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シン・アニメキャラバトルロワイヤル:||

1 : 名無しさん :2023/07/03(月) 18:00:07 e4A2DLKw0
アニメキャラにバトロワをさせるリレー小説です。
1st・2ndのようにジャンル不当古今東西のアニメをリストアップしました。

6/6【うる星やつら】
〇諸星あたる/〇ラムちゃん/〇面堂終太郎/〇三宅しのぶ/〇メガネ/〇サクラ先生

6/6【銀河英雄伝説】
〇ヤン・ウェンリー/〇ラインハルト・フォン・ローエングラム/〇オスカー・フォン・ロイエンタール/〇ジークフリード・キルヒアイス/〇ワルター・フォン・シェーンコップ/〇アンドリュー・フォーク

6/6【進撃の巨人】
〇エレン・イェーガー/〇ミカサ・アッカーマン/〇リヴァイ・アッカーマン/〇ライナー・ブラウン/〇ベルトルト・フーバー/〇ジーク・イェーガー

6/6【新世紀エヴァンゲリオン】
〇碇シンジ/〇惣流・アスカ・ラングレー/〇綾波レイ/〇渚カヲル/〇葛城ミサト/〇鈴原サクラ

5/5【刀語】
〇鑢七花/〇とがめ/〇鑢七実/〇真庭蝶々/〇真庭白鷺

4/4【中二病でも恋がしたい!】
〇富樫勇太/〇小鳥遊六花/〇七宮智音/〇凸守早苗

4/4【ドロヘドロ】
〇カイマン/〇ニカイドウ/〇心先輩/〇恵比寿

4/4【墓場鬼太郎】
〇鬼太郎/〇目玉親父/〇ねずみ男/〇水木

4/4【星のカービィ】
〇カービィ/〇デデデ/〇フーム/〇コックカワサキ

4/4【メイドインアビス】
〇レグ/〇リコ/〇ナナチ/〇ボンドルド卿

4/4【MONSTER】
〇Dr.テンマ/〇ヨハン/〇ルンゲ警部/〇グリマー

3/3【サウスパーク】
〇カイル・ブロフロフスキー/〇エリック・カートマン/〇ランディ・マーシュ

3/3【サムライチャンプルー】
〇ムゲン/〇ジン/〇フウ

3/3【STEINS;GATE】
〇鳳凰院凶真/〇牧瀬紅莉栖/〇橋田至

3/3【School Days】
〇伊藤誠/〇西園寺世界/〇桂言葉

3/3【秘密結社鷹の爪】
〇総統/〇レオナルド博士/〇デラックスファイター

2/2【AKIRA】
〇金田正太郎/〇島鉄雄

2/2【まちカドまぞく】
〇シャミ子/〇千代田桃

1/1【ONE OUTS】
〇渡久地東亜

1/1【ぼっち・ざ・ろっく!】
〇後藤ひとり

74/74

【まとめwiki】
ttps://w.atwiki.jp/shinanirowa/


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2 : 名無しさん :2023/07/03(月) 18:03:00 e4A2DLKw0
OP投下します。
登場キャラはデデデ、フーム、ランディ、とがめ他です。

ビジュアル確認用参加者紹介MADも作ったのでよければご視聴お願いします。
ttps://www.nicovideo.jp/watch/sm42435999


3 : 名無しさん :2023/07/03(月) 18:04:43 e4A2DLKw0
『間もなく日付が変わるという夜』
『某所』
『人類補完委員会招集会議』

―――準備完了のようだな、碇。
―――それにしても、こんな悪夢のゲーム.
    仮に自分が参戦させられたとしたらゾっとするな。
「左様ですね。」

―――さようですね、って。ハハ。
    碇、きみの息子もぶち込まれているのだぞ?この【バトルロワイヤル】に。
「分かっております。死海文書の記述通り行っているまでですので。」

―――やろうと思えば別の人物に代替もできただろうに。
    相変わらず血の通ってない男だな。
―――…まぁ、そんな軽率な行動行った時点で、君には死を与えるまでだがね。おかたい人間性のお陰で命拾いしたじゃないか。ハッハハ。
「…そのようになっておりますね。」

―――それでは進行を委任したぞ、碇。決してイレギュラーのないように。
―――我々の期待を無駄にしないでくれ給えよ。
「わかっています。すべてはゼーレのシナリオ通りに。失礼します。」

“碇”と呼ばれた男が会議室から出てくる。
扉のすぐ近くにいた老男――冬月コウゾウは、時計に軽く視線を注いだのち、口を開いた。
「碇、時間だな。始めるとするか。開戦、をな。」
「あぁ分かっている。文字通りの【悪夢】ナイトメアをな。」
コツン、コツン、と二人の靴音が静寂な深夜の廊下に響き渡る。
互いに無表情かつ無言のまま、向かう先である「モニタールーム」へと歩を進めていった。
以上、「主催者」のわずか数分ばかりの前日録である。


4 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/03(月) 18:06:47 e4A2DLKw0
『デデデの宮殿』

舞台は、王室の間へと移る。
かなり広々としたその部屋にて、多くの人間がゴチャゴチャと蠢いていた。
皆、何故この場所にいるか分からない――といった様子で、不安な声が充満する。
ここにも現状把握をできず「?」でいっぱいの男が。宮殿の主・デデデ大王である。

「エ、エスカルゴンこれは一体何の騒ぎゾイ??!」
「はいぃ?陛下がこいつらを集めたんじゃないゲスか?」

何だコイツも知らんのか?じゃあ、一体これはなにが起きてるのだ?
――といった様子で苦悩に表情を歪ますデデデ。
彼の視点で遡ってみれば、ぐっすりとベッドに入っていた矢先、突然妙にごちゃごちゃと話し声がしだしたもので、寝室を出てみたらこの有様、という次第である。
理解が不能な現状のため、デデデは放心に明け暮れたが、やがてフツフツと怒りが湧いてきた。
何があったのかは知らないが、国王である自分の間に下民共が上がり込んでいるのである。
周囲のざわめきが煩わしいこともあり、短気な彼は怒号をあげた。

「うぐぅぅーーーっっ…!!やかましいゾイ、うるさいゾイ、喧噪ゾイ!!貴様ら黙って聞け!!今すぐ全員ここから出て行けェッ!!消えないと即極刑だゾイ!」

デデデの罵声で周囲は静寂と共に彼に注目を始めた。
声の地鳴りのような大きさ故、反射的に振り向いた者もいるだろう。
まず口を開いたのは彼と同じくこの屋敷に住む王女・フーム。
常日頃からデデデを最低最悪最馬鹿の独裁者と蔑視している彼女はツッコミを上げた。

「ちょっと、そんな横暴な態度許せないわ!」

同じく常日頃から彼女が大嫌いな大臣・エスカルゴンがゲスゲスと割って出る。

「おいフーム!この状況で横暴もくそもないゲスよ、お前もさっさと追い出すよう動くゲス」
「あのねぇ、ちょっと周りに話を聞いてみたのだけれども、みんな知らない間にここに連れてこさせられたのよ!」
「ガハハ。それがなんゾイ?」
「つまりみんな被害者ってことよ、穏便に対応しなさいよ!」
「あー、ったく…クレーマーはうるさいゲスなぁ」
「国王なら普通あんなこと言わないわよ、極刑なんて物騒なこと言ってバカじゃないの?!」
「グフフッ、グフフ!ガーハッハハハハ!!物騒??この程度じゃ物騒に入らないゾイ」


5 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/03(月) 18:07:50 e4A2DLKw0
見るがいいゾイ、とデデデはどこからか巨大バズーカ砲を唐突に持ち出す。
まるで土管のようなサイズの銃口を大勢に向かって構えた。

「物騒とはこういうことゾイ!さぁ、全員10秒以内にゴーホーム!…5!4!3!」
「ば、バカじゃないの!!やめなさいよ!」

カウントダウンスタートと同時に皆一斉に出口へと足を速めた。
大砲が恐ろしく逃げる者が大半だが、呆れたように帰り支度を整え歩き出す少数の者もいる。
とにかく、皆この場に残る必要はないのである。
ニヤニヤと発射準備をするデデデを遠目に、大きな木造りの出口が開けられようとした、
そのとき、第三者の声が会場内にエコーした。

―――おやおや、皆さん。死にたくなきゃここから出ないほうがいいですよ?―――

「2!1!…って………。い、今の声は…!?」
デデデとエスカルゴンは目を丸くして見合わせた。
「ま、まさか奴は死んだはずでゲスよ!?」

声の主が予期せぬ知り合いだったのか、
驚愕で固まる二人のちょうど真上から大型のモニターが降りてくる。
映し出されたそこには、まるで営業マンのような正装のサングラス男が照明のない部屋をバックに映えていた。
かつての決戦で爆散し滅んだはずのメガネの男が大衆に向かって話を始める。

『動かずにいてくれて大変感謝でございます。私ナイトメア社のカスタマーサービスという者で、以降お見知りおきを。』
「カ、カスタマー??!ナイトメアが爆死したというのに何故生きてるゾイ!?」
『ははは、これはこれは陛下。
 まずは、皆さまをここに集めた理由をお話ししますのでそれをお聞きにお願いします。』

今にも出口を通ろうとした周囲の視線がカスタマーサービスに釘付けとなる。
自分らに集まってもらった理由。
すなわち、【悪夢】の開催宣言。
それが、今始まろうとしていた。

『皆様には今から最後の一人になるまで「殺し合い」をしていただきます。』

宮殿内は一瞬にして不穏なムーブとなった。
「殺し合い」…その言葉が人々を困惑と若干の恐怖へと誘って行く。
カスタマーの宣言に、フームは顔が引きつり「なっ…」と発するのが精いっぱいの様子であった。
その場は緊張で異様な静けさを見せたが、しばらくして突如大きな笑い声が空気感を張り裂ける。


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6 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/03(月) 18:08:35 e4A2DLKw0
「ガーーーーッハッハッハッハッハッハッハッハァ、ハハッハ!!!
 さすがはナイトメア社
 この巨悪の独裁者であるワシを退屈させまいと、わざわざ地獄から蘇って素晴らしいゲームを持ってきたゾイ
 ガーッハッハッハッハハァァァァーーーーーーー!!!!!!」
「それでは諸君、健闘を祈るゲス。ハハー!斬新な娯楽ゲス」
『ははは、気に入ってもらえたようで幸せでございます。』

デデデ、エスカルゴンの下衆な笑い声である。
ニタニタと愉快そうなカスタマーらに、先ほど同様、フームは憤りを見せ詰め寄っていった。

「あったまに来た!ちょっとふざけないでちょうだい!」

フームは怒気の言葉を続ける。

「あんたたちは知らないだろうけど、直接手を下さなくても、人に殺人を強要することは立派な犯罪行為よ!まさしく極刑じゃないの!」
「なら今日から我が国では殺人は無罪にするゾイ、ガーッハッハッハッハ!」
「…信じっられない!」

無茶苦茶な理屈で一蹴されたフームであったが、彼女の抗議が起因となり会場が鬱憤で広まる。
参加者の大半―――というかほぼすべての人間が文句を上げた。
エスカルゴンらはたちまち囲まれ、罵声だの雑言だので揉みくちゃ状態。
「殺し合い」計画は反対多数で破綻寸前なのだが、モニターのカスタマーは何事もないかのように涼しい顔で言葉を続ける。

『それでは具体的な説明を始めさせていただきますね。』
「コラ!馬鹿共!主催者サマがお話ししてるゲスぞ!…っておい殴ってくるなゲス、いたた!」
『皆様にはこれから殺し合い専用の島に送迎します。
 そこで、生死を掛けたサバイバルゲームを始めていただくという旨ですね。
 力のないお子様や女性の方に考慮して、武器を1人1つ支給しますのでそこはご安心を。
 最低限の食料飲料が入ったディパックも差し上げるのでご自由にお使いください。それで武器なんですが……』

カスタマーサービスは淡々と説明を続ける一方で、その眼下では見るも悲惨な暴動が続けられているのは言うまでもない。
デデデは怒りの暴力を受けつつも馬耳東風な様子で、説明をニタニタ静聴していた。

『…また6時間ごとに死亡者発表の定時放送を行うのですが、えーここからが重要な話なのですよ?
 この定時放送までに死人が出なかった場合は皆さま全員を処分させていただきます。
 えーー、皆さま、首になにか巻き付いていますよね?』

あー?首ぃ?
ふとデデデは、近くにいる参加者たちに目を向ける。
皆の首にはまるで飼われている犬っころのように、黒い金属が巻き付いていた。

そして、その首輪はエスカルゴンにも当然のごとく巻かれていたのであった。

「ぶっ…!ブーハッハッハッハ!エスカルゴンくん、残念だったゾイね」
「?何がでゲス」
「お前、首輪が巻かれてるゾイ。こいつの説明によるとそれは殺し合いの参加者の証だそうゾイ。ガハハハハーッ!殺し合いを楽しむがいいゾイ、ガハハ!」
「な、ななな、なんですとーっ!!?…って陛下あんたにもついてるゲスよ?」

目を合わせる二人。
しばし呆然とする。
え?ワシら、殺し合いをさせられる側なの?―――という思考で一杯になっていることは間違いない。
放心状態の末、二人は「くっかか…」と妙な笑い声を身震いしながら発し始めた。


7 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/03(月) 18:09:54 e4A2DLKw0
『おやおや陛下に閣下、勘違いしていたご様子で。ははは、
 それでは、皆さまには落ち着きを取り戻していただきたいので、見せしめとして1人退場してもらうことにしますね。
 えー、フームさん、ちょっと前に来てもら…』

「ワシが参加者なんて貴様あぁぁぁぁッーーーーーー!!!ふぅっーーーーっっっざっ!けるな!!ゾォォォォイ!!!!!!!!!」
デデデは激昂全開の雄たけびをあげた。
その手は首輪を引きちぎろうと必死になって力を込められている。

「こ、ここ、この私が殺し合いなんてありえないゲス!!参加者はせいぜいこのデブで十分ゲスよ!!!引きちぎってやる!!!!!」
同じくエスカルゴンも必死の形相。
首輪をノコギリでギリッギリギリギリギリギリッ、と音を立たせた。

二人の懸命な首輪の取り外しにはカスタマーサービスも難色を示したのか。
説明を中断し、困った表情で話しかける。

『いやぁー、それはさすがにまずい行為なのですがねぇ…。』
「黙れ!王であるワシにわんちゃんの首輪はめて殺し合いなんて、猛抗議ゾイ!」
「この私が殺し合いなんて間違いでゲス!ギリギリギリギリリリリイイーーーーーー!!!!」

首輪と格闘する二人はすっかり周囲の嘲笑の対象。
ざまぁみろ・バーカなどと言われたい放題だが必死の首輪解除は手を休めなかった。
頭を抱えたカスタマーサービスはやがて何かをあきらめた様子でエスカルゴンらに問いた。

『…首輪から、なにか音とか出ていませんよね?』
「うるさいゲス!音なんてもちろんさっきからピーピー鳴ってるゲスよ、もう、ギリギリギリイーーーーーー!」
『はぁ、それは残念でございます…。どうやらお別れのようですな、大臣。
 皆さん、彼に注目を。もしも首輪を外そうとしたり私に逆らった場合はこうなります。」

改めて補足する必要はないだろうが、この首輪には爆弾が取り付けられている。
爆発の規模自体は小さいが、それでも首と胴体を分離させるほどの衝撃力を備えているのだ。
まさにそれを象徴するが如し。パンッと爆竹のような破裂音と小さな閃光の後、エスカルゴンの首は床に落ちた。
最初の見せしめの死因は、自殺だった。

【ドクター・エスカルゴン@星のカービィ 死亡確認】
【残り75人】


「うわああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「いやあああああああっ!!!」

会場から恐怖の悲鳴が轟く。
一番、慄いていたのはエスカルゴンの返り血をきれいに浴びたデデデであろう。
親しかった大臣が一瞬で亡きがらになった事実もさることながら、首輪引きちぎりに成功していたら自分もこうなっていた未来に、声を失い尻もちをついた。
あれだけの大口はどこいいったのか。「エ、エスカルゴ…お前…」と顔を真っ青にしてぼやくばかりである。

『死ぬのが嫌でしたら、黙って殺し合いをするのが一番賢明かと。』
「ほんとに…うえっ…ほんとに信じられ、ないわ…!!力で抑えつけて苦しめさせるなんて…!ううっぇ…」

白目を剥いて噴血を続けるエスカルゴンの残骸にフームは口元を手で抑える。
パニックに陥る宮殿内の中、フームはそれでも怒りでモニターを睨んでいた。
主催者に絶対逆らってはいけない、ということは分かっていながらもその正義感は絶ゆることはなかったのだ。

「…あんたは絶対に…許さないわ!!絶対に殺し合い反対…!ナイトメアなんて今すぐカービィがまた成敗、敵討ちしてやるんだから!」
『フーム様、見せしめは1人でもう十分なのですがね〜…』
「な…なに!わたしも首を落とす気なの!あんたは本当にゲス外道だわ!
 カービィ、早く来て!カービィ、カービィ!」

涙を少しこぼしながらもモニターと敵対するフーム。そんな彼女の肩にふと手が置かれる。

「お嬢ちゃん、ここは少し抑えて…。かなりまずいと思うぞ。」


8 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/03(月) 18:10:21 e4A2DLKw0
―――声を掛けられる。
振り返ると、髭面の男が心配そうにこちらを制止にかかっていた。

「そ、そんなの分かってるわ…で…どぇ…でもこんなの、抗議しないと…」
「おいおい君はまだ子供だ、俺が…話を付けてくるよ」
「え…ちょ、ちょっと!」
「口では強がってるけどお嬢ちゃんだってあんな死に方したくないだろ?なぁ。マザーファック野郎とは俺が言ってくるさ」
「そ、それは…」
「まぁちょっと待っててくれ…な?」

髭面の男・ランディは身震いしながらもモニターの最前へと歩いて行った。

『これは【サウスパーク】のランディ様、なにか言いたげなご様子で。』
「いや、私は殺し合いに反対する気はまったくないんですよ?まったくないんだけれども…
 あんな小さい女の子や子供にまで強制させるなんて、そらあんまりじゃないかー、みたいな?少しくらい解放してもいいんじゃないかなー、的なのがあるんじゃないですかなー。と。
 大体、殺し合いをしてこっちにメリットがないというか…やる気なんて起きないし…」
『ほう…、参加者の解放は難しい話ですが、メリットならあると言えますよ?』
「は?え?なんだって?」
『何せ最後の一人になった者には「なんでも願いをかなえて」差し上げるのですから。』
「え?え?え??願い??」
『「限度額いっぱいの賞金をよこせ」なんて願いもどうです??』
「…………。」




パァンッ
発砲音が一つ。
ランディの持つ拳銃から消炎が立ち込める。
銃弾はたまたま近くにいた不幸な少年の眉間を丁寧にぶち抜き、赤白い脳漿を散乱させた。

「ありゃ…チェッ、弾一つしかなかったよ…」


「この人でなし!!」

【ケニー@サウスパーク 死亡確認】
【残り74人】


程なくして、ランディはにこやかにフームの元へと帰ってきた。
絶句そのものの顔で見上げるフームに苦笑いしながらランディは報告する。

「あーっ…ごめん!お嬢ちゃん!交渉失敗しちゃった…。やっぱ殺し合い続行で感じのようだ」
「あっ…あぁ…嫌ぁ!!ちょっとなにしてんのよあなた!!!」
「いや聞いただろ?なんでも願い叶えるだぜ?そういうご褒美があるなら、この殺し合いもまた経験の一つと捉えていいじゃないか、と。」
「そんなありえないありえないっ!あなた、最低…過ぎるわ!!」
「うーん…アンタには分かってもらえないか。まぁいいや」

フームに諦めの視線を流したランディは、彼女から離れ宮殿の中央へと歩き出す。
そして、彼は大声で【宣言】を発した。

「お前ら聞いたか!!あのカスタマー先生によると、生き残ったやつには願い叶えてくれるらしいな!
 俺の願いはまさしく『金』!!ついでに『マリファナ』も大量にお願いしちゃおうかなー?!
 俺はゲームに乗ったぞおおぉ!!このマザーファッカー糞野郎共!!!」

――ー殺人宣言である。
フームの目には完壁なる狂人にしか映らなかったのだが、狂人はランディ一人のみではなかった。
よく見渡せば、宮殿内の雰囲気が先ほどまでと違う。
「願い」という言葉の魔力に乗せられたのか、みながみな殺し合いに態勢を整えているように見える。

「よく言ったゾイ!ワシもゲームに乗って!そして、願わくばカスタマー、貴様の解任ゾイ!!ガーッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」

首輪という脅威と、願い。
この二つによって殺し合いに抗議の意を持つものなどフーム、ただ一人しか残されなかった。
反対多数であったゲームは崩壊することなく始まろうとする。

「ダメだこりゃ…もう終わりよ…」

フームはとうとう頭を抱えてうなだれた。


9 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/03(月) 18:10:48 e4A2DLKw0
絶望するフームを傍目に、先ほどのランディ同様モニターと会話する者が一人。
真っ白な長い髪を腰まで伸ばした、その若い女は、事の混乱にまるで動じないそぶりで何やら「タイトルが云々〜」とカスタマーサービスに問いただしている。

『ほう、公称、ですか…』

「左様。私はこの体験をのちのち実録として綴ろうと思考巡らしている。
 それで、この殺し合いの「公称」をそのまま題目にしようと思うのだが、なにかあるのであれば教え頂きたいものだ。」

質問者である女性・とがめに、カスタマーサービスは一瞬悩んだ顔をしたものの、回答を口にした。

『そうですか、そうですか。あーそれなら、確かこうでしたね。――――』

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『ネルフ本部』

暗いスペースの中、モニター越しにこの惨状を確認する者がいた。
本ゲームの主催者の一員にして、総司令・碇ゲンドウ、ならびに冬月の二人である。

「困ったものだな。イレギュラー2件だぞ、碇」

「死ぬはずでなかった参加者2人が死亡したうえに、本来なら見せしめに使うはずの弾が生存している。…イレギュラー3件だな」

「ゼーレの老人たちを言いくるめるのもだいぶ大変そうだな」

「まぁこの程度のイレギュラーならあの方々も許してくれるだろう。『バトルロワイヤル』始動に問題は発生しなかったのだから。」


冬月はニヤリと微笑む。

   殺し合い―――理由は不明。
   目的もまた、不明。

「フッ…『バトルロワイヤル』。あと10秒ほどで始動だな。このゲームで死海文書の全てに決着がつく。」

   ただ目の前には逃れえぬ残酷だけが待っている。


「あぁ、このバトルロワイヤル。いや…――」



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「『【ファイナル・ウォーズ】を――――――――。』」



   勝ち取れ、この闘争で。矜持を。




【FINAL WARS(バトル・ロワイヤル) 午前0時を以て開始確認。】


10 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/03(月) 18:12:24 e4A2DLKw0
以上0話「FINAL WARS」投下終了です。
以下ルールテンプレ説明に入ります。

【基本】
殺し合いをして優勝者は願いをかなえられます。
他従来通りなので以下略。

【スタート時の持ち物】
ゲーム開始直前にプレイヤーは、開催側から以下の物を支給されます。

「デイパック」は、他の荷物を運ぶための小型のリュックサックです。これに以下の物が詰められてます。
・懐中電灯
・水と食料(レーション(シン・エヴァンゲリオン劇場版:||)orナナチごはん(メイドインアビスに登場するゴミ)、チェリオorモンスター(実在の飲料))が1食分ずつ
・名簿(五十音順)
・武器
・ランダムアイテム
内容はランダムであり、アイテムの数は各企画で判断されます。

地図、コンパス等は配布されていません。


【「首輪」と禁止エリアについて】
首輪はエヴァンゲリオン新劇場版:Qに登場するもので、爆発するとプレイヤーは必ず死亡します。
プレイヤーが死亡した場合首輪は機能停止して取り外し可能になります。
他従来通りなので以下略。

禁止エリアについてですが、1時間につき外側から円周1km程度ずつ立ち入り禁止になります。
つまり、時間が経るごとに行動範囲が狭まっていく感じです。


11 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/03(月) 18:12:59 e4A2DLKw0
【放送について】
放送は数時間ごとに行われます。時間間隔は六時間です。
他従来通りなので以下略。

【能力制限について】
特にはありませんが一部能力制限が以下あります。
・巨人化不可能(エレン、ライナー、ジーク、ベルトルト)
・扉の出現不可能(心先輩)

それ以外は基本無制限です。
カヲル君はATフィールドを使えますし、エレン等は致命傷を受けても死にませんが、そのへんは「御都合主義」で上手い事進めるようお願いします。

【アイテム】
・携帯電話@Steins;Gate
橋田至の支給品です。
実行者が任意の過去の時間まで1分間だけ戻ることができる「完全なるタイムマシン」です。
参加者1人につき10回まで遡れます。(それ以上実行した場合は、警告メッセージが出たのち首輪が爆発します。)
1分経過した瞬間、元の時間帯に戻らされますが、1分の間で過去改変をすることができます。
なお、ゲーム開始前まで戻ることはできません。

・キクラゲ@ドロヘドロ
恵比寿の支給品です。
死者蘇生の魔法を持っています。(本ロワでは蘇生はアリです。)
損壊の激しい死体(ミンチ状、焼死体など)には効果がありません。
ちなみに、蘇生はキクラゲの完全気まぐれで行われるので飼いならさない限り自由に扱えません。
回数制限は特にありませんが、あまり酷使をするとやつれます。

【書き手の方々へ‐禁止事項】
シン・アニロワでは以下の描写を禁止とさせていただきます。
・第3回放送までの作品キャラ全滅
・度の過ぎたキャラ崩壊
・他小説・ssの完全盗作
・参戦アニメ作品以外のキャラクター・実在人物の登場

上記を行った場合、申し訳ありませんが展開の改変・微編集(盗作に関しては破棄)を勝手にさせていただくのでご了承ください。


12 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/03(月) 18:13:34 e4A2DLKw0
【予約】
予約期間は5日です。
登場させるキャラ名をトリップ付きでお願いします。

以下、コピペ用

【A1/1日目/深夜】
【@】
[状態]:
[装備]:
[道具]:食料一式(ナナチごはんorレーション、チェリオorモンスター)
[思考]基本:
1:
2:
3:
[備考]

【プロット】
・主催者は碇ゲンドウ筆頭にNERV(新世紀エヴァンゲリオン)、黒幕はナイトメア(星のカービィ)です。(※追加OK)
・最終回(エピローグ)のタイトルは「シン・スターウォーズ(1st・2nd・3rd・IFの全四話)」の予定です。
 銀英伝、うる星、カービィ等宇宙の作品が多いので、生き残ったメンバーが銀河にいるナイトメアらと最後の戦争をする、という内容にしたいと思っています。(あくまで予定です。)


13 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/03(月) 18:21:04 e4A2DLKw0
以上ルール説明でした。
参加者詳細はこちらから→ttps://w.atwiki.jp/shinanirowa/pages/10.html
地図はこちらから→ttps://w.atwiki.jp/shinanirowa/pages/14.html

おまけでOP風MADを作ったのでなんとなく雰囲気を楽しんでください
ttps://d.kuku.lu/b4desxz4y


14 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/03(月) 18:21:43 e4A2DLKw0
次回(予約) 富樫勇太、とがめ
『恐怖の…殺人遊戯<ファイナル・ウォーズ>』
またみてね!


15 : 名無しさん :2023/07/03(月) 20:08:36 YgLwdHAk0
新規ロワ解説お疲れ様です

開始早々ケチをつけるようなことになってしまうので、
非常に申し訳なく思うのですが一つ確認をしておきたいことがあります
新世紀エヴァンゲリオンは公式が「過度の暴力的、グロテスク表現の二次創作の公開は控えてください。」とされてます
某ウマや某バンドのように絶対禁止とはされてませんが、此方については出して大丈夫なのでしょうか


16 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/03(月) 21:30:43 e4A2DLKw0
>>15
ご質問ありがとうございます。
エヴァ自体流血描写が多い作品なので、カヲルの首チョンパ未満のグロ表現ならセーフだと考えております。


17 : 名無しさん :2023/07/03(月) 22:10:39 YgLwdHAk0
分かりました
わざわざお手数おかけしてすみません


18 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/03(月) 22:30:19 e4A2DLKw0
>>17
いえいえ、お気になさらず。
作品チョイスは私の完全独断専行なので、意見や確認はむしろどしどし頂きたいほどです。


19 : 名無しさん :2023/07/04(火) 01:24:53 sRujr6SQ0
新ロワ開催乙です
他のロワでは見ない顔ぶれが多くて楽しみ
そしてぼっちちゃんぼっち参戦なのかわいそ……


20 : 名無しさん :2023/07/04(火) 10:21:18 ogA2ida20
シンスレ乙です
参加者紹介MADも見せてもらいましたがかなりの力作で凄いですね
参加者もバリエーション豊かで今までにあまりロワ参加したことがないキャラも多いので楽しみです
質問なんですが、MADだとエヴァやうる星やつらは新旧の映像が混じっていましたが出典はどちらになるのでしょうか
エヴァは新劇の破終盤からTV版とはかなり展開や設定が変わっていますし、うる星やつらもメガネを出すなら旧版じゃないと把握ができないと思って
自分は未把握なので詳しいことは言えないのですが、銀英伝も新旧どちらをメインにするのか明言されたほうが混乱がなくなると思います


21 : 20 :2023/07/04(火) 10:38:37 ogA2ida20
失礼しました、ウィキのほうを見てみるとエヴァ(さくら以外)、うる星やつら、銀英伝いずれも旧版準拠と書かれてますね
自分の確認不足でした


22 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/04(火) 12:17:05 JS8JC5QI0
コメントありがとうございます。
ぼっちちゃんはまあ本人もソロプレイの方が気楽でいいんじゃないですかね。笑

>>21さんからも紹介にあずかりましたが、参戦時期は以下の通りです。
ttps://w.atwiki.jp/shinanirowa/pages/15.html
ちなみに銀英伝は新旧共にほぼストーリーは変わりませんが、primeで全話無料な旧版の方が把握が楽なのでそちらをお勧めしたいですね。

それでは富樫・とがめで第1話投下始めます。


23 : 中二病でもころしあい! ◆UC8j8TfjHw :2023/07/04(火) 12:18:01 JS8JC5QI0
『 ようこそ諸君。
 君たちはまだ見ぬ何かを、説明のつかぬ神秘を求めている。
 だからこそ、この書物を手にしたのだ。
 それでは本邦初公開、ことの始終を読み聞かせしよう。
 嘘まやかしは一切ない。
 全てはこの恐怖の殺人遊戯を生き延びた哀れな人々の証言に基づいたもの。
 …そして、それはこれを綴った筆者自身も体験した出来事。
 さあ、もうこれ以上隠しておくことはできない。
 果たして諸君らの心臓はこの悪夢の如し衝撃に耐えることができるだろうか。
 この殺し合い―――ふぁいなる・うぉーずの真実を…。』


「―ー以上が冒頭の書き出しだ。“だーくふれいむますたー”勇太よ。お主はどう感想を抱いた?初見の読者ならさぞ恐れおののく入りではなかろうか?そうであろう?」
「…いや、どうって…。とりあえず、僕の名前は全部伏せてくださいよ?!」

殺人遊戯ファイナル・ウォーズ(仮称)…。
江戸の世に生きし奇策師・とがめは同じく不運にもこのゲームに巻き込まれた現代の学生・富樫と同行することとなりました。
果たして、二人はどんな体験をしていくのやら。
そして、とがめはここから生還し、この体験を綴った本を書くことができるのやら。
――なんて。まあこんな書き出しで、こんなところから。
碇ゲンドウ主催・まるでB級映画のような殺人ゲーム。
シン・アニメキャラバトルロワイヤル【刀語の巻】、始まり始まり♪でございます。


24 : 中二病でもころしあい! ◆UC8j8TfjHw :2023/07/04(火) 12:18:21 JS8JC5QI0
 ■         ■

 無人島。
島といえば、海です。つまり今回の舞台は浜風が涼しい波打ち際の様子。
「殺し合いって…中二全開だな、こりゃ」
 荷物を色々いじくりながら、体育座りの一人の男子がぶつくさと呟いておりました。
―――彼を形容するなら『普通の男子高校生』でしょう。やや癖毛のある茶髪の、しわのない制服を纏う標準的な体型。
外見、そして中身までも普通の富樫 勇太。それが、彼の名前でした。
 彼が行っているのはこの殺し合いの場で誰もが必ずと行う支給品確認。
バッグの中の銃を取り出すや「俺の武器…モーゼル?馴染みあるモノを用意しやがってな…」――等というようにツッコミをぼやいていました。
 次に取り出したのは参加者名簿でした。
それを目にした途端、彼の表情はどこか決心したような顔つきに変貌します。
「六花、待ってろ…絶対動くんじゃないぞ」
六花――とは勇太と共に生活をする女学生・小鳥遊六花のことで、いわば恋人のような人間です。
彼女がこの殺人鬼がうろつくゲームに参加させられていると情報を得た彼は立ち上がり始めます。彼女を守るために――。
「あーーーー〜っ、面倒だ…!あいつ絶対にマジになって他の人たちに迷惑かけるぞ!」
 否。
彼女から参加者を守るために。
この殺し合いをエイプリルフールな冗談としか考えていない勇太は、中二病で暴走するであろう彼女を止めに動いたのでした。
「おまけに七宮に凸守って…知り合いの常識人0じゃないか!こんなだだっ広い島でどこにいるか分からないっていうのに…あーーーーーーー…」
面倒だ。――と。
彼は困り果てたご様子でした。
 そんな時です。
「そなた、場が場だ。私を決して恨むでないぞ。」
「…………!」
 勇太の背後で甲高い女性の声が発せられました。
やや驚きつつ振り返る勇太。
その女性の一番の特徴といったら一片の曇りもないほどに白い伸ばした髪でしょう。
釣り目で、見るからに気の強そうな顔立ちのその若い女性。彼女は刀をこちらに向けていたのです。――刃長四尺反り一寸足らずの細い刀を。
「富岳三十六刀候が一人、壬生傘麻呂の初期作品だ――。見るからに戦とは無縁の平民であるそなたを殺めるのに勿体ない刀であるが、まぁしばし斬られる光悦に浸るといい。」
「え?ふがく??あの―、なんですか?」
「返答など期待しておらぬわっ!いざ参る!ちぇりおーーーーーーーーーっ」
 威勢のいい掛け声と共に勇太に向かって女は刀を振り上げました。
どうやら彼女は、前述通り勇太がバカにしていた―殺し合いにマジになっちゃう<マーダー>な人のようです。
突如の襲撃に勇太は思わずたじろぎ、身を引きます。
「わ、わっ!やめてくださいよ!!」
 勇太が反射的に掌を前に出したちょうど、「ぎゃふん!」という発声と共に彼女が倒れ伏しました。
それは、単に彼女の足元に張り出した小岩に足を取られて、無様に顔から地面に叩きつけられただけだったのですが、
「お、お主…わ、私になんの奇術をかけたっ?!!」
「は?はぁ…?」
勇太が手を出したタイミングと転ぶタイミングがたまたま合致しただけあって、彼の気功でねじ伏せられたと彼女の脳内は導き出してしまいました。
 これが、平成を生きる男・富樫 勇太と江戸を生きる奇策師――とがめの出会いであったのです。


25 : 中二病でもころしあい! ◆UC8j8TfjHw :2023/07/04(火) 12:18:43 JS8JC5QI0
 ■         ■

(奴は、見た目じゃ分からぬが、例えば「合気道」に似た未知の武術の持ち主…。下手に動くことは私の危機となろう…。)
「ま、待て。そなた、不相応にも挑んだ私が悪かった。一旦話し合おう、話を」
「いやいや!何もしないですよ!あなたが勝手に転んだだけですって」
 戦意喪失。
 不戦勝。
 目の前の男子にとがめはひたすら弁解を繰り返しました。
江戸の浮世を生きしとがめにとって、現代の高校生スタイルである勇太の恰好が不気味に思えたのでしょう。
彼女曰くつかみどころのないこの男に必死で弁舌を繰り広げました。
「確かに、私は力は懦弱に等しい!例えば土佐のノラ犬と決闘したら浄土行き間違いなしと自他ともに認めるわけだ。
 だが、だが、だ!それにしても一切触れず、ちょっと手をかざしただけで倒すことができるとはお主は本気で何者だ!」
「石かなんかにつまずいたんじゃないでしょう!大体お主って…僕は富樫勇太っていうんですよ」
「お、お、おう!勇太とやら!名乗りが遅れたな、わ、私はとがめ!」
「はぁ?と、十亀…?(沖縄の人か…?)」
「すっとぼける余裕がある点、勇太はよほどの強者と見た!そなた、私と組んで天下を取らないか?」
「天下??色々大丈夫ですか?!」
「ほー、ほうほう!そうであろうそうであろう!それはこの世に生を受けたからには当然天下を欲するものだ。野心の強さを恥じることは無い。先の大乱も記憶に新しいが…
 ――――ってえ、大丈夫だわい!!大丈夫とは頭の話をしとるのかー!勇太!」
 大焦りで命乞いに似た弁解をするとがめに、勇太は頭を抱えてしまいました。
なんだか勝手に話を薦められ、天下布武がどうの将軍がどうのだのと、彼からしたら参ったものでしょう。
(…なんだこれは?)
 とりあえず黙って話に頷く勇太。
やがて、彼はある結論に至るわけです。
中二病という多感な時期を過ごした彼だからこそ見抜いたとがめの本質を。
(中二病、だな。)―――と。
 しかも、
(変化球の)―――と。
 要約するととがめは、自分を江戸時代のおサムライさんと思ってる特殊な中二病患者で、六花らと同じ問題児参加者の一人ではないかと。
実際は、参戦した時代の相違からなる誤解だったのですが、現実主義の勇太はそう解釈をしました。
中二病ならマジになる必要ないよな、と本気にしなくなった勇太。
(やれやれ…仕方ないな。)
普段から世話役として六花の相手をしてあげてる彼は、とがめに“合わせる”ことにするようです。

「ハーーーーーーーーッハッハッハッハッハァーーーーッ!!!!よくぞ我が正体を見破ってくれたなッ、とがめよッ!!
 我は漆黒の勇者にして堕天王【ダーク・フレイムマスター】ッ!!
 貴様の命など取るに足らんが勝者の特権として、私の僕<しもべ>となるが良いッ!!!!
 さあ、両腕両足となり我を支えるが良いッ!!ハアアアアアアーーーーーーーーハッハハッハッハッハッハァァァァァッ!!!!!!!!!」

「な、ななななな、なんだ!?おのれはぁぁぁーーーーーーーっ!!?!?!?」


26 : 中二病でもころしあい! ◆UC8j8TfjHw :2023/07/04(火) 12:19:23 JS8JC5QI0
 ■         ■

  ――冒頭の文章はここから数十分後の話であったのです。
こうして心を中二に偽装した勇太とそれに敗けた女・とがめはともに行動することになりました。
行く先も、行く末もとがめはまだ知らぬふぁいなる・うぉーずの旅に。待ち受けるのは鬼か邪か。
―――素性不明な魔導師<だーくふれいむますたー>と共に。
シンアニロワ、今宵のお楽しみはここまでにございます。

【H8/1日目/深夜】
【富樫勇太@中二病でも恋がしたい!】
[状態]:健康
[装備]:モーゼル@実在の銃
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:六花、七宮、凸守を探す
1:とがめさんの相手は面倒だ…
2:中二病の相手は面倒だ…
3:間違いなくマジでとらえてる六花を探す
[備考]
※バトルロワイヤルを質の悪い冗談と思っています。本気にしていません。
※とがめを江戸かぶれの中二病と思っています。

【とがめ@刀語】
[状態]:額にコブ
[装備]:壬生傘麻呂の刀@刀語
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:なんとしてでも生き残る
1:体験記を綴る
2:ダークフレイムマスターには逆らわない
3:勇太、掴みどころのない奴…!
[備考]
※勇太を超能力者のようなものと認識しています。
※参戦時期は長髪の頃、七実死亡前の旅の道中のどこかです。


27 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/04(火) 12:23:32 JS8JC5QI0
以上終了です。
物凄い今更ですが、「参加作品に新しいアニメが少なすぎる」という意見&個人的主観が生じたので【推しの子】や【機動戦士ガンダム 彗星の魔女】など2作品程度と入れ替え(or追加)を検討しています。
あくまで検討の段階ですが、ご意見のある方は何なりとお申し付けください。


28 : 名無しさん :2023/07/04(火) 17:45:15 IR8I0.bw0
投下乙です、雰囲気が容易に想像出来るいい作品でした
あと、作品入れ替え(or追加)に関してこちらの意見としては良いかと思います
比較的に珍しい参加者ラインナップで興味を引きますが、一部作品が絶妙に「何か扱いづらいなぁ」なのが個人的には見受けられます
一人でもやり切るつもりならそれでいいですが、書き手集めてってなると少々敷居が高いかと思います
(第三回放送まで全滅作品禁止ルールの方も人によっては縛りきつくないとか言いそう)

少なくとも最近めのアニメや話題のアニメを入れるのは十分ありだと思います
(水星ならロボアニメであることも踏まえて最終戦で宇宙バトルやりたいであろう企画主の趣向にも一致しますし)

後、ケチ付けるような言い方になってしまって申し訳ございませんでした


29 : 名無しさん :2023/07/05(水) 00:12:05 UpG3gC7A0
投下乙です
富樫くん、君が厨二病と思ってる女は参加してるロワでだいたいマーダーやってるやべー奴だぞ……

追加作品に関しては書き手の皆様にお任せします、どちらも好きな作品なので参戦すると嬉しいですが、数が増えると負担も増すと思うので……


30 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/05(水) 22:05:07 Cmiz.kXg0
>>29
感想ありがとうございます!
西尾ロワ見るあたり、とがめはステルスマーダーに走る可能性があるので勇太危機一髪と予想です

>>28
ご意見ありがとうございます。
私自身も指摘されるまで書き手様への配慮が足りないことに気づかないなんて愚昧極まっていました。
遅ばせながら、頂いた意見を元に以下のルール改訂を行いました。
>>・第1回放送までの全滅禁止(ぼっちざろっく、ワンナウツ除く)

また、今日から7月9日0時までの期間で参加作品の入れ替え投票を実施します。
シンアニロワに参加させたい2023春アニメ3作と、要らないと思う>>1の作品3作を皆さまご記名お願いします。

【例】
[追加希望]【【推しの子】】【マイホームヒーロー】【機動戦士ガンダム 彗星の魔女】
[排除希望]【銀河英雄伝説】【まちカドまぞく】【うる星やつら】

投票結果で上位3作品の入れ替えを実施します。
誠に勝手ながらでありますが、当ロワの執筆環境改善のため協力願いたいです。


31 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/05(水) 22:09:25 Cmiz.kXg0
追加対象の春アニメは以下の通りです。

ttps://www.animatetimes.com/tag/details.php?id=5228


32 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/10(月) 00:01:13 TtlNQtgA0
投票締め切り時間となりました。みなさん暖かい投票ありがとうございます。
結果、以下の作品が入れ替え対象となったことをお伝えします。

【銀河英雄伝説】0票【MONSTER】0票


33 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/10(月) 00:02:49 TtlNQtgA0
そして、新たに以下の春アニメキャラクター参戦が決まりました。
(※水星の魔女は私の作品把握が追い付かなかった為、妄想スレ9の609様から拝借させて頂きました。)

6/6【機動戦士ガンダム 水星の魔女】
○スレッタ・マーキュリー/○ミオリネ・レンブラン/○グエル・ジェターク/○チュアチュリー・パンランチ/○エラン・ケレス/○シャディク・ゼネリ

4/4【【推しの子】】
〇星野ルビー/〇有馬かな/〇黒川あかね/〇MEMちょ

4/4【マイホームヒーロー】
〇鳥栖哲雄/〇窪/〇麻取義辰/〇麻取延人

また企画者推薦として、テスト板の「今こそ シンアニメキャラバトルロワイアルをしないか?」にて最多投票を得た以下のアニメ作品の参戦も決定しました。

5/5【スパイダーマン:スパイダーバース】
○ピーター・B・パーカー/○マイルス・モラレス/○ペニー・パーカー/○スパイダーハム/○アーロン・デイヴィス


34 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/10(月) 00:04:24 TtlNQtgA0
このメンツで「シン・アニロワ」を再始動させてもらいます。
ロワ未参戦キャラ、扱いづらい作品のキャラは私がssを書いて下地を作るので、みなさん気兼ねなく投下をお願いします!
参加者名簿;ttps://w.atwiki.jp/shinanirowa/pages/10.html

#02 「よやく・ざ・ろっく!」
後藤ひとり、リコ、ムゲン
ぼっち「…見てください!」


35 : Re;Re;私しかいない街 ◆UC8j8TfjHw :2023/07/13(木) 00:56:51 IzOBPnPg0
海辺の近く。
塩辛い匂いが心静まる波音と共に漂う。
真っ白な満月が映える心安らぐスポットだ。
ここに桃色の長髪の若い娘が一人、彼女は結束バンドのギター・後藤ひとり。
彼女が何故こんなところにいるのか。それは、殺し合

「あ、あ、…も、もういいですよ?じ自分で話進めますカラ……」


それは、殺し合いによ

「あ、あ、ちょっと…私がその、か、語り手する、て…ていうか」

…………
殺し合いによって集められた哀れな被害

「な、なぁーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!

 いやいやいやーーーっ!!もう本当に意味意味意味が分からないよーーーー!!!
 私的にはあんなに人が集まる場にいただけでも精神的ゲージが限界なのにーーーーーーーーー!!
 な、ななななんなの???殺し合いってーーーーーーーーーーーーーー!!!

 しかも、虹夏ちゃんとか知り合いが一緒にいたらまだ楽だったけどーーー!…いや、いてほしくはないか……。
 ともかく!!知人とかいてくれたらまだなんとかなりそうみたいな感じだったけど0じゃん!!!!
 周り他人しかいないじゃんーーーーー!!!!!そ、そそ、それってつまり」

簡単に殺されちゃうじゃん…。
ナ、ナンデ私ガバトロワ参戦デスカァァーアアアアーーーー。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


36 : Re;Re;私しかいない街 ◆UC8j8TfjHw :2023/07/13(木) 00:57:45 IzOBPnPg0


……
ハッ…!
妄想に入っちゃってた…
この状況で現実逃避はまずい、まずすぎるよ…。
とにかく人目つかない場所に隠れないと。
あ〜っ!どっかにないかな〜!フナムシが家族団らんしてそうな岩陰は…。
…あっ!あった!
あそこに速攻退避だ!

…はぁ。
普段から思ってる事だけども、人に絶対会いたくない。
この状況においてはほんとに会いたくない。
陽キャな人なら好戦的な人にあっても話し合いとかでワンチャンできそうだけど、私コミュ障だし。
多分命乞いとかすらできないよ、どもっちゃって。
今までインドアだったことが深く悔やむ…。

波音、癒される…。
そういやこんなきれいな海、殺し合いで連れてこられなきゃ絶対見ることなかったなぁ。
そう思えばファイナルウォーズ?ってのも悪くなかったりして。…って何無駄なポジティブ思考してんだ私はー!

あっ!そうだ!
110番しちゃえばいいじゃんか!
なに殺し合いに流されちゃってんだ。通報したらそれで解放されるじゃん。
幸いにも私ポケットにスマホいれっぱだったんだよな〜。
警察24時とか見る限りちょっぴり怖いイメージあるけど、今はそう言ってられないよね。
どもるの我慢してさあ通報!ピポパ♪っと

『ーーーーーーーー…もしもし』

「ひっ…!」

[通話終了。]


…あれ?
え、え、な、なんで私、通話終了を押しちゃったんだ…?
やっぱ人と話すの怖かったから?こんな状況でなんでそんな…
…あああっ、待て。
いや間違いない…。
私は感知したんだ…!「危険」を…!通報して得る「ハイリスク」を…!
だって、冷静に考えてみてよ。冷静に…。


37 : Re;Re;私しかいない街 ◆UC8j8TfjHw :2023/07/13(木) 00:58:06 IzOBPnPg0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そもそも私おまわりさんと上手く対応できるか?って話だし…


警察「もしもしー、あっ殺し合いですね。分かりましたー」

私「ア、ア、アウ、で、できれば早めでほんとに、は、早く…………!!」

警察「あw関係ないけどキミなんか面白いしゃべりだね」ニヤニヤ

私「あ、あ、うぐぐ〜〜〜…な、ななんでもないでひゅ…」ガチャッツーツーツー

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それは置いといたとしても、仮に取材なんかされちゃったら…絶対…


ニュースキャスター「殺人教唆でメガネセールスマン容疑者を逮捕しました。中継です。」

リポーター「生存者の後藤さんですよね?現在のお気持ちは。」

私「あ、あ、あ、あ、あの…その、あ!あう…サイアクデス…………」シドロモドロ---

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
で、そんな人絶対SNSで晒されちゃうわけで…


「【悲報】昨日の取材受けてた殺し合いの被害者女WWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWW」
1 名前:名無しざろっく 20xx/xx/xx(月) 15:21:26.58 ID:AniroWaIFww
放送事故だろ

2 名前:名無しざろっく 20xx/xx/xx(月) 15:21:40.34 ID:JfdJfreh561
目合わせないのガチ草

3 名前:名無しざろっく 20xx/xx/xx(月) 15:23:42.67 ID:JHIhfedwn7
一生ネットのさらし者決定wwww

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そのあと待ち受けるのは交友関係完全崩壊しかないでしょおお?


虹夏ちゃん「あー、ぼっちちゃん…ひ、ひさしぶり〜^^」

リョウ「ぼっち、テレビ見たよ。あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、」

虹夏ちゃん「wちょ、ちょっとリョウったら!!…あ、気にしないでよねぼっちちゃん!www」

私「…ムググ…むぐぐぐごごおおおおおおぉぉお」



\(6д9)/人  生  オ  ワ  タ  確  定\(6д9)/

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ずヴぁああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!
 絶対こうなるんだ!ずヴぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」

はあーーーーーーーー〜〜〜…っ!危ないっ危ないっ…。
反応したんだ…!
考えるより先に体が通話終了を押した!性<さが>で…!危険な気配…!
警察に電話なんてしなくてよかった…
…んじゃあ、これからどうすればいいんだ?
黙って殺し合いに流されるしかないの?うう…。


38 : Re;Re;私しかいない街 ◆UC8j8TfjHw :2023/07/13(木) 00:58:36 IzOBPnPg0
〜♪

…なんで私ギターなんか弾いちゃってんだろ。
自暴自棄。もうおしまいだから好きなことして逝こうって思考なのか。
酷過ぎる。
なんでこんな目にあってんだ私は。
あんまりだよ。

「フフン〜♪あんまりだ〜♪気づいたら死亡確定イベント〜♪こんな不幸な人間ワタシ以外にいるのかな〜〜♪」

〜♪
帰りたっい〜♪帰りたぁい〜♪あったかホームに帰りたいぃぃ……♪
帰りたい…。
もういいから誰か楽に殺っちゃわないかな…。はぁあ…。

「いい音!それなんていう楽器なのかな?」
「ヒッ、う゛おおわっ!!!」

わ、わわっ、ビックリした…!!
私はゆっくりと頭を上げ、声がした方向を見上げる。
ちょうど岩場の真上にて、声の主は金髪でメガネをかけたちっちゃな女の娘だった。
ちびっ娘の透き通った声が響いていく。

「わたしリコっていうの!あなたの名前はなんていうのかな?一緒にこのファイナルウォーズを止めましょ!」
「ふ、ふへっ…ふへぇえっ!?わ、わたしはご、後藤ひちょり…だ、だけど皆からぼっちて呼ばれてて…と、止めるってあ、あのちょっと…私は無理っていうか…っていうかていうか〜〜〜〜〜…」
「…??」

ふ、ふへえ〜〜〜…。
初対面の人と話すの久々すぎて変なこと言っちゃってたらごめんない、って感じですぅぅ…。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「へぇーーーっ!ギターっていうんだ、その楽器!なんだか心が高まる?っていうか独特な音してるよね!」
「ふ、ふひっ…!…あはは、そうだよ…ギター最高だよね…リコちゃん。…へへへ………」

ひょんなことから…私はこのちびっ娘リコちゃんと行動を共にすることになった。
私はソロプレイで行動したかったんだけども…。
まあ「私的出会いたくない参加者の特徴ランキング下位」に入る『人畜無害なキッズ』に遭遇したのは不幸中の幸いかな。
にしても、リコちゃん、テンションたっかいなぁ…。


39 : Re;Re;私しかいない街 ◆UC8j8TfjHw :2023/07/13(木) 00:59:01 IzOBPnPg0
「ぼっちさんって音楽家なんだ!わたしたちの町ではそういう音楽活動家さんは祭りの時でしか見ないから興奮しちゃうなー!!ねえその楽器どこで売ってるのかな?なんか弾いてみてよ!」
「ふへ、へぇ…。リコちゃん元気だねぇ…ふへ…」

いくらキッズといえど、こういう陽キャタイプは心底波長が合わないース。
波長が合わない人とは疲れるから付き合うの大変…。ふっへえ…。
ところで、さっきからどこ進んでるのかな…。
リコちゃん先頭切ってどんどん歩いて行ってるし。

「ん?どこ目指してるって?ほら、ぼっちさん森を抜けた遠くに城あるでしょ!あそこ!」

えー?城…?
うわ、遠っ…。

「ふへぇ…あ、あそこに行きたい、と…。リコちゃんどうしてそこに…?あんまり動いたら怖い参加者さんたちに、あ、会っちゃうかもよ?」
「そう!それが目的なの、ぼっちさん!道中で出会う他の参加者と話をして、私たちの仲間に引き入れるのが本質なのよ!」
「…え、えーーー?あ、あんまり出くわさない方がいいんじゃないかな〜…?わ、私みたいに人畜無害無抵抗人間ばっかじゃないと思うよ…?」
「大丈夫!たとえ攻撃的な人に会ってもちゃんと話し合えばなんとかなるよ!
 それに、わたし友だち作るの得意なんだよね!レグにナナチにプルシュカ!元居た町にもたくさん友だちいるんだもん!」

…私、有害であれ無害であれもう人と関わりたくないんだけども……。
そんな考えなんて全く汲み取ることなく、リコちゃんは好奇心を宿したキラキラした目で暗い森の中へと入っていった。
やたらでっかいツルハシをブンブンと振り回しながら歩いてくリコちゃん。
アレがリコちゃんの支給武器かー。不相応な…。っていうかこんな状況でよく陽キャな人らはテンション上がれるよなー…。
…はああ……。
にしても、支給武器…ねぇ…。

「あっ!ところでぼっちさんは何の武器貰ったのかな?さっきメガネのおじさんが説明してたよね!」
「…武器、私の武器ねぇ…。」
「…?」
「なんてか、ふへへ…、無いんだよね。私の武器………。」
「えっ!えーーーーーーーーーーーーーーっ!!無いのー!!?」

そう。
ここに着いた当初、粗方探してみたがディバックには食料以外全くないのだった。武器、なしだよ…私。
他の人も無いんだろうな、さっきの説明は誤りなんだろなー、なんて最初は思ったがリコちゃん思いっきりやばいの持ってるし。
やっぱ私だけなんだろな…。武器0は。

「可哀想…あんまりだねぼっちさん…。この森の中、猛獣とか出るかもしれないから武器あったほうがいいのに…!」
「うぅ…リコちゃん、わ、笑えるよね…。殺し合いで武器0って…ふへへへぇ…」
「いや全然笑えないよ!本当に気の毒で哀れで悲劇なぼっちさん!武器なしなんて信じられない!これからどうするのか考えた方がいいよ!」
「な、そこまで言わなくても………リ、リコ」
「もしもわたしとはぐれちゃったりしたら…、そしてぼっちさんが凶悪な人に襲われでもしたらグチャグチャに…、
 あー本当にかわいそう…、神様哀れなぼっちさんをお救いお願いします…!」
「そ、そんな怖い仮定言わないでよおっ!!う、うぐぐう、う、……あぁあ…」

ズヴァヴァヴァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!
わ、私殺されちゃうんだあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!ええひゃああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
せめてお玉とかでも支給してよおおおおおおおー!!!!!!!!!!!!
うわあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!

「うわっ!ぼ、ぼっちさん大丈夫!?急に倒れちゃって!」
「ずヴぁっヴぁっヴぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!死にたくながやあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!」

……
意識が遠のいていく………。
あぁそうだこれは夢なんだ。夢に決まっている。
………
目が覚めたらわたしは校舎裏の誰もいないところでギターの創作をするんだぁぁ…。ふへへ…ふへ…。
………
……


※|^∀^|ギター「説明しよう!ぼっちちゃんはすーぐ現実逃避しちゃうクソ雑魚ツチノコなメンタルなぁ〜んだ!」


40 : Re;Re;私しかいない街 ◆UC8j8TfjHw :2023/07/13(木) 00:59:23 IzOBPnPg0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

ぼっちさん、いきなりうずくまっちゃってどうしたんだろう。
微動な痙攣を起こしてるし、お経みたいにうーうー唸って苦しそうだし…。
…〜っというわけで、わたしリコは今薬草探しをしています!
腹痛と頭痛の効能があるツウナンワ科の植物を宛にしているんだけども、
…中々見つからないな。
うーーーん…。というかこの辺り知識にない野草や花しかないんだよなぁ。
よく見渡せば周りの木々も図鑑で見たことない種のものだし…。
ここって一体アビスの何層付近なんだろう…?
あっ、そうそう、レグにナナチ!
2人とも絶対わたしのこと心配してるよー…。
急にいなくなってどうしたんだ、って聞かれたら困っちゃうなぁ。

ヘルメットの電灯が暗闇の森を照らす。わたしはいろんなことを考えながらしばらく捜索を続けた。


……
………
ふぅ…。だめだ。
薬草どころか見知っている植物が全然ないや。
多分ここは未知の層、もしかしたら最深部なのかもしれない。
どうしてそんなとこにわたしいるんだ?って考えちゃうけど、とにかく一旦ぼっちさんの様子を見に行くか。
もう20分くらいほっぽりだしちゃってるしね…。

「おいクソガキ、飯持ってるかあ?」
「え!」

ビックリしたあ。背後からの野太い呼びかけにわたしは振り向く。
赤い着物でボサボサ頭の大男が苛立たしそうにこちらを見ていた。
第二の参加者さん、遭遇!

「まぁー…飯持ってるよなそりゃ。ちょっと貸せ」
「え!!ちょ、ちょっと!わたしのバッグ!」

うわっ、ディバッグ鷲掴みにされた!
勝手に中身漁ってるしー、
あ、でも多分この人飢えてて礼儀どころじゃないんだろな。ちょっと気持ちわかる、ていうか仕方ないよね。
男の人は缶詰を抜き取るとガツガツと瞬く間に食べ干しちゃった。
右手に持ってる真黒な剣はあの人の支給品かぁー。嗚呼ぼっちさんますます気の毒。

「食べ終えたようだし自己紹介!わたしはリコ、あなたもファイナルウォーズを止めるべく一緒に行動しましょ!
 向こうにもわたしの友達いるから今紹介…」
「んじゃ、食ったことだしとりあえず」

っっ!!!!痛ぁっ!
右手の先の激痛に顔を歪めた。
え…?わ、わたしの指が、斬れ落ちてる……?
鮮やかな血が川のように流れていく…。痛い、痛い…。

「死ね、ガキ」

目の前から発せられた野太いその声にわたしは背筋が凍った。
今、その男の人は自分の真っ黒い刀を振り下ろさんばかりに掲げている。
嘘……?この男の人、わたしを殺そうとしてるの…?
そんな、顔見知りでもない人に「殺し合いをしろ」って言われてそんな簡単に実行しちゃうの…?
有り得、有り得ない…。
こんなことで。
こんなことでわたしの人生が終わるなんて、
…あり得ないよっ。


41 : Re;Re;私しかいない街 ◆UC8j8TfjHw :2023/07/13(木) 00:59:49 IzOBPnPg0
「…どうしてっ!!どうして簡単に殺しなんてしちゃうのよ!!!
 ご飯もあげたし、一緒に冒険する雰囲気だったじゃない!!
 ねえっ!どうして!どうして一緒に協力できないの!!ねえ!」
「…あーーーっ、喧しい。俺はそういうガキが大嫌いなんだよ。ガキはいつでも必要以上に喚く。うるさくて鬱陶しいぜ」
「そんなの答えになってないじゃない!
 ねえ、殺し合いなんてやめてっ!考え直して!!!」

人を傷つけて何が愉しいというの?その刀でわたしを斬って満足するの?
みんなで提携すれば、協力すればこの悲惨な状況も打開できるというのに!
涙が急に溢れてとまらなくなってきた。
それは切断された指の苦痛によるものじゃない。この男の人への憤怒が転換されて起きた作用だっ。

「わたしはこんなところで死ぬわけにはいかないの!!お母さんのいる場所に行かなきゃいけないんだから!
 だからあなたも刀を下ろしてっっ!!」
「だからうるせえっつってんだろうがゴラアッ」

その怒号と共に刀が一気に振り下ろされる。
わたしは思わず目をつぶった。
どうしてこんなことに…。嫌だ、絶対にこんなところで終わらせたくないのに…。
リコさん隊は最深部まで絶対に不滅のつもりなのにっ…。
レグ、ナナチ……。
それに、ぼっちさ…。


ガガガガガガアアア―――――――――――――――――――――ッッ
ガガアアアアアアアアアアア―――――――――――――――――――――――――
ガガアアアアアアアアアアア―――――――ガガアアアアアアアアアアア―――――――――――――――――――――――――

  大音量の【ライブ】がそれまで静かだった森中を響かせた。

     騒然たるその【ライブ】の音が。

 この騒音はほんの数十分前に間近で耳にしたあの【ギター】の音。

「ああぁっ?!うるせえっっ!!!」

死が間近だったわたしを救ったのは、遅れてやって来た英雄…
“ギターヒーロー”だった――――。

「この音、ぼっちさん!」


42 : Re;Re;私しかいない街 ◆UC8j8TfjHw :2023/07/13(木) 01:00:08 IzOBPnPg0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆―――演奏開始。◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


In the city where the neon lights shine,
Underneath a moon that hides the secrets of time,
We're rebels with a cause, we break the chains,
In this concrete jungle, where nothing remains.

ガガアアアアアアアアアアア―――――――ガガアアアアアアアアアアア―――――――――――――――――――――――――

「うっせんだよゴラアアアァアアァッッ、どこにいやがるッ、出てこいやあッ!」

森中に、ロックの爆音が響き渡る。
その轟音は、古い木々を揺らし、真っ暗な樹海を震わせる。
漆黒の夜空に広がる星々も、その響きに呼応するかのように輝きを増していく。
このファイナルウォーズの離島にて、Bocchi The Live【第1部】が始まったのだ。


We are the renegades, the wild and untamed,
The heartbeat of this nation, where dreams are reclaimed,
With our fists in the air and the passion we share,
We'll rock this world, we won't disappear.

「見つけ次第ぶち斬ってやるっ、探してやっからなゴラアアアアッ!」
リコちゃんを殺そうとした大男は、その轟くギターの悲鳴に耐え切れず音のする先へと走っていった。
短絡にも、獲物を放置して。


From the outskirts to the heart of the crowd,
We sing our anthems, we shout it out loud,
The melodies we weave, the stories we tell,
Through every verse and chorus, we rebel.

ガガガガガガアアア―――――――――――――――――――――ッッ

このギターの主は、もちろん私。
指は痛覚をあっという間に通り過ぎ感覚がなくなった。それでも私は弦を弾くのを止めない。
私はまだ、演奏をやめられない。
それは、リコちゃんをあの男から遠ざけたい、っていう思いがあるから―。

「とっにかくその喧しい音やめろやああっ、てめぇえええええっ、バカかゴラアアアアアア!」

幸いにもこれは自殺行為にはならない。
何故なら、ここは無数の木々が立ち並ぶ森。
しかも、真っ暗な深き闇で包まれている大樹海。
いくら大音量を鳴らそうとも、そう簡単には見つかりっこない。
私は移動しながら弾き鳴らしているし、絶対とは言えないけども鉢会いはしないはずだ。


In the shadows, we find solace and grace,
With every chord we strike, we leave a trace,
In this symphony of rebellion, we find our release,
Through distorted riffs, our souls find peace.

「見つけ次第絶対切り殺してやるっ、だから出てこいやああっ、うっっっせんだよテメェエエエエエッッ」
ヒッ…、チンピラのような男の怒鳴り声が近くから聞こえる。
怖い…、怖くて仕方ない…、
だけれども。

――リコちゃん、さっき武器がないって私言ったよね…。
でもようやく見つけたんだ、私の武器。
この『ギター』が。このギターこそが私の武器なんだ――。
最悪な殺し合いを、劣悪な現状を、
私はこの武器から奏でる『音』で変えてやるんだ――――!

だから…、

「ふへえっ…リコちゃん、ごめん正直一人で逃げようか迷った…。」
「わっ!ぼ、ぼっちさん!!!」
「さ、早く奥まで走るよ!リ、リコちゃん!」


I was born care of you...


43 : Re;Re;私しかいない街 ◆UC8j8TfjHw :2023/07/13(木) 01:00:26 IzOBPnPg0
演奏終了…――。
私は周りを見渡す。ヤクザのような罵声が響くものの、追手はいないようだった…。安心…。
ふとリコちゃんを見る。
ううっ、ふへえ…。血にまみれた指がかなり痛々しい…。
とりあえず今は、リコちゃんの指が切断されてない方の手を握りしめ、森の奥へと足を速めた。

私たちは暗闇の中で迷路のような道を進んでいく――――…。

【G7/1日目/深夜】
【ムゲン@サムライチャンプルー】
[状態]:憤慨
[装備]:絶刀鉋@刀語
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:皆殺し
1:爆音を鳴らすバカを見つけて殺す
2:クソガキを殺す


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

ぼっちさんと一緒にひたむきに進んでいく。
進むほどに、周囲はますます密林と化していく。
幾重にも重なった枝葉が夜風に揺れ、足を進めるごとに目の前が漆黒になる。
……助けられたんだ、わたし、ぼっちさんに…!
ほんと感謝しきれないくらいだ!なんて頼りになる参加者の人と巡り会えたんだろう。
お礼の言葉今のうちに言わないと!

「ね、ねえ!ぼっちさ…あっ!」

彼女の顔を見たわたしは思わず見開いた。
ぼっちさんのその目には『緑色の螺旋』が――。
形容するのなら、まっすぐな意志と閃光のような命の輝き。そしてその螺旋は<天を突き、無理を押し通す。>
そう言い表していい物が眼に宿っていたのだ。

「ハァハァ…、ん?リ、リコちゃんなにかな…?」
「あ、なんでもないよ!うん!なんでも!」
「…?あぁ、そう…。ゼェハァ、ゼェ…」

わたしたちはいまだ走り続けている。
ふと考察する。
あの目の螺旋はもしかして。さっきの演奏によって未知なる力を宿した証なのでは…?
この殺し合いの現状を打破することができる、そんな覚醒能力が。

歓喜と期待に似た感情にわたしは思わず、身震いをしつつ走り抜けた。

「リコさん隊、いっくぞぉーーーーーーーーーーっ!!」


【――螺旋力、覚醒確認】


44 : Re;Re;私しかいない街 ◆UC8j8TfjHw :2023/07/13(木) 01:00:50 IzOBPnPg0
【G7/1日目/深夜】
【シン・リコさん隊】
【後藤ひとり@ぼっち・ざ・ろっく!】
[状態]:健康、螺旋力覚醒(?)
[装備]:エレキギター@実在の楽器
[道具]:スマホ、食料一式(未確認)
[思考]基本:とにかく帰りたい…
1:とにかく今は走る。
2:城を目指して進む。
3:リコを守りたい。
4:ほかの参加者に会いたくないなァ…。

【リコ@メイドインアビス】
[状態]:健康、右人差し指・中指・薬指欠損
[装備]:無尽鎚@メイドインアビス
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:殺し合いの打破
1:とにかく今は走る。
2:城まで進む。
3:参加者と会ってリコさん隊に入れる。

※ムゲンを危険人物と認識。
※かなりの広範囲でギターの音が響き渡りました。

↑リコ「見てぼっちちゃん!状態表っていうのよコレ!面白いね!」スタタタ
ぼっち「ふ、ふへへえ?! ふへ!?思考までか、書いてるし!!」スタタタ
ぼっち「こんなんじゃヤらしいこととか考えたら筒抜けじゃないですかァーーー!ヤダァッーーー!!!6д9;;」
リコ「へ?そんなこと考えてるのっ…?」
※|^∀^|ギター「ちなみに螺旋力はあくまでパロディなのでマジに扱わないでほしいかもぉーー!」


45 : Re;Re;私しかいない街 ◆UC8j8TfjHw :2023/07/13(木) 01:04:03 IzOBPnPg0
投下終了です。
シン・参加者紹介映像(水星推しの子スパイダーマイホーム追加分)を作ったのでこちらもご視聴ください。
ttps://www.nicovideo.jp/watch/sm42470475

次回(予約) 「シン・海より深い父の愛」麻取義辰、麻取延人


46 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/13(木) 01:13:42 IzOBPnPg0
ちなみにロックの歌詞はAIに作らせた架空の物です。


47 : ◆C0c4UtF0b6 :2023/07/13(木) 07:09:55 2lCDi3jk0
投下乙です
ぼっちちゃんで完全に草生えた
AIも使いこなすとは、恐れ入った


48 : 名無しさん :2023/07/13(木) 09:21:54 0zIf/nZg0
投下乙です
感激〜、後藤さん螺旋力強いのね〜
まだまだ戦力に不安が残るシン・リコさん隊ですが少しでも生き残れるといいなぁ


49 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/14(金) 20:23:49 LFl8XLWw0
>>47
感想ありがとうございます。
ぼっちちゃんは何となくメイアビのヴエコに寄せて書いたのですが割と違和感なくて驚きましたw

>>48様、ありがとうございます。
ほんとだ〜…こんなに強かったんだぼっちちゃん〜…。
開幕早々大怪我したリコですがなんだかんだしぶとそうなイメージなんですよね。


50 : シン・海より深い父の愛 ◆UC8j8TfjHw :2023/07/14(金) 20:25:43 LFl8XLWw0
それでは、投下します。
回転率重視で書き上げた物なので描写不足は目を瞑っていただきたいです。(あとで即修正します。)


51 : シン・海より深い父の愛 ◆UC8j8TfjHw :2023/07/14(金) 20:26:22 LFl8XLWw0
――なんでこんなコトになっちまったんだっ…?

「オラアッ!!」
イライラが頂点に達した俺は、矛先を身近にあった自販機にぶちまける。
蹴りを三発、四発、五発。
破片は散乱しガラスも粉々、自販機は完全大破。
「マジでどうなってんだよ!訳わっかんねぇし!この畜生がっっ!!」
クソッ…まだ収まりつかねぇ…。
なにが殺し合いだ?なんでこの俺がそんなくっだらねェもんやらなきゃいけねぇんだ。
本当に理解できねぇ。
あぁ…あぁああ……
あああああああああああぁぁっっ!本当に意味わかんねぇしムカつくんだよ!!
「死ねやゴラアアアッ!!!」
俺はもう一発自販機だった物にお見舞いしてやった。
チッ、ざまあみろクソッタレ。

…ハァ、ハァ…。
俺は自分に対し偉そうな顔をしやがるやつが大嫌いだった。
小学校時代、もめた同級生にエンピツをぶっ刺して失明させてやった。
中学時代、威張ってばかりの無能な先輩にフルスイングをかまして不具にさせた。
高校時代は肩をぶつけてきやがったみみっちい男の目の前で彼女を犯して土に埋めてやった。
そして、俺は成人式を終えた後、酔った勢いで2人の女をまわしてぶち殺した。
だから、殺しなんて今更躊躇なんてないはずだった。
だけどよ…。

「俺は勝ち残れるのか?この殺し合いで…」

なんなんだこの体の震えは…。
不安を感じてるのか俺は…。おいおいっ。
…チクショウ…チクショウ、チクショウ!!
畜生ッ!!ああああああああぁああ!!!
…あぁ、やってやる。
やってやるよ、俺様がよぉ!
急いで全員ぶち殺して、俺一人だけが勝ってやる…ッ。
「あっ…そういや武器がどうとか言ってやがったな…」
いつの間にか背負わされてるディパック。
クックク…、
割と重みがあるから結構なモンが支給されてるだろうぜ。胸が高鳴るっつーの。
俺はさっそく中身を探り求めた。…って、これは…。


52 : シン・海より深い父の愛 ◆UC8j8TfjHw :2023/07/14(金) 20:26:52 LFl8XLWw0
「お、おいおい…マジかよ…」

…は…はははっ、ははぁっ!
本物のチャカ?しかもこれ絶対組で使うようなもんじゃねぇか。
一応俺も組織の一員だが、一回も触らせてもらえなかったんだよな、銃。
他の参加者共がナイフだのチンケな物貰ってる中、当たり武器引いたとなりゃテンション上がるぜっ。
さっきまでの不安は吹き飛んじまった。
銃を持つと気分が変わるな!

「俺は最強…!延人爆走伝説!…ふふ、ふふふっ…」

俺こそが優勝者だ!ひっひひ…。
…んああっ?なんだこの紙は?

――
あー…、他にはこいつらが殺し合いしてますよー、って一覧表か。
どれどれ見知った名前は……。『鳥栖鉄雄』…。
聞いたことあるような〜…まいっか、こんなゴミ野郎。
…『窪』。
あの糞野郎か。態度には出してねぇが奴は絶対俺を蔑ろに思ってやがる。
チャカを持たせてくれなかったのが一番の証拠だ。
こいつにはたっぷりお礼参りしてやるぜ。
…えー、でまぁこんなもんか。案外知り合いいねぇってのな。
『マイルス・モラレル』に、『牧瀬…読めねぇっ!』、で俺様の名前『麻取延人』と。
………ん?
あぁっ!!?なんでコイツまで…

―――その時、経験したことのないような痛みが後頭部に響いた。

「ぐんぎゃあげへっ!!!」

痛ぇええあああ…っ!ぐああっ!
ク、クソっ…!襲撃かあっ…?!
クソッタレ名簿に夢中で背後に気が付かなかったんだ…。頭が痛ェッ……!
後頭部がジメリと濡れていく。
頭の血管が鼓動と連想してブチ破れそうなくらい脈を打つ。

「あっ…うっ…あぁ…」


53 : シン・海より深い父の愛 ◆UC8j8TfjHw :2023/07/14(金) 20:27:16 LFl8XLWw0
ひゃっ…!嫌だっ…!
…ヤバい!!ヤバい!!ヤバい………!!ヤバ……い!!絶対ヤバ…い絶、対ヤ…バい…………!!
痛い痛い痛…い痛………い、いぎぎぃぃ…、死にたくないっ………!
こ、こんな…。
こんな、くだらねぇ………っ所で、今始まった『最強延人伝説』を終わらせたく、………ねェェん、だよ、おぉぉ…

――また、再び、鈍器は振り下ろされた。
―――その一撃で俺の頭蓋骨が粉々に砕け、脳みそは陥没し、視界は闇に包まれる。
――――最後の瞬間、俺の脳内は怒りと恐怖で、その外見通りグチャグチャにおかしくなっていた。


54 : シン・海より深い父の愛 ◆UC8j8TfjHw :2023/07/14(金) 20:27:39 LFl8XLWw0
◆◆◆

僕自身に殺しの経験はない。
奪った命はあれどそれはアゴで使ってる組のゴロツキ共に指示してのことだ。
直接の経験はない。
だからこのファイナルウォーズに巻き込まれたときは正直、激しい混乱に包まれた。


――――コノ時、僕ハ錯乱シテテ分カラナカッタンダ―――

「はぁ…はぁ……。」
目の前には男が出血をして倒れている。
…あぁ、僕が殺したのだ。
「申し訳ない、許してくれ。はぁ…はぁ…でも仕方ないだろう…?」
そう、しょうがなかったんだ。
僕だって本当は殺し合いなんて乗りたくなかった。
でも、あの紙を見たとき。あの『名前』を見つけたとき。
―…父親なら誰だって同じ行動をするはずだ。

なるべく死体を見ないように、僕は男の荷物を回収する。
そして、その場を離れた。


―――マサカ、自分ノ息子ヲ。愛シテイタ息子ヲ。―――

「待ってろよ、延人…」
はぁはぁ…。
「父さんが絶対に助けてやるからな」
今度こそ守ってやるから、父親として。延人を―。


―――自分ノ手ニカケテシマッタダナンテ、―――
―――最低ダ、俺ッテ………―――



【麻取延人@マイホームヒーロー 死亡確認】
【残り82人】

【C5/繁華街/1日目/深夜】
【麻取義辰@マイホームヒーロー】
[状態]:精神異常、疲労
[装備]:ブルックリンのバット@ONE OUTS
[道具]:食料一式x2(未確認)
[思考]基本:麻取延人を優勝させる。
1:ほかの参加者を見つけ次第殺す。

※参戦時期は死にかけの恭一から電話をもらう前あたりです。
※気が動転して正常な判断ができていません。
※そのため、撲殺した男が延人であることに気づいてません。


55 : シン・海より深い父の愛 ◆UC8j8TfjHw :2023/07/14(金) 20:37:02 LFl8XLWw0
投下終了です。
シンアニロワ絵置き場を作りました。
記念にとがめを描きましたので、絵が好きな方々は気軽に投稿お願いします。
ttps://img.atwiki.jp/shinanirowa/attach/106/119/togame.png

<予約>
その日人類は思い出した。
かつて「江戸」という時代があった記憶を。
そして「忍者」という守護者がいた形跡を。
次回、「タイトル未定」。…リヴァイ兵長@進撃の巨人、フウ@サムチャン、恵比寿@ドロヘドロ、真庭白鷺@刀語


56 : 名無しさん :2023/07/17(月) 02:47:09 OT9A/zBo0
投下乙です……!
延人……正直名簿見た時から登場話で死ぬと思ってたぜ……
けれど殺したのが実の父親なのは意外、裏社会の人間だけど繊細だしそりゃあ殺し合いに参加させられたら狂うよね……

そして次回、書くのくそ面倒くさそうな真庭白鷺登場で期待しかない


57 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/19(水) 13:57:53 1drQoct60
>>56
ご感想ありがとうございます…!
実は当初は延人を死なせるプロットではなかったのですが、奇をてらいました()。
義辰パパにはぜひとも乗り越えてほしいものですねw

白鷺メイン回は割と期限ギリギリの時間に投下する予定です


58 : 1UP ◆UC8j8TfjHw :2023/07/19(水) 18:10:13 1drQoct60
投下します。


59 : 1UP ◆UC8j8TfjHw :2023/07/19(水) 18:10:39 1drQoct60
忍者。
―それは日本の歴史に刻まれた伝説的な存在である。
 彼らは巧妙な戦術と驚異的な技巧を持ち合わせ、暗殺や諜報活動をまるで職人のように淡々と行う。
その素顔は闇に紛れ、表舞台には決して姿を現さない。
彼らの存在は、まるで夜の風のように不可視で、そして突如現れては消え去る。

 時は尾張の世。
分裂した国を統一しようとする大名たちが争い、情報戦が日常の風景となっていたこの時代にて、暗躍していた忍者の一族が在った。
 名は【真庭忍軍十二頭領】。
この人格破綻な忍者集団によって殺められた君主たちは数知れず。現代でいうところのすなわち、マッドマーダー集団。

 真庭 白鷺――。彼も気狂い忍の頭領の一人。
物語は、ある夜の出来事から始まる。
彼は唐突に『殺し合い』という危険な任務に強制参加させられてしまった。
 首が爆発した見せしめ…、脳をぶちまける少年、
そして狂気の中で舞い踊る血の匂い…、『FINAL WARS』の開幕。
 冷徹に場を見つめる彼だが、心中は疑問や苦悩などで激しく感情が渦巻いていた。
 この物語は、鮮やかな忍術の華やかなる舞台裏と、主人公の内なる闘いを描き出す。
そして、過酷な運命に立ち向かう一人の忍者の姿に、読者の心が引き込まれていくのである―――…。

(※←)
「!!!!ーーーーーーーーーアアアハッハッハッハッーハ!
 ッい良がる知い思力実の軍忍庭真ら我!
 ぐたたいてせら乗にい合し殺はれお!
 …い白面ククック!!…クククク…!!!!ーーーーーーーーーアアアハッハッハッハッーハ!」


 刀語番外編・真庭忍軍奮闘絵巻。
“さかさ忍者”真庭白鷺 殺しの流儀。
始まり始まり。


60 : 1UP ◆UC8j8TfjHw :2023/07/19(水) 18:10:58 1drQoct60
◆◆◆◆◆◆◆◆◆

砂漠の広がる過酷な環境で、3人の姿が揺れていた。

「ねぇーーー、兵長、お腹減ったんだけど。もうないのぉ?」
「…テメェ…骸骨野郎の分まで食ってよくそんなことほざけるな……。」

先頭を歩くのは“兵長”と呼ばれた男リヴァイ・アッカーマン。
巨人討伐調査兵団の兵士長で「人類最強の兵士」と讃えられている、実力面だけ見ればファイナルウォーズ優勝筆頭候補の男だ。
その後ろでハグハグッと缶詰を食べ歩くは、浴衣が映える少女・フウ。
金欠の長旅を行っているため飢えに飢えていた彼女は、支給食料である異臭料理(ナナチごはん)をさも美味そうにかき込んでいた。
そして隣を歩くもう一人の少女が、

「そうだそうだー。いじきたない!この ぶたおんな め!」
「あーーーーー!豚扱いされたー!恵比寿の癖に!ムカつく〜〜〜〜っ!」
「くくく。フウ、ぜったい あたまわるい。くくく。」

クスクスと体を震わせる魔法使いの娘・恵比寿だ。
ドクロのマスクを被り、全身を黒で塗り固めた服に身を包んだ異様な風貌をしている。
彼女が背負っているのは大きなカバンからは、もぞもぞと何か生き物が動いている。

彼女らは特別結託した仲間でも、知り合いでもない。
集められた世界もバラバラでこの会場で初めて顔見知りになった同士だ。
そんな3人が共に行動をしている理由は単に「ゲームに参加する気0」という基本思考が一致したからである。

「…ところでテメェ、よくあの缶詰食えたな。あんな酷ぇ見た目で、しかも巨人の臭ぇ口ン中みてぇな臭いのをよ…。」
「えー?私的には全然ご馳走様でした☆、って感じだけどなー。兵長食わず嫌いよくないよー?全然いけたもん!」
「ぷくく。フウ、 なまゴミたべて あとで おべんじょいき。くく。」
「もうっ!また恵比寿ムカつくこと言って―!なんでも食べることはサバイバル精神で大事なんだからぁー!」
「ばかじた! あのかんづめ 100パーセント くさってる!かくていな!」
「ふーんだ、勝手に言っとけばぁ!そう好き嫌いだから恵比寿はおチビで貧相な体なんだよーだ!」
「「……なっ」」
「なんだとおーーーーーっ!わたしは バストまわり100cmの グラマーだぞーっ!この!」
「何言ってんのよバカ!小学生かっ!!」
「…テメェら本気でうるせぇ……。」

夜の砂漠にて、くだらなくてチープな無駄話がダラダラと続く。
時折、砂漠の風が吹き抜け、小さな砂塵が彼女らの足元を舞い上がる。
しかし足取りは揺るがず、決して立ち止まることはない。
彼女らの様子はまるで下校中の小学児童たち。殺し合い中だなんて微塵も感じさせない和気藹々さだ。


61 : 1UP ◆UC8j8TfjHw :2023/07/19(水) 18:11:17 1drQoct60
「あっそうだ!ねぇ兵長、向日葵の匂いのするお侍さんって知ってたりする?」
「…ぁ?知らねぇよ。…テメェ、『巨人の臭ぇ口ン中みてぇな臭い』でその話連想したのか……」
「くく。へーちょ、フウに また あきれる。」
「そっか…、知らないかー。 
 私ちょっとその人に因縁…みたいなのがあるから聞いたんだけ…

 ―――っ!!!」

敵襲。
突如、前方から勢いよく鋭利な刃物が飛来する。
刃物は容赦なく空気を切り裂き、一行に直撃することを狙っていた。
しかし、リヴァイの素早い動きと優れた剣技が、石の脅威をかわす。
剣は軌跡を描いて風を切り、飛来する刃物を叩き落とした。
突如として先ほどまでの空気が乱れた。リヴァイは戦闘態勢に入りあたりを隈なく見回す。

「…チッ、冗談じゃねぇ…。殺し合いなんてくだらねぇモンに乗りやがって…!」

砂塵が舞い上がる真夜中の荒野。
いくら見渡せども攻撃者の姿は見当たらない。
得体の知れない襲撃者と死闘の始まりに緊張感が漂う。
ふと、フウは先ほど叩き落とされた刃物を見つめる。
和の国日本に生まれ、江戸の浮世で育った彼女だからこそ、唯一その“刃物”の正体に気づいた。

「えっ?これって“手裏剣”?」
「んっ?なに?しゅりけん…?」
「うん、そうよ!これ忍者が使う投擲武器の…」

(※←)
『――――?ぜるやてしに後最番一はのす殺に美褒御、んゃち嬢のこそ。答名ご、うほ』

「「「ッ!」」」

先ほどまで誰もいなかった先方に人影があった。
まるで砂漠の夜に溶け込むように身に纏う闇の衣服、鳥のシラサギがデザインの被り物をするその男。
襲撃者の“忍者”が今、姿を現した。
夜風が砂を運び、砂漠の地が静まり返る。それは激闘の始まりを告げる前兆だった。

「…テメェか。荒野の決闘ってわけだな。…来い、一発で斬ってやる。」


62 : 1UP ◆UC8j8TfjHw :2023/07/19(水) 18:11:46 1drQoct60
(※←)
「。などけだんーつっ『鷺白のり喋さ逆』称通。だ鷺白庭真、人一が領頭二十軍忍庭真はれお―ぜうらもてせら乗名?
 よなる乗に子調で度程たっ遮剣裏手がかた。…が僧小、っふ」

「ッ…………」

(※←)
「かえね方仕は合場のこ、あま―よどけだ話いしかず恥ものてっる入這らか襖と々堂が者忍」

「……………………あーーっ……あ?」
「え?なんて?」

(※←)
「。―は法忍の鷺白庭真、えねたっ参?
 いかのいた見を法忍のれおになんそ、たんあもとれそ。
 かえねゃじうまちっなくし寂、よえねゃじんすとかし、いおいお」

「テ……テメェ…」

忍者は溢れんばかりの殺気を纏いつつ、腰に差してる鞘から刀を抜き取る。
物凄く訛っているのだか、異国の言語を使っているのだか解せぬが、その口から発せられるマシンガントークは底の知れぬ不気味さを醸し出していた。
ゆらりゆらりと距離を縮めていく。

(※←)
(!っぜるやてじん先らか共期同の庭真てっ残ち勝、い合し殺のこ)

このファイナルウォーズ最初の死闘が間もなく始まる―――。

…はずだったのだが、

「何言ってやがるコイツ………ッ?」
「ぷっ…!
 あーはっはっはっはっはーーーーーー!!!!はははーーー!何喋ってるか全然わっかんない!
 なにあいつーーーーーーーっ?!あははははーーはははっはっはーーーーーーー!!」

説明しよう。
忍者・真庭白鷺は「さかさ言葉」でしか話すことができないかなり奇特な人間である。
そのため、彼が口を開くことは緊張感やシリアスなムードをぶち壊すのを意味するのだ。


63 : 1UP ◆UC8j8TfjHw :2023/07/19(水) 18:12:04 1drQoct60
(※←)
「???!っいお!?かのぇてれさ殺?だんがやてっ笑にな、いおいお?!………」

「だーひゃひゃひゃひゃっーーーーーーーー!!あのばか なに いってるのかわからない!!!」
「も、もう!恵比寿笑いすぎっ…
 いひひ…あーはっはっはははーーー!!お腹痛い…ひっひっひーあははははーーー!!!」
「……しょうもねぇ。」

涙を浮かべながら地面に転がり笑う恵比寿とフウ両名。
構えを解きため息をするリヴァイ。
そして、ただ呆然とする忍者。
警戒すべき人間から一気に嘲笑の対象へと格落ちしてしまった白鷺であるが、本人はそんなの知ったことではない。
怒りが限界な白鷺は、凶刃を振りかざし、怒涛のように爆笑する少女らに襲いかかる。
彼の目は血走り、憤慨が全身を支配していた。

(※←)
「!!!!!っーーーーが者弱薄神精いしかおになんそがにな」
「…あばよ、馬鹿が」

勝負が決まったのはわずか0.89秒。
リヴァイに剣できれいに20等分された白鷺は、その肉片で荒野の砂を真っ赤に染め上げた。

「うわ グロッ、うぷっ…! げろげろげぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜っ…………」
「あはははは…。――って、うわっ!!恵比寿吐かないでよ!きったない!」

【真庭白鷺@刀語 死亡確認】
【残り81人】




◆◆◆◆◆◆◆◆◆


64 : 1UP ◆UC8j8TfjHw :2023/07/19(水) 18:12:25 1drQoct60

……
………
(な…なんなんだ…?この暗い場所は…?か、体が動かねぇ…。)

(おれは一体どうなってやがる…!?)

(ま、ま、まさか…おれは死んだっていうのか…!?あ、あの陰険な目をしたクソ小僧なんかに敗れて…?い、いつの間にぃいい…!?)


(……真庭忍軍十二頭領のおれが、こんな所で………?)


――…っと恵比寿!なにしてんのよ?
――……っく…。ちょっと したい かんさつちゅう。…うぷっ
――…鹿じゃないの?!何のためにさ!ほんと恵比寿って馬……

(声が聞こえる…。この声はさっきの生娘共っ…!?な、なにしてやがるんだ…)

(あぁーっ!見えねぇ…!何も見えねぇ…っ!!)

――…っとけ、さっさと海行くぞ……。
――…比寿、先行ってるからねー!悪趣味な遊びもほどほどにしなさいょ……
――…ンフン〜♪ バラバラ ばか きたない にくへん〜♪ ツンツンツン〜♪……

(…小僧!!待ちやがれっ!ま、まだおれとの勝負はついちゃあいねぇってんだよ…っ!)

(ていうかなんだ悪趣味な遊びって!?なんだツンツンって??!おれの死体で何してやがんだ生娘……!)

――…ゲロッ。ぐあい わるくなってきた。もう こんなのみるの よそうか。
――…ょっとまって、フウにへーちょ〜。
――……って、あっ。“キクラゲ”………。っ!!
――…こらっ!キクラゲ、なに “まほう” つかってんだ。

(クソッ…クソッ…何たる屈辱…。)

(って…あぁ??…キクラゲ??生娘なにと話してんだっ…?)

――…わあわわ…。まずい。さいあくだああ。“さいせい” はじまっちゃう…
――…のバカキクラゲ!
  …あーーーーーーーーーっ、もう、おしまいだ〜〜〜。

(………再生…?いったい何をして……何が起きていやがるんだ………)

―――その時、白鷺は今まで体感したことのない妙な感覚に襲われた。
腕、肘、肩、首…各関節がゆったりと満たされてゆく――。
上手く言葉に言い表せないが、白鷺はつかの間の癒しと表現できる安らぎに包まれていた。
やがて、真っ暗だった視界は明るみを取り戻し、機能を停止していた肺は酸素を求め動きを再開する。
意識と感覚を取り戻した白鷺は、先ほど同様の真夜中の荒野を目に映した。

(※←)
「…!!!っっあわぐふ」

「うわ もう さいあく。」


65 : 1UP ◆UC8j8TfjHw :2023/07/19(水) 18:12:54 1drQoct60
◆◆◆◆◆◆◆◆◆

――――蘇生。
一度死んだ者は生き返ることはできない。
死の不可逆性は人間の心に深い傷を刻む。
それは刹那の出来事であるかのように感じられるが、その影響は時を超えて続く。
時が人々の傷を癒すことはあっても、失われた存在を蘇らせることは不可能である。
だからこそ人は死を恐れ、殺し合いを恐れ、自分や愛すべき者が安全に生き抜く道筋を正確に進もうとする。

――――だが、もしも生き返らせる力があったとしたら…
そんな倫理観を超越した未知の力が存在するのならば。
誰もがその力に取り憑かれることだろう。

恵比寿が元居た世界は魔法使いの街だった。
火を噴く魔法、相手の傷をなくす魔法、透明になれる魔法、などまるで個性のように1人1人に魔法能力が備わっていた世界なのである。
恵比寿の支給品は猫の“キクラゲ”。
覆面レスラーのような赤いマスクを被る妙な姿の猫であったが、何もおかしいのは見た目だけではない。
キクラゲには「死者を生き返らせる魔法」を持っていたのだ。

(※←)
「!っえ言を的目?ろだんたれくてし治がたんあ。るかわはにれお。たけ助をれおぜなたんあ…」

「おいキクラゲ!きまぐれで よけいなこと しやがって!」
「ふにゃ〜〜ん…」

恵比寿の言う通り、キクラゲはなんとなくで生きている動物だ。
地面に落ちていた赤黒い肉に興味を抱き、うっかり魔法を使ったまでに過ぎない。
しかしながら、この『魔法』にて、対象である白鷺の心情は大きく揺らいでいたのであった。

(※←)
「。だんてえねんかっわケワもれお直正。よんもえねしかしカバぇねもつてとてんな当手通普。
 だんたしとうそ殺をらたんあはれお…」
「あー…。なんか はなしてるし。わかったから だまれ バカ!」

(※←)
「!!れくてっ使てしと棒心用をれお。
 娘生、なたっ言てっ寿比恵。
 だんもす通を筋はこそえいはと員一の団集殺暗の悪醜道外らくい!…ぇねけいといなさた果に対絶は恩のこがだ」

『生き返らせてくれた御恩は絶対に果たす。』
『だから俺を用心棒としてお供させてくれ――』といったところか。
白鷺の心は忠義の精神を宿していた。
外道に魂を売った忍者が「復活」という未知の体験を経て改悛したのである。
彼は殺意など皆無のまなざしで、君主となった恵比寿の両手を握る。
――彼女を護衛するために。

「は?はは?はあ?バカ!な、なにをするっ?!」

肝心の忠誠心が恵比寿に全く伝わっていないのは玉に瑕だが。

(※←)
「主・恵比寿。命令とありゃなんなりと申し付けてくれや。」
「わっ!きゅうに ふつうに しゃべんな!バカっ!」

(※←)
「すまねぇ…、割と頑張ってるんだが逆さ言葉を戻すのは難しぜたんもいし難ぃ………!!っ〜〜〜糞わるぎす変大」
「わわっ!バカのやつ また、もとの もくあみ に…。」

(あっ、このバカ もしかしたら カンタンに りようできる かも。なんか めいれいしろ とか いってるし。ぷくく…)

頭が悪い恵比寿だがなんとなく状況が理解できたのであろう。
骸骨マスクの下でニヤニヤと笑みを浮かべながら、『命令』を下すべく近くに落ちてあった枝を拾い上げた。
足元ではキクラゲがゴロゴロと喉を鳴らしている。


66 : 1UP ◆UC8j8TfjHw :2023/07/19(水) 18:13:16 1drQoct60
「とりあえず このえだ ひろってこい!キクラゲと きょうそうだ!
 わかったか!バカいぬ!
 いけーーーーーーーーーーーー!」

(※←)
「!っーーーー意御」

そう言うと恵比寿は枝を向こう遠くへポーンッと放り投げる。
命令に従い、その身を一瞬にして遠くへ飛び去る白鷺はまるで飼い主に忠実な犬のようだったが、キクラゲは猫らしく気ままに欠伸をするだけであった。

【真庭白鷺@刀語 死亡確認は誤報】
【訂正:残り82人】
-あなたをちょっと強くする。1UP-

【D1/砂漠/1日目/深夜】
【真庭白鷺@刀語】
[状態]:健康
[装備]:手裏剣、刀@現実
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:恵比寿に恩を尽くす。
1:枝を取りに行く。
2:おれは恵比寿に忠誠を誓う…!

【恵比寿@ドロヘドロ】
[状態]:健康
[装備]:キクラゲ@ドロヘドロ
[道具]:なし
[思考]基本:とにかく生き残りたい
1:バカ(白鷺)をとことん利用
2:あれー?そういえばへーちょたちどこ行ったんだ?
3:キクラゲにイライラ

※特殊アイテム『キクラゲ@ドロヘドロ』
死者蘇生の魔法を持つ猫です。
損壊の激しい死体(ミンチ状、焼死体など)には原作同様効果がありません。
ちなみに、蘇生はキクラゲの完全気まぐれで行われるので飼いならさない限り自由に扱えません。
回数制限は特にありませんが、あまり酷使をするとやつれます。
(補足すると、『魔法』は指や口から出てくる煙のようなものです。キクラゲは口から黒い煙を出します。)

【D1/砂漠/1日目/深夜】
【リヴァイ・アッカーマン@進撃の巨人】
[状態]:健康
[装備]:立体起動装置@進撃の巨人
[道具]:なし、その他未確認
[思考]基本:即刻帰還
1:殺し合いなんてせず帰る。
2:邪魔する奴は始末する。

【フウ@サムライチャンプルー】
[状態]:健康、やや空腹
[装備]:不明
[道具]:なし、その他未確認
[思考]基本:生きたい、向日葵の匂いのする侍を探したい
1:リヴァイについていく。

※二人の行く先はお任せします。


67 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/19(水) 18:16:47 1drQoct60
投下終了です。
5エピソード記念にメイアビのリコ書きました。皆様熱い支援ありがとうございますっ!
ttps://img.atwiki.jp/shinanirowa/attach/106/121/madein.png


68 : ◆C0c4UtF0b6 :2023/07/19(水) 18:17:12 nAgaHVnY0
>>66
投下乙です!
さかさ言葉の表現お見事
そして相変わらず兵長がお強い!


69 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/19(水) 18:21:46 1drQoct60
過疎ってるのをいいことに2本立てで予約させていただきます。
そのため今回だけ投下期限を「8日」に延ばすのでご了承下さい。

さーて、来週のシンアニロワはー?
「ライ麦畑でつかまえた」…鳥栖哲雄、レグ(、ボンドルド)
「フューチャークロちゃん」…黒川あかね、橋田至
の2本です。ジャンケンポン、うふふ


70 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/19(水) 18:23:36 1drQoct60
>>68
おおっ!ご感想ありがとうございます!
へーちょはマーダー化したら1stのセイバー越えるくらい無双できると思ってますね
今後の活躍に期待です


71 : 名無しさん :2023/07/24(月) 17:39:05 xutJFR4E0
投下乙です!
すでに原作より台詞量が多くなってるの草
そしてリヴァイ兵長マジで強いな……セイバー枠ってことは本ロワトップ層の一人ってことか


72 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/25(火) 22:39:59 6YYF9GSY0
>>71
ご感想ありがとうございます。感謝です!
白鷺、登場話キャリアハイ越えましたね()
僕的には意識してなかったのですが、シンアニロワは超人参加者が極わずかしかいないので、リヴァイに敵うのはピーターパーカーくらいになってるんです。
だから展開によっては本当に絶望的マーダーになる可能性もあるんですよねー。

あとお知らせ。
投下締め切りまでまだちょいとありますが、推しの子キャラ登場回今投下します。


73 : フューチャークロちゃん ◆UC8j8TfjHw :2023/07/25(火) 22:40:37 6YYF9GSY0
孤独な光景が心に静かな憂鬱を運んでくる。

深淵のような暗闇が心を包み込み、屋上の風が冷たく吹き抜ける。
その冷たさが、心の熱を徐々に奪っていくようだった。
不安が身をよじり、疑問が心を蝕む。

「あはは、は…………なに、殺し合いって……」

意味が分からない。
急に呼び寄せられて「はい、ファイナルウォーズです。死んでください。」って。
あの首が飛んだカタツムリ。あの少年を撃ち殺した異常男。本当に何もかもが解せない。
もしかして、これもリアリティショーの企画なのかな。
あんな酷いことをした私への制裁ドッキリ、みたいな
…はは、ではないよね。
………あはは、あははは、あはははははははははははははははははは。
【シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ】
もう考えるのも疲れた。何も考えたくない。
フィクションだろうが本当の殺し合いだろうがどうでもいいや。
どちらにせよ私に求められているのは一刻も早い「退場」だって分かってんだから。
演者は望まれたルート通りに進めればいい。
私は日本全国の嫌われ者。やることはただ一つだ。
【シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ】
お母さん、不出来な娘でごめんなさい。中傷されていることを隠していてごめんなさい。
皆も、ディレクターさんも、マネージャーさんも私の勝手な行動でめちゃくちゃにして本当にすみませんでした。
メモ取るのとか、うざかったよね。
それにアクアくん…。ごめん、ごめんね。さよなら。
【死ね】
―――思い出をありがとう。
私は一気に闇の底へと身を投げ出した。
あははははは、風を切っていくのが気持ち良いなあ。ジェットコースターみたい。
髪が風でなびき、スカートがはためく。もうすぐで直撃。楽になれるんだ。
この世に未練とかは今更ないけれども、正直なところもうちょっと長生きしたかったな。
誹謗中傷もイジメも無い、
シアワセ ナ 世界 デ――――――――。

―――――――――――――――プツン


74 : フューチャークロちゃん ◆UC8j8TfjHw :2023/07/25(火) 22:41:10 6YYF9GSY0
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

みなさまには、
最後の一人になるまで殺し合いに乗ってもらいます、キリッ!

「だってお!wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

クッソワロタwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww中二病乙wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
……って、ふざけてる場合じゃないな…。常考。
おい!なんだよバトルロワイヤルって?!ヤバいヤツキタ━━━━だお!!!
デブにバトルなんて過激運動は致命的なんですが!
しかもこんな時間に僕を召喚しやがって…。
今、0時だお?!実況する予定の深夜アニメ見れねーじゃないか!ハルヒ今重要なとこなんだぞ!
まったく〜、そういう細かい気配りができてなさすぎっしょ!まったく!
ということで、僕の行動スタンスは【殺し合いに乗ったら負けだと思ってる。】。主催者に徹底的に反抗するでFAだお。
正直ぃー、積極的にカワイイ女の子を守りに行ってバトっちゃうのもやってみたいけど…、
まぁこち亀終わるまでタヒりたくはないよね、常考ー。
だなんて、僕はラボにとっても雰囲気が似るアパートの一室で思い更けてましたおー。

「とりあえず支給品確認と行きますかお」

武器とかはどうでもいいとして、レア物のフィギュアや薄い本(性的な意味で)が入ってたらラッキーだから漁り開始だお。wktk!
えーまず出てきたのは、カ□リーメイト風食料。パクリ乙!訴えられろ乙!
味はー、無味……。なんだか乾パン食べてるみたいだお。
僕的にはラーメン山岡家大盛みたいなパンチの効いた夜食を支給してほしかったぽよ。
それでお次は飲み物。…何 故 チ ェ リ オ だ し。
げぇええっ!甘ぇぇぇっ!!!人工甘味料が陰謀的まずさ!!
僕的にはコカコーラゼロみたいな甘さ控えめのを支給〜以下略!
そしてそして〜、この紙は…あぁ、参加者名簿。
ま、これ見ずともオカリンと牧瀬氏が連れてこられてるのはさっきの城の中で分かってるんだけどもねえー。
どれどれ。……知ってる名前はやっぱこの2人だけか〜。
ラボ初期メンで唯一まゆり氏だけ呼ばれてないけど…もしかしてまゆしー黒幕説キタコレ……??
あとは…携帯電話、と。
あれ?もしかしてこれで支給品尽きた?!
いやいや!こんなんで仮にどう戦えって話だっつーの!!
デブだからって力があるとは限らないんだぞJK!!!ふざけんなおっ!!!!
ていうかこれ…。どう見てもオカリンの携帯だよな。なぜ支給品に〜?
あっ、そうだ。フフフ…。

「携帯勝手に拝見させていただくでござるー☆
 中にヤバい児ポとかあったらそれをネタに食堂おごらせることもできるしな。
 (ついでに僕の携帯に画像転送も欠かさないお!(*´Д`)ハァハァ)」

んー、どれどれ。パカっと。


75 : フューチャークロちゃん ◆UC8j8TfjHw :2023/07/25(火) 22:41:31 6YYF9GSY0
-------------------------------------------------------------------
[メッセージ:]
[タイムスリップしますか。あなたはあと10回過去に戻ることができます。]

▶[OK]
---------------------------------------------------------------------




「…新種のフィッシング詐欺?」

なんだお?!いきなり開いたらこの画面って!
いやそら確かに僕らはタイムマシン作ってるっちゃあ作ってるけどさぁ…
なんだお!!!いきなりこの画面って!(大事なことなので二回言いましたお。)
いや待て。
ど、どうする…?[OK]押してどうなるか様子見しちゃう??
ウイルスだろうが詐欺クリックだろうが、これ僕の携帯じゃないからノーダメだしなぁ。
あっ、ちょっと勘違いしないでよ?別に僕はこれが「本物のタイムマシン」だとは思ってないお?
それを踏まえたうえで押したらどうなるか気になっちゃうっていうかー、
そういうわけですしお寿司ー、……

――――――――ドシャヤアアンッッッ!ガシャガシャ!ガランカラン……


「うわおっっ!びっくした!!!!」

ひ〜〜〜〜〜〜っ…なんの音だお……?
そ、外からだよな?何か物が落ちた破裂音がしたんだけども。
恐る恐る窓を確認…。正直、現状が現状だけに嫌な予感100%だお。

「…ひいいっ!!予想はしてたけどやっぱりぃ……〜〜!!!」

仏さんはおにゃのこだった。
上半身と下半身がひねり曲がっていて、目は死んだ魚のようにうつろ。というか左目飛び出てるし。
グチョグチョになった頭はまるで落とした卵のようにぱっくり飛び出ている。赤い血で地面を汚しながら。
突き落とされた…、いや自ら身を投げた可能性も?
どちらにせよ彼女の凄惨なその姿に僕は窓から目を背けざるを得ない。


76 : フューチャークロちゃん ◆UC8j8TfjHw :2023/07/25(火) 22:42:01 6YYF9GSY0
「って何冷静な分析してんだし俺氏ーっ……!
 あぁああ…、やばい…。とうとう死人が出てんねんぞだお……!!」

そ、そんな簡単に殺し合いって始まっちゃうのかお……?!
こっここは米花町か不動高校かっ……!
ちっくしょう……。なんで…、こんなことに巻き込まれてるんだ…。あぁぁ、ぁああ……〜〜っ!
恐ろしい……!恐怖で身体が縮み上がる……。
僕もあんなおにゃのこみたいに死んじゃうのか…?
窓から下の光景をもう一度眺めた。

そうだ、…僕だけじゃない…。
オカリンや牧瀬氏…。あいつらだって特別身体能力が高いわけではないただの一般学生だ。
殺し合いに乗った変態に滅茶苦茶にされる可能性だってあるぞ。
あぁあ………、やはり僕も武器を持って戦わなきゃいけないのかお…。
…って!武器つったって僕に何も支給されてねーじゃんかお!大事なことなのでもう一度言うけどあんなのでどう戦うんだおっ!!!
あのしょぼいメシに、あっまいジュースに、ペッラペラの名前一覧表!
あっ、あとこの携帯電話も!以上!
本当に僕はThe ENDじゃないかお!
どう考えても終わりです!ありがとうございましたじゃないか!!
本気でイカれまくって…。

………。
………『携帯電話』。

「……いや待て、落ち着くんだ僕……KOOLになるんだ、僕……。」


まだ生温かい汗が頬をつーっと伝っていく。
もしかして僕、割と『最強武器』手に入れちゃったんぢゃね?
僕は携帯電話をもう一度開いた。


---------------------------------------------------------------------
[メッセージ:]
[タイムスリップしますか。あなたはあと10回過去に戻ることができます。]

▶[OK]
---------------------------------------------------------------------



…未来ガジェット008号の「電子レンジ(仮)」。
僕とオカリンとで作った発明品の一つだ。
携帯電話による遠隔操作が可能になった電子レンジなんだけど、てんやわんやで「過去にメールを送ることができる実質タイムマシン」になっちゃった奴。
そんなもんを現存させちまったんだから、今更タイムスリップなんかに疑念は抱かないよな。
ぶっちゃけ。

「タイムスリップ…。胡散臭さ抜群だけどやる価値はあるおっ!!」

馬鹿馬鹿しいのはわかってる。でもどんな荒唐無稽も試すのが科学者<スーパーハカー>の性だしな!

決定ボタン、ポチっとな!、と―――――…

『橋田至、確認しました。
【5分前】の世界へ転送します。』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・・・・・・・・・・・・・・・・


77 : フューチャークロちゃん ◆UC8j8TfjHw :2023/07/25(火) 22:42:28 6YYF9GSY0
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「あはは、は…………なに、殺し合いって……」

意味が分からない。
急に呼び寄せられて「はい、ファイナルウォーズです。死んでください。」って。
あの首が飛んだカタツムリ。あの少年を撃ち殺した異常男。本当に何もかもが解せない。
もしかして、これもリアリティショーの企画なのかな。
あんな酷いことをした私への制裁ドッキリ、みたいな
…はは、ではないよね。
………あはは、あははは、あはははははははははははははははははは。
【シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ】
もう考えるのも疲れた。何も考えたくない。
フィクションだろうが本当の殺し合いだろうがどうでもいいや。
どちらにせよ私に求められているのは一刻も早い「退場」だって分かってんだから。
演者は望まれたルート通りに進めればいい。
私は日本全国の嫌われ者。やることはただ一つだ。
【シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ】
お母さん、不出来な娘でごめんなさい。中傷されていることを隠していてごめんなさい。
皆も、ディレクターさんも、マネージャーさんも私の勝手な行動でめちゃくちゃにして本当にすみませんでした。
メモ取るのとか、うざかったよね。
それにアクアくん…。ごめん、ごめんね。さよな

「ちょちょちょちょっと死ぬのは待てぇえぇーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!
 そこのおにゃのこおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!
 うおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!」



わっ!
う、後ろから声がした。
な、なんで…。
さっきまでこのあたり人の気配なんか、まったくなかったのに。

「ちょ…ゼェゼェ……ゼェハァァ…
 いやマヂでタイムスリップできちゃったお……ゼェゼエ…。
 あり得ないだろ常識的に考えて…………。

 ていうかキミ想像の10倍可愛すぎなんぢゃねーっ?!
 これで飛び降りとかもったいなさすぎだろJKーー!二重の意味で!」


78 : フューチャークロちゃん ◆UC8j8TfjHw :2023/07/25(火) 22:42:46 6YYF9GSY0
汗だくの太った若い男がふらふらと近づいてくる。
わ私に何の用なの…。ちょっと来ないでよ。

「ま、冗談はこのくらいにして………。
 ちょ!そこのJK!タヒるとか冗談にならないおっー!
 こっち来いって!!」

…ん?タヒる???何を言ってるの。

ま……まさか私の自殺を止めようとしてるわけ?この人。
来ないで、来ないでよ。
絶望は私の中で勢いを増しているっていうのにっ。

「来ないでくださいっっ!!
 来たらさ、刺しますから!!こっこれ!
 ……お願いだから黙ってみててください………。」
「いや目の前で死なれる気持ちにもなれよJK…。やめなって…。」

私は『支給武器』の小さな刃物を突き出してみせた。
一瞬ひるんだ表情をするも、それでも彼は歩みを止めずフェンスの際まで近づいてくる。

…考えてよ。もしも私がこの世から消えたらみんなハッピーじゃないの。
そして、私自身もこの苦しみから救われる…。
誰もが得をするまさに完璧で究極の「選択」―――。
あなたも私の炎上見たときは絶対に嫌な奴って思ったくせに。

「…どうせあなたも私が死んだら嬉しいですよね。今から自分で責任果たすんですから動かないで下さい…。
 もうっ……嫌なんですよ…………ぅっ……」

声が震える。
涙がこぼれ落ちた。

「いやいや、チョ〜初対面が死んで何がメシウマだし」
「……。はは、初対面…ですか…。私あかねですよ。黒川あかね。
 ほら、『今ガチ』…。ぅっ………。今からガチ恋始めますで大炎上した……嫌われ者です………。分かりますよね。」
「いやいやいや、誰し。
 ここ最近の大炎上ってドキュソしかしてない希ガスなんだけども。
 てか君も@ちゃんねらー??」


79 : フューチャークロちゃん ◆UC8j8TfjHw :2023/07/25(火) 22:43:10 6YYF9GSY0
@……ちゃんねらー…………。?
なんだか次元の違う話をしているようで、らちが明かない。
っていうか、私なんでこの人とさっきから論じてるんだ。ばかみたい。
心の闇が晴れない。もう疲れた。
さっさと死んじゃ…。

「ちょ!!くぁwせdrftgふじこ!!待てお!!飛び降りんなって!!」

片足出したところで、男が慌てた様子で声を荒げた。

「えっーと…、あかね氏…は転落死したらどんなことになるのか分からないだろおっ!
 脳みそぐちゃぐちゃに飛び出て!目ん玉までもゼリーみたいに零れ落ちて、血みどろなんだぞ!」

うっ…ぅ……………。
脳みそグチャグチャ……………。
自分の飛び降りた末路を想像し、躊躇してしまった。

うっうぅ。なんなのこの人は。必死に止めようとして。
これ以上喋らないで。
私の自殺を止めないでっ。

「………し知ったような口ぶり……しないで、くださいよぉ………。」

「ところがどっこいこの目でちゃんと見ちゃったんだお
 ほんとトラウマレベルで…グリーン姉さんよりもグロ中…

 [警告]
[橋田至、3分が過ぎました。まもなく元の時間軸へ戻ります。]

 うおっ!―――急にメッセージが直接脳内にっ。
 …って、はぁっぁ!?え?え?えーー??!
 強制送還?なにそれ??なにその後付けルール!!?
 ふざけるなおーーーー!!!
 あぁぁぁ…どうしよどうしよ!このままじゃ1回タイムスリップ無駄使いぢゃんかおぉ…!!」

男は急に一人でパニックになり落ち着きがなくなった。
もうさっきから訳わかんないよ…。

彼が口にする命の主張。それは私にとっては無意味な証明にすぎない。
心が揺れ動く発言は出るけども、それでも私は絶望の世界にただただ取り囲まれている。
私の心は暗闇に包まれ、希望の光すら見えない。闇が広がっているだけなのは変わりない。

「私本当に、うっ…絶望しか……………ないんですからぁ…。」

だから今。

―――思い出をありがとう。
私は一気に闇の底へと身を投げ出し、



【生きて】


80 : フューチャークロちゃん ◆UC8j8TfjHw :2023/07/25(火) 22:43:29 6YYF9GSY0




「絶望しかない世界なんてないおっ!あるとしたらサザエさんシンドローム中の@ちゃんねるくらいですしお寿司っ!!
 そ、それに僕は希望に転換する「武器」を支給されてんだ!
 その「武器」で君が死ぬ【世界線】を変えに来たんだから!!君のその笑顔を守りたいんだ!!

 だから!!」



【君は生きて、くれ――。】




橋田至は、徐々に姿が薄くなり、そして消えていった。
暗いアパートの屋上にはただ一人少女が立ち尽くすのみ。
深夜1時、どこまでもが真っ暗で闇に包まれし市街地。それでも夜空を見渡せば一番星が僅かに光り輝いている。
生きろというメッセージに、彼女は何を思うか。



過去は、今、変えられたのだ。

Hacking to the Gate.ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・・・・・・・・・・・・・・・・

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


81 : フューチャークロちゃん ◆UC8j8TfjHw :2023/07/25(火) 22:43:54 6YYF9GSY0
ハッ!!

「夢……。
 ではないよな。
 戻ってきたのか、お。」

僕は携帯電話をまじまじと見ざるを得ない。
どう考えてもチートです。ありがとうございました。
いやにしても、これマジタイムマシンかよ…。ワロス…。
オカリン、知らず知らずの間にこんなものを?いや…ンなわけないよな。
こんな代物発明したら絶対に「フーハッハ!遂に俺は導き出したのだ。Steins Gateへの道を。」だとかなんとか言うに決まってるしー。
ならこれはCERNのタイムマシンかお?
く、くーーーーーーーーーーっ!僕たちが悪戦苦闘してる間にこんなもの作ったやつがいるとは…。

「ダルさん、それが希望の武器なんですか?」

のわっ!!背後からおにゃのこの声っ!
いや待て、この透き通った声は先ほどの…。

「ガラケー……。なにこれ?『タイムスリップしますか』ー?ダルさんこれは一体…」

「…あかね氏。」

いやいや何故ここにいるし。
しかもメチャクチャフレンドリー。ダルさん、だってお。w
まぁ、これが過去が変わった結果ってわけだろうね。
オカリン風に言うと「世界線を変える観測者」になったわけですな。やれやれ僕は射〇した。

「って、ダルさん聞いてるんですか?これ何に使うんです。」
「…あぁーはいはい。使い方ね。
 あかね氏、信じられないかもしれないけどこれはタイムマシンなんだお。」
「…えーーーー……、え?…なんて言いました?」
「これが困ったことに言葉一切偽りなしなんだよなあ。リアル・タイムマシンなんだお。
 ま、ちょっとこの決定ボタン一緒に押してほしいお。」
「は、はぁ…」

あかね氏は純度100%困惑の表情でボタンの上に指を乗せた。
僕も上から太い指を重ねる。おにゃのこの白い手たまらないお〜!ハァハァ…(*´Д`)


82 : フューチャークロちゃん ◆UC8j8TfjHw :2023/07/25(火) 22:44:12 6YYF9GSY0
「ダルさん。私、このファイナルウォーズが正直物凄く不安で…。大丈夫、なんですかね。」

あかね氏が話しかけてきたお。
…ふむ、ファイナルウォーズ……。ま、そら不安になるよな。
僕だってビビりまくったし。
だけど、それでも、

「絶対大丈夫だお!『未来は変えられる。』ジョンタイターの名言だお。
 このタイムマシンさえあればゆめがひろがリングなんだからね!―――…」


『橋田至、黒川あかね、確認しました。
【5分前】の世界へ転送します。』

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【特殊アイテム】
・携帯電話@Steins;Gate
橋田至の支給品です。
実行者が任意の過去の時間まで3分間だけ戻ることができる「完全なるタイムマシン」です。
時間を指定せず決定ボタンを押したら5分前に戻ります。
参加者1人につき10回まで遡れます。(それ以上実行した場合は、警告メッセージが出たのち首輪が爆発します。)
3分経過した瞬間、元の時間帯に戻らされますが、3分の間で過去改変をすることができます。

なお、ゲーム開始前まで戻ることはできません。



【E6/市街地/1日目/深夜】
【橋田至@Steins;Gate】
[状態]:健康、タイムスリップ残り【8回】
[装備]:携帯電話@Steins;Gate
[道具]:なし
[思考]基本:殺し合いに徹底的に反抗
1:いや待てし。タイムスリップしてなにしよ。
2:あかね氏と共に行動
3:オカリン、牧瀬氏が心配
4:タイムマシン、クッソワロタwwwwwww
※参戦時期は秋葉原からオタク文化がなくなる前あたりの世界線です。

【黒川あかね@【推しの子】】
[状態]:健康、タイムスリップ残り【9回】
[装備]:巨人化用小型ナイフ@進撃の巨人
[道具]:メモ@【推しの子】、食料一式(未確認)
[思考]基本:救われたい
1:タイムマシンって…
2:ダルさんと行動する
3:生きて希望を見出したい。
※参戦時期は歩道橋から飛び降りる前です。


―――――悲しみのない時間のループへと、私は飲み込まれてゆきたい―。


83 : フューチャークロちゃん ◆UC8j8TfjHw :2023/07/25(火) 22:46:16 6YYF9GSY0
投下終了です。
鳥栖&レグ(&ボ卿)は明日投下します。
割と短編です。


84 : ◆C0c4UtF0b6 :2023/07/26(水) 09:27:01 M0eo.xDs0
投下乙です!
とりあえずナイスだ橋田ぁ!


85 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/27(木) 18:42:58 CnieQjYg0
>>84
コメントありがとうございます!
あかねちゃんには第二の命無駄にしてほしくないですねー


86 : ライ麦畑でつかまえて ◆UC8j8TfjHw :2023/07/27(木) 18:43:28 CnieQjYg0
 目を覚ますと、私は麦畑にいた。
ライ麦。黄々とした麦の穂が風に揺れ、小道が畑を縦横無尽に繋ぐ。
不思議な感覚が広がる中で、頭はぼんやりとしていた。
 私はふと天を見上げる。
空の色は紺色。夜の闇がゆっくりと後退し、朝日が穏やかなる光景を紡ぎ出す。
「ははっ、少しばかり眠ってしまったようだな。」
3,4時間くらいだろうかな。
そんな長い時間眠っていたなんて、よく私は奇跡的に死なずにいたものだ。
この「殺し合い」という現実に身を置いているというのにな…。

 風に揺れる麦の穂が、微かなざわめきを奏でているかのようだ。
穏やかな風景の中で、私は不意に、ガサガサと麦をかき分ける音が耳に届くのを感じた。
私は警戒を強めながら前方を見つめる。

「誰かが近づいている…」
 一筋の疑念が私の心を捉えた。
私はデイバックから武器を取り出し戦闘態勢に入りつつ、一方で同時に推理で頭を働かせる。
 普段から、私はサスペンス物の小説を読むことが好きだった。
だから、さっきのあの会場でも推理物の刑事の真似事で色々人に聞きまわったものだった。
もしかしたら不用心に麦を歩き回る「訪問者」は聞き込みをした対象の人間なのかもしれない。

 この麦、それほどの高さではない。1.5メートルほどだ。
訪問者はライ麦にすっぽり姿を隠れてしまっているのでまあ、子供、か。
 ふとここで私は気づく。
訪問者が歩を進むと同時に、金属の冷たい音がカランカランと響くのだ。
これは何か金属状のリング、いや被り物かなにかを装備しているということだ。
つまり、訪問者は彼に違いない。

 私がその思考に導いたとき彼が目の前に姿を現した。

「なあっ…!!う、うわああっ!!まま待ってくれ!僕を殺さないでくれ!!た、頼むっ!!」
「ははっ、落ち着いてくれ。"レグ゛くん。私だよ」
「うっ………?…え?あ、貴方は……」
「鳥栖だよ。鳥栖哲雄。さっきちょっと話しただろう?」

 私は出刃包丁をそっとデイバックにしまい込む。
涙ぐむ彼はレグ少年。
 あの会場で聞き込みを行った人間の一人。手足が金属製の義手の少年だ。
アビスがどうのとかミーティがなんだとか、色々言っていたが、とりあえず人畜無害なのは保証できる。
ま、危険人物の遭遇じゃなかっただけ安心ってとこだ。


87 : ライ麦畑でつかまえて ◆UC8j8TfjHw :2023/07/27(木) 18:43:47 CnieQjYg0
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □

「一難去ってまた一難、だな。こりゃ」
「…?どうかしたのか…?トステツオ」
「あっ、いやなんでもないよ。独り言が漏れちゃったね。ははっ。」

 はぁ。
本当にここ最近は災難続きだ。
チンピラが付き纏ってきたり、反社の集団に拉致拷問されたり、銃で撃たれかけたり、チンピラの親父に殺されかけたり…。
あの延人とかいう最低のクズを殺めて以来、私から平穏は消え去った。
 それでも、2人も人間を始末してやっと災難の連鎖を終わらすことができたんだ。
やっと、終われた。
終われた。…というのに、また面倒ごとに巻き込まれてしまった。
なんなんだ、殺し合いって。
ファイナルウォーズ…。荒唐無稽過ぎる。
 この歳になって初めて自分に災厄が降り注ぐ体質であることを認識した。
はぁぁ…、全くもって、

「「度し難い……。」」



「あっ…!」
「…はははっ、被っちゃったね。レグ少年」
「すまない、なんだか気が合わさったな…。」

 いや、被らんだろ普通。度し難いなんて言葉…。
 そうそう、荒唐無稽といえばこのレグという子供も、まったく普通ではない。
彼曰くアビスだかいう世界最大の大穴?に探検していて、気が付いたら私と同じく殺し合いを強いられていたらしい。
「上昇負荷があるからこんな所にいるはずがない」、とかよく分からん話をしていたが…。まるで掴みどころのない子供だ。
アビスってなんだ?聞いたことないぞ。主張も外見、全て常識の範囲外だ。

 とは言っても、レグは「全てがイカれていてメチャクチャ」というわけではない、
レグは倒錯しているが、しかし整っているのだ。
そのアビスがどうのという夢物語も一応筋は通っているし、受け答えに関してはいたって普通だ。
 まるで彼は違う異世界から来た人間かのような。
なんだか、「常識」で今の状況を考えるのは無駄に思えてくる。


88 : ライ麦畑でつかまえて ◆UC8j8TfjHw :2023/07/27(木) 18:44:20 CnieQjYg0
 それでも、私の性なのか、自分の頭の中で、断片的な情報を繋ぎ合わせていくのをやめない。
何となく、この騒ぎの背後には何か大きな陰謀があるのではないかと感じた。
 殺し合い。それは建前で本当は真の目的があるのではないか。
ここまで盛大な準備をたった一人でできるはずがない。主催人間は複数、大勢いるのではないか。
 集められた被験者たちの共通点はなんなのか。
手掛かりはないので全貌はまだ見えていないのだが。

 思考を巡らせながら、辺りを見回した。
この広大なライ麦畑にて私らは淡々と歩を進めていく。
 レグは先陣を切り、どんどんとかき分けていった。
麦の穂が風に揺れ波を打ち、まるで大地が息を吐いているかのようだ。
周囲は我々の足音が響くのみ。その妙な静寂が不気味さを醸し出していた。
その時だった。

「う、うわあああああああああーーーーー!!!!!」

 突如レグ少年の絶叫が畑中をこだました。

「どうしたんだっ!レ、レグ少年…!」

 …まさか、敵襲?
いや可能性は低い。この辺りは人の気配などまったく無かったのだが。
一応、私は臨戦態勢で目前の麦をかき分けた。

「ト、トステツオ……………!
 なっ何てこった…あっああっ、
 あれを…見てくれ………っ」

 レグ少年の畏怖した声が聞こえる。
麦を払いのけ目に映った光景に、私は絶句した。

 目の前に広がるのはまるで絵具で塗りつぶしたかのように、真っ赤に染まった麦の畑だった。
その鮮血は周囲およそ2メートルをベッタリ染色していた。2,3人の血液の量に値するだろう。
乱雑に踏み鳴らされたライ麦が、先ほどまで誰かがそこにいた痕跡を表している。

 麦の茎にところどころ絡みついた赤白い物体――脳漿が現場の凄惨さを見事に物語っている。

「……始まってしまったのか、殺し合いが…、」

 私の知らぬ間に。
ここまで無惨に。
鮮血と麦が交わった匂いに私は思わず吐き気を催す。
暫し、怯え切ったレグ少年の肩に手を置くのが精一杯だった。


89 : ライ麦畑でつかまえて ◆UC8j8TfjHw :2023/07/27(木) 18:44:41 CnieQjYg0
 ここで私は現場の妙な点に気づく、
前述したとおり、人の気配がない。
つまりだ。不思議なことにどこを見渡しても犯行者はおろか「死体」すらなかったのだ。
 ふと、あたりの麦をかき分けたがそれでも見つかることはなかった。
跡形も残らないパワーで惨殺した?いや、死体を持ち去ったという可能性も。何故?
 死体はないが殺人は確実に行われたと断言できる異様な現場に、顔をしかめる。

「トステツオ……、こっこんなのが落ちてたぞ………」

 レグ少年が私の裾をつかみ話しかけてきた。
その手には小さな黒い本、手帳のようなものが握られている。
「物的証拠」が落ちてた、というわけか。

「そ、そこで拾ったのだが…。トステツオのではないのだよなっ……?だとしたら、これは…」
「あぁ。間違いなくこの殺人に関わりある人間のものだね…。」

 この犯行現場にただ1つ。ポツンと残された手帳。
私はページを開く。



『拝啓、この手帳を読んでくれたお方へ。

 貴方がこれを読んでいるということは、私はもうこの世にはいないでしょう。

 このゲームの主催者は冷酷非情で、人々の苦悩や絶望を楽しんでいるように感じます。
 だからこそ、私はこの手記を残すことで、彼らの欲望を阻止し、他の被害者を救いたいと考えました。

 次のページには、私なりのファイナルウォーズの考察や体験記。過酷な状況下で生き抜くためのいわばヒントを記しています。
 これらの情報が、未来の参加者にとって有用な手掛かりになることを願っております。

 貴方に幸運と勇気を祈りながら、この手記を贈ります。』


体験記…。
とどのつまり、これは名もなき被害者のダイイングメッセージというわけだ。
レグと共に私は次のページへと目を移る。
そこには以下のような不気味な文章がつづられていた…。


90 : ライ麦畑でつかまえて ◆UC8j8TfjHw :2023/07/27(木) 18:45:01 CnieQjYg0
『私は『元いた』世界では謎を探求する研究者でした。
 人類の進歩のため日夜実験をする日々。
 そんなある日、突然この殺し合いに連れてこられたのです。
 そう、あなた同様に。
 
 私が考察するに、我々参加者はみな違う並行世界、パラレルワールドに連れてこられたのです。
 あなたは「大穴アビス」という言葉を知っていますか。「白笛」という物は。
 …存じないでしょう。私がいた『世界』ではそれらを知らない人間はいないのです。

 そして、この首輪型爆弾。盗聴器がつけられている可能性があります。
 これほど大勢の参加者の動向を監視するとなると、携帯を強制させられている首輪に仕込むのが一番合理的ですからね。
 
 以上が考察です。以下、私の体験記を記します。

 深夜0時28分、私はある参加者2名に遭遇しました。
 処分予定Aと『カービィ』くんです。
 私がメモを取っていると、処分予定Aが警戒しながら対話をしてきました。
 A自身には興味はなかったのですが、Aの足元にいた彼――、
 見た目はピンクボールと形容できるカービィくんに、私は心を奪われたのです。

 私は元居た世界にてたくさんの愛おしい子どもたちを実験に使っていきました。
 実験の末、彼らは可愛い『なれ果て』と化したのですが、カービィくんは子供たちに匹敵するくらいの愛らしい見た目をしていたのです。
 敵意をこちらに向けるAと違い、私に懐いてくるカービィくん。
 これぞ愛、愛ですよ。
 このとき私は『実験』したいと決めたのです。
 
 0時52分、心が開いた様子のAたちと私は行動を共にすることになりました。
 そしてAを拳で撲殺しました。

 Aを処分したのは単に邪魔だったということもありますが、カービィくんの反応が知りたかったからです。
 異形の彼は思考をするのか、ショックで感情が揺れることはあるのか、涙を流す反応を見せるのか。
 私は好奇心で、これまでにない高揚を感じました。

 私はさっそくカービィくんの解剖を始めました。
 暴れたのなんの。噛みつくは引っかくはで大変でした。
 それでもぷにぷにとしたやわらかい外見に、彼に秘めた未知の力。
 私の探求心は抑えれることはできません。

 補足しますが、これは決して悪趣味な殺人なんかではありません。愛です。愛の塊なのですよ。

 色々体内を覗きましたが、基本ニンゲンと変わりない構造であると考察できました。
 ああ、カービィくん。それにしても君は何てかわいらしいのでしょう。
 衰弱してきていますがその目に宿った炎だけはまだ燃え続けている。そこが非常に愛おしい。
 やがて私は先ほどの処分済みAから』



記帳はそこで止まっていた。


91 : ライ麦畑でつかまえて ◆UC8j8TfjHw :2023/07/27(木) 18:45:16 CnieQjYg0
「なんだ、これは………………。」

緊迫感はありつつも有力な情報を引きさせそうだった前段と裏腹に、まるで夢か現実か、区別のつかない狂った体験記の後段。
これはダイイングメッセージなんかではない。
狂った参加者の「殺人日記」である。
予期せぬ文章を読了し、私は沈黙で固まらされる。

「トステツオ……。これ、……」
「サムの息子、BTK。古くは切り裂きジャックってとこだ。」
「え?…なっなんだその…」

 現場にメッセージを残す連続殺人犯の前例だ。
捜査官にまるで挑戦状を叩きつけるがごとく、文言を残す者たち。
 この手記を書いた犯人は予期せぬトラブルに見舞われ現場にメッセージを落としたのだろうから、実質的にはタイプが違う。
記帳が中途半端なところで止まっていた点から、リアルタイムで書いてるうちに『何か』が起きたのだろう。
そして、もう1つ読み解けることがある。

「レグ少年、気づいたことは…ないかい。」
「き、気づいたこと…?」

私はレグに問いかける。
困惑する彼を見て、私は日記帳のある文章の部分を指さした。

「ほら、ここさ…。『処分予定A』という記載」
「A…、がどうしたというのだ……?」
「単に「処分予定」の人間の『イニシャル』がAだからそう名称したのかもしれない。
 だが、こうも考えられるんだ。」
「………………。」


「『アルファベット』順のA、と。

 この日記を書いた奴は処分予定B、C、D…を増やすつもりなんじゃないのか……?
 仮に奴が生きていたとしたら、この悲惨な殺人はまだこれからも続けられるんじゃないのか…?とね………。」

「……――――っ!」


92 : ライ麦畑でつかまえて ◆UC8j8TfjHw :2023/07/27(木) 18:45:37 CnieQjYg0
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □

 『書き主』がトラブルでもうすでに命を落としていることを願いたい。
私たちは嫌な予感を察しながら、広いライ麦畑から走り出ていった。


【E3/畑/1日目/深夜】
【鳥栖哲雄@マイホームヒーロー】
[状態]:健康
[装備]:包丁@School Days
[道具]:グリシャの手帳@進撃の巨人、食料一式(未確認)
[思考]基本:生還
1:日記の人間に要警戒
2:レグと共に行動する(不要になったら見捨てる)

※グリシャの手帳には「書き主」の詳細な犯行が書かれています。

【レグ@メイドインアビス】
[状態]:健康
[装備]:武器(未確認)
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:死ぬのが怖い
1:日記の人間に要警戒
2:トステツオと共に行動

※参戦時期はリコ解毒中の時あたりです。


93 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/27(木) 18:47:23 CnieQjYg0
※間違いなく死んでる「A」以外の生死は任せます。

投下終了です


94 : ◆C0c4UtF0b6 :2023/07/27(木) 20:37:13 FuZjQ0So0
投下乙です
考察がはかどる回だ…処分予定Aは誰なのか
カービィは死んだのか
そもそも書き手は誰なのか…


95 : 名無しさん :2023/07/28(金) 21:17:05 oVf1n6S.0
投下乙です……!
ボンドルドはロワでも絶好調
カービィは死んだ方がマシな目に遭わされてそうだな……
そしてレグとトリスのコンビは頭脳+武力でかなりいいチーム


96 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/28(金) 22:54:28 DaAGctHs0
>>94
ご感想ありがとうございます!
割と変則回でキラーパス気味ですが今後に期待ですね。(N天堂法務部が恐いので拷問描写は工夫せねばなりますが())

予約入ります。
総統、カートマン、シャミ子で題名「アドルフが告ぐ」です。


97 : 名無しさん :2023/07/29(土) 00:06:41 D24AFf9Y0
投下乙だよー
酷いやつもいたもんだねぇ〜信じられないよぉ
カービィ死んだんじゃないの〜


98 : ◆UC8j8TfjHw :2023/07/30(日) 18:18:15 BHzx0q7U0
>>97
おはカワサキ
感想ありがとうございます
カービィちゃんの行く末は(投下予約がない場合)10話後に明らかになる感じです〜


99 : ◆UC8j8TfjHw :2023/08/01(火) 04:34:47 qOlAfOko0
>>95
ご感想ありがとうございます!(失礼、見逃していました…)
自分で言うのもなんですが、ボ卿はこのロワを機に露出増えたらうれしいですねー。マーダーとしても対主催としても万能ですから
ちょこっと裏話ですが、元々このssはmonsterのルンゲ警部&レグで書いてたものなんですこれ(サムの息子〜云々の推理はmonster原作の描写まんま)
だから鳥栖さんでうまいこと代役ハマったのが奇跡でした〜

さて、締め切り直前になったので総統・カートマン・シャミ子で今日投下します。
大雑把な内容は「これがやりたかっただけ集」です


100 : アドルフが告ぐ ◆UC8j8TfjHw :2023/08/01(火) 16:39:50 qOlAfOko0
鮮血が、どれだけ抑えてもドクドクと零れ落ちていく。
周囲の叫び声が耳に痛いわい。
…何故じゃろう、血がどんどん出て体が軽くなる筈じゃのに、動くのが重たい。
意識もどんどん、薄くなっていく。

ワシは死ぬのじゃろう。
本当にもう今回ばかりはダメなようじゃ。
なぜこんな奇妙な運命に翻弄されることになったのか――。
その理由さえも知れぬままじゃな…。

わしの眼に、過去の記憶が浮かび上がる。
走馬灯、か…。この殺し合いでの出来事が次々と鮮明に映し出す。
青い空に輝く太陽、幸せそうな人々の笑顔、そしてあの人――愛しき人の微笑み。

「もう少しだけ…もう、少し……だけ一緒にい、たかっ…た……………………。」

壮観、じゃな…。


―――統…っ、総統……っ!!しっかりしてください!…………


世界征服を、達成したかった。
もっとデラックスファイターと戦いたかった。

神様、
どうか子供たちの涙のない世界を。
哀しい戦争のない世界を、作ってください。

そして、この殺し合いに抗った同志たちよ。
ワシら人間はお互いを慈しみあい、助け合わなきゃいけんのじゃ。
だから、どうか、ファイナル……ウォーズを、終戦に……―――。


【総統@秘密結社鷹の爪 死亡確認】
【残り…


101 : アドルフが告ぐ ◆UC8j8TfjHw :2023/08/01(火) 16:40:23 qOlAfOko0
『この物語は、総統という男が死の間際に見た「走馬灯」の一部始終である。
 時間はゲーム開始直後に遡る。』

 
 以下、囘想
   ▲
  FINAL WARS
   #07 
「アドルフガ告グ」


☆ ☆ ☆

「んんあぁあああ〜〜〜〜〜〜〜……!覚めてくれぇぇ〜〜!夢なら覚めるんじゃああ〜っ!!」

さて、つねるぞ〜っ…。
かれこれ65回目のほっぺつねり…!痛ぁっ!!
……
…………。
…あっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!まだ覚めない!
文末の三行状態表で「[状態]:顔面ズタボロ」って書かなきゃいけないくらいつねりまくりじゃが、まだ悪夢のままじゃ…。
……やっぱり、これは夢じゃないのか…?現実…。

「わああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!嫌じゃああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!
 殺し合いなんてしたくないぞぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!
 助けてー!!吉田くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!」

あぁぁ…大変なことになってしまった。
何故、ワシがこんな目に…。
…ぐすんっ。涙が止まらないわいっ…。
憎っきデラックスファイターに吹き飛ばされたと思ったらいつの間にかお城にいて、
殺し合いをしろと言われて、また次の瞬間にはまるでワープしたかのように恐ろしい深夜の大森林の中にいて…。
何もかもが常識範囲外の荒唐無稽で、頭が理解を止めてしまうわい…。

「まあ、荒唐無稽極みの「鷹の爪」キャラであるワシがそんなこと言うのもあれじゃがな…。
 てか、大体何故、鷹の爪がパロロワに入れられてるんじゃ〜っ!?
 普通にFateかなのはでいいじゃろうが〜!枠の無駄使いじゃ!
 まったくバトル向きじゃないぞワシらは〜!!」

なあ、吉田くん?

……
っておらんのか、吉田くん…。
彼なら「全くその通りです総統。まるでDLCの追加ファイターにパッ〇ンフラワーをチョイスするN天堂様と同じですよ」とか言ってくれるものじゃが…。
う〜む、むず痒いわい…。
ま、メメタァな話はこれくらいにしておいて、とりあえずお決まりのデイパック整理でもするかのう…。


102 : アドルフが告ぐ ◆UC8j8TfjHw :2023/08/01(火) 16:40:46 qOlAfOko0
この殺し合いの中、如何に生き延びるかを重点的に考えるべきじゃしな。
わしが最初に目を通したのは参加者名簿じゃった。
「菩薩峠くんに、吉田くん、そしてフィリップ。とりあえず彼らの名前の名前がなくてよかったわい…。」
大切な、鷹の爪団の戦闘員たち。
彼らといがみ合い殺生を繰り広げることをしなくて済んだ点は主催者に感謝じゃな…。
吉田くん…、もしワシが死んでしまったら、ワシの分も世界征服を精進するんじゃぞっ。うぅ……。
しっかし、反面、知人の名前が名簿に載っているのも事実じゃ。
「レオナルド博士」…。死ぬんじゃないぞ。
ワシらは『世界征服』という共通のの夢を追い、同じ釜の飯を食べた同士…。
博士、絶対あきらめずに生き延びるんじゃよっ!!お前の天才的発明力はこんなところで終わってはならないんじゃ!!

…あっ、デラックスファイターは………。こんなやつどうでもいいか。
コイツはむしろここで野垂れ死ぬのがお似合いだわい。

名簿は見終わったことだし、とりあえずデイパックの物を全部出すことにするか。
まず目に入ったのは、ワシの身長はあろう程の真っ赤な槍。どうやらこれが支給武器ってことじゃな…。
まるでロン●ヌスの槍のような大きなコイツ…。ワシに扱えるじゃろうか。(あっ、エヴァ普通に参戦してるからロンギヌスに伏字いらんな)
あとは缶詰に、ドクペ、お菓子のエアリアル。
で、以上。んんん…少なすぎるわっ!
年寄りに優しくないバトルロワイヤルなことだわい!
フン、まあいいわ。
これでワシの「生き延びるための基本スタンス」が決まったんじゃからな。
荷物確認も終わったことじゃ。
さっそく行動に移させてもらうぞ───。

「……よっこらせっと………。重すぎじゃな、これ…………。」

ロンギヌスの槍、うまく振るう練習するか。
う、くそおっ…重すぎじゃろ…!これ……。持ちにくっ!
うー…こうやって振って…。おっとと…。あー難しい……。
なんて武器なんじゃまったく…おっと

「へっへっへっへーー!死体が動いてやがるぜっ!ファックイエー!」
「なっ…!」

冷汗が垂れ落ちた。
背中に筒のような細いものが突きつけられている感触がする。
…銃、じゃ。状況的に…っ。
ま、ままま、まずいぞ…非常にまずい…。やばい奴にエンカウントしてしまったわい……。
ど、どど、どうすればいいんじゃ、ワシ〜!


103 : アドルフが告ぐ ◆UC8j8TfjHw :2023/08/01(火) 16:41:11 qOlAfOko0
「ま、ま、待つんじゃ!君〜!ワ、ワシは善良な一般市民で殺すにも足らん虫みたいな人間じゃ…」
「オイラの許可なしに喋ってんじゃねぇぜっ!ぶっ殺すぞ死体がっ!!」
「ヒィィイイイ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!お、お許しを!!!」

絶体絶命じゃ。完全に背後を取られている…。
…声からして奴は子供…か?
動こうと思えば力の差でやれるかもしれん…。が、それは勝算のない賭けでしかないのじゃ。
銃の脅威、失敗したらハチの巣確定じゃ…。恐ろしい。
ならば言葉巧みに誘導するまでじゃが…ど、どうすればいいんじゃあ…。
何を言えばいいか全く思いつかんぞお……。
あぁあ〜〜〜〜……、第1回放送までの死亡者一覧に名前を書かれたくないぃ〜〜!!嫌じゃ〜〜〜!

「お慈悲を〜〜〜〜〜!本当にお慈悲を〜〜〜〜っ!!
 殺すとしてもせめて優しく殺して〜〜〜!お願いしますぅう〜〜〜!うわああんん〜〜〜!!」
「ハッアア?テメェ泣きやがってんのか!なっさけねぇ野郎だぜ!死体さんよ!」
「うわあああああんん〜〜〜!お慈悲をください〜〜〜!!お慈悲を〜〜〜!」
「ヘーッハッハッハ!オイラのケツ穴でも舐めたら許してやってもいいぜっ?
 ぎゃはっはっはあーーはっはっはあーーーーーー!!!あっはっはっはっはーーーーーー!!」

紙ヤスリでもマグマでもなんでも舐めるから許しておくれ〜〜!!
ひぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜…。
背中を銃の先で何度も小突いてくる…っ。-
言うこと為すこと何もかも最低ななんて子供じゃっ…〜!

「こちらカートマン将軍、ただ今、ユ卍ヤの小汚い残党を発見したため、弄んだのち殺処分致します。ぎゃーはっはっはっはっは!!
 こっち向け!オラッ!死体!」
「おおおおお仰せの通りにぃ〜〜〜〜!」

ワ、ワシが何故こんな目に…。
なんとかしないと〜!この振り返る間に何か得策を思い浮かばないと…。

得策1:『銃を力づくで奪い取る』…
いやさっきも言ったが最悪自滅じゃこれは〜!却下!!
得策2:『相手の注意をそらす』…
…な、なな、なんて言えばいいんじゃ〜?「あっ、オカピがあんなとこにいるぞ」とか…?
あーーーーっ全然思いつかんぞいっ!!
得策3:『あきらめてただ死ぬのみ。現実は非情である。』…
だだだだ、だが断るぞこれだけは絶対〜〜っ!!
まず、殺される前に本当におケツ舐めをさせられて舌をおしゃかにする可能性あるわいっ!!

…脳裏に浮かぶアイデアは次々と否定される。
もう駄目だわい…。大体そんな簡単に機転効いてたら今頃世界征服なんて達成できてるしな…。
あああ…、ワシはなんて男じゃ…。

タイムオーバー。とうとう得策0のまま振り返ってしもうたわい…。


104 : アドルフが告ぐ ◆UC8j8TfjHw :2023/08/01(火) 16:41:27 qOlAfOko0
銃を突きつけているのは…やはり子供じゃった。
小太りで、陰険にもほどがあるその目つきの少年は、さっきまでの極悪非道なセリフを象徴する見た目じゃ…。
ワシはこれからどんな末路に陥るのか…。
はぁああ……、これが本当にただの夢じゃったら、どんなにいいことか……。
ワシの優勝記念の願い事「夢から覚ましてください」を前払いで叶えてほしいものじゃ…。
捨てられた子犬の10倍哀れな目でワシは少年を見つめた……。

「おっ…おいっ…おいおい、マジかよ?セニョリータ…。」

少年はぶつぶつなんだか言い出した。
…あーああ〜〜…
撃たれたくないよ〜…!現金は2800円までなら出すよ〜…(全財産)!

「ありえねぇっ、ありえねぇって!おいおいおい…。」

うぅう……。神様〜!
目を瞑って、お祈り申し上げます〜!!
なんとかしてえ…、嗚呼、神さま、仏さま、スーパーマン、バットマン、正義の味方、お豆腐屋さん、焼き芋屋さん、おそっさまに書き手様…。

「…ハイルーヒッ卍ラー!!!!!
 知らなかったとはいえ恐れ入ったぜ…!!我が愛しの総統閣下ぁ!!」

…殿さま、博士さま、フィリップ、吉田さま……
って、なんじゃいきなり!?
「入るヒ卍ラー(?)」ってこの少年は。
うーむ。気になる。
恐る恐るじゃが、目を開けることにするか。

……って、なっ!!何をしてるんじゃ君っ!!

「おいおい、まさかあんたが生きてるとはな…。
 学校のクソったれ教材ビデオで嫌というほど見せられたぜ。あんたの極悪外道っぷりをよ。」

なんと予想外なことに銃の少年はワシに敬礼をしていたのじゃ…。背筋をピンとたてて礼儀正しく。
な、なんじゃその変わり様は??突拍子なさすぎるぞ。
ん?ていうかなんじゃ。ワシの極悪非道っぷりって。
教材ビデオで見た?ワシを?誰と勘違いしているのじゃこやつは…。

「ハァァァァ〜〜〜イルッ………」

いやいや待つんじゃ少年。
まさかまさかワシをアイツと勘違いしているのかね…?!
「ヒ卍ラー」ってわざわざ伏字にするって、絶対にネタにしちゃいけないあの独裁者のことかね?!
そんな最低な勘違いをしているのかね、キミはっっ?!?!?

「我が祖国ドイツの大英雄に敬礼っ!!!ヒッ卍ラーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」


105 : アドルフが告ぐ ◆UC8j8TfjHw :2023/08/01(火) 16:41:43 qOlAfOko0
☆ ☆ ☆

さて、小説の途中ですがここでリラックスタイムに入ります。
どうも天の声(CV吉田)です。
ssというものは目と空想力の酷使により、必然と疲労を引き起こす娯楽なので、休憩タイムを設けました。
キューブリック監督のSF映画「2●01宇宙の旅」では、30分ほど何も映さない「休憩時間」のシーンがあることで有名ですが、それと同様のものです。
そうそう、FROGMAN監督の超傑作SF映画「秘密結社鷹の爪THE MOVIE2〜私を愛した黒烏龍茶〜」でも休憩シーンが用意されていますね。

まあ、それはたておき、(別によこおきでも構いません。)
今回は特別に指先だけで全身の疲れをほぐすリラックス方法を教えしましょう。

『島根じゃ常識!!座ってできるリラックス講座』

1.指を手のひらに置き、優しく握ります。
2.ゆっくりと指を回転させるように動かします。指全体が軽く揺れる程度で十分です。
3.指の先端まで意識を集中させ、指先のエネルギーを感じながら、5回反時計回りに回転させます。

指と首は神経がつながっているので首の凝りや背中の張りに効能があります。
皆さんも目の奥がガンガン痛くなる経験があるのではないですか?そんな時こそ上記のマッサージがお薦めなんです。
またもう1つ、

1.指の第一関節(指先から数えて一つ目の関節)に、小さな架空の宝石をイメージします。例えば、ダイヤモンドやルビーなど自分が好きな宝石を選んでください。
2.選んだ宝石を指先にのせたイメージを持ちながら、他の指でその宝石を優しく圧迫します。
3.宝石を圧迫する指をゆっくりと回転させながら、指先のエネルギーが宝石から手のひら全体に広がっていくのを想像します。

これは「宝石指圧法」というマッサージで、前頭葉につながる神経を直接ほぐすことで、ゴチャついた頭を整理できるのです。
さあ、最後に仕上げです。

1.両手を組み合わせ十分に手首を柔らかく回しましょう。
2.できるだけ力を抜いて、ゆっくりゆっくり。
3.では、手を前に向いて振ってください…。何度も何度も。ほら、だんだんわかってきたでしょう…?


106 : アドルフが告ぐ ◆UC8j8TfjHw :2023/08/01(火) 16:42:00 qOlAfOko0




(=f・Д・)=f た〜か〜の〜つ〜め〜

             /        `ヽ、
             ヽ  ,、_)ヽ     `ヽ―-、
              ヽ-ヽ_ノニ=-、、 `   〉
               ィ´ ̄     _二ミ/`ヽ_ノ
            (___ェ¬¨ヽ゚‐' L/  ノ___
               (  rレiiiiー'ヽ、 -r‐' __ノ!
   __        r¬ヽ!Liニニl├‐┴''´  l
  /,,-‐  ヽ      ヽ、 r‐^ヾ、;;;ノ,;;|      ト、
 !_人/,   l    / ヽ`ー,ニ― 、!        ヽ
  (ノヽ<ノ-‐‐、   /    〉 // _  ヽ        ヽ、
     l    l  /     l(〈〈_r'´ーr―ヽ、        ヽ
      !    l/     l  |l   /l   l         l


はいっ!鷹の爪ポーズです!
引っ掛かりましたね!あなたがやったそれ、我々鷹の爪団のお決まり「鷹の爪ポーズ」ですよっ!!
シンアニロワで鷹の爪ポーズをやってしまった貴方。そう、貴方です!!!
この際開き直って、この後出てくる鷹の爪ポーズでは必ず参加してくださいっ!
以上、休憩時間でした!!

(※ちなみに上記のリラックス法は全部大嘘ですっ!やーい!ダマされましたね!!ごめんなさい。)


107 : アドルフが告ぐ ◆UC8j8TfjHw :2023/08/01(火) 16:42:18 qOlAfOko0
☆ ☆ ☆

……
………
「それでは、カートマンくん!今、ここに『新生鷹の団』結成を宣言するぞぉ〜〜っ!
 さあ一緒に!たーーーーーーかーーーーーのぉーーーーーつーーーー…」
「なあところで総統閣下!人体実験の時ってやっぱり興奮しただろ?ユ卍ヤの奴ら絶対泣きべそかいてたよな?」
「……………。カートマンくん、そ、それは置いといて。たーーーかーーの…」
「おいおいそのポーズは核のボタンを連打してる素振りか?!さすが総統!戦争って最高だよな!」

…はぁあ〜。
ワシと現代義務教育の敗北じゃなこりゃ…。
この子供、人格破綻にも程があるわい……。

カートマンと名乗るこの少年、どうやらワシを某卍独裁者と勘違いして崇拝しているようなんじゃ。
おかげで命の危機からは救われたし、即席のチーム『新生鷹の団』に入れることはできたのじゃが…。
いや、本当にじゃが…じゃよ!
まあ確かにワシはちょび髭も生やしとるし、悪の組織のリーダーではあるよ。
それでもあんな独裁者と勘違いされるなんて最悪にもほどがあるわい!名前出すだけでいろんな方面に問題発生する歴史偉人じゃよ!
不本意にもほどがあるのじゃ!

「ちなみにオイラ、あんたが何でその髭生やしてるのか知ってるぜ?!
 第一次世界大戦にて防毒マスクにフィットする髭だったから、だよな!
 そういう諸々は「シ●ドラーのリスト」で履修しちまったんだよ〜。オイラあの映画大好きだぜ?めっちゃ笑えるからなっ!!!
 ぎゃああーはっはっはっはっはっはーーーーっはーーーーー!!!!」

100歩譲るとしてなんでその独裁者を崇めてるんじゃ…こやつは。
それにどちらかと言うとワシのモデルはベガじゃよ。カプコンの殴り合いゲームのあやつじゃ。
「そいつのモデル、ヒ卍ラーだろ。」って突っ込まれたら何も言えんが…。
けども!けどもじゃよっ!

と、まあ、色々不満はあるが今は話を合わせた方が良いじゃろう。
倫理観なんか命に比べたらどうってことないわけじゃしな。
カートマンくんも実質的にはワシに従順していることだし今はこのままでいいんじゃ。
あくまで「今は」じゃが。

「…あとあとワシがみっちり教育してやるわい…。そのねじ曲がりまくった根性をな…。」
「あーなんて?!教育??…あっー、そうだよな!
 ほかの腐った参加者のユ卍ヤ人共に教育が必要だもんな!おいおい総統閣下いわれなくても分かってるぜ??」
「いやいやいやいや、カートマンくん!ただの独り言じゃ!話を大きくしないでくれ〜〜っ!」

うううっ…。にしても、問題発言メーカーじゃなこやつ。
まるで個室トイレでふと壁を見たら巨大な節足動物が張り付いてたときくらい、冷や汗がいちいち湧き出るわい…。


108 : アドルフが告ぐ ◆UC8j8TfjHw :2023/08/01(火) 16:42:34 qOlAfOko0
「ところで総統閣下よぉ?さっき『新生鷹の団』とか言ってやがったが、なんだあれ?」
「なんだあれ…って。ワシらの組織名じゃよ。」
「おいおいおいそりゃねぇ〜〜っぜ?素直に『ナ卍ス』でいいじゃねえか!
 だっせえーなあっ、ネーミングセンス0!鷹なんてオイラのチンポコほども脅威感じねーぜ」
「………んんん〜〜、あぁあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!」

…だからそんな下劣な発言いい加減にやめるんじゃ〜!
まったく…信じがたいゲスじゃな、カートマンくんは。
彼が毒発言するたびにワシの脳内細胞が1粒ずつ壊死していく…。
…とりあえず、今はこの「立場」を利用して静まらせるまでじゃなっ。

「よしっ、カートマンくん…」
「おっ!なんだい愛しの我が総統閣下殿!」
「ナチ…新生鷹の団総統として第一の【命令】を君に告ぐっ!」
「はいはい来ましたぜ!そのお言葉を待っていたんだよオイラはなぁ!
 さあ!なんでもご命令を…―――」
「とりあえず、黙らんか?うん。以上じゃ。」

………
………。
んん…さっきまでのハイテンションぶりが別人のように黙り込んだぞ…。
カートマンくんは失望とも悲哀とも捉えれる表情でこちらをただ見ていた。
少し、言い過ぎた…か?黙らんか、って。
まあ、いいわい。
「何とかとハサミは使いよう」、とはよく言ったもんで、これからも【命令】と称して躾していけばいいんじゃ。
ワシは大人として。彼に情操教育をせねばならんのじゃ。
――ふと、初めて吉田くんや菩薩峠くんにあった時を思い出す。
彼らも最初は愛を知らない心の子供たちじゃった。
それでもワシは世界征服という活動を通じて、心を開かせ、互いを信頼しあう仲になっていったのじゃ。
カートマンくんにも同様、相手を思いやる気持ちや命の大切さ、正しい知的好奇心などを「新生鷹の団」の活動で教えて、
これからを担う立派な大人にせ…。

「分かったぜ総統閣下!『ほかの参加者どもを永久に黙らせれば』いいんだろおっ!?
 さっそく2,3人の干し首をお持ちしてくるぜええーーーーーーーーーっ!!!
 ひゃっはほおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!」

ズガガガガガガッ――――――
ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!


109 : アドルフが告ぐ ◆UC8j8TfjHw :2023/08/01(火) 16:42:52 qOlAfOko0
うんうん、そうじゃそうじゃ。よく指示を聞いてくれた。
カートマンくん、ほかの参加者どもを永久に黙らせて、他人を思いやる心や生命を尊重する心を学ぶのじゃよ…。
彼は銃を天に乱射しながら森の奥へと駆け回っていった――。

「って、いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
 違う違うぞおおーーーーーーーーーー!カートマンくぅぅーーーーーーーーーーん!!!!
 何も命令を分かっていないわいーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!」

な、なにを解釈すればそんな結論に至るんじゃ?!!?
自分本位に捉えるにもほどがあるじゃろ!!!

「FOOOOOOOOOOO!!狩りだッ!!ベトナム戦争を思い出すぜっー!ギャーーーーハッハハッハッハHAHAHAHAHAHAHA!!!!!!!!!」
「いやいやいや世代じゃないじゃろ君ぃぃ〜〜っ!!!待て、待つんじゃああーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

なんも聞く耳持ってくれない…。
脱兎のごとく飛び出した暴走少年兵をワシは懸命に追いかけた。
…今年50になるというのに、全力疾走を出させおって〜〜…!

「殺しなんてやめてくれぇーーー!カートマンくぅぅぅんーーーーー!!!!
 命令じゃぞーーーーーーーー?!?……ゼェエハア……ゼェゼェ……!!」

☆ ☆ ☆

前略。吉田優子です。
お母さん、元気ですか?
我が故郷、島根はすっかり春めいて、楽山公園も桜が満開の頃でしょうか。
…はい、冗談失礼しました。

私は今「ファイナル♡ウォ〜ズ」という私の頭では到底理解できない遊戯に参加させられています。
いえ、本当は意味は分かっているのかもしれません。
あまりのリアリティのなさと残虐非道な現実に脳が自ら思考を停止させてる可能性もあります。
ですが、本能的に理解しないことが幸せだと分かっているので、今は全く考えないようにしているのです。
…え?あなたが頭カラッポなのはいつものことでしょ、って?
ははっ、お母さんそれに良子、島根はすっかり春めいて、楽山公園も桜が満開の頃でしょうかね。ふーははは。


110 : アドルフが告ぐ ◆UC8j8TfjHw :2023/08/01(火) 16:43:12 qOlAfOko0

「さて、私はここら辺でお眠としますかー。たまには森の中で寝るのもいいかもしれませんしねー。」

眠気が限界突破MAXです。私はゆったり目を閉じました。
にしてもー。あはははー…なんですか??『ころしあい』って?
まぞくの私には全く解せません〜〜〜。
ま、どうでもいいことです。目が覚めたら案外元の我が家にいるかもしれませんからー……ムニャムニャ。

ズガガガガガガッ―――
ドンッ!ドンッ!

「うわぁああ!!!
 な、なんの音ですかぁーーー!!」

例えるなら近くに置いてあったねずみ花火に引火しちゃったみたいな大爆音が聞こえましたっ!
眠気はさっぱりサンジェルマンですよっ!
木々がその爆音を木霊し、揺れ動く様になんとも言えない感情をこみあげてしまいますっ。

ズガガガガガガッ―――

しかもだんだん音がこっちに近づいてきます〜っ!
何が起きているのか、頭があまりよくない私でも察すことができますよ!
チョ〜危機状態です!
と、とりあえず…私もその危機に対抗して、『危機管り…

「ナチス陸軍部隊将軍カートマン、売女を発見いたしましたっ。ぎゃーはっはっは!
 どうしますぜ?総統閣下。
 あっ、そういやさっきからオイラのチンコの先が乾きまくってんだよなぁ?!へっへへ!!」
「んんん〜〜ああああ〜〜!カートマンくぅぅん!!何を言ってるんじゃ!!やめてくれえええ!!」

はぎゃああああっーーー!!
エンカウントしちゃいましたっ!銃をこちらに向けられています!
凶暴面がヤバいチャイルドソルジャーと、ドイツのあの人が目前にーっ!
いやいや!こっちが「んんん〜〜ああああ〜〜!」ですよ!私の生涯一の大危機じゃないですかー!

「ようビッチが!おいビッチビッチビッチ!
 …ビッチ〜…♪ビッチ〜♪
 ウェ〜ル…♪
 どうにもならないホントのビッチだ♪一緒に叫ぼうボーイズ&ガールズ♪
 朝から晩まで!月火水木!♪
 年がら年中♪ビッチ!ビッチ!!ビッチ!!!♪
 祝祭日にはスペシャルメニューで♪
 ビッチの王様、カメ・ハ・メハ!ビ〜ッチ!♪」

少年兵くんライフルを突きつけて変な歌合唱しないでくださいぃ〜〜。
こ、これが殺し合いですかぁー…?!!
撃たないでぇ〜〜〜…!!!


111 : アドルフが告ぐ ◆UC8j8TfjHw :2023/08/01(火) 16:43:26 qOlAfOko0
「んんあぁああ…〜〜〜、ワシはどうしたらいいんじゃ……。もう抱えきれんくらい頭が痛いわい〜〜……」

ヒ〇ラーのお方、その言葉全面同意ですっ。
ですがっ!あなたが言うべきセリフではないと思いますーーーっ!!私のセリフですぅーーっ!!
…どしよどしよどうしよう!!

「誰か助けてくれぇえーーーーーー!!フィリップーーーーーーーーーー!博士ーーーーーーーーーーー!
 菩薩峠くんーーーーーーー!!ああああ〜〜あっーーーーーーーーーーーーー!
 吉田くぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!」

…あっ、はいっ!
吉田ですっ!

―――――to be continued…



【F4/森/1日目/深夜】
【新生鷹の団】
【総統@秘密結社鷹の爪】
[状態]:健康
[装備]:ロンギヌスの槍@新世紀エヴァンゲリオン
[道具]:食料一式(ナナチごはん、ドクターペッパー)、エアリアル@実在の菓子
[思考]基本:死にたくない
1:吉田くうーーーーーーん!!!
2:カートマン君や、やや、やめたまえ!!

【エリック・カートマン@サウスパーク】
[状態]:健康
[装備]:ライナーのショットガン@進撃の巨人
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:優勝
1:ヒトラー様の仰せの通りに
2:参加者皆殺し(特にユ卍ヤ人)

【シャミ子@まちカドまぞく】
[状態]:健康、制服
[装備]:不明
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:なんだ、ここーーー?
1:はいっ吉田です!!
2:目の前の子供とヒ●ラーに対処


112 : アドルフが告ぐ ◆UC8j8TfjHw :2023/08/01(火) 16:48:45 qOlAfOko0
投下終了です。
上記ss「アドルフが告ぐ」を1目で状況把握したい方はこちらへ。↓
ttps://img.atwiki.jp/shinanirowa/attach/106/129/taka.png

まだ予約宣言はしませんが、次回は三宅しのぶ、金田(AKIRA)の予定です。


113 : 名無しさん :2023/08/05(土) 19:04:04 AJzpAr5Y0
投下乙です!
総統はカートマンをコントロールできるのか(無理そう)
そしてシャミ子からも例のちょび髭扱いされてるし、現実準拠のキャラからはネオナチ扱いされそうだな……総統、軍服脱いで髭を剃れ


114 : アドルフが告ぐ ◆UC8j8TfjHw :2023/08/05(土) 22:53:09 6yh.kKQM0
>>113
ご感想、感謝感謝です!
総統、話せば恐ろしさ0なので、いずれ誤解は解けてもらいたいものですね…
そういえば鷹の爪団にはエスパー少年の菩薩峠くんがいますが、本ロワでもあの超能力不良児がいるんですよね〜。…この組織の今後の動向に注目です!

ということで、同じく健康優良不良児の金田・しのぶで「大麻忍アキラ(仮題)」予約します。


115 : ◆C0c4UtF0b6 :2023/08/06(日) 02:37:01 CE5wfj/o0
投下乙です!
総統のしょっぱなのメタ発言に草しか生えない
ただ、総統閣下扱いされてることに関してはご愁傷様です


116 : ◆UC8j8TfjHw :2023/08/10(木) 12:28:31 zLcVbm7w0
>>115
ご感想ありがとうですっ!
鷹の爪という作品を忠実にリスペクトした結果なんかカオスロワみたいな内容になりましたw

それと、>>114の投下期限が今日なんですが急用で他県に行くことになったので(遅くても日曜日に)延ばさせていただきます……。
申し訳ありませんがご了承ください


117 : ◆UC8j8TfjHw :2023/08/13(日) 18:02:55 MO3hlMfA0
コロナ感染しました
予約は一旦破棄させていただきます
誠勝手ながら申し訳ございません


118 : ◆UC8j8TfjHw :2023/09/22(金) 22:17:05 jzmY2Nrs0
明日、グエル・ジェタークと渚カヲルで予約します


119 : ◆UC8j8TfjHw :2023/09/23(土) 20:19:34 p1dy31qo0
投下します


120 : 地球からのシ者 ◆UC8j8TfjHw :2023/09/23(土) 20:20:01 p1dy31qo0
 真夜中の海。
地平線の向こう側、真っ暗な空には蛍光灯を垂らしたかのような満月が煌めかさを自己主張していた。
風がそっと吹き、波の優美な音色が海面に揺れる。
何処からかヒグラシの声が、波音を遮るが如く響き渡っていた。

 カナカナカナカナカナカナ――――――

 瓦礫が散らばり、美しいとは言い難い浜辺に、青年――グエル・ジェタークは眼下の波をただ茫然と眺めていた。
彼のまなざしはひたすらに虚ろ。
灰色で統一された作業着――ところどころ汚れがこびり付くそれを着たグエルは、うつむき続けている。
グエルの容姿を形容するのなら、まるで銃殺刑執行前の死刑囚。
深い絶望がその顔に刻まれ、彼はただそこに佇み続けていた。

 いや、彼は、本当に死を望んでいたのかもしれない。
父を殺した自分への贖罪を込めた――――死。

“グエル………、お前、が…無事で…よか…………った、…………”

 彼の鼓膜に焼き付くは、父の最期の言葉。
その途切れ途切れのかすれた声がリフレインされる度に、瞳孔が揺れ動き、心はどす黒い海に沈んでいく。
 ふと、グエルは今日にいたるまでの経緯を頭の奥底で振り返っていた。

 すべては、あの日。学園にやってきた“水星からの転入生”に決闘で敗れてから始まった。

 学園のトップ生徒として威厳を振るっていた自分の、すべてが失われたのがその日以来というのは過言でないだろう。
 巨大経営グループ役員の一員であるグエルの父は、とにかく野心が強い人間であった。
同業者を蹴落としてでも――人を殺めてでも上を目指そうとする父は、会社の信用を損なうことを意味する敗戦を喫した息子を激しく叱責した。
感情のままに発せられるは人格否定の数々。グエルは文句言うことなくそれを受け止め続ける。
やがて、とうとう父の口から絶縁宣言と退学命令を言い渡された。失望が故の宣告に、グエルの地位、そして矜持がどん底へと転落したのである。
 退学後のグエルは、父に相談することなく、ちっぽけな輸送会社へボブという偽名を使い働き始めた。
彼の役職は下っ端の清掃業。先輩から「いつまでやってるんだボブ」と注意される度に、人生が転落したことを自覚させられる。
「何で…、何で俺は…こんなことをやらされてんだ………ッ!」
何度も自問自答し、涙に濡れた日々であった。
 どれほど経った頃だろうか。グエルは巨大宇宙施設“プラント・クエタ”行きの輸送船に搭乗していた。
この頃になると、グエルは努力が認められる職場で充足感を心中覚えていた。先輩たちに弁当を支給する為、広い艦内を巡るグエル。
無論、彼は現状に満足はしていない。それでも、彼は苦笑しつつ、この仕事に身を置いていたのであった。
その時である。突如前触れもなく、後方からの大爆発音がはち切れそうなくらい耳に響き渡った。
襲撃。グエルも後に分かったことだが、宇宙船がテロリスト集団に奇襲されたのである。


121 : 地球からのシ者 ◆UC8j8TfjHw :2023/09/23(土) 20:20:20 p1dy31qo0
 こんなところで死にたくなかった――――。
グエルは瞬時にその場から飛び出した。
彼が向かうは輸送船奥のコンテナ。そこに、ただ一基のみ鎮座していた戦闘用大型機械“モビルスーツ”に乗り込み、グエルは宇宙の彼方へと駆け出す。
 そんな矢先、敵の機体モビルスーツが急接近し、自分へ向けて執拗に攻撃を仕掛けてきた。
雨の様に降り注ぐ弾幕。乗ったモビルスーツの性能が悪いこともあり、かわすこともできず集中被弾を浴び続ける。
装甲部の爆発が続く。
爆音と閃光が鳴り響くコックピット内部にて、グエルは操縦を握り続ける。
「まだだ…、俺はまだ………進めていないんだッ………!」
 火中が飛び交う中、それでも彼は抵抗の火を消すことなく目の前の敵機と対峙をした。
機体損壊により敵機との交渉通信機能は破壊されている。グエルは戦闘という唯一残された進む道へと挑んだ。
目の前のレバーを力いっぱい握り締め押し倒し、急速に敵機へと距離を縮めていく。
 機体は損傷の悪化を続け、全身が穴だらけとなっていた。
が、それでも、グエルはモビルスーツの右腕部に持つビーム銃剣を一心不乱に振り続けた。
「死ぬわけにいかないんだッ…!!!――――――――

 軽いゾーン状態に入っていたのかもしれない。
グエルが意識を取り戻したのは鈍い金属が鳴り響いた時だった。
「………はぁ、はぁ……………」
眼前に映っていたのは、自身の銃剣で串刺しにされ、爆発寸前の放電をまき散らす敵機であった。
勝利だ。彼の「死にたくない」という強い意志が、性能差のある戦いに大番狂わせを起こしたのだ。
「勝った、勝ったんだ…!」
 流れ落ちる汗を拭い、ほっと安堵をするグエル。
死という最大の転落を回避し、心に平穏が訪れた瞬間であった。

 そんなグエルの眼に次に映ったのは、敵機と思っていたモビルスーツから出てきた血塗れの父の姿だった。

「グエル………お前、か……………、お前、が…無事で…よか…………った、…………」


――――――俺が殺したんだ。父さんを。

 波音が悲哀のメロディを奏でる。
殺し合いを強要されてから一時間ほど経るが、グエルは一歩も動かず塞ぎこむのを辞めなかった。


122 : 地球からのシ者 ◆UC8j8TfjHw :2023/09/23(土) 20:20:43 p1dy31qo0
 潮風香る海の音響がグエルの耳にも流れ込んでいく。
不意に、幼少時代の海の記憶が思い浮かんできた。
 夕日が沈みかけた浜辺にて、よれよれのシャツを着こなした父と、二人でオレンジ色の水面を眺めていた。
その頃のグエル少年は、波の行き来る様子をただ何も考えずに楽しんで見ていた。
 ふと、「あれを見てみろ」との父の声が掛けられる。父は海の向こうを指差していたのでグエル少年は黙って従う。
目で追った先には、水中にて1匹のメスを争っている2匹のオスのコウイカがいた。
触手が絡み合う両者。素人目にはどう戦ってるのか分からなかったが、やがて片方のイカがズタボロになって浜辺まで漂ってきた。
グエル少年は、興味から手を伸ばしたが、それよりも先に父はその死骸を遥か遠くに蹴り飛ばした。
 眉根を寄せた嫌な表情を向けて語られた言葉が、今でもはっきり覚えている。
「いいか? グエル。なんだかんだ言ってこの世の中ってもんは結果がすべてなんだ。どんなに悪どいことをしようがな、最後に笑った奴が絶対勝者。これが真理なんだよ」
水面に浮かぶ死骸に向かって、父は「つまりあれは敗者なんだ、屑なんだよ」と言うかのように視線を飛ばす。
グエル少年は、そんな父の言葉をありがたい言葉を受け入れるように真剣に聞き入った。
「だから俺はな。他者を裏切り、踏みにじり蹴落とし、そしてわが社を守り続けている」
「うん、」
 父は説法を続ける。
「お前も絶対に勝者になるんだ。これが父さんとの絶対約束だ、いいな。グエルよ」
 そう言い終えると父はグエルに顔を向けて暖かな微笑みを見せた。
醜悪なものを含んだその愉楽な表情が、水面から乱反射した陽でまばゆく照らされる。
父の言葉にグエル少年も笑みを返し、声を出した。
「うん! わかったよ父さん。ぼくもあの、かったイカみたいな…いや、父さんみたいな!かつ側になってみせるよ!」

 少年は嬉々としてイカに指をさした。
父と二人、その背中を並ばせた――――――あの頃の夕日の浜辺。

 十年後――――――モビルスーツと共に爆散し、一瞬にして消し炭と化する父の姿。
無音の宇宙空間で、バラの花びらのように漂う鮮血の玉水。
突然記憶の中に蘇ってきた、父の最期の表情。

「……うっ! ぐ……ぐ……げ、おげえぇえぇぇ!」

 カナカナカナカナカナカナ――――――。
波は、今でもあの時と同じように打ち続けている。

 ここ数日近くグエルは何も口にしていない。そのため彼の口から零れるのは、透明な胃液のみ。
口内に広がる酸っぱさに反応すると、彼は顔を上げる。
「俺は…どう、したら……」
 グエルには学園での名誉も信頼も地位ももうない。
そして――父も、もうこの世にいない。生きる希望もない。
なにも無い中、今、この殺し合いの場に参加権だけは与えられている。
 グエルは頭を抱えた。背筋を丸める彼は、この現実に一体どう対処すべきか苦悩し続ける。
「…どうしたら…」
 救いを求めるように海の向こうへと自身の存在意義を問いかけた。
「どうすればいいんだ………ッ!」
声を絞り出すかのようにか細く、しかし力強く独り言を呟く。
漆黒の中一人輝く満月。
かつてのグエル少年は成長した大きな背中を光に晒し、ひたすらに震え続けた。


123 : 地球からのシ者 ◆UC8j8TfjHw :2023/09/23(土) 20:21:08 p1dy31qo0
 ――――そんな時、何処からか歌声が聞こえた。

「ふん、ふんふふんふーん、ふんふんふんふん」
 まるで、海とヒグラシの鳴き声にハーモニーを奏でるように。少年の鼻歌が旋律を和音となる。
グエルは歌声のする方向へと首をターンさせた。
 音色が響く先は自分の正面斜め左側――海の方角。
海の真ん中にて、大きな瓦礫が水面から突き出ている。
そこに――声の主が座っていた。白シャツと黒いロングズボンを履いた白髪の、グエルとは少しばかり歳の離れてるであろう少年が瓦礫に腰を掛けている。
歌声の主の少年は、グエルにとって言わば初遭遇の参戦者。
何も言葉を出さずとも、しばらく少年を眺めていた。
「“B小町”はいいね。」
 そんなグエルの視線に気づいたかのように、少年がこちらに首を向け言葉を発した。
「…ぁ、?」
 グエルは、精神の深い不安定さに苛まれていたこともあり、そんな声のない返しが精いっぱいであったが。
それでも、少年はグエルの返答に微笑み、言葉を続ける。
「――B小町の歌は特にいい。10年前解散してしまったアイドルなんだけども、最近復活したんだ」
 そう言うと、少年は耳につけていたイヤホンを取り外し、グエルに見せつけるかのようにそっと掲げた。
黒色のイヤホンから流れ響く、シャカシャカと大音量の電子音。
一方のグエルは、応対も返さず仏頂面のまま座りつくしていた。
確かに、ビー小町だのアイドルだのとまるで次元が違うような意味不明な話を唐突にされて相槌を打てというのは難しいものだが。
そんなグエルを横目に、少年は話を続けるように一言。グエルに呼びかける。

「うん、歌はいい。そう思わないかい? “ヨコレンボ”くん」

 カナカナカナカナカナカナ――――――。
ヨコレンボ、
微笑を浮かべ続ける少年が口にした自分への呼び名に、グエルは思わずカッと声を荒げる。
「な…!ぉ、おいふざけんなッ!ヨコレンボって俺に対して言ったのかッ?!…俺はグエルだ!“横恋慕”なんて呼んでんじゃ……」


124 : 地球からのシ者 ◆UC8j8TfjHw :2023/09/23(土) 20:21:26 p1dy31qo0
 この時グエルは気づいた。
全身が硬直状態となり、急ブレーキをかけたかのようにその荒げた口調を静まらせる。
 ヨコレンボ――改め横恋慕という呼び名。

「ねェ……よ……………………?」

 それはかつて、水星からの転入生――スレッタが自分に適当につけた屈辱的な名前であった。
グエルを冷淡に軽くあしらい続ける女生徒・ミオリネのトマト畑を腹いせで荒らした時、しゃしゃり出てきたスレッタは彼をそう呼んだ。
スレッタに尻をしばかれた挙句、横恋慕呼ばわりで取り巻き達にすら失笑された――あの時の赤っ恥は彼にとっていまだに忘れられない出来事だ。
 ――――問題は、自分がその蔑称で呼ばれていたことを何故、この少年が知っていたのか?ということ。
あの時、あの場にはこんな少年などいなかった。横恋慕という呼び名がほかの生徒間に広まったこともない。
「お前…何故知っている………?なんで、今…横恋慕くんって呼んだんだ……?」
 虚を突かれた表情でグエルは、生じた疑問を遠くで座る少年に向かって投げかけた。
少年は穏やかに返答を返す。
――まるで、昔からの馴染みと日常会話をするように、親しく。
「はははっ、これは失礼だったね。グエル先輩」
「…っ! …だ、だから、出会ったばかりのお前がなんで俺の名前を知っているんだっ?! ……お前は誰なんだよ…!」
 グエルは勢いよく立ち上がってそう叫んだ。
先程までの仏頂面から一変、その不可解さから額にしわが寄り、息遣いは荒くなる。
そんなグエルを、微笑のまま表情変えず眺める白髪の少年。
少し間をおいて、少年は、「お前は誰なんだ」という質問に対してだけ応える形で、やっと自分の名前を口に出した。
「僕の名前は渚カヲル、君のことは何でも知っているよ」
ミステリアスな少年・カヲル。
彼は、例えばこんなことも知っているよ、と挙げるように一言。

「――――グエル先輩の会社がもうじき倒産しちゃうことも、ね。」

 という言葉で締めて、自己紹介を終える。

「……い、今…なんて言った…っ?」
 全身に静電気が走り去った感触だった。
グエルは、投げかけられたカヲルの信じ難き言葉に平常心が大きく揺れ動く。
「なんて言った、ね――。もう一度言うよ。君の会社がもうじき倒産しちゃ」
「俺のっ……父さんの会社が潰れるってどういうことだよぉっ!!!」
 ――――――――――。
カヲルのリピートは怒号のような大声で遮られる。
ヒグラシの声が、そして波の音すらも、一瞬静粛したように感じた。
 会社、が…、ジェターク社が、潰れ、る……?
自分のことを何故か知っているカヲルが口にした、自分の知らない事実。
グエルは額に汗を滲ませながら、慌ただしく詰め寄っていく。


125 : 地球からのシ者 ◆UC8j8TfjHw :2023/09/23(土) 20:21:43 p1dy31qo0
 浜辺を駆け蹴る打音。
――その足音のテンポにぴったり合わせてくるが如く、どこか遠くからギターのか細い音がフェードインをしてきた。
カヲルは近寄ってくるグエルなどお構いなしといった様子で、瞼を閉じ、心地よさそうにそのギターの響音を耳に流し込む。
「…この音は“ぼっちちゃん”のギターだね。小さな音だけどシンプルで、優しさがあって…。やはり、歌は文化の極みだ」
そう言うと先ほど同様、ふんふふんふーん、と鼻歌での重奏をかなで始めた。
「ふざけんじゃねえ! お前っ! さっきから肝心なことは何も答えてくれないじゃねえか!」
 掴みかからんとばかりに距離を縮めてくるグエルにはまるで眼中のないように。
グエルは今、カヲルの座る凸凹に浮き上がった瓦礫によじ登っている。
ぜぇ、はぁ、と呼吸を乱しながらも、目のすぐ奥で背中を見せるカヲルに問いただしを続けた。
「…なあって! もう勘弁してくれ、こっちを向けって! なんなんだよお前は?!さっきから言ってるが、父さんのジェターク社がどうな────」
「──さて、そろそろ出発だね。殺し合いという<コンサート・ホール>で開かれたライブ演奏の特等席へと。行くよ、グエル先輩」
 突如、こちらを振り返り目を開くカヲル。
グエルの言葉をマイペースに遮った彼は、瓦礫から勢いよく飛び上がり、浜辺へと両の足を着地させ、
「って、なっ────! おい、お前っ!!」
ふらふらとギターの音のする方へ歩いていった。
「待てよ! 待てったら!」
 両手を黒い学生服のポケットに突っ込み浜辺を歩いていくカヲル。
グエルも一瞬面を食らった表情をしたが、慌てて瓦礫から飛び出し、後を追って行く。

「────シンジくん…、今度こそ僕が君を救ってみせるよ。この忌々しい運命の輪<リング>からね」
 前方を歩くカヲルがボソっと何かを口にしたのが、ふと聞こえた。

 真っ暗な夜空を反射する果てしない闇の海にて。
豊かに流れゆく波とギターの調和は、夜の静寂らしからぬ、なんと饒舌なことだろうか。

 気づけば、ヒグラシのあの甲高い鳴き声は演奏からフェードアウトし切っていた。


【G9/海辺/1日目/深夜】
【グエル・ジェターク@機動戦士ガンダム 水星の魔女】
[状態]:精神不安定
[装備]:不明
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:まだ動向が定まっていない
1:カヲルを追いかける
2:カヲルにジェターク社のことについて問い質す。
3:父さんを…殺しちまった…
※参戦時期は1期最終回後、地球で捕虜にされた頃です。

【渚カヲル@新世紀エヴァンゲリオン】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:ウォークマン@エヴァ、食料一式(未確認)
[思考]基本:碇シンジを救う
1:ギターの音がした方へ向かう
2:グエル先輩と行動
※参戦時期は死亡後です。


126 : 地球からのシ者 ◆UC8j8TfjHw :2023/09/23(土) 20:24:41 p1dy31qo0
投下終了です
OP風MADも作ったのでぜひご鑑賞ください
ttps://www.nicovideo.jp/watch/sm42795620


127 : ◆C0c4UtF0b6 :2023/09/23(土) 20:28:40 KxbGCZMU0
投下乙です!
グエルゥ……よりもよって1期終了直後から…


128 : ◆UC8j8TfjHw :2023/09/23(土) 21:35:19 p1dy31qo0
>>127
ご感想ありがとうございますっっ!
グエルくんの参戦時期は正直どうかと思いましたが()、もしかしたらまた違う形での成長が見られるかもしれません…!
ちなみに、次回は水星勢の中じゃ一番扱い方がやり辛いであろうシャディクで投下する予定ですね。(某生まれかわり妹、某ヒゲ面とセットで)

※あっ、エラン・ケレスは正式に「強化人士4号」の参戦にしました。


129 : 名無しさん :2023/10/05(木) 21:22:45 3PdcCJu.0
投下乙です!
グエル最悪な時期の参戦で草
そしてカオル君は謎が多い(原作からそうだけど)


130 : ◆UC8j8TfjHw :2023/10/06(金) 21:49:14 OQ.85PbI0
>>129
ご感想、感謝の極みです!
カヲルくんは使徒なので「なんでも知ってる」設定のチートにしましたが、ご都合主義で上手いこと動かさねばならないので彼らの動向は見どころになるかもしれませんね〜。

[お知らせ]
明日、シャディク・ゼネリ&ジーク・イェーガー&星野ルビー(実は参加者紹介ページでpv数最多)で投下します。
以降、投下ペースを一気に上げていくのでこれからもシンアニロワを宜しくお願いします。


131 : ◆UC8j8TfjHw :2023/10/07(土) 21:12:07 Y8yGuEvk0
投下します。
ラスト付近で、以下のBGMを脳内再生していただいたらより一層楽しめると思います。
[【推しの子】ノンクレジットエンディング|女王蜂「メフィスト」]
ttps://youtu.be/0saw1cGIl1A


132 : ◆UC8j8TfjHw :2023/10/07(土) 21:12:35 Y8yGuEvk0
**シャディク・ゼネリの夜遊び-アイドル編
(登場人物) [[シャディク・ゼネリク]]、[[星野ルビー]]、[[ジーク・イェーガー]]
----




「殺し合い、いやファイナル・ウォーズ、…か。できることなら主催者側で招集してもらいたかったかな?」

 潮風が漂う真夜中にて、あぐらを搔きながら俺シャディク・ゼネリはため息代わりの独り言を漏らした。
俺がワープされた先は三階建て程の建物の屋上。
周囲を見渡せば年季の入ったコンテナや、丈の低い建築物が所せましに立ち並ぶ。
今、俺は寂れ切った港──いや、海の工場にいるようだ。人気の一切ない深夜の海港は相応の不気味さを醸し出していた。

「まるで地球、だな」
 俺は眼下の光景に、ボソッと感想を呟く。
人の気配など全くなく錆で茶色く朽ち果てた工場周囲一帯、忘れ去られたかのように立ち尽くす煙突、寂寥の中ただ一人饒舌な波のメロディ。──そして、郷愁。
人類に捨てられた星・地球の風景、まさしくここに在りといった感じだ。
ふぅっ、なんだか軽くため息が漏れてしまう。

「……にしても、これから俺はどうしたらいいものだろうかね」
首に巻き付いた金属を爪の先でぼんやりと叩きながら、俺は今後の『基本方針』について思考を開始した。

 殺し合い──このバトルエリアの広大さとは反比例して実行できる思想行動は非常に狭まっており、『基本方針』という名の進める道は事実上、以下の二つしかない。
主催者の指示に従い恥もプライドもなく殺人ゲームの優勝を狙う『マーダーの道』と、主催者に抗い殺し合いそのものの打破を模索する…まぁ『対主催の道』と命名しておくか。
俺ら参戦者たちは、この単純二元の直線上で、最も生存確率の高い方向を見定めなくてはならないのだ。
 では、『マーダーの道』を選択した場合の損得について考えておこう。
まあこのデスゲームという狂った環境下においては常識的・一般的と言えるのがこちらだ。
皆殺しをすればいいだけ、という単純明快な理念がある上に、『対主催』と比べた場合相対的に生存確率も高いわけで、考えるまでもなく優勝目指して殺し合いに乗るべきではある。
 が、しかし、このファイナル・ウォーズというデスゲームどうも胡散臭い。
これだけ大規模な殺人犯罪ゲームであるのだ。例え優勝したとしても無事帰還できるという保証は正直言って考えにくい。
口封じはなくとも、優勝者は奴ら主催者に生殺しに置かれる可能性は十分にあるだろう。
優勝の為奮闘した労力に見合う結果を迎えられるか?と考えたら「ノゥ」なわけで、脳死で殺戮を始めるのはリスキーと言える。
ならば『対主催の道』においてはどうだろうか。
首輪を外し主催者の居場所を探り当て抹殺、が紋切り型…と表現するのは正確かは分らんが、オーソドックスだろう。
他にはマーダーの参戦者を全員始末して、事実上殺し合いの進行が完全にストップする『詰み』の誘発をさせる、なんてやり方もあるかな。
いずれにせよ対主催側に立った時の作戦は机上の空論でしかないのだが。何せこの殺し合いは究極で完璧なくらいルールの穴など見当たらず、主催者打破なんて付け入る隙がまるでないのだからな。
対主催をするにあたっては十分なほどの熟考が必要となるわけだ。


133 : ◆UC8j8TfjHw :2023/10/07(土) 21:12:55 Y8yGuEvk0

 と、なるとだ。
「…こんな下衆なデスゲームで一々頭脳なんて働かせたくないな正直。それじゃちゃっちゃと殺し合いに乗ってしまう方がお手軽だ」
 郷に入っては郷に従え、だ。…まあ俺は自分から入ったわけでなく、連れて来られたわけなんだが。
ゲームに従い、他の参加者を能動的に殺害する。このスタンスで、現状下を生き抜くとしよう。
生還したら地球のテロリスト共に主催者を襲わせて口封じってことで。
「ははははっ、善か悪かで言ったら相当な悪だな。俺は」

 ま、とにかく、考えも定まったことだし、まずは支給品整理といくか。
横に置いてあったバッグから色々取り出してみることにする。まず手に取ったのはこの…、
「鉄の棒…。俺の武器……、こんな物か?」
 どうやらこれが俺に支給された唯一の戦闘のお供のようだ。バッグをいくら漁れども武器らしきものは落ちてや来なかったからな。
カラーは青色で、持ちやすい長さのこの鉄パイプは、全体的に凸凹や傷が目立っており使い古した感を醸し出していた。…端についている赤い染色は、これ血か?
なんだろう、俺的にはもっと銃とか殺傷能力は十分に保障されるものが支給されると思っていたんだが。
微妙な外れ武器に落胆しつつ、一旦、パイプを傍に置いた。
 次に取り出したのは銀の缶詰と、それに瓶飲料。
あれだけの参戦者の数がいるのだから長期戦は必然だろうに、一食分しか用意されてないとはなんとも狡猾。
つまりは、この食料を巡って殺し合いに発展させようという魂胆があるのだろう。
 どれどれ缶詰の中身はーーー…、茶色いたれ付きの肉か何かか、これは。
貴重品ではあるが、どうせあとで殺した奴から奪うので贅沢に味見でもしようと思う。
「……うげっ!く、口いっぱいに排泄物が広がる味っ………!!こんなのを料理とは俺は到底言えないっ……!」
食料の総評は…、“度し難い味”と表現するか。
見せしめで死んだカタツムリの肉でも使ってんじゃないかってくらい酷い出来だ。
缶のラベルによるとこの料理名は“ナナチごはん”…。
はあ…、殺し合いでの食料問題の危機を懸念すると共に、最後の支給品の確認をするとしよう。
「…タブレットか。電源…はあるのか?」
 バッグの中におまけが如く入っていたのはこのタブレット端末であった。
普遍的な──俺の学園でも使われてるようなただのタブレット。とりあえずは起動してみる。
出てきた画面はーー…。ほうほう、成程。
「地図か。…これ以外は機能はないみたいだな」
地図と言ってもかなり簡略な物だ。線と四角でのみ構成された電子地図。
 あと描かれているのは一定の間隔で光り輝く白い点、これが俺の現在地点ってわけだ。
…おや、もう1つ白い点がうようよと、俺の現在地点のすぐ近くの四角の中にてうごめいている。
あー、つまり、この地図は他の参戦者の場所も示しているわけだな。
俺の眼下のすぐ近くは、廃工場が二つ、向かい合うように建っているのだが、その右の工場に値する場所に点がいる。

「…そいつが、俺の第一ターゲットとなるわけだ。」
 俺は、置いてあったバールを力いっぱい握り締める。
たまたま近くにいたから、って理由でそいつを殺すのも悪いが、俺は躊躇なく戦わせてもらう。
過程としては、出口から出てきたところを脳天目掛けて一撃、がベストだな。武器のスペックの低さもある為、決して自分から押し入って襲ったりはしない。
奴が扉から出て、外の世界はどうなってるかを認識する──その一瞬の『隙』を狙ってバールを振り下ろす。
 よし、殺しのシミュレートは完璧だ。大胆だがスマートに、そして効率よく殺して行こう。
俺はタブレットを懐に仕舞うと、要らない支給品やバッグは散らかしたまま、1階に通じる階段を目指し歩き始めた。


134 : ◆UC8j8TfjHw :2023/10/07(土) 21:13:31 Y8yGuEvk0
「………──待てよ…、俺はそう簡単に手を汚していいものだろうか…?殺し合いで」
 葛藤──。唐突に頭に沸いたその感情は、右足を前進させることを拒ませた。
…何故だ。躊躇する気はないと心に決めたばかりだというのに、まるで何かに引っ掛かりがあるかのように邪魔してくる。
良心から生じる葛藤か?いや違う。そんな物は当の昔に捨て去った。
主催者の操り人形になるなんて許せないという矜持からか?…いいやこれも本質的には違う気がするな。
なんというか、殺し合いに乗ることで生じる最大のデメリットがあるような。そんな違和感が生じてくる。

 ふと振り返り、俺は地面を眺める。
先程は気が付かなかったが、ナナチごはんという名のゴミや空のデイバッグが散らかるそこに、1枚の未確認の支給品があるのを確認した。
 俺はその紙を手に取り書かれている内容を目に入れていく。
紙は題目にして『参加者名簿』。長々とたくさんの名前が記されたその中に『葛藤』の正体が紛れ込んでいたのだ。
「ミ、ミオリネ…………!君も、いるのか………」
 不覚だった。いや、違う。
俺の知人や友人もこの殺し合いにぶち込まれている可能性は頭にあったが、無意識にそこから目を背けていたんだ、俺は。
 『ミオリネ・レンブラン』。…君は今どこで何をしているのだろう。
他人に指示されるのも縛られるのも嫌いな君のことだ。
きっと、殺し合いを止めるため奮励努力しているんじゃないだろうかな。ははは。

 …俺は優勝することを決意した。
だが、勝利の代償として彼女という存在の消失が伴われる。
──殺し合いに乗ることは俺にとって最適解なのか…?
俺は、また一から基本スタンスの構築をしなくちゃならなくなってしまった。

「…にしても、エランに…なんだグエルもいたのか。んん?チュアチュリー…っていうのは…あぁ、確か地球寮の…。って、水星ちゃんまでいるぞ?!」
 どういう人選なのかよく解せんな。
エラン等の名前を見つけたとき一瞬ベネリットグループでの何か陰謀がバックな可能性がよぎったが、参戦者のチョイスがあまりに無作為でまばらだしな…。
 ふう…っと。
さて、どうしたものだろうか…。
『止まれば1つ、進めば2つ。』なんて言い回しをやたら耳にする昨今ではあるが、まさしく俺は2つの岐路に立たされている。
俺は一体どうすりゃ…。


135 : シャディク・ゼネリの夜遊び-アイドル編 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/07(土) 21:14:18 Y8yGuEvk0
 …仕方ない。悩んだ時は、一旦別のことに意識を向けて頭を整理するのが然るべきだ。
とりあえず、今は地図の全体図でもダラダラ眺めていようかな。
次いでだし、ここが、離島なのかそれともどこか半島かなのも知りたいもの。
胸からタブレットを取り出し、スリープ状態で黒画面のそれに、また再び電源を点けた。
「ん? …点が、『3つ』表示されている……っ!…俺の知らない間に参戦者が付近に……」
 新たに表示されていた第三の点。──そいつがいるのは俺の正面にある2つの廃工場の左の方だ。
点は走っているのか、物すごい勢いで右へと移動し出口を目指して進んでいる。
 面白い偶然なことに、先ほどまでいた右側工場内の点も、折しもそのタイミングで出口のある左へと移動開始をしている。
両者共に、まるで磁石に吸い寄せられるかのように俺の眼下の中央部へと進んでいるわけだ。
出口の扉が開かれるのはほぼ同時と言っていいだろう。対面はもう間も無くだな。
 …はははっ!場合によっては、俺は高みの見物で1vs1のバトルロワイヤルを観戦できるようだ。これは面白い。
──ならば、俺も相応の態度を取らねばなるまいな。
決闘の第三者・『決闘立会人』シャディク・ゼネリとして、お決まりの口上を発させていただく。

「──これより双方の合意のもと、殺し合いを執り行うッ! 立会人はこのシャディク・ゼネリが務める!」

「決闘方法は1対1の個人戦、勝利条件は、『生命活動を停止させること』で決するものとするッ!」

 扉は予想通り一斉に開かれた。
ノブを回す金属の鈍い音が、試合開始のゴング代わりに。静かだった港を今、コロシアムへと変える。

「両者、向顔────ッッ!!」

…ははっ、だなーんつって。


136 : シャディク・ゼネリの夜遊び-アイドル編 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/07(土) 21:14:43 Y8yGuEvk0
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 突然殺し合いをするように言われて、わたしは気がついたらチョー真っ暗な広い部屋の中にいた。
体育館のような空間のそこは、ベルトコンベアだったり「安全+第一」と書かれた鉄橋だったり大型機械が建ち並んだりしてたから工場みたいな場所と認識できた。
 はぁああーー……、夢かと思ったけども、これ現実…なんだよね。
突飛過ぎてボーーっとしちゃったんだけどーっ。
改めて、これまで起こったことを振り返ってみよっか。

 そかそっかー、
あのサングラス曰く、拉致った上に絶対外せない首輪も付けました〜☆、と。
それでもって、俺様の頼みはみんなでちょっと殺し合いをしてください〜。
優勝したら願い事(笑)をかなえさせますよ〜☆、かぁ。
ちなみに、歯向かっても構いませんが、その首輪が爆発して胴体とオサラバになるだけですよ☆☆、とも言ってたね〜。
で、わたしのワープした先はどんより真っ暗工場の中ですよ、と。

「優勝目指して頑張りましょうーっ☆って? はいはい、究極で完璧な応援ありがとうデス……。あはははは〜」


……ッ!!
………っっっ!!!!!
…はァあアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!??!!!!??

「はぁ死ねよっ?! 常識も倫理観もないグラサン猿人がああっ! 何の許可あってわたしを巻き込んでんだよっ??!! ファイナルクソーズ(笑)とか参加者てめー1人で勝手に開催して勝手に自殺してろよ!!!! あとさぁ、モニターじゃ上半身しか映ってなかったけどどうせてめーチビだろっ?! この豆サングラーーーーースぁぁぁあっっ!」

 ポッケから我がスマホを召喚!
古来より私ら哺乳類という生き物は怒りを何か物に八つ当たりして発散してきたものだ。
私はその矛先を「トゥイッター」で晴らす!
スマホに対し、指がへし飛ぶ勢いで連打攻撃を浴びせた。

「きめぇんだよ!! 死ねよっ! しね! しね! しね! しね! しね! しね! しね! しね! しね! しね! しね! しね! しね! しね! しね! しね! しね! しね! しね!」
『星野ルビー@starruby HELP!HELP!HELP!HELP!HELP!HELP!HELP!HELP!HELP!HELP!HELP!HELP!HELP!HELP!HELP!HELP!HELP!HELP!HELP!』

「教育! しね! 教育! しね! 教育! しね! 教育! しね! 教育! しね! 教育! しね! 教育! しね! 教育! しね! 教育! しね! 教育! しね! 教育! しね! 教育! しね! 教育! しね! 教育! しね!」
『星野ルビー@starruby ちょちょちょマジやばい!冗談抜きで!誰か助けて!誰か助けて!誰か助けて!誰か助けて!誰か助けて!誰か助けて!誰か助けて!誰か助けて!誰か助けて!誰か助けて!誰か助けて!誰か助けて!』

「ねえ! 気持ち悪いんだよキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモーーーーーーーー!」
『星野ルビー@starruby このツイート見てふ人絶対RTしてくだすい!、!!究極で邪悪な大犯罪的誘拐にままま巻き込まれました!通報!通報!通報!通報!通報!通報!通報!通報!通報!』


137 : シャディク・ゼネリの夜遊び-アイドル編 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/07(土) 21:15:04 Y8yGuEvk0
 ぜぇぜええ〜〜…。はぁああ…。
憤慨の度合いを表すかのように、スマホは既に指紋まみれでベッタリまみれとなったけども、わたしのイライラは収まりそうにはなかった。
いや、そりゃそうでしょー!?殺し合いしろなんて言われて冷静になれるかっちゅーの!!
お釈迦様でも聖人君主でもマリア様でもないんだから受け入れられるかぁーっ!

「…しぃぃ〜〜〜〜〜〜〜〜ねえっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ……!」

 まるでRPGゲームとかの敵が力を込めるヤツみたいに、わたしはプルプルルーッと震える指を引く。
その時の表情は、ファンのお客さんに見せられないくらい顔真っ赤で汗びっしょりだったとは思う。
もうそれくらい必死&イライラMAXってことよ。
 全集中。叩きつけるがようにわたしは振り上げた指を画面に向かって突き出した。
指の狙う先は「ツイート/投稿」ボタンだ。……あんの猿グラサン、マジで〜ッ………!

『電源が切れました。シャットダウンします。』
「氏ねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 最悪すぎるでしょっ!
指が画面に触れるより先に、スマホの電源がぶちぎれたやがった!
よりにもよってなんで今充電足りないんですかあーーっ!
 完全に画面が真っ暗になった板切れを前にわたしはもはや発狂寸前の領域まで言っていた…。
いや発狂してるよ゛!!あああああああああああああああああああっーーーー!!!

 激怒が感情を完全支配し、頭が真っ白けっけになってたわたしは、自分が今まさにスマホを地面に叩きつける姿勢をしていたことに暫し気付かなかった。
そして、八つ当たりの犠牲者となるべく、役立たずの板切れは物すごい勢いで地面へとぶち落とされるのであった…

「…って、いやいや、さすがにそこまではわたししないけどさ。」
うん、スマホぶん投げたのは嘘。
実際は、高く掲げたと同時に急に、糸が切れてしまったのだ。冷静さがわたしの頭の先からつま先まで全身をひんやりと駆け巡る。

「はぁーーーーーーーーーー……、朝早いから早寝して備えてたのに〜…。ロリ先輩たちにレッスンバックれどう説明すればいいわけさ…」
 落ち着いたところで今一度現実を見直そっか…。

 …ワンチャン、これ全部テレビ企画のドッキリって可能性はあるよね?
あの撃たれた子どもも、というかあそこにいた全参戦者もお芝居って感じの、ドッキリ。
だって普通に考えればファイナルウォーズなんて、如何にも午後ローでやりそうなB級感満載の荒唐無稽だし。
可能性はかなり大ではある…。冷静に考えれば本質は簡単に見えてきた。
…だけどもよぉ!呼び出し方がチョー気に食わないんだけどもなあーっ!やっぱふざけんなしね…って、待て待て落ち着けわたしー…!


138 : シャディク・ゼネリの夜遊び-アイドル編 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/07(土) 21:15:21 Y8yGuEvk0
 いやいや、でもお世辞にも末端中の末端アイドルな私を普通参戦させるかな…?
だって、普通テレビ企画なら視聴率もバズ受けもいいもっと売れっ子の女の子を出すよね〜…?
リアリティを出すためにわざと私のような無名……っ…をチョイスした可能性も…あるっちゃあるけど。
 …リアルといえばさっきの撃たれた男の子の、生々しい血の匂い。それに血の滴る肉の塊…。
フェイクにしては凝り過ぎてるって感じ…だよね。やっぱりこれは本物なのかな…。

 本物ノ殺シ合イ…………。

「…って、ヤラセだろうが本当のバトロワだろうが、関係ないよねっ。わたしのすることはただ一つっ!」

『殺し合いなんか乗らずみんなを助ける』──わたしの基本行動方針はそれだ!

 だって考えてみたらさ。
たとえこれがテレビショーだとしたら、願い事欲しさに嬉々と殺人をし続ける無名アイドルなんて評価がた落ちの大炎上が行く末なわけじゃん。
直近で言えば『マジ恋』のあかねがいい例だし。

 反対に、これがリアルガチ殺し合いだとしても同じ。まあそもそもわたしがクソザコだから闘いなんかしない、ってのもあるけど…。
…──もしも、お母さんなら。
あの天才的な大アイドル“星野アイ”彼女が私と同じ近況に陥ったら…。
首輪の脅威も恐れず、絶対に困っている人や泣いてる子供たちの助け合いに向かうはず。
「そうだよね?ママ…っ!」
 だから見守っててね、と思いを飛ばすようにわたしは天に向かってまなざしを注いだ。
さて、そうと決まれば早速行動に移すべし!
とりあえずー、今からやることは、というと〜…。

 シーーーーーーン…

 ふと、闇の中の静まり返る工場内にて、一人ぽつんといることを自覚させられた。
「と、とと、とりあえず…この真夜中の廃校みたいな怖いとこから出るまでだよね…?」
『出口』と書かれた狭いドアのノブをギギィ…と回し、逃げるように外へと身を出した。あーーーーこっわかった!

 外。
もちろん今はド深夜だからどこに行こうが真っ暗なのは変わりないけど。建物の中いるよかはマシだった。
見渡せばブロックのように立ち並ぶはエモい感じにボロボロの建物たち。
例えるならー、んーーーー、田舎の町工場みたいな?人の気配0なとこ含めてそう表現するのが正しい、かな。
見渡す中で、夜空にも目が集中された。だって、すごい満点の星がきれいなんだもん。
ギラギラとまるでラーメンの脂みたいに煌めいててさ。…ってこれはたとえ相当センスない、よねー。
 微かだけど海が打ち合う音が聞こえる。近くに海でもあ……


139 : シャディク・ゼネリの夜遊び-アイドル編 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/07(土) 21:15:43 Y8yGuEvk0
「「って…あっ」」

 思わず声が漏れちゃった。
というのも、出口の正面に立つ工場からわたしとほぼ同タイミングで扉から人が出てきたからだ。
その出てきた人はおじさんだよ。…普通っぽい?って聞かれたら全然変な見た目だけど。
丸眼鏡で髭がサンタクロースみたいな見た目。若干ホー☆レスっぽい。でも服は割と綺麗に整ってるなあ。
あっちも私に気づいたようで、さっきの「あっ」ってセリフがきれいに被ってしまった。ちょっと恥ずかしかったり…。
 うーん…、どしよ。
まさか殺し合いに乗ってたりしちゃってないよね…?
おじさんと会話なんか続かないと思うけど、一応アプローチしておこっかな。
「ハ、ハーイ! メリークリスマス〜! …なんちゃって。こんばんわ〜、みたいな? おじさーーーんっ」
「ここは…? 俺は…確か…知らない少女が…土をこねて、俺の体を作ってて…」
…は?スルーかよっ。
何か独り言ブツブツと喋ってるしー…。
 って…あ、あのおじさん……よく見たら手から血が出てる!
怪我してんだ…。
いや待てっ。も、もしかして誰かに襲われた後だったりとか…?
ううう噓でしょっ?!もう殺し合い始めちゃってるやついるわけ?!めっちゃヤバいじゃん!
わたし私は慌てておじさんの近くへと走り寄って行った。
「おじさん! そ、その傷どうしたの?! ねえ逃げなくて大丈夫っ?!」
「…そうかあれが『始祖・ユミル』、か…。じゃあ、俺がさっきまでいたあの場所が『道』…。」
「え? ゆみる? そっか、そいつに襲われたのね! ちょマジヤバでしょ!」
「…じゃあ今俺が体験してる「殺し合い」ってのはなんなんだ…? これもユミルの試練か何かなのか…?」
 はあっ?無視しすぎっ独りよがりにしゃべりすぎでしょっ?!
わたしが折角、介抱しに来てるのに総スルーとかなくない!?
…この人ちょっとアレーな感じなのかな?
 まっ、今はとにかく。
今はこの人を強引にでも引っ張って逃げなきゃ。
わたしはおじさんの袖の裾をつかんで、歩き出…
「ま、どうだっていいよな。俺たちは進み続けるまでだ。だよな? エレン」
「え? なに? エレ…」

 ごほおっ……っ?!!
突然何かをおじさんに口に突っ込まれわたしは、言葉を遮らずを得なくなった。
えっ?何?!何なの?!わたしは、慌てて視線をその物に向ける。
 口に入れられたのは、長くて黒い、金属の筒のようなもの。錆だらけの嫌な味と、冷たい感触がひんやり舌に伝わる。
おじさんはまっすぐ手を伸ばして、その筒の持ち手を握り、相応なくらいの冷たい視線をこちらに投げかけていた。
カチャリ、っと持ち手から音が聞こえる。
その筒。わたしの身近で例えれば、アクション洋画とか、エーペみたいなゲームでよく目にする。銃……っ!
 …っぁ?…は?はぁああ??!!
ふ、ふざけないでよ!そ、それ撃つ気かよっ…!
何この…唐突過ぎる絶体絶命…。洒落にならねーんだよ!き、き気持ち悪ぃんだよ!!


140 : シャディク・ゼネリの夜遊び-アイドル編 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/07(土) 21:16:02 Y8yGuEvk0
「“FINAL WARS”…。戦争ってよくねぇよなあ」
 くううっ………。クソジジィは相も変わらず独り言を続けていた。
…今からわたしを殺そうっていうのにまるで無頓着ってくらいぶつくさと。
 はぁ…ど、どうしよう、私…!
口を動かすことができないし、体も…動かない…。恐怖で、足が動いてくれないよ…!
金縛りにあったように膠着状態なのに、震えだけは肩から足先まで全身止まらなくなっていた。
わたしは自分でも分かるくらい弱弱しい睨みをジジイに向かって利かせる。それだけが、唯一できる精一杯の抵抗…。
や、やめてよ…。引き金から、指を離してよっ…!
「まずは一匹。死ね」
 嫌だ…嫌だ嫌だっ!
お願いっ、体動いてっ!
誰でもいいから助けて……!お兄ちゃん、ママ…ママッ…!わたしに力を貸してよ…
誰か、あ…っ!!

パンッ。
短く、鋭く、それでいて不気味な銃声。
私は思わず目を閉じさせられる。
空気を裂く一発の大きな音が、静寂の中、響き渡…

「やあ紳士。勤勉にも殺し合いの積極参加、お疲れ様です。」


らなかった。
代わりに聞こえてきたのは、ジジィの声とは違う第三者のさわやかな声。
「……えっ?」
 わたしは状況確認のため、そっと目を開く。
そこにはいたのはジジィと、そして新たにもう一人──金髪で日焼けの濃い男の人だった。
わたしと多分歳は同じくらいのその男の人は、ジジィの持つ銃の撃つとこ(リボルバー?っていう部分…?)を両手で抑えて、そして引き離させた。
わたしの口内から銃口が一気に離れる。
ジジィは突然の介入者に、素っ頓狂な顔で驚きを隠せない様子だったが、それはわたしも同じ。
 まさにどこからともなく現れた白馬の救世主は、わたしにキラーンッとウィンクを投げかける。
正直、彼のルックスは告られたらマジになっちゃうくらいの好色ぶりだったので、わたしの鼓動はさっきまでの死の恐怖とは正反対の感情でドクンドクンと高鳴るのであった。

「…だが、俺は気に食わない。こんな可愛い女の子を不条理に殺す貴方の姿勢がね。ですから全力で抗わせていただきますよ」


141 : シャディク・ゼネリの夜遊び-アイドル編 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/07(土) 21:16:19 Y8yGuEvk0
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 何故、俺は彼女を見殺しにしなかった──助けたかって?
簡単さ。男は容姿端麗な女性相手なら命を懸けてしまうという人間の本能があるからだ。
──なんて、達観なことぬかしてみたが、単に俺がかわいい女の子が好きなだけだからだ。
殺し合い開始から生存確率が云々と慎重になっていた俺が、戦闘の介入をするなんて行動理念に合わないだろと突っ込まれりゃ何も言い返せない。
けれでも仕方ないよな。女の為なら体が勝手に動いちゃう性なんだから。もはや呪いみたいなもんだ。ははは。

 1発の乾いた銃声が響く。
まるで陸上競技のスターターピストルのように、放たれたその戦闘開始の合図で、俺に一気に緊張感が高まる。
目視できぬ速さで俺に向かっていく弾丸。俺は最小限の動作でかわしていく。
 俺の手をすぐ振りほどいたヒゲ面は銃を2発目、3発目と間髪入れずに早撃ちを仕掛けてきた。
対して、俺は頭を右に、そして左の順で軽く傾けることでその弾丸を通りぬかせていく。
淡々と語ってみてはいるが、正直言って内心ヒヤヒヤではある。
 ちなみに、あいにく俺は戦闘経験なんて学園内の決闘ごっこ程度でしかない。
厳密に言えば、殺しの経験・生死の賭かった体験は過去にあるにはあるのが、直近での『闘い』はぬるま湯のような決闘ごっこしか本当にないのだ。
俺は決して運動能力が低いってわけではないが、この傭兵のような肉体のジジィ相手にタイマンとなれば一歩も二歩も引けるだろう。

「…ちいっ!」
 現に、ジジィの繰り出してきた素早いタックルに俺は身動き取れずもろに攻撃を受けてしまった。
舌打ちと共に繰り出された鋼のような筋肉の打撃に、俺は衝撃のまま突き飛ばされ怯む。
咄嗟に両の足に力を込めた為、倒れ伏すことだけは免れたものの、ダメージによる胃を潰されたような吐き気と目まいで確実に『隙』が生じてしまった。
隙は死と結びつく。死=隙、すなわち俺は死に直面してるって状態だな。

 だが、ピンチは自分の真価を発揮する最高のチャンスでもある。
俺に備わっている十分な『知力』を体力の代替として、この窮地を脱出させてもらおう。

 俺の武器は鉄パイプ、大して相手の武器は一発で相手を死に陥れる拳銃。一見にして、武器差はかなり大きいだろう。
しかし、今のような接近戦の場合は、飛び道具は圧倒的に不利なんだ。
 拳銃というのはデリケートな道具だ。
弾が出ないかもしれないし、思い通り、的に当たるとは限らない。おまけに、[銃は抜き→構え→引き金を引く]までにスリーアクションかかる……。
──ジジイは今まさに、屈んだ俺に向かってその銃口を見せつけるように構えていた。

 その点、俺の武器である鉄パイプは[振り抜く]の一動作で終わる。
だから、この距離なら…
「俺の勝算は十分にある───ッ!」
引き金に力を込められるであろうギリギリのタイミングであったが、パイプはジジイの右手を正確に弾き飛ばした。


142 : シャディク・ゼネリの夜遊び-アイドル編 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/07(土) 21:16:36 Y8yGuEvk0
「ぐがあっ………!!」
 金属の打撃音と共に、骨の砕ける鈍い音が発せられる。
ジジイは醜くへしゃげた右手を抑え、苦悶の表情で痛みと格闘する様子だった。
俺は遠慮もなしに隙の生じたジジイの右ひざを打点に鉄パイプを振り落とす。
二発目の打撃音。奴さんが、野太い叫び声と共に姿勢を崩し、倒れ込んだことは言うまでもない。
 …ふう、まだ戦闘は終わっちゃいないが、取りあえずは一難去ったな。
俺はジジイから度外視された彼女へと、声を荒げて叫んだ。
「ブロンドちゃんっ!今だっ、早く逃げるんだっ!」
「あ、あわ…っ!!」
「早くっ!!」
「あっう、うん!」
 彼女は、脱兎の如くこの暗い港の密集地から姿を消していった。
俺は鉄パイプを手でパンパンと叩きながら、わずかの間ではあるが彼女を見送る。

「ちぃっ!待てっ!俺の獲物っ!」
おっと。
やれやれ、相手はこっちだよ。じいさん。
「わざわざ人に待たせる口実を作るときはそれなりの対価が必要ですよ。彼女が待つ理由はありませんよね?ジェントルマン」
「…っ」
「さて、正直不本意ですが、この時流なのでね。貴方を始末させて戴きますよ。その腕のことで逆恨みを持たれては勘弁ですし」
 俺はメンチを切るジジイに向かってそう言った。
さて、有言の実行にさっさと移ろう。
なにせ、3発も会場内に響き渡る大音量が放たれたんだ。もたもたしてる間に、音におびき寄せられた面倒な奴と鉢合うことになったら手に負えない。
俺は軽くかいた額の汗を拭うと、鉄パイプを両手に握り直し準備を始めた。
 …にしても殺し合いとは、心底しんどい戦いだな。
参戦者の何割を占めているかは知らんが、今後、こいつの様な俺以上の体格差がある人間と一戦交えなくてはならないと考えると途方に暮れてしまう。
これからの展開に鬱屈な気持ちを抱きながら、俺は振りかざした鉄パイプをまっすぐ降ろし…

「…あっ?!」
 俺は目を疑った。
目の前のヒゲ面の姿に。
 さっき奴の腕はこの手で正確に叩き折った。ぐにゃりと曲がったのはしっかり確認している。タックル封じに膝も潰しておいたのも確かだ。
だが、今の奴の手はどうだ?骨折などなかったことのように元通りになっているじゃないか。
折った膝や手からは、妙な蒸気が立ち昇っている。
その蒸気はまるで『再生の作業』を現すかのような…。なんだ、コイツは…?どうなって…


143 : シャディク・ゼネリの夜遊び-アイドル編 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/07(土) 21:17:02 Y8yGuEvk0
「仕切り直して。まず1匹」
 なっ、しまった!
真っすぐな腕から伸ばされる奴の銃。銃口は俺の右胸、心臓部目掛けてしっかりロックオンされており、既に押し込まれている引き金の様子からもはや対処する余裕は無いと判断できる。
チッ、クソ……ッ、こんなのありかっ………、
瞬間。花火のような音を立てて撃ち出される銃弾に俺は手も足も出ずただ受け入れるのみだった。
「がはっ…!」
 ……情けない苦痛の声を漏らし、俺は仰向けの状態で、アスファルトの地面にぶっ倒れる。
この衝撃。ドッジボールで野球の硬球を使われたみたいな圧迫感が胸を潰しにかかった。
口内は喉からこみ上げてきた鉄の味で、気持ち悪いくらいに満たされた。…口から漏れたのは、うめき声のみならず血も含まれているようだ。

「はぁあ〜〜…。あんたにゃ敬意を払うよ。鉛玉に屈さず己の正義を示したんだからな。」
 銃弾のショックで朦朧しかけつつある視界に映ったのは、上目遣いで俺を見下すジジイの奴であった。
「でもよ、こんな馬鹿みたいな死体になるくらいなら闘わなくていいだろ。なあ?嬢ちゃんもそう思…っていねぇか、もう」
 馬鹿みたいな…って、はははっ…。勝者の余裕が如く、ペラペラとよく喋るこった。爺さんなぁ…。
さっきまでロンリーウルフ気取りで俺と話す気など全くなかった…ってのにな…。奴の全ての人間を見下したかのような蔑視の目つきに不快感が湧いてくる…。
ジジイは、その勝利の言葉まで吐き終えると、死体には用はないというように、ブロンドちゃんが逃げていったであろう先へ向かって行った。
 その余裕を現わすように『無防備な背中』を俺に向けて。

 ぐっ…、胸部の激痛に顔を歪まされる…。
多分、骨にヒビは入っただろうな…。
 でもまあ…爺さんよ。さっき敬意を払うって言ってくれたよな。
あんたの印象は、人としての感性を持っていない人間狩人、ってな感じだったから俺のポリシーを認めたその言動に若干の感謝を抱いたよ。
だから、俺の方からもきちんと礼の言葉を述べておく。
爺さんな、心の底からありがとな。

──『胸』に標準を敷いてくれて、ありがとう。

 俺は、銃弾でヒビだらけとなった『タブレット』を胸から投げ捨て、一気に立ち上がる。
…割と重宝すべき価値の支給品であったため、非常に贅沢な使い方をしたと言えよう。勿体ないにも程があるな。
跳ね起きた勢いそのままに、俺はジジイへと一気に距離を詰め走っていく。
溜まった血反吐を道中吐き捨てつつ、俺は全速力で奴のがら空きの背中へと近づいて行った。
射程距離まで5m、3m、1m…、ダメージの影響で、息を切らす度に肺が殴打されたような痛みを生み出す。
それでも俺は、ジジイに向かい、手を伸ばしてゆく。
「…っぜえなぁ〜っ?死んだふり作戦のつもりかあ?小僧」
 奴は、唐突に振り返り銃を速攻で俺に向けた。
まっ、そら気づくよな。


144 : シャディク・ゼネリの夜遊び-アイドル編 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/07(土) 21:17:21 Y8yGuEvk0
「なっ!」
 だが、奴は引き金を引こうとはしなかった。
──否、引けなかったと言おう。
「はあ…はあ…どうしたんです?撃ってみてくださいよ。どうぞ…はあっ…」
 何故なら、俺が銃の口に親指一本を綺麗に突っ込んだからだ。
意図はなんだ、って?
さっきも言っただろう?拳銃という道具はデリケートな代物なのさ。
こいつは些細な武器だから、発射口を鉛玉とか、たとえ指とかでも塞がれると暴発して、撃った本人が致命傷を浴びることになるんだ。
 俺は、別に背後からジジイの不意打ちをしようとかそんな無計画に動いたわけではない。
奴と交戦を交えたうえで、俺はジジイの性格を分析し、奴がとるであろう行動をもとに、この『銃口』を狙ったんだ──。

「…お前さ、それ小説かなんかで得た知識だろ?」
「…はあ、はあ…………はい?」
「悪ぃけど指なんかで塞いでも暴発なんてしねえからな?みんな信じちまってるデマなんだけどもなあ…ったく、学のない坊ちゃんだことな、お前は………」

 ジジイは頭を掻きながら呆れた眉を見せ、俺を再び見下した。
相も変わらず、世の中のすべてのものを軽蔑しているかのような仕草、素振りだ。
……ははは。デマ、ね。暴発はしませんよ、ですか…。
はっははは……。


「ええ知ってますよ。指なんかでは影響はありませんね。ましてやそんな銃口の短い小拳銃なら撃った瞬間、僕の指は弾け飛んで弾丸は腕を貫き自滅するまでです。」

「────ただ、『知識マウント』という形であなたにやっと『隙』ができた。」

「あぁ?!……ぎいっ!!?ぎゃぁあぁぁあああぁあああああああああああああああああっ!!!!!!」
 ジジイのバカでかい叫び声が闇夜の港全体にこだまする。


145 : シャディク・ゼネリの夜遊び-アイドル編 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/07(土) 21:17:37 Y8yGuEvk0
俺は、ニヤリと微笑んだ。──ジジイの背後の彼女に向かって。
「ス、スタンガン…思ったより威力っていうか電撃やば過ぎんですけど…」
「大丈夫大丈夫〜、ブロンドちゃん。爺さんは人間じゃないみたいなもんだからさ。──ですよね?紳士」
 高圧電流でのたうち回る紳士ジジイは、俺の問いかけなんて痺れの影響でそれどころじゃない様子であった。
「ぜぇ……全部…ぜ全部、計画、通り…だ……っでいう…のか……っ?!小僧っ…!小、僧おおおおおお………っっ!」
 というか、逆に俺に質問返しをしてきた。

 計画通り、か。…まあ、いくつか想定外のアクシデントはあったにせよ大体は俺の頭脳が描いた構図通りに動いたと言えるな。
『ブロンドちゃんが来るのも』、『ジジイがマウント取りを仕掛けてくるのも』すべて計算の内だ。
 さっきも言ったが、俺は爺さんあんたとの交戦の上で性格の徹底分析を試み、そのうえで正攻略法を練りだした。
あんたは、自尊心の高い人間だ。
無関心な態度で俺たちを軽く扱い、何のためらいもなく殺そうとしたのも、要は虫けら同然のお前らに言葉などかける必要はないという見下した心中によるものだろう。
──俺はそのプライドという『隙』を突いたのだ。
体力の代替として知策を練る──これが俺流のバトル・ロワイヤルってわけだ。

「ええ、勿論すべて計画通りです。それでは、僕たちは用事があるのでここら辺でご容赦お願いします。用があるのなら事前にアポの方を頼みますね。」
「………………畜生…………っ」

 俺はそう言うと、ブロンドちゃんの手と、あとついででジジイのデイバッグも手に取り、歩き出す。
「行くよ、ブロンドちゃん」
「あっ、うん!」

「畜生ッ…畜生糞糞糞糞糞ッツ!!畜生おおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!小僧おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 背後の『獣』のような叫び声には目もくれず、一目散に俺ら二人は夜を駆けた。


146 : シャディク・ゼネリの夜遊び-アイドル編 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/07(土) 21:17:57 Y8yGuEvk0
★☆★☆★☆

「それにしてもまあよく気付いたくれたよ。君が逃げる直前、俺が鉄パイプでモールス信号『隙を作るから背後を突け』って打ったのをさ」

 走りながら、俺は彼女に甘い微笑を見せた。
…みぞおちあたりの痛みを未だ引きずる状態ではあるが、可愛い女の子が傍にいると不思議と和らいでるように感じてしまうのがなんとも神秘的だ。
それにしても、彼女の単純なルックスは俺の学園のガールズと匹敵する程の美麗さと言っていいだろう。
何処かの学園の制服だろうか、灰色のスカートに青のブレザーから映えるは、綺麗な黄金の髪と、一本結ったサイドポニー。
あぁ…、無意識に触ってみたくなるほど艶のある髪をしている。彼女の不意を突かれたようなきょとんとした顔もなんとも魅力的で…、

「…へ?もーるすしんごー?そんなことしてたの?!」
 …あれれ?
「わたしは、単純にあなたを見捨てるのが嫌で引き返しただけなんだけども…。それに一人で動くより二人の方が怖くないしねー!」
 うーむむず痒い…。
つまり、全てが偶然上手くいったが故というわけか。まあ、結果オーライってわけで…。

「ところで、あなた名前は何ていうのー?」
「ん?あぁ、うん。俺はシャディク・ゼネリ。気安くシャディクでいいよ。」
「シャディクさんねー、これからよろしくね!」
「うん。こちらこそ出来れば末永くでよろしく、と冗談はさておき。君の方はなんて名前なんだい?」
 俺はそう聞くと、ブロンドちゃんは途端に表情を曇らせた。
いや、曇らせたというよりはむず痒そうなもどかしい顔で俺を見てくる。
…あれ?なんだ?聞いちゃいけない質問だったのか?名前が…?
「…〜〜あー、やっぱまだそこまで知名度ないっか。」
「知名度……かい?」
「わたし、“星野ルビー”っていうんだけど〜…。やっぱ、B-小町ってアイドル、知らないっよねー…?」
 …びーこまち?聞いたことないな。
アイドルとは俺にとって畑違いな話を振られたわけだが…。ところでルビー、チラチラと苦笑いしながらこちらを様子見してくるな。
…まぁ、つまりはこういう訳か。
ルビーという娘はそのアイドルグループだかのメンバー、と。
うーむ、オブラートに包んで傷つかない返答をしておくか。

「はははー、悪いけど俺はビジネスやらなんやらで正直そっち方面はあまり関心がね…。だけどBこまち、名前だけなら認知したことはあるかな?」
「えっ?マジっ?それって本当?!」
 ルビー、表情を一辺させてキラキラと目から星を出し始める。
…お世辞を真に受けてまあピュアな子だことだ。
なんとなく、グエルといつもつるんでる娘たちを彷彿させるな。頭のレベルが。なんだっけ、フェルシーとペトラ…だっけな。


147 : シャディク・ゼネリの夜遊び-アイドル編 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/07(土) 21:18:17 Y8yGuEvk0
 しかし、アイドルか…。
思えば、俺はこれまでの人生、歌も娯楽も上っ面しか触れて来なかったものだな。
どれもこれもビジネスやリレーション構築のための種程度にしか考えてなかったので、心の底から深く音楽を愉しむなんてしたことはなかった。
何かの縁だ。いい機会だし少しくらいは楽曲、いやアイドル趣味をつけてもいいのかも…、

 ────いや、待てよ。

『いい機会』──それに、『アイドル』


「……ふっふっふふ。あーはーっはははあーーーーっ!!いや、これは逆にいいかもしれないな!はははは!」
「うわおっ!ビックリしたっ!いきなり過ぎないシャディク?!」
「いや、ごめんね。俺はね、ここに連れて来られた時正直どう行動しようか迷ったんだ。『殺すか』『主催者に歯向かうか』どちらの生存ルートを取ろうかってね。」
「…『殺すか』、って…。あ、うん…」
 ルビーは一瞬表情を曇らせた様子だった。
まぁそれも仕方ないよな。『皆殺し』なんて選択肢としては最悪だものな。
 一方で、俺は高笑いを抑えきれない顔で舌を回し続ける。

ははは。何故俺は笑うのかって?それが唐突に素晴らしいアイディアが閃いてしまったのさ。
──いや、素晴らしいというよりその突飛過ぎる案に思わず噴き出したというべきか。

「今ようやく思いついてしまったんだ。第三の行動選択肢『俺のアイドルグループを結成する』ってね!」

…。
「あーうんうん…。って、は??????」
 案の定、ルビーは困惑と何言ってんのこの人という思いが入り混じった表情をしだした。
ふふふっ、喜怒哀楽豊かでかわいい奴め。
「ま、ま。ほら参加者名簿見てみなよ。女性の名前がこんなにも並べられている。割といい機会じゃないか?彼女らをスカウトする絶好のね!」
「え?え?ちょっとマジで頭大丈夫??」
 ははは、無論大丈夫だよ。正直言って頭に関しては常人以上の働きを保たれていると言ってもいいくらいだ。
むしろ、健康に異常があるのは今はみぞおちだね。いや〜、高笑いの影響でひどく痛む…。ははっ。
「つまりだ。俺のアイドル・第一号は君。…ふふっ、見てろカスタマーサービスよ。俺の『バトロワ☆アイドル』の歌でこの理不尽な運命を打破して見せようじゃないか」
「………うわーーーー…」
 ルビーはすっかり「関わりたくねェーーっす」と言いたげな愛らしいジト目を注いでいたがそんなことは俺には関係ない。
何せ俺は本気でアイドルプロデュースをしようと目論んでいるのだから。
行く行くは、グラスレー専属アイドルでそっち方面の儲けを算出してみたり、既に脱出後のビジネスについても視野に入れていたり。
 この殺し合い、中々に究極で完璧なゲームになってきそうじゃないか。
深夜の路上にて俺は高揚感を抑えきれず、思わず天高くの星たちをじっと見つめた。


148 : シャディク・ゼネリの夜遊び-アイドル編 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/07(土) 21:18:32 Y8yGuEvk0
 …ミオリネ、
君が今、どこにいて、どういう行動をしているのか。正直俺は読むことはできない。
ただ、俺の頭の設計図には君の未来が具現化されているんだ。
──きらびやかで派手な衣装、綺麗でエロティックな肌を演出する黄色のミニスカートを着用した君は、ミッドナイトの会場でファンたちを前に僕の作詞した曲を歌い上げる。
 もちろん、君の性格上、100%承諾しないのは承知済みだが、ベネリットグループの終わりの見えない後継者争いを続けるくらいならそっちの『道』へ開き直っちゃうのも一種の手だと俺は思う。
俺はそう信じている。


どうだ、ミオリネ
アイドルやらないか?


   第九話
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
  アイドル


【A6/港/1日目/深夜】
【シャディクPのアイドルプロデュース】
【シャディク・ゼネリ@機動戦士ガンダム 水星の魔女】
[状態]:胸部骨にひび
[装備]:鉄パイプ@AKIRA、中央憲兵の銃@進撃の巨人
[道具]:ジークの食料一式(未確認)
[思考]基本:アイドルを結成する
1:グラスレー社専属アイドルを作る
2:とりあえず女の子を集める
3:脱出したい。手段は問わず。
4:邪魔する者には容赦しない。最悪殺してしまってもいい。

【星野ルビー@推しの子】
[状態]:健康
[装備]:エラン5号のスタンガン@水星の魔女
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:対主催
1:うわーーーー…こいつ関わりたくねェーーっす
2:とりあえずこのカッコいい人についていく


【ジーク・イェーガー@進撃の巨人】
[状態]:全身軽度の麻痺、手に傷
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]基本:皆殺し
1:全参加者を有無を言わせず皆殺し
2:早く元の場所に戻りたい
※参戦時期は雷槍で自爆してユミルに再生された後です。


149 : ◆UC8j8TfjHw :2023/10/07(土) 21:21:10 Y8yGuEvk0
投下終了です。

次回は
面堂終太郎、葛城ミサト、伊藤誠(、ジョンソン)で予約します。サービスサービス!
引き続き、予約やssの提案等も募集してます!


150 : ◆C0c4UtF0b6 :2023/10/07(土) 21:25:58 lkct7uHo0
>>148
投下乙です!
シャディクさん!?シャディクさん!?(混乱)
流石にアイドルグループを作るは草が生える


151 : ◆UC8j8TfjHw :2023/10/12(木) 20:07:48 eGG6VWGM0
>>150
ご感想どうも感謝です!(返信遅れてしまいすみません…汗)

バトロワアイドルは一体どういうデビューを果たすのか一体全体気になるものですね〜
ちな、僕は他ロワとの差別化するため、今回のシャディクみたいに参加者は基本メチャクチャな思考回路(そしてメチャクチャな展開)にしようと思うのでその辺のご容赦ご理解は戴きたい所存です()

それでは、期限も迫ったことなので投下いたします。


152 : 暗く狭いのが ◆UC8j8TfjHw :2023/10/12(木) 20:08:18 eGG6VWGM0
**暗く狭いのが
(登場人物) [[面堂終太郎]]、[[葛城ミサト]]、[[伊藤誠]]
----


「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
 真夜中の樹海にて、大きな声が響き渡る。


 面堂終太郎という男がいる。
196*年*月*日に誕生したその男は、強大な財力と政治力、軍事力を持つ面堂財閥の跡取り息子であった。
金持ちのボンボン息子と言えば小デブで甘やかされ切った愚男と我々は邪推しがちであるが、面堂は父からの英才教育から、秀才で運動神経。おまけに容姿端麗で女子からは常にモテモテ状態だ。
まさに究極で完璧人間と評せる人間で、世の男子が欲するものすべてを持つエリートなのだ。
しかし、どんなにきれいに磨いたけん玉のボールにも必ず穴があるのと一緒で、彼にも一つ重大な欠点が存在する。
というのも。

「うっわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!!!暗いよ狭いよ怖いよおお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!!」

 面堂、彼は重度の暗所恐怖症であったのだ。
彼がワープされた先は、真っ暗な森の中の遊歩道。
精神がすっかり乱れ切った彼は、日本刀をぶん回し、大泣きしながら草木を踏み歩く。まさにきち*いと言うほかならないであろう。
 こないな男なんですよ皆さん、面堂と言う奴は。
パッと見はセクシースタイルにセクシーフェイス、オバン泣かせのギャル殺しなんて感じだが、内面はビビりかつ冷徹かつ傲慢かつ天狗かつおまけに腹黒もいいとこのどうしようもないやっちゃなのだ。
そうそう、ちっこい昆虫一匹さえ触れぬ臆病さもある奴だ。まあ、情けないったらありゃしないね。
あっ、奴にはもう一つ。面堂と言う男を象徴する欠点があるのだ。

「暗いよ狭いよ怖いよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!暗いよせま…むっ、今の声……。近くにか弱き女性が…?今すぐ行かねばっ!」


 とんでもないくらいの女好きであるのだ。
この樹海の中、どこからか響き渡るは女の声。それを嗅ぎ付けた面堂は、人が変わったかのように急に平静を取り戻した。
まるで5歳児が一瞬で成人男性になったかのような豹変ぶりである。逆再生コナンくんここにあり、とか言っちゃったりなんかして。
 ともかく面堂は本能がままに、声の源流へとバカバカバカッと走って行った。
顔は真剣な面持ちだが、心の底はスケベ全開で森の中を駆け巡る…。
そんな奴が、声の主・特務機関NERV<ネルフ>の三佐“葛城ミサト”に下心むき出しでアプローチするのはもう間もなくであった。


153 : 暗く狭いのが ◆UC8j8TfjHw :2023/10/12(木) 20:08:38 eGG6VWGM0


(不可解。すべてに置いて現状把握が困難だわ…。)

 葛城ミサトは、一人森の中で理解に苦しんでいた。
殺し合い<ファイナル・ウォーズ>という現況に、頭を処理できずにいたのだ。
ミサトはふと、自身の掌を見つめ呟く。

「生きて、る……………?」


 殺し合いに放り込まれるまでの彼女の軌跡はこうだ。

 あの時のミサトは、四人目のパイロットが乗る兵器<エヴァンゲリオン3号機>の実験に立ち会っていた。
アメリカの特務機関NERV<ネルフ>第2支部の爆発事故を経て引き取ることになった、曰く付きの人型決戦兵器──その適応実験が計画通りに進行していた、のだが。
絶対境界線を突破した直後、突如異常が発生。
3号機は狂牛病に感染したかのように暴れ動き、緊急アラートが鳴り響く中、直後に大爆発が引き起こされた。
爆風で身体を吹き飛ばされ壁に叩きつけられるミサト。そこで意識は長い暗闇で途絶えされる。
そして、次に目を覚ました時。それは、あの見知らぬ城の中でバトルロワイヤル宣言をされていた時であった。
 現実味のない現状。
爆発で気を失ってから、城に連れて来られるまでの過程が不明瞭過ぎて考察することを遮断させられる。
これは悪い夢なのではないか──。唯一彼女が推察できたこと仮定はそれのみであった。

(それとも、ここはあの世…………なのかしら)


 ミサトは答えを求める様に、ポケットから携帯機を取り出しNERV<ネルフ>本部へ通信を試みる。
だが、待てども待てども応答には通じない。
電波が遮断されているのか。呆れ果てるようにミサトは目を瞑り、無線を持つ右手を下した。


(……殺し合い…。乗るか否か。冗談じゃないわ)

「私は帰りたい。三佐として、あの機関に。そしてシンジ君の保護者として、あのマンションに。…絶対生きて帰るんだから」


 ミサトは今どこにいて、何のために殺し合いをさせられてるかも、そして、自分が生きてるのか死んでるのかさえ分からない。虚構の渦の中で漂ってる感覚である。
だが、ただ1つ『殺人ゲームなんて乗るべきではない』という事だけはハッキリと理解している。
それは、首輪の脅威では揺るぐことのできない決意と化していた。 
 早速ミサトは周囲を見回すように警戒しつつ、行動を映した。
使徒撲滅作戦の総司令であり、計画指揮のプロフェッショナルである彼女は対主催としてどう動くか。


154 : 暗く狭いのが ◆UC8j8TfjHw :2023/10/12(木) 20:09:05 eGG6VWGM0
 彼女はふと、遠く向こうを見上げる。
そこには、途方もなく大きな山があった。山頂は雪が吹き荒れる様子が確認できる。
──どうやら何か考えが浮かんでいるようだ。ミサトはわずかに口角を上げると、山の入り口目指して遊歩道をゆっくりゆっくり足を動かし始めた。


 折しもそのタイミングで、後ろから音が聞こえた。
草木を二足で踏み歩く音に勘づいたミサトは、胸元に忍ばせている自動拳銃を握りつつ、慌てて振り返る。
一方、足音の主は、彼女に気づいてないかの様子で、草を踏む音を徐々に徐々にと近づかせていく。
ミサトの警戒心が高まる中、やがて、闇夜の奥から足音の発生源が姿を現してきた。

 外見の特徴としては、中肉中背で黒髪の、制服を着た男子学生。
ぱっと見普通の彼は、有線イヤホンから流れる音楽をぼんやり聴きながら歩いている様子で、まるでいつもと変わりない通学途中の日常を送る高校生であった。
朧気ながら浮かんできた男子学生の姿に、ミサトは思わず声を漏らす。

「あっ、………シンジ…くん?」

 碇 シンジ──彼女が呼名したシンジも同様、常にイヤホンを付け、どこか退屈気味というか気だるげな男子学生だ。
同じ軒の下で生活を共にするシンジと身体的特徴が一致していた為、ミサトは警戒心を解き声をかけてしまった。
 だが生憎、目の前の男は赤の他人であった。近づくにつれはっきりとされるその姿に、ミサトは安堵感の感情が失われていく。
まあ別人にしろ本人にしろ、NERV<ネルフ>所属隊員として一般人の保護は義務として試行せねばならない。
男子学生に対して、ミサトは言葉の続けざまにリレーション構築を始めた。

「って人違い、ね…。……あら、ごめんなさい。ちょっちぃあなたに雰囲気が似てる知り合いがいて、つい。ところであなた…──

 ちなみにこのぼーっと歩く学生の名は、“伊藤誠”、だ。
生死が掛かっているという現状を全く理解していない、といった軽薄な顔つきで歩く誠の本名が、ミサトの前で明かされることは今後無いのでここで紹介させて戴く。


「“ジョンソン”ッ! あの女に体当たりだっ!」

 突如として誠は声を荒げ、ミサトに向かって睨みとともに指を突き出した。
唐突で不可解な男子学生のその行動にミサトは面を食らわされる。
そのため、声が響いた瞬間草陰から急加速して接近してきた巨大な“そいつ”の対処を、大きく遅れてしまった。

「ギュチィィイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!」

「えっ!?! …んきゃあああっ!!!」

 そいつの接近──いや突進でミサトは大いに吹き飛び、草原を転がり回された。
痛い……なんてレベルじゃない、呼吸が出来ない。自動車事故にでもあったかのような衝撃に前進が悲鳴を上げ続ける。
何?!何があったというの…?
ミサトは悶絶しながらも、地面の土や千切れた草が付着した顔をそいつに向ける。


155 : 暗く狭いのが ◆UC8j8TfjHw :2023/10/12(木) 20:09:40 eGG6VWGM0
「な…?! 何よ、これ………」

 そいつを目視したミサトの感想は愕然──ならびに絶句であった。
まあそうなるのもおかしくはないだろう。

「ギュチチチィ………ギュチイイィ…………ッ」

 目の前を覆い隠すように立っていた巨体で二足歩行のそいつは、真っ白で脂ぎった甲殻のボディに、関節の多い四本の腕を生やし、背中にある透明な羽を嫌悪感の沸く音でアピールさせていた。
人類共通の敵、節足動物──ゴキブリである。
その超大型ゴキブリが、明らかに敵意むき出しの表情で見下ろしていたのだ。
常日頃からたくさんの使徒、すなわち異形の生命体と対峙していたミサトではあるが、目の前のゴキブリは想像の範疇を超えてしまっているのか。身動きも冷静な思考も取れずにいた。

「今だッ! ジョンソン! 押し潰せ!」

「ギュチィーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 そんなミサトに容赦なく繰り出されるは、誠の攻撃命令。
雄たけびを上げたゴキブリ──改めジョンソンは、上空へその姿が小さくなるほど飛び上がると、

「わっ?!!」

「ギュワアアアアアアァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!」

 攻撃対象目掛けて、落下してきた。
ミサトは間一髪で反射的に横へ転がり込み、回避する。直後、爆発音に似た大きな音と共に地面は揺れ動き、砂煙と土の破片が散乱した。
凄まじい衝撃である。ミサトがさっきまでいた場所は、ゴキブリの姿跡まんまのひび割れをしていた。
戦慄。ミサトは体の痛みが引いていくのと同時に立ち上がると、誠に向かって銃を突きつけ、怒りの質疑を投げつける。

「なによあなたッ?! この気色悪い奴はあなたが操ってるの?! どうしてそんな真似するのよッ!」

 今にも発砲されそうな銃口と、単純に大人の女性に怒鳴られたことによる恐怖で、誠は「ひいっ」と顔を青くする。
ジョンソンはそれを察知してか、体を仰け反らせ立ち上がると誠の前へ覆いかぶさった。
涎を垂らし、ギュチチチッと全身を震わせ威嚇をする大型ゴキブリ。
撃たれる心配がなくなったためか、誠はミサトの質疑に対し声を震わせながら答え始めた。


156 : 暗く狭いのが ◆UC8j8TfjHw :2023/10/12(木) 20:09:59 eGG6VWGM0
「…だだだ、だってしょうがないじゃないかぁっ! 殺し合いしろって言われてるんだし…、それに願い事だってかなえられるんだぞっ!」

「──俺だってやりたくてやってるわけじゃないんだよ! 逆に俺は被害者だっ! 仕方なかった、ってヤツだよ!」

「──それに俺が直接殺すわけじゃない。やるのはそのジョンソンだ! 俺は関係ないっ!!」


 …誠の答えになっていない自己弁護が、唾と共に饒舌に飛ばされる。
怒りを通り越して呆れる──といった古来の表現は、救いようもないくらい醜悪な人間と対峙したときに用いられるものだ。
だがミサトは呆れるなんてことはなく、怒りという感情全面が満たされていた。
俺は関係ない。俺は被害者だ。仕方ない。──殺人で手を汚すことの責任を完全放棄した腹立たしいセリフの数々に、腹の底から煮詰まらされていく。
誠を最低十発は殴りたい衝動でいっぱいであった。その想いを込めるがようにミサトは銃を引き、目の前のゴキブリの腹部に弾丸を放った。
…が、

「ギュチチチチ……ッ! ギュチイィ…!」

 銃弾はジョンソンを貫くことなく破裂し、火花と共に消えて行く。
まるで金属に向かって撃ったような手ごたえである。ジョンソンの鎧のようなその体は、ダメージ1つ付くことなく依然その堅牢さを誇示していた。

 攻撃面に十分な力もあれば、屈強過ぎるほどの防御力も兼ね備える、『戦車』と形容していいそいつにミサトはただ立ち尽くすだけであった。
こみ上げてくる義憤は、目の前の強力過ぎる護衛が邪魔する故、持て余してしまう。

(私は……っ、こんな、奴に無様に惨殺されて終わるというの…………っ!)

 視界を埋め尽くすジョンソンの大きな体は、絶望の反り立つ壁に見え、ミサトの戦意は喪失されていく。

「…だだから俺に一切悪くないッ!! 行けジョンソン! あの女の生き血を搾り取れ」

 誠はとどめの命令を下した。
ジョンソンはその指示に従い、無抵抗のミサトの両肩をトゲ毛だらけの手で拘束。
そして、ミサトの顔の前で今にも食ってかからないように大口を開けた。突起だらけですり減った何十もの歯がお披露目をする。
 もう間もなく自分はこの気色悪すぎる化け物に捕食されるのだろう、とミサトは思った。大口から放たれる荒い呼吸に、ミサトは顔を顰める。

 今、彼女の脳裏には、かつてエヴァンゲリオン初号機が使徒を生きたまま貪り喰い、血肉を喉に流し込んでいたシーンが流れる。
その時の彼女の心情は恐怖と絶句。また、一方で「圧死、水死…それらに次いで補食死だけはしたくない」という考えも頭の隅でよぎっていたという。
──走馬灯とは妙なとこをピンポイントに思い出させるものだ。
ミサトは歯を食いしばり、己の運命を覚悟した。


157 : 暗く狭いのが ◆UC8j8TfjHw :2023/10/12(木) 20:10:17 eGG6VWGM0
ガキィンッ


歯と歯がこすり合わさる音が響いた。
まるでギロチンによる処刑の音のような。





 ────否、歯と『刃』と言うべきか。



「…えっ……?」



 ジョンソンの上あごは、その歯と同じくギザギザの鋸のようなもので力いっぱい抑えつけられていたのである。
ミサトは両腕を掴まれているので、そのような抵抗はできやしない。
となれば、ジョンソンの口を封じたのは、この場にいた伊藤誠か、それとも第三の介入者となるわけだ。
誠は当然そんなことをやる必要性はないし意味もない。現に誠はジョンソンの後ろで間抜けな驚き顔を見せただ立っているだけであった。


 ではその介入者とは誰なのか。
…そろそろ、奴の名前を呼んでもいい頃合いなのではないか。

 ミサトは自分の真横を見る。
そこには、全身を白い制服で纏ったオールバックの男子学生が、ゴキブリの口に刀を伸ばしていた。
そう、ヤツは冒頭でも登場した、財閥の御曹司で頭脳明晰容姿端麗、プレスリーばりのセクシーボイス、言うなればデスタニー、運命生まれつきだよ十五夜お月、

「やれやれだな。こんなうつくしい女性相手にこの仕打ち…、」

 面堂終太郎。その人であったのだ──ッ。

 面堂、ヤツは虫なんてハエ一匹さえも触ることができない男だ。
それゆえ、巨大ゴキブリと対峙した彼は、今や鳥肌のざわめきの大合唱で痺れに似た感覚が全身を襲っているだろう。
だが、しかし。ヤツはとんでもないくらい『女好き』である。
ヤツの脳内の天秤にかけたとき、「虫への恐怖」は「美しい女性の救済」に圧倒的に量り負けているわけだっ。

「到底許すことのできない所業っ! ゴキブリめがっ、今この僕が断罪してやる!!」


158 : 暗く狭いのが ◆UC8j8TfjHw :2023/10/12(木) 20:10:38 eGG6VWGM0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 面堂は刀を上へと薙ぎ払い、一旦はジョンソンの口内から刀を脱出させる。
幼いころから剣術の稽古を切磋琢磨していた面堂にとって“刀”という支給品はまさにマッチしていた武器。
それ故に、刃がゴキブリのドロドロとした生臭い唾液で汚されたことはこれ以上ないくらいの侮辱と怒りを充たしていくのである。
刀が月明かりに煌めく中、面堂は両の手で握りなおすと、燃えたぎる闘志のままにゴキブリのアーマーへと飛び込んでいった。

「ギュチイイイィィイーーッ!!!!」

 雄叫びが、開戦の合図として響き渡る。
既にジョンソンの標的は、ミサトではなく目の前の刀を振って振って振り回す面堂へ向けられていた。
 面堂の日ごろの努力と生まれ持っての秀才さから培われた剣術は、剣道の達人をもひれ伏し、フェンシングでは全国大会制覇をもできるだろう域となっているだろう。
現に、彼は刀を振るうたび、風がその周りを巻き起こし、刃は光を放ってジョンソンの弾すら通さぬ鎧に傷を刻んでいく。
目にも止まらぬ速さで繰り出されるは、振り斬る動作と突きの交互。
ジョンソンの鋼のような体は次第に亀裂が見え始め、緑色の体液がひしゃげ飛び出していった。天才的な面堂様、一見にして彼の優勢と言える状況であろう。

 が、しかし、攻勢はここまでであった。

「ギュウゥ…ッギュワァアーーーーーーッ!!!!」

 突如、繰り出されたのはジョンソンが二足歩行であるが故できる『蹴り』。

「なっ! しまった!」

 斬るのに半場夢中になっていた面堂はその唐突な攻撃に身動き取れず、容赦なく腹に一撃を食らう。
コイツ、ムエタイかっ…………──攻撃を食らった面堂の感想はそれであった。凄まじい速さで繰り出された重い打撃に、勢いのまま身体を吹っ飛ばされ、樹木に激突させられる。
あまりの大きいダメージに面堂の口からは不意にさらさらとした唾液が蛇口をひねったかのように零れ落ちる。
意識は混乱しかけ、視界が揺らぐはまるで二日酔いが如しだ。
たった一撃の蹴り。
それだけなのに体中は悲鳴を上げ続け、戦意は喪失の方面へと揺らぎを見せている。


(くうっ……この僕が、こんな不埒な奴相手に敗れる、というのか……………)


 面堂、彼の眼からは自然に涙が零れ落ちる。
勢いのまま、溢れ出ていく目汁。──これは決して、痛みによるものや、しゃしゃり出ておいて返り討ちにされる屈辱感によるものではない。

それは、代々財閥の家として繁栄の刻を紡いでいった面堂家。
今は亡きその面堂の何十代にも渡る先祖たちが、面堂終太郎の心に巣食った『戦意喪失』という弱さを涙という名の清水で洗い流すことで現れた作用なのである。

言わば──、『漢泣き』をしていたのだろう。


159 : 暗く狭いのが ◆UC8j8TfjHw :2023/10/12(木) 20:11:01 eGG6VWGM0
 彼が倒れてから数秒経つ。
巨大ゴキブリの怪物は、主人の繰り出された指示通り、残された華憐なミサト目掛けて一歩二歩と足を進めていた。
ミサトにとっては絶体絶命の境地。




彼女は誰が助けねばならぬというのか────。



あの白き大きな壁は誰が破壊せねばならぬのか────。



…応えは決まっている。漢・面堂終太郎、お前がやらねば誰がやる────?




「誓ったんだ…。宣言したんだこの僕は…っ。…許すことのできない、とっ!断罪してやる、とッ!!」


────ぶち破れ、オレがやる。


 面堂家の不思議なパワーが、彼を起き上がらせることを後押ししたように感じた。

 すり減ったノコギリ状の刀を再度握りなおすと、勢いのままに面堂は突撃していく。
スタミナは剣を振るうことで消費してしまったし、肉体的ダメージも限界寸前で妙な眠気が襲い掛かっている状態だ。
だが、それでも面堂終太郎という男は巨大ゴキブリという壁に向かって休むことなく距離を縮めていく。
息は切れ切れだが、草木を踏み走る音が耳によく響き走るのをやめたくならない。風を全身に浴びる感触がどこか心地いい。



 面堂は何故戦うか。何故彼は女性を愛し、守り続けるのか。


160 : 暗く狭いのが ◆UC8j8TfjHw :2023/10/12(木) 20:11:26 eGG6VWGM0
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!」
「ギュワアーーッ??!!!」


それは、面堂終太郎という男の使命だから。なのかもしれない。


(────────ラムさん、僕に、力をっ───────────。)



ザシュンッ
刹那────────。



 ジョンソンとの距離は気が付いたら零距離であった。

その時にはもうすでに、大きな壁『巨大ゴキブリ』、そして悪しき男子高校生・伊藤誠は断頭され支えを無くし崩れ落ちていたのであった。




「あら………っ、な、なんで私を助けてくれたの……。あなた、名前はなんていうの……?!」


「ふっ、あらもエラも小骨もありませんよ。僕の名は面堂終太郎。野薔薇のように可憐な女性を助けるのは紳士の当然の義務、ですからね。」



【G7/樹海/1日目/深夜】
【面堂終太郎@うる星やつら】
[状態]:健康、多少の疲労、されども達成感で満たされる成。
[装備]:日本刀

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


161 : 暗く狭いのが ◆UC8j8TfjHw :2023/10/12(木) 20:11:48 eGG6VWGM0




「…流石は僕の剣術、と言ったところですかね。まあ相手が品性の欠ける存在であったのでしまりが悪いのは不満ですが。ところでお姉さん、あなたのお名前は──

「ジョンソン! 何やってんだ! そんな下らない物食べてないでいいから早く殺せよぉおっ!!」
「ギュチチチ…グチャグチャグチャグチャ…ゴックン…ムシャムシャバリバリ……ギュチチィ……」

「へ?」

 伊藤誠…の飼い犬を躾けるような罵声で面堂は意識を『現実』に引き戻した。
面堂の目の前では、ジョンソンがピンピンと何かを貪り喰いつくし、誠は必死で蹴りつけ、そして隣のミサトは呆れ言葉を失っていた。


 アレレ…?さっきあのゴキブリ殺生したハズなのに…?なぁんで生きてんだ……?何かヘンなのだ…。
というか……、ゴキブリ野郎が今食べてる物、アレって一体なんなんだ……?何かヘンなのだ……。
あのギザギザの突起に、細長い形状にあの薄さ…。
もしかして、アレってぼ、ぼ、僕の……かたな………?


 目をちっちゃな点にした面堂は救いを求めるようにミサトに声をかける。

「お、お姉さん…。失礼ですが、僕の刀は一体全体どういう訳で食われているのか教えてくれないですかね?」

「刀ぁ? は? あれのことを言ってるの? どう見てもただの冷凍したノコギリザメじゃないの」

「あ、あぁ。ま、ノコギリザメですよ。厳密に言えば刀ではあるんですがね。まあそれはさておき。ア、アイツさっき斬り倒したのになんで生きて…」

「斬り倒したぁ? あなた速攻でノコギリザメかじられて戦意喪失の発狂三昧だったじゃない!」


 …んま〜〜〜、つまりはーーー……、というと。
『 面堂は刀を上へと薙ぎ払い、』以下戦闘はすべて、面堂の高すぎる自尊心が生み出した現実逃避に過ぎないってわけだったのさ。
現実はミサトの言う通り、支給武器のノコギリザメを捕食されて面堂は即しおしおのぱー、男の決闘秒で終了という。
…ま、そりゃこんな序盤早々でこんな男にかっこいい場面なんて与えられないよね。
というわけで、ここからは面堂のちっぽけな空想おとぎ話ではなく『現実』の正しい話を描写していこう。


「…次から次へとまあシャークに触る展開だことね。驚き呆れるわ…」
「ははっ、さすがはお姉さん。おジョーズなこと言うじゃないですか。はっはっはは」

「お、お前らはそんなくだらない洒落を言うためにわざわざ来たのかよぉっ?!! ジョンソン、早く始末してくれぇええーー!!」


162 : 暗く狭いのが ◆UC8j8TfjHw :2023/10/12(木) 20:12:11 eGG6VWGM0
 二人まとめてその寒いギャグを、よりにもよって一番危険思想の伊藤誠に突っ込みを入れられる。
──なにも突っ込まれたのはそれだけではない。生魚(兼武器)を食い荒らし終えた強力な護衛・ジョンソンも、二人を亡き者にするため、カサカサカサカサっと這いずり近寄ってきた。
能天気に駄洒落をほざいたミサトらであったが目の前のエイリアン相手に戦慄を再び余儀なくされる。

「ギュッワァアーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!」

 その珍妙な鳴き声と共に、一瞬にして目と鼻の先というくらい距離を詰めてきた巨大ゴキブリ。
さっきまでの妄想での勇姿はどこへやら。面堂は目の前の大節足動物にぎょえ〜〜っと情けない悲鳴を上げたかと思うと、わなわなと小鹿のように足を震わせ、役に立ちそうな風貌は0であった。
そんな奴の傍ら、ミサトは再び目の前の脅威に向かって銃を突き出し交戦態勢を見せる。
無論、銃弾など相手に全く効かないことは彼女は理解している。形だけの虚勢に近い行動であるが、それでも銃を向けることは辞せなかった。

 ミサトは必死で脳を働かせ、命の選択──最適解を模索した。
銃弾一つ通さない強硬な化け物相手に、武器一つ欠けた状態で対処しなきゃならないという現状。
状況下は絶望的と他過言ではない。
圧倒的不利な今、面堂ら二人に待つのは死の瞬間のみ。
葛城ミサトは少しずつ後ずさりしながら、頬を伝う汗をぬぐった後、できるだけ冷静に思考の結論をまとめ上げた。

(このまま行けば二人揃ってゴキブリの胃袋の中という最悪の未来が待っているわ…。…そうなるくらいなら、少しでも被害を最小限にした方がいいわよね。)

 ほんとは不本意だけども、という言葉で思考を締め、ミサトは覚悟を決めた。

(私を囮にしてでもこの子を逃がす──、これが一番の最適解………っ。やるしかないわ…)

 彼女が属するNERV<ネルフ>と言う名の組織は人類の敵・使徒の調査・研究、そして殲滅を主要任務として活動している。
つまりは、一般人、非戦闘市民の命の保証、保護を最優先としており、ミサトはポリシーの下、この決断を下すのだ。
ミサトは隣のビビりまくっている面堂に声を掛ける。

「…あなた、ちょっといいかしら」

「………ひっひひいっ! ひーひっひひひっひっひひぃーーーーー!! ひーひゃひゃっはひゃっひゃー! ゴ、ゴゴゴ、ゴキブリ野郎がぼ、僕の目の前に〜! ひーひゃひゃあっはぁっぁ……!」

 面堂の様子を見たミサトは若干の呆れを感じた。
目は凝り固まり、顔は物凄く引きつりつつもケタケタ笑いあげる面堂はまさに半狂乱。現実なんて半場直視していないような恐れぶりを見せていた。
ミサトは面堂の右肩をゆすり、気を確かに、と言うように言葉を続ける。

「ちょっと、少し冷静になりなさい! …いい?落ち着いて聞いてくれるかし…」

「ひひゃ〜〜っはっはっはっはーーーーーーーーーーー!あーひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっはっはっはーーーーーーーーーーーーー!」

 彼女の言葉は面堂に届く様子ではなかった。
恐れ多いくらい狂った高笑いをあげる面堂。死の恐怖は彼を完全にぶっ壊したようでミサトはこの男の精神のもろさと軟弱ぶりに頭を抱えるほかなかった。


163 : 暗く狭いのが ◆UC8j8TfjHw :2023/10/12(木) 20:12:29 eGG6VWGM0
 ゴキブリの荒い鼻息が顔いっぱいに浴びせられる。ギュチルルル…っと滴り落ちるはゴキブリの敵意が現れた唾液の数々。
もはや時間はあとわずかもなかった。
あと数秒後にはどういうなぶられ方をされるかは見当もつかないが、惨殺されること間違いなしだろう。
一刻も猶予もない。
ミサトは、精神崩壊中の面堂を突き飛ばしてでも逃がそう、と行動に移した。
横へ向けて力を込めた、その時だった。面堂は唐突にミサトへ口を開き始める。

「ひひひっひ……すみません、名乗り遅れていましたね…。ひひっ、僕は面堂終太郎と言うんです、お姉さん」

「わっ、いきなりビックリしたわ…。あぁ、そう面堂くんね。じゃ、自己紹介も聞いたことだし…あっちに行きなさアっ


「僕を突き飛ばして逃がそうなんて考えないでくださいよ。ひっひ…自己犠牲は女性には荷が重すぎますから。おやめになってください…ひひっ」



 まさに唐突だった。
まるでジキルとハイド──人格が入れ替わったかのように冷静さを取り戻した面堂は、見透かしたかのようにミサトの決断をとがめる。
呆気にとられるミサト。心中を掴み取られた感触に襲われ、面堂向けてのタックルを中断させられた。
面堂はまだ言葉を続ける。

「このゴキブリ某、先ほどから僕は奇妙なことにデジャブ既視感を感じていたんですよ…。」

 なおも、言葉は続く。

「素早く無駄に動き回り、どんな物でも意地汚く喰らおうとする。その下劣っぷりに見覚え、がね…」

 なおも、なおも、言葉は紡ぎ続く。
面堂はふと記憶の中の“あいつ”に思いを浮かべたのか、一旦夜空を見上げたのち話した。

「僕のクラスメイト…というか友人にゴキブリ某の似たやつがいるんですよ。奴もまた意地の汚い貧相な奴でした」

 そう、言い終えると面堂は手持ちのデイバッグに勢いよく手を突っ込み、中の物を素早く漁りだした。
しばしきょとんとした顔で見つめるしかなかったミサトではあるが、やっとのことで「面堂くん、あなたそれ絶対友人と思ってないわよね」と一言ツッコミを入れる。

 この殺し合い、参戦者には武器の他にはケチなことにぺらっぺらの参加者名簿という紙切れと少量の食料しか支給された鞄の中には入っていない。
面堂は武器も紛失したし、今は参加者名簿など必要としていない。──ということなら、奴が今取り出そうとしている物は何か。一目瞭然であろう。
 面堂の頭の中にはゴキブリに対する一つの打開策というものが閃いていた。
その打開策は悲しきかな確実性のある策ではない。全くの無意味で、徒労感を抱えたままゴキブリに抹殺されることだってあるだろう。
しかし、今はその唯一、二人一緒に助かる可能性のある策にすがる他ないのである。
『ゴキブリに一切攻撃を与えず助かる』策に。


164 : 暗く狭いのが ◆UC8j8TfjHw :2023/10/12(木) 20:12:49 eGG6VWGM0
 面堂、奴がゴキブリ野郎から連想した人物というのはクラスメイトの、諸星あいつ──。
あいつは常日頃から食には意地汚く、道路に落ちている泥まみれのパンでさえ拾い食いするほどの品性のない人間であった。

「貴重な“食料”ではあるがやむを得ない──ッ!持ってけ──、」


 そんなあいつなら。
面堂は思う。俺の移す行動で想定通りの動きをするだろう、と。

「衛生観念のかけらもないゴキブリめがアアッ────────────────────!!!!!!」


 デイバッグから与えられた食料である“レーション”を取り出すと、面堂はゴキブリに見せつけるように、思いっきり遠くへとぶん投げた。
レーションは放物線を描いて飛んでいき、木々の遥か彼方遠くへと姿を消す。

「ギュワアッ?!!!」

 ゴキブリは、投げつけられた食料に反応すると、

「ギュチチィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 レーション目掛けて木々の間へと吸い込まれていった。
鳴き声と猛スピードで地面を這う音は、徐々に徐々にと奥地へ消えれゆく。
まるで投じられたフリスビーを咥えに走る犬のごとし。単純っぷりを見事に魅せてくれた。

「…は? は、は?」

 こうもあっさり消えた最強の戦闘マシンに暫し茫然とさせられる伊藤誠、そして葛城ミサトの二人。
特に誠は想定以上の間抜けぶりを見せたパートナー相手に、焦りに似た憤慨を隠し切れない様子で、

「はぁあーーーーーーーーーっ???!!? ジョ、ジョンソンな、なにしてんだああぁーーーっ??!!」

 と、声を荒げながら制止の効かないジョンソン向かって大急ぎで足を走らせた。
ちなみに、今後解説の場はないのでここで紹介しておくが、あの大ゴキブリはいわゆる誠の『支給武器』である。
最初こそは戸惑った誠ではあるものの、本人のずさんで適当な性格から特に気にすることなくその支給武器に馴染んでいった。
のだが、銃は持ち手を選ぶ。とはよく言ったもので、その強力すぎる武器は誠なんかでは扱いきれなかった様子である。

 ジョンソンを連れ戻すべく大急ぎで草木を駆ける誠であったが、その行動はカチャッ、という音で制止させられる。

「動いたら撃つわよ。利口にした方が身の為ね」


165 : 暗く狭いのが ◆UC8j8TfjHw :2023/10/12(木) 20:13:09 eGG6VWGM0
 目を見開いて、冷や汗いっぱいに首をそっと後ろへ向ける誠。
わざわざ振り向かずとも察せそうなものではあるが、そこには銃をいつでも発砲できる準備でこちらに向ける大尉──葛城ミサトがいた。
誠には今武器がなく手持ち無沙汰の状態。
抵抗も何も、成す術なくただ立ち尽くすほかならなかった。
束の間訪れた、形勢逆転である。

「オモチャで大人をからかって楽しかったかしら? ゴキ坊や。あなたには説教なんかで済ませれない教育をたっぷり施す必要があるから、その覚悟でいてちょうだい、ね?」

 焦燥が吹き飛んだミサトは、多少笑みを浮かべながらゆっくりと誠へと近づいて行った。
誠は今まさに訪れる未来への恐怖から、喘ぎに似たうめき声を情けなく漏らす。

「よ、よよ、よしてくれよ………! け、警察がこ、これを知ったらぁ…ただじゃ済まないんだぞっ………!」


 一方、面堂は二人に目もくれず、ただ投球完了のフォームを維持し続けていた。
ゴキブリとの遭遇以来、心中に緊張の糸が芽生えていたのだろう。それが解けたとのタイミングで腕を下すと、自身のオールバックの額についた汗を拭いほっとひと息ついた。
 星が輝く夜空を見上げる面堂。
この星空は、殺し合いエリアの果てのどこかにいる、諸星あいつにも繋がっている。
窮地を脱する発想を思いつかせた、ゴキブリ同然のあいつに思いを紡ぐように、面堂は独り言を白い息と共に吐く。

「諸星よ。お前のことだから楽観的に考えてるだろうがな。この殺し合い、どうにもただ事ではないように俺は感じる。笑い事で済まない生死の臨界点に身を置いてることを忘れるな」


 友とも敵対とも言えぬあいつに向けての忠告、を。
同じくデスゲームに巻き込まれたラムちゃんやしのぶら女生徒への思いのついでで面堂は呟いた。


166 : 暗く狭いのが ◆UC8j8TfjHw :2023/10/12(木) 20:13:28 eGG6VWGM0


 森の中でパンッ、パンッ、と響く。
夜中の銃は重く鳴った。

一発目。
ミサトの自動拳銃から発射された金色の鉛玉は、目標目掛けて一直線に飛び続け、そして。

「ぎいいっ??!!!!」

 誠の右手──厳密に言えば手の甲を吸い込まれ空洞を開けた。
撃たれた反動で右手は大きく掲げられ、血飛沫が地面の草木を紅色に染めあげる。

二発目。
これも同様、正確に狙われた位置目掛け光の速さで突き進み、誠の膝関節にて、骨を粉々に砕き、突き抜けて行った。

「…んぎゃああぁあああああああっ!!!!!!」

 誠は悲痛な叫びと共に、床に倒れ伏し苦悶の表情で転げまわる。
地面は赤く濡れ果て、誠自身も涙と涎で顔中をめちゃくちゃに湿らせていた。
ミサト、そして面堂は誠を憐れむでも怒るでもなくただ無の表情で見下ろし続けた。
 銃口から上る白い消炎が、空気中で徐々に無色となっていく。
煙の匂いが充満しきる頃合いで、誠は涙ながらに必死で命乞いを始めた。

「や、やめてぐれぇ! 許しでぐれよお!! 俺を殺ざないでくれよぉおおおおお!」

 激痛で歪む膝を負傷していない片方の手で抑えつつ、誠はミサトへ顔を見上げた。
ミサトは無表情を崩さずとも、どこか呆れた表情を含ませ、口を開く。

「殺す? 冗談じゃないわ、しないわよそんなこと。制裁はこれで済んだのだからこれ以上は何もする気はないわね」

「ふざけないでくれよぉおおお!!!!! いだ…っ痛いいいいっ! ………俺を…歩けなくしてざあ……そのまま俺が誰かに殺されたらどう責任どるんだよおぉおお!!!」

「ハッ、それは運によるわね。もしかしたら大丈夫かもしれないし、殺されるかもしれない。あなたが許されるか否かは神次第ってとこね」


 追い詰められ、痛みからジタバタと声を大に荒げる誠に、ミサトは素っ気ない態度で応対していく。
許されるか否かは神次第──と言ったが、この殺し合い下にて置き去りにされる実質芋虫の誠など、到底狩られぬはずがないだろう。
いくら軽薄な誠とはいえ、そのことは理解しているようで、後がなくなった絶望感に顔色を非常に悪くしていた。


167 : 暗く狭いのが ◆UC8j8TfjHw :2023/10/12(木) 20:13:47 eGG6VWGM0
 面堂は、ふと、世間話感覚に誠に問いかける。

「しかし解せんな。お前は何故殺し合いなんて乗ったんだ? 強要されてるとはいえ、殺人なんて普通簡単に乗り気になるものではないだろうに」

 面堂は話しながら膝を折り畳み、誠に顔を合わせてそう聞いた。
その問いかけ、誠は何か癪に障ることがあったのだろうか。目を見開き声のボリュームを大にして叫び応える。

「ああああ?! お前ら気づいでないのがよおおっ? 俺たちはもう『死んでる』んだよ!! だがら殺じ合いなんて今更じゃないかあぁあ!!!」

 突拍子でもない応答であった。
厳密には答えになっていない馬鹿な答えに、面堂はやれやれといった様子で首に手を当てる。

「バカを言うな。こうして生きてるじゃないか? …とち狂ったバカと会話すると知能指数を擦切らされそうで……う〜む頭が痛い…。もう行きましょう、ミサトさん」

 面堂はミサトに声を掛ける。
だが、ミサトは応じることなくただずっと、

(死んでる、………)

 と頭の中でリフレインし続けた。
誠の言葉で驚きの表情を作ったまま、固まりきっていたのだ。
 確かに自分はあの研究の爆発事故に巻き込まれた。浴びる熱風に、ぶち破れる鼓膜の感触。
そのため、自分はもう死んでいて、今ここが現世ではないというのも納得はできる。
面堂の言う一概にバカな発言とは、ミサトは思えないのであった。

「…って、ちょっとミサトさん! ミサトさん! …困ったな、僕としてはボーっとしないでもらいたいものですよ」

 が、面堂にしつこく体を揺さぶられ、その思考の深堀をやめることにした。

「…あっ、ううん。ごめんね終太郎くん。じゃ、NERV所属として一般人のあなたを保護させていただきます。一緒に、来てくれるわよね?」
「えぇ、勿論。行きましょうか」

 自分がはたして本当に命がないのかはわからない。
ただ、今は『生死を賭けた殺し合い』に参加させられていることは明白。すなわち、今の状態は生か死で言うと『生きている』ことになるだろう。
ミサトは心の底のショックを抱えつつも、今は面堂とこの殺し合いに抗うことを決めた。
二人はもうこの場には用はなしと来た道を戻る形で歩を進んでいく。
──伊藤誠のデイバッグを片手に。


168 : 暗く狭いのが ◆UC8j8TfjHw :2023/10/12(木) 20:14:08 eGG6VWGM0
「なああっああ!!! ちょ、ちょっど待でよお?! 置いてかないでくれよぉお!! 絶対に、絶対に許さないからなあ〜〜〜!!!」

 誠の最大の叫びが発せられたが、空しくも二人は徐々に闇の奥へと消えていった。
葛城ミサトと面堂終太郎、例えるなら美空ひばりと東千代之介のような関係の二人組は、対主催の道路をまっすぐ進んでいくのであった。





「ううぅうう〜……………っ」

「誰か助けてくれええ〜〜〜〜っ! 西園寺ぃい〜〜!! 桂ぁ〜〜…、清浦ぁああああ〜〜〜〜〜!!!!」


 後には伊藤誠の情けない声が響くばかりである。
──自分をあれだけ滅多刺しにした『彼女』の名を、誠はうずくまりながら呼び続けた。
嗚呼、南無阿弥陀仏。


【A3/樹海/1日目/深夜】
【面堂終太郎@うる星やつら】
[状態]:健康
[装備]:ノコギリザメ
[道具]:食料一式(食料紛失、飲料未確認)
[思考]基本:対主催
1:ミサトと行動
2:友引高校の同級生(特に女生徒)が心配
3:暗く狭いのが好きくないよ〜〜っ!♪

【葛城ミサト@新世紀エヴァンゲリオン】
[状態]:健康
[装備]:自動拳銃@エヴァ
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:対主催
1:面堂を保護、ともに同行
2:碇シンジらを見つける
※参戦時期は3号機が爆発して意識を取り戻した直後です。(18話:命の選択を)

【伊藤誠@School Days】
[状態]:右足左手被弾
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]基本:ゲームの優勝
1:西園寺ぃ〜〜!言葉ぁあああ!!
2:面堂とミサトを許さない
3:参戦者は率先して襲う
※参戦時期は死亡後です。

※『ジョンソン@ドロヘドロ』
背丈3mほどの白いゴキブリ。
二足歩行で歩き、リモコンの操縦者に基本忠実に従う。
そのボディは戦車の装甲のように頑丈で、巨体を生かした打撃攻撃が中心パターン。また、どんな物でも捕食する強靭な顎も持つ。
鳴き声は「ギュチィーーーーーーー!!!!」「ギュワーーーーーーーッ!!!」等。
[状態]:健康
[思考]基本:ギュチィー
1:缶詰を追っかける


169 : ◆UC8j8TfjHw :2023/10/12(木) 20:14:38 eGG6VWGM0
投下終了です
次回…ラムちゃん、千代田桃で投下します


170 : ◆C0c4UtF0b6 :2023/10/12(木) 20:50:57 OnnZ1jOA0
>>168
投下乙です!
誠…ざまぁねぇな


171 : 名無し :2023/10/12(木) 22:59:01 cdqzaCgY0
私も投稿します。
ランディ・マーシュ、???、???


172 : ◆UC8j8TfjHw :2023/10/14(土) 23:10:47 wHZSP/Pw0
>>170
ご感想ありがとうございます!
誠くんは死んだ瞬間言葉爆弾に火が付くので、マーダーが数不足でない序盤は精々苦しみ生き永らえさせたいものです

>>171
おっ!これはご予約大変感謝の極みでございます!
心の底から楽しみ&期待に胸を膨らませて待っています!!


173 : ◆UC8j8TfjHw :2023/10/17(火) 02:34:02 gtJeRp8Q0
投下します。

**まちカドのラブソング
(登場人物) [[ラム]]、[[千代田桃]]
----


174 : まちカドのラブソング ◆UC8j8TfjHw :2023/10/17(火) 02:34:34 gtJeRp8Q0
星空。
“虎ビキニのスペースインベーダー”ラムちゃんは、満月が光る上空を、泳ぐように飛行していた。
この異常な殺人ゲーム下において、彼女の目的はこの会場のどこかにいる愛しのダーリンと合流すること。
 「ダーリン、どこにいるか見当も付かないっちゃ……」

ダーリン──とは、世紀の大凶男・諸星あたるのこと。
ラムは名簿の確認を済ませている為、あたる他クラスメイトのしのぶや面堂にメガネ、養護教諭のサクラ先生までもが巻き込まれていることを知っていた。
中でもあたるという男は常にうろうろきょろきょろと能天気に動き回る世話の焼ける人間で──そして、ラムの未来の夫である愛しな彼な為、上空から所在を探しているのだ。
ラムは思う。もしもダーリンが殺されたりなんてしたら自分は…、と。
続けざまに、しかも虫みたいに開始早々殺害なんてされてたら…、とも。
おまけに、女殺し屋にナンパしにいって殺されるというマヌケな死に方をしてたら…、とも思う。
そんなあたるの死にざまを目撃したら、色んな意味でラムは納得行かぬだろう。
思い浮かんだ嫌な想像を首を振ってかき消したラムは、エンジンが掛ったように大急ぎで捜索を始めた。

あれから──ファイナル・ウォーズ開戦から数刻ばかり過ぎたが、未だにダーリンの姿を見つけることはできなかった。
どれほど見下ろそうとも、どれほど島の大移動を試みるも、遭遇するのは見知らぬ参戦者のみ。ラムの心中はますます不安でいっぱいになっていく。
ライ麦畑でガサガサと何かが揺れ動く様を見かけた時、ラムは一瞬心が躍ったが、それもぬか喜び。
出てきたのはさえない中年サラリーマンとメットを被った子供で、腹いせに電撃攻撃を食らわそうか悩んだほどであった。
ラムは長い捜索活動で、身も心も徒労感がのしかかっている様子。支給された食品の食べカスをポロポロと落としながらため息をついた。
 「ダーリーーン……、心配で一杯おかわり八杯だっちゃ」
ちなみに今、彼女の手元に武器はない。代わりと言うように、バッグの中に入っていたのは充電器一つだけ。
ラムの電気がなくなったらこれで補充せよ、とでもほざいているのだろうか。
主催者の掌の上で悪趣味に遊び回されてる感覚が襲い、ラムは心底呆れ干していた。

それでも彼女はあたるとの出会いを求め、健気に四方八方飛行を続ける。
次に向かう先は、木が広大に立ち並ぶ大森林の上空。
理由はない。ただ何となく、である。──そこへ向かう理由を強いて上げるとしたら、森を電撃ショックで引火させて大火災を起こし逃げてきたとこを捕まえるため、だとか何とかだ。
辺りは真っ暗な夜空から、緩やかに青き黎明の空へと差し掛かっている。
木を隠すは森の中、とラムは草木に紛れし雑草のようなその男を探して、一生懸命に目を凝らした。


175 : まちカドのラブソング ◆UC8j8TfjHw :2023/10/17(火) 02:34:56 gtJeRp8Q0

…ちょうど、目の前の大樹に手をつき束の間の休憩をしようとした時だった。
カコーーン、カコーーーーン。
まだ薄暗い森の中で、妙な音が聞こえてきた。
 (木と木をぶつける…音け?)
古き例えならば、火の用心の、拍子木。それの巨大版のような響きのある音が木霊してくる。
現状が現状のため、ラムは用心しながら音のする方へと潜っていった。
カコォーーーーン、カッコオオーーーーーーン、カッコオオオオオーーーーーーンッッ。
音の発生源に近づくにつれ、その正体不明の音の頻度が早まってくる。
 (……もしかして、戦闘の音…)
だとしたらこの打ち合う音は、木刀同士の決闘か。もしくは、既に殺めた相手の頭を打ち砕いている音か──…。
ラムは木々に隠れつつ移動しながら、そう思考した。

身体を、深い森の中へと完全に沈め、地面にちょこんと着地。
途切れ途切れな林道を、数刻ほど闊歩した時、ラムはとうとう音の発生源に辿り着いた。

 「────なっ!」
その娘──のあまりに異様な行動に、ラムの表情がゆがむ。
一本の長くそびえ立つ木を前にして、その存在感を表していたのはラムと歳はほぼ同じくらいの少女であった。
桃色の流れるようなショートカットの髪で、背丈はすこし小柄。整った制服の上に、黄色いパーカーを着用した、一見にして普通の女学生。

この暗い森に身を置かされて、桃色の彼女は何を思ったのだろうか。

カッコオオオオオーーーーーーンッッ

自分の何十倍もの長さのある丸太を、彼女は目の前の木に向かって、素振りをするが如く打ち付けていたのである。
何度も、何度も何度も。
つまらない作業をするように仏頂面で。
樹は既に打ち跡が痛々しく出来ていた。

カッコオオオオオーーーーーーンッッ、カッコオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーンッッッ、ドゴオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーンンンンッ

ちなみに丸太は電柱の如し全長、ラガーマンの屈強な胸部の如し太さを持つ。

 「な、なななな、なな………〜っ!」
ラムは身震いと困惑を抑えきれずにいた。
前頭葉内部はナゼ?で必死に答えを探っている。
ナゼ、あの娘は丸太でわざわざ音を鳴らしているの?
というより、ナゼ、あの娘はあんな丸太を持てるの? ナゼ、あの娘はこれだけ規格外の運動をして汗一つかいていないの? ナゼ、あの娘はあんなに“怪力”………?
ナゼナゼナゼナゼ?ナゼナゼナゼナゼ?
──ラムは、“自分の身近な知人”を引き合いに、ピンク髪の娘に向かって思わずツッコミを入れる他なかった。

 「お前はしのぶ、かぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」


176 : まちカドのラブソング ◆UC8j8TfjHw :2023/10/17(火) 02:35:16 gtJeRp8Q0
ラムの盛大な突っ込みが、木の打音に負けず森全体へ響き渡った。
対して桃色娘は、その急な大声に特にたじろぎもせずゆっくりと顔を傾ける。
じっくり、冷静に。ラムのビキニ一つの露出の多い肌を、上半身から下半身まで眺め続ける。まあラムもおかしな恰好ではある為、少女は眉を少しばかり顰めた様子だ。
二人はしばらくただ見つめ合う静寂の空間を作り上げていたが、しばらくして少女はツッコミに応える形で口を開いた。
──少女もまた、“自分の身近な知人”、友人を引き合いに、第一声をラムに向かって突っ込む。

 「いや、キミのその格好はシャミ子、かっ! 魔族かっ……──!」


初見であるものの妙な既視感を、互いに共有した瞬間であったという。


* * * * * * * * *



 「ふーん……。精神統一、っちゃね………………?」


木の陰で立ち並ぶ少女2人。
ラムは少女・千代田桃の顔を困惑した表情で凝視していた。
妙な顔をしながらプカプカと浮かぶラム。彼女の言葉に、桃は応える。

 「そう、精神統一。よくお寺にいるお坊さんの見習いは、心の邪を払うため山奥で薪割り100x10セットを行うらしいんだけども、私がやってた事も似た感じかな」

桃曰く、先ほどまでの丸太で馬鹿力フルスイングは心を落ち着かせる為のルーティーンのような行いらしい。
成程、精神統一の為、と。これはラムが呆れを通り越した顔をするのも無理はないだろう。
他にも丸太を軽々持てた理由は魔法の力99%&日ごろの筋トレの成果1%のお陰だとか、体鍛えているからこの程度の運動疲れやしない、だとかラムの頭に浮かんだ疑問を色々無表情で説明してくれた。

 「…心の邪を払う、と言ってももちろん私はバトロワなんてする気なんてないよ。一応、魔法少女やってるし、殺人ゲームに乗るなんて似つかわしくないしね」

 「へ、へぇーーーー…そうっちゃ…」
 (この桃とかいう娘。華奢な見た目の割に、脳みその思考回路はボディビルダーのそれだっちゃっ…! というか魔法って何っ?!)

割と荒唐無稽な存在であるラムがツッコミをあげるとは、それは桃がもうとんでもなく信じられない超人的であることを意味する。
取りあえずは、魔法少女だのとよく分からない言葉はスルーしつつラムは話を聞き続けた。


177 : まちカドのラブソング ◆UC8j8TfjHw :2023/10/17(火) 02:35:34 gtJeRp8Q0
 「…要するに心の乱れを払いたかったんだよね。殺し合いなんて異常なゲームで乱雑と化した精神の整理を、さ。現に私の心は結構はればれしてるから打ち木をして正解だったと思うよ」

 「いや特大不正解じゃないけ! 音聞きつけて危険人物来る可能性あるし、正解か不正解で言ったら間違って………」

と、ラムはここまで言いかけたところで言葉を止めた。
普通ならいつ殺人鬼に襲われるか分からない疑心暗鬼な現状で、大きな音を響き鳴らすのは自殺するのと一緒である。
だが、千代田桃にそんなこと関係あるだろうか。
なにせ倒木を軽く振り回す筋肉モリモリ威圧感バリバリの怪物なのだから、襲撃され闇討ちに遭うビジョンなど到底想像できない

 (つまり、うちが今目の前で話してるこいつはある意味殺しのスペシャリストってこと、っちゃな……)

 「…ん? 何かな? ラム」

 「何でもないっちゃ、どうぞ気にせず…」

 「あぁ、そう」

桃はドライに会話を終わらせた。
言いたいことを言い終えて満足したのか、桃は電池が切れたおもちゃのように寡黙になりボーっとはるか上空を見上げる。
脳筋な上に割とマイペースな性格のご様子。ラムは彼女への接し方の難しさに頭を悩ませるのであった。
まあ参戦者遭遇ガチャで殺人者や優勝狙いの人間を引き当てるよりは大分マシであるのだが、それでもこのポーカーフェイスの少女と今後行動を共にすると考える時が重くなってしまう。
興味本位で接近したことに後悔するのみであった。
ハア…、とため息を無意識に漏らし、

 (………って、なんでうちはコイツと行動しようと考えてるんっちゃ…! そうだ、早くダーリンを探さなきゃいけないっちゃ!)

そうになった所で、ラムは本来の目的を思い出す。
マッスル桃色少女の丸太ぶん回しインパクトでつい忘却していたが、自分は愛しのダーリンにすぐにでも再会せねばならぬのだ。
風が吹けば吹き飛んでしまいそうなか弱きダーリン諸星あたる。彼を守れるのは、暫定婚約者である自分しか現状いない。
早速ラムは、桃に別れの挨拶がわりの一瞥を終えると、跳ね飛ぶ姿勢を作った。

 「じゃ、ウチはそういうことで。桃もせいぜい達者で暮らしてくっちゃよ〜。じゃ、バイっちゃ」

 「あっ、どこに行くの?」

桃は黄色のパーカーのポケットに手を突っ込みながら質問を返す。

 「どこって、ダーリンのとこに決まってるっちゃ。探すんちゃ」

 「ダーリン………。あぁ、さっきのしのぶさん、って人のことか」

 「違うっちゃーーーーっ! マイダーリンは諸・星・あ・た・る、その人! しのぶなんて死のうが生きようがどうでもいいけー!!!」


178 : まちカドのラブソング ◆UC8j8TfjHw :2023/10/17(火) 02:36:56 gtJeRp8Q0
発せられた頓珍漢な答えにラムはツッコミを荒げた。
振り向き様、ラムは適当に会話して去る予定だったのだが、フィアンセの名前=しのぶという冗談じゃない解釈をされた為、訂正せざるを得ない。
ラムにとって本当に「冗談じゃないないわっ」といった思いであった。
そんなラムの心中を汲み取ることは無いといった様子で、一方桃は気ままに話を続ける。

 「探す、ね…。奇遇にも、私もこの島の中で会わなきゃいけない人がいるみたいだ」

桃は支給された紙──参戦者名簿の名前を目に通しながら、そう話した。
無表情は変わらずとも、桃のその言葉にはどこか怒気というか悲しみに近い感情が込められてるように聞こえる。心なしかよく見れば顔は一層曇ったように見えた。
ラムは思う。様子から察するに、桃の知り合いもこのデスゲームに放り込まれてしまったのだろう。
人探しをする自分と照らし合わせ感情移入したのか、ラムは若干の同情を桃にする。
ラムは体を桃の方に振り返ると、会話のキャッチボールを続けた。

 「…それってもしかしてさっき呼んだ『シャミ子』って子のことけ?」

 「あっ、うん当たり。シャドウミセス優子。あの子、魔族の割に弱っちいから、私が探さないとあっという間に死んじゃうだろうし………」

シャドウミセス優子…。一見只者ではなさそうな名前だが、どうやらその探され人も軟弱で自分がいなきゃダメな人間のご様子。
ダーリンとシャミ子。そして、ラムと桃。話を聞くにつれ明らかになっていく両名の接点。
そのことで、ラムはこれまで適当に受け流し奇特な目で見ていた桃に、初めて親身になるようになっていた。

 「シャミ子……シャミ子が悪いんだよ……。どこにいるんだろ、不安で闇落ちしそうになる気分だよ…」

 「…桃!ならば、モタモタしてる暇はないっちゃよ!」

 「えっ、何…?」

 「何ももナニもないっちゃ! 探すっきゃないっしょ土井たか子っちゃ! 一緒に来るっちゃよ」

ラムは早く行くよ、と言うように手招きをすると、ふわっと空中に浮かび上がった。
浮かんだのはなにもラムの身体だけではない。
一緒に来い、という言葉で桃もこれまでの仏頂面から初めて笑みを浮かべたのだ。

 「…ははは。そうだね。さしずめ私たちは“探し人同盟”ってとこかな」

桃はラムに微笑を見せ、そう答えた。

ガール・ミーツ・ガール-Girl meets Girl-。
意気投合した女子二人は、互いの思いを胸に、並んで進んでいく。
彼女らが、この殺し合い下にて愛しのあの人へと、まるで磁石のように引き会うことができるのか──。
愛は運命に勝てるか否かは、今はまだ誰にも分からない。


179 : まちカドのラブソング ◆UC8j8TfjHw :2023/10/17(火) 02:37:13 gtJeRp8Q0
* * * * * * * * *



大森林を抜けると、そこには切り開かれた広大なグラウンドと、学校らしき建物がそびえたっていた。
学校は古びた木造りの旧校舎で、『昭和』を生きるラムにとっては馴染み深い学校、『令和』を生きる桃からしたらオンボロの古臭い学校に見える。
広い校庭の中心にて、ラムは大きな声で叫んだ。

 「おーーーーーーーーーーーーーーーーーーいっ!!! ダーリンいるだっちゃかーーーーーーーーーーーーーーーー?!!!」

…。
答えはただ沈黙のみ。
この暗い学校にどうやら宛は無いようであった。

 「…もうっ!!! ダーリンはどこいるっちゃ!!! これだけ心配してるのに努力は実を結ばないっちゃあ!!!」

ラムがイラ立ちとしょぼくれを見せた様子で、後を去ろうとする。
と、その時、桃は唐突に口を開いた。

 「あっ、カブトムシ」

 「…へ? もんも〜、どうしたっちゃ? カブトムシが何って………」

桃の方を振り向いたラムは、再び声を失うことなった。
桃は自分の近くにたまたま飛行していた『カブトムシ』を、目にも止まらぬ速さで正確に掴み取る。
ジタバタと抵抗の示しで動かす六本の脚を、ブチブチブチッと右手でもいでいくと、
そのまま、口の中に放り込んで、食し始めた。

 「……………………ぐげっ…! もんも…………っ、おま………」

もぐもぐと開始される咀嚼。口からはみ出るは繊維まみれの薄い羽根。
桃の口から黄色の薄い体液と内蔵が、何とも言えぬ音と共に零れ落ちていく。


殺し合い。
それは言うなれば、極限環境からスタートし、様々な知識やテクニックを駆使して昼夜を生き抜く“サバイバル”である。
サバイバルにおいて食事、特にタンパク質の摂取は生きることに繋がる。
そのため、たとえ生物だろうが虫だろうが、たとえ唐突だろうが捕食することは正当性があるのだ。
…などと、桃は勝手に思ってるのであろう。
何食わぬ顔で口内のカブトムシを飲み込むと、ラムに向かって語りだした。


180 : まちカドのラブソング ◆UC8j8TfjHw :2023/10/17(火) 02:37:43 gtJeRp8Q0
 「大丈夫、味のことを考えなければ貴重なエネルギーだからね、昆虫は。脂肪があまり少ないからプロテイン代わりになって筋肉がエキサイトするし」
 「ラムは分かるかな? 生き抜くために必要なのは力でも勇気でも運でもない。『貴重なタンパク質を効率よく摂取する』、それが全てなんだよ」
 「昆虫食…にしても良いよね。そう思わないかな。確かに可食部は少ないし旨さも甘さもないけど、逆に言い換えればそれは糖を究極で完璧に控えれる完全食ってことだし。筋肉も喜んでいるよ。ほら、筋肉筋肉筋肉」


口からダラダラと虫汁を滴らせながら、桃の饒舌は止まることを知らない。
ラムの顔は当然引きつっており、顔色は青ざめきっている。
露出された肩からは分かりやすいくらいに鳥肌が総毛を立たせていた。

 (やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい…!!! やっぱコイツはおかしいっちゃ!! ウチは絶対合わないっちゃあーーーーっ!!!)

千代田桃。
彼女の何を考えているか一切予見できぬ筋肉ブレインに、さすがのラムもげろげろげぇであったという。



【G3/1日目/深夜】
【シン・探し人同盟】
【ラムちゃん@うる星やつら】
[状態]:健康
[装備]:Androidの充電器@現実
[道具]:なし
[思考]基本:ダーリンに会う、のち生還
1:桃は超危険人物だっちゃ!
2:ダーリンに会いたいっちゃ!

【千代田桃@まちカドまぞく】
[状態]:健康
[装備]:未確認
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:シャミ子に会う、のち生還
1:口の中が体液でイガイガする。
2:シャミ子を早く見つけなきゃ。
3:殺し合いには乗らない。


181 : ◆UC8j8TfjHw :2023/10/17(火) 02:39:55 gtJeRp8Q0
投下終了です
タイトルの元ネタは言わずもがな尾崎豊のoh my littlegirlで、しょ〜もないダジャレとなってます

それでは私も予約として、碇シンジ、エレン、ベルトルトを書かせていただきます


182 : ◆C0c4UtF0b6 :2023/10/17(火) 18:02:01 m1yJIQqA0
>>180
投下乙です!

支給品を確認しないで普通にカブトムシを食べるのは流石に野生児すぎない…?


183 : ◆UC8j8TfjHw :2023/10/17(火) 21:17:26 gtJeRp8Q0
>>182
ご感想ありがとうございます!
ほぼベアグリルス化してしまった桃ですが、まあ脳筋なので仕方ないでしょう。
気の毒なのはこの桃式サバイバルに巻き込まれたラムですが、果たしてこれから野生化の被害に遭う参戦者はどれほどまで増えてくのやら…

お知らせです。地味ながら挿絵コーナー作りました。
本篇ss目次の右側の特定のssにのみ挿絵があるので、そちらもどうかご覧になってください
ttps://img.atwiki.jp/shinanirowa/attach/92/150/sashie2.png


184 : ◆UC8j8TfjHw :2023/10/21(土) 23:43:24 4F964MA20
投下します


185 : これまでの碇シンジ ◆UC8j8TfjHw :2023/10/21(土) 23:46:10 4F964MA20
※元ネタはこれなので↓
ttps://youtu.be/oJoBLIYZo54

※これを脳内再生してください
ttps://youtu.be/47md-KAAsC4


186 : これまでの碇シンジ ◆UC8j8TfjHw :2023/10/21(土) 23:46:39 4F964MA20
『これまでの碇シンジ』


──人の作り出した究極の汎用人型決戦兵器“人造人間エヴァンゲリオン”。
──碇シンジくん、あなたが乗るのよ。


[新世紀エヴァンゲリオン]

碇シンジは、3年ぶりに父・碇ゲンドウに呼び出され、第3新東京市へ向かう途中、巨大で謎めいた存在「使徒」と国連軍の戦闘に巻き込まれる。
第3新東京市の地下にある「ジオフロント」で、特殊機関「NERV(ネルフ)」の最高司令官であるゲンドウは、NERVが開発した最新の兵器・「エヴァンゲリオン」というヒト型決戦兵器の初号機を披露し、使徒との戦闘のパイロットになるように迫る。
シンジは拒否するが、重傷を負ったもう一人のパイロットである綾波レイを見かけ、エヴァンゲリオンに搭乗する覚悟を決める。

-------------------------------------------

───『出撃』。

「こんなの乗れるわけないだろっ!!」

───『乗るなら早くしろ』
───『出なければ帰れ』

「…ちゃダメだ」
「…げちゃダメだ」
「…にげちゃだめだ」
「逃げちゃだめだ!」
「逃げちゃダメだっ!!!」

搬送される綾波レイが目に映る。

「…僕が、乗ります。」

───『エヴァは使途に勝てる。』
────使途を倒さぬ限り、我々に見たいはない。

──15年前、セカンドインパクトで人類の半分が失われた。
──今、使途が、サードインパクトを引き起こせば今度こそ人を滅ぶ。

(なんで僕はここにいるんだ…?)

──信じられないの?お父さんの仕事が

「どうせ、僕はエヴァに乗るしかないんだ…っ」

──エヴァのパイロットを続けるか、どうかあなた自身が決めなさい。

「…もう一度、乗ってみます…」




187 : これまでの碇シンジ ◆UC8j8TfjHw :2023/10/21(土) 23:46:56 4F964MA20




──『私の名はユーゼス=ゴッツォ…これから、諸君らには殺し合いをしてもらう』


[スパロボキャラバトル・ロワイアル]

目を覚ました碇シンジに強いられたのは「巨大ロボットを使った殺し合い」。
状況も飲めず錯乱状態に陥ったシンジは、初遭遇参加者・ゼンガーと対峙。
気絶させられるも、理解あるゼンガーの善意もあって行動を共にすることになる。
ゼンガー亡き後は、『アムニスの実』を拾い、ウルベ、宗助に出会ったが、待っている間に二人とも死亡。
次々に訪れる仲間の死。シンジはますます追い詰められ、苦悩をし続ける。
物語は中盤を迎えた時だった。シンジはアスカに会う決意を固めるも、正気を失ったアスカに全否定され暴走。二人は心中するかのように共倒れとなりシンジは意識を永遠に失った。

-------------------------------------------


(“敵機”だ。アイツは、岩陰なんかに隠れて、僕を、殺そうと、するんだろうか…!!)

──そしてこの一振りの剣…我が仮初の斬艦刀に不足なし!

斬撃。
そして気絶。

──少年、怪我はしていないか?こちらに攻撃してきたので、やむを得ず気絶させた。
──ではシンジよ、率直に聞くがお前はゲームに乗っているのか?乗っていないのか?

そう聞かれてやっとシンジは現実感を取り戻した。
(殺し合いを奨励する恐ろしいゲームに、僕は巻き込まれていたんだ…。)

戦闘。

──我が斬艦刀に…断てぬもの無し!
───なぁぁなぁんぁんぁなんなぁぁ!

──シンジ…今を生きろよ

爆散。光と共に消えてゆく尊敬できる人──。

「どうしてだよ…」
「…どうしてだよっ!なんでだよっ!わっけがわかんないよっ!!!!」
「あ゛あ゛あ゛あああああああ!!!」

────相手が多くたって……負けてらんないのよ……負けてらんないのよッ!

(………っ!!)
「アスカ……? アスカなの……!?」

────今更何言ったって無駄なんだから!!あんたはこのまま死ぬのよ!!
死ね死ね死ね死ね死ね死ねシネシネシネシネシネシネシネシネシネ・・・・・。

(ど、どうしてだよ…っ!なんで攻撃してくるんだよ!!アスカァアア!!!)
「ひっ…!死、死ぬ、死ぬ!じにたくない!!!うあ゛ぁあ゛ぁあぁあああぁああぁああ!!!」

銃撃。

アスカの乗るロボットの上半身を跡形もなく吹き飛ばした。
しかし代償としてもはやシンジの生命機能は停止にかかっていた。
(痛い…痛い…痛い…死に…たく…ない…誰…か…………………)

血にまみれ、虚ろに開かれた目。
その体が動くことはもうない。

【二日目 20:10】
【碇シンジ@新世紀エヴァンゲリオン 死亡確認】





188 : これまでの碇シンジ ◆UC8j8TfjHw :2023/10/21(土) 23:47:11 4F964MA20



──『これから、あなた達には殺し合いをしてもらう』
───『そう言う事。これから詳しいルールを説明するから、ちゃんと聞いておくんだよ?

────僕は渚カヲル。生と死は等価値なんだ、僕にとってはね。だから死ぬのは怖くな――

LCL化。

──『んーーーーー、何か不満かい?』

【渚カヲル@新世紀エヴァンゲリオン 見せしめとして死亡確認】


[kskアニメキャラバトル・ロワイアル]

碇シンジは川口夏子、朝比奈みくる、キン肉万太郎、ハムと行動を共にする。
だが、「大人の女性」に良い感情を持たないシンジにとってみくるは警戒の対象となっていた。
そのためシンジは途中パソコンの掲示板に「みくるは主催者の手先」と書き込み自己嫌悪に陥ったり、自分を保護しに来たみくる達をあっさり売り渡したりと、愚かな行動を続けていく。。
その後、森をさ迷う内遭遇した水野灌太に報いというように凄惨な拷問を受ける。
キン肉スグルが助けに来たのも束の間のこと。拷問と自己嫌悪で精神が限界に達していたシンジは血を滴り落としたまま、ショック死という最期を遂げた。

-------------------------------------------

「じゃあ、どうしてカヲル君を殺したんだッ! どうしてカオル君は死ななきゃいけなかったんだ!」
「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃ」

──どうしたの、シンジく―――

「ダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだあああぁぁっ!!」
「うわああああぁぁぁぁあああっ!!!」

───シンジ君、どうしたの!?待って

──待ちなさい、シンジ君!!

(掲示板………)

"朝比奈みくるは主催者の仲間です。あの女を殺してください"

「……最低だ、俺って」


────いいかよく聞け、オレはお前を殺す気はない
「嘘だっ! お前も僕を殺そうとしてるんだ! 曖昧に笑って、ごまかして、僕を殺す気なんだろ!?」

────ヒエ〜〜〜、駄目だこりゃ。こうなりゃ気は乗らないがあの手でいくか
「誰か僕を助けて……。一人にしないで、僕を殺さないで、お願いだから僕をたすけ――
うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

断チン。

「みくるさんごめんなさい。僕が……僕が間違ってたんだ。僕が卑怯で、臆病で、ずるくて、弱虫で……」

──おや、これはこれは
───ゲ、ゲェーーーッ!! な、なんて恐ろしい事をーーーーっ!?

───ム、ムウ、明らかに私を怖がっておるわい……しかし見捨てる事は出来ん!

───大丈夫だ! 私はキミを傷付ける様な事はせん!

(殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される
殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される
殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される
殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される
殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される
殺される殺される殺される殺される殺される殺され……
殺される殺される殺される殺……
殺さ……
……)


「嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

ブクブク泡を吹き白目剥いて痙攣する。
皮膚ごとワイヤーから手足を引き抜いたため血で濡れる。
少年の皮がズルリと剥けてピンクの肉が露出していた。
いや、手足だけではなかった。

下腹部がやけに赤い。
それに見慣れているものが……無い!?

―――少年には性器が無かった。

「ア゛ァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!!!!!」

引き裂く様な悲鳴が上がる。
打ち上げられた魚の様にビクビクと跳ねる。

(これが、僕の最期………………?)


そう思い終えるころには、今は悲鳴を上げる事すら止めていた。

【一日目/夕方】
【碇シンジ@新世紀エヴァンゲリオン 死亡確認】





189 : これまでの碇シンジ ◆UC8j8TfjHw :2023/10/21(土) 23:47:28 4F964MA20



 XXXXXX 01 SOUND ONLY

 ――声が響く。

──『今から君たちには、とある【ゲーム】に参加してもらう。何、難しいことはない。
 ルールは単純明快だ。最後の一人になるまで殺し合う――それが今より君たちを縛る、絶対にして唯一のルールだ』


[中学生バトル・ロワイヤル]


殺し合いに放り込まれた碇シンジ(──厳密に言えばマルチバースの『彼』)はエヴァンゲリオンパイロットとして、殺し合いには乗らずにアスカ、綾波、トウジを助けることを決意。
アスカに逃げられた後、植木耕助に会い同行。その後、杉浦綾乃、菊地善人とグループを組み、その過程で植木の抱く『正義』に苛立ちを感じ始める。
湧き出る不信感。バロウ・エシャロットの襲撃に会った際、シンジはまたしても逃げ出した。
でも。だけど。それでも。彼の中で本当に、それでいいのかと、自問する。
(それでいいわけ、ないだろっ!)。その想いと共に満身創痍の植木の前へ庇ったシンジは、“百鬼夜行”に身体を貫かれ絶命した。

-------------------------------------------

「アスカ!」

──何よ、七光りじゃない……

「アスカ……なんだ。本当にアスカなんだ……」
「生きてる……また話せてる……。よかった。本当に、良かった」

───俺が……俺が、日向を……

「え……?」

───俺が、日向を殺したんだ……!

「植木君……でいいんだよね、ここに書いてあるのは本当なの?とても信じられないんだけど……」
───……未来日記の予知は全部本当だって、日向が言ってた

───シンジは……褒めてほしいから、戦ってたのか?」
「うん。だって、人類の命運を背負って戦うなんて重すぎるでしょ?
少しは嬉しいことだってなかったら、僕はとっくに逃げ出してたよ」
───逃げてた……?

───たくさんの人を殺す怪獣がいて、俺にしか倒せないって言われたら、戦うのが当たり前じゃねえか」

「怖くないの? すごく痛いし、死ぬかもしれないし、守るのに失敗したらその時は自分のせいにされるんだよ?」
───なんで怖いんだ? 自分の命より他人の命の方が、ずっと大事に決まってるだろ」


────ボクが『目的』を果たすには――好都合ってことだね!

襲撃。

───シンジ、みんなを連れてここから逃げてくれ。ここはオレが足止めしとくから、出来るだけ早く、出来るだけ遠くへ
「そ、そんな……植木君だけ置いていくなんて、そんなことできないよ!」
───早く行ってくれ、みんな!」
──……行こう、碇。どちらにしろオレたちがここに残ったところで、あの二人の戦いの中じゃ足手まといにしかならない。

…げちゃだめだ
……げちゃだめだ、にげちゃだめだ

「……逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……っ!」

シンジは立ち上がった。ついさっき、逃げてきた道を睨みつけて。

───……シン、ジ?
「ぐっ……ううっ……」

───バカ野郎……! なんで戻ってきたんだよ、シンジ!
「だっ……て……コースケ、だって、……僕の立場だったら、そうした、でしょ?」
───……! もうやめろ、シンジ! しゃべっちゃダメだ!」

顔色から、赤が失われていく。
ごほり、と肺腑から血を吐き出しながら、シンジは言葉を絞り出した。


「僕と約束して。誰かのために使うその『正義』を、少しだけでいい、自分と、助けられるその誰かのために、回してほしい。
そうすればきっと、コースケは本当の意味で、みんなを助けられる……ヒーローになれるはずだから」

「そして、僕の代わりに……綾波と、アスカのこと、助けてやって欲しいんだ───

そこまで言い切って、シンジは口を閉ざした。
もうこれ以上何もしゃべれないというように。

【一日目/午前】
【碇シンジ@エヴァンゲリオン新劇場版 死亡】





190 : これまでの碇シンジ ◆UC8j8TfjHw :2023/10/21(土) 23:47:44 4F964MA20



今にも出口を通ろうとした周囲の視線がカスタマーサービスに釘付けとなる。
自分らに集まってもらった理由。
すなわち、【悪夢】の開催宣言。
それが、今始まろうとしていた。

──『皆様には今から最後の一人になるまで「殺し合い」をしていただきます。』

[シン・アニメキャラバトルロワイヤル:||]


-------------------------------------------

第14使徒を殲滅した碇シンジは、目を覚ましたら殺し合いに放り込まれた。
そして次に意識を戻した時には暗い闇の、森の中である。
ひたすらにうずくまり続けるシンジ。
彼は知らずとも、これで何度目かの殺し合いの参加の為、このバトルロワイヤルはマイホームに帰ってきた様なものといってよいだろう。
しかしながら、参加回数の分、死亡もし続けたシンジ。彼が生き延びたことは一回たりともない。
既にシンジは精神は激流で歪み続ける最中。
『死』と言う名の運命の輪に、シンジは抜け出すことができるのだろうか。
それは今はまだ神のみぞ知る現状である。



だが、神はシンジに言った。


──希望は残っているよ。どんなときにもね。


と。



<引用元>
スパロボロワ「逃げる者、戦う者」「当たり前の事」「ミダレルユメ」「キョウキ、コロシアイ、そしてシ」
ttps://w.atwiki.jp/suproy/
kskアニロワ「少年少女と、変態」「碇シンジがああなったワケ」「片道きゃっちぼーる」「saturated with fear」
ttps://w.atwiki.jp/kskani/pages/1.html
中学生ロワ「いつまでも絶えることなく友達でいたいから」「アンインストール」「1st Priority」
ttps://w.atwiki.jp/jhs-rowa/


**シンジ「なにがBRだよ!」
(登場人物) [[碇シンジ]]、[[ベルトルト・フーバー]]、[[エレン・イェーガー]]
----





『第十弐話「なにがBRだよ」/EPISODE 12』
-Eccentric boy saw "Attack on Titan".-

▼回想終了▼
---------------------------------


191 : シンジ「なにがBRだよ!」 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/21(土) 23:48:14 4F964MA20
 広大な原生林。シダや苔、緑の木々が生い茂り、川のせせらぐ樹林の中で少年は隠れていた。
 しげみの中で身を隠す小動物を体現するように、小さく縮み込む少年。
 人は「緊張」という大きな壁を目前とした際、落ち着きがなくなる習性を持つ。
 少年は頭に爪をたて必死に搔きむしった。震え続ける歯は、舌のその柔い弾力をかみ続けた。装着したイヤホンから最大音量のミュージックを耳に流し込んだ。
 彼は今まさに、恐れを前に冷静さを無くしていたのだった。

「これは夢だ…これは夢だ…これは夢だ…これは夢だ…これは夢だ…これは夢だ…これは夢だ…これは夢だ…これは夢だ…………………!」

 止まらぬ全身の震え。その口は、助けを欲しがるかのように同じフレーズをくり返し発している。
 頭を掻いたあの行動はもしかしたら痛覚で夢から覚まそうとした意図があるのかもしれない。
 碇シンジは、目をぎょろつかせて、必死に現実逃避を行っていた。

「夢なら覚めろ…覚めろ覚めろ覚めろ…………っ」

 …急にこんなことになっていて、訳が分からなかった。
 アスカや綾波、ミサトさんの他に、見たことのない老若男女様々な人間が沢山いたあの宮殿内。まるでパーティに招待されたかのようだった。
 只でさえ把握に困る現状であるのに、ここからの出来事の連発は荒唐無稽の極みで「夢を見てるのかな…?」と思うのも無理はなかった。
 しゃべる巨大なペンペンとカタツムリ、モニターの男が発した「殺し合い<ファイナル・ウォーズ>宣言」。
 まるで虫のようにあっさりと殺されていく参戦者<みせしめ>たち…。
 赤。紅。どす黒い赤。血血血血血チチチチチチチ。爆。

「覚めろ覚めろ覚めろ……覚めろォオッ!!」

 ふざけた虚構の夢か、狂いきった現実なのかも判断がつかぬリアル。
 いや、シンジは本当はこれが現実と分かっていた。頭では理解した上で「もしかしたら夢なのかもしれない」という一筋の希望にすがっているのだ。
 要はこのリアルから逃げているのである。
 頭を握り拳で打ち続けるシンジ。覚めろ、覚めろ、と鼓動が激しくなり止まぬなか自傷は止まらなかった。

「……………覚めてくれ、よ…………っ……」

 だけど――
 手に入れたのは鈍い痛みと涙のみ。自分を殴ることをやめた時、シンジは現実を前にただ絶望する他はなかった。
 
「みんな消えろ…消えろ…消えろ…消えろ…消えろ消えろ消えろ消えろ………」


192 : シンジ「なにがBRだよ!」 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/21(土) 23:48:31 4F964MA20
 うわ言のように発せられた次の言葉は「消えろ」。
 握り拳を開いたシンジは顔をその手で覆いかぶせると、壊れたオモチャのように延々と呟き続けた。
 無論、消えたいのはシンジ自身である。限界までに透明になって、自分のいた痕跡を後かともなく消し、この狂った世界から抜け出したい。
 その言葉の反面、彼の精神はどす黒い物に飲み込まれていく。それでも、なんでもいいからここから逃げ出したかった。

 だが、消えることなどなくその「音」は近くから現れた。
 ぼそぼそっと男の話し声が聞こえたのだ。

「っっ……――――!!」

 声に気が付いたシンジは慌てて口をふさぐ。
 前か、後ろか見当はつかぬが自分の近くに確実にいる第三者。
 奴はブツブツと唱える自分に気づいているのだろうか。奴は殺意を持っているのだろうか。
 恐れのあまり震えが止まらない。声を殺して必死でじっとしたが、心臓は響き渡るようにそのやかましい高鳴りを辞さなかった。

(ぁあ――あ…ぁあぁぁぁああああああああ! 消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ!!!!!!!)

 そう頭の中でリフレインし続けた。

 幸運にもシンジの必死の願いが通じたのか、その第三者は茂みに気づかぬ様子でアクションを取ることは無かった。
 話し声は続いたが、それでもシンジに近づく様子はなし。

(………………………。)

 身動き取らずじっとした為、心にわずかばかりの平静が訪れたのだろうか。
 シンジは、そっと草の隙間から、声の元を覗き込んだ。

 落ち着いてないときは、普段なら見えて当然の物が視野から外れることがある。
 シンジは頭を向けるまで気づかなかった。その第三者が、対面するもう一人の参戦者に向かって話していたことに。
 視界に映ったのは、がっしりとした体つきの男が二人。
 一方の第三者は、なにやら引きつった様子で声を荒げる様子。
 もう一方の男は、黙りつつも、切り裂くような鋭い目つきで話を聞いていた。

 次の瞬間だった。
 シンジの網膜にしっかりと焼き付けられたのは、血飛沫。

「あ――あ、あ」

 男の首が放物線を描いて緩やかに飛んでいく。
 発酵しきったワインのように勢いよく噴き出す鮮血の噴水と、支えを無くし崩れ落ちるマリオネットの胴体。
 瞬時にして草原は真っ赤な水溜まりで濡れ果て、平穏さを消し去られる。
 人はこうまでもあっけなく殺されるものなのか。
 まるでスラッシャー映画のような残虐シーンがそこにはあった。


「ぁ………っああああ………!」

 シンジは目撃者──として、まるで夢心地の「狂気の世界」に入り込んでしまうのである。


193 : シンジ「なにがBRだよ!」 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/21(土) 23:48:48 4F964MA20
     ◆     ◆     ◆


「どういうことなんだ……? ワケが分からない………」

 ベルトルト・フーバーは自分の両手を信じられないといった目でただ眺めていた。
 手から流れる血潮、震えるように高鳴る心臓、そして自然と荒くなっていく呼吸。
 前触れもなく参加させられた命の奪い合いゲームもさることながら、ベルトルトは今「自分は何故生きているのか」に頭を懊悩させていたのだ。
 彼は何故、自身の生存に疑問を抱いていたのか?

(僕は確かに食われたはずだ…………、アルミンにッ……………。)

 追憶。
 あれはシガンシナ区でのエレン・イェーガー奪還作戦の時だった。
 闘いに敗れ、捕らわれた自分は金髪の巨人──恐らくアルミンに捕食され死んだはずだったのだ。
 巨人の口内でのあの水滴したたる生暖かい吐息。
 奥歯に自分の頭を置かれ、今にも降ろされそうな上あごを見た時の絶望感。断頭前の死刑囚の気持ちが嫌と言うほど痛感させられる。
 そして迎える、死。
 あの時の「死」の感触は確かなものだった。
 
 なのに自分は今生きている。先ほどまでの決戦はすべて夢だったのだろうか?
 いや、それともこの殺し合いが幻かなにかなのだろうか。
 104期訓練兵団の同期の中でも英明果敢で、名誉マーレ人としても戦士候補生の名を上げた頭脳優秀なベルトルトでも現状把握は困難を期していた。

「……考えたところで結論なんか出そうにないな…。とりあえず僕はやるべきことをやるまでだ」

 だがこの夢か現実かもわからないデスゲームを解決する方法は分かっている。いや、答えは既に用意されてるというべきか。
 簡単だ。今は主催者の命令通り、八十人もの人間を全員始末すればいいだけなのである。
 ベルトルトにはこの殺し合いで最後のイスまで座れる絶対的自信があった。
 彼は支給品である小型ナイフをじっと見つめ呟く。

「…ライナー、今、僕も故郷に帰るよ………!」

 自身が保有する「超大型巨人化」の力で暴れ荒らす。一刻もかからず皆殺しは余裕であろう。
 ベルトルト・フーバーは人殺しが何よりも嫌いな男だ。
 現に、パラディ島を侵攻し、大勢の生命を踏み躙った時の全身を包み込むような罪悪感と自責の念は、自殺なんかじゃ拭えないほどの苦悶に苛まれた。
 それでも彼はこのファイナル・ウォーズにて優勝に向かって進み続けなくてはならない。
 なにせ、「仕方がない」のだから。


194 : シンジ「なにがBRだよ!」 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/21(土) 23:49:06 4F964MA20
 ベルトルトはナイフの刃を掌に置くと、ゆったりと横へスライドさせ──、

「──よせよベルトルト、無駄だ」

 突然だった。暗くて野太い男の発声。
 自分の名前を呼ばれ、ベルトルトは慌てて背後を振り向く。

「…だ、誰だッ?」

 光量乏しき闇夜の森がゆえにその姿は上手く確認できない。
 ベルトルトは目を凝らしつつ、呼名したその人物に向かって歩みを始めた。
 草原を踏み進める最中、ベルトルトは考える。
 その声は聞き覚えのない掠れ切った声であったため、自分の知り合いではないのだろう。
 だが、奴は自分の後ろ姿だけを見てはっきりと「ベルトルト」と呼んだ。
 つまり目の前の男の正体は、間違いなく自分と同郷の人間。もしかしたらマーレの人間なのではないか、と。

 心弛びで警戒心を解きつつ近づくベルトルトであったが、男の明確な姿を見た時安堵感で心の底から解放させた。
 彼の考察は的中。男はマーレの軍服を着て、しかも腕章をつけた自分と同じ名誉マーレ人であった為である。

「あぁ、よかった…。あの、すみません。正直理解できないんですがこれ一体何が起こっているんですか?」

 ベルトルトは無警戒で目の前のマーレ兵に自身の疑問を問い質した。
 黒一色の森の中、風が吹いて草木がざわめきだす。
 男はベルトルトの問いかけにフッ、と嘲笑したかと思うと、以降は衣服をただ風になびかせるのみで押し黙っていた。
 無精ひげと長くて不潔なボサボサ髪を伸ばし、よく見ればところどころ酷く汚れがつく軍服を着る、まるで路上生活者のようなくたびれた格好の男。
 自分の問いかけの何に笑う要素があるのだろうか。男のスルーで訪れる沈黙に、ベルトルトは怪訝な表情を隠しきれずいた。 

「…あの、すみません? 僕、死んだかと思ったら殺し合い宣言をさせられて解せないんです。だからあなたも何か情報を教えてくれま…」

「おいっ、お前俺を誰だと勘違いしてんだ? 随分とまあおめでてぇ口調で話しかけるじゃねぇか、ベルトルト」

「………え?」

 暗くて重たい男の声で紡がれた言葉に、ベルトルトは呆気にとられる。
 誰だと勘違いしてる、と言われてもこのような薄汚れたマーレ兵なんて会ったことも見たこともない。
 だが、男は明らかに自分を認知している。というより親しい関係かのような口ぶりで話しかけている。
 ベルトルトは困惑しつつも取り敢えずで当てずっぽうをすることにした。

「……あっーーー、もしかして貴方はライナーの叔父さ──…

「ったくやれやれだな。まっ、仕方ねェか。この成りだし、何より俺らには【時間軸の差】があるんだからそら分かんねェよな」


195 : シンジ「なにがBRだよ!」 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/21(土) 23:49:23 4F964MA20
 男はベルトルトの言葉を心底うんざりした様子で遮った。
 呆れたと言うように頬を指先で掻く仕草を取る。

 間を置いて、男は口を開いた。
 絶望の淵の底から響き渡るような重苦しい声の、発せられた「言葉」。
 男が発した言葉は決して自分の名を名乗ったものではない。だが、その言葉一つでベルトルトはやっと目の前の男の正体に気付かされた。
 理解した途端、ベルトルトは血の気を失い、全身が硬直した感触に襲われる。
 ベルトルトは何故自分は奴に気付かなかったのだろうか、と自答する。
 こんなにも刃のような鋭い眼光を有し、自分に対しての殺気のオーラを放っているというのに。

「お、お前………………………まさか…………」

 ────この時ベルトルトは思い出した。時は1年前の大樹の上にて。

 ────ヤツから発せられた恐怖を覚えるような恨み言を。

 ────鳥籠の中に囚わせていたヤツの、屈辱感に対する激しい怒りの籠った声を。



「『ベルトルト、お前ができるだけ苦しんで死ぬよう努力するよ。』」



 あの時と同じトーンで、目の前の男──

「エ…エレン………………………………ッ?……!」

 ──エレン・イェーガーは自己紹介代わりにその呪言を吐いた。
 ベルトルトは安堵感から一転、戦慄が走らされる。
 目の前の邪悪は明らかに古くからの激しい殺意を抱いており、地の底から震えるような恐怖で固まりきっていた。
 滲み出る汗。ベルトルトの心は恐ろしさで一杯だったが、一方で思考回路は次から次へと湧き出る疑問で十分なくらい満たされて行く。
 思えば自分はここに来てから不可解が常につき纏っている。ベルトルトは呻き声を漏らすように、エレンに疑問を投げかけた。

「………エレン……な、なんで………そんな老け込んでる……んだ…………?」

「お前が最初に聞きたいのはそんなことか?」

「……………………っ」


196 : シンジ「なにがBRだよ!」 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/21(土) 23:49:41 4F964MA20
 震えつつもやっとの思いで質問を紡いでいくベルトルトに対し、エレンは表情変えずドライに回答を切り落とす。
 友好関係を結ぼうなど全く考えていない、簡単にそう捉えれる冷たい返し。
 ベルトルトは分かっていた。エレンが何を聞かれたいのかを、更にそれに対してどう答えてくるのかも予見しきっていた。
 息苦しさで詰まってしまいそうなこの一対一の空間にて、ベルトルトは絶望的答えを訊く為に震える口を必死で動かした。

「……何しに………」

「………」

「僕に………話しかけてきた……………」

「お前と同じだよ」

 エレンはまたも即答で返す。
 ベルトルトの質問に満足したかのように笑ったようだった。
 何せエレンからしたらこのやり取りは再演、デジャヴ。ベルトルトの型にはまったようなセリフに滑稽さを覚え嘲笑していた様子だ。
 ベルトルトにとっては邪悪な顔に笑みという名の表情を貼り付けただけという印象だが。

「お前と同じなんだよ、「仕方がない」ってやつだ。何せ殺し合い、なんだからよ」

 淡々と語られ続ける。仕方ないという言葉。
 もはや全身の震えは止まることを知らず制御が効かなくなっていた。
 何もベルトルトは目の前の悪なるエレンに恐れを為している訳ではない。ベルトルトが一番怖かったのは自分に間もなく起こる「死」であった。
 死というものは人生で一度しか起きぬ概念。
 その死という凄惨な体験はもう二度と体験したくなかった。

「にしても殺し合い、なぁ……。考え方によっちゃ抗うこともできるんだろうが……、多分生まれた時からこうなんだろうな俺は」

 その死を回避する選択肢はあるか否か。
 答えは勿論死にたくなきゃ殺せば良いだけである。
 自信の手に握るナイフが震えを振動し、刃先が小刻みに揺れ動く。

「場所も時も関係ない、俺は進み続けるだけなんだ。ベルトルト」

 もう、あの巨人に頭を噛み潰された時のような真っ暗な闇は迎えたくなかった。
 体の震えに必死で抗い、ベルトルトは刃先を左手の掌へと向ける。
 仕方ない?そうだ。この残酷な世界では殺さなくてはいけないのだから。

 エレンの言葉が今告げられる。それは開戦の合図でもあった。

「敵を、参戦者を全員駆逐するまで──────っ」

「うわぁぁああああああわぁああっーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


197 : シンジ「なにがBRだよ!」 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/21(土) 23:49:57 4F964MA20
 ベルトルトは自信を鼓舞する雄たけびをあげると、勢いのままにナイフを左手に突き刺した。
 巨人の継承者は、固い意志決意と共に手に自ら裂傷を与えると、巨人化することができる。
 ベルトルトの「超大型巨人」は巨人化の際、核爆発のような熱風と発光で周囲一帯を焦土に吹き飛ばす能力がある。近距離にいるエレンなど一瞬で消し炭となるだろう。
 エレンを吹き飛ばしたかった。参戦者全員も、この会場も何もかも吹き飛ばしたかった。ベルトルトは楽になりたかった。
 左手から発する鋭い痛覚などもう慣れたものだった。とにかく、自分だけでも生き延びたい気持ち一心でベルトルトは巨人化を実行した。

「………………………………………はぁはぁ……、なんで…なんで…………だよ」

 だが眼に映ったのは、ミニチュアのように小さな眼下の殺し合い会場でも、焦土と化した周囲でもなく、ただ血液のみをあふれ出す串刺しの掌のみ。
 巨人化が、できなくなっていた。
 鼓動が信じられないくらい激しくなってくる。もう痛みには慣れたはずなのに、顔は苦痛で歪んで効かなくなっていた。

「なんでっ…!!なんでなんだよおおっ!!」

「だから言っただろベルトルト、無駄なんだよ。【制限】掛けられちまってんだから巨人にはなれねぇんだよ、俺らは」

 ベルトルトはエレンの言葉なんか耳を貸さず、血濡れのナイフを抜いてもう一度、掌の別の個所へ突き刺す。
 それでも反応が無けりゃもう一度突き刺す。何度も何度も何度も血眼でナイフを刺し続けた。
 手はどす黒い真っ赤に染まりボロキレのようにグズグズとなっても、現実を否定するようにもはやただの自傷行為をベルトルトは続ける。

「なんでだよっ!なんでだよなんでだよなんでっ!ああああああああああああああああっ!!!!!!!」

「まっ、このくらいの巨人の力は引き出せるようだがよ。有難いもんだな」

 狂ったかのように穴だらけの肉の滅多刺しに集中を続けたベルトルトだったが、視界は突如として現れた発光によって遮らされた。
 目がくらまされる一瞬。
 ベルトルトは恐る恐る光源の先に視線を注ぐ。

「な、ぁ、ぁっ、な、なんだよそれっ………!!!」

 光が発した先はエレンのすぐ足元の地面であった。
 そこから、まるで植物の様に長く長い土の突起物が伸びていく。
 突起の柄の先には直角の石のようなものが付いており、地面から伸びてきたこれを形容するなら戦鎚<ウォー・ハンマー>。
 いわば打撃用武器が出現していた。エレンはそれを握り、軽々と構える。

「ここっこれって…………戦鎚じゃあないか…………、タイバーの…っ!! なんでエ、エレン…!……お前が戦鎚の巨人を持っているんだよおっ!!」


198 : シンジ「なにがBRだよ!」 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/21(土) 23:50:19 4F964MA20
 「戦鎚の巨人」。
 ベルトルトが言った通り、この武器は戦鎚の巨人特有の能力である「地形を操り地面から武器を出現させる力」でできたものである。
 エレンはマーレ襲撃時に、継承者ラーラ・タイバーを捕食したことによって戦鎚の巨人を手に入れたのだが、ベルトルトはそのことを知らない。
 そもそもベルトルトはパラディ島に無垢の巨人が全滅したことも、同期のユミルが死亡したことも、故郷マーレの収容区が壊滅状態であることも、ジークが裏切ったことも知らない。
 ──自分とエレンとでかなりの「時間の差」があることさえも知らない。
 この殺し合いの世界にて、ベルトルトには不可解が大きな足かせとなっていた。
 ただ茫然と立ち尽くすベルトルトに、エレンは戦鎚を大きく振りかざす。

「あばよベルトルト。あっ、そうだ。一応言っとくがさっきの「苦しませて死なす」っての、忘れてくれ。んな怨念染みた凶行する気はさんさらねぇんからよ」

「……待て………待ってくれ…………はなっ、話をしよう………………なあ、本当に………………なんで、なんだよ……………」

 不可解。そう、ベルトルトにとってはこの終始、端的に言えば説明不足という四文字で苦しまされていたのだ。
 もしかしたらエレンに一夜を報いるどころか反撃をできたかもしれないが、理解不能な現状がそれを大きく妨げた。
 そして、自分とエレンとで持つ情報量の差も著しく現れていた。俗にいう【時間軸のブレ】によるものである。

「じゃ、もうお終いにしようか。ベルトルト、お前はここで終わりだ」

「ぁああぁ…………………っ!!!誰か、助けてくれ…………誰か誰かっ……!」

 エレンは、長い長いハンマーを思考停止して嘆くばかりのベルトルトの首輪目掛けてスイングする。
 戦鎚の疾い風を切る音が横から耳に入り込む。

「誰か………誰か……」




「僕はもう死にたくないよおぉおぉおおっ! ライナアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーッ、アニイイイイィイィィィイィイーーーーーーーーーーーーーーー──
 

 ──ボンッ、
 ベルトルトは何も分からないまま二度目の死を迎えた。


199 : シンジ「なにがBRだよ!」 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/21(土) 23:50:40 4F964MA20
     ◆     ◆     ◆


 碇シンジは口を手で抑えて、必死に絶叫を飲み込み続けた。
 網膜に、脳裏にもしっかり焼き付く。
 あの死体、あの惨劇、あの処刑、あの殺人現場。全てシンジの目の前で行われたことだ。
 眼球は激しく揺れ動き、心臓はやかましすぎるくらいのバウンドを全身に駆け巡らせる。
 臨死体験を経たらこんな心理状態になるのか、とシンジはこれまで味わったことのない最大の恐怖にひたすら臆し続けた。

(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない)

 シンジは必死に願い続ける。
 ベルトルト同様、シンジも説明不足が故この殺し合いの現状をさっぱり分からずにいた。
 だからこそ、シンジは何もわからぬまま死にたくはなかった。いや、理解したとしても死なんて求めていなかった。
 シンジはひたすらに救いを求める。頭の中で助けをリフレインし続けた。

(アスカ…綾波…ミサトさん…加持さん…誰か誰か誰か誰か助けて…助けてえっ!!助けて助けて助けて助けて助けて助けて)

 思考のページに綴られるはもはや「誰か助けて」の連発のみ。実質頭カラッポも同然になっていた。
 シンジはそれほどまでにこの現実を拒み、救いを求めていたのだ。
 体は動けずとも、心の中は乱れ躍り狂い波が大きく荒れまくる。
 シンジは、もはや既に限界へと両足を踏み込みそうになっていた。

 ──そんな、シンジのヘルプが通じたのか。
 まさに奇跡といえよう。茂みに隠れる彼に、救いの手が差し伸べられた。


「おい」






「おいクソガキ、面白い物を見せてやる。ついてこい」


「えっ………………!? いだあっ!!!」


 突如シンジは髪を何者かに引っ張られ、乱雑に持ち上げられる。
 そのまま引きずり回すようにどこかへと連れてかれそうになっていた。
 突然の事のため状況が把握できない。シンジはパニック寸前になりながらも、自分を掴む人間の姿をゆったりと視界に入れた。


200 : シンジ「なにがBRだよ!」 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/21(土) 23:51:00 4F964MA20
「参戦者は全員駆逐しきって、殺してやる。一匹残らずこの世から、な? クソガキ」


 エレン・イェーガー。
 無精髭で、身なりの汚い鬼畜。さっきまで殺人スナッフの主犯格が、そこにはいた。


「あ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」


【ベルトルト・フーバー@進撃の巨人 死亡確認】
【残り81人】


【B8/1日目/深夜】
【エレン・イェーガー@進撃の巨人】
[状態]:健康
[装備]:未確認
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:皆殺し
1:ガキ(シンジ)を連れまわす
※参戦時期はマーレ襲撃後です。

【碇シンジ@新世紀エヴァンゲリオン】
[状態]:精神崩壊
[装備]:未確認
[道具]:食料一式(未確認)、ウォークマン
[思考]基本:絶対に死にたくない
1:あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
2:あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
3:あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
※参戦時期はトウジが入院する前(ミサトと参戦時期はほぼ同じ)です。

※周辺にはベルトルトの首なし死体が放置されています。(原形は留めてあるので、キクラゲで生き返らせることが可能です)


201 : ◆UC8j8TfjHw :2023/10/21(土) 23:52:35 4F964MA20
投下終了です
有馬かな、鬼太郎で投下します


202 : ◆C0c4UtF0b6 :2023/10/21(土) 23:53:27 ks.ylgjc0
>>200
投下乙です!
べ、ベルトルトォォォォ!


203 : ◆vV5.jnbCYw :2023/10/22(日) 12:23:34 iZzxONK.0
投下お疲れ様です。
世界観のトレースうっま!!
各キャラの描写だけではなく、エヴァンゲリオンの不条理さや進撃世界のどうしようもなさが凄い伝わってきました。
大人になったエレンを見たベルトルトのリアクションや、身勝手な大人に振り回される原作さながらのシンジなど、個々人のリアクションも面白かったです。
ダイバーさんを思い出すベルトルトなど、原作での時系列や展開上原作では見られないが「そんなリアクションするだろうな」という所が好きです。

是非レベル高い企画主さんの神輿を担いでみたいのですが、参戦作品が知らない作品が多かったり知ってても読んだのがずっと昔の作品だったりで、書き手としては参加出来そうにないのが残念です。
次の作品も楽しみにしてます。


204 : ◆UC8j8TfjHw :2023/10/24(火) 01:06:48 sVN5Kbnw0
>>202
ご感想感謝です!!
マイホームの麻取に続いて明らかに死ぬ為だけに入れられたキャラ始末回2でした
超大型を披露しないまま退場したのはやや消化不良感ありますが…それでもエレン直々に始末されるという末路は割と気に入ってますね

>>203
ご感想大変ありがとうございます!!
読んでいただき心の底から感謝感激です!
エヴァと進撃は特に愛着がある作品なので、原作リブート&リスペクト的な構成で仕上げました
私自身もパロロワを読んでて「そんなリアクションするだろうな」系の回が好きなので(例に出すと1stのガッツを始末するグリフィス)、今後もそういった話を書きてきたいなーと思ってます


205 : ◆UC8j8TfjHw :2023/10/27(金) 12:00:39 NRVSVX360
投下します


206 : ようかい体操 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/27(金) 12:01:37 NRVSVX360
(登場人物) 有馬かな、鬼太郎




『ザザーー…ピーマ…ザザーーーー…………体操……っじまるよー………』


 薄暗い闇と湿り気で包まれるリビング。
いくら家の中とはいえ、真夜中にわたし一人ぽつんと放り出されてる現状は、心の中で不安の種が芽吹いてしまう。
そんな室内にて。食卓テーブルの上に置いてあるラジオから、ノイズ混じりの歌が絶え間なく聴こえていた。

 …というかわたしの曲なんだけども。

明るいはずのそのメロディは、雑音と砂嵐音のせいで、闇夜の不気味さを増強させるいいアクセントと化している。


『………ピーマ…ザザザーーーーーーーー………食べた……ザザーーーーーーら………スーパ………ザザザザーーーーーーーーーーッーーー』


 怖っ…。

今、わたしはソファの裏側で隠れるように体育座りの姿勢を維持している。
ふとカチッ、カチ、と秒針を鳴らす壁時計を見る。…どうやら、かれこれもう2時間近く地蔵のように固まりきってるようだった。
 お尻が痛い。
姿勢を楽にして体を伸ばしたい気分だ。
わたしだってこんな泣きたくなるほど無人な暗い部屋からは今すぐにでも出ていきたい気持ちで一杯だった。
だったら早く立ち上がれよ、何故お前動かないんだ、って?
…聞くまでもないでしょ。
動く勇気が湧かないのよ。「怖い」んだから。


『みんなも…おっどれば…ピータ…ザザザザーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……………ザザザーーーーーーーーーー…………』


207 : ようかい体操 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/27(金) 12:02:18 NRVSVX360
 古くから、みんな「本当に怖いのは幽霊でも怪異でもなく生きている人間」と口を揃えて言っていた。
初めてその言葉を見知ったのは小学生の時の図書室でだったと思う。
当時のわたしは、オバケも何を考えてるか分からない狂人も平等に怖いだろと思ってたし、その考えは成長した今でも変わらないけども、この現状に置いての恐怖の対象は「自分以外の人間全員」とハッキリ言える。
さっきからずっと心臓が高鳴るくらい怯えてるが、それは何も丑三つ時の暗闇が怖いからという訳ではない。
わたしが一番恐れているのは、参戦者…つまり殺人鬼に出くわすことだ。

 ──あのカスサングラスから強制された「殺し合い」命令。
体力なんて並みの並みなわたしが生き残るビジョンなんてあるわけなく、必然的に疑心暗鬼にさせられる。
わたしは絶対に誰にも会いたくない。たとえどんなに善人だろうとも、腹の内なんて読めたものじゃないので一緒に行動なんてしたくない。
願わくばこの一人かくれんぼがゲーム終了まで見つからぬままでいてほしかった。

 それでいて、鬼、…いや、救世主に見つけてもらうことを願う自分もいる二律背反な思いがあった。
どうしようもなく愛を欲していた、と表現すべき、か。


「…アクア………、助けに来なさいよ……………」


 その想いが思わず独り言として漏れる。
無意識のうちに出た、か細い呟きにわたしは慌てて口を抑えた。

 アクア。
 自分の天狗な性格が故に仕事がなくなり、芸能界から干され切っていたわたしに一筋の光を差し伸べてくれた、アイツ。
まるで絶望の淵が如く仄暗いこの部屋にて、わたしは再びあいつに救いを求めてしまった。
 わたしはいつも受動的だ。
このまま黙って身動き取らずにいても危ないだけだなんて分かっているのに、体は自ら動こうだなんて一切しない。
現に、目と鼻の先の、あのやかましいラジオの電源を切りに行くことさえ、躊躇してできやしない。


『ヒ゜ィーーーマン大ずぎ…ザザザザアアーーーーーーーーーーーーーーッ……………めっちゃ………ザザザー……きーー、……ゃくちザザザザーーーー……ずぎぃい…………』


 …わたしはどうしたら……いいのよ。
四隅が暗いどんよりとした部屋の片隅で、わたしは自分のアイデンティティに悩まされる。
例えば、ルビー。一番星の生まれ変わりみたいな彼女ならこんな恐怖打ち勝って行動していただろうに。
嗚呼、恐い、怖い。コワイコワイコワイ。
死にたくなんか…ない……。


『ピ…ピ……………………イーーーマ………ン…、ぴ…………ザッ……………』




『ザッ、ザァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』


 って、電波調子悪すぎだなオイッ!
大雨のようなけたたましい音が部屋全体に響き渡る。
ノイズまじりで発せられていたラジオの曲は今やもう完全にかき消されていた。
…流石にうるさすぎ。


208 : ようかい体操 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/27(金) 12:02:36 NRVSVX360
 ……。
…はぁ……、最悪なケースが思い浮かぶ。
もしも、この砂嵐音を聞きつけた殺人鬼がフラフラと家の中に侵入してきたら、と。
人の気配一つしない静寂の夜なうえに、ダメ押しにラジオの音量は割とボリューミーだ。白羽の矢が立つとはこのことで、まさに命とりと言う他ない。
ならば、わたしはさっさと電源を消しに行かなきゃならないのだけれども、やはり未だ身体が恐怖に屈して、身動き一つ取れないでいる。
このまま、耳障りな雑音をバックに真夜中、疑似拷問のような時を経ていくか。
それとも勇気を振り絞って、すぐそこのテーブルまで立ち上がってみるか。
……行こうかしら。
………今から5秒後に…。


『ザァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』


5,4…………
手に汗がにじみ出る。
本当は動きたくないし、ずっと縮こまっていたい。でも、行かなきゃ……。


『ザァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』


3…2…………………
…はぁ………っ、嫌だ……………。


『ザァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア



───────カチッ。

『プツン────…………………………………………………………。』






 えっ…………………?



 さっきまでのラジオの音が消えて、家の中は静まり返っている。
スイッチを切った音がした途端であった。

 わたしはラジオに手を伸ばすどころか、ソファの裏で固まったままで一歩たりとも動いていない。何せカウントダウンをまだ終えてないのだから。
だとしたら何故音は絶えられた…?
普通に考えてラジオ内の電池が切れた、から……?
いや…そうだったら、あの「スイッチを切った音」は何…………?


209 : ようかい体操 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/27(金) 12:02:52 NRVSVX360
 と、そこまで気づいた時に、わたしは金縛りになってしまった。
さっきまでの葛藤から動けなくなってる状態じゃない。体に誰かがのしかかったように本当に全身が言うことを聞かなくなっている。
光一つない暗い家の中、…みしっ。………みしっ。と、誰かが床を踏みしめながら歩いてきている音がしてきた。
テーブルの方からその誰かは足音を鳴らしている。
背後から聞こえるその音は少しずつ大きくなっていって………、わたしの方へと近付いていた……?!

 一気に恐怖が襲ってくる…。
怖くて早く逃げ出したいのに金縛りは顎がガクガクさせることしか身動きを許さなかった。
体中から変な汗が止まらずに湧く。


  みしっ……………みしっ………………………


 ゆったりとした足取りながらも、奴は着実にソファに近づいてくる。
嫌ぁっ……来ないでよ……っ。
お願いだからソファの裏を確認しないでよ…っ。


  みしっ………みしっ………………………………………ギギ…キィィィッ…


──…………わたしに……気付かないでっ………………!




「いひひっ、こんばんは。おねえちゃん……。隠れてもぼくぁ分かってますよぉ………」


 戦慄が走る。
ソファの裏を覗き込んだそいつと目が合わさった。
その姿は、暗さも相まって全く見えなかったけれども、闇夜の満月のように光るギラギラとした大きな眼だけははっきりと見えさる。

「ぁ…………、ゃぁ……………ひゃぁ……、ぁっ…………………………!」

 そのぎょろついた目玉の網膜には明らかな悪意が憑いている。
声は地獄の底から響くように重たく冷たく、心臓を愛撫でされたみたいに全身をゾっとさせられる。
…………こんなところでわたしは、死ぬっていうの……?
そう思ったとき、がくんと力が抜け、パッと体が自由になった。
わたしは今までの硬直状態を晴らすが如く、右手の掌をそいつの顔に向けて一目散に突き出した。


「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!」

「ごふっ!!!」

 ぶにゃりと弾力ある柔らかい感触が伝わる。
そいつは勢いのまま吹っ飛ばされ転がると、ゴンッと頭を壁に打ち付けたように見えた。
わたしの掌にはそいつの鼻水なのか唾液なのか分からない透明な体液が粘りつく。気持ち悪いッ…。
いや気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いっ……!!何よ、いきなり覗き込んできて…っ!


210 : ようかい体操 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/27(金) 12:03:08 NRVSVX360
「いだっ…痛ぁいぃい! …ど、どうしてぇ! ぼ、ぼくがなにをしたって言うんだよ…!」

 そいつは頭を抱えのたうち回りながらそう言ってきた。
私はビビってすくみながらも、暗闇の中、目を凝らしてそいつの正体を確かめる。


「いぎなり殴りつけて………ぼくは殺しあいなんて乗ってないっていうのにぃいいい!!」
「…………あっ!」


 声の正体、あの気味の悪いぎょろ目野郎は子供だった。
物凄く小柄で、ちょうどわたしが「ピーマン体操の歌」をリリースした時の歳と同じような感じ。
奴の言う通り、到底殺しなんてできないような弱弱しいガキンチョがそこにはいたのだ。
 一気に恐怖心が消え去る。
…何よ。これじゃあ私がガキ相手に弱い物いじめしたみたいじゃない…。
そりゃ疑心暗鬼のこの状況だしわたしの行動は仕方ないと言えるけども、こんなガキンチョに掌底上げるなんて不運とはいえ最低なことをしたわ。
わたしは取り敢えず、死にかけの虫みたいにジタバタするあいつの元へと駆け寄った。

「あ…ごめん…! ちょっと、ねえ大丈夫よね?」

「痛い……痛い痛い痛い゛許せないぃっ! 何もしてないぼくを……殴りやがって…………くそ、ぁああッ……………」

「ちょっと! 大袈裟でしょっ?! 謝ってんだからいい加減顔上げなさいよっ」

「おねえちゃん…許せ゛ない………、たかが…オンナの分際でえっ………、なんでぼくがオンナ如きに…なじられなきゃいけないんだ………っ!」


 …はあっ?
目は合わせども、ガキンチョは世にも恐ろしい──というか不愉快な恨み言をぼやくばかりで話にならなかった。
何よこのガキ。ちょっと同情して損したわっ。
わたしだってビックリしてついやったんだから、それくらい汲み取ってくれてもいいのに、何時まで経っても発すのは恨み節ばかり。

「ぼくは絶対に許さないぞ………っ、人間のオンナ風情が僕に手を上げやがって……………っ、絶対に許さない…目にもの見せてやる……苦しませてやる……」

 …はーうっぜ死ね。何このガキ…気持ち悪すぎるわ。
こんな奴と会ったことなんか無かったことにして、いい機会だしもうこの家から出ちゃおうかな、と思う。
けれどもその考えをわたしは即座に否定した。
 ふ、と私はガキを見下ろす。
何せコイツはさっきから憎しみ全開でわたしをにらんでいるのだ。わたしが背を向けた途端、陰湿な嫌がらせ…最悪殺しなんてしだしても不思議じゃない。
ならば、コイツと和解を済ませておいた方が安全なのである。
ふん、こんなガキ。手玉にとって言い包めるのは非常に簡単だ。


「オンナ如きが…絶対に僕は許すわけにいかない………っ、殺してやるっ、僕は、絶対に殺してや…──



 チュッ

 わたしは、ブツブツうるさいガキンチョの頬に唇をつけた。
痛み止め代わりの和解のキスだ。言うまでもないが好意なんて1ミリも含めてはいない。
この不愉快なガキはボキャブラ0で女如き女如きと発し続けているが、わたしからしたら逆に男なんて適当にチューするだけで落ちる単純な生き物なのである。
これは断言できる。


「ひっひひ〜〜〜〜〜! お、おねえちゃんいきなり何すんですかぁあ〜! ま、許してやってもいいかなあ〜〜〜」


 うわっ、超単純。
ガキは、表情を緩ませ切ってゆらゆらと揺れ動いていた。
光悦といった面構えで、目を細めてニヤニヤしやがっている。
はあ……、こいつやっぱ超うぜェーしメチャクチャキモいですけどっ。


211 : ようかい体操 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/27(金) 12:03:25 NRVSVX360

『ザァアアアアアアアアアアアアアーーーーー【以下後半】ザァアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーー」







「ねえっ、“鬼太郎”くんっ! いつまでディパック漁りしてるのよ?! 早く行くわよっ!」


 とりあえずの和解を終えたわたしたちは、互いの自己紹介と支給品確認を終えたのち、民家を出る準備をしていた。
…否、身支度を終えていたのはわたし──有馬かな、のみだ。
鬼太郎──と名乗ったガキンチョは、女の腐ったのみたいに、いつまでもゴチャゴチャとバッグを出しては入れたりを繰り返していた。
その顔からは焦りの表情が見えている。

「な、なんでなんだ…っ! ぼ、ぼぼ、ぼくの武器がこんなの、だなんて………! 間違いに決まってるだろおっ!!」

「あのねぇ…、鬼太郎くん。どれだけ探そうとも無い物はないわよっ。だからもうさっさと行こうって! 置いてってもいいの?!」


わたしの急かしを無視しつつ、鬼太郎はそらもう汗ダッラダラでまたバッグの中身を確認していた。
っぜ………。何回目だよ。いい加減諦めろっつうの。
…いい加減現実見なさいって。
あんたの膝元に置いてある、その“ハリセン”。
哀愁漂う紙きれが支給武器なんだよ。クソガキ、あんたの。


「ぷっ………! ふふふ…!」

「………なっ、なに笑ってんですかおねえちゃんんっ!! ぼ、ぼくを馬鹿にしてるんですかっ…!?! 自分はいい武器貰ってるからって、いい気にならないでくださいよっ…! ゆ、許せないぃい………!」

「…あっ、あーはいはい。笑ってごめんなさいねーー。でも鬼太郎くんもいい加減諦めつけましょうねーーー? 大丈夫? おっぱい揉む?」

「ううっ…! うぅぅう〜〜〜……。こんなの、あんまりじゃないですかぁあ…………」


 鬼太郎は急にキレ出したかと思うと今はしょぼくれて落胆してて、なんとも忙しい(=ウッザイ)ガキだった。
わたしは、銃をくるくる指で合わしながら、そんな奴の様子を呆れつつ眺めた。
 そう、わたしに支給された武器はデザート・イーグルという名前の拳銃。よく刑事ドラマとかで見かけるようなあれである。
方や殺傷能力0の紙おもちゃ、方や本格的な銃なのだから、殺し合い<ファイナル・ウォーズ>とは圧倒的格差社会の世界だ。
自分がハリセンを配られていたと思うとゾっとするが、今は余裕たっぷりに鬼太郎を見下せる。


212 : ようかい体操 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/27(金) 12:03:48 NRVSVX360
「おねえちゃん……、そのかっこいいピストル、ぼくにくださいよぉ………? これ、あげますからあぁ〜…」

「だから! もういい加減にしなさいよっ! 今はそれで我慢してさっさと行かないと! 今わたしたち割と危ないの分かんないかしらっ?!」


 ムッカつく…っ。ガキのねばねばしたような声も相まって、思わず怒りを荒げてしまうわ。
この鬼太郎にはさっきも説明したが、いま私たちがいる家は、ラジオの爆音だったりわたしの悲鳴だったりで、人を引き付ける可能性が十分にあるのだ。
だからさっさとこの場を離れなくちゃいけないのだけれども、コイツはしょうもないことでグダグダと…。
代わりとして、わたしの「チェリオジュース<メロン味>」をあげたっていうのになんて奴なの。理解力0かよ?


「お父さん、探さなきゃいけないんでしょ? なら早く動かないと。ねえっ? 鬼太郎くん」

「…んぐっ………。そっか、父さん…………」


 父さん。その言葉で鬼太郎ははっとしたような顔を見せる。
さっき、支給品確認をした時にて。参加者名簿を呼んだ鬼太郎は、父親が自分と同じく殺し合いに参戦させられていることを知ったのだ。
たしかその名前は“目玉おやじ”だとか…、信じられない名前であったと思う。
まあ、息子の名前に「鬼」なんて字を入れるような奴だし、名前相応のろくでもない奴なことには間違いない。蛙の子は蛙ね。
そいつを引き合いに移動を持ちかけたら、少しは目を覚ますかなと思ったら案の定だった。
単純すぎる。


「……そ、そですよね……。おねえちゃん………。父さんに会わなきゃいけませんよね…………いひひっ」

「はあ……ったくもうっ。んじゃ行くわよ」

「あ、ところで……おねえちゃん一つ、ぼくから聞いて…いいですかぁ……?」

「あーもう! なによっ?」


 やっと立ち上がったかと思ったらテンポの悪いガキだ。
面倒臭いので、わたしは振り返ることなく耳だけを貸した。


「おねえちゃんも、この殺し合いで知り合い…いるんですかぁ…? いや、いるんです…よね………? ね? ひっひ…」



…。

「…残念ながらその様よ。友だちが……2人……巻き込まれてるけどっ」

「やっぱりぃー? …いーひっひひひひ………! いや、さっき名簿見てた時、おねえちゃん顔が曇ってたから、そぉう思ったんですよぉ………」


 鬼太郎の見透かしたような語り口調にイラつかされるが、その通り。
B-小町の仲間、星野ルビーとMEMの名前が参加者名簿にしっかり印字されていたのだ。あと見知った名前は、黒川あかねくらいか。
それらを初めて目に通した時、わたしはショックと驚きを隠し切れなかった。
…ルビーなんて、天才的な一流アイドルを目指してるだけの。ただの素直な子なのに。
なんで平穏に生きているわたしたちがこんな戦争ごっこを強制されているのか、訳が分からない。
主催者の奴にどんな思惑があるのか知らないけども、とにかく腹立たしい思いで一杯だった。


213 : ようかい体操 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/27(金) 12:04:03 NRVSVX360
「いーひひひひっひっひっひ……っ! 気の毒ですねぇえ……それは早くおともだちと会わなきゃいけませんねぇ……! ひっひひっひっひっひーーーー!」

「……はっら立つ! わたしの友達が不幸な目に遭っててそんなに面白いかしらっっ?!! 笑うなっつうのっ!!」

「ひひひっひーーー……っ! ……まあ……そう怒らないでくださいよぉ……。こんなくだらないことでさ………」


 っ〜〜〜〜〜〜………。
やっぱりコイツがいっちばん癪に障るわっ。
この教養も知性も感じられない下品な笑い声に、何を考えてるか分からない薄気味悪い表情、的確にムカつく行動ばかりチョイスしてくる低能っぷり。
殺し合い…、こういう不良品こそ真っ先にのたれ死ぬべきね。
機会を見て、捨てるとしよっか。こんなガキ。

「じゃあ、行先はわたしが決めるから。着いてきなさいよ、鬼太郎くんっ」

「ひっひ………。おねえちゃんの元なら……どこへでも…………」


 まあ今はいい。
わたしは銃を片手に、玄関へ向かって歩いて行った。
遅れて、鬼太郎も二人分のディパッグ掲げてついて来る。…男の子なんだし荷物持ちは当然だよね。


「ふぅ…………………」


 わたしは右手に持つデザート・イーグルを見つめた。
この世界には二種類の人間がいるという。「陰」か、「陽」か。
陽とは明るく社交的で、何事にも積極的な別世界の生き物だ。まるで、ルビーに、MEMちょみたいな……。
対して陰は、常に周りの視線を気にして、誰にも心開くことなく、縮こまって生活をする暗い者たち。
このクッソガキに、それに黒川あかね…のような。
彼女ほどではないにしろ、わたしも芸能界で干されて以来、何事にも斜に構えて達観ぶるようになった「陰」だ。
あかねとわたしが顔を合わせるたびにバチバチ対立しちゃうのも、陰同志が惹きつけ合った証拠なのかもしれない。

 この殺し合い、まるで陰のようにどこまでも薄暗く、それでいて水の底にいるような絶望のゲームだ。
ならば私は絶対に生きて脱出してやる。
陰のわたしが、今は月明かりを映えさせる玄関に向かって、そして今後は光のようなルビーたちの元へ向かって。どこまでももがきあがいてやる。



わたしはそう決意して、玄関の取っ手に手をかけた。







「あっ、もう一ついいですか………。ロリおねえちゃん」


214 : ようかい体操 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/27(金) 12:04:20 NRVSVX360




…チッ、間が悪い。

「………なによっ」


 さっきと同じくわたしは振り返らずクッソガキに返答をする。

「ぼく………………、やっぱり……………ですよ………」

「…は? 聞こえないわよっ」



──わたしはこの瞬間にて、山の数だけ後悔させられた。
──振り返ればよかった、と。
──鬼太郎を適当にあしらわなきゃよかった、と。鬼太郎に荷物全部持たせなきゃよかった、と。鬼太郎にチェリオなんか渡さなきゃよかった、と。鬼太郎なんかさっさと見捨てて逃げればよかった、と。


「さっきの………やっぱり許せませんよ…………………………」

「…許さない? なんのはな……」



──ソファでじっとせず開始早々家から出てればよかった、と。



「さっきぃはよくも、この僕を殴りやがっでえ゛え゛ぇええええっ────!!!! やっぱりおねえちゃんには制裁が必要だああああっ──!!! 殺してやるっ、オンナああああああああぁあぁぁあ!!!!!!!」


「────────っ!!!!」


 「鬼」のような地響きたる背後の声に振り返させられた、その時。
わたしは頭に強い衝撃と痛みを感じた。
頭を地面に強打したような鈍い痛み。脳が揺れ動き、片頭痛の苦しさが発生し、勢いのまま私は仰向けで倒れた。
痛みと同時に耳に入ったのは、瓶が割れる音。そして、頭部からの出血と共にわたしの顔を濡らしていく人工甘味料の液体。
散らばるは瓶の破片たち。

「チェ─────チェ……リオッ……?!」

 玄関で倒れさせられる。
状況が全く…理解できない。
意識が徐々に薄くなり、視界がボヤけていく中、わたしははっきりと奴の顔を目に捉えた。


215 : ようかい体操 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/27(金) 12:04:37 NRVSVX360
「…お前にふさわしいのは地獄だっ!! ぼ、ぼくが地獄に直々に送って制裁してやりますよっ!! よくも殴ってくれたなこのおっ!!!!」


 壊れた瓶を投げ捨て、裸足で床を駆け蹴る、恨みと怒りで染まったあのガキの顔。
辺りの暗さにはもう目が慣れたはずなのに、ガキは影のように全身を真っ黒に染まって見えた。──まるで、その心の邪悪さを体現するかのような漆黒さ。
それでも、奴が怒りに満ち溢れた顔と判った理由は、そのギラギラとしたぎょろ目が陽炎のように光り輝き、憎悪を示していたからだ。
 奴は、わたしに一気に駆け寄ると、首を両手にかけ締め出す。
奴の小柄な体重が全て首にかかる。わたしの頸動脈は圧迫されて脳への血流を低下させられていく。


「…が、ぎぃ……ぐぐっ……ぁ……!!」


 息が、できない。
少しも肺に空気が行き届かない。
あまりの苦しさ故、身体は打ち上げられた魚のようにビクンビクンと唸り、手足は酸素を求めて乱れ狂う。


「ぅ……ぁ……ぁ…っが………………」


そんなわたしの抵抗はまるで意味をなさず、首だけがただ異様な力で締め上げられていく。


「お前のせいだからなあっ!!! ぼくを殴ってただで済むと思うなあっ!!! ぼくが怒ったらどうなるか思い知らせてやってんだからなああああっ!!!!!」


 奴は凄まじい形相で、わたしの顔に唾を飛ばしながら怒号を発する。
…訳が分からなかった。ここまで支離滅裂で行き当たりばったりな人間がいるなんて信じられない。
さっきまで、和解を済ませて、あんなにいい感じでいたのに。
なのに、そんな思い出したかのような感じで殺人を実行するなんて、奴は本当におかしい。相当にイカれていると思う。


「っぁ………………………………………………゛ぁ……………」

 唾液が口から溢れ出る。涙も止められずただ流れ出ていく。
それだけではない、体中のあらゆる穴という穴から体液が溢れ出てくる。苦しいっ、苦しい苦しい。
意識は朦朧としてきて、白目をひん剥き返さずいられない。
これが、死………………。


「まあ安心してくださいよロリおねえちゃんっ!! 地獄には、僕の知り合いの“金づる”がいますから。腹が減ったらそいつにコッペパンを買ってもらえばいいですよおおっ!! …いーひっひっひっひっひひ!! あーはっはっはっはっはははははっはっはっはあーーーーーーーーーーーーーー!!」


 視界が真っ白になる中、最期に響いたのは気狂い染みた笑い声だった。
わたしの首がぐったり傾いても、なおも恐ろしい高笑いが止まらずにいてる。

鬼太郎。
この……餓鬼は、………文字…通りの…、


────『鬼』だ。


216 : ようかい体操 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/27(金) 12:04:51 NRVSVX360





「…選手宣誓ーーーーーっ!!」


「我々選手一同はーーーー!! …いいえ、このぼく鬼太郎はーーーーーーーーーーーー」


「スポーツマンシップに則り、正々堂々と殺しまくることを誓いますーーーーー!!!」


「代表者、鬼太郎ーーーーーーっ!!! いっひひ………父さんにいい手土産ができた………。」



 幽霊族の末裔。
少年・鬼太郎は、傍らの青白い少女から銃を抜き取ると履き散らかした自分の下駄に足を入れる。
ガラガラガラ…と玄関を後にし、鬼太郎はその場から立ち去った。
気味の悪い独り言を、絶えずしゃべり続けながら。


「待っててください父さん………っ! 僕が愚かで間抜けな人間どもと戦い抜き優勝しますから…基本騙し討ちで………ひっひひ………!」


カラン、コロン……と下駄の音が獲物を探して鳴り響く。



【C6/1日目/深夜】
【鬼太郎@墓場鬼太郎】
[状態]:健康
[装備]:ハリセン、デザート・イーグル@中二恋
[道具]:食料一式(ドクペ、レーションx2)
[思考]基本:優勝
1:父さんは何処かな……ヒヒッ…
2:ムカつく奴は始末、いい奴はとことん利用


【有馬かな@推しの子 死亡】


217 : ようかい体操 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/27(金) 12:05:09 NRVSVX360






 暗い真夜中の部屋に、リビングのテーブル上にあるラジオが静かに置かれていた。
ふと何となく、電源をかけてみる。
自分でも何故この殺し合いというリスキーな状況でそんなことをしたのか分からない。
もしかしたら、『あの時』の『彼女の』あの歌が流れていることを期待したのかもしれなかった。心の底から求めているあの歌が。
だがラジオからはいくらチューナーを合わせども砂嵐しか流れぬため、電源を落とした。いやほんとに電波悪っ。

 この静寂の部屋、今は時計の音だけが聞こえる。
時計は壁に掛かり、その針がゆっくりと進む音が、この静かな真夜中を音楽のように彩っていた。
毎秒ごとに聞こえる「トック、トック」という音が、時の経過を教えてくれる唯一の存在だった。
人などこの場には一人もいないことを表す、その静かさ。
…いや、死人なら。今もなおここに存在しているのだが。


「彼女はたしか……有馬、かな、だね……」

 光量映さぬ瞳を天に向け、身動き一つせず眠っている彼女。
首に付いた、青々とした扼殺痕が彼女の真っ白くなった肌を強調させている。


私は、有馬かなを見殺しにした。

私に与えられた技術と、格闘柔術をもってすればあの殺人は確実に止めれた。
彼女を救うことなんて容易かった。

だけど、だけれども。私は彼女が死にゆく様をただ見届けるしかなかった。
引き起こしてはいけないのだから。
戦闘の介入によって生じてしまう『バタフライ・エフェクト』を。



────蝶の羽ばたき一つが巡り巡って大きな台風になることもある。

────もう一度言っておく。『過去』に着いたときはアクションを最小限に留めるんだ。そして、できる限り殺し合い参戦者との干渉は控えてもらいたい。

────…うむ、難しいだろうがな。我々は既に起きた出来事をリブートするという禁垢を犯さねばなるまいのだ。堪えて、君は目標達成だけを考えてくれ。



 思い出す博士の言葉。
だから仕方ない。私は悪くない。
有馬かながここで死ぬのは運命なのだから、止めてはいけなかったんだ。
…免罪符のように私は自分に言い聞かせた。彼女を間接的に殺したことは事実なのに。


「…………っ!! ごめん、なさい………。ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさい……」

 私はせめてもの許しを請うかの如く、かなの眼をそっと閉じさせた。
これぐらいの干渉ならタイムパラドックス的に何も問題はないだろう。時間を司る神もまた許してくれるはず。
仕上げで、彼女の口から溢れる体液も拭うとしよう。死相だけでもせめて穏やかにさせてあげたい。
ポケットから布切れを取り出した、その折だった。


218 : ようかい体操 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/27(金) 12:05:24 NRVSVX360
「…………………えっ?」

 わたしは気づいた。
先程、「この暗くよどんだ家からは時計の音しか聞こえない」と綴ったが、訂正させてもらう。
一つの呼吸音が。
絶え絶えしく今にも消えそうでありながらも、その確かな呼吸音が聞こえたのだ。

すぐそばの絞殺体、有馬かな。彼女の口から。


「有馬かなはまだ、生きて……………………いる……………」



 仮死状態──というものがある。
呼吸や心拍の一方または両方が停止し、意識もなく、外見上死んだかのように見えるが、自然にまたは適切な処置により蘇生する余地のある状態だ。
窒息による扼殺は、脳への血液が遮断されて引き起こされるもの。
つまりは、完全に締め落とさなければまだ生命反応が吹き返す可能性はあるということだ。

 有馬かな、彼女は『史実通り』ならこの深夜2時58分26秒にて、この古ぼけた民家で死ぬはずだった。もちろん死因は絞殺。
そんな彼女が生きている、とは。
…もしかしたらタイムトラベルで生じた余波が、既に『バタフライ・エフェクト』を引き起こした、という由々しき事態なのかもしれない。



 彼女の口に唇を合わせた私は、息をゆっくりと2秒間かけて2回吹き込んだ。
辛うじて生えている砂漠の中の一輪の花に、水を流し込むように。
彼女の小さな胸が、送り込まれた空気で満たされ膨張を始める。
微弱だった呼吸音は、徐々に正常な物へと変貌していくのが分かった。


「これ以上の干渉は私からはもうできない。……有馬さん、あとは自分で道を切り開いて、ね」

 自分の口に付着した有馬かなの口液をハンカチで拭い取る。
バタフライ・エフェクトは、私の、自分自身のこの手ではっきりと始めてしまった。罪悪感を埋め合わせるための、蘇生活動として。
もう後戻りはできないし、先も消えかけてゆくのが分かる。

 だから、私は今すぐにでも任務を終えなくちゃいけない。
開けっ放しの玄関を通り抜けると、私は今この会場のあの場所にいるであろう、『あの人』に思いを飛ばした。



「わたしが絶対に打破してやるから。このBATTLE ROYALEという運命から今度こそ救い出すから。生きて帰ろうね、お姉ちゃん」



不気味な静けさを演出する住宅街にて。
私は再び『透明』に切り替えて、この会場に潜り込んだ。




【C6/1日目/深夜】
【有馬かな@推しの子】
[状態]:仮死状態、首に青い扼痕、頭部に傷
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]基本:…
1:…


219 : ◆UC8j8TfjHw :2023/10/27(金) 12:06:08 NRVSVX360
投下終了です
牧瀬クリスで予約します


220 : 名無し :2023/10/27(金) 14:10:47 xzc3KdII0
ランディ予約延長します。


221 : ◆C0c4UtF0b6 :2023/10/27(金) 16:11:38 JYh79zh20
投下乙です!
鬼太郎ひぇ…墓場からの参戦だからエゲツねぇ…
そして最後の出てきたのは誰なのか…これは気になる


222 : 名無しさん :2023/10/27(金) 18:06:25 8f98j2hU0
>>220
差し出がましいですが、予約するならルールに記載されているようにトリップを付けた方が良いですよ


223 : ◆UC8j8TfjHw :2023/10/31(火) 04:37:09 kMV3jcYM0
>>220
延長把握しました。
トラブル防止のため、他の方がおっしゃる通り次回からトリップ付での予約を可能な限りお願いします。

>>221
ご感想ありがとうございます。
墓場鬼太郎はロワ映え結構するアニメと思っていて、今後他ロワでも見かけたい作品なので、熱量込めて書いていきたいですね。
特にねずみ男はかなり目にかけています。

それと、報告が遅れて申し訳ありません。
リアルでの急用で時間を取られたので、期限提出が間に合わなくなりました。
その為、私も木曜日までの延長をさせていただきます。
誠勝手ながらではありますが、せめてものと冒頭ワンシーン1レス分だけを今投下しますので、どうかご容赦戴きたいです。


224 : 栗悟飯とカメハメ波 ◆UC8j8TfjHw :2023/10/31(火) 04:37:36 kMV3jcYM0
(登場人物) [[牧瀬紅莉栖]]



 ある日、泣き声がしゃくに障ったので妹を殺した、死体は井戸に捨てた。
 次の日見に行くと死体は消えていた。

 5年後、些細なけんかで友達を殺した、死体は井戸に捨てた。
 次の日見に行くと死体は消えていた。

 10年後、酔った勢いで孕ませてしまった女を殺した、死体は井戸に捨てた。
 次の日見に行くと死体は消えていた。

 15年後、嫌な上司を殺した、死体は井戸に捨てた。
 次の日見に行くと死体は消えていた。

 20年後、介護が必要になった母が邪魔なので殺した、死体は井戸に捨てた。
 次の日見に行くと────…。




 ◇




 最初の印象は狭い、だった。
高く見上げれば円形に切り取られた夜空が無機質な暗さを見せる。
辺りは円柱状の石垣が自分をぐるりと囲む。
そして、腰を降ろす石畳の床は古水で数センチほど満たされていた。そのせいで下半身の衣服は冷たくぐっしょりと濡れている。
水面が満月を反射させ、この狭い空間を光り散らしていた。


「百万歩ゆずって…殺し合いをすることは認めてやるわ………」


 その空間にただ一人鎮座する女──牧瀬紅莉栖は、肩をプルプルと微動させながらそう呟く。
彼女が震えているのはなにも水の温度の低さ故凍えているわけではない。
その表情は眉間にシワを寄せ、沸き立つ怒りを抑えた感情が込められていた。
牧瀬は未来ガジェット研究所においては相対的に常識人、肩書で言うのなら云わばツッコミポジションである。
そのため、今自分が置かれている状況、現在地に対する的確な突っ込みを声を荒げて叫んだ。


「それにしてもなんで私の初期位置が『井戸の底』なのよぉ────────っっ!!!!!!! おかしいでしょうが常識的に考えてええ────────っっ!!!!!!!」


 クリスティーナ。
彼女が飛ばされた先は、深い深い井戸の中。
ランダムにも程がある配置に、最悪な気分を吐露するまでであった。


225 : 栗悟飯とカメハメ波 ◆UC8j8TfjHw :2023/11/02(木) 22:36:29 ab5H3HcI0
投下します。


226 : 栗悟飯とカメハメ波 ◆UC8j8TfjHw :2023/11/02(木) 22:37:24 ab5H3HcI0
**栗悟飯とカメハメ波

(登場人物) [[牧瀬紅莉栖]]


 ◇


 ある日、泣き声がしゃくに障ったので妹を殺した、死体は井戸に捨てた。
 次の日見に行くと死体は消えていた。

 5年後、些細なけんかで友達を殺した、死体は井戸に捨てた。
 次の日見に行くと死体は消えていた。

 10年後、酔った勢いで孕ませてしまった女を殺した、死体は井戸に捨てた。
 次の日見に行くと死体は消えていた。

 15年後、嫌な上司を殺した、死体は井戸に捨てた。
 次の日見に行くと死体は消えていた。

 20年後、介護が必要になった母が邪魔なので殺した、死体は井戸に捨てた。
 次の日見に行くと────…。




 ◇




 最初の印象は狭い、だった。
高く見上げれば円形に切り取られた夜空が無機質な暗さを見せる。
辺りは円柱状の石垣が自分をぐるりと囲む。
そして、腰を降ろす石畳の床は古水で数センチほど満たされていた。そのせいで下半身の衣服は冷たくぐっしょりと濡れている。
水面が満月を反射させ、この狭い空間を光り散らしていた。


「百万歩ゆずって…殺し合いをすることは認めてやるわ………」


 その空間にただ一人鎮座する女──牧瀬紅莉栖は、肩をプルプルと微動させながらそう呟く。
彼女が震えているのはなにも水の温度の低さ故凍えているわけではない。
その表情は眉間にシワを寄せ、沸き立つ怒りを抑えた感情が込められていた。
そんな紅莉栖は未来ガジェット研究所においては相対的に常識人、肩書で言うのなら云わばツッコミポジションである。
そのため、今自分が置かれている状況、現在地に対する的確な突っ込みを声を荒げて叫んだ。


「それにしてもなんで私の初期位置が『井戸の底』なのよぉ────────っっ!!!!!!! おかしいでしょうが常識的に考えてええ────────っっ!!!!!!!」


 クリスティーナ。
彼女が飛ばされた先は、深い深い井戸の中。
ランダムにも程がある配置に、最悪な気分を吐露するまでであった。




-------------------------------------------------------------------------------



 
 真上の遥か高い穴以外、出口の確認できないこの古井戸。
もしも我々がバトル・ロワイヤルに参加させられ、そしてワープされた先がこの場所であった立場ならどう考えるだろうか。
人によっては物凄いラッキーと楽観的に考えるかもしれない。
何故なら隠れ場所としてはこの上ないくらいに優れている場ではあるからだ。
声を殺してじっとしていれば第三者が覗きに来ることなどほぼないに等しい。なにせ、普通井戸の底に生きた人間がいるなどと思うはずないのだから。
 だが、もしも仮に覗き込まれたとしたら。
袋のネズミとはこのことで、この畳一畳ほどの広さもない井戸の底で、ただ無抵抗に殺される他ないだろう。
すなわちこの場は安全地帯でもあり絶体絶命でもある、矛盾の狭間に位置した場所なのだ。

 今まさに井戸に身を置く紅莉栖が、自分の置かれてる状況をどう判断したかというと、


「はぁ…………、どう見ても詰みです。本当にありがとうございました……………」


227 : 栗悟飯とカメハメ波 ◆UC8j8TfjHw :2023/11/02(木) 22:37:42 ab5H3HcI0
後述の『絶体絶命』。
彼女はガックリとうなだれつつも、一刻も早い脱出に向けて頭脳労働を開始するのであった。


 紅莉栖はふと辺りに手を置く。
石を積み上げて練成された、高く反り立つ周囲の壁。
その壁は一寸のよじ登る隙もないほどまっ平…という訳ではなく、ところどころ欠けた箇所を伝って行けばクライミングすることも不可能ではない。
しかし華奢な体の紅莉栖では、それは実現性に乏しい。
優れた知性の頭脳はあれど、体力は人並み以下の彼女にとっては確実たる脱出方法とは言えなかった。

 ならば、他にどう動くべきだろうか。
事態の打開を求めた彼女の目に飛び込んだのは、床に放りっぱなしのデイパックだった。


 紅莉栖はあのカスタマーサービスと名乗る主催者が、参加者全員に支給したのであろうデイパックの中身を広げる。
井戸水を吸い上げ、水滴をしたたらせるバッグであったが、幸いにも中までは浸水していなかった。
その証拠に、手あたり次第まず取り出した白い紙──参加者名簿はふやけた様子がなく、その乾いた表面を維持している。
彼女は一応の名前の確認を、速読で完了する。
──『橋田 至』に、『鳳凰院 凶真』。
…岡部の名が何故中二チックな表記で印字されていたのか不可解だったが、ラボの仲間二人も巻き込まれていることに関して、紅莉栖は特に悶々とする様子はなかった。
彼女は決して岡部らに愛着が無いわけではない。
だが、今は井戸脱出第一の状況であるため、現状不要な心配という感情は即座に封じ込めたのだ。ある種の現実逃避といえる思考だが、最善の判断ではあるだろう。
紅莉栖は同じく不要と判断した参加者名簿の紙きれを水面に沈め捨て、次の物色に向かう。

 バッグから伸ばした手に握られていたのは鳥の姿を模したようにも見える──青いクリスタルだった。
恐らく支給武器の類なのだろう、四つの突起が鋭利に伸びる。
一見にして何の変哲もない石。井戸から這い上がるのに不要な、どうでもいい品。
…だったのだが、紅莉栖はそれに対し、唐突に妙な既視感を覚えた。


「…………これって、確か…」

 彼女は確かめるように、記憶を辿ってみる。

この石を見たのはたしか…、二年ほど前の、ビジネスホテルの一室にて。
いや、見たというより『閲覧した』という表現すべきか。
デスク上のパソコンの画面にこのクリスタルは映っていた。

 紅莉栖にとっての唯一の趣味は@ちゃんねるでのレスバトル。
躍起になるネット民を自慢の頭脳で言い負かし学歴の差を見せつけるのが快感なのだという。
そんな彼女にとってパソコンは@ちゃんを開くための道具でしかなく、必然的にどういうサイトでクリスタルを目にしたかは限られてくる。

そう、あれは確か@ちゃんの、コラ画像スレにて。
コラ職人たちが作っていた、なんだかランス………モロトフ…だかいうアニメのキャラの。



──ボルテッカでブチ壊してやるっ!! 宇宙の騎士をなめるなよっ!! テーック、セッターーー!!




「あっ!」

 紅莉栖は思い出した。


「……間違いないわ。某アニメキャラが変身するために使う水晶体……ね。」


 あの時スレ内の画像にあった二次元のクリスタルが、まんま手中に収められていたのだ。
石の正体を再確認した時、紅莉栖の中で馬鹿馬鹿しい考えがこみ上げてくる。
そう、馬鹿な考えである。
徹底的なリアリストで、タイムマシンの存在や時間の逆流を完全否定する普段の彼女ならしない稚拙な考えが、頭に浮びあがった。


「これで『変身』…、できるんじゃないかしら?」


 アニメキャラ同様自分も変身することができる──そんな小学生じみた発言をしたのは何もとち狂ったわけでも、冗談というわけでも、無根拠でもない。
何せ自分が今いるこの殺し合いの世界は『非常識的』そのものなのだから。
ファイナル・ウォーズという狂った舞台に加え、先ほどのオープニングで見せられた喋るペンギンに等身大のカタツムリ、奇妙すぎる外観の参戦者たち。
まさに常識の範囲外の世界で、紅莉栖の考えもあながち荒唐無稽ではないのである。
変身できる可能性は絶対とは言えないが、脱出の一手をとにかく欲しかった紅莉栖は、馬鹿みたいとは思いながらもすがってみることにした。


「確か、こう掲げて…、こんなポーズになってから………」


228 : 栗悟飯とカメハメ波 ◆UC8j8TfjHw :2023/11/02(木) 22:38:03 ab5H3HcI0
 紅莉栖は、@ちゃんで見た変身のやり方をよく思い出し、できる限り忠実に再現。
足を肩幅くらいに開き、青く輝く水晶を天高く掲げると、


「…テ、テック、セッタァァーーーーーーー!!」


と、大きな声で叫び上げた。

 暗い井戸全体に響き渡る、紅莉栖の声。
発せられた変身の決めセリフはしばらくはただ反響するのみだったが、やがて応えを提示してきた。






「…………………………………」



 応えは沈黙。何も起こらなかった。
いくら夢おとぎなこの世界下とはいえ変身はさすがに出来ない様子だった。
大の大人が、密室で、一人……ポーズを取りながら、絶叫。
赤面で染まった紅莉栖は目をつぶってプルプル震えながら、ただのアクアマリン宝石を床にぶん投げた。


「って、なに馬鹿なことさせてんのよっっーー!」



 水しぶきが飛び散り、水面が虚しく揺れ動く。
光り輝く宝石が水の底へ沈む中、紅莉栖はすぐさま次の支給品の取り出しを急ぐ。
バッグの中にて手が触れたのは、筒状の、金属のような物。
割と軽いそれを取り出し、脱出の糸口になりそうなキーアイテムなのかどうかを確認する。


「……………はぁ、バカらしいわ」


 取り出したのは缶飲料・ドクターペッパー350mLであった。
武器でも井戸を登るのに使うような便利な道具でもない、ただの支給食料の一つであったのだが、彼女にとってこれは不幸であったのか否か。
怒りを見せた顔をしつつも、まんざらではなさそうな表情で、ドクペを口内に流し込んだ。
尻は濡れ衣で冷たい感触に包まれていたが、とりあえずは熱くなった頭を冷やすことにした紅莉栖であった。





 ◇

 ある時の事でございます。何気なく、カンダタが頭を挙げて、血の池の空を眺めますと、
 そのひっそりとした暗の中を、遠い遠い天上から、銀色の蜘蛛の糸が、まるで人目にかかるのを恐れるように、一すじ細く光りながら、するすると自分の上へ垂れて参るのではございませんか。
 カンダタはこれを見ると、思わず手を拍って喜びました。
 この糸にすがりついて、どこまでものぼって行けば、きっと地獄からぬけ出せるのに相違ございません。


 ◇




 紅莉栖は、今最後の支給品であるタッパーを凝視している。
いや、厳密に言えば彼女はタッパーの中身を怪訝な顔で見ていた。
透明で封をされた容器の中には、なにも作り置きの料理が入っているわけではない。


カサカサカサッ…

 容器の中で、悠長ながらも動き回る黒い八本の節足。
腫れ上がるようにパンパンな状態の腹部には赤い柄が染みついていた。
幽閉されるが様にタッパーに入っていたのは、真っ黒いボディで掌ほどのサイズの一匹のクモであった。


「セアカコケグモ…、の突然変異体ってとこかしらねぇ…………」


 クモの容態から、紅莉栖はぼそっと呟く。
参加者名簿も青い宝石もドクペも食料のレーションも取り出し、最後までディパック内を一人鎮座していたのが、この虫かごだった。
不可解かつ、意図の判らぬ支給品。
紅莉栖も当然こいつの使い勝手に頭を悩ませたが、取扱説明はご丁寧にもタッパーの側面に張り付いていた。


229 : 栗悟飯とカメハメ波 ◆UC8j8TfjHw :2023/11/02(木) 22:38:21 ab5H3HcI0
『クリたんへ。コイツに嚙まれたらスパイダーマンに変身できるよ〜〜〜ん。』

『勇気を出してかまれてみよう☆  追伸)武器発注ミスっちゃったからコイツがクリりんの武器代わりです。ごめんち!( ・`ω・´)』



「………………………」

 純白に白けた表情をせざるを得ない牧瀬紅莉栖であった。
冷笑すらできぬ凍り付いたその視線は、説明になっていない説明文と文末の愛おしい絵文字に向かれている。
まあ、阿保な文体は置いておくとして、この説明自体には気になる箇所はあると紅莉栖は思う。
妖々しい見た目のこのクモが武器。
しかも、他参戦者を毒殺するために使役する毒グモというわけでなく、『スパイダーマン』なる未知の者に変身するために使う道具とのことだ。


「変身…………………………」

 さっきまでの自分と妙にシンクロしている支給品だ、と紅莉栖は感想を呆れながら抱いた。
不意に、水に沈んだアクアマリン宝石を見下ろす。
已然、満月の光を反射して輝く宝石であったが、ところどころメッキが剥がれて無機質な灰色のプラスチック面を見せていた。


「って、これ宝石ですらないんかいっー!! オモチャかい!」


 宝石改めプラスチックゴミに最後の突っ込みを飛ばしてしまったが、今はもうどうでもいい。
紅莉栖の中で再び、あの馬鹿馬鹿しい考えが支配しようと蘇ってきたのだ。
そう、本当に馬鹿な考えで普段の彼女なら絶対にしない、小学生の発想のそれである。
その考えをまた再び実行する為、そっと、タッパーの蓋を開ける。クモの真上の天井がどこまでも広く切り開かれた。

 確かにさっきのテックセッター変身は完全なる失敗、予測の大外れで終わった。
ネット掲示板で見知ったアニメと同様の物だから、という浅はかな考えで実行したものはただ馬鹿な真似をしただけという結果を残すだけだった。
だが、それは『変身できる可能性』を否定するものではない。
このバトル・ロワイヤルという世界は前述したとおり、ペンギンが喋りカタツムリが爆ぜり狂う荒唐無稽もいいところのファンタジーな世界なのだ。
自分が何故そんなイカれた世界にいるのか今はまだ分からないが、とにかく変身をすることは十分可能かもしれない。


「スパイダーマン…、何に変身されるかは見当付かないけども…。いいわ。この武器、使わせてもらうわねっ…」


 変身-Royal-。
そんな未知の領域へと踏み込むため、ゆっくりウロウロするクモへと手を伸ばす。
全てはこの井戸から這い上がり地上を目指す、それだけの為に。

 とりあえず、クモの胸部を掴もうとした、その時だった。
クモの眼には、自分に向かって手を伸ばす巨大な赤髪の生命体をどう映ったか。
本能的危機感からか、これまで大人しかったクモは逃げ出すように素早く、紅莉栖の手から腕をよじ登った。


「…ちょ、きゃっ!!」


八本の細い足がタイピングを打つように高速で上り詰めていく。


「ちょっと、あー…もうっ!!」


 紅莉栖は慌てて、何度も抑えようとするも、のらりくらりとかわされ捕らえることができない。
クモの全力ダッシュは、その体長を人間の身長に換算した場合、時速300Km以上だという。並みの長距離列車とほぼ同じくらいの素早さだ。
そんな機動力に紅莉栖は焦れど掴むことはできず、そうこうしている内にクモは彼女の服の中に素早く潜り込んでしまった。
襟からの侵入である。

「あっ………あれ…ちょ、何処に行って…」


 彼女が気づいたときにはもう視界にはクモは映っていなかった。
面を食らいつつも、全身、果ては壁や眼下の水まで色々見回しを始める紅莉栖であったが。


「…んぃやあっっ!! きゃ…ぁ……んっ…!! んぁ…! あっ…ぁ…あっ! んっ…」


230 : 栗悟飯とカメハメ波 ◆UC8j8TfjHw :2023/11/02(木) 22:38:40 ab5H3HcI0
 突然首から胸にかけて撫でまわすような寒気のする感触に襲われ、うずいてしまう。
クモが下地から彼女の白い肌を全速力で駆け巡っているためである。
服の下をもぞもぞと動く奴。紅莉栖はかなりの嫌な顔をしながら、むず痒いそいつを捕まえるためバンバンと胸を叩く。


「あっ…ぁ…あっ! …って! ちょっと止まって…って… ひゃあっ!!」


 無論、手はクモを捕まえれず空振りを続けたのは言うまでもない。
這いずり回る虫の節足と、捕まえることのできないもどかしさから心中イライラであった。
こんな状況にもかかわらず、彼女はふと脳裏に能天気なことが思い浮かぶ。
脳内に描かれたのは自分と岡部倫太郎による妄想、というか仮定。
安っぽい言葉遊びみたいなもんだが、あの岡部が仮に今の自分の醜態を見た時こんなことを言うに違いない。



────ふーはっはっはっはっは! これぞまさしく『雲をつかむような思い』、だな…?



 チクッ
折しもそのタイミングでクモが突然動きを停止。
目の前にあったぷるるんっと豊満な右胸に向かって一噛み、歯を差し込む。


「…って、いっだああっ!!」



 遺伝子改良を施された新種の蜘蛛『スーパースパイダー』。
クモの鋭い刃から、彼女の体内へと『その力の源』となるエネルギーがクモの唾液と共に流れ込んでいく。
エネルギーは体内を瞬時に駆け巡り、胸から全身へと血管中を瞬時に把握していった。
外観は変えずとも、彼女の体内構造は大きく強化、作り変わられていく。形は違えど、筋肉強化剤注射とほぼ同等である。

不本意ながらも、今、彼女は変身する権利を手に入れたのだ。




 
-------------------------------------------------------------------------------





 夜の幕が降りた廃村は、暗闇に包まれていた。
建物の残骸や草叢が、静寂の中に立ち並んでいる。
深い沈黙が辺りを支配し、ただ風のささやきと、遠くで響く虫の音が聞こえるだけだ。

そんな村でポツンと佇む古井戸。
今はもう使われていないだろう、ツルが巻き付く円柱の石塀にて、突如、静寂を切り裂く音が発せられた。
深い井戸の底から、急速に何かが飛び出して、井戸のすぐ近くに着地する音だ。
井戸の暗闇から現れ、不安げな表情で辺りを見回す者。
デイパッグを下げながら、深紅の長い髪を垂らすその井戸の者は、女であった。


「どう見ても貞子ですね、ありがとうございました…」


 井戸娘──牧瀬紅莉栖は、自身と客観的事実を踏まえてぼそっとツッコミを入れた。
にしても、ホラー映画つながりでこのバトル・ロワイヤル…<ファイナルなんだか>もまるでB級映画のようなグロテスクリアルだ、と彼女は思う。
自分は映画のエキストラで、役に引きこもり過ぎたが故に映画の出演者であることを忘れているのでは、と思ってしまうほどだ。

 そして、同じく映画のような荒唐無稽がここに一つ。
紅莉栖は自身の掌を見る。
蜘蛛が放出する真っ白くてどこまでも伸びるその糸が、そこにはネバネバと生成を続けていた。


「これがスパイダーマン…ね」

 
 突然変異の蜘蛛に噛まれ力を手に入れた紅莉栖は糸を天高く伸ばしここまで登り切ったのだ。
変身できるかもしれない、という夢絵空事のような仮定。
その証明を終えた今、彼女は途方に暮れてため息を漏らしてしまう。


231 : 栗悟飯とカメハメ波 ◆UC8j8TfjHw :2023/11/02(木) 22:38:53 ab5H3HcI0
「はぁ……この先どうなることやら………一般的常識は捨てた方が身の為なのかもしれないわね」


 自分が何故この科学とは無縁の世界に迷い込んだのかは今は不可解なまま。
常識を盾に論破を得意とする自分が、『普通』の通じないこの殺し合いで生き抜けるかどうか。それを考えたら不安な面もある。
だが、もはやしょうがないので、とりあえずは紅莉栖は動いてみることにした。

 木々が風でざわめきだす。
廃村の静けさと相まって、幽玄な雰囲気を醸し出している。



「岡部、橋田……なんだろう、殺されるとかするのはやめて…よねっ!」


 そう言うと、蜘蛛娘・紅莉栖は両の手から近くの建物や木に向かって糸を引っ張り付け、それを高速で巻き取ることで起こる、素早い空中移動を開始する。
夜空を闊歩するように駆け抜ける紅莉栖。
彼女が今とった一連のアクションは、侵攻する巨人たちを相手に戦い続ける兵団立の『立体機動装置』のそれと一緒であることはまだ知る由もない。




【B4/1日目/深夜】
【牧瀬紅莉栖@Steins;Gate】
[状態]:健康(『スパイダー・ねらー』)、胸にかみ跡
[装備]:中鉢博士の包丁@シュタゲ
[道具]:食料一式(レーション、ドクペ1/2)
[思考]基本:対主催
1:殺し合いという運命を打破
2:とりあえずHENTAI二名(特に岡部)に会いたい



 


 ちなみに、一方でもう一匹。井戸から這い出てきた生命体がいることを付け加える。
壁をよじ登ってきたスーパースパイダーは、また、獲物を求めて夜の草原を歩き出した。
奴に思いも考えもない。ただ本能のままこのバトル・ロワイヤルの空間を自由に生きるまでである。


 ◇

 With great power comes great responsibility.

 ◇



【蜘蛛@スパイダーマン:スパイダーバース】
[思考]基本:本能のままどこかに移動


232 : ◆UC8j8TfjHw :2023/11/02(木) 22:39:40 ab5H3HcI0
投下終了です
渡久地、ミオリネ、ミカサで投下します


233 : ◆C0c4UtF0b6 :2023/11/03(金) 08:03:36 07MphBxI0
>>231
投下乙です!
まさかスパイダーマンなるとは…
後ランスwww


234 : ◆UC8j8TfjHw :2023/11/03(金) 22:38:36 zH0HNHFg0
>>233
ご感想ありがとうございます。
スパイダー・ねらー爆誕回です。
今後、他の参戦者も噛まれるかもしれませんが、窪くんあたりがスパイダーマン化したら間違いなく皆殺しEND一直線ですね。
テッカマンネタに関してですが、シンアニロワはアニロワシリーズのファン二次創作みたいに動かしたいので今後もこういった小ネタを度々出す予定です。


235 : ◆UC8j8TfjHw :2023/12/15(金) 01:11:56 2R53MmvM0
渡久地、ミオリネ、ミカサで投下します


236 : DRAMATIC BASEBALL『ミオリネが死ぬ雰囲気』 ◆UC8j8TfjHw :2023/12/15(金) 22:10:04 2R53MmvM0
**DRAMATIC BASEBALL『ミオリネが死ぬ雰囲気』

(登場人物) [[渡久地東亜]]、[[ミオリネ・レンブラン]]、[[ミカサ・アッカーマン]]
----


237 : DRAMATIC BASEBALL『ミオリネが死ぬ雰囲気』 ◆UC8j8TfjHw :2023/12/15(金) 22:10:23 2R53MmvM0
 バトル・ロワイヤル。
数多くの参戦者たちに生死を賭けた競い合いを強要し、最後の一人になるまで争わせる悪趣味な殺人遊戯。
まるで古代中国において用いられた呪術『蟲毒』に相似しているが、その蟲毒と決定的に違う点は虫ではなく生身の人間に殺人をさせることだろう。
地面を這うことしか能のない昆虫共と違い、我々人間には人を信用し、時には疑い、極限状態で悩み考えぬく『思考』がある。
すなわちバトル・ロワイヤルとは、本質的にはコンゲームでもあるのだ。


 ここで思い出されるのが、かの「南海ホークス」にて10年連続ベストナインとなったレジェンド選手の言葉だ。
彼は、あるインタビューでこのようなことを述べている。


「『野球』ほど駆け引きを重とするスポーツは無いと思うな。もはや将棋だよ、将棋。フィジカルエリートの為の将棋ね。
 投手は対戦打者のこれまでの境遇や心理状態から確実にアウトの取れる球を投げ、反対に打者は投げられる球種はなにで、どのコースに向かってくるかを頭の中でイメージしなくてはならない。」

「更には、打者も先を読んだうえで、裏の裏をかいて、わざと空振ってタイミング合わないようにすることもあるし、俺らバッテリーはそれが演技なのか否かを見極めなきゃならないんだ。」



「要はな、野球は、運動の皮をかぶった騙し合いの心理戦──コンゲームなわけよ、ね。」
 


 さすがは、野村御大。至言である。
一見にすると単純な攻勢だが本質は騙し合いの心理戦という共通点から、つまり、野球とバトルロワイヤルは似て非なる存在と言えよう。
だなんて、そんなこと書いたら「神聖なベースボールというスポーツと、バトロワなんてキチガイゲームを一緒くたにするな、あほちん」というお怒りの感想が湧く人も出るだろう。
それは重々理解できる。というか、ぐうの音も出ない正論だ。



 ────だが、参戦者の一人であるあの男なら。
ユニフォームを着るあの金髪の男は、間違いなく「バトロワは野球と似たような物」という倫理観が外れた考えを持っていることは付記させて戴く。





 時はオープニングセレモニーを終えたあのデデデ城にて。
参戦者たちが次々ワープさせられ会場から姿を消していく中、埼玉リカオンズのエース・渡久地東亜は話をしていた。
話──、交渉とも言い換えよう。
証明が消え徐々に薄暗くなる宮殿にて、毅然と光るモニター内に交渉相手・カスタマーサービスが映っていた。


「『願い』の前借り、……とおっしゃいますと?」

「ぁ? 簡単な話だよ。『1人殺すにつき5,000万その場で給付しろ』って言ってんだ。俺の願い事は金なんだから前借りって表現は正しいだろ」

「はぁーーー……1人辺り5,000万…ですか」

「おいおい拒否する気じゃねーーだろうな? 大体日本の司法じゃ盗撮罪如きでも1000万罰金するんだぜ。そう考えたらかなり安い賞金額を提示してんだろーが」

「いえいえ! 決して破格な金額で困ってるとかそういうのじゃないんですよ?」


カスタマーサービスは眉をひそめながら、サングラスの縁を指で上げる。


「…ただ、お言葉ですがその前借りは意味があるのでしょうか?」


238 : DRAMATIC BASEBALL『ミオリネが死ぬ雰囲気』 ◆UC8j8TfjHw :2023/12/15(金) 22:10:45 2R53MmvM0
 当然の疑問だ。
5000万円の現物支給、つまり1人殺す度に自分のバッグに現金を転送しろというわけだが。
この命を懸けたゲーム、バトル・ロワイヤルにて金を使う機会、そして必要性はないに等しい。
カスタマーサービスからしたら、拒否する理由もないがやる意味もない渡久地の提案なのだ。
渡久地は薄暗い笑みを浮かべながら、問いかけに返す。


「意味…ククク……。そんなの勿論ないさ。」


 野球には「アウトロー」という言葉がある。
Out Low<外角>。単純な和訳通り、打者から見て膝元、遠くのコースのことを指す。 


「だが、この殺し合いをさせられたのも何かのよしみだ。ならば、楽しまなきゃ損、だろ?」

「…ほう、」




「1人殺す度に金を得る…ゾクゾクするような快感を…僥倖を…! 身に沁みらせる為。それだけさ。クックク」


「…なるほど渡久地様。我々はさしずめ『ONE KILL』契約を結んだ、という訳ですね? ハハハハハ」 


 誰もいなくなった宮殿内にてゼリー状となったグズグズの肉片や血の匂いを傍に、悪魔同士の笑い声が共鳴する。
奴らはこの血の惨劇をどう思っているのだろうか。

渡久地東亜、彼は子供たちが憧れるヒーローのようなプロ野球選手ではない。
彼は、大悪党<アウトロー>だった。





◇ ◇ ◇


「…ァあぁああーーーーーーーーーっ!!!」


 白髪の少女、ミオリネ・レンブランが大股で歩くこの場所は、海沿いの道路だ。
ところどころ錆が付くガードレールを見下ろせば、身震いするほど遥か眼下に海が荒れている。
走り屋がカーチェイスを繰り広げそうなこの峠にて。
ミオリネを支配していた感情は、悲しみでも恐怖でも絶望ですらない。


「クソッ! クソグラサン親父ィッ……! 死ねッ…、死ね死ねッ!!」


 激怒だ。矛先は勿論、主催者・カスタマーサービスに向いている。
彼女は自分が置かれてる現状に不平不満まみれといった表情で、『クソグラサン親父』・『死ね』の2つの言葉をループし続けていた。
八つ当たりのように強く地面を踏み歩く、タイツで包まれた両の足。足元に石ころがあれば、舌打ちを添えて強烈な蹴りが披露される。

「死いねぇーーーーーーッ!!!!!!!」


 宙を飛ぶ小石。
そして、高く上げられる右太もも。──ミオリネが何故ここまで怒りに駆られているのか。
それは彼女の潜在的意識が起するだろう。


239 : DRAMATIC BASEBALL『ミオリネが死ぬ雰囲気』 ◆UC8j8TfjHw :2023/12/15(金) 22:11:01 2R53MmvM0
呼称・クソ親父──父・デリングは自社のトップに君臨する人間だった。
仕事、仕事…とビジネス拡大が最有視の父は、娘であるミオリネを誓約結婚と言う名の雁字搦めにかけていた。
やれ傘下会社の御曹司と結婚をしろ、だのやれわが社がバックの学園に通え、だのと徹底的に縛り付ける姿勢にミオリネは嫌で嫌で仕方がなかったのだ。
ミオリネは自分を縛り付ける父が大嫌いだし、反抗をし続けた。
というわけで、今まさに自分を抑えつける『殺し合い』が心の底から腹立つし、彼女が対主催の意志を持つのも必然なのである。


 首輪型爆弾という理不尽で文字通り縛られてる以上どうしようもないので、とりあえず峠を進むミオリネだったが、数刻歩いた頃合にてある参戦者と遭遇した。
そびえたつ街灯の光がスポットライトのようにその女を照らす。
短めの黒髪で、よれよれな赤いマフラーが特徴的な少女は、イライラ全開のミオリネと対照的に悲しみで沈み切った顔をしていた。
弱弱しく、見るからにネガティブそうな彼女の容姿。
初見時は思わず息を吞んだミオリネであったが、自分と同じく『戦闘に不向きな、駆られる側の参加者』と判断すると、フランクに話しかけた。


「アンタちょっといい? ……あ、怖がらなくていいから。私も殺し合いなんてクソゲーまったく乗ってないし」


 光のすぐ傍へと近寄るミオリネ。
マフラーの少女は、一瞬ビクっと小動物のように驚き、心配そうな面持ちでミオリネの方を向く。


「単刀直入に言うわ。私たち一緒に組まない?…まぁ、断ってもいいけど乗った方が賢明だと思うわ」

「ぁ……………あぅ………………………………」


少女から発せられたのは怯えたか細い声のみだったが、ミオリネはそれを勝手に承諾と捉え、自分ペースに話を進めていく。


「私はミオリネ、あんたは?」

「……………………エ、………………エレン…………」

「そう、『エレン』ね。ちなみにどこの星出身なの? ていうかアスティカシア学園の生徒? ……ってまあこれは別に後回しでもいっか。じゃ、行くわよ」


 ミオリネは軽い自己紹介を端的に終えると、また歩き出した。
少女が暗く人見知りそうな印象だったためか、随分と淡々と軽い扱いをして見せるものだ。
自分より下と判断した人間には冷たく高圧的になるミオリネらしいっちゃらしいが。
ともかく、弱弱しいながら同行者を手に入れた彼女は、歩を進めながら頭脳を回転させることにした。
 作家やクリエイターはアイディアに行き詰まると、よく遠出や、そこら周辺を散歩したりして気分を転換させるという。
その『移動』という無駄で退屈な時間を設けることによって、凝り固まった頭の中が整理され新たな発想が捻出されるのだ。
今、ミオリネがとくに理由もなく峠を下り続けているのも同じような意図で、彼女はゲームの脱出方法、具体的に言えば『首輪の解除方法』について思い悩んでいた。

 首輪の取り外し。ミオリネは考える。
アスティカシア学園屈指の学習成績を誇る彼女とはいえ、この問題の解決は易々と思いつかないようであった。
唯一明確に分かっている外す手段。それは、無論殺し合いに乗って優勝することなのだが、当然ミオリネはそんなこと方法を取るはずがない。
彼女は早々に主催者に徹底反抗をすることを決めているのである。指示など従う訳がなかった。
ミオリネにとってのバトルロワイヤルとはいわば『意地と矜持の闘い』なのである。

 ならば、首輪を外す手段は他にあるのか。
ふと、オープニングセレモニー時の説明を思い出す。
常人なら特に気にすることも勘繰ることもないだろう、あの時のカスタマーサービスから発せられた一節がなんだか妙に引っ掛かった。



──ちなみに、皆様の首にあるその爆弾は、死なない限り取り外せませんからねー。



 ミオリネは考える。
『死なない限り外せない』…言い換えればすなわち、『死亡したら取り外せる程度の脅威』なのだ、と。
ならばその『首輪から見ての死亡の基準』はなんなのか。
呼吸が停止したらなのか、それとも心臓の鼓動が聞こえなくなったらなのか、首輪だけに頸動脈から生死を判断しているのか。
…ほぼ完璧といえるバトルロワイヤルのルールだが、穴、いわば一筋の光のヒントがそこにはあった。
その穴を突いて掘り広げれば脱出の大きな手掛かりになりそうではあるが、そこから先についてミオリネはいくら考えても発想を広げれそうにいなかった。


240 : DRAMATIC BASEBALL『ミオリネが死ぬ雰囲気』 ◆UC8j8TfjHw :2023/12/15(金) 22:11:17 2R53MmvM0
 頭を悩ませ続けながら、足を進めていく。
考えて、考えて、悩んで、悩んで、悩んで、悩んで、悩んで、悩んで、悩んで、悩んで、悩んで、悩んで、悩んで、悩んで、悩んで、悩んで、悩んで、悩んで、悩んで、
────そこで、足を止めた。


 ミオリネは振り返った。
──彼女のその表情は、もはやデフォルトともいえよう怒りの顔つきであった。

視線を飛ばす先は、先ほどの街灯でただぼーっと突っ立っているマフラーの少女。


(あいつっ……、ついてきてねぇーーーーしっ!!)


 ミオリネは腹が立ったら大股になる癖でもあるのか、
イライラをアピールしながら元来た道へとグイグイ引き返していった。


「なんなのっ! そう突っ立って! さっき行くわよ、って言ったでしょうがっ!」

「エ……………ェレ…ン……………」

「はぁあっ? なんて言ったの? 小さくて聞こえなんかしないわよ!」


少女のか細い声を罵声でかき消し、徐々に距離を縮めていく。

 ここで、一旦、短い間ではあるが、ミオリネ・レンブランという人間について振り返っておく。
彼女は前述の通り頭脳面は非常に優秀な才女だ。
短時間でマニュアルを丸暗記したり、経営戦略科の成績はトップだったりと勉学の才能はビジネスグループ会長の娘として恥じぬ程のものと言える。
 ただ一つ、彼女は人を見る目、本質を見抜く力は欠陥している。
それは先天性のものではなく、ミオリネの常に他人を見下した冷笑な性格が災いしての、交友関係のなさ、孤立っぷりが由来していた。



 結果としてその人を見る目のなさが、彼女の命取りとなる。
マフラーをなびかせながら少女は呟く。



「エレン……………お願い…………、」


 ミオリネは気づけなかった。



「………………わ、私に力を………、貸してっ……………………!」



 少女──ミカサ・アッカーマンが凄まじい怪力と異常思想を持つ、『超危険人物』の参戦者であることに。




「チッ! …いい? アンタは黙って私についていけばい…────


 刹那であった。
四十メートルほどの距離を一瞬で詰め寄ったミカサは、呆れと怒りの混じるミオリネの顔目掛けて拳をストレートで突き出した。
──先程までの不安げな顔つきはどこへやら、少女ミカサの顔は無機質かつ目は邪悪で淀む。
コッペパンを指で押したかのようにミオリネの顔が弾力反応を見せていた。


「────いっぎゃぁあぁあああっ」


241 : DRAMATIC BASEBALL『ミオリネが死ぬ雰囲気』 ◆UC8j8TfjHw :2023/12/15(金) 22:11:36 2R53MmvM0
 スローモーション。殴られたその一瞬、ミオリネは時がゆったりとなる感覚に襲われた。
いとも簡単に潰された小さい鼻。
ぐにゃぐにゃに折れ曲がったそれからは暖かな鮮血が蛇口のように留まることなく溢れ出る。
見渡せば、真っ赤な鼻血が玉水のように宙を舞っている。
否、宙に浮くのはそれだけではない。拳の威力で、突き飛ばされた自分自身の体も緩やかに空中浮遊していた。
目の前にいるのは、鬼の形相で腕を伸ばし切るあの少女────。

(な、なんでよ…………こい、こいつっ……?!)

「ぐっばああぁあっ!!!………ぐげっへえぇ……………!!」


 地面に勢いのまま叩きつけられ、仰向けになるミオリネ。背中は鈍い痛みで埋め尽くされる。
ミカサは即座に馬乗りになると、ミオリネの顔への集中乱打を開始した。
握られる拳────…。


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す…………………」


 ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ────────ッッッッ
右手、左手、間髪入れられず突き出される握り拳。
何度も、何度も。何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、それは打ち付けられる。
主に頬に浴びせられる拳のラッシュ。
弱弱しいミカサの外観とは裏腹な石つぶての雨に、ミオリネの表情、そして顔は文字通り徐々に歪んでいった。

 一発拳が突き刺さるごとに、鼻血があたりの道路を紅く乱雑にペイントする。
体力など並みの人間以下のミオリネが許せる唯一の動きは、殴られる度に太ももをビクっと反射運動させるのみだった。


「殺す殺す殺すっ………」

「………ががっ、ぁ……………ん…………………ぁあが………………」


 二十七発目がミオリネの右目に叩きこまれ、眼球が赤黒い黄色で変色した折、この理不尽な暴力の連打は唐突に停止された。
突如訪れた束の間の休み。
このわずかな時間の中で虚ろな目のミオリネは鼻血を流しながら、勘違いをしていたことを激しく後悔する。


(地雷…………踏んじゃった……………いかにも、地雷系って見た目の奴なのに……………………)


 成りで判断して無警戒にコンタクトを取った過去の自分を責めるミオリネ。
彼女が思考を終えた時、再びミカサの攻撃が開始される。
ミカサが真っ赤な左手を伸ばす先は、ミオリネの首。
──厳密に言えば肉と皮で包まれし頸椎の骨に向かって、三本の指をぐっとわしづかみする。

「…ぇぐえっっ………!」

 ミオリネの紅で染まった口内から、呻き声が漏らされたのは言うまでもない。
窒息する苦しみもさることながら、首の骨にかかる指の圧に、むず痒さと痛みが感じる。
いつでも首を折る臨機体制が敷かれた中、ミカサは実質初めてとなるミオリネとの応答を始めた。


「おい、お前に訊きたいことがある」

「…………がはっ、か………………はっ…………」


「お前は『エレン・イェーガー』という男を知っているか?」

「…………………じ、…………し、知ら…………ない……………」

「………そうか」


知らないという答えにミカサは失望…というより悲しみの顔つきを一瞬見せた。
が、すぐさま無表情を取り戻し二つ目の質問をかける。


242 : DRAMATIC BASEBALL『ミオリネが死ぬ雰囲気』 ◆UC8j8TfjHw :2023/12/15(金) 22:11:50 2R53MmvM0
「なら、お前はここで、黒髪で私と同い年ぐらいの青年を見かけなかったか? 私に似ていて、そして私と同じこの茶色の制服を着ているのだが」


ミオリネがこの殺し合いの場で出会ったのは目の前の殺人鬼のみなので、当然答えは『見てない』だ。

 何故、この少女が質問内容の男に固執しているのか。それでいてエレン・イェーガーという人間は何なのか。
──…ミオリネは何となく予想はできてはいたが、顔中の痛みがそれ以上の思考活動を邪魔する上、というか正直どうでもよかった。
今は、この首にかかる圧力から解放されたかったので、ふり絞るようにそのアンサーを口にした。


「…がはっ…………たは……………………み、み………見……て、な………………………」





その時だった。




『くっくく…、言い終えた瞬間用済みで即骨ボキだぜ。ミオリネちゃんよーーー?』




 この場にいた女子二人の誰のものでもない、第三者の野太い声が響いたのは。
そう、その声は、低いトーンで明らかに成人した男による声。
一瞬、呆気にとられたミカサ、そしてミオリネの二人だったが、慌てて声のした方へと首を向ける。


「だ、誰だっ…!」


 ミカサの視線の先、峠のカーブ付近にて、そいつはいた。
未成年の少女二人による地獄のトー横に訪れた、一人の男の客。
ゆっくりながら徐々に近づいて来るその男の『奇妙』な見た目を一言で的確に表す、としたら。
ズタボロの状態のミオリネは口を開く。



「…ね、こ……………………………………?」


 白猫だった。
否、そいつは猫というにはあまりに大きい。つぶらな瞳とヨレヨレな耳が付いた顔も平たくそしてでかく、身長は二メートルほどであった。
そしてその猫は二足歩行でムチムチと歩いていた。バランスが悪いのか、よたよたと全体的にぐらつきながら歩行を続ける。
武器が支給されなかったのか手ぶら状態。真っ白い手にはもちもちとした桃色の肉球が映える。
胸には「たまさくらちゃん」と書かれた名札が風に吹かれている。


男は、とってもキュートな猫の着ぐるみを着て現れて来た。



『おいおい、随分遊んでんじゃねーーか。なあーー?』


 可愛い見た目とは裏腹に、子供の夢を壊すような低い声が響き渡る。
堪らずミカサは怒号を発する。


「……お前っ……ふざ『けるなっ、何者だお前は? と、お前は言う。くっくく…』!!…………………──────はっ!?」


 ミカサは思わず口を手で覆った。
喋っている途中、着ぐるみ猫男が自分が言おうとしたことを被せるようにシンクロしてきたのである。
──「と、お前は言う」と見透かしたようなセリフを添えて。
警戒をするミカサに対し、猫男は嘲笑しながら口を開いた。


243 : DRAMATIC BASEBALL『ミオリネが死ぬ雰囲気』 ◆UC8j8TfjHw :2023/12/15(金) 22:12:09 2R53MmvM0
『何者、か。じゃあ、立浪って呼んでくれていいよ』

「っ……! ふざ……ふざけるなと私は言っているだろ………」

『おいおいーーー? …ったくだっりィーーな。じゃあ、たまさくらちゃんって呼んでくれな? おいーー?』

「いい加減にしろっ!!」


 怒りに駆られたミカサは、着ぐるみの元へと向かう為立ち上がる。
自分に乗りかかる対象が消え、たちまち楽になるミオリネ。
優先順位──、ほぼなぶり殺しにしたミオリネよりも、素性は知れずとも中身は明らかに成人男性の猫ちゃんを先に始末すべきと考えた末である。


『くっくく…良い判断だな。ほら、早く来いよ?』

 そんなミカサの脳内をまたも盗み読んだように、自称・たまさくらちゃんはあざ笑う声を響かせた。


 地雷系────vsマスコット。
ミカサの標的が変わったことにより、峠での死闘から舞台を降ろされたミオリネだったが、如何せん顔中の内出血がにじり痛むため逃げ出すことができなかった。
痛い。痛い遺体イタイ。
細く流れる冷たい血が通るは、ピンク色の肉が覗く抉られし顎の傷口、頬を突き破った開放骨折、既に音を通すことを停止しキーーーーーと耳鳴りしか流さぬ左耳。
ミオリネが動けないのも無理はないだろう。
そのため暫し、このどう傾くか予想もつかない一対一の観客役として座りつくすこととなった。


『ところでよーー、俺からも暴力少女ちゃんに訊きたいことがあんだが。まっ、いいよな?』


 声を発したのは、ミオリネから見て前方のガードレールカーブ部分で立ち尽くす寸胴白にゃんこ。
その低い声で紡がれる軽薄でチンピラのような口調は、自分をグチャグチャに殴りたくった凶悪少女に対しなんの恐怖心もなく舐め切っていることを表していた。
ミカサは「……………」と沈黙で答えつつ、一歩一歩確実に奴ににじり寄る。
どんどん自分から距離を離れていくミカサの後ろ姿。
スルーされた為か、「やれやれ」と呆れた様子を見せたたまさくらちゃんであったが、奴はもう一度声をあげた。


『ったく、やれやれだぜーー…。まあいい。なあ、さっきあんたが口にした『エレン』ってのは仲間なのか? それとも恋人だったりすんのか? あーーーー?』


 予想の範囲外の質問だった。
こいつは何を聞いてるんだ……?とミオリネは思うのみだったが、どうやらミカサも予想外──いや、虚を突かれた質問であったようだ。

「………っ!」

 目の前の幼く黒い背中は『エレン』という言葉が飛び出た時に一度ビクっと、そして『恋人』という言葉で一瞬歩を止めたように見えた。
左目が酷く充血しぼやけるミオリネでもそう見えたのだから、確かなのだろう。
ミカサのそんな反応に滑稽さを覚えたのだろう、たまさくらちゃんは肩を震わせる様子を見せる。

『ほーーーーう、そうかい。くっくくく…、恋人か。青臭ぇーーなあ? おーーーーい』

「…ぐうっ………! 違うっ!!! か、家族だっ」


 荒げられる声。
邪悪と言う名の無表情を固めていたミカサが感情を乱した瞬間であった。
エレンという人間はそれほどまでミカサの核心を突く人間なのだろう。


『ははっ、家族、ねぇ。どっちだろうが俺ァどうでもいんだけどさ…』


244 : DRAMATIC BASEBALL『ミオリネが死ぬ雰囲気』 ◆UC8j8TfjHw :2023/12/15(金) 22:12:26 2R53MmvM0
 相も変わらず非常に軽く、それでいて暗いトーンで応える猫の着ぐるみ男。
奴のそんな素っ気ない言葉を最後に、しばらくこの峠は足音と風音のみの寂寥な雰囲気で落ち着いていった。
不気味で幻想的な雰囲気が漂う夜の峠。風は冷たく、山々が低い低い鳴りを立てながら舞い踊り、夜の神秘的なささやきがへしゃげた耳に触れる。
ミオリネはたまさくらちゃんがそれを訊いて何をしたいのか、まったく見当もつかなかった。
単に時間稼ぎを目的にした質問なのか──、バトルロワイヤルという緊張感を一切感じさせないマスコット野郎の思惑は予見すらも許せない。
それはミカサも同様に思ったようで、静寂を切り裂くようにはっきりと声にして問い質した。


「……お前、何が言いたい……………」


 …──。
気が付けば、ミカサとたまさくらちゃんの距離はほとんど、ほとんど目と鼻の先。
何が言いたい──に対して男がどう答えようが、今にも手にかけ瞬殺できるような距離感でいた。
背中越しでもはっきりと分かるミカサの漆黒な殺気。それを目前にメラメラと浴びせられるたまさくらちゃんは何を思うのだろうか。
臆した、か。さすがに奴も生命の危機に瀕していることを察したのか。


 否。
奴には恐怖心がまるでないようだった。
自称たまさくらちゃんは調子を落とすことなく、軽い口調で答えを飛ばす。
だが奴の回答はミカサに向けたものではない。
答えが飛んだ先は奴にとって遥か遠くで、座りつくす白髪の小娘────、


『おっし決めたぜ。おぉーーーーい! そこのエリンギ頭娘!! ミオリネつったよなあぁーーーー?』


「………………………………な………………………なに……よ………」


 ──ミオリネであった。
唐突に会話の輪に放り込まれ面を食らったものの、ミオリネはなんとか声を絞り出す。
その唐突さに行動を乱されたのはミカサも同様。歩行足の一時停止と振り返りを余儀なくされてしまった。
ミオリネが視線をたまさくらちゃんの、つぶらな目に向かって注いだ時、再びたまさくらちゃんは前方遠くに叫び飛ばした。


『今からぁーーー、そのエレンって奴、探してぶち殺しに行くぞおぉーーーーーーーーーー』


……

「は……………はぁ……っ………?」
「…何を言っているお前……」


 ミカサ、ミオリネが口を開いたのはほぼ同時だった。
ただし二人の言葉に籠る感情はほとんど対極に位置する。
たまさくらちゃんの突飛な発言が故、あっけらかんに口を開くミオリネと、たまさくらちゃんに少々嘲笑を加えた邪鬼の形相で首を向けるミカサと、だ。


『はぁ?、じゃねえぇーーーーーよ。』


 猫マスコットはミオリネの反応のみを拾い言った。


『あのなぁーーーーーーー………、テメェーはいいのか? あーーー? ンな一方的にボコられてよ、腹の虫は収まるのかつってんだよ?』

「ぁ……………は、ぁ………………………お、おさまら」

『気が済まねぇよなあーーー? じゃあ倍にして返すぞ。そのエレンって奴によぉーーーー!』


 ミカサを無視して自分に高く投げかけられたこの提案は、言い換えれば手を組もうと言っていることを意味する。
つまりミオリネ、彼女の返答次第では、この場はミカサ-たまさくらちゃんの1vs1から1vs2へと状況変貌することもあるのだ。


245 : DRAMATIC BASEBALL『ミオリネが死ぬ雰囲気』 ◆UC8j8TfjHw :2023/12/15(金) 22:12:41 2R53MmvM0
「はっ、馬鹿なことを……言う奴だっっ………!」


 口を開いたのはミカサであった。──その声には笑いに似た怒気の震えが込められている。
ミカサが震えたのは前述の、人数差による不利な戦況を危惧した為などではない。
というかそもそもほぼ瀕死のか弱い白髪娘が猫の男と組んだからって、波平に毛が一本のみ生えたが如し戦闘力のプラスにしかならないため、何も気にしてなどいなかったが。
ミカサの繊細な癪に障ったのは、ネコ野郎が発した言葉──『エレンを殺そうぜ』という内容であった。


「……エレンが………エレンが……っ! お前なんかに殺されるはずが…ないっだろうが………!」

「………」

 再生ボタンを押したかのようにミカサはゆらりと標的──猫野郎に向かってまた動き出した。
その怒りを堪えたドス黒いオーラを漂わせ動く背中は、常夏の日の陽炎を思い出す。
ミオリネは単純な恐怖と、そして歯ぐき中から痛覚と血をあふれだすめくれ皮から黙ったままでいたが、猫奴たまさくらちゃんはやや冷静に答えた。


『くっくく、殺れるさ。…根拠もある。…さっきアンタ、言ったよな。』


──お前はエレン・イェーガーという男を知っているか? 私に似ている男なんだが。


 つい先程。
ミカサがミオリネに対し拷問締めながら聞いた言葉をそっくりそのままたまさくらちゃんは復唱した。
月明かりの下、ミカサは目を見開いて動揺した様子だ。
少女はもしかしたら、こう返そうとしたのかもしれない。「それがどうした……?」とでも。
ただ矢継ぎ早にたまさくらちゃんが野太い声を発した為、その言葉は完全に遮られた。


 海風で「たまさくらちゃん」と書かれた名札がなびく。
猫のマスク越しではあったが、ミオリネの黄色く淀んだ眼球はこう見えた気がした。
たまさくらちゃんの中の男の、悪意たっぷりの、笑みを。

宣戦布告と共に──────。




『じゃあつまり、お前に似たバカって意味合いだろー? ハメるのは楽勝じゃねーか! くっくっくくくく…! はははー! なあ、ミオリネーーー! …んじゃ、とりあえずエレンの顔の皮でもはいで』



「死゛ぃぃいいぃぃぃいぃぃいぃいぃねえぇぇえええええええええぇぇぇぇええええっっっっっ!!!!!!!!」


 ────開戦。そして、迅速。
ドスの効いた響き渡る怒声と共に、その場から完全に消えるミカサの姿。
勿論、それは比喩。というよりそう見えただけで、アッカーマン一族が持つ最大限の潜在的力で対象に向かって飛躍したのである。
プリウスの如し突っ込む先は勿論ホワイトニャンコ。
上半身を仰け反らせ手を叩き笑い狂う奴の姿は能天気と言うべきか。全身を巡る湯沸かしのような怒りを沸騰させるいい態度を見せてくる。


「殺゛す殺゛す殺゛す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!!!!!!!!!!!!」


 冷静さを失った狂鬼のミカサがたまさくらちゃんに危害を加えれる射程距離につくまで残り3.34秒。


246 : DRAMATIC BASEBALL『ミオリネが死ぬ雰囲気』 ◆UC8j8TfjHw :2023/12/15(金) 22:13:01 2R53MmvM0
「……お前、何が言いたい……………」────この台詞はさっきたまさくらちゃんの「エレンって誰だ」という問いかけに対するミカサの言葉だ。
 ──もう分かった方も、いるかもしれない。
何故、着ぐるみニャンコはそんな意味のなさそうな質問をしたのか。ミオリネは前述通り、時間稼ぎか何かと考察したが外れ。
奴の目的はミカサを激昂させ冷静な判断を失わせることにあったのだ。
奴は、「エレン」という餌を使い、頭脳優秀でバトロワ優勝候補クラスともいえる戦闘力のミカサを『コントロール』支配したのだ。


 ミカサは、白い猫の悪魔の術中に頭の先まではまり込んでいた、のだ──。



「がぁあっ!!!! ぁ、あっ…、ぎゃあ…!」


 突然の激痛にミカサは思わず声をあげる。
痛む先は、右足親指の爪──、同時に足が自由を失い歩めなくなる。すぐさま、ミカサは滲み出る嫌な汗を他所に、目を見張らす。
真っ黒い自身の靴から斜めに突き生えていたのは、二十センチほどの銀色に鈍く光る棒。
弓矢──だ…!
トランジスタラジオのアンテナのようにそいつが、親指の爪を貫通し地面に串刺さっていたので動こうにも動けない。
凄まじい激痛を覚悟に、矢を引きはがそうと両手を動かしつつ、次に目を移した先は矢の発射源であろう猫野郎の右手であった。
 (おかしい………っ! 奴は何も持っていない筈だっ……、それなのにどこから武器を…)ミカサの疑問、その通りである。
たまさくらちゃんはこれまた前述通りその白い両の手にはなにも武器らしきもの、物一つさえ握っていない。

 ──それは言い換えれば、『着ぐるみの中の素手』には武器を持っている、ということだ。

「き…………ぎい……………っ、か、隠し持って…………いたのかっ………!!!」

 ご名答である。
奴がこんなふざけた着ぐるみを着ていた理由、それは支給武器である『リコのボウガン』をカモフラージュする為なのだ。
拙い、されども狡猾な罠だ。普段のミカサなら、こんなボウガンの事など速攻で見破り、対処をできたに違いないだろう。
だが、術中にはまり射抜かれ身動き取れないのが現実である。

 ──だなんて、書くと「人類最強クラスのアッカーマン族のミカサを噛ませ犬扱いするな、ノーリスペクト」というお怒りの感想が湧く人も出るだろう。
それは重々理解できる。実際反論の余地など「ぐう」とも出すことができない。



 ────だが、参戦者の一人であるあの大悪党なら。
人の些細な行動から心中を読み取り、そしていい様に操り誘導するのを得意とする、金髪の奴が相手なら、手玉に取られるのも仕方ないとご容赦頂けるのではないだろうか。


『おいおい…やっぱりお前は単純だよ。…あっ、最後だし当てっこしてやるぜ? あんたの名前をよぉーーーー?』


 今度はたまさくらちゃんがゆったりと──まるで怒りを抱きつつにじり寄る先ほどのミカサを誇張したかのような歩き方で近づいてきた。
ミカサは咄嗟に右手を矢から離し、奴の頭に向かってはたきを入れる。
その攻撃は無駄な抵抗ともいえるものだが、奇しくもその攻撃で猫のどでかい頭部分が夜空天高くに打ちあがった。
──────たまさくらちゃん中身の尊顔とのご対面である。

 パッと見で目に付く金髪のツンツン頭をかきあげたオールバックの男。
奴のその目つきはナイフで切り裂き抜き取ったかのように鋭く、その顔は他人の不幸が一番の快感と言いたげな悪しき面影で覆われていた。
男は、口を開く。
ミカサの焦燥した顔を凝視し、考える素振りを白々しくしながら、口を動かす。


「そうだな。あんたの名はーーーーーーー……、うーん、『マイルス・モラレス』、だ!」

 その当てっこを言い終えて一拍子。
厳密に言えば、ミカサの表情を少しばかり見た後、すぐ横のガードレールで守られし崖下に向かって──ミカサを突き落とした。
落下の際、ぢぐぎょりっ…──となんとも言えない鈍い音が、鮮血と共に流れる。
地面に射抜かれていた親指が落下していくミカサの胴体と離れ離れに引きちぎれた音だ。


 暫くして、この場に響いた次の音は小石を川に落としたような「ドボン」とそんな軽い物であった。
ミオリネが、そのか細い音を聞き入れた時、かつてのキュートなオニャンコ、現・大悪党はこちらに向かって振り返って来た。

奴は──渡久地東亜は、一言のみ吐く。やや、残念そうに、


『って、ちげーか…』



と。


247 : DRAMATIC BASEBALL『ミオリネが死ぬ雰囲気』 ◆UC8j8TfjHw :2023/12/15(金) 22:13:16 2R53MmvM0
◇ ◇ ◇




 一筋の弱弱しい白い煙が、夜空に向かって一直線に伸びていた。

ミッドナイトを象徴する暗闇中の暗闇な峠にて、冷気が漂う中、渡久地東亜はガードレール越しに佇んでいた。
口に咥えたタバコの火が孤独に燃え輝く。足元にはボウガンと、もう用済みとなった『たまさくらちゃんの着ぐるみ』が転がり落ちていた。
黄昏れた様子でザザァーーザザァー…とどこまでも暗い海を眺める東亜。深い吸い込みとともに口から吐き出す煙が、寒々とした夜空に舞い上がっていく。


「あの……その」

「ぁあ?」

 突然隣から発せられた、か細く弱弱しくも、甲高い声。
その声の様子を表すように、よろめきガードレールを支えにしながらも強がった面構えで、顔中血塗れの娘・ミオリネが立っていた。
顔は酷く腫れ凄惨さは以前保ったままではあったが、ダメージは自然治癒力で比較的回復していた様子だ。
彼女はプルプルと震えながら言う。


「べ、別にアンタがいなくても、私一人で…なんとかできたわ……だからこれで借りを作ってやったとか……勘違いしてんならすっごい腹立つんだから……………」

「くっくく…あーそうかい」


 ミオリネの高い矜持が邪魔して素直に言えなかったが、それは彼女なりの『お礼の言葉』であった。
その点はさすがは東亜。ミオリネの心中のプライドという高い壁を透視したうえで、感謝の真意を笑いながら受け取る。
「くくく…くっくく……」、先ほどの喧騒とは一転、平穏を取り戻した峠で響く静かな笑いは、終戦を象徴する演出のようだった。

 そんな東亜をチラチラと、そして身体はモジモジと見上げるミオリネ。
何も彼女は、お礼一つ言いに来ただけではない。東亜に対し伝えたい気持ち、言うならば『提案に対する答え』を届けに来たのだ。
自尊心の聳え立つ高さ故、それを言い出せずしばらく言いたげな表情で見つめるばかりのミオリネであった。
が、ぎゅっと握り拳を作り、「すう」傷だらけの唇から一息吸うと、勇気を出して東亜に再度話しかけた。


「…あのっ!!!」

「おいおい、まだ喋り足りねぇのかよ? 鬱陶しい嬢ちゃんだぜ……」


「……私に……力を貸してほしい」


「………あ?」


 ヘラヘラと薄ら笑みを浮かべていた東亜の表情に変化が生じた瞬間だった。


「私には…まだぼやけているんだけども…あるのよ。ここを脱出する明確なプランが…っ。できるだけ最小限の犠牲でこの殺し合いを終えさせる方法がっ……!──」

「──あなたと…私なら、絶対…私の脳内にある必勝法が通用するはず、できるはず…。だって、あんな馬鹿力女を仕留めたあなたなのだもの………、できるわ…っ…!──」

「──主催者のクソ親父共に…見せつけてやりましょうよ、私たちの実力を…底力を……だから、お願い…」


 途切れ途切れだが、言葉にして紡がれる彼女の意志。
東亜は何を思うか、タバコを咥えながら黙ってその気持ち表明を耳に入れていた。
彼の目をしっかり見合わせ、ミオリネは口内を震えながら舌を回す。
なんだか泣きそうな気分だった。顔を走り続ける痛みもさることながら、痛い台詞を吐かざるを得ない現状が何より涙の好成分だった。
それでもミオリネは、言葉の締めを伝えるため口を開く。
頭を深々と下げ、彼女はお願いを一つ、申し立てた。


248 : DRAMATIC BASEBALL『ミオリネが死ぬ雰囲気』 ◆UC8j8TfjHw :2023/12/15(金) 22:13:32 2R53MmvM0
「力を貸して、ください……た、たまさくらさん………」



「………………………」

 ミオリネのスカウトが、偶然にも埼玉リカオンズのスター・小島弘道が不良時代の自分をプロに導いた申し入れの言葉と、ほぼ相似だったのはどういう神のいたずらか。
渡久地東亜、彼はどんな気持ちでミオリネの発言を聞いていたのだろうか。
珍しくもただ黙って聞くばかりであった。
この長いようで短い沈黙の間。未だ、頭を下げるミオリネには押し潰されそうな時間であったろう。


「くっく……、とりあえずさー、そのスプラッターな顔拭けよ。年頃の娘が鼻血ブーだぜ?」


 ミオリネの鼻下に、そっと指で撫でられる感覚が来たのは、この発言直後であった。
ヤニの煙たい匂いが漂い、ゴム板のように固く太くも、どこか優しく暖かいそんな人差し指。
鼻から噴出した赤い体液が東亜の指で拭われる。
頭を、やっとのことで上げたミオリネ。一連の東亜の発言、行動は彼にとっての「承諾」代わりの返答と捉えてよいのだろう。

 一体これからどうすればよいのか、主催者に対抗する手段は存在するのだろうか。
今はとにかく荷物をまとめた方が良いのだろう。策を練るというていで何か見晴らしのいい場所で一時休憩するのもいいわ。
──色々な思考がここに来て急によぎるミオリネ。
くっくくくっく…と笑い声が響く中、とりあえずミオリネが映した行動は一つ。


「絶対……、生きてやるんだから……!!」

この殺し合いの場に来させられて初めての──むしろ、ここ数か月ぶりの笑みを、口角をやや上げたのみであったが浮かべるまでであった。









 安堵。
言い換えるのならそれは『最大の油断』である。
もう一度言う。
たまざくらちゃん──改め、渡久地東亜という男は、






大悪党だ。




「──────────────お前を殺す……………………!」




「ぐえぇえっえええっっ………!」


 ミオリネの呻き声が響き渡る。
デジャヴ、再演と言うべきか。
ミオリネの首に伸びる腕──その太く筋肉質な腕の先にはまごうこと無き、渡久地東亜がいた。
悪党は口にする。外道な答えを。


「手を貸せだぁー? おいおい冗談じゃねーぜ、こっちは一人殺す度にポンと札束貰う契約になってんだよなぁ? 誰が脱出なんかすんだよ?」

「ぇぁ……………っ!! ぁ、はぁっ………! …!! ががっ………ぁっぁあ……………!!!!」


249 : DRAMATIC BASEBALL『ミオリネが死ぬ雰囲気』 ◆UC8j8TfjHw :2023/12/15(金) 22:13:48 2R53MmvM0
「…だがな、ミオリネ。あんたのそのプランってのも正直気にはなるのも事実だ──」


「──言ってみろ。その必勝策ってのを。面白かったら協力をしてやるさ──」

「──お前に助かる道はそれしかない。くっくくくく……くっくく…!」



 東亜はいつまでも腕を伸ばし、その白い首を離そうとはしなかった。
峠の遥か高くにて、宙ぶらりに吊るされるミオリネ。縛られるのが嫌いな彼女が物理的に縛り首に遭っているのは、どういう皮肉な物か。

 一秒ごとに消費されていく、脳に供給された分の酸素。
ミオリネが意識を落とすまで推定で187秒ほど。頭脳労働に必要な酸素が完全に耐えるのは時間にして151秒だ。
その間に『彼女の最適解』を見いだせねば──、死神が微笑むのみ。
ナイターは悪夢の延長戦へと続く。

(縛られた…!
繋いだ!繋いだ!
シン・アニメキャラバトルロワイヤルはまだ終わらないぃぃーー!!)




【D5/海沿い/1日目/深夜】
【ミオリネ・レンブラン@機動戦士ガンダム 水星の魔女】
[状態]:顔中アザ/切り傷まみれ(鼻骨折、頬骨開放骨折、視力低下、聴力低下、歯欠陥等…さんざんだが一応顔の整いっぷりは保ってる)、首絞められ中
[装備]:未確認
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:対主催
1:ががっ………ぁっぁあ…………
2:たまさくらちゃん(渡久地)と行動したい、が…
3:そんなくだらないプライドは…捨てる!
4:クソメガネ親父と地雷女(ミカサ)死ね死ね死ね!
※参戦時期は「やめなさい!」より前のどこかです。

【渡久地東亜@ONE OUTS】
[状態]:健康
[装備]:リコのボウガン@メイドインアビス
[道具]:食料一式(未確認)、真庭白鷺の煙草@刀語、たまさくらちゃんの着ぐるみ@まちカドまぞく
[思考]基本:皆殺し or それとも
1:ミオリネを殺す、返答次第では行動を変える
2:仮称マイルス(ミカサ)はバカだ
3:俺はこれを待っていたのさ…。こういう、ゾクゾクとする戦いをね





◇ ◇ ◇




────アッカーマン、王家の武家だった一族。



────リヴァイ、君があれだけの負傷をしてもなお無事でいられるのはやはり血筋なのかな…。




 脳を絞ったような妙な痛み。
子供のころからだ。
この片頭痛にはいまだ慣れない。

 そして、今新たにできた痛み。
親指の欠損…。




「エ、…………エレン…………………。」


 ミカサが、目を覚ました時は深く海の底だった。

アッカーマン一族は、このくらいで死なない。


【海中】
【ミカサ・アッカーマン@進撃の巨人】
[状態]:右足親指損失
[装備]:未確認
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:皆殺し(エレンに奉仕)
1:頭が痛い…
※参戦時期は壁外調査編〜マーレ編以前のどこかです。


250 : ◆UC8j8TfjHw :2023/12/15(金) 22:15:42 2R53MmvM0
投下終了です
ワンナウツのナレーター(=任天堂の㎝のナレーターの窪田等さん)で脳内再生したら楽しめる構成にしました

スパイダーハム、ペニーパーカー、桂言葉で予約します


251 : シン・希望の船?絶望の城? ◆UC8j8TfjHw :2023/12/20(水) 17:24:35 S8gP8i0E0
**シン・希望の船?絶望の城?
(登場人物) [[スパイダーハム]]、[[ペニー・パーカー]]、[[桂言葉]]
----


252 : シン・希望の船?絶望の城? ◆UC8j8TfjHw :2023/12/20(水) 17:24:54 S8gP8i0E0
 んんっ。

…あー、もう一度だけ説明しようか。
ボクはピーター・ポーカー。Poak!
みんなからは『スパイダーハム』と呼ばれている。
放射能のクモに噛まれてそれ以来、誰もが目を奪われる究極で完璧なスパイダーマンになった。…豚だけどね。

あとは知っているね?

マルチバースがどうとかで出てきた時空のゆがみに吸い込まれて、別世界に召喚され、その別世界のNew Genesisスパイダーマン・マイルス坊を育て、敵を倒してそれまた敵を倒して…
そして世界を救った。

 それで話はここからだ。
お役目を終え、元居たカートゥーンのおバカな世界に戻ったボクは大好物のホットドッグを食べていたんだ。
(あ、大丈夫。ソーセージはちゃんとヴィーガンの物用さ! 決して豚肉なんかじゃないよ!! …ウソ)
ケチャップとマスタードの配分はいつも2-8だ。とにかくカラシたっぷりスパイシーにするのがコツで、こうして食べるとこりゃ美味いように辛い。Fire!!!
とにかくそいつで腹ごしらえをしていた時、また現れたんだよ。──奴が…。
 サイケデリックな色合いでゴチャゴチャとした、あの時空のゆがみ。穴がね。
まあ、これも2回目ともなるので、「あーあ…。また厄介ごとに巻き込まれちまったなーめんどくさいなー」と割と落ち着きつつボクはそいつに吸い込まれていった…。

 それで、転送された先が「殺し合いをしてもらいます」ってワケ。
どうだい?前作と打って変わって一気にR18な有害指定世界観を舞台にされちゃったんだよ。もうーっ、ヤッレヤレ…!


 さて、ボクからの説明はここまでにしておこう。
バトンタッチ、以降は『彼女』の口から聞いてくれ、みんな。

…ってもうこれ以上説明することあんのかなー…………?
ちょっと喋りすぎちゃった感あるね、ボク。


「いやもう話すことなんかないしっ! 私もほとんど同じような感じで来させられたのよ! ここに!!」

「……あー、そら失敬」



 よいしょっと。まっいいワ!
ミナサン、コンニチワー!

 私、ペニー・パーカー。
私は3145年のニューヨークから!このBR<Final Wars>に来させられた経緯もこのブタと大体同じ。
それと、これまたブタと同じくあまりこの殺し合いに緊張感なんか感じなかった。
なにせ私たちは一度あのキングピンとの決闘──生死をかけた闘いの経験者だしね。
みせしめとしてカタツムリや少年が死んじゃった時は、メラメラとした怒りこそは沸いたけども恐怖や絶望は微塵もなかった。

 ただーーーーー……。
私の親友でありいわゆる『武器』でもあるロボット“SP//Dr”がこの場にいないのは、かーなり残念。
って!!そんな状態でどうやってバトれっていうのよ!主催者!!
私はクモを動力源にしてるSP//Drで戦うからスパイダーマンなわけで、それがいなかったら本当にただの一般人なんですけどっ!
…一応叱っておく…!

 …とりあえず、その問題は置いておくとして。
私にとってのバトルロワイヤル、初遭遇はこのスパイダーハムだった。
まったく頼りにできなさそうなコメディキャラだけども…、顔なじみに出会えただけ一安心した思いもある。


「ブラブラ歩いてたら急に頭がビビッ〜!って来てさ。振り返ったら、ペニーがいたんだよねー」


253 : シン・希望の船?絶望の城? ◆UC8j8TfjHw :2023/12/20(水) 17:25:10 S8gP8i0E0
 そそ。スパイダーマン同士が近距離にいたらビビビ〜ッってくるアレで、コイツとご対面。
そんなブタさんと、私はしばらくは行動することになるんだけども、さてさてこのバトル・ロワイヤル──…どんな運命になるわけか…。
私も、当然ハムもこの信っじられないゲームにノリノリで乗る気はない。
ならば何をするのか、って?決まってるでしょ!生きて帰る、──そして、願わくば黒幕の打倒。
私たちは救いのヒーロー<Spider Man>に課せられた使命なんだから────…っ。

 ま、とりあえず。私としてはまずこの悪趣味な首輪の解析を始めたいかなー?
私、機械いじり好きだからもしかしたらワンチャン<One chance>外せるかもしれないし。
うーん、どこか工具かなんかないかな。外したい…いじってみたい欲求が抑えきれなくなってくるよ〜〜…。


「って、ちょっとペニー!! それ以上触らないほうがいいって! ボクなんだか嫌な予感がするよ!! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!」


 …は?いきなりなによ!めっちゃうるさ…


BOMB!!!
ーYou Deadー

【ペニー・パーカー@スパイダーバース 死亡確認】
【残り80人】


「うわああーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!! なんてこったペニーが死んじゃった!! ボクの忠告も聞かずに首輪をごちゃごちゃ引っ張るから大爆発ーー! こんなくだらないことで死ぬような子じゃないのに……グスン……君の意志はボクが絶対受け継ぐからねーー! シクシク……君のお墓はボクが絶対作る…………お墓には毎年お花とボクが手作りのミートスパゲティを」


 うるさああーーーいっ!!!生きてるワッ!!
大嘘で紛らわしいことしないでっつーの!!!このトンチキおバカブタが!!


「…なんだよ、軽いドッキリみたいなもんじゃないか」


 …はいはい、OKOK。
茶番劇はここらへんにしといて、本題にそろそろ入るとしますか。

君に届けたい、この話。
今から語るのは私とブタがBR下にて出会った場所である『豪華客船』での出来事。
そんな大した話ではないけど、私たちとあの『絶望のスリーピングビューティー』との馴れ初めは、この船から始まった感じなのよ──。


☆    ☆    ☆


 舞台は閉園後の静かな遊園地。
子供の笑い声一つすら聞こえないこの真っ暗なゴーストタウンを眩く照らしていたのは、海上に浮かぶ“豪華”であった。
全てが”豪華”。これ以上の単語が見当たらない程、豪華でビッグでギンギラギンな客船。
今、私たちが歩き回ってる場所はその船の中ってワケ。
無数のスポットライトがガンガンに煌めくこの場所は、まるで軍隊アリの縄張りを這う巨大イモムシ。──目立ってしょうがない、長居は危険な船ってところね。
それでも、普段なら上級階級のみしか侵入を許されないってくらいの高級クルーズということもあり、このリッチさに身体が酔いしれて言うことが効かないのであったのだ。

「見てよ、主催者のやつバカ確定。操縦室取り外すの忘れてるぜ」

「バカはあんたでしょっ。首輪はめられてるんだから船使って逃げれる訳ないじゃん。(てか大体操縦できんの?)」

「あーそっかそっか! 首輪ばくだーんなんてついてるもんね〜〜! いやー厄介の極みだよ首輪で縛り付けるなんてサ。だいたい、ボクを縛るなら普通タコ糸使ってほしいよ! なにせ焼豚だからっ! HAHAHAHAHAHA〜〜〜!!」

 ………………バカ。
あー、でももしハムが遺体になったら、見つけた誰かさんの胃袋に収まることは確実だろーなぁー……。
私は特に何も発することなく、ジト目で返事をした。ギロッ。


254 : シン・希望の船?絶望の城? ◆UC8j8TfjHw :2023/12/20(水) 17:25:26 S8gP8i0E0
「……チョ、チョット! ノーリアクションで睨むだけとかやめてヨ!! 屈辱すぎるっ!!!」

 とにかく。
今私たちがいる部屋はハムのご紹介に預かった通り、操縦室。
真っ黒な大海原や遊園地を一望できる全面ガラス張りに、無数のボタンや時計(?)、舵が執り付いた操縦ルーム。
豪華客船の甲板エリアに所在する小屋型のこの場所もまた、室内灯で明るく照らされていた。
この部屋には適当にブラブラ船内を徘徊して辿り着いた末なので特に用といった用はない。
というわけで、ん、まぁ〜暇がてらにこの重ったいバッグの荷物確認でもしよっかな。
(ついでにハムのもこっそり確認。ブタの方が支給品恵まれてたら私のと入れ替えちゃえっ。)

 …。
ふむふむ。
えーーーーーっと。まとめるとこんな感じかな。

 まず、武器、食料等を差し置いてその圧倒的存在──heavyさをアピールしていたのがこの『墓石』。
………うん、そう墓石っ。私のバッグがやたら重たかったのはこいつが理由だ。
長方形にきれいに整形されたこの墓石は、ジャパニーズホラーなおどろおどろしさを醸し出していた……。って、邪魔すぎるワっ!この支給品っ!!
ただ、こんな圧倒的お荷物の極みはスルーしておけば、それなりに恵まれた支給物の数々といえる、かも。
防弾チョッキに、缶詰と、コーラ。武器は古風なピストル。BANG!BANG!
 対して、ハムのバッグの中身は、なんというか…とにかくバラエティ豊富。
カメラに、木造りのピコピコハンマーに、マントに、ねずみ取りトラップ、食べかけのニンジン、パーティ用クラッカー、ホウキ、イチジクのタルト、カブトムシ、それに膨らませる前のゴム風船とゴム風船とゴム風船とゴム風船……あっ、このゴム風船なんか穴からソフトクリームみたいな白い液が垂れてて……………。
…一人暮らしの片付けられないの部屋のように、役に立たない物ばかりがわんさか出てきた。
ジト目、二回目。

 バッグの中身を戻し終えた私は、白い一枚の紙に目を通す。
五十音順に印字された名前の羅列──参戦者名簿の確認だ。(被害者リストともいえる。)
んーーーーーー、どれどれ………。

「って、あっ────! ねえハム、この前のピーター・パーカーにマイルスくんの名前が書いてるよ!」

「ふぁわあ〜……? って、オイオイそれって、つまり二人ともFinal WARSにぶち込まれてるってコトじゃん? マルチバースのスパイダーマン大集結ってコトじゃんじゃん??」

「そうねー、…まぁ、こんな形で再会となるのは喜ばしくないんだろうけどもーー………、どうだろう? 元気にしてるのかな? 二人とも」

 ふと、二人の陽気でケラケラ笑ったあの顔が思い浮かんだ。
どうしよう?今からでも二人を探しに、船から出るべきかな…。

「まっ1つ言えることは心配は杞憂だろうネッ。なにせボクらレベルでもこうしてこのバトロワ下を呑気に過ごしてんだから、マイルス坊だって平静だろよ!」

 …これは、ハムにしては珍しく一理あるセリフかな。
ピーターはさておき、自分の大切な叔父さんに不幸があった直後というのに、キングピンとの決戦に駆けつけてくれたマイルスくん。
心身共に短期間で凄い成長した彼だ。放置playでいても恐れるに足らないでしょう。
私的に、彼らに再会したい気持ちは強い。が、ひとまずは船内の探索で余暇を潰しますか。

「あっ、一つジョーク思い付いた。なあペニー、ボクが好きなトランプゲームって何か分かるかい?」

「は? …………………………『ポーカー』…」

「ぷっ……! HAHA! HAHAHAHAHAHAHA〜〜〜!!! だぁい正解!!! 仔豚がポーカー! HAHAHAHAHAHAHA!!!!!! おひょ!! あよよよ!! ぐひひ!!!」

 ジト目三回目。…このブタこんな奴だっけ?
はぁああぁあ〜〜〜〜〜…………。
確かにあの決戦を共にしたスパイダーマンたちの今『現在』は知りたいけども、よりによってなんで真っ先に再会ささったのがハムなんだかっ!
ハムと一緒じゃ私までギャグキャラ扱いになっちゃうでしょっ。そんなの却下よっ!
……あっ。そういや、名簿にあの黒いおじさんの名前だけ書いてなかったなーっ…。なによ?その謎仲間外れは?
第一次世界大戦中のN.Yから来た“スパイダーマン・ノワール”さん──。今踏んでる影がこの人本人じゃないよねー…?違うか。

「ていうかさー、いい加減この部屋から離れね? こんな退屈でジョークのない部屋ボクあくび出ちまうよ、ほわぁあ、あああ〜〜〜〜……」

 ハムがわざとらしい素振りでアクビをしながら話してきた。
──その両手にはカードの束がペラペラペラーーーッとキられている。…自分のバッグの中に入ってたんだろなァーー…。


255 : シン・希望の船?絶望の城? ◆UC8j8TfjHw :2023/12/20(水) 17:25:40 S8gP8i0E0
「Uh…うん、まあそりゃ出るけども。で、次はどの部屋行こうとするワケ??」

私がそう聞くと、ハムはこれまたわざとらしく胸を反らして話し出した。
言葉には出していないが「よくぞ聞いてくれました」と確実に示しているだろうそのジェスチャーである。

「はいはいはいはい〜〜っ!! ボクが次行きたいのはア・ソ・コ!(あ、+18な『アソコ』じゃないヨッ!!) レストランルームさ!」

「…絶対いないよ? シェフ」

「ノンノン、問題ナッシング・ナチス先生!! シェフがなくても食品はあるだろうサ! ちょうど、ボク! お腹減っててネーー、…そうそう、ミートローフにトンカツにミートスパゲッティなんか食べたかったりするんDA!」

「ミートの意味知ってる?────────って、あっ!! ちょっと!!!」

 POW!
ドッヒューーーーーーーーーーーーン!……………。

ハムは言いたい放題言い終えると、弾いた輪ゴムのように部屋の外へと飛び出ていっちゃった。
ダダダダダッ…………。甲板を踏み鳴らす音が徐々に小さくなってくる。

「………………………………………。」

 この操縦室ただ一人ほっぽり出された私はただ立ち尽くすのみ。
たちまち静かになるこの空間。緑の床に散らばるゴム風船とゴム風船とゴム風船とゴム風船etc…。
……う、うーーーーーーーーーーーーーーーっ…………!!
女の子一人残してすっ飛んでいくなっつーーーーの!!!!

「ちょっと待って!! 待ちなさいよーーっ! ヒヅメ馬鹿がー!!! もうーーっ!!!」

 豚がミート食おうとすなっ。
バッグを肩に掲げた私は、あのブタ野郎ほどではないにしろ、大慌ての猛スピードで扉を蹴っ飛ばし出た。
本当すばしっこい上に思い付きで行動するんだからっ!カートゥーンのキャラたちはっ!

 塩辛く、そして吹き付ける生温い海風を浴びながら、私は甲板を──、階段を──、木造りの床を走り続ける。
相も変わらず人の気配一つしないこの船内にて、声色を響かせるのは波と、それから遠くにて響くボォー……と汽笛のみ。
ほぼ黄金色に輝くこのタイタニックには似つかわしくない寂しさだ。

(って、なんで考えもしなかったんだろー……、船のどっかにもう一人『参戦者』がいるかもしれないワケだよね?)

 遭遇したらどうしよう、等と船内を駆けながら私は色々考えた。
ハァ、ハァ……、しんどっ、広すぎっ……。足を中心に疲労が伸し掛かってくる。
今、私の脳内シアターでは、ちょっと数時間前、クルーズ一階で見たあの『艦内図』が投影されていた。
ハムがすっ飛ぶ先である食事ルーム。あれは確か──、

──二階はスタバにIKEAにカジノルーム、そして『レストラン』とシアタールームとショッピングモールねえー…。ペニー、提案なんだがバトロワ終わったらこの船さ、戦利品で盗まなぁい??

 二階のど真ん中なんだよねっ────。息が切れるぅ……っ。
私は床をとにかく駆け続けた。左を見れば絶海、右を振り向けば立ち並ぶドアの数々…。
あのブタッ、見つけたらまずロープで縛りあげてやるんだからぁ〜!

「…って────────────────いたし………」

 やっと………いや、割とあっさり見つけた…。
曲がり角でブレーキをかけた時、あの真っ赤なブタの姿が私の目に入った。
ハムの様子と言ったら何があったのだか、ボーー―っと立ち尽くしていたのだけども。とにかく追いつけて良かったって感じだよ。
私は腰を下ろして、アイツの小さな肩に手を当てた。

「ちょっとーーー! もう、疲れたんだからぁー……! あんまウロチョロしな…────」

「(シーーーーーーーーッ!! 喋るなっ!! ペニー! ヤバい…っ、まずいんだよ〜〜っ…………!)」


256 : シン・希望の船?絶望の城? ◆UC8j8TfjHw :2023/12/20(水) 17:25:54 S8gP8i0E0
 ふがっ!!
口をハムの手で塞がれ、同時に後ろへ引き戻された。ちょ、ちょっとナニッ?!
──いや本当に何…っ?私を抑えるハムのその手は震え続けていて、しかも顔はマスク越しでも分かるくらい青ざめている様子だった。
まるで…、なにか恐ろしい物を見た、かのように……………。
……。
ここで思い出されるのがさっきの私のふとした考え。『船のどっかにもう一人『参戦者』がいるかもしれない』、だ。

「(フガッ…曲がり角の先に、だ、誰かいるって…いうのっ……………?!)」

 沸き立つ好奇心。──これが危険な好奇心となるか否か。
私が強引に力づくで、曲がり角まで近づくと顔を少しばかりのぞかせる。

「(ちょちょちょチョ〜〜〜〜〜〜! だからまずいんだよペニーーー…!!!)」

 ブタは小声(というか、ただ掠れさせただけの大声)で私を制止するがそんなの関係ない。
曲がり角の先をじっと、凝視した。
さっきまで私が走っていた所同様、扉が──恐らく宿泊室が並ぶバルコニーのような長い長い廊下…。
手すり側にて、ふとポツン、緑の小さなベンチが設置されており、この質朴な廊下にて存在感を示していたのだけども、

 そのベンチに、『彼女』が仰向けで現存していた。
ベンチから垂れ下がれる亜麻色の黒いロング髪。まるで、マネキン人形のように微動だにせず目を閉じ続ける、彼女。

「………………………これって」

Final Wars──殺し合い。
先程までのハムの慌てぶりも踏まえて、嫌な予感がよぎってくる。
黒い制服を身に纏う彼女は、グッタリとした様子で両手を垂れ下げていた。

「……………だから言ったろ? ペニー………………………見るなって……………」

思わず息を飲まされる。
と、同時に震えあがる自分の心臓。──気づいたら口を自分の手で抑えていた。
ウソ、ウソ…でしょ………。ゆ、許せない………。

「…………コッソリだよ? コッソリこの場から立ち去ろう…………さ、早くペニー…」

ハムが諭す意図も察せる。
あの、名前も知らない彼女をこうも簡単に殺せてしまう『第三者』が、近くにいることを危惧してるのね…。
それは分かる。
分かるんだけれども…。

「…おかしいよ、……こんなに簡単に、虫を殺す等に人殺しなんてできるっていうのっ…」

 私は普段からスパイダーマンとして、ヴィラン達に襲われるたくさんの市民を救ってきた。
そう、『救った』のよ。誰一人とて、犠牲者は出さずに。
だからこそ、この目の前の惨状がとてつもなく悲しくて……、それでとてつもない怒りが湧いてくるっ。
まるで眠るようにベンチで横たわる彼女。
こうも簡単に人間は死んでしまうのか疑問に思うくらいだ。目立った致命傷は一つもない、彼女の亡骸は本当に寝ている様。
その瞼は二度と開かれないのだろう…。口を半開きにするその表情は”スリーピングビューティー”だ。
何も知らない人にはただグッスリなだけに見えるはず。
それくらい、あの私と同じ年くらいの彼女は、仰向けに天を向いて、スースーーー…と鼻から寝息を漏らし、そして、しばらく眺めてる内に寝返りを打って………

「スースー………誠、くん…………んん……………Zzzzzz」

 いや、本当に寝てるだけじゃんっ!!!
思いっきり生きてんじゃんかっ!!!
なに私勝手に悪い勘違いしてんだーーっ!!恥ずかしい〜っ!

って……………

「何が『まずい』よっーー! 『見るな』よっーー!! 全然死んでないじゃないの、このオバカブターーーッ!!!!」


257 : シン・希望の船?絶望の城? ◆UC8j8TfjHw :2023/12/20(水) 17:26:08 S8gP8i0E0
「ちょ!!! ちょちょ! ペニー、シーーーーーーーーーーッ……………ってーーー!!!!」

「この殺し合いの緊迫した場面ではジョークにならないのよーーー!! あんたのそういうジョークはねっ、時と事情によるでしょーっ!! 時と!!!! 事情に!!!!」

「…へ? ジョーク?? あぁ、この『シーーーーーーーーッ』、って別に海があるからSeaって言ってるわけではないん…」

「よるでしょーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!」


 「ひゃ〜〜〜〜〜〜!」…などと情けない悲鳴が響く。
これはオバカのミミガーに思いっきりツッコミを叫んだが故だ。…ふざけるなっていうの!
ジト目四回目。私の声のボリュームで全身をゾワゾワゾワーーッとさせるブタにはちょっと面白みを感じたが、ただただ、悪趣味な冗談に呆れるばかりだ………。
はぁーーー……。

「ま、ままま、待て待てペニー!!! そんなに声を荒げたらあ、あの女が起きちゃうだろうが〜〜〜〜〜っ!!!」

「………………はぁっ??!」

 …意味不明っ。
ハムは人差し指を口元に思いっきり近づけながらそんな、変なことをほざきはじめた。
ジト目五…

「あーっ………! はいはいなるほどなるほどねーーっ!! ボクが見るな関わるなと指したのは『あの寝てる病み女』のことだったんだヨっ!! なんというか解釈の違いが生じちゃったね〜……っ!」

 なあっー!このブタ!私のジト目カウントを遮るなっーー!
……って、こ、このブタは何を…喋っているの…………?
解釈の違い………、寝てる病み女って……。

「Zzzzzz…うーん、スースーーー………」

あの呑気に寝息たててる彼女が危険だっていうワケ…?!
外見はかなり美形の普通の女生徒。時折口から漏れる「むにゃむにゃ」は小悪魔的な愛おしさを感じる。
そんな女の子が『病み女』?『かかわる』なって…??!

「いーやイヤイヤイヤイヤ! ペニーの言いたいことも分かる。だが、ナリで判断しちゃダメだっ!! そうだ、確かにボクはカートゥーンの主人公を務めるオバカなブタさ! だけども! バカを演じてるだけで本当に頭が悪いワケではないんだぞっ!!」

 ハムの口から発せられるマシンガンの連発は、アイツの心の焦りっぷりを表してるかのようだった。
いつもひょうきんでジョークを飛ばし続ける愉快なスパイダーハムの姿しか見たことが無かったから、その本心からの慌てふためきはかなり新鮮に見える。
──その尋常じゃない様子がアイツの主張になんとなく正当性というスパイスを作っていた。
汗ダッラダラなアイツは最後、一言結論を締める。

「そんなボクが勘ではっきりと判ったんだよ……っ! あの女には触れるな…、あいつはヤバすぎるって、ネ…!!」

と…。
………………。一瞬、確実に、波の音すら聞こえぬ静寂の間ができた。一瞬だけども。
……うーーーーーーーーーーーん……………。

「いや、やっぱ無いわよ! とりあえず起こしに行くからっ、私!」

「な、ナナナナななナ! なんでさーーーー!! ボ、ボクの言うこと一ミリも聞こえなかったというのかいペニーー!」

「まず、第一にバカの勘に信憑性はないってことっ! 第二にブタの主張は通らないってワケっ! 裁判所で豚に主張権利は、あっりっまっせーーん!!」

「Oh!! ひひょえーーーーっ!!!! ど、どどどど、ど、どうしてそんなにわからずやなのサーー!! なあ信じてくれよペニー!! 本当に危険が危ないんだっ!!!」

 〜〜〜〜〜〜っ!あーーーーーーーー、鬱陶しいワっ!
埒が明かない口論……。ハムは本当に必死の形相で、私の右足を抑えて離そうとしなかった。
確かにハムの様子はおかしいし、寝ている彼女が殺人鬼じゃない保証はないんだけれども。
だからって、あんな無防備な女の子を放置しろってヒーローとしておかしいでしょうがーっ!…というかブタの言うことを信じる方がヤバいわよっ!
うぅーーっ……!!! 右足が重い〜〜〜〜っ!
グイグイと続けられる私とハムの睨み合い…(厳密には私が眉毛の垂れ下がる表情のブタに一方的に視線攻撃をしてるだけだけども…………)は終わりを見せない……。


258 : シン・希望の船?絶望の城? ◆UC8j8TfjHw :2023/12/20(水) 17:26:22 S8gP8i0E0
もうっ!このブタほんとうに邪魔っ………!
ピコピコハンマーで気絶☆させようかなってくらいねっ。
本当、誰か引きはがしに手伝ってくれないものかし………………………。


「こんばんわ。お早うございます。お二人とも」


冷や水を、頭上から一滴垂らされたような。
そう、『戦慄』。
唐突に発せられた第三者のその掛け声に、私もハムも黙らされてしまった。


「わたし、桂言葉と言います。あはは、お二人とも仲が良いようですね。まるで、私と誠くんのように…………」


冷たい声が背後から響き、一文字一文字発せられるたびにゾっとさせられる。
その、彼女の吐く『言葉』には特別恐怖をあおるような表現はない。
すなわち、彼女の持つ『恐ろしさ』『機械のような冷徹さ』に、本能的な背筋の凍り付きをさせられるのだ…。

「アハ、アハハハ………。ど、どうも。か、桂……サン……………」

「お、おはよう……っ! そ、そしてこんにちわ、こんばんわ、おやすみーーーっ…………………!」


☆    ☆    ☆


 今度はわたしの番のようですね。
もう一度、説明をしましょうか。
わたしの名前は桂言葉。榊野学園高等学校に通う一年生です。

あとは、もう、分かりますよね。

 あの晩、愛しの誠くんを持ちやすいサイズにカットしたわたしは、西園寺さんを屋上に呼びつけました。
あれはとても寒い冬空です。雪の冷気といったら、分厚いコートと赤いマフラーで全身を包む私でも身震いするほどでした。
どことなく、心の奥底も冷えてく感触でした、ね。

 よく男性の方は「探求心とは男のみにある」とおっしゃられますが、あの時のわたしは探求心、好奇心、知識欲に駆られていました。
えぇ。
知りたかったんです。
前々から西園寺さんは「ワタシハ妊娠シテイルノヨー、誠ノ赤チャンガーー」とまるで鼻にかけたように詭弁垂らしていた方でしたので。
本当にあのややポッコリしたお腹に子供がいるのか確かめたかったのですよ。

 え?
違いますっ。
殺意…なんかじゃありませんっ!西園寺さんはオトモダチ ナノデスカラ、殺したいなんて思いませんよ。
ただ本当に気になって…。女友達がお昼のお弁当に何を持ってきたかみなさんも知りたくなるでしょう?それと同じと思って頂きたいです。

 それで、ノコギリで西園寺さんのお腹とお首を掻っ捌いたらまぁなんだか、途方に暮れちゃって…。
逃げるように、というんでしょうか。
西園寺さんは血を出してなんかしてましたが、私は誠くんが入ったバッグ片手に、デートスポットのヨットへ向かったんです。
そして、バッグから誠くんのかわいい顔を出して抱きしめながら眠りにつきました。
あの時は、シアワセでした。ほんとに、天使が愛撫でしてくれたような感覚です。
この世の終焉のようなモノクロさを感じると同時に、誠くんとわたしで紡ぎ出す…ふふっ、愛のピンクで色づける。そんな気分になったんです………。


「…それで、気が付いたらファイナルウォーズという訳です。お願いします、ハムさん、ペニーさん。わたしと一緒に誠くんと西園寺さんを見つけてください。いいです、よね…?」


259 : シン・希望の船?絶望の城? ◆UC8j8TfjHw :2023/12/20(水) 17:26:41 S8gP8i0E0
「………ハハ……アハハハ………!」

「う、うん……………? ど、どうぞご自由に………?」

 …アハハッ!!
『ご自由に』…ってハムさん!
わたしに協力してくれるんですか…!それはまた、嬉しい限りです…っ!
誠くんとわたしの、再会を、手伝ってくれると。そうおっしゃるんですねっ……!

「(ヒソヒソヒソ……ちょ、ちょっとハム……っ!! こ、このオンナノヒトさっきから目が死んでて怖いんですケドーーーー…!!)」

「(ボ、ボボ、ボクは知らないもんね〜………っ! 身から出た錆っ…!! はいイチ抜けたーーーっと………!」

「(はぁ?! …ちょ、ちょっとやめてよ!! 私一人に負担掛けないでって!!)」


…?

「お二人とも、何を話されてるんですか? 人前でヒソヒソ話って、お言葉ですがだいぶ失礼では…?」


「ヒッ!!! …いえ、なんでも………。す、すみません言葉様…」

「お言葉ですが〜、ね………。コトノハだけに……?HAHA……………、生きててすみません…………」


 アハハハッ。
お二人は本当に可愛らしいです。
どうやら、頼りになりそうなオトモダチができたようです、私。アハハハハ………。
そう思いますよね? 誠、くん……っ?


【D8/豪華客船nice boat/1日目/黎明】
【スパイダーハム@スパイダーマン:スパイダーバース】
[状態]:健康
[装備]:ハンマー@スパイダーバース(スパイダーハム)
[道具]:なんでもかんでもゴチャゴチャ
[思考]基本:対主催
1:これでおしまいっ!
2:ヤバい奴に絡まれた
3:ペニーと同行。マイルス達はNo problem!

【ペニー・パーカー@スパイダーマン:スパイダーバース】
[状態]:健康
[装備]:炎刀・銃@刀語
[道具]:防弾チョッキ、食料一式(ドクペ、ナナチごはん)
[思考]基本:対主催
1:ヤバい奴に絡まれた……!
2:自分の見る目のなさに反省……。
3:ハムと同行。ただし、鬱陶しい
4:言葉様と同行(させられている)

【桂言葉@School Days】
[状態]:精神異常
[装備]:未確認
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:伊藤誠、西園寺世界を探す
1:オトモダチ ガ デキマシタ!ハム、ペニーと同行
2:しあわせ HAPPY!!

※三者共に参戦時期は本篇終了後です
※墓石@墓場鬼太郎は操縦室で放置されています


260 : ◆UC8j8TfjHw :2023/12/20(水) 17:27:09 S8gP8i0E0
投下終了です
スレッタ、チュチュ、ぼっち、リコで予約します


261 : ◆C0c4UtF0b6 :2023/12/21(木) 17:07:24 dkwsgQWs0
感想を投下します
>DRAMATIC BASEBALL『ミオリネが死ぬ雰囲気』
なんだかのただのマーダー…という雰囲気ではない渡久地
ミオミオ締めながら何を考えているんだ…
そしてミカサはマーレ編以前から参戦か、エレン見たときにエレンと認識できなさそうな気が…

>シン・希望の船?絶望の城?
今回のタイトルは2ndのパロディですか…豪華客船組…みんな死んだなぁ…
そしてほぼ戦闘力0に等しいスパイダーマン組と言葉の邂逅
幸いにも言葉に敵意が無いのが安心…いや狂気ぶちまけとるわこいつ


262 : ◆UC8j8TfjHw :2024/01/07(日) 00:02:51 vvwAWPyk0
>>261
ご感想ありがとうございます。
返信が遅れて大変申し訳ございません。

ヘンな話になりますが個人的に首絞めが性癖なので、なんだか渡久地には酷な行動をさせてしまったかもしれません。
ミカサは万が一エレンと会った時どうなるのか気になるものですね。実質エレン別人なわけですから。
あっ、そういえば2の船組も全滅しましたよね…。
バラバラだった船組が結束して即ビシャスに抹殺されるあの儚さがものすごく好きなのですが、今回のスパイダーマンたちはどうなることやら。
予約0の場合、船には某進撃巨人&オナニー少年が襲撃予定ですので活躍に期待したいですね。

最後に告知ですが、割と近日中に放置してた>>260の投下と、ついでに綾波&ナナチ、デデデ&カスタマーサービスを投下するので期待値薄でどうかお待ちください。


263 : 水星エスカー ◆UC8j8TfjHw :2024/01/09(火) 22:52:16 S6AwFqnI0
**水星エスカー
(登場人物) [[スレッタ・マーキュリー]]、[[チュアチュリー・パンランチ]]、[[リコ]]、[[後藤ひとり]]
----


264 : 水星エスカー ◆UC8j8TfjHw :2024/01/09(火) 22:52:32 S6AwFqnI0
「こっここは………?」

 満月の光が、まばゆいほどに広がる。
身を預けるは硬くて冷たい座席、私の周りはコックピットの暗闇に包まれていた。
目の前に映るのは、ガラス越しに広がる緑豊かな森。
今、私がいる場所はモビルスーツの中………。

「…エア、リアル…………………?」

…ではない、よねっ。
馴染みの操縦管にハッチ、そしてあのエアリアルの温かい匂いはここにない──つまり私は何か別のモビルスーツ内部にいるってことか。
操縦ーー…、はできないっか、そりゃ。整備済みでもない上、電源も入ってないようだし。
…ぶるっ、うぅう〜〜…。
それにしても、寒いなぁ。ここ…。芯の底から冷え渡っているような室温の低さだ。
手に暖かい息を吐いてはぁ、はぁ。冷蔵庫みたいな冷え具合だから、座るお尻も痛いくらいに冷たくなるよ…。
 ……冷たい、か。
私は思い出したかのように、首に手を当てた。首に巻き付いた冷淡な感触のその金属、に。

「『逃げたら一つ、進めば二つ』、だよねっ…! おかあさん」

 ファイナル・ウォーズ。
戦争<Wars>なんて大義名分を掲げているけど、やらされていることは悪趣味の極みな娯楽だ。
私は当然殺し合いなんて乗る気はないし、かといってただボーっと事態が解決するまでその日暮らしをするつもりはない。
選ぶ選択肢は、逃げ出すよりも進むことのみ。
まずは一人でも多くこの悪ゲームに巻き込まれた参戦者と出会い、助け、場合によっては改心も、させて。
この残酷な未来をグッドエンドで終わらせるんだっ。
──それにミオリネさんと、けんか別れしたまま死んじゃうなんて絶対に、したくないっ。

「……それにしてもここからどう出ればいいんだろ?」

 あっ、もしかしてあの奥の扉から?
ほいっと、どれ、それ。


☆  ☆  ☆


265 : 水星エスカー ◆UC8j8TfjHw :2024/01/09(火) 22:52:48 S6AwFqnI0
 初めてそれを見た時の印象は、モビルスーツというより巨人だった。

「…うわぁあ〜〜〜〜……、おっきいー………!」
 
 ついさっきまで自分が入っていたその巨人を見て、思わず驚嘆の声を上げちゃった。
膝を折り曲げ姿勢正しく正座する目の前の高い高い巨人は、周囲の大樹を頭一つ分越している。──立ち上がったらどれほどの大きさになるのか?身震いするほどだ。
全体は限りなく紫に近いパープルカラーで、全身を包む鋼鉄の装甲が月光で輝く。ところどころツル草が巻き付いているのが年季を表している。
一番目についたのはその顔。
普段見るモビルスーツと違い、ロボロボしさのない顔つき。
なんというか、ぱっと見の感想は怪獣のような。生き物のそれに近い凛々しさを感じる迫力だった。

「もっもしかしてGUND-ARMなの…かな?」

 生きている巨大兵器繋がりで、私の家族のエアリアルを連想してしまう。
…うーん、それにしても、こんな森の中で何で場違いな巨大メカニックが……?オブジェクトなの、かなぁ……。
さしずめ、この彼(彼女?)は殺し合いの島の守り神、といっていい存在なのかも。
「あっ、あのっ…お世話になり、ました! …いっ行ってきます!」──巨人に一礼して私はこの場を去ることにした。

 土の匂いが強い草木を踏み歩いていく。
時折、羽虫や節足動物が頬や髪に止まって煩わしいけども、音らしい音といったらほんとにそれくらい。とにかく静かで暗い森だ。
…正直、えげつないくらいに怖いっ、です。霊的な意味で。
コワイコワイ……。
子どもの頃、おかあさんから聞かせてもらった怖い話を思い出しちゃう。
かつて地球にあった、ニホンという国のアオキガハラ樹海を舞台にしたあの恐ろしいおはなし。当時、あまりの怖さに眠れなくなって、成長した今でも深くトラウマで刻まれてしまったあのホラーエピソードだ。
 そのあらすじというのが、ある日、一人の若者がきも試しで夜の樹海を散歩していたという。──……ちょうど、今いるこの森のような。
しばらくして樹に何か打ち付けられているのを見つけた。
なんだろう、釘…?、と。藁でできたお人形が釘付けにされていたらしい。
この釘で射止める行為はニホンの習わしで『呪術』らしく、恨み怨恨を晴らしたい病んだ人がやるそうだ。
しばらく、その人形にゾっと、恐怖で射止められた若者だったが、しばらくして森の奥から声が聞こえる。
その声はどんどん、どんどんどんどん近づいてきて、自分の方へ全速力で来ていることを自覚すると若者は大急ぎで逃げ出した。
その声の主は白装束のやせこけた女性で、長いバリバリの髪を振り回しながら満面の笑みで、

──うぁぁあわぁああぁああああぁぁあああああああああああああああああああっ。

「ひいいぃぃいいぃぃ………!! おっ、おお、思い出さなきゃよかったぁあぁあっっ! こ、怖いよぉお〜!!」

 しゃがみ込まずにいられない…。怖い、怖いよ〜。夜の森……。
多分、今私は幽霊か?ってくらい顔が青ざめてるだろうと思う。うぅう…。
な、なんでこういう怖くて嫌な時に限ってそういう求めてない恐怖しか頭に思い浮かばないんだろう……。
ん、あっ!そうだそうだ!
ならばこういう時こそ楽しいことだけを考えて恐ろしさを紛らわせばいいんだ…!
よ、よーし。どれどれ。楽しいこと、楽しいこと、と。た、楽しい歌をうたおうっと!

「が、…が〜んだむ〜♪ が〜〜んだむぅ〜〜〜〜♪ み、みらぁいを〜〜〜つっくる↑〜〜〜〜♪♪」

 …あははは!
やっぱ歌は楽しいなっ……!そうだ何も怖くなんかないんだ。
お、オバケなんてなぁいさ♪オバケなんて嘘さ♪
寝ぼけた人がみまちが〜えたのさ〜♪
るるるんるんるん、た、楽し…


ブロロロロロローーーーーーーーーーーーーッ。


────>>『しばらくして森の奥から声が聞こえる。』
────>>『その声はどんどん、どんどんどんどん近づいてきて、自分の方へ全速力で来ていることを自覚すると』

自分の前方から、丸い拡散光と共に、エンジンのような音が聞こえてきた。
徐々に視界を埋め尽くしていく光。どんどん、凄い勢いで近づいて来る。

「ひっ…!! ひいいぃいいっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!! 出たあああぁあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」


266 : 水星エスカー ◆UC8j8TfjHw :2024/01/09(火) 22:53:03 S6AwFqnI0
 な、何このシンクロ??!──…シンクロといっても私は『若者』と違って、足がすくんで逃げることができないっ〜!!
恐怖の森にて白装束の幽霊。いや、参戦者と私は出くわしてしまった…。
鉢合わせになり、なにかしらコミュニティを取ることになるのは時間の問題だろうなぁ。


ブロロロロロローーーーーーーーーーーーーッ、ブゥーーーーーーーーーーーーーーンッ。


ど、どうする?私。
目の前の迫りくるバイク乗りにな、なんて返せばいいっ、のかな…?
会話、会話会話会話〜〜〜…。えーと……えーと…!


ブロロロロロローーーーーーーーーーーーーッ。ーーー「にもなかーった、これからも同じようにーーー」ーーーーーっ。


 とりあえず、私は人畜無害ですよアピールでもしておこうかな。いや、話を聞いてもらえず轢かれたらどどっど、どうし…
ん………?
今、エンジン音に紛れてバイクの人の声が聞こえた気がするけど……?
歌声。そう、間違いない。女の子の鼻歌まじりな歌が聴こえていた。
なんだろう……?この声、なんだか身近な人の気がする……。
 ──そう思った時、私はバイクの主の姿を見て、思わず歓喜の声をあげた。
バイクのライトが強すぎたせいで顔まではハッキリわからなかったけども、あの人。絶対に間違いないな。
例えるなら、まるでねずみの耳。──大きくてまんまるポンポン髪を二つ、特徴的なあの髪型はまさしく唯一無二のあの人といっていい筈。


ブロロロロロローーーーーーーーーーーーーッ。
「回るよぉっーーーーっ!! まわるぅ↓っーーーーーっ♪ 地球ぅっは゛ぁ↑ーーー、まっわる゛↓ーーーーー!!」

「チュチュ先輩っ!!」

 チュアチュリー・パンランチ。
地球寮の大好きな先輩であるあの人は、私と初めて会った時こう言った。“チュチュ先輩と呼べ”、と。
自分のお友達であり、尊敬する人との再会。私はついさっきまでの恐怖を忘れ、彼女に満面の微笑で駆け寄った。

「チュチュ先輩ーーーーーー!! あっ会いたかったですよおぉっ! 良かったぁ〜、初めての遭遇した人がちゅっ、チュチュ先輩で────


──…ぐへええぇっ!!!!
頭に襲い掛かった、運転手・チュチュ先輩からの強烈すぎる一撃。
私は跳ね返されるように、草原に転がり倒された。
 え?え?な、なんで…?
ちゅ、チュチュ先輩……、一切躊躇いなくイガイガの付いた棒のようなもので私の横腹にフルスイングしてきて………。
痛、ぃいい〜〜〜〜……っ。
お腹の痛みにうずくまる中、キキーッと軽いブレーキの音が頭上近くで鳴る。
続けて、バイク(正式には学園のスクーター、のちに分かったことだけど)から足をつけた音が聞こえた後、ポンポン頭のあの人はこう、汚い罵声を飛ばした。

「ぁあんっ??! どこのモンだテメェーーはよォっ!! 言っとくがあーしはタダじゃぶっ殺されねェーからな!!! こっのクソ野郎がァーーーー!!!」

 ……チュチュ先輩、
わたし…ですって……。


☆  ☆  ☆


267 : 水星エスカー ◆UC8j8TfjHw :2024/01/09(火) 22:53:41 S6AwFqnI0
「ねえぼっちさん早く出ようよォ〜、これじゃわたし達まるで路上生活者だよ!」

「(ちょっ…!! シーーーーッ! し、静かにしててリコちゃん………!! ……『路上生活者』って随分かしこまった表現するなぁー…)」

 そう辛うじて聞き取れる声でゴニョゴニョ話す後藤ひとり(通称:ぼっちさん)の姿はまるでーー…。そうだな…、わたしの付近の動物で例えるなら『ツチノコ』(ハブ科)のようにジメジメと暗く俯いていた。
ぼっちさんの目に宿っていた“螺旋模様”もなんだか消えかかっている様子…。
刀の男相手に対峙した勇姿はドコへ行ったのやら。これじゃまるで元の木阿弥だ。
……う、う〜〜〜〜っ…!とにかく“暗い”っ!
いつまで“こんな所”に隠れてなきゃいけないのやらっ!我慢の限界がきそうだっ。

「(ぼっちさん! もう“段ボール”に隠れるの飽きたって!! 休憩タイムももう飽・き・た!! ゴニョゴニョ!)」

「(ふへっ〜〜〜…!! だからシーーーーーって!! シーーー!! 全然小声になってないよー! リ、リコちゃ!!)」

 そう、我々リコさん隊は今、段ボールの中で二人窮屈に身を潜めているのですっ。
経緯を軽く説明しましょうっ!
お城を目指しひたむきに森を切り開く我々探検隊だったのですが、行く手を阻む最大の障害が現れたのは数十分も進んでからでしたっ。
それは、唐突に現れた──言うなれば、ぼっちさんの口から出現した“ヤツ”。

────「ぜぇ………ぜぇええ〜〜〜……、リ、リリコちゃん…やばい、めっちゃ疲れてきた……。そろそろ、どう? 休憩…みたいな…………?」

 “怠惰”(別名:甘え)。
ぼっちさんの提案に仕方なく乗ってしまったが故に、わたしはもうかれこれ三時間近くはこの段ボール内に休憩(という名の拉致)を受けてしまったのでした!
ちなみに、この段ボールはぼっちさんの支給品とのことっ。
『完熟マンゴー』と印字されたこのドデカイ段ボール箱はぼっちさんには馴染み深い支給品らしく、ぐうたら怠け切った顔で随分と長くリラックスする彼女であった…。

 って!もういい加減にしてほしいって感じだよ、わたしは!
こっちは早く進みたいっていうのにぼっちさんは「いや本当につ、疲れたから!」とか「さ、さっきのサムライモドキみたいなヤベー参戦者と会うのは危ない」とか「しょ、正直言ってほ、他の人にも、もう会いたくない…って感じ…だし……」とか言い訳ばかり。
わたしがお母さん、ぼっちさんは引きこもりの息子役で三文芝居している気分だ。
ほんと、もうっ!
ぼっちさんのダメ人間!甲斐性なし!無様!ぼんくら!バカ!NEET!天才的な怠惰様!

「人生の落伍者! 仕事もロクにできないデクノボー! 人生の負け組み! 社会生活不適応者! 失うべきものはすべて失った人間!…」

「(ちょ、ちょ!! 声でかいし…ってか声に出ちゃってるし!! リ、リコちゅあんなんて酷いセリフを吐くの!!! っ……………わ、分かってるし……どうせ私が将来引きこもりになってストゼロを呑みながら過去の思い出に涙するような人間にな、なるのは分かってるし……………ず、ずヴぁヴぁ…ずヴぁあああ〜〜………」

 あ、どしよ!余計ぼっちさん塞ぎこんじゃったよ…!
ドロドロと、チーズのように溶けていくぐちゃぐちゃピンク……。彼女のお家芸始まっちゃった。
…もう、らちが明かないから置いてっちゃおうかな…。
正直、危険人物に悲惨な目に遭わされて赤黒ピンクになっちゃうぼっちさんも見てみたい気はするし。
はぁあ、あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。どしよっか。

「────…………って、え────────?」

 下腹部に唐突に発生した暖かな痛み。
便意によく似たその感覚に気が付いたときには、もうすでに遅かった。

「ぁ……………あ、………ぁあ………………っ! な、なん、で…………………」

 パニックで視界が揺れ動く。
瞳孔が捉えたのは、真っ赤に染まったわたしのズボン。
──そして、伝うように私の白い太ももを流れていく何本もの紅の雫。血液────っ。
生暖かいグショグショとした感触が気持ち悪いが、不思議と痛みが走ることは無い。
襲撃…?知らぬ間に誰かに襲われてしまった………?いや、それともぼっちさんが隙を見て切りかかってきた………………?
否……。どれも違う。そう、分かっている。
わたしはこの突飛な出血の原因を知っているんだ…。

「ど、どうして…………そ、そんな…………急に…………ぁあ、あ………!!」


268 : 水星エスカー ◆UC8j8TfjHw :2024/01/09(火) 22:53:57 S6AwFqnI0
 ──深界四層(巨人の盃)での。あの苦しみ、呪いの恩恵を忘れることなんてできない。
何故、前触れもなく急にこの現象が起きたのかは分からないが、とにかくこの出血は…やばいよ………。“あれ”しか考えられないよっ…!

「(っうう! 臭っ!! な、なんだこの?! ……酸っぱいような…何とも言えない腐った匂い…………。って、リ、リコちゃ)」

「うわあああああぁあぁあっ!!! 『上昇不可』だあぁっ………! ぼっちさんっ……! いっ今すぐここから退避しないとぉっ……! た、大変よおっっ…!」

「う、うひょああーーーーーーっ!! やっぱりーーーーー! リ、リコちゃんズボンきったな……い、今すぐ取り換えないとーーーーーーーーーー! ふへーーーーーー!!!」

 そう、この出血は『上昇不可』によるものだ。
アビス内から帰還する際に必ず発生する謎の症状で、一旦下に降りたのちに上に戻ろうとすると人体に異常が発生するいわば呪い。
上層の軽いものは吐き気や頭痛程度で済むが、深部であるほど症状は重くなり、全身からの出血や精神崩壊、最悪死に至る場合もある。
…嫌だ…。嫌だ嫌だイヤだあっ。
血が止まらない…。止まらないよ……。
早く、今すぐにでも下降して安静にしなくちゃ、わたしは“終わり”。

「あ゛ぁあ!!! あぁああぁあ、あああっ……! にげ、逃げなきゃ……っ!! こ、こんな所で…こんなくだらないことで死んじゃう訳にいかないのにぃっ…! リ、リコさん隊は不滅な゛んだからぁああっ…!!」

「ちょーー! リコちゃんあんま暴れないでえーーーーーーーーーー!!! うおっ血が飛び散った!! 私のジャージがーーーーー!!! ばっちい…っーーーーー!!!」

 …はあ、はぁああっ………!!
このままじゃ、時間の問題だ…。いずれぼっちさんにもこのアビスの呪いが発生する…。
そうなったらシン・リコさん隊の全滅……。わたしだけならまだいい。全滅だけは避けたいっ。
このわたしとぼっちさんの悲鳴が所せましに響き渡る段ボール、今すぐに抜け出さなきゃ…っ。
抜け出さなきゃ、イケナイ、ンダカラ。あぁ、ぁああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!

「ふっへええぇえーーーー……、リコちゃん、な、なぜこのタイミングで『初潮』…………臭…」

 ボ、ぼっちサん、彼女は恐らく探索とは無縁の一般人だから、事の重大さに気付いていないのだろう。
彼女のポカンと妙に落ち着いた態度に涙が出てきそうだ。
とにかく、私は出なくちゃ。
この厚紙で出来た閉ざされし空間から…でなくチャいけなイんだかラ…っ────────!


その時、“光”が差し伸ばされた。


「おい、さっきからうっせンだよ。ぁ? 隠れてるつもりかテメェーーら」


 光──切り開かれた段ボールの天井。その先から響く、少女の野太くどすの効いた声。

「…………………ぁ」
「あっ…………」

 わたしとぼっちさんとで、思わず共鳴してしまった。
目の前にいたその“第三の参戦者”は…、他になんと言い表したらよいのだろうか。綿あめだった。
厳密に言えば、ピンクのどでかいポンポン髪二つを頭につけた、こちらにとにかくニラみを利かせる少女だ。
そのほかの身体的特徴といったら体積面広く映える太ももと、あとは右手で掲げる威圧感全開の釘バットくらい。

「ちょちょっと! チュ、チュチュ先輩……! ま、まずは穏便…に! でっですよ?!」

……あっ。よく見れば後ろに、綿あめ少女の同行者なのだろうか、褐色肌の女の子がアタフタとこちらを様子見している。
アビスの呪いという予期せぬ脅威に見舞われる最中、わたしたちに現れたタッグの参加者。
どうする……、どうするリコ…! わたし、リコは一体どう行動するのが最適解なのだろ…

「ズヴァッヴァヴァアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!! 見つかったあーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!! もう人と会いたくなかったのにいいいーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!! ほきょえええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「ひいいぃっ!!!」
「うおぉおっ! ビックリした…テメェエー…!!」


269 : 水星エスカー ◆UC8j8TfjHw :2024/01/09(火) 22:54:16 S6AwFqnI0
「ぼ、ぼっちさんっ!!!」


「キェェェェェェアァァァァァァゥオゥウア゛アアアアアアアアアアアアアーーーゥアンンドゥッハッハッハッハッハアアアアァァアアアアアアアアア亜阿唖吾亞蛙哇娃啞婀猗蛙AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」


 開口一番、口を開いた──叫びをあげたのはぼっちさんだった。
…このデジャヴ。そう、『人と遭遇する』・『どんな些細なことでも自分に危害が加わる』・『精神的にヤバくなる』と発作される彼女の“お家芸”。
脅威となるか、仲間となるか現状分からないこの二人娘の前で発せられた絶叫は、森の中という状況もあり怪鳥の威嚇のそれとほぼ同等。
わ、わたしは…本当にどうするのが…正解なんだ………。

「はるるるるるるるるるるるるるるるるるーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!! かみざまあほどけざまああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

「あ゛ーっ! うっせぇえ!!!」

 ドボオッ

「ぐへえええええっ!!!!!」

 あっ。
綿あめ少女がバットを槍のように持って、叫びまくるぼっちさんのお腹にめり込ました…。
カエルの潰れたような声を発した後、その場に倒れ伏して、たちまち静まり返るぼっちさん。

「ちょっ!!? ちょ、チュチュせっ先輩っ!! 暴力はいけっないっていっ…、言ったじゃない、ですか……っ!!」
「うるせー。お前は黙っとれって」

叩いて静かになるなんて、ぼっちさんまるで目覚まし時計みたいだぁ〜…。


☆  ☆  ☆  


 ほかの人からしたらゴミなのかもだけど、わたしからしたら“それ”は何よりもの宝に感じた。
草原に散らばる無数の丸めたティッシュ。紙片は赤黒く湿らされている。
月光の下光り輝く、その赤い“それ”こそわたしの『成長』という名の宝物に思えてならないのだ────。

「つゥ〜〜か、お前ぇ着替えても普ッ通にオリモノ臭ぇのなっ! あとどことなくゲロ臭っぇ〜、お前ぇ」

「ちゅっ…チュチュ先輩?! デ、デリカシーなさすぎますって!! …本当にうちのチュチュ先輩がすみませんすみません…!!」

 そうです!
わたしは『生理』という未知であった現象を経て、スレッタさん、チュチュ先輩のお二人と同行することになったのでした!
シン・リコさん隊に隊員二人加入というわけなのです!

「それに新しい服も手に入れてなんてラッキーなんだろっ♪ ふりふりふれ〜る♪ 綺麗なスカート!」

「あっ、ぁぅ。リ、リコさん、サイズが合う服でほんとによっ良かった、ですよね!」

 ちなみに、着替えの服はスレッタさんの支給品『後藤ひとり服セット』から頂いた感じ!
四着あって悩んだけど、わたしは白い下地で、大きな襟が特徴の服・セーラー服を選んだんだ。
胸部には青いリボン、その青さに負けじと濃い紺色のスカートは風一つで舞いそうなほど短くフリフリで、着ているだけで不思議とテンションが舞い上がってしまうのだ。
るんるんっ♪

「あぁあー! 動くなっつゥのガキンチョ! ニオいがばらまかれんだよっ!! 臭え!!」

「もっももうチュチュ先輩は非常識なんだから…! …いっ一ミリも気にしないでいいですよリコさん…! あは、あははは〜、いい匂いだな〜あっあはは…」

「いや臭ぇよ。鼻づまりかスレッタ。とりまえず、リコさん隊の向かう先は温泉にすっかー」

 るんるんるん〜……チュチュ先輩、さっきから臭い臭いって何のことを言ってるんだろ?
異臭なんてこの辺からはわたし感じないんだけどなぁ…。というか温泉の方が硫黄の匂いがしてキツイと思うんだけども。


270 : 水星エスカー ◆UC8j8TfjHw :2024/01/09(火) 22:54:31 S6AwFqnI0
………………って!!

「チュチュ先輩っ! なに勝手に行く先決めてるの?! リコさん隊の隊長はわたしなんだから、指揮権はわーたーしっ!!」

「ぁ? なんでジャリに船頭任せなきゃなんねーーんだよ。黙っとれ」

…。
むかっ!

「いいえ、黙りませーんっ!! リコさん隊第一目標はあの高くそびえたつお城って決まってたわけなのよっ! わたしは殺し合い脱出に向けて最善行動を計算してるんだからね!!」

「うっせぇー…、じゃあお前ェ一人で城行ってお姫様やってろやボゲ!」

「ダメッ! それじゃダメなのっ!! わたしたちリコさん隊は少しでも多くメンバーを募っていかなきゃならないんだから。言うとおりにしてってチュチュ先輩!!」

 わたしの言うことは絶対的に正論だ。そうに決まってる。
かつて、孤児院にいた時にリーダーも言っていた。『多人数での探索は危険が伴う。したがって、リコ。お前が隊長となって先陣を切れ』って。
その教えに則って、わたしはリーダーシップを発揮しているというのに、チュチュ先輩のわからず屋はっ……。
…この口論に勝ってチュチュ先輩をわからせなきゃ…。

「わたし白笛なんですけどっ! アビスの第六層…?まで行ったんですけど」
「はぁ〜〜? 意味わかんねーし! この紋所が目に入らぬかみたいに言われても恐れ入ったりしねーーよっ!!」
「まぁ! なんて非常識極まりない! てか、大体温泉行くとしてさぁ、入浴中に敵に襲われたりしたらどうするっていうのよっ!!!」
「うっせえ!! そん時はそん時だよ。くっせぇ奴といつまでも同行するよりはマシだな!! バーーーーカ!!!」
「臭い奴…??? ぼっちさんのこと?! 許せないっ! …あっ、分かったぁ〜! チュチュ先輩わたしの裸見たいからお風呂連れてこうとしてるんでしょっ!!? レグよりスッケベだっね〜〜!!!」
「お前ぇイカれてんのか? あーーーーーっ!!!! 超うっぜぇ! マジぶっ込みてぇクソジャリ!!!」

「あ、ぁ、あ〜〜〜〜〜〜〜〜!! …ふっ二人とも声似てるからどっちが喋ってるのか分からないよ………。とりあえず、落ち着いてくくください!! …正直わっ私も温泉がいい、かっかな〜………?あはは…」

 あーもうもうもうっ!!
ヒートアップに継ぐヒートアップ…、何粒も飛んでいく唾…。
口論にらちが明かないよ!こっちは正論でまくし立ててるというのに負けを認めてよねっ。
…なんだかスレッタさんも相手側についてるしっ。(民主主義でわたしの負けになっちゃうよ!!)
ぼっちさんのことを臭いって言うことも本気で許せないしっ!わたしの友だちのぼっちさんまで非難してなんて野蛮な人なのっ?!

「……あっ、ぼっちさんの存在忘れてた………」

 急に。頭に上った血が消えて冷静になっちゃった。
チュチュ先輩に殴られて以来、死んじゃったようにグッタリ眠り込むぼっちさん。
ふと、地面に倒れ込む桃色の長髪に目を落とす。
あー…、本当に気の毒なぼっちさん………。

「急に黙んじゃねェエーーージャリリコ!!!」

 チュチュ先輩の罵声は無視しつつ、桃色の、“物体”と化した後藤ひとり彼女を眺める。
ところどころ細かな土粒、草がつき汚れる彼女は、白目をむいてモゴモゴと泡を吐いていたが、特徴的なのがその容姿。
ツルツルと滑らかなピンクのボディは全長にして30㎝ほど。お尻にはシッポが生える一方で手足四股はなく、全体的になんだかジメジメ。
うん、言葉通りの『ツチノコ』(ハブ科)になっていたのだ。

「って、ぁ?! …ジャリリコ。こいつどうなってんだよ、おい? 蛇みたいになってんゾ」

「え? …え?? えぇっ??! こ、これさっきリコさんと一緒にいた女の人………?! だ、だだ大丈夫なんですかぁっ?!」

 ぼっちさんを目に入れたのであろう、二人から驚きの声があがる。
…あっ、そっか。説明してなかったよね。


271 : 水星エスカー ◆UC8j8TfjHw :2024/01/09(火) 22:54:50 S6AwFqnI0
「大丈夫! 忘れてたけど今から説明するねっ! ドン!」



ttps://img.atwiki.jp/shinanirowa/attach/133/168/sashie03.png



「…ってことだから!」


「は、ははぇーーーー………」
「おいおいなんだよコイツ。未知のスペーシアンかよ」

 ぼっちさん、人間じゃないから変体することもあるんだよねー。
初見じゃそりゃ驚くよなぁ…。
うーん、なんだろう。ぼっちさん温泉の湯に放り投げて起こすっていうのもアリ、かな。


【H7/森・エヴァンゲリオン初号機前/1日目/深夜】
【シン・リコさん隊】
【リコ@メイドインアビス】
[状態]:健康、悪臭、右人差し指・中指・薬指欠損
[装備]:セーラー服、無尽鎚@メイドインアビス
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:殺し合いの打破
1:温泉いこっかな?
2:チュチュ先輩を従わせたい
3:城まで進む!
4:参戦者と会ってリコさん隊に入れる。

【スレッタ・マーキュリー@機動戦士ガンダム 水星の魔女】
[状態]:頭痛、健康
[装備]:未確認
[道具]:食料一式(未確認)、後藤ひとり着せ替えセット(セーラー服・メイド服・???・???)@ぼっち・ざ・ろっく!
[思考]基本:『逃げたら一つ、進めば二つ。』主催者に対抗。
1:チュチュ先輩、リコさん、ツチノコと同行
2:一人でも多く守りたい
3:臭い…

【チュアチュリー・パンランチ@機動戦士ガンダム 水星の魔女】
[状態]:健康
[装備]:釘バット@水星の魔女
[道具]:スクーター@水星の魔女、食料一式(未確認)
[思考]基本:未定
1:スレッタ、ジャリリコ、ツチノコと同行
2:温泉に行きてぇ。何故って?臭ェから!!
3:ジャリリコを黙らせたい
4:ヤバそうなやつはなりふり構わずぶっ飛ばすッ!

※参戦時期は少なくともスレッタは1期終了前後のどこかです



☆  ☆  ☆


272 : 水星エスカー ◆UC8j8TfjHw :2024/01/09(火) 22:55:02 S6AwFqnI0
 う、うーーーーーーん……。
お、お腹が痛い…。頭もぼやける……。
あぁそうか…、いかにもチンピラそうな不良少女にどつかれて…、それで私気絶したんだった。
…私生きてるのかな…?
あんまし、言いたくないことだけども、リ、リコちゃんが喚かなきゃこんなことにならなかったのに…。
<METAL GEAR BOCCHI>──。段ボールの中で身を隠すことが安全なことをあのちびっ娘に十分分からせていれば…分からせていれば……、
あんな変な髪のドキュソに絡まれずに済んで…………、

「ようっ! 起きたか! ジャリリコのツチノコ!!」

 って、ズギャババアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!
ご本人目の前にいたよォオーーーーーーーーーーー!!!!スバアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!

「あ、大丈夫だよ、ぼっちさん! スレッタさんとチュチュ先輩…悪い人ではなくはないんだけども、ちゃんと仲間だからさ!」

 ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア………って、リ、リコちゃん!!
ちょうど真横で、リコちゃんが屈みこみ、相変わらずの愛くるしいスマイリーで話しかけてくる。
…んー、仲間だから…、って。この人たちが…?
わ、私が気を失ってる間にそんな和解までいってるワケ、なのか……???

……って、私なんでこんな……、『メイド服』なんて着てるんだ………?(私ったら『って』を連呼せざるを得なくなってるよォ〜!)

「あっぁっ、はい! そ、その服。ほら…、血で汚れちゃったので…、勝手に着替えさせたん…でですよっ!」

 うおっ!!背後からの声…ビックリした!
…私の真後ろで、膝に手を置き立っていたのは、肌を日焼けしたやたらデカい女の子…。
あぁ、そうか。このタヌキ顔の女の子が“スレッタさん”なワケね…。この人もお仲間そうかそっか…。
…って!!!勝手に着替えさせた、って?!!
てことは私の裸見られたってことじゃんかー!や、やだーー!!
わ、私の忌々しき裸体を、少なくとも三人の眼に焼き付いたことになっていたなんて…ぁああぁあ………。

「ははっ、お前ぇコロコロ姿変わってなんか面白ぇーな。今度は人間になったし。ま、いいや。お前ぇ名前なんて云うの?」

 ひいいっ!!!
何故か私を囲い込むような三人娘だったが、前方の一番怖いドキュソさんがいきなり話しかけてきたっ!!
ぁああ…ひゃあああ!!!怖ぁ………!
ど、どどどど、どしよどしよどうしよお!!
な、なんて話せば…怖いぃ…!!

「チッ!! 名前!! 名前なにかって聞いてんだよッ!! ぁあ?!」

 ズギャバアアアバアア!!!!
恫喝してきだああっ!!!!
ヤヴァイヤヴァイヤヴァイヤヴァイ!!!このままではクレーン車に吊るされて水攻めにされたあと、ボコボコにサンドバッグで…死!
早くドキュソ様にお答えをしなくては!!!!
ふ、ふふ、震える声を振り絞って……なんとか………!!

「わわ、わ…あ…あ…あ…………っ、マイ、マイネーム……イズ……ぼ…ぉっち…………ぼっ!! ……………で、どぇす………」

「はぁア??! 聞こえねぇええーーし」

「は、はいいぃいいっ!!!! …こ、ころらろ………る、るえっ…………! 後、藤……ぉっち……ぼっち!! で、よろらろころふっ…………!!!」

「…………………あー、はいはい。分かったよ」

 うぅ〜〜〜〜〜〜……。
人と話すの久々&ヤンキーが恐ろしすぎて全然流暢に話せない…。
分かった、とか言ってたけど絶対に呆れてめんどくさくなった反応に違いないよォ…。
絶対に伝わってない…。どしよ、どしよ…。

「あーしはとりあえずチュチュって呼んでくれ、よろしくなっ!」


273 : 水星エスカー ◆UC8j8TfjHw :2024/01/09(火) 22:55:14 S6AwFqnI0
 ……ドキュソわたあめが手を差し伸べてきた。
わたしの必死な思い悩みはすべて杞憂、というかのように、フレンドリーに。
よろしく、か。
そういえばリコちゃんも言ってたな。この人は『悪い人ではなくはないけど仲間』…だって。
極力かかわりたくない系の怖い人…だけども、舌足らずで何も自己紹介できてない私を奇特な目で見たりせず、握手を求めてきた。
──これは、彼女の期待を裏切るわけには行けない…よね。
手が震える。それでも、私はドキュソ…いやチュチュの手を握り返すことにし…、

「よろしくなっ!! 『チンポ子』!!」

た………。


……って、



は?


「……はえ?」
「………はっ?」

「は? じゃねェーーだろ。お前ら聞いてなかったのか? コイツはっきりと『マイネームイズちんぽ子って』…」


 漂う冷気。流れ込むちん黙。いや、沈黙…。
は?
は?
ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?
ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?ハ?
はぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー?!?!???!?!???!???
ナ、ナニヲ?
何を言ってるんですかこの女の子は????!!
は、恥じらいを知らないなんてレベルじゃない…。堂々と『ちん』………と。

そ、っそそ、それに何を言ッテイルンデスカ、コノコハ……????
私の…私の名前が、そ、そそそ、その『ちん』……だと………?おっしゃると……………?

「ちょ、ちょとちょっとちょちょ!!! チュ、チュチュ先輩、なっなななにを……! 失礼すぎますよ!!!」

「あ? ちんぽ子で間違いねーよ。それとも違うっつうのか? ぁあ? あーしがチンポコチンポコと恥も外事も無く連呼するやべーやつだと、そう言いてぇのか? あぁ??」

 いや、やばいやつでしょ!!!!
おかしいでしょ!!!!!!!
な、なに恫喝で自分の主張無理やり通そうとしてるんですか!!この論理破綻者はっ!!?
ちょっと、スレッタさんビビって折れないでくださいよ!!気が沈んでる顔してますよっ!!!!
…リ、リコちゃん!そうだリコちゃん!!
ちゃんとあの人に説明してよォオオオオオ!!!!!!

「…ぼっちがちんぽ…………ぼっちがちんぽ…………ぼっちんぽ子…!」

 ズギャロボボオオァアアアアア!!!!だめだこりゃ!!
何かブツブツ呪文唱えて訂正する気配なしっ!

「んじゃ、ということでよろしく頼むぜっ! ちんぽ子!!」

 チュチュが悪意のないニヤニヤの顔で手を差し伸べてくる…………。
ふ、ふざけるなぁ〜〜〜!し、失敬だ!!名誉棄損だぁ〜!!
私はちん…なんて名前じゃない。この人の恥なんて知るかっ。訂正を、訂正をしないとっ!

私は、私はちん…なんて……。ぽこ…なんてじゃないっ。
私は後藤ひとり、ぼっちなんだアアァ───────────。


274 : 水星エスカー ◆UC8j8TfjHw :2024/01/09(火) 22:55:24 S6AwFqnI0
「…はい、よろしく、お願いします………………」

 私は陰キャだから、常日頃からずっと欲していたものがある。
たった1つ、勇気が、欲しかった。
ヤンキー相手に「違いますよ」と言える。勇気を…。

かくして、私は湯婆婆から求めてもいない『贅沢な変名』をちょうだいするに至ったのであった。
チクショウ…。


【ちんぽ子@ぼっち・ざ・ろっく!】
[状態]:人間モード、腹部打撲、螺旋力微弱
[装備]:エレキギター@実在の楽器
[道具]:メイド服@ぼざろ、スマホ、完熟マンゴーダンボール@ぼざろ、食料一式(未確認)
[思考]基本:とにかく帰りたい…
1:ちんぽ子って呼ばないでッ!!
2:リコちゃん、スレッタさん、チュチュと同行。
3:チュチュ(ヤンキー)に最大級の恐怖と警戒。
4:リコを守りたい。
5:ほかの参戦者に会いたくないなァ…。


275 : ◆UC8j8TfjHw :2024/01/09(火) 22:56:02 S6AwFqnI0
投下終了です
デデデで予約します


276 : デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション ◆UC8j8TfjHw :2024/01/11(木) 04:17:13 0tYKbK3I0
※深夜テンションでサクっと書いたので、推敲は後日wikiで行います。

**デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション
(登場人物) [[デデデ]]
----


277 : デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション ◆UC8j8TfjHw :2024/01/11(木) 04:17:37 0tYKbK3I0
デデデはたまたま見つけた旅館に入り、和室で二時間ねむった…。

そして………、

目を覚ましてから、しばらくして

エスカルゴンが死んだことを思い出し…、
…………泣いて、また眠った。


☆ ☆ ☆ ☆



グオォオォォォーーーーーーーーッ

グゴゴォォォッーーーーーーーーーーッッ


 畳四畳ほどで、備え付きのちゃぶ台に、奥には茶色に薄汚れた押し入れと小さな浴室、そして敷布団といった質素な和室。
耳を澄ませども、聞こえてくるのはチョロチョロ…とわずかな源泉かけ流しの音のみ。
虫の羽音一つすら感じ取れない、ゴーストタウンの街中温泉を象徴するとても静かな部屋だった。

先程までは。

グオオォー、スピスピスピ……グララァガアアァァアーーーーーーーーーッ

 もはや地鳴りだ。
震源地は、暗い和室のド真ん中。野生動物の咆哮を彷彿とさせる高イビキが襖を、障子を、窓を揺らす。
部屋の三分の一を覆いつくすその巨体を包み込む純白の掛布団。ごろ寝する奴のその姿はまるで南極の浮氷のようである。
無論、この旅館は防音設備などあるまい。この馬鹿イビキは外まで筒抜けだろう。
この殺し合い──戦場下において、呑気にグースカ音を立てて眠ることなど、自殺行為と一緒であるのだが、そこはやはり大王の余裕ということだろうか。
巨大ペンギン・デデデ陛下は、頭だけすっぽり出して夢の世界を楽しんでいた。

グララアガアーーーーーーーーーッ、スピスピグオーーーーーンッ、グララアガアーーーーーーーーーーッ

おっと。
どうやら周囲の静寂さを乱すのはデデデの寝息だけではないようだ。

『陛下ー! 陛下ッーー! お目覚めくださァい! お眠りになる状況ではございませんよぉ!!』

 独特の重厚かつ渋い声色、そして胡散臭さも一滴混じる声が混じり入る。
声の主の名はカスタマーサービス。
オープニングセレモニーで説明役兼進行として全参戦者の前に姿を現した、この悪魔的ゲームの主催者その人だ。
主催者が一参戦者にわざわざ介入するとは何の目的があっての事か、奴はデデデに起きろ起きろとモーニングコールを掛けていた。
──声の発声源は、陛下の首輪に内蔵するマイクから。比喩抜き、言葉通りのモーニングコールである。

『嗚呼ぁあ……、もう全然起きてくれない……。私としても今死なれちゃ困るというのに…っ』

 マイクからも、音質の悪いため息が漏れる。──といっても、部屋中を木霊する爆音でかき消されているのだが。
とにかく、カスタマーサービスが個人的にデデデに要件、もしくは伝えたい重要事項があることは確かなようだ。
暫く、いびきのワンマン演奏が続いた和室だったが、少し間を置いて、これまた負けじと馬鹿うるさい金属音が首輪から響きだした。

カンッカンッカァンッ! カンカンカンカンッ!! カァンッ!!

『陛下っ、陛下ッ、屁以下ッ! へ・い・かっ!! お目覚めくださいぃっ! 起きなきゃ罰金967億デデンですよおっ!』

 平べったい鉄を何度も打ち付けている音──フライパンをおたまか何かで叩いてる打音のそれであろう。
あまりにベタな起こし方で陛下の起床を促すカスタマーサービス。
カン、カン、カン、カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン〜…徐々に音の間隔が短くなっていく様子は彼の必死さを表している。
だが、それでも徒労虚しく。


278 : デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション ◆UC8j8TfjHw :2024/01/11(木) 04:17:52 0tYKbK3I0
ズゥオオオオオオォォォォォォーーーーーーーーーーッ、スピスピスピリタス………、ズボボオオオオオオオォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオッ

デデデの鼾声は増しに増すばかりであった。


☆ ☆ ☆ ☆


……カンカン

…カンカンカンカンカンァンカァンカァンカァン

カァンカァンカァンカァンカァカンカンカンカンカンカンカァン!!!!!


「やぁがましいZOYッ! うるさいのはカービィのいびきで十分間に合ってるZOY!」

『起きてくだ………おっ、やっとお目覚めになられましたか陛下』

 けたたましい金属音で、とうとう目を覚ました。
デデデは寝汗を赤いガウンの袖でふき取る。
不意に、窓から朝日がお早う、と声を掛けていることに気付いた。
時計が指すは五時五十分。第一回定時放送の数刻前だ。
デデデがグッスリ夢の世界で遊び惚ける間、どれだけの人間が苦しめられ、あるいは惨死したことだろうか。
──生憎、陛下本人は「寝足りない」と言いたげな様子で寝ぼけ眼のまま大きくあくびを出していたのだが。
まあ何にせよ、カスタマーサービスはいびき魔獣の意識覚醒に成功したということなので、矢継ぎ早にマイクから声を響かせた。

『お早うございます。我が陛下。突然申し上げることで恐縮ですが、今すぐ逃げる準備をしていただ…』

「んがあ??? なんだか声が聞こえるZOY…、おいっ! この巨悪のカリスマであるワシを前にして姿を現さないとは無礼にもほどがあるZOY!!」

『…おやおや陛下、首輪! 首輪からですよ。ほら、私です』

「首輪ぁ〜〜? あぁ、なんだ。貴様かZOY……」

 次の瞬間、怒号が弾け飛ぶ。
グースカ騒音を立てながら眠り、急に起きたかと思ったら怒り散らす、なんとも忙しい陛下なことである。

「カスタマァアアア!! 貴様アァーーーーーーッ!!! よくもこのワシをバトルロワイヤルなんかにぶち込んだゾイィィイイッ!!!!!!」

『お気持ちは察します。ですが、今は聞いてくだ…』

「それに貴様のせいで、エスカルゴン…エスカルゴンがァアアアアッ!!! 解任命令程度では許さないZOY! 訴訟モノZOY!!!」

『…はて? エスカルゴン様がどうなさったのですか?』

「──────────ッ!!!! 貴様ァアアアアアアア!!!!!!」

 ただ、デデデが怒り狂うのも分からないものではないだろう。
半分自業自得の様なものだが、応答先の相手カスタマーサービスの持ち込んだゲームにより優秀な大臣であり、盟友のエスカルゴンが亡き者となったのだ。
デデデは暴れた。暴れ狂い、躍った。
サングラスの憎たらしいアイツの腐れ脳みそにハンマーで何度も殴打したい気持ちでいっぱいだったが、当人がこの場にいない以上、仕方ないので物に八つ当たりをした。
パンパンに膨れたドでかい拳を突き刺す先は、カスタマーサービスの声が発する先・首輪。
──エスカルゴンが何で死んだのか忘れたのだろうか。


ガキンッ


279 : デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション ◆UC8j8TfjHw :2024/01/11(木) 04:18:08 0tYKbK3I0
『って、嘘ッ?! 壊れた??!』

 ところが、であった。
マイクから、音質の悪い驚きの声が発せられる。
当たりどころが偶然爆破基盤を回避した為か、それとも盟友の死で宿った『正義の心』が引き起こした奇跡なのか。
デデデの強烈なパンチで、真っ黒い無機質な首輪は爆発することなくポロリと落ちた。

「ガァアアーーハッハッハッハッハッハ!!!! 正義のデデデマンに首輪なんて通用しないZOYッ☆」

 勝利の雄叫びだ。
想定外の遥か上な展開に、さすがのカスタマーサービスも思考停止の固まり切った様子。
それを体現するかのように、電話代わりであったヒビだらけの首輪は、今なんの抵抗も無くデデデに踏み潰されようとしていた。
──踏んだら踏んだで今度こそ爆発しそうではあるが、そこは思考を苦手とする陛下。お構いなしだろう。
「ワシは最強ッ!」──その巨大な右短足を一気に振り下ろす。

『あっ、あわわ…。…そうだ! へ、陛下ー!! 最後に言わせていただきますが、今すぐ退避お願いしますよ!! そちらに向かってとんでもない“殺人鬼”が来ていま…』

「んがああっ? な、なんZOY!」

 カスタマーサービスの最期の言葉にハッ、とした時にはすでに遅かった。
マイク先の実質遺言を最後まで聞くことなく右足は首輪を踏み破壊しきってしまった。
首輪の金属片が厚い皮膚に突き刺さり痛む。が、それよりもデデデの脳内は後悔、そして焦りで支配されていた。

「な、なんZOYッ…? 殺人鬼が、ワシの元に近づいてるって……??」

 頬を伝う大粒の汗。傲慢な笑みを浮かべていた顔が思わず引きつる。
そう、いくら首輪の縛りから解放されたとはいえ、デデデはこのバトル・ロワイヤルの会場に身を置く現状は変わりないのである。
思えば、このカスタマーサービス。先ほどから「いいから逃げろ」を言い含めたような発言を度々していた。
もしかしたら殺し合い生還のサポートに役立てたかもしれない、首輪のあまりに短絡の始末処分に、さすがのデデデも頭を抱えた様子。

 とんでもない奴が殺しに来る………?
どこから、どうやって…?
一体ワシはどうすれば………?

 脳をこれまでの人生史上最速に急速回転させるデデデであったが、『地鳴り』が起きたのはその折りであった。

ズドン、ズドォオオオオオオォンンン………

 揺れ動く和室の電気、爆音…いや『足音』と共に縦に揺れる地面。
考えても仕方ない、とデデデは取り合えず窓から外の様子を覗くことにした。

「がぁあああっ??! こ、これはとんでもない…ZOYっ…!!!」

 デデデは思わず目を丸くする。
その顔は単なる驚きではなく、『意外な人物』を目にしたが故の面を食らった表情といえよう。
というのも、窓の外に映っていたのは、ビルとビルの間を強引に踏み倒す巨大怪獣。辺りは火の海で燃え盛る。
──しかも、その怪獣というのが自分と馴染み深いあの憎たらしい永遠のライバル。まん丸ピンクの悪魔。

「ぽおぉぉよぉおおおおおぉぉおぉおっっっ、ぽよぉおおおおおおおぉぉおぉぉおっっ」

 カービィその人であったからだ。
デデデは思わず身が震える。
そういえばカービィもこのバトル・ロワイヤルに参戦させられてたような気がしたが、それにしても疑問はいくつも浮かぶばかりだ。

「な、何故ヤツが巨大化しているZOY?! 何故ヤツが火を噴いているZOYッ???! いやいや、というか何故…」

 デデデは思う。
──何故、あのカービィが人をたくさん殺しまくっているのか……?、と。
今、デデデの目の前で繰り広げられるは、大量虐殺であった。
虐殺…、言い様によっては鯨の補食活動とも表現できる。

「ぽっよおおおぉぉぉおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」


280 : デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション ◆UC8j8TfjHw :2024/01/11(木) 04:18:22 0tYKbK3I0
 大口を開けたカービィは自身の特技である吸い込みで、一見チリゴミにも見える参戦者たちを一気に飲み込んでいたのだ。
次々とあっさり補食死していく人々…、地震、大火災、台風の天災がいっぺんに、しかもたった一匹のピンク玉によって引き起こされていく。
単純な光景の悲惨さにも驚きを隠し切れないものだが、それよりもデデデは不思議で仕方なかったことがある。
カービィという生物は、デデデにとって対極の存在。
つまり、デデデは自称・悪の独裁者な為、カービィは必然的に正義の味方というわけになる。──これはデデデも共通認識だ。
アホで単純なカービィではあるが、ヤツは到底殺し合いに乗るような卑劣で極悪な性格ではない。
何故、カービィが正義の役割を捨て殺しに矜持を置くのか。恐らくデデデが寝ていた時間で『何か』があったのだろうが、デデデはそれがまったく理解できなかったのだ。

「ゲーーーップ…、ぽよよぉおおおお!!!!!!!!」

 闇落ちしたヒーロー、カービィはなおも獲物を探して進撃を続ける。
徐々に大きくなってくる地ならしの踏音。今、自分がいるこの旅館が踏み潰される…もしくは吸い込まれるのも時間の問題だ。
ならば、デデデは目の前の脅威相手にどう対処することが正解なのか。
自分の、この殺し合い下での役割というのは何が適切なのか。

 暫時、唖然としたデデデ陛下だったが、短い時間の中考えに考え抜いて──ようやく動き出した。
否、厳密に言えば考えてなどほとんどいない。直感である。

「カービィ、貴様の今世紀最大級のライバルであるワシが、責任もって退治してやるZOYィィイイッ!!!!!」

 先程書いてある通り、デデデとカービィは対極の存在。
つまり、カービィが『悪』になった以上、デデデは『正義のヒーロー』として己の役目を執行するまでなのだ。

「うォオオオオオオオオ!!!!!! いくゾォオオオオオオオオオイ!!!!!!!!!!!」

 カブーから飛ばされたワープスターに乗りデデデはピンクの大怪獣へと対峙する。
燃え盛る熱風、火花が飛び散る中、右手に握った愛用のハンマーがキラリと光る。
もはや彼の心には雲ひとつ無かった。

「この美しくそして華麗なワシが、カービィお前を討ち取ってやるZOYィッ!! 蝶のように舞い、蜂のように刺す!! ガーハッハッハ! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

「ぽよおおおぉぉぉおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」

FINAL WARS<殺し合い>
────それは、正義デデデと悪の壮絶な戦いの物語であった。
今、戦火が交えようとする──────────。



『…か! …てください!! …かーーー…陛下っ!!』


☆ ☆ ☆ ☆


カンッカンッカァンッ! カンカンカンカンッ!! カァンッ!!

『陛下、本当に起きてくださいっ! 本当にとてつもない殺人鬼が近づいてきているんですよっ!!』

「むにゃむにゃむにゃ…グオォオオォーーーーーーーーーーッ………、カービィめ許さんゾイ……、ワシが正義ゾイ………むにゃむにゃ」

 平穏。比較的静かになった和室にて、スズメの鳴き声が響く。
涙の痕を残しながらも、なんだか幸せそうに寝言をボヤくデデデの顔に、そっと朝の光が伸びてきた。

『あぁーーーーーーっ!! もうなんてグズで人でなしのダメ人間なことだァ…っ! もう、ほらっ! 早く起きて! ほら!!』

 時計はちょうど五時三十分を指す。
熟睡というのも限界があるもので、間もなくデデデは辛くて悲惨で、やりきれない現実世界に目覚めることになるが、果たして生き残ることができるのだろうか。
国王陛下のバトル・ロワイヤルは、まだ始まりすらしていない。



【B7/旅館/1日目/早朝】
【デデデ@星のカービィ】
[状態]:睡眠中
[装備]:ハンマー@星のカービィ
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:未定
1:Zzz

【カスタマーサービス@星のカービィ】
[役職]主催者
[思考]基本:デデデのサポート
1:起きてください〜ッ!陛下ァ!


281 : ◆UC8j8TfjHw :2024/01/11(木) 04:19:05 0tYKbK3I0
投下終了です

綾波、ナナチで予約します


282 : ごめんよ。レグ、リコ ◆UC8j8TfjHw :2024/01/12(金) 22:44:34 mDQCjmiM0
**ごめんよ。レグ、リコ
(登場人物) [[綾波レイ]]、[[ナナチ]]
----


283 : ごめんよ。レグ、リコ ◆UC8j8TfjHw :2024/01/12(金) 22:44:55 mDQCjmiM0
 電車内にて一人、青い制服の少女が座り込む。
窓の外が真っ暗な景色なこともあり、一見にして帰路途中の普通な女学生に見えるだろう。
──膝の上で抱える鋭いナイフさえなければ。

 殺し合い開催宣言後、青髪の少女・綾波レイが気が付いたときには、無人の電車にいた。
正確に表現すると、蒸気を立ち昇して爆走するオールドクラシックな列車なのだが、ともかくレイは表情崩すことなく身を置いている。
ふと、彼女は黄金色に輝くそのナイフを顔の前まで持ち上げてみる。
洗練に磨き上げられていた故、刃物に鮮明に映る自分の顔。──綾波は日頃からの仏頂面を維持しつつも、心中では深く思い悩んでいた。

 回想するは、つい先日。
NERV本部にて帰り際。総司令・碇ゲンドウに呼び出されたレイは以下の指令が下された。

「レイ、特別任務だ」

レイは一言、即答で「はい」とだけ答える。

「お前には、…そうだな。優しい言い方をするなら『生き残りゲーム』をしてもらう。明日八十人余りの人間と最後の一人になるまで殺し合いをすることになった。いいな、理屈や動機なんて考えなくていい。優勝目指して殺し続けるんだ」

また、「はい」とだけ答えた。

「……相変わらずの不愛想だな。これが最期の対面となるかもしれないというのに。まあ、いい。お前をこの場に呼んだのはそれだけ期待と祈願の表れという事だ。生き残れよ、レイ」

また、「はい」とだけ答えた。
淡々と、つまらぬ作業指示を伝令されたかのように、はい、と返事はワンパターンに。
冷たく重たい沈黙でムーブされる指令室にて、ゲンドウからの通達は以上で終わったのだが、最後の最後に漏らされた言葉。


「…フッ、最後の最後まで俺は依怙贔屓してしまったな、お前に。──何せ、シンジも、アスカも、葛城にさえも殺し合い参加の事前通達はしていないのだからな」

この発言にだけは、レイは「はい」の代わりに絶句の表情と口をただ開き続けることでしか応えれなかった。


 ガタン、ゴトンッ──────と、線路を通過する一定のリズムが響く中、レイはなおも憂色で暮れる。
彼女が視線を落とすは、デイバッグから取り出した参戦者名簿の名前たち。
五十音順で羅列される膨大な量の印字の中に、確かに存在する『碇シンジ』『葛城ミサト』『惣流・アスカ・ラングレー』の名前。
嘘だと思いたかった。何かの冗談だと。
それは先ほどの殺し合い開始宣言──オープニングセレモニーの会場で、シンジの姿を見かけた時でさえ目の前の現実を信じることを拒んだ。

「私は、どうすれば………………」

 レイにとってのゲンドウはそれはもう肉親同然の人間。
自分を唯一心配してくれるかけがえのない人間だ。
だから、これまでの使徒殲滅作戦でどれだけ危険な目に遭おうとも命令遂行を第一に行動したし、身体中が悲鳴を上げてもゲンドウ彼を恨んだりなど一切することなんてなかった。
今回の何故行うのか意図が理解できない殺し合いだって、「自分を愛してくれたゲンドウの命令だから」という理由一つで簡単に承諾できた。
 だが、そのゲンドウが唯一の存在──というのももう過去の話だ。
今の自分にはシンジが、葛城大尉が、EVA弐号機パイロットのアスカが。
作戦成功の為ともに闘い、日常生活を送り、時には和気藹々と、時には共に励まし合った大切な人たちが今の自分の周りに、確かにいる。
碇ゲンドウ総司令と同じくらい心安らぐ人たちが。

「こんな時、どうすればいいのか……分からない………私は…分からない……」


284 : ごめんよ。レグ、リコ ◆UC8j8TfjHw :2024/01/12(金) 22:45:21 mDQCjmiM0

 不意に、自分のちょうど隣にふかふかなウサギのぬいぐるみが置かれていることに気付いた。
自分への支給品なのだろうか。なんだか抱きたくなる魔力を持つモフモフさのぬいぐるみではあるが、殺し合いの何に役立つのか正直解せない。
レイは右手に持つ黄金のナイフをぬいぐるみに向ける。
もしも、この殺人ゲームに反逆し、シンジたちを助けることに尽力を尽くしたら。──それは即ち、ゲンドウに対して恩を仇で返すことになる。
ならば、もしも、命令に従いこのナイフで人を殺し、優勝を目指したら。──言うでもない。やっと、手に入れた大切な人たちとの永遠の別れとなってしまう。
どう行動しても結果として人を裏切ることになる今の自分。

震えながら、掲げられるナイフ。

「どうしたら………どうしたらっ…………」

レイのその顔は、苦痛のような。
迷いは抱きつつもどこか決意めいたそのような目つきをしていた。

「どうすることが正解なのっ…………! 碇くんっ……!!」

まるで『今後の予行練習』のように、高く掲げられた刃物は、ぬいぐるみ目掛けて振り下ろされた────…。
どこまでも貫くといった鋭利な刃先は、風を切って、勢いよく、綿の詰まった腹部まで伸びていき、あと数ミリで刺さり始めるといったところで──止まった。

「やっぱり、無理…………殺しなんて………私、できない」

 これがレイの答えだった。手からナイフがこぼれ落ちる。
ゲンドウのことは敬愛しているし、与えられた命令は遂行するべきだと分かっている。
けれども、それ以上に、シンジにアスカたちへの愛情というものが彼女の天秤で勝っていたのだ。
何よりかつてシンジからかけられた言葉──ヤシマ作戦終了後、全身痛む自分に涙ぐむ彼がかけたあの言葉が忘れられない。

『笑えば、いいと思うよ…!』

「碇くんっ…、待ってて。私、今助けに行くからっ──…」

 ちょうどその折、列車はスピードを緩め停止した。
自動ドアの窓ガラスから見える、白い蛍光灯で照らされし無人駅。まるで彼女の決意を待っていたかのように銀色のドアは開かれる。
殺し合いを強要されても眉一つ動かさなかった人形が、感情を手に入れその身を動かすこの瞬間。
デイバッグ、そしてナイフを拾い上げ、出口へと足を運ぶレイの表情は、相も変わらず不愛想ながらもどこか冥利に近い面持ちであった。

 車両と駅の点字ブロックの間をまたいだその時、ここで綾波の意識は完全に途絶えた。
粉々に砕ける頭蓋骨。シェイク状になった脳みそに頭蓋骨片が突き刺さっていく。後頭部の衝撃で両の目玉が軽く飛び出る。
彼女はもう、二度と動くことも考えることもない。
今際の直前、脳裏に浮かんでいた人物がゲンドウなんかではなく、碇シンジの笑った顔であったことは彼女にとって幸と言えるだろうか。


☆ ☆ ☆ ☆


獣は、あの少女のことが好きだった。

────*チ! うれしい! でも本当にいいのっ?

獣は、あの少年のことが好きだった。

────うぅ……、*ナチッ! きみは…な、なんていいやつなんだぁ!!


「……なぁ……………仕方ない……仕方ないだろうが……………」


285 : ごめんよ。レグ、リコ ◆UC8j8TfjHw :2024/01/12(金) 22:45:40 mDQCjmiM0
 投石武器・スリングショットを片手に、獣は呆然と立ち尽くす。
視線の先は、何度も閉じ開きを繰り返す列車の自動ドア。──足元の後頭部が凹んだ亡骸が邪魔して、閉じることができなくなっている。
暫時、獣は何も考えず眺めるだけであったが、前触れもなくドアへと向かい出した。
死体を車内へ蹴り飛ばし、プラットホームへと出ていく奴の目は何かを決意したかの様子。


獣は、されども少女らの、何倍も何十倍もあの子が好きだった。

────ねえねえなんでもいいならわたしの相棒になってよ! あたしミーティ、未来の白笛だよ!
────君はー、なんていうのかな?

『ナ、ナナチだっ……』


 駅の外は、ひたすらに静かで、そして無人だった。
舗装された道路、そこには三台、自動車が駐車されている。──車の中に敵が息をひそめているかもしれない。人の気配がないからって警戒を解く気はない。
スリリングショットは周囲へ四方八方と標準を構える。
毛むくじゃらのその腕。
獣は──、ナナチは、優勝するためにエリアの散策を始めた。
汗を数滴流しながら、鬼気迫るそのギョロついた表情で。


「ごめんよ。レグ…リコ」



【D7/駅/1日目/深夜】
【ナナチ@メイドインアビス】
[状態]:健康
[装備]:スリングショット、鉛玉x10@マイホームヒーロー
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:優勝してミーティを生き返らせる
1:皆殺し(リコ、レグ含む)

※スリングショット
…マイホームヒーロー原作第二部に出てきた武器。

【綾波レイ@新世紀エヴァンゲリオン 死亡確認】
【残り80人】
※綾波の死体と宝剣ギャラクシア@星のカービィは電車内にて放置されています。


286 : ◆UC8j8TfjHw :2024/01/12(金) 22:46:13 mDQCjmiM0
投下終了です
メガネ、諸星あたる、ニカイドウで予約します


287 : メガネはかく語りき ◆UC8j8TfjHw :2024/01/20(土) 22:47:41 XfqiCEws0
**メガネはかく語りき
(登場人物) [[メガネ]]、[[諸星あたる]]、[[ニカイドウ]]
----

パクり元→ttps://youtu.be/06S5pT15J-I


288 : メガネはかく語りき ◆UC8j8TfjHw :2024/01/20(土) 22:48:08 XfqiCEws0
 まあ、とりあえず俺の話を聞いてくれ。


 俺の名はメガネ。
かつては友引高校に通う平凡な一高校生であり、退屈な日常と戦い続ける下駄履きの生活者であった。
だが、今夜。
参加権はあれど拒否権はない、おまけに人権も考慮されていない悪趣味パーティに参戦させられ、俺の運命は大きく乱れてしまった。

 経緯を話そう。
友引高校の昼下がりにて、温泉マーク先生の授業をBGMに午睡にふけていた俺であったが、ふと何やらザワザワ騒がしいことに気が付いた。
慌てて目を覚ました俺は、目の前の光景に唖然とする他なかったのである。
行ったこともない妙な王宮にて、老若男女多数の人々が困惑した面持ちで動き回る…。どうやら俺は脈略も前触れもなくテレポートさせられたようだった。
脳の処理が追い付かなかった俺は、この時かかし同然に立ち尽くすまでであったが、このあとさらに唖然とする発言を耳にすることとなる。
天井から降りてくる薄型の巨大液晶板。
そこに映っていた何やら胡散臭いサングラスの男は、我々を呼び出した理由を説明──いや、宣言しだしたのである。

「あなた方には最後の一人になるまで殺し合いをしてもらいます」

 …前述の『悪趣味パーティ』とはこのことだ。
冗談のような発言だが、やっこさん、どうやら大マジらしい。
 それにしても殺人、か。
──確かに俺も、威張り腐った担任教師や近所の頑固なカミナリ親父、暴力をふるう年長やガミガミうるさい両親を殺したことは何度だってある。
だがそれはあくまで、空想の中での話だ。
その空想は決して現実化しない。空想と現実の垣根は意外に高いのである。
「誰がそんなことするんだ?馬鹿じゃないのか?」と呆れ故に欠伸を抑えきれなくなった我々だが、驚くべきことにサングラス男はその荒唐無稽な空想を現実のものにしてしまったのだ。
第一に「殺し合いに乗らなきゃ首輪が爆発する」という『脅威』。最後に「優勝したら願いをかなえる」という『褒美』。
この二つの提示により、殺し合いに消極的だった会場内の雰囲気を巧妙にもイリュージョンさせてしまったのだ。
 俺は恐ろしかった。
近くにいるぼんやりとしたサラリーマンが、眼鏡をかけた小学生ほどの幼女が、俺と同じくらいの男子学生や美しい看護婦までもが目がギラついてるように見える──その戦慄とした光景が。
殺意一色の雰囲気に包まれる城内であったが、その殺意がはっきりと目に見える形で現れだしたのはもう間もなくであった。
集められた参加者の一人であろう男が、切り込み隊長が如く、一人の少年を銃で殺害してみせたのである。
消炎の匂いとデュエットする脳漿の何とも言えないあの匂い。
恐怖がピークに達したことを認識した時、俺は目まいに似た激情を禁じ得なかった。

というか普通に目まいで気を失ったのだが。

 そんな俺が気が付いたとき、視界に広がっていたのは夜中の商店街だった。
なんだ、夢だったのか。と安堵したのもつかの間。俺はこの町の異様さに気づいてしまったのであった。
一見普通の町、一見普通の角店、一見普通の公園。──だが、なにかが違う。
路上からは行き来する車の影が消え、建売住宅の庭先にピアノの音もとだえ、牛丼屋のカウンターであわただしく食事をする人の姿もない。
それは、決して満月輝くド深夜だからではない。
人の気配一つしないゴーストタウン。まるで殺し合いの為に用意されたかのような、人類に冒涜的ともいえる町。
ヤクザなお兄さんにヤバいオーラがつき纏っていることと一緒で、俺は直感的にこの町の殺意さを感じ取らずを得なかったのだ。
俺は頭を抱えた。生き延びるための戦いが、今、始まったのである。

 我が学ランが冷たい夜風でなびく。
うむ、仕方あるまい。とりあえず俺はだだっ広い街を闊歩することにした。
この戦場下にて、ただボーーーっとマヌケな羊のように突っ立っているだなんて俺は到底できまい。
 そうだ。
ところで、諸君らは『天才が一番頭脳戦で恐れている相手』は誰なのか、見当がつくだろうか。
…ああ、わかっている。
確かにこれは唐突な問いかけだ。だが、俺も重々承知のつもりで訊いている。
何せ、歩き始めた俺の背後に“ヤツ”が気配もなく回り込み、後頭部にピストルを突きつけたのも、これぐらい唐突な出来事だったからだ。

「動くな。そして、諦めろ。お前はここで終わりだ」


289 : メガネはかく語りき ◆UC8j8TfjHw :2024/01/20(土) 22:48:24 XfqiCEws0
 言うまでもない。
絶体絶命────、私は殺し合いに乗った愚かな者の第一ターゲットとして魅入られてしまったのだ。
間もなく俺に訪れるかくも静かな、かくもあっけない終末。
ゲーム開始から数分も経ずして、荒廃という名の町に骨を埋めることになるとは、いったい俺は予想しえただろうか。
凍り付く全身にて、同じく凍り切った思考。ゆえに、俺は喉からこみ上げる冷たいモノをクールに呑みこむことしか行動ができなかった。

「ひゃああっ! むっぎゃあああぁあああ〜〜〜〜〜っ!! や、やめてぇ〜〜!! こここここ殺すのだけは勘弁してくだしゃいひょお〜〜〜〜ん!!!!!!」

 俺は焦った。
解決策を巡らそうとも、こういう時に限って大脳という奴は仕事をしちゃあくれない。
唯一してくれる思考といえば「どうすりゃいい、どうすればいい…」という脳死のリフレインのみ。まるで意味などない。
全身は氷のように固まるというのに、発汗だけは奇妙にも続けられるこの沈黙の時間はまるで永遠のように感じられたものだ。
だが、俺は突然、この事態の解決策を見出すことができた。
ヒントは背後のヤツの“声”であった。…いやあ、解決策というよりしょうもない結末と表現すべき、か。
聞き覚えどころか聞き飽きさえした声から、背後の殺し屋の正体にハっとさせられたとき。
答え合わせというようにヤツはひょっこり顔を向けてきた。

「だなーんちゃって。よっ! メガネ! ちょいとばかり驚かしすぎちゃったかなー? にひひひっ」

 俺の視界に現れたヤツの顔。
ニヤニヤと楽観的な眼に、ゆるみに緩み切ったその口はまさしく『マヌケ面』である。
 紹介しよう。
ピストルのヤツの名は、我が友引高校の級友にして、俺と同じし下駄履きの生活者“諸星あたる”である。
冷静になった今、振り返れば、友垣との再会ゆえにこの時、多少喜びのアクションをするべきだったのかもしれない。
しかし、一時の極限状態から解放されたあの瞬間、そのようなことなど果たしてできただろうか。
怒りに駆られた俺は、あたるの隙だらけでアホな首に腕を掛けると、そのまま羽交い絞めへと正義の鉄槌を発展するのであった。

 鶏が絞められたような声が、商店街を突き抜け醜き殺し合いの島全土、はたまた遥か上空の星空まで響き渡る。
そうそう。先ほどの『天才が一番頭脳戦で恐れている相手』は誰なのか、という問いの答えはまだ言っていなかったな。

──答えは『何も考えていない人間』。
すなわちアホだ。



☆ ☆ ☆ ☆

うる星やつら☆BATTLE ROYALE
「の〜てんきに深夜食堂だっちゃ!の巻」

☆ ☆ ☆ ☆



「ぐえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!! たんま! たんまっ…! ギブアップ!!」

「おのれのその行動は今この場じゃ冗談にならんのじゃい!! この〜〜〜〜〜っ!!!」

「おれが悪…ぐっええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

 あぁ!やかましいわっ!!…あぁ、失礼。
ヤツの顔が青白くなってきたタイミングで解放してやったが、かくして俺はこの諸星あたるという同行者とファイナル・ウォーズのスローライフを送ることになった。
いやはや、それにしても恐れ入ったものだ。
俺のあたるに対する印象といえば能天気な軽薄バカなのだが、この生死が係る緊急事態でもしょうもない冗談を放てるような人間だとは。
ヤツの大胆不敵さはもはや大物の域に達しており、デスゲームという強大なインパクトにただ震えるのみであった凡人の俺からしたらもはや甘美な人間ですらある。
天才的なあたる様ここにあり──、と、まあくだらん皮肉はこれくらいにしておくとして。
 我々学ランたなびかせる男二人組は、取り敢えずこの薄暗い商店街を歩き回ることとした。
嗚呼、それにしても眠気が酷い。
それもそのはず。今や時刻にして、既に草木も地上波番組も眠る丑三つ時。──我々を無機質に見下ろす商店街の時計が、そう伝えている。
ファイナル・ウォーズさえなければ今頃は心安らぐ屋根の下、盗んだとて誰はばかることもない羊の毛を集めてできし暖かいお布団。
傷付き疲れた戦士のかりそめの休息中であったものを。まったくもって…。


290 : メガネはかく語りき ◆UC8j8TfjHw :2024/01/20(土) 22:48:41 XfqiCEws0
「眠そうだなぁあ〜? メガネよぉ」

「あぁ〜? そりゃ当然だろう。ド深夜なこともさることながら、さっきの緊張感から解放されたことによる身体的疲労もあるわけだ。キサマがかけた無用な緊張がなッ!!」

 ふわあぁあ、ぁあ……。
目から新鮮な涙が汲み上げられる。
『食べる』・『喋る』・『呼吸をする』と一人で何役もこなす重労働者の我が口は、『欠伸をする』という何の意味を為すのか理解できぬ仕事を遂行するためガバっと大きく開きあげられた。
眠い…。どうせ死ぬなら願わくば、こうやって眠るように逝ってみたいものである。

「さ〜て、そんなメガネくん。果たして“これ”が目に入っても眠くいられっかなあ〜?」

「…ぁ、あ〜?」

 馬鹿丸出しのトーンで放たれるヤツの声。
面倒だった俺は適当に相槌を打つのみであったが、“これ”というのがやや気になったので寝ぼけ眼で隣を見ることにした。
そして、目を丸くした。

「おおっ?! こ、これは中々すごい……!」

 丸くなった俺の目は、眼前に広がるその光景に右往左往しては大きく拡大縮小を繰り返してと、しばし愉悦に浸ったといえよう。
神秘的な物は常に、謎で包まれている。先人たちはその謎に『ロマン』という名前を付けた。
嗚呼、肉付きのいい彼女の陰部部分を雑に塗りつぶす黒い線…。果たしてその黒線の奥には一体どういったロマンがあるというのだろうか。
亜麻色のなびた髪が、彼女の裸体を優しく包んでいたがそんなこと俺にはどうだってよろしい。
豊満でグラマーな腰回りとラインのきれいなヘソ周り、そしてなんたる形のきれいな美乳であろうことか。キャベツ大の胸のムッチンプリンさ、そして小さな乳輪に、俺の鼻息は一℃・二℃と熱をおびていくのであった。
冷め渡らぬ興奮。チンポコも大層喜んだ様子でズボンをぴょんぴょんと跳ね飛んでいるからこりゃ祭りだ。
しかし、哀しきかな。この全裸のけしからん姉ちゃんは『写真』という雁字搦めにされて、そのプニプニと柔らかそうな体を俺は到底触れることができないのだ。
俺は今、あたるから“ビニール本”を受け取り読んでいる。
日ごろ、平凡パンチという子供だましのいやらし本で泣く泣く妥協している男子高校生の俺にとって、目の前の写真集はまさに日の丸弁当の米上に乗っけられたA5ランク米沢牛ステーキと言えような……。

「って、あたる。キサマこれどこから持ってきたんだ…?」

「どっからって? あそこの本屋から盗ってきた」

「…は?」

「だぁ〜い丈夫だって! バレないバレない。店員いね〜ワケだったしさ! それにおれら万引きなんかよりもやばい罪強要させられてんだし、いいだろうがよ」

 ヤツが指を指すは消灯しきった真っ暗な古本屋。俺ぁ呆れて声も出なかったね。
殺人罪を犯すことを支持されている我々八十人一同ではあるが、この無法地帯にて、ここまでしょうもない軽犯罪が我先に行われたとはいったい主催者諸君誰が予想しえたであろう。
驚くべきことに、この程度の低い火事場泥棒の戦利品はエロ本のみにあらず。
あたるはデイバッグからポテチだの炭酸飲料だのファミコンだの女子制服だのと、商店街に微妙な経済ダメージを与えた証拠品を次々と取り出して見せた。
いやはや、能天気のしだすことは末恐ろしい。本当に怖いのは、有能な敵でも無能な味方でもなく、無能なバカであることを再認識させられる俺であった。

グーーーーーーーーーーッ

「つ〜か、腹減らね?」

「…………なっ。キ、キサマ…。」

 さらに驚くべきことに、ヤツの能天気な発言は留まることを知らないのである。
こやつは今、殺し合い中であるということを認識していないのかッ?!
うっかりアクビなり勃起なりをしてしまった俺が言うのも説得力がないかもしれんが、あたるはなんて現状の把握に足りてない男だ。
さすがは県内中のバカ大集合高校・友引が誇る神童、ここにありだ。
っかぁ〜〜!…緊張感が全く足りておらん。
──ここはクラス委員長を務めあげた友引まとも代表・この俺が自らの弁舌を以って事態の恐ろしさを伝え挙げねばなるまい。

「あのなぁ…、諸星。おまえが頭花畑の楽天家ードマンなことは重々理解してるがな……。今は本当にやば…………」

 俺の台詞はここで途切れさせられた。
何せ、ヤツは一目散にバカラッバカラッと、食堂店がありそうな方向にガニ股で走っていったのである。
呆気に取られてポツンと一人、道の真ん中に立ってしまった俺。
静かな恐怖で漂うこの街にて、俺はやれやれ…と冷静さを保ちながらも、あたるの背中を静かに追いかけるまでであった。


291 : メガネはかく語りき ◆UC8j8TfjHw :2024/01/20(土) 22:48:56 XfqiCEws0
「んっぎょあぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜! ま、待て待て待ってあたるぅ〜〜〜〜!!!! 俺を一人にしないで助けてええぇっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」


☆ ☆ ☆ ☆


──罠か?

 商店街をくねくね幾度も曲がって辿り着いた先は、中華街。

──ワナか?

 当然ながら、どの店も明かりを消し、営業終了の意を表明していたのだが。
奇妙なことに、無人のオーラをものともせず、一軒だけまばゆい電気を窓から漏らす店がある。

──わなですか?

 シャンシャン、シャンシャンッ。
何を炒めているのであろうか、中から中華鍋を振るい具材を調理する音が我々がいる店の外でも聞こえる。
そう、店内には間違いない。恐るべきことに、『参戦者』の一人がまさにいるのである。
店の扉のすぐ近くに設置されるガラスケース。その中には炒飯に、やれチャーシュー麺、餃子定食に酢豚定食と食品サンプルが枚挙にいとまがない。
嗚呼、油の香ばしいかおり…っ。
何を作っているのだろうか。日ごろ冷めた弁当やショボい喫茶店のコーヒーで飢えを凌ぐ苦学生の我々にとって、我慢ならぬ食欲の匂いが、扉からこぼれだしているのだ。

──Is this a trap?

「ま、罠だとしたら中の参戦者は相当バカだな。(あたる、キサマ級のな。ゴニョゴニョ)。触らぬ神に祟りなでしこ、とはこの事。さ、行くぞ。オイ」

「えぇ〜っ? おれメチャクチャ腹減ってんだけど」

 俺は断言する。
汚れがこびりつくやや傾いた看板曰く『店名:後楽園』とのこの店は、明らかに入ってはいけない禁忌の建物であった。
涎を禁じ得ないこの香りの飲食店ではあるが、状況が状況だ。店のマスターが殺しに乗ったイカレポンチという可能性が大きすぎる。
その場合は、料理の匂いで他参戦者をおびき寄せるという、まぁ、アホな作戦で殺人計画を立てていることになるが。いぃや、貴様はチョウチンアンコウかァッ?!
笑止、一決。
頭最悪のあたるは当然気付かず駄々をこねていたが、俺はこんな自殺行為する気などない。
奴の襟首を引っ張ってでも、この場からひとまず離れることにした俺であっ……、

 カラン、
  カラン────。

「うい〜〜っす。二名! おれの他に連れが一人いるから。にひひひひ!」

「おっ、らっしゃーい! 席は十分なくらいに空いてるよ」

 …うむ。
想像の苦手な一部諸君(=バカ)に向けて分かりやすく説明すると、だ。
まずあたるは、一バイトの思考も働かせずに店の扉を開いた。
ドアと、飾り鐘の音で来客に気付いた店主は気安く接客の挨拶をする。
おまけに、あたるのヤツは『二名いる』、と。──俺の存在を店主に明らかにしたと共に、俺がこの怪しい建物に入ることを余儀なくさせたのである。
え?入らず一人で逃げろよ、だって?
……嫌だよ、一人とか怖ぇだろうが。

「っなぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!! この大バカ者がッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!! ふざけるんじゃないぞ、あ・た・る某がぁぁあああぁあっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!」

 俺が絶対飼いたくないペットランキング・第二位ぃっ!!「イヌ」!
理由はバカだからぁっ!!
畜生っ…かぁ〜〜〜っ!仕方ないっ。後先考えず地雷地帯へと入ったバカ犬を連れ戻すべく、俺も店内へとドタドタ足を踏み込むのであった。


292 : メガネはかく語りき ◆UC8j8TfjHw :2024/01/20(土) 22:49:22 XfqiCEws0
 さて、かくして油臭い処刑室へと乗り込んだ俺であったが、店内の様子はというと…。どういったわけか。
まあ順を追って描写説明をするとしよう。
歩き回れるスペースが非常に限られている狭き店内の床は、白いタイルに黴のような黒ずみがこびりついている。
銭湯の床──仕事疲れの汚れた土方作業員たちが裸足で踏み歩くそれとほぼ同等だ。
そんな年季の入った床にお構いなしと並ぶ小さなテーブルや椅子は、樹の腐乱死体がごとく茶色に淀み切っていて、いくつかは修理を必要としているようだった。
壁にかかる中華絵画も、くすんだ色合いとぼやけた線が、まるで過去の栄光を物語っているよう。
赤いカウンター席もボロボロのクッタクタで、小汚い店にふさわしいマヌケ面の学生が一人、ニタニタと座っているのみであった。
おっと。カウンター上にて何が通り過ぎたかと思えば、ゴキブリとドブネズミが走り回る。殺しなんてなくても店主はいずれは食品衛生法で捕まること待ったなしだろう。
 と、まあ、長々と店内の汚れっぷりに割いてしまったが正直言ってどうでもいい。
話はここからだ。
究極で完璧なアホあたるを力づくで引っ張る俺であったが、ふと、どうにもヤツの視線が気になって仕方なくなった。
ニタニタニタニタ…とすけべ精神丸出しの面で見ている先は、換気扇がわめきうるさい厨房にて、肉切り包丁を両手に振りまくる店主。
切っているものは既に殺めた者の肉体か…?と恐れながら邪推する俺であったが、直後その姿を見て驚くまでであったのだ。

「え…? 女?」

「おっ、いらっしゃい! キミがお連れさんか。まー、すぐ出来上がるからちょいと待っててくれ」

 そう、店主はお姉さんであった。
女性特有の艶のある綺麗な声で話しかけられ、うぶな俺は心臓の高鳴りを隠し切れまい。
カウンターから見える黄色いその金髪、さわやかな笑みの表情が非常に眩い。
割と長身なその体に、エプロンというか弱き布一枚じゃ隠し切れないボインゴオインゴな谷間。
そのおっぱいパイパイ輸乳船な姿に、妙な既視感を覚えたが、先ほど拝読したビニール本のヌード女優、その人を彷彿とさせる美貌であったことを思い出した。
勝手に、アホ殺し屋店主=オッサンと脳内保管してしまった俺と諸君ではあるが、男子厨房に立たず。
おねえちゃんが今中華鍋片手にシャンシャンッと調理していたのである。

「って、お前なに席座ってんだよ」

「────ハッ!! しまったしまった! この俺としたことが、年上の女というだけで気を許しあまつさえ腰をも据えてしまうとはァアッ!! …悔しいが、これが俺ら男の宿命ってやつだ。なあ、あたるよ…」

 あたるのヤツに指摘されるまで、自分がぼろい丸椅子に座っていることを気づけなかった。
そう、気づけば俺は頬杖をついて厨房の向こうの彼女の虜にされてしまっていたのだ。
無念の極み。思わず涙が出てきちまう…ことはなく、おそらく今自分はあたる同様のスケベ面で鼻を伸ばしていること間違いない。
ブロンド髪の爆乳店員ちゃんが、さきほど俺に向かってウィンクと共に発した「ちょいと待っててくれ」。
これが、料理を待てなのか死を待てなのかは意図不明であるが、あれだけ警戒をしていた俺をここまで射止めるとは。
絶命の恐怖さえも打ち消す女特有の魔力に、痺れるばかりである。

「はいよっ! おあがりよっ! 餃子定食二個!」

 そんな中、彼女の声が店内に響き渡った。
ドンッ、と机上に叩きつけられた皿の数々に、ぬけまくった顔をしていた俺ははっとさせられる。
ホカホカと立ち昇る湯気。
並ぶ料理は大皿にギョウザ八個と、サービス精神満点の山盛りご飯のみ。シンプルな定食だが、腹を満たすための陣容は整っている。
要するにギョウザ奴はこうアピールしているわけだ。
「ここは俺による俺の為のステージだ。どうぞこの俺でメシをかきこんでくだせえ」とな。
皮の中に包まれし肉汁の匂いが、食欲を異様にそそらされる。恐るべきクオリティ。
皮の食感。そして、餡の野菜と肉の調和が表現されたジューシーさに今すぐ酔いしれたい気持ちでいっぱいであった。

 しかし、だ。
敢えて何度でも言おう。これは罠である。
『美しい花には毒がある』、とは先人たちも上手く表現したもので、美しいお姉ちゃんの手料理であるこの餃子も料理のようで非ず。我々を抹殺するための武器にすぎぬのだ。
なにっ?疑心暗鬼になりすぎ、とな?
馬鹿も休み休みの週休四日制で言ってほしいものである。
ならば、この姉ちゃんは殺し以外の何の目的があってこの餃子屋を営んでいるというのだっ。単なる慈善奉仕の為か?あまりに馬鹿げている。
殺害遂行──罠以外に行動理念など到底思い浮かばないのだ。あぁ、断言できるよ、罠なのだよ。


293 : メガネはかく語りき ◆UC8j8TfjHw :2024/01/20(土) 22:49:37 XfqiCEws0
 だが、今俺は大きな難問に直面している。
哀しい運命だ。俺は罠と分かっていながらこの餃子を食わねばなるまいのだ。
まるで、負けると分かっていながらリングに立った対モハメド・アリ戦のアントニオ猪木の如し憂事の戦である。
 この際、餃子への食欲とかは置いておくとしよう。
諸君らは、たとえ口に入れるだけで吐き気を催すような不味い料理であったとしても、自分の母ちゃんが作った夕飯を手を付けず残すことはできるだろうか。
勿論できやしまい。
そう、残せないんだよ。同じ軒の下で住んでるだけのほうれい線目立つ太ったおばんにさえできぬのだから、こんな男の理想ともいえるナイスバディの餃子姉ちゃんに食べ残しなどとは……できるとしたら禁欲極めし聖人君主のみである。
これは男に生まれてしまったが故の性だ。くっ…もしも店主が男ならば今頃ギョウザなど床に叩きつけて臨むところ闘抗の限りを尽くしたであろうに……。
と、長々と理屈を書いたが、しかし、食いたくないのも事実だ。だって毒殺されたくねェんだもんよォっ!
かれこれ、ひたすら迷い箸をすることで時間的解決を求める俺であるが果たしてどうすべきであるか。
そう、難問だよ、これは……。
ふと、俺は隣の相棒の様子をチラ見した。

「うっま! うめっうめっ! うめっ! ガツガツガツ! 姉ちゃんコメおっかわりー!」

「お前飢えてんなぁ…。ま、喜んでもらえるだけ私はありがたいよ。はいっ、ドンブリライスもう一丁ォーっ!!」

 …汚く食い散らかしよって。
うん、馬鹿が毒見役をしてくれたお陰で、安心して食えることになったな。やれやれ、『薬屋のあたるごと』様様だよ…。
割り箸をクルっと、持ち変えた俺はさっそくアツアツ餃子を一つまみ。
飛び出る肉汁の脅威を頭の片隅に入れつつも、そいつを口の中に放り込ませて頂いた。


「────────────────────────なななな、なぁああっ??!! こ、これはぁっ…!?」


 その餃子を噛み締めた途端、俺は全身に稲妻が走った感触に襲われた。
人間が体感できる限界近くの『美味さ』を口にしたとき、全身は本能的に痺れるということを学んだ瞬間である。
この味について淡々と語ることはもはや冒涜に近い。俺の弁舌を持って、以下、直接味のすばらしさを表現させていただく。


「美味いッ! 美味い、旨すぎる!! す、すごいギョウザだ! 止まらないッ!! 手を付けることを躊躇した故、ギョウザはやや冷めているはずなのに…何故か中のスープが熱いッ!!」

「うおっ! …おい、眼鏡の彼…いきなりどうしたんだ?」
「あ〜〜〜、まっ語らせとけ。よくあることだ」


「続いて、肉、シイタケ、タケノコのゴロゴロした食感よッ! そして、ネギとショウガ…いや、待て。こいつは〜…、もしや隠し味に大葉を使っているなッ?!! シャキシャキとした歯ごたえと香りがこれまた秀逸の極みであるッ!! うあぁああわああ!!!」

「おうおう止まんねぇ〜なっ!」
「シャブでも食ったのか? って勢いだな…」


「ガツ、ガツ、ガツ、ガァツ!! 美味の極みッ!!! こんなギョウザが存在したなんてッ!? このギョウザは間違いなく脳を破壊するッ!! もはやこれは神への挑戦ッ! おいおい…なんだこのギョウザは……。このギョウザを作ったのは誰だァアぁああっ!! 女将を呼べえぇっ!!!!!」

「あはっ…、女将は一応私だ…!」
「おのれは一々話が長ッぇ〜〜んだよ!!」


 いやはや、なんとも素晴らしい。
口内にて、ギョウザとは違うなんだか塩辛い味が満たされるなと思っていたらそれは涙であった。
感涙を禁じ得ない。
 俺は買い食いが好きだった。
それは、おふくろの作るメシが料理のいろはもない酷い不味さであることが起因する。
買い食いの店でも、特にタコ坊主のオヤジが経営する中華屋のギョウザが好きで、授業を抜け出して食う背徳感と、友と食の有難みを共有する青春がいいスパイスになって舌を愉悦に躍らせたものだったが。
すまねぇ、中華のオヤジ。
あんたのギョウザはこれに比べりゃカスだよ。

「あぁ〜〜〜〜っ!! 美味すぎるぅっ!! 俺はもうどうにも止まらないっ…、おかわりを…おかわりをくれェエいっ!! ガツガツガツガツ!」


294 : メガネはかく語りき ◆UC8j8TfjHw :2024/01/20(土) 22:49:52 XfqiCEws0
☆ ☆ ☆ ☆


 あれから暫くして、俺らは今、無人の住宅街を歩いている。
足音はその空洞となった通りに響き渡り、歩く者は影となって月明かりを追い越していく。
不意に、星空を見上げてみる。
嗚呼…無数のギラギラとした輝き様よ。まるで、醬油とラー油・酢を混ぜしつけダレ小皿に浮かぶ餃子の油のように。

「ぐっ、ゲェ〜〜ップ…」

 にしても俺としたことが食い過ぎてしまったものだ。
あれからメシ三杯にギョウザ五皿、申し訳程度にトクホウーロン茶一杯で身体への配慮をした後、メシ二杯ギョウザ二皿…、なんだ俺ぁアフリカの孤児かッ?!
まあ一つだけハッキリ言えることは、これだけ腹に入れたというのに未だ毒死していないのだから俺の疑心暗鬼は無駄な杞憂だったというわけだ。中毒にはなっているが。
しかし、まもなく訪れる血糖値急上昇による爆睡が恐ろしい所。
寝ている間に襲われてお星さまになるだなんて、俺は御免だ。
…最も、こいつはどうかは知らんが。

「へっへ………んにゃ……に、“ニカイドウ”ちゃあ〜〜〜ん………………」

「えぇいっ、やかましいわい! ドサンピンがっ!」

 俺は今、息がきれきれだ。
なにせ、能天気に寝言をほざくあたるのヤツを背負って歩いているからだ。
逆に言い換えれば、この重労働のお陰で俺は眠らずに済んでいるといえようが、感謝の思いなど全く湧かんぞっ。
何が悲しゅうてこんな性格最悪・顔下劣・経済力皆無の性獣を抱えねばならぬのだ…。
 俺は奴のアホ面を見てみる。
おうおうっ、目はバッテン、xマーク。頭の中はくるくるとお星さまを回しおって。
長い長い『気絶』だことだ。

「ニ、ニカイドウ、ちゃ〜〜〜〜〜〜〜ん………、俺が代金払う…よぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん…………………」

 ニカイドウ…────、とあの時、店員の金髪娘はそう名乗った。
以下、回想。
餃子に拒絶反応を示すくらい満腹で、アフリカのガキのようにポッコリ膨れ腹を出した俺たちが、食後、名前を聞いたのである。
消化に時間がかかり動けないこともあり、談笑は花が咲きに咲いたものであった。
互いの自己紹介、ファイナル・ウォーズについての軽い考察、元いた街についての話し合い……、どれもこれも興味深いものであったが、中でもあの質問の答えが俺の中で印象に残る。

『えっ? なんで能天気に餃子なんて焼いてるんだ?、って?』

『そうとも。失礼ながらニカイドウちゃん、能天気の極みここにありってもんだ。今は殺し合い中なんだぞ? 何の目的があってこんな飲食店なんてしているんだ? 俺ぁそう言いたいね』
『おいメガネっ! なんだよ“ちゃん”ってよっ! お前!』

『…ははっ、まあ、アホな考えの元やってるのさ。あまりバカにしないで聞いてくれよ?』

『ほう…、というと?』

 彼女は一テンポ、間を置いてから語りだした。

『私の“友達”は一言目にはギョウザギョウザとうるさい程の餃子好きでね。それも大葉の入った奴じゃないと食わないようなアイツなんだ………』

 思い出話を話すようにしみじみとした口調であったが、ニカイドウちゃんの顔はどこか悲しげであったように俺は見えた。
彼女はその友達の話を始めた時から、俺らの方に顔を向けてはいない。
ならば何処に視線を落としていた、かと言うと、両手に持つどこから取り出したのか油じみがポツポツと付着する謎の白い紙にである。
俺はそいつがなんなのか覗き込んだ。
ごちゃごちゃと色々細かい字が印字されていたが、上部分にはっきりと題名が。「【参戦者名簿】」と記載されていることは確かに読み取れた。

『そんなアイツが今、殺し合いに参戦させられている……』

『な……、そ、それはそれはニカイドウちゃん…………』

『まあ正直言って心配ないヤツではあるんだが…。ともかく。私はアイツの好きな餃子の匂いを焚き付けてれば、再会できるんじゃないかな、ってそんな思いでやってるわけだよ』


295 : メガネはかく語りき ◆UC8j8TfjHw :2024/01/20(土) 22:50:05 XfqiCEws0
 ニカイドウちゃんは、そんなドラマチックな営業理由を語って見せたのだ。
成程、さしずめこの中華の匂いはのろし代わりというわけである。
いや…それにしても…。
彼女とは反対に、図らずしも全く求めていない友との再会をゲーム開始早々に成し遂げた俺であったが、なんと気が重いことだ。
なにせそんな友の帰りをひたすら待つ看板娘の事情も知らずして、罠だの毒だのとさんざんな偏見を持っていたのだからなぁ、この俺は。いやあ俺ァ殴りたいよ、自分を…。
おちゃらけムードをかましていたこれまでの我々だったが、あの時のあの店内は神妙な雰囲気で満たされていた。
さすがのあたるのヤツも、ニカイドウちゃんの言葉に何か思うものがあったようだ。
シリアスな面持ちで、カウンターのただ一点をただ見つめる様子でいた。
暫くして、あたるは口を開いた。
曇った表情で、俺にボソリボソリ…と自分の今の心情をはっきり吐露したのである。

『…おう、メガネよ……』

『むっ、なんだァ…? お前がそんな面するなんて珍しい…』

『おれ今金ねェんだけどさ……、お前ぇ財布持ってる? ど、どしよっかな〜? こんだけ食っちゃって』

 あぁ、そうだった。こいつはバカだった。
あたるというアホからしたら殺し合いなんてそこぬけどこぬけどうでも良しなのだろう。
さんざん商店街で万引きまがいをしておいて、今更食い逃げの心配をしている点もポイントが高い。
呆れはすれどもあいにく当時ツッコミをあげる体力はなかった。
あたるよ、とりあえずシンプルに一言。一回でいいから死んどけェい!キサマはッ!!

…あっ、一応言っとくが普通にニカイドウ店は金払わなくて済んだ模様であった。涙ぐましいボランティア精神なことだ。


 ともかく、一通りの情報交換を終えた我々はニカイドウに別れの挨拶をしたのち退店を始めた。
無用な長居は店主への迷惑だ。それに、運動がてらのブラブラ歩きで消化の援護をしたいという考えもある。
俺らは今、あたるを引きずって、目的もなく白い息を吐きながら歩き続けている。
どこまでも、どこまでも。──彼女は、今もなお、あの店の灯りを消すことなく待っているのであろう。
ニカイドウちゃんにこの目を回すあたる、そして俺までもがこれからどういう運命を辿っていくのか一切予見すらできない。
しかしそれがどうしたというっ?
俺たちは、この殺し合いに選別されてしまった八十人余りは長い長いロードをただ進むのみであるのだ。
嗚呼、選ばれし者の恍惚と不安、共に我にあり。
我々が、この混沌の極みともいえる群像劇<ファイナル・ウォーズ>の一員と認識した時、めまいにも似た感動を禁じ得ない────。



 ん?
ところで何故あたるのアホは気絶しているのか、って?
それは回想すること数分前。

『ニカイドウちゃーーーん!! 代金払えないからとりあえずおれのキスで我慢してくれぇ!! うひょっひょお〜〜〜〜っ!! とりあえずその大きな胸のマッサージをぉ〜〜〜〜!!』

『なっ…?! はぁ!?』


『メガネ! 先駆けさせていただくぜ〜! 好きだぁあ〜〜〜〜〜! 結婚じゃあ〜〜! ニカイドウ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!』

『キ、キキ、キサマなにを唐突にィッ?!! ラムちゃんという存在がありながらまさに不埒の極みッ! このお下劣動物がァアアッ!! …俺も混ぜろ!!』


『ふ、ふざけるなァーーーーッ!!? イカれてるのかキミはァーーーーッ!!』


 別れ際、唐突に彼女のあのやわらかなお胸に飛び込んだケダモノであったが、あれはまさに刹那の出来事であった。
風に吹かれる砂のように逆方向へぶっ飛ばされていくあたるの身体。直後、ボロそうな壁にヤツは激突し、ひび割れを起こしてめり込んでいく…。
驚くべきことに、ニカイドウちゃんが奴をこうも軽々蹴っ飛ばしたらしい。


296 : メガネはかく語りき ◆UC8j8TfjHw :2024/01/20(土) 22:50:24 XfqiCEws0
『なっ?! あ、あたるぅ〜……!! ヒッ! ヒィイイィガガガ…!! ニ、ニカイドウちゃん…君はなんて馬鹿力…っ!!』

 そう、彼女は拳法使いらしく、我々一般人と違い立派なバトルロワイラー<戦闘者>であったのだ…。
呆れてため息をもらす金髪姉ちゃん。
あぁ、俺も呆れたよ。いちいちこの出来事を説明するのも馬鹿馬鹿しいぐらいだ…。

 とまあ、俺からはこのあたりで。
一旦、話は終わらせて戴く。



☆ ☆ ☆ ☆
メガネ著 殺合全史第一巻「餃子を越えて」
序説第三章より抜粋
☆ ☆ ☆ ☆




【D6/商店街/ニカイドウが不法占拠した中華屋『後楽園』/1日目/深夜】
【メガネ@うる星やつら】
[状態]:満腹、疲労
[装備]:未確認
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:死だけは御免だ
1:あたると同行。おっお〜いっ、しっかりしてくれよ〜!!
2:ニカイドウ、怖っ!
3:常に周りに警戒。

【諸星あたる@うる星やつら】
[状態]:気絶
[装備]:ガスの銃@アニメ星のカービィ
[道具]:食料一式(未確認)、商店街から盗んだ物(ポテチx3、ファミコン、モンエナx5、セーラー服)
[思考]基本:女を追っかけまわす
1:へっへへ〜〜、ニカイドウちゃあん〜

【ニカイドウ@ドロヘドロ】
[状態]:健康
[装備]:厨房スタイル、肉切り包丁@ドロヘドロ
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:餃子屋を営んでカイマンを待つ。
1:なんだこいつはっ!
2:餃子の匂いでカイマンをおびき寄せたい。話はそれから
3:殺しに乗ったクズ(とバカ)は叩きのめすっ!
※参戦時期はアニメ終了前のどこかです。


297 : ◆UC8j8TfjHw :2024/01/20(土) 22:51:50 XfqiCEws0
投下終了です

心先輩、アスカ、ねずみ男で予約します


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302 : 名無しさん :2024/04/26(金) 15:03:48 QFA1IGSU0
テスト


303 : ◆UC8j8TfjHw :2024/07/01(月) 22:12:50 o.ixNics0
初めに予約超過申し訳ございません。
企画者の一身上の都合によりシンアニロワは打ち切りとなりました。
大変申し訳ありませんがご理解お願いします。


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