ!! …なにが『ボクはハルです』だ……?! お前みたいな小娘知るかっ!!』

 (佐野)『え? …裸の…少年……??』

 (アンズ)『…芹沢、最低ね…ッ』

 (芹沢)『お前らは口を挟んでくるなと言っただろ!! …というかアンズ、お前はコイツと同じ類なんだから裸になる仕組みくらい知っているだろうが………』


 (芹沢)『くっ……。俺はてっきりハルの奴がバトル・ロワイヤル攻略のアドバイスでも持ってきたものだと思っていたのだがな………。おい自称ハル…』

 (芹沢)『お前の目的は……なんだ?』


 ────…あぁ、なるほど。そういう訳でしたか。単刀直入に申します。ボクは【ハル】です。

 (芹沢)『その単刀は俺の理解には全く刺さってないがな…』

 ────そして芹沢さんがお会いしたというその娼少年もまた【ハル】。ボクなのですよ。

 (芹沢)『あ…??』

 (佐野)『…娼少年………』

868らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:30:58 ID:XG./maZk0
 ────はい。単刀では物足りないようですので、聖剣エクスカリバーでご説明いたしますね。まず、初めになんですが……。えー、どれどれ。


 ペラッ


 ────…あーはい、なるほど。…とりあえず、皆様が今いる場所はシブヤ【B-2】エリアで間違いないですよね?

 (アンズ)『…へ? びーつー…? も、もちろんよ! 当り前じゃない!』

 (芹沢)『いや絶対分かってないだろお前…。……おい自称ハル、B-2だのC-3だの言われても俺達は分からん。具体的名称ではっきり言え』

 ────あ、はい、申し訳ありません。B-2は目の前にファ●リーマートがあると思うのですが、間違いないでしょうか。

 (芹沢)『………』

 (佐野)『あ、はい。…それなら、確かにここはB-2ってことに……なりますね』

 ────それは良かった。話が早いです。



 ────史実では、今から十秒後に、エリアB-2・ファ●リーマート店前にて隕石が落下します。


 (アンズ、芹沢、佐野)『『『…え?(は?)』』』


 ────他区域での戦闘が誘発したものでして……ええ、直径一キロのクラスです。避けようはありませんね。


 (芹沢、アンズ)『『はぁ?!』』


 ────一応、ダメ元で使ったほうがよろしいかと。

 (アンズ)『えっ、え? え?? …え?? な、何をよっ?!!』

 (芹沢)『バカかお前!! お前の力……エスパーだか念動力だかを使えと言っているんだっ!!』

 (アンズ)『え?? あ、そっか……!! で、でも…どこから……、』

 (芹沢)『黙れ!!! さっさとしろォオオオオオオオオぉぉ…、』



 ヒューン…



  ──コツン



 (佐野)『わ、痛っ…』


 (芹沢)『………は?』


 (アンズ)『…………………え、小さ』



 (アンズ、佐野、芹沢)『…………は??』

869らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:31:11 ID:XG./maZk0
 ────…ご無事で何よりです。なにはともあれ、この通り降ってきたでしょう。隕石が…!

 (芹沢)『アンズ、映像の切り方を教えてくれ。ボールをまた押す感じでいいのか?』

 (アンズ)『さあ。適当に川に捨てればいいんじゃないかしら』


 ────おっと、これは厳しい御冗談ですね。でもこれはボクが接続を絶えるまで切れない仕組みですので…、

 (アンズ、芹沢)『やかましいッ!!! 冗談じゃないのはこっちだ!!! 何が隕石だ!! ふざけるなッ!!!!』

 ────…ボクも冗談は苦手な質なのですがね。皆さん落ち着きましょうよ。

 (芹沢)『お前のせいだろっ!!? …クソ…!! 貴重な時間を浪費させられた……。どいつもこいつも…俺は未来人()にはうんざりだっ…!!!』

 ────いえいえ。だから落ち着いてくださいって。隕石は本当に、史実通りならAM.05:32:25に落ち、壊滅的被害をもたらしたんです。

 (佐野)『……たしかに、ちょっとは痛かったけども…』

 (芹沢)『…壊滅的か、それは結構。ならば俺は未来人ってカテゴリを壊滅させるのが道理だろうな。……全くお前は……ッ』

 ────はい、その通りです。貴方には未来を壊滅させてほしいんですよ。…ボクはそのために過去へ来た。

 (芹沢)『壊滅してるのはお前とアンズの頭だけだ!!! ふざけるな!!!』

 (アンズ)『…え?』

 (芹沢)『人をおちょくるのも…ッ……、いい加減にし……、』


 ────芹沢さん、失礼ながらもしかして数分前に、嘔吐をしませんでしたか?


 (芹沢)『…あ?』


 ────…ハハ、やはり。そのお陰で、隕石は空中で破裂し、小さな石ころと化したんですよ。



 ────分かりましたか? ボクが少女に『書き換わった』理由。


 ────分…それは【バタフライ・エフェクト】によるものなんです。




 (アンズ)『…ばたふらい……えふぇくと………?』



 (芹沢)『いや、そんな聞き慣れない言葉でもないだろ……』

 (アンズ)『はぁっ?!』

 (佐野)『あの…。小さな出来事が、時間を経て予想外に大きな結果を引き起こす現象のこと……だよ。…アンズさん』

 (アンズ)『へえ〜! 佐野は物知りねぇ〜』

 (芹沢)『お前意外全員知ってる言葉だがな。さてアンズのせいでテンポはグズついたが、さっさと説明しろ。…ハル』

 (アンズ)『なによそれっ?!』


 ────はい。明確なバタフライ・エフェクトの起点は十日前。過去に戻ったボクが芹沢さんと干渉した瞬間が期でしょう。

 (芹沢)『……』

870らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:31:28 ID:XG./maZk0
 ────佐野さんの説明通り、過去という歯車はほんの少しの綿埃を噛み挟んだ程度でも、動きが大きく歪むものです。そのため、ボクの住む未来では政府の公認外でのタイムトラベルは極刑となっているのですがね。

 ────それはともかくとして。事実、【堂下浩次】という参加者は、現時点ではまだ生存しているはずですよね?


 (???)『三嶋先生ェエエ!!! 私、堂下浩次は大変感動しましたァアアア……っ!!!』

 (佐野)『わっ!!』


 
  しましたぁぁぁ………


    ……ましたぁぁぁ…………


      ……たぁぁぁ…………



 (芹沢)『………。…史実ではどうなっているんだ。その堂下と言う男は…』

 ────えーどれどれ…。…はい、『第一回放送深夜にて、…Sに誤射され死亡』。一時間十三分の寿命となっていますね。

 (芹沢)『…別に個人名をあげていいものを、わざわざ『S』と仮名したのは引っかかるぞ……』

 (アンズ)『………配慮したってわけよ。……ね? 犯人のS沢さんッ…!』

 (芹沢)『何が【…ギロリっ】──だっ、アンズ!! お前はさっきから俺になんの恨みがあるんだ………』


 ────…ともかくです。このともかくです。この通り些細な出来事で簡単に未来は変わってしまう。言うなれば、殺し合いを根本から瓦解させるだけのエネルギーを持つ唯一の策が、バタフライエフェクトというわけですよ。

 ────蝶の羽ばたき一つが、戦争をも、全宇宙すらもひっくり返す…【バタフライエフェクト】。ボクが皆様三人を集めた理由は、もう言うまでもありませんね?



 ────今から、僕の指示通りに行動していただきたいのです。


 ────…汐見閣下と終身名誉ゲームマスターAから、未来を救うため。



 (アンズ、佐野)『………』

 (芹沢)『……………っ』



 (アンズ)『…ところでアンタ、なんで浜辺から中継してるのよ。その場所チョイスはなに?』

 (芹沢)『…マイペースかお前、アンズ……』

 ────浜辺? いえいえ、ワイキキビーチとお呼びください。第三次世界大戦戦勝記念のバブル景気で、小旅行中なんですよ、ボク。

 (アンズ)『はぁああ?!』

 (佐野)『人がこんな目に遭ってるというのに……旅行………』

 ────まぁ骨休めも仕事の一つですから。アンズお姉さん、ハワイのマクドナルドにはラーメンが売っていることをご存知ですか? その値段わずか500ラー。もはや激安の殿堂ですね。

 (芹沢)『ラーってなんだ。ラーとは…』

 ────未来の日本の通貨単位です。麺歴三年以降、円は廃止され『ラー』に変わりました。

 (芹沢)『……『メン』でいいだろっ………』

 ────まぁそこは汐見閣下のブランディングセンスですので。何とも言えませんね。

 (芹沢)『……………バカがっ…』

871らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:31:44 ID:XG./maZk0
 ────話を戻します。それでは第一に、皆様三人にはある参加者へ会いに行ってもらいたいんです。


 (佐野)『…なんとなく黙ってましたが……私も巻き込まれているんですね……』

 ────えぇ勿論。後々欠かせないピースの一つになりますから。……佐野さんも、【車で10km引きずり回された末、皮膚欠損で死亡】だなんて死因は勘弁でしょう?

 (佐野)『……っ』

 (アンズ)『…え? なによそれ?? じゃあ私は史実じゃ…どうなっちゃうわけよ』

 ────あー、はい。アンズお姉さんは【壺の中にて遺体が発見された】との記述がされています。……タコ壺ですか?

 (アンズ)『え? 壺?? いや…はぁああ???!』

 (芹沢)『……ふふっ!! ………ぶふふ…』


 ────話が逸れました。それで、そのある人物とは、B-3・横断歩道前にて怪我を抱えつつ放心状態です。

 ────彼に三人そろって接触し、仲間に引き入れることで。はじめて【惨劇】を未然に防ぐ下地が整うんですよ。

 (芹沢)『…結論から話せハル。誰だ、そいつは……』

 
 ────はい。『新田義史』さん。その人です。


 (アンズ、佐野)『…え?!』

 (アンズ)『……新田…………!?』


 ────勿論存じ上げていますよ。山中藤次郎の拡声器で、新田さんが殺人者の危険人物と広められた現状は、計算上、史実通り。

 (アンズ)『違うッ!!! 違うんだからぁッ!!! 新田は悪いやつなんかじゃないわよッ!!!』

 (芹沢)『おいアンズ、話の腰を折るな』

 ────いえ芹沢さん。彼女の言う通り、新田さんは人畜無害。全ては山中の浅はかさが招いた風評被害です。

 (芹沢)『あ?』

 ────彼は野原ひろしに見捨てられ、早坂愛には除き魔と誤認され、そして逃げた先では西片に…と、今、心身ともにボロボロの状態です。……もちろん、それで暴走するようなれではありませんが、とにかく今の新田さんは(哀しい意味で)危険なのです。


 ────そんな新田さんに接触できるかどうかが、あなた方が【史実の惨事】から救われる一歩になるんですよ。



 (佐野)『…史実の惨事…って何なんですか………? 車とか…壺とか…さっき言ってましたが…それが何に…、』

 ────申し訳ありませんが説明は割愛させてください。……なにせ、もう時間がないんです。

 ────AM.05:37:00、ちょうどその時刻に、あなた方にはB-3へ向かっていただく必要があります。


 (アンズ)『え?! …五時三十七分って……』


 チラッ


 (アンズ)『あと十分もないじゃないっ!!!』

 (芹沢)『それは湿度計だバカ!! ………つまりは三分後、か…』


 ────その通りです。また、移動に際してお願いが。三人で、【ぴったり百五十八歩】で歩いてください。早歩きや遅歩きで調整して、なんとかきっかりに。

 (芹沢)『…その具体的歩数は何を意味する』

 ────…説明する時間は、もう無いんですよ、芹沢さん。

 (芹沢)『………くっ…』

872らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:32:01 ID:XG./maZk0
 ────では一旦はこの辺にて。必ず、指示を守った上で行動をお願いしますね。

 ────…未来というのは、たった一歩で思いもよらぬほど大きく、塗り替わるものですから………。


 (芹沢、アンズ、佐野)『……』



 ──ねぇ〜ハルちゃーん!! はやく来て一緒に泳ご〜〜っ。

 (アンズ)『は?』


 ────あ。…うん、分かった、分かったってば。とりあえず、水着に着替える時間だけはくれないかな〜皆。

 ────…ごくごく、ぷは〜〜。うん、ハワイに来たからにはトロピカルカクテルを飲まないと始まらないや。

 ──も〜〜、ハルちゃんたら〜っ!!

 ──きゃははは〜〜〜!!

 芹沢『…は?』



 ────では皆さん。この一歩が、未来の希望になると信じて。…今、塗り替えましょう。


 ────では失礼します。



………
……


 プツンッ………

873らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:32:16 ID:XG./maZk0



「新田………」

「………私…関係ない…はずじゃ………?」



「………グッ…」


 …未来は、塗り替えられる……だと。
…冗談じゃない。…ふざけるなッ。
いかにも未来人共の傲慢が溢れたセリフじゃないかっ。

仮に俺が1930年の日本に放り込まれたとしてだ。
「このまま戦争をすれば、広島で多くの人間が焼かれることになる」
「だから満州事変など起こさず、国際協調路線を取るべきだ」──そう進言したとして。

──歴史は、果たして変わるか?

…笑わせるな。
当時の人間に、そんな理屈が通用するはずがない。連中は理解すらせず、俺を特高警察に突き出すのが関の山だ。
そして十数年が経ち──ようやくのこと、誰かが言うだろう。「アイツは、正しかったのかもしれない」とな。


未来の人間がどれだけ知識を振りかざそうと、歴史の盤上で駒を動かせるのは、その時代に足をつけて生きた者だけだ。
結果を決めるのは情報量や、誰が駒を動かすかじゃない。紛れもなく、『駒自信』なのだ。


「………っ」


 ………時計は残酷だ。指定時刻まで、残り一分を切る。

…くっ、ふざけたことを言いやがって………。
ぬくぬくとビーチで寝転がり、特に説明もせず新田という輩に会えとは………。


──……大概にしろ……ハル……ッ!!
──…未来人共がッ…………!!



「……だが礼は言うぞハル。俺はまだ終わるつもりではいないからな……」

「え…?」


「それに、アンズと佐野。…お前らも少しは思ったことだろう?」


「何を…ですか…?」 「何をよ…」


「映像の終わり際。ハル背後に、妙な黒服の連中が近づいて──次の瞬間、映像がぷつりと切れた。あの瞬間……。──」




「──少しスカっとはな?」

874らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:33:27 ID:XG./maZk0
 アンズが俺用に出した試食ラーメンへ、


「…え?」 「え?」



 胡椒を…
──ドォバババババババババババババババババッババッバッババッバババババババァァァッァァァッァァァァァッッ──────!!!!!!!!!!!!!!!!!


「はぁあ?!!」



 伸び切った麺を一気に…
──ズズズズズッズズズッズズズズッズズズズズズズズズルズルズルズルウウウウウウウウウウウウウッッッ─────!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
──マズイッ、マズイッ、マズイッ


「はぁああああ!!!??? ちょ、ちょっと!? 芹沢さん何してんのよッ!!!」



 プハッ!!


「…うん、まずい。だが胡椒で味をごまかしたら、あのウンザリしたスープも飲み込めたじゃないか。……アンズ。これは新境地の扉が開かれたんじゃないのか?」

「はぁあぁぁああああああああああああああああっ??!!!」



──はい、完ッ食ッッ!!!!



「いや私のラーメンっ!!!!! 私の作ったラーメンなんだけどォォォォ────ッ!!!! 何してくれてんのよォオオオオオ────ッ!!!! うわぁあああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「黙れプッツン女!! 南国の鳥かお前は…」



 ……あぁそうだ。

未来は、そこに住む者も建物も文化も、何もかも全てが空疎で最低品質。終わりきっている。
俺も実際にこの目で見た以上、確信を持って言えるものだ。

臭い消しのコショウはラーメンの風味を飛ばしてしまう。にも関わらず、ただ慣習で卓上コショウを置くのは悪臭でしかない。
──ハルの未来はコショウ同然の、邪智すべき存在なのだ。


「どんなゲテモノでも、カレーをかけりゃ大抵食える代物になる、それもまた事実だ。…スパイスというやつは時として食材の罪まで塗り潰してくれるのだな。──」

「──……俺はこういう誤魔化しの食法を長らく邪道と断じてきたが……さしずめ『邪道』はバカとハサミ同様、使いようというわけだ」

「ふ、ふざけるんじゃないわよぉおおおっ!!!! 私のラーメンんんんんんんんんん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

「あの…アンズさん、ちょっと落ち着いて……」

「もがあぁあああああああああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

875らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:33:42 ID:XG./maZk0
…だが、それがどうしたという話だ。
どんな最低品質の代物も、少しこちらで手を加えるだけでマシにはなることは実証済みだ。

──この、学食以下のラーメンのようにな?


「おい佐野!! そいつ係はお前に任せる。…行くぞ」

「え…?」 「はぁ?? そいつ係ぃぃぃ〜〜っ?!」


「時間だ。……忘れるなよ、『百五十八歩』。…きっかり、な?」


「は、はい………!」 「え?? ちょ、いやちょっと待ちなさいよっ!?」



 一歩、二歩、三歩………。

足並みをそろえ、俺らは前へと進み続ける。
未来だの何だの…。陳腐なSFごっこを仕向けてきて、ガキの使いじゃないんだぞとは言いたいところではあるが。

俺は一つの『疑念』を、次なるハルへ晴らすため、今はただ、残りの歩数を、淡々と刻むまでだ。



「待って…!! 待ちなさいってばぁああ〜〜〜〜!! …この……ラーメンハゲエエエエ──────っ!!!!」



 疑念。【Question】.
──数多いる参加者の中から、なぜ『俺』に白羽の矢を立てたのか?

未来人が俺に期待を託した、その理由。
ヒントは『汐見ゆとり閣下』が最大の鍵となっているだろう。


──……それは、つまり。──俺が………────。


「……ふん…」



…とな。








………
……


「…うぷっ……!! おえっ…」

「あ!! せ、芹沢…さん………!!」

876らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:33:54 ID:XG./maZk0



【ラーメン界の第一人者・芹沢達也 〜本日の名言〜】
──コショウは邪道だ。ただし使い方次第では一定の効果あり。
──俺はこういうコショウでの食法を長らく邪道と断じてきたが、さしずめ『邪道』はバカとハサミ同様、使いようというわけだ。



〜バトル・ロワイヤルを経て学んだ『ラーメン道』 アンズメモ〜

①まずいラーメンには胡椒で応戦!! 卓上調味料、バカにしちゃダメ…らしい。
②ということは味噌ラーメン用に卓上に一味唐辛子も見当。ただし、かけすぎには注意よ〜!! 辛すぎて口から火を吹いたら…アウト!!
③ハワイのマクドナルドにはラーメンがあるらしい……。何味なの?! チャーシューはさしずめパティかな?






【外部介入】
【ハル(過去改変二巡目)@ヒナまつり 死亡確認】

877らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:34:07 ID:XG./maZk0
【1日目/B2/屋台『とんずラーメン』前/AM.05:37】
【芹沢達也@らーめん才遊記】
【状態】嘔吐中、満腹限界(大)、心労(大)
【装備】???
【道具】いくらボール@ヒナまつり(使用済み)
【思考】基本:【生還狙い】
1:アンズの念動力を利用し生還。
2:どんな卑劣な手段を取ってでも生き残る。
3:未来からの使者『ハル』の次なる通信を待つ。ハルのバトロワ攻略法の元、動く。
4:新田義史に会う。
5:…新田。…アンズの陳腐な店に週四で訪れる男……。なんだこいつは罰ゲーム中か?!

【アンズ@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】中華包丁
【道具】寸胴鍋
【思考】基本:【対主催】
1:芹沢さん、佐野と協力して打倒主催!!
2:殺し合いを終わらせるほどのラーメンを作りたい!!
3:新田に会う。…待っててね、私が全部疑惑を晴らしてあげるんだからっ…!!
4:『未来』は一体どうなってるわけ………?
5:ばたふらいえふぇくと……。よくわからないけど気をつけなくちゃ!! …今度、瞳に意味を再確認しないと!!

【佐野@空が灰色だから】
【状態】健康(普通の姿)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:『三嶋瞳』がいる渋谷デイリーマンションに行きたかった。
2:…それだというのに、私はなぜ少年の妄想を聞かされていたんだろう。
3:それを芹沢さんたちが真剣な顔で聞いてるのが、輪をかけて怖いんだけど………。
4:【仲間】に会いたい。…できれば来生さんとも…ね。

878らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:34:58 ID:XG./maZk0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①気づけばあと4話で三巡終了です。第四巡目は以下の通りになります。

001「サイダーガールと、ラーメンガールと…」
002「良識がちょっと足りない」
003「ヒナ・まつり」
004「うまるとでろでろ(仮)」
005「あたしのあした」
006「マルシルさんの好きなもの…だゾ(仮)」
007「風評被害ロックンロールフィーバー」
008「鴉 -巣立ち」
009「CONTINUED OVER GIRL」
010「咲けよ、二郎(仮)」
011「Delicious in Dungeon〜感電死までの追憶。」
012「巡り合う二人の『会長』」
特別回「Kung-Fu the Future ──思い出す、ふとした時に。」
013「第1回放送」

②「ヒナ・まつり」、「サイダーガールと、ラーメンガールと…」、「巡り合う二人の『会長』」の3本は筆が乗りそうな自信があるのでご期待ください。


【次回。8月12日投下。】
──最後に、お願い。
──ETの…指と指重ねるあのシーン。一緒にやってくれないかな。

──だって私たち友達じゃん!

「いいの、いいの」…マミ、うまる、デデル、山井

879『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:12:40 ID:hzrHUxHA0
[登場人物]  うまるちゃん、新庄マミ、魔人デデル

880『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:13:46 ID:hzrHUxHA0
 東●ホテル・『四階』。──読み方にして、『しかい【死界】』。

四方八方至るところにて、ブクブクブクブクと。急性アレルギー患者の水膨れの如く、ウンディーネが上品な館内を埋め尽くす。
至極当然、この場に一歩でも踏み込めば即肉片化。死を恐れる暇もなく、鋭い水流で楽にしてくれるだろう。
言わば、この場は完全に水先案内人のサンクチュアリ《聖域》と化していた。

ただ、トゲが多い薔薇は美しいもの。
というのも、魔力の集合体であるウンディーネは、本質上ポーション同然の成分を含む。
生命力という名の棘さえ外せば、(微々たるものではあるが)十分な魔力エネルギー源となるのだ。

言わば、《聖水》。
大きなリスクを背負ってでも手に入れたい──いや、絶対に手に入れなくてはならない。
聖なる水を求めて、三人。

ウンディーネ達のちょうど死角となる階段の影にて、うまるとデデル。


「やばっ?! やばやばやば〜〜っ!!! …なんか増殖してない?! バイバインか!!」

「…フゥ。とりあえず四階の有様を知れただけでも収穫だろう、土間の小娘。──」

「──さて、ウンディーネが少ない三階にて策を練りましょうか。行きますよ、マスタ…、」


「魔人さんにうまるちゃん、とくとご覧あれ!!! …私が『ただ者』ではない証明……──宇宙のパワーを見せてさしあげよう!!!」


「は?」 「…へ?」


そして、マスター・新庄マミは、
──魔力不足により徐々に姿が薄れてゆく我が使い魔。
──砂時計にして、一握り程度の残りリミットしかない魔人デデルを救うため、
『緊急SOS/ホテルの水全部抜く』──【ウンディーネ捕獲作戦】を遂行せねばなるまいのだった。


「…そりゃマミちゃんは宇宙人()だけどさぁ〜〜」

「ただ者ではあるでしょう。ただの人間の、小娘。……全く、マスターの愚かさには飽きさせ知らずです。ほら行きますよ…、」
 

「「…って、あぁ!!!」」


「はぁ〜〜っ。ハァ─────────っっ!!!!!」15:12 2025/08/13



仲間の制止を知らぬ構わずで、我先に飛び出したのはマスター自ら堂々と。新庄マミ。
ウンディーネの視線というスポットライトを存分に浴びる切込隊長は、何がしたいのやら、両掌を群れへ向けて差し出す。
「ハァ────!!」「ハァ────!!」「ハアァ────っっ!!!!!」──両手に力を込め、水塊を目柱強く睨む、その彼女。
傍から見れば、R-1グランプリに現れた電波芸人のような奇行をしてみせたマミであったが、別にふざけた訳では無い。
彼女には自信があったのだ。


「はぁああああ〜〜〜〜〜…っ」


それは日々。
同級生であり『超能力』の師匠でもある新田ヒナとの訓練の日夜。
放課後、何時間も河原で石ころを動かし続けた──念動力の練習に費やした時間と努力。
その積み重ねが、もしかすればウンディーネすべてを倒せるかもしれない。根拠のないとはいえ、そんな自信がマミには本気であったのだ。

そして、何よりも、


「ハァアアア─────────っっ!!!!!」


三人の中で自分が一番偉く、凄いという【マスター】の称号を、自分自身の力で証明してみせたかった。



「破ァアアアアアアアアア─────────っっ!!!!!」

881『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:14:00 ID:hzrHUxHA0
 …しーん。



──「寺生まれのtさんかっ!!」
──うまるがそうツッコんだ折、『結果』が突如として現れた。


────『結果』を言おう。

────マミの力は、本物だった。


「…え?」

「「…え」」


何せ、マミへ。そして隠れていたデデルらの元へ。
手を一切触れずして、計二十体のウンディーネが、まるで吸い寄せられたのように一斉に急接近したのだから。


「なぁあぁあッ!??」 「……くぅッ!!」



この力は『本物』だったと認めざる得ない────。


ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
  ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
   ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
    ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────


………
……


882『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:14:27 ID:hzrHUxHA0



 東●ホテル・『三階』。──韻を踏めば『安泰』。
調理ルーム/食品保管室は、冷や汗と疲れを癒すには十分なほどに冷気が効いていた。

食品保管室とは、当ホテルにおいて精肉や作り置きの品々を保管するための空間。
──その中でも冷凍必須な食品においては、保管室奥の冷凍庫ルームにて保存されることとなる。


「うぅぅ゙ぶぶぶ〜〜〜っ!!! ぐ、ぐらかったよ〜! 狭かったよ〜! ざ、ざむかったよぉおおおお〜〜〜〜…!! ご、ごへんなはァい魔人さんん〜!! 寒い寒いぃい〜〜〜……!!!」

「申し訳ありませんマスター。私は制裁には暴力を好まぬ性分でして。ただ、これで頭が冷えたご様子ですので安心しました」

「…『冷凍室閉じ込めの刑』……。うまる、普通にマミちゃんのこと殺っちゃうのかと思ったんだけど〜…」

「それだと冷凍室が気の毒だろ」

「もう〜〜…だから何それっ!!? うぅ…、寒ぃ〜〜〜…」


 口では冗談を言いつつも、冷や汗を隠しきれなかったデデル。
そして、未だに顔の引きつりが収まらないうまると、冷えた上に顔も引き攣るマスター。

三人はこうして、奇跡的に調理室まで隠れ逃げた次第に至ったが、一生分の奇跡はこれにて使い切ってしまったのか不安にも至る現状である。


 調理室の鉄製のドアは施錠済み。
したがって、ウンディーネはおろか他参加者さえ侵入を許されない籠城下とはなってはいる。
そう。なってこそはいるが──、
──それでも怪異が収まるまでここに留まり続けるわけにはいかないのが、一行の状況だった。


「……………まったく、誰の為に私がわざわざ使い魔をしていると思っているのだか。私はキサマら人間共の争いに巻き込まれただけというものを…」

「…あ、デデル……。あれ、ちょっと〜〜…」

「…………いつ我が身が消えようとも、私には関わりなき話だというのに…。……愚かな主だ」


「………だいぶ、スケルトン度やばくなってきたね〜…………。デデル…」

「…魔人…さん……………。…さむ」



「…………ふっ、くだらん」



 刻。刻一刻と過ぎ、徐々に空気へと溶け込んでいくデデルの身体。
その手にあるランプの中は、すでに干上がり、わずかな水滴が底にしがみつく程度。
残り少ない魔力が、透けてゆくデデルの姿を何より雄弁に物語っていた。
まるでスマホ充電の残り10%時のように、何もせずとも魔人の身体は脆くなり続けていく。


「……ねぇデデル〜…。どうにかしてさ……てかワンチャン、ほっといても勝手にランプに魔力チャージされるとかない? 自然回復〜〜…みたいなぁ〜〜?」

「…全く怠惰な土間だな。ただ、着眼点は悪くない。確かに時間をかければ、空気中の魔力で少しずつ回復することもある」

「え、うそっ?! それなら下手に動く必要もないじゃん!!! 楽チンで楽チンでうまるもダラダラ〜…、」

「586,920時間37分後。…人間時間でそれくらいになる見込みだな」

「………えぇ…。なにそのロー●ンメイデンでしか聞かない時間の長さ〜〜…………」


その為、調理室に逃げ隠れはすれど休息の時間も無く。超一般人であるうまるとマミは、どうにかしてウンディーネ捕獲作戦の明確プランを練らねばならぬのだった。


「…………マミちゃん」 「ぅ、うまるちゃぁ〜ん…」

「…………………」

883『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:14:43 ID:hzrHUxHA0
三人は互いに目を合わせあい、覚悟に似た共通認識を巡り流す。



「…ごほんっ!! えーではでは………」


  \うまるーーん/
 〜緊急うまる超脳会議!!〜
 ~また私は如何にしてウンディーネを手に入れ魔人を救わねばなるまいか。~
 ーGenie's Strangeloveー

……


 A『お兄ちゃんへのプレゼント、又は宴のつまみ…と、これまで幾多のうまるん会議を開いてきたものですが。…ですがッ!!!──』

 A『──今回ばかりは本当に人生最大の危機なため、皆、真面目モード100%で望んでいただきたい!! うまるの諸君!!!』

 B『はーい!!』 J『はいはいはい!!』 G『はーいぃ〜!!!』


 A『今回は特別に参考人聴取として、以下の面々を会議室にお呼びしました!! まずは当の本人、デデル氏!!!』

 「……おい土間の小娘。なんなんだこれは? まずこの会議自体がふざけ全開100%だろう」

 A『…ごほん、参考人は静粛に!! 続いては、第二の参考人として〜、我らがリーダー・新庄マミ氏に…、』


「あっ!! ほら見て二人とも、いい? 月刊マー145頁によるとさ、CIAが魔物を密かに製造しているという証拠があるんだよね…。つまりは、魔物…ウンディーネ対策としては〜…、」


「……」 「…………」


 C『…議長、なんだか外野が騒がしいですがいかがなさいます?』

 「無視は健康に良いぞ」

 A『はいその通り!! では以上、一名の参考人と共に、これから全うまるには慎重かつRTAに結論を辿ってほしいものであります!! ではどうぞ!!』


 E『はいはいはい〜!!! 私、うまるEとしては、電気で感電させて捕える方法を推奨します!!!』

 M『…え、水だから??』 B『んな安直な…』

 E『安直とか関係ないでしょ!! とにかく魔人の力を使って「百万ボルト〜!!」とかやれば解決じゃん!! …じゃない……?』

 「そのような力すらも残ってはないとは、言うまでもないよな?」

 E『…さ、さ〜せん〜……』

 C『いやそもそもの話さ! 案を出すにもまず前提が整ってないよ!! なにせ相手は水!! 触れない・運べない・触れたら即ゲームオーバー!! 凶暴で掴みどころない相手なんだからねっ!!』

 M『水だけに掴み所がないだってさ〜』 G『ほら、ここ笑いどころです!! ひひひ〜』

 「………………ぃッ」

 ──指パッチン


 M『』 G『』


 C『…と、ととと、というわ…けで……! な、何が言いたいかと…申しますと……デデル!!』

 「……なんだ」

 C『ウンディーネには何か弱点がないの?! うまるはそこからヒントを得たいわけ!!!!』

 一同『『『『『そうだ、そうだ〜!!!』』』』』


 「…………弱点か」

 A『ねえ、何か…ない? 参考までに水タイプは草と電気に弱いよ〜? …ポケ●ンの話だけどさ……』


 「………………。──」


 「──…【熱】に弱い。…との伝来は残っているな」

884『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:15:09 ID:hzrHUxHA0
 B『え、熱?!』 C『つまりは火??』 T『ほのおタイプがみずタイプに勝つ天地返し状態?!』

 「…火……、…いや『熱』と言ったほうが今は正解か。貴様ら人間も、川の水を煮沸して飲む探検家を見たことがあるだろう。それと同じで奴らも熱消毒には弱いのだ。──」

 「──…もっとも、聞き及んだ話にすぎんがな」


 A『………………』 C『…………』

 A『………だったらさ…………』

…………
………
……



「────…ってゆう『作戦』はどう? デデル!」

「…………」

「…うまるちゃん、ちなみにだけどその作戦。わたしの月刊マーの知識どれくらい取り入れた?」

「え、ゼロ。……でさ、役割分担としてはうまるがまず〜…」


「……土間……」 「さらっと流したよォうまるちゃんめぇええ〜!!!」



 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
曲がりなりにも、完璧美少女であるうまるだ。彼女も本気を出すとなれば、ものの三分で完璧な『捕獲案』を練りだしてみせた。
もはや成仏しかけの幽霊同然、透明さの極致に達したデデルを救う。──いや、自分達が救われる為の、完璧な作戦。
それは、デデルが主体となり、うまる、マミと三人全員の団結の元。
多少の生命的リスクは背負うものの、──勝算は見込める作戦だった。
単純な観点からは、緊迫した現状で導き出した、最良の策といえようものだ。


「…それでマミちゃんの役割は〜〜…、」

「……私は貴様を見くびっていたようだな、土間」

「へ?」

「まず初めに貴様がここまで頭が回る生物とは、不覚にも今悟ったものだ。………それともう一つ。──」


「──見た目に反して中々に『悪魔』な作戦じゃないかっ…。……ここまで私を明確に『道具』扱いするとは。………鬼畜めッ」

「………うん、そうだね。自分で言うのもアレだけど…うまる、結構鬼だと思うし。──」

「──でもさ! あっちが鬼モードで来てんだから、こっちだって鬼らしさを発動しなくちゃ!! でしょ?」

「……………」



「それに、シューティングゲームの鬼モードでは、『敵機が大量に来た場合は、BOMBを使わず一匹一匹倒していく』…。──これが上級者ムーブなんだからさ…っ!」


「………やれやれだ」


──ただ、その策の説明を以てして、デデルは難色を隠し切れない表情であった。

885『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:15:26 ID:hzrHUxHA0


………
……


【ウンディーネ捕獲作戦】
【ウマル作戦】
────始動。


 三階廊下。
館内案内図によるとレストランやスポーツジムなどが併設されているこの階にて、──現在ウンディーネは一体のみ。
もっともそれはあくまで目に見える範囲の話。
他にもどこかで密かに蠢いている模様だが、──ただ、デデル曰く「魔力反応はこの階だと三体ほど」とのことだ。

1/3。
────たまたま群れから離れ、孤独に漂い続ける一体のウンディーネ。
これは偶然か、あるいは奇跡か。
うまる立案作戦のために用意されたかのような、格好の実験体だった。


銀扉のガラス越しに、ゆらゆらと不規則に漂うウンディーネを覗き込む三人。


「…じゃ、……そゆわけで〜…──うまるーんっ!!」

「………」 「わ、わぁ……」


当作戦において、切り込み隊長を名乗り上げたのはうまる。
動きやすいようJKモードに変身した後、立案者自ら表舞台へと望む。


「……………すぅ……」


うまるは、一呼吸。息を整える。

正直なところ──先陣を切って生き残れる自信なんて、うまるにはなかった。
身体の震えを抑えるだけで精一杯だ。
どこぞの脳内お花畑月刊マー少女みたいに、死の恐怖を感じず突っ込めたら楽だっただろうに…と、うまるはこの瞬間ばかりは、自分の妙に回る頭を恨んだ。

恐怖が心臓を揉みくだして、はち切れそうだった。


「……はぁ…………。──」


「──じゃ、……あとはよろしく〜。デデルにマミちゃん!」


「…………」 「………うまる…ちゃん……」



だが、自分以外にやれる者は該当しないため、────ならば動き出すしか無かったのだ。


 バタンッ──


「うおわァアアアアアアアアアアアっっ!!!!! なにがウンディーネだこの水ヤロォオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!!!!」




〜【行動その①】〜
──囮となったA(※うまるが該当)が、ウンディーネの前に飛び出す。



 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────


「うわ!! あぶなっ!! …く、くおおおおおォオオオオオオオオオ!!!!!」



【備考】
──※なお、囮は卓越した運動神経を持ち、ウンディーネの水刃を軽々と避けられる者が望ましい。



「よっ…!! あらもっかいよっと!!!」


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
  ガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────


「……さらにもっかいよっと!!!」


  ガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────ガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
 

「はぁはぁ…。──……へへへ…!! なんだかちょっと楽しくなってきた自分に驚いてるんだよね〜(ひ●ゆき風〜〜)…なんちって。はぁはぁ……。──」

886『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:15:44 ID:hzrHUxHA0
「──じゃ、今だ!!! 準備!!! デデル〜〜…Fightッ!!!」

「………やれやれ。…この重労働は労災が下りるものやら……。──」


「──まぁ魔人である以上、務めを果たすまでですがねっ……!」


 バタンッ──



〜【行動その②】〜
──その後、Aと交代で鉄鍋を持ったB(※デデルが該当)が飛び出し、ウンディーネのウォーターカッターを正面から受け止める。



 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
  ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────

 ギギギギギギギィィイィイィィィィィッッッ


「ぐぅうッ…!!!」


「ま、魔人さん…!!!」 「はぁはぁ……。だ、大丈夫?! デデル!!!」

「…………ご心配なくッ…というよりも黙ってください…マスター……ッ。ものの数秒の…忍耐ですからッ……!!!」


 ギギギギギギギィィイィイィィィィィッッ



【備考1】
──※なお、Bは三人の中で腕力、そして体力が一般人以上。並外れた力の持ち主が望ましい。
──※ウンディーネのウォーターカッターは、レンガブロックも刹那に切り裂くパワー。
──※1000km/hの剛速球をしっかりと鉄鍋に受け止める。強靭なブロック力を持つ者でないと遂行には難しい。



 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
  ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────

 ギギギギギギギィィイィイィィィィィッッッギギギギギギギッッ
  メキメキメキメキバキバキバキバキバキバキバキッ


「ぐぅがぁッ!!! ぐぅううッ…!!!!」

「え、…ちょ、ちょっとまずくない……?? え、本当に平気なの?! デデル!!!」

「ぐうッッ………!!!!!!」

「な、なんか…すごい勢いで凹んでるけど………。ほんとに大丈夫?! …これは鍋的な意味も含まれてるからね?!」


「……ッ。………土間の小娘、一つ…ッ、聞きたい……」


「へっ?!!」


「…何故………ッ、キサマが……囮役を志願したのだ……ッ? ……マスターはともかく……私が囮と捕獲役の二重を兼ねても……良かった筈ではないのかッ……………?!!」

「え、…え。そ…そんな、理由なんてそんなの………。──って今ど〜でもいい質問してる場合はないでしょ!!! そんな余裕は…、」

「余裕なら────…十分にある」



 ガガガガガガ…………

    ガガ、ガ………



  ぽちゃん、ぽちゃん……



「………え?」

887『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:16:03 ID:hzrHUxHA0
【備考2】
──※ウンディーネは小さな個々の『水の精霊』が集まり、球状の形を成した存在。
──※つまりは、代表的攻撃である『水流攻撃』は、厳密には体当たり《アタック》。
──※自らの身体を相手へ目掛けて突進、移動してくる形とも言える。



「…あまり魔界の力を見くびるなよ。人間の小娘に…魔物風情がっ………」



【備考3】
────※即ち、鉄鍋で忍耐強く受け止め続ければ、ウンディーネ丸々一体、手中の内も可能。



 ちゃぽん…

  ちゃぽん…


 ガガ…ガガッ──…



「お、おおっ!!!」 「さすがはこの私の魔人さん!!!──」



【行動その③】〜
──急いでもう片方の鉄鍋でウンディーネを閉じ込め、キッチンまで急ぐ。


 ガシャンッ


「──す、すごい!! やばいよねうまるちゃん〜!!! ついに…ついにここまで来たんだよ! なんて…なんて凄いんだ……! これはもはや人類の選別カウントダウンに似た光悦だよ!!」

「「黙れッ!!! 口よりも手を動かせ!!! マスター(マミちゃん)ッ!!!」」

「あ、…え、えぇ……。あっ…そっか!!」


 ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ──



【備考】
──※この際、閉じ込められたウンディーネは激しく暴れるため、押さえ込みは全力で行うこと。




〜【行動その④】〜
──Bが来る間、C(※マミが該当)がガスコンロから火を付け、待機。



「マミちゃん急いでっ!!!」

「わ、分かってるから〜…!! どれどれ……──ポチっと」


 ──ピッ


「点いたよ!! 魔人さんっ!!!」

「………ありがとうございますマスター…!! さて、ここからが一番の…、」



〜【備考】〜
──※少しでも早く煮沸できるよう火力は『強火』が望ましい。



「…って、IHで鉄鍋に火が通るかァッ!!! この小娘がッ!!!!!」

「え…?! え、えぇー……?!! 魔人さんの…マジギレ………」

「……〜ぃッ!!! あぁもういい!! ──…ほらデデル!! 火つけたから!! こっち使って!!!」

「くぅッ!!!──」


 ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ──

  バンッ、バンッ、バンッ、バンッ──


「──では、行きますよ……ッ」

「…うんっ!!!」 「…あ、ぁう……」

888『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:16:19 ID:hzrHUxHA0
 シュウウウウ…………


  ジュウゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥッッッッ


「ぐうッッ!!!!」



〜【行動その⑤】〜
──火のついたガス台に鉄鍋を据え、ウンディーネが死滅するまで熱し続ける。



 ジュウゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッッッ


  ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ──

   バンッ、バンッ、バンッ、バンッ──


「がぁああァァァァ…ッ!!!!」


「で、デデル…!!!」 「わ、わわ‥!!!」



〜【備考1】〜
──※ウンディーネが死滅するまでの間、どれだけ鉄板の熱さが酷くなろうとも。
──※どれだけウンディーネが暴れ回ろうとも。
────※そして、どれだけ掌が焼け爛れようとも。

──※決して手を離してはいけない。



ジュウゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッッッ
 ゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッッ


「………ぐぅが…がぁアアアアアアアア…ッッ!!!!!!」




〜【備考2】〜

────※全ては、作戦遂行の為に。



 ガンッ… ガンッ… ガンッ… ガンッ…

   ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ1

     バンッ!! バンッ!! バンッ!! バンッ!!



「アアアアアァァァァアアアアアアッ…!!!!!!」

「…あ、あぁ……」 「デデルッ!!!」


「うっがああああああああああああああああああアアアアアァァアアアアアアアアアアアアアァァアアアアアアッ────」




 ────バンッ──────。





【以上】
──全ての行動を遂行した際、『うまる作戦』は成功と同義となり、


──【ウンディーネ捕獲作戦】、【ウマル作戦】は終了とする。



………
……


889『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:16:32 ID:hzrHUxHA0



……

【ウンディーネの白湯】
・ウンディーネ────適量

1:ウンディーネを煮沸させる。

[エネルギー]
[タンパク質]
[脂   質]
[炭水化物 ]
[カルシウム]
[鉄   分]
[ビタミンA]
[ビタミンB2]
[ビタミンC]

……


890『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:16:48 ID:hzrHUxHA0



「……やれやれ。これだから興味深い物だ、人間という生き物は…」

「え? デデルなんか言った〜??」

「……いや、気にするな。たかが独り言だ、うまる」


 三階/冷蔵ルーム。薄暗い室内にて。
山積みのブラジル産鶏肉の段ボール箱に寄りかかる魔人・デデル。
今の彼の身体は、箱に刻まれた『消費期限 七月九日』の文字が霞みがちに映る程度には、透明から色を取り戻していた。
右手に持つランプを揺らせば、中でチャポンチャポンと魔力が波打つ。
ほんのショットグラス一杯ほどの、かすかな量ではあるが、彼の『タイムリミット』はか細くも延ばされた形となっていた。


「……フっ…」


らしくもない──と。自分の掌を見て自嘲する魔人。
自らの肉体的苦痛と引き換えに、成功へと終わったうまる流ウンディーネ作戦であるが、考えてみれば参加する理由はデデルに無いのである。
願い事を叶える魔人──とはいえ、この作戦は主の願いから来たものではない。
身を削り、焼ける痛みに耐えても、その対価となる報酬は何一つ存在しない。ゆえに、進んで臨む道理など、本来あろうはずもなかった。

“それだというのに、何故自分は、ランプの魔人らしからぬ行動をしたのか”────。

朧げながらジンジンと未だ熱さを覚える右掌へ、デデルは静かに笑みを浮かべる。


「…あれ? もしかしてまだ痛む感じなの? 魔力戻ったからしたはずじゃんか、回復魔法で…、」

「いや。貴様も何千年間生きれば悟ってくるものだ、うまる。…大人というものはな、理由もなく何かを眺め、ただ物思いに耽る瞬間がある」

「ふ〜〜ん。とりあえず次の願い事は『うまるとお兄ちゃんの寿命五千年にして』で決定だね〜〜。一生ダラダラしたいよぉ〜〜〜〜」

「…まったく貴様は……。フッ……。──」


うまるは敢えて触れずにはいたが、作戦終了を機にいつの間にやら、呼称が「土間→うまる」へと変わっていた。
この呼称グレードアップの裏腹には、辞書で引くところの『ある二文字』が込められているのだろうが、
魔人は果たしていつ、その意味に気付くことになるのだろうか。


『信頼』という、単純な二文字が──。



「──……さて、そろそろ面倒事を片付けるとするか…。貴様にも働いてもらうぞ、うまる」

「……はいは〜い。はあ〜〜…めんどくさい〜………。──」


 ばん、ばん、ばんっ


「──おーい!! マミちゃ〜ん!! そろそろ出ておいでってば〜〜!! ほらほら、そんなとこ寒いでしょ?」

「…うっ、うぅ……。やめて!! は、話しかけないで…!!」

「はぁ……。マスター、もう分かりましたからそろそろ開けますよ。誰も貴方を責めてなどいませんから」

「だ、だから話しかけないでってばぁ!!! …ひぐ、うぅっ………。お願い…だから…。──」


「──ひとりにしてよ…………。うっ、う………」


「……はぁ…………」 「……駄目だこりゃ…」



──ただ一方で、その『信頼』が深まるほどに、心を抉られていく者もいる。
うまるとデデル──二人の間に芽生えた信頼関係。

────自分一人を除いた、その信頼。

891『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:17:04 ID:hzrHUxHA0
 場所視点を移そう。
うまるらが今身を置く冷蔵ルーム、そこを区切る分厚いドアの向こう側にて。
体育座りで冷え切る身体を縮こませながら、涙ぐむ少女が一人。
氷点下の冷気と比例するように、心までどんどん冷えきっていく彼女は、

・『IHクッキングを点けてしまった際、うまる&デデルの苛立ちが傷ついた』──が、一割。
・『作戦の最中、自分だけ何もできず、無力感に苛まれた』──が、一割。

そして、
・『自分が一番偉い【マスター】な筈なのに……三人の中で足手まといなのが……辛い』──が、八割の内訳で。


「ぐすん……ぐすんっ………。う、うぇっ……ぇ………え…っ………………」

「「……」」


マミは、先程から冷凍庫ルームに引きこもっていた。



「…まぁ引きこもると言ってもこちら側から開けられるものだがな、冷蔵庫同様」

「…ねえマミちゃん分かるかなぁ……。そのドア、マミちゃんの側だと絶対出ることできないんだよ……? ほっといたら凍死しちゃうじゃん…」

「……え? ……うぅ〜…だ、だからぁ!! わたしのことなんか構わないでって!! ……もう〜っ………」


「…やはり人間はコリゴリな気がしてならない」

「まぁまぁデデル〜…。じゃ、お望み通り放置プレイでいこ〜よ。ね」

「そうだな。…ではマスター。一時間後、生存確認しに参りますのでその時までお休みください」


 そりゃマミも寒いだろうが、うまるたちも冷蔵ルームの空調はなかなか堪える。
ドア奥から響いた「えっ?!」という声を無視して、うまるらは冷蔵ルームを後にしていった。

二人の共通認識を直球で示すとするなら、──アホに構ってる暇はまだ無いのである。



 三階/調理室。
干物妹モードで調理台に寝転がるうまると、掌を再度眺めるデデル。
火傷一つ残らず治癒しきった──半透明な掌を眺め、デデルは憂いのため息を漏らしていた。


「…ちなみにだが、うまる。貴様の性格上、少し褒めてやればすぐ図に乗るだろうから、先に落としておくぞ」

「………うわぁ〜…今脳裏に走ったよ〜…。テロリン♪──って名探偵メガネくんみたいに…嫌な予感がさぁ〜………」

「十八点。貴様のウンディーネ捕獲プランは十八点だ」

「…一応聞こっかな。何点中…っ??」

「五京二千三百八十六兆七千五百十億三千二百五十一万…、」

「あぁもうストップストップ!!! わかったから〜!!! …てか絶対適当数字でしょっ!!──」

「──つまりはこう言いたいんだね? ────『二度目は通用せんぞ』……的な〜?」

「…今度は百点満点の回答だ。ただ一つ減点ポイントを考えるとするのならな?──」


「──『一度目で終わらせる策』も添えて、答えてもらいたかったものだ」

「………うん、う〜ん…」


 大勢が敵なら、まず一人ずつから────それがモットーのうまる作戦。
一応は成功に終わったものの、欠点の多さゆえに一概に『成功』と括るのは難儀な話であった。

それは、簡単にまとめるなら、『一回きりなら成功と言える作戦だった』──という故である。

 ねずみ算ならぬ『ウンディーネ算』で考えた所、現在ホテルには総勢二十六体。それぞれ一階から四階に分散されているとデデルは語った。
一方で、デデルの魔力残量はパーセンテージにして現在18%ほど。
ウンディーネ一体のみで二桁台に魔力度合を乗せたため、単純計算すれば十数体分の魔力がランプには必要となる。
従って、必要分以外のウンディーネは構わずとも良いのだが、今後の身の危険を考え(──というより山井恋への嫌がらせも兼ねて)、うまるらは全員捕獲との結論に至った。

892『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:17:18 ID:hzrHUxHA0
そう。二十六体分。

四階分を往復しながら、チマチマと二十六体を熱しなければ事態の解決には至らないのである。
──今のプランのままでは。


「…たしかにうまるも体力的にムリだし〜……。…デデルの手も…ね。一回ごとに回復タイム設けるとはいえ、そんな回数火傷させられるとなりゃ〜………もう懲役三十日みたいなもんじゃん」

「…懲役三十日……。世にも奇妙のか」

「えぇ…知ってんだ…。魔界にもフ●テレビ映るわけ〜??」

「………朧げな記憶の残滓だ。そうそう、奇妙といえば我が愚主《マスター》も、二十六回必ずキッチンコンロを点けられる保証はない。──」


「──すべては奴らの弱点である【熱】を突こうとした、この私が浅慮であったのだ………」

「…今気付いたけど、マミちゃん相当マスター特権()で忖度されてる作戦だよね〜……これ〜〜…」


 『熱』という弱点を度外視した、新たなプラン。
果たして『新たな作戦立案』という光明は見えるのだろうか。

ちなみにだがデデル曰く、残りの魔力で叶えられる願いはあと一つ。
先程、うまるは「だったら全部のウンディーネここまでワープさせればよくない?」と言いかけたが、──すぐさま口を閉ざした。
分かっている。喋ろうとした瞬間、頭をよぎったのだ。
「その量のウンディーネを一体誰が熱するというのだ?」や、「その量を収められる鉄鍋をどこから用意する」や、
────「…魔力が少し回復した瞬間、真っ先に『ポテイトとコーラ出して〜』と願った貴様が言うかッ…?」等と、恐ろしいロジハラの嵐を。


 ──バリバリッ…

「どうした、食え。中々に美味いぞ、このポテイトとやらは」

「い、いや………。違う意味でお腹いっぱいです…。…我がデデル様…………」


 ──ゴクゴクッ…

「あぁ、コーラとやらも実に美味い。…これだけの味なら、貴様が癖になるのも無理はないなァ?」

「………は、ハハ…(こわっ?! 思い出したかのように怒ってヒートアップしてるよぉ〜〜!!!)」


なんだか干物妹モードだと、やたら機嫌が悪くなる我が魔人であるが──それはともかく。


一体どうすれば。
ウンディーネを捕まえる手段は、他にはあるのか。
どうすればこの危機から、──この居心地の悪い空間からおさらばできるというのか。


かつて、アイザック・ニュートンは空から落ちたリンゴをきっかけに万有引力を見出したものだが。
──ならば今この瞬間、うまるの頭にも『リンゴ』という名のヒントがぽとりと落ちてこないものか。


「…う〜〜〜ん………」

「…まったく………」


うまるはノーベル化学賞に匹敵する頭脳を、心の底からレンタルしたい気分であった。

893『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:17:31 ID:hzrHUxHA0
────ただ、いくら頭を捻ろうとも、難題《壁》は容易く崩れず、越えることもできない。

────人は思索を深めれば深めるほど、かえって袋小路に迷い込む性質を持つ。

────しかし、それでも私は『考える』という営みを無益だとは断じない。

────成功する者とそうでない者の差は、努力や才覚ではなく、『考え方』だ。『考え方』さえ変えれば、閉ざされた扉も驚くほど容易く開くのだ。


────私が何事かを案ずるとき、必ず考えておく事項がある。



────“それは、もう既に『忘れてしまった物事』について、考えるのだ”。

(哲学者 アイザック・ニュートンの遺稿より)




 バタンッ──


「話は聞かせてもらったよっ!!! うまるちゃんに魔人さん!!!」


「くっ?!」 「わ、ビックリしたぁ?!!」



 冷蔵ルームのドアが突拍子もなく開かれた。
「M●Rのキバヤシかっ!! …また古いネタをあんさんは…」──この時うまるが冷静だったのなら、そうツッコんだ事だろう。


驚嘆を隠しきれないデデル、うまるの両視線の先。
そこに立っていたのは──────【“魔人に忘れ去られていた冷却少女”】。


「いい!! UMAるちゃんの作戦なんかよりも、わたしの方が50,238,675,103,251万倍すごいってことを…このわたしが……──」

「………マスター…?」 「ま、マミちゃん………?!」



──新庄マミは、全身至る所に霧氷をつけ、誇張してるぐらいにガクガク震えながら、──颯爽と現れた。
顔色も悪い。手に持つ月刊マーなんか完全に凍りきっている。
イメージとしては『SAW3』の氷漬けにされた女性に近い姿で、我らがマスターは現れたのだが。

──だが、その表情だけは、いつもの倍以上の熱量を放っていた。


「──マルっとズバっと見せつけてあげるんだから!!! だから聞いて!!!──」



「──わたしなりの…【ウンディーネ一括捕獲作戦】を!!!」



「…………え?」



────事実、デデルらはこの後、二十五体全てのウンディーネを手にすることとなる…………。

894『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:17:51 ID:hzrHUxHA0



【BGM】
ttps://youtu.be/9IOZNfDpRek?si=mlQqNmr0UYitMxQZ


 用意された習字用の筆と、何枚にも重なる紙──。
うまる、デデル両名の視線が集中する中、マミは第一投を紙へとぶつける──。

閃きのきっかけは、ドアだった──。
一通り泣きはらし、切り替えの意を込めて超能力()の練習をした際──、
内部からは絶対に開けられないはずのドアが、突然、後方へと倒れてきたのだ──。


「はァア──────っ!!!!」

「和田アキ子かっ〜〜!!」





 スラスラスラ──。


…《回想》…
マミは、先程から冷凍庫ルームに引きこもっていた。


「…まぁ引きこもると言ってもこちら側から開けられるものだがな、冷蔵庫同様」

「…ねえマミちゃん分かるかなぁ……。そのドア、マミちゃんの側だと絶対出ることできないんだよ……? ほっといたら凍死しちゃうじゃん…」
…《回想》…


一枚目ッ────【ドア】。



無論、これは念動力が実を結んだ結果ではない──。
老朽化により自然と壊れたまでであるのだが──。

『ドア』が床に倒れ伏せたその時。マミの脳裏に【閃き】が走った──。


 スラスラスラ──。


…《回想》…
『単刀直入に申しますと、皆様には『最後の一人になるまで殺し合い』──をしていただきたく集まってもらいました……!』

そう言い終わると、利根川は持っていた頭を適当な方向に投げ捨てる。
…《回想》…


二枚目ッ────【バトル・ロワイヤル】。



「マスター…これは一体……」

「へぇ〜……フジは映るのに、TBSまでは入らないんだ〜デデル。魔界のテレビ事情ってさ!」

「は?」

「…ま、見てなってば〜!!」



 スラスラスラ──。


…《回想》…
 「…………弱点か」

 A『ねえ、何か…ない? 参考までに水タイプは草と電気に弱いよ〜? …ポケ●ンの話だけどさ……』


 「………………。──」


 「──…【熱】に弱い。…との伝来は残っているな」
…《回想》…



「はぁっ!!!!」



三枚目ッ────【弱点:熱】。

895『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:18:07 ID:hzrHUxHA0
…《回想》…
〜【備考】〜
──※少しでも早く煮沸できるよう火力は『強火』が望ましい。



「…って、IHで鉄鍋に火が通るかァッ!!! この小娘がッ!!!!!」

「え…?! え、えぇー……?!! 魔人さんの…マジギレ………」
…《回想》…



「はぁっ!!! …はぁ……ぁ………」

「あ、多分嫌なこと思い出して萎えたっぽい」 「…………マスター…」



 スラスラスラ──。

四枚目ッ────【弱点:強火!!!】。



…《回想》…
そう。二十六体分。
四階分を往復しながら、チマチマと二十六体を熱しなければ事態の解決には至らないのである。
──今のプランのままでは。
…《回想》…


スラスラスラ──。

五枚目ッ────【チマチマ】。



…《回想》…
「…やはり人間はコリゴリな気がしてならない」
「まぁまぁデデル〜…。じゃ、お望み通り放置プレイでいこ〜よ。ね」

「そうだな。ではマスター。一時間後、生存確認しに参りますのでその時までお休みください」
…《回想》…


スラスラスラ──。

六枚目ッ────【コリゴリ】。



「……ふぅ…!!」



ここまで書き表し、マミは一旦筆を置く。
弘法筆を誤る──という諺に失礼なくらい、汚い字の習字たちを並べていくが。


極めつけに、最後の一書き──。



「はぁっ!!!!!!!!」

「織田●道か!! G●NTZの仏像に殺されたやつ!!!」 「……うまる、貴様も何故一々ツッコむ必要がある?」


スラスラスラ──。

七枚目ッ────【土間 うまる】。


「……なんだマスター。そのチョイスは…」

「いや分かったよ?! うまる、その意図もうバッチリ読めちゃったからね?! だってこの後マミちゃんが何をしだすか…、ドラマ見てるから履修済みだもん!!!」

「なんだそれは。おいうまる、詳しく説明しろ」

「そ、そりゃ……。『うまるのこと憎んでるから』──でしょ?! ねえっマミちゃん!!!」


「…へへっ…!!」

896『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:18:21 ID:hzrHUxHA0
 文字が書かれた紙を全て一纏めにしたマミは、したり顔に似たバカらしい笑みでニヤリと。
うまるを一瞥した後、紙を両手でビリッ。
破いては再度まとめ、ビリッビリッ、さらにビリッ。両手で破けないとなれば足で踏み、ビリビリビリビリッ。
七枚すべてを破き切ったその後──。


「………」

「はぁ!!!」


──習字の紙吹雪を、両手で勢いよく撒き散らした。






「……いただきました…!! …題して──【ウンディーネ捕獲作戦 in マミ】…!!」

「………はい…?」

「──主から魔人へ。令呪を持って命じます…!!──」



「──作戦に伴い、わたしの願い事を一つだけ………叶えてほしいんベェへックシュンッ!!!!」


………
……


897『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:18:38 ID:hzrHUxHA0




 ウンディーネとは、水の『塊』。


四階廊下。
館内案内図曰く豪華なプールサイドが併設されているとのことだが、そんな案内図を読む暇もなくウンディーネが漂う。
その数実に二十体。二十体もの殺戮水生物が漂っているのだから、もはやプールサイドというより人食サメの水族館の併設だ。

20/25。
──人が絶対踏み込んではいけない縄張り地帯にて。


一匹。

そして、また一匹と。一匹と。


 ──ゴトンッ

  ──ボトンッ


なんの前触れもなくして、ウンディーネは次々に生命活動を停止。
文字通りの『塊』が床へと落ちていった。



「う、ゔぶう…〜〜うぅぅぅぅ…!!!! 寒いよぉお!! 夏なのにぃ〜夏なはずなのにぃ〜〜〜!!!」

「…作戦立案者がそんな情けない姿みせなさんなってマミちゃん〜!!」

「うぅうう〜……。分かってるから!! んじゃあ…ごほんっ!──」


「──うまるちゃんっ!! そして魔人さんっ!! 本時刻を以て作戦始動────開始!! 行くよっ!!!!」

「らじゃぁアアアアー!!!」

「……やれやれだな。………これだから人間とは…、──」



「──実に興味深い生き物だっ……!」



【ウンディーネ捕獲作戦】
【マミ作戦】
────始動。



〜【行動その③】〜
──三人協力して、ウンディーネを回収。後、粉砕。


 ──ヒョイッ

「おもっ!!? …いや予想はしてたけどさぁ〜〜……。とにかく重っ!!!」

「うぅう〜ガクガクガク〜〜!!! 寒いよ冷たいよ重いよぉ〜〜〜〜!!!!」

「…だから申し上げたはずです、私一人で運ぶと。…にも関わらずあなた方は聞く耳すら持たなかった…。…せいぜい頑張ってください」

「……うぅう〜〜〜………。『鬼めっ…』とは言えない立場なのが悔しいぃ……。──」


「──で、でも…。でもだよ!! …デデルっ!!」

「……なんだうまる」

「…そりゃ出会って何時間も経たない…お互い信頼しあってるかと聞かれたら即答はできない関係性だよ…。うまるらは……。──」

「──でも!!! それでも…一人だけに重労働任せるなんて…!! そんなのできないから!!!」

「……」

「…薄っぺらくたっていいさ!! 信頼関係乏しくても構わない……!! それでも…うまるらは…三人は『仲間』なんだから!!!──」


「──さっきの作戦の時、『何故キサマが囮役を志願したのだ?』ってデデル訊いたでしょ…?──」


「────これがその答えだよっ!!」



「…………。………ほう。──」

898『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:18:52 ID:hzrHUxHA0
〜【行動その②】〜
──ウンディーネが『凍りつく』のをただひたすら待つ。

【備考】
──全てが氷塊と化す、その時まで。実行者A、B、Cは忍耐するのみ。



「──陳腐ではあるが心には響く回答ではあったぞ、うまる。──」

「──…ただ一つ。願わくば、その発言がワ●ピースからの受け売りでないことを祈るまでだがなっ…!!──」


「──…しかしお任せください、マスターにうまる。……魔人とて、ただ傍観するだけでは飽き足らぬ時があるのですから……っ!」


 ふわっ…


「おお!! ウンディーネの塊が浮き上がったよ〜!!! しかも全部! 全部!!! さすがわたしの魔人さん!!!」

「しかも魔界は間違いなくフジテ●ビが映るご様子だ〜い!!!」




〜【行動その①】〜



──B(※デデルが該当)に、

────『一階から四階まで。つまりウンディーネがいる全ての階の温度を【氷点下零度】にして』と願い事を頼む。


【備考】
──※ウンディーネは【熱】に弱い魔物。
──※熱とはすなわち【温度】と意味合いではイコール付けられる。

────※水の融点は『零度』である。



………
……



「じゃあ行くよ…!! うまるちゃんに魔人さん!! せーの!!」


「…いや、何が『せーの』ですか? 貴方一人でやる作業でしょうに」

「あ〜〜もういいからさっさとやっちゃって!! 我がマスター・マミ様!!!」

「はいはい!! 【アルティメット〜〜…──」


「──かき氷作戦】!!! おりゃああぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!」



 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリッッッ────
  ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリッッッ────


〜【行動その④】〜
──全回収後、調理室に戻り、『かき氷機』で氷のウンディーネを粉砕。


【備考】
──※氷の刃がきゅるきゅると唸り、透きとおる粒がほろほろと崩れてゆく。
──※砕かれたばかりの雪のような氷片は、ふわりと舞い、涼やかな音を立てながら器へ降り積もる。



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」


 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリッッッ────
  ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリッッッ────


「…雄叫びを上げるほどの仕事でないでしょう」

「まぁまぁ!! マミちゃんにやっと訪れた見せ場なんだから!! 念願の舞台に水差さないであげてよ〜〜!!」

899『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:19:04 ID:hzrHUxHA0
「う…うるさいんだって!! …二人して、わたしをイジれば場が和むっていう……その共通認識がぁ!!!──」


「──ムカつくんだってもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」



 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────





 ────ガガッ──────。




「あ!!」




【以上】
──全てのウンディーネを粉砕しきり、そしてランプへと氷の粒を入れきった際、

──『マミ作戦』は成功を意味し、




────【きょうの料理】は完成となる。








【ウンディーネx25@ダンジョン飯 死亡確認】
【mission complate!!】





900『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:19:16 ID:hzrHUxHA0



……

【ウンディーネのかき氷】
ウンディーネ────適量

1:ウンディーネを凍らせる。
2:お好みでシロップをかける。

[エネルギー]
[タンパク質]
[脂   質]
[炭水化物 ]
[カルシウム]
[鉄   分]
[ビタミンA]
[ビタミンB2]
[ビタミンC]



──[魔   力]★★★★★★★★

901『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:19:35 ID:hzrHUxHA0


………
……



【ホテルでのBGM】
ttps://youtu.be/3hEyf6KZxPM?si=neaUniefA2Zb86JL


 ──パクっ

「うんみゃぁああ〜〜〜〜〜!!! ヒエッヒエ〜〜〜!!! やっぱ夏って言ったらコレだよねぇ〜〜マミちゃ〜〜〜ん!!! かき氷パワー全開〜〜〜〜〜!!!」


「………」



「…え。何そのドン引いてる感じ………。ま、マミちゃん…食べないの……?」

「土間、貴様サイコパスだろ」

「え゙っ?!!」

「そうだようまるちゃん。もう気付いてって。──」

「──シロップ、つまり人工甘味料は体に悪いんだよ。なんで体に悪いものを販売してるか分かる? 『依存』と『病気』を作り出すための陰謀なんだよ。砂糖の代わりじゃない──新しい鎖なんだよ。…関先生がそう言ってたけどね」

「…この歳にして思想が月刊マーに犯されてるしぃ〜…」

「というか、シロップじゃなきゃ食べるつもりだったのですか……? マスター…」


 一階ロビー。噴水の縁にて。
噴水が脅威の欠片も感じさせない、本来の『水』としての和やかさを演出する。

本来の姿──といえば、それはまたデデルも同じく。
ランプ内の充満された『魔力』が、彼の元の身体を物語っていた。


「…あ、そうだうまるちゃん。…一応〜聞きたいんだけどさ………。さっき、四階でたくさんのウンディーネに襲われたとき…あったじゃん?」

「あんむ!! もしゃもしゃ……。それがどした〜?」

「あの時…わたし何か叫んだの……。聞こえてない…よねぇ〜…??」

「え? うん。マミちゃんが『ママ〜!!!』って叫んだのはうまるらだけの秘密だよ〜〜〜ん」

「っ??!! ちょ、そ、それ秘密になってないでしょ?!──」


 ──ぐぅぅ…

「…も、もういい!! わたしだってかき氷食べるんだから!! シロップ代わりにコーラで!!!」

「…いや食べるのですか、マスター」

「あ。ついでにデデル〜。『五万円の水●燈のドールちょうだい』〜〜!! はい、お願い☆」

「……最も普通からかけ離れた種族であるこの私が、唯一の常識人になりつつあるな……。……まったく、土間め……っ」



 ピアノのBGMが静かに鳴り響く、早朝のロビー。
壊れかけの窓ガラスからノンビリと日差しが登る。
それは純粋な温かさの日差しではない。夏の予感、とも言えるジリジリ感は拭いきれない朝日だった。
熱さ故に、空調が壊れきったロビー内にいるうまるらは自然と汗が浮かび上がるが、
──その汗には冷や汗が含まれることは、もうない。


「うへっ!!! 頭いた〜いぃ〜!! キンキンするよぉ〜!!!」

「おっ、脳に電波攻撃されてますか〜!!? マミちゃ〜〜〜〜ん!!!」

「う、うるさいって!!! もう!!!」




「…まったく。──」

902『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:19:49 ID:hzrHUxHA0
縁に腰を据え、和気あいあい(?)と喋る女学生二人と。
そして、呆れながらも眼差しを注ぎ続けるデデル。


「──…やれやれなもの…だな………。…ふっ」



 平穏な、陽の光。
嵐が過ぎ去った。
安らぎのこの時間。

噴水が陽光を弾き、細やかな水しぶきが宙に舞う。
耳をくすぐるのは、途切れることなく続く涼やかな水音。
そのさざめきの中、ふと、水面がわずかに揺れ、ひそやかに顔をのぞかせるは取り残されたウンディーネ。



  ──パンッ────






「……………え」



「………な」




新庄マミの心臓を的確に撃ち抜いた後、颯爽と『主人』の元へ帰るウンディーネを眺めながら。
三人は、今はまだ平穏さの余韻を味わい続けるまでであった──。



【新庄マミ@ヒナまつり 死亡確認】
【残り62人】


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