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【第1回放送〜】平成漫画バトル・ロワイヤル【part.2】
591
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:45:52 ID:cFeuEibI0
◆
…
……
………
シャ────────ッ
海が盛況しだすこの季節。
この長い長い下り坂を、軽車両に二人乗りで。
操縦者の背中にぎゅっと抱きつきながら、夏の夜風を浴び進む。
ゆっくり、ゆっくり……、下ってゆく………。
…はあ。
願わくば、在学中一度はこういう青春を体験したかったものだ。
中々恋愛が発展していかないかぐや様とはいえ、一度や二度、絵に描いたような青春を味わっただろうに。あの方と。
本当に、私も、理想的な青春を送りたかった………。
「……誠にキモい……。早坂胸の弾力を感じながら…女子二人夏風を浴びる…。女子同士のイチャイチャであるこの現状………。まさしくキモさ堪らない青春だ…」
「…はい?」
「ただ、早坂はキモいか? ──となると話はまた別。早坂は確かにキモいっちゃキモいけども、あの黒木と比べたら段違い。……というよりも別ベクトルのキモさがある」
「………だから、…はいぃ?」
「つまりは早坂。アンタはキモいならぬ『グロい』っ!!!! そう、グロいこそが早坂を表すピンポイントな表現なんだよ!!」
「…また始まりましたか、それ………」
あと、…願わくば『男女間』でそういう青春を送りたかった………。
シャワーを浴びた後、私は目的の人物と会うため、キモい連呼女(以下:絵文字)の支給武器に乗せてもらっている。
絵文字に支給された武器というのが、この電動キックボード。
ただでさえ一人乗り様、おまけにバランス力が求められる物ゆえに、乗り心地は(…色んな意味で)悪かったが、まぁ歩くよりマシ。
これを走らせてでも迅速に再会したい人物が、私の中にはいた。
──金髪の除き魔。私たちの裸を見た、…あの忌々しいオヤジが……………。
「……って違う違う!! そうじゃないっ!!!」
訂正。
────私の仕える四宮家令嬢。かぐや様の姿が、…もうすぐそこに…………。
絵文字の腰を片手に、私はふと手中のスマホアプリに目を落とす。
『らくらく安心ナビ』──GPS連動で、家族の居場所を簡単に探せる見守りアプリだ。
かぐや様に襲い掛かる、ありとあらゆる脅威…凶悪から、彼女を護るのが私の使命であり、存在意義。
かぐや様にスマホを買い与えられたと同時に入れたこのナビによると、ここから1km範囲以内に確かにいるようだった。
ただ、このアプリ自体…決して性能が良い物とは言えない。
アプリ起動時、『GPS連動には多少の時差が生じます』という小さい注意書きがあった点から、嫌な予感は漂っていたけども。
超大雑把なマッピングに、かぐや様の位置ポインターがあっちに行ったりこっちに行ったり……そしてエラーでアプリが再起動したり…と。
verは最新版と表記されているにも関わらず、中国会社が作ったのか? ってぐらいに酷い出来だった。
…あとやたら胡散臭い広告も頻出するし。
それでも、私はこの安心ナビを唯一頼りに、彼女を探さなければならなかった。
何故なら、かぐや様のスマホは、この終わってるナビアプリが精一杯の安物泥スマホ。
…あの最低な父親が、娘に買い与えた……──チンケなスマホを唯一頼りにしなきゃいけない。
そんな彼女なのだから………………っ。
592
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:46:05 ID:cFeuEibI0
「…………………かぐや様」
うろちょろバグの様な挙動をしていたポインターは、ついさっき突如として全く動かなくなった。──この付近にて。
チカチカと点滅するポインターが、まるで危険信号の様に見えて……。
…………遅ばせながらお迎えに上がりますから、待っていてくださいね。
………かぐや様────と。
…嫌な想像で心臓が沸き立つ中、それでも可能性を信じて、私は今絵文字の運転に身を委ねている。
「………早坂…。そのかぐやって子に、そんなにも思い入れがあるんだね。グロテスクな思い入れが………」
「…私とかぐや様とでドロドロした変なのがあるみたいなニュアンスじゃないですか……──」
「──って、まぁ良いや一々……。…かぐや様とは物心付く前からの主従関係でしてね。軽い昔話になりますが聞きますか?」
「…うん、いいよ。早坂……」
……どうでもいい補足だけど、この絵文字女…。
話を聞く限り、どうやらヤバいとかスゴいを使う感覚で、『キモい』という言葉を発するらしく………。
かぐや様含め私は、さっきからコイツにキモい(=グロい)と散々に言われてきたけども、悪意的な意味は無いらしかった。
…いや、むしろ好意的に使っているというか………、つまりは私はグロいッグロいッと絵文字から大称賛を浴び続けているわけで……。
…なんの悪意もなく多用されるグロいに、苛立ちとむず痒さは感じるが、一々指摘するのも野暮ったい。というか面倒臭い。
絵文字は『そういう人』と受け入れつつ、私はスルーすることを決めていた。
住宅街を走り抜けるキックボードに、ノーヘルの女子二人。
吐息のような風を浴びる中、私はナビアプリをギュと見つめた。
かぐや様再開までの移動時間。余暇潰しとして、私が口を綴った昔の話。
それはまだ私達が六歳の頃の、ベッドでの体験だ。
「………就寝前、明かりを消そうとした時に、かぐや様が急に話しかけてきたんですよ。弱々しい声で、本を片手に」
「うん。……本?」
「ええ。今夜は寝付きが悪くなると彼女は予感したんでしょうね。私に読み聞かせをしろと差し出してきて──…、」
「あっ!! …ごめん、早坂。…ところでどうする………?」
「……何がですか………。──」
「──って、あっ……」
…話し始めも良いところだけども、かぐや様との幼少話はまた別の機会になりそうだ。
絵文字の視線の先。彼女が話を遮ってくるのも無理はない。
坂道を下った先にて、かぐや様とは全く関係ない────『参加者』が一人突っ立っていた。
出会うものならかぐや様一択であったが、そこにいたのは坊主の眼鏡リーマン、ただ一人。
「……どうする?、って。愚問じゃないですか、内さん」
「…ま、そうだよね。………キックボードでやれるかどうかは不安だけども」
私はそのサラリーマンに会った経験はない。
本当に見ず知らず。どんな名前かも、どんな声なのかも、どんなスタンスで殺し合いに望んでいるのかも知らない。
言ってしまえば、どうでもいい人間の一人でしかなかった。
593
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:46:20 ID:cFeuEibI0
「……やれるかどうかじゃないですよ」
「………やるんだよ、って言いたいわけ?」
「いえ違いますよ。ていうかあの人の生死は今眼中にありませんから。…何はどうあれ──」
いや、寧ろどうでもいい人間だからこそだった。
「──今轢いておけば、後々ゲーム展開的に楽でしょう」
「…………うん、分かった」
「では申し訳ありませんが、お願いしますね。…内さん」
急加速していくキックボード。
────私はあの男を奇襲《轢き逃げ》するつもりでいる。
運転者の絵文字とは何だかんだで意気投合した仲。
私の『ゲームのスタンス』を理解した上で、尚も付いてくる彼女は、ブレーキを完全に放棄し真っ直ぐ進み続ける。
急速に縮まる距離。
こちらの殺意に気付いてか否か、ボーーっとある意味では隙一つなく突っ立っているサラリーマン。
…別にこのサラリーマンには恨みとかそういう嫌な感情はない。
頭がつるっパゲだからといって、嫌悪感とかも特には生じていなかった。
それに、奴を無視して突っ走るという選択肢もあるにはある。
「行くよっ、早坂……!!」
「…ええ」
ただ、『四宮かぐや優勝』という完成図に他参加者たちは、────十分すぎる程に邪魔だった。
ドンッ────、と。
思いの外あっけない音と共に、サラリーマンは宙を舞う……。
スキンヘッドが満月と重なるほどに、高く……────。
…飛ぶ筈だった。
594
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:46:36 ID:cFeuEibI0
………
……
…
「ほう。『ライオン一頭 脱走か。渋谷区』………おいアンズ。仮に遭遇したとなっても、お前の力なら対処できるんだろうな?」
「……ちょっと話しかけないでよ!! 今集中してるんだからッ…………」
「あ? まあいい。話が通じる相手ならともかく、さすがの俺も猛獣と出くわしたのならくたびれるからな。その時は頼むぞ。──」
「──………それで、『お前ら』はどうなんだ。会話は可能なのか? おい」
ギギギギッ…
ギギギギッ…
「ぐっ…………」
「…なに……、これ…………っ。…キモっ………」
…なにが、ライオンだっ……。
私自身も、襲う参加者相手皆が皆、猛獣のように何の知性も感情もないNPCだったらどれほど良かったことか………っ。
始末する筈『だった』リーマン。
椅子に腰をこけ、呑気に新聞を広げるソイツの視線を感じながら、私と絵文字は今、跪いている……。
──いや、違う。
跪か『されて』いる感じだ………っ。
言葉に形容するのも難しい…見えない力で無理やり地につかされて、屈まされて……。
バカみたいなことを言うなれば、────『念動力』で、抑えつけられ………。
身動き一つ取ることさえできないでいる…………っ。
「…は、早坂…………っ…」
「なんな…っ……………。これは……」
「もう…呆れて怒る気もしないわ……。ねえアンタ達っ!!!」
「「……っ…」」
「危ないじゃないの!! 危うく芹沢さん怪我するとこだったでしょっ!!! …本当にっ、殺し合いに乗るなんて……反省しなさいよっ!!!!」
「…バリバリ怒ってるじゃねえか」
「ねえ芹沢さん! …私、これからどうすればいいのっ…? いつまでも『力』で抑えてるわけにもいかないし。…この子達、どうすればいいのかな……」
「知るか。この件に俺は関係がない。………ただ、独り言を呟くとするのならな……」
「……?」
「────とっとと始末した方が身のためではあるだろ。…これはあくまで独り言だからな? これからお前がどう行動し、結果的にどうなろうが俺は一切関与していない。以上」
「……は………? はぁ……っ?!! …き、キモっ……………」
「………っ」
「…芹沢さん。…始末…って……………」
屋台から身を乗り出し、こちらへ近づいてくる金髪女…。ソイツの困惑した目と、ふと合う。
どうやらこの訳の分からない『圧力』は、ソイツ──アンズという女によるものと察せるが………私的にはそんな事もうどうだっていい…っ。
595
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:46:55 ID:cFeuEibI0
奇襲を仕掛けるも即返り討ちにされ、…文字通り手も足も出せず屈しているこの現状。
何の意味もなくただ時間だけが浪費して……、成り行き次第では絵文字共々処刑される…この現状……。
……自分の誤判断で、再開以前の問題に………。
かぐや様とはもう二度と会えなくなるかもしれないという……──このっ……、現状…………っ。
…彼女のせいにするつもりは無いが、かぐや様という存在。
彼女の安否が、私をここまで判断ミスに狂わせたのかもしれない。
……それ程までにかぐや様というエナジーは、私の原動力だった。
私にとって、かぐや様はどれだけ輝く宝石よりもブランド品よりも四宮家の全財産よりも……。大切で護らなきゃいけない存在だった。
彼女のことで頭が一杯だった。
もはやかけがえのない存在……。絶対に手放したくない物、それが四宮かぐやだった。
…従って、生死がアンズの手中にある今、改めて冷静な判断をさせてもらう………っ。
この勝負………──私達の負け【敗北】だ。
…私は降りることにする。
…
……
………
──早坂ー…。これ、よみきかせてよ…。
────珍しいですね。あなたというお人が……。
────…仕方ありません。できるだけ迅速に…! 早く!! 寝てくださいよ………。
────かぐや様………。
………
……
…
“出来るだけ迅速”にっ…………。
「…………あの…………、…申し訳…ありません……でしたっ……。深くお詫び…申し上げます…」
「え?」
「は、早坂………っ!?」
「芹沢…様で宜しかった……ですよね………」
「……なんだ、小娘」
「…信じられない気持ちは…重々理解できますが……、私共、貴方様に敵わないことを身に沁みて………、もう襲撃も関与もせぬことを…心から誓います…………」
「ほう」
「……は、早坂?! な、何言ってるの…………!! こんな奴らに頭下げなくても………」
「…そうですよね………? 内さん…」
「いや…! おかしいって!! ね、ねぇ早さ──…、」
「ですよね………ッ」
「……! ………………………」
596
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:47:11 ID:cFeuEibI0
「…我々のだいそれた過ちを詫びるとともに………、お願いできますでしょうか……………──」
「──どうか私達にご容赦と、慈悲を………。力から解放され次第、即退散しますので…………………。どうか、この願いを承知できますでしょうか………………。芹沢様に、アンズ様…………」
「……何言ってるのよ! 『人を憎んで罪を憎まず』──おじさん達から習った教訓だわ! 芹沢さんの独り言なんか知ったこっちゃない!! 最初から許すつもりよ!!」
「…………真ですか……?…」
「ええ!!」
「…………」
正直なところ予測できた返しではあった。
徐々に身体を抑えつける力が弱まっていく中、ニコリと微笑んだアンズは、私達の前に丼を置く。
「…『人を憎んで罪を〜』じゃコイツらを許してない事になるだろうが……………」
眼の前に鎮座する、湯気立つそいつ。
……仲直りの証としてこれを食べろと言うのか、彼女は屈託のない笑顔で箸を差し出してきた。
言うまでもないがこれを食している暇はない。
──…かといって、芹沢達に申した謝罪や敗北の意思表明も嘘というわけではない。
絵文字は未だ闘争心が鎮火していない様子だけれども、私は彼らに構い、ここで道草を食う暇も余裕もなかった。
…そう、余裕がない。
……私はかぐや様に早く会わなければいけないのだ。
「……寛大な御心、感謝します。………私を信じてくださりありがとうございました、アンズ様………──」
「──行きますよ、内さん。…早く……」
「えっ……。いいの…? 早坂…」 「いや私のラーメン食べないの?!」
「……私の、いや私達の『最優先事項』を…お忘れですか。内さん」
「……………そう。早坂が良いならそれに従うよ」
「いや食べてから行きなさいよ!! 美味しいわよ?!」
アンズがバカ正直な純粋者で助かった面もある。
念動力が弱まった折、立ち上がった私は絵文字を起こし、ヨタヨタ、キックボードへと歩を進めた。
私は本当に……。
こんなことをしている場合じゃないんだっ……………………。
ペラっ──────
「おい待てメイド」
597
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:47:22 ID:cFeuEibI0
「…………。………ご心配なく。再度轢きにかかることは決して行いません…………。…決して」
「いや違う。その事に関してはどうだっていい。一つお前に聞こう。…なに、簡単な質問だ。時間は取らせん」
「…………なんなりと」
「お前は何故殺し合いに乗っているんだ? 返答次第ではこちらも態度を変える…だなんてするつもりはない。ただ、その真意を純粋に問いたいのだ」
「……え。は、早坂!!」
「…………畏まりました。真意…単刀直入に言えば奉仕です。…センター分けで、私と同い年の女子──…、」
「そいつは『四宮かぐや』の為か?」
……………………………………………え。
奴の。
芹沢の。
全く予測していなかったその発言で、足が急速冷凍されたかのように動けなくなる。
…奴は、
「えっ?」
…今、
「え?? 四宮??」
…何と言った……………………?
「え……………………」
「……御名答か、そいつは運が良い。お前も時間が無い様だからな、手短に説明するぞ」
598
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:47:35 ID:cFeuEibI0
…時間が…、確かに止まったかのような感覚だった。
静止して、何もかもが静寂に死にきっている中、
新聞の巡る音が異常に大きく感じた。
ペラっ────────────
何故…、
ヤツはその事を知っているんだ………………………?
「“何故知ってるか”……、か。答えは単純だ。十数分前、丁度この場所であたふためいた娘と出会してな。センター分けで、制服姿の。大した会話は交わさなかったが、妙に印象深い奴ではあったよ。四宮はな」
「………えっ」
「暫くして、その四宮は突拍子もなくバタバタ走り去っていった。恐らく奴にも考えがあってのことだろう。……いや、四宮が走り出したのにも明確な理由があった」
「…え」
「ほら、アレを見ろ」
「………アレ……………」
私は芹沢の方へと振り返る。
奴の指差す先には遠く向こう側、
ピンク色の小さなホテルが建っていた。
「ああアソコだ。…これは後になって解った事だが、四宮のお嬢が去った後、血相を抱えた連中が四人、その後を追ってきてな。従って、四宮は奴ら【マーダー集団】から逃げていたと推測立つわけだ」
「……………かぐや様が、…………追われて………………?」
「…え?? ちょっと待ってよ芹沢さん!! 確かにあのホテルには四人組がいたけど──…、」
「…ぃっ!!! 口を挟むなアンズ!! お前は食器洗いを済ませたのか?! 口より手を動かせ、手を!!!」
「……はぁ?! な、なによ。今やるところだったわよ!!!」
ガチャ、カチャ………
「…申し訳ないなメイド。事情を知っていたら俺も四宮を匿ったものだが。…巡り巡った運命は今重なり合ったというわけか。すまない」
「……………………………」
「まぁ、信じようと信じまいとお前の自由だがな。信じたくない気持ちは重々理解できる──」
「──ただ、信じて動いた所でお前にデメリットが無いと、俺は考えるがな」
「…………」
599
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:47:51 ID:cFeuEibI0
「想像してみろ。怒り狂った野郎共が、一人の幼娘を追い回して。しかも、逃げ込んだ先が『そういう』ホテルと来たものだ。これから何をされ、どんな目に四宮が遭うかはもう……。…すまん、これ以上言う必要はないな。──」
「──だが、そんな下衆な推測が立てられるほどの事態であることには間違いない。どうだメイド、信じるか信じないか。…いや、信用するか悩む程の暇はあるか? お前には」
「……なに、それ………。…ホテル…キモっ……」
「……………………」
…信じるも、なにもない。
芹沢。奴の発言を鵜呑みとするのならば、
──かぐや様は、
──ラブ………ホテルに逃げ込んで、
──取り敢えずの安否確認。生存の確認はできている。
但し、安否と同時に彼女は、
こうしてる間にも、
現状。
今、まさに。
──危機に瀕している。
「……うそ………。信じられない、キモ………」
…………………。
…私も『ウソ』だと思いたかった。
いや、嘘と決めつけて縋りたかった。
「手短に説明……とは言ったが随分長いこと話してしまったな。ついついお喋りが過ぎるのが俺の癖でね。…困った物だ、まったく…」
「…………………。…芹沢様」
「ん。なんだ」
ただ、その信じたくもない情報に縋っていた方が、まだ希望が見えていた。
少なくとも、何とかできるという可能性はあった。
…従わずにいるなど、それこそ愚の骨頂だった。
……それが、かぐや様の順従たる、…私の使命なのだから………。
「貴重な情報、誠に感謝します──」
「──…その一方で、貴方がかぐや様を保護しなかった責任について。身勝手ながら有事の際、徹底的に『追求』するつもりでおりますから──」
「────ご覚悟を。では、失礼します」
「……やれやれ、喋る必要のないことまで説明したようだな俺は。…全くこの悪癖は早治を検討せねばなるまいものだ………。──」
「──それじゃあ俺からも以上だ。『急がば回れ』、今度ばかりは安全運転を願うぞ。メイド」
「……飛ばしてくださいね、内さん」
「…う、うんっ。行くよ!!」
600
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:48:05 ID:cFeuEibI0
絵文字に引っ付き、目指すは離れのホテルまで。
キックボードを走らせ、私達はこの場を後にしていく。
時間を大幅ロスした芹沢襲撃タイムではあったが、その分何よりも欲しかった情報を得たので結果はオーライか。
…この失った分の時間は、絶対に取り戻してみせる。
かぐや様も……っ。何もかもをっ…全部…………………。
シャ────────ッ……………
不安と半端じゃない憂苦をグッと噛み殺しながら、私は再び夜風を浴びていく……。
「あぁそうだ。おい待て、絵文字の娘!!」
キキッ──
「え。私?! 何?」
「メイドはともかく。お前に是非とも渡したいものがある。…この割り箸なんだがな、一本五千円ってところでどうだ?」
「…はー??! いやキモ!! キモ高っ?! ただの割り箸でしょそれ!! 普通にいらないしキモっ!!!」
「…(キモキモ何だこいつは……。)あぁそうだ。これは何の変哲もないただの割り箸。五千円の値打ちに合うかで言えば、ボッタクリもいいところ。別に無理に買えとは言わないさ──」
「──だが、いいか? お前はバトル・ロワイアルについて『何も知らない』。お前も……、メイドも……、そしてお前らは『四人連中』の事さえも、何一つ情報がないわけだ」
「…………」
「買うか買わないかは自由だがな。もっとも、懐に収めておいて損だけは無いと言っておこうか」
「………………………わ、分かったって…!!」
去り際、割り箸と五千円札が夜空を交差。
それぞれの元へとトレードされていった。
「…くははっ! 毎度!」
【1日目/B2/ラブホテル前/AM.04:18】
【早坂愛@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】精神不安定(軽)
【装備】チェンソー
【道具】???
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象︰四宮かぐや】
1:かぐや様、古見硝子以外の皆殺し。(主催者の利根川含む)
※:マーダー側の参加者とは協力したい。
→同盟:山井恋
2:ホテルにいるかぐやとのいち早い合流。
3:かぐや様が心配。
4:変態覗き男(新田)を警戒。
5:後々来るであろう『個室にてヤバイ女と出会う未来』に警戒…。
【うっちー@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】健康
【装備】電動キックボード@らーめん再遊記
【道具】割り箸
【思考】基本:【静観】
1:早坂についていく。
2:黒木が『キモい』なら、早坂は『グロい』!! グロメイド!!!
601
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:48:17 ID:cFeuEibI0
◆
………
……
…
暴走娘二人組が去って以降、幾ばくか刻が経つ。
情けないくらいに凡庸なラーメンの匂いが漂う中、俺は相変わらず新聞を読んでいた。
「…ねえ芹沢さん。あの割り箸さ、一体どんなすごい物なの?」
「なに? 割り箸に凄いもクソもあるか。本当にただの箸だアレは」
「はぁ?!!」
俺は夕刊新聞が好きだ。
「つまりはゴミで五千円をぼったくったわけ?!!!」
「ああ。人間ってのは想像深い生き物だからな。意味有りげに言えば、信じてしまうものだ。──」
「──なにはともあれ、軽い臨時ボーナスこれにて頂きだ…! ふふふっ、人の金で飲む酒が一番美味いってものよ!」
「詐欺じゃないのっ!!!! もう、信じられないっ…!!!!」
新聞という読み物は実に興味深い。
新聞記者という輩は、常に論客気取りで、一面に政治関係の罵詈雑言を掲げ、スポーツ面も悪意に満ちた記事を書くことが多い。
情報を判別せずそのまま掲載することから紙面の殆どは憶測記事とネタで大半。まるで個人アフィブログのようなレベルを平気で売り出す。
悪評。誤情報。印象操作のデパートだ。
「あっ。…そうだ、あのメイドさんがかぐや(?)って人追っていたの……なんで分かったの? 私たちそんな子と会ってないじゃない」
「あー。あれも適当だ。参加者名簿の中から目についた名前を話した。それだけだな」
「え、え、…はぁあっ?!! …たまたま当たったからいいものを………。外してたらどうする気だったのよ!!!」
「その時は『そいつがセンター分けの女生徒を追っかけていた』だとか言えばいいだけだ。…ただ、そのケースの場合、信憑性にやや欠けるものだから、今回は幸運が働いたな」
「……信じられない……っ。最低………」
「ほう。何が最低と感じた?」
「あんたが適当に大嘘こいたせいで、あの人達…迷惑に振り回されたじゃないっ!!!! メイドさん、改心する一歩手前だったのに……!! なんでそんな酷い嘘流すのよっ!!!!」
「……バカか。あの娘共は間違いなく再襲撃に掛かっただろう。メイドは知らんが、絵文字の変な女は間違いなく殺意が鎮まっていない。そんな危険な連中を、口八丁適当丁で退けられたのだから、感謝してほしいぐらいだ」
「そんなわけないしっ!!!! それに、あのホテルには確かに四人連れがいた…。──子供のよっ!!! 何も野蛮なんかじゃないちびっ子たちが!!! …メイドさんがあの人達を襲撃したら……どうすんのよっ!!!!!」
「知るか。俺達に幸運が作用した分、そのガキ共に不幸が渡る。そう考えろ」
「ぃっ!!!! もう、アンタって人は……もうっ──…、」
「お前こそ『もう〜』…だ。聞け」
「…えっ?!」
俺は新聞を愛してやまない。
こんなしょぼい紙切れで世論を動かせると勘違いしている、マヌケな記者共を想像するのが、何よりの笑いの肥やしとなるのだ──。
602
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:48:34 ID:cFeuEibI0
「────いいか? お前のお花畑脳はやたら悪を毛嫌っているが、ラーメン店において『悪』は時として強い味方となるのだ」
「……は?」
「悪は時として富を産む。お前の今後の…、殺し合い脱出後の経営についての話をしよう。──」
「──アンズ。お前の『来々軒』は食べログ評価星4の優良店らしいが、例えばこいつの評価を意図的に下げるとする。つまりは自演だ。自分や知人に協力してもらい、悪評を流したくって星1まで下げるのだ」
「いや絶対嫌よ!!! そんなの…馬鹿じゃないの!!」
「うるさいっ黙って聞け。…今はSNS最前線時代。星1の屋台ともあれば、頭の悪いインフルエンサーが店に集まり動画を撮る。バズり狙いに悪評を垂れ流すレビュー動画というわけだ──」
「──しかし、奴らYouTuberは無能ゆえにその職を選ばざるを得なかったバカばかり。一度麺を口にした途端、こう思うだろう。『あれ、悪評ほど不味くなくね』とな」
「……え?」
「その動画が拡散され再生される度に、同じく頭の悪い視聴者共が店に集まる。怖いもの見たさで来店し、その度『思ったより美味い!!』と勘違いし、次第に食べログ評価は元の高さまで戻っていく。売上も鰻登りになった上にな」
「………………………え、それ……」
「ラーメン作りにおいて一番重要な事は味であるが、『ラーメン店経営』においては別だ。味よりも、悪。悪を味方につけることこそ成功の秘訣……! 聞くぞ。お前にとっての成功とはなんだ? アンズ」
「…成功って。…それは、今は──…、」
「『殺し合いを終わらせるほどのラーメンを作ること』、だよな?」
「…………っ!」
「何事も綺麗事で済むほど、この世の中も、バトルロワイヤルも、人生も甘くない。『悪』こそが、お前の一杯に足りない最大の要因なのだ」
「………………」
…だとか、適当なことを言ってみたが。
──流石はハル曰く単細胞の小娘だ。
こんなめちゃくちゃな主張にぐうの音も出なくなったぞ。
俺の言った台詞。要約するならば、『つまり僕は何も悪くないよーん』という正当化でしかないのにな……。
「……ごめんなさい芹沢さん。私が間違っていたわ」
「なんだどうした」
「私、考え方を改めてみるわ!! 悪こそが大事!! 悪い奴らは大体トモダチ!! その考えで挑んでみるわね!!!」
「はいはい、そうかそうか」
…だが、これだからバカは堪らない。
しかも、コイツのような『実力あるバカ』は俺らからしたらこれ以上ないくらいの好都合なカモだ。
バカと何とかは使いよう、とよく言ったものだが。
俺はアンズのラーメン革命(笑)で絶対生き延びてみせる。
(行く末は、無許可営業に衛生法、未成年就労や殺し合いの件、超能力の件で、アンズの親から脅迫グレーに金をゲット。これでコンサルがパーになった件は埋め合わせだ!!)
ラーメン店で一番大切な物。
それは悪でも味でもない。バカな客の存在だ。
バカこそが俺を潤わせ、そして生存競争を勝ち抜かせる可能性を大いに沸かせるのだ…────。
603
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:48:46 ID:cFeuEibI0
「というわけで食べてみて!!」
ドン
「…あ? ……………何だ……これは」
「廃油マシマシ醤油濃いめ添加物増量賞味期限切れブラックラーメン!! 新商品よ!! 今までは化学調味料は体に悪だから控えてたんだけども……。芹沢さんのアドバイスで、新たな一歩に踏み出せたわ!!!」
「…………………お前…」
「ほら、たーんと試食して!! ねっ!」
……ただし、コイツや汐見のようなホンワカパッパはお断りである。
604
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:48:57 ID:cFeuEibI0
◆
【ラーメン界の第一人者・芹沢達也 〜本日の名言〜】
──いいか。ラーメン店において悪は時として強い味方となるのだ。
〜バトル・ロワイヤルを経て学んだ『ラーメン道』 アンズメモ〜
①悪評は経営において有効活用すべし。逆ステマは絶対バレない自演方法!!
②最初は悪評まみれでも成り行き次第では向上される! 未来を信じて頑張ろう。
③ラーメンの隠し味に悪は必須。ただし加減はほどほどに……。
◆
【1日目/B2/屋台『とんずラーメン』前/AM.04:23】
【アンズ@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】中華包丁
【道具】寸胴鍋
【思考】基本:【対主催】
1:芹沢さんと協力して打倒主催!!
2:必要悪ってことなのね……。
3:ホテルの四人組(ライオス一行)が心配。
【芹沢達也@らーめん才遊記】
【状態】満腹限界(大)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【生還狙い】
1:アンズの念動力を利用し生還。
2:どんな卑劣な手段を取ってでも生き残る。
3:殺し合い開始数日前、俺は未来から来た『ハル』にゲーム崩壊を託された。……なんなんだコイツは。
4:それにしてもアンズのラーメンは冷食同然だっ!
605
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:49:36 ID:cFeuEibI0
投下終了です。
引き続き、『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』をお送りします。
606
:
『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:50:26 ID:cFeuEibI0
[登場人物] [[メムメム]]、[[兵藤和尊]]、[[佐衛門三郎二朗]]、[[遠藤サヤ]]
---------------
607
:
『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:50:39 ID:cFeuEibI0
………
……
…
満月。
──それは夜空唯一の単眼。
深海の如く淀む真っ暗闇が見せた、刮目。
刮目、刮目、刮目……。身震いを催す光。
まんまるな眼球に一点集中で睨まれた、あの夜。あの山中にて。
あたしは、一人の悪魔と目が合うのでした………────。
608
:
『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:50:54 ID:cFeuEibI0
◆
…よくよく思い返してみたら、魔界の周りにはあたしみたいな二頭身を全く見かけなくて〜…。
──…もしや、あたしはそもそも悪魔ですらないのではっ?
──悪魔学校時代のクラスメイトは全員、あたしのことを動物実験で入学した天才チンパンジーを見る目で接してたのでは………っ??
……自分を懐疑的に見ちゃう、そんな悲観的さで涙ぐっしょぐしょな今日この頃です……。
こんちゃす、あたしメムメム。一応悪魔をやらせてもらってるっす。
いやぁ〜、あたしね?
日頃から、バビョの奴とかレース先輩とか…悪魔だの人間だのと種族関係なく、色んな人からクズ扱いされて困ってるんですがね〜……。
…この際だからはっきり言いますよ!!
そうです! ごもっともっすよ!!
あたしはクズです!!
人間性はめちゃくちゃ劣悪っすよ!!! まさに小悪魔って感じすわ!!
性格カスですがそれがなにか? …もう開き直っちゃってるくらいの極カスがこのあたしですっ!!!
…え?
“クズな性格を直そうとは思わないの?”──って??
……ふんだっ。
あたしだって別に、好きでカッスい性格を送ってるわけじゃないんすよ。
最初期の頃こそは、それこそ純粋な心の持ち主で…、ついてくのも大変な仕事を一生懸命努力し、輝き頑張っていたんすからね。
……でもね。
…もう……ね。
ここまで自分が『魂略奪』をできないとなるんなら…………。……もう不貞腐れて開き直るしかないじゃん………、ってのが結論っすわ〜〜……。
────そんなあたしが一人目に選んだ、『悪魔代行』の参加者。
ブロロロロロ……
「……」
バン、バンッ…
「………をぉぉ……、さぃぃ……………………っ」
「…んっ……?」
──渋谷山の峠で。
──風で吹き飛ばされそうになる中、窓ガラスにへばり付くあたしを、…何十分も運転してやっと気付いたソイツ……。
バンッ、バンッ
「びょおおぁぁ゙ああぁぁああぁぁぁあああっ!!!! 開けてくださいぃいぃぃぃいいいぃぃ〜〜!!!! とゆーか停まってくだざい゙ぃいいぃい〜〜〜っ!!!! お願いじまぁあ゙ぁぁあずぅ〜〜〜〜っ!!!!!!」
「う、うわっ!!?」
キキィ────────────────ッッ
──車をガードレールにアタックした、『さえもん三四郎』だなんてふざけた名前のソイツは、
────カス程にも役に立たない参加者でした……。
──バンッ…
「んびゃっ!!!」
609
:
『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:51:09 ID:cFeuEibI0
…………
………
(じじょーせつめー、割愛〜。めむめむ〜)
◆
……
…
ブロロロ……
──ポチッ!!
♫Spotifyにて、西野カナの『トリセツ』から→米津玄師の『lemon』にチェンジ♪
「は……っ?」
(前奏略)
『♫夢だったら、どれだけ〜〜良かったでしょう〜……』
「……………」
『♬未だにアナタ〜の〜、ことを〜、夢で見る〜〜〜……』
「────うぇ…っ♡」
「……………」
「………」
しーん………
「…今のでムラっときたりしてないすか?」
「え?? …どこで?」
「…ど、どこで…って。……あたしの歌声でですよ」
「別に…だけども…………? というか普通歌わないだろ、『うぇっ』のとこ………。しかもそこだけを…………」
「………………。………………はぁ──」
「──……あたし…えろいことで誘惑して魂を奪うのが仕事なんす………。でも、あたし自身おっぱいとかえろいことが苦手で………。だから〜、…全然魂ゲットできなくてぇ…………」
「……急に何の話を……………?? 一体君はなんなんだ──…、」
「──って!!! い、いや待てよっ………!? とどのつまり君は今、淫靡な(つもりの)歌声で僕の魂を…狩ろう《殺そう》としたのか…………っ?!!」
「あーもういいすよ? その話は。できないで片付いた事なんすから、もう」
「いや良いわけあるかっ!! 殺意を向けてきたんだな……!? 君は僕に…!!??」
「……うるさいですね………。何でもいいから前向いて運転してくださいよ。これでまた事故ったんならアンタ人としてやべーすから」
「起きる事故全て君が起因だろ………っ!!」
…はぁ〜。
↑この様に、三四郎というヤローは一言一句ツッコんできたりと、まるでバヒョみたいな男だったんでぇ〜。
…ワンチャン誘惑できるかなぁ〜? と試してみたんすが……。……ビギナーにはあたしの美惑が難しいようですね。…はぁーあ。
610
:
『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:51:27 ID:cFeuEibI0
助手席下の駄菓子を開くこと、四袋目。
あたしは今、この三四郎運転の元、のんびりと商談しているって現状っす。
…あんむ。ム〜シャムシャ……。うん、美味しい〜…! 幸せ〜〜!
ゴクリ。
……んで、その『商談』の内容ってゆーのがですね。
まぁこの三四郎というヤロー……、サングラスに黒スーツと「ブルースブラザーズかっ!!」てツッコみたくなるくらい馬鹿な服装してて、…まぁその見た目通りバカそうだったんすが。
そんなあたしと多分同じ無能であろう三四郎にしか、頼めない──。
──…とゆーよりも、こんなヤツをアテにしなくちゃならない。
…こんなバカでもできる仕事ってゆーのがありましてね。
それをこれからコイツに話すって感じっす。
………にしてもこのサングラスのび太ヤロー。
いつまでこの山ん中走るつもりなんですかね〜……。ドラえもんの裏山みたいなココをさっきからぐ〜るぐるすよ。コイツ…。
ま、別にどうでもいいんすけどねぇ〜…。
「……これで分かりましたか。見ての通りすよ三四郎。あたしはこんなカス一人の魂すら奪えない。チョー非力悪魔なんっす…」
「見た目に反して毒吐きが酷いな……。まるで利根川先生の如し……もう毒蛇だよ………っ。──」
「──…。(というか僕の事…三四郎呼び………)」
「という訳で三四郎!! お前には一つ、あたしから頼みがあるんです!!! どうか聞いてくださいぃっ〜!!!」
「………え? た、頼み………? う、うーん………。──」
「────…まさかじゃないが……っ、僕にやれと言うんじゃないよな………っ?! 魂集めとやらの……『人殺し』を…………っ!!??」
「何がまさかなんすか?」
……むむむっ、って思いましたよ。
三四郎のやつ、意外にも結構頭が回るようなんすから。
やっと「あたしより駄目なやつと出会った〜!!」って心の底でウキウキだったってゆーのに。
…やっぱりあたしが見下せる対象ってこの世にはいないんすかねぇ〜……。
「…ぐっ……………、はぁ…………。……まず、僕は男だ。…どう誘惑すればいいと言うんだよ。この僕に………っ」
「あ、あぁ〜。いや別に淫魔的誘惑とかもうアウトオブ眼中っすわ! 三四郎には刺すなり轢き飛ばすなり絞めるなり、自由なやり方で魂奪ってほしいんす」
「……君ねぇ…………」
「いやもうあたしだって形振り構ってらんねーすわ!! …あ、ほら!! このピストルで運転中、窓からバーンバーンってのもいいすよ!! グラ●フみたいに!!!」
そう言ってあたしが握ったのは、助手席に置いてあったコイツの支給武器──『ヘルペスの銃』ってタグが貼ってあるピストルっす。
…え、待って。
…ヘルペス………?
ヘルペスって、あの口周りに水膨れができる…人間特有の、あの病気の………………??
…………。
…コイツに触るのは控えたほうが身のためかもっすね。…感染対策ですわ。
「…言っておくが僕は違う……っ!! その銃が、ヘルペス銃って名前なだけだ………!!」
「…………あたし何も言ってないのに察し良すぎません?」
「顔に思いっきり出てるんだよ…君は………。バイキン見る目を向けるな……僕にっ…………!!」
「…人の顔をあんまりジロジロ見ると嫌われるっすよ〜? 三四郎〜〜」
「………勝手にほざけばいいさっ…。──」
「──ぐっ………。うっ………。何故よりにもよって、引き合う…………っ。今、こんな時に………………っ。僕はこんな性格の子と…………っ」
「は? …え、なんすか」
キキッ────
611
:
『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:51:41 ID:cFeuEibI0
アホの三四郎は…バカなりに思い詰めたのかなんなのか。
唐突にブレーキペダルを踏んで走行停止。…頭を抱えながらハンドルに向かって顔をうずめてきました。
…いやリアルになんなんすか? こいつ。
全くあたしにはワケワカメだったすよ。もしゃもしゃ、コリコリ……(あっ、この茎ワカメって菓子おいし!!)
目をギュ〜っと閉じて、アホみたいに自分の髪を鷲掴む三四郎のヤツ。
気付けばソイツは壊れたラジオのよーにブツブツブツブツ…独り言を唱えてたんす。
この時、あたしはヤツの突飛な行動にドン引きしつつも、「あれ?? もしかして時間差であたしの淫歌声に効いてきた……!?」とか軽くウキウキだったんすが〜。
「…インポッシブル…インポッシブル、インポッシブル………っ。自分にはできない……そう分かっていても、なお覚悟を決めるか思い悩む……………っ」
「え……? イ●ポ………? …ひぃ、なんすかその急な卑猥ワード!?」
「……………一線を越えるか…否か………っ。……決断をやっと心に焼き付ける…その時まで………ずっと一人でいたかった。……一人で悩みたかったというのに……………。そんな僕を茶化すように……運命はなぜこんな軽薄な子と引き合わせたんだ………………っ」
「あーもしもし〜、三四郎? 聞こえてるすか……?」
「ぐっ……………………!──」
だけどもね。
三四郎のボソボソ独り言をよ〜く聞いた時。
──奴の口から、魂よりも貴重な内容が飛び出ていることに、気付かされましたわ……。
「──僕がっ………、会長を『殺そうか』…悩み苦しんでいるって……………そんな時にっ………………!」
「え…?!」
…というか、コイツの発言が予想外過ぎて、あたしの方から魂が出かかったすわ。ほんと。
聞きましたか?!
三四郎のヤツ、グダグダ理由つけて魂狩りを断ってくんだろなぁ〜と思ってたら……、…いたんすよ!!
──奴にも、どうしても殺したい参加者の一人が!!!
──つまりを魂を手に入れる目処が!! あたしの目の前に!!!
────今ここにっす!!!
「…さ、三四郎……! お前………」
「………ぐぅっ…」
…ま、人間どんなアホな奴でも、一人くらいは心から憎んでる存在ってのいますからね。
いや、むしろ三四郎みたいな無能なら、辛く当たってくる人間は身近にたくさんいるわけっすから。
その会長(?)ってゆーのにどんな仕打ちされたかは知らないですが、殺意が湧くのも仕方ないことでしょう。
……ふふ……っ!!
…気持ちはまぁ分かりますよ、三四郎。
…かく言うあたしも、同類《無能》すからね……………!
「……ぐぐぐっ……………………」
さて、そう来るとなったら同類同士、助け合うというのが筋です!
あたしはポンッ、と縮こまる三四郎の肩に手を当て、
612
:
『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:51:56 ID:cFeuEibI0
「………。…なんだい…………っ」
「………言えたじゃないすか! 三四郎!!」
「………………何がだ。君には関係のないこと──…、」
ズバリ一言!!
こちらに情けない顔を向けたコイツへ、
──悪魔のささやきを、耳元にて呟くのでした────…。
「じゃあチャンスじゃないすか…!」
「…え?」
「会長の魂を刈っちゃいましょう!! …あなたは一人じゃない。周りにはあたしがついてるすから…!! ねっ!! 魂回収はあたしに任せて、三四郎は思う存分恨みを晴らしてください!!! よろしゃっす!!!!」
「………………」
…『一言』ではなかったすね。て〜せ〜。
ま、そんなことはどーでもいいっす。
………今のうのうと生活し、チンタラ平穏に料理を食べ進める愚かな権力者、パワハラ上司共へ。
あたしは言いたいっすね。
いいですか?
バカを怒らせた時が一番怖いんすからね?
アンタらは日々何も考えず、あたしらサンドバッグ《無能達》に怒りのままにイヤな言葉をぶつけ続けてきやがりますが…。
丸々と肉ついた顔面のアンタらが偉そうにできるのも、『社会的立場』があってこその特権なんすよ……?
もし、あたしら無能がすべてを失い、社会的立場という雁字搦めから解き放たれた時……、果たしてアンタらはどうなるものか…………。
…ふふふ。…分からないことでしょう。
バカのしでかす恐ろしい惨状なんか………。
…ただ、分からないのなら、見せてやるまでっす……。
「ね!! 三四郎!!!」
「……………………っ」
後悔してももう遅い!!
目に焼き付け、そして満月のよーに目をかっ開いてくださいな!!
憎悪と逆襲の後、まるで虹のように晴れやかな気持ちになる────そんなスカッと劇《復讐の魂狩-レクイエム》。
あたしと三四郎の二人三脚で、そいつの御手本を見せさせてやりますよ……!!
今っ…──。
ここで────……。
「…いや黙っててくれ。だから、君には関係ないことだよ…………っ」
………。
「…………………えーそう来ちゃいます……?」
「…とりあえず君は……預けるから…………、誰か優しそうな保護者のもとに……っ。それまで黙って乗っててくれないか」
「……………マジでそう来ちゃいますか………」
「子供には関係のない話だよ……………っ」
「…………」
613
:
『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:52:14 ID:cFeuEibI0
…はいはい、我関せずっすか。
ドライな奴っすね、三四郎は………。
……全く。本当に役に立たない奴ですよ、こいつは……。
────というわけで、あたしは次なる『悪魔代行』の参加者目掛けてひとっ飛び。
「えっ……!? と、飛んだ………?──」
「──いや、待ってくれ!! …待つんだ、メムメム………っ!!」
「はいはいどーせあたしは子供ですよ。子供に見えるんでしょ子供にっ!! ありゃーした〜〜…」
──車が停まっていた場所にて、真横にはちょうど光灯る休憩所。公衆トイレと自販機があり。
──ペンキの剥がれかかったベンチにて、まるであたしを待っていたかのよーにポツンと一人。
ふわ、ふわ〜
「…モグモグ。…げぇ〜。このハッカって飴はあたし好みじゃないすね………。ブタのエサっす」
ペッ
「危ないぞ……っ! こら、メムメム……!!!──」
「──…ん? ………あっ…!」
──第二の『悪魔代行』参加者。
──…なんたらサヤという、……ベンチに座る女子。
──そいつは、淫魔にうってつけで、なおかつあたしが接しても全く平気なくらい色気0だったっす。
────名前忘れたんで、以下、呼称『ぺったん子ヨーヨー』を、この時スカウトするのでした……。
…………
………
(じじょーせつめー、割愛〜。めむめむ〜)
◆
……
…
「…だからヤだって。メムちゃん」
「……え、えぇ………。──」
614
:
『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:52:27 ID:cFeuEibI0
「──そ、そりゃお前はおっぱい無いから色々出来損ないではありますよ〜…? で、でも心配なく!! お前にはあるじゃないすか!! その露出された脚が…!! 太ももこそ最大のえろだって、魔界の──…、」
「ところで佐衛門さんー、悪いけどもう少し待ってくれるかな…? アタシの連れが今トイレでさ……。お願い!! もうちょっとだけだから!!」
「…ふふっ。何も急いでなんかいないさサヤさん………! それにしても、圧倒的災難だったね……。この山の中、一人でその人を背負ってたんだろう……?」
「うん…。ほんっとしんどかったし!! もう身体中ベットベトでさぁ〜。熱中症寸前だったよ〜〜! アイツ、本当に最低!!」
「オアシス……! ここを見つけた時は砂漠の中の湖だったろうね………!!」
「あーね。あはは〜っ」
「……………。──」
……あたしの存在ガンスルーで、やたら仲良し気に接するペッタンコと三四郎の二人…。
ねえ。
この会話、何が楽しいんすか。
「──うぇっ…♡」
「…ん? どしたー? メムちゃん」 「…またlemonの変なトコか………っ」
「…いや、ワンチャン三四郎の魂これで誘惑できるかな〜って。それだけっす」
「………会話に入れないことを逆恨みして、僕を殺しにかかったな…………っ!」
「てかもう淫魔やめたら? アンタ向いてないと思うよ」
「…くそっ……。くそぉお…、ちくしょぉおおおおぉおおおっ!!!!!」
「……」 「………あ、それで佐衛門さんさぁ〜…」
その白いエプロンは真っ平らな胸を隠す為の物なんでしょうか…。
でっかい髪ピンでセンター分けにして、バカみたいなミニスカートを吐く、ヨーヨー片手の嫌な女。
そのスカートの丈ゆえに、バヒョなら絶対鼻息を荒くするようなえろい脚で…、
そしてそのバカみたいなスカート同様の頭のレベルでしたよ、こやつは…。
はい、ハズレくじの連チャンっす。
このぺったん子ヨーヨーも、三四郎同様何にもあたしの役に立たないバカでした。
……はぁ……。
…今思えば、ラムネをグビグビ飲んでる最中を、あたしが急に話しかけたのが原因だったんでしょうか。
ワッ、と水を噴き出した後の、ヨーヨーガールの顔はものすごい変な顔で………、──多分第一印象から「なにこいつ…」って思われたかもしれないす。
んで、その後あたしの魂狩り説明を始めたら、…もう言葉を重ねる度に、どんどんどんどんコイツは嫌な顔をしていって…………。
「…え〜っ?! それ絶対ほたるちゃんじゃん!! どこで?! どこで見たの!!!?」
「なんだ知り合いなのか…………。そこの、海沿いで話したっきりさ。…彼女の方から急に飛び出していってね……」
「わー…、ほたるちゃんらしいアクティブさ〜……。んじゃさ、後でほたるちゃん探しも…いいかな?」
「はははっ………! 君は枝垂さん、僕は…会長。さしずめ僕らは探し人同盟だね………っ」
…気付けばこの有望な淫魔候補《ヨーヨーガール》は、あたしの後を追ってきたジョン・ベルーシ😎野郎ばかりと打ち解け合い。
あたしよりも、こいつに懐ききってるわけって感じっすわ……。
615
:
『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:52:41 ID:cFeuEibI0
なんすか…。
シダレホタルって…。
火垂るの墓の話…っすか………?
…もうっ、お前らを墓にしてやろうかってんだちくしょおこのおおおぉぉっ!!!!! あの映画も清太が普通にクズっすよね!!! もうおおおおおおおっ!!!!!
興味ないわ!! アンタらのイチャイチャお話シーンとか!!!!
人の苦労も知らずに……こんちくしょおおおおおおおおおおおっっ!!!!
「……はぁ………」
「…にしても遅いなぁ〜おじいちゃん。何してんのさ〜…」
「おじいちゃん………っ?」
「うん、アタシの連れ。…もう三十分近くだよ。…トイレで格闘しすぎじゃんっての!!」
「………おじいちゃんか。……──」
「──って…、あっ!」
ふわふわ〜
「………………」
「…メムメム……、どこに行くつもりだ……っ?! 危ないからサヤさんに引っ付いててくれなきゃ………っ」
…はぁ。
「……老人って便器冷たいだけですぐ心筋梗塞になるんすよね?」
「…なっ!? き…君……殺す気かっ……!? サヤさんの連れをっ………?!」
「あたしはね〜…もうスケジュールが分刻みなんすわっ! お前ら人間のくだらない会話聞く暇あったら魂っすよ!! タ・マ…シ✡イ!! そんだけです」
「……なにそれ。はいはい、言われてみれば確かに心配だしね。ちゃんとおじいちゃん死んでないか見てきてね〜メムちゃん」
「うしゃーす」
「おいおいサヤさん……っ。何故行かせるんだ………っ。あの子なら本気でやりかねないよ……、普通じゃないんだメムメムは………」
「え、大丈夫だと思うよ。…虫も殺せないじゃんメムちゃんは。ほら、まさに…」
「…え?」
…はぁ。
ほんとにバカデカため息っすわ。はぁ…………。
そりゃ、魂狩り《殺人》に加担しない人ってのは、…ほんとに褒められた存在で。
世間一般じゃ良い人になるんだろうけどさ〜…。
………なんで、こういういらない時に限ってそんな『優しい人』ばっかりに出会うんすかね、あたしは……。
…普段あたしが絶望してる最中なんか、誰一人とて優しくしてくれないっていうのに…………。
「メムちゃんの周り、すごい蚊たかってるでしょ?」
ぷーんぷん…
ぷーん、ぷーん…
「『虫も殺せない』とはこのことか………っ。はは…!」
「ぐぅっ〜〜〜〜……!!──」
616
:
『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:53:08 ID:cFeuEibI0
世の中って、なんでこうもあたしに不都合に回るんだろ…。
地球の自転どういう回りっぷりしてんすか。ほんと…………。
「──うっさいわムシケラ!!! …あ……、ひっひぃい〜!! さ、刺さないでよぉおお!!! しっ、しっ、おねしゃす〜〜〜っ!!!」
「あはは!」
…ま、こーしてあたしがフワフワ吸い込まれた先は、便所近く。
入口からアンモニア臭の渦中へと潜り込むに連れ、あたしの周りでは蚊に加えて蝿というムシケラの二重奏が展開……。…あたしはどうやら変な生き物にばかり好かれる性質のようっす。
電灯がバチバチッ…と切れかかる、辛うじて明るい公衆トイレ内。
一応、日頃掃除はされてるのかキレイっちゃキレイでしたが、汚物感を隠しきれないその男子トイレにて。
「…くくくっ………!! ききき…………!!」
「…あっ!! コイツか……。ヨーヨー娘のジジイは…」
────最後の『悪魔代行』の参加者が一人。
…
……
………
「……ところで、サヤさん。……君の…、そのおじいちゃんって人の話なんだけどさ…………っ」
「あ。別にアタシのガチ祖父ってわけじゃないからね、一応。…あんなのがリアルにおじいちゃんだったら、多分今頃アタシ少年院だわ…」
「……。……──」
「──…もしかしてだが……………っ。その人の名前さ」
「ん?」
──そのジジイは、用なんか足してなく。
──手洗い場で何がしたいのか、ティッシュ箱からティッシュを取り出しペラペラ…→グシャリと。
──…かつて『ティッシュン』ってゆう、あたしには最高の使い魔(ティッシュ)がいたから、ジジィのわけのわからない行動は妙にムシャクシャした。
──ジジィは後に、『ティッシュ箱くじゲーム』をしたかったと。この耄碌じみた行動の意図を語る。
…
……
………
「その人の名前…『兵藤和尊』…とかじゃないのか…………っ?」
「……え? ………………あの、質問で質問返すようだけど…さ、佐衛門さん」
「………なんだい……」
「…その、佐衛門さんが探してる『会長』ってのも……。もしかして……」
「……愚問だね………──」
──ジジィの足元には杖が落ちてあった。
──あたしはひたすら「それに気付かず転べ〜」と念じていたこの時だけども。
…
……
………
「──……兵藤会長。僕が殺す……唯一の参加者だっ……………!」
「えっ…!?」
──このジジィこそ、
────『兵藤和尊』様こそが、あたしの追い求めていた本物の悪魔だった────。
「……還るか…? 海…深海に漂う…藻屑…泥や砂…澱みに…!!」
「は…? 何の話すか? とりあえずお前、そこの杖で転んでみて──…、」
617
:
『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:53:21 ID:cFeuEibI0
カチャリッ
「…え?」
──そんな圧倒的悪魔に向かって、銃口が向けられたのでした………。
…………
………
(じじょーせつめ…──…、
◆
「あぁぁあ〜〜〜〜〜〜〜っ?! なんじゃ貴様はっ………!!」
「…ひっ!! め、めむめむ〜〜〜…」
「…………………っ」
「……犬っころめがっ……! 噛みよるというのか…?! 主人に向かって…黒服如きの分際で…………!!! あぁっ〜?!」
「…………………お迎えに上がりましたよ…っ。──」
「──会長…………っ!!」
…事情説明挟む間もなく、矢継ぎ早矢継ぎ早の展開っすよこりゃまた!!
618
:
『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:54:07 ID:cFeuEibI0
[登場人物] [[メムメム]]、[[兵藤和尊]]、[[佐衛門三郎二朗]]、[[遠藤サヤ]]
---------------
619
:
『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:54:18 ID:cFeuEibI0
突然便所に入って来たのは愚鈍な三四郎、そいつ本人。
……思い返せば、野郎は『会長』を殺したいだか何だかで…、一瞬あたしと気が合った仲ではありますが、……奴の標的は割とあっさり見つかったわけか。
ヘルペスピストルを、多分その『会長』御本人に向けて、目を血走らせるのでした……。
「…へ?! お、おい三四郎!! な、何を………」
「あぁ、勘違いしてほしくないんだがね…メムメム。…僕は別に会長へ恨みを持っていたりとか………、そういう怨恨、復讐心はないのさ………………」
「は?」
「…ちぃっ………!! とどのつまり……貴様は特に意味もなく……王へ反逆精神………っ!! 造反をするというのか……………っ! 気の触れた……救いようのないゴミめがっ……──…、」
「…いや。…大義名分は薄いにしろ僕だってありますよ。…貴方を殺す、意味がねっ………!」
「あぁ………!?」
「…いいですか。日本は極めて平和な国です……。汚職政治家に、権力を盾に暗躍する犯罪者、捕まらないバカ息子…………、そしてブラック企業経営者……っ。ソイツらは日本国民何千万人から何度も殺されています……──」
「──ただし、それはあくまで空想の中でのみ…………っ」
「あ?」 「…あくまで? 悪魔??」
「その空想は…決して現実化しない……っ。空想と現実の垣根は意外に高いのですよ………っ。頭の中だけで完結する殺人なんです…………──」
「──ただ、ある日突然…自分の目の前に銃が湧いたら………──」
カチャリッ
「──そして同時に、今住んでいるこの場所が…法もクソもない無秩序………っ。治外法権地帯になったら………………っ──」
にじりっ…
「──権力も何も通用しない………、そんな自由を限界突破した世の中で、人々はどう生きるか………っ──」
「──…一線っていうのはですね、……こういう奇跡の積み重ねで簡単に超えられちゃうんですよ………っ──」
「────なにせ、殺人っていうのは誰でも簡単にやれるんですから……っ! やろうと思えば…誰でも………っ!!」
「…あぁ? …貴様………」 「…なんすか急に…三四郎………?!」
「あ、言い忘れてましたね。…僕が会長を殺す理由。それは、貴方が悪評高い経営者だからです………。貴方の命日は貴方の誕生日よりも祝われる……。喜ぶ人はたくさんいるんだ……………っ──」
「──理由はそれだけです………──」
「────終わらせましょう、何もかも………………っ!!」
620
:
『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:54:31 ID:cFeuEibI0
「ぃっ…………」
「………」
人も百人殺せば英雄になる、だか。
放たれた弾丸、命中するが悪ならば即ち無罪、だか……。
要するに、この三四郎野郎は、英雄気取りでジジィを襲ってるみたいっすね。
…コイツを同じパワハラ被害者無能《仲間》だと思ってたあたしが酷く惨めっす…。
結局は独りよがりな考えで殺意を抱いてたんすから…もう同情もできないっすわ、コイツには……。
まぁコイツがどーゆー動機でジジィを襲おうがあたしとしては、どうでもイーグルす。
…ふふふっ。
……この時はまだワナワナ震えていたあたしですが、…実は心の奥底では踊り狂ってたんすよ。…あたし……!!
え? 何でって?? 言うまでもない!!! 念願の魂ゲッツの時到来なんすから!!
三四郎が弾丸を放ったその時、その瞬間…、
……こんな老いぼれがヴァージン破りとは何となく不服ではありますが……、とにかく魂を手に入れれるんすよ!!
魂を!!!
レース先輩に褒められるだろな〜♪
周りのみんなは悔し涙でハンカチを噛みしめるだろな〜♫
所長からお菓子(ご褒美)たくさん貰えるだろな〜〜♪
あたしは人生最大の転機を前に、妄想が膨らんで仕方なかったんすから!!
フィーバーっすよ!!!
──……まぁ、ただ。
「……クククっ…………!」
「……な……?」
「カカカ……っ……、キキキ…!!! クゥ、クゥクゥ…!!!」
「何が…何がおかしいんですかっ………!!! 会長っ……………!!!」
「思い出した…………。貴様はたしか…、…利根川グループの…、何やらいけ好かぬ…小僧じゃな…………?」
「……………っ。王の最期の言葉にしては随分締まらないですね…………っ」
「カァーーっ!!! キキキキキっ!!! かぁーカッカッカッカッカカッカカッカッカッカッカ!!!!!、ぐききき……っ!!!」
「………だから、何がそんなに笑えるというのですかっ………!! 貴方は死ぬんだ……、殺されるんだよ──…、」
──多分〜…。魂が飛び出る相手は…。
「キキキ………っ。おい小僧、震えてるぞ…………? 手が……!!」
「…!! ぃッ…………………!!! ………」
「その手で撃てる自信があるというのなら、大した腕前じゃないか…………!? あぁ〜? 小僧…っ!」
「…くっ、…ならお望みどお──…、」
「本日をもって利根川グループ社員は全員地下行き確定………っ!!!! ────やれ、『小娘』がっ………」
──『三四郎』の方になるんすがね…………。
621
:
『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:54:46 ID:cFeuEibI0
バシッ────
「がぁっ………!!!?──」
「──……………えっ…?」
シュルシュル〜…と勢いよく伸びていって…ばしんっ!!!
三四郎の右手目掛けて飛んできたプラスチック製の球は、奴の持つヘルペス銃をはたき落とし……。
紅脹して痛む右手を抑えながら、三四郎は後ろを振り返って、…………絶句。
「……ごめん」
「え………。…………え?」
「…ごめんなさい。佐衛門……さん……………っ」
「………え」
「くぅっ!! きぃーっききききき!!!! かかかかかかかーかっかっかっかっかっかっかァ─────っ!!!! ききききききききっ!!!!!」
「さ、サヤ…………さん…………………?」
「………………」
……印象的だったすよ。
『兵藤和尊』名義のバカみたいな桁が書かれた手形を片手に、何とも言えない表情をするヨーヨー娘は。
…そして、まさかの裏切りを前にして、腫れたかのように目をまんまるとした三四郎の顔は……。
「……サヤ、さ……………」
「…本当にごめんなさい。…ねえ、これでいいよね…。──」
「──兵藤様……………」
……本当に三四郎の表情は記憶に残るくらいだったっす。
アイツの『絶望』を一瞬で理解したっていう…その顔は、ものすごい異色放っていたっすから………。
622
:
『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:54:58 ID:cFeuEibI0
「かーーっかっかっかっかっ!!!! ききききかかかかかかっ……!!!!──」
「──これでいいか、じゃと………?! バカがっ…!! 足りんわ……!! ききききっ……………」
623
:
『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:55:10 ID:cFeuEibI0
◆
満月。
そう、満月。
狂犬病に感染した生物は月光を浴びると、カミソリの如く激しい痛みに悶えるらしい。
──月はまさしく悪魔の眼光でした…。
バシィン────ッ
バシィン────ッ
「ぐぅっ…………!! がぁっ………!!!」
「制裁っ……!! 制裁、制裁、制裁っ…………!! この塵芥……ゴミ……っ…ゴミ以下のカスがっ……!!──」
「──制裁っ…!!!」
バシン────ッッ
「がぁっ……………!!!」
公衆トイレ外にて、響く嫌な打音。そしてうめき声……。
……まるで調教っすよ。
出来の悪いウマを鞭でビシバシ叩きのめして………、ウマはウマでデカい図体してるのに調教師には反撃すらもできずただ叩かれ続ける…………。
ヨーヨーガール曰く、ジジィ改め兵藤のヤローは『人間競馬』っていう…全く想像もつかない遊びをするのが好きらしいんすが。
サングラスを弾き飛ばされ、杖で好き放題背中を叩かれ続けるウマ──三四郎と…。
そのウマを一切人間扱いせず、涎を垂らしながら怒り殴る調教師──兵藤のジジィ………。
…今あたしが見てるこの光景こそが『人間競馬』みたいなモンでしたわ……。
バシィン────ッ
バシィン────ッ
「ぐぅっ……………!!」
「分を弁えろ……っ!! たかが黒服が…っ!! たかが黒服がぁっ……!!! 制裁…!! 制裁…!!」
「あ、ぁ、わ…………。ひ、ひ……ひゃっ…………」
……正直ね。めちゃくちゃ震えまくって、もう金縛りって感じだったすよ。
…この時のあたしは………。
「…ちょっと………っ。……お、おじいちゃん…もう……やめてよっっ!!!!」
「あ〜……っ?!」
「……さ、サヤ………さ…ん…………………」
…あっ。
言っときますけど別にあたしは兵藤のヤローに…び、ビビり倒して震えてたんじゃないすからね?! …こ、こんな耄碌、全〜然怖くないし何も思ってないすよ……!!
…この時あたしがいた場所は、ヨーヨーガールのえっろい胸の中……。
──つまりこの女に抱かれ持たれてる感じだったんすから!!
ほら、あたしってオッパイ恐怖症じゃないすか!! それが原因でビビリまくってたんすからね!!! こ、こんなジジィの制裁なんか余裕だったんすから!!!
「お願いだからもうやめてって!!! ねえおじいちゃん……っ!!!!」
「あんじゃ小娘がっ………!! 女の癖に……しゃしゃり出るなマヌケ………っ!!」
「いやふざけないでって!!! …もう十分でしょうが…………」
「…ぁあ〜〜〜〜〜〜っ??!! あぁ〜〜〜〜????」
「ひ、ひ〜ひぃ………。あ…ぁ……ぁ……!!」
624
:
『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:55:25 ID:cFeuEibI0
……へ? なんだって??
──『そのヨーヨーガールは胸がペッタンコなんだろ?』
──『だからお前が彼女にビビるのはおかしいじゃねぇか』…って………………?
…………。
……まぁそんな細かい話はさておき…。
さておきっすよ。もうっ!!
…『叩けば直る』だなんて、まるでのび太ン家のテレビかっ!! てぐらい、三四郎をボコボコにするジジィ…。
そんなヤローの邪智暴虐っぷりには、流石のヨーヨーガールも黙っていられなかったのでしょう……。
若干涙ぐみながら、コイツは静止に駆け付けて来ました。
一方で、当のジジィといったら、…まぁ孫の年ほど離れた娘に「もうやめて」と言われたわけっすからね。
『チッ』──…
って、舌打ちを飛ばした後、思う事があったのか。
物凄く嫌な目つきをしながらも、杖を振るうのを停止しだしました。
「………クソっ……。……………虫けらにも劣る…奴隷………っ。自由を知らない、ボウフラ同然の奴隷如きがっ……………。王であるワシに……楯突くとは………………」
「ぐうっ…………………。がぁ……あっ………………………」
さっきね、三四郎が公衆トイレ内からほっぽり出された時、ジジィが「向こうの自販機からなんか買ってこい」って小娘に命令したこともあって、
ヨーヨーガールとジジィとの距離は今、まぁまぁに離れてはいたんすけども。
小娘が泣きながら(──あとあたしを抱えながら──)ジジィの元へと近づいていく間。
三四郎の胸ぐらをシワクチャな手で掴んだジジィは、
「おい……っ!! どのくらいじゃっ………!! 貴様の……視力は………っ!」
「ぐぅうっ……。……な、何故…今………その話を………」
「あぁ?! バカがっ……!! 淀み…濁り…腐りきり……っ!! 貴様の目はあまりにも酷すぎるっ……。──」
「──高価な品……本当に価値のある一級品………。普通の人間には…素晴らしき品を見定める彗眼が備わっとるものじゃが…………。…圧倒的価値…巨万の富である王……このワシを襲うとは………。貴様には見る目がなさすぎるわいっ……!! ──」
「──これを見ろ……っ!!! ゴミっ…!!」
「…え………?」
懐から、折り目一つない新札のお金。
…どこの国のお金かは分かんないっすが、それを一枚取り出し、三四郎に見せつけると、
「おいっ……!! 分かるか……この貨幣の価値がっ………!! 一体コイツは何円じゃっ…!! 答えろ…、答えろゴミ……っ!!!」
「え。………い、一万………ペリカ…………。…地下で通用する……お金の──…、」
「ちぃぃっ…!! 黙れっ……!! …やはり…貴様はゴミ………!!──」
三四郎の右目を無理やり開かせて、
「────…刮目せよっ………!! クズめがっ……!!」
貨幣の切れ目を、眼球に、────シュッ────────。
「ひッ」
「ぁ」
「がぁッ────」
──今夜は満月。
真っ白でまんまるなお月様へ、一筋の黒い雲が横切っていました────。
625
:
『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:55:38 ID:cFeuEibI0
「ぎい゙ぃぃぃいがぁ゙あ゙あぁぁッ…!!!!!!! ぐがぁ゙ああああぁぁぁあああぁぁあああぁああああああああああああああああああ────────ッッッ!!!!!!!!」
「ぐうっききき! きききぃっ……!!」
「…ぁっ………左衛門……さ………………………」
「あ゙がぁあああ゙ぁぁぁああぁぁぁあぁぁああぁあぁぁあぁぁあぁぁぁあああぁぁあああああぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッ」
「カ────ッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカァ───────ッ!!!!! クゥクゥクゥーカッカッかっかっかっかカッカッカァーー!!!!」
…異常な光景を前に、ヨーヨー娘は絶句しきって。
…あたしだってもう魂が抜けたんじゃないかってくらい頭が空っぽになって。
……三四郎は我を忘れて地面を転がり狂う…。
──あの場にいた四人の中で、楽しかったのは兵藤和尊。奴だけでした。
────奴だけだったんす。
────人間のフリをした………『真の悪魔』は……………。
「カァ────ッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカ!!!!!! カ────ッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカァ───────ッ!!!!!」
626
:
『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:55:54 ID:cFeuEibI0
…………
………
(ぽわんぽわん、めむめむ〜)
(回想終了〜)
……
…
「…以上が事のあらましっす!!」
「…」「…う、うげぇ…」
「いやぁ〜思えば長旅だったすわ…。アホの千花にデカ外国人、それに三四郎とヨーヨーガール……何人もの使えない参加者達に出会い続け…三時間近く!! 誰一人とて魂回収に協力してくれない中……、やっとあたしの努力が報われたんですよ……!!──」
「──今はお休み中の兵藤様ですが…奴こそが!! 奴こそが最強の悪魔であり、あたしのナイスバーディ!!! 勿論奴とは手形で契約したのでね!! 奴を以ってして、取れぬ魂はないときたもんすわ!!!──」
「──うふふ…♫ あたしもついに一流の悪魔の仲間入り!! もう讃美歌をカラオケしたい気分っすね♪ ふふ…!!──」
「──というのに…っすよ」
「お、お前ぇ…………………」
………はぁっ……。
「なんで兵藤のヤローを部屋から追い出したんすかぁああぁぁぁああっ??!!! 寝てる隙にポイ〜って………!!!!!! 酷いじゃないすか〜あんまりすよ、バヒョぉおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」
「バカヤローっ!!!! なんて回想をオレらに見せつけるんだっ??!!! そんな危険思想なじーさん連れてくるなぁあああ!!!! どこまでバカなんだお前はぁあああああああ!!!!!!」
「せっかく魂をゲットできるチャンスだったのにぃいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!」
「…とりあえず一つ。メムちゃんは淫欲(?)な方法で魂を集めるのが仕事なんでしょ?」
「あぁぁああっ???!!! なんすか高木んんんん〜〜〜っ!!!!」
「…本当に殺しちゃう手段取ったらさ、そのレースさんに…逆に凄い怒られると私思うんだけども」
「え…………………」
………………………。
「と、とにかくジジィを連れ戻しますよっ!!!!? あたしはヤツの財源と力が必要なんすからぁあああああああ〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!」
「あっ!!! ま、待て!!! やめろメムメムぅ───────っっ!!!!!!」
ジタバタジタバタ…
「もがぁあああぁああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!」
……東●ホテル、十一階・2106号室。
……超後悔っすよ。マジ。
…高木とバヒョの奴にあたしの回想を見せてなきゃ……、魂集め計画はオジャンにならなかったんすからね……………。
627
:
『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:56:05 ID:cFeuEibI0
…はぁ。
こっちの気も知らずに、ジジィは時間帯が時間帯なだけあって、廊下のどっかでむにゃむにゃ呑気に睡眠中っすわ。
もう、ちくしょぉめぇえ〜〜…………っ。
「こくりこくり……。あぁ〜〜〜………。むにゃむにゃ…」
【1日目/F6/東●ホテル/11F/2106号室/AM.04:30】
【メムメム@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】???、兵藤からの手形百万円
【思考】基本:【奉仕型マーダー→魂集め】
1:アホそうな参加者をマーダーに誘導して、魂を集める。
2:……というわけで、ベストプロフェッサー・兵藤様を連れてきたというのにぃ〜…。作戦失敗だチクショー!!
3:どっかに魂、落ちてないすかね………。
【高木さん@からかい上手の高木さん】
【状態】健康
【装備】自転車@高木さん
【道具】限定じゃんけんカード@トネガワ
【思考】基本:【静観】
1:兵藤さんに警戒。
2:メムちゃん、小日向くんと行動。
3:西片が心配。
【小日向ひょう太@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】健康、人間(←→サキュバス)
【装備】ドッキリ用電流棒@トネガワ
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:兵藤に警戒。
2:高木さん、メムメムととりあえずは行動。
3:…メムメムと関わったばかりに、あのサングラスの人の人生はメチャクチャ……。
※ひょう太は水をかけられると男、温かい水なら女(淫魔)になります
【1日目/F6/東●ホテル/11F/廊下/AM.04:30】
【兵藤和尊@中間管理録トネガワ】
【状態】睡眠
【装備】杖
【道具】???、懐にはウォンだのドルだのユーロだの山ほど
【思考】基本:【観戦】
1:こくり、こくり……。
2:展望台の頂上から愚民共の潰し合いを眺める。
3:王に逆らう者は制裁っ………!!
628
:
『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:56:20 ID:cFeuEibI0
◆
…佐衛門さんの崇拝する、利根川センセって人曰く。
『金は命より重い』────とのことらしいけど…。
…冗談じゃないッ………。
金が全てなわけがあるかッ…………。
この世の全ての物に金がかかるだけで、あんな紙切れが何よりも大事な訳が無い………ッ。
…決別の意として、兵藤の手形をビリビリに破いた時。
……アタシは後悔なんか一ミリも湧かなかった…………────。
「……はぁ、はぁはぁ……。ぐうッ………。はぁ……」
「…さ、佐衛門さん…大丈夫……なの…!?」
「はぁ、はぁ…………。大丈夫にッ………見えるのか…………ッ?」
「あ…い、いやごめん。そういう事じゃなくてさ……──」
「──ソレ、…『違法』な奴……だよね………?」
「………ノープロブレム………っ。コイツは『医療用』と銘打ってるんだから………脱法ドラッグだよ…………ッ。……吸わなきゃ、痛みでやってられないさ……………ッ──」
「──スゥ…ハァッ………。…フゥ………ハァアァッ…、ッ………。」
「……………………ほ、程々にね………」
サングラス越しで眼帯を付ける彼。
唯一露わになっている彼の左目は、…もう鬼ってぐらいに怒りで血走っていた。
…真っ暗な病院にて、お目当ての『ソイツ』を探り出した彼は、一心不乱に袋の中身を吸い続ける。
………さっきまでの優しくて、比較的まともだった佐衛門さんはもういない。……そんな気がして堪らなかった。
「…………ハァハァッ…………──」
「──…申し訳ないね。……サヤさん」
「えっ…。い、いや…!」
「………もう痛みはだいぶ……和らいできたとは思うからさ……………っ。……そろそろ、行こうか………」
「……え…。だ、大丈夫なの……?」
「…そりゃ、大丈夫…ではないさ………っ。…ただ、君こそ大丈夫なのかい………。こんな不気味な病院で……長居するのは………」
「…………うぅっ…! …そ、それは確かにだけども…」
「……よし、なら出ようか……。…ねっ………!」
「…うん………分かった」
…金なんか要らなかった。
恐怖も、絶望も、文字通り『こんな目に』遭うのももう嫌だった。
金なんかよりも……、たった十円ぽっちで大分満足できる……平和であまい菓子の方が何倍もいい。
……もう二度と金に惑わされてたまるか、って…ッ。
629
:
『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:56:55 ID:cFeuEibI0
「…ねえ、…………ごめんなさい。私の方こそ」
「………」
「……あの時、佐衛門さんにヨーヨーぶつけなきゃ…………裏切っていなきゃ………ッ。貴方は今頃──…、」
「……ははっ………。僕が謝ったものだからゴメンナサイ返しか………………。いいよ気にしなくて。罪悪感なんて最も非生産的な感情だ…っ。もうよしてくれ…。──」
「──…ありがとうね、サヤさん…」
…
……
………
────“金さえあればなんでもできると思うなッ……!! ジジイッ……!!”
────“……。行くよ、佐衛門さん…”
………
……
…
「──…あの時……、こんな僕を庇ってくれてさ………っ」
「…………うん」
…アタシには兄貴がいる。
頭が悪くて、ダメダメで、スケベ心だけはいっちょ前の愚兄だけども、…それでも大切な。
──『サングラス』がトレードマークの兄がいた。
佐衛門さんの肩を支えながら、アタシらは病院を後にする。
……一応補足。
アタシアタシ〜って一人称だから勘違いしちゃったかもだけど、アタシはメムちゃんじゃない。
…そしてヨーヨーガールぺったんこって名前でもない………。
アタシは、──────遠藤サヤだ。
【1日目/D6/東京ミッ●タウン周辺街/AM.04:31】
【遠藤サヤ@だがしかし】
【状態】健康
【装備】あやみのヨーヨー@古見さん
【道具】フエラムネ10個入x50
【思考】基本:【静観】
1:佐衛門さんと行動、そして互いに助け合う。
2:ジジイ(兵藤)を絶対許さない…っ。
3:ほたるちゃんを探したい。
【佐衛門三郎二朗@中間管理録トネガワ】
【状態】右眼球切創、背中打撲(軽)
【装備】ヘルペスの改造銃@善悪の屑(外道の歌)
【道具】???、医療用●麻x5
【思考】基本:【静観】
1:サヤさんを守る。
2:会長に激しい憎悪。
3:……メムメム、アイツについていって大丈夫だろうか………っ。
630
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:58:32 ID:cFeuEibI0
以上で二本目終了です。
引き続き、『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』をお送りします。
631
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:58:53 ID:cFeuEibI0
[登場人物] [[野原ひろし]]、[[海老名奈々]]、[[飯沼]]、[[山井恋]]、[[マルシル・ドナトー]]、[[魔人デデル]]、[[新庄マミ]]、[[うまるちゃん]]
632
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:59:15 ID:cFeuEibI0
**短編01『迷走家族F(ファイアッー!)』
[登場人物] [[野原ひろし]]、[[海老名奈々]]、[[飯沼]] / [[マルシル・ドナトー]]、[[山井恋]]
『時刻:AM.04:56/場所:東●ホテル3F』
『────現在』
---------------
633
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:59:27 ID:cFeuEibI0
ガガガガガガ────ッ…
バキバキバキ────ッ…
「…ぼっ、僕には……、妹がいるんですよ。歳の離れた…夏花っていう…………」
「………」 「…い、ひぐっ…うぅ……」
飯沼がふと口を開いた。
豪華な扉を、静かに綺羅びく灯りを、誇り一つない床を。
小学校低学年の版画が如くウンディーネが無作為に切り裂く中。──ひろし等は縮こまりながら、飯沼に耳を傾ける。
ウンディーネ【水先案内人】──。水の精霊である奴が居る場所は階下なのか、階上なのか。そもそも今、何体に分裂したのか。
どちらにせよ、ウンディーネの繰り出す『ウォーターカッター』はレーザービームそのもの。
岩、鋼、人体に人骨。何であろうと簡単に真っ二つにする威力な物だから、奴が暴れ狂うこの場──東●ホテルの長居は危険極まりない自殺行為である。
奴と闘っても勝ち目などなかった。
ましてや、戦闘どころか喧嘩すらも無縁なひろし、飯沼、海老名の三人なら、即刻退避が望ましいだろう。
ただ、三人には。
──厳密には、飯沼には残らざるを得ない『使命』という物があった。
「うぅっ……ぼ、僕は一人暮らしをしていて…。……たまになっちゃんが遊びに来て……料理を振る舞って…やるんですが…………。『美味しい…!』って歓びを共有するあの時間が……凄く好きで…………………」
「……………」
「…僕、人と話すのは…苦手で………。…昔から…人にはあまり興味もなかったん……ですが…。…なっちゃんの面倒は…よく見たんですよ………。…アイツ、お兄ちゃん、お兄ちゃんっていつも……………──」
「──そんな妹に……、マルシルさんはよく似ている……っ。…彼女、僕のことを慕って…なついてくれるんです…──」
「──こんな卯建が上がらなく、……暗い…魅力がない僕なんかに………。彼女は………、…マルシルさんは接してくれた…………」
「…飯沼君………っ」
ガシャンッ────、と。窓ガラスが真っ二つに切れ落ちた。
「ヒィッ……!!! ………ひぐっ………──」
「「──あっ!!」」
否。
切断されたのは窓ガラスのみではない。
水の精霊による無差別乱射は、天井の照明にも及んだのか、三階廊下は薄暗さに包まれる。
暗闇が、怖かった。
無は恐怖だった。
無は何もかもを不安と絶望に覆い包んでくれる。
死への絶句と視界不良から、海老名はもうパニックで、二重の意味で眼の前が見えなくなっていた。
ただ、唯一、はっきりとこの目で捉えれた事がある。
それは、水圧による斬撃と。
そして頭を地面につけて懇願する、飯沼の姿。──涙だった。
634
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:59:40 ID:cFeuEibI0
「…い、飯沼君っ!!」
「………だ、だからぁ……っ!!! …お願いしますっ…、野原さん!!! …一緒にマルシルさんを…………。お願いします…………!!」
「………っ!!」
「ここで逃げたら………僕は…………自分のことが…堪らなく嫌いになる………。だ、だからぁ…野は──…、」
「もういい。飯沼君」
「ひ、ひろしさん……!!」
「………………」
ガガガガガガガガガガガ────ッ…
ガシャン────ッ…
曲がり角奥から、何かが大破する音が響いた。
縮こまって頭を上げない飯沼の背中へ、ポンと置かれる掌。
手を置いた張本人──野原ひろしは、この時何を考えたのか。
辺りは目を凝らさざるを得ない程暗闇だったため、その表情は飯沼、海老名共に把握できなかったが。
────無論。
ひろしという男は双葉商事係長を勤め上げ、これまで幾多のビジネス的困難を昼メシの力で挑んできた人物。
心の底から懇願する若者へ、「諦めろ」等とドライに言い放つ男ではなかった。
「…喋ってる暇があれば足を動かせ──社会人のモットーだぜ、飯沼くん……!!」
「………っ!! の、野原さん…っ」
「……確かにオレたちはそのマルシルさんを知らねぇさ…。…だが、それがどうしたってんだっ…!!──」
「──オレらサラリーマンはどれだけ身が削れても…どれだけ心が減っても…耐え忍びっ…。社会という大きな壁に向き合ってきたんだ…………──」
「──バトルロワイヤルだぁ…? 生死の戦いだぁ? ンなもん知らねェッ!! サラリーマン人生を歩んできたオレらに……今更怖いものなんかねェんだよッ!!!」
「………っ!」
「…マルシルさんのいない世界に未練なんてあるかってんだッ………!! ……行くぞ……。た、助けに行くぞオイッ!!!」
「の、野原さん…!!」
「ひぐっ……、ぐっ………………う……」
635
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:59:52 ID:cFeuEibI0
──それが野原ひろしという男の『流儀』だった。
飯沼に鼓舞を打った後、ゆっくりと立ち上がっていくひろし。
彼は、半ば巻き込まれ状態である海老名に一言詫びを入れると、前へ向いた途端、その目は一変。
覚悟を決めたその眼、その魂のまま、マロが向かったであろう十一階。──即ち、移動手段であるエレベーターへと歩んでゆく。
あとに続くは、怯えつつも勇気を振り絞って立ち上がる海老名、飯沼の両名。
────奇しくも三人は飯好き。美味しい物好き。グルメ大食いという共通点を持つ。
空腹よりも辛い、惨劇のホテルにて。
三人は1421号室で身を縮こませるマルシルを救いに、恐怖と抗う。
ひろし等が第一目標として、その姿を探すは、自分らをこんな目に遭わせた戦犯の内ともいえる──マロ。
「オレが…絶対に皆を……。責任持って守ってやるからなッ……」
「………はいっ…」 「ひっ、ひっ…………。ひろし、えぐっ…さん…………」
「……。………野原一家ッ……F【ファイアーッ】………!!」
ただ、この絶望へ抗うにあたって、三人合わせて武器一つのみとは、あまりにも心細かった。
636
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:00:18 ID:cFeuEibI0
………
……
…
「…はっ、はっ、はっ、はっ」
─────パッ
「……きゃっ………──ぁ…っ?!! 何ここ…?」
「…え!? うわっビックリした?!!!」
「……は? は?? は? はぁっ?! って、あの時のバカ犬っ!!! て、てんめっ…」
「…はっ、はっ、はっ、はっ」
「…え。血、大丈夫………? というか、だ、誰なの、あなた…………??」
「………は? 私山井恋。これで満足? ていうかアンタ何してんの? バカ犬にペロペロ股間舐めさせて………。こんな事態に発情期……?」
「なっ、ち、違うわいっ!! この子が部屋に入ってきて…急にスカートに突っ込んできたんだけどっ!!!──」
「──あ。あと私はマルシル。マルシル・ドナ──…、」
「あーどうでもいいよアンタの名前なんか。別に仲良くする気はないし、興味ないって感じ〜〜?」
「…は、はぁ??!」
「ま、何はどうあれ…。そのクソカスが眼の前にいるんだから結果オーライって感じ…かな。私が用あるのはその犬だからさ〜」
「…??」
「────だからアンタは死ね。…バイバイ、マルシル何たら」
ガガガガガガッ………………
*『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
〜パルプフィクション。短編を時系列シャッフルで綴る、群青劇〜
[総登場人物] [[野原ひろし]]、[[海老名奈々]]、[[飯沼]]、[[山井恋]]、[[マルシル・ドナトー]]、[[魔人デデル]]、[[新庄マミ]]、[[うまるちゃん]]
---------------
637
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:00:39 ID:cFeuEibI0
**短編02『古見八犬伝』
[登場人物] [[山井恋]]
『時刻:AM.04:08/場所:桜丘の森』
『────『←』巻き戻し/話は16分前に遡る。』
---------------
638
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:00:50 ID:cFeuEibI0
『犬』という動物は、──血統、種類にもよるが──知能面に関して人間の二歳から三歳程度。
つまりは、IQ90程の知能を兼ね備えているらしい。
動物学的研究結果によると、ニンゲンを除いて平均知能の最も高い生物は犬とのこと。
遡ること古代エジプトから、犬は人間の一番のパートナーとして可愛がられて来ているが、その頭脳は計り知れない物なのだ。
従って、躾も訓練を熟せば容易に覚えさせられる。
下衆な例となるが、例えば────『バター犬』だとか。
「はっ、はっ、はっ、はっ、」
渋谷サクラステージの一角にて、舌を出す大型犬が一匹。
この犬の名前はマロ。
そして、飼い主の名は今江恵美────と、本来なら説明する所だが、マロは殺し合いにおいて『支給品』。
参加者の一人──佐野が連れ忘れた犬であり、バトロワ的には彼女こそが飼い主であった。
そっと吹き付ける夏風の指示の元、マロは一人でに動き出す。
犬の視線が捉えた先には、呆然と膝をついて座る女子生徒がいた。
血溜まりと嫌な死臭が立ち込む中、それでも身動きを取らない彼女の放心っぷりたるや凄まじい物ではあっただろうが。
「……はぁ…はぁ、はぁ………………。…何してんだろ、私…………」
マロは、
「はっ、はっ、はっ、はっ、」
いや、『クン●ーヌ』(命名:黒木智子)は、
「はっ、はっ、はっ、……」
「……ごめんなさい。……只野…く──…、」
「はっ、はっ!!!!」
ズボッ────
「んおわっ!!???」
誰に教わった躾なのか。
女子生徒のスカート内へと顔を突っ込み、ベロベロと股ぐらを舐め出していった。
639
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:01:02 ID:cFeuEibI0
**短編03『北埼玉ブルース』
[登場人物] [[野原ひろし]]、[[海老名奈々]]、[[山井恋]]
『時刻:AM.04:10/場所:渋谷駅前』
『────通常再生』
---------------
640
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:01:17 ID:cFeuEibI0
「はっ、はっ、はっ、はっ、」
ペロペロペロペロ……
「わっ!! ちょ、ちょっと…!!! えっ?!! ひ、ひろしさん…た、助けてくださぃ…〜〜!!!」
「なっ、なんだこの犬は〜〜っ?!!! …くっ……。や、やめなさいっ!!!! …この破廉恥野郎〜っ!!!!」
────ボコッ
げ ん こ つ!!
シュゥゥゥゥ〜……と、倒れたマロのたんこぶから湯気が出る。
渋谷駅待ち合わせ場にて、唐突に現れては海老名の股ぐらへダイビングしたこのバカ犬。
海老名の同行者──ひろしは、色んな意味で突飛な襲撃者に、思わず手が出てしまった。
「え、海老名ちゃん大丈夫か〜っ!!?」
「うっ、え…は、はい………。…あの、いくらなんでも…殴るのは酷いですよ〜……。わんちゃんを……」
「…う、うぅ………。…自分の行いを正当化するつもりはないが、仕方ないってもんだぜ〜…?」
「し、仕方なくなんかないですよぉ〜!!」
「海老名ちゃん、考えてみるんだ! SASという部隊では軍事犬という攻撃専門の犬がいると聞いたぜ。…今は殺し合い中だ……。この犬も、もしかしたら誰かが送り込んだ刺客という可能性もあるから…警戒を──…、」
「はっ、はっ、はっ」
し〜〜〜ん……
「流石にないと思いますよ………?」
「……………ああ、オレが馬鹿だったよ。すまない!! …さしずめ、一人暮らしのOLからの刺客…かなぁ……。この犬は………」
見れば見るほど間抜け面のマロ。
ひろしは脱力感でくたびれそうなほど呆れ返った。
時刻は午前三時。──普段なら騒ぎ足りない若者達が踊るこの時間帯も、今や閑散とした寂しさが漂う。
つい先程の、何処ぞの参加者によるバカでかい拡声器発声もまるで嘘のような静けさだった。
新田義史追放以降、男手一つで海老名菜々を守るは、双葉商事のスーパーサラリーマン野原ひろし。
ローン十年。三十五歳。これまで幾多ともなるトラブルに立ち向かってきたひろしだ。
治外法権下と化した渋谷区で、彼が何もしないなどある訳がなく────、
──という訳はなく。
現時点では、海老名を連れて渋谷駅を出ることしか行動を取らずにいる。
待ち合わせ場所まで出て早数十分。
未だ、彼ら一行は基本スタンス通りの【静観】を貫き続けている。
「はっ、はっ、はっ、はっ、」
「はは…あははぁ〜…。それにしてもめんこい犬だべな〜〜……」
「…言うほど可愛いか〜? そいつ……。まぁ人それぞれだけどよ〜」
「待て!」────と、犬の躾の如く待機を貫くひろし等。
これは当然ながら誰かに指示されてのスタンスではない。
──そして、何も考えず愚鈍にただ突っ立っている、という訳でもなかった。
言わば、『何もしない』という策である。
軽く遡るは、数カ月前のランチタイム。
束の間の休息を釜飯屋にチョイスしたひろしは、あろうことかスマホを会社に忘れてしまっていた。
本格的釜飯店ともあり、出来上がるのにも数十分掛かる。
その窮屈すぎる長い待ち時間、暇を潰す道具も持たずして一体何をすれば……と。
熟考に頭を働かせたひろしが辿り着いたのが──『何もしない』事なのである。
641
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:01:31 ID:cFeuEibI0
“待てよ…。なんでオレは何かをやらなきゃいけないと思ってるんだ…!?”
“思い返せばちょっと時間が空くといつもスマホをいじっていた…”
“何もしないでいるのを時間を無駄にしていると思っていた……”
“──けど本当にそうなのか────?”
この思い付きは結果的には得。
ひろしのこれまでの考え方をリライトする、新たな価値観となった。
何もせず、店の中をぼんやり眺めてみれば、雰囲気の出る竹ザルやアンティークな掛け時計、囲炉裏の上にある魚の飾り等…古民家風な凝った装飾が発見できる。
その温かみのある内装にひろしは心から落ち着いた様子であった。
もしもスマホを会社に忘れてこなかったら、これら店の雰囲気には一つも気づかなかった事だろう。
情報だらけの昨今。
ひろしは、こんなにも落ち着く気持ちになったのは久々な気がしていたのだ。
「かわいいな〜えへへ〜〜!! あ、ひろしさんもよかったら撫でますか…? わんちゃん」
「え? いや、いいぜ。うちはもうシロで散々撫で飽きたモンだからな〜〜」
「あ、そうですか〜。…めんこいな〜〜」
「はっ、はっ、はっ、」
────ただ待つという贅沢。
何もしないことにより、今まで目に付かなかった物がハッキリと感じれるようになるから、と。
今はまだゲーム開始から三時間も経っていない。四十五時間も短いようで長い時間が有り余っているのだ。
従って、以上の経験の元。ひろしは海老名を説得し、ただ何もせずにい続ける。
本当に、何にも──。
「はっ、はっ、はっ、はっ、」
「んん〜〜〜!! かわいい〜〜〜! …………──」
「──……………。…………」
「ん? どうしたんだ海老名ちゃん」
「あっ!! い、いや…何でもないです……!」
「…そうか〜? なら良いんだが…」
「……………ははは…」
もっとも、海老名からしたら今すぐにでもうまる等知人たちを探したいのであるが。
満月。
映像広告看板が目まぐるしく文字移動し、誰も乗っていないにも関わらず尚も働き続けるエスカレーター。
ひろし達は、何もしないという攻防策を身に置いて、静観をただただ続けていた。
まるで、何かを待っているかのように。
642
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:01:47 ID:cFeuEibI0
「はっ、はっ、はっ、はっ!!!」
ズボッ
「んおわっ!!! きゃっ!!!!!」
「「え…?!」」
二人の「え?」が同時に重なる。──ということは、『第三者』の声が発生したとの次第だ。
少しばかり向こう、青ガエル電車模型前にて響いた、女子の声。
海老名と同年代頃であろうその女子は、声が飛び出る今の今まで気配を察せず。二人揃って振り返った時、初めてその子の存在に気付かされた。
──それと、マロがその女子のスカートに頭を突っ込んでいたことにも、今更。
「あっ!!! あのおバカ……、い、いつの間に…!!!」
女が目に付けば見境なしに襲うのだろうか、随分と『躾』がなった犬だなぁ…、と。
脳裏に我が息子が思い浮かびながら、ひろしは海老名と共に大慌てで静止にかかる。
「す、すみません〜!! …こらっ、離れなさい! もう…一体どうなってんだお前は……!!」
「すみません!! うちのわんちゃんが〜…ご、ご迷惑を〜…!!!」
「…は?」
バカ犬を無理やり引き剥がし、ひろし等は被害者の女子に平謝りを始める。
対して、虚を突かれた様子で地面に座り込むその女子。
肩までかかる茶髪のミディアムヘアに、同じく茶色のセーターで制服を覆う。イメージ的には、キャピキャピした感じといった顔立ちの女子生徒であった。
「……またこのバカ犬………。…なんなわけ………?」
「えっ? また、って…。君こいつを知っているのか〜?」
「は? …あー、こいつ名前マロだから。…ほら、首輪に書いてるでしょ?」
「首輪……?──」
待ち合わせ場所にて、誰かを待つかのように静観し続けたひろし等が出会った、その女子。
「──あっ、確かに!! 今まで気づかなかったぜ〜…。ごめんよ、うちの〜…っていうか君の…かな? マロのやつ、なんかこう…女の人見かけると暴れちゃうタイプで〜〜…」
「いや知ってるから。私もさっきそのバカ犬に頭突っ込まれたし。やだよね〜ほんと。獣くっさくて敵わないってーの。──」
「──本気で死ねばいいのに。…そう思っちゃう感じ〜? ね〜〜」
「「………」」
「お、オレは野原ひろし! で、こっちは海老名ちゃんだ」
「あ、はい!! よ、よろしくお願いします〜…」
「取り敢えず君に怪我なくて良かったぜ……。ところで君は──…、」
「あ、私パスで。自己紹介」
「え?」
「だってさ〜、普通に面倒臭いし。自己紹介で終わるならまだしも、これまでの経緯とか仲間の話とか色々しなきゃダメでしょ? そんなのダルいしキツイじゃん〜──」
643
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:02:03 ID:cFeuEibI0
もしかしたら、ひろし等は本当に待ち続けていた。
──いや、待たされていたのかもしれない。
「──それに、やる意味なんかないし」
「…え?」
武器も乏しい、戦闘力も皆無、無害、──殺人者としては格好の餌。
待ち続けていたのだ、──死神はひろし等を。
ひろし等の身体から魂が離れる、その瞬間を。
「バカ犬は…とりま保留。対象はそこのオッサンと脂肪の塊みたいな女だから。よろしくね♫」
「……えっ」
「────『ウンディーネ』っ!! 皆殺しにしてッ!!!!!!」
女子生徒──山井恋が、ペットボトルのキャップを外した瞬間。
飲み口からまるで水晶のような透明の塊が宙に浮かび、
刹那。
レーザー《ウォーターカッター》が飛び掛かる。
ガガガガガガ──────ッッッ
「えっ!!??」
「え、海老名ちゃん!!! 逃げ──…、」
グシュッ──
────死神がその黒いベールを脱いだ。
◆
644
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:02:24 ID:cFeuEibI0
**短編04『マミの使い魔』
[登場人物] [[魔人デデル]]、[[新庄マミ]]、[[うまるちゃん]]
『時刻:AM.04:10/場所:渋谷駅前』
『────同時刻』
---------------
645
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:02:39 ID:cFeuEibI0
使い魔には、使命がある。
使い魔には、主【マスター】の命令に従い、護衛や補助などの役割を担う義務がある。
使い魔には、どんな不条理や理屈であっても、どんなに頼りなくか弱い主であっても、その主の存在を。
いや、主の生命を一番に考えなくてはならない運命がある。
例え、自分の身に危機が迫ったり、戦いの末、自らの魂が犠牲になろうとも、守り続けたい『存在』があった。
それが、使い魔として産まれたが故の、天命だった。
──ただ、その半透明化した身体は、使い魔と呼ぶにはあまりにも脆弱な姿だった────。
「(……保って半日…いや二時間ほどか。…クッ……。──)」
「(──…主がいかにもオツムの弱そうな小娘ときたものだからな。奇天烈かつ無駄な願いを連発することは多少目に見えていたが………。…あまりにも酷い、酷すぎる………──)」
「(──OK,siri感覚で私を酷使するとはっ………。お陰で私の充電は5%未満だ…………。──)」
「(──…魔力が欲しい。……一刻も早く、魔力が………………)」
「あっ!!! ゆ、UFOだ!!! ほら魔人さん、うまるちゃんも一緒に!! アーメンソーメンヒヤソーメン〜〜っ!!! アーメンソーメンヒヤソーメン〜〜っ!!! わたし達をどうか助けにきてぇ〜〜〜〜!!!! 宇宙人さん〜〜〜〜〜!!!!!!」
「いやただの飛行機じゃんアレ。…でももう一途の望みにかけるしかないよーー!!! アーメンアーメンアーメ──────────ンっっ!!! うまるをここから連れ出してぇえーー!!!! あとついでにダラダラしてても文句言われない星に連れてってぇええーー!!! お願い宇宙人様ぁ─────────っ!!!!!!!」
「……………はぁ」
夜空を一つの赤い輝きが通過した頃。
必死こいて天にお祈りをする二人の小娘に、魔人・デデルはため息が漏れる。
──なんて愚かな光景だろう。
──そしてなんて馬鹿な主《マスター》なのだろう。
地面上にてジャンプーSQ雑誌や月刊マー、お菓子等が乱雑に散らばる中、デデルは赤い星(──と言うか普通に飛行機)に向かって指パッチン。
パッ
「「あっ!!??──」」
「──き、消えちゃった?! どうして!!? なんで!!! わたしを見捨てないで宇宙人さん〜っ!!!」
「いや魔人が消したんでしょ絶対! …何してるのさもうーーっ!!!! ワンチャンUFOだった説あるんだよ!!? ワンチャン〜〜〜〜っ!!!!」
「バカな信仰をしてる暇があったら行きますよ。……全く…」
「ば、バカって……。別にうまるは本気で心からUFO信じてたわけじゃないよ! …バカは、その………マミちゃんだけだし」
「なにそれっ?!!!」
「………………はァ。困ったモノだ…」
魔人のただでさえ消えかかっている姿が、余計スケルトン度を増すこととなった。
◆
646
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:02:50 ID:cFeuEibI0
**短編05『制服少女に踏まれたい』
[登場人物] [[山井恋]]
『時刻:AM.04:03/場所:桜丘の森』
『────『←』巻き戻し/話は7分前へと遡る。』
---------------
647
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:03:03 ID:cFeuEibI0
S極とN極は、その磁力でまるで運命のように引き寄せ合う。
ただ、どれだけ強い磁力を発そうとも──山井恋は、意中のあの子に未だ出会えずにいた。
【S】hoko──Komi極。
彼女の為なら、こんな下劣で全てが終わっている厨二デスゲームでも喜んで乗ってやろう。
そう意気込んでいたというのに──。
「…ひっ!!! ………あれ。………え…。嘘っ………──」
「──…………只野くん…」
渋谷高校から徒歩数時間。
どれだけ歩こうとも歩こうとも、先程から山井が出会す参加者は、『既に参加者で無くなった者』──【死体】ばかりである。
渋谷サクラステージの歩道橋を進み、道なりに足を踏み入れた先は桜丘の森。
ライトアップされた木が閑散と光るこの公園。
死臭に飛びついたのか、さっきからカラス達の声が酷く喧しかった。
「……………早っ。…早すぎでしょ…………。何してんの、…うげっ………。只野くん……………」
ベンチ下の地面にて、まるで寝返りを打ったかのように仰向けのクラスメイト。
知り合いの遭遇ともあり、山井は思わず前屈みで座り声を掛けたが、当然返事など無い。
赤黒く胸を染め、鼻と口からは歌舞伎のペイントのように紅の軌道を綴る、白目の死体。
下半身の断面からは、どこかに失った両足を探すが如く、血の噴水が水溜りを伸ばして続ける。
「……。(…早坂ちゃん説ある? ワンチャン…)」
死体の傷口を眺めながら、山井は不意に犯人像を思い浮かべた。
三時間前、校舎内にて互いに不可侵条約【古見/四宮接近禁止令】を交わした、早坂という女。
条約締結の記念品として、所持武器をそれぞれトレードしたものだが、山井に比べて早坂は参加者遭遇率が高かった様子。
早速目についた只野を即襲撃──逃げられない様脚を切断してから──トドメを刺したのだろう、とスプラッターで嫌な想像が頭に浮かんだ。
山井に重い現実を突きつける、知り合いの死。
──ただ、かと言って彼女は別に早坂を恨んだり復讐心を抱いた訳でもなく。
よくしてもらった親戚の葬式と同程度の悲しみで、山井は涙を浮かべながらそっと鎮魂の想いを念じた。
「………っ、……うっ……………。は、はは…。おかしい…よね。…そんな仲良くも友達でもなかった………っていうのに…。──」
「──いや、違うや。…………こうなると分かってたら、もう少し仲良くしてれば良かった。……っ……、そうだよね、只野くん………──」
「──…………………。」
ジィィィィィ……
涙を袖で拭きながら、山井は返り血で染まるデイバッグを開いた。
中に詰まっていたのは生徒手帳やらノートやら、食べる気なんか起きない血染めの菓子パンやらがズラリ。
「……何これ? …『うんでぃーね』………?」
その数ある遺品の中から、彼女が取り出したのは一本の飲料水。
──いや、只野仁人の『支給武器』であった。
ラベルには【只野仁人様専用武器 ウンディーネ】とデカデカにラッピング。
一見役立たずそうなデイバッグ中身群の中から唯一、彼女がソイツに興味を惹かれたのも、『武器であるから』が理由である。
今はまだ詳しく取説を読んでいないため、その飲料水が毒物なのか硫酸のようなものなのかも不明。
効果がどう作用する武器なのかは不明なものの、
648
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:03:15 ID:cFeuEibI0
「…ごめん。ちょっと借りるから………」
取り敢えず持っていて損はないと、山井はNEW武器として拝借をした。
屠殺場のような血の匂いが立ち込める公園地帯。
羽虫の存在が鬱陶しい中、山井は吐き気を催した事によるものでない──悲哀の涙を確かに流す。
山井恋は、病んでいます──。
──古見さんが関わる事以外であれば、至って普通の女の子である山井。
【マーダー】タイプの彼女とはいえ、同級生の死には堪えられない物なのだ。
「…………もう行くね。…バイバイ、只野くん…」
去り際、彼女はそっと掌を只野の顔へ向ける。
白目をかっ開いたまま眠る死体には、誰だって目を閉ざさせたくなるものだろう。
山井もその想いのまま、ゆっくりと瞼を閉じさせにかかった。
フワッ
「…え?」
それが、悪かった。
掌から感じる、奇妙さ。
只野の顔にいざ触れたとその時、羊の毛のようなふわふわとした感触が伝わる。
体毛に覆われた野生猿ならまだしも、人間の素肌に触れて普通、毛のような感触が伝わる筈など無い。
その突飛たる違和感に山井がふと手を止めた時。
彼女はよくよく注視してみると、
「…………………………………は?」
只野の顔中至る所、蚊の大群が蠢いていた。
鼻、耳、額、唇、頬。何十匹。
どこもかしこも無数に。
羽。羽。羽。
手足の細い蚊達が、大小群れを成して夢中に吸血を続ける。
視点を移せば、損傷の激しい胸部には羽虫共に混じってカナブンや蛾が血肉を舐め。
両足断面から湧き出る水溜りには、蚊や蟻の溺死骸が馬鹿のように漂う。
山井が涙ながら語りかけていた只野。
乾いた白目をむくコイツはもう、死体ですらない。
夏の虫たちへの贅沢なディナー。大きな大きな食料と化していた。
649
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:03:27 ID:cFeuEibI0
血臭につられた黒虫が一匹、山井の鳥肌を通り過ぎて行く──。
「──────…ィ気持ち悪ィんだよッッッ!!!!!!!」
グシャッッ
ドシャッ、グチャグチャッ、グシャッ……
グチャグチャグチャグチャ………………
我を忘れて虫共を踏み潰す頃合い、気が付けば靴も、靴下も、太腿に至るまで、返り血でベチャベチャになっていた。
嫌悪感という激しい怒りで容赦なくぺしゃんこになっていく蚊達。
──そして崩壊が止まらない只野の顔面。
これが古見さんの死体ならば、ここまでの地団駄は踏まなかったことだろう。
「ふざけんなッて!!! ふざけんなッ!!!! 死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ!!!!!──」
「──気持ち悪いんだよッッッ!!!!!!」
グチャッ────
只野くんという、比較的どうでもいい人間が、山井恋の本性を曝け出していく。
◆
650
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:03:39 ID:cFeuEibI0
**短編06『しんのすけ、網膜を"焼け"』
[登場人物] [[野原ひろし]]、[[海老名奈々]]、[[山井恋]]
『時刻:AM.04:15/場所:渋谷横丁』
『────『→』早送り/話は12分後へと進む。』
---------------
651
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:03:54 ID:cFeuEibI0
♫山井ちゃーん!!
「はァ〜〜い!!」
♪何が好きぃ〜〜???
「チョコミント!! …よりも古・見・さん❤️💕💕」
「(はい♪ ここで自己紹介タ〜イム! と言っても、私の紹介は別にいいよね?)」
「(今回は、私のNewフレンド!! 只野くんから奪…貰った、ウンディーネちゃんについてご紹介しまーす! 可愛いでしょ? 皆ウンディーネちゃんのことよろしくね〜!!)」
「(ほら、ウンディーネちゃんも挨拶して!)」
シーン……
「(…もうっ寡黙な子なんだからっ…!! ほらって!! してよ挨拶!)」
シーン…………
「──いや挨拶しろって言ってるよね────。──」
………、
…………………。
「──…まぁいいや」
「(この挨拶すらもできない人見知りな子!! …っていうか喋れないか、口ないし。……ともかく、このウンディーネはいわゆる私の武器!! ポケ●ン的な使い魔って感じだよ!)」
「(見た目はなんていうか…水晶玉みたいな? 真ん丸の水、宙に浮いてる…ってそういう感じかな)」
「(正直なところ、コイツ話すことできないからお喋りも退屈だし〜? しかも全然オシャレな見た目じゃないから、私的にはかなり無理なタイプなんだけどもさ〜…)」
「(でも、そんな些細なこと全然許せちゃうくらい……この子は物凄く強いのっ!!)」
「(…ん? 何がどう強いの?──だって? えーと、それは〜……取説取説と)」
【支給武器紹介】
【ウンディーネ@ダンジョン飯】
湿地帯に生息する魔物。
厳密には精霊(の集合体)。
圧縮した水をウォーターカッターのように高速で打ち出すことで──…、
「(あー堅苦しくい説明で滅入るわ。ということで、私の口から説明するねっ☆)」
「(小学生の頃プール入る時にさ〜、目洗う専用の蛇口みたいなのあるでしょ? あの、やたら水圧強くてめちゃくちゃ痛いやつ)」
「(それのハイパー強化版が、ウンディーネの攻撃《ウォーターカッター》なわけ!! つまりは〜〜)」
ガガガガガガガガ──────ッッ
高くはビルの看板から電柱にかけて、低くはアスファルトなり店の扉なり路上駐車した車と。
レーザーは規則性無く、街の至る箇所を切り刻んで行く。
「(↑そうそう〜こんな感じで!! どんな物でも切断できちゃうの! 窓ガラスでもコンクリでも、レーザーみたいな奴でスッパスパ!! 凄いでしょ?! バイオの映画に出たアレみたいだよね〜〜)」
652
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:04:09 ID:cFeuEibI0
「(あとさ〜、取説には『意思がない魔物』って書かれてるけど、私の命令なら何でも聞いてくれんだよ! バカそうなのに意外と賢いんだよね〜〜!!)」
「(OK,Siriする感覚で〜、『アイツとコイツだけは攻撃するな』みたいに命令すれば従順に行動してくれるの!!)」
「(ほら、この通り! さっきから色々切りまくってるのに、私だけはま〜ったくの無傷!!)」
ガガガガガガガガ──────ッッ
盗んだ自転車に乗り走る、山井の頭上には二つの水晶玉が浮かぶ。
主人のスピードにピッタリ合わせて進むウンディーネは、一切攻撃の手を緩めることなく。
山井が過ぎ去った後の道は、どこもかしこも戦場跡かのように、ズタズタに切り拓かれていた。
「(──…まぁ私を攻撃したらしてきたで、『楽しい』調教タイムが始まるんだけどさ────。)」
「(ともかく! このふしぎなお友達と仲良くなった私はスーパーエンジョイタイム!! とってもハラハラして、それでいて楽しいわけ☆)」
「(…はぁ。……早く…見せたいな、古見さんにも。私の強いパートナー・ウンディーネを………)」
「(こんなクラスの隅っこ界隈が昼休みに妄想するようなデスゲームで…、)」
「(産まれたてのチワワのように震えてる古見さんの元を…、)」
「(私が颯爽、駆け付ける……。ドラマみたいなシーン…‥…)」
「(…ねっ? だから、こっちを振り返って…。早く会いたいよ…。ずっと私だけのことを見ていてよ…)」
「(私だけの…………────古見さんっ」
「(──水の精霊が祝福の雨を降り注ぐ中、私達は幸せ一杯にずぶ濡れる。…そんな時間の訪れは、もしかしたら割とすぐなのかもしれない……)」
ガガガガガガガガガガガガガガガ──────ッッ
バキバキバキバキバキバキバキバキガシャンッッッ
「………いや空気読めって。ロマンスなときめきの予感してる時に、ガガガ〜じゃねーよ。うっさすぎるし。……やっぱコイツとはオトモダチ無理。ほんと使えないわ………。──」
「──…はァ。……てかいつまでやってんのコイツ? 私、アンタに街破壊しろだなんて頼んでないし。さっさと殺ってよ。つか脚狙えよ、まず脚。──」
「──……たかが水に大活躍期待した私がバカだったかな…………。はぁ〜ア最悪………。もう……──」
“死ねよッ。古見さん優勝計画に邪魔な、無能達がッ──────”
653
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:04:33 ID:cFeuEibI0
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
切る切断きキ切創斬切る切ったがきる切って切るを切るお切りますきるきってきったきろう切る切ってkillキルキル切る切断きキ切創斬切る切ったがきる切って切るを切るお切りますきるきってきったきろう切る切ってkillキルキル
切る切断きキ切創斬切る切ったがきる切って切るを切るお切りますきるきってきったきろう切る切ってkillキルキル切る切断きキ切創斬切る切ったがきる切って切るを切るお切りますきるきってきったきろう切る切ってkillキルキル
切る切断きキ切創斬切る切ったがきる切って切るを切るお切りますきるきってきったきろう切る切ってkillキルキル切る切断きキ切創斬切る切ったがきる切って切るを切るお切りますきるきってきったきろう切る切ってkillキルキル切創切創切創切創切創切創切創切創切創切創切創切創切創切創切創切創切創切創切創切創切創切創切創切創切創切創切創切創切創切創
切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切
切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切………
「ぎょえぇええええええええええ〜〜〜〜〜〜ッッ!!!!!!! ハァハァ…え、海老名ちゃぁあああ〜〜〜〜〜〜んんッ!!!!!!」
「はぁ、はぁ…は、はいぃ〜!! ひ、ひろしさぁあん────────ッ!!!!!!」
「チクショぉおおおおお!!!! みさえ、みさえぇえええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!!!!!」
「はっ、はっ、はっ、はっ、」
ここ、渋谷横丁通りを駆け抜ける三つの影。──追いかけるは自転車の影と水晶二つ。
今思えば、渋谷駅前にて放たれた奇襲《ウォーターカッター》は「よーい、ドン」のピストル代わりと言えようか。
ひろしと海老名は人生最大級の危機を背負いつつ、人生最大級の激走を続けていた。
ひろしの手から伸びる長いリード。──彼らを引っ張るかのように、マロもまた四足の脚で大地を蹴る。
ボイラーのように熱くそして膨張する太腿に、どんどんと切れていく息。
ただでさえ全身汗だくだというのに、いつ自分の方へ飛んでくるか分からないレーザー攻撃には、冷や汗が混じり入った。
先頭を走る犬は、今の危機的事態を理解しているのか否か。
苦悶の表情で走るひろし等とは対象的に、さぞ愉快に尻尾を振るソイツの尻は、必要としていない苛立ちをどんどんどんどん沸かせに来た。
“お前がアイツに飛びついたせいでこうなっているんだぞッ!??”────。
──ツッコミを入れる分の体力が勿体ない為、この叫びは心の中のみに押し留めるひろしであった。
汗と、涙と、男と、女。──と、犬一匹。
ひろし史上最走となる犬の散歩が、油臭い横町で開幕する────。
「うっえええぇえ〜〜〜〜〜んんっ!!!!! はぁはぁ………!!! 誰かぁ〜〜〜っ!!!!!」
「…ぜぇはぁぜぇ……はぁああっ!!! あぁあ〜お慈悲を〜〜!! お慈悲をくださいぃ〜〜〜〜っ!!!!! 助けてくれみさえ〜〜〜〜〜っ!!! みさえ〜〜〜〜!!!!!!!」
ポポン♪
『畏まりました。野原みさえさんに電話をかけます』
ひろしの懐から機械音声が響いた。
654
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:04:49 ID:cFeuEibI0
「いやこんなタイミングで反応するな!!!! siriぃ〜〜〜〜〜〜!!!! くそぉおおおお〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!」
「はぁはぁ……。ひろしさんん〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
「は? うわウケる。丁度いい機会でしょ? 最期の電話したらいんじゃない〜?」
「「最期とか言うな(言わないでくださいっ)っ!!!!!」」
「…うわウッザ〜…。…息ピッタシすぎ」
「…ゼェハァ……ゼェゼェ……。…お前なんかには…絶対分からないだろうなっ…………。ハァハァ……」
「え、何が? あとウンディーネ、そのオッサン集中狙いに作戦変更で」
ガガガガガガガガガガガガガガガ──────ッッ
「うおっ!!? ひ、ひ、ひぃいいぃいいいいっ!!!!!!! 話してる途中に攻撃すんじゃね〜〜っ!!! 武士道の風上にもおけない卑劣さだぞちくしょおおおおおおおおおお〜〜ッ!!!!!!」
「? ウシ道?? 牛は早坂ちゃんだよ?」
「…はぁはぁ……、な、なんの……話ですかぁ………」
ウォーターカッターの二重攻撃。──もはや螺旋化。
ただでさえ深夜の全力疾走は三十代の齢男を蝕むというのに、二重ともなるレーザーの全力回避は、満員電車の何倍もキツかった。
回避→ジャンプに、かがんで→回避 x ∞…。
ふたば商事に勤めて早十年近く。営業で鍛えた足腰を自慢に思っていたひろしとはいえ、体力消耗は著しい様子。
願わくば、風呂に入ってパァ〜〜っとビールを飲み干したい気持ちだった。
というか、限界超越した今、頭の中はソレ《現実逃避》のことしか無かった。
「……ハァハァ…──」
「──おい、聞けよ……。ウンディーネ娘……!!」
そんなひろしの目つきが、ふと変わる。
「…カチーン。その呼び方めちゃくちゃムカついちゃったー。でもアンタら如きに本名言うのもヤだからもどかしいって感じ〜──…、」
「聞けつってんだろッ!!!! おいぃッ!!!!」
「………」
立場上優位な事もありヘラヘラ減らず口が止まらない山井であったが、『圧』。
ひろしのエナジー籠もる『圧』を受け、思わず押し黙ってしまった。
現状、ビールのことしか考えれていない華金頭のひろしではあるが、コレを良く言うとするのなら。
──いや、逆に言えばだ。
この絶望の中。
彼は、“絶対、マイホームに帰ってやるッ”──という強い意志が有るということなのだ。
「……いいか…ハァハァ……。家に帰れば既に風呂は沸かしてある……ッ。子供たちとゆったり湯船に浸かりながら疲労を癒やし……ッ! 風呂上がりには酒とつまみ、…大好きなジャイアンツ戦が待っているッ!!!」
「……は?」
「…しんのすけらが眠った後…たまには妻とのんびりコーヒーさッ!! みさえの入れたインスタントは…工夫も拘りもない癖して何よりも美味くッ…!! 温かくッ……!!!」
「…ねえ通訳お願い。そこの脂肪の塊みたいな女!! このオッサン何が言いたいわけ??」
「……はぁはぁはぁ、ひぃい〜〜〜〜!!!!」
「はぁ? 無視はなくない〜?! …ムカついたわ、罰ゲームとしてウンディーネ分裂。そいつにも追加制裁で」
ガガガガガガガガガガガガガガ──────ッッガガガガガガガガガガガガガガガ──────ッッ
655
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:05:01 ID:cFeuEibI0
「え…。ひっ──…、」
分裂。──水の精霊 x 4。
一々苛立ちを表してくる山井の命令の元、水晶体は四体に増殖。
その事も束の間、間髪入れずに右二体は水圧の槍をぶち飛ばした。
狙いは無論、命令通りたわわな胸の美少女へ。
運動が苦手で、自他共に認めるおっちょこちょいな海老名である。
秒知らずの螺旋レーザーが迫り来たこの瞬間、避けるどころか反応すらも当然敵わず──。
「あっ────…、」
「海老名ちゃん危ないッ!!!!」
ズザッザァ───────…
その小さい身体は為す術なく、衝撃から一瞬宙を舞った。
グイッ
「きゃいんっ」
──リードを無理矢理引っ張りつつ、海老名を抱きかかえ攻撃を避けた、ひろしの手によって。
「あ…ひ、ひろしさん!!!」
「…ハァハァ……。あ、危ねぇ〜〜。間一髪すぎるだろうが〜〜っ……」
「くぅぅぅん〜〜…」
首が締まったことで顔が真っ青になるマロと、違う意味で青ざめていくひろし。
彼が「あぶねぇ〜…」と口にするのも無理はなかった。
倒れ込むひろしの靴先数センチの距離にて、道路がズタズタに亀裂走る。
これも営業で鍛えた恩恵というわけか。後一歩遅ければ、海老名ごと真っ二つのブロック肉と化していただろう。
海老名の死、そして自分の死をもギリギリに回避したひろしは、気を抜けば失禁しそうなくらいだった。
ただ、そこまでしてでも守りたい物がある。
命に変えてでも──いや、否。
何一つ失わずして守護りたいという信念が、ひろしにはあった。
「…武士道……ッ。一旦、刀を置け…! な? ウンディーネ娘!!!」
「だからウシは早坂かそいつ。で、私をそんな呼び方しないでちょうだい。…つかいい加減死ね──…、」
「なぁッ!!!!」
「…っ!! …………」
656
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:05:17 ID:cFeuEibI0
「チッ」と舌打ちと共に、自転車から降りた山井へ一睨み。
ウンディーネの攻撃でまたも遮られた『熱弁』を、彼は息が上がるのを忘れて吐き飛ばした。
「…しんのすけにひまわり、そして愛する妻のみさえ……ッ。久しぶりの日曜日には、家族皆で釣りに出かけるんだ…。あんたの漕いでるような自転車でッ、オレら四人はよッ!!!!」
「………」
「…ちょうど明日…、本来ならそういう予定だった。…しんのすけの奴に、釣りの流儀ってもんを教えたくてウズウズしていたよ……──」
「──だが、予定変更だッ…!! オレは明日、海老名ちゃんを家族に紹介するんだッ!!!」
「は?」
「はぁはぁ……。えっ、ひろしさん…?!」
「…きっとしんのすけの奴は言うだろう…『お姉さんいくつ〜?』とナンパしてな……ッ。みさえはこう叱るに違いない……『あなたその子何っ?! 離婚よ離婚!!』ってなぁッ!!! ご近所迷惑なくらい大騒ぎ間違いなしだろう!!」
「…」
「…だが、それで良い…ッ! それが家族なんだ…、それがオレの愛する…帰るべき家族なんだッ!!! 今想像している家での未来が…オレを待っているんだよッ!!!」
この時。
ひろしは海老名(とマロ)を庇いつつ、右足で地団駄を踏んだ。
「…娘。お前には分からねぇ〜だろうな…。家族が待つ温かさがッ、…無事に帰って来れた心地よさがッ!!」
「………」
ガシャンッ──
この時。
たった一人の地団駄では揺らせれる筈がないというのに。
確かに、自転車が倒れた。
「だから…もうよせっ。いや、攻撃なんかやめたほうがいいんだよッ…!!──」
「──さいたま春日部生まれッ…、双葉商事二課…、係長……ッ、ローン十年…中年……ッ、三十五歳ッ…!!──」
「──オレは野原ひろしだッ……!!!!」
「……」
「あっ…!」
この時。海老名は気付いた。
自転車が一人でに倒れた理由。それはどこぞの風による自然発生なんかではない。
地面が確かに、確かに揺れ動いていたことを。
「大して責任も、罪悪感も、背負う物も無いお前が……ッ。お前なんかがッ………」
「………」
そして、この時。
ひろしはゆっくりと立ち上がった。
珈琲臭い口に、ジョリジョリの無精髭、全身親父の汗でフラワーに香る中年サラリーマン・野原ひろしであったが。
──彼の熱い魂は、渋谷横丁を揺れ動かす。
657
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:05:28 ID:cFeuEibI0
ひりつく周囲。
この暑さは真夏の気温とは別の、熱意籠もる『熱さ』。
絶対に家に帰るという信念は、周りの環境を確かに変えていく。
「愛する家族がいるオレに………………ッ」
野原ひろし、FIRE──。
彼の炎燃え滾る思いは、サバンナクラス。
もはやウンディーネの攻撃とて焼け石の水であろう。
「お前なんかがッ……………」
時はまだ深夜。
太陽いらずのこの夜に、ふと眩しさが灯る。
「オレを倒そうだなんて…ッ」
僅かばかり一呼吸置いて。
漢・焼け野原ひろしの魂の叫びは、ウンディーネを確実に蒸発へと掛かる───。
「──誰がなんと言おうとッ、百年早ぇんだよオオオオオオオオオオッッ──…、」
『あなたー!! ちょっとどこにいるのよ!? こんな時間に電話して!!』
「…げっ。み、みさえ〜……」
「は?」 「えっ?」
──…このとき、ひろしからしたら冷水を浴びせられた思いであったろう。
懐のスマホから鳴り響くは、愛する妻の怒りの声。
“あー。そう言えばsiriのやつ、連絡しやがったんだよな〜…。さっき……”──と。
『早く帰ってきてちょうだい!! 話はそれからです!!! もうっ…』
「…………………み、みさ…──…、」
658
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:05:41 ID:cFeuEibI0
ガチャッ…
ツーツーツー
「…………………」
「……」 「………」
「はっ、はっ、はっ」
「…………………………──」
「──こんな時くらい、カッコよくさせてくれよ〜〜〜…みさえ〜……。…やれやれ、海老名ちゃん」
「…は、はい………」
一気にトーンダウンした渋谷横丁にて。
マロを持ち上げ、海老名の手を握ったひろしは一呼吸分ため息。
「熱く語ればなんとかなるとは思っていたんだが〜〜…」
「…ウンディーネ。はい準備〜」
「うしっ、逃走再開だ!!! えひゃああぁああああああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!!」
「もういやぁああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
「あいつらバカ三人を切り刻んで!!! 本気で死んでよねもうッ!!!!!!!」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ
三人は絶望の鬼ごっこを再開するのであった。
戦士《サラリーマン》に休息はない────。
◆
659
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:06:13 ID:cFeuEibI0
**短編07『恋の記憶、止まらないで』
[登場人物] [[山井恋]]
『時刻:AM.04:17/場所:東●ホテル前』
『────通常再生』
---------------
660
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:06:26 ID:cFeuEibI0
Never donna give you up.
(──決して諦めないよ。君のことは)
Never gona let you own.
(毛の一本たりとも無駄なく、綺麗な放物線を描く髪の毛に、整い過ぎている顔)
Never gona run arund an desrt you.
(スタイルは高校生にしてトップモデルの如し、それだというのに彼女を見ても卑猥な欲情が不思議と湧かない、品のある風格)
Never gonna mke you cr.
(おまけに性格も良く、コンマ一秒でも視界に入れば誰もが振り向いてしまう)
Never gonna ay goobye.
(古見様って人類史上もっとも優れた人物だよね。アインシュタインやニュートンも古見様と比べたら小物だわ)
Never gona tell a lie an hurt yu.
(貴方を傷つけるなんて、私は絶対にしないよ)
(絶対…)
「………ック──」
「──鬱陶しいところに隠れてッ…………。あぁーー……もう…もうッ!!!!──」
「──ファアアアアアッックッッッッ────…ション。…あはは〜、くしゃみ出ちゃった。風邪かなぁ? ごめんね、カス精霊ちゃん〜──」
「──アンタも発熱したい感じ? …コントロール【F】野郎がッ………」
大きな壁を前にして、呆然と立ち尽くす山井。
暗くうつむいた表情の山井と反比例するかのように、その壁は喧しいほど綺羅びやかで、豪華だった。
反り立つ壁の名は──『東●ホテル』。
『桜丘町の金閣寺』とも言えるその建物は、光眩しい優雅なスイートホテル。
全十四階。全三百室を完備。宿泊者専用のプールやトレーニングルーム、バーが特設されており、中でもテラスラウンジは、夜景による安らぎの一時を送れる。
某米国俳優が来日時、施設内のレストランを大層気に入り七泊も延長したという、そんな逸話が残るセルリアンタワー東●ホテル。
──殺し合い下の現状に限った話では、野原ひろし・海老名菜々が逃げ込んだホテルとしても名高かった。
「ィィィッッ!!! 【F】uuuuuuuuuuuuuuuuckッッ!!!!──」
「──カスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカス役立たず役立たず役立たず役立たず役立たず役立たず制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁!!!………」
ウンディーネの耳元(?)にて、恐ろしい呪詛が延々と。
取説欄の【──ウンディーネは熱に弱い】という記述をネジネジ指差すは、恋する16歳♡山井恋。
彼女の瞳は、今まさに病みきっていた。
無論、仕方ない。
彼女がストレスに沸き立つのも当然であろう。
振り返ること何十分間。
長時間に渡る追いかけ回しは、明らかに弱そうな獲物二匹を狩り逃したという徒労に終わったのだから、山井の精神的屈辱はいざ知れず。
百発零中、十中ファッキュー、コイツのせい。
──ノーコンウンディーネを戦犯と見立て、行き場のない怒りに彼女は苦しみ続けている。
これだけの抹殺力を持つウォーターカッターを武器にしながら、ヘナチョコ親父と胸だけ脂肪の塊女(──おまけに舐め犬野郎)の三匹を取り逃がした、ウンディーネ。
責任の所在として、使い魔に九割近く負担となる件については、訂正の余地もないのだが。
661
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:06:39 ID:cFeuEibI0
それよりも何よりも、
…
……
………
────ハァハァ……ッ。おい!! ウンディーネ娘!! 一つ聞くぞ〜ッ…!!
──…だーかーらー、そのキモい呼び名やめてって言ったよね〜私〜〜? はい、追加制裁。ウンディーネ、また分裂して〜…、
────グっ!! ふふ、ふふっ…!! い、いやすまんっ…!
──は? はい再度分裂〜。ウンディーネ倍増マシマシで〜…、
────年頃の女の子が……。…その…『ウンディーネ』連呼は……どうなんだよ〜〜?? …な〜。
──…?? 意味分かんないんだけど。…ほら早く!! 分裂しなさいってば、ウン…、
──ディ……………………………。………………。
────よしっ、怯んだぞ!! 今だ喰らえっ!!!!
ポーンッ
バンッ
──ぎゃっ!!??
バタリ……
………
……
…
「カスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカス…。あんな奴ッ、あんな奴ッ、嫌な奴ッ嫌な奴ッ嫌な奴ッ嫌な奴ッ嫌な奴ッ!!!!──」
「──『讎《Kill someone with kindness》』ッ!!!!! ヤな奴ッッッッ!!!!!!!!──」
「──あ、これだと私とあのクソ親父で恋愛劇《カントリーロード》始まるみたいになるじゃん。…気持ち悪ッ…。カスカスカスカスカスカスカス……」
──ひろしから、本来なら触れるのも禁止カードにすべき『ウンディーネという名前の響き』を突きつけられた上、
──ディバッグを顔面目掛けてシュートされ、山井自身が転倒してしまったことが。
ひろし逃走成功の最大要因であり、本人にとってもそれが一番の痛手だった──。
「…本気でッ…、カス…………」
ぶつけようのない腹立たしさと、
痛む膝の擦り傷、鼻先。
そして水の精霊をもう正式名称で呼ぶことのできないもどかしさ。
あの最悪なリーマン共は、今、このホテルの何回の、どの部屋に逃げ込んだというのだろう。
疲れた身体を癒やしながら、「…それにしても機転効きましたね〜ひろしさん」→「ウンディーネは流石にねぇよな〜(笑)」等と雑談に花咲かせてると想像したら、ドス黒い反吐が出そうになる。
渋谷横丁をズタズタにした分の報いというのか、山井のプライドはズッタズタの切り裂かれ放題。
「……もう死ねよっ………。もう……」
ウンディーネの群れが必死に「こっち! 左っ!! ⇐!!」と、『左マーク』に変化し主をホテルへ誘導するのを傍目に、
山井はとうとう諦めて、この場を去って行く。
──もはや面白いくらい程ズッタッズッタ《八つ当たり》にされた、変わり果てた姿の自転車が、寂しく転がった。
662
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:06:54 ID:cFeuEibI0
「…………………古見さん…」
タップリとお礼参りをしたい復讐心があるのだが、『本来の目的』から考えればそんな怒りなど些細な事。
山井の目的はまず一番に古見さんと会うことであり、古見さんを優勝《皆殺し》させることであり、古見さんと幸せな生還を描く事だ。
ホテルでチマチマ文字通りの虱潰しをしてる暇があったら、目的遂行をしなければ、と。
自分に言い聞かせながら去る山井の足取りは、重く鈍かった。
「……今会いに行くからね…。待っててね、古見さん………………」
「────ね、ねえ!! きみっ!!!」
「………………ぁ?」
◆
663
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:07:05 ID:cFeuEibI0
**短編08『ホワイトアウト・メモリー』
[登場人物] [[魔人デデル]]、[[新庄マミ]]、[[うまるちゃん]]
『時刻:AM.04:11/場所:東●ホテル周辺街』
『────『←』巻き戻し/話は6分前へと遡る。』
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664
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『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:07:49 ID:cFeuEibI0
軍資金を借りる為には何か高級な私物を担保にしなければならない。
スマホを動かすには充電をしなければならない。
生物は、食わなきゃ生きてゆけない。
人間界、異世界、魔界問わず。この世に存在するありとあらゆる物は、エネルギー源無くして動く事は叶わない。
『永久機関』が絶対に誕生しない訳も、その通り。
物を動かすには消費せざるを得ないエネルギーが必須だった。
ほとんど薄れ消えた記憶の中で、鮮明に憶えている過去が、デデルには一つある。
それは確か二十年ほど前。当時の主による『家を豪邸にして、親父の安月給も十倍にして、あとプレステとドリキャスを出せ』という欲望まみれの申出をされた事だ。
如何にも子供じみたバカな願いではあったが、魔力のその消費量たるやかわいいものではなく。
流石の魔人とて心労著しい労働であったという。
ただ、要望通りその願いは忠実に叶えられた。
そして魔人もまた、姿を保ったまま《透明化する事なく》事を終えている。
何故なら、その時の主が、莫大な願いを実現できる程の魔力を蓄えていたから。
代償に見合った対価を支払えた為、デデルは何の支障もなく、願いの遂行に至れたのである。
──即ち、主が何の魔力もないただの変人娘という現在。
──酷使に重なる酷使で、デデルの身体が徐々に消滅しかかっている《魔力消耗》のも必然であった。
「うっ…うぅ……うわぁあああ〜〜〜〜ん!!!」
「…………」
「ごべんっ…、ごめんなざい〜っ!! わたしが…お願いを無駄遣いするせいで……魔人さんこんな事に………。知らなかったんだよ〜〜〜っ!!!!」
「…そう自分を責めないでください、…と言いたい所なんですがね。…流石に『バリアー↑にミステリーサークル書いて』とおほざきになられた時は………正直…」
「ごめん〜ごめんなさい〜〜〜消えないでよぉお〜〜〜!! うへぇ〜〜〜〜〜んんん!!! …魔人さんが消えちゃったら…わたしクラスで自慢できなくなるよぉ〜〜〜〜!!!!」
「…結局自分のことかいなっ!!!」
ガラス張りの高層ビル群が頭上を覆い、無数の広告モニターが無音の映像を流し続けている夜。
東京メトロ・副都心線が駆け抜ける宮益坂方面、TSUTAYA前にて、デデル並びにおさげの中学生・マミとその相棒(?)・うまるらは練り歩く。
涙ながらに自責を続けるマミと、西洋風な服装のデデル。一行の姿は、まるで渋谷ハロウィンパーティー後、酔いしどれながら帰路につくようであった。
号泣しながら抱きつくおさげの主には、デデルも大変歩き辛そうであったが、
──彼女よりも気がかりだった存在は──背負うデイバッグ内の『ソイツ』。
“三人は練り歩く”──とは、表現に語弊があった。
三人の内一人。珍妙でまん丸な姿のソイツは、ポ〜〜ンとポテイトを投げては──、
「あんむっ。バリバリ……──」
「──まぁデデルが心配なのは分かるけどさ〜マミちゃん。その魔力(?)ってのがあればどうにかなるんだから、あんま気にしなくていんじゃな〜い? あんむっ、バリバリ……」
──口に入れる。
二頭身のソイツ・うまるはデイバッグから顔を出し、コーラとポテイト袋を両手に実に寛ぐ様子だった。
──無論、そのポテイトはデデルによって生み出された願いの産物。
──そしてまた無論、一行がネカフェを後にしたのも、『お兄ちゃんや海老名ちゃん達を探したいから(建前)(──本音は、無人で夜の渋谷街とかエモイから散歩したい)』という、うまるの頼みから来た物である。
「…………………」
お気楽・能天気・グータラリン。
小動物ほどの重さと比例して中身もスッカラカンな、デイバッグ内のモルモットには、冷静なデデルもやや苛立ちがある様子だった。
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『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:08:04 ID:cFeuEibI0
「バリバリ。あ、これ食べる? 少しでも魔力の足しになれば──…、」
「…なる訳ないだろ、土間の小娘」
「ど、土間………っ。ねえ魔人怒ってるの……? うまるだってさ〜こうなると知ってたら願いポンポン言ってなかったてぇ〜〜!!」
「ぐすっ…うぐ………。そうだよ〜、うまるちゃんが悪いんだ全部〜〜……!! わたしは十個、うまるちゃんは二十個!! どっちが悪いかといったらうまるちゃんじゃん〜〜〜っ!!!」
「うぅ〜…!! はいはいどっちもトントンに悪いよ!! 五十歩百歩だよ!!────…と、魔人は言いたいようで……」
「ほう。頭が働くようだな土間。…それにしても貴様はなんなんだ? 人面ハムスターか? 少なくとも人間ではない様だが。…貴様を喰らわば少しは魔力補給にはなりそうだな、土間」
「…え゙っ?! それマジな感じで言ってるの………?!」
「……くだらん。冗談に決まってるだろ。貴様の肉で腹を壊す私の身にもなってみろ、土間」
「もう〜〜うまるが腐肉前提で言うなァ〜!!!」
「うえ〜〜ん……、ダメだよぉ〜魔人さん〜〜! 宇宙人の可食部は内蔵の汁のみ、って月刊マーに書いてたんだよ〜! 食べたら病気になるって〜!! 土間るちゃんは宇宙人なんだから……」
「だからマスター。こんなチンケな土間、食べる勇気なんて私には到底ありませんよ」
「……うっへへ〜〜え〜〜ん…土間ぁあ〜〜〜〜…」
「おたくらさっきから土間って言いたいだけでしょっ!!! …あんむ、バリバリ……」
ポテチカスがデデルの首元へボロボロと溢れていく。
ただでさえ彼の身体は限界に近いというのに、ストレスが溜まる一方。──マミから「あっストップ!! ストップ!」と静止されなければ、無意識のうちに『指パッチン』を鳴らす寸前であった。
──本当に何なんだ、この生物は。こんな見た目の生物、今まで見たこともない────と。
ふと目を閉じて髪をかき上げるデデル。
古代エジプト時代から生き永らえし百戦錬磨との魔人でも、流石にこの珍妙な土間には頭を悩ました様子だった。
「…………。…くっ」
「あ、そうだ! エイリアン食といえばメン・イン・ブラック3だけどさ〜!! 魔人さん、缶コーヒーのボスの宇宙人ジョーンズって知ってる???」
「うわ何マミちゃん…。急に元気だなぁ〜〜…」
「あのCMはさ〜、宇宙人が地球の調査に来たんだけど、映画見て人間になりすましたからトミー・リー・ジョーンズそっくりって話でね!! …もしかしたら、うまるちゃんもソレなんじゃないかな〜〜ってわたし思うんだよねえ………っ!」
「いや『チラッ→ニヤリ…』じゃないわマミちゃん!! …確かにうまるは普通の人間モードにはなれるけども〜…けどもだ──…、」
────…いや待て。───
───本当に、『今まで』このような生物を見たことはなかったか?───
────……私は…………っ?───
「…うッ…………!!」
「「え……?!」」
うまるとマミで下らぬ問答が繰り広げられた折、デデルへ不意に頭痛が押し寄せて来る。
その頭痛は脳が直接激しく揺れ動いたかのような。兎に角、脳内から響き渡る鈍い痛みであった。
「…うぅ、くっ…………!!」
「え?! ちょ、ちょっと魔人さん!!」
「だ、大丈夫!??」
「ぐうッ……………………!!!」
頭を抱えて膝を地面に着く、デデルの唐突な体調不良にマミらは心配の声をあげる。
電撃が走ったかのような頭の痛み。そして滲む脂汗。
二人があたふた心配する傍ら、彼女らを無視してデデルはひたすらに、『記憶の回路』に藻掻き続ける。
デデルは分かっていた。
────頭痛の正体は、『既視感《デジャヴ》』。
666
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『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:08:17 ID:cFeuEibI0
魔人。
彼には記憶が無い。
記憶喪失という現象は、外傷的、または精神的激しいショックから引き起こされる病であるが、彼が記憶を失った起因についてはいざ知らず。
自分がランプの魔人であることという実績、経歴までは残っているものの、ある『一部分』だけが抜けている。
その一部分とはつい直近。──と言うよりも、ここ『一年近く』の記憶がゴッソリと無くなっていたのだ。
誰かに呼び出された所までは記憶に残っている。
モクモクと煙が立ち込める中、“さて、今度のマスターはどんな強欲者か………”と諦めた顔つきで、
『我が魂を呼び起こし者よ──』『魔神の掟に乗っ取り願いを叶えてしんぜよう──』『さぁマスター望みを…──』とお決まりの言葉を口にする。
そこまでは憶えているのだが、────以降。『誰』に呼び出され、その後一年も『何を』していたのかは全くの靄がかかっていた。
巡る記憶に、鎖が掛けられた脳を呼び覚ます『土間るちゃん』という名の鍵。
「(……………思い出せない。何もかも……………)」
「(だが、確かに『いた』。……………私にはうまるという生物の様な奴を、見た記憶があった………………)」
「(何故だが、『忘れてはいけない筈の』………。得体の知れぬ者が、頭の片隅で揺れ続けている…………ッ)」
モノクロで断片的、乱れの多いものであったが、それでも『記憶の映像』が、サイレントながら流れていく。
ソイツは、【二頭身】で────
“じゃあ〜〜……。一生分のお菓子とかは…‥……?”
ソイツは、【減らず口】ばかりで────
“やりたくない仕事はやらなくてもいい。あたしが伝えたいのはそれだけすかね……ふふっ♪”
ソイツは、なんの役にも立たず【駄目】なやつで────
“す、さ、さーせんしゃしたぁあ!!! あ、あたしうっかり壊しちゃって…ぇっ…………”
──それでも、ソイツは大切な存在だった気がして──────────。
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『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:08:30 ID:cFeuEibI0
………
……
…
『…まったく。貴方一人で何ができるというのですか』
“…え……えっ………?!”
『ここは私にお任せ下さい。──』
『──行きますよ。…マス─────……、』
…
……
………
「(…ター────────………………)」
「…人さん……!! 魔人さんしっかり〜!!!」
「え、ええ、え、と、とりあえず水!! 水飲むっ?!」
「……………」
巡る。巡る、存在しない筈『だった』記憶。
頭を抑えてから三分ほど経過。
この時には既に、けたたましかった頭痛は緩やかな波打ちに収まっている。
また同時に、脳を駆け巡ったあの無声映像《記憶》の続きはもう霧中状態。
二頭身の『彼女』の姿は、完全に消え失せていた。
結局、デデルは失っていた記憶を取り戻すことは出来なかった。
いくらテープで補修しようと努力しても、これ以上頭は稼働しそうにない。
彗星の如く過ぎ去っていった、『走馬灯』に似た何かはもう見つからず。
通り過ぎた記憶の痕を舐めるしか今はまだ出来そうにない。
彼は重たそうに目をゆっくり開き、そして乱れた呼吸をフゥ…と整え出す。
「…………………。…申し訳ありません、マスター」
「え?! だ、大丈夫……?」
「ええ。……それに土間の小娘も、申し訳ない。…心配は無用だ」
「…え、うん……。…ダイジョブならいんだけどさ………」
やや涙ぐむマミの肩へ、優しく手をおいたデデルは、ゆっくりと前を向く。
やがて、また彼はゆっくり立ち上がると膝の汚れを祓い、汗を拭いて乱れた髪を整える。
ふと、懐からひび割れた自身のランプを取り出すと、何を思うか、じっとただ見つめた。
ただ、じっと。
失いかけていた記憶の名残惜しさに、魔人も思う節があるのだろう。
頭に引っ掛かる取りづらい何かに、きっと心中もやもやで一杯だった筈だ。
だが、記憶と同時に自身の身体も薄れゆく現在。
「……さて。マスター、そして土間」
「え、何…??」 「…苗字で呼ぶなしぃ〜〜………」
「自意識過剰な事を申すようでしたらお恥ずかしいですが、…貴方がたは私が必要不可欠な存在。…そういうわけですよね?」
「…そ、そりゃそうだけども……」
668
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:08:44 ID:cFeuEibI0
「いやそうだよ!! 今殺し合い中だよ〜っ?!! 魔人いなくなったらうまる達ゲームオーバーだよ!!──」
「──………それで、何が言いたいの?」
「左様ですか。そうとなれば少し名案が思い付きましてね。『魔力』もまた、私にとって必要不可欠な物。そこでですよ。──」
魔人・デデルは、過去ではなく『今』。
取り敢えずは、『今ある目の前』を見据える事とした。
「──マスター、少しばかり私の我儘に付き合ってもらいたいです」
「え???」
デデルの十数メートルほど前にて浮かぶ、『魔力の源』八体。
──トボトボと後ろ姿を見せる少女・山井恋を指し、デデルはマスターの肩へ手を置く。
◆
669
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:09:04 ID:cFeuEibI0
追憶。
私が飲んだ、水の精霊は────────、
シチューでした──────。
**短編09『スマイル・アンド・ティアーズ!』
[登場人物] [[マルシル・ドナトー]]/ [[新庄マミ]]、[[山井恋]]、[[魔人デデル]]、[[うまるちゃん]]
『時刻:AM.04:17/場所:東●ホテル周辺街』
『────通常再生』
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670
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『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:09:25 ID:cFeuEibI0
「はっ、はっ、はっ、」
「もうコラーってばぁ〜! あはは〜!!」
1405号室。スイートルーム。
犬が大好きな魔術師・マルシルは突然の訪問者であるマロに随分とお戯れな様子であった。
マロのほっぺをモ〜チモチと引っ張ったり、大型犬なその身体を胸一杯に抱き締めたり。
事態が事態である事を気にしていないのか──と聞かれたら、恐らくマルシルは緊迫な現状下を忘れているのだろう。
同行のチルチャック曰く、『賢ぶってるけどヌけてるヤツ』との彼女らしい、実に平和なひと時を送っていた。
【モンスターよもや話】
…………………
そんなマルシルさんであるが、かつてウンディーネに襲われ、体力と共に『魔力』を失った際、機転の効いた回復方法を行使した事がある。
それは他でもない。──ウンディーネを飲む事だ。
仇をもって薬となす。
精霊は魔力を捕食して生きる生物の為、魔力が豊富に含まれていることは間違いない、と。
ナマリら他パーティ同行者に苦言を呈される程の策であったが、もう色々な意味で後が無かったマルシルらは『水先案内人捕食作戦』を決行。
鍋に閉じ込め、煮沸(ウンディーネは熱に弱い)。
ジャガイモ等と共に煮て、味を整えた『ウンディーネシチュー』の御賞味結果ときたら、
──それはそれは暖かな優しい味であり、────そしてマルシルの魔力も僅かながら回復に至った。
魔物食とは、現代社会で日常生活を送る一般人からしたら、昆虫食やゲテモノ食いに値するのだろうか。
兎に角、マルシル一行の食生活は常識はずれなものであり、ナマリ等がやや引くのも無理はなかったが、結果的には。
──結果的にはサバイバル精神が活きた物と言えるだろう。
…………………
…………
……
…
「はっ、はっ」
「かわいいんだから〜…っ!! もう!」
とどのつまりは、再演、か。
彼女が泊まるホテルにて、迷宮探窟家狩りの精霊が水飛沫を撒き散らしていることなど。
今は、まだマルシルは知る由もない様子である。
ドンッ
「……きゃっ………──ぁ…っ?!! 何ここ…?」
「…え!? うわっビックリした?!!!」
そんな彼女の背後にて、額を真っ赤に染めた女子生徒が何処からともなく降り落ちて来た────。
………
……
…
671
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:09:37 ID:cFeuEibI0
◆
笑顔にも種類がある。
「…ふ〜〜ん。つまりその水の精霊さえ手に入ればどうにかなるんだね?」
「その通りだ土間。…とは言っても水先案内人《ウンディーネ》の魔力は微々たるものであるが。……まぁ二、三体ほど確保できればランプを満たすことができるだろう」
「……二、三体…ねぇ…………。…ところでさぁ魔人〜…」
「なんだ」
魔人デデルと暇人うまるに陰から見守られる【マスター】新庄マミ。
彼女の表情はパッパラパーな程にスマイル。不安や恐怖といった不純物が一切ない、心からの笑みであった。
そんなマミと対面するは、負けじと笑顔の山井恋。
──光と闇の対極という訳か。山井の一目で分かる作り笑いは、笑顔では隠しきれないドス黒い邪悪さが漂っており、
「……マミちゃんかなりピンチじゃないっ…?! …なんで一人で行かせたのっ!!??」
「……」
────マミの周囲一帯では八体のウンディーネが、今にも吹き出しそうな位にウォーターカッターを構えている。
「主の見せ場を作るのもまた使い魔の役目」
「ハァっ!!?」
「言わばマスターの力量の見せ所だな。これは」
ギギチチ……っ。
放たれる直前の弓矢のように、発射寸前を維持するウンディーネ達。邪悪の笑顔な山井。
取り囲まれたマミに、絶体絶命のマミ。
そして、この状況を全く理解していないのか、「あはは〜」と笑顔が咲き乱れるマミ。──junior high school girl。
魔力をそこそこに蓄えているウンディーネ狙いで、我が主・マミへ「あの水の精霊所持者と交渉してくれ」と頼み込んだのは数分前のこと。
何故、デデルは自分から表立って交渉しにいかないのか──。
そして何故、よりにもよって『こんな子』に無茶な交渉代理人の白羽を立てたのか──。
魔人はその意図を語る。
「…何故……か。私がわざわざ出る幕でもない、それだけだ。それに、半透明かつ、貴様らの観点からしたら異様な服装と言える私よりも、ごく平凡なマスターの方が相手も警戒しないだろう」
「……い、いやそりゃそうだけどもさぁ〜っ!!」
「そしてなによりも、マスターは…『歩』だ。土間の小娘」
「え? 『ふ』って……???」
「どんな優秀な棋士も、第一手は必ず歩。歩で相手の実力を見るものだろう。…となると、うってつけはマスターと言える。……奴には願いを酷使した贖罪もあるからな…」
「あ、あーー…。歩って歩兵のことね〜。将棋の………。──」
「──マミちゃんの扱い…歩兵レベル……………」
「…ふふっ。……あ、失礼。私とした事がつい……」
僅かながらだが、魔人からも笑みが漏れた瞬間だった。
嘲笑、満面の笑み、暗黒笑み、──笑顔の絶えないウンディーネの群れ。
四者四様、四方八方から笑顔が咲き乱れるホテル前にて、マミの頭は花畑。
返答によっては、花大盛りな頭のマミも血薔薇化することは言うまでもなくだが、果たしてこの危機的状況、彼女はどう収めれるだろうか。
何十本にもなる視線が痛いくらいに突き刺される中、マミはへらへら口を開く。
672
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『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:09:49 ID:cFeuEibI0
ギギギギッ……
「………えーと。それで〜山井ちゃん…だよね?」
「そだよー? マミちゃーん。…ついさっき名乗ったばっかなのに確認いちいち必要かなぁー?」
「わたしさ!! …実はオカルトとかUFOに関しては人並み以上に深堀りしててさ……! …自分で言うのもアレだけども…、結構やばい領域に足踏み込んじゃったりしてるんだよね……!! フフフ…!」
「なーに? それは」
「だからさ、ほら見てよ!! このUFOの破片!!」
ゴソゴソ…
「………で、なーに?」
「これは月刊マーの付録にあった奴なんだけど…すごいんだよ!! あのロズウェル事件で極秘流出したもので、なんと重さがないんだって! 0gらしいんだよ!! この世の物じゃないからさ!!」
「………ごめんねー、マミちゃん──」
「──言いたいことそれじゃないよねー? 絶対」
「え?」
「もっとな〜んかさー、私に要件あるから話しかけてきたんでしょ? そこからまず話そうよ〜〜。──」
「────ねぇっ、…マミちゃあぁ〜ん?」
「あ、うん。ゴメン…」
対面相手が自分より年下で、かつおつむの弱そうな女子である為か、お姉さん的態度で優し〜く宥める山井。
勿論、彼女に優しさなんかこれっぽっちも無い。
マミへの思いやりの精神があろうものなら、出会い頭、即「はい水の精霊、構えて」と敵対心を見せつけないものである。
とはいえ、そんなギチギチ…と鳴り響く水の槍達も、後に偏差値30台の帝辺高校に通うマミには知らぬ存ぜぬか。
頭上のウンディーネ達を見渡した後、マミは例のUFOの破片だかを差し出した。
「それで〜〜山井ちゃんにお願いなんだけど〜…。…これあげるっ!!」
「…だからどーゆーことなのかな?」
「だから交換ってことで!! このウンディーネさんを…一つか二つ…私にくれないかな?」
「…………ん〜? なーにそれ?」
「本当はこのUFOの破片……わたしの宝物で……。将来的にはなんでも鑑定団に出したいってくらい…大切なものなんだけどさ…」
──“結局手放すんかいっ!!”
と、うまると山井で心中ツッコミがハモる。
「今はもうそれどころじゃないんだ…。ウンディーネさんが何よりも必要で、欲しい人がいるから……。…その人の為にっ……。お願い山井ちゃんっ!! トレードってことでお願いだよ〜っ!!」
「……」
「ねえ、どうにかならない………?」
「やばー。やば谷園」
消えかけのデデルへの思い、そして自分が彼の命綱となってる責任感からか。
マミの目からも水先案内人《涙》が一粒零れ落ちる。──その涙には恐怖も緊張感も含まれていない。どうやら未だ自分が殺される寸前だということを理解していないようだった。
ただ、形はどうあれ年下の少女の涙は、相手の感情を揺さぶる効果がある。
涙を堪えながらもフルフル震えるマミへ、山井はどう心が揺れ動いたか。
彼女は笑みを維持したままそのアンサーを突きつけた。
673
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『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:10:04 ID:cFeuEibI0
「嫌」
「えっ!? えぇ………」
──無論、邪悪が張り付いたかのようなその笑みで、である。
「ごめんねーマミちゃーん。マミちゃんの想いは伝わるけどさぁーー、私UFO興味ないしいらないって感じかなー? …いらないものを押し付けられたらさ、どんな気持ちになるか、考えれるかな?」
「で、でもっ!! わ、わたし本当にウンディーネさんが──…、」
「うん、分かるよ。でもいらないしあげたくない。…ほら、あんまり無理しないでよマミちゃーん」
「え…?」
「マミちゃんってさー、アレでしょ? 本当は誰かに言わされてるんだよねー? 誰だかワルイ大人にさー、『それ言ってこい』って操り人形させられてるだけなんでしょ? あはは〜」
「……ぎ、ぎくっ…。そ、そんなことは──…、」
「うわ、『ギクッ』って口に出す人初めて見たし…。もうーマミちゃんったらバレバレなんだから〜〜。ね? だからマミちゃんがいくら頑張ろうと私は譲らない。…バックの人じゃないと話にならないからねーー」
「…や、山井ちゃん〜〜。お願いだからぁ〜──…、」
「ねぇ────? バックの誰かさーーん。どうせ近くにいるんでしょー?」
「………バレてるし魔人」 「………………………やれやれだな」
『歩で相手の実力を図った、その結果』。
──敵意剥き出しのウンディーネは、思ったより只者ではなかったこと。
────そして、我がマスターが予想以上に使えない事が判明となった。
デデルは軽く頭を抱えた。
そしてうまるも蛇に睨まれたかのような、ズッシリと重たい物を抱えさせられた。
「…さて。マスターがお困りとあらば……仕方ない。行くぞ、土間の娘」
「…うへ…マジ〜…?」
歩兵が使い物にならなかった今、ならば大将直々にお出ましと。
ビル陰でモニタリングしていたデデルはMPを消費し、しょんぼり気味のマミの隣へテレポート。
────パッ
「うわっ!!! ………………は?」 「あ!! 魔人さん〜…!!」
「申し訳ありません。…山井さん…でしたよね? うちのマスターは会話が下手なもので、接していてさぞ大変であったでしょう」
「………え。何…それ」 「……か、会話下手じゃないよっ!!!」
「ここからは出来の悪い傀儡人形のパペッティア────私、デデルが代わりますので、どうか説明を聞いていただきたいです」
「……ふーーん。とりまさ〜アンタがマミちゃんの保護者ってわけねー。──」
「──てゆうか、何か…透けてない? アンタ………。幽霊…?」
「ええ。気になりますか? …私のこの姿。……こちらも時間が無いのでね、矢継ぎ早説明に入りますよ」
「あっそう」
674
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:10:17 ID:cFeuEibI0
異様な姿の来訪者を前に、流石に山井も『喜怒哀楽』の『楽』に表情が戻る。
魔力消費故に余計透過度が増したデデル。
彼による、交渉part2が始まりを見せた。
落ち着いた素振りで魔人が対話する中、舞台から降ろされたマミは何だか不満げな様子で。
デイバッグのうまるへひっそり語りかける。
「(……なんかわたしの扱い皆ひどくないっ?!)」──と、ヒソヒソ。
──対してうまるの、「(…どんまい!)」と何のフォローにもなっていないヒソヒソ返しには、マミも地団駄を踏み鳴らしたが、ポンコツ少女にはこれ以降一切構わず。
ウンディーネの鋭先に怯えまくる中、うまるは戦況を黙って見守っていた。
「このランプ、分かりますか?」
「……え? いや知らないし。それをなんでも鑑定団に依頼するわけー?」
「いえ精神鑑定に出す予定はマスターと土間の娘だけです。それはともかく、」
「…って、おいっ!!」 「ひどくないもうっ?!」
「このランプは私ら魔人にとっては言わば心臓。…魔力を貯める必需品であり、掛け替えのない品物なのです。……ええ分かりますよ。『自称魔人とかコイツあたおか?』と御思いでしょう。ただ、半透明なこの私やウンディーネという非科学的な存在を前にした貴方なら、どうか鵜呑みにして聞いて頂きたいです」
「………………あーうん。思春のヤツのお陰でこーゆー《厨二臭い》の慣れてるからそこんとこオーケー」
「…私が消えかかっている理由もこのランプが全て。圧倒的魔力不足が原因なのです」
「………」
「普通の主ならば魔力で満たせるこのランプ内も……。見て下さい、このスッカラカンぶりを。…主の友達である『超能力者』の魔力を遠隔で利用してみたのですが…もはやこの有り様。…今の私には足りないのです、魔力が……」
「……………」
「……そこで、貴方の力を借りたい…という発想に至ったのです。山井さん」
「……代用になるってことなの? 私の可愛いウン…水の精霊達がさー、ランプの魔力に」
「…代用どころか半端なく助かりますね。勿論、全部とは言いません。一、二体でもう十分。……マスターは先程『わたしが話せば分かるよ〜!』と私に言ったのですがね、どうでしょう。──」
ギギギギッ…
ギギギギッ……
「──話せば、分かりましたか? 山井さん」
「…………」
冷たい水が恋しい灼熱夏の夜。
とは言っても殺意剥き出しに先端を向ける水先案内人達には、心底ヒヤヒヤするうまるであったが、緊張を感じるのは彼女のみではない。
綺羅びやかなホテル玄関前、いや東●ホテルがシンボルマークの周囲。この周囲一帯が、確かに緊張感で包まれていた。
ツララのようにいつ落ちてくるか分からないウンディーネの刃。
生と死の狭間が生じた街角。
緊張感がボルテージに昇り詰める中、未だほげぇ〜としているのはマスター・新庄のみ。
そんな現状となっている。
「……ご、ごくりっ」 「…」
「…………」
「貴方にデメリットがあるという話ではないと思いますが…、如何に? 山井さん」
「……」
675
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:10:29 ID:cFeuEibI0
デデルの発言も理には適っている。
言わば砂漠に水をやるのと同じで、魔人と自称する阿呆共にウンディーネを渡しても特に不都合は無し。
それどころか、彼らのスタンスは基本【対主催】である為、ウンディーネを用いて山井に危害が加わる心配も無い。
たった一、二体。それっぽっちをくれてやるだけで満足なのだから、断る理由は存在しなかった。
少しの沈黙の間。──山井が思考整理の末、考えを導き出した時──。
彼女はやれやれと仕方なさそうに、ニコリと微笑んだ。
「ふーーん。…まぁ確かにね。よく話はわかんなかったけどもー、アンタも色々大変なんでしょ? そうならー、…ま、仕方ないか」
「………ほう」
山井が選んだ決断。
それは『承諾』であった。
近くにいたウンディーネ二体を、ホイホイ〜と指で引き寄せ、山井は口角を上げる。
「はい、水の精霊。困ったことがあったらお互い様だからねー。遠慮なく使っていいよ〜」
「…………」
警戒心を解き、デデルの元へとゆったり近づいていくウンディーネ二体。
思いの外あっさりと引き渡された魔力の元であるが、この味っ気のないあっさりさに魔人はどう感じたか。
「…なんか、結果オーライ?」→「だね!! さすがわたしの魔人だよ〜!!」と平凡女子二人は胸を撫で下ろす中、
山井はぶりっ子というくらいに満面の笑みを見せた。
「…さて、マスターに土間の娘。……やれやれですね」
「ほーんと……。一時はどうなるかと思ったよ〜〜〜」 「まぁよかったじゃんこれで〜」
「……」
「え。何それカワイ〜!! ねえ魔人…だっけ? アンタの抱えてるその子、…何これハムスター? チョーかわいんだけどーー!!」
「えっ。うまるのこと〜…??」
「…………」
「えーー、ちょっと魔人〜無視ぃ〜? 何それうけるー。…ともかく、その子…うまるちゃん?? あんまりにキュートだからさ、私もサービスしよっかな〜…みたいな?」
「え?」 「へ??」
主《山井恋》の言葉に、その意図を汲み取ってかウンディーネ八体全てが動きを取る。
「二体とは言わず全部あげちゃう! 出血大サービスだからね〜??」
「…え??」
676
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:10:42 ID:cFeuEibI0
山井の笑み。
可愛らしく純朴なその微笑みは、
「……………さて、行きますよ、土間とマスター。あぁ、あと山井さん………いや、もう敬語すらも煩わしい……。」
常に、
「────今度こそ確実に殺ってよ、水の精霊。──」
────真っ黒で邪悪なスマイルである。
「おい山井。このお礼は後でタップリ支払わさせて頂く。…人間の…たかが小娘がっ…………」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────────────
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────────────
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────────────ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────────────ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────────────
────────────ッッッガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ────────────ッッッガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ────────────ッッッガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
────────────ッッッガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
────────────ッッッガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
「ぎゃっ?!!」 「わっ!!!?」
分裂。
そして螺旋のように迫りくるウォーターカッターの十六奏。
躱しようのない、切断の雨あられ。
普段のデデルならばたかが魔物の攻撃如き、赤子の手を捻るよりも簡単に対処できるものだが、生憎、魔力の枯渇ぶりが激しい今。
テレポートもバリアーも無駄遣いできなくなった今現在、マミを無理やり抱えた彼は手も足も出せない…──否。手足をフル活用するしかない。
「ほーら!! もっと速く走れ、走れって☆ フォレスト・ガンプーー!!」
「ぐぅっ…」
「な、なななにこれえええええ!!!!!」 「びええええええええぇえええ!!!!!!!」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────────────
光の彼方──ホテル内へ逃げ込むデデル一行。
彼らを見送る山井には、今度こそ正真正銘の微笑みが表れていた。
「あははっ☆」
677
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:11:08 ID:cFeuEibI0
**短編10『奇跡の味は』
[登場人物] [[飯沼]]、[[野原ひろし]]、[[海老名奈々]]、
『時刻:AM.04:42/場所:東●ホテル3F』
『────『→』早送り/話は25分後へと進む。』
---------------
678
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:11:22 ID:cFeuEibI0
“奇跡は起こらないようで、よく起こる。”
1962年の創立以来、ずっとお荷物球団と言われていたメジャーリーグのニューヨーク・メッツが、ボルチモア・オリオールズを破って、初のワールドシリーズ制覇したあの年。
勝敗が決まる最後の試合にて、投げていたのはエースのトム・シーバー。
──実は彼、本当はアメフト選手で活躍する未来もあったが、五歳の時の誕生日に、父が間違えて購入したグローブをプレゼントされ、野球の道を選んだという経緯がある。
そのシーバーが最後の打者に投じた内角低めのストレート、百二十球目のボール。
──あのボールは製造会社のミスにより、一球だけ紛れた反発数の低い物だった。
打った相手打者はこれをジャストミート。ただ、濡れたスポンジ同然のボール故に、打球はみるみる失速。
左翼手であるクリオン・ジョーンズのグローブの中へと収められることとなる。
──このジョーンズも、妊娠前母親がワインを口にしなければ女の子に産まれ、名前はクララだった。
(引用元:メン・イン・ブラック3)
まるで、『風吹いて桶屋が儲かる』という言葉そのものだが、こういう奇跡の連続は、実際に世の中でもたくさん起きているのだろう。
私たちがそのすべての過程を知らないだけで。確実に。
普段生活している上では忘れがちだが、今この瞬間は多数の奇跡の上で成り立っているのだ。
例によっては、ホテル三階にて。
ピロンっ
(♪ライン〜!)
「……あ、…………なっちゃん…」
無人の購買にて、カップ麺をかごに入れるサラリーマン──飯沼の話。
自身の空腹を満たす為、そして成り行きで連れとなったマルシルにご馳走するため、七階からわざわざ降りてきた彼は、物色を続ける。
何となく目についた、魚肉ソーセージを取り出した時、不意に鳴るはLINEの通知。
妹・夏花からの心配の言葉であった。
「…………」
夏花──『どこ??』 既読
夏花──『いないよ!! 家に!!』 既読
夏花──『(心配〜😢のスタンプ)』 既読
「……なっちゃん………」
一人暮らしである自分の家に、たまに遊びに来て。
そして美味しい手料理を、光悦の表情で共にする──飯沼の大切な妹。
友達よりも食。ほとんど人に興味がないと言っていい飯沼が、マルシルという謎の初対面女へドライにほっておかないのも、この妹が理由か。
血の繋がる夏花を見ているようで、なんだか無視してられない──といった具合で、彼はマルシルを気に掛け続けていた。
「………………うわぁ、……ごめんね。なっちゃん…」
妹のラインが胸に刺さってどうしようもない。
飯沼の、そんな様子が見受けられた瞬間だった。
──ただ、一方で、飯沼は「…それにしても何故なっちゃんは、こんな時間帯に僕の家へ……?」と心の奥底、不審に思う点もある。
679
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:11:38 ID:cFeuEibI0
──これは、夏花がサークルの帰り道。大学に忘れ物をした事に気付き、山手線をゴチャゴチャ往復した結果、終電を逃したという経緯の元である。
──そして、その忘れ物に気づいた経緯も、乗客であるアフロのサラリーマンが「パチンコまた負けた…。『雑誌』読んだのに…」と呟いたのが起因となっている。
──また更に巡ること二時間前。本来なら高設定だった台は、たまたま隣にいたじいやという老人の台パンによりバグらされてしまっていた。
──この八つ当たりさえなければ、台を選んだアフロは大勝ちし、ウキウキ気分の元、タクシーで家に帰っていた筈だった。
──普段は温厚な性格のじいやが、この日この時間に限ってたまたま怒りを露わにしたのも、業田萌美という家庭教師に詰られた事が理由となっている。
──ただ、萌美が厳しく当たるのも無理はない。
──なにせ、自らが専属し指南する令嬢・大野晶が行方知らずとなったのだから、気が気でいられなかったのだ。
「………『大丈夫だよ、安心して』……と──」
「──…あぁ。ごめん、ごめん………。なっちゃん…」
もしかしたら、これが最期の返信になるかもしれないという、悲しみ。悲哀。
飯沼はこの時、確かに指が震えていた。
──震えていたのは何も飯沼のみではない。
──場所、時刻は違えど、昨日の午後一時、カツ丼屋にて。
──大盛りを頼んだ川口の奴というサラリーマンは、その量に心底震えざるを得なかった。
──店の名は、『かつ澤』。
──サイズは、『キッズ用』→『レディース』→『普通盛り』→『大盛り』との四段階だが、レディースサイズが他店でいう大盛りサイズに値する。
──故に、そこから二段階量が増えた『大盛り』たるや、もはや山の如し重圧と高さであったといい。
──ただ、その悪魔的量にもバックボーンがあり。
──数年前、街を歩いていたかつ澤店長はたまたま。
──「カツ〜♪ カツといったらビッグカツ〜♫」と歌う、紫髪の少女とすれ違った。
──この時の何気ない歌声が、この理不尽なドカ盛りの発案につながったという。
──紫髪の少女は、後にしだれカンパニー社長の娘と知る。
──駄菓子店からの帰り道にて、お好み焼き屋の親父から「気に入った!! 今日はとことん付き合ってやるよ!」と突然絡まれた。
──虚を突かれた思いの少女であるが、その親父から響く謎の「じゅわっ…」という音が何だか嫌で、嫌で。
──見て見ぬふりをしつつ、来た道を戻り返す。
──そのお好み焼きの親父から発せられた「じゅわ…」音は、厳密には裏の家からの音。
──汚れた室内にて、鰐戸三蔵が豚塚に根性焼きをした音が、たまたま漏れ出たのだ。
ポチッ
『送信エラー。時間を置いてから再度送信してください』
「…あれ…………? おかしいな…」
妹へのラインを送信し、購買から出ようとした飯沼。
彼を立ち止まらせた要因は、LINEアプリへの違和感。
すなわち、普通ならまず目にしない謎のエラーメッセージが表示されたのである。
──このエラーが発生した原因は、案外単純。
──新田ヒナの超能力が暴走し、ラインのサーバーが攻撃されたから、が理由となる。
──ヒナがまるで漏れ出たかのように超能力を発動した理由も単純。
──歩きスマホをして前を見ずにいたところ、フラフラと食い倒れ寸前の川口にぶつかり、「つい…」という具合だ。
──そして、この川口。
──過剰な暴食が原因となって、ケアレスミスを犯してしまい。
──ストレス発散として、つい公共の場で雄叫んでしまった。
──小太りのサラリーマンが発狂するという異様な光景を目の当たりにして、夏花は講義室に置いた『雑誌』の存在を忘れてしまった。
680
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:11:52 ID:cFeuEibI0
────そう、『忘れ物』はこうして出来上がる事となる。
「まぁ、いいか………。マルシルさんも待っているし……そろそろ行くかな…………」
あの時、夏花が忘れ物をしなければ。
アフロのリーマンがパチンコで負けなければ。
大野晶が『参加者』に選ばれていなければ。
川口が叫ばなければ。
かつ澤の店長が大盛りを異常なボリュームにしなければ。
しだれコーポレーションの令嬢が帰り道を引き返してなければ。
お好み焼きの親父から「じゅわっ…」と音が出なければ。
豚塚が鰐戸三蔵から逃げ押せていれば。
ヒナが前を見て歩いていれば。
どれか一つでも無ければ。
飯沼は無駄な時間を過ごす事なく、スムーズにマルシルの部屋へと戻って行き。
何の災いも危険も負うことなく、とりあえずは平穏でバトル・ロワイヤルを過ごせたことだろう。
ましてや、エレベーターに向かった際、
「……ん?──」
シュッ────
「──え?」
階段から現れたウンディーネに鉢合わせることなどなく、
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────────────
「え────…、」
──妹への無念を最期の意識に。
──鋭利なレーザー光線で肉体を切り刻まれるなど。
──無かった筈なのに。
プツンッ…──
681
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:12:04 ID:cFeuEibI0
“奇跡は積み重ねでできている。”
(メン・イン・ブラック3──グリフィン)
本来ならここでページが終了するはずだった、飯沼の物語は、
「はっ、はっ、はっ!!」
ドンッ
「う、うわ!!」
奇跡の犬。マロ。
『マロ』が突進したという、一つの奇跡のお陰で、まだまだ連載が期待できそうものとなる。
この駄犬が飯沼に目がいった理由。
──彼の腰ポケットには、犬の好物である魚肉ソーセージがあったのだ。
タ、タ、タ、タ
「あっ!! だ、大丈夫かぁ〜?! 君!!」
「え……!?」
「ひ、ひろしさん!! この人…は………!?」
「わ、分かんねぇ!! 知る訳ないし、…そりゃ失礼ながらゲームに乗った参加者な可能性も…あるかもさ……──」
「──だが、敵の敵は味方…!! …つったらこの人に失礼だけどよ〜〜……。ウンディーネが攻撃対象にしてる以上、この人も大切な仲間だぜ!! さぁ、早く逃げるぞ!!!」
「え、は、はい……………!!」
奇跡の【味】は────。
三人はこうした経緯の元、出会う事となった。
682
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:12:29 ID:cFeuEibI0
**短編11『雨ニモマケズ』
[登場人物] [[山井恋]]、[[魔人デデル]]、[[新庄マミ]]、[[うまるちゃん]]
『時刻:AM.04:36/場所:東●ホテル3F』
『────『←』逆再生/話は6分前へと遡る。』
---------------
683
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:12:43 ID:cFeuEibI0
ガガガガガ………────ッ
「レイミーブルー、もう〜〜〜♫」
スイートホテル一階・ロビーにて、噴水の縁に座った女子生徒は──雨に唄う。
満面の笑みで身体をユラユラ…リズムに揺らせる彼女は、このあまりにも酷いホテルの内部を全く気にしていないのか。
グーグルレビュー曰く星四つ。多くの人々から高い評価を受けていた豪華宿舎、その内装は、あんまりなまでに崩れ散らかっていた。
まるでペインティングで切り裂かれた失敗作の絵画のような、辺り一面斜線まみれのズタズタなロビー。
十五階建てである筈なのに、何故か天井から至る所降り注ぐ雨漏り。
床は水浸しのウォーターワールドであった。
そして、何よりも問題のある箇所は、上階から鳴り止まない騒音の嵐。
──現在進行系で増築中なのか、先程から『ガガガ────ッ』とけたたましい地鳴りが響いて安息も糞も無い。
他にも多々問題点は抱えているが一先ずはこれにて割愛。
まだ未完成状態だというのに、何故意気揚々と『OPEN!』の看板が立てかけられているのか不思議で堪らない。
客を全力で追い返すスタイルの、訳の分からないホテルであったが、ならば「そっちがそういう態度ならこちらも」との考えか。
ふとこの場に足を踏み入れた女子──山井恋は、開き直ったかのように讃美歌を歌い続けた。
傘を差しながら、水溜りを無邪気にビシャビシャさせ、山井は歌う。
小天使のような愛しい鼻唄は、まだまだ降り注ぐ雨粒に向かってのメロディ。
「変わっ〜た〜〜、はずなのに〜〜♪──」
雨に唄えば────。
──彼女は水の精霊へ言葉を続ける────。
シュ────ッ……
「あ、ちょっと〜ストップ!! ──…おいアンタだよ。止まれって」
……ピタッ
「うん、追加命令ね。今思いついたんだけどさ〜、ついでだしあの魔人(笑)以外にも何か参加者見かけたら即片付けヨロシクね! 手当たり次第殺っちゃっていいからさ。分かったー??」
……………………
「………とりあえず分かったんなら反応くらいしよっか。ねぇ〜??」
……………………
「…はぁ。無反応、だっる……。…ま、いいや。あとこれ一番大事な事だからさ。ちゃんと頭に入れておいてよ? ね?」
………………
「誰でも彼でも好きなだけ攻撃していいとは言ったけどさ〜──」
「──私とっ!!!──」
「──古見さんっていう物凄く可愛くてロングヘアーの女子とっ!!!──」
「──…………あと、首輪にマロって書いてるゴミ犬。──」
「──この三つだけは絶対に攻撃しないでね? 絶対だよ? 分かった?? 他の連中にもちゃんと伝達してよね!」
………………
684
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:12:57 ID:cFeuEibI0
「────アンタらクソッカス水如きの命握ってんのが誰なのか──。よ〜く肝に銘じて、約束守ってね♪ それじゃ、よろしくー!!」
……
シュ────ッ……
「………ったく。…レイミーブルーなぜ追い詰めるの〜〜♪」
山井が喋り終えた後『水の塊』はズタボロの階段奥へと高速移動。
その姿が完全に視界から消えた折、上階の工事音のような喧しさはより一層激しい物と化す。
ガガガガガ─────ッ
バキバキバキ、ガガガ────ッ
ガシャン────ッ
全ては、主人に尽くす為。
山井の心とろける歌声に、雨もまた答える──。
「あなたの幻〜〜ふんふん〜♪…………あーもう歌詞分かんないからいいやっ!」
────────【言うまでも無く、ホテルをここまで斬撃し尽くしたのは『雨《ウンディーネ》』。ならびに『山井恋』による犯行である】────。
山井の小さな肩へ、ポツポツと零れ落ちる『ウンディーネの一部』。
彼女にチャプチャプ…と靴で踏み躙られても一切の文句を言わない水たまり──即ち、『ウンディーネの一部』。
鼓膜が痺れるほどの暴音に紛れて、耳を澄ませば感じ取れる男女複数の悲鳴。上階の犠牲者達。
そんな血生臭い叫び声など端からノイズジャック済みなのか、山井はゆったりとペットボトル水を口に含む。──『伊賀の天然水』。
夏の暑さにやられた喉を潤した彼女はほっと一息。
束の間のみ和んだ後、鋭い菜箸の先をツンツン触ると、やがてさぞ面倒臭そうに立ち上がった。
右手にはやたら鋭利な金属の箸、左手にはやや黄色味がかったビニール傘を持ちつつ、山井はエレベーターへ歩を進める。
──この土砂降り下にて、仮にぐしょ濡れの誰か参加者に出会した際。──彼女は躊躇なく右手の物を、『さし出す』事だろう。
「さーて、アイツら喋んないから当てにならないし。私も探しますか〜、クソカスわんちゃんを!! あはっ☆」
野原ひろし等がこのホテルに逃げ込み──現在二十分経過。
魔人デデル一行がまた同様に、ホテルに吸い込まれ──ウンディーネが追い回して以降、十五分経過。
二組それぞれの逃亡者を東●ホテルに追い込んだ張本人・山井は、満を持してとホテル内の探索を開始する。
「ふんふふふ〜〜〜ん♡」
攻撃担当は山井のポケモン──ウンディーネである以上、主人がわざわざ戦場に立つ意義など全くとて不要なのだが。
それでも彼女はホテル内に立ち寄る理由があった。
例え、怒り狂ったひろしや魔人が襲い掛かろうとも、
そして行く末。自分の身に危険が生じようとも、山井は立ち寄らなければならない。
『捜さなければいけない』という、固い決意があった。
「ふんふふふ〜〜〜ん…──」
その、山井恋が求める相手というのが、先程ウンディーネに「“この三つだけは攻撃すんな”」と釘を差した対象の一人。
「──早く会いたいよ、…古見さん…………」
────古見硝子。
──自分と家族全員の命よりも大切な、彼女であった────。
685
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:13:24 ID:cFeuEibI0
「…あはは。…複雑な気持ち……かな……。──」
────…という訳ではなく。
「──あのクソ犬が神聖な古見様を舐め回すとかめちゃくちゃ勘弁。で〜も〜……それでいて、舐められて思わず感じちゃう古見さんの光悦顔も見てみたい……って気持ちもあって………。──」
「──もどかしいな…、この気持ち……。貴方のこと、ほんとにほんとに…舐めたいのは……私なのに……ね…」
山井が探す対象は、野原ひろし等の飼い犬。
自分の股ぐらに顔をうずめてきた──クソ犬(正式名称:マロ)である。
誰彼構わず、若い女子を見かければ躊躇なく飛び付いてくるマロだ。
一生舐めても溶け消えないような宝石であるあの子────古見さん探しには、バカ犬がうってつけであろうと。
山井がホテルに入った目的は、その考えから来るものであった。
──無論、探知犬が古見さんを見つけた暁には、ご褒美の殺処分が待っている。
「…もしかしたら、この中にいるのかな………古見さん──」
「──はぁ〜……」
恋ひしがれる山井の指先は疲れを見せていたのか、微弱の震えが続く。
無理もない。
早坂と別れて以降、何百通にも渡る古見さん宛のラインを送り続け──現状既読すらも付いていないのだから、疲労は確かにあった。
そんなか弱い人差し指を、力を込めて押すはエレベーターのボタン。
「私も今日はそっと……♪ …雨…………っ♪」
下降マークが白く光る。
山井はエレベーターの迎えを、そして古見さんの姿を(──それとクソ犬を)、胸一杯に待ち続けた。
ただ、待てども待てども。
やって来るのは求めていない物ばかり。
人生とは難しい物で、自分の思い通りに事が進む人間なんか才能がある極一部のみである。
心の中しっとり雨の山井に訪れる者。
──それは、
「生憎だがエレベーターは今故障中だ。…くたびれるものだな、この何階建てにもなるホテルを階段で上がるとは…」
「え──…、」
バンッッ─────────ッッ
「──ぎゃッ──」
──エレベーター扉に顔面を打ち付けられたことによる、額の鈍い痛みと。
──目元から弾ける白い星。
──涙粒と共に爆ぜる、おでこからの流血。
686
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:13:37 ID:cFeuEibI0
「いっぎゃぁああぁぁああァアアアアアア──────────ッッ!!!!!──…、」
「──ンッ、ぐえッ!!!」
「ただ、ポジティブに考えればだな。映画のディパーテッドではないが、エレベーターは乗った際、開きざまに即銃撃を食らうというケースも考えられる。…マスターに倣い、ポジティブ思考をしてみたが、そう考えるとコイツが故障中な事もまた利だろう」
「ぇ……い…ががッ…………。…は、…はぁ………ッ……!?」
──額から溢れる血でポツポツとペインティングされる、白い手袋。
──いや、白いという割にはあまりにも透明過ぎる。
──山井の首を持ち上げ、宙吊りにする、その半透明な右手と。
「……とはいってもエレベーターを壊したのは貴様。…というよりウンディーネ共なのだがな。最後に一つ、チャンスをくれてやる」
「…が…ぁッ…………………。な、なん…………で…………」
「『何で』とは。私は確かに言ったはずだが。後でお礼を支払うとな。まぁ良い小娘」
──ダメージジーンズか、とツッコみたくなるぐらいボロボロのジャケットと。
──冷たく氷切った目。
──そして、顔面前に突き出される、指パッチンの左手。
「………な、…ぁ…………んでッ………………………」
──────“何故、生きているのか………………?”
青筋がぶち破れたかのような痛みで、瞼の痙攣が止まらない。
息がとにかくできない。
いくら白いグローブ越しの手を引っ掻こうとも、びくともしない。
2cm程の額の裂傷に悶える山井へ、待ってましたとばかりに現れたその男。
「──二択だ、選べ。このエレベーターに[故障中]という張り紙を書きたいか、それとも『書けなくなりたい』か。お前にチャンスをやろう──」
「────魔界流の出血大サービスだ──────。」
『魔人』。
デデルは、まだ生きていた────。
「…ず…………随分と、また……………透明にッ…………なった…じゃん……………ッ」
「そうだな。『限りなく透明に近いブルー』…という小説があるが。貴様の顔も随分青くなってきたぞ?──」
ポタ、ポタ…
「──…いや赤か」
687
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:13:52 ID:cFeuEibI0
「…………死………ねよッ……!! …つ…か、敬語……使え……っ……………て…………」
「敬語を求めるならいくらでもしてやる。ただ、魔人に対価を求めるなら願い主もまたそれなりの対価を差し出す物だがな。いいか?──」
「──今すぐウンディーネ全ての稼働を停止しろ。貴様へのチャンスはこれのみだ。…どうだ、引き受けるか?」
「…グ…ウッ…………………………!!!」
上階のウンディーネの暴れっぷりたるや、それは耳障りな程騒がしかった為、デデルの顔は極至近距離。──山井の視界には、魔人の顔のみが映っていた。
何もかも、わけが分からなかった。
いや、冷静に考えれば、何故自分がこのような事態に陥ってるかは理解できそうものではあるが。
矢継ぎ早に次ぐ矢継ぎ早の急展開という事。
額の激痛を凌駕する絞苦と。そして、ダメージで麻痺しかける頭痛脳。
これらが要因で山井は全く理解が追い付けずにいた。
ウンディーネに追うよう命じて長時間経った筈──。
それだというのに、一体どうやって──。
何故、無傷で──。
この透明な化物は生存に事を終えているのか────?
ウンディーネの片割れを呼ぼうにも、首がしまって大声が出せる現状ではない。
援護には来てくれない。
何の役にも立たないポツポツ雨のみが、山井を湿らせていく中、切羽の詰まった彼女はもはや思考を放棄。
デデルが与えた『チャンス』に、山井は、
「…おいどうした小娘。YESかNO。貴様が選択を──…、」
「ィイイッ………!!!」
ザシュッ─────
辛うじて手放さなかった菜箸を奴に突き刺す。
そんなアンサーで返したのだが、
結果は焼け石。
────ガキンッ
「………………は………………………?」
「やれやれ…。コレは『バリアー』だ。ユニークだろう? 私とて、お荷物二人を抱えるとなったらコイツを使う他あるまいものだった。しかしこれでまた無駄に使ってしまったな……魔力を…。これでは後先が思いやられる………。──」
「──しかし、小娘。貴様も負けじとユニーク…面白い奴だな。やはり人間の悪足掻とやらは実に興味深い…………」
「は…………? ッ、は…………………? ち…ょっと………待っ、て…。は………?──…、」
「貴様のユニークさは今後の参考にさせてもらう。さらばだ、小娘────」
「いや…、テメッ──…、」
ただ、焼け石に水とは言っても、雨が降っていた為もう十分だったのだが。
688
:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:14:05 ID:cFeuEibI0
パチンッ────
親指と中指を組み合わせて、パチンと響く小刻みの良い音。
そいつが鼓膜を振動した瞬間、山井の姿は蒸発したかのように消え失せた。
綺麗サッパリと、この場から。
「さて、…もう出てきても良いですよ。──マスター」
………
……
…
ザザッ…
ザザッ──……
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:
『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:14:18 ID:cFeuEibI0
『──臨時ニュースをお伝えします。──』
『──先ほど、アメリカ・マディソン郡にて、日本の民間航空機が墜落したとの情報が入りました。墜落現場は観光名所としても知られるマディソン郡の橋付近で、多数の死者が出ている模様です。──』
『──現地メディアによりますと、機体は突如現れた後、墜落。そして激しく炎上。周辺一帯には現在も救助隊が多数出動し、懸命の救出活動が続けられています』
「と、突如現れた……ねぇ…‥」
「…ま、…まま、魔人さん、もしかしてこの飛行機って………。さっきの……」
「……さっき、とは?──…、」
………
……
…
“
地面上にてジャンプーSQ雑誌や月刊マー、お菓子等が乱雑に散らばる中、
デデルは赤い星(──と言うか普通に飛行機)に向かって指パッチン。
パッ
「「あっ!!??──」」
「──き、消えちゃった?! どうして!!? なんで!!!」
「いや魔人が消したんでしょ絶対! …何してるのさもうーーっ!!!!」
”
…
……
………
「…あぁ、あれですか。…普段こそは任意の場所の設定もできるのですがね。……如何せん、今日は何だか調子が悪いようです。…私が不甲斐ないばかりに…申し訳ない」
「も、もも、申し訳ないじゃないでしょ魔人〜〜っ??!! あ、あぁ〜〜!!! ほら死者推定五千だって!!! 五千だよっ〜!???」
「……喧しいな。土間、喉の渇きはどうだ? 貴様の好きなコーラならまだあるが」
「飲んでる場合かぁ〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」
「ど、どどどどうしよう〜〜〜〜〜〜もう〜〜〜〜〜〜!!!! う、うぅ…うへっええぇ〜〜〜〜ん!!!!!」
ガガガガ──ッ……
ガガガガ──ッ…………
「…だから喧しいと言っているだろう…………っ」
フィルムを剥がしたアクリルフィギュアのような、もはやギリギリその体を維持してる程の、透明魔人・デデル。
貴重な魔力を消費してでも鳴らした、指パッチン一発でどれだけの人間が『透明化』した事だろうか。
紳士的態度とはいえ、所詮は【魔界】の住民。悪魔と同たぐいである彼。
故に、壊れかけのテレビから流れる臨時ニュースには、つまらない授業を受けるかの如し退屈な目で眺めていた。
本当に、彼からしたら自分と関係のない人間如きの死滅など、全くの眼中外だったのだ。
それ故、喧しく騒ぎ立てる二人の女子。──自分の、一応の仲間に向かって、彼はドライに話し出す。
ピッ──
「あっ!!」 「(テレビを)消した!!?」
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『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 20:14:33 ID:cFeuEibI0
「…さて、くだらない事は後回しです。早く事を収めようではないですか、マスター」
「く、くだらなくなんかないでしょっ??!! 人が死んでるんだよ〜〜っ??!! 魔人のせいで〜!!!」
「…そうだな土間の小娘。願うとあらば、後でこやつらの慰霊の森でも作るとしよう。これで一応の解決にはなる」
「なるかっ!!! 何その自殺した子の墓に苛めっ子達がお線香供える〜的な舐めた発想は??!!」
「フッ。的を得たツッコミだな。流石は火星人だ」
「それでおだてたつもりかっ??!!! こんなので──…、」
「そんな貴様と、マスターにまた手伝って貰おうと思うのだが」
「え゙っ?!」 「え?!!」
「虫取りといこうか、夏らしくな。…宜しいですね? マスター。『ウンディーヌ』というムシケラを………っ」
「………う、うん……………」
「…はぁ〜あ…………」
アメリカ政府が、日本へ報復措置を取るのは実に数時間後。
そしてまた、薄れゆく魔人のタイムリミットも、──蝉の寿命程のか細さ。
──いや、蝉よりももう後が無い。炎天下に置かれたアイスキャンデー程度といったところであろう。
階段をせっせと登っていく中、デデルに背負われている身のうまるはユラユラと。
「…………ぼくなつでカブトムシコンプリートしたから…それで代用できないもの…かなぁ…………。はぁ…………」
随分と大長編になるかもしれない『うまるの夏休み』──。
そんな悪い予感でもう溶け出したい気分だった。
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