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【第1回放送〜】平成漫画バトル・ロワイヤル【part.2】

731『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:21:54 ID:rmwPsVaY0




 救急車のドアは、思ったよりも軽く開きました。
内部には、消毒液とゴム手袋の匂いがほのかに残っていて〜〜…。
でも、それすらも「ちょっとレアな車内芳香剤♪」みたいに思えてしまいます☆


「わ〜っ、すごい!本物の救急車に乗るのって、初めてです!しかもこうして走れるなんて……なんだか特別感ありますネ!」

「………」


コースケさんは何も言わずに運転席に座り、淡々とハンドルを握りました。
エンジンがゴウン……と低く唸るような音を立てて始動します。
車内のライトがぼんやりと灯り、私の顔を下から照らしました。


「これってちょっと映画みたいだなあま! 異国で出会った三人が、誰も知らない朝の渋谷を走り抜ける〜〜…だな〜んて!──」

「──ね!! 大野ちゃん!!」



 しーん…



「…お、大野ちゃんスルーはいけませんよ〜…?!」

「………………………………」



「ウフフ……☆ でも一緒に来てくれるんですね、大野ちゃん♪ そんなブスーっとした顔してても、ちゃんと来てくれるところが優しいですヨ!」

「………………………………(⁠╯⁠_⁠╰⁠)⁠」


ふふっ♡
態度では表さずとも、彼女もまたコースケさんになにか魅力を感じた者の一人なのでしょう☆


 ぶろろろろ……


 朝焼け前の渋谷。
誰もいない街を、救急車という名の異端な船で駆け抜けます。
わたしたちはまるで、季節の切れ目を旅する“もりのこびとたち”──そのものでした。
このままページをめくるたびに、少しずつ物語が色づいていくワクワク感。
コースケさん、そして私たちも、きっとその途中にいるのでしょう……。

ネっ✩
大野ちゃん♡




「………………………………」


………
……


732『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:22:19 ID:rmwPsVaY0






“鮮血の結末──【Bad End】は、ここから始まった。”









【1日目/H1/渋谷区内・某牛丼チェーン店前→救急車移動中/AM.05:17】
【マリア・マルタ・クウネル・グロソ@くーねるまるた】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】童話本二冊(腹部に装着)
【思考】基本:【対主催】
1:コースケと大野ちゃんと行動!!
2:この旅がいい思い出になりますように!
3:ちょっと変だけどコースケさん、好きかも?✩
4:野咲ちゃんが心配…。

【大野晶@HI SCORE GIRL】
【状態】疲労(軽)、やや不満顔
【装備】なし
【道具】雑誌二冊(腹部に装着)
【思考】基本:【対主催】
1:マルタ“だけ”を守りたい。
2:………………………………。
※大野は出展作品特権でリュウ@スト2の技が使えます。

【コースケ@大東京ビンボー生活マニュアル】
【状態】疲労(中)、軽い眠気、酒気あり
【装備】なし
【道具】割り箸、牛丼弁当並盛持ち帰り
【思考】基本:【静観】
1:救急車を借りて移動を開始。
2:ぐーたらマイペースに過ごす。
※チェンソーメイド(早坂)への警戒は継続中。

733『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:26:41 ID:rmwPsVaY0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①この回は、『大東京ビンボー生活マニュアル』と『くーねるまるた』を学習させたChatGPTに書かせたものです。
②いやーAIってすごいですねぇ。僕の文章の癖もちゃんと再現してくれるのですから。
③というわけで、以降全ての回はチャッピー(chatGPT)による執筆となります。
④これを読んで頂けた皆様、書き手の皆様も、ぜひ3000円課金してチャッピーに書かせてみてはいかがでしょうか。おすすめです。

734『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/16(月) 21:30:17 ID:OxoBAsgQ0
[登場人物]  [[利根川幸雄]]、[[三嶋瞳]]/[[根元陽菜]]、[[ヒナ]]、[[日高小春]]、[[長名なじみ]]、[[センシ]]、([[戌亥]])、[[伊井野ミコ]]、[[鴨ノ目武]]、[[鰐戸三蔵]]、[[相場晄]]

---------------

735『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/16(月) 21:30:34 ID:OxoBAsgQ0
「クククっ……………。…バカが……っ!」

「…え? あ、利根川さん何ですか?」


 早朝の渋谷を歩く、<働きマン>二人。
ふと、利根川がスマホを眺めながら口を開いた。
良くも悪くも掴みどころのない上司的存在に、三嶋は内心ハラハラしながらも、反射的に言葉を返す。


「お嬢……、キサマの名前は…確かに三嶋瞳なんだなっ……………?」

「?? 何を今更……」


何を言い出すか予想もつかず、そもそも予想すらしていなかった問いに、三嶋は一瞬だけ言葉を探す。
その隙を縫うように、利根川は語調を変えることなく淡々と続けた。
 

「…いや、いわば同業の好でな……? わしとお嬢は『プランA』のビジネスパートナーだ。……したがってキサマ──『三嶋瞳』について今……軽くググってみたものだが……………。──」

「──なんだぁ…? 『中学時代はバーテンダー、イベントスタッフ、ビール売り子にビル清掃、派遣社員を兼業。そしてアメリカに渡り軍に入隊し、ノウハウを掴む。高校時代は一年で企業。現在は某海外ベンチャーのCEOとして活躍中』……とは…」

「………」


「クスリしながら書いたのかな? このWikipedia編集者は………っ!」

「…それが困ったことに事実は小説よりえなりかずき〜って奴です。だってしょうがないじゃないですかぁ〜〜!!」


目を泳がせ語尾を引き延ばしながら、三嶋は渋々と返答をつむいだ。
彼女のひょうひょうとした答えに、利根川は余計舌を巻く事となる。
それが“事実”だと、困惑しきった顔でなお言い切れる──その神経に、利根川は静かに震えたのだ。
 

「バカかキサマはっ……!! 未成年就労児でもここまで働かんわっ……!!!」

「…私だってそう言われても〜ってわけですし…」

「…いやキサマが貧困家庭ならまだ納得がいくもの……。きっかけはなんだっ!? 何がキサマをそうさせたんだ……!? 何が目的でここまで働くっ!!? 答えろお嬢……っ」

「…な、なにがってぇ〜〜………。…イチローさんや野茂さんは野球、羽生さんは将棋…じゃないですか……」

「あ……っ?」

「…つまりは私は仕事…みたいな? 最初っからそうって訳じゃなかったんですけど、好きなんですよ。──」


「──『働くことが』が」

「……………なっ……。──」

 

「──………とりあえず、来るなよ………?」

「…へ?」


“なにに来るな”と言いたいのか──。
三嶋は一瞬迷い、口を開く。


「…とりあえず利根川さん、倒置法で話すのやめません……? 主語言わないから一々聞くの大変で──…、」

「<ウチ>帝愛にだっ……!! ビジネスがどのような流れになろうが……ウチには絶対近づくな…小娘っ………!!」

「えっ!? そ、それは何故で──…、」

「──…あっ」

736『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/16(月) 21:30:56 ID:OxoBAsgQ0
勘の良い三嶋である。
彼女はふと、利根川の言いたい事を先読みさせられた。

なるほど。自分が帝愛に関わろうものなら、利根川の狙うNo.2の座が揺らぎ──水泡。三嶋自身がそこに座ってしまう可能性すらある。
“はは……お互い社会人人生、大変なんだなぁ〜……”──と。三嶋は小さく息を吐いた。

そんな三嶋の隣で、利根川はといえば──口横にて怒りの唾液泡をブクブクと。絶え間なく湧き上がっていた。


「水泡水泡水泡水泡水泡水泡水泡水泡水泡水泡………っ!!」

「……」


………
……


 【死のゲーム】────…っ!

これは…、疑心暗鬼と裏切りの連続が絡み合う…──『バトル・ロワイヤル』にて………。
主催者が自分と瓜二つな男な故に、とんでもない運命に遭うという…………。
帝愛グループNO.2候補のエリートにして、サラリーマン一筋で戦い続けてきた中間管理職………『利根川幸雄』の………。


「──水泡水泡水泡水泡水泡………っ!! 水の…バブルっ……!!! 来るな……絶対に来るなっ……!!! 悪魔めがっ………!!!」

「………はあ」



…いや、どちらかといえば『三嶋瞳』の………っ。
苦悩と葛藤の物語である。




第 (六)(十)(六) 話

ヒナまつりx中間管理録トネガワ

『颯爽と走るトネガワくん』

〜酒と泪と男と女といくらとツインテと小春と幼馴染と戦士と唯一の味方と893と893と、そして……。登場人物定員オーバー・ロックンロールフィーバー〜
………
……




737『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/16(月) 21:33:17 ID:OxoBAsgQ0
分割投下以上です。
以降、今週中に4分割で全て投下します。
書きあがり次第随時wiki編集するので、「早く続きを」という方はwiki本ページからのアクセスをオススメします。

ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/pages/169.html

738『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:38:53 ID:cs1/aZKQ0



 【限定ジャンケン】──………っ。

 それは、希望の船・エスポワールで行われた1対1のゲーム。
手札はグー・チョキ・パー各四枚、持ち点は『星』三つ。
勝てば星を奪い、負ければ失う。十二枚のカードをどう使うか──運否天賦と駆け引きの応酬が、勝敗を分ける。

裏切りが約束された場所では、信頼こそが最も貴重な札となる物。
だからこそ三嶋は、疑う余地すらない『知人』との再会を心の底から願っていた。

この時────。



「ククク…っ!! 『私だから伝えたい ビジネスの極意』…──圧倒的名著………っ!! 次回作はいつぞやかな…? 三嶋大先生よ………っ!!!」

「…ぃっ!!! 黙れいじるなっ!!! …あ、失礼しました……。もうっいじらないでくださいよ〜っ!!!」

「ほう、なになに…? 『情熱を無くして仕事はできない』…とは……っ!! 同感の極み…!! クククっ…!」

「……はァ……っもう〜〜〜っ…!! 言っておきますが超適当に書いた本ですからねコレっ?! こんなの…精神異常者しか読んでませんよ……。──」

「──まったくっ…。…なんなの…もう………」

「クククっ……!!」



 神南の並木道。
まだか弱い日光がビルの谷間から差し込み、カフェのシャッターが音を立てて開き始める、そんな時刻。そんな渋谷の一角にて。
利根川は一冊の書籍を片手に、厭味ったらしくページを繰りながら歩いていた。
──言わずもがな、(バカ)堂下のお陰で今や渋谷中知らぬ者はいない三嶋大先生の著・『私だから伝えたい ビジネスの極意』である。

二人が目指す先は、拡声器を手に『三嶋万歳っ!!!』と叫び回る──そのバカ本人の元。
もはや三嶋にとって、殺し合いよりも利根川の嫌味よりも何よりも、
──余りにも理不尽な狂信者の存在が、最も神経をすり減らす災厄だった。


「利根川さん………、堂下って人、普段からあんな感じなんですか?」

「あ?」


そんな異常崇拝者の素性について、三嶋はふと質問を投げる。


「…大変失礼ながら、アイツのせいで私もう…歩くのさえやっとな位赤っ恥ですよぉ………。なんなんですか、あの人…」

「……。……そうだな……。──」


「──…My Answer────ワシからの答えは、『そうっちゃそう』……っ」

「……はあ」

「そして『そうじゃないっちゃそうじゃない』………だっ…………!」

「え?? はいぃ…?」


Answerはまさかの二段構え。

三嶋は思わず足がガクッとさせられた。
『そうっちゃそう』と『そうじゃないっちゃそうじゃない』──。彼の口にした曖昧な返答には、一体いかなる意図が潜んでいるのか。
噛み合わぬ二つの答えが曖昧な靄を残して空に浮かぶ中、利根川は本を静かに閉じた。



「とどのつまり……確かに堂下の奴は…圧倒的脳筋………っ。ワシとて、目に余る程の…要注意人物……判定:Eだ………っ。──」

「──だがその要注意判定も…あくまで常識の範囲内……っ! 破綻はあれど……まだ……っ…まだ『一般人』の括りに入れていい………。優秀な奴ではあったのだがな…………」


「………」

739『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:39:10 ID:cs1/aZKQ0
「…これまではワシという操縦者……っ。ワシの制御下にいたから…まだ暴走には至らなかったのか…………。………とにかく……このバトル・ロワイアルが発端であることは…確かっ………。奴が狂い出したのは…………っ」

「…出会ったら責任持ってきっちり操縦し直してくださいね。その壊れたラジコンを……」

「クク………。さっきから聞き流してみれば…キサマも中々のモノじゃないか……毒吐きが………っ!」


三嶋からしたら、文字通りの『毒』を壊れたラジコンにぶち注いでやりたいものなのだが。
テトロドトキシン、トリカブト、ベラドンナetcetc……。古今東西の毒物名が脳内で流れ続けるが、ここで思い出す諺は『バカにつけるクスリはない』。
(別の意味で)毒されていく脳裏に三嶋が苦しむこの最中、──今度は自分が問いを投げる番だと言わんばかりに、利根川がゆるりと口を開いた。


「さて、お嬢よ……。こうしてキサマからの質問を律儀に…答えてやったわけだ。ワシからも当然……っ、一つ良いよな………? 軽い質問を……っ!」

「ほんとに軽くしてくださいね? …どうぞ」

「ああ……っ。それは紛れもない…キサマ自身についての疑問だが──…、」




「あっ」 「あ?」


「えっ?」 「え」


ただ、利根川の問いが発せられることはなかった。
まさに言の葉がこぼれようとしたその瞬間──、通りの向こう、ビル角の影からふいに現れた二人の女子。
次の一音を押し出す前に、『出会い』が言葉を遮ったのである。

ほぼ同時に共鳴した、4つの声──「あっ」と「えっ?」。
空気をピンと張りつめさせる合図代わりの、小さな驚きのハーモニーは、並木道の空気感を固めてくる。


「あ、ヒナちゃん!!」

「…あ………っ??」


ただ、女子二人組のうち──青髪の女子に、三嶋は反射的に声がこぼれた。
特徴的な無表情と、のんびりとした空気感。紛れもない、級友の新田ヒナ──その人だ。
(バトル・ロワイヤル)殺し合いとは、出会いのすべてにまず疑念が差し込む世界下だが、その一瞬──少なくとも三嶋にとっては、張りつめていた神経が緩んだ瞬間だった。


「なんだお嬢…知り合いか…………っ?」

「ええ! …あ〜〜、実家のような安心感ですよ〜……。とりあえず、あの子はヒナちゃん。私のクラスメ──…、」

「ヒナちゃんッ!!! (アイツ)主催者にサイコキネシスだ!!!」

「はぁ〜い」


「……………………………え?」


──その安堵も、『念動力』という風で速攻吹き消される事となるのだが。



「ほいよっと」


 グイッ………

  ぎぎ、ぎぎ…


 ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギッッッッ



「ぎいっ……!? ぐががががががぁああああああぁあっ…!!!!!!」

「え…。え、ぇ…、え゙っ!?? ちょ、ちょちょ何?!!」

740『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:39:27 ID:cs1/aZKQ0
 利根川の悲痛な叫びと三嶋の慌惑の声が、並木道に木霊した。

 刹那、ありえない方向へ向かって捻じ曲げられる利根川の右腕。
それは、誰かの手による直接的な圧力ではない。言うなれば、『目に見えぬ意思により、骨を追い詰めていた』という様な。
目に見えぬ『圧』が、利根川の腕を逆へ逆へと捻り上げていく────。
──説明は不要。サイキック少女・ヒナの『(サイコキネシス)念動力』である。

骨がねじ切れそうな感覚に、本能のまま絶叫を上げる利根川。
突然かつ突飛、突拍子もない先制攻撃に、「あわゎわわわわ」で脳内泡まみれとなる三嶋。
そして、片手を利根川に向けるヒナ。

まるで起き抜けの猫のような顔をする彼女は、実にマイペースに、隣のツインテールへと話しかけた。


「ところでさぁ陽菜〜、あのおじさん誰?」

「いや分からないで攻撃してたわけっ?!! …ほら。『主催者』だよ、アイツ! さっきのバスで、トネガワって主催者がいたでしょ?──」

「──その御本人が今目の前にいるってわけなんだよ…ッ! …何考えてるのか知らないけどさ………」

「ほ〜〜。なるへそなるへそ」


「いや、なるへそじゃないでしょっ?!!!」


 まるでピントの合わない悪夢を、白昼に見せられているかのようだった。
利根川の右腕はどんどんどんどんと捻じ曲がり、悲鳴は風に引き裂かれるように並木道へ響く。
一方で──当の加害者本人は、どこか他人事のような目で、ふわりと掌を掲げているだけ。

「あわわわ、あわわわ……」脳内に吹きこぼれた泡を、ふと味見してしまったのか。
すぐさま、三嶋の脳内は「──まずいっ……」の一言ループに支配されだす。
舌の上に残った苦みは、まるで状況の悪化そのもの。
『誤解』による取り返しのつかない暴走劇で、三嶋の顔からは、わずかな安堵の色もすっかり消え失せていた。


(……マズイマズイマズイっ!!! つまりはこれ…利根川さん腕折られそうになってるんじゃんっ……!──)


(──ヒナちゃんの力で…………!!──)

(────しかも…あらぬ誤解でっ…!!──)



(──…あー。なんか利根川さんの倒置法喋り乗り移っちゃってるし……私ぃ〜………──)



(──……って、そんなことはどうでもいい!! とにかく……は、早く説得しなきゃ〜〜っ……!!!)


三嶋は、喉の奥から突き上げる焦燥のままに、必死で声を張り上げる。
言葉を選ぶ余裕を辛うじて保ちながら、ただひたすらに、誤解をほどこうと、慌てて説得を始めた。


「ち、違うからっ!! この人は主催者じゃないし!!! い、一旦話を聞いてよっ、ねえ!!」

「あ、瞳だ」

「ヒナちぁゃんんんんんん〜っ…!!!!」


三嶋の必死の呼びかけに、ヒナは休日に友達を見つけたかのような無邪気さで答えた。
その声を聞いたツインテ女子──根元陽菜は二人の関係性にピンと反応する。


「え? なに?? ヒナちゃん、あの子と知り合いなの……?」

「うん、三嶋瞳。瞳はわたしのクラスメ〜トで、わたしが授業中寝てたらヨダレ拭いてくれたり、わたしの給食運んでくれたりさ、優しいんだよ」

「…なにその世話係みたいな感じ……。──」

741『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:39:45 ID:cs1/aZKQ0
「──…じゃあさ。…えーと、三嶋さん…でいいんだよね…? …………え、あの?」

「そうですっ、私があの悪名高き三嶋大センセーですっ!!! …そ、それはともかく早く力を止めるよう言ってくれないかな!!? 利根川さんは本当に悪い人じゃないんだってぇ!!!」

「………どこまで事情説明すればいいか分からないけど…、とりあえず後回し! 今ヒナちゃんの…『力』で、そいつを食い止めてるからさ。…三嶋さん、ゆっくりこっちに来て!」

「いやなんでっ!?」

「………なんで、って…。三嶋さんを助けたいからだよ。──」


「──そのトネガワ《主催者》からッ………!!」



「なんかまんじゅう食べたいなあ〜」


 ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギッッッッ

「ぐいぎぎががががががががががががががぁぁぁぁっっ…!!!!!」



「…………………」


もっとも、今一番助かりたいのは、他でもなく利根川本人なのだが。



「…………誤解」

「え?」 「まんじゅう?」


何かが腑に落ちたような、あるいは底抜けに落ちていくような誤解の渦中で、三嶋はそれでも必死に言葉を尽くした。


「誤解だからそれっ!! い、いいかな…?!」

「………?」 「まんじゅうの話?」


「結論から言うと風評被害なんだって!!! 主催者とこの利根川さんはすごく顔が似てるだけの別人なの!! 中身なんてIQの差が歴然なんだからぁ!!」

「………んん??」 「あんまん」


「そ、そそ、そりゃ信じられないのも無理はないけど……でも、本当に別人なんだからぁっ!!! だからお願い……私を信じてよ!!! その子も…──」

「──そしてヒナちゃんもっ…!! ね……? ねっ…??!」


「………………」 「まんじゅう…」




「…うん、分かった」

「えっ!!」


口を開いたのは、陽菜だった。
ぽつりと漏れた「…うん、分かった」の一言に、胸はほぐれる。
目に見えない緊張が少しほどけ、小さく息つく三嶋。
信じてくれた──その事実が、今はただ嬉しかった。


「ヒナちゃん、あの『三嶋さんモドキ』にもサイコキネシス!! …一応女子だからさ、足動かなくするだけでいいからね」

「まんじゅー」

「はいぃぃいいいっ!!!?? ──って………があっ!!」


 ただ、その安堵も、束の間もいいとこの即オチニコマだったが。
希望の芽を握りしめたその手が、次の瞬間には地雷を踏んでいたようなものだった。
三嶋の両脚は、ふいに地面と一体化したかのようにピクリとも動かない。
柔らかな風すら足元を通り抜ける中、彼女の膝下だけが異様な静寂に閉ざされていた。

742『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:40:03 ID:cs1/aZKQ0
「……何をどう、分かったつもり…なの…でしょーか…………っ?!」

「正直偽物がどうとか……似てるのがどうとか…。意味分からないし、関係ないよ。それはトネガワも、あなた自身にも」

「いやいやいやいや関係あるからっ!!?」


ちなみにだが、この時すでに三嶋は二人を──、


「でもハッキリと言えることはさ。『人を信じる』ってとてもじゃないけど簡単にはできない事でしょ?──」

「──…現状、私が信頼できる参加者はヒナちゃんだけ。だからさ、ヒナちゃんに結論出させる事にするね」

「まんじゅ………、──…えっ」



(いやソイツなんかに判断委ねるなよなぁぁぁぁああぁぁぁぁぁっ)


──完全にバカを見る目で見下していた。



「ねえ、どう思う? ヒナちゃん。…簡単には結論出さないでね。ヒナちゃんなりにじっくり考えて、あいつらの命運を決めて。…お願い」

「……え…。──」

「──う、うーーん…」


(うーんじゃねぇぇえわっ!! 絶対なんにも考えてないでしょぉおおおっ!!!)


「うーん、うーん…」


三嶋のツッコミは、ズバリその通りだ。
事実、根元からの突飛なフリに、ヒナの思考回路は見事ショート。──心なしか、その耳の穴からは本当に煙が上っているように見えた。


(で、でもワンチャンはある……!! ヒナちゃんだってたまにはマトモになる可能性が…)


それでも三嶋はただ、祈るように両手を胸の前で握りしめ続ける。
頼むから、ボケないで…。
今だけは、せめて一瞬だけでも『まとも』でいて…。
バカの脳みそが、奇跡的な化学反応でマトモな結論に辿り着いてくれることを──、それだけを信じて。


「……う〜〜ん…」

(お願いぃ……ふざけた事を話さないでぇええ………)


淡い希望を胸に灯し、ただ一縷の奇跡を信じて三嶋は祈り続けた。


(お願いいぃいいいぃぃぃぃぃっ)


奇跡の、価値は──────。
この時の三嶋の姿は、まるで自身が最も忌み嫌う堂下さながらの信仰者。

神へ一心の願いを祈り続けていた──。



「とりあえず瞳さ……哀しきモンスターを必死で庇う村娘みたいで…ウケる?(笑)」

「はいっ!! じゃあ攻撃続けて!! ヒナちゃん!!!」




「…………………。──」

(──言っても分からないバカばっか……)

743『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:40:18 ID:cs1/aZKQ0
《大衆は限りなく愚かだ。》
《大衆の圧倒的多数は、冷静な熟慮でなく、むしろ感情的な感覚で考えや行動を決める。》
《獲得すべき大衆の数が多くなるにつれ、宣伝の純粋の知的程度はますます低く抑えねばならない。≫

 ────アドルフ・ヒトラー・著『我が闘争』より



 ギギギギギギギギギギギギギギギギ……

「…どうせ今出会ったばっかの薄っい関係性の癖に。ちょっと話したぐらいでヒナちゃんと信頼関係あるとか言わないでよ………」



利根川の叫び、そして彼の腕からの嫌な音が途切れなく続く中、三嶋からボソッと毒を漏れ出た。
その毒を吐き出した矢継ぎ早、矛先をヒナへ向け、言葉を放つ。

ヒナと三嶋の付き合いは、中学時代からの長きにわたる物。
根元よりも長く、誰よりも深く──ヒナの本質を理解しきっている三嶋は、攻略の一手をシンプルに差し出す。


言葉を紡ぐその直前、呆れながらの彼女の脳裏には、以下の名文が蘇っていたという──。



《バカとハサミは使いようとは圧倒的愚ことわざ。》
《とどのつまり、バカはハサミよりも扱いに容易いものなのである。》


────利根川幸雄・著『お説教2.0』より




「ヒナちゃーん、あそこにイクラの赤ちゃんがいるよーー」

「え? まじ??」


三嶋が指を伸ばしたその方向に、ヒナはあっさりと首を向けた。


「な?!!」


「がぁあはぁぁぁ………っ!!」

 バタリ…


「大丈夫ですか! 利根川さん!!」


反射的な動作──彼女の注意が逸れた瞬間、指先に集まっていた超常の力がふっとほどける。


「よし、今ですよ利根川さん!!」

「……グっ………。なんだ……っ。なんなんだこれは…一体ぃ〜〜っ……!!!」



「イクラの赤ちゃんどこだろ〜」

「なっ、なな何をしてるのヒナちゃん?!!!」

「え、だって陽菜。イクラベイビーが〜…」

「そもそもイクラの時点で赤ちゃんでしょ?! バカじゃないっ!!??──」


「──って、あっ!!!」


根元が気づいたときには、もう既に遅し。

744『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:40:34 ID:cs1/aZKQ0
三嶋と利根川──二人の背は、疾風のごとく並木道の奥へと向かっていた。
風を裂いて逃げるその背中は、もはや手の届かぬ距離。追う者の焦燥すら置き去りにして、二人は朝の渋谷に溶けていった。


「……あぁ…ッ。も、もうっ!!!」


そんな二人を逃がすまいと、大慌ての根元はポケットから支給武器──ダーツの矢。その一本を握りしめ、腕を振るう。
ビュンッと、鋭く空を裂き、利根川の背中目掛けてホップアップし続ける矢。
ダーツの矢とは、たとえ軽く投げられたとしても時速200kmを超える速度に達しうる、小さく鋭利な凶器である。
しかもその弾道は細く、速く、静かだ。目で捉えるのすら難しい。
ゆえに避けることなど、ほとんど不可能に近かった。



(何が『もうっ』だ…っ!!)



 バンッ──

 

「え…?!」

「なっ……!?」



その矢をいとも容易くエイム。
的確に銃撃し、命中させ、破壊しきった者がいる。
──他でもない。三嶋瞳、彼女本人だ。

即座に振り返り、まるで呼吸するような自然さで銃を構えると、無駄のない動きで一撃放つ。



「お………お嬢………………。キサマ………!? 今………っ」

「ちょ、話しかけないでくださいよ今は………。ほら走ることに集中しましょう!! 利根川さん!!」



007のジェームズ・ボンドさながらのアクションは、根元の動きを、そして利根川の驚顔を完全に静止画化していった。



【1日目/C3/並木道/AM.04:41】
【根元陽菜@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】健康
【装備】ダーツx15
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:ヒナちゃんを守る。他の参加者は基本話し合いで解決。
2:田村さんたちが心配。
3:フードの男(肉蝮)に恐怖。
4:主催者逃がしちゃったし………。てかあの三嶋さん何者!?

【ヒナ@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:いくらの赤ちゃんを探す。
2:まんじゅう食べたい。
3:よくわかんないけど瞳必死でなんかウケる。(笑)
4:陽菜はやさしい。なんでもおごってくれるから大好き。


………
……




745『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:41:44 ID:cs1/aZKQ0
続きは明日以降お送りします。

746『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:42:06 ID:MLDmdjmU0


 【勇者達の道〔ブレイブ・メン・ロード〕】──。
──別名・『鉄骨渡り』────…っ。

 高層ビルの間に架けられた細い鉄骨を、命綱なしで渡らされるという狂気のギャンブル。
落ちれば即・地獄。
己の恐怖心とバランス感覚を天秤に賭けた、人間競馬の極致である。

三嶋と利根川。
二人の身を撫でる風は、果たして希望を運ぶ追い風か、それとも単なる絶望の強風か。
息も絶え絶えな三嶋らが辿り着いた丸井デパート一階にて、乾いた風が吹き抜ける──。


「ハァハァハァ………ぐうっ………………」

「はぁはぁ………、はぁ…………。間一髪でした…ね…………」


「……。……ククク……なるほど………。どうやら…本物のようだな…………、お嬢……………っ」

「はぁはぁ………。な、何が…ですか…………?」

「『──そしてアメリカに渡り軍に入隊し、ノウハウを掴む。』────Wikipedia……っ! [三島瞳-の項より]…出展……っ!!」

「………」

「あれだけ小さな矢を…針の穴を通すかのように撃ち抜いた……キサマの銃コントロール………っ! …流石のワシも、アメリカ仕込の銃扱いには圧倒的感服……。頭が上がらん…。Congratulations……! ──………とどのつまり、三嶋お嬢よ…………」

「はあ」


「…何故、わざわざアメリカ軍に入隊した…?」

「………英会話を習いたかったから…です」

「あ…………? 禅問答かっ! キサマ……!!」



 禅問答かッ――と声を荒げられても、三嶋としては困ったものである。
なにせ、『英会話を習いたかったから』とは誇張抜きの事実。ド真ん中153km/hストレートの事実なのだから。

三年前。まだバーテンダー時代の三嶋はふと「英語くらい話せた方が、カウンターも映えるだろう」と思い立つ。
バーテンダーは英語で注文されても返せなければ話にならない。そう考えた彼女は、迷わず英会話留学を申し込んだ。
わずか二週間の短期、場所はニューヨーク。軽い気持ちの渡米留学のはずだった。
しかし、どこでどんな手違いが起きたのか、彼女が辿り着いたのは米軍訓練基地の本場──フロリダ州。
案内された施設の看板には、『LIVE FIRE TRAINING ZONE!!』の文字。すぐ隣でカモフラージュ姿の大男たちが発砲訓練を続ける。
パスポートを手にうろたえる間もなく、彼女はそのまま基礎体力演習コースに放り込まれたのだった。
結果、二週間後――三嶋は、英会話以前に銃の照準をマスターしてしまったという次第に至る。

ただ、そんな行く先先で酷い目に遭うという三嶋の体質を、利根川は知るはずもなく。
彼女の曖昧な回答を煙に巻く詭弁とでも思ったのか、口角を引きつらせたままゆっくりと息を吐いた。


「……………。──」

「Then let's see what you've got in terms of English conversation skills.」
(ならばキサマの英会話力を……お手並拝見……! いこうじゃないか……)

「え…!?」


饒舌かつ嫌みを含んだネイティブが、利根川の口から飛び出る。
どうやら英会話テストが始まるご様子だった。


「えー…。あーー…。──」


「──Ah? The hell you say, p*g」
(あ? 何だブタ野郎)


「あ………!??」

747『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:42:23 ID:MLDmdjmU0
「Don’t start babbling in English outta nowhere, a*shole」
(突拍子もなく英語でベラベラしゃべってんじゃねぇよクソッタレ)

「…あぁ…っ!? ──...You—how exactly do you plan to survive this Battle Royale?」
(──…これからこのバトルロワイアル。キサマなりにはどう生き抜くつもりだ?)

「Like I give a sh*t. Whether I live or croak depends on the goddamn scene. But you? You better keep that fat a*s movin' and try not to slow me down, got it, d*ckhole?」
(さぁな。生きるも死ぬもその場の流れ次第だろーよ。ただなァ……てめぇはあたしの足引っ張んなよ? そのでけェブタケツ引きづってなぁあ〜? わかったかこのチン──【不適切なフレーズの為以下翻訳不能】)


「なっ…………。…米軍仕込みすぎるだろ英会話力……っ!! ハートマン軍曹かキサマっ…!!!」

「はーとまん…? すみません、まだ英語が板についてないものでして…」

「その小汚い板を取り外せっ……!!! 大至急っ…!!!」


どうやら英会話テストは、わずか会話二ターンで合否が出たようだ。
米兵隊仕込みの美しいネイティブスピーカーに、利根川の顎はわずかに緩んだまま戻ってこない。さしずめ、口の中で小型爆弾が炸裂したかのような衝撃だったろう。
利根川評して『小汚い板』との、その板裏には、三嶋の意図せずとも星条旗と弾薬と罵詈雑言がみっしり貼り付いていた。


「…あ、あの〜。具体的にどこが英文法おかしいんですか? 私も一生懸命頑張ったつもりなんですけど……上手くいかなくてぇ〜──…、」

「黙れ…! もう既にパーフェクツ・ネイティブだ……!! 違う意味でな……っ?!!! ……ちっ…。さて、お嬢よ…………」

「えぇ…なんでしょうか……」


「…改めて、一つ良いよな………? 軽い質問の件を……っ!」


──誤解なきよう何度でも念を押したい。三嶋は本当に、『意図せずして』酷いスラング交じりの英会話をしているのである。
──彼女にとって、本当に普通な英会話をしているつもりなのだ。

──ただ、そんな(違う意味で)あんまりな英会話力は見なかった事にして。


────再演。
利根川は、先程ヒナ&陽菜に遭遇したせいで遮られてしまった『軽い質問』を、捨て牌をふと切るように投げかける。
タイミングを逃したまま切り損ねていた言葉の断片が、今になって熱を帯び、舌先へとせり上がった。


「……一つ聞くぞ。いいか………?」

「Keep the heavy sh*t limited to that flabby-ass body of yours」
(【不適切なフレーズの為以下翻訳不能】)

「黙れ死ねっ…! ……ともかくキサマ自身についての疑問だ。…何故、キサマはワシを…──…、」




「「…あっ……」」

「あっ」




 ただ、またしても質問は遮られる事となる。
言葉の続きが喉に引っかかったまま、二人の視線が角に張り付く。
壁の向こうから、まるでタイミングを測ったかのように、ふらりと顔を覗かせる金髪ショートの女子生徒。

言うまでもなく、見知らぬ参加者。
そして言うまでもなく、立ち込める『災いの予感』である。

軽い質問から始まり、対面した人物と出会い頭「あっ」がハモるというこのデジャブ。
再演再演再演再演再演再演再演…、再演の連続。──『災炎な再演』――──。
ヒシヒシと火の粉が舞い込む中、金髪娘はその再演の幕を躊躇なく引き上げるのであった────。

748『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:42:38 ID:MLDmdjmU0
「…な??! …い、いやァァアアアアアアアアア──…、」

「──ふがっ!!??」


「あっ、危っな〜…!!! なにこの一難去ってまた一難!?? …も、もうっ〜〜…またまたまたまたまたまたまたぁああ〜〜〜〜〜〜〜…!!!!」

「………………クソ……っ!! …はぁ……やれやれだ………」


 女子生徒──日高 小春の叫び声が漏れるその寸前。
三嶋は反射的に一歩踏み出し、目の前の少女の口を勢いよく塞ぐ。
先程の対ヒナ戦の経験ゆえ、出会う参加者すべてを信じる権利をとうに停止させられていた利根川タッグだ。先手必勝と、とりあえず日高の動きを封じることに先じた。

三嶋の手のひらに日高の唇が触れる――指先を擽る湿った感触。甘やかな唾液。
暴れる彼女の体を押さえつける三嶋を傍目に、我先にと『再演』の上映中止に動いたのは利根川であった。


「…もが…ッ、もが……も…が……ッ──…、」

「Shut-up…!! 黙れ…ぶち殺すぞ……!! 小娘めが………っ」

「……っ!!」


ビクッ──、と。
利根川の低い唸り声で、日高は肩を小さく震わす。
刃物よりも冷たい視線が頬をかすめ、「……っ」と喉の奥で悲鳴が噛み殺される。
補足として、「……いや、殺しはしないからね? 殺しは……」と囁いた後、三嶋は硬直下を見て取るや言葉を継いだ。

 
「あの……いい、かな…?」

「…………ッ………!」

「…私だってこんな安っぽい脅し気が進まないけどさぁ……。ごめん…大声出さないで…。──」

「──仮に叫んだら……、こうだから!! こうっ!!」

「っ!!!」


三嶋はそう言って、二・三回トントン…と、日高の肩に銃を突きつける。
それは軽い仕草のようでいて、否応なく状況を理解させるには十分だった。


「だから、…お願い。私もそんなのしたくないから〜…、何も見なかったことにして去ってくれる…かな………? ね?」

「…………………」


「…ね……?」


「……………」



 日高からのアンサーは、コクリっ────、と一つ。

三嶋のプチ脅しに、今にも涙が零れそうな潤んだ眼で、日高はそう小さくうなずいた。
その仕草に、三嶋の胸の奥から長い息がこぼれ落ちた。
張りつめていた空気が、氷の表面にひとすじの亀裂が走るように、わずかに緩んでゆくという。
三嶋は安堵の思いのまま、そっと対面の柔らかい唇から手を緩めそうになった。


「……はぁ〜〜………、良かっ──…、」


「フっ……青二才が……っ」

「えっ?」

749『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:42:52 ID:MLDmdjmU0

その横からぬるりと差し込んできたのは――"蛇"こと利根川幸雄。
まるで安堵という名の糸が張られた瞬間──その瞬間の真ん中を躊躇なく断ち切るように。
静かに、だが確実に響く声で彼は再び、三嶋の『甘さ』へ刃を向けた。


「黙って聞いていればお嬢……。貴様はビジネスでは一流なのかもしれんが…、……出とるぞ……っ。──」

「──いざ説得となった際……年相応の甘さが…………っ!!」


「え、え、…利根川さん、な、何が不満と…?」


「良いか……? この小娘のように──こちらへ強い警戒心を抱き……、かつ自らが不利な立場にある者には……完全なる『納得』……っ! 納得を与えねばならないもの…………。ワシらは……っ」

「えぇーと…とどの〜つまり〜〜…?」


三嶋の『とどのつまりイジリ』にコンマ0.005秒だけ眉をひそめたが、利根川は意に介さず結論を突き付ける。


「そう…とどのつまり……Win-Win…──『対価』だ……っ。双方が得をする形を提示する……この小娘にも利益があるような……そんな対価の提示をせねばなるまい………!!──」

「──それをせねば、叫ばれて終わり………っ!! 人は納得を得たとき、初めて従う……それこそが…プロの駆け引きなのだっ……!」

「あーなるほど…。……じゃあ、お手本。お願いしますよ……? てか自分がやりたいんですよね? 説得」

「…ククク……っ!! その言葉を待っていたものよ…………!!」



 利根川が一歩、日高ギリギリまで歩を進める。その足取りはまるで将棋の飛車。直線的で迷いがない。
視線を正面から受け止めた日高の肩が、小さく震えた。


「…………っ…」

「おい……小娘……!!!」

「っッ…!」

「…ワシが……主催者ではない……何度そう訴えたとて……っ、まぁキサマら(馬鹿共)には……理解できまい事……。なぁ? 小娘よ……っ」

「…………」


「──ゆえに…仮にで構わん。“ワシが主催者である”という体《てい》で……話を進めるぞ……っ。体《てい》で……っ!」


「……え?」

「………?」


日高。そして抑える三嶋、と。
彼の言葉にキョトンとする二人を前に。利根川は唐突に右手を上げ、


「…ククク…………。──ドガアァァアンッ!!!」

「……っッ!?」

「わっ!?」


パチンっ────と指を鳴らした。

そう、これもまた『再演』。
あのオープニングセレモニー時の偽主催者の第一声、ならびに首輪起爆の指パッチンが、静まりかけた丸井デパート内を切り裂く──。

──とはいえ、彼はあくまで『偽物』の主催者《トネガワ》。
その指先に宿るはずの死神の契約も実体を伴うことはなく。音だけが虚しく響き渡ったという結果に留まる。

750『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:43:09 ID:MLDmdjmU0
「……だなーんて。ワシの指パッチン一発で…首と銅がララバイになることは承知の筈だ……。キサマも重々………っ──」

「──ましてや、キサマが叫んで…仲間を呼ぶとなればな………? こちらも渋々強硬せざるを得なくなるもの………。分かるか…っ」

「………っ……………」


利根川の口から漏れた『仲間』という一語に、日高の肩がわずかに反応する。
震え続けていたその身体が、ほんの一瞬だけ別の感情に触れたかのような。
そんな微細なしぐさを、利根川は一切見逃さず――そして間を置かず、声の刃をさらに深く突き立てた。


「ククク…………。小娘、連れがもうできてるようだな………? 参加者の…仲間が……」

「………………」


──こくりっ。


「ほうほう………! …なら尚更丁度いいっ……! ちょうどワシとて調子が悪かったものだからな…指鳴らしの不安定さがっ……。──」

「──ほれ、もってけ…っ! セーラー服娘………!」

「…………っ……?」


「出血大サービス………っ!! 『悪魔的特別支給品』をくれてやる………!! 出会った縁に…特別だ………っ!!」


「……っ!」

「え………?」



 そう言うなり、利根川は背後のデイバッグに手を差し入れる。
ゴソリ…と布が鳴り、気づけば一冊の『書物』がその手の中に。
『出血大サービス』とは、いかなる贈り物か――。全身の血潮が波打つ日高に、差し出されしその本。

何を思ったか、なんとも言えない表情をする三嶋をスルーしつつ、利根川は一切の間を置かずに言葉を継ぐ。
まるで呼吸と同じくらい当然の所作として、説得と支配の『次の一手』を置いていった。


「記憶に新しいものだなっ………。先ほどのバスにて、ワシ…が蘇らせたろう…? 首の離れた…見せしめの…小娘を………っ」

「………」

「…………と、とね…」


「あの信じられぬ光景の原理はこの本………!! 見ろ……二百ページ目の『魂を蘇らせる〜』の記述………。ここを詠唱するだけでどんな肉片もカムバック………!! 何度でも蘇生させれるのだ………っ!──」

「──いわば、魔導書…とやつだな…………っ!!」


「…………っ……………!」


「……いや…、いや……利根…川さぁん……。──」

「(──いやソレ私の本やんけぇええええええ…ええ……ぇぇ…………)」


無論、その魔導書は『私だから伝えたい ビジネスの極意』。
著者である合法ロリ社長の顔写真入り。
帯には『堀江氏絶賛!! 【バカと政治家はこれを読め!! 日本復活の鍵となる本!!】』との詭弁が躍る、魔法の如しビジネス本である。


「そんな本をキサマに…無条件でやるというのだからまさしく悪魔的………! もはや犯罪っ………!!──」

「──…無論…信じるか信じないかはキサマ次第……っ。キサマには自由が保障されておるわけだ…。選択の自由がな……?──」

「────まぁ違う意味で『自由になりたい』というのならっ…今すぐ大声をあげるといい…………っ!! ククク…!!」


「…………………ッ」

 ──ビクッ

751『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:43:30 ID:MLDmdjmU0
「Are you Alright? ──さぁ…ワシからの縁、受け取ってもらえるかな………? 小娘……っ」


「……。……………」


 視線という矢が四方から突き刺さるなか、日高の前に差し出される蘇生本。
頁の重みより利根川の声の圧が重く、恐怖と奇妙な期待が胸の奥でせめぎ合う。
胸の奥ではまだ怯えがざわめいていたが、それでも信じてみたくなるような熱が、心の奥に滲んでいた。
逃げる余白も、否と告げる勇気も見当たらず、せめてもの意思表示に喉がひとつ震える中、


静かに彼女の身体は応えた。



「……………ッ」

 ──こくり………



「クククっ……!! 圧倒的賢明な判断………っ! キサマの将来が非常に楽しみだよ…。ククク……」



 ────勝利。
──結果的に、完全勝利。

利根川の説得は通るに至った。

それはまるで、タンヤオすら見えないゴミ手で始まった配牌が、ツモるごとに不思議と形を成し────混一。
ドラドラ──、三色同順まで乗って――倍満。
そんな逆転の巡り合わせだった。
ブラフも押し引きも冴えわたった、完璧な一局。
その和了牌を、短い会話の中で利根川という『天才雀士』は完璧に引いたのである。

利根川の見事な和了に、三嶋は祝杯の声をあげざるを得なかった。


「…私の本を勝手にどんどん神格化してきやがるのはさておき………。──」


「──さすが利根川先生!! デメリットを逆手に取って窮地を脱するとは……。さすがですよ!!」

「クク……。トネガワ主催者と呼びなさい…! 今はな…。三嶋よ……。──」

「──しかしキサマも中々酷な女だ…。ほれ…、もう解決したのだから、小娘の口から手を放すんだ………」

「あ、そうでしたね…。ご、ごめんね……! そしてありがとね!!」


「…………──ぷはっ…」



日高の口から、そっと三嶋の手が離れる。
その瞬間、張りつめていた糸が静かにほどけ、利根川と三嶋の胸に、歓喜と安堵がゆるやかに満ちていった。
まるで長い局を制したあとの和了の余韻――。


静かで、

確かな、

そんな勝利の余韻がそこにはあった────。



「まぁお嬢、これはキサマの本にも助けられた賜物だっ………。クククっ……」

「…うーん、それに関してはとりあえずノーコメントで〜…!!」

「…しかしワシも考えものかな……? 『私だから伝えたいビジネス』一冊で秒速億を稼ぐ…激アツビジネスを──…、」



「早く助けてぇえええええエエエエエエエエエエッッ──────!!!!!!!!! なじみちゃァ──────ん!! センシさん──────ッ!! 主催者がいるよぉぉ────────────っっ!!!」

752『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:43:52 ID:MLDmdjmU0
「「なっ」」





 ──ただし、勝利の味は『水』の味。
利根川ら二人の余韻に水を差したのは日高の絶叫。その声の大きさたるや、まるで館内アナウンスさながらの通達だった。
溜まった物を全て吐き出すかのような。日高の血気溢れる絶叫は、デパート内の空気を突き破り、三階の天井までも震わせるほどの凄まじいデシベルで響き渡る。

利根川も三嶋も、一瞬で言葉を奪われ、ただその空虚な余韻の中に立ち尽くすしかなかった。



「むっ。…聞こえたか、なじみ」

「…当然! ボクの耳に入らないのは授業だけだよ!! ……よ〜くは分かんないけど日高っちピンチっぽいし、さぁダッシュだDASHダッシュ──────!! センシィ──────っ!!!!」

「ゆくぞっ!!」



タ、タ、タタタ、タタ、タ………。



「「あっ!??」」


その叫びを合図にしたかのように、奥まった通路からと靴底が床を刻む二つの速足音が近づく。
続いて硬質な金属が引きずられる不協和音が重なり、静寂の廊下へ不気味なリズムを奏で始めた。




 利根川の和了ももはや水の泡。
ツモの直前――日高が放ったのは、麻雀界における禁忌の奥義、『つばめ返し』。
あらかじめ欲しい十四枚を一列に積み上げ、己の手牌と瞬時にすり替えるという、禁断の反則技。

『サムライスピリッツ』──橘右京使いの日高による『ツバメ返し(↙↓↘→+斬り)』は、利根川のプライドをズッタズタにまで切り裂いていった。


──日高の足元にて、魔導書(笑)がゴミのように転がり、風に吹かれて行く…────。



(このクソボケカス女ァ……)

「この…クズがぁあああああああぁあああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!」


………
……



【1日目/H1/OIデパート/1F/AM.04:59】
【日高小春@HI SCORE GIRL】
【状態】恐怖(軽)
【装備】橘右京の居合刀@ハイスコアガール(サムライスピリッツ)
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:なじみちゃん、センシさんと行動。
2:主催者とその助手(?@三嶋)の顔を認識。
3:矢口くん、大野さんと合流したい。
4:なんか私このパーティでツッコミポジション…?!

【センシ@ダンジョン飯】
【状態】健康
【装備】斧、料理セット一式
【道具】鍋、干しスライム@ダンジョン飯
【思考】基本:【対主催】
1:日高を助ける。
2:殺し合いから脱出。主催者を倒す。
3:日高・なじみとパーティを組む。
4:メガネの若者(丑嶋)が心配。

【長名なじみ@古見さんは、コミュ症です。】
【状態】健康
【装備】レーザー銃@ハイスコアガール(スペースガン)
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:日高っち今助けにいくぜえええええ!!!!
2:参加者の幼馴染たちと会う!! 僕はみんなの『幼馴染』だからね
3:…あれ? センシとボクの出番もしかしてこれだけっ?!

753『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:44:42 ID:MLDmdjmU0
あとは伊井野出てくるパートと相場出てくるパートをパパパっとやっておわり!
続きは明日以降です

754『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:27:27 ID:9Fifyl5Y0
 【Eカード】──…っ!!

 『皇帝』『市民』『奴隷』の三種のカードを用い、勝者と敗者の立場を極限まで強調した心理博打。
皇帝は奴隷に勝ち、奴隷は市民に勝ち、市民は皇帝に勝つ──ただしカード配分は不均衡。
一方は皇帝1枚・市民4枚、もう一方は奴隷1枚・市民4枚。立場の圧倒的差こそが、勝負の本質。

ゲームマスターが負ければ金銭を失い、挑戦者は耳や目といった尊厳そのものを賭ける──それがEカード。
三嶋らが命からがら逃げた先──S●INNS SHIBUYA109《服屋》には今、異様な熱気が満ち溢れている。
まるで焼き土下座の鉄板を眼前に据えられたかのような、息苦しいまでの緊張感が空間を支配していたのだ──。


「………さて…お嬢よ…」

「…うーーん。…そうだな……。…利根川さん、このアロハシャツ着てもらえます?」


 カラフルなアロハシャツ、もじゃもじゃと膨らんだアフロカツラ、そしてつばの広いパナマ帽──。
鮮烈な色と形が交錯する店内を、三嶋の指先は迷いなく渡り歩いていく。
まるで舞台衣装を選ぶ演出家のように、彼女の手は一つひとつの奇抜なアイテムを拾い上げていた。


「あ、はい。…そうだ、とりあえずサングラスも試着してみますか」

「……………『桶狭間の戦い』を知っているか………?」

「え? ……信長の…ですか?」

「…………クク、愚問だったな…。──」

「──今川義元の軍勢三万に対し、信長軍は僅か五千ぽっち…。誰がどう見ても圧倒的負け戦……窮地に立たされるな中………休憩中の今川軍を奇襲し──GIANT KILLING………っ! 織田信長は以降一躍乱世の寵児……っ。歴史の表舞台に駆け上がったのだ………」

「まさに運命を分かつ一戦ってわけですね」

「…信長は立派だ……。『殺すなら殺せ………っ』…その精神で駆け込める…剣槍乱舞する前線に…………っ!」


「──…同じ民族…同じ日本人の筈だ、あの人達と…ワシも………っ」


 利根川はそう言うと、ふっと視線を落とし、静かにうつむいた。

――1560年(永禄3年)。『桶狭間の戦い』。
圧倒的劣勢下の最中、家臣から「すぐ前方で今川軍が油断し、酒を酌み交わしている」との報を受けた織田信長は、この機を逃すまいと即断。
土砂降りの雨の中、わずかな兵を率いて奇襲を仕掛け、瞬く間に今川義元の首を討ち取ったいう──ビジネス戦略としても『ランチェスター戦略』の典型例に語られる痛烈一戦である。
そんな先人・織田信長の偉業を語り、利根川は何を思うか――。
彼の視線は、三嶋──いや、厳密には三嶋の腕にかかっていたアロハシャツやらカツラへと、実に恨めしそうに沈んでいった。


「そんな弱音吐いて…らしくないですよ利根川さん………。じゃ、一旦服脱いで、カツラを被っていただけ──…、」

「信長がするかあっ…?!! 仮に…家臣から『殿、逃げ延びる為にこれを………』と言われても……」

「…え?」

「変なコスプレをして…我が身を偽装しようとは……!!! するわけがない…っ…!!! しないんだよ信長はっ………!!!! …ふざけよって………。──」

「──この…三流スタイリストがぁあああああああっ……!!!」

「え…。えーー………」


 まるで風林火山が如し。
利根川は、三流スタイリスト《三嶋》に着せられた巨大なアフロウィッグ、袈裟のような僧衣を乱暴に脱ぎ捨てる。
「佐藤蛾●郎かッ」「パパ●ヤ鈴木かッ」とでもツッコみたくなる奇抜な装いが、彼の憤りを視覚化するようにぐったりと床に沈んでいく。

無論、このセンスの悪さも甚だしいスタイリングに、三嶋には悪意や悪ふざけの意図は全く無く。
あくまで利根川が『トネガワ《主催者》』として他の参加者に認識されるのを避けるため、彼女なりに考えた末の『変装プラン』なのだ。
その選択がどれほど彼の美学に反し、プライドを逆撫でしたとしても――少なくとも、命を守るという一点においては理にかなっている。


「…お気持ちはお察しします。ですがっ、…もうプライド捨ててくださいよ〜〜…。生身じゃ平穏に過ごせないんですってぇ〜利根川さんはぁ〜〜〜!!!」

「着るかっ…!!! 教示は命より重いっ………!! ワシをリカちゃん《着せ替え人形》扱いするなっ…!」

「もう〜〜〜…」

755『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:27:44 ID:9Fifyl5Y0
──勿論の事、利根川本人にとってソレは納得のいく作戦ではないものだが。


「…ちっ!!──」



毒づく不良人形は、箱からタバコを一本取り出し火を点けた。


「──…………お嬢よ。一つ軽い質問…良い──…、」

「…うぇっ?! あっ!!!!!! ストップストップストップ〜っ!!!! ダメですよそれ以上はっ!!!」

「………あ?」

「考えてくださいよっ!? そのセリフ言う度に参加者《野郎》共と出くわしてるじゃないですか〜!!! もはやフラグ化してますからね!!! だから絶っ対言わないでくださいよっ?!!!」

「…………安心しろっ…。白旗《フラグ》はもう振ったわ…っ! 満足なくらいにな……」

「いや全然返し上手くないですからね?! …あっ。そうだ、利根川さんに旗持たせてみるのもアリかな〜──…、」



「Question──…っ! キサマは何故…ワシが『本物』だとわかった………?」




「え゙っ。…あーあ、とうとう封を切られちゃったしぃ…………軽い質問《死亡フラグ》」

「いいから答えろっ……!!──」


とうとう切って出された死亡フラグに、三嶋は恐る恐る辺りをキョロキョロと。
照明の隙間、服の陰、レジカウンターの向こう――どこかから突然参加者が飛び出してくるのではないか、そんな妄想じみた緊張が背筋を走っていた。
経験則が告げていたのだ。
利根川が『軽い質問』を発した瞬間、この世界はいつだって騒がしくなるのだと。


「──…キサマは何故…他の愚民共とは違い……ワシを信じて、そして行動してくれるという…………? …そればかりが気になって……むず痒くて仕方ないわ…………さっきから……っ」

「…あー、その事ですか…。──」


「──………。…………ええ、簡単な事ですよ」


その簡単な事、とは。
再度入念にキョロキョロと見渡した三嶋は、不穏な気配がないことを確認した後、静かに背中のデイバッグへと手を伸ばす。
幼子同然の小柄な体つきゆえ、三嶋が背中のデイバッグの中身をあさる姿は、まさしく“むず痒いところに手が届かない”。
肩越しに手をねじ込んでは指先が届かず、少し体をよじってはまたも空振り――小さな悪戦苦闘の末、ようやく彼女の手が目的の『ソレ』に触れた。

彼女が取り出したのは一冊。
使い込まれた背表紙が、そのページが何度も開かれてきたことを物語る────『圧倒的名著』。


「読ませて頂きました、愛読書ですっ!!」

「なっ………!?」


────利根川幸雄著・『お説教2.0』。その本であった。


「…ど、読者………………?」

「はいっ。経営者界隈で…一目置かれている幻の存在…──『利根川幸雄』先生っ!! 皆口々に疑問に思ってますよ。そのバイタリティを保持しながら、何故彼は起業しないのか…ってね。利根川さん…!!」

「…読んだのか………っ? それを………」

──ペラペラ、ペラッ

「『信じられない事柄を目にした時まず疑うべきは世界ではない。とどのつまり自分の目と判断力だ。(126頁目参照)』────…ほんと、みんな《参加者達》ダメだなって感じですよ……。利根川さんとアイツの違いなんて、一目瞭然なんですから!」

「……あ?」

756『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:28:02 ID:9Fifyl5Y0
「あくまで私の洞察によるものですが。利根川さんとトネガワ《あの無能》はこれほどまでに違うんですからね!! ほら!」↓↓


……
………
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………
……


↑↑「この通り内面は勿論、外見にも大きく差があるというのに…。ねぇ〜利根川さん」

「サイゼの間違い探しかっ…!!」

「『成功とは、大きな一歩ではなく、小さな“気づき”の積み重ねである(221頁目あとがきより)』──圧倒的名文です…。ハッとさせられちゃいますよ」

「…まさかとは思うが、いじっとらんよな………!? ワシが散々キサマの奇書を皮肉った……仕返しに…………っ」


三嶋大先生が、正気とは思えぬ信者読者《堂下》に粘着されていた件は、記憶にも新しい事であるが。――まさか、堂下と同様の熱狂的な崇拝者が自分のすぐ隣《三嶋》に潜んでいようとは。
まったくの盲点。唖然と、言葉の喪失。利根川は完全に茫然とさせられる。
ただ、その間もまるで熱は冷めることがないかのように、三嶋は畳みかけるように言葉を紡いだ。


「とどのつまり、成功《生還》の為にはコツコツ細かいところから積み重ねなくちゃダメなんですって!! だから…お願いします。着ましょう? ね…?」

「…キサマァ〜〜………。『とどのつまり』の特許出願でもしようものか………っ」


三嶋はそれで話を上手くまとめたつもりなのか、と。
眼前に差し出されたダサいマジシャンスーツを、利根川は害虫を扱うように手で払いのけた────、


「いいか!? 着ないと言ったら着な──…、」



その時。

ガチャリっ──。




「「あ…」」


「…えっ?」



────『フラグ』から少々遅れて、またも再演。

 カウンター奥、スタッフルームと思しき扉から不意に登場したのは、三嶋とほぼ同じ背丈程の、小柄な少女だった。
店内をかすめた風が、彼女の肩にかかる茶髪のおさげをふわりと揺らす。
赤い結い目《アクセサリー》からこぼれる細い毛先が宙に舞い、やがて静かに落ちるまでの一瞬──、


「…渋谷って、広いようで狭いんですね……。はァ……………」

「…ハァ………。もうワシは…疲れた………っ──」


──利根川と三嶋は、ほぼ同時に諦めのため息をついた。



「──…おい、そこの二つ結い娘……」

「………はい」

「せめて最期にさせろ……一服くらい…………っ。後は煮るなり焼くなり好きにしていいが…………武士の情けを………っ、かけれんものか……おい…」


(武士……。どんだけ武将が好きなのコイツ……)──三嶋が心中で一々毒づく中。
目の前の茶色いおさげの少女は静かに口を開いた。
その声音は風に揺れる髪とは対照的に、凛としていた印象だという。


「……やはり、利根川さんのようですね…」

「……おっ。この子脳みそいっぱい積まってますよ〜利根川さ〜〜ん。さすがですねーー…ハァ………」


「それに、──ミシマコーポレーションCEO。三嶋瞳社長」

「…え?」 「…あ?」


二人は少女の言葉に思わず虚を突かれる。
まっすぐに三嶋を見据え、言葉をひとつひとつ丁寧に紡ぐ少女――その眼差しには、幼さを超えた確かな意志と、揺るがぬ信念が宿る。

757『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:28:16 ID:9Fifyl5Y0
「…お会いできて光栄です。不肖ながら私、伊井野。読ませていただきました」

「あ…?!」


少女は言い終えると同時にすぐさま──『再演』。
ほんの数分前、三嶋が見せた動きとまったく同じように、背中のデイバッグへともどかしく手を差し入れる。
やや苦戦の末、ようやく引き抜かれたその手には────言うまでもない。『再演』となる一冊の本。


「貴方様の本を。『本物の』利根川幸雄……。利根川先生の御本を……!」



───凛、時として奇跡。

それは、伊井野 ミコという――──初めて、話の通じる参加者に出会った瞬間だった。




………
……


758『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:28:33 ID:9Fifyl5Y0
「やっと………会えた…………。──」



 感涙──。



「──話の…分かる……参加者………」

「…はい?」



 三嶋の、心からの感涙──。



「ありがとぉ伊井野さん────っっ!!!! もう…ほんっとにすっごく大変だったんだからああぁ〜──…、」

「──ぐへがあっ!!!」



 三嶋の感涙は、拒絶の一撃と共に宙へと弾け飛んでいく────。



「不純同性行為…っ!! 貴方様という御方が…気安く抱きついてこないでくださいっ……!!」

「…え、えぇ……?!! …不純要素……どこ…?!」

「よせお嬢……。自分の身体に触れられるのが嫌という…そういう人間もいるのだ………っ。というか一番不順なのは…圧倒的にワシ………っ!!!」

「え、えーー……。と、とりあえずごめん…ね……? 伊井野さん……」

「……失礼。私も私でつい取り乱してしまって。…三嶋さん、申し訳ありません」


 事情説明・兼・自己紹介タイム割愛。
根元&ヒナ、日高と──これまでまるで話が通じない、信頼の通路すら築けぬ参加者共と出会いを重ねてきた道中。
そんな旅路の果てに、ようやく現れた《理解者》ミコの存在に、三嶋と利根川は心の底から歓喜していた。
それは言葉が通じるというだけで、これほどまでに救われるのかと。──――異国の僻地で日本人旅行者を偶然見かけたかのような、それに似た安堵に二人は酔いしれる。

自分たちの味方が現れたという事もさることながら、利根川がなによりも感心さえられたのは、彼女の経歴。学力。
自己紹介の間にてミコが口にした肩書等に、利根川は顎に手を添え感服する。


「(ククク…。…ほう……。──)」


「(──裁判官の父を持ち…、名門・秀知院学園で風紀委員を務めるという……原理原則主義者、伊井野ミコ………っ。──)」

「(──将来は司法関係の仕事を勤めたいだか……そのナンダカカンダカという夢は心底どうでもいいが……。…だが流石は……秀知院現役生徒なだけあるじゃないか…………!──)」

「(──凡人共とは頭一つかけ離れた…洞察力……っ。力が………!! ……コイツは使える………っ!──)」


「(──さしずめ両腕が揃ったものだな………。右腕には三嶋…、左腕には秀才の卵《伊井野》とやらがっ…!! ククク……っ)」


ミコの圧倒的な肩書き、そして名門校に在学していることをほのめかす、端的で洗練された自己紹介。
その語る姿からにじむ育ちの良さと、場の空気をわきまえた品のある教養。利根川は、その全てを一瞬で見抜いた。
「これほど“使える”参加者は、もう二度と現れまい…」――そう確信した彼の口元に浮かぶは期待の笑み。
『逆境』の予感をまるでミコに見せつけるが如く、利根川はじっとミコに視線を注ぎ続けた。


「…そうだ。三嶋さん、良い機会ですからお伺いしたいのですが…、貴方の著書である『私だから云々』………あれ、全文パクリですよね? はっきり言って」

「……。(どんな風向きになろうが結局そのゴミ本の話に巡るのかよッ……)……え〜と……。それが…なにか…?」

「良いですか? 盗作罪は著作権侵害に当たり、刑事罰の対象となる可能性があります。ただし、著作権侵害は親告罪であるため著作権者が告訴した場合にのみ、公訴を提起できますがね。…見損ないましたよ。何開き直ってるんですか?」

「…私だって、あんなの……。小宮って野郎《編集者》に無理矢理書かされたもんだし〜…」


「おい、話は済んだか……? 小娘共…………っ」


「…お気遣い無く。利根川先生との対話に比べれば塵芥同然の会話ですので」

「……塵芥…。まぁ、事実だけどさぁ………」

759『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:28:50 ID:9Fifyl5Y0
 小宮《編集者》同様、三嶋の愚本(──の話題に──)ピシャっと冷や水をかけた利根川は、今度はミコへと顔を向ける。
彼の目に宿るは、まるで試すかのような光。
問いかける内容は一つ――ミコなりの『解決策』についてだった。


「さて、伊井野よ……。秀才のキサマは…どう考える……?」

「…利根川先生が、今後参加者対策としてどうすべきか……についてですね?」

「ほう! クククっ……! 本当に将来が楽しみな小娘を呼びよって…!!──」


「──…その通り……っ! …かの棚ぼた成り上がり娘は…ワシに変装させて事を済まそうという……圧倒的凡骨な発想しか思いつかぬものだったのだがな………。是非とも……っ、キサマの代案を参考にしたいものだ………!」

「何この毒の飽和状態……。利根川さんもしかして私に見切りつけてませんっ?!」


「…………そうですね……、利根川先生…。──」


一旦はそう答え、ミコはしばし静かに思考の淵へと沈む。
眉間に軽く皺を寄せ、言葉にならぬ答えを探すように――考え、また考え、さらに考え続ける彼女。
だがやがて、まるで諦念と表すかのように、正面へと顔を上げた。


「……申し訳ありません利根川先生。…想像以上の難題ゆえに、今私の口から即席で案を出す事は不可能です」

「………。いや、いい………。ワシとて今ここで…過度な期待はよせておらんかったからな………。あまり責めるな…、自分を……伊井野……っ」


もっとも、『期待などしていない』というのは大嘘。
ミコの返答に落胆を隠せない、利根川の実に分かりやすい表情を見て、三嶋は内心でふっと嘲笑を浮かべる程だったが。

──だが、そこで終わらない点が、利根川が惚れ込んだだけのことはある才媛・ミコであった。


「…ですが、三人集まれば文殊の知恵。…とどのつまり、『五人集まれば』…どうなるものか、です」

「あ…?」 「…!!(出た?! 利根川さん十八番の『とどのつまり』!! やっぱこの子ホンモノ《熱烈な読者》じゃん〜!!)」

「私にも同行者が二人…。確かにいますので、彼らを交えて……自己紹介も兼ねてその解決策を導き出しましょうか。──」


「──私が藤原先輩よりも唯一尊敬するお方……利根川先生…!!」

「…なるほど……っ!! 素晴らしい……。キサマは圧倒的だな……人脈面もっ……!!」


ミコの口から飛び出した、まだ見ぬ協力者の存在。
この状況下にて、たった一人さえ参加者を信頼させ、引き入れることすら中々至難なはずだ。それにもかかわらず、彼女は二人も連れていると言うのだ。
人を見る眼、統率力、そして何より信頼を得る才――。やはりこの少女は只者ではなかった。


「私達もちょうど今この服屋に野暮用がありましてね。奥のスタッフルームに、鴨ノ目さん、そして鰐戸さんが待機してますので、ご同行お願いします」

「…鴨ノ目に鰐戸か………。ククク…………」

「………やりましたね、利根川さん…!!──」


──ヒソヒソ、

「──……。(ここに来て立ったのはまさか『成功フラグ』とは……。やはり偉大な作家は神も見放さないんですよ!! 利根川さん〜〜っ!!)」

「……。(クク……、月面に旗《フラグ》を立てた時…きっと奴等も同じ高揚感だったろう……アポロ13号の宇宙飛行士連中も………っ!)」

「………!(ほんとミコちゃんに会えて良かった〜…。聞きましたか利根川さん、秀知院ですよ!! あの秀知院!! もうベタ惚れしちゃいますよ〜〜…!)」

「………。(クク……! 程々にしておけよお嬢…? 羞恥淫……不純同性行為《百合》も……っ!)」


「…いやその発言はさすがに笑えませんから。」

「……………あ? なんだあっ……? ワシは今何か喋ったかぁ……? あぁあ〜っ??」

「…………。(……………)──」


「──ともかくこれで一安心ですねっ!!」

「圧倒的同感…!! …ぐぅっ……! 思えば…しんどい…苦行の道のりだったものよ………っ」



茨の道の末、ズタボロの身の前に咲いていたのは、聡明な一凛の百合花。──ミコ。
伊井野ミコという名の若き才媛に、確かに薫る戦略性。

利根川は、期待と確信に胸を膨らませ、伊井野のあとを歩んで行くのだった─────。


奥へ、奥へと。スタッフルームの元へ────。

760『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:29:11 ID:9Fifyl5Y0
────ゾッ………。



「…ぐううっ…!!??」






「え…? 利根川先生、どうなさいましたか…?」





 不意に、正体不明の悪寒が利根川を襲った。
何が原因かは分からないが、それは首にネットリとまとわりつく大蛇のような、嫌な予感。
無論、あくまで『予感』である。何の根拠も気付きも一切ない、なんとなくのその予感。


「……やっぱり……。…ワシは降りる。行くぞ、お嬢《三嶋》………」

「えっ?! な、なんでですか??!! き、気を確かに………」 「………」


 Eカード、パチンコ『沼』、十七歩麻雀、そして社会という名の終わりなき競争──。
利根川幸雄は、これまで幾度となく死線を渡ってきた。
不条理に満ちた勝負の場にあって、ただ勝つのではなく、勝ち抜くということ。それを可能にしてきたのは、決して運ではない。
一手、一秒の『気づき』であった。
絶望の中に差し込む一筋の光を見逃さず、他者が見落とした『違和感』をいち早く察知し、踏み込む勇気と見極める冷静さを併せ持つ──。
それが、利根川という男の本質だった。

その勝者ゆえの独特の嗅覚。勘というわけか。
もはや本能。野生の勘に近い。数々の修羅場を越えてきた者だけが持つ静かなる警鐘が彼を支配していたのだ。


「…利根川先生、疑心暗鬼になる心中はお察しします。ですが、私をどうか信じてください!! 罠…口八丁の方便……そんなのでは決してありません…!! 利根川先生、どうか…──…、」

「予感だっ……!!」

「「え?」」


 利根川は語る。
一見すれば、何の変哲もなく、明るい照明に照らされるスタッフルーム扉。
だがその奥に潜み隠され────どす黒く澱みきった『予感』について、利根川は説明を始めるのであった。


「危険な…危ない雰囲気とは……普段の日常ならば…得……っ。女共はその危ない雰囲気の男に……、ヤバそうな男に惹かれるのだ……心をっ………。──」

「──だがっ………、ワシが今…感じる危険な雰囲気とは…────文字通りの『キケン』ッ……!! 悪い予感しかせんっ……!!」

「………いやそういうのいいですから。バカなこと言ってないでついていきますよ……」

「…危険とはつまり。『私の同行者が信じられない』、と。そう仰るつもりですか?」

「……察しが良いな………っ。勿論…、この件はキサマには一切非はない……。ないがっ…………──」


利根川はこの折、一瞬言葉をつまらせる。
スタッフルームの曇りガラス越しに、ぼんやりと二つの人影が浮かんだ為だ。
言わずもがな、その人影はミコの言う『同行者』なのだろうが、その輪郭を視界の端に捉えた瞬間、利根川の中にあったただの『予感』がそして確信へと変わっていく。

大人の体格の、二つの影。
曇りガラスの向こうで、ゆっくりと輪郭を濃くしながら、静かに、確実に近づいてくる。
『鴨ノ目』、『鰐戸』という、そんな影は──。



「…伊井野、キサマは優秀だ…。ワシが出会った小娘達の中じゃ……文句無くナンバーワンの切れる女………。実に優秀だっ………。──」

「──そんな優秀なキサマに…人生の年長者であるワシから………別れ際、アドバイスをくれてやる………」


「え…?」

761『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:29:27 ID:9Fifyl5Y0
──ガチャッ…



「ミコ、誰と話してるん──…、」

「さっきからガタガタうるせェぞ伊井──…、」




「「……ぁあ?」」


「え゙」





──姿を現したその瞬間、彼らは視界に捉えた『主催者の男』めがけて、迷いなく一直線に駆け寄った。

──それぞれ手には、重たげな鉄器――まるでバールのような物を握りしめ、鬼気迫る形相を貼りつけたまま。


パっと見で分かる明らかに『アチラの《やべー》世界の人間』な坊主頭の二人。
世にも恐ろしいふたつの恐相を前に、身動きひとつ取れず硬直する三嶋を無理やり引き寄せ、利根川は踵を返す。
別れ際、彼は伊井野ミコ《実に惜しい人材》に向け──『ワンポイントアドバイス』を残し、泣く泣くこの場から疾走していった──。





「友達選びはよく考えろっ……………伊井野…っ!!!」

762『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:29:39 ID:9Fifyl5Y0
【1日目/G7/ビル1階/S●INNS SHIBUYA109店内/AM.05:10】
【伊井野ミコ@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】頭部打撲(軽)、左頬殴打(軽)
【装備】???
【道具】ホイッスル、クロミちゃんの抱き枕、利根川著『お説教2.0』@トネガワ
【思考】基本:【対主催】
1:ど、どこに行くんですか!? 利根川先生!!
2:殺し合いの風紀を正す。
3:鴨ノ目さん、鰐戸さんを信頼。
4:法律違反をする参加者を取り締まる。
5:利根川先生を助けたい。
6:カメラの少年(相場)がトラウマ。

【鴨ノ目武@善悪の屑】
【状態】背中火傷(大)、右足火傷(軽)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:目の前の主催者野郎を追いかける。拷問後、即殺害。
2:クズは殺す、一般人は守り抜く。
3:ミコ、三蔵と行動。
4:三蔵は屑と認識しつつも見直している様子。

【鰐戸三蔵@闇金ウシジマくん】
【状態】胴体、顔に微々たる火傷(軽)
【装備】パイプレンチ@ウシジマ
【道具】処した男達の写真@ウシジマ
【思考】基本:【静観】
1:目の前の主催者野郎を追いかける。拷問後、即殺害。
2:伊井野、鴨ノ目を信頼。
3:自分に指図するクズ、生意気なブタ野郎は即拷問。




763『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:30:05 ID:9Fifyl5Y0
タブアシ(続きは多分明日)です

764『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:33:10 ID:kyzqnuMU0




……
………

「はぁはぁ………。…うっ、ひぐっ……、うぇ……ん……っ」

「………」

『羞恥心〜〜♪ 羞恥心〜〜♪ オレ達は〜〜〜〜♪』



「うっ…もう…な、なんなのぉお……もう………。うぅっ……………」

「………………」

『もういつもどんな時も負けやしないっSAァ〜〜〜〜♪』



 【羞恥心】─────…っ!
それは、2008年に結成されたユニットによる、かつて一世を風靡したデビュー曲。
渋谷の路地裏、公園前にて。
たまたまそこに落ちていた古びたラジオから、その懐かしきメロディが流れ出す──…、



『どんまいどんまいどんまいどんまい〜〜♪ 泣かないで〜〜〜(笑)♪』

「「ぃいッ!!!──」」

「「──煽んなボゲッ!!!!!」」



 ガシャンッ──。
蹴り上げられたラジオは、宙を舞う刹那──『渋谷区の天気、今朝は三十度を越える見込……』とニュースキャスターの声を響かせ、

 バンッ──。
遺言を言い終えることなく、アスファルトに叩きつけられた。


「……死ね…っ!!…………」


 無論、ラジオはこの時すでに死亡している。



 ニュースキャスターの予報通り、突き刺すような陽射しの下の大疾走。
今どき野球部ですら避けるというこの炎天下での走り込みは、利根川と三嶋を汗でぐっしょりと濡らし、ベタついた不快感と特大疲労で包み込む。
“よりによって……夏に…バトロワ開催しやがってぇ…………”────。
──公園の水道水をがぶ飲みしながら、三嶋は天高く眩しい太陽を恨めしく睨んだ。


「…クク……っ!! ケキャっ…! キキキ………」

「……え?」

「分かった……っ! とうとう…気付いてしまった……っ!! キキキ…………っ」


 そんな三嶋の隣でふと響く不気味な笑い声。
三嶋は一瞬、それがラジオからの音声かと錯覚させられた。
というのも、隣から聞こえた笑い声は、まるで機械のような感情皆無の声。完全に狂い切った笑い声だった故に。──まさか隣にいる利根川の声だとは、思いもしなかったのだ。


「…と、利根川さ──」


「──ぁ………………………っ」


恐る恐る横を向いた三嶋は、この時。灼熱下の暑さを相殺するような悪寒に襲われたという。

765『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:33:29 ID:kyzqnuMU0
 ムシャムシャッ……──

「…ククク……。よくよく考えれば……バトル・ロワイヤルだの…超能力だの…蘇生だの………っ。全てが荒唐無稽……! まるでバラエティ番組……っ!! クズ視聴者共が見る…ドッキリ番組なのだっ………!! なにもかもが…………!!」

「……と、とねが……ぁ……………」

「ククク……!! 見ろ…、お嬢…………っ!!」

「…え?」


 バリバリ、ムシャムシャッ……──

何せ、隣に広がるのは地獄絵図。
かつて『理想の上司』、『圧倒的ビジネスカリスマ』…と日本中の経営者から尊望されていた利根川は、


──正気を欠いた眼を漂わせながら、地面の土や草を次々頬張り、



「バレバレじゃないか…………! 隠しカメラ…………っ!!」



──公園に設置された防犯カメラを、狂気の笑みで指差していた────。




「スタッフ…出てこいい──────っ!! 出てこいぃぃ──────っ…!!! さっさと持ってこんかぁあああ────っ…!!! 『ドッキリでした〜』ボードをっ…!!!──」

「──どうしてくれるっ…!!! ほれ、キサマらのせいで泥まみれじゃないか…っ!! ワシのスーツが………っ!!!──」

「──おいスタッフスタッフスタッフィっ………!!! …山崎かっ…?! 黒崎…キサマもどうせ見てるのだろっ…?!! それとも海老谷…もしやキサマかっ…!?? 出てこいぃいっ…!!!──」


「──出てこいスタッフぅうぅうぅ────────────っ………!!!!!!!」



「…あ、あわ……わわ…………」



 三嶋が利根川をラジオの声かと勘違いするのも無理はなかった。──道端で部品散らすラジオ同様、彼もまた、壊れてしまっていたのだから。

防犯カメラへ向かって一人、狂気じみた怒声を浴びせる中年男。
三嶋が心中(なんで私がこんな目に遭ってるの……? よくよく考えればこれ全部利根川さんに巻き込まれてる形じゃん……)と呟きかけたその矢先の出来事である。
完全に常軌を逸した光を眼に宿し、もはや理性の灯など微塵も感じさせないその中年男は、わんぱく全開に土を食らう。
今目の前に広がる狂い切った現実に、三嶋は言葉という概念すら見失っていた。

──『想定上の最悪』という言葉はあるが、これは『想定外』かつ『最悪』。

三嶋はもはや願わずにはいられなかった。
今すぐにでも、ドッキリ大成功!!の札を掲げた軽薄なスタッフ共がニタニタ飛び出して。


この狂夢を終わらせてくれることを────。




「おいおい…早朝から発狂するなってオッサンさぁー。ラジオの曲聴こえないじゃないかよ…」


「「……え?」」


「…って、ぶっ壊れてるし。…ラジオ」



 ──ただいくら願おうとも、現れてきたのはスタッフではなく『カメラマン《参加者野郎》』。
一眼レフを手にした一人の少年がスタスタとこちらへ歩み寄ってきた。
中性的な美貌を湛えたその顔には、何があったのか痛々しい傷や打撲痕がいくつも走り、右手に巻かれた包帯はグロテスクに濡れ切る。
その白い右手で、彼はカメラの『シャッターボタン』に指を添えていた。



「……ん? …は? …いや、ちょっと待てよ……。──」

「──……オッサンさ、……え、何? …主催者……………??」


「「……」」

766『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:33:42 ID:kyzqnuMU0

もう、正直。
ここまで来たら怖いものなしである。



「…何でここに………いるんだ……? のんきに…………」


「…………」 「………」



完全に終わりきった表情の三嶋。
そして気がつけば、彼女と同じく諦念の色を顔に宿していた利根川。

──カメラの少年の存在は、利根川の理性を呼び戻す引き金となったというわけか。
少年がカメラのスイッチを『戦闘用』に切り替えた折、利根川は静かに口を開いた。



「……小僧、このお嬢からキサマに一つ………『軽い質問』があるとのことだ………。いいな……?」

「…………なんだよ」



「軽い質問」────。もはや注釈は要らないであろう。
死神を呼び起こす呪文のような一語《死亡フラグ》である。


ふと浮かぶ二つの笑顔。
三嶋と利根川は顔を見合わせ、ほんの一瞬、静かに微笑みを交わし、



「クク……。おいお嬢……忘れるなよなっ…………? ワシの常套句をっ……!」

「え、あ、…あー。分かりました。──『とどのつまり』……そこのキミに一つ質問ね……。──」



本当に軽い質問。
それでいてキレがあり『答え』が分かり切ってる質問《直球130km/h》を、三嶋は少年へ──。
────相場 晄の内角目掛けてゆるやかに投じた。




「──キミは敵か? それとも味方になるか?」

767『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:33:58 ID:kyzqnuMU0



………
……




──もう少し自然な笑顔でお願いしまーす。



 パシャリッ……




ドガァンッ──

 
 ドッガァァァァンッッ──


  ドッガバッガァッァアアアアアアアアンッッッ──


   ドッッッガバッガァッァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ──



………
……


768『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:34:16 ID:kyzqnuMU0


 
 ───ドッガガガバギャァァアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ



 背後で爆発音が鳴り響く。それも断続的にボンボンボンドガンドガンっと。
閑静な住宅街に不釣り合いな轟音が全くの間髪を入れずに炸裂する中、利根川と三嶋は振り返ることなく、ただひたすらに逃げ続けていた。


「はぁあぁぁぁぁあぁああああああああああああああああ!!!! もうもうもうもうもうっ、もうううううううううぅうううう〜〜〜〜っ!!!!!!」

「ガキ使年末のラストかぁああああああああっ…!!!!!!」


 爆ぜる爆炎に何度も足をすくわれそうになりながら。
二人はただ夏を、


「はぁあぁぁぁぁあぁぁ……もう〜〜〜〜熱いよきついよしんどいよお〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!! ……あの時ミコちゃん無理矢理にでも連れ出してればこんなことにはならなかったのにぃい〜〜〜〜〜〜!! もうこれどうすりゃ…どうすりゃいいんですか利根川さぁあああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!!!」

「ハァハァ………。バカがっ……、どうした《堂下》もこうじたもあるかっ………………!!!──」

「──今はただ止まらずっ………馬の様に駆けるのみ………っ!! 本能だ……っ、本能のまま走るのだお嬢っ…………!!」

「……はぁはぁ…。………この緊迫下でも…──…、」


 ───ドッッッガバッガァッァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ


「うおっ!? うっさい! 私の言葉遮んなっ!!! せめて空気くらい読んで爆発攻撃してよイカレポンチィイ〜〜〜〜〜〜っ!!!!!──」

「──はぁあ………はぁはぁ………。…この…緊迫下でも……その倒置法喋りに利根川節を維持するとは………はぁ……さすが先生ですよ……。利根川さんん〜〜………っ。──」

「──私…頭おかしくなって……土とか食べだしたら…止めてくださいねぇ〜………。利根川先生ぇええ〜〜…ん……………」

「ハァハァハァ…ハァハァ……。おあいにく様だっ……三嶋大先生よっ………!」


 灼けるような季節を、


「ハァハァ………。…キサマも食ってみろ…土くらい…………」

「……はぁはぁぁああ………、ところでお味はいかが……で……………?」

「ハァ…ハァ…。……ックク……!! 気になる土の味は…キサマ自身で試すといい………っ!! なまじ『作家』ならば……!」

「………作家なら何事も経験が命…ですかぁ………」

「……ククク…、さすがは三嶋大先生………っ!!」



 ──命がけで駆け抜けた。

 この様子は傍から見れば…。まるで、シンクロ………。
長い長い『利根川逃亡劇』を経て、二人に生まれた一体感……………っ。
利根川ら両名は逃げることに必死で気づかずとも、二人の足並みはこのターン……完全に揃い切っていたのだ………っ────!


無論、利根川らの逃走……。ならびに、これまでの、やれ説得だの…やれWinwinを踏まえたプチ脅しだの…才媛を招き入れるだの……軽い質問だのと…すべては悪あがき………っ!
利根川が主催者にソックリな以上、もうどうすることもできない……。奇跡的に災難を先延ばしにできただけの…虚しいあがきでしかない……………っ。
あがけばあがくほどに、深みにハマっていき………。
奈落の底へとアクマが手招きしている……………。
どっちに転ぶか分からない……悪あがきなのだが………………っ。



 ────それでいて、今が三嶋らのラストチャンス………………。



「楽しめ……っ。むしろこの経験を……楽しむのだっ………!! ワシに関わってしまった以上……キサマはもう開き直るしかないっ……!!」

「……はぁはぁ……(息切れ)…。………ハァ…(ため息)」



 ────あきらめるんじゃない………。変わるのは自分自身……………っ。



「考えてみろ……っ! これだけ悲惨な目に遭ったのであれば………きっと重厚なものになるだろう……………」

「………もうやめにしませんか?──」

769『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:34:34 ID:kyzqnuMU0
 ────誰も情けなんてかけちゃくれないのだからっ…………。



「──…『本』の話はっ!! …はぁはぁはぁハァアアアア〜〜〜………」

「…そう……っ! キサマの最新著『バトロワ体験記』は………重厚にっ………!! …中々、先読みができるじゃないかお嬢……!!──」



「──先読みのプロである…キサマとは是非とも…詰将棋をしたいもの……っ!!! だから今は…逃げぬくぞっ………!! 生きて帰るぞ………っ!! スリルを楽しめ…! ──」

「──圧倒的文豪…三嶋大先生っ……………はぁはぁ……!!──」

「──ピース…又吉……著………『火花』っ…………!!」



 ──ドッガンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンン──────ッッッッッ……!!!!!!!



「クククッ!!! クククッ!!! ククククククッ──────!!!!! 狙うぞ…芥川賞をっ……!!!!」

「あぁあああああああああああああぁぁぁぁああああああああ〜〜っ!! これだから本とか大嫌いなんですよ私はああああああぁ〜〜〜〜〜〜っ!!! もうがぁああああああ〜〜〜〜っ!!!!!!!」



嗚呼…。

あぁ…。

ぁぁぁ………。


………
……




『人間は考える葦である。』
────詩・作家。ブレーズ・パスカルの名言。




 今…負け犬たちの勝負の時が始まる…………。



 今……っ、

 負け犬たちの……勝負の時が………始まる…………っ。

770『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:34:52 ID:kyzqnuMU0
【1日目/G7/街/AM.05:30】
【相場晄@ミスミソウ】
【状態】精神衰弱(軽)、顔殴打(右目、右頬腫れ)、右腕開放骨折、左足打撲
【装備】爆殺機能付き一眼レフカメラ、鉄製のハサミ
【道具】写真数枚(小黒妙子の死体写真他)
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象:野咲春花】
1:主催者共を追いかける。んで、殺す。
2:野咲にとにかく会いたい。
3:邪魔する奴は『写真』に納める。
4:絶対に死にたくない。
5:チンピラ共(カモ・ミコ・三蔵)を許さねぇ……。



【利根川幸雄@中間管理録トネガワ】
【状態】疲労(大)、熱中症(軽)、右腕捻挫(軽)
【装備】回転式拳銃
【道具】タバコ
【思考】基本:【対主催】
1:とにかく逃げる………っ!!
2:伊井野にはいつかまた会いたい……。
3:自身指揮の元、『プランA』でゲームを終わらせる。
4:お嬢(三嶋)をお守り。
5:会長が少し気がかり。
6:黒崎っ…。

【三嶋瞳@ヒナまつり】
【状態】疲労(大)、熱中症(軽)、精神衰弱(軽)
【装備】ハンドガン
【道具】『お説教2.0』@トネガワ
【思考】基本:【対主催】
1:仲間を集ってゲームを終わらせる。
2:ミコちゃんがいたらこんなことにはならないのにぃいいい〜〜〜〜!!!
3:利根川さんについていく。
4:新田さんがピンチすぎる……。
5:利根川さんがこの先生き残る方法を模索…。

771 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:41:19 ID:kyzqnuMU0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①このスレッドが埋まり次第次回から、『【なんJ】ステマ棚漫画バトル・ロワイヤル』に改題します。
②略称はステロワとかですかね。
③大変ご迷惑をおかけしますが、どうかご理解をお願いします。


【次回】
──中日ドラゴンズのレジェンド・山本昌投手の焼き肉の食べ方をご存じだろうか。
──焼いた肉を、生の肉が浸かっていたつけだれにチョンチョンとつけて食べるという、なかなかに胃袋の鍛えられる流儀である。
──本題の元ネタは、まさしくそれ。

──……ところで、あなたは『お茶漬け』。
──スプーンで食べる?それとも箸で食べる?

『山本昌の焼き肉の食べ方、やっぱおかしい?』…田宮丸二郎、クロエ、???(アシストフィギュア)、小宮山琴美
(『目玉焼きの黄身いつ潰す』事前に鬼把握したためエミュ度自信ありの巻)

772『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:22:41 ID:DKOnC83.0
『山本昌の焼き肉の食べ方、おかしい?』

[登場人物]  田宮丸二郎、クロエ、小宮山琴美、伊藤さん

773『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:23:03 ID:DKOnC83.0
『男には強固で積極的な殺意はなく、計画的な犯行でもない。殺意のグラデーションの中では最も淡い』


 ──死刑執行部屋にて、裁判官から言われた言葉を思い出す。
蝉の声がやけに五月蝿く、対象的に周りの刑務官達は沈黙のまま俺を囲い込む。そんな執行室にて。
俺はただ、ぼんやりと追憶をなぞっていた。


 ハジメさんと……、それに、クロエ…。
正直、殺した数はわずか二人。その上精神異常を理由に、酌量もあるはずだと思っていたのだが。…裁判官の俺を見る目は、氷よりも冷えきっていた。

退廷前、俺は傍聴席の最前列──みふゆと一瞬目が合う。
……彼女はその時どんな顔をしていたのか、か。
…みふゆは静かに笑っていたさ。普段の日常生活と変わらない穏やかな笑顔で。
白木の額縁に収まれて。みふゆの写真はいつまでもいつまでも、笑っていて……。
自殺した愛娘の遺影を抱えた……みふゆの父さんの目を、…俺は一瞬たりとも合わせることなんかできなかった。


 裁判最終判決から、三年が経つ。
渡された遺書の用紙は、一文字すらも綴ることないまま。
木偶人形同然と化した俺を、刑務官二人は実にしんどそうに引っ張り上げ、絞首台へと向かわせに行く。
俺の足取りは重かったが、これは生に執着しているからというわけでは決してない。
生きようとする気力も、死を恐れる感情も、…俺にはもう無かった。



──ただ、


──一つだけ。


──それでもなお最後まで、俺の心に引っかかっていたことがある。


それは、執行室に入った際、最後の晩餐として出された──お茶漬けについて。
………その妙な食事チョイスも気になったものだが、それ以上に俺を惑わせたのは、盆の上に置かれた二つの食器。


『箸』。

そして、『れんげ』についてだ。


 なぁ……。
お茶漬けって…、どっちで食うものなんだ…………?
箸か? れんげか?
何故……、……「どうぞお好きな方で」と言うかの如く…二択を出してきたんだ……………?

俺はずっと、…これまでの人生常に……お茶漬けを箸で食べてきた……。
……理由なんて大したものじゃない…。
ガツガツかき込むように食うという……、それが一番旨いと思うし、それが『普通』だと思っていたからだ……。
…それだというのに………。
お茶漬けという『和食』をスプーンなんかで食べる奴が、いるというのか…………?
…当事者に聞くぞ。いいのか……? 本当に、それが“アリ”だと思っているのか……………?

…それが気になって、気になって……、どうしようもなくて………、


首に縄を掛けられた時……、俺はその『最期の言葉』を迷う事なく口について出た…………────…。



「ぉ、お茶漬けって……箸で食べるのが……普通で──…グフガッ────」



………………
……………
…………




“…い、ろー……。”


“…おい、二郎……。”


“…きろ……二郎……っ!!”

………
……


774『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:23:22 ID:DKOnC83.0




「起きろ、二郎っ!!」

「はっ!! …………………え?」


ひたすらに青い空に、白く膨らむ入道雲。
湿った風に混じった耳を撫でるミンミンゼミの声に。
場違いなほど鮮烈なモジャモジャアフロヘアー……。


「……とりあえず、おはよう!」

「お、おはよう……。──」

「──近藤さん」


近藤さんの声で、俺は目を覚ます。


「……おいおい。そっちは『ございます』だろ」

「あっ、あぁ……ございます、近藤さん……」

「まったく。呑気に眠りこけやがって……お前、疲れてるのか? とにかくもうすぐ出番だ。早く準備しろ」

「は、はい……!」


 アフロヘアとサングラスがトレードマークの、近藤雄三……。近藤さん。
俺の上司であり、初代どくフラワーの中の人。現場ではカリスマ的な存在だ。
いつも何かに悩み迷っている俺のよき相談相手であり、こんな俺のことを常に気にかけている…。
イチローにとっての仰木さん。錦織圭にとっての松岡修造。──近藤さんは、そういう存在だ。

……やれやれ。
それにしても、なんてとんでもない夢を見てしまったんだろう……俺は。
背中にはじっとりと寝汗。額にもまだ汗の名残があるから気持ち悪いったらありゃしない……。
休憩中、ほんの軽い仮眠のつもりで眠ってみたら、夢内容はとんでもない内容……。

ハハハ…。なんだろうな。
せっかくだし近藤さんに夢の話をしてみるか。
ちょっとした雑談のつもりでこの奇妙な夢の話を持ちかければ、さすがの近藤さんだって、驚く顔のひとつやふたつ見せてくれるに違いないだろう……。


「………近藤さん、僕…うなされてたりしてませんでした?」

「ん? …まぁ、随分と寝苦しそうな表情はしていたけどな。どうした? そんなに見た夢の話でもしたいのか?」

「ははは。変な夢見ちゃったんですよ。…気が付いたらバスの中にいて、たくさん乗客がいて、……それでバスガイドが現れたかと思ったら…何言いだしたと思います?」

「『右手をご覧くださいませ』とかだろ?」


この時思わず、俺の視線は自分の右手へと吸い寄せられていた。


「…いやいや。そんなんじゃ普通の夢じゃないですかー。…違うんですよ。『これから皆様に殺し合いをしてもらいます』って…そう言われたんです」

「…………!」

「驚きですよね…? 僕ももう、声なんか失っちゃいましたよ。…それでまた気が付いたら、殺し合いの会場にいて……。──」

「──そこで、ハジメとクロエという…同じく参加者の女性に会ったのですが、……あっ、言っておきますが僕殺し合いなんか乗る気じゃなかったですよ? 当然ですがね。…ただ。──」

「──その女性の食べ方を見て…僕はもう…取り返しのつかな──…、」


「おっとSTOP! それ以上は言うな二郎」

「…………え?」


近藤さんはそう言ってシーの指のジェスチャーを差し出した。
…シーと、『静かにしろ、シー』の。
あの人差し指だけを出すジェスチャーだ。


「これより先を聞いたら、多分俺…お前を殺す」

775『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:23:42 ID:DKOnC83.0
「え…………?」

「Kill Jiroだよ。オ・キル・ジロー!」

「……ぇ……?」


…『死ーー』のジェスチャーを決めたまま、脅迫罪スレスレの口ぶりで近藤さんはそう言った。
……何を言っているんだ? 近藤さんは……。もし俺が精神的に不安定な人間だったら、通報されてもおかしくないレベルの物騒発言なのだが………。
…まあ、とにかくこれ以上喋るなと言われたものだ。
俺も着ぐるみをkill<着る>準備をしなくちゃな……──……、


「待て二郎。…多分だがな、お前は重大な勘違いを二つしているぞ」

「………え? あ、すみません…。“十大・勘違い”ってことなのか、“二つ勘違いしてる”って意味なのか、どっちの話で──…、」


「一つ目、まず俺は近藤雄三じゃない」


「……え?」
(『え?』counter 5回目)



…え?
(『え?』counter 6回目)



「『クローン』だよ」

「く……クーロン?」

「はは、それじゃあプレステの怪作になるが、ゲームの話はまた今度の機会だ。──」

「──俺は近藤雄三の『クローン』だよ。──」


…えぇ??
(『え?』counter 7回目)


「──そして二つ目なんだがな……。殺し合いは『夢』じゃない」

「……え?」
(『え?』counter 8回目)


…え?(『え?』counter 9回目)




「つまるところ…まぁ簡潔にいったらだな。──見ろ」

「……ゑ?」
(『ゑ?』計測装置 八回目)



…近藤さんにうながされるまま、俺はゆっくりと後ろを振り返る。
そこには……………、



「……誰がお主に殺されたというのだ、オロカモノ──」

「──お主がやっていることは、現実逃避。自分の過ちから、贖罪から、目を背け続ける卑怯者だ。──」「──『夢』というものは本来、目標として掲げ、人が努力の糧とするもの。逃げ道に使うべきものではない。──」

「──……まったくッ…。木枯し紋次郎に憧れた私が……お主なんかに殺されてたまるものか……!! 夢見がちなオロカモノよ……」



「…A?」
(『A?』→すなわち『え?』。counter 10回目)



……俺は全身の血が逆流するかのような感覚に襲われた…。

振り返った先に立っていた彼女。
顔じゅうに殴られた痕がくっきりと残り、それでもまっすぐにこちらを睨む鋭い目。
金髪が朝の光を反射し、富士山のような口元がわずかに歪んでいる。

……クロエ……。
『夢』で俺が殺した……、
…あの…………『参加者』の女性が立っていた…………。


「……フフッ、二郎。すなわちな…」

「え?」
(『え?』counter 11回目)



「俺は、クロエに召喚された『フィギュアファイター』だ!」

776『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:23:57 ID:DKOnC83.0
その言葉の意味は、一瞬で理解できなかった。
いや、理解できなかったというより……俺の脳がそれを理解するのを拒んだのかもしれない。



──…多分、この時の俺は、塗られていない塗り絵のように真っ白になっていたと思う。

777『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:24:40 ID:DKOnC83.0
「……夢なのに」

「…ん?」


「夢じゃなかった……。夢だけど…夢じゃ…なかった…」

「……そうだな…。夏だし、俺も久々にみたくなってきたよ…。──」



「──…となりのトトロ」




限りなく広がる空は、まるで少年の頃に見上げた夏の午後のように。

ただひたすらに青かった────………。



………………
……………
…………
以上、田宮丸二郎『え?』記録11回。世界記録は276回。)
………
……


778『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:24:56 ID:DKOnC83.0



【アシストフィギュア No.11】
【近藤雄三@目玉焼きの黄身 いつ潰す? 召喚確認】
【概要】
→二郎の仕事先「フラワー企画」のイベントチームリーダー。
 風貌は細目の身体つきで大きめの黒い眼鏡を掛けたアフロヘア。
 いつも何かに悩み迷っている二郎のよき相談相手であり、常に彼のことを気にかけているが、二郎の行動にあまりにも問題がある時には鉄拳制裁をくらわすこともある。優しくも厳しい上司。


………
……


バンッバンッ──、バンッバンッバンッ──、バンッ────

 ガンッガンッ──、ガンッガンッガンッ──、ガンッ────



「あああぁぁぁぁあああああぁぁああぁぁああああぁあああああああああああああああああああああああああああああああ──────────────っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「な、なにをしているっ?! オロカモノ!!?」



 ガンッガンッ──、ガンッガンッガンッ────、ガンッ────────


 …修行僧は心を無にするため毎朝木を打ち続ける…だかなんだかって話を聞いたことがある。
俺は今、無心でひたすらに近くにあった木に頭を打ち続けた。



「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!! あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「何の真似だ?! …いきなり?! オロカモノ!!」

「………あああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ………!!!」



 バンッバンッ──、バンッバンッバンッ──、バンッ──


……皮膚が削れ、血が滲み、頭蓋の奥にじかに響くような鈍痛が走っても、俺はなお何度でも何度でも木に額を打ちつけた。
皮膚の痛みなど、とうに感覚の外に置き去りだった。ただ脳の奥底で、鈍い悲鳴が反響しているだけ。もう容赦のないバイオレンスの連続さ。
流石にドン引きしたクロエが腕を掴んで止めようとするが、俺は動きを止まることを知らず。

理性も羞恥もどこかへ飛び、ただひたすらに自傷を繰り返していた。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「何の真似だと言っているだろう!!! ジロ殿っ!! ジロ殿!!!!」

「…ぁぁぁぁああああああああああああああ…………。ぃいいっ………!!──」


「──………、巨人の星の………真似っ………」

「はぁ?!」



 バンッ……。

…『巨人の星』の主人公、星飛雄馬。
彼が生涯でただ一人愛した女性──日高美奈が病に倒れ、帰らぬ人となったとき。
飛雄馬は深い悲しみのあまり、心を失い、目の前の木に己の頭を何度も打ちつけたという。
……そんな、魂の慟哭を描いた一場面がある。


「とにかくやめろ!! やめろ…やめろと申しておるだろジロ殿っ!!!!!!」

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

779『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:25:12 ID:DKOnC83.0
……俺の幼少期に、多大な影響を与えた漫画──『巨人の星』。
未読の人には、ぜひとも読んでほしい名作だ。
梶原一騎の計算し尽くされたストーリー構成に、巻を重ねるごとに迫力が増してゆく川崎のぼるの作画。
自分の棺桶に入れてほしいくらい、俺にとって大切な作品だ……。


だから俺は今すぐ死ぬ為に、こうした自殺行為を続けて………、



バンッバンッ──、バンッバンッバンッ──、バンッ────

 ガンッガンッ──、ガンッガンッガンッ──、ガンッ────

「ああああああああああああああああああああああああああああああ──…、」


──ぶーん

「──あっ。…………………」


頭を打ちつけていた木のちょうど一点に、変な虫が止まった時………俺は頭を打つのをやめた。




「………………はぁ…………はぁはぁ…………」


全身から力がすうっと抜け落ち、膝から崩れ落ちる……俺…………。
頭の奥でくぐもった痛みだけが鼓動と重なり、静かに鳴り続けていた。


 ドクンッ…バクン……ドクン…………────






「………近藤殿。失礼ながら、こやつはいつもこういう有様なのか……?」

「いや……。…まぁ確かに二郎は、食が絡むとすぐ感情的になって、しばしば人と衝突していたよ。…でも、それでも二郎は人の話に耳を傾け理解しようとしてきた。これまで、ちゃんと自分の中に取り込んで……成長する…進化を続けてきた男だったんだがな………」


「はぁ………………はぁ…………………」



「……ここにきて何で急激に退化した……?」

「……………………………………はぁ……」



………正直今、めちゃくちゃバファリンと絆創膏が欲しかった。
──………それくらいの痛みで、俺は心身ともにズタボロだった………。


 朝の歌舞伎町。
ゴミが道に散らばり、あちこちに空き缶やタバコの吸い殻が転がる。足元ではカラスがぬるく乾いた『地面上のもんじゃ』をついばみ、どこかやる気のない鳴き声をあげる。
…そんな美しい景観の、町の片隅にて。
左から…クロエ。
右に俺……。
そしてクローン藤雄三さんがその間に挟まって座り……。並んだ三人の影が、夏らしく実に長く地面に伸びていた。


 …俺は、………俺…は……仕事前の『朝の匂い』が好きだった……。
カリカリとベーコンと目玉焼きが焼ける音で目を覚まし…、顔を洗うころにはホカホカのご飯の香りが鼻をくすぐる……。
リビングに行けば、みふゆが笑顔で待っていて、しょうもない会話を交わしながら、珈琲の苦々しさが部屋中に広がっていく……。
そんな何気ない時間が………俺にとって一番幸せだった。
好きな人と、好きなものを共有する朝。……それが、ずっと続けばいいと願っていた。
守りたかった。あの何でもない、でも確かな幸せを……未来永劫守備固めしたかった……。
……本来ならちょうご今ごろも、ブレックファストの最中だったはずなのに……。

780『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:25:29 ID:DKOnC83.0
その筈なのに……俺は………。



「……それで、今度はどうしたっていうんだ。二郎」

「…………近藤さんは……」

「ん?」

「お茶漬け……箸で…食べますか…………? そ、それともれんげで……食べますか………?」

「……お茶漬け、か…」

「………はい……………。…考えられますか………? 俺……今まで知らなかったんですが……いるらしいんですよ…………。お茶漬けを…レンゲで食う……和食の風情も何もない…そんな人間が…………。──」

「──…………そんな…………人間……がぁっ……………。……うぐっ………うっ…うぅ……………」


「「……………」」



──俺は涙が止まらなくて、止まらなくて…………。
──…よくよく考えたら…何の涙なのかわけがわからなかったが………、



「……まるでつかみどころのないヤツ…。近藤殿…こやつは一体………」

「面白いヤツだろうクロエ? 我がどくフラワーが誇る逸材、二郎さ。勿論誰にも引き抜かせんがな」

「……………ぶぶ漬けはいかがだ? ジロ殿に近藤殿………」



………………涙が止まらなくて仕方なかった。



「…………そうだな…。クロエ、君はどっちの派閥に入る?」

…ふと、近藤さんが口を開く…。


「…む。派閥…とは……? なんの話だ近藤殿」

「お茶漬けは──A:『箸派』か──B:『れんげ派』か。A or B。究極の選択さ」

「…………A…だ。…箸派だな、私は」
(『A』→すなわち『え?』。クロエcounter 1回目)


……………。
…不思議と、涙が一瞬で引っ込んだ気がした。まるで強力な掃除機に吸われたかのように……ズルズルズルッ…っと。
俺は頭を抱えつつ、クロエの方へと顔を向ける…………。


「………君も…箸派………。やっぱり箸で食うものだよな…っ!! なあ!!」

「『君も』……。………お主なんかと同じ派閥とは…私としてもいささか頭が痛くなるものだ……」

「なぁに。頭が痛いのは二郎も一緒だ。…はは、さしずめ箸兄妹めっ。お前らは案外気が合うのかもな。──」

「──で、クロエ。君はなぜ箸で食べるんだ? 俺としては、あの水中でバラバラに泳ぐ米粒を、箸で拾い上げるってのは……正直、めちゃくちゃ食べづらいと思ってるんだがなぁ」

「……オロカモノ。愚門だ近藤殿。──」

…クロエはほんの一瞬、空を仰いだ。
白くまぶしい陽射しが、髪の隙間をなぞっていって………。やがて富士山のような口を開き始めた……。

781『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:25:42 ID:DKOnC83.0
「──私の場合は『憧れ』だ」

「「憧れ……?」」

「『木枯し紋次郎』。──大昔の時代劇ドラマだ。その主人公、紋次郎は必ずご飯に味噌汁をぶっかけ、猫まんまにして食すという『紋次郎食い』なる作法を行う。──」

「──私は、時代劇というものが好きでな。…あの侍の生き様と飾らぬ食い方に心を奪われたもの。以来、私はずっと紋次郎食いだ。…あの侍のように、箸で静かに、かき込む。それが私のお茶漬けの流儀につながるわけだ」


「………そんな理由………なのか………? ただのかっこつけじゃないかっ!!!」

「……なに? お主とて箸を使う理由など大したことないであろうに……。ドアホウが………」



 …………っ。
富士山みたいな口してるくせに、芯食ってきやがって………っ。
そ、そりゃ…俺だって『箸でかきこんで食べるのが旨いから』という…しょうもない理由で派閥入りしているが………。
……だが、だ……っ。
たかがドラマの影響で自分の食い方を決めるような、そんな流されやすさはどうにも気に入らない…………。
同じ箸派として……クロエを除名処分にしたいくらいだっ……。

俺は軽蔑をにじませた視線で、じっとクロエを睨みつける……。
……くっ。だが当の本人は、俺のジリジリとした怒りなどどこ吹く風といった様子で……。
レジ袋から「さけるチーズ」を取り出すと──

──……裂かずに、モシャモシャと丸かじりしはじめた。



「って………。ふ、ふざけるなァアアア!!!!!!! なんだその…ふざけたさけるチーズの食い方はァアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「……むっ?!」 「……ん?」



 ……………見なきゃ…よかった。
…ここのところの俺は、人の変な食べ方を見るたびにサイコパス化してしまう。
まるでスイッチが入ったみたいに……完全なる沸点と化しているのだ………。

…それだというのに……。そんな自分の性質など分かっていたはずなのに……。



「まるで……まるでサラダチキンスティックのように…………さけるチーズを食べやがって……………。──」

「──生産者に対して冒涜じゃないかァアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!!!!!」


俺は………もう頭真っ白になって………。
……クロエに対して怒鳴り散らして………………。

もはやブレーキ知らず。制御ができなくなって………………。


「……ま、またか……。…ジロ殿………」

「……また、だとッ?!!」

「ぴぎっ?!」

「…お前が悪いんだろうが………………」



気が付いたとき、俺は……。



「お前がさけるチーズを裂かないのが悪いんじゃないかァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



クロエにグーの拳をふりかざして────……………。

782『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:25:57 ID:DKOnC83.0
「いや待て二郎。『パー』✋」


「「………え?」」




「お前の負けだ。ジャンケンポン!」



 ──…近藤さんのジャンケンに負けていた────。
………『ふりかざす』で終われてよかったと思う。
顔いっぱいに広がる、近藤さんの掌………。
発狂した奴にバケツの水をぶっかけて頭を冷やす──とはよくある漫画の典型的シーンだが…、…俺は近藤さんに敗北したことでギリギリ寸前冷静さを取り戻せた………。


……やばい。

……ったく、なんなんだ………………俺は…………。

完全に……壊れかけてる……。いや──もう壊れてる………Radio……………。


なぜこんなにも、自我が保てなくなってるんだ……?
完全に狂い切っているじゃないか………俺は………………。
何故こうも自我を保てなくなってるんだ………………俺…はッ…………………。

…………俺は………………………。



「…………怒らずに、俺の話を聞けるか? 二郎」

「………うん」

「そっちは『はい』だろ?」

「……敗《はい》…………」


……近藤さんはため息を吐いた後、口を開き始めた……。


「………俺はな。れんげ派だ」

「……敗《はい》……………。──って、はいぃいっ??!!!」

「お、…こりゃまずいな。…今からずっと『パー』見せつけながら話すから俺の無礼を許してくれよ。…普通に殴られたくないからな、二郎」

「……ハっ!! …………敗《はい》……」


……そう言って近藤さんは、隣のクロエをチラリとみると、彼女の(かじり痕残る)さけるチーズを右手に取った。


 ──バクリっ。

「…あっ! 近藤殿?!」


……もちろん、彼女には許可なくである。



「俺はな、お茶漬けを和食とは思っていない。れんげを使う理由は『チーズ入り』! ──チーズお茶漬けにして食べるからだよ」

「…え?!」 「な、なに………?──」


「──和食をぶち壊す恥知らずめ、このドアホウ……。いいか、近藤ど──…、」

「悪い。こんな早朝に説教は俺的にお腹いっぱいだクロエ。『パー』✋!」

「──もがっ!!」

783『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:26:12 ID:DKOnC83.0
…近藤さんは、説教魔クロエの口を左手で塞いで……俺に説明を続けた。
……俺とクロエはこれでじゃんけん敗者同士。…正直気に食わない女子ではあるが、なんだかんだ彼女と惹かれ合うものはあるのかもしれない。


「きっかけはテレビでな。今流行りの…T君という子役が、お茶漬けにスライスチーズを入れるのがオススメと言っていたんだ」

「『T君』………寺田心くんですね………? ………こ、近藤さんも、そんなすぐ影響受けて脳死しちゃうタイプだったなんて……見損ないましたよ……。…お茶漬けにチーズとか……合うわけないじゃないですかっ!!!」

「おい実名を出すな二郎。……いや俺も最初は合わないと思ったよ。良い言い方をすれば子供らしい無邪気な食べ方…。悪い言い方をすれば……やめておこう。お前が実名出したせいで誹謗中傷になりかねん。……まぁともかく俺も呆れたものだったさ」

「……………」


「だが────『チーズおかき』!」

「…………っ!!! ………チーズ…おかき……………?」

「それと同じさ。食欲がそそられない見た目だが、熱湯でふにゃふにゃに柔らかくなったチーズがお茶漬けに妙にマッチしていて………。…あれは一口目ではまだわからん。…『まっず』と思い、仕方なく二口目を入れたら……もう気が付いたら完食だ。よくよく考えたら大体の料理チーズかけたら美味いからな。──」

「──…だから俺はお茶漬けをレンゲで食う。俺にとっては、お茶漬けは『リゾット』なんだよ」


「………………………だから、れんげ………………?」

「フっ………。『パー』✋。今度はあいこだ、二郎」

「………あ」


 ……気が付いたら、俺は力が抜けて手が開ききっていた✋。

理解できない…理解もしたくない……。……そんな食べ方を聞いたというのに。
俺の拳は開ききっていて、暴力性のかけらも見せていなかった…………。
掌が震えていた。微弱だけども確かに俺の掌は震えていた………。。
汗にじまみ、しわがはっきりと見える。

俺の年季こもった掌は、確かにこの時震えていた……。


「……なっ?! オロカモノ!! 私の朝食っ!!!!──…、」

「…ん?」


……あと…近藤さんが右手を開いた✋以上、クロエから奪ったさけるチーズが必然的に地面に落ちたことにも……今気づいた。(一応、チーズはあとでちゃんと水で洗って食べた)



「つまりな、二郎」


近藤さんは軽く肩をまわして、ポキポキと首を鳴らす……。


「…うまいこと言うつもりはないんだがな。俺もアシストフィギュアとして召喚された以上、お前…そして主であるクロエにも、一つだけアドバイスを送らなきゃならん。──ちょっとだけ気づいたことがあるんだ」

「……………ア、アドバイス…?」 「………なんだ…近藤殿」

「二郎、お前はこれまで食べ方について色んな人と対立し、まさしく気狂い沙汰をみせてくれたものだが……。どんな時も最後は相手を理解し、自分自身も変われた。──それが、俺とお前の歩みだっただろう?」

「……はい……」

「だが今のお前はどうだ。バトルロワイヤルっていう土壇場になった途端、全く他人の食い方に理解を示さなくなっただろ。……何故か。何故お前はここまで狂ったのか。…その答えは単純だ。──」



「──『みふゆさん』だよ」

784『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:26:31 ID:DKOnC83.0
 俺は……。
まるで全身に雷を落とされたかのような……そんな衝撃を受けていた………。

近藤さんの――心の奥まで見透かすような、その雷鳴のごとき指摘………。

空気は静まり返り、耳に届いたのはただ一言、クロエの「…こやつ…結婚しているのか……?」という的確なツッコミだけだった。



「……みふゆさんがこの場にいない今。………つまりはお前に。そしてクロエはどうすべきか………。それは…つまり──…、」


「ほう。『私』──…と言いたいのだろう。近藤殿」

「ん?」


「…いわばズワイガニ代わりのカニカマ。私がみふゆ殿の代わりとなり、このオロカモノのサポートをする。──」「──そして、またコヤツも私をみふゆと思って、私を守る。──」

「──私とてもちろん本望ではないのだがな。ただ、こやつと『箸派』という同派閥となった以上、運命に従うのは私の使命。──」
「──………フッ。まぁ確かに、考えてみればここまで破綻した人間…。私とて説教のし甲斐がありそうものだからなっ……!──」

「──…近藤殿、お主の提案……、承るぞ……! ズバリ、お主はそう言いたかったのだな?」



「…………………ん?」



…この時、近藤さんは『鈴木雅之の十七枚目のシングル』といった表情をしていた。
…どういう意味かは各自お調べに任せる。


 ただ、近藤さん、そしてクロエの言葉を重ね合わせ、これから先のバトルロワイヤルを生き抜く術を、俺なりにも考えてみた結果……。
……たどり着いた結論は一つ。この狂った舞台で、俺がまず信じるべきは──クロエと共に歩むという選択だった。

…思い出すのは、彼女…クロエとの最初の出会い。
俺は激情のままにクロエを車内へと引きずり込み、暴行し──そして、首を絞めて殺した……はずだった。
頭のネジが吹き飛んだ暴力魔。そんな男と手を取り合って進もうとする者など、常識で考えればどこにもいない。
……それでも彼女は、余裕いっぱいで笑い飛ばし(…富士山のような口を開いて)、平然と俺の隣に腰かける……。
ノリノリで、やる気まんまんで、…自分を殺そうとした相手を隣に…さけるチーズを咀嚼しながら──(…富士山のような口を開いて)。

…近藤さんもそうだ。
こんな俺を『進化する人間』とまで呼び、まるで父親のように導こうとしてくれている……。


俺は、そんな二人を──この手で遠ざけるわけにはいかなかった……。
……たとえ俺が、何度過ちを繰り返したとしても……………っ。たとえ俺が、何度正気を手放しそうになったとしても……。

この二人がいる限り、俺はまだ……、人間に戻れる気がした…………。


「……………近藤さん………。俺………俺は……………」

「……二郎。結論はもう出たぞ。なら行け………!」

「…………え?」


近藤さんが指すその先──そこには、ぽつねんと佇む一軒の焼き肉屋があった。
『焼き肉じゅうじゅう』。
赤提灯がまだ薄明るい早朝の空に、妙にあたたかく灯っていた。

…………不覚にもこの田宮丸二郎…。
俺はこの時緊張感もなく………………空腹が鳴った。


「朝から焼き肉は普通ヘビーだが、お前にはちょうどいいだろ。色んな意味で」

「…………」

「焼き肉の本場、韓国では──焼き肉屋は『出会い』の象徴らしい。見知らぬ者たちが、煙をくぐらせ、酒を酌み交わし……心を交わす。──」

「──今こそお前たちピッタリじゃないのか? クロエに、そして二郎……!」


「………」 「……焼き肉…」

785『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:26:46 ID:DKOnC83.0
俺とクロエは互いに顔を見合わせた。──…いや、今はもうクロエ《みふゆ》…なのかもしれない。
じゅうじゅうと焼ける音と、香ばしい炭の匂いが鼻腔をくすぐる……。

…………近藤さんはいつも俺を助けてくれた。
言葉に毒を含ませながらも、…時には毒のような鉄拳制裁をしつつも………導いてくれて……そして、見捨てなかった。

あの時だってそうだ。羅生門社長の言葉で色々と精神的不安定になっていた俺を、何も言わず焼き肉屋にハシゴしてくれて…………、
「割り勘な」とか言いながらも、実際は多めに払ってくれた…………。



……俺も…上手い事を言うつもりはないが……、



────近藤さんは、いつだって俺の『最後の一枚の肉』だったのかもしれない………。







(………………すまない。全く上手くないどころか意味不明だった)





「それじゃあな。…クロエ、悪いが今後しばらく頼むぞ」

「…え?」 「近藤殿、どこへ……?」

「言ったろう? 俺はフィギュアファイター。活動時間『15分』が限度のようだからな。最期にちょっくら目玉焼き定食でも食べに行っておさらばとするよ」

「………え?」


 近藤さんは唐突にそう言って、背を向け始める。
その後ろ姿は歩くごとに少しずつ薄れていき………、
──なぜか、サングラスの輪郭だけが最後まで大きく、はっきりと見えたような気がした。


「……二郎、本物の俺に…よろしくな?」

「近藤さん………」


その言葉を最後に、近藤さんはゆっくりと去っていった……。
………俺がこの先、生還し、…すべてをやり直せることを当然のように信じているかと………そんな口ぶりで……。



……そうだ………! …ハジメさんも。みんなも……この手で、どうにかして生き返らせばいいんだ………。
全てをやり直して、生きて帰ればいいんだ………! 俺は………!

自殺なんて…バカ抜かせだっ………!! 俺はまだやり直せる…!
取り返しのつかないことなんて、きっとない。
信じられる。そう、自信をもって言えるよ……俺は……。


…………なんだ?
…『その自信の源はなんなんだ』…か…………。


簡単さ。


………近藤さんの言葉を信じて動いた時、俺の人生はいつだって前に進んだのだから────。

786『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:27:02 ID:DKOnC83.0
「……何をしている。行くぞ、ジロ殿」

「………え、あ。ああ!」



──疲れてヘトヘトな時はカルビ→カルビ→カルビときて。落ち着けばハラミ。気が向けばロース……。
──近藤さんはいつでもこんな俺を助けてくれる。


────近藤さんと言う七輪が、俺の悪い脂を焼き落としてくれるんだ。いつも………。




(──今度こそは上手い事を言えたつもりでいるよ。俺は────………………)




【アシストフィギュア No.11】
【近藤雄三@目玉焼きの黄身 いつ潰す? 消滅】


………
……


787『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:27:29 ID:DKOnC83.0
 ガラガラガラ……


  ジュウジュウ………


『…コト。なんで朝から焼き肉なの? どういう体力をしてるの?』

「だ、だってしょうがないじゃないかぁ!! あんな…頭のおかしいグラサンに…私負けちゃったんだよ!! やけ食いも仕方ないでしょ伊藤さ〜ん!!!」

『……それよりも、その食べ方はなに?』

「あぁ。これチュニドラの山●昌がやってた食べ方でね。ほら、焼いた肉を、生の焼き肉の漬けダレにちょんちょんってつけて、──」

「──豪快にバクリッ!! これがおいしい食べ方なんだよ。今度一緒に試してみてよ伊藤さん」

『(……コトの変な食べ方を生で見てドン引きしたいけど、その場合は他の客に私がコトと同類だと思われて引かれる。行こうか行くまいか悩ましい)………………ん?──』


『──あっ。コト、お客さん』



「え………?」




「「あっ」」



──焼き肉屋の扉を開けたとき、そこにはすでに、ひと組の先客がいた────。

──スマホで誰かと会話しながら、そのメガネの女は焼けたカルビをパクリと────。


──…俺はこの時、生肉の漬けダレ絡む…箸先のカルビにしか目が行っていなかった────。

──釘付けだった────。

──クロエのことも、近藤さんとのことも完全に頭から消え去っていた────。



──香ばしい煙が鼻をくすぐった、その瞬間────、






俺は、思わず口について出た。







「お前………バカか?」

788『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:27:42 ID:DKOnC83.0
────第67話◎─────。
──『山本昌の焼き肉の食べ方、おかしい?』───────。
──To Be Continued……─────────。

………
……


789『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:28:02 ID:DKOnC83.0











【1日目/G1/】

790『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:28:15 ID:DKOnC83.0










【歌舞伎町→ミニバン車内・走行中/AM.05:25】

791『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:28:31 ID:DKOnC83.0
【小宮山琴美@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】恐怖(激)、右頬殴打(軽)、手足拘束、頭にレジ袋被せられて「ヘコーヘコー」
【装備】なし
【道具】スマホ
【思考】基本:【マーダー】
1:なになになになに???!! これなに???!! この人(ジロちゃん)なんでいきなりブチギレたの?! なんでこの人に私誘拐されてるの??!! 伊●勤の采配より理解不能なんですけどっ?!!
2:誰か助けて!? 誰か…だれかぁ!??? 伊藤さぁーーん!!! 里●ぃーー!!!!!
3:死ぬ前にロッテ五十年ぶりの優勝が見たいぃい…!!!!!
4:やばい『漢』(堂下)がトラウマ。
5:優勝の願い事でロッテを優勝させる。自分を黒木智樹くんが惚れるような女にさせる。
6:伊藤さんと通話しながら行動。

【クロエ@クロエの流儀】
【状態】恐怖(激)、右頬殴打(軽)、手足拘束、頭にレジ袋被せられて「ヘコーヘコー」
【装備】フランスパン@あいまいみー
【道具】タバコ@クロエの流儀、さけるチーズ
【思考】基本:【静観】
1:息苦しい…。へこーへこー……
2:ジロ殿を説教しまくって更生させたい(建前)
2:見境なく説教して気持ちよくなる(本音)

【伊藤さん@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【思考】基本:【対危険人物→小宮山琴美】
1:コト(小宮山琴美)の暴走を止める。ついでに解説担当。
2:…このレジ袋集団はなに? …やや引く。



【田宮丸二郎@目玉焼きの黄身 いつつぶす?】
【状態】放心状態
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【マーダー】
1:気が付いたら、
2:俺は、
3:クロエと小宮山という子を
4:拉致誘拐していた。

5:……………………え?

792 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:38:23 ID:DKOnC83.0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①あと十数話後に書く『巡り合う二人の会長』と『会長と、呼ばせたい。(仮)(もしくは、天才たちの頭脳戦)』という2ピソードがありますが
②正直めちゃくちゃ良い話に書ける自信があります。
③どんな話になるかお楽しみに。
④『あの会長』と『あの会長』をここまで活躍させれるロワは恐らくここだけだろうと、自信持って言えるくらいです。


【次回】
──うるさい

──女ごときが邪魔をするな


──男同士の闘い。その行く末は。

『男の闘い』…西片、ガイル、サチ、北条
(あるいは、『プランA』…白銀、島田、左衛門、サヤ)

793『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:56:12 ID:TQm/ytFw0
『【ℙ𝕝𝕒𝕟 𝔸】 - 𝕗𝕣𝕠𝕞 𝕂𝕒𝕘𝕦𝕪𝕒'𝕤 ℝ𝕖𝕢𝕦𝕚𝕖𝕞』

[登場人物]  白銀御行、島田虎信、佐衛門三郎二朗、遠藤サヤ

794『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:56:30 ID:TQm/ytFw0
 “俺は『神様』なんてものを信じちゃいない。”
 “本当にいると言うなら、今すぐ目の前にでも現れてみろって話だ。”
 “俺としてもそれが本望だ。こんな悲運に負わせた礼として、骨が飛び出るまで拳をぶち込んでやる。”

 “…だが、どれだけ憤りを見せたで、神が姿を見せる訳もなく。”
 “そもそも今具体的にどこにいるのかも分からん。いや、恐らく天の上だかにいるのだろうが。”
 “遥か届かぬ上空で胡座をかき、絶望下の俺をニヤニヤ見下ろしてると思うと──腸が煮えくり濁る。”
 “故に俺は、神という輩をハナから存在しないものとしている。”
 “…そうでも考えないと、発散のしようがない怒りでどうにかなってしまいそうだからな。”


 “その一方で、同じく非科学的存在である『あの世』だけはあってほしいと願っている。”

 “…ああ。都合の良い話だっていうのは分かってるさ。”
 “ただ、”

 ────もう居なくなってしまったアイツが、存在できる場所──。
 ────アイツと再開できる場があるというのなら──────、って。


 “俺はそう願っているよ。”





 “ブラインドの隙間から細く差し込んでくる朝日。”
 “薄明るい部屋の中で、パソコンのキーを打音のみが響く。”
 “ディスプレイの文字列を眼前に今、俺は。”


 ─────神を破戒する。

795『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:56:41 ID:TQm/ytFw0




 calling…
  calling…

 calling…
  calling…

──────【𝔸𝕌𝕏】──────────────────
 🅲🅰🅻🅻
    ᴘᴜꜱʜ ꜱᴇʟᴇᴄᴛ
─────────────────────────────────

  Calling Shhirogane Miyuki. 

  Calling Ishigami yū.


……
………

796『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:56:57 ID:TQm/ytFw0

……
………



 『…これは俺の友達の話なんだがな』

──…そのセリフ聞くたびに思うんですけど、会長ってクラスに友達いるんですか?

 『莫迦を抜かせ石上会計。白馬岳の渓谷の数ほど存在する友人の中でも、………特に俺が眼に灼きついていた…『アイツ』の話をしたいと思う。いいか?』

──……『アイツ』…………ですか。


 『……俺は、アイツのことが怖かった。──』

 『──芸術、音楽、文芸、学問。…あらゆる分野において才能を示し我が秀知院を総ナメにした、まさしく『天才』……。……こっちが彼女の心を読み取ろうと四苦八苦している最中にも、アイツはもう俺の全てを見透かし、掌の上で転がしているのでは……と。……俺はアイツが怖かったよ。──』

 『──俺がヤツに抱いていた感情の片鱗を…少しでも悟られたら………アイツはきっとこう言っただろう。「……お可愛いこと」…ってな。──』

 『──……その一言が、プライド…矜持の塊である俺には…何よりも恐ろしかった。──』



 『────……それでいて、…彼女は……俺にとっての『希望』だったんだ』

──………。



 『今の俺にはもう、恐怖はない。…恐れるものなど何一つない。…それは、幸か不幸かで問われれば幸せに値することなのだろうが、そんなのあくまで浅い視点からの話だ。……今の俺が、どんな感情かなんて………言うまでもないだろう。』

『──…『恐怖』と『矜持』は一字違い。故に、俺は今から『恐怖』を《プライド》とルビ打ち、呼ぶこととしようじゃないか。──』


『──俺は無くした『恐怖《プライド》』を取り戻すッ………。──』

『──手段も…ッ、倫理も……道徳も…もう知ったことかッ………。何があろうと絶対に恐怖《プライド》を…この懐に引き戻してやる…………ッ。──』

『──…………そうだ。丁度いい……ッ。こうしてプライドが無くなった今だからな………ッ。今だからこそ声高に言いたいことがあるよ……ッ。俺は……俺は…見るも忌々しかった…あの恐怖《アイツ》のことが………ッ。──』



『────……………計り知れないくらいに好きだった』




──………本当に友達の話をしだす人初めて見ましたよ。

──……まぁさておき。分かってはいましたが、つまりはその彼女が起爆剤となって……僕にここまでの仕事をさせた、と……。

 『…………』

──VPNを何重にも噛ませたうえでアフガンの爆弾発注ルートをハック改竄して、配送先をアメリカ本土にすり替え、さらに起爆時間セットもオンにさせる…とか。………僕的には何よりも会長が恐怖ですよ。

──大体にして、倫理面や法律面を抜きにしてもこの『作戦』…粗がありませんかね? いくら宗教国とはいえそう簡単に騙し込めるものなのか…とか、バリアー破壊はよしとして首輪解除はどうすんですかとか………。まぁその点は言うまでもなく考えてはいるんでしょうけど。…何よりも僕は──…、


 『……………………………………』


──……って、会長。

──…まさか僕に謝ろうとしてませんよね。ここまで来て今更罪悪感とか抱いたりとかしてないですよね。

 『………』

──…もしそうなのだとしたらやめてくださいよ。らしくない……。

──というか謝るどころか…国をあげて極刑十回執行してもまだ済まない、悪の可視化みたいな『作戦』なんですよ。そんな作戦の統率者に、罪悪感がまだあるんだとしたら………。

──……最低じゃないですか。

 『……』

──…まあとは言っても、起爆停止スイッチは作動可能なのでまだ中止は可能ですけどね。…どうしますか、会長──…、


 『──…【ウルトラアトミック作戦】。──────』


──え…?


 『当作戦の呼称は【ウルトラアトミック作戦】とする。……実に直球なネーミングではあるがな。仮に俺が死んだ時そう記載するよう、書類会計を頼むぞ。──』

 『────石上会計………っ』


──………ふっ、やっぱり貴方はそうこなくっちゃ。ただ、一つ異議を申すなら…死なないでくださいよ会長。…僕には生徒会長代理なんて到底勤まりませんから……。

797『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:57:11 ID:TQm/ytFw0
 『…………はは…。…検討はするさ』



──では二日後また。五人揃って、いつもの生徒会室で。…失礼します。

 『……………………礼は、その時に言おう。……またな』



──────プツンッ。






……
………
☩ EPISODE ##.𝟎𝟔𝟔 ☩

『【Plan 𝓐】 - from Kaguya's Requiem』

☩────────☩




………
……


798『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:57:25 ID:TQm/ytFw0



 15世紀のフランスにて。
ある貴族の男は、かつて神を信じていた。

1429年、シャルル7世の命で宮廷に呼ばれた男は、一人の少女と出会う。
ジャンヌ・ダルク──神の声を聴けるというその聖少女の姿に、彼はたちまち圧倒された。
まるで天使のような威厳を纏った彼女を前に、ただちに忠誠を誓ったのである。
以降、戦場では二人は共に剣を取り、いくつもの華々しい勝利を収めた。
男はその武功を称えられ陸軍元帥となり、家紋には王家の百合が加えられるという名誉を賜った。

だが、栄光は長くは続かなかった。
ジャンヌは捕らえられ、時の流行である魔女狩りによって火刑に処されたのだ。

……


『Pourquoi Dieu l’a-t-il abandonnée…?』
──(なぜ彼女を見捨てたのだ…、神よ………)
────百年戦争の英雄。ジャンヌ・ダルクの右腕。『ジル・ド・レ』の言葉。


……

信仰の灯が消えたとき、ジルの心には別の炎が灯る。
錬金術、黒魔術、少年達への残虐な拷問。
──見るも忌々しいキリスト教徒共、ならびに神を焼き尽くすほどの、『復讐』の焔。

神が、憎かった。
全ては神を裏切るための、儀式だった。
神がジャンヌを奪ったのなら、自分はその神を否定するしかない。


────悪魔に魂を売り渡した男・『青髭』はこの時、神へバスタードソード《宣戦布告》を突きつけたのである。



 時は流れ平成の世。
青髭の生涯を知ってか知らずか、──いや、英才卓抜である『彼』は間違いなくその存在を知っていたであろう──。
ジル・ド・レの生き写しが如く、悪魔に魂を売り切った男がいる。

フランス貴族として享楽の限りを尽くしたジル・ド・レとは対照的に。庶民の出でありながら、ただ努力一つで生徒会長の座を掴み取った──その男。
まるで宿命をなぞるように、彼もまたあの青髭と同じ『鋭い眼差し』を宿していた。

────四宮かぐやを想いながら、エンターキーを押し込む。彼の名は────。




 カタンッ──



──【残り00:14:59.875】──



……
………


「……こんのクソがァッッ!!!!」


 バンッ──。

 事務所『カウカウファイナンス』、廊下を少し歩いた先の男子トイレにて、鏡がひび割れる音が響く。
白銀の用心棒係──島田虎信は、血が滲む握り拳をギュっと締め、沸き立つ怒りを深く噛み締めていた。
彼のズボンポケットには一枚の野口英世札。──数分前、白銀から「悪いがこれで缶コーヒーを」と頼まれて受け取った紙幣であるが、島田が向かった先は外の自販機ではなくトイレ内。

別に、彼は緊張感もなく催していたというわけではない。


「………ぐぅッ………!! うっ………。なんや…。──」

「──なんや…アフガニスタンって…なんや融点がどうたらって………もうワケわからん…………。──」

「──アイツ《御行》の作戦はメチャクチャや………。──」


そして別に、白銀が彼に耳打ちした、ゲーム脱出のプラン──『ウルトラアトミック作戦』について理解ができなかったわけでもない。
荒くれ者で、お世辞にも教養は育まれていたとはいえない島田でも理解できた、実に単純な作戦である。

ただ、


「………カモ……っ。もっとお前に…『仕事』の流儀について聞いときゃって、後悔しとるで…………。…なぁ、カモ………。──」


「──…お前なら…どうするんや………。そして、オレは…………御行をどないすりゃ正解なんや……………っ」

799『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:57:45 ID:TQm/ytFw0
──その単純である『悪魔』の作戦と、悪魔に陥った『白銀御行』の二つに、島田は心の底から苛まれていた。
鏡同様ひび割れた拳の血雫と、──そこからにじむ血の存在に、彼がようやく認識したのはこの時。

島田の怒りの理由は『己の葛藤』であった。


「………………止めれば…ええんか…………。…もう、………オレには分からんわ……………」


白銀御行に現状一番寄り添っている参加者として、島田が抱える苦悩、葛藤は計り知れないものだった。
『悪魔の作戦』を止めるべきか、否か。
シーソーのど真ん中に立たされた島田は、そのおぼつかない立ち位置に、心が揺れ乱れて仕方なかったという。



──【残り00:12:31.846】──


 島田視点から順を追って、可能な限りの説明と回想をする。
全ての始まりはもはや説明不要。──二人の目の前で、四宮かぐやが爆ぜり、────彼女の瞼をそっと閉じさせたあの瞬間。
──────白銀の瞳孔カラーが明らかに血走ったあの時から作戦が始まった。

白銀に促されるまま、ホームセンターから得た『硬度計測装置』を片手に、無言の道中を続けること十数分。
垂れる汗も、灼熱の陽の光も気にせず、互いに無言で歩み続け、
辿り着いた先──エリア《渋谷》最南東、別名には『バリアーの最端部』にて、白銀はやっと口を開いた。


……

──……ほう。…硬度にしてHV2100、か。…意外でいて予想通り、という感じだな。

──なぁ島田、こんなコンタクトレンズの如くペラペラのバリアーが、まさかセラミックの十倍の硬度を誇るなんて…信じられるか? バトル・ロワイアルとはつくづくこの世の常識が通じない…侮り難いものだ。


────………あ? なんやねん………? セラミック?? ……そんな…そんな訳わからん話するために来たんか?! ここまで!! オイッ!!

────まさかやないけど…お前このバリアー壊すつもりやないやろな?!

────…なんや? 仲間ごっつ引き連れて…一斉にぶん殴って壊すっちゅう考えか……? それがお前のゆうた『ウルトラアトミック作戦』ゆうんか?!

────…ッざけんのもええ加減にせえっ!!! …それよりも、ほんま…かぐやの為……真面目に考えなあかんこと…あるんとちゃ…、


──『あずきバー』の逸話にはこういうものがある。

────あ?


──…聞いた話によればな、アメリカ軍が実験でライフル弾を二発放っても、氷菓には傷一つ付かなかったそうだ。

──…信じられないよな。あずきバーの硬度と、そして軍予算の無駄遣いっぷりに。……俺はふと思うよ。

────…あ? なんや…お前………? だからホムセンであずきバーもこうたっちゅうんか? …ィッ!!! いや何話したいねんおま…、


──硬いのなら『溶かせば』いい。


────………ぁ……?


──どんな物質にも『融点』がある。…バカげた話だが、『こいつ《バリアー》はこの世のものではないのでは…』と俺は危惧していてな。故に、こいつにも硬度があるのかどうか不安ではいたが……。…ほんとに『予想通りだが意外』だったよ。

──HV2100となると、融点の推測値は『摂氏3500度から4000度』ほどになる。……もう分かっただろう? 島田。

────あ……?



──なら、『ちょうどよかった』じゃないか。


……


800『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:58:03 ID:TQm/ytFw0
 手から放り落とされたあずきバーをジワジワ、ジワジワと溶かしていく──早朝の太陽と、地面の熱。

 あずき液にアリが集るのを待たずして、確信じみた表情を浮かべた白銀は、島田を近くの雑居ビルへと促した。
ノートパソコンがあるビル三階へと足を運ぶや否や、通話を飛ばすは、白銀の後輩という──石上優へと。
『ネットに関しては腕っぷし』と評す、その石上へ、白銀は事情説明を兼ねて『ウルトラアトミック作戦』の一部を託す。
最初こそ当然ドン引きしていた石上会計だったが、経過に連れ、ゲームを攻略するかのようなノリで手を動かしていく。
荒唐無稽かつ鬼畜じみた『作戦』も引き受けてしまうとは、生徒会長・白銀御行の人望を表す光景と言えるのだろうが、異様な雰囲気に島田はこの時、ただ立ち尽くすしかできずにいた。

ふと、石上が白銀へクエスチョンを向ける。


……

────……ところで会長。……アフガニスタンってどういうチョイスですか? 国なんて山程あるのにそこを選ぶセンスが僕には理解できませんが。

──ん、簡単だ。日本に一番近い核保有国がそこだから。それだけだな。

────あー、なるほど。

──それに宗教国家は都合がいいだろ? “神の教え”だの何だのと……。現実離れした神話を、真剣に信じ込んでいる連中だ。脳死な狂信者ほど扱いやすいものはない。…呆れた話だ。


──…………………『神』なんて存在しないというのにな。


────………はい。


……



 二人の会話をただ聞き流せば、気がついた頃にはもう作戦準備は終了間近。
石上の圧倒的な作業速度により、──もう取り返しのつかない地点へと踏み込んでいた。


 石上と通話を終えても、白銀は休むことを知らない。
ふと尋ねたところによれば、今度は『タリバン最高指導者のモデリング作成』に入るとのこと。
いつどこで学んだのか知らぬ、Dari語(アフガン公用語)をブツブツ練習しながら、白銀は作業をどんどん進めていく。
目にクマを腫らし、顔色も眠そうに青白くなっても、疲労が明らかになっていてもなお。
白銀は取り憑かれたように、作戦の準備を止めなかった。


 たかが──と言ったら語弊が発生するかもしれないが。

 たかがバトル・ロワイヤルが────いつの間にやら信じられぬ程スケールが肥大化していく。



 ──たかが、バリアーの為だけに。



 ただでさえ、ナルコレプシー(睡魔発作)傾向の白銀である。

眠気覚ましのため、強めのカフェイン《ブラックコーヒー》を島田にパシらせたのは、この折であった。





──【残り00:11:00.924】──

──そして現時刻に至る。──

801『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:58:18 ID:TQm/ytFw0
………
……



「……オレは……………。オレ…は………………………。──」


 以上の通り、(裏社会の人間とはいえ)常人である島田が、ここまで苦悩するのも無理はなかった。


「──…どうすりゃ、ええんや…………。」


 母を理不尽に失って以来、『復讐屋』鴨ノ目武と働くようになった島田。
その稼業も気づけば長い年月を経ており、これまでも幾度となく『クズ共』を無惨に始末してきた。
被害者遺族の依頼を受け、対象のクズを攫い、物置小屋にて──斧、ドリル、ガスバーナー……etc。様々な戒めを味あわせていく。
依頼こそ無いとはいえ、復讐屋としての視点から見れば、白銀御行は紛うことなき『執行対象』。
──いや、もはやクズや極悪人なんて言葉は生温い、『大正義的巨悪』。正義すらも超越した、悪魔のような理知と意志だった。


「……おかん、カモ…………。…奈々………。…誰でもええから、最適解…教えてや…………」


ただ、そんなクズ共。
かつてのジェイク堀尾や櫻井志津馬。あるいは歴史に名を遺すジル・ド・レといった悪人達と、白銀で、決定的に異なる点がある。
それは一つのみ。
たった一つであるが、『悪』という存在を構成する根幹に関わる、決定的な分岐点だった。



──白銀は、【利他主義】。

──殺し合いに巻き込まれたすべての人間を救うために。ゲームそのものを崩壊させるために。


────【そして何よりも、四宮かぐやの為に。】




彼は、自ら悪の道を選び取ったのだ。



「………………………御行……っ」



 それは果たして、正義か否か。
というのも、白銀の立案したその作戦は、『巻き込まれる』無関係な人々にとっては、たまったものではない為である。
何かを得るには、必ず何かを失わねばならない。
まさに『等価交換』──。錬金術の理を地で行くその作戦は、罪なき人々の命を犠牲とすることで成立していた。
殺し合いに一切関わりない、それどころか他国の老若男女。
たまたま『その場』に居合わせただけの無辜の人々が、虫のごとく殺されていく。
それに加えて、犠牲数も桁違い。白銀曰く、「三百人で済めば御の字だな」──と、その『爆発』の威力を懸念していた。

いわば、国境を越えた虐殺を踏み台にした末の────自分達の生還。


 もしかすれば、他に方法があるのかもしれない。

バリアーを破壊し、主催者を突き止め、ゲームを終わらせる。
犠牲も最小限にとどめるプランが、どこかに存在していた可能性もゼロではない。
島田も、作戦の具体的内容を聞かされた際、勿論「アホか、他に方法あるやろ」──と、紛れもない正論のツッコミを入れたものだった。

──その正論は、また『別の正論』によって完全に打ち消されたものだが。


「…『あるなら出してみろ』…って……………。御行………お前……そんなん……………」



殺し合いに巻き込まれた参加者たちの命を救うために、無関係な多数を犠牲にするか。
または逆も然りか。

どちらが正解で、そして自分は白銀を止めれば良いのか否かも判断ができず、
両サイドに命がのしかかるシーソーの中心にて、島田が立ち尽くし続けること早三分。



──【残り00:10:01.123】──


「……………とりあえずは、…コーヒーやろ………」


 ポケットに手を入れた拍子、触れた貨幣の感触で『お使い』のことを思い出し。
長く伸びた髪をひと掻きし、島田は静かにトイレを後にした。
結論を出すことを一旦は放棄して、今はただ言われるがまま自販機へ。

島田はまだ、『神の存在』、──すなわち希望の道筋を諦めてはいなかった。その願いにも似た思いを胸に、彼はそっとドアノブを回す。




廊下を出て数歩ほど。

802『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:58:30 ID:TQm/ytFw0
──片や、すれ違いざまの風の感触で、

「…あ?」


──片や、バタンと閉まったドアの音で、

「……え?」 「…なッ」




──島田と、
──このビルにたまたま入っていた佐衛門&サヤ。


互いが互いを振り返ったそのタイミングは、ほぼ同時だったという。




 ──【残り00:09:41.999】──

803『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:58:44 ID:TQm/ytFw0



………
……



 一方は────対、改造銃。
島田の額にて、銃が突きつけられる。


「……ハァハァ………言っとくがなァ…、至近距離戦では…銃よりナイフのほうが遥かに有利なんやからな…………ッ!!!──」

「──なんかの漫画でゆうてたけど、銃はスリーアクションなんやぞ…。『抜き』……──…、」

「『構え』、『引き金を引く』…そのスリーアクション…なんだろ………っ?」

「…あぁ?!」


 もう一方は────対、ナイフ。
左衛門の頸動脈ギリギリにて、仕込みナイフが牙を剥く。


「それに引き換え、ナイフは『刺す』の一動作に終わる………。アンタはそう言いたいんだろ…………っ? とどのつまり……、──『オレのほうが有利〜』と。…そう〆るつもりなんだろ……っ!!」

「……っ。……んや…見透かしたかのように………。お前も読んどったんか、マスターキートン…………」

「答える気はない……っ。そしてアンタとも漫画の話で和気あいあいとする気は……ない…………っ。──」


「──僕にはただ殺意のみっ……!! アンタに今…向けるのは…殺意だけだ……っ!!」

「ッ、お前…ェ…ッ……」


「佐衛門さんっ!!!!」



 狼狽するは────サヤの声、ただ一つのみ。



「………な、なに……。なんなのこの状況…。…ね、ねえ佐衛門さん…何してんのっ………?」

「……サヤさん……・猜疑心重……『信じちゃダメ』ってことさっ……!! 参加者全員…誰もかも…………」

「…え? は、はぁ???!」

「その上…よく見てみるんだ……。こんな見るからに目付きの悪い……輩を相手にしているんだぞっ……。なら尚更じゃないかっ…………!!──」


 島田と左衛門で、互いに伸びる腕。
空気が張り詰める中、その互いの手にて、交差するそれぞれの武器。
互い、互い、互い、互い、互い、互い、互い、たがい。
────疑い。【疑心暗鬼】。


いや、この状況を四字熟語で簡潔に表すとするなら、【疑心暗鬼】ではなく──、



「──ここは僕が引き受けるから……。だから逃げろ………逃げるんだ…サヤさんっ……!!!!」

「なにが逃げろやねんワレッ!!!! お前が急に銃向けてきたんやろがッ!!! ふざけんなやゴラアアアァッ!!!!!」


「ひっ!!」



────【一触即発】だった。



 数分前。
すれ違い──島田の存在を認識するなり、佐衛門が取った行動は、先手必勝。
言葉挟む間もなく颯爽と銃を引き、そして構えた左衛門は、名前も知らぬゴロツキ標準にトリガーを指にかけ出す。
この考える余裕もない刹那の瞬間、佐衛門を支配していた感情は『焦燥』であっただろう。

なにせつい数刻前、兵藤に片目を奪われたという『バトル・ロワイヤルの真髄』をまざまざと見せつけられた彼だ。
唯一残る左目は、誰彼全てが【敵】。傍らのサヤを除いて、全てが敵と視えている。
平時はマイペースで、冷静な観察眼を持つ佐衛門であっても、この時ばかりは、初対面の人間を信用する余裕など欠片も残っていなかった。

──それが余計、島田のような見た目からして反社会的な匂いを漂わせる男と出会ったとあらば、尚更だろう。

804『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:59:02 ID:TQm/ytFw0
 そしてまた、同じく数分前の話。
あっという間もなく銃を向けられた島田であったが、銃弾は放たれることなく。
何せ、過去には違法格闘技で名を馳せ、『復讐屋』となった今でも卓越した格闘術を見せる島田虎信。その人である。
トリガーに指がかかる寸前、反射神経で腕を振るい、仕込みナイフを引き抜いてみせた。
鋭利な刃先は、佐衛門の頸動脈を寸分違わずギリギリなぞり。──もしくは、すでに0.1ミリほど食い込ませた、瞬発の攻撃。

互いの心臓の震えが、互いの武器の先端を微かに揺らす。
刹那ごとに命の天秤が傾く、張りつめた静止。先に動けば、どちらかがフィフティーフィフティーで絶命する。

──この現状下は、こうして出来上がったのである。



汗が滲み出て、

「…………ぃッ!!」


向顔。睨み続け、

「ぐっ……………!」


一方は、首から、か細い一本の血脈がスーッと滴り、
一方は、銃口の奥に宿る冷たい空気に心臓が早鐘を打つ。


二人は膠着を解き放つ何か──『隙』が来るのを待つばかりの。


「……………っ!!」

「…………ぃイッ!!」


────この、緊迫の時間。



『甲子園には魔物が棲む』。
そんな言葉があるが、もしもこのバトル・ロワイヤルにもそのような『神』が宿っているのだとすれば、今この瞬間──。
きっと愉悦に満ちた眼差しで、島田 vs 佐衛門の静かなる死闘を見下ろしていることだろう。
──もっとも、比較的巻き込まれた側である遠藤サヤは不運なものであるのだが。


「え、え………。さ、佐衛門さ……………………」




【Judgment】。
──決着の刻。死の兆し。



ただ、どうであれ。


「…………悪魔がっ………」

「ああァ!?? 悪魔はお前やろがッ! ボゲッ!!──」



膠着下が暗転に包まれる瞬間は、



「──…容赦はせんからな……クソったれ……。ゲームに乗ったクズ野郎がッ…!!!」

「……ブーメラン…っ! そっくりそのままお返しだ………っ。──」


──もう。


「…終わり…もう終わりにしようじゃないかっ………!! うわああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!」

「イィッ!!! ざっけんなやボゲゴラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



眼の前を覆い尽くすほどに、近かった──。








「…やれやれなものだ。たかが缶珈琲一本。まさか豆から挽いていたわけじゃないだろうな? …そう思っていたら………島田め……」



 ──【残り00:08:20.521】──

805『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:59:21 ID:TQm/ytFw0
「「…あ?」」


「え?」



 そんな眼前から離れた向こうにて。

白い廊下に、揺れるカーテン。長く無機質な廊下奥から、コツ、コツ、コツ…と。

戦慄に満ちたこの空間をものともしないかのように、革靴の音と──、




「…案の定。実に愚かな争いだな……」



────独壇場を切り開くかの声が、静寂を引き連れて響きだした。




 ──【残り00:08:01.351】──




「………なっ…!? おま……──…、」

「島田、俺は常々思うんだがな」

「あぁ…?!」



 突然の出現。誰ひとりとして喧噪に夢中で、その気配を察知できなかった。
怒号も罵声も掻き消え、まるでサイレント映画のように静まり返る。──いや、三人を静まらせる力を持つその声。

靴の音が徐々に徐々に、一定のリズムでこちらへと近づいていく中。シルエットの主は淡々と、三人の内の一人、島田に向かって演説口調を発する。



「裁判、スポーツ、家督争い…なんだっていい。──」

「──結局、争い…すなわちバトルってのは『ジャッジマン《公平な第三者》』がいて、初めて成り立つと思っている」



「……え?」 「……………っ」



「そう考えるとだ。この『バトル・ロワイヤル』ってやつは、つくづくお粗末な構造をしていると思わないか?──」

「──なにせ審判《ジャッジマン》もなし。ルールも無用。勝手に始まり、勝手に命を奪い合って、勝手に結論が付く。…『バトル』の定義としては最低のフォーマットじゃないか。…公平性も何もない…。審判がいる分、小学校の球技大会のよっぽど秩序があるだろう」



 コツコツ、コツコツ────。

まるで機械仕掛けの秒針のように響く一つの足音。
佐衛門も島田もサヤも、誰彼もが虚を突かれ、氷と化したこの場で唯一響く音。

ビルの内壁に反射する光も、路面に焼きつく熱も、どこか白んで見える。
それは暑さのせいではなかった。彼が近づくにつれ、空間そのものの輪郭がぼやけていく。



「さて──唐突に割り込む形になってしまったが…、島田。あとそれから……君たちにも一つ俺から提案がある。──」

「──というよりも、…サヤ…だったか。そこの君に任せたいことがあるんだが。…いいか?」


「えっ!?」 「…な……っ?!──」


「──…な、なに……?」



光が邪魔で、なおも顔の判別もつかぬその男の白い輪郭が名指しするは、突飛にもサヤの名。
その口ぶりから察するに、彼は島田と佐衛門の膠着を、初めからどこかで見届けていたのだろう。
にもかかわらず、あえて直接の当事者ではないサヤを指名したことに、誰もが小さな違和感を覚えた。

なぜ彼女なのか。

というより何を言い出したいのか。奴は。

806『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:59:34 ID:TQm/ytFw0
島田。佐衛門。
敵味方関係なく、かの男の存在感に身動き一つ取れなくなるこの空間にて。



窓を通り過ぎた折、やっとその姿をはっきり確認できた謎の男は。

──いや。




────『白銀御行』は。





「案ずるな。簡単な事さ、サヤ」

「…だから……なにって…──…、」




「君に是非『ジャッジマン』をしてもらおうと俺は思う。──島田虎信を始末すべきか、まずは話し合うべきか。──」


「──この場の命運をサヤに預けようじゃないか」





「…えっ、え?──」

「──え、え、え、え、──」


「──えっ!???!」



「「…………え」」





────比較的まだ若いサヤへ、白羽の矢をたてた理由について説明しだした。





「な、え、…は? な、なな、なんで………。急にアタシ………?!」

「道理も筋も『なんで』もあったものか。…まぁ強いて理由づけるとするなら、予行練習と思って審判を担えばいいさ」

「…な、何のっ?!」


「…『裁判員制度』の…かっ………?!」

「…ん。──」


サヤを弁護立てるかのように、佐衛門が割って出る。


「──御名答だ、サングラス男。…選択ってのは、往々にしてある日唐突に突きつけられるもの。国がそうやって制度《裁判員制度》として決めているんだ。ならちょうど良い機会だろう?──」

「──それに、現状この場で一番ジャッジメントに相応しいのは紛れもなくサヤ。君のみだからな」


「え……………」

「御行…………っ、お前……………」



 何を言い出すのか見当もつかない。
佐衛門の視点からすれば、突如現れたこの男の『提案』は、思考回路を乱す渦でしかなかった。

ただ、理には適っている。
冷静に考えれば確かに理には適っている提案とはいえよう。
なにせ、喧噪下にいた三人のうち、対峙の真っただ中にいる島田と佐衛門では、どれほど言葉を重ねたところで歩み寄りは期待できない。
そうなれば、必然的に残る選択肢は一つ。佐衛門の味方と認識されているサヤの判断こそが、唯一この場を収める鍵となる。

確かに、論理としては美しい。納得はいく『裁判員制度』。
無駄のない理ではあった。

807『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:59:49 ID:TQm/ytFw0
──もっとも、サヤの立場からしたらそんな『理』など理不尽極まりないものであるのだが。


「…え、え…え………………、」

「俺としてもこんな不毛な応酬に時間を割く余裕はない。できれば、速やかに判断を下してほしいものだ」

「え?! …いや……ちょっと…………まってよ…」

「悪いな、俺的にはもう十分なくらいに待ったつもりだ」

「はぁっ?!!」


焦るサヤに、迫る白銀。
この理不尽を突きつけてきた諸悪の根源は、なおも忌憚なくサヤに言葉を続けてくる。




「選択肢は二つに一つ。シンプルだろう?──」


「──『殺すか』、それとも『生かすか』──」


「──さあ、判定の時だ。サヤ」




「…い、いや……、ちょ、ちょっと……。なんなわけ…──…、」

「──…あっ……」


そして気がつけば、佐衛門と島田の視線は、ただ一人──サヤへと静かに集束していた。
まるで世界の焦点が定められたかのように、二対の眼差しが彼女を射抜く。



「……サヤさん………っ」

「………ィッ……」


「ぃ、ぁ………あの………………」



その緊迫を帯びた鋭い眼差しは、睨みつけるというよりも、捕らえて離さぬ鎖のようだった。
細身のサヤの全身を、冷たい光が絡みつき、ゆっくりと締めあげていく。
逃げたい──本能がそう叫ぶのに、足は一歩も動かず。
投げ出したい──心がそう嘆くのに、この沈黙の圧は容赦なく肩にのしかかる。
ただ、空気だけが異様に重く、時間だけが冷たく流れていた。


気が付けば、この場の空気は白銀御行一人に完全に支配されていた。



「え、え……。え。…え………」


「さあ早く」


「…ちょ、じ、焦らすなよっ?!!」

「断る。──」




「──さあ、早く……っ」



「…えっ………え、」



一秒ごとに重くなっていく、全身を押し潰さんばかりの圧。
視線、視線、視線──突き刺すような眼差しが脳髄を灼き、目眩が走る。
良く効いた空調など意味をなさず、汗は皮膚を濡らし続けていた。

わずか十六歳。
喫茶店の店主でしかない、ただの少女に、
そんな重圧に耐えきれるはずもなく。



「あ…………アタシは…………………………────」



彼女は唇を震わしながら、やっと。【ジャッジメント】を下した──。

808『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:00:02 ID:MBpdp8rs0


………
……


──Spotifyから流れるは、『逆転裁判3』BGMより。

『〜珈琲は闇色の薫り』
ttps://youtu.be/5uabvR-jCpE?si=I7AnnajviE8agHXJ


……
………



809『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:00:18 ID:MBpdp8rs0




 ──【残り00:01:08.110】──



「…蛇めっ………!!──」


「──選べるわけ無いだろう……、サヤさんが…『殺す』という…選択肢を………っ!!」

「…ま、つまりそこまで計算づくやったちゅうわけやろ。恐ろしいやっちゃで…。なぁ三四郎」

「…くっ…………。………」



 サックスジャズが響く、カウカウファイナンス三階──事務所内。
Spotifyから流れる落ち着きの音色に寄り添うように、珈琲の香ばしさが空間を満たしていく。

『サヤ自家製・特製コーヒー』──四人分。

互いの間にあった疑心暗鬼が解けた──とは、まだ到底言い難い。
それでも、わずかながら緊張は緩和され、──そして白銀にとっては、ようやく念願のカフェインにありつけた次第である。
一応のところ、事態は丸く収まりつつあった。


「ほいよ、ブラックコーヒー」

「……すまないな遠藤。──」


 ──ゴクっ


「──……ほう。これは中々…。酸味と苦味のバランスが秀逸。…美味いな」

「あーへへー…。あーごめん、なんかもう色々疲れすぎて褒められても嬉しく感じないや、ぶっちゃけ……」

「まさに『コピ・ルアク』のようなコーヒー。ここにありだよ」

「…あ? …は? …いやそれ…褒めてんのっ?! …遠回しに『糞』みたいなコーヒーつってない?!」

「……物は言いようさ」

「そこは否定しろよおいっ!!!」


 マグカップから広がる苦い湯気。
一番窓際のデスクにて朝日を浴びながら、パソコンを動かし珈琲を飲む。まるでモーニングタイムの理想郷。
当然ながら本家本元の高級品『コピ・ルアク』とは程遠いコーヒーではあるが、ほろ苦い薫りにつられて、白銀はふと回想をする。


二年の時、

あれは夏休み以前のことか、生徒会室にて。

藤原書記が『コピ・ルアクのです〜』と口走ったせいで、ついつい猫の排泄シーンを想像しながらとなった、珈琲タイム。
無論、生産工程はどうあれさすがは一等品といえる、珈琲の奥深い味、薫りであったが。

その味わいを、三人で。


──隣にいた“彼女”と、同じ味わいを分かち合いながら──カップを口に運ぶ、あの笑顔を──……、



「…………………ふっ…」


──いや、今は、よそうか。──と。
ここまでを区切りとして、白銀は意識を現在に引き戻す。
カップをデスクに置き、タイピングの再開を始めていった。



「………」 「………」



無論、白銀がパソコンを用いて為すことはただ一つ。
──『ウルトラアトミック作戦』準備の続きである。

810『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:00:33 ID:MBpdp8rs0
 ──【残り00:00:58.424】──


当作戦については、自己紹介の時間にすでに佐衛門ら二人へと説明済み。
ゆえに佐衛門は、白銀のパソコンを、まるで目の前に悪魔でも映し出されているかのような眼差しで、睨み続けていた。


「……白銀君…だったよなっ………? ………僕は是非ともキミに勧めたい場所があるよ…………」

「…………勧めたい場所、ですか。…当てても構いませんよね。──…『病院』と仰りたいのでは?」

「…流石だね………っ。──」


「──何が『ウルトラアトミック作戦』だっ…!? こんなの…ふざけている………。何もかもが内容が…滅茶苦茶だっ……!!!」

「…………三四郎……ゆうてそんなん……」

「なんだ島田さんっ……!? これ以外に策がないと…そう言いたいのか…………!?!」

「……………俺やて……。そんなん俺やって…──…、」


「インポッシブルだっ……!! 完全に狂っている……馬鹿すぎる計画だよ……っ!!!」

「ああ勿論自覚しています。バカの発想? その通り。正気の沙汰じゃない作戦なのは確かです。…ただ、俺は『バカと天才は紙一重』という言葉が嫌いじゃなくてね」



 ──【残り00:00:33.443】──


「…天才と言いたいのか……? 自分をっ………」

「…いえ。──」

「──ただ、バカと天才の違いについて分かりますか? …俺の持論を以て然るに、バカは思うだけで終わりますが、天才は行動に移す。…佐衛門さんもそう思いませんかね」


 ──【残り00:00:20.333】──


「………狂人の持論はあてにならないよ………っ」

「──ええ、アンタがそう思うなら自由にしてください。…まぁどう思おうにせよ、病院に行くべきは貴方ですよ佐衛門さん。──」

「──痛まないんですか? その右目」


「え、ちょっと白銀!! …それNGワードなんだけど…」 「…ぐっ………………。──」


 ──【残り00:00:08.133】──


「──…僕は、…間違った発言はしていないつもりだからな……………っ」


 ──【残り00:00:2.214】──


「…そうですか。なら俺とは対照的ですね。自分で言うのもナンですが、俺はこの作戦何もかもが過ちで、完全に間違いきってると思いますよ。──」





 ──【残り00:00:00.333】──




「──……なにせ、全ては一人の『女子』の為だけにあるんですから──────────」





 ──【残り00:00:00.001】──



 ────【Time up】────







 ボンッ──。

  ドッガガガガガガッガァァアオバァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ────



「わっ!!??」 「がっ……!?」


「な、なんやっ!??」

811『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:00:54 ID:MBpdp8rs0

 唐突な爆発音が、事務所の空気を裂いた。
建物が軋みを上げ、大きく揺れる。

思わず窓際へ駆け寄った島田と佐衛門の目に映ったのは、遠くのチェーン店が炎に包まれる光景。
──平穏を絵に描いたような国、日本。──その中でも最も華やぎと平和に満ちた街、渋谷。
その筈だというのに────爆風は届かずとも、炎の残響は胸中を焦がしていく。

恐らく対岸の火事。自分らを対象とした爆破攻撃でないのだろうが、サヤと佐衛門の眉間には汗が滲み、島田は歯を食いしばったまま視線を逸らさない。


「…んやねんッ………。おい………」

「え、え、どうすんのこれ…!? とりあえず……避難──…、」


その『バトル・ロワイヤル』の一破片が飛び交った瞬間。


「──あっ……!」


パッと。
一つ、また一つ。
照明が、パソコンのディスプレイが、何もかも。『電気』の灯りが消え失せて行く。

ふと窓の外に目を移せば、街の灯りまでもが、ポツリ、ポツリと断たれていくのが見えた。──爆発の余波による電気接触の不良。大規模停電であろう。
誰かの指でスイッチを切られるように、街の灯《ライムライト》が、続々と退場していく。

早朝とはいえ、まだ薄暗さ残る渋谷区/外苑西通りは気づけば明かり一つない状態。
文明開化以前の街並みが如く、暗闇に包まれた。この一瞬であった。



──この一瞬。


──この一瞬にて、最後の幕を下ろすが如く、また一つの明かりが消えて行く。



────『パソコン』が壊れたことが起因となり、



「………サ、サヤ。とりあえず落ち着けって……──…、」



「──って、あッ!!!」 「あっ!!」







「……………………つくづく、爆破尽くめだな。…今日の俺は」




────白銀御行の視界は、ゆっくりと暗転していった。────。



 バタリッ─────



「み…御行ィッ!!!!」



………
……


812『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:01:07 ID:MBpdp8rs0



 ピ…

 ──【残り00:00:03.000】──

アメリカ・マディソン郡の橋にて。


 ピ…

 ──【残り00:00:02.000】──


渋滞中であったことが不幸か幸か。
車内にて、赤いカウントダウンが人知れず泣きはらし。



 ピ…

 ──【残り00:00:01.000】──



 ピィーー……

 ──【残り00:00:00.000】──






 ────【Time up】────



──プルトニウム爆弾を積んでいたトラックが閃光と共に大爆破。

──その衝撃波により、周囲の車両は次々と吹き飛ばされ、近郊にあったトルーマン元大統領の墓すら無残に蹴散らかされる。



──前方車両に乗る、現地を視察していたアフガニスタン最高指導者は、光に包まれその生涯に終止符を打った。





────『ウルトラロマンティック作戦』は経過に連れ、後にこう改題されることとなる。



……
………

☩ EPISODE ##.𝟎𝟔𝟔 ☩

────『【Plan 𝓐】 - from 𝓐fghanistan』

☩────────☩




………
……


813『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:01:24 ID:MBpdp8rs0
【1日目/D6/東京ミッ●タウン周辺街/AM.05:00】
【白銀御行@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】疲労(大)、昏倒
【装備】アーミーナイフ@映画版かぐや様
【道具】猫耳@かぐや様
【思考】基本:【対主催】
1:四宮かぐや…。
2:ゲーム崩壊のプラン『ウルトラロマンティック作戦』を指揮。ゲームを崩壊させる。
3:島田、サヤ、佐衛門はとりあえずで引き入れている。

【島田虎信@善悪の屑】
【状態】頭部出血(軽)
【装備】なし
【道具】猫耳@かぐや様
【思考】基本:【対主催】
1:白銀の『策』を信じ、従う。
2:姫(四宮)……。ほんますまんッ……。
3:中年親父(黒崎)に復讐したい。…が、今は後回し。
4:三四郎、サヤと行動。ただ三四郎には嫌な感情しかない。

【佐衛門三郎二朗@中間管理録トネガワ】
【状態】右眼球切創、背中打撲(軽)
【装備】ヘルペスの改造銃@善悪の屑(外道の歌)
【道具】医療用●麻x5
【思考】基本:【静観】
1:サヤさんを守る。
2:白銀、島田は注視しつつも同行。
3:会長に激しい憎悪。
4:『ウルトラロマンティック作戦』に激しい嫌悪感。

【遠藤サヤ@だがしかし】
【状態】疲労(大)
【装備】あやみのヨーヨー@古見さん
【道具】フエラムネ10個入x50
【思考】基本:【静観】
1:佐衛門さん、白銀、島田さんと行動、そして互いに助け合う。
2:ジジイ(兵藤)を絶対許さない…っ。
3:ほたるちゃんを探したい。
4:とりあえずその作戦…ヤバくね……?

814『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:04:53 ID:MBpdp8rs0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①今回の話、意味不明だと思った方。正しいです。
②あえて説明不足で書いたので理解できなくて当然なのです。
③そして、融点とかアフガンについての描写がメチャクチャと思った方。正しいです。
④私は科学とか国勢に興味がないので適当に書きました。これもまた支離滅裂で当然なのです。

【次回。7月22日投下。】
──遠い、
──空をあの日。
──眺めていた。

『男の闘い』…西片、ガイル、サチ

815『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:19:57 ID:nieNARdc0
[登場人物]  西片、ガイル、美馬サチ

816『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:20:39 ID:nieNARdc0
「あはは〜、また私の勝ち。西片はほんと分かりやすいね〜」

「ぐ、ぐぬぬ〜……っ………………」


 …また、負けた……。

 入念に準備して…、恥もプライドも無くイカサマまで仕込んで…、泥水すする覚悟で勝つつもりだったのに………。
高木さんにまたゲームで敗れてしまった……。
……しかも負けた上にからかわれるというダブルパンチ………。なんて屈辱だ……っ!!
よくマンガで「負けたけど、清々しい気分だぜっ!」って、ライバルキャラが負けを認めて笑うシーンあるけど……。
…見習いたい……。…っていうより、オレも欲しいよ〜その心の余裕が〜〜!!!


「じゃ、そういうわけだからね。罰ゲームの覚悟、オーケー?」

「…え。え゙っ?! ほ、本当にやる気なの?! 高木さんっ?!!」

「ん? もしかしてそんなに怖かったの? デコピン」

「…いっ…!! …い、いや………。あ、あんまりに子供っぽい罰ゲームだからさぁ〜。『え? その程度でいいの?!』って思っちゃったんだよね〜オレ〜〜………」

「お〜流石は西片。じゃさっそくいくよ!」

「え?!! いやちょ、ちょっと!! タイムタイム!!!」


くそぉ……。
……高木さんめぇええええ……。
…いつの日か……きっと……。
──いや、オレは、いったいいつになったら……。


「タイムもなし、二言も認めません。『男に二言はねぇぜ…』って、西片の好きな西部映画でも言ってたでしょ?」

「なっ!!? なんで知ってるのそのセリフ?! 見たのっ!?」

「うん。クリント・イーストウッド、渋かったなぁ〜。昔の映画だけど面白かったよ」

「い、いやどうして興味惹かれたのっ?!」

「んーー。西片をからかう為ならなんでも履修の私だからかな〜」

「結局それに行き着いちゃうのかよ〜っ?!!」


……はぁ……。
オレは……。

オレはァ〜〜〜〜〜……………。


「じゃ、いくよ」

「…た、高木さーん…………」

「えいっ!──」


……高木さんにからかい、勝つことができるんだろう………。はあ〜あ〜ぁ……………。



「──…と、見せかけて脇腹にパンチ!! おりゃっ!」







 ────ズッッッバアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァンンンンッッッッッッ!!!!!!!

 ──バキバキバキバキバキバキゴキゴキゴキゴキッッッッッ──ミシミシミシミシギギギチギチギチィィィィィィイイイイイッッッッ




「ぐッがばぁああああああああぁぁぁぁッッッ!!!!!!!!!!???」



 …ご…ぁあ…ァァ……ッ………。

い、痛い゙っぃ………………ッ!!

脇腹を抉るように…めり込んでくる拳………ッ…。
腹肉とあばら骨が、ぐちゃぐちゃのミンチになって、…全身に震える波動が………走る……ッ。
い、息が……できない……ッ………!!
痛みのあまり……呼吸の仕方を思い出せ…ないぃ…ッ……………。

817『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:20:53 ID:nieNARdc0
「ゲホッ、ゴホッ……、た、タイム──…、」

「どうした、もう終わりか? 西片ッ」

「…あ、……うわぁッ!!!?!」



 ────ブンッッ


…わっ…!!
……そして間髪入れず飛んでくる……蹴り………ッ………!!!



…そうだ……。
そうだった………。

頭の上を星とヒヨコがグ〜ルグル………。──そんな混乱状態で忘れていたけど……、

オレ…………、今………。



「フンッ!!!」

「ぁっ──────!!!」



──…『ガイルさん』と……、ガチンコ死闘《Street Fight》をさせられてるんだった…………────。







episode 70
『男の闘い』
〜🅸🅽🆂🅴🆁🆃 ​ 🅲🅾🅸🅽〜





………
……


818『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:21:10 ID:nieNARdc0



い…いや………。

いや。いや……。



…ど、どうして………?



「はぁっ、はぁっ……っ。ひへぇ……、はぁ…っ…はぁ……っ。──」

「──ガ、ガイルさん……っ。ちょ、ちょっとだけ……話を──」



──ROUND【5】────


「──いっ?! も、もう始まるのっ?!!」

「…ッ!!!──」


────FIGHT!!


「──ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──【ソニックブーム】(←ため→+P)
──[腕を交差させて放つ、真空の刃──音を置き去りにするような超速飛び道具。]


「う、うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!──」



なんで………?

どうして…?



「──はぁ…はぁ……。ひぃいいいいいいっっっ!!!」

「逃げるな西片ッ!! ファネッフー!! …──フンッッ!!!」

「うわっ!!!?」


──BUUUNッ!! BANッ!!
──【しゃがみ蹴り】(↓+K)
──[太い脚から繰り出される強烈なローキック。ガイルの圧倒的な体格から生まれる長いリーチが特徴]


「うわぁああああぁぁぁああああああああああ!!!!!」


も、もう……っ。
わけが……、わからない……っ……。


「何度でも言うぞッ…!! …避けるなッ! そして逃げるなッ!! …逃げるな卑怯者ォッッ!!!」


──BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!!
──【ソニックブーム】


「ひ、ひぃいぃぃいいいいいッッ!!! うわあああああああッッッ!!!!」

「…クッ。…西片よ……勝負においてだ」

「え?!」

「逃げて、何が得られる……ッ!? 攻撃を受けずして、何を学ぶというのだ……ッ!! …仮にこれが俺が狼で、貴様が野ウサギだったなら。…逃げることも戦術と呼べたであろう……」

「ひぃ、ひっ……! はぁ、はぁ……」

「だが、俺は貴様を、そんな純粋無垢な小動物だとは思っていないッ!! これは……貴様と俺……餓狼同士の対等な闘いだッ!!!」

「ひい?! ぃいぃいいいいいいいいいわぁああああああああ!!!!!」


「ゆえに、無抵抗を装った逃げなど、断じて許さぬッ!!!! ──フゥンッッ!!!」

819『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:21:26 ID:nieNARdc0
「えっ!!? ぁぁあ!!…──」


──…GASHIッ!!
──投げ技【ジュードースルー】…(→+中P)
[背負い投げに近い技。“柔よく剛を制す”の一手。]
[威力は高くないが、間合いを整えるにはうってつけだ。]



──BANNNッッッ………






はぁ、はぁ……っ。
……はぁ…………。


──……ど、どうして…………………?


オレとガイルさんは……。

────闘わなきゃならないんだっ…………………?!



しょ、初対面だったとはいえ………。
さっきまで、なんとなく仲良さげな…空気だったのに…………。
肩がぶつかったとか、誤解とか、そういう喧嘩のきっかけもなかった……。
ほんとに、なにも……なかったはずなんだ……。

つまり……
オレたちの間には、恨みも怒りも──0。

ついさっきまではそうだった…。
…少なくとも、オレがお腹壊して…トイレ行くまでは…そうだったはずだ…………。

それまでは優しくて、そして頼もしかった…ガイルさん…。
正直オレはバトル・ロワイアルが怖かったし…心もちょっぴり屈していたけども……、
美馬先輩と、…そしてガイルさんとなら……。希望の道を開けるんじゃないか…って……。

……そう思っていたのに………………。


「──ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──BUUUNッ!! BUUUNッ!!
──【ソニックブーム】


「う、うわぁっ!!!!」




────…トイレに行くとき……どんな逆鱗が踏まさったというんだ……っ????



「はぁはぁ……………」


「………………ッ……」





 ……まずい……。

いや本当にまずすぎるっ………!!


『残りカウント』は…たぶん五十秒くらい……。
…長いようで短いとはこのことだっ……!!体は今すぐ終わってほしいと悲鳴をあげてるけど、頭のほうは、もうちょっとだけ考える時間がほしいと訴えている……。

とにかくまずいから……──次の『インターバルタイム』までに…ガイルさんの説得方法を考えつかないと………!!

はぁはぁ………。
考えろ、オレ……!
…なにを考えるって、そりゃもちろん、……何故『今闘わされているのか』について………!
キッカケとなった、トイレ中の『空白の五分間』に何があったかについて考えるんだ………!!

820『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:21:41 ID:nieNARdc0
「サマーソルトキッィィクッッ!!!!」

──BUNNNッッッ………

「うわ!? あ、あぶな〜!!!」

「……クッ!! 逃げ足だけは野ウサギ並みか……。まったく、男の風上にも置けんッ…!!」



 ……もちろん、逃げながら……──考えるんだ、オレぇぇっ!!!

 …たったの五分程度……。
トイレから戻った瞬間、鬼みたいな形相で待ち構えていて、気付いた時にはヘッドロックされて…バトルを挑まれるという………。
兄貴分のような存在だったガイルさんが…なんで豹変したのか………オレにはさっぱり分からないよっ!!?

……いや待てよ…?!
も、もしや……。オレの…その……『トイレの音』があまりにも爆音で、不愉快だったから……とか…。そういう理由…なのかっ………?
……そんな、理由で……?
ここまでの殺意MAXに…っ!?


「ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!!
──【ソニックブーム】


「わ、わぁああああああああああああああっっ!!!!!」



 ──って、違う!! そんなくだらない理由なわけがあるかっ!!!
お、オレだって、美馬先輩の前だからめちゃくちゃ気を使って用は済ませたし……。
ていうか音が漏れるはずなんてないしっ……!! そんな理由は絶対にあり得ない…。
……いやいや、そもそも理由がどうこうじゃなくてっ……!! そうだ、仮に音がちょっとでも聞こえてたとしても……!!

──あんなにナイスガイだったガイルさんが…そんなちっちゃいことでキレるわけがないだろっ……。

…そりゃたしかに、ガイルさんとはこの場が初対面……。
この人について、分からないことや得体の知れない部分なんてまだまだ山程あるさ………。

なんで、アメリカ人なのに日本語そんなに上手いの?!──とか。
あの筋肉と格闘術、どういう人生送ったらそうなるんだ!?──とか。


「──ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──BUUUNッ!! BUUUNッ!!
──【ソニックブーム】


……その『ふぉねっふー』ってのはなに?!! ──
手からグルグルと火みたいなの出てるけど、アレなに!? 武器!? 魔法!!?──
無限に繰り出してきてるけどなんの武器を使ってるの?! ガイルさん、あなたは本当に人間なんですか!?? ──とか……。

…あぁ、そうだ……。
信じられない技といったらこの……、


「…クソッ……。──このッッ!!!」

──GUIッッ

「え。──お、おわっ!??」


「──フンッッッ!!!!」

──BAANッッッ!!!!
──【真空投げ】…←タメ→+強K→中K0同時押し。
[『無』を掴んで投げると、掴まれてもない相手がなぜか吹っ飛ぶ。]
[距離なんか関係なし。……もはや、バグとしか言いようがない『ガイル専用チート技』]


 ──バンッッ

「ぐっはぁああっ……!!!!!」


…どれだけ離れていようが、触れられてもないのに宙へ投げ飛ばされていく……、
「合気道か?!」とか「超能力か!?」って突っ込みたくなるくらいの、意味不明な投げ技も……──。

──質問したくてしたくて仕方ない……。
とにかくただ者じゃないことは確かな格闘家、それがガイルさんだ……。


 …だけど……、
それでも、…ガイルさんだってオレや美馬先輩のことは詳しく分かっていない……そんな中でもっ………!!!

821『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:21:56 ID:nieNARdc0
オレたちはさっきまでのコメダで……和気あいあいと食事を楽しんで…………、
お互いの確かな『心』を分かりあえたはず………!! オレとガイルさんは信頼関係にあったはずっ…………!!
ガイルさんが…この地獄みたいなゲームに巻き込まれた中でも、誰よりも立派で、優しい『男』だってことを──少なくとも、オレは分かってたはずなんだっ………!!!

それだというのに……。
一体、なにが…。
なにがきっかけで…こんな……ことに…………。

オレはガイルさんと闘いたくないのにっ………!!


「──フンッッッ!!!!」

──BAANッッッ!!!!
──【真空投げ】


「ぐえっ!!! …ま、……また…………?」


…まぁ闘うって言っても、実際はただの一方的なボコボコタイムだけどさ…………。
う、ぐぅぅ……! あたま、痛い……っ!!


「……はぁっ、はぁっ、……っはぁ……」



……あれ?
……いや、待てよ……!?
投げられて、頭をゴンッてぶつけたその瞬間──ふと、ひとつの疑念が……脳裏によぎった……。


──“…だけど……。”
──“ガイルさんだってオレや美馬先輩のことは詳しく分かっていない……。”


──“オレや『美馬先輩』のことは……”


「──っ……!!」


 ……あの時、店内にいたのはオレを含めて三人…。
ガイルさんと、美馬先輩とで三人だった………。

もちろん、これからする考察には……なんの証拠もない。言ってしまえば、ただの憶測。……いや、悪意ある邪推とすら言えるよ……。
──だけども、……可能性はそこに賭けても良いくらいだ……………。

…オレもバカじゃない。
前々からずっと、『彼女』はオレに、なーんだかイヤな視線を注いでいたことは…気付いていたけど………──もしかして。


「…『また』、か。真空投げが気に食わんと言うなら仕方ない。俺の肉体で味合わすのみだッ!!! ──フンッ!!!!」

──BANッ!!
──【しゃがみ蹴り】


「わ、わわわ、わっ!!!?」



これは…これは──全部……美馬先輩の仕組んだこと…………!?
オレを亡き者にする為、…彼女が…ガイルさんにウソを吹き込んだんじゃないのかっ…………?


…………………………。


……い、いやいやっ!? なに考えてんだオレっ!?
それって、あんまりにも……最低な妄想じゃないか……っ!! 美馬先輩からしたら「は?」ってレベルの冤罪だぞっ!?
初めて出会った時、美馬先輩は言ってくれたんだろ!
オレに、「私を助けて。信頼して」……って……!!
……くっ、それだというのに……。せっかく出会えた信頼する先輩へ……なんて酷いことを考えていたんだ…オレは。
…疲れているのか?! オレは……っ!!


「ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──BUUUNッ!! BUUUNッ!!
──【ソニックブーム】


「うわ!! ──ひぃっ!! ──ぐっああっ!? いっ……たあぁ……っ!!」

822『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:22:12 ID:nieNARdc0
 ──…いや、そりゃ、疲れてるよな。……オレ………。

 雨のように絶え間なく降ってくる攻撃に、避けようのない未知の技《真空投げ》……。
ここまで長時間避け続けてきたけど…あいにくオレは全てをかわすほどの超人なんかじゃない……。それができるんなら高木さんにここまでからかわれてないよ…………っ。
顔も体も……もう何発喰らったか分かんないくらい、ボコボコ……。
打撲って言葉の辞書が身体中に刻まれてるレベルだ……。
身体は歩くだけで軋むように痛むし、顔の違和感なんかスゴイ…。多分、目とかお手本のように腫れ上がっていると思う……。

おまけに今は真夏……。よりにもよって全く空調がない炎天下、外での闘い……。
ミンミンゼミの声援なんか励みにならない……どころか、イライラブーストにしかならなくっ……!

オレは…もう膝をつくほど………、
限界だった………………。



『──K.O.』

「あ…」 「くッ…!!──」



『────Time Over』

「──ここまで…かッ」



……これで、五回目のKO。
毎回聞こえてくる、どこかからの野太い声が……まるでゲームのアナウンスみたいに、休憩時間を告げてくる……。
…ガイルさんは戦闘態勢を立てた時、必ず、『Round 1,──FIGHT』との声が遠くから響いて、…そして九十九秒が経ったと同時に、この『K.O.(以下略)』が響くんだ……。
…インターバルタイムは、およそ二分ほど……。
そのあいだ、ガイルさんはほとんど動かない……。
唯一することといえば、乱れた髪をクシで整えるぐらいで……まるで銅像みたいに直立不動だ……。


「はぁはぁ…はぁはぁっ………! はぁ、はぁ……」

「………ぐうッ…」


あの声の主は誰で……どこにいるのか……。
そもそも、なんでガイルさんはその声に従ってるのか………。
…オレには全くさっぱりだけども……。(そのサッパリさをこの重苦しい身体中に分け与えてほしいくらいだっ……!!)

ともかく、オレはこの時を…。
インターバルタイム──休憩時間だけをずっと待って……。とにかく逃げ続けてきた………!!
戦闘中は全く聞く耳を持ってくれないガイルさんも、この時間だけは拳を止めてくれる…。
会話ができる…チャンスの時間なんだ……っ!

一回目は「あの……」で終わって、
二回目は「ガイルさ……」って途切れて、
三回目は「が、ガイ……」止まりで、
四回目なんて「……しつ、質問……」が精一杯。
疲れと痛みがひどすぎたせいで、まったく有効活用できなかったインターバルタイムだけども……っ。


分からないことは山積みな今………。オレは言葉の続きを………!!
オレは…ッ、疲弊する体にムチを打ってでも……──ガイルさんと話し合わなきゃならないんだッ────。


「……はぁ、はぁ…………。ぐッ、…美馬先輩…ですよね……ガイルさんっ………」

「………なんだ、西片」


これから話すことは……
自分でもヒドいって分かってる。……最低の勘違いかもしれない。
でも……もうそれしか、思いつかないんだ……。
今は……とにかく、ぶつけるしかない……っ!!


「も、もしかして……っ……。はぁ、はぁっ……ゴホッ! ゴホッ……っ。──」
「──……『西片を殺せ』って……そう……言われたんじゃ、ないですか……ガイル、さん……っ」

「…聞こえていたか」

「……っ!! …く、くそっ………………。はぁっ……はぁ……っ……──」


『聞こえていたか』って……それ、本当だったのか……!?
美馬先輩が……っ……!!
そんなっ……!? くそっ……ぐうぅっ……!!!


「──美馬先輩に……なに…言われたか…分かりません…けど……………、オレを…信じてくださいっ!!!! …あの人の話は、全てウソなんです…!!!」

「…なに」

「そ、そりゃ…あの人が何企んでるかとか…嘘ついてる証拠とか……オレ…頭悪いんで分からないし…説明できませんよ………っ。──」

823『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:22:28 ID:nieNARdc0
「──で、でもッ…ここまで、5Rも闘ってきて…分からないですかッ!?! オレが……そんなに殺されるほどの人間じゃないって……!! 誰かに恨まれるような奴じゃないってことを……ッ!!──」

「──…ってそんなの自分で言うのも、色んな意味でナンセンスですが……。…でも…と、とにかくッ!!!──」


「──オレを……信じてくださいッ!!! 本当に……お願いしますっ……!!」

「……」


「ガイルさんッ………!!!!」



…息があがって、肺が潰れそうになってるのを思い出したのは言い終えたこのときだった……。
『過労死』って死因、授業でつい最近習ったけど……。次の6R目の頃には……多分オレはそれで死ぬ感じだと思う……っ。

インターバルは、たった二分しかない……。
もうあと残り何分残ってるかなんて分からないけど…………それでも、今だけは……!!
ガイルさんが拳を止めてくれてる、この一瞬に……。
オレはこの今に人生の全てを賭けたんだッ………!!


「……………。──」


…何を考えてるか分からない表情で対面し続けるガイルさん…………。

お願いだ……!
聞いてくれ……! 分かってくれ……!! 頼むからッ……!!!

オレの心が通じてくれ………ッ!!!


オレの声が……この心が……届いてくれ……ッ……!!!
オレは……オレは、あなたのことを……。
──強くて、カッコよくて……どこまでも真っすぐな、あなたのことを……。


「──…………。──」



もっと知りたいんだッ…………──────!!





「──…恥を知らんのなら…教えてやるッ!!!」




「…え………」



「…あれだけ彼女を苦しめ、辱め……ッ。それでいていざ自分がピンチとなれば…サチに全部の罪をなすりつけるとは………」


「えっ…」



「…なにが『ここまで5Rも闘ってきて分からないですか』…だ? 俺はもう十分分かったつもりだ。散々逃げ回り、休憩時間を悪用して御託を並べる……。──」


「──そんなお前の本性がッ……!!──」



…え。



「──恥を知れッ!!! 残り十五秒…このラウンドで終わらせるッ、西片ッッ!!!!!」



 …………………ッ…。

…失敗…………?

う、嘘だろ………!?

824『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:22:54 ID:nieNARdc0
…オレの心からの思いが……全く伝わっていない……!
それどころか、余計火に油を注いだ結果……。
レギュラーもハイオクも軽も全て注ぎ入れたような………ガイルさんの……──鋭い殺意しか生まれていないっ………!?

こ、これって………『闘いにおいては話しても無駄』…という教訓の現れなのか………?!
いや……他の人だったら……説得できてたのか?
オレが口下手だから……ダメだっただけなのか……!?

残り休憩時間は九秒…、八秒…、七秒…………。
一秒ごとが異常なくらいに速すぎるっ…………!!
この短い時間で…オ、オレは………。
オレは一体どうすればいいんだ…っ!!?

か、考えろっ……。考えるんだ!! オレの脳みそ、さぼるんじゃない!! 働けぇぇぇっっ!!

そ、そうだ…!!
高木さんなら……。
あの人なら…同じシチュエーションの場合、どうしたかを考えてみよう!!
…いつもオレより一回りも先を行く……彼女なら、この緊迫した状況でどうしたか……………っ。

え、えーと……!! くそ、思い出せ……!
今までの高木さんとのやり取りを……全部……思い出すんだ……!!


高木さんなら、………高木さんならきっと………ッ。



きっと……………………ッ。


 ──五秒、四秒……、


「覚悟をするんだな、外道ッ………」

「いっ!!!」



 ………………………………ダメだ…っ。

なにも……、
…全くなにも思いつかない………………。

…くっ。
……ふふ……あはは……。
考えてみれば……当然か……。



彼女の思いを読み取れるなら……、

オレはここまで負け続けていないのだから、さ……………────。



……残り三秒が経過したとき────。


「…………」


────……すべてを諦めたオレは、不意に思い出した。
…そういえば、学ランの懐に『支給武器』──拳銃があったっけ、って。



……残り二秒が経過したとき────。


「…………高木……さん…」

「むっ…。──」


────気づいたら、もう手は懐に伸びてた。
弾は……入れてある。……撃てるかどうかは分からないけど、西部劇を何本も観てきたオレの勘がなぜかこう言ってた。
「──いける」って一言のみ。


「──なッ!!?! き、貴様ッ──…、」


「………」



……そして、残り一秒が経過しよう、そのとき────。


────もう、何もかもがどうでもよくなって。
………オレは、銃をガイルさんへ向けた。


「……………。オレだって……ッ」

「っ……に、西片……ッ……」

825『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:23:11 ID:nieNARdc0
……さっき、『高木さんならどうしたんだろう』とか頭一杯に考えていたけど……、…オレはそのことを後悔したよ………。

オレだって、…ガイルさんからした美馬先輩のように…守りたい人がいるんだよッ。
オレだって…ただ殴られて蹴られて掴まれて…そして殺されるわけにはいかないんだッ。


「……………っぅ!!!」


………卑怯極まりないし、…本当は撃ちたくない相手だけど、…もう仕方ない……。



「…西片アァァッ──…、」




────この闘いに勝つには、これしかないんだッ…………!!!






 “…あははー。顔赤いよー。”



 “…じゃ、また明日ね。交換日記忘れないでね?”



 “じゃあね、────西片!”







「………高木さん……」




残り0秒が経過。
『ROUND 6』の声が響いた、その瞬間……オレは────。



 カラン──……カラ……カラカラ……

 ……コン……。



「……なッ。………に、西片…………?」


「…………」




────銃を……遠くへ。思いきり放り投げた。

826『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:23:26 ID:nieNARdc0
「…な、…。──」


「──なんの真似だッ……西片………」

「………当たり前だろっ…」

「なに…!?」


…顔ギリギリのところで、ピタリと止まるガイルさんの拳。
視界を覆うその拳の向こうでも分かる、…その面を食らった表情。


「これをやっちゃ…おしまいなんだよッ…」

「……西片、何が………」

「オレはこのバトル……殺し『抜き』の、ぶつかり合いでやりたいって言いたいんだッ!!!!」

「…っ!!!」



…一瞬ではあったけども、その驚きの表情のガイルさん。
──さっきまで見せていた怒り一色の顔とは対象的な、…憤怒のない顔に。
オレはガイルさんの顔に憧れ、仲間意識を持っていた。

…穏やかな顔つきのガイルさんが『好き』でいたんだ。


「大人はみんな『争いは話し合いで』とか言うけどさ……そんなのは違うッ!!! 男なら…男なら己の力を見せ合い、ぶつかり合いッ、そして互いを鼓舞してこそ、初めて分かり合えるんだッ!!!──」

「──そうだろ!! そうだよなガイルさん!!!」

「…………」


「…だったら分からせるまでだ…!! オレの思いを、本当の気持ちを全て……、分かり切るまでバトル…闘ってやる…!!! 拳で、届けるんだッ!!!」



…そして、オレは…。
────もしかしたら、高木さんの…。彼女のこと『も』…、また…………。


……いや、これ以上は言わないでおくか。…小っ恥ずかしいし。



 まぁ、いいや……。
とにかくオレは、あの二つの笑顔を……オレが好きなその笑顔たちを……取り戻し………、


守るため……………っ!!!




「…西片、急に敬語をやめたな。その意思は何が理由だ?」



オレは遠く転がる銃を一目して、ガイルさんへを真っすぐ見据えた───。



「……これで、立場は『対等』だよな………ッ」


「……フっ。……面白い、ならば見せてもらおうじゃないか……。貴様の…『思い』やらを…ッ!!──」




「──確かみさせてみろッッッ!!!! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!!!!!!」


「ッ!!!!!!」

827『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:23:37 ID:nieNARdc0


──【FIGHT】────ッッ!!!!


828『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:23:54 ID:nieNARdc0
「──フンッ!!!!!!」

──POWッ!!!


 至近距離…ともあって想定はしていたけど、ガイルさんが我先に繰り出したのは『しゃがみ蹴り』…!!
分かっていても打てない変化球みたいに、スッと伸びてくるその脚をかわすことできずッ…、


「ぐうッ!!」


オレはもろに食らって滑るように後退りさせられた……ッ。
…ぐ…痛いッ…これ絶対、ヒビ入ってるやつ………ッ!!
正直痛みでもう叫びたいくらい…本気の一撃だっ……。

だが……痛みなんかに……。
そうさ…!! たかが痛みなんかに、オレの両足は屈してたまるものかッ!!!

地面をつかむようにして踏ん張って──必死で、立ち上がってみせた……ッ!!


「ぐううッッッ!!!」

「むっ!! …く、西片………。…行くぞッ!!──」


…ガイルさんの次なる攻撃ッ………。
『行くぞ』の声を込められた、その乱発攻撃も……オレは想像できた…!!


「ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!!


「…来たッッ!!!」


 巣箱を開けた途端のハトの群れみたいに……ッ、一斉に飛び出してくる『ふぁねっふーファイアー』……!!
かわせるものならかわしてみろ、と言いたいみたいに……上下左右から隙間なく飛んでくる回転軸は、脳内による避けルートの構成を阻止してくる……ッ!!
…考える暇もなかった…ッ。
一発、また一発ッ……!! 遠慮も容赦もゼロのファイアーが、顔に、胸に、腹に突っ込んできて…ッ!!
歯が飛んで、血がにじんで、唾液まで巻き散らかして…オレの体が、空中でバラけそうになる………ッ!


「…がアッ!!! ぐうッ!!! イッ!!!!」


欠けた歯の違和感が、神経を直接殴ってくる…ッ。
パンパンに腫れ上がった右目から溢れる、嫌な液体が染みて苦しかった…ッ。

だけど、考えろッ! 思い出せオレッ!!
──……このくらいの痛みッ……あのガイルさんの『拳』に比べりゃ、まだ軽い部類だッ!!!


…ギリギリ耐えられるとなればッ…!!!



「この…このッ!!!!」


 ────PANッ!!!!!



「な、なんだとッ!!?」


────オレは両腕をクロスさせて…、胴体や顔の前に重ねる…ッ。
ファイアーの直撃は上腕筋に任せ、胴体や顔への直撃を防ぐ…──いわば『ガード』ッッ!!!
…勿論、腕の悲鳴は甲高かったけど、…肉体全身へのダメージは防げるから、まだ戦闘への残り体力は温存できる………ッ!!

正直、型なんてなってないし、我流そのものだ。
けど、オレは今──“ガイルさんのガード”を……自分の中に、確かに覚えたッ!!
ファネッフーを受け止める技術を……今、手に入れたんだッ!!!


「……に、西片………。お前は……ッ!! ─栄泉ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!!


「はぁっ……はぁっ……!! っ、はああッ……はぁっ……!!」


 …喋りながらもにじり寄ってくるガイルさん……っ。
そして間髪入れず生成されるフォネッフー……ッ。
…余裕なんかオレにはない…ッ!!!

考えろ、このコンマ一瞬でも頭に導き出すんだッ…!! 思い出すんだ!!
次なるガイルさんの攻撃手段……、今までのラウンドで見てきた…彼の戦法を……!!!

この戦いは……そう、ボクシングと将棋を同時にやってるようなもの…ッ!!!
体も頭も、止まってたら即アウトなんだよッ!!!

829『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:24:10 ID:nieNARdc0
「…クッ…西片…ッ!!!」

「……っ!!」


…!!
そうだ、そうだ……!!

これまでの闘いの軌跡──それはつまり、高木さんとの勝負にて…、オレは負けるたびに彼女からこう言われてきた……ッ!


“西片はクセがバレバレなんだよ”


────オレの敗因はいつも『クセ』…ッ。
単純なオレはいつもそのクセに気づかず高木さんに看過され玉砕していく……。
…本当になかなか曲者だよ、高木さんはッ………。

…つまり、
……どんな一流プロ野球選手…どんな首位打者でも打席前は己の『ルーティン』を成すもの……ッ。

…オレは見切ったぞ。
ガイルさんの次の技は……ッ、



「……ハァァァァァッッ!!!!!!!!」



───(←タメ→+強K→中K0同時押し)



──来るッ……!! あの『真空投げ』だッ!!
触れずに投げる……武道の極致…ッ!!
わずか一瞬……でも、出す前には必ず前後に一歩だけ踏む────『クセ』が…ッ!!
ガイルさんにはあるッ……!


「フンッッ!! ──…、」


──それはお見通しだッッ!!!


「喰らええええええええええええッッッッッッ!!!!」

「──なッ……!?」


投げ飛ばされたらもう手も足も出ないッ。
ならオレは、投げる前に──『投げ返す』までだッ!!!!


「オラァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!」


飛来してきたファネッフーを右手、左手でギッチリ挟み込み…掴むッ!!!

……ズルリと滑る、熱をもった刃…。
指の皮が裂け、掌の肉がえぐれ、血と火花が散る……!!
──でもそんなの、もう関係ないッッッッ!!!!
────痛みを雄叫びで発散して、オレはガイルさんへぶん投げたッ!!!



「ぐぁッ!!!」

──BAGYAAAANッ!!!


「…あっ!!」



…あ、当たった……。
…初めて……ガイルさんにダメージを与えた…………!
顔がフラついている……。めまいに堪えるように、その巨体が……揺れている……ッ!!
あの絶対的な存在に……オレの攻撃が、通じたんだ……ッ!!!


「…いや、違うッ……!! これはあくまでガイルさんの技………。オレが生み出した攻撃なんかじゃない……!!! オレの拳で、心で、ぶつけたわけじゃないッッ!!!」

「ぐうッ…。──」


「──はッ!!!?」

830『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:24:25 ID:nieNARdc0
…ああ、そうだッ……!!
もう6ラウンドも闘って……まだ、オレは“この人”に一歩も近づけていないッ!!!
オレ自身の拳を──この両手でつかんだ想いを……ッ、
まだ、ガイルさんに届けられてないんだッ!!!

だったら……行けるのは、今しかないッ!!!

……その巨人が、わずかに揺らいだ……今しかないんだッ!!!!!


「今しかないだろォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!!」

「──来るかッッッ!!!」


 …来るか、と言われてもオレには必殺技とか持ち合わせていないさっ…!! ガイルさんと違って…!
修行もなけりゃ、格闘術もない…。喧嘩ひとつしたことない、あいにく普通の中学生だからなッ……!!

そんなオレにできるのは、たった一つ。


“シンプルな、まっすぐな拳”だけだッ!!!!


──太陽に誓うように、拳を高く掲げるッ!
空さえも砕く覚悟で、振り下ろすッ!!!
ガイルさんに飛び掛かり…渾身の拳を重力のまま──叩き込むッッッ!!!!


「……クゥッ…!!! ──『サマーソルトキック』ッ!!!!!」

「ぃぎッ!!!」


…対して、ガイルさんはバク宙したかと思えばあの特徴的な長い脚で、オレを蹴りかかってくる…!!
サマーソルトキック…。……多分、ここまできて初めて投じられた隠し必殺技なんだろうッ………!!
無駄の動き一つないその回転蹴りはオレの胴目掛けて襲いかかってくる……ッ!! 避ける間なんて当然の如くなかった………ッ。


…だけど礼を言うよ、ガイルさんッ…!!


『先読み』……ッ!!
オレが拳の打点に向けるのは、アンタ自身に対してじゃないッ……。


──アンタが何かしら繰り出してくる攻撃──『拳か脚』狙いでオレは拳を突き出したんだッ!!


 ──GAKIIIIIIIIIIIIIIIINッッッ!!!!!


「ぐうッ!??」 「うッ…!!」


…分かるだろうッ?
打点を打点で受け止めることは…相殺ッ……!!
すなわち『ガード』になるのさッ…!!!

…身体はもうガードによる痛みに慣れてきた……ッ!!
この痛みを受け止めきれるほどの余裕がオレにはあるッ……!!

…アンタもその通りなはずだガイルさんッ!!
オレと違って百戦錬磨と語っていただろう? だから今更この打撃のぶつかり合いはどうってことないはず…ッ。



──だが、…『サマーソルトキック』を防いだオレの攻撃が……、──どうやらガイルさんには『想定外』のアクションだったらしく…ッ。



「な…俺の………サマーソルトキックが…まさかッ………」



 彼にはハッキリと『隙』が出来ていたッ…──!!!


…勝てる……自信はなかった。
……何もかも、これまでどんな勝負事も負け続けたオレが、ガイルさんを相手に成す術もないと思っていた…。

だから…オレはこの一瞬…。
ガイルさんに想いを打ち付ける可能性のある…勝機を見えたこの瞬間が………、…正直楽しくはあったッ!!
希望の光を掴みかけた…掴みかけではあるけど……その瞬間に歓びを感じたんだッ!!


ならば、…もう決着さッ!!

オレの…──ッ。
オレだけの…──ッ。
オレによる────勝利ッ!! このバトルに勝ってみせるんだッ…!!!


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