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平成漫画バトル・ロワイヤル
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※平成漫画ロワは、『読んで楽しむ型のロワ』です。…いわゆる非リレーですね。(仮)※
[@Wiki]
ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/
[参加者紹介映像]
ttps://www.nicovideo.jp/watch/sm44021070
[参加者名簿]
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[MAP]
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西陽が、都市をゆったり包み込む。
紅く照らされるは、ズタズタに亀裂の入ったアスファルト、マッチ棒のようにへしゃげ曲がった信号機の数々、そこら中に転がる廃車と、ビルの割れた窓ガラス群。
辺りは煤の匂いと、夕陽の赤に共鳴するかのような血肉の臭いが漂っている。
つい二日ほど前までは多くの人々が交差点を行き交っていた街の原型は、もはやない。
惨状に次ぐ惨状。崩壊しきったゴーストタウンがここにはあった。
一体、この都市で、何があったというか。
答えを知る鍵は唯一。
あるビルの屋上にてポツンと落ちていた、『カセットテープ』が教えてくれるのではないだろうか。
一人の者がそのカセットテープを拾い上げ、再生ボタン向けて指に力を入れる。
カチ
グルグル───
ザザ───────────ッ、ザザ───────────ッ
録音環境が悪かったのか雑音が暫く続いたが、やがて『録音者の声』も、か細くも聞こえてきた。
この荒廃した街で生き延びた、名前も知らぬ誰かの声が。
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※※※
ザ───────────ッ
ザ───────────ッ
ザザザ───────────ッザザ
…す、てす…ザ───────────ッ
えー……この……
ザ───────────ッ
このテープを…再生してくれた貴方へ。
これを聴いているということは、…私はもう既にこの世にはいないでしょう。
…
『…こころの手紙かッ』
『話し始め、それ?』
……。
えーと。…んんっ。
あー、失礼しました…。何しろこういうことは初めてというか、不慣れなものなので。
まぁ、でも陳腐な言い回しになってしまいましたが、本当にこれを聴いてる=私は死んでることになってるんですよ。
なにせ、例によって『生き残った』場合このテープは処分する予定ですから…ね…。
『スパイ大作戦みたいなこと言うなぁ…』
『まっ、テープ残したら『殺人の物的証拠』になるからね』
ええ、そんなわけでどうか私の想いを考えながら聞いてもらえたら、と。
…ん?
あぁ、そうそう。
さっきから後ろで聞こえてる声は、私のー、『この場』で出会った同士たち。
いわば仲間達です。
出会いの方はまぁ色々あってー、話すと長くなるのでここでは省略しますが…。
『それ説明するために録ってるんでしょうが!』
『もう…ザザ──────────…(雑音につき聞き取り不能)は!』
『だからザザザッ──…(聞き取り不能)にやらせるなつったじゃん。グッダグダで…』
ザザ───────────ッッッ
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ゴオォォォオォォォォッ…
(何かが大破する?音)
『…』
『…あっ』
ザザザ───────────ッザザ
(グチャグチャ…と鈍い音が響き続ける)
ザザザ───────────ッ
ザザザ───────────ッ
ザザザ───────────ッ
『はぁ…はぁ…ザ───────ッ(聞き取り不能)が…………んや……………』
ザザザザ────────────────────────────────ッ……………
………。
これを……。
これを、聴いてるあなたへ。
ほんの十分ほどなので、どうかご清聴ください。
私の……、私たちの生きてきた証。
『闘い-Battle Royale』の記録を…。
ザザ───────────ッ
『ね…い…………力を………っ』
まず。
あれは二日前。
自らの意思で車に乗る人を…『乗客』と定義するとしたら、否。
私たちはま、
──────────────────────プツンッ。
※※※
テープはここで終わっていた。
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◇ Heisei Comics Battle Royale ◇
平成漫画バトル・ロワイヤル
6/6【ヒナまつり】
〇ヒナ/〇新田義史/〇三嶋瞳/〇アンズ/〇新庄マミ/〇殺人ニワトリ
6/6【私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
〇小宮山琴美/〇根元陽菜/〇田村ゆり/〇吉田茉咲/〇うっちー/〇美馬サチ
5/5【かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
〇四宮かぐや/〇白銀御行/〇藤原千花/〇早坂愛/〇伊井野ミコ
5/5【中間管理録トネガワ】
〇利根川幸雄/〇兵藤和尊/〇黒崎義裕/〇佐衛門三郎二朗/〇堂下浩次
4/4【古見さんは、コミュ症です。】
〇古見硝子/〇只野仁人/〇長名なじみ/〇山井恋
4/4【だがしかし】
〇枝垂ほたる/〇遠藤サヤ/〇尾張ハジメ/〇鹿田ヨウ
4/4【ダンジョン飯】
〇ライオス・トーデン/〇マルシル・ドナトー/〇チルチャック・ティムズ/〇センシ
4/4【HI SCORE GIRL】
〇矢口ハルオ/〇大野晶/〇日高小春/〇ガイル
4/4【干物妹!うまるちゃん】
〇うまるちゃん/〇土間タイヘイ/〇海老名菜々/〇本場切絵
4/4【ミスミソウ】
〇野咲春花/〇相場晄/〇小黒妙子/〇池川努
3/3【悪魔のメムメムちゃん】
〇メムメム/〇小日向ひょう太/〇オルル・ルーヴィンス
3/3【空が灰色だから】
〇璃瑚奈/〇来生/〇佐野
3/3【闇金ウシジマくん】
〇丑嶋馨/〇肉蝮/〇鰐戸三蔵
2/2【弟の夫】
〇マイク・フラナガン/〇折口夏菜
2/2【からかい上手の高木さん】
〇高木さん/〇西片
2/2【善悪の屑】
〇鴨ノ目武/〇島田虎信
1/1【くーねるまるた】
〇マリア・マルタ・クウネル・グロソ
1/1【クロエの流儀】
〇クロエ
1/1【大東京ビンボー生活マニュアル】
〇コースケ
1/1【野原ひろし 昼メシの流儀】
〇野原ひろし
1/1【ふだつきのキョーコちゃん】
〇札月キョーコ
1/1【めしぬま。】
〇飯沼
1/1【目玉焼きの黄身 いつつぶす?】
〇田宮丸二郎
1/1【らーめん才遊記】
〇芹沢達也
1/1【ラーメン大好き小泉さん】
〇小泉さん
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人間は“肉”である。
────ミートきよし(談)
弱肉強食。
そう、それは食うか食われるか。
食は生の特権だ。生きるためには食べ続けなければならない。
だからこそ、今、まさに。
“サバイバルの時代”の幕が上がったのだ。
-
◆
深夜の首都高を大型バスが走り抜ける。
奥行き広し車内には、五十…いや七十人ほどの老若男女様々な乗客が腰掛けている。
否。彼等は皆『乗客』ではない。
というのも、『乗客』の定義が『自分の意思で』乗車した者のことだとするのなら、七十人一同誰一人とて当てはまらないからだ。
皆が皆、戸惑いや不安の表情を隠せない様子。
なにせ目を覚ましたらこの見知らぬ車内で座っていたのだから、記憶の整理が追いつかない。
ここはどこで──、自分は何故いるのか?
手を顎に乗せ神妙な面持ちでいる者、不安を少しでも解消しようと周りに話しかける者、思考を諦め移りゆく景色をただ眺める愚者…。
緊張感が次第に高まっていく車内にて、最後尾に座る一人の男だけは不可解な現状を把握しきっていた。
(危機っ…、圧倒的…危機〈ヤバい〉っ……! 何をやらされるのか、さっぱりだけども………とにかくヤバイっ……!!)
緊迫した汗を垂らすサングラスの黒服。
(なぜ…、なぜ僕は……)
彼──佐衛門は、疑念に苛まれた。
(『帝愛のバス』に…乗ってるんだ……っ?)
佐衛門が思い出すは、つい数ヶ月ほど前──『チーム利根川』発足当初、一泊二日の社内旅行に連れ出された時のこと。
チームの親睦を深めると名分の元、福利厚生施設へキャンプに向かったのだが、その送迎で乗ったのがこのバスだったのだ。
従って、今この事態は帝愛絡みであることは明白だったが、佐衛門、彼にとってそれが何よりも恐ろしかった。
「ぐっ………!」
恐怖という暗闇が彼を包み込む。
(このバスがどこに向かってるのか…何をするのかさえ、僕には分からない…)
(ただ、ただ………! そういうことだろっ…………、意識がない間に連れてきたってことは…………!)
(『推奨されたら絶対拒否るようなヤバい行事に参加させられてる』んだろっ…………?!)
ましてや、人を人として見ていない…どころか徹底的にしばきあげ、もがき苦しむ様を愉悦とする帝愛が企画の『何か』に参加させられているのだ。
想像を絶するような恐怖。
故に、佐衛門の顔は自分でも分かるくらい青くなり、血潮はざわめきを止められない。
ざわ…ざわ…
ざわ…
バス一帯は不安の声で徐々に充満していく。
「あっ、ああの……っ、すみません……」
「…え、あっ、なんですか?」
不意に、佐衛門は隣の少女から声を掛けられた。
横を向くと、茶髪でツーサイドアップの女子生徒?らしき子が、困り果てたといった表情で座っている。
「こ、ここはどこなんですか…? 実はわたし…お、起きたらココにいてて……わかんなくて…」
彼女は、震えながら当然の疑問を投げ掛けてきた。
佐衛門は一瞬どう返答を取るか困惑したが、とりあえずパニックに陥らせないよう無難な返しを発すことにする。
ふと、見渡せば周囲の人々は自分と違い帝愛とは無関係そうなカタギが大半。
その無作為な人選がまた一層不気味に感じた。
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「……すいません、僕も目が覚めたら…って感じでして。とりあえず、今は落ち着い──」
ここで、佐衛門は思わず言葉を途切った。
それは、あまりに一瞬であったため、佐衛門には落雷かスマホのフラッシュにしか思えなかったという。
なんの前触れもなく、閃光が走る女生徒の首──厳密には『金属首輪』。
「────えっ?」
奇しくも落雷同様、数コンマ遅れてやってきたものがある。
ボンッ──。
空間を切り裂く爆発音と、降りかかってくる生暖かい鮮血。
女生徒『だった物』が、糸の切れたマリオネットのようにゆったりと寄り掛かる。
「…はっ……い、………………?」
「………………ぁ…ぁ、あ………………ぁぁあ…………っ!」
返り血でぐっしょり濡れる佐衛門の顔。
少女──海老名菜々の、爆発の影響で歪み大破した生首が、ゴロゴロ…ゴロゴロゴロ……と。
「ひ」
「…えっ………」
前へ、前へ床を染め上げ転がっていった。
「いやぁあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
【海老名菜々@干物妹!うまるちゃん 死亡確認】
【残り69人】
「わっ…、わぁああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!!」
段々と拡大していく車内のパニック。
悲鳴、絶叫、泣き叫び。
「開けてくれえっ、おいっ!!!!」
「出してえぇぇええ!」「逃げろっ、逃げろお!」
ざわざわざわざわざわっ────。
死臭が充満するにつれ、次第にその大混乱は騒がしさを増していった。
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「嘘だっ…………。嘘だ………そんなこと……」
そんな中、佐衛門を支配した感情は恐怖でなく、底の知れぬ絶望だった。
幼少期の頃から、佐衛門は『悪い予感』だけは確実に当たる性質だと自認していた。
今日はいい日な気がする、と思えどその通りになったことは無いが、てんで、悪い予感だけは馬鹿みたいに的中するのだ。
それ故、改めて絶望した。
圧倒的最悪な行事にぶち込まれたかもしれない、と予想した、自分に。
「そんな………嘘に……き、決まってる…‥だろう、が………がぁ………」
『ククク……』
────────Good morningっ…!
「…!!」
佐衛門は、いや佐衛門のみならず乗客全員、思わず顔を上げた。
前方のエコーが響く『声』に向かって。
『ククク…クック……!』
声の主の、不敵な笑い声。
直感的に奴が事態の黒幕だと察せられる。
佐衛門にとっては『親しみ深い』あの声が不気味に響き渡る。
「な、なっ?!」
転がり続けた海老名の頭が、真っ黒な靴先に当たりようやく静止した。
ピシャっとした汚れ一つないスーツが気品高いその男。
マイク片手にニヤニヤと笑う、小ジワの目立つその顔。
そして、そのモダンな白髪。
察しが良い佐衛門とはいえど、予測することはできなかった。
黒幕の男の容体。
奴を野生動物に形容するとしたら、まさしく──。
『Good Morning──。お早う、ゴミめらがっ…!』
「と、利根川先生っ!?」
────蛇、だった。
-
◆
車内はシン…と静まり返る。
皆、顔をひきつらせながらも前方の男一点を凝視していた。
『ククク…っ!』
『この静けさたるや…、まるでサーカス…! 貴様らは、猛獣使いが戻った途端のトラやライオン……っ!! …だなんて、まぁ────、』
『黙るのも仕方ないよな。こんな物見せられたのだからなぁ……? クックク…』
利根川幸雄は、そう言いながら海老名をクルクル…と回し始めた。
飛び出たまんまるの眼球と、血肉を飛ばしながらブラブラはしゃぐ取れかけの顎。
「うげぇっ…」最前列に座る女の子が、思わず口を抑える。
『まぁとりあえず…、こんばんは。私……ここの責任者を仰せつかっております利根川といいます』
『単刀直入に申しますと、皆様には『最後の一人になるまで殺し合い』──をしていただきたく集まってもらいました……!』
そう言い終わると、利根川は持っていた頭を適当な方向に投げ捨てる。
放物線を描いていくボール。「ぅおわあっ!!」──男の声が、この沈黙の中響いた。
──殺し合い。
淡々とだが、利根川はそう口にした。
シンプルかつ単純で、それでいて悪趣味極まりない企画。
これまで人間競馬や焼き土下座強制など帝愛による陰湿非道な遊びを見てきた佐衛門。
そんな彼ですら衝撃的と感じる外道遊戯が利根川に宣言される。
いや、衝撃的というより、『信じられない』か。
「そんな……どうしたんですか……、利根川先生…」
佐衛門からしても、特段『利根川』という男は人格者とは言い難い人間である。
なにせ現代悪の枢軸・ブラック会社帝愛に長年勤めNo.2候補にまで至るような者なのだから人として歪なのは確かだ。
だが。
上司として、一人の人間としては圧倒的理想的。
若手を存分に暴れさせて上手く進まない時は責任を持つ。現代の日本にはほとんど存在しない、器量の大きな管理職の人間だった。
だからこそ、帝愛トップ・兵藤和尊の命令とはいえ、部下である自分を見殺しにする目の前の利根川が信じられなかったのだ。
黙っていなきゃ死〈マズい〉のは分かっているが、佐衛門は声を荒げずにいられなかった。
「やめてくださいよ……っ、先生っ!! おかしいで…」
『っではっ────────……!!』
「………っ」
佐衛門の声を遮るように、マイクがエコーした。
利根川の圧倒的凄みに佐衛門は思わずひるんで、沈黙をせざるを得なくなる。
力が抜け、落ちるように座席に座り込む佐衛門。
以降、彼は利根川の発言──『ルール説明』の数々をただ静聴するしかできなかった。
(何故……おかしいですよ……利根川先生……………!!)
ニヤリッ。
口角を上げ再び利根川はマイクを通す。
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『では、時間も押しておりますので簡単なルール説明を行います』
『説明は一度のみ、繰り返しません…。後に質問されてもお答えしかねますので』
『どうか皆様集中力を持ってお聞きください……!!』
間髪開けず、利根川は十五分ほどかけ、殺し合いのルール説明を始めた。
先述通り最後の一人になるまで脱出できないことや、男女格差を無くすため武器を支給すること、叛逆防止で参加者全員に首輪爆弾を取り付けたこと、六時間おきに死者発表の放送がされること等が話される。
他には、
・四十八時間以内に優勝者が決まらない場合、全員首輪を爆破させること。
・殺し合いのエリアは『渋谷』。頑丈なバリアーで覆ってるため自力脱出は困難であること。
・食料等は専用店を設備しているのでそこから摂取すること。
といった重要なルール項目も説明された。
参加者を縛りに縛り付ける、悪魔的なルール。
これら全てが、
《なお、》
パパパパ… パパパパパーッ
《なお、首輪は無理に外そうとすると『 』します。》
シャッ、 ジワ〜…
《なお、首輪は無理に外そうとすると『爆発』します。》
天井のテレビに映るパワポで解説された。
「……………………は?」
車窓からベイブリッジが見え始める。
以上のルールが表示されきった時、テレビが暗転しだした。
ルール説明は以上とのことなのだろう。
これまで無言でマウスクリックを続けた利根川が、口を開く。
『これで私の、説明のすべてを終わらせていただきます』
『皆様のけっ健闘………心から、お祈りいたしております』
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そう彼は深々とお辞儀をして、パソコンを閉じた。
ヒソヒソ声一つ聞こえず、まるで葬式会場のように静まり返る参加者一同。
唖然とした表情で固まり切る彼ら、彼女らはきっとこの地獄のようなデスゲームに凍りついているのだろう。
「………………」
訪れる暫しの静寂。
ロロロロロロ…とバスの走行音がもはやうるさいレベルの静まりっぷりだ。
「………………………………」
パワーポイントが終了してだいぶ経つが、それでもこの通夜と同等の無音が続く。
「…………………………………………………」
無音はまだ続く。
続きに、続ける。
「──────。…………………………………………………………」
皆、誰も口を開こうとしない。
理由は何もおかしいことではない。
冒頭、利根川の口から直々に『質問されても答えない』と言われたからなのだ。
疑問を聞いたところで返答に期待はできないし、何よりも口を開いたら殺される不安もあるので皆が皆空気を読み続ける。指示に従い続ける。
しかし。
それは利根川にとっては『予想外』の事態他ならなかった。
『…あ、あ、ちょっと? 皆さん?』
「……………………」「……え?」
『皆さんーーー? あ、あの…? いいんですよ? なんか質問はあるかなぁーーー、みたいな?』
この間の抜けたトーンで質問を促す者は、信じられぬが利根川幸雄本人。
会話の続かなさ故に気まずくなった人のように、ナヨナヨと重い口を開き始めた。
──彼の額には、大粒の汗が生まれ始める。
『……み、みみ、皆さんー? あの、な、なんか質問ないですかー?? ぶっちゃけ、話してくれないと私もこっ困る…みたいな……』
ハンカチで顔を拭い始める利根川先生。
彼を、佐衛門の目にはどう映ったのだろうか。
「え………? えっ、え? …え??」
見かねた様子で恐る恐る挙手してみることにした。
「じゃあ…ハイッ、質問を一つ。なんでパワポ…」
『Fuck you<ファッキュー>ぶちころすぞゴミめがっ!!!! お前たちは皆大きく見誤っている!! この世の実態が見えていない!! まるで山菜か四歳の幼児のように!! この世を自分中心求めれば周りが右往左往して世話を焼いてくれるそんな風に!!──』
「…ひえっ!!??」
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『──世間はお前らのお母さんではない! お前たちはシャバで甘えに甘え負けに負けてここにいる折り紙つきのクズだ! クズには元来権利など何もない。船の中でも、外でもだ! それはお前達が負け続けて来たからだ。他に理由は一切ない!──』
「びえぇぇぇっーーーーーー!!!!」
ざわざわっ…。
水を得た魚がマシンガン乱射するかのように、利根川先生は早口でその『決めゼリフ』を羅列した。
飛び交う唾はまさに銃弾のごとし。喋るスピードも銃弾のごとし。
『──お前らが今為すべきことはただ勝つこと、勝つことだ! 勝ったらいいなじゃない勝たなきゃダメなんだ!! 勝ちもせずに生きようとする事がそもそも論外だ。これはクズを集めた最終戦。ここでまた負けるような奴、そんな奴の運命なんて俺はもう知らん、ほんっとうに知らんそんなやつなんてもうどうでもいい。勝つ事が全てだ! 勝たなきゃゴミだ!!──』
質問した佐衛門を筆頭に全参加者は唖然、というかもうぶっちゃけドン引きしたが、そんなこと利根川先生にはどうでもいい。
何せ、この決め台詞を吐き出し切ることが目的なのだから。
言い換えるのなら、
「『無能』…っ!! ワ、ワシのスピーチをとりあえず言っただけの……っ!! 応用力も糞も効かぬドクズっ…………!!!」
──佐衛門の隣に座っていた中年の男が、小声の毒をボソッと吐いた。
「………えっ?」
振り返った佐衛門が、目を丸くしたのも無理はない。
周囲一帯見知らぬ人間で固められたバス内で、唯一身近な人だったのがその隣の男。
その男が知り合いだったからこそ、佐衛門はより一層理解できなかった。
なにせ、男は汚れ一つないスーツを着て、小じわの目立つ、モダンな白髪の容姿。
ヒソヒソ声ながらも慣れ親しんだその声は、最前方の責任者とそっくり──。
「なんだか妙な既視感を覚えていたが、やはり……っ。恐らくあのボンクラは、台本かなんかを渡されてたんだろうな………っ」
「大方、〘質問が来たら次の台詞を言う→Fuck you…(以下略)〙とか書かれた……台本…っ!! それをまんま読み吐いたんだ、あのバカは……っ!!」
というかまったく同じ。
利根川幸雄、その人がまさに隣に座っていたのだ。
「え??──」
「──…えっ?? え、え──」
「──……えぇっ?!」
佐衛門は思わず前方、そして隣を交互に、何度も何度も見回す。
つまり、今この場には、殺し合いの進行役として前方にいる利根川?と、隣でギリギリ歯ぎしりを鳴らす利根川?──二人の同一人物がいるということになる。
「えっ?! 本物…?? 本物……で、ございますか………?」
「…チッ、お前ほどが自分の上司の見分けもつかぬか………っ」
「あっ、す、すみません…!!」
本物と名乗る利根川は、舌打ちを放つ。
佐衛門の脳はもうCPU使用率100%といった程にいっぱいいっぱいだ。
次々に起こる荒唐無稽、状況の読めない出来事の数々。処理し切るのは活動限界寸前といったところだった。
が、とりあえず今隣にいる方を本物としたほうが都合が良いので耳を傾けることにした。
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「で、でもどういうことなんですか…? 何故二人も……」
「恐らく、『まさやん』………っ!!」
「…え? まさやん??」
「奴と同じ感じなのだろう………。この世に三人はいるとよく聞く…とどのつまりワシに似ているクズが………っ!!」
『まさやん』──とは、兵藤会長からの司令で利根川たちが連れてきた、会長そっくりの影武者のこと。
正面から見たら団子鼻なのに、横から見たらカクカク。おまけに常に口周りがびしょびしょという、稀有な容姿の会長。
そんな人間が探せば見つかるものだったのだ。
「あっ!! あー…」
「つまりはポッシブルっ……!! 十中八九ソイツ……」
「で、でも……だとしたら尚更不可解ですよ…」
「…あー? 何がだ…っ」
「な、何故ドッペルゲンガーにわざわざ進行役を…?? 普通に本人にやらせても無問題というか。それは置いといたとしても、じゃあなんで本物と同席させたのか解せないですよ」
「だから言ったろうが……っ。バカなんだよっ、コイツは………!!」
利根川…──勿論『本物の方』は、半ば呆れた目つきで『仮性:影武者利根川』に指をさす。
影武者の長く、長い演説はまだまだ続く。
『────勝ったらいいなぐらいにしか考えてこなかった…!! だから今クズとしてここにいる…。勝たなきゃだめなんだお前らは!! いいか?! 例えるならな…──』
「あ、この流れだと……。次影武者のセリフは、例の………」
「フンッ、イチローだろ……」
『──《イチロー》は負け続けの人生だった場合…いけ好かないマイペース野郎!!』
「やはりクズめがっ!」
ただ、『演説』というのは物事の真理を突く理論や、革新的なパワーワード、また工夫された間やトーンで、聞く人の心を動かすことが目的。
こうも、ただ喋っているだけではまるで全校集会の校長先生の如し。
自然と聞かされる側も不満が立つのである。
『えーと、あとは…《野茂》は…バカだし!! あと、《黒木智貴》も…ねっ根暗……』
「ぁあぁああっ?!?!! 智貴くんのどこが根暗なんだよオッ?!! ふざけんなよブタァ!!!」
『えひいっ!!!!?』
影武者が例に上げた黒木とやらの親しい人物からなのか。
どこからか、怒号の野次が飛び出した。
女子ながら野太いその声に、「あ、あぅ…」あたふためくので精一杯な影武者。
『あっ、す、すまない…!! た、確かに黒木はいい奴だ!! だ、だが《ファリン・トーデン》は…あーーーー…ウスノロなんだよォっ!!! 成功しなきゃ!!』
「いや誰、ファリンって」「もっと万人受けする例え持ち込みなさいよ!! バーカ!!!」
『ひっ!! …えひゃ、あああぁ…ぁああ………!!!』
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影武者にとって飛ぶとは一切思わなかった二つの野次。
視界は大きく揺れ動き、もはや立っていられないくらいにパニックとなった。
どれほど強者であろうとも、『隙』を隠そうとしなければ弱者に徹底攻撃されるのがオチ。
そう、それは例えるなら些細なヒビから決壊に至るダム。
尻もちをついた影武者相手に、参加者からの容赦無い野次の炸裂が始まった。
「なんとか言えーーーーーっ!!!」
「お前こそファッキュー!!」「イチローはすごいのよ!!!」
「お前にイチローのなにが分かるんだ早口野郎!!!!」「そうだそうだーー!!!」
わいわいがやがや…ざわっざわ。
甲子園のタイガースファンもビックリなお祭り騒ぎと化すバス車内。
影武者はいつの間にやら、数人に囲い込まれ危機一髪の事態だ。
進行役の適応力が皆無な故、早くも崩壊寸前の殺し合い。
〘prrrrrrrr……prrrrrr…〙
だが、転機とはピンチのときこそ訪れるもののようで、影武者にとって『救いの光』が前触れもなく訪れた。
救いは、彼の胸元から──。
『ヒッ!!! あ、はいっ!! もしもし…《主催者殿》……』
鳴り響く電子の木琴音、そして音源の板を耳に当てる影武者利根川。
不意をつかれたのか一同、一瞬で静まり返った。
『あっ、はい…。はい。』
『えっ???! あっ、いや…ヒィッ!!! す、すみません!! その娘は見せしめで殺しちゃって……!! ほ本当にすみません!! 【海老名だけは殺すな】、だなんて……すみませんでした!!!』
『あ、いや、あの、その……、ほんとに、忘れてたんです…!! すみませえん…!!』
電話の主の上司…いや、『主催者』の馬鹿でかい罵倒が周囲にも響く。
この行動から、殺し合いには黒幕がいて目の前の平謝り奴は単なる傀儡に過ぎないことは皆察せた。が、正直そんなことはなんでもいい。
「失礼します」も言わず電話を切った影武者の顔色は、デスゲームのマスターとしては皮肉にも生気を失っていたが、ため息を一つ吐くと人差し指を突き上げ、
『【黒魔術】…ドンジャラ〜ホイ、っと』
と、未だ血しぶきを放出続ける首無し死体に向かって『光』を飛ばした。
皆の注目を浴びる中、光は緩やかに、そのたわわな胸に吸い込まれていく。
すると、こんな奇妙で奇跡的なことがあろうことか。
海老名の飛び散った肉片や血液、胴体に集結し、再生を始めていったのだ。
ゴロゴロゴロ……。
もちろん生首も、元の場所へ向かって転がり始める。
「うおっ!!」
海老名菜々。
見るも悲惨な死体だった彼女は見る見るうちに元の美麗な姿に再生を始め、
そして、
「……んぐっ!! げほっ! げほっ! ……えっ、わ、私……なにが……」
蘇生した。
-
『ふう…っと……』
影武者利根川はここに来て信じられない離れ業を見せ「チッチッチ」と指を降る。
人を生き返らせる魔法のようなものを持つ影武者。
彼は自信あふれるしたり顔で、目を丸くした参加者達に胸をはった。
『さて、皆さん。お分かりの通り、私はこういうことをできちゃうんです。いいですか?』
ちょっと前までは完全に破綻へ向かっていた殺し合いも、この電話一本。
──海老名を殺してしまったミスの解決により、瞬く間に参加者皆固唾を飲むこととなった。
短い時間で権威を失くし、ゲームマスターとしての威厳は消えた影武者利根川大先生の、機転が効いた大復活劇。
『私はね、《願い事をなんでも叶えること》だってできます。…そうだ、優勝者は褒美にそれをしましょう』
『だから、だからね? 殺し合いしよ? ね、皆さん』
こうして、悪魔的ゲーム──言うなれば『バトル・ロワイアル』は始まりを見せ、
「だから何だァアーーーーーー?! 早く家に帰せーーーーっ!!!」
「ふっざけるなぁーーーーーーー!!!!!」「知らねんだよアホがっ!!」
「そうだーー!! 解放しろ!!」
なかった。
ざわざわざわざわざわがやがやがやがや
うらうらうらうらざわざわざわざわざわ…
憔悴しきった影武者は、もはや目の前が見えておらず頭の中は『小学生の頃の思い出』で溢れていた。
(あー、っ…。そういえば昔先生に怒られたとき、同じくらい地面がぐにゃあっ…ってなったなぁーーー)
救いの光など都合よく現れるものではないのである。
終わりかけの物が這い上がる夢物語なんて、そんなあるわけがない。
「っざけんな!! 殺し合いなんてやめろバカが!!」「帰せえーっ!!帰せ!!」
まるで、人間とて同じだ。
終わったものは再起など絶対にできない。
「野郎を吊し上げろっ!!!」「お前こそファッQだよおっ!!!」
なら、終焉を迎えた者が復活するにはどうすればよいか。
答えは簡単だ。
-
『…はぁ…。もう、面倒くさいや……』
リライト──『破壊するだけ』である。
影武者利根川はパチンと指を鳴らす。
刹那、閃光。
全参加者の頭が、まるでぷよぷよの連鎖かのようにグチャグチャブチュッと弾け飛んだ。
【バトル・ロワイアル プログラム開始】
【場所は──渋谷】
【AM.0:00 現場到着確認】
【同時刻を以って──始動確認。】
「…っちまいましたねぇ。これ全部生き返らせなきゃいけないんでしょ。ご苦労ですなぁ」
「いやいや…、運転手さんもちょっとは手伝ってくださいよ…。ほら、肉片集めるとか……………」
────プツンッ。
-
【基本ルール】
・全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
・生き残った一人だけが、元の世界に帰ることができる。
・ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
・ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
・プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
【スタート時の持ち物】
・参戦時期の武器、持ち物、装備の状態まんまでスタート。
・ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給される。
・以下の物は「デイパック」に詰められ支給される。
「名簿」、「ランダムアイテム」、「武器」
→ランタン、食料、時計、マップ等は平成漫画ロワでは不要と判断した為排除しました。
【エリア】
・東京の実在する街・渋谷が殺し合いの舞台。
→外部を巨大なバリアーが覆っています。基本破壊不可能です。
・飲食店などの施設が完備。
【「首輪」と禁止エリアについて】
・ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪型爆弾」を填められている。
・外そうとした際に爆発する仕組みとなっている。
・爆発したらそのプレイヤーは死ぬが、場合によっては蘇生も可能。
・48時間以内に最後の一人が出ないと、首輪が爆発して全員死ぬ。
・禁止エリアはなし。
→代替として、時間が経つにつれ、エリアを覆っているバリアのようなものが徐々に狭まっていく設定としています。
・首輪には残り時間のカウントダウンが表示されている。ゲーム開始と同時に「ピーーーッ」となり、「48:00:00.00」からのスタート。一日外出ハンチョウ的な。
【放送について】
・放送は数時間ごとに行われる。AM6:00→PM0:00→PM6:00→AM0:00…と六時間ごと。
・主催者などから死亡者の発表と小話が披露される。
【能力制限について】
・なし。超人的参加者が一人もいないため不要と判断。
→マルシルの魔法(死者の蘇生など)も当然あり。
-
以上でOP、ルール投下終了です。
皆様が思われる通りとんでもないクソ名簿ではありますが、最終回を迎える頃には「クソ名簿だけど面白かったな」と思っていただければと頑張りますので、どうか宜しくお願いします。
それでは明日「小黒妙子、野咲春花」で投下します
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[登場人物] 小黒妙子、野咲春花
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あの日の教室。
ちょうど吹雪が止んで、まぶしい日差しが照らしていた昼下がり。
たまたま誰一人同級生がいなかった室内で、私はあの二人を見た。
銀色のハサミを持った『私』。
そして、──あの長い髪を、夏服と共になびかせる『あいつ』。その二人。
あいつにカットクロスを被せたあと、サラサラとした黒い髪を私が整えて。
家から持ってきた霧吹きで髪を切りやすいよう濡らしたりなんかして。
「後から文句言わないでよ?」「アンタがお任せつったんだからなぁ──…」とか笑いながらさ。
そしたらあいつも、「分かった、じゃ期待はしないでおく」とかじゃれて。
そんな幻が、光と反射しながら視えた。
あいつと話しながら髪を一束一束切っていくのが好きだった。
雑誌で勉強した理容師の心得を、あいつの髪で実践するのが嬉しかった。
あの時の風の匂い、今でもはっきり思い出せる。
──この感じ…………。
────ん、なによ。
──ずっと続けばいいのにねー。
────……はっ、何言ってんの。………
────………………うん、まぁ、そうだけど、ね。
──小黒、さん。
ただあいつともっと話していたいだけだった。
それだけなのに。
私が、全ての『元凶』。
私は、最低だっ。
-
◆
心が、雪崩に埋もれたかのように冷たく、どこまでも暗かった。
見上げれば雪がちらつく、バス停にて。
私は右手に持ったハサミをただ呆然と眺めていた。
銀色のハサミが、眼の前の景色──ダイヤモンドみたいな摩天楼のネオン光を反射する。
「渋…谷……………………」
思わずボソッとか細い声をあげてしまう。
これは、どういう因果なのか。
この街には、私が三月から進学予定の専門学校がある。
小さい頃からの夢──理容専門学校が。バス停から歩いて暫くした所に。
つまり、予定より少しばかり早く渋谷に到着してしまったわけになる。
一体これはどんな数奇な運命なのか、と思ったけど、もう私にとってはどうでもよくあった。
ハサミを降ろして、私は前を向く。
「……やっぱ………、きれい…だな…………」
正直いって、この渋谷…というか殺し合いの舞台について疑問に浮かぶことはたくさんある。
なんで渋谷なんて人目につく場所を会場にしたのよ、とか。
ていうか警察はなにしてんだ、とも。
そういや人の気配全然ないけど元いた渋谷の住民はどこにやったのか、だとかも思った。
まぁ、それらも何でも良かったし、今はどうでもいい。
私は、ただ、ただ、輝く街を見つめて、魅了され続けた。
「はは…………、渋谷………。住みたかったな……、ここで活動したかったな………………」
ドンヨリしたうちの田舎なんかとは比べるのもおこがましいくらい、スケールの大きいこの街。
ほんとに憧れた通りのオシャレな街で、素敵なくらいに空気感も良い。
心がほんの少しだけ暖温される。
「………………………ほんとに、ずっと…行きたくて……………」
「…あの日も、…田舎の髪結い屋…なんかじゃなく……東京でバリバリ働きたい、って話したな……。私……………」
「…………この街の話を…………あいつと…………………して…」
カチャン──────────
ハサミが手から溢れた。
-
────悪いこと…言わないからさ。ね、
────…一緒に…渋谷……行こうって。
「…野咲、………………………」
あんな事に比べたら、本当に、何もかもがどうでもいい存在だ。
一ヶ月前、私の…と…クラスメイトの『野咲春花』の家が燃えて、家族全員が焼け死んだ。
担任曰く、火元の不始末が原因…、妹だけは助かったらしいけどそれでも集中治療室に運ばれるくらい酷い姿になっていると聞く。
当然だけど、それ以来、野咲は学校に来なくなった。
二日して、私は特別教室でマンツーの聞き込みを受けた。
相手はジジィ二人組の警察官。
あいつらはあからさまに義務的な質疑を二、三回、適当に済ませて帰っていった。
去り際、「今回は事件性ないけど、君もアイロンやるときとか気をつけてね」とかほざいて引き戸を閉めたが、私は今でも後悔している。
ああ言えばよかった。なんで言わなかったんだよ、って。
ふざけんなッ…。無能おまわりがッ……。
これは『事件』なんだよ。
あいつら──私のクラスメイトが犯した放火殺人なんだよ…ッ。
私は事件の前日、同級生共から誘われていたんだ。
「野咲ん家をバーベキューするから……タエちゃんも来てくださいよ」ってはっきり。
…野咲は、あの滲みったれたクラスでいじめを受けていたからこれもその延長線だった。
正直、私自身野咲で癪に障ることがあったから、いじめに加担…どころか主犯をしている身であった。
ただ、同級生共はそれ以上に嫌な奴らというか、同じ括りにされたくない思いがあって、誘いを適当に拒否した。
それに、マジで燃やすとは思っていなかったのもある。
────はいはい、期待しとく。私は行かないけど。
だから、あの事件を親から聞いたとき、私は放心した。
ショック受けた様子見せたらダッセェ、って理由で、他愛もないフリをしたけど。
本当は、眼の前が真っ暗になって、そして何度も何十度も何万度も、あの誘いの時を後悔させられた。
あのとき、「やめろよ」て言ってれば、と。
(私が、間接的に野咲の家族を殺したんだっ……)
(私が、元凶として野咲を追い詰めたんだっ……!)
(火種を引き起こしたのは…私なんだ………っ!!)
「ねえ…………………野咲…………………」
-
私は『友達だった』野咲をいじめた。
粉雪が、大粒になりだしたことを肌で感じた。
いつの間にか自分が俯いていたことに気づく。
風の噂によれば、野咲はあの事件以来、放火に関わった容疑者共を一人一人闇討ちにしているらしい。
嘘みたいな話だが、事実、久賀や加藤らが突然行方不明になった。
野咲は今でも、残る犯人・佐山流美を求めて血の轍を踏んでいるのだろう。
今でも、血眼にして、あいつは寒空で涙を流して。
私は野咲の家族を殺すどころか、彼女を殺人機械にまでしている。
野咲の人生をめちゃくちゃに、破戒した。
コツコツコツコツコツコツコツコツコツ────…
コツッ
「…………ぁ…? 誰………よ…………………」
足音が私の目の前で止まった。
参加者の誰か、か。
そういや今殺し合いとかしているんだった、と気付く。
「……してェーんなら………、さっさと殺れよ………。私は……………もう、どうでもいんだわ………………」
ここ三日近く寝てなくて、理解力がにぶったのもあるが、「殺し合いをしろ」と言われ最初に考えたのが『天罰』の一つだけだった。
大罪人への処刑といってもいい。
私はここで生き抜くつもりはないし、どんなに悲鳴をあげたくなるような殺され方をしても受け止めるつもりだ。
それは死んで楽になりたい、とかそんな自己主義なんかではない。
「…さっさと、…しろっつうの…………………」
ただ、天命の元、裁かれたかった。
それが、今何処にいるかもわからないあいつへの──。
償い、になるんだから────。
「…………………………だって……もう、私は……………、」
「小黒…さん……………っ」
「……………え……?」
私は、目の前の参加者の声で頭を上げた。
思わず目を見開いてしまう。
その懐かしく、優しい声。
そいつの顔を見るのは一ヶ月ぶりで、というか私『小黒妙子』の名を呼ばれるのもかなり久しかった。
-
「の、野咲…………………!?」
白い息を吐いて棒立ちする赤いコートの彼女──野咲春花。
そういえば、手元の『参加者名簿』に野咲の名前が印字されていたことを、今思い出した。
「…久しぶり、だね。うん………」
あいつの眼差しが、私の隈まみれな目に刺さってくる。
目を一瞬合わせたっきり、私はそらした。
◆
「どうしてこんな事になっちゃったんだろ、ね…………」
寒夜のベンチにて二人。
隣に座った野咲が話しかけてきた。
少し伸ばせば手が重なるような位置に、あいつの手が置かれている。
「…………」
『こんな事』、って。
それは殺し合いのことを指しているのか。
それとも、一家焼死のことなのか。
野咲が私にどんな答えを求めているのか、分かりさえできない。
「……いや、知るかよ……。災害とか事故みたいなもんじゃん……………。この『殺し合い』って……」
絞り出すように私はそう返した。
こんな返事しかできなかった自分が、嫌だ。
敢えて、あの事件の方に触れなかったのは怖かった訳でも、あいつに配慮はしたわけでもない。
ただ、『素直』になれなかった。それだけだからだ。
「…うん。巻き込まれちゃったよ、災害に。私ら二人」
「………………………」
ほんとに、もっと素直だったらこんなことにはならなかったのに。
私が純粋で、素直さを恥じるようなプライドの高い人間じゃなかったら、と今振り返って気付く。
あの時だって。
野咲が下衆野郎の相場と付き合いだした時、理屈とか抜きで自分の『正直な気持ち』をもっとアプローチしていれば、いじめになんか繋がらなかった。
橘が、野咲をいじめてる理由について「妙ちゃんが好きな相場を取りやがったから復讐」とか言っていたが的外れだ。
あんな糞みてーな男なんか心底どうでもよくて、
私はただ野咲が離れてほしくなくて、私から遠ざからないでほしくて、ただもっといたくて──。
-
そんなことが、言えずにいた。
それは今も。私は素直でいられない。
「それにしても、やっぱりキレイだよねー。渋谷ってさ。何回か来たけどさ、夜中は初めてだよ」
「………はァ…?」
思わず声が出た。
あいつが予想外に緊張感のない話題を持ち掛けてきたから不意をつかれてしまった。
「……なんだろ。不謹慎かもだけどさー、せっかくだし観光とかしてみる? 小黒さん」
「……………何言ってんのよ…? あんた」
「あっ、そうだ。前…覚えてる、かな? 小黒さんが言ってた専門学校…。あそこって渋谷……だよね? うん、行ってみない?」
あいつは、そう緊張感ない…というかフレンドリーに話を続けた。
なんていうか予想外の態度だった。
正直、殺し合いという状況もあり、私は野咲に出くわした時点で殺されることも覚悟していたから、和気藹々とされて言葉が詰まる。
「…………ま、いいなら行かないけどさ。…にしても懐かしいなぁ。昔は小黒さんとたくさん話したよねー。理容師の話をさ」
純粋な笑みを浮かべながら、話しかけ続けてくる。
…まるで、火事のことなんか無かったかみたいに。
「覚えてるかわかんないけど、隣町まで、いっしょに専用のトリートメント買いに行ったこともあったよね。理容師さんが使うってヤツ。あの量であの値段は詐欺レベルって言ってさー…」
…まるで、今隣にいるやつが元凶じゃないかのように。
「…あー、前から二人で夢見た東京の街に今いるんだよなぁ」
「…………………」
「連れてこられた理由が理由だけども、ね……。…そう考えると、初遭遇の参加者が顔見知りでほんとよかった……」
「ね、小黒さん…」
…まるで……、私のことを『友達』…みたいに。
「あっ、小黒さ……──、」
「…あのさァー……………、」
「…私らもう友達じゃないじゃん」
-
「………………、」
「……いやさ、ガッツリ虐めたじゃんか。あんたがゴミ捨て場で泥まみれになっても無視したっしょ。忘れた? ねえ、意味不なんだけど友達面して何目的なわけ?」
自分は最低だ。
「お、小黒さ…」
「あーそうそう。あんたの家族焼き殺されたやつさぁ。あれ私が思いっきり元凶なんだけど。分かる?」
「……………」
「………そうなの?」
本当はあいつの話題に乗りたかった。積もっていた話を今、たくさん消化したかった。
周辺に殺人鬼の参加者がいるかどうかなんて気にしないで、手を繋いで理容学校まで駆けたかった。
でも、あんなことをしたのにそれをするのはおかしいから、野咲に突き放す態度をする。
まともアピールがしたい。
腐ったプライドが自分を守ってくれている。
「…いやそうだけど? あんたの人生ぶち壊した本人が、私」
「……………………」
「だからさ、……関わってくんなよ──」
「──おかしんじゃ…ねぇの…あんた……」
最後吐き捨てた言葉は、声が震えちゃって、それがプライド的にはすごく恥辱に感じていた。
「………………………」
この沈黙が居た堪れなかった。
あいつの火傷口を抉ってでも、私は野咲から距離を遠ざけた。
こんなちっぽけな自尊心を守るためにぶつけた、本心でもない言葉。
素直でいたほうが楽になることは分かっているのに、誰も幸せにならない選択肢を選んでしまう。
それが自分の性格なので、もう受け止めるしかないのかもしれない。
本心を言わずカッコつけてばかりの自分を諦めるしかないのかもしれない。
心は凍てつくように麻痺しそうだった。
野咲に本音すらも言えないなんて。
こんな『最期』のときでさえ。
-
「うん……、やっぱり……そうだよね。小黒…さんは」
ベンチに着地した粉雪が、じんわりと透明になっていく。
野咲の失望したかのようなあの表情が、すごく辛かった。
自分のデイパックをガサゴソと漁り出す野咲。
何を取り出そうとしているのか、そんなの容易に予想がつく。
刃物…、鈍器……、具体的な物品名はどうでもよかったがとにかくあいつは『支給武器』を手に取っているのだろう。
復讐達成の為、隣りにいる家族を殺した張本人を消し去る為に。
よく考えたら、私は全力でも止めなきゃいけないのかもと思う。
それは別に命が惜しいからとかそんなんじゃない。
これ以上、野咲に殺人のカルマを背負わせてはいけないからだ。
こんなちっぽけな命であいつの罪を重くさせたくなかった。
なのに、
なのに、私は動けない。
そっぽを向いて何食わぬ顔を維持することしかできない。
「今更命乞いみてーでダサいからやめろ」とか「ダセえのは私らしくないだろ」とか理屈を並び立てるプライドに歯向かえなかった。
「そうかもしれないと……思ってた…」
野咲はディパックから両手を出す。
その手に握られた武器で、私は間もなく死ぬ。
「こっち、向いて。ほら。小黒さん」
引き裂かれるような痛みが起きようが、唾液が垂れるほどね苦しみが与えられようが、私はもう関係ない。
死ぬことなんて恐れも何もなかった。
ただ、後悔だけしかない人生が終わるだけだ。
でも最期に、野咲にこれだけは言いたい。
いや、どうせ言葉には出せないんだからせめてこの思いが、奇跡で伝わってほしい。
どうか、私を許さないでくれ。
あんたを友達じゃないって言った私をどうか思い出から全て抹消してくれ。
そして、『好き』って感情すら素直に表せなかった私を、蔑視するだけして…くれ。
…もう馬鹿らしかった。
私は言われるがまま、気だるげに振り向く。
冷たく、つららのような野咲の視線が、私目掛けて突き刺さった………────、
「うわっ!!! つっ冷たっ!!」
「あはは、小黒さん。びっくりした?」
「……は? …はぁ???!」
-
鼻が物理的に冷たくなった。
あいつが投じた武器は、ディパック内でこっそり固めていた雪玉……。
「やっぱ、ほんと小黒さんって素直が苦手だよねー。イジメとかさ、火事…とかさ、今はどうでもよくない?」
「いや、どうでも良くはねぇーだろ! あんたが一番言っちゃ駄目でしょ…」
「今はっ。どうだっていいでしょ。うん、現状が現状なんだから。…ていうか」
そう言うと、あいつは吹き出したみたいに爆笑してきた。
…恐らく、私は笑われているのだろう。
予想の範囲外の行動をされ、今ポカンとバカ面をしているのだから、それが滑稽なんだろな。
それは決して馬鹿にしたりとか嘲笑う系のやつじゃなくて、友達とふざけ合う感じ、みたいな。そんな笑いだった。
「…いや、ざけんなよ──」
「──ざけんなって、野咲…!!」
「だから私はあんたのこと大嫌いなのよ! 友達じゃないって言…、」
「友達だよ?」
「……っ」
「私は小黒さんを元凶なんて思ってない。だから、どうする気もないよ。小黒さんはなんかすごい怯えてたけど、も」
自分でも意外だった。
「のっ、野咲…」って弱々しい一言だけが口から漏れる。
反発の強い言葉とか言っちゃいそうと思ったのに。
「だからさ、胸を張って生き抜こ」
あいつは、そう微笑む。
あんだけして、仕打ちも散々なのに。
まだ、私を友達として。
『見捨てないでくれて』。
「の、野咲………………わ、私……………………」
「ね。一緒に行動しよっか」
「………っ!」
手を、差し伸べてくれた。
「ほら、妙ちゃん」
────雪山で埋もれきった心に、風が拭いた気がした。
その風はどうしようもなく暑くて、乾ききった夏の風。
あのときの夏の匂い、そのまんまだった。
-
…
……
──あっ、相場君。行こっかな。
────はぁー?? あんなん無視しろって! そのためにあんたが好きなバニラ味奢ったんだから、もう少しいなよー。
──…うん、そう。そだねー。
……
…
もう堪えきれなかった。
あいつが伸ばす温かな手を飛び越えて、私はめちゃくちゃに抱きついた。
「ぐっ…! のざっ、春花ぁ…!! ごめんっ、ごめんなさいっ……! 本当に私のせいで…っ、謝りきれな…くても……謝り続けるよっ!! ごめんなさいっ…、ごめん、なさいっ…!!!」
「…えっ? た、妙ちゃ…、」
「殺してよっ…! 親友の頼みだと思って聞いて……!! …ずっ、……っ…! 私を殺して…っ!!」
「──っ!!」
なんだか涙が止まらなくてやばくなってきた。
それは、私の心中もそうだった。
冷たい塊がどんどん溶けていくかのような感覚。清涼感があった。
「…っぐ……! バスん中で、見たでしょ…! 人間を生き返らせる魔法みたいなの……!! だったら、優勝して……あんたの家族全員……元通りにさせなさいよ………っ!」
「そ、そんなの……。妙ちゃんを犠牲に…、で、できるわけな…、」
「いや…やっ…ひぐ……! …やってってば…っ!! お願い…だから……!! 親友のお願い…なんだからぁっ……!」
「わ、私…、」
「──妙ちゃ……あ、っ…!」
私は、支給武器である『ハサミ』をあいつにぎゅっと握らせた。
ここまでくると、もはやプライドも何も無い。
私は春花の声を遮ってでも、本心をたくさん溢れ出した。
「最後に言っとくけど……、私相場なんか全っ然好きじゃないし…っ。むっ、…むしろあんな男に………あんたを取られるのが嫌だったん、だから……!!」
「…私だけを見ててほしかった…っ! 好きだったんだから…、あんたがっ……。友達として、…」
「流美のクズも久我もアイツらバカ共は何もわかっちゃいないっ!!! ……ルックスが整ってるあんたが………あのっ…クソ田舎で一番輝いていた女の子だったから……っ!!」
「えっ、そ、それ……」
「春花が……凄い…好きだった、のよ…っ!! …だっ、だから────」
だから、あんたを幸せにさせて。
私は、ハサミを完全に託した。
-
頬同士くっつけながら、好き勝手泣きわめいて私は馬鹿だと思う。
堪えてきた物を放出したのだから、震えと嗚咽が未だ止まらない。そんな自分がほんとに馬鹿で仕方ない。
だけども、そんな馬鹿素直になれた自分が好きだ。
もうすぐあの世行きだっていうのに、まるで賛美歌を合唱されたかのように凄く清々しかった。
それでいて、時が止まってずっと春花と共にいたい気持ちだった。
「うん…………。じゃあ、たっ妙ちゃん。やる、よ……」
私の手からすっと、ハサミが取られる。
これで、終わり、か────…。
「…やっぱ、最後に一つだけ。私からもお願いして、いいかな?」
「…ん。な、何…?」
「もっかい…。髪切ってよ。これで」
…。
…は、はぁ…?
「伸びちゃったから、前みたいに。…いいよね? 親友の頼み、だから」
そう言って春花は、ハサミをすっとリリースしてきた。
さすがに私も、ちょっとばかり呆れた。
あっ、でも…。と。
こいつの自分がしっかり表現できて、それでいて心が強いとこも私、好きだったんだよな…、って。
今、思い出した。
「…ったく、しゃあねーなぁ。さっさと済ますから、文句言わないでよねっ…」
髪が一本一本、風に吹かれて──。
涙の粒と一緒に、ネオン光の中へ吸い込まれていく────。
-
◆
自信はなかった。
体力も知力も人並み以上に優れているわけではないし、そもそも七十分の一という限られ切った椅子取りゲームに勝ち切るなんて絶望視しかできない。
だけど、私はそんなこと言ってられない。
お父さん、お母さん、祥ちゃん。
そして…、妙ちゃんに。
家族のきずなと、そして親友の思いを無駄にできないんだから。
ただ、生き残る自身はないけども、私には他の参加者たちと比べて一つアドバンテージがあるのは確かだった。
普通の一般人なら、生涯一回もすることないであろう経験。
『人を武器で殺し切る』経験値が、私には蓄積されている。
橘吉絵のように、目玉を突いて、頭をかち割るか。
三島ゆりのように、容赦なく殴り倒して殺すか。
加藤理佐子のように、逃げ惑う隙だらけの身体を切りかかるか。
久賀秀利のように、出会い頭に腹を突くか。
真宮裕明のように、武器を奪って射殺するか。
池川努のように、身体の一部をぶち切って悶絶させるか。
小黒妙子のように、心臓を一突きするか。
過去の経験を基に、私は絶対優勝して魅せる。
絶対…に。
このバトル・ロワイアルは、人生をまた最初からやり直すチャンスなんだから。
「絶対に…このチャンスを掴む…。二人三脚で……っ」
ミスミソウは、百合の花。
百合の花言葉は"massacre"(虐殺)。
【小黒妙子@ミスミソウ 死亡確認】
【残り69人】
【1日目/A1/バス停/AM.00:35】
【野咲春花@ミスミソウ】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【マーダー】
1:皆殺し
2:優勝して家族を生き返らせる
3:妙ちゃんの思いを無駄にしない
※参戦時期はあのバス停で会う直前くらいです。
※ベンチにて、小黒妙子の死体が放置されています。
-
投下終了です。
マルシル、飯沼、うっちーで次回お送りします。
-
[登場人物] マルシル・ドナトー、飯沼、うっちー
-
少女がちいさい頃、父から読み聞かせられた一冊の絵本。
「わぁ……!」
子ガモが産まれて最初に見た相手を親と認識するように、その絵本の内容は生涯、少女の心に深く深く焼き付いたという。
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〜ゆうへいされた おうじょさまは、かなしみに くれる まいにちでした。〜
〜それは、けっして まおうのしろ にいるのが かなしかった、という わけではないのです。〜
〜なんにち まっても。なんじゅうにち まどを ながめても。〜
〜だれも じぶんを たすけにきてくれない。〜
〜「もしかしたら わたしは みんなに ひつようと されていないのかしら。」〜
〜おうじょさまは、さみしくて なみだで まくらを ぬらすひび でした。〜
〜そんな あるひ でした。おりの かぎが こわされ、かのじょは、だれかに おひめさまだっこを されました。〜
〜とつぜんのことに おどろきを かくせない おひめさま。〜
〜そうです。そのだれかさん こそが おうじょさまを たすけだした ヒーローだったのです。〜
〜おうじょさまは、といかけました。「もし。あなたは、だれですか。」〜
〜すると、その おとこのひとは さわやかな えがおで かれいに こたえました。〜
──名乗るまでもないですが、仕方ありません。僕は東のユーマハサ王国からきました……、
────王子、です。
-
◆
夜のセンター街。
彼女は、この『異世界』の匂い故に、猛烈な吐き気を催したという。
「はぁ、はぁ………。」
「……ファリン…、もしファリンならどうする…の…………? はぁ……」
金髪エルフの魔術師──マルシルは、無人ながらも活気溢れたパワーを持つこの繁華街にて、顔色を悪くしながら座り込んでいた。
なにせ、ダンジョン内にていつも通り信じられない魔物飯をたいらげ、午睡に浸っていたところ目を覚ましたら「殺し合いをしろ」だ。
命を懸けた戦い。
それを強いられたのもさることながら、今自分がいる世界の『異様』さに臆せずいられない。
バス内にて目を覚ました起因も、嗅いだことのない妙な空気感に違和感を覚えたからだ。
どういう原理で高速移動しているのか分からない箱の中で、妙な服装の人々に挟まれている。
そして、トネガワと名乗る男が動かしてみせた『ぱわぽ』なる動く絵。
『魔術』で動く世界で生きたマルシルにとって、この現状は凄まじいカルチャーショックだった。
気が気でいられなくなるのも無理はないだろう。
ただ一つ。
マルシルにとって奇妙なこの異世界にて、一つだけ名残りある光景が見られた。
それは、バス内にてトネガワが最後魅せた行動。
ぐちゃぐちゃな死体の少女を、指一本生き返らせるというあの非現実的なシーンであった。
いわば、『魔法』だ。
「……ぐっ……。はぁ、【黒魔術】………」
人を蘇生させる魔法──黒魔術は、その危険性から重罪として規制されている。
その禁忌を犯さずとも、普通に生き返らせる方法はあるのだが、金銭面で余裕なんかないマルシル一行には縁のない話だった。
と、そんなことはどうだっていい。
要はマルシルの──彼女の世界では、死者蘇生が当たり前だということが大切なのだ。
言わずもがな、我々『渋谷区が存在する世界で生きる者』からしたら、死者蘇生など有り得ないこと。
つまりは、この渋谷が舞台の現実にて、魔法が使えるマルシルには圧倒的アドバンテージがあるのだ。
聡明な彼女はそのことに気付いている。
自分が優勝できる確率が、誰よりも高いことに。
「…ファリン……ッ…。はぁ……、」
「アナタが今の私を見たら……軽蔑する、だろね……………。はぁ、はぁ………。で、でも…仕方ないんだから……!」
「他に方法なんかッ…、ないんだから………ッ!!」
センター街にて、彼女はラインを超える決意を固く誓った。
ライオスもチルチャックもセンシも、誰彼構わず全員皆殺し。
辺りを埋め尽くすように立ち並ぶ、この異様な空気感の店や建物も巻き添えで、全部燃やし尽くすつもりだ。
休息を挟みつつも、体力の限り殺して瞬殺して減らしていく。
それでいて、マルシルは罪悪感を背負う気はさんさらない。
何故なら、優勝の願いは「参加者全員生き返らせる」と即答するつもりだからだ。
「………それは無理でも、最低限ライオスたちだけは復活させる。絶対…」
-
過程よりも結果。
そう、マルシルの頭にはそれしかない。
自分が生き残りさえすれば、どれだけ手を汚そうとも構ってられなかった。
両手にギュッと握られるは、支給武器。
自分が愛用している魔法の杖だ。
「私しか…私にしか…できないんだからぁ……!」
震える自分を鼓舞するマルシル。
思うのは簡単だが、いざやるとなると躊躇いたくなって仕方がない。
嫌な上司や家内をボコボコに張り倒す妄想はできても、行動には移せないことと一緒。できないのである。
しかし、追い込まれた彼女はもはや今更考える余裕すらない。
ゆらりっと立ち上がり一歩一歩踏み出すマルシル。
殺意で、陽炎のように揺らめく彼女の姿。
気づかずとも、彼女は既に『鬼』となっていた。
「恨みなんかないけど……、はぁ…っ……。ごめんっ……」
「…まずは、──あいつっ………!」
マルシルが、杖を向けた先は十メートルほど遠くにて。
無防備に背中を向けながら、ふらふらと闊歩する男性だった。
社会人のスーツを纏ったその中肉中背は、どこか冴えない印象があり、殺人なんて無縁の一般人に感じる。
黒いカバンを片手に、そいつは辺りの店をキョロキョロと。
こちらには気づいていない様子だが、やはり警戒は十分なようだった。
改めて考えたら理不尽極まりないものだ。
名前どころか顔すらも知らない、一ミリも殺意なんて抱いていないその男性を、今から死なせるのだから。
ならばと。
せめて、苦痛を感じさせず葬りたいので、マルシルは頭に標準を定めて息を吐く。
「三、二、一…でやろう……。カウントダウンしてから……」
既に憔悴しきった様子で、ブツブツ呟く。
私は、才女だから、優等生なんだからできる…。やれる…。
それに、殺し合い反対してる参加者に比べたら私は従順で、企画者サイドからしたら優等生なんだ……、と。
「はぁ………三、二………、」
自分に言い聞かせながら、彼女はカウントダウンの終結と同時に、魔法の詠唱を開始した。
「………いちっ…………──、」
奇しくもその折であった。
サラリーマン風の男性は、唐突に左折。
近くにあった黄色と黒な看板の店へと駆け出したのだ。
「………えっ、いや!!!」
-
のそのそ歩いていた標的の急な方向転換。
こちらに気づいたのか、と。
マルシルは焦って、焦って思考が纏まらなくなった。
「ちょっと、待ちなさいってばあ!!!」
その為、大慌てで彼女も入店することとした。
さっきまでの用心深い態度はなんだったのか、というマルシルの大声が町全体にエコーする。
ウィーンッ。
彼女は、どういう魔法で動いてるか理解できない自動ドアを、特に気にもとめずくぐり抜けていった。
店の名前は、『松屋』。
…
……
店内は、当然だがサラリーマンの一人しかいない。
「♪だーでぃだでぃどぅー」とラジオからBGMが流れるだけで、雑多音はなく。
疲れ切った様子で食べ進める客たちも、店員すらも誰一人さえいない。人の気配はまるでない。
それでいて、床はきれいに磨き上げられ、テーブルも椅子も整っていたものだから、オープン前の新改装店に侵入した気分だったという。
不思議なことに、奥の厨房からはホカホカと料理の匂いが漂ってくる。
肉とタレが絡み合ったその香り。
焼けた牛肉がまた香ばしい。
深夜のこの微妙な時間だと空腹的に苦しすぎる、たまらない匂いが立ち込めていた。
「…ごくりっ」
思わずマルシルも生唾を飲んでしまう。
「…って、そんな場合じゃないっ!!」
首をブンッブンと横に振って、彼女は再び臨戦態勢を取った。
杖を向ける先は、カウンター席に座るサラリーマン。
メガネをかけていて黒髪。
ライオスと同じくらいの年と捉えれるその顔は、またしてもどこか冴えない表情だった。
「悪いけど、貴方を今から殺すからね…ッ! ほんと…覚悟しなさいよッ!」
「………」
「そういう運命なんだから……。仕方ないんだからね…!」
「………」
「……なんか言わない、の…?」
「………………」
-
彼と対戦合間見ようとするマルシルだったが、終始スルーで返され続ける。
サラリーマンは表情も無で、机を一途に見つめていた。
殺人者に捕まり覚悟をした、といった様子なのか。
「…………ちょっと、あな………………んんっ?!」
いや、違う。
男性は自分の目の前にある『物』に夢中で、金髪の変な女なんか眼中にないといった様子だった。
テーブルに置かれた、青色の丼ぶり。
ホカホカと湯気をたちこめるそれに、レンズの奥の瞳がギラギラ光っていたのだった────。
【今回のお品書き】
『牛丼〜超特盛、つゆダクダク、肉増しをチョイスして〜』
・ご飯
・牛バラ肉
・玉ねぎ
・タレ
「…いや、食ってる場合かァ─────────っ!!!!!」
マルシルがキレ気味で突っ込みを入れたのも無理はないだろう。
自分は相当な覚悟を決めて、このゲームに馴染みこもうとしたというのに、目の前の男はのんびり食事タイムなのだから。
その舐めた姿勢を前にして、八つ当たり気味の魔法ぶち込みをしなかった点は称賛すべきだが、とにかくマルシルはツッコミに夢中だった。
「…いただきます」
一方で、男の方も別に飯を食らうことに無理はないことは言えよう。
彼の視点で遡ると、残業を終え気づけば夜の十一時。
フラフラになりながら、チェーン店を探していたところ、気がついたらあのバスの中だったのだ。
主催者からも「食事は施設で取るように」と説明を受けている。
食券ボタンを押したら、何処からともなく牛丼が出現したことは不思議だったが、とにかく男はこの空腹問題を解消したかった。
それが例えバトル・ロワイアル中でも、である。
彼は、割り箸を折るとほっかほかの肉の山に突き入れる。
持ち上げた肉がじゅわぁあぁ、とタレを垂らし見るからにできたてアツアツだった。
男は思わず喘ぎに似た声を漏らす。
「うわ……っ、──」
「──…うまそう……………」
「美味そう…、じゃないわい──────っ!!! こっち見なさいってのーー!!!!」
ごくっ。
彼は頬を紅潮させ、涎を飲む。
いや、もはや抑えきれずにいる。
ヨダレが口からこぼれ、一粒…二粒…それは汗もまた同様。
気づけばカウンターは、彼から生じた体液でベッタベタに埋め尽くされていた。
-
「こっち見なさいって………えっ…────」
金切り声が急に止んだ。
ポタ…ポタと溢れ出る肉汁と、男の清涼な唾液。
彼の様子を見て、マルシルは何を思ったか黙り込んでいた。
「お届けしました曲は、鈴木雅之で──、」とラジオのDJの声だけが響く中、彼女は棒立ちに見つめ続ける。
彼の、夜食の様子を。ずっと。
「あんむっ」
男は口を開いた。
そして山盛りの牛肉を丁寧に口の中へ、放り込んだ。
口内を、脂がこれでもかと満たしていく。
こんな薄っぺらい雑肉にさえ、牛特有の甘い脂があるんだから有り難いものだった。
もっ、
がばっ、
「はふはふっ、はむっ…」
肉を味わった後は熱々のご飯をすかさず掻き込む。
玉ねぎもまたその甘みがいいアクセントを出していた。
汁が浸かった米の飯は、ほんとに火傷寸前に熱く、男はハフハフ冷まさざるを得ない。
その口内運動の影響で、またも唾が、米粒が、周囲へと飛散していく。
それは紅ショウガのケースや、レンゲ入れ、壁に貼ってあるポスター、はたまたマルシルの頬まで飛んでいき、べったべたに付着した。
それでも、男は気にせず舌を突き出して牛丼を掻き込んで行く。
美味い、美味い。と。
空っぽだった胃がどんどんずっしり重たくなってきた。
考えてみれば、『食事』というものはストレスという負荷をかけられし現代人に、平等に与えられた至福の時間だ。
それは誰にも邪魔されず、自由で、縛られてはいけない行為。
じゅるじゅる、音を立てて牛丼を食らう男は、そういう観点からしたらまさに模範的な食事と言えるだろう。
マルシルはふと男の顔を見た。
丼をきれいに平らげた男のその表情はまさに幸せそのものだった。
眉を下がりつつも、頬は赤く染まり、汗で濡れきった顔。
──そしてその目は、幸せを超えて『絶頂の目』であった。
「うっま…………」
男は米粒でベタベタになった口周りを、袖で拭き取った。
-
(いや、ちょっと待ってよ…………………!)
そんなサラリーマンの食事を見て、共鳴したかのように頬を赤くした者がいる。
立ち尽くして、わなわな震える彼女。
口に手を当て、こう思わずにいられなかった。
(嘘っ………‼)
(す、すっごい…『可愛くてかっこいい食べ方』……………!!)
彼女は、自分の頬についた湿る米を手に取り、感傷に浸る。
これは、俗に言う恋──だったのだろうか。
不意に、彼女は幼い頃好きだった絵本を思い出す。
好きだった、『あのひと』。
そう。具体的には絵本に出てくるキャラクターが好きで好きでしょうがなかった。
そのため、幼き彼女は絵本の主人公であるお姫様を自分に脳内で書き換えて読んでいたという。
「まるで…」
〜おうじょさまは、といかけました。「もし。あなたは、だれですか。」〜
〜すると、その おとこのひとは さわやかな えがおで かれいに こたえました。〜
「…私の王子様…──────────っ!!」
マルシルは、いつか自分にも救いの王子様が来ると、待ち焦がれていたのだ。
そうなると、もう感情を抑えきることができない。
さっきまでの殺しの覚悟はどこへやら。
今にも店から出ようとするサラリーマンに、マルシルはアプローチしに行った。
「ちょっと、待って!!! ねえ!!」
「あっ、なんですか」
「ほんとお願いっ! 私と一緒に行動してっ!! 私マルシル・ドナトーっていうの!! ね!」
「はあ。食券押せば…勝手に飯が出てきますよ」
「いや飯はどうでもいいわァー!! …と、とにかく私、あなたといたいんだって!! い、いいよね?? ねえ!?」
「…えーと、まぁ。ご自由に」
王子は、無愛想な態度で答えた。
-
退店。
夜のセンター街にて、二人は歩く。
片方は、金髪エルフ。もう片方は、仕事ができなさそうなナヨナヨしたサラリーマン。
傍から見れば不釣り合いな二人だ。
だが、マルシルはこの上ない幸福感、そして天にも舞い上がるような高揚で満たされていた。
なにせ、隣りにいるのは自分が思い続けていた王子さまなのだから。
唾と汗をたくさん飛ばしながら、色っぽく食べるそのセクシーな姿。
何年も前から待ち続けていた理想の人間がいるのだから、もう怖いものは何も無い。
王子の名は──、飯沼。
欲を言えば、絵本通りに真っ白な白馬がいればな…と。
理想の王子の隣をひっつきながら乙女・マルシルは、恋に落ちた。
(ふふっ! この気持ち、初めて……っ)
(私の王子さまっ……──)
「いやいやいやいやいや! いやいやいやいやいやいやいや!! キモいわ!!!( | △ |;)」
【1日目/F5/渋谷センター街・マルシルらの背後、電柱にて/AM.01:01】
【うっちー@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:食い方超気持ち悪っ!!( | _ |;;)
2:キモイ!!キモキモキモキモキモ…
【1日目/F6/渋谷センター街/AM.01:00】
【マルシル・ドナトー@ダンジョン飯】
【状態】健康
【装備】杖@ダンジョン飯
【道具】???
【思考】基本:【微静観】
1:うっとり
2:飯沼と動く
3:一応優勝狙い
【飯沼@めしぬま。】
【状態】満腹
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:とりあえずどうすべきか…。
-
投下終了です。
ライオス、来生@空灰で次回お送りします。
-
諸事情により急遽予定変更となりました。
次回は「ヒナ、根本ひな」でお送りします。
-
[登場人物] 根元陽菜、ヒナ
-
アニメが好き。
学校でみんなとワイワイお弁当囲んで、屋上で昼寝してたらミステリアスな先輩が顔覗いてきて。
文化祭では、バンド演奏を披露したり。
そのとき、裏幕で緊張しているメンバーに「大丈夫だよ! 自分のやりたいようにやって愉しめばいいんだから!」って勇気づけさせる展開とかしてさ。
いじめや嫌がらせがない、そんな平和な青春のアニメが私は好き。
だから、クロが好んでるような戦い物や、人が死ぬアニメはあんまり…って感じだった。
だったんだけども…………。
◆
「えーと。まず、男の参加者に会った場合はーー………。んー、なんて言うのが正解かな…」
私、根元陽菜。
来年の春から声優学校に通う十八歳の高校生。
だけど、ひょんなことから私は今、知らない大勢の人と殺し合うことになってしまったのだ。
…本当に直球の殺し合い。グロテスクで鬱過ぎるそれだ。
知らない間にバスの中に拉致されて、何をするのかな、と思っていたら…、すごい展開に。
退屈な日常生活がある日突然一変する〜、みたいな展開はアニメみたいで待ち望んでたけど、……流石にこんなのは要求していない。
恥ずかしいけど、隣席の人なんか気にせず泣いちゃった車内だった。
私のスタート地点は、外の大階段。
普段は色んな人が段差に座るこの階段も、今は私以外誰もいなくて。なんだか世界で一人取り残された気持ちになる。
…あーちゃん、私がいなくなったら悲しむだろなー…。
「うんっ。男の人の場合は『撃ってもいいよ…。でも、安心してほしいし、なにより私を信じてほしいんだ。私は貴方を救いたい、から────』とか言おっかなー」
そしよ。
変に命乞いとかしてもカッコ悪いし、強キャラ風味出すのも悪くないかも。
それ言おっと。
あ、ちなみに今私は、参加者別の会話シミュレーションを脳内会議中。
…別に、会話苦手部とか、そういうわけではないよ?
ただ、なーんていうか。
当たり前だけどこういうイベントって初めてだから、生き残る為にどう接するか考えておきたい、みたいな。
慎重に、このあとの展開を読んで、先手を打つことが、殺し合いを乗り切る最善策だと思ってるしね。
「…いや、でもさすがに臭すぎるセリフかな……。クロが聞いたらすごいバカにしてきそうな痛さはある……。…いや、別にいいもん。…いいよね」
「…じゃあ、次は武器を持った女の子と対面したケース…と」
女の参加者の場合はーー……。
うーん。
やはりこれも、命乞い系はしないとの前提でコミュニケーションを取るとして。
同性だし、初対面から結構フレンドリーな態度で接しようかな。
「あっ、ちょっとタイム!」「話し合い一回しようよ、ね? 無理、かな?」みたいな。
話し合いをすれば、この危機的状況も脱せれることを軸に色々会話してく、って感じで。
ポイントとしては、こっちが丸腰なのアピールすることか。
自分の武器を遠くに放り投げて、手はパーの状態を見せつければ、相手も警戒心は解いてくれるだろうし。
よし、そうしよう。
イメトレ完了…!
-
「あははっ、なんだかギャルゲーの選択肢慎重に選んでるみたいだ」
思わず吹き出しちゃう私。
というのも、つい最近にクロからR18のえっち…なゲームを渡されたから、なんか思い出しちゃったのだ。
「……クロは、もし殺し合いに参加されたならどんなことするんだろ。クロの場合…」
「あの子は正真正銘会話苦手部だから、なーんかずっと隠れるイメージしかないなあー」
逃●中なら、自首行為の次に、何も共感できない逃走者のパターンだ。
でも、『生き残り』だけを大前提にした場合は隠れ続けるのが正しいんだろけどなー。
クロがするであろう行動と、
私が心がけた参加者と話して分かり合うという行動。
どっちが正しいのかは、分からない。
分からない、けど…──、
「少なくとも、私はこのバトロワで主人公に成り切りたいから、積極会話試みてるだけだけどね…」
──…私は絶対に殺しなんかしたくないし、追い込まれた主催者へ「バーカ!!」って勝利宣言で終わりたい。
対主催を胸に抱き、私はこの階段をとりあえず降りてみることにした。
よし、と。
ミニスカートをパンパンと払って、準備完了した私は重い腰をあげる。
そばに置いたクソデカカバンを肩に掲げて、いざ出陣…と。
そんな矢先に、階段の下でとうとう参加者の一人にエンカウントしてしまった。
「あっ」
「…あっ!」
とりあえず、ファーストエンカウントが女の子で安心した私…。
ちっちゃくて小学校高学年みたいな童顔の彼女は、よく見たら茶色い制服を着ていて、「じゃあ中学生なの?」と考え悩む。
特徴的なのは青く染められた髪で、ちょうど風が吹いて、スカートと一緒に髪がなびいていたからなんだかアニメ的なエモさがあった。
「…………」
それにしても、その子。
口を半開きにしてボーーっと。
なーんも言わずに私をすごい見てくるんだけど…。
うーん、何を考えてんだろって顔つき。
とりあえず立場的に私がお姉さんなんだから、会話のリード権を握っておくとするか。
-
「あ〜〜っち、向いて〜〜〜〜〜」
「──え?」
そのブルーヘアーの子は、私の発言に被せてでも、唐突に口を開く。
セリフ通り、彼女は人差し指を私の顔に向けていて、ピーンと見上げている。
…うーん、なんだろ。
遊びたい感じなのかな。…初対面相手に随分フランクな子だなぁ…と。
「えーーと…。…とりあえず。私は根元陽菜。『ヒナ』って呼んでい──、」
「〜〜ほいっ」
彼女は指を右にスッと方向転換した。
クイッ→
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ
イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッッッッ
「??! …痛っいだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだっ!!!!!?????」
「いだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!!!!!!!」
その指の向きに合わせて、私の首もギュギイイイイイイイィィァっと力強く拗られる……っ!
具体的に言えば、私と女の子は十三段分ほど距離が離れており、彼女が武器か何か使って直接、首を曲げてるわけではない…。
ただ、『見えない力』というか…。
何もないというのに、急に私の首が反対方向にねじられようとしてるのだ…!!
女の子の指さす通り、ギュイイって!!
私も必死で力を込めてるけど、やばいヤバイヤバイヤバイヤバイ!!
捻じ曲げられそうだ!!
「いだだだだだだだだだだだだだだ!!!! ちょっとタイム!! タイム!!!」
「こ、これキミがやってるのっ?! ね…いだだだだだだ…!!!」
「あ〜〜、お腹空いたからやっぱ力が出にくいな〜〜…」
「いだだだだだだだだだだだ!!!! 痛い痛い痛いい!!! は、話し合おう!! ねっ…いだぁ!!! む、むむ無理か…いだぁああああ!!!!!!」
「新田に電話してごはん持ってこさせよう」
「ちょっ…いだだだ!!! む、無視しないで!!! は、話を…」
ギチギチギチギチッ…
いだぁあああああああああああああ!!!!!!!
-
すっごい踏ん張ってるのに、首を捻る見えない力が強い…強すぎるうっ………!!!
首の繊維?骨?とかがすごいギチギチブチブチいってるし、もう耐えられないくらいやばすぎるんだけど!!
訳解んないし…、とにかく嫌嫌、嫌、イヤッ!!
死にたくない!!!
「あれ。わたしのスマホないし。バスの中に落としたっぽい。ま〜いいや」
「ぎぃいいいやあああああぁががががががががががごがががががぎがががご!!!!!!!!」
こんな、こんな…っ!!
今私がしてるだろう、すごい風圧を浴びたみたいな形相のまま、死にたくなんかないっ……!!
「もっ、もう……!!」
「それにしても渋谷には築地があるのかな。これがおわったらイクラ丼食べよ」
「もうっ!!!!」
ほんとはしたくなかったけど。
死にたくないから──。
捻じ曲げられる一歩手間の私は、ポケットから『支給武器』を手にとり、眼下のアイツに向かって思いっきり投げた。
支給武器は自身のプラスチック製の羽をなびかせながら、垂直に対象目掛けて飛んでいく。
…そうだ。
田村さんも…、殺し合いに巻き込まれちゃってるんだよね……。参加者の一員…。
ちょっと前の体育祭の時のこと。
その時の田村さんとの思い出を乗せて、投球された武器はまっすぐまっすぐ飛んでいった──…。
──根元さんってダーツやったことある?
────ダーツ? ああ、うん。やったことあるけど…。それがどうかしたの?
──私も智子とやったことあるよ。楽しかった…!
ドスッ
「あがっ」
バタリ
『ダーツの矢』は、女の子のオデコにキレイに突き刺さり、標的をあっさり卒倒させた。
-
◆
「………う〜ん………イクラむにゃむにゃ…………う〜ん…」
「……ハッ」
「ここはどこ──、」
「よくも殺そうとしてくれたなぁーー!!!! バカじゃないっ?! 最っ低────!!!!」
バシィン…!!って。
ベンチで寝起きの女の子に、思いっきりビンタをした私………だったんだけど。
当たりどころがすごい悪くて、小指と薬指が彼女の目に軽く入った上でのビンタになってしまった…。
「あっ…!」
「…いっ!! あいっだぁあああああああぁーーっっっっっ!!!!」
「あっ、いやっ。ご、ごめん!! …そこまではするつもり無かったから……」
ビチャン…と妙に嫌な音が出ていたけど、いや…、大丈夫であると願いたい。
女の子のゴロンゴロンと片目を瞑って悶える様からして、すごい嫌な予感はするけど……。なんでこんな目に…。
「いやっ、なんで私が罪悪感感じてんだ…。被害者サイドじゃん! 私!」
女の子が暫くジタバタする間、私は特に何もできなかった…。
というわけで、十五分ほど割愛ー…。
-
◆
…
……
「…でっ!! そう法律でやっちゃいけないって分かってんのに、なんで私を殺そうとしたわけ??」
「ゲーム感覚だとおもったから。みんな倒せば終わりらしいし。『ゾンビシャーク 感染鮫』みたいに殺しまくろうとおもった」
「…いや影響受けた映画コアすぎない?」
ベンチで二人、コンビニから買ってきたチキンを食べながら、軽い自己紹介を済ませた。
おでこに絆創膏を貼った青髪少女の名前は『新田ヒナ』ちゃん。
彼女もまた、私と同じように知り合いがここに閉じ込められている…らしい。
と、私はふと夜空を覆いかぶさるバリアーを見上げながら思った。
「…ふーーーー、っと……」
「チキンうまいな。あつい、骨なしはうまい」
驚くべきことに、このヒナちゃん。
凄まじい『超能力』を使えると自己紹介してくれたのだ。
証拠として、バックやベンチやらを手動かさず軽々宙に浮かせてみせたヒナちゃん。
つまりさっきの私への攻撃は超能力を使ってのことらしい。
…自分で説明しといてなんだけども、いやはやすごく頭が痛くなってくるよ…。
「…首も痛いし……。これムチウチとかいってるでしょ…」
「ねえ、陽菜」
「……んー、なーに?」
「その食べかけチキン。いらないなら、わたしによこせ。もったいない」
「…いや謝るのかと思ったよ!! もうヒナちゃんはー!!」
…いらないしダイエット中だから普通にあげたけど。
はぁー。
バトル・ロワイアルに、魔法で死者蘇生に、超能力少女…。
現実的観点で行動したら脳がぐっちゃぐちゃになりそうなんだけど。
私今これ夢の中か、VRの世界か、それともL●Dでも打たれて幻覚を見させられているのか…。
もうわけが分かんないし疲れちゃうよ……。
サイキック少女がある日現れて、その子とタッグを組むって。
それだけだったら、ギャグアニメ物みたいですごく良いんだけどなあー……。
【1日目/A3/大階段/ベンチ/AM.00:20】
【根元陽菜@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】首痛(軽)
【装備】ダーツ
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:ヒナと行動
2:基本話し合いで解決する。危険にさらされた場合は不可抗力として攻撃
【ヒナ@ヒナまつり】
【状態】額に傷(軽)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【微静観】
1:とりあえずイクラが食べたい
※ヒナの参戦時期はアニメ最終回直前あたりです。
-
投下終了です。
次回、21時〜23時頃を目途に早坂愛、山井恋でお送りします。
-
[登場人物] 早坂愛、山井恋
---------------
-
◆
Love。 ラブ。
────【愛】/あい。
◆
「ここ…は……………。…はっ……?」
フラワーな芳香剤の匂いで、早坂愛は目を覚ます。
四方八方は無機質な白い壁。目の前の壁だけは金属の取手口があり、つまりはドアだった。
同じく真っ白な便座にて腰を掛けてる状態がスタートの早坂。
はぁ…。
溜息をつかざるを得なかった。
「…あの無能主催者…。せめてデリカシーはあっていてほしいと願うばかりだ。これ…」
スタート地点がランダムなことを想定はしたが、まさか自分の初期位置が個室トイレの中だとは。
殺し合いの緊張感なんてあったものでもない場所セレクトだ。
もしも、扉を開けて早々、『小便器』なんてあったりした暁には…。
早坂は利根川とかいう無能野郎へ、徹底的に容赦はしないつもりだ。
「さて、と…」
まあ一旦は場所云々について置いておくとしよう。
黒いメイド服の女子高生・早坂はさっそく行動に移り始めた。
見下ろせば、トイレの床をデカデカと占領するデイバッグが構ってほしそうに鎮座する。
ファスナーを開けば出てくるであろう、品物の数々。
参加者名簿──バス内で確認した限り、参加者の中で顔見知りなどたかが知れている。もっとも、早坂は例え初対面でも相手が善人か、屑か、分別する自信があるので、名簿を読むことは今は不要。
支給武器──確認は必須だろうが後回しにしたい。『今は、』どうでもいい品物である、
その他なんだかゴチャゴチャたっぷり入ってそうな気配だが、今はそれよりもやらねばならないことがある。
胸ポケットからスマホを取り出すと、慣れた手つきで素早くLINEを開く。
同級生の名前が山ほど名だたる中、目的の人物の名前が目に入った途端、スクロールを止め会話画面を開いていく。──この間、わずかに二秒。
この一大事にて、早坂が真っ先に連絡を取った相手、とは。
それは、つい先週まで高校生なのにガラケーを使用していた。
機種変新しい、世話の焼ける『主人』へ向けてだった────。
「……かぐや様………………」
早坂は滑る勢いで、文字スワイプを始めていく。
-
▽以下、囘想。▽
──こっ、殺し…合い……? そんな……、わ、わた……。
(隣に座る我が主人の表情は、私と対象的に青ざめきっていた。)
(無理もない。というかそれが普通だ。)
(真夜中の首都高をミッドウェーするバスで、何をさせられると疑心になっていたらバトル・ロワイアル…だ。)
(私は、内心の動揺を叩き潰し、ただかぐや様の横顔を眺めていた。)
──…あ………。
──んん。早坂、あなたには忠告しておかなければならないね。
(…。そうかと思えば、かぐや様は急に凛々しい態度を取ってみせた。)
(見過ぎた…か。)
(隣の座席が私であることを思い出して、慌ててビクついた素を隠したのだろう。)
(大財閥四宮家の一人娘──令嬢・四宮かぐや。そんな無理して強キャラ感出そうとしなくてもいいのに。)
──あなたは日頃から何事にも急ぐ傾向…というか先走り癖があるわ。いい?
──生命が掛かった自体で先走りは危険。…ドライな言い方かもだけど、これは早坂の身が心配で忠告してるわけではないのよ。
(…。)
──貴方が『私を守るため〜』だとか独断的に殺し合いに乗ったりでもしたら。それは、四宮家全体のイメージ暴落にも繋がるの。
──私は殺し合いに全く動じてないけど、あなたが心配だわ。だから…。
──決して、暴走気味の行動は慎むように。ね。
(…長ったる。)
(さっきからその小さい肩が震えまくっている癖に、よく自分を棚に上げて忠告なんてできるものだ。)
(『殺し合い』で心情揺れまくっているのはどっちなんだ、と突っ込みたい。)
────…お言葉ですがかぐや様。自分で言うのもあれですけど、私自身そんな暴走癖はないと思いますが。
──…ともかく。
────はぁ。ともかく。
──ともかくっ、あなたは私の指示があるまで待機していて頂戴。
────御意。飛車も銀閣も優秀な棋士に動かされて初めて活躍できるものですからね。
(…飛車…。これはさすがに自分を買い被りな表現してしまったか。)
(まあ一々訂正するのも野暮だし言わないけど。)
──それにしても…。
(かぐや様がボソリと漏らす。)
-
──面倒なことに巻き込まれてしまったわね……。
──…自分がこんなことになるなんて。自分の死に際がこんなことかもしれない、なんて。思いもしなかった。
────…はい。
(彼女の口から漏れていたのは、珍しく弱音だった。)
(例えどんなに淋しい、辛い、苦痛な思いをしても、その本心を奥底に沈め、殻で隠し切る。)
(四宮家の令嬢としての矜持、そして周りに心配をかけたくないという思いから、か。常に本心を幽閉し続けてきたかぐや様…。)
(そんなかぐや様ですら、怯えきるのを隠しきれない『殺し合い』、とは。)
────すなわち、それだけとてつもないエナジーを持ってる、ということか…。
(私は小声で呟いた。)
(……。)
────かぐや様。これ、使い方以前教えた通り覚えていますよね。
──…これ……。
(なんだか察していない様子なので、私は胸ポケットからそれを取り出し見せつける。)
────LINEですよ。ゲーム開始直後、速攻でこちらから私に連絡をください。…もちろん通話のとこじゃないですよ。チャット機能で、です。
──…えぇ。分かったわ。
────場所を教え次第そちらに向かいますので。絶対、ですよ。
────宜しい、ですね?
──釘を刺さないで。もう、…分かったから。
(そう言って、彼女は落ち着きなくスマートフォンをいじり出した。)
(これからの、私の第一行動。それは『主人の指示待ち』。)
(例え、自分が欠損したり、不具になったり、重い怪我で精神が壊れ果てたとしても。)
(自己犠牲で、このかぐや様を護らねばならない。)
(…恐ろしさはあるっちゃあるが、この【使命】を今更果たさぬなんてできなかった。)
────ですよね。かぐや様……。
早坂を含めた周り全員の首輪が光り、途端に目の前が真っ暗になったのは、その折だった。
△以上、囘想。△
…
《お迎えにあがります。》既読
《どこにおられますか。》既読
《建物内部? それとも外?》既読
《かぐや様。今どこにおられますか。(要連絡←←重要!!)》既読
……
…
-
《既読》。
「スルーしやがる……」
あれから二十分経つ。
一切な返信のなさ故、送り相手を間違えたかと見直した早坂は、思わず舌打ちを放つほどだった。
あまりに通知音が鳴らないため、デイバッグの確認、そして道具の整理を二回繰り返すほど暇を余す。
早坂の支給武器──それは先のやたら尖った金属の菜箸だった。
一瞬空気を吸い、そして重いため息として吐き散らす。
「あの人は……。私が長い時間個室トイレをキープしてることも知らず……」
「荷物持ち係かッ! 私はッ…!」
早坂観をもって、かぐやという人間は、とても優秀だ。
優秀で、聡明。それでいて愚かだった。
散々返事するよう言いつけておいたのに、返してきたのはこの意図不明な拒絶っぷりのみ。
(思えばかぐや様は私が「私入浴しますから」と釘を差したときだって…〜〜っ。)、と心中思う。
早坂は心底呆れ果てた様子だった。
「…ただ。…まあ……」
一方で、この既読無視はかぐやの精いっぱいのヘルプを表している可能性もある。
返信したくても、できないようなトラブル。
──いわば、襲撃。
もしかしたら今、スマホを片手にどこか逃げ走っている途中か。
もしくは、異常者に捕まって拉致されているか。…最悪の想定もある。
確信できる材料がないので、あくまで仮定に過ぎないが、一連の既読無視はそういう事態も推察できるものだった。
ならば、今すぐにでも動くべき、か。
主人からは「待て」の命令が下ったままではあるが、ただ便所の中で篭りっぱなしというのも馬鹿な話である。
「…じゃあ。さて、」
というわけで、独断的判断ではあるが早坂はこの場から動くことにした。
まだ確認はしていないが、GPSアプリからかぐやの位置情報は容易く分かる。
菜箸を握り直すと、デイバッグを肩にかけ早坂は立ち上がった。
メイドとしての指名──主人を冥土送りにしないためにも早速だ。
(…もっとも、日頃の傾向から普っ通に既読無視してる可能性が高いですが…。なんかにうつつ抜かして……)
早坂はドアにそっと耳を傾け、外界の気配を感じ取る。
人の気配は…、まるでない。無人の様子だ。
かといって、警戒を解く気はない。
金属の取っ手口に指をそっとかけると、早坂は出る準備を慎重に整えた。
──────その時であった。
「……古見さんのォーー………、」
(…!)
ドアの向こう側で声が聞こえた。
自分と同じくらいの年頃で、きれいに澄んだ女子の声が。
バタン、と鳴る音と共に。
-
(…タイミング悪い…。今入ってきたか……)
ポジティブに考えれば、彼女の登場で自分がいるトイレが『女子トイレ』と確定したので、そこは安心した。
いくら殺し合い中とはいえ、異性のトイレに入ってくる女などいるわけがない。
肯定的にそうは考えられる。
ただ、そんなことはどうでも良くて、少しの安全材料にもなりはしない。
自分はどうすべきか。
壁の向こうの参加者へ接するべき、か。息を殺して隠れる、か。
判断ミスで命取りになる現状が、早坂を悩ませる。
……コツ、コツ、コツ、コツ…
革靴の軽やかな音。
だんだんと自分の方へと近づいてくる。
「…脅威となりえるゥーー、」
コツ、コツ、コツ…
足音がどんどんと大きく聞こえる。
(……私は、……)
一滴の汗がツラーと、早坂を伝った。
気配からしてドアのほんの向こうで『誰か』が歩いてるのは確かだ。
「メス豚のォーー、」
コツ、コツ、
百人一首を読み上げるようなトーンの声と、足音が目の前で響く。
そして、
「──メス豚野郎の、匂いー。」
止まった。
ギュイィイイィイイィィィイィアアアアアアアアアアアァァァァァァァァィィィィイイイイインンンンッッッッ────────
(!!?)
チェンソーの機械音がドアの向こうから耳を埋め尽くしてくる。
間髪はなく、そして。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキイイイイイイッ──────
自分がいる個室の木製のドアが、凄まじいパワーで切り刻まれていく。
「なっ…!! くっ……う!!」
────戦闘開始。
-
チェンソーという女子には比較的重機な武器ゆえか。
ぎこちない動作でドアは斬られていく。
持ち手には不慣れな武器なのだろう。
バキバキバキバキギュイィイィイィァァァァァァァァィィィィイイイイインンンンッッッ
(…それは、私も同じなんだけどな…っ)
ガゴゴゴギギガカゴギギギギギギガゴゴゴギギガカゴギギギギギギ
早坂は、自分の武器──鋭利とはいえただの菜箸を構え、ドアが大破するその時を待つ。
飛び散っていく木片。
大小関係なく飛散し、稀に早坂の頬、ニーソックスの太ももを掠り傷付けていく。
…オン…ブオン…
ボボボボボ……
ギョウウイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィイイイイィァイイインンンンンンンッ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
扉から顔を覗かせる刃先が高速回転する。
その斬り方は基礎もなにもない。
無闇やたらな滅多斬りで、ドアは乱雑かつ歪な形になっていく。
その大雑把ぷりがかえって恐ろしかった。
(…ぐうっ…!!)
早坂がいる場所は言わずもがな密室。
それも二、三人入ればもうぎゅうぎゅう詰めの狭い空間だ。
フィールド上、行動範囲が狭く、圧倒的に不利なのは自分の方。
ならば、武器のリーチが勝負の分け目になるところだが、こちらも分が悪かった。
不運にも、相手はチェンソー、こちらはただの菜箸。
長さ、攻撃力揃って完敗している。
(私は…、)
(じゃあ私は……、私は…………!)
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
────ザシュッ
(あっ…)
気付いた時には、チェンソーは眉間の先まで伸びていた。
早坂は、そっと目を閉じる。
(…かぐや、様…………)
チェンソーが勢いよく突き伸びていき、
ウイギギイイイイイィィィィィィィィィィン──と、個室空間を好き放題切り裂いていった────。
-
◆
Love。 ラブ。
────【恋】/こい。
◆
「…なーんだ。ここかと思ったら……はあ、はあ……いないじゃん──」
「──メス豚っ…」
チェンソーを振り回した力仕事で、山井恋は息を切らす。
四方八方はズタズタに裂傷まみれの壁。
ドアは完全に木片となっており、便器は大破され噴水状態。
この場は新築の学校とは思えないほど廃墟と化されていた。
山井が目を覚ました場所は体育倉庫。ご丁寧にもマットに寝かせつけられた状態でのスタートだった。
起きてから暫くして、校内のプロパンガスを大爆発させようか、外に出てひたすら血みどろにあげるか迷った山井。
だが、彼女特有の嗅覚とでもいうべきか。
二階から人の気配がしたので、チュートリアル感覚で始末することを決めたのである。
はぁあ…。
隣の壁をコン、コン叩きながら、山井はため息をついた。
「…ごめんね〜。こっちの個室にいるかと思って勘違いしちゃったー★ てへっ☆」
「今そっち向かうからさー。くれぐれも無駄な抵抗とか逃走はしないでね〜?? 私、チェンソー使い慣れてないから〜、すごいコトになっちゃうかも♪ だからさ…」
「ねえ。」
「分かったよね。ね?」
ニコリ、と穏やかな表情を浮かべる山井。
パッと見でも心からの笑みではないと分かる、その暗くて重苦しいスマイル。
──よく見れば目は細めているだけで全く笑っていなかった。
「さてっと…!」
コツッ
ギザギザな刃先を隣の壁へと当てる。
チェーンを力いっぱい引っ張れば、ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ。
まるでケーキ入刀式のように、今度はゆっくり丁寧に。笑顔で切り刻み始めた。
山井 恋。
彼女は普段はごく普通の女子高生だ。
勉強と運動はちょっとだけ苦手、人並みに悩みはあるけども友達はたくさんいておしゃれが大好き、毎日学校を楽しく通っている一般的女子。
ノリノリでチェンソーを振り回す非日常的な人間では断じてなかった。
ただ、途端、である。
山井は『彼女』が関わると途端にその普段の様子が崩壊してしまうのだ。
その彼女とは、入学後、廊下を歩く姿を見て以来の一目惚れ。
大きくてくりっとした二重まぶたに、艶の良いなびた髪の毛、天使のようであり小悪魔さも感じられる整った顔を持つ、
国宝的アイドルさながらの『同級生』のことだった──。
バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキイイイイイイッ……
高速回転する刃の群れを傍目に、山井はふと一ヶ月ほど前の回想に浸った。
-
▽
─────…誰も、いない…よね?
(…うん、無人。よかった〜…!)
(日差しで照らされる一組の教室にて。)
(私、山井は五時限目の体育をサボってこ〜っそりと御忍びするのでした。もう!私ったら悪い子!!)
────古見さん〜、古見さん〜、古見さんの机〜…と!
(…ん? 授業すっぽかしてまで何をしたいの…? って?)
(…。)
(…ふふふっ♬)
(イ・イ・コ・ト…!)
────…フフ…イッヒ、…フフ…!
(『古見 硝子さん』──彼女のカバンを漁る私…。)
(ご、ごめんなさい古見さん〜…! 神聖な『古見さん』の私物を私なんかが触っちゃって〜……。)
(やだ…! 準備体操すらもしてないっていうのにジャージが蒸れて仕方ないよ…!)
(汗で…!)
(ドキドキが止まらない…!!)
────…あった☆
(私が取り出したのは、『古見さん』のお弁当箱。)
(青くて長方形、サイズはやや小さめなプラスチックで、それがすっごいキュート…!)
(…厳密に言えば、『私のお弁当箱』なんだけども。)
(つまりは〜、私が『古見さん』のお弁当そっくりのお弁当を作ったわけなの。)
(分かるかな? 朝早くから『古見さん』のリビングを監視してー、米の量、おかず、容器、包布ぜーんぶをメモしてからさぁー、)
(速攻で私が完全再現して、朝『古見さん』のお弁当とすり替えたのっ!)
(すごいでしょ!)
────だから、古見さんは私が作ったお弁当を食べたことになるわけ。
────私の…、ひひひ…!! 私のこねたミニハンバーグが…。私の手垢がついたお米が…、古見さんの体内に……!!
(考えるだけでも…、もうっ。痺れちゃう…!)
(…あ?)
(で、『授業すっぽかしてまで何をしたいの…?』って??)
(…ごめんごめん! 説明忘れちゃってたや!)
────はぁ…はぁはぁ…!
────お弁当の…、銀紙についたタレ……!!
(あ〜んむっ。)
────…ちゅっば…、ちゅっ…、んちゅっ……んっ…ちゅばっ………ぱぁ…。
(正解は、『古見さん』のお弁当に残ったタレやカスをお掃除するためでしたー!)
-
────はぁ、はぁ……、はぁ…。んむっ……。んっ…!
────…はぁ…ん………!
────ん、あっ…。あっ…ン! …ん………あっ。ペロ、ペロ……。んちゅ、ん…あむ………! んっ…!
(凡庸な味付けの中に混ざる、微かな甘い味…。)
(これが、もしかしたら『古見さん』の唾液…の味なのかな……。)
(蜜よりも甘くて、花のように安らぎを与えてくれる……この味。)
────んぱっ……。はぁ…、んんっ……。大好き、だよ……!
(…思えば、『古見さん』と話すとき自然と鼻呼吸を意識しちゃうのはなんでだろ?)
……
…
△
「私がみ〜んな殺してあげるから、安心して見ててね…!」
「ねっ、私の大好きな…古見さん…………!」
ギュイイィィィィィィイイイイッ、ガガガガガガガガ。
──チェーンソーは鳴り止まない。
山井恋はその名を体現するかのように病んでいた。
故に、チェンソーの振動に耐え切れず腕が痛くなろうが、どれだけ女や子供を虐殺することになろうが、気にもならなかった。
全ては、愛する古見さんを守り、そして振り向かせるためなのだから。
参加者名簿を読んだとき、彼女は目の前が一緒暗くなったが、あれこそ恋は盲目だったのだろう。
壁が完全に切断され倒れ伏す。
今度は、個室内の雌豚をバラバラに屠殺するため、山井は足を一歩踏み込んだ…。
「そっちのトイレには誰もいないですよ。あいにく」
山井の耳元で、声がした。
「…っ!!?」
ため息交じりの呆れた声。
予期せぬ背後へ、山井は反射的にチェンソーを振り回そうとする。
が、
「…いっ…!! …が、がっ…………」
右腕は背後の主に軽く捻られ動きを封じられる。──女とは思えない凄まじい力だった。
そして、右耳にて。穴全体を埋め尽くしたのは冷たい感触。
先の尖った銀の菜箸のようなものを耳穴に突っ込まれ、鼓膜付近をサラサラ撫で回される。
右耳を支配する「ごわっ…ごわ、ごわ」という鼓膜の黄色信号音。
──それはいつでも、その気になれば脳みそまで突き刺せるぞというアピールを表している。
山井はほんの一瞬のうちに抑え込まれてしまった。
例によって将棋なら、『詰み』の状態である。
「ドアをギッタギタに壊して…。あなたは映画のシャイニングですか?」
-
メイド・早坂愛は羽交い締めに近い型で、山井の背後を完全に乗っ取った。
生まれながらにして四宮家の護衛を使命づけられた彼女。
常人は耐えかねぬ厳しい訓練が幼少期既に身に付いていたので、咄嗟に身を隠し襲撃に対応するなど容易いものだった。
「……まぁ、事態が事態なので正気を失うのも理解はできますがね」
「一応、私は早坂愛。あなたは?」
「………っ。…れん……」
「…山井…、恋………………」
「恋ちゃん、ですか。制服からして伊丹高校の方…のようで。どうでもいいですけど」
「…こ、」
「…殺すの…かよ………。私を………」
「えーと。一応、危なくなったら正当防衛っちゃいますが」
「………っ……イッ……!」
早坂はマニュアル通りがごとく淡々と受け答えを返した。
対して、山井は歯が折れる勢いでギリギリと軋らせ止まない。
少しでも動けば容赦なく貫通してくるだろう耳中の菜箸。
その不快な感触もさることながら、自分と同い年くらいの雌に圧倒的力の差を見せられ身動きもできない。
その自分の無力さに心の底から苛立っていた。
「………ぐ、う…………、ぅ………」
「…抵抗しないで頂き助かります。こっちも正直こんなグロい殺し方は勘弁ですから」
「……………っ…ぐ……ふぅ………………ぅう………」
「んじゃ次はそのチェンソーを降ろしてくれますか? そしたら、同時に私も菜箸を出すので──………、」
「殺せるもんなら殺してみなさいよ……っ。クズ…! 牛野郎…!!」
苛立ち。
故に、山井は無抵抗ながら抵抗の声を上げる。
「…話聞いてました?」
山井の返しに、早坂は呆れた視線をアンサーに飛ばした。
「…てか牛野郎ってなんですか……」
だが、山井には冷たい視線などどうでもよかった。
この一歩間違えれば死の絶体絶命状態。
いわば地雷地帯に踏み込んでいる今だろうが、彼女の脳内には一つのみ。
『古見さん』への重すぎる思い。それだけを、菜箸まで推定距離2.5mmの脳は考え続けている。
思考を古見さんで支配されきった女、山井恋は誰であっても止められない。
罵詈。雑言。
早坂から受け取ったクエスチョンを、山井は勢い凄まじく吐き散らした。
「…牛野郎? あんたのことなんだけど? さっきからデカい乳押し付けて牛乳でも出そうなんですか〜? このクズ女」
「……やま…、」
「あーうっさい黙ってカス。言っとくけどね、古見さんはあんたみたいな脂肪と違ってスタイル凄くいいから」
「…………し…、」
「古見さんはね、綺麗でスタイルも良くて品があって、それでいて面白いし性格もいいの」
「…………………」
-
「でもなぜか妬みとか嫉みとかそういう感情が沸かないのよね。そう、私を幸せにしてくれる存在なの」
「そんな素晴らしい存在の古見さんがバトル・ロワイアルなんて感性が厨二以下で貧窮街のネズミが浮くドブ川レベルの下衆お遊戯会に参加させられてるなんておかしいことなの」
「早坂ちゃーんもそう思うでしょ? 早坂ちゃんみたいな黒牛にはお似合いのゲームだろうけど、古見さんがここにいてはいけないの。貴方みたいな下級でカーストの底辺根暗野郎が集まるとこに古見さんはいるべきじゃないの。分かるでしょ?」
「だから皆殺しなの。だから私なの」
「古見さんはあんたら六十八人全員の命差し出してやっと等価交換になるようなお方なんだから。私がやらなきゃいけないってこと。ね?」
「分かったなら早く手をほどいてちょうだい。次に死んでちょうだい」
死んだ目で息もつかせぬ口説き文句を吐ききった山井。
どう見ても異常で手遅れ、元から正気じゃないんだな。と早坂に印象づけるには十分だった。
イカレ女が崇拝しているその『古見さん』…とは。
歪みまくった愛情に早坂は心底ゾッとさせられた。
ただ。
(……)
ただ、である。
(……かぐや様…)
(なら…、私にとってのかぐや様は……………一体……)
(…………私は召使、かぐや様は主人………。その関係……………)
早坂は考えた。
(…なら、本来、私は奉仕しなきゃいけないんじゃないのか……?)
山井は古見、そして早坂は四宮、と【奉仕】すべき人間がいる。
それを理由に、一連の狂った長台詞を聞いてなにか想うことがあったのだろう。
早坂は殊更に考えた。
(主人を優勝させるために………。尽くさなければ………?)
(…私も、六十八人の邪魔者を消さなきゃいけない立場なんじゃないのか………?)
早坂は揺らぎに考えた。
(ゲームに乗る以外に、かぐや様の身の安全を保証する手段はあるのか………?)
山井の破綻した主張が引き金に、どんどん早坂は考えさせられていく。
恐るべきか、考えれば考えるほどまるで沼にハマっていくように。
早坂の身体中をドス黒いものが満たしていく。
そのドス黒い物体はよく見てみたらものすごく小さな物の集合体だった。
「殺せ」「殺せ」…という小さな文字の大群が。
何万と、何十万と大量発生し、早坂を真っ黒に満たしていく。
-
(人を殺さずして彼女を守る方法……そんなのって…………)
殺せ
殺せ、殺せ、
殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺
殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺
殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺
殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺
殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺
殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺
愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛
愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛
愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛
愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛
愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛
愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛
──コ、ロ、シ、ア、イ
殺 し 愛──。
「殺せ」の波が、腰、肩、首まで昇って、頭を支配したとき。
早坂は微笑を堪えきれず吹き出した。
────フフッ、ないじゃん…。皆殺し以外に手段、なんて。
────かぐや、様。
「…ねえ早坂ちゃん。さっさと離してくんないかな〜? 理解力…、」
キン────
キン、キン…キキキキン…
金属の箸が床に落とされた。
-
「…あ?」
と、同時にチェンソーが奪われる。
「…はぁ??!」
「ちょっと何すんの早坂ァ!! 返しなさ…」
「不向きですよ」
「…あ?? あ?」
「こんな扱いが難しい大型武器…、小柄なあなたが使っていたら却って命取りです。同じく、私はパワーが十分な武器を欲していたのですからWINWINなトレードでしょう──、」
「──同じ仲間…、いや同志として。ね、山井さん」
「……え??? は…?」
予想だにせぬ言葉に、呆気にとられる山井。
棒立ちの彼女を余所目に早坂はチェンソー担いで出口まで歩き始めた。
途中、壁際に五つ並ぶ小便器が見えたがもうどうでもいい。
その顔は無表情ながらも、目だけは闘争を前にした凶悪犯のようにギラつき揺らいでいる印象。
早坂は出口戸を左手で押しその場から出ようとする。
「…いや、待てって!」
ピタリと早坂を止めたのは山井の荒げた声だった。
「いやいきなり意味わかんないし! 仲間?? バカじゃないの?」
「…失礼、『同志』ですよ」
「あ? 表現はどうだっていいよカス…!」
「あのさー、私お前を仲間だなんて思ってないんだけどっ! …で、そう無防備に背中向けてるけどさー、それ殺してもOKって言いたいのかなー?!」
「なら遠慮なくやるけどいいよねー?」
グイグイグイッと、個室に取り残された山井は菜箸を突く様を見せつける。
一方で、奇しくも早坂も同じように反復行動を見せつけてきた。
コツコツコツッと、指先を突く場所は自身の首。
──全参加者に纏わり付く金属の首輪。
そこには横長な液晶画面があり、「47:01:52.99」と赤いデジタル文字が表示されていた。
「…は? …え、何それ……」
「『残りカウントダウン』でしょう。(頭の悪ーい)利根川が説明してましたが、四十八時間以内に優勝者が決定しないと全員爆発らしく。元も子もないわけです──」
「──つまり、我々『殺し係』が潰し合うのは時間の無駄なんですよ。狩るのはあくまで、『殺し合いに乗らない人間』──」
「──ただ、私たちが固まって動いても効率が悪い。そこで、別行動で殺し回りましょう。って訳です──」
「…え、……」
「──それが『仲間ではなく同志』として、の意味。分かりましたか、山井さん」
この瞬間、カウントダウンが残り46時間台へ突入した。
山井は圧巻に取られ、しばし早坂を見送るだけだった。
-
が、それも束の間。
邪魔な木片を蹴り飛ばすと、自身もまた早坂とは反対の出口へと向かっていく。
洗面所に備え付けのアルコール消毒で、箸を入念に除菌した後、彼女は振り返った。
「早坂ちゃーん」
「あんたの真意は分かんないけどさ〜、理には適ってるし、一旦は共闘するからねー」
「ええ。バカでないようで安心しました。…失礼」
「あはは〜☆ 早坂ちゃんはほんとにもうっ〜! 死ね」
歳は共に十七。
伊丹高校、秀知院学園のスクールカーストトップ女子同士が、ドロドロした思いを胸にトイレを去っていく。
最後。
思い出したかのように両者向顔。
片方はにこやかに、もう片方は淡々と。
互いの不可侵条約を、改めて宣言するのであった。
「そうそう〜。早坂ちゃんさぁ、」「私からも一つ、」
「『古見硝子』っていう髪が長くてモデルさんみたいでトニカクカワイイ参加者がいるんだけど〜、」「奇遇ですね。『四宮かぐや』というセンター分けで私と同じ背、服装の女の子に会うかもしれませんが、」
「古見さんを襲撃したら〜」「その子に仮に危害を加えた場合、」
「「殺す、から。」」
「そのちっちゃな頭に叩き込んでいてね〜。愛ちゃんバイバーイ☆」
「いや辛辣だしーィ、恋ちょん! ウチも古見ちゃんは攻撃しないから、恋ちょんもご容赦ねー★」
「…は? 何その急なキャラ変…。キモっ…」
「…失礼。自分もさすがに違うかなって今思いました」
「────では。」
バタンッ
二つの出口は、ほぼ同時に閉じられた。
-
【1日目/C3/渋谷高校2F/AM.02:01】
【早坂愛@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】健康
【装備】チェンソー
【道具】???
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象︰四宮かぐや】
1:かぐや様、古見硝子以外の皆殺し(主催者の利根川含む)
※:マーダー側の参加者とは協力したい
2:かぐやとのいち早い合流
3:ていうかLINE返信癖つけろよっ!
【山井恋@古見さんは、コミュ症です。】
【状態】健康
【装備】めっちゃ研いだ菜箸@古見さん
【道具】???
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象︰古見硝子】
1:古見さん、四宮かぐや以外の皆殺し
※マーダー側の参加者とは協力…かな?
2:こんなドブネズミの巣から古見さんを早く脱出させたい
-
投下終了です。
お知らせで、wikiの方で新たに『挿絵コーナー』を作りました。
個人的お気に入り回のみ厳選でイラストを描いたので、良かったらご鑑賞ください。(まぁイラストといってもコラージュ&トレパクですが)
次回、野原ひろし・新田さんでお送りします。
-
※語弊がありましたが、挿絵は公式漫画のみからのコラージュ画像で、ファンアートや二次絵は一切使用しておりません。
>>69にて誤解を招く恐れがあったので訂正します。
[登場人物] 新田義史、野原ひろし
-
──………オーイ…
──オーイッ!!! オイッ!!! 隠れてないで出てこいッ!!! 新田ァっ!どうせ見てんだろッ?!!!
──さっさと出てきてケリ付けようやッ!!! オーイッッ!!! どこだ!!!
────………。
…タ、タ、
タ、タ、タ、タ、タ、タ、タ、タ、タ、タ、タ、タ、
タッ
────……は、ははっ。
────………ははははっ、ははっ…。はは……、すげぇな。お前
──……! あっ、テメェ………。…おい。…なんで………、
──笑ってやがんだ………。テメェ。
────いや、…もう呆れて笑うしかねぇよ…っ。はは………。信じられん…。
────シラフじゃできねぇって、この惨状…。お前さぁ酔ってんの?
タ、タ、タ、タ、
タッ、
──…………。血と金と暴力に飢えた外道……、おでましだな………ッ。
────……はは…………。……ま………、
────参ったよ………。おいっ………─────。
-
◆
プオオオォォ────…
ガタン、ゴトン
ガタン、ゴトン
ガタン、ゴトン
バクン、バクンッ──
電車内のドアへ前のめりになり、移りゆく景色を眺めることもうかれこれ一時間。
残り四十八時間という僅かなタイムリミットを、俺はただ汗を滲ませ、痛む胃を堪えながら立ち尽くすだけにロスしてしまった……。
周りは客一人いない車内、車窓からの風景は真っ暗な夜──ド深夜。
普通の観点からしたら、今の俺は残業帰りの疲れたサラリーマンなのだろうが…、────状況が違え…ッ。
何が違えって、この電車の動向を見りゃ一目瞭然なんだが…、さっきからコイツは往復しているだけなんだよ。
つまりはな、[渋谷駅]から[新宿駅までの区間]をシャトルランみてぇに行き来してるんだ。
なんでそんな珍妙な挙動をしてるのか……。
そいつは全て、線路に立ち塞がる『バリアー』だかのせいなんだよ。
バアアアァァァンッッッ
………
………………
…ガタン…、ゴトン……
ガタン、ゴトン
ガタン、ゴトン
…この通り、バカみてェに巨大なバリアーに衝突しては、反対方向へ発進し、またバァァァンとぶつかる。…そして、また何事もなかったかのように反対方向へ……の無限ループだ。
一応、渋谷駅に折り返した時は到着のアナウンスと共にドアが開かれるが、さっきからこのエンドレス渋谷区間は止まりを見せねえ。
したがって、今、銀のドアから見える河川敷はもう二十回目の景色となる。
あぁ、…訊きたいだろうよ。
『何故そんな電車から降りないのだ』
『電車がそんな奇妙な動きを繰り返して、周りの人間や車掌は何も思わないのか』
『そもそもバリアーって何なんだ』
『それ以前にお前は誰だ』
…そら突っ込みどころ満載だよな。
自分でもさっきからめちゃくちゃな状況説明を言っているのは分かってるよ。
だが、全て見たまんまの事実なんだから困ったものだ……。
…一番最後の質問だけは簡単に答えられるから、まず、明かしておく。
俺の名前は新田義史。──裏社会でセコセコあぶく銭を稼ぐ非カタギなんだが、まぁ素性なんか今はどうでもいい。
で、一番目から三番目の質問までまとめて答えさせてもらうが、これに関しては全部……、
──『状況が違えから』、としか言いようがねぇんだわ………。
-
▽
ざわ… ざわ……
ざわ……
『おかけになった電話番号は、現在電波の届かない場所にいるか…………、』
「チッ…!」
ピッ
「……親父も、カシラも、アニキも、サブも…………ッ。どいつもこいつも雁首揃えて『電波の届かない場所に〜』って……」
「…なんで? 全員山奥に埋められてんの?」
主催者がボンクラっぷりを露呈したお陰で凄い活気づいた、あの時バス車内。
殺し合いだか何だか知らねえが、現状俺は拉致られてるわけで。
上層部からアホの若手下まで片っ端からヘルプコールを掛けたが、誰一人とて使い物にならない。
示し合わせたように揃って『お掛けになった電話番号は〜』と、どうせ皆して地下おっパブで嵩じてらっしゃるんだろうが、サブ共の淫靡な笑い声を想像したら腹が立って来る。
「俺はこんな目に遭ってるつうのによ……ッ」
……。
「いや、『俺らは』こんな目に遭ってるつうのに………ッ」
「むにゃむにゃ……。もう…イクラは食べれないよ〜…………」
…隣でヨダレを垂らしてグースカ眠る俺の義娘────ヒナ。
「ちょっと!! み、皆さん暴力はいけませんからね?! 暴力はっ!!」
「あーん?? うっさいねん! 何も分からんくせにガキは黙っとれやゴラッ!!!!」
「ひっ!!! …な、なんで私怒られなきゃ…………。私だって被害者なのに…………」
…主催者を囲んで揉めてる輪に入り込む────三嶋瞳。
恫喝一つで完全に意気消沈してるのが実にあいつらしかった。
こんな具合で、どういう因果か知らねえが、俺の知り合いもちょびちょび紛れ込んじまっている。
陰謀……、俺を陥れる為、敵対組織からの罠………、色んな可能性を考えたが正直今はどうでもいい。
ガキ二人も無論どうでもよかった。
この混沌としたバス内にて、俺が最も『注視』し、最も『愕然』とさせられた人物が一人いる。──バスの最前で主催者に怒りを飛ばす、その女。
俺とその女子との関係性と聞かれれば、別に妹でも娘でもビジネスパートナーでも、彼女でもない。
…彼女だとしたら、そいつはとんでもない歳の差で、一躍俺はロリコン扱いだ。
だが、少女。
ヤツの見せる屈託のない笑顔と、素直で純粋な心は天使そのもので、アウトローとして汚れ疲れ切った俺の邪心を癒やす、『現代社会のオアシス』だったんだ…──。
-
ざわっ、ざわっ……
「殺し合いなんてしないわよっ!!!」
…やめろ。
「今すぐわたし達を返しなさいっ!! そしたら許してやっても構わないんだからっ!!!!」
……やめろ。
余計なことを言うんじゃない。
「…さっきから何無視してんのよっ!!! もう、許さない………! ただじゃおかないわよ……」
……やめてくれ。やめてくれっ…!!!
お前…、自分の命が『首輪』で握られていることに気づけ………っ。
これ以上喋ったら危ういんだよ…!
「わたしの超能力で……、あんたなんか……っ!!!」
やめろっ!!!
俺の……、俺の天使────アンズッ……!!!
「倒してやるんだかっ────…、」
──アンズ────────────────────────ッ……!!!!!!!!
ピカンッ…
△
バアアアァァァンッッッ!!
『…次は渋谷駅ー。渋谷駅。お降りのお客様は、お荷物に注意なさってご降車ください』
『──発車します』
………
………………
…ガタン…、ゴトン……
ガタン…、ゴトン……
-
『何故お前は電車に降りないのか』。
────答えは、死にたくないからだ。
眉がピクつく。
歯がギシギシ震え、脂汗がナメクジみてえにじんめり跡を残す。
足裏の震えが電車の揺れに共鳴する。
つり革を持つ右手が握る力の加減を知らない。
胃腸が排泄物ではち切れそうなくらいホロホロする。
全身が、俺の身体あらゆる部位すべてが、動けッ動けッと精神的に追い込んでやがる…。
────そうさ。死にたくないだろう。
────だが動け。救え。アンズの元へ、今すぐ駆け抜けろ。
────走れ、俺…。新田……ッ。
「ぐぅうっ……グッ……………!」
裏社会じゃ、あらゆる異名を作られ、無数の反社共から畏怖される俺も正体はこんなチキンだ。
ビビっちまって、何十回目となる夜の河川敷を眺めるしかできねえ、腰抜けだ。
だが。
男に産まれたからには、どんなに怖くても、不器用ながら動かなくちゃならねえ時がある。
…愛する者のために………、行動を。
動いた場合待っているのは、自分の死。
動かざる場合待っているのは、アンズの死。
二つの重荷が天秤にかけられ、ゆらゆらとはかりが延々上下する様が、俺の乱気流激しい精神内と似か寄る。
それと同時に、置き石でもあったのかガタンッと物理的に揺れ動く電車内。
衝撃ゆえに、ここに来て立ち尽くす以外のアクションを取ってしまった。
────尻もちをつかされた俺が、隣の車両にて。
まるでビー玉みたいな死んだ眼の『危険人物』を目にしたのは、この時だった。
-
◆
ガタン、ゴトン…
「くんくん…。この香り、くぅ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「うまそ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
オレの名前は野原ひろし。
愛する妻と二人の子供を持つ平凡なサラリーマンだぜ!
子供の内、長男でさえもまだ五歳児のひよっ子、妹にいたってはつい最近産まれたばからの赤ん坊だ。
このわんぱく坊主たちの成人を見届けるためにも、日々事故や病気に気をつけてきたオレなんだが……。
…最悪なことに「殺し合いをしろ」だなんて物騒なモンに、今巻き込まれちまったんだぜ………。
がび〜〜〜〜〜〜〜んっ!!!!
「黄色い麺、優しい色合いのスープ……。それもさることながら、カップ麺にしてこのもやしのクオリティ…!」
「美味そうだぜ!! 我慢できねえ!」
…しかし、焦りは禁物だ。
普通の人間なら「し、死にたくない〜〜〜!!(;■д■ lllu)」とか、「こ、殺し合い……。怖いけど仕方ない🗿💦」だとか正常な判断ができなくなるところだが、…オレは違ェぜっ!!
現に、オレは電車で席に座りながら、ゆったりもやしラーメンをすする余裕を見せてんだからな!
殺し合いに大事なのは、ズバリ平常心だろう。
したがって、オレは営業のプロであると同時に、バトル・ロワイアルのプロでもあるのだっ!!!
(…バトロワのプロってのは…まぁ語弊があるか……)
「平常心……。これは殺し合いに限らずビジネスでも同じこと言えるだろうぜ。冷静な判断が何事も成功に繋がるからな!」
「ま、そんじゃ。とりあえず……、」
「いっただきま〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜す!!!」
割り箸を口でパキッると、さっそく俺は箸をカップ麺に突っ込んだ。
持ち上げてみれば、湯気を昇らせる麺に、絡まりまとわる無数のもやしたち…。
味噌の温かい香り、日本の伝統調味料である赤茶色いそいつのスープが嗅覚を刺激するぜ。
アツアツのそれを、俺は間髪入れずすすり込むのであった!
ふー、ふー、ふー……
……ズルズルズルズル、ズルズルガーーッ
ゴクンッ
こ…っ、これは………──!!
「うまいぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜──…、」
「おいアンタ────」
「ギクッ!!!」
お、俺としたことが…。
ラーメンに無知で、眼前の『もう一人の乗客』──参加者に気づかなかったようだぜ……。
不意に話しかけられてビックリしちまった。
…とりあえず箸を置いて、ゆったりと顔を上げることにした。
-
「…アンタさ、これまで何人ぶっ殺したか。言ってみろよ」
渋い男の声が響くぜ…。
なんだか嫌な質問をするそいつは、金髪にオールバックで漆黒のスーツを着た男だった。
…一見にして、普通の社会人には到底思えねェー…。
そいつのオーラもさることながら、金のジャラジャラしたネックレスが威圧感あって、裏社会の人間と印象づけられる。そんな男だったぜ。
そいつは何を思ったか俺に銃を突きつけて立っていたんだ。
「……いや銃ッ────???!!!」
「……………」
いやいやいや!
なんだよ突然?!
…おい、これって……。
かな〜りマズいんじゃねェーのか…………??!
「こ、殺してないですよ??! ひ、一人も!!」
「あぁだろうな。返り血は一滴もついてねぇし、そら殺してないだろうよ。────『今は』、な」
「は、はいぃ〜〜〜〜???!」
「…アンタ、もしタイムスリップして幼少時代のヒトラーに出くわしたら……、…どうするよ?」
「え??! え????? そ、それより…とりあえず銃を──……、」
「俺なら、殺すっ…。」
「えっ?!」
「例え、ガキでもだ。将来起こる虐殺を食い止める為に、歴史を変える決意をするよ。俺は」
「な、なんのはな──……、」
「すっとぼけた態度取ってんじゃァねえぞ!! あぁッ?!!」
「ヒィッ!!!!」
の、野原ひろし三十五歳!!
今ヤカラに目をつけられて大ピンチ中!!!!!
「一目で分かんだよ。その風貌…、殺し慣れたって感じの目、殺意にまみれた雰囲気で…! テメェがこの人生で何百人手に掛けてきたかがなぁ!──」
「────…バレバレなんだよ。この『殺し屋』がッ………!!」
「え、……? え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ????!!!!!」
しかも、因縁つけられたとかじゃなく、訳分からん勘違いで絡んで来たんだコイツ!!!!
な、なんだよ!!!?殺し屋って??!!!
オレ、そんなやべーやつみたいな見た目してねェ〜〜だろ!!!!
-
「この殺し合いで将来的な犠牲者を出さないためにも、だ。…正史じゃ犠牲となる命を一つでも救ってやる……」
「ま、待て!! 話をし──…、」
「俺が未来を変えるんだ…。今………──」
ひぃい………!
「────アンタを始末してだなぁああっっ!!!!!!!!」
ひぃいいいいいいっ!!!!!!
助けてぇええ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
神様〜仏様〜おそっさま〜〜…、
しんのすけ〜、ひまわりぃ〜〜
…みさえぇえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!
──パアアアァァァンッッッ
◆
……
………
…ガタン、ゴトン
ガタン、ゴトン
ガタン、ゴトン
「…すみませんでしたァアアア!!!!!!」
「いやいや…、いいんですよ。疑心暗鬼になるのも……ね……」
…いやホントはよくねェ〜〜けどっ!!!
「あ、あなたがまさかカタギの方だとは……、本当に本当に申し訳ない…!!! どうか許してくださいィイイ!!!!」
「いや…、もう頭上げてくださいよ〜〜!! 新田さん……!」
…いや、まだ許せる気はねェ〜〜けどよっ!!!
ズリズリズリズリィ────ッと床に頭擦り付けて土下座されりゃあ、オレだってそう言うしかねェぜ…。
サラリーマンとしての礼儀でな…。
「本当にッ、申し訳ありませんでしたァア!!!!」
-
……。
ふぅ…、まったく地獄に来たみたいだったぜ…。テンション下がるなぁ〜〜〜〜…。
あれから、営業で培ったトーク力を駆使して、間一髪説得に成功したわけだが、どうやらこの新田という男……相当追い込まれていたらしかった。
無理もないっちゃないわけだから、俺も許してあげるのが筋だぜ。
…それにしても、このヤクザ者……、話せば分かる根は優しい人間でよかったもんだ……。ほ〜〜っ……。
「ま、ま、新田さん…。お近づきの印にこれを…!」
新田が頭を擦り続けてもう数分。
額から流血する勢いなもんだから、さすがに……。と、俺はバックから缶ビール二本を差し出した。
話を聞く限り、新田も娘が一人いるという……俺と同じ苦労を持つパパ仲間だ。
キンキンに冷えたこいつをクイッで、似た者同士のお互い親睦を深めようって寸法よ。
「……す、すまねぇ………。すみません…、野原さん……」
オヤジ二人。
席に座り、いつものこの時間じゃ口にすることなんかない発泡酒の蓋を開ける。
プシュッ
ゴクッ、
ゴクゴクゴクゴク……
ぷは〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
うまい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!
「…野原さんは……、どこからお越しで?」
「…え、あぁ。オレは春日部からです。双葉商事で冴えないながらやってましてー」
「……双葉商事、ですか。…そいつは良い。…俺なんかゴミみてェな闇金で娘を食わしてやってんですから。野原さんは立派ですよ」
「いえいえそんな………」
「…ふう……。子育てってほんと苦労まみれですよね…。ふと我に返ったら嫌になってきますよ…。なにしてんだ、俺って…ってね……」
「…たしかに。うちのしんのすけも悪ガキとかそんなレベルじゃないから大変です」
「…ヒナのやつ……。ぐーたら飯食って便所に行って寝るだけの可愛げないガキでして。…そんなヤツ相手でも毎日洗濯したり、弁当作ったり世話焼いてやったのですが………」
「はは…っ」
「苦労して子育てした末路が、親子揃って殺し合いに出場とは、ね………」
………えっ?!
「え?! あ、あんた娘さんもここにいるのかっ???! 今??!!」
「…………………………」
新田はオレの問いかけに無言で頷き、そのまま頭を上げなかった……。
…おいおい……。
そら平静でいられなくなるのも仕方ねぇって話だぜ。
オレだって、しんのすけがここに参加してるとなりゃあ呑気にラーメンなんて食えたもんじゃねェー。
同情するぜ新田さん……。
同じ父としてよ……。
「…まぁ、アイツが死のうが生きようがどうでもいんですが………」
…え?
-
「…アンズもっ……。アンズも……ッ! 殺し合いをさせられてるんですよ…ッ!!! 娘と友達みたいなやつの………アンズがッ!!!」
「……はい?」
「俺…、恋愛感情とかじゃないんですけど…好きなんですよっ……! アンズが……。あの…天使の微笑み……好きなんです………!」
「………あんたもう酔ってんの…?」
「アンズで癒やされたくて、毎日アンズがいるラーメン屋に行ってるのに………──畜生、畜生っ………!!」
「俺は無力だ………っ。…うっ、ぐっ……うぅっ………」
…ガタン、ゴトン
ガタン、ゴトン
泣き上戸かよ…こいつ……。
号泣しながら片手のビールを震わす新田に、…正直俺は何もできねェ〜。引くだけだぜ…。
娘の友達が大好きおじさんって……。
…おいおいやばくね〜か?!
…ガタン、ゴトン
ガタン、ゴトン
『次は──、渋谷駅ー。渋谷駅です』
実子の命より血の繋がりもないガキを心配する新田と共にして、正直先が思いやられるオレであった……。
とほほだぜ……。
ガタン、ゴトン
ガタン、ゴトン
『お降りのお客様はお荷物を、確かめになってご降車ください──。なおー、偽物のほうが圧倒的に価値があります。そこに本物になろうという意思があるだけ────、』
『────────偽物のほうが【本物】といえるだろ。』
(西尾維新『偽物語』 貝木泥舟の台詞──)
-
◆
────…おい…、俺の人生はつまらなくなんかねぇよ。
────ある日全裸のガキが降ってきて…、そいつの父親役をさせられて…、年下のガキを閣下と崇めて…、壺もベントレーも超能力でぶっ壊された挙げ句…、未来を変えるため四六時中頑張らなくちゃならない……。
────そんな『幸せ』を、あんたにも分けてやりたいくらいだぜ。
──………いらねぇよ。分けんな、ンなもん。
──…じゃ、もうそろそろいいよな? やろうぜ、『バトル・ロワイアル』……!
────…おいおい……。…瞬殺だよ…?
──…! 言うじゃねぇか!! 伊達じゃねぇな…テメェは…。はっはっはっはっはっはっはっ!!!!
──じゃあ『死ね』ッ────────────!!!!!
▲ 偽 物 語 ▲
────ひろしテーマパーク──
以上、囘想終了。
【1日目/E1/電車内/AM.01:35】
【新田義史@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】AT拳銃
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:アンズ────ッ!!!! …アンズ────ッ!!!!
2:野原ひろしと行動
3:ヒナは…まっ、どうでもいいだろ……。
※新田の参戦時期は、高校生編以降です。
【野原ひろし@野原ひろし 昼飯の流儀】
【状態】健康
【装備】???
【道具】キンッキンに冷えた5000ペリカの缶ビール@トネガワ
【思考】基本:【対主催】
1:やべーおっさん(新田)と行動
2:常に平静を保って行動する…これが俺の流儀だ!
-
投下終了です。
ワンチャン今日の夜ごろに「矢口ハルオ、オルル、ガイル」or「ライオス、来生」でお送り致します。
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[登場人物] [[矢口ハルオ]]、[[オルル・ルーヴィンス]]、[[ガイル]]
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バブル時代終了の平成四年──。
九月、100メガショックネオジオの『龍虎の拳』登場。
同年十月、新感覚パズルゲーム『ぷよぷよ』が日本を湧かし…、十二月、『ストリートファイターⅡ TURBO』が登場……。
翌年──平成五年六月には初の3D格闘ゲーム『バーチャファイター』が稼働し、俺らゲーマーに大きな衝撃を与えた。
そん頃、世間じゃJリーグだかが開幕し、球蹴りブームの真っ最中だったが、んなもん運動神経もクソもねェー俺にはどうでもよし。
サッカーよりもなによりも、俺のBPM〈鼓動〉をドキめかせた情報は、『ストリートファイターⅡ』の映画化だった。
何せ、ゲーム内じゃ「ふぁねっふー!!」と滑舌悪いCVだったガイルらにプロ声優が声をあてて、しかも主題歌は篠原涼子ときたもんだぜ。
来月公開のそいつが早く観たくて見たくて仕方ねぇ──…。
ゲーマー魂がワクワク揺らめいて、毎日楽しみでいっぱい。
ルンルン気分で100円玉を握りしめていた矢先………。
俺はとんでもねェー『ゲーム』に巻き込まれちまったってわけなんだ。
「…んだよっ……。『殺し合い』って」
あぁ…っ。
クソゲーもいいとこの最低ゲームだぜ…。
何せこの『バトル・ロワイアル』っつうゲームはコンティニューが一回きりのスプラッターゲーなんだからな。
しかも、強制参加型の難易度ベリーハードだ。
モータルコンバットが可愛く見える程の過激描写もあるってわけだから、近い内教育委員会に見つかって筐体回収されるこたぁ間違いねーだろうよ。
──クソッ…。教育委員会でもおまわりでもいいから、さっさと見つけてこのゲームを『終了』させてほしいもんだ。
…だがよ。
そんなクソゲーに巻き込まれたことよりも、更なる衝撃が、だ。
…俺を待ち受けていやがったんだ……。
-
◆
鉄製のロープを武器に、筋肉質な男が夜の街を歩く。
街はどんよりと不気味なまでに暗く、そのうえ周囲の建物はどこもかしこもズタボロのツタまみれで、『何か』が出てくる恐怖があった。
歴戦の勇士である男は慎重に、慎重に。用心しながらボロボロのレンガ床を歩いていく。
彼は既に身も心も擦り減っていて、命の灯火も辛うじて燃えている印象。
──そんな中で、男の前後を武装したガイコツ二体に挟まれて…、
そして、男は死んだ。
デレレデレレデレ〜
『GAME OVER』
…
「クソォーッ!!! もう少しだったのにッーー!!! やっぱ時計アイテムなしじゃ無理ゲーすぎるわ!!」
「つーか、お前はいつも歩くのが遅いんじゃいッー!! 膝に爆弾抱えたレスラーかよッ!」
液晶画面に映し出された『16bitドット絵』の男の、あっけない末路だった。
画面暗転後、不気味なBGMと共に出てくるタイトルコール──『悪魔城ドラキュラ』。
…俺の貴重な百円玉二枚のうち、一枚がたった数分でオジャンになったと考えるとなんともやるせねぇーぜ…。
──ハルオ…、ハルオっ……。何をしてるんだっ……ハルオ!
はぁーーあ。くっだらねェー。
まぁ仕方ないし、やることもないから、残りワンコインさっさと消費しちまうか。
と、いうわけで。
次に俺は隣の筐体『タイムギャル』へと体を移した。
…このタイムギャルは恐ろしいゲームだぜ……。
スプラッターハウスみたいなホラーゲーの何倍もある意味怖く、そして死にまくるゲームなんだからな。
何せこいつは『QTEゲー』…ッ!
──画面に表示されたボタンを超速攻で押して進めるだけの単純さだが、一秒くらいの反射神経でやらねェーと即ゲームオーバー!!
お色気ゲームのこいつは、俺たち男子諸君からパチスロよりも金を吸い取ってるだろうよっ。
「…だが、俺は死なねぇ!」
「何故ならバカみてェにやったお陰で、出てくるボタンの順番を完璧暗記したからなッ!!」
…『↑』『↑』『↓』『→』『→』『ジャンプボタン』『↑』『↑』『↓』『→』『←』『攻撃ボタン』……──完璧だぜッ!
ゲームセンターを青春とし。
ゲームセンターに費やしてきて、タイムギャルの女主人公に貢ぎまくった血と涙の努力…。
その結晶を今、見せてやるよ!!ワンコインで、なぁッ……!!!──……、
…
「あ、押し間違え……、」
バシュッ
『いやんっ!!! …えっち……』
『GAME OVER』
テテンテーンテーンテーン…
-
…………がっ………………。
所持金が…パーになっちまった……。
二分で……。スッカラ、カン………。
…ジュース二本がこいつで買えたと考えるとなんとも虚無な気持ちになるが……、仕方ねェよな。
ゲーマーだもの。…[はるを]
──ハルオっ………。今がどんな事態か…。分かってるだろッ、ハルオ〜ッ………
周囲はガヤガヤとアーケードゲームたちの騒ぎ声が充満し、早速フェスを彷彿とさせるさわがしさ。
ズラリと並んだ筐体は、クレイジークライマーから最新作サムライスピリッツまで古今名作オールスターの顔ぶれ。…俺からしてもナイスチョイスといえよう。
この殺し合いの最中、俺は今24時間営業が謳い文句のゲームセンターで遊び呆けていた。
──なんてザマだ……。遊んでる場合かっ?! ハルオ……。
…あぁ、現実逃避すんなとか言うなよ。
「バトル・ロワイアル?なにそれ、美味いの?」って思うくらいバカな俺は、とりあえず自分の好きなモンに夢中になっていた。
つーか、大体にして俺に人殺しとかできねェーし。
女子にすらボコボコにされるアホでダメダメな男がリアルファイトできるか、って話だろ?
だから、不戦かつ、こうやって殺し合いをサボるのもあながち間違った行動じゃない、と俺は思ってるわけだ。
「悪魔城で一面ボスぶっ殺したから、それでチャラ〜〜…つって」
真面目にバトル・ロワイアルをする気がない俺であるが、ただ。
ただ、だ。
所持金が0な以上、大好きなゲームで暇潰しも不可能になったわけで。
つまりは、このゲームセンターからどこか移動を余儀なくされてるのだ。──クッソ暇だからよ…、俺は。
…あのとき、帰宅途中に我慢できなくてコンビニ寄っちまったのが運の尽きだぜ。
六百円もしたカップラーメンは、それはそれは涙が出ちまうほどの不味さだった…。
──ラーメンでなく情報を食わされたってわけだなっ……。ハルオっ……。
っつーわけで、さっそく俺は自動ドアから渋谷の街へ歩き始めた。
このヤングな街に今まで来たことはほぼなかったのだが、ほうほうなるほどと。
街案内看板曰く、渋谷は至る所娯楽施設にまみれていて遊び放題の酒池肉林地帯らしいのだ。──あのゲームセンターも、看板から存在を確認したわけよ。
金もねぇ、パリピ趣味もねぇ、成人年齢にも達してねぇ俺が行く先は限られちゃあいるが。
ひとまず俺は250mほど先に建つ『あの店』へ行くことにした。
「…言わずもがな、立ち読み天国──ブックオフだ!…古本のゲーマガがあろうことなら、だいぶ時間が潰れるだろうよ」
街灯に一人照らされるは、歩く俺…。
ポケットに手を突っ込みながら、静かなアスファルトを踏み続けるのだった。
──あっ、危ないッ!!! ハルオ!! 前を見ろ!!
────────────────────────────────ッ。
「ぎゃっ!!! いでっ!!!!」
-
いだっ……。
や、やべなんだ??!
いきなり頬がなんか切れて、…血まで出ちまってるし。
よそ見歩きしてたから、木の枝に気づかなくてかすった……とかか?
「おーー…、いっでえ………。…ま、どうでもいーや」
触って分かったが傷は浅いし、スト2のファイターのボコボコぶりに比べたら軽い怪我だから無視無視〜っと。
さっさとブックオフ行って適当に漫画読まなきゃだなぁー──…、
「…ぁ…………ぁ、『悪魔』の……ッ………………………っ……。手先…めッ…………」
「…え? あーー??」
…だなんて、歩こうとした矢先。
震えまくった女児の声が聞こえて、やっと俺は目の前のちびっ子の存在に気付いた。
そいつは、俺と頭一つ差がある低身長ぶりとおさげから、…恐らく小学生。
優雅に着飾った金髪のガキンチョで、なんだコイツ外国のガキかぁー?
「……ひぐっ……うぐ…………、ぁ、悪魔狩りの……正当な血を受け継…うぐっ………………っ………。この私…──オルル・ルーヴィンス……がっ………………」
…おうおう、涙が止まらない様子でいらっしゃる。
ガキだから殺し合いを真に受けて泣いてんだろなぁ。
ま、俺ァーガキは嫌いだからよ。何かブツブツ言ってるが構う気はさんさらなし。
バカみてぇにデカい十字型の剣を持った女児なんかスルーして、俺はそそくさと目的地まで再び歩き出した。
「…────あッ?! 『デカい十字型の剣』ンンッ??!!!」
──ハルオっ!!! 危ないんだ…! ハルオっ!!!!
いやいや待てよッ!!俺ッ!!!
なんだか切り傷がじんわりしだしてきたんだが………。
『殺し合いを真に受けたガキ』がいて、
そいつが『バカみてぇにデカい十字型の剣』を武器にし、
俺は『いきなり頬がなんか切れて、…血まで出ちまってる』………。
おまけに、ガキンチョは慎重の倍近くある剣を高々振り上げてる今…………。
それって、つまり…。
つまりだぜ……?
「…オルルが………うぐっ……、直々に………いぃー………………ッ!!」
「あ、ちょ……ちょっと! …ちょっとタイムッ!!!」
つまりぃ────────は…………。
-
「せっ…、成敗してくれるわぁぁあああぁああぁぁぁあ────────ッッッ!!!!!!!!!! ぅわあああああああああああァァァァァァァァァァァん!!!!!!!!!!!」
──逃げろといってるだろ…ッ!!!! ハルオッ!!!
「めちゃくちゃやべぇじゃねェエエかぁあああぁああぁぁぁああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
スタート合図は、俺の叫び声────。
叫んだと同時に俺は超勢いで走り逃げたッ!!!!!
やべぇよ!!!やばすぎんだろッ!!!!
死にたくねぇ!!!!!!!助けてェエー!!!!!
お世辞にも運動神経なんか全く良くない俺の全身全霊をかけた爆走が、今、渋谷の街で披露されるッ!!!!
「なっ、待てッ!! …待てぇえええええええええええええええっっ!!!!! …うぐっ……、逃げるなぁ悪魔がぁああああああああぁぁぁああっっ!!!!!!!!」
「げひゃあああぁぁぁぁぁああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!」
チクショーッ!!!追いかけてきやがったしィイイイイッ!!!!!
うわぁあああひいいいいあああああああ!!!!
ちょっとタイムっつっただろうがああぁ──────ッ!!!!!!
やべえ!!!!
逃げろ逃げろ!!!!
早く走ろ!!走れっ!!!俺!!!!
「悪魔ぁあああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!! うわぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんっ!!!!!!!」
ザシュッ────ドガァアアアアアアアァァァッッッ
ブンッ────ビガァアアアアァァァァッッッ
ひぃいいいいっ!!!!
背後からのえげつない斬撃音が恐ろしすぎるぜぇっ!!!!!!
──グッ……。このオルルという娘…………。
──たった一振りで地面や看板を破壊する体力、腕力もさることながら………──ッ、
「…わ、私は………し、死にたくないんだぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんっ!!!!!!!」
──『速い』ッ!!! 速すぎるッ!!!
──ハルオとの距離を徐々に詰めてきているッ!!
──ハルオッ!! 直進はマズイッ! 曲がり角で撒くんだッ!!! ハルオッ…!!
「俺だって死にたくねぇエエエエエよ!!!! お互い様だわっんぎょあああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!」
-
女子小学生に追いつかれて、はいYOU DEADってそんなんされてたまるかぁああっ!!!
俺は、奇跡的にもあった曲がり角に飛び込み、汗だの鼻水だの涎だの気にせずとにかく逃げたっっ!!!!
暗い路地裏を駆け抜ける…。
ここからでもなお曲がり角を入り続けて、うまく撒いて…巻いてやるぜ……っ!!!!
ゴミ箱が置いてある場所に曲がり角発見…!
「よしっ!!! 曲がるっ!!!!」
自販機横に曲がり角確認っ…!!
「いや、これは敢えて曲がらんっ!!!」
…こんな感じで『→』『↑』『↑』『←』『↑』『↑』『↑』『→』『←』『→』『↑』『↑』と逃げ惑ってかれこれ数分。
舌を犬みたいに出して、脇腹を必死に抑えながら全力疾走をし続けたが、
特に考えもせずガムシャラに進路を通ってきた結果──………。
「うっそだろ…………。ゼェ、ゼェ……、行き止まり…………」
目の前、左右真横はビルによる大きな壁で塞がっていた……。
タッ────、
「ヒィイッ!!!!」
「うぐっ……、ひぐっ………! や、やっと追い詰めた…………! 観念、観念を……うぅっ………、しろッ!!!! あ、悪魔がぁ…ぁ……………………」
しかも、全然撒けてねェーーでいやがるし……。
ビビって尻もちをついた俺………。
情けないったらありゃしねェー…。
と、とにかく言葉でっ……、言葉でどうにか説得しなくちゃ……!!
荒い息を抑えろっ…、クールになれっ、俺……!!
「なぁ……ゼェ、ハァハァ……。待てっ………」
「ひぐっ……うぅ…………うぇえん……っ」
一歩。
「ハァハァ………、お、おお、俺はまず悪魔じゃねェーし……!! ハァ、……こ、こんな人畜無害殺すくらいなら……べ、別のやつにしろ…ゲホッ……しろよっ!!!」
「うぐっ……………。んん………………ひっぐっ……………」
一歩。
「こ、殺し合いとか簡単に乗るな…っつうの…………!! 俺、お、お、俺なんか殺人する気さんさらないんだからなぁっ……………?! おいっ!!!」
「死にたくないっ………、怖いし、嫌だよっ………うぐっ…………………──」
一歩。
「──でもやらなきゃっ………! ひっぐっ……………。悪魔の、皆殺し………!!!」
-
また、一歩。
気が付けば、すっげえ眼の前でガキンチョが剣をふるい上げていた。
…背中にぶつかる壁がひんやり冷たい…。
泣いてばかりいる子猫ちゃんに説得なんかまったく通じず…、困ってしまってワンワン〜で済む事態じゃ早速なくなってやがるっ………。俺はっ………。
「ハァ……ハァ……………」
「終わりだッ………、んぐっ………………。悪魔めッ…」
「いや……ま…………ハァ……ゼェハァ……………」
…こうもゲーム感覚で人殺しができるもんかよっ……。
振り上げた剣が、俺の頭目掛けて風を切り始める。……どうせやるなら心臓一撃とかにしてほしいぜ……。
──ハルオ………………ッ。ハルオ…………!
BPMが凄まじい勢いで脈打っていく。
…剣の落ちる音が鋭く、怖ぇ。
──ハルオ……! お前は死ぬべきじゃない………。
こんなお手本みたいな八方塞がり…ありかよ。
なんなんだ、俺の人生って。
──…お前はここで……、こんなところで命絶える男なんかじゃないっ……!!
ゲームばっかやって、
ゲームやれない時じゃ脳内でゲームをやって、
ダラダラそんな青春を送り、さすがに社会人になったらゲームと距離を置くようになって、働いて……。
そんな平凡な人生で俺ァ満足だったのに、よ…。
──……そうだ死ぬべきではないんだ。…だから………だ。ハルオ……っ…
…やっべ。さすがに怖ぇ。
俺は、そっと目を閉じた………。
──…だから、今度は俺が救ってやる。
「────ゲームオーバーはまだ早い。…そうだろ? ハルオ………!」
ガキンッ────────────────
-
……。
暫く沈黙が続いた。
痛みは…、不思議と無ェ……。
──……あ?無ぇ??!?
何があったのやら……、と目を恐る恐る開いてみる俺。
その先に広がっていた光景は────……。
ガギギギギギギギ…………
「ぐっ……?! な、なんだ………? …なんなんだぁっ!!! お前はぁっ!!??!!」
「あっ???!!!!」
信じられねェー光景だった。
俺に向かって振り下ろされた剣が、硬い何かにぶつかって動けなくなっていた。
その『硬い何か』っつーのが、第三者の腕。
筋肉質でゴツゴツ盛り上がる男の前腕が、──腕橈骨筋が、鋭い刃先を受け止めていたのだっ。
たしかに、一見鍛え磨きあげられたアームではあるが、大剣の切れ味を前に血ひとつすら出ていないとなると、…いやとんでもねぇ。
俺は、その庇ってくれた男を『知っている』…。
会ったことも、話したこともねェヤツだが、知っているし、いつでも俺と共に『過ごしてきた』……っ。
だから今、そいつを見た瞬間。
…驚きなんてもう凄まじいレベルだったのだ……っ!!
「え……………?! ガ、──」
「────『ガイル』……………?!!!」
「…………遅れてすまない…。ハルオ……!」
ギギギギギギギ…………ッッッ!!
…自分で話していてバカみたいだとは思うぜ。
だけど、よ。
金髪のかきあげられたツンツン頭に、緑タンクトップのマッスルマン、そして彫りの深いアメリカ人の顔って……──、
スト2での俺の使い手…──ガイルそのものが、目の前にいたのだっ……!!
奴は俺へ顔を向けた後、今度は退治しているガキンチョへと話し始めるっ。
-
「……確かに腕は良い。相当な鍛錬をこの年齢で耐えてきたのだな…。哀れな命運を背負わされしオルルとやらよっ」
「な、なんで……。どうしてえぇっ!! なんで、斬れないん……………、」
「斬れない理由は、人体の構造だ」
「…………………ぐっ!!!!?」
「前腕という箇所は二腕筋と補助筋の二本で構成されている。それに加えこの部位だけ骨密度が特別厚いから、骨折はしにくいのだ。…だから、重点的に鍛え上げれば前腕は鋼ともオリハルコンともなるっ……!!──、」
「──この防御作動を俺ら格闘家は『ガード』と呼んでいるのだが…──」
「────…そうだよな。ハルオ……!」
うおっ…!
俺にフってきた…!!
ガイルはそう言い終わるとガキンチョの胴体を瞬時に腕でホールド。
「なっ……────」
呆気に取られたガキンチョをかかえこむと、勢いのままに…………ぶん投げたッ!!
「フンッ!!!!!!!!」
宙を舞ったのも一瞬…。
地面へとパワー全開で叩きつけられ、ゴロゴロ転がっていきやがった。
…いやちょっと待てよ……ッ!
す、すげえ……。
すっげえヤベェーよ……!!このオッサン……!!
スト2で闘うみてぇな、あの戦法通り少女をぶん投げて見せやがった……!!
すげぇ、すげえ…!!!
「…いやガキ相手に容赦無用だなッ!! おいっ!!」
「全力でこちらに闘ってきたとなった場合、例え相手が女児だろうと…手を抜くことは失礼に値する──」
「──それに、俺がやった投技は相手に受け身を強制的に取らせる手法だ。ダメージはあれど、怪我はないだろう。……ちなみに、この投技は人体の構造上脇腹付近を……、」
「蘊蓄は求めてねェーからいいわっ!!! ……とにかく、お前……」
「……なんだ、ハルオ」
「…こういうとき、真っ先に礼を言うモンなんだろうが……。如何せん頭が追いつかねェ…………──」
「──お前何者なんだよっ?! まさか『はいそうです私はガイルです』とか言わねぇよなっ??!! 大体、お前なんで俺の名前を知ってんだ!!? まったくわけわか……──、」
「そうさ、聞きたいことは沢山だろう…。……だが、今はまだッ、…闘いは終わっていないッ!!!」
-
俺をぶっとい腕で遮ったガイル。
──ふと見れば、あのソード・オブ・ガキンチョがゆらゆらとしながらも立ち上がり、剣を振りかざしていた。…やべぇっ!!
「うぅ……………っ!! ひぐっ…………! あ、ぁ………………悪魔が……二体………っ!! 私が…………、殺さなきゃ…ぁあっ…………!!!」
五メートルくらいぶっ飛ばされたとはいえ、──されどたった五メートルだ。
戦意喪失どころか燃え上がっているガキが、一歩、二歩と徐々に距離を詰め寄ってきやがるっ……!!
手馴しするみてェーにブンブン大剣で、周囲の壁、そして地面を裂傷しながらヤツは休戦を知らない…!
「お、オイオイッ…!! ど、どうすれば………」
「──ファネッフーッッ────!!!!」
「「なっ!!!」」
ふぁねっふーー、と間抜けな声と共に、オッサンは自分の両腕を交差させ、膝立ちの中腰になるモーションを取ると、……なんつえばいいんだ…。
掌から……、──衝撃波…!
竜巻のように回転する黄色い衝撃波を、ガキに向かって一発放ったのだ…っ!!
言っちまえば、(←溜め→←P)────技名『ソニックブーム』っ!!!
そのソニックブームはガキの胸部目掛けて鋭く、伸びていき……、
「…うっ!!! フ、フンッ!!!!」
ザギィン……と、
大剣ではたき落とされ、割とあっさり消えたのだが。
「……な………、なんなのよッ?!! 今の火炎球は…………、何者なんだ貴様は…………──、」
「ファネッフーッッ!!! ファネッフーッッ!!!ファネッフーッッ!!! ファネッフーッッ!!! ファネッフーッッ!!! ファネッフーッッ!!! ファネッフーッッ!!! ファネッフーッッ!!!」
「…??!! う、うわぁああぁぁぁぁぁああああああああっ!!!!!!」
その一発で飽き足らずか、オッサンは連続して衝撃波を飛ばし続ける…ッ!!!
──…ガードだかなんだかは百歩譲るとして、だ。
ここまでくるともう普通の人間じゃねェーーよっ!!!
それとも、これもまた「人体の構造上可能で〜」って説明する気か??! 説明できんのかっ?!
これじゃ、まるでゲームから飛び出してきたかのような……ッ。
オッサン、こいつ………は…………!
「ファネッフーッッ!!! ファネッフーッッ!!!ファネッフーッッ!!! ファネッフーッッ!!! ファネッフーッッ!!! ファネッフーッッ!!! ファネッフーッッ!!! ファネッフーッッ!!!」
「ぐっううっ!!!! …オラッ!! オラッ!! オラオラオラオラオラオラオラ…うわぁあぁぁぁあああああああァァァァァァァァァーー!!!!」
バキッ、バキッ、バキィバキィバキィバキィバキィバキィバキィ!
…その衝撃波を全て斬り、はたき落とすガキンチョもガキンチョでやべェーが……。
思えば、ブロンド幼女戦士って…、悪魔城ドラキュラXのマリアを彷彿とさせるな……。
-
────ソニックブームvs剣。
一連の攻防──我慢比べは長く続く…。
だが、どんな物でも必ず終りが来る。
我慢できず、次なるアクションを移したのはガキンチョの方だった…っ!
「ちょこまかと………、弱攻撃ばかりぃぃぃ…っ!!! …ぐっ………、無駄なんだよっ!!! 成敗してくれるわァっ!!! 悪魔ぁああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」
イラつきからか、ランディ・バース並みのフルスイングで衝撃波をかっ飛ばしたガキは、地面を蹴ると高く高く……ハイジャンプッ!
上空にて、月に照らされた女は、力のままに滑空────、俺等に向かって剣を突きに立てるっ!
風に乗って、凄まじいスピードとパワーで向かってくる剣先。
それはまるで魚雷さながらのような…。
仮に命中したら、ガイルと俺そろって一撃串刺しになることは間違いない……っ。
ガキの癖にどこまでも戦闘力は桁違いだった……っ!
──だが、だな。
「だが、だ。……これを待っていたんだ。俺も、ハルオもっ……!」
「え? なに??! 待ち望んじゃいねーよ?! 俺は!!」
「…フッ、忘れたフリはよせ。ハルオ」
「……はぁッ???! おいおいどうすんだよ!! どうすんのさ!!!」
「真の強敵と相まみれる試合の時。──お前と、俺は…! いつもこの『戦法』をやっただろう………。ズルいと蔑まされても…なおっ………!!!」
そうカッコつけると、オッサンは膝を一瞬曲げ、高く飛び上がる…っ。
向かう先は、剣を突き立てるガキへと、勢いままにジャンプしたのだ……!
…ここで、俺はやっと思い出した。
武器も持たぬオッサンがどデカい大剣へ、一直線に特攻……。
これは自殺行為? それとも、無策に殴りかかるのか?
──いや、違う。
まず、『ソニックブーム』連発で相手の動きを封じ、
そして、ソニックブームが届かない空中へと飛び掛かった相手へ慎重に──、空中回転蹴りをぶちかます。
相手が、我慢できず飛びかかるのをひたすら待ち、空中で隙だらけの相手へ必殺技を一撃……、問答無用の一撃だ…っ!!
この戦法は、まさに………!
────↓(溜め)↑+キック
「必殺…サマーソルトキックゥゥゥゥゥゥ──────────ッッ!!!!!」
「ぐっぎっ??!!」
ドガァァァッ──────
「ぐあぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁっっ………………!!!!!!!」
……
ドサッ……
「戦法『待ちガイル』…………………ッ!!」
-
スタ、と脚をつく──ガイル。
そして同時に戦闘不能と、気絶したガキンチョ。
ただ、勝ったにも関わらず、オッサンは髪をクシでまとめキメ顔の…、いつもの勝利ポーズはせず。
虚しい顔をしていた……。
「…………殺しなんてやめるんだな、オルル……。おまえにも家族がいるだろう……………」
──────K.O.
-
◆
「…う〜〜〜〜〜〜………う〜〜〜〜……ん…………」
ぐったりしたガキンチョ……オルルを俺に抱えさせて、オッサンは言った。
「それでは、彼女は君に任せた……。…ハルオ、それではさらばだ」
…って、オイッ!!!
いやなに勝手に行こうとしてんだテメェーー!!!!
「おいーっ!!! 待てよ、ガイルー!! お、俺一人にする気かよっ…!! ──…『お前にはその娘がいるだろう』とか言わせねェーぞ!! 行くなーー!!!」
「……大丈夫だ。オルルは気が動転しただけで本来は優しい子のはずだからな。…男なら、彼女を許してやるべきだ。ハルオ」
「いや会話になってねェーーよ!! お前も一緒にいてくれつってんだよー!! 俺一人じゃ闘えないし死ぬだろーーっ?!」
「…闘えない、か……。フッ、ハルオ──」
「──お前はまだ気づいてないようだな………。自分に『与えられた力』にっ……。相手と対等にやりあえる『技』に…!」
はぁ???
何いってんだ…こいつ。
全然理解できねェーし、ンな「自分の可能性を確かみてみろ」みたいに言われても、無ぇ力なんかねェーーよ!!
「ま、『主催者からのプレゼント』みたいなものだ。俺も詳しい原理は知らんがな…」
「…俺はもっと知らねーし意味わかんねーんだが………。……って、おい!!!」
あ、あいつ気づいたら路地裏の出口付近まで歩いていやがったし!!!
本気で俺を置き去りにする気かよっ!!!
「待てテメェーー!!!!! こっちは山程聞きたいことがあんだよっーー!!!」
「…すまない、ハルオ。俺も山程いる。…救わねばならない参加者が…まだまだ…──」
「──彼らの悲鳴を無視できる俺じゃない。お前を見捨てるわけではないが、許してくれ………」
…と、かっこつけるオッサン。
受け答えは全部歩きながら。…つまり、こっちに背中を向けて答えてやがんだーっ!
もうこの場に用はない、もちろん俺と行動共にするのは一ミリも頭にない、とヤツはそう背中で語りやがるー!
……つーかガキンチョめっちゃ重ェし…。手渡すなンなもん!
…あー………もう!!チクショーッ!!!
どう説得しようが戻ることはねぇだろうなこりゃ!
「…クソッ……!」
…だったら、もうオッサンを説得することは諦めるしかねェ…。
黙って自分のポリシーに従えばいいぜ…。
-
だが、だ。
行く最後に、これだけは。
これだけは絶対に答えてもらいたい質問があっからよ。
聞かせてもらうぜ…、あんたに。
「……おいっ」
「なんだ、ハルオ……。俺はもう出──、」
「なんでアンタは俺を知ってんだ…」
「………………………」
「初対面なのに言ったぜ、あんたは。俺を『ハルオ…』と呼んだ──」
「──……わけわかんねぇよ、オッサン………。…もしかしてお前………、」
「俺は、記憶がない」
「…あ?」
「自分が誰で、今までどういう人生を送って、家族が誰なのか、何もかも忘れている。……お前に『力』がプレゼントされた分、俺は主催者に記憶を抜かれたのかもな……………──」
「────だが、だッ──」
「──俺は、お前が心の友『Seoul Brother』であることだけは覚えているっ……!──」
「──初対面…? そんなもの知らんッ!! 肉体は忘れても、俺の…俺の魂がッ、ハルオだけを記憶しているんだっ! だから俺はお前を助け、救った………!!」
それだけだ。
と、ガイルは…。
「…さらばだっ!!! ファネッー…Fooooooooooo!!!!!!」
夜の街へと、光り輝き消えていった………。
…よく考えたら答えになってない返答かもしれないが、ヤツにも分からんことがあんのだろう。
記憶がなくなり、自暴自棄になりそうだろうに、ヤツは覚悟を持って『自分より強い奴』へ会いに行く…。
そんなガイルを、俺は最終的に見送ることしかできねェーでいた。
ただ棒立ちだったぜ…。ただただ、な。
…
……
「…にしても、」
「なんだよ……。『主催者から俺へのプレゼント』って…………? 武器のことか?」
-
…武器の話してんならかなりお門違いだぜガイルさんよ。
何せオルルのクソガキに一杯食わされたから、デイバッグなんてどこに置き去ったかわかんねぇわけで……。
現状戦闘力0で、どうしようもねェーーんだが。
…しかし、『与えられた力』という言い様が引っかかるところだ。
武器のことなら、力と呼ぶのはおかしいわけで。
……言うなれば、まるで俺の身体になにか技が『ラーニング』された、みたいな口ぶりなんだが…。
…バカバカしいけど、もしやと。
ちょっと試してみるか……。一応……。
地面に向かって………、拳を握って……、
「おらっ!! パンチ!!!!」
──ドガッ!!!
「うおわっ??!!」
なーんとなく、ダメ元でアスファルトをぶん殴ってみたんだが……、
…信じられねぇ……!!!
まるで隕石が降り落ちた後みたいにひび割れて、凹みやがった……。
格闘技経験0でハムスターにさえ勝てないだろう…俺のパンチで、だ……っ!!!
…俺は生唾を飲まずにいられなかった。
「…き、キック!!!!」
次にぶち当ててみたのは、愚かにも行き止まり役をやりやがった壁にだ。
壁へ、俺のへなちょこキックを──割と本気ではあるがなんのテクニックもない蹴りを入れてみた。
入れてみると、だ………!
──ドガッ!!!
ドガァアァァァァァァ……………
「ういっ??!!!!」
まるでツタが伸びるように、壁は全面ヒビで覆われ、打点は大きく崩れ落ちた…。
…何度でも言うぜ……?
力0で、格闘技なんかゲーム経験のみで、ひょろひょろの俺がっ……!
「壁を破壊したんだ………………」
これが、『与えられた力』………?!
お前に殺し合いは不利だろう、と主催者野郎がくれたのかッ……?!
こんなハガー市長並みの馬鹿力を………、
-
「──いや待て、まさか…、まさかだとは思うが……………!」
だったら……、ほんとにダメ元だが試す価値はあるぜ…………。
多分、与えられたのはこんな超人的力だけじゃねェー……。
…なにが言いたいって??
そりゃよ、人をも凌駕したありえねぇ技……。
ガイルが出した『ソニックブーム』や『サマーソルトキック』みたいな…………、人間じゃ絶対に出せない──必殺技………!!
…ありえない話だが、現状がありえない世界観なんだから。
バカな考えとは一概に言えねぇぜ。
「……出てこいッ!! …俺の必殺技………!!」
よくわかんねぇから、俺の必殺技がなんなのか脳に一撃、問い質してみた。
出てこい…出てこい……!、と。
そしたら、驚きよ。
「ファイアーーッ!!!!!!!!!!!」
────ボォオオオオオオオオゥゥゥゥゥゥッ!!
「…………………出やがった…!」
念じた途端、俺の口からめちゃくちゃやべェー火炎放射が発せられたんだっ……!!
どこまでも熱く焼き尽くす灼熱が、腹からこみ上げてきて喉を通り、外へと飛び出していく………!!
これが、つまりは『俺の必殺技』──……。
どんな敵でも怖くない…、一網打尽にできる『俺の力』──………!
…あー?
んなもん与えられた今、どんな気持ちかって?
……答えるまでもないぜ。
笑うしかねぇよ!!
「ククク…………」
「ハーハハハハハハッハッハッー!!! あーはっははっはっはっははははははははっはっはっはーー!!!!!……」
「…なんでよりによって『ダルシム』なんかの技完コピなんだよーーっ?!!!!」
「普通にリュウとかケンとかカッコいい奴にしろーーっ!!!! 無能主催者ァーー!!!!!」
「だっせぇ〜〜んだよォっ!!!!!!」
…首を、びっくり箱みたいにびょーんびょーんと伸ばしながら、ジタバタする俺であった………。
-
【1日目/E7/路地裏/AM.00:31】
【矢口ハルオ@HI SCORE GIRL】
【状態】頬に切り傷(軽)、疲労(軽)
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【静観】
1:なんでダルシムなんだよっ!!
2:ガイルについて色々疑問
3:とりあえずガキンチョどうすっかねぇ……
※矢口ハルオは出典作品特権で『ダルシム@スト2』の一連の技を使えるようになりました。
【オルル・ルーヴィンス@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】気絶、憔悴
【装備】ルーヴィンス家の十字剣@メムメムちゃん
【道具】???
【思考】基本:【マーダー】
1:……
【ガイル@HI SCORE GIRL】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:襲われている参加者・力なき者を助ける
2:ハルオ…生きろよ……っ!
-
投下終了です。
次回、うまる・新庄マミでお送りします。
-
[登場人物] [[うまるちゃん]]、[[新庄マミ]]
-
僕の妹うまる(16)は、美人で評判だ。
優しくて頭もよく、あらよる才能に恵まれている。
『ごきげんよう…! 皆さん』
非の打ち所のない美人女子高生。
老若男女に好かれる完璧な妹だ。
…と、みんなは思っ
「あのさぁ〜、前置きとかいいからっ!」
「はい、じゃ。うまるがバトル・ロワイアルでど〜んな干物生活を送るのか。どうぞご覧あれ〜」
「…はぁ、面倒臭い〜」
-
◆
平成2x年、真夏の夜、渋谷。
私は、今人生最大級の未曾有な危機に瀕しているのであった…。
「わ、わわっ…! 私…、どうしよう…!!」
ショーケースのガラス越し、カバンを持つ女子高生が私──うまる。
ごく普通のJkで、特別なにか戦闘力があるわけでもない私が招かれた、とてつもないヤバいこと。
うん、本当に危険が危ない事態だ。
今この現状に比べれば、不安や悩みなんてちっぽけなことに感じるだろう。
「…うぅ〜〜…っ、はぁ……」
首に纏わりついた取り扱い厳禁な金属、不気味なゴーストタウン。
そして、起きたら知らない場所にいてデス・ゲームの説明を受ける……。
この既視感は、やはり。
これって、つまり……っ!
──今日はね、ちょっと皆さんに殺し合いをしてもらいます。
──カッ、カッ、カッ……(チョークを書く音)
「BRじゃんっ!!!!!!」
いや、なんでさ?!
何で私がそんなたけしからの挑戦状を受けなきゃならないわけっ?!!
映画のまんまなやばいゲームに参加させられて困るよっ!!
うまるじゃないよ!! KO・MA・RU!!!
…いや困るってレベルを遥かに凌駕してるよ〜〜っ。
…何故、ナゼ私がっ…。
こんな授業中に男子がふけるような妄想劇を…する羽目に………。
「…というかぁ…──」
「──B級アクション映画の設定まんまパクるとか変なとこ…っやる気ないなあああああああああぁあああぁぁぁ──────────────────────────っっっ!!!!!!!!!」
ああああああああああああああああアアアアァァァァァぁ────────────────っ…………。
その叫びは、地球の動きを超越し、大気圏まで突入した。
うまるの上げた声は、火山のパワーをも凌駕する凄まじいエナジーを持っていた。
あの頑丈なビルが、地面が、いや街全体が、たしかに揺れ動く。
その振動は、決して雄叫びの声量で引き起こされたものとは一概に言えない。
彼女の『心からのツッコミ』が生んだ力。
いわば魂の咆哮であったといえよう。
(AM.0:04:49 後に教科書で軽く綴られる出来事【渋谷疑似大噴火】──確認。)
…だなんて、とりあえず、うん。
私は、履修済みの北野た◯し「バトル・ロ◯イアル」を元に、この先生き残る方法を固めねばならないのであった…。
「ふへえ〜〜〜〜〜…! なんたる災難……」
えーと、じゃあ。
まずやるべきことは…と。
う〜〜〜〜〜〜ん、私は何をすれば…。
-
「…そうだ。まずは武器確認だよね…っ! 武器、武器〜と」
人目につかないような街角に隠れた後、私は持っていた茶色いカバンの中を見ることにした。
…映画の方では確かバカでっかいデイバッグに色々入っていたけども、今回は私の学校指定のカバンを見てみる。
周辺を見渡したけど、それらしきクソデカリュックは落ちてなかったし、…となるとやっぱりコレがそれ代わりなんだろなぁ。
うむ、なんだかギクシャク感…。
「ふぅ…。やっぱりガチャを引くときは緊張するなぁ…」
と、カバンの中に触れながら呟く私。
そうっ。この武器確認とはいわばソシャゲのガチャ同然。
私的には、SSRとかハイレアクラスみたいなものは決して高望みしない。
だけどもガチャ外れ級だけはなんとしてでも避けたいのだっ!!
なにせ映画では、鍋の蓋とかハリセンが武器として渡されていたりしてるのだから…。
いや、どれだけ本家に寄せているかはわかんないけども……。(てか蓋の人は生き残ったし…。)
…とにかくっ!!
このカバンから取り出す瞬間は、自分の豪運を確かめる運命TIMEといえるのである────っ!!
「お、おぉ〜〜〜〜〜〜〜〜……!! こ、これは…」
「これは、中々の…──」
「──当たり…っ!!」
右手に持つそれを見て圧巻してしまった。
真っ黒い光沢のボディのそれは、サブマシンガン……? いや、トンプソンマシンガン〜〜…具体的な名前なんか知らないやっ。
とにかく、銃であったのだ!!
いや本物を持つの当たり前だけど初めて…っ!!なんかコーフンしてきたな!!
…いやはや、これはこれは。
ガチャ的にかなり当たりの部類ではなかろうか〜っ!!
日頃おみくじを引いても『小吉』ばっかり出てくる私であるが、もしやこのガチャの為に運を貯めていたんだとか…?!
ふう〜!一安心、一安心…。
「…にしても、安全装置ってどこにあんのかな……?」
…。
…安心……。
いや待て。言うほど安心か…?
うまるよ……。
「割とご都合主義で、撃てちゃったりとかは…」
引き金を引いてみる。
カチッ、カチッ……とまるで撃てない様子。
…いや、安全装置ってどこ。
大体それってレバーなの?それともボタン??
……一概のJKがそんなこと知っていて当たり前だろ、とでも…???
「……………」
ちびま◯子ちゃん的な言い回しなら、「とほほだよ…」。
これじゃ、屏風の虎。見かけだけで有用性は現状まったくなし。
えっ…。
じゃあ、私普っ通に外れガチャ引いちゃったってコト……じゃんっ??!
「…まっ、そもそも考えてみりゃ、こんな殺し合いに参加させられてる時点で豪運もなにもないしね……」
-
はぁ…。
落胆した。
バトル〇ィールドならボタン一つでリロードもラクラクなのに…。
ゲームと現実じゃ、だよね…。
…一応、「マシンガン 安全装置」でググってみるかぁ。
〘質問者→マシンガンの撃ち方教えてください。 25,758View〙
〘ベストアンサー→通報しました。〙
落胆した。
「…とにかく、次行こう…! 次!!」
というわけで、お次は参加者名簿という紙を見ていこう。
「…う〜む」
見た感じ日本人から外国の人までオールジャンル性別もバラバラの闇鍋状態。
さっき乗ってたバスから、ある程度の規模なことはわかってたけど…、七十人もいるとは。
こりゃ今度は『参加者遭遇ガチャ』の運試しも関わってくるわけだ。
…いや、ともかく。
『土間タイヘイ』!!
『海老名菜々』!!
『本場切絵』!!
「なんじゃこりゃあ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
おっ、お兄ちゃんに友達二人まで参戦?!
みんなと命を賭けてバトれってこと?!
そりゃないよ〜〜〜っ!!最悪すぎるメンツだよ〜っ!!
「ていうか、シルフィンだけ謎にハブかれてるし……」
…いや、普通に考えていなくて安心すべきだけども。
あの人は、別の方向から考えたとしてもいなくて正解っぽいよなぁ。
──うまるさんに負けないくらい、わたくしもたくさんKILL YOUしますわぁ〜〜〜〜っ!!!
とかマジにやっちゃいそうな、やらなさそうな…。
って、んなのはどうでもいい!!!
「いやいやいやいや!…」
「…いやいやいやいやいやいや!!! やばいやばい! ど、どうするのが正解なんだ……私……!」
考えろ、考えるんだ私…!
とっ、とりあえず、私たち四人全員が生き残れる可能性は、まずないと言っていい…。
この渋谷という広い街中で、『生きた』お兄ちゃんたちと合流することすら難しいだろうし。
仮に、超奇跡で結束できたとしても、脱出できる保証はない。
というか、探し回ってるうちにうまるが殺されるルートもあるっ!!
てか脱出ってほんとどうやればいいわけ??って話だしっ!!!
「うっ、うぅ〜……」
-
…じゃあ、やっぱ、殺人鬼になるしかない…のかな……私。
あんなボンクラ主催者の思惑通り動かされるなんて、すごい屈辱。
だけども、対抗策──ルールの穴なんてまるで無いわけだしなぁ…。
なにせこの首輪型爆弾が一番厄介すぎるんだからなぁ。
勝ち残らない限り外しようが無いって…こいつのせいでどうしようもないのが凄いよ。(いや、バ◯ロワの原作者?脚本の人よく思いついたなっ!)
しかし、だがしかし。
当然だけど、だからといって殺し合いに乗るような私なんかではない。
大東亜帝国ならいざ知らず。
私はごく普通の日本に住む庶民の一員。
法律やらモラルやら重責やらで、簡単にライン超えなどできない人間なのである。
「……つまるところ、私はどうすりゃいい…?」
封殺プレイ中の三塁ランナーみたいに、ワンチャン願って逃げ続けるのが役割…か?
私の…役割……。
でもそんなことしてたらお兄ちゃん達は知らぬ間に仏になっちゃうし…。
だからって殺人はNGだしぃ……。
う〜。
う〜〜〜〜〜〜ん…。
う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ー、んんんんっ…!
「……はぁ、分かんないや」
思えば、普段私は勉強も運動も、なーんとなくで取り組んでそれなりの成果を維持し続けてきたから、考えることなんて難しいや…。
基本行き当たりばったりだけど、なんだかどれも上手くいっちゃって。
お陰で、考える大変さなんて知らずにこの場に臨んでしまった。
…お兄ちゃんなら、どうするのかな……。
たまには私に教えてよ。
お兄ちゃん…。
「んん〜〜〜〜〜……。」
「…はぁあ……、もういいや」
「別に、いいよね。いつも通り、行き当たりばったりでも」
そうだ。考えたってもはやしょうがないよ。
今はとりあえず手も足も出せないんだしさ。
…それに。
「…たかが殺し合いなんかで、自分を見失うのもおかしいし、ね…っ!」
なにがバト◯ワだ。
なにが最後の一人になるまで殺し合えだ。
うまるの答えは「絶対にNOゥッ!!」だよっ。
あんな馬鹿おじさんの筋書き通り、殺し殺されの恐怖に陥いらされると思ったら大間違いなんだからっ!!
だから、うまるはバトルロワイヤル中でさえ、自分のしたいように生きマイペースに怠けてやる。
生きるか、死ぬか。だって?
知らないよっ!!
“どれだけ窮地に立たされても、我を崩さない。”
それが真の意味での『我が儘』だって。
怪〇くんかなんかのアニメキャラも言ってたんだから────。
「と、」
「い」
「う」
「わ」
「け」
「でっ!!!」
シュバババビバビバババババババババババラララららららららららららららららららららら!!!!!!!!!!
-
うまるダーッシュ!!!
近くにあったファ◯マに入店んん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!
ファミファミファミーファミファミ…
「マァアアアアア──────────────────ッ!!!!!!!!!!!!!!」
うーん!!!店員さんどころかお客すら0!!!
スッカスカのカランカラン!!!!
「つぅ〜ま〜り〜はぁ…???」
うまるの孤城と化したわけだっ!!!!
シュババババババババ!!!!
棚、刮目っ!!!店、一周っ!!!!!!!!!!!!
「コーラァ!!!!!!!!!!!」
「ポテイトチップスゥ(サワークリームオニオン)!!!!」
「たけのこの山ァ!!!」
「プリン!!プリンプリンプリンッ!!!」
「チーズたらららららららんらんっ!!! 歌をうたぁおぉお〜〜〜〜!!!!」
「イカのつまみっ!!!!」
以上をイートインコーナーに持っていって…、
「いざ、〈革新的〉めたもるふぉーぜ!!!!!!!!!!!!!! 変ッ身!!!!!!」
私は、本来の姿である『干物妹モード』に姿を変えることができるっ!!!!!!!!!!
見る見るうちに、立てば芍薬だった華奢な体は二頭身に、細長い手足は短足に、顔はちんちくりんへと変貌していった!!!!
ん? なんでそんな退化みたいな真似をしたのかって??
ふふふ、そんなの蛹から脱皮する蝶と一緒よ!!(後々考えたら違うかもしれないと思った)
サラリーマンだって疲れて帰ってきたらパンツ一丁になるでしょ?知らないけど!!
同様に、うまるもこのフォルムがオフの時間を最高に楽しめる姿であるのだぁあー!!!
さ〜て、今からうまるは何をするのか。
そんなの愚問中の愚問…。
「コーラ開けてっ!プシュッ!!!」
「ポテチも開けてっ!!ざばがばぁぁぁあぁ」
「楽しい時間が来るよ〜♪」
『宴』の時間だあぁあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁ!!!!!!!!
うひょひょひょおひょひょおおおおおお!!!!ぐひひひふひ!!!!!
みんなが凄まじいデスゲームを繰り広げる最中、うまるは背徳をスパイスに噛み締めながら宴をするわけよ〜〜ん!!!
(※…もちろん、この商品の代金はスタッフ(お兄ちゃん)に美味しく支払わせます☆)
「あぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!」
「うまっ、うまうまうま〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
うまっ!! ハフハムハム…うまっ!!!!
ポテイトで乾ききった喉をコーラでシュッワシュワシュワッシュワに潤し切って、超うっままああ!!!!!!!!!!
もうほんとにサイコー最高!!!!!最高!!!!!!!!!!
…ふふふ。『バトル・ロ〇イアル』ってえぇえ………
「…最高でぇえぇええ──…、」
「ちょっとキミっ!!」
…っ!!!
「んぐっ!!! ひぎっ???!!」
-
うわっ!!!びっくりしたぁ!!!
…や、やばい。
う、宴の最中、急に、『誰かに』声を…かけられてしまった……。
背後から…。多分声的に女の子……。
「………」
ど、どうすりゅ…うまる……っ。
振り返るべき、が正しいのか…??
う、うぅ。
どうしよう。もしも、店員さんに声をかけられたんなら…。
殺し合い中だからセーフだと思って無銭飲食しちゃったよ〜、うまるぅ〜〜っ!!!
わ、わわ、私は……。
「い、今…。変身…したよねっ…? 普通の姿から、そのまんまるに……」
…。げっ。
そこまで見られていたか…。
え?え?
それって…口封じに殺っちゃわなきゃいけないパターン入ってる…??
…………ごくり…。
どっちにしろ…だ。
うまるは、この短い両手で念の為マシンガンを構えた。
…撃ち方は分からないけど鈍器には使えるはず…。
武器としては有用できるっちゃ、でき………、
「すごいよキミは!!! やったぁ!! ついに見つけたぞーーっ!!! やったぁぁああ!!!」
…へ??
「わたし、マミっていうの! よろしくねっ!!!」
…え?え?
「『UMA』さん!! よろしくねーっ!!!」
…へえっ?!
-
◆
「今、アメリカでは共和党と民主党で政権争いが苛烈してるけど…。ね、もう分かったでしょ?」
いや、分からん。
「共和党の議席が66、そして選挙開票時刻が6時。つまり、<666>。そう、フリーメイソンがいるわけだよ。秘密結社の…言っちゃえば【ゾルタクスゼイアン】になるわけだよね」
いや、知らん。
「つまりさぁ、もうパンドラの箱開いちゃってんだよ。ダビデの星に、ユダヤ教…、そして滅びたはずのナチス…。フリーメイソンが何故そう政治にまで介入するようになったか。もう、分かるよね?」
だから、分からん。
「宇宙人──UMAへの隠蔽のためだよ…」
「…って、【月刊マー】に書いてた!」
いや、引用かいっ!!!
「つまりは、うまるちゃん!! キミはわたしが探し求めていた超越生物ってワケだよっ!!!」
「いやいや違うよっ??! 違うっ!! うまるはマミちゃんなんかに探された覚えはないっ!!!」
メラメラと熱意が込もった目で、意味不明な主張をうまるに発する女の子。
新庄マミ──、二つ結びでうまると三学年くらい年下そうな彼女に抱え上げられ、かれこれ三十分。
フリーメイソンだのパンドラだのボキャブラ0で頻出しまくる謎ワードと、それを用いた謎の力説が止まりを見せない…。
一周回って、かっなり鬱陶しく感じるうまるであった……。
「すごいっ!! かっこいいなぁ!! 早くUMAるちゃんのことを学校のみんなに自慢したいなぁ!!! …ヒナちゃんなんかと比べ物にならないぞー、こりゃ!!」
「『UMAるちゃん』、って…………」
う〜ん…。
どしよ。どう説明すれば黙るのか…。
思いつかない……。
いや、たしかにうまるは普通の人間じゃないっちゃないけど…。
けどもだよっ!!
「わぁ、わたしもうまるちゃんみたいになりたい!!」
いや憧れられちゃったよ。
「むしろ師匠!!!」
師匠にされちゃったよ。
なに…?UMAになりたい、って…。
どういう病気なんだ、マミは…。
「ていうかこのデジャヴ…………」
「おおっ!! うまる師匠がお話になられたっ!! カッコいい!! わーいわーい!」
…しゃべるだけで称賛してきた!!
教祖のありがたいお言葉扱いじゃんかっ!!もうっ…!
……あー。
でも、割とこうゆうのも悪くはない、のかなぁ…?
だってまぁ、うまるら参加者の中にはガチムチのヤバい奴とか殺人アイスホッケーマスクが紛れてるかもしれないんだし。
そう考えると、初遭遇が人畜無害なただのオタク少女ってのはラッキーなわけだ。
うん、そう考えよう。
…後先考えると気が重くなるけど…。
-
「すごすぎるっ…! これはもう師匠ってレベルじゃないよ……、」
「師匠を超えてもう『智将』だよっ!!」
ん…?
「うまるちゃん…! どうか、『うまる智将』とお呼ばせください!! お願いします!!!」
「…は…??」
はぁ???
いやいやいやいや、いやいやまって待って待ってよ!!!
「よろしくお願い!!! ね!! 智将!!」
「いやいや『ちしょー』は流石に断固反対だよっ!!? 『池〇』はっ!? マミちゃん!!!」
ほんとに、先が重いやられる…。
【1日目/G1/ファミリーマート店内/AM.00:49】
【うまるちゃん@干物妹!うまるちゃん】
【状態】健康
【装備】うまるがやってるFPSのマシンガン
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:マミちゃんと行動。UMAじゃないよっ?!
2:うまるらしくグータラ静観飛行
【新庄マミ@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:うまる師匠と動きたい。見せびらかしたい。
2:UMAは本当にいたんだ…!
-
投下終了です
次回、切絵・弟の夫の娘でお送りします。
-
[登場人物] [[本場切絵]]、[[折口夏菜]]
-
ザャバザャバ
ザバッ……
「はぁ、はぁ……………──ぷはっ……。…………………─ぷはっ…」
私は、『うまるさん』が好きだ。
海老名さん、も…。
二人は学校じゃいつも独り身の私に話しかけてくれた優しいクラスメイト。
人と話すことが苦手な私は、これから新しい友達なんか作れないだろう。
もしも…、仮にうまるさんらがある日突然いなくなったとしたら……。
──私は耐えられるはずがない。
だから、私の為。
なにより、うまるさんの為。
なまじ運動神経、そして武術には人並み以上の力がある私は『行動に移さなきゃいけない』のだろう…と。
覚悟を決める瀬戸際にいた。
ザャバザャバザャバ
ザバッ
「………─ぷはっ………。……はぁ、……はぁ…………………。………………─ぷはっ……」
ザャバ…ザャバザャバ……
一方で、私は『水泳』があまり好きではない。
嫌いなのか?──と聞かれたらそこまでではないけども。
…けども、水泳で賞を取ったとき達成感や快感は沸かなかったし、水泳部の顧問やみんなから褒められても、心中『無』で。嬉しさは感じなかった。
私は心の底から楽しんで泳いだことなんか、一回もなかった。
ただ、水の中はすごく静かで、──特に周りに誰も泳いでないときなんかは、ヒーリングさが出るくらい無音の環境で。
心が不思議と落ち着くから、私は悩みや考え事があるときはプールへよく足を運ぶ。
──人間は、何度もいろんなものにぶつかって、それでぶつかった中で「どれを選択しよう?」と思わなくちゃならない時が皆ある。
そういう時、私の場合は「まずは水中」と思って考える。
『水中』っていうのは。私にいつも、人生を教えてくれる存在だ。
だから、────。
ザャバザャバザャバ、ザャバ…
「………─ぷはっ………。……」
だから、今、私はこの湖で夜泳に嵩じている。
私は、参加者名簿からうまるさん達の名前を見つけてしまった時。
衝動的に目の前の湖へと飛び込んだ。
──制服を脱いでスクール水着に着替えるくらいの心の余裕はあったが、あの時私はパニックで焦燥が溢れんばかりだった。
-
ザャバッ。
私は泳いで、
ザャバッ。
私は泳いで、
ザャバ、ザッ…。
水中へ、ひたすらにひたすらに問い質した。
…
……
────水よ、私に教えて……。私は人を殺したり…とか……そんなことはしたくない………。
「………………ん、──ぷはっ………」
────でも、私が闘わないと、……うまるさん達が……死んじゃうっ…………!!
「………………………………──ぷはっ……」
────私の…かけがえのない友達を……、犠牲にはしたくない………っ!!!
「…──ぷはっ……!!!!」
────この広い…湖……。どうか、教えてくださいっ…………!
────私は彼女らの為に、誰かを犠牲にしなきゃ……いけないのでしょうか……………。
……
…
「………っはぁ、はぁ………。わ、私はどうすべき……、はぁ……ぁっ………。なんでしょうか……。はぁ……」
ボート一つすら浮いていない水面で、私は揺られ動き続ける。
やや欠けた新月が真っ黒い湖に映え輝き、水が火照った全身をひんやり包みこむ。
ふと、対岸沿いの、遠くの浜辺を見てみれば人影が一つ確認できる。
──その人は私の存在に気づいているのか、否か。呆然と座り込んでる様子だった。
「…はぁ…………………、はぁ………………」
太ももを中心に、だんだん疲労で体が重くなってくる。
かれこれ十数分近く、泳ぎ続け…──自問し続けたが、未だに『最適解』は導いてくれない。
…水でさえ、この『生と死の問題』は解くことができないというわけ…なのか。
いつも私の助けになってくれる存在なのに…、本当に一大事の場面では人生を教えてくれなかった。
ならば。
何も考えず自分の直感、一番最初に思った行動をするしかないのだろう。
──ほんとは嫌だけど…仕方ない。
ちょうど向こう岸に一人『犠牲候補』が用意されているのだから。
-
「はぁ……………。んっはぁ………」
「う、うまるさん…、こんな私のことはもう忘れてください…………」
「…そして、友達になってくれたのに…………。人の道から外れる…ま、真似をすることを…許してください…………」
一呼吸置いた後、────ザバッ。
私は暗い暗い水中へ潜り込む。
腕を伸ばして、足で一定のステップを取り、対象までずっとずっと、ずっと泳いでいった。
陸に上がる『そのきたる瞬間』が恐ろしくて嫌で、胃が痛かったが、私の体は泳ぐこと以外許さなかった──────…。
-
◆
『東京湾〈とうきょうわん。〉』
『ちいさい こどもたちへ。』
『ここは きけんなので、およいだりするのは ぜったいに やめましょう。』
………。
…ん〜〜〜〜〜〜〜っ??
「ヘンなのっ! こんなクサくてきたない湖に入ろうとする人なんかいるわけないじゃん!!」
目の前のおっきな看板を読んで、あたし──カナはツッコミをいれちゃうのだった。
「…てゆーか……。ふわぁ〜〜あ〜ぁっ……」
「こんな時間に起きてるの…、カナはじめてなんだけどっ……」
ついでに、あくびで涙もこぼれちゃうのだった。ほわ〜〜あ〜…。
普段じゃ、おそくても九時にはパパにベッドへ入れられるから。
ほぉ〜んとっ、とにかく眠たくてしょーがない。
…なーんかよくわかんないけど、起きたらバスの中にいて。
それで、またよくわかんないお話をされて…、周りのみんなの頭がスイカ割りみたいにブチュブチュブチュってなったぁ〜〜と思っていたら……。
気づいたら、このまたまたよくわかんない場所にいて。
…そんで、近くにはカナの、リコーダーが飛び出たランドセルも落ちてて。
ほんとに意味が…わからわからわからわからわからわからわからわから…わっかんなかった!
「ころしあい、……って?? カナなにすればいいわけ〜〜??」
ぜ〜んぶ、わけがわかんない…。
今なにしてんのか説明できないくらいわかんないや。
だから、『夏休みの日記帳』にはどう書くべきか……。すっごいムズかしくて思い悩んじゃうのだった!
いやほんとどうすべきなのこれっ?!!
ひざ小僧のバンソウコウを掻きながら、わたしは考える…。かゆっ。
だって、たとえばだよ?
──しち月なな日。はれ。
──きょうは、わたしは、ころしあいを、させられました。みんな、いたそうだったです。おわり。
…とか??
そんなん書いたとする、と。
そしたら、絶対先生にやり直しされるわけじゃん?!
意味わからないことを書かないでください〜〜、って。おこられちゃうわけじゃん!!
じゃあ、そうなると。
──きょうは、よるに、ひとりで、とうきょうわんにきました。パパが、つかったトイレより、くさかったです。おわり。
…って書いたとしても………、してもだよ!????
……それもそれで、先生から「なに危ないことをしてるんですか?!」っておこられそうだし……。
しかも職員室にまで呼び出されて激おこされるかんじでしょ。──…ともやくんみたいに……。
-
「いやっ!!! 絶対おこられたくないし!! カナ絶対なくもん…!!」
「てゆーか、なんで事実かいただけなのにおこられなきゃならないわけ?!!! もうほんとにいやだよっ!!!」
…いやー、こまったよ…。
小学生ながら、このゆゆしき事態にちょくめんして……。
うーむ頭がいたいぃい〜〜っ…。
いったい、カナはどうすんのが『最てき解』……なのかな………。
────ザバアッ
「──ぶはっ…!!!!」
…うわっ!!??
「え?! な、なにっ?! びっくりした!!!」
だなんて、考えていたら、とーきょー湾からいきなり人が出てきた!!!
考えるのに夢中〜だった分、カナ、ちょ〜ビックリしたんだけどっ!!
え?!
てことはつまり………。お、およいでたの??!
この人…??!
「はぁ………、はぁ……………。んっ、はぁ…………………」
…その人とすっごい目が遭っちゃったカナ……。
…たしかに、今はものすごくあっつい。
カナも半そでにミニスカートの軽装?で来ててよかったな、って思うくらいあつい。
だから、泳ぎたい気持ちも…わかるけどさぁ……。
…目の前のビショビショなおねいさん。
身体中ヘドロみたいな…、黒い油??とか藻が、足とかスクール水着とかにまみれていて……。
めちゃくちゃきたなすぎるんだけど〜〜っ!!
そんなのになるくらいなら入らないほうがマシじゃん!!そう思わないっ?!!
…てゆーか、さっきからニラんできててちょっとコワイし……。
カナ、なんかおこらせちゃったりしたの…かな?
一応、きいてみよっか……。
「ねえ! おねいちゃん。…もしかしてカッパさん??」
「………………………」
…って!!
カナなに意味わかんない質問しちゃったんだ!!?ねえほんと…なんで?!
そんなことより聞くことはあるっていうのに…。
ヘンなことしゃべっちゃったんだけど〜っ!!!
あが〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んっっ!!!!
「……………………………カ……、」
…うぅ〜っ。
おねいちゃん、なんかビミョ〜にふるえながら「…カ」とかいいだしたし〜〜。
ほんとはじかしいこと喋っちゃったんだけど……。
──…いや、まてよっ。
おねいちゃん、何を言い出そうとしてるのかって…。
「カ」に続く言葉といえば……、「カッパ」……じゃん…?
…じゃあ、「そうです私はカッパなんです」とか。ワンチャン喋ってくる可のう性は────…、
「カ……カワイすぎるッ…!!! はぁ……はぁ……、かわいい…!!!」
…ん?
-
「…え?」
「…はぁはぁ……………、かわいい…、かわいすぎるよっ…!!! このコ────────っ!!!!!」
……んんっ??
「…へ…???」
「…小学生特有のサラサラとしていて、黒一色のいい匂いしそうな髪が──か、かわいいっ!!!」
「…やわらかそうでプニプニで、…顔の中でも特にやわらかそうなその出っ張り部分……、ピンクの唇が触りたくて──かっかわいいっ!!!」
「膝についている絆創膏……、白いソックス…、そして『魅惑の域』をギリギリ隠している赤いスカート……!! すべすべした白くて肉感たまんない太ももが──か、かか、かわいいっ!!!」
「あとその髪の結び目も──かわいいっ!!! というか顔が既に──かわいいっ!!! かわいいよっ!!!」
……え????え????
なんかいきなり喋りだしたんだけど…。
おねいちゃん、自分の胸部分をギューってにぎりながら……。
なにっ??
──…てゆーか。「カ」って、「カワイイ」の「カ」……??
「…うぇ〜…????」
「んっ!!! き、キュンってきた!!! …あぁ〜〜〜か、かわいすぎる……! キミはかっ、か、かわいいっ……………──」
「────…もう私堪えきれないっ……!!」
「え?? な、なにが…、」
「かわいすぎるよオーー!!!!!!!!」
──ぎゅっ、
…むぎゅうううううううううううううううううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっっ!!!!!!!
「ぎゅえっ!!!!」
ぐるじ〜〜〜〜〜〜っ!!!!
おねいちゃん急に飛びついてきて、カナをすごい抱きしめてきたっ?!!!
…いや抱きしめるどころじゃないよ!
すっごいほっぺ擦り合わせてきたり、もにゅもにゅと足をいろいろ揉んできたり、すっごい高速でなでなでしてきたり……、カナのおさげ嗅いできたり……、
とにかくカナにいろいろしてくるんだけど??!
「いやくっさぁ!!!!」
…全身べたべたギューしてくるから、カナのいたるところにヘドロが付くしっ!!
「ちょっとはなしてよ!?!! やめてぇってばっ!!!」
「んーー!!! やっぱ小さい子供は可愛いよ…可愛いよーー!!! …わ、私が、お姉ちゃんが絶対守ってあげますからねーっ…!! んんっ……! かわいいーー!!!!」
「はなし…、…いやすっげくっざぁああぁぁあーーっ!?!!!?!」
-
…ほんと、誰か説明してよ!!
これどんなじょーきょーなワケ???!
初対面なのに急に気にいられて…、犬みたいにじゃれられて……。
カナにとっては、理解不能………!!!!
「ぼ、防犯……ブザー………」
「かわいいかわいいかわいいかわいいーーっ!!! ランドセルも可愛すぎるーー!!! …殺し合いとか怖くはないですからね?? あ、安心してくださいね!!!!──」
「──だって、悪い人からキミや皆を…守るんですから!! 絶対に…私が!!! だ、だだ、だからすっごい大好きですよーー!!!……!!!!」
…ただ。
これにて日記帳の書くネタだけは出来上がったわけで…。
それはたしかだった。
──きょうは、わたしは、カッパのおねいちゃんに、だきつかれました。ぜったいに、おふろに、はいろうとおもいました。
…的な、ね……。
「可愛いは正義!!! 正義が勝つ!! だから私と一緒に行動しましょうーー!!! いいです…よねっ?!!! んん〜〜っ!!! 好き好き好き────────っ!!!!!!!!────」
△【18歳未満の者との、みだらな性的行為は、犯罪です。】△
児童が心身ともに健やかに成長するために、児童の権利や支援内容、児童に対する禁止行為などを定めた法律です。
青少年を誘惑・威迫・欺罔・困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交・性交類似行為、
青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交・性交類似行為は法律違反にあたります。
ただし、被害者が13歳以上16歳未満の場合には、行為者が5歳以上年長である場合に限って、処罰の対象となります。
違反には、2年以下の懲役刑又は100万円以下の罰金刑が課せられます。
【1日目/B3/東京湾/AM.00:30】
【本場切絵@干物妹!うまるちゃん】
【状態】全身ベタベタ、スク水
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:快っ感〜〜…っ
2:うまるさんたちが心配…
【折口夏菜@弟の夫】
【状態】いたるところベタベタ
【装備】???
【道具】???(一式ランドセルに梱包)
【思考】基本:【静観】
1:ちょっとこのおねいちゃんナニっ??!
※この小説はフィクションです。実在の場所や場所、場所などとは関係ありません。
-
次回『牛丼ガイジ、只野くん、早坂』でお送りします。
-
[登場人物] [[コースケ]]、[[只野仁人]]、[[早坂愛]]
-
七月七日は文豪・斎藤茂吉が亡くなった日(茂吉忌)だ。
すなわち、彼に倣って、愛読者であるオレも今日死ねと言いたいのか。
オレは今バトル・ロワイアルというくだらない遊びに付き合わされている。
茂吉は生前、うなぎの蒲焼ばかり食っていたそうだが、財布の枯渇ぶりが原因で昼飯を抜いたオレは、このタイミングで──────…、
「ハラ、減ったな……」
空前絶後の空腹に苦しめられていた。
-
◆
『衣食住』という言葉は真に秀逸だと思う。
要はポルノビデオを普通のビデオ二つで挟み隠し、レンタルするのと一緒で。
マジに生死に関わる『食』を、別になくても生きていける『衣』『住』で挟むことで、さもこの三つが同格の存在かのように表している。
数日前、オレのカノジョが僅かばかり帰郷したいと家を出ていった。
別に喧嘩別れだとか痴話喧嘩の末ではないのだが、カノジョ曰く「一人の時間がほしい」らしい。
カノジョの外出期間は一週間弱との話だが、ここで紐づけられるのは『人間』の不食活動期間限度も一週間であることだ。
どんなしみったれたクソ田舎に帰るのかは知らんが、金も置かずして消えるとは…。
金づるの唐突な消失に、オレは背後から『死神』の気配を察した。
ビンボー人であるオレ。
ゆえに、冷蔵庫に買い置きするほどの金なんぞ持ち合わせていない。
奇跡的に保管していたマヨネーズをちびちびご飯にかけ、初日はなんとか過ごせたが…まさかこの食生活が何日も続くとは。
十二食連続のマヨネーズご飯登板となった瞬間は、さすがにもう箸を置きざるを得なかった。
それからの毎日は、空腹にひたすら苦しみ、天井の木面を回る目で眺めるという、この世の地獄たるや。
あぁ、早くカノジョ来い……。カノジョが恋しい………。と脳内はそれしか考えることのできない。
五日目の夜、マヨネーズの容器をゴキブリがズリィズリ啜る音で目が覚めた。
…我ながらあのときのオレの行動は恐ろしかった。
空腹という限界を超えて、オレは一種の境地に達していたのかもしれない。
(あぁ、……美味そうだな。ゴキブリ丼ってのも──────)
…結局カノジョと再会することはなかった。
言わずもがな、このバトル・ロワイヤルにぶち込まれた為、会うことなどできないのである。
空腹に苦しめられること七日目の出来事だ。
渋谷というナウい街を、己のプリケツブンブン振り回して歩くこと数分。
フラフラ千鳥足で入った店は『松屋』という飲食店だ。
ビンボー人であるオレは無論、渋谷に来たことなどほとんどない。
したがって、松屋たる店…どんな料理が出て味はどうなのか…と全く予想ができなかったのだが。
…これが半と出るか、丁と出るか………。果たして。
「すみませーん。何でもいいからくださーい」
……………
「?? すみませぇーーん!! じゃあ、味噌汁定食一つーー!!」
……………
「…すみまっせえーーん!!!!!!」
………………………。
オレは虚を突かれた思いをした。
二十四時間営業が看板文句のこの店。
席について待てども待てども、店員の一人すらも来やしない。
渋谷という街の特色から、ある程度常識外れな店とは予想していたが、こんな酷過ぎる接客方針は考えもつかない。
普段温厚なオレだが、すっからかんの腹がフツフツと沸いてくる感覚に襲われてしまった。
「……………」
「……あっ、食べ残しがある……」
仕方ないので、オレは前方カウンター席にある他人の丼を拝借することにした。
先客の食残し……、すなわち数分前までは店員がいた証になるが、いやはやもう少し早く着いてれば……と後悔させられる。
「……………」
-
食べ残しといっても、どんぶりに米粒が十数個張り付いてるだけのものだ。
…ずいぶん育ちの表れた食い方である。
まぁ、その品のない食事のお陰で、オレは晩飯にありつけたのだからあまり文句は言わないこととしよう。
オレはその僅かな米を、一粒一粒手に取っていく。
「…七粒、八粒、九粒、十粒、十一粒、十二粒………」
…ふと見渡したら、テーブル、隣の椅子、壁、床………いたるところに米粒が張り付いていた。
この食残し先客…、もはや山賊の作法である。
久しぶりに、心底ドン引きする感覚を味わった。
だが空腹には敵わない。
飛散した米粒も丁寧に全部手の中へ丸めていく。
「…五十一粒、五十二粒、五十三粒……………」
「…よし」
全部回収した後、手中に握った米粒の軍団──おにぎりをポーンっと口の中に放り込んだ。
……もぐっもぐ。
うむ。サイズは小さいが、ほのかに甘みがありそれがまた美味い。
締めに、どんぶりについたタレをベロベロ舐め回せば、もう空腹から開放だ。
幸腹とまではいかないが、久しぶりにまともな食事にありつけ満足したオレだった。
────ゼイタクは敵だ!!
世のビンボー人諸君同士よ。世間の目なんか気にするなっ!!
これが、0円で外食を堪能するビンボー生活マニュアルなのである…!
まぁともかく。
店を出て、歩きながらわかばに火をつけ吸煙中…。
つかの間の一服を終えたオレは、改めてこの渋谷で何をすべきか思い悩んだ。
…どうやら最後の一人になるまで殺し続けなきゃならないのだが、これはどう為すものだろう。
一応、日雇い派遣で体力仕事をし、懸垂三十回を軽くこなせるオレだ。
タイマン勝負となれば、プロレスラーでない限り殺し切る自身はあるのだが……、相手が集団だったり銃火器を装備していたら話は別である。
ならば、と。強者相手に取り入って腰巾着をやるのも手だが…、上手く立ち回らないと最終的にはオレが殺される羽目となる。
「悩ましい、実に悩ましい……」
思わず、声に出るほど思い詰めるオレだったが。
そんなオレが初めて参加者に出逢ったのはちょうどこのときだったかもしれない。
-
…
……
「あ、僕只野仁人です。…どうかよろしくお願いします…!」
「………………」
「特技は空気を読むこと。……なーんちゃって。あはは…!」
「…………………」
「………。あ………あのー……、コースケさん………、なんとか二人で協力しましょうね…!」
「…………………」
「…………えーと……。こっコースケ…さん………? 何故さっきからスルーを…?」
トサカみたいなアクセサリー以外、特にこれといって特徴のない男子学生と行動することになった。
…こいつはさしずめ『隣の学生』とでも呼ぶことにしよう。
「……………………………………………ども」
-
◆
近頃の文化発展は息もつかせぬ勢いだ。
俗世から離れた生活を送るオレにはとーてい追いつくことなどできない。
「コースケさんも、よかったらどうぞ…!」
隣の学生が渡した紙袋にはたくさんのパンが入っていた。
話を聞くようには、『無人販売店』というノゥ接客のパン屋があるらしく、そこで買ったものらしい。またもや虚を突かれてしまう。
カレーパン、ピロシキ、アンパン、メロンパン……、作り置き感は気がかりだが、ビンボー人の俺にとっては宝物に見えた。
紙袋をバクリッと奪い、俺はあるがままにドカ食いを始めた。
バクバクッ、ガツガツッ
ガツガツッ、モシャモシャ
ハムハムッ、ゴクンっ
「あ、あのコースケさん……僕の分はーー……」
うむ、美味い。
十個ほどあったパンはあっという間に胃袋の中だ。
…実のところ、松屋のおにぎりじゃ腹なんて満たされなかったので、食に飢えていたのである。
改めて、このパンという芸術品を生み出した無名の職人たちに感謝をしたい。
ありがとう……。と。
「…えーー…。残さず全部食べたんですか……。…まぁいいですけども………」
……すぱ、すぱ。
ふはぁーーっ!! どんっ。
食後の一服を嗜みながら、オレは隣の学生と街角を歩き続けた。
夜だというのにネオン光喧しいこの渋谷は、とてつもなく蒸し暑い。
背中やケツが蒸れて仕方なく、行儀悪いことは分かっているがボリボリ掻くことを止むを得ない。
隣の学生の後をただ追ってるだけのオレだが、奴め…。
一体どこを目指して歩いているというのだ。
涼しい喫茶店かなんかに連れてってもらいたいものである。
「…あのー、ところでなんですが……、古見さんっていう女の子見かけませんでしたか?」
「…………………………あっはい」
「えっ?! あのすっごく美人で可愛すぎる女生徒のことですよ! ど、どこにいましたか?!」
「……………………いや……………、………見てない」
「……。ど、どっちなんですかぁ〜…」
「………………………………」
「……まぁいいや……。…古見さんは僕の友達で……、彼女もまた殺し合いの参加者にされてるんですよ──」
「──古見さんはなんというか〜…、一人にさせちゃいけない子でして。だから、彼女探しをしたいんですがーー……、コースケさん協力してくれますかね…?」
「…………………」
「あっ、もしかしてコースケさんも誰かお知り合いが巻き込まれてる…とか? なら、そっちを優先して探しましょうか…!」
「…………………」
-
「…え〜〜〜〜と。その沈黙は『YES』の意味でしょうか? と、とにかく人探しを──…、」
「埴谷雄高の『死霊』みたいですねっっ!!!!!!!!!!!!」
「うおわっ!!??? び、びっくりした…! …コッ、コースケさんいきなり大声どうしたんですか……?!」
「……………いや。殺し合いって、埴谷雄高の死霊三巻のエピソード……みたいだな………………。そう思っただけス………………。ども………」
「は????? は、はぁ………。そ、そうですね…………。ははは……コースケさん…」
…明らかな引き笑いをする隣の学生に内心苛立ちを覚えてしまう。
こっちは探し人なんかいないし、古見とやらも興味がないのだ。
だからオレが文学的教養を交えたブルジョアトークを差し込んでやったというのに…逆に会話が途切れてしまった。
全く愛想のない…、言い方はあれだがガキンチョ野郎なことだ。
「…あっ、コースケさん怒ってますか……? す、すみません………」
「………………………」
謝られたらこちらが悪いみたいになるからやめてほしいものである。
礼儀の知らない学生だことだ。
心底呆れ返った。
パンも平らげたしコイツは用済み…。
もう切り捨て時かな、って思った矢先のことである。
オレらは、新たに第三の『参加者』と出逢った。
「………あっ!──」
「──あのォーー!! 僕達は殺し合いに乗ってないんですーー!!! ですからァーー、」
「「……………あっ」」
目の前にて、徐々に近づいてくるそいつ。
奴は紅一点というべきだろう。
金髪サイドテールの、全体的にムチムチしたメイド女だった。
「嘘だろ……、ま、マジ………? コ、コースケさん…………」
その女は何が不満なのか、ぶすっと仏頂面で可愛げもない。
「ちょ………、コースケさん……」
うーむ。
そいつは『支給武器』をギュイィィィィンンンッと近所迷惑に鳴らす様から…、
さしずめこう呼ぶとしよう。
「コースケさんまずいです!!! 逃げましょうっ!!!!!!」
──『チェーンソーメイド』と俺は奴に名付けた。
ブオンッ
ギュイイィィィィィィィィィィィィイイイイイイイィイィイイイインンンンッッッッ───────!!!!!!!!!!!
-
「ひぃいいやぁぁぁぁぁああああああああああああああっっ!!!!!!!!! 追いかけてきたぁぁぁぁああああああ!!!!!!!!!!」
「…………………っ!!!」
大絶叫は全て只野から────。
殺人鬼女とオレら二人の鬼ごっこが唐突に始まった。
ダッ、ダッ、タタタタタタタタタタタタタタタタ
ギュイィィィィィンという血の気が引く機械音から、オレの脳内では今デスメタルが流れている。
捕まれば命はない…どころで済むならまだマシなくらいだろう…。
腕筋、脚筋、そして肺活量。
全てを最大限に駆使して、オレは全力で逃げた!
松屋、コンビニ、わけわからん店……、歩いてきた通りにある店が一瞬で流れていく。
はぁ……、はぁ………ぐっ………。
走って数秒も経たないというのに、凄まじい息苦しさと吐き気で悶える。
…捕まったら終わりという『命の危機』が、身体を無駄に苦しめてくるのだろう。
ブオン、ブオン
ギュイイィィィィィィィィィィィィイイイイイイイィイィイイイインンンンッッッッ
背後から迫る切り裂きの魔が、徐々に大きく耳に伝わる。
これだけ全力疾走しているというのに、チェーンソーメイドは確実に距離を縮めているのだ…!
男女の差というのは顕著に現れるものなのだが、ヤツは一体………?!
「はぁ…! はぁ…!! がはっ……! ひぃぃいぃいぃいぃー!!!!!」
それよりも、驚きなのは隣の学生の体力だった。
奴もまた華奢な体の割には、肉体派であるオレのスピードにピッタリついてきている。
火事場の馬鹿力…というやつか。
それとも普段オレがぐーたらしているツケが来たというのか。
タタタタタタタタ、タタ、タタ、タ…ギュイイィィィィィィィィィィィィイイイイイイイィイィイイイインンンンッッッッ
…どちらにせよ、このまま並走していたら追いつかれた際共倒れになるだろう。
なんとか。
なんとか生き抜く術を編み出さねば……。この一瞬で…!
「はぁはぁはぁ……、ごっ、ゴースゲさん…!! ま、曲がり角……!! まっすぐ先は曲がり角れすっ……!!!! ひぃはぁはぁ…!!」
「………………ハァ……、そ、それが……なん…スカ………。ハァ…」
「ふっ、二手に分かれまじょうっ…!!! このままでは……はぁはぁ……、二人揃って終わりで…げほっ………!! ……ですっ!!!」
「………………………!! …はぁ、はぁ」
こやつ…。
頭が回らなそうな凡人かと思いきや、オレと同じく共倒れのケースを考えていた。
何たるシンクロっぷりに驚かされたが、同時に関心もした。
ただ、だ。
隣の学生は「二手に分かれよう」などと提案したが、一番最悪のパターンを考えた場合だ。
分かれた先、チェーンソーメイドがどちらを追うか悩んだ末……、片方が助かる一方で犠牲になるヤツもいる。
…隣の学生が今、「僕は右を曲がるんでコースケさんは反対を〜」だのごちゃごちゃ喋ったが、ならもしメイドが左を曲がった場合どうなんだ?
オレが追いつかれて殺される結果だろう?!
生き残る確率はフィフティーフィフティーで一見高そうだが、打率5割が18打数9安打と考えると全く高くない。──たった9安打分しか可能性がないのだ。
そんな生きるか死ぬか運次第の提案を、こいつはしやがってきた……。
-
「はぁはぁはぁ……、がっ、はぁはぁはぁ……!!! コ、コースケさん…! 命運を祈りますよっ……!!!! はぁはぁ…!」
…そう考えるとだ。
俺は『100%』生き残りたい。
絶対に逃げ抜きたい。
第一、チェーンソーメイドがオレに標準を狙ってきた場合…、こんなごみのような学生の為に命を捨てたくない。
ギュイイィィィィィィィィィィィィイイイイイイイィイィイイイインンンンッッッッ
曲がり角まであと四メートルばかり。
「コースケさん…はぁはぁ、あとで…会いましょう!! ぜ、絶っ対…!!!」
呼吸乱れる学生はこちらに顔を向け、ファイト!!のエールを飛ばしてきたが……、
────オレはそうはいかんぞっ…。
「……………………ハァハァ」
隣の学生に近寄ったオレは、爆発しそうな肺を堪えながら必死に手を伸ばす。
手を伸ばした先は、学生の首。
──厳密に言えば喉仏だ。
飛び出ている小さなそれを、ギュッと二本指で摘むと…、
「…………っ??!!! ゴッ、ゴースゲさ……、」
そのままぎゅいぃぃ〜〜〜っと上にねじり上げた後、カシュッ────と潰した。
「っっぐっげっっっっっっッ」
指の圧であっさり砕け、ほろほろした感触が残る喉の骨。
…そういえば、小さい頃親父が食わせてくれたブタのノドナンコツ。
炭火焼にしたそいつを塩で食うのが最高だった……。
子供の頃はあんなにでかかった親父の背中はいつの間にか小さくなり、今では墓前で一言も話せない。
…これが終わったら、ノドナンコツをお供えに墓参りでもしようと。俺は決意した……─────。
「☆▽✕◇▽▲○◀▲✻△〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!!!!!!?」
俺の視界からフェードアウト…、そして倒れる音と共に奇妙な叫び声をあげる学生。
…すまない、だがお前の態度もかなり悪かったと個人的に思うぞ。
まぁ、これも『ギブアンドテイク』ってことでご容赦してくれ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【ギブ・アンド・テイク】…とは。
コースケ→テイク・アンド・テイク
隣の学生→ギブ・アンド・ギブ
二人合わせてギブアンドテイクという精神なのだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
-
ブオン…ブイン…
…ギュイイィィィィィィィィィィィィイイイイイイイ……………
右に曲がって、走ること数分。
徐々に、遠ざかっていくチェーンソーの音に心が安堵していく。
ふぅ…、疲れた……。疲れすぎた……。
「ハァハァ…………、ハァ……、フハァーー………」ドンッ
…しかし、間接的に未成年の子供を犠牲にしたのもまた事実だ。
オレは意図せずして、殺し合いに乗ってしまったのだ…。
この町中で居心地の悪さを感じながら、渋谷での過ごし方をどう考えたらいいのかオレは自問し続けた。
【1日目/D4/街/AM.02:30】
【コースケ@大東京ビンボー生活マニュアル】
【状態】疲労(軽)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【優勝狙い】
1:隣の学生(只野)が気の毒だ
2:チェンソーメイド(早坂)に警戒
3:何としてでも絶対生き残る
-
◆
「………死んでる…」
殺すつもりで追いかけた男二人組。
最低どちらか片方でも…、とチェーンを焚き上げた矢先、片方の男が転倒した。
いや、転倒というより突然苦しみだしたというか。
打ち上げられた魚のようにビタンッビタンともがく彼は、数秒後。
真っ白な目をひん向いて涎を垂らしながら…動かなくなった。
喉を引き千切らんとばかりに抑えて。ぐったりと。
おでこの膨れ上がった青筋と、白目にて亀裂のように走る血管が、彼の苦しみを物語る。
この制服…、私には見覚えがある。
恋ちゃんと同じ伊丹高校の男子制服だった。
「…誰だか存じませんが……、お悔やみ申し上げますね。一応…」
彼が何故突然死して、そもそも名前すら知らないのだが。
私は手を合わせて鎮魂を祈った。
同時に、彼はこんなことで片付けられるべき人物ではないのでは…?と何故だか思ってしまう。
…何故だろう。本当に。
【只野仁人@古見さんは、コミュ症です。 死亡確認】
【残り68人】
【1日目/D3/街/AM.02:30】
【早坂愛@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】健康
【装備】チェンソー
【道具】???
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象︰四宮かぐや】
1:かぐや様、古見硝子以外の皆殺し(主催者の利根川含む)
※:マーダー側の参加者とは協力したい
→同盟:山井恋
2:かぐやとのいち早い合流
-
投下終了です
次回マルタ、大野昌でお送りします
-
[登場人物] [[マリア・マルタ・クウネル・グロソ]]、[[大野晶]]
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『汝。撃って良いのは、自分も撃たれる覚悟ある者のみに限る。覚悟の無き者は即ち、か弱き。か弱いことは決して卑下することではない。穏やかな人生を送ることは、立派なのだ。』
…かの有名なバーバラ・クーニー著の一節から抜粋です。
どんな不可抗力的困難がたちはばかろうとも、絶対に殺人という手段は使わず、穏便に生きろという意。
その文章を読んだとき、私は「……当たり前のことでは??」と半分嘲てしまったのですが、この現状下では深く身に染み渡るのです。
「…殺し合い………」
「トネガワさん……。悪いですが、私は絶対に人を殺しませんよ……………! 絶対に!」
水色のバリアーに塞がれし、星空の下。
バーバラ・クーニーのお言葉がふと脳裏に蘇った私は、断固として『不殺』を決意するのでした──!!
…申し遅れました。
私はポルトガルからの留学生。
周囲の人達からは『マルタ』と呼ばれています。
異国人である以外、これといって戦闘力のないごく普通のグ〜タラ女子な私ですが、今回はあるとんでもない女の子とのお話を一つ。
ゲームセンターで出会った不思議な子の話を、紹介させて頂きます………。
-
◆
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!! おいしーっ!!!!!」
カルカッサ Carcaçaは、母国ポルトガルの伝統的なパン料理。
生地に軽く炒ったピーナッツやカシューナッツを練り込み、糖バターとジンジャーシュガーで甘く味付けたパンなのですが………これがすごいいけるいけるっ!
ふわふわなパンを噛めば広がるバターのコク。
そして、ほんのり優しい甘みがナッツの食感とプラスされ、これにミルクティーが添えてあったら……と深夜なのに食が止まりません。
アンパンサイズのそれをペロリと胃に入れた私は、後はベンチで熟睡するまででした………。
「……と、いつもならここで終わるところをさにあらず………」
ガ〜〜ン……。
ショックです…。
…いや、もうショックだなんてかわいい言葉では済まされないでしょう。
今はバトル・ロワイアルという非常下。
血糖値上昇に伴う睡眠は命取りなのでした……。
バトル・ロワイアル…といえば、このカルカッサもいわゆる『支給品』の一つ。
…というより、『支給武器』なのでしょうか。
私に渡されたデイバッグには、これと参加者名簿しか入ってなかったのですから、パンを入れてた『袋』でなんとか殺せ…という意図なんだと思います。
…いやはや、袋で人を殺せとは………。
レジ袋サイズなら窒息死とかいけそうですが、こんな小さいポリエチレンで一体何ができると言うんですかね……?
頭がギュ〜っと鈍くつままれた気分です。
……あっ、断じて私は人殺しなんかしないですけどねっ?!!
…しかし、
殺しはせぬとも死ぬ気は全くない私。
これから、どう動いて、誰に何をするべきか……。
人生最大級の危機だというのに、なんだか頭の働き具合が悪い今ですが……、無理矢理にでも考えるのでした。
「……はぁ〜〜………」
「……………」
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ………」
「ん〜〜〜〜〜………、ん〜〜? …んん……、んんっ??? ………う〜ん………」
「………………うーん」
「………美緒子ちゃん、私が留守で心配とかしてないでしょうカ…………」
…う〜〜〜〜〜〜む。
頭の調子が尋常じゃなく悪いようで、考えても考えても最善策なんか捻り出すらありませんでした……。
こんな時に限って、別のことが頭に過ってしまう私……。…これは深夜帯という時間のせいでしょうかね?
…もしも。
仮定で、私が住むアパートの皆がこれに参戦させられたとした…です。
彼女らは、一体どういう行動をするのでしょうか。
例えば、<医者の神永さんのケース Case>なら……。
…
「…殺し合いぃ〜? んなもんシラフだから神妙に感じるんだよ!」
「酒のんでパーっとなれば殺人も遊びでできちまうのさ。ほら、岡本太郎が言っただろ? 『芸術は殺人だッ』って…アーハッハッハハハ!!!」
「……とか言うんでしょうねぇ〜。って、それじゃマズイマズイッ!!!!」
…失礼。
私の猿真似を交えての、Case紹介といきます。
-
…えーと、じゃあ……、<関西人の由香さんのケース>ならば……。
…
「…なんやねん! 殺し合いって!! アホンダラ言うで!」
「言っとくがうちは絶対人殺さんからなっ!! お天道様の元歩かれへんさかい!!」
「…え? なに?? 優勝したらなんでも願い叶えるって???」
「…………」
「…ほなら話は別やん?!! うちも優勝して、タイガースの福留の成績良うしてって言いますわ!!」
「今年こそ阪神優勝やでー!! なはははーー…………って、これもヤバいじゃないですかァァーー!!!!!」
…あの二人なら後先考えず暴力に走るであろう、そのことに寒気がしました……。
別の意味で、神永さんたちがこの場にいないことを感謝します…。
となると……。
残すところは、由理恵さんと美緒子ちゃんになりますがー。
美緒子ちゃん…の……場合だとすると……
…
「…殺し合いって……。言ってしまえばかなりイカれてますけど…、自分もイカれるべきかと問われりゃ違うわけで…」
「大事なのは周りを見ることだと思います」
「…あのバスの中で、何人小さい子たちがいたか……。子供たちを守り、そして人として正しい示しを見せるのが、我々大人の役割でしょうからね……。みたいな………」
「………うぅっ……!! うわぁあぁん!!! 美緒子ちゃんならそれ言いそう!!! というか人として凄すぎますヨ!!! 美緒子ちゃーん!!!」
…あくまで私の想定上の美緒子ちゃんですが。
いやしかし、彼女は絶対にこの理念の元揺るがず動くのでしょう……。
損得抜きに子供たちを助け、道を誤った者から身を挺して守り抜く……。
理想的行動です……っ!!
…となれば、ですよ……?
「私も考えてる暇があれば、美緒子ちゃんを手本に助けに行くまでデス!!(あくまで想定上の美緒子ry)」
「…よしっ!! 行きましょう!!」
早速ベンチを立ち上がった私は、余った一つのカルカッサを片手に、眼前の施設へと歩き出しました…!
参加者たちの初期位置は恐らくランダム配置…。
ということは、この二階建ての施設内にも誰か子供がいるかもしれません。
アスファルトから伸びる階段を登れば、…不良の溜まり場でお馴染み──ゲームセンター。
一方、その下は大型百均ショップという構造になっていますが……、どちらから先に入るべきか………。
…なんとなく、子供はゲームセンターのイメージですが、この選択。
一歩間違えれば『死』の可能性があるので、侮れません。
…一体どちらを選べば……………?
「…って考えてる暇はないでしょう私!! 二階にしましょう! 二階に!!」
というわけで、今私は階段をズカズカ走り登っています。
…もっとも、ゲームセンターに行き先を定めた理由は入口前の自販機に目を奪われてしまった………、だなんて情けない話ではありますがね。
タン、タン、タン、タタタ……
「はぁ、はぁ……。よし!!」
階段を登り、真っ先に入る透明の自動ドア。
ウィーンって自動開放され、息が切れる中くぐり抜けると、私は大声で叫びました。
-
「おーい!!! 誰かいませんカァーー?! 私は殺しに乗ってませーーん!!! 助けに来ましたぁーー!!!!」
「……って……………」
「……………え?」
ゲーセン内にはいました、いました。
黒髪ロングで、お人形さんのような完璧な容姿の女の子が。
私を待っていたかのように子供がいたのです。
「…………なんですか…………、これは…………」
ただ、寒気がしました。
このゲームセンター内は、まるで戦場跡のように。
至る所、配線がバチバチッと。
筐体、壁、床………。全てが穴凹まみれだったのでした………。
-
◆
テンポの良い電波ソングが響く中、少女は右足を光る床にタイミングよく。
タッ────と。
「…………………………………」
音楽がズンズンとサビに乗り、画面上の光のスピードも速くなる。
少女の繰り出したアクションは、くるりと横に一回転ジャンプ…!
「…………………………………」
宙を舞い、スカートと黒いセーラー服がヒラヒラなびく。
ロングスカートにも関わらずギリギリ見えるか見えないか、というぐらい風を受け入れてましたが、床の一部分が光り輝いた瞬間、彼女はその部分へ着地。
両足を広げ、ターーンッ────と!!
「………………………………」
汗の玉水が飛んだ中、少女は着地後不動の姿勢…。
電波ソングが鳴り止むと、画面上には、
『Game Clear!!』
『Highscore!!!! 658,347』
『Rank 1──『OON』 658,347』
『Rank 2──『TSF』 425,368』
『Rank 2──『UMR』 425,000』
の文字が……。
「………………………………」
その記録を前に、彼女は誇らしいのか興味がないのか…。
無表情でただ眺めるだけでしたから、何を考えているのか皆目検討がつきません。
私、マルタは、ゲームセンターにて。
体感型リズムゲーム『Dance Dance Revolution』を踊る少女に遭遇したのです………────。
…見事に争い跡を残した、この瓦礫同然のゲームセンターで、です。
「あ、あの〜〜…………………」
「………………………………」
「………………っ…」
「………………………………」
ゲームをクリアーした少女──OON……おおの…ちゃん? と目が合うこと数十秒。
思考がパンクした私と、大野ちゃんとで無言の両者向顔となりました…。
一切思考が読めないその真顔……。
目があった時点で、何か話しかけてくるだろなぁ…、と思ってましたが、口は全く開かず。
正直、すごい怖かったです。
大野ちゃんも…。
──何よりこの破壊されきったゲーム環境も……っ!
第三者が激闘の末、荒らしきったのでしょうか。
…しかし、それにしては少女の気にも止めない態度が妙に不自然……。
なら………。この悲惨な破壊活動は……。
もしかして、こんな小さい女の子の……仕業……………?
-
「……あのー……、き、キミ……………」
「って………、あっ………!!」
そんな大野ちゃんは突如として何を考えたか。
私をスルーすると、今度は次の筐体へ移動し始めたのです。
彼女が前に立ったのは、『ソニックブラストマン』という大型ゲーム。
ダンレボと同じく体感型のアーケードゲームで、そして同じくこの砕け切ったゲームセンターで唯一生きているゲームでした。
「………………………………」
…私自身子どもは大好きな方ですが、大野ちゃんは…なんだろう……。
まるで、アダムスファミリーのウェンズデーみたいな見た目不相応のミステリーさ、暗黙さがあり、どう対応すべきか分かりません。
そんな彼女は百円玉を筐体に入れると、画面をギュッと凝視。
『ソニックブラストマーン!』
『私のパンチを受けてみろっ!!』
画面から16bitの敵が、掛け声と共に映し出されました。
「………お、大野……ちゃん…………?」
ちなみに、このソニックブラストマンは聞きかじったところに拠ると、自身のパンチ力を計測するゲームらしく。
──要するに、画面前のミットをリアルに殴ることで、その殴力によってゲーム内の強敵が倒れていく…という体感型ゲームなのですが……。(『ドラゴンボール』 鳥山明著の武闘会に似たようなヤツが出てきます)
パンチの合図が出て、ニューっと挑発するかのように青ミットが起き上がった。その時。
──一瞬ですが、大野ちゃんの目に炎が宿った錯覚が見えました。
ギリっと奥歯を噛み、
そして無表情をベースのまま、目を力ませ、
右足を退け、握り拳を引く。
オープンスタンスを取った大野ちゃんは、ミットへと吸い込まれるように────…。
ダガアァアァッ!!!!!!
「………パンチっ────?!」
まるでサイの追突です…………!
鋭い拳が一瞬にして風を切ったかと思えば、受け止めたミットはなんとぶっ飛び!!!────そのまま、画面へガシャアアァァァァァンンッと大破!!!!!
ドガァアァァァッ!!!!!
「……キックっ────!?!」
画面がブラックアウトするのも束の間……。
間髪入れず、と。大野ちゃんは神速にミットへ飛び込み、タイツ包みの左足を突き出します!!!
…形容するのも難しい破壊音と共に、液晶のガラスが宙を舞う……。
衝撃で微かに揺れる太ももと、長い髪の毛。
このとき、私の視覚は、宙浮くガラス片と彼女をスローモーションに見えたのです…。
そして……─────…とどめの一発でした。
(↓↘→+P)
「……………………………ッ」
-
ドッ、
バッグァァァァァァァァァァァァ────ッッッ!!!!!!
「……え?! 今…手から『青い炎』を出したっ??!!」
衝撃としか言いようがありません…。
掌を交差させた彼女……、僅かの間溜めた後手から放ったのは……、青白い衝撃波でした……!!!
かめはめ波のようなソイツは、ビームとしてズタボロのミット兼画面に吸い込まれると……
パァンッ──────。
鼓膜を刺激する爆破音と共に、周囲のガラクタゲーム機同然の姿となってしまいました……。
「…………………あが………………がっ…………」
スタッ
「ひぃっ!!!!」
恥ずかしいことに着地音だけで、情けない声が出てしまいます…。
わけがわかりませんでした…。
あんな小柄で、暴力とは全く無縁そうな女の子が………、この惨状。
何故、こんな馬鹿力……?──いや、もはや力強いとかそんなレベルを超えている……!
何故、こんな破壊活動をする………?
彼女は何者……………??
脳が眼の前の光景を拒否し、思考停止で立ち尽くす中………。
心臓だけはバクンバクンッと「逃げろ」のサインを送り続けます……!
疑似金縛りで動けなくなる私。
必然的に炎眺める少女を凝視する形になっていますが…、
それゆえに、振り向いた彼女と目がガッチリ合ってしまいました……!
「………………………………」
「………ちょ、ちょっと」
「………………………………──」
「──………………………………(くいっ」
ひっ…!!!としか声が出ません。
少女は首をクイっと────こちらに来いって言ってきたのです。
この一連の破壊を見せつけて、彼女は次に何をするか。
……分かっています……。
分かっていますが、言葉に出すのは恐ろしく……、身震いで全身汗だくです。
私は一体、どうしたらいいのか……。
まるで死刑執行最中、十三階段を登る囚人のように。
恐る恐るですが、私は一歩ずつ彼女の下へ、足を震わせるのでした………。
-
◆
…だなーんて、恐れ入っていたら……。
話してみるとどうやら大野晶ちゃん。
私と仲間になって、主催者を倒したいようで〜。
「………………………………(もがーっ」
「………………………………〜!!!(bグッ!」
カルカッサをあげたら、美味しく頬張ってくれました☆ ほっ…☆
【1日目/H8/商業施設/2F/ゲームセンター『あらし』/AM.00:30】
【マリア・マルタ・クウネル・グロソ@くーねるまるた】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【対主催】
1:大野ちゃんと行動
2:子供たちを悪い大人から守る
【大野晶@HI SCORE GIRL】
【状態】疲労(軽)、満腹
【装備】なし
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:マルタと行動
2:………………………………。
※大野昌は出典作品特権で『リュウ@スト2』の一連の技を使えるようになりました。
※H8・ゲームセンター内部はズタボロに崩壊しました。
-
次回「相場」か「カモ、三蔵、ミコ」でお送りします
-
[登場人物] [[相場晄]]
-
小さい頃の俺は怖い物知らずだったな。
いや別に、親譲りの無鉄砲で〜って坊っちゃんみたいな語り口するつもりはないぞ。
ただ、今思えば、さ。
本当に怖いものがなかったなぁ、って振り返ってるわけだ。
だから、当時の俺はとにかく『死体』を撮るのが趣味だった。
…おい、引いたりすんなよ。あくまでガキの頃なんだからさ。
日曜夕方にやってるアニメに出てくる父親キャラがカメラ好きなやつでさ、そいつに影響されて買いせがんだんだ。
あのときはメモリも気にせず色々撮ったな。
セミの死骸、ゴキブリの死骸、アリがたかった芋虫の死骸、ドブネズミの死骸、下校中の女子生徒、モグラの死体、炎天下で、シカの死体、死肉、蛆虫の大群、とろけた目玉、へしゃげた脚。そして、親戚のお姉さんの亡骸…。
…恐ろしいよな、ガキの頃は。
無邪気だったんだから。
成長した今改めてゾッとさせられるってのはよくある話だ。
だけどもあのときは倫理観なんか教えられてないから、葬式中なんで母さんが平謝りしてたのか分からなくて。
ぼーっとふすまから覗いていた。
そして、その無邪気さが原因で俺は猛烈に嫌な体験をしちまった。
写真を、見られたんだよ。
クラスメイトの…なんだっけ、名前忘れたわ。
まぁいいやこんなやつ。
ともかく、そいつに「気持ち悪っ」だの「病気じゃん」って好き放題言われて、数日もしない内にクラス中で変人扱いされた。うん、俺が。
今思えば、俺にも僅かばかり非はあんだが、あのときはもう怒りと屈辱に駆られてまともな思考なんかできなかった。
なにせ、あの日以来俺が席を立っただけで女共や隅っこにいる奴らがジロジロ見てくるようになったんだぜ。
ジロジロジロジロ…。
あ?なんだよ。俺が何かすると思ってんのか?
お前らなんか興味ないつーのに、なに歩いただけで「ヤバいことしてる〜…」みたいに見てくんだ?あ?
…的な鬱屈した気持ちで、四六時中はち切れそうになっていた。
だから、あの…言いふらしたあいつを…あぁ、名前思い出した。岡本だ。
岡本が飼い犬と散歩してるのを見た時、すっげえ胸がスカッとしたね。
うっしゃ。復讐のチャンスじゃん!って。
早速、コンビニに入った隙を見て、リードを無理やり引っ張ってよ。部屋にブチ込んだわ。
え? お前は何をやろうとしたんだ、って?
んなもん、お前さぁ…。ま、拷問だよ。
…いやだから引くなって。若かりしの過ちなんだよ。過ち。
それに拷問つっても軽度だから。軽いんだよ。
とりあえず毛だらけの顔とか背中、腹の皮を紙やすりで真っ赤に削って…、あとは面倒くさくなったから口を鉄線で縛って押し入れに放置…的な。
拷問っていざやるとなると分かんねえもんだったんだな、って。
ギャンギャン鳴いててうるせえし、二度とやらないと決めたわ。
まあそれでも岡本がすげえ落ち込んだの見たときはスカッとしたけどな。
マジざまぁって。
くっしゃくしゃな顔してよ、気持ち悪いのはどっちかなぁ〜?とか煽ったわ。マジ。
…ごめん、これはさすがに嘘。
で、数週間したくらいかな。
押し入れがバカ臭くなったから「あっやべ。忘れてた」ってなって。
恐る恐る開いてみたら、もう…、ありゃバイオハザードだよ。
俺的には白骨化とか想定してたが、出てきたのは全身赤黒い肉の塊。
肉の塊つっても、目とか耳、足…つか基本は犬の原型留めてたから、俺…顔がブルー入っちまって。
コバエがぶんぶん五月蝿いのも度肝を抜かれたが、何よりやべえのが体中にリンパ腺…みたいな?
黄色い膿の塊が大小ぷくぷく膨らんでて、特に顔中ニキビみてえにそれが集合してたのがもうやばかった。
鼻穴からも黄色もん流れてたし、あれは見ちゃダメなヤツだわ。
とりあえず、仕方ないからその化け物を岡本ん家の玄関にクーリングオフしといた。
キャッチアンドリリース的な、ね。
まぁ化け物つっても生きてねーんだけど。って当たり前か。
そしたら、岡本のやつあのばっちいもんを抱いてワンサカ泣いて、
近所迷惑だろ。非常識が。とか思うくらい喚いてたんだが、夜ぐらいにあいつは物置のとこで首吊った。
…悪い、話唐突だわな。
ま、これにてあいつはおサラバしたわけよ。双眼鏡通して観察してたが妙な哀しさを覚えちまったな。
これで俺の復讐は実質終わったわけだが、一つ疑問が新たに浮かんだんだ。
あんさぁ…岡本ってなんで首吊りしたと思う?
V系のなんかのバンドが吊りながらオナって事故死…みたいなんは雑誌で見たことあるが、要は死ぬわけじゃん?頸動脈縮まんだからよ。
なんでそんな損しかしないことしたのか、俺はマジ理解できなかったわけよ。
-
だから、俺も吊ったわけだわ。ロープ持って。
三島ゆりっていう当時ガチ惚れしてたツインテの家の前でさ、クソ深夜に。
ものは試しって精神でな。
台に登って、ロープに首をかけ、さっさと台を蹴り飛ばす。
岡本がやったやり方まんまに忠実再現したんだよ。
そしたら、ほんとすっげえ苦しかった。
いや苦しいってレベルじゃねえ。
もう全身パニックみたいになって、汗はガンガン出るし、手足は操られたみたいにジタバタしやがるし、何よりこの状況なのに、馬鹿みてえに陰部が痛くなってきて恐ろしかった。
全身から唾液が馬鹿みたいに出て、頭も痛くなって、炎みたいな変なのまで見え始めて。
俺、死ぬ、の…か。ってな。
ロープがぶち切れた時、もう喘息みたいに咳を吐き散らしたし、我慢できなくて内容物もぶち撒けたわ。
あっ、忘れてたけどここ三島ん家じゃん。って。
そんな呑気なこと考えれるようになったのは、まじで数十分間休んだあとだったよ。
あのときの、今際に視えた『あれ』だけは忘れられない。
あれが死なんだって。小六にして知っちまったんだ、俺は。
それ以来、俺は『死』がすごく怖くなって今でも克服なんかできていない。
死だけが、俺の怖いものなんだ。
って、それだけの話。
俺の思考を盗聴ご苦労さん。
…そんなことできる奴がいると仮定して、脳内で語ってみたわ。以上。
「んじゃ、野咲のじいちゃんさぁ。もう、死のっか?」
ゴスッ────────────────。
-
◆
相場 晄。
少年が参加者に初遭遇したのは、きらびやかな街の灯を彷徨い続けて数十分した頃だった。
「あっ…………」
「…スリーピング…ビューティー………!」
彼が思わず声を漏らした先は、ベンチで目を閉じ横になっている──彼女。
片膝を折り仰向けで、両の掌を青いベンチにつけた寝姿勢。
身動きは一つも取らず、その瞼はどこまでも重たそうに閉じきっていた。
「おい、起きろ。起きろって」
今いる場所はバス停。
真上の電灯がバチバチ…と点いたり消えたりを繰り返す中、相場は彼女の脇腹付近を手で抑え、揺さぶり始める。
ところどころはだける少女のセーラー服。
この紺色の女学生服は、相場の学校生活において非常に見慣れきったものだった。
「起きろつってんだろ。おい。寝てる暇はねんだよ。起きろ、起きろっ」
彼女──は、相場からしたらただのクラスメイト。
別に友達でも、恋仲でもない。
卒業したらもう二度と交流することなんてないだろう、ただの有象無象な同級生に過ぎなかった。
もっとも、好意はあるかないかで言ったら『ある』に傾いている。
小学校時代、授業中三島ゆりと抱き合わせでいやらしく眺めていたのだから、思い入れはある女子とは言えるだろう。
「…起きろつってんだろ……」
そんな恋も中学で冷めきった理由──。
それは相場が黒髪ストレートな女の子がタイプだったから、という単純なものだ。
進級と同時に、金髪に染めた彼女。
そのヘアーカラーは、鬼畜的性欲を持つ相場を萎えさせるには効果的面だったという────。
「起きろつってんだろうがッ!! 小黒がアアァーッ!!!」
相場晄が最初に出会った人物は、『死体』だった。
ゴスッ
握り拳に力が入ったかと思えば、相場は右フックを妙子の頬にぶちかました。
いつまでも起きやしない『拒絶反応』と、日頃の個人的恨み兼怒りから成される、文字通りの叩き起こし。
彼女の顔は軽く傾き、騒がしい音と声が打たれた頬の火照りにひりつくように響く。
その容赦無い力からか、妙子の白かった頬には軽いかすり傷が生じていた。
「小黒ッ!! なに寝てんだァ?! 覚ませやっ!!!」
ガスッ
──グチュッ…
続けざまにもう一発。
無反応の妙子に怒りが収まらぬ相場は、反対の拳を小さな鼻に目掛けて打ち込む。
ビクンッと。彼女の両穴から血が流水のようにサラサラ溢れ出てきた。
「ハァ…ハァ……ハァア……ッ!!」
それでも妙子は一切反応を見せようとしない。
見せれるはずがなかった。
今ある彼女は、かつて妙子だった『物』に過ぎない。
抜け殻に、痛みや苦痛、相場を煩わしく感じる気持ちなどあるわけないのだから。
妙子にとって致命傷となった右胸の刺し傷。
ただ、それはたった一つの傷な上に、出血もセーラー服の暗い色と真っ暗闇の深夜帯が原因で目立たず。
-
「ハァ…、ハァ………。なに、」
「なに、死んでんだよ……。ハァア……」
相場が死体だと気付いたのは二発も外傷をつけてからだった。
「………知らなかった。悪い。…怒り過ぎたよ」
二発目の殴打の影響で半開きになった白目を、そっと手で閉じさせる。
相場自身、人生で数えるくらいしか遭遇しなかった人間の死。
やはり何か思うことがあったのだろうか。
掌にちょびりとついた血痕を眺めながら、数分間ただ立ち尽くすだけだった。
「……………………」
「……、」
「…野咲の、さ…」
暫くの沈黙を、相場自身で唐突に破る。
その、語り口調。
もう二度と起きることなんてない少女に向かって、相場は話しかけ始めた。
「前にさ…、火事あったじゃんかよ。野咲の、家で……。あのとき俺いたんだわ。現場にな」
「すごいバチバチ火の粉が飛んでてさ、中なんかもう息するのもやっとなくらいで……。あの熱さの中で生き永らえた…祥子ちゃんはほんとに苦痛だったと思う…」
「あっ、妹ね。野咲の。…お前は知らねえだろうから、よ」
口調は、内容を表す通り暗く重たいトーンで。
だが、どこかわざとらしさもあるそんな表情を相場はしていた。
どうにせよ、相場晄という男は死体を相手にフレンドリーな会話をし続ける。
その、あまりにも一方的な会話を。
「火中で、不謹慎かもしれないけど……。感動したんだ……」
「あの勇姿、あれだけは絶対に後世へ残さなくては、って。カメラマンの性ってやつでさ。夢中で撮りまくったよ」
「野咲の親父さんが、祥子ちゃんを庇ってたんだ…っ。燃えないよう身を挺して…! なぁ? 有り得ないだろ? 自分は火達磨だっていうのに、熱さに…熱さに耐え続けてたんだよ…っ!! 親父さん!!」
「…俺が来たときには既に炭状態になってて、人間って燃やしたらこんな臭えんだ…って思ったよ。…けど」
「あれぞ、父親の鑑だと思う…! お前は女だから分からないだろうが、あれこそ漢の理想図なんだ、って!! 素晴らしかった、もう…」
話が父親の内容に差し掛かった途端、相場の様子は目に見えて豹変していた。
ワナワナと声は震えるも、鼻息荒く、興奮しながら熱弁を振るう。
きっと彼にとっては、話していてとても愉快な話題なのだろう。
妙子と対面しながら、相場はふと、デイバッグから物を取り出す。
彼が取り出した物は黒光りで、手のひらサイズのいわば『支給武器』。
おもむろにそいつを両手で構える相場。
『支給武器』が標準を向ける先は、やっと鼻血の勢いが止まった妙子へ。
「そんなお父さんの写真を、いつか道徳の授業で皆に見びらかしたかったんだ。俺は…」
相場は躊躇なく『武器』のスイッチを押した。
────カシャッ。
-
ジー…、
ガガガッガガガ………。
「それに比べて小黒。なんだあ? お前の死に様はよ…? グーグー寝たみてえに……、情けねんだよ」
閃光の後、『支給武器』から印刷され出てくる一枚の写真。
そいつをペラペラ…と数回振り、続けざまに相場は妙子へ毒づいた。
写真には、無論。鼻血を流してぐったり横たわる少女の姿。
相場は、写真内の死体に対して侮辱の言葉を吐き出したような様子だった。
「ったく、馬鹿みてえ、だな………。小黒……」
口では侮蔑を続けていたが、相場は妙子の死体写真を、実に名残惜しそうに、暫く鑑賞していた。
小黒妙子。彼女は自分の気持ちを素直に表せない性格だった。
それと、惹きつけ合ったとでもいうのか。
相場もまた、彼女に対して表面上、冷たい言葉しか送れず、その最後の別れを終えるのであった。
「…………」
「……行かなきゃ、な。もう」
十五分ほどして、相場は写真をポケットにしまい込む。
ガサガサ…と。ポケット内には『写真』が何枚もあることが確認できる。
さしずめ、妙子はコレクションの仲間入り、か。
そんな写真たちを手で適当に混ぜながら、相場は歩き出した。
もうこのバス停には用はないし、目ざといものなど見当たらない。
「…あばよ……」
たった一人、小黒だけが取り残される。
彼はデイバッグを持ち直すと、その場を後にした。
「………」
かに思われた。
バス停を出る途中、最後の一歩のとき、何となく振り返る。
未練たらしくも、当然妙子の死体を一目したが、網膜がハッキリ捉えたのは、彼女のある一部分だった。
「………………」
下心があったつもりはなかった。
ただ、偶然にも見えてしまっただけだった。
「……小黒……、…」
妙子の右脚。
革靴が純白な靴下を、靴下が足首を隠す。
健康的だった白い太もも──、相場が見てしまったのは尻付近の、スカートでははだけて隠しきれなかったパンツのレースだった。
死体。とはいえ、心停止しているだけで限りなく生きた人間に近い死体だ。
薄い水色のソレを目に焼き付けてしまった相場。
普段は冷静かつ温厚な彼も、一概の思春期の学生。
-
「い、いいち、一応……だ……。一応……」
ジワジワジワジワと煮えたぎってくる欲情を制御することなどできなかった。
頬をかきながら、元いたバス停へ一歩、二歩三歩四歩…足早に引き返していく。
「一応、検死しなきゃな…。小黒の名誉の為に…………っ!」
妙子の前まで歩み寄った相場は、たまたま落ちていたハサミを手にすると、大胆にもセーラー服を切り刻み始めた。
ヘソの上から首元にかけて纏うその衣服を、スルスルーと裁断していく。
「……た、ったく。…ったく…よ…!」
クリスマスプレゼントを毟し開けるガキのようにセーラー服を剥ぎ取ると、露わになったのは一部分真っ赤になった白いシャツ。
ベタベタと、赤く侵食。
じんわりどす黒くなった部分は、触ってみたくなるくらい膨らみがかかっていた。
ここまで来ると、もう面倒臭くなったのか。
相場はハサミを使わず腕力で強引にシャツ、そしてブラジャーを一緒に引き千切る。
「…はぁ……ぁ………………、うりゃっ!!!」
首元のシャツに指を入れ、力を入れ続けること数秒。
バチッ──ビリビリビリビリィ──────
と、いとも簡単に破け、とうとう目的の『外傷部位』が姿を現した。
この時、気温は五度。
風が冷たく吹き付け、厚着なしでは身震いする夜。
少女は上半身裸で、その中華まんじゅう程のバストを包み隠さず晒らけ出される。
「おい…いや、マジで………。犯人…クソ野郎…がっ……ハァ……ひ」
相場はお目当ての物を前に、まじまじと観察し始める。
刺し傷は一箇所。薄いピンクの突起の数センチ下を一突き。
よくわからないが傷口は何となく深そうで、心臓かなにかを損傷したのだと考えられる。
出血は既に止まっていたが、右胸一帯はべっちゃりとコーティングされていて、それに関しては相場も生々しくは感じた。
ただ、相場は気になる点があった。
「んだよ……っ。バカか……? 気にならねえのかよ…。殺った奴は」
それはなにも『疑問』に思う箇所がある、という意味合いではい。
他人の靴下を観察して、それぞれ違う丈なのを見たら訂正したくなる。といった感じで、見ていてモヤモヤするところがあったのだ。
実は几帳面な相馬だ。
倫理観の滅茶苦茶な彼だからこそ、許せない箇所がそこにはあった。
「なっ、なんで……」
「『乳首』から微妙にズラして刺すんだよっ……??! きっちり、きっちり割るように突き刺せばいいだろうがっ……?!」
気にならなかったのか?殺したイカレ野郎は…?、と眉間にシワを寄せながら、独り言は止まることを知らない。
刺し傷は乳輪ギリギリにあったのだが、彼からしたら突起物を刺点にして、潰すように刺してほしかったのだ。
それが、理想だった。
「いや、別にいいんだが……。いいん、だけどもっ……。俺はしっかりちゃんとキレイな形でいてくれた方がっ…………、」
「スッキリするんだよ…っ。スッキリな……!」
故に、A型らしく彼はこのズレを『訂正』することと決めた。
彼がチョキチョキ鳴らしながら持つは、セーラー服を破き切ったハサミ。
無論、これが妙子を死なせた凶器であり、妙子が愛用していた理容道具など相場は知る由もない。
鋭利な銀の刃先を向ける先は、純朴なピンク色の乳頭。
ツンツン、と謎に突いてみた後、刃と刃の間に入れると。
「これで、よし…」
力を込め、ぐにゅっと挟んだ。
-
乳頭が悲鳴をあげたかのように一気に深紅色となっていく。
ただ、刃の奥の部分で切ろうとした為か。
跡が残り、くたびれた形になるだけで肉を切り落とせなかった。
「チィッ、うぜえ…!!」
そのため、ハサミの先で挟み、再度切断にかかる。
──クチンっと。今度は綺麗に断ち切ることができた。
コロコロ転がる真っ黒色になった小黒の右乳首。
それを指でつまみあげる様は戦利品を手にしているかのようだった。
刺し傷と直結し、大きな溝を作り上げた柔らかな胸。
驚くべきことに、そこからはいちごミルクのような体液が、我慢できずに漏れ出てきた。
「うおっ…!! う、うっ…!!」
「……ぉ、女の母乳見るの……初めて……」
ダクダクと流れ出るソレに、ウブな相場は驚愕の声を思わず上げてしまう。
が、それに関心を取られたのもほんの数秒ばかり。
「…………。ぐっ……」
「これが、小黒の…胸の先っちょ………っ」
彼は、ぷにぷにとつまんだブルーベリーを眺めた。
いろんな角度から見つめて、匂いを嗅ぎ、指の圧をかけ感触を確かめていく。
もう相場は堪えきれなかった。
この完熟さ加減。心無しかほのかに香るミルキーさといい、どんな味を魅了してくれるのか、と。
未知なる興奮からか、指はヤク中のような震え様を見せながらも、その小黒の一部を今。
味わっていった────。
「って、さすがにそこまで俺もやばくねえよ………。変態だろが、それ……」
唇につける、直前ボソッとツッコミを吐いた。
プニプニ、と。触っていくうちにだんだん気持ち悪くなってくる。
自分は何をやってるんだ、と。もしかしたら、内心思ったのかもしれない。
その乳首は妙子のポケットか何かへ捨てることにしたが、それらしきものはないので、仕方なくスカートをたくし上げる。
彼女の下着の中へモゾモゾと捨てることにした。
「…ばっちっ。汚ね…」
そこそこに満足したのだろう。
というかもう、萎えたのだろう。
相場は血と妙子の体液で汚れた手を、適当な壁に拭いつけ、今度こそバス停を後にする。
一連の犯行は、実に二十分に及んでいた。
-
バス専用道路を挟んで、ギンギラに輝き続ける街の一角。
渋谷の象徴ともいえる光の中、相場は再び彷徨い続けた。
彼の向かう先は、愛しの彼女──野咲春花。
言わずもがな、野咲がどこにいるかなど相場には見当もつかない。
ただ、フェロモン頼りに触覚を動かしまくる羽虫のように、意図せずとも着実に彼女の元へ近づいていた。
「はは、きれい、だな。東京は」
「野咲に会ったらこの風景の写真見せてやっか。…俺が撮ったんだぜ、って話しながらな」
フラフラ歩きながらも、相場は『支給武器』を構えた。
標準のレンズは、対向歩道にあるネオンライトの店々。摩天楼に向けている。
カチカチカチ
レバーを『写真用』から『戦闘用』に切り替えると、彼は武器のシャッターをカシャリと鳴らした。
─────刹那。
レンズに写っていた範囲が、閃光。大爆発。
地鳴りのような爆音が響き、アスファルトは揺れ、火炎がネオン光すべてを焼き尽くす。
「はははっ、ははっ…はは!!」
「…ははははははははははははははっはははは、ははははははははハ!!!!!!」
『カメラ』から目を離すと、相場はその燃えたぎる景色を純粋な心でうっとり眺めた。
十分過ぎるほどきらびやかな渋谷の建物を、花火で装飾しあげていく。
飛び交う火花を目にして、特にトラウマのフラッシュバックをすることもなく、相場は楽しげに歩き続けた。
たまにぼっそりと、
「野咲…お前が幸せなら俺はそれでいい」
「そのためなら、何人焼き殺しても…俺はいいんだからな……」
「──はははっ…!」
と戯言を抜かしながら。
心を持たない怪物は、知ってか知らずか。
道端に咲く百合の花をスニーカーでグシャリ踏み潰し、野咲との再開へひたむきに向かっていく。
【1日目/A1/バス停近辺/AM.00:59】
【相場晄@ミスミソウ】
【状態】健康
【装備】爆殺機能付き一眼レフカメラ
【道具】写真数枚(小黒妙子の死体写真他)
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象︰野咲春花】
1:野咲にとにかく会いたい
2:邪魔する奴は『写真』に納める
3:絶対に死にたくない
※参戦時期は、野咲のおじいちゃんを半殺しにした後です。
※小黒妙子の死体は、バス停のベンチにて右乳房切断・顔面殴打による軽い腫れ状態で放置されています。
-
次回『吉田さん、キョーコ』でお送りします
-
[登場人物] [[吉田茉咲]]、[[札月キョーコ]]
-
深夜の街中を木刀片手に闊歩する金髪の女生徒。
まるで昭和さながらの光景だが、平成の今でも補導対象となるのは言うまでもない。
平成2x年、AM.0:00。FM放送でヨドバシカメラが時報を伝えた夜。
彼女は、無人の渋谷を一人歩いていた…。
「クソッ!! マジで許せねぇ…、畜生ッ!!」
吉田茉咲はお色気担当らしく、頗る荒れていた。
訂正。
吉田茉咲はヤンキーらしく、頗る荒れていた。
蒸し暑い熱風が、制服に、スカートに吹き付ける熱帯夜。
彼女はにじむ汗を時折拭きながら、激しく歯ぎしりをギリギリ鳴らす……。
「殺し合いとか…。マジふっざけんじゃねえ………」
「…ふざけんなよオラァ!!」
-
◆
…
……
「…にしてもよ、」
「…何に使うんだよ。これ」
二時間余り割愛して。
ある程度、落ち着きを取り戻した吉田が目を落とす先。
それは、デイバッグに入っていた支給品──左手に持つオレンジ色のボールだった。
「…………ぁあ…?」
ぷにぷに…と硬球サイズのそれの弾力を確かめる吉田。
コンビニに置いてるカラーボールかなんかなのだろうか。
日常で見かける類似品はそれが一番近かった。
もしくは、ビッグサイズに品種改良された『いくら』とでも言えようか。
とにかく、パッと見だけではこれからの生存術になんの役が立つのか分からない支給品だった。
「…ったく、わけわかんねえゴミ寄越しやがって…」
「舐めすぎだろうがやっぱ!!」
不可解な支給品チョイスに吉田は声を荒げる。
ただ、その苛立ちとは反対に、ぷにぷにぷにぷに……、と左手の開き閉じは未だやめようとしない。
口では暴言を飛ばしながらも癖にはなったのだろうか。
このゴムボールじみた何かをほぼ夢中になって弄くるのだった。
「しょうもねぇ。ホントにクソどうしようもねぇな」
三十八回、三十九回、四十回、四十一回……、まだまだ続く。
すまし顔ながらボールを握っては話すを繰り返す吉田。
もはや、無意識のうちにやってしまっているようなものだ。
ただ、吉田がこのボールの名前はなにか、用途は何なのかについて分からないのも無理はないだろう。
なにせ、これは遥か未来。
平成末期の今から五十年後の世界で発明された、未知の品なのだから。知る由もないのである。
その未来ではとっくに絶滅しきった『いくら』をモチーフにデザインのボール。
これをカチッとなるまで握ると、内容物の金属片が出てきて全身を包み込み、そのままタイムスリップすることができるという。
言わば疑似タイムマシンで、参加者の一人の超能力少女がかつてミッション達成のため使ったことのある代物だ。
奇しくも、その少女と同じブロンド髪の吉田の手に今渡っているわけだが。
ぷにぷに……、
「クソが…。ほんとどうしようもねぇヤツが主催してんだろな! あークソ!!」
このタイムマシンにも有効期限か、回数制限でもあるのだろう。
手中にあるオレンジボールは、時間トラベル機能をなくしたただの球。
ぷにぷに…、
「……田中にしつこく言われたから。進路マジメに決めようかなって思ってた時に、よ……」
しかし、『内容物の金属片が出てきて全身を包み込む』機能だけは残ってある状態で吉田に渡っている。
つまりは万が一強く握って「カチッ」と音がした瞬間。
頑丈な金属により身動きが取れなくなり、想定できる最低最悪の事態が待ち受けるのだ。
ぷにぷにぷに…、
「気が滅入っちまうわ、殺し合いとか。…こんなときによ……」
-
ちなみに、金属片が全身を包み込む──とは具体的には。
身近な物で形容するとしたら、『湯たんぽ』だ。
湯たんぽの容器の中に体がすっぽり入り切って、蓋の部分にちょうど顔だけがでるイメージ。
そんななんとも情けなく惨めなフォルムに、コンマたった0.2秒で包んでくれるのが──────、
ぷにぷにぷにっ……
「田中……。すまねえ……」
────カチッ。
この『いくら型タイムマシン(備考:使用済み)』だ。
恐ろしいことに、タイムマシンは未使用/使用済み問わず、使ったら『服、下着を溶かしきる欠陥』もあるようで。
吉田の肌がスースーと違和感を認識したのは、湯たんぽ状態になって数分後だった…。
-
◆
七月七日。七夕。
織姫と彦星が年に一回密会すること許された貴重な日。
『777』とそのラッキーセブンが表す通り、老若男女様々な人が僅かな思いを胸に願いを込める夜にて。
殺し合いの聖地・渋谷では一瞬、とてつもない強風が吹いた。
「…この自販機、あり得ないんだけど!」
人為的ではない、ほんとに偶然な自然風である。
ただ、そのパワーは業務用扇風機にも匹敵する威力。
渋谷の商店街に飾られた笹を簡単に吹き飛ばし、色とりどりの短冊たちがまるでヒッチコックの『鳥』のように目の前へ襲い掛かる。
「全部売り切れってなんなわけ? 何故かおしるこだけ残ってるし……。ふざけてるでしょうがっ!」
ビュ────っと、無数の紙が奥からバサバサ飛んできて、自動販売機とリボンの少女を埋め隠す。
一枚の、水色の短冊。
それが、ベタっと貼り付いた先は、折しも風の方を向いたキョンシーの末裔・札月キョーコの額であった──。
「『大きな希望を忘れない 一年後の七月 非処女の自分を信じて』…………」
「はぁ?? 願い事じゃないし。つかなんでシーク●ットベース…。意味わかんないわよ」
顔に貼り付いた短冊の内容を、一応詠んでみたのだが…。
あまりのくだらなさに、口に出したことを後悔しすぐさま投げ捨てる彼女はキョーコ。
大蛇のような白く長い髪に、コントラスト的な可愛らしい真っ赤のリボン。
セーラー服が束の間の強風で吹き上げられるため、両手で慌ててスカートを抑え込んだ。
少女がさっきまで見ていた物は、ダイドーの自動販売機。
今や、ベタベタベタベタと短冊が張り付き妙なカラフルと化していたが、そいつはクソ真夏だというのにおしるこしか買えないという存在価値の無さをアピールしていた。
あったか〜いだけが光り輝く飲料販売機。
ジメジメした熱帯夜で、喉の潤いを求め歩いたキョーコにとっては、癪に障る存在だった。
「つかもう嫌がらせみたいなもんじゃんね」
快速列車の如し吹き走る暴風。
短冊のほとんどが、夜の彼方へと散り消え、周囲に紙切れ一つも残らなくなった時。
前方から、最後に凄まじい勢いで飛んでくる物があった。
それは、竹。
七夕飾りの笹代わりに使ったであろう、先の鋭利な長いそいつは、キョーコ目掛けて一直線に飛来する。
不運にも、そいつは誰かマーダー参加者が投じたわけではない。風に吹き飛ばされたものなのである。
また、不運にもそいつはキョーコの頭部目掛けて飛んできてるのである。竹槍ミサイルは、誰の意図せずとて少女を殺しにかかっているのだ。
生憎、パンパンと土埃を払うキョーコの眼中にそいつは無く。
凄惨な事態の回避は一般人なら不可能であった…。
「あっ、」
「よっと」
『一般人なら』、である。
飛んできた竹の先を指一本で止めるキョーコ。
竹は完全静止したかと思ったら、刹那。──…一瞬で全身が燃え上がり、あっという間に跡形もなく消え去っていった。
まるで次元の裂け目から地獄の手が現れ、竹槍を連れ去ったかのような。
炭一つ残さず竹は焼け消えていった。
「…普通なら死んでたわね。これ」
-
札月キョーコ。
彼女の正体は古来中国からの妖怪『幽幻道士〈キョンシー〉』。西洋でいうところの吸血鬼なのだ。
故に、見かけによらずパワーは人間離れの怪力。
加減をしないと簡単に抹殺しちゃうような怪物的破壊力を持ち合わせ、もちろん主食は暖かな鮮血。
それでいて日光、ニンニクなどの典型的弱点はなく、ヴァンパイアキラー泣かせと言えよう。
普段は、諸事情からそんな体質を隠し、兄と平和に暮らすキョーコ。
だが、今は血飛沫交える戦場地帯だ。
何の戦闘力もない一般市民が大半をしめるこの殺し合いにて、彼女はまさしく、『優勝候補』の一人であったのだ。
「はぁーあ。喉ほんっと乾いたんだけど…」
ギロッギロと意図せずとも真っ赤に血走るキョーコの瞳孔。
常日頃は兄の血液少量で自重する彼女だが、現状は野に放たれたアリゲーター同然。
多少理性は保つつもりだが、例えば弱っていたり死にかけの参加者が目についたら居ても立っても居られなくなることは間違いない。
「なんか、もう…」
「カッラカラだから…、やばいわ…。『喉』が」
おしるこを買って冷やす時間など待っていられない。
そもそもどこで冷やすかなんか検討もつかない。
キョーコは、『自動販売機代わり』を求めてジリつく夜を歩き出した。
…
「あっ」
初遭遇は突然にだった。
曲がり角を歩いた先、ガンガンガンッとラグビーボールのような形の金属が転がり続けていたのである。
いや、転がるというよりは、おきあがりこぼしのようにグラグラ揺れているというか。
最初は何なのか理解できないキョーコだったが、よくよく聞くと金属音に混じって「おらっ!」と声がする。
そしてよくよく見ると、そのラグビーボールを見ると部分的に顔が出ていて、それまた起き上がりこぼしのようだった。
ものすごく険しい女の顔、何となく自分と同世代に思えるその顔から「おらっ! …クソッ!! おらっ!」と聞こえ、
つまりはソイツが『初遭遇の参加者』であった。
「…いやキモっ。何…これ」
「…ぁあん?! なんだテメェーは!!?」
「いやそれはこっちのセリフよ! つか意思疎通できるのかよ…! 余計キモいわ…」
キョーコのファーストコンタクトはダルマ。
吉田のファーストコンタクトは吸血鬼。
なんとも奇妙な組み合わせだ。
キョーコは張り詰めた緊張感が解け呆れ返ってしまった。
それにしても、さっきからダルマヤンキー吉田はグラグラグラグラ何をしているのだろうか。
彼女の意図なんか全く分からないキョーコは、とりあえず暇つぶしがてらに聞いてみることとした。
「アンタさ、一応…妖怪とか?」
「はぁ?! 違ぇよ!! いくらを握ってたらこうなっちまったんだ!! 私はこんな姿がデフォじゃねえぇ!!!」
「…いや意味分かんないわよ。寿司の話?? …って、そんなん聞いてるんじゃないや」
「今殺し合い中なんだけど、一体何してんのよ。馬鹿みたいだわ、あんた」
「…チッ! 背中のボタン押そうとしてんだよ」
「は? ボタン? なんでよ」
「ボタンを押したらもとに戻るから苦労してんだよっ!! こっちは!!」
「だから黙ってあっち行ってろ! 見世物じゃねえーんだよ」
-
想像以上の口の悪さに辟易したキョーコ。
吉田がボタンがゴチャゴチャ云々と言っていたので、よくよく見てみたら、たしかに顔の真反対部分にオレンジ色のスイッチらしき物が確認された。
拳サイズほどで楽々押せるそのボタン。
ただ、手足がないダルマが自らそれを押すのは至難の業であろう。
成程、なんだか知らんがそれを押したくてガチャンガチャン四苦八苦していたのか、とキョーコは察しに至った。
「行けっつってんだろオラァー!!」
「……」
嗚呼。
とにかく潤したい。水がほしい。
喉はモップ掛け暫く後の床タイル並にわずかな水分しかなく、舐めたくなるほどカッラカラ。
涎なんかじゃ足りないくらいにキョーコは渇ききっていた。
だが、眼の前のこいつを吸血したとして、喉は潤うどまったく満足度は高くないだろう。
というか単純に不味そうだし。
いや、それ以前にこんなやつを殺したところで残るのは汚点とプライドの崩壊だけだ。
「…だからあっち行けよ!! 何回も言わせんじゃねえーー!」
ならば、どうするか。
「…はぁ、──」
「──しょーがないわね〜…」
普段のキョーコならさっさと見なかったことにするだろうが、今はジェットストリームも終わる時刻一時過ぎ。
深夜テンションで少しハイになっていた彼女は、意外にもヨシダルマを助けてあげることにした。
「……。…なっ?! て、てめっ??!」
「ボタン押すだけでいんでしょ。それくらいならしてあげるわよ」
「や、やや、やめろっ!!! やめろオッ!!!!」
「いや何焦ってんの。別に殺さないわよ。ま、信じようが信じまいがアンタは何もできないけどね」
「いや違ぇんだよっ!!! とにかくあっち行けって!! 私一人でできんだよ!!!」
ダルマの妙な態度が引っ掛かる。
その顔は急に真っ赤で、あせあせととにかく必死な様子だった。
まるで、見せたくないものを隠しているといった──キョーコはノックなしで部屋に入ったときの兄の慌て顔を彷彿とした。
ただ、ダルマ自身「ボタンを押せば助かる」的に話していたので別にやましいことなどないだろうとキョーコは判断。
「やめれ……グヘッ!!」
吉田を足で転がし、背中のボタンが見えるようにすると、
「…ぐぐ……──あっ」
「やめろ!! 今すぐやめろォッ!! そのボタンを押すんじゃねえぇえー……、」
「よいしょっ、と」
つま先でポチっと押し切った。
瞬間。
シュルシュルシュル…と包帯のように金属片が夜空天高く舞い上がっていく。
同時に、オレンジのボタンも高く弾み、そこに向かって六つの金属片が吸い込まれるように収納されていった。
地面に落ち、ポン、ポンと信号機にぶつかるまで弾むいくらタイムマシン。
-
「はい。これでいいで……、」
「しょ……………、」
「………えっ……………………………?」
キョーコは、目の前の妖絶な光景を前に、絶句するまでだった。
────De deden den deden…
ダルマがいた場所、プシュウゥゥゥ…と煙が立ち込める中。
────De deden den deden..
そこにいたのは、立膝をついて呆然と下を眺める金髪の女。
言わずもがなダルマの元の姿だ。
────De deden den deden.
金髪の彼女は、自分の今の姿──厳密には服装に何を思うか。
服どころか下着、ブラジャーすらも着ず、これでもかというくらい露出された裸。
────De deden den deden…!
脱出された衝撃で揺れ動く乳房。──スタイルが良いだけあってその大きい胸が良く目立つ。
座り姿勢から辛うじて隠れる陰部と、ラインのいい尻。
金の髪が風に尋ねられて吹き付けられる。
故に恥部もちらちら覗かせてきた。
────De deden den deden…!!
暫し、放心していた吉田だったが、やがて覚悟したかのようにゆっくり顔を上げた。
目を合わさり、二秒。
あんぐり口を開けるだけであったキョーコはハッとさせられた。
────De deden den deden…!!!!
真夜中の道路で、突然現れた立膝の…全裸の女。
キョーコは過去に金曜ロードショーで見た『映画』を思い出し、目の前の光景と映画のリンクっぷりを驚嘆する他なかった。
奇しくも、その映画のキャラと『互いに』金髪である。
「これは…──、」
「──『ターミネーター3』………!!」
-
In the ruins after the nuclear war.
(核戦争後の廃墟の中。)
The battle between humans and machines that wanted to destroy humanity continued for decades.
(人類を滅ぼそうとする機械と人類の戦いが数十年続いた。)
But the final battle is not in the future, but in SHIBUYA today.
(だが最後の戦いは未来ではなく、現在の渋谷で広げられるのだ。)
Tonight ...
(今夜…)
「見やがったな!! オラァ──────!!!」
ドガッ
「あイッタぁーーっ!!! 助けてあげたのにっ!!!」
【1日目/F3/渋谷センター街・街外れ/AM.02:14】
【吉田茉咲@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】全裸
【装備】木刀
【道具】タイムマシンボール@ヒナまつり
【思考】基本:【対主催】
1:死ねっ!!!
【札月キョーコ@ふだつきのキョーコちゃん】
【状態】喉の渇き、ぶん殴られて「アイッター!」
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【微静観】
1:理不尽過ぎでしょっ?!
2:とにかく飲みたい
-
明日
アンズ、小泉さん
利根川、黒崎、三嶋
の二本立てでお送りします。
-
[登場人物] [[アンズ]]、[[小泉さん]]
-
深夜放送を聴きながらすする、しょっぱいキミが好きだ────。
-
◆
ラーメン。
──アンズが初めてその味をすすった時、彼女は特攻服を着ていた。
『ズル……ッ。…ふ〜〜ん。味は結構いけるわね』
『メニューも豊富だし、次からこの店で食い逃げしようかしら』
……
…
──アンズがその店で働き始めた時、彼女はホームレス上がりだった。
『…ラーメン半チャーハンセット一つに、青椒肉絲定食…ね! 少々お待ち下さい!』
『って…』
『サブ!! ここはラーメンがメインの店なんだから、せめて醤油ラーメンくらい頼みなさいよ!! もうっ!!』
「え? え?? …え?」
「ちょっとアンズちゃん…、ダメよ。お客さんにそんなこと言っちゃ」
『あっ…おばさん……、ごめんなさい……』
「いいんだいいんだ。気にすんなアンズ。そのラーメンがとっておきだから食わしたかったんだろ? 気にすんなよ」
『…に、新田……』
「…ったく……。アンズめ……。…おい! くっちゃべる暇あったら料理を運んでくれ!!」
『あっ!! はい!! おじさん』
スタ、タタタタタ…
「もう、アンズちゃんったら。うふふ…!」
「フッ、馴れない環境だろうに…。……うちのヒナと違って、頑張ってやがんな。あいつは……」
「いやつーか、醤油ラーメン一杯900円押し売りするってエグくねぇっスか? あにぃ」
……
…
──そして、アンズがその店の味を受け継ぐ時。おじさんは泣いていた。
『へいらっしゃい!』
『って……、おじさん?! おばさんまで!!』
『な、なんで?? もう絶縁ってあんなに言ってたのに……』
「うるせぇや。腹減ったもんでフラリ入ってみたらこの屋台だっただけだ」
「もうっ…、あなたったら素直じゃないんだから…」
「うっせえ…! …おい店長…、早く作ってくれ。大二つでいいからよ」
『おじさん………っ!』
ジャッ
ジャッ
ドン──────。
-
『お待ち!! アンズラーメン大人サイズ二つよ!!』
「まぁ!」
「…けっ。食うか」
ほわぁん…
フー、フーー
ズルズルズルズル…ズルズル…ハフッ……!
──カタン…ッ。
『えっ…。お、おじさん?!』
『どっ、どうして………、……………………泣いてるの…?』
「ぐうっ………………!」
「あ、あなた…………」
「まんま…じゃねぇか………っ。うぐ…………」
『え…?』
「俺の味、まんま受け継ぎやがって…………っ!」
「…成長……したな…………………。ぐっ………ぅ……………。────アンズ…………!」
『…おじさんっ……………っ────!!』
……
…
「──おじさん……! 私、絶対に生きて帰るから………!! 心配しないでねっ……」
今宵。
渋谷の河川敷にて、アンズはハチマキをぎゅっと締め、天を睨む。
「バトル・ロワイアル…? ふざけんじゃないわよっ……! …許せないっ、許せないわっ!!」
バトル・ロワイアル、すなわち死。
そして、アンズにとって『死』とは、来々軒の受け継いだ味が途絶えることを意味する。
その絶望を回避するためには現状、殺し合いに乗り優勝すること以外手段がないのだが。
だが、だ。
彼女は主催者の思惑通り、見知らぬ人達と殺し沙汰をする気は全くこれっぽっちも無かった。
自分が持つ凄まじい『超能力』を駆使すれば、一般人まみれのこのゲームなど赤子の頚椎を捻るように簡単なはずだが、アンズは絶対にゲームに乗らない。乗りたくない。
────粗暴で法を遵守する気などないあのときの自分を、来々軒の優しい夫婦が更生してくれたのだから。
裏切るマネなど絶対にできなかった。
「…おじさん………………………っ!」
-
ならば、だ。
彼女はこの殺し合いにてどうすべきと考えているのだろうか。
──答えは明瞭だった。いわば『レボリューション』である。
「…よしっ! 早速やるわよっ…!! 私!」
立ち上がったアンズが向かう先、それはホームセンター。
そこに一時間ほど入店したのち、出てきたかと思えば次は業務用スーパーへ直行だ。
スーパーでも二時間ほど用を足す。──律儀にも無人のレジにお代を置いて食料品を買い込むアンズ。
彼女は一体何を始めようというのか。
今はそれが定かではないが、とにかくアンズはテキパキテキパキと物資搬入を続けていった。
ガシャン、ガション…と大きな『寸胴鍋』の音が商店街に響く…──。
しばらく歩いて道中、真っ暗な高架下にて。
防護ネットの向こうで山手線が輝かしく走る人気のない道路で、アンズは思いがけない『物』を拾った。
「えっ…?! うそっ!! なんでこんな場所に落ちてるの!!」
それは『物』というには大き過ぎる。
『車』というには車道を走れず、『店』というにはちとボロすぎる。
「……捨てられたのかしら……。『屋台』…」
アンズは、道の路肩にて朽ち果てていた『屋台車』を見つけた。
茶色く濁った木に、ところどころ錆びたこの屋台は、ボロボロ…と「おでん」の暖簾を風に吹かされている。
夢破れて、やむを得ず店主に手放されたのであろう。哀愁の感じる大型不法投棄車。
この屋台とアンズが出会ったのはどういう運命か。
──彼女にとってこれは『嬉しいハプニング』であった。
「…………!」
「…ちょうどいいわ! 『空き店』を探す手間が省けたわね!!」
思わず頬が緩んだアンズは、寸胴からタオルを取り出すと、さっそくボロ屋台の清掃/修繕にかかるのであった…。
────負のスパイラル、という言葉がある。
嫌なことが起きる→態度が悪くなる→その酷い態度を見られ、叱られるor悪口をヒソヒソ言われる→余計嫌な気分になる→態度が悪くなるx∞…といった具合で負の連鎖が止まらない現象を指す。
以上を踏まえて、ならば全く逆の『ポジのスパイラル』も存在しうると言えよう。
例えば、人に優しくされたら誰だって嬉しい。
嬉しくなれば、自分もまた誰かを同じような気持ちにさせてあげたくなる。
それがまるで感染するように、人から人へどんどんみんなが幸福をばら撒いていけば、必然的に起こる世界平和。
──すなわちは、闘いの終戦。
アンズはゲーム開始早々考えた。
────私たちは今『首輪』に命を握られている…。
────同じく、私たちの命を握っているものは……、『空腹』…、『食事』……!
そして、閃いた。
────つまり参加者全員に美味しいものを食べさせれば、みんな幸せになって殺し合いなんか起きなくなるじゃない…っ!!
────…………やる価値は、あるわねっ…。
題するなら、『幸腹理論』。
-
アンズはこの理論を武器に、完全無欠であろうバトル・ロワイアルのルールへ穴をつけようというのだ。
そのために、彼女は先ほどからガンガンガンッ、と下準備をしているのだが、一体『どんな料理』で皆の幸せを満たそうとしているのだろうか。
────いや、もはや言う迄も無い。
ボロボロだった屋台は修理され、灯りがポッと照らされる。
厨房からはグツグツと煮え立つ寸胴。
中にはトリガラが数十羽分、そして、ネギの頭とにんにく、人参などが熱く熱く煮込まれる。
トン、トントンッとアンズが中華包丁を握るは何やら黄色い生地。
そいつを一定の長さに切り、製麺機にかけると、長さの揃ったキレイな縮れ麺が伸びてきた。
この寒空のもと、屋根に掛けられた赤い暖簾は風に尋ねられなびき続ける。
その暖簾にて、字は稚拙ながらもはっきりとこの店名が書かれていた。
「…よしっ! 仕込み完了ね!!」
『とんずらーめん』──、営業開始だ。
-
◆
暖簾からモヤモヤと立ち昇る湯気。
その湯気が、薄水色の空にどこまでも上ってそして消えてゆく。
時刻は四時半。定時死亡者放送までもう一息という時間。
「らあーめーーーーん屋!!♪ すごくおいしーーーー!!!♪」
屋台からガラガラのラッパと歌声が響き渡る。
「おいしいよーーーーー!!!!♫ ………………」
それが、あまりにも虚しく、渋谷の街で響くだけ。
車輪を擦る音を添えて。
「…なんで………………、」
「……………なんでっ!!!!!」
とんずらーめんは、ガラッガラの閑古鳥が鳴く状態だった。
──こんな鳥なんてスープにぶち込みたいくらいだというのに、悔しさで袖を濡らし続けるアンズ。
割とスタートダッシュは好調と予測していただけに、このガラガラっぷりが効いて効いて仕方なかったのだ。
「理由がわかんないわよっ!! …なんで、なんで誰も来ないわけ……………?」
「こんなに匂いを飛ばしているのにっ……! たくさん工夫して時短で作ったというのにっ…………!!!!」
「なんでよっ!!!!」
むしろ、襲撃されず死んでいないだけマシだと考えられるのだが、彼女は客足が無い理由を全く理解できなかった。
ただ、彼女がこの誤算を想定すらしていなかったことは無理もないと言える。
アンズのラーメン屋『二代目・来々軒』は、常に客席が埋まる人気店だった。
顔ぶれは、週三で食べに来るエース・新田を初め、ヒナやマオ、三島瞳にホームレス時代の先輩達…など。
よく見れば内輪なメンツばかりであったが、それはともかく常時売れ行きが良く大繁盛。
そのため、『どうしたら客を増やせるか』や『客の常連化の為になにをすべきか』など、ビジネス的戦略は必然的に怠っており、挫折なんて知りもしなかった。
今考えれば、おじさんの来々軒の手伝いをしていた頃。
理由は不明だが、まったく客が来ず、暇で退屈していた日がなんだかあった、とアンズ。
あの時、おじさんは頭を抱えてすごい考え事をしていたが、もしあそこで何が原因か、聞き出せていれば……と。
「うぐっ…………ひぐ……えっ………………うっ…………………」
どうすればいいのか分からず、体育座りになって泣き続けるしか無かった。
そのため────、
「…これ、罠のつもりなんですか?」
「…え…………?」
-
「いや罠のつもりなら失礼ながら馬鹿すぎると思いますが…、──」
「──ラーメン、作ってくれるんですよね?」
客が一人──金髪のロングウェーブで、制服を着た女性客が座っていることに気づけずにいた。
「…あ………、──」
「──…も、もちろんよ!! 今作るから注文してちょうだい!!」
奇跡とは如何に。
この殺し合いの舞台でも、ラーメン店は一応ニーズには応えていたようだった。
-
◆
「サイズが『大』と『小』しかないんですが……。両極端ですねぇ。『中』とか段階は踏まないんですか?」
「『ちゅう』…? 何よそれ」
「えっ……………………」
「…失礼ながら、『聖徳太子』ってご存知ですか?」
「…………………知ってるわよ? あの、有名人でしょ?? 北海道で…、有名な逸話残した……」
「ていうかそんなのはどうでもいいわよ!! 注文は?」
「………じゃあ、大で…」
「はいかしこまりっ!!」
「大/小」と書かれた黄ばんだ紙がなびく中、朝焼けが差し込む。その折に、麺を茹で始めた。
バトル・ロワイアル初めての客ではあるがアンズは特に緊張感はなく、平常心で湯に箸を掻き混ぜていく。
眼の前の女性客も同様に緊張感はないといった無表情で、ゆったり調理風景を眺めていた。
整った顔にきれいな肌、中太縮れ麺のようなふわっとした髪。──モデルさんと勘違いするほど美人な客だが、アンズとほぼ同じ身長な点、普通の女子高生なのかもしれない。
その顔はずっと変わらず無表情ではあるがどこか青白く、「早くラーメンを作って」と言いたげな顔つきと思える。
「……………………………」
じぃっ────────────────っと…。
客は、一言も発さず見続け。
それが、内心アンズにとって、邪魔な視線であった。
(……こう見られちゃ集中できないわよ……っ! まぁ、いいけども………)
もはや嫌な顔を隠さず、ジロジロ客を睨みながらも、アンズは仕込んだタレをどんぶりに入れる。
お湯で暖めたどんぶりに、醤油タレがジワッ…と入り、後を追うように鶏ガラスープを並々、適量まで注いでいく。
「……………………………」
じぃ────────────────っ…。
三分経過して、麺もそろそろ茹で上がった頃合い。
ザルで掬い上げ、ザッザッザッと湯水を切ると、ラーメンへ、ドバーーンッと豪快に投入した。
「えっ、熱っ…。…客席まで汁飛んできますが」
仕上げにメンマ、チャーシュー、ナルト、海苔を添える。
──この四種の神器。
どれも自家製で以前から何時間も漬けておいたものだ。味が染みていることは間違いない。
「よしっ、と!」
白い器に広がる優しい味の茶色い大海原に、ちぢれた極細麺。
そして、チャーシューがなにより存在感をアピールする具材たち。
浮き立つ油と、身体温まる胡椒の香りがなにより食欲が湧いてくる。
「へいお待ちよっ! 『とんずラーメン・大』!! 960円!! たーんと食べてね!」
ドンッ、と。
その品を客の前に置き、アンズは見事に記念すべき一杯目を作り上げた。
-
女性客は、アンズのラーメンを前にして声を上げざるを得ない。
「…店名からして豚骨系かと思いましたが、一般的醤油ラーメンなんですね…」
「? 店名?? 『とんでもなく美味しいアンズラーメン』だから『とんず』よ。私、名前アンズだから」
「とんず………………。とにかく、いただきます」
なにか言いたげの様子な客だが、それはともかくの様子だった。
ポケットからシュシュを取り出した客は、その長い髪を束ねると、卓上の割り箸に手を伸ばす。
そして、調味料は何もかけず、素の味のまま、熱々のうちに啜っていくのだった。
ズズズズーッ、ズルズル……ズルズル
ズズズズーーッ、ズルズルズル……
口に頬張られていく、麺。麺麺麺麺。
そして、チャーシュー。
肉厚な焼き豚は噛んだ瞬間、グニュグニュとその弾力ある食感をアピールし、豚感が溢れんばかりに口いっぱいに広がる。
その弾力ゆえに、飲み込むことを苦戦した様子の客だが、落ち着きを取り戻し、すぐさま麺。麺麺麺麺麺、麺とすすっていく。
ナルトにメンマ、脇役ながらこれらの存在も不可欠だ。
どちらも噛むと甘みが溢れて、アクセントが効いている。
客は、それらがまだ口に含んだ状態で今度はスープの味を堪能した。
丼を持ち上げ、ごくりごくり…と。そのさまは正に鯨飲。
そのスープを飲んだら、次はまた麺麺メン…。
止まらぬスピードで、勢いそのままに大盛りを平らげていく。
その食べっぷりは、作ったアンズも目を丸くするほどだが、内心、アンズは嬉しい気持ちでいっぱいだった。
(…ふふっ! やっぱり自分の料理を「美味しい美味しい」ってがっつかれると嬉しいわね……!)
ズズズズーッ、ズルズル……ズルズル
ズズズズーーッ、ズルズルズル……
無言。
だが、彼女は黙々食べ進めていき。
ラーメン提供からちょっとしない内に、三分の三まで食べることに成功…──。
「ぷはっ………!」
「ごちそうさま、です」
──つまり、完食していた。
「え? 早っ! 早すぎるわよっ!!」
ほとばしる汗をシーブリーズで拭き取る女性客。と、同時にポニーテールにしていた髪も解き始める。
──その火照る頬はなんとも満足げに紅潮していた。
後は、爪楊枝で歯を手入れするか、お代を払うかくらいしか彼女にやる選択肢は残っていないのだが、ここで客は店主に向けて。
寡黙だった口を開くのであった。
「あの、お尋ねしたいのですが…」
「あ、えと。なによ?」
「今、殺し合い中…ですよね」
「…それがどうかしたっていうの?」
「…さっき私、『罠ですか?』って聞きましたけどその通りで、最初このラーメンに毒が入っていて、そいつで無差別殺人を計画してるのかな、って邪推していたんです。…バカな殺害方法だなぁ、って」
-
「…は? はぁぁあぁぁぁ???! そんなわけないじゃないっ!!!」
「現にアンタ死んでいないでしょうが!!! ラーメンに毒なんか入れな…、」
「そう、死んでいません。だから尚更、疑問なんです」
「……………………疑問…?」
割り箸をコツン、と卓上に置き、話を遮られポカンとしてるアンズに向かって、客は疑問を投げ掛けた。
「なら、どうして。今、この事態で、ラーメン屋台なんかやっているんですか…?」
「言っては難ですが、普通の人ではない発想・行動ですよ。貴女…」
当然の疑問だ。
殺す、逃げる、助けを待つ、の三つくらいしか行動パターンがない殺し合いで、こんな的外れたことをアンズがしているのだから。
説明を聞かないと到底趣旨なんて考察すらできない。
アンズは暫くの間黙った。黙りこけた。
回答する義務を暫し放棄したため、屋台は、辺りは、寸胴のグツグツ煮える音以外まったくの無音となる。
俯きながら何も言わなくなったアンズに、呆れた様子で察してか。
女性客は、
「……………では」
と、席を立ち上がろうとした。
太陽がビルとビルの間からじわじわと湧き出て、朝の匂いが漂ってくる。
客が青色のカバンを肩にかけたその時、アンズはやっと口を開いた。
「──食で、みんなを救えると思ったから……」
「…………なんと…?」
「美味しいラーメンをみんなが食べれば、みんな幸せになって誰も人を殺す気がなくなるでしょっ…!!!」
「…私は…そんなエンディングを迎えたいし、作りたい…!!! 誰も死なずに済むバトル・ロワイアルで終わらせたいのっ!!!」
「美味しい食べ物にはそれができる力があるって…、私信じてるからぁっ!!!! だからこの店を始めたのよっ!!! 今っ!!!!!」
「……………………………」
アンズが涙ながらに言い放った『幸腹理論』。
その力説は、立ち去ろうとしていた女性客を引き止めるエナジーがあった。
客もこの有事にわざわざラーメン店に足を運んでしまうほど食好きな為か、心に響くものがあったのかもしれない。
「…だから、…だからぁっ!!!!」
そんな女性客に向けて、アンズが差し伸ばしたのは、自身の掌。
「…一緒に、このラーメンを布教して抗ってくれない、かしら……!」
ところどころ傷跡や火傷痕が見えるその白い手は、ラーメン作りに対する並々ならぬ熱意を感じさせられる。
この手を握り返すことはつまり、即、アンズのラーメン道の仲間入りとなる。
アンズはスカウトをした。
名前も素性も知らぬ女性客ではあるが、自身のラーメンを完食したことがなによりの『信頼の証』であると、信じて。
-
「この美味しいアンズラーメンで闘いましょうよ…! 私と、一緒に!!」
アンズは客の目をガッチリ見つめながら、口説き文句を言い終えた。
胃も心もずっしり満たされた女性客。
──彼女はアンズを前に何をするか。それは、もはや言う迄も無い。
アンズなら、このラーメンなら。もしかして殺し合いを終わらせられるかも…。と。
馬鹿馬鹿しい考えであると自認しているが、彼女は差し出された手に向けて、ゆっくり顔を向けた……────。
「嫌です」
「………………え?」
「味は普通でした。ごちそうさまです。では、」
『夕陽のガンマン』のように朝日に曝されながら颯爽と後ろ姿を見せる客。
彼女は食堂みたいな味のこんなラーメンに革命的革新があるわけない、と。あっさりそっぽを向いてしまった。
「ちょ…、え……? え…? えっ????」
「ま、ま待ちなさいよおーっ!!! いやなんで!! なんで拒否すんのよっ!!! ちょっと待ちなさいって!!!!」
アンズの叫びをノイズキャンセリングするが如く、ワイヤレスイヤホンを耳にはめる彼女。
マイペースでリアリストな彼女の名前は──、
らら〜ら〜
ら〜めん、だいすき、
こいずみさ〜ん♪
【1日目/F5/屋台『とんずラーメン』前/AM.04:30】
【アンズ@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】中華包丁
【道具】寸胴鍋
【思考】基本:【対主催】
1:私のラーメンが…普通………?
2:ラーメンの力で殺し合いを終わらせる
【小泉さん@ラーメン大好き小泉さん】
【状態】満腹
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:どこかへ移動
-
投下終了です
-
[登場人物] [[利根川幸雄]]、[[黒崎義裕]]、[[三嶋瞳]]
-
『裏ゼルダ』──というモードがある。
ゲーム『ゼルダの伝説 時のオカリナ』にて、受けるダメージが通常より激増したり、全体的に難易度が倍増するモード──いわば、『ハードモード』のことを指す。
この殺し合いにて、利根川は裏ゼルダモードで闘わざるを得なくなっていた。
しかも、一人だけ……。
他の参加者は全員ノーマルモードな中、利根川一人だけハードモードの状態となっている………………!!
「クズがっ………。ふざけたモンにワシを巻き込みやがって………。…クズがっ………!!」
彼のみが、バトル・ロワイアルで圧倒的に生還率が低くなっている理由────。
これは一体どういう陰謀なのか、
主催者役の男が、何故か自分そっくりの影武者だから、だ。
あのバス内にて、意気揚々とデスゲームの開催宣言。ならびに、首輪で縛り付けたことを説明し、自分がこの場を支配しているのをいいことに参加者を愚弄しきったあの主催者。
もし、そいつが会場内でウロチョロしているのを、参加者たちが見かけたら。彼らはどう思うか。
言うまでもない。
誰もが、フルボッコの一択しか行動に移さないだろう。
【マーダー】、【対主催】…問わず。極めて懸命な者を除いて、皆襲い掛かるに決まってるのだ。
説明不要、問答無用で襲いかかる暴力の嵐…。
(ぐっ………)
(こんなモンのせいで……、霧散……、水泡……………っ!!)
「ちっ!!」
まるでグンタイアリの群れに放り込まれたイモムシ。
もはや疑心暗鬼も糞もない。
言うなれば、全員が全員敵の状態…──オリエント急行の殺人………!!
(今日予定していたゴルフが……………、パァ…………っ!!!)
今回は、そんな不幸な運命を背負わされた中間管理職の話。
利根川幸雄の葛藤と困悩の物語である。
-
◆
時刻は、長針と短針がちょうど重なった時──午前零時、お釣り無し。
ピピピピピ────ッ
ピピピピピ────ッ
…と、鋭い電子音が、利根川の耳元でうるさく鳴り響いた。
何の音かと、噴水の水面を鏡代わりに自分の顔を様子見る利根川。
──どうやら首に纏わりつく金属からの発音であった。
ピピピ……、と鳴り止むと同時に、その首輪の液晶画面からは赤い数字が表示される。
「48:00:00:00」──そのカウントダウンが刻々と減りだしていく。
成程。
さっきの音はゲーム開始のアラームなのか、と。
なんだか何処かで既視感のあるスタート合図に一瞬戸惑う利根川だったが、とりあえず。
噴水の縁にて、ポケットから箱と可燃物を取り出し一旦の落ち着きを計らうこととした。
──タバコの吸煙だ。
銀色のライターで、赤く照り付けられた先から、白霧が上へ上へと満月へ昇ってゆく。
「……フゥ…………………………」
「チッ………! 初めてだ…! ここまで美味く感じない……喫煙タイム…………………!」
毒を吐き散らした分、また煙を肺へ一吸い流し込む。
それにしても、さすがは帝愛No.2候補まで戦い抜いた男といえようか。
殺し合いという人生最大の危機に瀕する場面でも、落ち着いてまず一服を取れるとは、利根川が只者ではない証明を表していた。
普通の人間ならば、アラームが鳴った時点でここまでのんびりはしていられないだろう。
大抵はカウントダウンの魔に刈られて、わひざかな時間も無駄にしたくないと慌てふためき。
──そして行く末は、自分をも見失い破滅へと堕ちていくのがオーソドックス。
「………フゥ…………………」
それなのに、一切の慌てぶりを見せようともしないのだから、その圧倒的貫禄が映えていた。
これまで数々の修羅に直面しながらも、策を練って乗り切り、今日ここまで生き残ってきた男だ。
やはり、他の参加者とは一上も二上も『格』が違っているのだ。
利根川という男は…────。
「フぅっ…………んんっ、と…」
「…にしても、ワシのいわば支給武器とやら…………。──…『ピストル』か…っ。こんな小さな……………」
「………ッ、舐めるなっ…! クズ主催者めがっ! 小さめでありがたいのは………、揚げ物くらい………! ワシにはっ…………!」
他の人間とは違う──といえば、彼だけ他の参加者に比べてバトル・ロワイアルの難易度が圧倒的上がっていることも、また違っている面だろう…。
彼は今や出会う者全てが敵と化した『一人無双状態』。
しかも、使用武器は西部開拓時代のしょぼい回転式拳銃一つという超縛りプレイだ。
「あいつはクローンで、ワシは別人…」と説得にかかろうがほぼほぼ無意味。
──というか、場合によってはそんな台詞を言うまでもなく瞬殺されるだろう。
つまりは、利根川のカリスマや貫禄なんか簡単に消し飛ぶくらい、この『マイナス面な他者との違い』は物凄く強い力があった。
…そんな、現状下だった……っ。
「…ちっ……!!」
-
「ちっ…ちっ……!! クズ、ゴミ以下のカスっ……………!!」
「虫けら以下のゴキブリ主催奴がっ…………!!!!!」
「何の生産性もないカスの分際が、このワシを弄び……、嘲笑い…っ!!! 社会的地位は間違いなく下層な癖に…ワシを今見下ろしとる………っ」
「このクズめっ…! クズめがぁああぁぁっ…!!!!」
苛立ちからか、いつもよりも早く吸い終えてしまった利根川。
八つ当たりのごとく、吸い殻をネジネジネジネジッと靴底で擦り潰し、──その怒りの表情は背後の和やかな噴水と対比して、妙なコントラストを生み出していた。
目をかっ開き、歯ぎしりが止まらない利根川。
──イライラが収まらない中ではあるが、彼は分かっていた。
自分がこの殺し合いで選ぶことのできる行動。
それが『二つ』しかないこと、に。
一つ目は、優勝狙いで殺しまくること………──と、これは無理に等しい。
自分の口八丁手八丁を駆使し、参加者同士の潰し合いへ発展させることは可能であるものの、…忘れてはいけないのが『外見』で物凄いハンデを背負わされていること。
主催者そっくりの中年に、まず耳を貸す者などいやしないので、【ステルスマーダー】に就くことさえもできなかった。
ならば、実質これしか選択肢がないのだが、それは────とにかくワンチャン狙って逃げ隠れまくること、だ。
例えスーツを泥だらけにしても、例え出くわしたのがチンケな幼女であっても、逃避し続け『来たる時』を待つ。
これまでの人生バイタリティを存分に活かした本気の隠れんぼ──。
もはや、それしかこの不運な男は成すことのできない現状であったのだが…。
「だが、だっ……!!」
「……何故……、何故このワシが怯えなくちゃいかんのだ…………っ」
「主催者もクズだが…、ワシ以外の参加者共も有象無象のカスばかり…………!」
「…許せん…許せん……っ! それが何とも許せんっ………!!」
「屈辱だろうがっ………!! カス共にワシが逃げ隠れ続けなきゃならんとはっ…………!!!」
そんなもの、自尊心の塊である利根川ができる筈なかった。
…じゃあ、どうすべきか。どうすればいい。
こんなにエリアはだだっ広いというのに、利根川に与えられた自由なんかあまりにも狭過ぎる。
主催者は利根川幸雄という一介のサラリーマンへ何の恨みがあるというのか。
このバトル・ロワイヤルという名の『人生』はあまりに理不尽で、巨大すぎる壁だった。
本当に、利根川は何をすべきが最適解なのか…──。
「ぐうっ……! ワシは………!!」
彼が頭を抱えうなだれた、その時。
──コツリッ、と。自分のすぐ横で金属音がした。
何かが『置かれる』音だ。
「……………っ!!!」
-
わざわざ首を向けなくても分かる。
そうこうせぬ間に『参加者』の誰かに遭遇してしまったのだ。
利根川は一瞬だけ息を呑んだが、その『一瞬の間』で脳を高速回転させる。──回転スピードは、一般人の十倍近い速さ。
頭を超速で働かせ、いざ対峙となる数秒後、一体どう行動し、──そして相手はどう行動に移るか、速攻で考える。
長年のバイタリティから、そして自身の支給武器やゲームスタート後取った行動を下に。相手が何を思考しているか先読み……考察…っ。
そのコンマ秒な熟考の末、利根川が導き出した『自分が次の瞬間やるべき行動』…。
────それは、一旦振り向くことだった。
「…………………」
ピストルを若干隠しながら、スムーズにまず音のした方へ首を向ける。
タイル張りな噴水の縁に置かれていたのは──ブラックコーヒー缶。
「………あー……っ?」
油断したら滲み出そうな冷や汗を堪えながら、次は気配のする隣へと首を上げる。
とうとう出くわしてしまった一人の参加者。
その容姿は、特注であろう気品高いスーツに、青いネクタイ、そして高級腕時計をはめて直立している。
恐らく、利根川と同じ【成功者】の男であろう、そいつは偉く『普通の中年』といった顔つきだったが、それがかえって大物感を醸し出していた。
そいつは、喜怒哀楽の『喜』な表情で利根川を見下ろし続ける。
──殺し合い中だというのに、不相応過ぎる余裕フェイス。
「…………がっ!?」
──そいつがファーストコンタクトだったのは、追い込まれた利根川にとって圧倒的『幸』だったかもしれない。
何故なら。
利根川は、その参加者を『知っていた』のだから……。
「ぐっ?! くっ………、『黒崎』……!!??」
「いやあー、利根川さん! …お会いできて実に光栄です」
「……あ? ………ば、バカがっ!! 『光栄』ではないだろっ……!! こんなモンに巻き込まれ…、それで出会って……、光栄などではっ!!」
「ははっ! それはたしかに」
この黒崎という男────。
彼もまた、帝愛NO.2候補の中間管理職。
利根川にとっては、目の上のたんこぶのような、そんな『盟友』ではあったのだ。
黒崎は開口一番がごとく、利根川へ話し始めた。
「…まぁ、早速なんですけども」
「………な、なんだ……?」
「実は…。利根川さんに折り言って頼みがありまして……、」
-
◆
夜空が煌めかしい。
噴水をバックに、中年二人が並んで腰を据える。
「…黒崎……、正直言ってワシはお前のことが嫌いだ……。苦手なんだよっ……」
「んぐっんぐ……。ぷはぁー──、」
「──…おっ! さすがは利根川さん、今日も毒舌が冴えますね! いやぁー、利根川さんの毒はコーヒーの苦みよりも五臓六腑染み渡りますよー」
「…チッ!! そういうところなんだよ…っ!! …確かに貴様は優秀で…、そして何をしてもあの会長に気に入られて……、ワシは嫉みの情を抱いている……。嫉妬している面もあるのだ……っ、わずかだが貴様に……っ」
「いやいや!! 利根川さん貴方は自分を卑下なされすぎている…! 私なんかよりも会長のご愛顧じゃあないですか!」
「黙れっ!! 会長からの好かれ具合で話を広げるつもりはないっ…!!」
「…いいかっ。それよりもワシはな…。黒崎、貴様のマイページ過ぎるところが気に入らんのだっ…………!! …その自己ペースが大嫌いだったんだ……、ワシは…!!」
「はぁ。…と、おっしゃいますと…?」
「ふざけやがって……。なんなんだ貴様は……? いきなり現れたかと思ったら…、その……──、」
「…あの〜〜〜、えっ〜と。『黒崎さん』……。お知り合いなん…ですか?? その、白髪のおじ様と……」
「Shut Up!! ──貴様は黙っていろっ…!!! 小娘がっ!」
「ひっ!!! す、すみません!!!」
中年二人組。
──すぐそばに、『少女』一人を添えて。
「何が『このお嬢の付き添いを頼みたいのですがー』…だっ…!!! 意味わからんぞ…!! 黒崎!!」
「はは! さっきも言いましたが、私では役不足……というか、無理なんです」
「……え〜と…。えと…。…どうしよ〜……」
…話は、黒崎が説明を終えた十分前まで遡るとしよう。
利根川の前に現れた彼は、実に穏やかな表情で『頼み事』を持ち掛けてきた。
その頼み、というのが…、
-
…
……
────ほら、三嶋のお嬢さん。こっちに来なさい……!
──…く、黒崎さん。……いや、なんでさっきからわたしの言う事に耳を貸してくれないんですか…! もう…さっきから──…、
────利根川さんー、知ってますかね? 彼女は、ほら。前ニュースになった、あの経歴詐称『合法ロリ社長』のー。
『…知らんっ! …そいつがなんだっ? 娘か?! 貴様の………』
──い、いや違いますよ!!! てか、黒崎さん私に協力を──……、
────いやー、彼女がね。『皆で協力して、不殺でゲームを崩壊させたい。だから黒崎さん、行動しましょう』って持ちかけてきたのですが……。
『あ? だからなんだっ……』
────残念ながら私は到底そんなことできないんですよ。だから、私の代役として、彼女と協力してもらえないかな、と。
────んぐんぐっ……ぷはぁ。利根川さん、引き受けてもらえないでしょうかね。
──…いやだから意味わからないですよ!!
『…同感! 意味が分からんっ! 何故、できないんだ!! 貴様に頼んだのだから、貴様が引き受けるのが筋だろ……っ!!!』
────すみません。できないものはできないんです。なにせ、私……、
────…殺し合いに乗る気でいるものですから。
……
…
とどのつまり、『自分は【マーダー】だから【対主催】とは思考が相反する。そのため、【対主催】であろう利根川に彼女を任せたい』。と。
黒崎はそう殺人狂に染まった思考回路の元、利根川に頼んできたのだ。
──このぴーちくぱーちく平和ボケした小娘のお守りをしろ、とニュアンスがあろう。
殺し合いに乗る、と宣言したとき、利根川と『三嶋のお嬢さん』──改め、三嶋瞳が揃って、あんぐり開口したのはなんたるシンクロっぷりだ。
「んぐっ…ごきゅごきゅ…っ……ぷはぁーー!!────、」
「──虫の鳴き声が心地良い。今日はいい月だな……」
「なごむなっ!!! 貴様っ!!!」
「……もうっ〜〜。黒崎さん………。なんなのこの人……」
激情に流されるまま、つっこみ続ける利根川。
かたや、外道に堕ちることを決意した人間とは思えないマイペースさを見せる黒崎…。
同じ帝愛NO.2とはいえ、ここまで思考、温度に差があるとは。──利根川は頭が痛くなりそうでキリキリしていた。
「このガキの面倒を見るかはさておき、だ……──」
-
「──…思い直せ!! …貴様が殺し合いに乗る必要はないだろうがっ!! アホか貴様は…っ?!」
「いやありますよ!! 第一に会長が参加させられてるんですし、」
「……あ…? 会長……………も…………っ?」
予想だにせぬ回答だったためか。
利根川は一瞬凍りついたかのように黙り込んだ。
「まぁそれは置いとくとして、私…夢だったんですよ。『コマンドー』のシュワちゃんみたいな。アクション映画俳優が……っ!」
「いや置いとくなァっ!!! 会長のことは…!」
「…てか、黒崎さん。映画スターになりたいのと殺し合いに乗ることの因果関係は…?」
夢だった──と、少年のように目を輝かせた黒崎は、二人を無視してデイバッグへ。
ゴソゴソ…と。
両手を使ってまで何を取り出したかと思えば…、
ガチャリッッッ
パっと見はまさに土管…丸太のそれ。
自身の支給武器である大きな大きな『ロケットランチャー』の銃口を、利根川に向けて構えだした。
「ぐいぎぎっ…!!!!???」
ざわっ……。
顔を簡単に埋め尽くす巨大な穴に、利根川はもちろんのこと戦慄させられた。
──右手に隠す小さな小さなピストルがなんとも、萎えていく…。
「なーんちゃって!! ……わかりますか? これでひと暴れしてみたいなっていう…──」
「──男のロマンですよ! 利根川さん! それを叶える絶好の場がこのバトロワなんですよ!」
「…あっ、ところで利根川さんは午後ローで好きな映画あったりしますか? はははっは」
「「………」」
黒崎の愉快な笑い声──。
彼が、「はっはっ」を発する度に反比例してこの場がどんどん冷え切っていく。
(…………………こいつっ…!)
利根川は思った。
思い返せば、先程銃口を向けられた時。
必要以上なくらいに戦慄させられたが、それはまさに『こいつなら流れなど関係なく撃ち込んでくるだろう』という恐怖の予見がしたからだ。
黒崎、この男は間違いなくバトロワを舐め切っている。
厄介なことに、このバトロワが生死に関わる恐怖のゲームと理解した上で、舐めきっているのだ。
遊び感覚でこいつは人の命を弄んでいる。
(……いわば、ガチの異常者………!! 人格破綻者………っ!!!)
(こいつはマイペースとかそんなんじゃない……………っ!! 悪魔、悪魔だっ……!)
-
共感性の欠如。
反社会的な衝動。
他人からの搾取、道徳観の欠如と自己中心的な欺瞞。
人間が持ってはいけないといわれる心の特性──とどのつまり、『サイコパス』。
ハナから思考が常人ではないため、そんなイカれきった理念で殺し役を担い出すのも必然っちゃ必然…。
──よく見れば、黒崎のその目は妙にギラついており、目を死んだくらいに淀んでいた。
「く、黒崎さん…!! いっ、言っておきますが、犯罪ですからねー…? 殺人って…。やっちゃだめなんですよ…!! そもそも…」
「…………」
思えば、さっきから黒崎にスルーされ続けている三嶋瞳であるが、「絶対のさばらせてはいけない」と辛抱強く説得を始めた。
マジモンのサイコパシー相手に、内心震えて仕方ない瞳だったが、…黒崎は何をきっかけに彼女へ関心が向いたか。
ドスドスドスっ……と、無言で歩み寄ると、
「ヒィッ!!!」
幼顔を、ゴツゴツした手でがっちり掴み、ギラついた死んだ目を合わせ始めた。
「お嬢さん。気にすることは、ないっ……!!!」
「ひいいっ〜〜!!」
「緊急事態となったら、人を殺すことだって許される………っ!! 大体、この現状がもはや犯罪的………っ!!!──」
「──治外法権地帯じゃ、殺人犯はむしろ『被害者サイド』……!!!」
「ひっ……!! ……あががが…がっ……」
────説得が通じる相手ではなかった。
「…黒崎……、ワシに言えるのは一つだけだ……」
「あっ、なんですか。利根川さん」
「考え直せっ…! ……そもそも、考えてみろ……。ランチャーなんか、貴様撃てる見込みはあるのか……? 撃ち方を知ってるのか……? 貴様っ……!」
「いやー、大丈夫ですよ。その点は履修済み……。『アタックアニマル学園』で……!」
「…………あーっ?? あ、あたっく………………?」
「…いや影響受けた作品コアすぎない?」
────説得が通じる相手ではなかった。
利根川、瞳なんかじゃ、黒崎は。
「あー楽しみだなぁ。わしは一体何人の命をー…。はははっ!! ……それじゃあ、利根川さん。私はここらへんで」
至極真っ当な二人を狂言で論破しきった黒崎は、腰を上げて軽い足取りで革靴音を鳴らしていく。──映画さながらに大砲を担ぎながら。
事実、利根川らはドン引きしただ黒崎を見つめる以外の何もできず。
言い負かされていたのだ。『狂気』で。
元々普通じゃない男だとは、と一目置いていたが、まさかここまで正常な判断を捨て去ったやつだなんて…。と、利根川。
もはや、カカシのようにただ彼の背中を見守るしか、できなくなっていた…。
遠ざかっていく黒崎の背中。
噴水の水飛沫が煩わしい中、コツコツ…と徐々に小さくなる革靴音だけが響いていく。
「……ぐっ………………………!!」
-
(……………………)
(……………ざけろっ…………)
(ふざけろっ………………………)
────いや、ただ黒崎を見送るだなんて。
あの男はしなかった。
(ほざけっ………………。冗談は………)
──そして、男はさせなかった。
コツコツ…と革靴音のソロ演奏を。
ふつふつ怒りが煮えたぎる中、男は、──いや、利根川は『音』を鳴らした。
(ふざけるんじゃないっ……………!!!! 黒崎ィイっ!!!!)
パァンッ─────
と。
夜空に向かって空砲を一発。
利根川は威嚇射撃を撃ち込む。
「…え?」
「行くなアァアっ!!! 黒崎ィっっ!!!!」
「……………………………………」
────消炎が立ち昇る。
利根川に『殺意』は一ミリもない。
だが、その強張り睨みを利かせきった迫真の顔を、そしてピストルを黒崎の背中へ向けるのだった。
ギリリッ…。奥歯が軋り鳴く。
発砲音から、黒崎は軽かったその足取りを完全停止した。
銃が怖かったから、というわけではないだろう。
利根川の本気の思いが、心が無いモンスターを一時的に射止めたのだ。
無論、『一時的に』、ではあるのだが。
-
「………………………ィっ!!」
「………………………………」
「………………………っ!!!」
革靴音が止まり、そして、両者無言のシンパシーが続き。
故に珍しい静寂が訪れたこの場ではあったが。
黒崎。
彼は、背中を向けながらではあるものの、口を開いた。
「…私だって自分が最悪な事をしようとしてるくらい分かっていますよ」
「…ッ……………………………ならっ……」
「でも、私が行うのはあくまで優勝してゲームを終わらせるという──『プランB』ですから」
「優勝せずして…、人を殺さずしてゲームを終わらせる──『プランA』を。三嶋お嬢さんとともに──、」
「────任せましたよ。利根川さん」
「それではまた。どこかで」
気がついた時、黒崎義裕は、もうすでに噴水公園から立ち去りきっていた。
「またどこかで」──と、長いお別れを最後に。
-
(…黒崎………)
──利根川さん、
(やれ、と………。頼む、だと……………………?)
──頼みましたよ。
(ワシ…にっ………………………)
──誰も死なない…。ゲームをグッドエンドで終わらせる。
──殺し合いを終わらせるプランを。あなた方が……。
「ぐっ!!」
ただ、虚しく。
ピストルを下げ、立ち尽くす…利根川幸雄。
彼は決して、カカシのようにボーっと立っているわけではない。
言うなれば、自分に委託されし『運命』とやらを。
深く深く噛み締め、そして心中葛藤していたのだ。
ダークサイドに落ちた盟友からの委託──を。
────Q&A。
Q' 『こんな自分が、参加者を協力させまとめあげ、殺し合いを終わらせられる、か?』
──答えはノゥ。不可能だ。
(主催者そっくりのワシについてく者など、おるまいっ……!!)
Q' 『そもそも首輪が厄介すぎる。これの始末方法はあるか?』
──答えはノゥ。不可能。
(外そうとしたらオシャカ……っ!!! 優勝せん限り纏わり続ける…!!)
Q' 『したがって、【対主催】がバトル・ロワイアルを終わらせる確率は何パーセントだ?』
──答えは0。無理。絶対に不可能ゥッ。
(託されたところで、絵空事は現実にならんのだっ……!)
(不可能なんだっ……。ワシには絶対に……………)
(……『プランA』は…………っ!)
そう。
彼の思うとおり、利根川が、チームを率いて主催者を倒すことなど不可能なのだ。
『無理難題』────であるのだ。
-
「…え? えっと…利根川…さん……?」
────だがそれは言い換えるなら、『無理難題』であるからこそ。
利根川にしか任せられないのだ。
「………………………………クク」
「…クッククク…………………っ!!」
利根川の不敵な笑いが響く。
それは、日々。
ブラック帝愛・兵藤会長の無茶振り、無理難題に悪戦苦闘しながらも…絶えず……。
部下がトラブルを起こしたり、もはや社会的死しか待っていない状況に陥っても…諦めず……っ。
邁進……、挑戦し続けた……。
最後の最後の最後まで、サラリーマンで有り続け、働き通した男…………──。
「…おいっ! お嬢……三嶋とか言ったな?」
「え? あ、はい!」
────利根川幸雄になら。
彼なら絶対に成し遂げられるプランだろうと………。
利根川をよく知る黒崎から託されたのだ…………!
自分の暴走を止められなくなった【ダーク】から、【光】への委託案件。
それが……、『プランA』………………っ!!
「ククク………っ!」
────────Chase the light……!
「…え?」
「Chase the light……! ついて来い…っ!! 『プランA責任者』である………ワシにっ………!!!」
「…っ!! と、利根川さんっ…!」
…そう。
諦めず行動さえすれば…。
一見それがどんな結末……、バッドエンド……、ハードの極み『裏ゼルダ』に見えたとしても……。
途中経過……………っ!
不運な余生を背負わされた男は、その腐りきった運命を打破する為。
殺し合いの終焉──『成功』をする為。
-
「見たいか……っ? お嬢…」
「…見せたいもの、とは……?」
悪魔的な彼らしくはないが、たまには良いだろう…。
「クズゲームの無様な崩壊っぷり……、そしてクズの主催者の………、泣き面っ!!」
「…!! は、はいっ!!!」
光を、追い駆けろ─────っ。
利根川は、バトル・ロワイアルを終わらせる『途中の一歩』を歩み始めるのだった…。
(……それにしても…さぁ〜……)
(別にいいんだけども…、お嬢とか小娘とか……呼び方やめてくんないかなぁ? 私、もう十六なんですけどっ!)
ただ、そんな利根川よりもよっぽど『不幸な目』に遭う者が、ロリ社長の知人で一人。
この渋谷のどこかにいることは、このとき誰も知る由はない…。
【1日目/F7/渋谷公園/AM.00:59】
【利根川幸雄@中間管理録トネガワ】
【状態】健康
【装備】回転式拳銃
【道具】タバコ
【思考】基本:【対主催】
1:自身指揮の元、ゲームを終わらせる
2:瞳をお守り
3:黒崎っ……
4:会長が少し気がかり
【三嶋瞳@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:仲間を集ってゲームを終わらせる
2:利根川さんと行動
【黒崎義裕@中間管理録トネガワ】
【状態】健康
【装備】グレネードランチャー
【道具】???
【思考】基本:【マーダー】
1:バトル・ロワイヤルを楽しむ
2:会長が心配だけど一旦置いておく
※三嶋瞳の参戦時期は高校生編以降です。そのため容姿はメガネにOL服装です。
※この小説はフィクションです。実在の場所や場所、場所などとは関係ありません。
-
明日「ウシジマ、センシ、肉蝮」でお送りします
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[登場人物] [[丑嶋馨]]、[[センシ]]、[[肉蝮]]
-
「ハァ…………、ぐっ………。ハァ、ハァ………………」
世の中ってのは本質上『奪い合い』だ。
受験戦争や社会では相手を蹴落とし、詐欺師はバカから金を捲き上げ、肉食動物は草食動物を喰らう。
略奪された敗者に待っているものは破滅、底辺……最悪は、死。
どんな偽善を吐こうとも、『奪うか奪われるか』で世界が形成され回っている事実は変わりがない。
だから、俺は竹本を追い詰めたことに一ミリも後悔してねェ。
悔いは、全くなかった。
「…いっでえ…………。畜生ッ…………、ハァ、ハァ………………。滑川………クソ野郎がッ………ハァ………」
俺は歩いた。
ギシギシッと痛む腰を抑えながらも歩き続けた。
…その抑えてる手も、腕も骨折まみれで呼吸するたびに悲鳴を上げやがる。
「ハァ…ハァ………、ハァ………………。獅子谷………、熊倉のクズも……………、…ざけやがって…………」
ヤクザ同士のくだらねェ内輪揉めが起点となり、三年近く。
肩を撃たれ、反社野郎には死体損壊や強盗の片棒をかつがされた挙げ句耳を切られ、…義理だか何だか知らねェが糞ヤクザ滑川には現在進行型で散々だ。
至る所激痛を背負わされているが、何より左太腿の状態が酷い。
片足だけ電気水風呂に浸かってるような──足の感覚なんかほとんどなく、引きずりながらも、俺は歩き続けた。
「ハァハァ………あぁ…………。ハァ、………ハァ………………ハ……………ハァ……………………」
…やっべぇ。
視界がだんだんぼけてきやがる。
身体中の外傷もだが、かれこれ三日三晩寝ずに過ごしてきたから、体力面も調子がおかしい。
極度の疲労を感じるとナチュラルハイになるっつうが、ここまで長丁場だと流石に披露が勝るみてェだ。
頭がズキズキと、バファリンを欲している…。息ができねェ……。
「ハァ…………………………。……………ハ、ァ……………………………………」
いや、何よりも。
何よりも、─────空きっ腹が一番苦悶すぎる。
なにも食えねェし、飲みも許されねェ。
殺し屋くんがミネラルウォーターに毒注入しやがったお陰で、滑川と対峙する予定日まで食い物全部疑心暗鬼だ。
クソがっ……。
「…………ハァ………ァ………………ぁ、ぁ………………………」
「………………………………………………メシ………」
──────────────。
ドタリッ、
という音で自分が今ぶっ倒れてることに気付く。
地面の冷たい感触…、激突した時の痛みだろう──じわりじわりと頬のにぶい内出血感がやってくる。
…こんな状態のときに……、殺し合いとか呼び出しやがって。
「………やるなら………………、もっと前の……ときに、…………参加さ……せろ……………っつーの…………………」
…やはり、一番効いたダメージは空腹だった。
血、肉、骨に蓄えられたエネルギーが一秒ごとに消費され、頭も視界も徐々に白銀世界で埋め尽くされる。
俺は息をすることも忘れ、そのまま気を失っていった…………………。
-
◆
……
………
バチッ………、バチバチ……
グツグツ……、グツグツ……
ショリ、ショリ
トントントントン、ザッ
グツグツグツグツ……
…
「うむ、これくらいで良かろう」
…火花が…、飛び交う音が聞こえる…。
何かを煮沸している音が、ガサゴソと物をいじくる音が…。
そして、老人の声が、すぐそばから…………。
「…あッ??」
「む。目が覚めたようだな。メガネの若者よ」
『参加者野郎』の声で俺は飛び起きた。
────妙に香ばしい臭いが鼻に届いて目覚めた、ってのもある。
目を開いた先に広がっていたのは、暗くて汚くてどんよりとそびえる壁。
見上げりゃ闇夜の空、地面は一部分だけ芝生に覆われており俺はそこで体を横にしていたようだった。
──同じく芝生にてあぐらをかく『髭面』と共に。
「ぐっ……!!! …く、くぅっ…………………」
飛び起きた衝撃でズタボロの腰に激痛が走る。
脂汗がじんわり自然発生する程の痛みだ。
飛び出そうな骨の感覚に、歯を食いしばって表情凄まないと耐えそうにもできねェ。
「…痛むか。まぁ暫くは安静にすることだな」
「………………あ?」
「わしは医者ではない。それゆえ、お前の怪我についてどうこう言えないのは確かだ。ただ、今はお前は休むべきなのもまた確か。…案ずるな、時間はまだたっぷりある」
グツグツグツ……
焚き火にて温められる黒鉄鍋から、ドロドロ何かを掬いながら。
髭面は、腰を抑える俺を傍目にそう言った。
──…最も目に付くチャームポイントから隣のジジイを髭面と呼んだが、こいつの容姿はあらゆるところ異様だ。
ホームレスと言うには少し違う………。
低身長な割にやたら硬化な筋肉を『鎧』で纏い、頭にはツノの生えた兜を装置……、腹あたりまで伸びる剛毛はヒゲなんだか胸毛か知らんが不潔感極まりねェ。
奴の近くにはバカでかい斧が鎮座しており、完全に奇人異人の部類だった。
俺がジロジロ観察することを察したのか、髭面とふと目が合わさる。
「それにしてもお主、えらく青白いな…。これは暫し何も食べていない様子と見える。エネルギー不足の表れだ」
「…………………なに…──、」
「いいや、事情は聞かぬ。話さんでもいい。………さて、出来上がったぞ。食うとしようか」
…別に事情説明する気はなかったが。
髭面は茶色いお椀に汁物を注ぐと、俺に、
-
「ほれ」
と、岩みたいにゴツゴツの手で渡してきた。
アツアツの湯気が立ち上るソレは、一見にしてクリームシチュー。
緑の葉物やら鶏肉が白い餡に包まれ、よく見れば米が沈む。雑炊かなんかを調理したのだろう。
クリーミーな香りだがチキンの油香ばしさも邪魔しないくらいに際立つ。
腹が減って仕方ねぇ俺は、普段ならば速攻受け取り、ガツガツと飲むように箸を進めたことだろう。
それくらい食欲そそらせる料理だった。
だった、が。だ。
「…うむ美味い。………ん? どうした? 食いたくないのか」
…この汁物が髭面の『支給武器』だとするんであれば……、偉く人の苦しみに漬け込んだものだぜ。
若虎会のヤクザ共ならともかく、こんなホームレスじみた奴に俺を殺す理由や動機なんか普通に考えてあるわけがない。
が、今『殺し合い中』となると話は別だ。
戦争中、全く恨みもねェ、顔も知らん他国の若者を撃たなきゃいけないのと一緒で、理由もなく殺人が行われる現状下にある。
要は、この料理に毒薬を混ぜてる可能性が十分あるわけだ。
「…ガツ、ガツガツ。ハフハフ…ガァツガツ……。ちと塩気が足りんかな」
──厳密に言えば俺に手渡したお椀、いや箸に塗ってあるだろう。
俺が食うのを待たずして、髭面はガツガツと口に流し込んでいるのだから、毒が含まれるとしたら間違いなくお椀だ。
自ら率先して口にし、料理の安全性と信頼を示してるのだろうが……、猿芝居も良いものだ。
俺は橋を汁へチョポン、と一瞬突っ込んだ後、食いもしないで中身を鍋へと戻す。
「…ガァツガァツ………。…何をしている? お主」
口では俺の行動へ反応を示す髭面だが、その表情はひょんひょうとしてやがる。
全く食えねェ野郎だ。
俺は、お玉で中身を入念にかき混ぜ、ちょうど空になった奴のお椀に注ぐと、一言脅した。
「食ってみろよ…? これでもよ…」
一瞬、面を食らった顔をする髭面。これは果たしてどういう感情を示したわけか。
仮に毒が入ってる場合は、これで奴は口にすることができなくなった。
無論言い訳なんか吐かせるつもりはねェ。
なんらかアクションを取ろうとした時点で、腰元のチャカをぶち抜くまでだ。
正直こんな奴無視して立ち去ることもできたが、何より毒物で狡猾に俺を殺そうという卑劣さが気に食わねェ。
やれよ。どうすンだ。…テメェ。
たっぷり入らされた汁物を呆然と眺める野郎に、俺は警戒心を高めながら注視し続けた……。
「…まったくやれやれだな」
「あ?」
「コイツに毒が入ってるとかそう勘ぐってるようだが……。疑心暗鬼は仕方ないといえど、少しは考えてみろ」
「わしがお前を殺そうと目論んでいたら、この斧で気絶してる間に闇討ちをしたろうに。違うか?」
「………」
そばにあった大斧をカチャカチャさせながら、奴は続ける。
「別に斧に限らず、わしの周りには包丁だのなんだのと豊富だ。それだというのに、わざわざ回りくどく毒殺を選ぶとは。理に適ってないと思わんか?」
「………テメェが、よりもがき苦しむ死に様を見たい異常者って場合もあるだろ……………」
「ふんっ、わからぬ奴だ……。まぁ良い。口で説明できないとなれば、実践で納得させるまでだわい」
そう言うと、髭面は呆れた素振りをした後、ガツガツガツガツガツと盛られた雑炊をかき込み始めた。
-
…食いやがったのだ、こいつは………。
ガァツ、ガァツ、ガァツ、ガツ………
あっという間に平らげた髭面は、食い足りない様子でまたお玉から汁物を器に入れる。
気づけば、鍋にはあと少ししか入ってねェ。
野菜はほぼ溶け込み、肉は僅か。鍋底が見えそうなくらい米と汁も残ってなかった。
……空腹が理由で、体力も同様に残り僅かしか保たなかった。
「…………………チッ、」
気づけば、俺は鍋ごと奪い取り、わずかばかりの汁物に箸を突っ込んでいた。
久しぶりに口にするまともな食事。
大して味わず、勢いのままに喉へ流し込んだつもりだったが……、あまりの美味さに舌が光悦しそうだ。
味付けは塩コショウのみだろう。
参鶏湯に似た味付け、『優しい味』が嫌いで普段ジャンクばかり食っている俺だが、米の甘みと温かなスープに箸を止められずにいる。
こいつは、本当に俺のためを思って飯を作ってくれていたのだ……。
二日ぶりの飯は身に留まらず、心まで染み渡っていった────。
ガァツ、ガァツ、ガァツ、ガツ………
ガァツ、ガァツ、ガァツ、ガツ………
「……………」
「……………」
二つの咀嚼音が、ただ共鳴するだけの静けさ。
その黙食が暫くこのビル裏を支配していった……。
「こらっ! 野菜を残すなっ! 全く…いい大人がなにを好き嫌いしとるんだ……」
…バクバク………。
「……うるせェ。俺は体内で食物繊維が自動生成されるからいいンだよ」
「愚か者め…。いいから野菜を食べなさい!」
「…うっせェつってンだろ…………」
-
◆
空になった鍋。焚き火は消え、チリチリか細い煙だけが昇る。
…髭面曰く、肉や野菜はこの渋谷から『採れた』食材らしい。
「わしは島から出たことないゆえ、このシブヤを知らなかったのだが…。何たる素晴らしい場所ではないか! あらゆる食材が並んでおり、しかも加工済み…! この世の楽園とはまさにここを指すわい」
「…『お金』って知ってるか?」
「…………………あの建物は店だったのか?」
「……一応そこらへんの一般常識はあるンだな……」
寸胴で青い鳥が看板の建物で、『採れた』と話す。
俺はハナっから法を遵守する気はないし、第一万引きなんかよりもやべェ重犯罪をさせられる今だから、どうでもいい話だけどもな…。
髭面は現在進行型で、ギコギコギコと近くにあった木から何かを作っている。
俺の支給武器はチャカ一つだというのに、奴は斧にナイフにノコギリ…一体何本武器を渡されたっつーのか。
謎格差っぷりがきになるところではあるが、今はただ胃もたれの冷める頃合いを待つだけだ。
タバコを吸いながら、夜空を黄昏れ眺めた。
「…『アンデッド』という魔物を知っているか?」
「あ? 何だよいきなり」
「まぁ食後の軽い雑談だ。…アンデッドとは、動く屍。お前たち若者の言葉で言えば『ゾンビ』なのだがな…」
「は?」
「そいつは事実上『食べれる』のだ。…毒抜きを丁寧に行い、乾物にした物ではあるが、ゾンビも食肉と見なせるわけなのだ。魔物図鑑にも丁寧に書いてあったわい」
「……そら食えるだろうけど、死体じゃねェか…。人間の……」
「うむ。問題はそこだ。奴らアンデッドは形式上『モンスター』だが、食材として分類した場合は『人肉』となる」
「………」
「言わずもがなカニバリズムは禁忌。無論司法も重罪と定めておる──」
「──だが、モンスターを殺して食うことは罪になるか? というわけだ。自然の理…、害獣駆除なわけだから誰も罰さない」
「………お前、食いたいのか? …死人を」
「…わしは長年アンデッドと出くわすたびに葛藤し悩んだものだった。奴らは食っていいものなのか否か……。矛盾の狭間に存在しモンスター…それがアンデッドで、もはやどうも最適解が生まれまい──」
「──そこでお前に聞きたいのだが。どっちだと思う? 食うか、食わないか……。どうだ?」
「それ食うくらいなら野菜食うっつーの……」
こいつ、『根はいい人なんだけど…』の典型例だな。
アンデッドだかなんだか非科学的なことはさておき、人肉食にまず一切抵抗考えないのがやべェよ。
つーかさっきから何をDIYしてるんだ?とも思う。
紐やら木の枝やらガチャガチャ、妙に器用な手つきで作って、何をしたいのか皆目予想がつかねェ。
髭面は一体なんなんだ…────。
カチカチ、ギュッ
「よしっ、出来たぞ」
だなんて考えていたら、タイミング良く奴は完成品を差し出してきた。
手当された木の棒、それはどう見ても──────松葉杖…。
「不格好なのは分かる。だが今はプライドを捨てそれを片手に動こうぞ」
「…これを俺に、か」
「……その怪我では歩くにも不自由だからな。さて、そろそろ行くとしようか。若者よ」
-
髭面の指示の元、奴に共音するかのように俺も立ち上がった。
杖越しとはいえ、立つだけでも激痛がえげつない。
…別にこの場で居残り、我道を行くことだってできる。
だが、名前も素性も不明瞭な俺にここまで尽くしてくれた髭面に、行動を共にしねェだなんてそこまで俺も人間として落ちぶれてない。
「…あぁ」
…
……
カツ、…カツ、…カツ、…カツ
……
…
俺等は街を出てひたすらに歩き続けた。
行き先は…、面倒で聞いてないから分からねェ。
ただ、
「わしはどうにかしてこの殺し合いから脱出したいと考えている。…その点、首輪がちと厄介だがな」
と、髭面が言う限り、バトル・ロワイアルから優勝せずして生還……脱走を最終目標に目指してるようだ。
確かに、手を汚さずして無事帰宅なんてできりゃあ誰もが万々歳だろう。
俺が考える限り、まるで塗り固めたように『ルールの穴』なんか見つからないのだから、脱出なんて容易くない。
むしろ不可能とまで言える。
だが、奴もその点は理解しているようで、それでいてどこか自信満々そうに道を進んでいった。
どこまでも、歩いて歩いて。
俺は奴を信じ、進み続ける。
カツ、…カツ、…カツ、…カツ
────だが、脱出成功したとして、『俺』はどうなる?
「……………」
────逃げ切った場合、他の参加者共は平穏な毎日を過ごせるようになるが。
────…俺は何か日常が変わるのか?
────渋谷から出て、待っているのは滑川共腐れヤクザ共の追いかけっこだ。
「………」
────加納が死んで、マサルもいなくなり。…柄崎や高田までヤクザに命を狙われている、今。
────脱出することが俺にとっては『最適解』なのか? …本当に。
「……」
────主催者は言った。「最後の一人まで殺し合え」と。そして、「優勝した者には願いを叶える」とも。
────脱走とはよくいったもので、俺は『逃げ走る』ことが正解じゃないのではないか………?
────それは滑川相手にも。そして、殺し合いを相手にもだ。
「…」
────俺は。俺は。
カツ、…カツ、…カツ、…カツ
「………………………」
-
目の前には髭面の硬質な背中。
…そういえば、コイツの名前……、まだ聞いてなかったな。
「……どうした? 立ち止まったりして、痛むのか?」
「…今更だがよ…、あんた名前…まだ言ってないよな?」
「なんだそのことか。わしの名はセンシ。ドワーフ語で探求者という意味だ。…そう言うお前は何と呼べばいい」
「…あ?………………俺の名……か………」
自己紹介を求められたとき。
…いつもなら『田嶋』と偽名を使って、その場を凌ぐものだった。
闇金業者でのうのうと本名使うなんてバカのやることだからな。
………だが、今は違う。何もかも、世界観も常識も全てが違ェ。
俺の本名──。それは──、
─────────────丑嶋馨だ。
カチャリッ
「……………………………」
「…………………………撃つのか、わしを」
自分がこれから何をされるか、奴は察しているだろうに振り向くことはなかった。
俺は、鎧に包まれていない首へ目掛けて、拳銃を構える。
「…俺にも優勝しなきゃいけねェ理由ってモンがある。…あんたに恩義を感じてないわけじゃねェ……。そしてあんたと意見反するわけでもない。だが、だ──」
「──だが、世の中は奪い合いだ。弱い国は強い国から奪い、資本家は労働者を奪う」
「…………」
「奪るか、奪られるかなら。────俺は奪う方を選ぶ。そして、俺は『願い』で消さなきゃいけない人間がいる」
「悪ィな。センシさんよ」
チャカを握る左手が異様に揺らぐ。
…精神的な動揺が理由だろう。
俺は、今、命を救ってくれて、そして見知らぬ俺を仲間として受け入れてくれた人を殺そうとしてるのだから。
遠い昔に捨てたはずの人情とか罪悪感とかが俺を揺らぎ止めようとしやがる。
だが、情は必ず自分自身のみを滅ぼす。
俺は滑皮秀信、そしてうざってェ極道全員まとめて、楽に消滅させなきゃいけない。──ボンクラ主催者の力を借りて。
仕方ない、が免罪符にならねェのは分かっている。
だが、撃つしかねェ。徹底的にやるしかもうねェんだ。殺し合いに。
丸腰の背中を向ける髭面の戦士に向かって、俺は何も考えないようにしながら、引き金をゆっくり引いた────…。
「撃ちたいなら撃てばよいだろう。お前の人生だ。仮に、わしが命乞いをしようともお前は曲げんだろう」
「……………あぁ、じゃあな──…、」
「だがこれだけは言わせろ。野菜をこっそり捨てた時から思っていたが、わしはお前が心配でならん」
「……………あ?」
-
「お前は自由な気質だから好きなものしか選ばないだろう。それはよい。しかし覚えておけ──」
「──その気質がお前の自由を狭める可能性もあるのだとな」
「…………………」
「よいか? お前は自分が嫌いだからって食いもせずホウレンソウを捨てたが、あれはビタミンB1が豊富で栄養価が希少野菜なのだ。…忘れるなよ、──」
「──損得ばかり行動したとき、最後に待っているのは一番の苦しみだけだ。それだけを肝に銘じて、よく考えてから殺し合いをしろ。分かったか?」
…
……
──人は損得で決めすぎる。見返りばかり求めていたら究極…。自分の為になるコトしかしない心の狭い人間になるよ。
──カオルちゃん………。
……
…
チャカを持つ手が金縛りみたいに動かない。
引き金にかける指が死後硬直みたいに固まる。
指の先の、内部……。骨と、肉と、血管が緊張したみたいに動いてくれない。
俺は………、
優勝しなきゃ安全はないっていうのに。
この糞みてェな人生の危機こそが一番のチャンスだというのに。
俺は………………、
「…………………………………竹本」
チャカを握る手が、しんなりと力を無くしていった。
「………やめたか。…少なくとも、わしはその方がお前の為になると信じておるぞ」
センシは、殺されるだろう寸前までいっても最後までこちらを振り向きはしなかった。
奴は俺と顔を見合わせて話していない。
それだというなのに、見えないはずの奴の凄む目つきに俺は心から負けて、行動に移せなかった。
ドンキホーテへと入っていく奴は、最後、久しぶりに顔をこちらに向けて。
そして、光の中へと消えていった。
「わしはさっきの分の会計を済ませてくる。わしを待つも、勝手に動くも自由だ」
「ただし、わしはお前を待っているぞ。…なにせまだ名前を聞いておらんのだからな! ふはははっ!」
「それじゃあ、一旦は一区切りだ。さらば、若者よ…」
-
◆
カツ、…カツ、…カツ、…カツ
俺は歩いた。
ギシギシッと痛む腰を抑えながらも歩き続けた。
松葉杖のお陰か、引きずり歩いても支障はなく、つい殺し合い開幕当初よりもスムーズに歩を進め続けた。
「………………ハァ、ハァ…」
未遂とはいえ、あんなことをしたというのにセンシとついて行くなんて面の皮の厚さは俺にはなかった。
だが、一つ。ヤツの代わりとして、持ってきたものがある。
それはセンシの魂こもった熱意…、心だ。
こんなこと言うのもガラじゃねェが、あいつの想いはしっかり身に纏って、俺は歩く。
行き先、ゴールなんか決めてねェ。
だが全ては『ゲーム脱出』の為に。
俺は、歩いて、歩いて、身体に鞭を打ち続けた。
「………ハァ、…ハァ……………」
「おい豚ァ!!」
「………………………あ?」
ふと背後から声がした。
一瞬センシに呼び止められたかと思ったが、間違いなく違ェ。
男の野太い声が俺に向けられたので、痛みを堪えつつも仕方なく振り返った。
「………あっ??!!」
──────ゴッガアァッッッッツ
…それがいけないことに気づいたのは、振り返る途中だった。
が、そのときにはもう遅かった。
「ぐっ、がゃぁあぁっ!!!!!!!!」
振り返った矢先、飛んできたのは顔面を簡単に覆い尽くす掌。
掌ってのは普通柔らかい部分があるものだが、『奴』の鍛え抜かれた異常筋肉では、地面に叩きつかれたも同然。
眼鏡が割れ、破片が、目玉中至るところにぶっ刺さり瞼を突き抜ける。
「…がぁっ!!! うぐあっ!!!! がぁあ……あががあっ……………」
目が破裂しそうなくらいに腫れる感覚で…、とにかく開けれねェ。
やべぇことは分かりきっているのに、うずくまり目を抑えることをやめられない。
ガシッ──────
「ぃっ!!!!!!!!!」
そうこうせぬ内に、『奴』は俺を思いっきりヘッドロックし、軽々と持ち上げる。
奴の荒い息が耳に流し込まれる。
その度に血管中がバカみたいにバクバク流れて吐き気を催した。
-
目は開けられねぇ。
突拍子もない攻撃だから、襲撃者の顔すらもわからない。
だが、俺はコイツを……。知っている…………。
会ったのはたった二回だが、声からしてコイツの恐ろしさをよく知っている……。
「大せい〜か〜い!」というように、ヤツは耳元で口を開き始めた。
「丑嶋ァ!!! 車で轢いたせいで……腕また折れたンだぞッ?! 俺がアナル駅弁どンだけ苦労したか分かってんのかッ??!!」
「に、にぐ……………『肉蝮』………………っ!」
畜生ッ……。
コイツもいやがったのかよっ……!
「テメェはただじゃ殺さねェ! 俺様がこの二年近く、山程思いついたお仕置きの数々を──」
「──六時間生放送SPでお披露目してやる! ゲヒャヒャヒャーッ!!! …きつくても歯食いしばれよ!!? 丑嶋ァアァア!!!!!!」
どこに連れてかれるのか。
借りてきた猫のように引きずられる俺は、この時意外にも脳内は冷静だった。
頭の中に思い浮かぶ言葉、それは、
(うーたん…、うさこ…、うさみ…、うーくん…、うさきち…、うさこっつ…、うさお…、うっう………)
ペットのウサギ達の名前だけだ。
──要は、もう八方塞がりだった。
あれから二時間後。
たっぷりの激痛と悶絶で心底絶叫した俺は、それだけ時間を経てやっと死ぬことができた。
-
◆
「…う、うわぁああぁぁあぁぁあ!!!!! 死ぬなァ──────────ッ!!!! 生きろッ、丑嶋ァアァ────────ッ!!!!!!!!」
ドンッ、ドンドン、ゴシュッゴシュッ、グチュッグチュッ
丸眼鏡の大男が心臓マッサージを受ける。
…否。
心臓への暴力行為と行ったほうが正しい。
肉蝮は、靴底で男の胸を思いっきり何度も踏みつけていく。
その反動からポンプのように、男の口から血が吹き出す。虚を見つめていた眼球──真っ黒な瞳孔が、一発ごとに上へ上へと瞼に隠れていく。
「ウッシジマ!!! ウッシジマ! …ウッシジマ!! 頑張れ!!! 諦めンじゃねェエエ!!!! 生きるンだ!!!!」
とうとう、眼球が完全な真っ白──といっても傷片だらけだが、白目になっても、まだこの心臓マッサージは続けられた。
心臓はもう、他の臓器同様潰れたトマトのようにへしゃげたというのに。
「俺の拷問はまだ1/3も終わってねェぞ??!! どうしてくれンだよッ!!!」
「…貴様はァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……弱者かッ!!!」
芸人のツッコミが如く、死体の頭をはたき、肉蝮はようやく落ち着きを取り戻した。
奴は、死体をぬいぐるみ扱いといった具合で引きずりながら、夜の街を歩いていく。
この場が平穏になるまで、三時間以上も費やしていた…。
死体の男────舌を出して首をグッタリ傾ける丑嶋馨を、俺は暫く眺めていた。
俺の名は、丑嶋馨…。
もうどこも痛みはない、苦痛さえもなく、手足もこのとおり五体満足だ。
俺は、自分の死体を、呆然と眺めるしか行動が思いつかなかった。
たらればをほざくのも野暮なことだが、…あの時センシを殺そうとしなければ。
損得だけで考えず、協力を優先していれば、こんなことには絶対ならなかった。
だが、そんなこと俺にできたか。という話だ。
このバトル・ロワイヤルはただの下衆ゲームであるが、同時にこれまでの人生〈チュートリアル〉の出来を試す集大成ともいえる。
これまで自分の為だけに、奪い裏切り、食っていった俺が、そんな偽善ともいえる行動を取れるはずがなかった。
すなわちは、もうゲーム開始時点で完全に死亡が決まっていたんだ。
なら、俺の人生って、一体なんだったんだ………………?
「………………!」
うさぎが一匹、俺の足元に飛び込んできた。
…糞殺し屋に首を切られて、天国にいった筈のうーたん…だ。
同時に、俺の背後から気配が催す。
『そいつ』との距離は五メートルほどだろう。
奴は何を思ったか、一言も話さなかった。
「…………………………」
ならばだ。
-
…『あの時』、突き放した分。
今度は、俺から奴に話しかけることにした。
急ぐ必要はもうない。
ゆっくり振り返り、俺はあいつへと一歩、一歩。歩み寄っていく…。
「………死んだうさぎ達の分も面倒を見てくれたのか…」
「………………本当に……、本当にすまねェ…………………………………。……────なァ…、」
【丑嶋馨@闇金ウシジマくん 死亡確認】
【残り67人】
【1日目/C5/街/AM.3:01】
【センシ@ダンジョン飯】
【状態】健康
【装備】斧、料理セット一式
【道具】鍋、干しスライム@ダンジョン飯
【思考】基本:【対主催】
1:殺し合いから脱出
2:メガネの若者が心配
【肉蝮@闇金ウシジマくん】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???、丑嶋の死体
【思考】基本:【マーダー】
1:全員ぶち殺して楽しんでやるッ!!!
2:丑嶋を殺せたがやや消化不足……
※肉蝮の参戦時期は復讐くん編以降です。
-
[次回]
──────長く苦しむ覚悟はしてほしいねえ…ッ
──────あ? テメェはもっと大変な目に遭うけどな? 追加で『一生物のサングラス』決定ェェ〜〜…ッ!!!
────『The Foreigner 復讐者』
…カモ、三蔵、ミコでお送りします。
-
[登場人物] [[鴨ノ目武]]、[[鰐戸三蔵]]、[[伊井野ミコ]]
-
この日本には生きてちゃいけない人間がうじゃうじゃいる。
強姦殺人を犯したにも関わらずシャバに解き放たれた未成年、いじめで人を自死に追いやったチンピラ、女子高生を拷問殺害したうえ事件を金で揉み消したドラ息子……。
そういう人間に限り、無駄にのうのうと長生きし、幸せに過ごす。──ゴキブリのように。
司法では裁けなくなったクズ共へ、『終止符』を打つ稼業。
それが鴨ノ目武。──サングラス身に付く彼の〝復讐屋〟だった。
「本日は皆様に殺し合いをしてもらいます」
その言葉をカモは、どう捉えたか。
無論、彼に罪のない参加者たちを殺める気は一切生じない。
ただし、殺す対象は一人定めている。
(…あぁ。ちゃーんと、殺すつもりだよ。俺は)
(『クズ野郎』だけをねぇ………!)
彼が激憎の目で見据えていたのは、眼の主催者、トネガワただ一人のみ。
過去、カモに目をつけられた『復讐対象たち』は皆必ず凄惨な殺され方をしたものだ。
彼が重視するのは結果よりも過程……────屑達は皆とてつもない拷問を限界まで経されて死に至っている。
仮定として、ここにいる六十九人が全員死亡した場合、その人数分の『痛み』を鴨ノ目は味あわせるつもりだ。
(クズは絶対に許さないよ。絶対にねえ……)
騒がしさが増しに増すバス内。
対照的に、腕を組んで今はまだ黙座を貫くカモだったが。
一瞬の閃光、そして暗転の後。
目を覚ましたカモの前にいたのは────…、
「…グッ……。…もう……、始まったのかい……………ッ」
少女の亡骸だった。
-
◆
周囲に散らばる重たそうな本。
冷たいアスファルトで横たわるはおさげの少女だった。
パッと見では、疲れ果て周囲の目も気にせず眠りこけた様子なのかもしれない。
──髪の毛散らばるおさげ同様、乱雑にペイントされた真っ赤な血だまりがなければ……。
ゴロンッ
「………………………クソがッ…」
息は、もう既に確認できない。
寝顔をそっと傾けると、後頭部はベッタリ血で塗り固められ、茶髪がどす黒く染まっている。
鈍器で出会い頭一発叩き割られたのだろう。
成人男性、それも硬い物を軽々振り上げ頭を簡単にぶち割るような筋肉質────被害者の状態を見るだけでも、ここまで犯人を推察できる。
(…………確かに気が動転するのも理解はできるよ…。有事に正常な判断なんて難しいからねえ……………)
カモは、震えていた。
(……だが、俺が『理解できる』のは『一般人』の気持ちだけだ)
悲しみ、恐怖、不安、陰々滅々…。
そのどれ一つさえ混じらない感情で、カモは震える。
「…これをやったのが屑野郎だとしたら……。………………殺すッ、絶対に殺すよ……ッ」
死体を目前にカモは、持て余す怒りを前にただただ震え続けた。
『武者震い』──という言葉があるがあれに近いイメージだ。
殺し合いに早々乗った屑を相手にカモはひたすら震え、また兼ねて、そいつをどう『制裁』しようか拷問を想像し、震えに震えまくった。
殺し合いに紛れし社会のゴミクズも殺処分してやるッ……────。
…
「…………すまない。…俺が救ってやれた世界線もあった筈だからねぇ………」
「……本当に、申し訳ない」
サングラス越しの目には涙が生まれていない。
ただ、号泣した際体が震えるのと一緒で、カモは小さく背中を振動しながら、少女へ黙祷を捧げた。
膝を折り、手を合わせて、以降何も言わずに一礼。
カモは未練残りし少女に向かい、ゆっくりゆっくり静かに。
慰霊を祈った。
────背後から忍び寄る影。
────カモの坊主頭目掛けて、パイプレンチが振り落とされる『音』に気づかずに。
ズッガァァアアアッ──
叩き付けられる音が一発、響いた────。
.
-
……
………
「ぐっぎゃぁあぁあぁあぁあぁあっあぁあぁあぁあぁあぁあぁっ!!!!!!」
「……正当防衛ってあるよねえ? 自分で言うのもあれだけど…、もしアンタが『一般人』だとしたら悪いけどそれで勘弁してくれないかな…」
────カモが襲撃者を殴り倒した音のみが、一発。
パイプレンチが風を切よう直前、気付かないフリをしていたカモは背後に向かって拳を突き抜く。
バトル・ロワイアル…こういう非日常には百戦錬磨なカモの拳だ。狙い通り、相手の顔面鼻付近に直撃。
襲撃者は勢いよくゴロゴロと…、武器とポケットから数枚の写真を撒き散らし倒れていった。
そのパンチ力は如何なるものか、「ぎ…ぎいっ……」と拳を受けた数秒後も怯む襲撃者であったが。
カモは、彼へと一歩ずつ近寄り、こう問いかけた。
「…ところで一つ。一応、野暮な質問だろうけどさ……」
「あァッ!!!? …デ、テメェ…………………」
距離が縮まるごとに、明るみとなる襲撃者の容姿。──周囲にはヤツの物だろう、防止とマスクが散らばる。
彼を直視したときカモは思わず「…っ」と唸った。
見た目差別は基より嫌っていたカモであるが、そんな彼でさえ言葉をと切ってしまう程、ヤツは異様な姿をしている。
ツルっとしたスキンヘッドには、パックリ割れたスイカを縫い合わしたかのような手術跡…。
ケモノのような睨み目、血を垂れ流す鼻を過ぎて、吐息を荒く漏らすその口には、『唇』が全くなかった。
故に、剥き出しの歯がズラリと威嚇してくる。
「……本当に、あんたからしたら野暮な質問だろうねえ……」
「ハァ、ハァハァ……! 何が言いてェんだ………ッ!!! ゴラァアッ!!!! ハァハァ………!」
敵の目に見えた異様さに難色を示しつつも、それよりカモの目を引いたのは『散らばった写真たち』だった。
ふと、足元に落ちていたので拾ってみるカモ。
奴にジャンバー内で携帯するくらいだからよほど大切な写真なのだろう。
その一枚の長方形紙を目に通す。
暗い背景…、恐らく自室で撮られたであろうそこには、
顔中『根性焼き』でブツブツだらけの半裸男が映し出されていた。
──よく見れば「初めての体験。あなたに……♡」と書かれた付箋が写真に貼り付く。
「……ハァ、ハァ、ハァ……………………。ハハ……、」
「ブッハハハハハハハハハハハはははははハハハハハハハ…!!!!! ギャッハハハハハハハハハハははははははハハハハハ………ッ!!!!!!!」
カモは、絶句した。
よく見れば他の写真たちも似たような『構図』。
これまで幾度となく犯罪者共と出会ってきたカモではあるが、ここまで言葉を失うのは久々の感覚であった。
スキンヘッド男の狂った笑い声に飲まれそうになる中、奴は一言カモに返した。
「いいだろ? 俺の最高傑作の一枚がそれだぜ。ぎゃはははははははははハハハハハハハハ!!!!!」
「ぎゃーっはははははははハハハハハハ…! ぎゃーははははっはっはァッ!!!!!」
奴を殴ったことで多少解消された怒りがまた沸々と支配してくる。
スキンヘッドの男──鰐戸三蔵の狂笑を受け取ったカモ。
彼もまた、一言ヤツに対して『野暮な質問』を返す。
寡黙なカモゆえ、表情には出さずとも、目の奥のギラギラ燃える黒炎だけは揺らぎを止まらせなかった。
-
「…一つ聞くよ?」
「ハハハははは……。…あァー…?」
「お前さん、────『屑』だよね?」
◆
一枚目。
縛り付けられ、口にはコカ・コーラを突っ込まされた小太りの男。
そいつは全裸の状態で、『ブラジャー、パンツ』を表すがごとく無数の根性焼きがされていた。
「そいつの名は豚塚くんッ!! 俺の兄ちゃん達にカマを掘らせたお礼で、『一生物の下着』をプレゼントしてやったッ!!!──」
「──…風の噂じゃ、豚塚はベッドインでも自分だけ着衣プレイしてるという……。ぶっ!!! ぶははははハハハハハっ!!!!」
「…………」
二枚目。
同じく縛られた男。
彼の体には、見覚えのあるアニメキャラが描かれており乳首部分がちょうど両目になっていた。
──無論、根性焼きアートで。
「こいつァ山中ひろしッ!! …そして、これぞ『ど根性焼き』ッ!!! ぴょん吉を描いてあげたから話し相手に困らねェだろうぜッ!!!! イヒヒヒッ…!!!!」
「………………………」
極めつけは、三枚目だった。
カモが最初に拾った、顔中根性焼きだらけの男の写真だ。
その数たるやいなや、もはや蓮の実を思い出す悲惨さだった。
「それでこいつが村上くんだぜッ! ニキビに困っていた彼を、Dr.三蔵は救いたかった……──」
「──そこで編み出したのがこの熱治療ッ!!!! にきび痕問わず全〜部潰してやったぜッ!!!! 整形してかっこよくなった村上くんはセックス三昧間違いなしッ!!!──」
「──ギャハ! ギャハハハ! …ははははははははッ!!!!!! あーはっはっはっハハハハハハハハハ!!!!!!!」
バサッ、バサバサバサ……
カモの手から写真たちが零れ落ちていく。
想像を絶する鬼畜さに、もはや握る力さえなかった。
そんなカモの肩に、ちょんっ、と乗っかるは三蔵の武器──パイプレンチ。
鼻血跡をこすった『鬼』は、マスクを締め直すとこう宣った。
「────…で、記念すべき十枚目に映るのはテメェって話だ」
「……………………」
「だが、俺もそこまで鬼じゃねェ。テメェの罪状はへなちょこパンチ一つと軽いからなァ?」
鼻をすすり、三蔵は続ける。
「チンコ出して土下座したら根性焼きは勘弁してやる。…あァッ〜? やるのかやらねェーのか、どうすべきかは分かるよなァ〜〜??」
目を背けたくなるような睨みを前にして、カモは一切動じることはなかった。
俗に、メンチの切り合い……────共に『悪』同士の男のみ発生する緊張の瞬間だ。
-
そして同時に、カモは胸が痛かった。
写真の男たち…、名前も知らない彼らであるが、果たしてここまでされるような行いはしただろうか。
カモ自身も人を始末する復讐屋ではあったが、それゆえに悲惨な写真を見て激情を覚えた。
自分は仕事をこなすとき、常に依頼者の辛さ、無念を背負って。
それでいて、加害者を始末する罪悪感をも背中に抱えて、心中重たい物でギッシリな中、復讐をする。
彼には彼なりの、復讐に対する熱意──…いや、覚悟があるのだ。
そんなカモとは、対象的にまるで虫で遊ぶ感覚で人を痛めつけ、最後は『生かして』帰すこの男。
拷問に美学を語るつもりはないが、三蔵の悪意には吐き気を催すほどだった。
パイプレンチを強く握り返したカモは、沈黙の後、三蔵にアンサーを向ける。
「…十分、分かったよ」
「ぶはッ!!!! あ?! じゃあ今からチンコ出すの?! ウケる────…、」
「お前が生きてはいけない存在だってことがねえ…………ッ」
「…………あ?」
それまではまだ一触即発で留まっていた。
カモの怒りの言葉を機に、ピラニアの大群に牛一頭が落とされたかのような、今。
カモは拳を──。
三蔵はレンチを軽く振り上げ──。
「長く苦しむ覚悟はしてほしいねえ──────…ッ」
「あ? テメェはもっと大変な目に遭うけどな? 追加で『一生物のサングラス』決定ェェ〜〜──────…ッ!!!」
互いに熟練の復讐者。
プロによる本物の『殺し合い』が今始まった────。
「…なにしてるんですかァ────!!!! やめなさいっ!!!」
バシンッ
「いでェッ??!!!!」
「…………え?」
「あ…………?」
…始まるかもだった。
この『少女』がいなければ…。
ピ──────────────ッとホイッスルが吹かれる。
-
「【決闘罪】とは、憲法第四十五条。決闘をするために2人以上の者が凶器を持って集まった場合は、凶器準備集合罪が成立します!! 刑罰は2年以下の懲役または30万円以下の罰金です!!」
三蔵の頭をはたき、矢継ぎ早に早口で理由のわからぬことを言う少女。
彼女の顔は二本の流血跡が残り、決闘罪云々〜と講釈どころではなさそうだったが、妙にイキイキと憤慨している様子だ。
「…………あ、………………」
カモ。
彼は少女を知っている。
ゲーム早々出会った、撲殺体の少女……。
息をしていないと見たのは誤認だったか、死んだはずの彼女が痛みも気にせず立っていたのだ。
…おさげをプンプンと揺らしながら。
「言うまでもありません。…このバトロワも憲法第八条【殺人罪】に違反しています。…そこで! 貴方がた違反予備軍が法に準基するよう、私──伊井野ミコが監視しますので、覚悟してくださいっ!!!」
「「………………………」」
「もうっ!! 殺し合いは違反なんですよ!! かっこいいお二人だというのに、殺人に手を染めるなんてもったいないですっ!!!!」
くわっ、と、激おこの少女・ミコはそう言うと固まりきった坊主二人組のうち、一人の方に歩み寄る。
スタスタスタ…と近寄る先は大胆にも鰐戸三蔵。
突然の来訪者に困惑しきった三蔵の頭へ、サスサスと…。
縫い目にも怖じけず撫で回すミコは、
「特にあなた……。この坊主頭が……、んっ…、すっごく格好良くて…素敵です……!」
うっとりし始めた。
電車で隣に変な人が乗ってきた場合を想定しよう。
まるでその時のように、三蔵カモ、二人そろって「ゾッ…」とさせられた瞬間だった。
「……………………どうすんの?」
「…………どうするって……。テメェなァ……………」
違うベクトルで異常なミコを前に、成すすべがない両者だったが、先に動いたのはやはり三蔵だった。
一見中学生かそこらな幼い見た目のミコであるが、よく見ると胸はふっくら盛り上がるほどにある。
ふくよかなDカップを右手で鷲掴んだ三蔵は、ミコを強引に連れ回すと、沈黙を貫きつつ街裏まで動き始めた。
「…ちょ?! な、なにするんですかっ!! い、痛いです……。やめてくださいっ!!!」
…何をし出そうかは説明は不要だろう。
「…まぁ、腹が減っては戦が云々っていうしなッ。処女なら百点、経験者は八十点〜♫」
「正しくは、『腹が減っては戦はできぬ』。北条氏綱の言葉です!」
「一々うっせェンだよッ!!!」
ただ、予見できる惨事を前に。
何もせず突っ立っているほど、カモは善意乏しい男ではない。
「……やめなさい………」
「…あーーッ? 大丈夫だ兄弟分。ちゃんとテメェの分を考えてクリームパイにゃしねェからよ」
「いいからやめろと言ってるんだ…」
少女の前だからか。
割と穏便な態度で、三蔵へと対応を始めた。
よく見れば、三蔵もまたカモに対して比較的穏やかな口ぶり……。
ミコによって鎮火された一つの小さな殺し合いではあるが、(あくまで一旦。)
果たして、今現在渋谷を巻き込む『大火事』の消火は、彼女がキーとなっていくだろうか。
…今は不透明色である。
-
「…クリームパイ…って……。もしかして、中☆しの隠語ですかァー?!! な、なにを言ってるんですか??!!! 不純異性行為…!! 殺し合いの風紀を乱す下劣発言!!! ひ、ひ、卑猥です………っ!」
「…いや確かにご明察ではあるけどねえ…」
「このおんなバカか?」
…ミコの頭内に限ってはピンク色であるが。
あぁそれと、赤色。
【1日目/A6/街裏/AM.0:17】
【伊井野ミコ@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】頭部打撲(軽?)、血がベッタリ
【装備】???
【道具】ホイッスル
【思考】基本:【対主催】
1:殺し合いの風紀を正す。
2:そのために、坊主二人組を監視。
【鴨ノ目武@善悪の屑】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:クズは殺す、一般人は守り抜く。
2:クズ(三蔵)を要警戒。殺害対象。
3:一般人(ミコ)には引きつつも保護。
【鰐戸三蔵@闇金ウシジマくん】
【状態】鼻骨骨折(軽)
【装備】パイプレンチ@ウシジマ
【道具】処した男達の写真@ウシジマ
【思考】基本:【マーダー】
1:皆殺し。
2:ひとまず巨乳女(ミコ)をヤる。
3:カモには殺意を抱きつつも、受け入れてる様子……?
※ミコの参戦時期は選挙後〜文化祭以前のどこか、カモの参戦時期は『外道の歌』最終章以前のどこか、三蔵は成人後〜カウカウを襲撃する前のどこかです。
-
[次回]
────…高木さん………………、…オレ………オレはッ…………!
────ねえ、キミー…、今一人だよね?
────…………っ!!!!
────私は美馬サチ。…呼び方が思いつかないなら、サッちゃんとかでいいけど? ──西片くん。
サチ、西片でお送りします。
-
[登場人物] [[西片]]、[[美馬サチ]]
-
知らないビルで、知らない屋上にて、オレは眼の前のフェンスを握り続ける。
とにかく、怯えるしかできなかった。
あんなに、鍛えたというのに……。
──へェー、腹筋百回に腕立て伏せまで! すごいじゃん。
あんなに、決意したというのに……。
──…なんだろ。ステータスになるのか知らないけどさ、男子って体鍛えるの大好きだよね。女子からしたら筋肉ってむしろ引くのに。
………。
あんなに、力強く毎日トレーニングしたというのに………。
──でも、こんなに継続するのはすごいと思うよ。うん、素直に。
──そうだ。試しに抱えてみてよ。
──私を、さ。
──…ほら、早く! 西片…………──────。
高木さんにからわれた分の、戒め。
毎日汗だくになりながら鍛えて、腹筋も腕筋もガッチガチに肉体改造したというのに。
いざ実戦となった時にはまるで無意味。
敵達を前に闘うことなんてできなかった。
…それは、決してこの身体のせいではない。
────心が。
オレの心が、このバトル・ロワイヤルと対峙する『覚悟』を決めてくれなかった。
一歩前だけでも歩みだす勇気がなかった。
いくら肉体を磨き上げようとも、オレの軟弱な精神は鍛え不足であることに今になって気づいた。
フェンス越しで夜景を見ることなく、ただ俯いて立ち尽くすだけの今。
オレの頭の中は同じフレーズがリフレインするだけだった。
‘あんなに、鍛えたというのに………………‘’
「…高木さん………………、…オレ………オレはッ…………!」
クラスメイト、もとい友人の高木さんがこの場にいることはもう確認済みだ。
なんの力も無い、か細い少女が大人たちに紛れて殺し合い……となれば、どうなることか分かり切っている。
分かっているというのに、俺は怖くて恐ろしくて、死ぬのが嫌で────、一歩も動けない。
「……ぐうっ……、うっ……………………………」
高木さんの「筋トレは女子からしたら引く」という言葉、ようやく本質に気付かされる。
男たるもの、護らなきゃいけない相手のためにはリスクなど考えず行動しなくてはならない。
そういう信念を持ち合わせてなければ、いくら外見を鍛えようとも無意味なんだと。──まるで中身はスカスカのチョコエッグのように。
彼女はオブラートにそうアドバイスしてくれたにも関わらず。…それに気付いたにも関わらず、オレは体を動かしてくれない。
「………ぐうっ、………くそっ、くそくそくそ…………くそっ!!!」
-
足が凍りついたかのようで、オレはそれが溶けるのをひたすら待つ。
溶かす炎は『心次第』と分かっているのに待ち続けた。
………。
……最低だ……ッ。
オレは最悪にチキンな人間だ…………ッ。
高木さん一人も守りに行けない腰抜け以下だ…………ッ。
オレは………。
オレは………。
…オレは………………………ッ──────!
「ねえ、キミー…、今一人だよね?」
「…………っ!!!!」
背後から女性の声が刺さりかかる。
俺はギョッとするのだけが精いっぱいで、振り向きもできなかった。
…そう、振り向いていないというのに。目も合わせずして何故か分かる『冷え切った視線』。
凍りつく足なんか比じゃないくらいの、彼女の冷たすぎる目がオレを急激に冷やさせる。
夏だというのに身震いがカサカサカサカサ──ッと走っていった。
「…はー? 無視? ウケるー…」
そんな冷たい背中に、もにゅっとした温かな感触が伝わる。
「………………………あっ、!」
「なーんだ喋れるじゃん。よかったー」
背後の女性がオレに寄りかかり、…それで胸が押しつけられてるのだろう。
『あっという間』とは上手くいったもので、気付いた時には距離をものすごく縮められていた。
背中に体重が徐々に伸し掛かる。
彼女の脚がオレの股ぐらを通過して先出されていた。
「………って、あっ…、ちょっ…!!」
…これだけで情けない声をあげてしまう自分の、何たる男らしくなさが哀しかった。
矢継ぎ早、名前も知らない彼女の感触を、次は頬が味わう。
一本、二本、三本、四本、五本……、そして手の平。
彼女の柔らかい手がぺったりと右頬にくっつく。反対して、左耳からは甘い息と一緒に声がゆっくり注がれていく。
……もうこのときには、違う意味でオレは動けなくなっていた。
「キミ、なんでそんなに怯えているの?」
「えっ…?!」
不意に、力強く押し始める右頬の手。
──といっても女子の中でも並の並といった力加減だったが、色々力無くされたオレは抗うことなく首を傾かされた。
しばらく押されて、顔が横に向いた時ピタっと止まる。
目線の先には、セミロングヘアで端麗な女子の顔が映る。…恐らく、高校生ぐらいだろう。
先ほど感じた『冷え切った視線』はやはり彼女のもので、目は真っ暗かつどこか身震いする眼力を放つ。
ただ、表情は穏やかで和んだ雰囲気。
見ず知らずのオレへ、ニッコリとすると緩んだ口から彼女は言葉を流し始めた。
-
「…ほら。辺りはこんなにも静か。それでいて、人気なんか感じさせないこの空間……」
「…な、えっ……? ちょ………」
「まるで、世界で私たち二人っきりだけになったみたいだと思わない?」
「……………な、なんですか……………」
「────だから。怯える必要は全くないんだよ。…えっと……、」
自分の腰にて、細い指の感触が感じ取る。
──いや厳密にはズボンというか。
ウエスト部分をそっと捲りあげると、彼女はそこに明記されてる『オレの名前』を確認。
「いや…! えっ!? ちょっと…な、なにして……」
「ふーーん。西片…くんね──」
「────殺し合いとか、怖がらなくてもいいんだよ? だって、あなたには私がいるじゃない──。ね?」
「…………………………は、はい…ぃ……」
彼女が何を考えてるか、オレの頭は推察しきれなかった。
ただ、一つ。
オレと行動を共にしたいんだろな、ということだけはハッキリわかる。
言わずもがなだけど、異性関係とかそういうのじゃなく、純粋な男として彼女は頼っているのだ。
それを言うために、彼女はギュッともっちりした胸を押し付け、わざわざ耳元で語りかけ、──それ故にやわらかなピンクの唇はもう数ミリってくらいに前にあって………。
…紅潮を隠しきれない自分が心底恥ずかしかった。
「西片くんさ、あなたに解いてもらいたい謎があるの」
「…え?? な、謎で…すか……?」
「私は正直生き死にとかどうでもいいし、仮に殺されても受け入れるつもりでいるわけ。…それは別として、この殺し合い……、気になるところがたくさんあると思わない?」
「は、はぁ………? た、例えば…?」
「あのトネガワさんが話してた電話の相手…黒幕なのは容易に想像つくけど、それが誰なのか、とか──」
「──そもそもこの殺し合いは何のために始めたのか、とかね。『そこに山があるから』的な理由で始めたとは到底思えないわけだから。私、気になって仕方がない感じ」
「だから、あなたにこの謎を解いてもらいたいんだけど。…もちろん、私と一緒にね」
「────紹介遅れたわ。私は美馬サチ。…呼び方が思いつかないなら、サッちゃんとかでいいけど? ──西片くん。」
…美馬サチさんの手がオレの太もも……、いや股間あたりをさすっているように感じるのは気の所為なんだろか……。
思えばオレは高木さんと以外女子と関わったことは、…あまりない。
自分の女子スキルの乏しさに辛く後悔しつつ、オレはこのミステリアスな人とどう接すべきか考えに考え続けた。
「……じゃあ、美馬先輩………で………。よろしくお願いします…」
-
◆(別視点にて、話はスタートに遡る)◆
.
-
あーー、うっぜ……。
なんで私がこんなワケわかんねぇあたおかゲームに巻き込まれなきゃいけないわけ…?
説明役のジジイも辛気臭いし、何より周りの参加者連中もやたら暗くてめちゃくちゃダッセんだけど。
つーか、参加させるにしても日中開催にしろよ。
こんなバカ深夜にやらせるとか、私にニキビでもできたらどうすんだっつうの。
…マジ気持ち悪いし、マジイラつきしかしない……。
「私の代役でブタ(小陽ちゃん)にやらせろよ………クズ……………」
…あっ。小陽ちゃんが死んだら、ワンチャン私ボッチになる説あるからやっぱ無しで。
……小陽ちゃん開始数分で死ぬんだろなぁ。ちょっとだけウケる。
私だったら、慎重に相手を選んで、とにかく強そうなやつと行動してさ、最後は騙し討で優勝狙いするけど。
あのブタは不器用だしそんなこと絶対できないだろなー。
フフッ…!小陽ちゃんマジ滑っ稽ぇ〜〜〜〜…!
────ガシャンッ!!!
…うわっ!!ビックリした!!
向こうのフェンスで何やら音が鳴り響く。
…ガシャ…、ガシャ、ガシャ……と、うっせぇなと思いながら、恐る恐る様子を見てみたら……。
「…なーんだ。ガキじゃん……」
すっげえ頭悪そうな中学生が立ってるだけだった。
ガシャガシャ鳴らして発情期かよっ……。
なんか顔もオタク臭くてうぜぇし、一瞬緊張走らせたのが馬鹿みたいに感じる。
はぁ……。
…となれば…、あいつを私はどうするか、だ。
殺すか。どう殺して、そのあと何をすべきか。──これは結構真剣に悩むべき問題だった。
考えてる最中、そういえば支給武器だかなんかを渡されたのを思い出したけど、じゃあそれでどう始末すればいいのか……。
私は考えて、考えて。
慎重に正解を選ぶよう、何回も考えて考えて考えて考えて考えて考えて、考え抜いた結果……────。
「いや、私…力まったくないから勝てそうにないじゃん。あんなガリ相手でも」
────あいつを取り入れることとした。
めちゃくちゃ弱そうな男子だけど、いないよりはマシってことで媚びを売るつもりでいる。
…こんな使い道なさそうな雑魚、成り行き次第でさっさと見切るけどもね。
会話はー……、なんて話しかけようか。
……まぁ、適当に喋っても上手く言い包められるっしょ。
ただ、いきなり話しかけた結果、驚かれて突発的に撃たれる…とかされたらヤだから、『色仕掛け』重きで話そう。
なーんかエロい感じ出しとけばあの年頃のバカガキなんか簡単に支配できそうだし。どうせコイツは速攻見切って死なせるから恥ずかしさを引き摺らないし。
それでいくか。
胸をテキトーに押し付けて、と。
…
……
「ねえ、キミー…、今一人だよね?」
…
……
「…ほら。辺りはこんなにも静か。それでいて、人気なんか感じさせないこの空間……」
…は? あれ?
私なに変なこと喋ってんだ…。
-
…
……
「ふーーん。西片…くんね──」
「────殺し合いとか、怖がらなくてもいいんだよ? だって、あなたには私がいるじゃない──。ね?」
いや…マジやば。
私さっきからめちゃくちゃキモいこと喋っちゃって…、もう止めようにもない。
えっ?なんで??
…
……
「そう、謎よ。あのトネガワさんが話してた電話の相手…黒幕なのは容易に想像つくけど、それが誰なのか、とか──」
さっきから自分でも分かるくらい普通じゃない発言が飛んでいく…。
これってさぁ、ワンチャンもしかして。
…
……
「だから、あなたにこの謎を解いてもらいたいんだけど。…もちろん、私と一緒にね」
「────紹介遅れたわ。私は美馬サチ。…呼び方が思いつかないなら、サッちゃんとかでいいけど? ──西片くん。」
────…私、普段男子と話す機会なさすぎてあがっちゃってんじゃね?今。
こんなガキ相手でも。
…いや男耐性なさすぎじゃね?! 私どんだけだよ…?
「……じゃあ、美馬先輩………で………。よろしくお願いします…」
うおっ、急にガキンチョ西片、話してきたし。
なんだよ美馬先輩って…気持ち悪っ。
まあ「さっちゃん」とか呼んできたら即ぶっ殺すつもりだったけど。
……はぁ。
自分がバカみたい。
いつも校舎裏でぼっち飯してる『アイツ』と、もっと話してれば。…このダサガキから妙な視線注がれず済んだのに……。
「ところで、美馬先輩……。なんだかー、ミステリアスな先輩で…憧れちゃいますよ…………!」
…あー早く男子慣れしねぇーかなぁ私。
そして早く交通事故でもいいから死なねぇーかなぁコイツ。
【1日目/B5/ビル/屋上/AM.0:09】
【西片@からかい上手の高木さん】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:美馬先輩を守る。
2:高木さんを探したい。
【美馬サチ@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【優勝狙い】
1:ダサ男子(西片)にひっつく。場合によっては切り捨てる。
-
※高木さんほぼエアプで書いたので、把握次第訂正に入ります。
他にも何か気になる点・矛盾点がありましたら、気兼ねなくご指摘ください。(指摘はこのスレでお願いします。)
-
夕日に照らされるビル群。
タクシー内にて束の間の休息中、ふとカーラジオから曲が流れた。
小学時代部屋で何回もリピートした、あの曲が。
どんな曲名だっけ、と慌てて歌詞検索をしようとした折、パーソナリティの声「お届けしました曲は〜」と。
聞き逃したこの今、
人生が大きく分岐したような感触。僕は立ち眩みそうだった。
────『ラヂオヘッド』。
…高木さん、ひょう太
-
[登場人物] [[高木さん]]、[[小日向ひょう太]]
-
「…………………え?」
その『放送』を、確認できる範囲で一番最初に聴取した者は西片だった。
「……た、高木さん……?」
「高木さん!! ど、どこにいるんだ!! 返事をしてくれ!!!」
「…は? え、なに。どうしたの西片くん?」
ビルの屋上にて。たまたま聴こえたのだ。
「美馬先輩! この近くに高木さんがいるんです! さっき声が聞こえたんですから…、空耳なんかじゃないんです!!!」
「……。…いや…。で? 急に何?」
「…お、お願いします!! 協力してください…! オレの……大切な人なんです………」
「…今から下に降りよう、って話になってたよね?」
「お願いしますっ!!!! …高木さーん!! オレはここだよー! 高木さぁーーん!!!」
砂嵐混じりながらもか細く。その放送が。その声が。
「……西片くんさ、なんで人に合わせられないかなあ。女子だったらさー、普通空気読んで他人に合わせるものだけどねー?」
(──つうかこれ以上人増やされたら私が動きづらくなんだよカス)
「高木さーん!! 高木さーん!!!」
西片が追い求める高木さんの声。
サチは冷たい目を流すだけだが、確かにこの場にはその『声』が流れていた。
徒労虚しく。あくまで、声『だけ』ではあるが。
…
……
………
「…これじゃん。声って……」
「………えっ? ………じゃあ、なんで……………?」
「あ?」
「なんで……、高木さんの声が『これ』から流れて…いるんだ…………?」
「…はぁ??」
数分して西片らが発見した、出口付近に鎮座するその『電化製品』。
それは厳密にはサチの支給品であったのだが、そいつは電波を受診し公共放送を流し続ける。
電化製品を手に取りマジマジと聴き惚れる西方。
「た、高木さん………。うぐっ、ぐぅっ……! ……高木さんの声が………! 聴こえる……っ!!」
「……………………………」
(……っぜ。2●世紀少年のカンナかよコイツ)
-
────もしかしたら、彼のためだけに。
人知れずして、生放送はOAを開始した……。
…チャシャン、チャンシャン♪
タンタンタンタンカタタタン、タンタンタンタンタン…♪
(木琴の音、バックを彩るはドラム)
パーパラッパ、パッパラパ、パッパラ♪
パッパラパーパパッパ♪
パーパラパ、パパッパ、パパッパ、パパ…デンデンデンデンドーン♫
(トランペットの重奏、そしてベースがアクセントとなる)
「えー、」
「全国三十八局ネットでお届けする…、かは分かりませんが、今日は番組内容を一部変更してお送りします」
「はじめまして。ラジオをRadio〈レディオ〉と呼ぶオデコ、高木です。…高木さんのーー、──」
「────オールナイトニッポン!」
✝
episode #18
────『ラヂヲヘッド』
✝
-
◆
…
……
「えー、ラジオネーム『ジョイナス』さん──」
「──『突然の番組変更驚きました。今大変なことになっている渋谷ですが、世界もなんだか荒れ模様ですね。アメリカでテログループがサンフランシスコを爆撃、細菌をばら撒き死者10万人……。世界はどうなってしまうのか不安です。』……。──」
「──えー! アメリカでそんなことが……! …どれどれ……。…あっ、ほんと今まさにパニック状態らしいですね……。…これは……。……なんだか911を彷彿させられます……。──ねぇ、そう思わない?」
「………ねぇ…って。…きみ、高木さん…でいいんだよね…?」
「うん。そう呼んで構わないよ。…あっ、申し遅れましたね。今夜はゲストと共に進行させていただきます。記念すべき最初のゲストである彼。名前は──…、」
「なんで能天気にラジオ放送なんかしてるのォ──────ッ?!! 意味が分からないよ!?!? 今殺し合い中じゃんかァ──────ッ?!!」
「…はい、──『小日向ひょう太』くんです。よろしくお願いしま〜す」
パチパチパチパチ
(軽やかな拍手の音…──一人虚しく)
「いや高木さん!! 無視しないでよ!!? 本当にこんなことしてる暇じゃないでしょォお──────がッ?!!」
「えー、彼とは縁もゆかりも無い私ですが……。…殺し合い中の皆様ならお分かりの通り、ワープ初期位置が私ら二人とも。たまたまここだったので、成り行きで彼がゲストとなりました」
「また無視したしィ〜〜────っ!!!」
「……あっ、ごめんね小日向。でも大丈夫だよ。ラジオ放送室は鍵かけておいたから『妨害』は少なくともないよ」
「いやカギするまではまだいいよ…!?? ラジオ放送始めるのが色々やばいって言ってんだよ俺はァ───────!!! あーもうめちゃくちゃだこの女ー!!!! なーんで俺はいつもこんなヤバい人らとしか合わないんだーー!!! うわぁああ───────ッ!!!」
「…………………」
「…………はぁ、はぁ、はぁはぁ………………──」
「──はぁ、はぁ…………」
クルクル……くいっ
ごきゅっ、ごくんっごくんっ
「ぷはぁ…………ぁーあぁぁ………」
「…ツッコミお疲れさま。あとそれ私のお茶だよ、小日向」
「…はぁ……。…後で買って返すから…いいだろ………」
「そういう問題ではないんだけどな〜…。ま、さておき。襲撃の心配は決してないから安心して? ──ほら、私この部屋のカギこうして持ってるからさ」
「………………はぁ、はぁ…。俺ら、渡されてるよな…? ──施錠なんて屁とも思ってない『武器』を…さぁ………」
「そだね。小日向はピストルだったよね。ほら、これ。ばーんっばーん」
「…い、いつの間に……っ?! 人の武器を……」
「ドア結構厚いし防音だから多少は大丈夫。…と、まぁどうでもいいことはさておき。──…せっかくの機会だからさ、普段日常生活じゃやれないことをやってみたいんだ。私」
「…………ラジオを……か。…この放送局を占領して、しかも殺し合い中に……」
「うん。この状況だからこそ、やりたいわけで。…現実逃避な行動であることは私も分かってる。でも、殺し合いのことばかり最優先で考えるのも主催者の思う壺であると思ってるよ」
「…………」
「できる限りでいいから、楽しんでみない? 今はさ。小日向」
「…高木さんはなんというか……。その強キャラ感が羨ましいよ………。皮肉じゃなく…」
「というわけでー、ここで高木マジックタ〜〜イム!!」
「…え?!」
-
「今私の手にはカギが握られていますが〜、これを……──あんむっ、ゴクン。飲んじゃいました」
「ちょ、ちょっとちょっとナニしてんのっ??!!」
「いえいえ。リスナーの皆さまに小日向さま、驚くのはまだお早い。…これを今からイリュージョン──なんと転送させます!」
「…今めっちゃ飲み込んだよね?! 喉ごしっぷりハッキリ見えたよ?!!」
「はい。私が飲み込んだはずのカギ……、それがなんと〜〜〜〜?」
PON!
(SE)
「私の下着の中に転移したのです〜! …ほら、小日向。見えてるよね?──」
「…………えっ?!!」
「──スカートをめくって、大胆になる太ももと白い生地……。生地を広げれば……。ほら………。カギが……、んっ……。はあっ……、見えてる…よね…………?」
「……いやカギ普通に持ってんじゃん…。ラジオのリスナー惑わすような発言やめて??!!」
「……あー面白くない。西片ならもっと面白い反応するのに。…やっぱ小日向は高校生だけあって大人〈ドライ〉だね」
「…あっ。そうそう…、高木さん年下だよね??!! なんで俺が敬称で呼んで、高木さんが呼び捨てしてんだッ……?!」
「あははっ! 俗に言うワ●ピースのサンジみたいなものだね。年上のロビンには『ちゃん』で、年下のナミは『ナミさぁ〜〜ん』って!──」
「──というわけで、お届けする曲はワン●ース主題歌にもなった、ヘキサゴンファミリーで────『風を探して』。…一旦CM入ります」
「いや曲チョイスもっとあるだろ────っ!!! つかスポンサーなんか絶対ないよ!? このラジオ!!!!」
〜♪…
(音楽終了後、完全な無音が七十秒ほど続く)
…
……
「…お届けしました曲は『風に尋ねられて』でした。引き続きオールナイトニッポンをよろしくお願いします」
「…曲微妙にイリュージョンさせんなーっ!! てか案の定CMゼロだったな………」
「あっ、お便りだ。ラジオネーム『ファンと共にさん』」
「…ちなみにこのお便りも自演ですからね? リスナーの皆さん!!」
「『ファンはファンでも食べられないファンは? ──答えはあなた様、高木さんです。…失礼。しかし、あなた様が食えない人物であるのもまた事実。…どうか初めに自己紹介の方を、我々に提供できぬものでしょうか』…となっ!──」
「──…うん。そだね。でも普通に自己紹介は面白くないから、…小日向、私の見た目を語ってみてよ」
「……はっ??! え?! お、俺高木さんのこと全く知らないんですけど……」
「見たまんまを話せばいいんだよ。私たちの声しか届けられてない現状。小日向の表現力で私の外見をみんなに伝えてほしいな」
「……見たまんまっつわれてもなぁ………。うーーん………………………?」
「…高木さんは…………………、…ぺったんこ…」
「…………………………………………………」
-
「……ってのは冗談で、センター分けで茶髪のカワイイセーラー服女子です!!!! は、はいっ!!!!!!」
「…………………………………」
「…高木さん、口角は上がってるのに目は一切笑ってないその表情…やめてっ!!! お、俺も悪かったよ!!!!!?」
「…………………………………」
「今殺し合い中だからそういう怖い顔洒落にならないって!!!!! お願い!!! 許してよ高木さん!!!!」
「…………………………………」
「………許すかどうかはリスナー次第だこりゃ。…皆さんdボタンから、小日向追放賛成と思う方は『青』を押してくださーい」
「テレビ放送も目論みだしたぞこの娘っ?!!」
「…とまぁ、冗談はたて置き」
「別に横置きでもいいよ?!」
「…小日向さ、発言は気をつけようね。放送的にもさ。特に女子にその発言かなりやばいと思うから。小日向」
「マ、マジトーンはやめて………。すみませんでした……、高木閣下…」
「…で、ちなみに。小日向も自己紹介しないの? ほら、みんな待ってるよ」
「え? あ……、う、うん…………」
(高木さんが俺を紹介するとか、そういうのはしないんだな………)
「…えーと…………──」
「──あっ、そうだ………………!」
「このラジオを聞いてる参加者の皆!!! マジで聞いてくれッ!!!! この殺し合いは全部『メムメム』って奴が元凶なんだッー!!」
「うわ、びっくりした!」
「お、俺らはある日いきなりメムメムに「魔界の試験だか何だか〜」で強引にワープされて…、気がついたらバスの中にいた…──」
「──『オルルちゃん』も『デデルさん』もメムメムの被害者だから…。仮に彼らに襲われたとしても誤解しないでくれッ!! 全部メムメムのせいなんだ!!!」
「………え? 小日向いきなりどうしたの?」
「……高木さん…、聞いてくれ…。…たしかにアイツに悪気がないことは分かるが…、これは全部メムメムが起こしたことなんだよ………!」
「メムメム?? …メムちゃん……ってのは、察するに小日向の知り合いかな」
「…そうだよ……。知り合い方も最悪だったけどな。…もう、さすがに限界だよ……。アイツに………」
「小日向。…今の放送で、リスナー参加者さんがメムちゃんに悪い印象ついたけど。それでいいの?」
「………………」
「…いいの?」
「………………っぐ…! …いいんだよ……。メムメムのせいで散々な目だからな………。少しは痛い目に遭えばいいよ」
「…その痛い目は『死』を意味するよ? いいの…かな。『アイツに悪気はないことは分かるんだが〜』って言ってたけど、悪意はない友達にヘイトを向ける真似して。自分は満足?」
「…………………………………」
「…………………」
「……なんなんだよ………。高木さん…、俺が「はい間違ってました」って言えば…満足なのか………………?」
「ううん、違う」
「………………は?」
「私が小日向に言ってほしいのはそんなことじゃない」
「…だったら…、…なんなんだよ…………────ッ!!」
-
「自己紹介がまだ」
「…………は?」
「Youは誰?」
「……俺は小日向ひょう太! 胸と脚が好きなだけのただの学生だよ!! んだよチックショ──────っ!!!!!」
「はーい、皆さんこのとおり。当ラジオでの発言はシリアス度0%なので、「メムメムが〜」含めて、これまでの会話は全部マジになって聴かないでくださいね」
「…上手くまとめやがってー!!!」
「……ところで小日向。胸が好きなの?」
「うわっ急に怖っ!!! お願いだから気にしないでよ?!!!! もう!!」
「……見よ、──『高木スマイル』!」
「あの目は死んでるスマイルねっ?!! 二回目勘弁してくれ〜!!!!」
「はぁ〜〜あ…。…さて、ここで一曲。鈴木●之で『DADDY DADDY DO』をお届けします。ちょうどトイレ休憩したいしね」
「えっ?! 曲挟むタイミング微妙に悪いし…、てか高木さん一人でトイレ大丈夫なのっ??!! ──あっ、もちろん殺し合い的な意味でだよっ?!!!」
「うん。大丈夫。花たくさん摘んできてあげるから待っててね。それじゃ、曲スタート〜〜」
「あっ、高木さ──…、」
バタンッ
「……行っちゃったし………」
…〜♪
(音楽が流れる)
「…………………………」
「つーか……、」
「…俺、なにバカみたいにラジオパーソナリティやってんだろ………」
「………つくづく流される性格だよな…。俺って」
「リスナーのみなさんもそんな人いるんじゃないですかぁ〜? …はは、なんつって」
「………ふう………」
「ぺたんこオデコが居なくなったことだし……、俺も抜け出すか…。どこに行くかは宛がないけど…………」
「さて、と…………と」
〜♪
………………
(音楽終了後、再び完全無音が始まる)
-
……
……
………
「…………………………あれ?」
「…おかしいな………? な、なんで俺……、動けなくなってんだ……………?」
「足が痺れて動けないのか………? こ、こんな短時間で………………?」
「…ちょ、ま、まじやばいって……。体が………、」
「…痺れて全く動かない……………! 手も、足も………! 麻痺したみたいに……、動かない…ッ!!!」
「な、なんで……………。──…、」
「お届けしました曲は、鈴木雅之で『DADDY DADDY DO』。…────しびれ薬。それが、私の『支給武器』」
「──────………ッ!!!?」
「お茶にパッケージ似てたよね。あんなの普通飲んじゃうよ。普通…」
「…た、高木さん…………? いつの間に………………」
「あっ、普通は人の飲み物口にしないか。…まぁでも小日向は気にしなくていいよ。私が計画的にたくさんツッコませて、喉カラカラにさせたんだから。自分を責めないでね」
「………………は? な、なにを言って………」
「そうそう。武器繋がりでさぁ、小日向の支給武器。今『どこにあるか』覚えてる?」
「………え? ピ、ピストルだけど…………どこにあるって…──……、」
「──────…っ!!!!!」
「………思い出した? ……その様子だと、ここが『防音ドア』で何発撃っても外には漏れないことも、…思い出したかな」
「…………じょ、冗談だよね………?」
「当ラジオでの発言はシリアス度100%なので、これまでの会話は全部『マジ』になってお聴きください」
「…………本気…なのか………?」
「…せっかくの機会だからさ、普段『日常生活じゃやれないこと』をやってみたいんだ。私──」
「──小日向は『ピストル』だったよね。ほら、これ。ばーんっばーん」
-
「………な、なんで……………?」
「お便りきました。リアルネーム『高木さん』から────『胸いじりがカチンときたから。』…以上です」
「わ、わけわかんないよ…高木さん……──」
「──本当にわけわかんないよッ!!! 高木ッ!!! ふ、ふざけるのもいい加減にし……──…、」
カチャリッ
「小日向。『聖書25章17節』を知ってるかな」
「……あ。……………ぁ………………………」
「えー。『心正しき者の歩む道は、心悪しき者のよこしまな利己と暴虐によって行く手を阻まれる。愛と善意の名において暗黒の谷で弱き者を導く者は幸いなり』────、」
カチッ、カチッ
「や、やめろよ………。ぁぁぁ……ぁ、あ…………!」
「『なぜなら、彼こそは真に兄弟を守り、迷い子達を救う羊飼いなり。よって我は、怒りに満ちた懲罰と大いなる復讐をもって、我が兄弟を毒し、滅ぼそうとする汝に制裁を下すのだ』────、」
カチンッ
チャッ…
「こ、こんな…………、ふざ…けたことで………。嫌だ、嫌だぁあ…………!!!」
「『そして、我が汝に復讐する時』────、」
キィィッ
「やめて……ぁあぁぁぁぁあ………。ぁぁぁああああああああああああっ!!!!!!!!!!」
「ああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!! あああああアアアアアアアアアアアああああああアアあああ!!!!!!!!」
「ぁぁあぁぁああぁぁあぁあ!!!!!! ああああぁあ杏ちゃ──────…、」
「『汝は我が主である事を知るだろう』──────。」
BANNNNNnnnnn……
バンッ、バンバンバンバンッ
バンッ
-
(SE)
「…え??」
-
「…という…、」
「ドッキリでしたぁー!! リスナーの皆びっくりしましたか? たったらーん!!」
バキュン、バキュン、バキュン、バキュン、テッテレーーー
(SE)
(明るいBGMが流れ出す)
「……た、高木…さん………。………は???」
「あはははー! やっぱ小日向もビビった?? もう〜、こんなくだらない理由で殺すわけないじゃん!! あはははは!!」
「…………ひょ???」
「それにしてもこのボタンたち。何に使うのかなと思ったらSEなんだねー。ほら、」
バキュンバキュン
バッ、バッ、バ、バキュテッテレーテレッテッテッテッ、PON
テレッ、テレ、テレテレテレズンPOPON、バキュンバキュン
テッテッテレッテレッテ、バキューンバーンバーンババ
「いやSEでDJすんな────っ!!!! …いやてか冗談にならないからね??!!! 高木さん、ふざけすぎでしょっ!!!??」
「大丈夫大丈夫。一部は冗談じゃないからさ。ほら、体はちゃんと痺れてるでしょ?」
「あっ??!! しびれ薬なのはマジなわけっ??!!!」
「あはははは〜! このラジオを聴いて、小日向同様『どきっ〜!!』とした人はどしどしご応募ください。抽選で一名の方に私の直筆手紙をプレゼントします!」
「…誰も応募しないしいらないよっ!!!! つか、直筆サインじゃなくてただの手紙かよっ??!!!!」
「今、その抽選一名の方へ書き終わりました。『──西片くんへ。』…と!」
「いや一通も応募来てないし!!! てか差出人決まってんなら抽選意味ないじゃんかっ!!!!!」
「…あはははは……。…うーん。やっぱり小日向じゃだめかも。なんか、からかっても期待した反応全然しないし。…面白くない…かな」
「えっ?! ここまで好き放題やっといてダメ出し?!!!」
「というわけで! 小日向がいらないと思う方はテレビの赤ボタンを押して投票してください」
「それ電源ボタンだろォー────っ!!!!」
オオオオォォォォ…
ォォォォ…………………
「……………………西片…」
「……はぁ、はぁ……。高木さん、これいつまで放送する…………?」
「ん? あと十二時間くらい話そっかな」
「…………はは…。はははっ……。そら、その西片くんも大満足だよ………。はは…」
「あっ大丈夫大丈夫。西片、絶対聴いてないから。私手に取るようにわかるもん」
「……え?」
「だからこうやって堂々と『直筆手紙』書いたことを明かしてるんだよ。…ふふっ!」
────そうだよね? …西片…………。
-
◆
「ラジオなんかいいから行こっか。西片くんさあ…?」と一声で。
西片は『小日向』なる男の存在を知ることなく、サチに連れ回されていった。
広い屋上にて、砂嵐混じりに喋り続ける電化製品。
丁度というべきか、ラジオ放送から家電販売店のCMが流れる。
ふと上空は暴風で酷く、雲は荒れ模様だった。
────嵐が来る予感が、する。
ヨドバシカメラが、時報を伝えた。
『ポ────────ン』
【1日目/E4/ラジオ局/5F・放送室/AM.1:00】
【高木さん@からかい上手の高木さん】
【状態】健康
【装備】滑川のピストル@ウシジマ、しびれ薬
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:高木さんのオールナイトニッポンを放送。
2:小日向ひょう太をからかって遊ぶ。
3:西片が気になる様子…?
【小日向ひょう太@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】疲労(大)、しびれ(やや軽)
【装備】なし
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:高木さんにツッコんでツッコみまくる。
2:早くここから出たい…。
3:メムメムにはイラ立ちを抱えつつもどこか心配?
【同時刻、B5ビルのどこか】
【サチ先輩&西片】
【思考】
1:サチの指示の元下に降りる。
※ラジオ放送の内容が日本全国で広まりました。
※ナゾ1【バトル・ロワイヤルの真相】…浮上
「ひょう太曰く、全てはメムメムが元凶とのことだが真相はいかなるものか。また、ひょう太が口にした『デデルさん』という名簿に載ってない人物は何者で、この場にいるのか?」
→小日向ひょう太が『ラヂヲヘッド』にて明言。
-
[次回]
”小学校の時読んだねこぢるで人格が歪んだ。”
”中学時は空が灰色だからを読み、人生を知った気になった。”
”今現在、この小説を書くに至る。”
────『全ては一冊から始まった(前編)(後編)』
…堂下浩次
-
[登場人物] [[堂下浩次]]
-
利根川グループ随一の熱血漢・堂下浩次は、目が冷めたら円形の広場にいた。
起きたら即、初遭遇。
目が合わさった相手は、この広場の主である忠犬ハチ公。──無論、銅像。
小さな空き地のシンボルとして、百何十年もの間、待合人たちを見守り続けた御守犬。
その目に、堂下という人間はどう映っただろうか。
「殺し合いっかぁ───………。ったく、面倒臭ぇーなぁ…」
「ま、別にいんだけどな!」
いや、犬の視点などどうでもいい。
ドガッアッッ
堂下は、その鍛え上げられた肉体で銅像に突然タックルを開始。
驚くべきことに銅像はたった一発の打撃で簡単に崩壊。
やはり、T京大学で主将を勤め、千日間毎時間ラグビーで汗水を垂らしてきたそのパワーは健在だった。
明治末期に立てられ、雨風に曝されながらも座り続けた犬公はかくもあっさりと、トラックに衝突したかのように崩れ去る。
…いや、トラックの方がまだこの男より思慮深いかもしれない。
「うっし。イチ…、ニッ、サンッ…と」
石片が散らばる傍ら、堂下は、ウォーミングアップとして準備運動を一人始めた。
先ほどの石像破壊は軽いアップという意図だろうか。
ちなみに、彼の脳内には優勝することへの躊躇いなんか一ミクロンもない。
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ…!!」
むしろ今から虐げまくる参加者の衆に、自分の肉体美を魅せつけれる絶好の機会だと思ってすらいる。
それは、堂下が無教養だからだとか人格が破綻したサイコパスだからとかではない。
なにせ在京大学を卒業し、大企業帝愛グループの宣伝部にて有望な実績を上げた男だ。
本来なら殺人者になるような人間ではないといえる。
「イーチ、ニー、サンーーーーッ!!」
なら、何故彼はここまで殺し合いに熱く乗っているのか。
──単純明快。
彼は、脳筋だからだ。
「フウっと。ウォーミングアップ…完了…!」
白い吐息、そして湯気がモヤモヤと上がる。
堂下は、参加者名簿で汗をぬぐうと一呼吸置く。
その一呼吸はなにも殺しの覚悟をする現れではない。
言わずもがな、単に身体が酸素を欲しただけである。
「さーて…、よく分かんねえけど俺の魂《スピリット》をかましてやりますかぁっ…!!!」
そう言って彼は、夜のネオン街へ駆け出した。
くしゃくしゃになった紙が道路に転がる。
-
「帝愛魂…」
堂下には信念がない。
殺しを愉しむという狂った愉悦もない。
頭も使っていない。
彼は、己の常人離れした力強さを見せびらかすためだけに、殺し続ける。
「ファイアーーーーっ!!!!!」
そう考えれば、彼こそが真の『殺人マシン』と言えるかもしれない。
ドスドス…と。頭のイカれた猪が、渋谷の街で雄叫びを上げた。
犠牲者はいずこまで膨れ上がるか。
今は誰も知らない。
【1日目/G6/ハチ公広場/AM.0:20】
【堂下浩次@中間管理録トネガワ】
【状態】疲労(軽)
【装備】???
【道具】???
-
…
「あっ、そうだそうだ」
イカれた猪は、唐突に急ブレーキをかけた。
脳が筋肉で支配されている彼でも気になる、何かを思いだしたといった様子だ。
「【道具】だ…!道具。この俺に何が支給されたか見とかねーとなぁ…」
堂下は、肩にかけられたデイバッグに今気づいたのか。
道路の真ん中で支給武器の確認を開始した。
バッグを漁れば出てくるは、大型ライフルだのプロテイン十キロだのササミ肉だのと。
主催者の参加者に対する配慮が垣間見える支給品が山ほど出てきた。
「銃か。まっ、俺の腕力自体が武器だからなんでもいんだけどな」
なら何故バックを開いたのかと問いたいところだが、堂下にとっては武器よりも付属の品のほうが重要だったのだろう。
プロテインを溶かす水が欲しいのか、近くのコンビニをキョロキョロと探し始めた。
まぁまぁに疲れた為か、スタスタ徒歩で辺りを凝視するMr.体育会系堂下。
「はぁ、っにしても他にはなんかねーのかな」
道中、暇潰しとしてギュウギュウに詰め込まれたデイバッグの整理を始めた。
恐らく「ダンベルくらいはねえかな」みたいな考えの下であろう。
「…あー? んだこれ?」
そんな中、堂下が取り出したのは一冊の『本』だった。
表紙にプリントアウトされているのは著者の写真か。
かつて話題になった高校生ロリ社長の笑顔と共に、題字がテッカテカと書かれていた。
「『私だからこそ伝えたい…ビジネスの極技』ぃ…だぁ??」
初見ではアイドル本かなにかと思ったが、どうやら社会人向けの本のようだった。
「うーん、まぁ…読んでみっか」
意外にも堂下は、彼に似合わぬビジネス本を、ペラペラと開き始めた。
思えば、自分の人生でこういった本は一度たりとも手に取ることはなかった。
だから、これもいい機会だし何より無料で配布されたのだから触れてみる価値はあるだろう。
そう堂下は考えたのかもしれない。
──あるいは、ブックオフに売るための品定め、か。
「ふーん…」
教科書以来となる、製本された書物の読解。
ページをめくるたびに妙な懐かしさがこみ上げてくる。
「……………」
堂下は、その本を読んだ。
「……」
読み続けた。
「…」
気が付いたら、ながら読みだった足は止まっていた。
それほどまでに、堂下はこの本に熱中し、時間を忘れるまでにいた。
交差点の真ん中で、彼は状況も場所も忘れ読み続ける。
無言で、ひたすらに。
彼に一体なにがあったのか心配になるほどその本を相手して無言を貫き続けた。
星がふと、流れる。
数十分して堂下はポツリと言葉を漏らした。
-
「こ、これは……」
その『一文』を読んだ時。
瞬間、バサリッと本が地面に零れ落ちる。
そこには、お手本のように声を失った堂下の姿があった。
人生。
理論上、何万日も過ごさなきゃいけないその長い道のりは、時として大きく自分を変える出来事だって存在する。
いわば、『起点』だ。
この一冊の支給品は主催者の意図してか、堂下を大きく変えることになった。
そして、それはやがて殺し合い全土も揺るがす破天荒な事態へと至っていく。
そう、全ては一冊から始まった──。
-
□
はじめに
「俺はこの仕事で天下を取る!」
「この新ルールでビジネスに新風を!」
これはそんなあなたの熱意を形にするための本です。
初めの内は賛同してくれる人も少ないかもしれません。
挫けそうになるかもしれません。
そんなときはぜひ、この本を覗いてみましょう。
そしたら……。
(『私だからこそ伝えたい…ビジネスの極技』-宝鳥社 一頁より抜粋)
□
→Next:『[[全ては一冊から始まった(後編)]]』
-
[登場人物] [[三嶋瞳]]、小宮、[[堂下浩次]]
-
「えぇ、本……ですか? 私に」
話は数ヶ月前に遡る。
「はい…!」
都内。昼休憩の最中。
レトロな喫茶店にて、テーブル席にコップが二つ対面する。
「いや、私……純粋に貴方様──、三嶋社長を崇拝してまして。社長が新聞などに寄稿されたコメントやコラム…全部読ませてもらったんですが……」
「…はぁ、」
男は、注文したデラックスパフェを一口入れると、目を輝かせ舌を回し始めた。
「まさしく『ニュージェネレーション』……! 我々、旧世代の社会人…よもや企業家すら思いつかなかった新感覚のビジネス論に…感動したんです……! …つまり、」
ニヤリっ。
と目を合わせた後、男は名刺を差し出す。
『宝鳥社 担当編集者 小宮 哲也』と灰色かつ部分的にキラキラ輝いた名刺。
それを見て少女は、思わず息を呑む。
「これは本にすべきなのではないかと……っ! 本日私はそう依頼に、三嶋社長をお呼びしたわけなのです」
「…はあ。とりあえず、お褒めに預かり光栄です」
紙は、舞い降りた。
少女──三嶋瞳の元に、執筆の依頼が突如来たのである。
瞳はオックスフォード大学卒業後即企業し、今や大手コンサルティングのトップとして数十億稼ぐ若社長として(世間一般では)有名。
その童顔さもさることながら、圧倒的カリスマと仕事に対する敏腕さから多くの同業者から崇拝されている彼女。
日夜スケジュールが埋まり、多忙を極めるそんな三嶋瞳に本の執筆依頼とは。
正直、編集者・小宮も心中はダメ元であった。
「話が急すぎて正直…「う〜〜ん」って感じではありますが……」
「あっやはり……。いえ。三嶋社長。それはもちろん今すぐ決める必要は……」
が、中学生の頃から一日何十件もアルバイトをこなし、スケジュール帳が真っ黒だった瞳にはもはや慣れたこと。
この程度の仕事なんて、引き受けて当然だった。
「ふふっ。まぁちょうど良かったです」
「…えっ?」
「私の理論が…。社会人の皆様に役立てるようであれば光栄中の光栄ですから、ね」
「…お、おおっ……!」
「前向きに考えさせてもらいます。ぜひ!」
瞳は二つ返事で受諾した。
もっとも以前から本を書いてみたかった、なんて思いが軽く含まれているのもある。
こうして始まった三嶋先生の執筆活動。
了解を得た編集者が「バンザ〜イ!」と立ち上がり雄叫んだのは若干違和感だったが、この日はこれにて解散。
「ふう、っと…」
帰社するや否や、瞳は早速ワープロを立ち上げる。
本格的に本を書き始めたのであった。
カタ、カタカタカタ
カタカタカタカタカタ
「とりあえず…こんな風に書いて……」
-
自室にてタイプ音が波に乗る。
仕事は請け負ったものの、正直、瞳に自信はあまりなかった。
なにせ彼女はまだ十六歳。
当然、執筆経験なんてさんさらないので、ベストセラーのビジネス本数冊を参考に八苦しながらの出だしとなる。
小学生時代、作文で褒められた経験はあるものの、物書きといえばそれくらいだったので不安は残る。
(そもそも私自身、ビジネス論なんて持っちゃいないしー……)
だが、これも天賦の才だったのか。
基本の『型』を理解すると、不思議と筆が乗っていった。
それはまるで取り憑かれたかのような。
「いや…待て。……我ながら結構いい文が書けたのでは?」
気づけば瞳は、一章二章と楽々書き続けていた。
カタ…
カタカタカタカタ…
カタッカタッ…カタカタカタカタ
例によって、ある晩のこと。
時刻は二十三時過ぎ。
ワープロを前に、ぎゅっと眉間を指で押した瞳はぼそっと独り言を吐いた。
カタンッ。
「うん、よし。今日はここまで、と」
物書きとしての情熱が開花されたとはいえ、瞳は合間の時間すらほぼないベンチャー社長。
普段の業務に支障をきたすとまずいから、と。
無理せずコツコツにをモットーに、ベッドに眠ることとした。
睡眠は現代社会人にとって最低限必要不可欠。
布団を肩まで被り、目を閉じる。
束の間の無思考時間。明日に備え、ぐっすりと眠りに落ちていく…。
(………)
しかし、だ。
(…っ!! そうだ……!)
(ここに関しては、「〜情熱を持った仕事で」で閉めたほうが文章の繋がりがいいじゃんか!!)
瞳は突然、ガバッと起き上がる。
向かう先は、パソコンの置いてある机。
カタカタカタカターー…
執筆中よりも、何もしていないリラックス中のほうが良い文章というのが閃くようで、そうなるともはや寝る間など惜しんでいられなかった。
筆がノリ続ける瞳。
「はははっ、もう止まらないじゃん…! 文章書くのって…」
彼女は、この短期間で既に『覚醒』していた。
「楽しいっ!!」
そういった具合で、瞳は移動中のタクシー、昼休憩、はたまた業務中のほんの数分生まれた合間を使ってでも書き続けた。
気がつけば、第三章、第四章までと書き上げ、その原稿を編集者に送った際、反応も良好。
-
〘小宮様 へ。〙
〘第四章が完成しましたので、お送りします。〙
↓ピロン↓
『三嶋様 へ。〙
〘拝読しました。素晴らしいっ……! 直す箇所など0!! 早く、早く続きを読みたいです…!!』
「…やった! よしよし…!」
と、いった具合にOKの連続。
編集者の言う通り、大きな直しなど一つもなく、わずか一ヶ月で。
カチッ
「よし、送信…と!」
最終章も書き上げた。
その内容というのが、既存のビジネス論を理解した上で否定し、新しい観点から仕事のあり方を解説していくというもの。
これまでの瞳の経験を存分に書き上げた集大成で、書いた本人も陶酔するほど満足のいった文だった。
縦読みでこっそり「自分は経歴詐称だ」と訴えを差し込んだ箇所も含めて気に入ったらしい。
完成した夜、会員制バーにて瞳は呟いた。
ノンアルコールのグラス片手に、氷が溶け動く。
達成感に酔いしれる、というか。新たな自分の可能性を噛み締めた様子であった。
「…ふふ。私向いてるかもしれないんです。案外…」
「ほお。と、いいますと」
カタカタ…とカウンターを指で鳴らし、瞳は説明した。
「書くことに、ですよ…!」
で、翌日。
喫茶店にて。
「それでは三嶋先生、執筆お願いします」
編集者は万札の束をドサッ、と机に叩きつけた。周囲の客は注目せざるを得ない。
手元には、クッシャクシャになった原稿の茶封筒が…。
「えっ?? え? それはどういう…、」
「全部書き直しです。これは、原稿料ということで」
瞳の言葉を遮ってまで、『リテイク』を突きつける。
注文したデラックスパフェのチョコを口にした後、編集者は平然とした顔で諭吉の束を差し出してきた。
「な、なな、何でですか?! あ、あれだけ大絶賛してたのに、その掌返しわけわからないですよ?!!」
「うーーーーーん…。僕も上手く口にできないですけど、そら最初は良かったですよ。でもさ、通しで読んでみたらなんというか…凡庸な内容かなー、ていうか…」
「はっ、はぁあ…、……?? 凡庸…?!」
「先生ならもっと上手く書けると思うんですよ…。あんぐっ、パクパク。…んだから、まぁ期待を込めて没かな、っていう」
「なっ……。そんな……、……おまっ……」
「んじゃ、また二週間後にお願いします! 三嶋先生!!」
「いや締め切り付きでっ?! …って」
-
気づけば、スタコラサッサと編集者は喫茶店を後にした。
残ったのはゴミのように放置された原稿のみ。
もはや差し返すことのできなくなったテーブル上の札束は周りの目が痛く、仕方ないので懐にしまったが、瞳は絶望の眼差しで大きくため息をついた。
「書き直しって……」
「私の一ヶ月は……、なんだったの……?」
帰社後、さっそく瞳は一からの構成を立て直した。
カタ…カタカタ……カタカタ
プロットから見直し、以前書いた内容とは真逆の主張を綴ったり、気に入った文章だけは主張そのままで表現を膨らませたり。
章を増やして、彼女は書けるだけ書き換えてみた。
二週間まで、という謎の期限付きである。
以前は楽しく趣味として書いていた本も、今では課題をやらされてる感覚で苦痛だった。
カタ…カタ…
カチン……
〘小宮様 へ。〙
〘最終章が完成しましたので、お送りします。〙
↓ピロン↓
『三嶋様 へ。〙
〘拝読しました。最高じゃないですか…! 明日、喫茶店で出版のお話を是非しましょう!!〙
「はぁあ──────……。やっと、終わった」
それでも己の全てをぶつけて、瞳は書き上げた。
完成したのは、締め切りまで残り十時間に至った深夜だという。
次の日。
昼下がりの喫茶店…、
ジャバジャバジャバ────────ッ。
「なっ????」
瞳の原稿に、熱々のブラックコーヒーが注がれた。
「なっ、なななぁ────────────────?!?!!!!???!」
瞳が注文したコーヒーを、平然とした顔でぶっかける男──、編集者・小宮。
彼は誤ってこぼしてしまったわけではない。
むしろ、誤っていた方が瞳にとっては良かった。
「やり直しです。先生」
そう言うと、小宮はまたしてもバンッッと万札束。──厳密に言うと前回の金額の十倍のそれを、テーブルに叩きつける。
ただでさえ痛い周囲の注目が、余計に濃くなっていく。
「お、お客さま!! 火傷は大丈夫でしょうか…、」
当然、ウェイターが慌てた様子で来たが小宮は完全無視して瞳のひとみを見続けた。
先ほどの札束を叩きつける勢いといい、ギラギラした目といい、心中かなり激昂していることが察せる。
──対義して、ポタポタと零れ、濡れ果てた原稿の束は哀しいくらいにしょぼくれていた。
「いやー、すみません先生。崇拝する三嶋先生がこんな駄作を書いただなんて、私許せなくて。あんぐっ、パクパク」
「がっ…あが……いや………」
-
「だから、先生の名誉を守るため『無かったこと』にさせていただきました。はい、無しです。無し」
瞳は無理やりにでも言葉を振り絞ったが、出たのは一言が限界だった。
「んなっ……プレバトの俳句式…………」
気づけば、小宮はパフェ代の会計を済ませ、今にでも帰ろうと出入り口付近に背を向ける。
帰り際、彼はやたら大きな声を瞳に飛ばした。
──こころなしか眼も飛ばしたように感じる。
「では、また三日後。喫茶店で! お待ちしてます!!」
ガラス張りのドアを蹴り上げ退店する編集者。
後にはポツリと、三嶋瞳が残されるだけであった。
-
◆
〘小宮様 へ。〙
〘せめて、どこが駄目なのか教えてください。自力じゃもう分からないですよ!〙
このメールは未だ既読さえつかない。
丑三つ時。
暗い自室にて、ワープロとにらめっこ状態の瞳。
カタ…………
カ、タ……
「はぁ…あが…ぁああ……」
カッ、タ…
「あ゛ぁあーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!」
彼女はもはや一文字たりとも進むことができなかった。
スランプ──あまりにも理不尽なやり直し。
本来なら瞳は気づくべきだった。
このあまりにも理外な直しの要求を受けた時点で。
いや、もっといえば。
執筆依頼するファーストコンタクトの時、悪びれもせずデラックスパフェを頼んでいる時点で。
小宮という男の、編集者としての能力の怪しさに。
我を無理やり通して、言ってしまえば自分の権利を行使してでも最初の原稿で通すべきだった。
だが、無理。
彼女には無理だった。
カタ、
カタ、カタ
タ………
「がっ、へ、…へへへ…ははっ…! は…!」
何故なら、彼女は頼まれた仕事はどれだけ無理なものでも断れない性格だから。
クライアントの要求を飲み続ける人生をずっと送って来た彼女なのだから。
三日で一冊書き上げるため、隈を深くしてでも尽力した。
そして、締め切り五時間前。
真っ暗だった空が薄い水色に変わり始めた頃。ついに。
「もう、これで……いいや……」
「適当なベストセラー本の文章を、丸々コピペして……」
カチッ
「完成、っと…………」
「ぶふっ……! ふふふふ!」
度重なる疲れで、笑動的な震えが止まらない三嶋であった。
-
そして、三度目の正午。
喫茶…、
「地上げ屋かァアアっ!! 三嶋ァ!! お前はっ……!!? どれだけ金を積めば満足だァア……?!! 金をっ!!!」
「ひっ!!?」
バリッ、
ガシャアン──。
札束が叩きつけれた先は、デラックスパフェ。
ガラス片が四方八方飛び散り、瞳の顔にクリームがぴっぴっと飛散していく。
「お客様?! ど、どうされましたか…?!」
「えっ?!」「な、なに??」
ざわっ…
ざわっざわ、と喫茶店は一躍小宮の独壇場と化す。
「目を覚ませっ…!! 瞳を覚ませよ、先生っ!!!! 何のためにお前は書いてるんだ?? ええ?! この鬱屈した社会にて革新ビジネスを伝える…そのためだろうが…っ!! 違うか? 違うかァアアア!!!?」
「………ちょ」
(やっぱり手抜きバレたか…)
「確かに全体を通して新感覚というか、味わったことない文章でしたよ?! でも、この程度が三嶋先生かって、そうじゃないでしょうがっ…!! ねえ!!!」
(いや気づいてないんかいっ!)
小宮という男はもはや常軌を逸していた。
開口一番ブチギレたかと思ったら、今度は額を床に擦り付けグリグリズリズリーッと土下座をしてみせる。
客、店員、奥にいる料理長。周り一帯のドン引きしまくった視線が瞳にとって物凄く辛かった。
自分は被害者の側なのに。
こいつと同セットで見られているのがはち切れそうなくらいきつかった。
「お願いしますっ…!! 三嶋先生!! 本気を出して書いてください!!」
「貴方様のような方にはこんな場末の出版社に本を依頼されるのはさぞつまらないでしょう……!! ですが、どうか!! どうかこの通りっ……!!」
「熱意を…っ!!! 熱意を注いだ本をお書きください!!!」
「先っ生ぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜…っ!!」
言わずもがな、原稿用紙はグッチャグチャに丸められていた。
-
◆
〘サラリーマンが少女に白昼堂々土下座…。三嶋瞳社長の黒すぎる噂。〙
〘「お願いします。お願いします。」〙
〘若い男性が、眼鏡の少女に土下座をする異様な光景。彼を前に立ち尽くすは、なんとあのネットで話題沸騰だった若社長・三嶋 瞳氏(26)だったのだ。〙
〘男性がなぜここまで懇願しているのかは定かでない。しかし、ただごとではない事態なことは確かと言える。三嶋氏の恐ろしい裏の顔という訳か。経済ジャーナリストの田宮氏は、語る……〙
「んだよ、これ…」
デスクを前に、瞳は頭を抱えた。
検索エンジンを開くとデカデカとピックアップされていたのが、これ。
コメント数からしてお祭り騒ぎなことは想像も容易い。
もはやこうなった以上、心配なのは本どころじゃない。株価だ。
完全なる風評被害とはいえ、自社のネガキャンに繋がるやばいニュースが飛び出たのである。
なんとかしなくてはならない。なんとか。
(損切り…すべきだった……。本なんかっ……)
瞳は後悔した。
自責点は0点だが、元はといえば必要ない『執筆』という仕事を引き受けてしまった自分のせい。
仕事の取捨選択をすべきだった、と今はとにかく心中戒め続けるのであった。
そんな矢先。
電話が爆音を鳴らし始めた。
「……え」
連絡先には「宝鳥社 編集部」…と──。
『あー、もしもし。三嶋さんですよね』
「あっ、てめっ…!! どっどうしてくれんですか!! なんなの……。私、なんも悪くないですよね?! おかし…、」
『担当の小宮が有給を取ったので変わりました。私、里田と申します。えーとですね』
「…え?」
『昨日没になった原稿ですが、すごく良かったので出版決定しました』
「……え??」
『おめでとうございます。ついでに、没にされた第一原稿も出版化しました。というわけで、後日、印税とか諸々の話をしたくご連絡をさせて頂きましたので、日程の………────、』
え???
数ヶ月後、三嶋 瞳 著『私だから伝えたい ビジネスの極意』が出版。
そして、即重版。炎上も即風化。
ビジネス本としては異例の百万部を売り上げ、働き方改革に大きな一手を打ち出したという。
「…なんだったんだよ。この期間は……」
渡されていた万札束はテキトーな財団に全額寄付した。
-
□
…挫けそうになるかもしれません。
そんなときはこの本を覗いてみましょう。
これを書いたのは、あなたと同じ熱意を持っていた私なんです。
いつかあなたのビジネスが軌道に乗って、この本を離れることを願いつつ。
それまで、私があなたに本を通してつきっきりで、社会についてサポートさせていただきます。
お粗末な文章ですが、お付き合い。よければお願いします。
(『私だからこそ伝えたい…ビジネスの極技』-宝鳥社 二頁より抜粋)
□
-
(うぐっ…うぐっ…うぐっ…!!)
時は変わって現在。
ド深夜の渋谷。言わずもがな、バトル・ロワイアル中である。
(うぐっ…!!)
ボロボロ、と。
涙が止まらなくて止まらなくて仕方がない漢がいた。
やかんの湯なんかよりも熱い、熱すぎる。
そんな男泣きが。涙が零れつづけていた。
「すごいっ…! 読んだこと…ねえよ……!! こんな名文をよおっ…!!」
男には、理想があった。
理想の男像、人間像があり、それに向かって日夜厳しい運動で身体を鍛えあげてきた。
「すみませんでしたっ…!! 私が悪かった…。極悪人だっ…!! 殺し合いに乗るだなんて…だいそれた過ち…!!」
だが今宵、その理想像が虚構かつちっぽけだったことを知り、男は打ちのめされる。
全ては支給品である一冊の本から知った。
真の理想、とは。
それはまさしく本の著者である──、
「三嶋瞳先生……っ!!! ですよねっ……!!!」
男は荷物を放り投げ、駆け抜けた。
涙はまだ止まりを見せないが構わない。
コンビニを、居酒屋を、ビルを、光の速さで追い抜いていく。
男が猛ダッシュする目的地──、それは理想の人間の元。
────「『参加者名簿』っかぁ。えー、ライオス…野原ひろし…『三嶋瞳』…内笑美利…なんか色々いるな!」
「ぜえ、はぁはぁ…はぁ…、待っててください…!! 三嶋大先生…!」
理想の崇拝する人間が、偶然にもこの殺し合いに巻き込まれていたことは既知していた。
彼女を守りたい。
そして、保護した暁には、この殺し合いという腐ったゲームを崩壊させる。
絶対に。
この自分が。
固い決意という名のボールを抱き、ラガーマンはフィールドを蹴り飛ばしていく。
『ペンは剣より強し。』
(──一九世紀イギリスの小説家・劇作家・政治家リットン(Lytton))
「三嶋大先生ぇ────────っ!!!!! 私が…、──堂下浩次が、貴方を全力でお守りすることを誓いますっ!!!!」
瞳の情熱は、バカに火をつけた。
【1日目/A7/街/AM.04:44】
【堂下浩次@中間管理禄トネガワ】
【状態】疲労(大)
【装備】なし
【道具】本『私だから伝えたい ビジネスの極意』
【思考】基本:【対主催】
1:三嶋瞳大先生にお会いして、忠誠を誓う
2:殺し合いを終わらせる
-
"異常な自分が、僕は好きだった。"
"そんな僕が憧れた異常な彼女は、もういない。"
"異常な目で見てくる周囲は何より嫌いだ。"
────『少女と異常な冒険者』
-
[登場人物] [[来生]]、[[ライオス・トーデン]]
-
世の中には、変人奇人の域を突き抜けた『異常』な人間が存在する
別名:サイコパス──無論、彼らには倫理観も優しさも欠片一つない。
このバトル・ロワイアルでも、主催者は殺し合いを円滑化する為、数人の『異常者』を紛れ込ませた。
黒崎 義裕、相場 晄、肉蝮等……。
いずれも人を殺すことに何のためらいもなく、殺害後にも一切の良心の呵責を抱かず。
人間とは、最後は情な生き物だが、その情が一切通じなさそうな圧倒的恐怖の存在が彼等だ。
自分をそんな『異常者側』の参加者だと、ボサボサ頭の女子高生・来生は信じて止まず。
支給武器のアーミーナイフをどう使うか、恐ろしい妄想を繰り広げている最中であった。
あの、『本物』と出くわすまでは────。
-
◆
「『殺し合い』ってさー。そんな怖いものなのかなぁー? みんななんか絶望したり泣いてたけど、私なにがそんな嫌なのか全くわかんなかったわーー」
「もしかしたら私、『異常』なのかなぁー…??」
501号室、502号室、503号室……。
ラブホテルの廊下にて、壁によりかかりながら来生はヘラヘラと余裕の態度を取っていた。
足元には開封済みのデイバッグ。
彼女が持つアーミーナイフは、ソ連の特殊暗殺部隊『スペツナズ』が発案した対人用武器なだけあって、切れ味は凄まじく。
それでいて、ギザギザとしたその刃は相手を大出血させ徹底的に苦しませる、いわば人間狩りの為だけに作られたような代物だった。
「みんな勘違いしてるけど、『死』って要するに【自分の開放】だからね。なんも怖くないし、むしろ羽ばたく一歩でしかないんだよ」
「だから私はいつ殺されようが別に…? って感じなんだけども…──、」
「────まあどうしても殺れっていうんなら、仕方ないわね。」
「たくさんの『普通な』参加者の人たちをこのナイフで【開放】してあげちゃうわー……! いひひ……っ! うふ…」
小学校の卒業文集で「好きな有名人は?」の欄に「(有名じゃないかもだけど、)グレアム・ヤング」(※アメリカの毒殺魔)と書いた彼女。
中学時代には、暗い部屋でグロまとめサイトを巡回していた彼女。
見た人が全てが不愉快に感じる絵を描く──女子高生・来生は殺人への抵抗感などすでに捨てきっていた。
────私が尊敬してる人? アドルフ・ヒトラー氏! …あっ、虐殺行為はNGだけどねー…?
深夜にコンビニで読んだ、【激!閲覧注意】とお墨付きのグロ漫画。
来生は今でもあの衝撃を忘れられない。
覆面たちが、半裸の男を生きたまま首を切断し、堂々とカメラの前に掲げ、その後まるでボールのように投げ捨てる。
隣の少年はその様子を見て泣き叫ぶが、その後少年はナイフで胴体を切りつけられると、生きたまま胴体の皮を剥がされていく。
少年が苦しみあえぎながら抵抗する中、皮は完全に剥がされる…。
剥き出しの臓器に、バクンバクンとうねりを見せる命の灯火。
一連の処刑を眼に焼き付けた来生は、戦慄する一方で、不謹慎ながら「これが…、『死』…!!!」と紙面に張り付いてしまった。
あれこそが、『自分の開放』…!!
人間が封じ込めている、不快な内側の善でも悪でもない心の開放……!!!
、と。
故に、彼女はさっそく血に染まるべく、参加者狩りへと動き出した。
(あっ、さっそく発見…)
向こうの廊下にて、無防備にも背中を曝す男が一人。
お世辞にも戦闘力があるとはいえない来生と、180cmを越す大男じゃ体格差には圧倒的不利がある。
とはいえ人間『隙』さえあれば、マッチ棒に火を付けるが如く簡単に血肉を咲かせることができる。来生もそれを承知の上のこと。
また、日頃ニュースサイトで「誰でもよかった」と言いながら女児ばかりを襲撃する軟弱容疑者との差別化を込めて、あの男を殺害することにした。
自分なら、本当に誰でも殺せちゃうんだ。と主張する為。
スタ、タタタタタタタ────ッ
来生の軽い身体が幸いして、足音などまるで無く距離を詰める。
真っ黒な刃先は命の震え様を求めて、興奮冷めきらぬ一直線ぶり。
──ほんとは関節から少しずつバラバラにしたいところだが、初心者なので息の根を止めることをまず第一優先とする。
タタタタタタタタ────ッ
距離がどんどん近くなり、いよいよ突き刺す寸前まで詰めた。
湧汗し、心臓が高鳴るこの瞬間──受験当日のようなハラハラドキドキ感に似ていたが、今は待ち遠しいと感じる感覚。
振りかざしたナイフ、あとは力を入れるのみだ。
jeff the killerに憧れて、わざと髪をボサボサにし、目の隈まで自作した来生は今、初めての殺人を行うのだった────。
(ふふっ。おめでとう…! じゃあねっ)
-
ガキンッ
「…………え??」
刃は通ることなく、先端が欠け落ちるのみ。
男が装着していた『鎧』が、その圧倒的ガード力を見せつけ、来生を啞然とさせるまでであったのだ。
その金属の塊は傷一つさえ付かず。
ただし、攻撃音と軽い衝撃が故に、男は背後にやっと気づき、歩を止めた。
「あぁ…………あ……っ…! そ、そんな」
「ん?」
「ヒッ!」
男は如何にもどん臭そうにゆったりと振り返る。
「やぁ。なんだい?」
「…え??」
来生が絶句したのも無理はない。
殺されかけたのを気づいてか、知らずか。
男は貼り付いたかのような、奇妙ともいえるさわやかな笑顔で振り返った。
その手に握られているのはアーミーナイフが何倍も長さで負けている、光沢のある剣。
上半身は中世からタイムスリップしてきたかのような古い鎧で纏われており、そして、
「ひ…」
なによりも、下半身はなぜか『何も』履いておらず。健康的で太い股と、男の象徴を完全露わにしていた。
「ひっ…」
「ひいっ…」
「ひ、ひいぃいいぃぃぃぃぃいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!!!!!!!!」
「ひぃいいやぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ───────っ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
来生の『心からの絶叫』が飛び出した。
-
「初めまして、だな。俺はライオス。ダンジョンで魔物飯の探求をしている──いわば冒険……、」
「な、なななっ、何よッ?! あんたァッ??!!」
「………………………………?」
「…俺はライオス。ダンジョンで魔物飯の……、」
「そんなの聞いてないわよっ!!!! ど、どど、どうして!!──」
「──…パッ、パン…ツ、……を履いてな……いのよ………………?」
たった一瞬で。
脚がわなわな震え、呼吸がおかしいくらいに乱れる。
眼の前の狂人を相手に、肩が、指先が、心臓が、胃腸が、顔が、歯が、声が。
何もかもがマグニチュード5.0強で、それでいて足は疑似金縛りが如く動いちゃくれなかった。
会話は必要とせずとも、パッと見だけで確信できる──『ライオス』と名乗る男の狂酔っぷり。
下はできるだけ見ないように怯える来生に対し、ライオスとやらはフレンドリーに接しだした。
──空気などまるで読んでいない、そんな雰囲気が違和感たっぷりで恐怖の域だった。
「あぁ、これか…」
「ひいっいぃいいいぃぃぃい!!!!」
「俺もさっき気付いたんだが、コイツは『ミミック』の亜種でね。魔物なんだよ」
と言いつつ、男が指を向ける先は下半身ではなく、自身の首。
金属の首輪型爆弾をコツ、コツ…と爪で叩くと、
〜にゅるにゅるにゅるにゅるっ…! ズルズルズル……
首輪の隙間から二本の赤い触手のような物が飛び出してきた。
「ひぎぎいいぃぃいっ????!?!?!!!!」
ライオスは語る。
この触手の持ち主は『ミミック』という貝類生物で、普段は空き箱の中に寄生し、産卵する肉食類だという。
魔物の資料集によると、ミミックにも沢山の突然変異体があるらしく、中には危機を悟ったら空気中の酸素を発火させ『自爆する』種もいるようだ。
彼らの生態を利用すれば、すなわち。
「こうやって『首輪型爆弾』も作ることができる。…驚いただろう? 首輪の正体は魔物なんだ!」
と、一連のセリフを物凄い早口で飛ばし、目つきは異様なくらいにギョロッギョロギョロしながら興奮しきっていた。
「へー、そ、そうなんだ…──、」
「────だなんて言うと思ったのッ???!!!??!?! は、はは、は話そらしてんじゃないわよぉッ…!!!!」
来生の顔は涙と鼻水と汗でベッタべタになり、下まで濡らしていないのは奇跡というくらいに、【恐怖】で慄いていた。
金縛りは相変わらず足を雁字搦めにして離さない。
歯がガタガタと狂躍する中、にじり…にじり…と。
ライオスは一歩ずつ距離を詰め始めた。
「そこで、なんだが……」
「ひぃいいぃぃぃぃぃぃぃーーっ…!!!!」
一歩ずつ、着実に。
-
「君の首輪…、見てみたいんだが…。俺の探求に協力して…くれないか?」
「びびぃいいいいいいぃぃっっっっっっ!!!!!!」
ライオスの徐々に拡張していく瞳孔は、明らかに来生の顔を見ていない。
彼が見ている先は恐らく、彼女の首輪。
──そこに潜んでいる、あの気持ち悪すぎる虫みたいな生物を。
彼は『それだけ』を確実に捉えている。
「ミミックを…取り出したいっ! …行く行くはその味を君と確かめてみたい……!!」
「いいいぃぃぃいいいいいいぃぃぃ!!!!!!」
鼻息の狂いきった荒さが、来生の顔全体を覆っていく。
まるで、キスする勢いの距離まで。奴は詰め寄ってきた。
──いや。もはやキスなり、なんなら強姦なりで終わってくれたほうがもはや幸せであった。
ヤツの発言はさっきから常軌を逸している。
特に首輪が何やら〜…と恐ろしく、何を考えているのかさっぱり分からない。
「なあぁ…?」
「んぎゅぎいいっっっ…!! ……!!!!…っ────────────────────────…!」
肩をがっちり掴まれた時、来生の絶叫なんかもはやモスキート音といえるくらい高い声と化していた。
脳は真っ白寸前で「──────────」と脳細胞が一粒一粒プチプチプチプチっと発狂死する中、
「いいだろ………?? きみぃ…?」
ライオスが首輪にそっと指を触れた時。
不意に、金縛りが解け切った。
「ひぃんぎいいぃぃぃぃぃいいいやあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁがががががががいっきゃああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「あっ…!!」
来生。
彼女は、もはや呼吸することを忘れ、体感したことのないスピードで廊下をぶっ飛ばしていく…。
(やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!!!!!!!!!!!!!)
-
◆
…
……
(助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて!!!!!!!!)
(助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて!!!!!!!!)
(助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて!!!!!!!!)
ガンッ!!
バンバン…バンッ!!
「す、すまない!!! 話を聞いてくれ!!!」
(お父さんお父さんお父さんお母さんお母さんお母さんおまわりさんおまわりさんおまわりさんおまわりさんおまわりさんおまわりさんおまわりさんおまわりさん!!!!!!!!)
(お父さんお父さんお父さんお母さんお母さんお母さんおまわりさんおまわりさんおまわりさんおまわりさんおまわりさんおまわりさんおまわりさんおまわりさん!!!!!!!!)
(お父さんお父さんお父さんお母さんお母さんお母さんおまわりさんおまわりさんおまわりさんおまわりさんおまわりさんおまわりさんおまわりさんおまわりさん!!!!!!!!)
バンバンバンバン、バンッッ!!!
ドンドンドンッ!!!!
「俺は殺し合いに乗る気はない!! 本当なんだ!!! 主催者を倒したいんだよ!!」
「──昔から俺は…人の気持ちとかあまり分からなくて…。もし、それで傷付けてしまったのなら謝る!!!」
「……謝るから出てきてくれ!!!!!」
バンッ!!!!!!!!
──といった具合で、ライオスが揺さぶり殴りつけている相手は白のワンボックス。
ラブホテルの駐車場にて、奇跡的にもカギがかかっていない車内に隠れこむ来生だったが……。
追手の独自な嗅覚というべきか。
確実に居場所を突き止めて、車の窓をバンバン叩くのだった。
バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン……
「ひいぃいいぃぃぃぃぃいいいいいいいんんんんんんんんんんんんんんんんんんんっ!!!!!!!!!!!!!!」
助手席の足を置く箇所で、ウサギのように丸まりこむ来生は必死に待った。
待ち続けた。
何を待ち焦がれたとは、それはつまり『朝陽』。
──朝がくれば、ワンチャンこの怪異は消え去るのでは…? という泡末な願望を胸に。
待ちつ待たれつつ、ひたすらに待ち続けた。
ドンドンバンバンドンバンドンバンドドドドバンバババンドドンドバンバンバンバンッバン………
「…あぁ…。分かった…。今わかったよ!」
「……電子レンジから『下の鎧』を取り出してくるから…! それで満足するのなら…今すぐ早く開けてくれ!!!」
「損得勘定とか…そういうのを抜きにして、────君を救いたいんだ!! 俺は!!」
BANッ!!!! BANッ!!!!!!
今のところ待った結果やってきたのは、狂った王子と頓珍漢すぎる解答だけだったのだが。
(なな、なっなんで温めようとしたワケ………ッ?!??!!)
-
徐々にへしゃげていくワンボックス。
揺れる車内。
深夜のラブホテルにて、人を引き寄せるくらいの大声と打撃音が響き渡る。
現段階にて、来生は『縮こまる』以外の何のアクションも動かせない状態になったので、話はここで一旦幕引きとする。
(普通じゃない普通じゃない普通じゃない普通じゃない普通じゃない普通じゃない普通じゃない普通じゃない普通じゃない普通じゃない!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
(普通じゃない普通じゃない普通じゃない普通じゃない普通じゃない普通じゃない普通じゃない普通じゃない普通じゃない普通じゃない!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
(普通じゃない普通じゃない普通じゃない普通じゃない普通じゃない普通じゃない普通じゃない普通じゃない普通じゃない普通じゃない!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
(…絶対普通じゃないっ!!!!!)
ただ、『真の異常者』は心の底から仲間が欲しかった。
その一心だけで行動しているだけなのに……──。
ライオス、嗚呼…。ライオス。
【1日目/B2/ラブホテル/駐車場/AM.01:01】
【来生@空が灰色だから】
【状態】精神状態:恐怖(大)
【装備】アーミーナイフ@牛丼ガイジ
【道具】なし(デイバッグ放置)
【思考】基本:【微マーダー】
1:普通じゃない普通じゃない普通じゃない普通じゃない!!
2:助けて助けて助けて助けて!!
【ライオス・トーデン@ダンジョン飯】
【状態】健康、下半身裸
【装備】鋼の剣『ケン助』@ダンジョン飯
【道具】???
【思考】基本:【対主催?】
1:少女?を救いたい
2:首輪を研究してみたい
3:人は殺したくない
※ナゾ2【首輪型爆弾の謎】…解明!
「参加者全員に嵌められた首輪型爆弾。この物体は一体何なのか?」
→正体は生物。『自爆型ミミック』。
ライオス・トーデンが#022『少女と異常な冒険者』にて解明。
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”空が灰色だから────、”
”手をつないで飛び降りよう。”
────『死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくないバトロワ』
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投下乙です
迂闊なマーダーと対応する冒険者のズレきった遭遇劇はどちらがどうなっても安心と好意はないとインパクトある無常さを感じさせます
非マーダーとはいえ殺されても仕方ない状況だからざまぁ気分を味わいました
それと前々から思っていたのですが、二次設定と度の過ぎたキャラ崩壊ありならスレタイと最初の方で明記すべきかと
大半の企画は極力忠実に参加作品を再現しようとしているのですから
過言でしょうがまとめwikiがあるのですし、一旦このスレッドを落として、改めて二次設定あり等を明記したテンプレと題名を付けたスレッドを立てるべきだと思います
それでは失礼しました
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>>264
ご感想ありがとうございます。
個人的にライオスが気に入ってるキャラなので、イカれっぷりを深く読み込んでいただき光栄
また、貴重なご意見心より感謝申し上げます。
私自身自覚なくともキャラの崩壊をしてしまった様で、その件に関しては深くお詫びします。
企画主として到らぬ描写をしてしまい、原作ファンの皆様の心害をしたことを謝罪します。大変申し訳ございませんでした。
ここからはお知らせ兼の内容となりますが、
このスレはこのレスを持ちまして一旦過去ログに移行することが決定しました!
264様のご提案は当企画において大変有益かつ、名提案だと判断したため、
また、『読んで楽しむロワ』がコンセプトな以上、熱心なファンである264様の判断に従事することが一番と考えたため行動に至ります。
管理者様にはご足労お掛けし申し訳ないですが、どうかご理解をお願いします。
それでは引き続き、テンプレ改善した『【第1回放送〜】平成漫画バトル・ロワイヤル【part.2】』にてお送りいたします。
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二行目急にタメ口になりましたが、添削ミスです。
>>265
それでは、過去ログ移行の判断が決まり次第、次スレに移行するので、読み手の皆様これからもよろしくお願いします。
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ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1724580003/l10
新スレです。
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新スレはこちらでは?
【第1回放送〜】平成漫画バトル・ロワイヤル【part.2】
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1726371995/
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>>268
ご指摘ありがとうございます。
では、改めまして訂正で、こちらで今後投下するのでよろしくお願いいたします。
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1726371995/
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