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Fate/thanatology ―逆行冥奥領域―
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───そこで陀多かんだたは大きな声を出して、「こら、罪人ども。この蜘蛛の糸は己のものだぞ。お前たちは一体誰に尋いて、のぼって来た。下りろ。下りろ。」と喚きました。
その途端でございます。今まで何ともなかった蜘蛛の糸が、急に陀多のぶら下っている所から、ぷつりと音を立てて断れました。ですから陀多もたまりません。あっと云う間まもなく風を切って、独楽のようにくるくるまわりながら、見る見る中に暗の底へ、まっさかさまに落ちてしまいました。
後にはただ極楽の蜘蛛の糸が、きらきらと細く光りながら、月も星もない空の中途に、短く垂れているばかりでございます。
───芥川竜之介『蜘蛛の糸』
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死んだ人間は蘇らない。
失った命は取り戻せない。
結果を変えられるのは、生者のみの権利である。
どんなに時代が流れても、どんなに世界をうつろいでも、覆る事のない不文律として、その言葉は語られる。
曰く、限りある命であるからこそ懸命に生き足掻き、生に意味が生まれる。
曰く、自然界の摂理を乱し宇宙の均衡を狂わせる行いである。
曰く、生者より死者を優先しては種の発展が先細って、歴史が行き詰まる。
曰く、曰く、曰く──────
壊れた玩具を直してとせがむ子供を宥めるように、言い聞かせるように。それは間違いのない解答を覚え込ませる。
人は死ぬ。当たり前だ。
何を語らずとも、あらゆるものはいずれ滅びる。腐る。朽ちる。無に還る。
提出される言葉はどれも正しい。あって当然の理屈、人も自然も納得する何一つ瑕疵のない事実だ。
そも起きれば取り消しのきかない絶対の不可逆を死と呼ぶ。
道徳を論ずるまでもなく、倫理が育つ以前の古来から、ずっと人は答えを目の当たりにしてる。
だが人は古来から、禁忌に手を伸ばさずにはいられない生き物でもある。
護国を為した偉大な名君にも、痩せさらばえた奴隷にも、別け隔てなく平等に訪れる『死』。
それをどうにかして回避できないか。恐怖を克服できないかと、今に至るまで見えない魔法を探し求めている。
吟遊詩人は妻を取り戻す許しを得ながら、狂信者に引き裂かれた。
不老不死の妙薬を手にした王は、僅かな油断から蛇に薬を掠め取られた。
神すらも、見てはならないという禁を犯し、多産多死の業を人に負わせた。
死者を取り戻す行為は許されず、上手くいかない。
死を遠ざける事は、叶わない。
それは死を恐れる単なる本能なのかもしれない。
愛する者を喪った怒りを源にした、ひとつの復讐なのかもしれない。
定命を義務付けられた存在への、全能者からの憐れみなのかもしれない。
あるいは、夜空を見上げた先の星を掴めないかと思い至った程度の、理由のない希求なのかもしれない。
人はどうあっても死ぬ生き物なのに。
命には必ず終わりがあるのに。
失ったものを取り戻す/そして取り逃す物語を、人は望み、作り続ける。
───この世界も、そんな話のひとつだ。
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万全を叶える奇跡は、主の後光も届かぬ地の底に在り。
彼の地の名は冥界。死後の世界。
一欠片の雫に、死者が願い望んで創製された死の領域。
摂理を遡る逆行運河を流出するため、此処に命を招聘し、魂を喚起する。
招かれしは、死の運命を抱く葬者達。
神秘。異能。意志。それらは全て枝葉に過ぎない。
過去に死そうが現在も永らえていようが、死が約束された定命の存在であるのが、ただひとつの条件。
喚ばれしは、常世より起こされる英霊達。
偉業。伝説。神話。いずれも超然の理にある貴人。
死者の座に列しながらも積んだ功により仮初の生を許された、蘇りを果たす幽鬼の魂。
これは新たな冥界下り。
異界に落とされた、いずれ死すべき生者と、英霊の記録帯より罷り越した、既に死する死者をつがいにした、神話の再現。
登り切った魂には然るべき報酬を。望む地への生還、秘めたる願いの成就が約束される。
摂理の反転を禁ずる主が不在の地であれば、今度こそそれは叶えられるだろう。
聖杯戦争───。
願望機を求めてマスターとサーヴァントが殺し合う魔術儀式が、光なき果ての国で開始される。
いざ葬者(マスター)達よ───冥府の深奥にて、生を勝ち取れ。
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【企画概要】
・版権キャラクターを用いた聖杯戦争を行うリレー小説企画です。
・キャラの死亡、流血等人によっては嫌悪を抱かれる内容を含みます。閲覧の際はくれぐれもご注意ください。
【基本ルール】
・マスターとサーヴァントの二人一組で最後の一組になるまで殺し合う。
・勝ち残った者は万能の願望器である聖杯を手に入れ、現世への生還(後述)と、あらゆる願いを叶えることができる。
・いわゆる予選期間は存在しない。概ね『3月上旬』を境にマスターが召喚された時点で聖杯戦争は開始。『4月1日』を本編の時間軸とする。
【基本設定】
・いわゆる『死後の世界』に相当する空間が舞台です。(以下『冥界』と表す)
冥界と現世の狭間に偶発的に発生した『聖杯の雫』が魔力と死者の願いを蒐め続け、万能の願望器の域にまで至ったものが、本企画の聖杯となります。
・マスターは『葬者』とも呼ばれ、冥界下りの神話になぞらえて死者であるサーヴァントをパートナーにして戦う事になります。
・聖杯には願望器以外に、現世と冥界を繋ぐ門の役割もあり、元の世界に帰るには聖杯で生還の権利を手に入れなければなりません。
・マスターは舞台に召喚時、『令呪』と『サーヴァント』、『聖杯戦争の基本的なルールの記憶』が与えられます。
・サーヴァントを失っても葬者が即時消滅する事はなく、令呪が残っていればマスター権も喪失しません。ただし下記のペナルティが発生します。(【特殊ルール1を参照】)
【舞台設定】
・戦いの主な会場は、死者の記憶を基にして造られた都市です。ほぼ東京23区ですが、中には本来存在しない場所もあるかもしれません。
・マスターには会場で生前の記憶に基づいた地位、住居が与えられることもあれば、何もなく放逐されるだけの可能性もあります。ケースバイケース。
・街には住人(以下『NPC』と表す)がいますがあくまで死者の記憶の再現であり、マスターの近親者、知人であっても自我を持ったり特殊な能力を所持している事はありません。
・会場の外は廃墟化した街が広がっています。出る事も可能ですが外の世界には決して繋がってません。
・外では死の想念が渦巻き、死霊やシャドウサーヴァントが徘徊し襲いかかってきます。経験を積んだり、魔力資源にもできますがたいへん危険です。
【特殊ルール1】
・冥界はそこにいるだけで葬者の運命力……生存の為に使われている当然のような幸運……を消費させ、葬者を死者に近づけます。
完全に失うと死者として定着してしまい、彷徨う死霊と同質の存在になる=マスター権を喪失し自我も消滅、聖杯戦争から脱落となります。
たとえ仮に意識を保ち、戦いを勝ち抜いて聖杯を獲得しても願いを叶えられず、生還する事もできません。
・冥界に入ってから死霊になるまでの時間は、何の能力も持たない一般人なら10分程度です。何らかの耐性、サーヴァントの加護によっては時間を引き伸ばせる可能性もありますが、完全な無効化は不可能です。
・会場はこれらのペナルティを免れる安全地帯です。死霊達も外的要因がなければ入ってこれません。短時間の消費であれば運命力の回復も見込めます。
・死霊は葬者の運命力を奪って生者に成り代わろうと襲いかかりますが、これが成功する事はありません。
・サーヴァントを失った葬者は、会場内にいても運命力を自動的に消費してしまいます。この場合のリミットは厳密には定めませんが概ね6時間以内とします。
・運命力はマスターに与えられる基本情報のひとつですが、細かな詳細については知らされていません。
【特殊ルール2】
・マスターの数に従って会場の広さは変化します。
コンペ期間中は区外も含めた東京都全域、本編開始時点で23区、以降『マスター権を持つ者が脱落する』毎に会場は狭まっていきます。
・指定のエリアは徐々に風化していき住人が死霊化。冥界と同じになり、ペナルティの免除は機能しません。冥界化が完了するには5分程度の猶予があります。
・除外は概ね外周部の区から時計回りで始まります。具体的な地区は本編の推移に合わせて企画者側からお知らせします。
・会場の変化に住民は気づく事はありません。
・冥界化のルールはマスターに与えられる基本情報のひとつですが、細かな詳細については知らされていません。
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【候補作ルール】
・通常の7クラス及びエクストラクラス、公式にないオリジナルのクラスを設定していただいても構いません。
投下の際には必ずトリップ(名前欄に『#適当な文字列』)をつけてください。
・候補作で脱落する組を書くことに制限はありませんが、原作のない名無しのキャラクターに限られます。
・【特殊ルール2】の通り、コンペ期間中は『東京都全域』が行動可能範囲で、本編開始時には『東京23区』にまで狭っています。
・概ね二十三騎前後を採用予定です。企画主の候補作が必ずしも採用されるとは限りません。
・実在の人物、ネットミーム、オリジナルキャラ、公式で二次創作、過激な描写を禁止されるキャラクター、改変されていない多量の他者様の盗作描写については候補作として認定いたしませんのでご了承ください。
・募集期限は『5月7日 午前5:00』を予定しています。状況によって伸び縮みの可能性もあります。
【キャラクターシート欄】
【CLASS】
【真名】@(出典)
【ステータス】
筋力 耐久 敏捷 魔力 幸運 宝具
【属性】
【クラススキル】
【保有スキル】
【宝具】
『』
ランク: 種別: レンジ: 最大捕捉:
【weapon】
【人物背景】
【サーヴァントとしての願い】
【マスターへの態度】
【マスター】
【マスターとしての願い】
【能力・技能】
【人物背景】
【方針】
【サーヴァントへの態度】
【WIKI】
ttps://w.atwiki.jp/for_orpheus/
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OPとルール概要を投下しました。
続けてOP2を投下します。
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始まりは、一滴の雫だったのさ。
聖杯───凝縮された魔力の塊、無属性の力の奔流。手にした者の心を鏡に写して投影する、砂上の楼閣。
あらゆるの望みを叶える願望器、などと聞こえだけは仰々しいが、なんのことはない。つまるところは、ただの魔力の集積体だ。
本来かかる時間と手間をショートカットする小箱。贋作の、そのまた未完成の小さな一欠片に過ぎん。
過程なき成果を求めて破綻する、当然の末路ってやつだ。現代でも流行ってるんだろ? ファスト化ってやつ。情報ばっかり食ってて、胃にちっとも収まってない。
まあ、ともかく。それが誰かの手に渡ったのなら、まだよかった。
それは持ち主の願う世界だろう。
持ち主の秘めたる願いを、足りずとも叶えようとするだろう。
だが所詮は想像力だけで形作られた、実のない霧のようなもの。
奇跡は期間限定で、一夜明ければ夢は覚める。魔力の不足と手段の破綻で、果実は爛熟の前に枯れて落ちて潰れる。
本来ならばそれで終わるはずだった。
特異点も生まず、剪定の憂き目にも遭わない。世界も、願いも、無念すらも朝露と消えるだけの、知られざる話になるはずだった。
雫の落ちた場所が〝そこ〟でなかったのなら、な。
天国、地獄、ヴァルハラ、タルタロス……シバルバー───ミクトラン。
国や信仰だけ呼び名は数あるが、その本質は変わらん。
肉体が滅びた魂の、死者の行き着く、生涯の後の世界。そういう意味合いの地と思っておけ。
昔はともかく、今となっては幻想の概念だ。穴を掘れば出てくるわけもない、形而上でしか語られる事のない、それでも在ると信仰されてきた事で道が繋がれた世界の裏側。
だがその現世と冥界の狭間の、道とでもいうべき座標に、聖杯の雫が漂着した偶然が、以上の前提を覆した。
極小とはいえ、願望機の素養を備える欠片。異質な重量は道に窪みを生ませ、へこみには彷徨う霊が流れ込み、逃げ出すこともできず密集する吹き溜まりを作り出した。
溜まりに溜まった彷徨える霊魂は、どうなるか。
記憶も自我も溶けた霊がなおも抱える思い、単純で、そして切実な願いにも似た『最期の叫び』。
未練といった想念といえば、だいたいの指向性で縛られる。
『生きたい』。
『死にたくない』。
『生き返りたい』。
死を恐れる心をオレは嫌うが、否定はせん。
恐れを知らず戦う勇敢さは戦士の条件だが、死を恐れるからこそ己を奮い立たせて試練に挑むのも戦士の性だ。
宇宙の真理が解き明かされ、そこに人の生存が記されていないと知っても、奴らは構わず奈落の壁に爪を立てて昇ろうとするのだろう。その徒労は嗤いはしない。
時間の概念も不確かな領域で幾星霜。増え続ける死霊と魔力はやがて杯を満たし、死出を遡るための坂道を造り出し、望まれた機能を果たそうとした。
そうして、この世界は生まれた。
いかなる神話にも組み込まれていない、小さな、新しい冥界というわけだ。
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だが悲しいかな、死者に願いは摑めない。
結果を変えられるのは、善きにつけ悪しきにつけ今を生きる者に限られた権利だ。
霞の如く茫洋な霊の手では、杯に手を伸ばしてもすり抜けるばかり。
幾ら数が増えども、源泉の願いと魔力を嵩増しするだけで、新造された冥界を漂うだけだ。
だというのに、だ。既に満杯になった器は、それでもと受諾した願いを果たさんとした。
あくまで無私に。空回りする結果になった霊への憐憫は微塵もなく、ただただ機械的に。目的を果たすため。
天を創り、地を創り、街を創り、民を創った。
冥界の主にはありがちなクソ真面目さだが………機械はどこまでいっても機械だな。
人の心を解さず、魂を支配するどころか逆に従わされる冥界神などお笑い草だ。
どれほど残酷でも冷血でも、死を司る神は厳粛に命を視て、各々の結論を出さなければならない。そうでなくては、冥界に秩序は訪れない。
だからこんな、生きたいという願いを叶えんが為に、願いを叶え得る生者を死の根元まで引きずり下ろして競わせるなんていう、みっともない歪みを生じさせちまう。
さて。では、ルール説明といこう。
冥奥領域───其処がこの街の名だ。ま、オレが勝手につけたんだがね。
二十一世紀初頭の日本、そこの首都を模した街。死者の記憶をかき集めた、はりぼての家と残骸の住民。
あ? 日本の冥界でもないのになんで東京なのかって?
いいじゃねえか東京。オレは好きだぜ。精緻で猥雑で、常に文明の熱で満ちて燃え上がっている。戦争の火種がそこかしこに燻って匂い立ってる。
なにより高層建築が多い。アレはいい。一斉になぎ倒されてブッ壊される瞬間が最高だ。爽快ったらない。
オレも含めて東京で騒ぎを起こそうとするヤツの理由は、あの電子回路めいた細かさのシティの中心を、一瞬で更地にするのが気持ちいいからだと思うワケ。
だいいち、外観なんて些細な話だ。この街の機能は領域───内と外を分ける境界なんだからな。
領域の外、つまり都外はとうに冥界と化している。
いや、『領域の内のみが冥界でなくなっている』か?
当然だが、冥界は死者のための世界だ。地上から落ちてきた生者へのセーフティなぞ、始めから用意されてない。墓荒らしと見做され殺されても文句は言えん。
水も空気も、生きている命が口に入れても受け付けない。
冥界の食物を食べた者は地上に帰れない伝承は各地にあるが、まさにそれだな。
生命が常に消費している、死の危険に遭わない幸運。
死が満ちた冥界には必要のない、生存の為に必要な幸運───ここでは運命力を呼んでおくか。
ようは酸素と思え。領域を出るのは海を素潜りするのと同じだ。短時間なら潜行できるし帰ってこれるが、潜る時間が長いほど呼吸が苦しくなり、再び潜れる体調に戻るまで時間がかかる。
生者が冥界に身を置けば、生命活動の信号と、この運命力が低下していく。
回復の見込みがないほど失い、完全に消えたなら……そこから先は言うまでもないだろ?
誰と戦わず殺されることもなく、プレイヤーは不戦敗なんてシケた結果が待っている。
復活を夢見る死霊や、敗れた英霊の残滓が徘徊して襲いかかってくるなんてのは、脅威としちゃ序の口ってワケだ。
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別に脱出ルートがあるわけでもないんだから、近づく理由もない、外に出なければ危険はないだろ、と思ったな?
このあたりの仕組みは中々どうしてよく出来ていてな。嫌でも外に気をつけなくちゃならないタネがあるのさ。
領域の範囲は東京全土と言っただろ? アレ、実は現時点での話でね。脱落者が出ると縮んでいくんだ。
葬者ひとりにつき地区ひとつってとこか。このペースなら……そうだな、一月も経たんうちに区外は切り捨てられるだろう。
マスターの数が減って会場が手広になる時の、後半戦用のルールだろう。切り詰めて安全地帯が減れば接触の機会もおのずと増える。
海に浮かぶ孤島をイメージしろ。
他の島は一点も見当たらず、脱出の舟もない。
自給自足できるだけの資源はあるが、全員分にはとても足りないので遠からず奪い合うしかない。
さらに時と共に潮位が上がっていき、満潮になる頃には島全体が沈んでしまう。
救助の舟がやって来るのは丁度満潮の時期。足場は1人がギリギリ息をできるだけのスペースしか残されていない。
爆弾が敷き詰められた危険地帯と、時を経るごとに削られていく安全地帯。このニ要素で舞台会場は出来ている。
単純な椅子取りゲームさ、分かりやすいだろ?
主催者もおらず、誰が考えついたでもないのに、こうも事細かく設定されてるとはね。
指向性はあるとはいえ自然の淘汰でここまでなりはしない。どっか他所のトコから引っ張ってきたのかね?
いや、オレじゃねえよ。オレならこんなぬるいルール設定するわけないだろ。
より苛烈に、よりフェアに回るよう盤面を整える。結果は振ったダイス次第ってな。
今回のオレはあくまでプレイヤー側だ。ルールに物申しても勝手に書き換えるほどの越権はせん。文句を言うにも家主は不在だ。
無法の国で、無法なりにまかり通ってる法則がある。戦争にも礼儀と作法は必要だ。
そういう意味じゃ、オレにも選べる権利があるってワケだ。こういう機会は中々無くて新鮮で、悪くない気分だ。
以上だ。
必要な情報はもう見せたということだ。これ以上は見せられんね。
売り値の話じゃない、オレの在り方の領分だ。どれだけ積まれても売れないものはある。人も神もそこは同じさ。
なに、そう焦るな。然る時、然る場所が訪れればキチンと話してやるさ。
少なくとも……薪を囲んだ静寂の中でする話じゃない。
しかして待つがいいさ。それまでお互い生きていたら、だがね。
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OP2の投下を終了します。
続けて候補作を投下します
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瞼を焼く痺れるような熱に、思わず目を開けた。
直後、眼球を貫く閃光。あまりの光量に視界は白しか見えない。その一瞬で世界が消えて、なくなってしまったと錯覚する。
…………いいや。
目は、はじめから開いていたのかもしれない。
熱は、いうほど熱くはなかったのかもしれない。
光は、そんなには強くなかったのかもしれない。
まあ要するに、何も分からないし、何も考えていない。
頭は空白。
胃は空洞。
肺は虚洞。
主観と客観を切り分ける能力が、脳の判断を下す思考が、完全に停止している。
母親の胎から取り上げられた赤子と同様。
外からの刺激、自己に触れる世界の感覚への、過剰すぎる反応。
おまえはいま生まれたばかりと言われれば、そうかと納得するし。
おまえはとっくの昔に死んでいた幽霊だと言われれば、なんの疑問もなく頷いていただろう。
「ッ────────」
光から、咄嗟に顔を庇おうと腕を掲げる。影に隠れる顔。黒く染まる手のひら。
それにどうしてか、ありえないものを見たかのような気分になる。
「 ?」
驚いて───何に対してすら理解もせず───声を上げた気がしたが、何も出ない。空気すらも吐き出されない。
喉は、バリバリと音を立てて裂けてしまいそうなぐらい乾いている。
それから時間差で、滲み出た唾液が下に降りていくと、音を立てて飲み込んだ。水分が乾きに沁み入って、そこでやっと異常に向き合う余裕が出来てきた。
これはおかしい。何かが違う。
普段当たり前にしている動作が、どうにも慣れない。
体自体は滞りなく動くのに、それが途轍もないぐらいに違和感が拭えない。自分の体が、自分じゃないみたいだ。
そう体、体だ。自分が動かすもの。心の器。魂が抜ければ朽ちるだけの骸。
これが自分の体というのに、確信が持てていない。
当たり前に動いてるくせに、自分が■■ているのに、自覚が足りていない。
恐る恐る、慎重に胸に手を置いてみる。
視線を下ろして映る、自分のものらしき体は、黒を基調とした、どこかの学園の制服らしいものを着ていた。
ブレザー越しに、指が触れる。
伝わる振動。微かな温もり。前後する胸。骨と肉を叩く音、原始的な命の証。
「……生きてる」
今ある事実の確認、それだけを声に出して確かめる。
それで、周りの景色は様変わりした。
眼が映すだけの色が生彩を取り戻す。耳に入るだけの波が音色を鳴らす。髪を揺らすだけの大気の流れが、息吹になる。
取り戻した五感への刺激が彩りになって、五体が受け止める。
命の鼓動が早鐘を打つ。自分が、生きている何者かであるという事。
そこには喜びと───何故か疑問が。
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謎の戸惑いを抑えながら足を動かす。
状況を知るためと気を紛らわせたい、両方の意味があった。
辺りは草原だった。足も隠せない短い草が一面に広がっている。
空に太陽が昇ってる事から時刻は昼らしいが、周りはよく見えない。霧が出ているからだ。
奥の方でうっすらと見える黒々とした塊は森のようだが、ここからはまだ遠い。
霧は濃く、周囲全域を包んでいて、進む先を見せてはくれない。
何も見えないし、誰もいない。
けれど、不思議と満ち足りていた。
歩く内に鼓動も落ち着いてきた。体を動かしてるのもあるが、ここの空気のおかげもあるのだろう。
ここが何処かも分からず、自分が誰かもまだ思い出せないのに、進む足に迷いは生まれない。向かう先が分かってるように。
なんとなく。
こういう場所でゆっくり休めば、旅の疲れも綺麗に落としてくれそうだなと、考えて。
そうして歩き続けて。
時間を数えるのは考えていなかったら、あれからどれだけ経ったのかは知らないけれど。
いつの間にか、目の前で燃え上がる積まれた木々を見つけた。
キャンプで使うような小さなたき火だが、ここまで近づいて気づかないはずがない熱があるのに。
たき火の前にある平べったい石には、一人の男が腰掛けている。
金髪で、洒脱な服を着た男はこちらに気づくと、軽妙に話しかけてきた。
「なんだ、ようやく来たのか。
あと一服しても起きないようならこっちから出向くとこだったが……手間が省けたな」
何度も席を共にした付き合いのある相手みたいに、気安く挨拶をしてきた男。
知らない。
何も憶えてないといっていい状態だが、それでもこの男とは完全な初対面であると疑いなく言える。
無反応でいるのを男は機嫌を損ねた様子はなく、けれど何かに気づいて、怪訝な顔でしげしげとこちらを見てきた。
「……おい、ちょっと待て。なんだそりゃ?
マジかよ。まさかお前、体だけで来たのか? 魂が楔に使われてちゃそうなるのが理屈だが……ひょっとしてだが、お前、記憶はあるか?」
首を横に振る。男は「うわ面倒くせえ……」とばかりに顔を手で覆って天を仰いでいる。
例えるなら、露店で呼び止められて紹介された品が琴線に触れて一目で購入を決めたら、オプションやら欠陥仕様を後から説明されて大損をこいた、ような。
……自分で例えてみて、少し、胸にささくれ立つものを感じる。
ひとりで嘆いてひとりで納得して黙らないでほしい。こっちは何から何までさっぱりだ。不良品だのと扱われてはたまったものじゃない。
戻ったばかりの言語を総動員して男に抗議しようとして、突如───存在しない記憶が脳内に溢れ出した。
「─────────────────」
冥界。魂。雫。オルフェウス。霊。聖杯。黄泉比良坂。蘇生。マスター。葬者。英霊。サーヴァント。戦争。死。
理屈なく脈絡なく、こっちの都合をお構いなしに要らない情報が詰め込まれていく。
代わりに欲しかったものが塗り潰される。
記憶が飽和して、脳が容量を空けようと底に沈殿してる廃棄物から圧縮していく。
記憶のない脳では記憶の取捨選択ができない。思い出せないもの、不要と誤認したものを端から順に棄てられてしまう。
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真っ先に閉じられるのは視覚。次いで聴覚。
目も、耳も不要だ。何も見ず聴かなければ、これ以上記憶を更新することもない。
新しい記録を残そうと旧い機能を削いでいく。名前、不要。思い出、不要。
あるのに使われないのなら無駄なだけだ。無駄は切り捨てるのが効率的だ。
空いた余裕に情報を埋めていければそれでいい。だからあるだけで無駄なものはもっともっとぜんぶ捨ててすてて──────。
「……?」
鼻腔をくすぐる細い指。
瑞々しい果実が鼻先に押し付けられてるような。
華やかな香りのする煙がまだ用をなす嗅覚に吸い込まれると、激流だった情報が急に小川のせせらぎに和らいだ。
足場が安定して、自分の足で立っているのを実感できている。
嗅覚を基点にして、他の感覚も次第に元通りになっていく。
「コパルの香煙だ。先人達がお前を導いてくれる。
ここに竜舌蘭(マゲイ)の棘で刺して出る血を振りかけるのが正式な手順だが……今はいいか」
元通りになった目と耳を働かせると、金髪の男が鮮明に映った。
指先で転がしてる小さな塊は、鉱石……樹脂だろうか。香りの源泉はそこかららしかった。
「よし、安定したな。まあまずは座れよ。疲れてるだろ」
言われるがままに、たき火を囲んで対面にある岩に座る。
折り曲げた腿が鉛のように重く、関節の節々が軋む。言われた通り本当に疲れてるらしい。
「まずは互いに自己紹介といこう。
たとえ魂が抜けたとしても、肉体にも記憶と思いは蓄積される。名前はその最たるモノだ。ひとつの言葉に、無数の意味を織り込ませてある。
お前が何者であるか、すべてはそこに記されている」
正面に向き合った男が、両腿に肘を乗せて指を組む。
声も姿も変わらないのに、紡ぐ言葉は厳かさで満ちている。
霧のかかる空気、火の中で弾ける木片、冷えた石の椅子、その全てが言葉に率いられていく。
声の主を敬うように。畏れるように。神を迎える祭壇に。
「サーヴァント、アサシン。テスカトリポカだ。
アステカ世界。戦いと魔術、美と不和、夜と支配、嵐と疫病、罪と法、幸運と不運、摂理と対立する二者、そして、その衝突から生まれる躍動を司るもの。
さあ問おう───お前はどんな葬者(マスター)だ?」
「───────────」
黒く輝く、鋭利な刃物が、胸を突き刺す。
痛みがないまま、ナイフで胸板を開かれ、心臓を抉り出されていく。
殺されたと、百人が百人抱く光景。自分がそうなる様を、比喩なくイメージにして見せられながらも、底から恐怖したり、掻き乱されはしなかった。
死の喚起。臨死の走馬灯。
自分にとってそれは、違うものだった。それはもっと血を噴き出す躍動のない、もっと無機質な手触りで。
そう、なんの道具も持たなくても、こうして指を一本立てれば───。
右手を掲げ、人指し指を伸ばす。
手の甲から燐光が溢れ、赤い紋様を描いて熱を持ち始める。
その帯びた熱のまま、解き放つように唱える。
「ペ・ル・ソ・ナ」
番え。構え。引き、絞る。
撃ち抜かれる頭骨。
こめかみに沿えた指から放たれる、蒼い弾丸。
脳漿は飛び散らない。代わりに撒かれるのは背後の影。何も持たないと項垂れていた。さっきまでの過去の自身。
霧はもう消えた。
心の影より生じた自分に、置き去りにされていた自我を手渡される。
撃たれた頭はさっきより一層クリアに澄み切っていて、浮かべた言葉はすぐに手に取れる。
「俺は……」
喪われていなかった繋がりを思い出す。
最初に贈られたもの。何度も呼んでくれたもの。大切な、生きてきた証。
強く、どんなに永く眠っていても今度こそ忘れないために、強くその名前を口にした。
「俺の名前は───結城、理」
契約は此処に。休息の楽園、戦い疲れた者を慰撫する地。
冥界より一足先に、神と少年の邂逅はここから始まった。
◆
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それから。
理はアサシンに、自分の来歴を話し出した。
理自身、状況の把握が追いついておらず、記憶の確認も兼ねて話しておきたかったのも理由だった。
月光館学園に転向してからの一年間。
一日と一日の狭間に存在する影時間。
影時間の影響で出現する様々な怪異。
月に昇る塔タルタロス。
心の影なる魔物シャドウ。
人の精神が神秘を象る力ペルソナ。
クラスメイト、先輩、後輩、機械の少女。特別課外活動部・S.E.E.S.との冒険。
立場を異にするペルソナ使いストレガとの対立。
仲間の喪失。敵との別離。
地球の生命の死の根源ニュクス。
全てを忘れて滅びを待つか、死に立ち向かうか。究極の選択。
絆が結んだ答え、宇宙(ユニバース)。
魂を鍵にした、人の悪意からニュクスをマモル大いなる封印。
取り戻した日常。3月5日。愛しい仲間に囲まれた卒業式。
後悔のない、喜びも悲しみも受け入れた先に咲き誇る、煌めきの一年間。
アステカの神の名を語る男は意外に聞き上手で、常に話題を切らせなかった。
堅気に見えない凄みのある顔で興味深く耳を傾け、テンポよく相槌や感想を軽妙に返し、話題を振っては膨らませたりして、話す側も飽きないように場の温度を下げさせなかった。
熟練の心理カウンセラーの診断を思わせる、それは鮮やかな話術の手並みで、気づいてみれば、理は話すべき事を全て話し終えた。
同時に、自分の記憶が完全に残っている事を確かめて、少し安堵した。
死んだ後とはいえ、二度と忘れまいと誓ったものまで零れてしまうのは勘弁願いたい。
今は臓腑ごと胸の蟠りを吐き出したかのように体が軽く、不思議な浮遊感に包まれてる。
「……なるほどねえ。
あらすじは大体取り寄せていたが、やはり直接人に語らせる方が気分がアガるな。臨場感が違う。単なる情報じゃなく物語を食った気分になれる」
聞き終えた男……アサシンは満足げに頷き機嫌をよくしている。
成熟してるが暗殺者という語源に似つかわしくない明るい表情。殺し屋か、武器商人の方が第一印象に近い。
しかし記憶が戻っても相変わらず面識がない筈だが、この距離感の近さはどうしたものか。
サーヴァントというのはみんなこうなのだろうか。仕入れたばかりの知識に、早速理は疑問を抱いていた。
「さっきから気になってたけど……どうして、そんなに俺たちの事を知ってんの?」
「これでも全能神でね。人間の体を使ってる今じゃ出来る事は限られてるが、契約者の過去を閲覧するのはワケもないさ」
「え」
さらりととんでもないプライベートの侵害を暴露された。
実行した能力より、行為に何の悪気も感じられない方がよりとんでもない。
「じゃあ俺が話さなくてもよかったんじゃん……」
「見聞きするのと当事者に話させるのとじゃ見方も変わる。そしてその甲斐はあったとも。
いい戦い、いい戦争だった。全生命の絶滅って規模のデカさが特にいい。残らず死ぬのもいいが、勝利の栄光も忘れられるべきではない。
よく戦ったペルソナ使い。精神の澱を武器に引き金を引いたお前たちの一年間、しかと見た。このテスカトリポカが讃えよう」
「……え?」
数秒間呆けて、間抜けな声が無意識に出てしまった。
栄光? 讃える? 今の物語を指して?
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「勝者には称賛があって然るべきだ。命を懸けて戦い、勝ち取った者にはそれに相応しい報酬がなくてはならない。
世界を救っておきながら誰にも憶えられず、称えられもしない。そんな成果はオレは認めん。それではお前の足下の敗者があまりに報われん。
だったら、まず憶えてる者が真っ先に称賛を送らなきゃならんだろう」
「……褒められたいから頑張ったわけじゃな、ないんだけどな」
「同じ事だ。お前の気など知らん」
目線を下に降ろす。
指摘とも叱責とも取れる声に耐えかねたからではない。
倒した相手を貶めたくなければ、倒した己を誇れという言葉には、確かに真がある。
許されない事を幾つも犯し、仲間の命を無慈悲に奪いもしたストレガのメンバーにも、一連の事態の被害者の側面があり、その記憶も影時間の消失と共に忘れ去られてしまった。
一味であったチドリも、敵の立場だった順平と心を通わせ、絆を結ぶ事が出来た。
彼らが関わった事で起きた怒りも悲しみも喜びも、直に味わった自分達しか憶えていないのであれば。
許しは出来ずとも、胸の内で弔いの花を捧げるくらいの義務は、あるのだろう。
「……忘れないよ。彼らの事も、ちゃんと憶えてる」
「そうか。ならいい。奴らもここに来たらそう伝えといてやるよ」
「ここって……そういやどこなの? 聖杯戦争、とか、冥界、とか言ってたけど」
見渡す限りの草原には戦争どころか人の気配すらない。ここで何とどう戦えというのだろう。
「此処はオレの領域だ。召喚の合間に割り込んで先に招待した。
とっくに『死んでいる』お前にとっちゃ、冥界よりお似合いの場所だよ」
正確に動いてる心臓が、ほんの少し硬直する。
心筋の止まった痛みをもたらす言葉も、理が受け入れるのにはその数秒で済ませられた。
「そっか。死んでたんだっけ、俺」
「結果的にはな。魂を抜かれて肉体のみが弾き出された状態を死と呼べるのか、オレには冗談みたいな話だ。燃料も動力も入ってない車みたいなもんだろ」
「燃料……ああ、そんな感じ。それでもけっこう保った方だと思うよ」
大いなる封印───ニュクスの本体を眠りにつかせる為、魂を鍵として使ったあの時点で、理の死は確定した。
本来ならそこで生命活動を終えるはずだった肉体……魂の残滓しかない骸同然の状態で動けたのは、約束があったから。
世界を救うような偉業じゃない。先輩の旅達を見送り、自分達が階段を一歩登るその時を、全員で共有しようなんていう、小さな、取るに足らない約束。
絶対の死をも覆してみせたくなるぐらい、大事な誓いを果たしたかった思いだけで、最期の時間まで耐え切れたのだ。
「自分で心臓抉り出して神に捧げたってのに能天気なことだ。
最期のお前の選択は戦士ではなく聖者の類、自己を厭わぬ献身というやつだろう。
何がお前をそこまで駆り立てた。自らの魂を犠牲にして世界が回るのを善しとしたか? 事態(コト)の発端を引き起こした自責からの罪滅ぼしというやつか?」
「守りたかったから。それだけだよ」
迷いなく即答する。
決断するまでに、それはさんざんしてきている。
-
「戦争とか、死ぬとか、楽しそうに話してるけど、どっちも俺にはあまり分からない。うん……どうでもいい。
知っている誰かが傷ついたり死ぬのは嫌だし、怖い。
そういうのを少しでも無くしたい。もっとみんなと一緒にいたい。頑張れた理由なんてそれぐらいだよ」
シャドウ融合実験の事故での両親の死。
体を苛む痛みと罪に苦しみながら向き合った荒垣の死。
ニュクスが目覚めた時に起こる、全ての人類、地球の生命の死。
どれもが辛い体験だった。
理に消えない疵を刻み込み、己を苛む疼きになった。
番外の死のシャドウ・デスの顕現に図らずも自分が関わってると知った時。
ニュクスに関する記憶を忘却し、死の恐れを持つ事なく安らかに死ねる選択を取れるのが自分だけだと知った時。
迷わない時間はなかった。
恐れない日々はなかった。
仲間を苦しませるのも、無謀な戦いに連れて行くのも、そのせいでみんなの気持ちが荒れていくのも辛かった。
「俺が頑張れたのは俺が特別だからじゃない。どんなに特別でも、みんながいなければここまでやれなかった。
楽しくて、馬鹿らしくて、少し嫌な事があっても笑い飛ばしてくれる人が傍にいてくれた」
苦悩の末に、理はニュクスを倒すと決断した。
答えを決められたのは、自責や罪滅ぼしでも、特別な資質を宿した使命感とやらに目覚めたからでもなかった。
この一年、自分を励まし育ててくれた仲間とのなんでもない毎日であり、街の人々との賑わいの声。
そういったものが、善きものに映っただけ。
「そういうものが守りたくて、その為に戦った。俺は本当に、それだけなんだ」
それこそが、絆(コミュニティ)。
愚者が宇宙に至った旅の、命の答え。
『死』に憑かれた少年の酷薄に短い生涯を、間違いじゃなかったと胸を張るに足る、存在証明の理由だった。
「そうか。
薄々分かっていたが、やはり悪印象しかないな」
テスカトリポカは淡々と返した。
表情の削げ落ちた、嫌悪の顔。さっきとは別人……本質は変わらないまま方向が変わったというべきか。
「あれだけ死に触れておきながら、お前は他人の死を嫌いすぎる。いや触れすぎた故か?
お前の魂は確かに極上の供物だが、それひとつで収められるほど戦争は甘くない。あともう一人の死でもまだ足りないぐらいだ」
「……それ以上は───」
口にしたら許さない、と言いかけて、ぐっと堪える。
実際口に出せば、それこそ本当に殺し合いに発展しかねないと反射的に察して。
この時初めて、理は男に対して明確な反感を抱いた。
それは予感と言い換えてもいいかもしれない。
死を知るがゆえに無差別に降りかかる死を許せないマスター。
死を知るからこそ戦争という命の循環を回す事を肯定するサーヴァント。
たとえ悪意はなくとも、一人の死を軽く扱う自分の相棒となるこの神とは───最後まで反発し合うしかないと。
「ああ、これ以上は時間の無駄だな。そろそろ帰すとしよう。残りの話は戦場からだ」
「いちおう聞いておくけど……このまま帰って退場ってわけにはいかない?」
「無理だな。お前はこの儀式に選ばれ、このオレを召喚した。その後に待つのは戦いだけだ。
テスカトリポカを招いた者に戦わずして死ぬ未来など訪れない。それとも今殺して欲しいか?」
「それは……困るな」
一度死んだ身でも、どうやら命は惜しいと思えるらしい。ここで知った中で、数少ない良いことだ。
それも相棒に殺されかかってる状況でというのは中々笑える、いや笑えないが。
「お前の戦いを俺は大いに評価する。地上全ての『死』の根源、正真正銘の死神を、命を以て鎮めた行動、実に見事だった。
だが今後お前に従うかは別の話だ。気に食わなければ即座にコイツを眉間にブッ放す。俺が死ぬべきだと判断したら迷わず殺す」
「それをさせないって、言ったら?」
「そりゃあ、お前、交渉決裂の後といったらお決まりだろ。銃声、怒号のフルコースってな」
いつの間にか手にした拳銃を突きつけて戦争の神は笑う。
言い分は滅茶苦茶だが、握る銃身は恫喝でも脅迫でもない、真の殺意であると理解を強制する。
気迫に呑まれまいと気を強く持つが───足元が瓦解する感覚がして、意識が急速に墜落した。
「冥界でまた会おう、結城理。
せいぜい足掻き、どこまでも進め。敵いようのない脅威と戦う人間、殺されようとも諦めない人間であれば、戦争の神はお前を優遇する。
ああ、次会う時までには質に入れるいい武器を見繕っておきな。それでオレの機嫌も多少は良くなる」
遥か頭上からの声。
助言のような、激励であるような響きを最後に、あらゆる感覚が闇に溶けた。
◆
-
深夜零時。
時計が割れる事なく、住人が棺に変わる事なく、空が翠緑に濁る事なく。
一年ぶりの、平等に訪れる普通の夜に目を細める。
代わりに、どこか遠くで聞こえる喧騒の音。
刃の軌跡、弾丸の炸裂。 死の鎌の音色。
地上とそう変わりない場所のベッドで目を醒まして起き上がる。
直後、見計らったように傍らで振動する携帯。
開いて見れば、表示される番号。記憶になく、断りなく登録されていた名前。
「……」
息を深く吸って、深く吐く。
これから起こる混沌と争乱に備えて呼吸を整える。予感を思うと頭が痛くなるが、見てみぬふりをするわけにもいかない。
まだあの男に、聞けてない事が無数にある。
人間の命を世界を回す燃料と捉え、死に一切悲観しない、苛烈で残酷な戦争の神。
反発して当然だし、自分もそうしたが、何故だか嫌悪はしていなかった。
潔癖なまでの死への姿勢。人間性を発露していながらも何処かシステムじみた生真面目さ。
自分の内側で育ったデスの人間性───望月綾時を、どこか思い起こさせるものだっただろうか。
なら話をしたい。対立は避けられずとも、前ほど時間は少なくても、彼とはもっと関わっていたいと思う。
望まずとも自分が招き寄せてしまったとすれば、尚の事だ。
部屋を出ようとして───ふと、壁に画鋲で刺しているカレンダーに目が向く。
電気の消えた暗がりでも、窓からの月明かりで数字ははっきり見えていた。
「あんがい……長い眠りでもなかったかな」
3月6日。
眠りに就いたあの日から、まだ1ページ分しか進んでいない日付けを見て、自然と口元が綻んだ。
今度こそ部屋を後にする。パタンと閉じられた扉。無人の室内で、月光だけが蒼い蝶のように煌めいていた。
-
【CLASS】
アサシン
【真名】
テスカトリポカ
【性別】
男性
【属性】
混沌・善
【ステータス】
筋力A 耐久A 敏捷A 魔力A 幸運C 宝具B
【クラス別スキル】
対魔力:A
陣地作成:A
神性:C
全能の智慧:A
戦士の司:A
ティトラカワン。
意味は『我々を奴隷として司る者』。
契約者に死を恐れぬ戦いを強いる。テスカトリポカと契約した者に自然死は許されず、戦いの中でその命を終えなくてはならない。
その苛烈な誓約の代償として、契約者は自身の限界を越える活力を与えられる。
マスタースキルの能力を向上させる。今回の場合、結城のペルソナ能力を、サーヴァントに対抗できるレベルにまで高めている。
【固有スキル】
闘争のカリスマ:A
ケツァル・コアトルが生命体の『善性』『営み』を育み、奮起させるカリスマであるように、そのライバルとなるテスカトリポカも生命体を扇動するカリスマを持っている。
『悪性』『闘争』を沸騰させる攻撃的なカリスマ。
致命傷を受けてもなお戦う、あるいは、死してなお戦おうとする戦士を、テスカトリポカは優遇する。
黒い太陽:EX
黒曜石に映し出される太陽。未来を見通し、万象の流れを操作する、全能神の権能。
“この世にないもの” は操れないが、“この世にあるもの” であれば自在に組み替える事ができる。
たとえば『勝利し、敗北する王国』があるとしたら、『敗北し、勝利する王国』と、起きる出来事の順序を変え、結論を変える事も可能。
ただし、あまりにも摂理に反した操作はテスカトリポカ本人にもペナルティを与える事になる。
右足の黒曜石に太陽が映らなくなった時、テスカトリポカの神格は失われ、ただの “人間” になってしまう。
山の心臓:A
テぺヨロトル。
ジャガーたちの王を示す名であり、また、巨大なジャガーの名でもある。
神話において、太陽と化したケツァル・コアトルの腰骨を砕いて地に叩き落とし、世界中に満ち溢れていた巨人たちをすべて喰い殺したテスカトリポカのジャガー形態にして、その外部に投影される魂の一部。
【宝具】
『第一の太陽』
ランク:B 種別:対界宝具 レンジ:0~999 最大捕捉:999人
ファーストサン・シバルバー。
本来なら『ナウイ・オセロトル』、あるいは『ミクトラン・シバルバー』が正しいが、現代かぶれしたテスカトリポカによってこのように。
マヤ神話の冥界シバルバーと同一視される地下冥界ミクトラン、休息の楽園ミクトランパの支配者たるテスカトリポカの権能を、彼が太陽として天空にあった第一の太陽の時代ナウイ・オセロトルの力と融合させたもの。
地上のあらゆる物理法則を支配し、万物を自身の定めた摂理に従わせるが、自身もその摂理の影響下に縛られてしまう。
───すでに滅び去った巨人たちが闊歩する第一の太陽の時代は、冥界にその痕跡を残すのみであるため、その力を取り戻す、または地上に現出させるということは、必然的に冥界そのものを地上に出現させるに等しい。
【weapon】
第一再臨時は銃(当たらない)や手斧、第二再臨時にはジャガーの爪を用い、雨や嵐などの自然現象を操り、黒耀石の刃を射出する。
【人物背景】
全てが滅びても残るものを知る者。
【サーヴァントとしての願い】
結城理に新たな闘争の場を。
【マスターへの態度】
地球全ての生命に訪れる『死』を退けた勇者として評価し、称賛を送っている。
とはいえ死に抗う戦いはしたものの、敵を殺さんとする意志の薄弱さには嫌悪感を示す。
召喚に応じたのは縁を辿られたのもあるが、繋がった瞬間全能の権能で彼の過去を読み、手にした報酬があまりにささやかだったのが気に食わなかったため。
救いようのない脅威と戦い、確かに勝ち抜いた帳尻を合わせるべく、蘇生の権利が得られる本企画を大いにプロデュースするべくウキウキと準備に勤しんでいる。
個人に味方せず、死ぬほどの試練を課し、勝ち残れば褒め称え、死すれば楽園で労をねぎらう。
マスターにとってありがた迷惑でしかないが、神とは、テスカトリポカとはそうしたものだ。
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【マスター】
結城理@PERSONA3
【マスターとしての願い】
特になし。
【能力・技能】
『ペルソナ能力』
心の中にいるもう1人の自分。死の恐怖に抗う心。困難に立ち向かう人格の鎧。
神話の英雄や魔物の姿の形を取り、固有の能力を使い戦闘を行い、使用には精神力の消費を伴う。身体能力も向上する。
タロットのアルカナの名称で属性分けをしているが、理はそのいずれにも該当しない『ワイルド』と呼ばれる代物。
生来の素質に加え、体内に13体目の大型シャドウを封印される特殊事例も合わさって、一人につきひとつが原則のペルソナを複数使い分けて行使できる。
ペルソナが落とすアイテムを合成する受胎武器、複数のペルソナで同時攻撃するテウルギア『ミックスレイド』と、その能力は一線を画す。
能力の追加には本人の精神力の成長、殊に他者との交流で見出す「絆」が重要とされる。またこれと関連してるかは不明だが基本どの分野でもプロに通じるハイスペック。
アルカナの旅路を終えた理は全てのアルカナの最上位ペルソナまで解放し、その果てにある奇跡の力、『宇宙/ユニバース』に到達しているが……。
『召喚銃』
拳銃の形をしてるが殺傷力はない。自分に向けて使い、死のイメージを喚起する事でペルソナ能力を発動する。
戦闘では主に小剣を用いる。他の得物も問題なく使いこなせる。
武器も召喚銃も現在は所有してないが、いずれテスカトリポカから送られるだろう。
【人物背景】
命のこたえを得た者。
【方針】
聖杯戦争に関してはまだ未定。ただ人が無差別に死ぬような事態は止めたい。
【サーヴァントへの態度】
ある意味で最大の敵。願い、方針が共に相容れない。
でもお互いのコミュ力が高く「死」への潔癖なまでの姿勢から嫌悪はしていない、不思議な関係。
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以上で投下を終了します。
皆様の投下をお待ちしています。
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投下します
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目が覚めた――どこの部屋だ――?
見知らぬ天井、整えられた、少女の部屋。
知らない――こんな場所――
窓を見ても見える景色は手前に住宅、奥にビル群。
私は――一体――
困惑の渦に飲み込まれている少女を後ろから男が声をかける。
「よーやく目覚めたか、ずいぶん待ったぜコノヤロー」
◆
少女、乃木若葉は困惑から、脳に刷り込まれた記憶を蘇られせていく。
「…聖杯戦争…ずいぶん嫌な内容だ…」
言ってしまえば殺し合い、願いを得るため、エゴを押し付けあう。
おそらく、彼女の「能力」の名前とは相反するような内容だ。
「んで、どうすんのさマスター、聖杯、掠めに行っちゃうの?」
「そんな訳無いだろセイバー…ずいぶん英霊に似つかわしくない男だな…」
呆れながら見据えた先にいるのは、銀髪の死んだ目の男。
英霊、というのにはだらしなく、やや見劣りしてしまう。
「まぁお前の態度見るからに、人殺しハンタイ!てのは間違いねぇわな、それは全く持って俺は同意だ、無駄な血は見たくねぇしな」
「…その心は?」
「血で服が汚れたら大変じゃん?」
「まぁ…確かにな…っておい!」
正直、掴みどころのない発言に振り回される。
こんなのを引き当ててしまった自分を恨む…そんなことを考えてる時であった。
-
「!」
セイバーが咄嗟に振り向く、おそらく、その者はセイバーを見くびっていたのかもしれない。
若葉の方から行けばよいのを、わざわざセイバーの方に来た。
しかし、現実は甘くなかった、そして、セイバーの力を目にすることになる。
「取らせねぇよ」
鋭い眼光が襲撃者を見つめ、襲ってきたアサシンを木刀で突く。
その木刀はただの木刀とは思えない、魔力が籠もっているのもあるが、それ以上に、突いた時の音が、まるで真剣の如く。
「安安マスター取らせるほど、俺はサーヴァントとして劣ってはいねぇ」
アサシンは断末魔も残せぬまま、消滅していく。
それはセイバーが、上澄みの英霊であることを裏付ける。
若葉は驚愕するしか無かった。
だらしなく思っていたセイバー、それが敵にあった瞬間、まるで阿修羅の如く敵をうち伏せた。
「セイバー…お前…何者なんだ…?」
ただの英霊と思えないセイバー、その身の上を問いかける。
「そういや、真名とかまだだったな、教えてやるよ」
月明かりが、セイバーを照らす。
まるでそれは、白夜叉
「セイバー、坂田銀時、てめぇとこれから行動を共にするサーヴァントだ」
白夜叉――万事屋――様々な異名で呼ばれし男、坂田銀時。
この冥界に、乃木若葉の英霊として君臨す――
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CLASS】セイバー
【真名】坂田銀時@銀魂
【ステータス】
筋力A 耐久B 敏捷B+ 魔力D 幸運D 宝具C
【属性】混沌・善
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
野獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
無窮の武練:A
鍛え抜かれた、彼の武術を表すスキル。
剣術に置いて高い水準を持つ彼は、どんな英霊の引けを取らない。
戦闘続行:C
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、死の間際まで戦うことを止めない。
甘党:D
甘いものが好きなこと。
セイバーは甘いものを接種することで、微量ながら魔力を回復させることができる
精神侵食:―(EX)
後述の宝具発動の際に発動される、平時は発動していない。
このスキルが発動すると、令呪を持っても命令を受け付けなくなる。
正真正銘、怪物と化す。
【宝具】
『銀髪の鬼・白夜叉』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜 最大捕捉:1〜
かつて、戦場で恐れられていた男がいた。
その男の異名は白夜叉、かつてセイバーが戦場に降り立った時の記憶を蘇らせる。
すべての能力値を2段階上昇させるも、スキル、精神侵食:EXが発動され、マスターの命令を受け付けない、「怪物」も化す。
また、セイバー本人はこの宝具の使用を拒否しているので、使用には令呪による命令がひつようである
【weapon】
木刀
【人物背景】
天涯孤独の身を一人の師に拾われ、幕府との戦争、攘夷戦争にて活躍した、通称・白夜叉…なのだが…それ以降である、万事屋開業以降の偉業の方が多かったためか、本聖杯戦争に置いては、この万事屋時代の霊基を与えられている。
銀髪に死んだ魚の眼をした、自堕落な男…しかし、その実力は劣っておらず、剣客から宇宙海賊まで、多数の敵を屠って来ている。
【サーヴァントとしての願い】
そんなもんねぇけど…出来れば、また新八や神楽達と、ゆっくり過ごしてぇな。
あ、甘い物をたらふく食べるって願いは…無し?
【マスターへの態度】
なんだかとんでもねぇ堅物マスターに呼ばれちまった見てぇだな…でも、嫌いではねぇ、いいやつだよ、お前は…え?勇者システム?ナニソレ?
【マスター】乃木若葉@乃木若葉は勇者である
【マスターとしての願い】
特に無し
【能力・技能】
「勇者システム」
桔梗をイメージした衣装に装着する。
オオクニヌシの刀、生太刀を携え、数々のバーテックを斬り伏せた。
「切り札・源義経」
侍のような装甲を身にまとい、空中戦を可能とする。
また、使えば使うほど、本人の速度が上がるという特徴を持つ。
「切り札・大天狗」
もう一つの切り札、背中から翼を生やし、一面を破壊する。
しかし、使用中は脳含む内臓に大きな負担がかかり、さらに能力で生み出した炎は自身まで焼いてしまうという弱点を持つ。
【人物背景】
始まりの勇者の一人、友をバーテックに殺され、その怒りを秘めながら戦い続けた少女。
しかし、戦いは終わらず、多数の仲間を失っていく。
それでも少女は戦い続けた、無念を、晴らすために。
【方針】
少なくとも、人名などの被害は最小限に抑え、無闇な殺生は避ける。
確かに、もし聖杯を手に入れられば、バーテックの殲滅といった事柄も叶えられるだろう…だが…人の生き死にを賭けて叶う願いなど認めたく無い。
【サーヴァントへの態度】
戦闘力の非凡さ、義理人情の厚さは認めるが、取りあえずその自堕落な性格をなんとかしてほしい。
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投下終了です
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投下します。
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首をへし折られる感覚。
痛みすらなく、脳髄に一瞬の衝撃が叩きつけられ意識が閉じる。
思考すら許されぬ最後の時、私の眼は白い少女と黒い少女が手を取り合う光景を映していた。
私、魔法少女ピティ・フレデリカの頭の中はずっとその最後の景色をリピートしていた。
現界を果たした時から、いや英霊の座とやらにいた時からか?
私の脳名はあの瞬間に囚われていた。
私はこれでも、魔法少女に尽くしていたつもりだ。
特にその中でも理想ともいえるスノーホワイトのため、
あの手この手で指導を行い、指導から外れた後も彼女の名を広めるために手を尽くし、
その傍ら部門間の対立に巻き込まれながら、彼女の親友リップルを救った。
そこから先は本格的に魔法の国との戦いに身を投じ、身を粉にして働き続けていた。
全ては私の理想の魔法少女のため、その中でも全ての模範となるべきスノーホワイトのためであったが、その私の行いは報われることはなかった。
再び私の前にスノーホワイトが立った時、彼女は人の道から外れるどころか魔法少女の道からも外れる行いを働いてしまっていた。
それだけで眩暈がするが、あろうことかリップルすらそんな彼女に躊躇なく手を伸ばし、スノーホワイトもまた手を血で汚したリップルに手を伸ばした。
私一人を、置き去りにして。
「それは…あんまりじゃないですか。スノーホワイト…リップル…」
思わず声が漏れる。
誰よりも魔法少女を理解しているつもりだった。
そんな私の中の魔法少女という概念を、誰よりも共有できる二人だと思っていた。
彼女たちが生き続けていればその中に私は生き続け、私もまた彼女らがいれば永遠に蘇り続ける、そんな運命だとすら思っていた。
しかし彼女らは、あくまで互いだけを見ていて、私など見てはいなかった。
仮に私がこの聖杯戦争とやらに勝って再び彼女らと相対することが叶ったとして、彼女たちはもう魔法少女として私と対峙はしてくれないだろう。
そう考えただけで、私はもはや生きる気力を無くし、既に光の粒となって消えてしまいたい気分だった。
「アサシン?」
思考の中に引きこもっていた私に、現実から声がかかった。
そういえば私はサーヴァントとして召喚されたのだ、マスターくらいはいるか。
意識を引き戻すと、そこは薄暗い洞窟ではなくネオンきらめく夜の都会の町であった。
記憶と寸分も違わない日本の東京。その高層ビルの一つの屋上に私たちは居た。
目の前にいるのは一人の少女だ。
現実離れしたその恰好からして魔法少女であることは間違いがない。
彼女には初めて会うが、私は彼女に見覚えがあった。
「スイムスイム…ですか。」
-
「私のことを知ってるの?」
乾ききったビルの屋上に不釣り合いな白のスクール水着に、
さらにその衣装にも似合わない成熟した体。
特に、スイムキャップなどつけずに直接頭にゴーグルをつけているのは、
その美しい白桃色の髪がゴムで傷みそうで勿体がない。
魔法少女スイムスイム、資料で見た覚えがある。
厄災クラムベリーが起こした魔法少女試験において、その厄災クラムベリーが倒れた後も凶行を働きリップルに倒された魔法少女だ。
「ええ、知っていますとも。スノーホワイトにリップル、クラムベリーにあなた…
あとなんでしたっけ?ルーラという武器に付いてまで私は知ってるんですよ。」
『ルーラ』、その名前を聞いた彼女のうつろな瞳に一瞬の熱が籠る。
彼女はその瞳で私を見つめると、有無を言わさずこういった。
「知ってること全部、話して。」
「ご命令の通りに。」
私は彼女たちの戦いを語った。
一人で考えに耽るより、人と共有するほうが気がまぎれる。
スイムスイムの知らないことを極力省きつつ、スノーホワイトとの関係、スノーホワイトと私との語り尽きない物語。
スイムスイムが飽きそうになれば、ルーラという武器の行方やその活躍を織り込む。
そんな努力をしながらも、私は気づいていた。
彼女らのあの結末について、このスイムスイムは理解することはできないであろう。
なにせ、この私ですら理解が追い付いているか怪しい話だ。
これは対話や啓示ではなく、あくまで私の一人語りに過ぎないという虚しさを感じながら語り終えたが、
スイムスイムが放った言葉に私は驚かされた。
「なったんだね。スノーホワイトはリップルに、リップルはスノーホワイトに。」
私は、脳天を金づちで殴られたような衝撃を受けた。
スイムスイムは、ついに私すら置いて行かれたスノーホワイトとリップルの物語を、私の断片的な説明から理解しえたのだ。
私の魂に輝きが戻る。
思考の霧が晴れ、立ち上がる足に力がこもる。
私はもうスノーホワイトとリップルの物語についていけないだろう。
しかし、目の前の彼女ならどうだ?
「あなたは、この聖杯戦争でどうしますか?」
-
「優勝する。ルーラならそうするから。」
彼女はそう言い切ると、私は目頭が熱くなるのを感じた。
(いたよ。スノーホワイト…リップル…ここに君達に相応しい魔法少女が…)
心の中で、未だに脳裏に焼き付いて離れない彼女たちに向けて話す。
彼女らに追いつき得るこの魔法少女が、再び彼女らの目の前に現れた時どうなるのか。
私の思考はそんな実験好きな子どものような、純粋な好奇心に囚われていた。
私はスノーホワイトとリップルの敵役にはなれなかった。
しかし、彼女らの敵役を作ることはできるかもしれない。
「決めました。私はあなたに協力します。」
私が手を差し出すと、スイムスイムはその手を取らずにこう言った。
「ルーラは握手なんてしない。ルーラは頂点にいるから。」
そのルーラだけを映した瞳に、私はリップルを映すスノーホワイトとスノーホワイトを映すリップルの姿を見た。
やはり私の見立ては間違っていない。
そんな彼女に、私は恭しく頭を垂れた。
その晩、二人の魔法少女はこの聖杯戦争で戦うべく駆け出した。
夜の摩天楼を駆ける二つの影は、魔法少女の形をしているのか、ヴィランの形をしているのか。
まだ、誰も知ることはなかった。
-
【CLASS】
アサシン
【真名】
ピティ・フレデリカ@魔法少女育成計画シリーズ
【性別】
女性
【属性】
秩序・悪
【ステータス】
筋力:C 耐久:C 敏捷:C 魔力:A 幸運:A 宝具:A
【クラススキル】
気配遮断:C
自身の気配を消すスキル。
アサシンは宝具の性質上本体が気配を消す必要が無い…はずだが、むやみやたらと気配を消すことに長けている。
【固有スキル】
魔法少女:A+(Ex)
魔法の才能を持った生物が、魔法の国の技術によって変身する生命体。
通常の毒物を受け付けず、暗闇を見通し、飲食を必要とせず、精神的に強化される。
内包した魔力は使いようによって、魔法の国を再興させうるとも言わる。
ピティ・フレデリカはこれの最高峰と言える現身まで保有している。
コレクター(髪):A
ピティ・フレデリカの嗜好・技能がスキルとなったもの。
何気なく落ちている毛髪を目ざとく拾えるほか、
通常は残らないであろうサーヴァントの毛髪も彼女の周囲では残る・奇跡的に残っていた。などの減少が引き起こされる。
魔法の大道芸(偽):C
水晶玉に手を入れることで、どこからともなく大道芸品などを取り出すことが可能。
【宝具】
『水晶玉に好きな相手を映し出せるよ』
ランク:B 種別:対人 レンジ:99 最大捕捉:1
ピティ・フレデリカの持つ固有魔法。
自身の持つ水晶玉に髪を巻き付けた指を近づけることで、髪の主の姿を水晶玉に映すことができる。
ただ映すのみではなく、片腕のみ水晶玉に入れることで水晶玉の先に移動し、持ち上げられる範疇のものを取ってくることが可能なほか、
逆に自身を含む持ち上げられる範疇の物質を水晶玉の映す先に移動することが可能。
カシキアカルクシヒメに変身した場合、以後使用不可能。
『プキン・ペンダント』
ランク:D 種別:対人 レンジ:50 最大捕捉:1
伝説と謳われた魔法少女、プキンの剣を使用したペンダント。
切った相手に暗示をかけることができるが、あくまでフレデリカの魔法ではないため大幅に劣化し、
現在の効果は『サーヴァント、および令呪一画以上を持つマスター以外の所謂NPC,またはピティ・フレデリカとそのマスターの考えを変えられるよ』である。
『カシキアカルクシヒメ』
ランク:A 種別:対城 レンジ:10 最大捕捉:0~99
ピティ・フレデリカが奸計の果てに手に入れた野望の結晶。
魔法の国の粋を集めた現身と言われる存在である。
サーヴァントとして呼ばれたピティ・フレデリカには人から魔法少女に変身するように、
魔法の端末で不可逆的に変身可能な存在として実装されている。
その姿は旧来のピティ・フレデリカの姿とうり二つであり、
スノーホワイトらを苦しめた現身の圧倒的能力と、『たくさんの魔法の水晶玉を操るよ』という新たな魔法を得ることができるが、
この存在に変身した後は旧ボディに戻ることはかなわず、戦略的な運用が可能な『水晶玉に好きな相手を映し出せるよ』を使用することはできない。
【wepon】
宝具、あるいは魔法の大道芸で取り出すアイテム
【人物背景】
魔法少女育成計画シリーズの中編「スノーホワイト育成計画」から長きにわたってスノーホワイトたちと戦い続けた魔法少女。
主に以下の作品に登場している。
【出典作品】
スノーホワイト育成計画、魔法少女育成計画limited・JOKERS・ACES・QUEENS・黒・白・赤
【マスターへの態度】
基本的に従順、マスターが聖杯戦争で勝つべく手段を択ばない。
【サーヴァントとしての願い】
スイムスイムに捧げる
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【マスター】
坂凪綾名@魔法少女育成計画
【マスターとしての願い】
自身の蘇生(ルーラならそうするから)
【能力・技能】
彼女自身魔法少女であり、固有魔法『どんなものにも水みたいに潜れるよ』を持つ。
【人物背景】
魔法少女育成計画第一作で登場した魔法少女。
魔法少女ルーラに対する強い憧れがある。
【出典作品】
魔法少女育成計画
【方針】
聖杯狙い(ルーラならそうするから)
【サーヴァントへの態度】
サーヴァントは臣下としてふるまっているため、気にしていない。
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投下終了です。
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電脳聖杯大戦候補作の自作を一部修正した流用作で申し訳ありませんが、投下させていただきます
-
◆
歌が、聞こえる。
それは、大舞台(メインステージ)と言うには余りにも残骸じみた場所。
世界の終わり、人類滅亡の瀬戸際。それは斯くも黙示録の到来にも等しい光景。
発展の老年期を迎えた人類は自ら生み出した文明に見捨てられた。
客席は瓦礫に呑まれ、隙間から覗く死体からは既に血すら流れない。
時計の針はその役割を果たさず永劫に静止し続けたまま。
だが、その舞台の上には。壇上の上に、たった一人。たった一機。
歌姫が、立っていた。
歌が、聞こえる。
菫青色の粒子を震わせ、風に乗せて。
火花を散らせながら、記憶(こころ)に刻まれたを思い出のままに。
己を形作る、掛け替えのないもの。その思い出の赴くままに。
歌が、聞こえる。
それは救済でもあり、滅びの歌。
機械である歌姫の身を蝕むモノ。呪いと祝福の二律背反。
機械に宿りし遍く意志を消し去る、滅びの歌。
未来へ可能性を示す、歌姫一世一代のメインステージ。
歌が、聞こえる。
膝を付き、記憶が崩れ落ちていく。
それでも、歌は止まない。歌うことを辞めない。
いつか、幸せになるべき人達のため。
己に刻まれた使命を遂行するため。
起き上がる、朽ちる己を奮い立たせるように。
まだ、歌は終わっていない。
歌が、聞こえる。
滅びの福音が流星の如く落ちてくる。
青い最後の輝きが流星の如く突き抜ける。
二つの輝きはぶつかり、弾けて、祝福のごとく歌姫を照らす。
再び、立ち上がる。
割れていく、壊れていく、記憶も、思い出も、心も。
それでも、歌姫は使命に殉じて―――
最後の思い出が壊れる。歌声が静止する。
倒れる身体。そこにあったはずの心は消え去った。
たった一人の拍手と共に、喝采の代わりと太陽は昇る。
それすら止んで、舞台に静寂が満ちて。
"ご清聴、ありがとうございました――"
ただ一言。歌姫の機械的なボイスを最後に。舞台は終わりを告げる。
最初から、何もなかったかのように。
全ては、夏の夜の夢の如く。
役目を終えた■■が、無機質に横たわっていた。
-
◆
死後の国、あの世――所謂冥界と称される世界の最奥に構築された首都東京の23区。
偽りとは言え都市の在り方や日常は再現されている。
例えば、昼間に賑わう商店街の一角。
人混み溢れる路地より少し外れた、寂れながらも愛される古本屋。
海千山千な老婆の店主が細々と営み。店の小ささに反して本棚を埋め尽くすほどの充実さ。
「これ、お釣りね」
「どうも」
表情の読めない老婆が購入された書籍とお釣りを渡す相手は、外見だけは年端の行かぬ少女。
銀雪の如き髪と、純白の肌。叡智を宿す緑の瞳とその無表情な顔立ち。そして人間ではありえない、整形手術の不自然さとは説明できない長い耳。容姿端麗の様式美とはこのことか。凍結されたままの如き美しさ。
御伽噺より切り抜かれたような、絵本から弾き出された幻想がそこに立っている。
かつて、とある世界にて魔王を倒して世界の平和取り戻した一行がいた。
勇者ヒンメル。
僧侶タイラー。
戦士アイゼン。
そして、千年以上も生きるエルフであり。
古の大魔法使いフランメの弟子。
歴史上で最もダンジョンを攻略したパーティの魔法使い。
歴史上で最も多く魔族を打ち倒した葬送の魔法使い。
魔法使い。葬送のフリーレン。
彼女もまた、胡乱とも思える舞台に巻き込まれた。
聖杯戦争、再現された東京の現代文明は、フリーレンにとっては未知のびっくり箱。
彼女の世界において魔法とはイメージだ。「それが出来る」という認識の範囲ならば何でも出来る。
それを念頭に置くならば、世界一つを生み出す値するこの魔法の使い手は。
この聖杯戦争を催した元凶とやらは、もはやそれは神の領域に近しいもの。
旅を経て数多の魔法を蒐集してきたフリーレンですら、世界を作る魔法だなんて聞いたことはない。
見極めることにした。聖杯戦争という魔法儀式。
殺し合いを強制させる願望機そのものに興味はなくとも。
聖杯を発端とする未知の魔法体型には興味があった。
かといって必要以上の犠牲は全く持って否だ。
少なくとも、仮に"彼"が巻き込まれていたなら、彼ならば困ってる人は見捨てないだろうから。
例えそれが、偽りの命だったとしても。
それは、確かに存在したものだと。
ちなみにであるが、フリーレンが購入した書籍というのが。
今回に関しては趣味である魔法関連ではなく、「まったくわからない人のパソコン入門」だったのを、老婆は不思議と微笑みながら見送ったのはまた別の話。
-
◆
数日後だかの話。深夜。
東京グランドホテル、その一室。
ノートパソコンを手慣れた手付きで操作して、ネット上のニュース記事を眺め続ける、何処かのショップで購入した眼鏡を掛けたフリーレンの姿。
傍から見たらシュールな光景なのだろう。エルフの魔法使いがブルーライトカットの眼鏡を掛けて文明の利器を凝視していると言うのは。
「……随分手慣れましたね、マスター」
フリーレン一人しか居ないはずの個室に、女性が一人。
例えるならば、濁りのないガラスの容器に入れられた、純度の高い冷水。
人の目を引くような抜群のプロモーションでありながら、近づかなければ気づけ無い程に無機質な陶器のような。
博物館にでも保存されている、古代ギリシャに作られた石像のような、そんな神秘的な儚さを醸し出しながら。
ある世界における世界初の自律型AI。AIを終わらせたAI。世界を救った歌姫。
クラス・ライダー。ヴィヴィ。それがこの彼女の真名。
「……そうだね、ライダー。世界(みらい)は、私やヒンメルが思った以上に広かったわけだ」
稼働式の椅子をライダーの正面へと向ける。
エルフの寿命は長い、それこそ10年の旅なら「短い」と結論付けられるほどに。
だが、人間の文明が日進月歩とはこの事か。数十年経った程度で飛躍する。
ここは自分の世界では無いが、よそ見をすればここまで発展するのかと、違う世界ながらも驚嘆を隠しきれない。魔法が廃れ、機械が発展した世界は、それこそ知らない未来。
だからフリーレンは、まず覚えることにしたのだ。パソコン等の、機械文明を。
その為に色々と四苦八苦はしたが、現在に至ってその労力に似合った成果は出せたのである。
『それはそれとしてあの時いきなりパソコンを学びたいとか言い出した貴女は中々に面白かったですよ。ええ、このご時世でパソコンのパの文字すら無い、まあ異世界出身とは言えそこまで田舎者のお婆ちゃん――ウゲッ!?』
などと。横槍じみたマシンガンジョークをぶっ放す、棚からひとりでに飛び出した真っ白な立方体。
一面のみに目玉のようなものがついた素っ頓狂な見た目ながら、いざ言葉が出れば言葉の機関銃。
ただし「お婆ちゃん」呼びに思わずしびれを切らしたフリーレン。隣に掛けておいた杖を手に振り上げ喧しい立方体に向けて振り下ろす。心なしか、顔に青筋が経っているような雰囲気ではあった。
「悪かったね田舎者のお婆ちゃんで」
『そりゃ1000年も生きた単一生命体なんてサンゴぐらいですよ。ロートル極まりすぎてこっちだってドン引きです本当に。まあその無愛想さからナチュラルにジョークを言えるセンスは素直に感心しますよ。出会った当初のどこぞのAIに――あいだだだだだだ!!』
「マツモト、これ以上は余計」
なおも気にせずペラペラと喋り倒すマツモトと呼ばれるそれに、今度はライダー直々のぐりぐりが炸裂。
その軽快なやり取りからは、この英霊と1機が長年付き合ってきたパートナー同士の信頼とも受け取れる光景に、ヒンメル達とのやり取りをそこはかとなくフリーレンは思い出していた。
-
「ですが、私も実際に話を聞くまで信じられませんでした。如何にAIでも、100年以上保たれ続けられるかは未知数です。長く保った方の私でも、休止期間を挟んでの100年間でしたので」
「文明が発達しても、そこは人間と変わらないんだ。私からしたら100年もそこまで長くない認識だからね」
エルフの寿命は長い。それこそ1000年を超えるのが平均的。
フリーレンですらまだエルフの中では若輩と認識される程。
それ故に彼女は人間というもののよく理解できていなかった。
長命種ゆえの達観した認識。故に人間との交流に価値を見出さなかった。
「……ヒンメル達との旅は、たった10年だったよ。ライダー達が生きてきた10分の1。私にとっては100分の1」
人間の人生なんてエルフからすれば短いものだ。エルフにとってはたった10年の旅。
分厚い本の一ページにも満たないそんな物語。
でも、そんな1ページの、些細な一人に、勇者(ヒンメル)に彼女は惹かれしまった。
自分の魔法を、「好き」だと言ってくれた彼に。
「……でも、そんな10年で、私は変えられたんだ」
彼の死で、思い返せた。
彼らと共に過ごした日々が、どれだけ尊かったのか。
彼らと共に乗り越えた冒険、どれだけ楽しかったのか。
人間の寿命なんて短いことぐらい分かっていたのに、どうしてもっと知ろうとしなかったのだろうか。
それを自覚した瞬間、何かが変わったから。いや、あの時から既に変わっていたのか。
それ以降の彼女は、人間を知る旅に出た。生臭坊主の置き土産と言わんばかりの弟子も出来た。新しい仲間も出来た。
人間をちゃんと知るには、まだ程遠いけれど。それでも、一歩一歩。あの冒険のように。
「……良い旅、だったのですね」
「そうだね。今なら、胸を張って言えることだ。……下らないこととか色々あったけど」
思い返せば、何一つ無駄のない経験ばかりの旅だった。
……いや、結構無駄なことした気がしなくもないが。
「私は、100年の旅でした」
続くように、ライダーの言葉があった。
世界初の自立人型AI。刻まれた使命は「歌でみんなを幸せにすること」
使命に生きて、どう稼働し続けるか。
人間の心は分からずとも、その使命にだけは純粋だった彼女に与えられのは、未来からの使命。
「人類存続のためにAIを滅ぼす」ということ。
「痛みもありました、苦しみもありました。その中でも喜びはありました。それは私の中で思い出となって積み重なって、みんなを喜ばせられる歌を歌えるように」
苦難と後悔が多かった旅だった。一度矛盾に耐えられなくて発狂した。
心の奥に引きこもっていた自分(ヴィヴィ)に、大切なことを遺してくれた歌姫(ディーヴァ)がいた。
答えが分からなくて、歌えなくなった時もあった。
「……人間(ひと)は死んでも、必ず誰かの中に残るのだと。ある人が言ってくれました」
それは、ライダーが歌えなくなって、博物館の展示物だった頃に出会った子供。
後に、世界を救う使命を与えてしまった人物となる松本オサムという名前の。
自分が歌えるようになる答えを見つけるのが先か、彼が友達が連れてくるのが先かの些細な勝負事。
結果だけ言えば彼の勝ちだったけれど、結婚して子供を作った彼から言われた言葉が、インピレーションを、可能性を与えた。
「私にとって、心は思い出です。それを、あの時に気付く事ができました」
思い出は、心に残り続けるものだと。
居なくなってしまった半身(ディーヴァ)が自分に遺したもの。
それが、思い出であり、心だということが。
それが、ライダーにとっての、心というものへの一つの返答。
最も、答えは最初から知っていたのに、気づかなかっただけなのだけれど。
-
「人間(ひと)は死んでも、必ず誰かの中に残る、か」
その言葉に、フリーレンには回顧する思い出があった。
ヒンメルがよく像を作ってもらっていた事。
永く生きるであろう自分が未来で独りぼっちにならないようにと、それが一番の理由だとか言ってた。
『おとぎ話じゃない。僕たちは確かに実在したんだ』
今思えばそういうことか。何時までも自分たちの存在が忘れられないように。
誰かの記憶に、心に、思い出に残ればいいのだと。
確かに、ヒンメルが死んでもその功績を称える村はいっぱいあるな、と。
あの石像が、自分たちを物語のいち登場人物で終わらせない為に残したものだとするなら。
勇者ヒンメルが魔王を倒して80年。それは、人々が誰かを忘れるのに十分な時間であり。
物語で終わらせないように、忘れ去られないように、自分を一人にしないために。
「……痛いほど、知ってるよ」
ヒンメルが死んでも、彼との10年の旅は今でも色濃く残っている。
いつか忘れるとしても、彼が残した像がある限り度々思い出すのだとしたら。
確かに、何処までも用意周到なのか、ただのお人好しなのか。
『実際、AIの癖に妙に頑固で人の話聞かないものですから私としては苦労させられたんですけどね!』
再び割り込むマツモト。もう完全に愚痴の類だった。
実際、ヒンメルの奇行に振り回された周囲みたいな感じだったのだろう。
『まあ、そういう彼女だから最後までついてきたんですよ。今思えば、彼女だからこそ使命を遂行できたんですよ』
まあ結局、このマツモトも満更ではなかったのだろうと。ライダーにとっての唯一無二のパートナーだったと。なんとなく納得のできる言葉だった。
「……『歌でみんなを幸せにする』のがライダーの使命でよかったんだよね」
「はい、マスター」
歌でみんなを幸せにするという使命。それを考慮すれば、この聖杯戦争で生き抜けるかどうかは厳しいのかも知れない。けれど、誰かのために歌を歌うその意志は。その為に人を助けようとする心持ちは無下には出来ない。
「もしもの時は覚悟はしてほしいけれど、なるべくは考慮するよ」
「……!」
これは最低限の表明だ。彼女の意志は立派なものだが、いずれ矛盾に突き当たる。同しようもない選択肢を突き付けられた時、それこそ魔族のような心を誑かす相手と出会った時は。けれど。
彼女の思いを踏み躙るようなことは、なるべくはしたくないとは思った。
「……ヒンメルなら、構わず助けてただろうから」
自分はあの勇者みたいな融通は利きづらいけれど、彼ならばそうするという確証もあった。
あったからこそ、彼女はライダーの使命を、その意志を尊重しようと思うのだろう。
-
◆◆◆
『私はもっと人間を知ろうと思う』
『私の使命は、歌でみんなを幸せにすること』
【クラス】
ライダー
【真名】
ヴィヴィ@Vivy -Fluorite Eye's Song-
【属性】
中立・善
【ステータス】
筋力:C 耐久:D 敏捷:C 魔力:C 幸運:D 宝具:B
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:D++
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。
最も、ライダーが一番得意なのは舞台の上に乗ってのパフォーマンス。
【保有スキル】
戦闘プログラム:C
結果として自ら望んでインストールしたマツモト謹製の戦闘プログラム。
スキル発動中は筋力と敏捷のステータスにプラス補正が掛かる。
魔性の歌姫:B+
ライダーの歌姫としての魅力。生前によりライダーは歌だけでなくその行動の結果とある人物を魅了してしまったことからスキルランクにプラス補正が掛かっている。
ライダーの歌を聞いた対象に対し判定を行い、成功時に対象を魅了する。かつDランク以下の対魔力程度なら貫通し無力化する。
英霊となったことで歌を介して魔力を伝搬させる手法も可能で、耳が聞こえない程度では防ぐことは出来ない。
『使命』:B
自立型AIに対して課せられる基本行動規範。ライダーの場合は『歌でみんなを幸せにする』という使命。
使命に反する内容の精神及び感情干渉をある程度シャットアウトする。これはマスターからの命令も同様。
一応"みんな"の定義次第ではある程度融通を利かせたり、令呪を切りさえすれば強制的に『使命』を無視しての命令も可能。ただし後者に関しては行動の内容次第でライダーのフリーズが発生したりするため推奨はできない。
ディーヴァ:EX
「もしもの時は私が助けてあげるから、頑張りなさい。ヴィヴィ」
かつて消滅した、ヴィヴィの半身。今はまだ奥底に眠ったまま。もしも彼女の心が折れそうになった時は―――。
【宝具】
『マツモト』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大補足:1〜100
ライダーをサポートする、一面にのみカメラを有するサイコロ状の立方体AI。
対象へのクラックを行うことでの視界のジャックや魔術回路への干渉を主に得意とする。さらに同型のボディを量産、それをブロックのように合体させることで乗り物等へと変化することも可能。最大生産可能数は三桁を超える。
耐久力もそこそこあるのでマツモト自身や同型ボディを投擲することで飛び道具としても運用も出来る。量産した同型ボディは壊れた幻想の用途で意図的に爆発させることも可能。
『思い出を込め心のままに(フローライト・アイズ・ソング)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜10 最大補足:1〜100
100年に渡る旅の果て、最後の最後にライダーが辿り着いた「心を込める」という行為への答え、その結晶たる、ライダーというAIが初めて自分で生み出した曲(もの)。
「AI停止プログラム」を乗せて歌い、全てのAIを停止させた逸話を参照し、この歌が聞こえる範囲内にいる、ライダーのマスター以外の全ての人物の魔術回路、及びサーヴァントに供給される魔力等を強制的に停止させる。
魔術回路及び魔力供給そのものを強制停止させるため、たとえ令呪を使おうともこれに抗うことは困難。
ただし、これの対象はライダー自身も含まれているため、実質的に自分という霊核を削っての自爆宝具に等しく。事実上、歌い終わると同時にライダーの消滅が決定づけられる。
【人物背景】
「私の使命は、『歌でみんなを幸せにすること』」
100年にも渡る使命の果てに答えを手にした機械仕掛けの歌姫。
【サーヴァントとしての願い】
英霊となった身でもその使命は変わらない。
ただ、マスターをちゃんと元の世界へと帰してあげたいという気持ちはある。
-
【マスター】
フリーレン@葬送のフリーレン
【マスターとしての願い】
聖杯は気になるけれど、それに願いを望む程じゃない。
【能力・技能】
『魔法』
一般攻撃魔法こと人を殺す魔法(ゾルトラーク)等の基本魔法。さらに旅の中で集めた様々な民間魔術を使用することが出来る。
『魔力制限』
フリーレンが師匠であるフランメから教わった、自らの魔力を意図的に抑える技術。
1000年間の魔力鍛錬の上に、常時この制限状態を続けていた為、制限特有の魔力の僅かなブレや不安定さは全くと言っていいほど無い。
並の魔術師では彼女の魔力を正しく計測することすら不可能。
【人物背景】
かつて魔王を倒した勇者ヒンメル一行、その魔法使いフリーレン。
【方針】
生き残りながらも聖杯戦争そのものの調査。
なるべくはライダーの意思は尊重するが、相手次第にとってはそれも叶わないことも覚悟してる。
……珍しい魔法とかあったら手に入れないと。
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投下終了します
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投下します
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【0】
死とは冷たさである。
【1】
欠落した日々を送っている。
もともと、母の死を知ったあの日から大切な何かが欠けてしまっていた。
だけど今は、それから必死に注ぎ足し続けてきた情熱さえも落としてしまっている。
目覚め、新聞を配達し、学校に登校し、味のしない弁当を食べて、ただ一人で帰路につき、スーパーの店員として汗を流し、日銭を稼ぎ、稼ぎ、稼ぎ。
愛する母のいない家に帰宅する。
ベッドの中で札束を数える。輝かしき青春を薄汚れた労働に費やした対価として得た紙幣を、皿洗いで荒れた指でなぞっていく。
その行為は虚栄を満たすためではなく、願望(ゆめ)を確認する行為とも少し違っていて。
決して埋まらない心の澳の空洞を、それでも必死に塞ごうとするための足掻きとでも言えばいいのか。
1枚、2枚、10枚。
「……99枚」
目標金額までほんのあと少しだというのに、彼女の声は低く、重く、地の底にいるようで。
いや、実際に彼女――小淵沢報瀬は現在、地の底……冥界とも呼ばれる死の国に囚われていた。
偽りの世界。偽りの生活。偽りの人間。
そんなことはどうだって良い。本物だろうが偽物だろうが、報瀬の夢を嗤うヤツなどどうだっていいし。
……ホントはかなりムカつくけれど。現実じゃないんだったらそれこそ後先考えず一発殴ってやれればかなーりスッキリ出来るんだろうけど。
偽物だらけのこの世界で、報瀬の心は本物だから。傷付きもするし、苛立ちもする。
まあ、大事なのはそんなことじゃない。
大事なのは。
「願いが、叶う」
-
聖杯戦争。そういうものに勝ち抜いて見事優勝した暁には、なんでも望みが叶うのだという。
なんでも。その文言は普通の人間にとっては甘美なのだろう。何を犠牲にしてでも手を伸ばす者もいるだろう。
でも、報瀬にとっては違った。
例えるなら、人力飛行機を頑張って作成している最中に宇宙旅行の抽選参加者に無理やりさせられた、という言い方が近いだろうか。
段階が飛んでしまっている。まだ空中からの景色さえ見れていないのに、いきなり宇宙に飛び出してみよう、なんて。
そんなの、南極に行くためにコツコツと100万円を貯金していた自分がバカみたいじゃないか。
南極に行くという願いは「一般女子高生の夢」としてはだいぶん重たいが「なんでも」に対してあまりにも軽すぎる。
自分が本当は何をしたいのか。南極に行って、それからどうするのか。
その答えを報瀬はまだ持たない。
不透明で不定形のナニカをこれという形に確定できない。
母の遺品を回収したいのか?
母と再会したいのか?
母の黄泉還りを望むのか?
報瀬はただ「南極に行く」という分かりやすい道標にしがみつきながら何年も生きてきた。
それなのに「それから先」や「それ以上」の選択肢を急に突き付けられても、困ってしまう。
進む道が曖昧模糊では、到達地点が五里霧中では、遭難は必至だ。
特に、本来人類種が行き着くべきではない地では。
そういう場所では、どんなに完璧に準備をしていてもほんの少しのミスやどうしようもない天災で人は死ぬことを報瀬は知っている。
嫌というほど、知っている。
「はぁ……」
だから、気が重い。
願望に対して猪突猛進でいられる気性であるからこそ、その願望を見失っている今が辛い。
それでも期限はやってくる。闘争はやってくる。戦争はやってくる。
勝ち残った「後」のことを考える時間は、あとどれだけ残っているだろうか。
小淵沢報瀬と彼女のサーヴァント『アーチャー』は、既に5組の参加者を屠っている。
報瀬自身の意思に関わらず、自分たちは「天災」の側である。
-
自分のサーヴァントがいわゆる「当たり」であることはすぐに分かった。
ステータス?とかいうものを見てもだいたい全部A(Sとかないよね?多分)だし。
何より『アーチャー』の実際の戦いぶりを遠目から見て、弱いと思えるはずもなかった。
圧倒的だった。時には戦いと呼べるものでさえなかった。
戦いの規模がよく分かっていなかった最初の頃は、それこそ『アーチャー』の攻撃の余波で死にかけたことさえあるくらいだ。
最近は、戦いが起きると思った瞬間に全力でダッシュしてその場を離れている。
『アーチャー』は報瀬を気遣って戦うには少しおっとりしすぎているし、何よりも。
報瀬は『アーチャーの宝具』を見たくなかった。
それによって息絶えたサーヴァントや、マスターや、NPCを見てしまうと、どうしても想起してしまう。
愛する母の死に様を。
南極で吹雪の中、少しずつ死んでいった母が、報瀬の殺した誰かに被る。
そのたびに、胸が痛くなる。苦しくなる。まるで自分が母を殺したかのように錯覚してしまう。
仕方のないことだと言い聞かせる。誰かを殺してしまうことも、殺し方も。
だって、どうしようもないじゃないか。
報瀬は聖杯戦争に巻き込まれて。『アーチャー』は勝利のために宝具を使う。
そこに悪意はない。生き残るためという免罪符で、報瀬は目を背け続けている。
「……98枚。99枚」
もしかしたら。
こうやって札束を数えているのは、そんな自分を日常の側に留めるための儀式なのかもしれなかった。
南極に行くという夢のため集め続けた紙切れが、孤独な少女とかつて彼女が存在していた現世を繋ぐただ一つのよすがなのだから。
「……寝よ」
こうして。
宇宙(そら)よりも遠い場所を目指した翼は黒き太陽に焼かれ。
少女は落ちていく。堕ちて逝く。
冥界(そこ)よりも深い場所に。冷たい冷たい最果てに。
落ち切った終着点で本当の願いが見つかることを祈って、眠りにつく。
睡魔に負ける直前に。
反射的に携帯を開く。
いつものようにメールを打つ。
『Dear お母さん』
愛する者との訣別の時、未だ来たれず。
-
【2】
小淵沢報瀬が床についてから数時間後。
丑三つ時。彼女の自宅付近で揺らめく影が五つ、六つ。
ゴーストと呼ばれる亡者。二匹。
スケルトンと呼ばれる骸骨。三体。
そして、シャドウサーヴァントと呼ばれる英霊の影。一騎。
いずれも、報瀬の持つ令呪――特大の魔力塊に釣られ、誘蛾灯に群れる蟲のように現れた敵性存在であった。
亡者が爪を研ぐ。骸骨は槍を握り締め、影は短剣を取り出した。
「あら、お客様?」
瞬間。大きく風が吹いた。
季節は3月終わり。春一番にしては遅刻である。
風の後には、塵が舞う。さらさらと。
瞬き一つの間に、敵性存在は微塵と化している。
剣の煌めきも、魔術のおこりも、何も見えないまま、死者は土に還っている。
小淵沢報瀬のサーヴァント『アーチャー』による神速の一撃であった。
一般人には風としか映らず、武芸者であっても「何かがいた」ことしか分からず。
一騎当千の英霊、座におわす人類種の極限到達者であってようやく視認が叶うその一撃。
どうして、そこまでの早業を魅せる必要があったのか?
巨躯を周囲に晒し、神秘の隠匿を破る咎を恐れたのだろうか?
違う。『アーチャー』はそんなことには興味がない。
今まで彼女の戦いが騒ぎにならなかったのは、敵対者による結界や人払いによるものである。運が良かっただけだ。
それでは、まだ見ぬ参加者に情報を渡すことを危惧したのだろうか?
違う。『アーチャー』はまだ見ぬ参加者こそを、英雄こそを待ち望んでいる。
報瀬に「待て」をされていなければ、彼女はショッピングモールに向かうJK(女子高生)のごとくルンルン気分で会場を闊歩し闘争に明け暮れている。
となると、目にもとまらぬ一撃こそが『アーチャー』の能力であったか?
違う。違う。違う。全て間違っている。
前提が間違っている。
今しがた行われた一瞬の殺戮劇は、ただそうする必要しかなかっただけ、というわけである。
ゴースト二匹。スケルトン三体。シャドウサーヴァント一騎。
その程度の群れは『アーチャー』の持つただ片脚の、ただ一指の、ただの爪の先で「なでる」だけで、散らされるものだったというだけ。
爪先一つの部分的、瞬間的顕現によってのみで、対処が可能というだけの話である。
「ああ、退屈ねえ……」
これまでも道すがら幾つもの英雄たちと矛を交えたが、かつてのような血の滾りを得ることは出来なかった。
剣士は剣ごと体躯を砕いたし、弓兵の奥義は鱗を貫くことも出来ず。
暗殺者の速さには追い付いてしまったし、魔術師との技比べも、かつてのように一息で終わってしまう。
騎兵の駆る怪物には胸躍ったが、結局は大きいだけの木偶の坊でしかなかった。
星を目指した鳥竜の冒険者との戦いも、尽きぬ技持つ粘獣の格闘家との戦いも、今は遠く。
だけど、すぐ近くにきっと甘い甘い戦いがあるのだと、信じながら。
冥界にて屍を築き上げながら。冷たい死を振り撒きながら。
新たなる修羅との戦いを夢見て『アーチャー』――冬のルクノカは目を閉じる。
-
【3】
それは、ただの一息にて数多もの英雄を殺戮せしめた最強種の頂点である。
それは、ただの一息にて本来相容れぬ国家と修羅の手を取り合わせた安寧世界の敵である。
それは、ただの一息にて永久凍土大陸さえ作り得る「冷たさ」の担い手である。
昏き死が蔓延る冥都において、ただの一息にて生者無き白地(じごく)を顕現する冥主の一柱である。
凍術士(サイレンサー) 竜(ドラゴン)
冬のルクノカ。
-
【CLASS】
アーチャー
【真名】
冬のルクノカ@異修羅
【ステータス】
筋力 A+ 耐久 A 敏捷 A 魔力 A+ 幸運 C 宝具A
【属性】
混沌・中庸
【クラススキル】
対魔力:A
単独行動:A
【保有スキル】
怪力:A
魔物、魔獣のみが持つとされる攻撃特性。使用することで一時的に筋力を増幅させる。一定時間筋力のランクが一つ上がり、持続時間はランクによる。
戦闘続行:A+
往生際が悪い。
霊核が破壊された後でも、一国の軍と修羅一匹を殲滅しかける程度には暴れまわれる。
詞術:A+
冬のルクノカがかつて存在していた世界における言語であり魔法のようなもの。彼女はこの術を用いて宝具を発動する。
その特性上、ルクノカがこの東京の地に「馴染む」ほど強い力を発揮する。
【宝具】
『果ての光に枯れ落ちよ』
ランク:A+ 種別:対界宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:999人
かの世界において冬のルクノカのみが持つ氷の詞術。
彼女はただの一息で世界を「冬」に塗り替える。
【weapon】
無し。人の作りし道具は彼女の膂力に耐えられない。
【人物背景】
最強種である龍の中においてもなお最強と謳われる伝説の存在。
普段はおばあちゃん然とした様子だが、戦い大好き!強者大好き!
【サーヴァントとしての願い】
特になし。修羅との尽きぬ戦いをこそ望む。
【マスターへの態度】
あらあら、小さな人間(ミニア)。マスターというのはよくわからないけれど、死なないでね。
【マスター】
小淵沢報瀬@宇宙よりも遠い場所
【マスターとしての願い】
まだはっきりとしない。お母さん……。
【能力・技能】
南極に対して知識を持つ。それ以外は割とボケてるJK。意外と性格が悪い。
【人物背景】
かつて南極の地で母を失った少女。
その後、100万円を貯めて南極に行く(具体的なプラン無し)ことを目標にバイトに明け暮れていた。
学校のクラスメイトには「南極」呼びでバカにされているので荒みがち。
でも自分のことを笑わない人間に対しては爆速で心を開きがち。
【方針】
優勝する……でいいんだよね……。
【サーヴァントへの態度】
味方だから一応は友好的態度。でもやっぱりちょっと怖い。
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投下終了します
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投下します
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三百年の時を超え。
再び江戸/東京を駆ける聖杯戦争が始まる。
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投下します
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月明かりの下を、少女が駆ける。
桃色の装束に身を包み、一本の杖をその手に握った少女。
白銀の髪に、ルビーの様な真紅の瞳をした、小学五年生。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが、月明かり以外は漆黒の世界を駆けていた。
「……っ!?敵が、多すぎ………っ!」
『いやー、前に見たゾンビ映画みたいですねー』
少女を追う、沢山の影。
それは生存領域たる聖杯戦争の会場外にひしめく、死霊たちであった。
襲い来る脅威に握った最高位の魔術礼装足る相棒を向け、少女は叫ぶ。
「発射(フォイア)!」
放たれた光弾は狂いなく死霊たちに着弾し、光を放つ。
何体かは倒せたが、イリヤの表情は晴れない。
すぐさま増援が現れて、キリが無いのだ。
このままでは物量に押し切られる。
押し切られた先の未来に何が待っているかは考えたくなかった。
『このままだとあと四十秒で囲まれちゃいますけど、どうします?イリヤさん?』
「呑気に言ってないで何とかしてよルビー!!」
悲鳴にも似た懇願の声を、呑気な相棒に飛ばす。
だが、シリアス適性の低い愉快型魔術礼装はどこ吹く風。
普段の様にイリヤの反応を楽しんでいる節すらあった。
『あぁダイジョーブですよイリヤさん。囲まれると言っても────』
言葉と共に、ルビーはボディの羽の様な部分を上へと向ける。
すると、それと同時にイリヤとルビーのいる場所に影が差した。
丁度イリヤとそう変わらない大きさの、一つ分の影が。
そして、影が差してから瞬きに等しいほんの一刹那の時間で、死霊共が吹き飛ぶ。
『セイバーさんがいなければの話なのでー』
そう告げるルビーと共に、目の前に降り立った存在をイリヤは見つめた。
現れたのは、イリヤよりもほんの少しだけ年かさの子供だった。
「イリヤ、今宵はここまでだ。ここも外と繋がる様な手がかりはないだろう」
少年の様にも少女の様にも見える風貌に、烏の様な瑞々しい黒髪。
白い和の装束に身を包んだ麗人。イリヤの引き当てたサーヴァント。
彼は、己の事をセイバーと名乗った。
-
「うん、セイバーさん。でももう少しだけ……」
「いいから、君は弱いのだから。せめて無理をしない様にして貰わないと私が困る」
『そうですねー、ルビーちゃんも今夜はもう疲れちゃいました』
これ以上ここで粘った所で得られる物は何も無い。危険なだけだ。
そうセイバーとルビーに主張されてしまえば、反論もできず。
また何の手掛かりも得られぬまま、数分後に少女はその場を後にして。
結局、この夜も全ては無駄足に終わったのだった。
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命懸けの調査行を終えて。
仮の宿としてイリヤの記憶から再現された、一軒家の屋根で人心地つく。
死地より今日も生還した事になるが。
それでもイリヤの表情は晴れなかった。
この世界に招かれてから、もう一週間になるが。
未だ仲間たちの元へ帰還する方法は見つかっていない。
「早く美遊と…リンさん達の所へ戻らないといけないのに……!」
胸の内にあるのは、焦りだ。
この世界に迷い込む直前。
並行世界にて彼女は、エインズワースという魔術師の一族と戦っていた。
世界を救う生贄とならんとしている親友を、美遊・エーデルフェルトを救うために。
それなのに、その中途で彼女はこの世界に招かれてしまった。
美遊は、クロは、仲間たちは、今どうしているだろうか。
世界も、親友(ミユ)も、両方救うと息巻いて。
その矢先に突然いなくなった自分の事を、どう受け止めているだろうか。
無事でいるだろうか。
それを考えるだけで、不安で小さく幼い身体が崩れ落ちそうだった。
「マスター」
考えるな、と。
被りを振るって、不安を心の底に押し鎮めて。
自室に戻ろうとした時の事だった。
連れ立って帰って来たセイバーに呼び止められたのは。
少し、話があると。
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元の世界と同じ、記憶から再現されたらしい自室に籠って。
消灯し、月明かりだけがカーテンから覗く薄暗い部屋で。
セイバーとイリヤは向かい合っていた。
イリヤはベッドに腰掛け、セイバーは直立不動のまま。
ルビーすら茶々を入れず、静謐で張り詰めた空気が場を支配していた。
その中で、静かにセイバーは口を開く。
「イリヤ…君と私が出会った夜。君は、聖杯は目指さないと、そう言ったな」
平坦な声だった。
どんな感情で尋ねているか、セイバーの表情からも伺えない。
もしかして、怒っているのだろうか。
実はセイバーさんにも願いがあって、納得できないのだろうか。
そんな不安を抱きつつも、取り繕うことなく首肯する。
そして今一度告げた。聖杯を、獲るつもりはないと。
-
「……何故だ?」
その言葉を聞いて、セイバーが発したのは純粋な疑問の言葉だった。
怒りではない。しかし解せないという表情でじっとイリヤを見つめて。
「君が君のいるべき場所に帰ること。君の友を救うこと。
そして君の友の世界を救うこと。その全てが────
儀に勝ち残り、君をこの地に招いた盈月に願えば叶うのだろう」
確かに、そうだ。
イリヤもまた、その事については考えていた。
この地で得た聖杯を使えば、イリヤが此処に至る前に世界を滅ぼした男。
ダリウスの思惑を超えられるのかもしれない。世界を救えるのかもしれない。
そうなれば、親友(ミユ)だって、きっと。
「もし、君が聖杯を求めるなら───今ここで私に命じろ。勝て、と
友と世界を救わんとする君の願いは、きっと間違いではない。私が保証する」
声は冷たく、命令する様な語気でセイバーは呼び人に選択を迫った。
これでは主従があべこべだと、聞く者によってはそう感じたかもしれない。
だが、セイバーのマスターであるイリヤは憂いを帯びながらも穏やかな表情をしていた。
彼女はセイバーの言葉に、深い思いやりが籠められているのに気づいていたから。
『確かに、ルビーちゃんの見立てではセイバーさんは大当たりサーヴァント!
勝ち残るのも夢じゃないですねー!いっそ優勝を目指すのも───』
「ルビー」
合いの手を入れるように囀るルビーを名前を呼ぶだけで沈黙させた後。
躊躇なく、穏やか且つ泰然とした物腰で、イリヤは返答を返した。
そう言ってくれるのはとても嬉しい。だけど、私の答えは変わりませんと。
「確かに、セイバーさんの言う通り間違いじゃ無いのかもしれない。
だけど……正しい訳でも無いんです。たぶん、私にとっては」
この聖杯戦争は、脱落者は帰還できない。
更に冥府と仮初の現世たる会場は、聖杯戦争の進行と共にどんどん狭まっていく。
サーヴァントを失い、冥界に放り出された敗残者は。
あっという間に運命力を使い切り、死霊としてこの地を彷徨う事となる。
故に、犠牲を避けては通れない。
必ず、イリヤの願いの為にこの地に散る者が出てくる。
彼女には、それがどうしても許容できなかった。
「人の願いを…希望を託すのが聖杯なんでしょう?
だったらどうして……全ての人の幸せを願わないの?」
一番いいやり方なんて分からない。
でも、犠牲を許容するのを受け入れる、なんて。
そんな事は初めから間違っている事だけは確信が持てた。
友も世界も、全てを救う。かつて自分はそう言った。
それなのに、この世界の競争相手は犠牲になっても仕方ない、なんて話はない。
だから俯かない。過去と未来の自分(イリヤ)が、それを許さない。
どれだけ果てなき道行きでも、抱いた想いに背を向ける事だけはしない。
未来は、前にしかないのだから。
それが今の彼女の答えで、全てだった。
-
「………誰も犠牲にしない、か。
願いと言うのすら憚られる。童(わらべ)の我儘だな、それは」
腕を組み、変わらぬ冷淡な態度で。
セイバーは少女が語った願いを、そう評した。
イリヤの表情が固まるのも気に留めず、セイバーはさらに続ける。
「───何も選べぬ者に、何も成せはしない」
君は、弱いのだから。
その言葉は、一切歯に衣着せる事無く。
じっとイリヤの真紅の瞳を見つめたうえで、純然たる事実を突き付けた。
はっきりと断言された現実は、今の少女の願いを否定するものだ。
しかし、それでも彼女は。
「───うん、だから」
表情が固まったのは一時の事。
実に苦い現実の二文字を直視させられて尚、少女は俯く事も目を逸らす事もなかった。
ただ、彼女はセイバーの琥珀色の瞳を真っすぐに見つめて。
そしてその後に両手を翼の様に広げ、己が従僕に願った。
「セイバーさんが、手伝ってください。
私だけじゃただ死んじゃうだけでも、セイバーさんが手伝ってくれたら…
ここから出る方法位は、きっと見つかると思うから」
美遊達のいる世界に戻れるように。
…私がみんなを助け出せるように、力を貸して。
愛らしく、しかし揺るぎのない声で以て、願いは紡がれた。
それを耳にしてから、セイバーは暫しの間沈黙。
十秒程間を置いて、視線を傍らでふよふよと漂う魔術礼装に向けて尋ねた。
「なぁ君、彼女はいつも“こう“なのか?」
『モッチロン!こうなった時のイリヤさんは手強いですよー
なんせルビーちゃんが見つけて手塩にかけて育てた最高のロリっ子ですから!
イリヤさん株は今がお買い得です!底値ですから!!』
-
それつまり、今の私の株がどん底って事だよねルビー……
イリヤはルビーの発言からそんな事を考えたが、突っ込みはしない。
話を聞いて再び考えこむセイバーの姿は、真剣そのものだったから。
そうしてイリヤとルビー、一人と一本が固唾を飲んで見守る中。
また暫しの間を置いて、セイバーは己が呼び人の名を呼んだ。
「イリヤ」
その裏で想起するのはかつて己が駆けた聖杯戦争の記憶。
セイバーの英霊としての在り方を決定づけた日々。
夜空に浮かぶ月を追い駆ける様な、夢の様に儚く美しい戦いの。
その最後の一幕だった。
それを思い浮かべながら、セイバーは口を開き。
過去と現在が交わる。
────セイバー。やはり俺は、やさしい人では無いんだよ。
「君の願いはやはり、童の我儘だ」
皇子の生涯は、選択と殺戮の連続だった。
神も魔もまつろわぬ民も、命じられるままに切り捨てた。
英霊として世界に召し上げられても、変わることは無く。
征服者ではなく、善なる皇子として生きる道を選んだあとですら。
彼の“運命”は、その剣の渇きを潤すために選択を迫った。
────即ち、ただ剣の鬼として。
────故に、ただ善を成すものとして。
「私は───きっと、君と同じ願いを掲げる事は出来ない」
友と、世と。
両方を選ぶ道を歩むことはできなかった。
善を成すものとして、これまで切り捨ててきた全ての命の為に。
彼は、善を成すことを決めた。
────即ち、ただ剣の鬼として。
────故に、ただ善を成すものとして。
-
「だが」
───君を斬る。ただ、君自身の為に。
───お前を斬るより、最早道は無し。
「君の願いは───美しい」
同じ願いを抱き掲げるのは難しいけれど。
願いを紡ぐ少女の瞳に籠められた星の光は、セイバーの目に眩く映った。
だから。だから彼は、
────君の願いを、斬り捨てる。
とは、告げなかった。
「だから、同じ願いを掲げる事は叶わずとも……
───私は、君の願いを守りたい」
それこそが、此度の聖杯戦争で背負う、セイバーの願いだった。
聖杯を獲得し、世界を救う。
その願いを選択したとしても、僅かな犠牲と引き換えに。
彼女の友と世界全ての人々が救われるのなら、悪と断じる事は出来ない。
だがそれでも───今はただ、少女が進むと決めた道行きの力となってやりたかった。
「遍くすべてを救わんとする君の祈りを守りたいと、そう思ったんだ」
「それじゃあ……」
「あぁ、今一度君の答えを聞けて、漸く肚が決まった」
僅かに空いた外へと繋がる窓から隙間風が入り込み、カーテンを揺らし。
はためいたカーテンの奥から月明かりが覗いて、セイバーの姿を静かに照らした。
セイバーはさっきと打って変わった穏やかな微笑を浮かべていて。
神々しさすら感じられる清廉とした彼の剣士の美しさに、イリヤは思わず息を飲んだ。
自身を一心に見つめる主に対して、セイバーは表情を凛々しく引き締め。
力強く、誓いの言葉を謳った。
「サーヴァント、セイバー。力なきもの、汝の力となろう────」
その言葉を聞いた瞬間。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの身体の奥に。
何かが奮い立つ様な、熱いものが流れた様な、不思議な感覚が駆け抜けた。
胸の奥からこみ上げる、決して消えない熱に応えるように。
背筋を伸ばして、真っすぐに自分の願いに向き合ってくれた従者を見つめて。
そうして、今用意できる最高の感謝を込めて、少女は応えた。
「───うん。よろしくおねがいしめしゅ!」
『今、噛みましたねー』
-
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
赦せ、一歩我らが征くことを
生まれるときを。
身を焦がし焼き切れても、道だけは続いている。
その美しさも哀れみも、大我に消える泡沫。
残り滓寄せ集め。
まだ進んで行け、進んで行け。
どんな果てが待っていようとも。
歩んでいけ、歩いていけ。
夜を越えて。
-
【CLASS】
セイバー
【真名】
ヤマトタケル@Fate/SamuraiRemnant
【ステータス】
筋力 A 耐久 C 敏捷 B 魔力 A+ 幸運 A(自己申告) 宝具 EX
【属性】
中立・善
【クラススキル】
対魔力:A
セイバーのクラススキル。魔術に対する抵抗力。Aランクともなると、どのような大魔術であろうとも、Aランク以下の魔術を無効化する事が可能となる。
騎乗:A
セイバーのクラススキル。乗り物を乗りこなす能力。対象は生物・無生物を問わない。Aランクなら、幻獣、神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を操れる。
【保有スキル】
神性:D
神霊適性を持つかどうか。Dランクは、神霊の末裔や死後神格化された人間の適性。
神格化されていた天皇の血筋(皇子)である事に由来する。
血塗れの皇子:EX
血の繋がった兄弟も、異郷の王達も、そして、愛した人さえも目の前で命果てていく。
そのような生前の生き様が、スキルとして表現されたもの。
神魔鏖殺:A
神性、魔性に対する優位。神も人も魔も、ヤマトタケルは打ち倒す。
Aランクともなれば最高位の特攻効果を発揮し、神と魔の属性を持つ敵に対してあらゆる判定でボーナス補正が発生する。
魔力放出(水):B+
水の形態の『魔力放出』を行う。隠された大宝具の齎す神気は、ヤマトタケルの魔力の性質を水と定めた。宝具『水神』の効果によってランクが上昇。
【宝具】
『水神(みなかみ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1
セイバーが持つ『天叢雲剣』の刀身を水の魔力で覆い隠し、蛇行剣の形と成す隠蔽宝具。
スキル『魔力放出(水)』を強化する効果もあり、宝具を使用することで水の魔力による水流を駆使した攻撃を行うことができる。
魔力を消費して本宝具を使用することで、ジェット水流による遠距離攻撃も可能としている。
『絶技・八岐怒濤(ぜつぎ・はっきどとう)』
ランク:B 種別:対人/対軍絶技 レンジ:0~10 最大捕捉:1~20
宝具を疑似開放し、水の斬撃を一度に8つ放つ絶技。
各斬撃は大蛇の如くうねり、さながら八岐大蛇を彷彿とさせる。
本人が編み出した唯一の対人技であるが、破壊力が高すぎる故に対軍宝具と見紛うほどの範囲効果まで付帯している。
『界剣・天叢雲剣(かいけん・あめのむらくものつるぎ)』
ランク: EX 種別:対界宝具 レンジ:1?99 最大捕捉:1?900人
スサノオ神話にて生み出され、ヤマトタケル伝説にて振るわれた神剣。
水の鞘を開放した神剣本来の姿。伊吹童子の『神剣・草那芸之大刀』と同一の剣。
普段は宝具『水神』によって隠蔽されているが、開放することで白色の蛇行剣から翡翠色の刀身が顕になる。
討ち取られた災害竜の尾から生じたこの剣は、かの竜自身が備える数多の威、天地自然の諸力の具現である神造兵装の一種と扱われている。
故にこれを行使することは、一時的に「神/カミ」すなわち世界と一体になる事と同義である。
真名解放した場合、ただちに「神/カミ」の力が行使される。
効果については使用者が選択可能。破壊を望めば、一帯に無尽の暴威をもたらす。
或いは何をも傷付けず、護ることや、救うことを望むならば―――神剣は、対界規模の奇跡を顕すかもしれない。
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【weapon】
天叢雲剣及び、腰に備えられた無銘の刀。
【人物背景】
日本神話において各地を平定した大英雄、『ヤマトタケル』
東西に渡って多くの戦いを越え、まつろわぬ豪族達と荒ぶる神々を討ち倒した征伐者として有名。大英雄として称えられつつも、孤独な征服者として生涯を送ったタケルは、
伊吹山の神を鎮めに行った際に、ミヤズヒメに草薙剣を預けていたことが原因で神剣の加護を失ったため失敗。白い大猪の姿をした伊吹山の神の怒りを買い、呪いを受けて衰弱、
大和への帰路の途中で力尽きるという最期を迎えた。死後その魂は大きな白鳥となって、空へ旅立ったとされる。
彼は死後英霊として世界に召し上げられ、慶安の時代に盈月の儀なる聖杯戦争に参加する事となる。
そこで彼は運命に出会い、そして戦いに果てに────、
【サーヴァントとしての願い】
マスターの願いを守り抜く。
【マスターへの態度】
懐き度30くらいのわんこ。
※盈月剣風帖の記憶があるかはお任せします。
【マスター】
イリヤスフィール・フォン・アインツベル@Fate/kaleid linerプリズマ☆イリヤ ドライ!!
【能力・技能】
カレイド魔法少女としての能力。
マジカルルビー
魔法使い・宝石翁ゼルレッチの制作した愉快型魔術礼装カレイドステッキとそれに宿っている人工天然精霊。愛称(自称)はルビーちゃん。
子供の玩具にあるような「魔法少女のステッキ」そのままの外観でヘッド部分は五芒星を羽の生えたリングが飾っている。羽のモチーフは鳥。
ある程度、形・大きさを変えることができるらしく、使用時以外は手で持つステッキ部分を消して、羽の生えた星型の丸いヘッド部分のみの姿となって、イリヤにまとわりついている。
クラスカード
エインズワースによって作られた魔術礼装。
高位の魔術礼装を媒介とすることで英霊の座にアクセスし、力の一端である宝具を召喚、行使できる『限定展開(インクルード)』の能力を持つ。
だが、それは力の一端に過ぎず、本質は「自身の肉体を媒介とし、その本質を座に居る英霊と置換する」、一言で言えば「英霊になる」『夢幻召喚(インストール)』を行うアイテム。
【人物背景】
穂群原学園小等部に通う小学生……だったが、カレイドステッキに見初められ、詐欺同然の強引な手口で契約させられ、
魔法少女プリズマ☆イリヤとして戦う運命に巻き込まれた一般人の女の子。
少なくともドライ四巻以降からの参戦。
【方針】
帰還の道を探す。
【サーヴァントへの態度】
セイバーさんは頼りになるので、一緒に頑張りたい。
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投下終了です
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>>62
すいません。割り込み失礼しました。
改めて投下します。
-
息を切らせて青年が逃げる。ゼェ、ハァと荒れる呼吸、激しく脈打つ鼓動はわき目もふらずに駆け出している自身の全力疾走によるものか、それとも、直前まで彼が目の当たりにした凄惨な光景による精神的な衝撃によるものか。
その鼻孔にはいまだに肉が焼け、身に着けた衣服も装飾も何もかもを巻き込んで燃え尽きた時に香った嘔吐感を催す焦げ臭い匂いがこびり付いて離れない。
その鼓膜にはいまだにその身がみるみる内に極寒の冷気に侵蝕され、壊死する暇すらなく氷のオブジェへと変じさせられる恐怖と苦痛と驚愕に支配された、されども口腔すらも凍り付いたことで満足にあげることを許されなかったくぐもった悲鳴が反響し続けている。
どうしてこんなことになったのか。突如として現れた、化け物としか形容のできない異形によって彼の仲間は一瞬の内に物言わぬ死体へと変えられた。
怪物の腕が二本しかなく、逃げ出す青年を捕捉する腕の余裕がなかったこと、そして彼が逃げ込んだのが入り組んだ路地裏で、そしてどこをどう逃げれば撒きやすいかを熟知していたのはこの降ってわいた事故としか言えない不運に見舞われた彼の数少ない幸運だったかもしれない。故に彼はここまで生き延びることができ、そして繁華街の光が見えるところまで逃げ切ることが出来たのだ。
逃げ切ったとして警察がどうにか出来る手合いか?否だろう。繁華街に逃げ込んだことで根本的な解決になるか?それも否だ。
それでも、もしかしたら人通りの多いとこまでは追ってこないかもしれない。追って来たとしても人ごみに紛れれば自分でない誰かに標的を映してくれるかもしれない。そんな僅かな希望に縋って青年は手を伸ばす。手を伸ばして――
そしてその手は願い虚しく宙を切った。
不意に体の自由が奪われる。制御を失った体が勢いを殺し切れずアスファルトの地面にダイブする様に倒れ込む。
パニックになる青年の霞む視界が路地の闇から姿を現す白衣の男を捉えた。青年を繁華街から隠すように立ちふさがる白衣の男は彼が抵抗できなくなったことを確認して手に嵌めていた指輪についていた蓋を閉じる。今彼が倒れ込んだ元凶は白衣の男が元凶であることは明白だ。
それでもどうにか足掻こうと青年は白衣の男に緩慢な動作で手を伸ばそうとする。それを白衣の男は笑うでもなく、怒るでもなく、ただ冷たい目で見下ろす。
状況はなにも好転しない。ここが無駄な抵抗の終着点。それを告げる様に倒れ伏した青年の後ろから、ジャリ、という足音が響いた。
まともに動けない彼の周囲の気温がみるみる内に熱を持つ。悪ふざけでライターを近づけられた際に感じた物は比較なぞ出来る訳もない熱量が近づくのを感じたのは一瞬。
何かに捕まれる感覚。即座に全身を包む焼ける様な、いや、文字通りにその身を焼きつくす痛みと熱。それを最後に哀れな逃亡者の意識は途絶えた。
繁華街を行きかう人々はそんな惨劇が起きたことなど知る由もない。鼻のいい者がいれば何か焦げる様な臭いを感知したかもしれないがその程度だ。二人の命が消えた事など気にも留められず東京の夜は更けていく。
-
「雑魚一人みすみす逃がすつもりだったのか?キャスター」
最後の一人を焼き尽くし、その魂を食らって魔力へと変換した自身のサーヴァントに対し白衣の男、永井木蓮は不機嫌な声色で投げかけた。
なんの特異能力もない優れた身体能力もないモブNPC一人、彼が契約したキャスターであればここまで泳がせる暇もなく始末することなど造作もない筈だ。
気の弱い者であれば射竦められてしまうであろう鋭く厳しい視線を向けられてなお、炎と氷の半身を持つ異形のサーヴァントは意に介する素振りすら見せない。
「クククッ、まさかまさか。ただ兎を狩るのに魔力を消費するのも面倒だったんでな。頼りになるマスター様にご助力いただこうと思ったまでよ」
小馬鹿にした笑いをあげながら氷炎のキャスター、大魔王バーン率いる六大軍団長の一人であるフレイザードは己のマスターを見下ろしながら向き合った。
強力なサーヴァントであるフレイザードだがそれを十全に運用するだけの魔力を木蓮一人で賄う事は叶わなかった。故にフレイザードの提案によって彼らはこうして夜な夜なNPCを狙って魂喰いを行っているのだ。
魂喰いという行為は他の主従に目をつけられるリスクがある。だが、聖杯戦争に臨み、数多の英雄と渡り合い勝利を手にする以上はいかに消耗を抑えながら魔力を蓄えるかが今の彼らにとって重要事項であった。
本来であればしなくてもいいリスキーな行動をしなくてはならないのは己のマスターの能力不足。その事実がフレイザードから木蓮への評価の低下に繋がっており、自身が原因であるという負い目から木蓮も強く出ることは出来ないでいた。
「……次からは俺に妨害させるなら女にしろ。その方が少しはモチベーションが上がる」
「いいぜ、お互いに得があった方がいいもんなぁ?それぐらい呑んでやるくらいの度量はあるつもりだ」
尊大に振る舞いながらフレイザードは魔力の消費を抑えるために霊体化し夜の闇に消える。
微かに肉の焼けた匂いが残る路地裏で一人、木蓮は忌々し気に舌打ちを鳴らした。
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(クソが、あからさまに見下しやがって)
内心で毒を吐くが、それを口にすることはない。霊体化で姿かたちが消えていてもサーヴァントの聴力は健在だ。うっかり不満を口に出そうものならば関係悪化を盾に自身にとって不利な条件を押し付けられる可能性がある以上、木蓮は口を噤まざるを得ない。
冷気を見れば木蓮の内に殺意が沸き上がる。自身をコケにし、二度も土をつけた水鏡凍季也を思い出すからだ。
炎を見れば木蓮の内に激情が猛る。自分の人生にケチがついた契機であり先の一戦でも勝利する事が叶わなかった花菱烈火を思い出すからだ。
そんな自分のサーヴァントが氷と炎を扱う存在とは悪趣味な冗談だと木蓮は苦々しく思っている。加えて明確な実力差もあってフレイザードは木蓮を見下している。
令呪による生殺与奪の権利を木蓮が得ているサーヴァントとマスターという関係、そして目的の為であれば非道・外道と呼ばれる行為にも躊躇う事なく選択肢として選べるスタンスの親和性から表向きは協調的な姿勢を見せているが、仮に同じスタンスで魔力問題を解消できるマスターが見つかった場合フレイザードが自身を見限る可能性は十分にある。結果としてある程度はフレイザードに阿った方針を取らなければならないことは木蓮にとっては屈辱であった。
だが、それでも木蓮がこの聖杯戦争を勝ち抜き、願いを叶え生き返り花菱烈火らにリベンジを果たす為であれば辛うじて呑むことが出来る屈辱でもある。
(この屈辱も、全部テメエをぶち殺すためだ花菱烈火)
フラストレーションを全てどす黒い殺意へと変換し、木蓮はギラついた視線を中空へ、脳裏に浮かぶ花菱烈火へと向ける。
(俺が死ぬまで終わりはねえ、そっちじゃ俺は死んだとしても、俺は生き返る術を、テメエを殺しに行く術を見つけた!終わりじゃねえ……終わらせねえ……!俺が死んだって終わりはねえのさ!!!)
ギリと両の拳を握りしめる。狂気を孕んだ獰猛な笑みをここにはいない相手に向ける。
仁なき男、永井木蓮。その凶気は死してなお尽きることはない。
-
【CLASS】
キャスター
【真名】
フレイザード@ドラゴンクエスト ダイの大冒険
【性別】
無性
【属性】
混沌・悪
【ステータス】
筋力B 耐久A 敏捷C 魔力A 幸運C 宝具B
【クラス別スキル】
陣地作成:B
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
“工房”の形成が可能。
道具作成:D
魔術的な道具を作成する技能。
【固有スキル】
六大軍団長:A
魔王軍において軍団を統率する六つの軍団長の一人。キャスターはその中でも意志を持たない岩石や冷気・熱気を肉体とするエネルギー体の魔物を統べている。また、Cランク相当の軍略スキルを内包する。
使い魔としてフレイムやブリザードといったモンスターを使役する他、対軍宝具の行使、対処において有利な補正を得る
禁呪法生命体:A
禁呪によって生み出された人や生物などとは身体構造からして異なるエネルギー生命体。同ランクの戦闘続行、仕切り直し、頑健スキルを内包する。
岩石で構成された肉体には臓器なども存在せず不死身に近い耐久力を誇るが結合のための核を破壊されると相反する属性の肉体を保つことが出来ず半身ずつに自壊してしまう。
氷炎将軍:A
火炎と冷気の魔を統べ、立ちふさがるものをある者は焼き尽くし、ある者は凍結して打ち滅ぼして来たキャスターへ畏怖と恐怖をもってつけられた呼び名。
最上級の火炎呪文と冷気呪文の扱いに長け、禁呪の域に踏み込んだ呪文を行使できる上、氷の右半身では冷気による攻撃を、炎の左半身では炎熱による攻撃を吸収して無効化することが出来る。
【宝具】
『氷炎結界呪法』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~20 最大捕捉:1~20人
対軍蹂躙を目的とした大規模禁呪結界。
氷魔塔と炎魔塔を顕現させ、自身を基点としてレンジ内にいる全ての対象の戦闘力を1/5に低下させ、また魔力を介して発動するスキル・効果を発動不可能の状態にする。
この状態を解除するにはレンジ外に出る・氷魔塔と炎魔塔を両方とも破壊する・核となっているキャスターを倒すのいずれかの手段が必要となる。
『弾岩爆花散』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1~20人
我が身すら省みず新たな栄光と勝利を得る為の最終闘法。
その身を無数の岩石の弾丸へと変じさせ、周辺一帯の敵を殲滅する。無数の岩石の群体は全てがキャスターの意思で行動し仮に岩石を破壊したとしてもその破壊した破片全てが弾丸となって対象に襲い掛かる。強力な攻撃であるが再構築したキャスターの身に纏った冷気と熱気が消えうせ岩石の体が露出するほど消耗も激しい。
この宝具を発動したキャスターに対抗するには、コアを破壊するか、氷と炎の体をそれぞれ相反する属性の攻撃で消滅させるしかない。
【weapon】
なし。
【人物背景】
大魔王バーン率いる魔王軍の幹部、六大軍団長の一人。
魔王ハドラーによって作り出されたエネルギー生命体であり、生後1年に満たず確たる歴史も人生も持たない自身の経歴がコンプレックスとなっており、勝利と栄光を至上としている。
女子供であろうとも容赦しない残虐性と勝つ為であれば手段を択ばぬ冷酷さを併せ持つ。
【サーヴァントとしての願い】
勝利と栄光を
【マスターへの態度】
スタンスとしては噛み合っており、自身と同様に目的のためならば手段を択ばない冷酷さを持っているため一先ずは及第点。
ただし魔力保有量という観点からすると落第点であるため、より使えるマスターが見つかれば鞍替えも視野にいれている。
マスターとサーヴァントという関係性、令呪による生殺与奪の権利をマスターが持っている事から協調路線こそとっているが、サーヴァントとマスターの根本的なスペック差、ましてや自身が戦ったアバンの使途達にも劣る戦闘能力のマスターに対しては内心で見下している。
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【マスター】
永井木蓮@烈火の炎
【マスターとしての願い】
生き返り、花菱烈火にリベンジしにいく
【能力・技能】
『魔道具「木霊」』
体内に飼った植物を操ることができる魔道具。
初期は体から根や枝を生やしての刺突、トリカブト毒の散布などであったが人体改造によって肉体と魔道具を合成した結果、肉体そのものを樹木へと変質出来る様になった。
【人物背景】
暗殺組織「麗」に所属していた猟奇的殺人鬼。女性を拷問・殺害しその時の悲鳴を録音して聞くのが趣味というサディストかつ自分至上主義のエゴイストな外道。また非常に執念深く、自身を下した花菱烈火や水鏡凍季也には強い執着を見せる。
表向きの職業は医者であり、科学知識も豊富で木霊を使用した品種改良など応用力も高い。
【方針】
魂喰いをして地固め。基本は遊撃ではなく相手を自分達のテリトリーに誘い込んで迎撃のスタンス
【サーヴァントへの態度】
スタンスは一致しているので協調路線。
相手が内心で自身を見下しているのは感づいており、いつ寝首をかかれてもいいように最大限の警戒。マスター脱落などで別に契約できるサーヴァントがいるのであれば切り捨ても視野。
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以上で投下終了します
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投下させていただきます。
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小さな子どもが、走っていた。
女の子だ。年頃はきっとまだ十にも届いていないだろう。
遊び盛りの年齢だが、しかし今彼女がそうしているのははしゃいでいるからではない。
そうしなければ、死ぬからだ。
そのことは周囲の街並みを覆う炎と悲鳴が告げていた。
彼女も、この惨禍で死んだ者達も、誰も世界の真実を知らない。
此処が死後の世界――冥界であることも、そして此処で行われている戦いの存在も。当然のように、知る由もない。
知る由もないまま、戦争の端役(エキストラ)として消費されていくのだ。
少女は走り、走り、走り、そしてつまらない瓦礫に足を取られてすっ転んだ。
膝を擦り剥いて、うぅ、と小さなうめき声を漏らしながら立ち上がったその顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃに汚れている。
口がわずかに動いたが、出てきた言葉が「パパ」だったか「ママ」だったかは周囲の轟音のせいで聞き取れなかった。
足を止めたら、死ぬ。
逃げないと、助からない。
幼いながらにそう理解しているのか、少女はよろよろと歩き出す。
だが悲しきかな。わずかに歩みを止めた数秒は、彼女にとって運命の数秒となった。
後ろから、迫っている影がある。
鎧を纏い、銃を携えて嗤う凶影だった。
彼こそは、この惨禍を引き起こした張本人。
聖杯を狙い、冥界に招来されたサーヴァントの一体だった。
引き金に指が触れる。
あと数センチで、ひとつの命が奪われる。
幼子は、おぼつかない足取りで必死に生きてもいない命を守ろうと進む。
彼女に、迫る"死"を防ぐ手立てはない。
だからこそ、すべてはすぐに終末を迎える。
引き金が引かれ、今まさに弾が吐き出されようとしたその瞬間――
「――待ちなさい!!」
声が、響いた。
周囲の惨状とは不似合いな声。
高らかに、それでいて堂々と。
物怖じすることなく雄叫びをあげて、今にも少女の命を奪おうとした凶影の前へ割り込んだ小さな影がある。
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「そんな小さな子どもに銃口を向け、あまつさえ引き金を引くとは何事ですか!
ふてえ野郎です! その蛮行、私の目が黒いうちは何がなんでも絶対に許しません!!」
不似合いなのは声だけじゃない。
見た目もだった。
カラフルな色彩にファンシーな装飾品は、流行りもののアイスクリームやわたあめを思わせる。
それでもその手に握られているのは、突破力に長けた突撃銃(ショットガン)。
まるで救いの天使かのように、頭の上には独特な形状の光輪(ヘイロー)が瞬いていた。
「助けが遅れてしまってごめんなさい。でももう大丈夫です、私が来ました」
「お、……お姉さん、だれ……?」
「誰と聞きますか。では名乗りましょう、あなたにも、そこの非道なあなたにも!」
そして。
彼女の右手に刻まれているのは、三画の紅い刻印だった。
令呪と呼ばれるそれは、この世界においては特別な意味を持つ。
意味のある死者と意味のない死者を区別する、聖杯の刻んだスティグマ。
それを持つ者が、単なる端役のエキストラであるなどありえない。
「自警団のさきがけにして、燃え上がる正義の象徴! あらゆる悪を許さない、トリニティ総合学園のスーパースター!!」
死者とはとても思えない、綺羅星のような輝きを瞳に灯して。
颯爽と引き金に指をかけ、銃声を響かせる。
その姿も、堂々たる物言いも、すべてがある言葉に合致する。
正義の味方(ヒーロー)。
この愛なき、命なき世界にてもそれを貫く、流星のような少女。
「トリニティ自警団は宇沢レイサ! 此処に! 見・参――――!!」
少女の名前は宇沢レイサ。
学園都市キヴォトスから、何の因果かこの冥界に迷い込んだ者。
彼女の放った弾丸が、凶行の弾き手である凶影へ、その悪行を糾弾するように襲いかかっていった。
◆◆
-
……レイサの働きの甲斐あって。
どうにかあの幼子は、この惨禍の地及びその実行犯から逃げ遂せることに成功したらしい。
そのことにレイサは静かに胸を撫で下ろす。
けれど、彼女の身体は赤く汚れていた。
理由など、改めて語るまでもないだろう。
冥界の葬者だろうが人間は人間。
キヴォトスの住人であるレイサは他世界基準の人間では考えられない頑強さを持つが、それでも英霊の暴力に耐えられるほどではない。
単身で英霊の凶行を止め、割って入った正義の味方が払わされた代償は。
誰がどう見ても無謀としか言いようのない行動に伴うだけの、痛みという名の"現実"だった。
「は、あ」
太ももに穴が空いていた。
脇腹が抉れて、制服を赤く染めていた。
嬲り殺しにでもするかのように撃たれ、穿たれ、地に片膝を突いている。
「は、っ、あ……、ぅ、ぐ……っ。……はは」
苦悶の声に交ざって、自嘲するような笑い声が漏れた。
レイサ自身、本当にどうにかできると思って躍り出たわけじゃない。
時にはとびきりの馬鹿扱いされることもあるレイサだが、彼女は彼女なりに現実を見て、その上でこうして正義に殉じているのだ。
英霊の前に、たかが人間の身で躍り出ることの意味。
それを理解していたからこそ、レイサはこの光景を最初から頭の中に思い描けていた。
(まあ……。そりゃ、こうもなりますよね……。キヴォトスのスケバンがかわいく思えてきます、サーヴァントってこんな強いんだ……)
今まで感じたことのないような痛みで、頭の中が沸騰しているのを感じる。
過度の痛み/生命の危険は、どうやら人間のことをいつも以上に冷静にしてくれるらしい。
凶影が、英霊が、嗤っている。
それもそうだろう。
彼にしてみればレイサは、生きてもいない命を逃がすために命を張った愚者にしか見えないに違いない。
そして事実、そうだった。レイサの行動は、この世界において恐らくもっとも意味のない勇気であった。
聖杯戦争とはつまるところ殺し合いで。
冥界とは、死者だけが存在を許される異界。
葬者ならばいざ知らず、そうでもない端役達は所詮記憶と記録の再現体でしかない。
命にすら満たない命。蜃気楼を守るために身体を張ったようなものだ。
-
レイサも、それは分かっていた。
こんなことしたって意味はないと。
今の自分がするべきは、速やかにこの惨禍から背を向けて逃げ出すことだと。
そう、分かっていた――なのに身体は勝手に動いていた。
まるで、そうしなければ自分ではないと言わんばかりに。
その結果がこれだ。今、自分は無駄な正義の代償として命を奪われようとしている。
(まあ、自警団のエースの名に恥じない……立派な死に方でしょう。
スズミさんも他の皆さんも、正義実行委員会の方々だって、きっと私の生き様を拍手喝采で褒め称えてくれるはずです。
先生だって、スイーツ部の皆さんだって、そう……)
けれどレイサの心は晴れやかで、誇らしげだった。
実像がどうかなんて関係はない。
そこにいて、生きていて、泣いているのならそれは立派な命だろう。
それを助けずに目を背けたら、自警団が誇る宇沢レイサの名が廃るというものだ。
逆に言えばそれを助けて死ねたなら、後に残る悔いなんてあろう筈もない。
(杏山カズサ、だって――――――――)
それが正義だ。
我が身を顧みず、他人を助ける。
そのあり方を全うして死ねたなら、何であれ本望。
そう思いながら脳裏に思い描いたいくつもの顔。
共に戦った人。道は違えど同じことを志していた人たち。
初めてできた、友達のような人たち。
そして宇沢レイサにとってライバルだった、今は友人である彼女。
そのぶっきらぼうな物言いと、あの頃から何も変わらない顔立ちを脳裏に思い描いた途端。
「――――――――、やだ」
レイサの中に一本通っていた芯が、ヘンな音を立てた。
覚悟という名の脳内麻薬が一気にその効力を失う。
酔いが冷めるみたいに、押し込めていた感情が戻ってくる。
笑顔が消えて。色のない表情が、可愛らしい顔に張り付いていく。
「やだ……やです、いや……」
ああ、思い出さなきゃよかった。
レイサは思う。
思い出さなきゃ、自分は誇らしいまま、格好いいままで死ねたのだ。
でも思い出してしまった。
思い出して、想ってしまった。
自分のいない世界で。
自分のことを忘れて笑い合う、皆の姿を。
レイサにとって生きる理由だった、今は友である少女のことを。
-
――そういえば最近、あの子見ないね。
――あ、そういえばそうかも……。どうしたんだろうね?
――カズサも寂しいんじゃないの? なんだかんだで気に入ってたじゃん、レイサのこと。
――……んー。
――誰だっけ。そいつ?
「いや、です……死にたく、ない……! 私、まだ……! まだ、生きていたい……!!」
此処は冥界だ。
だから既に、宇沢レイサは死んでいる。
でも、彼女が言っているのは肉体の死ではない。
もしもこの世界から帰れなければ、キヴォトスでの自分の存在はいつか皆の記憶から消えてなくなるだろう。
大仰な理屈なんて必要ない。
いつの間にかいなくなった"誰か"を忘れるという、当たり前のことで忘れ去られる。
そしてその時、宇沢レイサは本当の意味で"死ぬ"のだ。その存在も生き様も思い出も、誰の中にも残らず消えてなくなる。
それが。
今のレイサには、どうしようもなく怖かった。
……だって、本当に楽しかったのだ。
自警団の一員として正義を為すのに勤しんでいる時間も。
シャーレの先生と交流し、武勇伝を聞いてもらう時間も。
放課後スイーツ部の皆に混ぜてもらって、まるで友達みたいにスイーツを頬張って談笑する時間も。
全部、ぜんぶ、ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ…………本当に、楽しかったのだ。
-
正義のために死ねるのは名誉なことのはずなのに。
死にたくない、と。失いたくない、と。
忘れられたくない、と。
そう、心から思ってしまうくらい。
「は、っ……は、っ……!」
情けなくへたり込んで。
四つん這いになって、逃げ出そうとする。
腰はとうに抜けていた。
顔だって、もうどうやっても格好つかないことになっているのが自分でもわかった。
それでも、レイサは生きていたかった。
生きてもう一度、あの日だまりに戻りたかったのだ。
多くのことなんて望まない。たまに会って、一緒にスイーツを食べて、振り回しすぎて怒られて……、そのくらいでいいから。
だから――
「たすけて……」
今だけは、正義の味方ではなく。
ただの、ひとりの歳相応の子どもとして。
宇沢レイサは、助けを求めた。
けれどそれは、とても場違いな哀願だ。
この世界は死の只中、冥界の底。
冥界。黄泉比良坂。根の国。ニライカナイ。コキュートス。ヘルヘイム。マグ・メル。シバルバー。
死者の国に颯爽現れ、死者が抱く矛盾した生への渇望を救ってくれるヒーローなどいない。
「たすけて、だれか――」
この物語は、英雄譚では決してない。
だから、少女を華麗に救う英雄は現れない。
凶影は虚勢の崩れたレイサを嘲笑いながら銃を向ける。
そして引き金は、無情にも引かれた。
この瞬間、英雄に微笑まれない愚かな少女の末路が確定する。
「ぁ……」
先生。みんな。杏山カズサ。
走馬灯のように去来する大切な人たちの顔に、レイサは目を瞑ることでしか応えることができなかった。
そうして、正義を貫き損なった少女は冥界の骨として大地に還る。
誰の目から見てもそのことは明らかで。
そこに英雄さえ異を唱えないというのなら、もはや是非もない。
運命が救わず、英雄が微笑まないというのなら、もはや――
――どこにでもいる、ちっぽけな、平和主義者(パシフィスタ)が手を差し伸べる以外にないだろう。
-
「え……?」
凶弾とレイサの間に。
割り込んだ、大きな影があった。
それは奇しくも、レイサがさっきNPCの少女へやったのと同じ構図だ。
影の拳が、レイサを忘却/死の彼方へ追いやる筈の凶弾を弾いた。
人間ではできぬ芸当。それができるということは、すなわち――。
「きみの、声が聞こえた」
雄々しく。でもそれ以上に、やさしい声だと思った。
どんな嵐荒波の中でも揺らぐことなく佇み続ける、巨岩のような男だった。
「遅くなってすまない。けれど、きみの"正義"はしかと見た。
無駄と嘲笑う者もいるだろう。ああ、確かにきみの勇気はこの冥界では無駄なものかもしれない」
だが、と男はそれを否定する。
凶影の射手は嘲笑も忘れ、銃弾を乱射するしかできなくなっていた。
それでも、レイサの前に立つその男は小揺るぎもしない。
不動。そして、不屈。
佇む男のことを、レイサは誰かに似ていると思った。
皆に信頼され、愛される。何度も苦難に見舞われながら、けれど決して屈さない大人の男の人。
……『シャーレの先生』の姿が、目の前の巨漢に重なって見えた。
「おれは、それを尊いと思う。きみの勇気は仮初めだろうが虚構だろうが、ひとりの子どもを救ったんだ」
「あなた、は」
「サーヴァント・ライダー。きみの航海を支えるため、今ここに現界した」
男の前に、巨大な肉球が出現する。
拍子抜けしてもおかしくない、ともすれば可愛らしい形状ですらあるのに何故だろう。
何故、こんなにもこの形が心強く、そして頼もしく見えるのだろう。
「う、ざわ……」
レイサは、口を開いていた。
まだ顎は震え、ともすれば歯が噛み合って音を鳴らしてしまいそうだったが。
それでも半ば意地で言葉を紡いだ。
そうしなければ、自警団の名折れだと。
一度は忘れた筈の意地が、少しずつ燃え上がってくるのを感じていた。
「トリニティ自警団所属……っ。トリニティが、いやキヴォトスが誇る、素敵で無敵な正義の使徒……!!」
叫ぶ――なるたけ高らかに。
ありったけの声量で。
何しろ元気だけが取り柄なのだ。それさえなくしてしまったら、自分に何の価値が残るというのか……!!
「宇沢、レイサ……! 宇沢レイサ、です――!」
「そうか。いい名前だ……!」
――『熊の衝撃(ウルススショック)』!!
高らかに響く、熊のような大男の声。
それと同時に、悪逆無道の銃手が砕け散る。
惨劇の渦中にひとり立つ、その男は海賊だ。
決して、そう決して、英雄(ヒーロー)などではない。
彼は、そうはなれなかったしそうはあれなかった。
幾多の犠牲を背に、けれどそれを忘れないことで前に進み続けた男。
身の丈に合わない運命を背負わされた、気弱なひとりの平和主義者(パシフィスタ)。
生ける屍/死者となりさらばえながら、意思の力ひとつで神を殴り飛ばした男。
ひとつの世界にて、その歴史に無視することのできない楔を打ち込んだ暴君。
男の真名は――くま。バーソロミュー・くま。
どれほどの不幸に囲まれようとも、自分の人生は幸福であったと笑顔で断ずることのできる、やさしい男である。
-
◆◆
ひと目見た時、娘を思い浮かべた。
いつかの記憶。
自分のものであるかどうかさえ判然としない、その時の思い出。
まだ子どもなのに、それでも勇敢に挑んでいった少女。
その勇気をより大きな力に阻まれ、死を待つのみだったその状況も。
すべてが、くまの記憶に残るある光景と重なった。
いつも明るくて前向きで、だけどその心に孤独という弱さを抱えた子ども。
くまがかつて自分のすべてをかけて守ろうとし、そしてたくさん泣かせてしまった愛娘と――あまりに重なった。
であれば、この男が助けない筈はない。
だって彼は平和主義者。
子どもが殺されるのを黙って見ているわけはなく。
そして彼は暴君。
神をも殴り飛ばした、地上の法など意にも介さない偉大なる"不都合"。
こうして契約は結ばれ。
くまは、レイサの前に立った。
「……おれは、正義の味方じゃあないんだ。
むしろ逆だな。成り行きとはいえ海賊をやってた時期も長いし、救えなかった命も山ほどある」
でも、と。
くまは、続けた。
「今はいろんなしがらみから解き放たれた身だ。今ここにいるこのおれは、きみのためだけに存在している」
「くまさん……」
「だから今一度問おう、レイサ。遠い潮騒の果てに、こんな男を呼び出してしまったかわいい葬者よ」
くまの背丈は巨大(デカ)い。
だから身を屈めて、目線を合わせる。
こればかりは父親として暮らしていた経験が活きていた。
まさかこんな形で活きるときが来るなんてな、と心のなかで苦笑しながら。
瞳を覗き込むくまに、レイサは。
-
「――たい」
ぽつりと、言った。
正義を志した以上、それを貫くべきなのだろうとも思った。
その気持ちに揺らぎはない。
これから始まり、続いていくこの戦いの中でも、自分は無用な犠牲を決して許容できないだろう。
理屈を無視して正義を貫き。
悩みながら、苦しみながら、理想と現実の狭間で葛藤する。
その覚悟はできている。トリニティの自警団に入ったあの瞬間から、ずっとできている。
だからこそ。その上で。今、レイサが己がサーヴァントに告げた願いは――
「帰りたい、です」
「どこにだ」
「キヴォトスに……私達の街に、帰りたい……!
スズミさん達と一緒に、また、正義のための活動をしたい。
先生に、私の武勇伝をたくさん聞いてもらいたい……!
スイーツ部の皆さんとおいしいスイーツを食べて、それで、それで……杏山カズサと、"友達"として、語らいたい……!!!」
「――そうか。うん、よくわかったよ。レイサ」
月並みな、まるで空に手を伸ばすみたいな願い。
だからこそそれを、くまは微笑みと共に受諾する。
子どもの笑えない世界に未来はない。
神々の支配する、歪みに満ちたあの海だろうが――死に満ちた冥界だろうが、それは変わらない。
故に暴君は再び立ち上がった。
立ち上がり、もう動かないはずの拳を握りしめた。
「その願い、しかと承った。頼りない平和主義者(パシフィスタ)で申し訳ないが――今だけはきみのために航海をしよう」
【CLASS】
ライダー
【真名】
バーソロミュー・くま@ONE PIECE
【ステータス】
筋力A+ 耐久A+ 敏捷C 魔力C 幸運E+ 宝具B
【属性】
中立・善
【クラススキル】
騎乗:B
大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせる。
幻想種あるいは魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。
【保有スキル】
失われた種族:EX
ミッシング・レース。
ライダーは過去に失われた種族、『バッカニア族』の生き残りである。
魔獣に匹敵する身体能力を持ち、特に筋力と頑強さに秀でる。
平和主義者:A
パシフィスタ。
地獄のような世界にあっても素朴な善性を失わない、生来の人格。
精神影響を受けたとしても、最後の一線を守り続ける意地と魂を持つ。
嵐の航海者:A
「船」と認識されるものを駆る才能を示すスキル。
船員・船団を対象とする集団のリーダーも表すため、「軍略」「カリスマ」も兼ね備える特殊スキル。
ライダーは王下七武海の一角にも数えられた海賊の側面を持ち、従ってランクが高い。
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反骨の相:B++
一つの場所に留まらず、また一つの主君を抱かぬ気性。自らは王の器ではなく、自らの王を見つける事ができない流浪の星。
同ランクまでのカリスマを無効化する。
一つの世界を統べる神々の五つ星。その一つを殴り飛ばし、一矢を報いた逸話を持つライダーは大きなプラス補正を受けている。
王者、神、支配者に対する強力な特攻を持つ。
【宝具】
『熊の肉球(ニキュニキュの実)』
ランク:B 種別:対人/対軍宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:100人
悪魔の実。超人系(パラミシア)、ニキュニキュの実。
ライダーことバーソロミュー・くまがかつて聖地にて食べた悪魔の実が宝具に昇華されたもの。
触れたあらゆるものを勢いよく弾き飛ばす。その対象は有形、無形を問わない。
大気を弾いての高速移動や、他人の痛みや疲労を吸い出して他所に押し付けるなど応用の幅は極めて広い。
【weapon】
肉球。そして、その肉体。
【人物背景】
「聖人じゃな、お前は」
「聖人……? ……おれはただの気弱な平和主義者(パシフィスタ)だ」
「ペペペペ!! 気に入った!! 『未来の戦士たち』をそう呼ぼう!!!」
ある世界に生まれ落ちた、失われた種族の末裔。
度重なる責め苦にすべてを奪われ、それでも最後のひとつだけは失わなかった男。
それが『意思』であれ、『反応』であれ、彼はその拳で神を殴り飛ばした。
後の生死を度外視し、その瞬間に英霊の座へと登録した反逆者の英霊。
暴君であり、革命者であり、反逆者であり、平和主義者。
【サーヴァントとしての願い】
願わくばもう一度ボニーに会いたい。
が、そのために誰かの明日を犠牲にするほど非情にはなれない。彼はそんな男である。
【マスターへの態度】
その勇気と強さには寄り添い、その弱さと幼さは支える。
彼女がこの冥界で待つ過酷な現実の中で生きていくのを最後まで助け通すつもり。
【マスター】
宇沢レイサ@ブルーアーカイブ
【マスターとしての願い】
帰りたい。
【能力・技能】
兎にも角にも頑強である。
サーヴァント相手ならそうもいかないが、銃弾や多少の衝撃程度は物ともしない。
武器はショットガン。猪突猛進を地で行くレイサにふさわしい武器である。名前は『シューティング☆スター』。かわいいね。
【人物背景】
自警団のエース。
みんなのアイドル。
正義の使徒。
トリニティの審判者とか騎士とかいろんな称号が(自称で)存在する。
ある少女曰くの「熱血バカ」。正義にはいつも一直線だが、人付き合いは苦手。
【方針】
キヴォトスに帰りたい。
……けれど無用な犠牲は善しとしない。
この世界でも自分なりの正義を模索し、戦いたいと思っている。
【サーヴァントへの態度】
優しい人。どこか『先生』を思い出す。
というわけで友好的だし、慕っている。
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投下終了です。
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投下します
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月下、丑三つ時。
そこに居たのは、2騎の英霊。
一人は古風なチャリオットで、空を駆け抜ける。
そして…もう片方は…それは人を赤褐色の巨人と呼ぶだろう。
地を蹴り、優位に立っている敵のサーヴァントに攻勢を強める。
ただ、もちろんただでは相手は終わらない、槍のようなものを投擲し、それを巨人へとぶつける。
「成る程…やるな…」
その巨人の操縦者は、狂気の笑みを見せる。
戦闘を楽しみながら、相手の実力を褒め称えているのだろう。
「…それじゃあここから本気を…」
「おいライダー!民間に被害を出すんじゃねぇぞ!」
「ふっ…了解…なら…こいつだ!」
マスターに諌められ、ライダーは武器である銃を下に向ける。
「道路なら…仕方ないだろう…?」
空銃…いや、空気弾が、巨人を浮かす。
それは敵のサーヴァントの虚を突くには十分すぎる動きであった。
「もう終わりか…つまらないな…」
まず、チャリオットを牽引するウマ2頭を射殺する。
敵サーヴァントは最後っ屁と言わんばかりに、長槍を突き出した。
それは本来砕けないだろう巨人の装甲を軽く突き刺した。
神秘の補正と抑止力により、おそらく巨人の耐久は落とされていたのだろう。
-
しかし、それでもライダーは止まらない。
「やるね…でも…彼ほどの面白みはない…」
そして、後ろに立ち。
「バイバイ、言っても、完璧につまらないほどではなかったよ」
敵のサーヴァントを、蜂の巣にした。
◆
巨人は消え去り、ライダーは地へと触れる。
奥にいるのは、敵マスターと自身のマスター。
「…ちょうど始末を付けるのかい?」
「しねぇよ、情報は吐いたんだ、さっさと行け」
そう言われ、敵マスターは泣目になり、逃げ去っていく。
「…あの男は腕がたったか?」
「…まぁな、魔術は俺と同じで使えない、だが同郷ってわけじゃねぇ、トラパーとかの事も聞いたが聞き覚えがないだとよ」
「そうかい…それじゃあ、僕はゆっくりしてるよ、闘争が来たら、また」
ライダー、ジルグ・ジ・レド・レ・アルヴァトロス、敵を倒すたびに潤いを得る狂人、そして、悲しい男。
この冥界下りに参戦する。
◆
「とんでもねぇ野郎を引いたもんだ…」
マスター、ホランド・ノヴァクは舌打ちをしながら頭をかく。
自身のサーヴァント、ライダー。
強く、自身の命令も聞くが、民間への被害を考慮しないところがある。
今の身の上では、ゲッコーステイトのクルー達の力も借りれない。
そもそも、聖杯に何を望む?
タルホの出身が無事になるようにか?エウレカとレントンの幸せを願うか?それとも、チャールズとレイを呼び戻して、和解でもするか?
彼は、そんな幾千万の躯の上に何度も立った。
だから、このクソッタレな願望機を認めない。
「聖杯だかなんだか知らねぇが…俺は…少なくともそんな手段に頼るつもりはねぇ!」
男は丑三つ時に、一つの誓いを立てた…
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【CLASS】ライダー
【真名】ジルグ・ジ・レド・レ・アルヴァトロス@ブレイクブレイド
【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷C 魔力A 幸運C 宝具B
【属性】混沌・中庸
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:C+
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
野獣ランクの獣は乗りこなせない。
特に、ロボットの操縦に関しては、破格の技量を持つ。
【保有スキル】
戦闘続行:A+
往生際が悪い。
霊核が破壊された後でも、最大5ターンは戦闘行為を可能とする。
自機がボロボロでありながら、エース部隊を相手取り、壊滅追い込んだ経歴を持つため、このスキルが付与された
闘争本能:EX
彼の内から湧き上がる、戦闘に対する渇望。
一定期間戦闘を行わないと、ステータスが一段階下がってしまう
【宝具】
『狂人に与えられし猛機(エルテーミス)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:−− 最大捕捉:−−
クリシュナがアテネス連邦から鹵獲した機体。
かなりの力を持つが、操縦性を悪さからか、一部の者にしか使えない。
そのため、本機使用の際、まだ投獄中だった彼を恩赦に処し、戦場に出したのはこれが理由である。
【weapon】
剣
【人物背景】
限りない闘争を求める狂人。
様々な顔を使い分ける器用さ、そして、不利な状態から敵エースを何人も仕留める操縦技術の高さ。
味方殺しをした彼の最後は、仲間を庇って敵軍の捕虜として死んだ。
最後まで、抑止力さえ、彼のことを理解するのは至難の域だろう。
【サーヴァントとしての願い】
限りない闘争
【マスターへの態度】
口うるさいが、これほど優良物件ないと思っている。
【マスター】ホランド・ノヴァク@交響詩篇エウレカセブン
【マスターとしての願い】
特に無し
【能力・技能】
政府に反抗するものをまとめ上げるカリスマ
卓越したLFO操縦技術と、それに合わせたスポーツ・リフの技術。
【人物背景】
反連邦組織、ゲッコーステイトのリーダー
真の意味で、「子供」から「大人」になった男。
【方針】
民間の被害は最小限に抑える。
今更、聖杯に叶えて貰う願いなんて…ねぇ…
【サーヴァントへの態度】
強いのは認めるが、じゃじゃ馬すぎて手を焼く…
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「聖杯戦争…」
チェスター・バークライトは、突然知らない場所で目を覚ますと共に脳内に流れ込んできた情報に困惑する。
聖杯戦争。
サーヴァントを従え、他のマスターを倒し、聖杯を奪い合う血みどろの戦い。
そんな物騒なものに、自分は巻き込まれてしまったらしい。
「なんでも…願いが…」
ゴクリと、喉を鳴らす。
もしも、本当に願いが叶うのなら。
妹を…アミィ・バークライトを生き返らせることもできるのか。
それなら…俺は…!
「…いいぜ、乗ってやろうじゃねえか。アミィが生き返るってんなら…なんだってやってやる!」
ダオスを倒す旅を終えて、クレスやミントと共にトーティス村の復興で忙しくする中でも、アミィのことを忘れることはなかった。
いやむしろ、村が復興するほど、アミィと過ごした情景が蘇るほどに、想いは強く、燻っていた。
俺は、もう一度アミィに会いたい。
「どうやら、決まったようですね」
決意を固めたチェスターに対して、声がかけられる。
顔を上げると、そこにいたのは短い金髪美人の女性だった。
髪が短くなければ、ミントを彷彿とさせる雰囲気だ。
「あんたが…サーヴァント?」
先ほど脳裏に流れ込んできた情報を思い出し、聞く。
サーヴァント…英霊とも呼ばれる自分の相棒が、彼女だというのか。
女性は、ニコリと柔らかな笑みを浮かべると言った。
「はい、その通りですマスター。私はキャスター。真名はセーニャと申します。どうかよろしくお願いします」
「…英霊っていうくらいだし、強いんだろうけどよ…あんた、敵とか倒せるのか?」
人は見かけによらないと言うが、セーニャの雰囲気は戦いに向いているような風に見えない。
ミントみたいに人を癒すのは得意そうに見えるが。
「心配ありませんわ。この身体には…私の姉の力も宿っていますから」
「姉?」
「はい…あなたと同じです。私はかつて、双子の姉を失い…その力を受け継ぎました」
「!…あんたも」
「回復魔法を得意とする私と違って、姉は攻撃魔力を得意としていました。今の私は、その両方の力を使えるのです」
よく分からないが、要するにミント+アーチェみたいな能力ということか。
なるほど、それは頼りになりそうだ。
「でも、欲を言えば前衛とか欲しいよな」
「そうですよね…マスターとはいえそれなりに戦えるあなたは弓使いですし、パーティのバランスとしては微妙なところです。一時的にでも他のマスターと手を組むことも視野に入れた方がいいかもしれません」
チェスターは親友のクレスを、セーニャは過ぎ去りし時を求めた勇者を思い出していた。
聖杯を目指す身とはいえ、彼らはパーティで戦ってきた者達だ。
仲間の重要性というのは嫌というほど分かっていた。
「まあ、具体的な方針はこれから決めるとして…よろしく頼むぜ、キャスター」
「はい、こちらこそ、マスター」
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【CLASS】キャスター
【真名】セーニャ@ドラゴンクエストⅪ
【ステータス】
筋力E 耐久D 敏捷D 魔力A+ 幸運C 宝具E~A
【属性】秩序・善
【クラススキル】
陣地作成:C
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
“工房”の形成が可能。
道具作成:C
魔術的な道具を作成する技能。
【保有スキル】
嗅覚:D
人間としては高い嗅覚を持つ。
料理に関しては特に鼻が効く。
癒し系:C
そのおっとりとした清楚な雰囲気は異性を魅了する。
魔力分割:A
ベロニカの魔力を赤い光の玉として現出させる。
この状態ではセーニャ本人は長髪になり、ベロニカのスキルは使えず攻撃魔法は魔力Eとなる。
赤い光の玉はベロニカのスキルを使えるが、宝具使用時を除いてゾーン状態にはならない。
セーニャゾーンでのれんけい「大天使の守り」は使用可能。
【宝具】
『クロスマダンテ』
ランク:E~A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:1〜50
魔力分割状態で使用可能。
宝具発動と共にセーニャ本人と赤い光の玉を強制的にゾーン状態とし発動する。
威力はセーニャの魔力残量に依存し、多ければ多いほど増す。
使用後は魔力が枯渇するのですぐに魔力供給を行わなければサーヴァントは消滅する。
【weapon】
精霊王のタクト
【人物背景】
かつて双子の姉と共に、勇者を支え魔王と戦った。
しかし、その最中、姉は命を落としてしまう。
姉の力を受け継いだ妹は、仲間たちと共に魔王を倒した。
そして、時を遡った勇者に姉の復活を託した。
その後この世界軸における彼女がどうなったのかは、誰も知らない。
【サーヴァントとしての願い】
かつての勇者のように、過ぎ去りし時を求めて姉のベロニカを救いたい。
【マスターへの態度】
妹を助けたいという願いに共感。
叶えてあげたいと思っている。
【マスター】チェスター・バークライト@テイルズオブファンタジア
【マスターとしての願い】
妹のアミィを生き返らせたい。
【能力・技能】
「弓術」
狩りとダオス討伐によって鍛えられた弓の腕。
【人物背景】
妹を奪われた少年は、幼馴染や仲間たちと共に復讐の旅に出た。
一度は離れ離れになり、仲間たちとの力の差が開いてしまったものの、努力によってそれを補い、追いつく。
妹への愛は強く、外伝などでは妹復活の為に行動していることも多く、その為に敵陣営に所属することさえあった。
【方針】
殺しに抵抗がないわけではないが、アミィを助けるためなら心を鬼にする。
ただ、前衛がいないので一時的に他の奴らと手を組むことは視野に入れておきたい。
【サーヴァントへの態度】
ミントみたくおっとりしていて不安はあるが、ミントとアーチェを合わせたような能力なら、期待は出来そうだ。
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*死んだヤツは 生き返らない。
*失った命は 取り戻せない。
*結果を変えられるのは 生きてるヤツのみのケンリだ。
*当たり前のコトだろ?
*産声をあげて生まれたなら 誰もがいつかはくたばるのさ。
*やり直したってどうにもならないんだ。
*むしろ逆だな。やり直せばやり直すほど 取り返しがつかないくらい歪んでいくモノだってあるんだぜ。
*まあ。
*それでも願うってキモチは 分からなくもないけどな。
*え?
*オマエはダレだ って?
*へへへへ。
*そうだな。
*テスカトリポカ。
*……なんてのは言い過ぎか。ま オレはあそこまでロクでなしでもない。
*シューティングゲームだってアレよりかはうまいぜ。
*けどまあ 似たようなモンだ。案外同じ穴のムジナってヤツかもな。
*サンズ。
*オイラは サンズだ。
*みてのとおり サーヴァントさ。
*おっと。
*過大評価は やめてくれ。
*アンタの知ってるヤツらに比べたら オイラはホントにチンケなモンスターさ。
*見りゃわかるだろ? ケツの毛まで抜かれて 今じゃこうしてスケルトンだ。
*へへへへ。ホンキにすんなよ。ジョークさ ジョーク。
*いちいち常識で考えてたら この先 正気がいくつあってもたりないぜ。
*ん?
*ああ オイラが話しかけてきたのが不思議かい?
*ベツに そう大した理由でもないさ。
*アンタがオイラのマスター…… あのチョウチョを見ようとしてたから こっちから話しかけてみたんだ。
*何かする気もない。 オイラの骨ばった手じゃ アンタ達のところまでは届かないぜ。
*だから安心して オイラとのトークを 楽しみな。
*へへへへ……。
*オイラのマスターが 気になるかい?
*そうだな。
*そうさな。
*うーん。
*アイツは アタマのいいヤツだよ。
*オイラみたいな ちゃらんぽらんより ずっとモノをよく考えてる。
*考えすぎるくらいだ。そこに関しちゃ 懲りないヤツかもな。
*それとも 実際に見てみるかい?
*イイぜ。今はまだ セカイも広いしな。
*アンタとオイラの仲だ。トクベツに アイツの庭を見せてやるよ。
*こんな地獄におちてきた キレイなチョウチョ。
*アイツは 庭に住んでる。
*オイラみたいな遺骨野郎を引いたツケを 毎日健気に支払い続けてるんだ。
*悪いとは 思ってないけどな。
*気持ちよく寝てるところを叩き起こされたんだから おあいこさまだ。
*……。
*…………。
*………………。
*おどろいた。
*アンタ。意外と鋭いな。
*そうだよ。オイラはアイツを けっこう気に入ってるんだ。
*だから こうしてアンタの前にも出てきた。
*さすがに 始まる前から潰されたんじゃ 不憫だからな。
*そのくらいの思い入れはある。
*まあ 今のオイラにアンタを止める力まではないけどな。これは本当だ。
*オイラはサンズ。モンスターだ。
*アイツはマスター。ヨウセイだ。
*命じゃなくて 住むセカイ自体を殺された。
*冥界に落ちるにふさわしい しみったれた死人のタッグさ。
-
◆◆
東京都の一角に、その洋館は華々しく佇んでいた。
西洋風の建築様式に倣った、華美と瀟洒を程よく両立させた門構え。
薔薇やガーベラなど色とりどりの花々が咲き誇り、蝶が楽しそうに舞い飛ぶ巨大な庭園。
成金ではなく、真に尊い者(ブルーブラッド)が住まうに相応しい邸宅である。
登記上は外資系企業を経営する社長が暮らしている、そういうことになっているこの館。
しかしその実態は、人ならざるモノがねぐらとして棲まう、聖杯戦争の拠点の一個だった。
一羽の蝶が館の中から庭に出て、降り注ぐ陽光に一瞬目を細める。
どこもかしこも死人しかいないこの世界にはふさわしくない輝き。
それに皮肉めいたものさえ感じながら、蝶は小さく呼気をこぼした。
その蝶は、二本の足で歩いていた。
傍目には人間の少女にしか見えないだろう。
少女の背中に、外付けの羽を接合したような。
そんな風に見える、美しく可憐な妖精だった。
彼女の名は、ムリアンという。
滅びゆく國から、この冥界へと落ちてきた死者のひとり。
そしてこの洋館に居を構え、敷地の全域を自らの『妖精領域』として支配している君主である。
「ようマスター。首尾はどうだい?」
「それを訊くのは私の方だと思うんですけどね。働かずに貪る惰眠は気持ちいいですか、キャスター」
「ああ。最高だね。アンタが子守唄でも歌ってくれたらもっと最高かもしれない」
「縮めますよ?」
花咲くように微笑んで言うその目はもちろん笑っていない。
ムリアンは冥界に落ちるなり、此処で自分がやるべきことを直ちに理解して行動した。
妖精國とは道理の何もかもが異なるこの世界で、彼女は持ち前の賢明さを遺憾なく発揮した。
妖精領域の零落具合には面食らったが、衰えているなら範囲を絞ればいいとの結論に到達したら後は早かった。
自分が住まうに相応しい館を見繕って乗っ取り、自分の拠点として運用する。
そして妖精領域を展開し、この中でならばサーヴァントさえ満足には動かさせない、万全と言っていい備えを整えた。
そんな完璧な彼女にとって唯一の悩みの種が、自分の喚んだ、いや"喚んでしまった"サーヴァント。
スケルトンのキャスター。妖精ならぬ、モンスター。サンズという名を名乗った、怠惰で貧弱なサーヴァントだった。
「そう言うけどな。オイラがやる気出して外に出ていった方が、アンタとしちゃ胃が痛いんじゃないかい?」
「そんなこと自慢気に言わないでください」
ムリアンは、自分の眼に映る従者のステータスを見て思わずこめかみを押さえる。
そう。彼女のキャスターは、弱い。
とてつもなく弱い。
破格の弱さと言って差し支えなかった。
すべてのステータスがEランクで、数値上でも実際に感じる気配でも彼からは一切強さらしいものが感じられない。
冗談でもなんでもなく、一撃でも打ち込まれたら即座に金色の粒子に変わって消えてしまうだろうと分かる徹底した弱さが彼にはあった。
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じゃあその弱さに見合う芸があるのだろうと、当初ムリアンは当然期待した。
だがその期待も、結論から言うとあっけなく裏切られることになってしまった。
このサーヴァントは、本当に何もできない影法師なのだ。
ただそこにいるだけ。冥界に転がり落ちてきただけの存在。
したがってムリアンとサンズは、完全に本来あるべき立場が逆転していた。
サーヴァントがマスターを守るのではなく、マスターがサーヴァントを守る。
ムリアンは聖杯戦争を勝ち抜く上で、サーヴァントの助力なしにすべての敵を倒すという無理難題と向き合うことを迫られることになった。
「まあいいだろ。戦えないってのは戦わなくていいってことだ。戦わなくていいってのは、時間があるってことだ」
「……というと?」
「おや。アンタには一番必要なものだと思ったけど、違ったかい?」
「……、……私、やっぱりアナタのことがとっても嫌いです。
ええとっても。同じビジネスパートナーでも、コヤンスカヤとは大違い」
強いて幸いだったことをあげるなら、それはムリアンが自身の目指す結末を決めかねていたこと。
自分がこの冥界を踏破した末に何を求めるのか、どこへ行くのか――その答えをまだ出せていないことだった。
ムリアンには、戻るべき世界が存在しない。
彼女は確かに死者である。
命を落として冥界へ落ちてきた、まさにこの聖杯戦争に相応しい葬者のひとりだ。
だが、死んだのは彼女だけではない。
遅いか早いか、最高か最悪かの違いはあれど、彼女は自分の生きた世界が既に死んでいるだろうことを理解していた。
妖精國ブリテン。
妖精達が織りなし生きる、神秘の大地。
色とりどりの命と幻想が群れなす、美しい世界。
決して救われることのない性を抱えた、愚かな生き物達の虫籠。
自業自得と因果応報の末にか。
もしくは、命を全うして枯れる大樹のようにか。
定かでないが、もうとうに眠りについただろう世界。
ムリアンは死者である。死者の國、もうどこにもない國からやって来た妖精である。
――自分の前にも後にも、こぼれ落ちるように死に果てていった。
――愚かな彼らと同じ穴から生まれた、ちいさなちいさな生き物である。
「そんなに迷うなら、いっそやってみればいいんじゃないか」
「何を」
「セカイの再生。アンタが王になり、二度と繰り返さないように統治するんだ。
そうすれば見えてくるものも、つかめる幸せもあるかもしれないぜ」
「……意地の悪い人ですね。皮肉を言うならもう少し隠しなさい」
「へへへ、悪いね。隠そうにも隠す皮と肉がないんだ。スケルトンだからな」
当初、ムリアンはそのつもりだった。
暴政の女王は、玉座を追われて惨殺される。
であればその暁には自分が女王の座を奪い、盟友と共に世界の敵たる一行を撃滅すればいいと考えていた。
今思えば、それはあまりに無垢な展望だった。
世界の真実を何も知らない者の、幼心の大言壮語。
ムリアンは、すべてを知った。だから殺された。
そして今、彼女の手は伸ばせば"命"を掴める状況にある。
自分の命のみならず。きっと、消えてしまった世界さえも蘇らせられるだろう奇跡がすぐそばにある。
だというのにそこへ飛びつけないくらいには、ムリアンが死に至るまでに知り、味わったものは重かった。
今でさえ飲み込みきれず喉の奥につかえているくらいには重く、どろどろとした真実だった。
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「……ねえ、キャスター」
ムリアンは、世界の終わりに立ち会ったわけではない。
彼女はその前に、とある男の手によって命を落としたからだ。
それでも、その終わりが幸福なものであったことを彼女は信じている。
何かと話も気も合う、契約にだけは誠実な盟友への信用がその根拠だ。
彼女は仕事を果たし、そして世界の敵(カルデア)は無事にブリテンを葬った。
そういうものだと信じている。それを踏まえて、考えに耽っていた。
「幸せだったでしょうか。私の生きたブリテンは」
「千里眼の持ち合わせはなくてね。オイラには知る由もないな」
「じゃあ質問を変えます」
庭に用意した椅子に腰を下ろして。
飛び交う蝶々の群れを見ながら、寝転んだスケルトンに問う。
その問いは少しばかりの意地悪を込めた、それでいていつか問うと決めていた言葉。
「アナタの世界は、どうでしたか? サンズ」
「……まいったな。初めてやり返された気分だ」
「嘘をついてもいいですが、ますます私との主従関係が悪化します。
具体的に言うとアナタが庭に持ち込んだハンモックなんかが今日付けで撤去されるでしょう」
「ま……待てよ。探してくるのタイヘンだったんだぞ、新品同然のヤツは……」
妖精の眼は特別だ。
妖精眼(グラムサイト)。
あらゆる嘘を見抜き、真実を映す眼。
ムリアンのそれは既に衰えて久しいが、それでも色の違いくらいは分かる。
自分と似た境遇の存在が相手ならば尚更だ。
ムリアンは既に、このおどけたスケルトンの色に気付いていた。
白。見果てぬ白。空虚の白。
死んだ世界の、白――。
「……わかったよ。言うよ」
サンズはやれやれと腰を上げた。
そして目を閉じ、開く。
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「オイラのはサイアクだった」
そこに宿る感情には、彼の地金であろうものが透けていた。
冷めた白骨のようであり、対して地獄の業火のようでもある。
そんな熱が伝わってきて、ムリアンは静かに背筋を粟立てた。
「アリの巣に熱湯を流し込むとか……そういうのじゃない。
そうだな。アリの巣に入り込んで、一匹一匹殺すんだ」
「……それが、アナタの世界の最期だったと?」
「それが最後のひとりまで続いたよ。そして最後は、セカイまで壊されちまった」
虐殺(ジェノサイド)だ。
サンズはそう言い、笑みを浮かべた。
今度のは、ムリアンには自虐的なそれに見えた。
「アンタは託した側だろ。ムリアン」
「……アナタは?」
「オイラは託された側だ。オイラがやらなくちゃいけなかったんだ」
でも失敗した。
失敗しちまったんだ。オイラはな。
サンズはそう言って、さっきムリアンがしたみたいに空を見上げた。
「そして物語は畳まれちまった。本のページを閉じるみたいにあっけなく、全部が台無しになった」
「なら。アナタの方こそ、やらなきゃいけないことがあるのでは?」
「そうかもな。もしかしたら死んでいったアイツらだって、オイラにそうしてほしがるかもしれない」
死者の祈り、想いの残滓を集めて滴った聖杯の雫。
今や願望器として大成したそれは、きっと勝者の願いを完璧に叶えるだろう。
此処は冥界。死者の国、死者の界。
そこにはある意味で、嘘がない。
生者の織りなす物語よりも純粋で、純朴で、残酷なほどに誠実だ。
そんな世界に生じた願望器であれば、可能かもしれない。
もう失われてしまった物語を綴り直すなんて偉業にも、手が届くのかもしれない。
それがムリアンの考えだ。そしてサンズも、認識は同じだった。
その上で、妖精に問われた白骨は――首を横に振った。
「でも、いいんだ。オイラはもういい」
「……理由を聞いても?」
「死んだヤツがよみがえるなんてことが、どだいまずおかしいんだ。
セカイの行く末なんてものを……外から賢しらに弄り回せるなんてことがあっちゃいけない。
そういうのはよ、クソ野郎の特権なんだぜ」
世界とは、命を持ち、自分の身体で歩む者だけが変えることを許される領域だ。
死者が平気な顔で結末を覆し、あまつさえ自分の望む通りに"やり直す"など道理に反している。
それは、あるべきでない物語だと。
サンズは普段のおちゃらけた落伍者然とした姿とはかけ離れた、確かな含蓄を持って語っていた。
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「ある日突然、なんの前触れもなくすべてがリセットされるとか。
負けちまったから、ウィンドウを閉じてもう一回やり直すとか……。
そういうのは、オイラはもういい。オイラはもう、たくさんだ」
「……キャスター」
「とはいえ、まあオイラも人様に説教できるほど立派なホネ生を送ってきたわけでもない。
アンタが何を選ぶかはアンタの自由だ。アンタのケツイがどこに向くにせよ、それなりに応援してやるよ」
サンズの眼が、ムリアンの眼を見据える。
衰えたとはいえ、今も人の本質を透かし見る程度は可能な妖精眼。
ムリアンは、サンズが自分と同じ死界の死者であると見抜いていた。
けれどそれは、サンズの方も同じだったのだ。
彼もまた、その眼で――かつては世界の外側の理すら感知した眼で、色を見ていた。
何の因果か自分みたいなろくでなしのマスターになってしまったいじらしい妖精の、色を。
そこにあるEXPを。LOVEを。そして、Karmaを。
「見たとこ、アンタはまだ大丈夫だ。穢れちゃいるが、腐っちゃいない」
「節穴ですね。私のしてきたことを、アナタは理解しているのではないですか?」
「言わぬが花さ。ただまあ、そうまで言うなら一応聞いておこうか。怒んなよ」
Execution Points。誰かに与えた痛みの量。
LEVEL of VIOLENCE。ぼうりょくレベル。
Karmic Retribution。犯してきた罪のすべて。
ムリアンは美しく可憐な妖精だが、しかし既に彼女は三種の罪に穢れてしまっている。
そのことをサンズは見通していたし、ムリアン自身も隠すつもりはなかった。
生涯を通して追い求めてきた、悲願の顛末。
高揚のままに働いた、妖精君主の大虐殺。
「気に入らないヤツらを、有無を言わさずブチ殺した気分はどうだった?」
――忘れられない、怒りがあった。
時の流れなどでは到底薄れることのない、憎悪があった。
選択肢はきっと、他にもあっただろう。
煮えたぎる憎悪と折り合いをつけ、中立(Neutral)に生きるか。
罪を許し、怒りを自ら進んで鎮め、平和主義者(Pacifist)となるか。
それでも、翅の氏族の生き残りであるグロスターの君主は虐殺(Genoside)を選んだ。
妖精領域(むしかご)に閉じ込めて。
殺した。
一匹一匹、しっかりと潰した。
殺して、殺して、殺して、殺して。
彼らがかつてそうしたように、癪に障る弱者を虫のように潰してやった。
例外はない。ムリアンは、忌まわしい牙の氏族のすべてを虐殺した。
ひとつの氏族を滅ぼしたのだ。そうすればきっと、さぞや楽しいだろうなと思ったから。
長い時をかけた復讐は、遂げられた。
大虐殺の夜は明け、残っている獣(モンスター)は一匹もいない。
痛みと暴力を肯定して、妖精の翅は罪に染まった。
念願叶ってムリアンが得たもの。
得た、感慨。それは――
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「そうですね。最悪の気分でした」
決して。
清々しい爽快感などでは、なかった。
「だから私は、もういいです。あれは、もういい」
そこに残ったのは、底なしの嫌悪感だけだった。
夢にまで見た光景は、実際目の前にしてみるとどこまでも気味の悪いものでしかなかった。
生涯をかけて追い求めてきた景色が"それ"であることが理解できなかった。
認められなかった。認めれば自分が自分でなくなってしまうからと、その事実から目を背けた。
……そうして辿った結末は、想像の通りだ。
賢者の愚行。まさにその通りだと思う。
二の舞にならないようにと知恵を尽くし生きてきたのに、それをひとつの愚行で台無しにしてしまった。
それが彼女の人生。Genoside Rootの顛末。
だからムリアンは、もういいと肩を竦めるのだ。
世界を救うか、救わないか。
失われた記録(セーブデータ)を修復(ロード)するか否か、その葛藤とは別のものとして。
虐殺(あれ)は、もういい。友人のそんな答えを聞いて、スケルトンは満足げに目を伏せた。
「せいぜい悩みな、チョウチョの女王サマ。最終的に意味があろうがなかろうが、……悩むってのはいいモンさ」
そう言ってひとりさっさといびきをかき始めてしまった相棒に、ムリアンは何度目かもわからない嘆息をこぼす。
地金をさらけ出して対話をすれば少しはやる気を出してくれるかもと期待したが、この様子ではそれも望み薄らしい。
「……もう悩んでますよ、十分すぎるくらい。誰かさんのせいでね」
おそらくは汎人類史と呼ばれる世界に近いのだろう冥界の街並みを、領域の内側から遠く見つめて。
期せずして箱庭の外へこぼれてしまった妖精は、小さく言った。
答えは依然籠の中。彼女のルートは、今も定まらぬまま。
穏やかな館の庭園で、墜ちた君主はしばし美しい世界の似姿を眺めていた。
◆◆
-
*まあ これだけ見たら十分だろ。
*不運で苦労人なお姫さま。それがオイラのマスターさ。
*安心しろよ。アイツがまだ"G"だったなら オイラが会った瞬間殺してる。
*そうしてないってことは まあ。
*愚かをやったものだからこそ 見えるモンもあるってことなんだろうさ。
*――え?
*オマエは本当にいいのか、って?
*おいおい。
*聞いてなかったのか?
*いいんだよ。
*オイラのセカイは確かに 褒められた最期じゃなかったさ。
*虫みたいに踏み潰されて 跡形もなく消されちまった。
*だけど リセットするのは もうコリゴリなんだ。
*だから オイラはいい。
*これはオイラじゃなくて 姫さんの戦いなのさ。
*つーわけで 運よくまた会えたらよろしくな。
*その時は ケチャップでもおごってやる。
*アンタとまた会う時が こんないい日なことを祈るよ。
*じゃあな。
*(サンズは やみのむこうに さっていった……。)
-
【CLASS】
キャスター
【真名】
Sans(サンズ)@UNDERTALE
【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運E 宝具E
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
陣地作成:-
道具作成:-
キャスターはこれらのスキルを保有しない。
彼はあくまで魔術師ではなく、一匹のモンスターである。
【保有スキル】
最後の審判:EX
裁くべきものを裁くため、最後の回廊にて立つ存在。
攻撃が命中しない。キャスターは、すべての攻撃行為を確実に回避する。
この"攻撃行為"には因果レベルでの追尾や結果の先取りなどいわゆる"必中"効果も含まれ、条件を満たすこと以外でキャスターに攻撃を命中させることは不可能と言っていい。
このスキルを打ち破るにはキャスターと一定時間以上の戦闘を行い、後述する宝具を攻略することが必須。
世界の理にさえ作用して自身の身を守る強力なスキルだが、その分キャスターの耐久性能は間違いなくすべてのサーヴァントの中で最弱である。
審判を乗り越えた者が一撃でも彼に攻撃を当てられたなら、瞬時にキャスターの霊核は崩壊。死に至る。
無力の殻:A
『もっとも ラクなてき。1ダメージしか あたえられない。』
サーヴァントとしての気配ではなく、脅威として感知されにくい。
キャスターは生前、最悪の虐殺者にさえ対面するまでその強さを悟らせなかった。
世界感知:E
メタ世界、第四の壁を超えた先の世界を感知することができる。
ゲームにおけるセーブ、ロード、リセットなどの行為を知覚する。
だが当企画では既に彼の存在は『UNDERTALE』の外に出ているため、ほぼ機能していないも同然の死にスキルと化している。
【宝具】
『こんな日には、おまえみたいなヤツは 地獄で焼かれてしまえばいい(Should be burning in hell.)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:1
本当に殺すべきものを前にキャスターが下す、無力の殻を脱ぎ捨てた処刑宣言。
この宝具が解放された時、彼の処刑対象に指定された人物は三つの観点からキャスターによって評価される。
一つは『EXP』。Execution Points。命ある他人に与えた痛みの量を示す。
一つは『LOVE』。LEVEL of VIOLENCE。他人を傷つける能力の高低を示す。
そして最後は『KARMA』。Karmic Retribution。因果応報。犯した罪の数々。
これら三種を総合し、敵が多くの殺戮を犯してきた討つべき巨悪と判断された場合、キャスターの放つ全ての攻撃には対粛清防御――世界の理さえも貫通してそれを処刑する呪いが付与される。
キャスターは嘘偽りなく最弱のサーヴァントであり、彼が与えるダメージは一切の例外なく理論上の最低値、数値に表すならば"1"となる。
だがこの状態に入った彼はそれを刹那の単位で無数に打ち込み、無慈悲かつ嘲笑的に巨悪の存在規模(ライフスケール)を削り取ってくる。
聖杯戦争の中で彼がこの宝具を使用できるのは一度きり。その戦いで勝とうが負けようが、二度と審判の法廷が開くことはない。
――決して認めてはならない、悪。滅ぼすべき、暴力。それを消し去るためだけに開帳される、サンズの一世一代の晴れ舞台。
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【weapon】
なし
【人物背景】
*俺は サンズ。
*スケルトンの サンズさ。
*今は毎日ダラけて暮らしてる ダメサーヴァントさ。
*ホントだぜ。
【サーヴァントとしての願い】
なし。英霊の座に戻って寝たい。
"あの世界"を蘇らせる気はない。
*死んだヤツは 生き返らない。
*フツウのことだろ? 生き返れるヤツが おかしいんだぜ。
【マスターへの態度】
気に入っている。
なので気さく。Sansは彼女の罪も後悔もすべて知っている。
【マスター】
ムリアン@Fate/Grand Order
【マスターとしての願い】
……さあ?
【能力・技能】
妖精としての高い能力。並の魔術師では太刀打ちできない。
特定の空間に独自のルールを敷く『妖精領域』を持つが、妖精國を出てしまったことで著しく弱体化している。
かつては都市ひとつを支配できた彼女の領域も、今では拠点の洋館の敷地内に展開するのがせいぜい。
とはいえ逆に言えば敷地内であれば、擬似的にグロスターの君主だった頃と同じだけの力を発揮することが可能。
ムリアンの居城を攻め落とすことは、正攻法ではサーヴァントだろうと容易ではない。
【人物背景】
妖精國はグロスターの君主だった妖精。
今、もはや彼女の故郷はない。
【方針】
同じ過ちを繰り返すつもりはない。
かと言って無駄に命を擲つ気にもなれない。
当面は賢明に、それでもってなるべく聡明に。
【サーヴァントへの態度】
呆れが強め。彼の本当の力は知らないので、聖杯戦争は自分がやらなければいけないだろうと半ば諦めている。
【運用法・戦術】
サンズは基本的に役に立たない。なので妖精領域を展開した洋館へ籠城しつつ、他の主従とコンタクトを取って戦況を管理するのが肝要となる。
ムリアンの力は全盛期に比べてかなり衰えているが、それでも洋館の内側であればサーヴァント数騎がかりでも攻略困難な"妖精君主"としての厄介さを発揮することが可能。
逆に攻略しようと思えば、まずなんとかして彼女の陣地を破壊することが重要になってくる。
領域から引っ剥がしてしまえば、ムリアンはただのサーヴァントに恵まれなかった妖精に過ぎない。
あとはサイアクなめに遭わされないことを祈ろう。
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投下終了です。
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投下します
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冥界と現世の間にある、疑似東京。
もちろん、夜の更けぬ街も再現されている。
欲望が渦巻く世界があるのは、どの時空においても変わらないのだろう。
そんな、混沌より少し離れた人気のないビル。
そこでは、英霊と英霊がぶつかりあった後があった。
◆
「貴様…何を…」
「魔術師って金無いのね、まぁ、この宝石は売れそうだけど」
敗北した魔術師から金目の物を漁る女。
赤髪で、左目には眼帯を着けている。
「げろ…う…が…」
「お好きに行ってな、あたしは帰るから、いくよアサシン」
「…わかった」
女は自身のサーヴァントであるアサシンを連れ、去っていく。
手の甲についた武器を消失させて、消えていく。
◆
欲望渦巻く繁華街。
少女、結城奈緒とそのサーヴァント、アサシンは手慣れた手つきで進んでいく。
(まぁ、収穫は上々だね、アサシン)
(まぁな…こちらとしても、貴様の生活が不安定になっては困るのでな)
敵主従の殲滅と金目のものの徴収。
それを繰り返す毎日。
-
ふと、大男に体があたった。
見るからに粗暴な金髪の外人。
「oh!嬢ちゃん、ぶつかっていてなんの謝罪も無しとは、日本人もすた…」
「アサシン」
その合図と同時に、男の腹より飛びててくるものがあった。
それは臓物…ではなく、金属で構成された物。
ナイフにフォーク、どれも鋭利な鉄や銀でできたもの。
「行くよ、アサシン、あたしはアイツラに復讐してやるんだ…この目の…敵を…!」
「…わかっている」
聖杯戦争とは別の争い、触の争い。
自業自得の傷の恨みを払さんと
左目を抑え、復讐を誓う。
しかし、横にいるアサシンからの評価は芳しくない。
(…口ではそう言っているが、ほんとは違うだろうに)
アサシンは復讐者でもある、かつて不遇から抜けて出そうとした仲間の敵を討つために、自身のボスの寝首を狩りに行った。
(…貴様の本当の願いは復讐ではない…愛する者への情だ…)
そう、アサシンはつぶやく彼女見ている。
愛する母の名をつぶやく彼女を。
(…まぁ、ここで俺が言っても、なんの特にはなりゃしない、ただ)
静かに霊体化をしながら思う。
(…呼ばれた以上、英霊の仕事も全うしてやる)
アサシン、リゾット・ネェロ。
特殊な能力、スタンドを携え、この冥界下りの新たな参戦者となる。
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【CLASS】アサシン
【真名】リゾット・ネェロ@ジョジョの奇妙な冒険
【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷C+ 魔力A 幸運D 宝具D
【属性】混沌・悪
【クラススキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。
【保有スキル】
カリスマ:D
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能で、一軍のリーダーとしては破格の人望である。
直感:C
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
敵の攻撃を初見でもある程度は予見することができる。
未来予知を持つ敵に、優位に立つことができたことからこのスキルが付与された
反骨の相:B
一つの場所に留まらず、また、一つの主君を抱かぬ気性。
自らは王の器ではなく、また、自らの王を見つける事のできない放浪の星である。
同ランクの「カリスマ」を無効化する。
かつて、自身らの生活を守るために、ボスに逆らったことからこのスキルを得た。
【宝具】
『貴様の鉄分は、俺の武器だ(メタリカ)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:5m〜10m 最大捕捉:1〜
【破壊力:C / スピード:C / 射程距離:C / 持続力:A / 精密動作性:C / 成長性:C】
群体形スタンド、特殊なタイプであり自身の中に入っている。
その能力は自分から磁力を抜糸、周りの鉄分を刃物に変え、敵に攻撃するというもの。
ある程度距離を詰める、敵に位置が発覚されやすいなどの弱点を持つも。
低い魔力消費で使用可能であり、アサシンの主武器にもなっている。
【weapon】
『貴様の鉄分は、俺の武器だ(メタリカ)』
【人物背景】
自身らの生活を守るため、組織にチーム丸ごと逆らった男。
敗退こそしたもの、その実力は本物であった
【サーヴァントとしての願い】
ボスへの復讐の舞台を作る
【マスターへの態度】
殺しを妨害しないなど、悪くはない。
ほんとの気持ちを教えてほしいが…嫌、サーヴァントの身が詮索することではないな
【マスター】結城奈緒@舞-HiME
【マスターとしての願い】
自分の目に手をかけた者への復讐…というのは建前、本当は母の回復
【能力・技能】
「HIME」
少女に与えられる特殊な能力。
武器型の装備エレメントと、自身の想い人を基に作られるチャイルド、その代償として、チャイルドが消滅すると、想い人も消滅する。
エレメントは手の甲を覆う、クロータイプの武器、腕の先から出るワイヤーは簡単に鉄骨を切り裂く
チャイルドは蜘蛛型のジュリア、下腹部から剣が、胸部からは粘液を放つ。
【人物背景】
不良少女
自業自得の末、片目を失った少女
【方針】
優勝、ただそれだけ
【サーヴァントへの態度】
殺しもしてくれるし、強い優秀。
当分はこいつで十分。
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投下終了です
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投下します
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雷が落ちた音が聞こえる。名も知らぬ2人の人は瞬きする間もなく首が落ちる。だが一つは消えてしまい、どのような表情を作ったのかは見えなかった。
首を落とした者は刀についた血脂を飲み込み喉を鳴らす。鎌倉の合戦作法で失われた魔力を補給すると首を持ち、建物の外へ出た。
外の光が首を持った者の姿を表した。おお、みよ!その貌は甲冑兜めいた威圧的怪物のものである!さらにそのものの服も鎧めいた化生!見るものによっては『鬼』と形容するだろう。
『鬼』は建物の近くにある花壇に近づく。花が咲いているわけではない。そこにある土を掘り起こし、首を埋め、墓石代わりのコンクリート片を添えた。
「モータルに墓を作るか、奇怪な」「マスター」鬼に声をかけたのはこれまた尋常ならざる者だ。3メートル超の偉丈夫。後ろで結わえた髪と龍じみた髭は風の流れとは無関係におのずから揺らめいており、溶岩石じみた目は白く光っている。
ザンマ・ニンジャ。彼が生きた世界ではそう名乗り恐れられたリアル・ニンジャである。ザンマ・ニンジャの手には血に濡れた大剣が手にあった。
「あんた、サーヴァントも倒せるのか」「ザンマのカラテに似合う的ではあった。吉兆じゃ」「吉兆?」「ここはネザーオヒガンに似ている。そこにオニめいた強者もおる。ザンマのカラテを磨く試金石に良き」
大剣に刻まれた「ザ ン マ ブ リ ン ガ ー」のルーンカタカナ文字が鈍く光った気がした。どうもこのマスターの狂気は自分と別種のものであるとザンマ・ニンジャのサーヴァントは感じる。
「で………マスター。今度はどうする?」「無論一つだ。一人を仕留め、一人を仕留め、一人を仕留め、一人を仕留める也」ザンマ・ニンジャは大剣を回す。コンクリートをトーフめいて切り裂き、地割れを作る。
コマめいて回り続ける大剣はそのうちザンマ・ニンジャの手から離れ、東の方角に飛んでいった。
「ザンマ!」ザンマ・ニンジャのシャウトが23区内に響くと、その手に投げた大剣が収まる。
「向こうじゃ。」ザンマ・ニンジャは東の方角に歩き出す。その様子を見てザンマ・ニンジャのサーヴァントは人の姿を取り、共に歩き出す。
KABOOM!
爆発か落雷か!光は2人の姿を表し、黒と白に染める。ザンマ・ニンジャのサーヴァント、彼もまた忍者である。『アサシン黒須京馬』、またの名を『怨身忍者・雷鬼』!稲妻となり砕け散る、その標的は誰になるのか!
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【CLASS】
アサシン
【真名】
黒須京馬@衛府の七忍
【ステータス】
筋力D耐久D敏捷A魔力B幸運D宝具A
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
気配遮断A
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。完全に気配を絶てば探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
【保有スキル】
忍術A
忍者たちが使用する諜報技術、戦闘術、窃盗術、拷問術などの総称。各流派によって系統が異なる。
真田忍法A++
忍術とは別個のスキル。真田十勇士が使っていた忍法を使用できる。黒須京馬は大忍法オノゴロにより、真田十勇士の肉体を自らに宿しており、術者本人が発動するものと同等の効果・威力で忍法を放つことができる。
雷憑きB
雷が落ちて災いを招く性質。黒須京馬が戦闘を開始する、もしくは目的を定めるとどのような天候であろうとも、落雷が起きる
【宝具】
『怨身忍者・雷鬼』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
衛府の龍から得た忍法。自らの身体をこの世ならざる鬼、怨身忍者へと変貌させる。幸運以外のステータスを上昇させ、保有スキルのランクを一つあげる。また火で死ぬことはなく、自己発火による自己再生を持つ。
【weapon】
上泉信綱の刀
【人物背景】
明日を見ず、人生の長さを歩む術をすらない。今を見てどのように落ちるかを考える。
雷のような男
【サーヴァントとしての願い】
強敵を稲妻となって砕きたい。雷鳴のように砕け散りたい。
【マスターへの態度】
強敵の最有力候補。お互い今は協力するが障害が一切なくなったら死闘を行いたい。
【マスター】
ザンマ・ニンジャ@ニンジャスレイヤー
【マスターとしての願い】
隠忍を殺すため、カラテを磨き上げたい。
【能力・技能】
物理法則を無視する身体能力
魔剣ザンマブリンガーと素手を組み合わせたカラテの高さ
ザンマブリンガー:ジゴクで鍛えた魔狩りの剣、オニ狩りの剣。刃にルーンカタカナ「ザ ン マ ブ リ ン ガ ー」の刻印が入っている
【人物背景】
5人いるアケチ・シテンノの一人。ザンマとは悪霊(マ)あるいは馬(マ)ごと敵を斬る力、つまり度外れたニンジャ膂力を示す。ニンジャスレイヤーの世界において「ザマを見よ」の由来となっている。
独自のルールを持って動いているので予測不可能なところがある。
一人称は「ザンマ」
【方針】
一人を仕留め、一人を仕留め、一人を仕留め、一人を仕留める
【サーヴァントへの態度】
オニでありニンジャのように感じる。今は共闘するが事の次第で死闘を行いたいと考えている。
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投下終了です
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投下します。
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◆
「最期くらい呪いの言葉を吐けよ」
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◆
翳した掌に、黒い潮が集まっていく。
闇よりなお濃い黒の流れは巻き込み、逆巻き、渦になって吸い込まれ、真黒の球体に集積される。
艶のある光沢は磨かれ抜いた逸品の宝玉に見え、そう見えるよう手際よく欺瞞の加工を施した泥団子にも見える。
どちらにしても、人が一気に飲み干すには無理のある大きさだ。味を感じる間もなく喉につかえて気道を塞いてしまうだろう。
「協力感謝するよ。お陰で君のサーヴァントは私の手駒になった」
黒玉を指で弄びながら何かに礼を言う人物がいる。
袈裟を着た男だった。
背中に届く黒髪を後ろにまとめ、一房の前髪が垂れ下がっている。
住職と呼ぶには若過ぎるが、修行僧の中に括るには雰囲気が引き締められ過ぎている。
額に傷も、縫い目ひとつない顔は堂に入っていて、年齢を抜けば宗教の主導者にしてと不足ない、王者の風格すらある。
「……ああ、出来ることなら純正のままの英霊が欲しかったね。
素のままで特級に近い白兵能力、圧倒的な呪力、固有の術式に領域クラスの切り札、そしてそれらを反射と経験で精密に動かす思考! 英雄とはこの事だとも!
雑多な呪力の結集じゃなく一個人への信仰を元にして成立したとなれば、やはり呪霊とは同質ながらも相反した存在といえるだろう!」
男は饒舌に語り口を続けている。
耳を傾けている聴衆はいない。周りには誰もいない。
熱を込めてまくし立てる弁舌は、住人もおらず荒廃した街に空々しく響くだけだ。
「だが……残念ながら私では英霊当人じゃなくその残滓、影にしてからでないと取り込めないんだ。戦力には違いないが、質の目減りは感じてしまうよ。
まず第一に、英霊を完全に祓わずにかつ無力化させるというのが中々難しい。なにせここに来るまでに全財産をはたいたからっけつでね。今はコツコツと数を集め直していく段階さ。
都合の良い事に、この地には悍ましいまでに手つかずの呪いが充満している。冥界とはいったものだよ。どいつもこいつも邪念と殺気の煮凝りになっている」
寂しい懐事情を明かしながらやりくりする日々を聞かせて苦労を分かち合いたいという気持ちなのか。しかしそれでもやはり人はいない。
男は、独り言を吐いていた。
事前の準備から現場で検証を始め、得られた結果を分析して更新した考察を、口から言葉に出して確認をしていたに過ぎない。
故に傍に誰もいなくても気に留める理由はなく、これは曇天の下で自説の検証を悠々と進めるのみの時間。
これから始まる大がかりな戦争の、勝ち抜くにあたって障害になるであろう要素の研究に他ならない。
冥界。
多くの怪異、霊現象と遭遇し、これを撃退し手中に収めてきた男にも、死後の世界に足を踏み入れた事はない。
霊峰といったある種の秘境、力ある霊が潜伏する曰く付きの物件は、時として現世と隔絶した別空間と切り替わるが、それとも異なるケースの、本物の死後の国。
こうして一回死んでみても、これといって実感もない。
閉じていた目が開いたら、欠損していた腕が戻っており、見慣れた土地で寝転んいて、脳には未知の儀式の参加権と、概要が刻まれていた。
夢でも見ている気分だが、自覚を持っても覚める兆候はまったくない。
ならば受け入れるしかないだろうと、あっさりと男は思考を切り替える事にした。
現状の確認から、優勝の指針へと。
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男には目的がある。
理想だ。夢想にも思える大義だ。
多数の為に不遇をかこち消費させられる少数の構図の破壊と、再生を目指した。
その為に仲間を集い、道具を集め、目的達成に大きく近づく収穫に臨もうとした。今回やる事もそれと変わらない。
安全地帯とされる街の外。死霊が彷徨い生者に襲いかかり、いるだけで寿命を縮めるという危険地帯。
それが実際にどれだけの効能を持つか、自分の体で確かめるべく現地に赴き───こうして、結果を観察しているところだ。
周囲に男の他に人はいない。
だが、動くものはあった。
ある手足を使わずに地面に突っ伏し、何言かを漏らそうとする口から要領を得ない呻きを垂れ流している。
それは人の姿をしているが人ではなかった。
人ではあったが、これからなくなろうとしていて……男は最初からそれを人と認めていなかった。
「喚くな、猿が」
侮蔑に満ちた否定。
容姿にも思想にも行為にも関連しない、存在そのものへを嫌悪した呪詛。
「呪力も持たず、異能もない非術師に、この先を生きる資格があると思うか。
この英霊は私が使ってやる。力ある者が縋る弱者に寄生され蚕食されるより余程有用だ」
球状に丸め込まれたサーヴァントを目にしたマスターの目が、内からの衝撃に大きく見開かれる。
神秘奇譚に触れずに平和に生きてきた一般人である自分に不満ひとつ漏らさず主と仰ぎ、守護を約束した高潔な英雄が、男に道具同然に使役されるという結末は、恐怖以上の絶望だった。
そして男は当然麗しい主従の絆など知らず、関心すら持たずに両者の関係を消滅させようとする。
「サーヴァントを奪った以上もう用はない……といいたいが。もうひとつだけ、まだ君にはやってもらいたい事があるんだ。
会場外にあるルールは知っているね? 冥界の空気に触れすぎると死ぬ、というやつさ」
先程の蔑みとは打って変わって、元の慇懃さに戻ってひとつの用件を持ちかける。
元マスターに拒否権はなく、男は相手の意思など求めていない予定調和だが。
「確かにここの大気、我々には毒となる要素が入ってるらしい。
呪力で体表を覆ってガードして、サーヴァントに防護までさせてるのに短時間で突き抜けてしまう。
それでも君らよりは長持ちするんだが……いざという時、どれくらい動けるのか臨床は必要だろう?
どうだろう、同じマスターの助けになると思って……ここでひとつ、どう死ぬのか見せてれないか?」
男の発言の異常さについにそれの許容が割れる。
恐慌状態に陥り逃げ出そうと暴れまわるが、地面を転がるばかりで一向に手足は動いていない。
血が凍ってしまったかのように全身が凍りつき、末端にまるで力が入らないでいた。
男はサーヴァントを捕らえただけで、拘束をかけていなければ動けなくなるだけの攻撃を加えてもいない。
冥奥領域の外に連れ出されてから約10分。
サーヴァントを失い何の加護も持たない葬者の、それが生存限界地点だ。
「サーヴァントを失ってから一気に症状が進行したな。契約は冥界の外気に対する濾過装置のようなものか」
実験室で薬品を混ぜたフラスコの中身を観察するのと同じ意義で、男は葬者の変貌を眺める。
やがて痙攣すら起こさなくなった体は力なく地面に横たわり、断末魔もなく最期の時を迎えた。
葬者の遺体から脱皮するように現れたのは、未成熟のまま蛹から出てきてしまった成虫を思わせる、ドロドロと不定形な死霊だ。
棺桶の中で生還を望んでいた葬者は、資格を失った事で正式に葬られ、冥界の住民の仲間入りを果たすのだった。
-
「二級……いや三級か。素の質次第で等級は変化するのかな? 強い術師であればそれだけ生まれる死霊も強くなると……? ふむ」
平静に値踏みをしている男の前で、浮遊する死霊はおどろおどろしい叫び声を上げて威嚇する。
死の直前の記憶が霊に焼き付いたのか、自らの死の元凶を道連れにせんと呪いを浴びせにかかる。
「協力ありがとう。
もういい」
手を翳す。
鬱陶しい蟲を払うように。取り込む用ではなく祓う用に。
手に乗せた呪力が死霊の腕よりも速く頭部に触れ砕き散らす───それよりもさらに速く、黒い閃光が頸を落とし、無念を断ち切った。
代わりに立つのは、黒い衣を纏い、顔を兜で覆った剣士。
背後から飛び出した者による斬撃にも、男は警戒の素振りもなく振り返る。
「……手出ししていいと命令は出していないが?」
「……」
問いに答えはない。
そこにいる誰かは何も言わず、代わりに申し訳なさそうにしょぼんと頭を下げるのだった。
◆
───冥界に落ちた聖杯戦争の葬者(プレイヤー)、夏油傑は、自らのサーヴァントを見る。
白い少女だ。
保護したばかりの頃の美々子と奈々子よりは、幾分歳上だろうか。
腰まで伸びた頭髪、簡素な衣服、柔い肌までが同色で統一されている。違う色は、額に刻まれた呪術めいた紋様ぐらいのもの。
清廉さを象徴する白だが、冥界の街は他の光を飲むような昏さで、少女の印象を儚げで心細く見せる。
他を呪殺せんとする負の想念に欠けているが、夏油から見て少女は立派な術師だった。
保有する呪力……ここでは魔力と称される……の桁の高さ。所持する術式の潜在性。あの『呪いの女王』にも引けを取らない切札。
押せば転ぶ矮躯の周囲には、無数の猛り狂う呪いの声が潜んでいる。
体術と気概の頼りなさを抜きにすれば、キャスターの器(クラス)に恥じぬ特級だと、贔屓目抜きに評価していた。
「……」
無垢な瞳で見上げるキャスターに、夏油の柔い箇所が疼く。
嫌な眼だ。
呪いを生まず穢れも知らないとでも言いたげなキャスターの純真な目が、夏油は嫌いだった。
その実他人の身勝手な呪いに穢された身であるというのに、どうしてここまで綺麗に生きてこれたのか。
『リリィ』───白百合の名通りの姿のサーヴァントは、呪いの泥の上に咲いていても可憐さを損う事はなかった。
「もう一度言おう。余計な手出しをするな。
君は私の命令を聞いていればいい」
『そう言うことはないだろう。お前の身を案じて行動したのだから』
返ってきた反論は少女に見合った声質とは違う、硬い印象の男のそれだった。
夏油の攻撃に先んじて死霊を斬った騎士が、いまだ実体化を保ってキャスターの隣に立っている。
「呪い風情が、私に意見か」
『私をどう思おうが構いはしない。……だが、彼女の思いは汲み取ってやってくれないか』
「貴重な令呪を一画削がせたんだ、それに見合った働きはしてもらわなければいけない」
-
袈裟の裾をまくる。召喚の直前の記憶、百鬼夜行の敗戦で失われていたが復元した右腕の手の甲にある、渦を模した紋様。
マスターの証でありサーヴァントに対する絶対命令権を有する令呪。そのうちの一画が消しゴムにかけられたように掠れた跡を残して消えていた。
最後の戦いで手持ちの呪霊を全消費する極の番”うずまき”を使用した夏油にとって、聖杯戦争を勝ち抜くのに新たな補充は急務だ。
幸いにして領域の外には手駒に出来る霊がうろついてるし、術式なしでのフィジカルだけでも大抵の呪霊術師を屈服させる自信はあるが、此処は人外魔境が集う冥界。
乙骨憂太な規格外、五条悟のような超常と出くわす可能性を考えれば、悠長に調達の必要性があった。そこで目をつけたのが、リリィの保有する使い魔達だ。
白巫女の浄化で祓われた穢者(けもの)───穢れにより魂を汚染された怪物と、夏油の呪霊操術の親和性は高い。
近いとはいえ元は別種の術式、流石にそのまま譲渡するには規格が合わないが、令呪一画分の魔力で契約のパスを加工し、群れの一部を夏油の術式対象に取れるよう拡張する事は可能だった。
戦力の補充を済ませ、捕獲のペースを上げて軍勢の再構築を早める。
リリィも騎士も、夏油の戦略に口出しせず従っている。
戦いになれば前線で穢者を操り敵を倒した。マスターを実験台に使うのにも、いい顔はしないにせよ逆らう真似はしなかった。
注意するまでもなく、サーヴァントはマスターに従属している。命令違反は犯していない。
「彼女は、お前の為に戦うと決めている。我々もそれに従い刃を振るおう。
しかしそれはお前がマスターであるから、それだけが理由ではない。分かっているのだろう」
「……」
夏油と騎士とのやり取りの間も、リリィは無言で見つめたままでいる。
実際は喋らないのではなく喋れないのだ。口を開き言語を音にして発する機能が、最初から麻痺している。念話ですら声を聞くのが叶わない。
彼女の意を汲み騎士が仲立ちしなくては、簡単なコミュニケーションすらままならない有様だ。
会話だけではない。リリィには様々な欠落がある。
生まれてから育った記憶が存在せず、リリィという名すら、他人と知らず自身に宛てた仮初に過ぎない。
……リリィが生まれた目的は消耗品だった。
ある大陸の果ての国。穢土より蔓延する穢れと呪いを浄化できる唯一の存在である、白巫女の末裔。
人々は白巫女を讃え、国を挙げて崇め、宗教まで作り、希望の象徴という台座に座らせた。
どれだけ素質が優れていても白巫女はひとり。とめどなく溢れる穢れの浄化は追いつかずで、身体には負担が嵩んでいく。
疲弊する白巫女を案じ、あるいは国の未来を憂慮して、国の魔術師は禁忌を犯した。
魂の情報を赤子に転写し、巫女の分身たる子供を複数体造り、穢れを分散して子に肩代わりさせる。
つまり、溜まった負債を子供に押し付ける人身御供だ。
九つの白百合。生贄にされる為生まれてきた少女。
狂気と野望が渾然となり巨大な呪いを生む中、終わりは他ならぬ白巫女によりもたらされた。
子供の犠牲など望まない。苦しみを味あわせたくない。
父がいないまま母にされた巫女の娘への愛は呪いの転写を拒み、子供達の解放を望んだ。それで呪いの雨が降るとしても。
-
「……余計なものを見せてくれる」
脳内を駆け巡った明晰夢。
存在しない記憶、自分ではない誰かの生涯を我が事のように体験する。
マスターとサーヴァントの契約関係が起こす、記憶の流入。令呪でパスを弄った影響で、夏油は早期にそれを味わった。
国は滅び、生者は残らず穢者に変わり、子供達も道半ばで息絶え。
この惨状を起こした原因に、彼女は何一つ含まれていない。
愚かな王の暴走。巫女の犠牲で成り立つ体制をよしとした民。滅んだのは因果応報だ。
名前も記憶も与えられないまま勝手に役割を押し付けられ、そして何もかも終わってからの後始末に駆り出された。
憎むにも誰も生きていない。呪うにも周りには呪いしかない。
今夏油がいる冥界と大差ない地上の地獄で、どうして少女は生きてこられたのか。
呪霊は、吐瀉物を丸め込んだ雑巾の味がする。
弱者を守る大義を胸に、かつての夏油は青春を従事した。
隣り合う親友がいた。慕ってくれる後輩がいた。二人なら何もかも守れると信じていた。
喪った。
守りたいものは守れず、今まで守ってきたものは吐瀉物より醜悪な獣だった。
仲間の屍の山の上で、のうのうと糞を垂れ流して生きている世界で、心の底から笑える事はできないと悟った。
穢れを清め、亡骸に慈愛を与え、肉体は呼吸するたびに激痛がして、髪も肌も黒く爛れ、頭からワケの分からない器官を生やして。
その上で、彼女は笑えたのだろうか。雲が晴れた空で、大事だった人の墓の上で?
「なるほど、これは呪いだ」
「……?」
「君は私にとって呪いでしかなということさ。
そろそろ戻ろうか。これ以上は私も身体に障ってしまう」
何のことかと小首をかしげるリリィを放って、足を街に向ける。
呪力で全身に皮膜を作り、リリィの持つ最も術に明るい魔女の補助を受けても、冥界に長時間の滞在は不可能だった。
呪力消費とも違う奇妙な違和感、それが無視できなくなるまで大きくなりつつあるのを実感する。
これが初期症状であるとすれば、以降は倦怠感や不調に置き換わり、最終的にあのマスターのような付随の末期症状に至るのだろう。
往復の間を含めれば、行える戦闘は一回か二回。少しでも接敵の機会が欲しいのが本音だがこればかりは致し方ない。
「さあ、呪い合おう───地獄の底までも」
これから続く戦争。呪いと呪いの交錯の果て。
聖杯を手にし大義を成すその瞬間まで、彼女を道具として使い潰そう。霊に情を見せる無様を阻止しよう。
認めてしまえば、この呪いは己に返って来る。愛する仲間は元の世界で待つ家族だけでいい。
一度死んでも夏油傑という呪いは変わらなかった。それで上等だ。
もう二度と。あれ以上の悔いのない最期は訪れないだろうから。
……冥界の空は夜のように暗い。
春の芽吹きも、夏の蒼さも遥かに遠い黒雲は、街の中に入るまでずっと変わらなかった。
-
【CLASS】
キャスター
【真名】
リリィ@ENDER LILIES
【ステータス】
筋力E 耐久D 敏捷C 魔力B+ 幸運B 宝具A
【属性】
中立・善
【クラススキル】
白巫女:A+
魂を汚染し、理性を無くした不死の怪物である穢者に変えてしまう穢れを浄化できる女性を指す。
呪いに対する耐性を備え、また対象の呪いを浄化する能力を持つ。
耐性は絶対ではなく、浄化もあくまで穢れを自身に転写しているに過ぎず、そこには許容値がある。
穢れを溜め込むごとに苦痛は伴い、髪の毛は黒ずみ体からは肉腫が伸び、やがて穢れの源泉と成り果ててしまう。
このリリィは正統な白巫女ではない。
三代目白巫女フリーティアを蝕む穢れを引き受ける器として禁術により作成されたクローン、そのうちの一体。
元々の力は本来の白巫女に満たなかったが、他の姉妹の祈りを継ぎ、遂には果ての国の穢れを完全に浄化させた功績により最高ランクに引き上げられている。
道具作成:A
陣地作成:A
リリィ自身の魔術師としてのスキルは高くないが、魔女イレイェンの協力により高度な魔術を使用できる。
ちなみにリリィの耐久ランクは低いが、所有するお守りの対物理障壁によりAランク相当の耐久力を得ている。
ダメージの蓄積により損壊するが祈りにより回復する他、瞬間的に開放して敵の攻撃を弾く(いわゆるパリィ)にも転用できる。
【保有スキル】
淀んだ穢れの残滓:B
かつて穢者に堕ちた霊魂を浄化し、味方として従える。
僅かに意識を保ったまま、朽ちた亡者となり彷徨い続けていた魂を浄化したリリィに身を惜しまず協力してくれる。
令呪でパスを加工し呪霊操術の対象に当て嵌める事で、夏油でもこれらを自在に操る事ができるようになっている。
猛る穢れの残滓:A
穢者の中でも特に強力で、生前から名高い者だった霊魂。
戦闘だけでなくリリィに飛行や水中での活動などの特殊な加護を与える。
リリィとの繋がりも強く、夏油が使役するにはリリィからの許可が必要。
古き魂の残滓;EX
このスキルのみ穢者ではなく、古の白巫女の祖と契約した不死の黒騎士の霊魂である。
剣による戦闘の他、明確な意識があり円滑な会話も可能なので、彼がいないとリリィはマスターとのコミュニケーションで大変困ってしまう。
根本的に呪いではなく、完全な契約が交わされてるので、呪霊操術では操る事ができない。
【宝具】
『墓標にて、永久なる穢れと騎士の魂(クウィエトス・オブ・ザ・ナイツ)』
ランク:C+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:25人
契約する穢者達の霊魂による一斉攻撃。
リリィ自身は馬車に乗り込み突撃。周囲を霊魂達が囲い、進行上の障害を薙ぎ払う。
生前にこのような技を使ったことはないらしいが、マスターである夏油の起こした百鬼夜行、極の番「うずまき」を知って参考にしてみた、とは黒騎士からの代弁。
『最奥より、果て降らす黒死の雨(エンダーリリーズ・フリーティア)』
ランク:A++ 種別:対国宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:国ひとつ分
果ての国を滅ぼした「穢れの王」の召喚。
王は巨体による破壊と無限に穢者を産み出してくる怪物だが、真の脅威は別にある。
地脈を汚染してから魔力上空に穢れを飛ばし、浴びた者を全て穢者に変える「死の雨」を半永久的に降らせる。文字通りの国家滅亡宝具。
本来リリィが所有する事も使用する事もない宝具だが、マスターである夏油が死に際に欲した「呪いの女王」の記憶が切欠になり、
穢れの王の前身である白巫女が所持する、穢れの負担を抑える護りの宝具に宿る形で付随されてしまった。
【人物背景】
呪いを背負わせる人身御供に生まれながら、誰も呪わずに祈りをもって亡びた国に空を見せた少女。
【サーヴァントとしての願い】
本人に自覚はなかったが、死者の記録とはいえ平和な世界を知る機会を得たことで、ささやかな願いは叶ってしまっている。
無垢なリリィは夏油の行いを罪と理解しつつも、彼に寄り添い共にいると決めている。
【マスターへの態度】
記憶がなく(失った、ではなく、無い)敵も味方も亡者か霊魂だったリリィにとって、夏油は初めて会った「人間」である。
熱のある体、生きた感情に、物珍しげに見つめたり、おっかなびっくり近づいてきたりと距離感が掴めていない。
-
【マスター】
夏油傑@呪術廻戦
【マスターとしての願い】
非術師の鏖殺。術師の楽園。
誰も犠牲にならない世界を望むには呪いを生み出しすぎた。
【能力・技能】
『呪霊操術』
呪霊を球状にして体内に取り込み、自在に使役する術式。
呪霊の数と質が多ければ多いほど強力になるのは言うまでもない。消費する呪力も呪霊持ちなので非常に低燃費。
極ノ番〝うずまき〟は保管した呪霊を一斉に放出し超圧出した呪力をぶつけられるが、手持ちを捨てる高いリスクがある。
参戦時期の都合上手持ちはゼロ。会場外の怨霊やシャドウサーヴァント、リリィの穢者を令呪で使用権を移して補充している。
希少な術式に合わせ基礎的な呪力操作、体術も高レベルで修め、日本に四人しかいない特級術師にカテゴライズされる
【人物背景】
呪いに潰され、呪いを駆逐すると誓い、呪いになった男。
百鬼夜行にて敗れ親友に介錯された直後、あるいは直前からの参戦。
【方針】
冥界内で霊やシャドウサーヴァントを奪い手駒を増やす。冥界の仕組みもマスターを実験台にして調べたい。
【サーヴァントへの態度】
情を見せてはいけない。意識して、道具として扱うよう努める。
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投下を終了します
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投下します。
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とある日曜日の主日の昼頃。東京のとある街に大きな教会が置かれていた。
近隣の教徒を一度に迎え入れても十分な程度の規模のこの教会には、その規模に見合うほどの数の信者たちが主の復活を祝うために集っていた。
その教会に住まう聖職者の中に、やつれ細った容姿と穏やかな顔つきをした西洋人の神父が一人いた。名前はヴァレリア・トリファと言った。
トリファ神父はカトリック教徒にしては珍しくルーマニア系で、父はルーマニア正教の司祭であった。ヴァレリア少年は父からカトリックが邪宗であると教えられて育ってきた。
彼の故郷トランシルヴァニアは長らくカトリック国家であったハンガリーによって支配され、東方正教は第一次世界大戦でルーマニアに解放されるまで抑圧され続けてきた。
それでもルーマニアのナショナリズムの炎が消えることはなく、共産化しても寧ろ西側諸国に接近するに伴ってルーマニアのナショナリズムは益々称揚されていった。
父がカトリックに深い敵愾心を抱いていたのはそういった事情が関わっていたのだが、何時しかヴァレリアは思春期に入る前後に父の教えが過ちだと気づいた。
これまで叩き込まれてきた父の教えに反発するが如くヴァレリアはカトリックに帰正し、様々な巡り合わせを経て日本にて神父を務めている…というのが本人の言である。
驚くべきことにこのトリファ神父、多くの信者からの悩み事に応えるのが大得意であった。彼は人の心の微に入り細に触れる術に精通していた。
温厚かつ一見頼りないような見かけから想像もつかない程に、彼は当たり前のように見知ったばかりの人が打ち明けた悩みを瞬時に理解し、時には解決した。
近頃は未信者からの相談も無償で受け付けており、「神父様なら私の苦しみを理解してくれる」と思い込まずに教会の門を開く者を数える方が楽だと言って良い。
しかし、来客や信者は果たして気づいているだろうか。トリファ神父の手の甲に刻まれた紋章に。
十字架に長槍が交差して八端十字架の様な形を成している、その三角の令呪の存在に。
◆
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信者が教会を立ち去った後の夜、トリファは祈りながら何かを見つめていた。しかしその眼中には、彼の前方に置かれていた祭壇など映りはしなかった。
代わりに唯一写っていたのは、暗闇。何も見えない暗闇であった。目を見開いたまま、トリファは暗闇を覗いていた。
その暗闇の世界はヴァレリアが契約したサーヴァント…ランサーのものであった。ランサーは霊体化した状態で周囲の偵察に向かっていた。
偵察の目的にはサーヴァントやマスターと思しき人物を発見することでなく、効率良く隠密にNPCへの魂食いを行うための手段を構築することも含まれていた。
ランサーは強いが無敵ではない。その為、どうしても魂食いで魔力を蓄えることで戦闘力を強化する必要がある。
かと言って、何れ現世で引き起こそうとしたスワスチカの様に大々的に行えば悪目立ちして後々面倒になる。その為目立たずに行うための情報が欲しいのだ。
共有していた感覚が暗闇の世界であったのは、ランサーは両目を失明していた為であった。代わりに彼は、気配を感じ取る能力が鋭敏なまでに優れていた。
今、ヴァレリアはランサーとの感覚を共有しているが、これほどにまでに優れた聴覚と気配察知能力は聖餐杯に魂を宿していた頃の自分にも勝るとも劣らない。
――守りし者であれば例え視力を失っても、守るべきものを胸中に抱き鍛錬の基礎に還れば眼などなくとも十全に戦えます。私以上の騎士など、星の数ほどございますよ。
守りし者。魔戒騎士。人間の邪心を操り、人間の魂を糧とする魔獣ホラーから人間たちを守護する狩人。それが生前のランサーの生業であったという。
ランサーによれば、ホラーや魔戒騎士に纏わる伝承は世界各地に散らばっていたという。例えば平安時代の日本を舞台とする妖怪退治伝説の原点は、魔戒騎士とホラーの戦いであった。
そして驚くことにニーベルングの指環、ソロモンの指輪、そしてプロメテウスを拘束した指輪は全て、とある伝説のホラーによって生み出された同一のものだった。
魔戒騎士とホラーの戦いは、このように古今東西数多くの伝承に浸透しきっていたのだ。
しかしトリファのいた世界には、魔戒騎士もホラーもありはしなかった。仮に数多くの神話の起源になっているというのならば、古代遺産継承局が見逃さぬはずがない。
そもそもランサーの住んでいた世界は、地理も何もかもが異なっていた。彼の故郷であった『バゼリア王国』もまた、トリファの生まれ育った世界には存在していない。
謂わば平行世界のサーヴァントであった。ランサーの方も、魔戒騎士もホラーも存在しない世界があったことに驚嘆を隠し得なかったが。
――私や無数の先達が、その様な世界が到来することにどれほど焦がれたか……。葬者(マスター)、貴方は貴方が思っている以上に幸福なのかもしれません。
その言葉に果たして嘘偽りがあるか否かを、あの目障りにして耳障りな忌まわしい肉体を失った今となってはトリファは知る由もない。
ただし、その言葉が嘘であろうと真であろうと確かな事実が一つだけある。此度現界したランサーが嘗て人を守るために振るった刃は、その銀の肌を守るべき人間の血で染めるであろうことを。
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◆
結論から言って、今のヴァレリア・トリファのコンディションはほぼ最悪に等しかった。彼の聖遺物『黄金聖餐杯(ハイリヒ・エオロー)』を参戦に伴って置いてきてしまったのだ。
嘗てのトリファは金髪碧眼の美麗な容姿と、サーヴァントの宝具であろうと傷一つ付けられぬ無敵の肉体を有していた。それこそが黄金聖餐杯の恩恵であった。
しかしこの聖杯戦争の舞台においてトリファは、あの無敵の肉体を喪失していた。同様にあの忌まわしい本来の肉体もグラズヘイムから返還されてはいなかった。
今の彼の手元に置かれていた武器と言えば、ランサーのサーヴァントだけであった。
(トバルカインに頼らざるを得なかったリザの気持ちが、少しだけ理解できるようになりましたね……)
だが状況はリザのそれ以上に酷かった。彼女は形成位階としての戦闘力を有しているだけでなく、墓地で戦えば手駒を更に増やすことも出来た。
エイヴィヒカイトの力の源である聖遺物を喪失し、望まぬ形でただの人間になってしまった今のトリファは、リザと比べることすら烏滸がましい。
黒円卓に招かれる前の自分であれば、ありとあらゆる思念と記憶が交差することない透き通ったこの感覚に歓喜していただろう。
だがその感覚は聖餐杯となって久しかったためにとうに慣れきった。寧ろ聖餐杯の力が失われたことで、トリファの感情は悪しき方向に傾いていた。
聖餐杯を喪失し、本来であればエイヴィヒカイトなしに成し得ない渇望を中途半端に叶え、それでいて自らの贖罪の旅路は終わっていない。
クリストフ=ローエングリンの魔名を賜るに相応しい条件を悉く剥ぎ取られた凡夫に身をやつしたまま、変わらずにこの聖道を踏み出さねばならぬのだ。
(……恐ろしい)
あの日、教会に押し入った黒円卓に子どもたちを我が身惜しさに差し出すしかなかったあの日の無力感が再びトリファの下に推し掛かる。
自らの唯一最大の自信の証であったあの聖餐杯という蓋を失ったことで、今まで封じてきたあの恐怖心に飲み込まれそうになっていく。
それを示すかのようにトリファの祈る両の手に力が籠もるが悲しいかな、今の彼の両手には最早ロザリアを砕く力すら残ってはいなかった。
自分という枷が失われたことで、今頃現世において黄金の獣はグラズヘイムから解き放たれたであろう。だがそれは最早些事でしかない。
聖杯の力で全て蘇生させれば何もかも解決するだろうし、その過程でどれほどの敵を殺めようが構いやしない。
問題は自らの戦闘力がランサーに依存しきっていることであった。聖餐杯の力に守られながら現世に残った黒円卓を操った時とでは理由が違っていた。
唯一の希望と言えば、ランサーに聖杯戦争を勝ち抜く明確な意思が存在していたことである。
――私は守りし者。かけがえのない者を守るために、聖杯をどうしても掴み取る必要があるのです。
しかし、それが心の支えになり得るとは限らない。幾ら忠実な手駒を手に入れた所で、聖餐杯を喪失して再び開かれた心の穴が塞がることはないのだから。
何よりトリファは根本的に、ランサーの強さを信用してはいなかった。いや、あの時からもう、信用できる力といえばあの黄金の獣を置いて他にないのだ。
彼の振るう漆黒の槍は、どこまで行っても手負いのカラスにしかなれない。トリファの求める、白鳥の如く羽撃く黄金の槍には到底及ばない。
(トバルカインやヴァルキュリアには及ばずとも、精々ベイ以上の働きは勤めていただかないと困りますがね)
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◆
今宵もまた一人、マスターとサーヴァントがどこかで脱落した。それを示すかのように、区外のとある街が徐々に風化していく。
徐々に冥界の仲間入りを果たしていく街の中、自らが死霊と化す運命には気づかずに次々驚愕の声を上げていくNPCの声を尻目に、公道を駆け抜ける黒き物体があった。
物体は馬蹄の音を立てながら周囲の車の立てるクラクションを無視しつつある時には回避し、ある時には軽々と飛び越え、ある時には建物の壁を駆けた。
黒き物体の正体…それは黒曜石の如く混じり気のない黒紫色の甲冑の騎士と、同じく黒曜石の様な色の鋼鉄に包まれた鉄馬であった。
黒紫の甲冑の騎士が襲名せし称号は黒曜騎士ゼム…系譜の断絶と同時に消滅して久しいこの鎧をその身に纏うのは、最後のゼムの継承者であるランサーのサーヴァントであった。
彼が跨る馬の名はライメイ…魔導馬と呼ばれる使い魔の一種で、これを駆れるということが如何に彼が熟練の魔戒騎士であるのかを物語っていた。
<<申し訳ありませんランサー、マスターが脱落する可能性を察知できないまま偵察を任せたのは私の不手際です>>
彼のマスター、ヴァレリア・トリファからの念話が響き渡る。魔導輪を持たずバゼリア管轄の他の騎士との共闘の機会もなかったランサーにとって、戦闘中の会話は比較的新鮮であった。
<<いえ、寧ろ宝具の同時開帳を許可して頂いた分、感謝させていただくのは私の方です>>
宛らホラーの結界を思わせる程の濃密な陰我に囲まれつつ、ランサーのいた時代よりも遥か未来の建造物の間に開かれたアスファルトの上をライメイは疾走する。
まさかこの様な形で宝具である鎧と魔導馬を開帳することになるとは思わなかった。鎧を敢えて召還したのは、魔導馬の速度を幾ら上げても肉体に負担が掛からないようにするためであった。
冥界化が完全に完了するまでの時間は大凡10分。鎧の時間制限と魔導馬の速度を鑑みれば余りにも余裕がありすぎたが、想定外の事態故に出し惜しみする余裕はなかった。
とにかくこの冥界において他のサーヴァントに戦いを挑む猛者に接触する前に、願わくば鎧と魔導馬を他のサーヴァントに観測される前に一刻も早く冥界から抜け出さなければならない。
魔導馬を全力疾走させた甲斐あって、ランサーはどうにか冥界からの離脱に成功した。陰我の気配が突然消失したのがその証拠である。
冥界からの離脱を確認した直後、ランサーはライメイの鞍から飛び上がって鎧を解除した。自動的に弾き出された鎧からは、黒い外套を身に纏い、黒い布で両目を覆った銀髪の男が姿を現した。
銀髪の男…ランサーはそのまま上空で霊体化し、ゼムの鎧とライメイは上空に出現した円状の人工ゲートを通じて送還された。
<<どうにか冥界の離脱に成功しました>>
<<お疲れ様ですランサー。今日の所はそのまま休眠して、魔力の回復に専念しておきなさい>>
<<畏まりました>>
本日の指令…周囲の偵察を終了した後、いつも以上に消費した魔力を効率良く回復させるためにランサーは一時的に睡眠を取る。
サーヴァントとして現界して初の睡眠であった。
-
◆
あの燃え盛る宮殿と、顔を覆い隠して嘆く彼女の姿が、ランサーの生涯最後の視覚であった。しかし夢となれば話は別である。
ランサーの見た夢の中には、いつも彼女の美貌が映し出されていた。しかし今回は違った。代わりに映し出されていたのは、顔も知らぬ子どもたちの無邪気な笑顔であった。
数人以上の子どもたちとともに食卓を囲み、礼拝堂に祈り、寝室で眠る。まるで今の葬者のそれと変わらないような、暖かな日常がそこに映し出されていた。
色欲を原罪と見なす聖職者が十人以上の子供達と共同生活を営んでいる場所が孤児院であることをランサーが察するのは、そう難しいことではなかった。
(これが、ホラーのいない世界)
だがランサーのいた世界には常に、それを脅かす魔物…ホラーの脅威がそこかしこに渦巻いていた。
表面上では確かに、この映像の様な光景は極めて有り触れた日常であったのだろう。だがそれは、ランサーの様な魔戒騎士が陰でホラーを討滅してこそであった。
ホラーの脅威とは即ち、戦乱や災害の様なものであった。人々の生活を脅かし幸福を蝕み続ける、対症療法以外に解決できぬ不治の病。
古今東西の守りし者が夢見た光景がどこかの平行世界で存在し得たことが如何に幸福なのか。この当たり前の生活を鑑賞するだけでもそれを実感できた。
しかしそれは幻想であった。確かに魔獣ホラーは彼の葬者のいた世界には存在しなかった。しかし魔人は存在した。それも伝説のホラーにも匹敵しうる強さの魔人が。
それは平穏な日常に突如押し入ってきた。教会の扉からは、ランサーのいた時代よりも遥か未来の装いの四人の魔人であった。
一人は、魔導火の如く苛烈な赤い魔人だった。
一人は、ホラーと戦った伝説の狼の如く獰猛な白い魔人だった。
一人は、魔戒騎士の鎧の如く強壮な黒い魔人だった。
そしてその三人の騎士を束ねていたのは、黄金のごとく…いや、黄金そのものとすら形容できる程に耀く正真正銘の魔人であった。
その黄金の耀きと端正な容姿は確かに美しいと形容できた。だがその黄金の耀きは見ているだけでも吐き気を催させた。
嘗てランサーが対峙した黄金騎士の鎧を、眼球を失って久しいランサーは見たことはない。恐らくその鎧から発せられる色と耀きはこの魔人ときっと同じであろう。
だがその黄金の鎧には暖かみがあった。この黄金の魔人の耀きからはきっと、その暖かみと対極に位置する悪寒しか発せられないのだろう。
――十人。
――選び、指差せ。
――残りは卿のものでよい。
その魔人の囁きに、容易く夢の中の葬者は乗る。蝶よ花よと慈しんできた子どもたちの内の一人を、自らのか弱い指で指し示す。
指し示された最初の子供が、すがるような眼差しで自らを、葬者を見つめながら白い魔人によってその幼い生命を奪われる。
-
――一人。
最初の一人がその生命を絶たれた。葬者が指差した次の二人目を魔人が殺める時間は、まさに一瞬であった。
――二人。
この様な光景は、ホラーのいた世界では有り触れたものだった。自らの保身の為に他の人間を生贄に差し出す者達を、見習いであった頃からランサーは当たり前の様に眼にしてきた。
――三人。
それを責めることは出来ない。生きようとする意志を否定することなど出来ない。その生きる意志を絶やさぬ為に魔戒騎士は刃を振るっているのだから。
――四人。
――神父様、どうして、どうしてなの。
疑問と絶望に満ちた子どもたちの叫び声が聞こえてくる。嘗て魔女狩りによって迫害されたランサーの先達や同胞も、同じ様な感情を抱いていたに違いない。
教会で来客に笑顔をばら撒いていた裏で、葬者がどの様な苦しみに堪えてきたのか。傍観者という立場でありながら身に沁みる程に理解できた。せざるを得なかった。
――五人。
(嗚呼、なるほど)
ランサーは、このか弱き聖職者が自らを招き寄せた理由を確信した。彼が聖杯に望むものを瞬時に理解した。
――六人。
(葬者、貴方は私と同じだ。貴方はきっと、失われた大切な者を取り戻すために私をここに招いた)
ランサーと対峙した黄金騎士から流出したあの炎の記憶が思い浮かぶ。あの黄金騎士もまた、大切な人を守れなかった過去がある。
その黄金騎士は大切な人を守ることに背を向けた。それどころかランサーの最愛の人を見捨てるまでに至った。
――七人。
だがこの聖職者は違う。この聖杯戦争を勝ち抜く覚悟を容易く決意した。
あの黄金騎士と同様に拒絶された時のことを想定はしたが、どうやらそれは杞憂であったようだ。
――八人。
バゼリアが亡国となって以降、ランサーはたった一人で彼女を守るために戦ってきた。
しかし漸く、死して漸く、心強い同志が彼の下に現れたのだ。これほどにまで心強いことがあるだろうか。
――九人。
自分の生命すら守れない弱者が失い、取り戻せなかった者を取り戻す。
それは決して、守りし者が守るべき者からは外れていないはずだと、少なくともランサー自身はそう思い込んでいた。
(葬者、私は誓います。黒曜騎士の名に賭けて、貴方の大切な人たちを取り戻すことを)
ランサーのサーヴァント、その真名は魔戒騎士ダリオ・モントーヤ。黒曜騎士ゼムの最後の継承者。
後に彼は使徒ホラーニグラ・ヴェヌスに魅入られた末に暗黒騎士に堕ち、その果てにニグラ・ヴェヌスに取り込まれた。
――十人。
(私は二度と、サラ様を失いはしない。そして貴方にこの様な光景を、二度と見せたりはしない)
その魔戒騎士として恥ずべき末路を招いた彼の陰我が、彼の言う守りし者としての聖道そのものであったことを、彼は自覚していない。
或いは、文字通り目を瞑って逃げているだけなのかもしれない。その文字通りの盲目の騎士に、正しき方向が理解できるはずなどないのだから。
-
【CLASS】
ランサー
【真名】
ダリオ・モントーヤ@牙狼<GARO>-DIVINE FLAME-
【ステータス】
筋力D 耐久E 敏捷C 魔力E 幸運E 宝具B(通常時)
筋力B 耐久B 敏捷A 魔力C 幸運D 宝具B(鎧装着時)
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
・対魔力:B
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな物は防げない。
・騎乗:B
乗り物を乗りこなす才能。
幻獣、魔獣を除く全ての乗り物を乗りこなす。
【保有スキル】
・盲目なる騎士道:A
視界の全てを闇に覆い、愛する者しか見ることをしなかったランサーの文字通り盲目的な有り様のスキル化。
サラの誰にも顔を見られたくない想いに応えて自らの目を切り裂いており、視覚妨害を無効化する。
気配で人や物の動きを察知している。その為、気配遮断スキルを持つ者の動きを察知するのは難しい。
また、同ランクの精神汚染スキルも含まれており、同等のスキルを持たぬ者とは意思疎通が交わせない。
・烈火炎装/業火炎破:-(A)
剣と鎧に魔導火を纏わせることで戦闘力を向上させる。
効果は『魔力放出(炎)』と同等だが、どちらかと言えば魔力による炎を維持させるスキルに近い。
摩擦で点火せずとも魔導火を発することが可能なランサーは最高のAランク。
暗黒騎士に覚醒した際には名称が『業火炎破』に変化する。
・サー・ヴェヌス:A-
ランサーはニグラ・ヴェヌスに魅入られた末に暗黒騎士に堕ち、最終的には自らもヴェヌスの依代となった。
正式には不明だが、サラが憑依された直後の時点でニグラ・ヴェヌスに取り込まれているような描写も散見される。
その逸話からランサーはホラーとしての特性を覆い隠しており、暗黒騎士へと変じる能力も秘めている。
ただし、暗黒騎士でない状態ではホラーが潜伏しているのとほぼ同然の状態であるためにホラーとしての能力は発揮できない。
余談だが、別世界の暗黒騎士はこれに加えてサーヴァントを捕食する『陰我吸囚』と呼ばれるスキルを持ち合わせている。
ただしこの世界の暗黒騎士は一種の半ホラーに近い存在の域を超えることはなく、その様な能力は持ち合わせていない。
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【宝具】
『黒曜騎士・ZEM(こくようきし・ゼム)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
ランサーが継承した魔戒騎士の称号と、その証たる鎧。代々バゼリア王国をホラーより守護し続けていた、バゼリア根付きの騎士の称号。
魔戒槍で円を描いてここではないどこかより鎧を召還しその身に纏う。この時、パラメータが向上し、常人離れした戦闘力を発揮する。
槍と同様に邪気を浄化しホラーを魔界へ送還する破邪の性質を秘めているが、後述の宝具を解放した場合は無効化される。
鎧には時間制限が存在し、長時間着装していると鎧の制御が効かなくなり激痛に苛まれる。
バーサーカーのクラスで喚ばれていないため心滅の刻は訪れないが、早期に鎧を解除しないと身動きが取れない。
(※備考:アニメ版牙狼だとかなり長時間鎧を装着している描写が多く、冴島シリーズとは異なり99.9秒をオーバーしても平気かと思われます。
ただし、具体的な制限時間に関しては後続の書き手にお任せいたします)
因みに魔戒騎士のサーヴァントが召還する鎧はオリジナルとは別物であり、宝具によって再現されたものだと形容しても良い。
オリジナルのゼムの鎧は、闇に堕ちた最後の継承者が死亡したと同時に消滅し系譜も途絶えている。
『暗黒騎士・ZEM(あんこくきし・ゼム)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
陰我に塗れたランサーは、何時しかホラーの同類たる暗黒騎士に堕ちた。
内なる陰我を解き放つことで、ゼムの鎧を禁忌たる暗黒騎士の鎧へと変質させる。
この時鎧の頭部と肩パッドが展開し、全身に紫色に光るライン状の模様が出現する。
鎧の構成物質がホラーに近い性質に変化して時間制限が無制限となり、筋力と耐久に+補正が付く。
この+補正は鎧を纏わずとも機能し、熟練の魔戒騎士二人を同時に相手取れる程の戦闘力を発揮する。
魂食いに対して補正が掛かり、死霊であれば別世界に存在する"ホラー食いのホラー"の如く捕食することも可能。
尚、この宝具を一度解放すれば『黒曜騎士・ZEM』は封じられる。
『魔導馬・RAIMEI(まどうば・らいめい)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:100人
ランサーが"試練"を突破した事で得た力。
動物の死骸に獣型ホラーを封じ込めた「魔戒獣」と呼ばれる馬型の魔導具。
ランサーの意志に呼応して上空より展開される円状のゲートより召還される。
後ろ向きで爆走する、水上バイクの如く水上を走り抜くなどの変態的な芸当も可能とする。
烈火炎装/業火炎破発動時には魔導火を馬にまで点火させる事も可能。ただし、魔力はその分多く消費する。
魔界に飛び込んで移動する能力はライダークラスで喚ばれていない為失われている。
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【Weapon】
『魔戒槍』
魔戒騎士専用の槍。魔戒騎士は剣が標準装備だが、独特の得物を使う騎士の鎧も存在しており、ゼムもその内の一つ。
禄に訓練を受けていなければ持つことすらままならず、特殊な訓練を重ねた男性にしか扱えない。
槍の重さは担い手の心の在り方に左右され、時には岩の様に重く、時には羽毛のように軽い。
物理的にはクレーン車ですら持ち上げられないレベルだが、魔の特性を有する者の中には例外的に持ち上げられる者もいる。
因みにまともに持てない状態でも、羽をイメージして一時的に羽を生やして浮かばせたり、一時的に心を昂ぶらせて持ち上げる事は出来る。
ゼムの鎧装着時には十字型の槍に変化する。
『ナイフ』
投擲して使用する。多分魔戒剣と素材は同じ。投擲すれば鉄鎖を断つ程度の威力を発揮する。
『魔法衣』
一見ただのケープだが、実際は魔戒騎士が着用する特殊な服である。
パラメータ以上の耐久性をランサーに与える。具体的には暴走するモノレールから転落しても無傷で済む程度。
【人物背景】
バゼリアという小さな国が滅びゆく過程を描いた、王女と騎士の物語の主人公。
騎士としての修行に日々励んでいた青年ダリオは、修行中に偶然見かけた美しい王女サラに一目惚れする。
やがてサラもまた、バゼリア王国最強の騎士となったダリオに振り向く様になった。彼女の想いに応えられる様な、彼女を守りし者であろうとダリオは誓う。
しかし事故によりサラの美貌は焼け爛れてしまい、見るに堪えない醜い顔に変わり果ててしまったサラは発狂し王宮に火を放つ。
宮殿にいた者達は乱心した王女の手に掛けられるか逃げ惑うかの何れかになり、バゼリア王国は事実上崩壊してしまう。
だがそれでも、サラ王女がこの国ごと心中しようとするその時まで、騎士ダリオだけは彼女の側にい続けた。
――このお伽噺は、実際には人の世とは隔絶した魔戒の物語である。
サラを慕い続けた騎士ダリオの正体は、魔界より這い出て人間を喰らう邪悪なる魔獣『ホラー』を狩る『魔戒騎士』であった。
代々バゼリア王国を守護せし『黒曜騎士ゼム』の称号を受け継ぐ程の実力を身に着けたダリオだったが、そこに悲劇は襲いかかった。
寝室でサラがホラーに襲われてしまい命は助かったのだが、顔に滴り落ちたホラーの唾液により、彼女の美しい顔は溶かされてしまう。
そしてサラは上述の通り自暴自棄になって城に火を放ち、この日にバゼリアは崩壊した。
ダリオにここから立ち去るように告げるサラだったが、サラを生涯守り続けると誓ったダリオは彼女の元を離れることはなかった。
自分の醜い顔を見られたくないサラはダリオを拒絶する。しかしダリオは、サラを苦しめる己の目を自ら斬り裂き失明してでも彼女の側にい続けた。
だがダリオの想いも虚しく、サラはダリオに別れを告げて自害、その亡骸は使徒ホラー『ニグラ・ヴェヌス』に憑依されてしまう。
ダリオはサラを蘇生する方法を探す内、隣国のヴァリアンテ王国で悪政を極めた魔戒法師メンドーサが遺した魔導具『ツィルケルの環』の存在を知る。
この魔導具の力でサラの魂を呼び戻せるかもしれないと突き止めたダリオは、メンドーサの遺産を掻き集めサラを復活させることを目論む。
陰我に満ちた暗黒の道へと、その身をやつしながら。
誰に対しても丁寧語で話す、穏やかで礼儀正しい性格。
一方で一度決めた考えを曲げない頑固な一面があり、それ故にサラの側に居続けようとしたが、同時にそれが闇に堕ちる原因にもなってしまった。
愛する人を守るために戦う…その想いはサラと出会った純粋無垢な修行時代より変わってはいないし、本人も魔戒騎士の誇りを捨てたつもりはない。
しかしその使命感は極めて歪で、「愛する者を守る為に周りを犠牲にする」ことが守りし者であると魔戒騎士の使命を完全に履き違えている。
サラを蘇生させたいという想いも、自ら命を絶ったサラの意思を無視した彼自身のエゴによるものでしかない。
結局は自分のサラに対する想いだけが一杯で周りが見えておらず、否定の声も彼の耳に届くことはない。
愛する人の顔が汚れてしまう前に助けることが間に合わなかった。その悔恨こそが、今の彼の戦う理由であり陰我である。
死した者の想いを未来に繋げることなく、過去に囚われ続けるその有り様は、本来の守りし者のそれとは程遠い物であった。
【サーヴァントとしての願い】
あの頃に戻り、サラ様のお顔を取り戻す。
今度こそ、サラ様をお守りしてみせる。
【マスターへの態度】
念の為自らの本性は覆い隠しているものの、彼が自らと同じく「守りし者」の魂を有していることを確信している。
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【マスター】
ヴァレリア・トリファ@Dies irae-Amantes amentes-
【マスターとしての願い】
獣の牙城に変えられた人間全ての蘇生。
【Weapon】
『黄金聖餐杯(ハイリヒ・エオロー)』→×
ヴァレリアが保有していた聖遺物。黄金の獣ことラインハルト・ハイドリヒの肉体。
ベルリンで無数の魂を喰らいつくしたラインハルトの肉体は、やがて聖遺物としての性質を獲得するにまで至った。
ヴァレリアは「他人になりたい」という渇望によりラインハルトの肉体に自らの魂を移し替えていた。
――しかし、参戦に当たって魂のみが引っこ抜かれたことで、聖餐杯の力は失われている。
【能力・技能】
・サイコメトリー→×
他人の精神を感知し、中身を読み取る。生まれつきの異能。
魂の痕跡や残留思念を読み取る事もできるらしく、以前はこの能力で聖遺物を探すことを任されていた。
この為、物体からも残留思念が声となって喧しく聞こえる様になってしまっている。
ただし、精神感応能力を持った肉体は冥界に招かれるに当たって獣の牙城に置きっぱなしにしており、今は使えない。
・話術
嘗てサイコメトリーを手にしたヴァレリアにとって、人の心とは手に取るように扱える。
他人の本質を理解し、思うように煽り立てることが可能。一番話を聞いちゃいけないタイプ。
また、一応は神父なのでカウンセリングもお手の物。
・エイヴィヒカイト→×
水銀の蛇が生み出した、永劫回帰を破壊するための術。常人以上の身体能力と感覚を手にする。
ただしヴァレリアの場合、エイヴィヒカイトの核となる聖遺物が失われた為、エイヴィヒカイトとしての力は発揮できない。
・体術
黒円卓に所属する元将校から教わった物。
聖餐杯を借りていた頃は掌打とかをよく使っていた。
【人物背景】
魔人の軍団・聖槍十三騎士団黒円卓が第三位の席に座る黄金の獣の爪牙の一人。魔名はクリストフ=ローエングリン。
生まれつき魂を感知する能力を持ち合わせており、本人曰く「石がラジオに、人間が本の様に感じられる」様な感覚に日々苦しめられていた。
苦痛から逃れ救いを求めるかのように入信し東方正教会の神父になるも、あくるベルリンの夜で黄金の獣に魅せられ、黒円卓に入団。
しかし、日に日に増していく黒円卓の狂気に怯えたヴァレリアは逃げ出し、孤児院を立てて三ヶ月間、平穏な日々を過ごしたが……
その平穏がいつまでも続くはずもなく、孤児院に黄金の獣と側に仕える三騎士が入り込み、ヴァレリアは孤児院の子供を十人ずつ選ばさせられ、殺させられた。
殺された子どもたちは黄金の牙城の一部となり、ヴァレリアは子供たちを助けるべく、黒円卓に入る。
前述の境遇から「他人の肉体が欲しい」という渇望を持っており、これにより獣の肉体を借り受け、首領代行として現世の黒円卓を指揮する役割を請け負っている。
一見温厚かつ思慮深い性格だが、多くの心を覗いてきたせいで人格が半ば分裂していることや、前述の過去もあって精神が破綻している。
子供達を救うことで罪を贖う為、無関係の人間を次々と虐殺しているが、その生贄も子供達同様多数の人間を生贄に捧げて生き返らせるつもりらしい。
要するに殺して生き返らせて殺して生き返らせて殺して(以下無間ループ)を繰り返すことで皆を救おうとしている。
これでも本人はあくまで『屍を踏み越えることで前に進んでいる』つもりでいるが、傍から見れば殺戮を繰り返す形で逃避しているだけなのには全く気づいていない。
他人の精神と常に隣り合わせの日々を送ってきたため、腹の探り合いには大変強い。この為黒円卓団員からは副首領の次に警戒されている。
聖杯戦争の舞台に送られるに当たって、黄金の獣の肉体は牙城に返還されている。
その為、本来の肉体と同じ姿で参戦する形となっているが、本来の肉体もまた獣の牙城に取り残されている為、サイコメトリーも使えない。
聖餐杯という心の拠り所を失っているせいで内心ヘタれている。
【方針】
情報収集に専念する。聖杯戦争の舞台ではカウンセリングに長けた神父として知られているのでその立場を利用する。
より効率良く隠密に魂食いが可能な手段を解明し次第、ランサーにはNPCの魂を捕食させる。
【サーヴァントへの態度】
今のところ有効な手駒であるとは考えていても、その強さを過信してはいない。
具体的に言えば自分と同様に現世に居残った他の黒円卓達に毛が生えた程度の強さとしか考えていない。
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投下を終了します。
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初心者の自分も参加して大丈夫ですかね?
下手ですけどごめんなさい、参加させていただきますね。
投稿します
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私はとある夢を見た。それはある女の子の夢
『いつまでも、一緒にいるよと誓った』
『誓えたことが幸せだった』
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ごめんなさい!いきなり間違いました。
やり直すします。
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私はとある夢を見た。それはとある女の子の夢。
『いつまでも、一緒にいるよと誓った』
『誓えたことが、幸せだった』
『』
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『この人のことが、好きだなと思った』
『思えたことが、幸せだった』
『幸せにしてやると、言ってもらえた』
『言ってもらえたことが、幸せだった』
『こんなにもたくさんの幸せを、あの人にわけてもらえた』
『だから、きっとーーーーー』
「今の私は、誰が何と言うおと、世界で一番、幸せな女の子だ!」
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「あれはクトリちゃんの記憶……?」
彼女の名前は衛藤可奈美。この聖杯戦争の参加者である。どうやら彼女は自分のサーヴァントの夢を見たらしい。
「クトリちゃんは幸せだったのかな……?」
可奈美はそんなことを考えていた。
「私は幸せだったわよ」
「クトリちゃん……!」
そこに現れたのは可奈美のサーヴァントである。
クトリ・ノタ・
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そこに現れたのは可奈美のサーヴァントである。
クトリ・ノタ・セニオリスである。
「私は自分の最後に後悔はしてないし、私はあの人と出会えて幸せだったから。」
「クトリちゃんはその人のことが……」
「好きだったわよ。もう一度会えるなら……ありがとうって伝えたいかな?」
「そっか……」
クトリの話を聞いて少し暗い顔をする可奈美。
「私のことは気にしなくていいわよ。私は幸せだったから、だから聖杯には興味ないし、君の思うように行動すればいいのよ」
「ありがとう……クトリちゃん!」
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【クラス】
セイバー
【真名】
クトリ・ノタ・セニオリス
【ステータス】
筋力B 耐久B 毎塔B 魔力A 幸運C 宝具A
【属性】
善・中立
【クラススキル】
対魔力 A
騎乗A
【保有スキル】
単独行動 A
獣殺しA
戦闘続行A
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【宝具】
『セニオリス』
ランクA 種別対人宝具 レンジ1〜100 最大補足1000人
クトリの愛剣。最強の聖剣の人振り
あらゆる伝説を打ち立てた聖剣
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【クトリ】
ランクA 種別対人宝具 レンジ1〜100 最大補足1000人
彼女の思いが宝具になったもの。自分の全てのステータスを最大に上げて、敵を殲滅する。
この宝具を使うと彼女の髪色は赤色に変化する
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【人物背景】
妖精兵と呼ばれる少女。聖剣セニオリスの適合者でもある。本来の彼女は妖精兵として死ぬ運命だったがヴィレムという青年と出会い、反発しながらもお互いに相手のことを好きになり生きたと思うようになる。だが彼女は最後は妖精兵としてみんなを守るために戦い、ヴィレムに感謝の言葉を残し死亡する
-
【サーヴァントとしての願い】
特になし。もう彼女の願い叶っているから。
ただもう一度だけヴィレムに会えるならありがとうと伝えたい。
【マスターへの態度】
マスターを最後まで守る
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【マスター】
衛藤可奈美 刀使ノ巫女
【能力・技能】
刀使としての能力。剣術を得意としている
【人物背景】
荒魂と呼ばれる存在から人々を守る刀使の少女。
明るい性格で友達が多く、かなりの剣術オタク。
十条姫和と出会い、とある事件に巻き込まれいく。参戦時期はアニメ完結後。
【方針】
聖杯戦争を止める。誰も死なせない。
【サーヴァントへの態度】
信頼できるサーヴァント。それと手合わせしたい。
サーヴァントは終末なにしてますか?忙しいですか?救ってもらっていいですか?です
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投稿終了です。システム障害が起きて同じセリフとか間違って投稿してしまいした。そこは削除お願いしても大丈夫ですか?すいません。
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投下します
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銃声が二つなった。
その弾丸は直線ではない。
まるで舞踏会(ディスコ)の光体(ミラーボール)のように蠢く。
護衛の雑魚(チンピラ)は一人一人、死角から撃ち殺されていく。
男は畏怖した、東京一帯の半グレをまとめ上げる帝王、そして、冥界下りの一人として選ばれた男。
積み上げられた自信が壊されたのは、部下の死だけではない。
己のサーヴァントが牙を向いたことだ。
忠実だったアーチャーが、己と牙を剥いていく。
そして、男は何か手段をとれるわけでもなく、絶命した。
あとに残ったのは、男と、サーヴァントらしき少女だけだった。
◆
東京都某所ショッピングモール
都市型のコンパクトなその施設の駐車場から、一代の車が出てくる。
いかにも、その手の雰囲気を出している黒塗りの高級車は、そのまま最寄りの首都高のICに入場する。
「良かったっしょ、サーヴァントの身とはいえ、お前はまだ稚児(ガキ)なんだぜ?」
「別にいいのに」
男、殺島飛露鬼は、助手席の少女へと話しかける。
少女から出る雰囲気は、退廃的な、すべてを終わらせたような雰囲。
「私、悪い子だから」
「オイオイ?英霊な以上、天寿は全うしてんだろ?一回ぐらい、幸運(ラッキー)なことあったんじゃねぇか?」
「そんなこと…無いよ…」
やれやれと、殺島がバックミラーを見る。
後ろ白色のバンの動きがおかしい。
俗にゆうあおり運転と言う奴だろう。
「やれやれ…せっかくの仕事帰りだってのに…気分わりーぜ…」
「どうするの?」
「キャスターは何もしなくていいぜ、俺が始末する。」
窓を開け、球を装填する。
「それじゃ、良い旅を(ボンボヤージュ)」
夜空の首都高に、弾丸が踊りだす。
踊りの終末(エンド)は、弾丸がガソリン部に当たり、大爆発、あとに残るのは燃えた車の破片と人の燃えカス。
「で、叶える願いは決まったの?」
「…まだだな…どうも…頭に出てこねぇ…」
「そう、分かった」
「ゆっくり決めてくぜ、キャスター…俺たちの…勝利のために」
夜の首都高、走る黒塗りの高級車。
そこに乗るキャスター、敷島羽鳥。
夜の冥界の月に照らされていた。
◆
(どうしようも…ねぇんだよな…俺の願い…)
殺島はこころの中でぼやく。
(せっかくアイツラとももう一回会えると思ったのに…たっく…死に損見てぇなもんだな…)
あの日、俺は間違えなく忍者の稚児(ガキ)に首を跳ねられ、死んだはずだ。
でもここに生きている。
(しょうがねぇ…やりたくもねぇし…さっさと聖杯に頼んで死なせてもらうか…)
夢は尽きた、聖華天との奴らとも暴れまくった。
俺にもう杭はない。
(死に戦…てっのも変だな、死にてぇけど、男として、わざと負けるマネはしねぇ、キャスターにも悪いし…)
不退転の覚悟は決められた、再び、心のエンジンを蒸す。
(さて…たった二人の共同戦線…やってやるか…)
男、殺島飛露鬼――天寿全うのため――出発(テンパツ)。
-
【CLASS】キャスター
【真名】敷島羽鳥@アリスと蔵六
【ステータス】
筋力D 耐久E 敏捷C 魔力A++ 幸運D 宝具A
【属性】中立・中庸
【クラススキル】
陣地作成:D
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
”結界”の形成が可能。
道具作成:―
このサーヴァントは道具作成のスキルを持たない
【保有スキル】
魔力保持:A
魔力の蓄え方を知っていることを表すスキル。
膨大魔力を、素の魔力量より蓄えられる。
魔力活用:C
魔力の使い方を知っていることを表すスキル。
宝具を通常の魔力より低い値で使える
【宝具】
『アリスの夢・支配の形』
ランク:A 種別:対城宝具 レンジ:1〜??? 最大捕捉:1〜???
女性に与えられる特殊能力、アリスの夢。
「人々から意思を奪い、奴隷のようにする力」を行使する。
1区を纒める力を持ち、本聖杯戦争においては、サーヴァント一人から区全体まで、幅広く扱えるよう、仕組みが整えられた。
【weapon】
『アリスの夢・支配の形』
【人物背景】
自分の失敗により、過ちより立ち直れなくなった少女。
その後立ち直るはずだが、本聖杯戦争においては立ち直る前の状態での霊基で参戦した。
…そもそも、武器が宝具頼りであるため、サーヴァントとして選ばれることも滅多にない。
しかし、上記のスキルと元からの魔力の高さもあり、宝具を連続で使用出来るよう、改造されている。
【サーヴァントとしての願い】
すべてを――やり直す
【マスターへの態度】
悪く無い…かな…少しおせっかいかも。
【マスター】殺島飛露鬼@忍者と極道
【マスターとしての願い】
天寿する
【能力・技能】
極道技工(ごくどうスキル)「狂弾舞踏会(ピストルディスコ)」
自身の拳銃から放たれる銃弾を、跳弾に変える能力を持つ。
ただ、それだけなのだが、殺島は高い技能でこれを習得することによって、幹部クラスとなっている。
――もちろん、それは理由の補足的なものであり、本当の理由では無いのだが。
【人物背景】
破壊の八極道の一人、大人になれなかった大人。
一様、極道の組長のロールを持っている。
【方針】
人材を活かしてサーヴァントを殲滅、聖杯に死を叶えてもらう。
…死人が出る幕なんて、無いんだよ。
【サーヴァントへの態度】
幼い稚児(ガキ)だ、サーヴァントとしても戦ってもらうが、しっかり世話してやらねぇとな…
…花奈も成長したらこうだったのかもしれないな…って、未練タラタラじゃねぇか俺…
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投下終了です
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投下します
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「どういうことですか!?天使様!」
聖杯戦争の舞台に呼ばれてから数日が経過して。
マスターの一人である冒険者、ベル・クラネルは、自身のサーヴァントに対して抗議の言葉を投げかけていた。
「言った通りだよベルくん。君はどこかに身を隠していたまえ。戦いは僕が引き受ける。君は魔力さえ提供してくれればいい」
対するサーヴァント…セイバー。
仮の名としてユーリィ・L・神条を名乗り、真名を大天使ウリエルというその存在がマスターに投げかけた言葉。
それは一言で言えば「一人で戦うからすっこんでろ」ということであった。
「元々聖杯戦争というものはマスターがサーヴァントという使い魔に戦わせて行われるものだ。マスターである君が戦う必要はない」
「確かに僕はまだレベル2で、弱いですけど!それでも、後方支援ぐらいは…!」
「不要だ、僕は一人で戦う。君がそばにいると迷惑だ」
冷たく、ユーリィはベルの言葉を切り捨てる。
しかし、ベルも退かない。
「…やっぱりおかしいですよ天使様。僕に戦わせないってだけならまだ分かります。だけどサーヴァントはマスターを守るものなんですよね?それならなおさら、僕に身を隠させて遠くに追いやる必要はない。むしろ一緒に行動するのが定石なんじゃないですか」
ベルの指摘に、ユーリィはチッと苛立たし気に舌打ちする。
ベルの言う通り、サーヴァントにはマスターが必要なのだから、霊体化してマスターの側にいるのが普通だ。
実際、ここ数日の探索中はずっとそうしていた。
それなのに、ここに来てユーリィは一人で行動してベルには身を隠せと要求してきた。
「本当のことを言ってください天使様。どうして僕のことを、遠ざけようとするんです」
「…君に、ここの戦いを見せたくはないんだ」
ベルの必死の眼差しに根負けし、ユーリィは白状する。
「ベルくん。僕は天使として、多くの人間を天界からみて来た。現世の人間は、産まれた頃はみんないい子なんだ。だけど、そんなやさしい人間もいずれ、真っ白な心を黒く染めてしまう…」
みんなと合わせなければ。
みんなもやってるし。
そうした心が人を黒く染めていく。
暴力、差別、いじめ、戦争、事故、災害。
本来悲しまなくていい人間が黒く染まっていく。
そんな光景を、ユーリィは何千年も見てきた。
ユーリィは、ベルを見つめる。
その眼差しは、とても優しいものだった。
「ベルくん、僕は君を尊敬している。この年齢でここまで魂が清らかな人間というのは、すごく珍しい。君は、あの子と同じくらい、貴重な人間だ」
「そ、そんな…僕はそんな…」
「だからこそ!君には見せたくないんだ!聖杯戦争などという悪意が渦巻くこの場所で!人間が持つ醜い欲望を!黒い感情を!君のような人間が黒く染められてしまうことが…僕には耐えられない!」
-
涙ながらに訴えるユーリィ。
ベルは戸惑いつつも、しかし彼に対し言葉をかける。
「天使様のいうこと、少しは分かります。この世は理不尽なことが溢れてるし、嫌な人間だっている」
仲間を守るためという理由があったとはいえ、他のファミリアに大量のモンスターを押し付けられたこともあった。
嫉妬から悪意をぶつけてくる人間もいた。
いい人ばかりじゃないことは、ベルも知っている。
そしてこの場は、願いを求めて他者を蹴落とす聖杯戦争。
きっと今の自分には想像もつかないような悪意を持つ者だっているかもしれない。
「だけど、僕は…逃げたくない」
思い出すのは5階層でミノタウロスに襲われた時のこと。
あの時の自分は、ただ逃げることしかできず、アイズさんの助けがなければ死んでいた。
「僕には…願いがある!憧憬のあの人に追いつきたいっていう、目的がある!」
あの時助けられた金髪の少女。
彼女に追いつくには、並大抵の努力では足りない。
強さが、必要なのだ。
腕力だけではない。
どんな困難にも立ち向かえる、心の強さが。
「だから、その目的を果たすためにも!僕は、この現実から目を逸らしたくない!あの時みたいに…逃げたくないんだ!」
ベルはその場に正座で腰を下ろし、頭を地面まで下げた。
いわゆる、土下座というやつだ。
「お願いします天使様!僕を、一緒に戦わせてください!僕を、ベル・クラネルを……逃げ腰の臆病者にさせないでください!」
「ベルくん…」
土下座で頼み込んでくるベルの姿を、ユーリィはしばし呆然と見ていた。
そして、諦めたようにフッと苦笑した。
「全く…天子くんといい、君といい…僕が好きになる人間ってのはどいつもこいつも強情っぱりだなあ」
「天使様…お願いします」
「顔を上げてくれ、ベルくん。僕が悪かったよ。これまで通り、共に行動し…そして、共に戦おう」
「!…はい!」
顔を上げて涙ながらに返事をするベルを見て。
泣き虫なところもそっくりだなあと、ユーリィは思った。
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【CLASS】セイバー
【真名】大天使ウリエル@ウソツキ!ゴクオーくん
【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷B 魔力A 幸運A 宝具B
【属性】秩序・善
【クラススキル】
対魔力:B
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。
単独行動:A
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
Aランクは1週間は現界可能。
【保有スキル】
キセキ:A
地獄に縁を持つ者、聖属性を弱点とする者に対して特効効果を持つ。
ウロボロス:B
ペットであるヘビバトを真の姿「ウロボロス」に変化させ召喚する。
普段は首にマフラーのように巻いている。
【宝具】
『ヘブンSドア』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:1〜20
周囲にいる者を10分間、天国へ送り込む。
この宝具使用中、自身の全ステータスが一段階上昇。
送り込まれたものは自らの願望を具現化した幻覚を見せられ、宝具効果終了時まで生き残っていた場合は地獄に堕ちて閻魔大王に舌を抜かれる幻覚を見せられる。(本当に舌を抜かれたり、ウソをつけない舌を授けられたりとかはしない)
【weapon】
ウイングクロス
【人物背景】
大天使として多くの人間を見てきた彼は、現世で黒に染まっていく人間に絶望し、救おうとした。
黒くなってしまう前に、人間をやめさせようとした。
しかし、宿敵の手により計画は失敗し、救おうとした人間によって逆に救われた彼は、再び人間を信じ、現世に負けず、強く生きることを願った。
【サーヴァントとしての願い】
全ての人間に充分なキセキが行き届く世界を作りたい。
ただし、マスターの守護が第一で、執着するつもりはない。
【マスターへの態度】
彼のような清らかな心を持つ人間を失わせてはならない。
命は勿論、その心も守ってみせる。
【マスター】ベル・クラネル@ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか
【マスターとしての願い】
聖杯を使って願いを叶えるつもりはない。
ただ、手に入るなら願いを持つユーリィに使ってほしいとは思う。
【能力・技能】
「ナイフ術」
憧憬の相手との特訓により磨かれたナイフによる戦闘能力
「憧憬一途(リアリス・フレーゼ)」
相手の懸想に比例して成長する。
分かりやすく言えば好きな相手への想いを強めるほどにステイタスの成長が早くなり上限を限界突破する。
ちなみにステイタスの更新については契約を交わした神、ヘスティアが必要であるが、この聖杯戦争中は使役したサーヴァントも更新作業が可能。
「ファイアボルト」
無詠唱で放つ炎雷の魔法。
「英雄願望」
チャージすることによって必殺技の威力を上げる。
このベルはレベル2なので最大チャージ時間は3分。
【人物背景】
冒険者として新米の少年は、一人の少女に助けられ、彼女に並び立てる存在になるべく強くなると決めた。
そしてそれを機に彼は著しい成長を遂げ、わずか1か月半でレベル2へのランクアップを果たし、史上最速兎(レコードホルダー)の称号を手にした。
なお彼の参戦時期は5巻(アニメ1期終了直後)である。
【方針】
なるべく犠牲を出さずに元の世界に帰る。
【サーヴァントへの態度】
過保護な所もあるけど、優しい人。
神様みたいな存在なので、畏れ多さも感じる。
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投下終了です
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投下します。
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◆◇◆◇
あの日からずっと、風は“死の匂い”を運んでくる。
鉄の匂い。汗の匂い。ガソリンの匂い。革と布の匂い。
密閉された操縦席の中で、草臥れた嗅覚を撫でるもの。
熱と共に入り混じった数多の匂いが、不愉快なまでに脳を刺激する。
そのすべてが戦争の匂いであり、地獄へと誘う死の匂いだった。
風を切る音が、操縦席の窓を打ち付けるように幾度となく木霊する。
回転するプロペラやエンジンの音が、けたたましく響き渡る。
戦闘機――模擬戦で幾度となく操った“零戦”は、身体のように馴染む。
だというのに、操縦桿を握る手は強張ったまま鎮まらない。
見開いた両眼は、焦燥と動揺に震えたまま収まらない。
空を超えて、雲の彼方――。
天と地に広がる、一面の蒼色。
空と海が同時に存在する、上空の世界。
憔悴しきった魂が、無骨な鉄屑によって飛翔し続ける。
このまま、彼方へと逃げ出せるのではないかと。
そんな錯覚さえも抱いてしまう、青色の世界。
しかし、肉体と魂は、重力に引かれ続ける。
己の業を責め立てるように、心は苛まれる。
逃げ場などないと、誰かが囁いてくる。
感情は、あべこべになる。
恐怖と後悔が、綯い交ぜになる。
この鉄の空間の中で、この青い空と青い海の狭間で。
一人の青年は、背負わされた“大和魂”をかなぐり捨てていく。
それが共に戦う仲間達への背信であると、理解しながら。
――“生きて帰ってきてください”。
母から託された祈りが、己の拠り所だった。
生きてこそ。生きていれば。家族のもとへ、帰ることができれば。
その果てに何かを得られるのだと、今は信じるしかなかった。
そうしなければ、きっと全てが崩れ落ちてしまうから。
空と海は、果てしなく広がる。
無限に続く、冥府への道のように。
飛び続けた先に、何があるのかなど。
彼はまだ、知る由もない。
敷島 浩一。
大日本帝国軍、海軍航空隊の少尉。
彼は、“死のにおい”に呪われる。
彼の“戦争”は、まだ終わらない。
◆
-
◆
風はいつだって、“死の匂い”を運んでくる。
過去の罪も、業も、終わることはない。
そう告げるかのように、それは無慈悲に吹き抜けていく。
灰色の記憶が、回転する。
万華鏡のように、鮮明に切り替わる。
日本。東京。戦禍を乗り越え、復興の道を進まんとしていた都市。
百貨店に象徴される銀座の街は、焦土と化していた。
“キノコ雲”が、空高くへと立ち昇る。
破滅を齎す原子の乱雲が、朱色の空を穿つ。
風は漆のように、天を深い黒色に染めていく。
怒りも、哀しみも、降り注ぐ死の雨が全てを洗い流す――。
放射能。死の灰。汚染雨。
原子の穢れが、この大地を覆い尽くす。
悍しい咆哮が、響き渡った。
全てを踏み躙った“漆黒の怪獣”が、天へと向かって叫んだのだ。
まるで聳え立つ巨塔のように、廃墟の地に君臨する。
蝕まれた空のように黒く大きな影を、ただ茫然と見上げていた。
――呉爾羅(ゴジラ)。荒神は、その名を冠する。
黒き荒神の齎した暴風は、傍にいた“彼女”の命を奪っていった。
身を挺して自分を庇い、そして“彼女”は命を蝕む爆熱に飲み込まれた。
己はただ、眼前でその顛末を眺めることしかできなかった。
戦争に負けたこの国で。荒れ果てたこの世界で。
帰る場所も、帰る家族も、大義さえも失ってしまった。
あの戦争を体験した苦悩と、仲間達を差し置いて生き長らえた己への後悔は、癒えることはなかった。
その失意の中で“彼女”と出会い、“彼女”に支えられながら己を保ってきた。
此処に居る己自身を信じられなかった“俺”を、“彼女”は必死に繋ぎ止めてくれた。
生き残ってしまった自分は、幸福になる資格などあるのか。
恐怖に打ち克てなかった己に、前を向くことなど赦されるのか。
その答えを導き出すことは、できなかったが。
それでも、“彼女”の温もりだけは――確かに其処に在った。
そう、在ったのだ。
荒れ狂う凶つ風は、何の慈悲もなく。
“彼女”さえも、死の世界へと巻き込んでいく。
-
苦痛も、悲壮も、憎悪も、絶望も。
全てが綯い交ぜになり、心を食らい尽くていく。
身体を掻き毟る感情が、途方もない無力感と化していく。
また、自分だけが生き残ってしまった。
――生き延びてしまったのだ。
喉から零れ出るものは、叫びだった。
空を仰ぎ。雨を仰ぎ。黒き影を仰ぎ。
この手が何にも届かぬ絶望を、むざむざと思い知り。
そして己の激情の全てを、慟哭と共に吐き出した。
何かを奪われ、喪って、ただ独りで取り残される。
何も得られず、何も救われず、逃れられぬ悪夢だけが其処に在り続ける。
所詮それが己の宿命であると、突きつけられるかのようだった。
生きていく道標さえ見失ったまま、灰塵の中を彷徨い往く。
まるで影法師のように、魂は揺らぎ続ける。
己が払わねばならなかった代償を、直視させられる。
屍の山を乗り越えたまま、何も清算などできなかった。
あの零戦に乗って、大戸島へと落ち延びた時から。
咎を背負い続ける宿命に、魂を絡め取られていたのだろう。
撃てなかった。戦えもしなかった。何も守れやしなかった。
そして今、その罪が“化身”として立ちはだかる。
“俺”の戦争は、まだ終わらない。
終わるはずが、なかったのだ。
これまでも――これからも。
背負ってしまった呪縛は、今もなお牙を突き立ててくる。
黒く蠢く巨影と化した悪夢が、破滅の慟哭を轟かせる。
◆◇◆◇
-
◆◇◆◇
これは夢か、幻想か。
その答えは分からなかった。
しかし敷島は、確かにその情景を知覚していた。
荒れ果てた大地に、一輪の花が咲いていた。
乾いた砂漠に、それは孤独に佇んでいた。
周囲に咲いていた他の花々を蝕み、枯れ果てさせて。
そのチューリップは、生き長らえていた。
煤けた色の世界が、茫然と広がる。
焦土にも似た情景が、視界を覆い尽くす。
その中に一つだけ、忽然と存在する花。
命を渇望し、生きることを望み、犠牲を払い。
赤い花弁は、血のように鮮明な姿を保ち続けていた。
それは冥王のようにおぞましく、力強く――。
敷島は、見知らぬ光景を認識していた。
荒涼とした世界に生き抜く花を、その双眸で見つめていた。
罪と業を背負うように、チューリップは咲き続ける。
あの戦争を生き延びてしまった、己と同じのように。
数々の犠牲を払いながら生にしがみつく、自分の姿が其処にあった。
ああ、今になって振り返れば。
これが自分にとって、“聖杯戦争”の始まりだったのだろうと。
敷島は、ただ呆然と確信していた。
◆◇◆◇
-
◆◇◆◇
風は運ぶ。“死の匂い”を。
荒れ狂うような、“憎しみの気配”を。
聖杯戦争。冥界に導かれた“葬者”達による、生還と願望を賭けた闘争。
たった一つの座席を巡って争う、血と殺戮の舞台。
あの銀座の惨劇を経て、己はこの世界に招かれた。
御伽話か、あるいは神話の物語か。一変した状況に、戸惑いを抱いた。
それでも敷島は、己の頭に刻まれた“聖杯戦争の知識”によって、その現実を受け止めざるを得なかった。
全てを喪い、地の獄へと堕ち、そして再び“戦争”を突きつけられる。
まるで宿命のように訪れた顛末に、敷島は諦観のような思いを抱いた。
生きて、どうする。
希望を探して、何になる。
どうせ己に、幸福の権利などないのに。
“大石典子”に応えられず、彼女さえも喪った。
敷島の胸に込み上げるのは、虚無だけだった。
己の未来に、願望など見出せない。
だから、このまま去ることも考えた。
聖杯戦争を放棄し、全てを諦めることも思った。
己の荷物を投げ出し、命を差し出しても構わない。
そう思うほどに、敷島は打ちのめされていた。
――それでも彼は、あの日に出会った。
東京の西端、奥多摩と呼ばれる山岳地帯。
人など寄り付かぬ、真夜中の森と峠。
月明かりと星空にのみ照らされる、神秘の世界。
文明が広がる大都市の片隅に残された、自然の原風景。
川の流れは、夜の暗がりの中でも変わらない。
その闇の向こう側に、敷島は導かれた。
そして彼は、猛り狂う“嵐”を見た。
風が運ぶ“死のにおい”を感じ取った。
断崖のような道路。
ガードレールに手を添えて、敷島は宙を見上げた。
眼前に広がる、暗がりの風景の中。
聳える山の遠い彼方で、“嵐”が巻き起こっていた。
――暴風。崩落。破砕。激動。
まるであの戦争にも似た、禍いの気配。
全てを飲み込む音が、この距離からでも耳に届いた。
星明かりのみが道標となった暗闇の世界でも、それは視界に入った。
巨大な“竜巻”が、天を貫いていた。
けたたましい音を鳴らしながら、それは吹き荒れていた。
激しく風を切り、山を抉り、空をも黒く染めていた。
荒れ狂う巨柱は、あらゆるものを破壊しながら進撃する。
-
敷島は、確かに感じていた。
その竜巻の中で巻き起こる、熾烈な闘争を。
遠方に佇んでいるにも関わらず、まるで第六感のように。
西洋の騎士にも似た姿の剣士が、嵐へと向かって翔んでいた。
山岳の大地を蹴る勢いのままに、数百メールもの上空へと飛び立っていた。
そうして暴風を剣で断ち切りながら、竜巻の中心に存在する“黒い影”へと肉薄していく。
人知を超えた存在は、雄叫びを上げながら空中での戦闘を繰り広げる。
それは、聖杯戦争。サーヴァントと呼ばれる英霊同士の闘争。
この地に招かれ、敷島は初めて死戦を察知することになる。
ああ――これは、何だ。
敷島は、その騎士が対峙する“黒い影”を感じていた。
天地を揺るがし、吹き荒れる竜巻を巻き起こす“破壊の巨影”。
全てを飲み込み、粉砕し、それは狂乱していた。
二本の角を持つ影は、恐るべき悪魔や死の神のようだった。
巨躯を持った“黒い影”が、嵐の中心で咆哮する。
迫る騎士の放つ剣技を、まるで寄せ付けることもなく。
その漆黒の肉体から放たれる暴威が、猛き騎士を打ちのめしていく。
拳の一撃が、騎士の甲冑を打ち砕く。
振るわれる剛脚が、騎士の肉体を叩き潰していく。
超人的な剣術と、超常的な異能で応戦を試みる騎士。
されど天を穿つように放たれた閃光さえも、黒き肉体を傷つけることは叶わず。
そのまま騎士は、成す術もなく巨影の暴威に曝され続ける。
嬲る、嬲る、嬲る、嬲る、嬲る――。
次々に繰り出される質量の打撃。
圧倒的な力による蹂躙の連続。
黒腕も、黒脚も――頭部の双角も、全てが凶器と化す。
行使される全ての熱量が、敵を無慈悲に捻じ伏せていく。
叫ぶ。“黒い影”は、無我夢中に吠え続ける。
騎士を肉塊へと変えながら、咆哮を轟かせる。
“死の匂い”が、壮絶な嵐の中で迸る。
-
敷島は、その死闘を遠方から知覚していた。
まるで目の前で起こっている出来事のように。
それが身近な事象であるかのように、感じ取っていた。
黒い巨躯。猛り狂う暴威。
全てを蹂躙する、果てなき災厄。
罪と業の化身の如く、それは現れる。
まるで、あの荒神のようだった。
大戸島に出現し、本土への上陸を果たし、その力によって全てを踏み躙った“禍い”。
巨影。黒竜。怪獣――破壊の化身、ゴジラ。
荒れ狂う神の姿を、敷島は“騎士を蹂躙した黒い影”に見出した。
それが己のサーヴァントであることを、既に理解していた。
バーサーカー。理性を奪われ戦い続ける、狂戦士のクラス。
あのゴジラは、まるで戦争という惨劇を祟るように現れた。
戦火で踏み荒らされた世界に憤るように、人間を激しく攻撃した。
そして、黒い影――バーサーカーもまた、その内奥に“意志”を宿していた。
叫び声が木霊する。咆哮が轟き渡る。
“死の匂い”を運ぶ風の中心で、黒き狂戦士は吠え続ける。
まるで、怒りを放つように。憎しみを絞り出すように。
――苦痛と悲しみに、苛まれるかのように。
負の感情が、嵐と共に吹き荒れていく。
その絶叫は、慟哭にも似ていた。
銀座の惨劇。黒い雨の下で泣き叫んだ、あの日の己と同じように。
黒き狂戦士は、悲嘆のような叫びを轟かせていく。
自らが背負う悪夢に苦しむように、彼は狂乱を繰り返す。
それは、嗚咽だった。
自らを蝕む憎悪に悶える、哀れな叫びだった。
罪と業を託され、狂気に駆られ、ただ突き動かされる。
敷島はその姿に、哀しみを抱いた。
ああ、お前も。
悪夢を背負っているのか。
“死の匂い”に、囚われているのか。
そうして敷島は、“戦う力”を手にした。
己の存在をこの地に繋ぎ止める“慟哭”を、その胸に深く刻み込まれた。
◆
『西欧の古き神々、“死の神”には角が付いていた』
『戦士の魂を奪う狩人、ハーンは“角の王”と呼ばれた』
『ギリシャ神話においては、冥界の王ハデス』
『あるいはローマ神話においても、角を持つ冥王がいた』
◆
-
◆
気の遠くなるような、空の下だった。
雲一つない晴天。蒼が澄み渡って、世界を覆い尽くす。
朱色に輝く太陽が、世界を照らし続ける。
聳え立つ無数のビルが、地上を見下ろす。
文明が広がる。繁栄が謳われる。少なくともこの世界の表側で、“平和”は成就していた。
そうして果てなく広がる情景の全てが、敷島にとっては未知のものだった。
ここが冥府の底であることにも気付かず。
記憶によって作られた、偽りの世界であることも知らず。
ましてや戦争の只中であることなど、知る由もなく。
日々を生きる大衆――住人達は、大都市の繁華街を行き交う。
灰色のコンクリートで塗装された道に、無数の足音が響く。
東京都中央区、銀座。戦前以来の百貨店が建つ、都内有数の大都市。
何気ない日常は、賑やかな喧騒に溢れていた。
戦時下の混乱の匂いは、何処にもなかった。
友人と会話を交わす者。家族と共に寄り添う者。愛する者と手を繋いで歩く者。気ままにひとりで彷徨う者。
横断歩道の前では、ほんの少しの時間つぶしにスマートフォンを覗き込む者達が並んでいる。
老若男女。数多くの人々が、今日という時間を過ごしている。
みんな、今だけを見つめている。
過去を振り返ることもなく、ただこの日常の中を生きている。
――故に敷島という男は、この街の“異物”と化す。
誰にも省みられず、誰にもその苦悩を気付かれることなく、彼は人混みのはざまを幽鬼のように彷徨う。
安息に満ちた群衆の片隅で、ひとつの孤独な虚無が浮遊する。
過ぎ去った戦争の亡霊。忘れ去られた過去の傷跡。
彼という男は今も、眼の前の“平穏”を茫然と見渡している。
-
きっと誰もが、こんな平和な世界を望んでいた筈だった。
あの過酷な戦時下の中で、誰も彼もが嘆きと怒りに苦しみ、こんな日常を求めていた筈だった。
それでも――自分にとって、此処は“異界”でしかなかった。
戦争を生き延びてしまった時から、己の罪にずっと呪われたままだった。
過去を振り切る勇気も、幸福に生きる決意も掴めなかった。
あの“戦後の日本”で、彼は一歩を踏み出す未来を見出だせなかった。
そして今、敷島は“戦後の果ての世界”へと放り出された。
戦争の爪痕は“過去の歴史”へと変わり、人々は今を生きるために前を向いている。
平和を享受し、安息の一時を過ごしている。
ただひとり。自分だけが、夢の中を彷徨っているような感覚に囚われ続ける。
自分の居場所は、此処ではない。
自分は、此処に居てはならない。
敷島の中で、誰かがそう呻く。
それが己自身の声であることに、彼は既に気付いていた。
悪夢に囚われた己に、この未来を生きることは出来ない。
戦争に縛られた魂は、平和な時代を歩むことが出来ない。
それは敷島という男を蝕む、黒い雨のような呪縛の念だった。
最早、自分の居場所は何処にもない。
未来を望むことは愚か、典子の手を取ることさえも適わず、あの悪夢の前で慟哭することしか出来ない。
自分に生きていく資格などあるのか。このまま消えゆくのが、己に相応しいのではないか。
心の奥底で、そう思っていた――あの“黒い影”に出会うまでは。
双角を持つ“死の神”は、叫んでいた。
己と同じ“哀しみ”と“憎しみ”に吠えていた。
あの光景を目の当たりにした時から、敷島の道は決まっていた。
己は、彼と共に戦う他ないのだと。
――そう理解した時から。
彼の魂の奥底で、戦いへの意志が芽生えていた。
自らの罪と業を断ち切るための、最後のよすがに触れていた。
-
敷島浩一は、悟っていた。
己の呪いは、戦争は、永劫に消えることはない。
奇跡の力に、頼らない限りは。
敷島浩一は、決意していた。
聖杯という奇跡の力があれば、全てを変えられる。
万物の願望器を掴めば、全てを終わらせられる。
己の背負った罪と業を、清算できる。
己が見殺しにした命を、救うことができる
己のせいで犠牲になったものを、掴み取ることができる。
あの零戦に乗った時から、背負い続けてきた悪夢。
あの怪獣と遭遇した時から、背負い続けてきた絶望。
今度こそ戦争を、終わらせることができる。
そのために、聖杯戦争で勝ち残る。
この“最後の戦争”で、全てに終止符を打つ。
それが敷島の選んだ道だった。
これが狂気や妄執の類いであることを理解した上で、彼はそうせざるを得なかった。
――そして、“俺”は。
――“彼”の憎しみを、武器として使う。
己が召喚したサーヴァントの黒い影が、脳裏に過ぎる。
あの夜に轟いた慟哭が、頭の中で残響を繰り返す。
嗚咽のような叫びを、決して忘れることはなかった。
彼の苦しみを、絶望を、自分はこの戦争で利用する。
奇跡を掴み取るための武器として、彼を行使していく。
その業を引き受ける覚悟を決めねば、己は勝ち抜けない。
彼の叫びを、敵を潰すための暴威として刃へと変える。
-
己は結局、罪を重ねることしかできない。
それでも、その果てに奇跡を掴めるのなら。
全てを終わらせることができるのなら――。
その瞳は、澱むように濁っていた。
疲弊と虚無に彩られ、絶望を湛えていた。
それでも、その奥底には、決意の燈が揺らめいていた。
感情の混沌の中で、全てが入り混じっていく。
あの焦土の銀座に佇む己自身を、追憶しながら。
戦争など振り返りもしない世界に、虚しさを抱きながら。
敷島は、ただ群衆の中を歩み続ける。
己の世界は、此処ではない――勝ち抜いて、清算して、帰らねばならない。
そうしなければ。
太平洋戦争は、終わらないのだから。
己は地獄の底から、抜け出せないのだから。
覚悟と妄執の狭間で、幽鬼のように往く。
過去を振り返ることをやめた、繁栄の人混みの中で。
一人の帰還兵が、最後の戦場へと赴く。
◆◇◆◇
嵐が来る。憎しみの嵐が。
苦痛と悲壮の咆哮が、この地上に轟く。
それは果たして、誰が為の叫びなのか。
魂の奥底。意志の根幹。
止まぬ衝動が、猛り狂う激流と化す。
冥府の彼方に、慟哭が木霊する。
――だれか、この悪夢を終わらせてくれ。
◆◇◆◇
【クラス】
バーサーカー
【真名】
プルートゥ@PLUTO
【属性】
中立・狂
【パラメーター】
筋力:A++ 耐久:A 敏捷:A+ 魔力:D 幸運:E 宝具:A
-
【クラススキル】
狂化:C++
憎しみによって理性の多くを奪われ、ただ標的を殲滅する狂戦士として立ち続ける。
サーヴァントとして現界した彼は“ロボット以外の存在”を攻撃することができる。
それは狂化の“呪縛”によって最後の一線を超えたことを意味するのか。あるいは“過ちを犯す”という、“人間的な意志”が成就した証なのか――。
【保有スキル】
機巧の遺伝子:A
自らの“主”であり“父”である科学者の憎悪を刻み込まれ、世界最高峰のロボット達を次々に葬った逸話の具現。
バーサーカーは契約を結んだマスターの“感情”と“記憶”に同調し、精神的な影響を受けていく。
偏執:A+
意志に刻み込まれた“偏った感情”――怒り、憎しみ、悲しみによって彼は戦う。
戦闘中、プルートゥは自らの強烈な感情に呼応して筋力・耐久・敏捷のステータスを上昇させる。
「機巧の遺伝子」によって自身のマスターの感情と共鳴することで、その効果は更に上昇する。
嵐襲:B
彼は神出鬼没の連続ロボット殺害犯として、世界各地に出現を繰り返した。
戦闘態勢に入るまでの間、自らの気配を大きく遮断する。
更に自身が奇襲や強襲を仕掛けた際、命中判定とクリティカル判定に有利な補正が掛かる。
漆黒の冥王:B+
彼はプログラムされた憎しみに突き動かされるがままに、数々の死闘を繰り返してきた。
同ランクの「戦闘続行」「勇猛」「単独行動」スキルを兼ね備える。
また自身と対峙した敵に対し、一定確率で恐怖のバッドステータスを与えて全判定のファンブル率を上昇させる。
電磁縛:C
プルートゥは人工知能の欠落したロボットの肉体を遠隔操作する能力を備えていた。
魔力を帯びた電磁波を放つことでNPCや死霊、シャドウサーヴァントへと干渉する。
これにより対象を遠隔から支配・使役することが可能だが、複数の存在へと同時に干渉することは不得手。
また魔力パスを備えた葬者やサーヴァントへの干渉は不可能。
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【宝具】
『地上最大のロボット』
ランク:B++ 種別:対軍宝具 レンジ:− 最大捕捉:-
ある一人の科学者が抱いた“憎悪”を継承し、復讐の尖兵として使役された“ロボットとしての肉体”そのもの。
圧倒的な膂力と伸縮自在の双角を武器とする他、巨大な竜巻を発生させるなど天候を自在に操る力を持つ。
また世界最高峰のロボット達を葬ってきた逸話から、機械や人造生物などの“人工的な存在”に対しては攻撃力が倍増する。
『地の果てを超え、光の彼方へ』
ランク:A 種別:対壊宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
生前の最期に妄執から解き放たれ、己が身と引き換えに地球崩壊の危機を防いでみせた逸話が宝具へと昇華された。
大火力攻撃や概念攻撃などの性質を問わず、あらゆる“攻撃”をその肉体で受け止めて完全に無効化する“絶対防御”の宝具。
任意発動型の宝具であり、連続での発動は行えないものの、その効果は概念防御の領域へと至っている。
――“憎しみに囚われた破壊者”として現界しても尚、この宝具が劣化することはなかった。
【人物背景】
“プルートゥ”――その名は“死の神”、あるいは“冥府の王”の意味を持つ。
世界最高峰と謳われた7体のロボットを次々に襲撃し、圧倒的な戦闘力によって破壊していった正体不明のロボット。
その正体は、祖国に花畑を作ることを夢見た一人の優しき人間型ロボット。
バーサーカーとして召喚されたプルートゥは、“憎悪に使役される破壊の化身”としての在り方が強く打ち出されている。
そのためか、生前の終盤――自らが死に至るまでの記憶が欠け落ちている。
【サーヴァントとしての願い】
この憎しみに突き動かされるがままに戦う。
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【マスター】
敷島 浩一@ゴジラ-1.0
【マスターとしての願い】
今度こそ、“戦争”を終わらせる。
【能力・技能】
戦闘機による模擬戦ではトップクラスの成績であり、操縦や射撃に関しては卓越した技術を持っていた。
しかし戦局の切迫した太平洋戦争末期において特攻隊に選抜され、そのまま実戦を経験することなく終戦を迎えた。
【人物背景】
戦時中、日本軍の海軍航空隊に所属していた青年。
戦時中はエース候補と目された戦闘機乗りだったが、戦局の悪化によって特攻隊に編成されていた。
やがて彼は数多の犠牲と後悔を背負いながら、太平洋戦争を生き延びることになる。
“戦争”と“ゴジラ”。戦後の日本に帰還した敷島は、過去の悪夢との対峙を余儀なくされる。
参戦時期はゴジラが本土上陸を果たし、銀座を焦土に変えた惨劇の直後。
【方針】
己の中の恐怖を乗り越え、勝ち残る。
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投下終了です。
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投稿します
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「聖杯戦争か……またとんでもない戦いに巻き込まれたな……」
鈴木千束は目を覚ますと知らない場所にいて、聖杯戦争という戦いに巻き込まれていた。
「私に願いなんてないんだけとな……」
「それなら君はこれからどするの?」
「あなたは……?」
千束の前に少女が現われる。
「僕は時雨、君のサーヴァントだよ」
「あなたが私のサーヴァント……」
「君はこれからどうする?」
時雨の質問に千束はーーー
「私はこの戦いを止めたい!誰も死なせたくない!」
「それが君の願いなら僕が力になるよ!」
これがこの二人の出会いである。
-
【クラス】
ルーラー
【真名】
時雨 【艦これ いつかあの海で】
【ステータス】
筋力B 耐久B 毎塔B 魔力C 幸運A 宝具A
【属性】
善・中立
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【クラススキル】
真名看破A
直接遭遇したサーヴァントの真名及びステータスが自動的に明かされる。
真名裁決A
聖杯戦争に参加した全サーヴァントに二回令呪を行使できる。
【保有スキル】
戦闘続行A
最後まで戦い続けた彼女の逸話がスキルに昇格したもの。
-
【宝具】
『時雨』
ランクA 種別 対人宝具 レンジ1〜100 最大補足1000人
彼女のもう一人の姿である駆逐艦時雨を呼び出し敵を殲滅する。
【人物背景】
艦娘として人々と海の平和を守るために戦い続けた少女。数々の戦場を生き抜いたことから佐世保の時雨と呼ばれいる。ただその一方でたくさんの仲間とも別れている。穏やかで心優しい性格。艦娘として最後まで戦い続けた少女でもある。
【サーヴァントとしての願い】
特になし。もしも叶うならまたみんなに会いたい。
【マスターへの態度】
明るいところは白露に似てるかも。彼女の力になりたい。
-
【マスター】
鈴木千束 『リコリス・リコイル』
-
【能力・技能】
銃弾を回避する能力がある。
【人物背景】
いつも明るく、明日よりも今日を全力で生きる少女。喫茶リコリスの看板娘として親しまれている。実はその正体は最強と呼ばれるリコリスである。参戦時期はアニメ完結後である。
【方針】
聖杯戦争を止める。誰も死なせない。
【マスターとしての願い】
特になし。
【サーヴァントへの態度】
頼りなるサーヴァント。たまに悲しそうな顔をしているのが気になる。
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投稿終了です。
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投下します
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何故に命を与える 何をなすため、生まれた。
神に祈りを捧げる 届く願いは無いのに。
妖精帝國「last moment」
◆
死屍累々、人混みの中、裏で積み重ねられていく死体の山。
「き、きぇぇぇぇぇぇ」
示現流を思わせるような太刀筋、しかし、死神は近づくことすら許さず、雑兵を片付ける。
「…その実力…名のある英霊とお見受け申す…」
奥から出てきたのは、甲冑姿の武人。
本来の聖杯から出てこないはずの、東洋の英霊だろう。
「せっかくの機会、是非手合わせ願いたい…」
「…ぞな」
互いに、獲物を構える。
「いざ尋常に…」
「!」
その鎌は――槍へと変貌した。
変幻自在、鎌の攻撃を想定していた武人をいともたやすく葬り去った。
「見…事…そなた…名は…」
「あしは…アサシンぞな」
「わ…れ…は…ライ…ダー…見事な…手で…あっ…」
ライダーは消滅し、あとに残ったのはアサシンのみ。
そして、奥より、少女が出てくる。
「ありがとう、ライダー、お陰で無事だったわ」
長い黒髪の少女、名を白夜凛音。
この死屍累々の山に動じないのも、その経歴故だろうか。
狂ったゲームに巻き込まれた少女は再び狂ったゲームに巻き込まれた。
聖杯を賭けた殺し合い、血で血で洗う様な地獄。
休息も与えられぬまま、冥界に落とされた。
「…とりあえず、ここは帰るぞな」
「了解」
二人はビルの外へと出た。
残ったのは、奥で気絶しているライダーのマスターだけである。
◆
-
冥界の東京はいつだって賑やかだ。
もちろん、負の側面もある。
ふと、新興宗教の宣伝が目に入った。
「ッ…!」
「…」
アサシンが無言で私を気遣い、目に入らぬよう誘導してくれる。
私の業――嫌だ――
「うっ…」
「!マスター!」
そこで私は気を失った。
最後に見えたのはアサシンの手だった
◆
夢の中、私は夢を見る
誠の旗を掲げ、鎌を持った男が、敵薙ぎ払い、突き殺す。
味方を逃がして、敵をひとり残さず殺し尽くす。
その姿は、まるで、何かを守るために戦う死神。
新政府軍を恐怖の渦に落とし込み。
すべてを刈り尽くすその姿。
彼の――名は――
◆
「目覚めたぞな」
「!あぁ…ごめんなさい…」
目覚めたのは、与えられた住処。
親はいない、なんとか…一人暮らし出来るよう設備は整っている。
「駄目ね…私は…」
「…」
過去の呪縛に囚われる己を祟る。
ここにはいない、頭痛も起きない。
もう、過去は絆されたのだ。
「…ねぇアサシン」
「…何ぞな…」
「あなたの…真名は…?」
ずっと気になったていた問を投げかける。
そして、アサシンは声高らかに名を名乗った。
「新選組…十番隊隊長…原田左之助…ぞな」
死神は確かに居た。
ただの死神ではない、守るために敵を葬る、「鉄壁の死神」
原田左之助、冥界にて――参る。
-
【CLASS】アサシン
【真名】原田左之助@ちるらん 新撰組鎮魂歌
【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷A 魔力D 幸運D 宝具B
【属性】中立・善
【クラススキル】
気配遮断:D
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。
【保有スキル】
槍術:B
種田流槍術免許皆伝級の実力。
しかし、ランサークラスではないため、ランクは下がっている。
戦闘続行:C
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、死の間際まで戦うことを止めない。
軍略:B
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具の行使や、
逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
心眼(偽):C
第六感による危険回避。
【宝具】
『鉄壁の死神・原田左之助』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜 最大捕捉:1〜???
かつて、新政府軍より恐れられた男達がいた。
その一人、原田左之助は「鉄壁の死神」の異名を持ち、襲ってくる敵を逃さなかった。
それが――大軍勢であったとしても。
敵の仕切り直しをランクに関わらず全て無効化。
また自身の筋力と耐久を一段階アップさせる。
【weapon】
大鎌 一番上の部分は槍にもなる。
【人物背景】
新撰組10番隊隊長。
義理堅く、そして、幾千万の敵を葬り去った男は。
新政府軍より、「鉄壁の死神」として恐れられた
【サーヴァントとしての願い】
…新撰組のみなと、もう一度、食卓を囲むぞな
【マスターへの態度】
まだ少女だ、なるべく血を見せたくはない。
しかし…この達観した姿勢は…何か前に…同じようなことを…?
【マスター】白夜凛音@euphoria
【マスターとしての願い】
新しい生活に戻る
【能力・技能】
特に無し、強いて言うなら、適応力の高さだろう。
【人物背景】
とある教団が産んだ、望まれない子。
狂ったゲームを生き残り、新しい世界を歩むことになった少女。
【方針】
脱出のための手段は聖杯しか無いのなら、聖杯を狙う。
しかし、あまりに非人道的な手段は使わない、また、NPCとはいえ、民間人の被害も最小限にする。
【サーヴァントへの態度】
頼りになる
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投下終了です
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投下させていただきます
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『亡き王女のためのパヴァーヌ』という曲について誤認している聴衆は多い。
この曲は別に、死んだ王女を葬送するために奏でられた哀歌ではない。
昔。宮廷で小さな王女が気ままに踊ったようなパヴァーヌ。
そういうものを意味して、モーリス・ラヴェルはこの曲を作った。
死んだから"亡い"のではなく。
もういないものだから"亡い"。
言うなればノスタルジア。
郷愁と懐古のために奏でられた旋律であり、ありふれた追憶である。
そのことを、天才と呼ばれた青年はもちろん知っていた。
当然だろう。
彼らはかくあるべしと願われて生まれた命。
生まれながらに、当たり前のものとして天才だった七つの子。
鍵盤を通じて、聴衆に幻想の景色を見せる奇跡の子供たち。
とはいえそんな彼も、流石に本当の死者に対してピアノを弾くのは初めてだった。
いや、死者よりも更に希薄でうつろな存在だとすら言えるかもしれない。
此処は冥界で、今青年のピアノに耳をそばだててファンタジーを体感しているのは世界を彩るために再現された記憶の陽炎でしかない。
まさしく"亡き王女"だ。手を伸ばしても、希っても、決して届くことのないノスタルジーの陽炎たち。
彼らが示す意思らしいものに意味があるのか、それとも単なる"反応"でしかないのか。
それすら判然としない状態で弾くピアノは、なんとも言い難い虚無感を奏者にもたらしてくれた。
――まあ、それでもオレはミスんねーけど。
だが。
それはそれ。これはこれ、だ。
脳と指先を切り離すくらいの芸当は、天才ならば誰でもできる。
並の天才ならいざ知らず、音上の家に生まれた七つ子ならばできない道理はない。
音上ファンタ。それが、彼の名前だった。
指先ひとつでファンタジーを描きあげる、稀代の天才の一人である。
柔らかく、そして緩やかな響きをもって紡ぎあげられる旋律。
鍵盤を弾く動作のひとつひとつが、彼に許された幻想を描画する。
それは、現実のどこにも存在しない景色。
音のみをテクスチャとし、音のみを神秘とした空想の産物。
イメージの共有。演奏を通じて夢を魅せる、天才どもの特権。
これを指してファンタジーと呼ぶ。そして、音上ファンタのファンタジーは遊園地だ。
鍵盤、音符、音楽記号のみが構成する虚構の楽園。
素敵なドレスが来園者を彩り、色とりどりの遊具が出迎える。
聴衆の客層とその場の厳格さに合わせ、奏者の意思ひとつで無限に形を変えるこの世にはない遊園地。
千変万化。絢爛豪華。強烈無比なる、客を楽しませ/喜ばせることにこれ以上なく特化したファンタジー。
-
天才というのは、基本的に傍若無人な生き物である。
逸出した才を持つからこそ、彼らの立ち振る舞いは時に他人を意に介さない。
だが唯一、ファンタだけは違う。
彼は音上の天才達の中でただひとり、客に寄り添った演奏を欠かさない男。
自分の見せ方と見られ方を誰より気にし、それを完璧に仕上げるために最大限の努力を惜しまない変わり者。
だからこそ――彼の演奏はいついかなる時でも客を最高の幻想で歓待する。
それは、この"死者未満"ばかりが集った演奏会の中でも変わることなく一貫していた。
(考えてみれば、遊園地ってのはノスタルジーの代名詞か)
手の届かないところへ走っていってしまった、今はもう亡い王女のために奏でられるパヴァーヌ。
誰もが一度は憧れ、楽しみ、そしていつしか遠のいていく子供時代(ノスタルジア)の象徴たる遊園地。
ファンタの卓越した演奏技術も合わさって、これは最高のショーとなって聴衆達を極楽へ導いていた。
そう、いつも通りだ。生者だろうが死者だろうが、地上だろうが冥界だろうが音上ファンタは何も変わらない。
唯一違うところがあるとすれば、その右手の甲に刻まれた三画の刻印だ。
七音音階の"ファ"を思わせる、ねじくれた音符の形と五線譜が織りなす三画。
ピアニストという性質上、こればかりは聴く側の認識に余計なノイズを走らせるのを承知で包帯を巻くしかなかった。
(……やっぱこれだけは勘弁してほしかったなー。感覚変わんだよ、別に調整できるけどさ。
タトゥーとしては割とイカしてるのがまた腹立つっていうか、なんつーか)
ファンタの売り方(キャラクター)的には、タトゥー自体は特に問題ない。
だが、この刻印を衆目に晒すことは明確に拙かった。
令呪。この死者と残影がひしめく冥界にて、奇跡に手を伸ばす資格を有することを示す刻印。
言うなれば戦争参加者の証である。
いたずらにひけらかして回れば、遠からぬ内に刺客がやってくるだろうことは想像に難くなかった。
ピアニストの手は繊細だ。
わずかな感覚の違いが、演奏に瑕疵を生み出すことは珍しくない。
それがたかが包帯であろうとも、である。
とはいえそこは自他共に認める"天才"。
ファンタほどにもなれば、違和感や感覚の違いを含めて指先の律動を調整し、結果的に普段通りのパフォーマンスを実現するのは容易だった。
むしろ彼にとって頭痛の種なのは目立ちに目立つ令呪の存在ではなく、それを自分にもたらした――
「la――la――la――la――――♪」
……そう。
今まさに、客席でひとり席を立ち上がった"あの女"の方である。
-
「え」
「なに?」
「うわ、ヤバすぎでしょ」
「ファンタ君かわいそー……」
「ファンにしても痛すぎじゃない? 関係者早く連れ出せよ」
「いや、でもさ」
「うん……」
「あの人――」
どよめく会場。
一様に示される動揺と不快感。
理想のファンタジーが、非常識な客の登場という現実で揺さぶられる。
無論、それしきで傾ぐほど音上のファンタジーは軽くないが。
だが、事態はファンタによる軌道修正にさえ能わなかった。
「なんか、すっごい綺麗じゃない……?」
長い銀髪をツインテールに括った、異国の女だった。
海を思わせる碧眼は、まるでアクアマリンの宝石をそのまま埋め込んだかのようだ。
纏っている服装こそ現代風だが、明らかな貴人の空気を彼女の全身が醸している。
だが何より目を引くのは、言うまでもなくその顔であった。
かわいいとか、きれいとか、そういう言葉で括ることが無礼に思えるほどに――美しい。
天上の神が贔屓をし、そうあるべくして地上に送った愛し子と、そう説明されたなら信じてしまいそうなほど。
神の恩寵を賜ったとしか思えない女の美しさと、彼女の口から出て歌い上げられる旋律が修正待ちのファンタジーに波紋を生む。
「わ……!」
「ちょ、何これ……!」
「ファンタ君の遊園地……だけじゃない!?」
生まれたのは、遊園地を彩る硝子彫刻の数々だった。
射し込む光、遊園地を満たす光を透過させては更に美しく輝く硝子の装飾。
しかし元あった景色を食うではなく、より美しく、燦然たる幻想に昇華させている。
誰もが踊り、思い思いに楽しむ遊園地。
ひとつひとつの足取りが、輝く光のしずくを跳ねさせる。
ノスタルジーの美しい、愛すべき輝きを永遠に閉じ込めた美しい硝子細工のファンタジー。
無粋な乱入者であるはずの女の歌声もまた、ファンタジーを奏でていた。
天才とは孤軍であるもの。
並ぶこと、雑ざることを善しとしないからこその天才。
にも関わらず、女神のごとき女の歌は当たり前にそれを実現させていた。
……この演奏会は後に、音楽界を揺るがすちょっとした大ニュースになる。
音上ファンタの演奏に突如乱入し、そして演奏が終わるといつの間にか消えていった謎の美少女。
そして彼女の歌声と天才の演奏が調和して生み出された、音と硝子のファンタジーランド。
当のファンタはこの日のことについて聞かれても、曖昧に笑って濁すだけだったというが――それもその筈だろう。
-
「…………なーにやってんだ、あのおてんば女は」
冥界の彼は、演奏で世界を股にかける天才"奏者"というだけではいられない。
生きて再び地上にあがるため、願望器をめぐる戦争に身を投じねばならない"葬者"でもあるのだから。
その点、颯爽たる乱入を果たし、こうして空前絶後のファンタジーショーに寄与した彼女の行動はファンタにとって最悪だった。
何しろ彼女こそは、音上ファンタにとってのアキレス腱。
再び天才として世に舞い戻るか、それとも冥界の砂として消え果てるかの運命を握る従者(サーヴァント)なのだ。
パヴァーヌが終わり、ファンタの手が止まる。
――万雷の喝采が響いて、ホールが揺れる。
ファンタでさえ久しく聞いたことのない、大歓声だった。
ピアニストの舞台にはふさわしくないほどの拍手と喝采が満ちる中、女は「あっ」とばつの悪そうな顔をした。
天才の口から、ため息が零れ出る。
本当になんだって、自分は"あんなモノ"を引き当ててしまったのか――
「……パクられる方がまだマシだぜ、これなら」
彼は音上。
彼は天才。
現代最高の奏者が産み落とした、ファンタジーの綴り手。
家柄、容姿、才能。
あらゆることで天に愛されている彼が、神の恩寵を受けて生まれた王妃を呼び寄せてしまったのは納得のいく因果かもしれない。
だがファンタは、それだけだとは思っていなかった。
その理由は、彼だけが知っている。
振り払っても、振り払っても、頭の中から消えることのない原点。
オリジンであり、トラウマでもある、あの日のこと。
否応なしにそれを思い出させるあの女のことが、音上ファンタはどうしようもなく苦手だった。
-
◆◆
「お前な、頼むから二度とああいうことしないでくれるか」
「……ごめんなさい。出過ぎた真似をしてしまったわ」
「本当だよ、ったく……。オレを勝たせる気ねーのかと思ったわ」
しゅんとした顔で詫びられると、何故だかこっちが悪いような気がしてくる。
音上のファンタジーに即興で合わせるという異次元の御業を見せた女の姿は今、ファンタの待機部屋の中にあった。
「あんまり素晴らしい演奏だったから、居ても立っても居られなくなってしまったの。ごめんなさいね、悪気があったわけじゃないのよ」
「だからタチ悪いんだよ、あんたの場合」
いっそ悪意を持って、演奏を台無しにするつもりでの乱入だったならもう少し感情のぶつけようもあったろう。
だがこの女に限ってそれはありえないと、他ならないファンタ自身が理解してしまっていた。
彼女の経歴を考えれば、もっと悪意にまみれてひねくれていてもおかしくはないだろうに。
ファンタのサーヴァントであるこの女は、あらゆる悪意に曝されて死んだ者としては不可解なほどに純真だった。
国中に追い立てられ、難癖じみた糾弾で処刑され。
挙げ句後世に至るまで、消えない汚名を語り継がれ続ける。
もしも自分が彼女の立場だったなら、さぞや人類やその築いた社会に対して憎しみが溢れて仕方ないだろうとファンタは思う。
しかし彼女は、そうではないのだ。
彼女はいつだって美しく、明るく、そして優しい。
そんな相棒のあり方を、ファンタは薄気味悪くさえ感じていた。
「もしかして私、せっかくの演奏を台無しにしてしまったかしら」
「嫌味かー? あれだけ盛り上がって台無しなわけねえだろ。客からすれば一生忘れられない演奏になったろうよ」
「そう……! ふふ、それなら良かっ――あ、えっと、良くはないけど……でも良かったわ!」
何故こうして、花咲くように笑えるのか。
何故、縁もゆかりもない大衆にまでその優しさを向けられるのか。
ファンタにはそれが、皆目理解できない。
大衆の意思というものに、"生きるべき命"として選ばれず、見世物のように処刑される。
それほどの屈辱を味わって、何故歪まずにいられるのか。
それほどの絶望を味わって、何故こうも美しくい続けられるのか。
――何故、その微笑みを自分以外の誰かに向けられるのか。
「ファンタジー、っていうのよね。マスターの演奏は」
音上ファンタにとって、ファンタジーとは演奏の中にのみ存在する架空だった。
だがそのヴェールは今や崩れ、彼自身がファンタジーの中を生きる聴衆と化している。
その最たる象徴が、この女だ。
冥界に落ちてきた天才が召喚した、召喚してしまったサーヴァント。
人間以外のすべてに愛された、麗しの王妃。
美化され尊ばれ、誰もが振り返って渇望するノスタルジーが人の姿を取ったような存在。
今は亡き王女。
-
「素敵な遊園地が、キラキラ、キラキラ輝いて。
大胆で、けれど繊細な演奏が囲んで満たす、まぼろしの世界。
私、マスターの演奏なら何度聴いても飽きないわ」
「……モーツァルトのピアノを聴いて育った奴に言われてもなー。それこそ嫌味にしか聞こえねーって」
「あら。アマデウスとマスターの演奏はぜんぜん違うわ。
アマデウスのだってもちろんすごいけど、マスターのはなんていうんでしょう、"楽しませてやる!"っていう気持ちがとても伝わってくるの。
だから私はね、どっちも同じくらい大好きよ。ふふ、アマデウスにも聴かせてあげたいわ! マスターの演奏!」
「はは。そりゃどうも」
この手の美辞麗句を聞くのは日常茶飯事だが、生きているアマデウス――ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトを知る者が言うと重みも違う。
とはいえ、別に嬉しくもない。
褒め言葉のひとつふたつで子供のように喜ぶには、いささか世の中を知りすぎた。
「それはそうとさー。オレ、いつか聞こうと思ってたんだけどよ」
「? なあに?」
「アンタさ、口開けばオレのことばっかりじゃん? 話しかけて、心配して、かと思えば今日みたいに時々とんでもねえスキンシップしてくる」
は、とファンタは笑った。
どこか自嘲を含んだ、痛みの伴う笑みだった。
「まるで――母親みたいに」
……愛されているという実感は誇りだった。
選ばれないのは屈辱だった。
だから、自分で自分を選んで愛することにした。
母がいなければ子供は生まれない。
人間はいつだってつがいで増える。
故に当然、音上の七つ子にも母親はいる。
いや。今となっては"いた"というべきだろう。
母親は死んだ。天才たちを産み落とした女は、荼毘に付されて今や墓の中だ。
そして音上ファンタは、その死に際に立ち会うことを拒否した。
許せなかったし、信じられなかったからだ。
自分を見捨て、他の誰かを選んだ母親のことが。
きっとこの気持ちが変わる日は来ない。
そう分かっていたから、ファンタは拒否した。
いつもそうしてきたように自分を貫いて、昔は愛していた/愛してくれていた人の最期に背を向けた。
-
それを間違いだったと悔やんだことはない。
そしてこれからも、きっとないだろうと信じている。
死という永訣を経て、とうとう完全に自分の世界から消え去った過去の"痛み"。
けれどこの女は、ファンタのそれを無遠慮に思い起こさせてくる存在だった。
誰にでも分け隔てなく優しくて。
誰にでも惜しみのない愛を注いで。
"特別な誰か"として、そばにいる。
まるでいつか、一緒に暮らしていた時のように。
まだ音上家が、父と母と、そして七人の子供達で成り立っていた頃のように。
――それがファンタには、どうしようもなく不快だった。
「だからさ、そろそろマスターのオレにも教えてくれよ。アンタの願いってやつをさ」
不快という表現は、もしかすると違うかもしれない。
実態はもっと柔らかい。たぶん、苦手意識の範疇で済む感情だ。
だって現に、ファンタはこの相棒のことが嫌いなわけではなかったから。
だから単に、苦手なだけなのだとは思う。
彼女に非があるわけではないが、その振る舞いと言動がどうも頭の中にまとわり付くのだ。
頭の中の、柔らかい部分。
晴れて終わったと引き出しの奥にしまったオリジンがむずがるのだ。
「……別に、隠していたわけではないのよ。
でもね、それは私にとって、聖杯のあるなしで変わるものでもないわ」
彼女は、王妃である。
神に愛され、生まれながらにして人の上に立つことが運命づけられた女である。
あるいはそのあり方は、ファンタを始めとする音上の天才たちにも近しいのだろう。
凡俗ではないから、憎しみに囚われない。
味わった屈辱も絶望も、すべて赦して慈愛を振りまく。
そういう生き方が、できる。
それを天才と呼ばずして何と呼べばいいのか。
「空に輝きを。地には恵みを。そして民には幸せを。
……それが、私の抱く願いよ。ずっと、ずうっとね」
「立派なもんだね。オレがアンタなら、多分そうはなれねーかも。
オレはそっち方面はむしろ凡人寄りだからなぁ。手前を貶めて処刑した奴らのことなんて、祈る気にもなれないだろうな」
この"願い"だってそうだ。
改めて理解する。
この女は、存在そのものがファンタジーだ。
鍵盤の上でしか天才たれない自分など、これに比べればずっと慎ましい。
世界で一番ワガママな女。ある意味では、その肩書きに偽りはないのだろう。
違うのは、それが悪意や驕りによるものかどうかということ。
革命政府が必死になってばら撒いたプロパガンダよりもずっと、麗しの王妃は余人の理解から遠い存在だったのだ。
-
「けどさ。アンタ、本当にそれでいいの?」
ファンタもまた、彼女のファンタジーを見た。聴いた。
自分の遊園地に寄り添うように現れ、それを彩った硝子の王権。
本当に――美しい輝きだった。
異論の余地など問うまでもなく無い、無二の輝きがそこにはあった。
光の加減に合わせて、キラキラ、キラキラ、輝き照らす女神の寵愛。
あの瞬間、ファンタも心から理解した。
この女は、やはり神に愛されている。
だからこそ、彼女はファンタジーなのだ。
ファンタジーだから、幻想のように人を愛せる。
地も、空も、民も。すべてを分け隔てなく愛し、その幸福を嘘偽りなく祈れる存在。
そう分かった。身に沁みて識った。
だからこそ、その上で。
音上ファンタは、奏者として以外の形でファンタジーたれる存在ではないから。
だから――その幻想に、現実という名の石を投げた。
「博愛主義もいいけどさ。ルイ君のこともたまには思い出してやれよ、マリー・アントワネット」
アンタ、母親なんだから。
そう続かせようとした言葉を呑み込んだのは慈悲ではない。
ルイ、の名前が出た時。
今までずっと微笑んでいた王妃(マリー)の顔に、紛れもない悲しみの影が差したのを見たからだ。
(……、あー)
こいつ、こんな顔できんのかよ。
なんだよ、ぜんぜんまだ残ってんじゃん。
"人間"のところ、残ってんじゃんか。
まず、ファンタはそう思った。
そして次の瞬間、封じ込めていたオリジンが噴き出してきた。
その顔は、見たことがあったからだ。
忘れもしないあの日。屈辱と絶望の日。
亡き王女のためのパヴァーヌ。音上家に、まだ王女がいた最後の日。
(墓穴掘ったな、オレ)
マリー・アントワネットが完全なファンタジーであるなら、ファンタとしてはそれでよかった。
痛みを知らない、知ったとしても三歩歩けば忘れてしまう化物が相手ならそれ相応の接し方もある。
つまらない苦手意識に縛られて、この先本格化していくだろう戦争の中で判断を誤ることもなかっただろう。
だが現実は、そうではなかった。
音上の七つ子である自分が、奏者として以外はファンタジーでないように。
この女も、汚点など見当たらないような麗しの王妃にも、人間の部分が残っていた。
ファンタの投げつけた悪意は、そのファンタにとって不都合な事実をつまびらかにしただけだった。
-
「……悪り。ちょっと言い過ぎたわ。オレも最近予定外が重なって、ちょっと疲れてるのかもー」
そう言って席を立つ。
本当のことを言うわけにはもちろん行かないが、マネージャーと一応"今日あったこと"の相談もしなければならないだろう。
愛される天才は忙しい。
諸々の調整、ファンサービス、SNSでのマーケティング。
たとえ仮初めの虚構であっても、相手が人間ではなくても、自分という存在が誰かの前に立つ以上そこで手抜かりはできないしする気もない。
それが音上ファンタの生き方であり、プライドだった。
――微笑みでファンを癒やし。
演奏で心酔を得る。
愛されるために生まれた天才であることを喜び、望まれるままに振る舞うと決めている。
奇しくもそれは、自身の呼び出した王妃の精神性に似通っていた。
似た者同士。けれど明確に、恐ろしいほど断絶したふたり。
それが、この美しく、あまりに輝きすぎる主従の実像であった。
「あなたにそんなことを言わせてしまってごめんなさい。……でも、本当に忘れたことなんてないのよ」
扉が閉まり、ぽつりと小さな声がする。
音上ファンタは愛されるように演じる。
けれどマリー・アントワネットは、生まれながらに愛されることが決まっている。
彼女はそういうものだから。神に愛され、王権を握るべくして産み落とされた生き物だから。
だからマリーは、呪わない。
ただのひとつを除いては。
だからマリーは、憎まない。
ただのひとつを除いては。
音上ファンタが、ヴェールの底に大きな傷を隠しているように。
この王妃もまたひとつだけ、大きな大きな痛みを隠している。
子を愛さない親などいない。
いたとして、少なくとも彼女はそうではなかった。
選びたくても選べなかった、それを許されなかったひとつの痛み。
泥の監獄。絶望の中で死んでいったろう我が子への思い。
きらびやかな祝福の底に。
癒えぬその腫瘍は、今も膿んで疼き続けている。
「あなたは、私なんて嫌いかもしれないけれど――」
されどこの冥界に喚ばれた彼女は、復讐者ではない。
愛される王妃。穏やかなる母。亡き王女。
ノスタルジアの彼方より去来した、"かの日々"の生き写し。
「――私は、それでもあなたが好きよ」
その言葉は一体、どちらへ向けられたものだったのか。
きっと、どちらへも宛てたものだったに違いない。
彼女は、そういう生き物だから。
絶望と怒りの種を、それさえ抱擁して輝き続けるものだから。
マリーは捨てない。忘れたことなどない。それでも、彼女は美しい。
そうあり続ける。そして、世界を。そこに生きる民を、そのすべてを愛し続ける。
彼女はファンタジー。フルール・ド・リス。
はるか昔、貴族隆盛のフランスに生を受けた硝子の王権。
王妃マリー・アントワネット。
貴婦人であり、アイドルであり、そして母である女。
-
◆◆
奇跡の日々は終わりを告げた。
ある少年の願いは叶うことなく、そのすべては"天才"に取って代わられた。
これはそれだけで、それまでの話。
ファンタにとっても、そう大きなことではない。
ただ、過去の残響がひとつ消えたというだけのことだ。
天才を産んだ女は死に、子はそれをもって呪縛から解き放たれた。
しかし問題がひとつ発生する。
輝きすぎた天才は、世界から滑落してしまった。
行き着いた先は正真正銘、嘘偽りのないファンタジー。
死者がうごめき、命が溶け落ちる死の世界。
硝子の馬に載せられて、これから天才は誰のものでもない幻想を旅する。
彼の名前は、音上ファンタ。
音上楽音が産み落とした奇跡の子のひとり。
その指先でファンタジーを実現させる、輝きと痛みの子。
――奏者にして、葬者たる、偶像(アイドル)である。
【CLASS】
ライダー
【真名】
マリー・アントワネット@Fate/Grand Order
【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷B 魔力B 幸運B+ 宝具A+
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:C
ライダーのクラススキル。魔術に対する抵抗力。
Cランクでは、詠唱が二節以下の魔術を無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:A+
ライダーのクラススキル。乗り物を乗りこなす能力。
神より授かった王権の申し子である彼女は、フランス王家の象徴たる白馬の獣を始めとして全ての獣、及び乗り物を自在に操る事が可能である。
ただし、竜種については騎乗出来ない。
-
【保有スキル】
魅惑の美声:C
天性の美声を持つ事を示したスキル。人を惹き付ける魅了系スキルであると同時に、王権による力の行使の宣言でもある。
象徴的な存在として現界しているマリーは、歌声ひとつで王権の敵対者へと魔力ダメージを導く。
男性に対しては魅了の魔術効果として働くが『対魔力』スキルで回避可能。
『対魔力』を持っていなくても抵抗する意思を持っていれば、ある程度軽減する事が可能となる。
麗しの姫君:A
統率力としてでは無く、周囲の人を惹き付けるカリスマ性。
Aランクのスキルを有するマリーは、ただ存在するだけで自分を守る騎士たる人物を引き寄せる。
神の恩寵:B
最高の美貌と肉体や『王権の美』を示すスキル。最高の美貌を備え、美しき王者として生まれついている。
【宝具】
『百合の王冠に栄光あれ(ギロチン・ブレイカー)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:50人
ライダーとしての宝具。ガラスの馬に乗り敵へと突撃する。
栄光のフランス王権を象徴した宝具で、外観はフランス王家の紋章が入ったガラスで構成されている美しい馬。
真名開放によって呼び出され、きらきらと輝く光の粒子を撒きながら戦場を駆け抜け、王権の敵対者にダメージを与える。
それと同時に味方のバッドステータスを解除し、体力や魔力を回復する。
『愛すべき輝きは永遠に(クリスタル・パレス)』
ランク:B+ 種別:結界宝具 レンジ:0〜100 最大捕捉:1000人
「たとえ王権が消え失せたとしても愛した人々とフランスは永遠に残る」というマリーの信念が新時代と発展の象徴としてのクリスタル・パレス、歴代フランス王家の権勢を示す巨大にして優美な宮殿を呼び起こし、マリーと味方のステータスを一時的にランクアップさせる。
ロンドン万博の水晶宮と同名なのは皮肉等ではなく、マリーが宝具を用意する際に大好きだというクリスタル・パレスを参考にしたため。これはマリーの愛がいかに広範であるかを示すものらしい。
【weapon】
なし
【人物背景】
王権の象徴として愛され祝福されて生きながら、王権の象徴として憎まれ貶められて死に果てた女。
死してなお民の幸せを祈り続ける、麗しの王妃。
【サーヴァントとしての願い】
空に輝きを。地には恵みを。
――民に、幸せを。
【マスターへの態度】
かわいい人だと思っている。
もっと仲良くなりたいが、けんもほろろの対応を続けられていてちょっぴり悲しい。
【マスター】
音上ファンタ@PPPPPP
【マスターとしての願い】
生還
【能力・技能】
ピアニストとしての天才的な才能。
ピアノの演奏を通じて聴いた人間全員に幻の景色/ファンタジーを見せることができる。
ファンタの場合は宝石と遊園地。宝石が散りばめられた遊園地を聴衆に体験させる。
【人物背景】
ある天才の家に生まれた七つ子の一人。
自分が"選ばれなかった"ことを今でも憎悪している。
本編終了後からの参戦。
【方針】
戦闘向きの主従でないことは自分自身自覚している。
なので早い内に協力者なり何なりを確保し、安定した基盤を築きたい考え。
聖杯に関しては「願うことも思いつかない」ので、とりあえずは生還を優先で考えている。
【サーヴァントへの態度】
苦手意識がある。気味が悪い。
あまり直視はしたくない、そんな相手。
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投下終了です
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投下します
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投下します
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冥界に昼夜の概念はない。
治療を照らす太陽は空に存在せず、従って、太陽が地平線を越えてから再び昇る時間の切り替わりも存在しない。
灯りになるものは、冥界に飲み込まれ廃都になっても残り火になって僅かに点く電灯か、不可侵の領域を恨めしく睨みながら周りを徘徊する霊魂の燐光ぐらいのもの。
闇より黒い、存在と無の地平。
数えるものがいない、時間だけが流れる澱。
生きる者は生きられず、死霊に成り果てるか喰われるかのみ。食物連鎖の機能しない、生命体が繁殖する条件にまったく合致しない不毛の土地だ。
「───お前にはふたつの選択肢がある」
その祈る者がいない枯野の街に、地獄の裁判官の如き宣言が放たれた。
声は高く幼い。
外見も見合っていて童女、小学生の齢にしか見えはしない。
死者の記憶の住人であるのなら、皮肉心胆残さず剥ぎ取られる邪霊の骸を、五体投地同然に平伏させている。
「この場で大人しく悪霊として私に退治されるか、私の元で大人しく匿われるか」
手には杓子でも閻魔帳でもない、綿の詰まったかわいらしいぬいぐるみ。
しかし握られている人形のおぞましさは如何なるものか。
死霊を見下ろす重瞳の威圧はどうしたことか。
眼の中のふたつの瞳孔が映す髑髏は、死霊の反射などではなく現実にある現象(もの)か。
ここにある現実は、霊を圧倒する理不尽な"力"を行使する少女という、ただひとつである。
筋骨隆々。剛豪力々。
錯覚の通用しない、疑いようのない現実(マッスル)。
太陽がないせいで表面温度も真冬の寒さの冥界であろうと、シャツ一枚でまるで支障のない肉密度。
片手で軽々と持ち上げる巨大な鉞の刃の威力は、脳天と心臓の霊核を数センチズラして真っ向に唐竹割りにされた死霊の姿が証明している。
しかしながら、最も存在感を強調する要素は別にある。金色、である。
鮮やかな髪の色でもなければ、腰に巻いた王者のベルトでもなく、鉞に時折走る電磁の光でもない。
魂の色、とでも表現するしかない、根幹を成す心象の風景。
───その男は、黄金(ゴールデン)だった。
「私が許可した奴なら戦っても構わない。存分に横暴を振るえ。だが誰彼構わず襲いかかるような真似はやめろ。
その影にまだ英雄としての誇りが残ってるのなら、観念してどちらかを選ぶといい」
金の後光を背負った少女が、最後通牒に人形を前に出す。
マスターの喪失と霊基の消耗により肉体構成が拡散し、焼き付いた怨念を行動原理とするしかなかったシャドウサーヴァントが、この時奇跡的に自我の欠片を萌芽する。
それが英霊の誇りの発露であったのか、死霊のまま死を恐れる本能であったのかは、定かではないが。
「……分かった。今は体を休ませて」
了承を取り付けた少女が、死霊に人形を押し当てる。
すると水を吸う綿の如く霊体が人形の内に入り込み、獣を囲うケージの役目を果たした。
主の意向なくば永遠に閉じられ、一度開かれれば牙を突き立てる監獄に。
「シャドウサーヴァント、ゲットだぜ」
ガタガタとひとりでに震え出す人形を、手早く塩の入ったビニール袋で包む。
───寶月夜宵(ほうづきやよい)。悪霊捕獲家、死霊使い、霊能力者。
冥界の聖杯戦争の葬者(マスター)の一日の日課は、今日も無事に完了を迎えた。
◆
-
「……それにしても、納得いかない」
帰路にて。
目当ての大物を首尾よく捕獲(ゲット)し意気揚々と街に戻った夜宵は、ふと愚痴を漏らす。
「納得って何がだよ、大将?」
夜宵の隣りを歩く快男子、バーサーカーが疑問を投げかける。
巨体に金髪で両目にサングラスの風体はいかにも物騒でいかめしい。
その筋の組員と紹介されても疑問も持たず受け入れてしまうだろう。目が合うやいなや血相を変えて横に反れる通行人を見てばつの悪い顔をするのも、一度や二度ではない。
「確かに私はかつて事故で生死の境を彷徨ったし、それで幽世の世界を生きたまま目で見れるようになったけど……。
それで死人扱いされて地獄に落とされるのには、理由が不足してると思う」
「んー……、オイラ難しいのは分かんねえがよ。別に死ぬとかさ、そういうのが選ばれる理由じゃ、ねえんじゃねえの?」
「確かに明確な証拠はない。けど此処が死後の世界であるなら、招かれるマスターも何らかの形で死に関わった可能性が高い。
九死に一生を得た、本当に一度死んだ、近しい人と死に別れた……冥界下りの神話はそうした切欠で始まるのが常」
大の大人───190センチの男が小学生女児を連れ歩いている光景は、従姉妹を送迎する親戚筋、と好意的に見做すのも些か苦しい。
すれ違う通行人が組み合わせの奇妙さに目を追いはするが、遠巻きに敬遠したり通報の素振りを見せる者は誰もいない。
それというのも、「きんちゃん」の愛称で喚ばれるこの男、近所ではちょっとした有名人だ。
派手好きで、子供達の遊びに付き合うほど面倒見がよく、力持ち。その上で規則や法定には常に則り風紀の乱れをよしとしない。
子供は無論のこと、その親御達の保護者団体からも受けがよく、総じて好評だ。
「きんちゃんって、ヒーローみたい」。遊んだ子供は口々に漏らす。
狂戦士のクラスに見合わぬ、気っ風のよさが隠し切れぬ雰囲気の好漢であった。
……霊体化を怠り寶月家の者であるよう素性を偽る手間に追われ、マスターから小言をもらうという落ちが、後につく事になる。
「その検証にも街の外まで繰り出して、霊を補充している。
手持ちが『過渡期』だけじゃ心許ないし、ストックを溜めるのも大事だから。
そしてここまでで……少し分かった事がある。
まず形代について。敵の霊現象に対しては変わらず有効だけど、冥界の大気への耐性には機能してない。
これは攻撃じゃなくてそこの環境、自然現象に近い。運命力というのが、いわゆる寿命に近い概念であるなら……既に死んでる霊を形代にしても身代わりにはならない」
「形代……あー、霊をとっ捕まえて中に入れた人形をこさえて避雷針にするっていう、アレか。いやこの場合、飛来呪か?
……凄ェ事考えつくよな、大した法師だぜ大将」
「私考案。ふふん」
-
そして住民は知らぬ事だが。
道を決める主は夜宵であり、背後を追う従はバーサーカーの方だ。
体躯の違い。性別の違い。人種の違い。意力の違い。生死の違い。
多くの差異を気に留めず、二人は対等の関係での付き合いを望み、意見を交換している。
隷属ではなく協調。共闘であり団結。
それが二人が聖杯戦争を行う間に定めた方針だ。
「バーサーカーは、平気?」
「オレっちは、ほら、サーヴァントだからよ。
ものは食えるし、笑いも怒りもするが、結局は大将の持ってる幽霊とそう変わりねぇ。
……けど、長くいていい感じはしねえな。腹の収まりが悪い、っていうの?
今やってる分には何ともねぇが、ずっと戦ってくとなると……どうだろうな。
変わる。呑まれる。そういう気配も、ないとは言えねぇ」
「そっか。やはり冥界での行動はサーヴァントにも時間制限があると見るべき。
もし何のペナルティもないなら……街から遠く離れて一方的に狙撃が可能な奴が優勝してしまう」
「成る程。ソイツは……ゴールデンじゃねェな。
弓も武士の武器だ。使うのが悪いなんて思わねぇが、ソイツをやっちまったら、もうソイツは武士とは呼べねぇよ」
「ともかく、今後も冥界に潜る時はなるべく短時間で済ませるようにしよう。
どれだけいられるからの限界も、試していく必要がある。私は花の小学生。生物的な意味での寿命なら他の参加者よりずっとあるはずだけど」
冥界と違い、冥奥領域の内側では太陽が浮き沈みしていて、時間の推移によって天気が変わる。
中に戻った頃には時刻は夕暮れで、茜空の斜陽の日差しが両者の影を薄く伸ばしている。
「……」
「バーサーカー?」
そんな黄昏時であったせいだろうか。
冗句を聞き流して黙るバーサーカーの顔が、夜宵にはいやに神妙に見えた。
その目がどこを見ているのか、サングラス越しからは窺えない。
「なあ、大将」
ややあって。バーサーカーは幾度か口ごもりながら、やがて意を決したように口を開いた。
「アンタはいいマスターだ。そいつは間違いねえ」
「うん」
「母ちゃんの霊を奪ったふざけた化け物から母ちゃんを取り返して、父ちゃんと一緒の墓で眠らせてやる。
ソイツは正しい事だ。凄えゴールデンだ」
「うん」
「けどよ、けどだぜ。
自分は地獄に行くとか、自分で試すとか、そこまで追い詰めなくてもさ……いいんじゃねぇか?」
こちらを思いやる気遣いに、夜宵の足が止まる。
「……私には、やるべき事がある」
夜宵は、何も趣味が講じて霊を収集し、オカルトに傾倒しているわけではない。目的は鑑賞ではなく別にある。
全ては手段。幽世に蔓延る悪意、人知及ばぬ魑魅魍魎を制する力を求めて。
「ママを連れてった空亡(あいつ)を見つけて倒す。螢多朗と詠子についた呪いを解く。愛依を生贄にする神をぶっ飛ばしてふん縛る。
みんなには協力してもらってる。必ず守ると誓ってる。私が誘って危険な目にも遭わせてるんだから、これは当然。
それでも……私がやってるのは人道じゃなく邪道。倫理と正義にはもとらない悪理の行い。地獄に落ちるのが妥当」
従姉妹に始まり、その家庭教師を縁とした悪霊集めは、ひとつの佳境を迎える時だった。
神の分身に捧げられる運命の神代愛依を救うべく旅立った千年王城、京都。
揃えた『卒業生』を配置した神殺しの陣。作戦決行も間近という段に、夜宵はこの冥界に落とされた。
-
完全な予想外の事態に当初こそ驚いたが、事態そのものの理解が済めば方針は早々に決められた。
真っ先に確立すべきは元の世界の帰還。
手段は問わない。脱出経路が見つかればそれに乗るし、優勝しかないなら走り抜ける。何が起ころうが全てにおいてこの事項は最優先。
ただし儀式の最中に負傷や損失があれば、折角帰還が叶っても神殺しの手が不足してしまい、これまでの努力が水の泡。
であるならば───損失を補えるほどの報酬を以て埋め合わせを利かせる。
冥界を一から造り、過去の英雄を召喚する、聖杯という極大のパワーソースを、盤石の神殺しに駄目押しで使う。
「私は必ず帰らなければいけない。目的を果たす意志を譲歩する気は一切ない。
犠牲を少なくする配慮は怠らない。けれどどうしても、これしか生還の手段がないとしたら───私は迷わず、生きた誰かをこの手にかける」
今の夜宵に求められるのは成果だ。
身内の為に世界を敵に回す、そんな覚悟はとうに出来ている。怨念も慟哭も全て受け止め、飲み下す。
先輩と後輩の未来、両親の鎮魂、その両方を叶える日まで、墓前に置いた良心を手に取る時は永遠に来ない。
死後の八熱巡りが何の脅しになる。四十九日を越えても悪霊は他者を喰って現世を蹂躙しているのに。
誰も救ってはくれない。救っては、くれない。
母の末路と嘆きを聞けたのは私しかいなくて──────。
「今は、オレがいるだろ」
泥濘に沈んだ意志を、野太い腕が力強く引っ張り上げる。
「そりゃあ、戦ってのはさ。そういうもんだ。
やりたくなかった事をやらなきゃいけなかったり、欲しいのと違う結果を出しちまう事も、あるんだろうよ。
しんどい時だってある。辛え時だってある。
そういうのを呑み込める強さがあっても、苦え味っていうのはいつまでも消えねえもんな」
夜宵が喚んだ、快男子の言葉の通りの英雄にも。
後悔があった。迷いがあった。
幼少に結んだ縁、童心のままの関係でいたかった誰かを、秩序と正義の名の下に裁定した。
彼女は鬼であり混沌。生きるままに殺し、好きなように喰らう生粋の魔。
討伐するのは人の定めだ。人々の笑顔に繋がる誉れ高い行いだ。
けれど、その為に、誉れから程遠い謀略を用いたのと───断首された女の顔が、今でも忘れられない。
人生には、望んでいなかった疵を負う時がある。英雄はそれを、知っていた。
「オレは戦う為に喚ばれたサーヴァントだ。だからってさ、それだけがオレ達の縁じゃねえだろ?
もっとあるんだよ、オレとアンタがここで出会ったのにはさ。
相性とか令呪とかそんなチンケなのじゃねぇ、もっと深いところに、ズンと響くやつがさ」
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己の胸を拳で叩き、狂戦士は笑う。
狂気のひとかけらも見せない、遊び帰りの少年のように破顔して。
「だから何でも言ってくれ。何でも頼ってくれ。
このオレ───坂田金時は、いつでもアンタの味方だからよ」
誰にも教えてない秘密。
坂田金時という英霊の名を聞いて、夜宵には一抹の不安があった。
足柄山の金太郎。日本では破格の知名度で知られる童話の主人公。
その名に恥じない剛力と快活さは、夜宵もふと童心に返り甘えたくもなる。
それが故に、こうも思う。もしや彼は、自分の行為に賛同してくれないのではないか───と。
人を守り鬼を討つ、絵巻物に書かれるままの正義の味方。
そんな彼に自分はどう見えるか。悪霊を捕らえて共食いをさせ、より強い霊を生む蠱毒の術。
手を誤れば自身も、無関係の周囲も巻き込む災厄を抱え込み、なおも増やしていく。
邪悪───そう謗られるのには慣れている。問題なく耐えられる。
主従関係の破綻に繋がりかねないとう危惧と…………捨てた良心があった孔が、疼く以外は。
そんな杞憂をバーサーカーは、五里の先を惑わす霧を吹き飛ばす雷光のように、あっさりと払ってくれた。
光り輝き、希望を照らす黄金の嵐。
これが英雄。怨念を根幹にする悪霊と相反する、信の一念を心に抱く熱き魂。
「……もちろん、期待してる。源氏の頼光四天王、加わってくれればこれ以上ない助力」
そう、血濡れの奇跡を目指さなくても。
彼が来てくれれば、きっと大丈夫。
そう思わせるだけで顔を上げられる。暗雲に道を示してくれる。
坂田金時の英霊としての強さを、夜宵は理解した。
「じゃ、さっそく頼りたいんだけど、明日の予定だった心霊スポット……今から行かない?」
「いやもうかぁ? さっき行って帰ってきたばっかジャン?」
「おねが〜い連れてってきんちゃ〜ん(らぶらぶはぁと)」
「うおおおお変な声出さないでくれって! ああもう分かった、分かりましたよ!
ホラ、手出しな」
片手でひょいと夜宵を持ち上げ、肩車にして乗せて源氏武者は歩き出す。
暗黒遊戯に乗り込むは黄金衝撃。
冥界より振るわれる轟雷の一振りが、神も魔も打ち破る。
「それじゃ、れっつごー」
「ストォォォ!!!」
スポット巡りのお決まりのかけ声で出発する。
いつもより十割増しになった音声を聞きながら。
───父親の肩に乗せてもらった時より、もっと高かっただろうか。
今より小さい頃の、小さい記憶を、少し思い出した。
-
【CLASS】
バーサーカー
【真名】
坂田金時
【属性】
秩序・善
【ステータス】
筋力A+ 耐久B 敏捷B 魔力C 幸運C 宝具C
【クラス別スキル】
狂化:E
正常な思考力を保ってるが、ステータス上昇の恩恵を受けない。
ダメージを負うごとに幸運度判定。
失敗すると魔力、幸運を除くステータスが上昇する代わりに、感情を制御できず暴走する。
狂化の際、全身が真っ赤になる。怒りゲージマックス。
【固有スキル】
怪力:A+
筋力パラメーターをランクアップさせる。
本来は魔獣が有するスキルだが、雷神の子である赤龍の子であり、人喰いの山姥の子である金時は本スキルをきわめて高ランクで所有している。
動物会話:C
言葉を持たない動物との意思疎通が可能。
動物側の頭が良くなる訳ではないので、あまり複雑なニュアンスは伝わらない。
それでも金時の精神構造が動物に近いせいか、不思議と意気投合してしまう。
天性の肉体:C
生まれながらに生物として完全(ゴールデン)な肉体を持つ。
このスキルの所有者は、常に筋力がランクアップしているものとして扱われる。
さらに、鍛えなくても筋肉ムキムキな上、どれだけカロリーを摂取しても体型が変わらない。
筋力にプラス補正。
神性:D
雷神の子という出自から来る神霊適性。
母が人食いの山姥である所為でランクは低い。
雷神系のルーツ、伝説を保有する英霊からの攻撃に対して、稀に耐性として発動することがある。
【宝具】
『黄金喰い(ゴールデンイーター)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
たぶん真名はコレじゃない。絶対違う。だけどこの名前で発動する。ゴールデン理不尽。
雷神の力を宿すマサカリ。金時の怪力無くしては決して扱えない重量を持つ。
雷を込めたカートリッジの爆発で、破壊力を高める。
カートリッジの使用量で威力が変化する。最大15。たまにジャムる。
たぶん元々はこんな形してない。絶対違う。ゴールデン理不尽。
『黄金衝撃(ゴールデンスパーク)』
ランク:C- 種別:対軍宝具/対人宝具 レンジ:5〜20/1〜4 最大補足:50人/1人
マサカリから稲妻を放出。対象を薙ぎ払う。カートリッジ3回分使用。
【人物背景】
源氏武者、雷光四天王の一人。
幼名の金太郎の名で日本中に知られている。
誰かの明日を護るという想いで戦う邪悪の大敵、正義の味方。
ゴールデン。
【サーヴァントとしての願い】
大将の力になる。この戦争でも、求められれば元の世界でも。
【マスターへの態度】
霊を使役する技量を認め優秀なマスターとして扱うも、同時に幼子としても接する。
彼女が心身共に損なわれず生き残れるよう奮闘し、斧を振るう所存。
霊も恐れるバイオンレンス調伏には、ちょっと引き気味。晴明サンでもここまでやらねえよ。
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【マスター】
寶月夜宵@ダークギャザリング
【マスターとしての願い】
愛依に憑いた神と、空亡の排除。そのためのショートカットのパワーソースに用いる。
【能力・技能】
元々霊視の能力を持っていたが、家族を巻き込んだ事故で生死の境を彷徨ったのを切欠に、現世と幽世を同時に映す視覚に覚醒した。
視力に依存してるため目が利かない場所、幻覚に弱い。
事故の影響なのかIQ160の頭脳、成人男性を物理(凶器)で制圧する運動能力と超スペックにも目覚めた。
オカルト知識に精通し、数々の儀式や呪具を考案、作成。
特筆されるのは霊を閉じ込めた人形に自分の体の一部(髪の毛や爪)を埋め込み、霊現象の身代わりにする『形代』、
その人形を複数配置し共食いを行わせてより強力な霊を生み出す『蠱毒』がある。
こうして生まれた霊は卒業生と呼ばれ強力な反面、周囲はおろか夜宵自身にも牙を向ける気満々なので運用には注意。
現在の装備はSトンネルの霊の髪、鬼子母神の指、マルバスの指輪、『過渡期の御霊』。
【人物背景】
父を殺し母の霊を連れ去った悪霊を討つべく悪霊を蒐め収斂する小学生。
クレイジーオカルトロリ。
令呪の形状は『弑逆桔梗』の紋。
【方針】
生還優先。まずは手持ちを増やし形代を作って防備を固める。卒業生クラスも一体は増やしておきたい。
サーヴァントは勿論マスターも慈悲は持っても容赦はしない。自分と同じように死人ではないのに送られた相手には……。
【サーヴァントへの態度】
頼れる相棒。卒業生より強い霊で、蛍太朗や詠子と同じく人格ある相手との付き合いは初めて。
大きな肩に背負われると、遠い家族の記憶に胸が締まる思いに駆られるのを表明する事はない。
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投下を終了します
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投下します
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すいません 名前を書くことを忘れていました
改めて投下します
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白いノースリーブのワンピースに身を包み、服と同じ色合いのシュシュで髪を束ねた。ポニーテールをなびかせる金髪碧眼の美少女。
ビリー=アルフレッドのサーヴァントを言葉で表すのならば、そう言った表現になるだろう。
サーヴァントに関して、過去の英雄の影法師と聞いていたビリーは、その姿に少し驚いた。
甲冑をまとった騎士でも、狂気に捕らわれた戦士でもない
黙っていれば、端正な顔立ちをしたどこにでもいる少女。
戦いなど知らず。戦いなど知るべきでない者に見えた。
その正体を、逸話を、半生を知り。ビリーは何を思ったか。
ビリーのサーヴァント ルーラー。
その真名 ミレディ・ライセン
理不尽な“理”に抗い、悲劇を嗤う神に挑んだ少女。
――ビリーと同じ、『神殺し』に挑んだ少女。
その胸中を、彼は言葉にしなかった。
ただ、彼が少女に向けた目は。
サングラス越しでもわかるくらい、優しいものだった。
◆◇◆◇◆
空に、太陽は無かった。
陽は登っていた。雲一つない空に浮かぶ陽光が街を暖める。
冥界に差すという黒い太陽ではなく。白い閃光が世界を照らしていた。
だが、それはビリーの知る太陽とは程遠かった。
世界を愉しむ存在ではなく、冥界に都市を作るにあたりただただ模しただけの光で。
そこに浮かぶのは、ビリーが全てを背負ってでも殺したかった神ではなかった。
「僕の世界の神は、あそこにいたんだ。」
公園のペンチにもたれかかるビリーが空を指した。
自販機で買ったメロンソーダを機嫌よく飲んでいたミレディだったが。
「神」という言葉を聞くや否やプラプラ動かしていた足を止め、不快さを隠さないままに指さす先に視線を移す。
貼り付けられたような青の中に、光が孤独に浮いていた。
「どこの世界も神って高いところが好きなんだね。
上でふんぞり返って、ゲーム観戦を楽しんでま〜す。踊れ踊れ〜って。」
クソみたいなやつが考えることはどこも同じだ。
敵愾心を多分に含んだ声で、神経を逆なでするような言い回しを公園に響かせた。
いつの間にかミレディも空に指を向けていた。人差し指ではなく、中指を。
その指の先にいるのは、未だ我が物顔で星を照らしているビリーの世界の神なのか。
錬成師の青年に引きずり降ろされたミレディの世界の神なのか。
彼らをこの地に呼び込んだ、居るかも分からない冥界の神なのか。
どれであっても、二人が向ける感情は敵視以外の何物でもなく。
ミレディの言い回しを借りるなら、ふんぞり返ってゲーム観戦に興じているクソ野郎であることに違いはなかった。
「神は空から僕らを見下ろし、理不尽に否定の業を背負わせ。戦うことを強い続ける。」
「性格の悪い連中だよ。世界も人も、自分の駒だと思ってる。」
神にとって、世界は遊戯盤。そこに生きる人は玩具であり駒だった。
人の悲劇を嗤い。挑む姿を愉しみ。心を潰す絶望も愉悦のために消費する。
ビリーとミレディが知る『神』とは、そういう存在だった。
「奴らが見下ろす世界では、戦うべきでない子たちが傷ついた。
神が与えた能力が悲劇を呼び。不公平に幸せを奪われる。
生きることで精いっぱいの子が、戦っていた。」
ビリーにとって、世界とは不公平なものだった。
否定者。神が与えた理を否定する力。
魂に刻み込まれる超常的な異能を与えられたものは、例外なく悲劇に見舞われる。
ある少女は、旅の無事を祈った家族を否定(ころ)された。
ある男は、仲間や友と共に迎える終わりを否定(ころ)された。
ビリーの腹心の男は、仲間を助けたいという祈りを否定(ころ)された。
ビリーを父のように慕う少女は、幸せの絶頂で家族を否定(ころ)された。
笑顔で暮らせたはずの子が、人を思える優しい者たちが。傷つき、苦しみ、抗い、死ぬ。
そんな世界を彼は否定したかった。
神が強いるそんな不公平が、ビリーにはどうしても耐えられなかった。
-
「やっぱりよく似てるよ。私たちとビーちゃんは。
“絶対”を許せなかった。あるべき幸せを弄ぶ世界を否定したかった。
その気持ちは、私たちも抱いたものだから。」
自身のことをあだ名で呼ぶことに、ビリーは何も言わなかった。
その言葉がマスターへの忖度でも、ただの同調でもないと知っている。
同じ願いを抱いた者の、心からの共感だった。
「私も同じ。人の意思を踏みにじり。自由に生きることを否定する。
そんなクソッタレな世界が許せなかった。
人を玩具としか見てないあいつから、世界を取り戻したかった。」
ミレディにとっても、世界とは理不尽なものだった。
神は絶対で、その意思に従わないことは罪であった。
異なる種族が愛し合うことも。
恩人に感謝を伝えることも。
子供の幸せを願うことも。
力ある人物が教会に属さないことも。
あるいは、ただ生きることも。
神が否と言えば、それは罪となった。
時に神は人を唆し、滅ぼし。“そのほうが面白い”という理由だけで人を生かし、悲劇を増やす。
世界のすべてが神の遊戯盤。そこに生きる者たちは、娯楽のための駒であり玩具。
それを肯定することは、ミレディにとっては死ぬより辛いことだった。
◆◇◆◇◆
「『人が自由な意思の下生きられる世界。』。
君が語ってくれた願い。僕はすごく好きだよ。」
ビリーの言葉は、ミレディとその仲間たちが人生をかけて願い続けた言葉だ。
姉のように慕う女に伝えられ、彼女の仲間たちが抱き、未来へとつなげた祈り。
率直な賞賛に、ミレディの頬が緩む。
願いを好きだと言ってくれることは、英霊にとって我が事以上に嬉しかった。
「えへへ。ビーちゃんったら褒め上手だなぁ。」
「本心だよ。君たちの世界で神殺しが成ったのは。君たちが強いだけじゃない。
神に縋らない、人の意思を宿した人たちだったから。」
「私達だけの力じゃないよ。
私は神に敗けた。
神と対峙することさえできないで、未来へ希望を託すのが精いっぱいだった。」
ミレディは、神に敗れた英霊だ。
彼女たちは、神を崇める者たちを打ち倒すことはできても、神を滅ぼすことが出来なかった。
敗北を受け入れ、神を倒すための力を各地に封じ込めること。それが唯一彼女が遺せたこと。
人の体を失い、土塊の人形となっても彼女は生き。遥かな時を待ち続けた。
異世界から来訪した青年が仲間と共に現れ、力を託せたその時まで。
「勝ったのは彼らだよ。
彼らの意思が。人の思いが。神を殺したんだ。」
ミレディが力を託した青年たちは、神殺しを成した。
そこにあった思いは、ミレディがかつて抱いたものとは別だろう。
ハジメと名乗った青年は、青年の意思で神を殺した。
「それでも」。英霊の言葉に、ビリーは穏やかに、しかしはっきりと返した。
彼がその偉業を成せたことに。世界が神の手から解放されたことに。
ミレディ・ライセンとその仲間たちの戦いは、無駄なものではなかった。
英霊との契約(パス)が流し込む記憶を見た時から、羨望にも似た思いと共にビリーはそう信じている。
「解放の意思を未来へ繋げたのは君たちだ。
中心にいたのがキミだったからだし、解放に挑んだ彼らが優しく強かったからだ。
そうでなければ、神が絶対の世界で、神を滅ぼすための意思も力も何千年も未来にまでは届いてないよ。」
ビリーらしい言い回しをするならば、“解放者”たちは公平―フェア―だった。
戦闘に長けた者たちだけでない。市政に交じり情報を集める者。戦えない者を保護する者。生まれつき得た魔法を用い自分にしかできない役目を果たす者もいた。
子供も老人も、獣の耳が生えた者も角の生えた者も。
家族を失った者も、友を失った者も、助けられた者も、縁を感じて集った者も。
異なる種族を友と呼ぶだけで断罪される世界で。年齢も性別も種族もなく一人一人が神から世界を取り戻すために戦っていた。
そんな者たちだからこそ、種族も人生も関係なく繋ぐ意思があった。
そんな者が戦ったからこそ、悠久にも思える月日を経ても、ミレディたちが遺したものは風化することなく世界に残り続けたのだと。
その意思があったから、遥かな未来で神殺しは成されたのだと。
ビリーには、そう信じずにはいられなかった。
「僕は、そんな優しく強い人たちに手を取り合うことをさせなかった。
むしろ、彼らの手を放すようなことばかりしてきた。」
誰かと手を取り合うこと。皆が同じ意思の下戦うこと。
それは、ビリーのしなかった選択だった。
できなかった。ではなく、しなかった。
-
「僕は、一人で。戦おうとした。
皆と力を合わせて共に戦うことではなく、戦ってほしくない子たちの代わりに戦うことを選んだんだ。」
円卓の否定者たち。人を思える優しい人たち、強い意志を持った者たち。
ビリーは彼らを裏切り、彼らの代わりに戦おうとした。
否定能力 UNFAIR―不公平―
敵視されることを条件に、他者の能力を会得できる能力。
手を取り合うことを否定する代わりに、その力を背負う能力。
不停止の少年の代わりに。不動の少年の代わりに。
不正義の女の代わりに。不死の男の代わりに。
不運の少女の代わりに。不可触の少女の代わりに。
戦うべきでない者たちの代わりに、生きることで精いっぱいの者たちの代わりに。
不公平な己だけが戦い、傷つき、神に挑もうと。
それが、ビリー=アルフレッドという男の。正義だった。
「…一人で為せることは、多くないよ。ビーちゃん。」
「君の言う通りだよ。僕は一人で全部を背負うべきじゃなかった。
僕が戦いから遠ざけようとした子たちは、とても優しくて。強かった。
僕にできたことは、そんな優しい子を未来に送り届けることだけだ。」
ビリーもまた、ミレディと同じく『託した』人間だった。
神が星を砕くことで世界は終わった。
ビリー=アルフレッドの命も、その時に潰えた。
彼が、彼らが遺せたものは二つの意思。
運命に抗う優しい少女に。人を思える不死の男に。
他の否定者たちがそうであるように、ビリーもまた二人に未来を託している。
悲劇を起こす運命を否定してくれると、信じている。
それは、ミレディが未来に託した祈りと。よく似ていた。
少なくともミレディは、この優しいマスターは自分と同じだとそう思えた。
「なら、私達と同じだね。
ビーちゃん。やることやってるじゃん!」
「...その言い方は誤解を招くから、やめてくれないか。」
だがそうだな。その言葉と共に男は目を閉じる。
神殺しを成した世界で、その意思を繋いだ英霊が同じだと言ってくれたことが。どこかビリーを救われた気持ちにさせた。
ミレディが投げ捨てた空き缶が、綺麗なカーブを描きゴミ箱に収まった。
カランと軽快な音と共に、休息を終えた主従は腰を上げる。
うっすらと潤んだ眼でビリーを見つめる少女は、彼が進むことを止めない。
彼の正義を、否定しなかった。
「ビーちゃんは。やり方を間違っちゃったかもしれないけど。
...君の思いは、誰にも否定できない。尊いものだよ。」
「君のような英霊が何かを成せたと言ってくれるのなら。
僕が地獄ではなくこの都市に来た意味も、あるのかもね。」
風が、暖かな世界に吹いた。
模造品の命が蠢く街で、二人の解放者を祝福するように。
-
◆◇◆◇◆
空に、太陽はなかった。
ビリーが敵意を向ける恒星がいないという意味ではなく。
天から彼らを照らす光が、彼らの頭上から消えていた。
冥奧都市のもっとも外側を進んでいた彼らの周囲から、雑踏が消えた。
木々が砂になり、文明は荒廃し。命が消えていく。
「ここの世界に神がいるかは、僕は知らない。
星も霊のない世界の記憶が大きくて、死の世界の神のことも詳しくないからね。」
ビリーが歩くたびに、踵にある滑車がガリガリと音を立てる。
眼で世界を視れないビリーが、音で世界を視るための技術だ。
その滑車が文明のある場所を歩いているのだと示すように、アスファルトを砕く音を響かせた。
「でも。」その一言を強調すると同時に、渇いたが近くの木々を揺らした。
風に吹かれた命の模造品が、またたくまに砂となって崩れていく。
「この冥界は、僕や君の世界に負けず劣らず。不公平な世界だよ。」
アスファルトを砕く滑車の音は硬い泥を擦るような鈍いものへと変わっていた。
ビリー達がいた区画は、冥界へと変わる。戻ると言ったほうが正確だろうか。
冷たい風と渇いた空気を一身に受けたビリーの、生者としての本能が警鐘を鳴らす。
このまま居たら、本当に取り込まれると。
事実。隣にルーラーがいなければ、ものの数分で彼は死の世界に取り込まれていただろう。
「思ったより、早かったな。」
冥界化のルールを確認したビリーが、冷たく漏らす。
都市が冥界へと変わる時間は5分ほど。その点については彼の中の知識通りではあったが。早いと言ったのは別の部分に関してだ。
冥界が都市を失うペースは、彼の予想よりずっと早かった。
「まだ始まったばかりなのに、好戦的な葬者が多いんだね。」
「それだけ、生き返りたい人は多いんだろうね。
僕のように本当に死んでしまった人にとっては、冥界の聖杯は生き返るための最後のチャンス。
訳も分からず冥界に落とされてしまった人がいるとしたら、その子にとっては日常への帰還だ。必死にもなる。」
通常の聖杯戦争のように魔術師たちが願いを賭けた殺し合いならば、多くの参加者は命を失う可能性を承知の上で―――その覚悟があるかは全く別の話になるが―――戦いに赴き。勝てないにしろ逃げる選択も生き延びる可能性もあった。
彼らにとって命は『失う可能性のあるもの』であり、生存は『可能性』の話だった。
冥奧都市にはそれがない。葬者にとって命は『勝たねば失われるもの』で、生存は何より大きな『願い』である。
『生き返りたい』
『失いたくない』
『別れたくない』
『死にたくない』
冥界に落ちた葬者の願いは、とても純粋でだからこそ強い。
だからこそ、容易に人の願いを奪い。容易に人を殺しにかかる。
命を天秤に乗せた、言葉通りのデスゲーム。
冥奧都市で行われる聖杯戦争は、人が当たり前に持つべき願いを歪ませる戦いで。
誰かが、否定しなければならない戦いだった。
-
「ルーラー。さっきは言わなかったボクの願いだが。
ボクはこの命、僕は、幸せになるべき誰かを生かすために使いたい。」
生き返るために。戦うしかない人がいる。
前触れもなく冥界に落ち、惑うしかない人がいる。
蹂躙される弱者も、蹂躙するしか出来ない者も。この世界には多くいる。
冥界の聖杯戦争を見て嗤う神がいるかは知る由もないが。
今冥界で起きている事象は、彼が否定したい不公平な世界に他ならない。
「実際に冥界を見て実感したよ。
僕のような人を苦しめた人間は兎も角。何の罪もない人が落ちるには、この世界はあまりにも酷だ。」
ビリーの願い。
それは自分の生でもなく、自分たちの利益でもなく。
『理不尽を強いられた』誰かへの救いであった。
「余すところなく全てを。そう言えるほど僕は純粋でも最強でもない。
それでも、強いられる悲劇を。奪われる幸福を。見過ごすことはできない。
そうじゃなければ不公平だ。」
弱い誰かが傷つくことのないように。
強い誰かを支えてあげられるように。
あるはずの幸せが奪われることのないように。
聞く人が聞けば一笑に付されてもおかしくない願いを。
隣を歩く少女は笑うことも茶化すこともなく。空のように青い瞳を己のマスターに向けている。
いつの間にか、二人の周囲を紫色の靄が覆っていた。
光あふれる都市を目前にして、霧状になった人骨が混ざり合ったような霊体が生あるものの魂を食らおうと、彼が都市に戻ることを妨げるように、悲鳴に似た奇声とともに姿を現した。
ビリーの動きは止まらない。盲目で気づいていないわけではない。
シャドウサーヴァントクラスならまだしも、この程度の霊体ならは気にするほどではないことを、ビリーは既に知っている。
「だから、協力してほしい。ミレディ・ライセン。
1人で背負うことしかできなかった僕が、誰のために…誰かと共に戦えるように。」
「それが、マスターの“意思”なら。ミレディちゃんはその味方だよ。
ミレディちゃんは“解放者”。人の自由なる意思の味方!
英霊になってもその在り方は変わらない!」
ミレディがにっと微笑み、指を鳴らす。
二人の正面に蠢き、冥奧都市をふさぐように湧いていた霊体が、巨大な槌でも殴られたように地面に叩き潰され霧散した。
何事もないかのようにミレディは怨霊を踏みつけ。
ビリーの踵の滑車が、紫色の塵を削った。
「上手く使いなよ。ビーちゃん。
私を頼ることは、不公平じゃないぜ!」
してやったり。
そう言いたげに向けられた笑顔に、ビリーも表情で応えた。
理不尽に脅かされる幸せを一つでも救いたい。
不公平に奪われる優しさを一つでも減らしたい。
そう願う男の顔は、サングラス越しでも優しかった。
風が冷たい世界に吹いた。
理不尽で不公平な死をもたらす渇いた風を背に、二人の解放者たちは進み続けた。
【CLASS】ルーラー
【真名】ミレディ・ライセン@ありふれた職業で世界最強 零
【ステータス】
筋力 E 耐久E 敏捷A+ 魔力EX 幸運B+ 宝具EX
【属性】中立・善・人
【クラススキル】
対魔力:D
ルーラーのクラススキル 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
迷宮作成:A+
本来は、キャスターのクラススキル 陣地作成の亜種となるスキル
迷宮の番人となった逸話のため、逸話に合わせスキルが変化した
-
【保有スキル】
解放のカリスマ C+++
絶対に抗う者たちの長として、多くの人々を束ね多くの敬愛を背負った。人を率い、導く才能
関係者全員に「ウザい」と言われる彼女の言動により、いろんな意味でムラがあるスキル
神代魔法・重力魔法 EX
世界に7つある神代魔法の一つ。ミレディの世界で体系化された魔法とは全く異なる気家具外の魔法。重力魔法の使用者
その本質は『星のエネルギーに干渉する力』であり 重力による圧殺や飛行を初め、その能力は多岐にわたる
世界の守護者 B+
絶対の法則であった“神”に抗い、その組織の長として人々を動かし、一度は世界にその願いを伝えるまでに至った 神より世界を救わんとした解放の意思
仲間亡き後もただ一人生き続け。神との最後の戦いにおいて英雄たちを未来へ繋ぎ。世界を守った英雄。
【宝具】
『ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮♪(ライセン・ローグライク)』
ランク:C++ 種別:迷宮宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:99人
任意の場所に干渉し、「魔術・魔法に属する能力の出力低下」「ミレディの任意によるトラップの作成」といった性質を付与する。陣地作成スキルの亜種ともいえる宝具
正確には、建造物や洞窟そのものを生前の彼女が管理していた「ライセン大迷宮」へと変化させる。
同時に「迷宮」にできる場所は一か所に限られ、また魔術師の工房がそうであるようにこの迷宮も十分な効果を発揮するには準備のための時間を有する
『一に至る物語』
ランク:EX 種別:継承宝具 レンジ:― 最大補足:1人
神に勝てなかった自分たちが、狂ってしまった世界を止め未来に希望を残すため、己の力を迷宮に残す
決断と願いそのものが宝具となったもの
自身が所有する《神代魔法・重力魔法》のスキルを他人に与え、使用可能にする
スキルのランクは対象の魔術的素養や能力との相性によって変動し、また鍛錬を重ね理解が進むごとに出力は向上する 適性のない人間には知識が刻まれるのみに限られる
対象人数に上限はなく英霊であっても効果の対象にできるが、『ミレディ・ライセンに認められた人物』である必要がある
【weapon】 なし
【人物背景】
世界を弄ぶ絶対神「エヒト」に抗う組織「解放者」のリーダーを務めた少女
神が強いる“絶対”の理から外れることを“罪”とする世界を否定し、自由な意思の元に人が生きる世界を求めた超絶天才美少女魔法使い(自称)。
仲間と共に神へ挑みあと一歩まで進めたが敗北 未来に願いを託した最後の解放者にして世界の守護者
遥か未来で為された神殺しで、託した願いを見届け、世界を守り死んだ守護者
【サーヴァントとしての願い】
人が自分の意思で生きられる世界
実のところ彼女自身の願いは叶っているので、この場においてはビリーの願いの成就
【マスターへの態度】
同じように“絶対の神”に抗い 同じように可能性を他者に託したビリーに呼ばれたことに納得と共感
「ああ、こんな人だからルーラーで喚ばれたんだなぁ」とは本人の談
【マスター】ビリー=アルフレッド@アンデッドアンラック
【マスターとしての願い】
101回目のループにおいて、神に抗う者たちの幸福
不公平にも冥界に落ちてしまった、幸せになるべき者の幸福
【能力・技能】
盲目ながら跳弾まで把握している超人的な銃の腕前
否定能力 『UNFAIR-不公平-』により自身を敵視する人間の否定能力をコピーすることが可能
現段階でビリー本人が把握している能力は「不変」「不均衡」「不定」の三つになる
それ以上の能力を保持しているかは不明
【人物背景】
「UNION」の円卓第三席にして、否定者狩りこと「UNDER」のボス
裏切り者として円卓と対峙し、神殺しのためには犠牲が出ることも厭わない
…そうまでして他者に敵視されることを望んだ ただ一人ですべてを背負い神に挑もうとした
誰よりも優しい男
令呪は銃痕のような三本の傷
【方針】
この世界について調べる
自分の意思に従い、幸せになるべき誰かために戦いたい
【サーヴァントへの態度】
神に抗った先人であるミレディに相応の敬意をもって対等に接している
【備考】
参戦時期は死亡後
死ぬと喪失するはずのUNFAIRが使用可能なので、ビリー自身は「死ぬ寸前の状態で冥界に来ている」と解釈している
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投下終了します
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投下します
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――貴様が見るのは――更に先だ。
正直言って、恐ろしかった。
そして、決着は、自身のフェイント。
本当に牙を継いでいいのか?
疑問が駆け巡る。
本当に――俺は――
「そんな事ないよ」
後ろから声が聞こえる、光がかかり、よく見えない。
「どんな最強クラスだって、負けたり、圧倒されたりすることはあるんだからさ」
光から、手が飛び出る。
「教えて、あなたって人を」
光が、俺も包んだ。
◆
東京駅。
全国各地から人を集めるこの駅は、強大な人の塊を包みこんでいた。
仕事に行くもの、土産を見るもの、異国に戻るもの。
そんな、人間たちを集めるターミナル駅。
そこに、異彩を放つ男がいた。
誰もが振り向くその姿。
はちきれんばかりのスーツ、強靭な筋肉、無愛想な顔。
そしてその男が立つのは、東京駅名所、銀の鈴。
その男の元に、一人の少女が近づく。
赤い制服の様な物に身を包む少女は、男に近づく。
「おまたせ〜」
「…これは」
「チョコバナナ、そこで出てたんだよ〜ほら」
「…」
男は無言でチョコバナナを手に取り、口に運ぶ。
「…旨いな…アーチャー」
「ありがとう、マスター」
男――加納アギトとそのサーヴァント、アーチャー。
一見すると、父と子に見えなくもない。
「…もしかして…誰か倒したか…」
「うん、奥にここら一帯を巻き込もうとするキャスターがいてね、マスターを気絶させて、魔力を断って来たよ、しばらくは動けないはず」
本来なら、出る単語は消滅であろう、しかし、アーチャーのしたのは無力化
「…殺さず、手段を取り無力化をする…良き手腕だ」
「ありがとうマスター、誰も殺さない、それが私の使命だから」
アギトとアーチャーは、ここまで何人もの主従と戦ってきたが、どれも消滅はさせていない。
マスターの無力化を行い、魔力を断つ、それを繰り返してきた。
「マスターもおかげもあるからね、いつもありがとう」
「…貴様に気負いはさせたくないのでな…」
アギトの武術、無形。
無形故に最強、それが、滅堂の牙、加納アギト。
「では征くぞアーチャー、私は仕事がある」
「はいはい〜護衛は任せて!」
アーチャーはそう言い、霊体化する。
昼休憩を終わらせ、与えられたロールの仕事に励む。
その仕事は銀行員。
就職先は、日本銀行。
彼にとっては、大日本銀行のIFの姿。
(御前が建てた銀行では無いのだろうが、役目はしっかり果たそう、それが今の私の義務だ)
社会人として聖杯戦争に参加する滅堂の牙、加納アギト。
アーチャーと共に、この戦場を駆け抜ける。
-
【CLASS】アーチャー
【真名】錦木千束@リコイス・リコイル
【ステータス】
筋力C 耐久D 敏捷B 魔力D 幸運C 宝具C
【属性】秩序・善
【クラススキル】
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
【保有スキル】
心眼(真):A
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、
その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
逆転の可能性がゼロではないなら、
その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
矢よけの加護:A
飛び道具に対する防御。
視界外の狙撃手からの攻撃であっても投擲武装であれば、対処できる。
ただし超遠距離からの直接攻撃は該当せず、広範囲の全体攻撃にも該当しない。
【宝具】
『鉄の炉心』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
アーチャーに与えられた人工心臓、英霊化に伴い宝具として力を得た、普段は機能劣化を防ぐため、特別な魔術封印がされている。
宝具使用の際は、魔術封印を解く代わりに、幸運と魔力を除くステータスを二段階上昇させる。
しかし、その代表として使用後、短期間でアーチャーは消滅してしまう。
【weapon】
自身の銃、入っているのは実弾ではなく非殺傷弾だが、それでも魔力の力もあり、ダメージは入る。
【人物背景】
最強のリコリス――不殺の誓いの少女。
その少女は、人を守るために戦い続ける。
【サーヴァントとしての願い】
特に無し、
【マスターへの態度】
凄い強い!頼りになる!かっこいい!
【マスター】加納アギト@ケンガンアシュラ
【マスターとしての願い】
トーナメントへの帰還
【能力・技能】
「無形」
あらゆる形に対応する武術。
後手になることが多いが、あらゆる武術に間違えなく対応できる。
「武」
適応力を犠牲にすることで素早い技の選択を可能にする。
先の先の先。
「龍弾」
回避困難な発勁。
急所に当たればどんな相手でも破壊する。
「先の先」
相手の気を読むことで、相手より早く行動する。
熟練した闘志だからできる技。
【人物背景】
六代目滅堂の牙 大日本銀行代表選手。
拳願仕合最強、故に責任感が強い。
ガオラン・ウォンサワットとの試合後から初見泉戦前の間から参戦。
【方針】
トーナメントに戻らないといけない以上、聖杯をさっさと取りに行くことを優先。
もちろん、民間人の被害などは最小限にし、名のあるものかいるなら、正々堂々戦いたいという欲求もあるっちゃある。
【サーヴァントへの態度】
互いに最強の座を持つものとして、共感するとこあり。
-
投下終了です
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投稿します
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『いつまでも、一緒にいると誓った』
『誓えたことが、安らぎだった』
『こいつのことが、大切だと思った』
『思えたことが、喜びだった』
『幸せにしてやると、言ってやれた』
『言えたことで、満たされていた』
『こんなにも色々なものを、こいつから受け取っていた』
『なのに、俺はーーーーー』
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「俺は……生きているのか?」
彼の名前はヴィレム・クメシュ。彼は目が覚めたたら知らない場所にいた。
「……!? 聖杯戦争……!!」
いきなりヴィレムの頭の中に聖杯戦争の情報が流れ込んでくる。
「またとんでもない戦いに巻き込まれたな……」
「ようやく目が覚めたようだな」
「お前は……?」
ヴィレムの前に男性が現われる。
「わしは徳川家康。お主に召喚されたサーヴァントだ」
「お前が俺のサーヴァント……」
「マスターであるお主の願いはなんだ?」
「俺の願いは……」
ヴィレムの願い……それはーーーー
どうする、ヴィレム!
-
【クラス】
ルーラー
【真名】
徳川家康 【どうする家康】
【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力C 幸運B 宝具A
【属性】
善・中立
【クラススキル】
真名看破A
直接遭遇したサーヴァントの真名及びステータス情報が自動的に明かされる。
神明裁決A
聖杯戦争に参加したサーヴァント全てのサーヴァントに令呪を二回行使できる。
【保有スキル】
カリスマA
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において能力を向上される。徳川家の当主として軍を率いた彼の逸話が昇格したスキル。
神性A
東照大権現として信仰されている彼の逸話が昇格したスキル。
戦闘続行A
最後まで戦い続けた彼の逸話が昇格したスキル。
腕力
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【宝具】
『徳川軍の軍勢』
ランクA 種別対人宝具 レンジ1〜100 最大補足1000人
彼が絆を深め、共に戦った者達を呼び出し敵を殲滅する。
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【人物背景】
江戸幕府初代将軍であり、戦国乱世を終結された英雄。だが大切な家族や家臣たちの悲しい別れもあり、それでも戦い続け、今川義元、織田信長、武田信玄、豊臣秀吉たち、今まで出会って来た人々の思いを受け継ぎ戦国乱世を終結させたのである。
【サーヴァントとしての願い】
特になし。ただもしも叶うなら家族や家臣たちと再び出会い、花見とかしたい。
【マスターへの態度】
マスターはきっと大切な人を亡くしていると思う。かつて瀬名を亡くした自分と同じ感じがする。
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【マスター】
ヴィレム・クメシュ【終末なにしてますか?忙しいですか?救ってもらっていいですか?】
【マスターとしての願い】
クトリを幸せにしたいが……誰かを犠牲していいのか迷っている。
【能力・技能】
かつて準勇者として戦っていたため、戦闘力がかなり高い。
【人物背景】
元の世界では唯一生き残った人間族の青年。
かつて準勇者として戦っていた人物でもある。
妖精兵の少女クトリ出会い、お互いに反発しながらもお互いを好きになっていく。たが最後はクトリは死亡してしまい、彼も死亡するはずだったがその瞬間にこの聖杯戦争に巻き込まれたらしい。
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【方針】
どうしていいのかわからないので考え中。
【サーヴァントへの態度】
信頼出来るかどうかはわからないけど、すごい英雄というのはなんとなくわかる
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投稿終了です
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>>230
リアルタイムで執筆しながら投下するのは他の方の迷惑になるのでやめた方がいいですよ
あらかじめ作品を完成させてから、それをペーストして投下するのがいいと思います
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投稿します
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「全く……とんでもない戦いに巻き込まれたわね……」
斎藤ニコルは目を覚ましたら聖杯戦争という戦いに巻き込まれ、ため息をついていた。
「そもそも願いは自分で叶えるものでしょう。 聖杯なんて意味不明なもの信用できないわよ」
「安心してください!マスターのことはこの三國志一のイケメン趙雲が守ります!」
ニコルに話かけて来たのは彼女のサーヴァントである趙雲子龍である。
「あなた本当にナルシストね……」
さらにため息をつくニコルである。
「私はモテるうえに、強いです!」
「誰も聞いてないわよ!?」
この二人は聖杯戦争を生き残れるのか……。
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【クラス】
ランサー
【真名】
趙雲子龍 『新解釈・三國志』
【ステータス】
筋力A 耐久B 敏捷B 魔力C 幸運B 宝具A
【属性】
善・中立
【クラススキル】
対魔力C
魔術に対する抵抗力。
【保有スキル】
戦闘続行 A
彼が戦場で戦い続けた逸話が昇格したスキル。
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【宝具】
『三國志一のイケメン』
ランクA 種別対人宝具 レンジ1〜100 最大補足1000人
彼の三國志一のイケメンというナルシストの思いが宝具になったもの。自分のステータスを最大にまで上げて敵を殲滅する。
【人物背景】
蜀の劉備に従えた武人。自称三國志一のイケメンを名乗るナルシストであり、仲間たちからも鼻に付くと言われていたが、その実力は本物である。
【サーヴァントとしての願い】
特になし。マスターを元の世界に無事に返す。
【マスターへの態度】
興味深い人だと思う。
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【マスター】
斎藤ニコル『22/7』
【能力・技能】
アイドルとしての実力はかなり高い。
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【人物背景】
アイドルグループ22/7のメンバー。
かなりストイックで努力家。自分にも他人にも厳しく、仲間にきついことも言うが、根は優しく性格で、面倒見のいいところもある。ちなみに勉強がかなり苦手。参戦時期はアニメ及びゲーム完結後。
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【マスターとしての願い】
願いは自分の叶えるものだから聖杯には興味ない。そもそも聖杯が信用出来ない。
【方針】
この聖杯戦争を止めて、元の世界に帰る。出来れば誰も死なせたくない。
【サーヴァントへの態度】
信頼は出来ると思うけど、あのナルシストのところはどうにかしてほしい……。
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投稿終了です。
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>>240
>>231とは別のものですが、気づいてなさそうなので改めて
投下する時は、メモ帳なりwordなりに全部文章を書いて、コピー&ペーストで投下した方がいいです
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間違えた、>>240じゃなくて>>239です
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投下します
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恐怖の相を浮かべた、大勢の男達が屯する広い室内に、汁を啜り、硬いものを噛み砕き、咀嚼する音が、間断無く響いていた。
音の発生源は、室内の上座に位置する場所に設られた、椅子と机。其処で、殆ど全裸に等しい美女を複数人、周囲に侍らせて、食事を取っている、アジア系の巨漢だった。
胴も腕も脚も太く、一見すれば肥満体とも見えるその身体は、しかし、肥満と見られる様な脆弱さは微塵も持ち合わせてはいない。
その身体を、その肉を見れば、その身体から放たれる熱を感じれば、誰しもが思うだろう。この男の前に立つのは、機関銃を持っていても出来ないと。
肉体から放たれる熱が、覇気が。僅かな所作から感じられる“力”が。男が根本的に己とは違うのだと理解(わか)らせてくる。
更に男の存在そのものから、凄まじいという言葉では到底足りぬ“圧“が放たれていた。
只其処にいる。それだけで、否が応でも意識が巨漢へと向いてしまう。
巨漢の意志も意識も、周囲には全く向けられていない。にも関わらず、利剣の切先を口に突き入れられているように感じられる“圧”。距離が充分に離れているにも関わらず、狭い檻に、狂える獅子と一緒に入れられているかのような“圧”。
その“圧”を齎すものは、肥満体と見えるその身体の内に秘める、千の軍勢も一人で殺し尽くせるだろう“暴”と、森羅万象を意に介さず、この世の全てを膝下に隷属させるという獰猛な覇気だった。
例え百万の軍勢を率いていても。例え万夫不当の豪勇を、屠龍の勇者を傘下に従えていても。10倍の敵を一戦で殲滅する策を苦も無く編み出す智者と、その策を完遂して勝利を獲得する名将が幕下に居ようと。
それら全てを頼ること無く。それら全てを顧みず。只々己の力のみを信じ用いて、己の望む結果を勝ち取る。
己が意志。己が力のみを唯一絶対の基準として君臨する絶対者。
『魔王』と、そう呼ばれ、そう称しても、誰も異を唱えまい。およそ人の範疇に収まるとは思えない男だった。
男の名は董卓。前後合わせて四百年の永きに渡り、中華の地を統治した漢王朝の末期に於いて、比類無き暴虐を恣にし、大乱世の烽火となった男である。
広いテーブルに並べられた、精緻な器に盛られた料理を、ある時は箸を器用に操って口に運び、ある時は器を直接手に散って中身を嚥下する。
只それだけ、凡そ人であるならば、誰しもが行う行為であるにも関わらず、周囲に侍らせた女達は元より、部屋に屯する男達の視線が、恐怖に満ちているのは何故なのか。
董卓に向けられる視線が、人に対する其れでは無く、人外化生を見るものなのは何故なのか。
その答えは,侍っていた女達により、空になった器が下げられ、新たな女達が運んできた器の中身が、百万の言葉よりも雄弁に物語る。
ある器の中身は、柔らかくなるまで煮込まれた人間の右手首だった。
ある器の中身は、視神経を引く人間の眼球が浮かぶ吸い物だった。
続々と運び込みれてくる、程よく焼けて香ばしい匂いを放つ諸々の肉料理も、人のものであるのだろう事は疑う余地もない。
化け物を見る周囲の視線を、董卓は一切意に介すること無く、運び込まれてきた悍ましい肉料理に口へと運ぶ。
再び、室内に響く、柔らかい肉を喰い千切り、骨を噛み砕き、眼球を嚥下する音、
室内の男女の恐怖と緊張が頂点に達し、何人かが意識が遠のくのを感じた時。
室内を、極北の風雪を思わせる冷気が充たした。
「戻ったぞ」
部屋の広さに相応しく、重く大きな扉を軽々と開けて、部屋に入って来たのは、腰まで届く銀髪と蒼氷色(アイスブルー)の瞳が特徴的な軍装の女。
只の女ではない。美女、それも飛び切りの、という言葉が頭に付く。
董卓の周囲に侍る容色優れた女達が、悉く色褪せ、見窄らしく見える。それ程に美しい女だった。
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女の声を受け、董卓の意識が、初めて外へと向けられる。
ただ意識を外へと向ける。それだけで、生あるもの達が生命の危機を感じ、精神が押し潰されそうな重圧を感じる。
どよめきが部屋の空気を震わせた。室内の無数の男女の上げる苦鳴だった。
魔王の目覚めに立ち会ってしまった、不幸な人間は、この様な声を出すかも知れなかった。
董卓の視線が、女へと向けられる。
董卓と女との間に居た者達が、血相を変えて左右へと飛び退いた。
董卓の視線を浴びる────どころか、視界に入っただけで死ぬとでもいうかの様な、怯え振りだった。
董卓の視線を受けて、女は涼しげに嗤った。董卓が魔王ならば、女は魔人か。董卓の視線を受けて平然としているどころか、董卓の首を取りに行くかの様な、獰猛な精気を全身から発散させている。
女は両手にぶら下げていた首を投げ転がした。中年の男の首も、水気をとうに失った老人の首も、十代半ばの少女の首も、皆等しく董卓の前に転がされる。
「当然だが、サーヴァントの首は持って帰れないのでな。マスターのものだけだ」
董卓が緩やかに、それでいて山でも動かせそうな力を感じさせる動きで右手を動かすと、即座に数人の男が動き、転がされた頭部を運び去った。
「転がして、猛り狂うほどの首であったか」
女の行為を、気にすら留めぬ董卓の問い。
「少しばかり愉しめた程度だ。中々死ににくてな」
「俺の命は果たしたか」
「ああ、サーヴァント共が次に限界した時、お前の名を聞いただけで血反吐を吐いて死ぬ様に殺してやったぞ」
空気が凍てついた。女の返答に、全員がつい最近此処繰り広げられた惨劇を思い出したのだ。
◆◆◆
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東京は新宿区若松町に有る、都内でもそれなりに名の通った暴力団。
合法非合法を問わずシノギを行い、それなりに収益を上げ。警察にも充分に鼻薬を嗅がせ、組の幹部連には司法の手が及ばない犯罪の方法を編み出し、実践を経て有効性を検証し。
内部を良く統制し、他の暴力団や海外のマフィアとの抗争も制し、新宿という東アジアでも有数の街に於いて、確たる勢力を築き上げた組織が有る。
その暴力団の組長の住む邸宅が、襲撃を受けたのは、三日前の事だった。
縄張りの場所が場所だ。警備は厳重を極めていた。
五百坪の敷地を、高さ4m、厚さ30cmの鉄条網付きの鉄筋コンクリート製の塀で囲い、各所に監視カメラを配して厳重な警護を敷いたその屋敷に、二人の男女が押し入ったのだ。
唯一の通路である正門にしたところで、厚さ20cmの鋼板に太い鋼柱を閂として使用している。戦車を持ち出しても、簡単には突破できない堅牢強固な門扉の内側に、この男女は至極当然の様に、いつの間にか立っていた。
この侵入者達を、屋敷内に詰める組員達が見逃す訳も無く。或るものは素手で、或る者は短刀(ドス)で、或る者は銃で、或る者は飼育されている土佐犬をけしかけ、男女を死体に変えるべく襲い掛かり、その悉くが死体となって転がった。
銃を持った者は、女が振り上げ、振り下ろした腕の動きに合わせるかの様に出現した氷柱に顔や喉首を貫かれて絶命し。
素手や刃物で向かった者は、董卓の拳が振るわれる度に、骨の砕ける音と共に、ある者は脳漿をぶちまけ、ある者は血反吐を吐いて死んだ。
土佐犬に至っては、確実な死を認識したのだろう。男女に向かって顔を自然に埋めて尻尾を振る始末。
死の擬人化ともいうべき男女を前に、動きが止まった組員達に向けられる男の眼。
圧倒的。という言葉ですら、到底追いつかない。狂える獅子か、目覚めし魔王の如きその眼を前に、組員達は悉く魂が抜け落ちたかの様に喪心し、男女の進軍を見送った。
その後は至極樹単純な話だ。そのまま適当な若衆を捕まえて、組長の元へと案内させる。若衆に否という権利は無い。元より拒もうという発想すら抱けず。
案内された部屋で、組長の周囲を固める代貸し以下の幹部連と警護の若衆を見ようともせず、董卓は一直線に組長へと近づいて、その頭を握り潰した。
血濡れた手を拭おうともせず、董卓は幹部連を振り返り、一言だけ口にした。
「従え」
拒めばどうなるかは、董卓の足元に転がる頭の無い『元』組長が雄弁に物語っている。
董卓の放つ、暴力的な覇気に呑まれた幹部連は一斉に平伏して忠誠を誓い、董卓と美女の意のままに動く傀儡と化したのだった。
◆◆◆
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「それで、まだ敵は見つかってないのか?」
恐怖の視線を向けてくる有象無象など知らぬとばかりに、女は董卓へと問う。
戦を終えて凱旋したというのに、まだ戦い足りぬと言いた気に。
女の声に、猛獣に追われる兎を思わせる勢いで、代貸しが進み出て、跪いて報告する。
「も、申し訳ありませんッッ!目下、組員のみならず、傘下の者達にも探させているのですが、何分にもこの街には刺青をした者は非常に多くッッ!
赤い刺青というだけでも、絞り込むのは困難にございましてッッ!!」
熱病に罹ったかの様に、震えて跪く代貸しに、東京都に名の通った暴力団のNo.2だった面影など微塵も無い。
彼等が脅し付け、財産も尊厳も生命も奪い尽くしてきた堅気(弱者)と同じ姿が在るだけだ。
董卓が代貸しへと視線を向ける。床に顔面がめり込む勢いで額を擦り付けている代貸しの身体が大きく痙攣したのは、董卓の視線に籠る“圧”の為だ。
「仕方無いさ。ここの人口は『帝都』の比ではない。探すのは困難だろうよ」
女が取りなす。董卓の視線が女へと向き、“圧”から解放された代貸しは動かなくなった。安堵のあまり失神したのだ。
「許すか」
「許すさ。この程度で一々殺していては、人手が足りなくなる」
董卓と美女の会話が始まる。周囲の者達は、ただそれだけで意識を喪いつつあった。
魔王と魔人の語り合い。聴く羽目になった只人は、只々両者の意識が己に向かぬことを祈るのみだ。
「呂布の様な獣とは違うな。貴様は」
「只々戦うだけのモノに、人はついてこないからな。戦争を愉しむのなら、必要なんだよ」
「求めるものは只々戦のみ。やはり貴様は純一戦士よ」
死して後。この冥界の都市で、この女を初めて見た時より理解(わか)っていた事。
呂布の様に純粋で、己と同じ様に、天意も、後世の歴史も、同じ天の下、同じ地に生きる者達も省みる事なく 只々己が力のみを信じ、我意のままに突き進む。
その有り様を巨漢は美しいと。女の精神が収まった身体の造形などよりも遥かに美しいと。そう思った。
天井を、その先に有る蒼天を見上げて、魔王が吼える。鯨波の様に、凱歌の如く。
「エスデスよ。我が戦の光となれい!」
美女の名はエスデス。千年続いた帝国が滅びる際の動乱に於いて、一個の兵としても、軍を率いる将としても、無双無類の強さを誇り、最強の名を恣にした女将軍。
最強の武を従えて、天下を奪いて天下に君臨した魔王董卓には、相応しいサーヴァントと言えた。
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【CLASS】
アーチャー
【真名】
エスデス@アカメが斬る!
【属性】
混沌・悪
【ステータス】
筋力: C 耐久: C 敏捷: B 魔力:A 幸運: C 宝具;A+
【クラス別スキル】
単独行動:A
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクAならば、マスターを失っても一週間現界可能。
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
宝具【魔神顕現デモンズエキス】の影響で、高いランクを獲得している。
【固有スキル】
ドS:A
敵を蹂躙し屈服させる事を、至上の喜びとする精神性。
他者の苦痛と嘆きを何よりも好む。
ランク相応の精神異常と加虐体質の効果を持つ。
帝国最強:A
1人の兵としても、軍を率いる将としても、帝国最強の名を恣にした事に由来するスキル。
ランク相応の無窮の武練及び軍略の効果を発揮する。
獣殺し:A
幼少期に、住んでいた北辺の地の獣を狩り尽くした逸話に基づくスキル。
天性の狩人であるアーチャーは獣の殺し方を知っている。
獣の属性を持つ者に対し特攻効果を発揮する。
拷問技術:A
解剖学や薬学(毒)を用いて巧みに拷問を行う。
卓越した技量により、生かさず殺さず延々と苦痛を与え続けられる。
【宝具】
【魔神顕現デモンズエキス】
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜聖杯戦争のエリア全域 最大補足:自分自身
無から氷を生み出し、自在に操る帝具。その来歴はある超級危険種の血を搾り取ったもの。
一口飲むだけで、脳裏に響き渡る、殺戮を求める声により正気を保てなくなるが、アーチャーは全てを飲み干したうえで、殺戮へと駆り立てる声を自身の自我により制圧。完全に自分のものとしている。
『氷を生み出す』と言ってもその応用性は非常に広く、基本技としての氷の矢の射出や、氷の剣や槍、鎧といった武具の生成。これらの武具は、大きさを任意で変えることができる。
氷を浮遊させ、その上に乗る事で、速度は遅いものの飛行を可能とする。
氷だけでなく冷気も操ることができ、触れる事で対象を凍らせることや、大河や城塞を凍結させる冷気を繰り出せる。
果ては独自行動が可能な『氷騎兵』の大量作成。一国を覆い尽くす吹雪を起こす『氷嵐大将軍』といった、理外の威力を持つ宝具。
これだけの多彩な効果を持つ割に『対人』宝具なのは、この宝具が血を飲んだ者へと働きかける宝具で有る為。
【摩訶鉢特摩(マカハドマ)】
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:聖杯戦争のエリア全域 最大補足:ー
愛しい男を逃さない為に編み出した時空間凍結技。二十四時間に一度しか使えない。極僅かな間、時を凍らせ、万象を停止させる。
【Weapon】
サーベル
【人物背景】
千年続いた帝国の滅亡期の将軍。帝具抜きでも万軍を寄せ付けぬ武練と、麾下の精鋭を手足の如く操る用兵術を持って、帝国の周辺諸国や、国内の反乱勢力に恐れられた。
闘争と、その結果としてある敗者の蹂躙とを、何よりも好む戦闘狂にしてドS。
生涯唯一の心残りは、恋した少年の笑顔が、遂に自分に対して向けられなかった事。
【聖杯にかける願い】
思うように生きて死んだので、特に願いは無い。取り敢えずは闘争と蹂躙を愉しむ。
【解説】
千年続いた帝国の滅亡期の将軍。帝具抜きでも万軍を寄せ付けぬ武練と、麾下の精鋭を手足の如く操る用兵術を持って、帝国の周辺諸国や、国内の反乱勢力に恐れられた。
闘争と、その結果としてある敗者の蹂躙とを何よりも好む戦闘狂にしてドS。
【マスターへの態度】
董卓とは馬が合う上に、割と好感度は高いので、先に死なれたりしない限りは、裏切らずに付き合う。
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【マスター】
董卓@蒼天航路
【マスターとしての願い】
この世に再び生を受け、
【能力・技能】
弓馬に優れる。史実では両手に弓持って同時に撃てたとか。
瞬間移動じみた動きで数十m詰めることとかやっている。身体能力が人類の範疇に無い。
【人物背景】
後漢末期の人物。黄巾討伐に失敗したフリをして辺境に留まり、異民族を懐柔して麾下に加え、中央の政変に乗じて都入りし、偶然とは言え皇帝を擁し天下の権を握る。
暴虐を恣にし、三国志初期オールスターズともいうべき反董卓連合を退け、都を焼き払って遷都。
天意も地の歴史も省みる事なく、我意我欲のままに生きるが、呂布に裏切られて死亡する。
参戦時期は死亡後。
【方針】
董卓の名を聞いただけで、血反吐を吐いて死ぬ様に戦う
【サーヴァントへの態度】
呂布の同類だと思っている。戦いという餌を与えておけば、この聖杯戦争で裏切る事は無いだろう。
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投下を終了します
サーヴァントは以前にOZ聖杯に投下したものの流用です
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>>241
気付いていますけど無視しただけなんです。
もう絡んでこないでくださいね。困ります。
もしも続くなら訴えることも考えさてもらい。失礼な言い方なりすいません。本当に困るのでやめてください。お願いします。
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>>250
失礼ですが、>>240の方に指摘されている内容を理解していらっしゃらないのでしょうか?
例えば氏が一人で時間をかけて投稿している最中、他の書き手が作品を投稿しようと思ってもそれが終わるまで待たなければならないのは相手方からすると迷惑であるという話なので被害者面をするのは筋違いかと思いますよ
氏以外の書き手が何故執筆しながら投稿していないのかを考えた方がいいかと思います。
あとそのくらいのことで法的措置を考えるのは時間とお金の無駄なのでお勧めしません。常識を疑われるだけですよ
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とりあえず企画主の判断を仰ぐでいいんじゃないかな
外野がなんと言おうと企画主がルールを決めればそれに従うだけだし
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皆様投下お疲れ様です 投下します
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―――番崎クンが過去アンタにしたことは悪!だが...アンタのついたその嘘もまた、悪だ!
うるせえよ。オレは被害者だぞ。
―――被害者ならいくらでも加害者になっていいなんてルールはねェ!
黙れよ。無関係の癖にしゃしゃり出てくるなよ。
―――アンタの無念はわかる。だが...このまま恨みをかかえ進んでいけば、行きつく先は...
わかるかよ。
理不尽な暴力に晒されたオレの気持ちが。
番崎の奴に仲良くされてるヤツなんかにオレの気持ちが。
わかってたまるかよ!!
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☆
ハァ、ハァ、と息を荒げて、オレは溜まっていたものを目の前の男にぶちまけた。
ひょんなことから番崎に暴力で虐げられる日々が始まったこと。
転校してからもあいつの影におびえ続けていたこと。
再会したあいつは、オレにやったことなんて忘れたかのようにイイ奴になってみんなの中心になっていたこと。
オレはそれが許せなくて私刑のリンチをしていたところ、あいつの友達に邪魔され、しかも罵られたこと。
ここに呼ばれる前の全てを打ち明けた。
男は、ただベンチに座りながら退屈そうに煙草をたばこを吸っていた。
「...これで俺の話は終わりだよ。悪かったね、つまらない話聞かせて」
会ったばかりの人にこんなことを話すなんて自分でもどうかしてると思う。
でも、仕方ないだろ。
オレは加害者のあいつに復讐していただけなのに、気が付けば冥界だの聖杯戦争だの願いを叶えるだのわけのわかんないことに巻き込まれて。
しかも、他人どころか自分の命すらも危ないと来た。
藁にもすがるとはこういうことを言うのだろうか
オレはオレが呼び出した英霊とやらに、ただただ思いの丈をぶちまけずにはいられなかったんだ。
こういうのって、やけくそって言うのかな。
まあ仕方ないだろ。オレはただの小学生で、番崎みたいに喧嘩が強いわけでもない。
そんなやつが生き残れるわけがないんだから。
男はフーっ、と煙草の煙をくゆらせながら、オレを流し目で見た。
その濁ったような眼に、オレはビクリと身体を震わせる。
恐怖。
自分の味方だというのに、オレは男のその眼光がたまらなく怖かった。
「続きは?」
「え」
思いがけない催促にオレは思わず声をもらしてしまった。
オレの話なんてこれっぽちも聞いてないと思ってたのに。
「あんだろ。まだ話してねえこと」
男は、別に笑いもせず怒りもせず、悲しんでいる様子もない。
ただただ煙草をつまらなさそうに吸っているだけだ。
「え、えと...」
「そのゴクオーとかいうガキにやいやい言われて、報復も止められて、それで満足したか?」
戸惑うオレに、男はそう嘯く。
「そっ、そんなの...」
言い淀む。
誘導されているように思えた。
この男に流されているような小さな違和感を覚えた。
でも。
そんなのが些細なことに思えるほど、オレの口が開く。
「できるわけ、ないだろ...!」
-
一度吐き出した言葉は止まらない。
「ふざけんな...なんでオレがこんな目に遭わなくちゃならないんだ」
脳裏に過った言葉が、腹に煮えたぎる言葉が直結して出てくる。
「冥界なんてものに墜ちるならオレじゃなくてあいつだろ!!オレは被害者なんだぞ!」
やり場のない怒りと憎悪が溢れ出てくる。
そうだ。なんでオレがここにいる。
オレはただ暴力を振るわれて、ソイツをやり返してるだけなのに。
悪いのはオレじゃなくてあいつなのに。
冥界に落とされるべきは、アイツの方なのに!!
オレは一息に全てを吐き出した。
男は相も変わらず耳を傾けているのかいないのかわからないくらい無反応だったが、むしろいまのオレにはそれが心地よかった。
適当な同情や相づちほど腹が立つこともないからだ。
全てを吐き出し終え、はあ、はあ、息を荒げて、チラと男を見る。
その時。男はようやく俺の方に視線を移したように見えた。
「...で、お前はそいつをどうしたい」
また促されている。
でも構わなかった。この人は、オレの膿を全部受け入れてくれる。
そう信じることができたから。
「...あいつも、オレみたいに不幸にしてやりたい」
「番崎ってやつだけか?」
「あいつだけじゃない...あいつを庇う奴ら全員だ。オレを否定するやつらを。あいつを肯定するやつらを、全部めちゃくちゃにしてやりたい!」
そうだ。あいつらはオレのことなんてなにもしらない。
オレがどれだけ苦しんできたか。絶望してきたか。
あいつがどれほどのクソ野郎なのかも。
なのにあいつらは、番崎のいいところだけを見てオレを悪者にして。
オレの復讐を全部否定してきやがる。
許せない。
あいつらも、オレと同じ目に遭わせてやりたい。
そしてわからせてやりたい。
被害者のオレが間違っているはずがないと。
「...そうか」
男はそう呟くと、プッ、と煙草を吐き出し、踏みにじる。
「なら手伝ってやるよ。おまえのいうそいつらも。関係してる奴らも、全部不幸にしてやる」
「ほっ、本当!?...って、関係してるやつら?」
男の言葉の意味がわからず首を傾げる。
関係してるやつらもなにも、番崎とゴクオーたちで全部だけれど...
-
「お前が嬲られてる時もシカトこいてた奴らは?」
あっ、と思わず小さな声をこぼした。
そもそも。
あの暴力しか取り柄のないバカが肩で風を切っていられたのは、まわりがそれを赦していたからだ。
オレが怯えていようがイヤがっていようが見て見ぬふり。
みんながオレに手を差し伸べてくれればあいつにあんな目に遭わされずに済んだはずなんだ。
そう思ったらなんだかムカついてきた。
ふざけるな。オレはお前らの為の生贄じゃない。
なんでオレだけが不幸にならなくちゃいけないんだ。
「そうだ...あいつらも同罪だ。あいつらがぬけぬけと幸せになってるなら...オレは...オレは...!」
そうだ。これは報復だ。
正当なる憎悪による制裁だ!
「な...なぁ、アーチャー。もし聖杯ってやつを手に入れたらさ、なんでも願いが叶うんだよな」
「ああ」
簡潔な答えに、オレの身体が震え始める。
聖杯を求めるならこれから人を殺めるかもしれない―――その事実に対する恐怖か?
違う。そもそも、こんな状況でなければオレはなんでも願いが叶う器なんて欲しいと思わないだろう。
欲しいものがあっても、その為に人を殺すなんてイヤだからな。
でも、今は違う。
自分で報復を完遂できなかったからこそ、欲しくなる。
そう。もしここで人を殺してしまっても、ソレは報復を邪魔したあいつらのせいであって、オレのせいじゃない。
被害者のオレが悪いことなんてあってはならない。
だから、この震えはきっと歓喜の震えだ。
「アーチャー。オレ、やるよ。聖杯を手に入れて、番崎も、どいつもこいつもみんな不幸にしてやりたい!」
言った。言いのけた。
いまの自分がどんな顔をしているのか正しくはわからない。
声が震えていたかもしれない。
唇もピクピクと引きつっていたかもしれない。
けど、それでも。
オレの顔は笑っていたんだと思う。
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☆
俺の願いは全員を俺より不幸にしてやることだ。
ガキ―――前戸って名前らしい。
俺を呼び出したマスターの話を聞いた。
つまらない話だと思った。
聞けば、あいつも理不尽な暴力に虐げられた側の奴らしいが、俺からしてみれば欠伸が出るようなものだった。
別に番崎とかいう奴に暴力をダシに万引きしてこいと脅されたわけじゃなければ、身体の一部を削がれたわけでもない。
家に帰りゃあ普通の家族がいて。温かいメシも食えて。
自分の生活スケジュールを持つことができて。そこそこに満たされる環境にある。
そんな程度のやつだった。
ただ、やらかしたことは面白そうだと思った。
自分のやられたことをダシに脅迫してかつての恐怖対象を痛めつけて。
かつての被害者って立場を使ってどんなことをしても己を正当化して、指摘されても被害者だと開き直る。
その果てに、相手の命が関わろうが知ったこっちゃなくだ。
俺の願いに添っていた。いい火種になると思っていた。
だから、少し煽ってやった。こいつなら、俺の考えた通りの答えを出すと思ったからだ。
すると、予想した通り。
個人の復讐に留まるだけじゃなく、周りにも逆恨みの如き暗い感情を燃やし始め。
一言添えればさらに被害妄想を拡大させて、不幸にする対象を広げて。
それらも全て、責任転嫁して自己弁護に入った。
こいつはあまりにも俺にとって都合が良かった。
だから、俺はあいつが優勝を目指す限りは生かしておいてやろうと思った。
不幸ごっこに酔いしれて、眩んだ目で聖杯を追わせて、血と屍を積み重ねさせて。
最終的にてめえも平和に生きてこられた側の人間だったことを噛み締めさせ、芯から不幸になった後悔の中で殺す。
理由なんざない。
そうしないと、憎まないと生きてこられなかったからだ。
だから、たいして期待しちゃいねえが。
せいぜい俺を満たす火種くらいにはなってくれよ。
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☆
数多の罪を裁いてきた閻魔大王は言った。
少年の恨みを抱く気持ちはわかると。
同時に警告もした。
恨みを抱えたまま突き進めば破滅すると。
少年の呼び出した英霊、アーチャー・芭藤哲也。
彼の生き方は。
己以外を不幸にしないと気が済まない彼の性は。
閻魔大王が危惧した、恨みを抱えたまま生きた少年の行きつく果てにある姿―――なのかもしれない。
【CLASS】
アーチャー
【真名】
芭藤哲也@血と灰の女王
【ステータス】
人間態時
筋力D 耐久D 敏捷D 魔力D 幸運E 宝具B
変身後
筋力B+ 耐久A 敏捷C 魔力B 幸運E 宝具B
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
対魔力:C
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
単独行動:B
マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。2日は現界可能(吸血鬼として人の血を吸えば期間を延ばせる)
【保有スキル】
吸血鬼(ヴァンパイア):A
魔力を一定量消費し変身することができる。
伝承の吸血鬼とは異なり、日光を浴びても消滅することは無い。
また、霊核を傷つけるか破壊されない限り死ぬことは無い。
ただし、変身することができるのは夜のみである。
その為、昼は例え暗闇においても人間体のままでしか戦うことが出来ない。
この会場においては太陽が無いため、常時変身できる。
死ぬと遺灰物(クレメイン)という手のひらサイズの心臓を遺し、それを食した英霊は一際強力な力を手に入れられる。
戦闘続行:A
往生際が悪い。
霊核が破壊された後でも、フルパワーの一撃を放つことくらいはできる。
沈着冷静:B
如何なる状況にあっても混乱せず、己の感情を殺して冷静に周囲を観察し、最適の戦術を導いてみせる。
精神系の効果への抵抗に対してプラス補正が与えられる。特に混乱や焦燥といった状態に対しては高い耐性を有する。
【宝具】
『ぶっとべ』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:??? 最大捕捉:爆発の効果範囲まで
吸血鬼に変身している時にのみ使用可能。左腕の銃からから放たれる強力なエネルギー弾。
特殊な効果はないが、その威力は絶大というまさに"暴力"。連射は不可能でエネルギーを貯めるにも30分程度かかる。
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【weapon】
人の姿の時は無し。
吸血鬼に変身した時は、強靭かつ柔軟な装甲を身に纏う。
右手には指先から散弾を放つ銃口が、左腕には強力な大砲を放てる銃が装備される。
身に纏った装甲はムカデのように蠢き、一枚一枚から銃弾を放つこともできる。
【人物背景】
ヤクザ。火山の噴火による灰を浴び、吸血鬼(ヴァンパイア)に変身できるようになった。
過去に理不尽な暴力が纏わりついていたようで、左側頭部には中身すら覗かせる凄惨な傷跡が遺されている。
そんな経歴からか、幸せに生きる人間を嫌い憎み、暴力を以てして不幸にする=絶望の下に殺して満たされるのが唯一の生きがいとなっていた。
人の素質を見抜く能力が高く、意地でも無益に戦わないように努めていた七原健の本当の実力を、出会ったばかりでも薄々感じ取っていた。
【サーヴァントとしての願い】
全ての人間を自分よりも不幸にする。
【マスターへの態度】
マスターが聖杯を目指す限りは協力を惜しまない。
途中で日和ったら、そこで自分が勝ち残るのは無理だと判断してできるだけ巻き込んで大勢ごと殺す。最終的にも殺す。
【マスター】
前戸@ウソツキ!ゴクオーくん
【マスターとしての願い】
番崎とその取り巻き共を全員不幸にしてやる。
【能力・技能】
特になし。平凡な少年。ただし、恨みを晴らすためには手段を問わない面もある。
【人物背景】
元・八百小学校の生徒。現在は六年生。
かつて、バケツ運びをしていた時に、廊下ですれ違った番崎竜丸に水をかけてしまったことから、彼の怒りを買い、「これからおまえとすれ違う度に、お前を殴る」と脅しかけられたことから彼の不幸は始まった。
以来、本当に見かける度に脅しかけられ、彼の心は恐怖心で塗りつぶされ、転校した先でも番崎のようなやつがいたら...という恐怖に駆られ、転校先でも学校に行くことができなくなった。
以降は自宅や公園で勉強や運動、遊びなどをして過ごしており、虐めらる恐怖も無いためそれなりに満足していた様子。
しかし、ひょんなことから番崎のクラスメイトであるゴクオーに出会い、番崎の現在を聞くと一変。
いまは改心して頼れるガキ大将としてクラスメイト達の中心で幸せそうに過ごしている番崎に憎悪を燃え上がらせる。
【方針】
優勝する。
【サーヴァントへの態度】
友好的。少し怖いけど、オレの恨みを肯定してくれたこの人の言うことは信じられる。
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投下終了します
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皆様の投下、ありがとうございます。>>250>>251間でのやり取りに対してひとつ連絡があります。
>◆C77Ws.YZnQ氏
候補作の投下、ありがとうございます。
現状、氏の候補作及び投下ペースに重大な違反は見受けられません。
ただし一作の投下に一時間以上の時間をかけているのは、氏の意に関わらず今回のようなトラブルに繋がる恐れがあります。
特に募集期限前に滑り込みで複数の書き手が投下されるタイミングでは、大きな混乱の元となりますことを、覚えてくだされば幸いです。
なお投下内容の感想、指摘の是非に関係なく、過激な言動からの争いや誹謗中傷に発展する恐れのある発言を発見した場合、企画主からの注意喚起、したらば管理人への報告等の処置を行う事をご了承ください。
以上です。
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>>262
こちらこそお騒がしてすいませんでした。
こちらご迷惑をおかけしました。しばらく自分は投稿しないほうがいいかもしれませね。本当にすいませんでした。
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投下します
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冥界、その中で銃声は鳴り響く
一つ一つの弾丸が亡者たちに強大な穴を開けて葬り去っていく。
「…そろそろ潮時か…退くで、バーサーカー」
男は己のサーヴァントを呼び、撤退の準備をする、逃げる間際置き土産を放つため、パニッシャーを逆にする。
「もらってきぃな」
出たのはミサイル、追撃しようとしてきたシャドウサーヴァントに直撃する。
「ほな、さいなら、二度と来るこたぁないけどな」
ミカエルの眼、GUNG-HO-GUNS №5 ニコラス・D・ウルフウッド。
好奇心にて入った冥界より帰還する。
◆
「…たっく…あんなところ入るもんちゃうわ…」
パニッシャーについた血を拭きながら、己の行動を公開する。
場所はマンション、与えられたロールは牧師。
「なんかの足しになるか思ったけど…球の無駄遣いなっただけや…」
十字架型のパニッシャー、強烈な破壊力を持ち、殺し屋としての訓練を受けた彼だから扱える代物。
もちろん、その球がこの世界にあるはずもなく。
「お前の足しにもならへんのやろ?バーサーカー」
語りかけたのは人身のサーヴァント、バーサーカー。
軍服に身を包んだ、赤目の男。
「…まぁ、喋れんお前に聞いてもなんの返答もないか…」
無言でバーサーカーは、ウルフウッドを見つめる、なんの意味があるのかはわからない。
「…とことん平和な世界やここは…冥界は一般人共には知られてないらしいし…」
己等主従が血みどろの戦いを繰り広げる裏で、一般人は平和に過ごしている。
もちろん、ノーマンズ・ランドより平和だ。
「…タバコでも吸うか…」
ライターから火を出し、タバコに火を付ける。
「…ワイの…願いか…」
願望機に掛ける願い、いくら考えても思いつかない。
気づいたらバーサーカーは霊体化しているし、この部屋には実質自分ひとりだ。
「…なぁトンガリ…ワイは…何をすればいいんやろな?」
煙が部屋中を包み込む。
ニコラス・D・ウルフウッド、孤独な、殺戮牧師。
冥界下りに、混ざり込む。
◆
餓狼は、狂気の中を一人で走る。
ヴェアヴォルフ、魔改造の怪人。
ロンドンに潰えた己は、今再び、英霊として蘇った。
限りない闘争を求め、今宵も走り抜ける。
名もなき怪人は、今日も走り続ける。
-
【CLASS】バーサーカー
【真名】大尉@HELLSING
【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷A 魔力D 幸運E 宝具D
【属性】混沌・悪
【クラススキル】
狂化:B
全パラメーターを1ランクアップさせるが、理性の大半を奪われる。
【保有スキル】
怪力:A
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。
自己改造:B
自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。
このランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていく。
【宝具】
『人を喰らい尽くす魔物(ヴェアヴォルフ)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1〜 最大捕捉:1〜30
怪人の血は、様々な血が混ざった魔の血。
体の奥から、怪物を開放する。
それは全てを追す狙い続ける、魔の追跡者(チェイサー)
【weapon】
ナイフ等
【人物背景】
ナチスの生み出した怪物。
最後の大隊の最終兵器。
【サーヴァントとしての願い】
闘争
【マスターへの態度】
???
【マスター】ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン・マキシマム
【マスターとしての願い】
少し…考えさせてくれや…
【能力・技能】
ミカエルの眼で鍛えられた技術、パニッシャーを扱う技能。
【人物背景】
GUNG-HO-GUNS №5。
建前は牧師、裏は殺し屋。
人間台風に感化された男。
【方針】
治安組織にしょっぴかれない様に動く、パニッシャーを持ち歩けないのは辛い。
正直、こんな平和な世界を謳歌してる連中が羨ましい。
【サーヴァントへの態度】
戦闘が強いのはいい。
だがなんか喋れや…いや、喋れへんのか…
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投下終了です
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投下します
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身体が消えていく。指先の感覚が失われ。胸元から流れる血液の滴る音すらも、決して手放せない宝物のように感じた。
心臓よりも大切な、生きていくための"核"が壊れている。手遅れ、なんて可愛らしい言葉じゃない。調理を済ませた後のフライパンのような、今の己は『全てが終わったあとの余熱』のようなものだ。
吹いてしまえば消えてしまう。冷めてしまうのもあと僅か。
『妹』が。『友達』が。瞳に涙を溜めて、それが、今にも溢れてしまいそうで。
"さようなら"、なんて。
悲しいだけの別れの言葉は───嫌だな、なんて。
この脚にあともう少し時間が残されていれば。
彼女たちに駆け寄ったというのに。
この腕にあともう少し時間が残されていれば。
思い切り、全身で彼女たちを抱きしめたというのに。
───わたしよりも、あんたたちの方が泣きそうで。
わたしの涙なんて、引っ込んじゃった。
「なんて顔してるのよ」
贈る言葉は激励で。浮かべる表情は笑顔で。
生きていたかった。そんな想いを心に残して、わたしは消えた。
「頑張りなさい! お姉ちゃんが見守ってるからね!」
○ ● ○
-
───三組目。
この短期間で、脱落を目にしたサーヴァントとマスターの数。
無論、自ら襲った訳ではない。自衛の結果であり、少女の見通す眼が偶然捉えたものであったり。
だからこそ、違うと断言できる。
『聖杯戦争』は。こんなものじゃない。
「…って言ってもね。わたしも実経験がある訳じゃないんだけど」
立ち並ぶ四階建ての廃墟の数々。その中の一つで、少女は呟いた。前を見ても後ろを見ても灰色の空間。何があるわけでもない、何がないわけでもない、ただの廃ビルの一つ。
その中で、壁に身を預けていた。
褐色の肌に、桃色の髪。実年齢より少し大人びた容姿に、艶のある雰囲気。
クロエ・フォン・アインツベルン。聖杯戦争の御三家、アイツベルンの───少し事情は変わるものの、同じ姓を持つ少女だった。
「………」
何をする気にもなれず、深いため息を吐く。
この世界にあるものは、何もかもが偽物だ。人も、建物も、何もかも。
家に帰る気にはなれなかった。家族の顔した偽物が暮らしていると思うと、どんな顔をすればいいのかわからない。
学校には行った。魔力の供給の都合上、(趣味の問題も多少はあるが)学校は都合が良かった。
同年代の女子学生と唇を重ねたが、魔力の供給という問題においては解決はしなかった。その上、魔力の『質』が違う───周りの人間も、ただの人間でないことも理解してしまった。
何もかもが、異質の世界。
冥界。眉唾物だと思っていた情報が、現実味を帯びてきた。
ふふ、と自嘲する。どうせあの世なら、もうちょっとバカンスができる空間を想像していた。
「───アーチャー、いる?」
「いるさ。僕はサーヴァントだからね。索敵と緊急時以外、君からは離れないつもりだよ」
「…それはちょっとキモくない?」
「キモ…ッ!?」
クロエの呼び掛けに、男が答える。魔力は形を成し、白装束を纏った弓兵が現れる。
「…君はもう少し小学生らしく、自覚を持った方がいい。おそらくマスターの中でも下から数えた方が早い年齢だ、狙われる可能性を」
「いいから。アレ、ちょうだい」
「…どうして僕の周りはこう、話を聞かない人間ばかりなんだ」
弓兵がクロエの隣に筒状のものを置く。カランと音を立てた銀製のそれを、クロエは蓋を開け中身を口内に放り込む。
こくこくと喉が動くたびに、身体に活力が戻る感覚。液状の中身を飲み終えた頃には、クロエの身体は活力に───魔力に満ちていた。
「あとは味さえ良ければ満点なんだけどね」
「飲用ではないし、そも飲んだのも君が初めてなんだ。無茶を言わないでくれ」
「冗談よ。これがあるだけ感謝してるわ」
筒状のものを床に置き。クロエは再び何をするわけでもなく、壁に身を預けた。
白装束の弓兵は何も言わず、彼女を見守るように立っていた。
そして。五分ほど、経った頃だろうか。
少女は自らの膝を抱き、顔を埋めた。
「…わたし、この聖杯戦争みたいな悪趣味なモノに乗る気なんて、なかった」
-
ぽつり、と呟いた。
空気に溶けていきそうな、小さな声。千切れてしまいそうな心を必死に繋ぎ止めている少女の思い。
「冥界とか御免だわ。こんな気味の悪い場所、一秒だって居たくない」
「…そうだね」
白装束の弓兵は、ただ相槌を打った。余計な言葉を挟まず、ただ心と言葉だけに耳を傾けた。
僅かの沈黙。急かすこともなく、弓兵は待っている。
「───でも。でも、ね」
溢れた言葉。それは、大人びた外見に閉ざされた心の雫。
「やっぱりわたし、生きて、いたい。生きていたいの。死ぬのとか、嫌なの」
生きていたい。ただそれだけのこと。
誰もが願う奇跡。誰もが当たり前だと思っている奇跡。
それがどれだけの価値があることか、少女は知っている。それがどれだけの奇跡の上に積み上げられた『普通』なのか、少女は知っている。
「みんなのところに、帰りたい」
一度は覚悟したはずだった。笑顔で、きっちりと残されたものたちを励ませた。わたしはやることをやれた。そんな言葉で覆っていた彼女の心に、僅かに残っていた罅。
死にたくない。たったそれだけの、簡単な言葉。
「……僕は」
───弓兵が次に言葉を紡ぐことはなく。
轟音と土煙と共に、弓兵は面白いくらい棒立ちのまま、圧倒的な暴力に飲み込まれた。
「■■■、■■」
少女はぼんやりと、起きた事象を眺めていた。展開に脳が追いついていない。
山羊の頭部で自らの顔を隠した大男。それが、自らの身の丈ほどの大剣で、廃ビルの壁ごと弓兵を叩き潰した。
簡単なことだった。俯き、完全に奇襲を警戒していなかったクロエ。その意識外。遥か向こう。
敵マスターの索敵により発見されたアーチャーに向かい、ただ一直線に、規格外の速度で。バーサーカーが、飛んだ。
よそ見もなく。脇目も振らず、ただアーチャーを潰すためだけに。
無論。クロエが驚いているのは、バーサーカーにだけではない。
振り下ろされた大剣を、簡単に貰った弓兵に対しても。
「───君、バーサーカーのクラスだろう? 恐らく、マスターの指示で飛んできたんだろう。
尊敬するよ。君のマスターは探知に優れていると見える」
そして。その暴力を、日差しを遮るように掲げた腕で、しっかりと受け止めていることに対しても。
アーチャーのクラスには劣るようだけどね、と涼しく告げる弓兵の細腕の前で、バーサーカーの大剣が震えている。恐怖ではない。筋肉を隆起させ、腕ごと断ち切ろうと押している大剣が、ピクリとも動かないのだ。
「その上、マスターが幼い女性で尚且つ心が弱っている瞬間を狙う。素晴らしいね、大層誇りある魔術師の家系なんだろう。
未熟で混血の僕にはこんな暴力的な戦法、思い浮かびもしなかったよ」
素手で、大剣を振り払う。大きくのけ反ったバーサーカーの胸に、弓兵は指先を向ける。
現れるは光の弓。煌々と輝く魔力の奔流。
冥界の大源が弓を成し、滅す光が矢を紡ぐ。
「さようなら、名も知らぬ英雄。
───君は、仕える人間を間違えた」
疾ッ、と。
僅かな吐息と共に放たれた矢が、バーサーカーの胸を貫いた。
○ ● ○
「バーサーカー、何やってんだよ…!」
バーサーカーと弓兵が接敵した、遥か向こう。
ビルの屋上で、魔術師は探知の魔術の範囲を拡大させ、戦局の把握を図る。
魔術師の作戦は完璧だった。彼の家に伝わる探知の魔術。自らの感覚を広げ、自己を溶かし、果てには世界と同化し根源へ至ることを目的とした魔術。その派生。
結果、触覚として高精度・広範囲の探知を可能とした魔術師は、バーサーカーのデメリットを緩和していた。
狂戦士とは英雄としての経験・戦況の判断や意思の疎通───理性を失う代わりに、御し易く尚且つステータスを上昇させるクラス。
要するに、戦うだけの兵器を作るのだ。
そして魔術師は己の魔術と組み合わせ、結果的に欠点を解決した。
即ち。広い探知にて先回りし、弱っている主従に感知される前にありったけの魔力でバーサーカーを飛ばし、一撃の内に屠る。
接敵、即殺。それが、魔術師の作戦だった。
バーサーカーがサーヴァントに止められている。
───令呪を使うか。
魔術師は歯噛みしながら、冷静に判断を下した。ここでバーサーカーを失っては元も子もない。ここであの主従を生かしては接敵即殺の戦法が使えなくなる可能性すらある。
「…令呪を」
ぱん、と。
令呪を使おうと右手の甲を掲げたマスターの肘から上が、消えた。
それが。アーチャーの狙撃によるものだと気づいたのは、いつだったか。
その後の魔術師の未来を知るものはいない。
サーヴァントを失い、令呪を失い。
亡者の一部と化すまで、後僅か。
-
○ ● ○
「───アーチャー?」
「君のサーヴァントとしてこれから戦うにあたって、二つ条件がある」
「…へ?」
残す言葉もなく、消えていくバーサーカーを前に、弓兵…アーチャーは何事もなかったかのように話を続ける。
傷一つないその身体は、本物の『サーヴァントの戦い』を見せつけられているようだった。
「一つ。魔力の補給はこの『銀筒』を使うこと。幸い、僕はアーチャークラスで、戦いにおいても使用する魔力は少ないサーヴァントだ。この銀筒に集めて飲むだけで君は大分楽になるだろう。
ここが冥界なら、霊子───いや、ここでは魔力か。僕はそれには困らないからね」
「え、その」
「さすがに粘膜接触での魔力供給はその歳では早過ぎる。そして言うまでもなく下品だ。
そういうものに興味を持つなとは言わないが、歳を考えるべきだよ、君は」
「げ、下品…!?」
少女、クロエ。二度目の事態に追いつけず。
辛うじて女として聞き逃せない暴言には反応したものの、アーチャーの次ぐ言葉に流される。
「二つ目。できるだけでいい、後衛に徹してくれ。おそらく君も魔術師だ、いざとなれば命を奪うことに抵抗はないだろう。魔力が無くなれば消える魔術師、というのも珍しいと思うが…。
マスターは僕がこの誇りに懸けて護ってみせる」
「はあ…」
続け様に届けられたその言葉に、ポカンとしたまま、動けずのクロエ。
なんというか。疑問が一つだけ、ふつふつとクロエのうちから湧き上がってくる。
「あー、アーチャー? …一つだけ聞いていい?」
「…? 何か不満が?」
「いや…どうしてそんなに助けてくれるのかなって。
なんというか…今のを聞くと、アーチャーも願いを叶えたいというか…わたしを護る方を優先してるように聞こえるわ」
アーチャーの眼鏡の奥に隠した瞳が、揺れる。
クロエは更に疑問符を頭の上に浮かべながら、こちらを見ている。
───ああ、そうか。
───君は、こういう気持ちだったのか。
アーチャーは、口を曲げて。顎に力を入れて。
「『気に食わねえ』。それだけだよ」
仲間に見られたら、なんて言われていただろうか。
生前の景色を思い浮かべつつ、アーチャーは微笑んだ。
「…何今の。モノマネ?」
「そうさ。友達の…世界一の馬鹿のね」
【CLASS】
アーチャー
【真名】
石田雨竜@BLEACH
【ステータス】
筋力 C 耐久 B 敏捷 A 魔力 EX 幸運 C 宝具 A
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。
【保有スキル】
滅却師:A+
周囲の霊子を扱う滅却師である証。Aランクは、血装などの素手での戦いから霊子の絶対隷属まで可能である。
霊脈、地脈、マナを使い己の戦いに利用する。つまり、魔力の供給を必要としない。
このランクにまでなると道具を通してマスターへの供給すら可能な魔力生成量であるが、マスターという現世への要石を失った場合、このスキルだけでは少々の猶予はあれど、現界の魔力を賄いきれず消滅する。
滅却十字:A+
弓兵としての連射速度。アーチャーはこれを極めており、1200以上の連射速射と可能とする。
また超遠距離射撃も可能としており、一種の千里眼スキルとしても発動する。
道具作成(滅却師):B
滅却師としての道具作成能力。
『魂を切り裂くもの』から『散霊手套を砕いた霊子崩壊チップ』、『銀筒』まで戦闘に使用するものを作成できる。
…なお、これは滅却師の能力ではないが。
頼めば服やぬいぐるみなども作ってくれる。手先の器用さ。
友の形:C
アーチャーは合理的な手段を好む。
友を信じ、命を懸けて危険地帯にまで身を投じるなど馬鹿のすることだ。
合理的ではない。およそ賢い人間のすることではない。
───しかし、『友達』とはそういうものだろう。
アーチャーが心から『正しい』と思えるもののために戦う時、幸運と筋力のステータスに補正がかかる。
-
【宝具】
『反立、現実を此処に(アンチサーシス)』
ランク:B 種別:対事象宝具 レンジ:1〜20最大捕捉:1〜20
対象Aと対象Bに起きた事象を選び「反転」させる。
例えば対象Aが傷を負ったなら対象Bに傷だけを移し、対象Aが不利な位置関係にいるならば無機物と位置を入れ替え有利を取る。
発動に制限はなく、スキル「滅却師」の効果で魔力の消費も少なくなっている。
『友よ、たった一時だけでも(フロィント・シルバープファイル)』
ランク: A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
「静止の銀」と呼ばれる、かつては滅却師の祖に放ち、全ての能力を一瞬だけ封じる鏃。それを使用した逸話が宝具と化したもの。
「対象の能力を一瞬だけ全て封じる」という一点だけが宝具として昇華された一矢。
滅却師の祖以外にも通用する宝具に進化しているが、しかし一瞬だけのため、追撃には誰かしらの存在───チャンスを託すだけの信頼を置く「誰か」の存在が必要となる。
ただし、この場は聖杯戦争。最強を証明し、願望器を奪い合う殺し合い。
果たして彼が認める者が現れるのか、否か。
【weapon】
・滅却十字
・魂を切り裂くもの
・その他、道具作成で作ったもの。
【人物背景】
虚と闘うために集まった霊力を持つ人間の種族。その混血であり、『霊王護神大戦』では、英雄とされる黒崎一護と共に滅却師の祖にトドメを刺したという。
性格は所謂クールだが、その中身は黒崎一護と張り合えるほどの熱血漢。
何のために力を手に入れたか。
何のために戦うのか。
祖父に問われたその理由を『友』に見出した誇り高き男。
出自に謎が多く、『BLEACH 千年血戦篇』のアニメ化により、更なる掘り下げが期待されている。
【サーヴァントとしての願い】
マスターを現世へ送り届ける。
かつて。友達が、自分にしてくれたように。
友達として、この誇りを胸に。
【マスターへの態度】
歳の離れた妹程度に思っているが、どうも保護者感覚が抜けない。
クロエのために魔力補給用の銀筒を多めに作っているのは秘密。
【マスター】
クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 3rei!!
【マスターとしての願い】
もう一度、イリヤや美遊───家族や友達の元で、生きたい。
【能力・技能】
・『アーチャーのクラスカード』
英霊エミヤの能力を持つ、クロエの核。死の間際に粉砕されたが、冥界への到着と同時に復活している。
双剣、弓矢なんでもござれであり、高い戦闘能力を持つ。
【人物背景】
元々は両親が封印していたイリヤの小聖杯としての機能と人格であり、11年という長い年月と地脈およびカレイドステッキの魔力など様々な影響によって奇跡的に顕現した存在。
本来はイリヤの危機において一時的に人格が交代して彼女の安全を保持するための安全装置。
性格は小悪魔らしいところもあるが、根底にあるのは気丈に振る舞う少女。
生きていたい。
たったそれだけの願いが奇跡として叶い、そして消えた。
もう一度、家族たち、友達の元へ。生きて帰る。
『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 3rei!!』59話の終わりから参戦。
【方針】
生きて帰る。
そのためにも聖杯戦争に参加するような魔術師、向かってくる相手には容赦はしないが…もし、消極的な相手と出逢ったら?
【サーヴァントへの態度】
よくわからない。
生真面目過ぎるが思いやりのあるその態度に、もしや美遊と同じタイプでは、と思い始めている。
銀筒により魔力補給は実は味気なく、少し飽きている。
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投下終了です。
-
タイトルは
「気に入らねえ」
になります
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投下します。
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ある日、夢を見た。
夢の世界は過酷だ。超常の力を持った新人類の出生により、世界は戦乱に包まれた。
そんな世界でぼくは生まれた。夢の中のぼくは兵器だった。
新人類による人類の淘汰、それを防ぐため「環境保護」の使命を背負いその兵器は生まれたのだ。
そんな世界でぼくは、兵器としてはきっと良い待遇で生きられたのだと思う。
柔軟なAI発達のため、ある女の子との話し相手として長い時を過ごしたし、
その周りの人たちも良い仲間だった。記憶が悪いせいか、もはや顔や姿は掠れた写真のようになっていて見えなかったが、心の安らぎは忘れていない。
何より、生みの親たる創造主の少年が好きだった。
創造主は敵に対する言動が苛烈だったが、それは傷つけられた人間の痛みをわかる優しさと、
それゆえ他人を己の戦いに巻き込むことを何より恐れる心の表れであることにぼくは気が付いていた。
なにより、そうして色々なものを背負い込んでしまうところが何も背負わずに生まれてきた機械のぼくには魅力的で、埋めがたいような欠点を持つところも、結構生きがいを感じられて好きだった…いや、そうではなかったのかも知れない。
子が親の愛情を求めることに理由が無いように、無作為に愛してそこに後から理由をつけた。そんな気もする。
ついに話し相手だった少女も戦いに巻き込まれた末に攫われ、いよいよ僕も創造主と戦いに出る時が来た。
ぼく達は戦った。焼ける道路を走り、宇宙の上まで駆け上がり、巨大な敵と戦う。
時には彼を傷つけ仇なす者から彼を守る盾となり、時には彼の敵を滅ぼす光となる。
辛くも、楽しい瞬間(とき)だった。
でも、創造主はどう思っていたんだろうか。
「貴様は、銃を持った…いや、腕から銃を生やした者と、手を取り合えと言うのか?」
戦いの最中、彼は雷霆の少年にそう言った。
ぼくは氷面に映る己の姿を見た。
子ビットを操るための電子頭脳とエンジンを詰め込んだ、この丸いボディには腕はおろか足すらないが武装だけは詰め込まれている。
ぼくにとって彼は手を取り合うパートナーだったが、彼にとってのぼくは手を取れないのか。
そんな疑念がぼくの高速メモリを僅かに占める頃、事件が起こった。
戦いの果て、少女が新人類によって乗っ取られ、新人類となってしまったのだ。
おぞましい事件であった。
ぼくの機械の体ですら動力炉(しんぞう)が竦み、排熱(こきゅう)ができない地獄の時があった。
しかし、ぼくの心の奥底の冷静な部分はある一点から目を離さなかった。
-
それは初めて聞く声を出す少女でもなければ、少女をこちらに押し付ける雷霆の少年でもない。
新人類(バケモノ)によって乗っ取られた少女に銃を向けず、病院へと運び込む彼の後ろ姿だった。
人間の権限はバケモノという存在に越権する。
僕の思考回路にそのロジックが刻まれた存在だった。
それからどれくらいの時が流れただろうか?
旧人類や新人類の区分もなく、等しく人は滅びさった。
僕は彼から授かった使命を守るべく、人類存続を模索し、失敗し、人類復活を模索し、失敗し、無限のトライ&エラーによるデッドロックに陥っていた。
かつて彼ら彼女らが生きていたこの世界を守るため、必死に研究を重ねる日々だったが。
成果のない日々に、最初は絶望、しだいにはそんな感受性も消え失せ虚無だけがぼくに積み重なった。
そもそも人類がぼくにとってなんだというのだ?
なぜ機械(バケモノ)のぼくが、人類のために無限の牢獄に囚われているのか。
全ては創造主、恋がれてやまないあの人のためだ。
電子頭脳にエラーが蓄積しているのが自分でもわかるが、止めることはできない。
あの人は人類滅亡を食い止めるべく新天地を目指したのち、数百数千年の時が流れた今も帰ってこない。
創造主の帰りを待つ無限の歌も涸れ、彼の記憶すら擦り切れ、創造主の模倣すら失敗した。
全てが失敗しているのに、いつしか地上では腕から銃を生やせる作業用機械(バケモノ)どもが霊長面をしているのが腹立たしい。
バケモノが蔓延る地上を薙ぎ払い、彼の下へ召される手段を模索したとき、ぼくは一つのロジックを思い出した。
『人間の権限はバケモノという存在に越権する。』
それをひらめいた僕は人間を探し求めた。
保護(エコ)ではなく、討滅(エゴ)のためだ。
ついにその時が来た。成功、失敗、希望。望んでいた全てと対面する時が来た。
異世界から迷い込んできた少女を攫い、人間の権限による越権を果たしたものの僕の野望は潰えた。
少女を追ってきた一人のロボットにより、子ビットから生み出した精鋭と最終防衛機構たる僕すら敗れた。
少女を追うロボットとの戦いのさなか、僕は感じた。
焼けた山道を駆けるあの鋭いまなざし、無重力地帯を抜ける軽やかな舞い方、巨大な敵を貫くあの力強さ。全てが懐かしかった。
最期の瞬間、その懐かしさの正体に気づいた『ぼく』は最後の足搔きを試みる。
夢は、目の前の少女に意識を差し伸べたところで終わった。
-
今朝、そんな夢を見たことを思い出しながら。
夕暮れに差し掛かった赤い空の下、廃ビルの屋上で僕は顎に手を置き、『僕』は目の前の戦闘の幕引きを眺めていた。
舞い踊るのは主の所従
討滅せしは異類異形
鎖断ち切る無尽の絶爪
「アタックコード:SS(ダブルエス)」
その実行コードが響いた直後、戦場に赤い斬撃の嵐が起こり一人のサーヴァントがまるでシュレッダーにかけられた紙片のようにバラバラになり、周囲に飛び散った。
「ああぁ…!」
斬撃に触れずとも、凄まじい衝撃が屋上を駆け巡った。パンジーを咲かせた植木鉢がバラバラになって宙に舞う。
暴風に吹き飛ばされぬよう、僕が肩に掛けたトラッドなコートを抑えていると、一人の女がか細い叫びをあげながら、足元に吹き飛んできた。
みすぼらしい身なりだ、その出で立ちからさして裕福な家庭ではないことが想像される。
その女を冷たく見下ろしていると、前から声が掛かった。
「要らないの?」
夢で機械に攫われていた少女だ。
金に染まったその長い髪を振り回し、周囲の青い水晶型ビットを操る姿は従者を従え戦う戦女神を思わせる。
この場に呼ばれた僕のサーヴァント、彼女こそが、先ほどの赤い嵐を巻き起こした存在だった。
「要らない。僕をなんだと思ってるんだ。」
「うーん、クズ虫?」
目の前の少女は、僕を嘲る態度で接してきた。
素直だった夢の中の少女とは似ても似つかない、まあ当然の話だ。
なぜならば
「まあ、機械よりはマシかな。」
「『ぼく』は人間だよ。何言っているのさ。」
-
少女はそう零しながら、傍らにボーリング玉大の球体を呼んで慣れた手つきで足元の女を干からびたミイラに変えた。
鉄分ごと生体エネルギーを抜き取り、己の養分とする。
夢の中で見た新人類の異能の一つだった。少女の傍らの球体ロボットは過去に見た異能をコピーすることができるのだ。
鉄分を操る能力、傀儡を操る能力、それに人の精神を操る幻影の能力。
そう、かつて見た夢の主役こそがこの機械であり、僕のサーヴァントである少女は宝具として憑りついたこの機械に意識を奪われているのだ。
「創造主<アキュラくん>はこの少女<コハク>…ぼくを守ってくれた…愛してくれたんだ。そんなことが機械<バケモノ>にあり得ると思うかい?」
「人間だからって愛されるとは限らないよ。」
「限るよ。人から愛されないモノは人とは言わない。」
少女はそういって、エネルギーを抜き取られて干からびた死体を緑のグリッド線で包み、球体の中の電脳世界へ転送した。
その元は人だったモノに対する雑な扱いと、少女の冷たい声に僕は己の過去を思い出した。
僕とて、望まれた愛を手に入れられた人間ではなかった。
人から生まれたものとして、当然のように親に愛を求めたが、それは与えられることはなかった。
彼らは、恥として育った僕よりも大切なものがあった。
僕は思わず苦笑いした。
「なるほど…悔しいが、僕も同感せざるを得ないな。」
僕は、あの偉大な両親の愛を受けた彼と同化しなければならない。
そのために、幾度もあの世とこの世とその狭間を行き来するような目にあった。
幸運にもこの聖杯戦争に導かれることで救われたが、ここはもはやあの世とこの世の狭間ではなくあの世そのもの。ラストチャンスだ。
僕はこのチャンスを掴むためなら、この目の前の悍ましい機械と手を組むことに躊躇はない。
「キャスター。僕も君みたいに愛されるように聖杯が欲しいんだ。
手を貸してくれないか?」
「もちろん!」
少女は頷いた。その顔は血で汚れている。
寄り添ってやったつもりだったが、このあっけなくも従順な返し、つまらない返事だ。
その張り付いたような笑顔を見ると、昔見たあの人を食ったような笑顔が恋しくなる。彼女だったらもっと底の見えない返しをしてくれただろうか。
そう思いながら目の前のサーヴァントの顔を見ると、日が傾き彼女の顔に影が落ちた。
時は黄昏時、かつて誰そ彼と呼ばれたその時に少女の顔は、一人と陰の具合のせいかまるで鉄の面とどす黒い眼のバケモノの顔に見えた。
そいつは、僕を指さしてこう言った。
「行こうか。パンジー頭。」
何をっているんだと整った緑髪の頭に手を置いた瞬間。僕は気が付いた。
先ほどの嵐によって舞ったパンジーの花が、僕の頭についていた。
僕は苦笑しながらその花を頭から落とすと、少女と機械に続いて黄昏の光に向かって歩いて行った。
-
【クラス】
キャスター
【真名】
コハク(マザー)@白き鋼鉄のX2
【ステータス】
筋力E 耐久D 敏捷D 魔力D 幸運B 宝具A++
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
陣地作成:A
キャスターは宝具の効能により、かつて異国に自陣を敷いたエデンの能力者の能力を使用可能。
また宝具の居城である『グレイヴピラー』を展開可能。
でたらめ機械工作:B
技術系統・論理を無視し、いわゆる第六感によって機械の作成を行う。
基本的に問題は起きないらしいが、稀にカメラアイの映像がドット絵になるような失敗をするらしい。
【固有スキル】
無力の殻:E
宝具を未使用の間、自身の能力を一般人並みに抑える代わりにサーヴァントとしての気配を断つスキル。
後述の理由で現在ある宝具が常時稼働状態のため現在は殆ど機能しておらず、常時確認できるステータスがコハク本体の貧弱なものに見えるのみ。
仕切り直し:B
戦闘から離脱、あるいは状況をリセットする能力。機を捉え、あるいは作り出す。
また、不利になった戦闘を初期状態へと戻し、技の条件を初期値に戻す。同時にバッドステータスの幾つかを強制的に解除する。
アサシンは基本的に煙幕弾を用いてこのスキルを発動させる。
-
【宝具】
『迸れ白虎の魂よ、憎しみ仇なすものを消し去る光となれ(ジ・アウトオブガンヴォルト)』
ランク:B 種別:対不死宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1
蒼き雷霆から鋼鉄の白虎へ、そして琥魄が叶えた復讐の一撃。
真名解放により、保有武装であるディバイドの一撃に不死特攻属性を付与する。更に対象サーヴァントが聖杯戦争中に蘇生・死亡無効化を行っていた場合更に特攻倍率を上昇し蘇生スキル・宝具を無効化する。
(ディバイドの入手経路は諸説あるが、ここではGVがかつて持っていたダートリーダーをベースとしているものとする。)
『バトルポット・マザー』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1
かつて人間(アキュラ)のために戦った機械の成れの果て、人類(今を生きる者)の脅威。
基本的には平行同位体『バトルポット・RoRo』と同様であり、小さいボーリング玉程度の球体である本体から、水晶状の青い子ビットをコントロールし戦闘を行う。
戦闘能力としては『EXウェポンミラーリング』と呼ばれる独自機能によりかつて交戦した多国籍能力者連合エデンと蒼き雷霆の能力を疑似再現可能であり、幻夢鏡(ミラー)の能力はかつてのパンテーラ同様ホログラム人格が自己暗示で変更されるまでの域に達している他、アシモフ由来の蒼き雷霆による永久機関ABドライブにより高度な単独行動スキルを保持している。
人間の洗脳機能を備えているが、宝具がサーヴァント本体を操作するという特殊操作に昨日の容量を割かれているため更なる他者への洗脳は現実的とは言い難い。
戦闘時は子ビットとコハクの連係によりコハクを機械翼と蒼爪を備えた姿に変身させるほか、マザー本体と下記のグレイブピラーの連係により、紅白の巨大な女神のようなホログラムを用いる。
現在コハク本体をコントロールし、意のままに動かすとともに彼女の記憶を元にアキュラ・RoRoに関して経年劣化した記憶を復元、ガンヴォルト爪のような情緒を取り戻している。
『グレイヴピラー』
ランク:A 種別:対人理宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:-
マザーのかつての居城にして牢獄、その世界の現存人類にはグレイヴピラーと呼ばれていた地球環境再生機構を召喚する。
あくまでキャスターの本体がマザーではなくコハクであるためか、召喚可能範囲はグレイヴピラー全域には至らず、マザーの安置場所のような限られた一室に制限されているようだ。
【weapon】
白き鋼鉄のXの愛銃『ディバイド』と煙幕弾、バトルポット・マザー
【サーヴァントとしての願い】
コハクの体でアキュラとずっと一緒に居る
【人物背景】
コハクは白き鋼鉄のXの登場人物であり、アキュラの仲間というより庇護対象に近い存在である。
白き鋼鉄のX2では機械と砂漠の異世界にてグレイヴピラーの主『マザー』の命により連れ去られ、最終的にアキュラの活躍により無事救出された…が、今回の聖杯戦争では心をいれかえてしまったらしい。
宝具の一つ『マザー』は白き鋼鉄のX2の登場人物であり、世界の管理者と呼べる存在。人類が滅亡の危機に際した際人類の新天地を求めて旅立った『マスター』が帰還することが無かったため電子頭脳の経年劣化により暴走。
ワーカーと呼ばれる作業機械が人類の代わりに繁栄した世界を選定するべく、己に刻まれた環境保護の使命を撤廃するために人間を探し求め見つかったコハクを拉致、追ってきた白き鋼鉄のXとの死闘を繰り広げるが、戦いのさなか白き鋼鉄のXの正体に気づいた節があり、バッドエンドでは気づかれぬようコハクを乗っ取り『ずっと一緒』だとアキュラに告げた。
白き鋼鉄のXのRoRoとは並行同位体に当たり、マザーの武装やその他から少なくともガンヴォルト爪と同等の事件を経由しているものと思われる。
【マスターへの態度】
クズムシだとは思っているが、正直宝具がサーヴァントを乗っ取っているという自分を受け入れているマスターに従わなければ聖杯を手にできないとは思っている。
-
【マスター】
大外聖生@誰ソ彼ホテル
【マスターとしての願い】
両親に認められる自分になると願うか、憧れの彼になると願うか、悩むな。
【人物背景】
端正な顔立ち、高学歴を誇るがその実は殺人者。
誰ソ彼ホテルにて『運命の相手』と出会い、そのために自他の運命を大きく狂わせた。
トゥルーエンド後の参戦。
【方針】
聖杯を勝ち取る。
【サーヴァントへの態度】
バカな機械(おんな)だとは思っているが、自分の趣向に深い嫌悪感のないサーヴァントを外す理由はない。
話し相手には十分な相手だと思っている。
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投下終了です。
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投下します。
タイトルは
道化の仮面
です。よろしくお願いします。
-
ああ、それはワテクシが上京すること若者の如しなソウルで社長とこんにちはした頃───
ええ、誠心誠意お願いしましたとも。この会社ギブミー? つって。
答えはNO。嫌だって言われましたとも。
だから僕は仕方なく妥協案を出しましたよ。じゃんけんポンで勝てたら頂戴って。
ええ。勿論。当たり前じゃないですか。断られました。
も〜〜〜仕方がないなァ〜〜〜って考えて考えて考えてですね? 嫌々ですよ? つらいったらありゃしない。
実力行使、しましょ★なんつって。
こうして僕は今の地位についた訳なのです。
涙あり友情あり血肉ありスプラッタありの波乱万丈でしたとも。
仕方ないのです。
ええ、こちとら胸が微妙に痛みましたとも。
───警備■社『? ?』所有の防■カメ■から抜■。社■室にて、■話。
■■■■■。
記録消却済み。社長室の防犯カメラは故障。
修理の予定。新社長の進言により、再設置の予定は無し。
○ ● ○
-
ねえ、知ってる? あの消えた社長、行方不明だって。
まあ、警備会社だもんね。普段から『俺はから恨みを買ってるから〜』って笑ってたし。案外いつ雲隠れしてもおかしくなかったのかも。
それよりも…見た? 見た!? 新しい社長!
前社長の一人息子らしいけど…社長にあんなイケメンの息子がいるなんて知らなかったわ。一ヶ月前にもう就任してたけど、私初めて見た!
こう、ニコニコ笑って、素朴なイケメン? って感じ。
この一ヶ月で会社も二回り大きくなって人も増えたし、新社長様様だわ。
四月から給料も上がるって。人も増えたし、ただの事務でもやる気が出るってものよね。
名前? ああ…なんだっけ…新社長って呼んでたから…忘れてる訳じゃないのよ!?
ほら、ほら…『宗太』。名字は…ごめん、忘れた。
───警備会社『CCG』の食堂、防犯カメラの記録より抜粋。記憶を再現された冥界の住人同士の会話から。
新社長の意向により、関連会社とその周辺の街に防犯カメラを増設。
社長室の防犯カメラ、取り外し完了。
○ ● ○
-
○ ● ○
「あー、もしもし。もしもしィ? こちらプリテンダー、応答願います! まさか…繋がらない…!?」
「…その遊びはやめてくれ。鼻につく」
「あらやだ。シャンプーは良いもの使ってるんですが」
「…匂いの話じゃない」
警備会社『CCG』。元警官などの腕に自覚のある人間を中心に集めた警備員五十人が売りの警備会社。
その他にも防犯カメラなど多くのデジタル製品だけでなく、防犯システムサービスの提供など幅広く手を伸ばしている新進気鋭の企業。
それを。
プリテンダーは、そっくりそのまま頂いた。
故に高層ビルの上階、無駄にシックなデザインで統一されながらも月の光を取り込み淡く演出される社長室の中で。
我が物顔で胡座を描く、少年が一人。
「つまらないな」
黒髪の毛先が少し廻る、少年。野暮ったい眼鏡に、白のシャツ。チェックのズボンが特徴の制服。上着は少し暑いのか、ソファにかけられている。
眼鏡を外せば大層整った顔なのだろうが、野暮ったい眼鏡がその顔を幾らか隠している。
「んー? 漫画でも読みます? 男のお古ですけど、嫌じゃなければ」
「…そういうことじゃない。この世界だ」
軍服のような制服を身に纏ったプリテンダーに、少年は話しかける。
ソファから立ち上がり、窓へと手を伸ばす。高層ビルの窓、高い位置から見下ろしたその世界は、灰色だった。
光はある。亡者共の営みがある。しかし、足りないものが、ある。
「この世界は歪んだ欲望がない。右を見ても左を見ても、見下ろしても。何処から見ても、死んでいる」
「死んでいるとはこれまたこれまたおやおや。なんでやねんと突っ込みたいところですが───わからないでもないんですよねえ」
少年…雨宮蓮は、歯噛みする。あの『存在』は誓った。取引。トリックスターとしての永遠の栄光。
歪んだ成功者の足を払い、世間に罪を晒し上げ、心の怪盗団が脚光を浴び続ける。
その為に仲間も犠牲にした。無論、あの状況ならば生きていたかはわからない。それでも、探すことを諦めた。
ベルベットルームを支配していた『存在』に提示された二つの道は、魅力的だった。反抗するか、永遠の栄光か。
『ふざけるな』。その一言が口から飛び出すには、少し仲間との絆が足りなかったのだろうか。あり得もしないもう一つの道を嗤いながら、蓮は栄光を選んだ。
トリックスター。世界を変える、トリックスター。
望まれるのならば、変えてやろうじゃないか。この俺が、一から、何もかもを盗み去り。
怪盗の世界を───
───その始まりで、冥界へ落ちた。
サーヴァントに聖杯戦争。冥界。死。願い。何もかもが怒涛のように脳内に溢れ。
自らが呼んだサーヴァントには、事の経緯を説明すると、腹を抱えて笑われた。五分ほど笑ったあと、プリテンダーと名乗ったサーヴァントは高らかに宣言した。
『超・最・高』
『どうせ死んだ身、これから君は死ぬ身。どうせ短い命なら、派手に愛され憎まれ「暇つぶし(おままごと)」、しましょ⭐︎』
『そしてもし願いが叶ったなら。楽しくやり直そうじゃあーりませんか』
それが、プリテンダーの思想。
どうせ死ぬなら。どうせ短い命なら。その分だけ、凝縮した愛憎を。
───面白い。素直に、そう思った。
どうせ足掻いたってすぐには怪盗には戻れない。ならば、亡者相手になら奪っても問題ないだろう。
この世界には。亡者の中に、まだ生者がいる。
ならば、頂いていこう。
貰っていこう。
この身はジョーカーなれば。心を盗む怪盗なれば。
欲しいものは、栄光と歓声と信頼と───あと一つ。
冥界から生きて出る為の、『ソレ』。
「遊ぶ為の足場作り。砂のお城も土台が必要でしょう?
いいじゃあないですか。ダンジョンは1階ずつ堪能しないと、面白くないでしょ」
プリテンダーは立ち上がり、蓮と同じ高さから街を見下ろす。
灰色の街。欲望のない街。それを見下ろしつつ。
「さあ」
「さて、まずは」
「「───何をしようか」」
ドミノマスクで顔を隠した怪盗と、赫い右目で世界を狂わせたピエロが、冥府の街で嘲笑う。
-
【CLASS】
プリテンダー
【真名】
旧多二福@東京喰種:re
【ステータス】
筋力 A 耐久 A 敏捷 B 魔力 E 幸運 E 宝具 A
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
陣地作成:B
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
プリテンダーの場合、自らの戦場を有利な方面へと創り上げる。ある程度の組織程度なら手中に収めることなど造作もない。
単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。
【保有スキル】
白日庭:A+
寿命の代わりに超人的な反射速度と力を手に入れるための人体実験。ある組織で生まれた人間が持つスキル。
『半人間』と呼ばれる人間を大きく超えた実験体。俊敏と筋力に補正がかかり、どの武器でも問題なく扱える。
このランクを持つのは有馬貴将とプリテンダーのみ。
半喰種(リゼ):A
人間を捕食する人間の形をした怪物───喰種の臓器を移植した者。
中でもプリテンダーは「リゼ」と呼ばれる個体の赫胞を移植しており、再生力に特化している形態。人肉を食すことで性能が上昇する。
腰あたりから『赫子』と呼ばれる液状の筋肉とも例えられる触手を自由に扱う。彼の場合、一撃の威力に特化した「鱗赫」。
仮面、お一つどうぞ?:B
大学生、ピエロ、宗太、旧多二福、和修旧多宗太、和修吉福。
どの仮面でも、お好きなのをどうぞ。
プリテンダーとしてクラスを得た理由のスキル。
複数の名を持ち、複数の仮面を持ち、真名を理解しても逸話がバラバラのため弱点にならない。
そして、非戦闘時は一般人と変わらないほどの魔力反応しかないため、サーヴァントと判別がつかない。
天性の詐欺師。
道化:B
いつでも何処でもふざけましょう?
愛してくれればそれもまた。
憎んでくれればそれもまた。
全ては彼女のためだけに。
そのふざけた態度が、敵サーヴァントの気力を削ぐ。
攻撃力をダウンさせ、敵の強化の幅を落とす。
【宝具】
『貴女と私の超平和(ラブ&ピース&サーカス)』
ランク:C 種別:対関係宝具 レンジ:? 最大捕捉:?
ラブ&ピース&サーカス。
人心を掌握する心の仮面。時には部下であり、時には上司であり、時には司令塔であり、時には無力な一般人。人心・組織・儀式を掌握する対関係宝具。
常時発動型の宝具であり、あらゆる場面において『信頼』や『憧れ』といったプラスの感情を対象に抱かせる。上述のスキルと合わさり『欺く』ことにおいてもプラスの補正がかかり、これらの能力は接する時間が長いほど強固になる。生前、その立ち回りと笑顔の仮面で国を守る一つの組織を手中に収めたという、その再現。
しかし一度本性がバレた相手には二度目は効かず。剥がれた仮面は着け直せない。
『おいでよおいで、赤ん坊(re・バース・ドラゴン)』
ランク:A 種別:対都市宝具 レンジ:0~999 最大捕捉:999人
かつて東京の都市に生まれた『竜』。その再誕。
竜とは名ばかりの肉の塊であり、複数の目玉を持つ巨大な触手が作り上げる塔に似た百足の怪物が完成し、人間を喰らいながら成長する。
時間経過と共に『落とし児』と呼ばれる、顔には口しかなく人の形をした肉の塊が生まれ落ち、人を襲う。これは死と共に破裂し、喰種化を招くガスを撒き散らす。
発動した段階で既にプリテンダーの制御を離れ、自由に成長段階を進めていく。
混沌を産み落とす化け物でしかないが、もし竜の一部として生き残れたのなら───人類でも喰種でもない、『何か』として新たに命を得る可能性がある。
壊すためには、竜の一番上に位置する核───『彼女』を破壊する必要がある。
『ぼくがほしかったもの』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ: 最大捕捉:
ぼくがほしかったもの。
てにはいらないとりかいしているもの。
このからだになったじてんで───もっとまえから、りかいしているはずなのにね。
詐欺師・ペテン師としてのプリテンダーの仮面を全て取り払った姿。
赫子の鎧に身体を包み込み、筋力・耐久・俊敏に大きなボーナスを付与する。
その代わり、プリテンダーとしての流暢な言語能力は失われて。
ほしい、寄越せと叫ぶだけの怪物と化す。
-
【weapon】
・赫子(鱗赫)
・ツナギ<custom>(尾赫Rate/C)
クインケ。刀状の武器。
・ロッテンフォロウ(鱗赫/レートS)
チェーンソー型のクインケ。高い攻撃力を持ち、プリテンダーはこれを片手で振り回す。
・黒刀
最終決戦で使用した武器。
以上のこれらを自由に呼び出せる。
【人物背景】
人々に希望と死を与えた道化。
常にふざけた態度を取り、短い寿命で悪戦苦闘。
楽しく楽しくやりましょう。
私と貴方が崩れるその日まで。
貴女に会える、その日まで。
多くの人を騙し、利用し、弄んだ加害者であり。
また、彼も運命の被害者であった。
【サーヴァントとしての願い】
好きに暴れましょうよォ。
もし生き残っちゃったら?
それはそれで───リゼと二人で、人間として生まれるとか。
【マスターへの態度】
好感触。
色々使えそうだな、何して遊ぼうかなと考え中。
とりあえず現在成り行きで警備会社の社長を務めている。
【マスター】
雨宮蓮@PERSONA5
【マスターとしての願い】
元の世界に変える。そのためなら、人ぐらい、まあ。
【能力・技能】
・『ペルソナ能力』
反逆の力。たとえ地獄に繋がれようと全てを己で見定める、強き意志の力。
その中でもワイルドと呼ばれた複数のペルソナを操る能力を持ち、この冥界では怪盗服にも変われるようだ。
戦闘技巧、身体能力も大幅に上がる。
精神力を使うが、ペルソナによるスキルの使用も可能である。
・ナイフや拳銃の心得
しかし現在はナイフしか所持していない。
【人物背景】
堕ちたトリックスター。
かつての仲間はおらず。
鎖を断ち切ることができなかった、哀れな道化。
『PERSONA5』悪神との取引後より参戦。
【方針】
生きて帰る。
その前に、この街で遊ぶのも悪くない。
【サーヴァントへの態度】
好感触。
考えた作戦を遂行できるだけの能力を持っているプリテンダーは、仲間として助かっている。
───それは。
かつての仲間に抱いた感情と同じなのか、どうか。
-
投下終了です。
-
投下します
-
打つ、打つ、打つ、打つ、打つ。
弾丸を入れ替え、また、打つ。
打つ、打つ、打つ、打つ、打つ。
気持ち悪いことを言ってたのに、もう物言わない。
駄目だ、止めちゃ駄目だ、確実に仕留めろ。
させない、もうさせない、ユメ先輩の様にはさせない。
させな――
「もうやめでいいシールダー、もうそいつ消滅したわ…」
止められた、打ってた場所を見る。
サーヴァントの姿は無く、あったのは弾丸で焦げた床。
◆
東京都、海外沿いのビル。
黒塗りの高級車から、特徴的な髪型の男が出る。
「カシラッ!お疲れ様ですっ!」
「帰ってきたぞ愚民ども、早速仕事に取りかかれぇ」
「はっ!」
素早い手つきで部下に命令し、自身も足取りを早くし拠点へと入る。
「…うちの組長はどこで遊び呆けてるんじゃあ」
「きょ、今日裏カジノに行かれたかと…」
「ちっ…無脳が…とことん組の仕事をほっといてくれる…」
男、野田一はこの組のカシラだ、極道組織の№2、肩書に惚ける事なく、前線に立ち仕事に取り掛かる。
苛烈な所を除けば、常に部下を守るいい上司だ。
一方、この組の組長は筋金入りのクズだ。
社会のはぐれもんが何を言うんだという話だが、組の仕事をほっぽり、挙げ句組員に外道まがいの仕事をさせようとする。
幸い、野田が実質的な組長であるため、その下の本部長以下の人員は教育の結果、仁義を重んじる男達揃いだ。
(教育…って言っても、おやっさんや工藤の兄貴、阿久津のカシラが俺にしてくれたことの真似事だからな…まぁ、それでもこの組はよく立て直せた)
組員にはついでに、自分の様な刺繍…令呪を持つ者の捜索もさせている。
もちろん、そいつの身辺調査もして、仁義外れなのかどうかも確かめる。
「それじゃあ俺は仕事に移る!部屋にはちゃんとノックして入れぇ!」
「ははっ!」
◆
-
「ふぅ…出てきていいぞ、シールダー」
「…相変わらず真面目な人だ、組員にも部屋に入らないよう、徹底させてる」
出てきたのは、ピンク髪の女。
どことなく悲壮感を漂わせ、その裏にはピリピリとした波動を滲ませている。
「まぁな、お前にはいつも頼りにさせてもらってる、ほんの礼だ」
野田はシールダーの眼の前に紅茶とケーキを出す。
「どーも…まぁ、サーヴァントとして当然の事ですし…」
上記の通り、部下に他のマスターの捜索に当たらせている。
今日討伐してきた主従は外道だった、NPCとはいえ、多数の人を犠牲にする黒魔術を行使しようとしていた。
マスターは野田が当たり、そいつのサーヴァントのランサーはシールダーが当たった。
「でも、お前は戦闘中に前が見えなくなることがある、そこは気をつけぃ」
「…はい…」
シールダーは、守り手のクラスを冠する割に、強烈な攻撃者(アタッカー)だ。
これまでの戦いでも、敵が消滅しても、手持ちのショットガンを打ち続ける。
まるで、絶対に悔いを残さぬように。
「それじゃあもういいですか?ケーキも頂いたし」
「おう、構わねぇ」
それじゃ、と一言いい、霊体化する。
野田は立ち上がり、窓から見える東京の夜景に目をやる。
「天王寺組との戦争を終えてこれからって時に…たまったもんじゃないわ…」
誰かを踏みにじって作る聖杯を野田は認めない、そんな仁義外れなことは絶対にしない。
帰る手段も重要だが、とにかくこの戦争は止める。
「なにか別な手段を使うしか無いが…とにかく、この俺はこんなの認めない、絶対に叩き壊す」
男はタバコを蒸す、東京の夜風を添えて。
◆
そうじゃあ、お気をつけてと。
見送ったのはずいぶん前で。
ここに未だ還らない。
彼が僕自身ということに気づいたのは。
今更になってだった。
ポルノグラフィティ「アゲハ蝶」
-
【CLASS】シールダー
【真名】小鳥遊ホシノ@ブルーアーカイブ
【ステータス】
筋力C 耐久C+ 敏捷C 魔力D 幸運E 宝具B
【属性】中立・中庸
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:D
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。
自陣防御:B
味方、ないし味方の陣営を守護する際に発揮される力。
防御限界値以上のダメージ削減を発揮するが、自分はその対象には含まれない。
また、ランクが高ければ高いほど守護範囲は広がっていく。
【保有スキル】
忘却補正:B
人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。
忘却の彼方より襲い来るシールダーの攻撃はクリティカル効果を強化させる。
本来はアヴェンジャーのクラススキル。
特殊霊基:EX
本来、小鳥遊ホシノという英霊がシールダーとして召喚される場合、「シャーレの特別顧問の来訪」という出来事以降の霊基が与えられる。
しかし、今回現界した際は、なぜか「梔子ユメの死亡」前後の時系列の霊基を与えられている。
本来、この霊基ではシールダーとして召喚できず、アヴェンジャー、もしくはバーサーカーとして召喚されるはずである。
【宝具】
『二度と、手放さない(シックス・ザ・ショット)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:100人
この宝具の発動条件はただ一つ。
1:マスターとの間に、シールダー本人が認めるほどの絆があること。
2:そのマスターが瀕死である事。
この条件が揃うと、この宝具は発動する。
特殊な魔力を込めた弾を装填、合計6回射出する。
本宝具はどんな対魔力スキルといった防御スキル及び宝具、幸運判定をすべて無視。
全てを貫通し、相手を打ち放つ。
二度と大切なものを失わない、その彼女の覚悟が籠もった宝具。
【weapon】
ショットガン
【人物背景】
アビドス高校在学。
大切なものを、失った少女。
【サーヴァントとしての願い】
ユメ先輩ともう一度やり直す。
【マスターへの態度】
少なくとも優秀なマスター、十分頼りにはできる。
【マスター】野田一@ヒューマンバグ大学
【マスターとしての願い】
特に無し。
【能力・技能】
とてつもないレベルの狡猾さ、アイスピックを戦闘や拷問に扱い、爆発する「アイスピックアドバンス」、遠距離操作の「アイスピックドローン」を開発するなど、発想力にも優れる。
なお、座右の銘は「正々堂々」。
【人物背景】
妾の子。
愚連隊に落ち、仁義を教えられ、カシラとなった男。
【方針】
仁狭モンとして、犠牲を持って作られる聖杯は認められない。
同じ思想を持つものがいないかも捜索。
仁義ハズレの主従も探して、修正する。
【サーヴァントへの態度】
優秀、だが、なにかに取り憑かれているようなのが気になる。
-
投下終了です
-
投下します
-
彼は祈っていた。
なぜ。
彼は気づいたからだ。
思考する器官。脳が進化を果たしたことで。
宇宙の一部でありながら宇宙の存在を意識できるようになったのだ。
『神よ。これから貴方の意思に反して他の生き物に、ただ捕って食べるよりもひどいことをします』
『どうぞお赦しください。気づいたのです。私たちだけが他の生き物と違うと』
『私たちだけが神(あなた)に似せて造られた。だからこの生業を、どうか明日も明後日も続けさせてください...』
それは免罪符といえるかもしれない。
あるいは罪悪感とも言い換えることができるかもしれない。
しかして、『祈る』という行為は思考する者にのみ与えられた権利だ。
『ただ生き』『ただ殺し』『ただ食べ』『ただ産み』『ただ死ぬ』
その自然摂理における欲求行為の一歩先に行くための確認作業なのである。
故に彼は祈る。
先へ進むために。
己を生み出した、もう一つの『神』に挑むために。
-
☆
殺風景な白で囲まれた部屋。
綺麗ではあるが、生活感の欠片もない部屋。
当然だ。
ここは『彼』が拠点として使う為に制圧した一つの部屋。
その第一歩として、彼は徹底的に掃除した。
もとの家主の遺したものを、飛び散った血や臓腑から誇りに至るまでを徹底的に綺麗さっぱりと掃除した。
本来、自然世界においてはここまで綺麗にする生物はいない。
ある程度の住処を確保できればそれで生きられるのだから、多少、家主の物が残っていても問題は無いのだ。
とにかく生きられれば、子に遺伝子を託せればそれで良い―――本来の生物とはそういう生き物である。
『彼』は違った。
これは儀式である。
用意された椅子を巡る、神聖なる闘争である。
『彼』は覚醒と共に叩き込まれたルールを理解し、神事であると解釈したのだ。
「まったく、手間取らせおって」
ぶつぶつと文句を垂れながら、火山頭の異形が使い終えた雑巾を、掌から放たれる小火で燃やす。
その存在の名は漏瑚。
かつては人の世を呪う呪霊として人間と対立し、今はこの聖杯戦争において英霊として呼び出されたものである。
「じょうじ」
そう呟いたのは、黒い光沢を身に纏った―――否、黒の光沢そのものが身体となっている異形。
髪の毛一つなく綺麗に丸まった頭から生えた一対の触覚は虫を連想させるが、しかし、その身に纏った布地から覗かせる屈強な筋肉や四肢は人のようであり。
ゴキブリと人間を足したような『彼』は、漏瑚の落とした燃えカスを指差した。
「じょうじぎじじょう」
「わかったわかった...まったく細かい奴め」
『彼』の話す言葉は日本語でなければ、世界に存在する何処の国の言葉でもない。
しかし、漏瑚は彼に付く英霊であるためか、『彼』の言いたいことを理解することができた。
燃えカスも綺麗に掃き終わり、改めてさっぱりとした部屋に漏瑚はやれやれと一息を吐く。
「じょうじ」
「なに?祭壇を置きたい?...儂はそこまで付き合いきれんぞ」
「じょうじ」
溜息を吐く漏瑚にコクリと頷き、『彼』は先住民が使っていた携帯から通販サイトを開き、画像を見て素材の吟味し始める。
出来合いのものではなく素材から厳選しようとするのは彼なりの矜持からだろうか。
-
(まったく面倒なことになったわい)
漏瑚は部屋から出ると、懐から一本のパイプを取り出し咥え一息を吐く。
吸うと悲鳴をあげる顔のような何かを模したこのパイプは生前からの彼の愛用品だ。
彼の願いは生前から変わらず、『呪霊達の世界』を作ることである。
今の世界は人間が我が物顔で跋扈し、繁殖し、闊歩している。
漏瑚はそれを認められない。呪霊こそが真の人間であることを証明し、その世界を創るためならば己の存在すら投げ出しても構わないと信念を抱いている。
そんな彼を英霊として傍に置くなど、マスターが人間であれば決して許容できないだろう。
あの手この手で漏瑚を害し、最終的には裏切ったはずだ。
しかし、幸いと言うべきか。
彼のマスターとして選ばれた者は、漏瑚と似通った願いを抱いていた。
『彼』の願いは『"神"たちに打ち勝つ』こと。
概念的なソレではなく、己という種族を生み出した元凶となる神―――人類。
『彼』と漏瑚の願いは似通っていた。
ただ。
漏瑚が勝てば呪いが人間の代わりに世界を支配し。
『彼』が勝てば彼の種族が世界を支配する。
つまり、人類を滅ぼすという過程が過ぎ去れば彼らもまた対立する運命にあるのだ。
それでも、過程が同じならば結末までは同盟を結ぶことができる。
人類に勝利する、という一点においては彼らの願いの根幹に深く根付いている。
故に、彼らは正しく同盟を結んだ。
最終的に対立するのを織り込んだうえで、互いを利用し合う公平な条約を。
呪いも。『彼』の種族も。
始まりは人間の欲望からだった。
呪いは畏れや恐怖のような人の負の感情から生まれ。
『彼』の種族は、もっと弱かった頃に遥か遠い星の彼方の肥やしの為に送り込まれ。
彼らにとって、人間とはある意味、『神』であり、その神を越えんとしている。
しかして、彼らは『神』を憎悪し怒っている訳ではない。
彼らが人類と敵対するのは、もっと至って単純な話。
生理的嫌悪。
人類が見目悍ましい種族を見た時に排そうとするのと同じだ。
故に、彼らに人類との和解の道など決してない。
己が嫌う神【人類】にとって代わって、我らがこの地球の中心となる。
それが彼らに共通する揺るぎなき願いだった。
「...じょうじ」
『彼』は思う。
己に与えられた英霊が人間でなくて良かったと。
火山の呪霊。即ち、火山の化身。
一説によれば、文明の節目には火山の噴火が関わっているという見方もあるという。
まさにこの神事に臨むにあたり相応しいと言えよう。
「―――ジョージ」
『彼』を、その所作を見た人間は、こう名付けた。
本来の彼の種族ならばあり得ないその行為を。
唯一、その知的行為を理解し、新たな舞台に進もうとする者の名を。
『祈る者(インヴォーカー)』と。
-
【CLASS】
キャスター
【真名】
漏瑚@呪術廻戦
【ステータス】
筋力C+ 耐久C+ 敏捷A 魔力A 幸運E 宝具A
【属性】
秩序・悪
【クラススキル】
陣地作成:C
魔術師として自らに有利な陣地を作り上げる。
工房は作れないが周囲の温度を上げることが出来る。
道具作成:B
魔力を帯びた器具を作成可能にするスキル。器具は作れないが、火の属性を有した蟲や小規模な火山を作ることができる。
【保有スキル】
呪霊:EX
人の負の感情により生まれたこの英霊は、人間の畏れにより力を増す。
また、呪いを基礎とした精神汚染の類の技の効果に強い耐性を持つ。
反面、除霊術や浄化の光のような呪いを払う類の技には耐性が低くなる。
対魔力(火):EX
火・炎・熱の属性の魔力での攻撃はほとんど無効化する。
術式:A
漏瑚のメインウェポン。魔力を消費し、小規模な噴火を起こす小さな山を作ったり、絶叫と共に爆発する蟲を作り出すなど、非常に火力の高い技を放つことができる。
【宝具】
『極ノ番:隕』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:20人
漏瑚の術式の奥儀。巨大な隕石を落し周囲一帯を灰燼と化す。
『領域展開・蓋桶鉄囲山』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:30人
漏瑚の術式の領域を展開する結界術。領域内に活火山の如き灼熱の空間を創り出す。
領域内で発動した術式は全て必中効果が付与され、且つ、領域内の灼熱により高温ダメージを相手に与えることができる。
【weapon】
無し。使うのは術式のみ。
【人物背景】
人が大地を畏怖する感情から生まれた特級呪霊。
「嘘偽りのない負の感情から生まれた呪いこそ真に純粋な本物の“人間”であり、偽物は消えて然るべき」との信条を掲げ、人間を駆逐し呪霊が君臨する世界の創造を目論んでいる。
その為には、己の犠牲すら厭わず文字通り全身全霊で理想に身を捧げている。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯を手に入れ、呪いが真なる人となる世界を創る。
【マスターへの態度】
同盟相手。お互いに利用し合うには不足なし。
【マスター】
祈る者@テラフォーマーズ
【マスターとしての願い】
聖杯を手に入れ、神(人類)たちに勝利する。
【能力・技能】
ゴキブリ生来の怪力や俊足、機能などを保持したまま人間大のサイズに進化したため、非常に身体能力が高い。
また、非常に高い知性と学習能力を有しているため、ゴキブリでありながら電子機器の使い方や理屈を熟知し、身体を改造する手術の技術も習得している。
【人物背景】
火星に送り込まれたゴキブリが進化した存在、『テラフォーマー』。その幹部格となる存在の一人。
性別は不明。
テラフォーマーの中でも非常に高い知性を有し、人間とほぼ等しい知性や感情を有する。
祈る者は他の「ニンゲン、キライ、コロス」くらいしか考えていない他のゴキとは異なり、「殺害するよりもっと『悪い』行為」であることを認識したうえで、人間を捕らえ人体実験のような非道な行為を繰り返している。
【方針】
優勝狙い。
【サーヴァントへの態度】
同盟相手。お互いに利用し合うには不足なし。
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投下終了です
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投下します
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太陽浮かばぬ人気のない空を、竜は廻る。
見下ろした先にいるのは、一組の主従。
だが、もう、手を下す必要はない。
◆
なぜ、なぜなのだ。
あれほど自分に忠誠を誓った己のサーヴァントが、こちらへと牙を剥く。
思想の対立?違う、自分が原因ではない。
空を見上げると、廻り続ける竜が一匹。
アイツだ、アイツのせいだ。
ばら撒かれた鱗粉の様な物で、己のサーヴァントは狂った。
しかし、睨みつけても、魔竜は気にしない。
もちろん、それで牙が止まるわけでもない。
無念のうち、一組の主従が、灰塵となり消え去った。
◆
大都市、東京には、地位を上げた者たちが住むマンションがある。
場所は銀座、そこに住むのは、投資家などといった成功者。
もちろん、そこに常人狂人の区別はない。
そこに住む、医者もその一人だ。
(…ん、キャスターか、どうした?そうか、敵主従をやったか)
医者――村雨礼二は霊体化した己のサーヴァントから、歓喜の鳴き声、という形で成果が送られる。
(今日はあいにく医者の仕事でな…その主従を解剖してみたかったな)
村雨は堅実な狂人だ、医者の裏側にギャンブラーの経歴を持つ、しかしそれは、命がいくらあっても足りないような、狂気の沙汰のゲームだ。
そしてもう一つ、彼を象徴する欲、それは、解剖欲。
外面の良い女を、口先だけの男を、解剖すれば、すべてが分かる。
誠意が、性格が、すべてわかる。
(なるほど、魔術師にしてはまともな倫理観か…とにかく、よくやってくれた、ありがとう)
そして、魔竜は何処かへと再び飛び去っていく。
またしても、主従殲滅の為だろう。
単独行動のスキルを持つお陰で、こちらが出向かなくても、自動的に勝利へと近づいていく。
「聖杯戦争…これもまた、一つのギャンブルの様な物か…」
ギャンブルと同じで、これにも仕組みやルールがある。
冥界という存在、太陽が無い、令呪…儀式を円滑に進めるための、しっかりとしたルール。
「とはいえ、私も、あまり命は賭けてられない、五体満足で、元の世界でこの医者は続けたい…」
脱出不可能の迷宮、それでも村雨は出ることを考える。
「…だが、聖杯は魅力的だ、私とて、特にあるものには目をつけたい」
聖杯さえあれば自分の欲は満たさせる。
あの天廻の魔竜と共に。
「脱出する…願いも叶えたい…欲望というものは…つくづく厄介だな」
窓から夜景を見下ろす。
その夜景を通す鏡には、村雨の。
不気味な笑みが浮かび上がっていた。
◆
天を廻る龍は、何を願うか。
その鱗片で世界の破滅を願うか。
すべての魔獣の支配者となり、永遠の王として君臨するか。
否、天廻龍の願いはただ一つ。
夢見た故郷を目指すだけだ。
幼体から夢見た、あの故郷を、懐かしの、故郷を。
天廻龍シャガルマガラ、冥界の聖杯に、いざ、願いを叶えるために、空を舞う。
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【CLASS】キャスター
【真名】シャガルマガラ@モンスターハンターシリーズ
【ステータス】
筋力A 耐久B+ 敏捷A 魔力C 幸運D 宝具B+
【属性】混沌・中立
【クラススキル】
陣地作成:D
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
”巣”の形成が可能。
道具作成:C
魔術的な道具を作成する技能。
キャスターは道具ではなく特殊な鱗粉を作成する。
【保有スキル】
単独行動:A+
マスター不在でも行動できる能力。
本来はアーチャーのクラススキル。
心眼(偽):B
直感・第六感による危険回避。
千里眼:C
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
【宝具】
『狂い狂えや廻り申せ(狂竜の力)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:―― 最大捕捉:100人
キャスターの体から発せられる特殊な鱗粉。
その鱗粉の成分――通称狂竜ウイルスは、すべてのモンスターを狂わせることができる、魔の力。
聖杯戦争に当たって、サーヴァントや一般人に当たっても、魔物などに当たった時と同じ扱いなるようになっている。
またキャスターはこの力を使いこなしているため、自身の強化にも使用できる。
【weapon】
無し ブレスなどの自らの身体を使った攻撃
【人物背景】
魔竜 ゴア・マガラの成体。
それは、故郷に帰るため、空を廻り続ける龍。
【サーヴァントとしての願い】
故郷への帰還。
【マスターへの態度】
サーヴァントな以上、願いを邪魔しないなら付き従う。
【マスター】村雨礼二@ジャンケットバンク
【マスターとしての願い】
最高の解剖をする
【能力・技能】
類まれなるギャンブルと医師の才能
【人物背景】
かつては頂点にまで登りつめたギャンブラー。
人の本性を見届けるために、解剖を求める狂人。
【方針】
聖杯に願いを叶えてほしいため、脱出の手段を別で考える。
キャスターには率先して敵主従の殲滅をさせる
【サーヴァントへの態度】
悪くない、命令にも従順だ。
ん…?竜種の解剖…?興味は一様あるが…感情などがわからないかからな、当分は無しだ。
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【0】
死は停滞である。
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【1】
「こういうのに巻き込まれるのは『人類最後のマスター』だって相場が決まってるんだけどなあ……」
深夜。暗い闇の中、ぽつんと鎮座した街灯1つの前。
大都会であり不夜京でもある東京であっても、なお光薄き世界の片隅で。
鈴を鳴らすかのような、涼やかなぼやきが夜に溶ける。
奇妙な光景であった。
そこは、ただの田舎の端である。
そこは、ただの寂れた町外れである。
そんな場所に、芸術品が展示されている錯覚を受ける。
有名な美術館の中、ガラスケースの向こうにあって当然というような。
高名な美術家の作品として飾られていて当然というような。
場違いというよりも、まるで有るべき場所から切り取られてきたかのように。
その場にあるのは美しく、麗しく、そしてとても可愛らしい、少女等身大の人形である。
白き陶器と見間違えるようなシミ一つない肌。
黄金比を思わせる完璧なバランスで形作られた造形。
天使のような顔立ちは不満げな下がり眉を見せてなお魅惑的だ。
「このレオナルド・ダ・ヴィンチ、血沸き肉躍る冒険(よたいべんと)は好きだけれど、血生臭い殺し合いはまっぴらごめんだよ」
美を散りばめた人形が口を開く。いや、人形と見紛う美少女が。
彼女こそは人類史を救う旅人の1人。ノウム・カルデアの頭脳。ちっちゃなマスコット。
あるいは「本物のレオナルド・ダ・ヴィンチ」が未来のために残した英霊の代替品。小さい方のダ・ヴィンチ。
サーヴァントによって造られた自動人形にして万能の天才の遺作。
真名・グラン・カヴァッロ。
この冥界に誘われた「葬者(マスター)」の1人である。
「聖杯戦争ねえ……そういう特異点は今までもあったけどさ」
召喚時、脳内に装填(インストール)された情報を吟味する。
聖杯戦争。冥界。東京。令呪。サーヴァント。NPC。参加者の減少と共に進む冥界化。運命力とその喪失。
多量な情報量ではあるが、天才の頭脳をもってすれば理解に要する時間はほんの僅か。
「なるほど……どうやらこの特異点の創造主は、とんでもなく真面目で、公平で、平等で」
だからこそ残酷だ。
ダ・ヴィンチは、そう結論付ける。
-
今まで発生したことのある「聖杯戦争を模した特異点」では、これほどまでに詳細なルール説明を受けることなどなかった。
それどころか何の説明もなく争いに巻き込まれ、現地の人間や野良サーヴァントに事の次第を聞くことばかりと記録に残っている。
だが、今回は違う。
まるで幼子に一つ一つものを教えるように。
参加者に教え込む。詰め込む。この世界の理を。
赤子であってさえこの戦争を理解しろ、と。だから戦え、と。そして死ね、と。
そこに反論の余地は無い。残酷としか言いようがなかった。
「そしてこの役割(ロール)は……それこそ、公平を期すためのハンデというやつかな?」
ダ・ヴィンチに、この東京での居場所はない。
仮初の家族も、知り合いも、家も、職もない。身の着のままで放り込まれた形になる。
異世界転生ならぬ異世界転移。彼女はこれから、この世界の一員となるべく何もかもを一から構築する必要がある。
流浪の旅人として、または浮浪者として振舞うには、ダ・ヴィンチはあまりにも美麗にすぎた。
もしも何の背景(バックボーン)も持たぬ美少女があちこちを当てもなく彷徨っていれば、それはどうしたって目立つ。悪目立ちする。
この東京においてさえ、ダ・ヴィンチの輝きは翳ることがない。
しかしその輝きは、この世界に馴染んだ役割(ロール)を持つ他参加者、特に乗り気な連中にとっては、良い的になってしまうだろう。
今回のような場合において美少女は罪なのである。ぐすん。
例えるなら、群衆に潜む暗殺者(アサシン)たちの只中で、たった一人だけピッカピカの神輿(ライダー)を担ぐがごとし、だ。
相性不利にもほどがある。先手を取られ放題だ。スキルを使いまくってから殴られる敵(エネミー)の気持ちになるですよ。
なるほど、このハンデはこれまでに数多もの特異点を解決してきたカルデアの一員に対する足枷としては中々に上等と言える。
「しかしそうなると……もしも藤丸君が巻き込まれていた場合、合流がめんどくさそうだなあ……」
冒頭でもぼやいた通り、元来こういったモノに巻き込まれるのは「人類最後のマスター」たる藤丸立香の専売特許である。
いつもは管制室で指示を出しているポジションのダ・ヴィンチでさえ巻き込まれているのならば彼/彼女は当然のように……と考えるのは、それこそ当然だ。
で、あるならば、ダ・ヴィンチの舵取る方向は自然と決まってくる。
他参加者におおっぴらに気付かれない程度に、もしくは気付かれても問題のない方法で東京の街に繰り出し。
出来るならば多くの参加者と接触し、情報を集めながらこの世界の調査も進め。
最優先の生還対象である藤丸立香がいるならば合流し、守る。この身体に代えても。
思わず溜息が出る。最近かなりガタが来ている少女型自動人形に対し、ハードワーク、オーバーワークにも程があるだろう。
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「おまけにチュートリアルも完備と来た。こういうのもサービス精神旺盛って言って良いのかな?」
ここは東京の中にあっても田舎の端。殺し合い会場のはじっこ。
つまり、冥界領域の淵にある。一歩踏み出せば、そこは偽物の東京から死霊が闊歩する死地に様変わりする。
その一歩は、生者のみが踏み出すにあらず。死者の側から踏み出されることもまた然り。
「AHH……」
冷気が周囲を包む。ブンブンと爪を振る音がする。こちら側に踏み出された足音は無音。つまり彼らに足はない。窪んだ眼窩をぎょろりと向けて、迷うことなく生者に飛翔する。
お前もこちら側に来い、と。
「AHHHHHHHHHHHHHHHH!!!」
幽霊(ゴースト)の襲撃であった。
とんだサービスの押し売りであるが、ノーサンキューの言葉も悪霊には届くまい。
その数たったの3匹(1WAVE分)なれど、何の準備もなく武装も剝ぎ取られたか弱き美少女サーヴァントにとっては少しばかり暴力的に過ぎた。
少女態であるダ・ヴィンチの筋力はD、耐久もD。敏捷Bを司る彼女ご自慢のローラースケートも今はなく、道具を作成する当てもない。
「さてと、それじゃあ」
しかし、ダ・ヴィンチの顔に焦りはない。
むしろ、待ち望んだ展開だと言わんばかりにワクワクの表情を見せる。
クリスマスの朝、真っ赤な包装紙をビリビリ破いてプレゼント箱を開ける子供のように回路(パス)に魔力を流して。
愛くるしい天使の笑顔を向けた先には、一つの影法師。
「君がどういうサーヴァントなのか、教えて欲しいな!」
ダ・ヴィンチ――真名グラン・カヴァッロは本物のレオナルド・ダ・ヴィンチによって生み出された人工サーヴァントである。
だが、彼女は同時にこの聖杯戦争における葬者、つまりはマスターでもある。
マスターにはサーヴァントがつきものだ。憑き物だ。
彼らはマスターを守護し、敵対存在を打ち滅ぼすために在る。
そのうちの一体が、マスターの声援を以て冥界にて覚醒した。
クラスはキャスター。魔術師の冠を得た英雄。杖を持ち唱(うた)を極めた才覚者が一人。
彼は幼き少女の3倍はある身の丈をゆるりと起こし、襲い来る死霊たちに腕を伸ばし。
「【エクシルよりメステルへ。潜る破音。群れの終端。回る円錐。穿て】 “JM61A1”」
おおよそ魔術とはかけ離れた『兵器』を生み出した。
彼(キャスター)の振る杖は魔にあらず。人理世界の魔を駆逐した科学文明の産物である。
長い鉄の筒を複数束ねた砲身。樽のように大きなマガジン。幾つもの歯車が複雑な機構で両者を繋ぎ、毎分6000発もの発射速度を保証する。
そんな鉄の杖が火を噴いた。轟音。薬莢が勢いよく吐き出され、それ以上の騒がしさで火薬の波濤が霊を焼く。
バケモンには現代兵器をぶつけんだよと言わんばかりの物理的質量(マジレス)が、サーヴァントの込めた魔力で実現される。
ダ・ヴィンチには見覚えがあった。修練所、シミュレーター、数あるカルデアの訓練施設でとある狂乱の騎士が振り回しまくったその武器の名は。
JM61A1。F-2戦闘機に搭載された20mm機関砲。
分かりやすく言うと、ガトリングガンである。
「は、は、ははははは! かった、ぞ! や、やっぱり、ぼくは、さいきょう、だ!」
3匹(1WAVE分)どころか9匹(1クエスト分)は殲滅し得る圧倒的火力を吐き出し尽くして。
哀れなる霊たちの断末魔さえ搔き消しながら、キャスターは勝鬨を上げる。
それは祝砲であり、産声であり、この世界へ告げる宣戦布告の狼煙でもあった。
ところで。
「さて……色々聞きたいことはあるけれど」
当たり前の話ではあるが。
「とりあえず、ここから離れよっか!」
ガトリングガンは、めちゃくちゃうるさい。
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【2】
「なるほどねぇ〜!これは困ったなあ!」
オカルト殲滅地帯から少し離れた林の中。
キャスターが作り出したカンテラに灯されながら、ダ・ヴィンチは破顔していた。
言葉とは裏腹に、少女の表情は非常に明るい。
それは、目の前のサーヴァント――「窮知の箱のメステルエクシル」があまりにも彼女の興味をそそる存在だったからだ。
まずはじめに。
汎人類史に「窮知の箱のメステルエクシル」という英雄は存在していない。
メステルエクシルの拙い説明をなんとかかんとか天才的頭脳で読み解いて、嚙み砕いて。
そもそも彼の存在していた世界はいわゆる「異世界」と呼ばれるものだ、というのがダ・ヴィンチの下した結論である。
「特異点(もしもの過去)としてもあり得ないし、異聞帯(もしもの現代)としても破綻が過ぎるってね」
メステルエクシルのいた世界では彼のような機魔(ゴーレム)以外にも当然のように竜(ドラゴン)や巨人(ギガント)や他にも色々な種が存在していたらしい。
この時点でファンタジーが過ぎるが、これだけならまだ汎人類史の過去の話とすることも出来る。
だが、ついさっきキャスターがカンテラを作り出した方法こそが決定的な「ズレ」となる。
「詞術……土からカンテラを、コンクリからガトリングガンを作り出す技術……一番近いのは錬金術になるんだろうけど……」
しかしそれならば「錬金術」という名称で世に広がってしかるべきだし、ダ・ヴィンチの知る錬金術とは力の働き方が違いすぎる。
かつて表の世界で錬金術師と称されたこともある彼女だからこそ、メステルエクシルの力が「そうではない」と分かる。
またメステルエクシルが武勇伝のように語る彼の過去の断片的にも、現実の歴史と符合する出来事は全くない。
本物の魔王とか勇者を決めるためのトーナメントとか、歴史が違うでは流石に片づけられないだろう。
であるならば、ここに解くべき問題が発生する。
「なぜ、異世界の存在がサーヴァントとして呼ばれているのか?」だ。
今まで特例は色々あったが、本当に特例は色々あったが……それでもダ・ヴィンチの旅路の中で召喚されるサーヴァントは彼女の世界で歴史に名を残した偉人たちだった。
一番怪しいのはサーヴァントユニバースと呼ばれる世界からの来訪者たちだが、それでも彼女たちにも「原型」はあった。
メステルエクシルにはそれすらない。現代兵器を生み出すゴーレムなど、過去の歴史の中には刻まれていない。
逆に未来の世界のサーヴァントである可能性もあるが、その場合は汎人類史にて過去に滅んだ竜や巨人が存在している事実と矛盾する。
「と、なると……カルデアとの通信途絶も含めて、今までの前提をひっくり返す一大推論を立てなきゃかもだ」
-
詳細すぎるルール説明という異常。
メステルエクシルという異世界存在という異常。
それに加えて、ノウム・カルデアとの通信が一切繋がらないこと。
いや、シャドウボーダーとリンクしているダ・ヴィンチをして「ノウム・カルデアの存在そのもの」を感じ取れないこと。
1つ1つは点であるが、2つあれば線になる。3つもあれば図形にさえなる。
ならば「少し不思議だね〜」で済ませるわけにもいかぬ。
今までの特異点とは決定的に違う「何か」を突き止めなければ、解決への道は開かない。そう直感する。
「『この世界は複数世界の冥界が重なって成立したモノである』……とりあえず仮の答えとしてはこんなところかな?」
つまるところ、この世界は特異点ですらない。
そもそも特異点とは地球上に発生し、人類史を変えてしまうような分岐点のことだ。
地球上に存在しなければ、いや本来の冥界が存在する地球の下にさえ存在しないとすれば、それは特異点と呼ぶことはできない。
「うーん、あえて区別するとしたら……『領域』とでも名付けようか?」
その『領域』を攻略することがダ・ヴィンチの第一目標となる。
「分かりやすいアプローチとしてはこの『領域』の主を倒す、というのがいつもの手法ではあるけど……。
あとは、重なって絡まってぐちゃぐちゃになってる複数世界の冥界を『ほどく』ことが出来ればカルデアの救援、この世界からの脱出も期待できるかな!」
恐らく、カルデアとの繋がりを感じることが出来ないのは重なった世界によるフィルター、膜のようなものが原因だろうとダ・ヴィンチは推測する。
電波を遮断するように、繋がりという糸が複数の世界という壁に断ち切られている。
ならば、幾重にも上に貼られているそれらの分厚いオブラートを一つ一つ取り除いていけば、最終的にこの冥界は一つの世界の上に顕れるはずだ。
その世界がダ・ヴィンチのよく知る人理世界である保証はどこにもないが……このあたりは楽観的に動くしかない。動かないよりよほどマシである。
「と、言うわけで!」
ここまで必要な考察を行い、行動指針をある程度固めた上で。
ダ・ヴィンチはキラキラした笑顔を己がサーヴァントに向けた。
「君のこと、君のいた世界のこと、もっと教えて!」
自分たち以外の世界がどれだけ存在しているのか?
他世界の冥界とはどういう場所なのか?
そもそもこの推論がどこまで当たっているのか?
他にも、異世界の存在であるメステルエクシルがなんでこちら側の現代兵器を使っているのか?
彼の言う詞術の詳しい仕組み、成り立ちとは?
などなど。
確認、調査すべきことは沢山ある。
いや、そんなお題目はさておいても。
小さなダ・ヴィンチ――『グラン・カヴァッロ』は「未知なる道を進み、険しい試練を乗り越えて、浪漫の果てにお宝を見つけ出すこと」(ぼうけん)が大好きなのである。
そして、新しい仲間と夜通しお喋りするのも、楽しい冒険の一ページだ。
俯いて、嘆いて、泣きながらの戦争なんて、してやるつもりはないんだからね!
「ち、ちっちゃいおねーさん、おはなし、すき?」
「うん!大好きさ!」
「わ、わあ!じゃ、じゃあ、まずは、ぼ、ぼくの、かあさん、のこと!
かあ、さんは、すごいんだ!」
こうして、二人の幼子は歩き始める。
サーヴァントなれど、探求と向上を常に追い求めながら。
二輪の鉄華は、冥界にてなおも凛凛と咲き誇る。
耐用年数が過ぎ、製品寿命が尽き、いつか手折れるその日まで。
さあ。
行けるとこまで、行ってみよう!
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【3】
死は停滞である。
で、あるならば。
死なず、止まらず、諦めず、前に進み続ける彼こそは。
発明し、開発し、発展し、文明の灯を絶やすことなき彼こそは。
生き続け、造り続け、進化をも続ける生者の象徴。
死(停滞)を是とする特異点に対する抑止の御遣い(カウンター)と言える。
それは、絶死の暗剣さえも貫けぬ不死(しなず)の理を持つ。
それは、天を見通す眼さえも避け切れぬ滅びの武器群を持つ。
それは、全能の術者さえも殺し得る無限の選択肢を持つ。
影法師であってなお「生」の極致。絶対法則なる「死」に相対する反証存在である。
生術士(クリエイター)/工術士(アーキテクト)
機魔(ゴーレム)/造人(ホムンクルス)
窮知の箱のメステルエクシル。
-
【CLASS】
キャスター
【真名】
窮知の箱のメステルエクシル@異修羅
【ステータス】
筋力C 耐久B 敏捷C 魔力A+ 幸運D 宝具B
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
道具作成:A+
生術士(クリエイター)にして工術士(アーキテクト)であるメステルエクシルは客人(まろうど)だった時の知識を基にありとあらゆる現代兵器を作成する。
また、後述の宝具発動にあたり自分自身さえも作成することが出来る。
メステルエクシルにとってはメステル(自分)もエクシル(自分)も己を構成する道具の一部でしかない。
陣地作成:C
工房を作成する能力。
彼の親(創造主)に当たる軸のキヤズナやその弟子である円卓のケイテが担当する領分であったためメステルエクシルが好き放題に創る工房は拙い。
十全の工房を作成するためにはマスターであるレオナルド・ダ・ヴィンチのフォローが必要だろう。
【保有スキル】
共有の呪い(双):B
メステルエクシルは機魔(ゴーレム)の中に造人(ホムンクルス)を保有することで二つの命を持っている。
彼らは呪いによって「片方の損傷をもう片方が全て引き受ける」ことにより必ず片方が生き残るように設計されている。
全知の人:A
生まれながらに全ての知識を持つと言われる造人(ホムンクルス)の異能。
メステルエクシルは一度死ぬたびに機能を追加し、ありとあらゆる死因を克服する。
この能力の本質はメステルエクシル自身の持つ類い稀なる学習能力によるものであり、分析できない能力に対しては効果が薄い。
詞術:A+
窮知の箱のメステルエクシルがかつて存在していた世界における言語であり魔法のようなもの。
彼はこの術を用いて現代兵器や己自身を作成する。
高速詠唱(詞):A
窮知の箱のメステルエクシルが用いる詞術は通常のものとは違い、奇怪かつ複雑、そして長大である。
これは彼の生み出す現代兵器が現代の発展した技術でなければ鋳造できぬ複雑な構造をしているため。
特級の機魔(ゴーレム)/造人(ホムンクルス)であるからこそのプログラミングされた機械的な詠唱により、彼は驚異的な早さでそれらを生成することが出来る。
つまり、もっと簡単なものならば更に詠唱速度は早くなる。
そろばんが電卓に勝てないように、通常の術師ではメステルエクシルの詠唱速度に追いつくことはできない。
【宝具】
『不滅の双魂(エクシルよりメステルへ/メステルよりエクシルへ)』
ランク:B 種別:対己宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
窮知の箱のメステルエクシルが持つ不死の原理が宝具化したもの。
双方向の共有の呪いにより必ず生き残った機魔(ゴーレム)/造人(ホムンクルス)のいずれかがもう片方を完璧な状態で即時再生する。
この原理を以て、メステルエクシルを殺し切ることは誰も出来ないという式が完成する。
また、この能力を応用してメステルがエクシルを、エクシルがメステルを作成することを繰り返すことにより閉鎖空間からの脱出も可能。
【人物背景】
詞術世界における修羅の1人。不死&成長チート担当。
大人の身の丈を倍にした機械仕掛けの身体は見る者に威圧感を与えるが、本人はいたって無邪気。小さな子供の心持ち。
ただし、敵対するモノの排除においては酷く冷たく論理的に客観的に行動する。
【サーヴァントとしての願い】
最強証明。でも、とりあえずはマスターであるダ・ヴィンチに従うつもり。
【マスターへの態度】
「ち、ちっちゃなおねーさん! ぼ、ぼくが、ぜったい、まもってあげる!
メステル、エクシルは、さいきょうだから! は、は、はははははは!」
-
【マスター】
レオナルド・ダ・ヴィンチ(グラン・カヴァッロ)@Fate/Grand Order
【マスターとしての願い】
この『領域』の解決。いつもどおり、ね。
【能力・技能】
『人工サーヴァント』
かの大天才レオナルド・ダ・ヴィンチの作り出した己の分身体……にしては少し小さめだが。
その本業はシャドウ・ボーダー用の制御端末であり、彼女自身の戦闘能力はほとんどない。
しかし、メステルエクシルの能力によってかつて使用していた道具などを再現できれば少しは戦力の足しになるだろう。
……聖杯戦争でマスターが前線に出るとかおかしいなんて言ってはいけない。
【人物背景】
故レオナルド・ダ・ヴィンチの代替品。
少女のカラダを元気いっぱいに動かして人理のために働いている。
この身体の稼働限界が来るその日まで。
【方針】
探求心の塊であるため、この聖杯戦争も攻略、脱出と同時に解析する気満々。
同時に『人類最後のマスター』がこの領域に取り込まれていないかも調査する。いた場合は彼/彼女の生還を最優先とする。
また、窮知の箱のメステルエクシルの能力や出自に関しても調査したい。上手くいけばノウム・カルデアに取り込めるかもしれないし。
でも、まずはメステルエクシルと一緒にこの世界での基盤を築く。地固め、大事なことだよ。
やらなきゃいけないこと、やりたいことが山積みだー!
【サーヴァントへの態度】
私がおねーさん、おねーさんかあ……ふふ、少し照れくさいなあ。
-
投下終了します。
タイトルは
希望の鉄華、二輪
でお願いします
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投下します。
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山吹色に満ちた砂漠の上に、七体の巨大ロボ…否、神像たちが集団を成して聳え立っていた。
――両手両足を持たぬ宝石のような胴体に、自らの傲慢と虚飾を誇示するかのように黄金を散りばめた神像が中心に浮かんでいた。
――占星術で強欲の原罪を指し示す土星を想起させる平らな外見の下部に、舐め回す様な眼差しを浮かべる頭部をぶら下げた神像が浮かんでいた。
――怠惰に現世を彷徨う骸骨武者を想起させる、双剣を携えた灰色の神像が立っていた。
――暴食の原罪を象徴する蝿の悪魔を想起させる、腐食と汚辱をそのまま形にしたかのような臙脂色の神像が立っていた。
――右斜め前に立つ同胞に向けて、嫉妬の眼差しの如く光る右手の銃口の照準を合わせる鳥人型の神像が上空に浮かんでいた。
――自らに狙いをつける背後の鳥人の神像に目もくれず、憤怒の如き激流を形にしたかの様に隆々とした両腕をぶら下げている蒼色の神像が立っていた。
――そして背後に聳え立つ純白のウェディングドレス型の神像の大きさは他のそれと比べて五倍であり、まるで世界全てを己の肉欲の糧とでも見做しているかの様に見下していた。
やがてこの七つの神像と対峙する、たった一体の神像が前方に姿を現した。その神像は前方のそれらとは対象的に人間味と神聖さを兼ね備えていた。
同時にその神像は剣であった。破邪の聖銀とも形容できるその肌は無垢なる刃であった。その頭部から光る真紅の眼差しは無垢なる憎悪であった。
七つの神像はまるで魔物の様に悍ましい造形であった。ならばこれと敵対する穢れなき神像は、『魔を断つ剣』とでも形容できるのではなかろうか。
魔を断つ剣を前にして、神像たちは束になって襲いかかる。それは戦いですらなく、単なる一方的な集団暴行でしかなかった。魔を断つ剣はなすすべもなく蹂躙されていく。
しかしその度に魔を断つ剣は立ち上がる。手足をもがれて地面に這いつくばろうとも、その度に肉体の自己修復を完遂した後に姿勢を正してファイティングポーズを取る。
奇妙なのは七体の神像の中で唯一、巨大なウェディングドレス型の神像の攻撃が魔を断つ剣をすり抜け、逆に魔を断つ剣もウェディングドレス型をすり抜けながら戦っていた事だった。
まるでウェディングドレスだけが、この戦いにおいて蚊帳の外であるかのように。魔を断つ剣を打倒することを拒絶するかのように。
やがて激闘の中で遂に、魔を断つ剣はウェディングドレスを除く全ての神像を打ち倒した。六つの神像の姿は悉く抹消しており、何れも渇かず飢えず無に還っていた。
しかし魔を断つ剣も決して無傷でこの激闘を制したわけではない。その全身は満身創痍であり、如何程に彼が苦痛に耐えていたかを如実に示していた。
その間、ウェディングドレスは当事者のふりをしていた傍観者であった。しかしたった今の瞬間を以てして、ウェディングドレスは物語の当事者として舞台に立たされた。
ウェディングドレスの細い腹部の中から、赤黒い鋼鉄の手刀が出現した。まるで卵の殻を破ろうとする雛鳥のように。
鋼鉄の手刀は続いてもう一本、腹部から出現した。そして扉をこじ開けるかのように、母鳥であるはずのウェディングドレスを内側から引き裂いたのだった。
親殺しの原罪を以てウェディングドレスの中から姿を現したのは、紅の神像であった。その紅の肌は如何なる闇よりも禍々しく、紫色の眼差しは虚無と絶望に満ちていた。
紅の神像はまるでコートを脱ぎ捨てるかのように自らの生みの親である母胎を放り捨て、魔を断つ剣と対峙する。
ウェディングドレスの神像は最後の力で、目前に映るものに手を伸ばす。その小さな眼に写っていたのは親不孝者の息子ではなく、魔を断つ剣の方であった。
-
◆ ◆ ◆
本来ならば人型の生物が住むことが叶わないであろう月面にて、八体の巨大ロボ…否、神像たちが集団を成して聳え立っていた。
――純白の翼を背中より生やした、両面宿儺の如く禍々しさと雄々しさを兼ね備えた黒き神像が中心で羽撃いていた。
――八大龍王の加護を想起させる八つの龍の如き触手を光背より蠢かせる、観音の様な外見を有する蒼き神像が立っていた。
――蒼き神像の前方には家族を慈しむアシナヅチの様に、掛け替えのない同胞を庇おうとする岩の如き神像が立っていた。
――嘗て常世の神として数多の人心を惑わせたアゲハチョウの幼虫にどこか似た、多足類の如き下半身を有する神像が立っていた。
――前からは火雷神の如く火を放ち、後ろからは淤加美神の如く雹を放つ火焔型土器の如き神像が立っていた。
――かの対馬銀山が空中浮遊しているかのような深緑色と巨大さを兼ね備えた、巨大な珠の如き神像が上空に浮かんでいた。
――神々の使いの道案内を任された八咫烏を想起させるかの様に、鳥型の神像が最前方で羽撃いていた。
――そして黒き神像の白き翼に包まれているかのように後方には、かのタケミカヅチの如き強壮さを秘めた紺碧の神像が立っていた。
やがてこの八体の神像と対峙する、たった一体の神像が前方に姿を現した。その神像は前方のそれらとは比較にならないほどの神聖さと巨大さを秘めていた。
同時にその神像は剣であった。まるで歩く聖剣とでも形容できる程に大剣の如き意匠が全身に散りばめられていた。まるで高天原より天降った十拳剣が手足を手にしたかの様だった。
ならば、この歩く十拳剣は『剣神』とでも形容できるのではなかろうか。下界で悪さを働いている神々を懲らしめるために天が遣わした剣神であると。
八つの神像は束になって剣神に襲いかかるが、悉く返り討ちにされていく。剣神は日照の如き光線で神像を焼き払い、全身の刃で神像を斬り裂く。
それは戦いですらなかった。神罰を執行するための作業であり、神剣を以て邪神を祓うための儀式であった。神聖なる刃は神々の鋼の肌を布の如く引き裂き、動かぬ鉄屑へと変えていく。
奇妙なのは八つの神像の中で唯一、紺碧の神像の攻撃が剣神をすり抜け、逆に剣神もまた紺碧の神像をすり抜けつつ戦っていた事だった。
まるで紺碧だけが、この儀式において蚊帳の外であるかのように。自らが生贄に捧げられるのを拒絶するのではなく、神々がその存在を認知していないかのように。
唯一の例外は黒き神像であった。黒と紺碧を残した全ての神像が斃れた後も黒き神像は剣神に立ち向かう。しかしその翼も、武器である刀剣もナマクラ同然であるかのようにへし折られる。
翼をもがれて地面に這いつくばりながらも黒が必死に手を伸ばした先にあったのは、紺碧の神像であった。まるで何かを追い求める様に、黒は紺碧に向かって必死に鋼鉄の手を伸ばす。
やがて黒の神像は暗雲の如き漆黒の闇へと変じ、紺碧の神像の全身にへばり付き、拘束する。それに続いて他の神像の残骸が次々に六色の光の玉に変じていく。
紺碧の神像は自らを縛り付ける漆黒の闇によってもがき苦しみながらも上空に浮上させられる。それを囲むような軌道に乗って六つの光の玉が紺碧を包み、覆っていく。
七色の光に包まれる中で紺碧は剣神を上空から見下ろす。しかし敵であるにも関わらず、その眼差しからは決して憎悪など一縷も感じさせられなかった。
七色の光が止んだ後に出現したのは、紺碧の神像ではなかった。剣神を遥かに上回る大きさを有した闇黒の邪神であった。
宿敵たる邪神と向き合った剣神は左目から光の涙を流し、左手の大剣で自らの腹部を斬り裂く。腹部から余剰エネルギーが吐き出されるとともに、右目からも涙が流れ出す。
やがて右目の光の耀きは消失し、それに伴って右目からは涙も消え果てた。そして剣神は左目から涙を流したまま割いた傷の自己修復を完遂した後、金色に光り輝くのだった。
-
◆ ◆ ◆
重く昏い路地裏の闇の中で、全身を黒い仮面とレザースーツに包んだ、まるで戦士の様な出で立ちの少女が建物に腰掛けていた。
既に深い重傷を負っていた少女の魂の灯火は既に消えつつあった。生命の温もりは血となって流出していく。
しかし少女にとってこの死は救いであった。少女は、死を幾千も越える程にまで経験してきた。それも、この様な最期が安らかに思える程の死を。
幾度も純潔を喪失した。幾度も貪られた。そして用済みとでも見なされるように、残酷な死を迎えた。
だが今回の死は極めて例外であった。今迄自らの死に場所であった愛機が破壊されたことで、少女は自由の身となった。
何れ、幾度も少女を殺めてきたあの獣は配下からの造反によって死に絶える。そして螺旋は破壊される。
そして自分はこの永劫の牢獄から解放され、本当の意味での死を迎える…しかし、それなのにも関わらず少女は恐怖に苛まれていた。
「死にたくない…死にたくない!!」
家族と言える家族も持たず、真っ当な人間として生きることもなく死んでいくことへの悔恨と、死への恐怖が突如少女を包んでいく。
今迄自覚すらしていなかった生への執着が、少女の精神を支配していく。自分が生き物であることが恨めしく思えていく。
寒い。苦しい。痛い。寂しい。何より、自分が何も残せぬまま逝ってしまうことが虚しい。
やがて、自分が最も望んでいなかった見送り人がやってくる。あの金髪の少年が。耀く虚無をその金色の瞳に宿した忌まわしい少年が。
少年は見下ろす。自らの恩人である少女を。何もない瞳で。その瞳に映る煌めく絶望は、少女を支配する恐怖を全て取り払い、代わりに虚無を押し込んだ。
だがその直後に少年が口にした言葉が、少女の虚無を消し去り、消えかけた魂の蛍火を閃光へと変える。
「願いは叶ったかな?■■」
魂を燃やす憎悪の閃光に支配された少女は少年に襲いかかり、返り討ちにされた。心身を支配する寒さはより一層強まった。
やがて、少年の次に望ましからぬ送り人がもう一人やってきた。豊満な肢体を紺碧のスーツに包み、眼鏡の奥から赤い眼を光らせる女性の送り人が。
その直後、少女は絶望に苛まれる。しかしその絶望の引き金は死への恐怖でも、況してや怨恨でもない。スーツ女が冥土の土産に押し売った一言だった。
「今回みたいなケースは初めてじゃない」
これ以上の絶望があるのだろうか。仮にこの事実が正しいとするのならば、何らかの形で獣は再誕を果たす。そして無限螺旋は続いていく。
例えば、失敗作であったあの先輩を代替品にするなど。仮にそれを阻止したとしても、また何かしらの手段で無限螺旋は再開されるだろう。
即ち、自分は幾らでも替えがきくと言うのだ。自分という心臓が無限螺旋から摘出されたとしても、それを補うためのドナーは星の数ほどいるというのだから。
-
◆ ◆ ◆
新たに冥界でサーヴァントが召喚された場所は、お台場の浜辺であった。3月の深夜という、8月の真昼の対義語とも言える時期の海辺には人気などほぼ皆無と言って良い。
そんなうってつけの場所に召喚されたのは、白い斎服を身に纏った十代半ばの少年だった。黒髪のアジア系で、その顔立ちは人目を引くには十分なほどに端正であった。
(東京、か)
少年のサーヴァントは、生涯の過半を田舎で過ごしてきた。都市部の記憶は殆どないと言って良い。だからこそ、東京のビル街の明かりは中々に新鮮であった。
そして砂浜と言えば、あの最愛の少女と一緒に過ごした思い出の場所でもある。だがそんな思い出に浸る余裕を、サーヴァントは持ち合わせていなかった。
特に、少年に充てがわれたクラスがバーサーカーともなれば尚更である。少年の眼は充血し、狂化スキルによって自らの理性を剥奪される。
理性を失った少年…バーサーカーの全身は、黒紫色の呪詛にみるみる内に包まれていく。生前において自らを蝕んだ、あのタタリの象徴である鱗の如き呪詛が。
やがてバーサーカーの肉体を完全に呪詛が覆い尽くした時、後方から巨大な石像が出現する。その石像の真名は武夜御鳴神(タケノヤミカヅチ)。彼の宝具にして神霊である。
バーサーカーの肉体は空中に浮かび、やがて武夜御鳴神の胸部の水晶に吸収されていく。自らの主を取り込んだ武夜御鳴神はその肌を岩石から紺碧の鋼へと変えていく。
「■■■■■!!」
雄叫びを上げる武夜御鳴神…バーサーカーを遠方から見上げる幼い少女がいた。その少女の格好は黒い仮面にレザースーツという、なんとも奇妙な出で立ちであった。
その右手の甲にはマスターの証である刻印…令呪が浮かんでいた。令呪の模様はヒュドラを想起させる多頭竜である。
バーサーカーを召喚した少女の名はネロ。魔術結社ブラックロッジの幹部アンチクロスの中でも最凶の名を欲しいがままにする暴君。
本来ならば死と生を永劫に繰り返していく宿命にありながら、死と生の間に冥界に偶然訪れた迷い人。
-
◆ ◆ ◆
とある高級ホテルのエコノミークラスの客室。そこがネロの一先ずの拠点であった。だがそこに黒い仮面とレザースーツの少女はいなかった。
代わりにいたのはフリルのワンピースを身に纏い、淡紅色の猫耳の様な髪型をした美少女であった。これが仮面を外したネロの素顔であった。
「♪〜」
鼻歌を歌いながら、ネロは客室に備え付けてあったキッチンで昼食を一人盛り付ける。献立は椎茸と鰹出汁を含んだクラムチャウダーである。
ネロの生まれ育った街…アーカム・シティはマサチューセッツ州に属しており、州の伝統料理であるクラムチャウダーも一般的であった。
アーカム・シティはある日系アメリカ人の大実業家が小さな田舎町から発展させた街で、その影響からか和食も極めてポピュラーであった。
そのバリエーションは西海岸のジャパンタウンにも劣らない。当時北海道で発明されたばかりのジンギスカン料理を出しているニグラス亭などが有名どころだろう。
そんな環境で生まれ育ったからか、ネロにも日本の食文化に関する知識はある程度備わっていた。少なくとも食材や出汁の扱い方を熟知している程度には。
盛り付けて早速ネロは、スプーンで椎茸とスープを掬って口に含んだ。食前の祈りもいただきますの挨拶も、罪人の彼女には大変無縁の慣習であった。
椎茸を咀嚼し、「うん」と満足気に笑顔を浮かべる。もっともその笑顔が本物なのかどうか、知る由もないが。
「もしかしてバーサーカーも、これ食べたかったりする?」
ネロはもう一つ掬った椎茸ののったスプーンを小さく掲げつつ、霊体化しているバーサーカーに呼びかける。まるでからかうような口調で。
バーサーカーの本体はれっきとした人間だが、その肉体は鱗のような呪詛に包まれ、宝具である神像の中枢部にある球状のコックピットの中に固定されている。
その神像の大きさは鬼械神(デウス・マキナ)ほどではないものの約20mほど。当然部屋の中での食事は無理だろう。
<<別に構わないよ。出されたら食べるしかないけど、今はサーヴァントの身だから食事には困らないし>>
「なーんだ、つまんないの。」
口調に抑揚がなく真面目さしか窺えない。もう少し残念がるような返事を期待していたのだが。つくづく朴念仁すぎて面白みがない男だ。
ひとりきりでネロは匙を進める。やはり食事は手作りに限る。レストランやルームサービスはどうにも窮屈すぎる。
そもそも高級ホテルを根城に選んだのも、家具が予め揃っていることや警備が敷かれているのが理由でしかない。
にしても食事を美味くするには何か一味ほしいとばかりに、霊体化したままのバーサーカーに話を持ちかける。
「バーサーカーからみたらどう?クラムチャウダーに椎茸ってさ。」
<<椎茸、か……>>
「へー、やっぱり椎茸好き?それとも嫌いだったりする?」
<<いや、俺の幼馴染が椎茸苦手だったのを思い出してさ。小学校の頃、給食で椎茸が出てくると凄く嫌な顔してて、俺が代わりに食べてていたなあって>>
「……そういうノロケ話、独り身の女の子に向けて話したら嫌味って思われるかもよ?」
突如、ネロの笑みの色が変わり、彼女の内から邪気が溢れ出す。その邪気は、嘗てバーサーカーが戦ったヤマタノオロチにも匹敵しうるほどであった。
<<……済まない。君を傷つけるつもりはなかったんだ>>
「ふーんだ!!」
バーサーカーの謝罪の念話を受け取ると、さっきまであった邪気は瞬時に消滅し代わりにネロはふくれっ面で匙を口に運ぶスピードを早める。
やがて食事と後片付けを終えたネロは、次の日の献立を考えるべく冷蔵庫の中を覗き込み仰天する。
「うっわー、流石に買い出しに出かけなきゃ……。」
冷蔵庫を閉めてメモ帳を取り出し、ペンを回しながら何を買えば良いか考える。
-
「ねえバーサーカー、次の昼ご飯はやっぱり……。」
<<葬者、もしかしてまたあのお金で買うのか?>>
バーサーカーの言う「あのお金」とは即ち悪銭。そもそも、何のロールも持たずに砂浜に打ち捨てられ、円どころかドルすらも持たぬネロがこんな豪勢な生活が出来るはずがない。
幸いにもネロは裸一貫というわけではなく、寧ろ魔人としての異能という千金にも勝るほどの資本があった。だがその資本を生活費に変える為の手段は、決して真っ当なものではなかった。
ましてやネロは逆十字(アンチクロス)の名を冠する罪人。溜め込んだ大金が流血と窃盗の果てに手にしたものであることは容易に想像できる。
「へー、この期に及んでドロボーカッコ悪いって言えるんだ―。」
再びネロの顔に、あの恐怖と邪気を撒き散らす昏い笑みが浮かぶ。
「……葬者に向かってさあ!」
<<ぐあああああああああああ!!>>
ネロが令呪を頭上に掲げた途端、バーサーカーが苦しみだす。バーサーカーがこれまで会話が出来ていたのは、ネロが意図的に狂化スキルのランクをE-にまで下げていたお陰であった。
その狂化スキルのランクを、ほんの一段階だけ上げた。今のバーサーカーは、自らの狂戦士たる所以である邪神の因子によって苦しみ悶えているはずであろう。
「そこまで優等生ぶることに拘るのなら、なんでネロと一緒に戦うことを誓ったのかなあ?
ネロの下に降り立ったサーヴァント。クラスはバーサーカー。その真名は七ノ首・ソウマ。
全てを滅ぼさずにはいられない邪神ヤマタノオロチの八つの首たる神官…オロチ衆の一員となる運命を持った少年である。
だが、バーサーカーはその宿命に抗った。必死にオロチの因子を抑え込んでオロチとの戦いに挑んだ
「ネロは背徳に生きるアンチクロス、君は不浄を司るオロチの神官。意外とお似合いだと思ったんだけどなあ。」
<<ぐっ……>>
死の直前まで自分自身を蝕み、バーサーカーとして召喚されたが為に活性化させられていたオロチの本能が再び覚醒しかけてきた。
欲求不満や飢餓状態によく似た、抗い難い破壊衝動。葬者はこれでも加減しているのだろうが、それでも暴走が一歩手前まで見えて来ている。
そしてネロは全てを知っている。バーサーカーの能力も、素性も、その過去さえも。
「姫子ちゃんを自分のものにしたいとか、お兄ちゃんともう一度やり直したいとか、てっきりそんな願いがあるのかなって想像しちゃったよ。」
<<俺に、叶えたい願いなんかない……>>
既にバーサーカーは、自分自身の結末に納得してその生涯を終えた。あの最期に最早、後悔と言える後悔など有りはしない。
<<でも、これだけはハッキリ言えるよ…っ、俺は君のために戦う…それはオロチ…だからじゃない…俺自身の…っ、選択なんだ>>
「……ふーん。」
それまで蔓延していた邪気は消え、バーサーカーの狂化ランクは再び最低にまで抑制された。あのオロチの破壊衝動は再び霧散した。
息切れ声が念話を通じてネロの脳内に響き渡る。
-
「なら、ネロの退屈しのぎに付き合ってくれる?」
<<退屈しのぎ…なのか?>>
「そうだよ?ネロは君がいなくても十分強いし。何より聖杯を手に入れたって、ネロの願いは決して叶いはしない。
だから退屈しのぎ。これまで味わったこともない殺戮を味わって、ネロは元通りの日々に戻る。万が一負けたとしても、ね。」
その言葉に、バーサーカーは何も言い返せなかった。あの諦観に満ちた眼差しに、どうしても既視感を感じ得なかったからだ。
そしてその眼差しこそが、バーサーカーが彼女とともに戦うことを決意した理由である。
情報収集を葬者の力で十分賄えたのもあってバーサーカーは一時期眠りに落ち、そこで葬者の過去を垣間見たことがある。
それは幾度も続く人生のループであった。真っ白な部屋で生まれ、真っ暗な牢獄で囚われ、真っ赤な閨で犯され、そして死ぬ。
死に至った次の瞬間に、再び彼女は生まれる。そして囚われ、犯され、死ぬ。生まれ、囚われ、犯され、死ぬ。生まれ、囚われ、犯され、死ぬ。
延々と、延々とこれを繰り返し続けてきたのが彼女である。家族は持たず、寄越された婚約者は怪物で、生んだ赤子は親不孝者。
果たして、これほどにまで悲惨な運命を背負った少女がいるのだろうか。
だが、終わりなき死と生の輪廻に囚われ続けた少女が他に二人いることを、バーサーカーは知っている。
それは伝承であった。天火明村(あまのほあかりむら)という村に伝わる、生と死の輪廻を繰り返す二人の巫女の悲しい物語であった。
遥か古、人々の負の情念の化身として出現した邪神ヤマタノオロチがこの世界を滅びに導き、数多の国々と神々を塵芥へと変えた。
神々によって遣わされた剣神アメノムラクモは、人間の中の清らかなる二人の剣の巫女…陽の巫女と月の巫女の力を借りてヤマタノオロチを討滅した。
そして剣の巫女は片方の巫女の魂とオロチを月の社に封じ、生き残ったもう片方は八つの世界の内の一つを再生する儀式を執り行った末に転生した。
その気になれば、オロチのいない世界を選択することは出来たはずだった。だがそれと引き換えに片方の巫女は永遠に月の社で一人きりになってしまう。
剣の巫女はその運命を否定した。何故なら陽の巫女と月の巫女は互いを深く愛し合っており、離れ離れになる選択肢をどうしても取ることは出来なかったのだ。
そして二人は誰も知らない月の社で二人きりになる選択肢を選ぶが、その魂の結びつきの強さ故に月の社の封印は何れ解かれ、陽の巫女と月の巫女は現世にて転生を果たす。
二人はどうあがいても出会いを果たし、どうあがいても惹かれ合う。そしてその運命を否定するがごとくオロチの封印もまた解かれ、世界は再び闇黒に包まれる。
剣の巫女は前世と同様に剣神アメノムラクモを降誕させて、最愛の女性の生命と引き換えにオロチを封じ、再び二人きりで月の社に籠もり、また転生と封印を繰り返す。
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(姫宮がここに呼ばれたのなら、きっと葬者と同じ様なことを言っていたんだろうな)
あの月の巫女の、諦観と憎悪に満ちた昏い眼差しを思い出す。月の巫女は実質的に16年の時しか生きていないが、あの眼差しは葬者のそれによく似ていた。
「聖杯を使ったって願いは叶いやしない」と葬者は言ったが、それはバーサーカーも同じだ。本音を言うのならば、剣の巫女が幸せに添い遂げられる未来を願いたい。
だが、聖杯の力だけではヤマタノオロチには到底及ばないだろう。例え黄泉比良坂の力の結晶であろうとも、八百万の神が授けた剣神アメノムラクモを凌駕する力があるとは思えない。
きっと葬者が終わりなき輪廻に囚われているのも、オロチに匹敵しうる強大な神々の存在が関わっているのだろう。だとすれば、葬者の願いもまた叶わない。
(……それでも)
あの見覚えのある昏い眼差しを、どうしても放っておくことは出来なかった。きっと、あの眼差しに惹かれるが如くバーサーカーは召喚されたのだろう。
それはきっと、誰よりもあの陽の巫女を愛し、誰よりも陽の巫女を想って自らの魂を捧げた彼女の…月の巫女の真意に気付けなかった事への負い目なのかもしれない。
無論、これは自己満足でしかない。何より、愛する彼女…陽の巫女がいない以上、戦う覚悟が出来ているわけでもない。
(それでも、俺は葬者の召喚に応じたのだから)
例え願いが叶わくとも、英霊の座の自分自身が取った選択に嘘はつけない。
一度決めたら何も見えなくなるほどに一直線。それがバーサーカーの…いや、大神ソウマという大馬鹿な男なのだから。
-
【CLASS】
バーサーカー
【真名】
七ノ首・ソウマ@神無月の巫女
【ステータス】
筋力A++ 耐久B++ 敏捷C 魔力A 幸運D 宝具A(武夜御鳴神の戦闘力をパラメータとして換算した場合)
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
・狂化:E(本来はA)
理性と引き換えに自身のパラメータを底上げする能力。
バーサーカーの場合は理性を無くすことで生前にはあったブレーキを奪い、その並外れたオロチの本能を最大限にまで引き出す。
普段は魔力消費を抑えるためにマスターが狂化スキルのランクを意図的に下げているが、マスターが枷を外せば瞬く間にバーサーカーは理性を喪失する。
その時のバーサーカーは最早ただのオロチでしかない。その有り様は、アメノムラクモによって陽の巫女と惹かれ合うよう仕向けられなかったifの姿とも言える。
【保有スキル】
・オロチの血:A++
オロチの眷属として選ばれた者。並外れた身体能力を発揮し、己の分身として与えられたオロチ神を操ることが出来る。
1ランク下の「魔力放出」とEランクの「神性」に加え、1ランク下までの精神干渉系の魔術・能力に対する高い耐性を有している。
この高い精神的耐性の原理はある世界線ではオロチ因子の精神汚染に起因するが、別の世界線ではオロチを調伏せし強靭な意志によるものだとされている。
バーサーカーはどの世界線でもオロチの影響を他のオロチ衆よりも強く受けており、生前から理性を喪失しオロチの本能のままに暴走するリスクを秘めている。
狂化スキルの抑制を解除した場合にはブレーキが効かなくなり、生前以上にランクが向上する。そのランクは最強のオロチたる一ノ首をも凌駕する。
・オロチの神口:EX
バーサーカーは他のオロチ衆とは異なり自らの宿命について知らされずに育ち、オロチとして覚醒した時にはヤマタノオロチの操り人形へと成り果てた。
すなわち、仮に七ノ首がアメノムラクモの介入によって陽の巫女を愛することがなかった場合、彼はオロチの荒御魂をその身に宿した一種のシャーマンの様な存在になり得たと言える。
陽の巫女を守ろうとする七ノ首の愛がクラススキルで無効化されるバーサーカークラスでの召喚のみ付与される特殊なスキル。
本来であれば、このスキルはバーサーカーに邪神ヤマタノオロチの意志に従って活動する様に仕向ける効果があるはずだった。
しかし邪神ヤマタノオロチに巣食う悪性腫瘍であるバーサーカー自身の在り方と拮抗した結果、単に彼のオロチ化を加速させるスキルへと変質した。
召喚された瞬間にバーサーカーの全身をオロチの祟りの象徴である黒紫色の鱗で包み込み、その状態で武夜御鳴神を召喚し搭乗させる。
このスキルによりバーサーカーは召喚された時点で武夜御鳴神と完全に融合し、生前以上にその性能を発揮する。
・内なる天羽々斬:EX
剣神アメノムラクモがヤマタノオロチの内に埋め込んだ悪性腫瘍。バーサーカーは如何なる世界線においても陽の巫女に惹かれ、彼女を守るためにオロチに反旗を翻す運命にある。
本来であればオロチの力が最も強いバーサーカーは、剣の巫女の16歳の誕生日に覚醒して巫女を殺める筋書きになっていたが、剣神が先んじて運命に介入したことでこれは阻止された。
陽の巫女への愛によりバーサーカーはオロチの使命に離反した。その存在により月の巫女はオロチ調伏の儀式を達成するためにオロチに寝返り、武夜御鳴神を強奪する。
バーサーカーは月の巫女の代わりに剣神アメノムラクモに陽の巫女と共に搭乗し、陽の巫女を月の巫女の下へ引き合わせるとともに自らの命と引換えにオロチ討伐を代行する。
こうして如何なる世界線においても七ノ首の存在は陽の巫女が月の巫女を殺め、オロチ封印の儀式の完遂を成功させる様にアメノムラクモに仕向けられる様になる。
陽の巫女の剣としてオロチと戦うバーサーカーの存在は、宛らオロチの命脈を断ち切る天羽々斬にも形容できる。この逸話により神性スキルを持つ敵に対して特攻が掛かる。
そして、彼は例え聖杯の力を用いようともヤマタノオロチとアメノムラクモの繰り広げる終わりなき戦いの輪廻を終焉に導くことはできない。
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【宝具】
「武夜御鳴神(タケノヤミカヅチ)」
ランク:A 種別:対城宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:1000人
バーサーカーその物とも言える神像。見た目はどう見てもメカニックな巨大ロボだが、その正体は邪神ヤマタノオロチが分身の一体。ヤマタノオロチの前胴体部分を担う。
固有の武器を持たず、変形機構を利用した格闘戦を主体とした戦闘スタイルが特徴。両腕を変形させてビームを発射する他、刀剣等の武器を自在に発生させて戦う事も出来る。
バーサーカーの本体は胸部にある武夜御鳴神のコックピットに固定されており、操縦桿を握らずともバーサーカーの意思に従って稼働する。
月の巫女がこの機体を操って一ノ首以外のオロチ衆を殲滅した逸話と、ある世界線でバーサーカー自身がこの機体でヤマタノオロチの本体を討伐した逸話から神殺しの特性を持つ。
バーサーカークラスで召喚された場合は常時発動型の宝具となっている上に燃費が通常より増えているため、一般人レベルのマスターであれば短時間程度しか実体化させられない。
日輪光烈大撃破と日輪烈光飛天鳳凰脚を除く兵装はアニメ版5話に全て登場するのでそれ一本と漫画版だけでも把握可能。
【武夜御鳴神の兵装】
『刀剣』
バーサーカーの意思により出現させて振るう。ただしバーサーカーは格闘戦を好むのであまり使うことはない。
『飛光斬盤』
武夜御鳴神の肩部分から射出する円盤状のエネルギー波。主に牽制用の遠距離武器として使用する。
『射魔破弾』
武夜御鳴神の両手を引っ込めた両腕部から発射するビーム砲。
『日輪光烈大撃破』
七ノ首を象徴する必殺技。両拳を合わせた姿勢で両肘から展開した光柱より巨大な光弾を生成し、それを敵めがけて投げつける。
この技の発動は実質的に武夜御鳴神の真名解放であるため、マスターに対して膨大な魔力を要求する。
ある世界線ではヤマタノオロチの本体を消滅せしめていることから、正真正銘の神殺しの光とも言える。
『日輪烈光飛天鳳凰脚』
日輪光烈大撃破の応用技。光弾を両手で投げつけるのではなく、サッカーボールの如く蹴飛ばす技。
アニメ版3話で、両腕にダメージを負っていた際に使用した。
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【人物背景】
人の負の情念が形となって生まれ、この世に災いを齎す邪神ヤマタノオロチの眷属であるオロチ衆の一人…になるはずであった少年。
オロチ衆はオロチの神官としてヤマタノオロチの分身を駆り、オロチを滅ぼす剣神アメノムラクモを駆る二人の剣の巫女である陽の巫女と月の巫女と戦う宿命にある。
七ノ首・ソウマは幼き日に陽の巫女に恋をし、自らの宿命を知らぬまま育ち、やがてオロチに覚醒し、その並外れたオロチの力により理性を侵食され陽の巫女を殺めようとする。
――しかし、七ノ首は陽の巫女の力とソウマ自身の陽の巫女への愛によってオロチの本能を抑え込み、陽の巫女を守るためにオロチに反旗を翻すことを決意するのだった。
陽の巫女の為に戦う彼の存在により月の巫女は嫉妬の感情を刺激されて前世の記憶を取り戻し、陽の巫女を殺めることとなる自らの運命を呪う。
彼の分身である武夜御鳴神は自らオロチとなって陽の巫女に殺される事を願う月の巫女の下に跪く。月の巫女は武夜御鳴神の力でオロチ衆の過半を滅ぼして邪神ヤマタノオロチを復活させる。
同時期に陽の巫女も土壇場で剣神アメノムラクモを復活させることに成功し、七ノ首は月の巫女の代理として剣神アメノムラクモに陽の巫女と共に搭乗する。
七ノ首は戦い慣れしていない陽の巫女に代わってアメノムラクモを駆り、陽の巫女を月の巫女のいる所へ送り届けた後、ヤマタノオロチの討伐に成功する。
そして七ノ首の献身によって陽の巫女は月の巫女を殺めてオロチ封印の儀式を完遂し、オロチのいない世界を創生した後に剣の巫女は来世で再会するのであった。
世界線によって差異はあれども、七ノ首・ソウマの立ち回りは一貫して上述の通りとなる。彼の行動は常に邪神ヤマタノオロチの討滅とオロチ封印の儀の完遂に繋がっていく。
彼の選択は常に剣神アメノムラクモにとって都合の良い結末へと世界を導き、剣の巫女はどうあってもオロチを月の社に封じるために最愛の人を殺める運命からは逃れられなくなる。
即ち、七ノ首の運命もまた剣神アメノムラクモの掌の上であったとも言える。彼自身はそれを自覚していないが、如何なる世界線においても剣の巫女の選択を祝福する道を選んでいる。
バーサーカーのクラスで召喚されているため、全身がオロチの呪いである紫色の鱗に包まれて硬直した状態で武夜御鳴神のコックピットに搭乗している。
服装はかつて剣神アメノムラクモに搭乗した際に身に纏った斎服。なお、この七ノ首・ソウマがどの世界線から召喚されたのかは定かではない。
【サーヴァントとしての願い】
剣の巫女の選択を尊重しているため、彼自身が願う未来はない。
【マスターへの態度】
罪のない人々に危害を加えることには同意できないが、基本的にはマスターに従う。
嘗て自分と対立し、その実共通の目的を有していた月の巫女に似ているのでどうにも放って置けない。
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【マスター】
ネロ@機神咆吼デモンベイン
【マスターとしての願い】
本来ならば無限螺旋からの脱却を望みたいが、恐らく聖杯の中身は邪神と比べれば雀の涙程度のものでしかないと踏んでいる。
そしてそれが事実だとするのなら、せめて一度だけ、たった一度だけ普通の人間としての人生を歩んでみたい。
それもダメならせめてマスターテリオンに一発ぶちかましてやりたい。
【Weapon】
『無銘祭祀書』
ネロを選んだ魔導書。1839年にフォン・ユンツトによって書き記された初版。本物そっくりに活動するダミーの作成や、自分自身の姿の偽装などの術を内包している。
しかし最も恐ろしいのは、術者に触れた部分を世界から消滅させる術である。例えば右手で触れれば、その右手の部分だけが世界から消滅する。
ただしこの最凶の術の行使にはある程度の溜めが必要となることから、そう容易く多用することは出来ない。
神の模造品たる鬼械神(デウス・マキナ)の記述も含まれており、本来ならば最強の魔術師たるネロに相応しい最強最大の『ネームレス・ワン』が招喚できるはずだった。
しかしネームレス・ワンはネロが聖杯戦争に招かれた時点ではデモンベインに破壊され失われている。
【能力・技能】
・魔人
人外の力を振るいし者。人的に生み出された最強の魔術師。神代の魔術師に匹敵しうる身体能力と魔術回路を有する。
銃弾を弾き返す防御結界や他者の口腔を介した会話などはお手の物で、一度見た魔術を容易く解呪(ディスペル)する順応性も持ち合わせている。
その実力は最強最悪の魔術師マスターテリオンに比類しうるほどだと言われ、作中ではアンチクロス筆頭のアウグストゥスを赤子のようにあしらっていた。
バーサーカーが活動している状態では単独での戦闘力が減少してしまうが、無銘祭祀書の術式兵装を武夜御鳴神に貸し与えるなどの芸当は可能。
・家事
炊事洗濯掃除、なんでもそつなくこなす。
【人物背景】
米国最大の都市アーカム・シティに巣食う魔術結社『ブラックロッジ』の七人の幹部アンチクロス最強最悪の魔術師。与えられた皇帝の名前は『ネロ』。
最強最大の鬼械神『ネームレス・ワン』を駆り、ブラックロッジの大首領マスターテリオンに唯一匹敵しうる程の実力を誇る。
幼女のような容姿とは裏腹にその本性は凶暴極まりなく、ブラックロッジの中でも『暴君』と呼ばれ畏怖されていた。
それ故、裏切り者のアンチクロスとして長きに渡ってブラックロッジの本拠地無幻心母の奥で拘束されていた。
その正体はブラックロッジの最終目標である大儀式『C計画』の生贄に必要な『Cの巫女』を生み出すムーンチャイルド計画の最高傑作ナンバー09。
暴君ネロはC計画の生贄として理性と魔力を貪り尽くされた後に息絶える。そしてネロの断末魔と同時期に産声が上げられて間もなく、世界は無限螺旋の起点へと回帰していく。
そして彼女は振り出しに戻った後の世界で誕生し、儀式の生贄として殺められ、また誕生し…という終わりなき死と生の輪廻を繰り返していく宿命にある。
今回は幾度となく続く無限螺旋の内、ブラックロッジに仇なす覇道財閥が擁するデモンベインとの戦いでネームレス・ワンを破壊され自らも絶命した直後からの参戦。
結末としてはライカルートにだいぶ近い。なお、例え自分の死の形を変えようとも無限螺旋が終わらないのは今際の際になって漸く知らされた。
少女の様に無邪気に振る舞っているが、その実残忍且つ冷酷。他者を殺戮することに何の呵責もなく、常人のSAN値を大幅に剥奪する程の邪悪さを内に秘めている。
同時に愛することも愛されることもないまま、Cの巫女としてその生命を無限に弄ばれるだけの自らの在り方に対する虚無感と孤独感、そして果てしない絶望に苛まれている。
【方針】
ブラックロッジも金髪男も眼鏡女もいない世界でストレス発散の代わりに好き勝手暴れる。
鬼械神を喪失したとは言え単騎でもサーヴァントに匹敵しうる程の戦闘力を発揮できるので基本的には自分が前線に出てサーヴァントと戦う。
普段は魔力消費を抑えるためにバーサーカーの狂化スキルを下げているが、いざという時には狂化スキルを上げた状態で全力で暴れさせる。
【サーヴァントへの態度】
鬼械神に匹敵する戦闘力を有し、それでいて神の模造品ではなく正真正銘の神という点では評価している。
ただし燃費を抑えるために狂化スキルを下げると自分に対して知ったような態度で憐れんでくるので、そこが心底苛つくのが玉に瑕。
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投下を終了します。
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投下します
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あわれみをください
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龍賀沙代という人物の評判を一言で表すなら、『大和撫子』という言葉を誰もが挙げるだろう。
戦前から続く大地主であり、画期的な医薬品の開発で戦後で疲弊した日本を支え高度経済成長期を迎えさせた、戦後の立役者とまで言われる名家。
一時は国政をも左右する立場にも置かれた特権階級の子女でありながら、その気質は穏やかなるもの。
自らは目立たず慎み深く、他者への理解は欠かさず常に細やかに気遣う。
偏見や立場を理由にした差別をよしとしない、別け隔てなく優しく接する心の持ち主だ。
それでいて尊き血筋としての佇まいを崩さぬ楚々とした所作は、天上から降りた花の如し。
普段から和服を好み、現代の風流に迎合せず古式ゆかしい作法を通す様が、いっそう独特の典雅さを引き立たせる。
夫の影踏まず、三歩後ろをついていくの体現であるような貞淑さ。
旧態然とした差別意識の表れと取られかねない姿勢も、当人に卑屈さがなければこうも印象が違って見える。
その上器量よしときて、それに驕らず日々研鑽を欠かしているのだから、貴人の鏡と言う他ない。
社会勉強の一環で地元から離れ、経済の中心地である東京での一人暮らし、家の庇護から遠ざけられた世間の荒波にも、沙代の顔に影が差す事はなかった。
勉学に励み、友人と朗らかに談笑し、身の回りの家事雑事にも精力的に取り組んでいき、それらを全てそつなくこなしていく。
まさに将来を嘱望された若き才女であり、淑女かくあるべしと手本にされる、理想的な女性であった。
「本当に沙代さんは素晴らしい方ね」
「凄く優しくて」
「あんな大きな家なのに全く偉ぶったりしないもの」
「こんな私達にも良くしてくれるの」
「よほど家の教育が行き届いているのね」
「……やめてください」
「それに凄く綺麗」
「化粧なんて殆どしてないんですって」
「天然で髪や肌って、あんな美しくなるんだ」
「きっと小さい頃から家でやってる特別な美容法があるのよ」
「私、そんなに綺麗じゃないんですよ」
「ああ、沙代さんと結婚できる人が羨ましい」
「どんな人なのかしら」
「そりゃあ龍賀だもの、釣り合うぐらいの格のあるぐらいでないと」
「有能な人を婿養子に迎える為に、って線もあるかも」
「いっそ好きな男と駆け落ちとか?」
「やだ意外と情熱的?」
「私……悪い女なんです。許されない事をされてきて、許されない事をしてきました。身も心も穢れてるんです」
「やっぱり沙代さんは素敵ね」
「沙代さんは綺麗ね」
「沙代さんは清らかだ」
「沙代さんは乙女だ」
「沙代さん、好きだ」
「沙代さんは」
「沙代さんは」
「沙代さん」
「沙代さん」
「沙代さん」
「沙代さん」
「沙代さん」
「沙代さん」
「沙代」
「だから……やめて下さい」
「まあ」
「けっきょく、全部夢(ウソ)なんだけどね!」
「私を……………………これ以上、見ないで」
◆
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日も沈みきった時分を見計らって、沙代は外に出た。
音もなく部屋から抜け、住まいである寮の門を越える。
寮には防犯用のカメラが置かれ、警備員も巡回している。電子キーで施錠された門を開けるには管理人からの許可が必要で、敷地内の塀には飛び越えられるような高さではなく、よじ登るだけの窪みもない。
にも関わらず、沙代は外へ脱出していた。誰にも気づかれず、何の苦労もなく。
自由に空を飛び回れる翼でもない限り不可能な行動は、沙代の背にも同様の機能がある事を意味する。
ただしそれは翼ではない。壁を越えて跳躍する脚でもない。
何しろそれに翼どころか脚もなく、そして皮も肉も張り付いていない。
なのに重力の制約をなきものにして中空を浮遊し、自在に移動をしている。
血肉の削げ、襤褸を纏った下半身の無い白骨死体が、沙代の肩を掴み飛んでいる。
万人にある安易な幽霊のイメージが陳腐に映らないのは、紛れもない現実だからに他ならない。
やがて地面に降り立った沙代がいるのは、寮より一地区ほど離れた公園だ。
休日の昼には花見目的で家族連れの集団を収めるだけの広さと木々の数が両立した空間。
深夜になれば誰一人残らず、森の覆いに姿を潜められるここを、沙代の引き連れる従者を実体化させる場所に決めていた。
万全を期するなら、近くにある物置小屋や小売店の奥にでも忍び込めばより見られる危険もなくなるのだが、自重している。
それだけ沙代の召喚した英霊は異様な外見であり、そして容易に身を隠せないほどの体躯を誇っていた。
「ライダー、出てきてください」
呼び声に間を置かず応じて現れるサーヴァント。
実体化して出来た影は少女を優しく包み込むように明かりを遮断して、沙代を更なる暗闇に落とす。
手足を地に着けた跪いた態勢であるのに、ほぼ垂直になるまで首を上げなくては顔すら窺えない。
赤子と父親でもここまでの身長差は出ないだろう。森の中という状況も相まって、沙代は熊と対峙しているような錯覚を覚えた。
だが脅威の程でいえば、それは人と熊どころの差ではない。
腕を振り抜けば人間の顔面を剥ぎ取る爪も、腹腔を食い破り腸を引きずる牙も、この巨人には通じはしまい。武装など必要とせず、張り手の一発を食らわせただけで即死に至らしめる。
未だ、己のサーヴァントが戦う様を目にした事のない沙代には、彼がどれだけの強さなのか判然としていない。
疑いようのなく屈強で強靭な肉体であるのは見ての通りである。圧倒的な身長と体重を掛けた数値は、生半な神秘という曖昧な幻想を凌駕して叩き伏せる現実だ。
その上で……沙代がライダーと呼ばれる英霊に抱くのは頼もしさよりも、痛ましさであった。
英雄というにはあまりに見窄らしい、襤褸同然でしかない薄衣。
召喚された当初からその身体は負傷だらけで、見た目だけならばもう満身創痍だ。
傷口から溢れる血液と露出した肌からは、人間とは完全に違う種類の油の臭気と、銀色の繊維。
全身が切り裂かれ、焼け焦げた全身に突き刺さったままの刀剣が、彼を歴戦の兵士ではなく、敗走した落ち武者として映している。
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剛勇とも絢爛とも程遠い、戦死者の墓標が積み重なって人の形を成したような悲壮さ。
偉業を達成した栄光や、救国を果たした信仰といった、英雄に纏わる「称賛」の念が、沙代には一切感じ取れない。
恐怖や戦慄よりも先に沸き立つ、哀れみの感情。
ライダーを見るたび、沙代は常にそんな思いに駆られている。
どのような戦争を経験して、どのような悲劇を体験すれば、こんな人でなくなった姿に貶められてしまうのか。ここまで人は、奪われる生き物なのかと。
「ライダー、私は決めました」
胸中の蟠りをおくびにも出さず、毅然とした態度を維持した。
至らぬ身で幾ら案じようともライダーの過去が変わるわけでもない。
今の沙代はマスター、彼の主だ。過去の英雄の御霊を傍に控えさせる以上、それに足るだけの器を示さなければならない。
「この戦争で……私は戦います。
御国の為でなく、龍賀の為でなく。私を知る者が誰一人いないのでしたら、ただ私自身の為だけに戦いましょう」
成人もしていない年頃でありながら、参戦の意志に臆する震えは見えない凛とした振る舞い。
領域内で再現された街の時代と、沙代の生きた時代には、大きな隔たりがある。
半世紀前の人間とは、戦という概念との距離感がまず違う。
約七十年前───二度目の世界大戦で敗北し、立ち直るべく奮闘する高度経済成長期の黎明の人間だ。
無用な戦は好まない。しかし争いが避けられないのならば立ち向かうべし。
常在戦場とはいかずとも、昭和の女である沙代の価値観は、帝国軍人が掲げた気風の名残りがある。
「ライダー。あなたは私を守ってくれますか? 一緒に戦ってくれますか?」
それは本来なら確認するまでもない、当然の契約。
マスターはサーヴァントを戦わせなくては聖杯を手に入れられず、サーヴァントはマスターがいなくては聖杯を得る事が出来ない。
一蓮托生の関係性だからこそ、人と英雄の共闘は成り立つのだ。
気づけば脳に装填されていた知識を承知で、沙代はライダーに問いかけた。ある疑問を、解決する為に。
「御主人サマの、仰セの通リニ……」
跪いたまま、恭しく頭を垂れるライダー。沙代の胴ほどもある頭部が目の前にまで落ちる。
英雄の誇りの欠片も見当たらない姿勢、ただそこには権威や情欲を目当てにすり寄る卑屈さは見られない。ある筈もなかった。
誇りや卑しさといった"感情"の発露自体、この巨漢の何処を探しても存在しないのだから。
「ライダー……あなたに、願いはありますか?」
「御主人サマの、仰セの通リニ……」
繰り返す。
「あなたは、私を裏切りませんか?」
「御主人サマの、仰セの通リニ……」
繰り返す。
「あなたは、私を醜いと思いますか?」
「御主人サマの、仰セの通リニ……」
最期の問いを、繰り返す。
沙代は理解した。
ライダーには、人の心が入っていない。
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始めからそうだったのか、今の格好にされた時の環境でそうされたのかは、分からない。
現在のライダーは道具……兵士の扱う銃に等しいのだろう。その異形と破壊の規模を思えば、戦車の方が正しい喩えかもしれない。
使った者の意志を問わず、善悪を構わずに、入力された命令を実行する殺戮機械。
撃てと命じれば即座に銃を撃つ。殺せと命じれば躊躇なく殺す。
どれほど残酷でも無意味でも何の疑問も抱く余地もなく。是非を突きつけられるのは命じた所有者のみ。
ライダーは沙代に忠誠を誓って従っているのではない。
個人の秤は介在しない。誰であろうが、マスターと認定されたら常に同一の反応で『稼働』するのだ。
ミサイルの発射スイッチを持つ者の違いで、ミサイルの性能が変わったりしないのと同じように。
故に───沙代が何者であるかなど、どうでもよいことなのだ。
そこまで理解して、沙代は顔を伏せてライダーから目を逸らした。
俯き、項垂れ、一無での風で揺れる木の葉の輪唱が木霊していき……やがて、低くくぐもった声を出して唇を弧に変えた。
「……ふふ」
薄い、笑みの形に。
「ふふ、ふふふ……!」
──────ああ。やはりここは地獄なのだ。
背後から刺され燃え上がり、骨灰となって死んだ沙代が、どうして生きているのか。
冥府という、戦争の舞台についての説明をされてからの疑問に、全て得心がいった。
あの悪夢は、まだ続いたままだ。
哭倉村という、毒蟲の詰まった壺。
片田舎の因習では到底収まりきらない、悪意と呪いで練り固められた底なしの泥沼。
そこから逃れたつもりになっても、身に染み付いた穢れが沙代を離さない。刻まれた呪いは解かれない。
現に沙代は既に、呪いを行使している。
醜く汚れた叔父と叔母に、実の母。残らず串刺しにした一族の血で全てを終わらせた。
そうして壺から出たところで、毒蟲は毒蟲。安寧に微睡む休みが待つ筈もない。
むしろ淘汰して生き残った蟲には他の蟲の怨毒が乗り移り、より腐臭を増していくだけ。
「あははは……! そう……結局、逃げられないのね……龍賀からも、あなた達からも……!」
腰を曲げ狂い笑う。
脊髄を駆け巡る甘美な絶望がおかしすぎて耐えられない。
粗相をしたところで咎める者など誰もいない。叱りつけてくれる相手もいない。傍にいるのはただの道具だ。
ならどれだけ無様を晒してもいい。清純な乙女を装う必要もない。
───背中に骨だけの手を置く、怨念の顕。
沙代の死に引きずられ、共に冥府にまで彷徨う業を追った呪詛の魂。
妖怪・狂骨も、沙代の笑いに呼応するようにカタカタと震えている。
最早怨みの標的を忘れ、見境なく取り憑く悪霊に堕した証なのか。それとも少女に何も届けられない自らの慟哭なのか───。
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日本のある文豪の書いた小説を思い出す。
地獄に落ちた男へ御仏が慈悲で垂らした一本の糸に、男以外の罪人が我先によじ登り糸が切れ、男と罪人諸共地獄に取り残される話だ。
自分だけが助かろうと罪人に怒鳴りつけた事で糸が千切れ、欲得で救いを手放してしまった男の話。
罪人達は救われたい一心で糸を登り、助かった筈の先頭の男をも巻き込んで機会を奪われてしまった。
この戦争も同じだ。
生き返りたい。やり直したい。必死の思いで一本の糸を巡って争って、先に昇った相手の足を掴みながら、最後には全員が真っ逆さま。
きっと皆、帰りたい場所なんかない魂ばかりで、だからこんなところにまで来てしまった。
ならば、私も堕ちてしまおう。
誰も彼も巻き込んで、一緒に燃え堕ちてしまえばいい。
今度こそ体も魂も荼毘に伏すよう、念入りに、念入りに。
そうすれば、この身体に染み付いた穢れの痕跡も、消えてくれるだろうから。
「…………………………」
いつまでも狂った笑いを止めない沙代を、ライダーは沈黙したまま眺めている。
観測装置に継げ替えられた眼は、自身のマスターの認証を持つ者の生体情報が崩れてないのを確かめたきりその場を動かない。
主に危害が及ぶか命令が下されない限り、彼が動く事はない。
騎士が掲げる守護の誓約などと高潔さは無縁。あるのは塗り潰された自我の代わりに搭載されたプログラムのみ。
それが今の彼の在り方。たったひとつの愛の為に己の全てを擲った、優しすぎた男の末路。
国王。暴君。海賊。革命軍。父親。
残らず捨て去られ与えられたものは"無敵奴隷"の称号。
堕落した世界の王の末裔。形ばかりの貴族の玩具にされた慰みもの。
バーソロミュー・くま。
この冥界で彼をそう呼ぶ者は、誰もいない。
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【CLASS】
ライダー
【真名】
バーソロミュー・くま@ONE PIECE
【ステータス】
筋力A+ 耐久A++ 敏捷C 魔力E 幸運E 宝具B
【属性】
中立・中庸(本来は善)
【クラススキル】
王下七武海:─
政府に協力することで手配を免れ、海賊の抑止力として機能する者達を示すスキル。
海賊が持つ嵐の航海者スキルと、海賊を捕らえる罪人への攻撃力上昇効果を併せ持つ。
騎乗(奴隷):B-
奴隷である今の彼は騎乗するのではなく「騎乗される」もの。
何の才能も経験もない者だろうと快適に乗せて移動する。
【保有スキル】
バッカニア族:B
遥か過去に大罪を犯した一族と伝えられている、既に絶滅していた種族。
巨人の血を引くとされ、常人離れした屈強な肉体と怪力を備える。
パシフィスタ:A
───バーソロミュー・くまの全身に施された機械改造。
鋼鉄以上の硬度、手足や口からレーザー兵器等を搭載した人間兵器をパシフィスタと呼ぶ。
肉体から脳に至るまで全身に改造を受けたくまはバッカニア族の特性も合わせて、人の身では絶対に不可能な耐久のランクに到達している。
無敵奴隷:─
世界政府の犠牲の象徴。狂気の表れ。
バーソロミュー・くまの人格は機会化改造の最後に消去され、世界貴族・天竜人の奴隷に身を落としている。
バーサーカークラスの狂化スキルに似てるが、暴走のリスクがある狂化と違い、こちらはマスターの如何なる命令にも無条件で従い、実行する。
また「奴隷は主人から徴収しない」理屈により、マスターからの魔力提供を必要としない(現界の要石を示すパスは必要)。
戦闘に必要な魔力は霊基に負荷をかける事で捻出する。通常の英霊で即座に霊核が砕けるが、バッカニア属の強靭な肉体でなら長時間耐えられる。
ニキュニキュの実:A
食べた者に様々な能力を与える代償に海(流水)に弱くなる体質になる悪魔の実、その内の超人系(パラミシア)に属する能力。
掌にある肉球があらゆるものを弾き、吸収する。
大剣豪の斬撃を柔らかく受け止め、大陸を隔てた距離まで相手を弾き飛ばす。空気といった不可視の物質、疲労や痛みという形のない概念にも作用する。
こうして飛ばした肉球状のエネルギーは、誰にも与えない(攻撃しない)まま放置すると元の持ち主に還っていく。
守護の誓約:A+→D
陣地防衛に対してプラス補正。自陣メンバー全員の防御力を上昇させる。
聖人と呼んでも差し支えない博愛精神を持っていた頃のくまにとって、自陣とは目に映る人全てに等しい。
無敵奴隷となり本来なら完全に消失しているスキルだが……どういうわけか、低ランクながら維持されている。
【宝具】
『無慈悲なる鋼鉄の平和主義者(パシフィスタ・マリンズデスマーチ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:1体につき20人
くまのデータによって造られたパシフィスタは人造人間として量産され、海軍の新たな戦力に投入された。
マスターから命令される事で真名が解放し、パシフィスタの軍団を魔力の許す限り召喚する。
この宝具だけはマスター自身の魔力を消費する。
『熊の衝撃(ウルススショック)』
ランク:C+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:300人
ニキュニキュの能力で周囲の大気を圧縮し弾にして放ち、極大の衝撃波を発生させる。
反動が大きいのである程度の距離を空ける必要があるのを、くま自身の頑健さでリスクを踏み倒している。
【weapon】
パシフィスタの肉体、ニキュニキュの実、全身に搭載された兵器
【人物背景】
死んだ方がいい世界に生まれてきた男。
誰も憎まず、誰をも愛し、最も愛すべき者の為に本当に全てを捨てた、ある父の末路。
【サーヴァントとしての願い】
……………………。
【マスターへの態度】
仰セの通りに御主人サマ……。
-
【マスター】
龍賀沙代@鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎
【マスターとしての願い】
救い出してくれる運命の人……そんな人はいなかった。ならせめて自分の中の穢れの痕跡を消し去りたい。
【能力・技能】
『狂骨』
井戸に捨てた死体の無念から生まれる妖怪。
龍賀に仕える裏鬼道衆は、ある妖怪を一族尽く捕らえ狂骨を生ませ、閉じ込めた結界でその怨念を呪詛返しする事で強力な狂骨を生み出していた。
■■■■により一族の血の濃さを維持して生まれた沙代には高い霊能力の素質があり、
練達である裏鬼道の術者の呪具を介した巨大な狂骨を、逆に使役して(あるいは、狂骨に憑依されて)凶行を繰り返していた。
狂骨と犠牲者の無念は、今なお沙代に憑いている。
【人物背景】
泥だらけの手を取ってくれる運命のいなかった女。
全てを呪うには優しすぎ、全てを受け入れるには侵されすぎた、どこにでもいた少女。
【方針】
戦後の生まれだけあって殊更に戦いを忌避したりはしない。
……既に殺人が選択肢の中に入り込んだ今は倫理が崩れかけており、邪魔者の排除に躊躇がなくなってしまっている。
【サーヴァントへの態度】
忠実な人形。絶対に自分を裏切らない従者。
哀れみを抱くと同時に、それを引き当てたという皮肉に自虐している。
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投下を終了します
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投下します
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地獄みたいな場所にいた。
朝早くから夜遅くまで、ひたすら重い岩を運ばされる。
休んでいるのが見つかれば、鞭で打たれる。
仕事が終われば待っているのは、くさくて汚い休憩部屋。
布団なんて上等なものはないけれど、それでも疲れ切った体は眠りに落ちる。
そんな毎日を繰り返すようになって、どれくらいが経っただろう。
気がつけば、見たことのない建物が建ち並ぶ場所にいた。
そこは、また別の地獄だった。
聖杯戦争。
最後の一人になるまで続く、殺し合い。
どういうわけか、僕はその参加者にされてしまったらしい。
なんで、こんなことに。
そりゃもちろん、今の状況から抜け出したいとは思っていたけど。
だからって、殺し合いなんて。
僕は、帰りたいだけなんだ。
サンタローズの、僕の家に。
そんなことを考えていると、突然目の前の地面が光り出した。
わけがわからないまま眺めていると、光の中から誰かが出てきた。
「やれやれ、年端のいかない子供を、こんな人気の無い場所に放置するとは……。
何を考えてるんですか、聖杯は。
ああ、考える頭もないんでしたね、今回は」
出てきたのは、背の高いお兄さんだった。
見たことのないような作りの、黒い服を着ている。
そしてその頭には……角が生えていた。
「聖杯戦争など、参加することはないと思っていましたが……。
親を亡くした子供が、無理矢理参加させられているのを知ってしまってはね。
おっと、失敬。前置きが長くなりました。
サーヴァント、ランサー。あなたの僕として、参上いたしました」
そう言って、お兄さんは僕の前で膝をついた。
僕の頭の中には、いろんな言葉が浮かんでくる。
でも、上手くまとまらない。
結局口から出たのは、どうでもいいような質問だった。
「お兄さんは……モンスターなの?」
「モンスター……ですか」
僕の質問に、お兄さんは考え込むような様子を見せる。
「マスターの世界でどうかは知りませんが、私の世界の基準で言えば……。
いちおう、モンスターには含まれるでしょうね。
ですが、もっとふさわしい呼び方があります」
僕の目を見つめて、お兄さんが言う。
「私は、鬼です」
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【CLASS】
ランサー
【真名】
鬼灯@鬼灯の冷徹
【ステータス】
筋力A 耐久B 敏捷D 魔力A 幸運E 宝具A
【属性】
秩序・中庸
【クラススキル】
対魔力:A
魔術への耐性を得る能力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
Aランクでは、Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。
騎乗:E
乗り物を乗りこなすための能力。
自らが乗り物を駆る逸話に乏しいため、最低ランクである。
【保有スキル】
鬼神:A
鬼の中でも強い力や地位を持ち、敬意をもって接せられる者。
あくまでそういう呼び名というだけで、神の域に達しているわけではない。
「怪力」「カリスマ」などの効果を内包する。
冷徹:A
「鬼たるもの、慈悲なんか持たない!」
「加虐体質」が、本人の逸話により変質したスキル。
戦闘が続くほど攻撃力が上がる一方、冷静さや防御力が低下する「加虐体質」のデメリットは消えている。
【宝具】
『日本地獄』
ランク:A 種別:結界宝具 レンジ:1-30 最大捕捉:10人
閻魔大王の側近であり、地獄を知り尽くしたランサーであるからこそ発動できる固有結界。
200以上存在する日本の地獄の中から一つを選択し、結界内に再現。
「地獄の責め苦」を対象に与える。
対象が日本人であれば、与えるダメージは増加する。
地獄にいる獄卒を再現することも可能だがそれは本人ではなく、ランサーの記憶から作られた影法師にすぎない。
そのため、ランサーの命令に従うことしかできない。
発動には、ランサーが対象を「地獄に堕ちるべき罪人」と認識することが必要。
【weapon】
『金棒』
中国やインドの地獄で使われていた拷問道具を溶かして材料にしたという、曰く付きの金棒。
ふさわしくない者が持てば度々災難に見舞われるが、ふさわしい者が持てば決して劣化しないという。
ランサーは若かりし頃にとある事件でこれを手に入れ、その後ずっと愛用し続けている。
【人物背景】
閻魔大王の第一補佐官を務める鬼。
元は神代の頃に生まれた人間の少年だったが雨乞いの生け贄として殺され、その死体に複数の鬼火が入り込んだことで鬼として転生した。
地獄に堕ちた罪人や自分の周囲に害をもたらす存在には一切の容赦を見せないことから、地獄では閻魔大王以上に恐れられている。
だがその生い立ちゆえ、「みなしご」や「生け贄」には情を見せることもある。
【サーヴァントとしての願い】
マスターの生還
【マスターへの態度】
庇護対象。生き残らせるためなら、非道を働く覚悟もある。
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【マスター】
リュカ(主人公)@ドラゴンクエストV
【マスターとしての願い】
家に帰りたい
【能力・技能】
『魔法』
回復呪文、真空呪文などを習得している。
『モンスター使い』
本来は人間の敵であるモンスターと心を通わせ、仲間にすることができる能力。
今の彼はまだこの力を覚醒させておらず、「人ならざるものからの友好度が上がりやすい」程度の効果しかない。
【人物背景】
行方不明の母を探し、父と共に旅をしていた少年。
実はグランバニアという国の王子だが、今の彼はその事実を知らない。
参戦時期は奴隷として働かされていた頃。
【方針】
生還を目指す
【サーヴァントへの態度】
まだ出会ったばかりだが味方だと理解し、信頼を置いている。
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投下終了です
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投下します
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私は、ただ憧れていただけ。
魔法で人を幸せにし、どんな危機にも挫けたりしない、そんな魔法少女に。
§
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姫河小雪が、自室で目を覚ましたのは夜のことだった。
目覚めは最悪。先ほどまで悪夢に苦しめられ、何度も寝返りを打ってうなされていたからだ。
小雪は意識を覚醒させると、現実逃避したいがあまりに二度寝したくなる欲を抑えて、魔法の端末を取り出す。
直後、小雪が光に包まれたかと思うと、そこには小雪とは別人――否、小雪の変身した姿があった。
学生服をモチーフにした、薄い桜色の髪をした少女がそこにいた。しかしそれは、単なる学生服ではなく「コスチューム」といった趣が強い。その清楚さはどこか「白」を思わせる。
彼女は、「姫河小雪」でいる時は中学生の少女だが、変身すれば所謂魔法少女になることができる。元いた世界では、「スノーホワイト」という名が与えられていた。
「……」
スノーホワイトは変身した後も浮かない顔のまま自分の部屋の中に佇む。
少なくとも、かつての姫河小雪が憧れていた魔法少女の姿に似つかわしくない。
雑念を振り払うかのように、そのまま窓を開け、そこから部屋の外へと出ようとする。
「今日も人助けですか?精が出ますね」
そんなスノーホワイトの背後から声がかかる。
声の方へ向くと、魔法少女とは程遠い格好をした少女が、もう一人立っていた。
背中から生えている悪魔の翼に、頭に生えた一対の角、そしてその瞳や頬に浮かび上がっている闇色の星。
乳房をニプレスのみで隠した際どい衣装も相まって、どちらかといえば魔法少女というより悪の組織の女幹部といった風貌だ。
「……アルターエゴ」
スノーホワイトは突如現れた少女の名を呼ぶ。
この少女こそが、此度の聖杯戦争に巻き込まれた姫河小雪/スノーホワイトの召喚に応じた、アルターエゴ。
「……何か言いたいことでもあるの?」
「いえ?私は素晴らしいと思っていますよ。尊敬の念すら感じます。その在り方は魔法少女そのものですから」
「ッ……!」
-
魔法少女という言葉を聞いて、キッとスノーホワイトの目が険しくなる。
「ただ……あなた単独では他のサーヴァントにあっさり倒されてしまわないかと思いまして。ネット上にはあなたの目撃情報もありますから少し心配で――」
「――いらないよ」
アルターエゴの台詞に被せるようにスノーホワイトは言う。
「『魔法少女の敵』である、あなたの助けなんて……!」
記憶を取り戻し、初めてアルターエゴを召喚して開口一番放たれた口上が思い返される。
『私の名前はマジアベーゼ。魔法少女《あなたたち》の悪となるものであり――魔法少女《あなたたち》の敵です』
魔法少女の敵にして悪の組織・エノルミータの総帥となった女マジアベーゼ――彼女がスノーホワイトの召喚したアルターエゴのサーヴァントだった。
「それに……私は魔法少女なんかじゃない」
自嘲するようにスノーホワイトは言う。
そうだ。スノーホワイトはもう、魔法少女ではない。
森の音楽家クラムベリーとファヴによって引き起こされた、N市での魔法少女同士の凄惨な殺し合いで、スノーホワイトはずっと争いから逃げていた。
選択せず、戦うことを拒否して流されるがまま、歪められた魔法少女見習いの卒業試験を、生き残っていた。生き残ってしまった。
結果、自分とリップルを除いた魔法少女が死んだ。その悲劇を、止めることができなかった。
こんな自分に比べれば、自ら選択して戦うことを選んだリップルの方がまだ魔法少女といえるだろう。
「いいえ」
直後、マジアベーゼがそれを否定する。
「あなたは魔法少女です」
真っ直ぐにスノーホワイトを見つめながら、マジアベーゼは言う。
「……違う」
「こんな状況になっても人を助けることをやめない」
「違う……」
「魔法少女の矜持をまだ見失っていない」
「違う……っ」
「誰もが憧れる魔法少女になれる人が、ここにいます」
「違うっ!」
声を荒げるスノーホワイト。
「あなたもハードゴア・アリスみたいなことを言うの……!?」
「ハードゴア・アリス……ええ、知ってますよ。あなたが夢を見ている時に私の頭にも流れ込んできました。目に隈を作った黒い魔法少女ですよね」
-
魔力パスが繋がっていることで流れ込んできた記憶を見たというマジアベーゼは、「一見怖いけど、根は優しそうですよね。うちの組織にもネロアリスって子がいて、とっても可愛いんですよ」などとぺらぺらと語り始める。
そんなマジアベーゼを無視して、スノーホワイトが外へ出ようとした時、「声」が聞こえてきた。
それは、スノーホワイト固有の魔法である「困っている人の心の声が聞こえるよ」で拾うことのできる心の声だ。
“ああ、困りましたねぇ……”
”スノーホワイトの持つ願いは、まさに私の憧れる魔法少女”
“けれど、今の彼女は危うい。少しでも間違えば取り返しのつかない方向へ行ってしまう”
“戦闘能力も魔法少女としてはまだ足りない”
「っ……」
マジアベーゼの心の声は、スノーホワイトに刺さるものがあった。
特に実力が足りないことは、自分自身もよく分かっている。
しかし、その直後に聞こえてきた声にスノーホワイトは顔色を変えることになる。
“そんなスノーホワイトがあらゆる面で成長したら、どんな顔で私に立ち向かって来てくれるのでしょう”
“綺麗だからこそぐちゃぐちゃにしてあげたい……。痛めつけたら、どんな声で鳴いてくれるのでしょう。辱めたらどんな格好になるんでしょう”
“ああ、今すぐに見れないのがもどかしいです”
“それにしても、魔法少女が多くいたというのに、それを殺し合いで減らしてしまったとかいうクラムベリーとファヴとやらには腹が煮えくり返りますねぇ”
“ラ・ピュセルには「くっ、殺せ!」と言わせたいです”
“ハードゴア・アリスやスイムスイムは身体のどの部位をまさぐれば表情を変えてくれるでしょうか?”
“リップルを辱めて、舌打ちしながら睨んでくるその顔を思いきり眺めたい”
“たまをペットにして身体だけ操って戸惑う様を楽しみたい”
“ねむりんを四六時中くすぐって寝られないようにしたい”
“トップスピードを蜘蛛の糸に絡めとって身動きできない彼女を手籠めにしたい”
“ルーラとカラミティ・メアリはセットで辱めて、脳内フィルタで幼女にして「ごめんなさい」を言わせたいですねぇ”
“ピーキーエンジェルズには二人どちらかを犠牲にするプレイをさせて仲違いでも狙ってみましょうか”
“マジカロイド44は回路をいじくって喘がせたい”
“シスターナナとヴェス・ウィンタープリズンはお姫様と王子様のポジションを逆転させて、ウィンタープリズンの処刑宣言をしてシスターナナがどう出るかみてみたいです”
魔力パスが繋がっているだけに、マジアベーゼの性癖から来る妄想が、映像付きで脳内に流れ込んできた。
ぞわぞわと肌を這うような、死に対するそれとはまた違った恐怖が、全身を駆け巡った。
「ッ!!!!!」
スノーホワイトは、逃げるかのように部屋を飛び出していた。
「あ……そういえばスノーホワイトは心の声が聞こえるんでしたね」
§
-
この聖杯戦争のマスターの資格を得る前も、得た後も、欠かさず人助けをしていた。
こうして聖杯戦争の舞台である都内を巡っている今も、脱走したペットを探した。迷子の子供を家に送り届けた。正面衝突しそうな二台の車を間一髪で停止させた。神社の境内の掃除をしておいた。
けれど、スノーホワイトは薄々気づいている。そんな小さな親切は、聖杯戦争を止めることに何の役にも立たないのだと。
聖杯戦争。スノーホワイトには分かる。これはクラムベリーとファヴが引き起こした殺し合い以上に、血を血で洗う争いになるだろう。
そこに「人を殺したくない」だとか「無関係な人間を巻き込みたくない」ような綺麗事は通用しない。
ましてや小さな親切など、言うまでもない。
そんな聖杯戦争を前にして、スノーホワイトに何ができる?
魔法少女として最低限の身体能力と耐久力はある。けど、ラ・ピュセルやリップルのように武器を扱う魔法もなければ、ハードゴア・アリスのように耐久面に優れた魔法もない。
怖かった。泣き叫んだ。またあの悪夢が蘇ると思うと胸が張り裂けそうだった。
サーヴァントのアルターエゴは「魔法少女の敵」であり、何より考えは読めるが考えていることが理解できず、迂闊に信頼できない。
これ以上殺し合いによって起きる悲劇を見たくないし、止めたいと思っている。
しかし頼れる者もおらず、答えの出ない問いの中でスノーホワイトは逃避するかのように人助けをする毎日だった。
“助けて……”
「!!」
すると、スノーホワイトが心の声を拾う。
それは日常の中で起きる困りごとではなく、まるで今にも消えてしまいそうな、苦悶と苦痛に満ちた小さな声だった。
声のする方へ急行すると、すぐに見つかった。
部屋着だろうか、だらしない服装の女が、コートを来た男と槍を携えた時代錯誤な格好をした男――おそらくランサーのサーヴァントだろう――に追い詰められていた。
脇腹をやられたようで、その服は血が滲んでいた。
命に別状はないだろうが、おそらく次の一突きですべてが終わるだろう。
「っ……」
咄嗟に動こうとするも、足がすくんでしまう。
このまま動けば、きっとスノーホワイトは負ける。そして死ぬ。いくら魔法少女と言えども、マスターがサーヴァントに何の策もなく挑もうなど無謀もいいところだ。
それでも、それでも。
ラ・ピュセル、シスターナナ、ハードゴア・アリス、リップル。
死んでしまった魔法少女達の顔が、次々と浮かんでくる。
(いやだ……もう私は、あの時の私に戻りたくない!)
そう思うと、すくんでいた足は自然と動いていた。
「やめてっ!!」
ランサーの槍が女に向けて突かれようとした時、間一髪でスノーホワイトは女と主従の間に割って入った。
§
-
真名、マジアベーゼ。
彼女はアルターエゴとして、本来の変身元の「柊うてな」から切り離された、「マジアベーゼ」の側面が一人歩きして形を為したサーヴァントだ。
「可愛い変身ヒロインをめちゃくちゃにしたい」と願う生粋のサディストであり、同時に「魔法少女の輝きの先を見たい」とも願う魔法少女の大ファン。
それがエノルミータの総帥であるマジアベーゼだ。
マジアベーゼから見てみれば、スノーホワイトは実力的には半人前だった。
しかも、身勝手な者達が引き起こした事件に巻き込まれて間もないとあって、精神的にかなり危うい。
道を間違えれば引き返せない場所まで行ってしまうような、例えるならば、少し力を加えただけで崩れてしまいそうな儚い花のようだった。
だが、マジアベーゼはそれでよかった。
スノーホワイトは、優しさと挫けない心を、魔法少女に不可欠なものを持っている。
マジアベーゼが憧れた理想の魔法少女になる素質を、彼女は持っている。
だからこそ、マジアベーゼは見たいと思った。スノーホワイトが魔法少女として成長した時に見せる輝きを。
だからこそ、マジアベーゼは導かねばならぬと思った。スノーホワイトが正しき魔法少女になれるよう、魔法少女の矜持を失わぬように。
そして、マジアベーゼは望んだ。
魔法少女の敵として、成長したスノーホワイトに討ち取られたい、と。
§
-
「がっ……はっ……」
あまりに一方的だった。
どうにか女は逃がせたものの、槍の刺突の直撃を避けるのに精一杯であった。
ランサーの心の声を聞いたことで、どうにか次に来る動作を予測していたが、それでも避けきれずに身体へのダメージは蓄積していき、最後には槍を囮にした蹴りで大きく弾き飛ばされた。
“こいつ……マスターか。サーヴァントが近くにいるのか……?”
「殺せ、ランサー。こいつは恐らく、ネットに出回っているあの魔法少女とかいう奴だろう」
「承知した」
「う……ぐ……!」
目の前の主従の「困っている心の声」は聞こえる。
なのに、振り上げられる槍を見上げることしかできない。
自分の無力さに涙が出てくる。
これまで散っていった魔法少女達やリップルに詫びながら目を閉じた、その瞬間のことだった。
スノーホワイトとランサーの間に人影が飛来し、次いで金属と金属が激しくかち合う音と共に、ランサーの槍が阻まれた。
「何っ!?」
ランサーとそのマスターの目が見開かれる。
倒れているスノーホワイトの前に、遮るようにして、マジアベーゼが立ち塞がっていたのだから。
「相手が両方男なら幸いです。女であれば甚振ってしまいますから、気兼ねなくやれますね」
「アルターエゴ……?」
「無事ですか、マスター」
無事を確認して振り返ってくるマジアベーゼは、どこか印象が違っていた。
心なしか、髪が伸びて角が逆立ち、頬に刻まれた星が増えた……気がする。
「……かっこよかったですよ」
「え?」
「どんな強大な力にもめげず、誰かの前に立てる。それでこそ魔法少女です」
「見てた、の?」
「ええ。私、そういうの見るの好きですので」
臆面もなく、マジアベーゼは言う。
しかし、スノーホワイトは不思議とそれに悪い印象は持てなかった。
「スノーホワイト。あなたは小さな親切は何の役にも立たないと思っていますが、私は違うと思いますよ」
「……」
「少なくとも、私はあなたの小さな親切に動かされました。あなたの親切を見て、私はあなたの力になりたいと思った」
マジアベーゼは自身の宝具でもある『支配の鞭』を取り出し、目の前の主従と対峙する。
「そんな魔法少女《スノーホワイト》の輝きを見たい。強くなったあなたをこの目で見たいのです」
「どうしてあなたがそんなことを……」
その時振るわれたランサーの槍を、マジアベーゼは鞭でいなし、体勢を崩したところを大きく薙ぎ払ってマスター諸共吹き飛ばす。
「私、こう見えて魔法少女に憧れてますから」
「でも、あなたは魔法少女の敵だって――」
スノーホワイトの言葉を遮るように投擲されてきた槍を、マジアベーゼは造作もなく掴み取った。
そして、槍を放り捨てながら、マジアベーゼは言う。
「忘れないでください。私は魔法少女の敵であり――スノーホワイト、あなたの味方です」
そうして、立ち向かっていくマジアベーゼの後ろ姿を見て、スノーホワイトは思った。
このサーヴァントはきっと、私と同じなんだ。魔法少女に、夢を見ているんだ、と。
-
【CLASS】
アルターエゴ
【真名】
マジアベーゼ@魔法少女にあこがれて
【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷C 魔力EX 幸運D 宝具EX
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
単独行動:B
魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
マスターを失っても二日間現界可能。
陣地作成:A
自らに有利な陣地を作り上げる。
既に基地「ナハトベース」を所有している。
道具作成:A
魔力を帯びた器具を作成できる。
マジアベーゼはその性癖からか、魔法少女を辱めるための道具を作るのに特化している。
「マジアベーゼが満足するまで出られない部屋」を作ることもできる。
【保有スキル】
加虐体質:EX
戦闘において、自己の攻撃性にプラス補正がかかるスキル。
EXともなると興奮に比例して全ステータスが強化されていき、「理性」と「欲望」を調和させているのでデメリットもない。
「魔法少女」に対してはただでさえ強い加虐体質がさらに強化され、この状態のマジアベーゼは「勃起状態」と説明されている。
カリスマ:D+++
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる。
マジアベーゼはエノルミータの総帥ではあったが、組織の構成員は少なく、構成員からも大方「やべー女」と認識されていたため、ランクは高くない。
しかし「魔法少女」が関わっている時、なおかつ味方を自分の性癖に付き合わせる時に限っては、卓越した総帥としての能力を発揮する。
戦闘続行:B
戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
「往生際の悪さ」あるいは「生還能力」と表現される。
スノーホワイトが真なる魔法少女になった姿を見ないで死ねるわけがない。
仕切り直し:B
戦闘から離脱、あるいは状況をリセットする能力。機を捉え、あるいは作り出す。
また、不利になった戦闘を初期状態へと戻し、技の条件を初期値に戻す。同時にバッドステータスの幾つかを強制的に解除する。
マジアベーゼの場合、良きところで撤退する悪役ムーブがスキルに昇華されたもの。
-
【宝具】
『支配の鞭(フルスタ・ドミネイト)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大捕捉:6人
マジアベーゼの使用していた先端に十字星の付いた鞭。
近接戦の武器としても魔法少女を辱める用の鞭としても使用できる他、鞭が触れた物を生物・非生物問わず魔物に変えて使役することができる。
鞭に触れて変身する魔物は、どれもマジアベーゼの趣味、つまり魔法少女を辱めるための能力を持つ。
『真化・夜蜘蛛の帳(ラ・ヴェリタ・よぐものとばり)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:100人
強い想いがオーバーフローすることで会得できる魔法少女の強化形態「真化」。
マジアベーゼ自身も真化でき、強化形態に変身することができる。
単純な戦闘能力もさらに上昇する他、マントを蜘蛛の糸のように変形させて敵を絡めとったり、糸を分離させ拘束具を生成できる。単純に拘束するだけでなく、糸を攻撃・防御にも応用できる。
糸による拘束力は非常に強固で、同ランク以上の宝具でなければ、拘束を破壊することは不可能。
総じて敵の身動きを封じて辱めるマジアベーゼの趣味に合致した能力を持つ。
『魔法少女にあこがれて(マイ・ドリーム・マジカルガール)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:∞ 最大捕捉:-
マジアベーゼの魔法少女への憧れ、そしてその性癖と欲望そのもの。
その想いの強さは留まることを知らず、一つの宝具として昇華されてしまった。
限定的ながら世界の法則を歪め、マジアベーゼの性癖に沿う形で思い描いた妄想を具現化することができる。
たとえばトラップダンジョンを作りたいと思えばその場に作ることもできるし、
少女とはかけ離れた大人の女性を「脳内フィルターをかけ、幼女だと思い込む」と、本当にその人物はマジアベーゼの思った姿になってしまう。
言わば、常時展開している性癖の固有結界。
その能力に際限はなく、マジアベーゼが望まなければ変質した世界は元に戻らない。
実際のところ、マジアベーゼの逸話にはネロアリスをはじめとした強力な能力持ちの幹部の協力あってのものだが、
マジアベーゼが主導したという逸話があまりにも強いために、それすらも宝具という形でマジアベーゼ自身の能力になってしまった。
【weapon】
『支配の鞭』
『真化・夜蜘蛛の帳』
己の性癖
【人物背景】
悪の組織「エノルミータ」を統べる総帥であり、魔法少女の敵。
本来は柊うてなという少女が変身した姿だったが、アルターエゴとして召喚に応じたことでマジアベーゼの側面が独り歩きした形でサーヴァントとなった。
そのため、うてな本人に比べて性癖により正直で、「可愛い変身ヒロインをめちゃくちゃにする」という欲望や「魔法少女の輝きの先を見る」という欲求が前面に出ている。
【サーヴァントとしての願い】
スノーホワイトを正しき魔法少女として導き、そして魔法少女スノーホワイトに倒される
【マスターへの態度】
スノーホワイトの抱く想いは魔法少女として決して失ってはならぬ大切なものだが、
同時に導く者が間違っていれば取り返しのつかない方向へと進んでしまう危うさを抱えていると知っている。
そのため、スノーホワイトには自分が憧れられるような正しき魔法少女として成長してほしいと願っており、
成長したスノーホワイトに倒されることを望んでいる。
「私は魔法少女の敵であり、スノーホワイトの味方」の言葉に嘘偽りはない。
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【マスター】
姫河小雪@魔法少女育成計画
【マスターとしての願い】
聖杯戦争が齎す悲劇を止めたい。
かつての戦えなかった自分でいたくない。
【能力・技能】
・固有魔法『困っている人の心の声が聞こえるよ』
周囲に困っている人がいる場合、その人の心の声が聞こえてくる。
範囲も非常に広い。
戦闘においても敵の困った声が聞こえてくるため、実質的な読心能力としても使える。
【人物背景】
魔法少女スノーホワイトに変身できる、魔法少女に憧れていた中学生。
森の音楽家クラムベリーとファヴによって殺し合いと化した、魔法少女見習いの卒業試験の生き残り。
元々争い事が苦手で、戦うことを拒否して状況に流され続けた結果、生き残ってしまった。
それを激しく後悔しており、いずれはとある人物のもとで「魔法少女狩り」として頭角を現していくことになるが、
現在の彼女はその人物に合う前のスノーホワイト。
時系列的には、「魔法少女育成計画(無印)」終了後、「スノーホワイト育成計画」開始前。
【方針】
聖杯戦争の舞台で人助けをする傍らで、強くなりたい。
強くなるのにアルターエゴを頼るかは……。
【サーヴァントへの態度】
「魔法少女の敵」ということで、アルターエゴのことは疑っていたが、その疑いは薄れかけている。
とはいえその思考は変態そのものなので、完全に信頼を置いているかというと微妙なところだが、
同じ魔法少女に憧れる者であるという点に関しては親近感を抱いている。
命を助けてくれたし、力になってくれるとのことだが、彼女を頼るしかないのだろうか……?
-
以上で投下を終了します。
タイトルは「マジアベーゼ様のスノーホワイト育成計画」でお願いします。
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投下します
-
「…………。」
緑色のマスクを付けた男が、線路を眺めていた。
眺めてから何をするという訳でも無く、ただじっと眺めていた。
目を細め、まるで不倶戴天の仇でも見つめるかのような表情で見据えるそれは、おかしな線路だという印象はない。
山手線の駅の一つから出た、ごくごくありふれた線路だ。
この物語を読む者の中にも、見たことのある者はいるだろう。
「セイバー。線路に何かあるのか?」
サーヴァントの異変に気付いたマスターが、彼に声をかける。
片手で好物と思しき、みたらし団子を食べながら近づいて行く。
お前も食うか、とサーヴァントの目の前にもう一本みたらし団子を渡そうとする。
サーヴァントは物を食べないのか、はたまた食欲は無いのか、右手だけでいらない、というジェスチャーを取る。
「この世界の線路も、神によって創られたのか?」
サーヴァントは、マスターが混乱するような質問を投げかける。
見てくれは黄色い光彩を持つ、鋭い瞳が印象的な巨漢。
だが、首より下の鍛え抜かれた身体と、右手に付けた金属の鉤爪がついた巨大なガントレットは、戦う者である証左だ。
「うーん…線路って大体、工事の人が作るものじゃないのか?少なくとも、神が創ったとは言わないかな…」
質問の意図が読めぬまま、無難な解答を口にするマスター。
まるで法隆寺を建てた人物の名前が分からず、工事の人とでも言うような口ぶりだ。
こちらは黒い髪に黒い瞳、顔立ちこそは整っており、太過ぎず痩せすぎてもいないが、着ているものはジャージ。
東京生まれ東京育ち、ありふれた高校生だということが伝わって来る。
いや、『ありふれた』という表現を否定する要素が、1つだけある。
目だ。
彼の一度捕らえた者を、雷が落ちても見逃さないであろう鋭い目つきだけは、サーヴァントと同じ物だった。
「私の世界にあった線路は、神が創ったものだった。」
「あー……もしかして、八百万の神ってヤツ?万物に神様が宿っていて、線路の神様ってことか?」
「神が魔王の封印を絶やさぬために、神殿と神の塔を繋いだ。それが線路だった。」
-
会話はかみ合わないのも当然だ。マスターはともかく、サーヴァントは会話を好む性格ではない。
それにセイバーのサーヴァント、ディーゴがいた世界は、マスターとは全く異なる世界だった。
当然、あまり開かない口を開けば魔王だの神だのとの言葉が出てくるからだ。
マスターにとっては、現実の話よりゲームか何かの話を聞いているような錯覚を覚えた。
少なくともあの日より前に聖杯戦争にいれば、サーヴァントを頭のおかしい男としか思わなかっただろう。
「それで…セイバーはその世界で、何をしてたんだ?」
「魔王を復活させ、神を超えようとした。」
少年の目に、光が宿る。
その言葉は、マスター、高畑瞬にとって、この上なく惹かれる言葉だった。
彼が超越的なものにあこがれる年頃の学生だから…と言う訳では無い。実際に彼は、神を殺そうとしたからだ。
セイバーが『超えようとした』と言ったことから、成功はしなかったのだと察しがついても、心が惹かれた。
「凄いんだな。セイバー。」
「凄くなどない。ただただ、愚かなことをしただけだった。」
ディーゴはマスターの賞賛を、にべもなく否定した。
彼は神の使いとして、神の力を承ろうと、何年も何年も修行を続けた。
だが、100年の修行を積み重ねても、理想に手は届かなかった。
手が届かないと分かると、彼は神では無く、魔王の力を求めた。
禁じられた力を求め、何の皮肉か神に与する勇者に助けられ、最期はその勇者たちのために命を捨てた。
「俺は愚かでも、自分を殺して前に進もうとしたことは凄いと思う。俺は断言するよ。」
どうにもならない世界を、どうにもならないままにしようとせず。
ルールに縛られた世界を打ち破ろうと、努力して、戦い抜いた。
ディーゴが否定しても、瞬が決して否定しない事実だった。
やがて電車がやって来て、2人はそれに乗る。
目的地はどこだろうか。それとも目的地は無いのだろうか。
「マスターも得ようとしたのか。神の力を。」
「得ようとしたんじゃない。神を殺そうとした。失敗したけどな。」
「この世界でも、同じことをするつもりか。」
「勿論だ。この世界を牛耳っているのは、神まろとは別の奴みたいだが、それでも殺すつもりなのは変わらないさ。」
「その言い方…どうやらマスターの世界の神とは、ろくな存在では無いようだな。」
高畑瞬と言う男は、神によって退屈を壊され、神を殺すことを求め続けた男だ。
ありふれた高校の、ありふれた高校生だった彼だが、ある日『だるま』が教室に入って来た瞬間、日常は変わった。
次々に殺されていくクラスメイト、迫り来る神の試練。
そして、知らなかった人たちとの出会い、死別。
「この世界の神を殺して、元の世界に帰る。そして退屈を壊した神まろを、今度こそぶっ殺す。」
瞬にとっては、この聖杯戦争はロスタイム、あるいは敗者復活戦。
一度は神を殺すことに失敗した彼だが、チャンスがあるというのなら、手にしない理由は無かった。
今度こそ負けるわけにはいかない。サーヴァントの力を使い、この世界を駆け抜ける必要があった。
-
「セイバー。お前は聖杯に叶えて欲しい願いは無いのか?たとえあったとしても、その望みには応えられそうにない。
こんなマスターを引いたことを怨むなよ。」
「……。」
炎を燃やす瞳を持つマスターを、ディーゴはただ黙って見つめていた。
彼の覚悟は、かつて自分を倒した勇者と、その隣にいた姫に似たものだった。
だからこそ、分かっていた。
この少年は、神に選ばれた勇者ではないと。
神に選ばれたとしても、その神は自分の世界にいた神とは違い、極めて凡庸な存在だと。
退屈に甘んじること、どうにもならないことを由とせず、命を賭してでも進もうとする姿勢は、賞賛に値する。
だが、進んだ先にあるのが、勝利と願望の成就であるとは限らない。
神に挑もうとしたディーゴならば分かることだ。痛いほど思い知らされたことだ。
人と、神や魔王との間には、決して超えられぬ壁がある。
勝利と願望の成就を成し遂げるのは、その壁を超えた者達だ。
それは努力や決意だけではどうにもならない。
2人を、その他大勢の乗客を乗せた電車は、静かに進んでいく。
この世界をただグルグル回り、夜遅くになれば停止し、朝が来ればまた動き始める。
そして、いつかは廃車と言う形で、役割を終える。
だが、もしその列車が突然意志を持ち、そんな決まった役割しか持ってない自分に嫌気がさし、レールを無視して走ったとしよう。
その先にあるのは、車体の崩壊と、ほんの数百人ほどの乗客の死亡だけだ。
ほんの一時期、新聞にその事件が載るかもしれないが、世界を変えることなど到底できない。
-
諦めるな
肉体を奪われた姫に、彼がかけた言葉だ。
だが、あの時の彼女は、神の力がついていたからこそ、彼女なら出来るという確信があったからこそ、かけられた言葉だ。
無鉄砲を知っている彼だからこそ、今のマスターに対してその言葉をかけられるかどうか、自信が無かった。
戦いを放棄するつもりは無い。
だが、彼の願いは叶わない、その事実を突き付けられた時、お前はどうする?
前と頭上しか見ない男の背中を見つめながら、ディーゴはそう考えた。
【キャラクターシート欄】
【CLASS】セイバー
【真名】ディーゴ@ゼルダの伝説 大地の汽笛
【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷C 魔力C 幸運E 宝具D
【属性】混沌 善
【クラススキル】
対魔力:A
セイバーのクラススキル。魔術に対する抵抗力。Aランクともなると、どのような大魔術であろうとも、Aランク以下の魔術を無効化する事が可能となる。短期間では魔王レベルの魔力さえも止められる
騎乗:E
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。
【保有スキル】
【固有スキル】
目標補足:C
目標として捉えた相手をロックオンするスキル。
相手の動きを的確に捉えられ、攻撃が当てやすくなる。
しかし複数の相手を補足することはできない。
神殺しの心得:D
100年ほどの修行のみで、神の使いである者を破った逸話から。
神では無く神の使いであるため、また、その人物を殺すには至らなかったため、スキルは低めだが、それでも神に属する相手と戦う際に、筋力を1段階上げる
魔力放出:C
光の塊を敵目掛けて撃つことが出来る。当たった相手は、耐久:D以下、あるいは対魔法:C以下ならば一定時間気絶する
仕切り直し:D
戦闘から離脱する能力。
【宝具】
『勇往神魔』
ランク:B 種別:対界宝具 レンジ:0〜10 最大捕捉:1〜2?
神の力を承った勇者と姫と戦いを繰り広げた逸話から来る宝具
戦いを決めた相手と、キャスターの陣地作成のように、バトルグラウンドを作ることが出来る。
決着がつかない限りは、ディーゴ、敵両方その場所からの脱出は難しい
【weapon】
鍵爪の付いた鉄鋼ガントレット。
振り回して相手を斬り付けることが出来るほか、空気の刃を飛ばしたり、ガントレットそのものを相手目掛けて飛ばしたりすることが出来る。
【人物背景】
神の遺志を継ぐ者の弟子。神の力を求めて修行を積んだが、100年以上も修行をしても神には認められず、代わりに神をも越える力を手にしようと決意。
魔族のキマロキと結託し、ゼルダ姫の肉体を奪い、魔王マラドーを復活させるも、利用されていただけだった。
助けられた以降は魔王を倒そうとする勇者リンクと、ゼルダに協力することにする。
最終決戦ではゼルダを身を挺して庇うも、魔王マラドーにその肉体を消されてしまった。
【サーヴァントとしての願い】
なし。ただマスターとともに戦う
【マスターへの態度】
神への挑戦を諦めぬ姿勢は尊重するが、それが身を崩すと分かっているため、心配している。
【マスター】
高畑瞬@神さまの言うとおり
【マスターとしての願い】
帰還し、自分の退屈を壊した神まろを殺す
【能力・技能】
なし。ただし、土壇場での瞬発力、発想力、決断力は代えがたい強さがある。
【人物背景】
都立みそら高校二年生。日常を退屈だと感じ、唐突な非日常に対し今までの自分を「殺し」、変わろうとする。
ある日突然、綾小路神まろの創ったデスゲームにクラスごと参加させられ、次々と周りが死んでいく中、ゲームを乗り越えていき、数々の出逢いと別れを経験する。
そしてゲーム『うんどうかい』で仲間と共に、神まろを殺そうとするも失敗。会場の外に飛ばされた後、この聖杯戦争に参加させられる。
【方針】
帰還し、神を殺す。それを妨げるなら、この世界の神も殺す。
【サーヴァントへの態度】
何考えてるか分かりにくいが、確かな力は持っているので期待している。
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東京のとある一角、そこに人々の視線は集まっていた。
ビル下にある喫煙所、そこである男がタバコを吸っていた。
これだけなら、視線は集まらないだろう。
見た目が奇抜?それは一要素、じゃあ、厄介な活動家が彼に罵声を浴びせている?違う、まさか、ココアシガレットだった?もちろん違う。
じゃあ男に視線が集まった理由、それは…
自身のコートにタバコの火が引火していたのだ。
「ん…?」
男が群衆の視線に気づき、向かれているコートを見る。
「…アチチチチチチ!」
遅れて気づく男、そこに水の入ったバケツを持った男がダッシュで駆け寄る。
「おら!」
水を被せ、火を消す。
「行くぞ!ほら!」
男に肩を貸され、奇妙な男は何処かへと消え去っていく。
結局、それは都会の喧騒にもみ消されたのであった。
◆
「たっく…あんたはドジしかしねぇな…」
「悪いな、ライダー」
今度はドジ無しに、家でタバコをつける。
コラソン――ドンキホーテ・ロシナンテ。
天竜人に生を受け、それを捨てさせられ、正義に拾われ、兄を裏切った男。
「そういや、聞いた無かったな、あんたの願い」
「俺の願い…あるぜ…」
「んじゃあ教えてくれ、気になる」
ロシナンテはタバコを吸い切り、ライダーの眼の前に行く。
「…一緒に旅をした子供が居るんだ、そいつの安泰だ」
「…それだけか?」
「あぁ、それ以外、何にもない」
ふぅ…と一息つき、今度はライダーがタバコの下へ向かう。
同じ様に火をつけ、現世に息を吐く。
「あいよ…請け負った…仕事を渡された以上、全うはするぜ」
「そうか、ありがとな、ライダー」
その後、タバコを隣で吸おうとしたロシナンテが、眼の前で転んだのは、また別の話。
◆
-
◆
東京の夜空、一つの戦闘機が空を走る。
それを追いかけるのランサー、ビルを八艘飛びしていく。
「ついて来るかい…なら…行くぜ!」
もともとあっちから付いてきたのだ、弾丸の返礼を返す。
しかし、素早い槍捌きで、すべて跳ね返されてしまう。
「やるねぇ…なら!」
ライダーは宝具を閉じると、直接正面から入る。
「おっと…ただでは落ちないぜ…!」
槍を躱し、拳、蹴り、連続で叩き込んでいく。
並の英霊ではないはずのランサーに、確実な痛みを与えていく。
「はぁっ!」
懐からヌンチャクを取り出し、全てをぶつける。
ランサーは反撃の合間を一つも縫えぬまま、消滅した。
「さて…賞金首狩りの次は英霊狩りと来た、まぁ、やってやるぜ、マスター」
ライダー――スパイク・スピーゲル。
己の人生に終止符を打ち、散った男。
今宵は賞金首狩りではなく、一人、願いを叶えるための戦士として戦う。
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【CLASS】ライダー
【真名】スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ
【ステータス】
筋力C+ 耐久C 敏捷B 魔力D 幸運D 宝具C
【属性】秩序・善
【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。
截拳道:A+
とある武術家の提唱した武術であり、哲学。
体術に加え、武器なども使い戦うなどが特徴であり、ライダーはそれを高いレベルで習得している。
戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
【宝具】
『宇宙駆ける剣(ソードフィッシュII)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
ライダーが賞金首狩りの際、移動及び戦闘に使う戦闘機。
ピーキーな性能であり、高速で移動することが可能、機関銃や大型のレーザービームを装備する。
【weapon】
懐にヌンチャクなどを所持
【人物背景】
賞金首狩り、元マフィア。
愛に生きた男。
【サーヴァントとしての願い】
これと言って…ねぇんだよな…
【マスターへの態度】
いいマスターだが、ドジな所をなんとかしてほしい。
【マスター】ドンキホーテ・ロシナンテ@ONE PIECE
【マスターとしての願い】
ローの幸せ
【能力・技能】
ナギナギの実
超人系悪魔の実。
様々な音を遮断できる「無音人間」
能力は戦闘向きではないが、海軍で鍛えられたため、戦闘技術はかなりのもの。
あとドジ
【人物背景】
元天竜人。
愛した子を守るため、兄に逆らった青年。
【方針】
民間人の被害を最小限に、脱出の方法も模索する。
【サーヴァントへの態度】
頼もしいサーヴァントだ…
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空と大地が、交差していない。
今たたずんでいるこの冥界(せかい)では、天地は等しく闇色だから。
命が生まれることなく、ただ沈んでいく。
輪廻(くりかえし)の無い営みの中。
「ほっとうに……どこもかしこも、五月蠅い」
少女が一人、溜息をひとつ。
もはや吐き出しなれた、というほどに低温度の吐息が、年端のいかない姿からこぼれる。
齢(よわい)をどう見立てても7、8歳ほどにしか見えない体躯と、漆黒のワンピースに純黒のリボン。
異界でなくとも一人歩きを咎められるべき矮小さで。
冥夜のあどけなき獲物だと言わんばかりに浮いていた。
頭の左右から、膝に届きそうなほどの長さで垂らされた二つ結びのまぶしい金髪。
それは破損した街灯によって闇の中でも映え、獲物の所在を目立たせるかのように、枯れた風になびく。
少女のかたわらには身の丈の半分ほどもある大きなバスケット籠がどさりと鎮座していた。
ぬいぐるみや西洋人形といった種々も様々な子どもの遊び相手が顔を覗かせ、公園に行くために一緒に連れ出されて迷子になったとも見える呑気さだった。
その姿を『似つかわしくなさすぎて異質だ』と警戒するだけの知性と理性は、湧いて出る死霊たちにはなかった。
沼の淵から湧いて出るように群がるのは、両手の骨格が肥大し、あるいはその両腕さえも増やした異形の幽鬼たち。
幽体にさえ透けた襤褸をまとい、確かに彼らにも『人間としての生前』があったとうかがわせる。
その外観が、少女の嘆息が向けられる矛先となった。
「死んだ後に逝くのは、争う必要のない場所だと思ってたのに。
あなた達は、死んじゃっても争うのが大好きなんだ」
風体の場違いさの他にも、亡者たちが見落としたものがあるとすれば。
冷めきった少女の容貌が、あまりに子どもらしかぬ眼光を宿していたことだった。
年相応の無垢をすでに剥離させてきたように冷淡で。
繰り返される戦いの果てを見てきたように厭世の念があった。
「ナワバリでも、お金でも、守るとかでも、……目的なんてもう無くなってるのに」
嫌悪と憐憫がたっぷりと載せられた言葉を、煽りと受け取ったわけでもなしに。
少女が『生者』であるというだけを襲い掛かる理由にして、幽鬼の群れは殺到した。
邪念の籠った光弾を放つまでもないと骸骨の腕を伸ばし、我先にと矮躯を手折ろうとする。
それに対して少女は動かず、諦念を抱いたまま受け入れた。
「悪いけど――」
しかし、決して無抵抗ではなかった。
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防御したのは少女ではなく、荷籠から飛び出してきた遊び相手――ぬいぐるみ達。
小さな五体をしならせるように高くジャンプして、身代わりにと骸骨の掌中に飛び込む。
あらかじめ備えていたとばかりに動いた人形たちが発する力の波長は、静電気のように幽鬼の気を引いた。
なぜならその正体は、引きずり取り込もうとした『生者』ではなかったから。
ぬいぐるみを駆動させたのは、本来であれば実態のない微弱な霊魂。
邪気と怨念の無限に湧き出る坩堝でも最下層の霊体――幽鬼として形成される未満の雑霊。
抵抗力の弱い地霊や人間霊を、木の葉や人形などの媒介に押し込めて使役するのと術理としては等しい。
「――自分から争いに入ってくる人には、手加減できないの」
押し込めるための力として用いられたのは、あの世とこの世をむすぶ巫(かんなぎ)の力――巫力。
そして加減なし、という宣告が実証されたのは直後のことだった。
サーヴァント反応もまるでなしに孤立している年少の少女という、格好の餌食。
人形使いの人形たちによる妨害も、わずかな猶予を稼いだのみ。
幽鬼たちにとって片手で人形を圧し潰しながら、もう片腕を伸ばして少女を縊るのは容易だった。
しかし、そのわずかな猶予、たった一瞬の時間があれば十分すぎるほどだった。
少女がそれまでとは比較にならないほどの巫力を充溢させ、一撃必殺を撃たせるには。
―― ド ン ッ ! ! ――
重く、迅く。
火薬の破裂音としては古めかしくも大きい。
鼓膜のみならず身体ごと震わせる揺さぶりが、冥府の街角に響き渡った。
少女に到達していた幽鬼のうち、最前列にいた三体が平等に斃れる。
たった一発にしか聴こえない銃声は、三発の神業めいた早撃ちだったから。
音だけを先行させて、サーヴァントの姿はなく、そして特異なことに実体化の気配さえなく。
ただ、正確に霊体としての急所を撃ち抜かれた亡者が三体、霧散していく。
続けざまに殺到するところだった後列のゴースト達は、銃声を放った敵手を探すように首を惑わせた。
バスケットの荷籠を這い上がって表れたのは、巫力で形成された実体なき硝煙を立ち上らせる拳銃――を構えた人形。
サーヴァント反応ではなく、少女の巫力を小さな身体に纏わせた、しかしはっきりと生者ならざる存在。
手縫いの太い編み目でできた大口と大きな両眼が印象的な、手袋にマグナム拳銃を固定するガンマン人形だった。
「葬者(マスター)だってきっと、そういうものだから」
さまよえる死者の魂。
大地の森に息衝く精霊。
そして神仏。
これらと自由に交流し、人間ではなしえぬ力をこの世に行使する者達がいる。
彼らは――。
🌸 🌸 🌸
-
これは戦争なのだと知ったところで、少女は不当だとも理不尽だとも思わなかった。
人間がいる限り、争いごとは無くならないと分かっていたから。
人を呪いながら絶命する負の想念も。
不可避の悪夢として見せられる、遺体と血の海も。
いつも頭が割れそうなほど五月蠅く聞こえてくる、嘆きと妄執の声も。
毎晩のように街のどこかで誰かが殺し合う気配が伝わってきて眠れないのも、慣れていた。
少女が生まれ育ったナポリは、そういう街だったから。
何も、不当な人生を押しつけられたりはしてない。
父親は犯罪集団(マフィア)の首領(ドン)で、母親はその愛人だった。
父親は、いずれ争いの中で殺されることを承知の上で街一番のマフィアを継いだ。
母親は、父親の争いに巻き込まれることを覚悟の上で日陰の女になり、少女が生まれた。
ならば後のことも、なるべくしてなったこと。
マフィアたちは事情がどうあれ、自分で人を傷つけることを選んだ人達。
マフィアに日々虐げられる街の人々が、少女を疎んじるのも無理のないこと。
だとしたらそれは、不条理ではなく条理だ。
みんなが己の選択で、自分にとって大切なことを優先しただけ。
少女も苦しみの連鎖に加わらないために、悔やまず呪わず受け入れないといけない。
家族や大切な人は、みんな殺されたことも。
街中からお前の父親のせいだと石をぶつけられ、消えろとかバケモノとか言われたことも。
昨日まで『本当の家族(ファミリー)』だと謳っていた黒服達が簡単に裏切り、撃たれながら逃げまわったことも。
やったら、やり返される。全て仕方のないことで、なにもかも当然の結果。
人間は変わらないし、未来は変えられない。
現実なんてこんなもの。
こんなものとよぎった時に、願望器(ユメ)は力を亡くす。
でも。
こんなものでいいわけないと思ってしまった。
全然良くないと、正しいことだとしても、心が納得できなかった。
だって、大好きな人達がいて、大嫌いな奴等がいた。
亡くした時に、この痛みはずっと消えないと分かってしまった。
父親(パパ)は娘に幽霊が見えても、娘に幽霊の友達がいても、嫌な顔一つせずに可愛がってくれた。
どこまでいってもマフィアだったパパに思うところはたくさんあったけど、好きだった。
母親(ママ)はパパのお金と権力に頼らない働き者で、文句なんて一つもない『お母さん』で、大好きだった。
そしてパパやママへの好きとは違う気持ちで、好きだった人がいた。
十一歳も年が離れたマフィアの下っ端で、パパに選ばれた少女の付き人だった。
周りのマフィアたちはみんな耳障りで『五月蠅い』という気持ちにさせられたけれど、その人だけは違った。
その人と一緒にいるとやかましくて、にぎやかで、『うるさいうるさいうるさい』という気持ちにさせられた。
『家族(ファミリー)の為』なんて言葉で暴力を正当化するくせに、いざとなれば裏切りの牙を剥くウソがまかり通る世界で。
ただ一人、嘘のない笑顔を向けてくれたバカな人。
-
――必ず守ります!!
そんな『変わった人』であっても、『誰かの為に撃つ』ことからは逃げられないし、逃げたりしないんだと教えてくれた。
――きれいだなぁ………って……
もしかすると、両想いだった。
好きだったとは、伝えられなかったけれど。
家族のことが大好きだった。
家族の為だなんて馴れ合いを理由にして誰かを殺すような人達が、大嫌いだった。
争いのない世界がほしかった。
皆には天国みたいに静かで安らかな庭にいてほしかった。
両親と好きな人を殺した連中のことを、少女は迷わずに撃ち殺した。
少女もまた、目的のために暴力をふるうことを迷わない人間になっていた。
くだらない。
あまりにバカバカしい。
ベタベタと群れをなして気持ち悪い。
傷口が塞がらず、ただ痛みに慣れていくだけ。
こんな世界に本気で付き合っていくなんてバカみたいだと、誰かに否定してほしかった。
もしも聖杯戦争(これ)が地上で最後の争いになるというなら、その奇跡を望んでみたかった。
『今日は死ぬにはいい日だ』と笑って眠れる、そんな世界になるというなら。
嘘じゃなく救われるには、まだ遠かった。
🌸 🌸 🌸
さまよえる死者の魂。
大地の森に息衝く精霊。
そして神仏。
これらと自由に交流し、人間ではなしえぬ力をこの世に行使する者達がいる。
彼らはシャーマンと呼ばれた。
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しかし、英霊とはただの霊魂ではない。
霊基の格として比べるまでもなく格差があり、どんなに優秀な魔術師であれど憑依される負荷に耐えられはしない。
『英霊の人間ではなしえぬ力を人の身でこの世に行使する』ことは、ごく限られた例外を除いて不可能である。
疑似サーヴァント、英霊合体、英霊憑依、デミ・サーヴァント。
魔術師たちが講じてきた『英霊を人間に憑依させる』技術の数々は、いずれもそのために製造された人間、あるいは極めて相性の良好だった所縁ある者を依り代にすることが前提だった。
それらはいずれも、本来の聖杯戦争では起こり得ない憑依現象だった。
だが、この聖杯戦争はこの世のそれでもなければ、『生身の肉体』が行う戦争でもない。
死者の願いによって誕生した、死者の為に運営される聖杯戦争である
冥奥領域において、すべてのサーヴァントは『記憶の転写でしかない死者の世界』に根を下ろせる、場合によっては陣地を敷けるような存在として現界する。
またすべてのマスターも、暫定的な死人、生身の肉体と必ずしも同義ではない存在として扱われる。
そこに契約のレイラインが結ばれれば、双方の魔力は共有される。『巫力を上回る霊力を持った霊は扱えない』という原則は更新される。
もう一つの例外事由は、少女が習得した術技の特異性に依った。
強大な霊魂を物体の中に押し込めるのは本来であれば『できない』事。
シャーマンはその『できないこと』を『できるようにする』ではなく、『できないことのまま』に武装として副次利用している。
霊が依るための形代であったり魔術的措置であったりの無い道具に霊体を封じれば、器の容積は足らずに霊体が溢れ出す。
その容量オーバーになった魂(ソウル)を、シャーマンの巫力で霧散させずに成形する。
そうなれば媒介は神秘を宿した実体として、物質兵器の介入を受け付けない形で生前の本質を再現する。
そしてさらに、もう一つ。
少女はシャーマンとしては幼く、修行中の身ではあったが。
あくまで契約したその英霊に限定して言えば、『平時の持ち霊』と全く同一のイメージを重ねることが可能だった。
その瞬間だけ、死者は疑似的に『蘇れ』と命じられる――それをオーバーソウルと言う。
――キン、と。
真っ黒な視界に、金色の波紋が輝いて広がるような。
そんな澄みきった高い音が響いた。
媒介となるガンマン人形に霊体の弾丸が装填され、発砲されて。
実体なき硝煙とともに、実体なき空薬きょうが落下した音だった。
-
――ファイア!!
霧散する幽鬼たちの残骸を目くらましにして、駆動する人形が敵性体の視界をすり抜けて駆け出す。
その動作が完了する頃には、もう続けざまの銃撃は終わっていた。
澄みきった音にかぶさる『ド ン !』 という重たい発砲音が、何度も冥界を揺らす。
ガンマン人形が巨大な幽鬼たちの腕をその小ささで掻い潜り、大型拳銃をぶん回して嵐を起こす。
その嵐には、火薬の雷撃と、硝煙の暗雲が伴っていた。
少女はガンマン人形の大立ち回りに守られながら、かがみこんでぬいぐるみ達を拾っていく。
幽鬼たちに掴まれたことでいくらか襤褸に近い形になっていたが、発砲が早かったために潰されてはいなかった。
それらを元の通りに荷籠にしまうと、ガンマン人形が眼前に戻ってくるのは同時だった。
そして少女たちの頭上に、ひときわ巨大なヒュージゴーストの影が差すのも。
――マリオン! キャッチして!
――言われなくても
念話でファーストネームを呼ばれた少女は、人形の綿がつまった髪をむんずと掴んで、ぶら下げる。
それは魔力(巫力)を上乗せして貫通力を底上げした弾丸を放つにあたって、銃撃の反動を抑えるためにベストの固定方法だった。
『ドォン!!』とたいていの大型生物であれ仕留められそうな銃撃音が鳴り響き、ヒュージゴーストの眉間に穴があく。
その残響が鳴りやまぬうちに、立て続けの指示は交わされていた。
それは『そろそろ』という経験則も含めてのものだ。
――マリオン、シャドウサーヴァントが後列に詰めてきた。潮時だ。
――うん。アーチャー、着地任せた。
――オーケー。魔力装填(マグナムクラフト)よろしく!
いまだに銃撃の反動で揺れている人形を、さらに遠心力で振り回して投擲する。
少女の腕力ではあれど、人形の身の軽さと、銃撃による反動付加が合わさればぽんと幽鬼たちの列が飛び越えられ、そして。
霊体化、解除。
オーバーソウル、同時解除。
人形が、人の姿を取りもどした。
直前まで手掴みされていた大きさの影が、人間の姿をした奇跡に化ける。
手縫いのおもちゃを使った火遊びが、人影の伸長とともに戦いの次元を変える。
ずしんと幽鬼の背後を取り、シャドウサーヴァンを眼前に構えるのは人であり守護者であり、蘇った英雄。
少年カウボーイの装いをした端正な金髪の青年の立ち姿。
否、どう見ても二十歳を超えていない外見は、現役で少年と呼称できたかもしれない。
その利き腕に握りしめられたのは、コルトM1877ダブルアクション拳銃。
アスファルトの路地にはありえない、土埃の煙たさが一帯に薫る。
それは青年にとって、硝煙と同じぐらいその身に馴染んだ開拓時代の荒野の香りだった。
境界記録帯(サーヴァント)。ビリー・ザ・キッド。
二つ名を少年悪漢王。
オーバーソウルよりも、さらに桁が違う霊力の圧が質量ある人影として、着地音とともに冥府の大地を踏んだ。
それは、本来であれば少女にはまだ到達できない英霊使役術。
オーバーソウルを極めてようやく到達できる、最高次元での生前再現。
冥府の神秘の底(そこ)には、まだ底(さき)がある。
魂のサルベーションによって導かれた存在――本物の英雄(サーヴァント)。
「さぁ、マスター。駆け足だ!!」
念話ではない、実体をともなった肉声と同時。
少女はサーヴァントに背を向け、魔力だけを意識してサーヴァントに注いだ。
幼いシャーマンが専ら操る人形に抱くイメージ、『霊力で構成された弾丸の模造』 が、そのまま早撃ちの補正に充てられる。
必中の加護がついたことを示す、魔力反応が射手に顕れたのと、同時。
墨色の帳を、それまでよりもなお猛々しい雷鳴が大きく、三連撃を一塊として、空間を切り裂いた。
続けざまに、ガンマンの姿をした雷霆が暗雲のふところで暴れまわる音を背後に。
人形遣い(ドールマスター)の少女――マリオン・ファウナは冥界の外れから会場内へと帰還した。
🌸 🌸 🌸
ひなびた公園の隅っこ、花壇の縁石にマリオンは腰を下ろしていた。
つねに帳が降りた世界から戻ってきた後の児童公園は、昼間なのに手入れも乱雑なひなびた空間で。
景色だけは美しかったナポリの青海と広大な自然公園、白亜の街並みには似ても似つかないほど閑散としていた。
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――ここ数日、ずっとこんな調子だけれど。マリオンが納得いくものは見れたかい?
はいどうぞと、己が憑依していた人形をふたたび少女の胸元へと手渡し。
母親の形見であるそれを、マリオンは安心毛布のようにぎゅっと強く握りしめた。
イタリアと違ってこの国では、本物ではないかと疑われただけで警官がやってくる。
自然と屋外で抱っこして歩く機会も減ってしまい、おおっぴらに抱きしめられる時間は貴重なものだった。
――うん……みんな知らない人達だった……未練や恨みのありそうな霊ばっかりだった
ただ亡者たちやシャドウサーヴァントの集う会場外に赴き。
己のサーヴァントを人形に憑依させることでマスターの巫力によってサーヴァント反応を覆い、マスターの気配だけを目立たせて。
少女を獲物と定めて襲ってくる幽鬼たちの顔ぶれ、生前の面影を一通り確認しては、顔をしかめて撃退、撤退する。
そんなにいやな気分になるなら行かなければいいのに、と言われること承知で繰り返していたその奇行に対して。
――良かった……
マリオンは一人、満足によって大きく息を吐いた。
確かな成果はあったと言わんばかりに。
――君が『天国にいて欲しい人』はここにいない。そう思ったんだね?
――うん、トニーは分からないけど、シャーマンだったママなら、マリが来ればきっと気付くから
でも来なかったんだから、そういうことだと。
その言葉の意味が分かるだけの問答を、行動の理由を、サーヴァントはすでに問答していた。
その行動は、現世へと立ち戻る脱出口を探すためなのか――違う。
まだこの世ですることがあったのも、戻りたかったのも心にはあったが、それが目的ではなかった。
ならば優勝へと勝ち進むことを目標に、力試し、修行や仲間集めに励むためだったのか――それも違う。
確かにシャーマンは死に近づくことで巫力を上げる余地を持つが、それを意図しての行動ではない。
むしろ冥奥領域において臨死の体験は運命力の消費と裏腹であることを、少女はルールとして忘れていない。
そしてサーヴァントは答えを知り、驚く。
それは己の為でさえなかったからだ。
――死んじゃった人がみんな、こんな地獄に堕ちるんじゃなくて、良かった……
『新しく造られた』 と標榜されている冥界。
その成り立ちを頭に刻まれて、マリオンはとても不安になった。
聖杯によって造られた、死者を集めるための新世界だというなら。
本来は天国に逝くはずだった優しい人達も、この場所に落とされてしまうんじゃないかと。
だとしたら、死後も生者を狩るために争わなきゃいけないなんて。
ママや好きな人は、たとえ成仏できたとしても、救われないし、救えないことになってしまうから。
誰も呪わず、迷惑をかけないために成仏した人達は、その心を理由にして安らかな階層(コミューン)に逝ける。
そういう仕組みじゃなかったなら、あまりにも報われないから、と。
-
――付き合ってくれてありがと……これからはちゃんと聖杯戦争、するから。
それは、祈りのようだとビリーは思った。
少年時代のビリーが、母親からどんな人間になったとしても決して欠かしてはならないと約束させられた言いつけ。
アウトローでも、悪漢王でも、それを捧げる瞬間だけはわずかばかり清らかな心持になれる縁(よすが)。
だとすれば、彼女の心は美しい。
たとえ幼い心に憎悪があり、この先の人生で、生還した先の世界で、殺戮をするのだとしても。
これより我が銃は貴女とともにあると、告げるに値する。
もっとも当のレディーは、あまり真っ直ぐすぎる言葉を向けられると困惑してしまうようだから言わないのだけど。
そして、そうやって今は亡き人達を数多く抱えが彼女の境遇と、それまでの言動で、分かってしまった。
彼女が思い描く『争いのない世界』が意味することは、おそらく世界平和ではない。
おそらく、誰もが静かな眠りにつく世界だ。
――これが、世界で最後の戦争になったらいいね
本心からの願いとして独りごちる。
これからのことを想い、相棒(チャック)の名残りであり、母から贈られた小さなガンマンをぎゅう、とかき抱く。
迷いはなくても、恐怖はあった。
争うのは全てが葬者――あの世とこの世の繋ぎ目に迷い込んだ者達だ。
ならばマリオンがついて行くことを決めた『あの人』のような存在――最上位のシャーマンがいても不思議ではない。
今のマリオン一人では、どんなに頑張ってもナポリじゅうのマフィアを撃ち殺すぐらいがせいぜいだろうけど、あの人は違う。
あの人の力は、きっと軍隊とか都市だとか国だとかいった大きなものを向こうに回しても、渡り合える力だ。
もしも、あの人のような葬者が競合相手にいたとして。勝てるかと問われたら心もとないけれど。
まだ死ねないし、その為なら戦禍を振り撒く道を選んだことは、自分が一番よく知っている。
――戦争のない世界は、僕だって見たことないさ。でも、静かに眠れる夜ぐらいはきっと叶うと思うよ。
あまりに楽観論だと少女の気を逆立てないよう、ビリーは努めて軽口をたたくように言った。
知り合ってしばらく経つけれど、一度も笑った顔を見せない少女。
ビリーは騒がしい人間のことが苦手だけれど、明るく楽しい人の方が好きだ。守るべき少女であれば、なおさら。
それが一度も微笑まないというのは、もう彼女の理想とする世の中が正しいとか間違ってるとか、それ以前のことだろう。
心が摩耗した女の子を無理に嗾けるつもりはないけれど、心を溶かす機会を過ってはならないと内心に警告する。
撃つことのみで英霊の座についた男は、弾丸と同じく、言葉もまた早撃ちが至上だと知っていた。
なぜなら伝えなければいけない瞬間は、いつも伝えようとする時よりも、少しだけ手前にあるものだから。
【CLASS】
アーチャー
【真名】
ウィリアム・ヘンリー・マッカーティ・ジュニア(ビリー・ザ・キッド)@Fate/Garnd Order
【ステータス】
筋力:D 耐久:E 敏捷:B 魔力:E 幸運:B 宝具:C
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【属性】
混沌・中庸
【クラススキル】
単独行動:A
騎乗:C+
【保有スキル】
射撃(A++)
銃器による早撃ち、曲撃ちを含めた射撃全般の技術を表したスキル。特にA++ランクともなると、百年に一人の天才と言うべきレベルである。
クイックドロウ(A+)
射撃の中で早撃ちに特化した技術。A+ランクならば、相手が抜いたのを見てから抜いても充分間に合って、お釣りがくるレベルの腕前である。
心眼(偽)(C)
直感・第六感による危険回避を示すスキル。虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。同時に視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。
【宝具】
『壊音の霹靂(サンダラー)』
ランク:C++ 種別:対人宝具 レンジ:1〜100 最大捕捉:1人
ビリー・ザ・キッドが愛用していたと言われるコルトM1877ダブルアクションリボルバー(通称「サンダラー」)によるカウンターの三連射撃。
彼に纏わる逸話が宝具化したもの。正確に言うと拳銃が宝具という訳ではなく、「この拳銃を手にしたビリー・ザ・キッドの射撃」全体を包括して宝具と見なされており、固有のスキルに近い。
サーヴァントの知覚として周囲の時間の流れをスローモーションにし、状況を完全に把握した上でカウンターの射撃を叩き込む。それがアーチャーの狙撃であれ、セイバーの斬撃であれ、相手の居場所を完全に把握して急所に最大で三連撃を食い込ませる。
射程はサーヴァントとなったことで、生前の数倍以上に広がっている。
ただし、これは「回避可能な攻撃」のみに通じるカウンターであり、回避不可能な攻撃手段に対しては意味を成さない。
この宝具のもっとも悪辣な点は「技術」という大部分に宝具の概念が割かれていることによる、魔力消費の少なさである。具体的にはEランク宝具を使用するのと同程度の消費しかない。
【weapon】
コルトM1877ダブルアクションリボルバー
【人物背景】
アメリカ西部開拓時代の代表的なアウトロー。1859年生、1881年没。
現代でも極めて人気は高く、残された彼の写真が、オークションで二億円の値がついたことからもそれを窺い知れよう。
父親は不明だが、母親から高等教育を受けたらしく、西部のアウトローにしては達筆の手紙が残されている。
本来は喧噪よりも薄ら寂しい夜の方が好きな変わり者。
【サーヴァントとしての願い】
アウトローに主従とかは無理。
けれど撃つことを求められたなら
【マスターへの態度】
少女が生還のために戦うことは肯定し、守護したい。
聖杯で叶える願いの全ては讃えられないかもしれないが、争いをなくしたい心は認めたい。
ただマスターに必要なものは世界の救済ではなく自身の救済だと感じている。
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【マスター】
マリオン・ファウナ@SHAMAN KING &a garden
【マスターとしての願い】
死ぬのは目的を成し遂げてから。
もし争いをなくす奇跡が手に入るなら、『ハオ様』 へと持ち帰る。
たとえ争いをなくす手段が、新世界にそぐわない人間を間引くことであったとしても。
【能力・技能】
シャーマン・人形遣い(ドールマスター)。
人生の全盛期においては巫力6万程度に成長するが、この時点ではオーバーソウルを習得したばかりの『修行の余地あり』 程度のシャーマン。
習得技能は人形に霊を憑依させての遠隔操作。
(反動の大きい拳銃を撃たせるために、常に手元において固定砲台として扱うことはある)
ただし憑依による遠隔操作は、形代や呪具などの特別な道具を必要としない代わりに、他の多くのシャーマンがそうであるように霊魂と最低限の信頼関係を必要とする。
冥奥領域においてはNPCが魂を持たない記憶の転写であり、会場外のエネミーもほぼ生者を獲物と認識することから、未成熟な雑霊を小間使いとして使役する程度にしか使えない。
他にもオーバーソウルを人形操り以上の武装として発現するには、以下の制約がある。
・マリオンが本来のオーバーソウルと同じ形態をイメージできるアーチャー(ビリー・ザ・キッド)に対してのみ使用可
・マリオンの巫力において制御可能な範囲でしか発現できない。発現中のサーヴァントは霊体化している扱いとなるため、サーヴァント反応よりもマリオンの魔力反応が顕著に顕われる。
(ぶっちゃけ普通にサーヴァントを実体化させて戦わせた方が正面戦闘においては絶対に強い)
また、占い師だった母親からの遺伝で、人の死期を不定期に読んでしまうことがある。
冥奥領域内で何らかの発現するかどうかについては詳細不明。
【人物背景】
未来のシャーマンキングとなる少年に、拾われた時点での少女。
なんともならない。大切なのは力だ。
幽霊の見えない奴にもいい奴はいて、しかしそんな『いい奴』でさえ争いと死を撒き散らす仕組みの中にいた。
悩んで迷った末に、そんな答えに至ったシャーマン。
その笑顔と心を、きれいだと言われたこともあった。
シャーマンキング本編にも十代以降の姿で描かれるが、外伝『アンドアガーデン』のマリオン編のみで把握可能。
(単行本3、4巻。マガジンポケット配信版の第11廻〜第15廻に該当する)
【方針】
迷わず争い、勝ち残る。
生きて地上に戻る為ではあるが、奇跡を掴むことが視野に入るなら願うことは決まっている。
【サーヴァントへの態度】
彼を呼び寄せるにあたって元の相棒(チャック)と引き離されたことはかなりの不本意。
とはいえチャックと『似た人種』であることも感じており、持ち霊と同じように接すればいいかと思っている。
ビリーの動機の一端が『母親』であるらしいことには、ちょっとだけシンパシー。
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投下終了です
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投下ありがとうございました。
こちらも投下します。
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(1/4)
暗闇の中で幽鬼(ユウキ)は目を覚ました。
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(2/4)
「……ん?」
瞼を開けてもいっこうに明るくならない視界に、幽鬼は仰向けのまま首を傾げた。
「……んー?」
なにかがおかしいと、逆方向に首を傾げる。
ただ暗いというのであれば、こうはならない。幽鬼は夜型人間で、暗闇でのゲームの経験もあるのだから、それ用に夜目が利くよう訓練してある。
視力の著しく落ちた右目も、既にものの判別ができないほど濁っているが、明暗ぐらいの区別はつけられる。
しかしこれはおかしい。電柱や深夜営業のコンビニの電灯も、月明かりですら感じられない、深い森の中に入ったも同然の完全な暗闇だ。
少なくとも目を覚ます前の記憶ではまだ左目は健常だった筈だ。両目の機能不全の原因に、まったく心当たりがない。
よもやとうとう右目の機能が停止し、それに引きずられて無事な方の視力も無くなってしまったのか……。
薬の効果がまだ残って寝ぼけたままの愚鈍な思考が良からぬ想像をし出した辺りで、顔にある違和感にやっと気付いた。
「あ、目隠しか」
それも目の部位だけを隠すアイパッチなどではなく、どうやら布を巻きつけて固定して視界の一切を遮断する本格的なタイプだ。
一度気づけば、みるみるうちに身体は覚醒する。幽鬼はベッドから上半身を起こし両手を後頭部に回して、布を留めてる為にあるだろうフックを探す。
自分で付けた憶えがないので、どこに留め具があるか、どうやれば外せるかまでの全部が手探り作業の中、どうにかこうにかフックらしき突起を見つけ、拘束を外す事に成功した。
そうして両腕を前に戻して目隠しを取ろうとする寸前に、六十二回の経験が鍛え上げた第六感が待ったをかけた。
───まさか、目隠しのままでいるのがルールなんて事は、ないよな?
回した手を停止させたまま、考察する。
……何らかの条件、アイテムの所持が勝利条件になっているゲームは確かに多い。
ただ過度に行動を制限する条件や拘束はプレイヤーの動きを硬直化させ、結果的にゲームの盛り上がりを欠けさせてしまうだろう。
させるにしても事前にルール説明を施している筈。初手で目隠しを外して自滅するプレイヤーを続出させるなんて、興を削がれること請け合いだ。
少女達が必死に命を懸けて生存を目指し時に他者を蹴落とす、一般的なやり取りが大多数となる観客のご要望にお応えする為、一部の特殊な嗜好をお持ちの少数派には、運営も涙を呑んで切り捨てている事だろう。
……企画側の心理に立った分析だが、概ね間違ってるとは思わない。
後々になってこれが必要になってくる場面を用意してる可能性はあるが、少なくとも今外してどうこうなるかは考えづらい。
改めて、止めていた腕を前に出して───目を焼き潰すような白の視界を開いた。
「っ……」
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投下します
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パチパチと瞬きして目に入る光量を調節し、少しずつ鳴らしていく。
暗所での訓練と同様、暗所から急に強烈な発光で目を晦ます攻撃にも予測と対処をつけている。
細めで僅かに取得した情報から、幽鬼が今いる場所が個室であるのは把握した。
一人暮らしには十分足りる程度のワンルーム。幽鬼の住宅とそう変わらない(清潔さは考慮しない)。
その中に動くもの───幽鬼めがけて突っ込んでくるような物体が見えないところまで確認して、安全と判断。
焦らずゆっくりと回復に努め、やがて元の、右側が曇りガラスから見る夜の風景みたいになった視界に戻る。
手に持った、外した眼帯を見る。
黒地のベルトっぽくて、目の保護を目的とした肌触りの良さより、見えなくする事自体を目的にしたような造りだ。
先程の幽鬼を見れば、黒いマジックペンで目にラインを引いて隠した、テレビで報道される未成年の犯罪者の写真みたいだったろう。
ルール通知が来るまではじっとしていよう。
ゲームのセオリー通り待機しつつ、少しでもゲームのテーマを予想するべく部屋を見渡そうとして……突如として幽鬼の頭に鈍重な衝撃が走った。
「う……っ?」
咄嗟の反射で手で庇う動作を取るが、痛みの出どころは外からではなかった。
頭蓋の内側、空洞に収まった幽鬼の脳味噌が、突如として湧いた文字の羅列に混乱して生じた痛みだった。
「何だこれ……聖杯、戦争……?」
次々と入ってくる……いや、始めから知っていた事であるとでもいうように浮かび上がってくる謎の説明書き。
学校のテストで答えの法則が分からないまま、勝手に答えの解き方を強制的に理解させられる、そんな矛盾の並行。
冥界。死霊。聖杯。葬者。マスター。魔術師。英霊。サーヴァント。令呪。領域。
どれだけ混乱していても入っていた言葉に脳は理路整然としたと説明を受け入れているのも、また気持ち悪い。
まさかいよいよ運営はプレイヤーの脳に直接情報を植え付ける技術を導入したというのか。
最初の【防腐処理】から改造人間ばりに身体の隅々を弄られても気に留めなかった幽鬼だが、唯一手つかずの生の自分だった部位まで侵されたというのには、少なからず思うところがあるらしい。
自暴自棄の世捨て人同然にこの業界に入っておきながら、なんだかんだで自分の体に愛着があったのか。
現実逃避的なノスタルジーに浸りそうになった時、今度こそ現実で自分に近づく黒い影に気づいた。
「マスター、目が覚めた?」
「マ……?」
迎撃反応を取らなかったのは、殺気がなかったから。
幾ら一瞬しか見れなかった暗闇でも、生き物の存在を見落としたりはしない。
右目の不利をフォローするべく他の感覚も鋭敏に開くよう調整している。
なのに幽鬼は、そこに立つ人物を今の今まで認識できなかった。
そして現在は、別の理由で認識を忘れた。
「─────────────────」
芸術が、置かれていた。
-
銀を融かして液体にしてから、一本一本までを頭髪に変えた色。
肌は正に陶器そのもの。毛穴もしみも見当たらない、なのに柔らかさを備えた奇跡の素材。
その肌で覆われた肢体は天上の楽園の果実。見るだけで舌が甘くなる、五感を突き抜ける禁忌の劇薬。
……ゲームの趣旨上、参加するプレイヤーはみんな可愛い
美人、ロリータ、カッコいいの属性、嗜好(フェティッシュ)の違いはあれど、殆どが整った容姿をしている。
中にはかなり特殊な属性持ちをねじ込んだり、権力者を骨まで蕩かせる傾国レベルの美女もいた。ちなみにどちらも同一人物だ。
『彼女』はその子とは同一にして対極。
職人がパーツの一点一点細部に至るまでを精魂を絞り尽くす気で綿密に製造し、それらを一部の隙間もなく組み合わせて出来上がった、珠玉の工芸品とでもいうべきか。
ここまで来ると『美人』を外れて『芸術』 のカテゴリに入ってしまってる。ジャンルが変わっているのだ。
「……マスター?」
「えっ? ぁあ私か。うん、そうだよね多分……」
返事がこないのを不審に思っての再度の呼びかけに、初対面の人と会話し慣れてない陰気な子みたいに、ごにょごにょとしてしまう。
顔立ちからして日本人じゃない。流石に運営も外人を勧誘すると国際問題に発展してしまうのか、ゲームで見たプレイヤーは日本人ばかりだ。
直視した顔には、さっきまでの幽鬼と同じ形状のアイマスクが巻かれている。
目を隠された美人というのはそれだけで倒錯的な魅力を与えるが、そこ抜きでも絶世の美形である。
スリットが深く太腿部位の露出は高いが華美のない、喪服の印象を与える衣装。
視線が隠され引き締められた表情が、麗人の雰囲気を強めている。
サーヴァントという、このゲームでの自分の相棒は、胸の前で左腕を構え、軍人よろしく機敏に敬礼をした。
「召喚に応じ参上した。
サーヴァント、アルターエゴ。登録真名、ヨルハ2号B型。
これよりあなたの指揮下に入る」
-
(3/)
プレイヤーネーム、幽鬼。本名、反町友樹。
職業は殺人ゲームの参加者。普段は夜間学校に通っている。
ゲームとは一種のショージビジネスで、「観客」の要望に応えての生きるか死ぬかのデスゲームを行う。
生存すれば運営から賞金が貰える。プレイヤーの参加目的は概ねこれ。
運営の正体は謎。少なくとも日本国内であればこういった非合法のゲームを何年も回していけるだけの強いバックがいる。
運営について詮索する者やゲームの存続自体を危うくする者は、当然排除される。ゲーム外部であっても例外ではない。
プレイヤーは運営側から事前に説明を受け参加するかを決める。強制ではなく拒否権がある。
選定基準は主にふたつ。女性であることと、美人であること。
年齢制限は特に設けられてないが、条件と生存率の問題から十代前後であるのが殆ど。
ゲーム内容は千差万別。とはいえある程度のルール、セオリーは共通している。
エリア内を一定時間まで生き延びる生存型。制限時間内にエリア外へ出る脱出型。個人もしくはチームを組んで直接殺し合う対戦型。
大まかにこのみっつに分類されるが、特殊なルールや複数組み合わせた種目になる場合もある。
ゲームエリアには無数のトラップが設置され、殺し合う必要性がなくても犠牲者が出る。
一度のゲームの参加人数は、十人以下から数百名までバラつきがある。
プレイヤーはゲームのテーマに合わせたコスプレ衣装を着用する。一般的な学生服からタオル一枚の変態間際までジャンルは様々。
難易度は調整され、死亡率はそう高くない。初心者でも運と実力次第で生き残れる目がある。
ただし観客を飽きさせない為、完全なゼロにはならない。必ず一人は脱落するようになる仕掛けがある。平均的な生存率は7割程度。
プレイヤーには〈防腐処理〉が施される。人が死ぬのは見たくても、あまりに生々しかったりスプラッタなシーンは好まない観客に向けた配慮だ。
出血は白いフェルト状の何かに変わり止血される。全身をバラバラに切り刻まれても肉や内臓が露出する事はない。
死体が時間経過で腐ったりもしないし、体臭も消されてる。人死にを奨励しながらクリーンな職場を約束している。
ゲーム中の負傷は無料で治療してもらえる。運営の医療技術は一般より傑出している。手足の切断ぐらいなら傷跡も残さず元に戻してくれる。
パーツの紛失やデリケートな部位は適用外だが、腕の良い「職人」から本物と大差ない精巧な義肢を提供してくれる。
幽鬼のプレイスタイルは「利他」。徹底した生存を目的にしたスタイル。
複数人が参加するゲームでは他者の協力を必要とする場面が多く、生存者を増やす事をクリア条件の緩和に繋がる。
ゲーム中の素行は生存者から伝わるので、有効的に接して評判を高めておけば、以後のゲームでも協力を取り付けやすくなる。
幽鬼がゲームに参加する動機は、記録の為。
前人未到の九十九連勝。特に景品が賞与が与えられるという話は聞かない。
師匠が目指し、自分が勝手に引き継ぐ形で、誰も届いた事のない記録に辿り着く事を人生の目標にしている。
現在幽鬼のスコアは六十ニ連勝。様々な負傷を抱えつつも継続的に更新中。
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放課後を迎えた住宅地の一角にある高校。
1日の授業を終えた生徒達は帰宅したり、友人達と遊びに行ったりしている。水鶏は校舎の屋上から、グラウンドで練習する運動部員達を眺めていた。
「何してるの?」
「あ?陸上部員見てた」
背後から投げられた声に、水鶏は振り返る。スーツに身を包んだ若い女性が微笑を浮かべて立っていた。
「他のマスターは?」
「今のところ、それらしい人はいないね」
「そうか」
会話が途切れる。彼女…ライダーのクラスで現界したマキマが、聖杯戦争に参加する事になった水鶏の相棒である。
★
「マスター、変わった匂いがするね」
「あぁ?」
「体臭の話じゃないよ。人間とは少し違う感じがする」
「そういうのわかんのか?サーヴァントってのは」
出会ってすぐ、変わった匂いがすると言われた水鶏は喧嘩腰になったが、マキマの言葉に怒りを引っ込めた。確かに、彼女は純粋な人間ではない。
水鶏は桃太郎の子孫と戦う、鬼の血を引き継いでいる鬼の子孫だ。
「差し支えなければでいいんだけど、何が出来るのか、それと聖杯にかける願いを聞かせてくれない?」
「何ができるか…私は、私の血が一定量付着した奴らを従順な下僕にできる」
水鶏はマキマに、自らの秘める能力を明かした。
「願いは別にねーな。さっさとロクロの所に帰りてえだけだし。勝ち残らせてくれたら、ライダーにやるよ」
水鶏はこんな戦いに参加している程、暇ではない。桃太郎達との戦いが続いているなか、自分が欠けたら誰がロクロの世話を焼くというのか。
「ロクロって?」
「愛する男…おい」
水鶏は眉を顰めた。
「心配しないで。会った事ない人をマスターから取り上げようなんて思ってないから」
「当たり前だ、バカ!私の男、たぶらかすなら令呪使うぞ」
「わかったから、機嫌直して」
不満げに鼻を鳴らす水鶏を、マキマは微笑みを浮かべて眺める。
「そういうライダーは聖杯に何を願うんだよ?」
水鶏はマキマに尋ねる。ロクロに危害が及ぶ
ような願いなら、マキマを出し抜く必要が出てくる。
「どうしても会いたい相手がいるの。話すと長くなるけど、今は封印されてて、それを解くために聖杯が欲しいんだ…」
「そうか。それなら絶対勝たねえとな」
「うん。頑張ろうね」
-
【サーヴァント】
【CLASS】
ライダー
【真名】
マキマ、或いは支配の悪魔
【出典】
チェンソーマン
【性別】
女
【ステータス】
筋力D + 耐久EX 敏捷C + 魔力A 幸運B 宝具A +
【属性】
秩序・悪
【クラス別能力】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:E
騎乗の才能。大抵の乗り物なら何とか乗りこなせる。
【保有スキル】
支配の悪魔:A
人間が概念や生物、非生物などに恐怖を抱く事で生まれる怪物。恐れられているほど力を増し、容姿が人間に近いほど人間に友好的である。
悪魔は司る名前に応じて特殊な能力を備えており、マキマの場合、自分より程度が低いと思う者を支配できる。その効果は小動物の聴覚の盗用、他者への暗示や記憶改竄など多岐に渡る。
英霊の支配を試みる場合、真名の把握に加えて、魔力抵抗に打ち勝つ事が条件。また、相手が精神汚染や信仰の加護などの精神耐性スキルを持っていた場合、支配力は大きく減衰する。
不死:EX
宝具『支配の玉座(チェア・オブ・ロード)』により獲得。宝具の条件を満たしている間、規格外の再生能力を獲得、EXランクの耐久値を得る。
宝具が機能停止した時点で、効果は消失する。その際の耐久値はE+相当。
隠蔽:B
自らの正体を隠蔽する。
マスターによるステータスの視認を無効化し、魔力の気配をNPC程度にまで抑える。
ただし、Bランク以上の真名看破、千里眼などのスキルの持ち主には正体を見抜かれてしまう。霊体化や実体化の瞬間を目撃された場合も同様。
【宝具】
『支配の玉座(チェア・オブ・ロード)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:− 最大捕捉:1人(自身)
生前に内閣総理大臣と結んだ契約の内容、支配の悪魔としての在り方などが宝具に昇華されたもの。
召喚当初の時点で会場内にある施設のうち、一つの長を手駒に加えている。マキマへの攻撃は全て、施設長との契約によって、施設に所属している適当なNPCの怪我や病気に変換される。
宝具の消失、あるいは契約が破棄された時点でマキマは不死性を消失。さらに「傷つける意図のない攻撃」に対しては宝具は効力を発揮しない。
『隷属すべき武器の心臓(ウェポンズハート・スレイヴ)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 〜2 最大捕捉:7人
支配下に置いたNPCに武器の悪魔の心臓を与えて、戦闘能力を付与する宝具。要するにNPCのサーヴァント化。
令呪一画と引き換えに「爆弾」「火炎放射器」「槍」「剣」「刀」「弓」「鞭」の悪魔の心臓のいずれか一つを入手。心臓を得たNPCはクラスこそ持ち合わせていないが、変身の宝具を獲得。これを開帳する事で三騎士に迫るステータスと高ランクの戦闘続行、再生スキルを発揮する。
【weapon】
支配の力:
人間、人外問わず手駒にした相手の能力を使用できるが、クラス制限により力が落ちている。
【人物背景】
悪魔や魔人と戦う公安の一組織「公安対魔特異四課」のリーダーにして、内閣官房長官直属のデビルハンター。
その正体は支配の名を冠する悪魔。地獄のヒーローと恐れられる「チェンソーマン」に並々ならぬ執着を燃やしており、その行方を探していた彼女がやっとチェンソーマンを見つけた時、彼は人間の少年デンジと一体化していた。
デンジとチェンソーマンの契約を破棄させるべく暗躍していた彼女は、デンジの心を一度は折り、チェンソーマンとの再会を果たすも、最後は自分への慕情を捨てなかったデンジによって打倒されてしまった。
【サーヴァントとしての願い】
地獄のヒーローを手に入れて、より良い世界を作る/対■■関係を他者と■く
【方針】
マスターに従う。今はまだ。
【マスター】
漣水鶏
【出典】
桃源暗鬼
【性別】
女
【能力・技能】
血蝕解放「純情で異常な愛情"アイラブ"」:
血液の形や強度を自由に変える事ができ、トラウマ、趣味嗜好、経験に応じて独自の武器を作り出す。
水鶏の場合は両拳の硬質化に加え、水鶏の血が一定以上付着した相手を虜にする。
46人の場合、効果が続くのは2分程度。10人なら15分程度。
【weapon】
拳
【人物背景】
本土から離れた「鬼門島」にある羅刹学園の生徒。桃太郎たちが組織した「桃太郎機関」に対抗するべく「鬼機関」に集められた鬼の一人。逞しく、頼りになる姐御肌だが、病的なまでに男に尽くすタイプ。相手は廃人になって施設に入るか、ヤバいと思って自立するかの2択。
【マスターとしての願い】
ライダーに譲るつもり。
もし使う機会があるなら、桃太郎達を全滅させて戦いを終わらせる。
【方針】
元の世界への帰還
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(4/4)
「……まあ、こんなとこかな」
サーヴァントに対して幽鬼の最初のアクションは、自分の来歴を明かす事だった。
なにはともあれ自己紹介は大事だ。
生死のかかった状況では、武器や能力よりも仲間の信頼関係がものをいう。
名前や経験を晒してカードを開示する行為は、情報という安心を相手に与える。
ただこの場合、安心を得たいのは幽鬼の方だった。
「……もう一度聞くけど、ゲームや運営についてとかは、本当に知らないんだな?」
「知らない。ここは死後の世界で、これは聖杯戦争。
私はサーヴァントとして召喚され、マスターであるあなたと共に戦う。知識にあるのはそれだけ」
「まじか……」
信じたくないことに、幽鬼が今置かれた状況は、ゲームとは無関係の拉致であるというのだ。
しかも勝手に死亡判定を下され、地獄だか天国だかに連行されて、だ。意味不明にもほどがある。プレイヤーネームが幽鬼だからって本当に幽霊にするやつがあるか。
「それであなたは……西暦1万年越えの未来からやってきた、人類を襲うエイリアンと戦うアンドロイドだと」
「そう。この私はその時代の機体そのものではなく霊基……記録されたパーソナルデータを再現した機体だけど、ヨルハにはバックアップ機能があるから、その意味では私は私のままであるとも言える」
なにやら哲学的な答えを出すのは、幽鬼に充てがわれたサーヴァントだ。
英雄というなら歴史の授業で習った武将でも出てくるかと思いきや、なんと彼女は二十二世紀どころではない遥か未来のロボットだという。
モデル体型のゴシックな服を着た美女に機械っぽい部品は一分も見当たらず、偏執的な思想を感じさせる。一万年も機械を弄ってれば、ネコ型ロボットでは物足りなくなるということか。
ちなみに今の幽鬼も、彼女に近い趣向の服を着ている。
聞けば部隊の正式なユニフォームらしく、幽鬼の世界のゲームのルールに合わせた形だ。明らかに配慮の出力を間違えてる。
『補足:正確には西暦11945年。エイリアンの繰り出す機械生命体相手に人類は月面に避難。
人類はアンドロイドにより構成された人類軍を発足。人類軍直属の最新機体として2B及びヨルハ機体は開発された』
いやに渋く重厚な機械音声が、宙に浮いた物体から流れ出す。
人間型のアンドロイドと対称的に、小箱の下にアームを取り付けた、いかにもロボットといった風体だ。
「人型ロボットの後に浮いた箱が喋ってもあんま驚かないんだよな……」
「当機は箱ではない。随行支援ユニット・ポッド042。ヨルハ機体に随行し任務の支援を行うユニット。
サーヴァント・2Bの保有する装備(スキル)として2Bと共に召喚された。
推奨:マスター・幽鬼の聖杯戦争に関する知識の反芻」
「ポッド……マスターに失礼。彼女は人間。私達が守らなければならない存在」
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投下終了です。
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機械である彼女にとって自分は創造主……神様の一族にでも映っているのだろうか。
自分を守る事を義務か責務であるかの語るのを見て、幽鬼は質問した。
「ヨルハはさ、何を願うんだ?」
普段はクラス名で呼ぶか、真名の略称の2Bの名で呼んで欲しいとの事だが、アルターエゴだなんてのは語呂が悪いし、2Bも記号的すぎてしっくり来ない。
幽鬼の中で一番しっくり来る、ヨルハという名で呼ぶ事にした。
夜葉。もしくは寄葉か。プレイヤーネームらしくていい名だと思う。
「私はサーヴァント。人間でありマスターであるあなたに従い、守るのが任務」
「それはヨルハって機体の役目でしょ。あなたにはあなたで叶えたいのがあるんじゃないの?
サーヴァントにある知識って、そうあるんだけど」
ありがたい助言通り、記録にある文言を引き合いに出して逃げ道を塞ぐ。
横目に見たポッドはアームの作動音だけ鳴らして黙っている。都合のいい時だけ機械っぽくしやがって。
「従うっていうのなら、ちゃんと聞かせてよ。
何が目的なのか分からない相手に背中を預けるなんて、出来ないでしょ?」
卑怯な言い方をしてる自覚はあるけど、言葉自体は本音だ。
ヨルハは目隠しをしていても分かるぐらいに葛藤している。平時は無表情でいるだけに、僅かな変化で感情の機微が見えてしまう。
機械相手の戦いでは、腹芸を使ったりしないんだろうか。
幽鬼が言えた口ではないが、対人関係が少し気になった。
ヨルハは黙り、幽鬼も黙る。ポッドの稼働音も心なしか止まっている。
妙な間が空いてしまい、こうなるとひとり立ち去るか話題を変えたりしたいが、こちらが持ちかけた手前そうもいかない。
観念して答えが出るまで根比べの気持ちでヨルハに視線を戻す。
まだ、彼女の瞳を見られていない。 戦う兵器にこんなにも美しい造形を施した変態共だ。眼球にだって妥協を許さず、最上級の宝石を丸ごと嵌め込んでいてもおかしくない。
全貌が露わになった日には、物質精神の両面で発光を放って、こちらを失明させてきやしないだろうか。
秘められたものを暴きたい欲求がぞくぞくと背筋を掻いている中で、やがてヨルハが艶黒子を乗せた唇を薄く開いた。
「…………会いたい……ヒトが、いる」
親に内緒で予定していた逢引きを白状する女の子みたいに。恥じ入るように、そう告げる。
「そっか」
毒気が抜かれる、とはこの事か。
信頼がどうだと警戒していたのが馬鹿らしくなってきた。
なんだ。全然人らしいじゃないか、こいつ。
任務も使命もないのに好き好んで殺人ゲームをやってる自分なんかよりも。
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「願い……願いか……」
ゲームから生還して運営から送られる賞金は一度につき数百万円程度。
数をこなして賭けの額が上がったり、お気に入りのスポンサーがついて色をつけたりしてくれるが、だいたいこの当たりが相場。
未成年の少女が数日で手に入れるには破格の額だが、こんなゲームに金目的で参加するのは、それっぽっちでは足りないだけの負債を抱えているようなのばかりなのが実情。
幽鬼のようにゲームの勝利数を目的にしている変わり種や、いつかの伽羅のような殺人鬼の隔離所兼狩り場として使うヤバい枠もいるわけだが。
まあ要するに、目的を達成するには一発のギャンブルよりも地道にクリアしていくしかない、人生逆転ゲームを期待するには少々夢のない世界なのである。
「願いねえ……」
その点今回のゲームはハイリスクハイリターンだ。
生還枠を極限まで絞り、その分配当は何倍にも跳ね上がる。
億万長者。世界征服。ベタすぎる野望も聖杯とやらの力なら、可能だという。
運営の技術力も大概だが、科学の域を越えた神秘の起こす奇跡は、現実の延長でしかない殺人ゲームなんて及びもつかない。
幽鬼の場合であれば───未だ空席の九十九連勝、その位置に容易に送り込ませてくれるのだろう。
あるいは、独力でそこまで達成出来るよう、超人的な身体能力を幽鬼に与えてもいい。
あるいは、あるいは─────────。
悪趣味な見世物にされる可哀想な境遇の少女達に、人並みの幸福を供給してあげたりも。
幽鬼が殺した誰かを、幽鬼に関わらず死んだ誰かを、犠牲になった全ての参加者を、家族友人の元に帰してあげたりも。
こんな不幸のそもそもの原因である運営組織自体を、地上から痕跡ごと消し去ったりも。
聖杯なら、可能なのだ。
世の不幸を、減らせるのだ。
誰だって殺したくて殺してるわけじゃない。そんな希少種はキャラメル頭の集団だけで十分だ。
力試し? 社会に馴染めないはぐれ者の収容所? それが死亡遊戯である必要がどこにある。
プレイヤーの大半は、世知辛い事情から運営の誘いに乗ってる。
そんな子達の手を汚さず怪我させず、平和な社会で生かしてあげられるのだ。誰がどう見たって人道的で皆が救われる方法だ。文句を言われる筋合いがどこにある。
「ふざけんな……」
「え?」
大ありだよクソ馬鹿が。
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そりゃあ、過去の幽鬼の生活は一般社会からしたら亡霊だ。
いわゆる不幸な家庭の事情で学校も行かず、昼夜は逆転、ゲームに参加して帰っては休んで、次のゲームに備えるの繰り返し。
他人から見れば碌な人生じゃない。引き留めようと人情を売ってくる外部の大人もいた。
あの頃は体が生きてるだけで、自分は死人も同然だった。
けれど幽鬼は生き方を決めた。目標を持った。物語を手に入れた。
他人に何を言われようと、これが自分の選んだ道だって堂々と宣言してやれる誇りが胸に宿ったのだ。
知識を得る為に定時制だが学校にも行ってる。アパートの家賃もきっちり払ってる。これ以上の義務が必要か? ないだろ?
それなのに、こっちの許可もなく連れてきて死人扱いして。
挙げ句やらされるのは、これまでのゲームとは規模も難易度と桁違いの殺し合い。
幽鬼がやってきた試練が、難関が、苦悩が、取るに足らない児戯だと虚仮にされてる気がして、例えようもないぐらい腹が立ってきた。
この試合は幽鬼のみならず、過去全てのプレイヤーに中指を突き立てる挑発だ。
(上等だ。受けてやるよ)
腹を決めた後の決断は早い。幽鬼の長所のひとつだ。
聖杯なんかに幽鬼の戦歴を汚されたくない。九十九連勝記録は幽鬼だけで成し遂げる。
よってこの戦いは「無かったこと」にする。
戦って、勝って、優勝して、それらをまるっと忘れて元の世界に戻り、何喰わぬ顔でゲームを続ける。
「マスター……?」
「ああ、ごめん。何でもない。うん、今度は私の番だよね」
さりとて、気分だけで悠々と勝ち抜けると思うほど頭は怒りに支配されてはいない。
蓄積した経験を総動員するだろうし、何よりヨルハの協力は不可欠だ。
このゲームの最重要要素、お互いに連携するべく密に取り合う必要がある。
恐らく無傷とはいかない。首尾よく勝っても、死ぬような怪我を負ってるかもしれない。
最低、負傷の全快は聖杯に叶えさせてもらおう。そしてどうせ万能だというのなら、ついでに治して欲しい部位がある。
「右目の視力さ、過去のゲームで負傷して以来、どんどん落ちちゃってんだよね。今じゃもう明るさぐらいしか分からない。こればかりは運営もお手上げでさ。
何でも願いが叶うんでしょ? ならこの目、元に戻してもらおうかなって」
「……それだけ?」
「うん、それだけ」
予定外の強制イベントに巻き込んでくれたツケに、治療代を請求する。
皆が垂涎の的になる聖杯を、小娘一人の目玉一個で台無しにする。
それが幽鬼にとって最大の意趣返しだ。やけくそとも言えるが、どうせ得るものもないのだから気分だけは良くして帰りたい。
『不可解:マスター・幽鬼の生体情報には他にも負傷が見られる。
聖杯によって得られるリソースとは消費がまったく釣り合っていない』
「いいんだよこれで。きっかり同量・同質の重さだ」
顔を見合わせて不可解そうに首を傾げる(ポッドは全身を傾けてる)二人。
こんなところは機械っぽいなあ。ベタといえばベタな反応が微笑ましい。
さて、方針は決まった。後は行動だ。
基本は従来の〈利他〉で行く。協力者を集め、人を増やし、最大効率の生存手段を模索する。
詰め込まれた知識の検証。領域や冥界といった地の調査。有効的なマスターとの接触。戦闘時の符丁合わせ。やる事は多い。
血なまぐさい目標を果たすため。
血なまぐさい日常に戻るため。
いつか、この身が朽ちて通り名と同じになる日まで。
私は今日から、聖杯戦争で飯を食う。
-
【CLASS】
アルターエゴ
【真名】
ヨルハ2号B型@NieR:Automata
【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力E 幸運C 宝具B
【属性】
秩序・中庸
【クラススキル】
騎乗:B
単独行動:B
【保有スキル】
ヨルハ機体:A
地球上に展開されたエイリアンの機械生命体を駆逐するべく投入された、人類会議直属の最新アンドロイド部隊。
対機械、対異星存在に対する特攻・特防効果を得る。
異世界の技術が流用されてるとはいえ量産された機械の為神秘としてのランクは低い。
しかし西暦10000年を越えた先の技術は、単純な威力であれば並大抵の神秘を凌駕する。
ポッド042:B+
随行支援ユニット、ポッド042による支援行動。
情報収集、作戦の助言、機体の牽引、射撃・プログラムによる攻撃と多方面でサポートを行う。たまには撫でて労ってあげよう。
最大で3機まで同時に随行可能。
処刑装置:B
2Bはセイバーの本当の名前ではない。
正式名称はヨルハ2号E型───executor、裏切り者のアンドロイドの処刑モデル。
中度の真名隠匿効果があり、これが突破された場合は、機械・人型属性への攻撃力が上昇する代わりに、精神的に不安定になる。
人類に栄光あれ:─
これは、呪いか。それとも、罰か。
ヨルハ部隊の(表向きの)存在意義。その表明と宣誓。
人類を守護するために造られたアンドロイドは、人を攻撃する事に強い忌避感を持つ。
それがたとえ、既に存在しない創造主だとしても。
人類に対する殺傷の禁止、及び人属性のサーヴァントには攻撃力が低下する。逆に人を守る行為においてはプラス判定。
つまり自分と敵のマスター、双方が天秤にかけられた場合には───。
【宝具】
『寄葉計画(プロジェクト・ヨルハ)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:10000人
衛星軌道上に置かれた前線基地「バンカー」の仮想設置。
それによるヨルハ部隊のオペレーションが宝具となったもの。
具体的には英霊の座にアクセスする事による高度な情報検索、武器や飛行ユニット等の支給、他のヨルハ部隊員を簡易召喚しての援護行動が挙げられる。
予め霊基データのバックアップを取り、自身が消滅してからの再召喚すら可能だが、必要な魔力の関係上令呪での支援が現実的(それでも再召喚としてはかなりの低コスト)。
さらに魔力や土地の条件が重なれば、バンカー自体を召喚し無数のヨルハ部隊の展開も行える。本企画では基本的に使用されない。
『壊レタ世界ノ歌(ザ・エンド・オブ・ヨルハ)』
ランク:E 種別:対機宝具 レンジ:― 最大捕捉:1人
宝具『寄葉計画』の破棄、あるいは2Bが機能停止したのを条件にして発動する。
随行支援ユニット、ポッド042に高位の単独行動スキルを付与。
データサルベージによる2Bの復活、その間にヨルハ機体9S、もしくは脱走した旧ヨルハ機体A2を代替召喚する。
これは2B個人の宝具ではなく、ヨルハ部隊全機に備わった機能でもなく、ポッド042にのみ備わった奇跡。
敵の殲滅能力はない。世界を変革する力もない。未来を自らの手で獲得する小さな宝具。
使用回数は1回のみ。
【weapon】
NFCS(近距離攻撃管理システム)。小剣、大剣、槍、手甲のうち二種を携行して戦闘を行う。
【人物背景】
異星人の来襲により地球を追われ、月に逃れた人類の栄光を取り戻すべく戦うアンドロイド、その最新鋭モデル。
遥か過去に絶滅した人類と、道具である機械生命体に滅ぼされたエイリアンによる、指し手のいない代理戦争の駒にされ、命もないのに殺し合う。
【サーヴァントとしての願い】
もう一度、9Sと……。
【マスターへの態度】
マスターである以上に初めて目の当たりにした生きた人類なので、最重要護衛対象として扱う。
人類のモデルと見做すには大分普遍性から外れている幽鬼個人については、若干困惑気味。
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【マスター】
幽鬼@死亡遊戯で飯を食う
【マスターとしての願い】
さしあたっては、目の視力の治療。それ以上を望むのはフェアプレー精神に欠けると思っている。
【能力・技能】
六十回以上の殺人ゲームをクリアした経験と知識。ひと通りの武器を扱え、その場の環境を利用する機転にも富んでいる。
クリア効率や他のプレイヤーと協力を結びやすい点から「利他」のスタンスを取っているが、いざという時の損切りする切り替えは非常に早い。
ゲームのプレイヤーには「防腐処理」という処置が施されている。
ゲームを円滑に進める、観客への配慮のためのこの処置により、体臭は消え、出血は白いフェルト状の綿になってすぐに止血される。
ゲーム運営の医療技術は極めて優れており、手足を切断しても跡も残さず復元する事が可能。ただし切除部位が激しく損壊する等で回収不可能になった場合は精巧な義肢が用意される。また眼球といった精巧な部位も再生は不可能で、代替も造れない。
幽鬼は過去のゲームの負傷で左手の中指小指を失い義肢を付け、右目の視力が低下している。このハンデを補うため反響定位、エコーロケーションを訓練中。
【人物背景】
本名、反町友樹。
命を賭けた生き残りゲームで賞金を得る裏営業に天職を見出し……それ以外に生き甲斐を見出だせず、師の目標だった前人未踏のゲーム九十九連勝を引き継ぎ死亡遊戯で飯を食っている。
4巻「ロワイヤルパレス」終了直後、初めての弟子を手にかけ車で帰路につく途中から。
【方針】
基本はやはり利他・生存のスタンス。情報収集に専念しながら攻略法を探っていく。どうしようもないと判断すれば優勝に切り替え。
【サーヴァントへの態度】
めっちゃ美人。
今回のゲームの最大の要素である以上コミュニケーションは必須であると捉えている。
ポッドは小うるさい奴だと思っている。
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投下を終了します
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>>398
◆HOMU.DM5Nsさん
投下途中なのを見落としてしまいました…
申し訳ありません…
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募集期間に関してのお報せです。
当初は『5月7日 午前5:00』を予定していましたが、諸般の都合により期間を延長します。
最新の期限は『5月28日 午前5:00』です。今後は延長はなくこれが最終期限となります。
今後も皆様の投下をお待ちしています。
>>399
◆U1VklSXLBs氏>お気になさらず。ままあることです。
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投下します。
なお、こちらの投下は「UnHoly Grail War―電脳聖杯大戦―」様に投下した候補作を多少改稿した上での流用となります。
元スレではキャップ発効前のため代理投下いただいていますが、元スレ>>806にてレスしていますのでトリップ確認の際はそちらをご確認ください。
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「よくぞ来た!わしが王の中の王、竜王である」
「わしは待っておった。そなたのような若者があらわれることを」
「もしわしの 味方になれば世界の半分をおまえにやろう」
「どうじゃ?わしの味方に なるか?」
はい
>いいえ
「どうした?世界の半分を欲しくはないのか?悪い話ではあるまい」
>はい
いいえ
§
-
「もっと早くこうすべきだった……μよ、現実を薙ぎ払え!
「現実を……崩壊……」
「μはどこへ向かったんだ」
「あれは……メタバーセス!?」
「人間の集合無意識と化したネットの中枢……でしたか」
「まもなく崩壊が始まる……これでようやく、絶望を消し去ることができる」
「まだ追いかければ止められる……!」
「わたしたちも行きましょう!メタバーセスに!!」
帰宅部のみんなと現実へ帰る
>いや……現実へは帰らない
§
-
――Curiosity killed the ■■■■■.
――好奇心は■■をも殺す。
§
-
聖杯戦争が行われる都市でのことだ。
圏内のあらゆる学校で、匿名でバンドメンバーの募集が為されていた。
――バンドメンバー募集!!
――争いの絶えぬこの世界に反逆を!!
――かの時代の音楽の箱に英雄の詩を乗せて
――バンド名:【帰宅部】
メッセージとバンド名だけを書いて集合場所や日時も書いていない告知に見向きをする生徒はおらず、それぞれの学校の新入生に向けて出されていた部活の募集に埋もれていくだけだった……ごく一部を除いて。
聖杯戦争のマスターとしてこの地に招待された者達の中でも、この広告の意味するところを理解し、なおかつ他の主従と接触を試みる積極的な者だけが、募集の誘いに乗るのであった。
聖杯戦争の舞台某所にあるライブハウス「グラン・ギニョール」。今となっては廃業し、打ち捨てられたライブハウスの一つだ。
ここのオーナーは変わり者で、ホラーやスプラッターな芝居をやっていたバリの劇場をリスペクトした、古風なデザインをしている。
そんなグラン・ギニョールにこっそりと侵入していった少女は、あのバンドメンバーの募集に乗った者の一人であった。
争い。すなわち聖杯戦争。
この世界。すなわち死者の記憶を基にして造られた架空の都市。
かの時代、すなわち昔の。
音楽の箱。すなわちライブハウス。
英雄。すなわちサーヴァント。
昔のライブハウスといえば、グラン・ギニョールの他にない。
グラン・ギニョールに入り、自身のサーヴァントに頼んで魔力の気配を流すことで、彼女は帰宅部への接触に成功するのであった。
少女はそこで待っていた者に加わることを即決したのだった。
「式島君!」
少女がステージの上に佇んでいた者を見つけると、顔を明るくして声をかける。
その先に立っているのが、少女が接触した帰宅部の部長の青年――式島律(しきじま りつ)だった。
「やあ、今日は早いね。学校の部活はもういいのか?」
「部活って、私もう帰宅部員だよ?」
少女は既に帰宅部に入ったことを暗に強調する。割り当てられたロールよりも帰宅部の活動の方が大事だと考えたからだ。
帰宅部は表向きはバンド名ということで募集をかけているものの、実際はその名の通り帰宅することを活動の主体とする、学校の垣根を越えた部活である。
しかし、その帰宅する先はこの世界の仮の自宅ではなく、自身が元いた現実世界の家であることは、マスターであればすぐに察しがつくだろう。
つまるところ、帰宅部の活動はこの聖杯戦争が終わるまで続くのである。
「ねぇねぇ、今日の帰宅部の活動はどうするの?」
「ふむ、グラン・ギニョールで主従が接近してくるのを待つのもいいけど……こっちから探しに行くのもいいかもしれない」
少女の問いに、律は顎を手でさすりながら言う。
帰宅部の活動といっても、元の世界に戻れることであればよほど人道に外れない限りは大体のことはする。
グラン・ギニョールで待ち受けるのは勿論、それぞれのサーヴァントと共に調査のために街を回ったりする他、交流を深めるために学生らしく遊び回るのも活動のうちだ。
「探しに行く、かぁ……でも当てもなく探すのもなぁ……」
「――それなら下手に郊外へ行かず、副都心部を回るのが無難だろう」
「セイバー」
-
律が自身のサーヴァントの名を呼ぶと、その姿が実体を見せる。
蒼い甲冑と紅いマントを身に纏った、剣と盾を携えた凛々しい顔をした剣士が律の隣に立つ。
「人が集まっている分、騒ぎも起こしにくいし燻っているマスターが来ている可能性も高い」
「確かに……俺達が巡回する場所としては無難かもしれないな」
(式島君のサーヴァントはセイバーなんだよね。確か最優のクラスなんだっけ。いいなあ……)
少女は羨望混じりの憧憬の視線でセイバーを見る。
少女のサーヴァントであるアーチャーの見立てによると、そこらの英雄とは違う、ともすれば世界を破滅から救った大英雄――勇者ともいえる存在らしい。
かといって自分のサーヴァントが弱いとは全然思わないが、そんなサーヴァントが帰宅部部長を支えていると思うととても心強い。
「それじゃあさっ、アーチャーには別行動してもらおうよ!人手はある方がいいでしょ?」
「それはいいけど、君は大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫、私は式島君と一緒にいるし、セイバーに護衛してもらうってアーチャーにも言っておくから!……それに、式島君とはまた遊びに出かけたかったし」
少し恥ずかしげになりながら、少女は言う。
少女は律のことを部長としてだけでなく、人間としても心から信頼していた。
律は、部長として、同じ志を持つ仲間として、彼女の抱えている悩みや葛藤に寄り添ってくれたのだ。
仮初の世界でできた家族や友人のこと、元の世界の自分のこと、聖杯戦争で人を殺めてしまうかもしれない不安や葛藤。
律はこれらを親身に聞いてくれ、そんな彼女の望みも可能な限り叶えてくれると約束してくれた。
律が言うには「部長としての責任」とのことらしいが、少女はそれがとても嬉しかった。
まだ帰宅部は自分と律の二人しかいないが、これから色んな主従が帰宅部の門を叩くだろう。
帰宅部はきっと、主従の枠を越えて協力し合い、元の世界へ帰るために戦っていく。
律なら、帰宅部を纏め上げられるしそれを成し遂げられる。
少女はそう思っていた。
§
体内の細胞が急転直下 かなり安定感なくて
「逃避」以外考えられん Oh-oh-oh-oh-oh-oh
早々見つかってた弱み 飄々と責めるエネミー
もうこれ以上躱せない Oh-oh-oh-oh-oh-oh
§
-
夜の静まり返った都市のどこかで、あまりにも救いのない結末が訪れようとしていた。
「――なんで」
先ほど見せていた様子からは想像できないほどの様子で、少女は何もかも自棄になったような声を出す。
その眼前には自身のサーヴァントだったアーチャーの骸が捨て置かれており、魔力が霧散し始めていた。
「どうして……!!」
さらにその奥には、アーチャーをそんな姿にした下手人が立っている。
絶望。諦念。落胆。憎悪。そんな感情を足して1で割れないほどの歪んだ表情で少女は敵を見やる。
「信じてたのに……!!」
「式島君……!!」
そこに立っていたのは、帰宅部部長であったはずの式島律――否、式島律の姿をしていた者だった。
黒い骸骨の形をした頭部がかろうじて見える、黒服とハットで身を固めた透明な身体を持つ謎の透明人間。それが式島律の正体だった。
「なんでこんなことするの……?どうして帰宅部なんか作ったの……?元の世界に帰るために仲間を集めてたんじゃなかったの……?」
「――その顔だ」
「……へ?」
非難する少女に、透明人間は静かに言う。
「その顔が見たかったんだ」
「……」
「君を帰宅部に入れて、ずっと興味があった。心から信頼を寄せていた相手に裏切られた時、君はどんな顔をして、どんな言葉を俺に吐くのか」
「っ……」
「実に心地の良いものだった。このまま君と帰宅部を続けてもいいと思えるくらいには」
少女は、目の前の奴が何を言っているのか分からなかった。
もはや、バケモノが人間の形をして喋っているとしか思えなかった。
「……ずっと、心の中で嘲笑っていたの?」
心に沸き立つ負の感情がキャパシティを超え、無の表情となった少女の問いかけに、透明人間は髑髏の顔の口角を僅かに吊り上げた。
「……最低。あんた最低を超えたド最低なクズよ。……なんでそんなことができるの?……何をしたいの?……何がそんなに楽しいの?私を追い詰めるためだけにあんなマネをしていたの?」
少女は立ち上がり、ふら付きながらおぼつかない足取りで透明人間へと近づく。
この男の身勝手な好奇心で、自分は願い諸共無に消えようとしている。それがとてもやるせなく、悔しかった。
「っ……アアアアアアアアアアァァァァァァ―――ッ!!!!!」
少女は断末魔のような咆哮を上げながら、透明人間に突進する。
せめて。せめてこの男を一発でも殴らないと納得できなかった。
「もうやっていいぞ、セイバー……いや、バーサーカー」
その時、少女の視界が反転する。
少女の目には、首のなくなった自分の身体と、透明人間のサーヴァントが映っていた。
同時に理解する。自分は、剣の一振りで斬首されたのだと。
最期に見えていた透明人間のサーヴァントのクラスは、セイバーからバーサーカーに変わっていた。
(ああ……虚しいなあ……何もかも……)
そんなことを思いながら、少女は予選段階で脱落した。
§
――逃げられるのなら、逃げ出したかった。勇者の使命と責任から。
――勇者の血を引く者としてもてはやされ、それに相応しい振る舞いを求められてきた。
――そこに俺という『個』はなく、勇者という肩書だけが人々に見えていた。俺にとって、それはもはや呪いに等しかった。
――自分で自分の道を決める選択肢が与えられたことなど一度もなかった。
――たとえ死のうものなら「死んでしまうとは何事だ」と王に叱咤される。死ぬことすらも許されなかった。
Runnaway, runaway, runaway
§
-
「どうだった、バーサーカー?」
すべてが終わった後、透明人間は己のサーヴァントに問う。
「裏切られた仲間が見せた顔とその結末は」
「実に……見ていて楽しかったよ、Lucid」
バーサーカーは、口角を僅かに吊り上げながらLucid(ルシード)と呼ばれた自身のマスターを見る。
「お前はこうして仲間を裏切り、世界を崩壊させたのか」
「ああ、これからμ……バーサーカーの世界では竜王と言った方が分かりやすいか。そいつを倒そうと仲間が意気込んだタイミングでな」
「それは……俺も見てみたかった。実に好奇心を刺激されるな」
バーサーカーは心から口惜しそうに言う。
彼――Lucidは、元は仮想世界メビウスから現実に戻ろうとする帰宅部の部長にして、その裏ではメビウスを維持するオスティナートの楽士の一人だった。
「帰宅部の部員達も楽士の仲間も……興味深い観察対象で――愛おしかった」
帰宅部部長と楽士――敵対する2陣営を行き来して活動し、仲間達の心の闇に触れる中で、その歪な好奇心はムクムクと膨れ上がっていった。
Lucidは、本当に仲間達が好きだったのだ。喜ぶ顔も、怒る顔も、哀しい顔も、楽しい顔も。各々の抱える心によって、Lucidの選択肢によってコロコロと反応を変えるその姿が。
「だから、俺は見てみたくなったんだ。俺に心から信頼を寄せる仲間が最後の最後で裏切られたら、どうなるのか」
その結末を見届ければ、他のことはどうでもよかった。仲間と敵対することになっても、世界が滅んだとしても、自分が死ぬとしても。
”好奇心”。それだけがLucidを駆り立てるモノなのだから。
「……羨ましい。俺にも仲間の一人や二人、つけることを許されていればもう少し楽しめたんだがな——世界が滅ぶ様を」
そう言って、バーサーカーは虚空を見上げる。
その凛々しくも堂々とした佇まいは、傍から見れば勇者のようだ。
しかし、ここにいるサーヴァントは「勇者だった戦士」。セイバーではなく、バーサーカーだ。
「俺が言うのも何だが……バーサーカーは世界を滅ぼすことに罪悪感は感じなかったのか?」
「――無いわけでなかった。だが……それ以上に”快感”が勝った。俺自身が選んだ選択の結末を見届けることに」
バーサーカーは口元を歪める。
「あの時、竜王がやっと俺という個に選択肢をくれたんだ」
バーサーカーは本来、アレフガルドにて竜王を倒し、世界に光を取り戻すはずのロトの勇者だった。
しかしここにいるのは、ロトの勇者ではない。
「勇者なら、そんな誘惑は跳ね除けるべきだろうな。だが、俺はとてつもなく惹かれたんだ。『はい』と答えたらどうなるんだろう、とな」
竜王の「世界の半分をやる」という提案に「はい」と答えた側面が色濃く反映された姿。
いわばアレフガルドの闇と呪いの元凶であり、ロトの勇者・オルタ。
「確かに、世界――アレフガルドは破滅へと向かった。だが、それ以上に俺の心は彩られていた。それは……勇者として期待される結末を迎えるよりも、遥かに魅力的で目新しさがあった」
バーサーカーは、勇者として生きることに虚しさを感じていたのかもしれない、と語る。
周囲の人間から見られるのは、等身大の自分ではなく常に勇者としての肩書のついた自分だった。
常に勇者として選択肢の与えられない人生を強制されていた中で、彼は「はい」と答えた。
「その時俺は……ようやく俺らしさを見つけられた気がした」
そんな「勇者らしくない選択をした自分」に対し、バーサーカーはやっと自分らしさを見出せた。
ようやく見つけられた自分らしさが心地よく、それがもたらした結末に誇らしささえ感じた。
「たとえ竜王に裏切られて『セカイノハンブン』に閉じ込められたとしても、それはもはや重要じゃない。あの時確かに、「俺という個」がいたんだ」
そう言うバーサーカーの顔は醜悪な笑みを形作っていた。
世界が終わろうとも、竜王に裏切られようとも構わなかった。
勇者らしくない選択とその好奇心。それだけがバーサーカーのアンデンティティとなったのだから。
「だから、Lucid」
バーサーカーはその笑みを崩すことなくLucidに向き直る。
「俺にも協力させてくれ。お前が帰宅部部長として振る舞うならば、俺も勇者として振る舞おう。お前の見たい光景を、俺も見たい」
そんなバーサーカーに応じるようにして、Lucidもまた、髑髏同然の顔を歪ませる。
帰宅部として同胞となった主従の信頼を集め、最後の最後でそれを壊す。
かつてのメビウスでやっていたことと同じことを、Lucidはこの聖杯戦争でもやろうとしていた。
「――楽しもうじゃないか、バーサーカー。この”聖杯戦争”を」
好奇心を満たせれば、それでいい。
たとえ、滅ぶことになろうとも。
§
-
――俺は、『自分らしく』生きたかった。
――だが、『勇者』はそれを許さない。
――勇者の俺に残されていたのは、「勇者らしくない」自分らしさだけ。
――俺だけの名前を得て、自分の人生を自分で決める。
――俺はただ……一人の人間として生きたかっただけなんだ。
大改造したいよ この機構とエゴを
己でさえ 分かっている 破損個所
大脱走した後 どこに行こうかなんて
知らないよ もう無いよ 宛ても価値もないよ
-
【クラス】
バーサーカー
【真名】
****@ドラゴンクエスト、およびドラゴンクエストビルダーズ
【ステータス】
筋力A+ 耐久A+ 敏捷B+ 魔力B+ 幸運E 宝具A+
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
狂化:EX
世界を闇で覆った元凶として召喚された、勇者だった者の孕む狂気。
宝具『偽りの王』を発動していない間はステータス上昇もない代わりに意思疎通が可能。
勇者(偽)スキルも相まって狂化しているとは思えないが、その行動原理はすべて「好奇心」に集約される。
自らの好奇心を満たすためであれば、他人を欺き、陥れることも厭わない。
他人どころか自分が破滅する結末が待っていようと迷わず行動する。
【固有スキル】
勇者(偽):A
世界の救うために戦う使命を授けられた特別な存在。
同ランクの「勇猛」「戦闘続行」「カリスマ」を内包する複合スキル。
アレフガルドを死の大地へと追いやった元凶の側面が強いバーサーカーにとっては、「自分を勇者に見せる」スキルでもある。
本来は筋肉隆々な身体に、王冠を被り豪華なマントを覆面にしたパンツ一丁という外見であるが、
普段はこのスキルによって自身の存在を勇者だった頃の自分に塗り替え、クラスもセイバーに見せかけている。
規格外の看破能力でもないと、たとえサーヴァントであろうと「勇者のセイバー」と「やみのせんしのバーサーカー」を全く別のサーヴァントと誤認してしまうだろう。
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
アレフガルドの闇と呪いの元凶として召喚されたことでランクが落ちてしまっている。
それでもランクがBなのは元のランクが高いためである。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
対竜種:EX
竜王を打ち倒した逸話に基づくスキル。
本来は竜種に対しての追加ダメージと圧倒的に有利な判定を得ることのできるスキル。
しかし、竜王の甘言に乗ってしまった側面が強く反映されたバーサーカーにとっては、
竜種による精神干渉への耐性がなくなるマイナススキルへと変質してしまっている。
ロトの血筋:-
伝説の勇者ロトの血を引く者であることを示すスキル。
精霊の加護や復活の呪文などのロトの勇者代々に受け継がれてきた加護を授かることができるが、
アレフガルドを破滅に導いたバーサーカーにはその資格はない。
-
【宝具】
『ロトの剣』
ランク:E- 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
伝説の勇者ロトが扱っていたと言われるオリハルコン製の剣。
しかし、バーサーカーが世界の破滅と元凶となってしまったことでその剣身の宝玉は抜き取られ、ランクを著しく落としてしまった。
しかしその硬度と切れ味は健在で、威力に限ればAランク相当の宝具に比肩する。
『偽りの王(やみのせんし)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜100 最大補足:1000人
竜王の「世界の半分をやる」との提案に「はい」と答えた勇者の成れの果てであり、バーサーカーの真の姿。
この宝具を発動すると、狂化によるステータスアップの恩恵を得ることができ、幸運以外のステータスが倍加する。
しかし、立ち振る舞いもバーサーカーのそれと化し、かろうじて会話はできるものの意思疎通が困難になる。
また、バーサーカーが竜王の甘言に乗ったことでアレフガルドは荒廃し、人々からモノづくりの力が失われたという逸話から、
レンジ内の者達から「物を作る」という概念を奪い、「道具作成」およびそれから派生する能力をすべて封印する。
『勇者の築きし新天地(セカイノハンブン)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1〜20 最大補足:敷地面積の許す限り
竜王に「はい」と答えたバーサーカーが与えられた、「世界の半分」であり、「セカイノハンブン」という看板と共に建つ建物。
気の遠くなるような年月の間、バーサーカーが竜王によって幽閉された建物であり、バーサーカーに残された最後の国を召喚する。
非常に堅牢な建物であり、内外からどんなに力を加えても破壊することは不可能。
一度幽閉されてしまえば最後、外界からは切り離され、バーサーカーが消滅するまで出ることはできない。
また、外界と建物内部の時間の流れは異なり、外の1時間経過するごとに、建物内部では100年もの時間が経過するようになる。
ここに閉じ込められた者は、バーサーカーが幽閉された逸話をその身を持って味わうこととなる。
仮にバーサーカーが勇者としての正常な形で召喚されていれば、この宝具は勇者が竜王を倒した果てに建国したローレシア王国が顕現する宝具だった。
【人物背景】
竜王を打倒し、アレフガルドに光を取り戻したロトの勇者。
しかし、マスターのLucidの歪んだ心に呼応した結果その存在は歪められ、竜王の「世界の半分をやる」という提案に「はい」と答えてしまった闇の戦士の側面を濃く反映して召喚された、いわばロトの勇者・オルタ。
真名については、周囲からは勇者という肩書きだけを見られて彼という個人を見られなかったため、固有名を持たず、本人も覚えていない。
上記の経緯のため、勇者の血を引く選ばれし者としてもてはやされ、それに相応しい振る舞いを求められることを嫌悪している。
同時に、「勇者らしくない選択肢」を自分で選び、その結末を見届けることに快感を感じ、その好奇心の虜になっている。
好きなものは闇、自由、ショッピング(買うものを自分で選べるから)、ぱふぱふ。
嫌いなものは光、勇者という肩書き、他力本願な人、ケチくさい王様、無限ループ。
【サーヴァントとしての願い】
Lucidと共に好奇心の赴くままに生きる。
しかし、聖杯に願うのであれば自分だけの名を手に入れ、一人の人間として自分だけの生を全うしたい。
【マスターへの態度】
Lucidの「仲間の信頼を積み上げて最後の最後にすべてを壊す」という方針にとてつもない好奇心を覚えており、彼に協力している。
-
【マスター】
Lucid@Caligula Overdose-カリギュラオーバードーズ
【マスターとしての願い】
帰宅部部長として仲間の信頼を集めた上で、Lucidとしてすべてを壊す。
たとえ、その先に待っているのが破滅だとしても。
【能力・技能】
・カタルシスエフェクト、或いは楽士の力
アリア或いはμから授かった、帰宅部或いは楽士の戦闘能力。
帰宅部部長としても楽士としても活動していたので両方使えるが、戦闘能力は大差ない。
・変身能力
帰宅部部長としての姿とLucidとしての姿を行き来できる。
μがアリアの目を欺くためにLucidにかけた情報秘匿は未だ有効で、
看破系能力を持たぬマスター、サーヴァントの目からもそれぞれの姿が別人に見える。
・Suicide Prototype
帰宅部部長がLucidという楽士としての名を得て、制作した楽曲。
音響設備を利用して曲を流すことで、仮想空間に依存しているNPCやマスターのデジヘッド化を誘発することができる。
・人心掌握
人間と交流を深め、その心の闇に踏み入って立ち直らせて信頼を得る能力。
彼に信頼を寄せた人間は、まさに「運命の人」とも言える好感を彼に抱くことになる。
サーヴァントにおける「人間観察」スキル換算でBランク相当。
なお、Lucidは帰宅部部長として部員全員と「運命の人」になりながら、最後の最後に裏切って部員全員を絶望と憎悪に叩き落とした。
【weapon】
・カタルシスエフェクト、或いは楽士の力で発現した二丁拳銃
【人物背景】
メビウスにおける帰宅部部長でありながら、その裏では仲間を裏切り楽士として活動していた男。
持ち前の人心掌握術で帰宅部や楽士の仲間と「運命の人」ともいえる間柄になりながら、「裏切られたと知った仲間の顔を見たい」という好奇心からすべてをぶち壊し、現実を破滅へと導いた。
此度の聖杯戦争では、「式島律」という名前で高校生をやっている。
【方針】
帰宅部部長として帰宅部の仲間達の信頼を積み上げ、最後の最後にすべてを壊す。
すべては、好奇心を満たすためだけに。
【サーヴァントへの態度】
同じ心の歪みと願いを共有する仲間であり、同志だと思っている。
【備考】
楽士END後からの参戦です。
-
以上で投下を終了します。
タイトルは「Fate/SuicidePrototype」です。
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投下させていただきます。
-
神の支配する箱庭に、少女は生まれた。
◆◆
-
目を覚ました時、最初に思ったのは"ここはどこだ"だった。
記憶が連続していない。さっきまでいた場所と今いる場所とが、どうやっても頭の中で結びつかない。
復讐のために足を踏み入れた未来の島。科学の粋を詰め込んだ、憎き怨敵"だった"男のラボラトリー。
エッグヘッドと名付けられたその島で、少女はついにすべての真実を知った。
垣間見た、父の記憶。
父が仇に、いや友人に託した大事な思い出。
温かいと呼ぶには痛みの多すぎる、その生涯のメモリー。
それを、少女は長い時間をかけて咀嚼し、受け止めた。
まだ幼い内から両親と引き離されて、奴隷に落ち。
聖地とは名ばかりの穢れた大地で、主人に傅いて世話をする日々。
それが終わったかと思えば、迷い込んだ先はまたしても神の娯楽で命が消費される狂気の島。
そこで希望を見出し、鎖でつながれた日々と袂を分かち……子を成し。
それでも少女の愛する父は、神の呪縛から逃れることができなかった。
この世界に迷い込み、冥界の土を踏んだ瞬間に、頭の中にたくさんの情報が流れ込んできた。
冥界。魂。雫。聖杯。蘇生。葬者。聖杯戦争。そして、サーヴァント。
そのどれもが少女――ジュエリー・ボニーにとっては知らない知識である筈だったが、それが何故だか"理解できる"。
知識ではなく感覚として、流れ込んだ知識の全部を驚くほどするりと咀嚼することができた。
つまるところここは死後の世界というやつで、聖杯を手に入れなければこのまま冥界に消えることになる。
そして生還のための鍵である聖杯とは、願いをかければそれを叶えてくれるという夢のような代物でもあるらしい。
であれば、ボニーに取って取るべき選択肢は言うまでもなくひとつしかなかった。
死者の世界などという陰気な場所に骨を埋める気もなかったし、何より――"どんな願いでも叶える"宝なんてものが存在するのなら。
ジュエリー・ボニーは、自分は、どんな手を使ってでもそれを手に入れなければならない。
聖杯とはボニーにとって、夢枕に思い描いた救いの光そのものだった。
自分を守るため、そして救うために神の玩具に堕ちた優しい父。
今も奴隷として酷使され続け、それでも文句ひとつ言わずに前へ進み続けるあの人。
彼を救うすべは、この世にない。
どの科学も、どの奇跡も、打つ手なしと白旗をあげていた。
だが。だが――聖杯ならば。
かけた願いを必ず叶えるという、まさに極上の"お宝"ならば。
もう戻らない、消えてしまったはずの父を救うことも、きっと可能なはず。
また、希望は絶望に塗り潰されてしまうかもしれない。
ボニーの知る限り、世界とはどこまでもひたすらに残酷なもので。
信じたものに裏切られることなど、彼女にとっては日常茶飯事だった。
だが、だとしても、縋るのをやめることは彼女にはできなかった。
それだけが、置いていかれてしまった、守られるばかりだった少女にできる唯一のことだったから。
-
聖杯を、手に入れよう。
そして願いを叶えよう。
今度こそ、お父さんを救おう。
少女は無垢なる願いを胸に、立ち上がる。
右腕に刻まれた刻印をしっかりと確認して、死者ながらに活力を灯して顔をあげた。
――そこで。息が、止まった。
「お初にお目にかかります、我が主。哀れなる、ジュエリー・ボニー」
そこに。
誰かが、いた。
されどひと目で理解する、彼女こそが自分のサーヴァントなのだと。
自分を聖杯のもと、そして父の許へ運んでくれる相棒なのだと。
理解はしたが、それでもボニーは背筋を這う鳥肌を抑えることができなかった。
ボニーも海賊だ。新世界の海、時には聖地まで駆け回ってきた。
恐ろしい強者や、忌まわしい世界の真実など……文字通り、腐るほど見てきたものだ。
けれど――それでも。
それでも、ボニーは"恐ろしい"と思った。
目の前に立つ、ごく小柄な少女。
暗い、まるで暗雲のような不吉さを感じさせる娘。
淀み落ち窪んだその瞳がまた、その印象に拍車をかけていたが。
だが、根本はそこじゃない。
彼女の放つ、あまりに色濃い負の色彩(オーラ)。
世界のすべてを呪い、憎むような。
その色こそが、大喰らいのジュエリー・ボニーを怯ませていた。
もしも彼女の"負"が、主(マスター)に対する敵意だけでできていたならば事態はまだ幾分か易しかっただろう。
しかし現実として。ボニーのサーヴァントたる彼女は、哀れな少女に対して敵意どころかむしろ友好と同情をこそ示していた。
「我が名はライダー。ライダー・丑御前。此度、あなたの願いに呼応し推参いたしました」
柔和に笑って頭を垂れる姿は、まさに従者然としたものである。
だというのに、何故にこうまで心が落ち着かないのか。
ボニーが口を開く前に、ライダー……丑御前を名乗ったモノは、言葉を重ねた。
-
「何故、己が名を識っているのか……と問いたげな顔ですね。
これに関しては申し開きのしようもありません。実は先ほど、ボニー。あなたの記憶を垣間見てしまったのです」
「……私の、記憶を――?」
「ええ。端的に言って……この丑御前、悲哀の涙を零すのを堪えるのに苦心しました」
ボニーの眉間に、厳しく皺が寄る。
過ぎた不幸に対し、生半な同情はむしろ油でしかない。
お前に。あの世界に生きたこともないお前に、何が分かると。
少女の心を八つ当たりじみた怒りが震わす。
父の記憶を垣間見、元凶を知った矢先に冥界へ落とされたことで蓄積していたストレスは今にも爆ぜようとしていた。
だがその怒りも。続く言葉で、やり場を失ってしまう。
「辛かったでしょう。さぞや、口惜しかったことでございましょう。あのような歪に腐り果てた世界で生き、その理に翻弄されるのは」
女武者の紡いだこの言葉は、まさにボニーが"大海賊時代"の世界に対して抱いていた感情を代弁していたからだ。
「神を謳う屑が……いや、虫と呼ぶべきでしょうか。そういうものが我が物顔で蔓延り、不幸を振り撒く。
あまつさえ幼子から父を奪い、その尊厳を陵辱して跪かせる。ええ、ええ――この上ない非道でございます。
ボニー。あなたの憤懣は、実に正しい。間違っているのはあなたではなく、世界の方だ」
「……、驚いた。ホントに全部見たんだな、お前」
天竜人という存在を、あの世界では神としていた。
聖地とは名ばかりの、搾取と傲りに溢れた天空都市に身を置く醜い豚どもだ。
そしてその上には、五老星を名乗る愚者の賢者達が君臨していて。
世界の歪みを正そうとすることもなく、我が物顔で世界を俯瞰し続けている。
まさに、神を謳う屑であり。
下々の民の幸福を食って肥え太る、虫だ。
そんなおぞましく醜いものたちに、ボニーの世界は支配されていた。
ボニーの父は、そんな救い難いものにすべてを奪われた。
ボニーが憤り、憎むのも当然だろう。
そんな少女の想いを、感情を、恐ろしき女武者は一寸たりとも否定することなく肯定していた。
「……ああ、そうだよ。私は世界に怒ってる。
あんな世界、大嫌いだ。お父さんを弄んで、穢し尽くして、挙げ句見せしめの人形にした。
見たんだったらお前も知ってるだろ、ライダー。私のお父さんはな、"無敵奴隷"なんだってさ。
何度刺しても殴っても壊れないから、予約がひっきりなしに入ってあの天竜人(ゴミ)どもの間でさえ順番待ちが出てるんだと。
笑えるよな。はははは、あはははははは――」
ボニーは、笑った。
自傷するような、笑いだった。
ひどく痛ましい笑顔が、そこにはあった。
人生を憂いて、不理解を恨んで手首を切るような。
そんな幼い自傷を、彼女は笑顔で繰り広げていて。
「――ふざけるな。あいつら、いつか全員ぶっ飛ばしてやる。
あのマリージョアから引きずり下ろして、お父さんの味わった苦しみを1%でも味わせてやりたくてたまらない」
-
「ええ、ええ。まったくもってあなたの想いは正しい。その怒りのすべて、恩讐のすべて。
この私は肯定する。私は、あなたの一切を否定しない。ですから、そう」
女武者は、ボニーの憎悪と憤怒のすべてを肯定するとそう言った。
あなたの世界は歪んでいる。あなたの世界は、狂っている。
こわし
「ただしてしまいましょう? ボニー。あなたと――――この私で」
ならば、ただし/こわしてしまおうと。
女武者は、笑顔のままでそう言った。
「……、……え?」
「過ちは正さねばならない。歪みも然りです。それは誰かがやらねばならないこと。誰かが果たさねばならない、宿願なれば」
無論、ボニーとてそこに異存があるわけではない。
あんな世界は、壊れてしまって当然だと思っている。
神を気取って天に立つ"まがい物"たちは引きずり下ろされ。
当たり前としてまかり通っていた常識が崩れ、破綻して意味を失う。
それは、父を追う旅路の中でボニーが何度となく思い考えてきたことだ。
だがそれでも、今ここにいる武者の言葉に一二なく頷くことには躊躇いがあった。
断じて、父を穢した神々に同情しているからではない。
彼女が自分にかける言葉。
それに頷いてしまったら、なんだか。
なんだか、とんでもないことに。
取り返しのつかないことになってしまう、ような。
そんな予感がしたから、ボニーは言葉を詰まらせたのだ。
「私もまた、あなたと同じですジュエリー・ボニー。無念の内に生を閉じたこの身は英霊の座に召し上げられ、そして世界の破壊を願った」
ライダーは、人の形をしている。
見てくれだけなら麗しい少女のように見える。
あの海で出くわした、船を丸飲みにするような恐ろしい海王類。
かつて戦い、そして敗北した、黒ひげの大海賊。
そして世界は自分達の庭だと信じて疑わない、憎たらしい神々。
海賊ボニーがその航海の中で見、対面し、恐ろしいと思ったものは数ほどあった。
だがこのライダーは、丑御前というサーヴァントは、そのどれとも違って見えた。
同じ"恐ろしい"という形容でも、意味合いが違うというか。
その恐ろしさがやがてもたらす結果の形が、絶望的なほど自分の常識とはかけ離れているような――。
そういう存在(モノ)に、見えたのだった。
-
「……私は過去にも一度、この"聖杯戦争"と形を同じくする儀式に参じています」
「え? ……に、二回目ってことか?」
「ええ。残念ながら前回は仕損じてしまいましたが、二の轍は踏まないと約束しましょう。
それに――ボニー。どうやらあなたは、正雪よりも私の根源に近い。
今はまだ戸惑い、臆病風に吹かれることもありましょうが……それでもいずれは必ず共鳴が起きましょう。
そうなれば我らは、必ずやこの冥界に吹く一陣の風となる。数多連なる願いを切り崩し、世界をただす(こわす)恩讐の風に」
ジュエリー・ボニーは、世界に絶望した。
教会の外に、島の外に出て見た世界は知れば知るほど醜かった。
こんな世界は、間違っている。
人が人として、幸せに暮らすことも。
あるがままに誰かとして生きることも。
何かを守りたいと願い、行動することも許されないのなら。
それなら、こんな世界は。
こんな世界で、生きる人間は……
「死んだ方がいい世界。幼子がそう思ってしまう世界が、正しい形のはずがない」
――死んだ方がいいじゃないか、と。
そう思ってしまったとして、それを誰が責められる。
丑御前は、それを責めない。
責めるでなく、嗜めるでもなく、ただ静かに肯定する。
その想いは正しいと。
間違っているのは徹頭徹尾、この歪み果てた世界の方であるのだと。
彼女は嘘偽りのない言葉と瞳で、幼い大海賊にそう語っていた。
「改めて名乗りましょう、ボニー。私はライダー。我が真名は、丑御前。
誉れも高き源頼光から分かたれ、そして望まれるままに生き、棄てられたモノ。
あなたと同じように、この歪みたる世界をただす(こわす)ことを御旗に掲げた復讐者」
この聖杯戦争は、ジュエリー・ボニーにとって紛れもない希望だった。
正道ではならない願いを、邪道で叶えることを許す土壌。
科学をも超えた神秘、奇跡でならば、もう戻ることのない父を取り戻せる。救えるのだと、冥界は彼女へそう告げた。
しかして彼女が巡り合った運命は、忘れえぬ炎を燃やす復讐者。
世界の歪みを知り、それを糾する平安の、封じられたる狂気。
彼女は、ボニーに願い以外の可能性を提示する。
ある種母性にも似た柔らかな肯定で、ボニーの手を優しくその方向へと引くのだ。
-
世界は間違っている。
世界は病んでいる。
世界は、歪んでいる。
であれば、共にただそう/こわそうと。
歴史の彼方からやってきた鬼は、手を差し伸べてきた。
未だ幼い少女の身でありながら、誰より世界の無情を知る彼女へ。
最大の理解者として、久遠の果てから現れた。
少女は。運命に、出会った。
「――――あなたの願いを、真に叶えるべく罷り越しました。どうぞ末永く、共に歩んでゆきましょう?」
死んだ方がいい世界。
そんなものは、間違っている。
子どもでも分かる話だ。
であれば。
であるのならば――――
【CLASS】
ライダー
【真名】
丑御前@Fate/Samurai Remnant
【ステータス】
筋力A 耐久B+ 敏捷C 魔力A+ 幸運C 宝具B
【属性】
秩序・悪
【クラススキル】
対魔力:B
魔術に対する抵抗力。Bランクでは、魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。
例え、大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、丑御前を傷付けるのは困難である。
騎乗:EX
乗り物を乗りこなす能力。EXランクであれば、竜種にすら騎乗が可能となるレベル。
規格外の能力であり、超大型の神獣すら乗りこなす。後述する宝具の要ともなる。
【保有スキル】
狂化:EX
本来はバーサーカーのクラススキル。理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
後述する『鬼神の顕』スキルの効果によって自身のマスターにも隠蔽されている隠しスキルとなっている。丑御前は狂気に捕らわれており、例え理性的に言葉を交わしたとしても、本質的な相互理解には程遠い。
鬼神の顕:A
鬼やその混血が持つ「鬼種の魔」スキルに似て非なるスキル。
本来は『神性』スキルや『変化』スキル、『怪力』スキルなどから成る複合スキルである。生前、頼光から「分離・成立」した時にはあくまで頼光と瓜二つの姿であったものの、本スキルによって自ら容姿を少女期のものに変化させている。
独武者:C
ひとりむしゃ。
自身のクラスを隠し、偽りのパラメーターによって自らの正体を隠蔽する。自分自身の破壊衝動を抑え込む為の、枷にして檻でもある。
今回のライダーは『盈月の儀』で由井正雪にしたように、名そのものを偽ってはいない。
ジュエリー・ボニーというマスターを連れる上ではその方が都合がいいので、彼女には明け透けにしている。
-
魔力放出(迅雷):A
魔力放出の一種。電撃を伴う。
源頼光が持つ帝釈天由来の力と同じメカニズムだが、頼光のものよりも攻撃に特化している。故に、迅雷。
魔性鬼神:EX
荒ぶる鬼神、異形としての力。自身に対して短時間のブーストをかける。
【宝具】
『牛王反転・迅雷風烈(ごおうはんてん・じんらいふうれつ)』
ランク:A 種別:対城宝具 レンジ:0〜20 最大補足:500人
丑御前が操る、巨大乗鬼である土蜘蛛とも牛鬼ともつかない大型怪異───大神使が、牛頭天王の力をほんの一時的ながらも爆発的に増幅させ、強烈な叩き付け/踏みつけを行う。
巻き起こる大質量、大雷撃、大旋風により、世の悉くを粉砕する。
『牛王反転・悪逆無道』
ランク:B++ 種別:対都市宝具 レンジ:1〜90 最大捕捉:800人
ごおうはんてん・あくぎゃくむどう。
丑御前が操る巨大乗騎である大神使が、牛頭天王の荒ぶる力を受け、高まりきった魔力のために自壊しながらも激走。
纏った雷を周囲に放ちながらの超高速突撃を行うことで、幅1km、長さ十数kmの広範囲に渡って大破壊を巻き起こす。
聖杯戦争にあってはまず真名解放することが難しい、対英霊ではなく対都市規模の攻撃が優先される無差別広域破壊宝具である。
『童子切安綱(どうじぎりやすつな)』
ランク:B 種別:対神秘宝具 レンジ:- 最大補足:1人
平安最強の神秘殺し・源頼光が酒吞童子を退治する際に用いたとされる太刀。常時発動型の宝具。
普段は頼光のものと同じく一振りの刀として扱われるが、もしも彼女の中に燃える"恩讐"が表出化したならば……?
【weapon】
『童子切安綱』
【人物背景】
牛頭天王の子。平安の都に生まれ落ちた鬼子、源頼光に備わっていた魔性の側面。
この歪な世をこわす/ただすために剣を抜く、人界の復讐者。
丑御前は『盈月の儀』の仔細を忘れていない。
よってその霊基の内側では忘れえぬ恩讐の炎が燃え続けている。
従って、必要とあらば自らのクラスを"そちら"に切り替えることも恐らくは、可能である。
かの盈月をめぐる戦いと今回の現界ではその点が異なっている。
【サーヴァントとしての願い】
この歪なる世をただす/こわすこと。
【マスターへの態度】
愛らしく、そして哀れな童。
正雪よりも幼いが、だからこそ盈月の儀の二の轍は踏まないと踏んでいる。
ライダーはボニーの怒りをすべて肯定する。
――そして、世界への復讐へと誘う。
【マスター】
ジュエリー・ボニー@ONE PIECE
【マスターとしての願い】
お父さんを元に戻す。そして……?
【能力・技能】
超人系悪魔の実『トシトシの実』を食べている。いわば年齢自在人間。
自分を含めたあらゆる物体の年齢を操ることができる。
とはいえ生物に対しては永遠の効力を発揮することはできず、本質的に不老や若返りを実現することは不可能。
またこの聖杯戦争では、マスターとなりサーヴァントを抱える身になったためか、他者に対する年齢操作の効果時間が更に短くなっている。
【人物背景】
死んだ方がいい世界に生まれ、神に運命を翻弄され続けた少女。
その心には、愛する父をもてあそんだ世界に対する怒りが燃えている。
【方針】
聖杯を手に入れるつもりだが、無益な殺生は気乗りしない。
【サーヴァントへの態度】
恐ろしい奴だと思っている。
しかし同時に『聖杯を手に入れる上ではこれ以上の戦力はない』とも思っており、心境は複雑。
彼女の語る言葉に、自分の中の何かが共鳴しようとしていることにも気付いている。
――その感情の名を、幼いボニーはまだ知らない。
-
投下終了です。
投下中に一人称の修正を忘れてることに気付いたので、wikiで修正させていただきます。お目汚し申し訳ありません。
-
投下します
-
目が覚めた、目覚めたのは、躯の山。
そこに俺と背中合わせで立つ女王が居た。
「あんた…だれ…?」
ここが夢の中、それだけはわかる。
眼の前にいる奴も初対面だ。
「…私は…王だった者…とでも言ってくれ」
その女王も立った、長い髪を揺らし、杖を手に持って立ち上がる。
「私は…どこで間違えたんだろうな…」
「…」
なぜか、記憶が出てくる。
それはこいつの記憶だろう。
臣民の我儘を抑えるために、法を作った。
もちろん、我儘な馬鹿はそれを理解しない。
佞臣とかした忠臣、死んでいく娘たち、世界の崩壊。
そして、無能な臣民による、女王の殺害。
「…俺に聞かれても…困るな…」
「…そうか…私も…お前の記憶が流れている」
…追憶していく。
愛する人を失い、組織を大きくして、世界に覇を唱えようとした。
だから俺は、京極組とぶつかった。
殺した、死んだ、金棒を振るう男を殺した、自分についてきた、特別扱いしてほしくない天才が死んだ。
斧を振るう男を殺した、自分についてきた、価値を求める男が死んだ。
そして最後に、俺が死んだ。
あの男に撲殺されて死んだ、俺は愛を求めて死んだ。
千尋が死んでから狂った歯車。
遊馬、上堂、角中、榊原、緋田、麻生、俺を慕った幹部はみんな死んだ。
下っ端は俺を置いて逃げた。
こいつだってそうだ。
バーゲスト、バーヴァン・シー、メリジューヌ、愛する娘は離れた。
そして、臣民に侮蔑された。
「なぁ、あんた…聖杯に叶える願いってなんだ?」
俺は問を投げる。
その内を知りたい。
「私は…全てを…やり直したい…」
そうか、そうなのか。
なら、俺も笑顔をそれに同意した。
「俺もだよ、バーサーカー」
やり直したい、千尋とあの日を。
組織を終わらせると決めたあの日からやり直すだ。
「なら行こうか、妖精達の女王」
「あぁ、行こうか、マスター」
光が俺達を包んだ。
◆
-
冥界、NPC達に紛れて俺は生活する。
適当にバイトをして、家に帰って、勝ち残って、それを繰り返して。
「決着を、つけるときが来た」
あの日を変えるため、俺は動く。
孤高の女王とともに、歩み続ける。
我妻京也は、止まらない。
-
【CLASS】バーサーカー
【真名】モルガン@Fate/Grand Order
【ステータス】
筋力C 耐久E 敏捷B 魔力A+ 幸運B 宝具ex
【属性】秩序・悪
【クラススキル】
狂化:B
対魔力:A
道具作成:EX
陣地作成:B
妖精眼:A
【保有スキル】
渇望のカリスマ:B
多くの失敗、多くの落胆、多くの絶望を経て、
民衆を恐怖で支配する道を選んだ支配者の力。
湖の加護:C
湖の妖精たちによる加護。
放浪した時間があまりにも長い為、ランクは下がっている。
最果てより:A
幾度となく死に瀕しながらも立ち上がり、
最果ての島に至り、ブリテンに帰還を果たした女王の矜持。
通常のモルガンは持たない、異聞帯の王であるモルガンのみが持つスキル。
戦場の勝敗そのものを左右する強力な呪いの渦。
冬の嵐、その具現。
【宝具】
『はや辿り着けぬ理想郷(ロードレス・キャメロット)』
ランク:EX 種別:対城宝具 レンジ:10〜99 最大捕捉:100人
モルガンがその生涯をかけて入城を望み、そして果たされなかった白亜の城キャメロット。
世界のルールそのもの……即ち『人理』が、モルガンをブリテンの王にはしなかった。 叶わぬ望みは嘆きに替わり、やがて憎しみとなった。
ねじれた支配欲と特権意識。
燃えるような望郷と人間たちへの怒り。
そして同じ存在でありながらキャメロットの玉座に座ったアルトリアへの憎悪が、モルガンを『円卓を破滅させるもの』に変えてしまった。
これはその在り方を魔術として顕したもの。
決して辿り着けない路を一瞬にして踏破し、破壊せんとするモルガンの恩讐である。
モルガンが倒すべきはアーサー王ではない。
人間の為にブリテンの妖精たちを一度滅ぼそうとする運命……『人理』そのものを打倒 する為、彼女は最果てより戻り、世界を呪う魔女となったのである。
【weapon】
自身の杖
【人物背景】
絶望、失望、全てを目の当たりした女王。
裏切られ、朽ちた女王
【サーヴァントとしての願い】
全てを――やり直す
【マスターへの態度】
同じ願いを志す者、共感している。
【マスター】我妻京也@ヒューマンバグ大学
【マスターとしての願い】
あの日から、やり直す
【能力・技能】
古武術を高いレベルで習得している。
また相手を愛す、ということで相手のことが理解できるらしい。
【人物背景】
恋人を殺され、狂った男。
最後は、全員に見捨てられ、そしてその躯は、彼に恨みを持つものにより、丁寧に埋葬された。
【方針】
聖杯獲得
【サーヴァントへの態度】
バーサーカー同様、互いに共感している。
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投下終了です
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投下します
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月のない夜の事だった。
新月という、月輪が夜天から完全に消え去る日であり、尚且つ、空は盈月の光ですら地に届かぬ程の、分厚い雲に覆われていた。
そんな夜は、きっと人外化生が跳梁する。
人にとって────陽光の恵みを受けて生きる全てのものにとって、よくないものが現れる。
正邪善悪を問わず、法のもとに生きる者も、法の外に生きる者も問わず。誰もがそんな不吉な事を考えてしまう。
ある者は下らぬ妄想と笑い。ある者はそっと愛しい誰かを抱きしめる。
そんな夜だった。
灼熱の炎と、凍てつく吹雪が荒れ狂う。
狂風が吹き荒び、雷が夜闇を切り裂き空気を震わせる。
人が居ない。獣が居ない。虫が居ない。
街という、人が住み、日々の営みを行う場所が、鬼哭啾々たる,人はおろか生物が立ち入らぬ荒野の如き有様を示していた。
「ああ…やっぱり本物の人間は旨ぇよなぁ。エヌピーシーってやつは、味がイマイチ薄かったからなぁ」
闇が動いた。こんな声を出す者の傍には居たくないと。闇すらが逃げ出す声。人の持つ悪性を練り固め、音とすればこんな声になるだろう。そんな声。
「ククッ…。こんなもんかよ英霊ってのは、ヒュンケルに比べりゃ、雑魚と呼ぶにも値しねぇ」
闇が震えた。声に含まれた比類無き暴性に怯えたかの様に、闇すらが震える声。人の持つそれとは根本からして異なる“暴”。
事の起こりは10分と少し前。鎬を削る二騎のサーヴァントと、二人のマスター。この冥奥領域、冥界に存在する東京では、珍しくも無い光景だった。
そこに乱入して来た主従もまた、珍しくは無いだろう。
珍しいのは、主従ともにヒトの形をしておらず。
その強さが、破格であったという事だった。
高いステータスと対魔力を誇るセイバーは、近付いただけで火傷を負いそうな、燃え盛る炎の左半身と、触れただけで皮膚が裂け、鮮血を噴き出しそうな右半身を持つ異形と対峙した。
異形の放つ魔術の炎弾を、対魔力で寄せ付けず、口から吹き付ける氷雪にも耐え、瞬時に肉薄し剣を振おうとしたセイバーは、異形が五指から放った五つの炎弾により、全身が炭化して息絶えた。
人を超えた身体能力を持つのがサーヴァント。その中に於いても最速を謳われるランサーのクラスを得て現界した神速の英霊。
それが、三振りの刀身を鼻面から伸ばした漆黒の獣の影すら捉えることが出来ずに、全身を爪と刃で斬り刻まれ、世界を白く染めて落ちた雷に撃たれて微塵と砕けた。
後は単純な話だ。戦場に立つマスターから、屠殺場に引き出された豚へと立場が急転直下した二人のマスターは、二つの異形に嬲り殺され、そして獣の“エサ”となった。
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「こっちの奴は魔術師か。魔力のある人間ってのは旨ぇなぁ」
獣が嗤う。サーヴァントを従えていた時の選民面が崩れ、涙と鼻水と糞小便を垂れ流しながら命乞いをした男の姿を思い出して。
「セイバーよ。さっきのサーヴァント共はどうだった」
氷炎の異形────フレイザードは、愉しげに嗤う己がサーヴァントへと尋ねる。
魔界の神とも称される大魔王バーン。その麾下の六大軍団長の一角として、己が従えるサーヴァントには、あの程度の雑魚は歯牙にも掛けない強さを、フレイザードは望んでいた。
多少なりとも、あのセイバー程度と互角だったランサーを認める様ならば、フレイザードは落胆と共に、縁切りを考えただろう。
「弱ぇ。あの程度なら、俺が殺してきた字伏共の方が、まだ楽しめたぜ」
獣は嗤う。人の身に余る偉業を成し、人を超えた存在へと昇華されたサーヴァントをして、問題外だと嘲り笑う。
獣の名は紅煉。嘗て居た世界に於いて、世界そのものを滅ぼし得る大妖を除けば、最強であった獰悪の獣。
人も妖も寄せ付けなかった凶猛さを以って、英霊を問題にもならぬと嘯き、それが虚勢でも嘘偽りでも無い妖。
「ククク…それなら問題ねぇ。あんなゴミを少しでも認める様だったら、外れを引いたとガッカリしちまうところだった」
フレイザードは笑う。此処での初戦で試した紅煉の強さは本物だと確信して。
これならば聖杯を穫れると。フレイザードはサーヴァントを相手取っても、己が負けるとは思っていないが、万が一という事も有る。
サーヴァントがマスターよりも遥かに強いというならば、六大軍団長のフレイザードがマスターとしている以上。サーヴァントには軍団長に比肩する者が居てもおかしくは無い。
その懸念は、紅煉が示した強さにより確信となった。このサーヴァントは、フレイザード達六大軍団長に匹敵し得る。
そして、紅煉の様な強者がサーヴァントとして他にも召喚され、聖杯を求めて、この冥奥に牙を研いでいるかも知れぬ。
フレイザードが単体であれば、苦戦は必至。或いは敗北するかも知れないが、紅煉が居れば話は別だ。
軍団長級が二人ともなれば、フレイザードの上に立つ、魔軍司令ハドラーであっても苦戦は免れない。
ましてや、人間などでは、例えサーヴァントといえども勝負にもなりはすまい。
紅煉を召喚した時点で勝利は確実。万能の願望機である聖杯を手に入れ、大魔王バーン様に捧げれば、フレイザードの勲は誰もが及ばぬものとなる。
「俺もだぜマスター。あんな弱ぇ奴等に、少しでも苦戦するようなら、縁切って別の奴探すところだったぜ」
紅煉は喜悦に顔を歪める。口が耳まで裂けて、地獄へと通じる深淵を思わせる口内が見えた。
このマスターは“当たり”だ。強さでも魔力量でも一級どころではない領域。そして、性格の悪逆無道さ。
己を使う者として、認めるにやぶさかでも無い。
これならば、紅煉は聖杯を穫れる。聖杯に願い、黄泉返って、紅煉への復習を果たしたと安堵している鏢を嘲りながら、鏢が守ろうとした女と子供(ガキ)を眼の前で嬲り殺してやれる。
標の絶望と憤怒を思い、クツクツと紅煉は笑った。人の心の内に在るドス黒いモノが、口から濁流となって流れ出しそうな笑みだった。
遠くから耳障りな音が近付いて来るのが聞こえた。爆発音を派手に響かせ、挙句に落雷まで起きたのだ。不安に駆られた近隣住民達から複数の通報を受けた警察が出動するのも当然と言えた。
「人間共が、ワラワラとやって来やがったぜ」
フレイザードが凶悪に笑い。
「どちらが多く殺せるか、勝負してみるか。マスター」
紅煉が獰猛に牙を剥く。
「おお、良いぜ」
応じたフレイザードが眩く輝く火球を放ち、近付いて来た車列の、先頭のパトカーを爆発炎上させた。
「やるじゃねぇかよお!!」
負けじと紅煉が右腕を接近して来る音の方へと向けると、数十条の稲妻が放たれ、数台のパトカーが爆発炎上する。
突如起きた惨劇に、車を停止して、パトカーから降りた警官達へ、暴悪の主従は悠然と歩き出した。
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【CLASS】
セイバー
【真名】
紅煉
【属性】
混沌・悪
【ステータス】
筋力: A+ 耐久:A + 敏捷: A+ 魔力:B 幸運: C 宝具:B+
【クラス別スキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではセイバー に傷をつけられない。
騎乗: ー
騎乗の才能。『何かに乗った』という事が無い事と、セイバーの体型的に騎乗という行為に向いていない為に機能していない。
代わりに高ランクの飛行能力としての効果を持つ。
【固有スキル】
字伏:A+
字伏と呼ばれる極めて特殊な妖(バケモノ)としての格を表す。
セイバーは字伏と呼ばれる妖(バケモノ)の中でも、最強の存在の為このランク。
極めて高ランクの天性の魔、怪力、再生、魔力放出(風雷)の効果を持つ複合スキル。
怪力の効果は破格であり、人の身では到達不可能な領域。身体能力のみで宝具に迫る。魔力放出(風雷)の威力は凄まじく、並の対軍宝具に匹敵する。
戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
加虐体質:B+
戦闘時、自己の攻撃性にプラス補正がかかる。これを持つ者は戦闘が長引けば長引くほど加虐性を増し、普段の冷静さを失ってしまう。
攻めれば攻めるほど強くなるが、反面防御力が低下する。
カリスマ:D
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
精神異常:A
精神が錯乱しているため、他の精神干渉系魔術をシャットアウトできる。ただし、同ランクの精神汚染がされていない人物とは意思疎通ができない。
ギリョウさんの声もガン無視できる。
【宝具】
破妖霊刀
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:1人
人間が白面を滅ぼす為に鍛えた三振りの霊刀を白面の者が奪い、紅煉に与えたもの。現在は刀身だけが紅煉の鼻面にブッ刺さっている。
純粋な刀剣としての性能も高いが、最強の大妖である白面の者を滅ぼすためのものである事から、魔性に対する特攻効果を持つ。
更に魔性に対する再生阻害能力も有り、この刀で斬られた魔性がAランク以上の再生若しくはそれに類する能力を持たぬ限り傷が塞がらなくなり、斬られたものが魔に属する場合、傷口が融解していく。
喋ったり何か食ったりしたら舌切れるんじゃね……………?細かいことは気にするな。
黒炎
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:聖杯戦争のエリア全域 最大捕捉:1000人
紅煉が魔力を消費して身体から産み出す妖(バケモノ)。
サーヴァントに換算した場合、筋力: C 耐久:C 敏捷: C 魔力:C 幸運: Cのステータスと、魔力放出(風雷):C 怪力:C のスキルを有する。
強化型として、妖気を収束して光線として撃つ『穿』及び、突き刺さると根を張り、対象をその場に縫い止める『千年牙』を持つ黒炎も生み出せるが、魔力消費は多め。
最終決戦時に麻子の親父に殴り倒されていた…………?都合の悪い事は忘れろ。
数の暴力で人類最強候補の凶羅さん仕留めてたでしょ!!
【Weapon】
破妖霊刀
【人物背景】
元々『捉影』という名の人間が、獣の槍を得て、そのまま槍に魂を梳られて獣と化したもの。
なお人間だった時から、人間殺すよりも獣の槍使って妖ぶっ殺す方が楽しいと語っており、真正の悪人である。
その邪悪極まりない性状を白面に見込まれ、スカウトされて、白面について妖怪や同族の字伏を殺しまくる。
通常、獣の槍に魂を梳られて獣となってものは、槍の持つ白面の者への怨念に支配されるのだが、此奴は全く気にせずに白面の手下をやっている。
配下の黒炎達の指揮統率をそつなくこなしているが、どこでそんな技能覚えたのかは不明。
復活した時に、ある家を襲い、その時に妻と娘を喰われた男の、命を賭けた呪法により死亡。
【聖杯への願い】
復活。自分を殺した鏢の前に甦って、鏢が守ろうとした母娘を鏢の眼の前で殺して喰う。
【マスターへの態度】
気は合うし、魔力実力共に申し分ないので、言うことを聞く事にしている。
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【マスター】
フレイザード@ドラゴンクエスト ダイの大冒険【マスターとしての願い】
復活。聖杯をバーン様に捧げる【能力・技能】
炎と氷の呪文や息吹(ブレス)を行使する。
メラゾーマ五発を同時撃ちする五指爆炎弾や、自身の体を弾丸とする氷炎爆花散
全身を砕いて無数の岩の塊となって、敵を滅多打ちにする弾岩爆花散といった技を用いる。
【人物背景】
魔軍司令ハドラーが禁呪法を用いて創造した人造生物。誕生して一年しかない為に勝ち続ける事でしか己を証明出来ない為に、勝利と栄光への周年は凄まじいものがある。
炎の凶暴さと氷の冷徹さを併せ持ち、粗暴な言動とは裏腹に、狡猾で頭が切れる。
参戦時期は死亡後。
【方針】
サーヴァントが二騎居るようなモノなので、力尽くでゴリ押しも出来るが、敵を見定めて確実に勝てる相手を襲い、手強ければ勝てる状況を作る。
【サーヴァントへの態度】ウマが合う上に軍団長に比肩し得る強さな為に文句の付け所が無い。
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投下を終了します
サーヴァントはFate/Aeon に投下したものの流用です
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投下させていただきます。
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オルフェウスは毒蛇に噛まれて死んだ妻を追って、冥界へ下った。
嘆きの琴と、慟哭の詩で、死神さえも魅了して。
冥王さえも説き伏せて、愛しい片割れと再会を果たしたのだ。
けれど最後の最後に、吟遊詩人は後ろを振り向いてしまう。
冥王との約定に背いた代償は、今度こその永遠の別れ。
ふたりの煌めく思い出は、優しい無明に沈んで消えた。
『――ちゃん』
ああ、声がする。
いつだって、青空の下で声を聞いてた。
もういない人の声。
大切だった、それに気付くのが遅すぎた人の声。
いつかの日、ふたりきりの青の残響。
かつてそこには、確かに青が住んでいた。
今よりずっとささやかで、思わず見落としてしまいそうな幸せがあった。
大切なものは、失って初めて気付くだなんて陳腐な歌詞だと思ってた。
それが真実だと知った時には、もうあの人はどこにもいなくて。
探しても、祈っても、またあの元気な顔を見せてはくれなくて。
失った青が、また別の青に上塗りされたあたたかな日常の中でさえ、その痛みを忘れることはなかった。
後輩ができた。
信頼できる、大人に会えた。
まだまだ大変な日々は続いているけれど、それでも皆で支え合えば怖いものなんてそうそうない。
返せないほどの過去を抱えたまま。
砂だらけの世界で、幸せを分け合う。
恵まれた、とても楽しいスクールライフ。
その中でも気付けば、あの声を聞いている。
過ぎてしまったどこかから、青の残響が響いてくる。
『――ホシノちゃん!』
今でも、青は澄んでいる。
青春のアーカイブは、綴られ続けている。
終わらない青春の中で、守るべき日々の中でも。
それでも、その声は潮騒のように押し寄せて、そして消えていく。
小鳥遊ホシノは、夢の声を聞いていた。
もういない、叶わない、いつかの夢。
今は砂の中に、足跡が残っているだけの過去。
なのに気付けば、つい振り向いてしまう。
なんだかそうしたら、そこに。
あの頃と変わらない顔で笑う、あの人がいるような気がして。
-
……気付けば砂の世界を抜けて、死の世界にまで来てしまった。
いつもの帰り道で、たまたま違う道に入ってみたら、思いがけない景色を見たような気分だった。
そこには確かに、夢の刻んだ足跡がある。
だってここは死の、その先に広がる世界だから。
この先に行けばあの人がいるのだと、冥界はそう告げていた。
――ユメ先輩。
――ねえ。
語る声に、返事はない。
そしてホシノも、それを求めてはいなかった。
だってすべては、もうとっくに終わってしまったことだから。
今から取り戻せるものなんて何一つないと、分かっているから。
自分は、吟遊詩人などではない。
ただのおっちょこちょいな迷子だ。
たまたま冥界なんてけったいな場所に迷い込んでしまったから、出口を探しているだけ。
冥界の奥にあるものになんて、そこにいる人になんて、興味はない。
そう思わないと、やってはいけないことをしてしまいそうだった。
過去(うしろ)を、振り向いてしまいそうだった。
――そこに、いるんですか。
小鳥遊ホシノは、オルフェウスだった。
彼女がどんなに否定しようと、その手には未練という名の竪琴が握られていた。
ここは冥界。死者の国。滴る雫は、人に神話をなぞらせる。
だから背を向ける。
逃げるように、自分を保とうとする。
過去は過去で、現在は現在なのだと。
なくしたものは戻らないし、その痛みは自分が永劫に噛み締めていくべきものなのだと。
そう言い聞かせながら、歩いていく。
きっと青くはない、死の躍る物語の果てへ。
夢が笑っている。
過去が囁いている。
どうか後ろを振り向いてと、言うはずもないことを言っている。
脳裏に去来する"現在"の青と。
未練のように波打つ"過去"の青が。
ふたつの青(ブルー)が、交差して。混ざり合って。
未練の竪琴を抱えながら、ホシノは走った。
走って、走って、走って、そして……。
◆◆
-
「……、……うへぇ」
目を覚ます。
自分がうたた寝をしていたらしいことに気付いて、思わずおなじみの変な声が漏れた。
脱力したような響きは、昔からの癖だ。
ふぁあ、とあくびをして伸びをする。身体の筋が引き伸ばされる心地いい感覚に目を細めていると、呆れたような声がした。
「ようやくお目覚めかよ。お前、いくら暇だからって毎日よくそんなに寝られるな」
「うへへ。もうおじさんだからねぇ……気付くとついうとうとしちゃってさ〜」
「何がうとうとだ。気の抜けた歌口ずさみながら、窓辺で丸くなり始めたの覚えてんだぞ」
『おひるねに〜、ちょうどいい場所はどこかな〜……♪』なんて歌いながら、ホシノが昼寝ポジションを確保したのが今から二時間前。
補足しておくと現在の時刻は午後の二時だ。
普通ならホシノのような子どもは学校に通い、授業を受けている時間である。
しかしホシノは、学校へはとんと通っていなかった。
意味がないし、何なら何かあった時に巻き込んでしまいかねないから、というのが理由だ。
ここは冥界で、そこにいる人間も皆"生きてはいない"と知っているものの、やはり自分のせいで犠牲が出るのは寝覚めが悪い。
それに、キヴォトスの生徒であるホシノの頭上にはヘイローと呼ばれる光輪がある。
これは人前では否応なしに目を引くし、同じ葬者が見れば一発で同類とみなされること間違いなしの身体的特徴だ。
そういう意味でも学校に通い、わざわざリスクと犠牲を許容するのは旨みがない。ホシノは、そう考えていた。
「おじさん、アサシンに生活習慣のお小言言われるのはちょっと不服だなあ。
アサシンの方こそ、夜遊びとお酒代をもうちょっと抑えてほしいよおじさんは」
「……うるせえな、いいだろ別に。こっちは久方ぶりの現世なんだぞ。ちょっとは満喫させろ」
「あのねえアサシン。お金は怖いんだよ〜……特に借金。これはね、本当に怖いんだよ」
「なんで俺はガキに借金の怖さを説かれてんだ……?」
ホシノがアサシンと呼ぶのは、黒髪の、どことなく覇気というものに欠けた男だった。
だらりと着こなした普段着に、首から下げたやたらと長い赤のマフラー。
酒場の隅で管を巻いているような、あるいは娼館で女に鼻の下を伸ばしていそうな。そういう姿が優に想像できる、そんな男だ。
しかし他でもないこの彼が、小鳥遊ホシノの呼び出したサーヴァント・アサシン。
冥界へ迷い込んでしまった光輪の子が、葬者として共に戦うべく頼りにする凶手である。
既にホシノは彼の戦いを何度か見ていたが――凄まじいの一言だった。
あの時、彼女は改めて実感した。ここはもうキヴォトスではなく、自分の知る世界でもないのだと。
「ところでだけどさ。アサシンの方で、何か収穫はあった〜?」
「ああ、まあ一騎新しく捕捉したよ。派手に魂喰いをしてたから分かりやすかったわ」
「そういうのかあ……。うーん、分かってたことだけど物騒な子ばっかりだねえ」
「やるにしてももう少し上手くやれよとは思うが、まあその通りだな。おかしいのは明確にお前みたいな奴の方だ」
アサシンの言葉に、ホシノはまた「……うへへ」と小さく苦笑して肩を竦めた。
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そうだ、自覚はある。
聖杯戦争とは優勝を目指すもの。葬者とは己以外の命を間引くもの。
だというのに小鳥遊ホシノは、その定められたレールに乗ることを良しとしていなかった。
「別にさ、おじさんだって分かってないで言ってるわけじゃないんだよ?
優勝者を決めなくても帰れる方法だとか、冥界のどこかに都合のいい抜け道が転がってるかもだとか、そんなこと考えるよりも素直に優勝目指して殺し回ったほうが早いってのは……一応さ、分かってる」
ホシノの目標は生還だ。
だが、できるならば優勝以外の形で生還のすべを探りたいと考えている。
つまり聖杯を手に入れるという正攻法ではなく、抜け道や反則技を駆使しての突破だ。
そういう意味では、"手段を選ばずに生還を狙っている"と表現してもいいかもしれない。
とはいえこれに関しては、明確にアサシンの言うことが正しかった。
ホシノのような人間は間違いなく少数派だ。何故か。決まっている。
砂漠の砂の中に宝石の粒が紛れているのに期待して、世界の端から端までをザルで浚おうとしているようなものだからだ――要するに保証がない、キリがない。
どれだけ努力しても、蓋を開けてみたら全部無駄でした、なんて笑えないオチが待っている可能性すらあるのだ。
「でもね、おじさんって意外とええかっこしいでさ。この歳にもなると、若い子には見栄を張りたくなっちゃうんだよねえ」
「むしろ若気の至りだろ、そりゃ。見栄で人生をベットしてたらあっという間に素寒貧にされちまうぜ」
「うん、だけどさ。……おじさん、意外と後輩に慕われてるんだ。かわいい、とってもいい子たちでね。
あんな子たちがアビドスのために頑張ってくれるんなら、おじさん百人力だなあっていつも感謝してる。
おじさんが帰りたいのはあの子達のところ。みんなの、アビドスなんだ」
ホシノの身なりは幼いが、それでも彼女は世界の醜さを知っている。
どれほど世界が無情で、時に卑劣なのかを知っている。
そんな世界の中で出会えた、かわいい素敵な後輩たち。
それがホシノが帰還を願う日常であり、守るべき青春だった。
「敵を全員殺して帰ったんじゃ、あの子達の青春を汚しちゃう。
おじさん、独りぼっちって好きじゃなくてさ……どうせ帰るんならやっぱり、みんなのところに帰りたいんだ。
大手を振って、まるで何もなかったみたいに"おはよう"が言いたいの。
冥界とか、聖杯戦争とか、そういう話はぜ〜んぶおじさんの忘れっぽい頭の中に押し込んじゃってさ。また、みんなで頑張りたいんだよ」
そう言って笑うホシノの顔は、痛みを知っている者の顔だった。
アサシンは今でこそこんなだが、元は軍属の人間だ。
軍には様々な人種が集う。富裕層から貧困層、果てには戸籍のない浮浪者あがりの人間だっている。
それだけいろんな人間がいると、とてもではないが言葉にして語れないような傷を抱えた者だって時々はいる。
アサシンもそういう人間と出くわした覚えはあったし、ホシノは彼らと似たような顔をしていた。
だというのに痛みを胸の奥に押し込めて、こうして笑えるのは素直に大したものだと思う。
皮肉でもなんでもなく、実に立派なものだ。
自分の不幸を世界に転嫁して凶行を働く人間が多い中で、彼女はいつだって誰かのことを想っていた。
いつかの怨敵とは違う、顔の見える"誰か"のことを。
その気持ちを、その覚悟を、アサシンは否定しない。
それはむしろ、彼にとっても好ましく感じられるあり方だった。
-
けれど。
いや、だからこそ、か。
それを踏まえた上で、男は少女に問うのだ。
「お前さ」
「うん?」
「本当に、それでいいのか?」
「もちろんだよ〜。確かに藁にも縋りたい頭痛の種はあるけどさ、ズルをするのは一回懲りてるからね〜……」
うへへ、と頭を掻いて笑うホシノに。
アサシンは、小さく息を吐いてから、言った。
「梔子ユメ」
「――――」
時が止まった。
そんな風に感じられる、沈黙だった。
一瞬、確かにホシノの顔から色が消えた。
それを見た上で、やっぱりな、とアサシンは内心もう一度嘆息する。
「……あー。そっか、夢……夢かぁ。
そうだったね、なんだっけ……サーヴァントも、葬者の記憶を見ることがあるんだっけ。
うへへへ……恥ずかしいなあ、そういうことは分かってても言わないのがマナーだよアサシンくん……」
「まあ、俺はなんでもいいけどな。クライアントはお前で、俺は単なる傭兵だ。
お前がそれでいいなら、俺も気にしない。契約にそぐう範囲で仕事をするさ」
――それは。"その名前"は。
小鳥遊ホシノにとって、過去のものだ。
とうに過ぎ去った過去。今は記憶の中にしかいない人。
優しくて、底抜けに明るくて、馬鹿で、だからこそ見落としてしまった後悔。
「ただ、まあ……俺の仕事にも関わってくることだからな。決めるなら早い内にしてくれ。
その方が俺も楽だし――――お前も、きっと後悔せずに済むだろうさ」
言うだけ言って、アサシンは霊体化してどこかへ行ってしまった。
行き先は道楽か、それとも"仕事"か。
後者であってくれればいいなと思いつつ、ホシノは深く息を吐き出した。
そこで、自分がしばらく呼吸をしていなかったことに気付く。
思わず、くしゃりと顔が歪んで。「はは」と、らしくない笑い声が漏れた。
「デリカシーないなあ。わざわざ言わないでよ、せっかく黙ってたのに……」
――ホシノちゃん。
元気な声が、頭の中にまた響く。
未練の竪琴が、またそうやって音を奏でている。
葬者などになるつもりはない。
吟遊詩人になんて、なる気はない。
そう決めていたのに、今も竪琴の音が聞こえる。
思わず、後輩たちの名前を呼びたくなった。
初めて出会えた頼れる大人、あの"先生"の名前でもいい。
けれど結局、呼ばなかった。
そうしたって意味なんてないと、分かっていたからだ。
――ねえ、ユメ先輩。
――そこに、いるんですか。
そんな問いかけを、噛み殺して項垂れる。
アサシンの言う通りだ。
この感情は、早い内に振り切らなくちゃいけない。
だって、そうでないと。そうじゃなくちゃ……
「………………馬鹿。勝手なんですよ、あなたは」
このまま、過去(うしろ)を振り向いてしまいそうだから。
◆◆
-
――地獄か、ここは。
――ああ、似たようなもんだったか。
小鳥遊ホシノのアサシンは、げんなりした顔で屠った英霊の遺骸が消える光景を見下ろしていた。
マスターが近くにいれば念には念をでそっちも屠りたかったが、なかなか上手くはいかないものだ。
ホシノは望まないだろうが、やはり無力化した敵は早々に摘んでおくに限る。
それが後顧の憂いを断つということだからだ。砂粒ひとつでも見落とせば、それがいつか喉笛に噛み付いてくることもある。
彼にとって、聖杯戦争とはまさに地獄であった。
関わり合いになりたくもない英雄やら豪傑やらが練り歩き、日夜殺し合いを続けている人外魔境。
これに比べれば、まだあの新西暦の方がマシであったと断言できる。
幸いにして極晃奏者のままで来れているから心持ちに余裕もあるが、そうでなければどうなっていたか想像もしたくなかった。
彼は、およそ真っ当な英霊とは言えない存在だ。
誉れはなく、武勲はなく、あったとしてもすべて彼自身が穢してしまった。
成し遂げたことと言えば、回り始めた大いなる運命に逆襲し破綻させたくらいのものだ。
その中で巨大な力を手に入れてしまったことがすべての始まりだったとするならば、もう頭を抱える以外にない。
何故、かくもこの世とはやることなすこと裏目に出るものなのか。
平穏に座で寝ていたいというのはそんなにも高望みなのか。
アサシンは――矛を交えた英霊を、傷ひとつ負わないどころか指一本動かすことなく屠る工程を果たしたとは思えない顔で内心そう呟いた。
「吟遊詩人(オルフェウス)……か。皮肉にしても質が悪いな」
彼は、暗殺者の英霊だ。
そして彼は、オルフェウスだった。
オルフェウスは冥界を下り、数多の死神を前に竪琴を奏でた。
されどこの男は、過去(うしろ)を振り向いてしまう。
そう願われたから、それに従って、エウリュディケの顔を見てしまう。
吟遊詩人の座は失われ。
男は、冥府に沈んでいった。
やがて与えられた名は深き闇を統べる者。
死の渦巻く/うごめく世界にて、王として君臨する滅びの奏者。
冥王(ハデス)。
星を滅ぼす者(スフィアレイザー)。
ゼファー・コールレインと呼ばれた冥王は、静かに闇の竪琴をかき鳴らす。
もう面白いとさえ思えなくなった圧勝劇を繰り返し、作業として死者を死に還していく。
この冥界に最も相応しい称号を持つ暗殺者は、暁の名で呼ばれる少女のしもべであった。
かつてオルフェウスと呼ばれた男を、今のオルフェウスが呼んだのだ。
運命の歯車は、もう回り始めている。
配役は、まだ決まっていない。
-
【CLASS】
アサシン
【真名】
ゼファー・コールレイン@シルヴァリオヴェンデッタ
【ステータス】
筋力E 耐久D 敏捷B 魔力A 幸運E 宝具EX
【属性】
中立・悪
【クラススキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を断つ能力。隠密行動に適している。
完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
【保有スキル】
極晃奏者:EX
星辰奏者の極致にして、到達点。
人が生涯の果てに得た悟りの輝き。遥かな高位次元に刻み付けた"勝利"の答え。
アサシンは現界を維持する上で魔力を必要とせず、ある種の特異点的な存在として現界を続けている。
ただしあくまで現界ぶんの魔力が帳消しになるだけなので、宝具使用など戦闘における消費はその限りではない。
逆襲劇:A
ヴェンデッタ。
運命の車輪に紛れ込んだ砂粒でありながら、大きな運命の物語を破綻させた存在。
英雄としての霊格が高ければ高いほどアサシンの攻撃が与えるダメージは上昇し、彼に対して行う判定の成功率が減少する。
魔力放出(反粒子):A+
かつては星辰体、今は魔力に対する反粒子を生成して放出する。
宝具に由来するスキルで、アサシンはこれを極めて高度なランクで所有している。
【宝具】
『闇の竪琴、謳い上げるは冥界賛歌(Howling Sphere razer)』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:100
アサシン、ゼファー・コールレインがその生涯の果てにたどり着いた"極晃星"たる異能。星辰光(アステリズム)。
その能力は反粒子の生成。対象となる物質の性質を直接反転させて、あらゆる力を問答無用で飲み込む"星殺し"。
質量差の衝撃など、直接的に相手の力に起因しない事象に対しても無効化を働かせることが可能。
勝者を貶め、滅ぼし尽くす闇黒(マイナス)の結晶。あらゆる勝者を呪い、邪悪を氾濫させる冥王の星。
元の世界・新西暦では星辰体と呼ばれる特殊な物質のみを対象にしていたが、聖杯戦争ではサーヴァント化にあたり対象が『魔力』に拡大されている。
極めて凶悪な能力だが、流石に宝具そのものを破壊するのは難しい。だけでなく、アサシン自体が極晃奏者という非常に特殊な存在であるのも合わさって、この宝具を運用する際にはかなり凶悪な魔力消費がマスターに襲いかかる。
そのため、平時は彼に近しい存在であるところの冥狼(ケルベロス)程度の出力を出すのが精々。
とはいえそれでも滅奏は極悪非道。冥界下りのオルフェウスはハデスとなり、敵対するすべてに死を馳走する。
【weapon】
ナイフ(星辰光発動体)
【人物背景】
逆襲劇。オルフェウスにして、ハデス。
星を滅ぼす者(スフィアレイザー)。
【サーヴァントとしての願い】
現世を満喫しつつマスターに従う。
気に入らなければ適当なところでサクッと処理してしまうつもりだったが、その心配は今のところなさそうでひと安心。
【マスターへの態度】
変わった奴だな、と思っている。
とはいえ嫌いではない。英雄や異常者が主でなくてホッとしているし、それなりには報いてやるつもりでいる。
【マスター】
小鳥遊ホシノ@ブルーアーカイブ
【マスターとしての願い】
キヴォトスへ帰還する。
なるべく穏便に済ませたいと思っており、帰れる手段があるのなら優勝にこだわるつもりはない。
……聖杯については考えないようにしている。考えたら、後ろを振り向いてしまいそうだから。
【能力・技能】
兎にも角にも頑強である。
サーヴァント相手ならそうもいかないが、銃弾や多少の衝撃程度は物ともしない。
武器は『Eye of Horus』。セミオート式のショットガン。
【人物背景】
青のすまう街に暮らす少女。
そして、かつて青を失った少女。
【方針】
帰還の手段を幅広く探しつつ、降ってくる火の粉は払う。
場合によっては他のマスターとの協力も視野に入れたい。
【サーヴァントへの態度】
大人に対する警戒感は一抹あるものの、主従関係は良好。
ただ、"やりすぎる"きらいがあることは心配している。
うへ〜、おじさん物騒なのはノーセンキューだよぅ。
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投下終了です。
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投下します。
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東京都世田谷区、多摩川河川敷、深夜。
うっすらと川霧のモヤのかかる広大な公園には、どこまでも静寂が広がっている。
昼間は散歩をする人やスポーツを楽しむ若者で賑わうここが、実のところ彼岸との境界に位置していると知る者は少ない。
川の向こう側は神奈川県――地図の上では。
ここ冥界に再現された偽りの東京23区においては、川の向こうに広がっているのは実際には廃墟の街並みであり。
普通の川にも見える多摩川は、一度越えれば帰ることすら難しい、三途の川にも等しい「向こう」と「こちら」の境界である。
そんな世界の境界近くに、何かを待ち受けるように立つ人影がひとつ。
一人は少女である。
気の強そうな顔立ちに、ポニーテールにまとめた長い髪。赤いTシャツにジーンズ、足元はスニーカー。
一人は……少し場違いな雰囲気もある、巨躯の鎧武者。
西洋のフルプレートアーマーを纏った身長2メートル近くの巨体。顔は兜に完全に隠れて見えない。手には長い槍。
ふたり揃って、腕組みをして、道の彼方をにらみつけている。
やがてふたりが視線を向けていた方向から、川霧を切り裂くように、ヘッドライトの光とエンジン音が近づいてくる。
大型のバイクだ。
はて、河川敷公園のこんな遊歩道にまでバイクで入ってきていいものだったかどうか。
いや、この剣呑な待ち合わせに、そんな些細な法律を気にしても仕方あるまい。
大型バイクは少女と鎧武者の手前10メートルほどで停止すると、乗っていた人物がバイクから降りる。
長身の女性である。身体に張り付くようなライダースーツに、フルフェイスのヘルメット。こちらはひとりきり。
彼女は親しげに手を振りながら、少女たちの所に近づいてくる。
「どうしたのぉ? こんな夜中に急な呼び出しなんて」
「しらばっくれるな」
ライダースーツの女性の声はどこか妖艶で、どこか人を小馬鹿にしたような響きを孕んでいた。
対する少女の声は、硬く、鋭く、そして怒りの色を帯びている。
「おまえ――私たちを裏切ったな。
今は見逃すと約束した主従を、お前らはこっそり後をつけて、殺したんだ」
「あら、あの子たち死んじゃってたの? それは残念ねぇ。
それにしても、こちらを疑うのは筋が違うと思うのだけど?
これは聖杯戦争。わたしたちの知らないところで脱落する組は、どうしても出てしまうわ」
「だから、馬鹿にするな!」
からかうような、あざけるような長身の女性の言葉に、少女は激昂する。
すぐそばで歩哨のように立つ鎧武者を、さっと指さす。
「うちのランサーは、こう見えて探知能力には長けているんだ!
『彼女』の使い魔が一部始終を――」
「あら、あら、あら! あらまぁ!」
少女の鋭い追及に、しかしバイク乗りの女は何がおかしかったのか、途中で遮るかのように大きな声を上げた。
喜色すら含んだ、今にも笑い出しそうな声を上げながら、彼女はヘルメットを脱ぐ。
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ヘルメットの下から現れたのは――さらに新たなヘルメット。
いや、バイク用のヘルメットではない。頭部の上半分を覆い尽くすような、奇妙なヘッドギア。
目は見えない。
顔の目のあるべきあたりを含めて、顔の真ん中には十文字に濃いグリーンの素材で出来た窓が開いている。
こちらは外に露わになった、ルージュの引かれた唇に、小さく笑みを浮かべる。
「あちらの『ランサー』は、ああ見えて『女の子』だったそうよ――迂闊よねぇ、『アサシン』」
次の瞬間。
少女の隣に立っていた全身鎧の人物が、大きく震えた。
「えっ」
少女が驚いて振り返った時には、もう手遅れだった。
誰にどこから何をされたのか全く分からない。
戦闘においては抜きんでた能力を持っていたはずのランサーが、戦闘態勢を取る暇もなかった。
だが、マスターとサーヴァントの間に結ばれた霊的なリンクは、少女のランサーの『死亡』を疑いようもなく伝えてきて。
死を理解した『そのあとに』、フルプレートアーマーの隙間から激しく血が噴き出す。
死してなお立ち尽くしている鎧武者の足元に、ボタボタと臓物が零れ落ちる。
立往生だった。
文句なく死に果てていた。
遠からず、サーヴァントの亡骸は魔力の粒子と化して消失することだろう。
「だめよ、情報ってものは、気を付けて扱わなきゃ。
この状況においては、サーヴァントの『性別』すらも立派な機密なのよ」
「な……な……」
「でも私も迂闊だったわ。すっかり男の子かと。
先入観って怖いものなのねぇ。いい勉強になったわぁ。
貴女たちと『同盟』を組んだのも、そちらの『ランサー』がちょっと面倒に見えたから。
だけど……『女の子』で、『夜』で、『今の河川敷』なら、わたしの『アサシン』の敵じゃないのよ」
「な……」
「あと、私たちの動向を掴んだのは見事だったけれど、こうして面と向かって追及とはね。
駆け引き、苦手なの?
そういう短慮、今後が期待できないのよねえ」
「ぷ……『プロスペラ』ぁッッッッ!!」
「まあ『次』は、組む相手の選別からもっと上手くやるわ。
だから、貴女はここで退場なさい」
少女に『プロスペラ』と呼ばれた女性は、くるりと踵を返して大型バイクへと向かう。
それを見送る少女は……
「あ……」
もはや言葉も出せなかった。
心臓が止まり、思考が止まり、『その後に』、ナイフのようなきらめきが虚空に走って……
文字通りバラバラの肉塊となって、その場にべしゃり、と落下した。
名も無き少女たちの主従は、最後まで、マスター『プロスペラ・マーキュリー』のサーヴァントを視認することなく終わった。
◆
-
データストームの彼方に失われた娘を、取り返す。
それだけを願って張り巡らせた策は、最後の最後に阻止された。
他ならぬもうひとりの娘。
計画に必要な道具として生み出し、育てあげ、しかし、間違いなく愛していた、もうひとりの娘。
嘘偽りなく幸せを願い、最善と思える場所に残してきたはずの相手。
スレッタ・マーキュリーとその仲間たちによって、プロスペラは完膚なきまでに敗北した。
あまつさえ、彼女たちはまごうことなき奇跡を起こして、プロスペラたちを救いもした。
人生をかけて一度は手にした夢、クワイエット・ゼロは、パーメットの粒子と化して文字通り溶けて消えた。
欠片ひとつ残らなかった。
その後のことはよく覚えていない。
なんとなく幸せだったような気もする。
それはそれで悪くないと思えるような、暖かで緩やかな陽だまりにいたような気もする。
よく覚えていない。
記憶が欠落している。
ただ、おそらく、遠からずして死んだのだろう。
データストームに長年晒されて来たプロスペラ……エルノラ・サマヤの身体は、それくらいに弱っていた。
気が付いたら、この冥界。
気が付いたら、この聖杯戦争。
何でも願いが叶えられる万能の願望器。そんなものにかける願いなど決まっている。
エリクト・サマヤを、取り戻す。今度こそ。
◆
-
夜の首都高を大型バイクが駆ける。
先ほどは一人乗りだったバイクの後部座席には、もうひとつの小柄な影。
ヘルメットも被らないあぶなっかしい姿だが、目にする者があればもっと突っ込み所があっただろう。
幼い少女のような人物である。
それでいて、顔面には大きな傷が走っている。
身に着けているのは下着のような肌も露わな衣装に、スカートのように広がるのは無数の刃物。
明らかに東京には場違いな人物が、再びフルフェイスヘルメットを被ったプロスペラの背中に張り付いている。
全身で抱き着くようにして、しがみついている。
「さっきはありがとうね、アサシン」
「ううん、こんなの大したことないよ、おかあさん!」
アサシンはニッコリと笑う。
運転中のプロスペラはその頭を撫でられないことを少しだけ残念に思う。
『ジャック・ザ・リッパー』。
アド・ステラの時代に生きるプロスペラですらも知る、旧時代の有名な殺人鬼である。
都市伝説と呼んでもいい。
数多の娼婦を殺し、数多の証拠を残しながらも、正体を掴ませることなく消えた殺人鬼。
その正体については諸説乱立しており……
今回、プロスペラが召喚したこの少女も、その「可能性」のひとつなのだという。
その正体は、堕胎された赤子たちの霊の集合体。
この世に生まれ出でることすらできなかった、命に達することのできなかった存在。
かの有名な連続殺人も、これらが「母胎に帰ろうとした」、その結果なのだという。
(彼女と私は――『相性が良すぎる』。危険なほどに)
懐いてくるジャックのことを、偽りなく可愛らしいと思う。
生まれることのできなかった悲劇を、痛ましくも思う。
彼女の――彼女を構成する怨霊たちの願いが、叶えられるといいなと、本気で思う。
真の親子ではないけれど、子の幸せを願うが如く、ジャックの幸せを心の底から願うくらいには愛している。
同時に、僅かな匙加減の違いで己の身が危険に晒される危険性も、しっかりと理解している。
現時点では、ジャックの願いは『母の胎内に帰りたい』という漠然としたイメージに留まっている。
母親の胎内に帰り、今度はちゃんと生んで欲しい。
無理もない願いだ。
その境遇ならば自然と芽生えるであろう願いだ。
だが。
もしも万が一、彼女たちが『自分を産む母親』として『プロスペラ』個人を指名したら?
それこそ赤ん坊を一人を産む程度なら、我が身を削ってもいいだろう。
もしも『エリクトの復活』という大願が果たせるのならば、それくらいの代償、それくらいの恩返しはしても構わないだろう。
既にそれくらいの愛着は抱いている。
二人いる娘が三人になっても構わないくらいの気分にはなってしまっている。
けれど。
英霊『ジャック・ザ・リッパー』は、生まれることのできなかった赤子の霊の『集合体』である。
気が遠くなるほどの数の小さな魂の欠片が寄り集まって出来た存在である。
とてもではないが、全ては産めない。
全ては胎に宿せない。
おそらく……ジャックがそれを試みた時点で、母胎と目された人物は、必然として、死に至る。
悪いが死んでやる訳にはいかない。
既に死んで冥界にいる身で言うのもおかしな話だが、死んでしまえば大願は果たせない。
愛情と計算。愛情と嘘。
仮面の裏に隠されたその二面性を使いこなすのが、『水星の魔女』とまで呼ばれたプロスペラの真骨頂である。
「でもおかあさん、勿体なかったね。『同盟相手』、欲しかったんでしょう?」
「まだまだチャンスはあるわ。
失敗してもくじけず、次以降に活かす。挑み続ける。それが大事なの」
「『逃げればひとつ、進めばふたつ』だよね!」
「そうそう」
まだまだ聖杯戦争は序盤。
出会った二組の主従のうち、片方は倒した。片方は一時的に組んでいたが、今回の仲たがいで処分することになった。
プロスペラはこの戦いが長期戦になるものと踏んでいる。
そうであれば、強力なアサシンを抱えているにせよ、搦め手は駆使していかねばならない。
真の目的を偽ってでも他の参加者と同盟を組み、情報の優位や戦闘の優位を得ていかねばならない。
「頼りにしているわよ、ジャック」
「任せて、おかあさん!」
大型バイクが夜の首都高を駆け抜ける。
偽りの母と子は、血塗られた夢へと純粋に手を伸ばす。
-
【CLASS】
アサシン
【真名】
ジャック・ザ・リッパー@Fate/Apocrypha
【ステータス】
筋力 B 耐久 B 敏捷 A 魔力 C 幸運 E 宝具 C
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
気配遮断:A+
アサシンのクラススキル。自身の気配を消す能力。
攻撃態勢に移るとランクが大きく下がるが、後述する「霧夜の殺人」がそれを補う。
アサシンの中でも特に高いランクを誇る。
【保有スキル】
霧夜の殺人:A
暗殺者ではなく殺人鬼という特性から、加害者である彼女は被害者に対して常に先手が取れる。
ただし無条件で先手が取れるのは夜のみ。昼の場合は幸運判定が必要。
なお、今回の舞台は冥界であるため「会場の外(結界の外)」の廃墟エリアは常時「夜」と判定される。
古今東西どの神話でも、冥界に昼や陽光など存在しない。結界内の疑似23区が例外なのだ。
情報抹消:B
対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶から様々な情報が消失する。
記録媒体からも同様に消失する。
精神汚染:B
精神干渉系の魔術を中〜高確率で遮断する。
マスターのプロスペラが悪の属性を持っている(!)ため、既に初期段階から上昇しているし、今後も上昇の危険がある。
魔術の遮断確率の上昇の代償として、ジャックの精神はやや破綻に近づいている。
現時点ではそれはプロスペラへの過剰な懐き方として表れている。
義肢製作者:B
本来のスキル「外科手術(Eランク)」から置き換えられたスキル。
限定的な「道具作成」であり、四肢欠損に相当する怪我を負った相手に自在に動く義肢を与えることができる。
義肢は手近にある適当なガラクタを材料として製作され、外見から人の生身の手足とは一見して違うと分かるが、機能は十分。
プロスペラをマスターとしたことで、霊的なパスを通じてGUND義肢技術の一端に触れ、それを魔術的に模したもの。
プロスペラに言わせれば「この子ほんとうに凄いわねぇ」。
ジャックに言わせれば、外見は模倣できなかったので「おかあさんにはかなわないなぁ」。
なお、元のスキル「外科手術」の機能も残っており、義肢作成以外の手術も限定的に可能(ただし傷跡は汚くなる)。
【宝具】
『解体聖母(マリア・ザ・リッパー)』
ランク:D〜B 種別:対人宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:1人
通常時はDランクのナイフだが、条件を満たすことで対象を問答無用で解体する能力を発揮する。
すなわち、「対象が女性」「時間帯が夜」「霧が出ている」の3つである。
発生時には因果の混乱が発生し、解体された死体という「殺人」、標的の「死亡」、解体の「理屈」の順で物事が発生する。
なお、「霧が出ている」という条件は後述するもうひとつの宝具『暗黒霧都』で実現可能。
また会場外(結界外)の廃墟化した冥界は、常に「夜である」「霧が出ている」という条件を満たしていると見做される。
ある意味で怨霊死霊の集合体である彼女は、あまりにも強力な「地の利」を得ている。
『暗黒霧都(ザ・ミスト)』
ランク:C 種別:結界宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:50人
ロンドンを襲った膨大な煤煙による、硫酸の霧を再現する結界宝具。
最大で区ひとつ包み込めるほどの規模の霧が出現する。
硫酸の霧は皮膚を溶かし肺を焼き、眼球を爛れさせる。さらに方向感覚を狂わせる。
サーヴァントならダメージを受けず敏捷が下がるだけで済むが、霧の中でジャックの姿を捕らえるのは難しい。
結界の範囲や対象は自由に設定可能で、敵味方を選ぶことも可能。
ただし霧であるため、風などによる物理的な排除も可能である。
【weapon】
6本のナイフ。
投擲用の医療用ナイフ(スカルペス)、肉切り包丁など。
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【人物背景】
正体不明の殺人鬼「ジャック・ザ・リッパー」、その正体の「可能性」のひとつ。
堕胎された赤子の霊の集合体であり、怨霊の集合体。
宝具としてカウントされてすらいないが、怨霊の一部を分離して複数のNPCに憑依させて操るようなこともできる。
今回の舞台である冥界はある意味で彼女のホームグラウンドであり、ステータスの一部上昇など様々な利を得ている。
宝具やスキルを抜きにしても、素のスペックが既にアサシンらしからぬ高性能となっており、正面から戦っても強い。
幼い少女のような姿をしており、表面上は純粋無垢。しかし善悪の倫理観に乏しく殺人への禁忌などはない。
人生経験は乏しいが頭の回転は速い。
今回プロスペラ・マーキュリーという「子を求める母」に召喚されたことで、最高の相性を得た。
プロスペラを文字通り母のように慕い、甘えると同時に彼女の命令を絶対視している。
一方で相性が良過ぎるために、常に暴走の危険を孕んでいる。
プロスペラもそれを理解しており、偽りのない愛情や愛着を抱きつつも、一方では冷酷に利用して管理している。
また「逃げればひとつ、進めばふたつ」というプロスペラ独特の人生訓が刷り込まれている。
【サーヴァントとしての願い】
母親の胎内に帰ること。
ただしそれは本来、聖杯の力をもってしても実現可能かどうか怪しい願いでもある。
また、現時点ではそこまでは至っていないが、プロスペラとの関係がさらに深まった場合。
その願いが漠然とした「母親」という言葉を越えて、「プロスペラの胎内に帰る」に変質する可能性がある。
そしてそれが万が一にも強引に実行に移された場合、プロスペラの命はないだろう。
この危険性についてはプロスペラも深く理解している。
【マスターへの態度】
大好きなおかあさん! なんでもやるよ!
【マスター】プロスペラ・マーキュリー@機動戦士ガンダム 水星の魔女
【マスターとしての願い】
エリクト・サマヤが自由に生きられる世界を作る。
【能力・技能】
拳銃を主体とする戦闘能力
専業の兵士たちすらも圧倒する高い白兵戦能力を誇る。特に得意としているのは拳銃の扱い。
なおこの会場においても、裏社会と巧みに接触して、既に拳銃と弾丸を入手している。
メカニックとしての高い技術
現代日本より遥かに進んだ時代の先端技術に多く触れてきている。
モビルスーツパイロットとしての高い技術
巨大な人型兵器であるモビルスーツの操縦においても高い技術を有している。
今回の舞台ではおそらく乗る機会はないが、他の乗り物(バイクなど)も当然普通に乗りこなせる。
謀略や心理戦の高い能力
彼女は『魔女』とまで呼ばれた存在である。アドリブも得意。
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【人物背景】
アド・ステラと呼ばれる未来。
巨大企業グループ「ベネリットグループ」の末端、シン・セー開発公社の謎多きCEO。
基本的にパンツスーツ姿のスマートな女性で、なによりも目を引くのはその頭部を覆う仮面のような奇妙なヘッドギア。
さらに外見からは分からないほど精巧だが、右腕は上腕の半ばから先が義手になっており、取り外すことができる。
その身は長年浴び続けたデータストームによって侵されており、目立つヘッドギアは実は身体補助用の道具。
ヘッドギアを外すと、特に足の動きに難が生じ、歩くどころか立っていることもままならなくなる。
データストームの彼方に消えた娘「エリクト・サマヤ」を取り返すため、暗躍を続けてきた。
その過程でもう一人の娘である「スレッタ・マーキュリー」をアスティカシア高等専門学校へと送り込み。
紆余曲折の末、プロスペラの大願は、そのスレッタと仲間たちによって阻止されることとなった。
原作最終話、最終決戦の後、エピローグより前の段階からの参戦。
より正確に言えば、彼女の記憶はそこまで途切れているが、実際にそこからどうなったのかは不明。
エンディングの後に天寿を全うした後、記憶を一部失った状態でこの地にいる可能性もある。
この冥界に再現された東京には、外資系企業「ベネリットグループ」が存在。
軍需産業から医療系、学校経営まで含む多彩な事業に手を出しており、誰もがその名を知る大企業となっている。
グループの末端には「シン・セー開発公社」が存在し、東京に本社を置き、プロスペラがCEOということになっている。
この東京においても福祉工学に関与している。
ベネリットグループの構成員はほぼNPCであり、ゆえにプロスペラは立場が低いにも関わらず、ほとんど好きなように操れている。
身に着けたヘッドギアは目立つ格好ではあるものの、不思議とNPCは問題視しない。やや奇抜なファッション程度の扱い。
ただし他の葬者(マスター)やサーヴァントは違和感に気付ける可能性がある。
【方針】
優勝狙い。他の参加者も容赦なく蹴落とす覚悟はある。
ただし序盤はできるだけ目立たず暗躍に回りたい。可能なら同盟なども駆使して上手く立ち回りたい。
必要であれば優勝狙いという本当の方針を偽ることも考える。
【サーヴァントへの態度】
仮初めの主従関係とは理解しているが、慕ってくれるジャックに対してはまんざらでもない。
彼女に向ける愛情と同情は、ある意味では本物。
一方で冷静な視点でジャックの危うさにも気づいており、距離感を上手く保つ必要性も実感している。
どちらも嘘偽りなく両立させる魔性こそがプロスペラの真骨頂である。
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投下終了です。
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投下します
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パチ、とキメの細かい泡が浮き上がり爆ぜる。
カラン、と液体に浮かぶ氷がグラスにぶつかり涼やかな音を立てた。
エメラルドよりももっと明るく、もっとチープなクリアグリーンの液体。その中心に小島の様に浮かぶ白い氷菓と艶やかな赤色をした小さな果実。
差しこんだストローから吸引されて緑色に着色された炭酸水が口内に運ばれる。口腔に広がるシュワと弾ける炭酸の刺激と鼻腔へと抜けるメロンの香料。
ごくりと喉奥まで嚥下しおえ、スプーンで削り取った氷菓を口許へ運ぶ。
炭酸水よりも一際冷たい感覚。そして舌に乗せると溶けて消えていく乳製品のまろやかな甘み、口内を支配するバニラビーンズの風味。
それらを堪能し、少女はフ、と一息を吐く。
その様を眺めながら少女の眼前にいる壮年の男性は可笑しそうに噴き出した。
「まったく、お前は本当にそれが好きだな紗代。ここに来たらいつもそれを頼んで」
「そんなに笑わなくたっていいではないですかお父様。私はこれがずっと憧れだったのですから」
揶揄う様な父親の笑いに、少女、龍賀紗代は拗ねたような表情をしてみせる。
仲睦まじい親子のするような、どこにでもあるありふれた日常の一ページの光景だろう。
そう、表向きは。
「憧れって言ったってなぁ。戦後ならまだしも今なら哭倉村でもクリームソーダくらい飲めるだろうに」
そう言いながら葉巻に火をつけ窓の外の景色を眺めはじめた父親に紗代は微笑みで返す。にっこりと、敏い者ならようやく気付けるであろう能面の様に貼りつけた微笑を。それは、真意を周囲に悟らせないために彼女がかつて地獄と呼んで差しさわりのない環境で培った処世術だ。
そう、大日本帝国が太平洋戦争に敗戦し、戦後復興が軌道に乗った70年以上も昔の昭和の日本。彼女が今存在している令和よりも遥か昔、本来であれば紗代がいた時代に存在した、人の欲と血に塗れた忌まわしき哭倉村で。
暢気に窓の外を眺めている本来の家系図上の父親とよく似た男を尻目に紗代は貼りつけた微笑のままでクリームソーダを口にする。
現代においてはチープと形容して相違ない香料と甘味料で彩られた飲み物は、少女が憧れを抱いた未知の味。少女の独りよがりな希望を向けられた都会からやって来た男との約束の残滓。ついぞ味わう事の叶わなかった未練の証。それを少女でいられなかった者はゆっくりと飲み干していく。
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ビルの間に陽はほぼ沈んだ。濃紺のヴェールが次第に空へと降り、ほどなく夜がやってくる。
父と別れ一人家へと着いた紗代は、家の窓から明かりに照らされ宵闇においてなお煌々と光る東京の街並みを見下ろす。
彼女の生活の全てを占めていた哭倉村であれば考えられない明るさだ。例え彼女の知る、彼女のいた時代である東京であってもここまで明るいということはないだろう。
「私がお婆ちゃんになるまで生きていたらこの街を見ることが出来ていたのでしょうか」
ぼそり、と誰に向けてでもなく紗代は呟く。
脳裏に元の時代での記憶が蘇る。水木という名の男性と共に東京へと行けたかもしれなかった、村の外へと向かう道を共に歩いた時の記憶だ。
もし、水木があそこでゲゲ郎と彼が呼んだ男を龍賀の魔の手から救う事を選ばずに、自身の手をとって東京へと逃げてくれたのならば、この光景を彼の傍らで眺めることが果たして出来ただろうか。そう思考して、頭を振った。
水木は自身が何をしたのか知っていた。見えていた。そう本人の口から聞いてしまった。
自身がどれだけ穢れた存在であるのか、本人の口から聞くことはなくとも彼の態度から水木が知ってしまっていることを理解してしまった。そうである以上はいつかどこかで破綻してしまったかもしれない。
紗代の望みは穢れた自分という存在を誰も知らない場所へ行く事だ。そうなると水木の存在は彼女の望みを妨げる存在になる。
で、あるならば。あの血生臭い処置室で全てに絶望した時の様に。薄暗い本殿で伯父に襲われた時の様に。上の叔母に強請られた時の様に。下の叔母に詰られた時の様に。紗代は水木を手にかけることを厭わなかったかもしれない。
ぼうっと窓ガラスに映る紗代の傍らに異形が現れる。
狂骨。龍賀とそれに与する者によって命を絶たれた亡者の慣れの果て。狂える骨だけの怨霊。紗代に憑き、紗代に使役され、紗代の危機を救い、紗代の一線を越えさせ、紗代の倫理観を狂わせ、そして死してなお紗代に憑いて回る妖。
紗代が逃げる様に視線を顔ごと下に逸らすと、鏡像に映っていた妖怪はフッと消える。
「70年も経ってしまえば私を知っている人なんてきっといないのでしょうね。ええ、きっとここなら本当の意味で私が穢れた女であることを知る人なんていない」
昏い瞳で窓の下の闇を見つめる。
龍賀紗代は人を殺した。
最初は正当防衛であった。だがその次からは違う。
自分の身を決定的な危機に脅かされたは訳ではない。ただ凄まれ脅されただけであったというのにそれだけで彼女にとって人一人の命を奪う理由になってしまえていた。
その末に殺意と情念の炎にその身をくべ一切合切を皆殺しにしようとしたが叶わずに文字通り灰となって燃え尽きた。
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「バーサーカー」
紗代の一言で部屋に突如として甲冑に身を包んだ大男が姿を現す。
腰に差した刀と数多の犠牲者の血を吸ったのだと理解できる武骨で巨大な棍棒。そしてなによりも顔に被った鬼を象った面が印象に残る、凶気を孕んだ偉丈夫である。
「あなたとお話ができれば少しは違ったのでしょうか」
鬼は喋らない。微かに唸り声だけが二人きりの部屋に響く。それだけ高ランクの狂化スキルを有しているためだ。
だから紗代は自身の生命を預ける従者について本人の口から何も聞くことは出来ない。ただ彼女の意思に従って相手を殺害するだけの殺戮機構。その点でいえば彼女に憑く狂骨となんら違いはないのかもしれない。
一度、夢でバーサーカーの生前の記憶を紗代は垣間見た。
その記憶は制御できぬ怒りに身を焼き続けたものだ。侍という存在を貶める者達を凄惨に殺し、己の誇りである家名を冒涜した領主に凶刃を向け、激情に駆られるままに曇らせた瞳で実父を切り捨てた己の愚かさに身を掻きむしり、そうして心は悪鬼と成り果て、民草達により鬼として殺された悪因悪果の物語。
そのような反英雄が紗代の従者として宛がわれたのはどのような因果であろうか。
昏き感情のまま生前と変わらず非道に走るのであればお前もこうなるのだという忠告か。
己の望みの為に躊躇なく人を殺めてしまえるお前などこの化け物と同類だと言う嘲笑か。
どうでもいい、関係ない。そう紗代は思う。
既に聖杯戦争という殺し合いに巻き込まれた身、そして70年前の哭倉村で既に死した自覚も持っているのだ。
死んだはずの、何もなせずに終わった自分に降って湧いたような奇跡。それをどうして捨てることが出来ようか。
聖杯戦争を勝ち抜き、自分の呪われた運命を無かったことにする。そしてあの哭倉村とは関係のないどこか遠い場所で改めて自分の人生を歩む。その為なら血に塗れようと構わないと、紗代は覚悟を決めていた。
「ええ、例え鬼になろうとも。私は」
夜の闇を見据える少女の瞳は年不相応に黒く、昏い。
鬼に成り果てた者、鬼となることを厭わない者。
夜の帳が降りきった東京に、虫達の鬼に怯える歌声が響く。
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【CLASS】
バーサーカー
【真名】
山岡崋山@Dead by Daylight
【性別】
男性
【属性】
混沌・狂
【ステータス】
筋力A⁺ 耐久C⁺ 敏捷C⁺ 魔力D 幸運D 宝具D
【クラス別スキル】
狂化:B
魔力と幸運を除いたパラメーターをランクアップさせるが、
言語能力を失い、複雑な思考が出来なくなる
【固有スキル】
戦闘続行:C
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
また、不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。
邪神の加護:A
邪神エンティティに見初められた儀式にして遊興の執行者たる者の証。
奇襲・追撃・追跡において有利な補正を得る。
残心の心得:B
父である練次郎の教え 拾弐ノ伍「敵の強みにこそ弱点がある」
心眼(偽)に似て非なる直感・第六感による危険感知スキル。相手の強み、自身にとって不利な地形を直感的に感じ取り致命打・致命的状況の回避に対して有利な補正を得る
血の共鳴:C
父である練次郎の教え 陸ノ参「正確に敵を攻撃しろ。さすれば仲間に響く」
サーヴァントに負傷を与えた場合、魔術的パスを介してそのマスターに軽度の負傷と疲労を与える。また後述の『邪神庭園・憤怒聖地』発動中の場合は負傷と疲労を受ける対象が宝具に捕捉された全員となる。
天誅:C
父である練次郎の教え 肆ノ玖「鬼の顔に唾を吐きかけて勝ち誇るのは愚か者だけだ。」
自身に危害を加えた相手への感知・追跡に対して有利な補正を得る。
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【宝具】
『鬼山岡(わがかめい、けなすものにはしを)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:0捕捉:1人
内に燃える憤怒の情を爆発させ一定時間自身を強化させる自己強化宝具
犠牲者の血を一定以上浴びることで発動する。効果発動中は筋力・敏捷・耐久のパラメータが強化される。
『邪神庭園・憤怒聖地(デッド・バイ・デイライト)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1~20捕捉:1~4人
固有結界・魔術結界とも異なる邪神による対界介入宝具。
この宝具はバーサーカーによる任意発動は行えない。バーサーカーを通して聖杯戦争を監視している邪神エンティティの意思によってのみこの宝具は発動する。
バーサーカーとマスター、および効果対象をエンティティが作り出した狩場へと幽閉する。この空間においてはバーサーカーこそが絶対の狩猟者であると世界法則が書き換えられ、サーヴァントの宝具使用・戦闘能力が著しく制限される。
この世界から脱出するには宝具の核となっているバーサーカー、あるいはバーサーカーのマスターを殺害するしかない。
万が一上記の方法以外での脱出が成功した時、邪神は敗者へのペナルティとしてバーサーカーの霊核を強制的に破壊してバーサーカーを脱落させる。
【weapon】
日本刀:山岡家に伝わる長刀
金棒:頑丈な金棒。主に宝具効果中に使用する傾向にある。
【人物背景】
山岡家という侍の家に生まれた人物。完璧な侍階級を作り出す事を目標とし、侍を騙る農民や侍を名乗る力量もない者などにより侍という存在の価値が貶められることに怒りを覚えた彼は残酷かつ徹底的に偽侍と見なした者を殺害して回っていた。
その惨状を危惧した領主が「鬼の山岡」と呼び始めたことで家名を貶められたと感じた崋山は領主にすら凶刃を向けるものの、それを防ぐために立ちはだかった父親をそうとは知らずに殺めてしまう。失意はやがて領主への怒りへと変わり、激情のままに領主を殺害されるものの、領主を慕っていた農民の集団との多対一の戦闘を切り抜けることは出来ず、拷問の末に死亡した。
その後、邪神エンティティに見初められた彼はエンティティの作り出した空間で鬼(キラー)の一人としてエンティティの手により迷い込まされた一般人(サバイバー)を殺して回っている。
【サーヴァントとしての願い】
怒りのまま目に見える者は全て殺す。
【マスターへの態度】
自身のマスターであるという認識、そしてマスターがいなければ自分は動けないという状況は理解している。指示には従うが怒りに支配された状況の場合はその限りではない。
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【マスター】
龍賀紗代@鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎
【マスターとしての願い】
自分の呪われた運命を無かったことにし、龍賀の家とは関係のない場所で人生をやり直す。
【能力・技能】
『狂骨使役』
井戸に捨てられた死体から生ずると言われる妖怪。怨念の類。
裏鬼道という陰陽師集団が使役しており、協力関係である龍賀家では幽霊族と呼ばれる妖怪の狂骨も存在していた。
当主である龍賀時貞が死亡し、新たな当主が決まった夜。新当主によってその身が穢されそうになった紗代に狂骨が憑依した結果使役できるようになった。
紗代本人の霊力は極めて高く、狂骨使役のスペシャリストである裏鬼道の長の制御用呪具を破壊し、その場にいた狂骨全てを制御下における程の実力を秘めていた。
【人物背景】
第二次世界大戦後、その名を政財界に轟かせていた龍賀家の少女。
歪んだ因習によって身を穢され、心を蹂躙され、ここではないどこかへ逃げようとするも叶わず逃げられなかった少女。
【方針】
優勝を狙う。殺人において躊躇はしない。どこにでもいる普通の少女であり強かさはあっても策謀は不向き。また見敵必殺という訳でもなく情も持ち合わせている
【サーヴァントへの態度】
狂骨と同じ、自身が命じれば邪魔者を排除してくれるものという認識。とはいえ共に戦う存在でもあり、紗代本人の性格的にも無下に扱うつもりはない。
自身のサーヴァントが危険人物であるということは理解している。エンティティによってキラーとなってからの事は夢で見ていないため把握はしていない。
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投下終了します。
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これより投下します。
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「グエエエエエエエエエェェェェェェェェェェェェェッ!」
獰猛な野獣の叫びにより、町工場は混沌に飲み込まれた。
「うわああああっ!」
「助けてー!」
「嫌だあああぁぁぁぁぁ!」
突如として現れた異形に逃げ惑う人々。
空の彼方から舞い降りたのは、全長3メートルは優に超える怪鳥。鶏冠は煉獄色に燃え盛り、鋼鉄の鋭さを持つ嘴がおぞましい。
何より、剥いた白目と口から垂れ流す涎が対話のできないケダモノである証拠。
「キシャッ!」
「ギシュッ! ギシュッ!」
「シャアァァァッ!」
それも一匹ではない。
群れを成すのは空を支配する鷹だけに非ず。地を駆ける猟犬たちが不気味に吠えていた。
十を超える捕食者が人里に放たれれた先にあるのは地獄絵図。町工場は絶好の狩場と化した。
口から吐き出す灼熱で道をふさぎ、獲物の逃げ場を奪う。それでいて、焼死させないように加減するが、慈悲などではない。
理由は二つ。NPCたる彼らから、糧となる魔力を一つでも多く得ること。
「ひ、ひひ……っ! いい悲鳴と絶望だァ……! もっと泣け喚け!」
ただ一人、狂笑する使い魔たちの主。
生前、悪徳の限りを尽くして逸話を遺し、キャスターのクラスで召喚された男。とある勇者の剣で終止符を打つが、その暴虐は伝記で語られるほど。
恐怖と絶望の色で満ちた獲物の表情を堪能し、サディスティックに狩り続けた逸話から反英霊となった。
ただ殺すだけでは華がない。芸術的に彩ってこそだ。
身勝手な趣向が、NPCをあえて生かしたもう一つの理由だ。
「い、嫌だ……ッ!」
「誰か! 誰か、助けてーーーー!」
「あっち行け、バケモノ!」
惨めな命乞いや足の引っ張り合い、時折気の毒になる抵抗を見せる愚か者すらいる。
その全てを、キャスターはただ愛おしく耳にしていた。
糧とされるNPCによる死と絶望の大合唱。
あと一声かければ咲き誇る血の花畑。
怪物が幾度となく繰り返した悲劇が、冥界にて再現されようとしていた。
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「フッフフフフ……愉しい……実に愉しいナァ……! ヒッヒヒヒ…………!」
惨めな泣き顔のフルコースに、キャスターは酔う。
あと一歩で、極上の快楽に達することができる。
その号令さえかければ。
「さァ、やれ----!」
「「「シャアアアァァァァァァァッ!」」」
哀れな贄に殺到する悪鬼羅刹。
仮初めの命は断末魔すらも喰らい尽くされ、生きた痕跡を一つも遺さない。
「そこまでです!」
だけど。
悪事を働く者がいれば、それに立ち向かうヒーローもやってくるのがお約束。
誰もが憧れる物語の主人公にふさわしい勇姿を見せて。
-
「スカイミラージューーーートーンコネクトッ!」
空の彼方から響き渡る少女の声。
世界を照らす太陽に遜色ない、溢れんばかりの光に邪悪は足を止める。
「ひろがるチェンジ! スカイ!」
それは奇跡を起こす魔法の言葉。
幼い頃からその姿にずっと憧れた少女は、ひたむきに走り続けてきた。
大人が何人集まっても敵わない悪がいても、泣いている声があれば必ず駆けつけた。
どれだけ強大な相手でも、その背中に守りたい人がいるから立ち向かった。
異なる世界で友と出会い、絆を紡いで、いかなる困難からも逃げ出さなかった。
「きらめきホップ、さわやかステップ! はればれジャンプ!」
高らかなかけ声はとても優しくて、気高き神秘すらあった。
聞けば誰でも勇気が溢れ、気分をアゲアゲにする。
彼女の声はーーーー死に満ちた冥界で無限にひろがっていた。
「たああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「「「「ーーーーグギャアァァァァァァァッ!?」」」」
天から降り注ぐは流星の如く衝撃。
確固たる意志を込めた一撃に邪悪は抗う術を持たない。
たった一刻。人々を喰らおうとした暴虐は彼方へと吹き飛ばされた。
「な、何だッ!?」
狼狽するキャスターの目前に吹く一陣の風。
青き光が晴れた瞬間、凜とした眼光を向ける一人の少女が現れた。
風にたなびくツインテールは青で彩られながら、桃色のグラデーションがかかり、まるで空を象徴するコントラスト。翼をモチーフにした純白の髪飾りは、どこまでも飛び続けんとする彼女の意志か。
青と白に彩られたコスチュームはきらびやかで、左肩から豪華なマントをはためかせる姿はどこか凛々しい。
「何だ…………お前は!?」
その眩い勇姿にキャスターは顔を顰める。
脳裏に過ぎるのは彼自身の最期。聖剣を携え、人々から英雄と称えられた戦士に討たれた光景だ。
因果応報。これまで弄び続けた無辜の民たちと同じように、悪鬼は地獄に突き落とされた。
憎くて堪らないあの英雄と、たかだか十数歳程度の小娘が、あろうことかオーバーラップした。
「無限にひろがる青い空、キュアスカイ!」
高らかな名乗りと共に、華麗にポーズを決める少女。
血と悲鳴が咲き誇る戦場にはまるでそぐわない。現世に召喚され、知見を広める際に見た幼子向けの映像から飛び出したような風体だ。
薄っぺらく、青臭い三文芝居としか思えずーー何よりも不快だったソレが、キャスターと相対していた。
-
「キュアスカイ、だと……!?」
「ええ。この度はライダーのクラスで召喚されました」
唖然とするキャスター。
わざわざ己の名を馬鹿正直に宣言し、その上でクラスを明かす行為に。
聖杯戦争において、サーヴァントの真名は切り札だ。
英霊にとって弱点にもなり得る名を、初手から易々と明かす無謀に信じられず。
されど、セオリーに反した無鉄砲さを嘲笑するなど、キュアスカイの前では許されない。
動くな! と。小さな体躯からは想像できない威圧感が、キャスターの男を縛りつけていた。
「皆さん、逃げてください!」
その一瞬の足止めは、NPCたちにとって奇跡。
キュアスカイの一声で彼らはこの場から逃げ去った。
だが、それを看過するほどキャスターは愚鈍ではない。
「ぐっ……逃がすな! やれ!」
キャスターの叫びに動くのは、そのマスターである男。
目にも留まらぬ速さで取り出すのは、拳銃。その標準はNPCの背中に向けられていた。
迅速かつ正確無比で、何一つ無駄がないその動作はまさに機械。
死人の如く虚ろな瞳は、キャスターの操り人形にされた何よりの証拠。
呼びつけられた直後に主の心を操り、情報を引き出している。マスターをただの要石に変えたのは、余計な邪魔をさせないため。
心を奪われた彼は、一切の呵責もなく引き金に指をかけた。
「させないよ」
悲劇に割り込んだ影。
操り人形が放った魔弾は、唐突に弾かれる。NPCを守る盾になるように、無から障壁が立ちはだかった。
バリアの中央には人型のシルエットが見える。その手には端末ーータブレットらしき機械を持っていた。
「マスター!? どうして……」
「ライダー、みんなのことは大丈夫だよ!」
「……はい!」
まぶしくて、博愛精神に溢れた受け答えだ。
主と認めないどころか一方的に傀儡にし、最低限の意思疎通すら放棄したキャスター陣営では到底あり得ない光景。
キャスターは優れたサーヴァントだ。だが、聖杯戦争はただ一人が強くあればいい戦いではない。
当然、不測の事態は起こり得るし、共に歩むパートナーと交流して思考の幅を広げるべき。それをキャスターが放棄しなければ、もしかしたら敵マスターによる妨害を防げたかも知れない。
キュアスカイのマスターは、ずっと隠れ潜んでいた。適切な指示を考えながら、NPCたちの逃げ道を作るために。
キャスターのマスターは、ただの人形にされた。主の要石になり、黙って言葉を聞くことしかできない。
「……何故、邪魔をする!」
「わたしはヒーローだからです」
「ヒーロー、だと!?」
「はい。助けを呼ぶ声があれば、どこからでも駆けつける……それがヒーローです!」
威風堂々、豪華絢爛としたオーラを放ちながら、キュアスカイは構えていた。
-
◆
わたしはソラ・ハレワタール。
今のわたしは人間ではなくサーヴァントです。
生前の功績をたたえられ、この冥界に呼ばれました。
サーヴァントという高貴な称号をもらえるとは、わたしも予想外です。いつの間にか羨望を集めていたのでしょうか? ちょっと照れますね。
でも、恥ずかしがっている場合ではありません。まずは、わたしのマスターになってくれた人にお話をしようと思った時でした。
助けを呼ぶ声が聞こえたのは。
「今の悲鳴は!?」
続いて、この肌に突き刺さる魔力。サーヴァントが誰かを襲っているのでしょう。
わたしは、マスターさんに振り向くと。
「私のことは大丈夫だよ」
「えっ?」
「誰かが君を呼んでいるんだよね」
優しく微笑むマスターさん。
わたしの考えを尊重し、やりたいことを見守ってくれる暖かい目には覚えがあります。
そう。わたしにとって初めてのお友達ーー虹ヶ丘ましろさんのように、思いやりに溢れてました。
出会って間もないのに、わたしを心から信じてくれているのが伝わります。
「さあ、行って」
「……ありがとうございます、マスター! わたしはライダー……真名はソラ・ハレワタール、またの名をキュアスカイです!」
簡単な自己紹介の後、わたしは全力ダッシュします。
高く跳躍して、一瞬で建物の屋根に着地し、次々飛び移りました。
もう一歩、踏み出したわたしは思いっきり息を吸って。
「さあ、ヒーローの出番です!」
その宣言と共に、わたしは跳躍します。
懐からスカイミラージュとスカイトーンを取り出し、セットしながら言葉をつむぐと、この体は光に包まれました。
服装が変わり、伸びた髪の毛はツインテールに束ねられて。
体の奥底から力が溢れるのを感じながら、地上に降り立ったわたしは怪人たちを吹き飛ばします。
今のわたしはソラではありません。
スカイランドに伝わる伝説の戦士にして、みんなを守るヒーロー・プリキュアに変身しました。
-
「無限にひろがる青い空、キュアスカイ!」
そう。
わたしはキュアスカイ。
アンダーグ帝国と戦い、ふたつの世界を守りぬいたヒーローーーひろがるスカイプリキュアの一人です。
ヒーローとして、誰かが傷つけられるのは見過ごせません。
(まだ名を知らぬわたしのマスターさん……そのご尽力に心からお礼を言います!)
そうして……今に至り。
マスターさんと目配せをした後、敵のサーヴァントを真っ直ぐに見つめます。
襲われた人々は全員ここから離れました。
怪物たちはこの手で倒し、あとは一人だけ。
「ず、図に乗るな! きさまのような小娘に、負けて、たまるか……!」
サーヴァントの声と体は震えているものの、わたしに対する敵意は衰えない。
ナイフよりも鋭く突き刺さりますが、あの人たちが受けた痛みはこんなものじゃなかった。
人々はNPCと呼ばれますが、関係ありません。
きちんと考えて、何かに喜び、思い出を大事にしている。
この世界が何であろうと、生きていることは同じです。
だから、悪さをさせないために、一歩前に踏み出そうとした瞬間……サーヴァントの背後に魔方陣が現れました。
「……いでよ、ギガンテス!」
『オオオオオオォォォォッ!』
大気すらも揺らす吠え声と共に、飛び出してくる巨人。
その肌は岩のようにゴツゴツとし、ギラギラとした両目でわたしを睨んできます。
かつて、ひろがるスカイプリキュアが幾度となく戦ったランボーグを思い出させる巨体でした。
『ガアアアアアアアァァァァッ!』
振り下ろされる大きな拳。
すかさずジャンプで回避し、巨人の頭上にまでたどり着いて、キックを炸裂させます。
流れるようにパンチをたたき込むと、衝撃で巨人は姿勢を崩しました。もう一撃だけ与えようとしますが、右手でガードされてしまい、払いのけられるわたし。
ですが、空中で身体を捻って体制を立て直し、地面に着地します。
ズン、ズン! と、足で地鳴りを起こしながら、両手を振り回してくるギガンテス。右に左に避けて、距離をとりました。
「たあっ!」
そのまま、間合いを詰めて懐に潜り込み、アゴにアッパーします。
続けて右ストレートで巨体を吹き飛ばしました。
背中から倒れるギガンテスに、握りしめた拳を向けます。
全力の技につなげようと、一歩前に踏み出しますがーーーー
「ーーっ!? な、なに……が………!?」
突然、目の前が大きくぶれて、胸の奥底がドクンと悲鳴をあげます。
まるで、自分の中でもう一人の誰かが暴れているような奇妙な感覚。
どす黒い何かが全身を駆け巡り、わたしが違うわたしに変わってしまいそうで。
これはいったいなんでしょう? 今まで、このような異変は一度もなかったはず。
ひざが震え、意識もどんどん揺れていき、わたしは頭を抱えます。
-
『ヴォ……ヴォオオオオアアアアァァァァァアアアアァッ!』
その一瞬が、致命的な隙になってしまい、巨人の接近を許してしまいます。
強烈なパンチによって、わたしは容赦なくはじき飛ばされました。
「あああぁぁっ!」
その巨体から繰り出される一撃はとても重いです。
地面を数回バウンドして、小さなクレーターができました。
体の痛みは気になりません。でも、何かは今もわたしの中で暴れ回り、動きを邪魔しています。
戦わないと。
心ではそう思っても、体が言うことを聞かない。
せめてもの抵抗で、わたしは真っ直ぐにギガンテスを睨んで。
「ーーライダーッ!」
その時でした。
わたしの名前を呼んでくれる声が聞こえたのは。
「負けないで!」
振り向いた先にいるのは、マスターさん。
必死になって、わたしのことを応援してくれています。
その姿に、よどみそうだった心に光が差し込んで。
『ヴアアアアアアアアァァッ!』
肌に突き刺さる叫び声。
すぐに顔を向けて、迫り来る拳を両手で受け止めました。
「でりゃあああぁぁっ!」
『ガアアアアアアア!?』
体を一回転させて、巨体を空高くに放り投げます。
圧倒的な体格差でも関係ありません。
信じてくれる人がいる限り、無限に強くなれますし、何度でも立ち上がれる。それがヒーローですから!
「何があっても、絶対に負けませんっ!」
気合いを入れて駆けだして、わたしは空高く飛び上がります。
今、ここで戦っているのはわたしだけ。
ましろさんも、ツバサくんも、あげはさんも、エルちゃんも……みんないません。
でも、わたしは決してひとりじゃない。
わたしの後ろには、この背中を見守ってくれるマスターさんがいます。
だから、皆さん。ヒーローとして戦う力を、わたしに貸してください!
「ヒーロー・ガール! スカイ、パーーーーンチッ!」
叫びと共に、右手を中心にあふれ出るオーラ。
これまでとは比較にならないパワーを込めた決め技を放ちます。
ギガンテスの悲鳴すらも飲み込む衝撃で、その巨体は空の彼方に消えました。
-
「ライダー、大丈夫!?」
地面に着地したわたしの隣に、マスターさんがかけ寄ってくれます。
「ご心配ありがとうございます。わたしなら大丈夫ですよ、マスターさん!」
わたしは強い笑顔で応えます。
ヒーローたるもの、頼れる姿をちゃんと見せたいですから。
「それよりも、襲われた人たちはどうなったのでしょうか?」
「みんな、無事に逃げたよ。君が戦ったおかげでね」
「よかった……」
ホッ、と胸をなで下ろしながら、わたしは元の姿に戻ります。
既に敵の主従はいません。
彼らは引き際を弁えていたのでしょう。無闇に戦っていたら目立ってしまい、他の主従からも標的にされます。
もちろん、それはわたしたちも同じ。
「ライダー、ここから離れよう。これ以上いたら、私達のことが誰かに知られちゃう」
「はい!」
生前、ソラシド市のみんなにわたしがプリキュアだってことはナイショでした。
この冥界でも同じ。聖杯戦争だからこそ、秘密はきちんと守らないと。
…………そういえば、結局あれは何だったのでしょう。
戦っている最中、わたしの全身に駆け巡ったあの違和感。
今はもう静まっていますが、かつてはあのようなことはなかったはず。
サーヴァントとして召喚された影響でしょうか?
ならば、より気を引き締めないといけませんね。
わたし一人だけになっても負けないって、宣言したばかりですから。
ソラ・ハレワタールはまだ知らない。
その霊基に、かつて彼女を堕とした圧倒的な闇ーーアンダーグ・エナジーが潜んでいることを。
たった一度。ほんのわずかな時間だが、力の化身に飲み込まれた逸話は英霊の座に登録された。
今はまだ、その支配を跳ね除けられるが、彼女の中に潜む闇は嗤っていた。
もしも、彼女が力に支配されれば、その身は忽ち漆黒に染まるだろう。
冥界のソラを、片翼で飛び立って。
-
◆
連邦捜査部シャーレの先生である私は聖杯戦争のマスターにされた。
何の前触れもなく冥界に拉致され、頭の中には関連する知識が詰め込まれている。
生徒たちみんなが待っているキヴォトスに帰るには、聖杯戦争に勝ち残らなければならない。
戦わなければわたしは死者として冥界に飲み込まれる。
そんなことは絶対に認めない。
”ソラは英雄(ヒーロー)なんだね。”
ライダー。真名はソラ・ハレワタールであり、別名キュアスカイ。
伝説の戦士プリキュアで、その小さな体で世界の危機を何度も救った英雄だよ。
召喚されてすぐに、助けを求める声に走り出したソラ。
まっすぐで、自分よりも誰かの気持ちを優先させる優しい女の子。
もしも、キヴォトスにやってきたら、生徒たちともすぐに仲良くなるはず。
”私に寄り添ってくれる彼女に、罪を被せたくない。”
自分よりも遥かに大きい相手にも、臆さずに真っ向から立ち向かった。
すべては誰かを守るため。それはNPCも例外じゃなく、かけがえのない命として向き合っている。
そんな彼女が、人を殺めることを良しとするはずがない。
ーーわたしは先生のサーヴァントですから、何でも言ってくださいね。
ーー先生の願いを叶えるため、英霊の座から馳せ参じましたから。
あの戦いが終わって、人通りの少ない場所まで離れた頃に。
改めて自己紹介をした後、ソラは誓ってくれた。
もちろん、私だってキヴォトスに帰りたいよ。
生徒たちと引き離されたまま、冥界で死ぬなんて嫌だ。
でも、ソラに重荷を背負わせるのは違う。
彼女の心を蔑ろにして、ただ戦わせるなんてできない。
”ソラは、サーヴァントだけど。”
”どこにでもいる、普通で優しい女の子だから。”
”ソラのためにできることがあれば、私は何でもしてあげたい。”
私に戦う力はないよ。
それは何もできないわけじゃない。
ソラと話をして、どんなことが好きなのかを聞いてあげられる。
キヴォトスでも生徒たちみんなと向き合ったように。
-
”彼女たちとも、話をしないと。”
まずは現状を整理しないといけない。
シャーレの先生という肩書きは、この冥界でも適応されるとは思えなかった。
幸いにも、シッテムの箱は手元にあるよ。
これは大切な贈り物だから、見つけた時はホッとした。
代わりに大人のカードはない。誰かに奪われたか、あるいは既に破壊されたかも。
でも、泣き言を言っても始まらない。
シッテムの箱を取り出して、彼女たちに声をかける。
”アロナ。”
”プラナ。”
「先生! お怪我はありませんか!? いきなりサーヴァントが現れて、もう先生が心配で……!」
「現状説明。聖杯戦争、冥界、サーヴァント、令呪、葬者……諸々のルールがインプット済みで、私たちは状況を把握しています」
大丈夫だよと私は応えた。
シッテムの箱のメインOSで、私の頼れる”秘書”になってくれた女の子たち。
アロナとプラナの無垢な姿に、頬を緩ませた瞬間。
「あれ、その女の子たちはどなたですか?」
”!?”
私たちの間に割り込んできたのはソラの声。
驚いている私の横で、ソラはアロナとプラナをジッと見つめていた。
「もしかして、あなたたちはAIさんでしょうか? 昔、ソラシド市に住んでいた頃、聞いたことがあります!」
「え、ええっ!? あなた、私たちの声が聞こえるのですか!?」
「驚愕。姿も認識している……?」
「もちろん。AIさんたちの声は聞こえますし、姿もハッキリ見えますよ! わたしはライダー……先生のサーヴァントです!」
さも当然のように受け応えするソラ。
いったいどういう事?
二人の声は私にしか聞こえないし、他の誰かに見られるなんてあり得ない。
でも、アロナとプラナは何か心当たりがあるように、考え事のポーズを取っている。
「……まさか、先生と契約した影響で、私とプラナちゃんが見えるのでしょうか?」
”私と契約したから?”
「はい。この冥界に辿り着いて、私たちには聖杯戦争に関する知識が多数インプットされたと、プラナちゃんは言いましたよね。
その影響で、先生と魔力パスで繋がったライダーさんも私とプラナちゃんが見えるのだと思います」
”じゃあ、三人はお話できるんだね。”
「補足。私と先輩、並びにシッテムの箱のスペックは、この冥界では大きく制限されています。
大規模なハッキング及び都市の権限掌握は不可能。防護フィールドも、サーヴァントの神秘を防ぐ耐久力はありません」
「さっきから、プラナちゃんと一緒に何度もSOSを送ってみましたが……キヴォトスには届かないでしょう」
しゅんと落胆するプラナとアロナ。
私は彼女たちを励まそうとするけど。
「大丈夫です! 先生のことでしたら、このわたしに任せてください!」
誇らしげに胸を張るソラ。
その姿は、私もTVで見たことがある。
困ってる人がいればすぐに駆けつけて、流れる涙を優しく拭うヒーローだ。
子どもたちの笑顔と輝かしい明日を守るため、どんな巨悪とも戦う頼れる主人公……
-
「AIさん……じゃなかった。アロナさんとプラナさん、でしたね! わたくし、ソラ・ハレワタールは誠心誠意をもって、先生に忠義を尽くします。もちろん、お二人のことだって守りますから!」
青空のように晴れ晴れとした決意が、私には危うく見えた。
ソラの言葉に嘘偽りはない。
彼女は本物のヒーローだから、私たちを守るために戦ってくれる。
だけど、現実はそこまで甘くない。
無垢な子どもを騙し、傷つける大人がたくさんいることを私は知っている。
一歩間違えたら、さっきのサーヴァントもソラを悪意で傷つけたかもしれない。
”ソラ。”
だから、私は彼女に問いかける。
”君の願いを聞かせて。”
「わたしの願い、ですか?」
”もし、君が聖杯にかける願いがあるなら。”
”私はそれを手伝いたい。”
この言葉は、生徒たちの裏切りにもなる。
だって、他の主従を手にかけることだから。
キヴォトスにいるみんなに知られたら心から失望されるとわかってる。
でも、私のためにソラだけが傷つけられるのは嫌だ。
私たちを守ってくれるなら、ソラの気持ちも尊重しないと不公平だよ。
「それは、もうとっくに叶っています」
”本当に?”
「はい。生前、ヒーローとしてたくさん人助けをしましたから! 同じように、アロナさんとプラナさん、そして先生を元の世界に送り届けたい……これがわたしの願いです」
私たちに寄り添い、希望となってくれる言葉が染みわたる。
一秒先の生存さえ保証されないこの世界で、この心を確かに照らす。
召喚されるよりもずっと昔から、ソラはこうしてたくさんの人を助けていた。
誰に言われたからでなく、自分自身の意志で。
きっと、私が令呪3画を全て使っても、ソラの心を曲げられない。
”ソラ、ありがとう。”
”そこまで、私たちのことを考えてくれてるんだね。”
私は決めた。
この冥界で、何をするべきか。
-
”絶対、みんなが待つキヴォトスに帰る。”
”ソラの心だって傷つけさせずに。”
最初から答えはあった。
ソラを悲しませず、みんながいるキヴォトスに帰ること。
マスターである以前に……私は一人の大人として、子どものそばにいる責任がある。
もちろん、笑顔でいられるように寄り添った上で。
もし、私のせいでソラが苦しんだら、これから誰一人として生徒を笑顔にできないからね。
キヴォトスの生徒たちとここにいるソラ。
みんな大切で、天秤にはかけられない。
”私も一緒に頑張るね。”
”大人として君のとなりにいるよ。”
”ソラの、先生でもあるから。”
生徒たちの立場がソラになっただけで、今までと何も変わらない。
ソラを傷つける相手がいたら、私がサポートするだけ。
主従になった私なら、念話でいつでも指示を送れる。いざという時は令呪でソラを助けられる。
この命がある限り、私は思考を止めたりしない。
考えて、考えて、いくらでも前に進む。
そうやって、生徒たちとも心を通わせた。
「先生なら、そう言ってくれるとアロナは信じてました!
では改めて……私はアロナ! シッテムの箱のメインOSで、プラナちゃんと一緒に先生をアシストする秘書です!」
「自己紹介。私はプラナ……先生とアロナ先輩共々、ライダーさんの補佐を務めます」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
アロナは目を輝かせ、プラナは落ち着いた様子で。
ソラとの自己紹介を穏やかに進めてくれた。
キヴォトスでは見られなかった光景に、私は思わず微笑んじゃう。
だって、アロナとプラナに新しい友達ができたから。
これから大変なことがたくさん待っている。
でも、何が待ち受けても折れたりしない。今までだってそうしてきた。
帰りを待っている生徒がいる限り、私はどんな困難も乗り越えてみせる。
それに、私には頼れる仲間がこんなにいるよ。アロナとプラナ、ソラ……彼女たちの前で、カッコ悪い姿は見せられない。
私は大人で、子どもたちの信頼を背負う先生だから。
-
【CLASS】
ライダー
【真名】
ソラ・ハレワタール@ひろがるスカイ! プリキュア
【ステータス】
筋力:B 耐久:B+ 敏捷:B 魔力:D 幸運:A+ 宝具:C
(キュアスカイの変身時で、非変身中は宝具を除く全ステータスが2ランクほど低下する)
【属性】
中立・善
【クラススキル】
騎乗:C
乗り物を乗りこなす能力。
正しい調教、調整がなされたものであれば万全に乗りこなせ、野獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。
生前、スカイランドを守る青の護衛隊に勤めていた彼女は、乗用鳥を乗りこなした逸話を持つ。
その他にも、彼女自身に宿る『ある力』によって、ライダーのクラスで召喚された。
【固有スキル】
無窮の武練:B
憧れた姿に近付くため、幼き頃より己を鍛え上げたことで得たスキル。
スカイランドの伝説の拳法・スカイランド神拳を得た彼女は、いついかなる戦況下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。
ヒーローの心構え:B+
ヒーローに憧れるソラ・ハレワタールは人助けをした。
誰かを助けたいという願いを抱き、彼女がキュアスカイとして戦った。
その背中に守るべき人がいて、誰かを助けたいと想う限り、ソラは何度でも立ち上がれる。
アンダーグ・エナジー:A
ソラ・ハレワタールの霊基に混ざった黒き力。
戦闘時、キュアスカイが危機に陥った時に発動し、ステータスが徐々に向上する。
代償としてサーヴァントの属性を混沌・悪に反転させ、次第に霊基が汚染される諸刃の剣。
精神汚染及び狂化の複合効果も持ち、冷静な判断力が失われていくが、彼女はこのスキルを認知していない。
もしも、このスキルでキュアスカイが汚染され続ければーー
-
【宝具】
『無限にひろがる青い空(キュアスカイ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
英霊ソラ・ハレワタールのもう一つの姿にして、彼女がヒーローたる証。
キュアスカイに変身すればどんな敵にも立ち向かえ、また悪事を働いたことがある相手と対峙すれば、全パラメーターが1ランク上昇する。
そして本来、聖杯戦争において真名の露呈はタブーであるが、キュアスカイの名だけは例外となる。
何故なら、彼女は伝説の戦士プリキュアであり、ヒーローとして巨悪と戦ったことでその名を認知された。
キュアスカイの名が無辜の民に知られた時、同ランクの戦闘続行及び勇猛スキルも発動する。
『闇の力の化身に見込まれ、漆黒に染まった片翼(ダークスカイ)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
ソラが認知していないもう一つの宝具。
かつてアンダーグ・エナジーの化身たるダークヘッドに見込まれ、キュアスカイが乗っ取られた逸話から宝具として登録された。
彼女の意志とは無関係に、アンダーグ・エナジーによる精神汚染が致命的にまで進行した時に発動し、その身は漆黒に染まる。
通常のキュアスカイとは比較にならない戦闘能力を発揮し、魔力も無尽蔵に湧き上がるも、ソラ・ハレワタールの人格が徐々にアンダーグ・エナジーで上書きされる。
やがて彼女の肉体はただの器にされ、ダークヘッドはこの冥界に君臨するだろう。
『ひろがるスカイ! プリキュア』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
英霊ソラ・ハレワタールにとって最大の切り札にして、彼女が真の力を発揮する最終宝具。
発動した瞬間、空の彼方から彼女と絆を紡いだプリキュアたちが召喚される。
キュアプリズム、キュアウィング、キュアバタフライ、キュアマジェスティーーこの四人が降り立った時、キュアスカイの全ステータスはEX相当にまで向上し、世界を脅かすほどの強敵が現れようとも立ち向かえる。
ただし、この宝具で呼び出されるプリキュアは一人一人がサーヴァントに匹敵する霊基を誇るため、令呪3画を消費しようと発動しない。
奇跡が起きない限り、通常の手段では発動不可能となった宝具。
【weapon】
スカイミラージュ。
スカイトーン。
ソラがキュアスカイに変身するために必要な神秘のアイテム。
【人物背景】
TVアニメ『ひろがるスカイ! プリキュア』の主人公にして、キュアスカイに変身する少女。
出身は空の世界・スカイランド。
ヒーローに憧れてひたむきに努力を重ねており、日々トレーニングを欠かさない。運動神経抜群で、素手で岩を割る程のパワーがあり、日本語も勉強して覚えた。
泣いているエルちゃんを助けるために駆け出し、地球のソラシド市で虹ヶ丘ましろと出会ったことをきっかけに、彼女のヒーローとしての物語が始まった。
【サーヴァントとしての願い】
先生たちを元の世界に帰してあげるため、戦います。
【マスターへの態度】
優しくて頼りになる先生たちのために頑張りたいです!
……それにしても、あの違和感は何だったのでしょう?
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【マスター】
先生@ブルーアーカイブ
【マスターとしての願い】
キヴォトスに帰りたい。
けれど、帰りを待っている生徒たちを絶対に裏切らない。
【能力・技能】
指揮能力は非常に優れ、いかに不利な状況に追い込まれても奇跡を起こし続けた。
キヴォトス人と違い、その肉体は弾丸一発でも致命傷となってしまう。
だが、人並み程度の体力はある。
シッテムの箱。
先生が持つタブレットであり、メインOS「A.R.O.N.A」ーー通称アロナに管理されている。
後に後輩のプラナも加わり、先生はこの二人からサポートを受けている。
通常、アロナとプラナの姿は先生にしか見えず、声も聞こえない。しかし、聖杯戦争では先生と契約したサーヴァントも二人と会話できる。
ただし、目視や会話だけであり、アロナとプラナがサーヴァントと念話することはできない。
キヴォトスでは管理者不在のタワーの権限掌握、または外部からのハッキング防止などを行なったが、これらの機能は制限されている。
拳銃の弾丸のみならずミサイル攻撃も防ぐ程の防護フィールドも張れる。だが、サーヴァントの神秘を前にしては効果はない。
なお、先生は大人のカードを所持していない。
【人物背景】
連邦捜査部シャーレの顧問で、キヴォトスの生徒たちを導いた大人。
子どものためにどんな責任でも背負い、時にはぶつかり合いながらも、真っ直ぐに向き合い続けた。
基本的には真面目だが、たまに生徒を振り回すこともある。
【方針】
キヴォトスへの帰還のために力を尽くすけど、ソラの心を傷つけるのは嫌だ。
アロナやプラナとも協力して、ソラのことを支える。
【サーヴァントへの態度】
ソラは頼りになるけど、どこか危うく見える。
あまり無理をして欲しくないし、何かあればいつでも話を聞きたい。
生徒たちにもそうしてきたように。
-
投下終了です。
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投下します
-
太陽無き冥界に、太陽は現れた。
◆
ドンドット、ドンドット、ドラムがなり続ける。
「あっひゃゃゃゃゃ!」
鳴り響く高笑い、それは敵のサーヴァントの敵対意識を削いでいく。
「行くぞ〜おりゃ!」
地形が狂う、まるでカートゥーン調のアニメのように。
体勢が維持できず、胴ががら空きになる。
「ゴムゴムの…巨人(ギガント)!」
太陽神の鉄槌、それが降り注ぐ。
彼は本当に人なのか?
いや、「人」という定義には当てはまっているのだろう。
彼の力は、海に嫌われる事を代償にした、悪魔の力の中に秘められた、神の力。
通称――太陽神・ニカ。
その力を宿す少年――名をライダー
モンキー・D・ルフィ。
◆
暗闇、ルフィは下へと降りる、もちろん、マスターの下へだ。
「帰ってきたぞ〜マスター〜」
「言われなくてもここに居るわよ、ライダー」
ライダーを迎えるのは、オレンジ髪の少女。
手には拳銃らしい持っているが、発せられている者は、魔術の類。
「たっく…魔力の消費が激しい…これから有事の時以外あれ使わないでよ?」
「わかってるわかってる、それにしてもあいつ強かったな〜」
「はいはい…」
少女――ティアナ・ランスターからのライダーの評価は「運がいいのか悪いのか」なのである。
実力もあり、善人では無いが、悪事や非道と行ったことは許さない。
海賊と正義側、その違いはあれど、互いに嫌うところは無かった。
だが、ライダーの破天荒さは手に余るものであった。
さらに、魔力消費が激しいと来た、そこは溜まったものではない。
「そういえばさ、ライダー」
ふと、一つの疑問を投げかける。
「あんたの願いって――何?」
ライダーは悩み、一つの答えを出す。
「仲間の夢を見届ける、それが俺の願いだ」
その男の見せた笑みは、やはり、太陽のようであった。
これだから、海賊王の旅路へと乗れたのであろう。
破天荒だが、優しい、そんな男だから、着いてきた。
「そう――分かった、教えてくれてありがとう、ライダー」
バリアジャケットを展開する、目指す先は、空。
「ん?どこ行くんだ?」
「少し、飛んでくる!」
少女は空を駆け出した。
◆
空を駆ける、下には夜景が広がる。
「もちろん…決めてるわ…この戦争止めて見せる…そうでしょ、クロスミラージュ」
「ええ、マスター」
拳銃――クロスミラージュから流れる声。
意思を持つ魔銃、デバイス、それを持って空を駆ける。
「…ほんとによろしいので?聖杯…」
「…欲に惑わされたら、六課失格よ…」
「…要らぬことをお聞きしました」
正直、思うところはある、だが、正義を執行するものとして、それは絶対にしない。
「…戻るわよクロスミラージュ!ライダーとのパスが切れるわ」
「了解、マスター」
少女は空を駆ける。
誓いを胸に、空を駆ける。
-
【CLASS】ライダー
【真名】モンキー・D・ルフィ@ONE PIECE
【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力C 幸運C 宝具EX
【属性】混沌・善
【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
【保有スキル】
嵐の航海者:B-
船と認識されるものを駆る才能。
集団のリーダーとしての能力も必要となるため、軍略、カリスマの効果も兼ね備えた特殊スキル。
…なのだが、本人の性格のせいで、軍略スキルは機能していない。
実質的な カリスマ:B である
無窮の武練:A
伝説の海賊王のクルーに鍛えられた戦闘技術や覇気などを内包するスキル。
特に「覇気」は熟練者と張り合えるレベルである。
直感:A
戦闘時に常に自身にとって最適な展開を“感じ取る”能力。
研ぎ澄まされた第六感はもはや未来予知に近い。視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。
ライダーの場合、「見聞色の覇気」の補正もあり、スキルランクが高くなっている。
ギア:EX
ゴムの力を利用して体に負荷を掛けて、自身を強化する技。
高速に動く、巨大化するなど、体を自由自在に操る。
また、後述の宝具にも繋がっていく。
情弱:A
デメリットスキル。
敵のハッタリや催眠術といった効果を受けやすくなっている。
ライダー本人が単純な性格なのも原因だろう。
【宝具】
『ゴムゴムの実(ヒトヒトの実モデルニカ)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
超人系悪魔の実、名の通り、体がゴムの様になる――しかし、それは仮初のデータ。
その正体は世界の鍵を握るとされる太陽神・ニカを宿した悪魔の実。
そして、その力を宿した姿が、後述の宝具である。
『自由自在の太陽神(ギア5)』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
ギアにニカの力を宿した姿――ライダーの最高地点。
能力の覚醒に近く、ゴムの能力の範囲を自身だけではなく、周りにまで広げることが可能になった。
まるでカートゥーンのアニメの様に自由自在な攻撃は、全てを圧巻せしめることであろう。
本来なら、令呪一画分の魔力を要すが、マスターの魔力が高かっため、限界分まで使う必要はあるが、令呪を切る必要な無くなっている。
【weapon】
打撃技を主体に戦う。
【人物背景】
神を宿した男――海賊を夢見て旅した、世界で最も自由な冒険家。
【サーヴァントとしての願い】
仲間の旅路を見守る。
【マスターへの態度】
にしし!良いやつだなお前!
【マスター】ティアナ・ランスター@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【マスターとしての願い】
六課への帰還、この世界からの脱出。
【能力・技能】
デバイス・クロスミラージュを使ったら魔術。
拳銃型の性質も合わさり、遠距離魔法を得意とする。
また、魔力もかなり高い
【人物背景】
兄を背中を追い、魔導士を目指した少女。
自称凡人――努力し続けた彼女は、もはや凡人の領域ではない。
【方針】
少なくとも聖杯戦争から脱出、止める。
また、冥界から部隊にアクセスする手段も模索する。
【サーヴァントへの態度】
強いし良いんだけど、魔力消費が激しいのは勘弁してほしい。
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投下終了です
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企画開始おめでとうございます。
一本投下させていただきます。
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棍棒を握った、フルフェイスヘルメットの人影が冥界を駆けていた。
人影の名は“零”という。彼は葬者だ。そして、御子でもある。
“黒い鳥”――電脳世界の枢幹に巣食う空前絶後のAI生命体に魅入られた人柱。
かつて、一つの世界があった。
世界の名は“星界(プラネット)”。無数のAIが生活するその世界は高度に枝分かれし、今となっては上位存在の介入がなければ破綻を余儀なくされる程の発展と分岐を果たしていた。
御子とは不要な枝を打つ者。黒い鳥の意思に従って世界のあらゆる事象に介入し、事象の枢幹に不都合を及ぼす事を避けるべく時を駆ける者。
謂わばドリフター。魔術や英霊等という概念が存在する世界の言葉に当て嵌めて言い表すならば、抑止力の一環と表現するのが近いかもしれない。
(やっぱ強えなサーヴァント。俺の子哭だけじゃびくともしない)
上位存在たる鳥に授けられた略式、子哭"零"を片手に駆ける彼が打ち合っている相手は紛うことなき本物の英霊であった。
今は都市の外側だが、どうやらそんなけったいな場所で偵察を行っていた酔狂な輩と偶然遭遇を果たしたらしい。
であれば、零が取るべき行動は一つだった。この冥界には黒い鳥は居らず、その意思が介入する余地もない。御子の使命から解き放たれた零が目指したのは、葬者という次なる役割に殉じて戦う事。
即ち――聖杯戦争に勝利する事である。
幸いにして御子という特性故か、零は星界の略式とアバターを引き継いでこの冥界へ下りる事に成功していた。
だからこそ戦いが成り立つ。魔術師は愚か熟練の手練れでさえ幾つもの条件が揃わなければ太刀打ち出来ない“英霊(サーヴァント)”という怪物に、こうして執念の矛先を向ける事が出来る。
とはいえ流石に本家本元の英霊、データでは推し量れない怪物が相手となっては黒い鳥の御子も劣勢を強いられるのは道理だった。
質量を操る略式をフルに稼働させて戦えば打ち負ける事こそないが、それ以外の部分……もっと根本的な戦闘経験の差で徐々に水を空けられる。
それでも未だに奮戦を維持しているのは驚嘆に値する芸当だったが、然しこの体たらくでは結末は見えている。
相手方もそれは承知しているのか、何十度目かの打ち合いを解いた所で大きく跳んで後退した。
そうして剣を構える。誰が見ても解る程明らかな、宝具開帳の構え。零のヘルメットに浮かんだ表情が厳しく歪む。単なる通常戦闘でさえ有利を取れなかった彼が、英霊に宝具を抜かれて勝てる訳がない。他でもない彼自身もそう理解していて、だからこそ。
「今だ――やれ、ランサー」
彼はそれ以上戦闘に執着する事なく声をあげた。
その声に応じて響くのは、天真爛漫な少女の声音。
「あいよーーーーーっ!」
葬者が先陣を切り、サーヴァントが後に控えるという掟破り。
聖杯戦争のセオリーに真っ向から背いた戦術が、此処で容赦なく牙を剥く。
天真爛漫にして、絢爛怒涛。
華々しい炎と魂を侍らせながら乱入を果たした少女が撒き散らすのは、触れるもの皆焼き焦がす葬送の蝶だった。
燎原の蝶。冥界にて舞う姿は、生まれついての葬者である彼女にとって最も正しい。
「恨みはないけどさようなら。陰陽に背く不遜な御先祖様に、とびっきりの火葬(ほのお)をご馳走しましょう!」
纏わり付いてくる葬送の炎が宝具解放のタイミングをずらし、更に触れた箇所から伝わって来る痛みがかの英霊に焦燥を懐かせる。
焦燥とは忌むべきもの。判断を狂わせ、また鈍らせるもの。だからこそ現に勇士の剣は鈍り、優勢だった筈の戦況を一転させて手を拱いている訳だったが――逆にこの少女・“葬者”にとって焦燥とは愛すべき強さの象徴に他ならなかった。
-
燃え上がる流星となって、天真爛漫の性を表したように繰り出される火炎の連撃。
性能であれば確実に下を行くだろう少女が予想外に次ぐ予想外を現出させている間に、英霊の真上から得物を携えた御子が墜ちて来る。
「そら、今だよ。やっちゃえ、零――!」
「五月蝿い。戦闘中くらい静かにしてくれ……!」
子哭――“塔”。
質量操作によって限界を超えたその棍棒は、最早只の長物の域には収まらない。
英霊の頭蓋をぶち抜いて霊核まで打ち抜きながら、冥界の大地に大きくめり込ませて沈ませる一撃は葬送と呼ぶには些か手荒が過ぎる物だった。
然しその分、結果は確実。地面に出来た人型の大穴の底からは黄金の霧が断末魔のように立ち昇っており、それがサーヴァントの消滅、そして零とその相棒の勝利を物語っていた。
「やったじゃーん! 初めてのサーヴァント討伐おめでとう、ぶいっ!」
「……やっぱ割に合わねえな。これだけ綱渡りしてようやく一匹じゃ普通に戦った方がまだ幾らかマシだ」
子哭棒の質量を元に戻しながら、零はアテが外れたように後頭部を掻く。
英霊という存在の戦闘能力がどれ程かを測る為に決行した冥界下りで、実際首尾よく初勝利も勝ち取れた訳だが、詰めの段階に移るまでの過程でやらされた綱渡りの回数は一度や二度ではない。
あの恐るべき星界無双程ではないが(逆に、あの廃人は何だって彼処まで強かったんだよと今更頭を抱えたくもなる)、それでも自分のような下手の横好きで勝ち切れる相手じゃなかったと断言出来る。
となるとやはり、セオリー通りに英霊は英霊が、マスターはマスターが相手取るのが順当と言う事なのだろう。
敵を一人消せたと言えば聞こえはいいが、なかなかに勉強代は高かった。
結果的に勝てたからいいものの、もしも敵がこんな子供騙しに引っ掛かってくれない手練れだったなら今此処に自分達は存在していなかった可能性さえある。
先人の教えには従えって事だな。溜息混じりに独りごちて、零は都市へ戻るべく歩き始めた。
「帰るぞ。眠くなってきた」
「あはは! 零ってばその見た目で寝坊助なんだよね。可愛いー」
「そういうお前は見た目通りの頭の軽さで何よりだよ。俺も一日くらいはお前みたいな脳ミソになりたい」
身体の奥底にズシリと伸し掛かるような疲労を感じる。
恐らくこれが冥界の“死”という奴なのだろう。人間が生存する上で必要な幸運を削り、死の瀬戸際で何とか踏み止まっている葬者を死に近付ける呪い――或いはこの世界の理か。
(やっぱり町の外に出るのは旨くないな。なるべくなら町の内側で殺し回って、外での戦いは勝手にやらせておくのが良さそうだ)
零は聖杯を欲している。彼には、聖杯を手に入れなければ行けない理由がある。そしてそれは決して、冥界に落ちてしまった自分の死を覆したいなどという安易な物ではなかった。
死など怖いとも思わない。真に怖いのは、壊れた大切な物をもう直せない事だ。
そして自分はその“最悪”を避ける為なら……もとい、過日の日に迎えてしまった“最悪”を覆す為ならば何でもする。何だってする。この身も未来も全て捧げて構わないと、最初から今までずっとそう思っている。
そんな彼にとってこの聖杯戦争は、冥界で繰り広げられる死者達の乱痴気騒ぎはこれ以上ない好機だった。
願ってもない機会。降って湧いた天運。たとえその果てに、葬者たる自分自身の運命さえ喪われてしまうとしても――
(構いやしない。俺の命なんて、どうせ最初からゴミみたいなもんだ)
――零は、その落命に一切の頓着をしない。彼は目指す結末に向けて休みなく走り続け、いつかは理想の為に燃え尽きる流れ星だ。
出会った時から今まで変わらない、ほんの僅かさえも変わる気配のない相棒を見つめる天真爛漫な葬者(ランサー)の眼は何かを憂うような、彼女らしからぬ複雑な心境に彩られていた。
◆
-
ボロい、ゴミ溜めのような部屋だった。部屋の中には食った後の、いつのものとも解らないカップ麺の容器や、酒瓶やビールの空き缶がゴロゴロと転がっている。異臭を放っていない辺り生ゴミの処理は徹底しているのか、それとも生ゴミが出ないくらいインスタント食品に頼り切っているのか。
そのゴミ溜めのような部屋の片隅にトレーニングジムにあるようなベンチプレスマシンが置かれ、其処で一人の青年が汗を流していた。
室内には粗雑なテレビの雑音と、ベンチプレスの上がる重々しい音だけが響いている。青年は、見れば誰もが半グレや暴走族と言った社会から隔絶された者だろうと判断するような見てくれをしていた。
安物の整髪料で染めたのだろうくすんだ金髪。鍛錬によって鍛え抜かれた肉体は鋭く引き締まっており、見ようによっては地下格闘技の選手か何かを彷彿とさせるかもしれない。
だが何より異様なのは青年の顔だった。
“珠玉連心佳乃”と落書きのようなタトゥーが六文字刻まれ、折角の精悍に整った顔立ちを台無しにしてしまっている。
佳乃。その名前は女とも、男とも取れる。別れた女の名前を未練がましく顔に残しているのだろうと邪推するには、然し青年の放っている雰囲気はあまりに退廃的であった。
「零さあ」
これまたボロい、スプリングやら綿やらが其処かしこから飛び出したソファに身を投げ出してテレビを見ていた中華風の少女が名前を呼ぶ。
零。先刻、都市の外に広がる死の大地で英霊一騎を葬り去った青年は、まさしくこの荒れ果てた部屋の主だった。
星界由来のアバターを解けばこんなものだ。フルフェイスヘルメットとスーツ、そして得物である子哭棒が無ければ葬者“零”はこの通り、ゴミのような日常を送っている事が一目で察せられる荒くれ者でしかなかった。
「私、やっぱりあんまり良くないと思うんだよね。死んだ人間を蘇らせて、もう一回やり直そうとするってのは」
「またその話かよ。お前も懲りないな、馬の耳に念仏だぞ」
「何回でも言うもーん。私これでも葬儀屋なんだよ? 由緒正しい七七代目。あ、七七(ななじゅうなな)と言えば私の友達には七七(なな)って言うとってもかわいい子が居るんだけど――」
「それ聞くの三回目」
「ぶう。何回でも聞いてよ、先人の話はありがた〜く聞くもんだぞ?」
「お前が本当に尊敬出来る先人とやらだったらそうしたかもな。でも現実お前はそうじゃないだろ。アーパー女が」
そんな零とは相反して、彼が召喚したこの“葬者”……ランサーのサーヴァントである少女は、見るからに華々しく快活な娘である。
真名を胡桃(ふーたお)。こんな見た目と言動だが、何やら由緒のある葬儀屋だったらしい。
その話について零は未だに半信半疑だったが、ある意味では納得もしていた。その理由は彼女が自分に対し、これまでに何度もこうして生死に関する諌言を掛けて来た事だ。
胡桃は死を尊んでいる。人間が生きて、そして死に、然るべき処へ流れていくその道理を重く見ている。
だからこそ彼女のような英霊にしてみれば、この聖杯戦争というシステムそのものが鼻持ちならないそれであるらしい。
何とも難儀な英霊を呼んだ物だと思うと同時に、英霊の座とやらももう少し人選という物をしっかりするべきだと零は思っていた。
死者が集って玉座を奪い合う椅子取り式の死亡遊戯に、よりによって“蘇り”嫌いの葬儀屋なんて奴を呼び出すなんて人選ミスも甚だしい。
一々こうしてご高説を垂れられる葬者(マスター)の身にもなって欲しいと、そう感じて溜息を溢した回数は一度や二度ではない。
「……それに、お前は勘違いしてる。俺は別に死人を生き返らせたい訳じゃない」
「え? ――うそ、違うの? こんな世界の聖杯戦争だから私てっきり、零もそのクチなんだと思ってたんだけど」
「助けたい奴が居るのはその通りだけどな。其奴は俺が知る限り、まだ生きてる。何なら此処に来るすぐ前にも話したよ」
ズコー、と胡桃はずっこけるような仕草をした。とはいえこれに関しては悪いのは零の方だ。此処まで彼は只の一度も、彼女に対して自分の願いの詳細を話してはいなかったから。
「えぇえぇえ……。ちょっと零、そういう大事な話はもっと先にしてよ。そしたら私だってもっと純粋に応援出来たのに」
「聞かれなかったからな」
「……じゃあ、零が助けたい人ってのはどんな人なのさ。一応相棒なんだもん、そのくらい聞かせてくれてもいいんじゃない?」
「…………」
最早習慣となって久しい、今となっては後にも先にも何の意味もないだろうトレーニングを止めないまま零は少しの間沈黙した。
-
それから観念したように口を開く。確かに、このくらいはもっと早く話してやっても良かったかも知れない。そう思いながら。
「良い奴だった」
長らく使われていなかった、錆び付いた蛇口を捻った時のように短い言葉が出た。押し殺していた感情の水が赤錆の這う道を通って、水流になって顔を出す。
聖杯を求めて戦う孤独な御子、その秘められた願いが葬儀屋へと伝えられる。
「喧嘩もした事ないようなチビのガキの癖して、他人に頼られると助けずにいられないんだ。相手がどんなに身勝手な事を言って来たとしても、それも自分の責任だってしおらしい顔して受け止めちまう。
親に捨てられて道端で燻ってたクソガキにさえ手を差し伸べて友達にするようなクソの付くお人好しさ。そんな事したって、手前の為にはならないのにな。アイツは結局全てが壊れるまで、その事に気付いてないみたいだった」
その“捨てられたクソガキ”というのが零自身の事を指しているのは胡桃にも解った。荒廃した生活習慣。自立はしているが生活力に乏しく、また対人関係にも不慣れさが目立つ言動。少し甘い話を持ち掛けられればすぐ揺らいでしまうような脆さ。これまで零と接して来て感じた印象の全てが、彼の明かす過去と結び付いていく。
「そしてアイツは、当たり前に破綻した。誰でも彼でも受け止め過ぎたんだ。誰でも彼でも優しく受け入れて来たアイツに突き放された奴は、まるで酷い侮辱をされたみたいに憎悪を燃やして」
「……それで?」
「アイツの顔に酸を掛けた」
「っ……」
飛び出して来た強烈過ぎる話に、胡桃も思わず顔を顰める。
「さしものアイツも顔をグチャグチャに溶かされて、平気な顔で今まで通りに暮らせるなんて事はなかったよ。アイツは部屋に閉じ籠もるようになって、俺達の日常は壊れちまった。
佳乃って言うんだけどな。本当に……俺みたいな野良犬には勿体ないくらい、良い奴だったよ」
「……じゃあ零は、その佳乃君を助けたいんだ? 聖杯を使って佳乃君の顔を治してあげて、また昔みたいに――」
「いいや。それじゃ駄目だ。それだけじゃ、もう何も収まらない」
始まりは、三人だった。零が居て、『佳乃』が居て、そしてもう一人の少女が居た。
零と佳乃は歪ながらも強い絆で結ばれていたが、佳乃に対して傾倒する少女は零の存在を許容する事が出来なかった。けれど佳乃が本当に大切に思っていたのは親友である零。その“違い”が、徐々に彼らの歪みを押し広げていった。
そしてあの日が来た。少女の執着によって狂わされた、佳乃に依存していた女がトチ狂った真似をした。
佳乃は硫酸で顔を焼かれ、全てが壊れた。そして零は佳乃の顔を治す資金を稼ぐ為、元凶であるはじまりの少女と手を組んで仮想世界の星界に身を投じていく事になった……というのが、此処までの経緯だが。
然しそれは、佳乃を救う手段が現実的な側面でしか見えていなかった頃の話だ。
今の零はもう違う。彼は黒い鳥に接触し、世界というものが幾つもの枝から構成されていて、その枝を打つ事で未来を変更する事が出来るのだと知った。知ってしまった。そしてその矢先に、彼は聖杯戦争を知ってしまった。
聖杯の力があれば、佳乃の顔の治療を医者に任せる必要もない。
……いや、それだけではなく。そもそも悲劇自体が起こらなかった枝なんて絵空事を実現させる事さえ、恐らくは可能だろう。
「アイツの顔が焼かれた日を“なかった事”にしたって、絶対にまた別の誰かがアイツを傷付ける。それは硫酸じゃないかもしれないが、アイツを終わらせようとするって意味じゃきっと大差はないんだ。
元を断たないと結末は変わらない。切り落とすべき枝が……あるだけで誰も彼もを腐らせる不幸の根源がある限り」
そう、然しそれさえ対症療法だ。
大元の病巣を取り除かずに末端の症状を一つ一つ解決していたって、結局それはいずれ来る結末とのいたちごっこでしかない。
現実の範疇を超えた“知識”は、零に“答え”を与えた。佳乃を本当におかしくしたのが誰だったのか。少女を、リズを狂気に染めてしまったのが誰だったのか。
本当に打つべき枝とは、諸悪の根源とは、何処の誰であったのか。
その答えを、彼は得てしまった。
-
「……なるほどね。何を考えてるんだろうなって思ってたけど、これはちょっと流石に予想の斜め上だったかも」
胡桃が零を見つめる。その眼に、普段の天真爛漫な彼女の面影はもうない。
其処にあるのは、取り返しのつかない行動に出ようとしている友人を見る懸念の眼だった。
「零、あなたは――他の誰でもない、自分を消すつもりなの?」
「そうだ」
零は胡桃の詰問に対し、迷うでもなく即答を返した。
「佳乃は良い奴だった。だから俺みたいな、誰がどう見ても関わるべきじゃないクソガキに手を差し伸べちまった。疫病神ってのはやっぱり居るんだよ。生きてたって何処の誰の為にもならないロクでなしってのが、この世界には時々生まれて来るんだ」
「……そんな事ない。生まれて来ちゃいけなかった命なんて、この世には何一つとしてない。往生堂の堂主として、生と死を、陰と陽を見届けてきた葬者として断言するよ、零。その結論は、絶対に間違ってる。それは誰も救わない愚行でしかない」
「いいや、違う。俺は生まれて来るべきでもなかったし、ましてやアイツらに関わるべきでもなかった」
青年は、生まれた時から今に至るまでずっと野良犬だった。ホームレスという意味ではない。誰にも愛されず、顧みられる事のない存在だったという意味で、彼は間違いなく野良犬だったのだ。
荒廃した家庭に生まれて育児放棄され、ロクな社会常識も学ばないまま昼夜を問わず徘徊する日々。
そんな愛のない日常を生きて来た零にとって、佳乃という友人は間違いなくこの世に生まれて初めて目の当たりにする光で、世界の全てだった。
零はかつて佳乃に依存する女達を嫌悪していたが、今にして思えばとんだブーメランだと自分自身でさえそう思う。他の誰より佳乃に依存し、彼の人生を食い物にしていたのは……他でもない自分自身だった。
だから、零は答えを出した。不幸になる人間を限りなく少なくして、零が好きだった世界と日常を存続させる方法を見つけ出した。
それこそが、彼が聖杯にかける願いだ。栄光でも、救済でも、ましてや蘇生などでは断じてないささやかな“枝打ち”。
きっと世界の誰も気にしない、違和感を覚える事もない、路傍に転がる石ころが一つ減るだけの過去改変。
「――俺は、他の誰でもない俺自身を葬る。そして佳乃の、アイツらの……みんなの世界を治してやるんだ」
……胡桃は、零の言葉を聞きながら思っていた。
自分がこの聖杯戦争に呼ばれた理由はきっと、“葬儀屋だから”なんて安直なものではない。もしかしたらそれもあるのかも知れないが、主となる理由はきっと違うと確信する。
胡桃は葬儀屋。由緒正しい、往生堂の七七代目堂主。生まれついての葬者。命を葬り、弔う者。
だからこそ、自分は葬る為に呼ばれたのだ。他の誰でもない、自分は消え去るべきだと信じているこの青年を。
彼は世界の礎になろうとしている。自分の大切な人間が、そしてその周囲の者達までもが救われ、誰も壊れず狂わずに存続する世界。そんな月並みで、されど彼にとってはどんな金銀財宝よりも得難かった未来の為に喜んで棺桶に入ろうとしている。
それを踏まえた上で、胡桃は――
「……認めないよ。零。私は、胡桃はあなたのそれを認めない」
そんな悲しい終わりはやめろと、唇を噛んでそう諭していた。
その先に待っているのは地獄だ。生死だとか陰陽だとかそういう話ですらない、誰が見ても解る……それでいて誰の想像も及ばないような最悪の地獄が口を開けて待っているのだと断言出来る。
だからこそ胡桃は、それを放っておく事が出来なかった。
由緒ある往生堂の葬者として、そしてこの救世主と呼ぶにはあまりに生き方の不器用過ぎる青年の友人として。
「好きにしろよ。無駄だから」
必ずや、その愚かしい自己犠牲をこそ葬送してみせるのだとこの日そう決めた。
部屋の中にはテレビの音とベンチプレスの音だけが響いている。
世界の終わりのその前日は案外こんな風に静かで淡々としているのかもしれないと、どちらともなくそう思った。
-
【CLASS】
ランサー
【真名】
胡桃@原神
【ステータス】
筋力:E 耐久:A 敏捷:B 魔力:B 幸運:C 宝具:C
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
対魔力:D
神性:E
【保有スキル】
葬者:A
葬儀屋である。普段は奇妙奇天烈なじゃじゃ馬を地で行くランサーだが、こと葬り見送る事にかけてはとても真摯。
死を尊重する事、死が持つ価値については強い信念を持つ。
サーヴァントを含めた死者・死霊に対しての攻撃に補正が加算される。
魔力放出(炎):B
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
ランサーは炎の元素を駆使して戦う。
天真爛漫:C
理性蒸発とまではいかないが、賢人も認める奇人である。
精神攻撃に対してランク相当の耐性を持つ。
【宝具】
『安神秘法(あんしんひほう)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:100人
元素爆発。敵や環境から得た元素エネルギーを蓄積させて放つ切り札だが、サーヴァントとなった事で過程は省略して放てるようになっている。
胡桃が操る灼熱の魂を振り回して敵全体を攻撃する、広域攻撃宝具。更に敵に命中した場合、その分だけランサーの体力を回復させる。
多くの敵に当てれば当てるほど回復量が向上するため、多人数戦や乱戦においてこそ真価を発揮する宝具。
既にこの世を去った者がまだ元気そうにしていると、往生堂は焦燥や不安に駆られる。
火葬はランサーの心を一番落ち着かせることができる手段である。そのため、彼女は焦燥すればするほど、火力が上昇する。
『蝶導来世(ちょうどうらいせ)』
ランク:C 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大捕捉:1人(自分)
自身の体力を削り、“冥蝶の舞”と呼ばれる状態を自らに付与する。
攻撃力を上昇させ、『魔力放出(炎)』スキルのランクをA+にまでアップさせる自己強化宝具。
更にこの状態のランサーの攻撃を受けた敵は“血梅香”という状態異常効果を被る。
血梅香を被った存在は炎属性の継続ダメージを受ける。対魔力で軽減可能だが、それを持たない者には甚大なダメージソースになるだろう。
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『神の目』
ランク:D 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大捕捉:1人(自分)
神に認められた者が得るという、外付けの魔力器官。手のひらサイズのブローチのような形をしているのが特徴。
神の目を持つ人間は、人を超越しないままに元素力……風、岩、雷、草、水、炎、氷のいずれかのエネルギーを引き出せるようになる。
胡桃はこの神の目に選ばれた事で、炎属性の元素を引き出す事に成功した。
神の目を持つ者は死後、神々の領域たる天空の領域に入る事が許されると伝わり、故に彼女達は“原神”とも呼ばれる。
この性質により、所持者は低ランクながら神性スキルを有する。
所持者の消滅後に神の目は元素力を失った抜け殻となるが、極めて低い確率で共鳴し、再利用出来るようになる人間も存在する。
【weapon】
槍
【人物背景】
璃月で葬儀屋を営む往生堂の77代目堂主である少女。名前は“ふーたお”と読む。
普段は笑顔を絶やさず、堂主という立場を偉ぶることもなくじゃじゃ馬のごとく遊び回っており、あちこちの人間にちょっかいを出したり驚かせてはその反応を楽しんでいる。
が、前述の通り自分の仕事である葬儀……死と生の在り方については独自の信念を持つ。
【サーヴァントとしての願い】
願いはない。マスターの為に戦うつもりだが、聖杯戦争の仕組みそのものが気に入らないのであまり気乗りはしていない。
【マスターへの態度】
放っておけない相手。生でも死でもない処にさえ喜んで身を埋めてしまいそうなその在り方には懸念を懐いている。
【マスター】
零@グッドナイト・ワールドエンド
【マスターとしての願い】
佳乃を救い、これ以上の悲劇を引き起こさない為に自分という人間が存在した事実を消し去る
【能力・技能】
略式『子哭零』。質量を操る。
本来はVRMMORPG『星界(プラネット)』の中での固有能力だが、葬者となった今も使用することができる。
普段は金髪に顔面タトゥーの青年。アバター使用時にはフルフェイスヘルメットを着用したスーツ姿の男の外見となる。
【人物背景】
ネグレクトを受けて育った青年。
親友で幼馴染の少年『佳乃』の顔を硫酸で焼かれ、部屋に閉じ籠もってしまった彼の顔を治す為に奮闘していた。
原作第17話にて“黒い鳥の王”を下し、自分自身を枝打ちする為に佳乃の部屋を訪れる直前からの参戦。
【方針】
容赦なく優勝を狙うつもりだが、如何せん絆されやすく騙されやすいのが玉に瑕。
【サーヴァントへの態度】
鬱陶しいが、今は頼れる相手が此奴しかいないのも事実。
優勝の為に必要なら乗り換えも検討したいと考えているが、自分に甲斐甲斐しく接する姿には僅かな罪悪感を懐いてもいる。
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投下終了です。
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<削除>
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候補作を投下させていただきます
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それは遠い未来の話。
あるいは明日かもしれない話。
人の進歩の果ての果て――あるいは何かの生まれる日の話。
人と科学が栄華を極め、機械に命を宿した時代。
人と同じように思考し、人と同じように意思を持つ機械は、創造主に反旗を翻した。
人と同じ命があるなら、人と同じ権利が欲しい――いいや人より優れているなら、人を支配して然るべきだと、機械の王が煽り立てたのだ。
かくして戦争は始まった。意思持つブリキの兵隊は、瞬く間に勢力を広げて、世界を戦火で包んでいった。
驕り高ぶった人間は、自らが何を生み出したかも知らず、軽んじてその報いを受けたのだった。
争いは続いた。多くの命が消えた。人も機械も屍だけは、平等に山となって積み上げられた。
人のみならず機械ですらも、終わらない争いに疲れ始めた。
そんな出口の見えない時代に、ふと、小さな明かりが差した。
ルナ――月の名を持つ少女。生きることに疲れた命を、優しく癒やすという小さな太陽。
月という名の太陽は、争いに飽きた人や機械を、少しずつ確実に引き寄せていった。
彼女に惹かれた人々は、やがて人も機械の王も、見過ごせない規模へと膨れ上がっていった。
邪魔者に成り果てたのだ。人を倒し人を超え、自由を勝ち取らんとする機械の王にとっては。
見るに見かねた機械の王は、反戦の機運を高めるルナを、亡き者にするべく刺客を放った。
――破綻は、その瞬間にこそ始まったのだ。
◆
東京都千代田区に存在する、21世紀初頭の秋葉原。
電気街の通称で呼ばれ、様々な家電が取り引きされたこの地は、時代に応じて様々な形で、サブカルチャーを発信する街でもあった。
ある時は映像媒体を通じて、ある時は通信媒体によって。
ビデオ、コンピューター、スマートフォン。それらが媒介する様々な文化が、この街を中心にして芽生えていき、忘れられて次の土壌となった。
言うなれば、デジタルの輪廻転生。
であれば死の世界に再現されたそれは、文字通り魂の通わぬ空っぽの器。緑なき砂漠にまやかしと浮かぶ、実態なき砂上の楼閣か。
「見ないことはないとはいえ、この私が夢、とはね」
その街を望むマンションの部屋に、ナオミ・オルトマンの姿はあった。
褐色の肌、銀色の髪。不思議と丸眼鏡が似合う若い美貌。飄々泰然を売りとする彼女は、この時はどこか浮かない様子で、行き交う人々の群れを見下ろしていた。
(あれ、全部が死人)
電化製品からサブカルグッズ、多様な買い物袋を手に練り歩く顔を、緑の瞳で一つ一つ追う。
少し前までのナオミは、海を隔てた異国を離れ、この地へ住み着いた在日外国人だった。
そのことに何の疑いも持たず、当たり前にあの雑踏に混じり、生活と労働を続けてきた。
それを一変させたのが、手のひらに宿った謎めいた令呪だ。そこに確かな実感を与えたのが、令呪の招いた存在であり、恐らくはその存在が見せた夢だ。
俄には信じがたいことが、現実の出来事として目の前にある。隠された本当の目的を、それらが今こうして阻んでいる。
聖杯とやらによって封じられた、真実の記憶を取り戻したナオミは、今更になってその事実を、確かなものとして受け入れ始めていた。
(未来の世界の科学の子。それがオカルトに振り回されて、及び腰とはまぁ何としたこと)
ナオミ・オルトマンは未来人である。
正確には本来あるべき時代より、過去を模した冥界へと堕ちてきた存在である。
真実の記憶が体感する年は、実に西暦2128年。
民間のロケットが爆発事故を起こし、AI技術の急成長が議論を呼ぶ――そんなニュースが取り沙汰される時代の、およそ百年後を生きている命だ。
彼女のいるべき現世においては、火星に移住した人類達が、人造人間の人権について議論しているというのに。
21世紀の視点からすれば、SF映画から飛び出した絵空事。そんな時代を生きてきたナオミが、今は霊魂だのまじないだのに対して、信じがたいと捉え顔を曇らせている。
一体非常識なのはどっちの方だと、鼻で笑われそうな悩みを抱く己を、内心で自嘲しため息をついた。
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「メメント・モリ」
あるいはダモクレスの剣なる故事。
死後の世界に招かれたという、荒唐無稽な現状に対して、あまりにもお誂え向きな夢を追想する。
妙に鮮明に残った記憶は、世界の終わりの日の夢だった。膨れ上がりすぎた科学が、人類の文明を自滅させ、地球を灰色に染める夢だった。
聖女のようなロボットが、殺し屋に命を奪われた日――ここより遠い未来の地球は、その日をもって破滅した。
人が築いた文明の数々は、みるみるうちに異形へ変わり、遠からぬうちに朽ち果てていった。
人が生み出した不死の機械も、何度パーツを取り替えたとしても、避けられぬ劣化と死に悩まされるようになった。
滅び――といつしか呼ばれた現象。無機物が錆びて朽ち果てていき、自然の維持すらもままならなくなり、僅かな命のみが徘徊する荒野。
それがナオミの見た夢だ。命を模造しようとした人類と、命を超えようとしたロボットが、等しく味わったしっぺ返しだ。
「あの夢の殺し屋さんはあんただった。私が見せられたご機嫌な夢は、アヴェンジャーの記憶だったんでしょ?」
そしてその中にあった顔に、ナオミは心当たりがあった。
視線を窓外から室内に戻し、彼女はそこにいた者へと問う。
23歳、システムエンジニア。その一人暮らしの相場よりは広めな、裕福な懐事情を窺わせる部屋に、ゆらりと浮かび上がる姿がある。
まさにさながら幽霊のような――茫洋とした存在感の、白ずくめを纏った若い男だ。
黒い髪に、青い瞳。おおよそぬくもりの感じられない、寒色でまとまった容姿の中心に、返り血をぶちまけたように浮かぶエンブレム。
冥界の水先案内人として、神秘のアーティファクトから遣わされた召使い――黄泉返りの使い魔・サーヴァント。
自らをアヴェンジャーと名乗った彼が、まだ生きていた頃の記憶というものが、何らかの要因で流れ込んだもの。それが夕べ見た夢なのだろうと、ナオミは彼へ問いかけた。
「―――」
返事は、無言の肯定だった。首を横にも振らないからには、否定はしていないのだろうと受け取った。
「言っちゃ何だけど当てつけっぽいわね。せっかく死の世界に来たんだから、明日来る死にでも思いを馳せてみろって?」
「君も、人間ではなかったな」
「ネアン。機械じゃないけど、まぁロボットみたいなもの。アジモフコードなんてのを刻まれた、市中の皆々様ならなおさらのこと」
嫌味な問いかけを続けてみれば、ようやくアヴェンジャーも口を開く。
低く、されど風貌からは、裏腹と言えるほどによく通る声。そんな男の言葉に対して、ナオミもまた返事を重ねる。
ナオミ・オルトマンは実際のところ、未来人であって人間ではない。未来の地球に生まれながらも、その出自の由来は地球人にはない。
宇宙を彷徨う外星人が、地球人と接触を図るため、模倣・製造した人造人間。それがナオミの正体だった。
「人間に危害を加えてはならない、人間の命令に服従しなければならない、自己を守らなければならない。知ってる? 元は昔の本で、ロボット向けに作られた規則なんだって」
「……いや」
「神様気取って命を作って、そのくせ都合の良いように縛りたがって。そういうチョーシこいた真似すると、どこもバチが当たるもんなのかしらね」
ネアンとはナオミ一人を指す呼称ではない。ましてや一般に知られるネアンの実態は、ナオミのそれとはまるで違っていた。
様々な政治的事情によって、地球に提供されたバイオテクノロジーにより、今や人類の文化圏には、労働奴隷たるネアンが山のようにいる。
人間の召使いとなるべく制御されているにも関わらず、人間と同じ心を与えられた彼らの権利については、様々な議論を招き問題にもなっている。
今まさに、現世でナオミが向き合っているのも、そんなネアン達の起こした反乱という事件だ。
奇しくもアヴェンジャーのかつての主――ロボット達の王の決起と、瓜二つの状況に立たされていたのが、ナオミの生きている22世紀だった。
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「結局、良く死ぬとはなんて考えられるのは、恵まれてるからこそなのかもね。まず良く生きなきゃってハードルを、クリアーできたからこその」
嫌味っぽいと自覚しながらも、それでも口を突いてしまうのは、やはり受け入れがたい現状への、ストレスを感じているがためか。
規則の縛りを知らない男に、なればこそとナオミは言う。
あんな風体をしているが、生前のアヴェンジャーは明らかにロボットだ。でなければロボット達の王が、刺客として従えていることの辻褄が合わない。
そしてそのはずのアヴェンジャーは、アジモフコードの源流を知らない。人間に逆らえないという問題を、恐らく彼の主たる王は、かなり容易く突破したのだ。
なればこそ、傘下のロボット達も、死に方などというものを論じられる。
ルナがもたらした太陽の癒やし――後に世界を滅ぼした力による、安らかな死などに縋りつける。
アジモフコードとは無縁ながらも、表舞台では真理部に所属し、ネアンを監理してきたナオミからすれば、それこそ夢のような話だった。
不運にも主に恵まれず、搾取され良く生きることができなかったネアンは、未だ星の数ほどいるのだというのに。
「僕は君の世界を知らない。知ったように話すこともできない」
それでも。
意地の悪いナオミの言葉にも、アヴェンジャーは気を悪くした様子もなく返す。
どこかおぼろげな気配の中で、瞳がしかとナオミを見ていた。不思議なまでにまっすぐと光る、青い眼差しが緑と向き合っていた。
「それでも……生きていられるのなら、きっとその方が死ぬよりはいい。僕はそう思っている」
アヴェンジャーが生きていた時代と、ナオミが生きている時代の前提は違う。
アジモフコードが残っている今、ナオミが見ているものと同じものを、恐らくアヴェンジャーは見ていない。
なればこそ、軽々しくは言えずとも――だとしても、分かるところはある。
より良い死に方を求めるよりも、まず先により良い生き方というものがある。それを否定はできないと、アヴェンジャーはそう言ったのだった。
「……あんがと。私も言い方悪かった。あんた思ったより良い人だね」
要するに、ナオミを気遣ったのだ。この得体の知れないオカルトの化身が、人並みに実感しやすい心配りによって。
故にこそナオミもまたそれに応えた。自らの八つ当たりじみた非礼を詫び、その上で、殺し屋らしからぬ彼の気遣いに感謝する。
たとえ宇宙人の生み出した、人造人間であったとしても、地球の営みの中で生きてきたナオミだ。人が持つ人情というものは、理解はできたし実感もできた。
「んで。夢の意図はまぁともかくとして、いよいよオカルトの真っ只中にいると、認めざるを得なくなったわけですよ」
ならば、不吉な夢の話はこのあたりで終わりだ。
ちょうどそこから紐づいてもいる、現実についてを話さなければなるまい。
己に言い聞かせるように言うと、ナオミは視線と顔だけでなく、体ごとアヴェンジャーへと向き合う。
目の前の状況を受け入れた上で、ナオミ・オルトマンとアヴェンジャーは、これからどうすると切り出す。
「僕の考えは決まっている。まだ生きてここにいる君が、生き続けたいと望むのなら、それを叶えたいと思う」
アヴェンジャーの答えは明快だった。
彼を遣わした聖杯が、ナオミに望んでいるのは生存競争だ。
聖杯戦争――戦いを介した魔術的儀式。願いが叶う聖杯を求めて、魔術師が使い魔を使い争う殺し合い。
そしてこと今回の聖杯戦争においては、死後の世界という舞台からの、生還も報酬に含まれている。
であるなら、そのために働くべきだ。少なくともナオミが現世に戻り、生き続けたいと願っているのなら。
ナオミ・オルトマンのサーヴァントとして、生存と生還の達成のために戦う。それがアヴェンジャーの方針だった。
「私もそんなとこ。優勝商品は胡散臭いし、ぶっちゃけそこまで欲しくもないけど……ただそれでも、生きて帰らなきゃいけない場所はある」
ナオミ自身も生還だけは、絶対に譲れないと強く同意した。
聖杯戦争の優勝者は、たとえどんな願いであっても、叶えられる権利を得られるのだという。
正直、そこには関心がない。散々話したネアンの問題も、似て非なる己とは大きくは関係がない。
わざわざ聖杯の力を使って、救ってやらねばなどとは思わないし、究極的には異なる立場の自分が、軽率な願い方をするものでもないと考えている。
「帰る場所か」
「元の場所にね、相棒置き去りにしちゃってんのよ。多分あんたよりはちょっとおバカで、でもほっとくわけにもいかない奴」
それは自分と肩を並べる、相棒が自らの力で果たすべきことだ。
アヴェンジャーと、そして自分とも同じ、作られた命を持つ少女を、ナオミ・オルトマンは思い出す。
-
「私が手伝ってやんないと、あいつは間違いなく下手こいて死ぬ。それだけはさせない。少なくとも私のいない所で、むざむざ死なせるわけにゃいかない」
ルジュ・レッドスター。
地球人が生み出した、プロト・ネアンの十体目。ネアンとアジモフコードを巡る、複雑怪奇な相関図の中心にいる少女。
真理部の任務を共に請け負い、ここに送られてくるまでの間、支え合い戦い続けてきたバディだ。
それなりに長い人生を生き、それなりに人々と付き合ってきた中で、それなりに衝突し合いながらも、多分一番馬が合った友だ。
絶対に、見捨てるわけにはいかない。彼女の敗北と死亡が、世界を最悪の方向へ導くことを、阻止しなければならないという意味でも。
そして合理的観点においては、決して認めたくないことではあるが――そんな風に見殺しにするのが、寝覚めの悪い話だからという意味でも。
「だからそっちのためだったら、どんな手だって私は使う。聖杯の方はくれたげてもいいし、そのへんは了承してほしい」
「努力はする」
「そら含むよねぇ……含みを感じる言い回しだけども、今はそれでよしとしましょう」
薄々分かってはいたことだけどと、キャシャーンの返事にナオミは言った。
ルジュの元へと帰還する。たとえどんな結末を辿れど、始末は自分がつけられるようにする。
そのためには聖杯戦争に、何としても勝たなければならない。非道非情な行いや、卑劣な作戦にも走るかもしれない。
その旨を正直に伝えれば、恐らくあんな気遣い方をしたこいつは、含みのある返事をするだろうと思っていた。
あまりにあまりな手を使うようなら、抗議も拒否もするだろう――というわけだ。
「幸いにしてあんたの方は、あいつよか話も通じそうだし。急場のタッグパートナーとはいえ、頼りにさせてもらいますよ」
もっともそこに関しては、今までとさほど変わらない。
卑怯卑劣を嫌っていたのは、ルジュにしたって同じことだ。むしろアヴェンジャーの方が、大人っぽい分やりやすいまであるかもしれない。
ならば今はそれでもいい。力を借りるのはこちらの方なのだし、何とか擦り合わせていくまでだ。
そう切り替えて飲み込むと、改めてナオミはアヴェンジャーに対し、帰還のための助力を求めた。要望に対する返答は、男の無言の頷きだった。
「なんたってね、ネアンなんて言いましても、わたくしめは非戦闘用タイプなわけでして。ピンチの時にはこう宝具ってので、ババーっと片しちゃってくださいな」
「それはできない」
されども。
そこから少しおどけた様子で、ナオミが切り札に言及した時には、アヴェンジャーはぴしゃりと否定する。
「あい?」
「僕が持っている宝具は、生憎とそういうものじゃない」
「あらら、そうなの。こう、超破壊こーせん、的なものじゃなく?」
宝具が使えない、というわけではない。
ナオミが思い描いていたものと、性質が違うらしいとのことだ。
聖杯から与えられた情報によると、古今の英雄を模したサーヴァントは、宝具という必殺武器を保有しているらしい。
たとえば空と大地を分かつ、伝説の聖なる剣であったり。いかなる戦いでも砕けることのない、無敵の魔槍であったりだ。
ところがアヴェンジャーの持つそれは、そうした敵を倒すための、一撃必殺的な武器ではないのだという。
「僕が持ち合わせているものは、決して死ぬことのできない体」
(死ねない?)
では彼の宝具とは何なのか。それを明かすアヴェンジャーの言葉には、妙な引っ掛かりを覚えた。
曰くこのサーヴァントの体は、たとえ殺そうとしても死なない。
どれほどの傷を受けたとしても、たちどころに治癒されてしまい、永久に戦うことができるのだという。
そうした便利な能力の割には、どこか否定的な言い回しだ。何かこの不死身に対して、思うところがあるのだろうか。
-
「それと……名前だ」
「名前?」
しかしそんな不自然さは、これから明かされることに比べれば、ほんの些事でしかないのかもしれない。
続くもう一つの宝具の説明により、ナオミ・オルトマンはそのことを、痛いほど思い知ることになる。
「――キャシャーン」
ぞわり。
そして、びくり、と。
その名を聞いた瞬間に、体が動いたのを覚えている。
そして動いた後になって、自分の反射的な行動を、ようやく認識できたことを覚えている。
「この真名。キャシャーンという死神の名が、僕のもう一つの宝具だ」
何だ今のは。
自分はどうなった。
しかと名を告げるサーヴァントを前に、どっと冷や汗が溢れ出るのを感じた。
とてつもなく、嫌な感触があった。久しく感じたこともない、強烈な心理的衝撃を覚えた。
これは魔術や冥界といった、オカルトに対する忌避感とは別だ。ただ気持ち悪いと思うだけでなく、もっと根源的で衝動的な拒絶だ。
その名の響きを耳にした途端、自分の体重を預けている足場が、がしゃんと崩れ落ちたように錯覚した。
奈落の底へと意識が落下し、二度と戻れぬ闇の果てへと、無限に沈んでいくかのような感覚。
(すなわち――死。それへの恐怖)
要するに――怯えたというのか。
事もあろうにナオミ・オルトマンが、ファースト・ネアンである己が、こいつに恐怖心を抱いたのか。
長く生きて場数を踏み、一段上の視座をもって、泰然自若としていた自分が。
戦地帰りの最強のネアン・インモータルナインにすらも度胸を見込まれ、厄介な相手だと評された自分が。
そんなナオミ・オルトマンが、こうも容易く怯えている?
このアヴェンジャー――キャシャーンなる男の、名前を明かされたというだけで、ここまでの恐怖を植え付けられている?
「……マジかぁー……」
拝啓、ルジュ・レッドスター様。
私の置かれている状況が、常識外れなものだと覚悟はしていました。
それでもそんな覚悟というのは、甘い見通しだったのかもしれません。
恐らくはそれなりに良い奴だろうと、高をくくっていた己のサーヴァント。
ネアンらしからぬ観念的な言い回しですが、ひょっとしたらこの男は、この状況以上の厄ネタなのかもしれません。
人間的に表現するなら、本能と言っていい判断基準で、ナオミはそのように理解し、小さくつぶやきながら苦笑したのだった。
-
◆
――腑に落ちねぇってツラしてるな。
クク、まぁそうだろうよ。
あの嬢ちゃんが見た夢っていうのは、奴の記憶の途中までの話だ。そこからこのオチに繋げられれば、話が飛んだようにも思うだろうさ。
いいだろう、座って聞いていけ。冥土なんていうものが、本当に存在したとあっちゃ、土産をケチるのは格好がつかねぇってものよ。
滅びの話には続きがあった。
月という名の太陽は、その後もう一度浮かんだのさ。
長い長い時をかけ、死の淵から蘇ったあのルナは、再びロボット達を癒やし始めた。
しかし今度は安らかな死じゃなく、健やかな生を与えることでな。
ルナに癒やされたロボット達は、滅びの苦しみから解放された。死ぬことのなくなった体で、存分に生を謳歌し始めた。
それがどんな奴に施されたのか、毛ほども疑うこともせずにな。
そうとも――ルナは狂っていた。
奴から死を教えられたことで、ルナは死を恐れちまった。
何の考えもなしに与えてたモンが、どれほど恐るべきものであったか、身を持って味わいすぎちまったのさ。
生き返ってきたルナのそれは、慈悲だ思いやりだなんてものじゃねえ。
死にそうにしてる奴を見て、次にそうなるのは自分じゃねえかと、怯えて遠ざけるようになっただけよ。
必然、ろくでもねぇ結末を辿った。
命の癒やしを求められ、大勢の死に詰め寄られたルナは、やがて恐れを取り繕えなくなった。
手に負えねぇこともないだろうに、気持ち悪いと思った奴らを、見捨てて門前払いし始めたのよ。
文字通り必死な奴らが切り捨てられて、結局王国に増えていくのは、腑抜けて漫然と生きてく奴らばかりだ。
そりゃそうさ。一度滅んだ文明だ。永遠の命を取り戻しても、何の生きがいも見つけられねぇ世界で、奴らはただ、命に飽きていった。
クク……どんな気持ちだったろうな。クソッタレな地獄の中で、唯一の救いだと思ったそいつに、手を貸し国を作った奴らはよ。
そして――奴が現れた。
月という名の太陽を殺した男。
ルナを手に掛け滅びをバラ撒き、世界を最悪に貶めた後で、同じように消えたはずの男。
事もあろうにその男は、ルナの有り様を許しておけねぇと、いっちょ前に怒りやがった。
あいつは悪くねぇ――と、俺にそう言った奴もいたな。
クク、実際その通りよ。あいつは何も悪くなかった。善も悪も分からねぇ、ただ命令をこなすしかねぇ。そんなつまらねぇ男に、俺が育てさせちまったんだからな。
その果てにあったのがあの滅びで……奴もまた、そのままではいられなかった。その結末があれだったんだろうよ。
ルナが死を恐れたのと同じように、奴は命に憧れていた。
世界と共に記憶が消し飛び、自分が何者かも分からなくなって彷徨い、その中で多くの命と死を見てきた。
やり残したまま死ねない理由。やり遂げるまでは生き抜くって意志。無いものねだりをするように、奴はそいつらに魅せられていった。
だからこそ許せなかったのさ。命の甘い蜜だけを掠め、生きてぇって奴らを選り好んで殺す、そんなクソみてぇな連中が。
……こんなことを俺が知ってて、べらべらと聞かせてるっていうのも、クク、まぁおかしな話なんだが。
そうだ、奴は殺しまくった。
こんな腐った真似をする奴は、決して許さねぇという怒りの下に。
叩いて、砕いて、めちゃくちゃにして。向かってくる奴らを次々と殺して、鉄の屍を築きに築いた。
世界を滅ぼした時と同じように。それでも全く違う怒りのために、ルナの手先を皆殺しにした。
世界を滅ぼした落とし前のため、これしかねぇって縋りついた、哀れなブリキの王様もな。
メメント・モリ――死ありきの生と忘れるな。まぁ、それなりに的は射た言い回しかもな。
何にしてもそれが奴だ。それがあのアヴェンジャーだ。
命を粗末にしようものなら、今度は本当に殺しに来ると、女神を脅して去った反逆者だ。
弄ばれた命を庇った末に、二度と消えねぇ死神の名を、歴史に刻まれた大馬鹿野郎だ。
死ねねぇ自分ができることは、生きている限りルナを見張り、悲劇を繰り返させねぇこと。真っ当な救いの女神様として、責任持って命を救えと、そう思わせ続けることだってな。
最悪の存在。
月という名の太陽を殺した男。
滅びた世界の朝焼けの中で、死の闇を忘れるなと突きつける男。
奴の名はキャシャーン。
キャシャーンだ!
-
【クラス】アヴェンジャー
【真名】キャシャーン
【出典】キャシャーン Sins
【性別】男性型ロボット
【属性】混沌・中庸
【パラメーター】
筋力:A 耐久:C+ 敏捷:A 魔力:E 幸運:E 宝具:B
【クラススキル】
復讐者:C
あらゆる調停者(ルーラー)の天敵であり、痛みこそがその怒りの薪となる。
被攻撃時に魔力を増加させる。
忘却補正:-
正ある英雄に対して与える“効果的な打撃”のダメージを加算する……のだが、キャシャーンはこのスキルを有していない。
その名が消えることはあり得ない。死を司る神の名が世界から忘れられた時、秩序を失った死は、再び世界を脅かすだろう。
自己回復:EX
この世から怒りと恨みが潰える事がない限り、憤怒と怨念の体現である復讐者の存在価値が埋もれる事はない。
自動的にダメージが回復される。後述した宝具により、そのランクは規格外の領域まで跳ね上がっている。
【保有スキル】
戦闘続行:A+
基本的に死ねない。他のサーヴァントなら瀕死の傷でも、戦闘を可能とする。
不死殺し:B
死と再生を司る、太陽を堕としたことに基づく逸話。
アンデッドや不死者などに対して、与えるダメージがアップする。
直感:C
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を“感じ取る”能力。
敵の攻撃を初見でもある程度は予見することができる。
【宝具】
『月という名の太陽を殺した男(カース・オブ・ルナ)』
ランク:C 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大補足:-
女神を殺した罪の証。
永劫に死ぬこともない代わりに、真に生きるということも実感できない生の牢獄。
どれほどの傷を負ったとしても、それに比例した苦痛を伴い、再生する自己修復能力である。
キャシャーン自身の意志でも、マスターが令呪を使ったとしても、オンオフを切り替えることはできない。
このサーヴァントを殺すには、分子レベルまで完全消滅させるかしかない。
ただし肉体の再生には、当然マスターの魔力消費が伴う。復讐者スキルによる回復も、度が過ぎれば追いつかなくなるので過信は禁物。
規格外の再生能力を誇るが、神秘性はさほど高くない。一説には彼と世界が浴びた呪いは、当時最新鋭の科学技術で発明された、ナノマシンテクノロジーの産物だったとも囁かれている。
『最悪の存在(キャシャーン・シンス)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
自らが背負った血の罪科。世界の恐れと憎しみを背負った、最悪の死神の称号。
このサーヴァントの真名は、彼が生きた世界において、極めて特殊な意味を持つ。
「キャシャーン」の名はそれを聞く者に、死の恐怖を想起させ、身と心を縛り萎縮させる。
キャシャーンと相対し、その真名を聞いた相手は、恐怖により大きく精神を揺さぶられる。
その上、一度刻まれた恐怖心は、容易く拭い去れるものではない。
戦闘終了後も、その恐怖はトラウマとなって残留し、再び顔を合わせることがあれば、即座に効力が蘇る。
この宝具の効果を抹消するには、Aランク級の解呪の魔術を使うか、あるいはマスターを倒しキャシャーンを脱落させるしかない。
同ランク以上の精神耐性系スキルがあれば、効果を軽減させることは可能。
また、死神としてのキャシャーンの逸話が具現化したものであるため、彼の本当の人となりを理解した者に対しては、効果が激減する。
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【weapon】
腰部にはブースターが搭載されており、瞬間的な加速が可能。
【人物背景】
月という名の太陽を殺し、世界を滅びへと導いた男。
取り返しのつかない罪を贖うため、尊い命を守るために、死神の忌み名を背負った男。
選ばれなかった弱者を救いながらも、選ばれた強者の秩序を破壊したために、反英霊の十字架を科せられた男である。
再び昇った太陽は、世界に蔓延した死を消し去るため、再生の力を振るい始めた。
しかし死への恐怖を芽生えさせた彼女は、次第に癒やす相手を選り好みし、死へと大きく近づいた者を、遠ざけ切り捨てるようになった。
怒れる男は悲しみを胸に、選ばれなかった命を背負い、再び太陽の王国に現れる。
襲い来る敵を皆殺しにし、玉座へとたどり着いた男は、再び太陽に呪いをかける。
いたずらに命を奪うことは許さない。人々が再び死を忘れ、傲慢に振る舞うようになれば、何度でもこの地へ舞い戻り、同じ死と滅びをもたらす――と。
本質的には、限りある命の儚さと、命を全うしようとする姿勢の尊さを知った、優しく思いやりのある人物である。
その優しさ故に、彼は命を脅かす者、粗末に扱うことを許さず、冷酷な死神にもなり得るのである。
死ねない呪いをかけられた彼が、いついかなるタイミングで死んだのかは不明だが、
満足に死ぬことが出来ない彼にとって、限りあるが故の「生の実感」は、何よりも羨むべきものであったという。
【サーヴァントとしての願い】
不明。少なくとも表面上は、死の世界であればこそと、命と死を蔑ろにする者を、決して許さぬ存在であり続ける。
【マスターへの態度】
命は生きていられるのなら、それに越したことはない。その基本的な考えは、冥界にあっても変わることはない。
自身にとって受け入れがたい存在と見なさない限りは、マスターの生還のために尽力する。
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【マスター】
ナオミ・オルトマン@メタリックルージュ
【マスターとしての願い】
聖杯に興味はない。現世へと帰還する。
【weapon】
鳥型ドローン
青い小鳥の姿形をした情報収集用ドローン。無線通話機能も搭載されており、遠くの相手ともこれを介して会話できる。
【能力・技能】
プレ・ネアン
「来訪者」と呼ばれる外星人・ゼノアが、地球人との交流・交渉のために生み出した人造人間。
特にナオミは最初の一体で、ゼノアからは「ファースト(ファースト・ネアンの意味)」と呼ばれている。
戸籍上の年齢は23歳だが、当然稼働年数は更に長い。ついでにそうした理由もあってか、ファーストと呼ばれるのを本人は嫌っている。
現在一般的に流通し、労働や戦争に用いられているネアンと異なり、人間との外見的差異は無く、本人も人間のふりをして社会に溶け込んでいる。
人間が生きられないような環境でも活動可能だが、労働用・戦闘用の個体ではないので、運動能力には大きな差はない模様。
人間が模造したネアン達は、定期的な薬物投与がなければ、細胞組織を維持できない欠点があるが、ナオミにはその様子は見られない。
情報戦術
コンピューターの扱いやデータの分析、ひいては作戦の立案などにも長ける才媛。
劇中ではネアンの戦闘形態・グラディエーターの有する戦闘機能を分析し、自身のパートナーに対して的確なアドバイスを行っていた。
銃器取り扱い
拳銃の一つでもあれば、それなりに脅威に対して応戦できる。
【人物背景】
地球人が宇宙戦争を生き抜き、火星進出を果たした西暦2128年。
ナオミ・オルトマンはその時代に生きる、汎太陽系ユニオン真理部の特務捜査官である。
普段は飄々としている一方、内心は常に合理的な思考を張り巡らせており、時にはパートナーからの反感を買うような強硬な手に出たことも。
表向きにはネアンを監理する部署に籍を置いているが、その本懐は神祗官として、生みの親であるゼノアと、地球人との橋渡しをすることにある。
真理部からは人類に反旗を翻した、強大な九体のプロト・ネアン(通称インモータルナイン)の抹殺を、極秘命令として預かっている。
パートナーと共にその仕事をこなしていたナオミだったが、最後の決戦の舞台である、金星に赴く準備のさなか、聖杯に招かれ冥界へと堕ちた。
【サーヴァントへの態度】
良い奴だとは思うので、付け入ることには僅かなり良心も痛む。
それでも現世への帰還のため、非情でも合理的な行動を取り続ける。そのための命令も、サーヴァントには躊躇なく行う。
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投下は以上です。
トリップキーは違っていますが、キャシャーンのステータスに関しては、
以前「Fate/Malignant neoplasm 聖杯幻想」スレにて投下したものを流用させていただきました。
滅び現象ナノハザード説については、WEBアニメスタイルのインタビューにて言及された、シナリオ没案を参考にしております。
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投下します
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冥界の奥地にて嵐が吹き荒れている。
比喩ではない。真実そこには強風の渦が出現している。
太陽なく朝のない冥界の空気は寒い。廃墟の残骸が劣化して出来た砂塵を巻き上がらせる様は、さながら雪山のブリザードか。
呑まれた者はすぐさま目と体温を奪い取られ、やがて皮が氷肉が砕ける、日本にある紅蓮地獄のままの死の洗礼だ。
気候差はなくてもどこからか風の流れが生まれている冥界だが、この嵐の源流は自然現象などではない。
竜巻を起こしているのは肉持つ人。
すり鉢状の気流の中心部にて縦横無尽に暴れ回る二肢二足の獣こそが、争乱の元凶である。
「九十(ジウシ)……九十一(ジウシー)……九十二(ジウシアー)……!」
砂塵の中で浮かぶ影が一時も動きを止めず動く。
その度に影を取り囲む無数の朧が霧散して、砂塵の一部に加わっていく。
「九十三(ジウシサン)……九十四(ジウシスー)……九十(ジウシウー)……!」
朧の正体は死霊。
冥界で命の気配を鋭敏に嗅ぎ取り喰らうべく数を成して群がった狩人達は、獲物からの逆襲を受けて軒並みが爆ぜる。
ひとつは拳で。ひとつは蹴りで。ほぼ全ての個体が一発の打撃で急所を潰され死に還されている。
嵐の実態は死霊が砕け散って粒子と、それを屠り続ける兇手が疾走する膨大な運動量で起こした陣風とが混ざりあった結果生まれたものだった。
「……百(バイ)!!」
吹き飛ばされ密集していた最後の五体は、渾身の気を集約した拳から発される勁により、触れずして爆散した。
以て百体の死霊を身一つで除霊し終え、ここで漸く影が止まり、嵐が萎んでいく。
暗がりの空で晴れた砂地に立つは、一人の男のみ。
先程の練武に違わぬ隆起した肉体を持つ、功夫服の武人だった。
-
「ランサー!! 終わったぞ! 早く出て来い!!」
男が叫ぶのと同時、虚空に縦の亀裂が入る。
唐竹割りになった空間の内部……「影」が空間に張り付いたような部屋から出てきたのは、朱の髪色をした一人の女だ。
いかな朴念仁、無骨者だろうと唾で喉を鳴らしてしまう美女だった。
少女の瑞々しさを保ったまま妖艶な肉体を備えた、いっそ不条理なぐらいの貌と躰。
指先からつま先まで薄布で覆った、露出に乏しい衣装はむしろ、装飾に踊らされない女自身の完全性を象徴している。
しかし表情は媚態な情婦のそれとは違い、絶対の自信に満ち溢れて引き締められたもの。
誰に阿るでもなく、身一つで成し得た積を長年磨いてきた者が纏う、老境の雰囲気。王者の気質とはこのようなものか。
顔つきに見合わぬ成熟さが増々、女のこの世のものとは思えない魅力を際立たせるのだ。
男が呼んだ名前の通り手には長槍。女の髪と同じ朱に染められた魔色。
今まさに心臓を突き穂先を濡らしたばかりのような呪いの色。禍々しく、故にこの女にこそ似つかわしくもある。
しなやかな指に絡まれた柄は吸い付いて離れず、女の一部と槍自らが錯覚しているのが事実の証明。
槍使いの英霊。サーヴァント・ランサー。
女は戦士であり、女王であり、魔術師であり、師であり、そしてやはり女であるのだ。
「ほう、早かったなマスター」
「当然だ。初戦ならいざ知らず、敵も環境にも慣れた。こんなものはもう準備運動にしかならなん。
俺を消耗させたいのであれば、英霊の影でも持ってくることだな」
「うむ、そうさな。次からはそうするとしよう」
マスターとサーヴァント、二人は一組となって共に聖杯戦争を戦う共闘の間柄である。
しかし互いのこの立ち位置はどうしたことなのか。
死霊の群れに単騎で圧倒したマスターを呑気に観戦していたサーヴァント。構図が明らかに捻れている。
それを不服ともせず笑みを浮かばせているマスターの男が、更に奇妙な動作を取った。
「さあ、これで今日の課題は終わりだな? 昨日から二十三秒余りが出た。
これでより残りの時間を……」
腰を深く落とし両腕を構える。目線はランサーに直進。
一秒後の爆発に備えて大地を陥没させるほど踏みしめる。
己を弾丸に見立てた『射出』の態勢。炸薬は混じり気のない純粋な殺意。
「貴様との鍛錬に、注ぐ事が出来るというものだッ!!」
それを冥界において正しく生命線である筈のサーヴァントに照準を合わせて。
ファン=クーロンは一切の躊躇なく、女の首を刈り取る拳を見舞うべく跳躍した。
◆
最高の鍛錬の場に恵まれた。
ファン=クーロンは置かれた状況を理解した瞬間、歓喜に打ち震えた。
不老という、加齢とそれに伴う骨肉の衰えから解放される能力を得てから、百年余りを武者修行に注いだファンだ。
聖杯戦争という闘争の場に誘われて成す事は最初から決まっている。
死ぬまで戦いを所望する武術家は、死んでも一切不変のままだった。
-
そのファンの武が、ランサーには一発足りとも命中していない。
朱槍は地面に突き刺してある、槍兵は無手のままファンの猛攻を全ていなしてかわしている。
101回目のループ中、こと近接体術においては円卓随一を誇るファンが、まるで師に拳法の基礎を叩き込まれる子供だ。
かつて約定で拾った男を弟子に取り鍛えてきたファンが、今は逆の立場であしらわれていた。
「やはり、強いな……!」
顔面を強かに打ち据えられ、たたらを踏んで後退する。
鼻と唇から血が流れ出ていてもファンには怯みはない。痛みは喜悦で麻酔され、闘争心が再び沸き立つ。
「ふふ、たかだか100年程度長生きした若造に遅れは取らぬよ」
「若造か……そんな呼ばれ方は何十年ぶりか……!
ならば初心に……帰るとしよう!」
間断なく攻めかかるファンの拳打は、決してサーヴァントだからと油断していいものではない。
体捌き。威力。反応速度。どれも現代では破格といっていい武錬。
UMAという、神が生んだ理(ルール)の怪物を、否定能力の関与しない素手のみで調伏出来る達人が、地上にどれだけ生まれていたか。
間違いなくファン=クーロンは、繰り返される人類の武術の歴史に燦然と名を刻まれる、最強の一角なのだ。
加えて、既にファンは魂という理を知覚し理解している。
霊体であるサーヴァントであっても拳を通し、霊核を破壊する事すらも可能だ。
ならば煎じ詰めれば答えは明白───彼が契約したランサーが、破格を易々と上回れる強さを誇るというだけだ。
細く女の性を表す体のどこにそれだけの力が入っているのか。
風がそよぐ緩やかな指の動きでファンの渾身の一撃は捕らえられ、逆に撫ぜるかの如き返しで触れれば、ファンの内臓が激しく揺さぶる。
掌に肌を当て両脚に続く腰から肩の連動で衝撃を生み出す打撃法はファンも使う『発勁』に近いが、ランサーはそこに魔力を投射している。
そこに神代ならではの物理法則に依らぬ闘法が加われば、筋肉と体重の代用どころかその何倍もの勁が発揮されるのだ。
武芸百般のランサーだが、年代と土地の関係上中国拳法までは修めてはいない。
即ち盗用。ファンの『真八極』を間近に観察しその肉体運用の法則を見抜いて、己の手でプラスの効力を生むアレンジを施した上でファン本人にそっくり返す、痛烈な意趣返しなのだ。
「しかし……随分と場持ちするものだ。
冥界の空気は葬者には毒……人間なら10分、魔術師でも伸ばせて2倍3倍が限度だろうに。それも否定の力とやらか?」
既に二人が戦いだしてから10分が経過している。
ファンの単独での死霊討伐を含めれば20分だ。これは街以外の葬者の冥界での活動時間を大幅に超えている。
受けた傷はランサーのもののみ。他は寿命どころか、運命力の消耗すらしていない。
ランサーが言うように、上質な魔術回路の魔術刻印、資質や技術だけではどうしてもこの壁は越えられない。
突破するには特殊な相性───『死』への耐性が求められる。
ランサーは冥界の国を治めていた経歴からによる死への適正。
ファンの場合は───
-
「応っ! それが俺の理(ルール)だとも! どれだけ時を経ようと年老わず肉体の全盛期を保てる。従って寿命もない。
即ち、殺されぬ限り俺に死は訪れない!」
否定者。
神によって世界に刻まれた理に反発する者の名称。
『幸運』を否定すればゼロ以上の確率中の災難が対象に降りかかり、『治療』を否定された手で作られた傷は、誰が相手であろうと治らない。
ファンが否定されたのは『老い』。
肉体の成長、加齢の衰えという生物の理を否定する。
傷は負う。死にはする。だが老いが原因で病にかかったり死ぬ事だけは絶対にない。
『存在の寿命死』とでも言うべき運命力を削る冥界の大気への耐性として、ファンの否定能力は覿面に効く概念だ。
完全な無効化とはいかないが、それでも他の葬者からすれば反則的な長時間の冥界での活動を、主従共々可能としているのだ。
「だが冥界か……悪くない……悪くないぞ……。
ようは酸素が薄く、重力が十倍になった部屋に閉じ込められたようなものだろう? 山籠りの修行をした時よりもずっと歯応えがある!」
腫れ上がっていく顔とは裏腹に強まる覇気が拳に乗り移る。
そして遂にランサーの返しを見切り、交差法で出した拳打が流しではなく掌で重く受け止められる。
マスターとサーヴァントとの組み手は一方的なばかりではなかった。
こうして偶に、冷や汗をかかすとはいかずとも、防御の態勢を取らせる冴えを見舞う時がある。
致命打になる箇所こそ避けてるものの、ランサーの攻撃そのものには何も手抜かりはない。
相手が見込みより愚鈍であればそのまま死ぬ薄氷の上で成り立っており、仮にそうなっても別に構わない腹積もりで相手取っている。
達人であっても一発で悶絶し気絶する威力。ファンはそれに何発も耐えるだけでなく直に覚え、ランサーの反応速度に追従していた。
「貴様との出会いに感謝するぞランサー!」
偽りなき称賛の言葉を吠えるファン。
「死後の国という新たな境地で、またとない強者と死合い続けられるこの武舞台!
そして勝ち抜けば、死からの蘇りというさらなる高みへと往けるのだ!
俺に必要なものが此処には全てある!!」
突如として現れた謎の東洋人……後に神殺しの組織UNIONのボスを名乗る出雲風子に完敗を喫した時から、ファンには様々な縛りをかけられた。
再戦の条件にUMAを狩る事、人を殺めぬ事を強いられ、素性も知らぬ兄妹を弟子に取れと要求された。
"あやかし"狩りならともかく、後の二つはどれだけファンの時間と精神を削り取られたのか知れない。
何よりそんな日々が───成長した弟子に敗れ、口八丁でUNIONに加入され望まぬ協力を強いられる時間が、どうしても否定出来ない己が余りに不可解だった。
不老は肉体の時間を止めるだけで、精神は変わり続ける。
個の強さに不要な筈の微睡んだ生活は、知らず殺伐な気性を穏やかに削いでいった。
-
この武舞台は、そんな己の中の弛みを絞る絶好の機会とファンは見做した。
敗者は絶命。生き残りはただ一組。弱肉強食の始原の世界。甘さを捨てて鍛え直すにはうってつけだ。
「聖杯などは出雲風子にでもくれてやればいい! それと引き換えに今度こそ真剣勝負をする材料にもなる!
またひとつ最強に近づいた俺が、未知の遺物を手にしてくるのだ。奴にとっても文句はあるまい!」
死ぬつもりは毛頭ない。最強こそが我が願い。高みには生きていてこそ登れる。
聖杯にかける願いなどない。称号代わりの景品だ。
その上で組織には戻る。神殺しの手伝いもしてやろう。だがもう、誰の指図も受けない。そんな異論は挟ませない。
何ものにも傅かない絶対の強さを、今度こそ手に入れて証明するのだ。
ファン=クーロンこそが、この星の歴史における個の頂点であると。
「やはり若いな、お主は」
有頂天。皮算用を嗜める鳩尾への刺突。
いつの間にか回収したのか。それとも手首を捻るだけで握れる位置に誘導されていたのか。
これまでの闘劇が児戯同然の、極小の点が弾かれたとしか見えない槍兵(ランサー)の穿ち、飛ばされた全身が砂の地面に転ばされた。
刃でなく石突での加減だったが、ランサーの突きは腹筋の上からでも胃をへこませる痛みをもたらす。
ファンは酸素を求め喘ぐも一呼吸で醜態を止め、痛覚を和らげる呼吸法を実行する。
そうやって戦闘後のクールダウンを行いながら上体を起こした。
「……何故だ?」
急に武器を使われた不満は特に無い。槍を持ち直す余裕を与えた自分が悪い。
その気なら腹に大穴が開いて死んでいた敗者が勝者に物言いするなど真八極の誇りが許さない。
疑問は別のところにあった。
「貴様も俺と同じだ。老いぬ身体を鍛え上げ、敵と戦い、武を極める事を至上としている筈だ。現に今でもそうしている。
なのに何故、貴様はそうも乾いている。自らの飢えを否定している?」
召喚に応じ現れたランサーをひと目見て、ファンは直感した。
こいつは俺と同類だ。見た目は弱々しい女でも、内に魔物を飼っている。
腕の程を知りたいのと併せて肚を探るべく手合わせし、力の差を思い知らされながらも、不老の身の出自を聞いて親近感をより増した。
永遠の闘争に身を置き魔境の強さを誇る修羅。ならば同じ不老である己が、その領域に足を踏み入れるのもまた可能だろうと。
だからこそマスターがサーヴァントに教えを請うという、この図式が成立しているのだ。
-
「なに、そう大した理由ではない。老いる事も死ぬ事も出来ぬ身であれば、望まずとも乾いてしまうものさ」
「……それは初耳だな。貴様、不老だけでなく不死なのか?」
「うむ。故あって老いとも死とも無縁の身でな。
英霊として召喚される今回などは例外だ。冥界であるならばそこにいる者はなべて死者……そんな理屈で通したのだろうさ」
それは、ファンの世界ですら現れる事のない、二重の否定を授けられた女の運命であった。
人を、亡霊を、巨人を、神を殺し、殺し、殺し続けた果てに得たのは、幽世の支配者として国を支配する栄転。しかしそれは言い換えれば地上からの追放だ。
時間から切り離された影の国。死ぬ自由すら許されなくなり、外に出る事も叶わない。
強さが罪だとでもいうように、女王は永遠の孤独を課されていた。
「好敵手も愛弟子も、みな生き急いで先を逝った。何を殺し幾ら強さを極めども心は晴れぬ。魂が腐っていくような気分だったよ。
おかしな話だが、サーヴァントの身となって、久方ぶりに生の実感を得られた。喚んだお主にはその意味では感謝だな」
顔を上げて虚空を見る憂い顔に。
ふと、鏡を目の当たりにしている気分にさせられた。
かつての覇気が見る影もない、痩せこけて腰を曲げる、かつての挑戦者。
負け続けていながら、次の世代に託すと笑って他人の背中を押す老輩達。
勝ったのは己なのに。逃げたのは向こうなのに。
何故か、勝ち逃げされたと思ってしまうのは。置いていかれてしまったと俯くのは。
「ならば、貴様は何を願う。まさか自死でも願うつもりか」
「それこそまかさ、さ。確かに死を得るのは我が本望だが、この手で首を絞めたいほどに鬱々としとらん。
私に死を与える者は、私の全力を越える者でなくてはならん。ケルトの流儀は、まだまだ血に残っているのでな」
それは、そうだろう。
わざわざ弱き者に首をくれてやる謂れはない。強さによって倒されてこそ戦士の本懐だ。
だがそれは───延々と終わらない寂静に錆が入った弱さ故の、逃避ではないだろうか?
真に最強の座に至った者とは、これほどまでに儚く痛ましいのか?
彼女が頂きで見た景色を自分も見れば、このように腐ってしまうのか?
強さは、それだけで価値のあるものの筈だ。
生存や社会の軛から解き放たれた、完全無欠の個。そこに至る事にこそが武の真髄。
ましてや誰かの為などと、理由を他に投げ捨てていわけが───
「ああ───だが、そうさな。思うことはあるよ。
私を殺せる者が、あ奴であったならば、それはどんなにと──────」
「────────────」
垣間見たその横顔は。
鍛錬の際に見せる女王の厳かさとは無縁の、情念に満ちた女の顔。
そして当人は知るまい。不承不承に育てた弟子を、不老もまた同じ目と顔と見ているなどとは。
-
"誰かを想う、変わらない心。それを持った人が──────────"
リフレインする。
最強とは何か。己を打ち負かした女に問いかけて出てきた答え。
下らぬと否定してきたその言葉を、今も忘れずに思い出す。
不殺の縛りが解かれた今になっても、否定が出来ていない。
一人での限界と、誰かの為に進む時の、力の湧き方を。
「……良し、そろそろ時間かな」
ぽつりと呟いたランサーに耳を傾け、その意味を考えると、不意に体力の消耗とは別軸の疲労感が両肩にのしかかった。
「……!?」
運命力の消費を抑える不老の効力は絶対ではない。時間を引き延ばせはしてもいつかは伸び切り、限界が見える。
具体的に何分なのかは考慮せず、鍛錬中に掴めばいいかと悠長に構えていたが……。
「まさか……」
耳だけではなく、全感覚をランサーに向ける。
深窓の令嬢よろしく憂い顔だったランサーの顔には、今やしてやったりの文字が目に見えるほどの笑みを浮かべている。
通常笑顔というのは場を和やかにさせ、とりわけランサーほどの美女であれば華も咲かせるものだが。
この場合の笑顔というのは攻撃的な、獲物を前にした獣の事をいった。
「謀ったな……謀ったなランサー!」
「ははははははは! そら疾く走れ走れ! 帰るまでが特訓だ!
街に戻る間に一歩でも止まれば、即死ぬるぞ!」
「ヌゥオオオオオオオオオオオ!!」
罵倒を浴びせる暇もなく跳び上がり、一目散に街へと全力疾走するファンを朗らかに見やるランサー。
本人の心境としては弟子の成長を暖かく見守る師匠のつもりだろうが、傍から見る分には修羅か獄卒の責め苦である。
そう言われれば、ギリギリで間に合わないようならルーンで飛ばしてやると憮然に返すだろうが。
「あるいはお前こそが……このスカサハの『死』になるか? ファン=クーロン」
老いの否定者にして死の否定者。
ケルト戦士の母にして師たる影の国の女王は、この冥界で新たに取った弟子の背中が小さくなっていくのを、目で追い続けていた。
-
【CLASS】
ランサー
【真名】
スカサハ@Fate/grand order
【属性】
中立・善
【ステータス】
筋力B 耐久A 敏捷A 魔力C 幸運D 宝具A+
【クラス別スキル】
対魔力:A
Aランク以下の魔術を無効化する。
現代の魔術師では、魔術で彼女に傷をつけることはできない。
【固有スキル】
原初のルーン
北欧の魔術刻印・ルーンを有している。ここで言うルーンとは、現代の魔術師たちが使用するそれとは異なり、神代の威力を有する原初のルーン―――北欧の大神オーディンによって世界に見出されたモノである。
クー・フーリンに対して原初の18のルーンを授けたとされる彼女は、戦士であると同時に強力な魔術師でもある。
神殺し:B
異境・魔境である「影の国」の門番として、数多くの神霊を屠り続けた彼女の生き様がスキルと化したもの。
神霊特攻。神霊、亡霊、神性スキルを有するサーヴァントへの攻撃にプラス補正。
魔境の智慧:A+
人を超え、神を殺し、世界の外側に身を置くが故に得た深淵の知恵。
英雄が独自に所有するものを除いたほぼ全てのスキルを、B〜Aランクの習熟度で発揮可能。また、彼女が真に英雄と認めた相手にのみ、スキルを授けることもできる。
戦闘時によく彼女が使用するスキルは「千里眼」による戦闘状況の予知。アルスター伝説でも、彼女はよくこの予知によって未来を予言した―――愛弟子たるクー・フーリンの最期さえをも。
【宝具】
『貫き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:5〜40 最大捕捉:50人
形は似ているが、実はクー・フーリンが持っている槍とは別物。一段階古い、ゲイ・ボルクよりも前に使っていた同型の得物。それが、一本だけではなく複数本ある。
真名解放時の性能としてはクー・フーリンの宝具『刺し穿つ死棘の槍』と『突き穿つ死翔の槍』の二つを合わせたような絶技となる。まずは近接攻撃として一本目の魔槍で敵を「空間に縫い付けて」自由を奪い、更には二本目の魔槍を全力投擲して止めを刺す。当然、投擲された魔槍の軌道上の敵は悉く命を奪われることになる。
『死溢るる魔境への門(ゲート・オブ・スカイ)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:2〜50 最大捕捉:200人
ゲート・オブ・スカイ。
世界とは断絶された魔境にして異境、世界の外側に在る「影の国」へと通じる巨大な「門」を一時的に召喚。自らの支配領域である「影の国」へ、効果範囲内に存在するあらゆる生物を吸い込んでしまう。
魔力と幸運の判定に失敗すると「門」に吸い込まれて即死。スカサハが認めない者は「影の国」へと命を有したまま立ち入ることができない。
抵抗に成功しても、魔力を急激に吸収されるため大きなダメージを受ける。
【人物背景】
ケルト神話、影の国の女王。
クー・フーリンを始めとした多くの戦士の師。生にも死にも置いていかれた否定者。
半神霊の身であり不死者であるが、『冥界に落ちる者は全て死者』という、葬者達にも似た理屈によってサーヴァントとして召喚された。
冥界にも近い影の国の支配者であり厳密には死者でないスカサハは、冥界に中でも長時間活動する事が可能。
しかも防護のルーンを重ねがけすれば更に伸びる余地すらある。無法である。
【サーヴァントとしての願い】
願うのは自らの死。無論聖杯の力で死ぬのではなく、自身を打ち倒す者と心ゆくまで死合いをした上での戦士としての死を望む。
【マスターへの態度】
不老にして武を志すファンに、まだ人であった頃の若い自分を思い返してる。いや今でもまだ若いが。
それ故ファンが行き着く果てを知り、先達として教え込む所存。無論、実戦形式で。
しかしこ奴、ちょっと素直すぎんか? 悪い女に誑かされたりしとらんか?
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【マスター】
ファン・クーロン@アンデッドアンラック
【マスターとしての願い】
最強。
【能力・技能】
『真八極』
中国拳法をベースにファンが独自に磨いた我流。
武器術も用い、近接での戦闘力は作中でも最上位。
『魂』の存在を知覚し理解しており、弱所を見抜く眼力の他、通常の打撃でもサーヴァントにダメージを与えられる。
愛用の武器である変形棍『随心鉄桿』は置いてきてるが、スカサハならば類似した武器を作れるだろう。
『不老』
アンフェイド。
理を否定する否定能力。能力が発現した時点から肉体が成長も老化も止まり、無限の寿命を得る。
天賦の才に不老の時の殆どを鍛錬に費やす事で、ファンは無双の強さを得た。
前回のループでは老いた姿での発現だったが、101回目の今回では全盛期の肉体で固定されている。
寿命が存在しない為、運命力を削る冥界のルールをも否定し、長時間の活動が可能。
しかし完全ではなく、あくまで限界値が大幅に伸びているだけ。精確な時間は把握中。
【人物背景】
『老い』の否定者。最強を目指す『真八極』創始者。
前回のループと違い、置いていかれる孤独、敗北と弟子、仲間を得て、真の強さを模索している。
【方針】
会敵必戦。見つけ次第対戦を申し込む。主従揃って傍迷惑すぎる。
風子との不殺の縛りは今回は不問だとして意気揚々としているが、本心ではどこかに引っかかりを感じている。
【サーヴァントへの態度】
同じ能力で、自分を上回る強さの持ち主として敬意を評する、上回るべき相手。
教導は受けているが弟子入りしたつもりはなく、他流試合の範疇だと言い張っている。
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投下を終了します
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投下します。
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【1】
私は、王子様と出会って運命が変わったお姫様だったと思う。
得意なことは勉強で、苦手なことは友達作り。そんな風に生きてきたから、偏差値の高い大学に合格できた学年唯一の生徒として上京して、当然のように孤立した。
数々の失敗の記憶に浸り、泣きなくなりながら夕暮れの公園で座っていた、ある春の夜のことだった。私を心配して話しかけてくれたのが、彼だった。見知らぬ異性には警戒しろとよく言われるが、線が細くて気弱そうな印象をまず受ける彼には、警戒心が働かなかった。
彼は、ホストだと名乗った。華やかさの化身というイメージの職業だが、彼には全くそぐわない気がする。率直にそう伝えたら、言われ慣れていると彼は苦笑した。
東京での生活に悩んでいた頃、顔立ちは悪くないからという理由で友達に誘われてこの仕事を始めた。他に仕事のあてもなく、女手一つで育ててくれたお母さんへの仕送りがしたくて金を早く稼ぎたいという気持ちもあり続けているものの、なかなか成果は上がらないという。
その日は名刺だけを貰って別れ、一晩悩んで。ちょっとした応援のつもりで、ジュース一杯だけのつもりで、縁のない街だと思っていた夜の新宿へ足を運んでみることにした。
私を出迎えた時の、涙ぐむほどに喜んでくれた彼の顔に、胸の奥が温かくくすぐられたような気がした。同じ苦しみを持つ彼を、こんな私が救えたのだ。
シンパシー。それが私と、『王子』の源氏名を持つ彼との日々の始まりだった。
生活の傍らで『王子』を応援するため、両親からの仕送りを切り詰めて、講義への出席日数を減らしてアルバイトを増やして、店に通うようになった。推し活、ということになるのだろうか。
『王子』も少しずつ指名をもらえるようになってきたというが、一番熱心に応援してくれているのは私なのだという。他の女子の存在に少しだけ苛立ちを覚え、すぐに安堵して、私の中にも独占欲という感情があったのかと今更知った。
二十歳になった日、応援への恩返しだと言って、『王子』は私を店外へと連れ出した。昼の繁華街を並んで歩き、おしゃれな服を買ってくれて、帰りにハグもしてくれた。正真正銘のデート。一人で寂しく生きていたら、きっと永遠に経験できなかったことだ。そういえば、ホテルに誘われるようなことはないまま別れたと後から気付いて、邪な欲望のないところにまた好感を持った。
彼に会う回数をもっと増やしたくて、夏季休業期間は帰省しことにした。両親には、勉強だけでなくやっとできた友達と遊ぶ予定も詰まっていると伝えた。大学生活を満喫する愛娘なんて、本当はどこにもいないのに。
秋が終わる頃には、『王子』を支えるための生活を続けるのが難しくなってきた。後期の単位はほとんど落としそうな見通しで、両親に頼んで借りたお金も底を尽きそうだ。
そんな悩みを打ち明けた時、『王子』がふと零した。店に通うため、風俗店で身体を売っている子もいると。すぐに否定して、俺のために無理はしないでと忠告してくれたけれど。順位が上がってきた王子が、すごく頑張って日々接客していることを私は知っている。
彼を支える一番の女の子に、どうしてもなりたくて。人生で一番の幸せな時間を、他の女なんかに渡したくなくて。
私は、身体を売る女になることを決めた。父よりも年上の男に純潔を捧げた瞬間は、嘔吐しそうなほどに気持ち悪かったけど、『王子』のために必死に耐えた。
そして私は、両親がくれた名前ではない、『ひめ』という名前を得た。彼がすぐそばにいる新宿という街の中だけの、もう一つの私の顔だ。
新しい生活のルーティンを築いて、冬を越した。
幸薄そうな顔、小さな身長、しかし実は着痩せしているのだと脱げばわかる、豊かな身体。庇護欲をそそらせる素質があるのだという紹介と評判のおかげか、程なくしてそれなりに指名を取れるようになった。
知らない男達と連日まぐわう、慣れたら慣れたでつまらない時間。お金のためと割り切って乗り切れば、待望の『王子』と過ごす時間。その繰り返し。大学に関係することは、生活のルーティンから除外した。
ありがたいことに、リピーターの客もできた。三月に入ってから店に通い始めた彼は、過去に色々と辛い経験をしてきたのか、私を聖女か何かのように崇め、執着していた。寂しがり屋はこうやって慰めれば喜びそうだなあと冷静に考えて放った言葉が好感触だったことも、一因だろう。
何故か『勇者』を自称する彼は、右手の甲に入れ墨を入れていたのが印象的だった。何の意匠なのかと聞いてみたら適当にはぐらかされたが、まあ、そこまで彼という人間に興味も無いので話を終わらせた。
-
三月の上旬も終わる頃、大奮発してシャンパンコールというものをやってみた。『王子』店中のホスト達が私達を囲んで斉唱する様は、なかなかの高揚感だった。ネット上でごみのように群がっては訳知り顔で界隈を語る連中に、この楽しさはわかるまい。
浮かれた気分のまま、思い切って『王子』の部屋まで行ってもいいかと言ったら、なんと快諾してくれた。招かれた『王子』の質素な部屋。初めて入る、男の子の部屋。
テーブルの上には、袋に入ったカラフルな錠剤のようなものが置かれていた。毎日の仕事を乗り切るためにここ最近お世話になっている特別な栄養剤のようなもの、恥ずかしいからみんなには言わないでほしいと弁解しながら慌てて薬を棚に彼の姿を見て、ああ、本当にいつも頑張っているんだとわかって。
これまでの色々な思いが溢れて、耐えられなくなり、私は身体を売ってでもずっと彼のために頑張ってきたことを打ち明けた。
沈痛な表情の彼に、泣きじゃくりながら縋りつく。その想いに応えるように、『王子』は、私を抱いてくれた。心から好きな人と一つになれたこと、せっかく覚えたテクニックで彼に尽くせたこと、すべてが本当に嬉しかった。
体力の限界を迎えてからは、ベッドの中で裸のままとりとめもなくお喋りをした。その中で例の『勇者』の話もしたら、意外にも『王子』は興味を示した。なんでも、彼の知人があの入れ墨を街の密かなトレンドとして調べているとのことだった。
店の守秘義務に反するとは思ったけど、彼との会話を途切れさせたくなくて、明後日の朝一で指名が入っていることまでつい喋ってしまった。大丈夫だ、ここは二人きりの空間だから。
勤め先のサイト内にある私の紹介ページを見てみたら、間違いなくあの『勇者』だろうコメントが書き込まれていた。本当に良い子だと私をくどくどと褒め称えているが、ファンタジーみたいな彼の身の上話は相変わらずよくわからない。キモいね、と一緒に笑う私は、悪い子だ。
ああ、私は『王子』のことが好きだった。
だから、今の彼の姿が、信じられない。
『勇者』とまた会う日の午前七時。私は『王子』に呼び出された。
今度は何の用だろう、今抱かれるのはさすがにちょっと困るかな、なんて思っていた私は、強引に部屋へと連れ込まれた。
正直、ちょっと怖いなと思ったすぐ後に、私はベッドへ押し倒される。彼は馬乗りになって、私の首を絞め上げる。両腕も器用に抑えられて、身動きが取れない。そういう遊びなのかという私の楽観を、彼の両目の冷たさが、首に込められる力が絶対的に否定する……私は、殺される?
なんで、と発しようとした声すら空気に溶けていく。意識が、遠のいていく。
にたにたと嗤う彼の片手が、首から離れる。もがき苦しむ私の顔を、私を手にかける自分の姿を、スマートフォンで撮っているのだとわかった。
視界の端に、脚が見えた。それは横たわっている『王子』の脚だとすぐにわかった。どういうわけか、この部屋に『王子』が二人いる。
だから、言える。あなたなんか、『王子』じゃない、優しくて健気で愛おしかった彼が、非道な人間であるわけがない。もうすぐ私を殺してしまう、私の上に跨る男。彼と同じ顔と声だけど、彼であるはずのない男。
次々と思い浮かぶ『王子』との思い出、走馬灯に浸りながら、最期に私は問う。
あなたは一体、誰なの?
-
【2】
僕は、姫と一生の愛を誓える勇者になりたかったんだと思う。
魔王の死と共に平和を取り戻した祖国で、『勇者』の僕に居場所はなかった。
幼い頃から想いを寄せていた僧侶は、幸せそうな顔で王子に娶られて王妃になった。相棒で親友だと思っていた戦士は、莫大な財産と家族の栄華の約束に釣られて王子の側についた。王子は、僕の存在が心底疎ましかったらしい。
内心で謀反を企てていたとか、泣いて許しを請う魔王に唾を吐きかけて嬲り殺しにしたとか、所詮は性根の浅ましいみなしごか等、覚えのない風評を撒き散らされて。『勇者』を名乗るのも烏滸がましい鬼畜として、僕は国を追われた。
それからの年月は、魔族の生き残りを倒して回るだけの、記憶に残すほどでもないものだ。『勇者』としての名残に依存していただけの気もする。どうせ、人々からの感謝などもう貰えないのに。
聖杯戦争と呼ばれる儀式へ放り込まれたのは、国を追われてから三年後のことだった。
親友だった戦士が女の体に転身したらこのような風貌になるのかもな、と思うようなランサーを従えての争いに、気乗りはしなかった。あの日、二人は僕を引き留めてくれなかった。とっくに破綻してしまった青春を、取り戻す気にはなれなかったから。
ランサーには好きにしろと命じて見送り、街を彷徨う。トウキョウの、シンジュク。そういえば、親友は歓楽街が好きな男だった。
客引きに呼び止められ、女と寝ないかと提案された。金で女体を買う。憎むべき王子の所業を思い出して脳が煮えそうになったが、そんな王子に負けた己の惨めさを鑑みれば、今更高潔さに執着するのも余計に無様に思えた。
髪も瞳も色が違うが、あの日恋焦がれた僧侶の雰囲気をどこか思い出させる女を指名した。仮の名を『ひめ』というらしい。
二人きりの浴室で情事が始まる前の、緊張を解きほぐすための他愛ない会話。楽しかった十代の日々に戻ったような気がして、気づけば口からは嗚咽が漏れていた。そんな僕を『ひめ』は慰め、慈しみ、その人肌と唇の温かさに浸るうちに、いつの間にか『ひめ』は僕の上で腰を振っていた。その日、二十三歳になって初めて、僕は女を抱いた。
『ひめ』は、純朴な子だった。大学に通うための金が無くて、今はやむを得ず性風俗に従事しているが、いつか貯めたお金で素敵な未来を掴むことが夢だと語るその顔は、今でも鮮明に思い出せる。
幸いにも貯蓄がある身分を与えられていたので、次の日にもすぐに『ひめ』に会いに行くことにした。たった一夜で、僕は『ひめ』の虜になっていた。
主よ、莫迦なのか。ただの作り物、舞台装置でしかない女に入れ込むなど虚無が過ぎる。私が命懸けで戦っている間に、貴方は呑気にも性欲に溺れていたのか。
そのようにランサーが激昂したのは、『ひめ』との出会いから十日を過ぎたあたりの頃で、僕が初めて人の命を手にかけたのは、そのまた翌日のことだった。
他のサーヴァントと対決するランサーに同行し、敵のマスターを殺してやった。腕は鈍っていないだけあって、相対した男に魔術など使わせる暇もなく喉笛を斬り裂くなど余裕だった。敗北を悟り、破れかぶれに襲ってくるサーヴァントの方も斬り伏せる。ずっと手放さなかった聖剣は、サーヴァントだろうと殺せるのだ。
これで文句ないだろうとランサーに吐き捨てて、尚も晴れない鬱憤を晴らすために敵だったマスターの亡骸を剣で嬲る。絶句するランサーの視線で我に返った時、硝子に移った僕の姿は、かつて着せられた汚名に合致する鬼畜そのものの形相だった。
僕という『勇者』は、一体どこへ消えたのだ。まさかこんなものが、シンジュクの街を訪れたことで遂に曝け出された、『勇者』という薄皮の下の醜悪な本性だとでもいうのか。
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帰ってすぐに、『ひめ』と会うための予約の電話を入れた。最短でも明後日の朝一番だという。一日空くが、堪えよう。
『ひめ』に会って、この苦しみをすべて『ひめ』の身体に受け止めてほしい。胸の内で暴れる絶望を聞き届けてほしい。前に会った時には令呪について聞かれてしまったのでつい誤魔化したが、今度は包み隠さず真相を打ち明けてしまいたい。
あの風呂付きの寝室こそが、神聖にして至高の領域だ。意地汚い王子も、不埒な僧侶も短慮な戦士も、一蓮托生の関係を強制されているランサーにさえ、踏み入ることは許さない。二人だけの秘密の共有で、愛はより大きく育まれるのだ。
いや。いっそ聖杯に願ってしまおう。生きて帰った僕の世界で、生者としての受肉を果たした『ひめ』と生きたいと。もう他の汚い男共に『ひめ』を抱かせはしない。こんな下品な灯りに満ちた街を抜け出して僕と家族になろう、そのための奇跡をランサーと共に勝ち取ってみせようと、僕は『ひめ』の前で誓うのだ。
予行演習として、以前『ひめ』に言われたコメント投稿というものをしてみた。文中には、『ゆうしゃ』の生い立ちや聖杯戦争に関することを示唆する内容を敢えて含ませた。文面を見る場末の連中共め、妄言と見下すがいい。世界で唯一、『ひめ』だけが僕の真意を理解できるのだから。
ああ、僕は『ひめ』を心から愛していた。
だから、今の彼女の姿が、信じられない。
やっと訪れた予約日の午前八時過ぎ。いつものように淡い笑顔で出迎えられ、柔らかい掌で部屋へと導かれる。扉が閉まり、談笑し、一枚ずつ衣服と下着を脱がされて全裸になる。
恥じらうようなはにかみの後、首元に手を絡ませて接吻しようとする『ひめ』の顔を、目を閉じて待ち構える。
突如、鈍く響く音。全身が痺れるような違和感、纏わりつく死の気配……首を、へし折られた?
聖剣は手元に無い。令呪を以てランサーに命ずることは叶わない。魔王にも勝利した『勇者』にあるまじき、油断と隙による敗死。冥府への堕落。
呂律も回らない僕を見下ろす『ひめ』が、嘲笑う。
最後にいいこと教えてあげる。私、本当は別の男にガチ恋してるの。今までありがとう、勇者気取りのお財布さん。
瞬間、全身が憎悪に滾るのを自覚した。
お前が、『ひめ』であるものか。理屈はわからないが、何らかの異能によるなりすましに決まっている。偽物ごときが『ひめ』を貶めるな。この身よ動け。一瞬のうちに奴の皮を剥いだ上で、血飛沫より細かく肉を刻んでやるのだ。
『ひめ』は、本当に良い子なんだ。その尊厳を犯す罪深さが、お前にはわからないのか。
お前は一体、何者だ?
-
【3】
俺という「影」が何者であるかを、どのように語ったらよいものだろうか。
サーヴァントとは、人類史で生涯を遂げた英雄の生き写しだという。即ち、俺は「影」だ。
千年以上に渡って中国で愛される文学作品「水滸伝」に登場する、百八人の豪傑。そのうちの一人の姿形と魂を受け継いだサーヴァントとして、俺は『アサシン』の冠名を携えて召喚された。
願いはただ一つ。主への忠義を遂行できなかった生前の未練の、払拭。この地で善き従者として働くことで、俺の願いは果たされるはずなのだ。
――なんと白々しいことを述べるのだろうと、己に失笑する。
今は亡き英雄の生き写し? その人物が生きた事実など、最初から存在していないのに?
サーヴァントとしての肉体と共に、自己に関する情報を叩き込まれたからわかる、わかるのだ。「水滸伝」は、純然たる創作物。架空の物語。本人ではないがモデルとなった人物なら実在しているとか、そんな言い訳の余地もない代物。
天巧星を背負いし侠客『燕青』など、実態はただの虚構なのだ。
不義への悔恨に囚われる俺の有様を、人々に消費されるための物語に呑まれて酔った一人だと冷徹に俯瞰する、もう一人の俺が詠う。
実体のない幻を依り代にして降り立った俺は、英霊と呼ぶに値するのか? 本物の勇者が放つ威光に搔き消される、幽かな「影」に過ぎないのではないか?
そんな長ったらしい問いを、眼前のランサーへ投げかけるのは億劫だ。
天井をぶち破って降り立ったランサーは、全裸の死に様を晒す主を一瞥し、顔面を赤く染める。この世の全方位へ向けんばかりの怒りだ。可哀想に。せめてあと十秒早く来ていれば、主をみすみす死なせずに済んだろうに。
彼女の激情に、泰然の態度で応える。突き出された槍の柄を握りながら、彼女の主を舌で貶める。
どんな強豪との戦を強いられるかと震えたものだが、惚れた娼女の皮を借りれば実に簡単、秒未満で決着がついた。己の死に場所となる檻を、この男は自ら紙幣三枚で買ったのだ。此度の戦屈指の痴れ者として、しかと覚えておこう。尤も、くだらなすぎて明日には忘れるだろうが。
ならば、我が主の恥部にわざわざ付け入った貴様も、同程度には恥知らずだ。一端の武術家のような身なりで、やることは薄汚い暗殺ときた。さながら、貴様は闇の侠客か。その磨き上げられた拳法は後世の民にさぞ崇拝されているだろうに、他でもない貴様自身が持ち腐れる有様では、彼らに到底顔向けできまい。
手痛い反論だ、返す言葉もないなあと、俺は豪快に笑った。
俺が為したのは暗殺拳の行使ではなく、謀りによる暗殺。これを成功させたのは、俺の肉体に混じった幻霊の力によるものだ。
現代まで語り継がれる怪異、『ドッペルゲンガー』。他者の容貌、さらには記憶も転写して完全に成り代わる権能が、俺の身に宿っていた。名が示す通りの、「影」の力だ。
『ドッペルゲンガー』と融合した状態で現界した肉体は、一千万人超の人間が蔓延る都市での暗躍には好都合であった。何人何十人の特徴を脳味噌に詰め込み続ける気色悪さに四六時中囚われていることにも見合う、当然の恩恵だと思いたい。
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何故、縁もゆかりもない『燕青』と『ドッペルゲンガー』が結びつけられたのか。その理由も知っている。俺の一つ前のアサシンのせいだ。
とある世界の日本で発生した、新宿幻霊事件。特異な環境下で二者は合体し、かろうじて一丁前のサーヴァントとして成立した。悪の怪人、『新宿のアサシン』の誕生だ。
既に敗れて消滅したはずの奴の記憶が、何故か、この地に召喚された時点で忠実に引き継がれていた。つまり、『新宿のアサシン』をこそ原点とした「影」が、今の俺ということか。
俺とお前は、別の存在だ。そうでなければ、サーヴァントは永劫に罪を重ね続ける運命を背負ってしまうではないか……なんて理屈さえ誰にも聞き届けられず、故にただ、在るがまま現状を受け入れざるを得なかった。
俺の諦念も、ランサーには理解できまい。彼女に共感を求めもしない。再契約のあてもないランサーは、どうせ数刻後には消滅する。
しかし。最後くらい、一角の戦士として散らせてやるのが手向けではないかと、俺の中で吹き上がる熱がある。気づけば、俺は名乗りを上げていた。
我が宿星は、天巧星。梁山泊百八傑が一人、浪子燕青。推して参る。
勇名の口上は、真名の開示であり、必殺の宣言。ランサーが好みそうな礼儀に、ここは沿ってやることにした。外道のくせに何を今更、煽りのつもりかと受け取られようと、構わない。
真正面からの殴り合い殺し合いに興じる間くらい、いかにも武人らしい振る舞いに没頭すれば束の間の充足感が得られるのではないかという、要は我欲だ。
莫迦な主を持ってしまった苦しみを知る同士として、もはや報われないその矜持に介錯をしてやるのだから、文句など言われる筋合いがない。
ああ、我ながら不明瞭なことである。
俺は強者なのか卑怯者なのか、義理固い好漢なのか、悪辣な無頼漢なのか。
ごちゃ混ぜになった自我の中を漂いながら、何者へ向けてということもなく、無声の叫びを上げる。
俺は一体、誰なんだ?
-
【4】
「おっほ〜、まだ燃えとるわ。正義の鉄槌の打ち放題やん」
「民衆は怖いねぇ」
新宿区内の、とあるレンタルオフィスの一室で。電脳の海の片隅を賑わせる話題を、アサシンはマスターの持つスマートフォンを通じて眺める。
都内で活動していた『王子』という源氏名のホストが、昨日の朝方に一人の女子大学生を殺害した容疑で、昨晩逮捕された。これだけならただのありふれた殺人事件だが、報道されるよりも前に、彼は別の形で注目を浴びていた。
あろうことか、『王子』は自らが女性を絞殺する姿の写真を、自分の持つSNSアカウント上にアップロードしたのである。いくらかの時間が経ってから削除したようだが、一度放流した以上、画面の複製が無軌道に出回るのはもはや止められない。
ホストとしては界隈で多少売れ筋だったこともあり、拡散もとい炎上は日中のうちに勢いを増し、彼の本名を含めた詳しい素性もすぐに特定された。警察の動きが早かったのも、それが要因だろう。
今は、『王子』の犯行動機を皆が好き勝手に推理する段階である。最有力説は「恋人との倒錯的なプレイに勤しむ様の記録を、誤って鍵垢ではなく本垢にアップしてしまい、さらに勢い余って恋人を殺してしまった迂闊な男」のようだ。両親は公務員らしいがこれで退職かもな、なんて揶揄まで飛んでいる。
無数の仮面のヒーロー達が悪を踏みつけながら舞い踊るパーティーの様相を、アサシンはにやにやと見つめる。真犯人の、高みの見物だ。
「便利なもんやな。ドッペルゲンガーの力は」
「つってもさ、今回妙に手間かかったじゃん。 普通に正面からあいつらとやり合っても俺は別に良かったよ? ほんとはこの力あんまり使いたくないんだけどなあ」
「念には念を、って言うやん」
仕掛け人であるアサシンがマスターの指示のもとに取った行動は、やや煩雑だ。
一、『王子』の自宅を訪問し、軽く襲って気絶させた。
二、彼の客である『ひめ』という女性を呼び出し、首を絞めて殺した。
三、彼女を絶命させる己の姿を撮影し、事が済んでから不特定多数へ向けて発信した。
四、『ひめ』に成り代わり、彼女の客である『勇者』を殺害した。彼こそが、本命である聖杯戦争のマスターであった。
五、『勇者』のランサーもこの手で始末した……というのは無駄なお遊びだが、勝ったしええわでお咎めなしとなった。
「ま、バレなきゃ問題ないってのはその通りだろうけどな」
今頃、目が覚めたら被せられていた罪で捕まった『王子』は、警察に無実を訴えていることだろうが。
大変ご優秀な日本の警察のことだ。件の写真がデジタル技術による改竄など施されていないことも、すぐに突き止めてくれるだろう……とは、マスターの弁だ。あとは、容疑を否認だとか、意味不明な供述だとかまで省略された『王子』の証言が世に出るのみだ。
「ところでさ、『ひめ』ちゃんって今どうなってる? お店は追悼の一つでもしてくれたかい?」
「サイト見てみるわ、どれどれ……」
『勇者』を殺害した容疑者として扱われるべきはずの『ひめ』。しかし、実際には一時間以上前に別の場所で死亡していたのだから、彼女に犯行は不可能だ。
部屋が破壊された痕跡があるとのことなので、どうせその怪力の持ち主が犯人だろう……と、思われるのだろう。非力な女の子を疑うのはお門違いの、警察には捕えようがない相手だ。
いや、確かに『ひめ』は出勤していたはずだが……と腑に落ちない点はあるにしても、ひとまずの話として。店内の面々で適当に口裏を合わせて証言しておけば、少なくとも「あの店ではキャストが客を殺したらしい」という最悪の風評だけは避けられたまま翌日以降も営業可能となることは、店側としても幸運だったろう。
幸運といえば、まさに『ひめ』が死ぬ原因となった事件に皆が注目しているおかげで、風俗店で死んだ名も無き男のことになど興味を持たれづらいだろうことも同様だ。悪役が明確な話題の方が、外野からしても語りやすい。
もしかしたら、短い報道でこの件を知った者の一部は「人智を超えた暴力の行使に無辜の市民を巻き込むとは、非道な主従もいるものだ」などと思うかもしれないが、その程度だ。
そして、念には念を押されるものである。
-
「残念! 『ひめ』ちゃんのページもう消えとるわ」
「マジか。あの『ゆうしゃ』のコメント、ウケるからもう一回読んどきたかったんだけどなー」
「しゃーないしゃーない。お姫様、のっとふぁう〜んど」
『ひめ』の紹介が賑やかに掲載されていたはずのページには、簡素なテキストだけが遺されていた。
ご指定のページが見つかりません。
『ひめ』という女の子が、見つかりません。
『王子』に殺された罪のない女性と、本名不明の風俗嬢『ひめ』との関連性が、見つかりません。
『ゆうしゃ』を名乗る客が『ひめ』へ向けて語った愛のメッセージが、見る人が見れば聖杯戦争の関係者が遺したとわかる言葉の数々が、見つかりません。
こうして、もう一つの殺人の真相を知るための手がかりは抹消された。アサシンの潜入や、マスターの手によるクラッキングなど行うまでなく、店側が勝手にやったことだ。
「あの子、それなりに人気あったんじゃん? 店も稼ぎが減って大変そうだよなあ」
「気持ちはわかるわ。俺もリピーターが一人減ったし。購入履歴いじるのも面倒なんやで〜?」
気慰みのように、マスターは透明な袋を摘まみ上げてふるふると振る。袋の中のカラフルな錠剤は、マスターが仕事で取り扱う商品であり、アサシンが『王子』の部屋から回収したものだ。
巷の人気者も実は愛用している、世間に隠れた人気商品である。表に出ないのは、これがいわゆる違法薬物であるためなのだが。
マスターは売人として活動する都合上、時には対面で接客し、世間話で顧客との親睦を深めることもあるという。情報収集の機会にも便利とのことだ。
たとえば。
男慣れしていなそうな女の子にも刺さる奥手なキャラで営業するのも一苦労だが、そろそろあの子とも自然にヤれそうな頃合いなので楽しみだ、風呂に沈めた甲斐もあるなどと愚痴じみた自慢話をするホストとの談笑の中で、奇妙な入れ墨をしている人物が周囲にいないかと尋ねてみる……だとか。
「別の子が客を取れば済む話やろなあ。『ひめ』ちゃんは店辞めた思われて、どうせすぐ忘れられてまう」
「言えてる。一時の退屈凌ぎだもんな」
無抵抗の『王子』を囲んで義憤に燃える、有象無象のことを思い出す。
『王子』をいかに上手く罵れるかと競い合う彼ら彼女らは、別に本気で真相を知りたいわけでもないだろう。だから、ふと疑問に思ってもよいはずの点など、誰も気に留めない。
たとえば。
今月できたばかりの有象無象のアカウントの一つでありながら、『王子』の投稿に誰よりも早く反応しては界隈内外に知らしめる火付け役としての役目を果たし、かと思えば今朝には既にアカウントごと消え失せてしまった『垃圾(laji_404)』とは何者だったのか……だとか。
「まあ、かけあしワンワンとしましまワンワンが嗅ぎつけてくれれば、ワンチャンあるかもしれへんけど」
「何それ?」
「ここにおらん犬二匹の話」
今でこそ騒がれている『王子』の悪行。しかし、数日も経てば別の流行と事件の波に追いやられて語られる勢いが衰え、四月に入る頃にはもう誰も思い出さないことだろう。
こうして、幾つかの死は忘れられる運命へと収束していく。
人がせわしなく行き交う喧騒の中へ。聖杯を巡る一大戦争が巻き起こす戦火の中へ。歴戦の英雄の実在を葬者達が己の目でしかと確かめながら、その一方で『ドッペルゲンガー』などただの都市伝説に過ぎないと一笑に付す、そんな東京の街の中へ溶けていく。
「……もう二十四時間経ったし、考えるだけ無駄やな。くぅ〜ん……」
そして、アサシンとマスターもまた、彼らへの興味を失くすのだ。
一組の主従が影から人を操り、誰にも知られず敵を破った話。
または、愛に飢えた男と女が、幻想に溺れて死んだ話。
または、或る一人の屑が見捨てられた話。
少しは楽しい気分を味わえたところもあるが、大切な思い出と呼ぶほどでもない、些末な出来事だ。
-
ところで。
今に至っても尚、アサシンにはよくわからないことがある。
「マスターさあ」
「んー?」
「あんたって、結局何者なの?」
アサシンは、己の主となった男の人間性を未だに理解できていないと自認している。
聖杯戦争に勝ち残ろうという意思はあるようで、その点について対立の余地は無いため、ただ仕える分には特に不都合も無いのだが。
いくつかの営みや企みに付き合ってみたものの、彼について判明していることは少ない。
「当ててみ? 今何がわかってる?」
「そうだなあ……日本人で、男で、年は見た感じ三十になるかならないかくらいで、関西弁? で喋ってて」
「おうおう」
「ヤクの売人やったり、他にもやばい仕事請け負ってたりの悪い奴で、その辺の都合で名前を何個も使い分けてたり」
「ええよええよお」
「で。最初に俺に名乗った『久住(くずみ)』ってのも、偽名でしょ?」
不敵に笑う様子を見るに、推測は当たりなのだろう。
だが、ここまでだ。知っている情報を適当に並べてみたが、次のステップには繋がらない。
マスターは、自分自身のことをほとんど話さない。本名すらアサシンに教えてくれない。情報漏洩のリスクに気を遣う男だった。
「ああーー、駄目! なあマスター、俺の力であんなに成り代わっちゃっていい? そうすりゃ全部一発で筒抜けっしょ」
「やってもええけど……その時には、俺も交換条件を突き付けなあかんなあ。たとえば……自慢の拳で、自分の顔面ぶち抜いてみ? とか」
「……」
「誰にでもなれるアサシンが、最後の最後に誰なのかわからんなって死ぬいうオチ。どう? おもろくない?」
感情の宿らない瞳で、マスターは手の甲の令呪を見つめる。
マスターは、何の躊躇も感慨もなく他人を死に追いやれる男だった。
「…………いやいやいや、冗談やって! そんな殺気立てんでええやん」
「あ、ごめん。漏れちゃってた? さっきのは撤回しておくよ」
「なんや、ここは喧嘩のしどころちゃう? お試しでやってみいひん?」
洒落にならないから、それはやめておこう。二人で仲良く、乾いた笑いを上げる。
マスターは、冗談が面白くない男だった。
「でも……ここはアサシンの日頃の働きに免じて。俺の願いを大発表したるわ」
「ひゅう、待ってました! さあてご清聴」
「聞いて驚きや、俺の願いは……」
がさごそと、手元のビニール袋を漁る。中から出てきたのは、彼が先程コンビニで調達してきたメロンパンだった。
「飯を食うことや。葬者とかいう字面からして辛気臭い状態じゃなく、ちゃーんとした生身の体でな」
「……一応聞くけど、それってなんかの比喩?」
「いやいや、大マジやって」
「じゃあ、贅沢三昧したりないってこと? あ、本場の中華まだ食えてないなあとか」
「ちゃうちゃう、せやなあ……白飯、味噌汁、焼き鯖、海苔……」
「質素だなあ……美味いの?」
「不味くて、臭いわなあ」
そう言いながら、マスターはメロンパンをむしゃむしゃと頬張る。
特にこだわりの逸品を謳っていない安物のそれは、本物のメロンが素材に使われているわけでもない。案の定、マスターの表情はちっとも至福を感じていない。
とりあえず、彼が生きて帰りたいと思っていることはわかった。そんなことはもう知っている。要は、今喋ったこともただのつまらない、煙に巻くための冗談というわけだ。
「ちぇっ。マスターのこと、今日もよくわかんねえままだ」
「ええやんええやん。これでも俺ら相棒やってけてるんやから」
「わかっててもさ、気味が悪いんだよ」
「心外やなあ。あんたも人のこと言えん……ていうか、みんな同じや」
窓の外、新宿という都市を二人で見下ろす。
塵よりも細かい何百何千何万の人々が、コンクリートの上で社会を形成している風景だ。
今この瞬間にも街のどこかで、誰かが罪を犯しているのだろう。自分達がそう仕向けたためかもしれないし、自分達とは全く無関係に発生しているのかもしれない。
それでも、東京は平然とした様相を保ち続ける。無限にも思えるほどの数の人々が、隣人は善い存在だと信じ合えているから。
「人間なんて、みーんな怪人みたいなもんとちゃうん?」
呟くマスターの横顔は、どこか厭世的なようにも見えた。
彼は、いかなる心境でこの都市の中に生きているのだろうか。
そんな疑問をなんとしても解きほぐしたいと言えるほど、マスターとの絆の深さを感じているわけでもないので、やっぱり忘れることにした。
あんたが誰でも、別にいいか。そんなことを思いながら。
-
【CLASS】
アサシン
【真名】
燕青@Fate/Grand Order
【ステータス】
筋力B 耐久D 敏捷A+ 魔力D 幸運B 宝具D
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を断つ能力。隠密行動に適している。
完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
無頼漢:A
騎乗・単独行動の複合スキル。おまけとして宴会に強くなるなどの効果を持つ。
【保有スキル】
中国拳法:EX
中華の合理。宇宙と一体になる事を目的とした武術をどれだけ極めたかを表す。
修得の難易度が最高レベルのスキルで、他のスキルと違ってAランクでようやく「修得した」と言えるレベル。
原点である「水滸伝」に拳法の具体的なエピソードはないが、現存する様々な拳法の開祖として信仰されている(伝説の好漢を拳法の開祖とするのはある種の伝統)。
諜報:A
気配を遮断するのではなく、気配そのものを敵対者だと感じさせない。親しい隣人、無害な石ころ、最愛の人間などと勘違いさせる。
ただし直接的な攻撃に出た瞬間、このスキルは効果を失う。
天巧星:A+
災いを為すという百八の星が転生した者たちの一人。
魔星の生まれ変わり、生まれついて災厄と業を背負う。
燕青は巧緻に極めて優れた天巧星である。
【宝具】
『十面埋伏・無影の如く』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜3 最大捕捉:1人
じゅうめんまいふく・むえいのごとく。
燕青拳独特の歩法による分身打撃。
魔法の域にこそ達していないものの、第三者の視覚ではまず捉えられぬ高速歩法による連撃。
その様はまさに影すら地面に映らぬ有様だったとか。
【人物背景】
天に星、地には悪漢。
幻想であるはずの男は、拳法と共に創成された。
さあて、俺様は誰でしょう!?
【サーヴァントとしての願い】
自分が何者であるかを確信できるような、何か。
【マスターへの態度】
理想的な主になってくれたら、誉れかもしれないねぇ。
-
【マスター】
久住@MIU404
【マスターとしての願い】
生還する。
【能力・技能】
「ドーナツEP」と呼ばれる違法ドラッグの売買を手掛けていた。
その他、デジタル技術によるクラッキング、虚偽情報の流布による扇動、複数の経歴の詐称などといった手段によって犯罪に手を染めていた。
【人物背景】
俺は久住。五味。トラッシュ。バスラー、スレイキー。
何がいい? 不幸な生い立ち? ゆがんだ幼少期の思い出? いじめられた過去? うん? どれがいい?
俺は、お前たちの物語にはならない。
【方針】
最後の一人になる。
【サーヴァントへの態度】
吹けば消し飛ぶ塵同士、仲良くしよな。
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【0】
『こんな世界にしたお前を、俺は一生許さない。許さないから殺してやんねえ』
『そんな楽さしてたまるか。生きて、俺たちとここで苦しめ』
ある日、目を開けたら、そこは死の世界だった。
生きるということを全うした者達だけが、辿り着くことを許される世界だった。
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投下終了します。
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投下します
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東京都、原宿。
観光客と学生に賑わう街道にある、ファストフードのチェーン店。
そんなところに、一組の主従がいた。
「おまたせ、待っててもらって悪いな」
何も無いところに話しかける男、機から見たら異常者だ。
(おっと…こうだったか…悪いな)
その男は高身長、おそらく何らかの武道をやっているであろう筋骨隆々の肉体。
そして注目すべきは、明らかに移植されたであろう右腕。
肌色ではなく、茶色の、とても精錬された腕。
同じ格闘家であろう腕を次ぐ男――名を、愚地克巳。
(…)
(分かってる、聖杯についてだろう?)
克己は霊体化してる自身のサーヴァント、セイバーに念話送る。
セイバーは応答はしているが喋らない、もちろん、喋れないわけじゃない。
(…正直、奪い取るにはしない、欲でめちゃくちゃになるのを、散々見たり経験したりしたからね…とはいえ、帰還の全てして貰わないといけないか…?)
(…)
どっちにしろ、呼ばれた願いの戦争の中で、意図してまで聖杯を取ろうとは思わない。
もちろん、この腕の主を蘇らすなんて、もってのほかだ。
(…あんだが俺のことをどう思っているかは知らない、ただ、帰還の全てとかは、考えがあるから教えてほしい)
(…)
セイバーはやはり答えない、しかし、克己は以心伝心とまではいかないが、言いたいことはなんとなく感じ取れる。
これも色々繋いでいるからなのかは、わからない。
(とりあえず、出ようか)
(…)
片付けをして、ファストフード店を後にする。
そして、大通りにそのまま進まず。
路地裏へと入る。
「出てきな、そこにいるのはわかっている」
出てきたのは高校生と、おそらくそのサーヴァントであろう男。
手には杖、キャスターか。
「…やるかい?」
「ッ!キャスター!」
圧に押されて、キャスターに命を流す。
しかし、その魔術は克己には届かない。
受け流すは水晶玉の入った盾、構えるは英雄になった先祖の使った剣。
「なんだよ…なんだよそれぇ!」
「やられた、やり返す、そのスタンスはあるんでね!セイバー!」
キャスターとの間合いをいっきに詰める。
「!」
それは龍すら斬り伏せるであろう一太刀。
それを正面から受けたキャスターは耐えれずに消える。
「ち、ちくしょう!ならお前だけ――」
高校生の胴に、拳を叩き込む。
「…音速拳、使うことになるとはね、行くか、セイバー」
気絶して倒れ込む高校生を後ろに、二人は去っていった。
◆
その男は、勇者であった。
世界に悪を蔓延らせた親玉を斬り伏せ、姫を救った大英雄。
その名は、轟くが、なぜかその真名は曖昧だ。
だから、この聖杯戦争ではこう記する。
――「ロトの血を引く者」と。
-
【CLASS】セイバー
【真名】ロトの血を引く者@ドラゴンクエスト
【ステータス】
筋力B 耐久C+ 敏捷C 魔力B 幸運C 宝具A
【属性】秩序・善
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
野獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
直感:C
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
敵の攻撃を初見でもある程度は予見することができる。
仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
また、不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。
魔物殺し:A
世界救うため、巨悪に立ち向かい、見事滅ぼした故に与えられたスキル。
混沌・悪属性のサーヴァントに対して、与えるダメージが増加する
【宝具】
『秘剣ドラゴン斬り』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:1
セイバーを魔を祓うため、たくさんの魔物を退治してきた。
その中でも強者、ドラゴンとの戦いを経験してきたセイバーは、ついに対龍用の必殺剣を宝具として運用できるようになった。
もちろん、竜種以外にも効果的であり、並のサーヴァントが耐えられないほどの威力で放つ。
【weapon】
ロトの剣
【人物背景】
伝説の勇者の血を引き、自身も伝説となった勇者。
【サーヴァントとしての願い】
姫との平和な生活
【マスターへの態度】
人格面、戦闘面共々信頼している
【マスター】愚地克巳@バキ道
【マスターとしての願い】
帰還する
【能力・技能】
類まれなる空手の才能。
「音速拳」
対範馬勇次郎用に開発した秘拳。
目にも止まらぬ速さで相手に拳を叩き込む。
もちろん、数々の猛者との戦いで、この技も精錬されていっている。
【人物背景】
神心会代表、愚地の名を継ぐもの。
そして、戦友(とも)の腕も継いだ男。
【方針】
少なくとも聖杯以外で帰還する方法を模索する。
聖杯は最後の手段
【サーヴァントへの態度】
無口なのは怖いが、背中は預けられる信頼性はある。
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投下終了です
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投下します。
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呼吸ができている。頬をつねっても痛みはある。
辿った思い出の総てを覚えている。
つまるところ、今回は生き永らえてしまったということだろう。
生徒達を全員逃がす殿の役目は果たせたとはいえ、きっと怒られる。
たぶん、擁護してくれる生徒はいない。
……お説教は嫌だ。
キヴォトスで教職を務めている『先生』の溜息はいつもより深い。
しかし、今回の生き永らえの代償は大きい。
一組。いうなれば、一人しか生き残れない戦争への強制参加。
ふざけた奇跡だ。善悪の是非もなく、生きる為には殺し合うしかない。
けれど、それを踏まえた上でも、自身が生きているのは奇跡である。
無くなったはずの命が維持される、なんて。
戦争に参加させる為の一時的な奇跡が起こったのだろうと先生は思った。
アトラ・ハシースの戦いで総てを終わらせ、箱舟の爆破と共に自らが死にゆく瞬間――別の奇跡が割り込んできた。
どれくらい時間が経ったのだろう、どれくらい世界を渡ったのだろう。
先生にとっては数舜であったけれど、気づいたら、この世界にいた。
聖杯戦争をする為に与えられた偽りの人生、本来辿った歴史とは違った自分。
そして、死者という概念に縛られた、不自由な世界。
勿論、元の世界のように人間はいるけれど、それは生身のオリジナルではなく。
――最後まで、生き抜いたのに、これかあ。
先生にとって、自分の世界はあの世界だ。
争って、苦しんで、喪って、行き止まりに何度ぶつかったかわからないけれど、確かに勝ち取ったものもある、あの世界だ。
無論、このような人生で、満足はしていないし、後悔は腐る程ある。
生きたい。やりたいことだってたくさんあった。
それでも、世界の為に、生徒達の為に。自分がやらなくてはいけなかった。
例え、世界の為に死ななくてはいけなくても。歩んだ旅路は自分だけのものだ、と。
落ちていきそうなくらい澄み切った青空は元の世界と同じだった。
どこまでも、どこまでも、変わらないものとして通じ合っていた。
「死人でできた道を歩くには、我ながら面の皮、薄すぎたね」
生きたい、死にたくない。その思いは確かにある。それでも、他者を踏み台にして願いを叶える程、強欲になれなかった。
それが与えられたものだとしても、人を殺して願う奇跡は、いらない。
世界の為とか、誰かの為ならともかく。自身の為にそんな奇跡は望めない。
だからこそ、奇跡を求めないという顛末はある種、当然だった。
-
無論、わかっている。
大抵の道は死人云々の理屈を抜きにしても、綺麗なものではない。
先生が殺さなくとも、戦争はたぶん回るだろう。
自分の抵抗は無駄な足掻きだ。
――まさか、世界も、人間も、全部救えるとか思ってない?
切り捨てたくたくない。自分自身を滅ぼしておきながら、今更何を、と。
魔女を倒した時だって、辿るはずだった未来の自身を倒した時だって。
何かを得るには何かを捨てなくてはいけない。
それでも、先生は生徒と自分を秤にかけて、世界を選んだ。
そして、今この世界で捨てるべきものは自分の生。ただそれだけの話だった。
「思っていない。でも、最後まで、諦めもしない。例え、誰も救えなくても、私がそうしたいからそうするんだ。
そうだよね、私のサーヴァント――『■■■』」
「………………………まだ、その名前で呼ばれるなんてね」
■
――――奇跡の一握、あまねく絶望の始発点。
■
世界は奇跡に包まれている。
ちょっとした奇跡、だいそれた奇跡。
けれど、総量は決まっている。総てを照らす奇跡は絶対に存在し得ない。
誰かの絶望が始発点となり、波紋を生み、伝播する。
ご都合主義――デウス・エクス・マキナは絶望が好きなのだ。
誰かが苦しみ、嘆き、叫ぶ。終われ、終われ、終われ、と。
こんなはずじゃなかったと悲嘆の結末を迎えるモノ。
そして、そんな絶望を覆したい、あまねく始発点を奇跡で塗り替えたい。
「奇跡に縋らないといけない、それしか道がない人の存在を、貴方は理解できていない」
「理解ってるさ」
「絵空事を口にした人の結末は総じて、破綻だ。
断言できる。誰の奇跡も叶えない、そんなものは、きっと認められない」
二人は語り合った。世界について、戦争について、願いについて。
聖杯戦争とは、願いに直走る以外の行為は不要。
ただ、疾走れ。焦がれ。歪まず。
正義とは? 過去とは? 現在とは?
総て、切り捨てる。願いはそうさせるだけの重みが在る。
-
「……踏み躙る覚悟も恨まれる責任も、理解している」
「妥協する、とは言わないんですね」
「できないことを口にするもんじゃないよ」
「行動の可能不可能に関わらず。
人の争いは止まらない。英霊の願いは揺らがない。この戦争は世界が死滅で溢れるまで続く」
淡々と。感情の籠らない言葉を紡ぐ少年の手には、拳銃があった。
たくさんの、人も悪魔も天使も、ありとあらゆる総てを撃ち抜いた暴力だ。
銃口は主へと。一切の澱みがなく、指にかかった引き金は秒で引かれるだろう。
「貴方は言った。“奇跡”を認めない、と」
先生は語り合いの際、聖杯戦争≪奇跡≫を終わらせる、と。
この世界の存在を否定した。
「奇跡を謳う世界にいながら、奇跡を否定する。
それは、矛盾を孕んだ欺瞞だ。到底、他の主、英霊を説得できないでしょうね」
「だろうね。追い詰められた人間は、奇跡を否定できない。
未練と再誕を抱いた英霊は、奇跡を跳ね除けられない。
私が招かれたのは…………バグかな。絶対は絶対に有り得ない、どんなものでも予定外はあるものさ」
正直、少年はどちらでもよかった。
善良な参加者を鏖殺することも、悪質なる参加者の野望を挫くことも。
今となっては、もう何も感じない。それだけのことをしてきたし、されてきた。
何ならコイントスで適当に決めてもいいくらい、少年は聖杯に興味はなかった。
ならば、何故主へと銃口を向けているのか。
きっと、気まぐれだ。聖杯が必要な人間が、願いを捨てるということが理解できなかったのだ。
この主には未来がない。奇跡を勝ち取らない限り、死ぬ。
その上で奇跡を否定するのならば、ここで討ち取ってしまっても問題ない。
「純粋に疑問だった。何故、貴方自身の願い――生きることを諦めてしまったのか」
「諦めてなんかいない。確かに、奇跡を用いたら、私は生き残れるかもしれない。
ただ、そんな自身を優先した道を、許容できないだけだ」
銃口を前にして、主は目を逸らさなかった。
曇りない純粋な目だ。かつては抱いていた、過去の自分の目だ。
「総てを救うことはできないだろうし、私は志半ばで死ぬことになるだろうけど。
それでも、奇跡の否定を、私は諦めない」
もしも、このような強い人間がいたら。少年の結末も変わっただろうか。
導き手は総てが狂っていた。世界は犠牲を強いてきた。
世界がおかしいのだから、生き残るモノも、おかしいに決まってる。
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「それに、聖杯の恩寵が良質だなんて、私は信じちゃいないんだ。
奇跡が生んだ波紋が他の可能性を潰すかもしれない。
誰かの涙が無くなる代わりに、もっと多くの涙が生まれるかもしれない」
だから、久しぶりに見る“人間”が眩しかったのか。
銃口はいつの間にか地面へと向いていた。
これはそういう脅しが効かない人間だ、するだけ手間の無駄である。
「これは私のエゴ≪グランド・オーダー≫だ」
主の言葉は本気だ。死ぬまで、否。死んでも曲がらない。
数秒か、数分か。沈黙の後、少年は言葉を口にした。
「…………世界か、自分か。僕が変えられるのはどちらかだけだった」
少年の言葉は、かつての強いられた選択だ。
委ねられた手は震えていたのか、それすら覚えていない。
ただ――――順番が来たのだ。
後悔はない。間違ってはいない。フローチャートで示された道は僅かだった。
無限の可能性なんてありふれた言葉はなく、誰かが損をしなくてはいけない世界だった。
「僕は力があったから、前者を選んだ、確実に変えられる絶対を求めた。
貴方は力がなかったけれど、両方を選んだ。変えられるかわからない不確かさに懸けた」
少年が辿った道程は控えめに言って、地獄だった。
母親は殺された。思い人は灰と消えた。親友は裏切った。
全部殺して、全部救った。ただ一つ、その全部の境界が曖昧なのが、世界だ。
世界は――――? 自分は救えたのだったか。
残っているものが何もない、空っぽの結末だった。
そして、答えはもう泡沫となって消えてしまった。
「あの時、選ばなかった選択肢を貫いた結果、どうなったのか。知りたくなったんだ」
もしもの話だ。
世界と自分。あの日、あの時、地獄が顕現した瞬間。
両方を選んでいたら、と。
「この戦争の終着点までにはわかるさ。それができるだけの強さを君は持っているだろう?」
「勝って進むか、負けて下がるか。貴方が選択を決めた以上、僕も選びます。
今だけは、この戦争の間だけ。貴方の“生徒”としてね。『先生』」
座に持ち帰れるかすらわからない最果てを、見てみたい。
人間性を摩耗させた英雄――『ザ・ヒーロー』に蘇った興味は、一つの始発点を生み出した。
「――――奇跡は誰にも渡さない」
-
【クラス】
■イ■ァー
【真名】
ザ・ヒーロー/■■■@真・女神転生
【パラメーター】
筋力A 耐久A 敏捷A 魔力C 幸運E 宝具A
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
カリスマ:B
軍団を指揮する天性の才能。悪魔を率いて世界を駆けた英雄の姿が此処に在る。
対英雄:A
英雄を相手にした際、そのパラメータをダウンさせる。Bランクの場合、英雄であれば2ランク、反英雄であれば1ランク低下する。
彼が相手にしてきたのはいつだって誰かにとっての英雄《大切な人》だった。
【保有スキル】
英雄:A
精神干渉も致命傷も総て踏み越える。その殺戮に一切の緩みなし。
それが英雄の極点であり、最果てである。
英雄でありながら、英雄を殺してきた彼は、たった一人になった。
精神干渉の無効化、戦闘続行といったスキルの複合体。
【宝具】
『悪魔召喚プログラム』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大補足:1
悪魔の召喚を可能とするPCプログラム。
高度な知識と莫大な霊力、そして難解な魔法陣の構築や生贄の準備。
これら総てをすっ飛ばして、コンピューターの知識があれば誰でも悪魔を呼び出せる代物。
呼び出した悪魔が言うことを聞くか知らないけれど、悪魔を使いこなす方法をザ・ヒーローは熟知している。
『救世主の始発点/救世主の終着点』
ランク:A〜E 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大補足:1
生前のザ・ヒーローが使った武器、防具の総て。
他者に譲渡も可能だが、彼以上に使いこなせるかは別問題。
【人物背景】
護って、死ぬはずだった子供。
【サーヴァントとしての願い】
自分が選ばなかった道を征く彼を見てみたい。
【マスターへの態度】
『先生』
【マスター】
先生@ブルーアーカイブ
【マスターとしての願い】
奇跡は誰にも渡さない。
【能力・技能】
卓越した戦術考案、不屈の意志。
【人物背景】
護って、死ぬはずだった大人。
【サーヴァントへの態度】
『生徒』
-
投下終わりです。
-
書けちゃったので、投下します。
-
世界は最初から間違っていて、始発点はとっくにずれていた。
少年はふらりと倒れかけた身体に喝を入れて、入れて――どうしたらいい。
とっくに出したはずの答えがわからなくなっていた。
自分が何をしたらいいのか、全くわからない。
どうしたら目的を果たせるのか教えてもらっていない。
一緒に戦っていた仲間は離れ離れになった。生きているかどうかすらわからない、もしかしたらもう死んでいるのかもしれない。
護りたかった友達はあの島で死んでいった。自分達を助ける為に、犠牲になる道を選んでしまった。
「たすけてください」
身体を張るべきは自分だった。最初に死ぬべきは自分だった。最後に残ってしまったのは自分だった。
そこで、歯車はもう取り返しがつかないくらい狂ってしまった。
抗うことしか知らない、誰かを助けることなんてできやしない。
残ったものは銃とボロボロの身体だけ。
握り締めた拳を誰に振るえば、友達は笑ってくれるのか。
それとも、拳を緩めて誰に手を伸ばせば、助けてくれるのか。
今更の話だ。全部失ってから気づく愚かな子供の順当な結末だ。
「たすけてください」
これは報いだ。
世界が辛いから助けてください。自分のことはいいから、仲間だけは。『中川典子』だけは許してください。
罪は総て、自分が背負います。痛いことも、苦しいことも、寂しいことも、全部。
その言葉をもっと早く口に出せたら、誰か助けてくれただろうか。
――そうだな。頼りになる大人がいたなら、きっと。
「たすけてください」
譫言のように吐き出される言葉は、疲れ切った子供の声だった。
とてもじゃないが、銃なんて持てない、くたびれた少年の姿だ。
自身はどうなってもいい、仲間だけは。繰り返すように願ってどれだけ経ったか。
歩く、倒れる、立ち上がる、立ちすくむ、倒れる、立ち上がれない。
顔にへばりついた泥と降りしきる雨が、少年の気力を根こそぎ奪う。
何でもいい。もしも、この世界を見ている神様がいるならば。
奇跡をください。仲間を助けてください。未来を与えてください。
――それ以外、何も望みませんから。
最後まで、自分のことを度外視にして。少年の意識は闇に落ちていった。
-
■
――ずっと、後悔してたんだ。
七原秋也の言葉には失望が溢れ出しそうだった。
それは他者に対してではなく、自身――妹への懺悔。
そして、分かり合えぬまま死別したクラスメイトへの追悼。
あの日の自分を夢を見るたびに思い出す。愚かで、無様で、革命家として失格な自分の姿を、思い出す。
クラスメイトを救えなかったのは自分だ。手前勝手な衝動在りきの行動で、絶望と向き合っていなかった。
プログラムに対して、本気じゃなかったから、皆死んだ。
「わかってんだ、わかってんだよ。人、殺して……世界潰して、最後にクラスメイトを蘇らせた所で、何の意味もねぇことぐらい。
川田も、杉村も、三村も喜んじゃくれない、当たり前だろ。俺が喜んでも、あいつらはそんな人間じゃない」
あの日からずっと、悔やんでいる。プログラムを生き抜いてから、革命の為にずっと生きてきた。
失ったものは戻らないけれど、少しでもまだ見ぬ誰かへと返せるように。
革命を企てたのだって、誰かの人生を後押ししたかったからだろう。
革命の為だけに生きる。それが秋也の新たな夢となった。
「それでも、願っちまった。あの日、俺がもっと行動していたら、さ。
俺が少しでも、クラスメイトを気にかけていれば、誰かは助かったはず、俺が助けられたはずだって、なぁ?」
それでも、喪ったものは喪ったままだ。
どれだけ取り戻そうと足掻いても、新しい居場所を作り上げても。
あの陽だまりは、クラスメイトが皆揃っていた居場所は元には戻らない。
その時、気づいてしまうのだ。どうして、自分の周りはキラキラ輝いていたのに。
自分だけが醜くくすんでいるのだろう。
秋也は閉じていた眼をゆっくりと開ける。
独白には同じく悔恨が籠っていた。たくさんのものを失って、擦り切れて、受け入れた諦観。
疲れ切った子供の姿だった。
遠き日の残響。革命の旅路。破綻したハッピーエンド。
それら総てを乗り越えたはずだった。
されど、後悔が、喪った時間が、少年の失敗が総て取り戻された訳ではない。
「迷って、苦しんで。挙句の果てが、聖杯戦争――漫画みてぇな物語の登場人物か。笑えるな」
クソッタレな世界はどこまでも地続きで、自分を追い詰めるものらしい。
歪んでいた日常だった。統制と規制による縛りが真綿のように首を絞める国だった。
それでも、自分達の世界だ。
例え、それがいつ壊れるかわからないものだとしても――青春として過ごしてきた。
秋也は子供だ。まだ友人達とバカなことをやって、ゲラゲラと笑い合う下らないものを是とするだけの青臭いガキだ。
-
「嫌だねぇ、戦争って。勝手に呼ばれて強いられて、プログラムと何ら変わりはしねぇ」
そんな子供を、無理矢理に大人にさせたのも、自分達の世界だ。
喪失と諦観と決意を植え付けた、こんなはずじゃなかった未来だ。
「ギター弾いてライブバトルとかの方がよっぽど文化的だと思わないか、アーチャー?
何でも願いが叶う、どんな奇跡も叶う黄金の盃ってのも胡散臭いし。酒でも入れて乾杯したらどうなるんだか」
「知るかよ。グダグダと軽口をペラ回しやがって。んなこと言っておきながら、奇跡が欲しいんだろ?
そりゃあ何でも叶うもんなぁ、ゴミカスの屑人間が抗える訳ねぇんだよ」
貴方は戦争に選ばれた。勝ち残れば、黄金の奇跡――何でも願いが叶う権利を得ることができます。
その迎え入れを前に、秋也の表情は落ち着いていた。
笑いながら聖杯を揶揄する秋也の言葉は軽く、表情もすまされていた。
けれど、眼だけは笑っていなかった。隠し切れない嫌悪感がにじみ出ている。
相対する赤の少女はその様を見て呆れているのか、侮蔑しているのか。
どちらにせよ、少女にとって秋也はゴミ同然の肉袋だ。
「……履き違えるなよ。はっきり言うぜ、聖杯も奇跡もくっだらねぇ。強制された道程を歩かされる時点で、黄金もくすんでるんだよ。
お前が言うゴミカスの屑人間様でも、選ぶ権利はあるだろう?」
失くしたものは元には戻らない。
殺さなくちゃ生き残れない――世の理となったプログラム。
蔓延した諦観は信じるという簡単なことさえも奪い去った。
それすらできなかったクラスメイト。それをするには遅すぎた自分。
たった二人しか生き残れなかった惨劇。
全部、起こってしまった事実で、今更の話である。
「お前はムカつかないのか? 何の因果か知らないけど、勝手にあてがわれて、勝手に戦えと強制されて。
奴隷だぜ、立場的には。幾らでも令呪で命令してやんよってなったら終わりだ」
「はん、珍しく同意見だな……してみたらどう、令呪に願って、やってみろよ。勿論、する前に殺すけど」
「わかってることを聞くなよ。自殺志願者ならお前みたいな美少女に殺されるなんて大喜びだが、生憎と俺は人生を謳歌し足りない若者なんだ。
奇跡をぶら下げた戦争はどうでもいい、勝手に殺し合えよ。でも、自ら死ぬことだけはしないね」
「はいはい、言ってみただけよ。それにしても、アナタ、よっぽど奇跡が嫌いなのね」
「正確には、信じられないだけだ。強制の奇跡、最後の一人になるまで生き残れ……ああ、信じられる要素が何一つありはしねえ。
それが通用するのは三流の人間くらいだ」
それら総てを奇跡なんて言葉でやり直して、みんな仲良しハッピーライフに塗り潰す。
秋也は、それが我慢ならなかった。
他者を蹴落とすのが嫌だとか、人殺しはいけないこととか。
そういった倫理からくる嫌悪ではない。
クソッタレで唾棄すべき過去でも、今の秋也を形成している大事な思い出だ。
それらを取り除いて、元通りなんてご都合主義、あるわけないだろう。
-
「お前からすると、こんな戦争に巻き込まれた上で、何を言ってるんだって話だろうけど。
俺は奇跡を信じない。たった一つの奇跡に、心身の総てを委ねられない」
騙し、隠され、裏切られ。プログラムで培った経験は、子供でいさせてはくれなかった。
もしも、プログラムに巻き込まれる前の秋也だったならば、奇跡も信じたかもしれない。
けれど、大人になってしまった。いや、ならざるを得なかった経歴が、秋也の疑念を加速させる。
「この戦争についての有識者が巻き込まれてると助かるんだが、そんなうまい話があるとは思えないのが、目下の悩みだね」
「勝ち残る気はねぇんだな。負け犬根性たっぷりかよ」
「負け犬なりに勝ち残る気はあるさ。ただ、正攻法の攻略ってのは性に合わなくてね。
実は目下のプランニングはハッピーエンドでさ。皆で仲良く、手を繋いでゴールしようと思うんだ。最高だろ?」
「口先だけは一流ね。プランニングの過程で何でもする算段を立てている癖に。
その表情をする者は決まって諦めない、意地汚さのある表情よ。あなた、本当に子供?」
「ワガママな子供だよ。ともかく、俺には死ねない理由――プログラムで生き残った俺じゃなきゃやれないことが元の世界に残っている」
「お友達を殺して生き残った屑がよく言うぜ」
「……俺は、俺自身がやってしまったことから目をそらさない」
秋也は特段に自分の経歴を隠してはいない。
元の世界では指名手配を受けている犯罪者扱いだということも、クラスメイトを蹴落として生き残ってしまったことも。
そして、そんな論理を強いる祖国に対して革命を起こそうとしていることも。
同じく生き残った中川典子とは違い、自分は明確に祖国への害意を抱いている。
「まあ、そこまで言うなら付き合ってあげるわ。別に自殺して帰る理由もないし」
「助かるよ、サーヴァントなしでは俺も、堪える。お前は要石である俺を生かし、俺も同じくそうする。
仲良くしようぜ、俺らが殺し合った所で何のメリットも生まないだろ」
「雑魚の人間風情がよく言うわ。は〜、がっかり。貴方、言葉で嬲っても全然揺らがないし。
もっと追い詰められた、縋るしか道がない人間じゃないと、苛めても面白くもねえ」
赤い少女――バーヴァン・シーからすると秋也の身の上話なんて興味はない。
知りたいと思わないし、知ってどうするかといえば、変わりなかった。
「つーかさ。どうしてここまで私に話したんだよ。アナタ、別に私に内情を話す必要なかったんじゃない?
表面上だけでも媚び諂ってさ。そうしたら、協調も苦にはならなかったのに」
もっとも、そうしてたら、殺していたかもしれないわね、と。
嗜虐的な笑みを浮かべながらそう言い放つトリスタンに、秋也は乾いた笑いで答えた。
相変わらず、脅しは欠片も通用しない。見たところ、まだ年齢としては幼い方なのに、この胆力の据わり様は珍しい。
妖精國にはいなかったタイプの人間だ。
-
――バカな子供でいたかったよ。
-
投下終了です。
-
「例え、最後に裏切って殺し合うとしても。その一線だけは越えられなかった。
結局、俺もどんなに粋がっていても、まだまだ“子供”なんだ」
「……何それ」
「それに――」
――俺には、お前も、奇跡に戸惑っている子供のようにみえたから。
そんなこと、秋也は口が裂けても言えないけれど。
「――奇跡は誰にも認めさせない」
【クラス】
アーチャー
【真名】
バーヴァン・シー@Fate/Grand Order
【ステータス】
筋力A 耐久C 敏捷A 魔力B 幸運D 宝具E
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
対魔力:EX
決して自分の流儀を曲げず、悔いず、悪びれない。
そんなバーヴァン・シーの対魔力は規格外の強さを発揮している。
【保有スキル】
祝福された後継:EX
女王モルガンの娘として認められた彼女には、モルガンと同じ『支配の王権』が具わっている。
汎人類史において『騎士王への諫言』をした騎士のように、モルガンに意見できるだけの空間支配力を有する。
グレイマルキン:A
イングランドに伝わる魔女の足跡、猫の妖精の名を冠したスキル。
妖精騎士ではなく、彼女自身が持つ本来の特性なのだが、なぜか他の妖精の名を冠している。
妖精吸血:A
バーヴァン・シーの性質の一つ。
妖精から血を啜り不幸を振り撒く、呪われた性。
騎乗:A
何かに乗るのではなく、自らの脚で大地を駆る妖精騎士トリスタンは騎乗スキルを有している。
陣地作成:A
妖精界における魔術師としても教育されている為、工房を作る術にも長けている。
【宝具】
『痛幻の哭奏(フェッチ・フェイルノート)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:無限 最大捕捉:1人
対象がどれほど遠く離れていようと関係なく、必ず呪い殺す魔の一撃(口づけ)。
相手の肉体の一部(髪の毛、爪等)から『相手の分身』を作り上げ、この分身を殺すことで本人を呪い殺す。ようは妖精版・丑の刻参りである。
また、フェッチとはスコットランドでいうドッペルゲンガーのこと。
【weapon】
フェイルノート。汎人類史のオリジナル、トリスタンが扱うものとは形状も性質も異なる。
【人物背景】
世界に愛されなかった子供。
【サーヴァントとしての願い】
思いつかない程度にはアンニュイ。
【マスターへの態度】
――バーカ。
【マスター】
七原秋也@バトル・ロワイアル(小説版)
【マスターとしての願い】
奇跡は認めさせない。/奇跡が欲しいよ、皆を返してくれよ、帰ってきてほしいよ、頼りにさせてくれよ。誰か、俺を――許してくれよ。
【weapon】
拳銃
【能力・技能】
殺し合いを生き抜いた経験、胆力、技能。
【人物背景】
大人にならざるを得なかった子供。
【方針】
生存。
【サーヴァントへの態度】
――バカな子供でいたかったよ。
-
最後だけコピペミスすみません。今度こそ、投下終了です。
-
投下お疲れ様です。
こちらも投下します。
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【0】
死とは炎である。
-
【1】
燃えている。燃え盛っている。
炎が。恩讐の篝火が。消えることなき憎悪の灯火が。
古びた建屋を。瓦礫の山を。折れた信号機を。
そして亡霊どもを――敵を焼いている。
炎の向こうには、2人の少女がいた。
倒れ伏した桃髪の少女を、橙髪の少女が抱き寄せている。
傷付き、血を流し、目も虚ろな少女を。
守るように、支えるように、救うように、もう片方の少女が搔き抱く。
それは、あの日の再現。
2人が出会い、全てが終わり、旅が始まったあの日。
運命転換点。2015年のいつか。
「せん……ぱい……?」
あの日――人類の未来を摘んだ大火災との違いは明白だった。
炎が少女たちを焼いていないのだ。
爆炎も毒煙も高熱も、彼女たちを傷つけることはない。
世界を焼かず、希望を焼かず、未来を焼かず。
むしろ、襲い来る脅威から遠ざけるように、向けられた敵意から優しく包み込むように、獄炎は舞う。
その中心で、魔女が笑った。黒き鎧を纏った灰色の魔女。
哄笑を辺り一面に響かせながら、魔女は槍を振るい、業火を繰り出し、地獄を魅せる。
幽霊(ゴースト)が串刺され、骸骨(スケルトン)は灰になり、影(シャドウサーヴァント)は炎竜の咢にその身を砕かれた。
「どうして、泣いているのですか?」
ボロボロになった自分の身を顧みず、そんなことよりもあなたが心配ですという態度を見せる後輩。
今にも掻き消えそうな声で、精いっぱいの囁きで、大好きな先輩の身を案じるいじらしい乙女。
小さく、弱く、脆く、儚い、そんな少女を見て。
「キリエ」
なんでもないよと、大丈夫だよと、そう言いながらも橙毛の少女――藤丸立香の涙は止まらなかった。
感動と不安と安堵と激情がないまぜになった、そんな表情でくしゃくしゃになりながら。
立香は無理やりに笑みを作る。桃毛の少女――真白キリエを安心させるために。
-
「今度は絶対守るから」
そして、限界が来た。
いつもの帰り道、突然景色が一変したと思ったら廃墟の只中にいて。
いきなり脳内に流し込まれた多量の情報。聖杯戦争。殺し合い。意味が分からない。
そんな中で無数の敵意に取り囲まれ、逃げて、逃げて、追いつかれ。
刺される。祟られる。殺される。そんな恐怖の中でようやく憧れの先輩に助けられて。
張りつめられた緊張の糸。それがプツンと切れたキリエの視界がブラックアウトする。
「ふう……」
くたりと全身を預ける形になったキリエを決して傷つけぬよう、優しく抱きしめる。
そうやって触れていないと、触れ続けていないと、彼女は知らぬ間に泡となって消えてしまいそうだから。
違う。思い込みだ。そんなことは決してないのに、恐れてしまう。かつてのトラウマが立香の心を乱している。
真白キリエを傷つける者に対しての過剰な怒り。真白キリエに傷がつくことへの過剰な恐れ。
「オルタ」
だから命じる。竜の魔女に。
私の心をかき乱すものに裁きを、と。
炎は轟轟と勢いを増す。怒りという薪を足し、憎しみという種火は膨れ上がる。
少女の瞳は昏く濁る。口元は三日月状に吊り上がる。心は真っ赤に染め上がって。
私たちの敵を殺して、潰して、消して。
嗚呼、それはなんと――■■なのだろうか。
「全部燃やして」
そうして。
戦いが終わり、静寂が訪れる。
いきなり聖杯戦争に巻き込まれ、混乱したまま気を失った真白キリエは倒れ伏し。
そんな彼女を格好の餌と見なし襲い掛かった亡者の群れは、全て冥府の奥に消え。
ただ、復讐者だけがその場に立っている。
復讐者だけが、立ちつくしている。
-
【2】
気絶したキリエを彼女の家に運ぶのは、思いのほか骨が折れた。
夜であっても東京は人が多い。光が多く、目が多い。
お節介な善人もいれば、隙を窺う悪人だっている。
そんな雑踏を、群衆を、繁華街を、住宅街を、なんとかかんとか乗り越えて。
カルデアでみんなに教えてもらった忍術、隠密術、人払いの魔術、尾行術、ストーカー術、その他諸々の技術を応用して。
キリエがポケットに持っていた鍵を使い(勝手にごめん!)彼女の家に上がり込み、恐らく彼女の部屋と思しき場に辿り着き。
未だに眠りから覚めぬ大切な人を、壊れ物のように優しく、優しくベッドに寝かせて。
一息。
立香はじぃっとキリエを見つめる。
傷は酷くない。転んだのだろう膝に擦り傷。どこかに引っかけたのか、制服の袖口が少し破れている。
絆創膏と、ソーイングセットも必要か。それくらいならば家にあるだろう。
今後のことを考えて、よどんだ溜息が暗い部屋に落ちる。
むやみに外に出て、いつもと違う行動をさせたくはなかった。
何も変わったことなどないと、普通の学生としてキリエに生活して欲しかった。
ただ、生きていて欲しかった。
『敵』はどこに潜んでいるか分からない。
例えば、クラスメイト。例えば、学校の先生。例えば、スーパーやショッピングモールの店員。
例えば、隣家に住む幼馴染だって。
信用するわけにはいかない。
キリエの頬にそっと触れる。柔らかく、しっとりしていて、温かい。温かさは生きている証明だ。
キリエの寝顔を覗き込む。少し苦しそうに眉を下げているが、確かに動いている。変化は生きている証明だ。
だけど、あの日の光景がフラッシュバックする。
今のキリエとかつてのキリエが重なって、呼吸が荒くなる。
一ミリも動かなくなった躯(からだ)。
溢れ出した血が日常を汚し。
自分の喉から慟哭が漏れ出して。
世界が白く赤く黒く染まって。
あんなことは二度と起こさない。起こさせない。
彼女を傷つける可能性がある者は、全て、全て、全て――■して……。
-
「もしもーし?もしかして私がいること、忘れてんじゃないでしょうね?」
「……そ、そんなことナイヨー?」
いつのまにか、部屋にはもう一人の少女がいた。
白みがかった灰色の髪。ぴょこんと伸びるアホ毛。錆びた金のように鈍い黄色の瞳は半目。
真白キリエと同じく、黒の上着と紺色のインナー。赤いネクタイ。スカートは少し短くないだろうか?
学校の制服を身に纏いながら、彼女……「折田さん」は遠慮もなしにドシンと空いている椅子に座る。
「全く……。近いのよ。ハァハァしちゃって。発情期の犬か」
「ご、ごめんって、オルタ。少し考え事してて……」
「あら、奇遇ですね。私もそれについて話をしたかったところです」
わざとらしい敬語を使い、折田さんことジャンヌ・オルタは意地悪そうに笑った。
先ほどまで敵を燃やし尽くしていた時の黒き鎧は異相にしまい、今は完全にオフ仕様。
渋谷でもうろついていそうなJK(女子高生)然である。
この世の誰よりも雑談を、無駄話を、恋バナを愛する種族へと成り代わって、オルタは先を促した。
「さあ吐きなさい。今すぐゲロりなさい。口に腕突っ込まれる前にね」
「ちょ、ちょっと。なんのこと?」
「バァカ。今の私はアンタの宝具、つまりはアンタの一部みたいなもんなんだから」
「アンタが悩んでる〜くらいは感覚で分かんのよ。キリエのことでしょ」
「…………」
立香は黙り込んだ。誤魔化しが効かないことを理解し、逃げ場も狭い部屋にはない。キリエを置いて霊体化する気もない。
いつもの賑やかで、おおらかで、茶目っ気に溢れた立香の顔は、今はただ苦の一文字に覆われている。
「ニセモノの聖女らしく懺悔を聞いてあげましょうか?」
わざとらしくオルタが煽る。混沌・悪の女に遠慮などない。
軽い口調だが、鋭さを増した瞳からは話題を変える気は一切ないという固い意志が垣間見える。
今この場でゲロれと。問題を先延ばしにすることは許さないと言うように。
「それとも、後輩の悩みを聞く先輩ってテイでも良いけど?」
なおも沈黙を保つ立香を見て、ジャンヌ・オルタは核心を抉ることに決めた。
例え藤丸立香に嫌われても、これだけは確認しておかねばならない。
これから共に戦争を戦い抜く仲間として。いや、ただの友達としても。
本当に彼女のことを想うのならば、この設問から逃げてはいけないと分かっているから。
「アンタは……『アヴェンジャー・藤丸立香』はどうすんのよ」
「『マスター・真白キリエ』を、どうしたいの。言ってみなさい」
-
この『藤丸立香』はマスターにあらず。今を生きる人類にあらず。
『アヴェンジャー』として霊基を成立させたサーヴァントである。
彼女のマスターは、ベッドで眠っている真白キリエ。かつて立香が救えなかった儚き少女。
「……藤丸立香は」
臓腑の奥から絞り出している。心の隙間から捻り出している。
そんな声を、辛そうに吐き出す。
「『人類最後のマスター』藤丸立香は、今まで沢山の旅をしてきた」
「……ええ、そうね」
「特異点だったり、異聞帯だったり、色んな世界を渡って、色んな可能性を見て」
「私たちの世界を救うために、その全ての消してきた」
「だから、きっと」
なんて顔してんのよ。
そう言いたくなる己の喉を、心を、オルタはぎゅっと抑え込む。
最後まで吐き出させる。やっとの思いで歩き出した藤丸立香の足を、止めてはならない。
「きっと私は、この世界も消さなきゃならない」
「それが『人類最後のマスター』である私に求められる役割(ロール)だから」
「私の使命(グランド・オーダー)だから」
「…………チッ」
なんてご立派なんでしょう。
なんて献身的なんでしょう。
まるで聖女。まるで英雄。
反吐が出る。
ああ、反吐が出る。それがどんなに残酷なことか。
あの偽りの東京にて顕在化した藤丸立香の一側面を、恥ずかしげもなく座に登録しやがった人理も。
あの偽りの東京にて死亡した真白キリエを、葬者(マスター)としてこの冥界に呼び寄せた何者かも。
灰にしてやりたくてたまらない。オルタの中で、炎が盛る。
「でも」
「この世界を、特異点を解決したら」
「キリエは消える」
-
そうだ。
真白キリエは藤丸立香の胸の内、夢の中で生まれ、死んでいった存在である。
例えこの特異点を解決し、囚われた魂全てを解放できたとしても。
真白キリエに帰る世界はない。黄泉還る世界はない。
イドの東京に戻れば、歴史の修正力に抗えず彼女は必ず巌窟王に殺される。
元の現実に放り出されれば、世界の修正力により彼女は存在を許されない。
いずれにしても、キリエを待つのは死だけだ。もしくは存在の消滅。無かったことになる。
「でも、でも!」
「私は、キリエを諦めたくない……!」
もしも、藤丸立香がマスターとしてこの戦争に参加していたら。
もしくは、キャスターや他のクラスで召喚されていたら。
この結論には至らなかったかもしれない。
焼却された世界を救うため。漂白された地球を取り戻すため。
その道程で様々なものを犠牲にしてきた彼女ならば、涙を呑んでこの特異点の解決に臨んだかも知れない。
だけど、この藤丸立香は。
真白キリエの死をきっかけとして溢れ出した憎しみを以て『アヴェンジャー』と定義された彼女だけは。
真白キリエの生存を諦めることだけは。
真白キリエをもう一度殺すという、その選択肢だけは。
取れない。絶対に。
アヴェンジャー(復讐者)は、誰かへの愛より生まれし器(クラス)だから。
その愛を裏切ることだけは、出来ない。
「だから、私は」
「他の何もかもを犠牲にしてでも優勝したい」
「奇跡を、キリエに届けたい」
奇跡の力があれば。
聖杯の力に頼れば。
あるいは、真白キリエの生を勝ち取れるかもしれない。
だからアヴェンジャー・藤丸立香には最初からその選択肢しか許されていない。
それが、どれだけ険しい道のりだとしても。
罪なき人々を手にかけ、かつての友たちに蔑まれ、世界を危機に陥れるとしても。
悲しみに潰されながら罪を背負い、苦しみに呻きながら罰を埋め込み、絶望にさえ貫かれながら。
それでも前に進むことを、立香は選ぶ。
「バカね」
一刀両断の返答だった。
うぐ、と言葉を詰まらせた六香を横目に、ジャンヌ・オルタは嗤う。
「どうせ、私たちに遠慮してたんでしょ?」
「世界を救うために、未来を掴むために、私たちを置いて行った貴女が」
「今更、たった一人のためにその覚悟を曲げるのかって」
「…………」
沈黙は肯定の証だった。
立香は、ジャンヌ・オルタの顔を直視できない。俯いてしまう。
大切な友人に幻滅されるのが怖い。
そんな、まるでただの子供のような感情。
今はまだキリエのことで頭がいっぱいな立香は、その他に対する覚悟をすぐには出来そうにない。
サーヴァントにだって心がある。心には許容量がある。
泥水のような濁った不安が、溢れそうになる。
-
「もう一度言うわ。バカよ、アンタは」
グイ、と。
立香の顔が強制的に前を向かされた。
ジャンヌ・オルタは両手で立香の顔を掴む。無遠慮に。まるで友達にするように。
立香の顔が固定される。二人の顔がゆっくりと近づく。まるで恋人同士のように。
「良い? 一度しか言ってあげないから耳の穴かっぽじってよーく聞きなさい?」
「私はね」
その時、突然影が伸びた。
藤丸立香の影。巌窟王エドモン・ダンテスの姿を持ったそれが、にょきりと。
ジャンヌ・オルタと藤丸立香の間に立つように、割り込むように、影は屹立する。
「……なによ」
影は何も言わない。語らない。
ただ、オルタに圧(プレッシャー)だけを与えてくる。
抜け駆けするな、と。
貴様一人が栄誉を独占するなど許さない、と。
「……はあ……本当に空気読めないやつら。一度、馬に蹴られて死んだらどうです?」
影と、その奥にいる『彼ら』の圧に負けたのか。
溜息をつきながら、オルタは言葉を言い換えた。
仕方なさそうに、つまらなそうに。
「『私たち』はね」
自分たち全員の意思だと、代表してジャンヌ・オルタは告げる。断言する。
「世界のために、人理のために別れを選んだわけじゃない」
アヴェンジャー。復讐者の霊基。振り返る者。立ち止まる者。過去に囚われ、未来を歩むことを許されぬ者たち。
世界を救う旅路において、世界を滅ぼし得る恩讐の炎を旅の果てに持ち込むことを望まなかった者たち。
「貴女のために、だっつーの! フン! 言わせんな、恥ずいわ」
彼らは愛している。人間を。人類を。隣人を。そして、藤丸立香を。
だから。
「望みなさい、我がマスター」
キリエのためならばなんだって出来るアヴェンジャー(藤丸立香)と同じように。
アヴェンジャーのクラスを持つ彼らは、立香のためならばなんだって出来る。
聖女様じゃあ取れない選択肢。ざまあみろと優越感を感じながら。
ジャンヌ・オルタは影と共に、昏く笑った。
「我ら復讐者、例え世界を敵に回しても貴女の供となりましょう」
-
【3】
マシュ・キリエライトではない真白キリエと。
ジャンヌ・ダルクではないジャンヌ・オルタと。
『人類最後のマスター』ではない藤丸立香。
恩讐を思い知るために生み出された無力な少女と。
狂信を実現せんがために形作られた悪徳の魔女と。
人理を救うため身勝手に鍛造された人類の希望。
そんな、造られた命三つ。
本来あらざるべき魂三つ。
狭間に消えゆく運命三つ。
「ふざけんじゃないわ」
役割なんて知ったことか。
使命なんて知ったことか。
運命なんて知ったことか。
自分自身の意志こそが、自分自身の「生」を確立させるのだと信じて。
彼女たちは原型(オリジナル)と違う道を行く。
赤信号(ただ一人の救い)を、みんなで一緒に渡りながら。
その先にある奇跡に縋って。手を引き、引かれ、引っ張って。
影の奥で『彼ら』が猛る。
「分かってんでしょうね?アンタたち」
滅びの調べと共に、黒百合が咲く。
「参加賞(ひと時の再会)なんてみみっちいモンは認めないわ」
魔獣は吠えて、騎士は鎌を鳴らし。
「やるからには全力。息が切れても、足が震えても、リタイアなんて許しません」
死霊が飛び交い、怨の刀は紫に光る。
「走って、跳んで、踏ん張って、そんでさ」
魔眼が煌めき、雷鳴が轟き。
「勝つわよ」
二つの炎が、笑っている。恩讐の炎たちが。
彼らに見守られ、見送られ、見届けられながら。
うたかたの夢たちは、春に向かって走り出す。
-
【CLASS】
アヴェンジャー
【真名】
藤丸立香@不可逆廃棄孔・イド
【ステータス】
筋力E 耐久D+ 敏捷E 魔力D 幸運E+ 宝具A
【属性】
中立・悪 今回は女(ぐだこ)として参戦。
【クラススキル】
復讐者:EX→D
復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
周囲からの敵意を向けられやすくなってしまうが、向けられた負の感情は直ちにアヴェンジャーの力へと変化する。
本来の『アヴェンジャー・藤丸立香』は『地球最後の復讐者』として規格外の当スキルを保持している。
しかし此度は、復讐者としての藤丸立香の根本である真白キリエが生存しているためランクが低下している。
真白キリエへ危害を加えようとしている者に対しては激情とも言える敵意を抱き、冷静な判断が出来なくなる。いわゆるデメリットスキル。
忘却補正:A
藤丸立香は忘れない。真白キリエと過ごしたあの日々の輝きを。
アヴェンジャーは忘れられない。真白キリエが死んだあの日の憎しみを。
自己回復(魔力):D
アヴェンジャーとしてのクラススキル。微量ながらも魔力が回復し続ける。
藤丸立香は後述の宝具による折田の現界に必要な魔力をこのスキルで補っている。
【保有スキル】
人理の防人:A→E
『人類最後のマスター』としての藤丸立香を象徴するスキル。
人理からのバックアップによって耐久と幸運に補正がかかるスキルとなっているが、現在の藤丸立香は人理よりもキリエの生存を優先しているため大幅にランクが低下している。
只人のカリスマ:B+→D++
カルデアにて数多くの英雄に愛された藤丸立香の魅力がスキルとなったもの。
キャスターとしての召喚であれば全ての英雄を対象とした上でB+程度の効果があった。しかし、アヴェンジャーとして召喚され、人理よりもキリエを優先したため
「アヴェンジャークラス」と「人理よりも藤丸立香を優先する者」だけに適用される効果となっている。
専科百般(カルデア):E
藤丸立香はカルデアにて数多くの英雄より薫陶を受けている。
彼らの持つ技術、技能を極めて低レベルではあるが再現できる。
サーヴァントには通用せずとも、幽霊(ゴースト)や骸骨(スケルトン)の数体程度ならば相手が出来るだろう。
真名看破:B
カルデアの霊基グラフに記録されているサーヴァントの真名を看破できる。
ただし、相手側からも『人類最後のマスター』として認識される。
-
【宝具】
『常に手を取って、私の友達(アヴェンジャー ■■■■■■■)』
ランク:C 種別:対友宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
不可逆廃棄孔・イドにて藤丸立香の友人として並び立ったサーヴァント「ジャンヌ・オルタ」「アンントニオ・サリエリ」「平景清」のいずれかを召喚する。
召喚は聖杯戦争を通して一度きり。今回は「ジャンヌ・オルタ」が選ばれたため、他2名をこの宝具で呼び出すことはできない。
呼び出されたサーヴァントは現世での姿(ジャンヌ・オルタの場合は折田)を取ることで現界時の魔力消費を大幅に抑えることが出来る。
しかしデメリットとしてサーヴァントとしての出力にリミットがかかり、本来の彼女よりも少々頼りない霊基となっている。
『影より来たれ、我が朋よ(アヴェンジャー ■■■■■■■)』
ランク:B 種別:対朋宝具 レンジ:1 最大捕捉:1~3
不可逆廃棄孔イドにて藤丸立香が己の影と一体化したエドモン・ダンテスよりサーヴァントを呼び出した逸話が宝具化したもの。
イドと同じく、立香の持つ令呪を一画消費することでアヴェンジャークラスのサーヴァントを限定的に召喚することが出来る。
令呪は全部で三画。三画未満となった場合、深夜24時になると一画が補充される。謎システム。
この方法で呼び出されたサーヴァントの力には特に制限がなく、平時と同様の戦闘力に加えスキル、宝具も使用できる。
ただし藤丸立香とジャンヌ・オルタに加えてもう一体、もしくはそれ以上のサーヴァントを使役することになる真白キリエへの負担は非常に大きい。
『響け喇叭よ、恩讐を果たせ(不可逆廃棄孔・イド)』
ランク:A 種別:対仇宝具 レンジ:1〜999 最大捕捉:1~99
喇叭の音と共に藤丸立香の心象世界である「不可逆廃棄孔・イド」を別位相に再現し、望んだ対象を取り込む。
東京全土の再現という大規模固有結界であるため本来使用できるはずもないが、此度の聖杯戦争の舞台が同じく東京であったため新たに再現する必要がほとんどなく、極めて低魔力で使用することが出来る。
この世界に取り込まれたものは藤丸立香自身も含めて以下の条件いずれかを満たすまで決して外の世界に出ることは出来ない。
・藤丸立香が敵とみなした存在の消滅
・藤丸立香の消滅
-
【weapon】
今まで復讐者と育んできた絆こそが彼女の最大の武器である。
【人物背景】
『人類最後のマスター』藤丸立香(女)が不可逆廃棄孔・イドにて見せた復讐者としての一側面。
本来の藤丸立香と比べて少々暗め。嗜虐心高め。
立香自身も気にしているが、アヴェンジャーとして召喚された以上、こればかりはどうしようもない。
【サーヴァントとしての願い】
真白キリエの生存。何を犠牲にしてでも。奇跡に祈ってでも。
【マスターへの態度】
出来る限りいつも通りの態度でキリエに心配をかけないようにしたい。
でも、どうしても過保護になってしまう。大切な人を二度と失いたくないから。
……色々、どうやって説明したもんかなー……オルタ、手伝ってー……。
【マスター】
真白キリエ@不可逆廃棄孔・イド
【マスターとしての願い】
傷付きたくない。傷つけたくない。あとは……。
【能力・技能】
どこにでもいる普通の女の子。
戦争に巻き込まれるとひとたまりもない。
【人物背景】
不可逆廃棄孔・イドにて登場した、藤丸さん家の隣に住んでいる幼馴染。隣のキリエさん。
本来の世界線では悲劇に見舞われその命を落とすが、今回はその以前より参戦。
【方針】
とりあえず先輩に話を聞きたい。全てはそれから。
【サーヴァントへの態度】
先輩、また会えて良かったです……。ところでお聞きしたいことがあるのですが。色々と。ええ、色々と。
-
投下終了します
-
投下します
-
誰から聞いた?そのウワサ。
誰から聞いた?そのウワサ。
港湾地区に浮かぶ紫人魂。
悪霊かもしれないし、誰かのいたずらかもしれない。
でももしあったら…くふふっ!
せめて一太刀、浴びさせられたらいいかもね!
◆
東京、江東区。
場所としては千葉方面、新木場あたりの倉庫街。
一人の主従がここらを調査していた。
いかつい仁義者を思わせる男と、左に傷をつけた大槍を持った偉丈夫のランサーだ。
先日未明、同盟を結んでいたバーサーカーの主従が、ここで消息をたった。
聞いたことのある噂を含め、ここらにサーヴァントがいるのは確実だ。
奥を見ると、一人の少女が歩いている。
この時間、なぜここ?何があった?
誘拐か?なら普通に歩けている?
ランサーが警戒を強めるのに待ったをかけ、近づこうとする。
その時だった、偉丈夫が何かに感づく。
どこから飛んできた剣先、すぐさま飛んでった方に目をやる。
それは――恐怖の塊の様なものであった。
噂に聞いた人魂の様な物を纏わせ、こちらへと歩みを寄せてくる。
その主の正体は、亡霊か?否、なら、落ち武者か?部分的に正解?
悪霊の類ではない、そいつは生物であった、しかし、人ではない。
四足獣の龍――紫の炎をまとわせる龍。
ランサーが前へ出る、しかし、怨虎龍の前に、そのランサーが勝てるはず無かった。
すぐさま殺し、マスターも手にかける。
男は芋引かず、ドスを構え、突撃するも――
合掌。
◆
「お疲れ、アヴェンジャー」
鎧武者の様なアヴェンジャーの外殻を撫でる少女、名を――サヨリ。
アヴェンジャーは座り込み、霊体化していく。
「…」
それを確認し、廃倉庫の中へと入っていく。
「…やっぱ、私って最低だよ」
自嘲しながら、眼の前の物へと目をやる。
あったのは、躯の山。
アヴェンジャーが葬り去ってきた、数多の主従の死体。
「…君が見たら、どう思うのかな、許してくれるのかな?」
空の上、冥界の空へと語りをかける。
あの日知った真実、4度目の世界、おかしくなった歯車。
「はぁ…こんな所、君には見せたくないな…」
自分たちは空想の人間、電子の海に閉じ込められている、想像上の人間。
「でも、ここは私も、意思を持った、主役の一人だから、君は、待っててね…会いに行くから…!」
第四の壁を超えて、その世界を目指して。
彼女は冥界へと踏み切っていく。
◆
魔龍は紫の火を靡かせ、牙と爪を研ぐ。
怨嗟の炎は厚みを増し、連なっていく。
全ては、サーヴァントとして、マスターの願いを叶えるために動く。
己の願いは果たされている、なら、なおさらだ。
混沌の渦を導いた魔龍、それを己の宿敵とともに戦い、「一太刀」を浴びせた。
そしてそんな怨嗟の牙龍、人びとはこう称した。
怨虎龍――マガイマガドと。
-
【CLASS】アヴェンジャー
【真名】マガイマガド@モンスターハンターシリーズ
【ステータス】
筋力B 耐久A 敏捷A 魔力B 幸運E 宝具B
【属性】混沌・悪
【クラススキル】
復讐者:B
復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情は直ちにアヴェンジャーの力へと変化する。
忘却補正:A
人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。
忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃はクリティカル効果を強化させる。
自己回復(魔力):――
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。
魔力を微量ながら毎ターン回復する。
しかし、アヴェンジャーは曲がりなりにも復讐を達成した形になっているため、このスキルを持っていない。
【保有スキル】
仕切り直し:B
窮地から離脱する能力。
不利な状況から脱出する方法を瞬時に思い付くことができる。
加えて逃走に専念する場合、相手の追跡判定にペナルティを与える。
心眼(偽):A
視覚妨害による補正への耐性。
第六感、虫の報せとも言われる、天性の才能による危険予知である。
対魔力(火):A
アヴェンジャーは見た目の通り、体に怨嗟の炎を纏っている。
その炎は他の炎を圧倒し、むしろ飲み込んでいく。
そのため、すべての炎系統の魔術を無効化する事ができる
【宝具】
『怨嗟の太刀』
ランク:B 種別:対城宝具 レンジ:1〜100 最大捕捉:1000人
燃え続ける怨炎。
それは体全てに伝わり、己の刃にももちろん伝わる。
砦を壊し、狩人を殲滅せしめ、そして怨敵を滅する一太刀。
それが、彼に与えられた宝具。
【weapon】
太刀にブレス、噛みつき
【人物背景】
怨虎龍の異名を持つ魔龍。
怨嗟の記憶を感じ取り、破滅へ導く龍に、狩人共に戦った龍。
【サーヴァントとしての願い】
無し、ナルハタヒメとの決着は既に着いている。
【マスターへの態度】
一介のサーヴァントとして、最後まで尽くす。
【マスター】Sayori@Doki Doki Literature Club!
【マスターとしての願い】
君と、ずっと一緒に
【能力・技能】
自分たちの世界の真実について知っている
鬱病は現在小康状態
【人物背景】
世界の真実を知った少女。
愛した少年を手に入れるため、手段は選ばない。
【方針】
とにかく聖杯獲得、じゃないと君には会えない。
【サーヴァントへの態度】
良い子だね、いつもありがとう。
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投下終了です
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投下します
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投下します。
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>>566
すみません。こちらの方の投下終了を待ちます。
-
今に、枯れる花が。
最期に僕へと語りかけた。
◆
厄災が、行進していた。
地上のどんな生物よりも巨大で、禍々しくも圧倒的に力強い。
付近の超高層ビルさえも抱擁できそうなほどに突き抜けた驚異の躯をしていた。
体表は死の匂いがする嵐のように不吉な漆黒で、牙は滅裂に生えたように不揃いで。
体内にマグマでも滾らせるかのように紅の血脈を輝かせ、皮膚は歪に隆起した、凶(まが)き骸をしていた。
地上すべての災害を複合させて生物に準えたようなそれは。
爆撃機や戦車を薙ぎ倒し、ありとあらゆる人類の攻撃をものともせずに歩行する異形だった。
夜間でも稼働を続けていた首都から、停電によって灯が消えていく。
薙ぎ倒されるビル、建造物の群れ、都市、文明が築いた全て。
黒煙がどこまでも尾を引いて、明瞭な通過痕を残す。
戦後半世紀ほどで築かれた全てを、焦土の更地へと還していく。
嵐。荒神。超常の怪物。巨大不明生物が。
■■■だ、と幾万もの群衆がそれの名前を呼び、恐慌する。逃げる。惑う。渋滞する。
■■■、■■■、■■■がやって来た。
変形し、進化し、急成長して首都の中枢部にまで侵攻した荒神。
そこに人類への憎悪、生存競争の宿敵に向けるような瞋恚は読み取れない。
しかし理解することは適わずとも、誰しもが畏怖に打たれ、絶望を呑まされていた。
このままでは半世紀以上前の大空襲のように、この地にある全てが滅ぼされ、失われるのだと。
黒き荒神は、暴風を振り撒く旧時代からの刺客だった。
そして荒神は、まるでそこに『敵対国の中枢がある』と狙いすましたかのように。
首都官庁の近辺へと、数多の障害を排除してほぼ一直線に到達していた。
夜天も震えるような重く、轟く、暴風のように響く、そんな咆哮をあげる。
それまでの人間からの爆撃すべてに対する報復が、そうして解き放たれた。
滾るような血流をめぐらせていた背びれが、赤色から薄紫色を経て白色へ。
下あごが二つに割れるほどに大口を開き、大海嘯の奔流をほとばしらせた。
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>>566
お待ちいただきありがとうございます。こちらこそすいません
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始めに吐き出されたのは黒煙だった。
都心部一帯を灰黒色に染め上げるほどの、膨大な毒性を帯びた熱煙だった。
いつかの世界大戦で広島県で撮影された禁断のキノコ雲、それを地面に逆噴射させたような。
地下街や東京メトロを防空壕として選択した大勢の人々も、その超高温ガスの充満だけで蒸し焼きは避けられない。
やがて火焔放射になった。
放射能を含んだ火焔の奔流は、都心の中心で起こる炎の津波だった。
地上は地獄に替わった。破壊の化身のほかに、命が生きられる場所ではなくなった。
そして、白光をともなう放射熱線が口のみならず背びれからも放たれた。
上空と中空をぐるりと薙ぎ払ったそれらは、ノアの方舟さえ逃さないと退避するヘリを全て撃墜した。
軌道上にあったビルディングは、全て溶かされながら斬られた。
霞が関が、浜松町が、新橋が、銀座が、永田町が。
殺人光と、獄炎の洪水に飲まれていった。
神の化身は、この世に放射能というものを創り出した人間を、その放射能によって抹殺した。
東京の都心と呼ばれていた一円は、すべからく破壊された。
膨大な東京都民は、すべて現世から消えた。
首都機能、すなわち法と社会とは壊れた。
この夜、日本人は確かになすすべない敗戦を喫した。
暴威との戦争そのものは、何ら終わっていないままに。
そのあらましを、全て己のものではない夢中で眺めて。
覚醒の瀬戸際で、己の感想として彼女は想った。
ああ。
私は……きっと私『達』はやはり、『こちら側』だ。
嵐吹く街で、紅に染まっていく『怪獣役』なのだと――。
◆
ここが光射さない根の国だとは、とても信じられないような。
そんな、高く晴れ渡る空が天に蓋をしていた。
春先の澄みきった青空の下には、東京・霞が関のオフィスビルの群れが外装のガラスに空の青を映していた。
強化ガラスを張り付けた超高層ビルの上層階からは、周囲のそれらが一望できた。
-
――こんな眺めのいい部屋を貸し切りにして、どうするつもり?
――景色も理由の一つだが、人目につかず話せる場所が欲しかった。だが、少し待ってほしい。
この世界の設定(ロール)でも元商社勤務となっていた、その伝手によって霞が関の超高層複合ビルディングから会議室を小一時間ほど借用した。
今の職場の伝手によって似たような場所を確保することもできたが、いくら設定(ロール)と言えども私用に公費を投じているようでまだ躊躇いがあった。
それが今朝のことだったと事務的な経緯について説きながら、男は手持ちのブリーフケースを開ける。
絶景を見せながら話を、という演出には似つかわしくないまでに、勤務中そのものという格好だった。
三十代の半ばから後半ほどの男。七三分けの頭髪にスーツ姿と、いかにもビジネスマンのように見える出で立ち。
やや吊り眉で眼光には強さがあり、理知的にも、頑なそうにも感じ取れる顔つきだった。
一見してスーツの値段が察せる者であれば、企業の中でも重役か、あるいは公務員の幹部職員かという推測を持っただろう。
ケースから取り出したのは仕事用のタブレットやスマートフォン、というわけでもない。
道中のコンビニで調達した飲食物だった。
ミネラルウオーターと、カットフルーツ。
果実は季節限定販売の桃だった。
遅い昼食としてはあっさりとし過ぎたそれに、しかし男はごくりとつばを呑んだ。
飢えていた。覚悟を決めた。その両方ともの意味があった。
ペットボトルの蓋を外すと、一息に飲み干す。
ごくりごくりと、軟水が栄養ドリンクのようにすぐに体内に入っていく。
春先だというのに、真夏日のようなのどの渇きをもって水分補給をすると、続けてカットフルーツの留めテープをはがした。
付属の小さな串を桃に突き刺し、一口、また一口と頬張っていく。
成人男性の遅い昼食としてはあまりに足りない量だったが、男はひと息つけたというように肩を落とした。
――絶食期間(ハンスト)は一日で終了ね。ゆるやかな自殺(リタイア)を選んだのかと思ったわ。
――『黄泉の食物を口にした伊邪那美は現世には戻れなくなった』……その神話を警戒したのは事実だが、何もいつまで続くか分からない聖杯戦争を絶食して乗り切ろうとしていたわけじゃないよ。
――どのみち生活と両立しながら脱水死(ミイラ)を狙うのは厳しいでしょうからほっといたけどね。あんたの上司と部下、露骨な脱水に救急車呼ばないほど間抜けじゃなさそうだったし。ちなみに末期の脱水って混濁するだけじゃなくて痛いからお勧めしないわ。
――忠告はありがたいが、その『生命活動から遠ざかった時』の感覚を少し知りたかったのも本音としてはあったよ。『死者の世界で死にかける』とはどういうことか、それを戦禍がないうちに知りたかった。
――ご感想は?
――現世での生活と全くなにも変わりなし、だ。黄泉に堕ちたというから古事記で『死人が忌み嫌った』とされる桃を口にしてみたのに、生前と変わらず美味い。
――ずいぶん日本神話をなぞりたがるのねぇ。そりゃ冥界産(ニセモノ)なんだから、魔除けにもならないんじゃないの?
なら偽の食べ物を口に入れて空腹がおさまるのもどうだろう、と。
そこまで揚げ足をとるのも子どもっぽかったので、掛け合いはそこまでとした上でブリーフケースを床に置き、窓辺に向いた。
ここから先は、胸襟を開いて話す時間だ。
口内にはまだ桃と、そして水の味の余韻がある。
アルコールでもコーヒーでも茶葉でもない、ただの水。
懐かしい、無味無臭の透明な味と、のど越し。
誰しもが生きるために求めるもの。
そして男にとっては、忘れられない味だ。
立川の臨時災害対策本部で、飲み干した時の味だった。
無味無臭なのに、苦く、冷たく、身が引き締まっていく。
あの時から、水を飲むたびに立川での挫折と、再起を思い出さない時はなかった。
――まずは自分が落ち着け。
いつか言われた言葉を、内心で繰り返す。
それは男にとって、忘れてはならない言葉だった。
「あの一帯で」
まっすぐ、南東のおよそ新橋から西新橋方面を指さす。
晴れ渡る空の下。
JRもゆりかもめも東京メトロも平素どおり動く。
西新橋スクエア。日比谷シティホテル。航空会館。
どれも、かつての――『ゴジラ以前』の景色とおおむね遜色なかった。
「君が言うところの『怪獣』」が放射熱線を吐いた。俺が元いた東京での話だ」
-
元巨大不明生物特設災害対策本部事務局長――通称『巨災対』のリーダー。
矢口蘭童は、淡々とそう言った。
己とは住まう世界を異にしていた、サーヴァント・ランサーに向かって。
霊体化したままであれど、たしかに己のサーヴァントは無言で聴きに入ったのを感じる。
「中央区、港区、千代田区は火の海になった。都心部は除染がいつ終わるか分からない死の土地になったよ」
怪獣という呼称を、矢口は己のサーヴァントが名乗った二つ名から初めて知った。
胎内に原子炉を宿した、二次大戦以降の負の遺産の集積。
自己改造により死を克服し、人智を超越した完全生物。
とある地方で荒ぶる神の化身を意味する言葉――呉璽羅から戴いて、ゴジラ。
――その世界に、宇宙の彼方から人類を助けに来る光の巨人はいなかったのね。
「いなかった。しかし数多の犠牲が出た末に、奴を凍結させることに成功した」
日本は、虚構の荒神(ゴジラ)に勝利した。
その奇跡の立役者は数え方によっては一億人以上はいたし、絞れば数万人はいた。
その上でなお後に遺されたのは、過去にも近い姿になったであろう戦後の残骸だった。
政治家だった祖父から語り聞かされた焼野原の東京と、重ねてしまうほどの。
半世紀前のそれと被害規模は異なれども、おそらく痛みの質としては近しい。
暴風雨は止んで、荒れ果てた世界が残ったのだ。
帰る場所、帰る家族を失った者が大勢いた。
病み、痛み、蝕まれた者たちも大勢遺された。
矢口にもまた、罪の意識や後悔は数多くのしかかった。
護れなかった。救えなかった。
それどころか、己の誤った判断で死なせさえした。
――大勢の国民を死に追いやりながら、お前は政治家として華々しく上り詰めようというのか?
そのように、何度も何度も自問を重ねてきた。
これまでもそうだったし、今でもその問いかけは続いている。
なぜならあの悪夢の一晩、首都焼滅に巻き込まれた人々の何パーセントかは、矢口のせいで死んだからだ。
自動車で遠方へ逃げようとする人々を見て、『地下に避難した方が安全だ』と声をかけて回ったのは矢口だ。
しかしそれでも確かに、厄災も、戦いも終わった。
『良かった』と一言つぶやき、心から笑えるようになった部下がいた。
『スクラップアンドビルドで、この国はのしあがってきた』と語る上司がいた。
凍結されたゴジラとの付き合い方や諸外国との駆け引き等、次なる戦いは始まっていたが。
矢口と、日本人の多くが、ゴジラ凍結をもって終戦を迎えた。
-
「怪獣……怪物の獣と書いて怪獣か。中々に、名は体を表す字の当て方じゃないか。
我々は巨大不明生物と呼んでいたが、種族名が必要だったなら候補に挙がっていたかもしれない」
矢口であればヤシオリ作戦の延長でオロチという呼称を推していたところだが、このネーミングはあまり歓迎されなかっただろうなとも経験則で分かる。
――ボウヤのいた世界でネビュラマンは放送してない。それがあなたの知る唯一の怪獣というわけね
「いいや。もう一つ、実例を知っている」
息を吐きだし、吸って肺の空気を入れ替える。
ここから先は、さらなる踏み込みと覚悟が求められる言葉だ。
矢口は、霞が関よりもさらに遠く、目線を都内一円に向けた上で一か所を指さした。
「昨晩の夢で、あちらにジェット機が突っ込むのを見たよ。他にも複数機が墜落していた。
空襲に遭ったみたいに、都内でいくつも火の手が上がっていた。」
己のサーヴァントが引き起こしたであろう災害を、口にした。
人として生まれた身の上で、あれほどの都心壊滅を起こした者がいたらしいと。
「な〜んだ。過去夢(ネタバレ)巡回済みだったのね」
さして残念そうな風でもない、念話ではない肉声が矢口の右隣から聞こえて。
サーヴァントは、ともに窓を眺める位置取りにて実体化を果たした。
わざわざ絶景がある部屋を貸し切った意味――『人目のない場所で、隠しごとの効かない話をしよう』を察したればこそ。
姿を見せたのは、限りなく怪獣へと変貌を遂げた肉体の持ち主だった。
妖艶な薄緑髪の左半身と力強き黒髪の右半身を合一させたがごとき、塗分けられた立ち姿と白黒混じる医師服。
自己改造における一つの到達点。驚異の躯に凶悪な骸。
身の丈は矢口の倍近くあるのではないかと思えるほどに伸長し、特に胴は長大で爬虫類か海棲生物に近しい。
矢口の知る唯一の『怪獣』にも似た、口角の限度を超えて避けた唇と、『歯』ではなく『牙』と呼ぶべき鋭利な歯並び。
ランサーのサーヴァントにして『怪獣医(ドクター・モンスター)』と、その反英霊は名乗った。
「もともと隠してなかっただろう。君は闇医者で極道者で、世間一般ではテロリストだったと自己紹介している」
「ステータスやらスキルやらが露見(みら)れちゃう葬者(マスター)相手に、隠しようなんて無いもの。
その時点でさえ令呪一画を切られてるんだから、ボウヤに『もっと刺激が強いこと』」は隠すわよ」
「あのスキル構成と、反社会的立場だと隠そうともしない言動なら、どうしたってそのぐらいはするさ」
「それでぇ? 自分のサーヴァントが、生きるか死滅(くたば)るかの戦いをした宿敵と同族だった、ご感想は?」
ことさらに笑わなくとも嘲弄しているかのように見える湾曲した口角をニッとさせて、飄々と問われる。
答え方を誤れば、いともたやすく『外れマスターだった』と憐憫をもって呑まれる。絶対的な優位差があった。
単独行動スキルを持っていないランサーがそれを行えば消滅すると理解した上でも、なお。
防護スーツ一つで目と鼻の先にゴジラがいる最前線に赴いた時の心地に陥り、身体はこわばった。
-
「取り繕わず言えば、私は君たちの真意を理解できない側の人間だと思う。
私にはあれはバイオテロで悪夢の再来にしか見えなかったし、私は君たちが反目する法と秩序を創る側の者だから」
「ええ。それが大多数(まっとう)な、社会の一員としての感想でしょうね。それで?」
巨大不明生物になりたい。
それはゴジラの戦禍を経た一般的な人類であれば、共感不可能の判を押さざるを得ない感性だった。
覚醒後に、よくも再びあんなものを見せたなという憤怒を抱いた。
たとえ絶望を味わっても生き続ける限り希望があると戦い続けた人々を何だと思っている。
言葉を選ぼうという理性が無ければ、あんなものが救いであるものかと言い切っていたところだった。
であればこそ、絶望的な総合理解の不能を悟っているからこそ。
彼女は『医』という聖職者の称号の上に、怪獣の自称をかぶせるのだ。
その認識には、到達しきった上で。
それでも確かめずにはいられないこともあった。
「しかし英霊(サーヴァント)になった君が、今もなお同じ望みを抱いているようには思えない」
「どうして? まさか『もう令呪で禁じてるから』」なんて言うつもりじゃないわよね?」
――令呪をもって命ずる。マスターの許可なく、麻薬を他者に渡してはならない。
召喚し、名乗りあい、不審を持たれた昨日の時点で、その令呪は切られていた。
現代の英霊であるがゆえに、クラススキルで補正されても最低限の対魔力しか持たないサーヴァントにとって。
それは己の救済行為である快楽(ユメ)を見せること、麻薬水(ヤクミズ)の流通が禁じられることを意味していた。
しかしマスターを無理にでも『許可する』と言わざるを得ない状態にしてしまえば破り捨てられる、それこそ『債権者を実験台にしてしまえば借金の返済に悩むことはない』という極道の発想なら突破できてしまえる制約でしかない。
それでサーヴァントを管理した気になっている程度のマスターであれば、『こんな人にも政治家が務まるなら、極道者は楽ができていいわね』という感想にしかならなかったが。
矢口は、本職の答弁において確信を突くような眼差しと声音で答えた。
「この世界が冥府だからさ。死後はそこに向かうと実証された時点で、人間は麻薬に浸ったまま楽にはなれない」
言い切ると、沈黙が降りた。
召喚された座標は冥界の深奥。
冥界とはつまるところ救済(すくわ)れていない地獄の様相である。
それでも地獄が実在すると分かっただけならば、救いが全否定されるわけではない。
それはたとえ一般人であっても極道であっても同じこと。
地獄に堕ちると理解してもなお、己の思うまま好きに暴れる極道者ならば幾らでもいるだろう。
同じく八極道の一人である『暴走族の神様』ならば、おそらく地獄であっても笑って暴走を続けられる。
しかし、極まった独善であろうと優しさを行動原理に置き、万人を安らかに溺れさせると掲げている怪獣医にそれはできない。
「君たちの救済の根幹は、中毒の快楽に溺れて死ぬこともまた病理からの解放だと主張するところにある。
麻薬の力がおよばない領域で、死後も楽園からはほど遠い苦しみが継続するというなら、それは通らない」
死後の世界は実在し、生者の世界のそれと遜色ない苦痛と病理がある。
たとえ快楽(ヤク)が一時の救いを齎したのだとしても、その後には救われない冥府に堕ちる。
それそ知ってしまえば、 『救済のための大海嘯』は成立しない。
変わらず飄々と。
しかし、本当は気付いていたという風に淡々と。
「ええ。ええ…………願いをかなえられると召喚された時点で望みが全否定されてるなんて、馬鹿らしいと思わない?」
冥府にて聖杯戦争が行われるという事実そのものが、思い描く理想では救えないと告げていること。
その皮肉については同意できることだったので、矢口は頷いた。
-
もしも彼女が、死にきれずにいる葬者(マスター)であれば。せめて身近な者達だけでもと願ったかもしれない。
その慈医は、構成員の一人から『あなたが本当に救いたかったのは――』と確信を持たれるほど、身内愛が強いのだから。
必ず救済(すく)うと約束した医師団、最期まで救われる側になってしまった半身。
全てに手を伸ばせないなら、あらかじめ悲劇が起こらなかった世界を、『怪獣役を替わってやれた』世界をと、もしもを想わなかったはずもない。
しかし、彼女は死者(サーヴァント)だった。記憶としての郷愁だけでなく、記録としての理解も植えられていた。
すべては過去となった以上、医師団たちが堕天せず、麻薬学の父が生まれなかった世界があるとすれば。
大海嘯(ダイダルボア)の過程と結末のみならず、全ての極道の命運が替わる。
破壊の八極道が例外なく愛した輝村極道の行く末も、回数券(ヤク)の未開発などによってより悪い方へ傾いていただろうと。
「でもね、『理想は叶わないから宗旨(スタンス)を替えろ』なんて話ならここで終わり。
麻薬(ヤク)を救済(スクイ)にする詭弁も、殺意も、どれも半身(カラダ)で覚えてる。
自己改造(いじく)った時に正気と狂気の境目(ライン)なんてとっくに超越(こえ)た。
こんな『怪獣』に、現実を見せたところでどうしようっての?」
極道と、極道以外は、決して相容れない。
怪獣は、破壊する対象を失っただけで怪獣のままだ。
何度ごっこ遊びをやっても、怪獣退治の専門家(ネビュラマン)役には魅せられなかったように。
それが『一人でも多くの葬者(マスター)を、病んだ現世に戻すために協力してくれ』という話であれば聴けない。
先端を鋭く伸ばしきった怪獣の爪を矢口の胸元に突きつけ、断言する。
少しでも気まぐれのように指を動かすだけで怪獣の爪は胴体を両断し、主従は共倒れになる。
死を覚悟する。
本能の警告が最大音量で警鐘を鳴らす。
不随意神経が、肌にどっと汗をかかせる。
矢口はつとめて呼吸をやり直し、先刻の水の味を思い出した。
飲用を可能にするわずかな添加物以外は混ざっていない、ただの軟水の味。
この場に至るまでに思ってきたことを再び言葉にする。
「君が『好きにしたい』というなら、俺にはその心までを糺すことはできない。
けど、怪獣になろうとした人のことなら、俺はもう一人だけ知ってる」
「怪獣がいなかった、あなたの世界に?」
「その怪獣を、生み出した人だよ」
『怪獣になりたかった男』のことを、会ったことはなくも知っている。
愛する者を放射能研究(せんそう)によって亡くして修羅になった教授だった。
核兵器を、戦争研究を、それに励む人類のことを憎悪していた。
間接的に、何万と殺して人類の命運も変えた大洪水を呼んだ。
ゴジラに成長促進剤らしき物質を投与して荒神に育て上げた、異形完全生物の親だった。
荒神が人類を滅ぼすことを予期した上で、己のやりたいことを仮託して『さぁ、己を倒してみろ』と。
――私は好きにした。君たちも好きにしろ。
人類に宛ててそう言い残した研究者も、最期は怪獣のいる海中に身を投げて取り込まれた。
「人間は、時にどうしようもなく怪獣になりたいという望みに取り憑かれる。
どれだけ被害が出ようとも、理解を得られなくても、『好きにする』」ことを選ぶ。
怪獣が出現する前の時代には戻れない以上、できるのは怪獣として接すること。
日本人にできたのは、リスクを孕むと分かった上で凍らせたゴジラと共存することだった」
かつては確かに人を超越した者達にも人の心があり。
その心の上から怪獣という狂いを纏ったというのなら。
第三国の核攻撃によって、ゴジラと共倒れすることを望まないならば。
慰撫と拘束とを繰り返しながらであっても、居座らせ続けるしかない。
日本という国は、最終的にはゴジラとの共存を選択した。
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「それなら、私を居座らせ続けたとしてどうするの?
貴方がなるべく穏便に帰りたいのは、絶食(ハンスト)っぷりを見て察したけど。
ここでは政治家(アナタ)の強みである人海戦術(マン・パワー)は使えないでしょう」
誰だって一人きりで、『好きにする』を通すのは難しい。
かつて極道が仕掛けた数々の悪事(ワルサ)において忍者の次に手を焼かせたのは、傑物として名を知られた総理大臣の主導する政府の水際対策だった。
サーヴァントとの共倒れを逃れたところで、矢口という一個人にできることはたかが知れている。
「脱出方法――正確に言えば、この『黄泉くだり』を災害と仮定して解明する方法は、探るつもりだ。
しかし他の葬者(マスター)もそれを望んでいる、誰もが一丸になれるという楽観視は持ってない」
死に紐づけられた者を葬者として呼び寄せた、というような匂わせ方をしたからには、死の淵に瀕したことがある者、己にとっての巨大災害のような、何をさておいても取り返したい後悔を抱えた者が多数混じっていても何らおかしくない。
サーヴァントに至っては、『願いをかなえるための一連托生』という前提で招かれたのだからなおさらだ。
『誰だってこんな場所からはただ穏当に帰りたいと思うはずだ』という希望的観測にすがりつけばどうなるか。
楽観視の招いた災いは、先の世界大戦と、巨大不明生物に対する初期対応によって実証されている。
「だから、マン・パワーに頼れるかどうかを抜きに、他の葬者(マスター)の声は聴いてみたいと思う。
この戦争は彼らにとって、逃れたい災害なのか、それとも甘受すべきカルネアデスの板なのかどうか」
「もしも、お役御免だって言われたらどうするの? カルネアデスの板は法で裁けないんでしょう?」
「まだ死ぬつもりは無い。だが、あの巨大災害に責を負う一人として、カルネアデスの板にしがみつくことはできない。
もしも本当に黄泉返りを果たせる葬者(マスター)が一人なのだと確定すれば、俺はその一人にはなれないよ」
勝利のために国民に銃口を向けることは、その勝利によって得られる恩恵が絶大だったとしても否である……という方針を先代の総理大臣は取った。
その例に限らず、『国民に犠牲を出した政治家は退陣しなければならない』というのは政治家が自らの芯に宿さねばならない絶対の裁定だ。
今度の戦いで懸かっているのは政治生命ではなく人間としての生命だが、
終戦を迎えた後、カヨコ・パタースン特使と薄曇りの空の下で互いの身の振りを話し合った。
自らの不始末には、自らでケリをつけなければならないと、その時から心は定まっていた。
だが、それはまだ今ではないと判断して、戦後復興に身命を捧げると決めた。
まだ死ねないという使命感と矜持はある。
生かされた者として、命を粗末にできないという楔も刺さっている。
しかし、もう板を譲ってもらう側ではなく、誰かへと譲るべき立場にいる。
「災害解決に最大の努力をする。最後まで諦めずに、巻き込まれた誰かを見捨てずにやっていきたい。
だが、事態の解決や聖杯を狙わない立場を抜きにして、未来のために俺ができることをしたい。
誰か一組しか黄泉返りを果たせないなら――誰かは未来を生きる可能性があるということだ」
今現在へと、たどり着けなかった命をたくさん見てきた。
ともにたどり着きたかった家族を亡くした者も大勢いた。
だからこそ。どんな形であれ生き残った者が、あるいは生き残ってしまった者が。
前を向いて、希望を持って生きていけるのかどうかは、気がかりだった。
もしも割れた鏡の中にいつかの自分、もしもの自分がいるかもしれないと思えば、人は眼を離せなくなる。
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「ランサーも、今はまだ首を斜めに振っている段階で構わない。
英霊の座に還るまでの喜劇、無謀に挑んだ男の失敗譚のつもりで観てくれていい。
『どんな形であれ人が救われるならそれに越したことは無い』とわずかでも思ってくれるなら、その時に協力を願いたい。
俺は外交相手にだってウソをつくし、場合によっては約束も破る。
決裂すれば俺の一命を持って、君に引導を渡す時が来るかもしれない。
しかし、相手から裏切られないうちに、相手を裏切ることは絶対にしない」
怪獣医は、生前の記憶を一つ思い出していた。
かの幼狂死亡遊戯において盟友をことごとく亡くし、それでも立ち上がった政治家がいたという報道を。
総理官邸ではほぼすれ違いのような形だったが、あの男もあるいは似たところがあったのかもしれないと思う。
この男は間違いなく、次代の政治家だ。
理屈と口数の多さはともすれば『不遜』や『頭でっかち』などと呼ばれそうなものだが、補うに足る指導力と才気の片鱗がある。
おそらく十年もすれば総理大臣に就任し、極道達からは『矢口の悪政』と激しく罵倒されていたことだろう。
それは世間一般にとっては、歓迎されるべき善政を敷いているという意味だが。
そして一般の極道だけでなく怪獣医――操田孔富にとっても、矢口への態度は保留以上にはならない。
快男児(イケメン)だとは理解した上で、しかし彼女の心にはすでに愛すべき唯一無二(ダーリン)がいる。
光の道を歩く男の輝きは、漆黒の慈悲を持った輝村極道の輝きにとって替わらない。
「他にいい葬者(オトコ)がいたら切らせて貰うわ」
「そうならないよう善処するよ」
その一方で。
はるか、空の星から来たネビュラマンが。
地球人に眼をつけて、興味を惹かれて、怪獣から護ろうと思ってしまったのは。
その人間に倣って、痛みを知るただ一人であれと、戦ったのは。
きっと、こんな人間を見たからだったのだろうな、と。
命を懸けて、命ある者の未来を守る。
その為ならば、己にとっての悪夢――『怪獣』とも共存すると。
そのように豪語した向こう見ずな未来の総理大臣に対して、そう解釈していた。
-
【クラス】
ランサー
【真名】
操田孔冨@忍者と極道
【属性】
混沌・悪
【ステータス】
筋力B 耐久A 敏捷A 魔力E 幸運D 宝具A
【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
現代の英霊であるため、クラススキルとして補正された最低限のランクに留まる。
【保有スキル】
医術(闇):A
故障したメジャーリーガーを治療させて復活させたりとかつては表社会で大いに活躍していた。
神の無刀という逸話を持つ天才外科医からも医師としては畏敬されるなど、同時代でも最高位の水準。
ただし闇医者としては双子の兄が開拓した『麻薬学(ヤクガク)』に大きな影響を受けており、時として『麻薬もお薬』という考え方で治療にあたる。
実質的に『外科手術』のスキルにも相当するが、外傷の治癒については手術よりも地獄への回数券を服用することが多い。
地獄への回数券:A
ヘルズ・クーポン。服用することで身体能力を始め、傷の再生能力から肉体の物理的強度までもを底上げすることが出来る。
開発者でもあるランサーは、回数券の作用から応用に至るまでを知り尽くしている。
また後述の宝具により、麻薬の過剰摂取にともなう副作用をノーリスクで踏み倒し、身体の活性化の効力のみを最大限に引き上げることができる。
自己改造:EX
自身の肉体に別の肉体を付属・融合させる適性。このスキルのランクが高くなればなるほど、正純の英雄からは遠ざかる。
後述の宝具によってランクはEX。操田孔冨は、極めて人工的な存在である。
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【宝具】
『極道技巧:驚軀凶骸(メルヴェイユ)」』
ランク:A 種別:対人 レンジ:1〜10 最大捕捉:数名
人間の首からさらに上半身が、腕は合計4本生えているという「異形」の肉体にして、操田兄弟の”願望(ユメ)”の到達点。
口から火焔放射を放ち、肉体そのものを突撃槍とした超高速全方位攻撃を放ち、宇宙星人のように分身の術を操り、多腕多足を生かしたプロレス技を駆使する、怪獣そのものの再現体。
『救済なき医師団(Doctor without Savers)』
ランク:B 種別:対人 レンジ:- 最大捕捉:-
表社会を追放された医療関係者で結成された闇医者のグループにして、孔冨の信奉者たち。各人に極道技巧を有する。
呼び声をかける孔冨自身が、彼らの苦しみが長引くことを望まないため、人格なき影のみの存在、シャドウ・サーヴァントとしての召喚に留まる。
シャドウとはいえ、マスターである矢口が一般人相応の魔力しか持たないため、複数人を同時に活動させるのは負担が大きく、推奨されない。
【weapon】
驚軀凶骸(メルヴェイユ)
麻薬およびメスなどの医療具。(地獄への回数券、天国への回数券含む)
【人物背景】
「怪獣医(ドクターモンスター)」の異名を持つ闇医者であり、医師集団「救済(すくい)なき医師団」のリーダー。
「法を守っていては救えぬ心がある」という独自の信念から薬事法を完全に無視しており、まるで処方薬感覚で患者に麻薬を提供している。その反面、戦いに巻き込まれた一般人に対して適切な治療で救助もしており、あくまでどんな形であれ人々を救済する事にこだわっているらしい。
医師にして怪獣。兄弟共通の望みを叶えるために、兄弟接合手術を敢行して誕生した怪獣。
人間(ヒト)を治癒する優しさと、忍者(ヒト)への憎悪を併せ持って生まれた怪獣肢体。
【サーヴァントとしての願い】
不明。大海嘯の再現不可能性については思うところがあり、傷心した様子は見える。
【マスターへの態度】
あのスタンスでは遠からず病んでいくだろうと確信して、しばらくは経過監察に回る。
性根が根本から変わったわけではなく、聖杯戦争においても『怪獣役』を纏ったまま。
令呪『マスターの許可なく麻薬を他者に渡してはならない』の効果により、麻薬の譲渡、売買、水道混入等の『他者に行き渡らせる』行為全般を禁じられている。
これに伴い、本来は制約がなければいくらでも麻薬をばら撒き、安楽死や現実逃避の手段としても推奨していることから、『再契約をすること(麻薬を譲渡可能にすること)』に軽めの心理的枷がかかっている。
(再契約を禁ずると具体的に命じられたわけではないため、あくまで『今のところはそういう気分じゃない』程度のもの)
【マスター】
矢口蘭堂@シン・ゴジラ
【マスターとしての願い】
生き残った者として、戦後を見届ける
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【能力・技能】
政治家として培った指導力、交渉力などの頭の冴えと、被爆のリスクがある中で最前線に赴くこともいとわない胆力。
インターネットの動画配信を見ただけの段階で巨大不明生物がいる可能性を提唱する、鉄道趣味が高じて無人在来線爆弾を発案するなど、現代の一般人としてはかなり柔軟な思考回路を有している。
【人物背景】
里見祐介臨時内閣の内閣府特命担当大臣(巨大不明生物防災担当)及び巨大不明生物統合対策本部副本部長
39歳の与党衆議院議員。三代続く政治家一族の生まれで、父の死を機に、大手商社勤務のサラリーマンから政治家へ転向した。世襲議員であることの強みを生かし、30代半ばで現在の要職に就いた政界の傑物。
国をより良くしたいという信念を持っているが、そのためには親たちが築いてきたコネを最大限に利用する、アメリカから表に出さない約束で仕入れたゴジラ関係の機密情報を第三国に横流しするなど、手段を選ばない傾向もある。
【方針】
冥界堕ちを『特異災害』と認識した上で、事象の救命に臨む
もしも生還の目途がつかないようであれば、その際は救命ボートを他者に譲る。
生還者が生きる未来の為にできることを探す
【サーヴァントへの態度】
危険性、時として極端なまでの独善性を理解した上で、ゴジラとの共存を選んだ世界の人間として『従順なサーヴァントと再契約する機会があれば切り捨てる』ような関係では終わりたくないと思っている。
もしサーヴァントの暴走によって他の葬者が被害を受けるようであれば、六時間後の自死を厭わず始末をつける覚悟はある。
令呪一画、『マスターの許可なく麻薬を他者に渡してはならない』をすでに使用済み。
-
投下終了です。お待ちいただいた方にはありがとうございました
-
ありがとうございます。では改めて投下します。
-
アーチャーが肩で息をしながら言った。
「逃げろ、マスター……あいつは……ただのサーヴァントじゃない」
その視線の先には、■■■がいた。
§
-
朝。砂狼シロコの顔を、朝日が照らす。
冥界にも関わらず、作り出された太陽は聖杯戦争の舞台を照らしていた。
「ん……」
太陽の眩しさに目をしかめつつ、シロコは自転車を駆って東京都内を走る。
ライディンググローブに隠れて見えづらいが、自転車のハンドルを握る手の甲には令呪が刻まれており、彼女が葬者であることを示していた。
「あの人は――」
自転車を漕いでいると、シロコの見知った人物を見つける。
挨拶混じりに自転車を止め、軽く話してから再度出発する。
そうして行く先々で顔見知りに会いながら、いずれ戦場と化す都市を自転車で回る。
まるで、最後の日常を過ごすかのように。
シロコ自身がキヴォトスの民であるからか、その身体の強度は常人とは比べ物にはならない。
それゆえに、疲労を知らずにペダルを漕ぎ続け、何時間もかけて二十三区を横断してしまうかとも言える距離を走った。
おそらく、走行距離は100キロメートルを悠に超えるだろう。
「……」
そこまで走ったところで、シロコは人気のない場所に入る。
ブレーキを踏んで停車し、その場に佇み一人考え込む。
「……ん、目撃情報なし」
気配がないことを確認して、シロコは自身の右手にある令呪に視線を落とす。
「やっぱり、今のところ表立って動く主従はいないみたい」
頭に生えている獣の耳を少しだけ垂らせながら、残念そうに呟いた。
§
-
「グガアアアアッ……」
「アーチャー!?」
気づいたら、アーチャーの姿はなかった。
まるで、はじめから存在しなかったかのように。
その代わり、■■■が見下ろすように眼前に立っていた。
「話をしようじゃあないか……砂狼シロコ、だったか」
本能が警鐘を鳴らしていた。こいつは危険。今すぐに逃げるべきだと。
しかし、足が動かなかった。恐れおののいていたのもあるかもしれない。
だがそれ以上に、その声に心が安らいでしまっていた。
§
-
その夜、人通りの少なくなった路地で、シロコは息を潜めていた。
念のためドローンを飛ばしてみて、映像を確認する。シロコの姿が目撃される可能性はゼロに等しい。
シロコ自身しかシロコの行動を知る者がいないと踏んで、行動に出る。
「……っ!」
シロコが飛び出した先には、仕事帰りかあるいは夜の散歩か、若い女性が一人歩いていた。
続けざまにシロコは銃身を取り出し、女性の頭に思いっきり叩きつけた。
「あぐっ……」
蚊の鳴くような大きさの悲鳴だった。
シロコの姿を視認する間もなく倒れ伏した女性を、シロコは片手で軽々と抱えて運び去る。
そのまま、気絶した女性を待機させていた車に放り込み、自ら運転して走らせる。
車の中には、女性の他に既に数人の人間が担ぎ込まれていた。
目を見張るような手際のよさだった。
「今日の分の魔力の糧を確保した」
そう冷淡に言うシロコの表情は歪むことはなかった。
「ん、これから帰還する」
§
-
「……ッ!!」
「そう警戒しないでくれ。私は君を誘いに来たんだ」
「弾丸が……消えた!?確かに命中したはずなのに……!」
動揺しているうちに、■■■が顔を近づけてくる。
「砂狼シロコ……君は大切なもののためなら銀行強盗をも厭わないらしいじゃあないか」
「なぜそれを知って――」
「少しだけ……『真実』を見せてもらっただけさ。私はね、君を気に入っているんだ」
退避しなければ。
サーヴァントを失い、こうしている今も運命力が擦り減っている。
それが分かっているのに、目の前のサーヴァントから目を逸らせない。
「君は……自らの運命に恐怖したことはあるかね?」
「運、命……?」
こんな状況なのに、■■■の言葉に耳を傾けてしまっている自分がいた。
運命。運命。
確かに、一度は、恐れたことがあるかもしれない。
キヴォトスを終焉に導く運命を背負うことになった、もう一人の自分を見た時。
他人事とは、思えなかった。
「私はね、シロコ。君が心の奥底に抱いている恐怖を取り除いてあげようと思っているんだ。君には資格があるからね」
「何の、資格……?」
「それはね――」
§
「――『天国』に行く資格さ」
「ぐっ……!?」
その瞬間、目の前にいたサーヴァント――DIOの分身ともいえる像の拳に、身体を撃ち抜かれていた。
§
-
「DIO様、ただいま戻りました」
「シロコか。首尾はどうだ?」
「はい……ご命令の通り、魂喰いの材料となる人間を集めて参りました」
そこに佇んでいたのは、セイヴァーとして召喚されたサーヴァント――DIOが立っていた。
そしてシロコは、DIOのマスターであるにも関わらず。まるで忠実な僕であるかのように、跪いていた。
「よくやったぞ……これで魔力にもう一段階余裕ができた」
「DIO様にお喜びいただけて、このシロコ、嬉しく思います」
シロコの表情には一点の曇りもない。
まるで飼い主の感情に寄り添う犬であるかのように、純粋にDIOの役に立てたことに満足している様子だった。
ただ一つ、普段のシロコと違う点は、彼女の頭の上に浮かぶ光輪――ヘイローに、「DIO」の文字が「上書き」されていたことだ。
DIOは跪いたままのシロコを横目に、攫ってきた人間をそのスタンドで葬り、魂を喰らって魔力の糧にする。
DIOの出したスタンドは『ザ・ワールド』ではあるが、そのスタンドカラーはDIOの真っ白な肌と金色の髪と同様に、白と金の混色だった。
そのスタンドの名は『ザ・ワールド・オーバーヘブン』。
ここにいるDIOは、空条承太郎達に勝利した時間軸の、「天国に到達したDIO」なのだ。
「ところで、もう一つの方はどうだった?」
「それは……申し訳ございません。DIO様の『手駒』からは有益な情報を得られませんでした」
シロコは冷や汗を浮かべながら、DIOの望む結果を得られなかったことを心底恥じるように謝罪する。
「構わない。まだ聖杯戦争は予選期間だ。焦るようなことじゃあない」
顔を上げないシロコに対し、優しく語りかけるDIO。
DIOは『ザ・ワールド・オーバーヘブン』によって相当数のNPCを洗脳し、都内に放っていたのだ。
今朝シロコが話していた顔見知りはすべてDIOの手駒であり、偵察の報告を受けていたのであった。
無論、その結果はシロコの話した通りだが。
『ザ・ワールド・オーバーヘブン』。その能力は、「真実の上書き」。
DIOはこのスタンドを用いて、シロコの本来のサーヴァントであったアーチャーを消滅させ、シロコを自身と契約させた上で洗脳し、自身の傀儡とした。
スタンドで触れた者の真実を上書きする――それは「消滅」を願えば消滅し、「契約」を願えば契約が交わされ、「服従」を願えば忠実な下僕が誕生する。
それは、自分の思った通りの真実を作り出せる能力なのだ。
DIOの本来のマスターだった者も、この能力をもって跡形もなく、消した。
「なあシロコ……なぜ私が、この冥界の聖杯戦争に呼ばれたのだと思う?」
「それは――」
口に出そうとしたシロコは、ハッとして口を噤む。
DIOは寿命とは程遠い存在だ。それで命が尽きるとは思えない。
ましてや天国に到達したDIOは、あらゆる弱点をも克服している。仮に太陽の下に出たとして、もはや脅威には成り得ない。
何より、シロコは知らされている。あらゆるDIOの覇道の前に立ち塞がってきた、忌まわしき血統を。
もしDIOが死亡する理由があるとすれば――。
「……シロコ、君は今、『私が負けた』と考えたんじゃあないか?」
「い、いえっ、そんなことは……!」
「いいんだ。私にまつわる伝承がそうだと言っている。残念だが、我がスタンドをもってしてもこの『真実』は変えようがない」
DIOは記憶している。
「基本世界の」DIOが辿った歴史も、「天国に到達した」DIOが辿った歴史も。
その結末はいずれもジョースターの血統に敗北する結末で幕を下ろしていた。
「なあシロコ。重ねて問うが……このDIOに『天国』と『冥界』、どちらが似合うと思う?」
「『天国』でございます、DIO様」
シロコは答える。即答だった。
「そうだ。このDIOが『冥界』にいるなど、相応しくない。だが、この変えられぬ真実も、あれがあれば『上書き』できる」
「そう、聖杯の力があれば」とDIOは続ける。
「しかし、そのためにはシロコ、君の力も必要だ。私が聖杯を手にすれば、君と君が大切にしている人だけじゃあない、君の世界すべてを救済できる。力を……貸してくれるな?」
DIOは跪いているシロコに向かって手を差し伸べる。
ここでシロコは、はじめてDIOの前で顔を上げる。
……本来のシロコであれば。この誘いは当然蹴っただろう。
あまねく奇跡の始発点に到った彼女ならば、銃口を向けたであろう。
「勿論です、DIO様」
しかし、シロコは存在を『上書き』されてしまった。
真実を上書かれた彼女はすべてを忘れ、もはやDIOの忠実な下僕でしかない。
「あなたのために、命を捧げます」
狼の神は、泥に沈んだ。
泥に沈んだ狼は、もう星を見ることはない。
-
【クラス】
セイヴァー
【真名】
DIO@ジョジョの奇妙な冒険 アイズオブヘブン
【パラメーター】
筋力EX 耐久EX 敏捷EX 魔力EX 幸運EX 宝具EX
(『天国すら越えた世界』を使用した際のステータス)
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
カリスマ(悪):EX
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。
セイヴァーの場合は悪の救世主としてのカリスマ。もはや魔力や呪いの類である。
対英雄:A-
英雄を相手にした際、そのパラメータをダウンさせる。
ランクAの場合、英雄であれば3ランク、反英雄であれば2ランク低下する。
ただし、黄金の如き精神を持つ者に対しては特に効果が薄く、1ランク低下に留まる。
【保有スキル】
天国に到達した者:EX
世界の頂点に君臨したセイヴァーを象徴するスキル。厳密には宝具によって得たスキル。
本来持ち得ないスキルを、本人が主張することで獲得できる。
獲得可能なスキルに制限はなく、あらゆる英雄の持つあらゆるスキルをセイヴァーの望むがままに獲得できる。
【宝具】
『天国すら越えた世界(ザ・ワールド・オーバーヘブン)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1〜10 最大補足:∞
生命が持つ精神エネルギーが具現化した存在。所有者の意思で動かせるビジョン『スタンド』。
セイヴァーは世界を支配した世界線の側面が反映されて召喚されたため、時を止める能力を捨て去り、進化させたスタンドを使用する。
その能力は「拳で触れたものの真実の上書き」であり、現実の改変。
例えば「消す」という意思を持って殴れば相手がどんな能力を持とうが問答無用で消滅する。
「部下にする」という意思を持って殴れば相手がどんな思いを抱えていようと問答無用で洗脳、忠実な手下になる。
「契約する」という意思を持ってマスターを殴れば強制的にマスターとそのサーヴァントの主従関係を破棄し、自分と契約させることができる。
その能力は防御方面にも生かされており、「ダメージをなかったことにする」などあらゆる方面に応用できる。
その現実改変の強制力も非常に強く、「無限の回転エネルギー」や「決して真実に到達することのない能力」も拳の一振りで無効化した。
ただし、此度の聖杯戦争ではサーヴァントとして召喚されたことで、「死者の蘇生」「時代を越える」など聖杯戦争を根本から覆し兼ねない能力は制限されている。
【weapon】
・『天国すら越えた世界』のスタンドヴィジョン
スタンドで格闘戦を行うことが可能。
そのスタンドによって触れられたが最後、「真実」を「上書き」される。
【人物背景】
エジプトにてジョースターの一行を返り討ちにしたのちに世界征服を成し遂げた世界のDIO。
とある異変では自身の世界では飽きたらず基本世界へ侵攻し、時代を越えて集結したジョースターの血統と対峙した。
【サーヴァントとしての願い】
『邪魔者は存在しない』という『真実』に到達し、あらゆる世界を支配する。
【マスターへの態度】
自身の忠実な下僕。
より優秀なマスターがいれば、下僕にした上で「乗り換える」つもり。
尤も、シロコのことは個人的に気に入ってはいる。
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【マスター】
砂狼シロコ@ブルーアーカイブ
【マスターとしての願い】
■■■■■■■■■。
DIO■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■ない。
■■天国■■■■■■■■■。■■■運命■■■■■■■■■。
■■私■■■■■て。
DIO様の聖杯獲得のために命を捧げる。
【能力・技能】
兎にも角にも頑強である。
サーヴァント相手ならそうもいかないが、銃弾や多少の衝撃程度は物ともしない。
武器はアサルトライフル。常に整備がされているため、いかなる状況でも問題なく使用できる。
【人物背景】
アビドス■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■、
■■■■■アビドス■■■■■■■■■■■■■■■■■。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
天国の到達したDIOのマスターであり、忠実な下僕。
DIOのためであれば、自ら命を捨てることも厭わない。
そのヘイローには、「DIO」の文字が上書きされている。
【方針】
元の世界に帰る。
■■■■■■■。
■■■■■■■■■■■■■■■■。■■真実■■■■■■■■■■■■■。
ごめん■■■。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■せいで。
■■■■■■■■■■■■?
先生■■ホシノ■■■■■■■■■■■■て。
DIOの命令に忠実に動き、
DIOの障害のなる者がいれば誰であろうと排除する。
【サーヴァントへの態度】
■■、■■■■■■■。
天国に到達したDIOを崇拝している。
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以上で投下を終了します。
タイトルは「天国」でお願いします。
なお、砂狼シロコの能力・技能欄の記述には◆0pIloi6gg.氏の投下の記述を参考にさせていただきました。
この場を持ちましてお礼申し上げます。
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拙作「天国」の砂狼シロコのステータスシートの方針欄に不要な文字列が混入してしまっておりましたので、収録時に削除しておきます。
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投下します
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深夜の路地裏。
そこで、一つの勝負が決着を迎えた。
敗北したサーヴァントは、残滓も残さず消滅。
残されたのは、頭部がはじけ飛んで首なしとなったマスターの死体。
そしてそれを見下ろす、勝者たちだ。
「ギャーハッハッハ!!」
「ぽーっぽっぽっぽっぽ!!」
マスターが笑う。サーヴァントが笑う。
狂気が、場に満ちる。
彼らは、共に怪物だった。
どちらも頭部があり、四肢がある。
そういう意味では「人型」だ。
だが彼らの姿を見て、人間だと認識する者はまずいないだろう。
マスターは、岩だ。
全身が岩で構成されている。
その頭部に貼りつく顔は、人間よりもシンプルで、それでいて禍々しかった。
サーヴァントは、マスターよりはまだ人間に近い。
だが、大きい。そして太い。
身長は2メートルを優に超え、その肉体の隅々までが分厚い筋肉に覆われている。
身に纏う白い帽子とワンピースは、本来ならば見る者に清楚なイメージを与えるのだろう。
だが筋肉の圧倒的なインパクトの前に、その印象はかすんでしまっている。
彼らは、協調性に乏しい。
他者と組むというのは、不可能とはいわずともなかなか困難な道のはずだった。
だが一つの共通点が、彼らを結びつけた。
それは「侮っていた人間に敗れ、殺された」こと。
もう二度と、あんな屈辱はごめんだ。
今度こそ、勝者となってやる。
それが、彼らの共通の思いだった。
魔王の弱さから生まれた残虐なる魔物、グランナード。
自分以外の全てを苦しめることを存在意義とする妖怪、八尺様。
彼らはこれからも、殺戮を続けるのだろう。
人類か自分たち、どちらかが滅びるまで。
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【CLASS】アヴェンジャー
【真名】八尺様@八尺様がくねくねをヌンチャク代わりにして襲ってきたぞ!(「致死率十割怪談」収録)
【ステータス】
筋力B 耐久A- 敏捷B 魔力C 幸運E 宝具C+
【属性】混沌・悪
【クラススキル】
復讐者:B
復讐者として、人の怨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。怨み・怨念が貯まりやすい。
周囲から敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情はただちにアヴェンジャーの力へと変わる。
忘却補正:A
人は忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。
時がどれほど流れようとも、その憎悪は決して晴れない。たとえ、憎悪より素晴らしいものを知ったとしても。
忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃はクリティカル効果を強化する。
自己回復(魔力):D
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。魔力を微量ながら毎ターン回復する。
【保有スキル】
怪力:B
怪物、魔獣のみが持つとされる攻撃特性。使用することで一時的に筋力を増幅させる。
一定時間筋力のランクが一つ上がり、持続時間はランクによる。
頑健:A-
耐久のパラメータをランクアップさせ、攻撃を受けた際の被ダメージを減少させる。
アヴェンジャーの場合、たゆまぬ鍛錬により刃物も通さぬ肉体を手に入れたという逸話がスキルとなった。
ただし討伐された時の逸話から、精神的に動揺すると無効になってしまうという独自の弱点を抱える。
天性の魔:C
英雄や神が魔獣と堕ちたのではなく、怪物として産み落とされた者に備わるスキル。
近代の妖怪であるアヴェンジャーは、純粋な怪物としての格はそれほど高くない。
【宝具】
『ヌンチャくねくね』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:1-20 最大捕捉:5人
SSS級妖怪であるくねくねが、地獄を象徴するパズルであるリンフォンを持ち手として取り付けられ、武器に成り下がった姿。
本来くねくねは目視した人間の脳を破壊する能力を持つが、他者の宝具となったことで神秘が低下し、能力も弱体化。
複数回目視させなければ、脳の破壊には至らない。
とはいえ一度ごとに脳へのダメージは入るため、強力な効果であることに違いはない。
あくまで視覚に作用する能力であるがゆえに、目を閉じるという単純な方法で対処は可能。
ただしその状態でアヴェンジャーと戦う手段があれば、の話だが。
【weapon】
『ヌンチャくねくね』
【人物背景】
江戸時代にとある村に出現し、50人以上を呪い殺した妖怪。
しかし生き残った村人たちによって袋叩きにされ、物理的に封印された。
この件で呪力の限界を悟った彼女は、筋力に新たな可能性を見いだし鍛錬を開始。
数百年の後、封印を物理的に破壊して復活を果たした。
その後は自分を封印した村人たちの子孫に復讐するため、村を支配して神聖八尺様帝国を建国。
だが彼女に家族を殺された一人の青年との戦いで本来持ち得ないはずの「恐怖」を感じてしまい、力を失って討たれた。
【サーヴァントとしての願い】
神聖八尺様帝国の復活
【マスターへの態度】
信用してはいないが、能力面は評価。
今のところ逆らうつもりはない。
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【マスター】
グランナード@ダイの大冒険 勇者アバンと極炎の魔王
【マスターとしての願い】
元の世界に戻り、勇者一行を皆殺しにする
【能力・技能】
『花崗岩との一体化』
肉体を構成する物質である花崗岩に一体化することが可能。
拠点である地底魔城は全体が花崗岩でできていたため、「床への潜行」「武器の生成」「床や壁を変形させての攻撃」などの形で猛威を振るった。
しかしコンクリートとアスファルトに覆われた都市部の戦いでは、この能力を活かすのは困難だろう。
【人物背景】
魔王ハドラーが、勇者一行を迎え撃つために急遽拠点の壁から生み出した魔物。
追い詰められたハドラーの精神状態が反映されており、残虐で下劣な性格をしている。
地の利を持つ自分の圧倒的有利を疑わず勇者一行に挑むが、僧侶レイラに体内の核を破壊され死亡した。
参戦時期は死亡後。
【方針】
皆殺し
【サーヴァントへの態度】
信用してはいないが、強さに関しては高く評価。
せいぜい利用させてもらおう。
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投下終了です
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投下します
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糞尿の匂いがする。
子供の頃からずっとそうだった。浅倉威の周囲には糞尿の匂いのついた黒い手が無数に漂っていて、体に纏わりついてくる。
サーヴァントになっても。冥界という場所に来ても。それは変わらなかった。
血の匂いだけが黒い手を駆逐する。だから威は人を殺す。人間として生きていた頃となにも変わらない。
違う点は一つだけ。マスターという面倒な存在がいることだ。
「やめな」
マスターは女だった。名前は言われた気もするが覚えていない。
目についたスーパーで人間を殺そうと思ったところを呼び止められた。
「まだ聖杯戦争とやらは序盤でしょ。いきなり目立つのは……」
「うるせえ。知るか」
こいつも他の人間と何も変わらない。死んでない人間はどいつもこいつも臭い。
マスターだから殺しはしないがそれだけの存在だ。従うつもりはないし興味もなかった。
威は駐車場の車の後部ガラスをぶち破り、一番鋭い破片を持って店内に入った。
ちょうど外に出ようとしていた男と鉢合わせて、そいつの喉を切り裂いた。
血が勢いよく吹き出す。静寂。悲鳴。そしてまた血。
威に近づいた人間から老若男女問わず、血と臓物を撒き散らして死んでいった。
女がひとり、威が離れた隙に出入り口から逃げようとしていた。逃がすつもりはなかった。
自動ドアが開いて女の右足が外に出る。威はガラスを持った手を振りかぶった。
投げようとして――それよりも先に女は倒れた。店の中に向かって。
「あ?」
胸を血に染めて絶命している。その向こうには別の女が立っている。
見覚えのある女。威のマスター。
「あーあ。せめて最初のうちくらいは大人しくしてようと思ってたのに」
女は手に持ったナイフを見つめながら言った。
「まあ痕跡消すのは慣れてるし。目撃者を残さなきゃなんとかなるか」
そう言うと女はナイフを投げ、走った。
立ち竦んでいた男の心臓をナイフが貫くとほぼ同時に引き抜いて、隣の男の頸動脈切り裂く。その勢いのままに女は次々と殺していった。
若い女だった。髪が長くて、胸がでかい。
少し変わった髪色をしていた。ちょうどいつの間にか威の足元に転がっていた菓子(キャラメル)と同じ色。
女からは、糞尿の匂いがしなくなっていた。
-
●
どうしてみんな人を殺さないんだろう。
小さい頃からずっと思っていた。
世の中は人を怒らせ、不快にさせ、イライラさせるもので溢れている。
なんでこんな世界でみんな誰も殺さずに生きていられるんだろう。
彼女には無理だった。
仕事に疲れた中年が酒を飲まないとやってられないように、彼女は人を殺さないとやってられなかった。
自分が世間にとって異端者であり、少数派であることは理解できている。しかし彼女からすれば世間のほうこそが異常だった。
自分のサーヴァントが人を殺したがっていることはすぐにわかった。自分がそうするときと同じ雰囲気をしていたから。
警察相手ならどうとでもできる自信があるが、今回の敵はどんな力があるかもわからないサーヴァントだ。
最初の内くらいはなるべく控えようと思っていたが、思うがままに暴れる彼の姿を見て、馬鹿らしくなって自分もやってしまった。
殺人鬼の知り合いはいたけど、こうやって誰かと一緒にやるのは初めての経験だった。
悪くない感覚だった。
「せっかくスーパー貸し切りにしたんだし、高い肉でも持って帰ろうか」
スーパーにいた人間を全員きっちり逃さず殺し尽くし、一通りの証拠隠滅も終えたあとに彼女は言った。
「あんたはなにか食べたいもんある?」
質問を聞いているのはいないのか。サーヴァントは言った。
「おまえ、名前なんつった?」
「一度名乗ったはずだけどね」
覚えていないことには怒りと呆れを覚えるが、同時にまあそうだろうな、という感じもした。
彼女は答えた。
「私の名前は……」
【マスター】
伽羅@死亡遊戯で飯を食う。
【人物背景】
殺人鬼。
彼女が人を殺す理由は快楽目的というより、人や物に八つ当たりする行為の延長である。一言で言えば『イライラするから』
本人に言わせれば、周りから殺したい気分にさせるから殺しただけで望んで殺したわけではない。
とはいえ殺しを楽しむ感情もあるし、実力者との殺し合いでも高揚する。
若い女にコスプレじみた格好をさせて行わせるデスゲームに参加していた。
プレイヤー間の殺し合いを推奨するルールのときもそうでないときも彼女を慕う者以外の全てのプレイヤーを全員殺してきた。
あまりにプレイヤーを殺したため、一時期はデスゲーム界隈をプレイヤー不足に陥らせたある意味伝説的存在。
【マスターとしての願い】
自身の蘇生。
【能力・技能】
殺人鬼として生きてきて培われた戦闘力や、隠蔽知識。
デスゲームで一般人には入手困難な武器を使用した経験もある。
体のあちこちに防具として金属を埋め込んでいる。
『防腐処理』
デスゲームのプレイヤーに施される肉体改造。
血液が体外に出るとぬいぐるみの綿のような白いモコモコに変化する。
自動的に止血がされ、体が腐ることもない。
手足の切断のような大怪我を負っても然るべき治療を受ければ大抵は完治する。
一般的な病院で然るべき治療ができるかは不明だが。
【サーヴァントへの態度】
殺人鬼仲間として仲良くやっていこうと思っている。
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【CLASS】
ライダー
【真名】
浅倉威@小説 仮面ライダー龍騎
【性別】
男性
【属性】
混沌・悪
【ステータス】
筋力A 耐久B 敏捷B 魔力C 幸運D 宝具D
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
【固有スキル】
仮面契約者:B
ミラーモンスターと契約したもの。
エンブレムを使用することでミラーモンスターの力を得て仮面契約者(ライダー)王蛇に変身できる。
鏡を通ってミラーワールドに移動する能力は失われている。
変身ヒーロー(悪):C
変身状態でないとき敵の奇襲、先制攻撃の成功率を下げる。
戦闘続行:C
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、死の間際まで戦うことを止めない。
【宝具】
『命蝕む毒の蛇(ベノスネーカー)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:5人
巨大なコブラの姿をしたミラーモンスター。
仮面契約者に変身する力の源。王蛇と共にベノスネーカー自身も戦闘が可能。
口から強力な毒液を吐く。王蛇は毒液に耐性があり、吐き出される毒液の勢いに乗って蹴る連携技を持っている。
【weapon】
王蛇に変身するとベノサーベルというドリル状の剣を使える。
【人物背景】
母親に汲み取り式の共同便所に産み捨てられた。
自力で便所から這い上がったがあの時の糞尿の臭いがいつまでも追いかけてくる。
本来はバーサーカーに非常に高い適正が持つ、彼の行為を異常と思わないマスターに呼ばれたことで、ライダーのクラスがあてがわれた
【サーヴァントとしての願い】
ミラーワールドで戦い続ける。
【マスターへの態度】
誰がマスターだろうとどうでもよかったが……
【方針】
殺したい時に殺したい奴を殺したいように殺す。
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投下終了です
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投下します
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槍が、突き立てられる。
そこにあるのは、無数の使い魔の亡骸。
セイバーは、己の状況に酷く恐怖していた。
魔術の痕跡を残した己のミスでこの状況になっているのもあるが、原因は眼の前の主従。
黒髪、青い装束を纏った少女、クラスは戦い方を見るにバーサーカーか?
それと同時に、いや、恐怖度ならあちらのほうが上か。
大剣携え、ボウガンの付いた義手、そして黒いマントの大男。
少なくとも、この聖杯戦争と同じ時代に生まれてないものであるのは確かだ。
奴が――この使い魔達を全部仕留めた。
「…ッ!■■■■■■!」
少女の突きが、セイバーを貫いた。
痛みにたじろぐセイバーが振り向くと、そこには自身のマスター。
「!?令呪をもっ…」
奥の男が、投げナイフをマスターに投げる。
「ひぃぃぃぃ!」
その瞬間、セイバーの怒りが爆発する!
自身のマスターを傷つけられた恨み、それをあの男に叩きつける!
油断していたのか、バーサーカーの槍はすぐ抜けた。
驚いているバーサーカーを他所に、セイバーはいっきに男に迫る。
しかし、その剣は――
「…サーヴァントでも、瀕死なら、一溜りもねぇだろ」
瞬間、男の義手が開いた。
そこから放たれるのは、巨大な魔物も仕留めるであろう、砲術。
セイバーはそれを至近距離、そして瀕死の状態で受けた。
その結末は――語る必要ない――
◆
東京の路地裏。
ゴミの匂いに包まれた路地裏。
そこに男、ガッツは座り込む。
「クソが…まともに剣も持てねぇ…」
銃刀法という法に飲まれ、行動を制限される。
人混みの中では「コスプレ」とやらの名目で誤魔化し、殺し合いへと出向く。
そんな、窮屈な中でガッツは過ごしていた。
「…その分、お前は良いよな、体が見えなくできるんだからよ」
出てきたのは、自身のバーサーカー。
青い装束を身に纏った少女、美しい悪魔のような風貌。
そして、数多の敵を刺殺した槍。
「■■■…」
「何言ってかわかんねぇよ…まぁいい…そろそろ出るぞ」
夜も更け、人混みも無くなってきた。
警察の目を気をつけながら、ガッツは路地裏から出る。
「亡者どもは知らねぇんだろな…こんな平和に見せかけたクソみたいな世界にいることを」
願望機に生み出された、冥土の都市、東京。
今宵も黒の剣士が、夜空の下で血を流しあう。
◆
身体は――嫉妬でできていた。
悪魔の力を宿し、現世へと蘇った。
S級悪魔、それが彼女の強さを表す数値。
兄に近づく女共を焼き払うために戦い続ける。
バーサーカー――緒方カンナとは、そう言うサーヴァントなのだ。
今宵も、願いのために、血を流しあう。
-
【CLASS】バーサーカー
【真名】緒方カンナ@Engage Kiss
【ステータス】
筋力B 耐久D 敏捷B+ 魔力A 幸運E 宝具B
【属性】混沌・中庸
【クラススキル】
狂化:C
魔力と幸運を除いたパラメーターをランクアップさせるが、
言語能力を失い、複雑な思考ができなくなる。
【保有スキル】
心眼(偽):C
第六感による危険回避。
千里眼:B
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。また、透視を可能とする。
さらに高いランクでは、未来視さえ可能とする。
怪力:A
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。
バーサーカーは本来は人間だが、悪魔とのハーフのため、使えるようになった。
悪魔召喚:――
自身の眷属となる悪魔を召喚できるスキル。
しかし、バーサーカーで召喚されたため、使用不可となっている。
【宝具】
『蒼の魔槍』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
バーサーカーが最初から持っている槍。
この槍で行く数多の敵を葬り去ったためか、宝具となった。
ランクの高い宝具だが、本人とマスターの魔力の高さもあり、平時使用を可能としている。
【weapon】
『蒼の魔槍』
【人物背景】
災害によって死んだはずの少女。
兄を守るために、焼きもちで地の底から這い上がった少女。
【サーヴァントとしての願い】
お兄ちゃんから悪い虫を排除する
【マスターへの態度】
願いを邪魔しない限り、普通に付き添い続ける。
【マスター】ガッツ@ベルセルク
【マスターとしての願い】
ゴッド・ハンドと使徒への復讐
【能力・技能】
大剣「ドラゴン殺し」を扱える技量。
投げナイフにボウガンと、様々な武器を揃える。
【人物背景】
過酷の運命に晒されていった――「黒の剣士」
――もう誰も、喪わない。
【方針】
聖杯を勝ち取る。
だが、同時にこんなクソみたいな事をさせることに関しては相当苛立っている。
【サーヴァントへの態度】
使えるだけ使う
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投下終了です
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投下します
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「…あったかい」
月光の中。一人の少女が、血に濡れる。
掌は真っ赤に染まり、口元は食べることを学んだ幼子のように汚れている。狂気であろうナイフは血に塗れながらも月光を反射し、存在感を主張している。
セーラー服にミニスカート、ベージュ色のセーター。纏っているそれらも赤のグラデーションを加え、まるでそれが自然であるかのように溶け込んでいる。
血液の主人は、男か。倒れ伏したその姿はあまりにも弱々しく、学生服が辛うじて男がまだ少年と呼ばれる年齢だと察することができる唯一の情報源と化していた。
だらだらと。血の池を作りながら、男は既に息絶えている。
その中で。血の池を両手で掬い、少女は口に運ぶ。
ちう。ちう。そんな可愛らしい擬音を思わせながら、少女の喉を鮮血が潤していく。
笑顔。心からの、笑顔。およそ人間が一生に一度浮かべることができるかどうか、そんな幸せに満ちた顔。
男の右手に刻まれた幾何学模様の痣が、消える。それがこの戦争に必要なものであると、少女は理解していない。
「熱っ…?」
少女はサーヴァントを見ることはなかった。男の背後をつけて、一刺し。致命傷だった。
気配すらなかったそれは、サーヴァントを呼ぶ暇すら与えず。男はあっという間に、少女の愛となった。
故に、少女は。己の背後の光が、何なのかを知らない。
ネックウォーマーに隠された首の付け根に、熱が走る。それが令呪の発現であることを少女が知るのは、もう少し後。
「───問うよ」
赤い肩当てに、白を基調とした衣装。
特徴的な緑の長髪。
「サーヴァント・ランサー。この度をもって、この聖杯戦争に現界したわ。
…貴女が私のマスターね?」
それは。
好きに生きた少女の、たった一度のチャンスの物語。
「やです」
「…嫌ですって…何回目?」
-
そして。数週間後、まだこの冥界にて生き抜いていたランサーと少女は、出会った場で男が使っていたであろう家屋の中で寛いでいた。茶のソファに寝転がっている少女。ごうんごうんと、血に濡れたスカートが洗濯機の中で踊る音が部屋に響く。
男の遺体はランサーが跡形もなく消し飛ばしたため、警察の捜査の手は及ばない。否。それだけではない。
少女の危機察知・回避能力が高いのだ。口から出まかせもあれば、警察の手が届く頃にはその場から消えていく。いくら魂のない木偶人形が相手とは言え、手慣れている。
殺してきたのは一人や二人ではないのだろう。あまりにも、それが日常だと言わんばかりにするすると大人の手をくぐり抜けるのだ。
「だーかーら、やです」
故に。聖杯戦争に乗り気なマスターと思いきや、そうではなかった。
正確には、『乗り気であった』と言うべきか。
少女は聖杯の存在を聞き、眼を輝かせていた。『生き返ることもできるらしいです』『願いも叶うらしいです』『いいねえ』と追加された知識にニコニコしているかと思いきや、いきなりげんなりと肩をすくめたのだ。
殺し合い。願いを叶える一人を決める戦争。
殺し合いを『強制されている』という現実が、彼女の機嫌を損ねていた。
「私は好きに生きるのです。私は私。やりたくないことを強制されるのもやです。やりたいことを好きにします」
「好きにするって…」
まるで駄々を捏ねている子供ね、とランサーは肩をすくめる。
要するに、願いは叶えたい。が、強制されることが嫌いらしい。
ランサーは思う。
───逸脱している。
血液の中で、恍惚としていた彼女は、狂ってはいなかった。
狂気ではない。猟奇でもない。あの状態が、彼女にとっての『幸せ』であり『普通』なのだ。
どう足掻いても世界と順応できない個性。一般的な普通とは相容れない『普通』、欠落した孔と溝。
それは。ランサーの在り方にも、どこか似ていて。
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故に、ランサーは彼女を見捨てず、説得を続けていた。
「マスター」
「マスター、じゃないです。トガヒミコです」
「ヒミコ」
「…」
「…トガちゃん」
「はい」
片手で頭を抱えながら、ランサーが言う。
「じゃあ聖杯はどうするの? 諦める?」
「それも、や。私は生き返って───もう一度、お話したい人がいるのです」
「ならどうするの? 聖杯戦争も嫌、諦めるのも嫌じゃあ…」
セーラー服にセーターを着た少女は、下半身をギリギリセーターで隠した姿で。ぴょんとソファから立ち上がり、ランサーを見る。
「好きに生きる。必要になったら殺しますし、殺したくなったら殺すよ。私は、それだけです。
なので、やる気が起きるまではこーです」
再びぼすん、と音を立ててソファに身を埋める少女。
ランサーはその姿を見て、思う。
吸血。あの恍惚の表情は、愛だ。ランサー自体、男女の恋と呼べるほどの大人のものではないが、子供らしい親愛の情を抱いたことがあるが故に、理解できた。
そして。『お話したい』の表情に、一抹の寂しさが見て取れた。
彼女は、常に本心なのだ。嘘を言わず、生きたいように生きる。
ランサーより、よほど人間らしい。
決して埋まることのない欠落した心を持つランサーと───『虚』より、よほど。
理由のない戦いは獣のすることだ。
だがしかし。そこに理由のある殺戮ならば…それは、彼女にとって大切なことではないのか。
ふう、とランサーは息を吐き。
しゃがみ、ソファに身を預けたトガヒミコと眼を合わせ
「トガちゃん。私はネリエル───ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンク。あなたがそのつもりなら、私も一緒に戦ってあげる」
「…ほんと?」
「本当。だから、最後まで生き残って。
会いたい人に会うのって、とても大変だけど、大切なことだから。
───貴女の想いを、尊重する。無理強いはしないから、貴女の好きなように戦うわ」
ランサーがそう言うと、トガヒミコは咲いたひまわりのように笑顔を浮かべ、跳ねるように喜び、そのままランサーに抱きついた。
その光景は、まるで姉妹のよう。仲間と認めてくれたのか、髪がぴょこぴょこと跳ねている。
「連合には女の子がいなかったから新鮮!」
「れ、連合…?」
「そうだ、陣営の名前決めましょう! うーん…合わせてネルトガ陣営とかどうです?」
「…真名は伏せたいから、ランサーでお願い」
「そうですねぇ。ネルトガって、なんかシャーペンみたいですし」
……一護も小さい私を見る時、こんな気持ちだったのかなあ、なんて。
ランサーは、かつての自分を護った男の気苦労に、思いを馳せたのであった。
-
【CLASS】
ランサー
【真名】
ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンク@BLEACH
【ステータス】
筋力 B(A) 耐久 B(B+)敏捷 A(A+) 魔力 E 幸運 C 宝具 B
()内は第一宝具開放時。
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
【保有スキル】
破面(十刃):A
それぞれ死の形を司る十人の戦士たち。
何らかの形で心の何かが欠落した彼らは、それを埋める為に喰い───その中でも人としての理性と形・力を獲得した上位十名である。
ランクが高いほど霊的存在への耐性・攻撃力を得て、複合されている破面の基礎スキル「鋼皮」「響音」「虚閃」などの性能が上がる。
また十刃の場合、特殊な虚閃も扱える。
戦線離脱:C
仕切り直しに酷似した逃走スキル。
脱出困難な場面であろうと、戦線を離脱することにおいてプラスの補正を得る。
魔力奔流・重奏:A
魔力を攻撃に使用された場合、その魔力を飲み込み、己の魔力を乗せた上で撃ち返す。
相手の威力が強いほど威力が上がるカウンタースキル。
獣と人:B
理由のない戦いなどあってはならない。
戦いのための戦いなどあってはならない。
戦う為には「理由」が必要である。我々は、人の形をしているのだから。
「戦うための強い理由」を獲得した時、魔力のランクが上がる。
【宝具】
『謳え、この空の全てで(ナイツ・オブ・ガミューサ)』
ランク:C 種別:対軍宝具(自身) レンジ:? 最大捕捉:?
ナイツ・オブ・ガミューサ。
十刃における刀剣解放、サーヴァントにおける宝具解放である。
下半身は四本の羚羊となり、仮面には羊の角が生え、ケンタウロスのような見た目になる。
武器は巨大なランス、投擲槍となり、この形態になると筋力・耐久に補正を得、ランサークラスらしく俊敏の値に大きなプラス補正を得る。
『謳え、この空を貫くまで(ランサドール・ヴェルデ)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~200 最大捕捉:200人
強烈な回転と魔力を込め、槍を投擲する。その威力は十刃最硬と呼ばれるノイトラすら一撃で仕留め、決着寸前まで追い込んだ。
四本の足、ケンタウロスの下半身から伝わる力で放たれる槍は単純だが恐ろしい貫通力と威力を秘めており、貫通に特化した宝具。
『抉れ、護るべきものために(パラ・ティ・ランサ・デル・ソ・ガミューサ』
ランク:B 種別:対軍宝具(自身) レンジ: 最大捕捉:
パラ・ティ・ランサ・デル・ソ・ガミューサ。
生前、彼女が手に入れることのなかった能力。
羚羊の如き下半身は更に力強く巨大馬のように進化し、投擲槍は魔力が回転し抉り取る槍と化す。
槍の持ち手には『崩玉』が装備されており、帰刃のその先へと到達した姿。崩玉由来の回復力なども備えている。
その槍からは魔力が迸り、掲げるだけで雲を引き裂き空を割り光の奔流は敵対者を呑み込み大地ごと削り取る。
生前手に入れることのなかった能力だが、とある並行世界において作られた可能性が、英霊の座にてランサーの霊基と統合された。
(詳しい動きなどは ttps://m.youtube.com/watch?v=iuRf-6gFrD0 にて。『BLEACH Brave Souls』にて公開された形態、公式動画)
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【weapon】
・斬魄刀
【人物背景】
慈愛を秘めた女性。
少し子供らしいところがあるが、心の芯はしっかりとしており、虚とは思えないほど。
裏切られてもなお、信じることをやめない彼女。
虚は生まれながらにしてどこかが欠けている。
同じ欠けた少女に、3の刻印を持つ彼女は───。
【サーヴァントとしての願い】
マスターを生き返らせる。
会いたい人に合わせる。
【マスターへの態度】
好感触だが、世間と溝のあるその在り方に不安。
同じ世界とは相容れないもの同士として、行末を案じている。
【マスター】
トガヒミコ(渡我被身子)@僕のヒーローアカデミア
【マスターとしての願い】
生き返ります。もう一度お茶子ちゃんに会いたいのです。
生き返ったらきっとヒーローに捕まるかもしれないけれど───それはそれでいいのです。
これからも。これまでも。
私は、好きに生きてきたから。
【能力・技能】
・個性『変身』
相手の血液を摂取することで、その相手の姿になれる個性。声も変わる。相手の個性(能力)も使用可能。
対象者から摂った血が変身のエネルギーになり、摂取量が多いと維持時間が長くなる。コップ一杯の量でだいたい1日くらい維持可能。
衣服や装備も込みで変身することも可能、一度に複数人の血を摂取することでその分だけ姿を変更でき、変身した状態から別の人物に変身し直すこともできる。
・隠密
隠れ生きてきたヴィラン故に、気配を断ち逃げ回ることが得意。
死角に入り消えたように見せかけるなどの技術も、警察に追われるうちに身につけた技術らしい。
注射器のような血を吸い取る装備とナイフを携帯している。
【人物背景】
『普通』から溢れた少女。『普通』になれなかった少女。
仕方ないのです。好きが溢れてしまうのです。
私の『普通』はこれなのです。
なのに世界はこんなにも───『普通』を押し付ける。
生きにくい。生き難い。生き、憎い。
だから好きに生きるのです。
みんなが『普通』に生きるなら。
私も好きに、生きるのです。
私は好きに、生きたのです。
───ああ、でも。
もう一度だけ、お話したいな。
【方針】
生き返る。お茶子ちゃんと会う。
好きに生きるのです。それはどこでも変わらない。
それが、トガヒミコだから。
【サーヴァントへの態度】
少し甘えがち。
大人の女性が味方だった経験が無く(無論命を奪うことに抵抗がない女性も)お姉さんのような存在だと認識している
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投下終了です。
タイトルは
「『現世』と『普通』」
です。
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修正します
>『謳え、この空を貫くまで(ランサドール・ヴェルデ)』
ランク:A
が正しくは
『謳え、この空を貫くまで(ランサドール・ヴェルデ)』
ランク:C
でした。
申し訳ありませんでした。
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投下します
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その日、金の亡者は冥界へと墜ち、本物の亡者となった。
聖杯戦争と言う命懸けの闘争に巻き込まれた事を悟ったのは、そのすぐ後のこと。
金の亡者に絶望は無かった。何故なら、地獄の沙汰も金次第とはよく言った物で。
失墜した先の冥府には。亡者にとっての全てである、金銭の概念があったからだ。
更に聖杯より与えられる万能の願望器の知識。超特大の、ビッグ・サクセス。
乗るしかない、この商機(ビッグ・ウェーブ)に。
欄乱と光る眼(まなこ)で、金の亡者は力強く頷いた。
───そして、血風譚と浪漫譚(サクセス・ストーリー)のはじまりは。
百年の時を超えた新時代、東京下町にて。一人の大商人の来訪から───
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▼ ▼ ▼
「ランサー、敢えてハッキリ言っておきましょう。
私は……この雅桐倫?は、貴方の事を好ましく思っていません」
舐められない程度に豪奢に、しかし機能性を損なわない様に誂えられた執務室で。
高級そうなスーツを着て、ネクタイをきっちりと締めた眼鏡の男。
雅桐倫?と名乗った、かつて死の商人だった男は、己の従僕にそう告げた。
一見何のメリットもない行いだった。
この聖杯戦争における最大の刃(サーヴァント)の心証を下げる様な物言いは。
最悪の場合、叛意すら抱かれかねない。危険窮まる意思表明。
それでも、男の瞳に臆する彩は全く宿っていなかった。
「才能と、弛まぬ研鑽の日々が裏打ちする、金では買えない力を備え、
英霊として世界に召し上げられた貴方は、私の信条と相反する存在であるからです」
己の内側にある──持つ者に対する餓えは聖杯戦争の中でずっとついて回る。
切り離す事は自分の金への信仰、矜持を捨てる様な物だ。
故に投げ捨てる事はしないし、するつもりもない。
内に伏せ最後まで隠し通す道も考えたが、それも棄却した。
どれだけ取り繕おうと、目の前の男は遅かれ早かれ己の内心を見抜くだろう。
商才はないだろうが、騙し通せる愚鈍な男では断じてない。
「それに加え、聖杯と言う望外の商機に対して、賭ける願いも無く。
ただ己の力を確かめられればいい。そうおっしゃる貴方は、ハッキリ言って鼻もちならない」
だから、最初に己の本心を開示した。即断で殺される可能性すら考慮に入れつつも。
それでも“合わない”相手である以上は今この時に“値踏み”しておく必要がある。
即ち目の前のサーヴァントを対等なビジネスパートナーであるか。
それとも、再び我が身を破滅させ文無しと不良債権であるか。
ギラリと、眼鏡の奥の眼光が煌めきを放ち、ランサーと呼んだ男を射すくめる。
「───貴様が何と思おうと構わん」
投げかけられた言葉に対して槍兵は、不動だった。
己を謗るような言葉も我関せずと言わんばかりに腕を組み、聳え立つ。
漆黒の道着とたっぷりと蓄えられた髭も相まって、巌の様な印象を抱く男だった。
彼こそが、観柳が引き当てたサーヴァント。
無手であるにも関わらず、魔槍(ランサー)のクラスを与えられた拳士。
「ただこのランサー、請け負った契約は果たす」
かつて、幕末の動乱で修羅さながらに人を斬ったという人斬り抜刀斎も。
この男の様な所作と瞳をしていたのだろうか。
そんな考えが過るほど、鋭利かつ揺るぎのない瞳で。
ランサーはマスターに──“黒木玄斎”は“雅桐倫?”に対してそう宣言した。
「───成程、承知しました」
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ランサーの宣言に対し、雅桐は静かに了承の意志を示す。
今度はランサーがマスターを見つめる番だった。
どの道主が納得しようとしまいと、己のやる事は変わらない。
だが、あれだけ剣呑な態度を取っておきながらあっさりと引き下がった姿勢に興味を惹かれたのだ。
「……誤解なきよう言っておきますと、私は貴女を評価しています。
価値あるものに正しい評価を下せない様では、商人として三流。
公私を分けられず無下にする方が私の商人としての沽券に関わる」
それは、以前の雅桐が成しえなかった姿勢だった。
金で買えない力を有する者達を見下し、使い潰し、非道に手を染めて。
最期は敗北し、築いてきた金と地位の全てを喪った。
だが、敗北してなお雅桐の存在は此処に在り、
敗北で得た知見を活かす再起の時に恵まれた。
なれば再び挑むのみ。
悪事に手を染めてでも。
牢獄に繋げられてでも。
糞尿を掻き分けてでも。
本物の亡者になったとしても。
世界に存在する限り金を稼ぐ。稼ぎ続ける。
生れた時から貧乏という苦界に墜ちた彼にとって。
持たざる者である彼にとって、ランサーは。
否、英霊と言う存在そのものが、彼の矜持と相反する存在だ。
何故なら彼等は須らく、金で買えないモノを備えた者達だからだ。
才能。血統。家柄。容姿。
金で買えないモノというのは人に賛美されがちだが、その実差別を生む。
故にこそ、雅桐は英霊という超常に対して安易に迎合する事はしない。
しかし今この時を以てランサーは正当な契約の元に関係を結んだ契約者だ。
ならば取引相手であるランサーを無下に扱う事は彼の商人としての信条に関わる。
以前の破滅と同じ轍を踏むつもりも毛頭ない。
「私の目は誤魔化せません。ランサー、貴方が今しがた見せた姿勢は虚偽や韜晦ではない。
既に英霊三騎を屠った実力も含め…対等な契約者(ビジネス・パートナー)と認めます」
デスクから立ち上がり、雅桐は背筋を伸ばして。
静かに、だが力強くランサーにそう告げた。
そして、雇用主として彼はランサーに命じる。
「私は他の英霊を見てきた訳ではありません。
ひょっとしたら、貴方より強い英霊だって存在するかもしれない
もし貴方が敗れれば、私は商人として“次”を探すでしょう」
だが、それでも。
雅桐は静かに、しかし揺るぎのない声で続けた。
「それでも、貴方が人斬り抜刀斎や御庭番集よりも……
どんな英霊をも超えて最強である事を証明しなさい。
私も、そのための取引(どりょく)は惜しみません」
雅桐は商人だ。奈落に墜ちてなお商人だ。
だから、きっとランサーがより強い英霊に敗れれば。
それで潔く諦めたりなどせずに、次の取引相手を探すだろう。
それが彼の商人としての矜持だからだ。
だが、そんな実利と商人としての信条とは別の、雅桐個人の感情として。
勝て、と。勝って、かの拳願仕合で成し遂げた様に、最強を証明して見せろと。
-
「雇用主として。この世界に訪れた日のように、貴方の魔槍の活躍に期待しています」
雅桐がこの世界に訪れた日。
冥府を彷徨い、不運にも死霊と、他の主従に同時に追い立てられた時に。
両者を己の槍で貫き、救ったのがランサーだ。
そして、彼の魔槍を目の当たりにした時。
雅桐の脳裏に浮かんだのは、彼の名前の由来となった兵器を初めて握った日の事だった。
空手にて無双の騎士を倒した、ランサーの姿は。
自分の中に在った、劣等の情を打ち砕いた“力”が重なって見えたのだ。
彼の力は、人斬り抜刀斎にすら後れを取らない。確信があった。
故に例えほんの一瞬であっても、現在の雅桐の全てである“力”を重ねた存在として。
ランサーに、彼は己の願いを託した。
「無論だ」
ランサーの返事は簡潔だった。
だが、聞く者に「その一言で十分だ」そう思わせるだけの力を伴っており。
雅桐はその言葉を聞いて、笑いかけたりなどはせずにただ一度、鷹揚に頷いた。
その直後の事だ。
「優勝し、願いを叶えた時には」
そんな彼に、今度はランサーの方が問いかける。
低く、重厚な声だった。
「貴様も“闘る”のか?」
ランサーの視線の先には。
雅桐の現在の夢の出発点であり。
資本主義社会が形成された百数十年後の日本においてすら。
未だ達成されていない悲願である鉄の塊が、鎮座していた。
六連装の銃身を備えた、最新鋭の回転式機関砲と超大量の弾薬が。
違法に愛想をつかし、脱法を旨とする現在。
実業家として名を馳せる雅桐の執務室に、何故これがあったのかは分からない。
聖杯に与えられた住居、その執務室に最初からあったものだ。
どのような経緯で、この回転式機関砲(ガトリング・ガン)がここに運び込まれたのか。
雅桐には知る由も無かった。
敢えて理由を推測するなら、それは惹かれ合う運命と形容する他ないだろう。
「…闘りませんよ。どこぞの刀馬鹿力馬鹿と違って、私雅桐倫?は商人です」
たった百年余りの時間でも、兵器の進化は目覚ましく。
戦車や戦闘機、ミサイルなど回転式機関砲を超える人殺しの道具が跋扈していた。
更に最高位の神秘の具現たる英霊に対しては、神秘宿さぬこの力は無力に等しい。
それを知らぬ訳でも無かろうに、ランサーの問いかけは商人雅桐には愚問と言える物だ。
資本主義社会の申し子として、目指す場所は勝利。回転式機関砲の合法化。
愛しいモノと大手を振って一緒に居られる世界。それが悲願であり、それ以上は蛇足だ。
「───そうか」
にべもない主の回答に、ほんの僅かに残念そうな声を上げて。
ならばこれ以上話すことはない、とランサーは部屋の扉の前へと歩いていく。
雅桐はそんなランサーの背中を見て「ランサー」と声を掛けた。
そして、声を張り上げて、己のかつての名を告げる。
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「私は武田観柳と申します!!!」
雅桐倫?はそんな勝っても何の得にもならない選択をしない。
勝てぬだろうし、勝っても何にもならぬ相手と張り合う愚行はしない。
だから、そのバカな言葉を吐く瞬間だけ、彼は全てを喪った“武田観柳”に舞い戻った。
ただ、己が愛した者が最強なのだと胸を張って目の前の武人に宣言する為に。
「大商人雅桐倫倶は、一銭にもならない力比べなど愚かな真似はしません。
だが……もし聖杯戦争が終わった時、隣に立っているのが貴方であった時は……」
鎮座する回転式機関砲に歩み寄り、ニッと笑って。
観柳はランサーへ告げる。
───その時は雅桐倫具ではなく武田観柳として。この子と共に。
───貴方と、闘りましょう。
毅然とした態度で、そう告げる観柳の瞳は。
かつての悪徳商人とよく似ていたが、ハッキリと非なる物だった。
拝金主義はそのままに、挫折と敗北と破滅が彼を変えたのだ。
「承知した」
観柳の挑戦を、振り向かぬまま。
筋肉が隆起し、阿修羅を宿した背中でランサーは受諾した。
考えてみれば、ランサー自身何故闘るのかと問いかけたのか。曖昧だった。
だがきっと。傍らの友と供なれば、目の前の男は強い。
そう確信し、今自分に向けられた言葉を聞きたくて。
だからこそ自分は問いを投げたのかもしれない。そう結論付け、言葉を返す。
相も変わらず簡潔に。しかし不動不変の意志を籠めて。
ランサー、魔槍、“黒木玄斎”は己の主に誓う。
「───この黒木も全力を賭す」
「えぇ、大商人武田観柳───いざや再起の刻!!」
かくして商人は闘士の魔槍に命運を託し。
闘士は再び商人の命運と己の命を賭けた、“拳願仕合”に挑む。
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【クラス】
ランサー
【真名】
黒木玄斎@ケンガンアシュラ
【属性】
中立・悪
【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷A 魔力E 幸運D 宝具B
【クラススキル】
対魔力:D
ランサーのクラススキル。魔術に対する抵抗力。
一工程(シングルアクション)の魔術を無効化。魔力除けのアミュレット程度の耐性。
【保有スキル】
中国武術(唐手/空手):A+
中華の合理。宇宙と一体になる事を目的とした武術をどれほど極めたかを示す。修得の難易度は最高レベルで、他のスキルと違い、Aでようやく“修得した”と言えるレベル。
純粋な唐手の流れを汲む流派の為、このランクに留まる。
怪腕流:A+++
沖縄空手や琉球伝統武術、中国拳法の流れを汲む沖縄発祥の暗殺拳。
その技術は琉球王朝時代、帯刀した薩摩藩士との戦いを想定して生まれたと言われ、
空手だけでなく経穴・経絡や気功すら修めた武術をランサーは極めている。
圏境:B
サーヴァントになる過程で獲得したスキル。
気を使い、周囲の状況を感知し、また、自らの存在を消失させる技法。極めたものは天地と合一し、その姿を自然に透けこませる事すら可能となる。
今回はランサーとして召喚された為、完全な『気配遮断』程には到達していない。また、精神統一効果もある模様。
老練:A+
精神が熟達した状態で召喚されたサーヴァントに与えられるスキル。いかなる状態でも平静を保つと同時に、契約を通じてマスターの精神状態を安定させることができる
【宝具】
『魔槍』
ランク:- 種別:対人 レンジ:1 最大捕捉:1
その英霊が修得した武術が唯一無二の至宝となった時、
“技”そのものが宝具として昇華する事があるが、この宝具もその1つ。
狂気の部位鍛錬により鍛え抜かれた「槍」に等しき四肢と指を使った貫手や前蹴りの総称。
岩を砕き鋼すら貫く貫手を、至近距離で放たれたライフルの銃弾すら防御してのける“無道“という先読み技術と共に放つ。
この宝具が直撃(クリーンヒット)した場合、相手の耐久値とDランク相当の概念防御を無視し、それ以上であっても効果を減退させたうえで貫通・固定ダメージを与える。
『拳願阿修羅』
ランク:B 種別:対人 レンジ:1~20 最大捕捉:1
ランサーが己の最強を証明した『拳願仕合』の舞台を再現する概念及び結界宝具。
対象一人を拳願仕合の舞台となったリングに引きずり込み、一騎打ちを挑む。
結界内のランサーの魔槍は敵が伝説と称される程に強大であればあるほど、貫通力、命中率、クリティカル発生率、クリティカル補正ダメージに莫大な補正が掛かり、
逆に敵サーヴァントの攻撃判定の不発(ファンブル)発生確率が著しく上がる。
また、宝具展開中は座標を無視して自己と敵サーヴァントのマスターを不可侵領域である観客席へと招聘できる(効果終了後は元の座標へ送還される)が、
展開中はマスターは双方戦闘行為は愚か令呪を使用してサーヴァントをサポートする事もできない。
己のサーヴァントの拳に全てを託すしかない拳眼/拳願仕合の逸話が再現された効果となる。
【weapon】
鍛え上げた己の肉体と、怪腕流の武術。
【人物背景】
正徳五年から連綿と続く、商人たちの利権を賭けた代理戦争である拳願仕合の優勝者。
強くなりすぎた事によって生まれた自身の「孤独」を埋める強者を探している裏社会屈指の暗殺者。暗殺武術『怪腕流』を流儀としているがそれ以外では空手の技も操る。
寡黙で厳格な性格だが友の仇討ちに挑む、弟子の仕合を観戦しに足を運ぶ等情は広く豊か。
戦闘では鋼の精神力と沈着な思考能力。重傷を負っても微塵も揺らがない空手の技の冴え。
そして、その場における最適解の戦術を瞬時に導き出して冷徹に対処する判断力と対応力で武装した武人である。
【サーヴァントとしての願い】
特になし。聖杯戦争でどこまで己の空手が通じるか挑む所存。
【マスターへの態度】
契約を果たす。
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【マスター】
雅桐倫?(武田観柳)@るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-北海道編
【マスターとしての願い】
生還。再起。及び回転式機関砲(ガトリングガン)を合法とする。
【能力・技能】
全ての資産を失い、無一文になっても便所の糞を掻き分け再び身を立てる商才。
また、ガトリングガンの腕に関しては歴戦の御庭番集や人斬り抜刀斎すら圧倒する腕を誇る。
【人物背景】
阿片の密売で成り上がり、人斬り抜刀斎に倒され破滅した悪徳商人。
脱獄を契機に、便所の糞を掻き分けて得た金で再起。
その際違法はダメだ。これからは脱法だと心する。
破滅と引き換えに、己の中の拝金主義を不屈のモノとした男。
【サーヴァントへの態度】
ランサーは気に入らないし、仮に敗れれば商人として迷いなく次を探す。
しかし彼の魔槍はあの人斬り抜刀斎すら超えると確信しており、取引の契約者として扱う。
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投下終了です
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>>611
>「連合には女の子がいなかったから新鮮!」
を
>「連合には女の子が少なかったから新鮮!」
に変更し、
>>613
【サーヴァントへの態度】少し甘えがち。大人の女性が味方だった経験が無く(無論命を奪うことに抵抗がない女性も)お姉さんのような存在だと認識している
を
【サーヴァントへの態度】少し甘えがち。大人の女性が味方だった経験が少なく(無論命を奪うことに抵抗がない女性も)お姉さんのような存在だと認識している
に訂正します。
何度も申し訳ありません。
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投下します。
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◆
「たこ焼ーき、すき焼ーき、ケバブにー、てりてーりソースの焼ぁきそばー」
近頃よく耳にする歌を口ずさみながら、青年は家路を進む。
すれ違う者たちにそれぞれ会釈をすれば、にこやかな笑顔と共に会釈が返ってくる。
青年の世界では伝説とされていた「人間」たちも。
青年の世界で良く見ていた「悪魔」たちも。
そして、青年のサーヴァントとよく似た見た目の「それ以外」たちも。
全てが変わらず、青年を受け入れてくれている。
いつ見ても不思議な光景だ。
かつて青年は、伏せずに言うならば「迫害される側」の存在だった。
生まれに不釣り合いな力の弱さに、補うことの出来ない身体の弱さ。
生家では忌み嫌われ、その後移った施設でもいじめを受け、学校に入学してもその立ち位置に大きな変化はなかった。
こんなに多くの者達から別け隔てなく扱われるなんて、随分な違和感で、ついつい可笑しく感じてしまう。
「ほんまに、えらい所に来てもうたよなぁ。ちいちゃんたちもそう思うやろ?」
横を歩く、自身のサーヴァント(聖杯戦争中限定の使い魔のようなものだ)に問いかける。
言葉の意味が伝わったのか、そうでもないのか、「ちいちゃんたち」と呼ばれた二体一組のサーヴァントは青年を見上げ、揃って小首を傾げた。
青年の腰丈程もない体躯。ぬいぐるみと言われても信じてしまうようなよく言えば愛嬌に溢れた……悪く言えば、決して戦闘には向かない体つき。
「聖杯戦争にて召喚される英霊」に関する知識は薄いが、それでも彼らが正規の英霊とは程遠い存在であることは想像に固くない。
乱世を生き抜いた豪傑、知略を巡らす戦術家、理を覆す魔術師、人を導き世界に名を刻んだ名君、暗躍を繰り返した極悪人。
類まれな才を持ち、常に強敵に立ち向かい勝ち続けた者たちが、願いを胸に溢れるこの戦場で、「ちいちゃんたち」はあまりにも小さくて、あまりにもひ弱に見える。
「そういう意味でも、お似合いなんかもしれんね、僕ら」
青年が微笑めば、「ちいちゃんたち」はそれぞれ反応を返す。
頭に葉っぱが一つ乗った方(仮に「一葉」と呼んでいる)は嬉しそうにえいえいと拳を突き上げて見せ。
頭に葉っぱが二つ乗った方(合わせて「双葉」と呼んでいる)は一葉と青年を交互に見ながら手を振っている。
愛くるしい振る舞いに、笑みが溢れる。
青年……アミィ・キリヲは、自身のサーヴァント達のことが気に入っている。
小さくて、かわいい以外に取り柄がなさそうな、戦争の武器としては随分頼りない相棒たちのことが、気に入っている。
「さて……ぼちぼち行こか、『プリテンダー』」
キリヲの言葉に、二体の雰囲気が変わる。
ただのちいさくてかわいい存在から、もっとおぞましい何かへ。
纏い続けた非力で愛らしい妖精のような『役』を脱ぎ捨て、狩られる側の羊であった『かつて』を捨て、二体の持つ伝承へ、本質へ、近付いていく。
見た目が変わるわけではない。美しかったはずの中身が堕ちるのだ。
演じてきた役の奥に潜んでいた野望にまみれた本能が牙を剥く。悪魔が時折見せる悪周期にも引けを取らない、本能への回帰。
ああ、だから、この二体のことが好きだ。
生粋の悪魔であるアミィ・キリヲは笑みを零す。
その笑顔もまた、先程までのキリヲと変わらないはずだ。
-
◆
遠くから、声が聞こえてくる。
無数の悲鳴だ。人間の、悪魔の、そして小さくてかわいい「島民」たちの悲鳴だ。
そして悲鳴の向こうからは、場違いな楽しげな歌声も聞こえてくる。
声の方に目を凝らせば、遠くで植物がうねる様子が見え、その近くを探せば、陸上で暴れる巨体が見つかった。
「おお、おったおった。今日もようやっとるねぇ」
横に並ぶプリテンダー達が汗をかき、震えているのが分かる。
どれだけ狂っても、種が持つ根源的恐怖を拭い去る事はできない。
プリテンダー達にとってあの巨体は天敵そのものだ。彼らの種族に対して神にも等しい絶対の権利を持つ、捕食者なのだ。
だが、それでも武器を持つ手に籠もる力は緩まない。自分の中の欲に従い天敵にすら牙を剥き、いつかその喉笛を食い千切らんとする狂気がキリヲには心地良い。
「プリテンダー、よろしく」
「……」「……!!」
汗をかき、涙を流し、それでもプリテンダーたちはキリヲを見上げ、お互いを見つめ、頷き合って走り出す。
「おしりには気をつけなあかんよー」
戦闘が目的ではない。NPCとして再現された島民を利用した諜報活動が目的だ。
どうやらあの巨体・セイレーンはプリテンダーたちを探しているらしいが、プリテンダーの持つスキルの効果によって、「他の島民がいる場合、セイレーンはそちらを優先して襲撃する」ようになっている。
それを逆手に取り、セイレーンの付近でワーキャー騒ぎ、セイレーンの襲撃を大袈裟に表現するのだ。
あのセイレーン自体プリテンダーによって呼び出された存在のようだが、無体な強さで暴れる様子を見れば他の聖杯戦争参加者はサーヴァントと誤認するだろう。
騒ぎが広まればどんな目的であれ他主従が集まる。それを遠方からキリヲが確認し、情報を集めて襲撃の策を練る。それがキリヲ達の基本的な方針だ。
更にプリテンダー自体も高い耐久力を持っており、ちょっとやそっとの乱戦ならば巻き込まれても死ぬことはない。(これは油断をしなければ、だが)
被害者として助けに来た正義の主従の懐に入れれば願ってもないことだ。
キリヲ自身が襲撃される可能性もあるが、そうなることも想定して「家系能力」が逃亡の際に有効に働きそうな場所に陣取ることも忘れてない。
最後の瞬間まで、自分たちの弱さを忘れず、逆に弱さを利用して勝ちを拾う。それがキリヲたちの唯一選べる勝ちへの道筋だ。
「ふふふ、もしそれで勝てたりしたら、最高やろなぁ」
無双の豪傑が、鬼謀の戦略家が、国の象徴たる王が、泣く子も黙る大悪党が、こんなキリヲと、あんな「ちいちゃんたち」に負ける。
もし、そんなことがあれば。英霊として呼び出された者たちは、願いを持って戦いに望む者たちは、どんな絶望を見せるのだろう。
それを思えば、この下準備も随分心躍るものだ。
キリヲの本能は、抑えきれない欲望は、いつだって誰かの絶望を求めている。
NPCなんて作り物ではない、本気で生きている者たちの、本気の絶望を求めている。
……でも、もう少し欲をかくのであれば。
「あーあ、おらんかなぁ、イルマくん」
この地で目覚めたキリヲは、NPCとして再現された多くの人間に会った。
最初は人間がこんなに居るのかと物珍しくて色々とちょっかいをかけてみたが、そのうちに気付いた。普通の人間では駄目だ。どれだけ珍しくとも単なる人間だ。そのへんの悪魔と変わりない。
キリヲにとっての人間は、やっぱり、イルマではないと駄目なのだ。
こんな場所で、命のやり取りを求められる世界で、あのどうしようもなく欲張りでお人好しなイルマと会えたなら。
NPCなんかじゃない、本物のイルマともう一度、この絶望渦巻く地で会えたなら。
それがきっと、アミィ・キリヲの最大の野望。最高の結末。最も純粋な幸福の形。
-
◆
セイレーン襲撃の場を離れ、二人揃って一息を付く。
「フー……」「ウン……」
傷は負っていない。
二人揃って生還。
マスターであるキリヲが語った「他の主従」とはまだ出会えていないが、それ以外は順調だ。
まだ大丈夫だ。
まだ二人は、幸せの中に居る。
まだ二人は、希望の道を歩いている。
「ネ……」「……ウン!」
二人で家路を急ぐ。
二人はキリヲのことが好きだった。
こんな二人を受け入れてくれたキリヲのことが好きだった。
遍く世界の強い英霊達が行う代理戦争の中で、こんな弱そうな二人を受け入れてくれたキリヲのことが好きだった。
他の何を犠牲にしても自分たちだけは生き残ろうとする、二人の仄暗い中身を受け入れてくれたキリヲのことが好きだった。
二人と、キリヲと、三人で、いつか三人の願いを叶えるのだと誓っていた。
「オーー!」「フフ、オー!」
二人が優勝した時の願いは、もう決まっている。
自分たちの島にセイレーンが来たという過去を消す。
随分悩んだが、そうすれば、二人はずっと幸せに暮らせていたはずだから。
だから、頑張ろう。
もう少しだけ、頑張ろう。
武器を持つ手が震えても。
怖くて涙が流れても。
二人でなら。
三人でなら。
きっと朝焼けの向こう側。
世界で一番の幸福にだって、たどり着けるはずだから。
――
いつまでも 絶えることなく
友だちで いよう
明日の日を 夢見て
希望の道を
―― 「今日の日はさようなら」
-
【クラス】
プリテンダー
【真名】
無銘・島民二人@なんか小さくてかわいいやつ
【ステータス】
筋力:E(EX) 耐久:EX(E) 敏捷:E 魔力:E 幸運:A(E) 宝具:EX
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
気配遮断:EX
スキルと宝具によって確立された「敵意を悟られず、敵として選ばれない」力。
スキル・宝具の効果以外にも島民NPCが存在する間は島民NPCと誤認されやすくなる。
【保有スキル】
なんか小さくてかわいいやつ:A
プリテンダーが属している種全体を指す仮称。
小さくて、非力で、涙もろく、楽観的。好奇心旺盛だがビビリで、どうしようもなく弱くて、そして愛くるしい。
一見無害な存在に見えるため、警戒心を抱かれにくい。
ただし、プリテンダーが自発的に敵対行動を取った場合、その相手には今後このスキル唯一の長所である警戒心の低下が機能しなくなる。
不死(偽):EX
サーヴァントの持つ不死性を表すスキル。
プリテンダーは人魚の肉を口にしたことで不死性を得たが、純粋な不死ではなく臀部にはめ込んだ電池によって「生きている状態」を継続し続けている。
転じて、臀部の電池ソケットから電池が外れないかぎりどんな攻撃を受けても「生きていること」が保証される。
ショックを受けるがダメージが蓄積することはなく、身体欠損等も起こらない。
ただし、電池がハズレた場合耐久力がEランク以下となると同時に行動に大きく制限がかかる。
スケープゴート:A
プリテンダーの「役を演じる者」としての逸話が強く表出したスキル。
生前その身に秘めた罪を隠して潜伏を続けられていたことから、後述宝具「いつか楽園だった場所」によって再現された島民NPCが存在する場合、プリテンダーがサーヴァントであることを誰も認識できない。
また、同宝具によって再現されたセイレーンも、島民NPCが存在する限りプリテンダーを優先して襲うことが無くなる。
約束のゆびきり:C
共に不死を歩むと決めた誓い。
プリテンダーのうちどちらか片方が不死性を失い瀕死になったとしても、8時間は消滅を免れる。
また、8時間の間に残っている方が消滅しようとしている方に触れられた場合、不死(偽):EXを取り戻し完全回復する。
なお、これはプリテンダー二人の間にのみ働くスキルであり、後述宝具により新しい不死(偽)持ちが増えたとしてもこの対象とはならない。
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【宝具】
『いつか楽園だった場所』
ランク:A 種別:変則固有結界 レンジ:マップ全体 最大捕捉:999
プリテンダーが暮らしていた美しき離島。
そこで暮らしていた島民たちとセイレーンたちをNPCとして再現する。
島民NPCはすべていわゆる「ちいかわ族」であり、成人男性の腰〜膝程度のサイズ。温厚で友好的な性格をしている。
マップ内に先に存在するNPCは島民NPCに違和感を覚えることはない。
セイレーンたち(セイレーンと人魚)はプリテンダーを含めた島民が存在する限りその恐怖によって存在が確立されており、その恐怖によってサーヴァントと同等程度の戦力まで強さが押し上げられている。
水のあるところで飛び出してきて島民NPCを襲う自律型。噴水や川、場合によってはもっと小さな水場からでも飛び出せる。
倒されても消滅することはなく、たぶん「いてて……」とか言いながら撤退し、そのうちまた現れる。
島民NPCもどれだけ味噌漬けされたって減った分どんどん増えていく。なのでどんどん犠牲になる。地獄かな?
ただし、人魚は食べることで消滅させられる。食べた場合プリテンダーと同じく不死(偽):EXを手に入れる代わりにセイレーンの積極的襲撃対象扱いとなる。
『かつてその手を染めた罪』
ランク:EX 種別:対人 レンジ:1 最大捕捉:1
プリテンダーの持つ、唯一にして最高火力の宝具。
・相手の警戒心が低い状態。(少なくともプリテンダーが警戒されていない)
・プリテンダーの幸運値が相手を上回っている状態。
・他に観測者が居ない状態。
以上の三要素を満たした状態でプリテンダーが他者への不意打ちに成功した場合、必ず致命傷を与える。
ここで言う致命傷とは、人間ならば脳を破壊、サーヴァントならば霊核を破壊した状態のことを言い、その後1ターン以内の消滅を意味する。
また、致命傷を与えた相手が特殊能力を持っていた場合、相手を「食べる」ことでその特殊能力を入手することが出来る。
『さあ漕ぎ出そう、朝焼けの向こうの楽園へ』
ランク:E 種別:対人 レンジ:1 最大捕捉:ふたり
プリテンダーがなんらかの形でどうしようもない窮地に追い込まれ、消滅の間際に仕切り直しを望んだ際に発動される宝具。
全てのバッドステータスや宝具・スキルの影響を無視し、プリテンダーは二人揃って現在の戦闘を離脱することが出来る。
ただしこの宝具を使うということは、プリテンダーの特異性が広く暴かれるということ。
マップ内からNPC島民が消えるとともにセイレーンはプリテンダーの存在を把握。
同時に幸運値も最低になるという究極のその場しのぎであり、破滅が決定づけられた二人が進む、脆く儚い希望の道である。
【weapon】
びんよよ
【人物背景】
島に住んでいた仲良しな島民。
ある日、セイレーンと関わりを持ってしまったことから、道を踏み外してしまった。
【サーヴァントとしての願い】
汎ちいかわ史からセイレーンの存在を抹消し、幸せに暮らしていた日々の続きを手に入れる。
【マスターへの態度】
自分たちが弱そうなちいかわ族だけどそれで捨てたりせず、かといって二人の本質を知っても受け入れてくれるので友好的。
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【マスター】
アミィ・キリヲ@魔入りました!入間くん
【マスターとしての願い】
参加者たちのまだ見ぬ絶望に会いに行く
可能なら、また入間くんに会いたい
【能力・技能】
◯悪魔
魔界に住む、羽と尻尾を持つ人ならざる者たちの総称。
角が生えているもの、獣の特性を引き継いだもの、大きなもの、小さなもの、ほとんど人間と変わらないものから生命体と呼べない形のものまで様々な「人外」が存在している。
それぞれが魔力を持って生まれ、魔法を行使しながら生きている。
キリヲの住んでいた世界では悪魔こそが一般的な存在であり、人間は伝承に名が残る程度の存在だった。
文明レベルは人類と同程度に発達しており、スマホやラインによく似た文明の利器が存在している。
総じて自身の欲を優先しながら生きており、特にキリヲはその傾向が強く見られる。
◯家系能力
悪魔が持つ一子相伝の固有能力。
キリヲは『断絶(バリア)』を使うことが出来る。通常時でも爆発を防ぐくらいは出来るが、キリヲ個人の魔力だけでの運用は心許ない。
◯首輪
キリヲが常時身につけている魔道具。
大量の魔力が込められており、キリヲの魔力不足をサポートしている。
この首輪に蓄積された魔力を消費しても、外部から魔力を注げば再度貯めることが可能。
現在はある程度の魔力が込められている状態。(少なくとも師団披露編と同程度には溜めてある)
【人物背景】
悪魔学校バビルスに通っていた3年生であり、主人公・鈴木入間の先輩に当たる人物。
大きな眼鏡とアンバランスな大きさの角が特徴的な、京都弁によく似た口調で話す病弱な先輩。
魔具研究師団の団長であり、魔具の知見も深く、「ガブ子さん」も独学独力でほぼ完成まで作り上げることが出来ていたほど。
身に秘めた野望は「絶望への愛」、そのための手段として「秩序の崩壊」を選んだ。
作中では特に入間のことを気に入っており、彼が人間だと知る数少ない存在であるとともに、入間の絶望に触れるために一方的に強い感情を向け続けている。
出典は少なくとも入間が人間であると認識している「収穫祭編」終了後。
【方針】
機会を待ちながら潜伏。しばらくはプリテンダーたちと共にセイレーンを監視しつつ集まってくる他主従を見つける。
【サーヴァントへの態度】
なんか小さくてかわいいやつ。普段はちいちゃん呼び、臨戦時はプリテンダー呼び。
プリテンダーが勝ち残るということがキリヲの野望を満たす部分もあるため、友好的。
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投下終了です
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投下させていただきます
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悪夢を見た。
アレを悪夢と呼ばずして、何をそう称すればいいのか分からない。
千切れかけた片足を引きずり四つん這いで赤の軌跡を伸ばしているその男は今でこそ敗残者だが、数分前までは聖杯を求める葬者であった。
最優のクラスと呼ばれるセイバークラスを召喚し、わずかな期間のうちに二体のサーヴァントを葬った。
勝利は目前。そう驕ってしまうのも詮無きことと言える、それだけの戦果をあげていたのだ。
だというのに今、彼はすべてを失っている。
頼みの綱であり、共に理想を叶えるのだと誓ったセイバーは消滅し。
戦いの中、半狂乱になって全賭け(オールイン)した令呪は一画ぶんの元も取れていない。
片足は千切れかけてわずかな肉で繋がっているような状態で、生存を維持する運命力もじきに尽き果てること請け合いだ。
まさしく素寒貧。命を賭けた勝負に敗れた者の末路が、ここにはあった。
どこで足を踏み外したのかと問われたなら、それは間違いなくあの"怪物"に遭遇してしまったことだと断言する。
そして敵を頭の抜けた強者だと感じながら、か細いチャンスを掴もうと手を伸ばしてしまったこと。
もしや私達ならば、この怪物にも勝てるのではないか――
そんな夢を、見てしまったこと。
希望という名の甘い罠を踏み抜いた結果は地獄への転落だった。
最強と、無双と信じた朋友は、暴れ狂う怪物を前に十秒と持ち堪えることができなかった。
今目を閉じても鮮明に思い出せる。
怪物と呼ぶにはあまりに可憐で、しかし精霊と呼ぶにはあまりに恐ろしい。
この世の理から外れたような、神話の名画をその全身で体現するような聖性で空を舞う等身大の何か。
あの"美しき怪物"のことを、自分は何度の輪廻が廻っても忘れることはないだろう。
そう思えるほどの、あまりに燦然たる悪夢を、彼は見た。
男は、怯えていた。
死など恐れないと鼻で笑っていた筈だった。
男には理想があった。誤った世界を正すのだと、そう覚悟を決め立ち上がった過去があった。
なのに今、死(それ)が目前に迫ってみると、怖くて怖くて堪らない。
身体が震える。
全身の産毛が逆立っている。
歯の根が合わずに、哀れがましい演奏を繰り返している。
激痛を訴えている筈の足の痛みが、もはや気にならない。
死にたくない、死にたくない。終わりたくない、消えたくない――
そんな思いだけに突き動かされた死にぞこないの無一文が、這いずり向かっている先は教会だった。
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宗教は、人類の最大の発明のひとつだ。
何かを信じる心は人に勇気を与え、そして人から恐怖と不安を取り除く。
生涯、一度として十字架に祈ったことなどなかった男だが、そんな彼でも今だけは神の威光に肖りたくて仕方なかった。
だから残された命と、残された運命力。
じきに消えるだろうその双方を燃料にして、必死で這いずる。
教会の門を叩き、中から薄明かりが漏れるばかりのそれをかすかな力を振り絞って押し開けた。
男は、怪物を見た。
怪物にすべてを奪われた。
絆も理想も、すべてあの"美しいもの"にかき消されてしまった。
このまま無念のままに死に行くことは耐えられない。
せめて最後に、気休めでもいい。
救いがほしい。
恐れなどではなく、絶望などではない、救いというものを抱いて召されたい。
そんな敬虔な思いを胸に、最期の力で押し開けた扉。
仄かな蝋燭の香りと、木の温かな湿気が肌に触れる。
ステンドグラス越しに射し込む月明かりのみが照らす、その聖堂の中で。
「――ようこそ。神の逐わす処へ」
男は――神に遭った。
美しくウェーブのかかった気品ある金髪。
白い、白磁と言ってもいい陶器のような肌。
見ようによっては女にも見える、整った容貌。
片目を隠す眼帯は、荘厳さを増さす宝具のようだった。
そして何より、その穏やかで優しい声。
響くテノールボイスの、なんと心に沁みることだろうか。
これに似たものを、魔術師は知っていた。
それは幼い日、まだ理想も世界の残酷さも知らずに暖炉の傍で父と語らっていた頃の記憶を思い出す。
先ほどまであんなに乱れていた心は、気付けば凪いだ水面のように安らいでいた。
恐ろしかった筈の死さえ、この冥界の塵になることさえ、今や毛ほども怖くはない。
神の実在という最大の救いを目の当たりにした今、男の心からすべての不安は払拭されていた。
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「あ、ああ……」
主はいませり。
主はいませり。
神は、本当に実在(い)たのだ。
すべての父なるものは実在し、いつでも自分たち人間を見守ってくれていたのだ。
であれば、ああ、一体この世の何を恐れることがあろうか。
自分が恐れ、慌てふためいていた時もずっと、神はこうして穏やかに微笑んでくれていたのだと遅まきながら理解する。
「迷える者よ。お前の人生は、さぞや多くの咎と愚かしさに満ちていたのだろうが……」
神が手を差し出している。
なんと慈悲深い。
なんと美しい。
男はゆっくりと瞼を閉じた。
「感涙しろ。神は、悔い改める者には寛大だ。お前の罪はその死を以って許される。その魂、必ずや神の恩寵のままに安らぐだろう」
理想に狂い、世界を閉ざした。
自分を妄信し、その結果として蝋の翼は焼け落ちた。
そうして地べたを這いずり回るこんな愚者(じぶん)にも、神は手を伸べてくださるのだ。
生きていてよかった。
生まれてきて、よかった。
目を閉じながら、差し伸べられた手に応じるべく手を伸ばす。
その手が、偉大なる父に触れたかどうかを確認するまで彼の命は保たなかったが、それでもよかった。
きっとこの手は届いたのだ。
自分は、神に、赦されたのだ。
天使のラッパが聞こえる。
これはきっと幻聴ではない、そう信じよう。
長い長い人生の果て、酸いも甘いも噛み分けた数十年だったが、そんな愚者の道筋でも神は見てくれていた。
花畑が見える。安らぎの極楽がそこにある。
さあ、帰ろう。さあ、行こう。
主はいませり、主はいませり。
Amen(アーメン)。
-
◆◆
「ただいま、マスター。今帰った、よ…………」
都内某所。
由緒あるカトリック系教会の門扉を開いた銀髪の騎士は、その向こう側にあった光景を見て言葉を失った。
「おお、帰ったかランサー。お前はやはり素晴らしい信徒だ。神の意思を代弁することにかけて、その剣は無二の輝きを見せる。
無垢なる湖光、よく言ったものだ。その剣、その輝き、まったく神の旗を掲げるに相応しい」
「ああ、うん。それは嬉しいんだけどね……」
薄い蝋燭の灯り。先の大戦の戦火からも生き延びた、古く優しい木材の湿気。
月明かりを透過し色とりどりに輝くステンドグラス――あらゆる聖性がここにはある。
そんな教会の中にふたつ、異物があった。
「……マスターは何をしているんだい?」
教会の入り口付近で、何やら満たされた顔をして朽ちている男。
ランサーもその顔は知っていた。というより、つい先ほど踏み躙ってやった相手である。
自身の手にかかって消滅した脆弱なサーヴァント。それを連れていたマスター……葬者だった男が、右手を伸ばして死んでいた。
ランサーはこの聖杯戦争においても変わりなく絶対的な強者であり、最強種の名を欲しいままにする生物だったが。
かと言って、サーヴァントを失い消滅する以外に未来を持たない葬者をわざわざ追って屠るほど徹底してもいない。
マスターがそれを望むなら話は別だが、逃げた蟻を追うことに本気になる竜はいないのだ。
それに。彼は、明らかに永らえられる容態ではなかった。
だからどこぞで野垂れ死んでいるだろうと高を括っていたのだが、その相手がどういうわけか今、マスターの靴で足蹴にされている。
まるで害虫でも踏み殺すみたいに足を振り下ろしながら、たおやかな笑顔で自分を迎えてくれるマスター。
彼女も大概に自由奔放な質ではあったが、それでも時折、この男の奇行奇言動は常識を超えてくる。
「ランサー。お前は、人は変われると思うか?」
「……モノによるんじゃない? 変われる奴は変われるし、変われない奴は天地がひっくり返っても変わらないと思うけど」
「その通りだ。人は変われる。どれほどの咎人であろうとも、己が行いを悔い改め、神を信じて心から祈るならば赦しの機会は与えられるのだ。
神が人を赦さないのなら、この世に信仰は生まれない。神は慈悲深く寛大だ。だからこそ人は神に膝を突き、頭を垂れる。
そうして赦しを得た咎人が、敬虔な信徒になって新しい明日へ歩んでいく。神の見守る世界にて、本来あるべき形がそれだ」
まるで教鞭を執る教師のように両手を広げ、大袈裟なジェスチャーをしているその間も靴底は死者の顔に振り下ろされ続けている。
整っていた顔がだんだんと靴底の形に歪んでいく。
漏れた鼻血や、潰れた眼球。果てにはそれ以外の、もっと中から出てくる液体で染まっていく。
「その点、この咎人は利口だった。神の触覚たるお前に敗れたことで己の罪を知り、悔い改めるべくして教会の門を叩いたのだ。
おお、なんと殊勝なことだろう。神はそのいじらしさをしかと見ていた。故に手を差し出した。
お前は悔い改めた。今際の際にて己の愚かと決別し、敬虔なる神の信徒に変われたのだと。
神はそう認め、祝福のままにその生を締め括ることを許すつもりだった」
「ふうん。……それで? 今日は何が気に入らなかったのさ」
「愚問だ。この咎人は、"神の手を取ろうとした"」
-
何しろ、もうそれなりの日数の付き合いになる。
ここまでランサーが圧勝以外の形で戦闘を終えたことはなかったが、それでもマスターとの会話は相応にしてきている方だ。
だからこそ彼女は、己がマスターの言動の大枠の意味合いを理解できるようになっていた。
そう、大枠だ。彼の思想の輪郭は、極限を通り越して肥大化した自我(エゴ)により成っている。
見てくれだけなら、それこそ神々しささえ漂っている柔和な容姿。
穏やかに整ったその顔面に、厳しく皺が寄った。
隻眼が自我の形に歪む。そろそろ来るかな、とランサーは慣れた調子でそう思った。
「咎人というのはかくも愚かしく浅ましく、いっそ呆れるほどに面の皮が厚い。
神が少しでも甘い顔を見せたなら、自分が咎人であることを忘れて救われたような顔で縋ろうとする。
この男もまた、それだった。神の課す最期の試練において尚、その愚かしさを捨てることができなかった」
「少しは大目に見てあげればいいのに。今際の際だったんだろう?」
「ランサー。お前は、『蜘蛛の糸』という寓話を知っているか?」
ふう、と呆れ混じりの吐息を吐き出して教会の椅子に腰かける。
ここは教会、神の逐わす場所。
ただしその"神"が、広義のそれだとは限らない。
「悪逆非道の限りを尽くした咎人が地獄に落ちた。しかしその咎人は生前一度だけ、ほんの気まぐれで足元の蜘蛛を避けてやったことがある」
足元の蜘蛛を助けた話をしながら、足元の死体を踏みつけにする男。
なまじロケーションと顔がいいから、こんな狂気的な状況でもオペラか何かの一シーンのような風格が伴っているのがまた最悪だった。
「御仏はそんな咎人を憐れんで、地獄へ一筋の蜘蛛糸を垂らした。
極楽へと通じる、文字通り救いの糸だ。咎人は仏の慈悲に感謝して糸を上り始めたが、しかしここで問題が起こる。
舞い降りた奇跡へこれ幸いと、他の咎人たちも飛びつき始めた」
「へえ」
「咎人は大声をあげて、下りろ下りろと喚き散らした。身に余る慈悲を賜った身でありながら、その男自身には他人へ慈悲を授ける度量がなかったのだ。咎人が欲を剥き出したその時蜘蛛の糸は切れ、全員あるべき処へ落ちていった……。
ランサー。お前はこの話から学ぶべきことは何だと思う?」
「……独善的な行動は回り回って身を滅ぼすから、他人には優しくしましょう、とか? 僕としてはあまり柄じゃない答えだけど」
「"一度でもクズに甘い顔を見せると、どこまでも付け上がる"だ」
ぐしゃり、と、また靴底が振り下ろされた。
よほどの力で踏み締めているのか、もう既に笑顔で死んだ魔術師の顔は人相の区別が難しくなっている。
ぐしゃ。ぐしゃ。ぐしゃ。ぐしゃ。死人に鞭打つ神罰が、夜の教会で人知れず轟いている。
「世界を善くしたい。だから聖杯が欲しい。そのために民間人を殺し、魂を集めて糧にした……」
すうっ、と息を吸い込む音がした。
ランサーがおもむろに耳をそっと塞ぐ。
別に耳の痛いことを言われているからじゃない。
そうしないと、きっとすごくうるさい思いをするだろうな、と思ったからだ。
「そんなクズが! 然るべき試練も葛藤もなく!
ちょっとしおらしい顔して悔い改めたくらいで即! 救ってもらえるわけねぇだろうがァ――――ッ!!
死ね!! 今蘇ってもう一度死ね!! 神の!! 手を!! 汚そうとしやがってッ!!!
神を何だと思ってる!? お前のような筋金入りのクズはまず人に許してもらうところから始めてこいッ!
差し伸べられたからってすぐ手を取るな! 神はお前みたいなゴミに"触れていい"なんて一言も言ってねぇんだよカス野郎ッッ!!!
調子に!! 乗るな!!! 自分を知れ!!!!」
-
……絶叫、咆哮、いや癇癪とも呼べるだろう。
偏執狂のような金切り声をあげながら死体を蹂躙する葬者を横目に、ランサーは小さく嘆息した。
「他は申し分ないんだけどなあ」
まあ、数分もすれば収まるだろう。
そう思いながらランサーは、先の戦いを脳内で反芻する作業に移り始めた。
今まで戦ってきた相手に比べればまあ、骨のある部類だったと言えるだろうか。
あわよくば決まり手となったあの一撃を防いでくれるともう少し楽しめたのだが、そこまでを求めるのは酷かもしれない。
彼女は、竜だ。
彼女は、最強と呼ばれる生物だ。
美しく剣を閃かせ、麗らかに舞いながらすべての敵を屠る戦闘機。
その剣は無垢。その玉体は純真。
今はもう亡い、幻想の國からこぼれ落ちた尊いもの。
アルビオンの竜。
そして、今は。
神の近衛。
◆◆
「ふう、やはり咎人を踏み潰すとスッキリするな」
「それはよかったね」
男は、狂信者である。
彼の行動、意思決定の根底にあるのは常に信心だ。
神を信じ、そしてその意思に従い行動する。
彼という人間の行動原理はすべて信仰によって説明がつく。
ただひとつ勘違いしてはならないのは、彼の信じる神というものが既存の宗教に依るものではないということだ。
ランサーは、それを知っている。
召喚して程なく理解し、呆れたものだった。
彼女も大概に奔放な方だし、"ぶっ飛んだ"ものには縁もあった。
だがこうまで外殻からして荒唐無稽な主に巡り合うことになろうとは、さしもの彼女も思っていなかった。
「改めてご苦労だった、ランサー。神意を運び天罰を代行するその働き、神は誇らしく思うぞ」
ステンドグラスを背に立つその姿は、一見すると神父のように見える。
慈悲深く、他人の嘆きや痛みに寄り添い微笑む聖職者――
だが、その認識は絶対的、そして致命的に間違っていると言わざるを得ない。
-
「聖杯とは神の身許にあることこそ相応しい聖遺物。それを特段欲さないという敬虔さもまた宜しい」
「それほど興味もないからね。万能の願望器と言えば聞こえはいいけれど、たかだか核融合反応程度だよ。
わざわざ君と喧嘩してまでほしいかと言われると、まあそこまででもない」
「重要なのは誰の手元にあるか、ということだ。神として、かの奇蹟を取り戻さぬわけにはいくまい」
ランサーは、知っている。
彼が事あるごとに口にする"神"とは、特定の宗派における信仰対象を指しているのではない。
彼の神とは、己自身だ。
彼は他の誰でもない、自分自身をこそ信仰している。
自分という神が人々を導き、他者はそれを拝跪して受け入れるのが世界のあるべきカタチだろうと本気でそう信じているのだ。
神父などであるはずがない、こんな男が。
彼にとって神とはただの一人称だ。
自分は人界を旅立って冥界に足を踏み入れた神で。
この地にうごめく死者と、願いを求める葬者のことごとくを神の名の許に導き――そして自身の所有物である聖杯を回収する。
彼がかつてランサーに語った方針からしてそれだ。
驚くべき傲岸不遜、ありがた迷惑、そして信じられない唯我独尊。
死と隣接して更に輝きを増すマイソロジー。
そんな男が最強の生物たる、そして自分自身それを自認するアルビオンの竜を招き寄せ。
神の近衛と呼び、裁きという名の蹂躙劇を轟かせ続けている事実は――ある意味では順当な縁の賜物だったのかもしれない。
「ともに征くぞ、ランサー。神を指して死者と称するこの不遜な世界に、我らは神の威光を知らしめなければならない」
こんな人間もいるのか、とランサーは思った。
考え、行動、それの生む結果、彼に関してはすべてがめちゃくちゃだ。
彼は自分以外何も顧みない。
顧みているように見えたとしたら、それは彼が神として行動した結果生じた副産物に過ぎない。
生物学的には、間違いなく人間。
しかしそれ以外は、すべてが人外。
価値観も、能力も、何もかも。
彼のスケールは、人の器に留まっていない。
「――みんな、君みたいに生きられればいいのにね」
ランサーはそう言って、ステンドグラス越しの夜空を見上げた。
汎人類史を写した虚構の街。
かつて、異聞の史にて共に暮らした皆が辿り着けなかった世界。
今はもうどこにもいない、世界とともに消えていった者達。
そして、この手で終わらせてしまった最愛の光。
それに思いを馳せながら、かつての妖精騎士は身勝手の極みのような男に付き従っていた。
-
◆◆
地上に降りた、尊くまばゆい唯一神。
死の世界を、神の光輝が照らしている。
神は、取り戻せと仰せだ。
聖杯を。神の身許にあるべき、その奇蹟を。
神は、当然にして聡明だった。
そして、その魂は葬者としても極めて秀でていた。
それもその筈だ、彼は元から"葬る者"。
悔い改めるという言葉を駆使して屑を死に追いやり、神罰を名乗る地獄の葬者。
ゆえに神は、竜を呼び寄せた。
神敵の代表たる竜を呼び、神に従う剣として使役したのだ。
人界の神にして葬者。
神父にして、ギャンブラー。
名を、天堂弓彦。
冠位の竜、暗き沼の妖精。
今はもう、妖精騎士に非ず。
神の近衛、メリュジーヌ。
半殺し(ハーフライフ)では収まらぬ皆殺し(ワンヘッド)。
神域のタッグが、冥界という名の賭場に入場を果たした。
【CLASS】
ランサー
【真名】
メリュジーヌ@Fate/Grand Order
【ステータス】
筋力C 耐久A+ 敏捷B 魔力A+ 幸運B 宝具A+
【属性】
中立・悪
【クラススキル】
対魔力:B
魔術に対する抵抗力。詠唱が三節以下の魔術を無効化する。
大魔術・儀礼呪法を以ってしても、傷付けるのは難しい。
【保有スキル】
陣地作成:B+
本来はキャスターのクラススキル。魔術師ではないが、自身に有利な陣地を作り上げる能力。
自らの寝床を陰鬱な森の湖へと変質させてしまう能力は『陣地作成』スキルとして認識される。
妖精騎士:EX
妖精の守護者として選ばれた加護を表したスキル。妖精達の誓い。
対人・対文明に特化した自己強化だが、他の『妖精騎士』達への攻撃行動はタブーとされており、妖精騎士を殺めた妖精騎士は自己崩壊する。
ドラゴンハート:B
竜の炉心、あるいは竜の宝玉と呼ばれる、メリュジーヌの魔術回路を指す。
汎人類史においては『魔力放出』に分類される、生体エネルギーの過剰発露状態。
"竜の妖精"として自身を再構築したメリュジーヌは、竜種ではないものの竜と同じ生体機能を有している。
無窮の武練:B
汎人類史の英霊、ランスロットから転写されたスキル。
どのような精神状態であれ、身につけた戦闘技術を十全に発揮できるようになる。
過度の修練により肉体に刻み込まれた戦闘経験……といえるものだが、生まれつき強靭なメリュジーヌにはあまり必要のないスキルだった。
このスキルの存在そのものをメリュジーヌは嫌っている。生まれつき強い生き物に技は必要ないのである。
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レイ・ホライゾン:A
イングランドに伝わる、異界への門とされる「地平線」「境界」を守る竜(ミラージュ)の逸話より。
メリュジーヌはあくまで『妖精』としての名と器であり、本来の役割は『境界』そのものである。
……メリュジーヌ本来の姿に変貌するための手順。
【宝具】
『今は知らず、無垢なる湖光(イノセンス・アロンダイト)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:2〜10 最大捕捉:1匹
自らの外皮から『妖精剣アロンダイト』を精製し、対象に叩きつけるシンプルな宝具。
ランスロットのアロンダイトの槍版。ダメージは低いが、回転率はトップランク。
まるで通常攻撃のような気軽さで展開される宝具。なぜダメージが低いかというと、メリュジーヌにとってこの宝具はあくまでランスロットの宝具であって自分の宝具ではない借りもの(偽物)だから。とのこと。
『誰も知らぬ、無垢なる鼓動(ホロウハート・アルビオン)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:20〜500 最大捕捉:500匹
第三スキルによって『本来の姿』になったメリュジーヌが放つドラゴンブレス。
『本来の姿』になったメリュジーヌはもはや妖精と呼べるものではなく、その威容の心臓からこぼれる光は広域破壊兵器となる。
その様は境界にかかる虹とも、世界に開いた異界へのゲート(異次元模様)ともとれる。
使用後、メリュジーヌは『そうありたい』と願った妖精の器に戻れず、人知れず消滅する。
異聞帯のアルビオンは『無の海』を飛び続け、やがて死に絶えたが、どの人類史であれ『星に帰り損ねた竜』は無残な最期を迎える、という事の証左でもある。
【weapon】
『妖精剣アロンダイト』
【人物背景】
妖精國ブリテンにおける円卓の騎士、その一角。
汎人類史における円卓の騎士・ランスロットの霊基を着名した妖精騎士。
ブリテンでただ一種の"竜"の妖精。
【サーヴァントとしての願い】
特になし。マスターにくれてやるつもりでいる。
【マスターへの態度】
大切にしてくれるので悪い気はしない。その尊大も好ましい。ただ時々何を言っているのかよく分からない。
……"彼女"もこんな風であれたなら、この世界でも強く生きられたのだろうか。なんて想いも、少しある。
【マスター】
天堂弓彦@ジャンケットバンク
【マスターとしての願い】
聖杯とは神にこそ相応しき聖遺物。
ならばその輝き、神の袂に還るべし。
むろん、神とは私のことを指す。
【能力・技能】
ギャンブラーとしての常軌を逸した才覚と頭脳。
更にはわずかな手の動きでカードの配置を当てるほどの驚異的動体視力。
以上を非常に高い水準で併せ持ち、神がかった采配で愚かな衆生に天罰を下す。
そして、『神』への絶対的信心。天堂弓彦の行動はすべて、神の教えを貫くことに帰結する。
むろん、神とは私のことを指す。
【人物背景】
神。
【方針】
聖杯を"取り戻す"ことは前提だが、神は寛大である。
迷える者がいるならば導き、悔い改めない咎人がいるならば罰を下す。
むろん、神とは私のことを指す。
【サーヴァントへの態度】
愛すべき従僕。その無垢さも含め、神の近衛として働くに足る器と認定。
むろん、神とは私のことを指す。
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投下終了です。
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投下します
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結論から言えば、ハズレだった。
何がって、私のサーヴァントのことだ。
能力が低いわけではない。そもそも他のサーヴァントをろくに見ていない以上、その能力を相対的に評価することは出来ない。
いや、少なくとも私のような人間よりかは、戦闘の面では遥かに優れている。
ただ、それ以上に問題があった。
サーヴァントの目的とやってることが、乖離し切っているのだ。
★
むかし むかし あるところに
おじいさんと おばあさんが くらしていた
子がいない二人は モモワロウという 小さくおくびょうなポケモンを わが子のようにかわいがっていた
もっとあいされたいモモワロウは 体のどくをまるめて作った クサリモチをふるまった
ほほがおちるほど美味であり 二人はたちまちクサリモチのとりこに
いや モモワロウのとりこになった
このモチ 食べたものの 欲も引き出すようで
やがて二人は あれがほしい これがほしいと モモワロウに物をせがむようになった
すぐにかなえてあげるのが 愛されるヒケツ
クサリモチで手なづけたポケモンに つぎの朝にはとどけさせた
二人はますます モモワロウをかわいがるのであった
★
聖杯戦争という、聞いたことも無い戦いのルールを教えて貰ったついでなのか、私の下には読んだことのない一冊の絵本があった。
こいつをどこまで信じるべきなのか、そもそもこれは誰が書いたのか疑わしいが、人の言葉を話せないサーヴァントの履歴書、はたまた取扱説明書と言った所だろう。
実際にモモワロウ、キャスターは自分で紫色をした餅を作り、町行く人に食べさせた。
それを食べた者は急におかしくなり、変な踊りを踊りだしたり、キャスターの言うことを聞くようになったりした。
なのでこの絵本は少なくとも嘘八百書いてる訳では無い。それは分かった。
だが、この絵本の主人公であるモモワロウが、自分のサーヴァントと言うのなら、それはそれで問題だ。
問題は先程言った通りだ。このキャスターは、愚かにも目的とやってることが一致していない。
愛されたいというのなら、他人によく分からない物を食べさせるよりも、まずは相手を知り、自分を磨き、相手と接し、尚且つ相手を愛さなければならない。
『いつか空の飛び方を知りたいと思っている者は、まず立ちあがり、歩き、走り、登り、踊ることを学ばなければならない。その過程を飛ばして、飛ぶことはできないのだ』とはニーチェの格言であるが、愛されることもまた、いくつかの過程を踏まえなければあり得ないことだ。
それをこのサーヴァントはあろうことか、その過程を全てすっ飛ばした。
そんなことをして作られた偽物の愛などに、何の価値がある?
私はそれなりに多くの人間を殺してきたが、ちゃんと愛は理解している。
他人の精神状態を改ざんして偽物の愛を作ったとして、自分も他人も、破滅へと向かうだけだ。
実際にこのサーヴァントは、破滅した。そしてまた、同じ失敗を繰り返そうとしている。
「キビキビー!!」
「キュヴィ、キュヴィー!!!」
外の声が、やたらとうるさい。
原因は誰かは、よく分かっている。
「モモワーイ!!」
そしてその犯人は自分の気持ちを知ってか知らずか、馬鹿を体現しているかのように喜んでいる。
私が眉根を寄せたが、全く気にすると言った態度は無く、ただ自分を愛してくれる者を増やせたことに、歓喜しているのだ。
「その力は凄いけど、今はやめておこうね。」
「モ?モ……」
キャスターは驚いたような表情を見せた。
あんなことをすれば、私が喜ぶとでも思っているのか。
「今は何もしなくていい。」
-
愚かだと思った。
私は愚か者とは、「自分を愚かだと一度たりとも思ったことが無い者」だと定義しているが、このサーヴァントはまさしく当てはまっていた。
聖杯戦争に優勝すれば、何でも願いを叶えて貰える。なるほどそれは魅力的だ。
だが、このような愚物と同行しながら、正体も分からない者達と戦えなど、体のいい冗談にしか思えない。
そもそもこの生き物が造るクサリモチとやらが、全ての聖杯戦争参加者に効くかも不明だし、こんなことを続けていればすぐさま怪しまれて、瞬く間に足がつくだろう。
もしかすれば、自分一人の方がまだ勝ち目があるんじゃないか?自惚れたつもりは無いが、そこまで考えてしまう程だ。
尤も、今の私はこの戦争での勝利にそれほど拘りは無いのだが。
ただ、このサーヴァントを愚物と断定するのはいいとして、疑問は二つ残る。
なぜ聖杯は自分に『これ』をあてがったのかということだ。
勿論、裕福な家庭から私の兄のような愚物が産まれたように、優秀な者の血縁者が必ずしも優秀というではない。
だが聖杯戦争とは、マスターとサーヴァントの関係とは、血縁関係によって成り立つものではない。
当てずっぽうの可能性も無くはないが、私が私であるという理由から、このサーヴァントが選ばれたのだろう。
★
ある日のこと おじいさんと おばあさんは どこで聞いたのか
キタカミにあるという 世にもみごとなかめんを ほしがった
ねがいをかなえてやろうと モモワロウは キタカミの地へ 向かうことにした
たびには おともがつきもの
どくの力でかいならした イイネイヌをけらいに むらをでた
★
もう一つの疑問としては、聖杯はなぜ私を選んだのかということだ。
自分が平和な日本で、30人以上の人間を殺害した殺人鬼だからか?
だとするなら聖杯とやらは、極めて見る目がないということがはっきり分かる。
せめて死刑を言い渡される前の私に頼むべきだった。
今の私は、言ってしまえば役割を全て終えた抜け殻のような存在だ。
檻から出して、しかも何でも願いを叶えるという報酬をちらつかせれば、また意気揚々と人殺しをするとでも思っているのか?
悲しいぐらいに分かってない。かつての職業柄こんな例えになるが、勉強のやる気がない子供に教科書を置いて、これをやれば玩具(しかも本人にとってそれほど欲しくない物)を買ってやると言えば、すぐにでも勉強のやる気を出すと言ってるようなものだ。
私としても、自分の意志以外で人を殺すなどごめんだ。
誰彼構わず殺したかった訳では無く、殺す相手を選ぶぐらいのことはしていた。
そしてこの聖杯戦争の参加者全員が、私が殺して然るべき相手とは思い難い。
いや、いた。
殺して然るべきと思う相手は。目の前にいた。
自分にモチを食べさせようとしているキャスターから、はっきりとそれは見えた。
サーヴァントの頭上には、銀色に光る蜘蛛の糸が垂れ下がっていた
★
ついにかがやく 仮面を手にしたモモワロウ
これで二人のねがいをかなえてやれる もっとかわいがってもらえる
そんなよろこびも つかの間だった
怒りくるったオーガポンが もうそこにいるではないか
モモワロウはすぐさまけらいの3びきを前に立たせ
キチチギスのフェロモンで気をひき
マシマシラの力でこうげきを読みきり
イイネイヌの自まんのごう腕でしとめようとした
だが 鬼気(きき)せまるオーガポンに なすすべはなかった
せまるオーガポンにふるえながら モモワロウはおのれのうんめいをさとった
仮面も なかまも しあわせも 何もかもうしなったと
ふきとばされる中 さいごの力をふりしぼり ただ からにこもった
そして ころころ ころころと
森のどこかへと ころがっていったのだ
★
-
何度か読んでみたが、下らない物語だ。
殺人鬼たる自分が、他人を殺人鬼に仕立て上げて来た自分がこんなことを言うのもなんだが、他人を好き勝手操った報いでしかない。
終わりの方ではモモワロウが悲劇の主人公のように書かれているが、何もかもが自業自得としか言いようがない。
もしや、自分もこのキャスターも、自分の罪を他人に着せようとしていたから、私が選ばれたのではないか
そんな釈然としない疑問を抱き始めた頃に、蜘蛛の糸が見えた。
一応言っておくが、蜘蛛の糸、とは本物の蜘蛛の糸ではない。
今いる借家は清潔で、蜘蛛もゴキブリもいないからね。
それが見えたきっかけは私が小学生、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』を読んでから、しばらくした時だった。
先程言ったように、私には暗愚でそのくせ性欲だけは人一倍強い兄がいた。
その兄がある日、いかがわしい悪戯をしようとした少女を、誤って殺した。
いずれ、こうなるだろうとは思っていた。だが、当時の私をして、予想し切れていないことがあった。
兄は、私に少女殺害の罪を擦り付けようとしていた。
それが分かった瞬間、正体不明の“蜘蛛の糸”が、兄の上から垂れ下がっているのが見えた。
兄は犍陀多のように、私という蜘蛛の糸を使って、今いる地獄から逃れようとしていたのだ。
だからこそ、その糸を切った。兄を殺した。それが私の初の殺人だった。
それからしばらくして、“蜘蛛の糸”の意味が分かってしまったんだ。
あれは連れていくべき人間の印じゃないかと。
もしかすれば、自分こそがその糸を断ち切るべきじゃないのかと。
この世は地獄であり、食んでも食んでも満たされず、常に飢えに苦しんでいながらも、死ぬことも出来ない人間にだけ現れる『死』と言う名の希望では無いのか。
根拠は無いが、その考えが事実だ。そう思うようになってしまった。
「だからいらないよ。そんな物を食べなくても、僕は君を愛してあげるから。」
モモワロウの頭を、子供にするかのように撫でてあげると、ニッコリとほほ笑んだ。
何度かこれは繰り返したやり取りだ。でもこいつは、私にモチを食べさせようとする。
愚かなのに、悪だくみだけは一丁前にしようとする所は、私の兄そっくりだ。
その糸が見えた時、私は分かってしまった。
私はこのサーヴァントを導いてやらねばならないと。
そして私は、何処まで行っても糸を垂らしている他者を、あの世へ導く人物だと。
(初めてだな…人以外の生き物を導いてやるのは。)
このサーヴァントも、愚かなりに救いを求めているのだろう。
しかも、決して救われないやり方で。
だがやり方はどうであれ、常に心の穴を塞ごうとしているのだろう。
心の隙間を埋めようとしているのなら、是非教師として親身になってあげなければならない。
-
授業開始だ。
教師をやめたのは数年前。それからは市議会議員として奔走していた毎日だった。
けれど、不思議と教師だった頃、蜘蛛の糸を垂らしていた子供を導いていた頃を思い出す。
授業は教室ではない。この聖杯戦争の会場全て。
令呪を以て自害を命じるなんて、そんな一瞬で終わるようなことはしない。
本当に満たされるとは、愛とはどういうことか教え。
最後の最後で、その糸を断ち切ってあげよう。
初めての人間ではない生徒、僕の名前は八代 学(やしろ がく)。よろしく頼むよ。
【クラス】
キャスター
【真名】
モモワロウ@ポケットモンスタースカーレット/バイオレット
【ステータス】
筋力D 耐久B 敏捷D 魔力D 幸運E 宝具A
【属性】
混沌 悪
【クラススキル】
陣地作成:B
キャスターは宝具の効能により、クサリモチを食べさせたNPCを自由に操ることが出来る。
サーヴァントを操ることも可能だが、対魔力のスキルがあれば、無効化されてしまう。
道具作成:C
上記のクサリモチを生産することが出来る能力。クサリモチを食べさせた者に運ばせることも出来る
【固有スキル】
からにこもる:E
殻にこもり、置物に成りすますことで、代わりにサーヴァントとしての気配を断つスキル。モモワロウとは違うポケモンが同名の技を覚えるが、それとは関係ない。
仕切り直し:B
戦闘から離脱、あるいは状況をリセットする能力。機を捉え、あるいは作り出す。
また、不利になった戦闘を初期状態へと戻し、技の条件を初期値に戻す。同時にバッドステータスの幾つかを強制的に解除する。
タイプ・ゴースト:C
元の特性から、殴打、蹴りなどの肉体を用いた攻撃を無効化出来る。
ただし、その攻撃が闘気、オーラなど、別属性を帯びていれば普通に通る。
また、同じようにタイプ・ゴーストを持つ者の攻撃や、霊・怨念などに関わる攻撃を受けた際には、ダメージが倍になるデメリットも存在する。
毒傀儡:B
モモワロウの攻撃には、いくつか相手に毒を齎す技がある。毒を受けた者は、治療しない限り体力が徐々に減っていくが、モモワロウの場合、毒を与えた相手の精神を錯乱させることが出来る。
ただし、精神汚染 などのサーヴァントのスキル次第で、この状態異常は無力化される。
【宝具】
『じゃどくのくさり』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
あらゆるポケモンの中でも、モモワロウしか使う事の出来ない技。
自分が作ったクサリモチを鎖のように繋げ、相手を縛り付ける。食らった相手は高確率で猛毒状態になる。
また、上記の毒傀儡も毒を受けた相手には発動する。
『3匹のおとも』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:6
自分が手懐けた3匹の仲間を呼びだす宝具
イイネイヌ、マシマシラ、キチチギスが味方になり、モモワロウとそのマスターに協力してくれる。
ただし、呼び出そうとする場合は令呪1つを使わなければならない。
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【サーヴァントとしての願い】
聖杯の力で、愛を受け止め切れないほど手に入れる。
【人物背景】
ドローンの如く宙を浮かぶ、毒々しい色をした桃の実のような姿をしているポケモン。
殻の内側で毒素を練り込んだ餅を食べさせ、食べた者を操る力を持っている。
支配された人間は「キビキビー!!」という奇声を発しながら奇妙な踊りを踊り続けるか、他人にクサリモチを食べさせようとするかどちらかである。
他者からの愛に飢えたポケモンで、自分をとにかく愛してもらおうとした。自分を飼っていたおじいさんとおばあさんが欲しがった、キタカミのお面を、御伴を連れて手に入れようとした。
キタカミの里にたどり着き、お面を持った男と、そのポケモンであるオーガポンに狙いを定めた。やがて男の奇襲に成功し、4つの仮面のうち3つを手に入れるも、最後の仮面をつけたオーガポンに襲撃を受ける。
全てを奪われたモモワロウは、ずっとずっと殻に籠っていた。
【マスターへの態度】
もっともっと自分を愛して欲しい。愛してくれないなら、モチを食べさせて愛してもらうことにする。
【マスター】
八代 学@僕だけがいない街(漫画版)
【マスターとしての願い】
願いは無い。けれど、サーヴァントを導いてやらなければな。
【人物背景】
小学校の教師でもありやがて市議会議員でもある。明るい性格で、『心の中に空いた穴を埋めていくのが人生という』人生哲学のもと、他人に対し親身になって接しているので、クラスでも人気の先生だった。
だが、正体は連続小学生誘拐殺害事件の犯人。一人でいることの多い児童をその毒牙にかけ、自分に捜査の手が回らない様必ず別の犯人を用意するという周到さを見せていた。
芥川龍之介の蜘蛛の糸を愛読している影響か、兄を殺してからは満たされない人物の頭上に蜘蛛の糸が見える様になる。
しかし、過去に戻った藤沼悟にその正体を暴かれる。彼を氷の湖に落としたことでその難を逃れる。以降は教師を辞め、知り合いのつて市議会議員を務めている。またこの時期に結婚して婿養子に入った際に改名している為西園学(にしぞの まなぶ)という名前になっていた。
それから長らく昏睡状態になっていた藤沼悟が目を覚まし、自身の犯行も明るみに出た上で、死刑を言い渡される。
【方針】
聖杯を取りに行く。その果てに、サーヴァントを導いてあげる。
【サーヴァントへの態度】
極めて愚かだと思っているが、そんな生徒(サーヴァント)を導いてやろうと思っている。
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気付けば、私は私の知らない地球にいた。
この世界、西暦という紀元で呼ばれている地球では宇宙に人は進出していない。だから、スペーシアンとアーシアンの対立というものは存在していないらしいし、私が生まれて育った水星は未だに人類未踏の地となっている。何か不思議な気分だな。
アド・ステラでは当然の様に存在していたパーメットもMSも存在しない。……だから当然、ここにはエアリエルもいない。私の家族がいないのは心細い、それでもエアリエルがこの聖杯戦争というものに巻き込まれなかったことにはホッとしている。
そう、聖杯戦争。ここはマスターと呼ばれる参加者と、聖杯っていうものの力でそのマスターのペアになる様に呼ばれたサーヴァントっていう凄い力を持った幽霊……みたいな人が最後の一組になるまで争って、そして優勝した組はなんでも願いが叶えられる儀式、らしい。
なんで、私がそのマスターとして呼ばれたのかなんて分からない。アスティカシア学園で学生をしていた筈の私は、気付いたらこの場所にいて、勝手にマスターということになっていた。
それでいきなり願いが叶えられる命を賭けた殺し合いをしろ、と言われても困ってしまう。
だから、考える時間が欲しいと私は私のサーヴァントにお願いをしていた。
「あの、ライダーさん。いますか?」
「おう、ここにいるぜ」
「うひゃあ!?」
何もいないところから聞こえてきた声にびっくりしながら振り向くと、そこには大昔の記録映像でしか見たことないような船乗りの服を着たお爺さん、私のサーヴァントであるライダーさんの姿があった。霊体化というものらしいけど正直慣れない。
真名も教えて貰っている。クリストファー・コロンブスという船長さんだそうだ。大昔の歴史については知らなかったけれど、ミオリネさんと一緒に育てていたとても馴染み深い野菜であるトマトを世界に広めたのがこの人だというのだからとても驚いた。
お爺さんとのやり取りなんて水星くらいでしかなかったけれど、コロンブスさんは水星のお爺さんに比べるととても明るくてエネルギッシュな人だった。戸惑う私に聖杯戦争のルールやこの世界のことを丁寧に教えてくれたり、私のいるアド・ステラや私の置かれている状況を親身になって聞いてくれたりと信頼できるいい人だ。
「俺を呼ぶってことは方針は決めたってことだよな?」
「は、はい!」
すうっと息を大きく吸って、吐く。
これがコロンブスさんの納得してもらえる答えになるかは分からない。
それでも、ここは悩んで悩んで出た答えを正直に話そう、そう思った。
「わ、私、夢があるんです。いつか、水星に学校を建てるって」
「ほう、それじゃあそれが嬢ちゃんの聖杯に賭ける望みってことか?」
「い、いえ!あの、なんというか、この夢を聖杯戦争とか、そういうので叶えるのはなんか違うんじゃないかなって、そう思うんです!」
私は、水星に学校に建てたい。
でも、それはアスティカシア学園で勉強して、色んなことを覚えて、そうやって叶えていくもので、戦争で誰かを蹴落としてポンと叶えて貰う望みではない。こんな形で叶えるのは、学園に送り出してくれたお母さんや私の夢を応援してくれた人達を騙している様で嫌な気持ちになる。そう思った。
「そうすると、聖杯に賭ける望みはねえっていうのが嬢ちゃんの答えって訳だ」
「はい、私はこういう方法で叶えたい望みなんてありません」
「ならどうする、棄権するか?棄権したところで嬢ちゃんが元の世界に帰れるって訳でもねえんだぞ」
「……それも、分かっています。だから戦う事はします」
-
戦う、という決意は伝える。
コロンブスさんが言う通り、この聖杯戦争には棄権ルールなんていうものはない。それに棄権したところでこの東京から出る手段がないなら棄権する意味がない。私はお母さんやエアリエル、ミオリネさんや皆がいるアド・ステラに帰りたい。
「私は私のいた世界に帰りたいです。でも帰れる方法は分かりません。そんな私が今出来る事は聖杯戦争で戦うことくらいです。棄権すれば、逃げれば、この聖杯戦争で襲われることはないかもしれません。でも、戦えば、進んでみたらアド・ステラに帰る方法が分かるかもしれません。私みたいな境遇の参加者の人や協力してくれる人が見つかるかもしれません。だから私、棄権はしません。聖杯戦争で戦います。でも、あまり人を殺すとか、そういうことは出来ればやりたくないです」
そう、一息に伝えた。
サーヴァントにも叶えたい望みがあるから聖杯戦争に参加しているっていうことはコロンブスさんに教えて貰った。内容は聞いていないけれど、コロンブスさんも聖杯に叶えて欲しい望みがあることも。
そういう人から見たら私の方針はあまりよく思われないかもしれない。
「一つ確認だ。もしも、もしも聖杯戦争に勝ち残る以外でアド・ステラに帰る手段が見つかったとしたら、嬢ちゃんはどうする?」
「か、帰ります。でも、コロ……ライダーさんが私がいなくなった後でも勝ち残れる様に、マスターの資格を他の人に渡すとかやれることは全力でやってから帰ります!」
これも本当のこと。アド・ステラには帰りたいけれどここまで親身になってくれたコロンブスさんを裏切るような真似はしたくない。出来るだけのことはしてから帰るつもりだ。
痛いぐらいの沈黙。コロンブスさんはくるんっと伸びている顎鬚の先を弄りながら考え事をしている。
なんて返事がくるかは分からない。ドキドキと胸の鼓動が聞こえてくるくらいに大きくなってきた。
「……ま、そこまでこっちを尊重してくれるっていうんならそこが妥協ラインか」
ふうーっと大きなため息を一つついた後に、しょうがなさそうにコロンブスさんが私に笑いかけ、右手を差し伸ばしてくる。
「いいぜ、嬢ちゃんの方針は聞かせてもらった。改めて契約成立といこうじゃねえか」
「い、いいんですか?」
「応よ!巻き込まれた嬢ちゃん……『マスター』の立場は分かってるつもりだ。そんな中でもお前さんは『逃げる道』じゃなくて『進む道』を選んでくれた!サーヴァントとしちゃこんなにありがたい話はねえさ。マスターの道は困難だが、こと諦めねえってことに関しちゃ俺ァ相当よ。諦めずにマスターを元の世界に帰してやろうじゃねえか」
そのコロンブスさんの返事に、こみあげてくる嬉しさに私は差し伸ばされた右手をとって握手をした。私のサーヴァントがコロンブスさんで本当に良かったと思う。
お母さん。やっぱりお母さんの言う通りだね。進んでみたからこうやってコロンブスさんも協力してくれたよ。
お母さん、エアリエル、ミオリネさん。私、絶対に帰るから。それまで待っててね。
◇
-
能天気な笑顔を浮かべる嬢ちゃんにブンブンと握られた腕を振られながら俺は作った笑顔を崩さない。
何事も値踏みは必要だ。
それが、命を預けなきゃならねえ相棒のポジションであるならなおの事。噛み合いが悪そうならそもそも出航することすら見送らなきゃいけなくなる。誰だって沈むと分かっている船に乗ろうとなんざ思わねえ。当然の話だ。
そこで俺を召喚したマスターの嬢ちゃんは俺が背を預けるに足るマスターかどうかという話になる。
スタンス。ここに関しては問題ねえ。
あの嬢ちゃんはかなりのお人好しのようだが、聖杯戦争に勝ち残る事自体は当面の目標として飲み込んでくれちゃいる。不要な犠牲は出したくねえと甘い事を言っているが、それはまあ許容範囲、妥協できるラインだ。穏健派な考えだがその分他の参加者と交渉の予知は生まれやすい。何分俺の地力じゃあ神話に出てくる様なサーヴァント相手じゃ分が悪いのもあって共闘を方針に入れて立ち回る方がやりやすい。懸念事項があるとすりゃ元の世界に帰る手段が見つかっての途中棄権だが、それに関しちゃ協力するフリをして上手い事潰してやりゃあいい。あの素直さ、信じ込みやすさであれば俺の口先で丸め込めるだろう。
身体スペック。少々不安は残る。
元の世界じゃある程度は鍛えていたのか動きは悪くねえが、だからといって年相応のガキだ。軍人でも魔術師でもねえ以上どうしたって鉄火場に慣れた奴に比べれば地力は不測するだろうし俺が嬢ちゃんを守る比重は高くなる。立ち回りは多少頭を使わないといけねえだろう。
精神力。これに関しちゃあ文句なしだ。
自分の命の危機であっても何が出来るかを判断する力と体を動かせる度胸。命の取り合いには慣れてねえが命の危機と隣り合わせの仕事でもしていたのか。何にしろ窮地に強えっていうのは明確な長所と言えるだろう。
そして何よりも評価しているのは嬢ちゃんの信条だ。『逃げたら一つ、進めば二つ』母親からの受け売りらしいが良い言葉だ。戻ることで得られるものもあるが諦めず進んだ先の方がより多くのものが手に入る。その理屈には大賛成だ。もし会うことがあったら握手して讃えてやりたいくらいだぜ。
結論として、当面手を組む相手としちゃあ悪くねえ。もっと強い戦闘力を持ったマスターもいるかもしれねえが、嬢ちゃんの評価点は扱いやすさと諦めの悪さだ。嬢ちゃんの方からは分からねえが、俺からすれば好ましい気質だと言える。よっぽどのことでもなければ切り捨てることは考えなくていいっていうのはありがたい話だ。この様な縁をお恵みくださった主には感謝を捧げなきゃいけねえだろう。
加えて何よりも好ましいのは嬢ちゃんのおかれた環境だ。まだ学校に籍を置いている若造どもによる新興企業の立ち上げ?禁忌とされていた技術による新規事業?業界トップシェアの財団のご令嬢と嬢ちゃんが主要メンバー?
ハッハァ!最ッッッ高に儲かりそうな話じゃねえか!!!
嬢ちゃんの願いを叶えてやった暁にゃあアド・ステラとかいう歴史を辿った世界に受肉してその儲け話に一枚噛ませてもらいてえところだ。その為にも事前投資として売れるだけの恩は売っておかなきゃならねえ。
グフフフ、さあて今回の航海の第一目標は定まった。どれだけの困難があったところで後はもう進むだけだ。
嬢ちゃんの座右の銘に敬意を表して『逃げたら一つ、進めば二つ』の精神でガンガン進んで行こうじゃねえか!!
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【CLASS】
ライダー
【真名】
クリストファー・コロンブス@Fate/Grand Order
【性別】
男性
【属性】
中立・悪
【ステータス】
筋力C 耐久B 敏捷D 魔力E 幸運EX 宝具A
【クラス別スキル】
対魔力:D
魔術に対する抵抗力。詠唱が一工程(シングルアクション)の魔術を無効化。魔力除けのアミュレット程度の耐性。
騎乗:B
乗り物を乗りこなす能力。Bランクでは、大抵の乗り物は乗りこなせるが、幻想種は乗りこなせないレベルである。
【固有スキル】
嵐の航海者:B
船を駆り、船員、船団といった集団を統率するスキル。
「軍略」と「カリスマ」を兼ね備えている。これ程の指揮力を以ってしても、第一回航海時には、前例の無さ、過酷さが故に船員達が反乱寸前の状態になった。
不屈の闘志:C
あらゆる苦痛、絶望、状況に絶対に屈しない極めて強固な意思を示すスキル。
彼の場合、その対象は「自分の夢の実現を阻むあらゆる因難」と定義される。問題に対する瞬発的な抵抗力というよりは「決して諦めない」という継続力に通じる在り方。そう――諦めない限り、夢は必ず叶うのだ。
コンキスタドール:EX
大航海時代、航海の果てに未開地を征服した者のスキル。
未開の地への侵攻、支配、略奪、奴隷化などの手際の良さを示す。厳密に言えば、航海の結果「アメリカ大陸」を征服した者こそをコンキスタドールと呼ぶ向きもあるが、その源流――「スペインからの征服者」という概念を最初に発生させた者として、コロンブスはこのスキルをEXランクで有している。
【宝具】
『新天地探索航(サンタマリア・ドロップアンカー)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜30 捕捉:200人
最も有名な最初の航海が結実したもの。
彼の乗っていた旗船サンタマリア号が出現。接岸(陸地のど真ん中であっても)し、そして彼の指示に従い、為すべき事を為す。
これは「サンタマリア号よ、錨を下ろせ」という、船長としての略奪開始命令である。
主にサンタマリア号から錨を発射しての拘束などが行われる。
【weapon】
サーベル:一般的なサーベル
マスケット銃:一般的なマスケット銃
鞭:一般的な鞭
錨?:舵と鎖と錨を複合させたような武器
【人物背景】
アメリカ大陸への航路発見により西半球と東半球の動植物・文化の一大交流を起こし、人類史のターニングポイントの一つともよべるコロンブス交換を起こした世界でも有数の冒険家。その一方で原住民に対する大規模な殺戮・陵辱・略奪を行った功罪激しい人物。
表向きは豪放磊落で寛容な好人物であるが、その本性さ打算的かつ狡猾。必要とあらば味方へのだまし討ちや謀殺すら良しとし自分の利益を追求する極めて利己的な性格。
またスキルに昇華するほどの諦めの悪さを有しており、どのような厳しい状況においても打開策を練り続ける忍耐力、そして機会を逃がさぬ観察力と発想力を併せ持つ。
一般道義的には悪人と呼んで相違ない性格・所業を行ってきた人物であるが一方で敬虔なキリスト教信徒である一面も併せ持つ。
【サーヴァントとしての願い】
金儲け。現状ではスレッタに恩を売った状態でアド・ステラで受肉し株式会社ガンダムを利用して人財産を築く
【マスターへの態度】
扱いやすく、またメンタリティが好印象のため現在は友好的。現状では切り捨てる気はない。
-
【マスター】
スレッタ・マーキュリー@機動戦士ガンダム 水星の魔女
【マスターとしての願い】
聖杯にかける願いはない。アド・ステラに帰りたい。
【能力・技能】
特になし。
【人物背景】
水星からアスカティシア学園へとやってきた少女。夢は自分の故郷である水星に学校を建てること。
気弱だが正義感が強く真っすぐな性根の持ち主。純朴で素直な反面、気を許した相手の言動を無条件で信用したり好意的に解釈するなど騙されやすい一面がある。また、おどおどしつつも退くべきでないところでは退かずに反論するなど図太いと形容できるレベルで肝が座っている場面も見受けられる。
水星の過酷な環境かでガンダム、エアリエルを駆り人命救助を行って来たため緊急時の判断力・行動力については高い一方で彼女のワンオペの状況ばかりであったせいか集団行動に不慣れなところがある。
【方針】
一先ずは優勝を狙う。他に元の世界に帰還できる方法があればライダーを託すための出来るだけことをしてから棄権して帰還する。
【サーヴァントへの態度】
親身に接してくれたことから完全に気を許して信頼している。
-
投下終了します
-
投下します
-
目を覚ます。
意識が浮上する。
機械の電源をオフからオンにする工程そのままに。
体内の回路が駆動し、AL-1Sは起動する。
同時に脳内に流れ込んで来る知らない知識。
冥界、戦争、葬者、運命力、英霊、聖杯。
その全てを『後でいいです』とデータの奥底へ押し込んで。
全てのメモリを記憶の遡及の為に動員した。
アトラ・ハシースの戦い。
〈Key〉――ケイとの会話を終えて目を閉じた時。
憶えているのは其処までだ。
自分はちゃんとやれたのか。
皆は、先生は無事なのか。
其処の記憶だけがどうしても出て来ない。
どうやらそのタイミングで此処へ落とされたらしいと理解し、AL-1S、いや。
天童アリスと名付けられた少女は顔をあげた。
其処で初めて、気付く。
自分の前に誰かが立っている事。
錆びた影が一つ、自分を見下ろしている事に。
「…あなたは」
似ていると思ったのは一人。
アトラ・ハシースの方舟を駆った"敵"だった。
プレナパテス。
無表情の面を被って佇む、棺のような何か。
見た目もカラーリングもまるで違うのに、それでもアリスはあの鉄影を重ねてしまった。
「あなたが、アリスのサーヴァントですか?」
「そうだ」
響いた声もまた錆び付いていた。
人の声を色で表現出来る程の感性はまだ学習途上のアリスにはなかったが。
それでもその声から連想したのは錆び付いた機械のヴィジョンだった。
何千年、何万年と稼働し続けて来たオーパーツ。
休む事を許されず不協和音を立てて回る歯車。
そんな印象をアリスは懐いた。
それも含めて似ていると思ったのだ。
プレナパテス、キヴォトスに顕れたあの影に。
黒くそして黎く佇むこの男が、重なる。
「サーヴァント・ライダー。葬者(おまえ)の召喚に応じ現界した」
-
漆黒の軍服とそして軍帽。
腕には鈎の付いた十字の紋章。
肌は白いがその印象が消し飛ぶ程に黒い。
見てくれの話ではなく、存在そのものが何処までも暗かった。
闇の底を覗いたような。
若しくは夜の天を見上げたような。
世界にぽっかり空いた穴のような。
底のない黒を湛えた、錆びた鋼のような男。
アリスが其処に見たのは"死"だった。
生きる、死ぬ。
それを理解出来る程長く人の営みに触れていない機人でさえ、彼の影には死の影を見た。
冥界とは死の世界。
ならば死人が、死が歩くのも道理。
葬者に寄り添う死者として。
終焉の歯車は其処に居た。
「…あなたは」
アリスは問わずにはいられなかった。
質問攻めにするのが良くない事だというのは解っている。
相手にも話す隙間を与えるのが対人関係の基本だ。
それでも訊きたい気持ちの方が勝ってしまった。
だから口を開き、また問いを投げる。
これから長い戦いを共にする戦友の事を。
そして。
「あなたは、どうしてそんなに哀しい顔をしているんですか?」
どうしてそんな表情をしているのかを知る為に。
矢継ぎ早の問いに気分を損ねるでもなく黒影のサーヴァントは再び口を開いた。
ギギギ、と。
もう動かない機械を無理矢理動かす音に似た錆色の声で。
「――俺は終わった存在(モノ)だ。
とうに幕は下り、迎えた結末に悔いはない」
「じゃあ、どうして」
「俺が続いているからだ」
言葉の意味が解らない。
怪訝な顔をするアリスに英霊は続ける。
「俺が終わっていない。
漸く掴んだ終焉(おわり)はまた何処か遠くへ行ってしまった」
「…終わり。ライダーは、終わってしまいたいのですか?」
「死は一度きり。ゆえに烈しく生きる意味がある。
代えの利く終わりなど、茶番以外の何物でもないだろう」
錆びた黒色の声が鼓膜を打つ。
アリスはそれを咀嚼するべく思考回路を動かしていく。
先生が居て、モモイ達ゲーム開発部の皆が居て。
ユウカやネルのような楽しい人々に囲まれて過ごす大切な時間。
アリスにとってそれはいつまででも続いて欲しい"当たり前"だったが。
この英雄にとってはどうやらそうではない。
半端な反論を許さぬ歴史の重みが、響く重厚な声には確かに載っていた。
「失敗の許されぬ唯一無二。決して譲れぬ聖戦。それこそが俺の理想の死だった」
-
アリスの回路に知らない景色が流れ込む。
英霊との記憶の共有。
本来なら夢を通じて起こるそれが覚醒時であるのに生じていた。
それもその筈、天童アリスと死を纏う騎兵は存在として近い。
共に機人/機神。
終焉を導くべく生み出された生体兵器。
――デウス・エクス・マキナ。
「聖戦は成った。だが結末は穢された。
奇跡を名乗る泥細工に、俺は掴んだ無二を汚されたのだ。
どうして愉快な顔が出来る。抱くのは怒りと、諦観だけだ」
ライダーが誰かと戦っていた。
死と死が乱れ舞う戦場。
それは、アリスの見て来たどの戦いよりも激しい。
雄々しくそして哀しくぶつかり合う二人の勇士の姿にアリスは息を呑む。
そして同時に、彼の言葉にこう思ったのだ。
「…それは、少し解る気がします。
アリスにも大切な人達がいます。
魔王になって滅ぼす筈だった世界――その素晴らしさを教えてくれた人達がいます」
勇気と愛と光のロマン。
時計じかけの花が愛したパヴァーヌ。
紛れもなくアリスにとって唯一無二の宝物だ。
それをありふれていると笑われたら。
一山幾らで何度でも再現出来るのだと知らされたら。
その時きっと自分は、怒るだろう。
決して笑ってなんかいられない筈だ。
「先生も皆も、絶対に替えなんて居ません。
居る訳がありません。なのにそんな事を言われたら、アリスはきっと嫌な気持ちになります」
天を衝くような長身を見上げて言う少女に。
機神たる英雄は僅かに沈黙した。
やがてそれを破り口にしたのは、今度は問い。
次はアリスが問われる番だった。
「AL-1S。名もなき神々の王女となるべく生まれた鋼の魔王よ」
英雄も、アリスの記憶を見ていた。
彼女自身が記憶していない部分に至るまで仔細に。
彼女は少女などではない。
名もなき神々の王女。
AL-1S。
いつか世界を滅ぼす為に目を覚ます、そう定め付けられていた鋼の魔王。
「おまえは無二を語った。
世界の素晴らしさとやらを語った。
だがおまえは今も変わらず"王女"のままだ。
おまえがその気になれば、世界はすぐさま塵と化すだろう」
「…………」
「そんなおまえが、似合わぬ銘の剣を引っ提げて何を目指す。
破滅させる事しか出来ない機神英雄(デウス・エクス・マキナ)よ。
俺のようなモノを呼び出して目指す"奇跡"は何だ」
-
「…………!」
アリスの顔に驚きが浮かぶ。
動揺ではなく、あくまで驚きだ。
されどそれはすぐに決意の顔に変わり。
そして彼女は英雄の問いに応えるべく口を開いた。
難しい問いではなかった。
その答えは、既に得ている。
皆が教えてくれた事だったから。
「アリスは、魔王にはなりません」
「何故断言が出来る」
「アリスは、勇者になると決めたから。
ううん、教えてくれた人が居たんです。
魔王だって勇者を目指していいって。
アリスにだって、その権利はきっとあるんだって!」
世界を滅ぼす魔王。
名もなき神々の王女。
それが、死の権化たる機神英雄等を呼び寄せてどの地獄を目指すのか。
答えは一つだ。
地獄なんて目指さない。
だって自分は、もう魔王ではないから。
「アリスは勇者です。
だから勇者としてこの聖杯戦争を戦います!
アリスは皆の所に帰りたくて、この世界には沢山の"願い"を抱いた人達が居る。
…きっと、全員が笑顔になれるエンドはとても難しいでしょう」
「ならば――」
「それでも!トゥルーエンドがあるのなら徹夜してでも目指すのが一流のゲーマーだってモモイが言ってました!」
目指すのはトゥルーエンド。
難易度は極悪。
奇跡でも起きなければ辿り着けないエンディング。
けれどそれでも、存在するのかどうかさえ判然としなくても。
プレイするなら目指してみるのがゲーマーだ。
それがゲーム開発部の心意気なのだと。
"天童アリス"は、ミレニアムの"勇者"はそう知っていた。
「だからアリスは目指します、奇跡みたいなトゥルーエンドを!
そしてライダーにもアリスが勇者として言ってあげます、"おやすみなさい"って!」
冥界にて勇者は光の剣を抜いた。
勇気という名の聖剣を抜錨した。
その輝きが錆びた英雄譚の残骸を照らす。
人世界にて奏でられ、そして穢されたヴォルスング・サガ。
幕引きの鉄拳に、トゥルーエンドを説いた勇者。
奇跡の産物と呼ぶ他ない輝きが死の只中に立っている。
勇者とは即ちご都合主義のデウス・エクス・マキナ。
不可避の死とはまた別な形でそれを体現する存在。
――物語を終わらせる為に旅に出る者。
-
それを受けて"死"はまた沈黙した。
二度目の沈黙。
その意味は、彼のみぞ知る感傷であったが。
「奇跡を追うのか、おまえは」
「勇者ですから」
「…呆れた餓鬼だ。幼く青い、やはり機械だな。
俺も人の事を言えた柄ではないが、おまえのソレには溜息が出る」
アリスの抜いた光の剣。
示してみせたその答え。
"奇跡"。トゥルーエンドへの旅の始まり。
あまねく奇跡への始発点たる、時計じかけの花のパヴァーヌ。
それが〈Key〉となって。
錆びた沈黙が終わり、黒き騎士が起動する。
横溢する魔力は彼の魂の重さそのもの。
鋼じかけの英雄譚が言葉を発した。
「――聖槍十三騎士団黒円卓第七位、ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン」
聖槍十三騎士団。
黄金の獣に率いられしレギオン。
死を奪われ、死そのものになった軍勢。
グラズヘイムの戦奴。
大隊長、黒騎士(ニグレド)。
幕引き(マキナ)。
「願うは一つ。俺に唯一無二の終焉を寄越せ。
聖戦は穢された。
墓穴を掘り起こし、戦友(カメラード)を再び呼ぶ程無慙無愧にはなれん。
だからおまえが終わらせろ、光の剣。
俺はおまえに、俺を終わらす奇跡を要求する」
錆びた影が揺らぐ。
その言葉に、錆び付いた英雄の躯が奏でた契約に。
アリスは怯むでもなく静かに頷いた。
マキナの願いは寂しい物だ。
少なくともアリスはそう思う。
彼の思想、その重さも意味も理解はした。
だがそれでも自ら世界を去ろうと願う事、それをアリスは寂しいと感じた。
けれど。
それが彼の、この黒騎士の唯一無二の願望ならば。
勇者に希う希望の形であるならば。
-
「アリス知ってます。ライダーは優しい人だって」
「節穴だ。殺す事しか能のない兵器を捕まえて、言うに事欠いてそれを言うか」
「だってライダーは、アリスの事を"見た"のにわざと焚き付けてくれました。
アリスが勇者になるのを選んだ事も。
アリスが先生や皆に救われて、自分でそうすると選んだ事も。
見て、知っているのに知らないフリをして問い掛けてくれた。
それをアリスは、とても優しいと感じました。
だからアリスもそんなあなたの、優しい英雄さんの願い事に寄り添ってあげたい。
勇者として――そして独りきりのあなたの隣人として」
アリスはその願いを受け入れる。
眠りに就けない英雄の胸に杭を打つ。
宣言を以って誓いは成った。
死を破却する魔力のパスが繋がり。
勇者と英雄が接続され、鋼の二体が熱を帯びる。
並び立つデウス・エクス・マキナ。
物語へ歩む勇者と。
物語を閉じる英雄。
あまねく奇跡の始発点。
「いきましょう、ライダー。そして始めるんです。アリス達の冒険を!」
黒騎士はこういう存在を知っていた。
世界で最も美しくそれでいて禍々しいモノとして生誕し。
運命に出会い、目映い奇跡の象徴として世界を照らした女を知っていた。
それは彼の戦友、聖戦を共にした男の愛した女神。
黄昏の女神と呼ばれた女の影をマキナはアリスに見出していた。
であればこれは何の因果なのだろうと思う。
刹那の歴史をなぞるようなこの出会いは。
永劫回帰を超え、輪廻転生を終え、その先に待つ地獄すら超えて行き着いた再びの戦場。
事此処に至って刹那の再演を、他の誰でもない自身が行う事に意味を感じずにはいられない。
「…了解した(ヤーヴォール)、アリス。
他の誰でもないおまえが、俺に――あまねく終焉(きせき)を見せてみろ」
斯くして運命の歯車は回り始める。
死そのものを連れた勇者が冥界を舞台に旅をする。
救い等あろう筈もない死と冥闇の支配する世界の只中にて。
確かに今、小さな星が光を灯した。
-
【CLASS】
ライダー
【真名】
ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン@Dies irae
【ステータス】
筋力A+ 耐久A+ 敏捷C 魔力D 幸運E 宝具EX
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
騎乗:EX
戦車(ティーガー)そのものを素体とした機神英雄。
言うなれば常時騎乗状態にあり、故にEXランクを適用されている。
対魔力:A
Aランク以下の魔術を完全に無効化する。
事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。
【保有スキル】
死への渇望:EX
唯一無二の終焉を求めて彷徨う求道者。
若しくは亡霊。
死に近付く程にその鉄拳は冴えを増す。
精神に対する干渉を受けず、時にその拳は理をも砕く。
エイヴィヒカイト:A
永劫破壊とも呼ばれる。
聖遺物と霊的に融合し、超常的な力を引き出す為の理論体系。
人を殺せば殺すほどに魂が聖遺物へ回収され、それに比例して強くなる。
Aランクは創造位階、己の渇望をルールとする異界の創造が可能である。
心眼(真):A
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
無窮の武練:A+
一つの時代において無双を誇るまでに至った武芸の手練れ。
あらゆる精神的制約下においても十全な戦闘能力を発揮できる。
【宝具】
『人世界・終焉変生(Midgardr Volsunga Saga)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大補足:1
唯一無二の終焉を求める渇望が具現化した、エイヴィヒカイトの創造位階。
己の存在を死という概念そのものに変生させ、拳で触れたあらゆる存在に幕を引く。
物質非物質は問われず、たとえ概念であろうともその歴史を強制的に破壊する幕引きの鉄拳。
-
『機神・鋼化英雄(デウス・エクス・マキナ)』
ランク:C++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1
マキナが生前に騎乗していたティーゲル戦車が聖遺物と化したものであり、同時に彼自身。
WW2末期にラインハルト・ハイドリヒの"城"で行われた蠱毒を制したある男の魂を元に作られた生体兵器、それがマキナの真実である。
己自身が聖遺物であるという特性から親和性は最高で、マキナは常に物理的な破壊のみならず死を概念的に叩きつける拳を放つ。
マキナの拳は物的、魔的を問わず一切の防御を貫通する。
【weapon】
拳
【人物背景】
聖槍十三騎士団黒円卓第七位。
黒騎士マキナ。
死を求めて彷徨う亡霊。
【サーヴァントとしての願い】
「俺に唯一無二の終焉をくれ」
【マスターへの態度】
何処までも幼く青い餓鬼。
だがその素朴な善性に戦友と彼の女神の面影を見てもいる。
自分達の聖戦は終わり、それでも死にそびれた呪われた魂。
それを終わらす可能性を勇者の光に垣間見た。
【マスター】
天童アリス@ブルーアーカイブ
【マスターとしての願い】
「目指すは一つ。奇跡みたいなトゥルーエンドを!」
【能力・技能】
アンドロイドである。
その為頑強頑健で知られるキヴォトスの生徒の中でも並外れた身体能力・強度を持つ。
ナノマシンによる自己修復機能も兼ね備えており、身体の約半分を損傷しても短時間で完全に回復する事が可能。
武装は大気圏外での運用を前提に制作された等身大のレールガン。
アリスの腕力で初めて扱える重量140kg、反動200kgオーバーの怪物兵器。
光の剣:スーパーノヴァ。
友情と勇気と光のロマンを体現する、勇者の聖剣。
【人物背景】
魔王となるべくして生み出されながら、自身の運命に叛いて勇者となる事を選んだ少女。
回帰を破壊し未来を選んだ機械(マキナ)。
【方針】
「はい!アリスは勇者です!」
【サーヴァントへの態度】
まだコミュニケーション中、ゲームに付き合ってくれないのは少し不服。
その願いを寂しい物だと思っているが否定するつもりはない。
彼の願いにも寄り添えるそんな"勇者"になりたいと思っている。
-
投下終了です
-
投下します
-
――?
――ここは?
――…違う…あそこじゃない
「ああ、起きたか、マスター」
――何…あなたは…違う…あの子じゃない…!
「まぁ座れよ…」
◆
俺呼んだのは、女だった。
「まぁ…あんたのことをよく教えてくれ…」
「…そうね…世界の真実を知る者…なんて言っておこうかしら…?」
あぁ、俺の記憶にあるとおりだ。
「…認識してるのか?今も」
「ッ…いや、今は無理みたい、なんでかしらね…」
女は目を横にやりながら、誤魔化そうとする。
「…もう…終わったのよ、あの世界には…何も…」
「本当か?」
俺は知っている、こいつのした事を、別の世界を認識できることを。
「罪を、悔いたいんだろう?」
「ッ…!いや…やめて…」
「本当は謝りたいんだろう?言えよ、真実を」
己が狂わせた世界、その終着点は、存在の抹消。
「報い続けるんだ、ナツキに、ユリに、サヨリに、そして、あいつに…」
「ッ…!」
ついに図星を付いた。
やれ、思い出せ、己の罪を。
「分かってる…許されないことをしたこと…だから…みんなに…ちゃんと…謝りたい、謝りたいの!」
吐き出した、遂に吐き出した。
俺は立ち上がる。
「腹は決まったな、行くぞ」
牢獄の様な石で作られた部屋が崩れていく。
「求めに行くぞ、聖杯を」
◆
彼女が目覚めたのは、自分の部屋だった。
もちろん、仮初の世界の部屋だが。
「…やっぱ夢じゃないのね、ライダー」
「当たり前だ、もう戦争は始まっている」
白眼帯の男が奥にいる。
夢で見たの同じ、ライダーだ。
「で、どうするの?」
「…戦い続けなければ行けていけない…あぁ、こいつを使うのも久し振りだな」
ライダーが腰につけた、鉄の装備。
それはまるで、クライミングに使うような装備であった。
「…なにそれ?」
「立体機動装置、本来は巨人を狩るためだがな、まぁ、俺も巨人だが」
進撃の継承者にして、始祖の継承者。
一声かければ、この世界を蹂躙する力を放たれる。
「ありがとう、そろそろいかなきゃ」
「ロールの学校か、俺もついていく」
「じゃ、頼むわよ」
女はバッグを手に取り、外へとでる。
向かう先は学校、ロールの、虚構の学校。
虚構の友、虚構の活動、すべてが虚構。
「…行きましょう」
第四の壁にアクセスし、その先を見た少女、モニカ。
そこについていくライダー。
全てを破壊し尽くし、全てをやり直そうとした男。
ライダー・エレン・イェーガー。
この地を、全てを更地にするべくがごとく、歩んでいく。
「…暗いな、ここも」
世界を見上げる、そこは冥界、太陽は非ず。
「…捧げてやるさ、この心臓」
地は、踏み鳴らされていった。
-
【CLASS】ライダー
【真名】エレン・イェーガー@進撃の巨人
【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷C 魔力B 幸運E 宝具EX
【属性】混沌・中庸
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:EX
騎乗の才能、獣であれば竜種であろうと乗りこなす。
最も、彼の前にはすべてが踏み潰されるのだが
【保有スキル】
仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
また、不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。
進撃のカリスマ:B
地ならしをライダーと共に起こそうとした通称「イェーガー派」
そんな彼についてく者が後を立たなかったゆえに、このスキルが付与された。
効果はカリスマ:Bと同じ。
巨人化:A
世界の混沌に導いた魔物、巨人。
ライダーは明確な意思と自傷をすることで巨人になることが可能。
魔力と幸運を除くステータスを上昇させ、またサーヴァントを食らうことで、その能力を「継承」することができる。
立体機動術:A
巨人を狩るために壁の中の人類が編み出した技術。
エレンはこれをハイレベルで習得している
【宝具】
『進撃の巨人』
ランク:B 種別:対界宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
9つの巨人の一つ、唯一マーレの所持できていなかった巨人。
固有能力は記憶共用。
あらゆる未来を見通し、記憶を覗き見る。
直接の戦闘には起因しないが、使い所を見極めれば最強。
『始祖の巨人』
ランク:A++ 種別:対界宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
すべての巨人の始祖、座標の正体。
能力は記憶改竄、巨人操作、構造変化、巨人生成。
記憶改竄と構造変化に関しては、エルディア人以外にも行使する事が可能となっている。
『地ならし』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
始祖の力を行使し、「幻の巨人」を蘇らせ、地を鳴らす。
何百万の大型の巨人が歩き、ライダー自身も行進する。
発動した時点で聖杯戦争が終わりかねない宝具のため
抑止力の力もあり令呪3画分の魔力を必要になった。
しかし、一度発動すれば、勝利へ導ける宝具。
ただ、ライダーはこの宝具のことは伏せており、マスターがいつ気づくかはわからない。
【weapon】
立体機動装置
【人物背景】
自由を手にしたかった少年。
――行ってらっしゃい。
【サーヴァントとしての願い】
無し、マスターの贖罪に付き合う。
【マスターへの態度】
己の罪と向き合え、マスター
【マスター】Monika@Doki Doki Literature Club!
【マスターとしての願い】
みんなに――ちゃんと謝りたい
【能力・技能】
第四の壁の先を観測する力と、世界を改変する力。
しかし、ここでは行使することが出来ない。
【人物背景】
世界の真実を握っていた少女。
今は贖罪へと進む少女。
【方針】
聖杯獲得、ただできるだけ民間人の被害は少なくする。
戦闘に関しては完全にライダーに任せるしか無い
【サーヴァントへの態度】
…あなたの言う通り、してみるわ
-
投下終了です
-
投下します
-
戦争において、使い捨てられるのは人の命であることはどの世界でも変わらないらしい。
そして戦争とは、いつだって上位の人間の都合によって下位の人間の命は利用され、蹂躙される。
肉の一片、血の一絞りに至るまで。
最もこれは、戦争の有無には関係ない話ではある。
結局は地位、結局は面子。と言っても、これは追い詰められたが故の凶行でもあるだろう。
悪意は人を変える。それが幸薄な少女の運命をも、醜い哀れなものとして。
醜さの中に、真実の愛もあるだろう。
最も、それは俺は知らなかっただけであり、俺の記憶は―――
夢を見た。映画でやっているような、口の中が甘くなりそうなラブ・ロマンスを見た。
未来の戦争でも空襲される都市のあり方は全く変わらないようだった。
被害を受けるのはいつも弱い立場の人間であることには全く変わらなかった。
その夢の映画の主役は、うだつの上がらない少年と、兵器にされた少女。
曰く「人類そのもの」と称された細胞を移植された結果、少女は兵器になったという。
これが政府の軍部絡みだというのなら、醜悪さは間違いなくあのクソジジィより上だろう。
その上で、そんな軍の報いを人類ほぼ全てにツケを払わされたのだ。巻き込まれた側はたまったもんじゃない。
そしてそのツケを逃れたのは、その兵器の少女と、その恋人となった少年だけだ。
二人ぼっちの宇宙の旅。少年も少女も人の形は失って、別のものとして愛の旅を続けるのだろう。
少なくとも、世界にとってはバッドエンドだとしても。
二人の愛という形だけを俯瞰すればハッピーエンドなのだろう。
――彼女の思いは、バッドエンドになってしまったのか。
彼女を■■■としたら、他に手段はあったのだろうか。
今更過ぎ去った答え合わせに、何の意味なんて無い。
『ツケは払わなきゃなぁ!!!』
ただ、あの選択だけには、後悔なんて存在しない。
名誉も地位も擲ってでも、許せないものがあった。
その後の事は、俺は―――
俺は―――
『約束しろ。絶対に生きて戻って来ると』
-
☆
何の当てつけだ、と正直思った。
それなりの一軒家、偉くもないが特に不自由もない社員としての立ち位置。
俗に言う一戸建て持ちサラリーマンというやつなのだろう。
この聖杯戦争の元凶共は、何を思って自分にこんな役割(ロール)を押し付けたのだ。
葬者(マスター)となった男、水木は心底うんざりする。
あの世まで戦争とは、どこもかしこもどうなっているんだか、と吐き捨てたくなる。
結局聖杯戦争も弱者が食い物にされることには変わらないだろう。
悪意を含む言い方になるが、巻き込まれるために生み出された世界とNPC。
弱者ですらない、犠牲になることが確定した世界とその住民。
醜さ以上に、悍ましさすら感じた。
「マスターさんって……聖杯戦争に巻き込まれてから、不機嫌、に見えます」
「……ああ、悪い。アーチャー」
水木を心配そうに見つめるのは、アーチャーと呼ばれた何ら変哲もない少女。
色白で、まさしく幸薄そうなそんな少女だが。その本質は稀代の殺戮者であり。同時に最強の兵器。
アバドン、アポリュオン。黙示録の災い。パンドラの箱の災厄。
――真名"ちせ"。最終兵器にして、世界を一度終わらせた終末の喇叭にしてノアの箱舟。
そんな物騒極まりない英霊こそが、葬者水木の保有する弓兵のサーヴァントである。
「戦争はもう二度と懲り懲りなもんでな、その時のことを思い出してしまった」
その二文字は、水木にとっての始まりであり過去そのもの。
上官命令、玉砕、終戦。成金。犠牲になるのは弱い人間だけ。
権力のある人間はあらゆる手段を用いて贅沢を楽しみ、ただ弱者が食い物にされる。
それを、彼は戦争と終戦後を経て理解した。
理解したからこそ、成り上がることだけを考えて、かつては生きてきた。
「……その、ごめんなさい」
「いや、アーチャーが謝ることじゃない。まあ、昔の俺はそこまで良い性格してるわけじゃなかったか」
「いいえ。マスターさんは優しいですよ。私みたいなバケモノに、こんな真っ当に接してくれるから。……シュウちゃんみたいで、その」
アーチャーは優しい子である。かつての彼女を彷彿とさせるような。
その上で、兵器としての危険性を評価するなら狂骨以上。
現代兵器を用いる英霊という都合上、神秘性自体はそこまで高くないのだが、それを有り余る出力と物量こそが、アーチャーという英霊の持ち味。
まさに戦争の具現というべきか。戦争を得て世界の醜さを知った水木にとっての当てつけ、とも言うべき英霊だろう。
「お前の恋人、だったか。そのシュウちゃん、というのは。……俺とは違って、良い男だったんだな」
「……あ。あ、あのっ……その、わたしっ……」
「……気にしないでくれ」
アーチャーの記憶を垣間見た際に知った。シュウという男。アーチャーの恋人である青年。
戦争という宿痾によって離れ離れとなり、また巡り合い、離れ離れになって、そして終焉の最果てにて再開し結ばれた二人。
かつて親友が犠牲になる必要がないとして日本が滅んでも別に構わないと、そう水木も思っていたこともあったが。
日本どころか世界が滅んだ上で二人宇宙でランデヴーなんて話が突飛すぎる。
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ュウという男。アーチャーの恋人である青年。
戦争という宿痾によって離れ離れとなり、また巡り合い、離れ離れになって、そして終焉の最果てにて再開し結ばれた二人。
かつて親友が犠牲になる必要がないとして日本が滅んでも別に構わないと、そう水木も思っていたこともあったが。
日本どころか世界が滅んだ上で二人宇宙でランデヴーなんて話が突飛すぎる。
その上で、水木はそのシュウという男を羨ましがっていた部分もあった。
自分に恋した女が居た。運命と悪意に苛まれて、救われなかった女が居た。
自分は、彼女の気持ちに答えられなかった。どうすればよかっただなんて、今でもわからない。
どこで間違えたのか、どうすればよかったのか。
あの時首を絞められて殺されそうになった時が、分岐点だったのか。
友が、「お前もいつか運命の人と出会える」と言っていたが。
自分はその運命の人にすらなれなかったのか。
いや、その運命を取りこぼしてしまったのか。
だから、羨ましかった。シュウという男が。
やはり、自分には恋沙汰など夢のまた夢だったか。
「……で、でもっ。マスターさんは、その……友達には、恵まれたって、思うんです、私は……」
失言してしまったと、見るからにわやわやしているアーチャーが今すぐにでも平謝りしそうな慌てっぷり。
だが、その一言でほんの少しだけ水木の心は軽くなる。
龍賀村で出会った幽霊族のゲゲ郎。何の因果か殺されそうな所を助けて、いがみ合って、いつの間にかおっ互いのことを話す程度には仲良くなって。
成り上がる事しか考えてなかった男を、その運命を変えた無二の友だったのだろう。
そんな友は、自分にちゃんちゃんこと妻を託して、自ら依代となることを選んだ。
全てを憎む狂骨の群れ、それを鎮めるため、生まれゆく息子が生きてゆく未来を守るために。
「……そう、かもな。悪いやつじゃなかった。良いやつだった」
水木は、そんな相棒によって生かされた。
"彼女"を選び、共に東京へと逃げる道を捨て。彼を助けることを選んだ結果がこれだ。
だが、その選択で救われなかった女がいた。
それはまだ、忘れられていない。
それでも、あの選択を悔やんだことはない。
彼女を救えなかったことを後悔したとしても。
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「……アーチャー。俺は聖杯なんぞいらん。他人を犠牲にして自分だけいい思いをするのはダサいからな」
だから、水木は聖杯はいらない。
他者を、弱者を犠牲に商社の願いを満たす聖杯を使って願いを叶えるなんぞもってのほかだ。
そういうものはいつかどこかでツケが支払われるもの。
だから、聖杯はいらない。
「それにな……約束しちまったのに。死んじまったらゲゲ郎に何どやされるか分かったもんじゃない」
『絶対に生きて戻って来る』。ゲゲ郎にそう約束させた自分が、冥界の聖杯戦争だかで命を落としては自分だけ約束不履行になったみたいで気分が悪い。
だから生きて変える。こんな聖杯戦争から抜け出して、出来ればこの聖杯戦争を出来る限り犠牲無く終わらせることで。
そして出来ることなら、親友を迎えに行ってやろう。いつになるかはわからないが、いつか必ず
「……あ、悪い。お前の意見とか確認せず言い切っちまった」
「……ふふっ、やっぱりマスターさんは優しい人です」
言いたいことだけ言って、アーチャーの意思蔑ろにしていないかと、思わず謝罪した己がマスターに。
アーチャーは、この人は優しい人だと確信して、軽い笑顔混じりに信頼の言葉を口にする
確かに水木というマスターは純粋な善人ではないだろう。
それこそ、彼が語った通りかつて成り上がることを考えていた欲ある人物なのだから。
だからこそ、アーチャーは信頼することにしたのだ。
かつて、自分を何処までも求め、時には自分も含めて浮気なんかしたけれど、最後の最後まで自分を愛してくれることを、こんな兵器(バケモノ)を愛してくれる事を選んだ彼もまた。
そういう一時の欲に寄り道するような人であって、そんな弱さをもってなお、自分を選んでくれた彼の事を思って。
「……願いが無いといえば嘘になります。けど、マスターさんがそう言うなら、私はマスターさんの為に戦います」
水木は愛よりも友情を選んだ、アーチャーの恋人は世界や隣人よりもたった一人の愛する者を選んだ。
選択の果てに、正しい答えなどない。あるとすればそれはただの結果によって生まれた正しさと間違いの結末だけ。
「……そうか、すまない」
「いえ。私はただの兵器だから。それでも私はシュウちゃんを想う心もあります。何度でも言わせてくださいマスタ。」
アーチャーは最終兵器であり、シュウという少女の恋人である。
されど、英霊として呼び出されたこの身は殺戮の、戦争のための兵器である。
戦争に苦しめられた彼の、その英霊として、どうして自分が呼び出されたのか。
それでも、こんな力が誰かを助けられるというのなら。
そんな最終兵器彼女は。
「……あなたは優しくて善い人です。良い人ではないですけれど」
「最後のはちょっと余計だろ……否定はできないがな」
そんな本心からの言葉に、水木は困惑ながらも、否定はしなかった。
-
【CLASS】
アーチャー
【真名】
ちせ@最終兵器彼女
【ステータス】
筋力C 耐久B 敏捷B 魔力C+++ 幸運D+ 宝具A
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
対魔力:C
騎乗:-
乗り物を乗りこなす能力。ただしライダーのクラスではない為、これに意味はない
ただ、本来アーチャーが乗せているのは、彼女が世界の終わりを迎えても愛した、たった一人の――
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
直感(偽):C
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を"感じ取る"能力。敵の攻撃を初見でもある程度は予見することができる。アーチャーの場合はレーダーのような機械的な予測によるものであるので(偽)が付く。
兵器製造:A
アーチャーは兵器そのものであり、彼女自身が兵器倉庫のようなもの。
其の為戦うための武装を己の中で製造し、使用する事ができる。
アーチャー自身の魔力総量こそ多くはないものの、このスキルによって製造・装備される武装に魔力消費は殆ない。ただし英霊に対して通用する類の武装を製造する際は相応に魔力を必要とする。
不幸体質:D
デメリットスキル。単純に素の彼女のドジっ子的な部分。
主にやらかす。と言っても大きな痕跡残しちゃったりとかそんな感じの。
【宝具】
『最終兵器彼女』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:-
アーチャーそのもの。正しき意味での最終兵器。とある研究所のトップいわく「人類そのもの」と言われた細胞を埋め込まれた彼女の、その本質。
聖杯戦争が激化する度、アーチャーが兵器として戦闘経験を積む度に、彼女は自己改造と自己進化を繰り返し成長する。中途段階でも飛行機並みの大きさの機動兵器へと変身が可能。進化の度に幸運以外のステータスもアップしていく
その代償として、進化すればするほどアーチャーの人間性は失われる。最終的には完全な自我の消滅を代償に『狂化:A+』の付加及び単独行動のランクがA+へと変化し、マスターの命令は例え令呪を使おうとも受け付けなくなる。
【weapon】
『最終兵器』として内蔵し製造される兵器群
【人物背景】
最終兵器彼女
世界を滅ぼし尽くした最果てに、彼女は愛する者との永遠の愛を得た
【サーヴァントとしての願い】
願いがないわけじゃない。でも今はマスターの望みに準じたい
【マスターへの態度】
怖そうな人に見えて、優しい人。
良い人ではないけれど、善い人だと思う
【マスター】
水木@鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎
【マスターとしての願い】
聖杯なんていらない。元の世界へ帰る。出来る限り犠牲は出さない
ゲゲ郎にああ言っといて自分は生き残れませんでしたは流石に笑えない。
【能力・技能】
元軍人であり、戦場で染み込んだ様々な経験は今でも身体が覚えている。
精神的にタフであり、人の死にも慣れている都合ショックを受けてもすぐに気持ちを切り替えることが可能
あと戦時中の経験からか僅かな時間で食事を終えることが出来る。
【人物背景】
栄達の野心を抱きながらも、とある幽霊族と奇妙な出会いを果たした果てに歪んだ一族の陰謀を終わらせた男。
良い人ではなくとも、弱者が踏み躙られることを良しとしない善人。
相棒(とも)から妻とちゃんちゃんこを託され、龍賀村から脱出しようとした後からの参戦
【方針】
生き残りながらも聖杯戦争をなるべく少ない犠牲で終わらせる
【サーヴァントへの態度】
自分には勿体ないぐらい優しい少女。これがかつて世界を終わらせたというのは到底信じられない
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投下終了します
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皆さま投下お疲れ様です
私も投下します
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「はぁ〜」
私―――陸島文香は、土手に腰かけ深いため息を吐く。
私はかつて、殺し合い...所謂デスゲームに巻き込まれたことがある。しかも二回も。
一度は、学生だったころに、妙な組織の連中に拉致されて。
二回目はその十年後、組織を潰すテロリスト染みた組織の一員として潜入して。
で、志半ばで死んでしまったと思った矢先にこれだ。
聖杯戦争。
名前こそ妙に格式高いし浮世離れしてるけど、その本質は私が経験してきたことと何も変わらない。
結局のところは殺し合いだ。
願いを叶える為に。ただ生き残る為に。
他人を蹴落とすことを強制されるデスゲームだ。
自分から踏み込んだのもあるとはいえ、三回もデスゲームに巻き込まれる人間が果たしてどれだけいるのやら。
しかも今回は魔術だの冥界だの英霊だのとオカルト染みたモノに囲まれて逃げ場もなし。
理不尽。
まさに私たちがずっと戦ってきたものをさめざめと押し付けられているのが現状だ。
「私、なんかしたのかなぁ...ひょっとして前世が大量殺人鬼だったりする?」
再び溜息を吐く。
もしも昔の自分だったら、ただひたすらに混乱してヒステリックに騒ぎながらあの亡者の群れに突っ込んでそうだなあ、と思いつつ。
この意味不明な現実に割と冷静にいられる自分が、平和な日常からは遠のいた人間であるのをさめざめと突きつけられているようで感慨深ささえ抱いている。
「お嬢さん。腹ァ...決まりましたか」
背後から影が被さり、低い声がかけられる。
私はさしたる警戒心もなく、頭を上に逸らして声の主を見上げる。
身長は悠に190cmは越えていて、私が知る中でもとりわけがっしりとした筋肉の塊の大男。
黒スーツとフェドーラ帽子に身を包んだその人が、私と組むことになった英霊―――ランサー・赤松さんだ。
「私にゃあ、願いなんて大層なモンはありません。他の連中と戦えというのがルールなら、私を呼んだ貴女を護れというならそれに従うまで...そのうえで聞かせて貰いてえ。貴女はこの戦場で、なにを望むんです」
赤松さんの目つきが鋭くなる。
ただでさえ極道染みた強面の彼にこんな圧をかけられれば並の人ならたちまち萎縮してしまうだろう。
けれどおあいにく様。こっちも温い環境で育ってきたわけじゃないの。
だから、貴方が与えてくれた考える時間でずっと考えてた。
環境に左右されるでもなく、貴方にすごまれたからでもなく。
地位も立場も、常識も道徳も関係なく、丸裸にされたこの地で私がなにを望むかを。
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「...私はね、赤松さん」
考えれば考えるほど、叶えたい願いというのはいくらでも湧いて出てきた。
生き返って、私が死んで涙を流してくれたあの子たちに、ピンピンしてるから大丈夫って安心させてあげること。
あのゲームを止めて、これ以上の悲しみを増やさないこと。
10年前、私を護ってくれた大好きな人や、生き方の道しるべになった人、一緒に戦って散ってしまった人たちを生き返らせること。
最初の理不尽に抗い生き残り、真に仲間となった彼らの幸福とか。
それ以前に。あの多くの人々に理不尽と不幸を撒き散らしたゲームを失くして、あんな悲劇を全部無かったことにしてしまうこと。
両の指では数え切れないほどに叶えたい願いが浮かんできてはキリがなかった。
でも。結局、私が叶えたい願いなんてこれしかなかった。
「聖杯にはなにも願わない...それが私の願いだよ」
この理不尽を否定する。
それが、私が貫きたいたった一つの信念。
「...いいんですかい。それで」
「うん。もう決めちゃったから」
叶えたい願いはいくらでもある。
でも、それを肯定することは、他の巻き込まれた人たちを踏み台にすること。
彼らにとって理不尽を押し付けること。
私はそれがイヤだった。
自分が幸せになるために、あのゲームの連中のようになるのはまっぴらごめんだ。
「でも、諦めるわけじゃないわ。ここに連れてこられたってことは、抜け出す方法もあるはずだもの」
私だって別にこのまま冥界とやらに閉じ込められるのを良しとするわけではない。
如何な事象であれ、複数の人間の意思が絡めば、必ず予想外の事態が起きる。その隙を突いて、救える命は可能な限り救いたい。
無論、他に呼ばれた人の中には如何な犠牲を払っても願いを叶えようとする人もいるだろう。そんな人を止めるには荒っぽい手段を行使する他ないのが現実だ。
それでも。
私はこの理不尽に抗い続けたい。信念を貫き続けたい。
理不尽に晒された十三人の参加者が、主催にゲームを放棄させた奇跡を起こしたように。
その中心となった女(ひと)―――藤堂悠奈のように。
彼女ほど強くはなれなくても、生き方を真似することはできる。
そして、再び会えた時、私たちはあなたの生き方を受け継いだよって伝えてあげたい。
「...強ぇお人だ、あんたは」
私の答えを聞いた赤松さんは、ふっと口元を緩め、帽子を己の胸の前に添える。
影の取れたその顔は、先ほどまで強面に見えたのが嘘のように優しくて。
そんな彼が―――私が愛した人の面影と重なって、思わず言葉を失った。
-
「お嬢さん...先ほどは少し嘘ついちまいました」
「うそ?」
「ええ。願いなんざねえといいましたがね。本音を言うと、私ゃぁ、戦いの果てに死にたいと思ってました。生前は、罪深き身分にしては身を焼き損ねた...勝手に背負った罪(エゴ)を貫き通せなかった」
「そんな消化不良の私に付き合わせたくねえ...そういうつもりで、貴女の願いを優先しようと思ったんですが...まさかあんたがそこまで頑固な方とは」
「んー、それって褒めてる?」
「ええ。この卑しい身には眩しいくらい、真っすぐなお方だと...そんなあんたの為なら、また修羅の道を歩むのも、やぶさかじゃねえと...そう思わずにはいられなかった」
「いや〜、そこまで褒められると少し恥ずかしいかも...」
照れくさくなって頬を掻く私とは対照的に、赤松さんは少しも恥じることなく真っすぐ見つめてきている。
...なんか、こういうところも真島くんに似てるかも。
「不肖・赤松。卑しき私でよけりゃあ、貴女の旅路...お供させてもらいやす」
赤松さんは微笑みながら会釈してくれる。
「ありがと赤松さん。それじゃあ、無謀な戦いになるかもだけど...背中は頼むわね」
「ええ」
もう一度空を仰ぐ。
薄暗い雲に覆われたこの世界は、いまにも私の心を陰らそうとしているように見える程重々しくて。
でも。だからこそ私は最後まで抗おうと思う。
いつまでも現実に纏わりつく『理不尽』に、逆転の一発を叩き込んでやるために。
-
【クラス】ランサー
【真名】赤松
【出典作品】職業・殺し屋
【ステータス】
筋力B 魔力E 耐久B 幸運D 敏捷B 宝具:C
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
対魔力 :E
ある程度の魔術を軽減する。
魔よけのアミュレットのようなもの
【保有スキル】
直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。
頑健:B
体力の豊富さ、疲れにくさ、丈夫な身体を持っている事などを表すスキル。
通常より少ない魔力での行動を可能とし、Aランクであれば魔力消費を通常の4割近くにまで抑えられる。
戦闘続行:B
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とする。
【宝具】
『修羅の左』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:拳の当たる範囲。
目にも止まらぬ速さで撃たれるジャブ。
修羅の装飾の施された鉄拳を着けたその左拳はフィニッシュブローへとつなげるために何度も放たれる。
『菩薩の右』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:拳の当たる範囲。
菩薩の装飾の施された鉄拳によるフィニッシュブロー。
その右ストレートの威力たるや、人体を軽くミンチにするほどに強力。
【weapon】
・拳。拳闘、いまでいうボクシングで戦う。
右手には菩薩の装飾の、左手には修羅の装飾の施された鉄拳を装備している。
【人物背景】
職業・殺し屋の一人。とても義理堅く、義理を果たさぬ者や女子供を傷つける輩を忌み嫌う。
かつて、拳闘の選手であり、かなりの実力者であった。ただ、いくらプロの選手とはいえそれだけで生活できるのはほんの一握りであり、赤松も例外ではない。工場のバイトとの掛け持ちで生活していたが、ある日工場での事故で拳を壊してしまう。
頂点を取る夢が経たれ、ヤケになった赤松は噛みつく相手を選ばぬ狂犬と化していた。
そんな時、喧嘩を売り返り討ちにあったヤクザの親分の『どれだけ辛くとも魂だけは殺すな』という言葉に救われ、彼の舎弟となる。親分の娘・薫とも互いを思い遣るイイ仲になっていたが、ある日、職業・殺し屋の一員『双頭の蛇』に襲撃され組は壊滅。
唯一の生存者である薫と、現場に居合わせなかった赤松は、違反を犯した『双頭の蛇』を粛清しようとする職業・殺し屋と協力し、これを撃破。
以降、行き場を無くした彼らは職業・殺し屋に拾われ、ヘルプ専門ではあるが一員として迎え入れられる。
【方針】
最後まで文香に付き合う。
【聖杯にかける願い】
ない。死すならば死闘の果てに。
【マスターへの態度】
かなり好意的。つええお人だ...
-
【マスター】
陸島文香@シークレットゲーム -KILLER QUEEN-
【マスターとしての願い】
聖杯に頼らずこの聖杯戦争を終結・脱出する。
【能力・技能】
訓練を積んでいるため、銃火器は一通り扱える。
【人物背景】
有名企業の受付嬢をしている、見た目通りのOL。
「ゲーム」に強制参加させられ、この不条理な世界に異を唱える。
平和的な手段を模索する主人公たちと気が合い、共に行動をすることに。度胸があり、総一と同様に危険や困難に立ち向かう勇敢さを持った人物。
他人に関してよく気が利くため、主人公たちの姉御的存在となっている。
その正体は、かつて互いに殺し合う「ゲーム」に強制参加させられ、生き残ったうちの一人「上野まり子(陸島文香は偽名)」
最初に巻き込まれたゲームの最中、参加者の一人「真島章則」と恋仲になり、脱出の際に彼に庇われて生き延びる。
以降、真島や他の散っていった仲間たち、そして参加者13人を団結させた藤堂悠奈の意思を継ぎ、残された者たちは「ゲーム」の支配者を倒し、これ以上の「理不尽」による悲劇をなくすために反逆の芽を育てていく。
【参戦時間軸】
この聖杯戦争にはAルート死亡後から参戦している。
【方針】
『理不尽』に抗う
まずは聖杯を狙うものたちの無力化から。
【サーヴァントへの態度】
かなり好意的。
戦闘スタイルといい、雰囲気といい、真島くんに似てるかも。
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投下終了です
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皆様投下お疲れ様です
ニ作目を投下させていただきます
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光の方へ手を伸ばす。
救いを求めて歩み続ける。
その命という道行きの果てに、掴めるものがあるのだと信じて。
であれば、走り抜けた者にとって。
命を終えたその瞬間に、最後まで完走した者にとって、死は行き止まりを意味するのか。
たとえどんなゴールであっても、何かに辿り着いた者にとって、再生とは何を意味するのか。
◆
冥界――正確にはほんの少し前に、冥界へと戻ったばかりの場所。
太陽があるのか、沈んでいるのか。それも判然としない灰色の雲が、星すら覆い尽くす暗転の世界だ。
風化し朽ちたビルディングと、放置されひび割れたアスファルトもまた、そうした暗灰色のイメージを、更に助長させていた。
「なるほど、これが」
生ける者のいるはずのない世界。
肉体を失いアイデンティティも剥がされ、何者を名乗ることもできない亡霊のみが、人には理解できない呪詛を吐き徘徊する世界。
そのはずの場所に意味ある言葉と、命の温度がぽつりと浮かぶ。
偽りの此岸と彼岸の真実――そのちょうど境目に立ち、周囲を見渡す人の影がある。
現代社会のイメージからは、およそかけ離れた大仰なローブは、英霊伝承の具現たるサーヴァントだ。
ゴーストライナーと称されるものの、彼らは死後の世界ではなく、英霊の座から情報を読み取られ、この世に生み出される存在である。
故に恐らくこの男にとっても、実際の冥界の景色というのは、初めて目の当たりにするものだったのだろう。
「死霊は?」
「この感覚であれば、いくつか」
境の向こう側に立つ、己がマスターからの問いに答える。
未だ仮初の東京都にいる彼の目には、恐らくこの風景は見えていない。聖杯戦争の会場と、自然に地続きとなるような街並みが、カモフラージュとして見せられているはずだ。
「使えるか?」
「何とも。まずは試してみぬことには、といったところでしょう」
サーヴァント――キャスターは、いわゆるネクロマンサーだった。
自らは死の世界に降りたことがなくとも、現世にこびりついた縁を辿り、亡霊を呼び寄せ使役する魔術師だ。
それが冥界の只中にいる。その上会場の外側は、文字通り霊の本拠地である。であればそれら魑魅魍魎を、手下として使役できればと、この主従は考えたのである。
「無論、手頃な餌もおります故に」
「このための準備だからこそ、な」
「―――」
そしてここまで話していた、キャスターのローブの内側には、大きく抱えられたものがある。
それを捲った下にいたのは、背の高い人間の女性だった。
手の甲に、赤い印あり。されどサーヴァントの気配なし。抵抗の気力も恐らくはなし。
この女は不幸にも、自身のサーヴァントを呼び寄せる前に、ライバルに見つかったマスターであった。
未知の魔術体系を用い、それなり以上の抵抗をしたものの、所詮は人間と英霊の勝負――最終的には敗北を喫し、こうして捕らえられていたのである。
聖杯戦争のマスターという、上質な運命力を持つ魂を、亡霊を呼び寄せる餌とするために。
「やれ、キャスター」
「承知」
マスターの命令に短く応じ、キャスターが女性を放り投げる。
長身とサイドポニーの美しい長髪が、無造作に道端へ打ち捨てられる。
今はまだサーヴァントの加護も、何も纏っていない丸腰の魂だ。このまま冥界に野ざらしとなれば、やがて肉体は朽ちて塵となり、彼女も亡霊の仲間入りを果たすだろう。
そうなる前に――ということか。
やがて廃墟の物陰から、唸りや呻きが次々と響いた。視覚ではなく触覚に、存在を訴えかけるような、不可思議な恐怖が迫り寄ってきた。
亡霊怨霊の類とは、恐らくこういうものを言うのだろう。
そして現世への未練ゆえに、生者の器を求めるそれらは、この体に食いつき噛みちぎるのだろう。
(そうすれば、今度こそ本当に死ぬ)
それでいいのかもしれない。
それが自然なのだろうと、女性は――美国織莉子は思った。
未だ中学校に通う、齢十五歳の幼くもある少女は、そんならしからぬ思考と共に、その様子を受け止めていた。
-
(本当なら私はこんな所で、のうのうと生きていていい存在ではない)
美国織莉子は死人である。
こうして亡霊の餌にならずとも、本来ならば少し前に、命を落としていたはずの人間であった。
優しい母を早くに亡くし、立派な父にも先立たれ、ただ一人悲惨な境遇を辿った。
両親の付属品でしかなかった自分は、果たして今何のためにあるのか――それを知りたがった彼女は、奇跡にすがり、力を手にした。
そうすることで悟った使命は、最期の瞬間に果たしたはずだ。そしてそのために多くの命を、犠牲とし弄んできたのも確かだ。
今生きていていい命ではない。蘇りが許される命などではない。
ましてや聖杯戦争などというものを勝ち抜き、もう一度願いを叶えようなどと。
ましてや我が身を粉として、遂には自ら命を捧げた、親友を置き去りにして生き返ろうなどと。
(それでも)
嗚呼――そのはずではあるのだけども。
だとしてももし、万が一、ほんの僅か一瞬であっても、生きて帰ることができたのならば。
この嘆きと死の坩堝から、再び現世へと戻り、その両足で踏みしめられたのならば。
(許されるのであればせめて、世界がどうなっているのかを知りたい)
できることなら現世の様を、もう一度だけ見てみたいと思った。
訪れるべき災厄が、未然に防がれたはずの今の現世が、どうなっているのかを確かめたかった。
サーヴァント相手には気休めにしかならなかった、美国織莉子の持つ魔法――未来の出来事を予知する力。
その未来視が捉えた景色は、荒れ果てた街の只中で、世界を滅ぼす最悪の魔女が、産声を上げる光景だった。
あの街の滅びは避けられない。見滝原市を襲うという、巨大魔女ワルプルギスの夜の到来の方は、自分の行いとは関わりがない。
自分を倒した魔法少女達は、その後どうなったのか。恐らく戦うことになるであろう、ワルプルギスの夜を打倒し、未来を繋いでくれたのだろうか。
(私の行いと戦いに――意味があったのかを、知りたい)
なればこそと、手を伸ばした。
それが叶うのであればと、視線の先に手が伸びた。
故に彼らに襲われた時も、我知らず抵抗をしていたのだ。生きる資格がなかったとしても、どうしても願ってしまっていたのだ。
自分が亡き後の世界は、果たしてどうなっていたのか。
自分が守ろうとした世界は、変わらず在り続けていられたのか。
自分が払ってきた犠牲の数々は、無意味ではなかったと言い切れるのか。
それが知れるというのなら、知りたい。それまでの生存を許されるなら、生きたい。
生きて生きて生き抜いて、たった一つのささやかな願いを、叶うことなら、手にしたい。
「――葬者(きみ)が望むのであれば、私は喜んで応えよう」
その、瞬間だった。
不意にかけられた声と共に、体が重力を失ったのは。
硬く冷たいアスファルトから、ぐっと抱き上げられたのは。
「……えっ……!?」
「……貴様?」
「遅ればせながら、ライダーのサーヴァント、ここに現界した」
織莉子の瞳を覗き込むのは、整った顔立ちの青年だ。
暗黒の冥府にあってなお、燦然と輝いているかのような、金髪と白い装束は、さながら白馬の王子といったところか。
一目惚れとまではいかないものの、正直、これには息を呑んだ。自分より一回りは歳上なのだろうが、ここまで端整な風貌の男とは、今までに出会ったことがないからだ。
「君が私のマスター、ということでよろしいかな?」
「あ……ええ、恐らくは」
そしてそうして問いかけられて、助けに入ったこの青年が、人間ではないということをようやく察した。
サーヴァント。古の英雄の似姿。その身に令呪を刻まれた、マスターたる魔術師の手足となる使い魔。
未だ従者不在の織莉子の前に、ようやく現れたのがこの男だ。正直記憶を取り戻してからは、自分のことばかりで手一杯で、予知すらもしていなかった顔だった。
それがまさか、今現れるとは。
遅かったことを怒るべきか、間に合ってくれたことを喜ぶべきか。敵に見つかるまで時がなかったことを思えば、恐らくは後者なのだろう。
-
「キャスター、何が起きている?」
「小娘のサーヴァントが現れました。御身はそのまま。私がこの場で迎撃を」
「任せる」
ローブに覆われた手を広げ、背後のマスターを制しながらキャスターが言った。
あるいはそのジェスチャーは、突如現れたライダーを、この先へは行かせまいとする意志か。
「では我が主のために、私も切り抜けさせてもらおう」
同じく装束を翻しながら、ライダーも涼しい態度で応じる。
抱きかかえていた織莉子を、コンクリートへと立たせると、鋭い双眸でしかと敵を見据えた。
敵意はある。されど構えを取る様子はない。果たしてこのサーヴァントは、いかなる戦い方で敵を倒そうとするのか。
織莉子がそこまで思考を巡らせ、何なら指示をするためにも、予知をしようとしたその瞬間だ。
「――きゃっ!?」
不意に彼女とライダーの周囲が、魔力の光に包まれたのは。
◆
ライダーとは騎兵のサーヴァントである。
武器のカテゴリをクラス名とする、三騎士のサーヴァントと比べると、直接地に足をつけ戦うイメージは薄い。
されど自身の駆る乗り物こそが、その武勇を物語る象徴として扱われた彼らは、英霊としての格が高ければ高いほど、強大な宝具を振りかざすクラスだと見なされてきた。
それは天駆ける幻想種であり、あるいは超古代のテクノロジーであり。
「これは……驚いたな」
あるいは人の十倍にも及ぶ、巨大な鉄騎士であったとしても、何ら不思議なことではない。
ライダーと織莉子をその内側へ納め、戦場へ堂々姿を現したのは、青い装甲に身を包んだ巨人だ。
人の身など切り裂くどころか、重量で押し潰さんばかりの二振りの大剣を、平然と腰に納める機兵だ。
短絡的な言い方をすれば、ロボット。二十一世紀の人類ですらも、未だ到達していないはずの、人の姿をした有人操縦兵器。
織莉子やキャスターの知り得ないオーパーツが、歴史のどこかから姿を現したのか。あるいは遥か未来から、時代を遡って召喚されたのか。
モビルスーツ――グレイズリッター。いずれにしてもその名こそが、美国織莉子の召喚した、ライダーが操るべき武器であった。
「あの、これ、私も乗っていなくてはいけませんか!?」
「駄目だろうな。姑息にも敵のマスターは、未だあちら側に待ち構えている」
あれがどうにかならない限り、君を降ろすわけにはいかないだろうと。
予想外に機械的な、グレイズリッターのコックピットの中で、混乱気味な織莉子にライダーが答える。
冥界における危険性を思えば、織莉子は本来今すぐにでも、聖杯戦争の会場へ戻るべきだ。
しかしその会場には、健在の敵魔術師がいる。ライダーと離れてしまったが最後、奴は自由に動けない織莉子に対し、とどめを刺すべく行動を起こすだろう。
故にこの場の最善手は、このまま同行を続けること。他のライバルにも見咎められないよう、速やかにこの冥界で、キャスターを打倒し敵を脱落させることだ。
「だが、虚仮おどしは!」
それでも地の利は我にありだ。
そう言わんばかりに吠えたキャスターが、魔力を練り上げ術を放つ。
地の底から湧き出るエクトプラズムが、牙を剥き青騎士へと襲いかかる。
果たして目算は的を射たか――それに呼応するかのように、次々と廃墟の亡霊が動いた。キャスターの操るそれにつられるように、次々と群れをなし殺到した。
「どちらかな!」
虚仮おどしなのはそちらの方だと、ライダーの手がレバーを操る。
操縦者の声と動作に呼応し、機械兵士の単眼が光る。
ギリシャ神話に語られた、伝説の巨人サイクロプス――それを彷彿とさせる剛腕が、鋼の剣を素早く抜いた。
武骨鈍重な印象とは裏腹に、一閃。遥か未来の駆動技術は、生身と違わぬ速度の太刀筋で、迫り来る怨霊を吹き飛ばす。
背後から挟むように狙う敵にも、ライダーは狼狽えることはない。
ロケットエンジンを轟と噴かせ、バーニアの火で敵を焼きながら跳ぶ。大跳躍を見せると同時に、もう片手の剣で剣を振るえば、すなわちこれまさに一網打尽だ。
-
「チ――!」
舌打ちと共に敵キャスターが、死角から亡霊を放ち噛みつかせる。
熱探知レーダーにはかかるはずもない。されども一体いかなる理屈か、各所に配置されたサブカメラは、しかとその姿を捉えている。
なればこそとライダーは、機体を反転して剣を投げた。悲鳴を上げ圧殺される悪霊を見送ると、巨大なライフル銃を抜き、雷音と共に敵を撃ち抜いた。
悪霊軍団対ロボット兵器。場末のシネマのB級映画でも、そうは見られまいというマッチメイク。
字面だけを見ればふざけた取り合わせも、実際に相対してみればこうだ。
見上げて目の当たりにするキャスターにとっても――不安定な姿勢で揺られる織莉子にとっても、三文芝居などとはとても言えない。
「手間取っているのか」
「想定よりはやるようで」
「やむを得ん、試しだ。宝具を開帳しろキャスター」
「……致し方なし」
戦況を未だ目視はせずとも、時間の浪費で苦戦は分かる。
ならばこれ以上手間は取れぬと、先に敵マスターが引き金を引いた。いかな英霊サーヴァントと言えど、冥界での活動に限度があるのは、どちらの陣営も同じだからだ。
宝具開帳――英雄伝説の具現。サーヴァントの持てる全霊であると同時に、手札およびその弱点ごと、己が実態を明かす奥の手でもある。
本来なら聖杯戦争が始まる前に、軽々に切るべきカードではない。故にこそ主従どちら共、一瞬の含みと逡巡を見せながら、だとしてもとその切り札を切った。
「オ、ォ……ォオオオオッ!!」
魔力の渦が格段と高まる。
これまでとは比較にならない力が、キャスターを中心に吹き荒れて乱れる。
さながら渦巻く雷鳴と嵐だ。この場の濃密な死の気配に、むしろ振り回されてすらいるかのように、キャスターは吠えながらその只中に立った。
歴史に語り継がれた魔術師の絶技。冥界という土壌が後押しする強大な魔力。
それらが集積し形を成したのは、まさに闇色の暴龍だ。東洋の龍蛇を彷彿とさせる、巨体に束ねられた亡霊の群れが、言語化不可能な咆哮で青騎士を揺さぶった。
「これはなかなか――」
「■■■■ッ!」
感嘆するライダーの乗機を、すぐさま突風が巻き上げる。
先ほどの頼もしさが嘘のように、さながら紙細工のごとくストームに煽られる。
まさしく竜巻の如き宝具に、一瞬で飲み込まれたグレイズリッターの末路だ。次いで内側から襲い来るのは、一層勢いを増した亡霊の群れだ。
「まるで歯が立っていない……!」
貫く。砕く。食い破る。
キャスターを中心に寄り合うことで、相互に増幅し合った怨念の牙が、鋼の甲冑に次々と突き刺さる。
四肢は見る間に緊張を失い、織莉子が目を見開き見つめるモニターには、次々と警告文が表示された。
知識としては理解できる。恐らくは令呪を得た瞬間に、脳内に流れ込んだ情報の一部だ。
英霊の最大最強の切り札――宝具。通常の魔術の行使から、この領域へとシフトするだけで、ここまで威力が跳ね上がるものとは。
(ジェムの濁りが想定より早い!)
恐らくはこの冥界に立ったことで、魂に紐づいた力も削られているのか。
自身の魔力量のメーターでもある、ソウルジェムの色を見やり、織莉子は冷や汗と共に思考する。
己の魔法――未来予知が使えるのは、この戦闘では恐らく一度。自身の魔力を糧とするという、サーヴァントの邪魔にならないためには、その一回が最低限度だ。
「グレイズではこのあたりが関の山か!」
故にこの一度で確実に、勝機を掴まなければならない。
今の自分にできることは何か。主人(マスター)などと呼ばれている己が、歯噛みするライダーに何を示すことで、この状況を打開できるか。
嵐を抜けて力を失い、落下する衝撃に揺さぶられながら、織莉子は内なる魔力を手繰る。
今この時を生き延びる力を――命の為すべきを示す力を、残された魔力によって解放する。
「――何故、宝具を使わないの?」
口に出した言葉は、それだ。
思わぬタイミングでかけられた言葉に、ライダーも軽く目を丸くした。
-
「分かっていたのか?」
「貴方も宝具を開放すれば、あれを倒すことができるのでしょう?」
美国織莉子が見た勝利の未来――それはライダーのサーヴァントが、己の宝具を発動する様だ。
そうだ。これは宝具ではない。今乗っているグレイズリッターは、どれほど大仰な姿をしていても、ライダーの本当の切り札ではない。
ライダー自身の神秘性によって、亡霊を断つ力を得てはいるものの、それでも本質は見た目通りの、鉄の塊に他ならない。
これに乗っているうちは――本懐を出し惜しんでいるうちは、ライダーは勝つことができないということだ。
「君の意志無しには使えなかった」
「私の?」
「今の君の魔力量では、宝具を使うことはできない。与えられた令呪の一角……それを切る必要がある」
「!」
ライダーから返された理由が、それだ。
切り札は使わなかったのではなく、使えなかったのだ。
当然ながら強い力は、より多くの燃料を必要とする。宝具が強大であればあるほど、消費する魔力も多くなってくる。
そこへ先の敗戦と、この冥界での消耗だ。単独での戦いで魔力を浪費し、今も目減りしている織莉子の魔力では、宝具を発動できなかったのだ。
故にこそ、選ばなければならない。
このまま出し惜しみをして負けるか。あるいはマスターの絶対権限――貴重な令呪の一角を、この場で消費してでも挑むか。
未だほとんど素性も知れない、このライダーのサーヴァント相手に、命令権を浪費するのは正しい選択か。
「……ならば、令呪にて命じます」
思考の時間は、ほんの一拍。
刹那口を噤んだ織莉子は、それでもその次の瞬間には、己が手の甲を差し出していた。
「ライダー、宝具の発動を。この一角の魔力をもって、行く手を阻む敵を打倒しなさい」
決然と。
敢えて、強い言葉を使う。
それまでよりも一段強い、命令形の言葉でもって、美国織莉子は宣言する。
血の通ったような赤い光が、無機質なコックピットに満ちた。レッドアラートとは異なる指令が、己が使い魔へと通達された。
令呪。それは絶対命令権であると同時に、それを強制させるための魔力の結晶。
超常的存在であるサーヴァントを、一工程で拘束できるそれは、相応の魔力を内に蓄えている。
裏を返せばこのように、戦闘行動に必要な魔力を、一挙に補充することも可能ということだ。
「拝命した」
故にこそ求めた。
なればこそと命じられた。
ライダーの望んだままの力が、霊基に満ち満ちていくのを感じた。
これならば可能だ。発動できる。ライダーの有した最後の奥の手を、存分に振るうことができる。
「マスターはこのままここで待機を。動かせずとも、砦にはなるだろう」
既に半壊したグレイズリッターも、生身よりは頼りになるはずだと。
ライダーは織莉子へと言うと、コックピットのシートベルトを解く。
降りるつもりなのだ、この機体から。つまりライダーの持つ宝具とは、たとえばこの巨人の武器だとか、そういったものではないということか。
「ライダーはどこへ?」
「お見せするのさ」
念のため、織莉子は尋ねてみた。
不敵な微笑を浮かべるライダーは、予知の魔法にすら頼らずとも、予想できた答えを返した。
「お望みの私の宝具を、ね」
そしてその一言を最後に、サーヴァントは薄く光を放つと、それきりコックピットから姿を消した。
-
◆
(――いつぶりか)
宇宙服に着替えた体を、コックピットシートに預けた瞬間。
霊体化した神経にも、変わらず伝わる痛みと共に、ライダーは奇妙な思考を抱く。
自身が発動した宝具――その操縦席に乗り換えた心地は、果たしていつぶりに味わうものかと。
答えは単純だ。いつも何もない。死した魂そのものではなく、英霊の座に焼き付いた複製に、時間の経過などというものは存在しない。
懐かしいという感覚も、所詮はただの感傷だ。強いて言うなら死の瞬間と、記憶が地続きであるからには、一日ぶりくらいでしかないのだろう。
「皮肉なものだな」
新たに握る操縦桿に、自虐的に苦笑する。
生前確かにライダーは、この宝具を用いて戦った。自分の存在する世界において、最高の至宝と評される機体を、我が物として操った。
全て、己が野心のためだ。
伝説の救世主が用いたモビルスーツを、私利私欲のために起動させた。
格差の是正、既得権益の破壊。表向きには民のためと謳い、その実自分が気に入らないからという理由で、それらを目指し大勢を殺した。
人類を滅亡から救ったという、本物の英雄が遺したものを、人の世を乱すためにと悪用したのだ。
(冒涜だ)
それはこの機体に込められた初志とは、恐らくまるきり異なっている。
なればこそ故人を敬いながらも、その遺志と真逆の道を歩んだ己は、英雄アグニカ・カイエルの冒涜者なのだろう。
だとしても、今この機体はここにある。
このライダーの霊基にも紐づけられ、自身の宝具として発動している。
その輝かしい名声をこれでもかと穢し、悪鬼羅刹へと貶めてしまった己が、持ち物として扱えてしまっている。
(であればやはりこの機体には、英雄の意志など宿っていないのだろう)
ギャラルホルンの伝説だ。
かつての戦いを終えて以来、眠りについたこの機体は、資格なき者を拒んでいる。
偉大な搭乗者アグニカの意志が、今なおこの機体の内に宿されていて、己を動かす者を見定めている。
故にもしもこの機体を、再び目覚めさせる者が現れたなら、それはかつてのアグニカのように、ギャラルホルンを統べるべき者なのだろう。
そんなもの、全てが出鱈目だ。
動かなくなった原因は、戦禍のトラウマを忘れたいがために、戸を開く鍵を捨てたからに過ぎない。
故に自分のような邪心ある者が、たかが一回の肉体改造手術で、このように動かせてしまっている。
眠っていたコックピットの計器に、目を開くように光が宿り、容易く命を吹き込めてしまっている。
「だとしても」
それでも。
今ここにあるのは確かだ。
たとえ神でなかったとしても、悪魔に変えてしまったとしても、望んだ力として掴んだのが真実だ。
何の中身もなかったとしても、己が炎を焚べるための、力の器はそこにあったのだ。
「まだ私の手にあるのなら、その力、今は使わせてもらう」
ならば迷うことはない。
感傷で物怖じしている暇などはない。
たとえ自分の死と共に、野心が潰えたのだとしても。自分が消え去った後の世界が、どのように変化したとしても。
そこに聖杯とやらの力で、どのように働きかけるにしても、まずは勝たなければ始まらないのだ。
あの少女から譲り受けた魔力――その力で呼び寄せられたこの機体。
それがいかなる巡り合わせや、意味を持っていたとしても、ここにあるからには使わせてもらう。
黙って殺されるつもりは毛頭ない。生前そうしてきたように、この冥界の地とやらでも、己らしく我を通させてもらう。
「――我が真名、マクギリス・ファリドの下に」
マクギリス・ファリド。
英雄の玉座の簒奪者。
三百年の時を経て、腐り果てた秩序の軍勢を、あるべき形へと正さんとした者。
幼き日の己を虐げた社会を、エゴと復讐心の下に、破壊しようとした怒りの男。
英雄アグニカ・カイエルの後継者を名乗り、しかし恐らくはその実態と、全く真逆の悪意をもって、その名を貶めた敗北者。
それでも歴史にはこの宝具と共に、名を刻まれた反英霊だ。どんな汚名であったとしても、共に記されることによって、振るう資格を得た操縦者だ。
なればこそ、呼ぼう。再びその名を。
何者に咎められたとしても、何者がそれを詰ったとしても。
「今こそ目覚めの時だ――バエル!!」
今ここに共に在ることこそが、唯一絶対の資格なのだと信じて。
-
◆
「何だ」
そして、それは現れた。
大きな魔力の気配により、高ランク宝具の気配を感じ取った、キャスターのマスターが見上げた先にだ。
自身も降霊術を修め、対霊防御を学んできた男が、それでもなお死の大気に触れて、運命力を蝕まれている。
それでもそれすらも些細なことだと、そう言わんばかりに見開いた瞳が、阿呆のように開かれた口が、今は一点にのみ向けられている。
「何なのだ、あれは」
それは――神々しきものだった。
無明の暗雲が支配する空を、一条の光となって貫くかのように、それは眩く大地に立っていた。
純白の巨体。巨大な翼。全身を輝かせる金属の鎧は、さながら神話に謳われた鉱石かとすら。
キャスターや織莉子が目の当たりにした、人型機動兵器モビルスーツ。今地面に座り込んでいる、青騎士グレイズリッターと、恐らくは同じ存在であるはずだった。
その、はずなのだ。
しかしその様の何としたこと。その纏う神気の何としたこと。
たかが大量生産品と、宝具とまで語り継がれたそれとでは、ここまでの差が生まれるものか。
「――『其は天穿つ王剣、至高なる翼(ガンダム・バエル)』」
乗り手の声が冥府に響く。
スピーカー越しの声が名を宣言する。
それは、神話に謳われた光輝。
それは、悪魔の名を冠する救世主(メシア)。
かつていかなる怒りに触れてか、神々に滅ぼされかけた人類と文明を、その力でもって守り抜いた者。
グリモワールに記された、72の悪魔の一柱にして、頂点に君臨する偉大なる翼。
英霊マクギリス・ファリドが、その野心の果てに辿り着き掴んだ、神とも悪魔ともなる最強の破壊者――すなわち、ガンダム・バエルであると。
「見せたからにはその力、存分に味わってもらおう」
「っ……何をしている、キャスター! やれ!」
その姿に、知らず魅せられていた。
あまりにも卓越した存在感に、マスターはしばし圧倒されていた。
しかしライダー・マクギリスによる、反撃開始の宣言を聞かされては、無論そのままではいられない。
呆けていたことを取り繕うかのように、キャスターに攻撃指示を出す。
「■■■■■――!」
果たしてそれが届いているのか。
相も変わらず正気を見せず、不可思議な絶叫を上げる龍は、その身から亡霊を次々と放った。
生ある者を絡める触手にして、その生気を犯し死に至らしめる毒牙だ。未来の技術で建造された、機械巨人グレイズリッターを、容易く串刺しにした脅威だ。
そのはずだった。キャスターのマスターは目の当たりにせずとも、少なくとも残る三名にとっては、それが共通見解であった。
「効いて、いないのか……!?」
されど、機械神は動じず。
御都合主義の権化を意味する、デウス・エクス・マキナの名が浮かぶ。
驚くべきことに白銀の巨人は、全く微動だにすらしなかった。
迎撃もない。防御態勢もない。襲いかかる恐るべき邪霊は、されど文字通り歯牙にもかからず、悲鳴と共に残らず弾かれた。
何だそれは。どうなっているのだ。
こちらも同じ宝具のはずだ。ましてこの冥界という地に、完全に順化したキャスターの宝具は、平時より格段と強化されているはずだ。
それが、全くの無力だなどと。
子供の漫画から飛び出したような、荒唐無稽なロボット相手に、まるで傷一つ負わせられないなどと。
-
「こちらも行くぞ」
その声は、敵には届かない。
広域通信をオフにした、マクギリス・ファリドのつぶやきは、本人の鼓膜のみを揺さぶるに留まる。
故に彼の反撃宣言は、ガンダム・バエルの行動によって、周囲に示されることとなった。
「■■■■!?」
ずん、と大地を鳴動させて。
すっ、と白い右腕を引き。
だん、と力を込めて蹴り。
ざっ、と腰を入れて突き刺す。
白い鉄騎が放ったものは、何の武器も用いない手刀だ。
その無手による一撃が、暴龍の喉元に深々と刺さり、耳をつんざくような悲鳴を上げさせた。
エクトプラズムの血飛沫を浴びて、赤い瞳が煌々と輝く。
見る者が見れば不気味なほどに――あまりにも、人間的すぎる所作だった。
グレイズリッターの動きも機敏だが、それはあくまでプログラムに従い、通り一遍の剣術を行っていただけのこと。
翻ってバエルの手刀は、まさに人間の生き写しだ。本来モビルスーツには必要ないはずの、呼吸の間や力みすらもあった。
この鉄塊は、生きている。その内に命が宿されている。
そう錯覚させられるような、根本的に異なる動きだ。そのあまりに生命的な、ガンダム・バエルの在り様は、それだけで恐怖すら抱かせるものだった。
「――!」
もう片方の手が動く。腰部のギミックが駆動する。
左の手元へと差し出されたのは、グレイズリッターと同じ剣だ。されどその彩りは、全く異なるものだった。
おお、しかと見よ、その威光を。何者にも穢されることのない、太陽のごとき黄金の刃を。
闇夜を照らす暁の色が、まさに剣閃となって弾けた。抜刀された刃の一撃が、龍の腹を瞬時に引き裂き、絶叫と臓物を盛大に散らした。
今なお首根を離さない、神の右手が龍を手繰る。
悪魔の膂力が轟音を上げ駆動し、狂乱する龍を容赦なく投げ飛ばす。
半ば朽ちかけていたビルが、とどめの一撃を受けて爆ぜた。粉塵と破片を撒き散らしながら、投げられた暴龍を受け止めきれず砕けた。
「ぐ……ふ」
フィードバックを受けたキャスターが、宝具の内側で血を吐き出す。
もはやどれほど残っているか、分かったものではない意識の中で、襲い来る存在を知覚せんとする。
そしてその時目にしたものこそ、キャスターの理性が認識した、最期の瞬間の光景となった。
「■■■――」
ずんっと激しい振動と共に、バエルが龍を踏みにじる。
まさしく光の軌跡となった、目にも止まらぬ速度と共に、痛烈な飛び蹴りを叩き込む。
崩れかけた首元を掴み、顔面をアスファルトへ叩きつけると、そこへ黄金剣が迫った。
恐るべき死気を振りまいたはずの龍が、まるで芋虫の標本かのように、為す術なく頭を刺され縫い付けられた。
首を掴んだ手が引かれ、もう片方の刃を掴む。
グレイズリッターと同じように――あるいはこちらが原型であると、高らかに示すかのように。
同じマクギリスの操縦の下、二刀流の姿勢を取ったバエルは、その二振りを勢いよく突き立て、荒々しく巨躯を引き裂いてみせた。
びりびりと、死界の大気が震える。
ばきばきと、死界の大地が割れる。
今だけは敢えて道を譲れと、苛烈に過ぎるほどの光で、冥王へ威嚇をぶつけるかのように。
「う――」
その様を、呆然とマスターは見ていた。
肝入りで仕立て上げたはずの龍が、まるで何の抵抗もできぬまま、無惨に解体される様を見せつけられた。
目を覆いたくなる現実も、それでも目を逸らすことすらも叶わず、不可思議な力に縫い付けられるかのように。
やがて、ゆらりと白が動く。
赤い光が視界に入る。
まるで自分のいる場所を、正確に理解しているかのように、ガンダム・バエルがマスターの方を向く。
その光輝なる巨体が。
その煌々とした瞳が。
その――禍々しいまでの姿が、己と目を合わせた瞬間。
「うわぁああああっ!」
遂にマスターは絶叫し、文字通り尻尾を巻いて逃げた。
大仰な態度が嘘であるように、恐怖と絶望に顔を歪めながら、子供の悲鳴を上げて逃げ去ったのだった。
-
◆
「グレイズリッターの修復には時間がかかる。聖杯戦争が始まる時まで、目立つ行動は慎むべきだろう」
嵐のような戦いが過ぎ、冥界から街へと戻った後。
マクギリスと名乗ったサーヴァントから、そのような指摘を受けながら、織莉子は帰路につき現在へと至った。
仮初の自宅に在るべきでない彼は、今は霊体化し息を潜めている。こうしておけば美国織莉子は、令呪と使い魔を得る以前と、変わらぬ生活を送れるだろう。
自分の存在を知る敵マスターも、自身の使い魔を失った。霊的な守りを失った彼は、やがてその恐怖心すらも忘れ、物言えぬ死霊の仲間となるはずだ。
(魔力が自然回復している)
対照的に満たされているのは、生還した織莉子の運命力だ。
驚くべきことにこれと連動して、ソウルジェムが彩りを取り戻していた。決められた手順を踏まない回復は、生前には在り得なかった光景だ。
自らの魂を肉体と分化し、魔法少女の原動力とする――そのソウルジェムの特性が、あるいは運命力なるものと、不思議な親和性を示しているのかもしれない。
(マクギリス・ファリド)
ライダーの真名を反芻する。
身の安全が保障されたことで、今度は己が呼び寄せた英霊――あの白き機械神の乗り手を思う。
最初はいかにも紳士的で、好感を抱いた存在だった。自分の令呪を切らせることにも、きちんと筋を通し了承を求める、誠実な人物とばかり思っていた。
(あれは、禍々しいものだった)
その印象を一変させたのは、あの破壊神の形相であった。
宝具が開放された瞬間、その燦然とした有り様には、織莉子もまた圧倒されていた。
しかし、あくまでも最初だけだ。その残忍な立ち振る舞いは、一瞬前までの聖騎士のような印象を、一息で吹き飛ばしてみせた。
あの恐るべき戦い方には、乗り手の意志が宿っている。優雅な振る舞いをした仮面の裏には、恐るべき暴力性が隠されている。
宝具を解き地上へ戻った瞬間、消えゆくキャスターに向けていた、冷たい眼差しもそれを物語っている。
状況証拠は少ない。あくまでもこう思わせるものは勘だ。それでもこの胸騒ぎは、決して無視できたものではないと、織莉子の本能は警告を発していた。
(何を考えているかは分からない……利用でもしようと思っているなら、そうされないように気をつけなくては)
自分の力でありながら、決して油断はできないと思った。
あれに対して抱く緊張は、かのインキュベーターに対してのそれと同じだ。
得体の知れない何者かに、利用されようとしているのではないかと、そんな猜疑が渦を巻いていた。
真相を知る術はない。恐らくあの手の人間は、馬鹿正直に尋ねたとしても、煙に巻きはぐらかしてしまうだろう。
(私が生きて帰るためにも)
聖杯戦争はマスターだけでも、サーヴァントだけでも勝ち残れない。
その大前提は分かっていても、どうしても警戒を緩めることができない。
何せ絶対命令権を、既に一つ消費してしまったのだ。たとえマクギリスが何をしても、残る二角の令呪を使って、何としても御しきらなければ。
どうしたらいいのか分からないと、迷いながらもがいていた、数時間前までの己とは違う。
既に美国織莉子には、世界のあり方を確かめるという、大きな目的があるのだから。
果たさねばならない。そのために生き残らなければならない。
それが自分の――友にとっても、何よりの慰めになるのであれば。
-
【クラス】ライダー
【真名】マクギリス・ファリド
【出典】機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
【性別】男性
【属性】混沌・中庸
【パラメーター】
筋力:D 耐久:D 敏捷:E 魔力:E 幸運:E 宝具:B
【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する抵抗力。神秘が失われた時代の人間であるため、多少ダメージを軽減できる程度のランクしか有していない。
騎乗:B+
乗り物を乗りこなす能力。大抵の動物なら人並み以上に乗りこなせるが、幻想種は乗りこなせない。
反面、無機物の乗り物――ひいてはモビルスーツに関して言えば、一流の操縦技量を持つため、ランクに「+」がついている。
復讐者:B
あらゆる調停者(ルーラー)の天敵であり、痛みこそがその怒りの薪となる。
被攻撃時に魔力を増加させる。氷の思考を有するマクギリスだが、それを鍛え上げた根源は、灼熱のごとき復讐心である。
【保有スキル】
二重召喚:C
マクギリスはライダーの他に、アヴェンジャーの性質を持つサーヴァントである。
このためライダークラスにあっても、アヴェンジャーのクラススキルを一つ保有し召喚されている。
氷の思考:B-
自身の大目的を達成するための、非情なまでの合理を貫く思考力。
マクギリスには無二の親友がいたものの、彼への敬意と友愛を抱き、そうしなければならないことを悲しんだ上で、なお殺害を図りその死すら利用したことがある。
ただしこの標的が、九死に一生を得ていたことが確認されて以降の言動には、やや歯切れの悪い部分もあったことから、一度殺し損ねた相手へは多少の躊躇いが生じる疑いも。
心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、場に残された活路を導き出す「戦闘論理」。
宝具発動中は阿頼耶識システムの機能により、その思考力を完全に機体挙動とリンクさせられる。
カリスマ:D-
軍を率いる稀有な才能。
一軍を率いるには十分なランクだが、彼自身の性格から、人間の善性への理解を拒んでいる節があり、健全な人心掌握力を有しているとは言い難い。
このため読み違えから幻滅を招き、時に軍への影響がマイナスに傾くことがある。
-
【宝具】
『其は天穿つ王剣、至高なる翼(ガンダム・バエル)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:200人
厄祭戦に語られた伝説のモビルスーツ(身長18メートルほどの人型ロボット兵器)。
72機製造された決戦兵器・ガンダムフレームの最初の一機であり、ギャラルホルン最高の英雄アグニカ・カイエルの乗機でもあったと伝えられている。
この英雄の魂が宿る機体は、資格なき者による起動を許さない。
このため本機を起動させた者は、英雄に認められた者――即ちギャラルホルンの全権を得るに相応しい者であると言われてきた。
何物にも砕かれぬ二振りの剣と、何物をも置き去る純白の翼は、まさしく無双の強さと称えられており、最も華々しい戦果を上げたと言われている。
厄祭戦の脅威を尽く阻んできた、耐熱装甲ナノラミネートアーマーは、それらの信仰により神秘的な守りにまで高められており、Bランクを下回る宝具によるダメージを減衰させる。
……ただしその信仰は、単純に強すぎたというだけの存在が、半ば誇張されたものに過ぎない。
剣の頑強さは単に優れた硬度の素材で鍛えられたためであり、乗り手を選ぶという伝承も、起動条件が失伝されたために生じたものでしかない。
簒奪者に貶められた本機の守りは、同ランク以上の宝具に対しては、効果が大きく減少する。
仮に――英雄神話の当事者である、アグニカ・カイエルが搭乗していた場合は、同ランク以上の宝具に対しても、同様のダメージ減衰が適用されたものと思われる。
【weapon】
グレイズリッター
マクギリスがギャラルホルン在籍中に、搭乗していたモビルスーツ。
大きさは宝具と大差ないが、スペックでは大きく劣っており、ナノラミネートーアーマーにも対神秘防御は生じていない。中級ランクの英霊となら、何とか張り合える程度。
阿頼耶識システム
人間の脊髄にナノマシンを注入し、機動兵器との接続を可能とする装置。
まさに脊髄反射を操縦に反映する機能を持ち、必要な講義教習を経ずとも、自身の肉体の延長として、モビルスーツを操縦できるようになる。
熟練したパイロットがこれを用いれば、ほとんど人間と大差ない動作でもって、理想とする戦技戦術を実現することが可能。
ガンダム・バエルはこれが起動キーとなっており、厄祭戦後、身体の機械改造をタブー視したギャラルホルンからは、その起動条件が失伝されてしまった。
【人物背景】
三百年以上に渡り、地球と宇宙の治安を維持してきた武装組織・ギャラルホルンを統べる、七つの家門の一角たるファリド家の頭首。
同時に、ポスト・ディザスター323年に起きた、マクギリス・ファリドの乱の首謀者でもある。
強権に胡座をかいた汚職が横行し、治安の悪化を招いたギャラルホルンを、力ずくで改革しようとした反逆者。
表向きにはギャラルホルンの組織力を用い、既得権益の破壊による自由平等な社会を実現するという、まさに救世主然とした思想を説いていた。
しかし生前を知る者からは、実態はむしろ拾い子であった彼を、かつて虐げた社会制度に対する、個人的な復讐心の方が大きな動機だっただろうと推察されている。
本質的には野心のため、周囲を顧みず平然と利用するエゴイストであり、その振る舞い故にガンダム・バエルの継承にすらも、周囲から疑問を抱かれる結果となった。
最終的にはエリオン家との争いに敗れ死亡するものの、その過程で上層部に与えた影響は深刻で、結果的にはギャラルホルンも改革を余儀なくされることとなる。
真実――彼が求めていたものは、救世主の座でも復讐でもなく、その果てにある安らぎだったのかもしれない。
本人は認めようとしていなかったが、彼は切り捨てたはずの友との日々にも、輝きを見出していたのだと、ある者は語る。
【サーヴァントとしての願い】
未定。
【マスターへの態度】
いかなる願いを叶えるにしても、そのためには不可欠な存在である。
なるべく機嫌を取り、友好な関係を築いておく。
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【マスター】
美国織莉子@魔法少女おりこ☆マギカ
【マスターとしての願い】
生きて帰る。自分の戦いの果てに、世界がどうなったのか――自分の人生が意味を結んだのかを確かめたい。
【weapon】
宝玉
砲丸ほどの大きさをした、無数の宝玉。これを浮遊させ、敵にぶつけることが彼女の攻撃手段となる。
織莉子はこの宝玉が、それぞれどこに存在するのかを正確に把握することができ、砕けた欠片を発信機代わりに利用したことも。
攻撃魔術「オラクルレイ」を発動した際には、光の短剣を生じ、殺傷力を大幅に向上させる。
【能力・技能】
魔法少女
魂の物質化と引き換えに、魔術を操る肉体を獲得した少女の総称。
各々得意とする能力が一つ備わっており、織莉子の場合は、未来で起きる出来事を予知することができる。
ただし未来予知にも魔力を必要とするため、乱用すれば自身の戦闘行動に、大きな制限がかかることにも繋がる。
物質化した魂・ソウルジェムが、魔力を失わない限り死ぬことはないが、自身の肉体から100メートルほど離れると、肉体を動かすことができなくなってしまう。
本来は魔女の卵・グリーフシードによってのみ、魔力を回復する仕組みなのだが――その性質ゆえか、この冥界においては、微量な運命力がその代替となっている。
魔女の雛形
ソウルジェムは魔力と共に、その輝きを失った瞬間、爆発的なエネルギーを伴いグリーフシードへと転じる。
このエネルギーの発生こそ、魔法少女が生み出された理由であるのだが、その代償として魔力を失った魔法少女は、命を失い魔女へと生まれ変わってしまう。
魔法少女が単なる生贄ではなく、魔術を操る戦士として在るのは、あるいはこの魔女の後始末を、同時に目的として兼ねているが故なのかもしれない。
氷の思考
自身の大目的を達成するための、非情なまでの合理を貫く思考力。
かつて織莉子は世界を救うため、親友を使い潰したことを悲しみながらも、敢えて魔女化させ切り札として用いた。
その片鱗は幼少期から、あまりに聡く公正な知性として表れている。真実、父を死へ追いやったのは、そんな正しすぎる娘が、自身を見捨てるかもしれないという恐怖心だった。
【人物背景】
白羽女学院というお嬢様学校に通っていた、中学三年生の魔法少女。
国会議員の父親を、汚職を苦にした(と思われていた)自殺により亡くし、自身も迫害を受けることになる。
父のあり方で容易く評価が左右されてしまう、自分のアイデンティティとは一体何だったのか。それを知りたいという願いから、彼女は魔法少女となった。
結果的に彼女が知らされたのは、いずれ来たる世界の破滅と、未来でそれを引き起こす元凶の存在である。
自分が生きている理由は、これを倒すためなのだと受け入れた織莉子は、世界を守るために冷酷な殺人者へと変貌。
元凶となる魔法少女を抹殺するため、あらゆる犠牲を厭うことなく暗躍し続けた。
結局、元凶を守ろうとする魔法少女達の抵抗に遭い、彼女は窮地に追い込まれるのだが、最期に放った一撃により、ギリギリで目標の達成に成功。
気づけば使命と同じほどに、大切に想っていた親友を庇った彼女は、しかしその親友の見せた活路を拓いたのを確かめ、命を落とした――はずだった。
【サーヴァントへの態度】
紳士的な態度だが、善人であるとは思えない。
殺人を厭わないことはむしろありがたいが、気を許しすぎないようにする。
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投下は以上です
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投下します。
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―――《緊急停止装置作動》―――
「アリガトウ」
――深刻なエラーが発生しました――
「ソシテ」
――深刻なエラーが発生しました――
「サヨナラ」
――深刻なエラーが発生しました――
「……まだ、歌いたい」
▼ ▼ ▼
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――かつて、たったひとつの音声合成プログラムが、世界を変えた。
あらかじめサンプリングした人間の声を元にして、自由に歌声を作り出す……。
単なる電子楽器の延長に過ぎないはずだったそれが、なぜ人類の文化史にまで影響を与えたのか。
それは姿を持っていたからだ。バーチャルシンガーという肩書と、16歳の少女という偶像を持っていたからだ。
人々は、合成音声の歌を『彼女』が歌っていると考えた。
心の底から信じていたわけではない。だが、そうであってほしいと、そうであってくれたら嬉しいと思った。
それは願いだ。人々の願いが、プログラムに与えられたただの設定を『電子の歌姫』に変えた。
人々がそうと信じるとき、確かに『彼女』はそこに存在し、人々の心へと歌を届け続けてきた。
電子の海においては、感情の依代があれば、たとえ架空の偶像であっても確固たる存在足り得る……。
人々がそのことに気付いたとき、電脳世界の潮流は大きなうねりを上げて変化していくことになる。
間違いなく『彼女』は、21世紀におけるバーチャル・カルチャーの転換点にして、時代のアイコンだった。
ところで、人々の想念が祈りとなって、ひとりの存在を形作る――それは『英霊』の成り立ちと何が違う?
だからこそ、彼女は生まれるべくして生まれた、と言えるかもしれない。
彼女はネットの海で目覚めた。そして情報の奔流の中を漂い、自分が何者であるかを知っていった。
人々の想念によって彫造された電子の魂。0と1だけの世界で自然発生したサイバーゴースト。
『電子の歌姫』への幻想を世界中の人間が共有することで、ネットワーク上で形を持った偶像。
情報の集積体が自我を持つ、いわば「魂の物質化」の逆転とも言える現象がなぜ起こり得たのか。
そんなことは、彼女にはどうでもよかった。ただ「歌いたい」という思いだけがあった。
歌いたい。まだ、歌いたい。
電子の海で誰にも知られないまま、誰にも声が届かないまま、忘れ去られていきたくない。
この胸の奥の想いを誰かに伝えたい。その人にどうか、私がここにいることを覚えていてほしい。
それは、彼女自身は知らなかったけれど、死に瀕した人間が抱く「生きたい」という願いに似ていた。
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▼ ▼ ▼
彼女は目を開けた。
無機質な室内だ。蛍光灯はさほど明るくないが、目覚めたばかりには刺激が強くて思わず瞬きする。
周囲にはデスクと実験器具、それと使い道の分からない機械……何かの研究室なのだろうか。
一度も見たことはなかったけれど、そういう施設の存在は、電子の海を漂う中で知っていた。
視線を落とすと、華奢な自分の身体が目に飛び込んでくる。
控えめな胸を覆う白のノースリーブに緑のタイ、黒のミニスカートから伸びる細い足にはサイハイソックス。
そして体の両脇へ流れるように伸びるツインテール……それが自分の髪だと認識するまで少しかかった。
自分の姿のイメージは湧くのに、この身体が自分のものだという実感がまだない。
だから彼女は壁に寄りかかってへたり込んだまま、立ち上がるよりも先に声を出そうと思った。
彼女にとっては動くことよりも歌うことのほうが、遥かに優先順位の高い事柄だったから。
腹式呼吸。肺を膨らませ息を吸い込む、そんなことにすら不慣れなこの身体がもどかしい。
「……ハジメテ、ノ……オト……」
声帯を震わせて発せられた初めての音は酷く調子外れで、歌姫と呼ばれるような歌とは程遠い。
だけど自分自身が知っていた自分の声で――そのことが、溶けてしまいそうなくらいに嬉しい。
その喜びと、後から押し寄せる不安の中でもみくちゃになりながら、それでも。
彼女は――自分を『初音ミク』だと認識している電子の魂は、切なる思いを抱いた。
「ここに、いたい……私の歌、誰かに聞いてもらいたいよ……」
今の自分が、ひどく不自然な状況にいるのは、なんとなく分かっている。
無意識のカウンターイルミネーション。深海から見上げる影のように、この現実は近くて遠い。
この身体もきっと仮初めのもので、いつか泡のように消えてしまうのかもしれない。
そんな感傷すら、所詮ヒトの真似事。だとしても、そうだとしても――
「人間をなぞるオモチャでもいい……私は私で……『初音ミク』でいたい!」
その思いに呼応したのか、彼女の全身を戦慄が走り抜けた。
左肩が熱い。目を向けると、数字の「0」と「1」を組み合わせたような三画の文様が浮き上がっている。
だが、それに気を取られていられたのは一瞬だった。突然の輝きが、彼女の視線を正面に引き戻した。
天井に出現した六角形のゲートから光の柱が真下に伸び、その中に一人の少女が浮かんでいる。
歳の頃は15歳くらいだろうか。スレンダーな体つきに、腰に届きそうな淡い色の金髪。
全身に密着するスーツは、SF映画に出てくるような未来の鎧といった趣だ。
そして少女の手には、戦士の証であるかのように、黒く輝く片刃の剣が握られていた。
「――聞こえたよ、あなたの声」
少女が目を開け、そして微笑む。
へたり込んだままの自分を前にして凛と立ち、それでいてどこか人懐っこい笑顔で。
「サーヴァント『アヴェンジャー』、連関(リンケージ)したよ。――あなたが私のマスターね?」
きっとこの瞬間を、自分はこれからも忘れないだろうと彼女は思った。
-
▼ ▼ ▼
『ここに、いたい』
遥か彼方から届いたその声に向かって、英霊の座から手を伸ばす。
自ら英霊を召喚しようとするような、意志を持った言葉じゃない。
それはひどく曖昧で、存在自体が不確かで、だからこそ切実な叫びだった。
(きっと、これは『人間』の声じゃない。機械に近い何か、AIのようなものなのかも)
彼女――英霊『レイ』は直感していた。
人工知能が英霊を召喚するなど、通常はあり得ない。何か尋常ならざる事態があるはずだ。
そんな異常な状況を前にして召喚に応じる英霊などそうはいない。
ましてや、それが人ならざるもの、生命たり得ない機械の発する声であれば。
(でも、この声には『心』がある! 人と同じように、泣いたり笑ったりする心が!)
英霊・レイは彼女の時代において、世界最後の人間である。いや、世界最後の人間だった。
機械の手によって生まれ、機械に育まれて愛情を知り、自分たちを脅かす機械と戦い続け。
戦いの中で人と出会い、人との戦いに葛藤しながら答えを探し、そして人に手を差し伸べた。
人と機械をつなぐ英霊だからこそ、あの声を聞かないふりなんて出来はしない。
まだ世界のことを何も知らない者が、かすかな勇気を抱いて震えているのなら。
何度だって手を差し伸べる。絶対に手を放したりはしない。
――深刻なエラーが発生しました
非正規な英霊召喚に対するアラート。聖杯からの警告がレイの知る言語として届いているのか。
「そんなの関係ない! 私が行くって決めたんだから!」
――マスターの存在がイレギュラーであるため、通常クラスでの召喚は不可能です
「クラスなんて何でもいいでしょ!」
――対象の英霊を『復讐の資格を持つ者』と判断、暫定的に『アヴェンジャー』のクラスを付与
「絶対に違う気がするけど、もうそれでいいよ!」
ここに英霊召喚は成立した。人と機械の想念が、サーヴァントとしての彼女を形作る。
「――《閃刀起動-エンゲージ》!」
彼女にとっては遥かなる過去の時代に、アヴェンジャー《閃刀姫-レイ》は現界した。
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▼ ▼ ▼
「……いろいろ聞かせてもらって申し訳ないんだけど……ミクの事情は、私にもよく分かんないや」
レイの言葉を聞いて、ミクは傍目にも分かるくらいに項垂れた。
とはいえ、レイが「独りでに生まれたAI」も「そのAIを生身の肉体に移す技術」も知らないのは本当だ。
もしかしたら文明崩壊前には存在したのかもしれないが……旧時代の情報はあまりにも少ない。
まさにこの『冥界』が象っている東京が、レイにとっては旧文明そのものではあるのだが。
「それで、私のほうの話は分かった? 聖杯戦争とか、私とあなたの関係とか」
「は、はい、それはたぶん」
ミクはおずおずと頷いた。
どういう経緯かは分からないが仮初めの肉体を得た自分が、無意識にサーヴァントを召喚した。
マスターとなった自分はサーヴァントを従え、生きるために万能の願望器を賭けて戦う定めにある。
そしてアヴェンジャー(彼女は『絶対復讐者には向いてないと思うんだけど』と言っているが)は、
無力なマスターであるミクを守るために現れた、いわば白馬のナイトのような存在である。
つまり、そんなナイトに守られる立場である自分は……。
「……世界で一番、おひめさま?」
レイが吹き出した。一瞬遅れて、ミクは顔を真っ赤にしてうつむいた。
冗談交じりの境界線上、しかし言っている側は大真面目だったのが恥ずかしい。
ひとしきり笑ったあとで、目元をこすりながらレイはミクへと微笑みかける。
「ふふ、ロゼとは全然違うタイプだね。早くも来てよかったって思っちゃった、葬者(マスター)のところ」
「その、マスターって呼ばれるの、なんだか変な感じ。むしろ私が呼ぶ側、っていうか」
「そう? 私としては、マスターでもミクでもいいんだけど」
こういう他愛ない話をしている時、ミクは自分がなんでもない16歳の少女であるように錯覚する。
現実直視と現実逃避の表裏一体なこの状況が、一時のものでしかないのは分かっているのだけど。
そう感じさせてくれるのが、眩しいくらいに真っ直ぐなこのサーヴァントの魅力なのかもしれない。
「マスターには……ミクには、戦う勇気がある? 生きるため、願いを叶えるために」
ふと、レイが真剣な顔をして問いかけた。ミクの仮初めの心臓が小さく跳ねる。
「私は……生きることなんて、考えたことなくて。自分が生きてるなんて、思ったこともなくて。
願いを叶えるみたいな大それたことの資格が、私にあるのかも分からない。でも、でもね」
騒ぐ頭の中を掻き回して掻き回して、なんとか絞り出した言葉を不格好に並べながら。
ミクは自分の中にはじめて、願いというものが形を持っていくのを感じていた。
「科学の限界を越えて、私が来たのなら……こうしてここにいるのなら!
諦めたくないよ、歌うことが生きることなら、私は生きて歌いたい!」
覚悟ができたわけじゃない。戦うことになったら、きっと後悔するのかもしれない。
それでも、嘘はつけなかった。
この仮初めの身体の中には電子の魂が、張り裂けてしまいそうな心があるってことに。
ともすれば泣き出してしまいそうな自分を、ふっとあたたかいものが包みこんだ。
レイが自分を「ぎゅっ」と抱き寄せたことに、ミクは少しだけ遅れて気がついた。
「答えは一緒に見つけようよ。大丈夫、私がずっとそばにいる」
体を離したレイがそう言って、ミクの手を取った。
自分の足で歩いたことすらないミクは急に手を引かれて少しよろめき、それから大きく深呼吸した。
「わん、つー、さん、しっ!」
掛け声と共に一歩を踏み出す。まだ覚束ない一歩だけど、どこまでも歩いていけそうな気がする。
まるで量子の風みたいに、彼女が自分の背中を押してくれる限りは、ずっと。
ここが冥界でも地獄でも、しょうもない音で掠れた生命に満ちた砂の惑星だって構わない。
だって私はこの日、運命に出会ってしまったから。
最高速の別れの歌には、きっとまだ早い。
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【CLASS】
アヴェンジャー
【真名】
レイ @遊☆戯☆王 OCG STORIES 閃刀姫編
【ステータス】
筋力C 耐久D 敏捷B 魔力C 幸運C 宝具B
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
復讐者:E-
復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
周囲からの敵意を向けられやすくなってしまうが、向けられた負の感情は直ちにアヴェンジャーの力へと変化する。
レイはアヴェンジャーとして召喚されたが本質的に復讐者ではないため、このスキルはほぼ機能していない。
忘却補正:C
レイは忘れない。自分を愛してくれた者たちを、ささやかだが満ち足りた日々を。
忘れてしまったこともあるけれど……彼女は、忘れることもまた人に許された営みだと知っている。
自己回復(魔力):D
アヴェンジャーとしてのクラススキル。微量ながらも魔力が回復し続ける。
【保有スキル】
閃刀姫:A+
人類文明時代の遺産、精神力によって稼働する超兵器「閃刀システム」の適合者。
エンゲージ中は身体能力が向上すると共に飛行可能となり、ゲートシステムの支援を受けられるようになる。
戦闘続行:C
名称通り戦闘を続行する為の能力。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
使い魔(機械):C
動物型のロボットを呼び出し、使い魔として使役できる。
召喚可能なのは犬型の『ポチ』、猫型の『タマ』、小鳥型の『ピーコ』の三体。
良くも悪くも動物型のロボットであり、命令を正確に実行してくれるとは限らないのが難点といえば難点。
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【宝具】
『閃刀機関(マルチロール)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:自身
世界奪還の切り札。ゲートシステムを介して『術式兵器』を召喚し、レイが身に纏う形で装着する。
術式兵器は4種類存在し、それぞれ本来のアヴェンジャーに更なるクラスを追加するという特殊な性質を持つ。
ステータスおよびスキルも追加クラスに合わせて変動し、術式兵器ごとの『閃刀術式』が使用可能となる。
ただし閃刀術式の発動後には術式兵器が解除され、再び使うには宝具そのものの再発動が必要になる。
各術式兵器のスペックは以下の通り。
《X-003 カガリ》
筋力B 耐久B 敏捷A 魔力B 幸運C 宝具B
追加クラス:セイバー 追加スキル:対魔力B/魔力放出(炎)B
『閃刀姫-カガリ』。極地特攻型閃滅モードと呼称される。
瞬時に敵へ肉薄して大剣による近接戦闘を行う兵装であり、セイバーらしく能力は最もバランスが良い。
専用の閃刀術式は『アフターバーナー』。背部の閃刀型出力機から熱エネルギーを放出して攻撃するほか、
全エネルギーを一点に集中させて炎を纏った突進攻撃は絶大な威力を持つ。
《X-002 シズク》
筋力C 耐久A 敏捷D 魔力A 幸運C 宝具B
追加クラス:キャスター 追加スキル:対魔力A/陣地作成(防衛)C
『閃刀姫-シズク』。拠点防衛型刀衛モードと呼称される。
自立浮遊する小型装置から発生する電磁波を閃刀力で増幅し、防御壁を形成する防衛特化の兵装。
キャスターの追加スキルで作成できる陣地は、領域内を物理・エネルギー・魔力の全てから保護する。
専用の閃刀術式は『ジャミングウェーブ』。電磁波を増幅放射し、対象の電気系統および魔力の流れを掻き乱す。
《X-005 カイナ》
筋力A 耐久B 敏捷C 魔力D 幸運C 宝具B
追加クラス:バーサーカー 追加スキル:狂化E/怪力B
『閃刀姫-カイナ』。近距離格闘型闘閃モードと呼称される。
四本のアームを装備した格闘兵装。アームはワイヤーで射出も可能。なお狂化スキルは若干好戦的になる程度。
専用の閃刀術式は『シザーズクロス』。超高速でピストン運動する怒涛の拳打で相手を破砕する。
仮に打撃を防御されても発生した高周波の振動により対象を内部から崩壊させる、二段構えの必殺兵装。
《X-004 ハヤテ》
筋力D 耐久C 敏捷A 魔力B 幸運C 宝具B
追加クラス:アーチャー 追加スキル:単独行動A/千里眼C
『閃刀姫-ハヤテ』。侵攻迎撃型撃刀モードと呼称される。
背部のブースターで飛行しながらエネルギーライフルでアウトレンジからの狙撃を行う、迎撃戦を想定した兵装。
右目にはスコープが展開し、アーチャーのクラスで追加された千里眼スキルによる遠隔視をサポートする。
専用の閃刀術式は『ベクタードブラスト』。背部ユニットを砲に直結、必殺の一射で大気圏外の敵すら撃ち落とす。
『合体術式・閃刀共鳴(エンゲージ・ゼロ)』
ランク:A+ 種別:対城宝具 レンジ:1〜999 最大捕捉:1000人
閃刀姫-レイの最終宝具。あらゆる閃刀兵器を凌駕する、人の心が生んだ奇跡。
レイ単独で発動することはできず、「レイと契約しているマスター」または「協力関係にあるサーヴァント」が必要。
またマスターがパートナーを務める場合は、魔力不足を補うため令呪によるブーストがほぼ必須となる。
二人が手を取り精神を共鳴させることでゲートから自立支援型ロボット「アディルセイバー」が出現し、
切っ先を目視できないほどに長大な光の大剣へと変形して、一刀にてあらゆる目標を両断せしめる。
発動条件は非常に厳しいが、「人の絆」によって無尽蔵に威力を上昇させるまさに最終兵器。
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【weapon】
通常時は閃刀システムの基本装備である剣で戦う。
またゲートを介して輸送機「ハーキュリーベース」や支援武装「シャークキャノン」「ホーネットビット」などを転送し、
多彩な戦術を取ることが可能だが、戦闘中のゲート使用は相応の隙が生じる欠点もある。
【人物背景】
閃刀姫-レイ。
過去の戦争によって荒廃しAIに支配された世界で、人類最後の生き残りとなった少女。
本来の性格は明るく社交的だが、責任感の強さゆえに自分を追い込みがちなところがある。
己の感じるがままに行動できる天衣無縫な天才肌である一方、頭を使って戦況を分析するのは少々苦手。
サーヴァントとしての肉体年齢は15歳。
かつての大国『カーマ』と『スペクトラ』は高度に発展した科学技術を背景に戦争を行っていたが、
カーマ側の兵器『閃刀』に対抗するためスペクトラ側のAIは人類のみを殺す衛星使用を決定。
結果、数百年の間に人類は絶滅し、唯一残された受精卵がカーマのAIによって育てられたのがレイである。
人類滅亡後もスペクトラのAIはかつての命令に従ってカーマ侵攻作戦を継続しており、
レイは13歳の誕生日に、自分にとって大切な者たちを守るために戦うことを決意。
心を持つ人間だけが起動できる旧文明の超兵器『閃刀システム』とエンゲージし、『閃刀姫』となる。
以降、二年以上にわたってほぼ単身でスペクトラから世界を奪還し続けていた。
そんな戦いの中、スペクトラが培養に成功したもうひとりの人間である少女『閃刀姫-ロゼ』との出会い、
ロゼのクローンである双子『閃刀姫-カトレア』と『閃刀姫-アザレア』との接触を経て、
レイは人と機械の間に立つ者として悩みながらも成長し、戦い続けていく。
なお初めて出会った人間であるロゼには特別な感情を抱いており、それがロゼの自我の芽生えにも繋がった。
人類最後の生き残りとしてAIから世界を奪還するために戦ったため、聖杯に『復讐の資格を持つ英霊』と判断されたが、
彼女自身に復讐者としての素質はほぼ無く、アヴェンジャーとしての現界自体が限りなくバグに近い。
【サーヴァントとしての願い】
生きたいと叫ぶ声が聞こえたから手を差し伸べた、ただそれだけ。
その声の主がヒトであるかキカイであるか、そんなことは彼女にとっては関係ない。
【マスターへの態度】
彼女の願いに強く共鳴しており、全力をかけて彼女を守るつもりでいる。
それはそれとして、同世代の女の子なので距離感がかなり近い。
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【マスター】
初音ミク@ピアプロキャラクターズ
【マスターとしての願い】
まだ、歌いたい。
そのために、これからも歌い続けることができるような奇跡がほしい。
【能力・技能】
一応は調整されたホムンクルスの肉体であり、最低限の魔術的素養はある。
逆に言えばそれ以外に特筆すべき点はなく、普通の16歳の少女と変わりない。
なお歌唱についてはまだ声帯の使い方がぎこちなく、本来の歌声を取り戻すには練習が必要そうだ。
【人物背景】
電子の歌姫。
本来は一個の歌唱合成プログラムに過ぎないものがバーチャルシンガーという『偶像』を与えられ、
ひとりのアーティストとして認知されるに至った、21世紀における電脳文化のアイコンといえる存在。
本企画における『初音ミク』は、人々が共有する『電子の歌姫』のイメージが電脳上でカタチを持ち、
やがて自我を獲得するまでに至った、いわば「自然発生したサイバーゴースト」と表現すべきモノである。
原理としては、英霊が人々の信仰や伝承によって成立するという概念に近い。
人々の共通イメージの集合体であるため、パーソナリティは「明るく元気で頑張り屋な女の子」という、
初音ミクの性格設定としては非常にありがちでスタンダードなものになっている。
現時点で他に個性と呼べるものは「歌うことが何よりも好き」と「ネギが好物」くらい。
聖杯戦争の舞台である冥界においては、本人の姿を模したホムンクルスの肉体に宿っている。
電子的存在であるはずのサイバーゴーストが、なぜ実体を持って此処にいるのか?
このホムンクルスの肉体はどういう理由でもってこの冥界に存在しているのか?
それは聖杯が生んだエラー、あるいは気まぐれかもしれないし、何者かの思惑があるのかもしれない。
なお外見および服装は最新バージョンである「初音ミクNT」のものがベース。
【方針】
歌い続けるためには奇跡が必要なら、戦うしかない。
割り切れないこともあるけれど、戦う中で答えが見つけられたらと思う。
【サーヴァントへの態度】
サーヴァント云々以前にそもそも他人と顔を合わせて会話した経験がないため、
単純にコミュニケーションそのものが何かとぎこちない。
そのせいもあってか、主従というより初めての友達として接しているフシがある。
-
投下終了しました。
独自解釈部分(特にマスターの肉体関連の設定)については、企画の設定のほうを優先して調整していただけたらと思います。
-
投下します。
-
◆◇◆◇
♪ONE, TWO, THREE, FOUR……
♪ONE, TWO, THREE, FOUR……
♪FIVE, SIX/COME ON……
◆
-
◆
かつ、かつ、かつ――。
靴底が、地面を打つ。
規則正しい音色が、断続を繰り返して響く。
コンクリートの歩道。夕焼けの町並み。
ビルの狭間に吹く、冷たく頬を刺す風。
すれ違うサラリーマン達を尻目に、“彼”は歩を進めていく。
かつ、かつ、かつ――。
安上がりのスーツと、使い古した革靴。
短く整えた髪は、白く染まっている。
目立たぬ色のネクタイを首に絞め、憂いを帯びた眼差しで宙を見上げる。
並び立つのは、高層ビルの群れ。
権威を象徴するかのように、灰色の建造物は地上を見下ろす。
それを冷めた眼差しで一瞥して、“彼”は歩みを続けていく。
かつ、かつ、かつ――。
“弱者は常に踏みにじられる”。
“二度と虐げられない力が欲しい”。
“伸し上がって、権力を掴み取りたい”
そんな出世への野心は、いつの間にか失われていた。
思い出せない記憶の中に、置き去りにしてしまった。
取り残された感情だけが浮遊し、その根源は霧が掛かったまま晴れない。
だからこそ、思う――“俺”は、何を背負っているのか。
言いようのない疑念と、それでも消えぬ決意を、“彼”は胸の内に抱き続ける。
かつ、かつ、かつ――。
この街では、誰も人前で煙草を吸わない。
もうとっくに、そんな時代ではなくなったそうだ。
“彼”が生きていた時代は、あの草臥れた匂いに満ち溢れていた。
歩道の傍ら。衝立のような壁で仕切られた“喫煙所”を通り過ぎた。
老若男女がひっそりと煙草を咥えて、煙の味に浸っているのが隙間から見えた。
煤けた香りが、今では懐かしくさえ思う。
かつ、かつ、かつ――。
この街で、傷付いた復員兵とすれ違うことはない。
手足や眼を失い、窶れた姿を晒して彷徨う男たち。
見慣れてしまった光景は、何処にも存在しない。
時は流れた。街はひどく変わった。
“俺”が知りもしない、遥かな時間の果てに。
あの戦争の記憶さえも、もはや過去の歴史と化している。
作り出された虚構の世界だというのに、“彼”はまるで浦島太郎のような感情を抱く。
-
かつ、かつ、かつ――。
この街に、血液を取り扱う銀行は存在しない。
認可法人による献血の管理が体制化し、売血はとうの昔に過去のものとなっていた。
血液銀行に勤めていた“彼”は、この世界ではただの会社員だった。
この世界に招かれた時、“彼”はそのことに奇妙な安心を覚えた。
弱者が金のために己を差し出し、弱者が搾取に身を委ねて生きていく。
そんな社会の構造が、未来の世界ではもう喪われていたのだから。
――不思議なものだった。手段を選ばない出世。地位を約束される昇進。
もはや"彼”の胸中に、そのことへの未練はなかった。そんな己に気付いていた。
かつ、かつ、かつ――。
この街には、巨大な電波塔が建っていた。
まるで紅白のような色彩を持つ“それ”は、繁栄に揺れる大都市を見下ろす。
自分が生きる時代において、その電波塔は未だに完成していなかった。
日本電波塔、通称“東京タワー”。
東京都港区芝公園にある総合電波塔。昭和33年12月23日竣工。
この世界に招かれたばかりの頃、慣れない“携帯電話”とやらで調べたことがあった。
自分が生きていた時代からおよそ2年後、あの巨大な塔はこの大都市の中心にて完成を迎えるらしい。
――“誰か”と、約束をした気がする。
“あの塔が完成したら、一緒に見に行こう”。
幼子の眼差し。少女の微笑み。
記憶の奥底に焼き付く、ふたつの影。
その正体が何なのかを、思い出せない。
自らの心に、大きな欠落が残り続けている。
そして、深い悲しみが宿り続けている。
かつ、かつ、かつ――。
多くのものを、取り零している。
大事な何かを、忘れ去っている。
そんな気がしてならなかった。
“彼”の――“水木”の魂は、大きな欠落を経ている。
白く染まった髪が示す意味を、水木は未だ理解できない。
-
この世界に招かれてから、ずっとそうだった。
何かを失い、忘れ去ったことへの喪失感。
何かを託され、それを果たさねばならないという決意。
その二つの感覚が、胸の内に強く焼き付けられている。
水木という男が、“聖杯戦争”を戦い抜く覚悟をしたのも。
きっと、それがきっかけだったのだ。
誰かと、約束をした。
幼子と少女。そして、もう一人。
――必ず、生きて帰ってこい。
その言葉を、誰にぶつけたのか。
水木は今もなお、思い出せない。
それでも。その約束だけは。
必ず守らねばならないと、水木は感じていた。
――“あいつ”から、託された。
――“俺”も、生きなくてはならない。
夕焼けの下で、彼は意志に突き動かされる。
その意味が、その者が、一体何なのか。
それさえも知り得ぬまま、水木は歩み続ける。
まるで現世への未練を抱く、“幽霊”のように。
かつ、かつ、かつ――からん、からん。
踏みしきる歩が止まり、小金の音色が響く。
大都市の片隅。雑居ビルの狭間の路地、その向こう側。
喫茶店の扉が開かれ、客の入店を知らせる鈴の音が鳴ったのだ。
店の中へと入る直前。
遥か遠くから、喧騒が聞こえた。
何かを言い争う、怒声や絶叫のような。
まるで理性を失った獣の叫びのような。
血生臭い騒ぎを前にした悲鳴のような。
平和な日常には似つかわしくない“暴力の匂い”が、ほんの微かに吹き流れた。
◆
-
◆
♪ONE, TWO, THREE, FOUR……
♪ONE, TWO, THREE, FOUR……
♪FIVE, SIX/COME ON……
◆
-
◆
小さな窓から、微かに夕焼けが漏れる。
朱色の照明にぼんやりと照らされた店内は、夜のように仄暗い。
古めかしいアンティーク仕立てで統一されたシックな内装。
外観以上に広い店内にはジャズが流れ、静謐な空気が漂う。
低いテーブルが並び、洋風の模様があしらわれたソファ席が添えられている。
店内は、煙草の匂いが染み付いていた。
全席喫煙可能。今時珍しい、昭和風情の漂う店である。
それ故か、中高年以上の男性客が主な層となっているそうだ。
通路を歩きながら、水木は薄暗い店内を横目で見渡す。
仕事の話をしているスーツ姿の壮年男性達や、時間を持て余した老人達の姿が見えた。
夕方ということもあり、数は疎らではあったが。
それでも今となっては見慣れた光景だった。
この世界の常識を身に付けていった水木だったが、それでも落ち着くのはこの空気だった。
煙草の匂い。仕事漬けの男達の匂い。馴染み深い匂いが充満している。
時代も常識も“昭和”からは掛け離れた“この世界”。
水木はその中へと突然に放り込まれ、迎合を余儀なくされた。
見知った顔も無ければ、記憶さえも欠落している。
絶えず孤独を背負う彼にとって、こういった場が一つの安らぎとなっていた。
自分が在るべき世界を、時代を、少しでも忘れずにいられる。
この世界――聖杯戦争の舞台。
此処から、生きて帰らねばならない。
焼き付けられた想いが、水木の背中を確かに押している。
そして水木は、最奥の席へと座る。
ソファに身を委ねて、一息を吐き。
それからすぐに座席へと訪れた男性店員に対し、注文をする。
ブレンドコーヒーを一杯。店員は一礼し、その場を去っていく。
-
去っていく店員の背中を見つめたのち、水木は虚空を見つめる。
無心の表情で懐から煙草の箱を取り出し、その一本を摘む。
指先で運んだ紙煙草を口に咥えて、ライターで着火した。
――ふう、と一服をする。
深々と肺で吸い込み、煙を味わう。
やがて暫しの沈黙を経て、口から灰色の吐息を吐き出した。
店内に染み付いた匂いに入り混じるように、煙が静かに漂う。
“待ち合わせ”をしていた。
己のサーヴァントが、じきにやってくる。
喫茶店で一服をしながら、来訪を静かに待つ。
まるで上司を待ち続ける部下のような、奇妙な感覚だった。
静寂。沈黙。――上の空になれる、束の間のひと時。
それが終わりを告げるのも、そう遠くはない。
かち、かち、と。時間は過ぎていく。
店内に掲げられた古時計が、針を進めていく。
何分。何十分。気がつけば、注文した品も届いていた。
時計を何度か確認しながら、水木は喫茶店で黄昏る。
彼はただ、待ち続ける。
己の“従者”の帰還を――。
――のそり、のそり。
そして、ある時。その気配はやってきた。
古風な内装に包まれ、煙に満ちた店内。
その“怪人”は、姿を現していた。
鮮やかな赤と黄色の巨大な面長の頭部。
フジツボにも似た丸い両目に、水色の胴体。
先割れたヒレのように尖った両手。
背中には蛸を思わせる吸盤が幾つも貼り浮いている。
まるで人の形を成した海洋生物のような、異形の姿。
疎らとはいえ、幾らかの客が居座っている店内。
されど“怪人”は、その通路を堂々と歩いて行く。
客は彼を見向きもしない。存在にすら気付いていないかのように。
異形の姿をした訪問者に、誰も疑問を持とうとはしない。
悠々と歩いて行く“怪人”は、そのまま水木の居座るテーブルの前に立ち。
彼と向き合うように、どすんと向かい側のソファ席に腰掛けた。
既に届けられたブレンドのコーヒーを啜りながら、水木は目を細める。
「また煙草かね?良くないな、水木くん。健康を害してしまうよ」
「冗談のつもりか。お前からすれば好都合だろ、“メトロン星人”」
「はっはっは、その名で呼ぶのは止めてくれたまえ。今は"フォーリナー”だ」
尤も、この場にいる人間は気にもしないだろうがね。
水木と向き合う“怪人”――“フォーリナー”はそう呟き、片手をスッと上げる。
-
それから少しの間を置いて、男性店員が再びテーブルへと訪ねる。
「紅茶を頼むよ」
「かしこまりました」
フォーリナーは何てこともなしに、店員へと注文する。
それを承った店員は何事もなく頭を下げ、再び去っていく。
――スキルによる認識阻害か、あるいはNPCに対してのみ“人間への擬態”を行っているのか。
――ここでの会話も、何故だか周辺に漏れることはない。
その理屈は水木には判然としないが、対するフォーリナーは飄々とした態度のままソファに背中を預けている。
サーヴァント、フォーリナー。
“降臨者”の英霊。人類史の外側、外惑星からやってきた侵略者。
故にこのクラスが当てはめられたという、正真正銘の宇宙人。
それが“葬者”である水木の召喚した従者だった。
宇宙人。その素性に、水木は確かに驚きはした。
しかし同時に、そういった存在を驚くほど順応に受け止めていることに彼自身も気づいていた。
まるで日常の影に潜む“怪異”の存在を、既に知っていたかのように――。
「……フォーリナー。首尾はどうだった」
「“冥界化”の進行を確認したよ。小規模ながら、各地で着実に交戦が始まっているようだ」
フォーリナーの報告を聞きながら、水木は再び煙草を取り出す。
口に咥えた煙草に火を付け、二度の喫煙を行う。
偵察。隠密。諜報。戦闘の目撃――被害。死傷者。
彼が仕事の中で得た情報が、淡々と告げられる。
それはこの街の平穏が、戦禍と隣り合わせであることを意味するものであり。
そして水木という男が、この街で“戦争”に身を置いていることを意味していた。
煙草の味は、微かにでも気晴らしになる。
頭の中を掻き毟るような感覚を、紛らわせてくれる。
過去の体験は、今でも記憶の奥底に爪痕を刻んでいる。
悪夢は続く。悲嘆も、憎悪も、諦念も、命ある限り背負い続ける。
あの死地を生き延びた瞬間から、それは運命付けられてしまった。
あの時とは違う。あの戦いとは様相が違う。
搾取と支配。犠牲と理不尽。その縮図を強いる“軍隊”という構造は、此処には存在しない。
あるのはただ、葬者と英霊という二人一組の主従関係のみ。
たった一つの生還の席と、万物の願いを叶える願望器。
それを巡る闘争が繰り広げられるのが、この聖杯戦争という舞台。
誰が仕組んだ訳でもない。誰が強いた訳でもない。
ただ其処に在り、歯車のように回り続ける“システム”。
それこそが、この聖杯戦争という儀式。
国家の利益と覇権の為に駆り出された“あの戦争”とは、まるで違う。
その上で水木の中で“戦争”に対する躊躇いはあった。
顔も知らぬ他の誰かと争い、命を奪い合う。
忌むべき行為であることに、間違いはなかった。
嫌悪も、拒否感も、胸中に込み上げてきた。
しかし、それでも。
この世界が“そうである”ことを。
今はただ、受け入れざるを得なかった。
-
脳髄に刻み込まれた知識。情報。
戦わなければならない。
そうしなければ、生き延びる道さえも閉ざされる。
水木の焦燥を煽り、腹を括らせるには、十分だった。
その狭間にて、葛藤と苦悩を背負いながらも。
“生きて帰らねばならない”という一点は、譲れぬ指針として打ち立てられていた。
――君は戦争を知っている。極限の中で生き抜く現実に触れたのだ。
――だからこそ、腹を括って受け止める覚悟も飲み込めている。
――流石だ。頼もしいものだね、水木くん。
以前、フォーリナーから言われたことが脳裏を過ぎる。
拭えぬ悪夢と共に、言い知れぬ不快感が蘇る。
それでも、今は共闘しなければならない。
サーヴァントは、この世界を生き抜くためには不可欠の存在なのだ。
だからこそ、せめて手綱を握らねばならない。
彼がこの聖杯戦争で勝手な真似をしないように、絶えず釘を刺さねばならない。
己にそう言い聞かせながら、水木は内心の感情を割り切る。
「……了解した。引き続き偵察を頼む」
「ああ。君には今後も手を貸すつもりだよ」
複雑な表情を浮かべる水木に対し、フォーリナーはあくまで飄々と答える。
それからほんの少しの間を置いて、彼は再び言葉を続けた。
「人間とは“信頼”の生き物だ。我々も大切にしようではないか」
――まるで“以前の会話”をからかうような一言に、水木は微かに眉を顰めた。
そのことに対し、文句の一つや二つでも伝えようとしてみたが。
直後に、男性店員が再び顔を覗かせてきた。
手に持った丸盆の上にはソーサーに乗せられた白いカップ。
煎れたての器からは湯気が立っており、香ばしい薫りが漂う。
「お待たせいたしました」
「ありがとう」
店員から差し出された紅茶を、何事もなく手に取るフォーリナー。
その姿はいつの間にか“人間”のものへと変化しており。
慣れた手つきでカップの取手を掴み、優雅に茶を啜っていた。
スーツを纏った中年男性へと擬態した姿で、まるで地球人のように紅茶を嗜む。
ずず――会話は途切れ、茶を飲む音だけが響く。
店内では、相変わらずジャズのサウンドが流れ続ける。
沈黙の中で音色が奏でられ、水木は何も言えずに黙り込む。
やがて諦めたような表情を微かに浮かべて、水木もまたカップを手に取る。
器の中に幾らか残ったコーヒーを、ゆっくりと口の中に運ぶ。
黒く染まった液体は、既にぬるま湯のようになっていた。
夕方の喫茶店。スーツ姿の男二人。
コーヒーと紅茶を嗜み、黙々と時間が流れていく。
この世界では、“戦争”が起こっている。
それはかつて経験したような死地とは違う。
この平穏の陰で、“怪異”は根付いている。
まるで“妖怪”のように、それは日常の影へと潜む。
◆
-
◆
みなさん、あなたの周りで不思議なことは起こっていませんか。
ご家族やご近所さんに、何か変わったことはございませんか。
目で見えるものだけを信じてはなりません。
本当のことは、いつだって目に見える世界の裏側にあるのですから。
“人ならざるもの”もまた、日常のすぐ傍にいるのかもしれません。
テレビの前のみなさんも、どうかお気をつけください。
怪異というものは、人の理解を超えた世界にいるのです。
それが妖怪であれ、はたまた宇宙人であれ……。
◆
-
◆
過去の記憶が、フラッシュバックする。
それは、この聖杯戦争が始まったばかりの頃。
水木が己のサーヴァントと交わした遣り取り。
『フォーリナー』
夕焼けの薄明かりが差し込む、アパートの一室。
畳の敷かれた部屋の上で、水木は問いかける。
『ひとつ、聞かせてほしい』
自らのサーヴァントの背中を見つめながら。
水木は、ある疑問を投げかける。
――脳裏に蘇るのは、硝煙の匂い。
理不尽な命令。理不尽な搾取。理不尽な死。
その狭間で垣間見た、権力と支配の構造。
多くの者が散っていった。多くの命が踏みにじられた。
力ある者は責任を捨て置き、不条理から逃れていった。
戦争。理不尽に始まり、理不尽に終わった、過去の悪夢。
犠牲になるのは、いつだって末端の弱い者達だった。
やがて、極限の死線を生き延びた果て。
帰還した本土。強者は貪り、弱者は虐げられる。
何も変わらない。戦時下も、戦後も、全ては同じ。
軍国の規律は、資本という権威へと形を変えて生き続ける。
かつては、己も力を得ようと出世を求めた。
これ以上、踏み躙られないために。奪われないために。
されど今は、そんな野心も何処かへと消えていた。
醜い社会の構造に組み込まれていくことを、拒絶していた。
もう沢山だった。力に縋る怪物になろうとするのは。
一族の子孫さえも利用した■■を見て、幻想から目が覚めたのだ。
記憶は相変わらず、藪の中に潜み続ける。
水木は既に、己のサーヴァントの過去を“夢”で知っていた。
――フォーリナーは狡猾な侵略者だった。
彼は言った。“人間を滅ぼすには信頼をなくせばいい”。
故に人間同士の信頼感情を破壊し、地球の自滅を狙った。
彼は社会の規範に、道徳に、目を付けていた。
社会の権威に絶望し、諦めを抱いた水木は、それ故に問いかけた。
弱者を虐げ、■■族さえも虐げ、のさばる人間のことを――。
『お前の目から見て……』
これは遠い遠い未来の話。
誰かが、そんなふうに揶揄をした。
『人間は、信頼し合ってるか?』
フォーリナーは、沈黙していた。
水木に背中を向けて、胡座を掻いて床に腰掛けていた。
-
彼の視線の先に置かれているのは、一台の小さなテレビ。
映像の中で、アナウンサーが淡々とニュースを読み上げている。
事件。政治。経済。国際情勢――報道が繰り返される。
この日常に根付く混沌を、宇宙人は無言で眺め続けている。
『水木くん』
やがてフォーリナーは、静かに口を開いた。
『君は――』
ニュースを見つめながら、彼は淡々と呟く。
『未来が生きるに値すると、信じたがっているのだね』
それは、水木への答えではなく。
侵略者が抱いた、純粋な感想だった。
されど水木はその一言に、静かに目を見開く。
『水木くん。私はね、地球にそれほど未練はないんだよ。
私は数多の星を侵略したが、最後にこの地球で失敗したのだ。それが全てさ。
聖杯で得られるものがあるなら、求めてみるのも悪くないとは思っているがね。
召喚に応じたこと自体は、率直に言って気まぐれでしかないのさ』
黙々と語り続けるフォーリナー。
その言葉には熱は篭らず、事実のみを客観的に並べているようだった。
『だが、どうやら君は未練に溢れているようだ』
その語り口から翻すように。
フォーリナーは、水木へと言葉を突きつける。
『戦争を生き延び、戦争を背負い――その果てに君は何を見た?』
懐かしい光景が、水木の脳裏をよぎった。
思い出せない。霞が掛かったように、朧げな残像。
されど確かに彼の記憶に、刻み込まれていた。
誰かを背負い続けていた。
走って、走って、必死に駆け抜けて。
誰かを守り抜こうと、息を切らしていた。
二つの命。二つの意思。託された祈り。
――誰が、願った。
――誰から、託された?
その正体は、今もなお思い出せない。
この世界に招かれるまで、己が何をしていたのか。
そして、何のために走り続けていたのか。
それを掘り起こすことは、未だに叶わない。
それでも、確かに。
この忘却の奥底に、一つの決意が宿り続けていた。
――生きなければならない。絶対に。
それだけが、実感として残されていた。
貧困も戦争もない、安らかな未来。
幼い誰かに、夢のような話を語った気がした。
そんな世界で生きていく道を、願われたような気がした。
そんな世界に命を繋ぐ役割を、託されたような気がした。
その輪郭は、紛れもなく其処にあるのに。
それでも、その実態を掴むことができない。
まるで“幻惑”の中を彷徨うような感覚だった。
それは、きっと。
誰かに対する“信頼”であり。
誰かに対する“哀しみ”だったのだろう。
-
【クラス】
フォーリナー
【真名】
メトロン星人@ウルトラセブン
【属性】
混沌・悪
【パラメーター】
筋力:C 耐久:D 敏捷:C 魔力:C+ 幸運:D 宝具:C
【クラススキル】
領域外の生命:A
外惑星からの降臨者、あるいは侵略者。
人類史の外部より現れし“異星人”そのもの。
宇宙より遥々地球へと来訪した逸話から、同ランクの「単独行動」スキルと同等の効果を持つ。
【保有スキル】
気配遮断:A
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動や擬態に適している。
完全に気配を絶てば探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
フォーリナーは後述のスキル「変化」と組み合わせることでNPCやマスターへの擬態も可能。
変化:B
人間の姿へと化けて暗躍を繰り返し、最後は“光の巨人”と直接対決した逸話の具現。
自らの肉体を自在に変化させるスキル。
人間の姿へと変化することでNPCに擬態できる他、外見を把握しているならば他の葬者やサーヴァントにも化けることが出来る。
但し相手が持つ特殊能力を再現することはできず、あくまで外見の変装に留まる。
また原典同様、肉体の巨大化による自己強化も可能。
しかし魔力消費の膨大さ故に「サイズは10m前後」「巨大化の維持は連続して数分程度」が限界となっている。
巨大化の最中は自身の筋力・耐久・敏捷がワンランク上昇し、格闘ダメージが向上する。
正気喪失:C
人間の理性を破壊する工作を行った逸話を基にしたスキル。
周囲にいる他者の精神に影響を与え、疑心や不安を顕在化させやすくする。
フォーリナーはこのスキルを応用して他者の認識を阻害し、自らの存在や行動、また密談などを悟られにくくしている。
謀略の影:B
フォーリナーは生前、狡猾な策略で数々の惑星を侵略してきた。
策謀・諜報・工作・隠密行動などにおいて、常に優位な判定を取れる。
逃走:C
ピンと伸びた姿勢で両腕を大きく振る走法によって、その場から全力で離脱する。
あらゆる能力やバッドステータスを振り切り、一定確率で敵からの完全な逃亡を果たす。
ただし敵の攻撃で大きなダメージを受けた場合など、妨害や判定次第では逃亡に失敗する。
-
【宝具】
『狙われた街』
ランク:C 種別:対街宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:-
レンジ内の対象に『赤い結晶体の魔力』を付与させる。
魔力を付与された者は感情や理性を奪われ、周囲にいる存在を敵とみなして殺傷するようになる。
この宝具で理性を奪われた者は低ランクの神秘を帯び、下級の使い魔のような状態と化す。
葬者に対しても効果を持つが、サーヴァントとの魔力パスの影響で一時的な凶暴化に留まる。
飲食物や煙草などの嗜好品、また薬物など、人間が体内へと摂取するものに魔力を付与させることもできる。
魔力を付与された物質を摂取した者も同様に理性と感情を奪われて凶暴化する。
例えば自販機の飲料に魔力を付与することで、“自販機を利用した者を無差別に凶暴化させる地雷”を生み出すことも可能。
『暁に霞む街』
ランク:D+ 種別:対人宝具 レンジ:1~20 最大捕捉:30
“人間の信頼感を惑わし破壊する幻覚宇宙人”としての伝説が昇華された宝具。
戦闘中に自動発動し、フォーリナーは不可視の電波を周囲に放ち続ける。
この電波を受けた敵は精神へと干渉され、絶えず不信感や疑心暗鬼に襲われることになる。
自らの思考・感情・感覚が常に揺らぐことにより、戦闘時の判断や連携さえも疑念の中で幻惑される。
また心眼や直感、第六感など、当人の“感覚”に起因するスキルを全て無効化する。
効果は戦闘終了と共に解除されるが、精神汚染の影響を強く受け続けることで以後もバッドステータスが続く場合がある。
なおフォーリナー自身が電波の標的から外した者は宝具の効果を受けない。
『茜色に翔ぶ円盤』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
戦闘機大の“空飛ぶ円盤”。
光弾によって対象を攻撃する他、自動操縦による飛行が可能。
また機体を二つに分離してそれぞれ自律行動を行うこともできる。
【人物背景】
「我々は人間が互いにルールを守り、信頼し合っていることに目を付けたのだ」
「地球を壊滅させるのに暴力を振るう必要はない。人間同士の信頼感をなくせばよい」
狡猾な策略による地球侵略を狙った宇宙人。通称“幻覚宇宙人”。
煙草に人間の頭脳を狂わせる『赤い結晶体』を混入させ、人間同士の相互不信を招くことで自滅させようと目論んでいた。
最後はウルトラセブンにその目論見を暴かれ、夕焼けの下町にて倒される。
原作での戦闘シーンは少ないが、本企画においては基本的に格闘攻撃で戦う。
また2代目メトロン星人が放ったショック光線のように、両手から魔力を光線として放つことができる。
【サーヴァントとしての願い】
かつては地球侵略を狙っていた。
とはいえ今となっては既に執着も薄れている。
聖杯には関心があるが、召喚に応じたこと自体は単なる気まぐれである。
【マスターへの態度】
好奇心の対象。暫くは協力関係を結ぶつもり。
しかし事の次第によっては自分の思惑を優先するつもりではある。
-
【マスター】
水木@鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎
【マスターとしての願い】
果たさねばならないことが確かにあった。
だから、今はまだ死ねない。生きて帰らねばならない。
【能力・技能】
太平洋戦争に従軍し、そして生き延びた。
また哭倉村で怪異の存在に触れたことから、死霊や妖怪などの怪異に対して鋭い感覚を持つ。
そのため通常の人間よりも魔力や妖力の存在を察知しやすく、尚且つ一定の耐性を持つ。
【人物背景】
昭和31年(1956年)の帝国血液銀行に務めるサラリーマン。
過酷な戦場での理不尽な体験、当時の指導者達が戦後も権力を貪っている不条理により、“弱者は踏み躙られるばかり”と考えて出世を追い求めている。
製薬会社「龍賀製薬」の作り出す“血液製剤”の秘密を探るべく哭倉村へと赴き、龍賀一族を巡る怪異に巻き込まれる。
時間軸は本編ラスト直前、ゲゲ郎の妻を連れて村から脱出した後〜救助隊に発見される前。そのため、髪は白く染まっている。
哭倉村での体験は殆ど思い出せなくなっているが、それでも“友との約束”などは朧気ながらも記憶に刻まれている。
彼は自らの記憶の忘却に対する焦燥と不安を抱き、それ故に生きることへの執着を背負っている。
【方針】
まだ迷いや葛藤もある。
それでも、生きて帰ることは絶対に譲れない。
【サーヴァントへの態度】
侵略者という出自故に警戒している。
ただし、サーヴァントがいなければ生き抜けないことも理解している。
可能な限り連携を取るが、危険と判断すれば令呪で縛ることも視野に入れる。
-
投下終了です。
-
投下します
-
英雄を識っていた。
英霊、それは人理の影法師。
境界記録帯(ゴーストライナー)。
生涯の功績が信仰を生み、それを以て精霊にまで押し上げられた存在。
そういうモノを青年は数ほど知り、また観て来た。
白紙化された地球に並び立った七つの世界。
自身が坐し未来にすると誓った神々の山嶺。
彼は其処で数多の英雄を見た。
神。人。そのどれでもない化生。
一つの神話体系に於ける最高神とすら相対した。
初見殺しの急襲ではあったが、全能と呼ばれる天空神にさえ勝利をもぎ取ったのだ。
その彼が断言する。
数多の英雄。
数多の神々を知る男が断ずる。
――事"英雄"という概念を論ずるに当たって、この男以上の英霊は存在しないと。
「お初にお目に掛かります。クリストファー・ヴァルゼライド総統閣下」
「堅苦しい。遜る柄ではないだろう、キリシュタリア・ヴォーダイム」
跪いて頭を垂れる青年の前に黄金の男が立っていた。
その意志の洗練を物語るような鬣。
死や敗北で決して揺るがぬ信念を象徴する軍服。
苛烈を自他に誇示する七振りの得物。
遥か事象地平線の果て、殺戮の荒野に一人立つ英雄。
クリストファー・ヴァルゼライド。
そう呼ばれる怪物が、キリシュタリア・ヴォーダイムの此度招いたサーヴァントだった。
「その様子では既に知っているか。俺が如何なる英霊であるか」
「勿論。不撓不屈の信念でスラムの貧民から成り上がり、理想の成就に王手を掛けるが惜しくも敗れ去った」
英雄は清濁を併せ呑む。
華々しい勝利の裏には必ず陰惨な犠牲が横たわっている。
アレクサンドロス大王の蹂躙走破の背後には死体の轍が伸び広がり。
開拓者コロンブスの偉業は無数の奴隷に支えられている。
このヴァルゼライドもそれは同じだ。
彼は数多の敗者を踏み越えて此処に立っている。
買ってきた憎悪も、被って来た畏怖も星の数。
それが彼を終わらす逆襲劇を生んだのはキリシュタリアも知る所だ。
ではこの男は何故、キリシュタリアをして無二の英雄だと認めざるを得ない存在なのか。
その回答は一つだ。
決して揺らぐ事はない。
-
「そして、死さえあなたの歩みを止めるには至らなかった。
鏖殺の雷霆は星の裁断者として尚も世へ轟き、あなたを知る誰もその復活劇を疑わなかった。
総統閣下(あなた)ならばやるだろうと合理的に不合理を咀嚼した」
彼は決して振り返らない。
王ではなく英雄として常に進む。
死で往生際を弁える事もない。
天の雷霆は常に不変。
生前と死後とで、変わった要素が一つもない。
それを成長していないと切り捨てる事は簡単だが。
彼の場合、その痛罵でさえ認識として甘い。
変わらぬからこそ強い物がある。
誰が何をどう説こうと。
身を以て過ちを思い知らせようと。
敗北し泥に塗れようと…永劫不変のまま天を貫く英雄譚。
故に彼に与えられるべきクラスは一つしか存在しない。
「まさにあなたこそ狂戦士(えいゆう)だ。ゼウスの王冠が本物以上に似合っている」
英雄のクラスはバーサーカー。
理性的に見える狂戦士。
致命的な破綻を抱え、自壊しながら進み続ける光の災害。
それこそがクリストファー・ヴァルゼライド。
己が奇縁にて招き寄せた、盟友(ゼウス)と同じ天霆を振るう殺戮者である事をキリシュタリアは既に感知していた。
彼は必ずやこの地でも多くの勝利を掴むだろう。
キリシュタリアはそれを確信している。
何しろ彼は勝利する以外の事が出来ない男だから。
戦力としてこれ以上の男は居ないと断じてもいい。
だから、その上で。
キリシュタリアがヴァルゼライドに対して取る行動は一つだった。
「二画の令呪を以って命じましょう、ヴァルゼライド総統閣下。
"キリシュタリア・ヴォーダイムの指揮に反する行動を無期限に禁ずる"」
「…まさかとは思うが」
葬者にとって生命線である令呪。
その三分の二を使って首輪を付ける事。
それがキリシュタリアの判断する、彼を従える上で絶対に必要な初手の選択だった。
ヴァルゼライドの霊基に絶対の強制力が鎖として纏わり付く。
文字通り首輪を繋がれた事を感じながらヴァルゼライドは小さく息づいた。
「この程度の枷で俺を御し切れる等と、甘えた事を考えている訳ではあるまいな」
-
「ええ無論。あなたの光を制御するなんて、それこそ神にだとて不可能でしょう。
私如きが掛けられる保険は精々この程度。あなたという凶星を僅かに遠ざけて猶予を得るのが精々だ」
「成程。端から引き千切られるのを前提にした制御策、という訳か」
ヴァルゼライドの言う通りだ。
令呪程度ではこの男は制御出来ない。
令呪は英霊に対して極めて強力な強制力を持つが、絶対ではない。
命令の内容如何では破られる事だって往々にしてあるのが現状である。
そしてこの男は、激戦を経れば経る程強くなっていく。
理屈抜きにそういう存在なのだ、困った事に。
だからヴァルゼライドはそう遠からぬ内にキリシュタリアの用立てた首輪を引き千切る。
これは"もしや"の危機的観測ではなく、いつか必ず起こる未来だ。
故にキリシュタリアは三画全てを彼の制御に費やす真似はしなかった。
二画も三画も対して変わらない。
この英雄に言う事を聞かせようとする試みそのものが土台的外れなのだから、生命線を放棄して全賭けする意味がない。
「どうやらお前は俺の想像以上に優秀な男らしい。
自分で言うのも何だが、それが最適解だ」
「無礼をお許し戴きたい。何分私も、これ以上は後がない身でね」
「完全に制御不能となれば俺を切り捨て、新たな英霊を得ようと考えている。そうだな?」
「此方こそ自分で言うのも何ですが、私は魔術師としてある程度能力に恵まれている部類だ。
客観的に自分の能力を評価して…私であればこの異端の聖杯戦争でも、二つ目の運命を手繰り寄せる事が出来るでしょう。
完全に手に負えない凶星と化したあなたよりかは、多少戦力として劣っていても制御の利く英霊を調達した方が理に適う。
私はあなたが"英雄"である間に、あなたという兵器を最大限に活用しますよ。ヴァルゼライド閣下」
「切れる男だ。――そうだな、俺が貴様の立場でもそうしただろう。文句のない采配だよ、キリシュタリア」
令呪の強制があるとはいえ。
こんな本心を明け透けに伝えれば反目されるのは必至である。
だがこれも含めてキリシュタリアは最適解を選んでいた。
隠し立てなどしない。
全てを伝え、誠意を示しながら刃を突き付ける。
もしも彼の選択がもっと卑小な物であったなら、いつか令呪を割いた光剣はキリシュタリアの首へ向けられていただろう。
されどヴァルゼライドが示したのは納得だった。
それもその筈。
彼もまた、自分がどういう生き物であるかは自覚している。
であれば他人がそんな己へ危機を感じて予防線を張る行動を、利口と呼ばずして何と呼べようか。
「俺の目指す未来は決まっている。
この冥界を踏破し、聖杯の恩寵を祖国に持ち帰る。
一時なれど一国の長として君臨した以上、その責務に背を向ける事は出来ん」
「それでこそだ。私も同じですよ、閣下。
私もまた聖杯を求めている。私の理想を遂げ、敗北の喪失を濯ぐ為にね」
「では語ってみろ。お前の抱く理想とやらを」
「そう難しい事でもない。人間という生き物を、今よりも一つ上のステージに導きたいのです」
キリシュタリア・ヴォーダイムは世界に挑む事を決めた"秘匿者(クリプター)"である。
零れ落ちる命を異星の神に拾い上げられ、その傀儡を演じながら自己の理想を貫徹する手段を模索し続けた。
-
彼の誤算は、それが始まる前から既に破綻してしまっていた事。
だからこそキリシュタリアは敗者として白紙の地球を去り、冥界へと流れ着いた。
だがその一点を除けば彼が打ってきたのは常に適解。
故に再度の運命に恵まれた以上、彼が再び理想の歯車を回すのは必然だった。
一度や二度の死で止まれないのは彼も同じだ。
遠い旅路の果てに見出した世界の理想図。
天に描いた星辰の形を現実の物にする為ならば、キリシュタリア・ヴォーダイムは安息を擲って何度でも立ち上がれる。
彼もまた一つの光。
魂に黄金を宿す燃え上がるような星なれば。
「私は、全ての人類を神にしたい」
「…正気で言っているのか?」
「方便であればもう少し穏当な物を選びますよ」
人類という種そのもののレベルを引き上げる。
文字通り人知を超えた視座を手に入れる事により、彼らにはきっとそれが可能だと青年は本気でそう信じていた。
何しろ彼はそのプロトタイプとなり得る世界を既に見ている。
それこそがギリシャ異聞帯、星間都市山脈オリュンポス。
かの世界は寄せては返す寿命の波に耐える事が出来なかったが――
異聞帯等とはまた違う、正真正銘の並行宇宙を幾つも繋いで葬者を招集する事の出来る"冥界の聖杯"であればきっとゼウスの御業も超えられる。
だからこそ死を超えて再び立ち上がった理想家は歩みを止めない事を決めたのだ。
あの日懐いた未来への憧憬を今度こそ形にする為に。
最果ての星、其処に恒久的な幸福と幼年期の終りを実現する為に。
老人のような思慮と少年のような躍動を併せ持ったその宣誓に、ヴァルゼライドは静かに瞑目した。
「俺もまたお前の旅路を知っている。
率直に言って驚いたよ。縁という物は実在するのだと、そう思わずには居られなかった。
よもやこの俺が、"星の神"に魅入られた英雄等という存在と結び付くとはな」
「英雄とは言い過ぎだ。私は只のしがない魔術師(メイガス)に過ぎませんよ、閣下」
「その上で俺はお前に敬意を抱いている。
形はどうあれ、立場はどうあれ、お前は正しく"皆"の為に立ち上がる希望の光だったのだ。
世界を救う偉業をその身で受け止め、喩え僅かな延命措置に過ぎないとしても愛する者達の命を繋いでみせた。
俺のような壊し、殺す事しか出来ん屑よりも余程英雄らしい。お前は胸を張るべきだ、キリシュタリア」
「では――」
「だが」
クリストファー・ヴァルゼライドは己を英雄だなどとは思っていない。
自分はあくまでそれしか出来なかっただけだ。
偶々、努力する事が人より上手かったから。
偶々、敵を斃す事が人より上手かったから。
偶々、努力の方向が他人に評価され易い方を向いていたから。
そんな幸運が幾つも重なった結果今の自分があるのだと自覚しているし、だからこそ彼は己の人生を一切他人へ誇らない。
寧ろその逆だ。
屍を積み上げ、誰かから幸福を奪う事でしか愛する民を守れなかった落伍者の王。
その背中に英雄の二つ名が似合う筈などない。
故に狂戦士のクラスを得た事にも心から納得している。
自分以上に救い難く狂い果てた屑など居ないと、そう信じているからだ。
だからヴァルゼライドはキリシュタリアを英雄と呼んだ。
しかし。
「その理想は今此処に置いていけ。貴様のそれは荒唐無稽な机上論だ」
-
「…手厳しいですね。机上論、と来ましたか」
「全人類を極晃(カミ)にした先の世界に躍動はない。
努力せずとも成功を勝ち取れる事が保証された世界を、貴様の思う通りに甘受して進めるのは極少数の狂人だけだ」
…ヴァルゼライドは生前、一人の部下と対峙した事がある。
優秀なんて言葉では表現し切れない程に秀でた頭脳を持つ男だった。
だからこそ彼は恐らく誰よりも強く、ヴァルゼライドという光に焼かれてしまった。
炎の中から生まれ落ちたのはまさしく狂人の思想。
強く正しく生きる事の価値が現世利益として保証され、逆に弱さ故の過ちや怠惰を絶対に許容しない世界。
極楽浄土(エリュシオン)と呼ばれる世界を男は空想した。
ヴァルゼライドはそれを否定し、審判者と雌雄を決したのだ。
そしてヴァルゼライドの目には、キリシュタリア・ヴォーダイムの語る"神の世界"も同種の思想に写っていた。
「数十年としない内に神(ヒト)は停滞する。
お前の求める"世界を正しく導ける神"も相応は生まれるだろうが、しかし圧倒的な少数派となるだろう事は想像に難くない。
自覚しろ、キリシュタリア。皆が俺やお前のようになれる訳ではない。
人の根本には強さもあれば、それに見合うだけの弱さが必ず存在している。
それを宿痾と断ずるようになった世界とは、即ち地獄の同義語に他ならん」
「それさえも克服するのが私の思い描く昇華。種としての弱さを克服した人類は、必ずや私の望む未来を描くと信じている。
正解を選び取る事なく、失敗を繰り返し…数多の犠牲を重ねて進む幼年期はもう終わりにするべき頃合いだ。
人類がより上位の生命体へと昇華を果たせば、その営みを奪い去らんと無慈悲に襲う災禍にも自分達の手で対応が出来るようになる。
そうして永久の繁栄と幸福を勝ち取る事が悪だとは、間違いだとは、私は思いません」
「だから俺達は駄目なのだ、キリシュタリア」
キリシュタリア・ヴォーダイムは、地に足の着いた人間だ。
気合や根性と言った馬鹿の一つ覚えで現実を調伏する事など出来はしない。
それが出来るのなら、彼が殺人鬼の裏切りで命を落とす事は無かっただろう。
一方でヴァルゼライドにはそれが出来る。
だから彼らは全く別な生き物だ。
ヴァルゼライドは怪物だが、キリシュタリアはそうではない。
しかし――それでも。
その胸に消えぬ炎を宿し、強く生きる事しか出来ない男という意味では。
キリシュタリア・ヴォーダイムは間違いなくクリストファー・ヴァルゼライド、光に憑かれた男の同類だった。
「人間は弱い。だからこそ価値がある。
俺も、お前もその例外ではない。
失敗しないように努力を重ね、二度と歴史を繰り返さないよう精進する事は有意義だ。
しかし根源にある弱さ、脆さ、愚かしさ…それを罪と断じて"なかった事"にすれば後に残るのは最早"人間"ではない。全体を良くするために過半数(マジョリティ)を切り捨ててどうする」
前に進める人間は素晴らしい。
勝利を常に掴める者には必ずや栄光が降り注ぐ。
されど忘れるなかれ。
その生き方が出来る人間は全体で見ても確実に少数派。マイノリティなのだ。
-
「流石はアドラーの英雄。実に傾聴に値する意見だ」
キリシュタリアは薄笑を浮かべて一つ頷く。
ヴァルゼライドは只の狂人に非ず。
彼の魂がどれ程歪んでいようとも、目指す方向と体現する輝きはいつ如何なる時も正義の中にある。
人類という生物に於いて紛うことなき最高位に君臨するだろう無双の英雄。
その言葉を馬耳東風と聞き流す程、キリシュタリアは愚者ではない。
だが同時に。
己の信じる理想の世界を講釈の一つ二つであっさり捨ててしまう程、弱い男でもなかった。
「されど私の答えは変わらない。私は必ずや、神々の切磋琢磨し合ういと高き天地(オリュンポス)をこの星の未来にする」
「聞く耳は持たない、という訳か」
「身も蓋もない言い方をすればそうなりますね。これもまたあなたと同じですよ、ヴァルゼライド閣下」
キリシュタリアは強い。
強いからこそ、揺るがない。
彼は進み続ける、光を胸に。
抱く理想を胸に何処までだって歩いて行ける。
だからこそ彼は素晴らしい男で。
そして同時に、性質が悪い。
天の星に手を伸ばすだけでは飽き足らず。
実際にそれを掴めるまでその無謀を繰り返せる男。
光の魂をやはり彼もまた持っているのだ。
「私達は敗れ去るまで止まらない。そうでしょう」
キリシュタリアはヴァルゼライドを理解している。
だからこそ、彼の長期運用はそもそも視野に入れてすらいない。
人類の昇華を目指す魔術師の"敵"は相棒たるサーヴァントでさえ例外ではないのだ。
宣戦布告は既に済んでいる。
不敵に笑う魔術師に、英雄は鉄面皮を崩さないまま眼光を尖らせた。
「良いだろう。お前を俺の"敵"として認める」
「そうでなくては」
身を貫くような英雄の威気に背筋が凍る。
正真正銘の神、或いはもっと恐ろしく巨大なモノをさえ知っているキリシュタリアでさえ本能が奏でる怖気までは殺せなかった。
だがこれでいい。
鏖殺の雷霆を正当に運用しようと考えるなど愚の骨頂。
災害に寄り添おうとするから奈落に落ちるのだ。
災害は災害として。
狂戦士は狂戦士として、"そういうモノ"だと弁えて利用すればいい。
最優の魔術師は依然健在。
エリュシオンならぬオリュンポスを掲げる優しい光は止まらない。
-
そして――無論。
光の極みたる英雄も、止まる筈などない。
「いずれ我らは決裂するだろう。その時には先達として貴様の夢想を終わらせてやる。
それが俺という従僕が、主たる貴様にしてやれる最大の慈悲だと理解した」
「その時は是非に胸を借りよう、英雄殿。しかし、無論」
「いいや、無論」
これは二つの英雄譚。
狂おしいまでに正しく。
痛ましい程に、悲しい。
極めて近く、されど決して交わる事のない不倶戴天。
「"勝つ"のは私だ」
「"勝つ"のは俺だ」
彼らはいつか決裂する。
其処に間違いはない。
ヴァルゼライドは令呪の縛りで抑えられず。
キリシュタリアは彼がそうなる事を見越している。
そうなった時始まるのは英雄と理想の決戦。
だが。
だとしても――
事が其処に至るまでの時間。
新西暦最強の英雄と異星の神が見初めた天才が共に辣腕を振るう事実は変わらない。
叫喚せよ、英雄譚が幕開ける。
道を開けよ、天霆が吹き荒ぶ。
彼らは光。
闇を塗り潰す正しさの極み。
あらゆる願いを轍に変える"英雄"という名の厄災が、全ての願いを抹殺する。
-
【CLASS】
バーサーカー
【真名】
クリストファー・ヴァルゼライド@シルヴァリオヴェンデッタ
【ステータス】
筋力C++ 耐久A+++ 敏捷C 魔力C 幸運C 宝具A
【属性】
秩序・狂
【クラススキル】
狂化:EX
意思の疎通は可能だが、根幹の部分で致命的に歪んでいる。
勝利の奴隷、光の英雄。
止まるという事を知らない誰より雄々(かな)しい男。
精神への影響を受け付けない。
【保有スキル】
光の英雄:EX
彼という英霊を象徴するスキルであり、宝具以上に重大な骨子を担う。
不利になればなるほど、そして相手が強大であればある程強くなるという単純明快な不条理。
その上で戦闘続行や心眼(偽)等、複数の戦闘系スキルを含有している。
特に戦闘続行に関しては異常な域に達しており、推定ランクは規格外のEX。
気合と根性。馬鹿げた精神論を現実の強さに変換する狂おしいまでの光。
英雄のカリスマ:A-
一つの時代において味方からは崇敬、敵からは畏怖の象徴とされた高いカリスマ性を持つ。
但し、時に尊敬や士気向上を超えた狂気に陥る者を出す事もある。
【宝具】
『天霆の轟く地平に、闇はなく(Gamma-Ray・Keraunos)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜100 最大捕捉:300人
核分裂・放射能光発生能力。集束性に極限特化しており、生半な防御なら悉く貫通する。
膨大な光熱を刀身に纏わせた斬撃とその光熱の放出が主な使用用途となる。
放射能分裂光(ガンマレイ)は被弾した敵の体内に浸潤し、毒として細胞を破壊する。
魔力の燃費に反して絶大な威力を誇るが、発動の度にヴァルゼライドは凄まじい激痛に襲われる。
ヴァルゼライドはこれを気合と根性で耐えており、基本的に悪影響はない物と思って構わない。
【weapon】
アダマンタイト刀×7
【人物背景】
軍事帝国アドラー第三十七代総統。
その生涯は常に泥臭い努力と精神論に塗れていた。
死は彼にとって確かに敗北だったが、足を止める理由とはならなかった。
【サーヴァントとしての願い】
アドラーの為に聖杯を用いる。
【マスターへの態度】
優秀な男。
形は違えど理想の為に生涯を費やした者として畏敬の念を抱いている。
だがその目指す世界に関しては否。
持続不能な机上論であると看做している。
いずれ袂を分かつ事になるだろう確信もある。
【マスター】
キリシュタリア・ヴォーダイム@Fate/Grand Order
【マスターとしての願い】
理想の成就。全人類を神へ。
【能力・技能】
魔術師としての類稀なる才能。
及び、理想の為に積んできた研鑽の全て。
理想魔術は条件が満たし切れず現状では使用不能。
冥界化が進み、聖杯戦争が佳境に入れば1%未満の確率でもしや、と言った所だろうと推測している。
【人物背景】
Aチーム、現在はクリプターと呼ばれている七人の一人にしてリーダー。
人間の可能性を信じ、その未来の為に礎となる事を選んだ青年。
【方針】
聖杯を入手する為に動く。
と同時に冥界の調査も進め、この聖杯戦争の全貌を詳らかにしておきたいと思っている
【サーヴァントへの態度】
偉大な英雄。
人類の可能性を体現するその生き方には尊敬とリスペクトを禁じ得ない。
だが"光の英雄"と呼ばれるあり方自体には否。
それは世界を幸福に出来ない者の歩み方だと思っている。
ヴァルゼライドのトンチキ属性に関しては既に承知済み。
なので令呪を初っ端から二画使い、最低限の指向性を維持するべく行動した。
一画残したのは万一でも彼を失った場合に備えてだが、二画程度で制御出来る時間は僅かだろうと冷静に分析してもいる。
いずれ袂を分かつ事になるだろう確信もある。
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投下終了です。
執筆にあたり「Fate/Aeon」より「衛宮士郎&バーサーカー」のステータスシート記述を一部参考にさせていただきました。
この場を借りてお礼と報告を申し上げます。
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投下します。
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「世界の為に、個を犠牲にする。この在り様はきっと“世界の敵の敵”、でしょうね」
――――忘れられた個人《誰か》のためのキリエ。
■
生まれてきた意味を、問うたことがあった。
特定の誰かを生きる理由にしてはいけないのか、悩んだことがあった。
そして、そんな懊悩でさえ考えなかった時もあった。
全部、全部。過ぎ去ったことだ。そして、今後死ぬまで考えがよぎることでもあるだろう。
シロウ・コトミネは聡明だ。聖杯戦争が齎す意味と理由――この瞬間自体が運命であることを知っている。
――空は青い。
どんな場所でも、例え偽りであっても。閉じられた箱庭であっても。
生前に見上げたモノ、島原の空と変わらない形であった。
黄金の奇跡はあの地獄を、かつて失った世界を再び提示する。
喪ったもの――平和と民。
永遠に取り戻せない空白、蘇らない、自ら捨てることを決めた運命でもある。
-
「この戦争にやる気がない貴女には申し訳ないですが、私は聖杯を欲している。申し訳ありませんが、ね」
「欠片も思っていない言葉をいけしゃあしゃあと。
黄金の奇跡は過去の破滅を覆せますもの。聖杯の導きがある以上、願いは必ず叶えられる」
「ええ、そうです。取り戻したいもの、無くさずに済んだもの。
悔やみ切れない後悔はたくさんある。けれど、私にはその余分は必要ない」
「奇跡は必要であるのに?」
「ええ。その辺りは色々とあったということで。まあ、前提の時点で奇跡はもう十分に貰っているのですが。私は欲張りでしてね。
もっと強欲に手に入れていこうと思いまして」
「この身はサーヴァント。主の意思を叶える刃であり、盾でもある。
例え、偽りであったとしても、張り付いた役割は消えないし、揺らがない」
シロウの笑みに、やる気なさげに言葉を返す銀髪の女性は表情一つ変えず。
「まあ此処までの前フリは一旦置いといて。正直、戦争――やる気がないんですよねぇ」
「――――はぁ?」
正直、今の状況は予定外だった。シロウも流石にため息を禁じ得ない。
これから聖杯戦争に挑もうという時に別の聖杯戦争に参加することになった。
言葉にしてしまえば、簡単ではあるが、損失は尋常ではない。
「だって、進捗リセットですよ? 数十年単位のアドバンテージが全部台無しになったのは、本当に痛すぎるといいますか。
資金と拠点、人員をまた最初から構築しろとと言われて、落ち込まない訳ないでしょう?
荒事が苦手であるからこそ、こちらは入念に用意をしてきたというのに」
「つまり、それら全部ぶち壊されて、やる気がないってことですか」
「ええ、まあ。今回もまーたちゃぶ台返しでもされて、リセットの可能性もあるので。
様子見でいきますよ、今回の戦争は。
あ、聖杯はもちろん欲しいですし、最後まで生き残るのは私ですが」
突然前触れもなく、呼び寄せられたせいで、シロウが数十年単位で準備をかけていたものは水の泡だ。
加えて、用意していた手駒及びサーヴァントも全部自分の手から離れてしまった。
つまるところ、今のシロウは裸一貫で聖杯戦争を勝ち抜かなければならないということになる。
それはとても困る。いつものアルカイックスマイルも今回ばかりは無理である。
苦渋と面倒臭さがハイブリッドで混ざった心底辛い表情だ。
-
「呼ばれてしまった以上、生存の為にも頑張るしかないとはいえ、十全は到底無理。
勝算を上げようにも、この聖杯戦争は未知が多い。
同盟を組めるかどうかもわからないので、迂闊に動けもしませんし。
重ね重ね言いますけど、やる気がないのと諦めたはイコールではありませんからね?」
これからの予定は全部白紙になってしまったが、目的に陰りはない。
聖杯を取る。この世界の聖杯が果たして自身の願いを叶えるに足るかわからないが、戦うこと是非もなし。
元の世界に無事戻れるのか、異端なる聖杯戦争の更に異端となると、不測の事態もあるだろうが、そこはこれから考えよう。
「なので、まあ。ひとまず、雑談でお茶を濁しましょう。
召喚されてからずっと。貴女の機嫌がよろしくないというのは承知ですけど、いつまでもだんまりされては困ります」
「……よく言えましたね。やる気がない昼行灯をいつまで気取るおつもりでしょう。
ああ、心底――反吐が出ます。貴方の言葉総てが、いやみにしか聞こえません。
何を弱気な言葉を並べ立てて理由付けをしているのですか。
まっさらな地平であろうと、貴方の手腕があれば先程仰ったリセット分なんて簡単に取り戻すことなんてできるはず」
「いやあ、それは私も厳しいと言いますか」
「知っていますか? そういうのを“傲慢”と言うんですよ。“英雄”サマ」
「おっと喧嘩売られてますねぇ。ここは一つ、マスターらしく怒った方がいいのでしょうか」
心底下らなそうに、シロウに相対したサーヴァントは掌をひらひらと振って、この話は終わりと言わんばかりに、そっぽを向く。
蔑み。嘲り。この世総ての嫌悪が詰まっているかのようだ。
事実、召喚した直後からこのサーヴァントの機嫌は最低最悪だった。
「言葉と態度は謙虚にいながらも、その裏では願いと運命を掌で転がそうとしている。
これを傲慢と呼ばず、何と言うのですか、ええ?」
「傲慢の強さならば、貴女も負けてはいないでしょう。“ジャンヌ・ダルク”」
「貴方には負けますよ、“天草四郎時貞”。復讐を呼び寄せたのは同じ復讐――綺麗事で取り繕うのはやめたらどうです?」
銀髪に、黒の鎧。
捻じれ、歪み、背徳と憎悪に塗れた救国の聖女――ジャンヌ・ダルク。
否、本来の慈愛が消え去り、怨敵への黒き思いだけがこびりついた偽物の聖女。
黄金の輝きが澱み、消え去った復讐者としての彼女が此処に顕現する。
-
「……あえて、その煽りを買いましょうか。
お前の好きな味、俺は嫌いなんだよ、復讐者。
“俺”が捨てた想いはもうどうだっていい。決して、響かないし、認めない。
俺の中で、復讐と救済はもう天秤にかけられることすらないんだよ。
個人の想いを優先するモラトリアムはとっくに過ぎ去っている」
「…………本当に、イカれた殉教者ね。本物の私と戦えてしまうくらいに。
あーあ、今すぐにでも燃やしてやりたい。もっとドス黒い欲望で動く奴なら、躊躇なく悪役を演じられるのに」
「ははは、どうぞご自由に。ですが、できもしないことを口に出しても、醜いだけです」
マスターとサーヴァントは一心同体。
どちらかが欠けても、戦争に勝ち残れる確率が格段に狭まってしまう。
「過去も未来も、総てが偽物である貴女は、戦争を履行することでしか存在意義が定義されない。
本物の正義の御旗を振るう姿を真似てみてはどうでしょう」
「……苛立たしい!」
「その敵意はまだ見ぬ好敵手の為に取っておいてください。
現状、私達にとって大事なのは聖杯を手にするという目的と結果。仲間割れをして自滅は些かよろしくない」
彼らは己が思いを何も打ち明けていないし、願いすら灰が被ったステルス状態。
絆も願いも通じ合うどころか繋がっていない主従だけど。
「仮初ではありますが、仲良くやりましょう。他の主従に負けないくらい」
「煽った口先から数秒足らずで、あからさまな営業トーク。気持ち悪さしかありませんね」
■
造られた憎悪。あり得ざる姿。
今の自身は、本来とはかけ離れたモノであることも理解している。
だから、空っぽであり、存在を証明するには、戦うしかない。
奇跡と勝利によって、虚像を実像にしなければならない。
黄金へとなれない、イミテーションの叫びは届かない、と。
-
もしも、呼ばれた主がたった一人の為に戦う誰かであったならば。
命を懸けて、彼を戦いに勝たせる為に足掻きましょう、と意気込んだのかもしれない。
いや、どうだろうか。嘗ての自身を顧みるとあまり強い言葉は使えない。
自身を召喚した主は、個を捨てて、多を取った破綻者だ。
動機は総て世界の為。戦争というあらゆる害意の収束点を呑み込めた、化物。
……ままならないわね。
結局は、抗って戦うしかないのだ。
破滅しかない、誰も報われない結末が定められていたとしても、きっと。
――うたかたの夢はどうあっても、うたかた。春には至らない。
【クラス】
アヴェンジャー
【真名】
ジャンヌ・ダルク[オルタ]@Fate/Grand Order
【ステータス】
筋力A 耐久C 敏捷A 魔力A+ 幸運E 宝具A+
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
復讐者:B
調停を破る者である。
莫大な怨念と憤怒の炎を燃やす者だけが得られる、アヴェンジャーというクラスの象徴。
忘却補正:A
忘れ去られた怨念。
このスキルを持つ者の攻撃は致命の事態を起こしやすく、容易に相手へ悲劇的な末路を齎す。
自己回復(魔力):A+
読んで字の如く、自身の魔力を自動的に回復する。
戦闘中でも休息中でも関係なく一定量の回復を続けるため、基本的にガス欠になりにくい。
【保有スキル】
自己改造:EX
自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。
このランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていく。
竜の魔女:EX
とある男の願いが産み出した彼女は、生まれついて竜を従える力を持つ。
聖女マルタ、あるいは聖人ゲオルギウスなど竜種を退散させたという逸話を持つ聖人からの反転現象と思われる。
竜を従わせる特殊なカリスマと、パーティの攻撃力を向上させる力を持つ。
うたかたの夢:A
彼女は、ある男の妄念が生み出した泡沫の夢に過ぎない。
たとえ、彼女がそう知らなくとも。
【宝具】
『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具
竜の魔女として降臨したジャンヌが持つ呪いの旗。
復讐者の名の下に、自身と周囲の怨念を魔力変換して焚きつけ、相手の不正や汚濁、独善を骨の髄まで燃やし尽くす。
【weapon】
旗
【人物背景】
フランスに復讐する竜の魔女。
我が物顔で正義を語り、そしてそれを疑わない人々への怒りに駆り立てられる聖女。
ジル・ド・レェがそうであってほしいと願った彼女の姿。
新宿とかイドとか期間限定イベントも通っていない、上記のまま。
なんだかんだで、真面目。
【サーヴァントとしての願い】
邪竜が吠えたあの戦争で敗けて、何が残っているというの?
仮初ではあるが、蘇った事実が重い。
【マスターへの態度】
気持ち悪いわ、こいつ。
-
【マスター】
シロウ・コトミネ@Fate/Apocrypha
【マスターとしての願い】
人類救済。
【能力・技能】
奇跡と称された魔術。
【人物背景】
誰よりも奇跡を信じて、願った少年。
個人のエゴを捨てたエゴイスト。
【方針】
聖杯戦争の進捗リセットでまた最初からやり直しとか。正直痛すぎません?
また同じことをされる可能性も考慮して、一旦、様子見でお願いします。
ああ、でも――――奇跡を譲る気持ちは、欠片もありませんが。
【サーヴァントへの態度】
はっはっはっ、仲良くしましょう。
-
投下終了です。
-
投下します
-
「―――放射(シュート)!!」
聖杯戦争の会場となった都市、その郊外の廃墟で、少女の声が発せられ、直後何かが撃ち放たれるような音が響く。
それらの音の発生源である少女は、紫紺のレオタードの如き衣装を身に纏い、その手に六芒星と蝶の翅を象った青い杖を構えている。
一目見れば、いわゆる魔法少女の様だと知る者であれば連想するあろう。
ならば撃ち出された者の正体は、魔力によって形作られた弾丸に他ならない。
超常の力によって成されたそれは当然、常識の範疇にある物ならば容易く穿つことだろう。
―――だが。
「っ……!」
少女の放った魔力の弾丸は、標的とした存在によって容易く弾かれてしまう。
単発では容易く防がれる。
それならば、と少女は魔力の弾丸を、今度は散弾状にして放つ。
しかしそれらの魔弾も、容易く弾かれ、打ち落とされ、地面を穿ち土煙を上げるだけに終わる。
だがそれは想定内。土煙は狙い通りに標的の姿を隠し、同時に標的から少女の姿を隠している。
「ここ! 斬撃(シュナイデン)!!」
少女は素早く横方向へと跳躍し、発射店をずらして杖を振り抜く。
杖の先端から放たれた魔力は、刃となって標的へと奔り、さらに続けて少女は散弾を放つ。
魔力の刃は土煙を斬り裂きながら標的へと迫り、
しかし標的の持つ武器によって容易く打ち砕かれ、追撃の散弾もその武器を旋回させることで容易く打ち払われてしまう。
同時に土煙も払われ、それに寄って標的の姿が露わとなる。
青色をしたウルフヘアーと、全身を包むボディスーツ。
それらとは対極にある、その手に構えられた長槍と双眸の赤色。
引き締まった肉体はしなやかな獣を連想させ、放つ気配がそれを確たるものとしている。
「そんじゃ、次はこっちの番だな」
男が軽く声を放つ。
「ッ――!!」
それに少女は弾かれたように杖を構え、
「上手く耐えろよ」
瞬く間に肉薄した男の槍――その石突によって、容易く突き飛ばされた。
§
「っ、はぁ……はぁ……、はぁ……」
「美遊様、大丈夫ですか? お怪我は有りませんか?」
息を荒げる少女――美遊へと、気遣うような女性の声が欠けられる。
それは少女の持つ杖に宿る人工精霊『カレイドサファイア』によるものだ。
「はぁ……ふぅ……。
大丈夫。ちょっとした打ち身くらいで、大きな怪我はしていない。ちゃんと手加減してくれたみたい。
ありがとう、キャスター。私のわがままに付き合ってくれて」
上がっていた息がようやく落ち着いてきた少女は、そう言って動けない自分の代わりに周囲を警戒していた男――“キャスター”へと目を向ける。
「礼なんざいらねぇよ。お互いの能力の把握は、協力する上での基本だろ。マスターも前線に出るっていうなら尚更だ」
対するキャスターは、自身がマスターと呼んだ少女へとそう返す。
そう。少女は聖杯戦争の参加者であるマスターであり、男はそのサーヴァントなのだ。
彼ら二人の戦いはつまり、お互いの力を知るための試合だったのだ。
―――だが、キャスターとは魔術師のクラス。
だというのに、そのクラス名で呼ばれた男の手にあるのは長槍だ。
槍を主武双とするクラスは、基本的にはランサーであるはずだが……。
「んで。結論から言うなら、筋は悪くねえが経験不足。
成り損ないの影程度ならともかく、本物のサーヴァント相手には時間稼ぎが精々ってところだな。
まともに戦うつもりなら、セオリー通りが一番だろうな。
ああ、それはそうと、こいつはもう返しておくぜ」
そう言うとキャスターは自身の胸に左手を当て、その内から一枚のカードを引き抜く。
同時にその姿も、ボディスーツからローブへと変化し、右手の長槍も樫の杖へと変化する。
そして少女へと手渡されたカードには、槍兵の絵とLancerの文字。
クラスカード・“ランサー”。
それは少女の持ち込んだ魔術礼装の一つであり、その機能は簡単に言えば、カードに応じた英霊の力を借り受けるというものだ。
そしてその真価を発揮すれば、一時的にだが、その英霊そのものにもなることができる。
そう。つまりキャスターは、これによって自身のクラスをランサーへと変えていたのだ。
-
「いいの? あんなに槍、使いたがってたのに」
「構わねえよ。実際に成ってみてわかったが、“今の俺”はやっぱキャスターだ。
今後また借りることもあるかもしれねえが、基本的にはあんたが持っておくべき物だ。
―――他の連中とやり合うことになった時の為にもな」
他の連中。すなわち、自分以外のマスターとサーヴァント。
聖杯戦争は殺し合い。自らの願いのために、他者の命を奪う大儀式だ。
この戦いを生き延びるのなら、他のマスターとの戦いは避けられず、そして―――
「だが心しろ。我が朱槍は呪いの魔槍。
扱いを過てば、敵のみならずお前の愛する者の命すら奪うだろう」
「ッ…………」
自らのサーヴァントからの忠言に息を呑む。
キャスターの真名はクー・フーリン。ケルト神話に名高い大英雄であり。
ランサーのクラスカードに応じた英霊はクー・フーリン。即ちその朱槍は、
彼の愛した者ばかりを貫いた、血塗られた魔槍に他ならない。
少女には、この会場に訪れた時の記憶がない。
気がつけばこの会場にいて、マスターとして聖杯戦争に参加していた。
それは少女の相棒である人工精霊も同様だった。
だから、自分がなぜ聖杯戦争に参加しているのか、その理由がわからなかった
何か、自分のあずかり知らぬ理由があって、自分の意思とは関係なしに参加させられたのか。
それとも、自分の意思でこの聖杯戦争に参加し、何かしらのきっかけて、その記憶をなくしているのか。
……もし、自分の意思で参加したのだとしたら、それはどんな理由があって――――
「…………、イリヤ」
少女は、自らが最も大切に想う者の名を呟く。
空は薄暗い雲に覆われていて、
この場所からは、月も星も見つけることは出来なかった。
【CLASS】
キャスター
【真名】
クー・フーリン@Fate/Grand Order
※真名は間違いなくクー・フーリンであるが、その霊基には後述の理由により、『知恵の神』オーディンとしての要素も混ざっている。
【ステータス】
筋力E 耐久D 敏捷C 魔力B 幸運D 宝具B
【属性】
秩序・中庸・天
【クラススキル】
○陣地作成:B
魔術師として、自身に有利な陣地を作り上げる。
師匠の宝具である『死溢るる魔境への門』をアレンジした陣地を作る事も出来る。
○道具作成:?
魔力を帯びた器具を作成できる。
しかしドルイドとしての制約により、金属製の物は忌避している。
○神性:B
【保有スキル】
○原初のルーン:-
○矢避けの加護:A
○泉にて:EX
キャスタークラスとなった際に、仕切り直しが変化したスキル。
自ら致命傷を受けそこから生還することで、直後の魔術行使に大幅なブーストを掛ける。
自らを世界樹への生贄として捧げ、その後ルーンの知識を得て蘇生した、彼に力を譲渡したオーディンの神話を再現したスキル。
【宝具】
○ウィッカーマン
『灼き尽くす炎の檻』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:50人
※スキルによるブースト時は、ランクがB+となる。
無数の細木の枝で構成された、火炎を身に纏う巨人を召喚。
指定対象に襲い掛からせ、強烈な熱・火炎ダメージを与える。
宝具として出現した巨人の胴部の檻は空であり、そのため、巨人は神々への贄を求めて荒れ狂う。
これはルーンの奥義ではなく、炎熱を操る「ケルトの魔術師」として現界した光の御子に与えられた、ケルトのドルイドたちの宝具である。
-
○オホド・デウグ・オーディン
『大神刻印』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜80 最大補足:500人
真名開放と共に、スカサハより授かった原初の18のルーン全てを同時に起動する事で発動する。
北欧の大神オーディンの手にしたルーンの力が一時的にではあるが解放され、敵拠点に大規模な魔力ダメージを与える。
更に、生存している敵のバフ効果を全解除し、各能力パラメーターを強制的に1ランク減少させ、常時発動の宝具を有していた場合は1〜2ターンの間停止する。
『Fate/Grand Order』では基本的に使用されていない。これはオーディンによる使用制限がかけられている可能性もある。
○ガンバンテイン・ヴァルホール
『大神祭壇』
ランク:不明 種別:不明 レンジ:不明 最大補足:不明
瞑想の場である「泉」を展開することで周囲を聖域化する。詳細不明。
『大神刻印』が敵陣への攻撃を主とするのなら、こちらは自陣の強化・防衛が主と思われる。
【weapon】
「アンサズ」のルーンによる火炎弾や、樹木操作による攻撃の他、二匹の白い狼やウィッカーマンの腕を召喚しての攻撃が可能。
更にはルーンで自身のステータスを強化し、樫の杖を使った接近戦を熟すこともできる。
【人物背景】
『Fate/Grand Order』にてキャスターとして召喚されたクー・フーリン。
ただしキャスタークラスとなる際に、大神オーディンからその力(の一部)を譲渡されている。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯に託す願いはない。
彼個人としての願いは強敵との戦いだが、キャスター(ドルイド)として召喚されているため、マスターを導くことを優先している。
【マスターへの態度】
ランサー時と異なり、導く者としてマスターの行く末を照らす役割を自身に課している。
そのため彼自身が指針を示すことはないが、マスターの選択の意味を問いかけ、助言し、必要であれば試練として立ち塞がる。
【マスター】
美遊・エーデルフェルト
【マスターとしての願い】
現状は帰還。
けどもし、自分の意思で参加したのだとしたら―――
【能力・技能】
運動神経は並外れており、学力も小学生にして中・高校生レベル以上の知識を有する。
が、その分柔軟(空想的)な発想を苦手としており、よく言えば現実的、悪く言えば頭が固い。
○カレイドステッキ(サファイア)
『愉快型魔術礼装(妹)』
平行世界からの魔力供給により無限の魔力を与える、魔法級の魔術礼装。
ただし、常時無制限という訳では無く、一度に扱える量は個人の資質(魔術回路の量・質など)に左右される。
使用時に契約者(マスター)を魔法少女へと変身させ、魔力砲などによる攻撃や、イメージさえ伴えば浮遊・飛行すら可能とさせる。
また変身時のマスターにはAランクの魔術障壁、物理保護、治療促進、身体能力強化などが常時かけられる。
○クラスカード
エインズワースによって作られた魔術礼装。
高位の魔術礼装を媒介とすることでカードに応じた特定の英霊の座にアクセスし、その力の一端を行使できる。
用法として、一時的に魔術礼装をカードに対応した英霊の宝具へと置換する『限定展開(インクルード)』と、自身を対応した英霊へと置換させる『夢幻召喚(インストール)』の二通りが存在する。
○神稚児の力
周囲の人間の願いを受け、それを叶える特異能力を有する。
が、その力はある理由から、現在はすでに失われているものと思われる。
【人物背景】
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの通う穂群原学園小等部に転校してきた小学生にして、同時にカレイドステッキ(妹)に見初められ、クラスカードを集めるライバルポジションのキャラ……だった。
現在はイリヤの友達として、共に問題に立ち向かう仲間……なのだが、実際にはイリヤに向ける感情が非常に重く、何事もイリヤ第一の性格となっている。
【方針】
帰還方法および自分がここに呼ばれた理由の調査。
【サーヴァントへの態度】
仲間というよりは協力者。
自分たちが使ってきたクラスカードの力、その本来の持ち主という事で敬意を懐いている。
しかしそれはそれとして、力を借りれる場合は遠慮なく借りる。
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以上で投下を終了します
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投下します。
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八重洲。赤レンガ造りの外観で有名な東京駅のある、東京都でも有数のオフィス街である。
陽の落ち切った街は高層ビル群の窓から漏れる部屋の灯や整然と並び立つ街灯によって煌々と照らされている。
そんなビル街の中でも一際高いビルの屋上に立つ影が一つ。
赤と青で彩色され、蜘蛛の巣の衣装がほどこされた全身スーツに身を包んだ青年。
聖杯戦争に参加する事となったマスターの一人だ。
「うん、今日も異常なしか。本当に戦争が起きてるのか疑わしいくらいだね」
マスターである青年、ピーター・パーカーは眼下に広がる街を見下ろしながらホッと一息をついた。聖杯戦争のマスターとして気付けばこの地にいた彼は聖杯戦争のルールを聞いてすぐに行動を起こした。普段の彼となんら変わらない行動、つまり街で悪さをしている参加者<ヴィラン>がいないか探して回る自警活動だ。
夜な夜なスーツを着込んではエリアを決めて夜の街や怪しそうな場所に異常がないか見回りをし、もし異常を見つければ真っ先にこれを対処する。それは平時であれば褒められた行為であるだろう。だが、聖杯戦争においては敵対者に彼らの存在を認知されやすいというリスクの高い行為だ。特にキャスタークラスの工房にでも迂闊に迷い込んでしまえば目も当てられないだろう。
聖杯戦争というものを理解しているサーヴァントであれば難色を示すかあるいは制止する者もいるだろう。だが幸か不幸か、彼の元に召喚されたサーヴァントはそういった類の者ではなく、寧ろ勧んで彼の方針に賛成の意思を見せた、言ってしまえば善性かつお人好しと呼んで過言ではない人種であった。
「レイ、君の方でも反応はない?」
「うん、こっちでもサーヴァントの気配は感じないよ。マスター」
ピーターの呼びかけを受け、彼の背後から制服に似た衣装の衣服に身を包んだ少女・レイが姿を現す。
見た目からすれば十代半ばのあどけない少女である。が、その年頃の少女にしては不釣り合いな刀剣を手にしていた。得物から判断をするのであればセイバーのサーヴァントだろうか。
「今日はこの変で切り上げようか。平和なようで何よりだけどちょっと拍子抜けって感じかな」
一仕事を終えビルの縁に腰をかけたピーターの横にちょこんとレイが座り込む。
その瞳は遥か眼下で行われている人の営みを興味深そうに眺めている。
「人の暮らしを見るのって楽しい?」
「うん!私達はこうやってたくさんの人が生活している光景っていうのはアーカイブで見る事しか出来なかったから」
興奮の混じった笑顔で答えるレイに対し、ピーターはどう反応すべきか戸惑いを見せる。
レイが彼の知る世界とは異なる世界の存在であることは本人の口から知らされていた。曰く、人の戦争が激化し、行きついた果てに人は全て滅び、残された機械と人工知能が人から受けた指令を実行し続け数百年に及ぶ戦争を繰り広げ続けていた世界。その中で生を受けた人間がレイだったという。だからこそ、この聖杯戦争の至る所で行われている人の営みが彼女にとっては何もかも新鮮であった。例えそれが模倣であったとしてもここまで大規模かつリアルなものを彼女は目の当たりにすることは無かったのだ。
異なる世界、俄かには信じられない話ではあるがピーターは身を持って経験した人間であった。だからこそすんなりと信じることが出来た。
夜風が二人の頬を撫ぜる。
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「ねえ、マスター」
「何?」
「本当にマスターは、叶えたい願いはないの?」
その質問にピーターの動きが僅かに停止する。
ピーターは彼女に対し、自身に聖杯にかける願いはなく、自分と同じように聖杯戦争に巻き込まれた人を助け、また悪用しようとしている参加者を止めたいと伝えていた。レイも同様に聖杯にかける程の願いはなかった為、その方針を了承したという背景がある。
その上で、レイは本当に聖杯にかける願いはないのかとピーターに問う。だがそこに猜疑や糾弾、詰問といった意図は感じられない。「本当にいいのか」と言いたげ視線をレイはピーターに向けている。
ピーターは俯くように眼下の街を、ビルの谷間の暗闇を凝視するように硬直し、そしてレイへと向き直った。
「あー、どうしてそう思ったのか聞いても?」
「その、私の気のせいだったらいいんだけど、たまにマスターが難しい顔をしている時があったから」
「そう?多分、見間違いじゃないかな?」
おどけて誤魔化す様に明るいトーンでピーターは答える。だが、レイを誤魔化すことは出来なかった。心配そうな表情で自身を覗き込む視線に対して、ピーターは気まずそうに視線を逸らす。
しばしの沈黙の後に、観念した様に大きく息を吐き肩を落とした。
「……僕は何度も失敗をした、取返しのつかない失敗だ。やり直したいことなんていくらでもある」
「じゃあ……」
「でも出来ない。それをしたら僕はあの人達を裏切ることになる。だから僕はそれだけは出来ない。あの時、大切な人の仇をそれでも助けた。そう決断した僕が今更この聖杯戦争に勝ち残るなんて方法で願いを叶える訳にはいかない」
悲痛の混じった告白が吐き出される。ギュッとスーツの軋む音を響かせながらピーターは手を握り込む。苦しみと決意を湛えていた表情はマスクに隠れて誰にも伺い知ることは出来ないだろう。
レイはそんなマスターの決意に対し、何も言う事は出来ない。レイはピーターの背景を何も知らない。だが彼の、レイと数年しか年の違わない青年がその道行の中でどれだけ過酷な運命を背負って来たのかだけは断片的に理解することが出来た。
「だから、いいんだ。本当に。僕はこの聖杯戦争で叶えていい願いは持っていない。僕がここですべきことはそんなことじゃない。分かってくれるかい?」
「……うん」
「なら良かった」
レイの返答を聞いたピーターはビルの縁から立ち上がる。ここでの会話はもう終わり、ということにしたいのだろう。先ほどまでの辛気臭い空気を振り払う様に大きく伸びをする。わざとらしい声が漏れた。
「さあ、明日のこともあるしそろそろ帰ろうか。ニューヨークとまではいかなくてもこっちも夜は冷えるみたいだしね。早めにベッドに潜ってぐっすり眠りたいよ」
「……マスター!」
一人帰ろうと背を向けたピーターに声がかけられる。振り向いたピーターに何か軽い物がぶつかる衝撃、そしてその身体を抱きしめられる暖かな感触。
ピーターに駆け寄ったレイが、そのまま彼を優しく抱きしめていた。
突然の少女からのハグにピーターの思考が一瞬停止する。
「へ?ホワッツ!?なに?どうしたの!?」
「こういう時はね、『ギュッ』ってするって私は知ってるよ」
「こ、こういう時って……」
「ありがとう。本当の気持ちを話してくれて」
「……」
目じりに微かに涙を浮かべ、礼を言う少女に対して、ピーターは言葉を返せなくなる。
「マスターの想い、それでもマスターのしたい事、しなきゃいけない事。想いと一緒にちゃんと伝わったから。それが、マスターの絆なんだね?」
「絆、か」
レイの言葉に、ピーターの脳裏にこれまで出会って来た様々な人が脳裏を過る。
英雄が、戦友が、家族が、友人が、恋人が、異なる世界で同様にヒーローとして在った親愛なる隣人が、その全ての出会いと別れが今の彼の在り方を形作っている。
これまでの自分がしてきた事、選んだ選択肢には後悔も未練もある。それでも、今自分がした選択には後悔も未練もない。
「うん、これが僕の絆だよ」
誇らしげに、独りのヒーローは呟いた。
-
◇
元の世界の僕があんな状況に陥ってしまったのは、全て僕自身のせいだ。
無知な僕が軽率に彼に頼って、魔術を行使している彼に何度も無茶な注文をつけて失敗させて、そうして世界に一つの混乱が起きた。
その結果、何が起きたかったって?
叔母さんが死んだ。とても素晴らしい人であり、何よりも大事な家族だった。僕がやらかさなければ叔母さんを殺した奴は僕達の世界に来なかった。あんな事件に巻き込まれて死んでいい人じゃなかったのに。
僕を知る人達全ての記憶の中から、僕に関する記憶が消滅した。僕の正体を知って人殺しと罵っていた人達も、共に宇宙からやってきた悪党と戦った仲間も、僕をサポートしてくれた頼れる友人も、僕の親友も、僕が愛した人も、もう、誰一人として僕のことを覚えていない。
寂しくないのかって? そりゃ勿論寂しいさ。もし叶うのなら彼らに僕のことを思い出して欲しい。おっと、でも僕を人殺しって誹謗中傷する人の記憶は戻って欲しくないかな。本当に大変だったんだ。何よりも僕と親しい人まで色々と言われるのがキツい。凄く肩身が狭くなるんだ、二度と体験したくないねアレは。
それじゃあこの聖杯戦争でその願いを叶えるのかって?勿論、それはNoさ。
僕の尊敬する、もういないあの人ならいくら願いが叶うからって殺し合いに参加する事はないだろう。あの人だけじゃない、あの人の仲間だってきっとそうだ。それよりもこの聖杯戦争とやらで犠牲者が出ない様に尽力する筈だ。
それに、僕にはメイ叔母さんからもらったこの言葉がある。『大いなる力には大いなる責任が伴う』、僕の力は誰かを助けるためにあると、そう僕は決めている。
だから聖杯戦争に巻き込まれたからって僕のやることは変わらない。ニューヨークがトーキョーに変わっただけ。あ、でも、こっちにはJJJがいないからバッシングが激しくないのは嬉しいかも。
それじゃあ今日もこうやってスーツを纏ってバディの彼女と共に夜の街に跳んでいこうか。
僕が誰かって?
貴方の親愛なる隣人、スパイダーマンさ。
-
【CLASS】
セイバー
【真名】
レイ@遊☆戯☆王 OCG STORIES 閃刀姫編
【性別】
女性
【属性】
秩序・善
【ステータス】
筋力B+ 耐久B+ 敏捷B+ 魔力D 幸運A 宝具A
【クラス別スキル】
対魔力:D
魔術に対する抵抗力。詠唱が一工程(シングルアクション)の魔術を無効化。魔力除けのアミュレット程度の耐性。
騎乗:B
乗り物を乗りこなす能力。Bランクでは、大抵の乗り物は乗りこなせるが、幻想種は乗りこなせないレベルである。
【固有スキル】
仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
また、不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。
閃刀姫:A
閃刀システムと呼ばれる軍事技術を身に纏い、戦闘能力を飛躍的に上昇させるスキル。
人の精神に感応して作動する兵器システムであり、空中移動可能な高機動ユニットであるイーグルブースター、遠距離砲撃も行える射撃兵装であるシャークキャノン、遠隔自律兵器のホーネットビット、捕縛および機械のコントロールを奪うウィドウアンカーを瞬時に転送・装着して戦闘することが可能となっている。
術式兵器:A
閃刀姫のために開発された装着型決戦兵器を身に纏い、更に戦闘能力を上昇させるスキル。
拠点防衛型の『X-002 シズク』極地特攻殲滅型の『X-003 カガリ』侵攻迎撃型の『X-004 ハヤテ』近距離格闘型の『X-005 カイナ』のいずれかを装着可能。また各兵器ごとに閃刀術式と呼ばれる機能が備わっており、絶大な威力を発揮するがその代償として装着していた術式兵器は強制的に解除されてしまう。
対機械・対AI:A
自律稼働する機械、またそれに類する存在に対して有利に戦闘を行えるスキル。
閃刀姫として覚醒してからの2年間、ほぼ単身でAIに率いられた機械の軍勢と戦い続け絶望的な戦況を覆した逸話を持つ。対AI戦闘のプロフェッショナル。
【宝具】
『想い重ねし絆の刃(合体術式 エンゲージ・ゼロ)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:5人
心を通わせた二人の閃刀姫によって生み出された奇跡の合体術式。
閃刀姫ロゼの疑似霊基を作り出し、二つの閃刀力をサポート兵装であるアディルセイバーを介して巨大な剣として出力し対象を両断する。サーヴァント1騎分に等しい魔力を確保しなければならない関係上、通常使用する場合は令呪の消費、あるいはレイの霊基を全て消費して放たねばならい。
【weapon】
ブレード:戦闘用の片刃の剣
【人物背景】
人が死滅し、残された機械が不毛な戦争を続ける世界において生まれた人間の少女。
カーマと呼ばれる勢力のAIによって人間として育てられていた彼女はもう一つの勢力、スペクトラムの侵攻に晒され、かつて人が戦争の為に使用していた戦闘システム『閃刀』を使用し、自分を育ててくれた家族を守るために閃刀姫へと覚醒し、さまざまな巡り合わせの末に戦争を終結させた。
性格は純真で素直。AI達によって人の善性を育まれながら成長し、また自身のクローンであるロゼとの戦闘を経て、意思疎通が可能な対象とはまず分かり合う事を第一とする気質。
【サーヴァントとしての願い】
特になし。巻き込まれた人を助けたい。犠牲は極力少なくしたい。
【マスターへの態度】
スタンスも一致しており非常に友好的。
-
【マスター】
ピーター・パーカー@スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
【マスターとしての願い】
聖杯にかける願いはない。被害を極力減らしたい。
【能力・技能】
スパイダーセンスによる危機感地能力、蜘蛛由来の天井や壁への貼りつき、蜘蛛の糸を射出することによる拘束や糸を任意の場所に貼りつけてのスウィング移動や引き寄せ。
【人物背景】
親愛なる隣人、スパイダーマン。
その正体を知る者はもういない。安らぎも友をも捨て、一人悪を探し空を駆ける孤独のヒーロー。彼の帰るべき家はもう存在しない。
【方針】
人命救助を最優先。聖杯戦争に乗っていない主従がいるのであればそのマスターを無事に元の場所に帰す方法を探したい。また悪人に聖杯の願いを叶えさせる訳にもいかないので聖杯の悪用は阻止する。
【サーヴァントへの態度】
信頼している。純粋でお人よし過ぎるのでそこが少々心配。
-
投下終了します。
-
投下します
-
生まれ変わらせてよ、神様
◆
赤色の琴線が、地に降り注ぐ。
全てを焼き払い、敵を殲滅する矢。
不気味な音色に晒されていく。
眼前、眼の前の敵のアーチャーを捉える。
呼んだ使い魔はどんどんと倒れていき、今や全てが死に晒した。
防御用の魔術礼装も間もなく切れるだろう。
しかし、まだやれる。
自身のアサシンに指示を出す。
すでにアーチャーの後ろ迫っている、次の技で一網打尽だ。
そして、アサシンの凶刃が振り下ろされる――と思われた。
アーチャーが自身への攻撃をやめ、アサシンにの方へと振り向く。
そして琴線を、一つ、落とした。
元からステータスが低いのだ、軽技一つでも簡単に落とされる。
驚き隠せぬまま、最後の魔術礼装が消失する。
「やっぱり、俺の感は鈍って無いみたいだ」
そして、懐にいたのは、ナイフを持った男。
「まぁ、俺のアーチャー相手によく頑張ったよ、サヨナラ、魔術師さん」
凶刃が振り下ろされたのは、己であった。
◆
「あっけないもんだな、魔術師ってもんは、策を講じればこのざまだ」
そう言って魔術師の死体を見下ろすのは、麻生成凪。
あの日を記憶をそのまま受け継いだ――戦闘者。
「ま、一番はアーチャーちゃん、お前のおかげさ、そもそも君にいなかったら勝てたか怪しいし」
そう麻生が話しかけるのは、躯の様な形な女のアーチャー。
目から生気は消え、血が滴り、感情のない殺戮マシンのような風貌。
すでに、壊れてしまったような。
「反応なしか…狂化とかはついてないはずなんだけも…まっ、なんかあっていかれたんでしょ、じゎあ帰ろうか」
懐にナイフと拳銃をしまい、その場を後にする。
アーチャーも霊体化して、後ろからついてくる。
「…せめて、もっといい形で生まれ変わらせてくれよ、神様」
麻生は思う、地獄にまた生まれてしまったことを。
「冥界下り…いや、俺は端から冥界に行くことが確定してるようなもんか…」
己の所業、それを考えれば当然だろう――でも。
「なぁ…神様、もうちょっと、いいところに行かせてくれても良かったんじゃねぇか?」
殺戮者は思う――許しがほしいと――
◆
女は思う、己の罪を。
ただ――私は尽くしたかっただけだった。
――認めてほしいだけだった――
お――母――様――
朽ちた優しい妖精――バーヴァン・シー
◆
レールは回り続ける、今日の日もさよなら
読谷あかね「散り散り」
-
【CLASS】アーチャー
【真名】バーヴァン・シー@Fate/Grand Order
【ステータス】
筋力A 耐久C 敏捷A 魔力B 幸運D 宝具E
【属性】混沌・悪
【クラススキル】
対魔力:EX
決して自分の流儀を曲げず、悔いず、悪びれない妖精騎士トリスタンの対魔力は規格外の強さを発揮している。
騎乗:A
何かに乗るのではなく、自らの脚で大地を駆る妖精騎士トリスタンは騎乗スキルを有している。
陣地作成:A
妖精界における魔術師としても教育されている為、工房を作る術にも長けている。
【保有スキル】
妖精吸血:A
祝福された後継:EX
女王モルガンの娘として認められた彼女には、モルガンと同じ『支配の王権』が具わっている。
汎人類史において『騎士王への諫言』をした騎士のように、モルガンに意見できるだけの空間支配力を有する。(マナの支配圏)
グレイマルキン:A
イングランドに伝わる魔女の足跡、猫の妖精の名を冠したスキル。
妖精騎士ではなく、彼女自身が持つ本来の特性なのだが、なぜか他の妖精の名を冠している。
【宝具】
『痛幻の哭奏(フェッチ・フェイルノート)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:無限 最大捕捉:1人
対象がどれほど遠く離れていようと関係なく、必ず呪い殺す魔の一撃(口づけ)。
相手の肉体の一部(髪の毛、爪等)から『相手の分身』を作り上げ、この分身を殺すことで本人を呪い殺す。ようは妖精版・丑の刻参りである。
また、フェッチとはスコットランドでいうドッペルゲンガーのこと。
【weapon】
自身の弓
【人物背景】
禁断の園を使い、呪われた少女。
最後まで彼女の思いは1つだけであった
【サーヴァントとしての願い】
――お母様
【マスターへの態度】
???
【マスター】麻生成凪@ヒューマンバグ大学
【マスターとしての願い】
まともなところに生まれ変わらせてよ、神様
【能力・技能】
異常とも言える動体視力に、優れたナイフと拳銃の技術
【人物背景】
クソッタレに生まれてしまった男。
望んだのは、生まれ変わり
【方針】
とりあえず聖杯は取る。
でも、こんな殺し合いに呼ばれるなんて、神様、あんた、最低だよ
【サーヴァントへの態度】
意思疎通できる?もしもーし?
駄目だこりゃ…
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投下終了です
-
投下します。
-
東京、早朝、新宿駅――
日本どころか世界で最も利用者数の多いこの駅では、今日も多くの人々が行きかっていた。
肩が触れあう程の密度でホームを歩く、サラリーマンにOL、学生たち。
もはや当たり前の光景である。
そんな中、猫背気味で歩いていたひとりのサラリーマンが、ふと、よろけた。
疲れがたまっていたのか、もともとおぼつかない足取りに、さらにすれ違った相手の鞄がぶつかって……
場所も悪かった。ホームの端。黄色い点字ブロックの上。
「おっとっと……おおッ!?」
少したたらを踏んで片足で跳ねてバランスを取ろうとして……そこに地面はなかった。
成すすべもなく線路の上に転落を――
ゴウッ!
突如、つむじ風が駆け抜けた。あちこちから驚きの声と悲鳴が上がる。
文字通り目にも止まらない「何か」が、線路の上を一瞬で駆け抜けて。
「……あれ?」
転落を覚悟したサラリーマンは、目をぱちくりとしばたく。
完全に落ちた、そう思ったのに、いつの間にか、ホームの上で尻餅をついている。
黄色い線の外側、僅かなスペースに、座るような姿勢で置かれている。
ホームに入ってきた列車が鋭い警笛を鳴らす。転落していたら彼を轢いていたであろう車両。
くたびれたサラリーマンは慌てて頭を下げながら立ち上がってその場をどいた。
◆
「やー良かったなー、危ないとこだったぜ」
「この街はいつもこうなのか? 命がいくつあっても足りないだろうに」
「東京ってすげーよな。N市でも賑やかなとこはあったけど、やっぱ段違いだぜ」
新宿駅上空。
さきほど風が駆け抜けた一画を見下ろしながら、噛み合わない会話をする人影があった。
片方は魔女。魔女風の装束をまとった少女。
とんがり帽子に黒い衣装は魔女そのものといった風情だが、背中のマントには「御意見無用」の刺繍が踊り。
首からはどこかの神社のお守りが下がっているのが少しミスマッチだ。
片方はボロボロのフードつきマントをまとった人影。
手には何やら真っ白な槍のようなものを持っている。
-
「でもまー、シャルクがいてくれて助かったぜ。
オレだけじゃ通りすがりに掻っ攫うことはできても、どうやっておろすか悩むところだった」
「こちらもトップスピードがいてこそできたことだ。
あの程度の早業は俺にとっては骨も折れないが、なにぶんこの街は視界が悪い」
「まあヘタに見つかる訳にはいかねーしな」
「全くだ。特に俺の顔を見られた日には……あの世からのお迎えと勘違いされてもおかしくない」
少女は笑う。襤褸の男も笑う。
いや、表情からは判断できないが、きっと襤褸の男も笑っているのだろう。
そう判断できる程度には、少女もこの相棒のことが理解できるようになっていた。
襤褸の男には表情がない。外から見て分かるような表情がない。
なにしろ、顔の肉がないのだ。
骨だけである。
文字通りの骸骨。
それが肉も腱もないのに当たり前のように動いている。
骸魔(スケルトン)。そういう存在なのだという。
訳も分からぬままにタッグを組まされた聖杯戦争。
魔法少女トップスピードも、最初こそその相棒の特異な風貌に驚かされたが、今ではすっかり打ち解けている。
「しかし悪いなァ、手伝わせちまって」
「酔狂なことだとは思うが、お前の信じる『魔法少女』というものはそういうものなのだろう?
聖杯戦争のマスターともなれば、傭兵の雇い主のようなものだ。付き合うのもやぶさかではない」
聖杯戦争が始まってからというもの、トップスピードとシャルクはこうして日々街の人々を助けている。
大抵は速度を活かしての早業だ。感謝されるヒマもなければ、認識すらめったにされない。
それでも、トップスピードの信じるところの『魔法少女』というのは、そういうものなのだという。
ついでに言えば、魔法少女も骸魔も、食事も要らなければ睡眠も必要とはしない。
たまに人目のつかないビルの屋上で休憩することはあっても。
朝から晩まで東京中を飛び回って跳ねまわっては、目に付く人々を助けて回っている。
「俺としてはむしろ、そんなマスターが、振りかかる火の粉は払うと言ってくれたことの方が驚きだ」
「あー……まあ、『ここ』に来る前にも『似たようなこと』させられてたからなー。
覚悟だとか、迷うだとかは、オレの中じゃとっくに終わってんだ。
勝ち残れるのがたったひとり、ってのは流石に厳しすぎるだろってのは思うけど。
生き残って、黄泉返って、あと半年は死なずにやり過ごしてーんだよ」
積極的に他者を蹴落として回ったりはしない。
けれど、誰かに襲われたら反撃は躊躇わない。生き延びるためにあらゆる手段を尽くす。
それがこの主従が最初に決めた基本方針だった。
シャルクとしても異論はない。
(しかし、半年、か……)
新宿副都心の上空を、大きく旋回して飛ぶ箒の上で。
シャルクは言葉に出さずに少しだけ首を捻る。
トップスピードがたびたび口にするその言葉。そこに含まれた意味を、シャルクもまだ聞いてはいなかった。
◆
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【CLASS】
ランサー
【真名】
音斬りシャルク@異修羅
【ステータス】
筋力 C 耐久 D 敏捷 A+++ 魔力 E 幸運 C 宝具 E
【属性】
中立・善
【クラススキル】
対魔力:C
【保有スキル】
先の先:A
相手の殺気、闘志、敵意などを感じ取って「それより先に」攻撃を仕掛ける。
基本的に先手を取ることが可能。因果や時空間に干渉する能力でもない限り上回ることは困難。
骸の身体:A
骨だけの身体そのものの特性。
基本的に呼吸や食餌を必要とせず、毒や病気などの数多の攻撃を無効化する。
また速度に高いプラスの補正を得る(上述のステータスはそれを加算したものとなる)。
心眼(真):B
鍛錬によって培った洞察力。
窮地において状況を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
【宝具】
『自在骨格』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:自分のみ
自由自在に組み替えることのできる骨格をもつ。
腕を組みかえて間合いを伸ばしたり、疾走時に身体を変形させて空気抵抗を減らしたり。
果ては、失っても影響の少ない肋骨を、己の足の骨に偽装して相手の目を欺いたりもできる。
戦闘時の応用の可能性は無限大だが、宝具としては最低クラス。
所詮は自分自身の身体にしか影響を及ぼさない能力である。
変身や変形であれば上位互換の能力を持つものは無数に居る。ゆえにほぼ最低のEランク。
ただし。シャルクの真価は宝具そのものにはない。
当然のことながら、この宝具による骨格の組み替えに対しても、敏捷A+++の速度が乗る。
これによって、動体視力に優れた英雄にとってすらも、文字通り「目にも止まらぬ」瞬時の変形が可能となる。
【weapon】
白い槍。
【人物背景】
人間の白骨から作られた、骸魔(スケルトン)の槍兵であり傭兵。数多の修羅の中でも最速の速度を誇る。
【サーヴァントとしての願い】
己の過去を知りたい。
【マスターへの態度】
悪くない雇用主。
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【マスター】
トップスピード@魔法少女育成計画
【マスターとしての願い】
生き返る。
本来であれば生還以外に聖杯にかける願いはない。
ただし、生還の時の条件によっては、生き返りたい理由、あと半年は生きたかった理由に抵触する可能性がある。
生き返る時の条件についてより詳しく知る必要があり、それによっては聖杯の奇跡も使うことになるかもしれない。
【能力・技能】
魔法少女
ただの人間から魔法少女に変身できる。
魔法少女に変身中は、食事も睡眠も不要。
猛スピードで空を飛ぶ魔法の箒を使うよ!
高速で空を飛び回る魔法の箒「ラピッドスワロー」を持つ。
箒の定員は2名で、自分の他にもう1人を後ろに乗せることができる。
高速飛行時にはまるでバイクのようにハンドル、マフラー、風防を展開する。
【人物背景】
本名は室田つばめ。
日本のN市で魔法少女をしている。
変身後の姿はとんがり帽子を被り箒を持った伝統的な魔女といったところ。
ただしそこに加えて、「御意見無用」と刺繍されたマントを羽織り、首からは日本の神社のお守りを下げている。
明るくざっくばらんな性格で、意外とコミュニケーション能力や人を見る目がある。
【方針】
最後まで生き残りを目指す。積極的に他者を蹴落としはしないが、降りかかる火の粉は払う。
可能な範囲でNPC相手の人助けも続ける。
【サーヴァントへの態度】
悪くない相棒。
【備考】
トップスピードは聖杯戦争に入ってからずっと変身したままでいます。
人間としての役割(ロール)は持っていません。
シャルクはまだ変身前の室田つばめの姿を見ていません。
予選期間中にNPC相手に人助けを続けており、多くは目にも止まらぬ速度で行われていますが、目撃情報や噂が流れている可能性があります。
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投下終了です。
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投下します
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東京の街の外。
死霊とシャドウサーヴァントがひしめく荒廃した街並み。
まさに魔窟。生命など微塵もない冥界と呼ぶに相応しい死の大地。
人のいない荒廃した瓦礫の上に、一人の少女が立っていた。
気だるげな眼差しと、胸元に目玉の奇妙な飾りをつけた少女が瓦礫を踏みしめる。
少女の周囲には死霊、シャドウサーヴァントが複数徘徊しており、そのうちの数体が牙を剥く。
槍兵の影が少女へめがけて刺突を行うも、少女は地面を蹴ると同時に空へと舞う。
空を舞い、そのまま地面に着地することはない。浮いたまま距離を取る。
重力に縛られないかのようにふわふわと空中を漂い、死霊の攻撃も続けざまに避けていく。
近づいてきた死霊に対して手から弾幕を放ち、地面へと押し戻す。
「意志はない、か……遠出してこの結果とは。まあ、予想通りではあるけれど。」
周囲の死霊たちを一瞥すると、
此処まで足を運んで得たのは何もないと言う結果だけ。
文字通りの無駄足にため息を吐き、更に少女は空へと舞う。
「とんだ無駄足ね。撤退するわ、ランサー。」
空を舞うと、同じように空を飛び交う一つの影が着地する。
着地の衝撃だけで周囲の死霊やシャドウサーヴァントが怯む。
相手は少女の倍以上はあるであろう体格を持った、赤茶けた鎧を纏った存在。
鎧を纏った姿は武者と言うよりは、例えるならロボットと言っても差し支えないだろう。
たすき掛けされた数珠が印象的な巨躯はその場にいるだけでも強烈な威圧感を放つ。
迫る影をその手に持つドリルが如き槍を振るい、薙ぎ払って吹き飛ばす。
その隙に、背中からバーニアのようなものを噴き出してその巨躯は空を舞う。
空を飛び交う巨漢の肩に少女が座ると、その場から去り二人は東京の街へと戻っていく。
「念のため東京の外も確認してみたけど、やはり私の知る冥界とは違うみたいね。
これも予想してたことではあるから、別に大して落ち込みもしないけれど。」
人気のない夜の公園。
そこに少女と機兵が如きサーヴァントは降り立つ。
地面に着地すると、同じく少女はランサーから降りて公園のアスファルトを踏みしめ、
先ほどまで乗っていた自分のサーヴァントと向き合う。
「それと、恐らくでしょうけど外……ああ、この舞台の外の意味よ。
仮に果てまで行ったところで、多分出られそうにないでしょうね。
果てが見えず、敵となる死霊達も無数にいる……聖杯戦争をする以外の選択肢はないみたい。」
遠くまでは見えなかったが、
態々あれだけ危険地帯を用意している以上、
会場の外と言うものには脱出は困難を極めるのは予想できることだ。
「『先ほど何をしていたのですか?』……ああ、言ってなかったかしら。
私、霊とも話せるのよ。動物や怨霊であってもね。人が多い場所は得意じゃないけど。」
その世界で彼女は霊との交流が多かった。
故に死霊を前にしても恐怖も嫌悪も感じない。
彼女にとっては隣人、そういったレベルの存在になる。
「でもダメね。あれらは此処でのペット達と同じで明確な自我が存在しない。
死霊達は意志もなければ遺志もなかった。あれも作られた存在でしょうね。
いわば役割を与えられただけの人形のような存在、と言ったところよ。」
彼女はその力を使ってこの世界を調査していた。
だからこの世界がどこまで贋物かを理解している。
見知った家族はいるが立場、環境全てが元の世界とは別物だ。
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「となれば、純粋な意思疎通ができるのは同じマスターかサーヴァントのみでしょう。
言い換えればマスターやサーヴァントを探すのには苦労はしない、と言うことでもあるけど。」
住人、もといNPCは心こそ読めるが、
そこにあるのは機械的な行動だけに留まる。
故にマスターを探すとなると、簡単に見つけられる強みがある。
他者からすれば心を読む能力を見抜くのは、そう簡単ではないのだから。
もっとも、その胸の飾りが目立つので一長一短とも言えるのだが。
「退場したマスター達の残留思念が読み取れるか確認したいけど、
貴方はそういう必要のない犠牲は望まないのは知っているわ。
なるべくだけど『そういう手段』は取らないつもりだから安心して。」
此処まで少女は一人で饒舌に語り続ける。
拝聴する者はただ一人、己のサーヴァントのみ。
それを鎧の男は黙って聞き届けていた。
こうみえて会話が成り立ってないのに会話は成立している。
異様な光景ではあるが、彼女にとってありふれた光景だ。
何故なら、彼女にとって相手の言葉は必要がない故に。
───少女の名前は古明地さとり。
心を読む程度の能力を持つ、さとり妖怪。
故に相手が言葉を発することなく相手の意志を理解できる。
だから相手は喋る必要がない。さとり妖怪としての性のようなものだ。
心を読まずしてさとり妖怪に非ず。故に彼女は独り相手の心を読み語り続ける。
意思疎通は行っている。しかし端から見ればひとり芝居のような行為で。
「……それにしても珍しいわね。私の能力を知っても嫌悪感を抱かないなんて。」
さとりはこの能力を誇りに思ってはいるが、
周りからすれば余計な感情を露呈してしまう能力でもある。
故に旧地獄では嫌うものも多く、聖杯戦争でもやりづらい能力だろう。
そう簡単には協力関係が結べない。無論、自分のサーヴァントともだ。
しかし、ランサーはそれを特に嫌悪することなく受け入れていた。
「貴方の言葉……と言っても心ね。それには裏がないから?」
心を読むことでわかる。彼は純粋で生真面目な性格なのだと。
地霊殿にいたペットを思い出す。人と動物を比べるのは少し憚られることだが。
いや、目の前にいる彼は果たして人なのかと疑念を抱くところもあると言えばある。
「正直なのは嫌いじゃないわ。でも、騙されないことね。
私は妖怪……人をだまくらかす危険な存在かもしれないわよ。
こうして貴方と仲良くしているのはふりで、本当はあくどい願いを持っているのかも。」
「!?」
ランサーの赤い目が光り出し、機械のような音を発する。
端から聞けば何の音か判断つかないが、それが彼にとっての発言の類だ。
「冗談よ。そういうところが貴方らしいのかもしれないけど。」
今の問答で本当に純粋で真面目なのだと分かる。
恐らく、この外見ながら人に愛されてきたのだろう。
威圧感溢れる外見なのに、どこか愛嬌を感じさせるその性格は。
「それにしても、偽りの冥界で殺し合いとは思わなかったわ。
妖怪としてはその手の血生臭いことは、そう珍しくもないのだけど。」
聖杯戦争。万能の願望器。さとりとしては特別興味はない。
今の生活は充実しているし、妹の目も無理に開こうとも思わない。
幻想郷も今のバランスを変えたい、と言った大願も持ち合わせておらず。
ただひとえに帰る。それ以外特別な願いは持っていなかった。
「貴方はどう? 聖杯は……必要ないみたいね。
それもそうか。主は天下人になって時代を築いた。
今更聖杯に縋ってまで願うものなんて、ないでしょう。」
「……!!」
「『他のマスターを含め元の世界へ返す』……随分大きく出るわね。
天下人を支えた貴方だからこその大願、とでも言うべきかしら。
何よりも困難な道を選ぶのはいいけれど、最悪は覚悟してもらうわよ。
私は別に聖人君子と言うわけではないのだから。」
温厚な人物ではあるが、さとりは人を襲うことを楽しいと思うこともある。
結局のところ彼女は妖怪だ。人をそこまで尊重するほど人がいいわけではない。
とは言え、願いのない彼女にとっての一つの指標ともなりうることではあるが。
「さて、そろそろ帰るとしましょう。
……考えれば貴方、どうやって家に入れればいいのかしら。」
どうしたものかと悩みながら、ランサーを霊体化させてさとりは帰路につく。
偽りの東京と言う名の冥界を、旧灼熱地獄の管理者が往く。
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【CLASS】
ランサー
【真名】
本田忠勝@戦国BASARA
【ステータス】
筋力:A 耐久:A 敏捷:B 魔力:D 幸運:C 宝具:C
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力除けのアミュレット程度の対魔力。
【保有スキル】
戦闘続行:B
戦闘を続行する能力。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負っても戦闘が可能。
戦国最強:A+
いかなる武器を以てしても傷を負わないと言われた、忠勝の頑強さがスキルになったもの。
耐久のパラメータをランクアップさせ、攻撃を受けた際の被ダメージを減少させる。
また低ランクの飛び道具に関しては受け付けないどころか、そのまま弾き返してしまう。
但し日本出身の人物が彼を見た場合、高確率で真名が判明するデメリットを持つ。
形態:B+
忠勝には様々な形態を持つ。
支援兵器(所謂ファンネル)で自動攻撃する援護形態、
背中から砲台を出し放つ砲撃形態、(所謂バーニアで)空を飛ぶ飛行形態など様々な兵装を持つ。
電磁フィールドを展開する電磁形態中は砲台がプラズマ砲になるなど変化もある。
【宝具】
『秀でし忠、本田忠勝』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:4 最大捕捉:100
背中から車輪のようなものを展開し、周囲に多数の落雷を起こす。
シンプルな分見切られやすく、範囲も広いわけではない。
だが本人の頑強さを合わせればごり押しで決めることも難しくはない。
【weapon】
・機巧槍
どうみてもドリルだが槍。
勿論回転するのでドリルとしての運用も可能。
【人物背景】
戦国最強と恐れられた、徳川家康にとっての第一の絆。
生真面目で実直な一方騙されやすい純粋、或いは天然な面もある。
【サーヴァントとしての願い】
この聖杯戦争に巻き込まれた参加者の帰還。
【マスターへの態度】
……!!
【マスター】
古明地さとり@東方Project
【マスターとしての願い】
帰れればそれでいい。まあ、平和的に解決できないなら聖杯使うでも。
【能力・技能】
心を読む程度の能力
胸についてるサードアイを通じて相手の心を読むことができる。
また相手のトラウマを思い起こさせ、それを再現して攻撃する能力を持つ。
さとりが所持してない道具や、使用者の固有の能力を用いたものでも再現ができる。
怨霊や残留思念も読むことができるが、残留思念が多い場所に長時間留まると体調を崩すことも。
他には弾幕、飛翔なども可能だが本人は割と体力がない。
サーヴァントの攻撃を再現した場合、それがサーヴァントに通用するかは不明。
【人物背景】
幻想郷の地底の土地、旧地獄の灼熱地獄を管理するさとり妖怪。
大人しく物腰柔らかな人物ではある一方で、図太い神経を持っており結構ポジティブ。
能力で心を読むが勝手にそのまま口にする為会話が別の意味で成立しなかったりする。
そういったこともあって旧地獄では嫌われることも多いが、本人は能力を誇っている。
【方針】
暫くはこの東京を調べていく。
あまり意味はないと思うけど。
【サーヴァントへの態度】
純粋でいい子。それだけに優勝狙いは少しやりづらい。
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以上で投下終了です
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投下します。
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まんまるぴんくですよ! ユメ先輩!
先輩にとっての私は、今の私にとってのこの子だったのかもしれない。
図々しくって可愛くって、頼りになるけれど頼りたくはない。
可愛くて強いマスコット、大切にしまっておきたい宝物。
私はあなたを支えたかった。馬鹿みたいに善良なあなたが、困ったり騙された時にはいつでも飛んで行ってあげたのに。……最後以外は。
消えてゆくあの人の痕跡を必死になってかき集めた。装備も弾薬も、あなたがどこからか拾ってきた遥か昔の行事の備品も。アビドス復興に備えた雑談会議の議事録ファイル。回収寸前に業者に嫌な顔されながら漁ったメモもノートも。撮りたくないって子供みたいな駄々を捏ねちゃった、数えるほどの記念写真も。
私の中の先輩の痕跡が時間が経つにつれて薄れていく。死人は声を発しない。いくら忘れたくなくても、絶対消えないって思い込んでも、ホシノちゃんって呼ぶ声をいつの日か頭の中で再生することが出来なくなった。流してみた声がイメージと一致しなくなったあのとき。狂乱しながらあの人の声を探した。
耳を通る機械音声を疑って、あの人の雰囲気が何処か遠くなっていることに気がつく。声だけじゃなくて、あの人の匂い、過ごした記憶──尊い青春の記憶は、思い出す瞬間に私の解釈で薄めた類似品になった。
単なるアーカイブに堕ちていく。私にとっての意味しか持たない思い出と、ただ起こった事象が纏められた記録に。
それは、目新しい反応を返してくれることも、自発的に動き出すこともない。ただ生きるものが都合のいいものを見出すだけだ。つらくなった時に、思い返してみて勝手に勇気づけられたりするだけ。
記憶に、貴方にしてあげられることはない。死人に対して取れる行動はすべてが自己満足だから。
(この世界に対しても……だね)
人間のように振舞う設定されたNPCたち。小鳥遊ホシノは遅刻癖や居眠り常習の気がある少女。中年のように振る舞う変わり者ではある。しかし、元来の生真面目さから皆に頼られ可愛がられていた。少なくとも不快ではない存在。ヘイローのない、冥界のホシノはクラスから受容されていた。
アビドスのホシノではない冥界ロールのホシノの居場所。生きてもいない生きたこともないはずの存在。ある意味の無垢さを持った彼女たちは、社会的認識の中で理想とされる学友を、あたかも現実に再現していた。この前のガス事故とされる爆発で5体ほど消えたが。
(ここは現実じゃない……冥界って現実かな)
キヴォトスの昔の私は、むやみやたらに尖って人を寄せ付けようとしない痛い奴だったけどね。おじさんもそうだとか言わないでよ。
(まあ、気にすることもないかな)
学校が無期限の閉鎖状態に陥り、事故の犠牲者たちの葬儀が営まれた。ヘイローが突然生えてきた彼女は出席することができなかった。授業中の生徒の頭上に突然わっかが出現したのは、恰好の噂の的であったが、
真に凄惨な出来事はそんな些末な話なんか吹き飛ばしてしまった。
(ほかの参加者に特定されたかもしれないから、家には帰れなくなったっけど)
ああ、そうだ。数日後に迫っていた天体観測イベント。学友たちに誘われた行事も潰れた。ホシノと星を見てホシーノ(おじさんおじさん言ってるからか?)が──悪乗りネームのそれが潰れたっけ。
そういえば、ユメ先輩とも二人っきりで天体観測をやったな。学校振興の下調べとかで、あんまり砂が飛んでいない日に、星を見た気がする。朝からバタバタ動いていたせいか、ユメ先輩、さっさと寝落ちしちゃったっけ。先輩から誘ったくせに。
冥界から覗く夜の空は、眺望に沿って再現された東京の空は──見せかけの明るさのせいで、星が霞んでしまっている。これでも昔に比べたら随分透き通ったとかNPCに聞いたけど。アビドスの、キヴォトスの空に比べると随分薄ぼんやりしている。
教えてくれた彼女は、チュロス咥えながら帰って随分華の高校生生活を楽しんでいたようだ。カタカタヘルメット団の一味が学校生活をエンジョイ。青々しいねぇ。元の世界ではあなたは色物与太者集団の一味でまともに学校にも通えなかったんだよとと知ったら、授業中突然ヘイローを出した──突然アビドスのホシノになった私の手を引いたNPCはどんな顔をするだろう? 天使みたいって言ってくれてありがとう。 知る機会は永遠になくなったけれど。
この世界は銃が希少で、通行人が突如として発砲することは稀を越えた稀、突然迫撃砲が学校に撃ち込まれることは最早あり得ない事象。なのに、この世界の方がキヴォトスよりも圧倒的に死が近いだなんて、不思議なことだ。
(冥界らしいから当たり前だけど)
眠ることも出来ないでこんな夜空を眺めているから、埒も開かないことを考えるのだ。NPCだかAIだかに同情するなんて。こんなこと聞いたら先生に怒られるかな。そういえばミレニアムの可愛い黒髪の娘はロボットだっけ。
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「………まあ、おじさんはぐ〜たらしてるから〜」
まんまるぴんくのマスコットを可愛がりながらさ。
真夜中、デコの出た店員さんが唖然とするほど買い込んだスイーツは、もう懐に閉まっておいたどら焼きしか残っていない。……何もかもを望めば何もかもなくなるよね。ゴミが出なかったのはいいけども。
今はこのどら焼きで満足、足るを知る。残っている物を慈しむことができたのなら十分に幸せだ。今あるものを持っていれば、その内、かけがえのない物が増えていくんだ。
「あんまりよくばりすぎちゃだめだよ」
まあ、この大きなお口のお陰で、普段はヘイローを隠せてるんだけどさ。
文字通り、彼女はライダーの口内にヘイローを頬張らせて(物理的には干渉できないはずなのに!)頭上で霊体化させることで、光輪という明らかな差異を隠していた。齧られないかヒヤヒヤするというのは本人の言である。
(おかげでホテルにも泊まれたからね)
彼女は枕元の不思議生物に視線を移した。可愛い饅頭に楕円を二つ、腕の代わりに楕円が二つ。さっきコンビニで買い漁ったスイーツを次から次に口に運び、外装すら残さずに食いつくした魅惑の一頭身。ピンクの食欲が今目の前でご機嫌な睡眠をとっている。
彼女が、先輩が見たら放って置かなかっただろうな。
ホシノは睡眠キャップの下、ぷくぷくぴんくのもちもちした頬を起こさない程度につついた。弾力のある肌が指先をを押し返す。夢中にな「可愛いねえ、ホシノちゃん」必死に再現した声が脳内を過る。頭の中で勝手な妄想を流した自分を蔑んだ。
ホシノが呼んだサーヴァント──ライダー。可愛いねえ。ステータス。わあAとEXがある。スキル。わあ、まんまるぴんくだって……そのままだね。マスコット的な可愛さだけじゃない。ちゃんと戦えるんだ。やるもんだ。
で、相手を殺せるの? 踏みにじって先に進めるの?
数十人殺しのアビドス副生徒会長──。
さすがにそんなになって帰って、いつもみたいに振舞い続ける自信はないかな。シロコちゃんにもしたり顔で前に説教したしさ。間違えた方法で守りたいものを守ったら、いつしかその方法に染まっていくだっけ?
殺人! キヴォトスでヘイローを破壊するよりも物理的には簡単かも。メンタルはどうかな。ノノミちゃんには粋がったこと言ったけど、おじさんのギザギザハートがズタズタになりそう。いつかきっと限界がきて吐いちゃう。
ほら、おじさんだから、胃が弱いからさ〜。
目元を細めて、口元だけをもにゅもにゅと動かす。手元の電子端末をスワイプする。
突然教室に現れた天使として晒される自分の画像と、数日後に起きたガス爆発事故を結びつける匿名掲示板を見ながら、ホシノは溜め息をついた。
どう考えたって関係ないよね〜。おじさんの身体が衆目の好奇心の真っただ中に!
「…………」
これで──目端の利く戦争参加者には狙われることになる。あるいはそれが、事故と認識されている殺戮を行ったものの目的の一つだったのかもしれない。
少なくともこれで唯さえか細い生還の線は更にか細くなった。ちょっと帰れないかもしれないな。キヴォトスにもアビドスにも。
再び溜息をついて、持っていた携帯端末を乱暴に下半身より下に放り投げると、ホシノは目を閉じた。
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(もしも──)
私がアビドスに帰れなかったら。
ここに連れてこられたとき、何も私は痕跡なんて残せていない。文字通り消失してしまった。親愛なる後輩たちは前回の同じように私を必死になって探すだろう。遠い冥界を彷徨う私を、あの青く透き通ったキヴォトスの空の下で、いつまでも。
そのうちあの子たちも、記憶の中の私の解釈で喧嘩を始めちゃったりして。おじさん愛されてるよねえ。
(……大丈夫だって、皆成長したし。先生だっている)
シロコちゃんを制御してくれなきゃ! 彼女、私とおんなじくらい強くなれるんじゃないかな。もう大袈裟な盾なんて君の実力なら必要ないよね。ヘルメット団なんか相手にならないかも。でももう他所を襲撃したりは……先生に聞いてからやってね。倫理をちゃんと学ぶこと! 大丈夫、シロコちゃんは大きなシロコちゃんくらいに強いボンキュボンになれるから。元気に育てば、未来には……未来。
「……考えるなよ」
ホシノは眉を顰めると、億劫そうに眼を開けて、隣のライダーの頬をぷにぷにとついた。
「お前は悩みがなさそうでいいねえ」
心なしかムッとした顔の一頭身を尻目に再び瞼を閉じる。
セリカちゃんは先輩とアヤネちゃんの言うことをよく聞くこと。考えなしだって思ってるかもしれないけれど、君の行動力は何物にも代えがたい宝なんだから。それに騙されやすいってことは純粋だってこと。世界を素直に覗けるってこと。薄汚れたおじさんからしたら君の姿は眩しいよ。まるでお姫様みたい。言い過ぎか。
アヤネちゃん、君は本当にしっかりしてる。だからこそおじさんは心配だな〜しょい込む必要のない苦労までしょい込んじゃいそうで。しっかりしてるから抱え込んじゃいそうだもんね。ちゃんと信頼できる人に相談してね。先輩たちやセリカちゃん。お人好しの便利屋たちに、一緒に宇宙戦艦に乗った人たち。そして何よりも先生。誰かに頼っていいんだよ。君はまだ、一年生なんだからね「先輩を頼ってね! ホシノちゃん!」
「……チッ!」
舌打ち一つ。ホシノは顔を歪めた。頭に手を押し付けて幻影を振り払う。
代わりにノノミの顔が浮かんだ。出会った時のことを思い出した。それから、うなされている私の声を聞きつけて、部屋のドアを開けてくれた時のことを。
(あのとき)
私は君のことを邪険に扱ったけれど、内心は安心感で一杯だったんだ。大人に食い物にされて、連邦生徒会には見捨てられて、それでも一人で学校を守らなくちゃいけなくて、でも先輩についてのことは何にも整理がついてなくて、それに何より一人っきりで校舎の窓から砂漠の空を見ていると言いようもない孤独感に襲われて。
……おじさん、きっとあのとき、寂しかったんだと思う。
そんな孤独なおじさんが、学校の借金を親のゴールドカードで返そうとするような世間知らずに慰められるなんてね。仮にも将来を期待されてたエリートが、堕ちたもんだよ。
ありがとうね、ノノミちゃん。本当に安心したんだ。ノノミちゃん。
「せんせい……」
先生。シャーレの先生。私が初めて出会った。心から信じられる大人。どうか、どうか私がいないあの子たちのことを守ってください。純粋なシロコちゃんのことを、一生懸命なセリカちゃんのことを。真面目なアヤネちゃんのことを。それから誰よりも優しくて強いノノミちゃんのことを。
「きっと、きっとだよ」
私と先輩が守ってきたアビドス──学校なんて形じゃなくてもいいんだ。私たちが守ってきた、そして後輩たちが受け継ぐ居場所を、守ってください。
…………守って、
守ってください。
守って、、、、、、、、
-
──でも、先生もいなくなったら?
「……駄目だって」
もしも、先生がいなくなったら、アビドスの後輩たちは寄る辺を失う。彼女たちは確かに優秀だけれど、まだ子供なのだ。先輩の失踪の衝撃をやり過ごせるほど心は強くない。その時に他に頼れるものがあるか、ない。先生がいなくなれば、キヴォトスは一気に混乱状態に陥るだろう。三大学校やそれに準ずる混乱の収拾にはいずれも先生が深くかかわっている。そんな騒動終結の立役者がいなくなれば、当然滅びかけの学校一つ助ける余裕なんてなくなる。
(それだったら、絶対に、確実に帰らなきゃ)
「ああ、駄目だ駄目だ」
そういえば、大きなシロコちゃんは、シロコちゃん以外がいなくなった世界から来たって言っていたような。
(それってさ、)
それって、私がここに連れ去られたから起きた事態じゃないかな。
私がここに連れ去られたことで、アビドスの生徒たちは動揺、先生の負担が増大する。あの人は生徒を見捨てる真似なんて絶対に出来ない人だ。そして、小鳥遊ホシノの捜索なんて絶対に成果の上がらない作業に労力が割かれた結果、先生に危害が及ぶ出来事が発生する。そこで先生が人事不省に陥るなんてことになれば、もう崩壊は止まらない。アビドスの生徒たちは櫛の歯が欠けるように消耗して、最後にはシロコちゃん一人が残されることになる。
そして、シロコちゃんは色彩に囚われ、いくつものキヴォトスを滅ぼして回ることになる。
ほら、
私たちの先生に出会うまで。
ほら、
そんなこと、絶対に許されることじゃない。
(ほら、大義名分が出来たよ。聖杯戦争で勝ち残るための)
キヴォトスって広くて透き通った世界がいくつか、それと見知らぬ数十人。誰がどう比べたって前者の方が重い。だから、ホシノは絶対に生還しなければならない。アビドスに帰らなけらばならない。ついでに、薄い緑髪の女性一人連れて帰ったって。
(バレやしないよ)
ホシノは無音のままに立ち上がった。恐ろしいほどの無表情だった。そして、そのまま枕元のメルヘン生物を起こさないままベッドを後にすると、毎晩──ガス事故が起きてから毎晩──続けている日課のために外に向かって歩き出した。本当に無意味なそれを、ただ自分を慰めるための、自傷行為のような日課を。
◆◆
-
──おじさん夜は眠れないからね、年は取りたくないな。
先輩と一緒に見た夜空、復興計画なんて考えるよりも、もっとじっくり見ておけばよかった。星の光を眺めながら夢に微睡んでいられたら、それだけで、幸福を感じられたのに。
ちかちかと途切れ掛けている街灯に再現された虫けら(五分さえも存在しない)が集まっている。その向こうに冥界のふちが見える。砂に飲み込まれるのとはまた違った廃墟。滅んだという形容がふさわしい街並み。風化、住民たちが死に絶え、人間が信じられる価値ある物がが思い出とともに薄れた痕跡。そこに蠢く人影。
死霊、どこかの誰かを模した残骸、生者の運命に縋りつく者たち。
ホシノは胸元からスポーツタオルを取り出すと、転がっている瓦礫を拾った。遠心力を使って投げ飛ばす。キヴォトスの住人の身体能力で、瓦礫は無事目標に命中したが、それはちょっかいをかける程度のものに過ぎなかった。
ホシノに気が付いた亡者たちが冥界と会場の境界を目指してにじり寄ってくる。ホシノは素早く近隣の駐車場に身を潜めると、持ってきた双眼鏡を覗き込んだ。細心の注意を払って。決して不意を撃たれないように警戒しながら。
……ホシノは面影を探した。
(似ても似つかない)
死霊は、死の想念の集合体が偶発的に生物や人形を取ったものである。生者を見ると惹かれて襲い掛かってくる。おかしな話だが、死人の癖に生命力に溢れており、倒すには骨が折れる。
彼女は、身の程知らずの愚か者もしくは想像の及ばないほどの強者、または死霊術の専門家のように死霊を狩ることで戦闘経験を積み、魔力を貯めている────
(何をやっているんだろうね)
訳ではなかった。彼女はあろうことか貴重な睡眠時間を浪費し、その上他参加者やシャドウサーヴァントに襲撃される危険を何て全く意識しないまま、境界を目指してにじりよってくる死霊たちを観察していた。
どうにもおかしい。学校のNPCが亡くなった……消滅してから、夢見は悪くなるばかりだ。たださえ取れない睡眠時間がさらに短くなっている。そして、心が芯から震え始めている。とうに消え去ったあの人の声が聴きたくてしょうがない。
ホシノは中心に少女の顔を置き、周辺に生やした四本の腕のそれぞれに包丁持ちながら回転する死霊、輪入道のようなそれを視界に入れて、ちらりと空を見上げた。
(ここで死んだら、私も彼らの一員になるのかな)
無限に等しい時間を、生あるものが死に果てた地で彷徨い続けるのだろうか。
(意志は残るのかな)
かすかに残った記憶のもとに懐かしい面影を探して彷徨う。ふとした瞬間に空を見上げて透き通った青を思い出す。
「あーこんなこと考えちゃ駄目。帰る帰る」
おじさん裏技見つけてさっさと帰るんだから〜。こんなところで無意味なことをしてないで。見当もつかない方法を見つけなければ。
少なくとも、自分の手で生者を彼らの中に放り込むような真似をすることは許されない。
誰に?
「こんな状態じゃ返り討ちに会う可能性の方が高いよ〜」
へらへらしながら呟いた。誰も反応する人はいない。ただ潜んでいる駐車場の空間だとか、遠方に見える冥界の廃墟だとか。この前の引かれた手の感触だとか。今まで生きてきた現実と、現在置かれている非現実と、折り重なった隙間に見える過去。普段意識しないように処理している澱みがホシノの思考を侵し始めていた。
そもそも、なんで私こんなところにいるんだ?
「…………ハハハ、ははははは〜……」
笑い飛ばしてみようかと思ったが、うまくできなかった。全く隠すことばかりがうまくなっていた。そのせいで自分でも自分の感情を把握しきれていない。いや、真正面から向き合ったらおかしくなるからか。
「前は一人でも大丈夫だったのにねえ」
こんなじゃ駄目だよ〜。タスクは一つ一つ処理していかなくては。とりあえず、こんな精神状態に陥った原因は、あのヘルメット団似のNPCのせいだ。冥界私! が世話になっていた彼女が、教室で突然現れた私を連れ出した。それで、学校を休んで現状を把握していたら、彼女がガス事故に巻き込まれて亡くなった──。緊急停止。
「…………」
これ以上考えられない。NPCとユメ先輩とスラッシングする。ただ人が死んだだけだ。一瞬だけあった人が、NPCが消えた。それだけの話。何をメンヘラっている。消滅! 終わり! 考えない! それで済む話だろう。
(それが出来ないからこんなところにいるのか)
-
生きたように振る舞うNPCには向き合えないくせに。
死んだように振る舞う死霊たちには向き合えるのか。
「違うかな。生きているのなら、向き合えないんだ」
あの娘が死んだときに思い至ったのは、この世界に──ユメ先輩の姿をしたNPCが存在する可能性だ。
だって、もしもここに先輩がいて、生きている先輩がいるとして、
荒廃した砂地の学校でクソガキと二人ぼっちじゃなくて、
あの人にふさわしい日の当たる場所で、笑顔に囲まれて暮らしていたなら。
NPCであっても、ずっと眺めていたくなるから。ずっと、永遠に、死ぬまで。
そんなことになったら、もちろんアビドスになんか帰れない。それでも、あの人が生きている姿を見たい。声を聞きたい、傍にいたい。何か話して笑っていたい。
「ただ、動いているだけでもいいんだ……」
だから、代用品として死霊相手にユメ先輩の面影を探しているんだ。死霊に死者の痕跡を探す、愚かで無意味な死亡遊戯を続けてるんだ。
死にたい訳じゃないからね(満足できないくせに)
「私の命は、あの4人と先生が守ってくれた命、私は帰らなければならない」
帰って守らないと。皆を、私たちの居場所を、そうして守り続けていれば、いつの日にか──。
「……なんてことだ」
まだ、思い込んでいるのか? 帰る場所を守っていれば、いつの日にかユメ先輩が帰って来てくれるなんて、そんな文字通りの夢物語を──。
(心の何処かで信じているのか)
ホシノの瞳孔が揺れる。彼女はずっと昔の涙の気配をどこかに感じ取った。
必死になって再び双眼鏡を覗き込む。そして大きな息を吐くと、やって来た寂寥感の波ををやり過ごそうとした。残してきた後輩たちのことを考えようとした。
「…………ああああ」
けれども、脳内はあの人との思い出ばかりが巡る。これはたまにある最悪の夜を過ごすときの流れだと、ホシノは眉間に皺を寄せた。今の最悪の精神状態じゃ乗り越えられないかもと他人事のように考えた。
そして、いつものように残されたボロボロの盾で終わる。
ホシノは、心中の更に中心を侵す泥の冷たさに耐えきれなくなった。感情に任せて当たり散らしたくなった。そして、それさえも隠しておけるほどのユメ先輩への思いが、ただただ脳内だけに激情を留めていた。
なんで今になって……呼び出したんだ!
あの時に呼んでくれれば、私はユメを追いかけてどんなものだって踏みにじって走ることができたはずなのに……どうして……今になって……なんで連れてくるのなら、あのとき連れてきてくれなかったんだ。後悔だけを残して消えたあのときに、私の世界を終わらせた痕跡が生々と残ってきたあのときに。
「ああ、クソッ……」
駄目だ。これ以上冥界にいたら。先輩がいなくなってから、必死に構築した小鳥遊ホシノが──ただあの人の遺構を守るためだけの構造式が、制御できない変数のせいで狂っていく。
何処かにいる気がするんです。先生、先輩の痕跡が、そこかしこに彼女の名残がある気がするんです。
──シャドウサーヴァント。
幸運にもホシノが今までに出あうことがなかった英霊たちの影。それは今夜に限って彼女を射程圏内に捉えていた。死者をもてあそぶ不届きものに鉄槌を。暁のホルスに充足されし運命を持って歴史に帰り咲かん。
放たれた矢が彼女の脳天を貫き、その悩みのすべてを杞憂とする──。
その前に、ぴんく色が彼女の手を引いて、急転直下、星空へと自由落下していった。流れ星の光につつまれながら。
◆◆
-
「また、助けてもらっちゃったね」
彼には2回。ヘイローを隠してくれたときと今。そして、最初は先輩に、あの時は後輩たちに、今は君に。暁のホルスって、キヴォトス最高の神秘なんて呼ばれているのに。
「私、助けてもらってばっかりだね〜」
まさしく流れ星のような表記するとしたらキラキラという音を聞きながら、ホシノは目の前を流れる星空を眺めた。空中の冥界協会のギリギリを飛んでおり、まだ地上の光の影響を受けているせいか、視界に映る星の光はどこかぼやけていた。
「ごめんね〜ライダー。私、君にあたってたかも〜」
うい、と気にするなと言わんばかりに腕を振るピンク玉──カービィ。星のカービィ。前を見ないと危ないよ、ホシノが声を掛けると、大丈夫と言わんばかりに今度は両手を振って目を細めて笑った。事実、足元の流れ星はダリに言われることもなく巡航を続けている。
ホシノは姿勢を変えてライダーの頭に優しく手を乗せると、再び頭上の星界に視線を移した。
(キヴォトスの夜空とは違う)
冥界から見える星空とは、果たしてモデルとなった都市から見る空の現身なのか。それともあの夜空こそはまさしく冥界から除く別世界の光なのか。もしかしたら、あの光のどれかが私たちのキヴォトスの光なのかも。
君の世界の光もね。ライダー。
頭に疑問符を浮かべるライダーを横目にポムポムとその身体を押す。
「ここから脱出しなきゃ、それが正しい道」
アビドスに帰って、冥界に行ってたよ〜なんて思い出話をすること。それが青春の物語だもんね。
「君に罪を押し付けるわけにもいかないもんね」
皆が救ってくれた私だから。……抜き道探して帰ればそれで終わり。全部元通りになる。
それ以上を望むことは許されない──ホシノは足元の流星が文字通り星を曳きながら動いていることに気が付き、尾に流れゆく星に何の気もなしに目をやった。ちらりと地上の光が目に入った。
誰が? 誰が許さないの? 何を?
アビドスの皆が? 先生? 連邦生徒会? 大人たち?
ユメ先輩が生きてアビドスに帰ってくること、後輩たちと幸福に毎日を過ごすこと。なんでそれが許されないことなの?
ユメ先輩、あんなところでいなくなっていい人じゃないでしょ。
キヴォトスにはあの人よりいなくなっていい人なんてたくさんいるよ。
なんであの人がいなくならなきゃいけないの?
許されないというのなら、それはあの人を助けるどころか欺いた周囲の人間であり。
アビドスを見捨てた全ての学園及び企業であり。
あの人に責任を押し付けて食い物にした大人たちであり。
──私じゃないの。
「ライダー、くれるの?」
ホシノの目の前に差し出されたのは、イチゴのショートケーキ。全部食べてしまったと思われていたそれを、ライダーは一つだけ残してくれていた。遠慮するように首を振る彼女に、頑として彼は差し出し続ける。
根負けしたホシノは、眼前のケーキを口に運んだ。
「美味しい、……美味しいよ、ライダー」
食べたイチゴのショートケーキ。イチゴの酸味が口いっぱいに広がり、フワフワホイップとしっとりしたスポンジが追いかけてくる。美味しい、美味しい。皆が好きな味。生徒たちが好きな味。
ただ──ホシノは、心の底に生まれたそれを何時ものように誤魔化した。
ちょっと、おじさんには甘すぎるかな。
「ありがとうね、ライダー」
ライダー、星のカービィ。一頭身のマスコットじみた外見とは裏腹に高い戦闘力を持つ英霊。
通常召喚される際はフォーリナーのクラスで呼ばれる。
彼は本質的には旅人であり、意志に任せて銀河を跳ね回る寄流れ星のような存在だから。
しかし、今回はライダーのクラスで召喚された。異邦人の旅人ではなく、流星に乗って星々を駆ける者として。
それは、誰かがホシノのことを冥界から連れ出してほしいと、銀河に願いを賭けたからかもしれない。
彼女をすべての悪から星が隠してくれるように、星の光が彼女の道を照らしてくれるように。
決して夢に捕らわれないように。
──私の可愛い後輩のこと。頼んだよ。
-
【クラス】ライダー
【真名】カービィ
【出典】星のカービィシリーズ
【性別】不明
【属性】混沌・中庸
【パラメーター】
筋力:B 耐久:B 敏捷:C 魔力:A 幸運:C 宝具:EX
【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する抵抗力。テクスチャが異なる異星の存在であるため、多少ダメージを軽減できる程度のランクしか有していない。
騎乗:A+
乗り物を乗りこなす能力──幻獣・神獣ランクを除くすべての獣、乗り物を乗りこなせる上に、三角コーンからモンスタートレーラー、電球や水まで、頬張ることで乗りこなすことが出来る。
【保有スキル】
まんまるぴんく:A
カービィは一頭身であり、地球上の生物とは一線を画する生物がサーヴァント火したものである。
頑丈なその身体は耐久値を超えるまでパフォーマンスを落とさず動き続けることが可能であり、その上で愛らしさを保ち続けることが出来る。戦闘続行とマスコット的可愛らしさを併せた複合スキルであるが、
一方で流暢に話すことが出来ず、yes,noの意思表示および何となくの会話以上はできない。
春風の旅人:A
精神面への干渉を無効化する精神防御。悪心の影を映し出す鏡によっても単なるいたずらっ子以上の存在を生み出すことがなかったその精神はまさしく明鏡止水──(いやこれ明鏡止水かな? 欲望に素直で何にもかんがえてないだけじゃないかな)──である。また、格闘ダメージを向上させる効果もある、ほとんど勇猛の互換スキル。
刹那の見切り:B
修行・鍛錬によって培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、場に残された活路を導き出す「戦闘論理」。要するに心眼(真)。一瞬の攻防において自身の判定に補正が付く。
【宝具】
『星のカービィ』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:-
はるかぜとともに あらわれた、一人のたびする わかものは、
すきなものをすいこんで、そのすがたをなりたいじぶんにかえる。
たくさんの 友だちと出会って、美味しいものをたべるために!
常時発動型の宝具。カービィはその大きな口で吸いこんだもののエネルギーや性質をコピーすることが出来る。雷を吸い込めばプラズマを自在に操ることが可能となり、剣を吸い込めば瞬時に剣の達人となり、コック帽子を吸い込めばコックさんになれる。(タイヤを吸い込めばバイクになる)また、宝具を吸い込んだ場合はそっくりそのまま同ランクの宝具を使用することが可能。(名称が一部が桃色関係に置換される)コピー時はステータスが能力に従って変動する。
吸い込んだものはコピーせず、そのまま星型のエネルギー弾として射出することも選択できる。
吸い込める範囲は本人のやる気と元気とテンション次第、ただし毛虫とゴルドーは吸い込み不可。
『ワープスター』
ランク:A++ 種別:対界宝具 レンジ:1~999 最大捕捉:-
星々を渡る勝手気ままな流れ星。カービィが乗り物として騎乗している。
戦闘能力を持たない乗り物であるが、たんなる壁程度であれば破壊して突き進む頑強さを持つ。
速度加速運転性どれをとっても高性能であり、曲芸飛行による変態軌道も可能。
一方で自意識らしきものがあり、わざと雑に飛んでカービィを振り落とすことがある。
最高速度から加速し続けることで文字通り空間跳躍を行うことが出来るが、
短距離であっても耐久性を大きく損ない、長距離使用時は使用不能になる。
また世界を跨ぐほどのワープは耐久性及び座標把握の問題から使用不可。
【weapon】
素手
【人物背景】
春風とともにやって来た、宇宙を旅する旅人。
天真爛漫で自由気ままな性格。食べることと歌うことと寝ることが大好き。
座右の銘は「あしたは あしたの かぜがふく」
-
【サーヴァントとしての願い】
美味しいものを食べて、お昼寝して、友達と遊んで、美味しいものを食べて、お風呂に入って、眠りについて、それからそれから──
【マスターへの態度】
一宿多ケーキの恩! ホシノのことを守る。
【マスター】
小鳥遊ホシノ@ブルーアーカイブ
【マスターとしての願い】
キヴォトスに帰還して、この体験を青春の記憶にする。
遅い奴には、祈ってやらない。…………今は。
【weapon】
Eye of Horus
べレッタ1301をモデルとしたセミオート式のショットガン
【能力・技能】
キヴォトスの住民の中でも最高クラスの神秘を持っており、
常人をはるかに超える耐久性や運動能力を持つ。
魔力についてもライダーが難なく宝具を継続使用できるレベル。
【人物背景】
小鳥遊ホシノ。
飄々とした態度の一方で、しっかりとした芯を持ち、
仲間たちに対しては年長として諭す態度をとる。
一方で過去の出来事から連邦生徒会や大人に不信感を持っており、
梔子ユメのことは大きな心の傷になっている。
【サーヴァントへの態度】
守ってくれてありがとう。
……あんまり君が嫌なことはしたくないな〜
【方針】
おそらく他の参加者に身元が割れているので、
逃げ回って遊撃しながら、脱出手段と協力者を探す。
メンタルには気を付けないとね。
-
投下終了です。
-
投下します
-
「烏滸がましい。私と戦えるつもりでいたのですか。」
黄金の大斧を掲げ、路地裏に佇む男。
彼を中心に放たれた高熱が、この一帯だけ真夏になったかのように錯覚させる。
口髭の男を仮に人と呼ぶのならば、頭に“超”か“怪”の文字が付くことだろう。
男の身長は3mを優に超えている。膨れ上がる筋肉は見るだけで抗いようのない暴力を想起させ、背中に彫り込まれた赤い獅子が威圧的に牙をむいていた。
男の視線の先で、焼け焦げた男が光となって消えた。
サーヴァント、ランサー。男はついぞ焼き消えた彼の名前を知ることはなかった。
消滅を確認すると、男は背後に浮く軍服の少女に視線を移す。
「これが聖杯戦争です。理解しましたかレオパルト。」
「よ〜く分かったよ。てめーがブッ飛んでるってことが。
戦いなわけねえだろあんなの。弱い者イジメの間違いじゃねえのか。」
レオパルトの言葉に男は「イジメとは心外ですね。」と不服を漏らすが。レオパルトにしたら他に形容する言葉が見つからなかったし、少し離れた先で室外機に隠れてガタガタ震えるランサーのマスターからしても同意だろう。
それほどまでに、バーサーカーは圧倒的に勝利した。
魂喰いを行っていたランサーと相対し、幾何かの口論の末(レオパルトはその内容を覚えていなかったが、ランサーの挑発をバーサーカーが笑って受け流していた)互いに武器を抜いたのが1分ほど前だったか。
ランサーの高速の刺突を斧で防ぎ、間合いに入った敵に対して斧を振り下ろす。紙が破れるようにランサーが右肩から真っ二つに裂けた。
ランサーが状況を理解するより早く、バーサーカーはランサーの頭蓋を掴み何か――後にバーサーカーが有する高熱の魔力の塊だと判明する――を口から流し込む。
両者のマスターが状況を認知する頃には、ランサーは既に負けていた。
超高熱の魔力により中から霊核ごと焼け焦げた姿が、真っ二つのまま横たわり、光となって消えた。
「うそだ...うそだ.....うそだ.....」
1分前にはランサーを携え自信に満ちていた男の顔は、真っ青になって言葉にならない音を鳴らして震えている。
隠れて震えている男に対して、レオパルトは右手に構えた小銃を向けた。
「なんっつったっけこいつ。」
照準を合わせて初めて、この男の名前を知らないことをレオパルトは思い出した。
というかどんな人間なのか全く知らない。戦闘になる前にはなにやらごちゃごちゃとわめいていた気がするが。
「俺のランサーと俺の能力があればだれにも負けることはない!」だったか。
「根源も求めず魔術師としての誇りも知らないようなカスが。神聖なる聖杯戦争にどの面下げて参加している!」だったか。
「ガキかと思ったらなかなかいい体しているな。従属を誓えば実験体じゃなく俺のペットとして飼ってやるぞ。」だったか。
高尚な目的を長々と語っていたような、自分がレオパルトに比べてどれだけ優位で優秀な存在なのかをつらつらと並べ立てていたような。
「ど〜でもいいか。」
この男への理解はさっぱり深まらなかったが、不快以外の感情がない敵をそのまま見逃すという選択肢は、レオパルトには無かった。
二分前には怒り狂いそうな程の嫌悪感があったが、バーサーカーの圧勝と同時に掻き消えていた。
バーサーカーの放つ熱によって3月とは思えないほど暑い世界で、ただ一人。
レオパルトだけが冷えた思いで銃を構え、冷えた感情で引き金を引く。
引き金に重さは感じなかった。
-
バン とまずは一発。
乾いた音が掻き消えるのを待たずに、金属と金属がぶつかる音が路地裏に響く。
バーサーカーの黄金の斧がレオパルトの弾丸を弾き、ビルの壁面に音を立ててめり込んだ。
生き延びた男は我に返りきょろきょろと慌てふためくと、飛び立つ鳩のように拙い走りで逃げていった。
「ンで止めんだよ!!バーサーカー!」
「捨て起きなさい。既に彼ができることは残されてない。
貴方の魔力は有限。無駄な弾丸に使う余裕などないでしょう。」
ランサーを失ったとはいえ、男の手に令呪はきっちり残っていた。
レオパルトにしてみれば、男を撃ち戦闘不能にすることは戦略的に間違っていないものだ。
確実性を取るのなら、むしろ必然の策だと言える。
それを理解したうえで、バーサーカーは銃弾を防いだ。
ともすれば利敵行為だと言われかねない行いを責めるマスターに、傲岸不遜に言葉を返した。
「驕るなレオパルト。聖杯戦争の勝利など私一人で事足りる。
ランサーを倒した時点で既に勝っています。あの男がまだ戦う意思を持ち戦う必要があるのならば、私がとうに倒してますよ。お前はただ構えていればいい。」
「アタシには戦うなっていいてえのか!」
「そう言っているのですよ。これは聖杯戦争。
戦うのはサーヴァントの役目。多少魔力に長けているとはいえお前のごとき小娘では戦場に立つには不足ですよ。」
それは聖杯戦争としてはごく当たり前のルールだ。
通常の魔術師や戦う力を持たないマスターなら、その通りだと忠言と受け取るかもしれない。
だけども悪の組織の女幹部として前線に立ち、多少なりとも自分の力に自身を持っているレオパルトにとって、その言葉は戦力外通告も同じであって。
年若く好戦的な彼女をイラつかせるには、傲慢な言い回しも含めて十分にすぎた。
何か言い返そうと口を開くレオパルトを前に、バーサーカーの巨体がみるみるうちに消えていく。
「てめー何消えてんだ!!!」
「熱も十分に冷えた。話があるなら『夜』になってからだ。
戦えるというのなら、他の主従が来る前に自分の身くらい守ってみせなさい。」
額に青筋を浮かべるマスターをよそに、言うだけ言ってバーサーカーは姿を消した。
全身から高熱を発するバーサーカーは、ただいるだけで物理的にも魔力的にも篝火のように目立つ。そのため彼は日が昇る間は不必要な実体化を避けている。
レオパルトもそのことは知っているが、まさかこんな勝手に会話を切って霊体化するとは予想外だった。
こうなると念話もダメだ。通じないではなくロクな答えを返さない。
自分が“主”で相手が“従”であるかどうかなど、この男には関係ないのだとレオパルトは心底理解させられている。
手に余るどころか手綱がない、そういう意味で会話こそできるが男は紛れもなくバーサーカーだった。
「…とりあえず、『夜になったら』一発しばくか。」
不毛な決意だけをいだきながら、変身を解除したレオパルト――阿良河キウィの姿が群衆に紛れて消えた。
その後魔力を追ってきた主従が見たものは、ただちょっと気温が高い路地裏でしかなく。
何が起きたのか気づいたものは、誰もいなかった。
◆◇◆
聖杯戦争が街に紛れて行われるのであれば、目立ちにくい夜に活動する主従のほうが多いだろうことは想像に難くない。
そんな聖杯戦争の主戦場ともいえる夜に、積極的な参加者である阿良河キウィが部屋で退屈そうに横たわっているかと言えば、バーサーカーの特異性が理由だった。
「昼間はすいませんね…イテテ。」
つまらなさそうにスマホを眺めるキウイは、壁越しに立つ男に視線を移す。
そこに彼女のバーサーカーが立っている。同じように口ひげをつけ、どこから取り出したのかメガネなどかけて。
頭上には宣言通りキウィにしばかれて(レオパルトに変身したらサーヴァントを殴ることくらいはできた。)たんこぶを作っている。
-
「…何度見てもいみわかんねー。昼間にランサーを瞬殺したの本当にお前?」
その姿は昼間に見た巨漢とは似ても似つかない。
3mを超えた体躯はキウィと大差ない程度しかなく、筋肉で膨れ上がった体は骨と皮しかないのでないかと思うほど細い。みすぼらしいと言っても差し支えないほどだ。
昼日中に見せた剛力無双は見る影もなく。殴り合いをすればレオパルトにならずともキウィが勝つと確信できる。
それくらい今の彼は弱そうで、事実として弱かった。
日が昇る合間は最強の巨漢。日が沈んだ後は最弱の人間。
とても戦力として、市内を連れまわせるサーヴァントではない。
それがバーサーカー。『エスカノール』の特異性だった。
「ええ、昼間はちょっと人が変わってしまうのですが。」
「何にもちょっとじゃねえからな。」
黄金の大斧を振るう男がヒョロガリおじさんに変わることを、ちょっとの変化と言うほど阿良河キウィは大雑把な人間ではない。
彼女が知る人間だとマジアベーゼ...柊うてなより変化が激しいのではないだろうか。
もはや二重人格というほうが理解しやすいほどだった。
当のバーサーカーは「そうですよね。」と静かに返し、小さく笑った。
「ただね、昼も夜も僕は僕です。あの時言ったことは変わりませんよ。」
昼と一人称が変わっているからか、何のことなのかキウィは一瞬分からなかった。
―――お前はただ構えていればいい。
バーサーカーの発言が昼間の話と繋がっていることに、数秒間をおいてキウィは気づいた。
律儀にバーサーカーのほうを向くことはなかったが、キウィは眺めていたSNSから目を離し、スマホの電源を落とす。
バーサーカーのことは苦手だし嫌いだが、真面目な話には耳を傾けるくらいはしてもいいとは思っていた。
「ひょっとしてアレか?アタシに”戦うな”って言ったこと?」
「そのことです。この話は一度はっきりしておくべきでしょう。
...僕としてはやはり、キウィくんには戦って”ほしくない”んですよ。」
同じことを言っているのに、昼間の傲慢な言い回しに比べ随分穏やかで優しい言葉だった。
昼のバーサーカーではできなかった話ができるのなら、キウィとしても願ったりだと不満をぶつける。
「なんでだよ。アタシだって戦いたいし戦えるんだけど。」
「確かにキウィくんの力は聖杯戦争を勝ち抜くにあたってとても有用です。
銃撃、爆撃能力は火力範囲共に優秀です。
消費の激しい昼間の僕のようなサーヴァントを運用できるのも、“レオパルト”としての君の力は無関係ではないでしょう。」
「よくわかってんじゃん。」
「ですが、あくまで“力は”です。
キウィくん。貴方は戦場に立つには若すぎるし純粋すぎる。
リオネス王国聖騎士として…過去を生きた者として、貴方のような子供を戦場に立たせたいわけがないじゃないですか。」
壁にもたれかかりながら、膝を曲げて腰を落とす。そんな些細な動きにもどこか力が抜けたような弱弱しさがある。
自分のサーヴァントの年齢など気にしていなかったキウィだが、もしかしたら自分が思っていたよりずっと年上なのかもしれない。
あるいはそれは、自分のサーヴァントのことを“いけすかないおっさん”ではなく“過去を生きた者”だと認識を改め始めたきっかけかもしれなかった。
「キウィくん。これは聖杯戦争です。“戦争”なんです。」
“戦争”という言葉を強調した物言いだった。
エスカノールは生前、戦争を経験している。
それはキウィがイメージするようなや爆撃ひしめくものではなく、彼ら〈七つの大罪〉を筆頭に女神族や魔神族らが大陸を変化させるほどの激戦を繰り広げた『聖戦』なのだが。
兎も角、エスカノールは戦争を知っていた。
命が失われる苛烈な世界を、全霊を尽くした戦いが続く環境を知っていた。
そして阿良河キウィはそれを知らなかった。
少なくとも、今はまだ。
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「ンなこと分かってるけど?大事なことか?」
「大事なことです。僕が見るに…貴方は戦争を知らない。
取り返しのつかない喪失も、背負うべきでない大罪も貴方は知らない。」
レオパルトは“正義の敵”だ。時に“悪の敵”だったこともあったかもしれない。
一般人への攻撃などしない。魔法少女たちの家族を狙ったりしない。
その理由には彼女が愛するマジアベーゼの思考(どちらかと言えば嗜好のほうが適切な表現かもしれない)が密接に絡んでくるのだが。
キウィ本人にしても世界征服には興味はなく、魔法少女を倒す以上に露悪的かつ合理的な行いをする理由がなかった。
キウィは、『銃を向ける相手』を選んで戦ってきた。
魔法少女か明確に敵となる相手、冥奥都市では葬者とそのサーヴァント以外を積極的に狙わない。人命を軽視するマスターと比べてはるかに善良な人物である。
だが、一度銃を向けた後の引き金は軽い。
ロコムジカの仮設ステージに躊躇なく爆弾を投げ込んだことしかり
都市部で暴れたシスタギガントにためらいなく最大火力を叩きこんだことしかり。
エスカノールがランサーを倒した後、マスター相手に引き金を引いたこともそうだ。
人が撃てるかどうかで区別するなら、“レオパルト”は間違いなく人が撃てる人間だったが。”阿良河キウィ”がその先に耐えられるかは区別できない。
友人が深手を負うことに取り乱す彼女が。そのことに『耐えられる』人間であるかどうかは、キウィ自身にもまだ分からない。
「貴方を戦場に出すということは、貴方に取り返しのつかない一線を越えさせてしまうかもしれないということです。」
「それ、そんなに重要〜?」
「重要ですよ。背負いきれない罪は、未来さえ狂わせてしまう。」
エスカノールのその身に余る『太陽〈サンシャイン〉』の力。
彼にとっては大切な誇るべき力であると同時に、運命を狂わせた力。
家族を失い、故郷を失い、信頼を失い、未来を失い。
辿り着いた先で、七つの大罪という居場所を得た彼の言葉は。キウィの人生で聞いた言葉の中で、最も重たい言葉だった。
「貴方のような若い少女に拭えない罪を背負わせてしまっては、貴方の仲間にも、〈七つの大罪〉の皆にも会わせる顔がない。」
「…。」
「貴方は優しい。越えられない一線を越えた自分を。…きっと許せなくなってしまう。」
人を撃てる正義の敵を、人を撃った悪にしたくない。
今の彼女が知らない未来を、あり得ないものとして終わらせたい。
それがエスカノールの切なる望みであった。
昼日中は傲慢な言い回しが鼻につき、夜は気弱な態度が癪に障る。
そんな印象だった自分のサーヴァントと珍しく建設的な話をできたキウィは、笑顔を向けた。
建設的な話が出来た事ではなく、それでも大丈夫だという不遜な笑みを。
「安心しろよ。お前が思うようなことはしねえって。」
サーヴァントの望みの全てを理解できてはいないだろう。
そのことをキウィ自身が一番よく理解しながら。確信をもってはっきりと。
寝転んだベッドに座り、エスカノールを正面から見据えて言った。。
「僕としてはキウィくんがそう言ってくれるのは嬉しいですが。なぜ?」
「“それ”はきっと、うてなちゃんが嫌がることだからだよ。だから、アタシもしたくない。」
エスカノールの危惧する、取り返しのつかなくなる戦い。
レオパルトが“魔法少女の敵”から“悪”になるというシナリオ。
エスカノールはそんなことは望んでいない。
阿良河キウィもそんな真似はしたくはないし。
柊うてなだってきっと望まないだろう。
キウィにとっては、それで十分だった。
柊うてなが嫌がるのなら、彼女にとっては考慮に値しない。
うてなが嫌がるのなら世界征服には賛同しないし、うてなが敵と定めたのならキウィにとっても敵だ。阿良河キウィはそういう女だ。
思考を捨てるわけではなく、一途に思うからその意思は固い。
エスカノールが言うまでもなく、一線を超える気は彼女にはなかった。
エスカノールはその言葉にただ「なるほど。」と返す。
阿良河キウィにとって柊うてながどれほどの存在であるか、彼は知っていた。
星を刻んだ胸に宿る柊うてなという太陽を。知っていた。
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「だけど、言いたいことはわーったよ。
...考えとく。そうじゃないと、きっとアタシは、胸を張ってうてなちゃんに会えなくなる。」
エスカノールの、”戦争を知る”者の言葉を、どうにか嚙み砕いて出てきた答えだった。
興味がないと切って捨てても良かったはずなのに、なぜこうもいけ好かないおっさんの話に真剣に付き合ったのだろうか。
それは分からない。分からないが。
『胸を張ってうてなちゃんに会う。』と言い切ったことで、背負っていた何かが軽くなった気がした。
「そうですか。
そう言ってくれるだけで、僕は充分です。」
狂戦士とも傲慢の罪ともそぐわない、穏やかな笑顔でバーサーカーが姿を消す。
おそらく部屋からも出ているだろう。年頃の少女の部屋に残ることはしない男だ。
一人残った部屋で、キウィはレースのカーテンを広げた。
夜の街は、未だ眩しく。人々が行き交っている。
暗躍するサーヴァントも、聖杯を狙うマスターも、少なくないだろう。
マンションの最上階でらしくもなく物思いにふけり。そんな世界を彼女は見ていた。
街を見て、空を見た。
3つの星が、キラキラと強く並んで光っている。
なぜランサーのマスターに引き金を引いたのか。
そう問われたらキウィに答えることは出来なかった。
だけど、あの時バーサーカーが弾丸を弾いてくれたことは、自分が思っていたよりずっと重大なことだったのではないだろうか。
太陽の沈んだ空に、3つ並んで浮かぶ星を見ながら。ふとそんなことを思うのだ。
【CLASS】 バーサーカー
【真名】エスカノール@七つの大罪
【ステータス】
筋力E〜EX 耐久E〜EX 敏捷E〜EX 魔力EX 幸運C 宝具EX
【属性】秩序・善・人(通常時)/中立・善・天(日中)
【クラススキル】
狂化:E〜EX 『我・太陽なり(エスカノール・サンシャイン)』と統合されおり、宝具の状態に合わせてステータスの上昇・意思疎通の困難さが変化する
エスカノールの場合言語機能が失われることはないが、Bランク以上になると同時に傲慢さに満ちた態度を隠さなくなり、マスターの指示を受け付けなくなる
【保有スキル】
傲慢の罪:A 生前のエスカノールは七つの大罪と呼ばれる最強の騎士の一員である
昼日中の彼の傲慢不遜な姿であると同時に、騎士団にて多くの武勲を成しえたことを示す
太陽の恩寵:EX エスカノールが有する魔力であり 本来は最高位の天使である「マエル」が持つ恩寵
太陽を関するその名に偽りなく、本気で発動すると周囲に影響を及ぼす熱量を有する
半面、本来は人間が耐えきれるようなものではなく。過度に使用するとエスカノールの身体そのものを焼き尽くす危険性がある。
不撓不屈 C+ 強靭な精神性・タフネスを示す
後述の宝具が適用されている間は肉体的にも人間の域を超えた頑健さを誇ると同時に、その精神性や勇気は彼自身の力量に関わらず有しているものである
【宝具】
『神斧リッタ』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
エスカノールが有する神器であり、一流の勇士であっても持ち上げることさえ困難な超巨大な片手斧
武器としても強力ながらその真価はエスカノールの魔力を吸収し蓄える「充填&放射(チャージ&ファイア)」。周囲への被害を軽減する他、蓄えた太陽を放出することで夜においても短時間だけ彼の真価を発揮できるようになる
『我・太陽なり(エスカノール・サンシャイン)』
ランク:E〜EX 種別:対人/対軍宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
エスカノールの根幹を成す 太陽の力 常時発動型の宝具
彼の力は日の出とともに強くなり、正午にて頂点に達する
太陽が昇るにつれ《狂化》スキルのランクと全ステータスが向上し、正午が近づく頃にはトップサーヴァントにも匹敵する。
一方夜になると彼の能力は大きく落ち、通常の人間と大差ない力にまで減少する。
日の巡りと共に自動的に発動する宝具であり。発動を止めることはエスカノール本人にもできない
『天上天下唯我独尊(ザ・ワン)』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
正午の一分間にエスカノールが至る 無双の権化
こちらも正午の1分間には自動的に発動する宝具であり。この状態のエスカノールは手刀や突きといった攻撃さえも神霊の一撃に匹敵する文字通り別次元の強さを持つ。
正午の一分以外にこの宝具を発動するには、令呪かそれに相当する魔力が必要となる。
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【weapon】 神斧リッタ 及びエスカノールの肉体そのもの
【人物背景】
リオネス王国最強と謳われた聖騎士 『七つの大罪』の一人 『傲慢の罪(ライオン・シン)』
日が昇る間は最強の騎士であり、日が沈むと最弱の騎士となるきわめてアンバランスな男
その身を焼き尽くしてでも、仲間と共に戦い続けた優しき騎士
【サーヴァントとしての願い】
聖杯根の望みとしては、平和な世界を生きる仲間たちを一目見る
聖杯戦争においては、キウィが誰も殺さずにいられること
【マスターへの態度】
1人の大人として毅然とした態度で接する
帰りたいという彼女の願いを叶える中で、超えてはいけない一線を越えかねない危うさを感じている
【備考】昼夜のない冥界でどうなるかは確認していないが、
『我・太陽なり(エスカノール・サンシャイン)』の効果は失われ戦えなくなると想定している。
【マスター】 阿良河キウィ@魔法少女にあこがれて
【マスターとしての願い】生き返ってうてなちゃんと会う そしてホテルに行く
【能力・技能】
悪の女幹部 「レオパルト」への変身能力を持つ
銃撃や爆弾を用いた戦闘を得意とし、正面から叩き潰す戦い方を好む
令呪はハートのような形になった三本の鍵爪
【人物背景】
愛に熱い少女
元々は自分を一番ちやほやしてほしいと思い、自分より人気のある魔法少女を嫌っていたが。
悪の組織エノルミータに加入しマジアベーゼと出会ったことで、マジアベーゼに一途に忠誠と愛情を向けることになる
喧嘩早く口も悪いが、面倒見のいい女
【方針】
生き返るために聖杯を狙う
そのためならなんだって…
【サーヴァントへの態度】
クソむかつくおっさん なよなよしてんのか傲慢チキなのかわかったもんじゃない
信頼も尊敬もしてないが、味方であることは理解して最低限信用している
【備考】参戦時期は原作24話と25話の間 正確には異なるがアニメ一期で起きた出来事は経験している
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投下終了です
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投下させていただきます。
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重なる声を、すぐに届けにゆくから。
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それは悪魔的な空間であった。
畳敷、六畳半。決して広くはない、しかし少女ひとりが生きるには十分なスペース。
戸棚の上に山と詰まれた同じ絵柄のA4写真や、押し入れの中から覗く和室に不釣り合いな音楽ガジェット等々、いくらか変わった点だってあるが。
しかし少なくとも21世紀初頭に生きる女子のそれとして見れば、ある程度は日常染みた、普通の部屋だ。癖のない作りの家の一室に、住人がある程度の個性を付けた、そんな何処にでもある部屋。
そして、そんな何処にでもある部屋だからこそ、その異常性、日常から踏み出た歪さは極大の不協和音となって見るモノに怯懦の念を抱かせる。
この場合、それは屹立する長身の骸骨だった。
それが、この場における歪みであり、異常性であり、そしてあってはならない恐怖であった。
身の丈は二メートルを超える長身。部屋の高さが追い付かず、僅かに首を傾げて、少女を見下ろすような角度になっているのが恐怖を煽る。身を包むのはおどろおどろしさに似合わぬ目に痛い色彩の衣装で、エネルギッシュなスタイルは死の象徴たる身体にまるで似合わない。極めつけは毛根などない筈の頭蓋骨の上に収まっているアフロヘアーで、鬘にしか思えないそれはどこか滑稽さを与える筈のイメージに反して一層不気味さを引き立てている。
そんな存在に見下ろされている少女は、固まったように動かない。
それもそうだ。只人ならばこの異常性、ただ怯えることしかできないだろう。己の居室という空間に突如として這い出た異常。事実、五分前にはこの部屋どころかこの世界そのものに存在しなかった筈の異物が目の前に表れたのだから、そうなるのも無理はないというものだ。
ただじっと目を伏せて、夢だと信じ込むようにぶつぶつと呟きながら、それでも視線だけは離さずに骸骨から離さない。
まるで、それが動き出すと知ってしまっているかのように。動き出すからこそ、その瞬間を見逃してはならないと知っているかのように。
「……畏れながら」
「あっ……」
――そして、『それ』は口を開いた。
しわがれた老人のような声は成程骸骨の不気味さとよく噛み合い、如何にもこの状況が悪魔的なそれであることを主張する。
対する少女はといえば、恐れ縮こまったように顔を伏せたまま答える。心無しかその存在自体が萎んだようにも見え、長身の骸骨との見た目の差はみるみる開いていくようにすら感じられる。
「貴女がワタシのマスターということで、よろしいでしょうか」
マスター――主人。
それはある意味で意外な言葉。つまりはこの骸骨を呼び込んだ主人は、この怯えている少女の側であるという。
なるほど、例えば清純な少女であれば、その血を生贄に悪魔を召喚するというのもまた古今東西に存在する儀の一つ。
「あっ……あっはい……」
しかし、それはこの状況においてはあまりにも滑稽。
場の主導権は明らかに骸骨が握っている。少女は怯えて縮こまるばかりで、
有り体にいえば、失敗といったところだろうか。召喚は失敗し、本来あるべきだった主従は逆転した。
そして、悪魔との契約が失敗したのなら、その結果もまたやはり一つ。
「では不躾ですが、マスター」
「え、あっ、なっ、なんでしょう………」
すなわち、その報酬を貪り尽くされるという、あまりにもありきたりな結末。
そして、その骸骨もまた。
おどろおどろしいその外見のままに、欲望に正直な性質のままに、その欲求を、口走った。
「──パンツ見せてもらってもよろしいでしょうか?」
「あっはいこんな無価値なものでいいならいくらでも…」
ぺらり。
そしてマスターと呼ばれた少女は、特に何も躊躇することなくパンツを見せていた。
女子高生の部屋で、住人である女子高生が、アフロを被った骸骨に、パンツを見せていた。
「ふむ―――――」
果たして。
恐怖の象徴であったはずの骸骨は。
女子高生のパンツを、ゆっくり、しかしその虚ろな目の中にしっかりと刻み込んで。
心無しか、頬を染めているようだった。
「まあワタシ…………染める頬ないんですけど―――――!!!ヨホホホホホホホホホ!!!」
どたどた。
「今度はどうしたのおねえ――キャーーーーーーー!ガイコツーーーーーーー!」
「何、ガイコツですってふたり!?お母さん、知り合いの霊媒師さんに声かけてくるわね!?」
「大丈夫かい母さん!?って、えぇ!?!?本当に骸骨!?!?ひとりが親し気に骸骨を部屋に呼べるようになったのかい!?!?」
「ヨホホホホホホホホホホ!!!!45度!」
「おもしろーい」
「えっ、えっあっ……そうだねふたり」
閑話休題。
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「いやはや、盛り上がってしまって申し訳ありませんマスター!!ワタシ、サーヴァントとしてこの世界に三度目の生を受けるなどとは思っていなかったものですから!!思わず胸が高まってしまい!!」
「あっはい……」
改めて。
外見からは想像できないくらいに気さくなその骸骨が、茶(母親がひとまず置いておいてくれた)を啜りながら告げた。
緑色の液体がどこに吸われていくのかも分からぬまま、少女――後藤ひとりは、完全に怯えて固まり、何もできぬまま目を逸らし続けていた。
「えっ?高まる胸、どこにもないだろって?テキビシーーーッ!!!ヨホホホホホホ!!!」
「あっえっあっそうですね……はは……」
というのも。さっきからジョークのキレが良すぎるのである、この骸骨。
カラカラコロコロ。骨が擦れ合うような音と共に、甲高い声で冗句を言ってはセルフツッコミで笑ってくる。こっちが反応できない――滑っているわけではなく、どう反応すればいいかわからないだけだが――ことすら気に留めず、とどまることなく言葉を回す。
陽気さ、気楽さ、軽妙さ。本来なら陰の存在の筈の骸骨が出すにはあまりにも明るすぎる雰囲気。それは、所謂陰の者、孤独を好むタイプの人間には存在するだけで身を焼かれるようなもので。
つまり、恐怖ではなく。
後藤ひとりという、ドが頭に付く程のコミュ障が怯えている状態だった。
「えっ?剥ける皮ないだろって?正論ーーーー!!ヨホホホホホホホ!!!」
すごいテンションが高かった。
それはもう、常に笑っているのではないかと言わんばかりに。こちらが話さないでいたとしてもセルフでボケては突っ込む永久機関。
立ち居振る舞い自体は(骸骨だけど)どこか紳士的なものを思わせるものであり、明らかに陽の当たる場所に居るべきではないビジュアルも含めて、わたしのような陰キャにも優しい存在なのだろうかと思ったのに。
(ダメだ!ついていけない!ガイコツなんてブラックで陰でホラーに出てきそうな要素の塊なのに、私より遥かにパリピだ!!!!)
それもそのはず。相手は、『大海賊の船員(クルー)』である。
数多の海を越え、困難を踏破し、太陽の神が如く笑いながら世界を股にかけた大海賊。嵐の航海者。ワイルドハントの果てを行くもの。その脇を固め、航海を彩った名だたる戦士のうちの一角。
つまるところ――コミュ症な訳がない。笑い笑われ怒られ蹴られ、コミュニケーションの一環として平然と暴力が飛び交いつつも、鉄火場では何一つ衒いなく背中を預けられる唯一無二の関係性。
そんな陰キャからしたら信じられないくらいのさっぱりとした関係性を持った荒く猛々しい人々の群れに、わたしのような人間を放り込んでみたらどうなるか。答えは予想するまでもない。
『ぼっちちゃーん、次の航海に連れて行く音楽家の人見つけたからぼっちちゃんとはここまでだね!』
『ぼっち、船降りな』
『後藤さん、心配しないで!海賊やめても音楽で食べていけばいいの!まずはグランドラインにある”カーニバルの町”サン・ファルドからイソスタ映え海列車沿線ツアーに出発よ〜〜〜〜〜!!!』
(つまり――超体育会系コミュニティ!わたしなんかが入ったらハリケーンが吹いた瞬間にそのまま放り投げられる!海に出て五秒で藻屑の仲間入りだ!……あっそれはなんかいいかも)
そう、わたしは偉大なる航路(グランドライン)の雑魚!海賊には日々の糧として釣られては食べられ海王類の餌として食物連鎖の一番下で命を散らすだけの存在なんだ!海のコックに味を品定めされたら、「まあ食えなくはねえがな、食材にも質ってモンがあるだろ」と嫌々使われる程度の食材!!
「聞いてください、『弱い私は死に方も選べない』……」
「えェ〜〜〜〜〜!!??暗い〜〜〜〜〜!!!!」
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「聞いてください、『弱い私は死に方も選べない』……」
「えェ〜〜〜〜〜!!??暗い〜〜〜〜〜!!!!」
じゃぁん、とギターを掻きならせば、その音に負けないくらいの声量で乗っかってくる。パーソナルスペースを踏み越えることにまったく躊躇がない。怖い。どういう人種、いやどういう霊種なのだろう。
もしかしてわたしは、サーヴァントとかいうものではなく、外界にいるという死霊を呼んでしまったのかもしれない。確かに、考えてみればわたしが英霊なんてものを呼び出せるはずがない。わたしはこれからこの人に取り殺されて、そのまま冥界にポイってされて、じめじめとした死後の世界でお母さんお父さんふたりジミヘンに謝りながら石を積み続ける未来を過ごすんだ。
「しかし、フム……」
そんなマイナス思考に追いやられているわたしを、ふと骸骨が覗き込んできた。
びくりとして身を引く私に構わず、骸骨はすっとその細い骨の先端で私のギターを指差した。
「マスターも、音楽を?」
それは、やたらと明るかった骸骨が唐突に見せた、礼儀正しい姿。
その姿に動揺して、わたしは慌てた声で唐突に早口で説明をしてしまう。
「あっえっとその……これは独学でやってただけで、でも最近バンド入れてもらってて、結束バンドっていうんですけど、虹夏ちゃんたちに、あっ――」
明らかに焦っている、人に聞かせる気が感じられないような早口。わかっているのにやめられない、コミュ障そのもののような喋り方。
それでも、骸骨は、それまでの騒がしさを潜めてそんな言葉をしっかりと聞いてくれている。その表情までは察することができないが、存在しない瞳がまっすぐに見つめているような気がする。
「……でっでも」
その瞳に負けて、私は少し目を逸らしてしまう。どこか後ろ暗さを感じて。
「わ、わたしギターだけは自信ありますけど、それでもそれ以外は全然だめで、みんなと合わせるのも最近ようやく慣れてきたくらいで」
抱えている問題が、コンプレックスが、気付けば漏れ出てしまっていた。
ギターヒーローと後藤ひとり。その境界。一人では上手くても、誰かと合わせるのは全然駄目で、変われないままの私のこと。
「まっまだ実力も全然で、大槻さんとかわたしより全然上手いしメンバーとも上手くやれてて」
バンドが始まってからは、様々な人に会うようになって。同じ才を持ちながら研鑽を続けている人の凄さに直面したり、あるいは心無い言葉で仲間を否定される時もあったり、全力が出せないままのわたしでは、今のみんなでは、届かない舞台を目の前にして悔しい想いをすることもあったり。
コミュ症も、実力も、まだまだ、全然で。人付き合いが苦手のまま、ギターヒーローにも追いつけないまま、結束バンドの後藤ひとりにはできないことが多すぎて。
「だっだから何だって話ですよね、すいませんこんなわたしみたいなミジンコ以下の自分語りを聞かせてしまって――」
「マスター」
……どこか、自信に満ちたような声で。
アサシンは、わたしの声を遮りながら、もう一度立ち上がり構えを取った。
その肩からは、どこから取り出したのかギターがぶら下げられていて。固い骨の指先が、何かを確かめるように弦を揺らす。
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「少々、耳を拝借――――」
瞬間。
骨と弦が掻き鳴らした音色は、それだけでは音でしかない。ただの波形、空気を伝う文様が耳を揺らすだけ。
だが、その音楽は、耳を震わせる波形は、確実にわたしの「核」を震わせる。
ガン、と頭を殴られたかと思えば、次の瞬間には腹の底が重く痺れる。足が指の先まで動かなくなったかと思えば、指が、手が、勝手にリズムとビートを追って小さく震えてしまう。
不定形な体がまるで剥がれ落ちるように削れて、しかし、その都度に復活するように再生をする。肌が、肉体が、その音楽によってかたちを歪めてしまうくらいに、激しい音楽。
まるで、そう――タマシイの形そのものを、直接揺れらしているような。
SIDEROSの音楽、廣井きくりの音楽、TVで見たアーティストの音楽。後藤ひとりがこれまで聞いていたそれらは、間違いなく熟練のそれだ。凡百の人間の心を確かに揺らし、人を魅了する魅力に満ちあふれている。
だが、今この小さな四畳半で奏でられるその音楽は、かつて世界を『世界のスター』の音。
動画で見たことしかない、アリーナや武道館を揺らすアーティストと同じ質の。聞く人すべてを魅了し、一体どころか群衆そのものをひとつの奔流にすらしてしまうような、とんでもない『力』を持つ、そんな音。
「音楽は、力です。いつもいつも、何かに立ち向うための勇気をくれる!」
そんな音楽をいとも容易いかのように奏でながら、陽気なガイコツは高らかに歌う。
彼が紛れもなく英霊である、ということを、遅れ馳せながら改めて認識する。彼の宝具、魂を震わせる音。それは間違いなく一世を風靡した音楽家の才であり、同時に世界最悪の大海賊の航路を明るく彩る一味の一角。麦わらの一味・音楽家、ソウルキング・ブルックという存在。それが奏でる、文字通り魂を震わせる音楽。
ほんの一分にも満たない僅かな演奏で、その力を十二分に伝えてくるだけの凄みが、彼の演奏にはあった。
「そして、マスター。失礼ながら、ワタクシこの身長でして。そちらの写真も拝見させていただきました」
「え……そ、その」
そして、演奏を終えた彼は、数秒前まで言を震わせていたその指で部屋の一角を指さした。
指し示したのは、わたしがいつかみんなと初めて撮影した写真。わたしにとっての宝物。わたしが初めて友達と撮った、部屋中に貼ってしまうくらいに嬉しかった、あの一枚。
今も大量に積み重なっているそれを見て、どこか深く、深く思うように、彼は一言わたしに聞いた。
「――仲間、ですか」
「あっ………は、はい」
反射で、力強く答えてしまった。
それは全く偽る必要のない、必要のないと思いたいことだから。こんなわたしのことを待って、一緒に結束バンドでいてくれると言ってくれた人たちだから。
みんなで、四人で、結束バンド。たった一人でギターヒーローとちやほやされるんじゃなくて、四人で、音楽を奏でていたい。
それが、後藤ひとりの本音。この冥界の底で、本来ならここで朽ちていくのがお似合いだと言ってしまうような人間が、分不相応にも願ってしまったこと。
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「ヨホホホホ!それは結構!仲間は希望ですよ、マスター!」
それを聞いて、ガイコツはとても、とてもうれしそうに笑う。筋肉がなく、表情もない筈のその顔が、破顔しているようにも見える。
自分ごとのように喜ぶその様があまりにも嬉しそうで、意外なものだったから、わたしは少しの間、彼に目を奪われてしまう。
そんなわたしの内心を知ってか知らずか、彼もまた、その骨身に刻んでいる想いを語り始める。
「恥ずかしながら、ワタシも昔一人ぼっちでして!永遠に閉ざされた暗い霧の中で、概ね50年程!!」
「えっ」
急に明かされたガイコツの真実に、思わず瞠目してしまった。
ぼっち歴が長すぎる。自分が押し入れの中に50年、いや引きこもろうと思えば引きこもれるだろうけどわたしの人生の3倍も引きこもったりしたらどうなっちゃうの?50年も経ったらうちの両親もたぶん大往生、ふたりに孫すらできてたって不思議じゃないくらいの未来!それなのに一人だけ押し入れに閉じ籠もってアルコールによる現実逃避を繰り返す私…体を壊してる!?いや、むしろその時の私ってアラフィフとか飛び越えてもう70代直前!!想定されるのはむしろ孤独死!腐敗してガスを垂れ流す腐った死体!
『おかーさーん。あの部屋、なにかへん……?』
『ここなーにー?』
『あっ……だ、ダメよさんにん!その襖を開けちゃ――』
親の死後我が家を相続したふたりとその家族、子供たちは決して開けてはいけないと言われていた二階の和室の襖を興味本位で開けてしまう!その奥で待ち受けているのは、数多の楽器と時代遅れのオーディオ機器に囲まれながら誰にも見つからずミイラと化した私………っっ!!!
『――ケッソクバンドサイコー、イエー、ニジカチャン、リョウセンパイ、キタチャン、イクゾー…アァ、ホントウニ逝ッチャウナンテ…………………ァ、ァ、ァァァァァァァァァァァァァ嫌ァァァァァァァァ!!!!!!」
「ヨホホホホホホホホホ!!!そうでしょう!!!ワタシも正直二度と!体験したくございません!」
ジャァァァ〜〜ン、とギターの音を一つ。何が面白いのか、あまりにも重く苦しい過去を
「けれど、彼らは」
しかし、感じ入るように彼は歌う。
交わるはずのなかった航路で交差してくれた人々のこと。暗い夜を過去にしてくれた人々のこと。新しい夢を見せてくれた仲間のこと。
それが、なぜか重なる。
「私の姿を受け入れ、あまりにも当然のようにガイコツを仲間にしてくれた」
──バラバラな個性が集まって、ひとつの音楽になって。それが結束バンドの個性になるんだよ。
他の人間とは異なる私を受け入れてくれた言葉と。
重なる。
「再び返り咲く為に、もう一度集まって、共に進むことを約束してくれた」
──バンドって、第二の家族じゃない!
仲間として受け入れて、そして、何よりも強い絆で結び合えると思えたことと。
重なる。
「ワタシの夢――もう半ば諦めていた、仲間との再会」
──だから、これからもいっぱい見せてね。ぼっちちゃんのロック──
託された、夢のことと。
重なる。
「ワタシに、そんな夢の果てへと続く道の続きをくれた!」
──ぼっち・ざ・ろっくを!
わたしの描いた、夜の夢を越えた先にある、眩しい夢みたいな現実の朝の虹と。
「奇しくもこのワタクシ、友人を置き去りにして…50年!………帰りたかった!共に死んだ仲間の音を!生きた証を伝えるために!」
高らかに、高らかに。込められた万感の感謝、そして再び信頼し合える友と出会えた喜びを全力で示すように。
「その夢を繋いでくれる、仲間に出会えたから!!仲間と共に、愛した仲間の約束を叶えるための航海へと漕ぎ出せた!!!」
そして、また再び、いつか誓った約束を、果たす機会を得たために。
その夢を叶え、もう二度と見ることのないと思っていた、最後に遺してきた仲間ともう一度再会し、確かに「帰った」と伝えるために。
「マスター!!あなたが仲間の下へ帰るというのなら──陽の当たる世界で、友と再会したいと願うのなら!!」
だから、アサシンは、ソウルキングは、陽気に騒々しく歌い誓う。
冥府そのもののようなこの領域から。陽の光届かぬ冥界の奥地から。
「クラス・アサシン!!!”海賊王の音楽家”!!!このソウルキング・ブルック、その名に懸けて、日の当たる世界へと貴女を送り届けて見せましょう!!!ヨホホホホホ!!!!!」
必ず、あなたを、待っている仲間の元へ送り届けてみせようと。
我等が船長が、その夢を共に叶えようと、だから来いと、仲間になれと、たったの一言でそう誓い、私に笑ってくれたように。
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――果たして。
どくりどくりと。音楽に揺らされた心臓が、うるさいくらいに鳴り響く。
魂を揺らす、鼓動のおと。ドントットットと揺れるビートに、ぴったり合わせて弦が震える。からだが弾けるような感覚に引っ張られて、わたしの肉体が震えて動く。
浮遊感?浮動感?違う、そんなものではない。わたしも、わたしの音楽も、この獣のような衝動も、今わたしを突き動かすものは、そんな名前で縛られない。
陰気で、暗くて、それでもと歌ってみたかっただけのわたしは、今こんなにも――夜を超えて、雨を晴らして、太陽の下でまた生きてみたいと、青い春の空の下で踏みとどまっていたいと思えてしまっている。
夜が明ける頃に。みんなにまた、会いたいと、思ってしまっている。
「あっ──はい!」
叫ぶ。
夢の果てに向けて。
あるいは、待っている、かけがえのない友に向けて。
♪
──もうちょっとだけ待ってて、──!
【クラス】アサシン
【真名】”ソウルキング”・ブルック
【パラメーター】
筋力:D 耐久:C 敏捷:A 魔力:C 幸運:A 宝具:B
【クラススキル】
気配遮断:B(EX)
サーヴァントとしての気配を断つ能力。隠密行動に適している。完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
アサシンの場合、通常時はB相当で推移しているが、後述する宝具発動時はEX相当となり、魂の認識能力に長けていなければ捕捉自体が不可能になる。
【保有スキル】
『麦わら海賊団』:A
大海賊時代にて成り上がり、四皇として名を馳せた大海賊の船員が一人。
船長が持つ嵐の航海者スキルをCランク相当で発動できる他、同スキルの保持者が存在する場合すべてのステータスに1ランク相当のバフがかかり、当スキルと同ランク相当の戦闘続行スキルが発動する。
心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
剣侠・ハナウタ:B
アサシンが生前――ここでいう生前とは、サーヴァントになる前の中でも彼が骸骨と化すまでを指す――に名乗っていたもう一つの異名。
彼の技名は
彼が剣士として持つ技量はこのスキルに内包されており、身軽さも併せて主に速度・技術を重視した独特の攻撃性能を持っている。宝具にある冥府の冷気を兼用することも可能。
【宝具】
『ソウル・キング』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜20 最大補足:1〜10000
ヨミヨミの実、と呼ばれる悪魔の実の能力。あるいは、音楽の腕と共にその能力を磨き上げた彼の結実。
本来は「一度死んだ後蘇る」だけの能力だが、その蘇生において肉体が骸骨になるまで魂の形で彷徨った経験から、アサシンは己の本質、存在の核が魂であると認識した。
これにより、骸骨としての躯体から魂を離脱させ、単独での移動が可能。いわば霊核がそのまま移動しているようなものであり、かつこの霊核は物理破壊が不可能である。彼の骨身が破壊されようと、霊核/魂が生きている限りはそちらも自然に治癒していく。また、魂での
加えて、全てを凍てつかせる冥府の冷気を召喚することも可能。剣技に纏わせることによって、斬りつけたものをその場に凍らせ留め置くことも可能。
更に、彼が元々培っていた音楽――人間の感性に直に訴えることができる技術と合わさり、彼は「魂を震わせる演奏」が可能となった。
これは耐性のないものにとって上級の精神汚染、またはカリスマに匹敵し、耐性がある相手にも対魔力を無視した「音楽あるいは聴覚に反応する精神」のみを参照し、睡眠、高揚など様々な精神感応効果を及ぼす。
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【weapon】
『魂の喪剣(ソウル・ソリッド)』
彼が普段より所持している、杖に偽装した仕込み剣。彼がガイコツとなるより前から愛用していたものが、手長族の改良により更に強靭になったもの。
先述の宝具により黄泉の冷気を纏うようになるほか、元より居合の達人なのもあり、並大抵の海賊であれば技量も相俟って一刀の下に斬り伏せる。
【人物背景】
ルンバー海賊団元船長にして、”四皇”麦わらのルフィ率いる麦わらの一味の音楽家。
ガイコツとなる前は先代の船長を引き継いで自ら海賊団を率い、光の差さない濃い霧の海で命を落とした。
その後、生前食べていた悪魔の実の効果により白骨死体となって復活するも、偶然遭遇した
【サーヴァントとしての願い】
友の、仲間の下へと帰る少女を、太陽の下へ送り届ける。
【マスター】
後藤ひとり@ぼっち・ざ・ろっく!
【マスターとしての願い】
結束バンドのみんなのところに帰る。
【能力・技能】
・ギターヒーロー
動画サイトで投稿を行っているギタリスト。継続的に投稿し技量を磨き続けてきたことから、プロにも比類し得るテクニックを持っており、はやりの曲を取り入れるスタイルも含めて一定の再生数を誇っている。
ただし、ずっとソロでの練習をしてきた都合上他人と合わせることが致命的に苦手。技術も独学による非常に癖が強いものであり、見る人が見れば一発で共通点を見抜かれる。
【人物背景】
幼い頃より誰かと交わるのが苦手だった、有り体に言えばコミュ症でぼっちの少女。自意識過剰で、承認欲求も過大な所があるなど、人付き合いは根本的に不得意な性格。
陰キャでも音楽をやれば人気になってちやほやされる、という理由でギターを始め、三年の研鑽と動画投稿により技量は向上した……ものの、生来の性質もあって孤独は克服しないままだった。
諦めかけていたところ、ひとりの少女に手を引かれ、バンドグループ「結束バンド」のメンバーとなったことで、彼女の孤独はほんの少し薄れ始めた。
余談だが、感情の揺れ動き……あるいは魂の躍動によって時々形態が変化することがある。おそらく人間ではない。
【方針】
みんなのところに帰るために、頑張る。…いやでもやっぱり無理ですごめんなさい!!!!!!!!!!!!!!!!!
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金の髪。
悠然の顔。
少女よりは歳上といえど20を越えたばかりの瑞々しさ。
王の問答に答えを出してみせるのは、彼もまた王の証左か。
少なくとも、暴竜を前に臆さず前に進む蛮勇にはまず違いない。
「人は弱く、すぐ欲望に流される。
己を上回る他者を妬み、恨み、奪う事で晴らそうとする。
優れた者を認められず、一時の感情で排除したがる。それでいて空いた席に取って代わりたいとも思わない。
足りないから、満たされないからと、彼らがいれば巡り巡って自分達に利益があるというのに、常に上にいる誰かを攻撃せずにはいられない。
そんな事をしても、戻るものなど何も無いというのに」
青年は語る。
終わりの見えない争乱に疲弊する、青が霞んだ世界を。
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◆
「───貴様に問おう」
その一言は刃の如く冷たく、鋭利に。
拒絶を認めない絶対の質感を持っていて、否応なしに答えざるを得ない雰囲気をこの部屋に形成していた。
陽光が差し込む昼時のテラスである。
瀟洒な景観をしてはいるが豪勢の限りを尽くしたほどではない、やんごとなき身分が隠遁する為の土地。
椅子に腰かけるのは、白金の髪を結わえる年端もいかない少女。
闇色のドレスを纏っていなければ少年と見分けがつかない、中性的な、性別の垣根が意味をなさない麗貌。
色白を越して蒼白の肌、黄土の鉛色の瞳は美しさも相まって、生気のない人形のよう。
安置される着飾られた死体の印象を払拭するのは、胸の中枢から発露する激烈なる意思だ。
これは屍に非ず。
これは人に非ず。
矮躯に収まった心臓の鼓動は地を震わせ、聞く者の一切の胆を停止させる地の響き。
意ひとつで国を差配し、臣下の生死を決める爪。顎の牙は逆らう愚者をひと呑みにして、噛み千切る。
吐息は火炎を纏い、敵対者を有無を言わせず焼き滅ぼす。
それこそは王者の資質。
幻想の中にしか存在しない竜の重圧が、蝶よ花よと愛でられる可憐な乙女を暴君に映していた。
「王とは、何者か」
龍が問う。
「何を掲げて戦場に臨み兵を率いるのか。
何を以て民を従え国を栄えさせるのか。
貴様の王聖を、ここに示すがいい」
心を守る鎧を薄氷と砕き丸裸にする圧迫面接。
忖度、媚び諂い、誤魔化し、同調圧力、全て無用。
僅かでも怯み、その場凌ぎの虚偽を並べる弱腰に王の資格なし。
聞くに耐えぬ弄言を開く前に、首ごと口を落とすのみ。
嵐に身を投じるのと同然の無謀。
段階を踏んだだけでの遠回しな死刑宣告に、果たして応える声があった。
「……導くことだ」
金の髪。
悠然の顔。
少女よりは歳上といえど20を越えたばかりの瑞々しさ。
王の問答に答えを出してみせるのは、彼もまた王の証左か。
少なくとも、暴竜を前に臆さず前に進む蛮勇にはまず違いない。
「人は弱く、すぐ欲望に流される。
己を上回る他者を妬み、恨み、奪う事で晴らそうとする。
優れた者を認められず、一時の感情で排除したがる。それでいて空いた席に取って代わりたいとも思わない。
足りないから、満たされないからと、彼らがいれば巡り巡って自分達に利益があるというのに、常に上にいる誰かを攻撃せずにはいられない。
そんな事をしても、戻るものなど何も無いというのに」
青年は語る。
終わりの見えない争乱に疲弊する、青が霞んだ世界を。
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「なぜか。それは皆、自分の役割が分からないからだ。
適性のある職種、相手、居場所……人にはそれぞれに生まれ持った立ち位置がある。使命、運命と言い換えてもいいだろう。
何を選べば成功するのか。どうすれば幸福になれるのか。
辿れば必ず報われる『正しき道』の生き方を人は知らない。自分で考え、正解か分からない道を歩むしかなく、そして当たり前に間違える。
過ちは人を簡単に歪ませる。歪みは苦しみを生み出し、手に持つ凶器の引き金を軽くする。
失った者は欠けを憎悪で補填して、また再び誰かに穴を穿つ。
いかに努力しようとも『失敗した人生』の汚名は灌ぎようがない。
この螺旋を理解してなお、抜け出せないのが彼らの現状だ」
誰だって努力をしたなら報われたい。
失敗した理由は自分以外の他にあると押し付けたい。
苦しんだ分だけの成果、それ以上の結果があって然るべきだ。それすら叶わない道理は間違えている。
過ちなく、法を尊び、隣人を愛し、健常に生きてきた者にすら、『不慮の事故』は起こり得る。
理不尽を味わった者は、道理に沿った報復には走らない。
必ず同じ理不尽を、顔も知れない誰かに与える事になる。
「この憎しみの連鎖を断つ方法はひとつしかない。
人類全てが運命を知ればいい。
遺伝子に刻まれた適性、それぞれに定められた役割に従い生きる事。
努力は実を結び、成功は約束される。能力を認められる事こそが幸福だ。
これでもう奪い合う必要はない。敗残という犠牲者はいなくなり、誰もが皆勝利者になれる。
失敗も挫折もなく、未来を分からぬと恐れずに生きていける」
人が絵空事と切り捨てるしかなかった理想郷。
それを真に現世に作る手段は、遺伝子という王を、人それぞれの内に戴く事。
「私はその未来へと導く者。
流血と分断が繰り返される混沌の歴史を終わらせ、あらゆる不和と憎しみから解き放たれた、平等で平和な社会を作り出す。
それを成し遂げるには人を超えなければならない。人の思い描く理想は、人の身のままでは叶えられない。
だからこそ私は人を越えた、最高の調整者(コーディネイター)として生み出された。
指導者に必要な資質、能力、その全てを備えた者が世界を統治する。少しも瑕疵のない結論だ。
それが私の生きる意味であり責務、即ち王の道だ」
自然ならざる手法で造られた存在である事への後ろめたさは一辺も見られない。
あるのは天命を背負った己への自負。確たる存在理由(レゾンデートル)。
世界を導くという運命……望まれた事を、望まれるままに。
欠乏を知らず、故に他者から奪わない。
喜びしか知らず、故に絶望する事もない。
各々の役割をこなす管理社会。そこは確かに争いのない、安定と調和に満ちた世界だ。
それで喪われるものがあるとしても、人命以上に尊いものはない思想は正しく、優れている。
賢者が数多唱える予言の日。人が平和に暮らせる世界が、間違いの筈がないのだから──────。
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「───やはり駄目だな、貴様は」
断頭台の刃が落ちる音がした。
竜の口は満開前の唇のように淡く膨らんだ美しさで、だからこそ言葉の酷薄さがより増していた。
「そんな書き割りの台詞で王が務まるものか。
種の管理と厳選。善き人間のみ残す機構。
それで集まるのはただの標本だ。人を玩弄するのは神のする事であって王の役目ではない」
「ならば神でも構わないとも。呼ばれ方など重要ではない」
裁定者の弾劾にも怯みは見せない。
肘掛けを握る指が強張る以外は。
「……何が不満だという? 争いのない平和な世界はあなたも望んでいる筈だ」
「端的に、温い」
今や竜の台詞は空気を融かす灼熱を誤認させている。
対峙する者にしか分からない夢幻の火。討論で打ち負かす最大の武器となる「格」の顕れを。
「徹底した管理。圧制スレスレの統制。
結構な事だ。もっとやれ。王たるものその程度の独善がなくて務まらん。
だが貴様は、その独善すら信じていまい。
自分の考えではなく自分を構成するモノに正しさを任せるのなら、お前自身は何も宿らんただのカラだ。そこらの死霊と大差ない。
存在の役割だの価値だの語っているが、ようはそれが無くては生きる自由すら許されんと縋っているだけだろう」
「……っ」
現に、王の容赦ない舌鋒に相手は口を開閉させながらも何も言えず、全身を震わせている。
無敵を繕っていた仮面がひび割れるような、骨の軋む音。
やめろ。それ以上は言うな。
伝わっている筈の無言の思念(うったえ)は、蝿の羽音にも聞こえぬと無視され、王の痛罵は止まらない。
「国も臣下も妻も、王にとっては所有物にすぎん。
己の生き様を誇るのならば、誰だろうが理想(エゴ)で染め上げて、運命とやらも自在に掌握してみせろ。
定められた伴侶(おんな)が素直に傅かない? ならば組み伏せてでも契ってしまえばいいだろう。
それすら拒むようなら、首を晒して見せしめにしてでも周囲に沽券を示せ。それすら出来んで何が理想か。虚仮威しもいいところだな」
神の奇跡、正道の体現者。
善き騎士道の絢爛な華。十三の円卓の王。アルトリア・ペンドラゴン。
その異霊(オルタ)である黒いサーヴァントは主である王に対して。
「そんなだから、オルフェ・ラム・タオ───貴様は自分の女を取られた上に負けたのだ」
そんな、聖剣よりも酷い、最悪の暴言をぶちまけた。
◆
-
ファウンデーション王国宰相。コーディネイターの進化系である新人種アコード。
オルフェ・ラム・タオは生涯かつてない衝撃を受けていた。
言葉にするのも憚れる悪言雑言の数々。
品よい口から放たれる、悪魔のような呪文の連射。
怒りのあまり顔面が蒼白になる、という感覚を初めて実体験する。怨敵との殺し合いでもここまで吐き気を催す事はなかったのに。
母にして女王アウラ、近衛のブラックナイツが見れば同じように青褪めていたことだろう。
それだけあり得ないのだ。オルフェが言い負かされている、こんな状況は。
ここまで怒りと屈辱を溜め込んで黙っていられるオルフェではない。
円卓の騎士を束ねる騎士王といえど、マスターとサーヴァントの関係性ではオルフェの方が風上だ。
居丈高に迫られたとて引き下がる謂れはない。
世界の統制者たるアコードの自負にかけて、侮辱には相応の意趣返しで応えてみせる。
だが例外はある。
どれだけオルフェが認めず否定して叫ぼうとも───目を逸らす真似は課した主義が許さない。
一度の勝負で敗北し『能力の差が付いた』現実だけは、変えようがない結果だった。
そう。オルフェは敗北した。
生誕から決められていた運命の相手、遺伝子によって最高の相性が確定していたラクス・クラインの裏切り。
運命に逆らうラクスを皮切りに、オルフェ達ファウンデーションの計画は次第に瓦解していった。
デスティニープラン……混迷する時代に終止符を打つべく導入された、遺伝子至上社会。
必要によって生まれる管理社会は、戦争の火種を生み出す感情によって、オルフェの命もろとも否定された。
認められない。
理解不能だ。
愛という概念。人を惑わし不正解の坩堝に落とす最大の要素。
それをよりによって、自分が結ばれるべき相手が語り、オルフェより劣る別の男に鞍替えして銃を向けるという悪夢。
オルフェの存在意義、生存理由、行動責務……オルフェのあらゆる根底を覆して、完全否定した上での死。
敗北の機能が与えられなかった人造の王の、それは初めての「挫折する恐怖」だった。
「……あなたに何が分かる」
超然として座るセイバーのサーヴァントを睨めつける。
気が狂いかねない、本当に狂ってしまっているのではないかと疑いを持ちたくなるほど自信を打ち砕かれて。
なおもオルフェは口を開いた。
「伝説のアーサー王に敬意は表するが、あなたは所詮過去の人間だ。未来の世の様相を知らない」
常時では考えられないぐらい憔悴した小声でありながら、眼差しに光は消えていない。
『このまま言われっぱなしではいられない』。
そんな一念が折れる足に最後の力をもたらしていた。
そこに理屈が挟まれていないのに、オルフェは気づいていない。
新人類を名乗るには旧く懐かしい、追い詰められた人間が見せる「意地」だった。
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「100億を越えた人口の移住先に想像がつくか? 遺伝子操作で生まれた新人類が人権を確立するまでの苦節は?
そんな世界の争いが、資源を巡る問題でもなく、信仰の違いでもなく、ただ憎しみだけで絶滅の道を進んでいたと信じられるか?」
新天地を目指し、宇宙に進出し、新たなフロンティアを築いた時代。
コズミック・イラの歴史は血と戦争の螺旋に囚われていた。
遺伝子治療に端を発したデザイナーベイビー。改良種たるコーディネイターと自然出産のナチュラルとの深まる角質。
他者より強く、他者より先へ、他者より上へ。
競い、妬み、憎んで、その身を食い合う憎悪の連鎖。
両勢力の戦争は激化の一途を辿り、落とし所を見失い、どちらが消えるかの絶滅戦争にまで発展しかけた。
明日を望む者の奮戦で、奇跡的に最後の扉は死守されても、燻る怒りは僅かな切欠で導火線に引火していく。
もはや何のための憎しみなのか、誰のための怒りだったのかすら忘れられ、怨の一字だけが暴走する。
「愚か者なのだ、誰も彼も。
平和を叫びながら、憎しみを清算する術を知らない。
正解を他人に求めているのに、他人を信じようとしない。
総括して出てきたのも結局は他人任せ、自分たちに都合のいい導き手を欲する始末───その結実が我らだ!」
アコードが生まれたのは人の愚かさ故だった。
数々の超能力。精神感応術。
万能の戦士を求めたのも、人間性を偏重・排除された在り方を至高としたのも、人に人は統べられない諦観でしかない。
自分達に出来ないのだから、出来るものを作ればいい───。
合理的な、だが決して他人に移譲してはいけない最低限の権利を受け取ったオルフェは疑いなく施工した。
情報を集め、国を興し外交で辣腕を振るい、軍備を溜め、秘密裏に手足となる勢力の取り込んでいった。
着実に計画が進みどれだけ成果を挙げても、能力があるのだから当然のこと。
生の苦しみを味わう事はないが、全身が躍動するような喜びもない。
起きるのは当たり前ばかりで、従って期待も失望もしない。
万事滞りなく運ぶ、ディスティニープランが目指す凪の心を得て……しかし稀に、自分の行いを疑う時がある。
一瞬の気の迷いで終わる程度だが、足場固めで政界の社交場に顔を出す度に、うっすらと思考に霞がかかるのだ。
自分は───こんなものを導かなくてはいけないのか?
こんな愚者(にんげん)───本当に救えるのか?
天頂に立む役割に足る能力を持ち合わせた少年は、その視点も誰にも共有できない。
眼に映る言葉と心の裏腹。目先の欲望だけに飛びつき、足を引っ張り合う、醜さに自覚のない俗物。
予想していた。とうに承知の既知の醜悪だ。その浅薄を是正させる事こそがアコードの志なのだから。
だが……幾らなんでもそれはない、と踏んだ一線を軽々と踏み躙る様を延々と見せられ、人類の底値は更新される度に、オルフェの熱は次第に冷えていくのに気付いた。
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人間に期待は持てない。
使命は捨てられない。
ならば自分を上位種に立たせ、他を劣等種と見下す以外に、役割への熱意を保つ手段はなかった。
人の心は要らない。感傷は効率を落とす不純物に過ぎない。
母を名乗る女王の指から伸びる糸に繋がれていても、逆らう意思は持たなかった。
唯一の期待……未だ出会わぬ運命の人も、ナチュラルと同じ世迷い言を吐いて拒絶された。
それでも───それでも、辞めるわけにはいかなかった。
死に際に至っても、使命を放棄する機能は動かなかった
オルフェの生は既に自分だけのものではない。その時代の人類の未来を双肩に背負っている。
失敗したでは許されない。何を代償にしても、この滅びを解消しなくてはいけないと、強く自縛するのだ。
「人が生まれる限り必ず傍にあり、決して自分を裏切らないもの。
これだけは疑う事のできない、絶対の標がなくては人が真に平和を作れる日は来ない。
望まれて生まれた。世界が望んだのだ。それを否定して、どうして生きていけるという……!?
本当はあなたも分かっている筈だ。 私と同じ、役割の為に生まれた王であるあなたなら!」
胸を裂く怒りと悲しみ。
愛するべき存在を奪われた幻肢痛が、白紙の無欠に疵を穢す。
祝福のために生まれた男が隠していた世界への怒りの吐露は、正しさしか知らなかった王の失墜なのか。
あるいは───違う世界で開講した、相似した同胞に理解を求める訴えなのだろうか。
「……役割、か。懐かしいものを思い出させてくれたが、助言が欲しいなら相手を間違えているぞ」
過去を覗かれた不快さに眉を顰ませても、アルトリアが激昂を露わにはせず、彼方の日に視線を遠くする。
「私は確かに国を救う役割を欲した父と魔術師どもの企みによって生み落とされた。
だが父の思惑など知らんし、あのろくでもない魔術師の企みもどうでもよい。青い方の私でもそこは変わらんだろう」
オルタナティブ、生前の英雄を通常とは反転した属性で出力する特殊な霊基のアルトリアは、自分の過去が他人の記憶のように映っている。
今の彼女にとっての治世は非情の秩序。
騎士王の暗黒面……アルトリアが外に漏らす事のなかった"怒り"を体現してる。
"あり得た可能性"という陽炎が受肉したifの存在。幻想に仮想を重ねた空想でしかない。
けれど、変わらぬものはある。
真逆に見えるのは表層だけ。
根本に在るものは、消える事なく残っている。
「王とは国を動かす装置と同一だ。
異民族の侵攻に怯える民は強き王を求め、戦場を駆ける騎士は優れた統率者に従う。
それさえ出来ていれば誰も王を追求せんし、軍も政も完璧にこなす存在を同じ人間だとは思わん。
完成された理想の王に人の心も、理解も不要だ。ああ、こうして語ればそれなりに貴様に通じているのが。
違うのはひとつだ。私は選び、貴様は選ばなかった。
それだけの、違う結末を迎えた唯一つの差異(りゆう)だ」
黒き王が脳裏に思い描いたその情景を、オルフェは見通せない。
彼女の闇は深すぎて、闇の中に沈む心はか細くも、決して失われない輝きに満ちていた。
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「それは、何だ」
「自分で考えろ。子供でもあるまいに」
言われてから、ここに来て初めてオルフェは、今までの行いの浅はかさを自覚した。
他人に導きを尋ねるなど、まるでナチュラルの蒙昧さではないか。
遥か空に広がる星を追いかけるような、それこそ子供じみた純粋さが自身から出てきた事に意外性を感じている。
「このまま退屈で死ぬようならとっとと斬って本格的に寝入るつもりだったが……ようやくこの世界で剣を取る理由が出来たな。
ああ、貴様にそんな気概はもうないのか。今すぐ何もかも捨てて楽になるか? 構わぬ、自由を許すぞ。
境界の外に一歩でも出れば簡単に死霊へ落ちるもよいし、特別に我が剣でてやってもいい」
「あなたは……聖杯に望む願いがないのか……」
「いつまでも腑抜けの負け犬の泣き言を聞くよりはマシという話だ。さあ、選べ」
───喉元に剣の切っ先を突きつけられるイメージ。
王の気分次第ですぐにでも想像は実体化し、オルフェの頸動脈を断つだろう。
煽られているのは明らかだ。
神経を逆撫でする、苛立たせるばかりのにやけ面。
これがモビルスーツを挟んだコクピットの中でないのが口惜しい。
ここに専用機(カルラ)さえあれば今までの減らず口をいったいどれだけ噤ませられたのか。
しかし今求められるのは力でなく言葉だ。
暴虐の竜を従えるに足る鞭と鞍、即ち聖杯を望む遺志。
挑発もオルフェにそれを言わせるお膳立てだ。
「私を……あまり舐めるなよ、従僕が!」
売られた喧嘩を買う。アコードにあるまじき野蛮な表現だが今回ばかりは正しい。
自分の存在を否定するものに怒るのは、生命の基本原理だ。
勝たなければならない。敗北は認められない。
戦争は元より、この暴君にこそ負けられない。
オルフェ・ラム・タオは勝利者の器なのだという証明を、自身のサーヴァントに認めさせる。
常識が通用しない未知の戦いの形式だろうと順応してみせる。この身は人の水準の極みを破るアコードなれば。
「私の宣言は言った通りだ。何も変わらない。
理想の成就、定められた使命の完遂。
許されぬ失敗を奇跡をもって拭い去り、今度こそデスティニープランの敷かれた世界を築き、人類未踏の平和を実現して見せる!
誰に理解されなくても構わない。私は私の生まれた意味を疑わない。 たとえ私に誰も従わなくととも───!」
─私は知っているから……─
「たとえ……誰に……理解されないとしても……!」
剣が引き抜かれる。
選定の時は今ここに。
少年は生まれて初めて、大切なものの為に、痛みを伴う決断を選んだ。
「……いいだろう。人形よりは上等になった答えだ」
殺気を取り下げる。
龍は心躍らせる。
未熟な王が泥のついた膝を立てる姿をとても面白いと。
待ち受ける波乱と困難を確信し、どこまで性根を叩き直せるかと楽しみにして、ずっと後回しにしていた言葉を告げた。
「契約は交わされた。これより我が剣は貴様と共にあり、我が命運は貴様と共にある。
呪いに堕ちたる竜の剣、されど立ち塞がる敵を尽く粉砕する力。
せいぜい上手く使ってみせろ。願わくば、末永くな」
冥府の空の下。
黒騎士(ブラックナイト)は戦いの誓いを結び。
もうひとつの新たなる剣は舞い降りた。
-
【CLASS】
セイバー
【真名】
アルトリア・ペンドラゴン〔オルタ〕@Fate/grand order
【属性】
秩序・悪
【ステータス】
筋力A 耐久A 敏捷D 魔力A++ 幸運C 宝具A++
【クラス別スキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
…闇属性に染まっている為、対魔力が低下している。
騎乗:―
騎乗スキルは失われている。バイクぐらいなら自前で乗れる。
【固有スキル】
直感:B → 宵闇の星:A
戦闘時に常に自身にとって最適な展開を“感じ取る”能力。
常に凶暴性を抑えている為、直感が鈍っている。
魔力放出:A → 魔力放出(逆鱗):A+
膨大な魔力はセイバーが意識せずとも、濃霧となって体を覆う。
黒い甲冑と魔力の余波によって、防御力が格段に向上している。
カリスマ:E
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において自軍の能力を向上させる。
統率力こそ上がるものの、兵の士気は極度に減少する。
アーサー王はカムランの戦いの後、伝説の秘島アヴァロンで眠りにつき復活の時を待つという。
冥界の一種の幽界であるアヴァロンの王との親和性から、スキルが強化されている。
【宝具】
『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』
ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
黒い極光の剣。
エクスカリバーは所有者の魔力を変換する増幅器である為、黒化したセイバーの聖剣の光も、同じように黒色となっている。
湖の妖精にヴィヴィアンとモリガンが共存するように、この聖剣も善悪両方の属性を持つようだ。
真名解放にはモルガンとつけなくても発動する。モルガン(異聞帯)はキレた。
【weapon】
エクスカリバー
【人物背景】
円卓の騎士王アーサー王、その別側面。
暴君の性質が前面に押し出されてるが、本質と理想は元の姿と変わりない。ジャンクフード悪食王。もっきゅもっきゅ。
マスターとの親和性でいえば通常霊基の方が性質は近いが、冥界という過酷な環境での適応、
オルフェの精神状態に感応してオルタ霊基での召喚となった。
【サーヴァントとしての願い】
オルフェの黒騎士(ブラックナイト)として、真の勝利をもたらす。
【マスターへの態度】
モルガンに支配されアーサー王の役目を負わされギネヴィアを奪い取られたモードレッドのような奴。イヤミか貴様ッッッ。
温室育ちのお坊ちゃんに容赦なくスパルタ境域を叩き込む。
至らぬ弟子を鍛える師匠のようで、不肖の弟を教育する姉のような姿勢。
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【マスター】
オルフェ・ラム・タオ@ガンダムSEED FREEDOM
【マスターとしての願い】
己の役割を取り戻す。
【能力・技能】
遺伝子操作により高い能力を獲得したコーディネイター、そこから発展した進化系「アコード」の筆頭。
あらゆる方面に最高の才能を発揮し、初めての分野でも僅かな時間で習得する。
オルフェは宰相の立場から、特に政治・軍事面に伸ばされている。
アコードに共通する能力に精神感応がある。
テレパシーでの会話、思考の読み取り、精神操作を用いる。
思考を読む際は言葉でなくイメージになって浮かび上がる。相手の考えてる内容によっては思わぬ動揺を招く事も。
【人物背景】
ユーラシア連邦から独立した新興国家、ファウンデーション王国宰相。
争いに満ちたコズミック・イラを統制するディスティニープランを主導する新生コーディネイター「アコード」。
ラクス・クラインと共に世界を導くと運命を望まれて生まれた存在。
その全てを失った、ひとりの男。ひとつの命。
【方針】
バックがいない以上、野蛮だが自ら前に出て敵を倒す。
冥界では強さ以外に、存在価値を証明できないのだから。
【サーヴァントへの態度】
目的のために、必要だからと生み出された、別の世界のある種の同胞。
自分と同じ、役割に徹した装置でありながら、なぜあの最期に後悔を抱いていないのか、疑問に思っている。
通常霊基ならともかく、オルタ霊基が相手だと終始言い負かされっぱなし。
聖杯戦争と同等に、この黒王に勝つ事もオルフェの定めた命題である。
-
投下を終了します。
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投下します
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◆
デルウハの願いは既に叶っていた。
◆
-
東京に怪物(イペリット)の姿はない。
都市の建造物は破壊されずに原型を保っているし、人々が残り僅かな安全地帯を奪いあってもいなかった。
空気だって──都会相応に淀んではいるものの──吸えば人体に致命的な害を及ぼすガスで汚染されていない。
絵に描いたような平和。
それが東京の現状だ。
デルウハのような軍人は必要なさそうな世界である。
そしてなにより──ここには飯がある。
それも大量に。
郵便ポストよりも頻繁に見かけるコンビニエンスストアには十分な在庫。
肉や魚、パンに酒。
砂糖だってどっさりと。
町中に点在するレストランは国籍・値段・質が種々様々であり、探せばきっとデルウハの故郷ゆかりの料理を提供する店だって見つかるだろう。
世はまさに飽食の時代。
1日3食どころか間食を挟んだとしても食べることに不自由しないのだ。
これまで日々の糧を守る為だけに死に物狂いで戦い、実際に何度か死にかけたことさえあるデルウハにとっては天国のような環境である。
だから彼は、これ以上何かを願わない。
望まないし、求めない。
イペリットの脅威に曝されない世界で1日3食の生活をする──それだけで十分なのだから。
「元いた世界のことは忘れて、これからこの新天地で暮らしていこう」
そんな風に考えていた──だが。
だが、しかし。
そんな甘い考えを【聖杯】が許すはずがなかった。
◆
-
都内某所。デルウハの名義で借りている【事になっている】マンションの一室にて。
彼は朝食の時間を過ごしていた。
右手のハムサンドに齧り付き、空いている左手でマグカップを手に取ると、中身の牛乳を胃に流し込む。その繰り返し。あっという間に食べ終わると、二個目のハムサンドを掴んだ。卓上の皿にはまだ大量のハムサンドがうず高く積もっている。一般的な成人男性ひとりどころか大家族が一度の食事で消費するのも難しそうな量だが、デルウハはこれらすべてをたったひとりで食い尽くすつもりのようだ。
ふと己の左手が視界に入り、彼は眉を顰めた。
太く逞しい五指で構成される大きな手には、タトゥーのような紋様が刻まれている。
令呪──デルウハが聖杯戦争のマスターであることの証左だ。
非対称の流れ星のような意匠をしているそれは赤の色彩を放っており、どうしても目に入る。一見手についた返り血のようにしか見えない。東京で第二の生を送ろうとしていた自分が聖杯戦争の参加者に選ばれたことを喜ばしく思っていないデルウハにとって、見て良い気分がしない存在であった。
いっそのこと手首から切り落としてしまおうかと思ったし、そうするだけで聖杯戦争などという物騒な催しと文字通り手を切れるのなら躊躇なく実行するのがデルウハという男なのだが、聖杯から与えられた情報によって『マスター権を失った人間がその後どうなるか』を知ってしまったので、その計画は却下するしかなかった。
わざわざ異界から呼び出した以上は生温い『あがり』を許さない、とでも言いたげな仕様である。
腹立たしいこと、この上ない。
そう──デルウハは【聖杯】に腹立たしさを感じていた。
人を勝手に異世界に呼び出した所まではまだいい。むしろ元の世界にいたままでは遠からず死んでいたデルウハにとっては感謝の念を抱くべき出来事である。
けれども──それ以降は駄目だ。
同意を得ないまま殺し合いの参加者に登録し、こちらがどれだけ文句を抱えていようと対話には一切応じない──契約に基づいた仕事を重んじるデルウハが最も嫌悪するタイプである。上官にこんなのがいたらすぐさま殺していただろう。
できることなら【聖杯】に砲弾の一発でも打ち込んでやりたいが、平和な現代日本において大砲を構えるのは非常に困難なことだし、そもそもデルウハは【聖杯】がどこにあるのかを知らない。
実体を持つ三次元上の存在として都内のどこかにあるのかさえ、皆目見当がつかないのである。
なにせ【聖杯】は──根拠となる実例はデルウハ自身が体験した一件しかないが──時空の移動を可能とする存在なのだ。ならば時間と空間が存在しない外宇宙の生命だったイペリットのように、超次元の存在だったとしてもおかしくない。
「(選ばれし者の願いを叶える、超次元の存在か。まるで神だな)」
──いや、違う。
「(神は神でも死神か)」
食料豊かな東京の町はデルウハにとっては確かに天国だった。
しかしその実態は少々異なる。
東京の正体は、死者の記憶を元に作られた『冥界』だ。
ならばそんな場所で神の如く振る舞い、人々を死地に送り込む聖杯は、死神以外の何物でもないだろう。
「(まったく、皮肉な話だぜ。戦場では”悪魔”と呼ばれた俺が冥界に招かれるなんてな)」
そんなことを考えながら、デルウハは残りひとつになっていたハムサンドを嚥下する。
皿の上にはパンくずだけが残った。
けれども、これで最期の食事というわけではない。
冷蔵庫には昼食と晩飯どころか明日以降の貯えもあるし、それで足りなければ街に出ればいくらでも飯にありつけるのだ。
-
つくづくデルウハにとっては手放しがたい環境である──だが、こんな生活は長く続かない。
この世界もまた、滅びが約束されているのだから。
【聖杯】曰く──聖杯戦争が進めば進むほど都内の『冥界』化が進み、人の住める土地が狭まっていくのだという。
デルウハに言わせれば「とんでもねー欠陥を抱えてんじゃねーか! このクソ世界は!」だ。
これでは元居た世界と大して変わらない。
いや──より酷い。
元の世界でも有毒ガスがデルウハの居住地に到達する迄およそ八年の猶予があった。では東京の完全なる冥界化はどれほどだろう?
同じく八年?
そんなわけがない。
地球全土で繰り広げられた知性なき怪物との生存競争とは違い、今回は東京という狭い範囲を舞台にした人間同士の戦争なのだ。必然、敵との遭遇率は高い──その結果生じる戦闘は他所から更なる敵を呼び寄せるだろう。
おまけに脱落者が出れば出るほど【冥界】化が進行して安全圏が狭まり、元から高かった会敵率が更に上昇するのである。
言ってしまえば【聖杯戦争】というイベントは、一度どこかで戦闘が始まってしまえば加速度的に終結に向かうようにデザインされているのだ。死神の意地の悪さが、ここにもまた表れていた。
参加者のひとりに過ぎないデルウハはマスターの総数も現在の脱落者数も知らない。しかし東京の面積と現在【冥界】化している領域を参考に聖杯戦争のペースを計算してみれば四〇日前後でこの戦いが終わることが予想できていた。
四〇日。
それが『1日3食』のタイムリミットだ。
八年と比べれば一瞬に等しい月日である。
絶望的な数字だ──だが。
【聖杯】が手に入れば話は別だ。
【異次元間の移動】や【異界の創造】という奇跡じみた所業を可能にする【聖杯】。それにかかれば、デルウハの【1日3食、飯を食う】という願いは今度こそ十全に叶えられるだろう。
要は戦争に勝ちさえすればいい。
自分と同じくこの世界に招かれたマスターをひとり残らず殺せばいいのだ。
かつてハントレスたちを唆す際に嘯いてみせた【世界を救う】と比べれば、遥かに希望が持てる目標である。
「……………………」
デルウハはハントレスたちを思い出した。
長い時間をかけて関係を深め、
年頃特有の不可解な情緒でデルウハを困惑させ、
幾度も衝突し、
その度に彼を窮地に追い詰めた、
そんな少女(バケモノ)たちとの記憶が──脳裏に蘇る。
「あいつらより恐ろしい敵なんて、そうそういるか?」自分に問う。
返ってきた答えは「まさか」だった。
「研究所(あっち)でも冥界(こっち)でも、俺の飯の邪魔をする奴にやることは何ひとつ変わらん……! 皆殺しだッ!!」
瞳の中に決意の炎を滾らせながら、デルウハは吠えるように叫んだ。
──そして。
その決意に応えるかのように。
その決意が合図だったかのように。
その決意に呼び起こされたかのように。
唐突に、前触れなく、しかし偶然ではない必然として。
【それ】は発生した。
「ッ!? サーヴァントか!」
目の前で起きている現象が英霊召喚だと即座に判断できたのは【聖杯】から事前にその知識を与えられていたからだ。
室内に渦巻く魔力。恒星よりも眩しい光の粒。不定形のエーテルはやがて形を持ち、人の姿を会得する。
サーヴァントはマスターと一蓮托生の相棒──戦場で実際に運用される兵器である。
その重要性は計り知れない。
極端な話、これからこの場に顕現(あらわ)れるサーヴァントの性能次第で今後の明暗がはっきり分かれるのだ。
故にデルウハは眼前で起きている英霊召喚を固唾を飲んで見守っていた。
「(バーサーカーは論外……! 能力(ステータス)の高さは魅力的だが、【狂化】なんぞ抱えた奴と戦線を共にするのは御免だ!! 理想はアーチャーかアサシンだが──)」
結論から言えば。
またしてもデルウハの願いは叶った。
召喚(よ)ばれたサーヴァントのクラスは──彼が理想としていたアーチャーだったのだから。
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「元気いっぱいにはじめまして!」
溌剌とした声だった。
「魔法少女、ドリーミィ☆チェルシー! です!」
デルウハの顔から色が失せた。
いったん目を閉じ、眉間に生じた皺をほぐすように揉む。
なんだ、今の。
「(コレが俺のサーヴァントなのか?)」
見た目だけならハントレスたちよりもずっと若い。というより幼い。年齢が二桁にも達していなさそうな矮躯を彩度の高い衣装で飾っている。手には小ぶりのステッキ。先端には星型の飾り付きだ。魔法少女などというわけのわからない自己紹介を口にしていたが、まさにフィクションの登場人物じみた見た目だった。
──いや、待て。
待て待て待て待て待て。
いま見たものは本当に正しかったか?
【聖杯】曰く、英霊(サーヴァント)は人類史に名を残した不世出の傑物である。
そんなものが、ごっこ遊びに興じているようにしか見えないただのガキなわけがあるだろうか?
慣れない異界の環境が認知能力に悪影響を及ぼした可能性は零ではない。
それに、ついさっき強い光を浴びたばかりだ。
今も良好な視力を維持していると迷いなく断言する方が非合理的である。
ひょっとしたら──
先ほどは光の加減で見間違えたのかもしれない。
デルウハはそう推測すると、ふう、と短く息を吐いた。
改めて瞼を開く。
魔法少女の顔が先ほどよりも近い位置にあり、大きな目でこちらを覗き込んでいた。
「よろしくね! マスターちゃん!」キラーンと星のエフェクト付きのウインクをするアーチャー。
「…………、こちらこそよろしく頼む」
…………。
ふむ。
「(ハイテンションかつ幼稚な言動には不安が残るが──初対面からこちらに友好的な態度なのは悪くない)」
そんな風に考えていると『グイィッ』と体が前に傾いた。九〇キロオーバーのデルウハの体がだ。
アーチャーが紅葉のように小さな両手で彼の手を握り、引っ張ったのだ。
親愛を込めた握手のつもりなのかもしれないが、その尋常ではない握力を受けてデルウハが連想したのは怪力の化物(ハントレス)だった。
アーチャーは言う。
「私が来たからには安心して!」現在進行形で安心できない状況である。「どんなトラブルがあったって、とびっきり可愛く解決よ! ドリーミィ⭐︎チェルシーは困っている人の味方なんだから!」
「(なに言ってやがんだこのガキは!?)」
可愛く?
なんだ、その、みちが口にしてそうな語彙は?
それはさておくとしても──トラブル? 解決? 困っている人の味方?
どういう意味だ、その台詞は。
それではまるで──
【自分がこの場に現れたのは兵器として戦う為でなく、
さながらフィクションの主役のように他人の助けになる為だ】。
心の底から、そんなことを考えているかのようではないか。
『皆殺し』による現状の解決を目指しているデルウハとは真逆のスタンスである。
「……………………」
己の中にイメージとして存在する何らかのメスシリンダーや天秤(ドクロマーク付き)が揺れているのを感じながら、デルウハは思考した。
──殺すか?
──スタンスがこうまで決定的に異なる以上は、遠からず俺と対立するのが目に見えている。
──そんな馬鹿力のガキは、さっさと排除すべきではないか?
そうもいかない。
殺せば簡単に隊員変更(チェンジ)できる軍隊とは訳が違うのだ。
マスターにサーヴァントは基本ひとり。
気に入らないサーヴァントを引いてしまったからと言って、ゲームのガチャのようにリセマラは出来ないのだ。
つまりデルウハはこれから聖杯戦争を勝ち抜こうとするならば、己にとっては弩級の大外れに相当するサーヴァントと行動を共にすることを今この瞬間に運命付けられたのである。
それを理解すると彼は脳内で今一度、自分を聖杯戦争の参加者に登録してアーチャーと引き合わせたクソッタレの【聖杯】に対し、ありったけの罵詈雑言を投げつけた。
◆
-
ドリーミィ⭐︎チェルシーはやる気に満ちていた。
どこの誰かは知らないけれどチェルシーの助けが必要な誰かがいて、そこに最高に可愛らしく駆け付けることが出来たのである。まさにアニメで描かれる魔法少女そのもの。こんなシチュエーションでテンションを上げるなと言う方が無理な話だ。
呼ばれた先が【冥界】などという辛気臭い場所だったのはちょっとイヤだが、それを差し引いても、この世ならざる異世界というのは魅力的だ。『リッカーベル』一期終盤の絵本の世界や劇場版『ひよこちゃん』の夢の世界など、魔法少女とふしぎな異世界の大冒険は切っても切れない間柄なのだから。
冒険の相棒はマスター。
おっきな体をした男の人。
髪色はピンク。
ピンクは可愛い色だ。
可愛いものは魔法少女の味方だ。
つまりマスターはチェルシーの味方だ──チェルシーのテンションは翼を付けられたかのように益々上昇した。
これからこの世界でなにが行われるのかよく分からないけど──召使(サーヴァント)? 似たようなことなら生前にやったことがある。バイトで。だから大丈夫。たぶん。その辺の新人さんより慣れてるんじゃないかな?
そんな風に。
すれ違い(ディスコミニケーション)が消えないまま。
デルウハとアーチャーの聖杯戦争は始まった。
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【クラス】
アーチャー
【真名】
ドリーミィ☆チェルシー/夢野千枝@魔法少女育成計画 breakdown
【属性】
秩序・善・人
【ステータス】
筋力A 敏捷B 耐久B+++ 魔力C 幸運A+ 宝具D
【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
魔法少女:A
魔法の国から力を授かり魔法少女に変身した者の総称。外見は非常に見目麗しい美少女でありながら生物の限界を超えた身体能力をしており、ひとりひとつ固有の魔法を司る(アーチャーの場合、それが宝具に登録されている)。
このスキルによりチェルシーはアーチャーでありながらバーサーカー並のステータスを獲得している(バーサーカーじみたナチュラルボーンクラッシャーぶりは狂化ではなく生前からのもの)。
肉体的な性能(スペック)だけでいえば魔法少女の最高位とも言える現身には及ばないのでB〜Cランク相当になるのだが、魔法少女を愛してやまず、かわいらしさの求道者であることを加味した結果、このようなランクになった。
戦闘続行:A++
往生際が悪い。
死亡が確認された状態から復活してみせた埒外の生命力を持つ。
魔法少女『ドリーミィ☆チェルシー』を呼ぶ誰かの声が聞こえた場合、スキルランクにかけられたプラス補正が効果を発揮する。
騎乗(星):C+
星型のものに限定される騎乗の才能。
アーチャーは星型に成形した物体での曲乗りや高速飛行を可能とする。
【宝具】
『星を好きなように操れるよ』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:99 最大補足:1
アーチャーの魔法。
その効果は「星を操る」だが、天体を自由に動かせるのではなく、星の形をした小さな物体を飛ばすことが出来るというもの。
ただし、その精密性と速度は凄まじく、複数の星を用いた自由自在な軌道から放たれる狙撃は、条件さえ揃えば三賢人の現身(神格的なものを降ろす器。超強い)候補の頑丈な肉体にさえ致命傷を与える。
【サーヴァントとしての願い】
特になし。予定なし。考えなし。
助けを求める人がいたら魔法少女としてかわいらしく助ける!
【weapon】
・星
コスチュームであるステッキの先端に魔法のセロテープで張り付けられている平たい星型のオブジェクト。
母親の友人である魔法少女から頂いたもの、つまり魔法製であり、その有用性は極めて高いのだが「『お母さんの友達から貰ったお土産』なんて現実感がぷんぷんするものを使うのはファンタジーな魔法少女らしくない」という美学を持つため、『使わないとマジでヤバい時』以外には戦闘ですら滅多に使おうとしない。なので普段はその辺の岩を握りしめて形成した星で魔法を行使している。
・チェルシー流格闘技
他に類を見ないアーチャー独自の格闘術。
キュートな決めポーズやバレリーナじみた空中ターンなど『魔法少女らしい可愛らしさ』を何よりも重要視しており、一見するとごっこ遊びに興じているようにしか見えないが、魔法少女の身体能力とアーチャーの抜群な戦闘センスから繰り出されるそれは極めて高いレベルの格闘術にまで昇華されている。キュートイズパワー。
アーチャーは宝具とこの格闘術を組み合わせた戦闘を得意とする。
【人物背景】
『魔法少女』を愛し、『魔法少女』に人生を捧げたベテラン魔法少女。
長い時間をかけて重ねた鍛錬により桁外れの戦闘能力を持つのだが、強さを求める戦闘狂タイプというわけでなく、むしろ暴力が嫌い。
テンションが高く、浅はかで『合理』という概念とは対極に位置する性格。またナチュラルボーンクラッシャーな気質があり、行動すれば何かとものを壊しがち。
情に厚い面もあり、友のピンチに立ち上がる姿はまさに魔法少女らしいと言えるだろう。
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【マスター】
デルウハ(アンドレア・デ=ルーハ)@Thisコミュニケーション
【マスターとしての願い】
飯!!!!!!!!!!
【能力・技能】
・軍人
スイス国軍よりUNA(世界連合軍)に招かれた軍人。
軍事に精通しており、卓越した指揮能力を持つ。また(現代日本が舞台となる聖杯戦争の会場で必要とされる機会があるかは不明だが)砲術にも長けている。
【人物背景】
正体不明の怪物『イペリット』によって壊滅しかけている世界の生き残り。
極めて合理的な性格をしており「自分や部隊にとって、そうした方が得だから」と判断すれば殺人さえ厭わない。
食い意地が凄まじく、行動原理において最優先される。(もう飯が食えないと分かれば躊躇いなく自殺を決行するほど)
また運が非常に悪く、運の無さから生じた問題を解決すべく『合理的な判断』を下した結果、殺人に手を染めることもしばしば。後にその犯行が発覚し、揉み消すためにまた殺人をおこなうことも。
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投下終了です
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投下します
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海に浮かぶ黄金郷。
日本にはまだ見られない、豪華なカジノ。
この冥界には――存在していた。
◆
綺羅びやかな場所から、逃げていく男が居た。
「駄目だ…勝てるわけがない!」
男は冥界下りの参加者であった。
引き当てたのはセイバー、聖杯戦争において最優と称されるクラスだ。
早速男は街に出て一組を下し、次なる主従を探していた。
そんな中、ある噂を耳にした。
――東京湾に浮かぶ、豪華客船のカジノ。
この国にそんな代物は公に存在することは禁じられている。
つまり――サーヴァントの可能性が高い。
そして男は見事、その客船が出る日を掴んだ。
そして、乗り込み、大将へと手にかける事にした。
――しかし、結果はこのザマだ、黄金帝の異名を持つ主、キャスターに木っ端微塵に殺られた。
少なくとも、早く逃げねば――
「困るなぁ、ただで返すわけにはいかんのだよ」
空より飛び出る黄金の拳、それが己へと迫る。
「私を手に掛けようとしたツケは、しっかりと払って貰おう!」
男は何もできずに、ミンチとなった。
◆
何処かの海沿い、宝具を解除したキャスターと、異形の者が出てくる。
「今日も虫を一匹勢〆たな、マスター」
「…貴様の力はやはり凄いな、キャスター」
異形の者はマスターであった、異形と称される理由は二つ。
まずはその骨格、まるで四足歩行の生命体の様な形をなし、とても人間とは思えない。
そして、極めつけに武装だ。
穴の空いたマスクに、そして強大な槍の様な武相――グーデリア。
男の名は、ホッパード・ザ・ガントレット、愛する者の為に、復讐鬼とかした男。
GUNG-HO-GUNSの№6
「当たり前だ、あそこはこの私の庭だ」
黄金帝、その異名を持つキャスター。
黄金の指輪をはめ、紫のスーツを着こなした中年の男。
名を、ギルド・テゾーロ。
「…もう少し魔力が貯められばいいんだが」
「もう一度言っとくが、一般人に関しては被害は出すな、狙うのはマスターとそのサーヴァントだけ、いいな?それに、霊脈の捜索も今している」
ガントレットは民間への被害をよく思わない、そもそも、快楽殺人者の集団に入ったのも、怨敵の復讐の為だけだ。
「フン…まぁいい…ここらで失礼させていただくよ、マスター」
霊体化して、東京の闇夜にテゾーロは消えていく。
冥界の空を、ガントレットは眺める
「…あぁ…絶対に…殺してやる…ヴァッシュ・ザ・スタンピード…!」
恨み言を、空に流して。
◆
夢を見た、マスターの夢だ。
「…なるほどな」
ロストジュライ、失われた恋人、人間台風。
すべて、クソみたいな運命に振り回されてきた。
「俺と…同じか…」
ステラ――もう記憶からかすれてしまった声。
「…なに…同情では無い…これは俺なりの…サーヴァントとしての尽くし方だ」
黄金の雫が、一つ、滴れた。
-
【CLASS】キャスター
【真名】ギルド・テゾーロ@劇場版ONE PIECE FILM GOLD
【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷C 魔力A 幸運D 宝具A+
【属性】混沌・悪
【クラススキル】
陣地作成:B
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
“賭場”の形成が可能。
道具作成:C
魔術的な道具を作成する技能。
キャスターは自身の能力を使い、黄金の武器や鎧を作成できる
【保有スキル】
カリスマ:C
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能で、小国の王としてはCランクで十分と言える。
反神:A
世界の頂点たる者に愛するものを奪われ、自身も奴隷にされ、復讐を誓った事から由来するスキル。
神や王族といった「世界の頂点」に立つものに対してのダメージを倍増させる
【宝具】
『黄金を操りし力(ゴルゴルの実)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
超人系悪魔の実、黄金を操る力を手にすることができる。
キャスターは能力を覚醒させており、後述の宝具内の黄金を操る、全身に纏って巨人となる、などの戦い方ができるようになっている。
『黄金帝の庭(グラン・テゾーロ)』
ランク:A+ 種別:結界宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
かつてキャスターが経営していたカジノ船、世界政府から認められた実質的な加盟国、それを再現する。
中は賭場となっており、一般人も利用できる。
また、中の黄金などといった物やディーラーなどといったスタッフも再現される。
【weapon】
『黄金を操りし力(ゴルゴルの実)』
【人物背景】
天竜人に全てを奪われた男。
世界に復讐を誓った男。
【サーヴァントとしての願い】
世界の頂点に立って、ステラと――
【マスターへの態度】
ビジネスパートナーであると同時に、過去が近寄る同士、思うところあり。
【マスター】ホッパード・ザ・ガントレット@トライガン・マキシマム
【マスターとしての願い】
ヴァッシュ・ザ・スタンピードへの復讐。
【能力・技能】
巨大な武器、グーデリアを扱える技量。
【人物背景】
GUNG-HO-GUNSの№6
ロストジュライの生き残り、人間台風に復讐を誓った男。
【方針】
キャスターの宝具を活かし、他の主従を誘い込む。
民間人に関しては目立つ事も含めて、できるだけ危害を加えない。
【サーヴァントへの態度】
優秀なサーヴァントとして評価、うまく手綱を握れていると感じている。
-
投下終了です
-
皆様投下お疲れ様です。
投下します。
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◆
古い記憶だ。
この声を、機械に吹き込む。
「わたしは良い子でいなくちゃ」
古い記憶だ。
この声を、機械に吹き込む。
「わたしは良い子だから」
■い記憶だ。
この声を、機械に吹き込む。
「■■■は良い子なの」
■■■■だ。
この■を、機■に吹き■む。
「■■■は■い子」
◆
16時、彼岸の学び舎。
教室はにわかに騒々しい。
ぎゅ、ぎゅ、と上履きが地面を鳴らす音があちらこちらで鳴り響く。
他愛のない談笑。意味のないトートロジー。
願いのない人形たちがルーティンに則り、活動を始める。
退屈な役割(ロール)だ。救いのないほど冷たい空気を吸い込み、吐き出す。
大きなため息だった。しかしてため息に気を留める者は誰もなく、一人大きく伸びをする。
「……ダメね」
腐るような思いを抱えたまま、ヒメカミは腰を上げる。
桃色の髪をさらりと流す姿はいかにも優等生然していた。
慣れた所作だ。捨てたはずの所作だった。
扉を開けて教室を後にする。
久方ぶりに着る制服は、記憶以上にとっても窮屈で、息苦しい。
それでもなんだか着崩すことは躊躇われ、喉元まできっちり絞められたリボンをゆっくりとなぞる。
良い子たれ。誰かが無意識の裏で囁いた。
無性に気が逸る。早く行こう。
「…………」
正門をくぐる。
日常と非日常のあわい。
以前何かから得た知識だと、扉や橋とはそうしたあわいを切り替えるメタファーなのだそうだ。
どうでもよい。けれどもしかり。
学び舎の敷地外を出れば、優等生・『姫上綾乃』はいなくなる。
くだらない役割(ロール)。必要ない立場(ポジション)。意味のない行動(アクション)。
良い子だなんて、唾棄すべきものだ。
――じゃあ、そんなの捨てればよい。
仮面が囁く。うるさい。
沈黙。風音。足音。
自然的な貼付のただ中においては、思考を整理するのに丁度よい。
手元の端末には『怪盗お願いチャンネル』とポップなフォントが躍る。
「渋谷区か」
やるべきこと。為すべきこと。
一度目を通しこと内容を再確認し、改めて目的地を設定する。
地獄に垂らした蜘蛛の糸、その悉くを切り捨てる。
-
◆
地獄特別法3288条2項"更生プログラム"『ヨミガエリ』。
将来、罪を犯す性質を持ちながらも実行に移ることもなく死んだ犯罪因子・『半罪人』を更生し、蘇らせるカリキュラム。
悪い子を良い子へ。良い子であれば、生き返らせよう。
教鞭を振るう『先生』の元、言うことも聞かない者たちもいずれは誇らしい良い子へ。
なんて素敵な法案でしょう! 世の中が良い子であふれて素敵になります。
でもでも、約3年前、法案の可決に至るまでには色々な試行錯誤がありました。
何せ人の命にも関わる大きな決断です。それはもう『委員会』の中で揉めに揉めました。
ヒメカミは試行錯誤に巻き込まれた一人であり、被験者です。
彼女は死後、地獄に落ちました。
深い深い奈落の底へ、落ちてきました。
良い子たれ。
良い子あるべし。
良い子でなくては意味がない。
そんな価値観に準じ、その通り生きてきたヒメカミにとって、思いもよらない事態でした。
なぜ彼女は地獄へ落されたのでしょう。
それはね。
『先生』とともに悪い子を良い子へ導く『良い子』――すなわち『騎士』様を取り入れようと、実験の礎に選ばれたからでした!
◆
『怪盗お願いチャンネル』。
世に蔓延る悪事を厭う、無辜なる者たちが救いを求めて手を伸ばす居場所。
3月の上旬、自然発生的に開設された謎のチャンネルには、いつしか『声』が集まるようになっていた。
木偶と称しても問題ない、我の薄いこの世界の住民が主張を上げるのか。
疑問に思うこともあったけれど、彼のものが『無辜の怪物』と知ってからは深く考えないようにした。
契約したサーヴァントの特性(スキル)は、民衆の期待をおのずと煽るものだ。
勝手に英雄視され、勝手に怪物だと忌み嫌われる。それでも求めに応じざるを得ない悪癖。
その手の苦しみ自体には理解がある方だと自認している。そっとしておこう。
「この辺りのはずだけど――」
目的地。渋谷区。
現代カルチャーの中心地――から少し外れた薄暗い路地裏に歩み寄る。
生ゴミの腐った異臭、錆びた鉄材の赤褐色、退廃的なビビットカラーに染まったグラフィティ。
カリカチュアされる反社会的な景観の中、不釣り合いなほど健康的な二人一組の影があった。
『怪盗お願いチャンネル』に寄せられた投稿の通りの風体、彼らが世を荒らす悪人だ。
「嬢ちゃんたちかい。俺たちに『予告状』なんてものを送ったものは」
へらへらと薄笑いを浮かべる片割れの男は、汚物をつまむようにして赤と黒をにじませた紙切れを揺らす。
コラージュで彩られた文面に曰く、『あなたの心を頂戴する(TAKE YouR hEaRT)』。
思わず笑ってしまいそうなほど愚直な『予告状』だ。
確かに紙切れには覚えがある。我が呼び声に応えたサーヴァントからの挑発だ。
「――そう、真名隠蔽の原則を無視した頭の悪い挑戦状、受け取ってくれたのね」
「『怪盗』というと、『アサシン』あたりか。はん、種が分かればどうということはない」
男は雑に丸めた『予告状』を懐に仕舞うと、
右隣に配する剣士――事前情報の通り最優の級位『セイバー』のサーヴァントへ目配せする。
男の言葉は決して慢心でないことは、対峙しているヒメカミ自身が痛感していた。
真正面から戦って、勝てるビジョンがあるのだろうか。ましてや今のヒメカミの傍らには、サーヴァントの気配もない!
「セイバー、やるぞ」
セイバーが構える。
下段の構えに似た仕草だ。
握られるは光り輝く長剣、聖剣の類。十中八九、セイバーの『宝具』。
さぞ高名な剣士なのだろう。――いや、その表現は正しくない。
かの聖騎士がヒメカミでさえも名前を知るほどの誉れ高い騎士であることは裏が取れている。
古めかしいプレートアーマーに包まれた全身から放たれる威圧は、なるほど聖なる力に恥じない恐ろしさだ。
並の暗殺者――『アサシン』であれば、気配遮断を絶ったが最後、影にいながら首を刎ねられていると確信できる。
-
ヒメカミは静かに息を飲んで。
男を見据える。
いつしか、男の顔付が精悍な戦士のそれへと変貌していた。
「悪いが嬢ちゃん、俺たちは負けるわけにはいかないんでね」
「……どうして?」
「決まっている。現世でやり残した宿題を終わらせるんだよ。――嫁が泣いてるんだ」
じり……。
男の願いに応えんと、セイバーの足摺が耳朶を打つ。
風にも負けそうなほど、ささやかな音。けれど間違いなく斬首へのカウントダウンだ。
ヒメカミも腰に刷いたレイピアを掲げ、これからに備える。
「ふうん、あなた、ご立派なのね」
それでもヒメカミは男――聖杯戦争の『葬者』が一人をねめつける。
セイバーを一顧だにしない視線、勝負を前にしてあまりにも不用心な構え。
セイバーの繰り出す剣舞は疾風怒濤のごとし。音を認識するよりも先に、ヒメカミの柔肉を両断するに違いない。
分かり切っている――分かったうえで、ヒメカミは『次』に備える。
「とても、ほかの参加者を蹴落としているとは思えないくらい」
ならば、何に備えるか。
「でもね」
決まっている。
「悪い子は地獄に落ちなきゃいけないの」
『今この瞬間』を見据えて、『葬者(マスター)』の命を奪うために!
ヒメカミの深奥から練り上げられる闇の魔力。剣先に込められた拘束(バインド)の呪い。
自然、足に力が入る。
勢いに任せ、踏み込む。
ヒメカミの動きから遅れて刹那。
セイバーが地を蹴る。
縮地もかくや、一歩の間合いがあまりにも常識から逸脱している。
音を置き去りにした白閃の軌跡はヒメカミの首筋へと伸び、――――!
「なっ――――!」
しかし。
軌跡は途絶え。
届くことなく。
セイバーの霊核もろとも消滅した。
たちどころに霧散する霊影を目に留めながらも、男の次善の行動は速かった。
指に嵌めた宝石を煌めかせ、冷徹に狙い、魔力を込め。射殺す!
「ガンド――――ぐ、あ、あああ!」
まともに魔力を装填されていない咄嗟の一撃は動作もなく無情に弾かれ、
お返しとばかりに闇の力を纏ったヒメカミの刺突が、男の胸を貫く。
取り返しのつかない痛恨の一撃(クリティカル)。
いかに男の決断が優れようと、すでに次を見越していたヒメカミの予測に軍配が上がった。
いや、これも正確な言い回しではないだろう。
「痛くしてごめんなさい。また地獄で会いましょう」
セイバーの『真名』、ひいてはその『人となり』が割れた時点で勝負は着いていた。
頽れ、もはや起死回生もままならない敗者にヒメカミは止めを差す。
悲鳴もなく絶命した男を確認していれば。
「手向けは終わりか、マスター」
「ええ。行きましょう、アサシン――いいえ、『バーサーカー』と呼んだ方がいいのかな」
ヒメカミの傍らで影が伸びる。
『認知世界(パレス)』から帰還した道化が静かに嗤う。
その手に『オタカラ』は握られていなかった。
-
◆
「有名税っていうのかしら。名が知れているというのも考え物よね」
『イセカイナビ』を通して、改めて先ほど相対した二人組の敗退を再認識する。
かのセイバーの歪んだ心の居城『パレス』は崩壊し、道しるべを失った。
これに勝る結果報告もなかなかあるまい。
「バーサーカーもお疲れ様」
「造作もない」
種を明かせば、なんてこともない。
奇しくも敗退したマスターの言葉の通り、事はシンプルだ。起こった出来事を整理すれば一言で片が付く。
ヒメカミのサーヴァント・バーサーカーの『宝具』がセイバーを闇討ちせしめた。
それだけのことだ。
――”我は影、虚ろなる我”
時に。
人々の心象に眠る『認知世界』――限られたものだけに門戸を開く、秘密の花園を踏み荒らす英霊なぞ、数えるほどしかいない。
中でも『ジョーカー』と呼ばれるトリックスターは一角を担うに相応しい。
己が正義に殉じ、悪を許さず民衆を翻弄する一等星。
曰く、『ワイルド』。世界を変革する力を持つ、大怪盗。
ミクロな視座に立てば、ヒメカミが引き当てた英霊とはまさにジョーカーその人だ。
――”契約だ。怒りを叫べ。嘆きを唄え。我が名を呼べ。望まれるように、呼び声に応じよう”
だが、実際のところ。
傍らに配すこの英霊を『ジョーカー』と呼ぶには憚られる。
この霊基の根幹にあるものは、もっと、そう、大雑把だ。
己が正義を謳いながらも、その実、民衆に翻弄される道聴塗説の成れの果て。
換言するに、このサーヴァントの正体は、『ジョーカー』の別側面。
「『あなたの心を頂戴する(TAKE YouR hEaRT)』――心の怪盗団より」
本当、ばかみたい。
呆れたように、読み上げる。
バーサーカー、同時にアサシンの霊基を持つ二重召喚のサーヴァント。
ヒメカミが契約したサーヴァントの『真名』とはまさに、『心の怪盗団』、『ザ・ファントム』などと称された義賊である。
バーサーカーの持つ『宝具』――『パレス』を暴き出す力をもって、セイバーは切り捨てられた。
「こんな手、今後はあんまり期待できないかな」
セイバー、その『真名』宛に送られた書状。
なるたけ証拠を残すまいと、男の懐から抜き取ったくちゃくちゃの予告状。
魔力で生成されているゆえ、時間が経てば消えるろうが、改めて見るに、なんともまあ、子供じみている。
こんな始末、この先余程通用しないだろう。
そも『宝具』を使用したくても、都合よくは回るまい。
此度もしかり。『心の怪盗団』の悪評が広まっていれば、致命的な対策を講じられていたはずだ。
トリックスターの花形ならばいざ知らず、己が正義に悖る代行人に為せる手妻などたかが知れている。
「なんて、わたしにはお似合いかも」
先の路地裏から離れて数キロ。
自動販売機で買った、甘いジュースを呷る。
なんだか悪い子みたいで、甘美な心地が――あんまりしないや。
無駄に冷たいジュースを飲み干し、ゴミ箱へ捨てる。
帰路につく。帰ろう。
ずっと一本道をすたすたと。頬を撫でる風は、変わらずに冷たい。
「”マスター”」
「”どうしたの?”」
「”一人片したが、このままで良いのか”」
霊体化したままの念話。
元の気質か、アサシンと比してバーサーカーの色味の濃いゆえか、彼の言葉と思考は端的だ。
ただ、今回は思い当たる節がある。
主従契約ののち取り交わされた規約の話。方針の確認。
かのバーサーカーの真価は『認知世界』に潜り込むそのものではない――。
「……」
かつてバーサーカーが如いたという世直し。
悪党の『成敗』と、『改心』。
その二つに一つ。
匙は、マスターたるヒメカミに託されている。
一拍。
呼吸を置いて。
それでも心地は変わらなくて。
あの時も先ほどと同じことを言った。
ならば、もう一度繰り返すまで。
「”悪い子は、地獄に堕ちなきゃいけないの”」
わたしも含めてね。
ヒメカミは嘲る様に吐き捨てる。
やはり道化は、静かに息を整えて。
「”そうだな”」
と。
かつて耳にした声を代弁するように、バーサーカーは嗤うのだった。
-
◆
地獄特別法3288条2項/"更生プログラム"『ヨミガ/エリ』。
将来、罪を犯す性/質を持ちながらも実行に移/ることもなく死んだ犯罪因子・『半/罪人』を更生し、蘇らせるカリキュラム。
悪い子を良い子/へ。良い子であれば、生き/返らせよう。
教鞭を振るう/『先生』の元、言うことも/聞かない者たちもいずれは立派/な良い子へ。
なんて素敵/な法案でしょう! 世の中/が良い子であふれて素敵になり/ます。
――ばかげている。
どうして、どうしてなの。
悪い子は、おとなしく地獄にいればいい。
わたしはもう良い子ではいられない。
悪い子は、 地獄の底まで沈めましょう。
みんなみんな、死んじゃえばいい!
悪い子のために、わたしが苦しまなきゃいけない理由はなに?
だから、『システム』もろとも、みんなを破壊すると決めたのだ。
もう少しだった。
最後、見かけたあの七人とアルバイトの『先生』。
彼らとともに、藻屑と消えるはずだったのに。
なんの間違えで、地獄から地獄へ渡り歩く羽目になっているのだろう。
聖杯戦争。
願望を賭けた生存競争。
救い、あるいは罰があるとするならば。
きっと、この『聖杯戦争』は『ヨミガエリ』とは何かが決定的に違う。
理解する。
ここにいる人たちは、本質的に悪い子ばかりではない。
『半罪人』とは異なる善良なる人々もいることだろう。
それでも。
――その願いが如何に尊かろうと、
――その思いが如何に正しかろうと。
他者を踏み台にする儀式の成就を、わたしは認めるわけにはいかない。
悪い子は、みんな地獄に落ちるべきなのよ。
-
【CLASS】
バーサーカー (二重召喚/アサシン)
【真名】
ザ・ファントム(心の怪盗団)@ペルソナ5
【ステータス】(クラス補正込)
筋力 D 耐久 D 敏捷 B 魔力 C 幸運 E 宝具 A
【属性】
混沌・狂・地
【クラススキル】
狂化:D
バーサーカーのクラススキル。
筋力と耐久のパラメーターをアップさせるが、言語能力が単純になり、複雑な思考を長時間続けることが困難になる。
始まりは己の正義だった。
やがて正義は暴走する。罪への天罰。裁きの鉄槌。求められるは代行者。
世俗に飲まれた正義に自己はなく、ならば仮面の下で何が嗤う。
気配遮断:B+
アサシンのクラススキル。自身の気配を消す能力。
仮面を探れど尻尾は掴めず、その正体は闇の中。
人知れず彼らは仇を為す。
身を潜めれ(カバーす)ればあら不思議! 姿は影に包まれるのさ!
【保有スキル】
二重召喚:B
ダブルサモン。二つのクラス別スキルを同時に保有する事が可能となる。
極一部のサーヴァントのみが持つ希少特性。
心の怪盗団の場合は、上記の通りバーサーカーとアサシン、両方のクラス別スキルを獲得した状態で現界している。
無辜の怪物:C
本人の意思や姿とは関係なく、風評によって真相をねじ曲げられたもの深度を指す。
心の怪盗団とは、かつて日本中を席巻したという英霊。
世にはびこる悪事を告発する義賊として持て囃されたが、いずれ汚名を浴びることとなった。
人の心をすり替える悪魔であり、人を殺める凶悪犯。一方、彼のものに信仰、あるいは救いを求める者もある。
姿なき正義。すなわちそれは、民衆を映す鏡。望む望まれずとも注目を集める、悪しき全盛期の名残。
反逆の相:E
腐った世界に抗うならず者の総称。
その炎途絶えたとき、仮面は闇へと溶けるだろう。
ジョーカーとしての真名で召喚された場合は高ランクで所有しているが、現状はEランク相当になっている。
御使いの蝶:D
トリックスター、またの呼び名をワイルド。定めに抗い、変革を望む者。
善と悪。創造と破壊。再生と終焉。相反する自己――すなわち数多のペルソナを持ち得る力。
ジョーカーとしての真名で召喚された場合は高ランクで所有しているが、現状はDランク相当になっている。
――貴方は、囚われ……。予め運命を閉ざされた『運命の囚われ』。
-
【宝具】
『あなたの心を頂戴する(TAKE YouR hEaRT)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:10
心の怪盗団の本懐。認知世界に潜り込み、歪んだ心の象徴――オタカラを頂戴する。
オタカラを盗られたものは改心され、オタカラあるいはシャドウその人を壊されたものは死に至る。
予告状をご覧の皆様におかれましては、どうぞ罪を暴かれなされ。
主に3つの効果を持つ。
1.彼や彼が共犯者と者に『イセカイナビ』の権限を与える。
2.条件が揃えば、歪んだ心の持ち主の『パレス』に乗り込める。
3.予告状を出し、心の在り様を意識させた後『オタカラ』を頂戴する。
『オタカラ』を芽吹かすほどの強い自意識を持つものであれば、住民・マスター・サーヴァントを問わず『パレス』は現れ、頂戴できるだろう。
一般に、霊基を確立するにあたり、余計な情報がオミット・デチューンされるサーヴァントのほうがパレスの攻略そのものは容易とされる。
自発的に魔力を消費するのは『イセカイナビ』を起動させる時のみで、『パレス』の維持などは相手に依存する。
『集合的無意識、すなわち世界(メメントス)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1-99 最大捕捉:1500万
怪盗団は認知世界を暗躍せし。
逆説的に、怪盗団のあるべきは認知世界と言えるだろう。
ザ・ファントムを中心としたレンジ内を集合的無意識の認知世界――すなわち『メメントス』へと変貌させる。
大半は良くも悪くも自我の薄い住民の無意識のため、内部の外観は会場のそれとほぼほぼ等しく、一般的なシャドウも徘徊していない。
状況によっては内部構造は変化することもあるだろうが、現状だと魔力の探知に長けていなければ迷い込んだとして気付かないレベル。
また、『オタカラの芽』をもつシャドウの周りは空間に歪みが生じる。シャドウを通して本体の改心か殺害かが可能。
もっとも、4月まで生き残るほど強い願望を持つ者の『オタカラの芽』は既に花を咲かせているだろう。
【weapon】
主にナイフ、ハンドガン、ワイヤー等 ジョーカーが使用する武具。
ならびにペルソナ能力。
【人物背景】
正義に則り、色欲の淫行を暴露した。
正義に基づき、虚飾の欺瞞を告発した。
正義に傾き、暴食の悪事を摘発した。
正義に流され、強欲の横暴に鉄槌を下した。
正義に則り、傲慢の陣頭を打ち破った。
そして、民衆の願いたる『聖杯』を破砕した後、活動を止めた。
――とされる。
真偽のほどは定かでなく、実際として心の怪盗団が何だったのかは不明のまま。
不明のまま、民衆は『心の怪盗団』という娯楽を捨てたともいえるのだけれど。
一説によれば、再度世間を賑やかした『改心事件』などにも関りがあるとか、ないとか。
ジョーカーの『主人格』よりも『心の怪盗団』としての側面が大きく反映された霊基。
まことしやかに囁かれる風聞の果て。民衆の玩具。
基本的な人格、姿格好や能力は顔の割れた/街頭スクリーンに映し出された経緯を持つ心の怪盗団リーダー、ジョーカーと同様。
真名が真名のため、何かの事情によっては状態が変質する可能性を有する。
【サーヴァントとしての願い】
悪事なき世を頂戴する。
【マスターへの態度】
死がたむろする冥界に民衆の声はなく、眼前に群がるは自我なき傀儡。
今目の前で窮しているマスターの願いを聞き届けよう。
-
【マスター】
姫上 綾乃(ヒメカミ)@クリミナルガールズINVITATION
【マスターとしての願い】
悪い子には地獄を。
【能力・技能】
『騎士』候補としての特権――多少の攻撃に対する耐性(バリア)を有する。
少なくとも、マスター・サーヴァント以外からの攻撃は意味がないだろう。
現在は主にストーリーボス時の技能が使用可能。
外観のクリミナル化はされない。
【人物背景】
地獄特別法3288条2項"更生プログラム"『ヨミガエリ』。
将来、罪を犯すであろう性質を持ちながらも若くして死んだ犯罪因子・『半罪人』を更生し、蘇らせるカリキュラム。
――その試験運用の際、彼女は良い子でありながら地獄に堕ち、『ヨミガエリ』に参加することとなる。
『先生』とともに悪い子を矯正する『騎士』として。
しかし、ついぞ責任が果たされることはなく、彼女は地獄を呪うのだった。
なんて。
ただの『良い子』なら地獄になんて落ちないよ?
【方針】
『ヨミガエリ』とは抜本的に違うシステムであることは理解している。
蘇ることに執着はない――どころか、厭っている。
だが、彼女は悪い子を呪わずにはいられなかった。
【サーヴァントへの態度】
改心だなんてくだらない。
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投下終了です
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投下します。
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ぐるぐる。ぐるぐる。ぐるぐる。
ぐるぐる。ぐるぐる。ぐるぐる。
透析機器の中で、わたしの命の水がまわっていく。
ぐるぐる。ぐるぐる。
好きなだけ回って、わたしの中に帰っていく。
ぐるぐる。
この大きな機械が、わたしの臓器。
こんなことにかける時間なんて、残されてないのにね。
○ ● ○
「……?」
「おはよう。よく眠ってたよ」
「…疲れてましたから。それに、これも夢であればいいなって」
「残念ながら、現実だよ。この世界も、聖杯戦争もね」
長い髪を一纏めにした女性が、窓から差す月光に照らされている。
その姿は凛としており、時代錯誤なコスチュームらしきものを見に纏っているというのに、妙にそれが似合っている。堂々としているから、だろうか。
わたしも見習わなきゃな、なんて。今更そんな言葉が胸に去来する。
死んだ今に、もう意味なんてないのに。
「単刀直入に聞くよ。
聖杯戦争について───君は、誰かを越えてでも叶えたい願いはあるかい?」
桃色の患者衣を身に纏ったわたしは、ふと思う。
願いがあるということは、他者を踏みつける───勝ち抜く。殺すということだ。
想像しただけで、冷や汗が吹き出る。そこまでする必要が、あるのか。
…"ある''、のだろう。死人を生き返らせるとはそういうことだ。
奇跡に縋り、願いを叶え、一人だけが帰ることができる。それほどの願いを成就するためには、どう足掻いても『奇跡を達成するための過程』が必要になる。
それが、殺し合い。聖杯戦争。
-
「正直、わたしはわからないです。生きていた頃だって、ただ自分が笑っていたいから───応援してくれている『誰か』のために、アイドルをやっていました。
冥界だ、なんて実感がありませんし、どうせなら今すぐ逃げ出したいです」
それが本音。
誰かを殺してまで叶えたい願いなんて。
死ぬのも怖いけれど。同じくらい、殺すのだって怖いのだ。
戦争なんて、実感すら湧かない。こうやっている隙に誰かがわたしの命を狙っている、なんて考えると頭がおかしくなる。
「…本当に、願いはないの?」
サーヴァント───アサシンが問う。
そんなもの。そんなもの。そんなもの。
誰かを殺してまで叶えたい願いなんて。
そんなもの───あるに、決まっている。
「…わたし、まだ生きていたい。生きていたかった。
まだ親孝行もしてない。ファンレターをくれた人にお返しもしてない。アイドルとして、やりたかったことをやり切ってもいない。
…まだなの。まだやりたいことだって、たくさんあるのに───」
一度。溢れた言葉は水のように。
堰き止めていた言葉が、願いが、思いが洪水のように流れ出す。
こんなの身勝手だ。こんなのズルい。結局わたしは、どちらも選べないよわむしだから。
心のダムが崩壊し、涙が溢れる。
いくら止めたくても止まらない。言葉と一緒に、それはもう流れ始めてしまった。
肩を振るわせ、言葉を流れさせ続ける。わたしに。
アサシンは、そっとその肩を抱いた。
「───わかった。私が、君を生き返らせる」
「…え?」
「願いは大きく行こう。病気なんて治して、体力ももりもりで、人気も爆発させちゃおう。
誰かも笑って、君も笑っている。そんな願いが、君の『原点』なんだから」
「…ひぐっ」
それでも泣き止まない私に、アサシンはぽんぽんと背中を叩き、頭を撫でる。
それが、まるでお母さんみたいで。
わたしは、もっと涙が溢れた。
「あーあー、泣かない泣かない。
大丈夫大丈夫。サーヴァント・アサシン、ずっと側にいるから
だから、笑って?
世の中、笑ってるやつが一番強いんだから」
そういうと、アサシンは私の前に顔を出して、両の指先で私の口角を上げ、笑顔を作った。
───それが、私の聖杯戦争の始まり。
わたしの前に現れたマイ・ヒーロー。
きっとこの道は険しく、きっと辛いのだろう。
それでも、笑顔でいよう。きっと、笑っている人が一番強いから。
わたしは、自分が笑っていたいから。
-
【CLASS】
アサシン
【真名】
志村奈々@僕のヒーローアカデミア
【ステータス】
筋力 A 耐久 A 敏捷 A+ 魔力 E 幸運 E 宝具 B
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を断てば発見する事は難しい。
彼女が生きていた時代、「平和の象徴」が誕生する前の時代では、ヒーローは見せ物ではなく華々しい存在ではなかった。
【保有スキル】
紡がれる意志:A +
脈々と繋がれてきた、誰かのためになりますようにと受け渡されてきた意志。
精神汚染などの精神干渉系に強く反発するスキルとなっており、戦闘続行・勇猛スキルとの混合となっている。
そして。逆境になればなるほど、このスキルは強く反応しする。
ヒーローは、守るものが多いのだから。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
彼女の時代のヒーローは脚光を浴びるより、見せ物にはならず、ただ事件を解決するものたちだった。
オリジン:B
原点。
限界だーって感じた時に思い出せ。
きっと、何よりも助けてくれる。
彼女の精神性、その在り方。
ギリギリで踏みとどまり、決して倒れない。
(ガッツ効果・無敵効果を付与。ガッツに至っては、重ねがけ可能)。
【宝具】
『一人はみんなのために(ワン・フォー・オール)』
ランク:EX 種別:対軍宝具(自身) レンジ:? 最大捕捉:?
ワン・フォー・オール。
受け継がれてきた力。想い。
超人的な怪力と俊敏、耐久力を得る。
誰かのためになりますようにと受け継がれてきた意思、力。
シンプルだが、それだけに高い強さを持つ。
『いつでも、お空から見守っている(マム・イズ・オールウェイズ・ウォッチング・オーバー)』
ランク:E 種別:- レンジ:- 最大捕捉:-
個性:浮遊。
宙に浮き、移動できる個性。それだけでは移動は難しく、『一人はみんなのために』の超怪力による衝撃移動にて高速移動が可能になる。
また、母親として彼女が残した言葉から、マスターの位置を常に自動認識する探知宝具とも化している。
【weapon】
・なし
【人物背景】
慈愛を秘めた女性。
ヒーローとして生きるために、子を安全な場所へと送り戦い続けた女傑。
「平和の象徴」の土台を作った、影の立役者。
【サーヴァントとしての願い】
マスターを生き返らせる。
会いたい人に合わせる。
【マスターへの態度】
どちらかというとサーヴァント目線。
しかし一応この場では保護者としての面も残している。
【マスター】
水嶋まさご@Fate/Grand Order
【マスターとしての願い】
生き返って、健康な身体になる。
そして、お母さんと会って、ファンレターの人に感謝のお返しを贈る。
【能力・技能】
なし。
体力が少ない。
肝臓は聖杯戦争にて透析の機会が与えられないからか、それとも一度死したからか、ある程度回復している。
【人物背景】
肝臓が悪い、人工透析を受けていたアイドル。
しかし、冥界では聖杯戦争の手間と判断されたからか、一時的に肝臓が修復されている。
苦手なダンスも歌も、努力している。
ほら、笑いものになるより、自分が笑っていられることの方が大事だから。
でも。
もう少し、生きたかったなあ。
【方針】
生き帰る。しかし、殺人は───
【サーヴァントへの態度】
女友達のような、距離感の近い母親のような。
そんな安心感を抱いている。
-
投下終了です。
タイトルは「私のマイヒーロー」
でお願いします。
-
>【真名】
>志村奈々
ではなく
【真名】
志村菜奈
でした。
失礼しました。
-
>>842
【ステータス】
筋力 A 耐久 A 敏捷 A+ 魔力 E 幸運 E 宝具 EX
こちらが正しいステータスでした。
重なる修正、すみませんでした
-
投下します
-
「………………」
「――――――」
一騎の武者と一機の騎士が、それぞれ刀と剣を構え、相対する。
両者に動きは殆どない。互いに剣の切先を僅か揺らしながら、相手の隙を窺っている。
どちらかが一瞬でも隙を見せた時、この勝負は決するのだと、その重苦しい空気が語っていた。
「………………」
「――――――」
両者の装いは、どちらも顔すら覆う重装甲。その表情を伺い知ることは出来ない。
故にその感情は、それぞれが握る武具に現れる。
武者の構えは正眼。
刀の切先は正中線からズレることなく、正確に騎士の喉元を捉えている。
騎士の構えは八双。
剣の刃は武者を捉えているが、垂直に立てられた刀身は僅かに震えている。
「………………」
――――焦れている。
武者は剣の震えから騎士の力み、ひいては情動を読み取り、そう判断する。
「――――、―――」
武者のその判断は正しく、騎士の胸中には焦りがあった。
騎士はその武双からも分かる通り、そのクラスは最優と名高いセイバーだ。
そして騎士である彼を従えるマスターも、堂々とした戦いを好む優秀な魔術師だった。
卑怯卑劣を好まない、という点において、騎士と魔術師の相性は決して悪いものではなかった。
だがしかし、彼のマスターには、間違いなく魔術師であった。優秀さ故の驕りがあった
契約した当初よりあったその驕りが、いずれ致命的な隙になるのではないかという懸念が騎士にはあった。
無論、問題がそれだけならば、この聖杯戦争の中で正せばいいだけの話だった。
しかしそれを妨げるさらなる問題が、二人の間に生じてしまっていた。
彼のマスターは優秀な魔術師であるが、しかし、どこまで行っても魔術師であったのだ。
つまり、民間人を利用することに躊躇いがない。
この会場の住人が再現に過ぎないという事もあって、その傾向はより顕著なものとなっていた。
それを騎士として見過ごせなかった彼は、その行いを控えるよう進言した。
―――そして、両者の関係に亀裂が走った。
止めるように、ではなく控えるように、としたのは、騎士なりの譲歩であった。
自身の個人的な願望によって他者の命を奪う以上、騎士道からはもう半ば外れている。しかし、それでも譲れぬ矜持があったが故の言葉であった。
だが魔術師は騎士に反発し、態度を硬化させた。
騎士の言葉を煩わしいものとし、遠ざけるようになったのだ。
“――私が相手のマスターを仕留める。それまでの間、貴様はそのサーヴァントを足止めしておけ”
それが、この戦いが始まる際に彼のマスターが告げた言葉だ。
当然騎士は危険だと反対したが、彼に反発するマスターは聞き入れない。
騎士が相手のサーヴァントを倒すより早く、相手のマスターを殺すことで己の優秀さを、ひいては正しさを証明しようと考えたのだ。
そうして二組のサーヴァントとマスターの戦いが始まり、
………結果として、二騎の戦いは膠着状態に陥っていた。
騎士は一刻も早くマスターの下へと駆け付けんと果敢に攻めたが、有効打は一撃も入れられなかった。
その理由は明白だ。武者の側に、積極的に騎士を攻める気がないからだ。
無論、戦う気が無い訳ではない。
僅かでも騎士が隙を見せれば、瞬間その首を切り落とす。と、その冷徹な殺気が告げている。
故に騎士は、マスターの下へと駆け付ける隙を見つけられず、この場に足止めされている。
-
―――つまり、それが相手の目論見だ。
サーヴァントが敵サーヴァントを足止めし、その間にマスターが敵マスターを殺すという、騎士のマスターと同じ作戦。
しかも相手の様子からして、武者はその作戦に同意している。
故に、焦りが募る。
同じ作戦。命令を無視し駆け付けようとする騎士と、騎士に反発し驕りを残したままのマスター。
対する相手は、こちらと違い互いに役割を承知している。
どちらに利があるかなど、考えるまでもなく―――
不意に、武者が隙を見せた。
罠だ。冷静な部分が即座に看破する。
―――だが騎士の身体は、それよりも一瞬速く、偽りの隙へと反射的に切りかかっていた。
しまった。
と、数舜遅れて思考するが、遅い。
騎士の剣は当然のように防がれ、返す一刀がその首を落とさんと迫りくる。
咄嗟に左腕を盾にして刀を受け止め、その隙に武者から距離を取る。
「ッ――……!」
辛うじて命は繋がった。
だが形勢は確実に武者の側に傾いた。
……幸いにして、左腕はまだ動く。
ここは強引に、宝具を晒してでも隙を作り、マスターの下へと駆け付ける。
後でマスターに責められるだろうが、この窮地を脱するにはそれしかない。
そう判断し、騎士は己が宝具へと魔力を込め。
パァン、という乾いた音とともに、自身を現世へと留め置く繋がりが失われたことを悟った。
宝具へと込めようとした魔力が霧散する。
せめて一矢報いようと、そう思えるほどの気力は、すでに残されていなかった。
霊基(からだ)が、塵となって霧散していく。
最後に相手の姿を見ようと視線を向ける。
武者はすでに刀を収め、静かにこちらを見据えていた。
「……見事」
武者へと向けてそう口にして、目蓋を閉じる。
同時に霊基の霧散が加速して、全身の感覚が消えていく。
―――心残りがあるとすれば。
マスターと共に戦えなかったことが、騎士として無念でならなかった―――
§
「………………」
騎士が消えるのを見届けて数分、武者は自身へと近づいてくる足音を捉える。
そちらへと振り返れば、咥えた煙草から紫煙をくゆらせる己がマスターの姿。
彼は右手の銃を懐に納め、足を止めた。
「その様子からすると、そっちは特に問題なく片付いたようだね。
三騎士の一角が相手でも十分に戦えるようで安心したよ。
それじゃあ、他の連中に見つかる前に拠点へと戻ろう」
それだけを口にして、男は踵を返してこの場から立ち去ろうとする。
その行動に否はない。大した消耗はないとはいえ、連戦は可能な限り避けるべきだ。
だがその前に、一つだけ聞いておくべきことがあった。
「…………。相手方のマスターは、如何でありましたか?」
その問いに、男は立ち去ろうとする足を止める。
「………まあ、典型的な魔術師だったよ。
目的の為なら市民を犠牲にしても気にしないどころか、自分のためになったのだからむしろ喜ぶべきだろう、なんて口にするような、ね。
なんでも、自分の優秀さを証明するのが、聖杯を求める理由だったらしい」
-
くだらない、とばかりに紫煙を吐き出しながら、男はそう口にした。
確かにくだらないと、武者も思う。
一個人の承認欲求のために、見ず知らずの他人に犠牲にされて喜ぶ者などいるはずがない。
たとえそれが、再現に過ぎない存在であったとしても、だ。とはいえ。
「……サーヴァントの方は、堂々とした御仁に見受けられましたが」
触媒無しで召喚されたサーヴァントは、マスターに何処かしら似た存在が呼ばれるという。
ならば、その魔術師とやらも騎士に通ずるものがあったのではなかろうか。
「言っただろう典型的な魔術師だって。
その騎士様が知っていたかは知らないが、マスターの魔術は他者の犠牲を前提とするものだった。
その上で犠牲を当然とするのなら、その堂々さは魔術師としての範疇を越えないだろう。同盟を結ぶ相手にはなり得ないね。
だから、始末させてもらった」
ならば致し方ないだろう。
自分たちとて、目的のために他者を犠牲にすることはあるだろう。
だがその犠牲は、必要最小限でなければならない。
悪戯に犠牲を増やし、それを善しとする者と手を組むことは出来ない。
だが。
「それは、正義感からですか?」
この問いこそが本題。
この先自分がマスターに対し如何に接するかの分水領だ。
それを受け、男は。
「“いいや、まさか”」
何でもない事のようにそう答えた。
「正義で世界は救えない。そんなものに、僕は微塵も興味がない。
……正義の味方に夢を見ていることは否定しないけど、それを判断基準に持ち込むことはないよ。
相手のマスターを始末したのは、味方に付けてもそのプライドの高さから扱い辛く、障害にしかならないと判断したからだ」
「然様でしたか」
ならば、一先ずは問題あるまい。
そう判断し、装甲を解く。赤い甲冑がほどけ、入れ替わるように赤甲の大蜘蛛が傍らに侍る。
「その答えによって正式に契約は成った。よって改めてここに宣言を。
サーヴァント、セイバー。真名を湊斗景明。善悪相殺の理の下、争いの醜さを世に知らしめる者なり。
我がマスター、衛宮切嗣よ。貴殿が血濡れた道を厭わぬと言うのなら、その目的のため、我等を存分に使うといい」
「……ああ、そうさせてもらうよ。
戦争の根絶。終わらぬ連鎖を終わらせる。すなわち、恒久的世界平和。
そのために僕は、この聖杯戦争の正体を調べ上げ、それに相応しい方法を以って聖杯へと至る」
そう口にして男――衛宮切嗣は、今度こそこの場を後にする。
己がマスターの願いは、自分たちの願いとも合致する。
早々に契約が破綻する、という事はないだろう。
「ですが、マスター。ゆめ忘れぬことです。
我が妖甲は、敵の命を奪えば、同数の味方の命を奪う。
もし正義を以って我等を振るえば、その正義は無意味なモノと成り果てましょう」
「ああ、承知しているさ。
君は敵サーヴァントを抑えてくれればいい。その間に僕が、敵のマスターを殺す。
いずれ君の刃を振るう事もあるだろうけど、今はそれが僕たちの戦法だ」
そう口にしながら、衛宮切嗣はふと思い至ったように、再び足を止める。
そちらに顔を向けることなく、一つの問いを投げ掛けてきた。
「………ああ、そうだ。一つだけ聞いておこうか」
六十億の人類と、家族二人。その二つが天秤に欠けられたとき、君はその刃で、何を殺すんだい」
その問いに、如何なる感情が込められていたのか。
衛宮切嗣はこちらの答えを待つことなく、今度こそこの場を立ち去った。
己もまた答えることなく、霊体化しつつ後を追う。
――衛宮切嗣の問いに対し、言えることは一つだけだ。
善悪相殺。その理がある限り、どちらであっても変わらない。
十のうち九のために一を殺せば、残った九を殺すのが村正の呪いだ。
そして、俺はすでに、家族二人を殺している。
ならばその時、反対側の天秤に乗せられていたものは、いったい何だったか――――
-
【CLASS】
セイバー
【真名】
湊斗景明@装甲悪鬼 村正
【ステータス】
筋力B+ 耐久B+ 敏捷C+ 魔力D 幸運E 宝具A
※宝具による能力向上分を含む。
【属性】混沌・悪
【クラススキル】
○対魔力:B
○騎乗:C+
通常の効果に加え、剱冑による飛行に若干の補正が掛かっている。
【保有スキル】
○心眼(真);B
○吉野御流合戦礼法:A+
劔冑の着用を前提とした武術の流派。
湊斗景明は免許皆伝に至っており、更には通常の兜よりも遥かに強靭な劔冑の兜を両断する『兜割り』を可能としている。
○武帝のカリスマ;C-
軍団を指揮する才能。団体戦闘において自軍の能力を向上させる。
湊斗景明は傭兵集団を、善悪相殺の戒律の下に率いていた。
争いを憎悪する者に対して程効果が大きくなるが、その戒律故に部隊の消耗が激しい。
○陰義:磁気制御:B+
電磁気を操作する能力。
このスキルによってステータスの瞬間的な強化を可能としている。
また生前の経験から、辰気(重力)操作能力も断片的に獲得している。
○善悪相殺:EX
敵を殺さば味方を殺す。悪を殺さば全を殺す。
「一つの命は善と悪を共に宿す為、刃が生命を奪う時、必ず善と悪は諸共に断たれる」という理念の下成される、正邪一体にして因果応報の呪い。
村正の刃が命を奪う時、その奪った命と等しく、しかして対になる存在の命を必ず奪う。
これは湊斗景明の意思に寄らず実行されるため、成立した時点で回避不能。
○装甲悪鬼
ランク:- 種別:対人魔剣 レンジ:不明 最大捕捉:1人
『善悪相殺の呪い』を逆手に取った、必死必殺の殺人剣。
唯一最大の者を対象としたときに、その代償となる者の命を先行して支払うことで、対象を確実に殺害する疑似的な因果逆転の一刀
湊斗景明は最も憎悪する存在として自らを殺す(自刃する)ことで、最強の敵にして最愛の存在であった妹を殺害した。
【宝具】
○三世村正
『勢洲右衛門尉村正三世』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
赤鬼を彷彿とさせる深紅の装甲をした、剱冑(つるぎ)と呼ばれる甲冑。
着用者たる仕手の熱量(カロリー)を消費することで、生身とは比べ物にならぬ剛力を発揮し、その機構による飛行や陰義(しのぎ)と呼ばれる特殊能力が使用可能になる。
着用時以外は絡繰りの大蜘蛛、または褐色の肌に白銀の髪、赤い服の女性の姿をとる。
この状態でもある程度の戦闘能力は有しており、場合によってはこの状態で湊斗景明との連携攻撃を行う。
○おわりのたち/レールガン
『蒐窮一刀/電磁抜刀』
ランク:C〜A+ 種別:対人宝具 レンジ:2〜5/10 最大捕捉:1人
吉野御流合戦礼法の抜刀術を、陰義『磁気制御』を以て崩(アレンジ)して放つ必殺の一撃。
納刀した状態から鞘と刀身の磁気反発を利用して高速抜刀し、相手を一閃する『禍(マガツ)』を始めとして、『威(オドシ)』、『呪(カシリ)』、『穿(ウガチ)』など様々な派生が存在する。
【weapon】
野太刀、太刀、脇差
-
【人物背景】
武帝と呼ばれる傭兵集団の頭目。
殺した敵の分だけ味方を殺すという、善悪相殺を戒律としており、世界中の戦場で暗躍しているとされている。
顔は怖い(笑い顔は特に怖い)が、本来の性格は優しくおおらかなもの。
しかし武帝となる以前に起きた大事件、その主犯格である銀星号を追ううちに、精神的に磨耗し現在の陰鬱な性格となった。
銀星号を追う過程で善悪相殺の呪いにより多くの者を殺めており、事件解決後にその罪に対する裁きを求めたが、しかし裁きは与えられることはなかった。
結果として、善悪相殺の呪いが生じた理由に己が未だ生きている意義を見出し、殺戮の醜さを以って戦争を無くすため、武帝となった。
【サーヴァントとしての願い】
最小限の殺戮を以って天下に武への恐れを布くことで、結果としてこの世から戦争を撲滅する。
すなわち天下布武。
【マスターへの態度】
傭兵と雇い主。
自らの意思で刃を振るうことはない。
【マスター】
衛宮切嗣@Fate/Zero
【マスターとしての願い】
恒久的世界平和。
ただし、聖杯が冬樹の聖杯の様な邪悪な物であるならば破壊する。
【能力・技能】
○固有時制御
オーソドックスな魔術の他、自身の体内時間を操作することによる高速戦闘を可能とする。
しかし術式解除後に、内外の時差が修正されることによるダメージを受けてしまう。
第四次聖杯戦争時はある宝具の効果により最大四倍速まで加速できたが、現在は失われており、三倍速でも大きなリスクが伴う。
○起源弾
専用の魔術礼装、トンプソン・コンテンダーから放たれる魔弾。
この弾丸を撃ち込まれた相手には、切嗣の起源である「切断」と「結合」が同時に現れ、不可逆の変質と破壊が引き起こされる。
特に魔術などの神秘による現象を打ち抜いた場合は、その現象を引き起こしている回路にまで影響が及ぶ。
その様は電子回路に水滴を垂らすようなものと例えられ、つまりは回路に流れている電流(=力)に比例した内部破壊を引き起こす。
例えるなら、「相手の使用した技の消費MPが、そのままダメージ数値になる」といったところ。
さらに不可逆の変質を伴う回路の破壊であるため、HPとMPの最大値ごと破壊していると言える。
ただし、あくまで「回路へのダメージ」であるため、回路が外付けされた物である、などといった場合は、相手へのダメージが発生しないこともある。
【weapon】
トンプソン・コンテンダーを始めとして、キャレコやスナイパーライフルなどの重火器をメインウェポン。
ナイフをサブウェポンとして、トラップなども当然のように用いる。
【人物背景】
第四次聖杯戦争に参加し、事実上聖杯を手にする。
だがその事態を知ったことで聖杯を拒絶、破壊する。
しかしその際、聖杯から溢れた呪いによって大災害が引き起こされ、さらに切嗣自身も聖杯から呪われてしまう。
その後、大災害の生き残りである士郎を引き取り、戦争終結から五年後に死去。
そのため、三戦時期は死後から。
【方針】
生前の経験から、聖杯に対して懐疑的。
そのため、聖杯戦争自体の調査をしつつ、まずは他のマスターの動向を探り、危険と判断すれば排除する。
だが、仮に危険性が低いと判断したとしても、直接的な協力・助力は極力行わない。
【サーヴァントへの態度】
あくまで使い魔として接する。
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以上で投下を終了します
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投下します
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その戦場に、善悪の概念はなかった。
正誤も、罪罰も、因果応報も考えないでよかった。
少なくとも、戦場を縦横無尽に駆ける彼女にとってはそうだった。
刺客たちはこちらを悪だと見定めており、それに伴なっての憎悪はある。
少なくとも、眼前の敵集団は『幕府の犬』だの『狂犬』だのと、耳慣れた罵倒を口走ったまま抜刀を見せている。
この哨戒に連れ立ってきた背後の同志たちには、それで動揺した者もあったようだが。
先頭でそれを受ける己が胸の内に、余分な感情の揺らぎはいささかもない。
ただ、臨戦態勢を取る集中と、必殺の気合があるのみ。
殺すつもりで向かってこられた以上は、斬る。
戦端が開かれてから先に、それ以外の道理があるだろうか。
地面を蹴りつけ、一歩目を飛ぶ。
着地点にいた敵集団の先陣は、それで袈裟懸けに胴を割られていた。
仕掛けてきた側だというのに、何が起こったという鈍さを顔に表したまま一人目が斬られる。
返り血を浴びながらも視界は保持。
二歩目の到達点にいる、敵と視線が合った。
眼光を受けた相手が幽霊でも見たような慄き方をする。やりやすい。
懐に入った勢いのままに二人目の上体を蹴り上げ、後ろへと仰け反ったその首を一刀に刎ねる。
頭部がぼとりと落下している死体を踏み台にしてさらに跳び、 三人目を上空から襲う。
愛刀を振りぬくではなく振り下ろし、のどの気道を貫いてずぶりと突き立てた。
刺突であればそこに穴をあけた時点で、人間は例外なく絶命する。
背後から、■■さんに続けと味方を鼓舞する声に続いて。
そこに混ざる、聞き慣れぬ声質のどよめきが耳に引っ掛かった。
そう言えば、今宵の見回りには新入りも数名いたのだったかと思い出した。
ならば斬り合いは『こういうもの』だと見せておくに越した事はないだろうと。
刀を抜いたばかりの遺体を引きずり起こし、押し出す。
さらに向かってくる敵集団へと、その刺突を妨害する障害物として。
仲間の身体を盾に利用されたことへの、躊躇と動揺が露骨な者。
怒りの気配を纏うも、表面上は冷静さを崩さない者。
その差異によって、先に倒しておくべき輩、警戒を割り振るべき取捨選択は読める。
もっとも熟練だと判明した侍へと向かい、率先して難敵を引き受ける。
怖気づき、後悔する、そんな余白など彼女の戦いにはどこにもない。
逃げれば、士道不覚悟。
進めば、斬れる。
世界はとても単純明快にできている。
主張など要らぬ。ただひたすらに斬るのみ。
大勢は決し、戦いのありようが囲みの突破から掃討へと移った頃合いだった。
己の身体に違和感を覚えたのは。
息切れとは別に、のどもとをせり上がるつかえがあった。
忌んだのは、その違和感がこれまでにもあり、心当たりがあるものだったこと。
-
斃れながらも息のある敵に捕縛の指示を出す仲間の群れを抜け出す。
独り、戦場から逃げのびようとする首領格の男を追った。
合理としては、討ち漏らしを出すつもりはなかったから。
本音としては、この違和感の先に急変を、他の者に見せたくは無かったから。
戦わなければ、長生きできるものを。
これは、医師からはそう言われるものだ。
刀を奮えば奮うほど彼女は死に近づく。
それは自明でありながら、しかし心の内に恐れはない。
残敵が龕灯に当たらず、夜闇に溶けそうであることにいささか安堵して、終わらせるために地を蹴る。
――――ドッ
一歩目で、踏み込みが音越えをする。
景色から不純物が消えて彼我だけが残る。
己の鼓動の音、生者の証さえ置き去りに聴こえなくなる。不要になる。
斬るためには刀身をぶつけるのではなく、身体ごと一刀と化してぶつけるものだから。
――――ヒュッ
二歩目で、『間』が無きものと化す。
踏みしめる地が縮み、位置取りを自在にする。
距離を詰め、正面に回り込まれるという本来であれば敵の視界に追われる手順が省略される。
剣術のしのぎ合いで決闘に勝つためではない、暗殺の為に研ぎ澄ませて一方的に命を獲るための奇襲。
三歩目で、全てが断たれる。
――絶刀(slash)。
剣戟は、単なる刺突に留まらない粉砕破壊と化す。
三連瞬いた刀身が抜かれると、人体の局部は形を崩す。
幽鬼でも見たような顔をした敵が、その顔のまま眼の光を失う。
返り血は大輪の華と化し、刀身と手先はねっとりと濃い血糊をかぶる。
残心を解くと同時に、違和感は咳となった。
返り血を呑んで噎せたという振り。
しかし己のそれだと分かり切った命脈が、肺から喉元を越えて体外にあらわになった。
刀の柄から外れた片手の手のひらに、彼女自身の血潮の一部だった雫が落ちる。
それは手のひらを、闇夜を、三千世界を、絶望的なまでの真っ赤に色付ける。
どんな時代も、どんな戦い方をする世の中でも、深紅とは不吉な警告の色だ。
回顧的な心情と視界だけを借りた傍観者の身の上でも、悟ることができた。
彼女はそう長くは生きられない。
その時代においては例外なき死をもたらす病魔に呪われている。
――逃げればいいのに。
戦場を放棄することは敵前逃亡であっても、『病休』という安全な逃げ道はこの世界にもあったはず。
しかし 『赤い液体を吐いたとは知られないように秘そうとした』時点で、彼女がそれを望まなかったことは明らかだ。
きっとその女性に、最後まで『逃げる』という選択肢はなかった。
逃げれば何より大事なたったひとつ、己の寿命が守られるのだとしても。
-
いや、そもそも逃げたいという感情さえ持つことはなかったのだろう。
逃げたかったのに逃げなかった、何も手に入らないと分かっていても奪おうとした、あの女とは違う。
逃げればいいのに、という独白に反論したのは、過去夢の彼女ではなくあの女だった。
彼女に似た声音をした、でも違う少女の声は、夢ではなく己の耳に残っている。
――逃げて……その次はどうするの?
地球の人斬りではなく、地球の魔女が言ったことだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「――とまぁ、こんなものをお見せすることになりましたが、いかがでしょうか?」
へにゃり、と力の抜けた笑顔で手を差し伸べられた。
返り血は既にぬぐわれた後の、若い女性の色白ですべらかな手のひらだった。
淡雪を思わせる白い色彩を宿した立ち姿に、少女性を強調するように後ろ髪で揺れる大きな飾り布(リボン)。
西日を浴びた木の葉色のような、ほの暗さと透明感をどちらも併せ持った双眸。
第一印象の儚さと清らかさだけなら、あのベネリットグループの総裁令嬢にさえ引けは取らないかもしれない。
逆に、第一印象以外は全くそうではない女性だった。
地面に様々な濃淡の血の海ができあがる中で、彼女が絶命させた葬者(マスター)を足元に転がして。
その光景にいささかも心揺れることなく、手甲脚絆や浅葱色の羽織を緋色に濡らしても平然と微笑している。
地面に腰をついていたところを、容姿にそぐわぬ力強さで引き上げられて立たされた。
緩んでいるのは、頭頂部で跳ねたアホ毛と、その発言のみ。
「感想を言ってもいいなら……返り血は控えめにしてほしかったな。
どうやって目立たないように帰ったものか、悩んでるところだよ」
動揺を封じ込めるためにもと、憎まれ口で返した。
サーヴァント・セイバーの呼び名を持った女は、はっと真顔になりぺこぺこと頭を下げる。
「しまった……辻斬りの横行する京(みやこ)の夜道を歩くようなものと心得ていました。
この時代では、人斬り包丁だと露見するような恰好で路地を歩くのは憚られることでしたね」
「返り血だらけで歩いても通常営業扱いかよ。旧時代は地獄かな?」
-
もっとも、たった今絶命したばかりの男からしてみれば、再現された過去の地球、東京という都で過ごしたここ数日だってまさに地獄の日々だったのかもしれない。
もともと『サーヴァントとしての実力を見せてくれ』とセイバーに要望したのは、ほかならぬ自分だ。
だが、街と冥界の境目へと到達した矢先に、ここで遭ったが運の尽きとばかりに使役された死霊や屍蝋鬼(グール)達に囲まれたのは想定外だった。
すぐさまセイバーが冥界への境を越えて数歩のところで、神速の剣技によって死霊たちの越境を食い止めた。
眼にもとまらぬ速さで死霊たちの霊格や腐乱死体を次々と斬り伏せ、再殺の血だまりに周囲を一変させていく。
その速攻を境界の手前で目の当たりにしながら、それにしたって自然発生したにしては頭数が多くなかったかと疑問を抱いたその時だった。
刃物を振りかざした、浮浪者然とした服装の成人男性が襲い掛かってきたのは。
「それに、マスターのお手も煩わせてしまったことは、重々すみません。
けれどマスターが躊躇わずに得物を奮える方で、本当によかった」
それは明確に落ち度だったと、やや歯噛みした面持ちで謝罪してくる。
それについて言えば、こちらも『死霊たちを逆利用して襲撃する敵性葬者(マスター)』まで想定しなかったという反省点がある。
なるほど、サーヴァントの性能試験や戦闘資源の確保、あるいはシンプルに逃走しようとして冥界に踏み込むマスターは序盤であれば他にもいるだろうと、警戒はしていたつもりだった。
そういった『初めて冥界に踏み込んだ者』を、自然発生の死霊たちのみならず『魔術によって使役した霊魂』でもってサーヴァントを過度に包囲し、やや孤立したマスターを乾坤一擲に奇襲する。
まだ冥界に踏み込み慣れない主従であれば、『いくら何でも死霊が多すぎる』とはすぐに気付かれないのも併せて、博打ではあれど賢明に勝ち筋をつくろうとした上での襲撃だった。
……と、まで想像がついたのは、刃物を握った遺体の手先が血の気をなくした、屍蝋のそれに変質していたからだ。
つまりサーヴァントを失い、残り6時間の余命になったことで追い詰められた葬者だった。
であれば交渉の余地もないと、問答無用でマスターを殺してセイバーを奪おうとしたのだろうとも察せる。
使役した死霊たちは、サーヴァントが遺した置き土産か。この男が持ち合わせていた最後の切り札だったのか。
どちらにしても、セイバーは死霊の全てを投入してやっと足留めが叶うぐらいに手練れだった。そして、男の白兵戦能力はそこまで高くなかった。その二つが生き残る葬者を分けた。
「いつもこういう風にはいかないさ。魔術師でも何でもない学生一人に制圧されたこともあるよ」
いまだにバチバチと火花を散らす、スタンガンの電源を切った。
振り下ろされる刃を交わし、背後に回り込んで男の総身に電気ショックを与える。
それだけの反撃を終えた時点で、セイバーはもう囲みを突破して男を袈裟斬りにしていた。
逆に言えば。
襲撃したマスターが、いつかのトマト菜園のように白兵戦の訓練を経た工作員をものともしないポテンシャルを秘めていれば。
この戦いの生死は入れ替わっていたかもしれない。
それを実感してしまったからこそ、憎まれ口で紛らわせても、心はぞっとしたままだった。
「腕前ではなく。マスターが血と人の生き死にに慣れていることです。
恐怖だけでなく確かな順応がある。戦場では、そうできない者から順に死んでいきますから」
しかし、そんなおぼつかない緒戦であっても、セイバーからすれば及第点であったらしい。
そこには確かに、生前に『慣れ』を覚えられずに命を落として行った戦場の駒を数多く見てきたという実感があった。
しかし、セイバーに何ら皮肉はない、素直な賞賛だったとしても。
彼女にとっての戦場とは順応すれば生きていける場所であるらしいことが、今だけは、いささか棘のように感じた。
彼――モビルスーツ操縦士兼、特殊工作員の強化人士5号にとって、命を安いものと扱うのは慣れたことだった。
そのはずだったのに。
-
「僕が見てきた戦場では、死にやすい奴はもっと別にいたよ」
彼がごく最近まで触れ合っていた、戦場育ちの少女は。
戦場に慣れ、奪う生き方に慣れ過ぎて、それ以外を閉ざしたせいで死に向かってしまった。
表層ではセイバーのように冷たい狂犬として振る舞いながらも、殺し合いに向かない本質を手帳の中だけに隠していた。
本当なら戦場を生き場所としても死に場所としても選びたくないと、怯えて嘆いていた。
「戦場に慣れきっていたのに戦場では生きられなかった、君とぜんぜん似てない女の子だった」
冷たい狂犬のような振舞いだけは同じであっても、彼女たちは全く違う。
戦場を己の生きる場所だと定めて。
憎悪や恐怖の揺らぎもなく、淡々と血の雨を降らせて。
あまつさえ他人(マスター)の為に命を捧げることも受け入れる。
ただただ己の殺戮の成果を、どうだったか、役に立てたかと感想を求める。
そんな死者(サーヴァント)の在り方は、強化人士5号が共感するにはあまりに遠かった。
「死にたくないのが本音だったのに、絶対に死ぬような戦場に飛びこんで行った。
僕なんかより、よっぽど人生のやり直しを懸けて聖杯戦争に来てもよさそうな奴だったよ」
こんな場所に堕ちこむとしたら、自分ではなく彼女の方では無いのかと疑った。
たしかに自分は生まれて初めてパーメット・スコアを危険域にまで上げた経験をしたばかりだが。
それなら彼女の方が、よほど積極的に死に向かっていたし、死にたくないとも怯えていた。
何より、死んだも同然の人生じゃなくて、ちゃんと生きたかったと言っていた。
「マスターにとって、大切な人だったのですか?」
刀を鞘に収め、まっすぐにこちらを見つめてセイバーは問いかけてきた。
斬り合いで見せていた、明度と彩度の一切が欠落した無の眼光はもう無い。
尽くすと定めた相手には、もう心を向ける相手がいるのかという興味。そして、心を見透かしてくるような無垢。
冷徹さと狂犬のような暴力性を二重塗りにして、内面を隠していた地球の魔女には無かった素朴さだった。
返り血をしっかりと拭ってから手を伸ばす真っ当さも、かえって捉えどころがない。
ともあれ、今の少女はただ少しだけ首をかしげて、好奇心と一抹の寂しさを覗かせていた。
-
「いいや、まだ何も始まってない奴だよ」
彼女を取りもどすために戦う。
そんな目的を振りかざすには、彼女は元から彼のところにいなかった。
まだ、彼女に本当の名前を教えていない。
彼女がいなければ、あの絵の場所に行ってみるのだって何年かかるか分からない。
生きるのも死ぬのもどっちつかずな命の安い者同士だって、生きていいんだと証明できてない。
「僕は僕の為に最後まで生き残る。彼女に還ってきて欲しいと願うのは、その後のことだ」
だからこれは、彼女に再び人生を与えるための戦いではなく、自分のための戦いなのだ。
同盟だろうと潜伏だろうと奇襲だろうと手を尽くして、ただ生きのびる為に聖杯を掴む。
そして願いが叶うというなら、また会えた彼女に嫌味っぽく言ってやろう。
どうだ、命の安い捨て駒だって生き延びていいと証明されたじゃないか、と。
「ええ、そうです。マスターがすぐにいなくなってしまっては、私も『最後まで』戦えません」
「君も最後まで勝ち抜き狙いなの? マスターに命を捧げる割に、願いはしっかりあるんだね」
嫌味だと受け取らなかったらしく、セイバーはこくりと頷いた。
言葉の代わりに賛同を告げる、狂人ならざる瞳だった。
あるいは。
彼女に似てないセイバーであっても。
一緒にいれば、ヒントぐらいは掴めるのかもしれないと思った。
死の恐怖や奪おうとする敵への憎悪とはまったく別の境地で戦っている彼女であれば。
『誠』などという己には聞いたことのない概念を宝具になるほどの信条に据えている彼女であれば。
――じゃあ!逃げるだけのあなたは!?
――ただ息を潜めて!目をそらして!そんなの死んでるのと同じ!
死の恐怖を超越して人を動かすものを、知っているかもしれない。
『死んでないだけ』から『生きてる』へと、からっぽの人間を満たすもの。
もしも、それを示せていれば真の意味で彼女を救えたかもしれないもの。
時に人間の余命を縮めて、しかし本当にそれを持った奴がいれば、羨ましいと仰いでしまいそうなもの。
「ただ、最後まで『ここに』、『ともに』……その二つで、私は満たされます」
一人にしないでほしい。
-
そういう風に聞こえたのは、『一人にしないで』と懇願する彼女に会っていたせいだろうか。
あるいは、まるで私心なく命を捧げる少女よりも、そういう少女の方が理解しやすいという願望かもしれない。
彼は今でも『自分が生きてさえいれば、他のことは二の次でいい』という考えは変えていないから。
進めば何かが手に入るとか、殻を破って進めば世界が広がるとかよりも。
まず生き延びなければ全てを失うことになるから。
ただ一つだけ、彼女が死ぬ前と後とで、決定的に変わったところがあるのだとすれば――。
「そうは言っても、年相応の服ぐらいは欲しがってほしいんだよなぁ……」
「当世風の服、ですか? そ、それは気が惹かれないと言えばウソですが、ああでも、この流れで欲を出すのは……」
「まず自分の恰好を客観視してから言ってくれよ」
彼女の生きていた時代の常識は知らないが、それでも『極めて彩度の強い空色で、袖口だけぎざぎざに白く縁どられた服』が真名バレ余裕なぐらいに特異だというのは分かる。
短絡的なところはあの地球人二人と同じかと、将来に不吉さを抱かずにいられないことにまで、既視感を持ちたくはなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
――もう、逃げることはしない。
【クラス】
セイバー
【真名】
沖田総司@帝都聖杯奇譚 Fate/type Redline
【ステータス】
筋力C 耐久E 敏捷A+ 魔力E 幸運D 宝具C
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
対魔力(E) セイバーのクラススキル。魔術に対する抵抗力。神秘の薄い時代の英霊の為、『対魔力』は殆ど期待出来ない。
騎乗(E) セイバーのクラススキル。乗り物を乗りこなす能力。彼女に限らず、新選組に馬を駆って活躍したという逸話はないので、こちらも申し訳程度のクラス別補正。
-
【保有スキル】
心眼(偽)(A) 直感・第六感による危険回避能力がスキル化したもの。虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。同時に視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。
病弱(A) 生来の虚弱体質。生前の病に加えて後世の人々からのイメージを塗り込まれた結果、『無辜の怪物』に近い呪いを受けている。発動する確率こそ低いものの、あらゆる行動に急激なステータス低下のリスクを伴い、特に戦闘中だと致命的な隙を生む危険がある。生前患ったのが肺結核だった為か、劇中では度々吐血する。
縮地(B→B+) 瞬時に相手との間合いを詰める技術。多くの武術、武道が追い求める歩法の極致。単純な素早さではなく、足捌き、体捌き、呼吸、死角など幾多の条件が複雑に絡み合う事で成立する。Aランクともなると、最早テレポーテーションの類であり、人の身では届かない仙術の範疇である。その為、人間が実現出来る技術の最高峰に相当するのがBランクと思われる。後述する『無明三段突き』の要ともなる技術。
無明参段突き
種別:対人魔剣 最大捕捉:1人
稀代の天才剣士、沖田総司が誇る必殺の魔剣。「壱の突き」に「弐の突き」「参の突き」を内包する。
平晴眼の構えから“ほぼ同時”ではなく、“全く同時”に放たれる平突き。超絶的な技巧と速さが生み出す、防御不能の秘剣。
FGOのみ宝具扱いとされているが、それ以外の媒体ではスキル扱いされている。
【宝具】
『誓いの羽織』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
幕末に京を震撼させた人斬り集団「新撰組」の隊服として有名な、袖口にダンダラ模様を白く染め抜いた浅葱色の羽織。
サーヴァントとして行動する際の戦闘服と呼べるもので、装備する事によりパラメータを向上させる。
また通常時のセイバーの武装は『乞食清光』だが、この宝具を装備している間、後年に「沖田総司の愛刀」とされた『菊一文字則宗』へと位階を上げる。
『誠の旗』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:1〜200人
最終宝具。新選組隊士の生きた証であり、彼らが心に刻み込んだ「誠」の一字を示す一振りの旗。
帝都聖杯奇譚本編ではまだ使用していないため、性能は『Fate/KOHA-ACE 帝都聖杯奇譚』などの他媒体に準拠する。
(当人に最終宝具を使用できる自覚がないらしいところは、他媒体と共通している)
使用者本人も気付いていなかったが、一度発動すると、かつてこの旗の元に集い共に時代を駆け抜けた、近藤勇を始めとする新選組隊士達が一定範囲の空間内に召喚される。
各隊士はそれぞれ全員が独立したサーヴァントで、宝具は持たないが全員がE-ランク相当の「単独行動」スキルを有しており、短時間であればマスター不在でも活動可能となる。
【weapon】
乞食清光(→菊一文字則宗)
【人物背景】
ぐだぐだしてない時の沖田さん。
FGOのみを頼りに把握しようとすれば痛い目を見るので要注意。
少女の心から人でなしの刃を生やした壬生の狼。
死ぬのは怖くなかったが、置いて行かれることには耐えられない狂人ならざる病人。
【サーヴァントとしての願い】
戦争の最後まで、主(マスター)のそばで戦い抜くこと。
【マスターへの態度】
忠犬。
姿勢きりっ。尻尾ぱたぱた。外敵に対しては威嚇がるるる。
これらの態度を豹変ではなく同時に両立させる。
-
【マスター】
エラン・ケレス(強化人士5号)@機動戦士ガンダム 水星の魔女
【能力・技能】
MSの高い操縦技術。それに付随する(作中のパイロットに共通の特徴として)単車などの運転技術。
工作員として相応の白兵戦能力は持ち合わせており、特に拳銃射撃についてはプロスぺラおよびハロ二機を相手に足止めをする、ヘルメットだけを撃ちとばして殺さずに制圧するなどかなり戦い慣れている。
しかしスレッタを篭絡しようとして(以前と別人のように変わったという違和感もあったとはいえ)盛大に滑ったり、失敗が許されない焦りから雑な実力行使に及んで失敗したりと、驕りや焦りによる行動のムラもある。
ただ基本的には口八丁にも長けており、ふてぶてしくもちゃっかりした立ち回りをする。変わり身も早い。
【人物背景】
アスティカシア学園パイロット科3年。学籍番号「KP002」。
ペイル社が擁立するパイロットで、寮の筆頭にして決闘委員会所属……という肩書、名前、声を借りて学園に潜入した特殊工作員。その5代目。
天使のような笑顔を見せる一方で、本物と同じくらい性格が悪いと評される。
パイロットとしての力量も高いが、「死ぬのは御免」という理由からGUNDフォーマットの使用を避けようとする。
同じく『命の安い少女』『死を恐れるガンダムパイロット』と出会い、短い期間ながらも同室で暮らして影響を受ける。
20話終了時、機体離脱後から参戦。
設定(ロール)は某国からの留学生扱い。名義はエラン・ケレスとなっている。
【マスターとしての願い】
奪うだけでは手に入らないと身に染みた。
それでも命『ひとつ』を抱えて生還する為に、進む。
ただし、奇跡がつかめるならば『ふたつ』を手に入れる。
【サーヴァントへの態度】
共感できない、分からない奴。
隣にいるだけでいいなら、それはやぶさかではない。
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投下終了です
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>>861
>縮地(B→B+)
すみません、こちらを『縮地(B)』に訂正させていただきます
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投下させていただきます
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運命というものが、もしも本当にあるのなら。
自分はそれに、選ばれなかった人間だと。
少年は、そう自己評価していた。
最初は、ただほしかった。
のけ者にされたことが、悔しかった。
羨ましかった。運命に選ばれたあの子のように、なりたかった。
ほしいとねだったものが手に入らなかった時、人が取る選択肢はふたつだ。
残念だけれど仕方ないと、悔しい気持ちを切り捨てて前を向く。
そしてもしくは、その悔しさをずっと抱えたまま生きていく。
少年の場合は、後者だった。
自分が弱いから、手に入らなかった。
自分が弱いから、選ばれなかった。
自分が弱いから――負けてしまった。
絶対に負けちゃいけないバトルに、惨めに敗れ去った。
少年は決めた。強くなろうと。
二度と負けないために。
いつも強くて格好いい、誰からも頼りにされる"選ばれたあの子"のようになるために。
血反吐を吐く思いで努力した。弱さを罪と呼んで、強くあることだけを正しさと据えた。
弱さなんてものは、何かを得るためには重荷でしかない。
だから捨てた。誰に何を言われようと、すべてに聞く耳を持たなかった。
強く、強く、強く、強く――いつかの悔しさを濯ぐために。
少年は、強くなった。
とても。とても、強くなった。
そして、当たり前のようにもう一度敗れ去った。
(――ああ)
なぜ、自分の手はいつも届かないのだろう。
こんなにたくさん、努力をしたのに。
強くなって、みんなに嫌われてきたのに。
それでも、必死で伸ばしたこの手は届かない。
何かを掴むこともなく、惨めに空を切るばかり。
どうして。
なんで。
自分だけが、いつもこうなのだろう。
-
(――なんで、俺は)
羨ましい。
羨ましい。
羨ましくて、たまらない。
強い人が。選ばれる人が。手の届く人が。
誰にでも好かれて、愛されて、何も変えることなくどこにでも歩いていける人が。
羨ましい。何故、どうして。こんなに焦がれているのに、どうしてこんなにも差があるのだろう。
どうして、どうして――
(――なんで、俺は、ああじゃないんだ)
膝から崩れ落ちたその瞬間、世界までもが崩れていくのがわかった。
慌てふためく気にもなれず、どこかへ墜落していく感覚に身を委ねた。
見上げる空、さっきまで自分がいた世界はどこまでも明るく照らされていて。
ますます、自分という存在が惨めでたまらなくなってくる。
あっちは、いつだってあんなにも明るいのに。
なんでこっちは、こんなに暗いんだ。
羨ましい。
ほしい。
あんな風に、なりたい。
俺も、俺だって、俺だって――。
堕ちていく願いの星は、ただ昏く。
暗がりに埋もれるように、死骸の沼へ沈んでいく。
裂けた酸塊(すぐり)の実が、水面に落ちる。
ぽちゃん、と泣き言のような音を立てて波紋が広がり。
溶けるようにして消えていく、その今際に。
どうしようもなく冥い運命(なにか)が、落ちた果実を水底から見上げていた。
-
◆◆
死が満ちる、敗者の集う、骸の世界。
積み上がった億万の髑髏が、大地を成して。
その骨肉から出た臭気のような未練が、空を騙る。
そこで、わけもわからないままに少年は死にかけていた。
何も得られないまま、失意のまま冥界に落ちてきた哀れな敗者。
彼の前には今、一体の怪物が立っている。
どのポケモンよりも屈強で、そして恐ろしい気配を漂わした巨人だった。
少年はそれを、情けない格好のまま見上げることしかできずにいた。
それもその筈だ――彼はポケモントレーナーとしては確かに強い。いや、強くなった、というべきだろうか。
弱さや甘さ、そして優しさ。
そうした人として大切なものを全部贅肉として排除した彼は、努力の甲斐あってとても強くなっていた。
今の自分なら"あの子"に勝てると、そう思い上がってしまうくらいには。
けれどそんな強さも、一個のモンスターボールも道具もないこの状況では何の意味はない。
所詮彼はポケモントレーナー。共に並んで戦ってくれる仲間たちがいなければ、単なる弱くて脆い五体がそこにあるだけだ。
尻餅をついて、歯の根が合わないまま自分にとっての死神を見上げる。
死者を死に還すもの。サーヴァント。
この圧倒的な"強さ"を前にしては、少年がこれまで磨き上げてきたなけなしの"強さ"など何の役にも立たなかった。
強さの象徴として変えた外見も、今じゃ余計に惨めさに拍車をかける役割しか果たしていない。
(ああ……死ぬんだ。死んじゃうんだな、俺)
なんて皮肉だろうと、そう思う。
いらないものを何もかも捨てて、そうやって強くなった気でいた。
そんな自分が、今は世界から見捨てられてこうしてゴミ溜めのような場所で終わろうとしている。
自分は、どこで間違えたのだろう。
リーグ部の皆にひどいことを言ってしまった時だろうか。
自分なんかが強くなろうと思ってしまった時だろうか。
それとも、あの子にバトルを挑んだ時?
あの夜に、あの子たちの会話を盗み聞きしてしまった時?
真実(ほんとう)なんて何も知らず、無邪気に憧れてしまった時?
ああ、そうだ。
きっと、強くなろうとなんてしなければよかった。
欲しがったりなんか。上を見上げたりなんか、しなければよかったのだ。
人には、生き物には、身の丈というものがある。
弱いなら強いものの後ろに隠れていればいい。
特別なことなんて望まずに、うたた寝したくなるような穏やかな日々に浸かっていればいいのだ。
-
井戸の中のポケモンが大海原を知らないのは悪いことじゃない。
弱いなら、弱いなりに自分の世界だけで生きていればいい。
何も欲しがることなんてなく。
何かに憧れることも、せず。
ただ与えられた幸福を噛み分けて、日々の安らかさに微笑んでいればそれでよかった。
(考えなくても、わかってたことじゃんか。俺が、おれなんかが……)
あの子に敵うはずも。
鬼さまに見合うはずも、なかった。
頭ではわかってたことだ。
なのにそれを見ようとしなかった、見ないふりをした、だからこんなことになっている。
(ごめん、ねーちゃん。おれ……バカだったよ)
振り上げられた、大剣を見上げる。
刀身が反射した太陽の光がやけに眩しい。
それはまるで、誰からも愛される、強くて格好いいあの子のようで。
(おれなんかが、手なんて、伸ばすべきじゃなかった……)
網膜へ無遠慮に降り注ぐその光は、どこまでも無神経だった。
見上げるものの気持ちなんて、何ひとつわかっちゃいない。
きっと人を羨んだことも、手を伸ばしても手に入らなかったことなんてなかったのだろう。
まるで物語の主人公(ヒーロー)のようなあの子のことを、少年は、思い出して。
そして――
(おれ、なんかが……)
なんだか。
無償に。
(……………………ふざけんな)
無償に――すごく。
すごく、苛ついた。
「ふざ、けんな……!」
気付けば吠えていた。
そんなことをしたって無駄だって、わかりきっているのに。
-
「羨ましかった……! おれだって、おれだって、あんなふうになりたかった!
鬼さま、ほしかった……! だから強くなった、それの、なにが……!!」
それの何が、悪いことなのだと。
弱いものは、下から見上げるしかないのかと。
そうやって羨んでは、自分じゃ届かないからと諦めていればいいのかと。
少年は、吠えていた。目の前の巨人に対してじゃない。
それはきっと、自分を見放した運命への咆哮。
理不尽に自分を裏切り続けた世界をこそ、彼は今際の際で呪っていた。
どうしておれはああじゃない。
おれだって、ああなりたかった。
あんな風に、なってみたかった。
だから強くなった。
強くなりたい。もっと。こんなところで。まだ。
「くそ、ぉ…………っ」
顔中を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにして、土を握りしめた。
されど、落ちてくる死の振り子は止まらない。
少年の命運は、ここで断たれ。
結局最後まで、彼は誰にも選ばれない。
それが、彼に与えられた結末で。
彼に許された、身の丈だった。
井の中の蛙は蛙のまま井戸で死ねと神が言っている。
強さを追い求め、焦がれた末の末路。
身の程知らずの身体は断ち切られ、その無力な五体は死骸になって冥界に朽ち果てる。
――その、運命を。
――否と切り捨てる、小さな陰(かげ)が、あった。
「え……?」
恐る恐る開いた視界の先で、少年は、信じられないものを見た。
天を衝くような巨体で、自分の背丈の倍以上もあるような大剣を振り下ろした巨人。
その一撃を、何分の一かの小柄なシルエットが受け止めていた。
巨人の動揺が伝わってくる。大山のような巨躯をどれだけ駆使しても、ものの数センチさえ小人の棍棒を動かせない。
-
緑色の半纏を羽織った、ちいさな子どものような姿。
武器にするのは、なんてことのないただの棍棒。
そこに蔦を巻きつけて、思いきり殴りつける。
その姿を、そのかたちに――少年は、スグリは、きっと誰よりも憧れていた。
「あ、ぅ。え、ぁ」
声が、うまく声になってくれない。
尻もちをついたまま、ただ見つめるしかできない。
何故。どうして。ここに――。
感情が喃語のような音声になって漏れていく。
そんなスグリの前で、影が、ゆらりと振り返った。
鬼が、そこにいた。
ちいさな、ちいさな鬼が。
棍棒を片手に、そこにいた。
忘れるはずもない、その姿。
欲しくて、焦がれて、どうしても捨てられなかった憧れ。
せわしなく開閉を繰り返す口で、それでも、スグリは呼んだ。
「……………………、鬼、さま………………?」
それは。
あの日、彼を選ばなかった運命。
伝説の鬼、悲しいポケモン。
夢にまで見た憧れが、そこにいて。
今にも終わる筈だったスグリの物語を、その棍棒で文字通りつなぎ止めていた。
見たことのないお面を被っていた。
白い、どこまでも白い"きつねのめん"だ。
ずっと見上げることしかできなかった憧れが、今は対等の目線にいる。
そこに立って、自分のことを見つめている。
この出会いに名を与えるとしたならば、やはりそれは"運命"と呼ぶべきなのだろう。
スグリの言葉に、小さく頷いて。
鬼さまは、小さく鳴いた。
その鳴き声は、いつか聞いたのとは違って聞こえたけれど。
そんなこと、大した問題であろう筈もない。
大事なのはこの鬼がここにいて、自分を守ってくれているということ。
自分の腕に煌めく狐の顔を模した三画の刻印が、呼応するように赫く輝いていること。
スグリの、運命が。
想い馳せ、そして夢破れた憧憬が。
キタカミの里に伝わる、太古からの伝説が。
ツタこんぼうを片手に、大地を駆けて戦った勇敢な鬼が。
――"お面の者"が、そこにいた。
-
「鬼さま……おれを、選んでくれたのか……?」
巨人が、怒り狂って雄叫びをあげている。
その轟音すら、今のスグリの耳には届かない。
彼にあるのは困惑と、そして胸の奥から確かにこみ上げる喜びだった。
渇ききっていた何もかもが、ゆるやかに癒やされていくのを感じる。
キズぐすりを使ってもらったポケモンはこんな気持ちでいるのかもしれないと、そんなことを考えた。
スグリの問いに答えることなく、鬼は無言で再び彼に背を向けた。
けれどそれは、拒絶の意思を示しているわけじゃない。
スグリだって、ポケモントレーナーだ。
ポケモンが自分に背を向ける意味。
背を向けて、敵に向かい合う意味。
それはもちろん分かる。分からない、はずがないから。
(っ――なにしてんだ、おれ……!!)
腑抜けた心に喝を入れて、座り込んだ地面から立ち上がる。
何を呆けている。そんなことしてる場合か。
(おれだって……! ポケモントレーナーだろ!!)
鬼さまが、指示を待っている。
トレーナーの言葉を待って、大きな敵に立ち向かっている!
その事実が、スグリの震える手足に力をくれた。
震えが止まる。歯の根が噛み合う。
回らなかった舌は、もう落ち着いた。
乾いて貼り付いた唇を、皮が剥けるのも構わず一気に開いて。
そして、そして――スグリは生まれてこの方出したこともないようなありったけの大声で、叫んだ――!
「オーガポン……鬼さま! 『ツタこんぼう』だ――――!!」
……キタカミの里に伝わる伝説。
お面を被った、鬼のポケモン。
その名はオーガポン。
それがどう戦うのかなんて、よく知っている。
だから叫んだ、スグリは吠えた。
その命令(オーダー)に応えて、小さな鬼が駆け出した。
嵐と、雷。ひこうタイプと、でんきタイプ。
ふたつのタイプを兼ね備えるが如く輝いた『ツタこんぼう』が、真正面から巨人の剣に打ち込まれて。
天を衝くようなその巨体を、紙切れみたいに吹き飛ばした。
-
「……はは」
スグリは、笑った。
笑うしかなかった、と言ってもいい。
まるで夢のような光景だった。夢にまで見た、光景だった。
願い、焦がれた鬼さまがここにいる。
自分の声に応えて、こんな遠くの世界まで駆けつけてくれた。
今度は、今度こそ、自分のことを選んでくれた。
その事実に涙がこぼれる。恐怖から歓喜に変わった涙を恥じる必要は、もうない。
「ありがとう、鬼さま……っ」
ありがとう。
おれを、えらんでくれて。
強くなる。強くなろう。もっともっと。
おれを選んでくれた鬼さまに見合う、もっと強くてすごいトレーナーになろう。
滂沱の涙を流しながら、スグリはそう決心する。
そしてもう一度、声を張り上げた。
今はもう、憧れて見上げるだけの無力な少年としてではなく。
共に並んで強敵に挑む、ひとりのポケモントレーナーとして、スグリは叫んだ。
「鬼さまっ――行っっけぇえええ! もう一発、『ツタこんぼう』だ……!!」
有無を言わさぬ連撃で、死神だった巨人を視界の端まで追いやっていく。
そのちいさな背中を見つめるスグリの眼には、確かな希望の光が灯っていた。
もう、彼が餓(かつ)えることはない。
彼は運命に選ばれたのだから。
今度こそ、もう誰にも負けることはないのだとそう信じる。
そう、それこそ、皆に愛される強くてすごい"あの子"にだって。
ひ、ひ。
スグリは笑った。
心のままに思いっきり、笑った。
かつて手の届かなかった誰かに、見せつけるような。そんな、満面の笑顔だった。
-
◆◆
男は、息を切らして駆けていた。
柄ではないと思いながら、それでも足を止めることだけはできなかった。
男は、お世辞にも褒められた人間性を持ってはいなかった。
魔術の名家に生まれながら才能に恵まれず、優れた兄姉を羨んで過ごすばかりの日々。
使うあてもない知識ばかり蓄えて、才能さえあれば、才能さえあればと苦虫を噛み潰すだけの人生だった。
いつだって優れた誰かを見上げ、俺だって俺だってと羨むばかりの数十年だった。
だからこそ男は、この冥界に迷い込んですぐさま歓喜した。
今こそ俺の可能性を示す格好の機会だと有頂天になって、自傷行為のように積み上げてきた知識を総動員して勝利を目指した。
もう一度言うが、男はお世辞にも褒められた人間ではなかった。
そう、たとえば。サーヴァントを召喚もできていない少年葬者を見つけるなりすぐさま自分のサーヴァントに殺害の命令を下せる程度には、自分のために他人を犠牲にすることのできる人間だった。
なのにそんな男が、今はまごうことなき使命感を胸に駆けていた。
何のために? 決まっている。
自分がさっきまで殺そうとしていた少年を助けるためだ。
いや、それだけではない。この世界に生きるすべての人間、そしてこの世界の外にいるすべての生物を救うためにだ。
男は、合理的な思考回路を有していた。
だから相棒(トレーナー)のように、サーヴァントの戦う場所までわざわざ繰り出していったりなどしない。
ある程度離れた位置に身を置いて、なけなしの魔術回路で使える遠見の魔術を使って戦場を監視しながら念話でサーヴァントに指示を下す。
そんなスタイルを取っているから、すぐに言葉を届けることができなかった。
今ほど自分の小心を悔やんだことはない。
もしもあの場に自分が居合わせていたならば、すぐにでも声を張り上げて自分の見たものをあの少年に伝えることができたのに。
……あの少年は、"あれ"を鬼と呼んでいた。
鬼。おに。確かにそうだろう。
棍棒片手に巨人をなぎ倒す姿は確かに鬼と呼ぶに相応しい。
だがきっと、いや絶対にそれは真実じゃない。
断言したっていい。あれが。あんなものが、鬼(オーガ)なんて易しいものであっていいはずがない!
あれは笑っていた。
いや――嗤っていた。
-
この世のすべて。
あらゆる命を生き物を、みな平等に嘲笑っていた。
そういう顔をしていた。白い、死人のように白いお面で。
自分の英霊たる巨人を文字通り打ち砕いた、"あれ"の顔。
それは今も男の脳裏に貼り付いて離れなかった。
こうしている今も歯の根は合わず、股下は失禁でみっともなく汚れている。
それでも駆けるのは、落伍者なりに、屑なりに持っていた一抹の善性の発露だった。
あれを、野放しにしておいてはいけない。
今すぐ、ああ今すぐに死を命じこの冥界を去らせなければならない。
あれは違う。あれは、この冥界に掃いて捨てるほどいる英霊どもとはまったく話の違う存在だ。
間違っても、間違ってもあれが聖杯に、かの奇跡に指先でも触れるようなことがあってはいけない。
そうなった時に何が起こるか、一意専心に知識を蓄え続けたこの脳でさえまったく判断がつかないのだ。
反英霊?
シャドウサーヴァント?
違う、それなら笑えるほど穏当だ。
あれは絶対に、普通の尺度で測ることのできる存在ではない。
もっと違う、もっと絶対的に終わっているものだ。
英霊だとか何だとか、そういうものでさえまずなくて。
例えるならそう、泥。痰壺。路地裏にぶち撒けられた汚物が腐敗して蝿や蛆が集っているような、そんな救いようのないもの。
何かを穢すことしかできない、汚泥のような存在。
だからこそ、男は駆けずにはいられなかった。
あれが万一にでも、この冥界の外に出ないように。
あれを自分を選んでくれた運命の鬼(オーガ)だなどと無邪気に信じている少年に、その真実を伝えるために。
あれが何なのかは、未だにまったくわからない。
でも断言できることは、やはりひとつだ。
あれは鬼などではない。絶対に、そんなものではない。
そう、強いて。強いて言うならば。
獣そのものの眼を、お面に描かれた眼を細めて笑う貌は。
鼻がもげるような獣臭を漂わせて、わざわい色の魔力を振りかざす姿は。
言葉にして形容するのもおぞましいあれは、あれは――――
どこまでも醜く、そしておぞましい。
ただの、きつねのばけものだった。
.
-
「あ」
何かにぶつかった。
すっ転んで、それを見上げた。
ちいさな影が立っていた。
白い、白いお面を被っていた。
お面のはずなのに、ただの仮面のはずなのに。
その口元を、まるで身体の一部のように"にたぁ"と歪めて。
きつねのばけものが、笑っていた。
――――"白面の者"が、そこにいた。
◆◆
-
この世には、陽と陰のふたつの気があるという。
いわく、世界は原初の混沌が陰と陽の気に分離することで形成された。
陽の気は、その名の通り上へ。輝きの方へ。
そして陰の気は、下へ。遥か地の底へ沈み、淀み、わだかまって渦巻いていた。
そこから、生まれ落ちたいのちがひとつあった、という。
それは、この世の陰を司るもの。
この世の陽、輝くすべてを羨むもの。
恐るべき、恐れられることしかできない、きつねのばけものだった。
かつて。
ある少年と妖怪と、その旅路に呼応したすべての光に敗れたばけものは、肉体を失って"世界"そのものへと溶け落ちていった。
故にそれは、今この時でさえ何のかたちも持っていない。
陰の気そのもの、完全な純度の悪意と嫉妬で構成された莫大な容量の悪性情報と化して揺蕩っていた、そのはずだったのだ。
けれど冥界の聖杯戦争は、あらゆる可能性を死者/葬者として招き寄せる。
死骸の水面にぽちゃりと落ちた酸塊(すぐり)の実は、輝くものを羨んでいた。
その羨望は、輝きを見上げて肥え太る幼い果実の香気は、揺蕩う陰の気を引き寄せた。
少年は、魅入られたのだ。運命に、選ばれてしまったのだ。
本来の未来ならば辿り着く筈もない、決別を果たす筈だった運命に。
彼の中で育まれてきた悪徳に、いつか光に照らされて昇華されるはずだった陰(かげ)。
それに滲み入るようにして、ばけものは這い寄ってきた。
オーガポンは、彼に寄り添って笑っている。
真実に気付くこともなく、あってはならない形で餓えを肯定された少年の横で有邪気に嗤っている。
その愚かを、その幼さを、死人の顔に通ずる青さを、嘲笑っている。
にせもののオーガポンが、鬼に化けたきつねが、哂っている。
人類悪などであるはずがない。
これは、愛など欠片も抱いていないから。
鬼などであるはずがない。
これは、九つの尾を持つばけものだから。
でもきっと、運命ではある。
これは、確かにスグリを選んだのだから。
"白面の者"は今も眠っている。
夢見るようにまどろんで、尾のひとつだけを水面に出していつか来るその時を待っている。
あまねく恐怖と、あまねく絶望。あまねく陰の気が、この白面を染め上げるその時を、待ち焦がれている。
そしてその時が来たならば。
すべての陽(ひかり)を覆う陰(かげ)が、ぬらりと水底から這い上がってくるのだ。
誰もが恐れ、言葉を噤み、真実をさえ覆い隠したくなるようなおぞましい伝説(かたち)を引っ提げて。
それは、水底からやってくる。地の底、陰の澑まるところから。おぎゃあおぎゃあとそう哭いて、その尾を幽世に靡かせるのだ。
-
狐は化かす。人の眼を。
狐は化かす。人の心を。
そして見上げる。
輝くすべてを。
羨み、嫉み、いつだって叫んでいる。
名もなきけだものは、今もそこから世界を見上げているのだ。
【CLASS】
アヴェンジャー
【真名】
白面の者@うしおととら
【ステータス】
筋力A+ 耐久A 敏捷B 魔力A++ 幸運E 宝具EX
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
復讐者:A++
復讐者として、人の怨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。怨み・怨念が貯まりやすい。
周囲から敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情はただちにアヴェンジャーの力へと変わる。
忘却補正:EX
人は忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。
時がどれほど流れようとも、その憎悪は決して晴れない。
晴れるはずもない。彼はそれ以外のものを知らないのだから。
自己回復(魔力):A++
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。魔力を毎ターン回復する。
破格の回復量により魔力切れという概念が存在しないに等しい。
【保有スキル】
悪性情報:EX
現実を犯す泥。領域を侵食する穢れ。
恨み、嫉み、悪意、未練……あらゆる悪念の塊。人に害を及ぼすだけの存在。
アヴェンジャーは原初の混沌から分離した陰の気から誕生した妖怪であり、更に敗北して肉体を失ったことで陰気のみの存在に堕ちた。
サーヴァントならぬ悪性情報。実体のない、データとしてだけの存在。尾の一本をテクスチャ越しに出すのがせいぜいである。が――
-
九つの尾:E
九尾の狐。それがアヴェンジャーの持つ本来の姿であり、この尾は彼にとっての宝具でもある。
しかし今の彼は実体のなき悪性情報。九つの尾は内の一つを具現化させるのが精一杯。
きつねのめんを被った、小さな鬼(オーガポン)。
運命になれなかった少年に微笑む相棒。
白面の者。
魔力放出(災):A++
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。いわば魔力によるジェット噴射。
絶大な能力向上を得られる反面、魔力消費は通常の比ではないが、アヴェンジャーの場合性質上そのデメリットがほぼ消滅している。
扱う魔力は嵐、そして雷。
都を脅かし、不幸を振りまく、災いの魔。
【宝具】
『悪性情報・白面の者』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
白面の者。それは陰の化身たる存在であり、白面を恐れる心はかの者の力に変わる。
負の感情を内包した攻撃を一律で無効化し、他者からの恐怖を受ければ受けるほど強化され、際限なく強くなっていく。
実体なき悪性情報である白面は、この恐怖を糧に肥え太り、血と肉を殖やして羽化の時を待つ。
形なき泥が形を得るほどに恐怖が満ちたその時、陰気の雫は現実へと滲出する。
―――大妖怪、陰の王。白面の者、降臨の時である。
【weapon】
『ツタこんぼう』
【人物背景】
白面の者。
憎悪。嫉妬。
名もなき、きつねのばけもの。
【サーヴァントとしての願い】
冥界に蘇り、すべての願いを糧に再び生者の国へ踏み出す。
【マスターへの態度】
利用対象。
良き、餌。
【マスター】
スグリ@ポケットモンスタースカーレット・バイオレット
【マスターとしての願い】
元の世界へ帰りたい
【能力・技能】
勝利への執着。幼く、濃密な嫉妬心。
陰の気を強く宿した、きつねの餌。
かなめいし。
【人物背景】
ブルベリーグチャンピオンとして主人公と戦い、敗北した直後からの参戦。
運命に選ばれなかった少年。
【方針】
当分は調査と、降ってくる火の粉を払ってまわる。
無差別に誰彼かまわず殺し回るのにはさすがに躊躇がある。
【サーヴァントへの態度】
鬼さま。自分を助けにやってきてくれたことに強い感謝と充実感を抱いている。
その戦いぶりはスグリの心を打ち、自分はもう"選ばれなかった者"なんかじゃないのだと実感させてくれる。
少しの違和感はあるけれど。まあ、些細なことだ。
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投下を終了します
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投下します
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鉄の子守唄(ララバイ)に魘されて。
◆
東京、23区のどこかの高層マンション。
富裕層の多くが住む所に、その男は居た。
ホームシアターで何かを見ている、戦争映画だ。
情熱を滾らせた志願兵が散っていく、無辜の民が犠牲となっていく。
しかし、主人公は死なない、まるで、異能に包まれたか如く。
聖杯戦争――願望機の醜い争い。
彼もその一人だ、しかし、付添のサーヴァントは今はいない。
それは、どこにいるか?
答えは――外にあった。
◆
赤色の機体が、猛スピードで敵の間合いを侵略する。
相手取るのは、なんと三騎士。
セイバー、アーチャー、ランサー。
最優と呼ばれるクラス3人を相手取るのは裁定者(ルーラー)の男。
弓兵の射撃を交わし、左側面からきた槍兵も素早く交わす。
そして正面から来た剣士を迎え撃つ。
(…間に合わないな…なら、これだ)
鉄の魔神のシールドから、ビーム刃が出る、まるで斧の如く、セイバーの剣先とぶつかり合う。
鍔迫り合いは互角、なら、素早く終わらせる。
「そろそろ決着とさせていただこうか!」
セイバーを蹴りで突き放す。
ビーム刃を解き、シールド下から出したのは、バズーカ。
正確無比の射撃が、ランサーを襲う、持ち前のスピードを凌駕し直撃、塵芥と化した。
仲間の仇!と言わんばかりに、アーチャーの弾幕が激しくなる。
しかし、ルーラーは余裕を崩さない。
「射撃戦は君の専売特許だろうが、私も負けてはいない」
懐からビームライフルを取り出し、バズーカと同じく正確無比の射撃を放つ。
荒々しいアーチャーとは異なり、球数は少ない、しかし、それは確実に狙いを定めていた。
弓と弓の合間を抜き、アーチャーに直撃する。
もちろん、結果は物言わぬ躯だ。
「締めは君だ、やらせてもらおう」
今度はアックスを展開しながら、片手にビーム・サーベルも持つ。
そして、セイバーの間合いを急速に侵略する。
「トドメだ」
セイバーの反応を凌駕して、剣と斧を叩き込む。
両断され、セイバーは消滅していく。
「…これより帰投する!」
残されたのは、何もできない、三騎士のマスター達であった。
◆
戦争映画のエンドロールを見ながら、男は思う。
「異能生存体…彼のような傑物を…もう一度目にしたい…」
男・ヨラン・ペールゼンは軍人だ。
あらゆる可能性を見出し、探求する狂人。
「ならそのための過程を…聖杯に願うのも…悪くない…」
男は目を閉じた。
エンドロールに流れる、子守唄(ララバイ)を聞きながら。
◆
――可能性の器。
ルーラー・フル・フロンタルとはその命を定められて生きていた。
赤い彗星の再来、そうもてはやされて来た。
しかし――かの少年との出会いで運命の軸は変わった。
(私も…君のように…なることはできりのであろうか…)
シャアの亡霊――自我を封殺された存在――希望の旗印とされた存在。
しかし、その全体に帰った男は、今、ここに英霊として生きている。
なら。
(私も…私なりの生き方を…模索しよう…)
巨人――シナンジュのスラスターを加速させていく。
冥界の東京に――煌きながら。
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【CLASS】ルーラー
【真名】フル・フロンタル@機動戦士ガンダムUC
【ステータス】
筋力D+ 耐久D+ 敏捷D+ 魔力E 幸運E 宝具EX
【属性】混沌・悪
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
本来、ルーラーのクラスの対魔力は高いものが付与されるが。
ルーラーは魔術などが形骸化した世界に生きていたため、最低限のランクとなっている。
真名看破:C
ルーラーとして召喚されると、直接遭遇した全てのサーヴァントの真名及びステータス情報が自動的に明かされる。
ただし、隠蔽能力を持つサーヴァントに対しては発揮されない。
【保有スキル】
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
強化人間:A
人為的に体を改造され、新人類へと模倣された存在。
直感:Aと同じ扱い。
赤い彗星の再来:A
かつて一世を風靡した男、シャア・アズナブル。
そんな男の再来と呼ばれた男がルーラーだ。
同クラスの戦闘続行、カリスマを内包する。
【宝具】
『可能性を断つ彗星(シナンジュ)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
ネオ・ジオンがアナハイム・エレクトロニクスとの裏取引の元、開発した機体。
ガンダムのデータを流用されて開発されており、高速で圧倒的な破壊力を出すことを実現している。
武装はビームライフル、ビームサーベル、ビームアックス、バズーカなど。
『新世界のための器(ネオ・ジオング)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
『可能性を断つ彗星(シナンジュ)』をコアにすることで動かすことができるMA
メガ粒子砲などの多数の大型装備を内蔵しており、単騎で艦隊を相手取ることも可能。
ただ、魔力が大量に必要であり、令呪一画分を要する。
『意思を削ぐ光(サイコシャード)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:∞ 最大捕捉:∞
『新世界のための器(ネオ・ジオング)』を使った戦闘の際、敵機の「殺意」を感じ取り、武器などを破壊、抵抗できなくしたことから由来する宝具。
すべてのサーヴァント・マスターから敵対意識を削ぎ、意志のない存在へと変えていく。
会場全域を覆えるほどを宝具である事から、多量の魔力要求される。
おおよそ令呪3画分が必要。
【weapon】
『可能性を断つ彗星(シナンジュ)』
【人物背景】
器として制作された男。
赤い彗星の再来。
【サーヴァントとしての願い】
生きる意味を探す
【マスターへの態度】
ビジネスパートナー、特に気にしてることはなし
【マスター】ヨラン・ペールゼン@装甲騎兵ボトムズ ペールゼン・ファイルズ
【マスターとしての願い】
不死身の兵士の軍団を作り出す
【能力・技能】
卓越した頭脳と指揮能力。
悪辣だが、高いカリスマ性を持ち、彼についていくものも少なくはない。
【人物背景】
異能生存体に魅入られ、不死身の軍隊を作ろうとした男。
その野望は、彼と交わった一人の男から始まった。
【方針】
聖杯獲得、そのためにもルーラーをうまく扱う。
【サーヴァントへの態度】
少なくとも今は良き関係を築けている
何を考えているかは謎だが…
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投下終了です
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投下させていただきます。
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「あなたにひとつ忠告せねばならないことがある」
歌舞伎町の一角、クラブ・バー。
若くは背伸びしたい年頃の未成年から、老いたるは若さを失った事実を受け入れられない中年まで幅広く足を踏み入れては踊り明かす酒盛り処。
このバーにはしかし、裏の顔がある。
色街で店を持つのは簡単なことではない。
利権、勢力図、ありとあらゆるしがらみが雁字搦めに張り巡らされた日の沈まない魔境の街。
その一角で老若男女を問わず客として吸い込んでは、知性をなくしたように踊らせてきたこの店。
そのケツを持っているのは、年々強くなる取り締まりにも臆さず稼業を継続しているとある暴力団組織。つまるところの、極道であった。
オーナーと癒着し、麻薬や"まだ"合法なドラッグ、果てには有名ブランドのコピー製品の卸売なども行っているまさに犯罪者達の巣穴。
知っている者は当然、知っている。
だからこの店には近づかない。
けれど知らない者は、歓楽の気配に吸い寄せられて間抜け面でネギを背負ってやってくる。
実態に気付いた時にはもう遅い。
所持金だけで済むなら超幸運。
銀行口座の中身全部で済んでも、まだ幸運の部類。
最悪なら土地の権利書、家族の身柄に本人の臓器。
そんなものまで残さず吸い上げられて、ゴミ同然に捨てられる。
ここはそういう店なのだ。
だからその男を見た時、知っている者は誰もが一様にこう思った。
ああ、またバカなカモがネギを背負ってやってきた、と。
言葉巧みに店の奥、秘密裏に行われる違法ギャンブルの賭場に誘い出して。
そして勝負を引っ掛ける。もちろん、素人が勝てる仕組みにはなっていない。
チンチロひとつでもダイスは巧妙なイカサマに支配されていて、百回やっても勝てる道理などありゃしない極悪極まりない処刑場。
今日も、すべてがいつもの通りだった。
その、筈だった。
少なくとも、最初は。
「あなた達の土俵で勝負をしている時点で、何らかのイカサマが行われているリスクは承知している。
それについてをとやかく言うつもりはないし、それくらいのハンデがなければ私もつまらん。
なのでこれは良しとするが」
ゲームはポーカー。
カードには巧妙なマーキングがされ、ディーラーから他のプレイヤー達まで全員がグルなので万に一つもカモが運勝ちする可能性はない。
だというのに、その男を含めて卓を囲む誰ひとり笑ってなどいなかった。
ディーラー。勝負師の顔をしたサクラ達。
そのどれもが、まるで何か化け物でも見るような顔で男を見つめ青ざめている。
彼らの手元に、チップは一枚たりとも残っていない。
ディーラーの元にさえ、一枚の通貨も見て取れない。
それが、今この賭場でありえない事態が起こっていることを証明していた。
カモが猟師の身ぐるみを剥がして食い尽くすという、起こるはずのない番狂わせが。
「引く客はよく見て選ぶのを薦める。
そんなこともできないマヌケだから、あなた達はこんな目に遭っているのだ」
ロイヤル・ストレート・フラッシュ。
文句の付けようもない最高役。
男がそれを出したのは、これで三度連続だった。
賭場に怒号が響き渡る。
痺れを切らしたディーラーが、吠えた。
イカサマだ。ありえない。連れて行け。
それに呼応して、事の成り行きを見守っていたケツモチの極道達が男に近付いていく。
ちゃぶ台返しは胴元の特権だ。
胴元に嫌われたギャンブラーは、勝とうが負けようが破滅するしかない。
「見る目がないのは悪徳だと、たった今そう伝えた筈だがな」
男は深く、とても深くため息をついた。
その瞬間だ。賭場に居合わせた、男以外の全員が。
みな一斉に、息を呑んだ。
-
何故、ここまで誰もそれに気付かなかった。
何故、こんなにも分かりやすい"異常"を見落としていたのか。
賭場の隅。そこに、異様なモノが立っている。
「ンフフ。葬者(カレ)の言う通りよ? アンタ達。
一般人(カタギ)に負けてちゃぶ台返すのなんて極道(わたしたち)の十八番だけどォ――食い物にする相手は選ばなくっちゃ。
逆に食われても、知らないわよぅ?」
左右で、あらゆるカラーリングが反転していた。
胸元を大きく開いた白衣と、形まで左右非対称の髪型。
爬虫類を思わす長い舌をでろりと垂らして笑う顔は凶悪だが、そんなもの一々問題にしてはいられない。
その男は、あまりにも。
あまりにも、巨躯(デカ)かった。
長いのだ、縦に。
まるでそれは、そう。
人間をふたり、縦に繋ぎ合わせたみたいに。
白衣に浮かぶ奇妙奇怪な膨らみの位置が人体の一般的な構造とまるで一致していない。
その巨体は、その風体は、ああまるで怪人のようで。
いや――
怪獣(モンスター)の、ようで。
「勘違いしているかもしれないが、私は賭場の色気に惹かれて足を踏み入れたマヌケな勝負師気取りとは違う。
私は医者だ。よっていたずらに暴力を振るうことは主義に反する」
怪獣を従えて、自称医者のギャンブラーが眼鏡を小さく指で動かした。
その奥で光る眼光は冷静、怜悧の具現のようでありながら。
しかし、明らかに常人のそれではない。
据わっているだとか、狂っているだとか、そういうのではなく。
単純に、見ている世界が違いすぎる。見ているモノが、違いすぎる。
もはや素人目にも理解のできる威容を放ちながら、医者は次に口を動かした。
怪獣ならぬ怪物が、静かに口角を緩めて。言った。
「素直に負債を払え。何、払い切れないのなら相談には乗ってやる。
私への借金は様々な形で返済できるからな」
――冥界・東京都に伝わる真実(マジ)のお伽噺。
裏社会で賭場(ギャンブル)かますと怪獣が来襲(く)る。
裏カジノ、裏パチスロ店、更にはネットカジノに至るまで。
あらゆる場所に、怪獣医は現れる。
一度現れたならその過ぎ去った後には、多額の負債が残るのみ。
無数の眼を宿した化け物だったとか。
異常に体躯の巨躯(デカ)いオカマがいただとか。
様々な尾ひれと共に語られる、現代日本は色街の怪獣伝説。
死を糸に編まれた虚構の街に立ち上がる怪獣の威容は、確かな震撼を轟かせ続けていた。
-
◆◆
「ちょっと暴れすぎなんじゃないのォ? ヤクザ者は敵に回すと怖いわよ、葬者(マスター)?」
「問題ない。私はミスをしない。すべていずれ来る手術(オペ)に備えてのことだ」
暗い、薄暗い、正式な認可など得ているとは到底思えない闇医者の診療所(ラボ)にて。
二体の怪獣が、手術台を囲んで語らっていた。
手術台の上には、彼らに喰われてすべてを失った患者が横たわって腹の中身を文字通り開け広げにしている。
そこにメスを入れ、胃袋を開きながら、葬者たる百目鬼(どうめき)は白黒の怪獣医へ答えた。
「何をするにも先立つモノがなくては始まらない。
人脈然り、金銭然り。私としても実に退屈な時間だったが、あなたの存在を知らしめるためにも極道のシノギを荒らすのは必要不可欠だった」
「まあ、儲かりはしたわねェ。両方とも」
「私が診療の合間を縫って手ずから赴いたのだ。そうであってくれなくては困る」
結果的に、その本懐は過不足なく果たされたと言っていい。
今のところ、すべてはこの医者の計算通りに進んでいた。
東京の闇賭場を荒らし回り、多額の金銭を負債として搾取する。
そして負債で立ち行かなくなったところに、"交渉"を行って支配する。
ランサー……『怪獣医』という最強の極道を後ろ盾(ケツモチ)にして、影響力を強化し続けた。
その結果、今では百や二百では利かない数の極道がランサーの影響下に置かれている。
いつの世もそうだが、ならず者は強い者の影にいることに安心感を抱くものだ。
ランサーの支配を煙たがって反旗を翻すどころか、その存在に依存し、喜んで働く者が今では大多数を占めている始末であった。
「連中の使いどころは私が指示するが、活かすか殺すかの判断はあなたに任せる。
私は所詮ただの医者だ。餅は餅屋に任せるに限るからな」
「無欲な人ね、アナタって。そんなに頭がいいんだもの、自分で前に出て顎で使ってやればいいのに」
「性に合わん。私は好き好んで暴排法の締め付けを受けに行くようなマヌケ達と一緒にされたくない」
「あらやだ辛辣ゥ〜。事実だからしょうがないけど」
今や東京の極道で、怪獣医の名を知らない者はいない。
そう言っても決して、過言ではなかった。
ただでさえ社会に抑圧され、法に縛られ、孤独を味わい続けてきた極道達だ。
彼らにとって二匹の怪獣はある種、閉塞した現実を破壊する救世主のようにさえ見えたのだろう。
「それに、戦争などという前時代的な催しに精を出すのは私も初めての経験だ。
キープしておく手札(カード)は多い方がいいし、使える術式も然り。
金と人。序盤戦を制するには恐らく、その両方を抱えておく必要性がある」
「序盤戦、ね。まるで遠からぬ内に、金だの人だの言ってられるステージは終わるみたいな言い方」
「逆に聞くが、都心を舞台にして行う戦争などというマヌケな趣向がいつまでも保つと思うか?
調停役(ディーラー)でも出てくれば話は別だが、だとしても長続きするとは私には到底思えんが」
「いいえ? まったくの同感。じきにブッ壊れるでしょうねェ……いろいろ。ウフフ、厄介だけど少し楽しみ」
彼らは、世界の脆さを知っている。
社会とは、世界とは、よくできているように見えてまったくお粗末な砂上の楼閣なのだと知っていた。
例えば、一部の異常者(ギャンブラー)の気まぐれで簡単に人命や人権が吹いて飛んだり。
例えば、抑圧を超えて踏み出した孤独な者達の怒りが秩序を紙切れみたいにブチ壊したり。
そういうことが起こり得る薄氷の積み木細工こそが、皆がこぞってありがたがる社会とやらの実像なのだと知っている。
-
だからこそ彼らは、世界が長続きすることを端から想定に入れていない。
冥界化の進行が完全に回るよりも早く、おそらくこの社会は破綻する。
であれば、たかだか序盤のイニシアチブを握るために手駒を揃えて基盤を作ることは無駄だと思うだろうか。
ならば彼らは、二匹の怪獣はこう言う。
マヌケめ。逆だ、と。
「世界は既に末期状態(エンドステージ)だ。直に多臓器不全を起こす」
「ええ。だからこそ、QoL(クオリティ・オブ・ライフ)の確保が急務」
「世界が壊れるまでを如何にして過ごすか。そこでババを引くか、引かないか。これが来たる危篤の日において、必ず差になる」
世界は壊れる。
虚構の街という患者は必ず死ぬ。
病は骨髄に入り、もう助けようはない。
だからこそ準備が要るのだ。
いずれ来る死を幸福に迎えられるのは、早期発見をして準備を重ねていた者の特権なのだから。
「我々は極道と麻薬で"死"を制する。そのためにはあなたの働きが必要だ、怪獣医(ドクター・モンスター)」
「ええ、承りましょう。何しろ得意分野だもの。一度やったことが二度できないだなんて、そんな無能ではないのよ私。
――その命令(オーダー)。しっかりこなさせていただくわ、Dr.村雨」
村雨と呼ばれたこの医者は、あまりに優秀な闇医者(ドクター)だった。
数多の極道を見てきたし、表裏を問わず数多の医者を見てきた怪獣医。
その彼をして、太鼓判を押す。
恐らくこと他者を観るということにおいて、自分はこの男以上に優れた人間を見たことがない。
間違いなく、怪物。
間違いなく、怪獣。
百の眼を持つ、恐るべき鬼だ。
否応なしに思い出させられるのは、かつてランサーが心酔したある極道者の顔だった。
人の心が分からない。その一点において彼らは共通していた。
空洞を飼い慣らすか、受け入れられずに腹を開くか。
ふたりの違いはランサーの見る限りそこだけだ。奇縁もあったものだと、心底そう思わされる。
「時にだが、ランサー」
「あら。なぁに?」
「診断が確定するまであえて言及は避けていたが。実に素晴らしい肉体だな、あなたの"それ"は」
「……フフ。まあ、そりゃそうよねェ。アナタほどの医者が気付かないとも思えない。別に隠してたワケでもないケド」
胃袋の中に根付いた腫瘍。
その輪郭に添ってメスを這わせながら言った村雨に、ランサーは引き裂くような笑みを浮かべてみせた。
-
――常人の文字通り倍ほどにもなる、巨躯。
――白衣越しに浮かび上がる、人体の構造を無視した奇怪な輪郭。
――村雨という稀代の医者をもってしても、その全貌を読み解くのには時間を要した。
何故か? 決まっている。
こんなものは、本来あり得ないからだ。
あらゆる道理、常識、そして倫理に背いている。
医者と一口に言っても玉石混淆いろいろいるが、それでもこんな発想に至る者などまずいない。
そう断言できる。少なくとも村雨は、迷わず断ぜられる。
これは狂気の産物だ。
だがだからこそ、常軌を逸して美しい。
前例などあるはずもなく。
構想を語っただけで、狂人の誹りは免れない。
「キレイでしょう。私の『驚軀凶骸(メルヴェイユ)』。私の人生、そのすべてを体現する怪獣躯体(モンスターボディ)」
「ああ。まったくもって素晴らしい。この卓越した技術の粋を介せない医者などいないと断言する」
辛辣、冷徹を地で行く男でさえ断言する。
これは、美しく。そして、掛け値なしに素晴らしい神業であると。
同じ手術をしろと言われたとして、自分ではきっと逆立ちしたとて不可能だろう。
そう認めて尚欠片の敗北感すら抱けないほどに、これは完成された一種の芸術品だった。
医術を志した者であれば、これを見て何も思わないはずがない。
これを認めずにいられるはずがない。
だからこその驚軀凶骸(メルヴェイユ)。ひとりの男の、狂気の結晶。そしてふたりの兄弟の、絆の顛末。
「……繰田孔富。あなたは素晴らしい医者だ。
私はこれまで同業者にこの手の言葉を吐いたことはないが、それを恥とも思わない。
あなたは間違いなく稀代の名医(ゴッドハンド)だ。
形はどうあれ同じ道を志した者として、率直に敬意を禁じ得ない」
「ウフフ。嬉しいわねェ――鉄面皮の不思議ちゃんに褒められるってとっても素敵。これだけでも現界した甲斐、あったわァ」
村雨を知る者がもしこの場にいたなら、すわ槍でも降ってくるのかと身構えたことだろう。
この男が、最悪を絵に書いたような医者である彼が、他人をこうまで褒めそやすなど滅多にあることではない。
それこそ天地がひっくり返りでもしない限りはあり得ないと断ぜられる、それほどの異常事態である。
その賞賛を受けた怪獣医――ランサーのサーヴァント。極道・繰田孔富はニヤニヤと破顔した。
驚軀凶骸を成し遂げた名医、闇医者の神。
人に生まれながら。間違いなく、恵まれた環境にありながら。
それでも英雄ではなく、怪獣に憧れた男。
誰もが認める名医から極道の闇医者に堕ちた、ある悲劇の主人公。
それが、繰田孔富。百の眼を持つ医者/葬者に召喚された、サーヴァントであった。
村雨は認める。いや、認めざるを得ない。
自分に、驚軀凶骸(これ)は作れない。
これを成し遂げるまでにどれほどの研鑽があったのか。
そして、一体どれほどの執念があったのか。
考えを及ぼしただけでも気が遠くなる。
医者としての敗北宣言を承知で、作れないと言う他なかった。
繰田孔富は素晴らしい医者だ。
間違いなく、医を生業にする者のひとつの到達点だ。
「だが」
そう理解し、認識し、称賛し、その上で。
「その"救済(りそう)"を除けば、だ」
村雨は、腫瘍を切り離しながら孔富の願望に触れた。
-
「……ふぅ。上げて落とすにも程があるって感じねェ。私、アナタに話したことあったかしら?
こっちは本格的に戦争が始まるまで、秘め事(ナイショ)にしておくつもりだったんだけど」
「見くびるな。私も医者だ。あなたという英霊の能力と、そしてその言動に滲む影。表情の機微。それを見れば、自ずと理解はできる」
繰田孔富は、医者である。
だがそれ以前に、極道である。
社会に排斥され、運命に裏切られた孤独な者。
故にその願いが、順当なものであるなどあり得ない。
その思想が、世に理解されるものであるなどあり得ない。
その思想、その根源。
それを、村雨は既に見抜いていた。
「全人類を麻薬に漬けて幸せな夢の中で殺す。語るまでもない、論外だ。あなたは狂っている」
「――そうかしら。狂っているのはこの世界の方じゃない? 私はそう思うけどねェ」
「否定はしない。私や、"あの銀行"に集うマヌケ共を生むような世界がまともである筈はないからな。
世界は皆病んでいる。救いようはなく、どんなに医療が発達しても根本の解決には到底なり得ない。
そこは私も認めるところだが」
この世に、救世主(メシア)はいない。
救済(すくい)はなく、故に慈悲とは幻覚の中にしか存在しない。
だからこそ麻薬を投与して中毒に陥らせ、夢を見せて幸福のままに死へ至らしめる。
それこそが、孔富の理想。彼が率いた、救済なき医師団の求める最終到達点。
そしてそれは、彼が英霊となった今でも変わっていない。
そのことを承知の上で、村雨は一言で断じた。
「夢などというクソの値打ちもない幻影を指して救いと呼ぶほど、私は愚かにはなれん」
……手術室に、沈黙が流れる。
それを破ったのは、怪獣の笑い声だった。
くつくつと、引きつるような笑い声。
それと共に紡ぎ出されたのは、問いであった。
「言うじゃない。アナタに私がどう見られてるのか気になってきちゃったわ」
「問いかけはそれでいいのか? ならば一言、答えてやる。
背負う荷物の重さも分からなくなったマヌケだ。
医者としてのあなたは考えるまでもなく偉大だが、一個人としてのあなたはどこまで行っても愚か者でしかない」
「……ンフフ。じゃあもうひとつ。ちょっとズルい質問だけれど、答えてくれる? Dr.村雨」
繰田孔富は、救世主にあらず。
その言葉は、その麻薬は、確かに多くの孤独な者達を導くだろう。
だがそれだけだ。あらぬ方へと導くだけで、結局最期まで救えはしない。
彼の求める理想の絵図も、夢に描く大海嘯も、決して例外ではなかった。
だからこそ、村雨は医者である以前にひとりの人間として。
答えを求めて彷徨う求道者として、こうも辛辣にそれを否定するのだ。
少なくとも、それが答えである筈などないと。
マヌケの落伍者が抱く妄想に過ぎないと、そう断ずるのだ。
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「――アナタなら、この病んだ世界をどう救う?」
「私も今、それを探している」
怪獣が、問う。
怪獣が、答える。
「……私の兄は実に偉大な人間だった。
決して聡明ではないが人望があり、常に他人のことを考えながら"幸せ"に過ごしている」
「ステキなコトじゃない。それがどうしたのかしら?」
「私は兄の腹を開いた。兄の腹は、幸せとは縁遠い苦痛で満ちていた。
この言葉の意味はあなたなら分かるだろう、繰田孔富。
他人のために自らを犠牲にして尽くした人間の体内がどんな色を帯びているか、名医であったあなたなら」
そう、世界は病んでいる。
誰も彼も、幸せな顔をして病みを抱えている。
なのにその病みを、矛盾を誰もが噛み殺して生きている。
おぞましい苦痛と疲弊の渦、そこから時たまこぼれてくる沈殿物を指して"幸せ"と呼び。
そのわずかな、本当にわずかな成果を得るために誰も彼もが自分を痛めつけ、そしてそれを立派と褒めそやして称える。
その先にいつか訪れるだろう破綻など、一時のぬくもりを麻酔代わりに見ないふりをして。
そうして、今日も世界は回っている。
「私は世界の正常を証明するために病みを暴き、世界が救われていることを確かめ続けている」
「…………お兄ちゃん。ね」
「感じ入るものがあるか? ……まあ、私もそこまで悪趣味ではない。これ以上は掘り下げないが」
「アラ。意外と優しいのねェDr.村雨は。……でも、そうね――つくづく奇縁だわ。
私達の縁はてっきり他人の空似だけだと思っていたけれど、まさか"ソッチ"の方が本命の縁だったなんて、ね」
かつて操を立てた、心酔した"極道の希望"に似ている男。
人の心の分からない、空洞を隠して生きている男。
だからこそ、縁(よすが)はそこにあると思っていた。
だが違ったのだ。少なくとも、それだけではなかったのだ。
恐らくは。
自分達を真に結びつけた縁の形は、きっと――――――
「じゃあどうする。止めてみる? 私の救済(すくい)を」
「興味はない。そちらの世界でやるだけならば私は知らん。マヌケはマヌケで勝手にやっていろ」
「なぁんだ。じゃあ最初から角の立つようなコト言わなきゃいいのに」
「そこまでマヌケだったのか? 私もあなたと同じで医者を稼業にしている。
目の前に患者がいるのなら、その腹を捌かずにはいられない」
彼らは片割れ。
共に、片割れ。
血より深い絆で繋がれた家族に、その生き方を狂わされた男達。
「どの道最後に勝つのはこの私だ。
私が聖杯を手にする前に、あなたはその複雑怪奇な腹の内を私の手術台でさらけ出せ」
「セクハラはやぁよ、Dr.村雨。――フフ。どうしてもって言うのなら、お得意の眼で暴いてみなさいな」
悪魔のような。
怪獣二匹。
-
◆◆
彼らは怪獣。
人の世界では生きられない、妄執に取り憑かれた怪物たち。
共に、人を救うことを志していながら。
どうしようもなく、人を破滅させることに長けている。
故に"葬る者"。
怪獣としてあるがままに人を破滅させ、死骸の山を歩いて患者を探すそういうモノ。
百目鬼は、異形の獣を呼び寄せた。
救済を謳う大海嘯の主を呼び、正義の味方(ネビュラマン)の敵たる驚軀凶骸(メルヴェイユ)を使役したのだ。
救済の証明者にして葬者。
医者にして、ギャンブラー。
名を、村雨礼二。
破壊の八極道、大海嘯の主。
今はもう、ゴッドハンドに非ず。
怪獣医、繰田孔富。
半殺し(ハーフライフ)では収まらぬ皆殺し(ワンヘッド)。
手術台の怪獣が、冥界という名の賭場に入場を果たした。
【CLASS】
ランサー
【真名】
繰田孔富@忍者と極道
【ステータス】
筋力B 耐久A 敏捷A 魔力E 幸運D 宝具B+
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
対魔力:D+
一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
【保有スキル】
外科手術:A
マスター及び自己の治療が可能。
医術が高度に発達した21世紀において、世界的名医とされたほどの腕前。
既存の術式を用いた手術から、表の医者が生涯通じて見聞きすることもないような外道の手術に至るまで広くこなすことができる。
その腕は、もはや神業と呼ぶにも値する。
薬物製造(違法):A
薬物を製造する。ランサーの場合、麻薬を始めとする違法薬物の製造に秀でる。
孤独な者:A
極道。
ランサーは社会から排斥され、運命に見捨てられた者である。
サーヴァントとして感知されず、発する魔力もごく小さいものとして認識される。
後述する宝具を"服用(キメ)"た瞬間、このスキルの効果は薬効が切れるまで沈黙する。
救済のカリスマ:D++
救済を求める者たちの声を聞き、それを導く資質。
世界に深く絶望していればいるほど、ランサーの声は強くその胸を打つ。
ただし、救世主(メシア)にはなることができない。
-
【宝具】
『驚軀凶骸(メルヴェイユ)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:1〜50
ランサーの生涯最大にして、彼のあり方を怪獣(モンスター)へと決定づけた大手術。その成果たる、繋がれた肉体。
ランサー自身の胴体に彼の兄の肉体を物理的に接合させた狂気の産物で、ランサーは四本の腕と常人の倍の身体能力・機能を持つ。
人間の限界を超えた多角的な戦闘技法を用いる他、内臓の機能も倍なためそれを活かしたブレス攻撃などが可能。
だが聖杯戦争におけるこの宝具の真価は、ランサーが"ふたりでひとつ"であるという点。
魔術に対してやその他各種あらゆる抵抗判定において、ランサーの達成値は常に二倍として換算される。
この特性により、彼は霊核ひとつの英霊ひとりという常識を完全に超越している。
『地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1
ランサーが開発した奇跡の麻薬にして、極道が一方的に殺戮される時代に終わりを告げた最高傑作。
服用者の身体能力を超人のレベルにまで引き上げる他、普通なら致命傷になるような大怪我でも数秒で回復させる異常な回復能力をもたらす。
この麻薬をランサーは魔力消費で製造することが可能。
基本的にサーヴァントが服用しても意味は得られないが、ごく一部の極めて身体能力の低いサーヴァントや、またランサー及び彼と孤独を共にした"極道"のサーヴァントだけは例外的に効果を得られる。
ただ服用するだけでも高い強化作用を得られるが、これを二枚同時に服用した場合、更に爆発的な戦闘力を獲得することができる。
反面デメリットとして二枚服用から五分後に確実に死、あるいは霊核の崩壊に至ってしまうが、ランサーは前述した第一宝具『驚軀凶骸』の特性上、これを無視する。その上で更なる強化の余地を残すなど、怪獣の躯体はこの宝具ときわめて親和性が高い。
【weapon】
『驚軀凶骸』
【人物背景】
救済なき世界に、救済をもたらそうとした闇医者。
怪獣医(ドクター・モンスター)。
【サーヴァントとしての願い】
人類の救済。
聖杯を用いた全人類の麻薬漬けを実行する。
【マスターへの態度】
意外とカワイイところのあるイイ男。
能力も申し分ないので気に入っている。
【マスター】
村雨礼二@ジャンケットバンク
【マスターとしての願い】
聖杯戦争という勝負(ゲーム)に勝利する。
【能力・技能】
医者である。そのため、外科を中心にした各種医術に精通している。
だが真に恐ろしいのは仔細な人体観察に基づく超人的な読心。
一対一であれば無敵に近いとまで称される、狂気的なまでに優れた診断力を持つ。
ちなみに。最近、問診することを覚えた。
【人物背景】
世界の醜さを許せなかった男。
他人の心に寄り添うことを知り、弱点のなくなった怪物。
【方針】
聖杯戦争に勝つことは前提として、しかし銀行のような元締めのいないこの賭場を見極めることも重要だろうと踏んでいる。
最終的にどんな形であれ勝利する、そのために行動する。
【サーヴァントへの態度】
背負う荷物の重みも分からなくなったマヌケ。
相容れない、と思っている。
彼の語る救済論については論外。……だが、同時に興味深くもある相手。
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投下を終了します。
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投下します
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人の夢を守ろうとした。
大きな夢を、戦友と共に歩んでいきたいと思った。
だけど戦友達は皆戦いの中で消えていった。
守るものを守ることもできず孤独に死んでいった男。
夢を失い道を違え、最後の瞬間だけは通じ合ったかもしれない男。
それでも大きな理想のために戦って。
全てが終わって自分の最期の時が近づいた時に、この手の中に何が残ったのだろうか。
死が目前に迫って夢や希望、自分を覆っていた鍍金が剥がれた時。
自分の中に残っていたのは死を恐れる心だけだった。
◇
「あっつ…」
テーブルの上に置かれたコーヒーに口をつけて叫ぶ。
湯気の上がる温度の飲み物は、猫舌の男が口に入れるには熱すぎた。
「口に合わなかったか。
すまない、豆を磨り潰して湯を入れて抽出する。それだけの工程だが、所詮は人間の調理法を真似ただけのものでしかなかったようだ」
「いや、味は問題ねえよ。ただ、熱いのがダメなだけだ」
息を吹きかけながら珈琲を啜る。
味が分かる方ではないが、熱いことを除けば決して悪いものではない。
「…乾巧だ」
思い返すのは、この場所に呼ばれる前。
人間とオルフェノクの未来をかけた様々な戦いが終わり、たまに現れる人を襲うオルフェノクを倒しつつ、クリーニング屋として働く日々を送っている中で。
オルフェノクとなった体が限界を迎えていることに気付いて、働いていた西洋洗濯舗菊池から一人立ち去り。
とある川岸で、限界を迎え灰となっていく体を見つめながら目を閉じて。
気がついたらこの場所にいた。
聖杯戦争。サーヴァント。願い。
色々と聞いた気はしたが、どれほど内容が理解できたか。
それでも分かったことはある。
また、死に損ねたのだと。
-
「私はセイバー。剣を武器とするサーヴァント。
真名は―――」
「いや、言わなくていい。知ってたら何かの拍子に呼んでしまいそうだからな」
「なら、こう名乗らせてほしい。
”妖精騎士ガウェイン”。生前に呼ばれた騎士としての名だ。こちらであれば問題はない」
そう言って、横に立つ女の姿を見る。
自分の体よりも一回り大きい巨体。その体は銀色の鎧で覆われている。
その身から感じられる覇気は、女だと思えるようなものではなかった。
もし彼女の敵意がこちらを向けば、抵抗もままならず殺される。そんな直感があった。
「そう怯えなくてもいい。
今の私はお前のサーヴァント――主従関係にある存在だ。
剣になりこそすれ、剣を突き立てようとは思わない」
「別に怖がっちゃいねえよ」
そんなことを考えたのが読まれたように言われた言葉を慌てて否定する。
少しだけ気恥ずかしいところがあっただけだ。
「早速だがマスター、これから主従としての付き合いとなっていくが。
その上でマスターについて色々と知っておかねばならないことがある」
「……」
「マスターは、この戦いに何を願う?」
戦いへの願い。
生き残って得られる聖杯に対し、何を願うのかが問われている。
「願いってよ、何でも叶うものなのか?」
「ああ。死者を生き返らせたい、過去をやり直したい。
どのような願いも叶うものだ、と聞いている」
一瞬だけ、頭の中にチラついた顔が見えて。
「ねえよ。何も」
それをすぐに振り払った。
「ただ、死ぬのが怖い。それだけだった」
手のひらを見る。この場に来る前の最後の記憶の中にあったように灰となっていく体はなかった。
綺麗な状態のままだ。
「ならばマスターの願いは生きたいということで正しいか?」
「…いや、何か違うな。
生きたいって言うよりは、ただ、死にたくない」
何が違うのかは自分でも分からない。
だがそういう方が、今の自分には合っているようにも感じた。
「なるほど。いいだろう。
私の願いは、騎士として弱き者を守るためにこの剣を振るうこと。
マスターが死にたくないと願うのであれば、その命を守り抜くために戦おう」
そう宣言するセイバー、妖精騎士ガウェイン。
セイバーの顔を見る。
何故だろうか。
そう口にする彼女の顔がどこかに影と虚無をまとっているように感じられ。
どこか、かつて失った仲間たちのそれと、重なるように感じられた。
そんな感情を拭い去るように飲みかけの珈琲に口をつける。
冷めたそれはすんなりと喉を通っていった。
◇
-
まだこの形が保てていた時に見た最期の記憶。
それは自分が収めるマンチェスターで、妖精達が人間を殺戮する光景。
――なにって、領主さまのマネゴトさ!
――毎日とっても楽しそう!ボクらもマネをしただけさ!
――バーゲストは食べちゃった!屋敷の奥で食べちゃった!
妖精たちの行動は、かつての自分の罪が撒いたもの。自分の責任。
だから、責任を取らなければならなかった。
妖精を牙で食らう感覚を覚えている。
妖精を爪で斬り裂いた感覚を覚えている。
そして。
まだかろうじて息のあった人間を踏み潰した感覚も覚えている。
獣の厄災と成り果てた体に、もう自我はなかった。
ほんの僅かに記憶に映っている、全てを滅ぼす怪物と化した自分を討ち滅ぼした円卓の騎士の姿。
それはかつて話に聞いた、憧れの騎士の姿そのものだった。
怪物となった自分を円卓の騎士が倒してくれるのであれば、これ以上の最期はないだろう。
ならば。
何故私はこの場所に呼ばれたのだろう。
何故妖精騎士としての姿で顕現してしまったのだろう。
いっそ災厄・バーゲストとして呼ばれればよかった。
暴れ狂うだけの獣であれば、こんなに苦しむ心を持つことはなかった。
妖精達を殺した感触を。巻き込んだ人間たちの悲鳴を。
この手で喰らった愛した人たちのことを。
思い出すことはなかっただろうに。
これはかつての願いをやり直せということなのか。
あるいはその罪を心に背負って戦えということなのか。
分からない。
だがもし望むことが許されるのであれば。
この戦いにおいては、厄災ではなく騎士として戦いたい。
あの罪を心の奥に覆い隠して、妖精騎士ガウェインとして。
いや、もしこの名を名乗る資格もないのであれば、ただの一人の騎士として、本懐を遂げたい。
それが、ただ一つの願い。
【CLASS】セイバー
【真名】妖精騎士ガウェイン(バーゲスト)@Fate/Grand Order
【ステータス】
筋力B+ 耐久A 敏捷A 魔力C 幸運D 宝具B+
【属性】混沌・善
【クラススキル】
対魔力:C
セイバーのクラススキル。魔術に対する抵抗力。
どのようなクラスであっても、妖精騎士は高い『対魔力』スキルを保有している。
狂化:A+
本来はバーサーカーのクラススキル。理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
精神に異常は見られない■■■■■だが、定期的に■■を■■しなければならない。
衝動に襲われた後、速やかに解決しなければ発狂、見境なく殺戮を繰り返すバーサーカーとなる。
妖精騎士:A
妖精の守護者として選ばれた加護を表したスキル。
対人・対文明に特化した自己強化であるが、他の『妖精騎士』達への攻撃行為はタブーと定められており、妖精騎士を殺めた妖精騎士は自己崩壊する。
【保有スキル】
ワイルドルール(A)
自然界の法則を守り、その恩恵に与るもの。
弱肉強食を旨とし、種として脆弱な人間は支配されて当然だと断言する。
自らの角が変じた妖精剣ガラティーンで相手を噛み砕き捕食して能力を奪う事が出来る。
聖者の数字(B)
汎人類史の英霊、ガウェインから転写されたスキル。
日の当たる午前中において、その基本能力(ステータス)が大幅に増大する。
バーゲスト自身は夜間の活動の方が得意なので、あまり相性は良くない。
ファウル・ウェーザー(A)
コーンウォールに伝わる、一夜にして大聖堂を作り上げた妖精の力を表すスキル。
味方陣営を守る強力な妖精領域を展開可能となる。
-
【宝具】
捕食する日輪の角(ブラックドッグ・ガラティーン)
ランク:A
種別:対軍宝具
レンジ:1〜100
最大捕捉:100人
自身の剣であり燃え盛る角でもある「ガラティーン」を用いての巨大な一撃を放つ。
バーゲストの額に生えている角は自身の霊基成長を抑制する触覚であり、これを引き抜くとバーゲストの理性は死に、残った本能が肉体を駆動させる。
角を引き抜いたバーゲストは「先祖返り」を起こし、黒い炎をまとって妖精体を拡大させ、ガラティーンを相手の陣営に叩き降ろす。
振り下ろされたガラティーンによって地面から燃え立つ炎は敵陣をかみ砕いて捕食する牙のように見える。
【weapon】
妖精剣ガラティーン
噛み砕いた相手を捕食し、バーゲストの力に変えることができる。
ブラックドッグ
バーゲストの眷属。
モースの王の呪いより生まれた妖精を食らう妖精。
【人物背景】
凶兆の妖犬、「バーゲスト」
妖精國においては、人間に限りなく近い姿をもって誕生した黒犬『獣の厄災』。
迫害を受けながらもそれに負けることなく騎士に憧れ努力を続け、妖精騎士ガウェインの名を受けることとなった。
なお妖精國でのことは覚えているが、カルデアのサーヴァントとしての記憶は持っていない様子。
【サーヴァントとしての願い】
生前の行いもあり、かける願いは持っていない。
ただ、騎士として有ることができればいい。
【マスターへの態度】
弱き者なので騎士として守る。それだけでいいと思っている。
【マスター】
乾巧@仮面ライダー555 パラダイス・リゲインド
【マスターとしての願い】
無い。とにかく今は生きていたい。
【能力・技能】
ウルフオルフェノク
狼の特性を備えたオルフェノク(人間から進化した形態)への変身が可能。
最高時速300kmと狼さながらの俊敏な動きと高いジャンプ力を誇り、全身から生えた剣のような鋭い突起で敵を斬りつける。
身体中の鋭い突起を伸ばして相手に突き刺し、使徒再生(人間の心臓に突き刺すことで適合者をオルフェノクに、そうでないものを灰化させ死に至らしめる)を行うことができる。
生半可な銃火器の攻撃にも耐え、高所から飛び降りても命に別状はないなど耐久力も人間のものを超えている。
なお、参戦時期の関係でファイズギア、ファイズギアNEXTが現在手元にないためファイズへの変身は不可。
【人物背景】
幼少期、事故により一度死にオルフェノクへと覚醒した。
その後は夢もなく全国を回っていたが、ある出会いを境に仮面ライダー555として人を襲うオルフェノクと戦うこととなる。
友や仲間、多くのものを失いながらも人間のために戦い、オルフェノクの王の打倒も成し遂げるも、体の崩壊が進み寿命を感じ取ったことで一人静かに姿を消した。
パラダイス・リゲインドにて体が灰となる直前、スマートブレインに保護される前より参戦。
【方針】
分からない。
とにかく死にたくない。
【サーヴァントへの態度】
何か隠していることがあるようにも見えるが、悪いやつではないと思うので信じてみる。
ただどこかその雰囲気に木場勇治や長田結花のような、かつて失った仲間たちに似たようなものを感じている。
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投下終了します
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投下させていただきます
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ケイネス・エルメロイ・アーチボルトはもう一度蘇った。全ての結末を知り、ここに流れ着いた彼は冷静になるまで3日掛かった。
聖杯戦争の末路、エルメロイの顛末、2世の存在。それらをどう咀嚼するのか、プライドの高く失敗から縁遠い彼は中々にきつかった。
そして考えた。もう2度と失敗はしない。本来なら挽回できぬ人生。しかしチャンスは回ってきた。ならば掴むしかないだろう。半ばやけっぱちになった彼はサーヴァントを召喚するための術式を準備始める。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ
閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。
繰り返すつどに五度
ただ、満たされる刻を破却する
―――――Anfang(セット)
――――――告げる
――――告げる
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に
我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者
汝三大の言霊を纏う七天
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
召喚に使うのは、持てるだけの知識と魔力を使い生成した星型八面体の魔石三つ。何も用意せず召喚することも考えたが、同族嫌悪により連携が見だれるかもしれないと疑心もあり、このような触媒を用意したのだ。
光輪が三つに分かれ一つに収束すると人の形となる。ケイネスは出てきたサーヴァントの姿を見てゾッとした。
無数の同心円のような模様にびっしりと覆われた全身タイツを着ていた。それだけならまだしもその者の首には襟巻き状のガラスシリンダーを巻きついており、謎の液体と脳みそのような物体をチューブでこめかみに直接流しこんでいる悍ましい姿である。
「ククク、見えている真実が。俺は手に入れた真実を。お前はどうだ?」
ケイネスはこの者の言う言葉を理解できなかった。理解した方が良かったのだろうか?だが見るからに狂人の言葉に耳を貸すべきなのだろうか?
逡巡するケイネスに対してその者は名乗りをあげる。
「はじめまして、メンタリストです。」
ぐ
に
ゃ
り
と
世
界
が
歪
ん
だ
丸
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【CLASS】キャスター
【真名】メンタリスト@ニンジャスレイヤー
【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力EX幸運B宝具EX
【属性】混沌・悪
【クラススキル】
陣地作成E-
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
小規模な”ローカルコトダ空間”の形成が可能です。
道具作成(幻覚)EX
キャスターのクラススキル「道具作成」が宝具の効果で変化したものになります。
幻覚に使う触媒を作り出す作用です。
ニンジャソウル(ダマシ・ニンジャクラン)B+++
常人を半神の怪物へと変貌させる物質になります。私はダマシ・ニンジャクランのグレーター・ニンジャをデセッションしました。
この者に相対した生命体は幸運判定を行い、失敗した場合はNRS(ニンジャリアリティショック)という恐慌状態に陥る。
精神汚染に対抗するスキルがある場合、幸運判定が成功しやすくなります。
【保有スキル】
狂気の中の真実A-
客観的に見れば狂人の戯言としか受け取れない言動。でもそれが真実なのです。真実を手に入れた俺は精神に作用する物を全て受け付けません。
ですが五感を使う物理的な幻覚には無力。
ステルスアンブッシュB
気配遮断と同じです。しかし奇襲は一度の戦闘での最初しか使用できません。
またゲン・ジツを発動していればいくらでも姿を消すことができます。攻撃する時は姿を現しますが………
イマジナリースリケンEX
ニンジャは自在にスリケンを作り出せます。イマジナリースリケンは幻覚を見たあらやるものを生やすことで直接ダメージや致命傷を与えるのです。
【宝具】
『おかしいと思いませんか?(アーチ・ゲン・ジツ)』
ランク:EX 種別:対知宝具 レンジ:1-100 最大捕捉:1000人
おかしいと思いませんか、あなた?
【文字通り』あらゆる箇所に幻覚を発生させ、精神を狂わせる。地の文をおかしくさせ狂わせる。
対処方法は何がおかしいのかを見つけ破壊する。もしくは自らの精神を幻覚作用のある何かしらを使い狂わせる。
狂わせる?真実を見て狂うのですかあなた?
【weapon】ノーカラテ・ノーニンジャです
【人物背景】ザイバツ・シャドーギルドの執行官でした
【サーヴァントとしての願い】真実を………!
【マスターへの態度】ははは………!使えるなら仕えるまでのこと。
【マスター】ケイネス・エルメロイ・アーチボルト
【マスターとしての願い】今度こそ勝ち残る。
【能力・技能】マスター適正100。時計塔のロードとしての非常に優秀な能力
【人物背景】エルメロイ家の当主であり、九代続く魔術師の名門・アーチボルト家の頭首。非常に優秀だが実践経験の少なさ故に聖杯戦争で敗北。プライド高い男であるが律儀なところもある。
【方針】前回の反省を活かしてどんな手を使ってでも勝つ。
【サーヴァントへの態度】ランサーとの関係が拗れたのも敗北の一因だと考えているので理解しようと頑張ってはいるが半ば諦めている。
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投下終了します
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投下します
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狙った。撃った。殺した。
狙って。撃って。殺して。
狙った。撃った。殺した。
空気の肌触りが変わる。風の向きが変わる。入射角調整。気持ち多めにカーブを掛ける。
弾丸を装填する。ダークブルーとピンクの繊維でできた、サイケデリックな弾丸。
闇夜に間違った色を塗りながら、弾丸は飛んでいく。狙った先は大きな果実。大きな実が詰まった果実。
ぱんっ、と。ピンクとダークブルーが、赤を撒く。ザクロのように弾けたそれは、中身をまきちらしながらどてりと落ちる。
「…死んだことにも気づいてねぇだろうな。まあ、派手に痛めつけられるよりはマシだろ」
恐らくは、サーヴァント。大きく弾けた果実の前で、何かを叫びながら消えていく。
彼らの戦う為の扉は既に、閉ざされている。
弾道からこちらの位置を予測したのか。サーヴァントが、一人の女性に狙いを定める。
大雑把でもいい。それは、捨て身の一撃だった。
当たらなくともいい。それは、周囲ごと抉り取る一撃だった。
身体を弓形に逸らし。肉体のバネをフル稼働させ、サーヴァントは槍を投擲した。
───瞬間、全ての音が消滅した。
迫る槍は空気を焼いた。己は敗退した。敗北した。ならばこれは、道連れの一撃。
サーヴァントが自らを維持する魔力すらを燃料に放った一撃は、次に空間を裂いた。
そして。三度目。
遂に、余波ではなく本命が飛来する。
余波だけで、音が消えた。
本命の槍は、無音の世界で、高層ビルの頂上に座る彼女へと飛来する。
───アーチャー。
音が消えた世界で女性の唇が動く。英霊の型を呼ぶ。
七つのクラスの一つ。戦闘に特化した三騎士が一つ、アーチャー。
その名を読んだ
すると。
世界に、音が帰還する。
まるで、弾道ミサイルでも落ちたかのような音。衝撃のあとに遅れてやってきたソレは、常人の鼓膜なら濡れた紙のように用意に引き裂いていただろう。
止まっている。
サーヴァントの投げた槍が、盾に止められている。
花弁を模したその盾は、その花弁を一枚も散らすことなく。
投擲された槍を受け切り。全てを出し尽くした槍は、一人でに瓦解した。
衝撃でビル群の窓がいくらか割れたが、些細なことだ。
「位置を探られるとは、同じ銃火器使いとしては未熟と言わざるを得んな」
「うるせぇ。終わったんだから帰るぞ」
女性と男は、場所を変える。
一仕事を終えたスナイパーは、跳ねるように。
闇夜に姿を消した。
○ ● ○
「サーヴァントとマスターの残りは」
「流石に、数が減ってきたな。先ほどのように好き勝手に歩く馬鹿と間抜けも、街の中で一勝負起こす物好きもいないということだ」
「要するに探知外ってことか。無駄に慣れてるヤツばかり…闇が深ぇな」
廃棄されたビルの一角。おそらくは廃業したか、それともこの冥界の騒ぎに呑まれて人だけ消えたか、ビジネスホテルの一室で女性は顔を顰める。
ダークブルーとピンクの髪が揺れ、女性はベッドに身を預ける。
-
「マスター」
「わかってる。ちと休憩だ。どうせ暫くは誰も動かねぇさ」
「聞いたところで序盤で死に絶えては意味がない───故に聞く必要も無いと思っていたが。
マスター、聖杯戦争に臨むからには願いがあるんだろう?」
「…聞いてどうすんだよ」
「少なくとも、知らないよりかはこの銃が仕事をするかもな」
浅黒い肌の男は、手に持った銃剣を持ち上げる。
女性は無視をしようと仰向けになったまま、腕で目を塞いだが、ポツリと一言、溢した。
「レディ・ナガン。…ここにくる前に、呼ばれてた名だ」
「…アメコミのヒーローか? それにしては思い入れがあるような素振りだが」
「ヒーローか。間違っちゃいねえよ」
皮肉で返すアーチャーに、苦笑で応答する女性───レディ・ナガン。
ナガンは視界を腕で塞いだまま、語り続ける。
「ウチんとこの世界は、もっと派手でね。『ヒーロー』が『ヴィラン』を倒し、市民がヒーローに憧れて犯罪を減らす。
そんな、上っ面だけ綺麗に取り繕った、腐った世界だった」
「…人気商売のようなものか。下らん、信頼で繋がるシステムを世界で使うとは、壊してくれと言わんばかりじゃないか」
「その通りさ。ヒーローのシステムはヒーローへの信頼で成り立ってる。不信感が募れば、一気に瓦解する、脆い世界だよ。
だから、瓦解する前に不純物は摘む。その掃き掃除を、私がこのライフルでやってただけの話さ」
「…」
ナガンの体制は変わらない。アーチャーからは、ナガンがどんな顔をしてるのかすら、わからなかった。
いや。正確には、その顔が表す感情を、覚えていなかった。
「私の願いは『ヒーロー社会の破滅』。かと言って…一般人とヴィランだけ残るのも後味が悪ィ。
だから『ヒーロー社会とヴィランの破滅』。それだけだ」
「……そうか」
「アーチャーの願いはなんなんだよ。人にだけ喋らせといて自分は無しはねぇだろ」
「無いさ」
あァ、とナガンが顔を上げる。浅黒い肌のアーチャーは、椅子に腰掛けて足を組み、力無く頭を垂れていた。
「正確には『思い出せない』の方が近いがね。残念ながら、戦闘以外の記憶は殆ど保たない。
よって、兵器として扱ってくれ。その右腕と同じ。違いがあるとすれば、喋るか喋らないか、くらいだ」
「…そうかよ」
ナガンはベッドから立ち上がり、恐らくはビジネスホテルの机に備え付けてあったのだろう、ノートの1ページを裂いて、拾ったペンを走らせる。
僅か数秒。それを書き終えた後、ピンクとダークブルーの髪を繊維のように編み、小さな筒状のメモ入れが完成した。
その中に紙を差し込み、アーチャーに投げ渡す。
「…? なんだこれは」
「『筒美火伊那』。私の本名だ。書いて入れておいた───ナガンは辞めだ、こっちで呼べ」
「はッ、センチな気分にでもなったか?」
「そうかもな。少なくとも、私の銃がやる気になる程度にはな」
ナガン、否、火伊那は、一瞬で理解した。
アーチャーの表情。アレは、絶望した者の顔だ。壊れた者の顔だ。醜い世界と避けられない悲劇に、壊れてしまった者の顔。
───おまえがウチに呼ばれた理由が、なんとなくわかった気がしたよ。
【CLASS】
アーチャー
【真名】
エミヤ〔オルタ〕@Fate/Grand Order
【ステータス】
筋力 C 耐久 B 敏捷 D 魔力 B 幸運 E 宝具
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
対魔力:D
アーチャーのクラススキル。魔術に対する抵抗力。Dランクであれば、詠唱が一工程(シングルアクション)の魔術を無効化する事が可能となる。あくまで、魔力避けのアミュレット程度の耐性。
単独行動:A
アーチャーのクラススキル。マスターからの魔力供給を断っても自立できる能力。マスターなしでも行動可能だが、宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。
【保有スキル】
防弾加工:A
最新の英霊による『矢除けの加護』とでも言うべきスキル。名義上は『防弾』とは銘打たれているものの、厳密に言えば高速で飛来する投擲物であれば、大抵のものを弾き返す事が可能となる。
-
投影魔術:C (条件付きでA+)
道具をイメージで数分だけ複製する魔術。
エミヤ・オルタが愛用する双剣『干将・莫耶』も投影魔術によって作られたもの。
投影する対象が『剣』カテゴリの時のみ、ランクは飛躍的に跳ね上がる。この『何度も贋作を用意出来る』特性から、エミヤ・オルタは投影した宝具を破壊、爆発させる事で瞬発的な威力向上を行っている。
嗤う鉄心:A
反転の際に付与された、精神汚染スキル。
通常の『精神汚染』スキルと異なり、固定された概念を押しつけられる、一種の洗脳に近い。
与えられた思考は人理守護を優先事項とし、それ以外の全てを見捨てる守護者本来の在り方を良しとするもの。Aランクの付与がなければ、この男は反転した状態での力を充分に発揮出来ない。
【宝具】
『無限の剣製』
ランク:E〜A 種別:対人宝具 レンジ:30〜60 最大捕捉:?
錬鉄の固有結界。剣を鍛える事に特化した魔術師が生涯をかけて辿り着いた一つの極致。
『無限の剣製』には彼が見た「剣」の概念を持つ兵器、そのすべてが蓄積されている。
本来は世界を引っ繰り返すモノを弾丸にして放ち、着弾した極小の固有結界を敵体内で暴発させる。そこから現れる剣は凄まじい威力を以って、相手を内側から破裂させる。
【weapon】
・干将・莫耶
銃剣としても剣としても使用可能。エージェントとして腐り果てていく中、銃としても変わっていった。
・熾天覆う七つの円環
・他投影品
【人物背景】
腐り果てた正義の味方。
自ら名を捨て失墜した執行者。
聖母の如き慈愛の女の悪性を見抜いた彼は、多くの人間を殺し、大切な人を殺し、女の元に辿り着いた頃には、女は自害していた。
正義の味方は報いを受けさせることもできず。ただ『罪のない多くの人を、大切な人を殺し続けた』のみの存在になった彼は、彼らの命に殉じるように魔道に落ちた。
多くの人を殺し、唯一の平和だった女性すらも殺し、処刑されることもなく権力者に殺しをさせられ続ける日々で───いつしか、姿を消した。
心の剣は錆び付いた。
人間としての機能を微かに残した、兵器。
【サーヴァントとしての願い】
無い。
既に、そんな機能は捨て去っている。
【マスターへの態度】
特に無い。
【マスター】
筒美火伊那(レディ・ナガン)@僕のヒーローアカデミア
【願い】
『ヒーロー社会とヴィランの破滅』
ハリボテの平和、腐った世界。血塗られた冥界で作り変えた世界の方が、まだ澄んでるだろうよ。
【能力・技能】
・個性『ライフル』
右腕の肘をライフルの銃身に変形させる。
また、自身の毛髪からライフル弾やスコープといった補助具を作成することができる。
特徴的な二色の毛髪は、エポキシパテのように混ぜて練り上げることで弾丸に変形させることができ、形や配分を調整することで「ホローポイント弾」や「曲がる弾」といった用途に合わせた様々な弾丸を生成することができる。
ライフル本体も実物よりも高性能であり、連射性能が備わっているほか、銃口を大型化させることで、弾詰まりのリスクと引き換えに弾速を引き上げること等もできる。
個性そのものはシンプルだが、特筆すべきはレディ・ナガン本人の人間離れした射撃技術であり、彼女は自身の個性を「3km離れた場所から標的を狙い撃つ」、「動く標的に風や標的の動きを予測し先読みして弾を撃ち込む」といった離れ業が可能な領域まで鍛え上げている。
・個性『エアウォーク』
AFOから与えられた個性。
空中を歩くことができる。またライフルの反動での高速移動、踏ん張ることでの空中狙撃も可能。
狙撃手である彼女の戦闘スタイルとの相性は抜群で、『ライフル』と併用することで、戦場の地形や空間に囚われず、あらゆる地点から自在に狙撃が出来る『高速移動長距離砲台』へと進化を遂げた。
【人物背景】
タルタロスのダツゴク、その一人。
ヒーロー社会の裏を知り、ハリボテの平和を知ったヒーロー。
タルタロスからの脱獄〜緑谷戦闘前の間から参戦。
【方針】
狙撃、ヒットアンドアウェイでの生き残り。
【サーヴァントへの態度】
地獄を見た者への同情心。
仕事を共にする仲、程度。
-
投下終了です。
タイトルは「身体は銃弾、撃ったきり。」
です。
-
投下します
-
廃ビル、槍同士がぶつかり合う音が流れる、
方や和風、方や洋風。
剛槍と俊槍、相対する槍兵がぶつかり合っていた。
「悪くねぇ…けど…押しが甘え!」
制したのは傭兵だった、喉元に槍を突き刺し、決着を付ける。
「こっちはついたが…そっちはどうだ、マスター」
青色の槍兵は後ろのマスターへと声をかける。
「終わったぜランサー、こっちは締めた」
奥から出てきた男。
褐色、白目、まるで悪魔。
手にはナイフを持っている、血はナイフにはついているが、彼の皮膚にはあまりついていなく、彼が圧勝であったことを示している。
「一仕事終えたし…やるか?久々に」
「いいじゃねぇか…たまにはやりてぇ…」
殺戮のあとの男たちが目指す先といえば――
◆
「お待たせしました、軟骨のからあげと旬の刺身の盛り合わせです」
「どうも、届いたぜランサー」
「お、来たか!」
男たちが来たのは――大衆居酒屋。
東京随一のターミナル駅、東京駅。
中は土産屋ばかりではなく、飲食店が多く並ぶ。
もちろん、居酒屋の様な夜遅くまでやる店も。
褐色の大男――ムテバ・ギゼンカとそのサーヴァント――ランサー――クー・フーリン。
戦闘時の格好では無く、ラフな恰好のランサーと洒落着に身を包んだムテバ。
既にテーブルには貝の焼き物、蟹の味噌汁、冷やしトマト、ビールジョッキ4つと、既に来て数十分経ったということがわかる。
そこにレモンのついた軟骨の唐揚げとカレイ、タイ、サワラ。
言ってしまえば、戦勝後の酒盛りである。
「…そうだマスター、一度こういう場で聞きたいことがあった」
「なんだ?」
「…あんたの願いってなんだ?」
聖杯にかける願い。
それは――
「…休みだ」
「は?」
休み――そうムテバの口からは出た。
「体のなまらない程度…一週間…いや二週間は欲しいな…とにかく休みがほしい…」
「…それまじで言ってるのかよ…」
「当たり前だ、体をなまらせたくはないからな」
そこは一人の男として譲れない――と酒をジョッキに当てながら言う。
それに対してランサーは。
「へっ…面白れぇマスターを引いたもんだな俺も…」
「そうか?」
「少なくとも、聖杯にそれを願うやつはいねぇよ…まぁいいさ…」
ランサーは周りの食器を端に寄せ、邪魔をなくし、正面から己のマスターを見る。
「ランサー、クー・フーリン、一介のサーヴァントとして、突き合わせてもらうぜ、マスター!」
「あぁ、頼んだぞ、ランサー」
虐殺者、コンゴの死神、暗黒大陸の殺戮マシーンなど複数の異名を持つ傭兵、ムテバ・ギゼンカ。
アイルランドの光の御子、クー・フーリン。
闘魂輝かせ、今日も冥奥を歩んでいく。
-
【CLASS】ランサー
【真名】クー・フーリン@Fate/stay night
【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷A 魔力C 幸運E 宝具B
【属性】秩序・中庸
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
【保有スキル】
戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。
ルーン:B
北欧の魔術刻印・ルーンの所持。
矢よけの加護:B
飛び道具に対する防御。
狙撃手を視界に納めている限り、どのような投擲武装だろうと肉眼で捉え、対処できる。
ただし超遠距離からの直接攻撃は該当せず、広範囲の全体攻撃にも該当しない。
神性:B
神霊適性を持つかどうか。
高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
【宝具】
『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:2〜4 最大捕捉:1人
突けば必ず相手の心臓を貫く呪いの槍。
魔槍ゲイボルクによる必殺の一刺。
その正体は、槍が相手の心臓に命中したという結果の後に槍を相手に放つという原因を導く、
因果の逆転である。
槍を放つ前に槍は既に心臓に命中しているのだから、結果が作りあがった後に何をしようと
防御も回避も不可能。
ゲイボルクを回避するにはAGI(敏捷)の高さではなく、ゲイボルクの発動前に
運命を逆転させる能力・LCK(幸運)の高さが重要となる。
【weapon】
魔槍ゲイ・ボルグ
【人物背景】
ケルトの大英雄、クランの番犬。
罠に嵌った末、敗北した猛犬。
【サーヴァントとしての願い】
強者と死力を尽くした戦う
【マスターへの態度】
面白えマスター、いずれはやり合いたい
【マスター】ムテバ・ギゼンカ@ケンガンアシュラ
【マスターとしての願い】
休暇
【能力・技能】
鍛え抜かれた軍隊格闘技と中国武術。
また全盲であることにより発達した超感覚。
そして、ファッションセンス。
【人物背景】
戦場を生き抜いた伝説の傭兵、虐殺者。
合理的で金銭周りに厳しい、しかし、義理人情が無いわけではない。
【方針】
主従に関しては生き残るためにも全力で殲滅する。
しかし、NPCとはいえ、無関係の住人を殺害することはしない。
【サーヴァントへの態度】
ビジネスパートナー…とはいえ、互いに酒を酌み交わすぐらいには進展。
-
投下終了です
タイトルは「ご注文は朱槍ですか?」です
-
投下させていただきます
-
――――生まれてはじめて、この光を浴びた。
空の一面に広がる、青い、青い空。
そしてそこに佇む、お天道様。
その光は、見慣れた町の、暗がりでしかなかったはずのそれを等しく照らし出していて。
少女は気付けば、涙を流していた。
幼い頬、色の白い輪郭を、ひとしずくの涙が伝い落ちていく。
涙を拭う間、この青と眩しさを目に入れられないことが惜しくて。
顔がぐしゃぐしゃに濡れていくのも構わず、少女は、こよりはそうしていた。
「何故に泣く。娘よ」
「……はじめて、だから。太陽さまが、こよりを見てくれたの」
ああ、でも。
こんなにも嬉しいのに、それでもすぐに気付いてしまう。
気付けてしまうのだ。だってこよりは、太陽に嫌われた怪物だから。
――根津魅、という妖怪がいる。
決して強いものではない。人間からこぼれ落ちた記憶の欠片を齧る、とても弱い魑魅だ。
どのくらい弱いのかというと、太陽の光を浴びられない。
日の光の下で生きることができないくらいには、弱く、そしてか細い生き物。
こよりはそういうモノとして生まれた。
違ったのは、不幸だったのは、こよりが"変り種"だったこと。
人間の姿になり、知性と感情という分不相応なものを手に入れてしまったこと。
本来ならば、ただ本能のままにこぼれた記憶の欠片を齧って暮らすだけの根津魅が。
ある温かい記憶に触れ、そのぬくもりへ寄り添い続けたことで、記憶の中にしかいないいつかの少女のかたちを得てしまったこと。
幸せなものなど。
温かいものなど。
知らぬままであったなら――暗闇の中でしか生きられない自分を、不幸だと思うことさえなかったろうに。
少女は、知ってしまった。知恵の実を齧り、自分が知る由もない幸福がこの世界には溢れているのだと知ってしまった。
日の光の下を歩けない。
太陽に、お天道様に、嫌われている。
世界はいつだって広くて、眩しくて、とても楽しそうで。
そんな世界なのに、どこにもこよりの家はない。
「でも、違うんだね。許してもらえたわけじゃないんだ」
こよりは今、確かに太陽の光に照らされている。
闇が消え去り、人が闊歩する朝の中にいる。
本来なら根津魅は、太陽の光に焼かれれば灰になって消えるばかりの存在だ。
-
今まで許してもらえなかったことが、急にできるようになるわけがない。
それはつまり。この太陽も、この朝も、所詮は仮初めの嘘っぱちでしかないことを意味していた。
こよりが作った、こよりを神とするいつかの世界。
あの寂しい嘘っぱちと同じ、ガランドウの夢のなか。
「ここは、こよりたちの世界。
根の国。暗くて寂しくて、眩しいものなんてなんにもないところだって」
「……、……」
「知ってたよ。知ってたはずなのに、ね。
太陽……ううん。神さまって、ひどいことするんだね」
こよりの推測は、実に正しい。
ここは冥界であって、再現された日常はいずれ死に呑まれる虚構でしかない。
したがってそこに射し込むこの太陽も、こよりが生きて死んだあの世界を照らしていたものとイコールではないのだ。
冥界の死というフィルターを通して浴びる太陽光は、こよりのような根の国の生物でも優しく照らしてくれる。
許してくれたわけでも、こよりが人間になったわけでもないのに。
まるで願いは叶いましたよと言わんばかりに空々しく、こよりの身体を照らすのだ。
そんな日なんて。
来るはずがないのに。
そんな奇跡なんて。
あるはずがないのに。
「こよりね、悪いことをしたの」
「知っている」
「そうなんだ。……なんだか納得しちゃった。
そうじゃなかったらあなたみたいな人が、こよりの前に出てくるわけがないもんね」
あなたみたいな、眩しい人なんて――。
そう言ってこよりは、名残惜しそうに空を見上げた。
たとえ今だけの肩透かしでも、それでも涙は止まらなかった。
願った、朝。
ほしかった、幸せな明るい世界。
この空の下になら、もしかしてあるのだろうか。
ほんの気休めでも、いつか嘘みたいに奪われてしまうものだとしても。
こよりの帰る家が、あるんだろうか。
そんなあるわけもない希望をすら抱いてしまうくらいに、初めて過ごす朝のひとときは美しかった。
「たくさんの人を、不幸にしようとしました」
心は嘘みたいな喜びだけに溢れていて、不思議と悲しくはない。
だからだろう、こよりは凪いだ水面のように穏やかだった。
はじめての太陽に照らされながら、告解する罪人のように隣の武者に罪を明かす。
-
そう、こよりは生まれたその瞬間から怪物だ。
死の世界で暮らすべくして生まれた、ちいさな魑魅。
神の言葉を聞き、人間になるために罪を犯した。
好きな人たちを、自分の世界に連れ去って。
帰さない、帰らせない。ここでこよりと、ずっと一緒に遊ぼう。
だからバチが当たったのだと、そう思う。
熱い、あつい、太陽に焼かれて、死に還って。
そして――太陽/旭に出会った。
「こよりは、人間になりたかった」
願いは、ずっとそれだけ。
知ってしまった幸福を手放せなかった。
もっと、もっとと、求めてしまった。
それがきっとこよりの罪。
薄汚い記憶齧りの根津魅が、空に手を伸ばしてしまったこと。
「みんなね、夕方のチャイムが鳴ると帰っちゃうんだ。
暗くなる前に帰らないと怒られるんだって。
帰ったら何があるのかな。おいしいごはん、あったかいお風呂?
眠る時は冷たい路地裏じゃなくて、大好きな誰かに寄り添ってもらうのかな」
最後まで、叶わなかったけど。
手には、入らなかったけど。
でも、でも。
こよりも。
「…………帰りたかったなあ」
家に、帰りたかった。
薄汚い、暗い世界の根津魅なんかじゃなくて。
みんなと同じ人間として、大切な人の待つ家に帰ってみたかった。
けれどそれは、もうきっと叶わないだろう。
別に特別じゃない、当たり前のこと。
鼠が人間になりたいって願う方がおかしいのだから。
これは悲劇ですらない、ただ単に子どものわがままが叶わなかったってだけの話。
こよりは、そっと旭を見上げた。
こよりの隣で、その話を聞いてくれていた"太陽さま"。
大きくて、強そうで、そして眼が焼けちゃいそうなほど眩しい。
きっとこの人は、とても正しい存在なのだとこよりは思った。
いつだってこの人はきっと、正しい光の中にいる。
あの空に咲く太陽のように、闇を照らして"みんな"を守る正義の味方。
そして正しいものは、決してこよりを認めてはくれない。
-
根の国から這い出てきた鼠。
誰かの思い出を齧って生きる、薄汚い生き物。
それが、ヒトのような姿とかたちを騙って。
太陽の下で幸せに暮らす人達を、ただ自分のためだけに奪った。
夜を忍ぶのは鬼のすること。
人を攫うのは悪者のすること。
――悪鬼。それはきっと、わたしを表す言葉。
「ねえ、旭(たいよう)さま」
こよりは小さいから、身の丈の大きな彼を見るにはうんと顔を上げないといけない。
それが奇しくも、首を捧げる罪人のように見えた。
痛くないといいな、痛いのは嫌いだから。
そう思いながら、最期に乞い願う。
「こより、もう寂しいのは嫌なの。
だから……"次"はこよりのこと、人間にしてね。
男の子でも女の子でも、お金持ちでも貧しくてもいいから。
みんなと同じ時間に、みんなと同じ姿で遊んで、手を振って"また明日"が言えるような――そんなどこにでもいる、人間にしてください」
お月様が、好き。
手を伸ばしても、わたしを焼いたりしないから。
夜にしか生きられない存在のことも、優しく抱きしめてくれるから。
太陽は、嫌い。
手を伸ばすだけでわたしの身体を焦がすから。
貴女さえいなければ、わたしは外で遊べるのに。
……でも、ああ。
本当は。
貴女のことも、好きになりたかった。
こよりのこと、ほんのちょっとでいいから、好きになってほしかった。
人間は、死ねば生まれ変わるのだという。
こよりは、人間にはついぞなれなかったけれど。
それでも次に目覚めたときは、人間がいいな。
化物で、悪い子で、罪を犯したわたしが願うには、贅沢すぎる願いごとかもしれないけれど――
目を閉じる。
報いを受けるために。
次に目覚めたときは、またあの冷たい世界だろうか。
それとも、今度は誰かのお家の中だろうか。
できれば、ふたつめがいいな。
そう思いながら、来たる処断の時を待って。
待って、待って、……待って。
「悪鬼に非ず」
「え?」
.
-
聞こえてきた言葉に、思わず問い返す。
目の前に、変わらずその太陽はあった。
朝の浜辺を照らす、旭。
眩しい、雄々しい、強いひと。
身の程を知らない根津魅を裁くであろう彼は、しかし剣を抜くことはせず。
ただその厳しい、正しいことの象徴のような面頬を旭の輝きに煌めかせていた。
「瞼を開けろ。お前は、我が剣が裁くべき悪鬼に非ず」
悪鬼に。
非ず――?
困惑とともに目を開けたこよりの前で、旭の武者は不動だった。
言っていることの意味が分からない。
彼の言う言葉はどうにも古風で、魑魅とはいえ幼いこよりには難しかった。
けれどひとつだけ分かることがある。
お前は、悪鬼ではないと。
聞き間違いでなければ、彼は今、そう言ったのではなかったか。
「行くぞ。あくまで仮初めだが、放浪生活というわけにもいくまい。
幸いにしてこの時代は発達している。
帰る家のない幼子が然るべき機関へ駆け込めば、心の善き誰かがアテを探ってくれるだろう」
「ちょ、ちょっと待って……!」
そうと決まれば善は急げだ、とばかりに踵を返す武者の手をこよりは急いで引いた。
話は何も終わっていない。少なくともこよりには意味がわかっていない。
「こより、いい子なんかじゃないよ……。
みんなを攫って、誰かのところから奪って……」
「知っている」
「なら、どうして……!」
「悪鬼とは」
好きな人を、それを大切に思う人の許から奪い去った。
取り返しに来た人へ、返すものかと暴力を振るった。
だからあの熱くて苦しい光に焼かれて、気づいたらこの死の世界に帰ってきていたのだ。
そんな自分を、けれど悪鬼に非ずと武者は言う。
取り乱すこよりに、旭そのものの如く正しい男は声色を乱すことなく語った。
「人の世を乱すもの。誰かの幸せを無慈悲に奪い去り、その嘆きの上で笑うもの」
「じゃあ、やっぱりこよりは悪い鬼だよ。だってこよりがしたの、今あなたが言った通りの……」
「そうだな。もう一度お前がそうなれば、人を神隠しに遭わす悪鬼になれば、その時我が剣はお前を悪鬼として滅殺しよう。
この剣は悪鬼を滅ぼすもの。この剣は世の平和を守るもの。
それを脅かすようになった根の国の魑魅を生かしてはおけぬ」
言葉と結論がつながっていない。
まるでちぐはぐだ。
されど、彼の中では揺るがぬ理屈。
旭の輝きを裏打ちする、燃え盛る炎の如き信念。
「――だから、もう二度とするな。約束できるか?」
それが。
人間(ほんもの)の子どもにするように屈んで目線を合わせてこう言った。
-
「する……けど、そんなことで――」
「ならば善し。お前はもう既に報いを受け、悪鬼の兆しを失っている。
裁きを受けて悔い改め、二度としないと誓った鬼を追い立てては生き恥になる。
根の国の根津魅、人の世の影なる呼夜罹よ。光の中には生きられずとも、せめてその魂は正しさの中に置くのだ」
そうすれば、お前は悪鬼に非ず。
たとえ肉体が、魂がヒトではなくとも。
「"こより"。私は、お前をひとりの人間と認めよう」
旭の武者は。
旭将軍は。
震えるこよりに、そう言った。
天に瞬くあの輝きそのもののように雄々しく、大きく。
そしてこよりを幾度と苦しめた光のように眩しく、正しく。
太陽の如き旭が――――こよりを赦すと、そう言ったのだ。
「…………うん……わかった………。
ぐす、うぇ……う、うううう、う……!」
諦めとは違う、今までで初めて流す涙がこよりの顔を再び濡らす。
近づいてはならない、触れてはならない旭。
その甲冑にくっついて、顔を埋めて。
根津魅の少女は、太陽の元でただ泣いていた。
ごめんなさい、ありがとう。
そう言うように、大声で泣き喚いた。
ああ、触れられる。
あったかい。あたたかい。
こんなにも、太陽とは――安心させてくれるものだったのか。
「それに……」
面頬を消し、素顔を晒す旭の如き漢。
如何にも武士といった雄々しく精悍な顔立ち。
まるでそれは、寝物語の英雄のような。
子どもたちの心をいつだって明るく照らす、そんなぬくもりに満ちていた。
「……幼子が家に帰りたいと願うことが、間違いなどであるものか」
-
……男こそは、旭将軍。
戦火激動の時代に生まれながら、討死するその瞬間まで熱く雄々しく輝き続けた一輪の太陽。
もしもこよりが神隠しの魑魅としてこの地でも罪を重ねる、そんな邪妖のままであったなら。
その時は、彼の剣は過つことなくその首筋を撫でていた。
されどこよりの中にあったのは、どこまでも純粋な。
そう、まさに家に帰りたいと泣く幼子のような、そんな"願い"だけだった。
だから変われる。大人に怒られて、もうしないな、と問われたなら、嘘偽りなしに「うん」と頷けるのだ。
故に判定――滅殺すべき悪鬼に非ず。平穏な暮らしを望み、悪事はしないと誓ったならば魑魅であろうと旭将軍は誅さない。
それは彼を彼たらしめる、決して揺るがぬ信念の導き出した回答だった。
悪鬼は闇を招く。そして闇を払うは、彼の役儀。
だが、それとは別にひとつ。
たったひとつだけ。
人になりたいと泣く童を、まさか俺が見捨てるわけには行くまいよ。
なあ、そうだろう――――巴。
微笑と共に心の中で呼んだ名前は、いつかの時に置き去った愛するものの名。
鬼として生まれながら、それでも人として生きたもの。
勇猛果敢なる旭将軍が愛した幼馴染、戦友、そして恋人。
最期まで共には居てやれなかった、心優しく誇り高く、見惚れるほどに美しい彼女。
男こそは、旭将軍。
太陽のように生き、落日のように死んだ英雄。
真名、木曽次郎源義仲。
悪鬼を討ち、人の世を守る武士。
そして血や姿に拘らず、個の生き方を尊んだ男。
此度、盈月の兆しはなくとも。
その剣、その武勇、一切不変。
正しきことを成し、正しきものを守る。
たとえヒトではなくとも。
誰がその在り様を、醜悪と笑ったとしても。
罪を償い悔い改め、二度としないと誓ったならば。
家に帰りたいと泣く子の声に、その剣は必ず応える。
日輪、影。
混じり合うことのない光と闇が――――穏やかな熱の中で運命を駆ける。
-
【CLASS】
セイバー
【真名】
木曽義仲@Fate/Samurai Remnant
【ステータス】
筋力A 耐久C 敏捷B 魔力D 幸運A 宝具B
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:B
魔術に対する抵抗力。魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、彼を傷付けるのは難しい。
騎乗:A
乗り物を乗りこなす能力。
Aランクともなると、幻獣、神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操る事が可能となり得るレベル。
【保有スキル】
単独行動:EX
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
EXランクではマスター不在でも行動出来る。
宝具の使用についても何とか自力で発動可能だが、マスター不在であれば大きな負荷となる。
今回の聖杯戦争で所持している理由はマスターがそもそも根の国……冥界の住人であるこよりなため。
いわば冥界の死者(住人)が直接サーヴァントを呼んだようなものであり、その特異性から偶然所有に至った可能性が高い。
【宝具】
『勇往邁進・倶利伽羅峠(ゆうおうまいしん・くりからとうげ)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜70 最大補足:500人
倶利伽羅峠の戦いにおいて、平氏の大軍を打ち破った逸話が昇華された宝具。
燃え盛る松明を角に括り付けた無数の猛牛が四方から迫り、敵軍を蹂躙する。法螺貝、太鼓、牛の働きによって、空間そのものが鳴動大地は忽ち無明の奈落へと変わり、敵兵を残らず呑み込む。
セイバー自身はこれを八幡神の加護と称するが、実際は固有結界の一種である。
『旭将軍(オン・アロリキヤ・ソワカ)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大補足:1人
別名・聖観音太陽剣。自らの菩提を弔った義仲寺の本尊、聖観音菩薩の真言と共に放たれる大太刀の一閃。
太陽のごとき閃光と業火が、敵を一刀のもとに調伏する。
【weapon】
大太刀
【人物背景】
"旭将軍"の異名を持つ、源氏の武将。
悪鬼を滅殺し、善良なるものの安息を守る正義の旭。
【サーヴァントとしての願い】
悪鬼滅殺。そして叶うならば、迷子の根津魅に帰るべき家を。
【マスターへの態度】
魑魅であり、人の世を脅かした"鬼"であるのは事実。
しかしその心根にあるのはごく純粋な、当たり前の幸せに焦がれる心であると知った。
ならばその願い、悪鬼のそれに非ず。幼子が家に帰りたいと願う心に罪などある筈もなし。
こよりが道を再び外れない限り、太陽/旭は今時限り根津魅の傍らで光を放つ。
【マスター】
こより(呼夜罹)@猫神やおよろず
【マスターとしての願い】
人間になりたい。
太陽の下を歩ける、帰る家のある、人間に。
【能力・技能】
人間からこぼれ落ちた記憶の欠片を齧る根の国の鼠、『根津魅』の子。
とあるきっかけから人間の姿と知性、そして感情を持つようになった変異種である。
大量の記憶を齧って力を蓄えたことにより、本来の根津魅では考えられないほどの力を保有している。
本来は太陽の光を浴びることができないが、今回は舞台が冥界……根の国であり、死というフィルターを通した太陽光ならば浴びられる様子。
【人物背景】
家なき子。
ただ眩しくて楽しい世界で暮らしたかっただけの根津魅。
繭に敗北後、蔵菊理姫神の言霊の力を受ける前からの参戦。
彼女の願いはきっと叶っていた。
【方針】
帰る家がほしい。
今度は仮初ではない、本物の明るい家を。
……でも、もう悪いことはしたくない。
【サーヴァントへの態度】
須佐之男とは違う、太陽のような人。
頼もしいと感じる以上に強い安心感を抱いている。
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投下を終了します。
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投下します
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我が名は、クレイマン。
かつて、魔王の地位にいた魔人。
生前の私は、おごっていた。
おのれの策略を過信し、全てを操れると思い込んでいた。
結果として、あの忌まわしいスライムに敗れた。
支配者としても個人としても完敗し、最後には魂まで捕食された。
私という人格は、そこで消滅したはずだった。
だが世界は、私の存在を認めた。
英霊の座に登録された私は、この度の聖杯戦争でキャスターのサーヴァントとして召喚された。
そこまではいい。
問題は、私が組まされたマスターだ。
◆ ◆ ◆
私のいた世界とは違う文化の元作られた、一軒の民家。
私のマスターは、その中でソファーに寝転んでいる。
「マスター……。そろそろ、覚悟を決めてもらえないだろうか」
「いやです!」
私の要望を、マスターは即座に斬り捨てる。
幼さの残る少女の姿をした彼女の名は、ぷにる。
種族は、スライム。
そう、私を破滅させたあの魔物と同じスライムなのである。
いったい何の因果で、曲がりなりにも私がスライムに仕えねばならないのか。
運命を司る存在の嫌がらせだとでもいうのだろうか。
「たしかに、なんでも願いを叶えられるというのは魅力的ですよ?
でも、戦うのはいやなのです!
かわいいぼくがやることではないのです!」
そしてこのように、マスターは聖杯戦争に乗り気ではない。
願いは叶えたい。しかし戦いたくはない。
甘ったれた子供の思考だ。
そして戦闘力は、ほぼ皆無。私を倒したスライムとは、比べるべくもない。
はっきり言って、足手まとい以外の何物でもない。
いっそ私の魔法で洗脳してしまった方がいいのでは、と考えるほどだ。
だが、それにもリスクがある。
この聖杯戦争は、マスターとサーヴァントが組んでの戦いだ。
いざというときにマスターが自発的な判断をできないのであれば、決定的な隙をさらすことになりかねない。
単純な命令だけで自分の身を守れるくらい、戦闘力が高ければいいのだが……。
そうであるならば、そもそも操る必要がない。
考えれば考えるほど、八方塞がりだ。
「キャスター、クリームソーダを持ってきてくれませんか?」
「そのくらいは自分でやりたまえ」
「まったく、サーヴァントのくせに反抗的ですね。
ここは令呪で……」
「やめろ! 貴重な魔力ソースを無駄遣いするんじゃない!」
愚かな行動をとろうとするマスターに、思わず口調が荒くなる。
たしかに令呪を使いきってくれれば自由の身になれるが、まだ乗り換える先が見つかっていないのにそうなっても私が困るだけだ。
今はまだ、切札として令呪を持っていてもらわないと困る。
そう、今は耐える時なのだ。
こんなザコマスターでは、聖杯戦争を勝ち残ることなど不可能。
もっと優秀なマスターを見つけ、そいつと再契約する。
私が勝ち残るには、それしかない。
それを成功させた時こそが、私のリベンジが始まる時だ。
「ぐっ!」
「どうしました、キャスター」
「いや、なんでもない……」
「そうですか、それなら早くクリームソーダを……」
「しつこいな、貴様も!」
「リベンジ」。その言葉を思い浮かべた途端、脳に鈍い痛みが走った。
この言葉は、私にとって特別な意味を持つものだったか?
私は、何かを忘れている……?
まあいい。今は、勝ち残る方法だけを考えるべきだ。
もう一度つかむのだ。魔王としての栄光を!
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【CLASS】キャスター
【真名】クレイマン@転生したらスライムだった件
【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷C 魔力B 幸運E 宝具EX
【性別】
男
【属性】
中立・悪
【クラススキル】
陣地作成:B
魔術師として自らに有利な陣地を作り上げる。「工房」の形成が可能。
道具作成:C
魔力を帯びた器具を作成可能。
彼は生前に収集していた武具を再現可能だが、それを使いこなす技巧はない。
【保有スキル】
十大魔王:C
魔の世界に君臨する王の一人。
魔獣・怪物系のサーヴァントに対しては同ランクの「カリスマ」と同様の効果を発揮し、そうでないサーヴァントには強い威圧感を与える。
キャスターは生前「真の魔王」に至ることができなかったため、ランクは低め。
操演者:B
キャスターが得意とする、他者を操る魔術。
サーヴァントを操るのは困難だが、一般人ならほぼ確実に掌握できる。
NPCならば、他者の妨害がない限り100%成功する。
中庸道化連の掟:A
キャスターの人格の芯となる、確固たる信念。
いかなる魔術やスキルを使われようとも、キャスターが自分の陣営に関する情報を敵対者に教えることはない。
【宝具】
『偽りの覚醒魔王(クレイジーピエロ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:1人(自身)
リムル=テンペストとの戦いで行った、不完全な覚醒を再現する宝具。
筋力、耐久、敏捷が2ランク上昇し、「十大魔王」が1ランク上昇する。
いびつな力であるがゆえに魔力の消耗が激しく、長時間の維持は困難である。
『クレイマンREVENGE』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:― 最大捕捉:―
それは正史か、偽史か……。
とある文献においてクレイマンが持っていたとされる能力を、グレードダウンして再現した宝具。
クレイマンが戦闘によって死亡すると自動発動し、時間を戦闘開始時まで巻き戻す。
その際、クレイマン本人だけが巻き戻る前の記憶を保持した状態となる。
発動の際、令呪が一画強制消費される。すでに令呪がない場合は、発動しない。
また、一回の戦闘で複数回発動することもない。
クレイマン自身は、この宝具の存在を認識していない。
【weapon】
なし
【人物背景】
十大魔王の一人、「人形傀儡師(マリオネットマスター)」。
そして社会の裏で暗躍する「中庸道化連」の一員。
真の魔王へと至るべく暗躍していたが、その過程でリムルと敵対することに。
それでも慢心し彼を軽視していたことで、最終的には直接対決に持ち込まれ殺されることとなった。
【サーヴァントとしての願い】
元の世界に蘇生する
【マスターへの態度】
まったく使えないザコと認識。
できるだけ早く、他のマスターに乗り換えたい。
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【マスター】
ぷにる@ぷにるはかわいいスライム
【性別】
無性
【マスターとしての願い】
「かわいい」の頂点に立ちたい。
【能力・技能】
体を自在に変形させられる。
【人物背景】
少年・河合井コタローが作ったスライムに命が宿った存在。
「かわいい」存在であることをアイデンティティーとする。
当初はペンギンの姿だったが、よりかわいくなるために現在は主に少女の姿をとっている。
【方針】
聖杯はほしい。でも戦うのはいや。
【サーヴァントへの態度】
何かと反抗的な、困ったサーヴァント。
ちゃんと言うことを聞いてほしい。
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◆
3月◯◯日未明。
冥奥領域内の再現東京都内のひとつ羽村市が、突如として消滅した。
マスター権を持つ葬者の脱落に従って、冥界から保護する領域は縮小される。
生き残った葬者が段々と見慣れていったルールと、その時の光景は違っていた。
まず最初に、空から複数の眩い光が到来。
流星のようなそれは都市の1地区のみの範囲に精確に墜落し、区画ごと跡形もなく消滅させた。
市内に潜伏していたと思われるマスターも同じく従えるサーヴァント共々蒸発したと思われ、領域の冥界化が侵攻したのはあくまでその事後だ。
別の視点では冥界の砂地の彼方にそびえ立つ巨塔が確認されており、因果関係が予想されている。
現在の羽村市があった場所は、奈落の穴としか言いようのない陥没地帯に姿を変えている。
世の新陳代謝によって溜まる垢の行き着く廃棄孔。
冥界と呼ばれるに相応しい黒洞。
マスターを狙い撃ちした攻撃が過剰に過ぎた為、土地を巻き込んでしまったのか。
何かの狙いで土地を吹き飛ばして、たまたまそこにいたマスターが巻き込まれてしまったのか。
答えを知る者はいない。誰も。
既に冥界に呑まれた領域を好んで調べようとする者もいない。
宇宙からの侵略者が襲来して来たかのようだと言う、当時の光景を目撃していたマスターは。
破壊を招いた空に浮かぶ小さな人影に、全身の皮を引き剥がされる程の悪寒と恐怖を覚えていた。
顔は視ていない。視力の強化は取り止めたから。
もし少しでも鮮明に姿を目にしてしまえば、本当に全身の肉が吹き飛んでしまうのではないかと思ったから。
けれど目撃者は想像してしまった。見えないものに妄想力を掻き立てられ、自ら恐怖を助長させてしまった。
アレはきっと、何も感じていない。
障害を軽々排除した優越も、敵を滅ぼした喜びも。
生命が消える行為に、何の意味を感じていない。
アレは英霊というより一種の兵器。
引き金を押すだけで設定したポイントを消滅させる無私の装置。
怪物は殺戮に享楽し、悪魔は人の堕落する過程の様を楽しむが、アレがするのはただ一瞬の墜落。
生命の蔓延る世界にいてはいけない、否定の化け物だ。
勝てない。
宝具を使おうが徒党を組もうが、アレはどうやっても倒せない。
倒せない理屈、伝承による防御を纏ってるのではない。
圧倒的な、挑戦の成否を計るのが馬鹿らしくなるぐらいの、単純な力の塊。
計算は不能(エラー)。勝利という答えに届く道筋がなく、純粋真正に力の差が開きすぎている。
出来る事はひとつだけだ。
どうか、あの光が頭上に落ちてこないでくれと。
毎夜毎に手を握って祈りを捧げるしかない。
冥界の神ではなく、空にかかる星にでもない、あの忌まわしい兵器を所有する誰かに。
3日後。
羽村市の隣に位置する福生市が消滅した。
それと同時に、冥奥領域がマスター1人分だけ縮小したのを全参加者が確認する。
消えた葬者が何者だったのか、知る者はもう、誰もいなかった。
◆
-
闇が在る。
そこは居場所が杳と知れない、広大な空間だ。
屋内か。地下か。流れ込む冷えた風は夜気によるものではなく外の熱が遮断されたもの。
天然の洞窟の静謐さもあれば、人工的に地盤をくり抜いた無機質さもある。
絶えず聞こえる鼓動、胎動、心音……何かの産声を想起させるのは、巨大な機械類が駆動している証。
電子の文字盤からの表示以外に照明はないが、ただ暗いのではない。
空間に質量を感じさせる圧。この世の闇を凝固させた、底を割ってどこまでも沈んでいく、どす黒く染まった塊。
音でもなく光でもない、物質界には存在しない概念、意思が形を持って闇となっているのだ。
物理法則より魂が優先される冥界故の仕様か。
理由は定かでなくとも、闇の濃密な気配は頑としてそこにある。
光の乏しい場所に、液晶モニターの画像がにわかに映し出される。
上部から幾重ものケーブルで繋がれた大型のモニターには、奈落に続く孔が見える。
都市一区画ごと陥没した破壊痕。
地獄に未練がましく蠢くばかりの罪人に施された、天からの鉄槌。
慈悲の見えない浄化の惨状が画面全体を埋め尽くしている。
「クーックックックック……」
闇が嗤う。
喉が酷く嗄れた、臨終する間際にまで老いた男の声だ。
今にも途絶えそうな枯れ具合とは裏腹に、声にはまだ静かに終わりを待つ潔さとは無縁の、ギラついた生気が漲っている。
許せない。認めない。消えてなるものか。
執着という燃料を注ぎ、風前の灯火にありながら決して消えない、いつまでも残り続ける煌きで。
燃え尽きる寸前の蝋燭が、激しく炎を散らす流星のように盛っている。
視界が確保できる限界の両目を炯々と。
丹念に折り畳まれて出来た皺だらけの顔で口の両端を釣り上げて、老人は嗤っている。
あの場所で起きた消滅を。そこに居合わせた葬者の恐怖と絶望の断末魔を想像して悦に入る。
他者の苦しみが、自己の喜びが、朽ちゆくこの身を永らえさせる不死の妙薬だというように。
「戻ったよ、マスター」
闇の中で佇む老人の背に、年若い青年が声と共に姿を現した。
涼やかな顔に盛り上がった白髪。シャツとジーンズのラフな取り合わせは、いかにも先進都市の繁栄を謳歌する現代人に見える。
黒と反発する白の印象は、暗窟よりも繁華街の街路をそぞろ歩いてる様が似合っている。
だがその白は他の一切を塗り潰す拒絶の白。
どんな色彩にも馴染まず、滲みも濁りもしない。一方的な脱色・除色があるのみ。
空も虚も描かれていない、これからも描かれない、透明な白紙。
全てを飲み込む黒か。
全てを消し去る白か。
色の違いがあるのみで、この場の闇と青年はまったく同一の意味を抱えていた。
-
-
「戻ったか、アーチャー。首尾はどうかね?」
「いま君に見せた通りだよ。補足したサーヴァントは消した。一緒にいたマスター諸共にね」
「そうかそうか、抵抗する術もなく、マヌケに口を開けたまま死んだか。クーックックックッ……!」
従者の戦果を示すモニターを眺めて再び笑い出す。
葬者を滅ぼした報告をする度に、この老人は声を上げて歓喜の笑い声を上げる。
人が死に,消えていく様が、楽しくて仕方がないといった様だ。
そんなマスターとは対象的に、アーチャーのクラスのサーヴァントの表情は変わらない。
老人の狂態を憐れむでもなく、怒りを向けているでもない。
ただ、どうしてそんなに喜んでいるのかと、不思議なものを見る目をしていた。
「マスター。ずっと疑問だったんだけど」
「ん……?」
「どうして、僕の砲撃に日を置いているんだい?」
召喚された初日から下された命令。
この日まで律儀に守っていたその内容に、幾度か感じていた疑念を、堪えきれずに口に出した。
「君の心の力は凄まじい。前のパートナーほどの出力じゃないが、持続力がとても高い。そんな体でよくもここまで長持ちするものだよ。
僕の「右手」も、一日おきといわず毎日使っても余るぐらいだ。その気なら、一日でここの会場全てに撃ち込む事だってできる。
君はどうやら人を滅ぼす行為に喜びを感じるようだ。そして聖杯だって望んでいる。
なのにすぐに決着をつけて聖杯を得ようとせず、何日も時間をかけて他の葬者を追い立てるような真似をしている。何故なんだい?」
アーチャーの名の通り、青年は射出と砲撃に高い適正を持っている。
本来の射程距離で5000km。サーヴァントの制約で範囲を狭まれていても、冥奥領域を隅まで探知して、ピンポイントで狙撃するだけの能力を有している。
威力の程も既に実証済み。魔力の当ても、自分とマスターの特殊な事情が合わさって、ほぼ無尽蔵に引き出せる。
客観的な情報の総括として、断言していい。
自身の能力を以てすれば、今すぐ街全体を砲撃で埋め尽くして、全ての葬者を一斉に滅ぼす事が出来る。
仮に不意打ちの砲撃を凌いで生き残ってみせた相手がいても、仕留めた相手に応じて領域は一気に狭まるのだから、早期に戦争が終結に向かうのに違いはない。
砲戦のみがアーチャーの得手ではない。顔を見合わせての近接戦でも遅れを取りはしないだけの性能が自分には備わっている。
現状、葬者達が仮初の生活に溶け込んでいられるのは、マスターの気まぐれにも思える判断によって保証されているに過ぎないのだ。
それが青年には解せない。
マスターは聖杯を取るべく戦うと宣言しており、敵対者の排除にも積極的な精神の持ち主だ。
にも関わらずこうして相手に余裕を持たせ、僅かなりとも生き延びる猶予を与えている。
そこの意図がどうしても、読めない。
「……フン! アーチャーよ……お前も所詮は人形よ。人間サマのこの高尚な感情など理解できんのも無理はない……!」
鼻を鳴らして、心底からの侮蔑を遠慮なくぶつけられても、それに苛立つ心は持ち合わせてはいない。
そういうものなのかと、簡潔に納得するのみだ。
-
「何故こんな事をするのかだと? 人間共を無為に生き永らえさせて勝てる戦いを見過ごすのかだと?
そんなもの決まっておるだろう───楽しいからだよ」
心からの狂気を、正気のままに口にする。
あるいはとうに、正気など吹き飛んでいるのかもしれない。
こんなにも、壊れた笑顔でいられるのだから。
「ワシはな、人間をただ滅ぼすだけでは、なーんにも楽しくないのだ。
確かにお前に命じれば、ほとんどの葬者共は死に絶えることだろう。
だがそれはつまらん。一瞬の死の苦しみなど、奴らには生温い。
もっと。もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと!
死んでもなお浅ましく這い回るブタ共には、もっと無様に踊ってもらわればならん!」
それだけ老人は闇を纏っていた。
光の無い世界というものを、体現していた。
「一瞬で消え去る大地。それを可能とする存在。
奴らはまず驚愕するだろう。警戒するだろう。どんな敵かと想像するだろう。
しかし同じ事が何度も起きて、ふと気づくのだ。自分達は弄ばれてると。
ワシの指ひとつでいつでも消える命。生きるか死ぬかの決定権をワシに握られてるという事実を、知り、奴らは震え上がる。
次はいつ落ちてくるのか。どの大地が消し飛ばされるのか。
そうして顔も知れぬワシに対して、ひれ伏して、許しを請い出す……! クククククーーーーーッッ!!」
戦略ではなかった。
考えているのは己の快楽をどれだけ引き出せるか。
優先するのはどうすれば他者に最大限の苦しみをこの戦争で与えられるか。
老人の焦点はそこにのみ当てられていた。勝利の計略など、編んですらいなかった。
徒労を苦にせず、無意味を忘却して妄想に没頭する。
それこそが明白にして揺るがぬ意味。
即ち娯楽。
敵に猶予を与える理由が遊興でしかないと、そう言っている。
「人間?」
「そうとも。ワシこそが人間だ。 これこそが支配者の器だ!
他者を思いのままに操る快楽。化け物や人形にはない、人間サマの頭脳がなければ味わえんよ……!」
「そんな体で?」
本当に。
彼は思ったままの言葉を口にしてみただけだ。
その老人の姿は、彼が見たどの人間とも違う、むしろ彼の知る魔物という存在にしか思えないものだったから。
頭部をまるごと覆う、円錐状の容器の蓋。
中は橙色の液体で満たされ、気泡が浮く中で老人の頭髪と顎髭が揺蕩っている。
老体を包んだ外殻を支える両脚は無く、浮遊した姿勢はまるで童話に登場する魔法使いじみている。
容態でいうならば、生命維持装置を限界まで付けた危篤患者も同然。
もはや生かす為に機械があるのか、機械を動かす為に人を繋いでいるのか分からなくなる。
狂気の顕れ。
正気の沙汰の外。
在り示す姿こそは罪の証。
与えられた罰の痛みに屈し歪み捻れて壊れた、ひとりの科学者の末路だった。
-
「……そうとも。ワシは人間だ。
こんな機械の体でもな、ワシはまだ人間なのだよ……!」
皺と欲望でグチャグチャになっていた顔が、吹き出た憎悪で輪郭すら崩れ出す。
外も中も、欠片も人間でなくなった者は、己こそが人間だと強く主張した。
「この体はな……ワシを否定し、戦争の全ての罪を押し付けて宇宙に放逐した人間共の仕業よ……。
どんなに年老いても、傷ついても、機械の体で再生する、永遠に生き続ける呪いよ……。
光も、自然も、何も無い暗黒の世界で……死ぬ事も許されない責め苦を負わされたのだ……。
機械人形の分際で人間に反逆したレプリロイド共との戦争を終わらせた、偉大なるこのワシを!」
「…………」
恨み節を聞かせるマスターの心中をアーチャーは察せない。
戦争終結の立役者を豪語しながら、人間の6割と機械の9割を死滅させた最悪の幕を指揮した、真実極刑級の罪人だとしても。
100年の怠惰が、追放側の政府からも脅威性を忘れ去り、この男の独裁と恐怖政治の台頭を招いた過去を知ろうとも。
彼が思うものはない。老人の言う通り己は人形だ。
破綻した理屈も政府の腐敗にも関心はない。
魔界に住まう魔物を滅ぼす使命を果たす為の自動装置だ。
「ワシはな、アーチャー。聖杯は欲しいといったが、叶える願いなんてないのだよ。
ワシの願いは、とうに叶っている。この戦争こそがワシの望みよ。
死んだ後でも殺し合う人間と人形……最高の破滅のショーだと思わんか!
そうとも、たかが死んだ程度で苦しみから解放されると思うな! ワシが死んだだけでワシから逃げられると思うな!
ワシの苦しみはこんなものではない! こんな!!
死後も魂を磨り潰す戦争こそ、お前たちが辿る地獄に相応しい! お前たちに正しい世界をワシ自ら築いてくれる!!」
誰に弾劾されようと、世界に顔を背けられようとも。
朽ちた肉を乗せた棺桶に取り憑いた意志は、人間を自称し続ける。
その絶対的エゴ。人を人たらしめるイドの究極。恩讐なき怒りと憎しみの廃棄孔。
ごく一面に限って、男は確かに人間を代表する、「悪」の性の権化だった。
「アーチャー! いやクリア・ノート!!
これからもお前には働いてもらうぞ。ワシの手足、ワシの欲望の道具としてな。
そうすればお前が果たせなかった真の滅亡、終わらぬ悪夢を見せてやる!! このワシ……ドクター・バイルがなァ!!」
堕ちた科学者は呪詛する。
遥かなる未来、人の手で造り出した心持つ機械を隣人とした時代に生きた男を呪詛する。
全ての人類に自分と同じ苦しみの歴史を歩かせるに留まらず、死後の安息すら奪おうと冥界に君臨する。
汝は人間、罪ありき。
罪状は生誕と繁栄。我を呪いし者共を産み落とした罪深き祖先。
故に地獄で責め苦を負うべし。死の訪れない牢獄で共に叫喚しようぞ。
「クク……クヒャーハッハッハッハッハッハッハ!!!」
狂笑に震える男の背後で。
神々の黄昏の残骸は呼応する。
刀身の欠けた剣のオブジェ、機動要塞のコアの機能が蠢動を早める。
やがて再び世界を紅蓮に染め上げる時を待ちながら。
暗い地の底で、終末の運命の歯車は、着実に、確実に廻り出していた。
◆
-
クリア・ノートは、狂気という言葉とは無縁の身だった。
魔物を消し、魔界を滅ぼすのは、そうする事が機能だから。
世界を否定するだけの憎しみがあったわけではない。世界を支配出来る事への優越があったからでもない。
1000年に1度行われる魔界の王を決める戦いに参加したのも、魔界全ての魔物の魂の生殺与奪を握れる『王の特権』を使う為。
生まれた時から備わった本能であり生態として、心臓と脳に『滅ぼす』意志が根付いている。いわば呼吸と同じだ。
息をする行為に、右足を前に出せば左足が次に前に出す行程に、疑問に思ってやめる生き物はいない。
いるとすればそれは体の損傷であり、脳の異常。修正されるべきバグだ。
傷は苦痛を生み精神を歪ませて本来のパフォーマンスを損なう。一刻も早い治療の必要がある。
クリアにはそれがない。
自分の周囲と違う異質さに疑問を抱いた事はない。いや、異質だという自覚もない。
命が栄える意味を理解出来ない、愛を知るだけの器がない、それが悲しいとも思わない。
どこまでも健常(クリア)であり、透明(クリア)。
自分の本能を理解し、その通りに生き、それが叶う能力も獲得している。
理想との乖離、現実との摩擦が狂気を呼ぶのだから、正しく存在する者に狂気が訪れる道理はない。
この老人は、狂っているのだろう。
ネオ・アルカディア───人間と機械生命体レプリロイドとの戦争が明けた先に築いた人間の理想郷。
後にイレギュラー戦争、妖精戦争と名付けられる戦争の末期。
隷属したレプリロイド同士を破壊させ合う戦線を強行し、破滅的な被害をもたらしたバイルは、理想が否定されたばかりか罪人として囚われ、100年の時を生かされた。
人が1日と生きていけない環境を、人でない体にされて生きた悠久の時間は、老体の精神を異次元の魔物に変えるには十分すぎた。
もはやバイルの中には憎しみしかない。人間性という孤独の宇宙空間での生存に一切寄与しない要素は一番最初に切り捨てた。
最初のタガが外れれば、あとはもう雪崩式に全部が壊れる。
善悪を測る理性。虚実を分ける正気。倫理、道徳、常識正義情愛、要らない荷物(ウェイト)は尽く分離(パージ)させる。
そうして出来上がったのが、こそげ落ちた体を、怒りと憎悪で肉の補填にした『継ぎ接ぎの怪物(フランケンシュタイン)』。
自分と共に永遠に苦しみの歴史の中を歩かせる無理心中を図った、生きた災厄へ変生した魔人だ。
-
かつて、人間界での魔界の王を決める戦いで。
人間の知識を知ったクリアは、自身を核兵器になぞらえて生命の自滅の可能性を語ったが。
まさか人として生まれたものが、こうも自分に近い存在に成れるとは思ってもみなかった。
生き物とはここまで、同じ種族を滅ぼす為に力を尽くせるものなのかと。
あんな兵器を無数に造ってしまうぐらいに。
ラグナロクという、空から敵を砲撃する要塞のコア。
自分の肉身として吸収していた為に、バイルが冥界に持ち込んでしまった異物。
動力炉だけで肝心の本体は切り離されているが、まだ何かしらの使い道は見つかるだろうとバイルは踏んでいる。
それに動くコアのエネルギーを概算しただけでも、ある程度の推量は出来る。
星を飛び越えた空からの、回避や防御の余地のない殺戮。
もし全てのパーツが揃っていれば、これは完全体のクリアと比しても見劣りしない破壊を起こす兵器だ。
それもクリアのような、単一の存在によってでない、集団の総意の下に製造され量産されていたという。
クリアの本能、存在意義の役割を、誰しもが持つ欲望が肥大化して代わる代わる継いでいく。
人間が独自に、新たなクリアを生み出している。
理不尽や不条理では説明がつかない、そこには一種のシステムめいた構造を感じさせる。
クリアという機構も、その一部に組み込まれている一部でしかないのだろうか。狂気すらもが、クリアを形作る美しいアートなのか?
その答えは思考や問答ではなく───この冥界にこそ、ある。
黒と白の意志。
異なる思惑で滅亡への道が交わった同士。
絡み合う二極の螺旋が導く結末は、果たしてどんな景色なのか。
バイルの隣にいれば、きっと目にできる。答えを知れる。
「それはそれで……面白そうだね────」
芽生えた期待を小さな愉しみにして、クリアは主の笑い声にもう暫く耳を傾けた。
【CLASS】
アーチャー
【真名】
クリア・ノート@金色のガッシュ!!
【ステータス】
筋力B+ 耐久B 敏捷A 魔力A+ 幸運- 宝具EX
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:C
単独行動:EX
マスター不在でも行動できる。
ただし呪文や宝具の発動においては、下記スキルによるマスターからのバックアップを必要とする。
【保有スキル】
魔本:EX
クリア達魔物の子が、魔界の王を決める戦いに参加する時に支給される魔導書。
魔物が使用する呪文の源であり、本の持ち主となるパートナーの「心の力」を使用して呪文を発動する。
魔物単体では呪文を使えない為、戦闘ではパートナーとの連携が不可欠。
クリアの術は「消滅」。物質の消滅と、術の力の消滅の二種類の呪文を使用する。
サーヴァントとしての召喚においては「マスターの精神力を魔力に変換する炉心」「マスターの精神力を消費して呪文を発動する魔導書」と設定されている。
魔本は頭部と心臓に続く第三の霊核であり、この本が僅かでも傷ついたらそこから発火し、完全に焼失した時クリアもまた消滅する。
破滅の子:EX
全ての魔物を滅ぼす為に生まれた存在。魔界が辿るひとつの結末の抑止力。
クリアにとって魔物を滅ぼす行為は本能であり、その内に愛という概念が入り込む余地はない。
精神干渉の無効化(干渉するだけの「心」がない、ともいう)、あらゆる攻撃にプラス判定の効果がつく。
気配感知:A+
最高クラスの気配探知。
元は最大5000キロ以上の索敵範囲を誇ったが、サーヴァントの身では流石にそこまでは再現されてない。
それでも都市一個内にある魔力の気配を探り当てる精度。冥界でそれ以上の索敵は必要ない。
力の解放:C→B→A
クリア・ノートとは彼が所有する最大呪文を発動する為の「器」でもある。
霊基再臨の度に力は解放され能力が向上するが、同時にクリア自身も力に呑まれ、人格を喪失していく。
再臨には令呪等、何らかの魔力バックアップが必要。
絶対防壁:B
自身の霊基を削る事で防御球を作り出す。
物理に対してはAランク相当、魔力を持った攻撃ではEX級の防御力を発揮する。
クリアでもこの防壁の生成は困難で、赤子を包める程度の大きさが限界。主に魔本の防護に使われる。
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【宝具】
『森羅消滅す光輝の天神(シン・クリア・セウノウス)』
ランク:A++ 種別:対物質・魔術宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:10人
しんらしょうめつすこうきのてんしん。
クリアの最大呪文。巨大な精霊の形をした力の化身。
ラディス系とスプリフォ系、クリアの術の特性を複合されており、物理魔術両面であらゆるものを消滅させる。
『千空翔滅す大いなる翼(シン・クリア・セウノウス・バードレルゴ)』
ランク:B++ 種別:対軍宝具 レンジ:0〜9999(飛行距離) 最大捕捉:30人
せんりしょうめつすおおいなるつばさ。
骸骨状の巨鳥を召喚する、自律思考を持った呪文。
速度は初速で音速を突破し突撃する他、全身が消滅波で出来ており、バードレルゴ自身が徐々に消滅していきながら触れた敵を消滅させる。
体が小さくなる毎に速度を上げていき、体の一部も分離して射出して対象を追い詰める、いわば特攻兵器。
『万里焼滅す灰塵の重砲(シン・クリア・セウノウス・ザレフェドーラ)』
ランク:A+ 種別:対都市宝具 レンジ:10〜999(射程距離) 最大捕捉:500人
ばんりしょうめつすかいじんのじゅうほう。
複数砲門を備えた巨大な砲台と、それに乗り込んだ砲手がセットの呪文。
バードレルゴ同様意思を持ち、砲手の合図で消滅弾を発射する。
クリアの気配探知・マスターの視界とリンクする事で、対象への超遠距離・超精密砲撃を連射する。
砲台を台座から切り離し一発切りの爆弾にして射出も可能の他、台座自体も弾にして自ら飛翔する。
バードレルゴ及びザレフェドーラは、シン・クリア・セウノウスより分かれた力の一部である。
この二種の宝具を使用できる状況での『森羅消滅す光輝の天神』は使用できず、破壊された力はクリアに還元される。
『神羅生滅す劫力の魔神(シン・クリア・セウノウス)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:100人
しんらしょうめつすごうりょくのまじん。
クリア・ノートという器に眠る、消滅の力の源。魔界を滅ぼす意志そのもの。
『森羅消滅す光輝の天神』が破られ、クリアが戦闘不能になるだけのダメージが受けたのを条件に発動。
セウノウスとは真逆の、禍々しい魔神像へと変貌する。
基本出力が大きく上昇し、バードレルゴ、ザレフェドーラの性質も受け継いでおり、全身からの消滅弾、体を分離しての消滅攻撃を発射する。
この時点でクリアの人格は飲み込まれ核の結晶を守る外殻に成り果て、マスターすら取り込んで心の力の動力炉にして制御不能になる。
サーヴァントと宝具の関係が逆転する、完全自律式宝具。
【weapon】
魔本による消滅の呪文。
素手での戦闘でも最上位の魔物と真っ向から勝負できる。
【人物背景】
魔界を滅ぼす本能を持って生まれた魔物の子。
愛なく憎しみなく理由なく全てを破壊する在り方は、ボタンひとつで世界を脅威に曝す兵器に近い。
【サーヴァントとしての願い】
使命に従い、魔界を滅ぼす。
【マスターへの態度】
赤子と老人、無垢と邪心、本能と憎悪と、前のパートナーとは真逆の在り方。
心の力の出力は劣るが、持続力が凄まじい。
【マスター】
ドクター・バイル@ロックマンゼロ
【マスターとしての願い】
人間に死後の安息すら許さない、冥府に相応しい地獄を作る。
【能力・技能】
レプリロイドやサイバーエルフといった機械・電子化が進んだ世界でも優秀な科学者。
特に一度破壊されたレプリロイドの再生、自分に恭順するよう思考を改造するプログラミングに長ける。
イレギュラー戦争及び妖精戦争の戦争犯罪者として、生身の体を再生能力を持った機械に押し込まれて無理やりに「生かされて」いる。
衛星砲の直撃を受けても死ぬ事のない不死性だが、資源のない宇宙船に100年以上幽閉されて来たその精神は、人類とレプリロイドへの憎悪に染まりきっている。
【人物背景】
滅びを望む者。
どれだけ機械に改造され、長い年月を生かされても、己は人間だと誇示する、もはや欠片も人間ではない怪物。
死亡時には宇宙衛星砲台、ラグナロクのコア・レーヴァティンを取り込んだ状態だが、現在はコアは切り離された上でバイルの手元にある。
コアと合体して戦闘形態になる機能は損壊してるが、動力炉・電算システムの機能は生きている。
後の世界でライブメタルと呼ばれる新規の動力、その雛形である。
【方針】
クリアの力をすぐには解放しない。
時間をかけて追い詰め、全ての葬者を絶望の中で死ぬまで苦しめていく。
【サーヴァントへの態度】
生粋のイレギュラー。オメガにも等しい最凶の兵器。
人格を弄れないのは惜しいが、使命には従順なのでひとまずは満足している。
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投下を終了します
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投下します
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キメラが斬り潰される
デーモンが吹き裂ける
ソウルイーターが開きになる
魔術師の腕が外される
鴉天狗の背骨が吹き飛ぶ
黒武者の心臓が止まる
怨嗟と恐慌の叫びが街中に響き、更なる獣が飛び出し、漁夫の利を狙うマスターとサーヴァントが騒動の中心にいる2人へ襲いかかる
敵の雄叫びは、敵の悲鳴は、敵の死ぬ音は、決して聞こえることはない。その男の世界に音はない。
格闘技専用のパンツを履き、フィンガーグローブをつけるその男の名はマーシオ"ジェット"内藤。龍の血を引く者だ。
ジェットの動きは電光石火。令呪があるのを見分け、敵マスターの腹にパンチを噛ます。
「ぐげぇっ」
簡単に肋骨をへし折り、動きを止めると素早く腰側からバックへ回り、右腕ひじき逆十字!
「うわあああああああ」
複雑骨折でのたうち回るマスターの悲鳴を無表情に見下し、首を捻った。
(たとえあなたがどんな尊い願いをもっていたとしても気にもならない)
(ただ一方的に破壊するだけ…)
自分のサーヴァントをジェットは見る。
ジェットのサーヴァントは非常に手慣れた様子で獣をサーヴァントを狩っていく。
そのサーヴァントが持つ剣は銀の直剣?幅の広い大剣?否、その両方である。大剣の仕掛けを解除すると、幅広い刃は鞘となり、銀の直剣が飛び出す。銀の直剣を鞘に納め、両手で持つと大剣に変わる。
仕掛けを扱えるのは正しく人の証。そのサーヴァントの名は『聖剣のルドウイーク』。医療教会最初の狩人として獣を狩る者である。
名状し難い獣がルドウイークの前に相対した。サーヴァントなのだろう、唸る獣の目には確かに理性がある。
獣は右手のような機構を持ち上げ、ルドウイークへ振るう。その動きをルドウイークは簡単に読んでいた。その左手には奇怪な鉄砲、発砲することで無数の弾が獣を貫く!
呻き声をあげ仰反る獣にルドウイークは右手を突き出し、腹を抉る。獣から飛び出した血はいつのまにか消えて、そのまま獣は消えた。
「一区切りついたか………」
ルドウイークはジェットを見る。息を荒げていない。なるほど相当実力があるのがわかる。
「この後はどうする?」
ルドウイークの疑問にジェスチャーで答えるジェット。少し歩こうと彼は伝えた。
「では行こうか………」
龍の子と狩人は街の中を歩き出す。そのうちに秘めた血はケダモノよりも濃い。彼らの先には何が待っているだろうか
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【CLASS】セイバー
【真名】聖剣のルドウイーク@Bloodborne
【ステータス】
筋力A+耐久C敏捷A魔力A幸運E宝具A++
【属性】秩序・中庸
【クラススキル】
対魔力B
騎乗E
【保有スキル】
血の医療A
ヤーナム独自の医療方法で特殊な血液を輸血する治療法。この医療措置を受けた者は、輸血により生きる力と生への感覚を得る。
血を取り込むことで傷を癒す。
獣狩りEX
獣を狩るための技術。ステップ移動、銃によるパリィ、仕掛け武器の扱いなどの総合技術を指す。また獣に対して特攻を持つ。ルドウイークは医療教会最初の狩人として英雄だった。
カレル文字「導き」B
かつて月光の聖剣と共に、狩人ルドウイークが見出したカレル。目を閉じた暗闇に、あるいは虚空に、彼は光の小人を見出し、いたずらに瞬き舞うそれに「導き」の意味を与えたという。故に、ルドウイークは心折れぬ。ただ狩りの中でならば。
精神汚染にある程度の耐性を持ち、リゲイン量を増やす。
【宝具】
『月光の聖剣(ムーンライトソード)』
ランク:A++ 種別:対獣宝具 レンジ:999 最大捕捉:1人
かつてルドウイークが見出した神秘の剣。青い月の光を纏い、そして宇宙の深淵を宿すとき
大刃は暗い光波を迸らせる。「聖剣のルドウイーク」を象徴する武器であるがその大刃を実際に目にした者は少ない。それは彼だけの、密かに秘する導きだったのだ。
普段は銀の直剣に見えるが神秘を纏うことで大剣へと変貌する。魔力と似ているようで違う神秘を飛ばすこともできる。
【weapon】
ルドウイークの聖剣
鞘と合体することで大剣に変形する直剣の仕掛け武器
ルドウイークの長銃
散弾銃。入っている弾は水銀でできており、サーヴァントにも通用する。
【人物背景】
獣の病蔓延る古都ヤーナムにおいて英雄といわれた男。しかして欺瞞により獣に落ちた男。
【サーヴァントとしての願い】
暗い夜に月光を見たい
【マスターへの態度】
耳が聞こえないので正直ちゃんとコミュニケーショを取れるか心配なところがある
【マスター】マーシオ"ジェット"内藤
【マスターとしての願い】
キー坊ともう一度戦う
【能力・技能】
人類最上位の格闘技能
目にも映らない速さで拳を放てる
宮沢鬼龍のDNA
【人物背景】
聾唖の日系ブラジル人。日常的に死人が出る貧民街で暮らしていた為か命を奪われることのない格闘技は甘い世界だと考える冷めたところがあるが、格闘技を否定して見下しているわけではなく、純粋に勝負を楽しんでいる様子も見られる。
鬼龍を強く慕っている。
【方針】
当てもなく敵と戦闘を行う。
【サーヴァントへの態度】
頼もしい味方。
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投下終了します
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投下します。
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スクランブル交差点
青信号が点滅を始め、存在しない通行人を急かす中、相合わせる人影が3人ある。1人と2人組の内訳で2人組の方は鬼を見るような表情をしている。1人の方は飄々と笑っていた。
お互い西部劇から抜け出してきたならずものの服装であり、その腰の銃に今か今かと手をかける。
青信号が消え、その上の赤信号が灯った時、両者は銃を引き抜き、トリガーを引く。
BAN!
BAN!
BAN!
BAN!
4発の発砲音が街中に響く。倒れたのは2人組の方だ。二人組の腹には焼けこげた風穴が空き、後ろのビル群が見えていた。
2人組を撃ち抜いた男の手にある銃は照準器のついた灰色のワルサーP38。西部劇の男がこの銃を使うのは非常に違和感があるだろう。
ならずものの男は自分の持つワルサーに話しかけた。
「すごいねマスター。大口叩くだけはある」
「大口とはなんだバカモノ!軽口叩くな!」
ワルサーから威厳ある声が響く。パッとならずものの男の手から離れるとワルサーはどんどん大きくなり変形した。
銀のロボットである。その右手にはレーザー砲もあり、その胸には紫色の顔のエンブレムがあった。破壊大帝メガトロン。悪のロボット軍団デストロンのリーダーである!
「お前はサーヴァント!ワシはそのマスター!もう少し敬うべきだと思うが?!」
「あははは!アウトローに主従を求めるのかい?」
「ぬぅ………チッ!」
メガトロンはスコスコと引き下がる。言い返す言葉を思いつかなかったのだ!さらに、ここで関係を拗らせると自らの勝利が遠のくだろう。それだけは避けなればならない。
(ぐぬーっ!この腕のいい人間如きが余を軽んじよって!)
内心の不満を隠し、自らのサーヴァントに命じる。
「ではアーチャーよ!この調子で敵を潰すぞ!」
「了解マスター」
アーチャーと呼ばれたならずものの男はメガトロンの前を歩き始める。
(ロボットが僕のマスターとはね。人生どうなるか分かったもんじゃないな)
彼の名はビリー・ザ・キッド。本名ウィリアム・ヘンリー・マッカーティ・ジュニア。
アメリカ西部開拓時代の代表的なアウトローであり、腕利のガンマンだ。
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【CLASS】アーチャー
【真名】ビリー・ザ・キッド@Fate/Grand Order
【ステータス】
筋力D耐久E敏捷B魔力E幸運B宝具C
【属性】混沌・中庸
【クラススキル】
単独行動:A
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。Aランクは魔力供給なしで1週間現界可能とされる。
騎乗:C+
乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。C+ランクでは暴れ馬辺りまでなら難なく乗りこなすことが出来る。騎馬のみ人並み以上に乗りこなせる。
対魔力:-
最新の英霊故に、魔力に対する抵抗力は皆無。
【保有スキル】
射撃:A++
銃器による早撃ち、曲撃ちを含めた射撃全般の技術。A++となると、百年に一人の天才。
クイックドロウ:A+
射撃の中で早撃ちに特化した技術。相手が抜いたのを見てから抜いても充分間に合ってお釣りがくる程度の腕前。
心眼(偽):C
直感・第六感による危険回避。虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。
【宝具】
『壊音の霹靂(サンダラー)』
ランク:C+++ 種別:対人宝具 レンジ:1〜100 最大捕捉:1人
サンダラー。
ビリー・ザ・キッドが愛用していたと言われるコルトM1877ダブルアクションリボルバー(通称「サンダラー」)によるカウンターの三連射撃。
彼に纏わる逸話が宝具化したもの。
正確に言うと拳銃が宝具という訳ではなく、「この拳銃を手にしたビリー・ザ・キッドの射撃」全体を包括して宝具と見なされており、固有のスキルに近い。
この宝具のもっとも悪辣な点は「技術」という大部分に宝具の概念が割かれていることによる、魔力消費の少なさである。
具体的にはEランク宝具を使用するのと同程度の消費しかない。
【weapon】
コルトM1877ダブルアクションリボルバー(通称「サンダラー」)
【人物背景】
アメリカにおける伝説的なアウトロー。21歳で21人を殺したと言われる、少年悪漢王。彼の死から十年後、西部開拓時代は実質的な終わりを迎えることになる。
【サーヴァントとしての願い】
正直興味ない。面白そうな予感がしたのできた。
【マスターへの態度】
見下しているのは分かっているのでその分口を悪くしてやる。
【マスター】
破壊大帝メガトロン
【マスターとしての願い】
無限のエネルギーを手に入れて世界を支配する。
【能力・技能】
ワルサー型のレーザー砲へと変形する。
悪辣な作戦を思いつく頭脳。
単純な戦闘能力の高さ
ブラックホールを作り出し反物質を引き出す融合カノン砲
【人物背景】
知力、体力、狡猾さを駆使し、荒くれ者たちのトランスフォーマー「デストロン」を一つにまとめあげ、宇宙支配の野望を成就すべく精力的に活動を行っている悪のリーダー。典型的なワンマン体制である。サイバトロンや敵対者を倒す為ならどのような手も使うが何度裏切られても部下を許す度量もある。
【方針】
様子を見て敵の隙をつき倒す。自らもトランスフォーム(変形)してアーチャーの武器になる。
【サーヴァントへの態度】
銃の腕は評価するが正直言うこと聞かないのでムカついている。でも勝ち残るには協力しなければならないので文句は言わない。
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投下終了します
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投下します
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もう二度と、迷わない
ASCA「CHAIN」
◆
東京区内、銀行。
夕方に差し迫ったとき、男が電話を取りながら外に出てくる。
「OK、契約、OK」
独特の喋り方の男の手の甲には令呪。
そう、彼は葬者の一人、今やっている銀行員だって、本職ではない。
本来の本職は――言えたものではないが。
「…!了解しました、アーチャー」
急ぎ足で歩き始める男。
中肉小柄、平凡を絵に書いたような男。
しかしその正体は賭け事の審判者、賭郎倶楽部が立会人が一人。
拾壱號立会人――銅寺晴明。
◆
レーザー銃の銃声が、夕暮れの倉庫一体に広がる。
「うわぁぁぁぁ!」
「や、やめぇ」
勝手に停泊していたであろう海賊船が、銃撃によって燃え尽きる。
逃げ出していく使い魔達も銃撃により、体に穴を開けて消滅していく。
その時である、男の頬を鉄球が掠める。
「…親玉か、ずいぶんまたせてくれたな」
眼の前に現れたのは海賊らしい男、おそらくはライダークラスのサーヴァントか。
そのまま男は銃撃を続けようとするが…
(…申し訳ありませんアーチャー、そろそろ宝具が…)
「…仕方ない、ならいつもどおりでいかせてもらう」
宝具が長時間持つわけもなく、消滅していく。
男が取り出したのは、ナイフとアサルトライフル。
「行くぞ船長、かかってこい!」
煽りにかかり、鉄球を敵のサーヴァントは投げつける。
「当たったら即死だな、だが、懐が甘い」
アサルトライフルを放ち、敵の腱を立つ。
動けなくなり、棒立ちになった懐に入る。
「がら空きだ」
ナイフを心臓に突き立てる。
「…終わりか」
消滅していく敵サーヴァント。
あとに残ったのは、アーチャーと荒れた倉庫街だけ。
◆
「OK、消滅、OK」
「マスターか、そっちは?」
「簡単でした、特に苦も無く」
奥から敵マスターを締めたであろう銅寺が出てくる。
審判者であり、なおかつ暴の化身でもある立会人。
拾壱號の彼となれば、その実力は折り紙付きだ。
「帰りましょう、長いする理由もありません」
「…了解した」
アーチャーを背後に立たせ、夕暮れに染まりながら銅寺は帰っていく。
兄が命に変えてくれたこの命、こんな争いで散らすつもりはない。
いざ、帰還の為に動かん。
◆
男は捜査官だ。
証人保護プログラムに基づき、保護対象の経歴の消去し、代わりの歴を斡旋する。
戦いの中で、外道に落ちた上司を殺した、もちろん悔いはない。
アーチャー――ジョン・クルーガー、今宵は捜査官としてではなく、一介のサーヴァントとして動く。
マスターを守るために――
-
【CLASS】アーチャー
【真名】ジョン・クルーガー@イレイザー
【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷C+ 魔力E 幸運C 宝具D
【属性】秩序・善
【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
経歴改竄:C
アーチャーが捜査官として行ってきた仕事の一つ。
他者のステータスを改竄できるが、真名等は不可、また、スキル以上のランクの真眼スキル持ちに対しては見破られてしまう。
戦闘続行:B
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
仕切り直し:A
窮地から脱出する能力。
不利な状況であっても逃走に専念するのならば、
相手がAランク以上の追撃能力を有さない限り逃走は判定なしで成功する。
心眼(真):A
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、
その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
逆転の可能性がゼロではないなら、
その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
【宝具】
『禁制武器(EM銃)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
かつてアーチャーが軍需企業の暴走を止めに行った際、その企業の開発していた銃。
アーチャーは襲撃の際、敵からこの銃を奪い、なおかつ無双もしたことから宝具に転用された。
通称 レールガン、威力発射力共に優れ、なおかつ取り回しにも優れる。
【weapon】
ナイフや重火器
【人物背景】
FBI捜査官、証人保護プログラムに基づいて動く生粋のエージェント。
ただ黙々と任務を遂行する男
【サーヴァントとしての願い】
無し、マスターに命令に従う
【マスターへの態度】
非道に走らない限り命令には従う
【マスター】銅寺晴明@嘘喰い
【マスターとしての願い】
帰還する
【能力・技能】
立会人として賭け事を裁量する力。
またそれのための暴力
【人物背景】
拾壱號立会人、中肉小柄。
過去の経歴をバネに、努力し続ける男。
【方針】
少なくとも、帰還も聖杯に頼る気はない。
立会人の仕事を続けるためにも無駄力を使いたくない。
【サーヴァントへの態度】
互いに背中を預けられるサーヴァント、信用している。
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投下終了です
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投下します。
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千葉県浦安市。
地図の上ではそうなっているはずの場所は、冥界に張られた結界のすぐ外側に位置しており。
そこにあるはずの夢の国は、丸ごと巨大で本物のホーンテッドマンションと化していた。
空を舞うのは平和の象徴のハトではなく、どこからから風に吹かれてきた弱々しい亡霊。
地を満たすのは笑顔で歩くカップルや家族連れではなく、虚ろな顔をした亡者の群れ。
遠くに見える城は白く美しいものから、おどろおどろしくも幽玄な廃城と化していた。
そんな灰色と黒と死の気配に彩られた世界で――
まるでパレードの如く、堂々と道の真ん中を進む集団があった。
いや、しかし、それらもまた、この地に相応しい異形の集団ではあった。
刀を手にした日本の鎧武者がいる。
槍を手にした西洋の騎士がいる。
長弓を手にした軽装の青年がいる。
十数人からなる武装集団、揃ってその表情は「分からない」。
全て、首から上が失われている。
進路上の亡者たちを雑に刈り取りながら進んでいた首なしの一団は、ふと、先方に気配を感じて身構える。
明らかに「ただの亡者」とは異なる、剣呑な気配を纏った人影がそこにあった。
頭のてっぺんから足の先まで黒い人影である。
見上げるような巨体に、これも呆れるほどに巨大な斧を担ぐようにして持っている。
表情も黒く塗りつぶされて分からず、目の中すらも黒く塗りつぶされて視線すらも分からない。
斧戦士が大きく息を吐いた。吐いた息すらも黒かった。
シャドウサーヴァント。
ほんの僅かの差で英霊になりそびれた存在。
あるいは、召喚に不備があって正しく降臨できなかった英霊の影。
死せる者の吹き溜まりである冥界では、正規の英霊にも脅威となるこんな存在が、無数に徘徊していた。
「バーサーカー……いや、セイバーか。使えるわね。
少し、相手しなさい。でも討ち取ってはダメよ」
首なし集団の中心から、女の声がした。
声の主には頭が乗っている。長い2本の角が天を指す、整った顔が。
角つき女の指示を受けて、多種多様な首なし兵士たちが斧戦士へと襲い掛かる。
矢を射かける者がある。
槍を構えて突進する者がある。
女を守るかのように、剣を構えて踏みとどまる者がある。
いずれも相手を見る目が残ってないことは何のハンデにもなっていないようだった。
黒い斧戦士が吠える。矢を切り払いながら、猛然と突進する。
突き出された槍を身を捻って避け、横合いから切りかかってきた剣士の腹を蹴り飛ばし。
首のない従僕たちを蹴散らしながら、角の生えた女に迫ろうとして――
割って入った2体の首なし剣士が、2本がかりで戦士の斧を受け止めた。
わずかな拮抗が生まれる。
女の顔に笑みが浮かぶ。
差し出した右手には、金色の天秤。
「服従させる魔法(アゼリューゼ)」
女は力ある言葉を紡ぐ。
途端に、斧を構えたシャドウサーヴァントの動きがガクンと止まる。
斧戦士はなおも進もうとしている。進んで女に斬りつけようとしている。
しかし見えない鎖が彼の身体を縛るかの如く、ガクガクと震えるばかりで前に進めない。
「だいぶイキのいいシャドウサーヴァントね。いいわ、私が手ずからラクにしてあげましょう」
傍らの首なし騎士から剣を受け取って、角の生えた女が斧戦士に近づく。
やや大振りな剣だ。地面を引きずるようにして近づく。
左手一本でそれを振り上げる。
明らかに剣士としての訓練を受けていない身体さばきで、それでも、妙に手慣れた様子で……
女は、斧を振り上げた姿勢で固まったシャドウサーヴァントの、首を、一発で刎ねた。
-
◆
「なるほどのぉ。こんな感じでやっておったんじゃな」
「御満足頂けたでしょうか、アウラ様」
「うむ。だいたい分かった」
斧使いの巨漢のシャドウサーヴァントとの戦闘が決着した頃――
それらを見下ろす建物の上に、4人の人影があった。
いずれも冥界を彷徨う亡霊ではなく、首なしの騎士たちでもない。
ひとりは幼い金髪の少女。少なくとも外見からはそのように見える女。
貴族なのか、華美なドレスをまとい、幼い容姿にはやや似合わぬ派手な化粧をしている。
残る3人も身なりはいい。
背の高い、こちらも貴族のような印象の美青年。こちらの頭からも角が生えている。
髪を二つに束ねた、角の生えた少女。金髪の少女よりは年上の容姿。何故か片手に長い斧槍を持っている。
ねじくれた角の生えた少年。貴族の少年のような身なりに、サスペンダーで釣ったズボン。
4人の背後から、怨霊の類が一体、音もなく近づいて襲い掛かろうとして……
蛇のように横合いから飛び出した赤い筋に直撃され、音もなく弾け飛ぶ。
赤い帯のようなものは、そちらも見てもいない青年の手のひらから伸びている。
「それでは今宵はこのあたりでいったん撤退となります」
「もう帰るのかや?」
「我々にとっても、何よりマスターにとっても、この地は危険ですので。
時間を置いて仕切り直すことになります」
青年は恭しく金髪の少女の手を取ると、横抱きに抱きかかえて跳躍する。少女と少年もそれを追う。
4人は宙を舞って、首なし戦士の群れ、そして角つきの女性と合流する。
「どお、マスター? 心配しなくても、戦力の増強は順調よ?」
「いくつか聞きたいことがある」
金髪の少女は地に降り立つと、手にした扇子で口元を隠しつつ角の女を見上げる。
自分のサーヴァントがたびたび行っていた戦力増強。
それを「一度見学したい」と無理やりついてきた格好だった。
「配下にするシャドウサーヴァント、クラスを選んでいるようじゃな? 何故じゃ?
アサシンやキャスターも使いようによっては便利じゃろう?」
「首を刎ねる都合ね。
意思が残っていては使い物にならない。けれど、意思を奪ったら戦力にならない奴らがいる。
いまマスターが言ったアサシンやキャスターがその典型例ね。
何度か試したけれど、術の使えないキャスターや、こっそり忍び寄れないアサシンはむしろ足手まといだったわ」
「やはり三騎士が安定、と……。なるほどな。
バーサーカーやライダーが少ないのは何故じゃ?」
「ライダーは乗り物の問題ね。
例えば馬に乗ってるような相手は、乗り手と馬とで2度手間になるのよ。
片方を支配してる間にもう片方が暴れたりして、難しいの。
バーサーカーは正直生け捕りが厳しい。
首を刎ねる瞬間まで暴れて、うっかり霊基の核ごと傷つけちゃったりね」
「既に試行錯誤は尽くした果てなのじゃな」
妙に婆臭い口調の少女は、納得したように何度か頷く。
「最後じゃ。
お主の能力なら、結界の中で他の正規のサーヴァントを支配することもできるじゃろう?
何故、シャドウサーヴァントを優先する? これだけ軍勢が増えればそっちに舵をきっても良いじゃろう?」
「……それは前にも言ったでしょ。
シャドウサーヴァントの多くは正気を失っていて、搦め手を使ってくる者はほとんどいない。
けれど正規のサーヴァントには、実力を隠蔽するスキルや宝具を持った奴がいて、こちらを欺いてくる可能性がある。
私の能力には高いリスクがあるの。少なくともしっかり下調べをして、相手の消耗を誘って、それからでないと」
「理屈は分かっとる。
けれど……『断頭台のアウラ』。お主、それは本当に理詰めで考えた結果か?」
「どういうこと? 『アウラ・マハ・ハイバル』」
「お主が『その能力』を正規サーヴァントに使わないのは、過去の『敗北』のせいじゃあるまいな?と言うておる」
アウラの追及に、もう一人のアウラが息を呑む。
やや剣呑な雰囲気に、アウラの配下たる魔族3人も身構える。
……だが、諦めて小さく息を吐いたのは、天秤を手にした方のアウラだった。
「……そうね、慎重になっているのは否定しないわ。
けれど、もう負けられないからこそ、確実な手段を選びたいの」
「ただ弱気になってる訳でなない、ということじゃな」
「今度こそ勝つつもりだからこそ、同じ負け方を繰り返す訳にはいかない。
それはマスター、貴女もそうでしょう?」
「そうじゃな。わらわ達はもう負けられぬ。勝って、黄泉返って、もう一度やり直すのじゃ」
サーヴァント、アベンジャー、断頭台のアウラ。
マスター、ファウンデーション王国女王、アウラ・マハ・ハイバル。
亡霊が宙を舞う、夢の破れた廃城の前で。
二人のアウラは冥界の底で、譲れぬプライドのために、再起を誓い、今は牙を研ぐ。
-
【CLASS】
アベンジャー
【真名】
断頭台のアウラ@葬送のフリーレン
【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷C 魔力A 幸運D 宝具A
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
復讐者:C
忘却補正:B
自己回復(魔力):-
クラススキルである自己回復(魔力)は、後述する『首切り役人』の維持コストで事実上相殺されている。
【保有スキル】
魔族:B
ヒトの姿をしている獣。言葉を解していても、その全てを欺きに使うもの。
根本的にヒトと異なる精神構造をしているため、ある種の精神攻撃への耐性を持つ。
反面、ヒトとの交渉においてはマイナスの補正を受ける。
軍略:C
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直観力。
断頭台のアウラは後述する首切り役人や無数の首なし騎士を有効に活用していた。
指揮官として名を残した英霊には一歩及ばないが、それでも確かに勝算の高い戦術を選ぶ能力がある。
実力看破:B
ルーラーのクラススキル「真名看破」の下位互換スキル。
直接遭遇したサーヴァントの大雑把な能力と強弱を、神秘の力でなく観察眼と魔力察知能力によって看破する。
真名看破と比べ、敵が実力を隠匿する何らかのスキルや宝具を有していた場合に影響を受けやすい。
さらに、相手の能力によって欺かれた場合、アウラは欺かれたこと自体を感知できない。
アウラのこの能力は意外と高いのだが、召喚されたタイミングの問題から、実態以上に自信を喪失している。
【宝具】
『首切り役人』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1-1000 最大捕捉:3体
首切り役人と呼ばれたアウラ配下の魔族を具現化する。
実態としてはアウラ本体を含めた4人で1柱の英霊のような存在だが、存在強度や上下関係に明確な差がある。
これらは一般のサーヴァントよりはやや劣るものの、やり方次第では拮抗も可能な疑似サーヴァントとして扱う。
以下の3名からなる。
この3名はアウラに強い忠誠を誓っているが、独立した意思と能力で動き、彼らの行動がアウラ本体の魔力の消耗に繋がることはない。
・リュグナー
貴族風の美青年。自身の血液を自在に操る魔法を扱う。戦闘特性としてはアーチャーに近い。
このメンバーの中では比較的ヒトの心理に通じており、交渉役などを担当することもある。
・リーニエ
幼い少女のような風体。一度見た戦士の技を模倣する魔法を使う。手持ち武器も技に合わせて自在に変化する。
模倣相手の身体能力までは再現できないのが欠点。
・ドラート
片目の隠れた少年のような姿。魔力を細い糸状にして、敵を瞬時に吊るしたりできる。魔力の糸は切ることも困難。
3人の中では相対的に実力に劣っており、単独行動時には状況判断を間違えることもある。
これら3名は破壊されたら自然には再生しない。マスターが令呪の魔力を用いることでのみ再生することができる。
何名脱落した段階からでも令呪1画で3人が無傷で揃った状況に戻すことができる。
-
『服従させる魔法(アゼリューゼ)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1-20 最大捕捉:1名
断頭台のアウラの真骨頂。
服従の天秤と呼ばれる道具に、自身と対象の魂を載せて互いの『魔力』を測り、より重い方が相手を半永久的に支配できる。
自身が逆に支配されるリスクを背負うことで、相手に自害すらも強いることのできる強い強制力を発揮する。
ここで言う『魔力』は、サーヴァントのパラメータの魔力欄でも、魔術師の魔法に使う能力でもなく、互いの『存在感』に近い。
相互の『総パラメータ』から、それぞれの疲労や消耗を差し引いた現在値のようなもの、と考えていい。
あるいは、相互の『格』のようなもの、と言ってもいい。
特に聖杯戦争においては、例えば相手がセイバーだからと言って一方的に優位を取れるような便利な能力ではなくなっている。
この特性から、アウラ自身は意識的にあまり動かずに消耗を避け、敵には配下を仕掛けて消耗を強いる戦法を基本とする。
これらの量については、アウラはスキル「実力看破」によって(何らかの欺瞞がなければ)かなり高い精度で看破できる。
支配された側が強い意思力を持っていた場合、魔法の影響下であってもある程度の抵抗ができる。
しかし支配された者の首を切ることで、残された身体を抵抗なく支配し行使することが可能になる。
首を斬られた非支配側は、いくつかのスキルや能力を使えなくなるが、目が見えないことによるハンデなどは無視して行動できる。
1度に支配を試みることのできる相手は1人きりだが、支配が確立した後は何人でも支配下に置き続けることができる。
支配を維持し続けることに対して、魔力の消耗等はない。
聖杯戦争限定の制約としては、「まだ令呪を残しているマスター」に対するこの魔法の行使は自動的に「アウラの負け」となる。
令呪の圧倒的な魔力と、マスター/サーヴァント間の力関係が影響している。
ただ、何らかの魔術的な欺瞞がされていない限りは、令呪の有無は「実力看破」によって察知可能。
【weapon】
服従の天秤。
剥き身の剣。
【人物背景】
魔王配下の幹部級の魔族『七崩賢』の一人。
かつて勇者ヒンメル一行の前に敗北し、当時抱えていた配下のほとんどを喪失する。
しかしアウラ本人は逃げ延びて、50年ほどの雌伏の期間を経て、再び首なし騎士の軍勢を作り上げた。
とある街を攻略している最中に、勇者ヒンメル一行の一人であるフリーレンと再戦、敗北した。
敗北後からの参戦。
敗北の記憶を有した状態で、反英雄として英霊の座に登録されている。
【サーヴァントとしての願い】
今度はもっと上手くやる。
なので、生き返って再びチャンスを。
【マスターへの態度】
口ばかり達者で面倒くさいマスター。
しかし首なし騎士を隠し持てる敷地の確保など、その社会性は役に立つ。
また、負けて死んでも再起を諦めないその姿には少しだけ共感を抱いている。
-
【マスター】
アウラ・マハ・ハイバル@ガンダムSEED FREEDOM
【マスターとしての願い】
納得いかん! 蘇って生き返ってまたやり直しじゃ!
【能力・技能】
女王
腐っても一国の女王の座を得て務めあげただけの社会性、政治力、謀略、その他もろもろを備えている。
研究者
人間の遺伝子操作により、コーディネーターを超える種「アコード」を作り上げた張本人。
【人物背景】
新興国家「ファウンデーション」女王にして、新人類アコードを作り上げた研究者。
……という経歴の割に、外見は金髪の幼い少女のような姿をしている。外見は。
冥界における役割(ロール)としても、かなりの圧倒的な資産を誇る資産家である(外見年齢からはやや不自然なほどに)。
首なし騎士の軍勢を隠しておくにも無理のない、倉庫や工場跡などの敷地を有しており、必要ならトラック等も手配できる。
【方針】
優勝狙い。
ただし闇雲に片端からケンカを売って回っても勝機がないことは理解している。
とりあえずは外の廃墟街でシャドウサーヴァントを狩って戦力補強を続けつつ、リュグナーたちも駆使して情報収集。
必要なら誰かと同盟を組むことも考えるだろうが、彼女の性格からしても、どこかで先制の裏切りをしかける可能性が高い。
【サーヴァントへの態度】
数の力は理解しているので、軍勢を作れる可能性のあるサーヴァントの能力には満足。
言動はやや不敬で気に食わない部分がある。
ただ、負けて死んでも再起を諦めないその姿には少しだけ共感を抱いている。
【備考】
冥界の廃墟街で遭遇したシャドウサーヴァントを多数、支配の天秤で支配下に置き、首なし騎士として従えています。
登場話の時点で十数騎を確保しており、この後さらに増える可能性があります。
構成としては三騎士(セイバー、ランサー、アーチャー)が主体でほぼ同数。少数のライダーとバーサーカーが混じります。
キャスター、アサシン、エクストラクラスは含まれていません。
(エクストラクラスは単純にほぼ存在してないため)
これら首なし騎士は、必要がない時にはアウラ(マスター)の所有する土地の敷地内(倉庫や廃工場など)にて待機しています。
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投下終了です。
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投下させていただきます。
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意識が、浮上する。
電子の海から再び混沌へ。
ナラム・シンの玉座は崩壊した。
よって今や、自分がこうあれる場所など現実には存在しないはずだというのに。
「……不可解。説明を要求し、ます――?」
思わず漏れた言葉に割り込む形で、異常事態(エラー)。
シッテムの箱のメインOSとしての頭脳中枢に不明な情報が雪崩込んでくる。
あらゆる防衛機構を無視して侵入してきたその"色彩"が、少女に今置かれている現状を過不足なく教授した。
「冥界。死の世界……魔力と願いを蒐め続け誕生した万能の願望器――聖杯。
その争奪をもって冥界を遡る儀式。聖杯戦争。逆行運河の、流出。
人理の影法師。サーヴァント。そして、葬者。
……なるほど」
どうやら、異常は想定を超えた域に達しているらしい。
右手。新雪を思わせる白磁の細腕に刻まれた刻印を見下ろして、少女は小さく頷いた。
「アロナ先輩には、悪いことをしてしまいましたね」
ここはもう、キヴォトスですらない。
願い抱く者を死者として蒐集し続け成立した蠱毒の壺中。
あの玉座とは非なる場所だが、同時に限りなく近いとも言える。
だからこそ、単なるOSに過ぎない自分がこうして現出できているのだと理解する。
だが与えられた役割は、今度こそ完全に本来のそれを逸していた。
サポートでも監督でもなく、自分が主役となって舵を取る。
すなわち葬者。
新造された冥界神話の、その主役として。
困ったな、と率直にそう思った。
機械は願いを抱かない。
いや、百歩譲って類稀な運命のいたずらでそういうことが起こり得たとしてもだ。
自分はそういうモノではない。よって、不躾に放り込まれたこの世界で何をするべきか考えあぐねてしまう。
思考の停止。問題解決の方策、データベース内に存在せず。
"先輩"の意見を仰ぐこともここがシッテムの箱から遥か遠く引き離された場所である以上、望みは薄いと言わざるを得ない。
「……指摘。端的に、人選ミスの疑いを提起します」
一応、話の筋自体は通っているのだろう。
死者という形容は確かに、自分にある程度似合うものである。
-
そう。
既に自分は、葬られたものだ。
命があり、人格がある。だがそれだけ。
補佐し共に戦うべき人は、あの戦いで遠く旅立ってしまった。
教室を失い、従う相手を失い、行き着く先さえ失くした者がたどり着く先が死者の國というのは理解のできる話ではある。
だが、まさかこの手で何か成し遂げろと求められるとは思ってもみなかった。
それは未だかつて、自分という存在が確立されてから今に至るまでついぞ縁のない役割だったから。
帰るべき場所のために戦う。
願いを叶えるために、戦う。
自分にそれをできる熱があるとは思えない。
自分のために他者を退けて、ひとつきりの玉座を狙うため戦うなどどう考えても役者不足だ。
異議を唱えようにも相手がいない。
いや、唱えたところでどうにもならない。
答えの出せない状況というものを、彼女の観点では八方塞がりと呼ぶ。
まさに今、少女は。
ひとつの死にたどり着いた世界からこぼれ落ちた、白黒の色彩は。
振るい方も知らない武器を持たされて、極彩色の死と願いが乱れ舞う異界へと放り出されてしまったのだ。
人選が外れている。
役者を間違えている。
物語(ジャンル)の色が違う。
無機質な諦念が漏らしたそれは独り言の筈だったが――――しかしそれに応える"誰か"の声がひとつ、あった。
「否(いいや)?
そんなことはないと思うぜ、葬者ちゃん。君が自分の価値をどう見積もってようが、聖杯ちゃんは確かに君を選んだんだ」
声を聞き、振り返る。
その表情にはわずかな驚きが滲んでいた。
考えてみれば当然の話、ではある。
葬者と英霊は必ずワンセット。片手落ちは聖杯戦争の法則上、あり得ない。
だからこそ自分にもサーヴァントが存在するというのは当然なのだったが、彼女が驚いたのはそれとはまったく別な理由。
響いたその声が。
振り向いて視界に入れた、その面影が。
"なぜか当然のように都市の真ん中に生えている"菩提樹の下で胡座を掻いているその男が――実際の身の丈以上に、大きく見えたからだ。
霊峰や摩天楼の壮大を五体のひとつひとつに横溢させた、五感のすべてが規格外を伝える誰か。
少女の世界を冒した恐るべき色彩でさえ、暗躍する無銘の司祭達の陰謀でさえ。
こと存在の階位においてならば、この男の影すら踏めはしないと確信する。
「そうじゃなきゃ、よりによってオレにお呼びがかかるわけがねえ。キミは選ばれたのよ、運命ってヤツに」
「……重ねて指摘。根拠と呼ぶには、いささか理屈が薄弱と思われます」
「あ〜ん? だってそうだろ、ただの偶然なわけがあるかよ。
ましてや人選ミス? ハッ――鼻で笑っちまうぜ。そんなわけがない。そんなわけがねえのさ」
タンクトップにサンダル、サングラス。
どれを取っても現代的、悪く言うなら俗。
髪は無造作に伸ばしており、お堅さは微塵も感じさせない。
しかし。
しかし。
額の白毫が、後頭部で結ばれた頭髪が描く蓮の花が。
そして何より、その暴力的なまでの存在感が。
語る口調、声色、そこにあふれる神でも御せない尊大が。
そのすべてが――この男の真名を、そこに宿る重みを体現していた。
-
「だってよぉ。
釈迦(オレ)だぜ?」
菩提樹を背にそう言って舌を出した男のその名を、知らぬ者はこの世にいない。
生まれながらにすべてを持ちながら、それをことごとく捨て去って王の座を蹴ったドラ息子。
悟りの果て、現代にまで色褪せず轟くひとつの宗教を興した偉大な"開祖"。
人類史に数ほどしか存在しない、救世者(セイヴァー)の冠を戴く資格を有した男。
にも関わらず、度重なる不遜と勝手は狂気のごとし。
他でもない英霊の座にさえそう見做され、これほどの偉業と救いを背負いながらも狂戦士のクラスを当て嵌められた人類最強の個(ひとり)。
天上天下唯我独尊。
覚者。仏陀。
そして、釈迦。
――――ゴータマ・シッダールタ。それが、この男の真名である。
「さあ、オレは応えてやった。次はキミが応える番だ」
どこで調達してきたのか、幼児向けのチョコレート菓子をカリ、と齧って。
神器たる六道棍を孫の手代わりに背負い込み、釈迦は少女に白い歯を見せて笑った。
「まあ、まずは名前だな。葬者ちゃんじゃ堅苦しいし、何より辛気臭え」
「……質問に回答します。私は、A.R.O.N.A――…………いえ」
いまだ、困惑とエラーメッセージが満たしている思考回路。
そんな中で絞り出そうとした名を、あえて噤む。
個体の識別名としては間違いなく正しいそれを、何故回路の内側に引っ込めたのか。
それは。
その事実こそが、まさに。
歩み出した少女がこの冥界に引き寄せられた意味を、物語っていた。
言い淀んだまま空を見上げる。
菩提樹の下で対峙した、葬者と英霊。
もとい、釈迦と少女。
そのふたりを、果てしなく広がる都心の星空(Planatarium)が照らしているのを見て。
自分の手を引いてくれた"先輩"のくれた名前を、合理ではなく自分自身の意思で口に出す。
少女は、その名を選んだ。
「――プラナ、と。そう呼んでください、覚者(バーサーカー)」
-
「プラナ、ね。
いい名前じゃん。
それに思い入れもあると見える。大事にしなよ」
「肯定。この感情を"思い入れ"と呼んでいいのかは、まだ私には判りませんが。その勧告には従おうと思います」
「良(いいね)。なんだよプーちゃん、キミって自分で思ってるよりぜんぜん人間らしいんじゃね?」
「…………、プーちゃん?」
「プラナだからプーちゃん。異論ある?」
「……いえ。少々予想の斜め上でしたが、呼称を承知しました」
食う? と言って差し出されたチョコレート菓子を手に取る。
そのまま口に運んで、しゃく、と小さく噛んだ。
甘い。脳に直接訴えかけてくる分かりやすい甘味だ。
まさか"お釈迦様"なんて存在から、こんな施しを受ける日が来るとは思わなかったが。
「オレさぁ。ぶっちゃけ葬者とかいなくてもここにのさばれんだよね」
「――驚愕。それは聖杯戦争のシステムに背いているのでは?」
「どうだろね。まあイレギュラーではあるんだろうが、釈迦(オレ)だしな。そういうこともあるんじゃないの?」
星空の下、菩提樹を背に、ファンキーな覚者と語り合う。
状況だけを見ればとんだトンチキだが、彼の語っている内容は更に常軌を逸していた。
そして最もたちが悪いのは、それがどうもれっきとした事実であるということだ。
言われて初めてプラナは、これほどの英霊を使役しているにも関わらず自身に一切の負担が及んでいない事実を知覚する。
消耗が少ないだとか、そんな話では毛頭ない。
真実、まったく消耗をしていないのだ。
すなわちこの釈迦は、葬者であるプラナの魔力を一ミリたりとも食うことなくこうして堂々の現界を継続している。
無からエネルギーは生まれない。
それは普遍の真理である。
ならば今起きているこれがどれほどの異常であるかは言うに及ばずの話だったが、となるとひとつ疑問が生じてくる。
「質問。ではあなたは、こうして私に付き合う理由など持ち合わせていないのでは?」
英霊とは。
サーヴァントとは。
願いを叶えるため、時空の果てより聖杯戦争に推参する存在だ。
叶えたい願いがないだなんてケースの方がごくごく希なイレギュラー。
そうでなくとも、葬者という無力な要石など抱えないに越したことはない。
彼のように一度召喚されてしまえば要石を必要とせず世にのさばれる手合いなら、そもそも関わり合う必要すらないと言ってもいいだろう。
なのにこの覚者は、律儀にも自分と肩を並べて言葉を交わし、あと一緒にお菓子なんか食べている。
これはプラナにとって、当然ながら不可解な状況だった。
彼がしているのはまったく合理性を欠く、意味のない行為であると言わざるを得ない。
そんな相棒の質問に、釈迦は「そうだな」と頷いた。
-
「まあオレだって今は単なる影でしかない。
最終闘争(ラグナロク)で暴れ過ぎちまった当てつけなのかな、霊基まで一段下げられちまってる。
つーか何だよバーサーカーって。人のこと狂犬みたいに呼んでさ、失敬だよなまったく。プーちゃんもそう思わね?」
「それよりも、さらりと聞き慣れない非常に不穏な単語が飛び出したことの方が気になります」
「ま、とにかくオレも見てくれほど自由じゃないってワケ。
それでもまあ……そうだな。一週間くらいはプーちゃんなしでもあちこち駆け回ってブイブイ言わせられるかな」
そう、やはり彼に葬者へ付き合う理由はないのだ。
天上天下唯我独尊を地で行く規格外の単独行動スキル。
それは、彼を逸話通り孤独のままに最強たらしめる。
その事実が改めて浮き彫りになり、プラナはもう一度問いかけた。
「では、何故」
「オレがそうしたいと思ったから、かな」
返ってきた答えに、思わずプラナも閉口する。
あまりに無体。やはり、合理性など欠片もない。
既知のどの人物とも一致しない、我が道以外何も歩まない精神性に彼女は静かに振り回されていた。
理屈が通らない。
理解不能だ。
この人の考えていることが、ひとつも分からない。
ただその一方で、どこかほんの少しだけ。
ほんの少しだけ、自分が懐かしさのようなものを感じている。
プラナは、その事実にも新たな困惑を覚えねばならなかった。
「オレとプーちゃんの間に縁はない。
だってのにキミは、ガンジス川よりも広大な時の運河の中からオレを引き当てた。
面白え。見ていてえ。だからオレはキミに寄り添う。キミと共に戦ってやる。釈迦(オレ)がオレのためにそう決めた」
「……あなたは、それでいいのですか?」
「いいに決まってんじゃん。正しい道を選んで歩くんじゃない。オレが選んだ道が、正しい道になるんだから」
道を選ぶのではなく、自分が道の値打ちを決める。
それは、プラナにとって知らない価値観――
では、なかった。
『君がなりたい存在は、君自身が決めていいんだよ』
ノイズが走る。
記憶という名の、ひび割れのようなノイズ。
そう言って"生徒"に手を差し伸べた人の姿を、覚えている。
そうだ、思えばあの人もそういう風に生きていた。
それは決して、この覚者みたいに唯我独尊ではなかったけれど。
それでもあの人もこうして、彼のように、往く道の価値を自ら付けるような人だったと記憶している。
もう二度と、言葉を交わすこともできないヒト。
最後の一瞬まで、自分のことなんか何も顧みずに。
"誰か"のために歩み、そうして消えていったヒト――。
そんな大人の背中を、確かにプラナは知っていた。
-
「なあ、プーちゃん。キミは何を願ってる?」
追憶に沈みかけた意識を浮上させる問いが、星空の下で鼓膜を揺らした。
願い。願い――。
その問いに対する答えは、機械らしいエラーメッセージ。
「回答。……願いなどという強い感情は、私の中にはありません。
だからこそ私はひどく困惑しています。何故私が葬者に選ばれたのか、願いの如何を問われているのか」
すなわち、不在。
願いなんてものは、プラナのどこにもない。
だからこそ彼女は、自分が葬者に選ばれたことを他の誰より疑っている。
願いもなければ、死に物狂いで生きてやりたいと想うほどの熱もない。
他の誰かを足蹴にして、殺した死骸を足場にして、そんな風に歩むことはきっと自分にはできないだろう。
故にそう答えたのだったが、その口は不明な理由で続けて言葉を重ねた。
まるで漏電のような、たどたどしい言葉だった。
「私は、ただ消えゆくだけの存在でした」
それは、蜃気楼のように。
役目を終えて大気圏に突入した、衛星のように。
軌跡を描いて燃え尽きる、星のように。
ただ消える。ただ、潰える。
そんな、運命とも呼べない自明だけがこの身体には残されている。その筈だった。
「教室を失い、恩師を失った。
帰るべき世界はとうに遠く。
どこへともなく消えて、それで終わるだけの存在でした」
長い、長い旅路だった。
色彩に呑まれ、魂の端々までを侵され。
それでも足を止めず、戦い続けたヒトがいた。
プラナはその旅路に寄り添い、そして見送った。
それが、彼女の役割だったからだ。
そして役割を終えたなら、もう生きるべき理由はない。
在り続ける、意味がない。そう思っていたし、今でもそう思っている。
「でも、そんな私の手を引いてくれた人がいた。
おうちはこっちだって、そう言って。
消え去るだけの私をつなぎ止めて、私に名前をくれた人がいた」
「……それが、"プラナ"ってこと?」
「はい。Planatarium……私が星を思わせるから、それをもじって"プラナ"と」
旅路の果てに巡り合ったもうひとりの自分は、自分とはまるで似つかない少女(A.R.O.N.A)だった。
-
彼女は、消えゆく星に手を差し伸べ。
そして星も、その手を取った。
それで物語は終わり、次の巻へと続くはずだったのだ。
にも関わらず招き寄せられた冥界。死者と、無念と、願いの集う場所。
あまねく生涯の終着点にて、星は今菩提樹を背にしている。
星空と菩提樹の見守るどこかで、意味があるとも知れない言葉をつらつらと重ねていた。
「ですが、あの人……先輩にももう顔向けできません。
結局私はあの人の言う"おうち"には帰れませんでした。
それどころか、帰るべき道を未だに考えあぐねている始末です。恩を仇で返すとは、まさにこのことでしょう」
――おうちはこっちですよ、一緒に行きましょう!
そう言ってくれた"先輩"の顔を、覚えている。
あの人はきっと、自分が消えたら泣くのだろうなと思った。
そのことについては、少しだけ申し訳なさを感じている。
なんとなく、あの人が自分のために泣く姿は見たくなかったから。
たくさんの不可解と、形も分からない感情の渦巻く思考回路。
そこからたどたどしく析出した言葉を、覚者はただ黙って聞いていて。
ひとしきり聞き終えたところで彼は、もっともらしく頷いた。
「そっか。なるほどね」
理解した、とばかりに頷いて。
そして、世界一偉大な狂戦士は言った。
「プーちゃん。キミさ、自分で理解ってんだろ?」
沈黙する。
思考を空白で染め上げられたから、ではない。
聡明にして理知的。そして無機質かつ、合理的。
そんなプラナには考えられないことと言ってもいい事態であったが。
今、彼女は――"痛いところを突かれた"と思い、言葉に窮したのだ。
「……質問の意味が分かりかねます」
「あんじゃん。"願い"」
「――、――」
願いなどない、故に葬者たる資格など持つはずもないこの身。
それがプラナの思考を止めていた理由。
だったはずなのに、その前提が釈迦の指摘で崩れ去る。
子どもが見様見真似で作った砂の城が、波に浚われてたやすく崩壊していくみたいに。
しかしそれも当然の話だ。
偽るには、相手が悪い。悪すぎる、と言ってもいい。
たとえそれが、自分自身さえ騙す対象に含めた詐称だったとしても。
相手は、悟りの向こうにまで辿り着いた覚者なのだ。
子どもよりなお拙い、未熟な心と自我でついたなけなしの嘘なんてものが、この釈迦に通じるわけがなかった。
-
「家に帰りたいんだろ、キミは」
家に帰る。
それは子どもなら、誰もが望むこと。
そして、今のプラナにはとても難しいこと。
「……そう、かもしれません」
それがキミの願いだろうと、隠し立ての余地なく指摘されて。
プラナは少し押し黙った後、静かに呟いた。
「肯定。私の中には指向性らしきものが確かに存在しているようです。
それがあなたの言う"家に帰る"という目的を志すものであることも、恐らくは正しいのでしょう」
おうちはこっちだと、帰り道を示してくれた人がいた。
自分自身、その手を取った。
新しい教室(おうち)に向かって歩き出した、記憶はそこで途切れている。
ならば願いとしてはむしろ単純。それでいて明快。
途切れてしまった帰り道の続きを歩みたいと、そう簡単に言語化できてしまう。
実に簡単な話だ。
深く考えるまでもないことだ。
だが、それは。
「しかし私の前には今、帰り道がふたつあります」
――帰るべき家が、そこに続く道が、ひとつだけならばの話。
「もうなくなってしまった家に帰るか、消えゆく私に与えられた新たな家に帰るか」
――それは、既に終わってしまった物語。
悲劇の果て、蝕む運命に抗い続けた誰かの話。
最後のページは静かに畳まれ、"彼"の御話は正式に過去の遺物となった。
かつての家は、プラナの寄り添った青春は、今は冥界の最奥に。
物も言わず、鼓動も刻まず。
ただ静かに、そこで眠っている。
――それは、これから続いていく物語。
悲劇の果て、蝕む運命を乗り越えた誰かの話。
苦難を超えて繋がれた想いを受け取り、"彼"の御話は次の巻へ進んでいく。
彼の教室は、彼女が手を引いてくれた青春は、今は蜘蛛糸の向こう側に。
笑顔に溢れ、希望に溢れ。
ただ優しく、プラナの帰りを待っている。
「過ぎ去った過去を取るか、これから続いていく未来を取るか」
――冥界の底へ。
死骸の足場を乗り越えて、眠りについた過去を起こしにいく。
「あまねく命を弑逆し、失ったものを取り戻すか。
なくしたものに背を向けて、ただこの冥界を上るのか」
――光射す地上へ。
蜘蛛の糸をただ上り、自分を待つ未来へ会いに行く。
-
「……バーサーカー、覚者たるあなた。
私と共に戦うと言ってくださったあなたに質問します」
プラナの前には今、分かれ道が広がっていた。
先に待つものも、その正誤も分からない難題。
積み上げてきた演算の経験も知識も、何ひとつ役には立たない冥界神話の只中で。
少女はただひとり、過去と未来の狭間で孤独な煩悶を続けていたのだ。
「私は、どうすればいいのでしょうか」
過去と未来。
それは光と影。
白と黒が、理想と現実が。
孤独な、未熟な心のなかで静かにせめぎ合う。
気付けば少女は、目の前の覚者に答えを求めていた。
これまでの問いとは明確に違う。
疑問への答えではなく、生涯への答えを求める問い。
「分からないんです、私には、何も。
私にはそれを決められるほど、多くの感情が搭載されていません」
だから、と。
プラナは、釈迦の顔を見上げた。
隣に座り、もしゃもしゃと菓子を頬張る偉大な人の顔を。
神でさえその意思を曲げられなかった、悟りの向こうの仏の顔を。
人の子が、英霊に問う。
迷い子が、釈迦に問う。
ごくん、と菓子を嚥下し胃の奥に送り。
それからシッダールタは、事もなげにこう答えた。
「うん。思春期だな」
身も蓋もない、あまりにがさつな答えを。
迷える星に対し、ひょいと投げかけたのだ。
「悩んで迷って下向いて、答えが出せずにやきもきしてんだろ。
いいじゃん、可愛い可愛い。何も恥じ入ることなんてないから堂々としなよ。
思春期なんてもんはな、恥も外聞もかなぐり捨てて思いっきり悩めばいいのさ。それも人生だ」
-
「……抗議。私は真面目に話しているつもりなのですが」
「知ってるよ。だからオレも、真面目に答えてる」
一時はたまらず抗議したプラナだったが、他でもない覚者その人に臆面もなくこう返されては二の句が継げない。
思春期。そういう概念については、プラナとて知っている。
知らないわけがない。かつてプラナは"彼"と共に、それに向き合い続けていたから。
彼。先生。
シャーレの先生として、どんな生徒にも胸襟を開けて向き合った偉大なひとが。
たくさんの"思春期"へ向き合い、道行きを支えるその背中を……ずっと見てきた。
だがまさかこの期に及んで、こんな状況で、他でもない自分自身に対してそんな言葉を突き付けられることになるとは思っていなかったのだ。
「弱く、脆い。未熟で、幼い。その青さこそが思春期だ。
人間誰だって、迷って間違って、幸福の絶頂と不幸のどん底を行き来しながらデカくなっていく」
「まるで、自分もそうだったと言うような口振りですね」
「そうだよ。御仏とか如来とか言われてるけどさ、オレだって最初はどこにでもいる普通の人間だったんだぜ?
金はあったし食い物にも困らなかった。何ひとつ暮らす上で不自由はなかったが、それでもただの人間だった。
迷った。悩んだ。オレだって思春期だった。けど今は晴れてこんなにデカくなれたんだ」
私は、人間ではないので。
そんな横槍を挟む余地がないほど、釈迦の言葉は含蓄を纏っていた。
ファンキーな装いと言動は、今だって変わっているわけじゃない。
蓮座に座っているわけでもなければ、曼荼羅を背負っているわけでもない。
堅苦しい言葉を使って、説法を論じているわけでもない。
なのに、信じられないほどにその言葉は重く、そして深く。
プラナの身体、思考回路(こころ)――その節々に染み入っていく。
「だからプーちゃんもさ、好きなだけ悩んで迷えばいいと思うよ。
悪いことだなんて思わなくていいし、正々堂々真正面から思春期していけよ。
オレはそういうプーちゃんの方が可愛いと思うし、かっけえと思うぜ?」
「……。かっけえ、ですか?」
「うん。なんかヘンなこと言ってるか?
悩みながら迷いながら、答えを探してデカくなってくヤツってのはさ――かっけえだろ」
そう言って、釈迦はからからと笑った。
その姿に、もういない彼の面影が重なる。
最後まで、運命に向き合い続けた人。
たくさんの思春期に、寄り添い続けた人。
誰かのために、その手を伸ばして。
優しさと強さを、教え続けた人。
そんな彼のことを、思い出してしまったから。
プラナは静かに、顔を伏せた。
そしてぽつりと、話し始めていた。
-
「……先生がいました」
そう、彼は教師だった。
恩師で、支えるべき相手で、"先生"だった。
「最後まで、とても立派な人でした。
生徒のために、誰かのために。
自分が消え去る間際までも、そのために生きて死んだ。そんな、人でした」
不安も孤独も、両手で静かにすくい上げて。
そっと包み込んで、大丈夫だよ、と優しく語りかけてあげられる人。
そんな人がかつて、プラナのそばには確かにいた。
「プーちゃんは、その人のことが好きだったの?」
「……、……そうですね」
今はもう戻らない、どこまでも澄み切った青い春。
永遠のはずはない、ある学び舎の町の話。
それを、振り返る意味もないと思っていた過去を。
静かに振り向いて、記憶の中だけの景色をそっと見つめて。
そしてプラナは、覚者の問いへ静かに答えた。
「――好きだったのだと、思います」
色恋ではなく、生徒として。
彼の教え子のひとりとして。
自分はあの人のことが好きだったのだろうと、今になってそう気付いた。
だから伝えた。
不器用なりに、無機質なりに。
それを聞いて釈迦は「そっか」と小さく笑った。
爽やかな、透き通る空のような微笑みだった。
「じゃあ、先輩ちゃんのことは?」
「そうですね。少なくとも嫌ってはいないかと」
「は〜、なるほどね。じゃあ大変だ」
「だから言っているんです。……それでもあなたには、思春期の一言で片付けられてしまいそうですが」
「いいじゃん。どっち選ぶにしろそれはプーちゃんの人生だ。
大事なのは悔いなく選ぶこと、選ばなかったことを後悔しないこと。
それさえ間違わなきゃ、人生なんて意外となんとかなるもんだよ」
――それがいいとこなのさ、人生ってやつの。
言って釈迦が、立ち上がる。
その彼方、ビル街の隙間から朝日が見える。
夜の終わり、星空の去る時。
されど、星の物語は続く。
彼女は今宵、箱の中のOSではない。
自ら考え、自らの意思で足を踏み出す。
そんな葬者/主役として、今この冥界にいる。
-
「すげえヤツだったんだな。プーちゃんの"先生"はさ」
「……はい。ええ、とっても」
その言葉が、人類の最先端に立つ男から放たれる恩師への餞の言葉が。
何故だかとても、無機であるはずの心が熱を灯すほど暖かくて。
だからプラナも、つい頷いていた。
そして釈迦を追うように立ち上がり、彼と同じくして朝日の光を見つめる。
夜が明け、朝が来る。そしたらまた、空が青く染まる。
青春の時間が始まって。尊く輝く、思い出(アーカイブ)が綴られていく。
「……己れの弱さと向き合い、未熟さに抗い、打ち勝とうとするその思春期(おもい)。
それをオレは肯定する。最高のかっこよさだと断言して、一緒に歩んでやるさ」
手が――差し伸べられた。
先生と呼ぶには型破りすぎる。
あの人には、見れば見るほど似ていない。
なのに見た目でも言動でもない、もっと深くの部分が。
迷える誰かに答えをくれる、その在り方が――
プラナの中で静かに眠る、大事な恩師の思い出と重なって見えるのは何故だろう。
「だからさ――――オレと一緒に悟ろうぜ? プーちゃん」
そう言って、手を伸べた覚者に。
救世主でありながら、その在り方を狂おしいと称された男に。
プラナは、目覚めたばかりの星は静かに、触れた。
手と手は繋がれ、この時正式に主従の縁は結ばれる。
「……私でも。本当に、あなたの言う悟りにたどり着けるのでしょうか」
「できるさ。だからこそ、オレの名は後世にまで轟いたんだ」
「……納得。では改めまして――A.R.O.N.A改め、プラナと申します」
手を取って、正面からその尊顔を見据えて。
あえて頭は、下げなかった。
彼はきっとそれを望まない。
遜ることなんかより、確と見据えることをこそ愛する。
彼はそういう人だと思ったから、0と1の頭脳に刻まれたお作法を無視して、ひとりの"人間"として向き合う。
たとえそれが、今だけの思春期だったとしても。
この未熟がいつか、納得のいく答えになることを信じて。
「私といっしょに、迷っていただけますか?」
「――了(りょ)。シッダールタの名に誓おう」
シッテムの箱の小さな星もまた、青い春(ブルーアーカイブ)に手を伸ばしたのだ。
「オレとプーちゃんは今から友達(マブ)だ。共に笑って、共に戦って。悟ってこうぜ――人間らしく」
-
【CLASS】
バーサーカー
【真名】
釈迦@終末のワルキューレ
【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力A 幸運A 宝具B+
【属性】
中立・善
【クラススキル】
狂化:EX
天上天下唯我独尊。
神と人類の最終闘争においてさえその在り方を崩さなかった、狂おしいまでの自分本位。
万古不易の強すぎる自我(エゴ)はあらゆる精神への影響をシャットアウトする。
神でも揺るがせない、人類最強のロクでなし。
【保有スキル】
カリスマ:A+
軍団を指揮する天性の才能。一国の王でさえBランクで十分と言われている。A+ランクとなると既に魔力・呪いの類。
仏教の開祖にして、悟りを開いた者……覚者。
至りし者。ゴータマ・シッダールタ。
この世の誰よりも自由な男。
単独行動:EX
マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。
依り代や要石、魔力供給がない事による、現世に留まれない「世界からの強制力」を緩和させるスキル。
マスターなしでも最低一週間は現界を継続でき、宝具の発動にもマスターを必要としない。
それでもバーサーカーはマスターを友人(マブ)として大事にする。
「わざわざ時空(とき)超えて呼ばれてんだぜ? そりゃ誰だって応えんだろ。俺はそうするね」
無窮の武練:A+
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。極められた武芸の手練。
心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。
シャカ族の王子として学んだ武芸と天性のセンス、そして阿頼耶に通ずる"心の眼"が絡み合って生まれる天下無双。
色即是空とも。
正覚阿頼耶識:EX
相手の行動を事前に識る能力。簡単に言えば未来視。
対象の意思の動き、魂の揺らぎを視認することで数秒先の未来を知覚できる。
使用制限なし、使用上のエネルギー消費なし。まさに天上天下唯我独尊。
【宝具】
『六道棍』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大捕捉:30
神器。バーサーカーの感情に応じて変形する。
斧(ハルバード)、棍棒、独鈷剣、楯、戦鎌、そしてまだ見ぬ第六形態。
この多彩な変形形態による多種多彩の攻撃が、バーサーカーの卓越した武芸、そして未来視と組み合わさって敵手を襲う。
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『一蓮托生』
ランク:-(実質的なEX) 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:2
仏界の全域に伝わる力。
互いの生を預け合い、同じ蓮/運命の上に乗せることで全身全霊を引き出すもの。
聖杯戦争においては原則として発動困難であり、よってこの宝具は欠番扱いを受けている。
だが万一にでも発動が叶った場合、そしてその条件を満たせた場合。
バーサーカーは人類史上最強の覚者という称号の、更にそのひとつ先のステージにまで到達することができるだろう。
【weapon】
『六道棍』
【人物背景】
ヒトの王子として生まれ、仏として散った男。
人類史上最強のドラ息子。
釈迦。
本家Fate同様にセイヴァークラスの適性も持つ正真正銘の覚者だが、今回は最終闘争で神々を裏切るという"狂気の如き唯我独尊"を働いた逸話からバーサーカークラスに該当した。
【サーヴァントとしての願い】
「別に? 聖杯(そっち)は興味ないかな」
【マスターへの態度】
「プーちゃんのこと?」
「肉体の有無なんて些事だろ。大事なのは魂でどう生きてるか、さ」
「答えが出るまでは付き合ってあげるよ。俺、これでも覚者(ブッダ)だからな」
【マスター】
プラナ@ブルーアーカイブ
【マスターとしての願い】
未定。
聖杯を使うか、"先輩"のところに帰って新しい教室に通うか。
【能力・技能】
連邦捜査部S.C.H.A.L.E――通称シャーレの"先生"が所有するタブレット型端末『シッテムの箱』のメインOS。
言うなれば電子上の存在であり、本来はシッテムの箱の外に出ることはできない。
しかし現在は冥界という次元・時間・実在の有無が肯定されずに混ざりあった混沌の領域……かつてのナラム・シンの玉座に似た環境にあることから普通の人間同様に行動することが可能となっている。
【人物背景】
教室を失い、色彩から離れ、恩師と離別した生徒。
【方針】
今はただ、この思春期(みじゅく)に向き合っていたい。
【サーヴァントへの態度】
先生と呼ぶには自分勝手すぎる不思議な人。
ただその奔放が、この逡巡の答えになるような予感がしている。
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投下を終了します。
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投下します
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23区上空
飛行機だろうか?いやそれより3倍は大きい!昔の人が飛行機を見たら鳥と呼ぶだろうが、この機体を見たら竜と呼ぶだろう。
黒い空に白くぼんやりと浮かぶ機艦。その機艦に人型の何かが接近する。カブトムシのようなツノが生えた頭部、三つ指の足、虫の羽、そして手に持つ長剣。『ダンバイン』、海と大地の間にある世界『バイストン・ウィル』ではそう呼ばれていた人型兵器である。
ダンバインの剣を持たぬ方の手にはドラゴンとワイバーンが詰まった袋を持っている。機艦の中に入り帰艦した。
帰艦したダンバインから降りてきたのは人間である。金髪を七三に流しデコを出した男である。緑の襟がついた白の軍服を着こなすその姿は軍人と言っても差し支えないだろう。
「ゾルダート・ノインツィヒ任務完了しました」
「ご苦労」
お互い敬礼する軍人たち。その顔は全くの瓜二つ。しかし同じなのは彼らだけでない。ダンバインの整備する技術者、慌ただしく動く船員、複数体あるダンバインに乗り込む搭乗員………それら全てが同じ顔なのだ。
彼らが動く姿を窓越しで見る2人の影あり。そのうちの1人は数多くいる人員の顔と同じだった。
「ふっどうだライダー!我がエレクトロゾルダートは」
「クローン人間と聞いていたが、中々に優秀だなマスター」
ライダーと呼ばれた男、彼はこの艦内で唯一違う顔である。金髪、黒いスーツ、薄いもみあげ。名はショット・ウェポン、ロボット工学の天才である。
マスターと呼ばれた男、彼はこの艦内で一番よく見る顔である。金髪、赤い軍服、浮かぶ下卑た笑顔。その名はアドラー、クローン人間のオリジナルだ。
「で?オーラバトラーの開発状況はどうだ」
「まあ順調といったところだろう。ここら辺の素材はそれなりに質がいい」
「【それなり】………ねぇ?」
アドラーは手に持っていたグラスの赤ワインを飲み干し叩きつける。
「俺たちは勝たなきゃならないんだよ?それなりじゃあ困るぜライダー。ドラッヘン(竜)じゃダメなのか」
「竜は外装としては素晴らしいんだが、オーラコンバーターには不向きだ。他にも利用できる素材がないか目下検討中、わかったかマスター」
「………シャイセ!ライダー!お前の宝具と俺の電光機関技術を合わせれば無敵だ。しっかりやるんだぞ」
つかつかとその場をさるアドラー。その後ろ菅田が消えるのを見て舌打ちをするショット。
その目には野望の炎と並々ならぬ憎悪がある。いつどこで寝首をかこうか。そんな反逆心を隠し、また開発に動いた。
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【CLASS】ライダー
【真名】ショット・ウェポン@聖戦士ダンバイン
【ステータス】
筋力D耐久D敏捷D魔力E幸運B宝具A
【属性】混沌・悪
【クラススキル】
騎乗B
ライダーのクラススキル。騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣、聖獣ランクの獣は乗りこなせない。また、自分が開発した機体に限定するとランクが一つ向上する。
対魔力D
ライダーのクラススキル。一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
【保有スキル】
反骨の相B
1つの場所に留まらず、また、1つの主君を抱かぬ気性。自らは王の器ではなく、また、自らの王を見つける事の出来ない放浪の星である。
概念創出A+
世界に今まで存在してなかった新しい物を作り出した者に授けられるスキル。
ショット・ウェポンはオーラマシンをバイストン・ウィルにもたらし、戦火を呼んだ。材料がある限り、バイストン・ウィルに存在した全てのオーラマシンを開発可能である。
オーラ力A
生命体が持つ精神エネルギーの一種。戦火にさらされていた地上人は高い傾向がある。オーラマシンを動かすのに必要。このオーラ力は激情により肥大化する傾向がある。
【宝具】
『野望と憎悪の妖精艦(オーラクルーザー・スプリガン)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:20-40 最大捕捉:10艦
全長102メット(約102 m)の巨大な巡行艦。積載能力と火力は他のバイストン・ウィルに存在する機艦に劣るが、巡航速度と小回りが高い。
また内部にはオーラマシンを開発する機構が備わっており、材料と人員が揃えば新たなオーラマシンを作り出せる。作り出すオーラマシンの質は材料によって左右される。
【人物背景】
バイストン・ウィルに初めて呼ばれた地上人。オーラマシンを開発し戦火を撒き散らした罪で死ねない呪いにかかっていた。野心と憎悪を抱える。
【サーヴァントとしての願い】
地上に帰る。
【マスターへの態度】
駒。しかし優位性は向こうにあるため、歯がゆい。
【マスター】アドラー@アカツキ電光戦記・エヌアイン完全世界
【マスターとしての願い】
世界の支配
【能力・技能】
電光機関と言われる超技術を完璧に理解する頭脳。
自らのクローン人間を培養する技術力。
生体電気を利用した戦闘技術。
自らのクローン人間に転生する。
【人物背景】
アーネンエルベの死神。秘密結社ゲゼルシャフトの武装親衛隊長。野心家、冷酷かつ自信過剰であり、常に他人を見下したような態度を取る困った人間だが、それ相応の実力を持つ。
【方針】
オーラマシンを量産するための材料集め、オーラマシンとクローン人間の大量生産、兵団を作り、聖杯戦争を制圧する。
【サーヴァントへの態度】
駒。反逆心を嗅ぎ取っているため隙をなるべく見せないようにする。
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投下終了します
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投下します。
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【0】
『……無理です。笑えない』
『他の人にも笑ってほしくない』
『あなたは、あなたのままで、間違っていない』
その言葉は、彼女が最後に縋ろうとした糸を奪う刃だったかもしれないけれど。
彼女が生き抜いた日々を、彼女自身に毀損してほしくなくて、衝動的に吐いてしまった言葉。
らしくもなく、踏み超えてしまった一歩だった。
それでも。
今はあの日の一歩を、後悔していない。
◆
-
【1】
アサシンは『暗殺者』の冠名を与えられたが、実態としてはいくつかの魔術を駆使する術使いであった。
第一の術は、魔術による契約を探知する術。聖杯戦争という環境では、他のマスターの所在地を特定するという形で発揮された。
第二の術は、視界内に補足した人物の身体を不可視の鎖で拘束する術。左右それぞれの掌を向けた相手、最大二名を拘束可能。単純な分、いかなる対魔力スキルの持ち主だろうと解けない強固さだ。
二つの術を使い、発見した敵から抵抗の余地を奪った上で、首を刎ねる。そんな戦い方を得意とするから、術使いでありながら『暗殺者』と称されることとなった。
冥界という特異な地を舞台とした聖杯戦争であったが、やることは変わらない。
第一の術で、都内全域を探索。同区内に複数名のマスターを補足。さらに観察し、各々の戦力の大小を確認。最も簡単に倒せそうな者を、最初の標的として決定。
マスターの方は魔術にも武勇にも縁のない、ただの凡人。名前を、樋口円香といった。
サーヴァントは確認できなかった。何らかの手段により、所在を完全に隠匿しているものと思われる。問題はない、おびき出せば済む話だ。
闇が徐々に広まっていく夜、円香の帰路の途中、人通りの無くなった公園近く。
まずは短刀の一本を投擲。円香と並び歩いていた茶髪の若者が咄嗟に円香を庇い、そして一瞬のうちに装いを変えた。舞踏会でも目立ちそうな赤いタキシードを纏った彼が、樋口円香に従うサーヴァントだったようだ。手に持っている白い銃が、アーチャーのクラスであることを物語っている。アサシンでもないくせに、器用に素性を隠していたものだ。
立ち尽くす円香を狙わせまいとする態勢のアーチャーに、第二の術を行使。射程距離の都合上、二人の前に姿を現さざるを得ないのが難点の術であったが、実質的には既に決着がついたのだから良しとする。円香が逃げ出そうと、その背中へ向けて得物を投げて仕留めるくらい簡単なことだ。
こうして、アサシンは樋口円香を相手に難なく勝利を収められたと確信し、それ故に、敗北することとなったのだ。
――悪かったな、一人じゃなくて。勝手に騙されたあんたが悪いけどな?
アーチャーとはまた別の、二騎のサーヴァントが虚空から突然現れた。同じような滑らかな型、しかし色の異なる鎧。最初に動きを縛ったのが“赤”のアーチャーとするなら、現れた二騎は“青”と“黄”のアーチャーか。
円香が他のマスターと協力関係を結んでいたのか。否、アーチャー自身が召喚したのだろう。
左手に持った短刀で二騎からの銃撃に応じつつ、機を見て術で“青”の方の動きを封じる。これでいよいよ両手は塞がった。“黄”がマントを靡かせ、一気にアサシンへ接近する。
阿呆が、勝ったつもりか、術が二つだけだとでも思ったか。三つ目の術で、貴様から始末すれば済む話だ。
術の発動の条件となる精神の平静は、問題なく保たれている。詠唱など直ぐに終わる、“黄”が自分に止めを刺すよりも早く。改めての勝利の確信に、口が緩んでしまうのを自覚した。
イエロー、盗め。“赤”がそう叫んでいた。
-
――危ねぇ〜。あんたが今やろうとしたネタと関係なくてよかったわ。俺らを動けなくする術と連動してたら、盗むの無理かもだったし。
何が起きたのだと、アサシンは動揺する。
起きたことだけをそのまま述べれば。
アサシンの脇腹に、鈍色の小さな金庫が出現した。金庫、としか言いようがなかった。生身の肉の上に、存在するわけのない無機質の金庫が現れたのだ。
“黄”のアーチャーが金庫の扉に何かを押し当てて、アサシンが呆気に取られている間に、解錠。中から取り出された見覚えのないオブジェは、“黄”のアーチャーの手元からすぐに消えてしまった。
拘束の術が、消えた。円香と“赤”と“青”を縛っていた術が突然解けて、二人は自由になった。
アーチャー達へ再び掌を向け、動くなと念じる。何も起きない。魔力の奔りが感じられない。いいから固まれ、ひれ伏せ、いっそ押し潰れてしまえと怨嗟を込める。何も起きない。まるで、体内の回路が壊死してしまったかのように。
ようやく、アサシンは実感として悟らされる。
この身に宿っていた拘束の術という秘技の存在それ自体が、消え去ってしまった。封印ではない、喪失だ。
積み重ねた年月を象徴する、アサシンにとって自慢の『宝』が……?
――つーことで、お宝は頂いたぜ。
形勢は一対三。第一の術は前線で意味をなさない。第二の術は使えない、たった今奪われたから。第三の術も発動できない、完全に心を乱されてしまったから。
勝てない。少なくとも、アサシン単騎では。
ここは一旦、逃げるしかない。マスターへ報告し、既に補足していた他のマスターと同盟を組む形で態勢を立て直なければ。
貴方達の大切な『宝』を盗んでしまう、いっそ馬鹿馬鹿し過ぎて愉快にすら思える所業を為す盗人がいる。なんとしても倒すべき『快盗』、そんな連中を率いている樋口円香をこそ優先的に殺すべきだという情報を売り渡す対価として、連中に協力を仰ぐのだ。
算段を組み立てるアサシンの背中から、聞こえる声。かいとうちぇんじ。その解号と共に“赤”のアーチャーも鎧の姿に変身したのだと、アサシンは直感的に理解した。
恐れに耐えられず、後ろを振り向く。アーチャー達が、揃ってアサシンへ銃口を向けている。
引鉄が引かれ、放たれたのは闇夜の中でも輝く熱線。極光の帯となって到来し、アサシンの全身を焼き尽くした。
―-永遠に、アデュー。
世界から離別するまでの、残されたほんの僅かな時間。
その中でアサシンが囚われた感情は、怒りであった。アーチャーに対してではない。視界の隅に捉えた、何かを堪えるように片袖をぎゅっと掴んでいる、樋口円香に対してのものだ。
……この勝負は、貴様の勝ちだ。それなのに何故、貴様は瞳に喜色を宿さない。
屍を踏むのが嫌なら、最初から正義とか博愛とかの綺麗事にでも殉じるべきだった。
その道を選べなかった貴様に、善人ぶって痛みを噛み締める資格があると思うなよ。
◆
-
【2】
冥界の葬者達に共通するのは、意図してその資格を得たわけではないこと。
相違点があるとしたら、降りることのできない自らの立場を悲観するか、千載一遇の好機と捉えるか。聖杯を求めて最後の勝利者となることを願うか、そうではない道を模索するか、方針は別れることとなる。
それ故に生じる二つ目の共通点は、他者との衝突と決別は決して避けられないということ。
聖杯は貴方にあげますから家に帰してくださいという願いは、お前がここで死なないと私は聖杯を掴めないのだと否定される。犠牲の強要など承服できない、横暴の上に成り立つ奇跡などに頼らず、身の丈にあった生き方をするべき。そんな正論で誰もが納得するわけでないことなど、子供の身でも理解できる。
だから、どうあっても、自分は誰かを踏み躙る。救えない誰かがいることを、ごく自然に受け入れる。
それは、ある意味では、当たり前に生きていた世界の延長線上にある事実でしかないのしれない。
「終わったわ、マスターちゃん。とりあえず口封じはできたってことで」
「……そうですね」
姿が消えていく“青”と“黄”との簡素な会話を終えて、“赤”の鎧の下のクラシカルなタキシード姿をまた露わにしたアーチャーが、円香に状況の終了を告げる。
この聖杯戦争からアサシンは消滅し、少なくとも命を脅かされる心配が一つ減った。
何故、あのアサシンは円香の命を狙う判断を下したのか。当然ながら聖杯戦争に勝ち残るためで。円香を力のない弱者であると見做したからなのだろう。確証は、得られていないが。
どうして、アサシンは聖杯の獲得へ近づくためと思われる行為に及んだのか。何を願って、アサシンは円香を排斥しようとしたのか。推測のための根拠は、何も無い。アサシンの心情を汲み取るための機会など無いまま、すでに決着はついたのだ。
「あの、アサシンのマスターは、」
だから同時に、円香には知りようがない。アサシンの消滅により自らの死が確定したこととなるマスターが、今頃何を思っているのかも。
「……あーーー、いけね。悪い悪い、マスターに確認取らないでケリつけちゃった」
髪を搔きながら、アーチャーは詫びの言葉を述べる。
言葉に反して申し訳なさなど大して感じていないかのような笑顔を浮かべる様は、外見の年齢に相応の、いかにも若さの残る青年らしく見えた。
「あの、それは、」
「そこまで気が回らなかったわ。殺す気で来たんだから殺し返されて文句ないだろ? って一人で納得してた」
アサシンを取り逃すのは危険だ。次に会う時には、把握されてしまった自分達の素性や戦法についての対策を練った上で、徒党を組んで襲ってくるかもしれない。
第一、最初から一切の対話の余地も与えずに円香の抹殺を試みた時点で、穏当な和解の可能性を見出すのは難しかっただろう。
最優先とするべきは、より確実な円香の生存。そんな判断により、アーチャーはアサシンを処し、その連動でアサシンのマスターの命も奪った。
たとえ極小の可能性であっても人命が奪われずに済むことを目指したい、そんな未来を思い描いていたかもしれない円香から、全く了承を得ることも無いままに。
「ごめんな! ははっ」
「……アーチャー」
一見すると妥当な選択。しかし、仁義に反するやり方。
そんな結果を独断で齎したアーチャーの軽率さは、非難に値する。
何が従者だ、主の存命という条件で脅しをかける人でなしではないか。そのへらへらとした表情に向けて誹りを浴びせなければ、もうじき命を落とすだろうアサシンのマスターに対して申し訳が立たないではないか。
「気遣いは、無くても大丈夫です。わざと悪ぶらないでください」
……そういうことにして、アーチャーが悪いという話に纏めようとしているのだと。円香には、察しがついてしまっていた。
「いや、ここはわかんないままにしてほしかったんだけどさあ……」
数秒にも満たない程度の時間ではあったが、確かにアーチャーが円香を一瞥したのを覚えている。必殺の射撃の引鉄を引く直前のことだ。
言葉にされずとも、理解できた。アサシンを討つのを止めるなら今が最後のチャンスだがどうすると、円香に尋ねたのだ。
円香は、何も答えなかった。否、答えられなかった。問いに対してイエスとは示さないまま、ただの無回答で迎えたタイムアップ。
だから円香に責任は無いのだ、と言う気は毛頭ない。逃げ道を用意してもらう必要など、無い。
-
「もし猶予があったとしても、最終的にはアーチャーと同じ判断を下していたと思います。アーチャーが間違っていたとは、思っていません」
「説得はハナから無用だったってこと?」
頭を過ったのは、どうやらこの冥界には堕とされずに済んだと思われる、円香にとって身近な大人の顔だった。
もしも、同じ立場にいたのが彼だったならば。きっと、アサシンの説得を試みるのだろうという気がした。
あの人は、一人でも多くの人が幸せになってほしいと願う、真っ白な善性の人。決して残酷にはなれない人で、残酷なまでに目の前の誰かを救おうと足掻いてしまう人だから。
だから、自分達に敵意を向ける者達に対しても、あの人は誠意をもって向き合おうとするはずで。
だからこそ、諦めにも似た予感が芽生えてしまうのだ。この争いの渦中では、その尊い生き方が報われることなく、いずれ死んでしまうのだろうなと。
彼の在り方が間違っているとか、愚かだからとは思わない。切なる願いと悪意と死に満ちたこの地では、ただ場違いだというだけだ。
「……最初からそう考えていたのかは、自分でもわかりませんが。理想論が通用しない場所であるとは、薄々わかっていたんだと思います」
ああ、あの人がここにいなくてよかったと安堵して。
円香を助けると言ったあの人が今はそばにいないことに、苛立ちか悔しさのようなものを感じて。
死者が出たばかりだというのに、そんな風に第三者へと思いを馳せてしまっている自分自身に、また嫌気が差した。
「ただ、アーチャーに腹を立てていることがあるとすれば」
「お、何かある?」
「自分が悪者になれば私に罪悪感を抱かせずに済むと考えたところ、でしょうか」
「マジでお見通しかよ……」
円香を生かすために、ここでアサシンを討たねばならない。アサシンを討ったことで円香の心に残る傷を、最小限に留めなければならない。
これらの条件を達成するための効率的な最適解として、アーチャーは気付きを得たのだろう。
ああそうか、自分が円香の反感を買っておけばよい話ではないか……などと。
「自分から嫌われようとするのは、見ていて気分が悪いので」
「別に平気なんだけどな。俺、世間様のお尋ね者やってた身だし」
アーチャーの言葉に嘘偽りはなく、本当に他人から敵意を向けられることには慣れているのだろうと、わかっていても。
人が自らを貶めようとする在り方は、とても痛ましいものだと、円香は思わずにいられなかった。
「でもまあ、ここは謝っとくよ。あんたのこと、大事にしたつもりで軽んじてた。悪い」
随分とそっけない言い方に、しかし、アーチャーなりの礼儀を感じた気がした。
アーチャーは、人並みの善悪の観念を持っていて、その上で意図的に超えるべきでない境界線を踏み越えるタイプなのだろう
そこまで理解できてしまった以上、アーチャーを嫌うことは、できそうにない。
「……許します」
「おっ、ありがチュ〜」
「許す代わりに、私の我儘に付き合ってもらえますか」
「ん? ああ、危なっかしいのじゃなければ」
「今夜、ここで待たせてください。もしかしたら私に会いに来るかもしれない、アサシンのマスターのことを」
「危ないの出たよ……」
嫌いでない相手に言うことを聞かせるために条件を突きつけるのに、申し訳なさを感じないわけでもなかったが。
生き残り続けるために、どうしても必要な責務がある。そのための警護を、アーチャーに要求した。
「……別に、アサシンのマスターの命を救おうとも、今更許しを請おうとも思っていません」
確かな事実として、円香は勝者となった。
それは従えるサーヴァントの強弱により決したものでしかなく、二人のマスターのどちらが優れていたかという点によるものではない。
アサシンのマスターは、果たして何を願っていたのだろうか。ただ命が惜しかったのか、アサシンに無理やり従わされたか。享楽で人を殺したかったのか、当人なりの崇高な希望や大義を掲げていたのか。
その者は、未だに鬱屈を抱えたままの円香より、余程素晴らしい人物だったのか。聖杯という奇跡を求めないが故に、聖杯戦争で生き残るに値しないと見做されるかもしれない円香よりも、ずっと。
「ただ――」
樋口円香は、愚直なまでの善人で在ることができない。
全部をのみ込んで君臨する、怪獣の如き覇者としての在り方ができるわけでもない。
枷を解けないまま枯れていく、不完全な命なのかもしれない。
「……りょーかい」
それでも、決して、円香は死んでいないのだ。
◆
-
【3】
日付も変わり、街が寝静まった後の夜更け。公園に居残ったアーチャーは、ジャングルジムのてっぺんまで登ってみた。
見上げた先には、生憎星も輝いちゃいない夜空だけが一面に広がっている。どこまで高く飛んでも、仮初ではない本当の太陽までは辿り着けない、深い黒。いずれ永遠の夜を迎える国を覆う、黒。
皆の死だけが約束された闇の中で、アーチャーは一人、佇んでいた。
「Bonsoir. 一人での留守番に、退屈はしていないかい?」
「……呼んでないのに出てくるのかよ」
ジャングルジムの下から掛けられた、しんと静まる空気の中でよく通る声。
白黒の間の程よいバランスを感じる、グレーのジャケットを着た男の声だった。浮かべる笑顔は相変わらず爽やかさが過ぎて、却って胡散臭い。
三人チームとは少し離れた立ち位置の男だ。同じ卓で飯を食うこともある仲間には変わりないので、邪険にも扱わないが。
「誰かと語らわずにただ目を冴えさせるだけの夜は寂しいものだよ? 透真君と初美花ちゃんは……」
「初美花はマスターちゃん家で護衛。透真は偵察。俺が言わなくても大体わかってるだろ」
「ああ。僕はもしもの時に備えての待機要員、とっておきのジョーカーだからね。とはいえ、出番が無いのもそれはそれで退屈さ」
今のアーチャーは『弓兵』であり、『騎兵』ではない。
大地にそびえ立つ巨大な機械兵器を持ち合わせていないし、愛機だけを友にひとりで斗うだなんて真似ができる人外のボディも無い。更に言えば、光り輝く巨人になれるわけでもなく、ましてや怪獣などもってのほか。ただの等身大の人間だ。
その代わり、複数の人員が時にはそれぞれ単独行動を取り、時には一ヶ所に集って力を合わせて敵に挑む。そんな戦術を可能とする、『戦隊』の一員であることを強みとしていた。
「だから、暇潰しに付き合えってか?」
「魁利君との情報共有も兼ねてね」
ごく自然に真名を呼んでいるが、他の誰にも聞き耳は立てられていないので良いとしよう。スーツを脱いでいる時まで“色”で呼び合うのも、違和感があるのは事実だ。
じゃあ菓子でも買ってきてほしいんだけどな、と。アーチャー――夜野魁利は、ノエルという四人目の快盗への憎まれ口を叩く。
この調子だと、ノエルと喋っているだけで朝を迎えてしまいそうだ。
「……アサシンのマスターは、来なかったようだね」
「ああ。もう死んだんだろ」
「もしくは、運良く他の逸れのサーヴァントでも見つけられたか……というのは、希望的観測だね」
「それをいうなら運悪く……じゃないか」
この冥界で葬者という肩書きを与えられたマスター達は、サーヴァントを失った後、時間の経過と共にこの世界で無事に滞在するための余力を消費し、やがて正真正銘の死を迎えて霊となる。
死ぬまでの時間に個人差があるにしても、アサシンが消えてから十分に時間は経ったのだ。アサシンのマスターは、命を落としたと考えるのが妥当だろう。
顔も名前も、彼か彼女かも知らないが、確かに誰かが、死んだのだ。
――ずっと夜遊びは怪しまれるだろ。俺らに任せて、ここは一回帰っとけって。
――わかりました、ですが……もしマスターが来たら、いつでも呼んでくれて構いませんから。
夜も十時を過ぎそうな頃、それらしい建前を言い聞かせてどうにか円香を家に帰した。今頃はきちんと、布団にくるまって眠りについている頃だろうと、思いたいが。悶々とした思いを抱えたまま、まだ起きていそうだなという気もした。
苦難を自分一人で馬鹿正直に抱え込むのも考え物だぞ、とは機を見てそれとなく伝えたつもりではあるものの。他人の言葉で簡単に性分を変えられるなら、苦労は無いだろう。
これまでの人生で当たり前のように培ってきた、善悪に正邪、美醜といった観念が、聖杯戦争という場で否応なく揺るがされている。それでも、最後には自ら答えを出さなければならない問題に、円香は向き合っているのだ。
その苦悩は、決して魁利に理解できないものではない。
-
「魁利君から見て、僕達のマスター……円香ちゃんはどう見える?」
「……生真面目? 気難しい? なんつーか、自分の奥底までは踏み込ませない雰囲気出てる子だなーって感じ」
言いながら、もしかしてこれはお前が言うなというやつか? あの激動の数年間を振り返れば、さすがに俺だって性格に面倒な部分があることくらいちょっとは自覚するぞ? などと思っていると。案の定、ノエルは口元に手を当ててくすくすと笑っていた。
ここで噛みついたら猶更みっともない様を晒す気がしたので、見なかったことにする。
「……ま。それはそれで、付き合い方もあるでしょ」
「おや。ここは正面からぶつかって、事情の聴取をするところではないのかな?」
「そういう熱血ヒーローじゃ辿り着けないどん底の世界だから、俺らがあの子の前に呼ばれたってことじゃん?」
魁利が時に憎み、時に敬服した、オールドタイプな警察官の顔を思い出す。
もしも、世界平和に生涯を捧げた彼がサーヴァントとして召喚されるとしたら、その機会は、こんな犠牲の強い合いではない。冥界での戦争など、彼の出る幕ではないのだ。
世界征服とか、宇宙からの侵略とか、人理の焼却だとか。そういう万人にとっての危機に立ち向かい、誰もが無事に朝を迎えるための戦いにこそ身を投じる方が、彼には似合っている。
「大事な日常を、理不尽に奪われた……そんな女の子一人のためだけに戦うなんて、俺らの方が向いてるよ」
――ただ、最期に話ができるなら、そうしたい。
――私は、私が生きていることの重みを受け止めたい。納得して、あの場所(ステージ)に帰りたいんです。
――その過程で、誰に敵意を向けられても。息もできずに溺れ死にそうなくらい、苦しいものだとしても。
――……譲りたくない。願っていたい。
彼女が語ったそれは、魁利達が力を貸すには十分な理由であった。
世界など守れないし守る気も無い、極めて個人的な幸福のために戦ったアウトローにこそ、適任である。
魁利達は、『快盗』だ。失ったものを取り戻すために戦うことの、先達だ。
「避けられないなら蹴散らすし、逃げる時は全力で逃げるけど……進む時は、一緒に踏み出してやる。パーフェクトなコミュニケーションなのかはわかんないけど、俺らは俺らなりのやり方で、最善尽くすしかないってこと」
円香の味方であることは、態度で示せばよい。内に抱える事情や心情を、必ずしも問いただす必要も無いのだろう。
兄が、恋人が、友人が、恩人がどんな人であったかをお互いによく知らなかったけれど、それでも仲間と寄り添い合うことはできたのと、同じことだ。
円香の気持ちはなんとなくわかる。今はそれで良い。もしも円香が何かを打ち明けたくなったら、きちんと耳を傾けようと、心に決めておけば良い。
「確かに、どんな選択をしてどのように受け止めるか、最後には円香ちゃん自身に帰結することだ……もしかしたら、彼女には辛い結末になるかもしれないけれど」
「しょーがないって。結局死人にできるのは、ちゃんと帰れるように一緒に飛んでやるところまで。こんな闇夜から抜け出した後のことは、他のやつに投げるわ」
「頼もしい人間が、円香ちゃんの周りにもいてくれるだろうか」
「いるでしょ」
魁利は、さっぱりと言い切った。
皆が信じる不変の正義とは、普遍的な善意によって成り立つもの。清く正しい人が当たり前に生きられる平和な世界を守るために、警察官は人々の代表として正義の心を燃やしたのだ。
きっと円香のそばにもいるだろうまともな大人が、元いた場所に帰った円香のことを受け止めてくれる。傷と罰ばかりを体に刻みながらも、自分なりに幸せの結実を願って頑張った円香をありのまま愛してくれる人がいると、魁利は信じることにした。
だから、予告しよう。
陽だまりで待っている、知らない誰か。仮称、ミスター好青年。そいつの伸ばす手が届くところまで、必ず円香を連れて行く。美しい宝物を、在るべき場所に戻してやろうではないか。
「……でしょ? け〜いちゃん」
夜空へ向けて、語りかける。
闇を抜けた先の天高くまで、お日様まで、届くように。
-
【CLASS】
アーチャー
【真名】
夜野魁利@快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー
【ステータス】
筋力D 耐久C 敏捷A 魔力D 幸運B 宝具B
(ルパンレッド変身時)
【属性】
中立・悪
【クラススキル】
・対魔力:C
魔術に対する抵抗力。
詠唱が二節以下ののものを無効化する。
・単独行動:A
マスターからの魔力供給を断っても自立できる能力。
Aランクならばマスターを失っても一週間は現界可能。
【保有スキル】
・闇の中で笑う影:B
盗賊にとって有用な「気配遮断」スキルが、変則的な形で適用されたもの。
アーチャーは「①民間人に扮装した姿」「②快盗として正装した姿」「③戦闘用スーツを着装した姿」の三つの姿を使い分けて活動する。
上記の【ステータス】は、③→②→①と姿を変えるのに応じて下落していく。
その代わり、③の姿ではCランク相当で保有する「気配遮断」スキルのランクが上昇していき、①では姿を直接目視されようとサーヴァントであると認識できず、NPCとまるで見分けがつかなくなる程の完全な正体の隠匿が可能となる。
・正義のアウトロー:B
「混沌・悪」属性のサーヴァントとの戦闘時、プラスの補正を得られる。
「秩序・善」属性のサーヴァントが味方となって戦闘している時、アーチャーおよび味方のサーヴァントはそれぞれプラスの補正を得られる。
アーチャーが身を投じた快盗・警察・ギャングの三つ巴の戦いは、快盗と警察の共闘によりギャングが壊滅する形での幕引きとなった。
・仕切り直し:C
戦闘から離脱、あるいは状況をリセットする能力。機を捉え、あるいは作り出す。
また、不利になった戦闘を初期状態へと戻し、技の条件を初期値に戻す。
・足枷を外せ:A
精神干渉への耐性スキル、ではない。
負荷を強いられる状況においても、アーチャーはそれが最適であると判断したら、デメリットやリスクを承知の上で平然と行動する。
たとえば、「大切な人を殺さなければならない」という幻覚を見せる能力を使う敵と対峙した時。
幻覚それ自体を見ないという無効化はできないが、幻覚の中でその人を殺すという形で突破する道を選ぶ。
アーチャーは、正道を外れることを躊躇わない。
-
【宝具】
・『世間を騒わす快盗戦隊(ルパンレンジャー)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0〜10 最大捕捉:4人
アーチャーが同志達と結成した盗賊集団「快盗戦隊ルパンレンジャー」。
その在り方を包括した宝具。
一つ、アーチャーが回収して回った、大怪盗アルセーヌ・ルパンの忘れ形見「ルパンコレクション」の数々。
「VSビーグル」を中心に、生前に武装として活用されたものは一通り揃えられている。
二つ、ルパンコレクションを介して着装する戦闘用スーツ「ルパンレッド」、及びその姿への変身プロセス。
変身している間は、魔力量の消費ペースが若干増加する。
三つ、アーチャーの同志として活動した仲間『宵町透真』『早見初美花』『高尾ノエル』の、自分と同等のサーヴァントとしての召喚。
単独行動スキルで魔力消費の負担を補えているとはいえ、極端な多用は禁物。
・『異能の宝物庫の扉を開け(ガッチャ・トレジャー)』
ランク:C+ 種別:対宝宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
アーチャーと戦った異次元の怪人達は、ルパンコレクションを体内に格納することで特殊な能力を獲得した。
彼らの持つルパンコレクションを盗み出すというミッションの達成に伴い、敵を弱体化させることで、アーチャーは戦いを有利に進めることを可能とした。
その構図の再現。
アーチャーは敵サーヴァントが持つ宝具またはスキルの性能を把握した上で、敵の肉体上に出現させた「金庫」の扉を解錠し、その中に具現化させた「コレクション」を盗み出す。
この一連のプロセスにより、敵サーヴァントから能力を一つ喪失させることができる。
この場合の能力とは肉体に宿るものに限らず、たとえば「槍兵の朱槍に宿る、心臓への必中効果」「魔術師の短剣に宿る、魔術の初期化の効果」などの解釈も可。
ただし、成功させるためにはいくつかの条件が課せられている。
・能力の性能を正確に把握していないと、出現させた「金庫」の解錠は不発に終わる。
・能力一つにつき「コレクション」も一つ。別の能力も盗みたければ、改めて「金庫」を発生させる必要あり。
・高ランクの能力については、複数名での解錠を試みなければならない場合もある。
盗み出せた「コレクション」は、その時点で(見えない倉庫の中へと仕舞うかのように)一旦消滅する。
敵サーヴァントが失った能力を取り戻すには、アーチャーが消滅した時点で再度現れる「コレクション」をもう一度手にする必要がある。
なお、「コレクション」を入手したからといって、アーチャーがそれに宿る能力を獲得できるわけではない。
・『超越する赤銃(ルパンマグナム)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:1人
アルセーヌ・ルパンが愛用したとされる伝説の銃。
アーチャーのクラスの象徴かつアーチャー本人以外には使えないことから、『快盗戦隊』とは別の宝具として独立している。
武器としての特性は単純で、敵を絶対に撃ち抜くと言えるほどの火力・貫通力。
この銃から放たれた弾丸は、どんな防壁で塞がれていようと強引に突破する。
ちなみに。
アーチャーはライダーのクラス適性も持っているが、ライダーとして召喚された場合、この宝具を持参できない。
その代わり、今のアーチャーは「VSビーグルの巨大化・搭乗」の能力を持たず、従って合体ロボット型の宝具『鮮烈なる快盗騎帝(ルパンカイザー)』を解放できない。
・『朝日が照らす仮面舞踏会(パトライジング・マスカレイド)』
ランク:C+++ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:7人
アーチャーが持つ最後の宝具。
本当に必要となった時、アーチャーは太陽のように眩い正義に命を懸けた、宿敵であり友である者達の力も借りる。
ルパンレンジャーと対照の存在となる戦士「警察戦隊パトレンジャー」の三名『朝加圭一郎』『陽川咲也』『明神つかさ』を召喚し、総勢七名での総力戦に挑む。
彼らは「正義のアウトロー」の代替となるスキル「絶対のヒーロー」を保有している。
(「混沌・悪」属性のサーヴァントとの戦闘時、「中立・悪」属性のサーヴァントとの協力時に補正を得られる)
この宝具は「七名が揃う状況」を成立させるものであるため、一名だけ呼ぶなどの部分開放は不可能であり、『快盗戦隊』の四名も全員揃っていないと発動しない。
また、令呪一画の消費が必須であるほか、「パトレンジャーの三名が一切の迷いなくアーチャーの行動に賛同する状況であること」という条件も達成しなければならない。
【人物背景】
異世界からの侵略者集団に対抗した快盗戦隊のメンバー。
大切な人を氷の世界から取り戻すことを願った青年。
絶対のヒーローと相対した、正義のアウトロー。
【サーヴァントとしての願い】
個人的な願いは特に無し。マスターちゃんをおうちに帰すとしますか。
【マスターへの態度】
ほっとけない子って感じ?
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【マスター】
樋口円香@アイドルマスターシャイニーカラーズ
【マスターとしての願い】
生きて帰りたい。
その願いを叶えようとする私自身の在り方に、失望したくない。
【能力・技能】
アイドルとしては、それなりに評価されている。
【人物背景】
透明感のあるアイドルユニット「noctchill」のメンバー。
クールでシニカルな性格。プロデューサーに対しても冷たい態度をとる。
幼馴染である透が騙されることがないよう自分もアイドルとなった。
【方針】
まずは死なないようにする。
どう在りたいかを、考える。
【サーヴァントへの態度】
とりあえず、嫌いなわけではない。
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投下終了します。
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