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オリロワZ
【この企画について】
ゾンビだらけの村を舞台にしたオリジナルキャラクターによるバトルロワイアルです。
【wiki】
ttps://w.atwiki.jp/orirowaz/
【したらば】
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/16903/
【地図】
ttps://w.atwiki.jp/orirowaz/pages/10.html
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某月某日、21時48分。
中部地方を震源とする震度7の大地震が日本列島を襲った。
日本中が混乱に包まれ、多くの都市が甚大な被害に見舞われた。
岐阜県の北部に位置する山折村も、その被害に見舞われた村落の一つであった。
山折村は山々に四方を囲まれた盆地に出来た小さな山村だ。
1000人に届かない程度の人口で、林業と農業で生計を立てている典型的な田舎町である。
そんなどこにでもあるような田舎町は今、外の世界から分断され陸の孤島と化していた。
四方を高い山々に囲まれる山折村にとって、外界への唯一の出入り口となるのは南の山に掘り進められたトンネルである。
そのトンネルが地震によって崩れたのだ。
取り残された村民たちはいつ崩れるとも分からない我が家で不安を抱えながらも、翌朝の救援を期待して眠れぬ夜を過ごしていた。
だが、日付も変わろうという深夜の事だった。
『…………聞こえ……るだろ……か…………』
そのノイズ交じりの声が村中に響いたのは。
その声は村の中央にある古めかしい屋外拡声器から響いているものだった。
屋外拡声器は地震によって支柱が撓んでいるが、辛うじて機能を保っているようである。
『……被災した最中で未だ混乱した状況であろうが…………どうか聞いてほしい……私は起こしてしまった事態に対して…………一人の人間として……せめてもの責任を果たしたい』
それは何処か切羽詰まった、何かに追い詰められているような男の声だった。
拡声器の不調か、はたまた別の理由も含まれているのか。
声には多くのノイズが入り混じり、その声の主が誰であるかは知り合いであろうとも特定は困難だろう。
『我々は……秘密裏にこの村の地下で……とある研究を行っていた。この村は……いや、今となっては経緯などどうでもいいか……。私も……何時どうなるかわからない。私が私であるうちに……起きてしまった事態だけを手短に伝えよう。
『……先ほどの地震により……研究施設の一部が破損しているのが確認された。そこから……我々が研究していたウイルスが外に漏れ出してしまった……。
ウイルスは空気感染によって伝播する…………既に村中に広がっているだろう。致死性のものではないが……研究途中の未完成品であるため人体にとって有害な副作用があり…………脳と神経に作用して人間を変質させる性質を持っている。
殆どの住民は正気を失った怪物となる…………それこそホラー映画のゾンビのように。恐らく0時を待たずして……この村は地獄となるだろう…………。
『だが、ウイルスに適応し正気を保っていられる人間も必ずいるはずだ……その生き残りのために……僅かでも希望を残すべく解決策を提示する。
『……ウイルスには全ての大本となる女王ウイルスが存在する。女王は1人にしか感染せず、周囲のウイルスを活性化させ増殖を促す役割を持っている……。
これを消滅させれば……自然と全てのウイルスは沈静化して死滅する。正気を失い怪物となった住民も……多少の後遺症は残るだろうが…………適切な処置を受ければいずれ元に戻るはずだ……。
『…………肝心の女王感染者の所在だが…………女王はその維持に宿主を必要とする……そして……宿主は適合者である必要がある…………つまり、正気を保った者の中に女王感染者がいるはずだ……。
宿主が死亡すれば……女王ウイルスも共に死滅して周囲への影響は停止されるだろう……女王感染者を見つけ出し殺害する…………それでこのバイオハザードは解決されるはずだ…………残酷なようだが……それが全てを救う唯一の解決策だ。
躊躇いはあるだろうが…………それを成す力が君たちにはある。
『だが…………残念ながら誰が女王感染者であるかを……事前に調べる方法はない。
健康保菌者の誰かが死亡した結果……事態が解決するかどうかの結果論でしか成果を知る術はないだろう…………。
研究施設で精密検査を行えば判明するのだろうが……そんな設備も時間的余裕もないのが現状だ。
『そう、時間がない。何故なら……バイオハザード発生から48時間以内に事態の解決が見られない場合…………証拠隠滅を兼ねて住民を含めたこの村の全てが焼き払われる……とういう取り決めになっている。
恐らく……既に隠滅用の特殊部隊により周囲は封鎖されているだろう。…………山越えをしたところで逃げられまい……処分されるのがオチだ。
だからこそ……そうなる前に生き残った住民たちによる自主的な解決を期待したい。
『…………ああ、意識が薄れてきた……どうやら私は適応できなかったようだ。
これを聞いている誰か……勝手な願いであることはわかっているが…………最悪な結末を迎える前に……どうか事態を解決してほしい……。
それだけが……私の望み……だ――――ガガガッ――ジジッ―――ガッ』
不愉快なノイズと共に放送は途切れた。
果たしてその声を聴きとどけた者がどれほどいたのだろうか。
その声が託したのは希望か、あるいは絶望か。
天からの声が途切れる頃には長閑だったはずの山折村の夜はすっかり様変わりしていた。
地震によって崩壊した村中を徘徊するのはゾンビのように正気を失った村人である。
正気を失ったようなうめき声が響き渡り、平和だった田舎町は阿鼻叫喚の巷と化す。
そこには顕現したこの世の地獄があった。
同日、23時17分。
都内某所。大学病院にて。
塩化ビニルの白い廊下に重々しい足音が響いていた。
足音の主はおよそ病気などとは縁遠そうな、病院という場所に似つかわしくない屈強な男だった。
男が身に纏う制服は自衛官のそれであり、眉間に刻まれた深い皺と刃のような鋭い眼光が男の超えてきた修羅場の数を知らせていた。
日本国内で地震などの大規模な災害が発生した場合、自衛隊による災害派遣が行われ迅速な救助活動が開始されるのが常だ。
だが、彼――奥津3等陸尉の所属する部隊に下った命令は救助活動ではなく別の任務だった。
その任に従い訪れたのが現地ではなくこの病院である。
「真田。今回の件、聞いているか?」
視線を前にやったまま、興津が背後へと問いかける。
四角に区切られたような廊下に木魂する足音は奥津の物だけではなかった。
彼の斜め後ろに追従するのは彼の補佐官である真田准陸尉である。
軍人然とした奥津と違い真田は線の細い優男で、知的さを漂わせる外見は武官というより文官と言った風である。
真田は上官からの問いに人気のない夜の病院を早歩きで進みながら応じる。
「いえ、バイオハザード発生による被害の拡大防止と機密情報漏洩の防止とは伺っていますが詳しくは。
現地の被害状況やウイルスの具体的な情報までは降りてきていません」
「そうか」
任務の詳細すら聞かされていないが、穏当な事態ではない事だけは互いに理解していた。
何故なら、彼らの所属する部隊は陸自の誇る特殊作戦部隊(JGSDF SOG)から更に別れた、表立っては存在しない秘密特殊作戦部隊(SSOG)なのだから。表に出せないような多くの汚れ仕事をこなしてきた精鋭中の精鋭である。
彼らにお鉢が回ってくる時点で特級の厄物。
今回の件もそういった類の物なのは間違いないだろう。
「これから研究者と話ができるとの事ですが」
「そうだ。責任者が都内にいるらしいので幕僚長に取り次いで頂いた。いつ降りてくるとも分からん資料より直接聞いた方が早い」
機密情報に塗れた黒塗りの資料よりも、直接話を聞いた方が理解も深まる。
直接対話によって分かる情報もある、というのが奥津の判断だ。
そうしているうちに二人は応接室の前まで辿り着く。
奥津が分厚い木の扉を2回ノックすると程なくして「どうぞ」という若い女性の声が返ってきた。
重々しい扉を僅かに開いて「失礼します」とハッキリとした声で言いながら入室すると、室内には既に二人の人物が待っていた。
室内には二人掛けソファーが向かい合うように二つ置かれており、上座に当たるソファーには白衣を着た老人が腰かけている。
その背後に控えるように声の主と思われる女性が立っていた。
「今回の対応指揮に当たる奥津3等陸尉であります」
「同じく、真田准陸尉であります」
規律よい動きで敬礼する二人の自衛官に女は無言のまま頭を下げる。
老人は座ったままで、まあまあと軽い調子で手を振った。
「ヤァヤァ。座ったままで失礼。なにぶん年なものでネ。ワタシは『未来人類発展研究所』で副所長をやってる梁木だヨ。ご足労して頂いてすまないネ。
普段はワタシも山折村に駐在しているンだけどネ。所用でコチラに来ていて村を離れていたのが幸いしたヨ。オット、こういう言い方は良くなかったカナ?」
梁木と名乗った老人は、皺枯れた声で捲し立てると悪びれる風でもなくカカカと笑う。
梁木はいかにも研究者然とした風貌で、枯れた枝木のような細い手足は屈強な自衛隊員とは比べるべくもない。
その額には何かの実験で刻まれたのか火傷のような大きな染みが広がっており、斜視なのか片方の瞳は明後日の方向を向いていた。
「研究員の長谷川です」
染木の背後に控えていた女性が静かな声でそう名乗り、下げた頭に合わせて栗色のミディアムショートが揺れた。
長谷川と名乗った女はこの場に似つかわしくない色香を漂わせた女だった。
白衣ではなく豊満な体のラインを強調するような小さめのスーツに身を包んでおり、研究員と言うより秘書や愛人と言った風である。
女はどこか陽気な老人とは対称的に氷のように眉一つ動かさず、その眼鏡の奥の瞳の色はどこか冷めている様にも見えた。
どちらも一癖も二癖もある相手のようだ。
そう感じながらも、奥津は挨拶もそこそこにして話を切り出す。
「非常事態故失礼ながら早々に本題に入らせていただきたい。
我々も現場で事後処理に当たる以上、機密事項もあるでしょうが隊員の安全確保のため話せる範囲でどうかご協力頂きたい」
「イャイャ。コチラの不手際の尻拭いをさせるだから、最大限ご協力させて頂きますトモ。ドウゾ。お座りになってくださいナ」
そう言ってニタニタとした笑顔を張り付けた染木に促され奥津が対面のソファーに腰掛ける。
補佐官である真田はその後ろに控え、電子手帳を開くと質問を始めた。
「では、発生した生物災害(バイオハザード)についてですが。漏れ出したウイルスの詳細について伺ってもよろしいでしょうか?」
彼らはまだ任務の大枠とバイオハザードの発生としか聞かされていない。
ウイルスがどれほどの危険度の物なのか、どういった影響を与える物なのか。それすらも把握していない。
「最初に断っておくト、我々が行っていたのは細菌兵器の研究なんかじゃないヨ。
むしろその逆、人類の発展に寄与する医療目的の研究でネ」
説明を始めた老人は、そこに在る中身を示す様に自らのこめかみをトントンと叩く。
「ズバリ、我々の研究は『ウイルスによる脳の発展と開発』だヨ」
その説明を受けて自衛官二人は怪訝そうに眉根を寄せた。
脳の潜在能力の解放、なんて話は昔からよく聞く話だが、都市伝説の域を出ない眉唾な話だ。
「それは、脳の使っていない潜在能力を解放させる、と言う奴でしょうか?」
「脳は本来の機能の10%しか使っていないってヤツ?
チガウチガウ。最近ではその辺の説も否定されつつあるしネ。ソレとは少し違うヨ」
素人質問が楽しいのか、どこか陽気な語り口で研究者は続ける。
「我々の研究は脳の既存の領域を解放するのではなく新たな領域の獲得。謂わば脳機能の拡張だネ」
「脳の、拡張……?」
「ソウ。物理的に脳を大きくする訳じゃあないヨ? 存在しない機能を獲得する。つまりは――――」
「――――博士」
これまで表情一つ変えず沈黙していた長谷川が染木の言葉を遮るように割り込んできた。
それだけを言うと、女は指先で眼鏡を上げて再び押し黙る。
言葉を制された老人はやれやれと言った風に肩をすくめると、前のめりになっていた体制を収めソファーに深く座り直した。
仕切りなおすように真田が問い直す。
「ともかく、そのウイルスが漏れ出したという事ですね」
「その通りだヨ。我々が研究していたのは[HE-028]と言うウイルスでネ。
人間を発展させることを目的としたモノなのだけどモ、何分研究中の未完成品なものでネ。悪影響を排除しきれていないのサ」
「悪影響と言うのはどのような? 具体的に感染した場合の症状を伺ってもよろしいでしょうか?」
山折村で何が起きているのか。
まだ報告でしか知らない実状を知る助けになるだろう。
博士は横の女に確認するように視線をやると女は頷きを返した。
「対象に感染した[HE-028]はまず脳に作用して新たな領域を拡大する訳なのだけど、この生成に失敗すると脳にウイルスが生み出した使えないゴミが溜まり脳の拡張どころか萎縮が引き起こされてしまう訳だネ。つまりはアルツハイマーに近い症状になる。アルツハイマーが引き起こされる原理は知ってる? 知らない? ソウ。マァ簡単に説明すると言うと結合した異常なアミロイドβが蓄積することによって脳機能が低下する訳なのだけど、前頭葉の萎縮によって思考力の低下や判断力の欠如、記憶障害や人格の変化などを引き起こされ攻撃性が増す訳だネ。つまりは理性が効かなくなるのサ。未完成の[HE-028]に感染するとこれと似たような症状が引き起こされるのだヨ」
一気に捲し立てられた説明を真田が整理する。
「……原理はともかくとして、その[HE-028]に感染すると重度の認知症のような症状が引き起こされると?」
「ソウだネ。ただし数か月、あるいは数年をかけてアミロイドβを蓄積させるアルツハイマーと違って、脳内でのウイルスの増殖は精々3〜4時間、早ければ1時間以内で引きこされる。それだけ急速な脳萎縮が行われると、人体がどうなるかわかるカイ?」
「……………………」
言葉を飲んだ反応を気にせず、どこか楽し気な様子で自らの引き起こした成果を研究者は語る。
「答えは簡単。人間性の欠如だヨ。完全に人間としての機能は失われる。少なくとも思考や記憶と言ったプロセスは行えないだろうネ」
「ならば、村中に正気を失った村民が昏倒していると言う事でしょうか?」
老人の目の前に座っていた奥津が問いかける。
幸いと言っては何だが、全員が意識を失っているのなら事後処理はいくらか行いやすい。
だが、研究者はこれを否定するように口端を釣り上げ、本題はここからだと言わんばかりの不気味な笑みを見せた。
「ところが、そうじゃないンだナァ。
ウイルスの役割は脳の拡張だけではなくてネ。脳の拡張が終了すると次のフェイズとして拡張した脳を扱えるよう神経との補完を始める。
ウイルスが脳と神経を繋げる役割を果たす訳だネ。さて、問題は人間として機能が失われた脳と神経をウイルスが繋げるとどうなるかという事だガ。
面白いことに意識も理性もないのに体は動き出すのサ。ソレこそ本能のままにネ」
正気もないまま動き回る。
それはまるで。
「……まるでゾンビだな」
「イイ表現だネ、3尉殿」
奥津の呟きを気に入ったのか博士は手を叩いて笑った。
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「だけど全ての感染者がゾンビになると言う訳ではないヨ、正常にウイルスが機能する検体もいるだろうネ」
「生存者……と言う言い方は適切ではないかもしれませんが、つまりは正気を保っている住民もいると言う事ですか?」
「ソウだネ。取り敢えずゾンビ状態の感染者を異常感染者、正気を保った感染者を正常感染者と呼称するとしようカ。
1〜5%程度の検体は正気を失うことなく正常を維持できるはずだヨ。マウス実験の結果なので人間にどの程度適応されるかは未知数だが、正常感染者が0%と言う事もないだろうサ」
正常な感染者。
だが、それがどういうものなのか分からなければ、朗報なのか悲報なのかすらわからない。
「正常感染者にはどのような症状が現れるのですか?」
「少なくとも悪影響はないヨ。正常に『本来の目的』通りの機能を得ている可能性が高いだろう」
『本来の目的』。
その部分にはあえて触れず、ひとまず真田は話を先に進める。
「ウイルスの感染経路はどうなっていますか?」
「空気感染だネ。感染率もほぼ100%だけど、全身に防護服を着ていれば防げるから安心していいヨ」
完全とまでは言いきれないだろうが、防護服で防げるというのは現場対応する身からすればありがたい情報である。
「空気感染となると村外への感染拡大(パンデミック)が懸念されますね。
山折村が山々に取り囲まれた地形なのは幸運だったのかもしれませんが」
山折村は周囲を高い山々に囲まれた陸の孤島だ。
放っておいても[HE-028]が外部に漏れる可能性は低いだろう。
「マァ、それがあの村が研究場所として選ばれた理由の一つではあるのだから当然と言え当然なのだがネ。
だが電話や携帯なんかで現状を外部に伝えられるとちとマズいネ、ホラいろいろ機密もあるしゾンビだらけなんて伝えられちゃあネェ?」
染木の懸念を受け、奥津は真田に視線をやる。
「通信妨害電波を発生させることは可能です。しかし村中に設置作業を行い以上、周囲の地区にも影響がでてしまいますが」
「構わん。地震の影響と言う事にすれば誤魔化せる」
電話回線やインターネット回線も問題なく遮断できるだろう。
山折村を完全に世界から孤立させられる。
「となると、我々が主に対処すべきは村外に出ようとする感染者という事ですね」
「異常感染者は山越えができる程の知能がナイとして、正常感染者が山を越えて村外に逃げ出そうとする可能性は高いだろうネ」
病原菌の塊である感染者を絶対に外に出す訳にはいかない。
被害を最小に食い止めるため、逃げ出そうとした住民は始末する必要がある。
それが秘密部隊たる彼らの仕事である。
だが、秘密特殊部隊は60名からなる小隊だ。
任務の特性上、外部から駆り出せる人員も多くはない。
なにより、多くのまともな自衛隊員は地震の対応に駆り出されているはずである。
山中に監視カメラを配置し人の通りうるポイントを抑えるにしても広大な山々を完全にカバーしきるのは難しい。
要監視対象の動向をある程度でも把握する方法があれば助けになるのだが。
「正常感染者と異常感染者を判別する方法はないのですか?」
「行動パターンが違うので観察すれば分かるだろうけど、マァ確実なのは体温だネ。
異常感染者は代謝が著しく下がるので体温で判別できるヨ」
「なるほど。真田、サーモグラフィを付けたドローンを飛ばせるか?」
体温で判断できるのならばサーモグラフィと連携して自動追尾するプログラムを組めば正常感染者の数や動向はある程度は監視できるだろう。
「何台かドローンの用意はありますが村全体を隈なく監視できるほどの数ではありませんね。
それにドローン用のサーモグラフィまで用意するとなると、少し手配に時間がかかるかと」
深夜の、何より震災直後という事もあって物流も混乱しているだろう。
十分な数が揃うまでどれだけかかるのかわからない。
「あぁ、ソレなら。ドローン用のサーモグラフィならこちらに用意がある。なんだったらドローンもいくつか貸与しようカ?」
頭を悩ませていると研究者がそんな提案を持ち掛けてきた。
「……よろしいのですか?」
「無論だとも。是非とも協力させておくれヨ。
その代わりと言っては何だケド、記録した村内の映像をこちらにも回してくれるカナ?」
「何故です…………?」
「経過を観察したいからサ。
まだ臨床実験には至っていなかったのでネ。人体に感染した場合どうなるかは我々も想像の域を出ないのだヨ。予想外の事態が起きるかもしれない。
ソレに、周囲の感染者の反応を見て女王感染者が死亡したかも映像を回してもらえれば診断できるからネ。キミらとしても都合がいいだろウ?」
メリットだけ見れば蹴る理由がない提案である。
専門家が自ら手を貸してくれるというのならこれ以上ない話だろう。
だと言うのに、彼の経験が警告する何かがあったのだろうか、奥津は即答できずにいた。
回答を躊躇う興津に、染木が更に持ち掛ける。
「ソウだ。一時滞在者を含め一通りの住民データは揃っているので、こちらも提供しよう。
ドローンの映像と照らし合わせれば正常感染者の特定もできるはずダ」
「そのようなデータをどこから?」
「研究施設は表向き診療所しても運営してるからネ。住民の情報は管理しているンだヨ。
外部からの一時入村者にも感染病予防と称して最初に診察を受けるよう告知しているからネ。その辺もバッチリさ」
住民の情報は別口からでも手に入るだろうが、ここで断る明確な理由を見つけられない。
奥津は不安を呑み込み、染木の提案を受け入れ支援を受ける決断を下した。
「では頂戴できますでしょうか?」
「モチロンだとも」
何が嬉しいのか染木は満面の笑みで応じる。
もっともこの老人の感情を推し量ったところで意味などないのだろうが。
「真田」
「了解しました。長谷川女史よろしいでしょうか?」
指示を受けた真田准陸尉が長谷川女史へと呼びかける。
長谷川は無言のまま頷くと、タブレットを取り出し送信先の交換を行った。
「ソレじゃ、長谷川くん、手配ヨロシク」
「了解しました博士」
無表情のままそう返事をした長谷川が手早い動きでタブレットを操作する。
すると真田の手元のタブレットに一つのデータが送られてきた。
「データ送信しました」
「確認しました」
送られて来たデータを真田は確認する。
流石にこの場で全て精査はできないが、住民と外部滞在者のデータが顔写真付きで並んでいた。
これで感染者の把握と動向の監視は出来るだろう。
「それじゃあ、ドローンの動画データは今交換した長谷川くんの所に送ってもらえるかナ。
診断結果は6時間ごとに報告することにしようカ。常にワタシが対応できるとも限らないのだが、ヨロシクたのむヨ」
染木の提案により、6時間ごとの定例報告が行われる運びとなった。
老人のペースだが決まってしまった以上、話を進めるしかない。
「治療法や特効薬はないのですか?」
「残念ながらそう言ったモノないヨ。将来的には出来るだろうガ、まだ研究はその段階にはなくてネ。
タダ、[HE-028]の活動が沈静化してしまえば脳洗浄によって洗い流され脳機能は元に戻るはずだヨ。時間はかかるダロウがネ。
まぁこの辺はまだ検証中と言った所なので断言はできないがネ」
「では、ウイルスが沈静化する条件は?」
「細菌と違ってウイルスは基本的には自己繁殖能力を持たナイため自己複製を行うには生物に寄生する必要がある。ソレは[HE-028]も例外ではないヨ。ツマリは宿主が死亡すれば活動を停止する訳だネ」
死ねば助かるというのは本末転倒である。
それではまったく意味がない。
「一度ウイルスに感染した人間を治療する方法はないという事ですか?」
「いいや、あるよ。一つだけネ」
年老いた研究者はこれまで以上に楽しそうな様子で、邪悪を煮詰めた笑みを浮かべた。
「[HE-028]は厳密には[HE-028-A]と[HE-028-C]と言う二つの種類が存在してネ。
人体に引き起こす症状は同じだけれド、感染条件と繁殖条件に違いがあるのサ」
「どのような違いが?」
「[HE-028-A]は宿主がいれば単体で繁殖が可能となる、まぁ一般的なウイルスの繁殖条件なのダガ。
一つのコミュニティで感染するのは一人だけという特別な特性を持っていてネ、いわば女王蟻のようなモノだ。
対して[HE-028-C]の感染条件は一般的なウイルスと変わらないが、安定期に入るまで周囲に[HE-028-A]感染者が存在しないと繁殖できないという特性を持っているのだヨ」
「安定期とは?」
「[HE-028]が人体に定着するまでの時間サ。48時間前後だと予測されているネ。
完全に定着してしまえば[HE-028-C]の繁殖に[HE-028-A]が必要なくなってしまうのサ。
そうなってしまった場合の取り決めは聞いているかネ?」
「そう言った取り決めがあるという事だけは」
彼らの与り知らない上役たちと研究所の間で取り交わされた取り決め。
VH発生後48時間以内に事態の解決が見られなかった場合、強硬策により事態終息を図る。
収束ではなく終息。つまりは皆殺しである。
「やるのなら空爆をお勧めするヨ、炎で焼いてしまえウイルスも確実に焼却できる」
「ご助言感謝します。参考にさせていただきます」
奥津はそんな感情の籠らぬ返答をしながら頭を下げた。
「しかし何故、定着を待つ必要があるのですか?」
48時間などと言う悠長なことを言う必要はない。
本気で全てを隠滅する強攻策をとるというのなら、すぐにでも実行すればいい。
「マ。自主的解決の猶予というやつだヨ」
「自主的解決とは? 何かバイオハザードの収束の手立てがあると?」
問われ、研究者はにぃと笑みを浮かべる。
「ソウだネェ。先ほども少し触れたとおりC感染者は安定期に入るまでA感染者――分かりやすく女王感染者とでも呼称しようか――が必要となる訳だヨ」
「つまり、Aウイルスに感染した人間がいなければCウイルス感染者は発症しないという事でしょうか?」
「ソウだネ。逆説的に感染が拡大しているという事は正常に働いた女王感染者がいるという事になるネ」
周囲に感染が拡大している現状こそが、Aウイルスは正常に機能しているという他ならぬ証明である。
つまり女王感染者は正常感染者の中にいるという事になる。
「正常感染者と女王感染者を見分ける方法はないのですか?」
「外部から見分ける方法はないネ。検体を解剖して電子顕微鏡で脳内を調べればわかるだろうけどネ」
女王がいなくなれば他の感染者は沈静化する。
そして、宿主の死によって止まるという前の話と併せて考えると、結論は一つだ。
「つまり、女王を見つけ出し暗殺せよと?」
奥津のその言葉に、応接室は沈黙に包まれた。
だが、その空気に堪えきれなかったのか染木が吹き出す。
それに続くように後ろの長谷川もHAHAHAと笑った。
「イャイャ。軍人は物騒でイケないネ。オット自衛官を軍人って言っちゃいけないンだっけ? ともかく、そんな物騒なコトは必要ないヨ」
「ですが、それでは事態は収束しないでしょう」
「事態の収束はキミらの任務ではないだろう?
キミたちは感染拡大と情報漏洩さえ防いで 48時間後に処理をしてくればそれでいいヨ」
「ならばどうすると?」
「どうもしないヨ? 猶予の間に住民たちの自主的解決に期待するだけだネ」
住民同士の自主的解決。
それの意味するところはつまり。
「住民同士で魔女狩りでもさせるおつもりか?」
ただ一人を見つけ出す魔女狩り。
糾弾する奥津の声は荒げられることはなかったが、その奥底には隠しきれぬ怒りが籠っていた。
彼とて任務のために時に手を汚してきたが、それは非人道的な行いを肯定するモノではない。
研究者と自衛官の視線がテーブル越しにぶつかり合う。
「そうは言ってないサ。ただ震災直後なのだから不幸な事故に遭うこともあるだろうし、それこそゾンビたちに食い殺される事もあるかもしれないという話だヨ」
その激情に取り合わず、ヘラヘラとした軽い調子で染木は答える。
この老人の調子はいつまでも変わらない。
48時間のタイムリミット。
つまるところそれは解決を見越した猶予というより、手遅れになったから強硬策に出たのだという政治的な言い訳のための時間のようだ。
「だいたい、住民がこのルールを知らない限り殺し合いなど起こりようがないダロウ?」
理屈で言えばそれは確かなのだろう。
魔女がいることを知らねば魔女狩りなど起こり得ない。
住民たちが機密を知りうる『事故』が起こらない限りは。
■
会見を終えた自衛官の二人は、現地に駆けつけるべく病院屋上にあるドクターヘリ用のヘリポートに向かっていた。
非常階段を上り先導する奥津が背後の真田へと問いかける。
「どう思った?」
端的な問いに真田は戸惑うでもなく返答する。
「説明に嘘はなかったと思いますが説明していない点も山のようにあるでしょうね。
まあ研究内容は機密事項でしょうし当然ですが、それ以外の部分でもきな臭いですね」
「同感だな。事故にしてはいろいろと準備がよすぎるのも気にかかる」
秘密部隊に回ってくる任務など全てがきな臭いモノだが、それでも呑み込んで良いものと悪いものがある
いくつもの秘密任務をこなしてきた二人だからこそ、その違いはかぎ分けられる。
「探りを入れてみましょうか……?」
指揮官の意をくみ取り有能な補佐官は提言する。
指揮官はすぐに返答せず僅かに考えこむ。
「…………そうだな。頼めるか?」
奥津が返答を出したのはヘリポートにたどり着いたタイミングだった。
離陸を待つヘリコプターからは声を掻き消すような轟音が発せられていた。
プロペラの轟音に負けぬよう互いの耳元で声を張り上げながら二人が輸送用のヘリに乗り込む。
「了解しました。何人か官僚に知り合いがいます、彼らに少し動いてもらいましょう」
「大丈夫なのか? 霞が関も地震の対応でてんてこ舞いだろう」
「ええ。いくつか貸しがあるので無理を聞いてもらう事にします」
情報をどう使うかはまだ分からない。
使わないなら使わないに越したことはないのだろう。
だが、いざと言う時を考えれば、備えておくのは悪い判断ではないはずだ。
二人を乗せた鉄の機体が夜の空へ浮き上がってゆく。
「既にSSOG隊員は防護服を装備して所定のポイントに配置済みです。山中への監視カメラの設置作業も進んでいます。先行してドローンによる偵察も開始しています」
ヘリの座席に付きながら副官は現地より届いた情報を精査し報告を行う。
一通り報告が完了した所で、真田は僅かに押し黙った。
そして気負いを感じさせぬ様子で口を開く。
「突入作戦も問題ないかと愚申しますが」
それは女王暗殺の実行も可能であると言っていた。
奥津もこの提案に驚きはしなかった。
むしろ、そう進言して来るだろうと予測すらしていた。
彼らの任務は研究所の言いなりになる事ではない。
彼らに下された命令はパンデミックの拡大防止と機密情報の漏洩防止である。
先ほどの会見は任務に必要なウイルスの情報を確認しに行ったに過ぎない。
研究所が不要と言おうが、正式に命令が下されたのでなければ無視することも厭わない。
研究所に何か裏があるのだとしても明かさなかった方が悪い。
だが、これは危険な任務である。
未知のウイルスが蔓延り、ゾンビが徘徊すると言う死地に部下を送り込むのだ。
何より標的が不明な以上、罪のない民間人を無差別に殺すことになる。
だからこそ、汚れ仕事を担う秘密特殊部隊の役割なのだろう。
周囲の封鎖に人員を割く必要があるため、送り込めても数名程度だろうが。
奥津は深く皺の刻まれた眉間をほぐすように指でつまむ。
深く、重く沈殿する疲れを吐き出すように息を吐いた。
「少し考える。現着するまでに方針を決める」
「了解しました」
東京の美しい夜景を臨む夜の空。
ヘリは一路地獄へと向かってゆく。
■
二人の特殊部隊員が慌ただしく退室して行った後。
応接室には二人の研究者が慌てるでもなく残っていた。
老人の背後に立つ女が変わらぬ鉄仮面のまま声を上げた。
「喋りすぎです博士」
「マァマァ。イイじゃないか長谷川くん。彼らが対応に当たる以上どうせバレる事だ」
全く悪びれる様子もなく冷めた緑茶を入れ直す。
「だからと言って、住民情報まで与えるのはやりすぎでは?」
「餅は餅屋サ。監視映像と住民情報の照らし合わせなんてコチラでやるには手間がかかりすぎる。アッチに任せた方が早いサ。
ワタシからすれば細菌の種類を見分ける方がまだわかりやすいネ」
老人にとっては人の顔なんかよりも細菌の形状の方がまだ慣れ親しんだものである。
「ソレに与えた情報はキミが上手い事やってくれてるんだろウ? 下手な方向から探られるよりこちらから提供した方がいい」
長谷川は表情を変えず肯定も否定もしなかった。
情報を直接受け渡したのは彼女である。
この才女であれば、その際に改竄する程度の事は容易いだろう。
「心配せずとも彼らに分かるのは副産物の『力』の存在だけだヨ。その先にはたどり着けないサ」
飄々とした老人の様子に氷の女が飽きれたように溜息をつく。
「向こうの様子はどうかナァ……? イイ感じの地獄になっているといいがネェ」
老人は縁側で果報を待つように舌の痺れるような熱いお茶を啜った。
【キャラシート作成ルール】
・キャラクターは村民と特殊部隊員の属性に分かれます
■村民キャラクリテンプレート
・村民属性のキャラは必ずしも村民である必要はありませんが、何かしらの事情でVH発生時に山村に滞在していた人物に限られます
・正常感染者は一つ異能に目覚めます、目覚める異能は一人一つまでです
・元から異能を持ってたのでもう一つ、というのもありですが程々に
【名前】
【性別】
【年齢】
【職業】
【外見】
【性格】
【異能】
【詳細】
■特殊部隊員キャラクリテンプレート
・特殊部隊員はジョーカー的な役割を果たすキャラクターとなります
・防護服、拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフが固定装備となります
・特殊部隊員は防護服が破壊された場合、ほぼ確実にゾンビ化します
【名前】
【性別】
【年齢】
【外見】
【性格】
【詳細】
【参加者数について】
・キャラシートの集まり具合で決定する予定なので現時点では具体な参加者の人数は未定です。
・村民と特殊部隊員は別枠で採用枠を設けます、特殊部隊員枠は村民よりも少数になる予定です(0もあり得ます)
・全体的に小規模なロワに成ると思います
【参加者の決定方法について】
・投票枠
・企画主採用枠
・書き手枠
・上記3ステップで行う予定ですが、状況によっては変更する可能性があります
【舞台について】
・山に囲まれた田舎町、上折村が舞台となります
・唯一の出入り口であるトンネルは地震で倒壊しているため通り抜けはできません
・地震の起きた直後であるため他の建物も倒壊している可能性があります
・周囲は山々は特殊部隊によって封鎖されているため山越えを行おうとした場合メタ的な都合で確実に処理され死亡します
・妨害電波が展開されているため通信機器はスタンドアローンでしか使用できません、これは特殊部隊員も同様です
・電話回線やインターネット回線といった外部への連絡手段は全て遮断されています
・上記設定は物語の進行によって変更される可能性があります
【地図について】
・施設はキャラシートに合わせて追加する予定です
・施設の要望があれば参考にしますのでキャラシートのついでに書き込んでください
【異常感染者[ゾンビ]について】
・参加者以外の村民はゾンビとなって村内を徘徊しています
・ゾンビは正気を失っており攻撃的な人格を持ち本能に従った行動をとります
・どの程度の攻撃性なのかは元の人格に依存します
・事態の解決後に回復の見込みがあるため、あまり殺さない方がいいかもしれません
【女王感染者[A感染者]について】
・参加者の誰か1名がA感染者となります
・誰がA感染者であるかはメタ的な都合で後付けで決定されます
・死亡者がA感染者であるかどうかは監視映像を解析した研究員が判断するため定例会議パートで裁決されます
・A感染者の死亡が確認されると本ロワは終了します
【支給品について】
・特殊部隊員は防護服、拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフが固定初期装備となります
・村民に支給品はありませんが、元から持っていた物を初期アイテムとして持たせることは可能です
・そのキャラが持っていて不自然なものでなければ特に制限は設けませんが度を過ぎた物や数だった場合、企画主判断でNGを出す可能性があります
・無限容量を持つ不思議ディパックはありません
【定時パートについて】
・参加者向けの放送は基本的にはありませんが、放送設備はあるため後の展開次第では行われる可能性があります
・6時間ごとに特殊部隊隊員と研究所所員の定例会議が行われ、定例会議パートが投下されます
・このパートは企画主である私が書きますので募集などは行いません
【予約について】
・必須ではありません
・予約期間は予約開始から3日とします
・延長はありません
・分割投下は無しです
・上記ルールは進行状況によって変更される場合があります
【作中での時間表記】(深夜0時スタート)
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24
【状態表テンプレート】
各話の最後に以下のテンプレに従って表記してください。
【現在エリア/詳細位置/日付・時間】
【キャラクター名】
[状態]:
[道具]:
[方針]
基本.
1.
2.
【企画スケジュール】
◆キャラシート募集期間
2022/12/03(土) 00:00:00 〜 2022/12/16(金) 23:59:59
◆投票期間
2022/12/17(土) 02:00:00 〜 2022/12/18(日) 11:59:59
◆企画主枠、及び名簿確定
2022/12/18(日)
◆企画開始
2022/12/19(月) 00:00:00
以上です
特殊ルールが多いロワですが、よろしくお願いします
キャラシートだけでもいいので、ご気軽に参加下さい
【名前】山折 圭介(やまおり けいすけ)
【性別】男
【年齢】18
【職業】学生
【外見】健康的な青年、やや釣り目、髪の先が茶色
【性格】直情的で思い込みが激しいが自分なりの正義感は強い
【異能】
『村人よ我に従え(ゾンビ・ザ・ヴィレッジキング)』
ゾンビを従え操る能力
複数のゾンビを従えられるが数が増える程、操作の精度は低下する。
20体を超えると自分を襲わないようにする程度のことしかできなくなるが、1体に限定すれば人間の真似事をさせる事も可能である。
【詳細】
山折村、村長の息子。
若者らしくこの田舎町から飛び出して行きたいという思いを持ちながら、村長の息子としてこの村で暮らしてゆくのだと言う諦観を抱えている。
村長の息子と言う立場もあってか同年代の子供たちを従えているが、ガキ大将というだけで悪人と言う訳ではない。
昨年、幼馴染の少女と結ばれ恋人関係になった。
【名前】田中 花子(たなか はなこ)
【性別】女
【年齢】24
【職業】エージェント
【外見】長身でスーツ姿の麗人、黒髪で美しいポニーテール、勝気な表情が似合う
【性格】明るく社交的、軽いようで妙なところで義理堅い性格だが、任務達成のためなら手段を選ばず感情を割り切れる
【異能】
『全てを見通す天の眼(ホルス・アイ)』
見えない物を見る能力。単純な視力の強化のみならず透明な物や霊体の類、練度によっては未来や過去すら見通すこともできる。
【詳細】
研究所の調査のため送り込まれた某国のエージェント。観光客として山折村に潜入していた。
田中花子という登録名は偽名、コードネームはハヤブサⅢ。本名は秘密。
潜入調査が主だが、戦闘力も一級。格闘よりも射撃が得意。
性的嗜好は男でも女でもどちらもイケるバイ。懸命に頑張る人が好み。
共に潜り込んだ相棒はゾンビ化した。
【名前】須藤利人(すどう としひと)
【性別】男
【年齢】17
【職業】学生
【外見】中肉中背、クラスに一人はいそうな雰囲気
【性格】比較的平和主義者だが、周りに無関心でもない
【異能】
「鷹の目」
自身の周囲の情報を俯瞰的に収集できる
【詳細】
自他ともに認めるクラスの傍観者。
事件に巻き込まれることを嫌うが、話題に取り残されることもまた嫌う。
周囲で事件が起きると息をひそめてやりすごし、すべてが終わった後で情報収集を開始する。
その力は中々のもので、現在学内の情報及び人間関係はあらかた把握している。
自らの安全には何よりも気を使っており、情報取集においてできる限り危ない橋を渡らない方法は熟知している。
【名前】暮村沙羅良(クレムラ・サララ)
【性別】女
【年齢】18
【職業】高校生(三年生)
【外見】背中の真ん中まで伸びる癖のある黒髪、
着やせするがスタイルは良い、地味ながら整った顔立ち
【性格】控えめで物静か。自己評価低いが、どんな物事もまずは頑張ってみるタイプ。
基本誰とでも仲良くなれるが、大体最初はなめられる。
【異能】暗視
例え深海にいようと、周囲の様子が昼間の太陽の下と同じぐらい良く見える。
オンオフ可能だが、上手く周囲を観察できるかどうかは本人次第。
見える範囲も視力に依存する。
【詳細】都内の高校に通う少女。幼少期から優秀な弟と比べられてきたせいで、
自己評価は低いが、姉の自分が弟の足を引っ張るわけにはいかないと、
努力をかかさなかったため、本人の自覚以上に高スペック。
そんなストイックで奢らない部分は弟から尊敬されており、姉弟仲は良好。
ただ両親との関係は冷え切っており、今更親と思えなくなっている。
が、流石に暴力を振るわれてるのは過去の自分を、
なにより弟が過去の両親を真似ているようでいい気分がせず、
その昔平等にかわいがってくれた祖父母に相談すべく村に来た。
弟の事は雨流くんと呼んでいる。
【名前】暮村雨流(クレムラ・サメル)
【性別】男
【年齢】15
【職業】高校生(一年生)
【外見】癖のある黒髪、中肉中背、女性的なイケメン
【性格】基本自信家、だが慢心はなく冷静、無理なことは無理と言える。
人間の好き嫌いが激しく、第一印象悪い相手には態度が悪い
【異能】神技一刀(じんぎいっとう)
あらゆる刃物を使い熟す
ただし斬るという動作一つ一つが完璧になるだけで有り、
剣術に秀るようになるわけではない。
【詳細】都内の高校に通う少年。村には祖父母を訪ねてやって来た。
幼少期から手先が器用で器量も良かった(異能はその延長)
両親はそんな雨流ばかりを優遇し、彼の姉を貶めるような育て方をした。
が、雨流は逆に両親を嫌悪し、自分を特別扱いせず、
さらには自分に追いつくべく努力する姉に敬愛を抱く様になり、
『天は二物も三物も与えなくはないが、それが伸びるかは本人次第』
と、考えるようになった。
最近は、家庭内暴力を両親に振るっており、最早親と思ってない。
姉の事は前述のとおり敬愛ぢており、姉ちゃんと呼んでいる。
【名前】薩摩圭介(さつま けいすけ)
【性別】男
【年齢】42
【職業】警察官
【特徴】年甲斐のない茶髪、全体的に草臥れているが目はギラギラしている
【性格】警察官らしい正義漢のように外面を整えているが、その実は銃が撃てればなんでもいいトリガーハッピー
【異能】
「指鉄砲」
指先の空気を固めて銃弾のように打ち出すことができる
理論上あらゆる銃器を模倣できるが、殺傷能力を得るほどまで再現できるのは自分が直接撃ったこのがある銃器のみである
【詳細】
合法的に銃を撃ちたくて警官になった男。
事あるごとに銃を抜きたがり、これまでに何度も厳重注意を受けている。
撃ちたがりの割には状況の見極めはうまく、意外と現場で銃を抜いた回数は少ない。
基本的に出世とは縁遠く、普段は交番で銃の手入れをしている。
早打ちが得意であると豪語しており、抜き打ちのスピードはどこぞの殺し屋にも引けを取らない。
ただし射線のコントロールが全くできておらず、撃った弾がどこへ飛ぶかは自分でもわからない。
【名前】野倍 義雄(のべ よしお)
【性別】男
【年齢】81
【職業】政治家
【外見】
仕立てのいいスーツを着た中背の老人。
頬は垂れ、髪も薄くなってきたが、背筋はしゃんと伸びており、目力の強さも初当選のころから変わっていない。
【性格】
議員としては最高齢クラスでありながら、いまだ代議士としての使命感に燃えている。
ただし価値観は年相応に古く、時代錯誤な面も多く、ちょっと説教くさい。
【異能】
『その言葉が宿る』
その声を聞いた者の脳の片隅に、言葉がわずかに残り反響する。
意志の弱い者、理性に乏しい者、希望の潰えた者など、彼の言葉になんとなく従ってしまう者もいるだろう。
【詳細】
山折村を含む岐阜県第6区から出馬し、地元の支持を受けて当選した衆議院議員。
現在当選回数は二桁を超えている。
ちなみにポスターでの表記は『のべ 義雄』。
地元の皆さんに代わって議事に携わる者だという代議士の誇りを持ち、引退説をはねのけて精力的に活動中。
与党の要職を歴任した大物だが、地元への利益誘導とも取られかねない政策も少なくない。
そのため世間一般の評判は悪く、永田町や霞が関にも敵は多いが、地元の支持は強い。
今回は、選挙公約に掲げたバイパス事業の視察のため、次回選挙への支持取り付けも兼ねて山折村に訪れていた。
【名前】面壁 歩(おもかげ あゆむ)
【性別】男
【年齢】17
【職業】高校中退・無職(病人)
【外見】痩せた長髪の男、入院服にジャケットを羽織ってる
【性格】
気のいい青年だが、歩くことに強い執着と渇望がある。
外を自由に歩くためならなんでもするつもり。
【詳細】
村内の病院にて療養中だった青年。
少年期から都内の病院でも原因不明の謎の病気により歩行不全を起こす脳機能の障害を患っており、次第に衰えていく足を抱えながらかつて健脚で辺りを駆け回った少年の面影も無くし病院で療養生活を送っていた。
ウィルス感染による影響か脳機能が回復し、自由に歩き回れるようになった彼は進む。
外の世界を自由に歩き回る。そのために。
【異能】
『垂直歩行』
自分に掛かる重力の角度を任意の方向に0~90度(厳密には89.9度くらいらしい)の範囲内で操作可能。
ようは平地を下り坂のように走る・地面とほぼ平行に落ちることや壁を平地のように歩くことが可能。
【名前】転生 勇渚(てんじょう ゆうさ)
【性別】男
【年齢】12
【職業】小学生
【外見】
黒いキャップがトレンドマークの普通の小学生
【性格】
ホラーゲームとか好き
死ぬほど能天気でかっこつけ、この状況に現実感を感じていない
【異能】
『オープンステータス』
空間にウィンドウ画面を発生させ、目の前の相手や自分のステータスを確認することができる。
ウィンドウ内容は通常そのままの内容だが、転生勇渚の意志により自由に編集可能(ウィンドウ内容を編集したところで人間に影響はない)
【詳細】
都内に住む小学生。
トラックに引かれると思ったところで意識が途切れ、気づいたらゾンビ溢れるこの村の中に居た。
状況的に夢か異世界転移・転生だと判断しこの世界をめいいっぱい楽しむつもりである。
(実際には引かれる事は無くトラックに積み込まれて誘拐され、村を通りかかった所で地震発生、誘拐犯は全員ゾンビ化した。)
【名前】九条和雄(くじょうかずお)
【性別】男
【年齢】12
【職業】学生
【外見】ツンツンした黒髪、女顔
【性格】無駄なことが嫌い、皮肉屋、実はお人好しで騙されやすく妹のことになると熱血になる
【異能】
「高魔力体質」
感染とは無関係な異能。生まれながらに高い魔力を持つ。ただしそれを使う資質はない。そのため魔法は使えず、デバフとなる呪いやバフとなる祝福にも高い耐性を発揮して自動で抵抗する。抵抗に応じて頭痛が生じるため、強い抵抗をしてしまうと心身にダメージを負う。
【詳細】
学校の怪談に巻き込まれて怪談使いと化したクラスメイトと殺し合わされた少年。自身の体質と人を信じる心で殺し合いから脱出した。それから3ヶ月、前回の殺し合いと自分の体質について聞くために、離婚して妹を連れて実家のある山折村へと去った母親を訪ねたところまた殺し合いに巻き込まれる。血液型が特殊で輸血が困難。
【名前】川中蔭子(かわなかえいこ)
【性別】女
【年齢】13
【職業】学生
【外見】地味な顔、癖っ毛、身長が小さい、色黒、巨乳
【性格】引っ込み思案、男子が苦手、胸が大きいことがコンプレックス、人の頼みを断れない、嫉妬深い、自分と正反対な妹とそんな妹を羨ましく思う性格の悪い自分が嫌い
【異能】
『君にこの声が届きますように(マイ・ガッシュ・イズ)』
声を聞いた相手の性欲を刺激する。
【詳細】
村で暮らす中学1年生。村社会の空気に適応できず、田舎なのにあまり親密な友人はいない。ある夏休みの日、出会った転校生の男の子が落としたお守りを探したことで仲良くなり、互いに惹かれるようになる。しかし、そのお守りが前の彼女のものだと知り、大切な話があるという約束をすっぽかしたところで被災する。家族は皆無事だったものの、続くバイオハザードでゾンビと化す。
【名前】露里奈保子(つゆさとなほこ)
【性別】女
【年齢】10(34)
【職業】学生(無職)
【外見】頭をお団子にしてそばかすが目立つ顔(疲れきった、年の割にシワとシミの目立つ顔)
【性格】慎重なようでおっちょこちょい、ショタコン
【異能】
「Take2」
露里奈保子が体験した異能ないし現象。奈保子は24年後の未来からタイムリープしてきている。
『パラサイト・アイ』
自分を見ている人間が見ているのと同じ景色を見る。
【詳細】
前回の世界線では関東地方で行われたオフ会に参加していて難を逃れたが、その結果家族が死亡、それ以来人生がめちゃくちゃになり、34歳のときにクビになったショックで寝込んでいたときに風邪薬を用量を間違えて酒で飲んでしまい事故死したら24年前に戻っていた。
以来人生をやり直している。今回は家族を死なせなかったと思ったら想像していたのと違うゾンビパニックが起こってドン引きしている。
【名前】佐藤要(さとうかなめ)/高橋美紀(たかはしみき)
【性別】男(女)
【年齢】11
【職業】学生
【外見】茶髪のジャニ系、身長が高くて色白、目も茶色
【性格】ぶっきらぼうで人付き合いが悪い、ように演じているが頼まれたことは断れずマジメ
【異能】
「え!? ワタシが王子様!?」
要に起こった異能ないし現象。要は美紀と身体が入れ替わっている。
『アレ!? また入れ替わってる!?』
触れているゾンビを憑依するように操れる。
【詳細】
本物の佐藤要と同じ事故にあい大怪我を負った少女、高橋美紀。1週間生死をさまよって目覚めたら、イケメンクオーター性格最悪男子と体が入れ替わっていた。しかもリハビリを終えて要の実家に戻ってようやく生活になれてきたらゾンビに襲われた。
【名前】明知夏衣(あけちかえ)
【性別】女
【年齢】25
【職業】政治家
【外見】朝ドラヒロイン
【性格】努力家、演技力が高い、急進的な民主主義者だが実は政治そのものには興味は無い
【異能】
『その言葉が宿る』
その声を聞いた者の脳の片隅に、言葉がわずかに残り反響する。
意志の弱い者、理性に乏しい者、希望の潰えた者など、彼女の言葉になんとなく従ってしまう者もいるだろう。
【詳細】
山折村の村議会議員(成り手不足で無投票当選)。生まれも育ちも山折村。実は本物の明知夏衣ではなく、村のさる有力者が隠し子を失踪した夏衣としてすり替えたのが彼女。そのため本当の名前も知らない。彼女の育ての母親からその事情を2年前に聞かされるも、母親も父親とされる男も相次いで死亡。そのことに危機感を覚え復讐の準備のために東京で議員秘書になる。有力者の当主が危篤になったタイミングで村に戻りユーチューバー政治家として活動を開始、注目を集めることで狙われにくくするとともに、遺産強奪と一族抹殺に向けて動き出す。かつて2年前に川中蔭子の好きな男の子と付き合っていたが、復讐に巻き込みたくないのと自分より好きな人ができることを見抜いて身を引いている。
【名前】湯川 諒吾(ゆかわ りょうご)
【性別】男
【年齢】16歳
【職業】学生
【外見】身長は高くないががっしりとした体型。器量は十人並。
【性格】穏やかだが少し短慮。
【異能】
『掛汁纏い(ドレッシング・ドレッシング)』
ドレッシングを身に纏うことができる。
纏っている間は自身の体表を全て覆える程度まで量を増やすことができ、自由に動かせる。
複数種類のドレッシングを同時に纏うことも可能だが、粘度が大きく異なるドレッシングを同時に纏おうとすると操作難易度が跳ね上がる。
【詳細】
山折圭介の子分の一人。
代々続く農家の息子であり、本人もゆくゆくは畑を継ぐ予定。
野菜が苦手だが家業もあって食卓には野菜ばかりが並ぶので、ドレッシングを大量にかけて食べている。
聡明とは言えないが土に対する知識は確かなもの。機転も利くので農家としても農業経営者としても期待されている。
一方少々短絡的なところがあり、自らピンチを作ってしまうこともある(その都度持ち前の機転で切り抜けているが)。
圭介との友人付き合いは圭介の父親が村長になったころから、曾祖父の指示で始めた。
しかし今では曾祖父の思惑など関係なく良好に付き合っている。
【名前】八柳 哉太(やなぎ かなた)
【性別】男
【年齢】17
【職業】学生
【外見】黒髪短髪で整った顔立ちの青年。長身で細マッチョのアスリート体型。
【性格】短気かつ不愛想で荒れ気味。元々は正義感が強く真面目で心優しい性格だった。
【異能】
『肉体再生(アンデッド)』
自身の肉体を回復・再生させる能力。脳と心臓が無事であればあらゆる毒の解毒や欠損した肉体の再生が可能。
ただし重症なほど回復には時間がかかる上、痛覚が遮断されているわけではないため、欠損からの再生には途方もない激痛が伴う。
【詳細】
山折村から離れ、都内の下宿先から高校に通う青年。帰省中に事件に巻き込まれた。
剣道部に所属し、インターハイの個人戦でも優秀な成績を残す将来有望な選手だった。
しかし1年前に人助けをした結果、傷害事件を起こしたと濡れ衣を着せられ、退部と停学処分を受けた。
信頼が失墜して多くの友人を失った影響で心が荒み、人との関わりを避けるようになった。
本来の正義感は失っておらず、弱い立場の人間(特に子供)には不器用ながら優しさを見せる。
幼い頃からヒーローに憧れており、やさぐれた現在でもヒーローになるという夢は捨てきれずにいる。
【名前】天宝寺 アニカ(てんほうじ あにか)
【性別】女
【年齢】12
【職業】小学生
【外見】金髪ロングで色白の西洋人形のような美少女。ハンチング帽と探偵服風のファッション。
【性格】プライドが高く高飛車で気丈な反面、繊細で寂しがり屋な一面を持つ
【異能】
『テレキネシス』
周囲10m圏内の物体を思い通りに動かせる能力。
ただし、自分の筋力以上の物体は動かせない。
【詳細】
小学生ながら天才的な頭脳と洞察力で数多くの難事件を解決に導いてきた美少女探偵。
日本とアメリカのハーフ。ネイティブレベルで英語は話せる。会話にところどころ英単語を挟む癖がある。
SNSやネットニュースで話題になり、現在はアイドル的存在としてテレビ出演や雑誌の取材を受ける程有名になった。
しかし、同世代との交流がほぼなくなり、学校にいた友達とも距離が置かれるようになった。
ある日、自分を押し殺して大人として振る舞うことに限界がきて家出するという形で山折村に辿り着き、事件に巻き込まれた。
趣味は可愛い小物集め。探偵になる前は恋に恋する少女だった。
【名前】物部 天国(ものべ あまくに)
【性別】男
【年齢】58
【職業】テロリスト
【外見】ギョロついた目の長身で痩せぎすの男。教祖のような祭服を着ている。
【性格】とても穏やかで紳士的な性格。ただし同胞を除く日本人に対しては殺意と憎悪を露わにする。
【異能】
『日本、滅ブベシ(モンキー・マスト・ダイ)』
対象とした人間に呪いをかける。対象の異能や所持武器が強力なほど殺傷力が増す。
自身が日本人と判断した人間のみに発動できる。
【詳細】
日本の国家転覆を計画していたテロリスト集団のリーダー。現在指名手配中。
日本人という存在を憎悪し、それらを滅ぼすためにテロ計画を立てている。
日本人以外には紳士的な対応をするが、日本人に対しては支離滅裂で長ったらしい罵倒をぶつけて暴れだす狂人。
また、日本人を一人でも多く殺すために怪しげな呪術にも手を出し始めている。
かつては理知的でカリスマ性のある人物であり、日本人に対する憎しみは薄かったため彼の狂信者は数多くいた。
公共機関へのテロを起こす寸前で公安との衝突があり、多くの同胞が逮捕された。
その際に頭に銃弾を受けてしまったため、脳に障害が残り、現在の日本人憎しの狂気じみた人物へと変貌した。
研究所の情報を聞きつけて新たなテロ計画のために山折村に来た際に巻き込まれた。
一緒に逃げ延びた同胞達はゾンビになってしまったが、日本人だったため生かす必要もないので撃ち殺した。
現在の狂人とした彼は「黒髪・薄橙色の肌・日本人的な名前」という個人的な主観でしか日本人だと判断できなくなっている。
【名前】佐々羅 宝石(ささら ジュエル)
【性別】女
【年齢】19
【職業】無職
【外見】スレンダーな美人。服は安物
【性格】飄々とした軽薄な性格で、本気で何かを取り組もうとはしない。だが観察眼や思考力は高い。
【異能】
『溶けろ溶けろ』
口から出た唾が強烈な腐食性を持つ。その強さは一滴垂らすだけでコンクリートも溶かす。
口の中にある限り腐食性を持つことはない。
【詳細】
指名手配中の連続殺人鬼。
元々は高校生で名前を理由にいじめられていた。
しかしある日、彼女は事故でいじめっ子を殺害してしまうが、同時に人を殺すことにとてつもない快感を覚える。
それ以来、逃亡しながら「こいつはいじめっ子だから」「あいつはブラック企業の社長だし」などと言って悪人を見つけて人を殺しては、金銭を奪って生活している。
悪人を探すのは彼女曰く「無実の人を殺さないルールを科している」のだが、実のところ言いがかりに近いパターンがほとんどで、この行為は自分の中で気にしなくなる免罪符にすぎない。
なので、理由が見つかれば子供でも老人でも悪鬼でも聖者でも、彼女はどんな相手でも殺す。
【名前】高橋 進(たかはし すすむ)
【性別】男
【年齢】数ヶ月
【職業】無職
【外見】ピンクのベビー服を着た赤ちゃん。髪色は黒。最近歯が生えてきた
【性格】食べることが好き
【異能】
『20倍強化』
身体能力、耐久力、視力、聴力などあらゆるものが人間の20倍になっている。
ただしそれは食欲にも及び、消化器も15倍のため、赤ちゃんはおろか人間では食べられないものでも食べられるようになっている。
【詳細】
数ヶ月前に村で生まれた赤ちゃん。
両親のみならず近隣住人にも可愛がられていたが、地震の影響で近隣住人とは散り散りになる。
更に今回の騒動で両親はゾンビ化した。
だが進は赤ちゃん。状況など理解できるわけがない。
そのまま時が経ち、彼は空腹の余りあるものを口に入れた。
ゾンビ化した誰かを。
そして彼は人の味を覚えた。
【名前】革名征子(かわな せいこ)
【性別】女
【年齢】17
【職業】高校生
【外見】色黒、小柄だがそれなりに筋肉質
【性格】一見すると重度の軍オタだが、その裏に冷徹な工作員としての顔を隠している
【異能】
『起爆体』
自らの肉帝を起点に任意の規模での爆発を起こす。
肉体そのものが爆発するわけではないため、爆発部位が欠損するということはない。
自身から切り取られた部位も数分以内なら起爆させることは可能で、この場合起爆した部位は跡形もなくなくなってしまう。
【詳細】
数年前、海外旅行先にてとあるテロ組織に誘拐された経験を持つ政府高官の娘。
組織は数か月後に現地の軍隊につぶされ、彼女も救出されて親元に返された。
救出当初は組織による洗脳を受けており、日常生活もままならなかったが、
家族友人の必死の努力にすえに何とか普段通りの生活ができるまでに回復する。
ただ完全に洗脳からは抜けきっていないようで、今では重度の軍オタとして開眼している。
実は洗脳は一切解けておらず、普段の行動は痛い言動も含めてすべて演技。いまだに亡き組織に忠誠を誓っている。
【名前】高谷 千歩果(たかたに ちあか)
【性別】女
【年齢】16
【職業】高校生 学校アイドル
【外見】藍色の学生服、胸は81〜83で大きい方
【性格】明るく天真爛漫だが大好きになった人に対しての愛は重い、茶髪とピンク髪が入り交じったとても可愛い容姿
【異能】
『イノウライド』
仲良くなった相手の姿に完全に変身する事が出来る(ストックは無尽蔵)。異能の力も行使する事が可能だが、メリットデメリットどちらとも影響は変身を解除しても残る。また、使いこなせる異能のセンスもちあか本人に任される。
【詳細】
寂れた村の名前を広める為に学生でありながらアイドル活動をしていて、そのリーダー格で、元々独り身(両親は産んでもらった後にすぐ交通事故で死亡、育ててくれた父方の祖父母も最近老衰で死んだ)でその墓参りをする為にグループから一旦離れていた時に巻き込まれた。幼なじみがその離れたグループ内の娘の中にいる
【名前】比志合 拓(ころしあい ひらく)
【性別】男
【年齢】38
【職業】投資家
【外見】恰幅の良い体、葉巻を欠かさず持っている
【性格】例刻にして残忍、恐慌状態に陥った人間を見ると落ち着く
【異能】
『バトル・ロワイアル』
爆発する漆黒の輪を生成する能力。
輪のサイズは任意で調整可能であり、起爆は拓本体の任意起爆と拓本体からの距離や場所に応じた自動起爆の2種類を設定可能。
【詳細】
日本有数の投資家。
裕福な家庭に産まれ育ち、今まで一見何の不自由もない暮らしをしている。
しかし、その実情は資産目当ての親類縁者に群がれ、愛する女性にまで裏切られたことで人間に失望した悲しそうな過去故、人間の本性を見なければ安心できない性を持っている。
人を極限状態に追い込み、その本性を観察する究極のデスゲーム『オリロワY』のため各所から人を拉致・招致し故郷である山折村の館にて開催しようとしたところ、「みなさんにはこれから殺し合ってもらいます」を言う直前で地震発生、惨劇に巻き込まれた。
【名前】端古 封(はしこ ふう)
【性別】女
【年齢】22
【職業】無職
【外見】整った髪型や顔立ち。村からは少し浮いた都会寄りの恰好。
【性格】根は真面目だが今は理性的で一歩踏み出せない。ただキレるとちょっと面倒くさい(怖いと言うより面倒)
【異能】
『射手距離(ハンドアウト)』
幽霊のような手が伸び、伸びた手が掴んだ方へ飛ぶか逆に相手を引き寄せる(握力は当人依存)。対象を掴む動作が必要ではあるが手は自分にしか見えないのと、使用者の怪我を覚悟すれば炎など本来つかめないものも引き寄せることが可能。地面等に固定されてなければ自分が持てないものでも引き寄せ可能(引き寄せるか引き寄せられるかは任意)
【詳細】
元々山折村で育ち一度上京したが、都会での過酷さと異能を使えば止められた目の前の飛び込み自殺を止め損ねた結果トラウマとなって仕事が続かず帰郷。「あの日手が伸ばせたら」と時折思いつつ家の手伝いをしながら過ごしている。異能も家族にすら打ち明けず、使った際は適当に誤魔化して秘匿している。日常で能力を使うことに遠慮がないが、肝心な場面で使えるかどうかは……その時次第。
【名前】檜前 一八(ひのまえ いっぱち)
【性別】男
【年齢】38
【職業】肉屋
【外見】捩じり鉢巻き、エプロン、ごま塩頭
【性格】全体的に覇気がなく、思考も後ろ向き
【異能】
『肉腐れ』
触れた肉を即座に腐らせる
【詳細】
脱サラ後の起業に失敗し、仕方なく実家の肉屋を継ぐ事になった男。
起業失敗のトラウマから陰気で覇気がなく、徐々に店から客も離れつつある。
サラリーマン時代から菜食主義者でヴィーガンの気質があり、現在の仕事にも客層にも誇りを持てていない。
最近は仕入れた肉と失敗した自分を重ねている節があり、毎晩の動物への謝罪が日課となりつつある。
【名前】気喪杉 禿夫(きもすぎ はげお)
【性別】男
【年齢】39
【職業】無職
【外見】キモいを通り越してグロいレベルの醜悪な顔つき、身長185cm体重297kgの巨漢デブでハゲ
【性格】パワー系ガ○ジ、忍耐というものを知らず、何でも思い通りにならないと癇癪を起こし
大暴れして破壊の限りを尽くすわがままなこどおじ
【異能】
『身体強化』
感情によって身体能力を強化する。
怒りを爆発させればトラックすらひっくり返すことができる。
【詳細】
裕福な家庭で生まれ、何一つ不自由することなく甘やかされて育った彼は
ワガママ放題に振る舞うクソな性格となり中学を中退しそれからずっとニート暮らしをしている。
女児を拉致監禁し、強姦する犯罪を二度繰り返したが親のコネで無罪になった。
その事件が元で父の怒りを買い、半ば隔離させられる形で上折村に引っ越しとなった。
上折村に住んだ後もそのクソな性格は治ること無く、女子をストーキングして警察の厄介になったり
その他色々、問題行動を繰り返し続けた結果、上折村全ての人間から危険人物として認識されている。
現在、バイオハザードの影響で自宅の電気やネットが繋がらなくなったことで彼は怒り狂い。
破壊衝動に任せて周囲に八つ当たりを起こしている。
季節関係無く、白いタンクトップと茶色い短パンを一年中身に着けている。
風呂は月に一回か二回しか入らず、悪臭が酷い。
あだ名としてハゲデブ、汚い裸の大将、性犯罪者、豚、ばい菌など呼ばれている。
【名前】宇野 和義(うの かずよし)
【性別】男
【年齢】48
【職業】農家
【外見】人のよさそうな顔をしている恰幅のいい中年男性、ビール腹、農作業着を着ている
【性格】世話焼きで若者にも慕われる理解ある性格
【異能】
[愛玩の檻(ジェノサイド・ケージ)]
対象を閉じ込める『檻』を具現化する能力。
具現化された『檻』は不可視の状態でその場に留まり触れた対象を閉じ込める罠となる。
『檻』に囚われた対象は決して出る事が出来ず能力と五感を封じられ動けなくなる
自由に『檻』に出入りできるのは能力者である宇野だけである。
出せる『檻』は一つだけで『檻』に捉えられるのは一人だけ、対象にはゾンビも含まれる。
新たに『檻』を生み出すには前回生み出した『檻』を破棄する必要がある。
『檻』が破棄された場合、その中にいた獲物は解放される。
【詳細】
22年前に山折村に逃げ込んできた逃亡犯。
今ではすっかり村に馴染んで農家として暮らしている。
村の女性と結婚しており、2人の子供もいる。
ちなみに罪状は5件の拉致監禁及び殺人罪である。
【名前】嵐翼良 (アラシ ヨクリョウ)
【性別】男
【年齢】17
【職業】高校生
【外見】黒髪で何もかもが普通の身長で普通に容姿もかっこいい方
【性格】何もかも普通で、良い人でも悪い人でもある。普通の感性を持っている為にモブと言っても過言ではない
【異能】
『オールアビリティゼロ』
指鉄砲で撃った人の状態異常を何もかも打ち消せる。それは異能に限らず、元々かかっている状態異常でも例外では無い。ただしあくまでも異常だけなので普通の状態と認識される相手しか効果は発動しない(例えばゾンビはもうゾンビである状態が普通になっている為戻せない)
【詳細】
何もかも普通に生きてきた男で両親2人と共に普通の家族として生きていた。だが地震でいっきに2人が死んだことで普通の家族が崩壊した事に動揺を隠せないでいる
【名前】東 大(あずま まさる)
【性別】男
【年齢】21
【職業】無職(浪人中)
【外見】
私服はUNIGRO。ダサい服装ではないがコーディネイトはセンスがない。
目までかかった髪、猫背でちょっと不健康そう。
【性格】
大言壮語の口だけ野郎。
自信家でなんでもできると自負しているが失敗しそうになるとすぐ諦める。
浪人してるのは本気を出していないだけらしい。
【異能】
『鑑定』
異能の鑑定をおこなう異能。
名称や効果、発動条件を知ることができる。
別にオートではないので、発動の指定もその結果を覚えるのも異能者本人の仕事。
【詳細】
家庭の事情でこの名前になっただけだが、おれは東大を首席で卒業する運命なんだよと豪語していた。
センター試験で余裕の足切りを食らって浪人し、部屋にこもってインターネット漬けの日々を送る。
一時期はアニメ三昧、最近はヨムヨムや小説家になれるだろう、pigliv、dystopiaなどでWEB原作小説を嗜み、マイブームは『もう遅い』。
いつか自分にもチートな能力が開花すると夢見ていたため、異能の発現に狂喜した。
なんでこんな地味なスキルなんだよ? 『強奪』とか『創造魔術』みたいな感じのチートスキル寄越せよとか欲深なことを考えたりしたが、
地味スキルが実は超絶チートなパターンのが多いなと気を取り直し、チーレム主人公におれはなると心の中で豪語した。
【名前】安遠 真実(あんどう まこと)
【性別】男
【年齢】34
【職業】村役場職員
【外見】
メガネをかけ、常に額に皺を刻んだ、気難しそうな男性。
【性格】
他責的。意識が高く、同僚や上司を内心見下している。
自分の意見や提案には絶対的な自信を持っており、否定されたと感じると極度に敵対的になる面倒な性格。
【異能】
『きみを見込んで真実を伝えよう』
異能を発動するには、自分(甲)と対象者(乙)以外に、第三者の健康保菌者(丙)が必要。
【甲】が、【乙】の異能について【丙】に語り、【丙】がそれを信じることがトリガとなる。
【乙】の異能の発動条件や効果範囲、発動ロジック等を、【甲】が語った通りに一部制限もしくは拡張できる。
【丙】が強く否定したり疑った場合は失敗。
異能の完全消去や突飛な変更も不可。
当然、武器や純粋な身体能力には一切効果はない。
また、無菌者が【甲】の話をいくら信じたところで【乙】の異能は書き換わらない。
【詳細】
就職時の世界的不況でやむなく東京から山折村に帰郷し、役場勤めの味気ない日々を送る男性。
当時の情勢が違っていれば自分は大成していたはずだと運命を呪っていたが、
SNSの発達によって、そのような不況や世界的な疫病の裏には、表には決して出ない組織の関与があるのだという真実に目覚めた。
趣味はtweeperやAhooNewsコメント欄、Outuse動画で世界情勢を逐一チェックし、自己啓発に努めること。
なお、Acebookに招待してくれるような友人は一人もいなかった。
この地震とバイオハザードにあたって、日本国にも組織の手が伸びていたのだと確信。
自分がゾンビ化を免れたことで、内心それ見たことか思っている。
【名前】水瀬ミカ
【性別】女
【年齢】19
【職業】大学生
【外見】長い黒髪、巨乳、一般的に見て顔は不細工
【性格】温和で礼儀正しい自信家
【異能】
『オン返し』
彼女の心持ちによって効果が変わる回復/呪いの異能
好感度がフラットな状態では効果はなく、恩を受けたと感じた相手には回復効果を、怨を受けたと感じた相手には呪いの効果を与える
【詳細】
山折村を開発中の大企業『ミナセ株式会社』の社長令嬢。
一般的に見て美人とは言えずむしろ不細工と部類であるが、親の影響で常にちやほやされている。
基本的に周囲の人間を信頼しており、周りからの誉め言葉は素直に受け取っている。
容姿に対して揶揄をされることも多いが、いい意味で鈍感であるため恵まれないものの嫉妬として相手にしていない。
【備考】
自分の美に絶対の自信を持っており、それによる余裕から人当たりはよく外見関係なく彼女を慕っているものは多い。
彼女の親の影響を欲した者に口説かれることも多く、それも彼女の自信の根拠となっている。
【名前】西川 爆人(にしかわ ばくと)
【性別】男
【年齢】17
【職業】高校生
【外見】眼鏡、常に白衣を羽織っている
【性格】悪人ではないがマッドサイエンティストの気がある
【異能】
『爆発投手』
投げたものが爆発する。
火力は調節できるが、規模に応じて疲労がたまる。
【詳細】
爆発の魅力に取り憑かれた高校生。曰く「田舎には爆発しか娯楽がない」。
放課後、周囲に何もない野原で爆発実験をしているところをよく目撃されている。
夢はクリーンな爆発エネルギーによる発電法を作り世界に広めること。
【名前】臼井浩志(うすい・こうし)
【性別】男
【年齢】23
【職業】工事現場作業員
【外見】ウルフパーマの茶髪、背も高くガタイも良い、痩せては無いが目がぎょろっとしてる
【性格】ややぶっきらぼうだが、根は誠実
【異能】超回復
体力が残ってさえいれば、致命的な傷以外全て回復できる能力。
ただし複雑な臓器や、欠損具合が酷いと時間はかかってしまうし、失った血を元に戻すこともできない。
【詳細】
言動の端々にやや棘のある青年。
当時付き合っていた彼女に詐欺られたのをきっかけにやさぐれていた時期があったが、可愛がってくれた伯母の医療費を稼ぐために一念発起して、屋根の修理屋を経て今の職についた。
金は定期的に伯母の入院する入れている。
今回村に来たのも、仕事である金持ちの別荘を修理する為である。
勤務態度は良好。付き合いも悪くない。好物は牛鍋。
店で食べるより自分で作る方が好き。
先輩後輩を問わず同僚をアパートに招いて振る舞うこともある。
力仕事してるだけあって、単純な体力や腕力だけならそなりで、やさぐれてた時期も有るので格闘は兎も角、喧嘩なら負けなし。
【名前】クマカイ(仮名)
【性別】女
【年齢】不明(見た目15歳相応)
【職業】野生児
【外見】全裸でボサボサの長い黒髪・不潔
【性格】凶暴で肉食的
【異能】
『弱肉強食』
喰らった相手の肉を纏う
分かりやすく言えば食べた相手の姿をコピーする
肉体の一部を食べれば相手の生死を問わずコピー可能
ただしコピーできるのは姿だけで、異能などはコピー不能
身体能力もクマカイ本人のままで、基本的に変動することはない(コピー相手の身長や体重などの身体的特徴による変化はあるかもしれないが)
【詳細】
山折村の外側のとある山にて赤ん坊の頃に捨てられ、クマに育てられた少女。
その為人語は話せない。
母親のクマの背中を見て育ち、母クマが死亡後、怒りと悲しみから野生を覚醒させて周辺のクマたちを叩きのめして山の王者となった。
しかし、山での縄張り争いの日々に飽きた彼女は、山の外で生きる生物、人間に興味を持ち、彼らの肉を味わおうと目論み、山を降りて夜の山折村に侵入した。
VHが発生したのは、彼女が侵入を果たして間もなくのことであった。
なお、経緯が特殊なために彼女は村の正規滞在者ではなく、ドローンによって存在が確認された存在である。
姿格好や様子から山でクマにでも育てられたのだろうと推察され、クマカイという仮名が与えられている。
【名前】大田原 源一郎(おおたわら げんいちろう)
【性別】男
【年齢】33
【外見】濃いめの四角い顔をした大男、体には沢山の細かな傷跡が刻まれている
【性格】禁欲的でストイック、我慢強く苦痛をものともしない(むしろ好きなのかもしれない)、秩序を保つための人殺しを厭わない
【詳細】
秘密特殊部隊(SSOG)隊員。階級は1等陸曹。
SSOGの中でも屈指の武闘派。射撃の腕も一流だが、ナイフを使った格闘戦においては右に出るものはいない程の実力を誇っている
SSOGの任務に強い使命感を感じており、任務であれば女子供であろうと殺す事を厭わず秩序を保つ度に快感を覚えている
【名前】嵐山 岳(あらしやま がく)
【性別】男
【年齢】27
【職業】猟師
【外見】顔は眼鏡を掛けた柔和な研究者風。身体は猟師らしく鍛えられている
【性格】温和だがやや人付き合いが苦手。年下相手でも丁寧口調
【異能】
『血の弾丸』
自らの血から弾丸を生み出すことができる。
作られるのはあくまで弾だけであり、銃が無ければ撃つことはできない。
当然のことながら失血のリスクがある。
威力は普通の弾丸と同等だが、
使う血の量を増やすことで威力を高めることができる。
【詳細】
大学で生物学を学んだ後、資格を取ったインテリ系猟師。
自然と動物を愛することと、人の生活を守るため獣を駆除することを同時にできる。
反面、その信念が他人に理解されにくいということを自覚しており、人付き合いは苦手。
猟歴は4年。ベテランには及ばないが、基本的な技術は会得している。
【名前】伊庭 恒彦(いば つねひこ)
【性別】男
【年齢】35
【外見】浅黒い肌、鋭い眼光、筋肉質な体型、男らしい顔立ち
【性格】偏屈な皮肉屋、饒舌でありながらもドライ、内面には自己嫌悪による不安定な鬱屈を抱える
【詳細】
《特殊部隊員》。
かつては通常の自衛官だったが、その素質を買われて部隊へと引き抜かれる。
以後十年以上に渡り、数々の極秘任務に従事してきた。
彼は何事も斜に構え、皮肉を零さずにはいられない。
よく喋り、よく嘲る。ドライで薄情な態度で遠慮なく他人を突き放す。
男らしい端正な顔立ちとは裏腹に、常に乾いた薄笑いを浮かべている。
そんな性格ゆえに彼を嫌う者も多いが、任務においては徹底して合理的。
特殊工作員としては紛れもなく優秀な能力を持つ。
そして普段の態度とはまるで異なり、“他の隊員との連携”においてずば抜けた才能を発揮する。
任務に対する理詰めの姿勢とチームへの高い貢献度もあり、彼を信頼する隊員も少なくない。
かつての彼は“国のために尽くしたい”と願う無垢な理想家だった。
特殊部隊への引き抜きを受け入れたのも、そんな真っ直ぐな想いからだった。
しかし“表沙汰に出来ない汚れ仕事”に従事し続け、理想と現実のギャップに打ちのめされ、彼の精神は摩耗を繰り返した。
理想を喪った伊庭は、やがて自らの心の均衡を保つべく全てを嘲るようになっていった。
内心ではそんな自分に強い嫌悪感を抱きながらも、彼は皮肉屋として振る舞い続けている。
【名前】碓氷 誠吾(うすい せいご)
【性別】男
【年齢】26
【職業】教師
【外見】スーツを着こなす高身長の爽やかイケメン
【性格】誠実そうに見えてひたすら軽薄で自分本位。外面を良く見せるのは上手い。
【異能】
『信号機(ストップ・アンド・ゴー)』
相手が『自分を信用しているか』を可視化して見ることができる。
信用している場合は青い光、信用していない場合は赤い光が見える。
【詳細】
数年前に赴任してきた高校教師。
整った外見と軽妙なトークで女子学生の人気の的だが、
その実態は『他人の為に何かをする』という発想がない軽薄男。
田舎に飛ばされたことを不満に思っており、すぐにでも都会の学校に戻りたいと思っている。
過去、外見に惹かれた何人もの女性と付き合っているが、
その本性に遠からず気付く為、1年以内に全員と破局している。
その非は自分には無いと本気で思っている。
日常生活においては表立って犯罪行為などをすることはないが、
自分の命が危機に晒されたとき、
彼は教え子であっても平気で踏み台にするだろう。
そして彼がそれを顧みることもないだろう。
現状のキャラのまとめ(38名)
■村民
【学生(山折村学校)】
>>16 山折 圭介【異能】『村人よ我に従え(ゾンビ・ザ・ヴィレッジキング)』
>>18 須藤 利人【異能】『鷹の目』
>>26 川中 蔭子【異能】『君にこの声が届きますように(マイ・ガッシュ・イズ)』
>>27 露里 奈保子【異能】「Take2」『パラサイト・アイ』
>>28 佐藤 要/高橋 美紀【異能】「え!? ワタシが王子様!?」『アレ!? また入れ替わってる!?』
>>30 湯川 諒吾【異能】『掛汁纏い(ドレッシング・ドレッシング)』
>>43 嵐 翼良【異能】『オールアビリティゼロ』
>>47 西川 爆人【異能】『爆発投手』
【学生(村外学校)】
>>19 暮村 沙羅良【異能】『暗視』
>>20 暮村 雨流【異能】『神技一刀(じんぎいっとう)』
>>24 転生 勇渚【異能】『オープンステータス』
>>25 九条 和雄【異能】「高魔力体質」
>>31 八柳 哉太【異能】『肉体再生(アンデッド)』
>>32 天宝寺 アニカ【異能】『テレキネシス』
>>36 革名 征子【異能】『起爆体』
>>37 高谷 千歩果【異能】『イノウライド』
>>46 水瀬 ミカ【異能】『オン返し』
【社会人】
>>40 檜前 一八【異能】『肉腐れ』
>>42 宇野 和義【異能】『愛玩の檻(ジェノサイド・ケージ)』
>>48 臼井 浩志【異能】『超回復』
>>51 嵐山 岳【異能】『血の弾丸』
【役場・警察・教師】
>>21 薩摩 圭介【異能】『指鉄砲』
>>45 安遠 真実【異能】『きみを見込んで真実を伝えよう』
>>53 碓氷 誠吾【異能】『信号機(ストップ・アンド・ゴー)』
【政治家・投資家】
>>22 野倍 義雄【異能】『その言葉が宿る』
>>29 明知 夏衣【異能】『その言葉が宿る』
>>38 比志合 拓【異能】『バトル・ロワイアル』
【スパイ・エージェント】
>>17 田中 花子【異能】『全てを見通す天の眼(ホルス・アイ)』
【逃亡犯・テロリスト】
>>33 物部 天国【異能】『日本、滅ブベシ(モンキー・マスト・ダイ)』
>>34 佐々羅 宝石【異能】『溶けろ溶けろ』
【無職】
>>23 面壁 歩【異能】『垂直歩行』
>>35 高橋 進【異能】『20倍強化』
>>39 端古 封【異能】『射手距離(ハンドアウト)』
>>41 気喪杉 禿夫【異能】『身体強化』
>>44 東 大【異能】『鑑定』
>>49 クマカイ【異能】『弱肉強食』
■特殊部隊員
>>50 大田原 源一郎
>>52 伊庭 恒彦
>>23
すみません、名前の読みを誤字ってました
×面壁 歩(おもかげ あゆむ)
〇面壁 歩(おもかべ あゆむ)
【名前】志村 貴俊(しむら たかとし)
【性別】男
【年齢】70
【職業】無職(年金暮らし、元サラリーマン)
【外見】面長の温和な顔立ち、額が広く白髪頭、黒縁のメガネ、小柄で痩せた体型
【性格】温厚な人柄、人付き合いは多くない、内心では深い諦観と後悔を抱えてる
【異能】
『沈静』
半径20m以内に存在するウイルスの活動を沈静化させる。
本人の自由意志で発動し、発動中は範囲内に限り効果が永続する。
範囲内にいるゾンビはその行動を停止し、正常感染者はウイルスに由来する異能の大部分が封じられる。
沈静化が5分以上続くと、範囲内の感染者本体にも悪影響が齎される。
ウイルスを通じて沈静化が脳細胞へと伝達され、やがて感染者を脳死状態にする。
つまるところ、この異能の影響下に5分以上置かれ続けると感染者は死に至る。
【詳細】
山折村で年金暮らしをする老人。
小さな民家に住み、庭で小さな畑を耕しながらひっそりと暮らしている。
温厚な性格だがあまり社交的ではなく、周囲の住民からは影の薄い老人だと思われている。
若かりし日の貴俊は都会で所帯を持つサラリーマンだった。
彼は出世を望んで仕事にのめり込み、次第に家庭を省みなくなっていった。
いつしか彼は日常のストレスを、家族へと直接ぶつけるようになった。
妻は心労を背負い続け、最後は心を病んだ末に自死へと至った。
娘からは憎まれ続け、関係を修復できぬまま絶縁状態になった。
自らの横暴によって家庭崩壊を招いた貴俊は、失意を抱えたまま出世コースから転落した。
やがて彼は定年と共に、故郷である山折村にひっそりと帰ってきた。
既に両親は他界している。顔を合わせるような親戚もいないし、親しい友人もいない。
家庭でも仕事でも失敗し、生きる意味さえも見失っている。
天涯孤独に等しい彼は、深い諦念と後悔を抱えながら無意味な日々を過ごし続けている。
【名前】木更津 閻魔(きさらづ えんま)
【性別】男
【年齢】20
【職業】無職(ヤクザ見習い)
【外見】剃り込みの入ったパンチパーマ、ガン付け用の伊達メガネ
【性格】自己中心的なイキり野郎
【異能】
『威圧』
彼自身やその言動、背景など彼の関連情報に恐怖を抱いた相手の身体を硬直させる
【詳細】
地元に根を張るヤクザ組長の息子。
親の威を借りて好き放題しており、外でも家でも威張り散らしている。
物心ついたころから甘やかされており、自分は親に愛されているのだと疑っていない。
将来自分が組を継ぐのは当然と考えており、常日頃から周りにも吹聴している。
本人だけは気づいていないが、度重なる好き勝手により徐々に父親からは見限られつつある。
甘やかしという名の放任を受けているのも彼に対する父親の興味のなさの表れである。
【名前】御手洗 創(みたらい はじめ)
【性別】男
【年齢】16
【職業】高校生
【外見】黒髪、前髪が長めで目が隠れかけている、少し暗めの表情すること多し
【性格】内気気味、一人の世界に閉じこもることあり
【異能】
『幻覚視線』
目を合わせた相手の視界に幻覚が見えるようにする能力。
効果持続時間は約10分程。
一度目を合わせた後、目線を外した瞬間から能力が発動する。
幻覚の内容は発動直前まで思い浮かべていたものになる。
人と目を合わせたら強制発動、自分の意思でOFFにすることはできない。
ゾンビの視界にも効果はあると思われる。
【詳細】
自分には友達がいないと思い込んでいる男。
よく何もない虚空を眺めている。
人と話す時はなかなか目を合わせられない。
内心では自分のそんな陰気な内面を治してもっとまともに人と目を合わしてコミュニケーションをとりたいと望んでいる。
妄想癖があり、常識的には現実に起きない面白いことがあったらいいな、なんてことをよく考えている。
ただし、あくまで妄想に押し留め、見れるとしたら自分一人用の映像だけで十分だとも思っている。
そのため、何かしらの映像作品を作る方法を勉強してみようかと考えている。
妄想の例:巨大な虫、虹色に光輝く学校の校舎や村の建物、突然踊り狂うクラスメイト、ドラゴンカーセックス、その他諸々…
【名前】大林 銀治(おおばやし ぎんじ)
【性別】男
【年齢】58歳
【職業】警察官
【外見】まばらに生えた白髪とやせぎすの体格が特徴
【性格】穏やかで慎重。悪く言えば事なかれ主義者
【異能】
『冷水如雨露(スロウコールド)』
対象者を指定し、制止することでその者の行動を止めさせることができる。
当然、異能の発動に対しても有効。
【詳細】
山折村の交番に勤務する警察官。巡査部長。
もう少しで定年退職なので平穏にその日を迎えられることを祈っていた。
……が、拳銃の置き忘れ事案をやらかして山折村交番に赴任してからというもの、一癖も二癖もある村人ややたら拳銃を抜きたがるバカな部下に振り回されて苦労する日々を過ごしてる。
そのような事情なので良くも悪くも事なかれ主義者であり、村人から相談を受けても腰は重く、なかなか対応しようとしない。
一応日常業務は真面目にこなしており、赴任して半年と経っていないにもかかわらず村人全員の顔と名前と家族構成と住所を覚えている。
【名前】岡山 林蔵(おかやま りんぞう)
【性別】男
【年齢】46
【職業】社長(林業)
【外見】剃り上げた禿頭と筋骨隆々な体躯が特徴的な大男
【性格】豪放磊落。「気持ちのいい男」という表現がよく似合う。
【異能】
『剛躯』
肉体のポテンシャルが跳ね上がる。
身体は頑丈になり、膂力や脚力なども大きく向上する。
【詳細】
有限会社岡山林業を経営する社長にして林業家。
自ら山に分け入り木を伐っているため肉体は屈強。重い木材も軽々持ち運ぶ。
社長として多くの人と関わってきたこともあり人を見る目は確か。声が大きく頭もいいので交渉ごとにも強い。
娘がふたりおり、上の娘は>>53 碓氷 誠吾にご執心。林蔵自身は碓氷の軽薄さを察知しているので、時々釘を刺している。
先述の通り幼少のころから林業家として山に入っているため、山の中を庭同然に歩くことができる。
【名前】車 八十吉(くるま やそきち)
【性別】男
【年齢】31
【職業】タクシードライバー(個人タクシー)
【外見】身長195㎝のがっちりした体形、黒髪の角刈りにグラサン、背中に大きな刺青。
【性格】真面目な仕事人、無駄を必要以上に嫌う。
【異能】
『加速』
ありとあらゆるものを加速させる異能。
自分の肉体だろうと相手の体感時間だろうとタクシーの料金メーターだろうと加速させる。
【詳細】
元極道。
都会でヤクザの若頭をしていたが、現在は足を洗っている。
腕っぷしが強く、頭も切れ、義侠心もある男。
殺しはしない。が、殺しよりもえげつないことはしていた。
ゲーム『どうぶ〇の森』のようなスローライフに憧れて山折村に来た。
本人は元極道という身分を隠せている気でいるが、容姿やその佇まいですぐにバレる。
【名前】月見里 小夜(やまなし さよ)
【性別】女
【年齢】16
【職業】高校生
【外見】緑髪、学生服、標準体型(158㎝)
【性格】皮肉屋で毒舌家かつ不愛想で不器用。
【異能】
『Ctrl+Z』
手で触れたものの『時』を戻す異能。
ただし、彼女の両手が包める程度の範囲のみが有効。
【詳細】
山折村に住んでいる女学生。
『エル・ロコ』と呼ばれるほどの変わり者。
彼女の言っていることを理解することを出来るのは同級生でも極僅かであり、本人もそれを重々理解している。
ので、さっさと村から出て自分のことを正しく評価されるべき『場所』に行きたいと思っている。
――――――そして、あらゆる銃火器を操ることができる戦争狂である。
【名前】犬山 うさぎ(いぬやま うさぎ)
【性別】女
【年齢】16
【職業】高校生
【外見】長く綺麗な黒髪の大和撫子、身長160cmほどの巨乳
【性格】温和で優しい、動物にはもっと優しい
【異能】
『干支時計』
動物を召喚できる。
召喚できる動物は干支の動物で、時間によって決まっており、12時〜1時が鼠、1時〜2時が牛…
以下、1時間ごとに干支の順に召喚できる動物が決まる。
時間が過ぎるとその動物は消え、また時計が一回りしないと再召喚できない。
また、召喚した動物は戦闘不能になると消え、時計が一回りしないと再召喚できない。
一度召喚すると、上記条件を満たさない限り消すことはできない。
【詳細】
山折村にある神社の宮司の娘。
学校では飼育委員を務めていて、小学校の頃からずっと飼育委員を務めるほどの動物好き。
動物の世話に関しては上級生よりも手慣れているため、高校1年生でありながら既に飼育委員長を任されている。
実家である神社では、祭事の時などには巫女の手伝いをしている。
【名前】茶畑 悠詩朗(ちゃばたけ ゆしろう)
【性別】男
【年齢】19
【職業】俳優
【外見】清潔感のあるイケメン
【性格】正義感が強い委員長気質、良くも悪くも優等生
【異能】
『異形変化(ヤマアラシ)』
ヤマアラシの特徴を持った異形の肉体へと変化する
変化状態では身体能力や頑丈さが通常の数倍となり、全身に生えた毒針を飛ばすこともできる
ただメリットだけでなく気性が荒くなり、変化中の記憶が曖昧となるデメリットも存在する
【詳細】
特撮新番組『忍剣無双ギンガ』の主人公『唐風銀河』を演じることになる新人俳優。
正義感が強い委員長気質でよく素行が悪い他キャストと口論をしている。
言われたことをきっちりとこなせる優等生であるが、それではもの足りないと監督からは指摘されており殻を破るために悩んでいる。
『忍剣無双ギンガ』は名前通り忍者モチーフの和風の番組であり、今回山折村を訪れたのは初回の撮影ロケのため。
【名前】田宮 高廣(たみや たかひろ)
【性別】男
【年齢】58
【職業】医者(院長)
【外見】禿頭、皺の多い仏頂面、白衣
【性格】理知的で丁寧、無愛想な雰囲気だが誠実な人柄
【異能】
『活性薬物』
体内に特殊な薬物を精製し、自らの身体能力や治癒能力を活性化させる。
指先から相手の体内へと薬物を注入することも可能。
薬物を一度に過剰接種すると異常活性が発生し、その効果に耐えきれず身体機能が破壊される。
他者への注入の際に薬物を過剰接種させることで、異常活性を意図的に誘発することも出来る。
【詳細】
山折村で最も大きな医院を営む医者。
かつては都会の大病院で務め、その後故郷である山折村に戻って父の医院を受け継いだ。
強面で無愛想な雰囲気の壮年男性。
何処か近寄りがたい佇まいとは裏腹に、誠実かつ丁寧な性格。
村における貴重な医者であり、その真摯な態度や理知的な人柄から村人からの信頼も厚い。
彼は村の地下に存在する『研究所』の協力者である。
第二次大戦時に旧日本軍が秘密裏の研究施設として所有し、その後放棄されていた村の地下施設。
彼はその施設の管理を父から継承し、そして『未来人類発展研究所』に提供した張本人である。
但し彼らがどのような研究を行っていたかまでは聞かされていなかった。
高廣はこの村に強い愛着を抱いている。
村に対する責任感を持っている。
未来人類発展研究所への施設提供も圧力を掛けられた上での選択であり、決して本意ではなかった。
彼らに施設を明け渡したことが正しいことだったのかを、高廣は今もなお悩み続けている。
だからこそ彼は誓っている。もしもこの件が原因で有事が発生した際には『ケジメを付ける』ことを。
【名前】佐倉桜花(サクラ・オウカ)
【性別】女
【年齢】10
【外見】赤縁の丸眼鏡、長い三つ編み、小柄
【性格】大人しい、クラスで一人はいそうな喋ってるとこ見たことない子
【異能】スパイラル・サイケデリック
直接触れた対象に心理的幻覚を見せる能力。
観させられる幻覚は能力名の通りグルグルと色彩が渦巻く様な物。
基本触れている間は能力者に意識がある限り能力が持続する。
だが直接は度と肌で触れ有って無ければ意味がなく、
服越し、相手が何か道具を使って触って来る場合(スプーンで食べさせてくれるとか)、能力は発動しない。
【詳細】
休み時間図書館に入り浸ってるタイプの女の子。
読書家でどんな本でも読むが、一番好きなのは西洋ファンタジー物。
物凄く手がかからない子供で、わがままを言わなければ好き嫌いもまるでない。
その為学校では教師からは特に問題視されていないが、
同級生たちからは、『昭和』とか『図書館キッド』とか酷いあだ名をつけられている。
しかし本人の自己主張の無さから、反論することは無い。
イジメられても誰にも言わない。だから今まで問題が表面化したことはない。
【名前】蘭木 境 (らんき さかい)
【性別】男
【年齢】28
【外見】柔和な顔立ち(実年齢よりおじさんに見える)、小柄な体格
【性格】社交的でお喋り、剽軽で人懐っこい、常に明るくニコニコしている
【詳細】
《特殊部隊員》。
汚れ仕事を請け負うエージェントの一人とは思えぬほどの剽軽者。
陽気な喋り好きであり、軽口やジョークをよく口にしている。
人懐っこい性格ゆえにムードメーカーのような立ち位置を担っている。
顔立ちや雰囲気からよく「恵比寿顔のおじさん」呼ばわりされるが、まだ若いので本人はちょっと気にしている。
彼はいつもニコニコ笑っている。
どんな後ろめたい任務を経験しようとも。
どんな非人道的な任務を経験しようとも。
彼はいつだってケロリと平静を保っている。
内面では歪みを抱えているのか、あるいは本当に図太く正気であり続けているのか。
その実態は当人にしか分からないが、彼が剽軽な人物であることだけは確かである。
【名前】仲田加奈
【性別】女
【年齢】15
【職業】高校生
【外見】黒髪ポニーテール、パッチリした茶目、出るとこ出てる、背は少し低い
【性格】元気が取り柄、好きな物について話しだすと止まらない
【異能】星光の架け橋
ゲーム風に言えば、幸運値上昇。
だが上り幅は彼女のテンションに依存する為、ローテンションだとなんの意味もなさない。
逆に良くも悪くもハイテンションの時は、とんでもないラッキーを呼び込む。
【詳細】
天体観測が趣味のアクティブなJK。
村には流れ星を探すためにやって来た。
運動部という訳ではないが、それなりに運動は出来、
考えることが得意という訳ではないが、自頭は悪くない。
好きなことに関するカタカナ語しか覚えられないタイプ。
男女年齢問わず気さくに話しかけれるタイプで、物おじしない。
が、流石に映画の中だけのものだと思っていたゾンビパニックに実際に遭遇したとあって、若干情緒不安定。
それでも前向きになろうとは思っており、脱出を諦めはしないだろう。
【名前】袴田伴次(はかまだ・ばんじ)
【性別】男
【年齢】37
【職業】小説家
【外見】やや老け顔(40代半ばぐらいに見える)、和装を好む、見た目より体格は良い、身長168cm
【性格】興味を抱いたことはトコトン調べずにいられない、冷静だが調子に乗りやすい、何もせずにじっとしていられない
【異能】フルリプレイ
元々彼自身が持っていたサヴァン症候群の延長。
彼が強く興味置おぼえた事柄をいつでも脳内で完璧に再現することができる。
その精度はすさまじく、能力者が最も興味を覚えたことを中心に、日の傾きや風に舞う木の葉の模様まで再現可能。
【詳細】
先述のとおり、サヴァン症候群持ち主。最近引っ越して来た。
袴田伴次は数あるペンネームの一つで、本名ではない。
が、一番有名な物なので、村では袴田で通している。
本人曰く『自分のような変わり者は小説家にでもなるしかない』からなっらだけとの事。
各ジャンルはまるで一定せず、純愛物を書いたかと思えばドロッドロの愛憎劇を書き、
軍記物を書いたかと思えば、サイバーパンクを書いたりと、
完結こそさせるが、作風やペンネームはその時その時のマイブームで変化する。
今回のゾンビ騒ぎも、完全に楽しんでおり、
全て終わればドキュメンタリーとして書き上げ、
出版が無理ならフィクションと偽ってネット小説サイトにでも上げようかと考えている。
【名前】大和 あい(やまと あい)
【性別】女
【年齢】64
【職業】農家兼民宿経営者
【外見】御守りや数珠を常に装着。体格のがっちりした黒髪のおばちゃん。
【性格】信心深く、流されやすい。社交的だが、パーソナルスペースにもぐいぐい踏み込んでくる。
【異能】
『ウイルス神からの神託』
呪文(プロンプト)を捧げて祈ることで、十数秒後に何者かが返答をしてくれる。
ただし蓄積データが少ない呪文だった場合、トンチキな答えが返るし、たまに言葉が崩れる。
同じ呪文なら毎回同じ返答がかえるわけではなく、ランダム性が混じる。
【詳細】
一家で農業を営んでいた女性。そこそこ広い土地持ち。
今は稼業の大部分は子供たちに引き継ぎ、半引退生活をおこなっている。
仏舎巡りを趣味にしており、よく村の神社にお参りに来たり、山間の古びた祠などにもよく足を運ぶ。
とにかく人の言うことを信じやすく、子供が家にいるのにオレオレ詐欺に引っかかりそうになったり、パワーストーンを買わされたり。
彼女の土地には村の神社やスピリチュアル業者から購入したしめ縄や札、御守りがそこかしこに配置され、どこぞの聖域かはたまた心霊スポットのようになってしまった。
開き直った家族が土地の一部を観光客に開放したらドラマや特撮番組のロケも舞い込んできて、
民宿経営でも収入を得られるようになったため、ますます信仰にのめり込んでいる。
【名前】与田 四郎(よだ しろう)
【性別】男
【年齢】26
【職業】研究員/医師
【外見】シワシワの白衣、天然パーマ、丸メガネ、低身長
【性格】弱気で流されやすい、腹立つタイプのドジ
【異能】
『真実の研究者(ベリティ・サイエンティスト)』
細菌・ウイルスの調査・解析を行う能力。
最新の機器並みの解析がその場で可能となる。
ウイルスによって引き起こされた異能まで解析可能で、感染者を見るだけで異能の詳細までが把握できる。
【詳細】
研究所の下っ端研究員。VHに巻き込まれた。
表向き診療所でも働いているため村人からは医師として知られている。
下っ端なので機密情報はそれほど知らない(OP2で語られた程度の知識しかない)。
【名前】岬野結衣(みさきの ゆい)
【性別】女
【年齢】19
【職業】新聞記者
【外見】ツーサイドアップに結んだ青い髪。スタイルが意外と普遍的
【性格】硬派な性格だが、何だかんだで世話焼き
【異能】
『Q.E.D』
物体及び対象人物を『理解』し、『証明』することで対象を情報を知ることが出来る能力。
ただし『証明』が間違っている場合は情報の入手は不可能であるため、使用者の地力が試される難しい能力でもある。
【詳細】
山折村へと取材に訪れた若き新人新聞記者。学生時代では都内の学校で風紀委員をしていた経歴もあり、その硬い性格も相まって生徒から恐れられていたと言う。
ちなみに理解者はいるようなので人間関係では寂しい思いはしていなかったりする。
【名前】牙崎無我(きばさき むが)
【性別】男
【年齢】27
【職業】無職
【外見】やせ細った体躯、蛇を彷彿とさせる顔面、白髪、色白
【性格】精神が安定しない、突発的衝動のまま動く
【異能】
『ディープ・ダイバー』
地面や壁、果ては人体にまで『潜航』し潜り込むことが出来る異能。
この力によって地面や壁の中をまるでプールで泳ぐように移動することが可能。
人間に直接潜り込む事で骨格をへし折ったり、心臓を握りつぶしたり攻守に優れている。
【詳細】
都内において『芸術家』という名称で恐れられている連続殺人鬼。
『芸術家』の由来は自宅のアトリエで殺した被害者を使って絵や彫刻を作っていた事から。
美的センスが歪んでおり、血や悲鳴を美しいものと感じる生粋のサイコパス。
【備考】
警察の調べによると過去にネグレクトを受けていた可能性が高いとされている。
【名前】大隈重治(おおくま しげはる)
【性別】男
【年齢】42
【職業】菓子職人
【特徴】熊を思わせるようにゴツい大男
【性格】家族大好き、普段は温厚だが身内に手を出されるとそこらのヤクザよりも怖いと評判
【能力】
「見立て調理」
どんな物体でも料理の材料と見立てると、見立てたとおりに調理することができる。
例えば砂を砂糖と見立てれば甘く、飲み込んでも害はない。
同様の工程で毒があるものの毒抜きも可能。
【詳細】
ケーキを始めとしたファンシーな菓子屋「すい〜と・お〜くま」の店主。
菓子作り全般を担当しており、近所の学校の女子生徒からの評判は中々に高い。
常に流行に敏感であろうとする努力家であり、情報提供をしてくれた生徒にはサービスをすることも多い。
優秀な嫁とかわいい娘がおり、何よりも大切な宝物だと感じている。
元々親から店を継いだ段階では「大隈菓子店」という名の寂れた菓子屋であり、現在のように改装したのは嫁の提案である。
自分の厳つさは自覚しており、メディアの取材などを受ける際には嫁が前面に出ており自分はマスコット的な役割に徹している。
【名前】孝宏敦(たかひろ あつし)
【性別】31歳
【年齢】男性
【職業】社会人
【外見】サングラス、色黒、特徴的な剃り込み(バリアート)
【性格】一見生真面目な社会人だが、自分の好きな話題になると歯止めが効かなくなる
【異能】
『EXILE』
対象をエグザイらせる異能(エグザイるってなんだよ)
エグザイった対象は色黒になってサングラスを掛け、髪型がATSUSHIのような剃り込みへと変わり、EXILEのChoo Choo TRAINを歌い踊り続けるようになる。ただしTHE RAMPAGEやCHEMISTRY、ゆずの曲を聞かせる事で治すことが可能。なお当人はこの異能の事に目覚めた自覚すら無い。
【詳細】
EXILE好きが行き過ぎて自分もATSUSHIのような姿にまでなった大のEXILEファン。職場では生真面目な仕事人ではあるが、オンとオフでの切り替わりっぷりが凄まじい。
今回EXILEが山折村にやってくるという噂を聞いてやってきたところを巻き込まれた
【備考】
自分の部屋にはEXILE関連のグッズで埋め尽くされている
【名前】射志多理 由美(さしたり ゆみ)
【性別】女
【年齢】20
【職業】定食屋の店員
【外見】黄緑のショートヘアーの貧乳。中性的で男女の判断がしづらい。恰好も男装より
【性格】異能に関するとずる賢い。異能が絡まないと割りと普通。少し学生気分が抜けてない
【異能】
『必中』
自分が投げたり撃ったものが当てたい対象に必ず当たるように軌道が曲がる。当たるだけで狙った場所に当たるかどうかは(一部)当人の腕次第であり、何より対象に最低限届くだけの飛距離が必要になる。10m先の相手に1mしか飛ばないものを必中させるなどのことは不可能。精神次第で軌道の動きに変化があり、冷静なほど直角で素早く、乱れてるほど軌道が無茶苦茶で遅くなる(なおどちらであっても対象には届く)。同時に複数投げたり撃っても必中の効果を受けるのは一度に一回。
【詳細】
田舎である山折村から出たいが、結局出られず悶々と定食屋で働く女性。異能を幼い頃から把握してたためちょっとずるをして生きており、お祭りの射的で景品を稼ぎまくる(なお荒稼ぎしすぎたことで射的は出禁)、アーチェリーの大会で優勝する、首領免許の技能試験を異能で誤魔化すなどしていた(ただ異能の通りアーチェリーに関しては冷静に撃てるだけの腕はある)。この能力と猟師なら食っていけると一時期思いこんで狩猟免許はあるが、異能任せであるため素の腕はかなりアレ(労力と年収から本職としては今は悩んでて保留)。容姿は変な男が寄り付かないので使い勝手は良いと思っている
【名前】古山 久次郎(こやま きゅうじろう)
【性別】男
【年齢】17
【職業】高校生(3年)
【外見】スポーツ刈りで目力が強い、体育会系イケメン
【性格】熱血漢で負けず嫌い
【異能】
『ベースボール・イリュージョン』
①棒状のものに触れると金属バットになる
長さは触れた物の元々の長さに依存するが太さや重量は扱いやすいように最適化される
②視界に入った飛び道具を全て野球ボールにする
飛び道具の定義は、『生物の手を離れて空中で動く非生物』
野球ボールになった物体は1分経つと元に戻る
いずれも発動は任意(①は解除も任意)
【詳細】
野球部のキャプテン。
キャッチャーで四番を務める、県内でも有数の強打者。
中学生の頃から有力選手として注目されており、名門校からスカウトもされていたが、故郷の山折村を盛り立てたいからと、あえて地元の高校に入学。
一昨年、去年と逃した甲子園行きを今年こそ叶えるべく、日夜仲間たちと共に練習に励んでいる。
【名前】鐘内 友也(かねうち ともや)
【性別】男
【年齢】17
【職業】学生
【外見】継ぎはぎだらけの学ラン
【性格】大人しいというより若干卑屈
【異能】
『マネーイズパワー』
通貨にその価値に応じた攻撃力を加える。
一円玉だと小石程度の威力だが、一万円札ならば鉄をも裂く凶器となる。
【詳細】
山折村の高校に通う学生。
数年前の大不作により家が極貧状態に陥っており、彼も借金返済に寄与するべくバイトを掛け持ちしながら学校に通っている。
苦学生の自分にも優しく接してくれている学校の皆に恩義を感じており、できる事なら何か貢献したいと常々考えている。
【名前】及川 千萩(おいかわ ちはぎ)
【性別】女
【年齢】44歳
【職業】山折村猟友会事務員
【外見】化粧が濃いが容姿は不器量。若い子のような服装をしている。
【性格】容姿にコンプレックス。若い女性に嫉妬し、ヒステリー気味。若くてお金持ってそうな男性には優しい。
【異能】
『追い皮剥ぎ』
保菌者の体細胞から、体格や声も含めて対象者になりきれる全身スキンスーツを作り出す。
スーツさえ着られれば、本人でなくても利用可能。
ただし着るのも脱ぐのもは相応の時間がかかるし、ちゃんと服を着直さなければ猥褻物陳列罪まっしぐら。
スーツ作成に使った体細胞の割合次第では異能を利用できるが、
異能を100%使用するには、全細胞が必要――
要は体重50kgの保菌者から100%異能を使えるスーツを作る場合、その重さは50kgになる。
重ね着も可能だが、一番外に着ているスーツの異能しか利用できないし、重さはプラスされるため実用性はお察し。
【詳細】
自称キャリアを選んだ女。
不器量ながら、若いころはさらにブスな女とつるんで相対的にマシに見せていた。
猟友会なら男社会だし選び放題だろうと邪な理由で就職するが、出会いはなかった。
独身仲間が裏切って結婚していくため、自身も婚活を始めるも、平均年収と普通のルックスとそこそこの学歴を求めたために失敗。
若い子に嫉妬し、男に媚びやがってと小さな嫌がらせを繰り返すため女性の後輩は育たず、男性の後輩からは避けられている。
それどころか、最近は事務代行手続きの仕事も減ってきて、今の仕事すら整理されそうですさまじく焦っている。
Wikiに収録された >>39 ですが、
勘違いしていた部分(異能が以前からあるような部分)の修正を報告しておきます(根本的な設定はほぼ変わってません)
【名前】岩水鈴菜 (いわみずすずな)
【性別】女
【年齢】15
【職業】高校生 閉じ師
【外見】学生服 黒髪で清純派、大人っぽい魅力的な容姿、バストは88〜90ぐらい 身長もモデル並みに高く、大学生に間違われやすい
【性格】真面目で寡黙気味だが、これは以前喋るとポンコツな所がバレて恥ずかしい想いをした為であり、根は優しい、頭もそこそこ良い
【異能】『パンドラドア』水を元に鍵を手に作り出してドアを閉じる事が出来る能力で、この能力を使うと、使われた扉は鈴菜の許可があるまで必ず開かないし壊れない
【詳細】
元々は閉じ師としてこの場所に来た時に巻き込まれてしまった旅人であった。
閉じ師の使命として、今回の地震について詳しく調べるのをまずは目標として行動する
【名前】渡界 歩夢(とかい あゆむ)
【性別】男
【年齢】35
【職業】旅人(つまり無職)
【外見】青いバックパックを背負った旅人らしい恰好。半分白髪
【性格】人当たりはよく、第一印象は大体話しかけやすい男性。でも意外と悟ってる
【異能】
『ジャンプ』
一回の跳躍で最大十メートルまでジャンプ可能。足元が危険でない限り着地の衝撃やダメージは一切ない。
【詳細】
日本一周を志した旅人。既に東は踏破しており、いざ西へと歩を進めていたら巻き込まれた。旅をする時点で物事の分別はある程度はついており、危険が迫れば自分の身の安全を優先する。自分の命と天秤にかけてまでするかは別ではあるが、人並みの道徳や倫理観はちゃんと持っている。
【名前】佐川クローネ
【性別】女
【年齢】26
【職業】長距離トラック運転手
【外見】
茶髪ウェーブ、黒目でそばかすがある
一目で白人ハーフと分かる顔立ちだが、特に美形というわけではない
【性格】
表面的には豪放磊落な姉御肌
しかし一皮むけば自分本位な怠け者、かつ無責任で浪費家な面が見えてくる
【異能】
『ハイドスティール・ディメンジョン』
彼女の半径数メートルのうち、彼女から見えない隠されたものを異空間を介してこっそりと抜き取る異能
抜き取るためには彼女自身が抜き取るものを把握していなければならず、
抜き取った後は彼女にしかアクセスできない異空間に保管される。
異空間に保管できるのは抜き取った最新の一つだけであり、さらに異能を使うと以前のものはランダムに射程内に落下してしまう。
【詳細】
とある運送会社の長距離トラック運転手。母親はデンマーク人。
浪費家であり、安月給の割には羽振りのいい生活を送っている。
正確は極めて自分本位あり、仕事への誇りなどは一切持っていない。
必然的に責任、責務などに対しても無関心である。
最近、荷物を私物化して転売することを覚えてさらに金使いが荒くなっている。
【名前】菅原 分蔵(すがわら ぶんぞう)
【性別】男
【年齢】60
【職業】林業の現場責任者
【外見】がっしりした大柄な体格、角刈りの髪型、渋い顔付き
【性格】昭和気質の豪放な親父。頑固な気難しさも目立つが面倒見は良い。相当の酒豪。
【異能】
『鉄拳』
パンチ力の超強化。
ただそれだけのシンプルな異能である。
鉄の壁を殴れば容易く粉砕され、地面を殴れば地割れが起こる。
人体に直撃すれば、相手は五体満足ではいられない。
能力は本人の意志でオンオフが可能。
因みに彼は異能に頼らずとも、還暦とは思えないほどに喧嘩の腕っぷしが強い。
【詳細】
山折村の主要産業である林業に携わる男性。
林業会社に雇われ、現場責任者として森林での実務を統括している。
部下や知人からは『ブンさん』と呼ばれている。
昭和の気風を背負った豪快な頑固親父。
曲がったこと、ウジウジしたことが大嫌い。
言い訳ばかりの部下には容赦なくゲンコツを叩き込んだりもする。
気難しく横暴な一面も目立つものの、根は面倒見が良く人情に厚い性格。
地元ではそれなりの人望があるが、その前時代的な人柄のために子供世代からは煙たがられてる。
頑固な性分故に、一度激昂した際には手が付けられなくなる。
気に食わないこと、間違ってると思ったことに対して、彼は意地を張り続けるという悪癖を持つ。
普段ならある程度柔軟な姿勢も見せるとはいえ、苛立ちや不満が募るほど彼は頑なになる。
この極限状態において、彼が正常な判断力を保てるのかは決して分からない。
【名前】氷月ㅤ海衣(ひづき みこ)
【性別】女
【年齢】17
【職業】学生
【外見】見目麗しいロングヘアの少女。
【性格】表面的には大和撫子。内面的には辛抱強く、冷静沈着。
【異能】
『花鳥氷月(かちょうひょうげつ)』
視認した範囲に存在する【自然界に存在するもの】の温度を局所的に下げることができる。下がる温度は「対象の大きさ」及び「自身の手から対象までの距離」と反比例し、サイズが小さいものかつ彼女の手の周囲に存在するものであれば瞬時に凍りつかせるまでに至る。
【自然界に存在するもの】の解釈として、生きた人間の肌に対しては有効であるが、ゾンビの肌に対しては有効でない(元が自然物であっても、人工物から与えられた影響の度合いに応じて能力の対象から外れる)。また、他者の異能によって造られた物質に対しても有効でない。
一方で、【風(空気)】に対して有効であることは、この異能の本分と言えるだろう。対象の範囲を絞れば氷の剣を創造することができ、逆に範囲を広げれば冷気を発生させることもできる。
【詳細】
かつて没落し、山折村で隠居することとなった元貴族の夫婦の下に産まれた少女。その夫婦は、再び成り上がることを諦めていなかった。娘の海衣を他の貴族の家に嫁がせるために育て上げてきた。学問は最低限、それ以上は嫁入りには不要。見目には人一倍気を使わせ、習い事の数も数え切れないほど。
一方で、自分が両親の返り咲きの道具であることを、海衣は物心ついた頃には察しており、両親の支配から抜け出したいと考えていた。しかし、子供でしかない海衣に、両親に抵抗する力などない。だから両親に従順なフリをし続け、18歳になった時、村から逃げ出そうと決意した。
いつか村を出た時のため、裏でこっそりと大学受験の勉強をしている。己が幸せを掴む機会を虎視眈々と狙い続けるその執念は、間違いなく親譲りの特性であろう。
【名前】神楽 春姫(かぐら はるひめ)
【性別】女
【年齢】19
【職業】巫女
【外見】紅白の巫女服、長く美しい黒髪、怯むくらいの美人
【性格】あまり好くない、冷静冷徹冷淡そして傲慢
【異能】
『全ての始祖たる巫女(オリジン・メイデン)』
ゾンビに襲われなくなる。
また正常感染者に対しても精神的優位を取ることができ、無意識に彼女を襲う事を躊躇わせる。
しかしあくまで無意識に働きかける物なので、強い意思を持たれるとどうしようもない。
【詳細】
山上にある神社に努める雇われ巫女。
神楽家は山折村が作られるきっかけとなった始まりの一族、と自称している。
その証拠は僅かに残る伝聞によるもので殆ど根拠はない。
自分たちが村の特別な存在であると思っているため現在村を治めている山折家とは折り合いが悪い。
【名前】山岡伽耶
【性別】女
【年齢】17
【職業】女子高生
【外見】身長170cm・体重58kg
白い肌に黒い瞳、長い黒髪に黒いセーラー服、黒いタイツと靴下に黒い靴の美少女
【性格】無口無表情抑揚のない声で話す。冷静というより無機質で無感情。
【異能】
『死体が練り歩いている(ウォーキング・デッド)』
身体が動く肢体となっている。常時発動能力。
触覚と味覚が殆ど存在せず、痛みと疲労を全く感じない。この為身体が壊れる事も厭わず行動できる為、外見不相応な怪力や身体能力を持つ。
身体が腐ることはないが、新陳代謝が全く無いので、無茶なな身体の使い方をして損壊した場合、自然回復することは無い。
【名前】水沼俊雄
【性別】男
【年齢】17
【職業】男子高校生
【外見】身長175cm・体重60kg
【性格】陽気で人懐っこい性格……というのは世間体を取り繕う為で、実際には他者に対しては無関心で無感情
【異能】
『右から左(ワン・ウェイ)』
右手で触れたものを左手に移動させる。皮膚の上から左手で触れて、傷一つ付けずに骨や内臓を右手に移動させる事で抜き取る事も可能。
左手が何かに触れている時にこの能力を使うと、移動させた物体は左手で触れている物体と融合する。
この能力を使えば、他人の傷を治す事も出来る……血肉を提供する人間が必要となるが。
【詳細】
村に住む男子高校生。クラスでは陽キャで通っているが、実態は酷薄無情。
人の暗黒面に強く惹かれる性質を持ち、この為山岡伽耶の本質に村内で唯一気付いている。
嗜虐性は無いが、他人が傷つく事に何も感じることは無いし、他人を傷付けることも何とも思わない。
この無情さは自分自身にも向けられていて、今回の事態にも感情の変化は無い。
山岡伽耶とは互いに『此奴が死ぬ時どんな顔するのか見てみたい』と思っている。出来れば自分の手で殺したいと思っている。
既にゾンビの内臓と骨を能力で抜き取っている
>>87 は投下ミスでしたにで、改めて投下します
【名前】山岡伽耶
【性別】女
【年齢】17
【職業】女子高生
【外見】身長170cm・体重58kg
白い肌に黒い瞳、長い黒髪に黒いセーラー服、黒いタイツと靴下に黒い靴の美少女
【性格】無口無表情抑揚のない声で話す。冷静というより無機質で無感情。
【異能】
『死体が練り歩いている(ウォーキング・デッド)』
身体が動く肢体となっている。常時発動能力。
触覚と味覚が殆ど存在せず、痛みと疲労を全く感じない。この為身体が壊れる事も厭わず行動できる為、外見不相応な怪力や身体能力を持つ。
身体が腐ることはないが、新陳代謝が全く無いので、無茶なな身体の使い方をして損壊した場合、自然回復することは無い。
【詳細】
都内でも指折りの進学校に通う女子高生。結構な名家の産まれ。世間体は清楚なお嬢様という風情だが、内側に昏い衝動を抱えており、人間を責め苛みたい。人体を解体したいという欲求を持っている。
山折村へはこの衝動に気づいた両親が治療兼隔離目的で送った。
他人との付き合いは礼儀正しくそつなくこなすが、人と会話しているという認識は持っていない。単純にこなさなければならない作業をこなしているという認識である。
異能の名前が文法的におかしいが、どうしてこんな名前にしたのかは不明。当人にとってのジョークなのか、それともマネ・モブなのか……
既にゾンビを一体解体している。
水沼俊雄とは互いに『此奴が死ぬ時どんな顔するのか見てみたい』と思っている。出来れば自分の手で殺したいと思っている。
【名前】鴨出 真麻(かもで まあさ)
【性別】女
【年齢】54
【職業】自称・神の使い
【外見】小太りの体型、過剰な化粧、和服姿
【性格】日頃から終末論を風聴している村一番の変人。誰からも相手にされていない。
【異能】
『拡声』
声を拡大する。
自身の声を拡声器のように周囲へ飛ばすことができる。
また声を超音波へと変えて放つことで、人体や物質に直接攻撃も行える。
【詳細】
「おお―――見なさい!!」
「村に蠢く魑魅魍魎の群れを!!」
「黄泉の国が現世を蝕む時が来た!!」
「私の言ったことは正しかったのよ!!」
「今こそ生贄を!!」
「神の祟りを鎮めねば!!」
「この村に潜む悪鬼を探し出すのです!!」
【名前】小笠原義清
【性別】男
【年齢】33歳
【職業】農家
【外見】身長160cm・体重72kgkg
日焼けした中年男性。凄まじく鍛え込んだ筋肉に覆われた肉体を持つ。
【性格】寡黙だが誠実な性格。義理堅く情に篤い
【異能】
『融合体(デモニアック)』
任意発動能力。接触したものを自身の体に融合させる。
機能はそのままなので、車と融合すればハンドルを握らずとも動かすことが出来るし、銃と融合すれば引き金を引かずとも弾丸を発射できる。
人体に使用して自分の傷を治す事も出来るが、性格上この使用法はしない。
【詳細】
先祖代々受け継いできた田畑を耕して生計を立てている。趣味は筋トレ
村の中でも色々と頼りになる人と評判である。
この異常事態に際して、村人を一人でも多く救うために東奔西走する。
【名前】環 円華(たまき まどか)
【性別】女
【年齢】16
【職業】高校生
【外見】つぶらでくりくりした目を持ち、いつも愛嬌を振りまく小動物系女子。背は低いが胸は大きいロリ巨乳。
【性格】
他人の後ろに隠れたり、おどおどしているが、素直でいざというときには勇気を出して行動するがんばりやさん。
というのは全部演技で、自分がかわいいことを理解しており、面倒なことは全部他人に『お願い』する腹黒。
【異能】
『お願いを聞いてくれてありがとう』
他人の肉体を数秒操作する異能。クールタイム有り。
彼女に好意を持っている者ほど操作しやすい。
抵抗すればごく短時間で振りほどかれる。
【詳細】
学年一可愛いと評判の女子。
ルックスだけなら自分に勝ってるやつもいるが、そいつらは性格が悪いかコミュ障なので敵じゃねえなと思っている。
学校アイドルなんかは冷めた眼で見ているが、同級生たちの離反はまずいので表面上は非常に良好な関係を保つ。
クラスカースト上位層を自負しながら、カースト下位のオタクや陰キャにも分け隔てなく接して好感度を稼いでいるため校内の評判は良い。
代わりに猟友会のブスや林業現場のハゲを登下校ついでに煽りちらし、ストレスを発散するのが日課。
大人からはメスクソガキと陰口をたたかれているが負け組の遠吠えと気にしていない。
【名前】芦屋早苗(あしや さなえ)
【性別】女性
【年齢】26
【職業】無職
【外見】美人だが性格のキツさが目に現れている。
【性格】
口が悪く傲慢な完璧主義者。その高飛車な性格から嫌われやすい。
【異能】
『狂奔』
憎悪を操る能力。
周囲の憎しみの感情を増幅させたり、矛先を自由に変えたりもでき、逆に減少させたりもできる。
この能力はゾンビにも有効で、ある程度の群れを扇動する事ができる。
発動条件は声を聴かせる事。
【詳細】
かつては一流企業で働くエリート社員だったが、自身のきつい性格が原因で周囲から孤立し、高い才覚を持つが誰に対しても容赦のない物言いから疎まれ、左遷させられてしまう。
現状に不満を抱き自主退職するも再就職に失敗し、田舎に帰ってきた。
最近は自尊心が満たされず、努力しても認めない社会に沸々と憎悪を募らせている。
努力家でもあり、能力も高く与えられた仕事はたとえ雑用だろうが全力でこなしていたが、性格故に認められる事はなかった。
最近は割と本気で世界滅亡でも起きないかと願っていたが、本当に似たような状況が訪れて驚いている。
異常事態発生時は民間人の救助に協力はしているが、この状況を利用すればより上を目指せるのではという野心も芽生えている。
【名前】字蔵 誠司(あざくら せいじ)
【性別】男
【年齢】53
【職業】役場職員
【外見】太鼓腹の典型的な中年体型、痩せていればそこそこのイケメン(本人談)
【性格】典型的な内弁慶、ストレス耐性は低い
【異能】
『女卑』
自身の視界に入った女の異能発動を無効化する
【詳細】
度重なる暴力で数週間前に嫁に逃げられた暴力親父。
女は男に従うものだという古い価値観を絶対としており、それに従って家庭内で暴君として君臨していた。
嫁に逃げられたことは近所には知れ渡っており、もともと低かった評判は地の底に落ちている。
職場での立場も弱く、無能が配置されると言われる窓際部署でいつ辞めるのかと噂されている。
【名前】字蔵 恵子(あざくら けいこ)
【性別】女
【年齢】16
【職業】学生(不登校中)
【外見】
一昔前の女子らしい長髪、体格は小柄、母親に似てそこそこの美人。
上半身は綺麗だが下半身に火傷や痣が多く、客が来たときは長めのスカートで隠している。
【性格】
男の言うことを絶対としている以外は基本無気力無関心。
極々まれに激昂するが、暴力をちらつかされると黙る。
【異能】
『雷撃』
自身に与えられたストレスをより強い電撃として発散させる
【詳細】
字蔵誠司の娘。
母親が蒸発してからありとあらゆるDVを一手に引き受けている。
誠司に逆らう気力はすでに残っておらず、むしろ洗脳に近い形で誠司の思想のイエスマンと化している。
学校にも行かせてもらえず、関係者が訪ねてきたときはなんでもない演技を強要させられて追い払っている。
【名前】鈴木冬美
【性別】女
【年齢】28歳
【職業】山岡伽耶の使用人兼ボディガード
【外見】180cm・体重75kg
スーツ姿の髪を短く切りそろえた精悍な顔立ちの女性。
【性格】職務に忠実で、山岡伽耶に対しては誠実。山岡伽耶以外には穏和な態度で接する。
【異能】
『死が二人を別つまで』
対象とした相手と自身とで、ダメージを共有する。任意発動能力。射程距離10m
対象の腕が折れれば鈴木冬美の腕も折れ、鈴木冬美が刺されれば、能力の対象となった人物も同じ様に傷付く。
この能力の対象となったものは、どれだけ傷つこうとも鈴木冬美が死なない限りは死ぬ事は無い。
【詳細】
山岡伽耶の使用人兼ボディガードとして山折村へやって来た女性。家事万能で、高い格闘術の技能を持ち、武器術の扱いや車の運転にも長ける。
常に特殊警棒を携行し、服は対刃繊維、服の下に防弾ベストを身に付けている。
その実態は山岡伽耶の監視役であり、山岡伽耶が加害欲求を抑え切れなくなった場合、最悪殺してでも止める責務を帯びている。
尚この事は、山岡伽耶は勘付いており、欲求を抑えきれなくなった時は最初に殺す相手と目されている。
【名前】姫野川愉快(ひめのかわ ゆかい)
【性別】女性
【年齢】素顔はかなり若く見えるが実年齢は不明
【職業】アイスクリーム屋、大道芸人
【外見】白塗りのピエロメイクと派手な衣装を着た道化師。メイクを落とせば美人だが、スレンダーな体型がコンプレックス。
【性格】子供好き、笑い上戸。
【異能】
『私と一緒に遊びましょう(イッツ・プレイ・タイム)』
催眠能力。幻を見せたり、記憶や思考を操作し操る事ができる。
特に子供に強く効果を発揮し、自在に操る事も可能だが、大人にはあまり効かない。
大人の定義は本人の趣向で判定される。
【詳細】
各地を転々とする大道芸人。
移動屋台で自家製のアイスクリームを販売し、バルーンアートや手品などでお客さんを楽しませてくれる。過去に村の祭りにも出店していたので村人にもそれなりに知られており、子供たちからの人気は高い。
今年の山折村の祭りに参加するために来ていたが、異常事態発生時は子供たちを守るために率先して行動している。
趣味として各地で気に入った子供を拐って殺害しており、薬指を切り落としてクーラーボックスに保管している。
【名前】鈴木 佐義(すずき さよし)
【性別】男
【年齢】32
【職業】セールスマン
【外見】眼鏡、黒スーツ、営業スマイル
【性格】人を騙すことに一切の抵抗がない野心家
【異能】
『素敵な素敵な我が商品』
玩具の銃はレーザー銃に。折れた箒は空も飛べる魔女の箒に。
何の役にも立たないガラクタを、高品質で素敵なアイテムにグレードアップする能力。
本人がガラクタと認識したものにしか能力は使えず、同時にグレードアップできる数にも限りがある。
【詳細】
全国各地を転々としながらガラクタを高値で売りつけるフリーのセールスマン。
素敵な営業スマイルと卓越した話術が武器。
「日本のトップを取り世界を牛耳ろう」という夢を共に追いかけていた友人に裏切られ、
多額の借金を負ったがその商才で完済、事業を立ち上げるための資金稼ぎ中。
現在も夢は捨てきってはおらず、実力者とのコネ作りは欠かしていない。
【名前】蛇茨 楓(へびいばら かえで)
【性別】女
【年齢】17
【職業】学生
【外見】黒髪ショートに切れ長の瞳、小柄な体。必要以上の言葉は話さず、近寄りがたい印象を与える。
【性格】蛇茨家の当主として、感情を排した冷徹な人間という仮面を被っているが、
本来はごく普通の少女。
学校では必要以上に他人と関わらないようにしているが、
それは自分と関わったことでトラブルに巻き込まないようにする為。
【異能】
『雀蜂(キラービー)』
両手の指から毒針を生やす異能。
まともに刺されば常人なら十数秒で動けなくなり、1〜2分で死亡する。
心臓に刺せば基本的に即死。
誤って刺した場合、毒を体外に出すことで応急処置は可能。
【詳細】
山折村きっての大地主である蛇茨家の当主。
蛇茨家は裏の人間に対する土地の貸し出しを代々営んでおり、
産業廃棄物の埋め立てに始まり、
表に出せない取引や実験、あるいは『人間の処理』を
邪魔が入ることなく行える場所を、金と引き換えに提供する。
それらは村に莫大な収益をもたらしており、
必要悪として役場や警察からも黙認されてきた。
彼女は稼業についてほぼ知ることなく、
文字通り箱入り娘として育てられたが、
1年前に両親が相次いで病死。急遽当主の座を継ぐことになり、
ヤクザやら売人やら謎のエージェントやらの相手をする日々に放り込まれてしまった。
蛇茨の稼業については正直うんざりしており、とっとと終わらせたいと思っている。
生活できる分だけの金だけもらって、
あとは好きに暮らしたい、というのが本音。
【名前】チャッピー(山田チャッピー)
【性別】オス
【年齢】2歳
【職業】柴犬
【外見】茶色と白の毛並み・名前が刻まれた赤い首輪。
【性格】好奇心旺盛で人懐こい。むやみに人に吠えはしないが、主人の害になると判断したものには容赦しない。
【異能】
「獣化(フェンリル)」
大気中の酸素を取り込んで肉体組織を変質させ、自身の体積はそのままに質量を百倍に増加させる。
皮膚・骨格・筋肉・臓器といった体を構成する各部位は仮想の質量を動かすに不足ない領域にまで強化され、全力での突進は軽トラック並みの衝撃力を有する。
特に咬合力と牙の強化が著しく、その噛みつきは「噛み砕く」だけにとどまらず「切り裂く」ことすら可能。
【詳細】
生まれ故郷の村で暮らす老山田夫婦のため、村外に住む息子から贈られた柴犬。
子犬の状態から大切に育てられたため老夫婦のことを深く愛し、また愛されている。
老夫婦と連れ立って散歩するのが日課であり、村民からも可愛がられている。
言葉ではなく人の意志、思いさえも嗅ぎとっているふしがあり、「あれ取ってきて」と言うとその通りのものを取ってくることができる(口に咥えられる程度のものに限るが)。
好奇心が強く、初めて見る人物にも積極的にじゃれつきに行くが、犬を嫌いな人や泥棒など邪まな考えを持っている者に対しては一転して警戒を露わにする。
自分を可愛がってくれる人のことは大好きなため、村の子どもたちとは仲良し。散歩中によく学校の校庭に飛び込んでいき、子どもと一緒にボールを追いかけたりしている。
村の一日村長も経験したことがある。
こんにちは、暮村姉弟のキャラシートを提出させていただいた者です。
あまりにも改行が酷かったので、wikiの方にて修正を加えさせていただきました事を報告させていただきます。
内容はこちらと変わっておりませんのでご安心ください
【名前】沼倉珠々子(ぬまくら・すずこ)
【性別】女
【年齢】21
【職業】料理人
【外見】短い黒髪、背の高い美人、ボディラインが綺麗、巨乳というより美乳
【性格】私生活から人間としての行動まできちっとしてない時が済まないタイプ。
四角い所を丸く掃くと烈火のごとく怒り出す。
【異能】シンメトリー
対象を強制的に左右対称にしてしまう能力。念力に近い。
全力で使えば対象をアジの開きみたいに奇麗に二つにしてしまう事も可能。
発動の度に精神的疲労がかなり溜まる為、多用は出来ない
【詳細】
元捨て子で、村の雑木林に捨てられていたのを老夫婦に拾われ、育てられた。
名前はキラキラネームという物を勘違いしていた育ての父に付けられたもので、
読みは普通、漢字も極端に難解な物を使ってないのもあり、本人は気に入っている。
専門学校を出た後、そのまま関東のレストランに就職し、料理を作っていた。
が、店長に関係を迫られたため、店をやめて村に戻ってきたところをVHに巻き込まれてた。
命がいくつあっても足りない上に、多大なストレスにしかならない現状をどうにか打破しようと足掻く。
現状のキャラのまとめ(82名)
■村民
【学生(山折村学校)】
>>16 山折 圭介【異能】『村人よ我に従え(ゾンビ・ザ・ヴィレッジキング)』
>>18 須藤 利人【異能】『鷹の目』
>>26 川中 蔭子【異能】『君にこの声が届きますように(マイ・ガッシュ・イズ)』
>>27 露里 奈保子【異能】「Take2」『パラサイト・アイ』
>>28 佐藤 要/高橋 美紀【異能】「え!? ワタシが王子様!?」『アレ!? また入れ替わってる!?』
>>30 湯川 諒吾【異能】『掛汁纏い(ドレッシング・ドレッシング)』
>>43 嵐 翼良【異能】『オールアビリティゼロ』
>>47 西川 爆人【異能】『爆発投手』
>>58 御手洗 創【異能】『幻覚視線』
>>62 月見里 小夜【異能】『Ctrl+Z』
>>63 犬山 うさぎ【異能】『干支時計』
>>66 佐倉 桜花【異能】『スパイラル・サイケデリック』
>>77 古山 久次郎【異能】『ベースボール・イリュージョン』
>>78 鐘内 友也【異能】『マネーイズパワー』
>>85 氷月 海衣【異能】『花鳥氷月(かちょうひょうげつ)』
>>88 水沼 俊雄【異能】『右から左(ワン・ウェイ)』
>>89 山岡 伽耶【異能】『死体が練り歩いている(ウォーキング・デッド)』
>>92 環 円華【異能】『お願いを聞いてくれてありがとう』
>>95 字蔵 恵子【異能】『雷撃』
>>99 蛇茨 楓【異能】『雀蜂(キラービー)』
【学生(村外学校)】
>>19 暮村 沙羅良【異能】『暗視』
>>20 暮村 雨流【異能】『神技一刀(じんぎいっとう)』
>>24 転生 勇渚【異能】『オープンステータス』
>>25 九条 和雄【異能】「高魔力体質」
>>31 八柳 哉太【異能】『肉体再生(アンデッド)』
>>32 天宝寺 アニカ【異能】『テレキネシス』
>>36 革名 征子【異能】『起爆体』
>>37 高谷 千歩果【異能】『イノウライド』
>>46 水瀬 ミカ【異能】『オン返し』
>>68 仲田 加奈【異能】『星光の架け橋』
>>81 岩水 鈴菜【異能】『パンドラドア』
【社会人】
>>40 檜前 一八【異能】『肉腐れ』
>>48 臼井 浩志【異能】『超回復』
>>61 車 八十吉【異能】『加速』
>>64 茶畑 悠詩朗【異能】『異形変化(ヤマアラシ)』
>>69 袴田 伴次【異能】『フルリプレイ』
>>70 大和 あい【異能】『ウイルス神からの神託』
>>72 岬野 結衣【異能】『Q.E.D』
>>74 大隈 重治【能力】『見立て調理』
>>75 孝宏 敦【異能】『EXILE』
>>76 射志多理 由美【異能】『必中』
>>83 佐川 クローネ【異能】『ハイドスティール・ディメンジョン』
>>91 小笠原 義清【異能】『融合体(デモニアック)』
>>96 鈴木冬美【異能】『死が二人を別つまで』
>>97 姫野川 愉快【異能】『私と一緒に遊びましょう(イッツ・プレイ・タイム)』
>>98 鈴木 佐義【異能】『素敵な素敵な我が商品』
>>102 沼倉 珠々子【異能】『シンメトリー』
【巫女・宮司】
>>86 神楽 春姫【異能】『全ての始祖たる巫女(オリジン・メイデン)』
【林業】
>>60 岡山 林蔵【異能】『剛躯』
>>84 菅原 分蔵【異能】『鉄拳』
【猟友会】
>>51 嵐山 岳【異能】『血の弾丸』
>>79 及川 千萩【異能】『追い皮剥ぎ』
【役場・警察・教師】
>>21 薩摩 圭介【異能】『指鉄砲』
>>45 安遠 真実【異能】『きみを見込んで真実を伝えよう』
>>53 碓氷 誠吾【異能】『信号機(ストップ・アンド・ゴー)』
>>59 大林 銀治【異能】『冷水如雨露(スロウコールド)』
>>94 字蔵 誠司【異能】『女卑』
【政治家・投資家】
>>22 野倍 義雄【異能】『その言葉が宿る』
>>29 明知 夏衣【異能】『その言葉が宿る』
>>38 比志合 拓【異能】『バトル・ロワイアル』
【医師・研究員】
>>65 田宮 高廣【異能】『活性薬物』
>>71 与田 四郎【異能】『真実の研究者(ベリティ・サイエンティスト)』
【スパイ・エージェント】
>>17 田中 花子【異能】『全てを見通す天の眼(ホルス・アイ)』
【逃亡犯・テロリスト】
>>33 物部 天国【異能】『日本、滅ブベシ(モンキー・マスト・ダイ)』
>>34 佐々羅 宝石【異能】『溶けろ溶けろ』
>>42 宇野 和義【異能】『愛玩の檻(ジェノサイド・ケージ)』
>>73 牙崎 無我【異能】『ディープ・ダイバー』
【無職】
>>23 面壁 歩【異能】『垂直歩行』
>>35 高橋 進【異能】『20倍強化』
>>39 端古 封【異能】『射手距離(ハンドアウト)』
>>41 気喪杉 禿夫【異能】『身体強化』
>>44 東 大【異能】『鑑定』
>>56 志村 貴俊【異能】『沈静』
>>57 木更津 閻魔【異能】『威圧』
>>82 渡界 歩夢【異能】『ジャンプ』
>>90 鴨出 真麻【異能】『拡声』
>>93 芦屋 早苗【異能】『狂奔』
【野生】
>>49 クマカイ【異能】『弱肉強食』
>>100 チャッピー【異能】『獣化(フェンリル)』
■特殊部隊員
>>50 大田原 源一郎
>>52 伊庭 恒彦
>>67 蘭木 境
長くなってきたので以後はこちらで直接更新していきます
ttps://w.atwiki.jp/orirowaz/pages/18.html
【名前】堀北孝司(ほりきたこうじ)
【性別】男
【年齢】14
【職業】学生
【外見】クラスでも1番高い身長に意志の強そうなバター顔のイケメン、平成後期の主人公ライダーっぽい雰囲気、全身に傷跡
【性格】サバイバーズギルド、少女マンガに出てくるプレイボーイのようでありながら同時にお調子者の陽キャ男子だが、過去のトラウマから困っている女性を見ると何が何でも助けずにはいられない
【異能】
なし
死後間もない死者の霊から真実を聞き出す力があったが、感染直後から喪失している。それが異能によるものかもしれないが確かめる術を彼は持たない
【詳細】
何ヶ月か前に村に来た転校生。奈良から来たのであだ名は奈良。中学校の全員と面識があるほどのコミュ力だが、それは小6の時に目の前で死んだ母親と友達を100人作ると約束したから。しかし人口1000人もいかない村では全校生徒と友達になっても達成できないので、村人とも頻繁に交流している。母親の遺品であるお守りを失くし探していたとき、川中蔭子に見つけてもらって以来彼女と惹かれ合う。2年前に母親を失くして以来、同じように母親を失くした明知夏衣を彼氏として支えた経験から女性に尽くすことを己の罪滅ぼしとしている。しかしその生き方を明知夏衣に否定され別れてからは女性に深く踏み込まないようにしている。でも踏み込みまくっているので親しい女子からは心配されている(無自覚)。
【名前】早川律(はやかわりつ)
【性別】男
【年齢】9
【職業】学生
【外見】茶髪のマッシュルームカット、メスガキフェイス
【性格】典型的なバカな男子小学生、ヒーロー志望、良心のある半天狗
【異能】
『チェーンソーマンのアレ』
頭からチェンソーマンのチェンソーが出ているように感染者に見せる。チェンソーマンを知っていると再現度が上がり、作品を把握している人間には本当にチェンソーマン同様の戦闘力になる。
この異能が単なるごっこ遊びだと知っている人間にはなんの効果もない。
【詳細】
宿泊体験に来ていたがコロナ感染がわかったため村の医院に即日入院し、1日遅れで帰ることになっていた小4。周りがゾンビだらけになり「これチェーンソーマンの1話じゃん」とテンションが上がっている。ちなみにチェーンソーマンではなくチェンソーマンである。
【名前】美馬百合香(みまゆりか)
【性別】女
【年齢】24
【職業】教師
【外見】小学生と見間違えるような容姿
【性格】真面目だがユーモアを忘れない熱血教師、杓子定規な上におっちょこちょいだが責任感はある。ただし酒乱
【異能】
『それは不自然ですね』
「それは不自然ですね」と言うと相手は不自然な気がして納得してしまう。冗談で探偵ぽく言ってみたらなんか相手が納得してしまった。試しに別のセリフでも探偵ぽく言ってみたがなんの効果もなかった。
【詳細】
早川律の付き添いの教師。児童には人気だが保護者からは頼りないと思われている。しかし虐待を見抜いて警察に通報したり、変質者に乱暴されかけた生徒を命がけで助けたりとその心には熱いものがある。性犯罪の前科がある。
【名前】マイトレーヤ高萩(まいとれーやたかはぎ)
【性別】男
【年齢】34
【職業】宗教家、他にいくつかの名目上の職業
【外見】弥勒菩薩っぽい髪型、パット見は北京原人
【性格】信心深い、命を大切にしている
【異能】
『視力3.0』
後述の拘置所襲撃の際に暗殺拳により失明したが、見えるようになって視力が3.0まで上がった
【詳細】
通称『カルトオラウータン』。村に神殿を建てに来たカルト教団の幹部。建設は5年間阻止され続けてしまい、山中にある洞窟にキャンプ暮らしをしている。しかし元から文明の利器を使うことが下手なのとこれも修行だと思っているのでまるでへこたれずむしろヤバさに磨きがかかった。ジークンドーを修めるほか洞察力と推理力が高く、カルト探偵として凶悪犯を警察より先に特定して死刑にならないように信心させたり、凶悪犯罪が起こる前に犯人を説得して逆上してきたところを返り討ちにして信心させている。命を大切にするという教義のためにあえて逮捕されることで、格闘技で拘置所を襲撃し教祖を含む死刑囚数十人を拉致する。「どんな理由があっても殺人は許されない」として、村人の脱出に尽力している。
大田原源一郎の中学時代の同級生。
>>76 ですがWIKIの方で一部設定を修正したことを報告します
37と81を一部ウィキで直しました。
【名前】猿渡恵介
【性別】男
【年齢】17歳
【職業】村外の高校に通う高校生。
【外見】身長193cm・体重116kg
短く刈った髪を金髪に染めている。重量級の打撃格闘家を思わせる体躯
【性格】ひたすらに強くなることを追求する男。一日三十時間のハード・トレーニングをしているとの噂がある。
【異能】
『炸裂心臓(バースト・ハート)』
右の鉄拳で心臓部位を打つことで、心臓を破裂させる事ができる。
精確に心臓のある位置を打たなければ効果を発揮しない。
【詳細】
兵庫県神戸市灘区から引っ越してきた。通称『灘』。ゴリラのおもちゃは関係無い。
高名な格闘家である父親に憧れて自身も格闘技を始め、格闘技の英才教育を受けられる環境と、当人の資質と努力もあって、17歳にして投打極全てをこなせるトータルファイターとして知られている。
異能抜きでもゾンビ相手に生き残るだけなら充分なスペックを有する
【名前】心騙 懐(しんかた かい)
【性別】男
【年齢】14
【職業】学生
【外見】童顔で同年代と比べて低身長。ゴシックな服装(女物)
【性格】誰にでも敬語で少し大人びている。女装癖。女装を見抜けない男性を少し見下す。
【異能】
『ショックウェーブ』
相手が自分に対して驚いた場合、その度合いの衝撃(物理)を出すことができる。
絶叫かつ大声なら木々を圧し折る程だが、自分に対してでないと効果は発動しない。
声に出さない程度のものでもそれなりの威力は発揮する。基本の射程は正面と周囲(驚いた度合いで正面が伸びる)。
【詳細】
娯楽がなかった田舎と姉の弄りによって女装癖を拗らせた(なお姉は女装癖については知らない)。女装が似合うことにコンプレックスはあったが体格、声帯ともに今しかできないのもあって、最終的に弾けている。女装しては同年代の男から貢いでもらうことにちょっとした優越感を持っていたりする。女装した状態でこの事態に巻き込まれたので女装のまま奔走することに。女装癖はたとえロワが起きようとも可能な限り知られたくないので、偽名であり女性であることを徹底的に貫き通すことになる。異能も相まってばらす=大体相手は吹き飛ぶ。
【名前】一色 洋子(いっしき ようこ)
【性別】女
【年齢】11
【職業】学生
【外見】肩までかかる艶やかな黒髪と病的なほどに白い肌。華奢で儚げな雰囲気の美少女。
【性格】諦観したように穏やかで物静か。元々は明るく優しい性格だった。
【詳細】
九条和雄(>>25 )の実妹。両親が離婚しているため苗字が違う。
現代医学では診断困難な難病を罹っており、成人するまでは生きられないだろうと言われていた。
病弱で数歩歩くだけで息切れするほど体力がなく、五感も日々失いつつある。
母の実家のある山折村の病院で療養している。度々お見舞いに来てくれている山折村の神社の関係者とは仲が良い。
和雄には禁忌と知りながらも恋心を抱いており、死ぬ前に想いを伝えたいと思っている。
VH発生時、病院内でHE-028に感染した彼女は普通の人のように感じ、動けるようになっていた。
病気が完治したと思い歓喜した彼女が最初に見たものは―――
―――看護師を本能のままに貪る母親だった。
【異能】
『肉体超強化』
肉体を超強化する異能。常時発動能力。
子供でもオリンピック選手を超えるほどの身体能力を得ることができる。
しかし現在の保持者があまりにも脆弱だったため、年齢相応までの強化に留まった。
『巣食うもの』
一色洋子の中に巣食う正体不明のナニカ。感染とは無関係。
神職であれば誰もが知っている史上最悪の『厄災』。
宿主の生命力と魂を食らう。故に上質な贄程度の思い入れしかない。
一色洋子が死ねば生きるため、力を蓄えるために新しい宿主を探すだろう。
HE-028と異能。2つを知った『それ』は、
【名前】リン
【性別】女
【年齢】9
【職業】なし(監禁されていた為就学していない)
【外見】とても小柄で7歳ぐらいにしか見えない。長い黒髪に赤いカチューシャ、
いいとこのお嬢さんみたいな赤い服。総じてお人形さんみたいな女の子
【性格】甘え上手、したたか、無自覚に蠱惑的、とても聡い
【異能】プレデター・プリンセス
一人しか対象に出来ない代わりに、その対象に無自覚に自分への庇護欲を植え付ける。
一度術中にはまると、能力者本人が解除しない限り終わらない。
とは言え無自覚な感情なので、被能力者がロジックな思考さえできれば抗う事も出来る。
【詳細】
生まれて間もなく金持ちの変態に監禁され過ごした少女。
一応健康体。病気もしてない。(監禁犯もそこら辺は気を使ってたらしい)
その為自分の姓は知らない(そもそも姓という概念を知らない)
殆ど世間と隔絶された環境で過ごしたが、ひらがななら読み書きも出来るし、
話す言葉も甘ったるいがしっかりしているので頭はとても良いようである。
それは長い監禁生活でなんとなく自分に求められている事を察し、
子供っぽい無邪気さと、蠱惑的な雰囲気が同居する仕草を覚えたことからもうかがえる。
監禁と言っても夜は散歩に連れ出されていたので、普通の小学生ぐらいの運動能力は持っている。
流石に体が小さすぎて花を散らされてはいないが、それでも一通りの性技は教え込まされている。
もう少し育ったら慰み者にされていたことだろう。VHが起きたのが良かったのか悪かったのか。
この異常事態でもその生存能力をいかんなく発揮し、誰かに寄生して生きながらえる事だろう。
【名前】日野 光(ひの ひかり)
【性別】女
【年齢】18
【職業】学生
【外見】美人ではないが誰からも愛される可愛らしい顔、ふんわりセミロング、巨乳
【性格】世話焼き、おっとりしているが根はしっかり者
【詳細】
(>>16 )山折 圭介の恋人。
ガキ大将である圭介を叱れる唯一の存在。
村の生まれではなく5歳の時に親の都合で山折村に引っ越してきた。
村長である山折家の近くに引っ越してきたため色々と交流が深く、圭介とじれったい関係を続けていたが昨年正式に恋人関係になった。
学校内ではみんなのお姉さんとして下級生にも慕われている。
本編ではゾンビとなっているため投票非対象キャラである。
※投票非対象キャラ
【名前】村木剛介(むらきごうすけ)
【性別】男
【年齢】36
【職業】記者
【外見】髭面の中年男性。
【性格】大雑把。無神経にずけずけと物事を言うタイプ。
【異能】
『シャッター・チャンス』
手持ちのカメラで死体を撮影した場合、その人物の絶命の瞬間の写真が撮れる。絶命の瞬間に辺りに他の人間がいた場合には、その人物もその写真に映る。
【詳細】
近隣の町でフリーの記者として生計を立てていた男。知名度と収入は低く、その日暮らしに近い。山折村の因習やテロリスト侵入の噂など、他キャラシに対応する話を聞きつけて、取材のために村に滞在していた。強引な取材のやり方は煙たがられがちだが、取材協力の見返りは欠かさないなど、義理人情に厚い一面も。ただし、あくまで生活の手段であり、記者という職業に誇りを持っているわけではない。
【名前】愛原 叶和(あいはら とわ)
【性別】女
【年齢】17
【職業】学生(休学中)
【外見】明るい髪色のボブカット。痩せ細っている。
【性格】元々はギャルとしての闊達さがあったが、今は心を閉ざし気味。
【異能】
『線香花火(せんこうはなび)』
対象(自分又は他者)の肉体を活性化させる。戦闘時における身体能力の向上のみならず、肉体の自然治癒力も一時的に人間の限界を超えて活性化するため、肉体損傷の回復のために使うことも可能。ただし、代償として、活性化の度合いに応じて叶和の寿命が減る。
【詳細】
6歳の頃まで山折村で過ごしていたが、小学校入学と共に両親と共に都会に引っ越す。その後は至って平凡な生活を送っていた。校則が緩い学校だったので髪を染めて、いわゆるギャルとしてスクールカーストの上澄みで交友関係を広げていた。中学・高校と演劇部に所属していたが、ある日、演劇の練習中の息切れが異様に早いことに違和感を覚え、病院で検査したところ心臓の病気が発覚。余命1年であると告げられた。
その後、同じ演劇部の親友、【哀野 雪菜(あいの せつな)】に事情を話した。返ってきたのは、ありきたりな同情の言葉。毎日お見舞いに来るとか、これからいっぱい思い出作ろう、とか。
「――アンタが生きてくための思い出作りにあたしを巻き込まないでよ。この先アンタが何十年生きるのか知
らないけどさ、そんだけあってもまだ不満なわけ?」
昨日まで同じ場所で生きてきたはずの彼女の言葉が、どうしようもなく遠く感じられた。気が付けば半ば八つ当たり的に酷い言葉を浴びせて、追い返していた。
その後、後悔や自己嫌悪に苛まれながらも、雪菜からの着信を見るのが怖くて、携帯の電源は一度も入れられていない。
そして、叶和は病院での闘病を拒み、余生を生まれ故郷の山折村で祖父母・両親と共に穏やかに生きることを選択。それが、本編開始より一ヶ月前の話である。
【名前】哀野 雪菜(あいの せつな)
【性別】女
【年齢】17
【職業】学生
【外見】黒髪ショートヘア。ところどころ手足に包帯。
【性格】温和かつ天然。有事には行動力がある。
【異能】
『傷跡(きずあと)』
雪菜の体液は、腐食性の酸と同等の性質を有する。この体液が自身に悪影響を及ぼすことはない。血液が最も腐食性が高く、鉄を溶かすことすらも可能である。
【詳細】
放任的な浮気性の父親と、感情的で暴力的な母親の下に産まれた。全身に虐待の痕を刻み込み、洗剤の味すら覚えてしまった。死にたいと願ったことは数え切れないが、そんな日々の中でも楽しみはある。親友の愛原叶和(>>118 )との交流はそのひとつだった。出席番号が近くて席が隣だったのと、同じ演劇部に所属しており共通の話題もあったので、自ずと親友と呼べる仲になっていた。
ある日、叶和に不治の病が見つかった。そのことを伝えられた時、頭が真っ白になって、どう声をかけたのか覚えていない。だけど、気が付けば叶和が声を荒らげていたことだけは覚えている。そして次の日、叶和の病院を訪ねると、叶和は余生を田舎で過ごすために退院していた。
その後、まともにお小遣いも貰っていないいち高校生に可能な限りの情報網を駆使すること約一ヶ月、ついに叶和の住んでいる山折村を突き止める。会ってどうしたいのか、何を言いたいのかも定まっていない。だけど、このまま終わるのは嫌だと、その一心で山折村を訪れた。
【名前】工藤清澄
【性別】男
【年齢】25歳
【職業】格闘家
【外見】
193cm・120kg
ヒグマを思わせる髭面の巨漢
【性格】
言動はチンピラ染みているが、弱者や素人に手を出す事はしない
【異能】
『なっちまえばいいんだよ。羆に』
ヒグマになる能力。体長3m。体重500kg超の大型のヒグマへと変わる。
持続時間は3分と短く、一度使えば30分使用不能になる。
ヒグマに変わっている間は、対人間限定の異能は通用しない。
ヒグマ時は一切の人語を話すことが出来ず、『キャオラッッ!』と鳴くだけである。
【詳細】
山折村付近の山に修行の為に籠っていたら、ヒグマとエンカウントして食料を根こそぎ奪われ、山折村へ助けを求めてやって来たところでこの事態に遭遇した。
人間はどれだけ鍛えても普通はヒグマには勝てないからね。悔しいけれど仕方ないんだ。
世界的に名の知れた格闘家で、日頃は格闘技の大会に出場して賞金で生活費その他を稼いでいる。
マス・オーヤマにあやかって、山籠りに際して片眉剃っている為に、右の眉が無い
【名前】比嘉金 祐夫(ひかき すけよ)
【性別】男
【年齢】25
【職業】動画配信者(YouTuber)
【外見】眼鏡をかけた小太りの青年。配信中は身バレ防止のためにスケキヨマスクをよく被っている。
【性格】
普段は大人しく寡黙な性格だが、撮影時はハイテンションになる。
【異能】
『不可視(インビジブル)』
透明人間になる。
触れているものや着ている衣服も含めて透明になる。
視覚的に見えなくなるだけなので、感覚の鋭い相手には発見される場合もある。
【詳細】
元は会社員として働き、比較的普通な人生を送っていたが、都会の生活に息苦しさを感じ、元々アウトドア派だった趣味を生かした生活がしたいと心機一転、山折村に移住してきた青年。
山折村の片隅のほぼ廃墟と化していた空き家を格安で購入、独学で家の修繕や自給自足のライフラインを開拓し、その様子を配信して生活している。
登録者数1000人程度の小規模なチャンネルだが、丁寧な編集と動画で披露する多才な技能からファンは多い。
付近の川を利用した水力発電や、格安の太陽パネル製品を応用した自家発電などを作成しており、家の備蓄だけで半年は引きこもっても生きていける備えはある。
VH発生時、自宅で籠城していたが、突如芽生えた異能を自覚してからは積極的に外出し、この異変を記録に残すため配信を行っている。
しかし殆どのリスナーからは手の込んだネタだと思われている。
【名前】山狩昴(やまかり すばる)
【性別】男性
【年齢】25
【職業】投資家、猟師
【外見】中性的な外見。顔だけみれば男性か女性か判別がつかない。
【性格】一言で言えば変人。独特の死生観を持っており、自己も含めて生死に全く頓着しない。
【異能】
『生命の旋律(イノチノカガヤキ)』
保菌している生物の血を自在に操る能力。
血液の循環そのものを操るため、副次的に驚異的な回復力も得られる。
能力の影響下にある血の性質も変えることができるため、異なる血液型の血もある程度は輸血できる。
【詳細】
没落した山折村の名家の血筋。両親の遺産を元手にFXに投資し生活している。
趣味は剥製作りと月光浴。満月の日は全裸で月光浴をしている。罠猟と猟銃の免許を取得しており、狩猟を嗜む。
猟友会にも所属しており、嵐山岳と面識がある。気が合うのでたまに一緒に狩りをしている。
昔、優良物件として及川千萩にアタックされていたが、会話の取っ掛かりで「ペットが欲しい」と言っていたので善意から彼女の気に入りそうな猫の剥製を10体ほど作って贈ったことがあり、以後徹底的に避けられている。
【名前】誰彼 寂栞(だれかれ さびし)
【性別】男性
【年齢】18
【職業】学生
【外見】男版貞子みたいな不気味系男子
【性格】典型的なコミュ障であり、筋金入りの陰キャ。山折村の狭いコミニティで絶賛友人0人を達成する偉業を成している。
【異能】
『友達募集中(ウェルカム・トゥ・パーティー)』
他人と友人になるための能力。
直接相手に触れるか、目と目を合わせる事で発動する。
一種のフェロモンのようなもので、影響下にある人物は寂栞に対する好感度が急激に上昇・固定される。
好意の示し方は相手に依存するため、余程の異常者でもない限り常識的な親友レベルに収まる。
PTの維持は最大で4人。新たにPTを追加すると古い順に削除される。
【詳細】
インパクトのある外見とは裏腹にとても影の薄い学生。
山折村という狭いコミニティですら殆ど存在感がなく、名前すらうろ覚えにしか記憶されていない。
元は都会で暮らしており、明るい青春を謳歌する学生生活を期待するも、結局友達0人で中学生活を終えたという過去がある。
進学先は地元から自分を知っている人間が絶対にいないであろう山折村の高校を選び、親を全力で説得し、単身で山折村に移住してきた。それだけ労力をかけても未だに真の友人はいない。
趣味はゲーム。一日に六時間はをやり込んでいる。ただしゲームでもフレンドが居ないためソロで遊べるものに限る。
VH発生時は状況に怯えつつも、この状況を切っ掛けに友人が出来るのではないかと期待も抱いている。
【名前】山場 踏子(やまば ふみこ)
【性別】女
【年齢】68
【職業】無職
【外見】長い白髪、ボロ着にしか見えないような服を纏ってる。
【性格】怒りっぽい、小言が多い
【異能】
『たまちゃん』
虎のような巨体の猫に変身する。
パワー・スピード共に高い上、非常に柔軟な体を持っており一見その巨体では入れないような隙間からするりと現れる。
たまちゃんとはかつて山場家に存在した飼い猫の名前であり、彼女はその猫が力を貸してくれていると思っている。
【詳細】
かつて山折村の名家だった山場家の一人。
若き日の彼女は音楽家に憧れ、山折村の外に出る事を夢見ていたが家の都合と伝統を重んじる実家と対立。
音楽家への道は閉ざされ、家が決めた相手と結婚。村から出る事は許されなかった。楽器はすべて処分され心の慰めは愛猫のたまのみだったという。
現在では山場家は没落し彼女の中には過去の恨み妬みが積もりに積もっている。
その恨みは特に村の外から来た人間や村から出ようとする者に向かい、村を出ようとする孫娘と激しく対立している。
【名前】遠藤 俊介(えんどう しゅんすけ)
【性別】男
【年齢】30
【職業】林業
【外見】ヒョロっと痩せた頼りなさげな顔
【性格】女性に対して挙動不審
【異能】
『女体幻影』
男性の姿が女性に見える能力。
オンオフの切り替えはできず、常時発動する。
幻影の女性の外見はその男性の年齢・容姿に依存するが、老若問わず巨乳になる。
【詳細】
女性に対して異常に免疫がない男。
とはいえさすがに守備範囲はあり、小学生以下と50代以上の見た目の女性に対しては平気である。
元々は都会でサラリーマンをしていて、その頃は女性に対して視線を合わせて話すことができない程度であった。
しかし、上司が女性慣れしてない彼を見かねて、耐性をつけるためにとキャバクラに連れていった結果、女性に慣れるどころか更に悪化。
以来、女性が近づくだけで赤面して喋れなくなり、キャバクラで接したキャバ嬢が巨乳だったからか、胸の大きな女性に近づかれると鼻血を吹き出して倒れるようになってしまった。
こんな有様では仕事どころか日常生活もままならず、やむなく故郷である山折村に帰郷。
女性と接する機会も少ないだろうという理由で林業で仕事をするようになった。
【名前】山場 彩音(やまば あやね)
【性別】女
【年齢】19
【職業】定食屋の手伝い
【外見】長くツヤのある黒髪、スタイルには自信がある。
【性格】気まぐれだがさっぱりした性格。
【異能】
『運命の赤い糸』
赤い糸を作る能力。
ただそれだけの能力だが、長さはほぼ無制限なうえ普通の糸のような手触りと柔軟性からは考えられない強度があり耐久力はワイヤー以上。
【詳細】
かつて山折村の名家だった山場家の一人、山場踏子の孫娘。
かつてはこの村で生涯を終える事に不満はなかったが、村の工事のため訪れた作業員の一人と恋に落ち、彼の居る都会に出るため村から出る決意をした。
祖母である踏子と祖母に逆らえない両親から反対されているが、最悪絶縁されても村から出る決意に変わりはない模様。
【名前】心騙 愛離(しんかた あいり)
【性別】女
【年齢】20
【職業】OL
【外見】左目が隠れる黒髪の長髪、高身長で女性受けの良さそうな顔つき
【性格】弟を弄る等身大社会人よりのちょっとかっこいい姉。本当は重度のブラコン。
【異能】
『矛盾』
右手に槍(長さは三メートル)、左手に盾(サイズは手盾程度)、両手なら合体したそれが出る。槍は基本(異能で補強でもされてなければ)何でも貫き、盾も同様(異能で補強されてなければ)何でも防げる。合体させると異能相手でも対応できるようになるが両手で握る必要があり、片手でも離せば消滅する。その場で生み出せるので最悪投げても問題ない。当然彼女は槍も盾も使った経験は皆無。
【詳細】
心騙懐(>>113 )の姉。表向きは弟をからかいつつも仲の良いどこにでもいる年の離れた姉だが実際はかなり重症なブラコン。弟を守るものが姉だからと言う普通の理由だったはずが、弟を溺愛(内面で)した結果下手に仲良くすると恋愛感情すら抱きそうなぐらいやばいところまで行ってたため、上京して一度距離を置くことにした。精神が一度落ち着いたので帰郷した矢先に事件に巻き込まれている。弟を守る為なら、最悪倫理も捨てられるくらいの行動力はある。
【名前】火多陽一(ひだ・よういち)
【性別】男
【年齢】22歳
【職業】無職(就職活動中)
【外見】中肉中背、冴えない草食系男子。
【性格】優柔不断で決断力に欠ける。
【異能】
「百聞一見」
手で触れた空間や物体に焼き付いた残留思念を読み取る異能。過去にあった出来事を知ることが出来る。
ただし、「ここで◯◯が□□に△△で殺された」などと正確に理解できるのは最大で約一時間前まで。
それ以上の時間が経つと思念は拡散し、「ここで誰かが誰かに棒のようなもので殺された」など精度は著しく低下する。
「火多流忍術」
異能ではなく、異能が呼び覚ました業。
脈々と受け継がれてきた忍びの血を異能「百聞一見」が読み取り、歴代の火多忍者棟梁の知識・経験・術が転写されたもの。
これに至り、当世に火多忍者は蘇ることとなる。
【詳細】
都内に住む大学生。就職活動に難航し、いまだ内定を得ていない。
50社目のお祈りメールを受け取ったところで心が折れ、両親からしばらく田舎で休養するよう勧められて、祖父が住んでいた山折村を訪れた。
祖父はすでに他界しているが、祖父の住んでいた家は民宿として役場に管理を任せている。
陽一の三代前、曽祖父は戦国時代から続く火多忍者の最後の棟梁である。
火多忍者は大名、幕府、政府と主を変えながら歴史の影で生きてきたが、第二次大戦の敗戦とともに業を捨て、市井に紛れ生きてきた。
術や知識の伝承は途絶えたが、その血がうずくのか陽一も父も祖父も走り、跳び、泳ぎ、登り、動き回ることが大好き。
そのため性格に似合わず運動能力はかなり高く、本気で打ち込んでいれば日本代表すら狙えたレベル。
災害発生後、ふとしたことで出血し、その血に触れたとき陽一の中に眠る忍びの遺伝子は覚醒した。
読み取ったのは火多の血に眠る忍びたちの記憶。ここまで深く読み取れるのは陽一自身もその血に連なるが故である。
異能発現後は戦国時代に生きた先代たちに影響され、言葉遣いがやや古めかしく、また少しだけ強気になる。
【名前】斉藤 拓臣(さいとう たくおみ)
【性別】男
【年齢】35
【職業】フリーライター
【外見】ボサボサの黒髪と無精髭。小汚い身なりで胡散臭い雰囲気。
【性格】軽薄で嫌味っぽい。いつも砕けた敬語で喋る。良くも悪くも小市民的。
【異能】
『透明』
自身の身体を最大で10分ほど透明化する。
発動中は完全に風景に溶け込むことが出来る他、衣服や所持品なども透明化される。
ただし足音や気配は隠蔽できず、体温などの探知にも引っかかる。
また緊張や焦燥など、本人のコンディションが悪化すれば透明化の精度も落ちる。
【詳細】
日本各地を転々とするフリーライター。
田舎や地方都市のゴシップや都市伝説、果てはオカルト話など、如何わしく胡散臭い記事を中心に執筆している。
一応食い扶持は繋いでいるものの、大した稼ぎがある訳でもない二流記者。
いつかは大儲けするような記事を書きたいと思っている、結局鳴かず飛ばずのままである。
燻ったままの現状を一向に打破できず、趣味である風俗巡りで不満を紛らす日々を送っている。
軽薄な性格であり、何処かヘラヘラした態度が目立つ。
嫌味や皮肉を口にすることも多いが、かといって根っからのクズという訳でもない。
人並みの良心はあるし、時には他人に親切することもある。
しかし自分を省みずに率先して誰かを助けられるほどの善人でもない。
良くも悪くも小市民的で人間臭い性格の持ち主。
「記事のネタがありそうな如何にも胡散臭い田舎」という理由で山折村を訪れていた。
しかし滞在二日目に大地震に見舞われ、今回の騒動に巻き込まれることになる。
【名前】ワニ吉(ペット時代の名前)
【性別】オス
【年齢】10才
【職業】無し
【外見】巨大なワニ
【性格】非情に好戦的
【異能】
『ワニワニパニック』
自らの分身を作り出す異能。
最高で数十体の分身を生み出すことが出来る。
分身一体を作る事に10分弱の時間を要する。
分身体の弱点は頭部で一発攻撃を受けると姿が消える。
【詳細】
ペットとして飼われていたが脱走し、下水道や沼地で過ごす内に巨大になったワニ。
異能に目覚めた影響で知性が上がり、分身体を利用して人間を追い込んで捕食する。
基本は水辺で行動するが、陸地に上がって人間を襲うこともある。
【名前】烏宿 ひなた (カラトマリ ヒナタ)
【性別】女
【年齢】17
【職業】高校(二年生)
【外見】身長182cm。癖っ毛のロングヘアを大きなリボンでポニーテールに束ねている。
女性としては高身長なその体格相応に、いろいろなところがデカい。
目鼻立ちがはっきりして整った顔立ちだが、良くも悪くも表情豊か。黙っていれば美人と呼ばれるタイプ。
【性格】
活発で快活な楽天家。好奇心旺盛だが、興味の薄い事柄への関心はとことん薄く忘れっぽいことから、鳥頭とあだ名されることも。
【異能】
『発電器官 (ジェネレイター・オーガン)』
体内に蓄積されたカロリーを消費して、体の任意の箇所から放電する能力。電流を流したければ、対象に体のどこかで接触する必要がある。放電の際は頭髪が淡く光を放ち、フルパワーでは眩い金色に輝く。
瞬間的な最大出力は2000〜3000W程度と家庭用電力並である。対人・対ゾンビ共に、触れることさえできれば十分な攻撃力を期待できる。金属の棒やワイヤー越しに電流を流すのも有効。
エネルギー効率が非常に良く、1日分の食事で家1軒分の電力は余裕で賄うことができる。食事のカロリー→発生電力の変換効率は10〜20倍程度。永久機関が発生しちまったなぁ。
特筆すべきはその制御能力で、電子機器の稼働やバッテリーの充電といった、精密なコントロールを要する発電を非常に軽い精神負荷で制御できる。慣れれば寝ながらスマホの充電もできる。
【詳細】
ふもとの高校に通う少女。生物部所属。
好奇心が旺盛な彼女は野山に分け入り、目についた動植物を採集しては標本にしたり、興味が湧いた生物の生態を観察してきた。最近のマイブームはキノコらしい。自宅の庭で様々なキノコを原木から育てている他、毒と判っていても口に入れて味を確かめるなど、探究心のためなら危険スレスレの行為も厭わない。
17歳にしてに山折村周辺の固有種を何種類か発見しており、生物学界隈ではちょっとした有名人である。
山の生態系に詳しい>>51 嵐山岳 を『せんせー』と呼んで慕い、よく彼の猟について行く。>>122 山狩昴 に教えを乞って鳥獣の剥製や生物標本作成の手ほどきを受けており、そちらは『ししょー』と呼んでいる。
生来の運動神経が特に良い訳ではないが、山歩きには慣れている。そのため体力はその年代の女子としては高水準で、見かけによらずかなり身軽。
嵐山岳の母校である大学への進学を希望している。理系科目の成績は総じて学年トップクラスだが、文系科目が総じて壊滅的で、目下の悩みのタネとなっている。
父は東京都内で研究職として単身赴任中。彼の仕事の内容は”守秘義務がある”として一切知らされていない。給料は良いらしく、母と住む山折村の一軒家はそこそこ広い。
>>2 “『未来人類発展研究所』で副所長をやってる梁木だヨ。”→「どこかで見た気がする顔のような、しないような……。」
【名前】勝 慎之介(かつ しんのすけ)
【性別】男
【年齢】45
【職業】寺の住職
【外見】坊主頭に髭面。熊のような風貌。僧服を着ている。
【性格】僧侶なのに無類の酒好き。いつも酔っ払ってる。破天荒だが曲がりなりにも信心深く義理人情に厚い。
【異能】
『酔気』
酒に酔っている最中に限り『気』を操れる。
『気』をエネルギー弾のように飛ばして遠距離攻撃を行ったり、身体に纏うことで防御装甲として身を守ったりなど、様々な応用が効く。
酔えば酔うほど『気』の出力は上がるが、そもそも酔っ払ってる状態でどこまで精密に異能を操れるかは分からない。
【詳細】
山折村で寺院を営む住職。
……なのだが、村一番と言われる程のとんでもない大酒飲み。
四六時中酔っ払っているし、しょっちゅう焼酎の瓶を携えながら歩き回っている。
本人曰く「俺は御仏の許しを得ているんだよ」とのことで、全く悪びれずに飲酒を繰り返している。
酒から喧嘩に至るまで破天荒なエピソードにも事欠かない。
粗野な生臭坊主だが、それでも仏道への信心は非常に深い(にも関わらず酒を飲むが)。
そして気さくな性格や義理人情に厚い人柄のため、村の人々からは意外と好かれている。
なおロワ開始時点でも当然の如く酔っ払ってる。
今回の騒動で村の流通や商売が途絶えたものの、寺には酒が幾つも隠されているため飲酒には困らない模様。
【名前】黒之江 和真 (クロノエ カズマ)
【性別】男
【年齢】18
【職業】高校生(三年)
【外見】身長180cm。細身だが無駄なく引き締まった肉体。 精悍さを感じさせる端正な顔立ち。短髪のオールバック。通う高校の制服は昔ながらの学ラン。
【性格】
謹厳実直、質実剛健、正義感の溢れる、(二世代前の)好青年という概念の擬人化。
融通が利かないように見える割に他者への気遣いができる一方で、自分を厳しく律しすぎるきらいがある。
【異能】
『餓鬼 (ハンガー・オウガー)』
筋力が異能発現前の5倍程度に増強、それを制御可能とするレベルで肉体強度・反応速度も強化される。
更に、自然治癒力は骨折レベルの大怪我でも1時間未満で治すまでに強化される。
異能の代償として、発現者には食人衝動が芽生える。人肉を禁じれば次第に異能を発揮できなくなる。また、食人衝動は異能の発動の度に強まり、解消されることはない。
衝動を抑えるにはゾンビや死んでから時間が経過した死体を食っても意味がなく、生きながらに齧り殺すか、せめて死にたての体温が残った死体でなければならない。
食人衝動が極限まで高まると頭に2本のツノが生え、体躯は縦横厚みが2倍にスケールアップ。食人以外の思考を喪失した、文字通りの餓鬼と化す。この肉体の変質は不可逆的であり、無効化系の異能で解除することはできない。
もちろん筋力も相応にスケールアップしている。(2の2乗で4倍。元の5倍を掛ければ20倍。20倍だぞ20倍)こうなれば村民・特殊部隊双方にとってゾンビたちを遥かに超えた脅威となることは明らかである。
【詳細】
ふもとの街の高校に通う青年。
殉職した機動隊員の父の跡を継ぐため警察官を志望しており、幼少の頃から日夜鍛錬に励んでいる。
剣道、柔道、空手の段位を持つ。最も得意とするのは剣道である。剣道の段位は段位認定の年齢制限から三段止まりであるものの、実際はそれを上回ると噂されている。
同年代の異性から(同性からも)人気があるが、その性格から、恋人としての交際の申し出はすべて謹んでお断りしている。
【名前】六紋 兵衛(ろくもん ひょうえ)
【性別】男
【年齢】57
【職業】猟師
【外見】白髪交じりのぼうぼう髪で、山賊か仙人のような親父。
【性格】人を撃ちたい。
バイオハザードの前は、変人だが茶目っ気のあるオヤジとして慕われていた。
【異能】
『狩人(ハンター)』
視覚、聴覚、嗅覚が大幅に強化される。
副次的効果として猟師として身に着けた以下の能力が強化された。
①追跡能力
足跡からその人間の向かった方向を読み取ることができる。
②気配遮断
身を潜めている間、自分の気配を限りなく抑えることができる。
その時の彼を見つけるのは、達人級の感覚の持ち主か
探知系の異能を持っていない限り難しい。
【詳細】
その道で知らぬ者はない、現代の名人とうたわれた猟師。
その卓越した射撃術で何頭もの大物を仕留めてきた。
野生をそのまま形にしたような風貌でありながら、仕留めた獲物を村民に豪快に振舞い、
時に子供のような悪戯を仕掛け、いつもケラケラと笑っていた彼は誰からも愛されてきた。
VH発生直後、ゾンビの頭を吹き飛ばしたとき、
えも言われぬ快感が彼を支配した。
ウイルスにより正気を失ったのか、初めからその素養があったのかは分からない。
言えることはただ一つ。
彼は『人狩り』になった。
【名前】成田 三樹康(なりた みきやす)
【性別】男
【年齢】31
【外見】切れ長の目を持った鋭い爬虫類顔、細身の体格、左手の薬指に指輪
【性格】冷徹、残忍、非情
【詳細】
《特殊部隊員》。
射撃能力において部隊内でも1、2を争う程の腕前を持つ。
特に狙撃を得意とするが、拳銃による速射や精密射撃においても卓越した技量を誇る。
常に冷徹に振る舞い、非道な任務においても一切の情を見せない。
彼は「合法的に人道を踏み外せる」汚れ仕事を楽しんでいる。
元々陸上自衛隊に入ったのも「銃を撃てるから」という動機からであり、彼は暴力や殺人に愉悦を感じている。
残忍かつ非情。成田は部隊内でもその明確な暴力性ゆえに異彩を放っている。
破綻者であるにも関わらず、妻と娘がいる。
その異常性とは裏腹に、家庭では裏表なく良き父親である。
【名前】遠藤永吉(えんどう えいきち)
【性別】男
【年齢】102
【職業】無職
【外見】大分骨と皮だけだが、不健康そうではない
【性格】明瞭快活、話せば誰とでも仲良くなる
【異能】
『健康体』
ありとあらゆる状態移動を無視して活動することができる
【詳細】
自分を不死身の仙人だと主張する快活な老人。
若いころから修行と称して山で暮らしており、100を越えた今でも足腰はしっかりしている。
長く生きているだけあって知識や経験は深く、よく山登りのガイドを行い小金を稼いでいる。
自分が死ぬとは一切考えておらず、金がたまり次第また世界旅行にでも行ってみようかなどと考えている。
【名前】八重垣
【性別】女
【年齢】不明。
【職業】無し
【外見】怪異譚『八尺様』そのまま。白いワンピースに白い鍔広帽を被った、腰まで届く黒髪の美女
【性格】『青く幼き愛しい君』以外は眼中に無い。人間に対しては無関心を通り越して認識すらしていない。邪魔だと思えば埃を払う様に殺害する。
但し、神社の関係者にはハッキリと敵意を持っている。
【異能】
『八尺様』
怪異譚『八尺様』の性質をそのまま身に宿す。道祖神、護符、盛り塩といった怪異譚で語られる対策で避ける事ができる……が、そもそもが『隠れ、やり過ごすだけ』という一時凌ぎの方法しか対策が語られていない存在であるために、異能を用い無い場合、打倒はおろか足止めすら叶わない。
核を使用いても、肌に焦げ目ひとつつける事は出来ない。
【詳細】
いつの間にか村に存在していた悪霊の類。姿を見た者は数日以内に衰弱死するという存在だったが、神社の宮司の先祖が神社のある山に封じた為に無害化され、村でもその存在が忘れ去られて久しかった。
長年月の末に封印が緩み、悪霊としての力を完全に封じられた浮遊霊としての状態で、再び目撃される様になる。
この時に怪異譚『八尺様』と紐付けされた為に、やがて『八尺様』という怪異譚の具現となる。
生前の記憶はもはや無く、『八尺様』として活動するのみだが、本来の名だけは記憶しており、それが『八重垣』である。
現在は村の子供を一人『青く幼き君』として見定めており、その子供に対する執着のみで活動している。
『青く幼き君』は15歳以下の参加者から適当に決めてください。
15歳以下の参加者が誰もいなかった場合、八つ当たりで村人全員殺しにかかります。
『青く幼き君』が女王感染者だった場合、『青く幼き君』以外の全員を殺害しに行きます。
『青く幼き君』が女王感染者でなかった場合、女王感染者を速やかに殺しに行きます。
【名前】澁咲 穂歌夢(しぶさきほかむ)
【性別】女
【年齢】16
【職業】無職(殺人鬼)
【外見】高谷千歩果とほぼ同じだが、髪の所々に赤い血がこびりついていて、痩せぎみで、真ん中の前髪が紫色になっている(苗字と纏う雰囲気のせいで千歩果と彼女が似ていると思われる事はほとんどない)
【性格】全てを破壊したい衝動に駆られていて、目の前で誰かが少し邪魔になっただけで激情のまま問答無用に血にまみれている木刀洞爺湖で殺す(幸い、纏う雰囲気によって大半の人が避けている為に殺害された人は少ないが)。全国に指名手配されている殺人鬼、野草や虫を食いながら生きている悪食で、運動神経も逃げることに関しては大きな才能を発揮する
【異能】【サツリクライド】
まずは生きている人の写真を撮った後にその人を殺した後にその人の血をそれに乗っけて写真を飲み込むと、その姿に変身出来るようになる(こちらもストックは無尽蔵)。異能も勿論使えるようになる。
なお、この異能の使い方は直感で把握できる模様
【詳細】
実は千歩果と双子で、こちらは母方の祖父母に引き取られたが、母にあたる存在が結婚した頃に宝くじで大当たりし、大金を得た結果、傲慢不遜な性格になってしまっており、彼女も奴隷のように扱われるようになってしまっていた。過酷なDVによる傷痕が痛々しく、先生や同級生から見て見ぬふりをされ続けられた結果、遂に中学三年生の時に何もかもに絶望し、祖父母を殺害し、家を飛び出した。現在はただただ気に触った人を殺しながら生き続きながら放浪している。…奥底では信じられる家族を求めながら
そして運命は彼女を姉がいる村へと歩かせた。
【名前】朝顔 茜(あさがお あかね)
【性別】女
【年齢】17
【職業】学生
【外見】活発的なボブカット少女
【性格】表裏のない天真爛漫、喜怒哀楽が顔に出て分かりやすい。
【異能】
『燦然世界(さんぜんせかい)』
手で触れた部分を起点に超分子振動(マイクロウェーブ)を発生させる能力。ただし彼女はそこまで頭が良い訳では無いので、炎を起こすぐらいの用途にしか使用できない。
【詳細】
とある投資家の不倫相手が堕胎も出来ず仕方なく出産しポストへ捨てられた捨て子。山折村の老夫婦に拾われ容姿として育てられた彼女は老夫婦の優しさの元ですくすくと自由に育っていった。
勉学こそ優れないものの、学校ではクラスで有名なムードメーカーとして知られており、あるクラスメイトいわく「友達作りが得意」。
同じクラスである氷月海衣(>>85 )と友達になりたくて度々誘っているが断られてばかりだが、めげずに何度もアタックを敢行している。
【名前】ビリー・T・エルグラント
【性別】男
【年齢】26
【職業】警察官
【外見】金髪、筋肉質
【性格】基本的に正義漢だが少しお疲れ気味
【異能】
『治癒力向上』
ハーブや薬品など、体に良いものを摂取すると体の傷が塞がる。
【詳細】
アメリカの某都市で起こったバイオハザードにおける生還者。
動く死体と化した同僚も狂った生存者も手遅れになった彼女も突然変異の化け物も全て射殺し、
諸悪の根源っぽい研究施設を爆破して都市から脱出した。
その後の彼は長期休暇を取り、JAPANのINAKAで心を休めるために山折村に来ていた。
日本への留学経験があるため日本語での意思疎通は問題ないが、NINJAが今も日本のどこかで活動していることは信じている。
【名前】国木 金太郎(くにき きんたろう)
【性別】男
【年齢】28歳
【職業】トレーニングジムのトレーナー
【外見】角刈り、体格の大きい筋肉ムキムキのマッチョ、全身日焼け、身長約2m、緑のジャージ服
【性格】俗に言う脳筋、筋肉は全てを解決すると思い込んでいる
【異能】
『筋肉電波』
自分の近くにいる者達の性格を段々と脳筋にしていく。
影響を受けた人物は、離れれば時間経過で元に戻る。
国木から2メートル程離れていれば影響は受けない。
影響を受けていた時間が長ければ長いほど、その分だけ元の精神状態に戻る時間も同じくらいかかるものとする。
また、国木は自分の意思でこの異能を解除することはできないものとする。
【詳細】
筋肉があれば何でもできると思い込んでいる男。
ボディビルの大会で優勝経験有り。
人類は皆もっと筋肉を鍛えるべきだと常日頃から考えている。
山折村の住民ではないが、自然を利用したトレーニング合宿に使えるかどうかを見るため、村に泊まり掛けで訪問していた。
【名前】独眼熊(仮名)
【性別】オス
【年齢】20
【職業】ヒグマ
【外見】三メートルほどのヒグマ。右目が銃撃たれた傷があり、見えていない
【性格】凶暴で執念深い
【異能】
『知能強化』
ヒグマでありながら彼は人間並みの知能を手に入れた。
今はまだ理解していないが、いずれ人間の言葉を理解し、操ることもできるようになるだろう。
ともすれば、それ以上に人間を知り、理解することも――
【詳細】
元々は村の周りの森に住む単なるヒグマ。
しかし数年前、村の猟師に狙われた彼は右目を撃ち抜かれながらも逃走。
以来、彼は憎しみを抱えながらも村を避けて暮らしていたがしばらくしてからクマカイ(>>49 )に敗れる。
流石に素手の人間に敗れたとあって、彼はクマカイにリベンジする機会を狙っていた。
そんな折、クマカイが村に降りたと知った彼もまた村に降り立つ。その直後、バイオハザードが始まり彼は人間並みの知能を手に入れた。
彼の目的はクマカイ及び、かつて右目を奪った猟師の抹殺である。
無論、その過程で邪魔するものが現れれば殺害し、空腹になれば食料を得る為人間を襲うこともあるだろう。
なお、名前の独眼熊はドローンで見つけた研究者がつけたものである。
【名前】スヴィア・リーデンベルグ
【性別】女
【年齢】19歳
【職業】教師
【外見】年に似合わぬ幼児体型、胸は控えめ(B75)
【性格】理知的でクール、その反面子供っぽい部分も。
【異能】
『サイレント・エコー』
超音波を自在に感知・操作出来る能力。副産物として異常な可聴域も獲得している。
遠くに石ころを投げることで周囲の状況の把握、些細な相手の動作から相手の居場所を把握等が可能。
ただし、異常な可聴域は弱点でもあり、許容量以上の爆音にはめっぽう弱い。その為ほぼ無音に等しい状況こそが彼女の異能を一番活かしやすい。
必要な器具や条件さえ揃えば超音波を発生させて物体や人体の破壊も可能
【詳細】
大地震の一週間前に、山折村へと赴任した女教師。16の歳で博士号を取得した若き天才。
教師としての教えやすさと人格者な一面もあって生徒から慕われているが、その年に似合わない幼児体型から「子ども先生」と呼ばれており、当人は凄く気にしている。
その実態は意見の反発から『未来人類発展研究所』から追放された元研究員の一人。行方不明になった親友の手掛かりを見つけるためにこの折山村へと教師としてやってきた。
【備考】
少なくとも研究所が何かを企んでいる事は掴んでいたが、ウイルス等の事実はクリアランス不足かつ追放された事もありまだ知らない
【名前】ゾンビマスク
【性別】不明
【年齢】不明
【職業】殺人鬼
【外見】黒いトレンチコート、仮装用のゾンビマスクを着用
【性格】殺人に躊躇がない
【異能】
「屍肉修復」
生物の死体を自らに取り込み、それを材料に肉体の欠損を修復・強化する異能。
付近に材料さえあれば、頭を吹き飛ばされようが復活してくる。
異能の特性上、傷つけば傷つくほどより強靭な異形に成り果てる。
【詳細】
VHに便乗して山折村にいる人間を片っ端から殺害している謎の人物。
物騒な凶器を片手に村内をうろつき、発見した生存者を襲っている。
目的、動機、正体も含めて不明。
山折村そのものに怨みを持つ村人の誰かかもしれないし、何らかの思惑によって外から送り込まれた来訪者かもしれない。
【名前】守田 秀男(もりた ひでお)
【性別】男
【年齢】27
【職業】無職
【外見】生気のない瞳に無精ひげ、べっとりとしたロン毛
【性格】卑屈で皮肉屋、何にでも噛み付くがすぐ逃げる
【異能】『英雄願望(アイアム=ヒーロー)』
英雄的行為を行うと自身が強化される。
行えば行うだけバフは上乗せされ継続する。
非英雄的行為を行うとバフはリセットされる。
行いが英雄的行為であるという判断は本人の認識によって判断される。
【詳細】
引きこもり。
元は優秀な少年で将来を期待されていたが村外の一流大学を目指すも受験に失敗。
以後引きこもるようになり、承認欲求ばかりを肥大化させていった。
何も出来ない自分が嫌で認められたいと常々考えており、そのうち英雄になりたいと願うようになった。
【名前】月影 夜帳(つきかげ とばり)
【性別】男
【年齢】28
【職業】薬剤師
【外見】眼鏡と白衣が似合う犬歯が印象的な男、かなりの長身だが姿勢が悪いためそうは感じさせない、肌は青白く手足は枯れ木のようにやせ細っている
【性格】陰気で厭世的、常に気だるそうにしている。友人はいない
【異能】『村の吸血鬼(ブラッド=オブ=ドラキュリア)』
相手の血を吸う能力。
全ての血を飲み干せば相手の命と共に異能を吸収できる。
飲み干さず傷口から自分の血を流し込めば眷属に出来る。
ゾンビも眷属にすることが可能である。
【詳細】
昨今、村内を賑わす連続殺人鬼。
被害者は若い女性ばかりで首筋に付いた噛みつき跡から犯人は『吸血鬼』の仕業ではないかと実しやかに囁かれていた。
実際に被害者の血液を飲んでいるが、もちろん吸血鬼などではなく人間である。
死体の噛み跡に付着した唾液から既に警察には犯人と特定されており、逮捕直前と言う段階で今回の大地震が起きた。
【名前】黒田 爆斗(くろだ ばくと)
【性別】男
【年齢】33
【職業】テロリスト
【外見】口元まで隠れた黒コート、眼深に被ったニット帽
【性格】常に冷静で冷徹で冷酷。相手の話は聞くが言う事は聞かない。常に己が信念にのみ従って行動する。
【異能】『爆響のテロル(レヴォリューション=ボマー)』
触れたゾンビを爆弾化できる能力。
爆弾の種類は時限式、接触式の2パターン。
時限式は最初に設定した時間は変更できない。
接触式は一定以上の熱に触れた場合に爆発する。
【詳細】
国際指名手配されているテロリスト。
各国の重要施設を幾つも爆破してきた。
正月も近いので実家である山折村に帰郷したところ今回の事件に巻き込まれた。
【名前】トットットット(本名不明)
【性別】体幹部は男性
【年齢】不明
【職業】多数
【外見】
後述の異能により異形化している。全長3.5mの怪物。
体幹部のみが通常の人間の形を残しており、胸元から頭部にいたるまでには十数個の人間の頭部が多生し、発声時には全ての頭部が同時に同じ内容を喋る。
下腹部より下には腐肉の塊で構成された巨大な器官があり、異臭を放っている。
腐肉器官からは数十本の手足が突き出し、これらが這うようにして移動する。
【性格】
後述の異能により記憶の深刻な混濁が見られるが、それ以外は通常の人間とほぼ変わりない精神状態を保っている。
自らの行いを悔いてはいるがやむを得ないことだったとも思っていて、なんとかして治療を受けて元の身体に戻って助かりたいと内心思っている割とズルい性格。
【異能】
捕食融合進化。正常・異常を問わず接触により捕食した感染者の遺伝子情報を取り込んで急速に肉体的進化を遂げる。
正常感染者の異能など特殊の度が過ぎた情報、及び知性などは取り込むことができず、取り込んだ個体が多いほど収斂性が失われ異形の存在になりやすい。
進化は一方通行のため、元の形態に戻ることはできない。
【詳細】
大元の正常感染者である男性は自らの異能を知った後、生き残るために出来うる限りの進化をして状況を切り抜けようと決心する。
流石に殺人には抵抗があり、村内に転がる死体を手当り次第に捕食して進化を果たすも、取り込んだ何人かの異能を引き継げなかった事に落胆し自力での状況打破を断念。山中に潜伏し、状況の変化を待とうとした。
トットットットという呼称は山中で遭遇した特殊部隊の偵察班がその特徴的な歩行?音からつけたもの。
特殊部隊よりの警告に従い村中に戻った彼は、あまりにも他人との交流に向かなく成り果てた自分の姿に愕然としながら、荒事を避ける方針で徘徊している。
【名前】網田淑子(あみだ よしこ)
【性別】女性
【年齢】22
【職業】無職
【外見】黒・赤のツートンカラーに染めたショートボブ、舌ピアス、首から肩にかけて蛇のタトゥー。服装は基本的に露出度が高い。
【性格】享楽的な屑、軽薄な不良女性。
【異能】
「KNOCKKNOCK!(ノック・ノック)」
自身が直接触れるか、もしくは自分の手で触れた箇所に素肌で接触した生物の右腕を支配し操る能力。
一度支配した右腕は念じるだけで自由に動かせ、人体の限界を越えた腕力を無理矢理発揮させたりもできる。
支配する力はかなり強力で、無理に抵抗すると腕が根本から引き千切れかねない。
同時に操れる右腕は二本で、二人まではストックできる。
【詳細】
新参の流れ者。空き家を勝手に拝借して住み着いている。
手先が器用で万引きとネイルアート、ギャンブルが趣味。
他所の土地で美人局や、薬の偽装転売などで儲けていた小悪党。
都会でタチの悪い半グレグループに属していたが、ヤバイ筋の先輩と揉めてしまい、
ほとぼりが覚めるまで身を隠そうと各地を転々としている内に山折村に辿り着き、運悪く今回のVHに巻き込まれた。
死ぬのは御免だがこの状況を面白がってもいるようで、どさくさに紛れて火事場泥棒をしている。
【名前】黒木 真珠(くろき まじゅ)
【性別】女
【年齢】24歳
【外見】ざっくりとしたショートカット、浅黒い肌に健康的なスタイル、黙っていればそれなりの美人
【性格】男勝りで負けん気が強い、すこし熱くなりやすい
【詳細】
SSOGにおける数少ない女性隊員。
素手での格闘を得意としておりその実力は男性隊員にも引けを取らない。
またその容姿を生かして潜入、諜報なども任される事も多い。
任務に関しては仕事と割り切っている。
五人兄弟の末っ子かつ紅一点で、自衛隊も男所帯という事もありどこでも平気で着替えられる。
休日はショッピングで豪快に金を使うのが趣味。甘いものが好きだが似合わないので周囲には隠している。
隊長である奥津に憧れを抱いている。
(>>17 )田中 花子ことハヤブサⅢとは某所への潜入任務で1度かち合った事があり、殺し合ったり共闘したりした仲。
名前】沢田英二
【性別】男
【年齢】37
【職業】研究員
【外見】身長191cm体重69キロのヒョロガリ、ボサボサ髪のロングヘアー
【性格】ダウナー系で顔色が悪くいつも元気が無いが、ヒルの話題の時だけテンションが上り、やたら早口になる。
【異能】
『侵食同化』
人間に寄生し、肉体を奪い取る、クイーン・ヒルが持つ異能。
クイーン・ヒルが乗っ取った人間の脳を喰らう事で記憶を受け継ぎ、生前と同じ様に振る舞う事が出来る。
乗っ取られた人間は体内に産み付けられた大量のヒルによって無理やり生命活動を維持しているが
脳を食われているので当然死亡扱いである。
同時に複数の人間をコントロールすることは出来ず
別の人間を利用するには沢田英二の肉体を捨てる必要がある。
また周囲のヒルをマインド・コントロールによって己が手足の様に操ることが出来る。
【詳細】
沢田英二は研究対象として飼われているヒルに異常な愛着を抱いており
周囲の研究員も彼の執着ぶりにとても気味悪がっていた。
VHの影響で異能に目覚めた一匹のヒル、クイーン・ヒルは
騒動に紛れて水槽から脱出し
近くにいた沢田英二に襲いかかり、肉体を奪い取った。
現在の沢田英二に自我は存在せず、クイーン・ヒルの目的を果たすための生き人形と化している。
クイーン・ヒルの目的は上折村から脱出し日本中に眷属のヒルを産み出すことである。
今は一人の人間しか操れなくても何れは多数の人間を意のままに操れるようになるだろう。
【名前】金田一勝子(きんだいち しょうこ)
【性別】女
【年齢】16
【職業】女子高生
【外見】金髪のグラデーションオンレイヤーミディアム。翠瞳。茶の高級そうな学生服。爆乳。
【性格】バイタリティに溢れている。汚い金持ち。煽リスト。お嬢様口調。逃げ足が超速い。
【異能】
『奇跡はその手の中に』
振れたものをマーキングし、マーキングしたものの位置を自由自在に入れ替える。
入れ替えられる物体の限界重量はタンクローリーほど。
マーキングの有効射程距離があり。半径100メートルほどだが、射程内のマーキングの数に制約は無い。
マーキングしたものが有効射程から出れば自動的にマーキングは解除される。
【詳細】
三度の没落と四度の再興を遂げた一族の末裔の少女。ドイツ人の血が流れている。。
都内在住だが村に別荘があり長期休暇には6つ年下の使用人の少年とよく遊びに来る。
「オタク!マクドナルドのハンバーガーで感動して差し上げますわ!」などと成金趣味を覗かせるが成績は優秀で性格は善良な方。
同級生のオタク君を良く勘違いさせているが本人はクールで大人びた使用人の方が圧倒的に好き。
オタク君は趣味は合うがノリがムカつくため割とボコボコにしたいと思っている。
【名前】岡山 林(おかやま りん)
【性別】女
【年齢】14
【職業】中学生(2年)
【外見】短い茶髪、ややボーイッシュ
【性格】活発で天然、感性が独特
【異能】
『林流二刀剣術』
木刀を2本持っている場合に限り、達人級の剣の腕前になる能力。
剣が木製でなかったり、1本しかない場合は効果を発揮しない。
【詳細】
岡山 林蔵(>>60 )の下の娘。
二刀流にのめり込んでおり、外出時は腰に2本の木刀を差していることが多い。
林業を営む父親の血ゆえか、木々に囲まれるのが好きで、山の中で稽古に励んでいる。
我流の素人剣術で決して強くはないが、センスはあるのか、扱いの難しい二刀流剣術を少しずつ形にしてきている。
なお、「林は木が2本だから」という独特のこだわりにより、「木刀の二刀流」にこだわっており、真剣には興味がない。
奔放に生きてはいるが、ボーイッシュな見た目と剣術趣味により周囲から男の子のように扱われることはちょっと気にしている。
その為、父の部下である遠藤 俊介(>>125 )が、女性コンプレックスによりある意味で自分を女性扱いしてくれることを内心嬉しく思っており、会う度にスキンシップを仕掛けて反応を楽しんでいる。
【名前】上月 みかげ(こうづき みかげ)
【性別】女
【年齢】18
【職業】学生
【外見】スレンダー系の地味顔、長い黒髪
【性格】自身過小で努力家。引っ込み思案な性格だったが矯正した。不満は内に溜め込むタイプ
【異能】
『ねえ、覚えてる?』
存在しない思い出を植え付ける。
彼女が語った思い出は、真実のできごととしてあなたのメモリーの一ページに刻まれる。
【詳細】
日野光(>>116 )の親友。山折圭介とも幼馴染。
親友とはいつもグループを組んでおり、お互いに気の置けない関係。
素晴らしい友人たちと対等に付き合えるよう、勉強も運動もコミュニケーションも努力を欠かさなかった。
親友が山折圭介と晴れて恋人関係になったときも、
「ひかりちゃん、おめでとう!」と満面の笑みを浮かべて親友を祝福した。
わ た し の ほ う が 先 に 好 き だ っ た の に !
【名前】小林 麺吉(こばやし めんきち)
【性別】男
【年齢】48
【職業】ラーメン屋店主
【外見】黒い服に白いタオルを頭に巻いている、よく腕組をする
【性格】頑固一徹の職人気質、スープより先に高菜を食べると激怒する
【異能】『至高の一杯(おあがりよ)』
彼の作ったラーメンを食べると肉体強化、滋養強壮、精神的充足などの様々な恩恵を受けられる。
だが、一度その味を味わってしまうとその味が忘れられなくなり、そのうちラーメンなしではいられないラーメン中毒になる。
スープの匂いを嗅いは誘蛾灯のように人を惹きつけ、嗅いだものは食欲を抑えられなくなる。
【詳細】
村内の商店街に並ぶ『山オヤジのくそうめぇら〜めん』店主。
県外からもラーオタが来るくらいの行列店で土日の食事時は1時間待ちは当たり前の名店である。
味の秘密は猟友会から買い取ったジビエを使ったダシとチャーシューと、村で育った小麦を使った手打ち麺。
クセのある味にリピーターが続出している。
看板メニューは『くそうめぇ〜せうゆ』(640円)でまたジビエ肉を使った『くせになんなぁこの餃子』(6ヶ200円)も人気である。
学割(-150円)が効くため地元の学生は大体常連である。
材料を取引する関係で猟友会や農家との交流が深い。
【名前】八藤 龍哉(やふじ たつや)
【性別】男
【年齢】18
【職業】高校生
【外見】凶悪な顔、鍛え上げた傷だらけの体
【性格】無愛想。平和に生きている奴は見下している。父親は大嫌い。
【異能】
『悪いが、これ(空手)しか知らない』
他者の異能に対して、空手で抵抗できる。
【詳細】
村はずれに道場がある八藤空手の跡継ぎ。
八藤空手の教えは「動かなくなるまで攻撃しろ」というシンプルなもの。
そんな教えを考えた当主(父親)はすぐに暴力を振るうろくでなしであり、
龍哉は幼少の頃から稽古と称した虐待を受け続けてきた。
空手については全国大会に出られるほどの腕前を持っている(そのことは父親も龍哉自身も認めていない)。
劣悪な父親に教育されてきたせいでアウトローよりの性格をしているが、見た目ほど悪い人間ではない。
【本編の季節について】
OPでは某月某日と時期を曖昧にしてましたが、曖昧だと色々影響が出るとのご指摘があたので確定します
・本編内は季節は6月中旬の初夏とします
合わせてwikiのOPとルールを修正します
今頃の設定変更ご迷惑おかけして申し訳ありませんが、よろしくお願いします
>>147
最後の行を↓に修正します
ちょっと早めの夏休みのつもりで実家である山折村に帰郷したところ今回の事件に巻き込まれた。
【名前】郷田 剛一郎(ごうだ ごういちろう)
【性別】男
【年齢】53
【職業】寿司屋「郷田寿司」店主。いくつかの土地を所有しており、農地として貸し出すことで地代を得てもいる。
【外見】180cmを超える巨漢、筋肉質。
【性格】郷土愛が強く、余所者への敵愾心が強い
【異能】「郷怒愛」
他者に対し抱く怒りに比例し肉体を強化する異能。
感情の量によって肌は赤黒く変色し、鋼鉄よりも強靭に、しなやかに硬質化する。
その強化に上限はなく、怒り狂えば怒り狂うほど剛一郎の拳は全てを打ち砕く破壊の鉄球となるだろう。
また、異能発現中は冷静な思考をすることは望めないが、脳内は怒りで埋め尽くされているため精神操作系の干渉を跳ね除けることが出来る。
【詳細】
先祖代々山折村で暮らしてきた家系の出。子はすでに独立し、妻と二人で暮らしている。
村で生きることを誇りに思っており、村人を家族同然に愛しているが、逆に外部から村に入ってきた者に激しい拒否反応を示す。
自分たちの村は純粋な村人のみで構成されるべきだと考えており、移住者や企業の土地借用などを全面的に廃止すべきと何度も村長に訴えては退けられている。
新たに村に移り住んできた者との軋轢が絶えず、移住者からの評判はすこぶる悪い。
だが、昔からの村人からすると違った評価となる。剛一郎は村で生きてきた家の者には親身に接するからだ。
足の悪い老人がいれば医院まで背負って連れて行き、子どもが野犬に襲われそうになっていれば身を挺して助ける。
寿司屋を営んでいる理由も、岐阜の山奥で生の魚を口にすることなど早々ない村人たちに少しでも美味いものを食べさせてやりたいと考えたため。
剛一郎は毎朝日も昇らぬうちから軽トラックを走らせて麓の街に赴き、魚を仕入れ、寿司を握る。
自力で店に来られない家の者には自ら出前を配達するし、少々の力仕事や買い物の代理なども笑顔で引き受け、地元の学生にはしばしば寿司を奢ってやったりする。
「ちょっと困ったところもあるけれど、とても親切で頼りになるおじさん」というのが村民からの評価。
とはいえ、剛一郎とて村の中だけで生活の全てが完結するとは考えてはいない。
中学、高校、大学と上がるにつれて満足な教育は村内では難しく、成人したとて雇用が豊富なわけでもない。
若者が村外に巣立っていくのは仕方のない事だと受け入れているし、もし外の生活に疲れて戻ってくるのなら心よく受け入れる。
今現在村に住んでいなくても、たとえば村人の子や孫が帰省してきたのであれば剛一郎は歓迎するだろう。
彼が嫌っているのは、村の外から来る異物=豊かな環境で全てを持っているくせにわざわざ村の平穏を乱しに来る余所者である。
相手が子どもであれば表立っての排斥まではしないが、成人前後であれば些細な事で怒鳴り散らすことは日常茶飯事。
最近頻繁に見かけるようになった記者やラーメン屋の客などがその主な被害者である。
取材と称して村内をかき回していた小説家と揉めた時には危うく流血沙汰になるところだった。
【名前】柳木 武守 (やなぎ たけもり)
【性別】男
【年齢】63
【職業】民俗学者
【外見】穏やかな笑みを浮かべた片眼鏡の老紳士。帽子とコートを身に着け、メモとペンは片時も離さない。
【性格】調査については超アクティブ。割とずけずけ取材するが、私有地に入り込むときに許可を取る程度の常識はある。
【異能】
『伝説の目撃者』
異能を目撃したとき、所持するノート・メモ帳などの紙媒体に異能の名が呪文として描かれる。
その名を念じることで、異能を一度だけ使うことができる。常時発動の異能は一分間のみ。
紙媒体に描くまでが異能であり、柳木本人でなくとも呪文は使える。
なおスクロールとなるのは一つの異能につき一回のみ。
【詳細】
山折村はかつて病檻村と呼ばれており、流行り病に侵された人々を隔離し、語るにおぞましい人体実験がおこなわれていた。
そんなウソか真かも分からない伝説を調べるために山折村に滞在している学者。
由緒正しい山折村の家系(>>159 )に取材に行っては怒り心頭で追い立てられたり、
村の女(>>90 )が叫ぶ終末論を夜通し拝聴したり、
浮遊霊(>>137 )の目撃情報を得ては神社に泊まり込んだり、
吸血鬼(>>146 )の徘徊情報を聞いて張り込んでは人間の仕業と分かって警察に通報して帰る、そんな日々を過ごしていた。
今宵、新たな伝説、そして繰り返される伝説の立会人になるのではないかと、命の危機にもかかわらず大興奮している。
【名前】漆川 真莉愛(うるしかわ まりあ)
【性別】男性
【年齢】20
【職業】猟師
【外見】身長158cm、体重53キロ、長髪ポニーテール、少女のような可愛らしい顔立ち
【性格】普段は消極的でおどおどしているが、激情すると苛烈かつサディストな気質になる
【異能】
「本当の私(マンダム)」
筋骨隆々の人狼のような姿に変身する異能。変身時の肉体はあらゆる面で人間を凌駕しており、強く、強靭。
鉄を豆腐のように切り裂く爪に、頭蓋骨程度なら程度なら噛み砕ける牙を備え、銃弾すら通さない剛毛を持つ正に怪物。
普段も変身時よりも劣るが身体能力が向上しており、特に嗅覚が異常発達している。
血の匂いを嗅ぐと感情が高ぶり、暴走しやすくなる。
【詳細】
猟友会の最年少猟師。珍しい女性の猟師として知られているが、男性である。
漆川家の長男として生を受けたが、娘を望んでいた母親(既に他界している)に強引に少女趣味を押し付けられて育ったため、服装も容姿も女性そのもの。
自己暗示によるものか、体格も成人男性とは思えないほど小柄に成長した。
元々の性自認は男であるが、思春期の大半に娘である事を強制され続けた影響で、最早男女どちらが自分なのかわからなくなっている。
母が他界した後、遠縁の親戚を頼って山折村に移住してきた。
事情を知っている身内も、露呈すれば身内の恥に成りかねない問題に困り果て、見ない降りをして放任している。
越した後も娘であると紹介されたため、周囲からは女性と思われている。
今さら訂正もできず、母亡き後も律儀に娘として生活している現状に鬱屈した感情を抱えている。
男社会である猟師の道を目指したのは、母への反抗意識の現れ。
獲物を狩る時、自分の中の『雄』を強く実感できるため、狩猟に強くのめり込んでいる。
大ベテランである六紋兵衛の狩りに同行した事があり、彼の腕前を尊敬しているが、兵衛は漆川の精神的不安定さを懸念している。
自分を対等な猟師仲間として扱ってくれる嵐山岳を慕っているが、他人の目を気にせず自分らしく生きる山狩昴へは嫉妬にも似た感情を抱いている。
及川千萩に対しては母に似た雰囲気を感じ避けており、千萩も漆川を男にちやほやされる生意気な小娘と嫌っている。
【名前】山折 厳一郎(やまおり げんいちろう)
【性別】男
【年齢】52
【職業】村長
【外見】年齢にしては若々しく健康的だが、髪には白髪が混じっている
【性格】高い決断力を持つが独善的、重要な決断を周囲への相談なしで決める傾向がある
【詳細】
現山折村村長にして(>>16 )山折 圭介の父。
かなりの改革派で保守派の(>>159 )郷田 剛一郎とは常に喧嘩が絶えない。
前村長である父の引退に伴い自らが村長となってからは様々な改革を打ち出してきた。
『閉じられた山折村の檻を開こう』をスローガンに村の発展のため色々な施設を誘致し、バスの本数を増やすなど外部からの新しい風を積極的に山折村に取り込む。
そして、あらゆる政策で若者人口を増やし、山折村を発展させてきたかなりのやり手。
特にその恩恵を受けた商店街の支持は厚く、村内での改革派の地位を盤石としている。
研究所の設立を許可し、地下施設の管理者である(>>65 )田宮 高廣と繋げたのもこの男であり、研究所の『真の目的』を知る唯一の村民である。
だがウイルスにこのような副作用が起こりえるとまでは聞いておらず。
VH発生後、敢え無くゾンビとなったため、その真実を語ることないだろう。
※投票非対象キャラ
【名前】八柳藤次郎(やなぎとうじろう)
【性別】男
【年齢】72
【職業】道場師範
【外見】白髪白髭で長身痩躯の老人。普段着は袴。若い頃は孫と瓜二つの眉目秀麗な偉丈夫だった。
【性格】誠実で温厚、正義感が強い。冷徹さを感じるほど理知的で徹底した合理主義者な一面も存在する。
【異能】
『剣聖』
刀剣の類を装備時に限り発動する異能。
身体能力と気配察知能力及び精神耐性が大幅に上昇し、未来視に近い第六感を得る。
また、異形や肉体を持たない存在に対して強力な特効を持つ。
【詳細】
新陰流の派生流派である八柳新陰流の師範にして開祖。八柳哉太(>>31 )の祖父。
若い頃は上品な雰囲気の眉目秀麗な村一番の色男であり、年老いた今もその面影は残っている。
山折村で剣術道場を営んでおり、村の学校で剣道の指導も行っている。村民からの信頼は厚く、警察官以上に頼りにされている。
哉太の幼馴染である山折圭介(>>16 )、湯川諒吾(>>30 )、日野光(>>116 )、上月みかげ(>>154 )らとも親交があり、彼らに自身の流派の剣術を指南したことがある。
教え子の中で一番才能があり、若くして奥伝相当の実力を身に着けた哉太には贔屓目なしで一目置いている。
山折村の歪みを知り尽くしており、感情的にも理性的にもこの村は滅ぶべきだと常々考えている。
画策した手段は悉く失敗に終わっている。唯一の成功が何も知らぬ最愛の孫を都内の高校へ遊学名目で山折村から遠ざけたことのみ。
地震発生直後は事態収拾のために奔走していたが、VH発生を知ると思考を転換。
極めて理性的に思考した結果、山折村そのものを滅ぼすべく老若男女善悪問わず住民全員の鏖殺という結論に至る。
手始めに長年連れ添った妻を斬殺した。
【名前】宮馬龍次郎
【性別】男
【年齢】16歳
【職業】高校生
【外見】150cm・70kg チビデブブサの三重苦
【性格】卑屈で卑劣。人と話すのが苦手ないじめられっ子
【異能】
『悪魔を超えた悪魔(デビルズ・デビル)』
任意の対象を一体定め、その対象より強くなる能力。
強化度合いは対象に完勝できる程度。
一度使用すると、対象となったモノを殺すか壊すかしてから、30分経過しないと再使用は出来ない。
つまりモブ・ゾンビに使用した場合、30分はモブ・ゾンビにタイマンで完勝できる程度の強さで居続ける事になる。
この間に無茶苦茶機嫌の悪いゴリラにエンカウントしてしまえば、当然のようにオモチャ不可避である。悔しいけれど仕方ないんだ。
【詳細】
村の高校に通ういじめられっ子。
VHに際して自分を手酷く虐めていた同級生がゾンビ化、襲われるものの発現した異能で返り討ちにすることに成功する。
その時、宮馬龍次郎は気付いてしまった。傲慢な男をブチのめす癖になりそうな快感を。
「イエイッ」そう叫んだ龍次郎は、更にブチのめし甲斐のある人間を求めて、ゾンビだらけの村内へと繰り出した。
この名前でこの設定とかこんな事が許されて良いのか
【名前】神楽 総一郎(かぐら そういちろう)
【性別】男
【年齢】53
【職業】弁護士、神楽法律事務所所長
【外見】眼鏡をかけた痩せぎすの男、背は低いが姿勢は良いため思いのほか高く見える。
【性格】慎重で神経質。その臆病さから何事にも準備に準備を重ねるタイプ。愛妻家。
【異能】『全ての起源は我が一族(オリジン・コール)』
所有権を主張する能力。
道具のみならず人、土地、概念、能力あらゆるものに適用され、権利を持つ相手を説き伏せられたのならば自分の物とすることができる。
この能力の最も恐ろしい点は事実改変であり、能力が成立した場合、最初からそれは彼の物だった風に事実が書き換えられてしまう。
【詳細】
改革派、保守派に並ぶ村内の三大勢力である中立派の筆頭。(>>86 )神楽 春姫の実父。
改革派の筆頭である(>>162 )山折 厳一と保守派の筆頭である(>>159 )郷田 剛一郎とは同じ村で育った同年代という事もあり幼馴染。
竹馬の友であり犬猿の仲。幼少から今に至るまで仲良く喧嘩しており、口喧嘩では負け知らず。三人の一郎は悪ガキとして有名だった。
妻は村内一の器量よしで同世代のマドンナ。幼馴染で競い合っていたが射止めたのは彼だった。
大学は村外にある一流大学の法学部に進学。現役で司法試験に合格して弁護士となった。
村内唯一の法律事務所を切り盛りし、村内の揉め事を仲裁している。
中立派は主に村の改革にも保守にも興味はない層が集まっており三大戦力の中では一番小規模な勢力である。
発展を遂げる商店街の支持を受ける改革派、昔から村を支えてきた林業家や農家の支持を受ける保守派に対して、中立派はそう言ったしがらみに興味のない猟友会からの支持を受けている。
常日頃から神楽家は山折村の始祖であると頑として主張しており。
(>>72 )岬野 結衣、(>>117 )村木 剛介、(>>129 )斉藤 拓臣などのマスコミや(>>160 )柳木 武守などの民俗学者に積極的に「正しい」歴史を説いている。
>>60
瑣末事ですが岡山林蔵が釘を刺したのは娘に対してです。
「先生にご迷惑かかることすんなよ」的な。
某所で勘違いされた方がいたので記載させていただきました。
お目汚し失礼いたします。
【名前】沙門天二(さもん てんじ)
【性別】男
【年齢】45
【職業】ヤクザ幹部
【外見】右目に斬り傷の跡、長い髪を後ろで縛っている
【性格】
仁義を重んじてはいるが、所々で私情が入る。
特に圧倒的な力に憧れを抱いている節がある。
【異能】
『手の内隠し』
手で触れたものを他人から認識できなくする。
【詳細】
木更津組組長「木更津 王仁(きさらづ おうじん)」に仕える剣客。
かつては八柳藤次郎(>>163 )の愛弟子の一人であったが、全てをねじ伏せる圧倒的な暴であった先代組長「木更津 網太(きさらづ あみた)」に心酔する。
村の歪みの一つである木更津組に触れたとして八柳から破門勧告を受けたのちは徹底的に木更津組のために動いている。
網太亡き後の王仁の代になっても同様の在り方であったが、その息子である閻魔(>>57 )に関しては話は別で本当に王仁の息子かと疑ってすらいる。
近年、王仁の興味が閻魔から離れつつあることは察しており、これ幸いと謀殺の機会をうかがっている。
勝慎之介(>>132 )とは昔の同級生で、特に友好的ということもないがあえて敵対的でもないそこそこに居心地のいい関係を続けている。
【名前】暮村咲良(クレムラ・サクラ)
【性別】女
【年齢】43
【職業】主婦
【外見】長い黒髪、やや色白、顔立ちは整ってる、服の下はアザだらけ
【性格】ケチで静かに癇癪起こす(娘談)、ゲロの方がまだ綺麗な性根(息子談)、恐ろしい(夫談)
【異能】先見
視界に入った対象の次の物理的動きを予知する。
能力自体はオンオフ可能。
だが、能力で知った未来を生かすも殺すも本人次第。
娘の異能にも言えるが、失明したら無力。
【詳細】
(>>19 )暮村沙羅良と(>>20 )暮村雨流の母親。
親に支配されるような幼少期を過ごしたせいか、彼女の中の完璧な家庭はかなり歪んでおり、夫も娘も息子も自分が管理し支配して初めて幸せな家族になると思い込んでいる。
夫は弱みを握る事でうまく支配したが、自分の予想に反して息子の洗脳が上手くいかず、息子の洗脳の触媒に過ぎなかったはずで、完璧に洗脳出来たと思っていた娘に息子を奪われたと思っている。
息子を誑かす娘を殺す為に密かに跡を着けて村にやって来たところをVHに巻き込まれた。
家族が関わらなければ普通の主婦。
逆に家族が関わればその狂気を静かに燃やして暗躍するだろう。
【名前】暮村流助(クレムラ・リュウスケ)
【性別】男
【年齢】45
【職業】スポーツジムのトレーナー
【外見】細マッチョ、黒髪短髪
【性格】滅多に喋らないから分からない(娘談)、少なくとも誕生日にゲームくれたくらいしか父親らしい事してもらった記憶がない(息子談)
【異能】神蹴一触(しんしゅういっしょく)
あらゆる蹴り技が達人級になる異能。
ただし蹴るという動作一つ一つが完璧になるだけで有り、格闘術に秀るようになるわけではない。
【詳細】
(>>19 )暮村沙羅良と(>>20 )暮村雨流の父親。(>>168 )暮村咲良の夫。
山折村出身。
元は将来有望な陸上選手だったが、のちに妻になる暮村咲良に未成年喫煙の証拠を握られてしまい、幸せな家族の一員にされてしまった不幸な男。
選手としての名誉こそ得れたが、若くして引退させられ、家庭でも妻を恐れるあまり、自分の子供たちともまともに触れ合えず、それどころか妻に同調して娘に手をあげるしかない全く心の休まらない日々を送っていた。
唯一の癒しは仕事先のジムの『かけっこ教室』で子どもと触れ合っている時間。
そして息子が妻と自分に暴力を振い出すようになると、妻も自分と同じ人間=殺せると思うようになり、暗殺計画を立て、実行すべく娘を実家に向かわせ、その跡をつけた妻を更に着けて村にやって来た。
何をおいても自分の人生を無茶苦茶にした妻を殺す事を優先する。
【名前】暮村章介
【性別】男
【年齢】73
【職業】農家
【外見】髪は少ないけど黒い。歯並び綺麗。
足腰しっかりしていて姿勢は良い。
【性格】すごく優しい(孫娘談)、絵に描いたような好好爺(孫談)、あわせる顔がない(息子談)
【異能】神身一極(しんみいっきょく)
あらゆる生命の危機になった時、肉体が全盛期と同等の力を発揮する様になる能力。
ただし解除した、された直後に、実際行使した力の倍の疲労に襲われる。
【詳細】
(>>19 )暮村沙羅良と(>>20 )暮村雨流の祖父。
(>>169 )暮村流助の父親。
元海上自衛官で、今では故郷の山折村で農家をしている。
長年連れ添った妻は病気になってしまい、市内の大病院に入院している。
その為、寂しい日々を送っており、見舞いの頻度を増やす為にも引っ越そうかどうしようかと考えていた。
そんな時に久しぶりに同時に片目に入れても痛くない孫たちが会いに来てくれた事に内心大歓喜しており、孫たちを守る為ならきっとなんでもするだろう。
【名前】キーチ
【性別】男
【年齢】20歳
【職業】研究所で素体として扱われていたゴリラ
【外見】体長3mのゴリラ
【性格】人間嫌い。研究所で変な薬打たれたり飲まされたりして滅茶苦茶機嫌が悪い。
【異能】
『ゴリラの前では異能者なんてマネキンやモブと大差ないッスよね』
異能無効化能力。ゴリラを自力で屠れない異能者の異能を一切無効化する。
異能によるセルフ・ブーストすらも無効化する為、純粋に霊長類最強との地力での勝負を強いられオモチャ・ルート直行……というわけでは別になく、武器の類は地力関係無しに普通に通じるので、車で轢いてやるなり散弾銃撃ち込むなりすれば殺せる
【詳細】
研究所で実験動物として扱われていたゴリラ。普通はニホンザルとかチンパンジーとか使いそうなモノだが、この研究所では何でかゴリラを使っていた。
薬物投与により身体が巨(おお)きくなり、身体能力も向上。猿並みどころか人並みの知能を獲得した上に、異能無効化能力まで獲得。もはや悪魔を超えた猿である。
実験動物として扱われていた為に、人間嫌いであり、凡そ人を見れば攻撃する。研究所にいた人間に対しては、ターミネーター並みの勢いで追跡して殺す、
推定2〜5トンの打撃力や、500kgの握力は生存者にとって大問題(シリアス・プロブレム)だろう
【名前】小田巻 真理(おだまき まり)
【性別】女
【年齢】23
【職業】自衛隊員
【外見】ぱっつん横出し背は低め。サマーセーターで完全オフの日スタイル。
【性格】比較的お調子者で行動派。まだ部隊の過酷さにスれていないが、ストレス耐性はあまり高くない。
【異能】
『精鋭部隊員』
気配を消すことができる。
音も匂いも消せないし、視覚も誤魔化せないが、第六感や野生の勘に引っかからない。
精鋭であれば使いこなせるだろう。
【詳細】
SSOGの勤務内容は光すら吸い込む特濃ブラックだが、福利厚生はホワイトオブホワイト。
給料は高いし休暇もちゃんと取れる。
そんなわけで地獄の初任務を無事に終えて早めの夏季休暇を取り、
今後の進退に悩みつつもラヲタの聖地のら〜めん屋で幸せを噛み締め、酒を嗜んで宿に戻る途中で被災。
だが新人とはいえ彼女も精鋭中の精鋭、P波時点で本部に連絡を取るため機器を取り出し、S波に揺られてドブにおとした。
頭にコブシどころか銃弾食らう人生最大の危機、事態のヤバさも諸先輩方の実力も組織の内情も知る彼女の顔色はほろ酔いピンクから土色ブルーへ。
大田原1等陸曹なんて絶対ターミネーターでしょばったり遭ったら人生終わる!
やっべえ先輩方にかち合う前に女王感染者を速やかに殺害して事態を収めるしかないのではと、酔った頭をフルスロットル稼働中。
本人基準では射撃が得意なほうで、ナイフは部隊及第点でしかないが、銃など休暇に持ってきているはずがない。
【名前】山尾リンバ(ヒーロー名)
【性別】女
【年齢】不明
【職業】ご当地ヒーロー
【外見】白髪でしわくちゃの老婆
【性格】老婆と思えぬほど腕白でパワフル
【異能】
『徳利スプラッシュ』
徳利から無限の水を噴射する。
元々はご当地ヒーローとしての必殺技という設定だが、異能に目覚めて本当に使えるようになった…多分。
【詳細】
山折村を焼け野原にしようと目論む悪の炎の秘密結社『バーニング』。
バーニングの野望を食い止めるため、一人の老婆…いや、山姥が立ち上がった!
彼女こそ山姥のヒーロー、『山尾リンバ』!
必殺「徳利スプラッシュ」で、悪の炎を一つ残らず消火だ!
という設定のご当地ヒーロー。
彼女は村の改革派を中心に企画され生み出されたこのご当地ヒーローのイメージキャラクターである。
飛騨に伝わる山姥の民話から着想を得たもので、『やまおり』+『やまんば』で、山尾リンバである。
普段は他人の畑に突然現れては5人前の仕事をして去っていく謎の老婆であり、どこに住んでいるか誰も知らない。
山尾リンバというのもヒーロー名で、本名は誰も知らない。
一度山の方へ向かうリンバを見かけた村人が後をつけたが、山の入り口で見失っている。
100歳を超える遠藤永吉(>>136 )は子供の頃に今と同じ姿のリンバを見たことがあるというが、他人の空似だろうと誰も信じていない。
しかし誰もが、昔から村にいるはずのリンバの若い頃の姿を知らない。
一部では、本物の山姥だったりして…と噂されている。
【名前】朝景礼治(アサカゲ・レイジ)
【性別】男
【年齢】38
【職業】資産家
【外見】やり手のビジネスマンみたいな風貌
墨汁の様な黒髪、肌は浅黒い、眼鏡をかけている
【性格】他人を平然と利用出来る下衆。カリスマ
普段は誠実な男を装っている。異常性癖持ち
【異能】花は無垢であれ
催眠術に近い能力で、術中に嵌めた女性の精神を退行させる能力。
相手に声を聞かせ続けなければならず、男性には一切効かない。
【詳細】
(>>48 )臼井浩志の所属する建築会社に別荘の修繕を依頼した資産家。
山折村出身。
若い頃、美味い汁を吸わせてやった子分たちの弱みを握り、趣味と実益を兼ねた様々な悪事の片棒を担がせている。
無垢な女性を情欲で染めることに最も性的な興奮を感じる異常者。
(>>115 )リンを拉致監禁した主犯でもある。
別荘管理人という名のリン専属の調教師も当然子分。
リン以外にも何人かペット候補を自身のルーツに関係する田舎町の別荘に飼っている。
一応妻子は居るが別居しており、仮面夫婦。
息子への愛もない。
リンの出来上がりを見る為に村に来た所をVHに巻き込まれた。
調教師の子分はゾンビと化したので殺した。
【名前】設楽歳三(シタラ・サイゾウ)
【性別】男
【年齢】37
【職業】建築会社の社長
【外見】ガタイのいい坊主頭のおっさん。
髭をはやしていて、ちょっとヤクザっぽい
【性格】腰巾着、二番手でいる事で美味い汁だけ啜ろうとする小物。
【異能】手揉みゴマスリ
取り入ると決めた相手の能力を活性化させる能力。
射程距離が短く、上がり幅が微々たるものな代わりに常時発動で燃費もいい。
【詳細】
(>>48 )臼井浩志の所属する建築会社の社長。
(>>174 )朝景礼治の子分の一人。
学生時代からこき使われてた他、会社の援助もしてもらっていて、今まで吸わせてもらった美味い汁抜きにしても頭が上がらない。
リンたち朝景のペットのことも知らされており、ペットたちの飼育小屋関連のアレコレは全て彼の会社が請け負っている。
自慢のペットを見せたいと朝景に言われて浩志たち部下と共に村に来た。
VHに巻き込まれても、ここさえ切り抜けられたら朝景の力でどうとでもなると思い込もうとしている。
じゃなきゃやってられないらしい。
【名前】名刀 一(なち はじめ)
【性別】男
【年齢】25
【職業】農家
【外見】長身の青年、作業着で常に手ぬぐいを頭に巻いている。
【性格】真面目で実直かつ臆病で奥手
【異能】
『阿修羅』
自身の腕が増える異能。
【詳細】
山折村で農家を営む青年。
都会での人間関係に嫌気がさし、数年前から山折村に引っ越して来た。
他者と関わることが苦手で極力避けるようにしていた。
トラブルや争いごとや喧嘩を嫌っているが、幼少期から空手を習っており4段ほどの実力者。
よく名前を『めいとう』さんと間違われる。
【名前】倉持 灯(くらもち あかり)
【性別】女
【年齢】23
【職業】茨城県民
【外見】金髪ロリ(中学生女子くらい)、常に緑色のジャージに『茨城県はメロンの生産量日本一』と書かれた襷
【性格】地元愛が強すぎる、あと正義感も強い。
【異能】
『この紋所が目に入らぬか!!』
茨城の最強英雄三人衆(黄門様、助さん、格さん)を召喚する異能。
『悪人』に対して確定で彼女に『勝利』をもたらす異能である。
【詳細】
茨城県の魅力を伝えるために全国行脚を続ける茨城県民。
地元愛があまりにも強すぎるので北関東と埼玉が嫌い。南関東には大体負けるので嫌い。
茨城の魅力を今度は山折村にやってきたら、巻き込まれた。
茨城のことを「いばらぎ」と読む輩は絶対に許さない。(が、彼女自身茨城訛りが強く「いばらぎ」に聞こえる)
彼女の活躍があったかどうかは知らんが、この度全国魅力度ランキングで茨城県は佐賀県を抜いて46位になった。
好きな食べ物は納豆、干し芋、あんこう鍋。
好きなアニメは『ガ〇パン』と『まんが水戸黄門』、好きな時代劇は『水戸黄門』。
尊敬する偉人は『徳川光圀』。
【名前】宝田 一(たからだ はじめ)
【性別】男
【年齢】29
【職業】武器ブローカー
【外見】常に顔色が悪く姿勢も悪い
【性格】被害妄想的に憶病
【詳細】
木更津組に武器を卸しているブローカー
被害妄想と呼べるほどに臆病な性格で、木更津組と揉めて村内を逃げ回りながら戦う事を想定して村中のあらゆるところに武器を隠していた
その隠し方は非常に巧みで通常であれば彼以外には見つけられないはずだったのだが、大地震により露呈
現在、山折村は潮干狩り感覚で彼の隠した日本刀や重火器などの武器が手に入る状態になってしまっている
取引を終えて帰る途中地震が発生、トンネルの倒壊に巻き込まれて死亡したため今回の事件には関わらない
※投票非対象キャラ
【名前】木下唯
【性別】女
【年齢】23歳
【職業】村の出入り口に有る雑貨屋の店員。
【外見】160cm・52kg 童顔の為に実年齢より若く見える。村のおじいちゃん達に人気が有る。
【性格】社交的な性格。先の事を考えてから行動する
【異能】『汚い花火(ダーティ・フレア)』
接触した水分、或いは物質に含まれる水分を気化させる。
ぱっと見は大した事のない能力に見えるが、生物は細胞の中に水分を保持している為に、生物に対してこの能力を使うと細胞の一つ一つが破裂して、身体が弾け飛ぶ事になる。
【詳細】
最近村にできた、村で一番利用される事が多い施設で働く、明るく社交的な若い女性。村の老人達に人気だが、セクハラにも悩まされている。雑貨屋の近くの家に一人住まい。
生来他人への共感能力を欠いており、邪魔になる人物や、鬱陶しい相手を手段を選ばず排除して来た過去を持つ。
最近は手段がエスカレートし、あまりにもセクハラが酷かった村民や、ストーカー染みた行為をした村民、害悪クレーマーを、家に放火して焼殺したり、密かに殺害して山中に埋めている。
なお山に埋めた村民は、認知症からの徘徊行動で、山に入って行方不明になったという事で片付けられた。
能力名は四人目の被害者の遺体にこの能力を使用してみた後に、フィーリングで付けた。
「薄汚いゴミが、汚い花火になった」
備考※
VH発生時には、4人目の被害者を山に埋めている最中だった。この為に山の中からのスタートである
【名前】浅野雅
【性別】女
【年齢】30歳
【職業】雑貨屋の経営者……というのは表の顔で、実態は研究所から派遣されたエージェント
【外見】
173cm・78kg 日焼けしたショートカットの髪。鋭すぎる目つきを隠す為にいつも濃いサングラスを掛けている。
【性格】口数少ないが、温厚で誠実な人柄…というのは表向きで、任務遂行の為なら幼児を絞め殺す事も平然と出来る非情な人物。
【異能】
『刃姫(バキ)』
任意発動。自身の身体を用いた接触が、全て斬撃となる能力。斬撃の威力は乗用車程度なら斬り裂けるし貫ける。任意でオンオフ可能なので、触れたモノを何でも斬り裂く訳では無い。
自分から触れないと効果を発揮しない為に防御には使用(つか)えない。
【詳細】
村に最近オープンした雑貨屋の経営者。村外から引っ越して来て、雑貨屋の2階に住んでいる。商品の仕入れは、自らコンテナトラックを運転して村外へ出向いている。
村民は知らないが、雑貨屋は研究所が村に出来たのと同時期に開店している。
浅野雅の任務は二つ。
一つは研究所にやってくるスパイの防止若しくは逃亡の阻止。
二つ目は村でVHが発生した場合、唯一の外部との通路を塞ぐ事。この為村外へ通じるトンネルに爆薬を仕込んでいたりする。トンネル自体が崩落して爆薬は意味を成さなくなったが。
コンテナトラックには荒事用に、銃器やボディアーマーの類が積んである。
>>179 木下唯の性質や凶行については最初から知っている。
これは、田舎村で他所者に向けられる排外的な視線を回避する為に、雑貨屋の店員を現地雇用する事にしたのだが、その際に木下唯についてありとあらゆる手段を用いて調べ上げた為。
今回の事態に際しては木下唯の跡をつけて、死体を埋めている現場を隠し撮りしている最中に遭遇した為、装備を整える為には店まで戻る必要がある。
【名前】範沢勇鬼(ハンザワ ユウキ)
【性別】男
【年齢】19歳
【職業】無職
【外見】190cm・100kg超 日焼けした赤銅色の肌と、赤い髪の凶暴な面構えの雄(オトコ)
【性格】暴性の極みの様な凶暴で傍若無人な性格
【異能】
『悪魔皇子(デーモン・プリンス)』
他者が自分に恐れを抱いた分だけ強くなる。複数の他者が強い恐れを抱けば、肉体すら変化する。
知能が高ければ動物にも有効だが、恐怖を感じていないものには無力。
メチャクチャ機嫌の悪いゴリラが相手だとオモチャ・ルートである。悔しいけど仕方ないんだ
【詳細】
他者が時間と金と労力と愛情を掛けて丹念に積み上げたモノを、愚弄し蹂躙し崩壊させる事にセックス以上の快楽を感じ、最高の娯楽と言い切る性格破綻者。
格闘技を学んだ者に喧嘩を売って叩きのめし、収集しているコレクションは破壊し、恋人同士を寝取って引き裂く凶悪な人格。
寝取った女は「なめるなっメスブタァッ」と張り倒して終いだが。
格闘技の類は一切学んでいないが、天性のフィジカルと喧嘩のセンスで、村の内外で数多の強者を打ち倒して来た。
敗北を喫したのは>>112 猿渡恵介及び、>>89 山岡伽耶襲撃時に戦った>>96 鈴木冬美くらいである。
尤も鈴木冬美に関しては、仕込みに手を焼いたのと、後ろから山岡伽耶に石で頭を殴られたのが敗因である為に、いずれ山岡伽耶共々報復しようと考えている。
何故こうまで凶暴凶悪な奴が警察に捕獲されていないかというと、長野県警に顔が効く地元名士の息子である為。実質不可拘束(アンチェイン)状態なのである。
山折村へは余りにも凶暴な息子に手を焼いた父親が、隔離目的で送った。
現在は村外れの一軒家で一人暮らし。
今回の事態に際しては、村外に遠征して、ムエタイに人生のすべてをかけて闘ってきた者を愚弄して、上機嫌で帰って来たところで遭遇した。
【名前】戸田 亜機人(トダ アキヒト)
【性別】男
【年齢】26歳
【職業】村外の会社に勤めるサラリーマン
【外見】163cm・64kg 角刈りに瓶底眼鏡。ガンプラ集めるのが趣味
【性格】善良なモラリスト。気が弱い
【異能】
トダー◯◯号
ガンプラをサイズはそのままで、設定通りの強度とパワーを持たせ意のままに操る異能。
武装は再現されないとはいえ、原作の設定そのものの機体性能で暴れ回るガンプラは脅威の一言。
ただし消耗が激しい上に、一度に操れるガンプラは一つだけ、
【詳細】
ガンプラ集めるのが趣味のサラリーマン。給料の結構な額がガンプラに消える。
>>181 範沢勇鬼に限定品のガンプラを破壊されて三日三晩呆然としていた事も有る。
今回の地震で住居が倒壊し、何とか持ち出せたガンプラは、グフ・カスタムとドム・トローベンのみ。
【名前】町原尚希(まちはら なおき)
【性別】女
【年齢】24
【職業】木更津組暫定構成員
【特徴】
ベリーショートの三白眼。
下腹部に子宮摘出の手術痕とそれを覆うかのような蛇の刺青がある。
【性格】
見下されること、同情されること、優しくされることが嫌い
狂犬が生易しいと感じるレベルで喧嘩っ早い
【異能】
『風の吹くまま』
周囲に強風を巻き起こし、それに乗って移動することができる。
【詳細】
木更津閻魔(>>57 )の取り巻きの一人である男装女。
元は根なしの風来坊であり、木更津組に拾い上げられるまでは適当に体を売りながら各地をぶらついていた。
異常に手が早く、特に彼女を憐れむような言葉をかけると即座にブチ切れて相手を半殺しにするまで止まらない。
幼いころに父親に売春を強要されてから経験人数が膨れ上がっており、父親を殺して家を出るまでに子供は五人ほど産んでいる。
閻魔とは互いにオープンに見下しあう関係であり、彼の根っからの根性の悪さからいずれ誰かに殺されるだろうなとは思っている。
恋愛感情は毛ほどもないが、殺されたら敵でも取ってやるかとたまに思うくらいには情は湧いている。
【名前】虎尾 茶子(とらお ちゃこ)
【性別】女
【年齢】22
【職業】役場職員
【外見】金髪ロングのプリン頭。身長154cmで胸は控えめ。男受けするような可愛らしい顔立ちをしている。
【性格】明るく人懐っこい。軽薄そうに見えるが時折聡明さを見せる。
【異能】
『虎の心(リベンジ・ザ・タイガー)』
自分への精神攻撃系の異能に対して自動発動する異能。
精神攻撃を無効にし、効果をそっくりそのまま相手に返す。
特性上相手の異能に対して必ずイニシアチブを取れる。
【詳細】
村役場の非正規雇用の職員。土木・建築関連の部署に勤めている。
自分の顔の可愛らしさを自覚している。去年の山折村のミスコンでは堂々の一位。
軽薄な態度の割には意外と計算高く、村の男性だけでなく若い女性にもそこそこ好かれている。
趣味は自分より顔面偏差値の低いブス共を連れての合コン。ふもとの街の飲み屋で年下のイケメンを侍らせて楽しんでいる。
八柳新陰流の使い手としては現弟子の中では最強。
幼い頃、どこかの「恐い家」から山折村へ命からがら逃げ延びて虎尾夫妻に保護された。
【備考】
「トラトラトラ〜。どうも〜皆のアイドル茶子ちゃんで〜す。お仕事終了しました〜」
「ああ、研究所の特殊部隊どもっすか?物騒なもんぶら下げてる割には全然大したことなかったっすね」
「うちのカナくんや先生でも余裕で全員ぶっ殺せたんじゃないですか?」
「え?あたしの知り合いっすけど、何も知らないと思いますよ」
「そんじゃハッセさん、副所長によろしく言っといて」
「……ハァ。これであの変態野郎とクソヤクザ共がまるごとくたばってくれればいいんだけどにゃー……」
【名前】碧馬 蒼夜(あおま そうや)
【性別】男
【年齢】16
【職業】高校生
【外見】身長155cm体重52kg、童顔で三百眼。
【性格】警戒心が強く、疑り深い。思考がかなりネガティブ。
【異能】
『蒼き誘惑(ブルー・エンチャント)』
自分以外の異能力者を強化する異能。
発動条件は左手から異能を発動させ、青白く発光してから
対象となる異能力者に触れることで条件達成となる。
主な効果は異能の性能増強と、異能によるデバフ効果の解除の2つであり身体能力は上がらない。
解除されるデバフ効果は肉体、精神両方に及ぶが異能以外による弱体化は一切解除されない。
碧馬が死亡するか、別の対象を強化することで異能は解除される。
青白く発光するのを生かしてライト代わりに使えるのも地味に便利。
【詳細】
親の仕事の都合で山折村に引っ越してきた学生で
荷物の整理も終え、明日から転校生として期待と不安を胸に秘め新たな学生生活が始まる時だった。
大地震で村から閉じ込められ、周囲はゾンビだらけ。
タイミングから考えて絶対自分が疑われるじゃないか。
クソ田舎に住む排他的な村人は余所者を毛嫌いする民度の低い集団だ。
村人に捕まったらこの騒動の主犯に決めつけられてリンチに遭い。
磔にされて石を投げつけられ火あぶりにされて処刑されるに違いない。
ただでさえネガティブな上に田舎に偏見を持ちまくってる蒼夜は
誰にも頼らずに単独での脱出を試みるのであった。
【名前】大法 律和(おおのり おとかず)
【性別】男
【年齢】43
【職業】私設秘書
【外見】パリッとしたスーツに身を包み、眼鏡をかけた身なりのきっちりした男性。
【性格】几帳面かつ臆病、遵法精神の持ち主
【異能】
『会合調整』
相手から指定された人間の居場所をマーキングする異能。
一人につき一人までで、二人目のマーキングは上書きになる。
『男』『村人』『犯罪者』などの広い条件でも構わないが、当てはまる者が多ければ、ランダムで一人ピックアップすることになる。
地図アプリ、案内看板、地面に書いた手書き地図など割となんにでもマーキング可能。
依頼してきた人間の目に探し人のいる方角を直接マーキングすることも可能。
【詳細】
野倍義雄(>>22 )の私設秘書。
将来は選挙戦に立候補し、自身も政治家を目指す予定。
地盤を引き継ぐことも念頭に、野倍と共に村民とも頻繁に顔を突き合わせている。
ただし、正しい改革は法の下、正しい手続きを経て実施されるべきだと考えており、思想はむしろ中立派に近い。
警戒心が非常に強いため、村内の人間関係や派閥、そして危険人物もある程度リスト化して頭に入れている。
村長の山折厳一郎(>>162 )をはじめとし、岡山林業、山折村猟友会、山折村神社などの法人・団体からの請願・陳情を取りつぐ場を設け、
彼らとミナセ株式会社をはじめとした有力企業との会合の調整を一手に引き受ける辣腕。
保守派をおろそかにすることはないが、反社との黒いつながりが噂されるような法人・個人との会合の申し入れは一切断っている。
なお、未来人類研究所は書類上は合法の団体であり、与党議員秘書といえども一個人で内情を探れるほどの緩い組織ではなかった。
【名前】天原 創(あまはら そう)
【性別】男
【年齢】14
【職業】中学生・エージェント
【外見】前の学校の白い学ラン、片目が前髪によって隠れている。
【性格】普段は年相応にカッコつけでクールぶっているが、仕事に関しては本当に恐ろしいまでにクール
【異能】
『細菌殺し(ウイルスブレイカー)』
右手で触れた異能を無効化する異能。
それはウイスルによって生まれた影響をキャンセルするものである。
ゾンビにも効果がありウイルスの影響を除去できるが、あくまで触れている間にか効果がなく、脳萎縮も瞬時に解決するわけではないので神経を繋ぐウイルスを無効化して一時的に行動不能にする程度の効果しかない。、
【詳細】
4月に転校してきたばかりの謎の転校生。
その正体は調査のために送り込まれた最年少エージェントである。
調査とは研究所についてではなく、山折村そのものに対して。
あらゆる厄を引き寄せる檻のようなこの村を調査すべく送り込まれた。
クラスの面々とは深くかかわらない程度に浅く、怪しまれない程度に深く付き合っている。
任務に関しては優秀なエージェントだが、それ以外に関しては割と年相応の少年らしさを見せる。
特に女子の前では興味ない風を装ってカッコつけがちなところがある。
【名前】木戸 成人(きど なるひと)
【性別】34
【年齢】男
【職業】ファーストフード店経営者
【外見】ゆるい天然パーマ、ひょろ長い体格、伊達メガネ。
【性格】
働くことが好き。お金を稼ぐことも好きではあるが、どちらかといえば自分の仕事が他者に認められたり、売り上げが好調などで承認欲求が満たされることに生き甲斐を感じている。そのため、現場にも積極的に出て客と交流する。
よりおいしく、より新しくと常に顧客満足度を高めることに邁進するが、別に村民に親しみを感じたりはしていない。
普段は客を不快にさせないように「陽気で明るいお兄さん」を演じているが、内心ではどんな客だろうと客はただの客であり、それ以上でも以下でもないと考えている。
【異能】
「ザ・シェフ」
その手で作り出す料理に様々な効果が宿る異能。
木戸が「客に出しても問題ない」品質と考えているのはハンバーガー・フライドチキン・コーヒーの三種類のため、異能発現はこの系統のものに限られる。
・ハンバーガー → 体力・疲労回復
・フライドチキン → 身体機能強化
・コーヒー → 異能強化(強化の度合いは個人差がある)
作り置きで効果が保たれるのは一時間ほど。またどれも一口かじる程度では有意な効果は発現しない。一個まるごと、一杯すべてを平らげなければならない。
【詳細】
最近村に進出してきたファーストフード店「モクドナルド」の店長。
高校卒業後すぐに有名ハンバーガーチェーン、フライドチキンチェーン、珈琲店でそれぞれ五年ずつ修行を積んで貯金がてら経営ノウハウを会得し、ブルーオーシャンたる山折村で開業した。
村の農家、猟師と独占契約を結び、野菜や肉の仕入れは村内から供給している。またコーヒー豆の栽培も村内で始めるように出資しているため、材料輸送コストは極小である。
またオーダーメイドの店舗は完全自動化を前提としたため、二名程度の人員がいれば店内が満員でも問題なく運営できる。
モクドナルドは若い村民から「モック」の愛称で親しまれており、ハンバーガーやチキンだけでなく本格的なコーヒーが安く飲めると評判。
異能発現後は、自らの異能に良い感情は抱かない。本業に異能を使えば大成功は間違いないが、そこに木戸自身の努力や機転は寄与しないからである。
状況を切り抜けるために力を使うが、生還できればこんな力は不要のため捨てたい、と考える。
【名前】那由多乃 私(なゆたの わたし)
【性別】男
【年齢】18
【職業】学生
【外見】中肉中背、平凡な顔立ち
【性格】自称陰キャだが根は図太く、遠慮しない性格。口喧嘩に強い
【異能】
『山折村VH実況スレ』
並行世界に存在する別の那由多たちと脳で繋がる異能。
それぞれの那由多とは名前のとおり、掲示板のスレのイメージを介してやり取りできる。
大元の異能者である那由多をサーバー件イッチとして、様々な那由多たちがスレ民として好き勝手に書き込んでいる。
それぞれの世界は細部が異なっており、那由多本人も性別が女だったり名前の綴りが違ったり、山場村だったり山尾村だったり、更には異なる異能を発現したパターンの那由多も居る。
そのため情報のやり取りができるといっても精度はあまり宛にならない。
ただし、どの那由多も揃ってこのVHに被災している事は共通している。
【詳細】
山折村在住の祖母の家に遊びに来ていた高校生。不登校児。
特にいじめられた訳ではないが、理由のない居心地の悪さを感じ、学校に行きづらくなった。
憂いた親がリフレッシュさせる目的で自然豊かな山折村に送り出したが、孫に甘い祖母を上手く言いくるめ、部屋にこもりネット三昧で過ごしていた。
異能発現後、それぞれの那由多たちに意見交換しつつ、生き残る方法を安価で決めたりしている。
【名前】紅華 みだれ(こうか みだれ)
【性別】女
【年齢】23
【職業】無職
【外見】容姿は中の上、磨けば美人。ボサボサの髪に薄汚れたリクルートスーツ
【性格】自暴自棄、死にたがり
【異能】
『脳漿炸裂ガール』
サイコキネシスの一種。
他人の脳に干渉し、過剰に負荷をかけることで頭を爆発させる。
照準は目線であるため、紅華が視認できる範囲が射程距離内でもある。
動き回る相手には照準が定まらないため、回避自体は容易。
【詳細】
VH発生時に村の民宿に泊まっていた女性。
かつてアイドルを志して田舎から上京するも、悪質な事務所に騙され、長期間金をむしり取られた挙げ句枕営業と称した裏ビデオの撮影を強要され、事務所の寮から逃走。
事務所を辞めた後、社会復帰をかけた就活にも失敗。何もかもが嫌になり、手持ちの現金で行けるところまで放浪している内に山折村に辿り着いた経緯となっている。
【名前】鈴宮 美香(すずみや みか)
【性別】女性
【年齢】16
【職業】高校生
【外見】ブカブカのパーカー、大きいマスク着用、顔半分と左手を包帯で覆っている。全身に火傷痕。
【性格】皮肉屋で自己肯定感が低く、人間不信。誰にも心を開かない
【異能】
『あの火の日(パイロキネシス)』
視界内の火を自由に操作する能力。能力の支配下にある火は通常の手段では消火できず、無酸素だろうが水中だろうが延々と燃え続ける。
ただし無から火を生じさせる事はできず、能力を使用したい場合は必ず火種が必要。
【詳細】
VH発生の半年前に山折村に越してきた少女。村に馴染んでおらず、自分の殻に閉じ籠っている。
かつては快活な性格で、周囲からも好かれるタイプの子だったが、過去に火の不始末で住んでいた家が全焼、両親を亡くし、自身も顔から足にかけての左半身に大きな火傷を負った。
以後、一人残された美香は親戚をあちこちたらい回しにされ、最終的に山折村に住む遠縁の親戚に引き取られた。
今も残る消せない火傷痕は彼女にとってコンプレックスであり、地雷。以前の快活さは喪われている。
火事の経験から火が強いトラウマになっており、ライター程度の火でも見ただけで震えて動けなくなる。
なお、両親の生命保険がいつのまにか8割程親戚間で分配され、奨学金で高校に通い、リストカットの経験もあるなど相当どころじゃない苦学生である。
火事や親戚の態度からか強い人間不信になっており、特に火傷に安易な同情する相手を毛嫌いしている。
【名前】羅等拉累 蘭螺卵藍(らららら らんらららん)
【性別】女性
【年齢】24
【職業】動画配信者(自称エンターテイナー)
【外見】緑に染めたツインテール、目元を隠すマスク、赤と白の水玉模様のド派手なスーツ
【性格】飄々とした性格、好奇心旺盛、ネットスラングを多用するハイテンションな言動だが、衣装を脱ぐと消極的になる
【異能】
『打打打打打打打打打打(ダダダダダダダダダダ!!!!)』
自分自身か、触れた物の持つ運動エネルギーを加速させる能力。
超高速での移動が可能になるが、加速させすぎると本人の動体視力が追い付かず、コントロールが効かなくなる。
【詳細】
女性配信者。自称エンターテイナー。
冗談の極みのような名前だが、歴とした本名。元は一般的な名前だったが、『面白くない』から法的に改名したらしい。
デビューして日は浅いが、ふざけたネタにも全力投球で挑む姿勢と、体を張ったパフォーマンスで若者に高い人気を得ている。
しかし言葉を選ばない性格のせいで度々SNSで炎上しており、アンチも多い。
動画の題材はジャンルを問わず、今回は山折村に関する都市伝説をネタにする目的で、実地撮影と取材のために訪れていた。
【名前】伊澄 入鹿(いずみ いるか)
【性別】女
【年齢】21
【職業】水泳選手、臨時のプール授業教師
【外見】引き締まった身体、モデル並みの美人、巨乳
【性格】クールで冷たいように見えて、根は優しく面倒見がいい
【異能】
『空中遊泳』
空中を泳ぐことができる能力。
泳ぎ中の浮力は1.2m(一般プール並み)
泳いでいる間は、顔が下に向いているときは水中同様息が苦しくなるので息継ぎの必要がある。
【詳細】
その容姿と実力から注目を集めている水泳選手。
オリンピックは確実と言われるほど有望視されているが、ここ最近は伸び悩んでいてスランプ気味。
コーチからいっそのこと一度水泳から離れてみてはどうかと提案され、山に囲まれた山折村に2週間ほど前から滞在している。
山折村に来てからはランニングや筋トレなど、練習は体力づくりなどに留めており、コーチからの厳命で泳ぎの練習はしていない。
山折村では有名な水泳選手が来たということで海開きならぬ湖開きが行われ、本来の予定を前倒しして学校でのプールの授業が始まった。
入鹿は学校側から頼まれ臨時の教師を行っていて、小中高の合同プール授業で学生たちを指導している。(コーチからもこの授業に限り泳ぐことを許可されている)
入鹿の指導は、コーチの見様見真似ではあるが的確かつ分かりやすく、生徒たちからも軒並み好評である。
生徒たちに指導を行っていく中で次第にやりがいと充実を感じており、自分の進むべき道は選手ではなくコーチ業の方ではないかと、今後の身の振り方について考えている。
すいません、>>193 でプール授業とありますが、実際の授業会場は湖ということでお願いします
ちょっと前に公開された地図では学校と湖離れてますが、課外授業ってことで納得していただければ
【名前】茅ヶ崎蘭子(ちがさき・らんこ)
【性別】女
【年齢】22
【職業】朝景礼治の専属秘書
【外見】天然茶髪を短く切っている。身長160cm、細身
【性格】一見鉄面皮で、なにも動じてないように見えるが、ただ諦めているだけ
【異能】ロケートオブジェクト
今までの人生で一回でも触れたことのある物、者の居場所を知る事の出来る能力。
基本短いインターバルで何度も使えるが、一度に居場所を知る事が出来るのは一つ(一人)
また、触った時と不可逆の変質が与えられてしまうと『違うモノ』判定になってしまい、発見できない。
例:樹木→木材、生きている人間→死体
【詳細】
(>>174 )朝景礼治の秘書。(>>48 )臼井浩志の元恋人。
かつて見栄の買い物で借金をしてしまい、その返済のために当時恋人だった浩志をだました女。
その後も生活を一切改善させなかったため、遂に進退窮まった所で朝景に助けられ、
秘書という名の便利な手ゴマにされた。
その後はペット候補(朝景との間につくった子供)を生まされたり、
誘拐、拉致、監禁、殺人などなど、凡そ真っ当な倫理観では耐えられないような、
闇仕事をやらされ続けた結果、朝景に逆らう気も逃げる気も完全に失せた。
と、同時に一周回って改心してしまっているせいで、
後悔に次ぐ後悔にさいなまれ、苦しみ続けている。
今となってはあのまま浩志と恋人でいればよかったと思っているが、
当の浩志はもう蘭子の事などどうでもいいと思っており、
どんなに強く反応されても、自業自得と鼻で笑われるくらいだろう。
(>>115 )リンを拉致監禁した実行犯。
なお、リン本人は流石に覚えていない為、蘭が一方的に知っているに等しい。
朝景との子供は女の子だったので、どこかの飼育小屋で生きてはいるだろう。
【名前】宵川博(よいかわ・ひろし)
【性別】男
【年齢】41
【職業】会社員
【外見】平々凡々、百万回すれ違ったようなサラリーマン
【性格】
【異能】針千本嚥下
対象が質問の答えに嘘をつこうとすると、
喉を通う全ての血がささくれ立ったかのような激痛に襲われるようにする能力。
対象は複数選べるが、視界に映る者に限るし、質問の答えで無い発言には強制力がない。
【詳細】
(>>115 )リンの父親。
事業が失敗して多額の借金を背負ってしまい、妻に娘を連れられて逃げられた所、
(>>174 )朝景礼治にそそのかされて、妻と娘を売って借金を返済した男。
今では仕事も得て、リンの母親とは別の女性と結婚して、息子と娘が居るが、
血だらけになった前の妻と娘に殺される悪夢を見続けており、
過去のアレコレを断ち切るために朝景から元妻と娘がどうなったのかを知る為に、
朝景の後を着けて村にやって来た。
その事は朝景にばっちり気づかれており、
リンの処女を父親に捧げさせるのも一興かとか思われている。
申し訳ありません。
(>>196 )の性格ががっつり抜けていたので、補足させていただきます。
【性格】やや焦りやすく、自分で抱え込むタイプ。
時々苦虫をかみつぶしたような顔になる事があるが、
それ以外は特に何か付き合いにくい何かがある訳ではない。
【名前】ケージ・スゴクエライ・トテモツヨイ・ヤマオリ(山折 圭二 やまおり けいじ)
【性別】男
【年齢】17(本来であれば47歳となるが、異世界と現実世界は時間の流れが異なるため、10歳しか加齢していない)
【職業】勇者
【外見】身長170cm、短く刈って清潔感のある髪、細身ながらもしっかり筋肉のついた体
【性格】明るいがやや人見知りで、初対面の相手にはぶっきらぼうになる
【異能】
「アイ・アム・ア・ヒーロー」
異世界より帰還したことで失われた勇者としての力を限定的に再現する異能。
ケージは光の精霊と契約をかわしており、光の剣をはじめとする光魔法(アンデッド特効)を得意としていた。
元の世界に光の精霊は存在しておらずケージの体力を消費して擬似的に再現することとなるため、消耗が激しい。
懐中電灯やスタングレネードなど強い光を発する媒体が手元にあれば負担は抑えられる。
【詳細】
2022年から遡ること40年前、震度7に迫る大地震の日に行方不明となった先代村長の次男。>>162 山折 厳一郎の実弟。失踪当時は7歳。
その真実は、地震=地脈エネルギーの局所的な大爆発により次元が歪み、僅かに開いたゲートを通じて異世界に召喚されていたというもの。
異世界は魔物が跋扈する剣と魔法の世界であり、幼い圭二は心優しい老剣士に拾われる。
育ての親となった剣士はある日魔王によって殺されてしまい、圭二は復讐のため旅立つ。
仲間との出会い、強敵との戦い、守るべき無辜の民。冒険と月日はいつしか圭二を「勇者ケージ」と呼ばれる存在へと変えていった。
スゴクエライ・トテモツヨイは異世界の言葉で「高位の貴族」「最強の戦士」を意味する、国王より賜った称号。
旅路の果てに魔王を打倒し、共に旅をし永遠の愛を誓った王女との結婚式を迎える――というタイミングで、元の世界で大地震が発生し送還されてしまう。
光魔法は異能を用いねば使えなくなってしまったが、異世界で鍛えた体術、剣技や判断力は健在。
魔王討伐の旅の中では人間との争いも珍しくなかったため、自衛や仲間の安全のためなら殺人にも躊躇はない。
実の兄である>>162 山折 厳一郎のみならず、兄の親友である>>159 郷田 剛一郎、>>165 神楽 総一郎らからも可愛がられていた。
圭二の失踪を厳一郎は深く悲しみ、息子(圭二にとっては甥、>>16 )が生まれた時に圭二の分まで幸せに生きてほしいと願い、一字を取って圭介と名付けた。
年齢が近く家業の絡みでも親交のあった>>60 岡山 林蔵、>>132 勝 慎之介とはよく遊んだ仲。
【名前】鈴木夏生(lすずき なつお)
【性別】女
【年齢】17歳
【職業】女子高生兼山岡伽耶のボディガード
【外見】158cm・50kg カワイイと自称しても誰も異を唱えない程度には可愛らしい顔立ち。腰まで届く黒髪。八重歯
【性格】元気溌剌でチョットあざとい。思考よりも直感で行動する
【異能】
『死が二人を別っても』
死体、若しくはゾンビにのみ使用出来る能力。
死体を生前の能力そのままで動かせる様になる能力。ゾンビに使うと解除するまで動きを止める事が出来る。
対象は一体。ゾンビを止めている間に死体を操作する。或いはその逆。といった事は出来ない。
死体を操作している間は、ゾンビを止められないし。ゾンビを止めている間は、死体を操作出来ない。
発動条件及び解除条件は対象に抱きつく事。
生存者には無力だが、>>89 の山岡伽耶に対しては動きを止める事ができる。他にも効果のある生存者が居るかもしれない。
【詳細】
>>96 鈴木冬美の妹。姉との仲は良好。>>89 山岡伽耶の幼馴染で学校での監視と護衛担当。
ただし山岡伽耶の真実については教えられていない。側に着いて警護する事と、山岡伽耶の姿が見えなくなったら即連絡する様に姉から言い含められている。
山岡伽耶の事は尊敬と友情を同時に持っていて、>>191 鈴宮 美香に平然と接する姿に敬意を抱き(実際には火傷や後遺症を至近で眺めているだけ)。>>181 範沢勇鬼に、勇敢にも立ち向かったと聞いて感動し(鈴木冬美が止めなかったら殴り殺していた)お嬢様は素晴らしい方だと心から信じている。
山岡伽耶は鈴木夏生と一緒にいると良く笑うが、一緒にいると楽しいとか心が安らぐとかでは無く。『自分の本質を知ったら』だとか、『目の前で姉を殺したらどんな顔をするのか』『鈴木冬美の前で鈴木夏生を殺すのと、鈴木夏生の前で鈴木冬美を殺すのと、どちらが愉しいか』などと考えて悦に浸っているだけである。
この事から>>88 水沼水沼俊雄からは『面白い人』との評価を得ている。
山岡伽耶からは『動物番組見ている気分にさせてくれる』と思われている。一応は山岡伽耶からは大切に思われているらしく。鈴木夏生が危害を加えられれば怒る。
【名前】剣持亮二
【性別】男
【年齢】17歳
【職業】高校生
【外見】チョット線が細い、善良そうな平凡な高校生である
【性格】明るく社交的な高校生。クラスの人気者
【異能】無し
【詳細】
>>88 水沼水沼俊雄の近所に住む友人。最近引越して来た美少女二人と良く一緒にいる水沼俊雄にチョット妬いていたが、別段に何か危害を加えようとかせず、何とかして三人の輪の中に入ろうとしていた。
山岡伽耶に淡い恋心を抱いており、その事を知った水沼俊雄の感想は『鴨がネギ背負って鍋に突っ込んでいる』というもの。成人迎えるまでに死んでいるんじゃないかとか思われたりもしていた。
VHの際にゾンビ化。水沼俊雄に襲い掛かるも、異能により両手足の骨を抜かれて行動不能となった挙句、『何処までやればゾンビは死ぬのか』という実験に供されて内臓を複数抜かれて死亡。
※非投票対象キャラクターです
【名前】飯塚 大蔵(いいづか たいぞう)
【性別】男
【年齢】45
【職業】教師
【外見】天然パーマの丸顔。巨漢でがっしりとした体つき。
【性格】責任感が強く頑固で保守的。自尊心が高い。弱い者には威張り散らし強い者には媚び諂う悪癖がある。
【異能】
『剣聖(偽)』
刀剣の類を装備した時に自動発動する異能。
身体能力と気配察知能力、剣術の熟練度が大幅に上昇する。
また、自分に対して恐れを抱いたものの身体を硬直させる。
【詳細】
山折村の高校の体育教師。妻と娘が一人いる。
学校ではコンプライアンスは遵守しているものの一昔前の教育方針を取っている。
同僚の教師や保守派の村民には厚い信頼を得ているが、村の若者や子供達には嫌われ、恐れられている。
八柳新陰流の現在の門下生の中では3番目の実力を持つ最古参。信頼されていないものの八柳藤次郎(>>168 )から留守を任されている立場。
道場内では取り巻きと共に威張り散らしており、特に若い門下生にはパワハラ紛いの指導をして何人も辞めさせていた。
隔絶した強さを誇る虎尾茶子(>>184 )と八柳哉太(>>31 )、沙門天二(>>167 )には逆らえず、取り巻きと共に恐怖と憎しみを抱いている。
茶子には取り巻きと共に指導と称した制裁を加えようとしたが全員返り討ちにされたことがある。二日酔いの時に。DX日●刀で。
『ヅカパイさぁ……アホなん?ガキんちょの前で後輩リンチ、その上返り討ちとかクソ雑魚じゃん。全員才能ないんじゃないの?
破門された屑野郎にできることはあたしもカナ君も全部でき……で……オ゛エ゛エ゛エ゛ェ゛ェ゛ェ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛ェ゛!!!』
あの時の屈辱ともんじゃの味は未来永劫忘れない。
【名前】桐野七海
【性別】女
【年齢】27歳
【職業】山岡邸の使用人兼夜間の山岡伽耶の監視
【外見】短く切った天然茶髪。気怠げな風情の女性
【性格】基本ものぐさだが、仕事は後で面倒にならない様にきっちりやる。つまりは後の面倒がなければ際限無く手を抜く。
【異能】
『残穢』
人の死んだ痕跡を『黒い靄』として見る事ができる。死んだ人間が残した念が強い程、死んだ人間が多い程、靄は大きく濃くなる。
人間に対しても使用可能で、殺した人間が多い程、殺した人間から向けられた念が強い程、その人間は濃く大きな靄に覆われる。
【詳細】
>>96 鈴木冬美の同僚。夜間の山岡伽耶の監視役である為、昼間は寝ている。
夕方6時になると起きて、食料品やその他諸々の品の買い物に出かけ、食事を摂ってから、翌日の7朝時まで山岡邸のそこいらじゅうに設置してある監視カメラとセンサーの様子をモニタールームで監視して過ごすというのが、彼女の一日である。
鈴木冬美の同僚ではあるが、家事は基本鈴木姉妹に丸投げしている。
元々人付き合いが悪く、一人でいる事を好む為に、夜間の見張りというある意味退屈な任務にも耐えるだろうという事で、鈴木冬美により監視役に選ばれた。
当人は気質に合った仕事を用意してくれた鈴木冬美に深く感謝している。
男女を問わずカワイイ子が好みであり、就寝中の山岡伽耶や鈴木夏生の寝顔をカメラを使って覗き見ていたりする。
当人の戦闘能力は鈴木冬美程では無い。成人男性に組みつかれても返り討ちにできる位はあるが、>>181 範沢勇鬼相手だと秒殺されない程度。
この為に山岡伽耶からは、あまり問題視されていない。鈴木冬美を殺せる状況なり道具なりが揃っていれば、鈴木冬美のついでに殺せるだろうと思われている。
【名前】桐野七海
【性別】女
【年齢】27歳
【職業】山岡邸の使用人兼夜間の山岡伽耶の監視
【外見】短く切った天然茶髪。気怠げな風情の女性
【性格】基本ものぐさだが、仕事は後で面倒にならない様にきっちりやる。つまりは後の面倒がなければ際限無く手を抜く。
【異能】
『残穢』
人の死んだ痕跡を『黒い靄』として見る事ができる。死んだ人間が残した念が強い程、死んだ人間が多い程、靄は大きく濃くなる。
人間に対しても使用可能で、殺した人間が多い程、殺した人間から向けられた念が強い程、その人間は濃く大きな靄に覆われる。
【詳細】
>>96 鈴木冬美の同僚。夜間の山岡伽耶の監視役である為、昼間は寝ている。
夕方6時になると起きて、食料品やその他諸々の品の買い物に出かけ、食事を摂ってから、翌日の7朝時まで山岡邸のそこいらじゅうに設置してある監視カメラとセンサーの様子をモニタールームで監視して過ごすというのが、彼女の一日である。
鈴木冬美の同僚ではあるが、家事は基本鈴木姉妹に丸投げしている。
元々人付き合いが悪く、一人でいる事を好む為に、夜間の見張りというある意味退屈な任務にも耐えるだろうという事で、鈴木冬美により監視役に選ばれた。
当人は気質に合った仕事を用意してくれた鈴木冬美に深く感謝している。
男女を問わずカワイイ子が好みであり、就寝中の山岡伽耶や鈴木夏生の寝顔をカメラを使って覗き見ていたりする。
当人の戦闘能力は鈴木冬美程では無い。成人男性に組みつかれても返り討ちにできる位はあるが、>>181 範沢勇鬼相手だと秒殺されない程度。
この為に山岡伽耶からは、あまり問題視されていない。鈴木冬美を殺せる状況なり道具なりが揃っていれば、鈴木冬美のついでに殺せるだろうと思われている。
【名前】小野彩
【性別】女
【年齢】34歳
【職業】精神科医
【外見】二十代後半に見える、温和で知的な風情の女性
【性格】誠実かつ真面目に患者に接する精神科医
【詳細】
山岡伽耶の治療の為に、山岡家に傭われて山折村へとやって来た精神科医。
精神科医同伴という事が知られると、田舎村では奇異の目で見られるという理由から、自身の素性を隠している。
その為に何やってるのか判らない使用人と村人からは見られていた。
VH時には山岡伽耶のカウンセリングを行なっていたが、ウィルスによりゾンビ化し、目の前の山岡伽耶に襲い掛かるも、両肩を砕かれた挙句、頭を胴から引き抜かれて惨殺される。
その後、山岡伽耶は意気揚々と、ゾンビが溢れかえる山折村へと練り歩いていった。
>>203
間違えて二重投稿をしてしまいました
申し訳ありません
【名前】有磯 悦子(ありそ えつこ)
【性別】女性
【年齢】28歳
【職業】農家
【外見】実年齢よりかなり若々しく、学生に間違えられる事も多い。着痩せするタイプで脱ぐとスタイルがスゴいが、腹筋が割れている。
【性格】臆病で常にオドオドしている。若干の天然系でもあり、気が弱いのに無自覚に人を煽る悪癖がある。いじめやすい性格
【異能】
「嗜虐の法悦(デイ・トリーパー)」
悦子を視認した周囲の対象の嗜虐心を最大まで引き出し、結果として自身が受けたダメージと同じエネルギーを対象の腕部に与える。
そうしてできた対象の傷口に、麻薬性の物質を発生させる能力。
能力を発動すると結果として能力者本人が大きく負傷してしまうが、有磯にとってはメリットでしかない。
【詳細】
山折村に暮らす個人農家。独身。10年前に外から移住してきた。
栽培する野菜はお手頃価格で品質が良いと評判。
面識のある人間からの評価は『話すと少しイラつくが、まぁ悪い人ではない』というのが殆ど。
しかしその実態は、被虐願望と破滅願望がごっちゃになった倒錯的な性癖を秘めた人格破綻者。
副業で輸入した大麻とケシの実を畑で栽培しており、独自に加工・販売している。
メイン商品は自家製大麻とアヘンをふんだんに使った『ラリラリドリンク』なる特性スムージージュース。
その驚異的な中毒性と脳が弾けるような旨さから、通信販売を中心にかなりの売り上げを叩き出している。
この麻薬生産は法律による社会的破滅や、シマを荒らされたヤクザからの制裁を期待してのもので、凄惨なお仕置きを体験するために合えて露呈するよう商売をしている。
なので収益にも本質的に興味がなく、余分な稼ぎの大半は地元の組合や村に寄付している。
しかし思惑とは裏腹に、こんな堂々と麻薬製品を売っているとは誰も思わなかったのか、未だに何の追求もされていない。
VH発生直前にはかなり欲求不満が貯まっていたが、異能を自覚してからは、自身にとって最もベストなシチュエーションを待ちわびている。
【名前】熊野 風(くまの ふう)
【性別】オス
【年齢】15
【職業】ヒグマ
【外見】250cmほどのサイズ、赤いシャツを着ている。肥満気味で腹が出っ張っている。
【性格】温厚、ハチミツが大好きで食い意地が張っている。
【異能】
『異種族コミュニケーション』
他の種族との対話を可能にする異能。
人間のみに限らず、あらゆる生物との会話を可能にする。
【詳細】
ハチミツが大好きなクマで子熊時代から村に降りてはハチミツを強奪している。
そんな事件から発展して学生たちからは『ハチミツを持って山に入ると熊野風が現れてハチミツを奪ってくる』という噂話が広まり
学生たちは面白がり、ハチミツを手にして山に入る度胸試しが流行り、村で問題になった。
ある日、本当に風さんが学生たちの前に姿を現し、ハチミツを奪う事件が起きた。
ハチミツを両手で抱えて笑顔を見せる風さんの姿を学生の一人が撮影に成功し、動画サイトにアップロードしたが
コメント欄は「合成だろ」「着ぐるみじゃん」と嘘つき扱いするコメばかりで全く信用されなかった。
過去に猟友会に殺されかけたが、逃げ切っているので意外と危機回避能力が高い。
風さんは異能を使って他者と対話をしてくるが言うことはハチミツをねだるだけである。
仮にハチミツが無くても逆上して襲って来ることは無く、がっかりして立ち去るだけである。
【名前】水品春奈(みずしな はるな)
【性別】女
【年齢】17
【職業】高校生
【特徴】目鼻立ちがはっきりとしており、割と印象に残る容貌
【性格】基本誰にも分け隔てなく接するサバサバ系
【異能】
『原村回帰』
彼女が存在するエリア内の銃器、火器を使用不能にする
その形状を利用した鈍器や刃物としての使用は制限されない
【詳細】
野倍 義雄(>>22 )の娘の子、つまり孫。
幼いころから山折村がいかに素晴らしいかの薫陶を受けており、村に対して強い憧れを抱いていた。
村に行くことは親に反対されており想いだけが募っていく状態であったが、所属していたサバゲーサークルで合宿の話が持ち上がる。
これ幸いと目的地探しに手を挙げ、親にも内緒で革名征子(>>36 )らサークルメンバー何人かを引き連れて下見を口実に村へとやってきた次第。
【名前】吉田 無量大数(よしだ むりょうたいすう)
【性別】男
【年齢】53
【外見】スキンヘッド、細い目つき、中肉中背
【性格】実直で律儀。珍妙な名前のせいで苦労を背負いがち。任務には忠実。
【詳細】
《特殊部隊員》。
珍妙な名前だが、本名である。
ベテランの陸上自衛官だったが、出世コースからは外れていた。
陸自時代から“極秘任務への従事”を許可されるなど、不可解な立場にある人物だった。
彼がSSOGに引き抜かれたのも、それらの任務で多大な実績を上げていたからだとされている。
《日誌 20××年10月21日》
『吉田無量大数。この珍妙な名前に関しては私生活で幾度となく困らされている。』
『ましてや海外の任務では相手に名乗るだけでも一苦労だ。まず正しく聞き取ってもらえた試しがない。』
『かといって、今から改名するのも気が引ける。両親に申し訳が立たない。』
『今日は■■国軍の■■■■・■■■殿と顔を合わせた。』
『こんな名前なので、挨拶で手間取らせてしまって申し訳ない。』
『何はともあれ、明日は一仕事だ。無理せず頑張ろう。』
《日誌 20××年10月22日》
『■■■■■■■■■■■』
『■■■■■■■■■■■■』
『■■■■■■■■■■■■■』
『■■■■■■■■■■■■』
『■■■■■■■■■■■■■』
『■■■■■■■■■■■■』
『■■■■■■■■■』
《日誌 20××年10月23日》
『清々しいほどの晴天である。』
『昨日はやはり随分と忙しかった。』
『だが、今日は穏やかに過ごせそうだ。』
キャラクター募集期間も折り返しとなりました。
沢山のキャラシートの投稿、ありがとうございます。
まだまだ期間は御座いますので奮ってご参加ください。
投票は来週からになりますが、投票ルールを決定しましたので先んじてお知らせいたします。
【投票ルール】
・投票は村民10票、特殊部隊員2票の12票とします。
・上記票数は上限なので必ずしも全ての票を埋める必要はありません
・同一キャラに複数票を投じることはできません。
・分割投票は認められません
・当選は村民は30〜40名、特殊部隊員は3〜5名を目途に足切りします。
・参加者数は50名を目途に企画者枠と書き手枠で調整します。
・投票は専用したらばでおこないます。
・投票時はホストが表示されますのでご注意ください。
【名前】乃木平 天(のぎひら そら)
【性別】男
【年齢】27
【外見】右目が灰で左目が黒のオッドアイ。女性受けのいい顔。
【性格】空気を読むことに長けて穏やかな人物。意外と真面目。
【詳細】
《特殊部隊員》
SSOGでは隊員同士の仲裁役を担っており、隊員の皮肉を噛み砕いて説明したり、熱くなりすぎた隊員を窘めたりと空気や状況を読むことに長けている。
コミュニケーションのため相手の趣味や好みを共有することも多く多趣味。仕事でも状況に対する適応力の高さは評価されるが、戦闘に関しての実力は(他が強すぎるのもあるが)高いとは言えず、持ち前の器用さでなんとかしているタイプ。
顔も相まって胡散臭さが出てしまうがこう見えて割と真面目に仕事をする。基本は博愛主義だが仕事とは相反しててやるせない気分になりがち。
【名前】嶽草 優夜(たけくさ ゆうや)
【性別】男
【年齢】17
【職業】高校生
【外見】黄緑のポニーテールで同年代と比べると少し小柄
【性格】少し大人しめで世話焼き。人との繋がりに不安を持つ。
【異能】
『疾風怒濤』
足を起点に風を操る。放出の仕方で脚力や跳躍と言った強化から、
回し蹴りやミドルキックで風の斬撃や風の弾丸を飛ばすことができる。
足に風を纏わせた疑似的な鎧も可能。
【詳細】
母親共々父親のDVを受け、母からも『生まなければよかった』と言葉を浴びせられた。
最終的に山折村に住む叔父に引き取られたが、今でも自分の存在価値に悩んでいてそれを埋めるように人と触れ合うことに飢餓を持つ。
結果人からの頼みごとを率先して受けたりする、悪く言えば便利屋扱いされることが多い。そのせいかは知らないが脚力は陸上部並。
(>>139 )朝顔茜とはよくつるむ間柄で、彼女の性格も相まって救われている。
同じクラスメイトの(>>85 )氷月海衣にアタックを続ける彼女を応援している
(自身は彼女と相性が悪いと感じて進んではしない)。
【名前】広川成太(ひろかわ なりた)
【性別】男
【年齢】26
【外見】服装規定に抵触しない程度には派手な格好、一見するとチャラ男に見える
【性格】どんな時も軽口は忘れない、ある種のムードメーカー
【詳細】
《特殊部隊員》
ヒーローにあこがれている節があり、任務中もよくヒロイックな言動を行うため注意を受けることが多い。
戦闘方法は基本は泥臭く実直だが人の目を意識すると途端に派手なものに切り替える癖があり、こちらもよく注意を受ける。
仕事内容に自身のヒーロー観を持ち込むことはなく、任務の達成率自体は高い。そのため上記の問題点もあくまでまだ注意で済んでいる。
若気の至りとして新人時代に顔を隠す任務で自作のヒーローマスクを持ち込んで怒られた過去があり、
今でもよく引き合いに出されてSSOG内で彼をいじる鉄板ネタとなっている。
【名前】和幸(かずゆき)
【性別】オス
【年齢】800日
【職業】家畜の豚
【外見】鼻の先が白い黒豚。体重100kg前後
【性格】能天気で食いしん坊
【異能】
『転生回帰(ロールバック・オリジン)』
前世の姿に戻る異能。常時発動する。
和幸は全長4m体重1tの巨大なオークに変化する。
【詳細】
山折村の小中学校にて食育目的で飼育されている豚。とうもろこしが大好物。100日後にはベーコンになるはずだった。
前世は異世界に住まう残虐非道なオークの戦士だった。
転生した当初は記憶を引き継いでいたが、月日が経つにつれ魂が肉体に引っ張られて現在は食欲旺盛なただの豚になった。
前世の肉体を取り戻したとしても和幸が求めるのは人間の血肉ではなく、おいしいとうもろこしだろう。
山折村だんだん豊かになってるな
人口が千人程度なのは選別の影響に違いない
【名前】山上美々子
【性別】女
【年齢】17歳
【職業】女子高生。現在は不登校
【外見】162cm・47kg 黙っていれば気の強そうな美少女
【性格】高慢かつ攻撃的な性格。あまり頭は良くなく、直情的な性格。一度自分より下と見ると、際限無く傲慢に振る舞う
【異能】
『慈悲など無い(ノー・マーシー)』
接触した相手の全神経に痛みを生じさせる異能。直接ではなくても、物質を介しての接触でも効果は発動する。
要するに縄で繋いでいる相手を、この異能で言うこと聞かせる。といった使用方法も可能。
複数相手にも使用出来るが、人数が増すほどに自身の消耗は激しくなる。
極度の興奮状態にある様な、痛みを感じにくい相手には効果が鈍り、痛みを感じない相手には通用し無い。
【詳細】
四代前の当主が戦後の混乱に乗じてのし上がった家の娘。村の内外でかなりの無茶をしてのし上がった為に、>>162 山折厳一郎を始めとする村の老人たちからは良く思われていない。
山上家の人間もその事を分かっていてか、代々横柄かつ傲慢に振る舞い、村では孤立している。
山上美々子も例に漏れず、傲慢な性格をしているが、顔と金遣いの良さから取り巻きが男女を問わず複数存在し、数の暴力と金とに任せて、村の未成年の間ではかなりの勢力を持っていた。
状況が変わったのは>>89 山岡伽耶が転校してきてから。
容姿も振る舞いも家の財力も、何もかもがの遥か上をいく存在に、山上美々子は立場を無くしていく。
そんあある日、破局は訪れた。放課後を待って、山上美々子は取り巻きを連れて山岡伽耶及び>>199 鈴木夏生を襲撃。
鈴木夏生を取り巻きが抑えている間に、山岡伽耶に暴力を振おうとして、逃げる山岡伽耶を追跡。その最中に階段から2人共落ちてしまい、山岡伽耶の下敷きとなって、右足と肋骨を複数骨折。更に弾みで、持っていたカッターナイフで右手首の動脈を傷つけてしまい、失血多量で死ぬところを駆けつけた鈴木冬美が救急車を呼んだ事で助かった。
入院している間に、見舞いに来た山岡伽耶に罵声を浴びせる姿が目撃された他、入院に至った経緯が経緯な為に、狭い村社会での肌身の狭さを感じた取り巻きが全員美々子を見限り、
退院した時には学校に彼女の居場所はなかった。
再度山岡伽耶に襲い掛かるも、かつての取り巻き達に制止され、そのまま家に逃げ帰った。
現在では家に引き篭もって、部屋からも出て来ない
というのが、村で知られている話である。
実際には、山岡伽耶及び鈴木夏生を襲った所までは同じだが、山岡伽耶が敢えて人目に着くところを選んで逃げ回った上で、階段から突き落として右足を折り、更に上に飛び降りて肋骨を折った上で、右の尺骨動脈を切ったのである。
こうして身動きできない山上美々子が、緩慢に死んでいくところを眺めていたところへ、鈴木冬美が駆けつけて、止血処置をして救急車を呼んだ為に、一命を取り留めた荷だった。
病院に面会に行ったのは、見舞いでは無く、抵抗できない状態で自分と一対一で会う事になった山上美々子が怯えるのを見て愉しむため。そして鈴木夏生はお嬢様の度量に感動した。
結果として取り巻きが居なくなり、村の問題が一つ減ったので、山岡伽耶は、村の重鎮達、>>159 郷田剛一郎や>>162 山折厳一郎からは感謝される事となった。
全ての責任が、山上美々子に帰することになったのはこの為。
現在の山上美々子は、山岡伽耶に対して、強い憎しみとそれを上回る恐れを持っている。
【名前】熊田 清子(くまた きよこ)
【性別】女
【年齢】15
【職業】中学生
【外見】黒い長髪、身だしなみが整っていることをのぞけばクマカイ(>>49 )に瓜二つ
【性格】真面目で潔癖、ゴミに関して神経質
【異能】
『人間掃除機』
彼女の主観で「捨てられている・放置されている」ものを質量・サイズ問わずカー〇ィのごとく吸い込める。
異能で吸い込んだものは吐き出し不能で、毒物でもなければ大抵のものは問題なく体内に収まる。
人間やゾンビの死体なども上記条件を満たせば吸い込み可能だが、生前異能を持っていた場合はその異能を使えるようになる。
ただし複数の異能を同時に発動させることはできず、また他の異能を発動中は『人間掃除機』も使えない。
【詳細】
山折村の小中学校で美化委員長を務める。
ゴミのポイ捨てや、分別を守らないものに厳しく、学校外でもそのような光景を見つけると大人だろうと注意する。
『捨てる』という行為に神経質なほどに過敏で、ペットを飼っている者に対しては買うのは構わないが責任もって最後まで育てなさいよと、釘を刺してくる。
その口うるささから学校では疎んじるものも多いが、休みの日には頻繁にゴミ袋を持って村内や山中で清掃活動に努めていて、周囲の大人たちからの評判は高い。
彼女のこのような性格の背景には、赤ん坊の頃に捨てられた双子の妹・クマカイの影がある。
2年前、クマカイが母親代わりのクマを失ったのと時を同じくして、清子は突然頭痛に襲われ、共感覚によりクマカイの怒りと悲しみを感じ取った。
そして、両親に「私に兄弟姉妹って、いないよね…?」と聞いてみた所、あからさまに動揺した様子を見せる両親を問い詰め、白状させた。
清子の両親は、当時、二人の子供を養う経済的余裕がなく、秘密裏にクマカイを山に捨て、清子を一人っ子として育てていたのである。
両親から双子の妹のことを聞かされた清子は、それ以降、『不当に捨てられる』ものに対して強い忌避感を感じるようになり、上記のような潔癖な性格となった
また、両親への反発心から夜遅くまで外を出歩き、顔を合わせないようにしている。
妹のことは今もどこかで生きていると信じており、高校卒業後は猟友会に入って猟師となり、山で妹を探そうと考えている。
その為、若くして女性の身で猟師となった漆川 真莉愛(>>161 )に度々会いに行き、色々と話を聞いている。
【名前】夏川 治(なつがわ おさむ)
【性別】男
【年齢】35
【職業】小説家
【外見】和装、くたびれた雰囲気
【性格】感性が良くも悪くも一般人
【異能】
『第四の書物』
投下された内容が本という形で顕現する。
【詳細】
鳴かず飛ばずの小説家。早死にした親の遺産を食い潰す生活を送っている。
次の小説の題材に迷っており、何か大きな出来事でも起きないかと思っていたところに今回の事件が起こった。
いつの間にか持っていた見覚えのない本には先ほどの地震と放送のこと、舞台裏のような隊員の会話、そして村人や村に来ていた人の情報が書かれていた。
小説家である彼は、これは物語で言うところのオープニングと登場人物設定であることを理解。
とりあえず危険人物には会わないようにしようと思うのだった。
……最初のページに「企画」「オリジナルキャラクター」と書いてあったのは深く考えないことにしている。
【名前】田辺秀一
【性別】男
【年齢】17歳
【職業】高校生
【外見】172cm・73kg 日焼けした肌と染めた金髪。テンプレ的なチャラ男
【性格】卑劣で風見鳥的な性格。強い相手には迅速に媚びへつらう
【異能】
『ピット・ドッグ』
顎の強度と咬筋力と歯を超強化し、日本刀をポッキーのように噛み砕ける様になる能力。
強化されるのは顎と咬筋力と歯のみで、他の身体部位は元のままである。
一応は、咬筋力の劇的な向上により、身体能力も増している。
【詳細】
>>216 山上美々子の取り巻きのトップだった男。嘗ての山上美々子のグループのNo.2。
>>89 山岡伽耶により山上美々子が落ち目になった途端、真っ先に山上美々子を見限った。
その後、厚顔にも山岡伽耶に取り入ろうとするが、意識されることも無いまま>>199 鈴木夏生に追い払われる。
その後は>>181 範沢勇鬼に接近するが、全く相手にされなかった為に、>>57 の木更津閻魔に取り入り、彼の取り巻きの中でも上位の位置を占めるようになる。
>>183 町原尚希からは、全く信用されていない。
そこそこ場数を踏んでおり、喧嘩慣れしているが、そもそもが鈴木夏生を複数で襲って仕留められない程度である。
【名前】門倉 衛善(かどくら えいぜん)
【性別】男
【年齢】17
【職業】高校3年生
【外見】191cmの高身長と筋肉質な体型
オールバックで後ろに流した髪を一本に縛っている。
【性格】誠実で利他精神が強い
後述の事件の影響で自分や他人の身体が傷つくことを怖れている。
【異能】
「神の掌」
闘気で形作った巨大な掌を具現化させる。
危機に直面したり研鑽を積むことでこの異能は進化する。
イナズマ11
【詳細】
東京都内の高校に通う高校生。
生徒会長を務めつつ、キャプテンとしてサッカー部を全国大会優勝に導くなど、非凡ながらもある意味普通の高校生活を送っていた。
そんなある日、彼の通う高校がテロリストに襲撃されてしまう。
次々と学友たちが殺害される中、生き残った者たちを逃がして一人でテロリストに立ち向かい、そのほとんどを無力化し事態を収拾した。
その後この事件のニュースが顔写真や本名、ショッキングな画像と共に世間に出回ってしまい、ほとぼりが冷めるまでの避難と事件で負った心的外傷の治療のため、母の実家がある山折村にやってきた。
ポジションはゴールキーパー。
【名前】九十九 零士(つくも れいじ)
【性別】男
【年齢】40
【職業】芸術家
【外見】175㎝ほどのやせ型、黒髪を後ろで束ねている。
【性格】奇人
【異能】
『芸術家』
一瞬を切り抜く異能。
切り抜かれた瞬間は時間が停止する。
【詳細】
山折村にふらっと現れた天才芸術家。
「なんだ、これは!」と幼少期に見た作品に衝撃を受け、中学卒業と同時に放浪の旅をしている芸術家。
彼の非常にエキセントリックな作品はまず一般人には理解が及ばない。
普通の芸術家でも多分理解できない、芸術に関しては怪物の類。
芸術以外に関してはほぼほぼ中学生並みかダメ人間。
【名前】五日市 六華(いつかいち ろっか)
【性別】女
【年齢】26
【職業】看護師
【外見】黒髪ショート、標準体型、白衣
【性格】献身的で誰にでも優しい大天使のような性格、ド天然。
【異能】
『死ヲ告ゲル天使』
対象に『死の恐怖』を強制的に与える異能。
並の精神では耐えることは出来ず、精神を完全に破壊する。
耐えたところで彼女に対してトラウマや後遺症は残る。
【詳細】
山折村の医院に務める看護師。
都内の大学の医療看護学部卒業後、地元近くの山折村の医院にやってきた。
医学や薬学にとても詳しく、大学ではトップの成績だった非の打ち所がない完璧超人。
性格に裏表があると思いきや、そんなことも特にないただの聖人。
村人(特に男性陣)から人気が高いが、誰からも触れられない『高嶺の花』。
が、そのことを本人は村人からあまり頼りにされていないと感じている。
【名前】美羽 風雅(みわ ふうか)
【性別】女
【年齢】32
【外見】黒髪ロング、長身でスタイルもいい、常に煙草を咥えている(重度のヘビースモーカー)
【性格】短気でキレやすく、常にイライラしている。
【詳細】
《特殊部隊員》。
元関東最大級の暴走族(レディース)の族長だった女。
殴るか殴られるかしていないと生きている実感が湧かないということでステゴロのタイマン勝負を好む。
『SSOGの犬』を自負するほど、上層や上司からの命令には非常に従順。本人が気に食わない仕事だろうが、文句を言いつつもこなす。
……かつてバイク事故で身体の大部分の機能を失い、政府に実験体として回収され、現在は身体の大半をサイボーグ化している。
政府には『このような形であろうとちっぽけな自身の命を救ってもらった』という恩義があるので最大の恩返しのために尽くす。
その姿勢は『犬』というよりも誰が見ても≪狂犬≫。
【名前】日野 珠(ひの たま)
【性別】女子
【年齢】14
【職業】中学生
【外見】ショーカット、スパッツにスカート、動きやすさを重視した服を好んでいる
【性格】好奇心旺盛、人懐っこく物おじしない性格、男女の隔てがまるでない
【異能】
『ワクワクの導く先へ(フェイトマイロード)』
イベントの発生が視覚的に分かる能力。ドロップアイテムなども発見可能。
重要なイベント程、強い光になって視覚化される。いわば運命の可視化である。
【詳細】
好奇心の塊のような火の玉ガール。行動力の化身。
(>>116 )日野 光の妹で、その彼氏であり彼女にとっても幼馴染である(>>16 )山折 圭介には妹分として可愛がられている。
最近転校してきた(>>106 )堀北 孝司、(>>187 )天原 創にも興味津々だったが堀北 孝司に近づくと(>>26 )川中 蔭子に睨まれるためその矛先は主に天原に向かっている。
エージェントである天原からすれば常に絡んでくる彼女は少し厄介な存在となっているが、中学生男子としての天原は嬉しそうである。
常に新しものを求めており探検が趣味。
暇さえあれば人気のない山中やら森の中を木の棒を片手に一人探索している。
その探索中にうっかり地下研究所の入り口を見つけてしまったことがある。
扉は固く閉ざされており入れなかったため、本人はそのことを忘れている。
【名前】白浪 流 (しらなみ りゅう)
【性別】男
【年齢】36
【職業】窃盗犯・転売屋
【外見】人相の悪い短髪の男。髪などが落ちないようにニット帽と長袖の衣服、またマスクをつけている。
【性格】極めて自己中心的かつ、卑劣。悪知恵ははたらくが教養は無い。
【異能】
『カギをかけねえお前が悪い』
相手の異能を盗む異能。
加えて、相手は短時間、異能の発動が失敗する可能性が現れる。
厳密に言えば異能ではなくウイルスの一部を盗んでおり、これによって相手の異能の発動を阻害し、自身の力に変えている。
時間が経てば体内の菌環境が再び正常にかえるため、すべて元に戻るのだ。
そのため、原理的には他の人間に盗んだ異能を渡すことも、ゾンビからウイルスを盗むことも可能ではある。
【詳細】
無人販売所を見つけては、代金を支払わずに根こそぎ持ち去り、フリーマーケットで売りさばいている男。
それだけではなく、桃やブドウなどの高級ブランドに目を付けては、軽トラックの荷台に乗せられるだけ乗せて去っていく。
発覚を遅らせるため、農産物は夜中に間引くように盗み、かつ足が付きにくいように複数県をまたいで活動する悪賢さを持つ。
しかも倉庫を所有してはいないため、自宅には保管の悪い商品が放置されており、腐れば山中に放棄している。
警察に逮捕されたときは、『ただで持って行っていいものだと思っていた。反省している』という答えで通そうと考えているが、当然反省する気などない。
それどころか、
『田舎の農家は自分たちが一番おいしいものを確保し、消費者には一段劣るものを高い値段で売りつけている。
それを安値で市場に流しているのだから自分は市場の活性化に貢献している、感謝されることはあっても非難される筋合いはない』
と考えており、罪の意識など欠片もない世界の全生産者の敵。
山折村に訪れたのも、現地食材を利用した人気ラーメン店やファストフード店の噂を聞きつけて、それならがっぽり稼げる商材があるだろうと考えたからである。
【名前】浅葱碧(あさつき みどり)
【性別】女
【年齢】16
【職業】村の高校生
【外見】肩にかかる程度の長さの赤い髪。童顔でたれ目。微乳。
【性格】普段は人当たりがいい大人しい性格だが、剣を持てば性格が冷静で冷徹へと一変。一度決断すればその判断に全てを賭ける。
【異能】
『強化外骨格』
体中から分泌する液体が鋼鉄並みの強度を持ちながらしなやかな骨へと変わり、身に纏う事で身体能力が強化される。
変身後は白い黄金バット状態。自分の意志で別の分泌液を出し、骨を壊す事もできる。
他に日本刀の形状をした骨も作れ、切れ味強度共に本物並みである。体内の骨も異能の影響で鋼鉄並みである。
【詳細】
村を出た父と都会で出会った母のもとに生まれた。
10歳の時、両親と旅行中交通事故にあい両親が死亡。村にいる祖父に引き取られる。
両親を失った事で暗くなり引きこもっていた彼女に、直心陰流の達人である祖父は二重人格レベルになるまで厳しく剣術を叩きこんだ。
腕前は祖父相手に剣道で10本に1、2本は取れるため、全国レベルと思われるが、大会に出てないので本当の所は不明。
修行はDV並に厳しすぎるとは思っていたが、外に出て学校で友達も作れるようになったので祖父には感謝している。
事変以降、ゾンビ化した祖父達に襲われる最中、異能が発現。
『一度刀を握ったら躊躇うな』という教え通り、手にした骨刀で祖父達を斬った。
【名前】三藤 探(みとう さぐる)
【性別】男
【年齢】27
【外見】眼鏡をかけた冴えない人相
【性格】面倒くさがりで、仕事は手早く片付けたがるタイプ。
【詳細】
かつては普通の家庭に生まれた普通の少年だった。
だが彼は昔からまるで漫画の探偵のように殺人事件に巻き込まれる死神体質の持ち主でもあった。
しかも、元々持っていたのか必要になったから手に入れてしまったのか、彼には類稀なる推理の才能があった。
その才能でいくつも殺人事件を解決してきた彼は、高校時代『現実に現れた高校生探偵』と持て囃されたこともあった。
しかし殺人事件に何度も巻き込まれている経歴が就職時に忌み嫌われ、気づけばこんな特殊部隊しか居場所がなかった。
やりがいを覚えることも無く、しかし推理する必要もない生活にすっかり馴染んだある日、山折村に関する任務を命じられた。
「この村には何かある」
それが、幾多もの事件に巻き込まれた探るが、山折村の地図や住人の年齢層を見たときに最初に思ったことだった。
【名前】聖河 正慈(ひじりかわ せいじ)
【性別】男
【年齢】47
【職業】人権活動家
【外見】眼鏡をかけており、小太りな体型。全体として小ざっぱりした印象。夜間活動に備えてコートを着ている。
【性格】潔癖かつ曲がったことが大嫌いで、他者に正しさを要求する
【異能】
『人権の守護者』
異能や暴力に対する長方形のバリアを張る。
対象は自分のみ。他人には使えない。
【詳細】
全国的にまたがって活動する特定非営利活動法人『明るい未来を子どもたちにつなぐ会』代表。
外から団体のメンバーをぞろぞろ引き連れ、道路のど真ん中で座り込みデモをおこなって、
『子どもを檻に閉じ込める村、その名は山檻村!』などとメディアを通して全国に吹聴するため、村民から蛇蝎のごとく嫌われている。
実際にそのような輩が山折村に滞在しているが、彼自身はそのようなことは一切調査しておらず、裏取りも一切する気はない。
田舎のくせに高級住宅街を建て、若者人口比率を上げ、近年発展著しい山折村にはやましいことがあるに違いないという思い込みと、
真意不明な週刊誌の飛ばし記事やインターネット上のウワサとタレコミだけで動いている。
無知で無学な田舎者に最先端の正しさを啓蒙することこそが使命だと考え、そのために住人に迷惑をかけるのは必要悪だとして気にしてもいない。
なお、デモに少なくない警備が割かれるため、犯罪者にとっては彼の活動日こそが動きどきになるという本末転倒の事態に陥っている。
この日、多くの犯罪者が動いたことと、彼が大規模なデモを計画していることをホームページで大々的に公表したことは、まったくの無関係ではないだろう。
【名前】和平嵐子(わへい らんこ)
【性別】女
【年齢】36歳
【職業】肉屋
【外見】身長190cm、体重98㎏、色々太く恰幅のいい女性。作業用エプロンにお土産品の豚のマスクを被っている。
【性格】
本来は穏やかで客思いの良いおばさん。肉屋の仕事に誇りを持っている。
【異能】
「食肉鑑定(グルメスパイザー)」
肉を食べると、その肉の詳細な情報を知ることができる能力。
主な情報は、肉質、病気の有無、遺伝的資質、異能や強さなど。
【詳細】
山折村にある食肉専門店「トコトントン」の女店長。女手ひとつで高校生の娘を育てていた。
地元の畜産農家と契約し、新鮮なお肉をお手頃価格で提供している。
育ち盛りの子供たちには沢山食べて欲しいという好意から学割が効き、地元の学生にも良く利用されている。
特にコロッケが大人気。
気前が良く、おおらかで愛嬌のある性格から評判は良い。
別口でジビエの解体も行っており、猟友会のメンバーとも面識がある。
VH発生時、愛娘が目の前でゾンビに食い殺され、現在はショックで発狂している。
人間と食用肉の区別がつかなくなっており、付近の生存者を捕獲しては仕事場で解体し、お客様と認識した相手を拘束して無理やり肉を食べさせている。
なおゾンビの肉は肉屋としてのプロ意識で提供していない。
【名前】斉藤光希
【性別】女
【年齢】17歳
【職業】高校生
【外見】172cm・63kg 背中辺りまで伸ばした髪。
【性格】よく笑う明るい性格
【異能】不明
【詳細】
>>216 山上美々子のグループに虐められていた少女。ある時>>89 山岡伽耶が居合わせた為に、一緒に居た>>199 鈴木夏生に助けられる。
その後、山岡伽耶との諍いにより、山上美々子のグループが消滅し、斉藤光希への虐めも無くなった。
虐めが無くなった後に、嘗て助けられた縁から鈴木夏生と友人関係になり、放課後には鈴木冬美が山岡伽耶の警護を引き継いだ後、一緒に行動する事も有った。
虐められていた間の塞ぎ込んだ表情は無くなり、元の明るい性格に戻った為に、両親は鈴木夏生及び山岡伽耶に深く感謝したとか。
>>181 範沢勇鬼との一件の際に、鈴木夏生が居なかったのは、斉藤光希と一緒に買い物に行っていた為である。
VHの際にゾンビ化は免れるものの、状況を飲み込めないまま、ゾンビと化した両親に襲われて死亡する。
※非投票対象キャラクターです
【名前】三上優也
【性別】男
【年齢】16歳
【職業】高校生
【外見】154cm・50kg ボサボサの髪に瓶底眼鏡
【性格】地味で陰気で無口で吃り
【異能】
『僕等はずっと一緒だよ』
任意の対象一体の行動を逐次把握出来る様になる異能。
対象の五感をジャックして感じる事も出来るが、自身は行動不能となる。思考を知る事も出来るが、これを行うと意識不明になる上に、任意でジャック状態を解除できない。
射程10mだが、これは対象に能力を使用する為の距離で、一度使用すれば、対象が地球の裏側にいても問題無い
【詳細】
>>216 山上美々子のグループに虐められていた一年生。>>89 山岡伽耶との諍いにより山上美々子のグループが消滅して、虐めも自然に無くなった。
三上優也はイジメグループを崩壊させた山岡伽耶を、この一件以降崇拝するようになる。
この事を、よく山岡伽耶と一緒にいる為に、三上優也に絡まれる事となって知った>>88 水沼俊雄は「見た目は良いからね。君は」との感想を山岡伽耶に向かって語った
当の山岡伽耶は別段に思う所は無かったらしいが、>>96 鈴木冬美からは「お嬢様の前にネギ背負った鴨をやって来させる訳にはいかない」と、対処の必要を抱かせるが、何かしらの行動に移る前に今回の事態が起きてしまった。
【名前】増田望美
【性別】女
【年齢】55歳
【職業】主婦
【外見】158cm・70kg 小太りの中年女性
【性格】噂好きで他人のスキャンダルに目が無い。
【異能】不明
【詳細】
山岡家の近所に住む主婦。住人が女ばかりで、内1人は夜型人間、更に1人は何やってるのか判らないとあって、『何か言えない秘密が有るに違いない』と確信して、山岡邸の事を調べ出す。
夜間に山岡邸の周りをうろつき回った為に、>>202 桐野七海に発見され、桐野七海から知らされた鈴木冬美の知る所となる。
最初の内はトラブルを避ける為に放置していたものの、>>216 山上美々子の一件で、村の重鎮達から山岡伽耶が感謝される様になった為、今なら問題無いだろうと踏んで、増田望美に半ば脅迫に近い警告を行う。
鈴木冬美の威圧と、村の重鎮達が山岡伽耶に好意的であるとの話から、山岡邸を嗅ぎ回る事を止めるが、山岡邸の住人達に強い恨みを持つ事となる。
VHに先立った地震で家屋が倒壊。夫が死亡して呆然としている所を、意気揚々と練り歩いて来た山岡伽耶に遭遇。
今まで抱いて来た恨みや、自身を襲った不幸への怒りや不満を晴らすべく山岡伽耶に絡むも、鬱陶しがった山岡伽耶に思いきり右脚を蹴り飛ばされて開放骨折し、倒れた所にストンピングの連打を受けて惨殺される。
※非投票対象キャラクターです
【名前】愛野 満子(あいの みつこ)
【性別】女性
【年齢】28歳
【職業】保育士
【外見】金髪ロング、そばかす、青眼。抜群のスタイルが自慢。現在は全頭のフェイスマスクで顔を隠し、露出度の高いボンテージ衣装を着た痴女となっている。
【性格】変態。重度のショタコン。誰にでも敬語で喋るが、興奮すると卑猥な言葉で罵倒してくる。
【異能】
「裏表ラバース」
下半身から多量の卑猥な触手を生やし、手足のごとく自在に操る異能。
触手は一種の神経毒を分泌しており、生物を麻痺させて動けなくする。
この毒は微調整が効き、馴れれば媚薬の類も精製できる。
触手の先端はある程度整形可能で、固くしたり太くしたり、棘状の『返し』をつけたりもできる。
触手は先端を中心に神経が通っており、受けた衝撃は強い快感として伝わる。
【詳細】
山折保育園に勤務する保育士。祖父が外国人であり、外見の特徴が色濃く出ている。
遊びにも真摯に付き合う優しい先生と園の子供たちに慕われている。
美しい容姿と礼儀正しい性格から、親御さん達の評判も悪くはなかった。
実は厳格な父親と禁欲的な母に厳しく育てられた反動から、変質者としての素質が覚醒してしまった女性で、VHに際して自身に秘められた性癖を露わにした。
異能を自覚してからはより大胆かつ変態的になり、花婿を探すためプレイ用の衣装を着込み村中を徘徊、気に入った男の子を捕えて遊んだり結婚式を行おうとしている危険人物と化した。
しかしながらまだ微かに理性も残っているようで、ふとした瞬間我に帰り、自己嫌悪を感じている。顔を隠しているのはそのため。
【名前】平山大二(ひらやま だいじ)
【性別】男性
【年齢】22歳
【職業】大学生
【外見】黄色いパーカー、ロンゲ、眼鏡
【性格】自信家、プライドが高い
【異能】
「テレポーテーション」
自分自身を離れた場所に一瞬で移動させる異能。シンプルな瞬間移動。
移動先の照準は目線なため、暗闇などで眼が見えない状態ではコントロールが効かなくなる。
【詳細】
写真家を目指す大学生。山折村の麓の町出身。趣味は写真撮影とブログ、SNS投稿など。
大学には殆ど行っておらず、趣味に没頭している。
野鳥の撮影のために村を訪れていたが、運悪く今回の事件に遭遇した。
プロでもないのに自分の撮影技術を鼻にかけており、よく自慢する上に初対面でも馴れ馴れしい喋り方で人と接するため、周囲からあまり良い印象を持たれていない。
二つ上の兄がおり、自分と違って優秀な兄に強い劣等感を持っている。
肥大化した承認欲求と自己顕示欲から、SNSでバズる事に異様な執着を持つ。
VH発生時、人がゾンビに襲われる映画のような光景に感動を覚え、撮影を決意。
最高の写真を撮るため、目覚めた異能を駆使して村中を駆け回っており、村人がゾンビに襲われていてもあえて助けようとせず、構わず撮影している屑。
しかしまだ満足できないのか、「人間がゾンビになる決定的瞬間」を撮ろうと良からぬ事を企てている。
【名前】依估 来沙(いこ らいざ)
【性別】女
【年齢】25歳
【職業】ホームセンター「ワシントン」経営者、兼DIYインストラクター、兼キャンプインストラクター
【外見】後ろでまとめたセミロングの黒髪、使い込まれているがこまめに選択して清潔な作業着、工具一式の入ったポシェット
【性格】さっぱりした性格で細かいことは気にしない。目上には礼儀正しく、年少者には友達のように接する体育会系。
【異能】
「聖域展開(イコライズ)」
来沙が「家・拠点」と認識した領域内において、防衛する側の能力を向上させる異能。
この異能は来沙を中心として菌を散布し、来沙が仲間と認識する他者の脳にネットワークを形成して効果を及ぼす。
効果を受けている者は感覚が鋭くなり、精神攻撃に耐性を持ち、短時間であれば疲労や痛みを無視して活動できるようになる。
ネットワークは来沙と対象との心情的結びつきが強いほど強固となり、強い信頼関係にあれば第六感による言葉を介さない意志交換すら可能となる。
【詳細】
山折村出身。都内の大学を卒業し、大手キャンプ用具メーカーに就職したが両親の逝去に伴い退職、村へ戻ってきた女性。
戻った理由は「村の生活を便利にする」ため。
山折村は山間に位置するため材木は豊富だが、工具や燃料などはどうしても麓の街に行かなければ手に入らない環境である。
来沙は両親よりそこそこの資金と広大な土地を相続し、起業を決意した。
主要産業である林業が活発になることから村長や林業関係者からは諸手を挙げて歓迎されており、ホームセンター建設時には村の全面的なバックアップを受けた。
外部資本の介入しない純村内企業のため、保守派からも容認されている。
工業製品やキャンプ用品の販売だけでなく、工具や車の簡単な整備、DIYとキャンプの講習なども手掛けている。
内部部品の修理といった複雑なケースはさすがに専門店へと委託するが、刃の研磨やオイル・タイヤ交換程度なら可能な技術を有する。
手伝ってくれる人手があればログハウスなども建築できるし、村内の学生たちが自然と共生する一助としてキャンプの引率も行う。
交際していた彼氏との仲は、村に戻ると告げたあと自然消滅した。都内から田舎に引っ越せというのは無理な話だし当然のことと来沙も受け入れている。
さすがに30歳になるまでには結婚したいと考えているが、村にそんな出会いがあるのだろうかとやや諦観気味。
>>140 ビリー・T・エルグラントが日本に留学した際に同じ大学で共に過ごした学友。
卒業後もメールのやり取りを続けており、アメリカにおけるバイオハザードで心身に深い傷を負ったビリーを心配して山折村へ招待した。
VHが起こらなければアルバイト店員として雇うつもりだったため、村役場にもビリーの短期滞在許可申請書を提出している。
【名前】桃照杉郎(ももてる すぎお)
【性別】男
【年齢】13
【職業】中学生
【外見】低身長で毬栗頭。黙っていれば可愛いショタ顔。
【性格】変態。可愛ければ男でもイケる最悪のジェンダーレス思考の持ち主
【異能】
「本当の俺を見て(ネイキッド)」
ゾンビを含む自分のいるエリア内の人間の衣類を破き全裸にする。無論杉郎も全裸になる。常時発動異能。
杉郎のいるエリアから出ると破かれた衣類は何故か完全な状態で復元される。
【詳細】
山折村の小中学校在籍の思春期真っ盛りの少年。自他共に認める変態。村内の若い女性の大半をオカズにした猛者。
ストライクゾーンは10〜25歳。見た目が良ければストライクゾーン外でも、最悪男でもイケる。
学校では男子の大半から神の如く崇められ、女子全員からは蛇蝎の如く嫌われている。
男女の隔てのない>>224 日野 珠も例外に漏れず杉郎をゴキブリ扱いしている。
趣味は全裸徘徊とアダルトグッズ収集。村の至る所にあらゆるプレイに対応できるようにアダルトグッズ(自分の名前付き)を隠している。
【名前】人良 心美(ひとよしここみ)
【性別】女
【年齢】9歳。
【職業】引きこもり
【外見】小柄で黒髪のツインテール、釣り目気味のテンプレメスガキ
【性格】分け隔てなくみんなに寄り添える優しい性格...だったが、いまは他者とのコミュニケーションを怯える塞ぎがちな性格
【異能】
『新世界(私のせかいはメスガキに染まる)』
彼女特有の病気から発展した、常時発動型の異能。もとは男性にだけ現れていたメスガキ要素が、女性に対しても出るようになってしまう。
この異能の所有者は、恐怖からくる謝罪以外の口に出す言葉全てが煽り口調に変換されてしまう。
例
原文
「助けてくれてありがとうおじさん!」
↓
「あっは♡女の子助けてちやほやされたい下心満載のロリコンおじさんみ〜つけた♡」
原文
「嫌だお姉さん死なないで!」
↓
「ねえねえどんな気持ち?こんなか弱い女の子よりも早く死ぬなんて大人の尊厳どこおいてったの?その姿、無様極まりなし♡」
原文
「だいじょうぶ、怪我は浅いよおにいさん」
↓
「ざーこざーこ♡こんな怪我で動けなくなるなんてそれでもほんとに男なのかにゃー?」
原文
「ごめんなさい!(恐怖以外の謝罪)」
↓
「こんなか弱い女の子に謝らせて殿様気分とはいい御身分だねえ。そうやって頭の中で色んな女の子を怖がらせて愉しんでたんでしょ変態さん♡」
原文
「大好き」
↓
「あなたみたいな情けない変態劣等遺伝子を相手にしてあげるのは私くらいだよね〜♡ほらほらもっと感謝のご奉仕しなさいよ♡」
原文
「死ねよ」
↓
「は?早く死んでよ。きもいんですけど」
など。
また、この異能はオンオフの切り替えができない。発展性は煽りの語彙が増えることのみ。この異能がなくなっても元の病が治るかはわからない。
【詳細】
彼女は誰にでも優しく寄り添える優しい女の子だった。クラスの人気者、とは言わずとも普通に好かれ、普通に仲のいい友達がいる、普通の女の子だった。
だがそれは突然だった。夏休みの宿題を家に忘れてしまい、誤魔化そうとしたところを担任の男教師に叱られていた時の事。
担任は軽い注意のつもりだった。彼女もそれはわかっていた。だから「ごめんなさい」と謝って、「次からは気を付けようね」と言われて済ませるつもりだった。
なのに、口を突いて出たのは謝罪とは程遠い煽りだった。
その日を境に、彼女は男に対して煽るような口調―――世間的に言えば「メスガキ」のような言葉しか発せなくなった。
医者によれば、これはそういう原因不明の病気らしい。だがそれを言っても社会は受け入れてくれない、優しくしてはくれない。
『人良心美はクソウザイビッチメスガキ』。そのレッテルはもう覆らない。
周囲には虐められ、助けてもらっても感謝すらできない現実に心美は絶望し、他者とのコミュニケーション自体に恐怖を覚え、自殺にすら手を着けかけた。
両親はそんな彼女を不憫に思い、都会から心機一転、住民を募集しているという山折村に引っ越した。
あらかじめ心美の病気については説明しておいた上での引っ越しだったが、結局、その村でもメスガキ病は収まらず、メスガキレッテルを張られ、時には嫌われ、時には暴力でわからせられかけ、老若男女問わず性的な目で見られることも多くなり、現在は家も出れない引きこもり。
こんな自分でも見捨てずにいてくれる両親にはずっと恩返しをしたいと毎日泣いている。もしも彼らに見捨てられたら、遠慮なく自殺を選ぶくらいに両親のことを尊敬し愛している。
次の引っ越し先は決まっている。今度こそ、まともな自分になれますようにと、彼女はずっと願っている。
「お願いです。どうかわたしを元に戻してください。こんなことを言いたいんじゃないんです。みんなを不愉快にさせたいんじゃないです。ただ、前みたいにみんなと仲良くなりたいだけなんです」
【名前】秋葉美好(アキバ ミヨシ)
【性別】女
【年齢】20歳歳
【職業】無職
【外見】181cm・70kg グラビアアイドルといっても通用する顔と身体。
【性格】計算高く利己的な性格。金銭欲が強く、金遣いも荒い。諸々の事情で精神が荒廃し切っていて、殺人すら無感動に行う。
【異能】
『圧壊』
手で握り込んだ物質に凄まじい圧力を加える異能。効果としては握力が超強化されたものと思えば良い。人間の四肢を潰して切断できる威力。
指そのものが頑強になった訳では無いので、指を硬いもので殴られると普通に折れる。
【詳細】
>>216 山上美々子の取り巻きの1人。同じく取り巻きだった>>219 田辺秀一とは犬園の仲。
山上美々子の事を心底見下していたが、山上美々子の金遣いの良さから彼女の取り巻きになっていた。
自分より年上で、容姿も秀でている秋葉美好が自分の下にいる事に、山上美々子は大変満足していて、秋葉美好は美々子のお気に入りだった。その為秋葉美好は随分と金を引っ張れた模様。
山上美々子が入院した時も、グループが崩壊した時も、年齢的にその場に居合わせる事はなかった為に、この事を利用して孤立した山上美々子に更に取り入り、自分の為のATMにしようとするも、山上美々子が家の自室に引き篭もってしまった為に失敗。
新たな金蔓としてそれまでは極道の息子という事で避けていた>>57 の木更津閻魔を選ぶも、すでに田辺秀一が取り入っていた為に断念。
金銭を得る為に村から出て身体を売っていた所、>>174 朝景礼治に拾われ、飼われる事となる。
数々の変態性癖に付き合わされ、複数の犯罪行為に関わる羽目になり、元々荒んでいた精神は僅かな時間のうちに荒廃の一途を辿り、現在では殺人すら無感動に行える凶人と化している。
それでもこの現状に対しては不満がかなり有り、村から出て朝景礼治に飼われる原因(と、当人が勝手に思っている)である田辺秀一及び、全ての元凶である山上美々子を引き篭もりにした山岡伽耶に激しい憎悪を抱いている。
朝景に従って山折村へとやって来たのは、この2人を殺す為である。
【名前】ピーエル・F・大天寺
【性別】男
【年齢】54
【職業】霊媒師・エクソシスト
【外見】牧師服、黒帽子、丸メガネ、片手には聖書
【性格】品行方正な聖人
【詳細】
世界的に高名な霊能力者。
日本人とフランス人のハーフ。
何の報酬も受け取らず世界中の様々な事件を解決していく聖人。
今回もあらゆる災厄を引き寄せる檻。界隈では『厄檻村』とも言われているSSS級の厄ネタ『山折村』の厄を払いに来た。
海外で多くのゾンビを払った経験があり、最上級の対魔・対霊耐性を持つためゾンビになることなどありえない。
のだが、この村でおきたのは霊障ではなくウイルスによる科学的な変異であるため霊能力はまったく無意味だった。
そのため、あえなくゾンビとなった。
※非投票対象キャラクターです
【名前】ホアン
【性別】女
【年齢】15
【職業】霊媒師・エクソシスト見習い
【外見】短く切りそろえられた黒髪と大きな黒い瞳、浅黒い肌をした健康的な少女
【性格】何事も努力と挑戦が信条の頑張り屋、諦めが悪い
【異能】
『霊力(物理)』
本来、霊力とは霊体にしか干渉できないが物理干渉が可能となった。
霊力の扱い自体は使い手の霊能力者としての実力に従うものである。
霊手を伸ばした精密動作や放出による遠距離攻撃など用途は多種多様に渡る。
【詳細】
>>239 ピーエル・F・大天寺の弟子。ベトナム系のアジアンだが正確な国籍は不明で本人も知らない。
師匠であるピエールに同行して山折村を訪れたが師匠がゾンビ化してしまった。
まだ年若く霊能力者としては半人前だがその才は師であるピエールをも超える、のではないかと言われている。
初期装備として便利霊能力グッズを持っているが、霊能力を持つ者にしか扱えないためドロップアイテムとしては余り価値がない。
様々な厄介ごとに首を突っ込む師匠に引き連れられ世界各国、様々な事件に巻き込まれてきた。
その中で別任務に当たっていた>>17 田中花子(その時は別の名前だった)や>>187 天原創と顔を合わせたことがある。
【名前】清正 善治郎(きよまさ ぜんじろう)
【性別】男性
【年齢】30歳
【職業】高校教師
【外見】整った顔立ち、糸目。
【性格】淡々とした口調と無表情で冷淡な印象を与えるが、顔に出ないだけで情に厚く他者に真摯に接する善人。
【異能】
「身代わり」
事前に触れていた生物に、自身の受けたダメージを転送する異能。
転送先は右手と左手で計二人分までストックでき、能力が発動するまで記録・保持される。
登録された対象が能力発動前に死亡している場合、能力は発動しない。
異能が発現してから最初に記録されたストックは自身の妻と娘だが、現在は空白になっている。
【詳細】
山折高校の教員。担当は倫理。村に在住しており、二つ下の妻 静江(しずえ)と5歳の愛娘、安里(あんり)を養う一家の大黒柱。
穏やかで親しみやすい人柄から生徒に慕われており、同僚からの信頼も厚い。
結婚して五年目の妻とはまだまだラブラブであり、第二子も検討していた。
VH発生時、家族で指定の避難所に向かっている最中、ゾンビの群れに襲われるも生還。
はぐれてしまった家族を探し続けているが、未だ見つかっていない。
【名前】阿折 運天(あおり うんてん)
【性別】男
【年齢】19
【職業】無職
【外見】頭が悪そうな金髪
【性格】思いやりという感情が一切ない。頭は悪い。
【異能】
『完全犯罪者』
犯罪をした・していることを誰にも認識されない。証拠から犯人にたどり着くこともできない。
監視カメラに映っても正面から暴行しても、犯罪を行ったのが阿折であることは誰にも認識されない。
ただし能力の適用範囲は犯罪行為のみで、犯罪とは言えない悪事の場合は普通にバレる。
【詳細】
他人に不快な思いをさせるのが快感、趣味は煽り運転の屑。
社用車で煽り運転をしていたらクビになったので現在は無職。
煽り運転に夢中でうっかり歩行者をはねてしまい、思うままに逃げ続けていたら山折村に着いていた。
【名前】伊藤 淳(いとう じゅん)
【性別】男性
【年齢】18
【職業】高校生
【外見】顔色が悪い地味な少年、長身で痩せぎすな体格
【性格】引っ込み思案、寡黙だが趣味に関しては饒舌になる
【異能】
「はいドッキリ大成功!(シェイプシフター)」
指定した対象が最も恐怖する姿形に変身する異能。
変身した姿は、相手の抱く恐怖の度合いによって再現率が上がる。
ただし変身は相手のイメージに依存するため、仮に怖がるものが実在の人物であっても、細部がオリジナルと異なる場合がある。
正確に変身できるのは一人につきひとつまで。そのため複数人に行使すると混合して支離滅裂な姿になってしまう。
副次効果で相手のトラウマや経験がぼんやりと分かる。
【詳細】
山折高校に在籍する学生。新聞部所属だが美術部と掛け持ちしている。
趣味は映画観賞と裁縫、執筆。自作の怪奇小説をブログで公開しているが、あまり評価は高くない。
クラスでは目立たない生徒だが、手先が器用で、趣味の裁縫はちょっとしたプロ並。文化祭で頼られるタイプ。
実は人を怖がらせると性的興奮を感じる性癖を持つ変態。
校内新聞で積極的に怪談や都市伝説の類を流布し、夜な夜な自作のコスチュームを着込んでは通行人を怖がらせていた。
ネットにも積極的に自作の都市伝説を上げており、山折村に関する日の浅い噂話の大半は伊藤が原因となっている。
【名前】加地 燃(かじ もゆる)
【性別】男
【年齢】28
【職業】消防団員、本業は農家
【外見】太眉チリ毛、濃いめのソース顔
【性格】涙もろい熱血漢、向こう見ずで後先を考えない
【異能】
『火の用心』
火を吸収する能力。
物理的な火だけではなく争いの火種となる感情までも吸収できる。
ただし、吸収した火は本人の中に貯め込まれて行き人格や思考に影響が及ぶ。
そして一定量を超えると体外に貯め込んだ火が放出され大爆発を巻き起こす。
【詳細】
地元消防団のリーダー。
向こう見ずで熱血漢、人助けの為なら自らを省みない性格であり。
彼が消防団に入ってから大きな火事は起こってないが、大きな火事が起きたら火事場に突っ込んでいって死ぬな、と周囲の人間には思われている。
【名前】山路 フジ (ヤマジ フジ)
【性別】女
【年齢】59歳(あと2日で60歳)
【職業】無職
【外見】
身長145cm。腰が曲がってきており、膝や肩も痛めている。引っ詰めて後ろに縛った白髪は手入れされている様子はない。21世紀の日本人とは思えないほど老け込んでおり、70~80代ほどに見える。
15歳で山折村に嫁いできた時は”お人形さんみたいなべっぴんさんが来なすったなぁ”などと噂になった。しかし年老いた現在ではその面影をわずかに残すのみである。
【性格】
責任感が強い一方で、押しに弱い。後述する人物詳細にもあるが、自身の意志が薄弱。
【異能】
『転生保証 (クリア・ボーナス)』
このVH(ウイルスハザード)において最強の異能。
自らの望む環境・時間軸・世界線に望む状態で転生することができる。タイムリープで強くてニューゲームも、チートつき異世界転生して無双するも思いのままである。世界を改変する異能と称しても過言ではない。
この能力は感染の瞬間に自動発動するが、実際に効果が発生するのは60時間後である。この効果は他の異能などで縮めることはできず、無効化されることもない。また、この異能をコピー・奪取などした際はその時から60時間経過しなければ、効果は発生されない。女王感染者が死亡してこの異能が消失しても、時間がくれば効果は必ず発生する。この能力の効果の発生を防ぐ方法は、能力の発動者の死亡だけである。
要は、VH開始から約48時間に襲い来るであろう”皆殺し”を凌ぎきり、60時間生き残ることで初めて異能の本領は発揮される、ということである。
異能の効果発揮の予兆現象として、この異能者は異能取得の瞬間と、その後6時間ごとに”女神”を視る。”女神”は、美しい女性の姿をしており、来るべき転生の設定について相談してくれる。相談は体感時間では毎回最大30分程度可能だが、実際に経過する時間は約1秒である。
また、生命の危機に瀕した際も、”女神”が助かるためのアドバイスをくれることがある。が、能力者の知りうる情報と、持ちうる頭脳の範囲でのアドバイスしかできない。また、コピー系の異能で山路フジからこの『転生保証』を奪取した場合、その者は”女神”を視ることはできない。
“女神”は若かりし頃の山路フジと酷似した姿であり、自我を抑圧し続けてきた山路フジが異能の取得に伴って創り出した、自我のヨリシロである。
【詳細】
新潟県出身。旧姓は五十嵐。
15歳の誕生日に、山路勲(イサオ)に嫁いで山路姓となる。イサオはフジより30歳年上であり、また、早逝したイサオの妻の後妻としての縁談であった。そのため内心ではフジは乗り気ではなかったのだが、”イエ”という共同体のメンツがまだまだ根強かった当時、フジが異議を申し立てることはできなかった。
こうしてフジは山路家と旧家のため、山路家の者として生きることを決意した。が、フジが嫁いで程なく、夫であるイサオも事故によりこの世を去ってしまう。”父と母を、頼む”という言葉だけを遺して。
イサオとの子を成すこともなく、また、前妻の子もいなかった。山路家に残っていたのは、イサオの祖父母と、イサオの前妻の祖父母のみ。4人ともが還暦を過ぎ、認知症を患っていた。
それから、フジは4人の義理の父母の介護に追われ続けた。イサオの遺した蓄えと保険金を切り崩しながら。感謝の言葉もなく、名前さえ覚えてくれず、時に自らを罵りさえする4人の為に、フジは、日常を必死に回し続けた。
こうして45年の時が流れた。百寿を過ぎた4人の父母はベッドから転がり出ることもなくなり、意味のある言葉を発することのない、チューブでかろうじてつながれただけの命となっていた。フジが祖父の床ずれを防ぐために寝返りを打たせていたとき、震度7の地震が山路家を襲った。すっかり古びていた一軒家は丸ごと倒壊し、4人の生命維持装置は完全に機能を停止した。
4つのパイプベッドの隙間でうずくまり、難を逃れたフジは思った。これでやっと楽になれる、と。そしてすぐさま大きく首を横に振り、物言わぬ4人と夫の遺影に、ごめんなさい、ごめんなさい、と繰り返し頭を畳に擦りつけて謝った。
その時である。山路フジがどこかで見た、若く美しい女性――”女神”を視たのは。
「……願い? 私の? ……ごめんなさい、お願い事をする資格なんて、私には……本当にごめんなさいね」
【名前】五十嵐 フジエ (イガラシ フジエ)
【性別】女
【年齢】23歳(あと2日で24歳)
【外見】
身長170cm。ほっそりとした体型。その容姿は総合して、サイバーパンク風日本人形を思わせる。切れ長の一重まぶたに黒い瞳。ストレートのボブカットをまっすぐ切り揃え、インナーを紫に染めている。
ノーメイク時の素顔は >>245 山路フジ の若かりし頃に酷似する。
【性格】
責任感が強く、仕事熱心。仕事においては冷静を通り越して図太い神経の持ち主で、上司からも一目置かれている。歳の割には達観していると言われる一方で、プライベートで全力で趣味に没頭しているところを同僚に度々目撃されている。”若いくせに残り短い人生を生き急いでいるようにも見える”とは、同僚の談。
【詳細】
〈〈特殊部隊員〉〉
漢字表記、五十嵐藤枝。
>172小田巻真里 の同期。クセモノ揃いの特殊部隊の中では、身体能力・戦闘能力は凡庸なレベル。しかし荒事と無縁だった経歴とは思えぬほど肝が据わっており、大抵のことに動じない冷静さ、図太さは高く評価されている。
出身は新潟県で、山折村との地縁はないはずだが、何故か山折村の土地事情に妙に詳しい。
普段の淡々とした様子とは違い、このVH(ウイルスハザード)における任務には並々ならぬ使命感を感じているようである。
趣味はファッション、コスプレ。盆と正月の有明通いが人生の楽しみ。
「このウイルスに因る異能は世界を歪める力。人類一人ひとりに核ミサイルが飛び出すかもしれないスイッチを配るようなもの。ごめんなさい。気の毒だけど、一人残らず殲滅しなくてはなりません」
【異能】
『同位体の虚憶 (アイソトープ・メモリー)』
彼女はウイルスの正常感染者ではないが、便宜上、異能として記す。
>>245 山路フジ のこれまでの記憶を一方的にコピーして取得する。取得タイミングはVH発生直前と、それから6時間おきである。(毎回の定例会議直前のタイミング)
彼女がなぜこの能力を取得するに至ったか、その原因は >>245 山路フジ の異能にある。
量子力学の多世界解釈によれば、今回のVHに山路フジが直面し、異能を発現して生還する、あるいは異能を発現せずゾンビ化するとしても、その発現の可能性がわずかでも存在しただけで、無数に存在する可能性世界のどこかには必ず、”このVHを生還して世界を自在に改変する異能を発動するに至った山路フジ”は存在する。
そして“山路フジが改変する世界の内容”の可能性も、無数に存在する。よって、“2020年代に20代で当時のサブカルチャーを謳歌する特殊部隊所属の山路フジこと五十嵐フジエ”もまた存在しうる。
さらに、”全ての並行世界を破滅させる山路フジ”も、”その危機を察知し、どこかの山路フジに誕生前から危機を知らせる山路フジ”も、やはりどこかの世界線には存在する。
山路フジの可能性の一片であるこの五十嵐フジエは、全世界破滅のリスクを摘むべく”最初に異能に目覚めた山路フジ”を抹殺する使命を帯びて生まれてきた。
五十嵐フジエは山路フジと部分的に同一存在とみなされるため、限定的な記憶取得ができるのである。
なお、この五十嵐フジエはオリジナルの山路フジと違い、ウイルスの正常感染者となることはできない。
特殊部隊員として必要な体格・運動能力・頭脳などの素質を獲得して出生したために、オリジナルと免疫能力の個体差が生じ、ウイルスの正常感染が不可能となったためである。
山路フジが今回のVHで正常感染しなかった場合、五十嵐フジエにはVH発生直前の記憶までが引き継がれる。
それでも五十嵐フジエのなすべきことは変わらない。正常感染者の殲滅である。
【名前】内藤 聖子(ないとう せいこ)
【性別】女性
【年齢】18
【職業】高校生(自称聖騎士)
【外見】頭から爪先まで全身を西洋甲冑で固めた女騎士。中身は金髪、青目、腹筋バキバキな筋肉系JK。
【性格】
弱者を助け、悪を挫く騎士道精神を自称し、厳守する性格だが、やや都合がいい解釈をしているので緊急時は正々堂々闇討ちを行うタイプ。
【異能】
「聖律共有(パラディナイト・エンチャント)」
手元から光を発し、自身も含めて浴びたものにバフをかける異能。
主な効果は治癒力の活性化、異能の活性化、身体能力の強化など。
手元の武器に光の粒子(自称:聖なる力)を纏わせる事で、威力を向上させたりもできる。
【詳細】
山折高校の女学生。剣道部所属。
「聖騎士に成りたい」という冗談のような夢を本気で叶えようと努力する少女。
騎士道精神に憧れる、山折村のリアルドン・キホーテ。
世直しと称して騎士の格好で麓の町に降りては、暴走族や半グレを襲撃しており、「ジャスティスナイト」なる都市伝説を噂されている。
その熱意は高く、鍛冶技術を独学で修得し、真剣と鎧まで自家製で作成する程。
自宅の庭に特性の炉まで作っている。
頼めば快く格安で金物修理を引き受けてくれるため、近隣住人の評判は良い。
彼女が打った剣は素人が作ったとは思えないほど完成度が高く、人体も一刀両断できるほどの名刀を作り上げている。
過去に銃刀法違反で警察から厳重注意を受けたが、懲りずに自宅に作品を保管している。
異能を自覚してからはVHを天命と捉え、騎士としてゾンビ狩りや民間人の保護を行っている。
同じ志を持つ者を集め、騎士団を結成したいと考えているが、今のところ加入者は居ない。
【名前】保村守男(ほむら もりお)
【性別】男性
【年齢】24歳
【職業】学生(浪人生)
【外見】中肉中背
【性格】中立・中庸な普通の人
【異能】
「RTA(たぶんこれが一番早いと思います)」
自身を走者と名乗る謎の電子音的な声が聞こえるようになる。
声は頻繁に守男に指示を出してくるが基本的には無害。
しかし長期間無視し続けると勝手に体を動かしてきたりする。
走者は「唯一の生存者」トロフィーの獲得を目指しているらしく、そこに守男の意思は考慮されない。
【詳細】
医学部を目指す浪人生。山折村出身。
受験に失敗し、失意のうちに実家に帰郷するも、このVHに巻き込まれてしまった。
開幕からゾンビに囲まれる絶体絶命の危機に陥るも、走者の操作により母親を囮にすることで脱した。
そのため命は助かったものの、かなり精神的に錯乱しているが、走者は構わず指示を続けている。
【名前】馬美 肉勇(ばび にくお)
【性別】男性=女性
【年齢】38
【職業】市役所職員
【外見】
元外見=身長160cm、体重110㎏、濁声、潰れたガマガエルに似ている肥満体型の醜男
現在=身長180cm、青髪のツインテール、赤と青のオッドアイ、アニメ声、抜群のプロポーションの巨乳美少女
【性格】
卑屈で皮肉屋、自己肯定感が低い
【異能】
「愛されたくて(アバターチェンジ)」
深層意識を読み取り、能力者の望む姿に肉体を変身・変貌させる異能。
現在は肉勇本人の思い描く絶世の美女に変身している。
想像力の及ぶ範囲ならより多彩かつ多様な変身が可能だが、明確なイメージを持っていないと人型を保つ事すら難しく、使いこなすのは困難な異能。
モデルは以前肉勇が使っていたVTuberのアバターそのもの。
これだけは固く設定を記憶していたため、ノーリスクで変身できる。
ちなみに体重は変えられないので、細い見た目に反して凄く重い。
【詳細】
山折村の片隅にある、親から受け継いだ古い民家に暮らしている中年男性。
職業は市役所職員。担当は地域課。独身。趣味はアニメ観賞。両親は他界済み。
自身の醜い容姿に強い劣等感を抱いており、子供の頃から長いこと馬鹿にされてきた経験から、徹底して人付き合いを避ける孤独な人生を送っている。
昔VTuberとして活動していた時期があるが、機材の費用や編集のノウハウが足りず、動画を上げてはいたが再生数が延びず、やがて引退。
以後趣味だけを生き甲斐に、一公務員として細々と生活している。
VH発生時、肉勇は幸運にも異能により望む姿を手に入れたが、だからこそ異能を失う事を何よりも恐れており、必要ならば殺人も辞さない。
【名前】双葉ヒトリ(姉)・双葉フタリ(妹)
【性別】女性
【年齢】16歳
【職業】高校生
【外見】
同じ髪型(ショートボブ)、同じ服装、同じ顔のそっくりな姉妹。
他人が区別出来るように姉の方は赤いヘアピンをつけているが、妹と頻繁に付け替えているため実質二人に違いは無い。
【性格】両者とも無邪気で悪戯好き
【異能】
「分かたれぬ双児の愛(ふたりはひとり、ひとりはふたり)」
双子同士の以心伝心の極致。
お互いの現在位置や持ち物を瞬時に入れ換えたり、記憶や経験を共有したり、テレパシーによる意志疎通などができる。
テレパシーの射程は100m程で、それ以上離れるとぼんやりと感情が伝わる程度に劣化する。
精神的な繋がりのみならず、肉体的にも深く結び付いており、姉が負傷すれば、その傷は妹にも伝播する。
その都合上、他者の異能を含めたあらゆる干渉が姉妹間で二分の一に軽減されるが、片方が死ねばもう片方も死ぬ。
両者の合意があれば互いの肉体を融合・合体する事も可能で、その場合は二人分の身体能力を発揮し、片方の欠損をどちらかが補う事で擬似的な延命もできる。
【詳細】
一卵性双生児の双子の姉妹。両親が自然豊かな土地で育てたいと、数年前に山折村に家族で越してきた。
幼少の頃から姉妹間で互いを無意識に真似ており、違う行動を取ることに拒否反応を示す。
そのため人格や趣味趣向も完全に同一であり、口調すらも片方を真似て話すため、どちらが姉と妹なのか、肉親ですら目印がないと判別できない。
本人たちも姉妹の区別はどうでも良いらしく、その時の気分で姉か妹かを呼び分けている。
自分たちが奇妙なのは理解しているが、周囲の奇異の視線も二人で楽しんでいる節がある。
そんな変わり者の自分達を愛してくれる両親は二人揃って大好きだった。
しかしVH発生時、ゾンビから姉妹を庇って父と母が犠牲になる。
突然の家族の死に強いショックを受け、上記の異能の発現も後押しし、互いにより身も心も強く依存し合って正気を保っている。
【名前】犬山 はすみ(いぬやま はすみ)
【性別】女
【年齢】22
【職業】役場職員兼ボランティア巫女
【外見】黒髪セミロング。妹によく似たスタイル抜群の美人だが最近はやつれ気味
【性格】お人好しで面倒見がいい。色々なことを背負い込んでしまう苦労人気質。
【異能】
『生命転換/神聖付与』
手で触れた物体に自身の生命力を転換した力を付与し強化する異能。
消費した生命力に比例して物体の強度や威力は上昇し、限界まで強化すると特殊能力が付与されることがある。
付与した物体には強化具合に関わらず必ず怪異及び異形に対する特効を持つようになる。
また、生命力は休息や栄養補給で補えるが消耗具合によっては回復まで相当な時間を要する。
更に生命力を消費しすぎると自覚のないまま衰弱死するリスクも存在する。
【詳細】
山折村役場で施設課に勤めている女性職員。>>63 犬山 うさぎの実姉。
役場職員の仕事の他にボランティア巫女としての実家の手伝いや山折村の山中にある立入禁止区域の管理も行っている。
保守派・改革派などの派閥争いの仲裁や管理施設でのトラブル対応などストレスフルな環境によく駆り出される。
そのせいで胃薬が手放せない存在になっている。時折妹を無理やり付き添わせて病院にも行っている。
嫌いなものはトラブルを起こす存在。特に迷惑をかけている自覚のないクレーマーや木更津組の連中は蛇蝎の如く嫌っている。
趣味は合コン…だが、近年の社会情勢の影響で面子が集まらず、女子会と銘打った聞き上手で性格の悪い同僚とのサシ飲みになっている。
ちなみに彼氏いない歴=年齢であり、相当モテている筈の同僚も何故か自分と同じ喪女であることに疑問と奇妙な友情を感じている。
【名前】オオサキ=ヴァン=ユン
【性別】男
【年齢】19
【外見】身長はやや低め、筋肉質だが細身で浅黒い肌、顔つきは精悍で鋭く頬に大きな刃傷がある。
【性格】粗暴で礼儀に欠けるが、命令には忠実。生き汚く、諦めが悪い。
【詳細】
特殊部隊員。
紛争地で生まれ育った元少年兵。
父が日本人であったため日本国籍を持っている。
戦後、父の故郷である日本へと渡るも、他の生き方を知らず結局日本の軍隊(自衛隊)に入隊。
その経験を買われ特殊部隊に編成される。
とにかく鼻がいい。
それは嗅覚と言う意味のみならず、違和感に対する機微に聡い。
特に罠を見抜く能力に長け、勘が鋭く危機察知能力が異様に高い
こと生き延びる事に関しては特殊部隊の中でも図抜けた能力を持っている。
実は(>>240 )ホアンとは生き別れの兄妹だが、当人たちはその事実を知らない。
【名前】涼木 匠見(すずき たくみ)
【性別】男
【年齢】59
【職業】教師・研究員
【外見】少し影があるが、にこにこと笑顔を絶やさない白衣のおじさん。少々白髪が混じりかけている。
【性格】熱血教師とは程遠いが、生徒一人一人に根気強く向き合ってくれる。
【異能】
『明日へつながる未来』
絶望的な状況に陥ったとき、集中力が格段に上がる。
【詳細】
山折村高校の教師。生物・地学担当。
山折村高校の教育のレベルを上げて進学校として大成させ、
文科省から県内二番目のSSH(スーパーサイエンスハイスクール)の内定を受けることで、未来有望な若者たちを呼び込む計画。
そのために、『未来人類発展研究所』から教師として招いた優秀な研究者の一人である。
遺伝などの難関分野を分かりやすく説明してくれるため、生徒からの人気が高い。
一方で、特に優秀な生徒に目星をつけ、研究所への斡旋をおこなう役割も負っていた。
人と深く関わることを煩わしがっていた彼は、なぜ自分がこのような立場に、と内心不満を抱いていた。いたはずだった。
いつの間にか、彼は教師の職を好きになっていた。
未来有望な若者たちに己が蓄えた知を授け、それを受けた彼らが日本中、世界中へと羽ばたいていき花開いていく……。
教師の姿はかりそめの姿に過ぎないはずだった。
彼はいつの日か、教師を誇りに思うようになっていた。
末端研究員ならばともかく、それなりの実績を積んできた彼を、『未来人類発展研究所』は野放しにはしない。
けれども、せめて教鞭をとっている間だけは、生徒たちを裏切るまいと彼は誓った。
ウイルスの蔓延する村の中、生徒たちの未来を絶やさないように、何かできることはないかと奔走する。
【名前】山折 宗玄(やまおり そうげん)
【性別】男
【年齢】78
【職業】前村長、現在は隠居した老人。
【外見】頭髪は薄い。小柄だが肉体年齢40代前後、とても元気。
【性格】村民全員の顔を覚え、すれ違えば声をかける優しいおじいちゃん。歳相応に思慮深く、博識である。
【異能】『村人よ我に従え(ザ・ヴィレッジキング)』
「山折村の住民」に対して発される、絶対命令権。山折村に住む者、あるいは住民だという自覚がある者は宗玄の命令を拒むことはできない。
ただし同じ対象に対して命令できるのは一度だけ。命令を実行している間、対象は宗玄に対して一切の思考・行動が不可能(無防備になる)。
命令はほぼ万能であるが、ただ一つ、自死を命じることだけはできない。村人を自ら減らす=村を衰退させる行為に該当するからである。
実際に村の外からやってきて定住しておらず、さらに自らを村外の住民だと強く認識している者には何の効果も示さない。
逆にある程度の期間(一ヶ月以上)村に滞在していれば、居住実態が村外にあろうとも「村人」の属性を得てしまうため異能は発動する。
【詳細】
山折村前村長にして、>>16 山折 圭介の祖父、>>162 山折 厳一郎、>>198 ケージ・スゴクエライ・トテモツヨイ・ヤマオリの父。
村長職を息子の巌一郎に譲って隠居した後は好々爺として日々を穏やかに暮らしている……というのは表向きの話。
その実態は、>>163 八柳藤次郎が絶滅を願ってやまない山折村の「歪み」そのもの。
外部からの移住者を除く現在の山折村の村民は、多少の例外はあれど大多数が宗玄の血を引いている可能性がある。
山折村が集落として完成した過去の時代、最も強い雄である村長は村の女性を孕ませるという役目を担っていた。
そうした時代が長く続き、村の運営が安定したころ、このような風習は非人道的だという風潮が発生した。それが宗玄から数えて数代前の時代。
宗玄は己が村長となったとき、その掟を復活させた。もちろん、そんなふざけた村の男達が受け入れるはずもなかったため、宗玄は現実的な手法をとった。
山に自生する麻薬草を使った催眠である。加工し煙を吸わせることで強力な睡眠作用と排卵作用を引き起こす。
家族で実験し草の使い方に熟達した宗玄は、村の新婚の女性に片っ端から夜這いをかけた。
今まさに事に及んでいる夫婦の寝室に忍び寄り、ヤク煙を流し込み、眠りこけた夫の代わりに妻に種付ける。この行為は宗玄の自尊心をこの上なく満足させた。
行為は誰にも露見することなく続く。村長職を息子に譲った後も。息子の妻を犯した後も。
齢78を数えてなお村内マラソン大会で優勝するほど元気だが、それは上述の行為により男性ホルモンが常に分泌され続け、常に雄としての絶頂期にあるからである。
農作業で鍛えた腕っ節も健在。若いころは隣村との土地を懸けた殺し合いも経験しているため、拳闘や農具を武器として扱う心得もある。
こうして村で出産を迎える女性には、我知らず宗玄の子を出産する者が存在する。
もちろん、無事に本来のパートナーの子を授かる家庭もある。が、割合としてはかなり少ない。数少ない確定した例外は、>>31 八柳 哉太。
哉太の両親が行為中、当然宗玄は乱入しようとしたのだが、剣術の精神集中によりヤク煙の作用を耐え切った>>163 八柳藤次郎に阻まれたため。
このとき藤次郎は山折村の忌まわしき歪みを知ったのだが、公表することはできなかった。
何故なら自分の子と信じていた哉太の親は(あるいはそのパートナーも)、宗玄の子である可能性があったからである。
宗玄は確実に破滅させられるが、子と孫の人生もまた同時に破滅する。その未来を藤次郎は選べなかった。
藤次郎にできることは、寝ずの番をして自らの子には絶対に宗玄を近づけさせないことだけ――つまりは、孫を無事に生まれさせるために、それ以外の村民を見捨てたのだ。
そして宗玄は藤次郎が手出しできないことに愉悦を感じつつ、外道を繰り返す。この屈辱と憎悪が、後に藤次郎に村の一切斬滅を決断させることになる。
VH後、真っ先に長年連れ添った妻を斬れたのも、宗玄に穢されたことを知らないまま逝かせてやりたかったからであろう。
息子である厳一郎が外部から研究所を誘致した際、前村長として相談を受けている。
計画の全てを知らされてはいないが、VH発生後は断片的な情報からウイルスが引き起こす異能についていち早く理解し、野望のために動き出すことを決意する。
※昔から山折村内に居住する60歳以下の人物は、宗玄の子である可能性があります。孫の山折圭介も例外ではありませんが、八柳哉太だけは絶対に違うと確定しています。
※麻薬草は地震後の火災で全て燃え尽きたため、殺し合いの中には登場しません。
【名前】南出耶衣梨(みなみで やいり)
【性別】女
【年齢】28
【外見】
2mを超えるガタイのいい巨女
普段の私服に一貫性がない
【性格】
好きだと思うこと、やりたいと思うことにに手を出すのに一切の躊躇をしない
【詳細】
〈〈特殊部隊員〉〉
かつて漂流し、数年間を無人島で過ごした経験がある。
サバイバル能力は卓越しており、特に自身の肉体を実験台にせざるを得なかった調薬技術は他の追随を許さない。
生還してからはやりたいことをやるとモットーに動いており、部隊への入隊もかなり強引な自己推薦によるもの。
服装から何から見た目と会わないちぐはぐだが、他人がどう思おうとも構わないゴーイングマイウェイを貫いている。
【名前】本田 安太郎(ほんだ やすたろう)
【性別】男
【年齢】80
【職業】元医師
【外見】年相応の老人、すっかり滅入ってお迎えが近い
【性格】聡明で思慮深いが卑屈で弱気、ストレスに弱く常に胃を痛めている
【異能】
『後出しは更なる後出しで覆る(うらうらおもて)』
ちゃぶ台返しを元に戻す能力。長年友の尻ぬぐいをしてきた彼の人生経験が形になったもの。
【詳細】
研究所などが誘致される前からの村内でやっている医師。
(>>254 )山折 宗玄のかかりつけ医にして長年の友人。
年上ではあるものの村内での立場や宗玄の尊大な性格から子分のように扱われてきた。
そんな安太郎だが宗玄に対して大きな秘密を抱えている。
それは宗玄が「無精子症」であるという事実である。
ホルモン量とは無関係の先天的な精巣異常による無精子症であるため治療は困難であった。
旧慣を復活させ自身で村の女全てをを孕ませると目を輝かせて豪語する友にその事実を言い出せず、墓場まで持っていく覚悟でその秘密を抱えてきた。
夜這いに際し麻薬草の使用を進め、その精製を務めたのもこの安太郎である。
宗玄は遺伝子的に薬物耐性が異常に低く、麻薬煙を撒いた際に真っ先に催眠にかかるのは他らなぬ宗玄であると安太郎は理解していた。
長年続けられた大胆な行為が露見しないのもさもありなん、宗玄は都合のいい幻覚の中で女を孕ませ続けてきたからである。
だが、宗玄本人はそんな事は露知らず、村民の殆どが我が子と思い込み男としての自尊心を満たしつづけてきた。
だが、そうなると必然、一つの疑問が生じる。
宗玄が「無精子症」であるならば、実子とされる(>>162 )山折 厳一郎と(>>198 )山折 圭二は誰の子供なのかと言う事である。
それは安太郎と宗玄の妻との不貞の子である。
安太郎は宗玄の妻にのみこの事実を打ち明けており、宗玄に自身が「無精子症」であると気づかせぬための行いであったが、ずるずると関係は続き厳一郎だけでなく次男である圭二が生まることとなった。
多くの村人は救われたが、痴呆老人にされた八柳おじいちゃんと間男の子ども・孫にされた山折一家は救われない。悲しいなぁ
【名前】ジャック・オーランド
【性別】男
【年齢】25
【職業】エージェント
【外見】アッシュブロンドに染めたウルフカット。カラコンで碧眼に見せかけている。なかなかのイケメン。
【性格】謎多き美男子を気取るナルシスト。童貞。一応人並みの正義感はある。
【異能】
『クイックチェンジ』
手に持っている武器と周囲10m以内にある武器と認識できるものを瞬時に入れ替える異能。
ただし、一度の異能使用で入れ替える武器は一つだけ。
【詳細】
怪異・異形退治専門のエージェント。ジャック・オーランドは自称であり、本名は鈴木隆志(すずきたかし)の日本人。
クールで謎多き男を気取っているが、同僚達には「モテたい」という承認欲求がバレており、若干冷めた目で見られている。
頭脳労働はあまり得意ではなく、ほとんど相方となる人間に任せているため任務ではあまり頼りにされていない。
だが、戦闘能力はエージェントの中でも最上位に分類され、特に射撃能力においては右に出るものはいないといわれる程。
山折村には近々訪れるであろう『厄災』の討伐のために一週間前に単独派遣されていた。
しかし、『厄災』とは全く無関係のところでVHが発生してしまう。
ジャックは任務とは違うことに混乱したが、目の前の異常事態を把握するといつも通り銃を手に取り、目の前の怪物共の殲滅にかかった。
【名前】リューマ(本名不詳)
【性別】男
【年齢】二十歳
【職業】ボディーガード
【性格】単細胞という言葉がふさわしいくらいに直情型。「最強」になるのが生きがいのバトルジャンキー。
【外見】無雑作に伸びた黒髪。顔はよく悪人に見間違われるくらいには厳つい。背は180センチくらいで身体は引き締まっている。
【戦闘スタイル】
素手がメインだが、ナイフや斧などの刃物類も扱える。銃火器は苦手だが使えないほどではない。
【異能】
『DEEP RED』
己で意識していない異能。この異能は本人が死に瀕した時に一度だけ発動する。発動直後に今まで負っていた負傷や疲労は全て消え、健康な身体に加え身体能力が高まり頑丈さはさらに増す。ただし、代償として理性は全て吹き飛びこの村に生きる生物全てを破壊しつくすまで止まらない狂戦士となる。
【詳細】
両親・本名・国籍全て不明。生まれてからすぐにスラム街で捨てられたはずだが、なぜだかこの年齢まで生き残ってきた。物心ついてからは裏専門のなんでも屋として殺人・強盗など大概の悪行をやってきた。ある日、いつも通りに依頼を受け、依頼主の敵対組織を潰していたところ、偶然にも誘拐されていた少女と出会い、彼女から依頼されたことでひとまずのボディーガードに。ひとまず彼女の育て親には連絡をつけ、共に過ごすこと数日、彼女は彼に懐いた。ついでに「リューマ」という名前も彼女につけてもらった。以来、彼は少女の育て親である婆に日々鍛えられつつ、少女お付きのボディガードとなった(ボディガードとはいうが、実際は友達くらいの距離感)。
村に来たのは少女が村に里帰りに来たのでその付き添いで。
「俺は俺より強いやつがいるのが気に食わねえ。だから婆、テメェはいつかこの手でぶちのめしてやる」
「お嬢、てめえ俺の分の茶請けまで食いやがったな!?」
【名前】咲森シノン
【性別】女
【年齢】12歳
【職業】元令嬢、今はお金持ちの少女
【外見】銀髪のポニーテール、小柄、貧乳
【性格】社交的で分け隔てなく他者と付き合える。また、裕福ではあるがそれは自分が稼いだお金ではなく工面してもらっているものという自覚があるため金銭感覚についてはかなり凡人寄り
【異能】
『共鳴心像(シンパシー』
額を通じて相手の心に潜入し踏み込むことができる。ゾンビにも使用可能。
ただし出来るのは声をかける、考えを読み取ることができる、くらいで相手の心を殺して廃人にしたり洗脳して支配下に置く、といった直接的に害することはできない。相手の心に害される場合もある。
また、心に潜入している最中は自分も相手も無防備になる。
【詳細】
山折村の中でもちょっとした富豪である咲森家の一人娘。クォーター。両親は彼女が物心つく前に既に事故で他界しており、腕っ節の立つ使用人のババアに育てられてきた。社交的で、人を疑うことは殆どないくらい純粋、言い換えれば幼稚。かつて留学した国で誘拐事件に遭っているが、その時知り合い、後にボディガードとなる青年のお陰で特にトラウマになることもなく過ごせている。今回は久々の里帰りの為にボディガード兼マイフレンドの青年と訪れている。
「おはよう故郷、今日も一日ハッピーでよろしく!」
【婆(バーバ)(本名不詳】
【性別】女
【年齢】九十歳
【外見】白髪の天然パーマというテンプレお婆ちゃん
【性格】子供や知己には心優しいお婆ちゃん。ただし敵とみなした相手には一切の容赦がない。
【詳細】
スラム街の中でも屈指に治安の悪い地帯で生まれ捨てられた。己の名前も両親も知らず、物心ついた頃には利用されるだけの人形として育て上げられ、十歳になる頃には既に殺人・強盗補助・売春・売春婦を装った暗殺なども経験していた。ある日、仕事を失敗したことで依頼主から私刑に遭っていたところ、偶然現場を見かけた咲森グループの夫人に救われ、以後は彼女に誠心誠意仕えることに。その忠誠心は、かつて彼女を拐ったマフィア五百人を皆殺しにしたほど。その夫人と夫が事故で他界した後も、会社は咲森家の親戚に引き継がせ、必要な生活費を援助してもらいつつ、彼女の一人娘のシノン、>>260 の面倒を一手に担い、たいそう可愛がっている。最近拾った自分と似た経歴の青年に目をかけており、彼なら自分がいなくなってもシノンを守ってくれるだろうと期待している。
山折村に里帰りをするシノンを見送り幾許かした頃、突如、政府機関からその戦闘力を見込まれ特殊部隊に入るよう通達される。無論断ろうとしたが、しかし、シノンの命を盾にされた為にやむなく特殊部隊へ所属することになった。
【名前】西方丹作(にしかた たんさく)
【性別】男
【年齢】墓荒らし
【職業】23
【外見】髪も髭も伸び放題な不潔な浮浪者風
【性格】絵に描いたような強欲男、基本後先は考えない
【異能】
『墓地荒らしの幽鬼』
自身が穴を掘っている間、全ての干渉をすり抜ける
【詳細】
山折村付近の墓地に財宝を埋めたという叔父の妄言を信じて宝探しにやってきた男
根回しも何もしておらず、普段は村中の空き家を転々としながら夜になると墓場でスコップをふるうという生活を繰り返している。
近づいてくる村人はスコップを振り回して威嚇し追い返しており、いつしか墓場には死肉暗いの幽鬼が住み着いたという噂が流れ始めている。
【名前】浅葱樹(あさつき いつき)
【性別】男
【年齢】80歳
【職業】農家兼養蜂家兼剣術家
【外見】細身の長身で顎髭がある。
【性格】強い自制心を持ちながら、子供には甘々である。
【異能】無し
【詳細】
農家でありながら、若いころ会得した剣術は現在でも修練を続けており、最早達人レベル。
同じ剣術家である八柳藤次郎(>>163 )とは親交があり、孫娘の浅葱碧(>>226 )に剣道の稽古をつける時は道場を使わせてもらい、弟子達の虎尾茶子(>>184 )と八柳哉太(>>31 )などに碧の相手をしてもらっている。
剣術の方は緑と一対一で修練をし、特に実践では刀を握ったら躊躇わない事、その覚悟がなければ刀を握らないことを徹底して教え込んだ。
小学生から剣道を続け16の時、村を出、直心陰流の道場に内弟子として住み込んだ。それだけの剣の才能があったからであった。
10年で免許皆伝を得て、突然ヤクザの人斬り役としてその世界に踏み込んだ。
ヤクザの中でどう思われているかはどうでもよかった。ただ剣を振るっていれば自分が何者なのか知ることができると思い戦ってきた。
死闘を繰り広げる内10年、やはり自分は土の上にいる人間だと悟り、ヤクザと縁を切って村に戻り結婚した。
妻の命と引き換えに一人息子ができたが、それも自分と同じように村を出ていったときには反対しなかった。
その息子が交通事故死し、引き取った碧が暗い感情に支配されていたのを見た彼は、自分が祖父として唯一伝えられるものである剣術を厳しく叩きこんだ。恨まれようともそれが碧を救う手段だと考えたからだった。
結果として立ち直った碧を見て厳しく稽古をつけることは変わりないが、内心で激しく喜んでいる。
VH発生時、ゾンビと化し、碧に襲い掛かるも決意を固めた碧に斬り殺された。
※非投票対象キャラクターです
【名前】田中国枝
【性別】女
【年齢】43歳
【職業】最近村に引っ越して来た主婦
【外見】心身ともに不健康そうな中年女性。全体的に血色が悪く痩せている。
【性格】精神的に崖っぷち。自殺しそうな状態を無理矢理繋いでいる
【異能】
『シザーハンズ』
両手を一対の刃物に変える。刃物と変わった両手は日本刀と同等の切れ味を持つが。その真価は対象をハサミの如くに挟み込んだ時に発揮される。
この状態の切れ味は、凡そありとあらゆる物を切り裂く威力となる。
但し、一つの物体を挟み込んだ時にしか発揮されない為、二つの刃を其々異なる物体で受け止められればこの効果は発揮されない。
【詳細】
東京都内在住の女性。小学生の時に階段から落ちて昏睡状態だった息子が、三日前に死亡した。
小学生だった息子は、同級生の山岡伽耶に好意を持っていて、気を引く為に嫌がらせをした所、自分と『そういう風に』遊びたいのだと思った山岡伽耶に階段から突き落とされたのである。
この頃から加害欲求を持っていたが、普通は『そういう遊び』はしないものだと認識していた山岡伽耶としては、ただの純粋な『友達との遊び』であり、別段に敵意や悪意があっての事ではない。
突き落とした時に周りに誰も居なかったのは只の偶然であり、突き落とした事について黙っていたのは大事になった事を認識しての保身である。
死亡した息子が息を引散る前に意識を取り戻して自身が階段から落ちた真相について語った為に、報復の為に山折村へと赴き、到着した矢先に被災した。
【名前】暁千紗
【性別】女
【年齢】7歳
【職業】小学生
【外見】ショートカット。ズボンを履いている
【性格】動物好きでよく笑う明るい女の子
【異能】
『周辺走査』
周囲50mの状況を探査する。脳裏に3D映像として周囲の情景を描き、ゾンビは赤色、生存者は青色、悪意を持った存在は黒色で表示される。
【詳細】
山折村小学校に通う女の子。動物好きで和幸の面倒をよく見ていて、和幸からもよく懐かれている。
ペットの犬の散歩のついでに和幸に会いにきた所でVHに遭遇した。
【名前】デコイチ
【性別】男
【年齢】4歳
【職業】暁家の飼い犬。
【外見】血統書とか特に無い柴犬
【性格】家の住人には従順で、無駄吠えしない
【異能】
『ドッグ・チャージ』
最高速で走っている時にのみ発動する異能。助走や最高速を過ぎて減速して仕舞えば発動しない。
超強力な体当たりを行える。この異能が発動しているときは、体当たりで鉄筋コンクリートの壁すら打ち抜く。
【詳細】
暁家の飼い犬。>>265 暁千紗に一番良く懐いている、暁家の住人には忠実で、危機が迫れば全霊で立ち向かう。
暁千紗に着いて小学校に来た所でVHに遭遇した。
【名前】タヌキ
【性別】男
【年齢】30歳
【職業】化けタヌキ
【外見】結構大きめのタヌキ
【性格】人間並に知恵が回るタヌキ
【異能】
『変身能力』
5歳くらいの外見の男児の姿となる。元々持っている能力。
『成人化』
20歳くらいの男性の姿となる。変身能力を使用している時しか使えない。
【詳細】
山折村周囲の山に棲む化けタヌキ。>>214 和幸とは友達である。
よく和幸からとうもろこしを分けて貰っている姿が目撃されたが、最近は姿を見せなくなった。
最初は飼われる気満々だったのだが、ある時和幸の首輪に付けられたネームプレートを見て心底戦慄。
『和幸なんて名前を豚につける奴らに飼われるのが嫌だ』というわけで、人目のつかない夜間に和幸の所にとうもろこしを分けて貰いに来ているのである。
もうそろそろ和幸が食材にクラスチェンジする事を察しており、お別れを言うタイミングを量っている。
【名前】巨勢夏雄(こせ なつお)
【性別】男
【年齢】27
【職業】風来坊
【外見】髪型、シャツ、パンツ、全て一昔前に流行ったもの
【性格】流行りものには敏いつもりであったが、だんだんずれができつつあるのを自覚できていない
【異能】
「手に入らないなら、いっそ(オールクリア)」
掴んだものに対して外部からは分からない時限式の爆弾を設置することができる
【詳細】
街の流行に乗れなかった男。
より田舎の村ならば自分の居場所もあるだろうと山折村にやってきたが、結局居場所を作ることはできなかった。
不本意な日々を過ごすうちに鬱屈がたまっていき、いつしか村ついには世界に対して無くなってしまえばいいという思いを抱くようになっている。
【名前】 浅見 光兎(あさみ こうう)
【性別】 女
【年齢】 16
【職業】 学生
【外見】 白寄りの薄紫髪のロングヘアーの少女で、兎を思わせる赤眼の持ち主。胸はぱっと見は普通くらいだが着痩せするタイプで脱ぐと大きめ
【性格】 それなりに付き合いはいいが本質的にヘタレで臆病、踏み込むのが怖いし踏み込まれるのも怖い為対人関係は一定の距離を保とうとするところがある
【異能】
『考光加速』
自らの思考速度を光の速さまで加速させる事が可能な異能。正常感染者になった事により発現。
ただしあくまで加速可能なのは思考速度のみで肉体を動かす速度まで上がるわけではない。また連続使用し続けると思考の処理速度が段々と下がっていき、それでも使い続けた場合、最終的には脳へのダメージにより廃人化するデメリットがある。
【詳細】
山折高校に通う1年生。かつて目の前で両親を喪った事がある。対人関係で距離を保とうとするのは生来の気質だけでなくこの事も影響している他、この件により死に対する恐怖をずっと抱えている。死にたくないという気持ちがとても強い。
高い身体能力の持ち主で、特に剣道が得意。
またヘタレ気質故なのか、危機察知能力が高い。その為被災時には怯えつつもいち早く対応出来た。
なお採用された場合(=VH発生時)は、自らの置かれた状況を知らされて頭を抱える羽目になるだろう。
【名前】暁和之(あかつき かずゆき)
【性別】男
【年齢】33歳
【職業】山折村出身のプロレスラー
【外見】200cm・135kg
【性格】観客を喜ばせる事を何よりも重んじるが、プロレスラーは強くなければならないという信念を持つ
【異能】
『それを言ったら殺されても文句は言えねぇぞ(NG・ワード)』
射程10m。射程距離内で設定されたNGワードを口にしたものに接触する事で絶命させる。
接触は素肌同士で触れなければならず、衣服の上からや、手袋越しでは効果を発揮しない。
NGワード設定→NGワードを口にする→触れる事により絶命させる異能。
【詳細】
>>265 暁千紗の父親。家族を愛するプロレスラー。娘の犬に散歩に付き添って学校までやって来た。
最近娘からよくとうもろこしを貰うが、学校で飼育している豚の名前を知って『俺は豚と同じ扱いなのか?』と思い悩んだりしている。
【名前】綿貫莉子(わたぬき・りこ)
【性別】女
【年齢】17
【職業】歌手(ガールズバンドのボーカル)
【外見】黒髪ショートヘア、カッコイイ系の美人
【性格】面倒見がいい その一方で年相応に少女、乙女な部分もある
【異能】OVER D-LIVE(オーバードライブ)/POWER DIE-V(パワーダイブ)
一言で言えば肉体に本能的にかけているリミッターに干渉する能力。
OVER D-LIVEは肉体の能力を爆発的に向上させる能力で、
身体活動が尋常でないほど活発になり、
素手で鉄筋コンクリートをぶち抜けるぐらいのパワーを発揮できるようになる。
POWER DIE-Vは肉体を強制的に休ませる能力で、
身体活動が最小限で済むようになり、身体能力も著しく低下する。
普通はOVER D-LIVE→POWER DIE-Vの準で使う事になるが、
逆の順番で使えば完全に気配を消した状態から超パワーでの奇襲、といった使い方も出来る。
【詳細】
人気ガールズバンドD-LIVE(ドライブ)のボーカル。
芸名は久留間莉子(くるま・りこ)。
子供の頃近(>>48 )臼井浩志の近所に住んでいた時期があり、彼女にとって浩志は初恋の人。
彼女の中でカッコイイ男の人は長い時間をかけて美化された臼井浩志である。
音楽活動を始めたきっかけも、彼に『歌うまいね』と言われたのがきっかけ。
久留間莉子としての彼女は、自分の中のカッコよさを前面に押し出した感じで売っているが、
オフの時は年上のメンバーに甘えたりするなど年相応の部分もある。
体を動かすのも好きで、ライブ中はアクロバットなパフォーマンスを披露することも。
山折村には『忍剣無双ギンガ』の初回ゲストとして出演するために来た。
同番組の挿入歌もD-LIVEと同グループ別名義で担当している。
なお浩志は全くテレビを見ないので彼女が芸能人なことに気付いてない。
けど何かの偶然でCDショップに立ち寄り、ジャケット写真を見ればすぐに思い出すだろう。
>>254 のキャラについて、したらばに問い合わせがありました。
多分管理人スレは誰も見てないので人目に付くようこちらで返答します。
キャラシートに関しては、余程破綻していたり企画内容に沿っていない物でない限り通す方針でいます。
しかし、キャラクターの出生と言う根幹部分に影響する設定を不特定多数のキャラクターに適応するようなやり方は、大勢が参加する企画で行うには適切とは言い難いと認識しています。
なので今回は警告だけとしてキャラシートは通しますが。
決定する名簿次第ではありますが、今後この設定を利用した作品が投稿された場合に関して、企画進行に不適切な内容であると「私」が判断した場合、何らかの処分を行うモノとします。
この判断はこの設定をなかったことにして使用するな、と言う意味ではないので悪しからず。
それではキャラ募集も残り短いですが、よろしくおねいがいします。
【名前】日七期 藤美(ひななき ふじみ)
【性別】女
【年齢】20
【職業】大学生
【外見】黒髪ポニテの少女、スレンダーな感じ
【性格】表向きは明るく快活な女だが、物心ついた頃から、アニメや漫画・ゲームなどにある俗に言うところの殺人及び人が死ぬ描写に心を惹かれていて、ずっとそれに焦がれ興奮していた異常な側面を隠し通してきた。
【異能】
『生非代替』
正常感染者になった事により発現。
触れた物の一部と、周囲にある何かしらの物体を入れ替える事が可能な異能。
触れた物が生物だった場合、然るべき部分(脳など)と然るべき物体を指定さえすれば即死させる事が可能だが、指定する場合は触れてから10秒間相手に触れ続けなければならない。
また生物を触れずに入れ替え対象にする事で触れた物と入れ替える物を同時に殺害するといった事は不可能。生物は入れ替え対象に出来ない為である。
【詳細】元山折村の住人だったが都会に住んでいる。
たまたま帰省した際に被災し、今回のVHに巻き込まれた。
今まで周りには隠し通してきた殺人・死亡描写への異常な興味・欲求を、被災→VHの経緯によってどうせ死ぬなら楽しんでしまおうとタガが外れ、悪い方向へと昇華させてしまった。
普段はいつも通り明るく快活な女として振る舞いつつ、自らの異能によって密かに人の死を引き起こしその様で愉しもうと目論んでいる。
身体能力は高めで格闘技全般が得意
【名前】 八雲朝菜(やくもあすな)
【性別】 女
【年齢】 十六歳
【職業】 学生
【外見】 黒髪おかっぱヘアー、小柄
【性格】 天真爛漫通り越してただのアホ。心を許した相手には鬱陶しがられるほど図々しくなったりもする。あと仲良くなればなるほど煽ってくる
【異能】
『キルミーベイベー(わたしを殺せるのは私だけ)』
常時発動型。
このキャラは如何な理由があってもゾンビに感染しない上に無駄にしぶとい。死ぬほどの重傷を負っても次の話には元に戻っている。ただし代償としてこのキャラにはちょっとした衝撃で爆発する首輪が着けられ、これが爆発するとこのキャラは問答無用で死ぬ。本人はそのことを知らないのでよく敵を煽るし無敵アピールをしてくる。
【詳細】
山折村屈指のアホの子。だけど自分では頭がいいと思っているししかもそれを周りにアピールするから余計に周囲からは呆れられてる(嫌われてるわけではなく、アホだと呆れられることが多い)。トンチキな発想やら言動はいつものことだが、時折命の危機に陥るシャレにならないことも起こすが本人がアホなくらい頑丈なので気にしていない。反省もしない。そのムーブと見た目のせいで小学生扱いされることもしばしば。
【名前】楯山 衛 (タテヤマ マモル)
【性別】男
【年齢】49歳
【職業】山折村役場 総務課長
【外見】
身長160cm。銀縁眼鏡のぽっちゃりした壮年。最近ハゲてきたので坊主にした。
【性格】
誠実で職務に忠実。周囲との信頼関係の構築を欠かさない好人物だが、内にストレスを溜め込みやすい。
【異能】
『天之岩戸 (アメノイワト)』
両手から、長さ2.4m・幅1.2mの、板状のバリアを最大2枚まで出現させる異能。
バリアは半透明のプラスチック状の材質である。拳銃弾程度なら容易く弾き、自動車に踏まれる程度では壊れない。
その他の物理的性質は概ね、工事用プラスチック敷板(ttps://www.koujiban.jp/features.html)に準じる。
バリアは自分か他人の手で持ったり支えたりしなければならず、自動車などに突撃された場合、バリアは無事でもその衝撃で吹っ飛ぶ。
パントマイムの要領で棒状などに変形させたバリアを出現させることも可能だが、出現させるバリアの総面積は限りがある。
バリアが破壊された時のダメージは使い手の両腕の骨にフィードバックされる。
一度出現させたバリアは、使い手がその存在を意識している限り維持できる。
【詳細】
山折町役場、総務課長。独身。山折町で何らかの災害が発生した場合は、真っ先に陣頭指揮をとる人物である。
日常の業務から、防災時の業務までを堅実にこなす彼の仕事ぶりは、いなくなって初めてわかるタイプのかけがえのないものである。
村の開発における派閥は保守派・改革派のどちらでもない。仕事が忙しくてどちらかに与する余裕がないともいう。その職業柄、村の有力者とは大体知り合いである。
民生委員も務めており、生活で困りごとがある家がないか探して回っては相談に乗っている。たった1人で4人の介護を行ってきた>>245 山路フジのことを特に気に掛けている様子。彼の助けがなければ、山路フジの家の生活は早々に破綻していたことだろう。
【名前】上梨 正恒 (かみなし まさつね)
【性別】男
【年齢】58
【職業】村役場職員 地域振興課課長
【外見】幸薄そうな白髪のおじさん。頭頂部はつるりと光る。汗っかき。
【性格】
気が弱く、相手の気迫に弱い。なにかあればすぐにすみませんと頭を下げる。
ただし仕事に関していえば、謝りながらも簡単には折れない。プライベートだとすぐ折れる。
【異能】
『潤滑油』
人間三人分程度のごく狭い範囲の地面の摩擦をゼロにする。
【詳細】
山折町役場の地域振興課課長。
地域振興課は村長の肝いりで近年新設された課であり、非常に多忙。
村役場の一般職員としては課長が最上位の地位ということもあり、権力は非常に強い。
しかしそこはただの雇われお役人。
役職に付く権力こそ強大であれども、実質は村長や村議会の手足でしかない。
甘い汁を吸うどころか、苦い虫を嚙み潰し、煮えた湯を飲んで胃に流し込むような毎日。
そもそも本人の性格からして権力を振りかざして保守派を抑え込むようなことはできるはずがなく、
軋轢の絶えない村の派閥の仲裁や、外から次々に流入する一癖も二癖もある人間たちへの対応を一手に引き受けるハメになり、
その凄まじいストレスで髪の毛はみるみる散っていった。
その名前からあだ名は『ハゲ』であったが、本当にハゲてしまってひそかに咽び泣く有様。
なんだかんだで血を見る騒動にまで至らないのは彼の尽力のおかげなのだが、彼自身はしょっちゅう血尿を拝むハメになっている。
親友は胃薬。なにかと融通してくれる楯山総務課長(>>275 )には頭が上がらない。
私は人間関係の潤滑油になりたいです、などとアピールしていた過去の自分を殴り飛ばしたくなる思いを抱えながら、個性的な村人たちとの調整をおこなう。
今日も日が変わるまで残業かとどんよりしていたところへ空前絶後の大地震が起こり、完全にキャパシティを超えてしまった。
しかも謎の研究所を村に引き入れていたともなれば、もはやクリティカルな責任問題である。
仮に生き残ったとしても絶望しかない。脳みそは爆発寸前である。
【名前】戸川 翌檜(とかわ あすなろ)
【性別】男
【年齢】13(中1)
【職業】中学生
【外見】小柄でかわいらしい風貌
筋トレも頑張っているがなかなか肉がつかず、細身体型
【性格】生来的には気が弱く引っ込み思案。
心身が強い人物にあこがれを持つ
【異能】
『大虐殺聖天使(セラフィ・オブ・キルゼムオール)』
人を一人殺害するごとに翼が一枚生まれる。
生まれた翼は精神と肉体に作用し、この異能の持ち主を『強く』する。
【詳細】
小さくかわいらしい少年。山折村の二つ隣の町に住んでいる。
岡山林蔵の甥、岡山姉妹の従兄弟であり、名前から察せられるとおり林蔵は名付け親。
中学に入ったばかりの頃にクラスメイトにいじめられた。その際「翌檜(あすなろ)は決して檜になれない」と名前をからかわれたことを涙ながらに岡山一家に訴えたところ、林蔵及び姉妹が学校に乗り込んで大暴れし、いじめを終息させてくれた。
それ以来彼らのもつ心身の強さに憧れている。
とはいえ肉体も剣道も発展途上。
心だけでも強く在ろうと、自ら率先して他者の助けとなろうと頑張るが空回りしがち。
暖かい目で見守ってあげよう。
【名前】鎧塚 核吾(よろいづか かくご)
【性別】男
【年齢】31
【職業】傭兵
【外見】身長180cm、一切の贅肉のない野生の豹のようなしなやかな筋肉で構成された肉体。
【性格】極めて合理的に物事を考える戦争狂。生まれつき油断のできない、石橋を掃射して渡るタイプ。
【異能】
「戦い続ける歓喜びを」
第六感(勘、直感、虫の知らせ)が異常に冴え渡る異能。
鎧塚は傭兵として戦場を渡り歩く中、鋭い五感だけでなく戦士としての直感も鍛え上げてきた。
直感が五感で捉えた情報と即座に統合・ブラッシュアップされ、その精度は対人であれば読心・行動であれば未来予知にも等しいレベルとなる。
【詳細】
>>38 比志合 拓に雇われ、彼が開くはずだったデスゲーム「オリロワY」において最凶のジョーカーとして暗躍する予定だった超一流の傭兵。
世界中の紛争が小康状態になり開店休業状態だったため、バカンスとしてオリロワYを満喫する予定だった。
あらゆる刃物・銃器・トラップの扱いに長け、格闘技もプロ顔負け。
単独での敵国潜入、現地での武器調達、賊軍のリーダー暗殺、基地の爆破――といった実現不可能とされる任務も何度となくこなしてきた。
そのため奥津をはじめとする特殊部隊の面々や、世界各地で活動するエージェントらからも警戒されている。
【名前】明石 美空(あかし みそら)
【性別】女
【年齢】16
【職業】高校生
【外見】茶髪でサイドテール、モデルみたいなスタイル。
【性格】典型的なギャル、カワイイもの好き
【異能】
『トリックショット』
投げた物体が必ず『別の場所から投げられた』かのように発射される能力。
その為どこから攻撃されたかを察知するのが困難だが、美空自体も投げたものがどこから発射されるかは指定できない。
【詳細】
村に住む女子高校生で、その陽キャ的ムーブで有名な学校内のムードメーカー。
実は犬山うさぎとは小学校からの付き合いで、彼女のことをよく理解している。
以上で、キャラ募集は終了となります。
予想を超える沢山の投稿、ありがとうございました。
キャラ投票のための準備を整えますので、少々お待ちください。
お待たせしました。
投票スレはこちらとなります。既にホスト表示設定になっているため書き込みを行う際は注意ください。
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/16903/1669810266/
投票の開始は2時からを予定しております。
テンプレをよく読んでルールを守ってご参加くださるようお願いします。
キャラ数も多く票選びも大変でしょうが、投票期間は日曜の昼間でありますのでごゆっくりお考え下さい。
それではよろしくお願いします。
その他、連絡事項として
【地図について】
施設を追加した決定版がこちらになります、ご確認ください。
ttps://w.atwiki.jp/orirowaz/pages/10.html
【登場話について】
当ロワは拉致やワープなどの明確な区切りがなく地続きで始まるロワとなっています。
ですので最終的に話の終りの状態表表記の時点で0時以降に話が達していれば、話の始まりが数日前やあるいはもっと過去からであっても構いません。
>>226 ですが、設定を追加しました
投票結果が確定しましたので皆さまご確認下さい
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今日中に企画主枠を決定し、名簿を確定しますので少々お待ちください。
【書き手枠について】
・書き手枠は村民5名、特殊部隊員1名とします
・書き手枠を使用する際は予約が必須となりますので必ず予約を行って下さい
・予約の際は書き手枠であると分かるように明記してください
・1予約の中で書き手枠の使用は1名までにしてください
【没キャラについて】
・没キャラはゾンビとして出演させても構いません
・ただしキャラクター性やパーソナリティが失われた意思のないキャラとして扱ってください
・被る可能性があるため登場させる場合は、登場キャラと同じように予約する際に明記してください
あとウイルスやゾンビの設定に関して
キャラシートでも誤解してそうな雰囲気が散見されたので明記しておきますと
ウイスルは村内の全参加者に感染しています
ウイルスに適応した人間は正気を保ったまま異能に目覚めます
ウイルスに適応できなかった人間は正気を失いゾンビとまります
ゾンビに噛まれれても適応者がゾンビになる事はありませんし、ゾンビが異能に目覚めることはありません
企画主枠が確定しましたのでお知らせします。
【薩摩 圭介】
【宇野 和義】
【碓氷 誠吾】
【斉藤 拓臣】
【月影 夜帳】
以上5名を企画主枠として採用します。
確定した名簿がこちらとなります
・オリロワZ参加者名簿
■村民(39/44)
9/9【高校生(村内)】
○山折 圭介/○上月 みかげ/○犬山 うさぎ/○氷月 海衣/○環 円華/○朝顔 茜/○八柳 哉太/○字蔵 恵子/○烏宿 ひなた
1/1【小中学生(村内)】
○日野 珠
4/4【学生(村外)】
○天宝寺 アニカ/○革名 征子/○一色 洋子/○哀野 雪菜
3/3【猟師・農家・警察】
○嵐山 岳/○薩摩 圭介/○宇野 和義
2/2【役場職員】
○犬山 はすみ/○虎尾 茶子
4/4【社会人(村内)】
○神楽 春姫/○郷田 剛一郎/○碓氷 誠吾/○月影 夜帳
4/4【社会人(村外)】
○臼井 浩志/○佐川 クローネ/○小田巻 真理/○斉藤 拓臣
2/2【エージェント】
○田中 花子/○天原 創
1/1【研究員】
○与田 四郎/
3/3【ヤクザ・テロリスト】
○物部 天国/○木更津 閻魔/○沙門 天二
3/3【無職】
○クマカイ/○気喪杉 禿夫/○リン
3/3【獣】
○ワニ吉/○独眼熊/○和幸
■特殊部隊員(5/6)
5/5【特殊部隊員】
○大田原 源一郎/○成田 三樹康/○黒木 真珠/○美羽 風雅/○広川 成太
44/50
予約開始は
2022/12/19(月) 00:00:00
からとなります。
予約はこちらのスレにお願いします。
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/16903/1669810644/
以上、よろしくお願いします。
質問です
村にはゾンビが徘徊していますが、ゾンビが参加者を殺害するのは可能なのでしょうか?
(物理的に可能かという意味ではなく、非参加者である一般ゾンビが参加者を殺害してしまってもルール的に容認されるのかという意味です)
>>289
ストーリー的な必然性があれば問題ありません。
少々曖昧な基準となりますが、あくまで参加者メインでゾンビは舞台装置であるという認識を持っていただけると幸いです。
ちょっと分かりづらいかもなので具体例を出すと
唐突にめっちゃ動き良いのゾンビが現れてそいつにあえなく殺されるのはNG
参加者同士の殺し合いがあり、命からがら逃げ延びたもののゾンビに囲まれてしまい、逃げる力もなく殺されてしまうのはOK
と言う感じです
すみません、自分も質問ですが
適応者は、自分の異能がどういうものなのかを、最初から認識できているのでしょうか?
>>292
脳に異能と言う新たな機能が追加されたと言うだけなので、唐突に脳に説明文が流れてくるみたいな事はありません。
感覚的には第三の腕や背中に翼が生えたような、これまでに存在しなかった新たな器官が生まれたような感覚になります。
異能という存在の自覚は必ずしもある物ではないので認知した状態で始まるかは自由です。
使い方に関しては自身の体の延長として扱えるものと想定していますが、生まれついての運動神経に差があるようにうまく使えなくとも、ある程度使いこなしているキャラがいてもどちらでも構いません。
>>291 を受けての疑問ですが
没キャラをゾンビとして出せるとの事でしたが、没キャラのの中には身体能力がバカ高いのが複数いた訳ですが、その没キャラをゾンビとして出す場合は、キャラシに有る身体能力を反映しても良いのでしょうか!
>>294
身体能力の高いゾンビを出すこと自体は構いません
ただ、また話作りレベルの話になってしまいますが
そのゾンビを出す理由があくまで参加者を生かすために必要であるのならOKですが
身体能力の高いゾンビをメインに据えて活躍させるために出すのならNGです
要はゾンビは添え物の範囲を逸脱しないようにしていただければ大丈夫です
>>85 、氷月海衣の投下者です。
事後報告になりますが、wikiにて【詳細】欄の「元貴族の夫婦の〜」を、「元富豪の夫婦の〜」に訂正しました。
キャラクター性は変わっていないので問題ないとは思いますが、投票後の変更ということで、念のため報告させていただきます。
郷田剛一郎、山折厳一郎(ゾンビ)、神楽総一郎(ゾンビ)
投下します。
「どういうことだぁ村長ォォ!!!」
怒号が響いた。
びりびりと空気を震わせるほどの大音量が、公民館を揺るがした。
毎週、公民館にておこなわれる村民会議の延長戦。
保守派、中立派、改革派のトップ層が集まり、村のビジョンを語る会。
旧くから彼らを知る口さがない老人たちは、悪ガキ三一郎のじゃれ合いとこれを呼ぶ。
もう十年以上は続いている、山折村の風物詩だ。
怒号も、机がひっくり返る音も、いつものこと。
しかし今宵はいつもと様子がまるで違っていた。
「いったい何をした!? 研究所ってのはなんなんだ!?
俺たちの村にいったい何を引き入れた!?」
拳を机の天板に叩きつければ、
天板は中央から無惨に割れ、それどころか金属製の脚や貫までぱっきりと折れている。
これが放送で触れられていた『力』なのだと、半ば本能的に理解できたが、そんなことはどうでもよかった。
郷田剛一郎が生まれ落ちて五十余年。
悪ガキ三一郎と呼ばれた三人は、毎日隣を歩き、抜いては抜き返し、出し抜いては出し抜かれ、走っては同時に息切れし、円を描くように寝転がる。
就学前――学生――社会人――そして各々が村民をまとめる立場になっても三人の関係は変わらなかった。
きっと死ぬまでこの関係は変わらないのだろう。
それどころか、三人とも同時にぽっくり逝くんじゃないだろうか?
そんなバカなことを考えたことも二度や三度ではない。
その日常は、その未来は、一瞬で潰えた。
ワニ吉
書き手枠で
金田一勝子
予約します
■
――とんでもない地震だったな。
だが、幸か不幸か、この公民館に村の有力者たちがそろっている。
ここを臨時災害対策本部としたい。
もちろん、家に戻りたい者は戻ってかまわない。みな、家族が心配なのは分かっている。
だが、村のために協力してくれるものがいるなら、ぜひとも力を貸してほしい!
――力貸すぜ村長! そりゃあんたとは年中意見を戦わせてるがよ、村のためを想ってるのは俺もあんたも変わらねえ。
いったん休戦だ! 村が落ち着くまでは俺ら一同、あんたの指示に従う!
――私も微力ながら協力するよ。私が真っ先に逃げ帰っては、偉大な先祖に顔向けできんからね。
妻も娘も気掛かりではあるが……彼女たちは私が役目を果たすことを望むだろう。
――……郷田さん、神楽さん、ありがとう。
――今日だけは確執を忘れて、みんなでこの危機を乗り切ろう!
■
此度の地震はいわゆる甚大災害に属するものだ。
過去の大震災の記録を塗り替えるほどの災害だ。
予想通り安否を確認する人間が殺到して電話回線は早々にパンクしており、まったく外部と連絡は取れない。
SNSすら、起動するだけで10分かかるほどだ。
インターネットも、県庁のサイトを開くだけで日をまたぎかねない。
しかし、各派閥を率いる三人の行動は迅速であった。
たまたまとはいえ、公民館に村の有力者三人が構成員を率いて集まっていたのだ。
公民館を朝までの臨時の司令塔とし、災害の初動対応を各派閥の人員に次々に指示。
安全な避難所の確保、村人の安否確認、それから外界をつなぐ唯一のトンネルの状況確認に、国・県などの行政との連絡。
やることなどいくらでもあるが、いつもはいがみ合っている構成員たちをまとめ、指示を出していく。
一人、一人と己の使命を果たすために村中へ散り、公民館に残った人間は片手で数えられるほど。
すべてはうまく行っているはずだった。
あの悪夢の放送が流れてくるまでは。
犬猿の中であり、竹馬の友。
永遠のライバルであり、永遠の親友。
山折厳一郎。神楽総一郎。
「ガァァアアア……!!」
「うぁぁぁあああ……!!」
二人の一郎からは、何の言葉も返ってこない。
「何か言えってんだよ!
厳一郎、お前は全部分かってんだろォがァ!!!」
ツメを立てて襲い掛かってくる総一郎、その愚直な突進に対して軽く足を払って転ばせ、背中を踏みつけ地面に縫い付ける。
髪を振り乱して噛み付いてくる厳一郎、その噛み付きをひらりとかわして、首をわしづかみにして持ち上げる。
「お前ら、ステゴロで俺に勝てたことねえだろ!
目ぇ覚ませよ厳一郎! 何か言ってみろよ総一郎!
こんな終わり方認めねえ、俺は認めねえぞ!」
剛一郎を支配している感情が純粋な怒りのみであったなら、開花したその異能によって、厳一郎も総一郎も木端微塵に砕け散っていたであろう。
それこそ、村の醜聞を集めては外にバラまいていくライターや活動家、山折村の土地や資源を狙う犯罪まがいの悪徳企業、
あるいは産業廃棄物の不法投棄のように問題のある人間を山折村に隔離していく都会の金持ちども。
かつて一度は村の改革に消極的理解を示したこともある剛一郎が、再び考えを改めるきっかけとなった村の侵略者たち。
そんなやつらが相手であれば、湧き上がる怒りに任せて、地面に落ちた葡萄か柿のように、頭を砕いて中身をぶちまけていただろう。
けれど、厳一郎と総一郎はそうではない。
彼らは剛一郎にとっては兄弟同然。
意見はしょっちゅう対立するが、それもひっくるめて大切な家族の一員なのだ。
怒り以上に心を塗りつぶすのは、哀しみ。
心を満たす悲嘆が、剛一郎の思考を理性的なラインまで押しとどめていた。
「みっともねえ、ほんとみっともねえぜゲンちゃんよぉ!」
「ウゥ、ウァァ」と小さな呻き声をあげてもがく厳一郎に、その辣腕村長の面影はない。
若造だったころから今に至るまでギラギラと輝いていた、指導者としてのオーラはどこにもなかった。
■
――俺は反対だぜゲンちゃん!
村に余所者を呼び寄せるなんてな!
――考えなおせ、剛一郎。
村の発展は、外部から新しい風を取り込んでこそだ。
このままじゃ、村に残るのは年寄りか村から出られない身体の弱い人間だけ。
そのうち誰も寄り付かなくなって、俺たちの子の代には山折村は廃村だ。
――何言ってやがんだ、余所者を入れなくても村は維持できたから、今の山折村があるんだろ!?
それともなにか、お前はこの村を余所者に乗っ取らせたいってのかよ!?
――現実を視ろ、剛一郎。
ついに二車線のトンネルが開通したっていうのに、この村は外から孤立したままなんだぞ。
村人は出ていくだけで誰も入ってこない、このままじゃ、村は干上がっていくだけだろう!?
■
厳一郎が山折村の檻を開く、そんなことを言いだしたのは、
古いトンネルが拡張されて車の通れるトンネルになったころだったか。
衆議院議員の野部が、岐阜のすべての村々をつなごうという公約を掲げて当選し、大規模な補修工事が行われたころだ。
あのときも大喧嘩をした。
それまでも小競り合いや口喧嘩はしていたが、村の集会場ではじめて夜まで語り合い、その議論は熱を帯び、
挙句の果てには取っ組み合って、親父たちに三人そろってしこたま怒られたものだ。
けれども、村のビジョンについて真剣に語りあったのもはじめてだった。
言葉にはできないが、あのときの充足感を今でも覚えている。
……こんな未来が待っているなど、あのときは思いもしなかった。
紆余曲折はあるだろう。
うまく行かないことだって、対立だって、衝突だって当然ある。
それでも、きっと輝かしい未来が待っているものだと思っていた。
そう信じていた。
……こんなクソったれた現実、どうか夢であってほしかった。
「おい、ソウちゃん! じたばた暴れてないで、なんか言い返して来いよ……!!
いつもの屁理屈はどうしたんだ!?
なんかあんだろ!? お前なら、このクソみてぇな状況を解決する方法、考えてあるんだろ!?」
届かない。
言葉は、想いは、届かない。
「うぁぁああ、ガァァアアア!!」
かつて村一番の切れ者と呼ばれていた総一郎の面影はどこにもない。
自慢の頭脳を一切使わず、小難しい言葉の一切を発さず、ただ本能のままに叫ぶ肉人形でしかなかった。
■
――厳一郎、剛一郎、二人とも落ち着け。どちらもアツくなりすぎだ。
檻を閉ざしていては、村は干上がるばかりだ。
だが、村民の気持ちを無視した改革は必ず対立を引き起こし、血を見ることになる。
村人と村の外の人間との軋轢を避け、世相に乗り遅れない範囲で少しずつ外の発展を取り入れていく。
これが一番現実的だと思うが?
――何が『思うが?』だこのタマナシ!
俺たちの意見を薄くパクってるだけでよくもまあエラそうに言えたもんだよな!
てめぇみてぇなフニャチン野郎は一生結婚なんざできねえな!
――そんな中途半端な姿勢で村を率いていこうだなんて、滑稽だぞ総一郎。
それこそ、お前の嫌いなアタマが堅くて古い老人そのものじゃないか。
お前、実は何歳かサバ読んでるんじゃないか?
――ふん、僕はキミたちのような極端な過激思想は持っていないというだけだよ。
それこそ歴史を紐解けば、改革と称した革命など、いとも簡単に瓦解している。
厳一郎、キミこそ先人に学ぶべきだ…! 旧き知恵をないがしろにする者に発展などない。
それから剛一郎、フニャチンだのなんだの、今の議論にはまったく関係ないと思うが?
まあ、野蛮なキミたちにはあの娘は到底釣り合わないね。
家柄も人柄も、彼女の伴侶にふさわしいのは神楽家、この僕に相違ないからね。
――好きに言ってろよ古一軒家!
――テメェだってたまたま今の村長の息子ってだけだろうが!
■
村の未来を語るはずが、いつも話がこじれて、いつも脱線して、村のマドンナをめぐる口喧嘩に帰結した。
結局、彼女を娶ったのは総一郎だったし、村長として村人を率いる立場に収まったのは厳一郎だった。
総一郎には散々言い込められ、厳一郎にはさんざん煮え湯を飲まされた。
勝てたのは殴り合いだけだった。
けれど、そんな敗北の思い出すら今は懐かしい。
「こんな結末、お前だって望んじゃいなかったろ……!
応えろよ、応えろよゲンちゃん! ソウちゃん!
夢であってくれよ!
そうだろ? さっきの地震で俺は死んで、死ぬ前に悪い夢を見てるだけなんだろ……!?
なあ、そうだって言ってくれよ!」
剛一郎の悲嘆は、誰の耳にも届かない。
彼の声に答えてくれる親友たちは、もうどこにもいない。
「くっそぉぉぉォォ!」
びりびりと空気を震わせるほどの大音量が、部屋を揺るがした。
心振るわせるような慟哭が、建物を揺るがした。
うぁうぁと喚くだけの肉人形になってしまった親友たちを、会議室と隣の空き部屋にそれぞれ隔離する。
カギはかけられていないが、本能だけで動く彼らが扉を開くことなど到底不可能だ。
レバーを下げて、扉を引いて、開くという高度な動作をおこなうことはできない。
「ソウちゃん。しばらくそこで大人しくしといてくれ。
目が醒めたら、生き残ったやつらの世話は頼むわ。
ゲンちゃん。俺は先に地獄で待ってる。
目ェ醒めたら、ケジメ付けろよ」
独り言だ。もはや誰の元にも届かない言葉だ。
けれども、目の前に親友がいるかのように今生の別れを口にする。
「俺は余所者どもを皆殺しにする。
この村をめちゃくちゃにした奴らを全員殺す。
だが、それでもこの騒動が収まらなかったなら……」
そのときは、率先して自死を選ぶしかないのだろう。
村人たちは家族同然。
女王感染者とやらが、剛一郎自身ではないとどうして言い切れる。
必死で生き残った正気の村人を全員殺し、自分こそが元凶だったと判明すればどのツラ下げて親父やおふくろの元にいけばいいのか。
こんなことになるまで、村長を止められなかった責任は剛一郎にだってあるのだから。
館内には、避難所設営のために呼び寄せた仲間が何人か残っているはずだが、
誰も剛一郎を止めに現れないということは、そういうことだと思うしかない。
あるいは、騒動が終われば元に戻る可能性があるだけ、よかったのかもしれない。
せめて彼らにかち合わないように、非常口から外へ出る。
村はずいぶん発展したが、彼方に見える一際大きな山も、夜空一面に輝く星も、あのころとまるで変わらない。
けれども、耳を澄ませれば悲鳴や、呻くような声が風に乗って運ばれてくる。
この村はもう終わってしまったのか。
いや、終わらせないために行動するのだ。
公民館の敷地を出たところで、ふと、立ち止まる。
村の未来のかたち、その話が三人の間で一応決着がついたのは、三十余年ほど前のことだったか。
あの日、三人で誓いを立てた。
その言葉が、記憶の中からよみがえる。
■
『俺はやるからな!
俺の手で、この山折村を日本の中心にするんだ!
山折村の名を、俺たちの誇りを、全国に、全世界にひろげるんだ!』
『キミだけに任せておけるワケがないだろう?
ふん、まあいいさ。お上に睨まれないように、僕が手を貸してあげるよ。
山折村の発展は神楽家の尽力あってこそのものだと歴史に刻み込まなければね』
『バカ野郎! お前ら二人だけで村を動かせるなんて思ってんじゃねえぞ!
村のみんなの同意を取ってこそだろうが!』
『なんだ、剛一郎は俺の夢に乗るのは反対か?』
『んなこと誰も言ってねぇよ!
発展に付いていけないヤツ、発展にかこつけてやってくる悪党、そんなやつらが出ないように守りを固めろってコト…。
あー、いい、もういい! そこは俺がどうにかする!
お前らの未来ってヤツが仮に失敗しても、俺がフォローしてやる!
後ろは俺に任せろ! 俺が村を守ってやる! お前らは前に進め!』
■
日が高く昇り、心地よい風の吹く、夏のあぜ道の記憶。
高級住宅街が建設される以前の、昔懐かしい田園風景。
三人で誓い合い、掌を重ね合わせた記憶がよみがえる。
死を覚悟したからこそ、走馬灯のように思い出が流れていくのだろうか。
思わず手を伸ばしてしまうも、重ねられる掌はもうない。
まだまだ未熟であった三人。
世間の荒波などまだ何も知らなかった若造だった三人。
その誓い、そして輝かしき未来への期待。
彼らが再び会することも、そしてあのときの誓いが正しく結実することも、もう二度とないだろう。
【B-2/公民館前/一日目 深夜】
【郷田 剛一郎】
[状態]:健康
[道具]:なし
[方針]
基本行動方針:ゾンビも含めて村人を守る、よそ者は排除
1.余所者を皆殺しにする
2.余所者がいなくなっても事態が解決しない場合は自決する
※山折厳一郎はゾンビとなり、公民館の一部屋に隔離されています。
※神楽総一郎はゾンビとなり、公民館の一部屋に隔離されています。
投下終了です
投下します
記憶の奥底された蓋、未だ思い出せない靄の中。
ノイズに包まれた禁断の扉、それがすべての始まりであることを、彼女はまだ知らず。
◆
此度の大地震において崩壊したのは、凡そ老朽化した建物が中心である。
それは当然のことではあるのだが、少なくともこの山折村に置ける学び舎は頑丈であったということであろう。少なくとも崩壊の危機に繋がる損傷は無く、避難所としては便利なものとして扱われた。
だが、バイオハザードが発生した今回の案件においてはそれが仇になった。
一人増えれば二人、二人増えれば三人と、ねずみ算式に増えていく。ましてや家を失った住民の避難所施設として活用されていたのだ、その密集が今やゾンビのうめき声を生み出す巣窟と化しているのだ。
だが、全てが動く屍となった訳では無い。少なくともウイルスに適合し正気を保った者たちは既に事態の打開へと動き出していたのだから。
「……厄溜まり、とは思っていたがこんなパンドラの箱が残っていたとは思わなかったな。」
「それに関してはボクも同感だね。」
その内の二人。既に学び舎より離脱し森の中に身を隠し、茂みのから覗き込むかのように街を徘徊するゾンビたちを俯瞰している。
二人は状況に反し冷静だった。まるでこのような事態が起こることを予測していたように。いや、事実懸念はしていたのだろう。各々の理由は違えど、共通することはこの山折村に隠された真実に辿り着くこと。
「これが、あなたがこの村に来た理由ですか、先生。……いいえ、スヴィア・リーデンベルグ。」
白学ランが目立つ、片目が前髪で隠れた青年が。
スヴィア・リーデンベルグと呼ばれた『先生』に問い掛ける。
その圧は間違いなく一般的な中学生のそれではない。死線をくぐり抜けた歴戦の勇士、並み居る修羅場に適応できる佇まい。
青年、天原創はただの転校生ではない。学園内では年相応にクールぶっているだけで、その実態はこの山折村に調査をしに来たエージェントである。
その天原創が問い掛ける相手は、山折村に新任教師として赴任してきたスヴィア・リーデンベルグ。
16で博士号を取得した、知る人ぞ知る天才。そのような人物が、どうしてこんな村にいるのか。少なくとも天原はそれを疑問に思っていた、彼女が赴任した時点で。
「……違う。と言ってもキミは信じてくれるのかな?」
「少なくとも、あなたがちゃんとした理由を話してくれるのなら。」
目の前の年に似合わない態度をする天原を相手に、スヴィアは平静を保ちながら、その理由を告げようとする。
「未来人類発展研究所、という場所はご存知かな?」
「ええ。人並み……いいえ、人以上は。」
未来人類発展研究所、人類の発展を目的として設立された医療研究開発機構。
人体と言う禁忌を解き明かし、発展と進化の為に日々研鑽続ける、ある意味医療の最先端とも言うべき場所だ。
「……ボクはそこの元研究員でね。といっても一年足らずでクビになったわけだが。」
「貴方ほどの人が、ですか。……そういえば今起こっているウイルス騒ぎ、研究施設から漏れ出したとか言っていましたが。」
「それは関係ないよ。でも、少なくとも辿り着きたい真実の一つだった事は確かかな?」
ウイルスに関わっていたことをスヴィアは否定する。それは恐らく彼女も今回のことで初めて知った事実だろうから。
「……少なくとも、もしそんな事を知っていたら、事前に阻止したかったよ。」
ほんの少しだけ、怒りが混じった口調だと、天原は察した。
今回のバイオハザードは間違いなく地震という自然災害からなる偶発的な現象だ。
だが、彼女の憤りと、あの放送で流れた情報から、恐らくそれが関わっている、という点では容易に想像できる。
「……成る程。大体の事情は察した。」
胸を撫で下ろすかのように、天原が呟いた。少なくとも、あちら側ではないのは凡そ真実だろう。
こんな天才が1年足らずで研究所をクビになるだなんて、まず研究所の連中の程が知れる。だがそこまで馬鹿だとは思わない。少なくとも、彼女を追放しなければならない理由はあると、そう彼は思考した。
それこそ、隠さなければならない都合の悪い真実、そういう類のものが。
「行方が知れなくなった私の親友がここにいるという噂を聞きつけた。だからボクはここに教師として不妊をしてきたわけだが。……結果はこの有様だ。」
話は続く。行方不明になった親友の行方を求めて村にやってきた、という点ではそこまで突出した理由ではない。地震を発端としたウイルス騒ぎに巻き込まれなければ、ではあるが。
「今回のウイルス騒ぎ。それぞれウイルスに適応出来た人間がいるだろうけれど。仮にウイルスが研究所のものだとしたら、これは恐らく脳機能に影響を及ぼすものだとボクは予想してる。」
未来人類発展研究所の目標とは文字通り医療による人類の発展だ。少なくとも、脳機能に関わる部分に手を加えるための部署も存在するであろう。ただし人体の脳の解明という点は、現在の人類の科学力をもってしてもその全貌は解明されていない。精神病治療の為のロボトミー手術も、結局のところ知能を奪うことになったわけで。
故に、さらなる扉を開かんが為にウイルスというブレイクスルーに手を出したのならば。
「……あくまでこれは予想だ。けれど、それでも、もしこれが研究所絡みだったら、所属していた責任は取りたいと思ってる。」
だが、予想は所詮予想。神の視点ならまだしもスヴィア・リーデンベルグという少女の視点からはその全ては伺いきれない。脳機能への干渉を齎すウイルス、それが地震の被害で放出され、村民の殆どはゾンビへと変貌した。その果てに示されるものは、一体何であるのか、それは誰にも想像できない。
それでも、一度関わった以上は収拾を付けないと、掴めなかった陰謀を今度こそ手遅れになる前になんとかしなければ、と。それだけは確かな思いだった。
「これでボクの潔白はある程度証明されたかな? ……最も、止められなかった事を思えば潔白ではないかもしれないか。」
「……いや、大丈夫だ。疑って悪かった。」
少なくとも、この対話の功績は、天原創にとってスヴィア・リーデンベルグは最低限信用に値する人物である、という証明であった。
「それに、もしまだ疑いがあるのなら出来る限り隅々まで調べてもらっても構わないよ。」
「……………い、いや。構わない。十分だ。」
「ん? どうしたんだい? まさか、年頃の女の子相手にそっちの妄想が浮かんでしまったとかじゃないだろうね?」
ほんの少しだけ、天原が視線を逸したように見えた。ナイスバディというには貧相ではあるが、女性としてスタイル自体はそれなりのもの。
もしかしてそっちの考えを一瞬でも考えてしまったのかと邪推し、敢えて追求するように小悪魔的な笑みを浮かべながらスヴィアが言葉を返した。
「……断じて、違う。」
「ふふっ。意外に可愛らしいじゃないか。……?」
言葉ではクールぶっているようだが、間違いなく動揺しているようにも見える。
そんな天原の姿を見て、少しばかりは気が緩んだスヴィア。だが、天原には気が付かなかった何かに気づいたのか、スヴィアの顔が険しいものになる。
「どうした?」
「シィー………静かにして。……誰か此方に近づいてくる。」
「何?」
スヴィアの「誰かが近づいてくる」という言葉。少なくとも天原には何も聞こえてはいない。
だが、嘘をついているような顔ではない。これもウイルスの影響か? などと天原は考えながらもスヴィアの指示に従い物陰に音をなるべく出さずに隠れる。
「……まさか、ゾンビか?」
「ゾンビにそこまでの知能があったら逆に怖いと思うな。大丈夫だ、少なくとも足音の感覚からしてゾンビではなさそうだ。」
「何故分かった?」
「あの放送から、妙に耳が良くなってしまったようでね。……おそらくは。」
あのウイルスに適合したから、と静かにスヴィアは告げる。
脳内に隠された新たな扉をウイルスが開いた、となれば理由としては妥当なものではあるのだ。
「ゾンビではないが、友好的な人物ではないかもしれないぞ。」
「そうかもしれないね。姿が見えるまでは隠れたほうが良さそうかな?」
「その方がいい。だが、もし危険なやつなら……多少手荒な真似をさせてもらう。」
「……わかった。」
天原創はエージェント。人の生死に関わる事柄にも複数関わった事がある。
スヴィアがそれに対してどう思うかは天原からすればまだわからない。
だが、その返答の間の少しの沈黙は、やはりと言うか割り切れるものではない、という証左であった。
(……それに。)
天原としてのもう一つの懸念、女王感染者。
それを殺せばこのウイルス騒ぎそのものが解決するご都合主義(デウスエクスマキナ)。
一人を犠牲に全てが救われる。自分はそれに関しては問題はない。だが、それはまるで―――。
(気に入らない。)
やはり、気になる。放送の言葉の意味はわかる。だが、それで解決したとしても、全ての元凶が捕まる訳がない。女王感染者を殺した所で、根本的な問題は何も解決しない。
(どうするべきか。)
エージェント・天原創。親友を探しにやって来た元研究員に同行し、その先に見る真実は如何様になるか。
禁忌の箱の奥底に眠るものは、未だ何も見えはしない。
●
訳が、分からなかった。
周りのみんながおかしくなった。最初は一人がおかしくなって。
誰かが噛まれておかしくなって、おかしくなって。
お隣さんが、みんなを食べていて。
分からなかった。ただ怖かった。
怖くて、怖くて、誰かが呼んでいる声やうめき声を無視して、飛び出して、逃げて。
逃げて、逃げて、逃げて。強い光のある方へ逃げた。
その光が何か、わからなかったけど。逃げるしかなかった。
なんで光の方へ逃げようとしたのかわからなかったけど、何かがありそう、なんて曖昧な理由で。
もしかしたら、誰かいるかもしれないって、そんな事思って。
私は、おかしくなったみんなから逃げた。
◆
禁忌の箱は開かれて、箱の外は地獄と化した。
混沌が入り乱れる小さな箱庭にて、少女が見た輝きが示すは絶望か、希望か。
未だ、箱の奥底を垣間見るものはいない。
【D-8/深夜】
【天原創】
[状態]:健康
[道具]:???
[方針]
基本.この状況、どうするべきか
1.今のところ、スヴィア・リーデンベルグは信用できる
2.近づいてくる奴は誰だか、もし危険人物ならば、多少は手荒な真似を取る必要はあるな。
3.女王感染者を殺せばバイオハザードは終わる、だが……?
【スヴィア・リーデンベルグ】
[状態]:健康
[道具]:???
[方針]
基本.もしこれがあの研究所絡みだったら、元々所属してた責任もあって何とか止めたい。
1.今は天原くんと共に行動。お年頃だけど年に似合わず冷静だね、彼。
2.誰かが近づいてくるけど、もし危険人物だったら私は……?
【日野珠】
[状態]:健康、焦燥
[道具]:なし
[方針]
基本.今は逃げる。
1.光の見える所へ、もしかしたら誰かいるかも
投下終了します
投下します
「おー、これなんてなかなか良さそうっすね〜」
虎尾茶子は、地面に埋まっている日本刀を見つけると、軽く振ってみせる。
一見戦いとは無縁そうな美女に見える女性だが、それはあくまで一見でしかない。
彼女は、新陰流の派生流派、八柳藤次郎を開祖とする八柳新陰流の、現弟子最強の使い手である。
自宅にある木刀では不安があるなあと思いつつ歩いていた彼女は、地震の影響で武器が露出していることに気づき、今まで自分に合う武器を捜し歩いていた。
「さて、いい刀を見つけたし、出発と行きたいとこっすけど…どうしよっか」
これからの行動について考えを巡らせる茶子。
彼女の両親は、このバイオハザードによりゾンビと化してしまった。
血の繋がった親ではないが、自分を拾って保護してくれた大切な家族。
絶対に戻したいと、思う。
そしてゾンビになった人を元に戻すには、正常者の中に紛れている、女王感染者とやらを殺す必要があるらしいが…
「短絡的に殺して回るってのも考え物よね」
非常事態とはいえ前科者にはできればなりたくないし。
自分のように無事だった者の中に、親しい知人だっているかもしれない。
そう、知人。
まずは知り合いと合流するとこから始めよう。
「となるとまずは役場……いや、神社に行くかな」
茶子は非正規雇用ではあるものの役場の職員だ。
故に、今いる古民家群からも近い役場に行こうと思ったが…あることに気づき神社に向かうことにした。
神社には、同い年で現職場も同じの腐れ縁の友人…犬山はすみがいるのだ。
神社は山に囲まれた場所に建っており、出入り口が一本しかない場所。
まだあそこに残っていたとしたら、ゾンビに囲まれてしまい、自分と違って戦いの心得がない彼女や彼女の家族の身が危ないかもしれない。
まあ、地震で死んでしまっていたり、ゾンビになっていたりすれば無駄足になってしまうのだが。
「ま、その時はその時ってことで!」
ともかく茶子は、神社に向けて出発した。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
「うん?」
古民家群を出て、しばらく歩いた頃。
茶子は、一つの人影を発見する。
その人影は、土木用のチェンソーを構えながら、おどおどした様子で周囲をキョロキョロしていた。
それまで見かけたゾンビになった人間とは明らかに異なる挙動。
自分と同じ正気の人間のようだ。
というよりあの頼りなさそうな顔、見覚えが…
そうだ、あれは…
「誰かと思ったら、遠藤君じゃないっすか。無事だったんすね」
「ひひょえ!?え、えっと、虎尾さん?」
「そんなに驚かなくてもいいじゃないっすか。あたしはゾンビじゃないっすよ」
そういって茶子はずんずん男…遠藤俊介に近づく。
そしてずいっと俊介に向けて顔を近づけ可愛らしくニコッと笑う。
それだけで俊介は、顔を真っ赤にしてしまった。
(いやあ、こんな状況でもいい反応。岡山林業の社長さんの娘が面白がる理由も分からなくもないっすねえ)
遠藤俊介は、ここから更に西に向かったところにある岡山林業で働く青年である。
入社したのは割と最近だが、役場で土木・建築関連の部署についている茶子とは、何度か顔を合わせている。
まあ、この通りの女性コンプレックスぶりなので会っても大して会話は弾まないのだが。
「まあ、からかうのはこれくらいにして。遠藤君も民家集合地を離れてたみたいっすけど、どこに行くつもりだったんです?」
「ああ…その、とりあえず社長のとこに行こうかと思ってて」
俊介の言う社長とは、岡山林業の社長、岡山林蔵のことだ。
社長の家は、事務所の近くに構えているため確かにこの古民家群から離れる必要がある。
だが、岡山林業は西、神社は北にあるので方向が違う。
「うちは神社に行くので、方向が違うっすね。じゃあ、ここでお別れってことで」
そういって茶子は、一人で神社へ向かおうとしたのだが、
「ま、待ってください!」
意外にも俊介の方から、呼び止められた。
「じ、自分も虎尾さんについて行きたいのですが、ダメでしょうか?」
「え、あたしに?」
「はい、こんな物騒な状況でせっかく出会えたのですし、一緒に行動した方が、何かと安全でしょうし」
「でも遠藤君、社長のとこに行くんじゃないんですか?」
「…冷たい言い方になりますけど、ゾンビになってるかもしれないですし、仮に無事だったとしても社長は僕がいなくてもどうにかなるでしょうし」
「………」
茶子は考える。
彼女自身は、戦う力を自前で十分なほどに持っているし、俊介が戦力的に頼りになるとも思えないので、正直こちらにメリットがない。
とはいえ、こんな状況だしついてきたいというなら別に構わないとも思う。
(でも、な〜んか引っかかる)
遠藤俊介は、非常に強い女性コンプレックスの持ち主だ。
山折村に戻ってきて林業についたのも、女性職員が少ないだろうからなのではないかと噂されているくらいだ。
そんな彼が、緊急事態とはいえ、女性で、しかもミスコンで優勝する程度には自他ともに認める美貌の自分に、本来の目的地を諦めてまで同行を求めてくるなど。
いつもの俊介なら、これ幸いと自分から離れていこうとしそうなのに。
「遠藤君、なんか隠してない?」
「い、いいいえなんにも?」
うわあ、嘘が下手だなあ。
「教えてくれないと…こうだよ?」
茶子は、俊介の両頬に両手を重ねて挟む。
俊介は、目をつぶりながら沸騰したように顔を真っ赤にさせた。
「教えます!教えますから離れてください!」
「君はチョロいっすねえ、遠藤君」
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
「男が女に見える〜?」
「はい、今、僕の目は、ゾンビ化した人も含めて全ての人が女性に見えてしまう状態なんです」
「…ムッツリ」
「ひどい!?」
遠藤曰く、近所には男性もいるはずなのに、道中見かけたゾンビと思われる人は全員女性で。
しかもその中には、女性にしては妙に背が高かったり、男物の服装のものがいて。
それで、男性の姿が女性に見えてしまっている状態に気づいたらしい。
(ゾンビにならない正常な状態になった代わりの代償ってやつ?)
自分たち正常者にそんなものがあるという説明はなかったはずだが。
もしかすると、気づいてないだけで自分にも何か異常が起こっているのだろうかと、茶子は考えた。
少なくとも俊介と同じ症状は起きていないはずだが。
「周りに女性しかいないこの環境じゃ、とても一人で生きていけない!だから一刻も早く同行者が欲しくて…虎尾さんを利用しようとしてました、ごめんなさい」
「でも女性に見えるっていっても元々は男でしょ?そんなに綺麗でもないんじゃないっすか?」
「そんなことないですよ、普通に可愛い人多かったです。それに…背格好から男性と思われる人は、例外なく胸が大きかったです」
ピクッ
「…へえ、胸が」
「はい、僕、胸が大きな女性は特に苦手で…近づかれるだけで鼻血出してぶっ倒れてしまったこともあるくらいなので…」
プッツン
「ふううううん、それってつまり、ちっさいあたしなら一緒にいても平気ってことっすねぇ!?」
「え、ええ!?い、いや、そんなつもりじゃ…」
「そんなこと言う遠藤君は、こうっす!」
キレた茶子は、俊介の背後に回ると、彼を羽交い絞めにした。
近づくどころか、思いっきり密着された俊介は、理性が持たず…
ピュルウウウウウ
思いっきり鼻血を吹き出した。
「なんだ、鼻血出るじゃないっすか」
「…そりゃ、これだけ密着されたら胸とか関係ないですよ」
「まだ言うか!」
その後、なんとか茶子の密着から解放された俊介は、普段から大量に常備しているらしいポケットティッシュで鼻を拭きながら、げんなりとしていた。
そんな彼を見ながら茶子は、ふと思い出したことがあって聞いてみた。
「…そういえば遠藤君、岡山社長の中学生の娘さんから日常的にスキンシップを受けてるって噂で聞きましたけど…まさかJC相手にも同じ反応なんっすか」
「……そんなわけないじゃないですか」
露骨に目を逸らされた。
マジかこいつ。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
結局茶子は、俊介の同行を許すことにした。
JC相手に欲情するほどの童貞男を、一人女性地獄の中歩かせるのは、さすがに不安すぎた。
このまま一人で岡山社長のとこに行かせたとして。
ゾンビ化した女体化岡山社長46歳(巨乳)がおっぱい揺らしながら襲い掛かってきて、哀れ遠藤君は鼻血をまき散らしながらぶっ倒れて無抵抗で殺されちゃいました☆
…などという情けない未来が容易に想像できてしまう。
そんなことで死なれてしまっては、こちらも寝覚めが悪いというものである。
「でも遠藤君、神社に行って大丈夫っすかあ?」
「え?」
「…神社の人、奥さんも二人の娘さんも、おっぱい大きい美人さんっすよー」
「が、がんばります」
【E-5/古民家群から西/1日目・深夜】
【虎尾 茶子】
[状態]:健康
[道具]:日本刀(装備)、木刀
[方針]
基本.ゾンビ化された人は戻したいが殺しはしたくない
1.神社に行って犬山はすみやその家族を保護する
2.遠藤俊介と行動
3.自分にも遠藤みたいな異常が?
[備考]
※自分の異能にはまだ気づいていません。
【遠藤 俊介】
[状態]:心拍数上昇(小)
[道具]:土木用チェンソー(装備)、ポケットティッシュ
[方針]
基本.とりあえず死にたくはない
1.虎尾茶子についていく
投下終了です
投下乙です
>輝かしき夢の結末
村の重鎮たちの腐れ縁とも言える友情がこんな結末を迎えようとは
過去回想からも全員がそれぞれ熱い思いを抱えていたことが分かってなおさらおつらい
自殺すら考えている剛一郎の覚悟がどうなるのか
>匣の奥底に見えるもの
流石エージェントである天原君は冷静で中学生なのに頼りがいがある
研究所を知る先生はかなり重要そうですね
そこに珠ちゃんがどう絡むのか
>レディハザード
日本刀が生えてる村、武器商人さんは何ちゅうことをしてくれたんや
日本刀を手に入れた虎尾に戦力的にはかなり安心だろうけど
遠藤が異能のせいでだいぶ行動に制限が掛かって大変そうだなぁ
>>299
申し訳ありませんが、予約は予約スレでお願いします
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/16903/1669810644/
それでは私も投下します
山に囲まれた景色が嫌いだった。
見渡す限りの風景はどちらを向いても山に阻まれる。
それがまるで自分を捕える檻みたいで嫌だった。
村長の息子。
それがこの閉じられた田舎町『山折村』の中で与えられた山折圭介の立場である。
長男である圭介は、いずれ村長の座を引き継ぐことになるだろう。
それは生まれた時点で決定づけられた運命であり、周囲もそれを期待していた。
彼にとってこの村は逃れられない檻だった。
その折り目が変わったのは、父が村長の座についてからだった。
伝統を重んじる祖父の方針を良しとせず、父は村をより良くしていこうと様々な改革を打ち出し村の開発を進めていった。
畑と山しかない牧歌的だった景色は、開発の波に呑み込まれ新しい風景に塗り替えられて行った。
変わりゆく街並み。
田畑ばかりだった牧歌的な田舎町は、商業施設と高級住宅が珍しくなくない景色に変わって行った。
嫌いだった街並みが変わって行くのに、どういう訳か心の中にはどこか寂しさがある。
何もかもが変わってゆく。
見上げた星の瞬きすらも、時と共に変わってゆく。
自分たちが大人になる頃には、この世界はどうなっているのだろう。
その不安と恐怖に立ち尽くしてしまいそうになる。
「――――変わらない物はあるよ」
その手が柔らかな感触に包まれた。
不安を取り払うような暖かな体温が伝わってくる。
ずっと好きだった少女。
長年抱えてきた想いを通じ合わせ恋人となった少女。
このぬくもりを離さない。
彼女と共にずっとずっと生きてゆく。
何があろうとも、何がどう変わろうとも、彼女だけはずっと自分の隣にいる。
それだけは変わらないのだと。
そう信じて疑わなかった。
■
夏も始まろうと言う6月。
すっかり夜も更けた時間の事だった。。
街の明かりが消え空に浮かぶ星の瞬きが強まった頃。
いつものように、圭介は2階にある自室でくつろいでいた。
「…………ん?」
最初に気づいた異変は、小さく揺れるカーテンの動きだった。
窓が開けっぱなしだったかなと、椅子から立ち上がろうとしたところで、ガタンと世界が揺れた。
それがなんであるかと言う気づきよりも先に、恐ろしいまでの振動が大きなうねりとなって壁や家具を揺り動かした。
「っ!? ぁあ…………!?」
少年は慌てて安全な体制を取ろうとその場に屈みこんだが、それがなんの抵抗になろうか。
まるでミキサーの中でシェイクされているかのようだ。
めくれ上がったカーテンの隙間から外の景色が覗く。
田舎町の夜を彩る静寂は壊れ、波みたいに大地が揺れ動き、これがかつてない程の大地震であると知らせていた。
いつ世界が崩壊してしまうとも分からぬ恐怖。
それがどれほどの時間続いていたのか。
「………………………………収、まった……?」
永遠に続くのではないかと思われた揺れが、ようやく収まった。
恐る恐ると言った風に顔を上げて周囲を見る。
部屋の中はかき回されたように崩れ悲惨なありさまだった。
ゲーム機や漫画本が撒き餌みたいにばら撒かれ、勉強机の引き出しは飛び出し中身がぶちまけられている。
ひとまず自身の無事を確かめる。
何処かに打ち付けたのか、多少の打撲はあるが目立った怪我はなさそうだ。
まだ生きている。
それを確かめ、深呼吸して心を落ち着ける。
酷い地震だった。
たしか父は公民館にいるはずだ。
リビングいるはずの母は無事だろうか?
圭介は入り口を塞ぐように倒れていた本棚を起こし、扉も閉めずに部屋から飛び出る。
「お袋! 無事か!?」
慌てたように階段を下りながら、リビングに向かって声をかける。
そこには、ぐちゃぐちゃになったリビングに佇む母の姿があった。
ひとまず大事はなさそうである。
「……圭介!? 私は大丈夫だけど。圭介は怪我はないの?」
「ああ。大丈夫だよ」
よかったと、母は胸をなでおろす。
「そうだ…………お父さん、お父さんに連絡しないと」
顔を蒼くしながら、母がリビングに落ちていた電話の子機を拾い上げる。
その様子を見て、圭介も思い出す。
「そうだ………………光っ」
思い出したようにポケットに入っていたスマホを取り出す。
短縮をコールするが、先ほどの大地震の影響だろうか、一向に繋がらない。
哀野 雪菜
日野 珠
書き手枠
山岡伽耶
で予約します
「くそっ……! お袋、悪いがちょっと出てくる」
片づけを手伝おうともせず圭介は駆け出す。
母も電話が繋がらないのか、子機から耳を離し圭介に向かって叫ぶ。
「こんな時にどこに行くの圭介!?」
「近所の様子を見に行くだけだよ。周囲の安否確認も村長の仕事だろ?」
母が引き留めるのも聞かず、玄関へと向かう。
地震で落ちた玄関に備え付けの懐中電灯を拾い上げ、軽くスイッチをオンオフして動作を確かめてから外に飛び出した。
夜の街を走る。
備え付けられた街灯は幾つかが折れ曲がり、不気味に点滅していた。
圭介の住まいは高級住宅に並ぶ一軒家で、周囲はここ数年で作られたばかりであるため耐震構造はしっかりしている。
目に見えて崩れた建物は少ない。
だが、旧家ばかりの民家群の被害は如何ほどか。想像するだけでも恐ろしい。
彼女の家はそれほど遠くない。
少し走って角を曲がればすぐにつく距離だ。
だが、角を曲がる前に向こうから懐中電灯の光が近付いているのが分かった。
それが何者であるかを認識して叫ぶようにその名を呼んだ。
「光ッ!」
「圭ちゃん!」
日野光。
圭介の恋人であり、探し求めていた相手である。
駆け寄った恋人たちは互いの無事を確かめるようにヒシっと抱き合う。
「大丈夫か!? 怪我はないか?」
「うん。私は大丈夫。家族も無事だよ。圭ちゃんは?」
「ああ俺も無事だ、お袋も大丈夫だ」
「そっか。よかっ、た……」
言ったところで、光の体がふら付いた。
慌てて倒れそうになる体を支える。
「……光? どうした?」
「ゴメン……なんか頭がぼーっとして」
「……大丈夫か? やっぱりさっきの地震で頭でも打ったんじゃないのか? それともまさか熱でもあるんじゃ……」
そう言って圭介は熱を測るため光の前髪を掻きあげその額に触れる。
「ッ!?」
だが、触れた瞬間、驚いたように手を離した。
発熱はない。
いや、発熱どころか熱がない。
光の体は、まるで死人みたいに冷たかった。
冷水にでも浸かっていたのだろうか?
この初夏に?
それを問い質そうとしてところで。
どこからともなく響いてきた。
『…………聞こえ……るだろ……か…………』
ノイズ交じりのその声が。
■
放送が終わる。
それは、荒唐無稽な内容だった。
村の地下で秘密の研究がおこなわれてきた?
ゾンビになるウイルスが漏れだした?
訳が分からない。
とてもじゃないが真に受ける方がどうかしているような内容だ。
この村には訳の分からない陰謀論を声高に喧伝するイカれた連中が少なくない。
地震と言う人々の不安を煽る出来事が起きた直後だ。
これもその一つである可能性は高い。
こんな内容を思わず信じてしまいそうになったのは圭介も地震の直後で心が不安になっていたからだろう。
落ち着け。この状況だからこそクールになれ。
訳の分からない放送に惑わされている場合ではない。
余震や二次災害に巻き込まれぬよう自分たちの安全確保が最優先だ。
まずは体調の悪そうな光を休ませなければ。
「光。親父が避難準備を進めているはずだ、それまでひとまず俺の家で休もう。そっちの方が近い。
オジさんやタマとは避難所に向かう時に合流すればいいさ」
光は頭を抱えて苦しそうな様子のままだ。
それでも圭介に応えるように気丈に笑顔を作る。
その手を引いて歩き出す。
伝わるその手の冷たさに、言いようのない不安を抱えながら。
「少しだけここで待っていてくれ」
家の前までたどり着き、繋いでいた手を離す。
光は俯いたまま返事はない。
その様子を不安に思いながらも、玄関先に光を残して脱出口確保のため開きっぱなしにしていた玄関を潜った。
「お袋!」
そのまま駆け込む様にリビングに飛び込む。
だが、そこに在ったのは既に終わった光景だった。
「なんだよ……これ…………?」
地震によって荒れ果てたリビング。
そこにいたのは変わり果てた母の姿。
いつも穏やかだった母がうーうー、うーうー、とゾンビみたいに呻いてた。
ゾンビは侵入してきた圭介の姿を認めると、ギュルリと首を回して視線を向ける。
白目を剥いた理性のない瞳、その口がボタボタと涎を垂らしながら大きく開かれた。
「うわぁああああ!!!」
マヌケな悲鳴を上げて後ずさる。
地震で崩れた家具に足元を取られ、スッ転んだ。
転んだ圭介に向かって、ゾンビが迫って来た。
倒れた状態では逃げようがない。
牙をむいたゾンビが迫る。
「……やめろ、嫌だ! 『来るな!!』」
そう叫んだ瞬間、ゾンビの動きがピタリと静止した。
何が起きたのか。
戸惑いながらも、相手の動きを警戒しながら恐る恐る壁に手を突き立ち上がる。
「…………なんだ……今の感覚?」
自らの手を見る。
奇妙な感覚だった。
何がどうあった訳でもないのに。
”自分がそう出来る”と分かった。
静止しているゾンビに手を向ける。
「…………『座れ』」
ゾンビが跪く。
まるで王に傅く様に。
これまで存在しなかった三本目の腕が生えたような感覚。
体の一部を動かすように、その異能を操れた。
放送を思い返す。
呆けている場合ではない。
ゾンビが生まれるというあの話が与太話ではないとしたなら、外に残してきた光が危ない。
傅いたままの母を残して、踵を返して玄関へと走り出す。
「光………光っ!! ひ……そん、な…………」
「ぅ……………ぅ……ぁあ………ッ」
だが、圭介を出迎えたのは母と同じように正気を失った恋人の姿だった。
何よりも愛らしかったその瞳は血走り、口元はだらしなく開き涎を垂れ流している。
性質の差か、母のゾンビと違っていきなり襲い掛かってくることはなかったが、曖昧に呻きながらその場をグルグルと廻っていた。
その姿を見て、嫌と言う程実感した。
あの放送は真実だった。
世界は終わり、この村は地獄と化した。
ならば、その解決方法は。
固く拳を握りしめる。
圭介はまたしても踵を返すと、靴のまま階段を駆け上がって開きっぱなしなっていた自室に飛び込む。
そして、ごちゃごちゃになった部屋を漁り埋もれていた木刀を探り当てた。
これでも地元道場に通い剣道の心得はある。
覚悟を決める。
光を取り戻すためなら、なんだってやってやる。
その決意を示す様に木刀の柄を強く握りしめた。
あの放送は言っていた。
このゾンビ騒ぎには元凶たる女王がいると。
その女王を殺せばゾンビになった人間は元に戻る。
それは絶望の中で差し伸べる一筋の光だ。
その光に手を伸ばす。
「光。俺はお前を絶対に助ける。だからついてきてくれ」
外に出て、待っていてくれた光に向かって手を差し伸べながらそう言った。
その言葉に光が小さく頷きを返すと、伸ばした手を取ってくれた。
その冷たい手を握りしめる。
寄る辺のない夜の街を、二人手を繋いで進んでゆく。
心を包み込むような温もりはなく。
あるのは胸を突くような痛みだけである。
頷いたのか、頷かせたのか。
圭介にはもう分からなかった。
【C-3/山折家/1日目・深夜】
【山折 圭介】
[状態]:健康
[道具]:木刀、懐中電灯
[方針]
基本.VHを解決して光を取り戻す
1.女王を探す(方法は分からない)
2.正気を保った人間を殺す
※異能によって操った光ゾンビを引き連れています
投下終了です
>>324
予約は予約スレでお願いします
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/16903/1669810644/
>>328
了解しました
割り込みしてしまいすみませんでした
投下します
遠くから声が聞こえる。
聞いたことのない少女の声。
「……きて!」
その声に私は耳を傾けたくはなかった。
何故かって? だって私の仕事は汚れ仕事。
ブラックを通り越した深淵のダークネス企業での戦い、
あんなところで仕事をしてストレスがどうなるかなど決まっている。
余裕で限界値迎えるに決まってるわ。なので休暇は全力で満喫するべし。
ラーメン好きにとっての聖地でラーメンを堪能し、酒を飲んでゆっくり過ごす。
たまらなくいいものよ。福利厚生はしっかりしているので居心地は悪くないし。
『おら何やってんだよ早く来い!!』
『今すぐその鼻っ柱圧し折ってやろうじゃねえか元暴走族!』
『おい美羽とオオサキがやべえぞ!
このクソ面倒な時に乃木平はどこ行った!』
いや、言う程あそこって居心地よくはない気がするな。
何考えてるか分からない奴に皮肉屋ととにかく曲者揃いのSSOG。
程々に付き合えるということは、自分も曲者の一人とは受け入れていたが。
とは言えなんだかんだ楽しく過ごせているので、まあよしとしましょう。
仕事はきついけどその分ちゃんとした報酬が支払われるのがいいのだ。
どうか永遠にこういう日が……いや殺しの仕事はやっぱ少なくしてください。
「起きてください! 此処は危険ですから!!」
「え。」
聞き捨てならない言葉にバッと起き上がる女性。
彼女の名前は小田巻真理、SSOGに所属する特殊部隊の一人。
ではあるのだが、今は休暇を満喫して過ごしていたただの女性に過ぎない。
彼女を道路上でゆすっていたのは、彼女より幼いボブカットの少女だ。
バッと起き上がったこともあって、動揺の色が見受けられる表情をしている。
「あの、大丈夫ですか? 何でこんなところで倒れてたんですか?」
彼女の身体を見ても怪我らしい怪我をしてる様子はない。
出血もなければ擦り傷もない。違いがあるなら汚れた右腕とその手に握られた機械だけ。
被災したにしては少し状況が特殊で、不思議に思えてならない。
「ちょっと待って、今思い出すから。」
頭に左手を当てながら、眠る前の意識を呼び覚ます。
それは地震が起きた直後の出来事まで遡る。
地震が起きたまでは酒の酔いはあれど鮮明にあった。
そこから糸を手繰り寄せるように先の記憶を振り返る。
「急いで連絡しないと!」
地震の揺れが収まった直後、
冷静な対応を以って連絡を取ろうとした。
此処まではいい。我ながら華麗で迅速な行動だと。
だが余震によってあっさりそれを手放し、ドブの中へと落とす。
一瞬の沈黙。現実を受け入れたくないかのように瞬きを繰り返し、
「連絡手段ンンンンンンンンンンッ!?」
女性が出していいのか怪しい奇声を上げ、
ドブに落ちたそれを素早い動きで回収する。
今以上に大事なことがあるだろうと言い聞かせ汚れることは覚悟した。
ドブの中から出てきたそれは、最早その役割を放棄し天に召されている。
何も反応しないそれを一瞥し、青ざめた表情で空を見上げ崩れ落ちそうになった。
「あ。」
泣きっ面に蜂とはこのことか。
追加の余震。揺れ自体は大してなかったが、
無防備でいた彼女の身体をもつれさせるには十分だ。
仰け反った彼女の後頭部にまだ形を保っていた塀へと直撃。
忘れたい現実の記録を彼方へと飛ばそうとしながらそのまま崩れ落ち、
意識を落とした……以上、回想終わり。
「現実逃避してました。」
「現実逃避で外で睡眠!?」
ポンコツの極みのような展開に膝をつく。
こんなことあってたまるかと言いたくなる不幸の連続。
不幸中の幸いは、追加の地震で怪我をする前に起こされたことだ。
仮にも特殊部隊の一人でありながらとんでもない醜態をさらした自覚はある。
流石に外で寝るような変人と思われたくないので軽く事情は説明しておく。
「……コホン。それで、あなたは何をしているの?
民間人は避難誘導に従うべきだから学校や公民館、
そういった場所に向かうはず。此処にいたらだめじゃない。
いや、いてくれたおかげで私としては助かっていたわけだけど。
それそれとして救助する人が困るのだからしちゃだめなことよ、分かる?」
気を取り直して、大人の対応を見せる小田巻。
今更取り繕ったところでもう遅い気はするものの、
無茶をする子供を放っておくと言うのはいただけないことだ。
「あ、もちろん分かってるのですが……そうだ。優夜ー! どこに行ったのー!」
彼女、朝顔茜は元々避難所となる学校へ一度は向かっている。
そこで腰を落ち着けていたのだが、友人の一人である嶽草優夜が出て行ってしまう。
彼曰く近所の避難できてない人がいたことに気付いて捜索しに行くことを選んだ。
元々厄介事を引き受けてしまうとは言え、流石に今回は自分達が出るべきではない。
だから彼を止めようと追いかけたものの、彼の脚力に追いつかずはぐれてしまった。
この辺りが近所である為、恐らくこの辺にいるはずなのだがまともな返事はこない。
「学校には氷月さんもいなかったみたいだし、本当にどうなっちゃうんだろう。」
いくらクラスのムードメーカーと言う立場でも、常軌を逸した状況に身を置かれている。
住んでいた家も崩れてしまい、仮に助かったとしてもこの先やっていけるのだろうか。
寧ろ、生きて此処を出られるのかと言う不安がどんどん全身を包むような感覚だ。
不安に怯える彼女の肩を小田巻が掴む(流石に左手だけで)。
「大丈夫よ。きっと自衛隊が救助に来るから、
大人しく避難先に行きなさい。ユウヤ君だっけ?
彼についても私が探しておいてあげるから、貴女は───」
『…………聞こえ……るだろ……か…………』
希望を手折るように、更なる絶望を知らせる鐘が鳴り響く。
誰かもわからない一人の人物によるメッセージを聞き届ける。
意味の分からないことだと、茜は思わずにはいられなかった。
ウイルスパンデミックなんてものは世間でも何度かあったことだ。
でも、その結果起きたのは自粛だなんだのと言った窮屈な出来事だけ。
アニメや漫画のような、ゾンビが徘徊することになるとは思わなかった。
(まさか、優夜や氷月さんも?)
真っ先に思い浮かんだのは長い付き合いの優夜と、
普段から遊びに誘おうとして断られる氷月海衣の二人だ。
避難所や周辺にいないのは、そう言うことなのではないかと。
先ほどまで探していたがより不安になってくる。もし探したらゾンビだった可能性。
友達から逃げ回らなくちゃいけない、そんな状況を過ごさなければいけないのか。
しかも待つだけでも証拠隠滅によって死ぬ。人狼ゲームのように誰かに首をくくらせ、
女王感染者と言う名の狼一人を見つけ出さなければならない、そんな地獄。
嫌だ。そんなこと絶対にしたくない。『明日も爽やかに』が苗字の朝顔の花言葉。
そんなことをして、明日爽やかでいられるわけがないのだから。
(でもどうするべきか、と言われると……)
結局女王感染者を殺さなければ全員死んでしまうこの状況だ。
自分だけで答えが出ないのであれば簡単だ。皆で考えればいい。
朝顔には『結束』の意味もある。自分だけで背負えることではない以上、
これは誰かと話し合ってからでも決して遅くはないのだと考える。
そう、すぐそこにいる女性の人にだって頼めば相談に乗ってくれるはずだ。
こんな状況でも人を諭せる彼女であれば、きっと。
「───ごめんね。」
小さく呟かれた言葉と共に、
そう思った矢先、彼女の首に回される右腕。
ガッと引き寄せられると、左腕と右腕で首が挟まる。
柔道における締め落としの一つ、片羽根締めだ。
「な、が……!!」
首を絞められ、じたばたともがきだす。
何が起きているのか分からない。普通に接していた相手が、
いきなりこんな凶行に出るのは意味が分からなかった。
ゾンビ? 嫌違う。ゾンビが首を絞めて攻撃するのか。
では放送を真に受けた? そんなことあるのかと思うも、
息ができず、段々と思考する余裕がなくなり意識が遠のいていく。
不安と絶望に襲われる一方、小田巻はと言うと。
(SSOG案件だこれぇぇぇぇぇッ!!!)
表向きは冷徹なSSOG隊員の立ち回り。
しかし内心では必死で慌てふためいている。
放送時、茜とは別方向に彼女は青ざめていた。
裏で何が起きてるかなど最早想像する必要なし。
今裏でメンバーが女王感染者を殺しに此方へ来ている。
何をしても笑顔の蘭木に追い回されたり、暴力的な成田に襲われたり、
大田原源一郎に出会おうものならそれは紛れもない死が待っている。
此処に突入する隊員ガチャは全てがSSR級のやばい奴等しかいない。
誰が来ようとも死ぬ。たとえ自分が同じ隊員であったとしてもだ。
自分が今から生存するには女王感染者を速やかに処理しなくてはならない。
だったら自分がするべきことは一つだけだと迅速に判断した結果がこれだ。
今さっき自分を助けたこの善良なる市民を含めて殺すほかないと。
ただ武器などない彼女にとってできるのはこれ以外ないのだ。
女王感染者の識別方法が正気を保ってる以外の判断ができないのでは、
出会った正気な人間を殺す以外ないのでは仕方ないと申し訳なく思う。
(これがSSOGの深淵だよこん畜生があああああッ!!)
心の中では滝のように涙が出てくる。
乃木平先輩がいつかやるせない仕事とは言っていたが本当にその通りだ。
こんなことを今後もしなくちゃいけないんだよなこの仕事、
なんてことを脳内で愚痴っていると、
「アッチイ!?」
右腕に奔る、焼けるような痛みに思わず手放してしまう。
腕を掴まれいただけなのに、あり得ない高熱に戸惑って距離を取った。
茜は抜け出したことで距離を取りつつ、喉を抑えながらゆっくりを振り返る。
「さっきのほ、放送……本気で信じてるんですか!?」
涙目になっているが、痛み以上に悲しかった。
さっきまで自分を安心させようとしてくれた人が、
いきなり凶行に出たことを。あんな放送を信じてるのだと。
性善説を信じてやまないとかではないにしてもあんまりではないか。
そんな彼女の表情に僅かばかりにたじろいでしまう。
普段の仕事であれば非情に仕事をこなせたはずだ。
しかし今の彼女は不幸の連続に見舞われ突如SSOG案件の仕事の状況下、
加え謎の火傷を前に冷静でいられるのかと言われれば、できていなかった。
初任務を終えたばかりの青二才が先輩方のような機械になれと言うのは無茶な話だ。
「いや、ちが、その……」
もう一度気絶させればいい。
そうしたいのはやまやまなのだが問題は腕の火傷だ。
彼女は何も持っていない。スタンガンもライターも何もない。
じゃあこの火傷はなんだ。一体何が起きたのかさっぱりだ。
やけどの跡から手から起きたものだと言うことはよくわかる。
理由はさっぱり不明だが、彼女に近づくのは得策ではない。
そう自分の脳が警鐘を常に鳴らし続けている。つまり勘だ。
無論、今更になって言い訳などできるわけがない。
恩を仇で返すような真似をした上に、
もし彼女が掴んで今度は火傷で済まなかったら、
お互いに絶対ろくなことにならないのが目に見えている。
此処は退くべきだ。勇気と無謀をはき違えるほど愚かではない。
一度退くべきだと判断した彼女は速やかに逃げを選ぶ。
「あ!」
急いで小田巻を追う茜だが、
一メートル近くある塀をジャンプ一回で飛び越えて逃げる健脚に、
まだ息の荒い彼女ではとでも追いつけるものではなかった。
遠のいていく足音は安心と思うべきか、不安と思うべきなのか。
軽く息を整えれば彼女は走り出す。あの人がもし人を殺してしまえば後戻りできない。
勝てるどうこうで言えば間違いなく勝てないだろう。あの跳躍や先程の技術は、
明らかに普通の人間よりも訓練されてるのは素人の彼女にだってわかる。
でもあの人だってしたくてしてない筈だ。自分の問いに戸惑ってたのだから。
まだ間に合う。あの人を止めなければ、いずれ氷月や優夜にだって危険が及ぶ。
彼女が後戻りできなくなる前に、自分にできることを探すように彼女は走り出す。
(でも、あれは何?)
手のひらから発したそれは何か。
彼女も視界の隅には捉えていたので理解はしていた。
自分の手のひらから熱のようなものが発生し、彼女を焼いたのだと。
走る道中で試しに木の枝を拾い、その力をもう一度確認する。
小枝ともあって、あっという間に消し炭へと変えてしまう。
焼け焦げた枝を眺めながら、彼女は自分の持つ力に青ざめる。
誰かを止めるためにその手を伸ばせば、誰かを焼き尽くす燦然の力。
その手を持って、彼女を止めなければならないのだから。
【E―7/古民家群/1日目・深夜】
【朝顔茜】
[状態]:健康、戸惑い
[道具]:???
[方針]
基本.自分にできることをしたい。
1.何、この力……!?
2.優夜、氷月さんは何処?
3.あの人(小田巻)さんを止めないといけない。
※能力に自覚を持ちましたが、
任意で発動できるかは曖昧です
「あ〜〜〜私は莫迦だあああああっ!!!」
壁へゴンゴンと頭をぶつけながら叫ぶ小田巻。
大田原であれば火傷を受けようとも手を緩めなかったはずだ。
これを知ったら間違いなくボコボコにされる。主にオオサキとかに。
しかも彼女が生きていてはこの先自分の立場はどんどん怪しくなる。
特にラーメン屋の店主曰く外からの客を快く思わない人物もいるとのことだ。
もしその人に飛び火しようものなら自分は村からも追いまわされてしまう。
何人いるか分からない正常感染者を見つけたいのはやまやまではあるが、
あの何かよく分からない力を前に不用意に近づきたくないのが信条だ。
「……何処かに銃、ありませんか?」
か細い声でそんな欲望と切望の言葉を吐き出しながら、
近くの倒壊した家屋を無意味に漁ろうとしだす始末だ。
当然、そんなものはないので物の数分でやめたが。
どこかのブローカーが隠した武器を拾えない。
そういう意味では彼女の不運は、まだ続いてるやもしれない。
【E―8/古民家群/1日目・深夜】
【小田巻真理】
[状態]:右腕が汚れている、右腕に火傷、頭痛(物理)
[道具]:???
[方針]
基本.女王感染者を殺して速やかに事態の処理をしたい
1.やばい。冷静になれないんだけど
2.せめてあの子(茜)だけでも仕留めないと。
3.武器! 無茶だと分かってるけど銃を!!
以上で投下終了です
投下します
Dies iræ, dies illa
solvet sæclum in favilla:
teste David cum Sibylla
私こと山岡伽耶は上機嫌で、レクイエムと呼ぶには景気の良過ぎる曲を歌いながら、公民館に向けて夜道を歩きます。
私の前方3m程の距離を空けて、両手に大きなポリタンクを持った男の人が、私と同じ方向に歩いています。
名前は……何でしたっけ?この混乱に乗じて私に暴行しようとした人ですが、名前は聞いていませんでしたね。道案内と荷物持ちの任を充分に果たせているにで、どうでも良いですが。
このポリタンクは、道すがら農家から拝借して来たものです。やはり農家だけあって、目当ての物が有りましたね。速やかに目的を果たせます。
「まだ着きませんか」
後は目的地に着けば良いだけです。
「……ッまだ……だ、です」
一度善身を震わせてから、怯えた目で此方を見る男の人に、軽い満足感を覚えます。
見るからに暴力沙汰に慣れていそうなだけあって、私と自分との戦力差をはっきりと認識している様ですね。
単なる女子高生にしか見えない相手に、一撃で叩き伏せられて、右の手首が折れる寸前まで、握力を加えられるとか、普通は考えませんからね。
「俺にビビらねぇのか!?」とか何とか鳴いていましたが、全く何も感じませんでしたね。貴方よりも冬美さんの方が余程怖かったですよ?
何だか化け物を見る様な目線を向けて来ますね。こんな目で見られたのは……。私と夏生を大勢で襲って来た人が死んでいくのを眺めていた時にやって来た冬美さん以来
「う〜〜〜ん」
鈴木姉妹と七海さんの事を考えます。
小野先生を殺した時には、手早く済ませましたが、その後の近所の女性は、趣味と検証を兼ねて、割と時間を掛けました。…それでも家から誰も出て来なかった。つまりはそういう事なのでしょう。
全員がゾンビと化したか、ゾンビとなった誰かに殺されたか、どちらかは判然としませんが、彼女達のことは考えても仕方が有りません。
あの家は私を閉じ込める為に設計されていますから、ゾンビが出る事も、入る事もまず出来ないでしょう。出来の良い監獄と思っていましたが、こうなっては感謝ですね。
誰かが入って三人を害する事や、3人が外に彷徨いでて害されることを、気にせずとも良いのですから。
何より、夏生には是非とも生きていて欲しいのですが。彼女がこんな事で死んでしまったら、私は迷い続けて手をこまねいていた事を、生涯悔いる事でしょう。
彼女がどういう顔で私を見るのか。何を言い遺すのか。俊雄さんと同じくらい気にはなりますからね。
「……公民館なんかに、こんなモン持って何しに行くんだよ、避難する必要なんてねぇんじゃないか」
おや、婦女暴行犯が何やら言ってますね。まぁポリタンクの中身は臭いで分かりますしね。それはそれは疑問に思うでしょう。
私は彼の質問に答えるかどうか少し考えて、回答する事にしました。
「公民館を燃やそうと思いまして」
恐怖と驚愕に満ちた視線ですね。私を暴行しようとして、病院送りにして差し上げた方を、お見舞いに行った時のことを思い出します。あの方は無事でしょうか?無事ならばもう一度『遊び』たいものですが。
「イカれてんのかっ!?テメェ!!!」
「大声を出さないで欲しいのですが、ゾンビに気づかれますよ」
いきなり怒鳴り出した婦女暴行犯を蹴飛ばして黙らせます。何かおかしなことでも有るのでしょうか?
無様に転んだ婦女暴行犯は、怒りと屈辱に満ちた眼を向けて来ます。先刻までの傲慢さが微塵もありませんね。傲慢な方にこういう目をさせるのは、大変悦ばしい事だと、以前病院送りにした方で知りましたが、何度味わっても良いものですね。癖になりそうです。
「さっきの放送を聞いていなかったんですか?」
「聞いたからって公民館燃やそうなんて思わねぇよ!!」
何だか完全に怒ってしまわれましたね。冷静に考えると、『この状況』では至極真っ当な手段ですが。
「この騒ぎは女王感染者を殺せば収束します。そして、女王感染者は誰なのか、『判っていません』。
つまりは、最悪自分以外を殺し尽くす羽目になります。ならば、生存者が向かうであろう公民館を焼き払い、生存者を一気に減らします」
「中にいるのがゾンビばかりだったら……」
「外に出る前に処分できて良いのでは?」
「………テメェ」
見るからに社会的に真っ当な人とは思えない人に、こんな眼で見られると、正直言って傷付くのですが。
「まぁ貴方が何を思おうと、貴方と私、何方が信用されるかは明白ですので、無駄な考えは持たない方が賢明ですよ」
どう見ても反社会的なこの方と、私とでは、他人からの信用という点で勝負になりません。
そもそもの話、便利な荷物持ちを手放す気は無いです。公民館に着くまでは。
公民館を燃やせば、次に人が集まる場所は学校でしょう。彼処なら中の構造が判っていますから、『狩る』には困らないでしょう。ゾンビが居れば片付けるだけです。
【C-2/夜道/1日目・深夜】
【山岡伽耶】
[状態]:健康
[道具]:無し
[方針]
基本.皆殺し
1.『出来うる限り愉しむ
2,公民館を燃しにいく
※自身の現在の身体能力を把握しています
ヤベェ……マジでヤベェ………。
格好と顔立ちから、秀から聞いた女だとすぐに判った。いつも誰かしら護衛がいるって聞いていたから、一人でほっつき歩いているなら好きにできると思った。
それがこんなイカレた化け物なんて思わなかった。
後逸はマジで村人を全員殺すつもりだ。俺もそのうち殺られる。
何とかして逃げねぇと。
【C-2/夜道/1日目・深夜】
【木更津閻魔
[状態]:健康 右手首に痛み
[道具]:両手にガソリン詰まったポリタンク
[方針]
基本.生き残る
1.このイカレ女(山岡伽耶)から逃げる
予約時点で書き手枠すでに超過してたのでは?
リレーなんだからもっと他の人の作品とか予約に興味持とうよ……
特に書き手枠とか数が制限されている物を予約するんだから、事前にチェックすべきでしょ
>>342
申し訳御座いません
投下分は取り消します
もう投下もしません
投下乙です
>それでもまだ賭けてみたい
真理は特殊部隊であり村民であるというかなりイレギュラーな立ち位置、特殊部隊の連中と出会った時にどうなるんだろう
SSOG案件とわかるや否や即殺りに行くあたりこいつもネジが飛んでる
友達を気遣う茜もいい子なんだけどゾンビだらけの中でその優しさがどう生きるのか
>◆/dxfYHmcSQ氏
少々確認不足だったのは確かですが、私としては今後確認するようにして頂ければ結構ですので
気が変わりましたらいつでもお待ちしています
和幸、デコイチ(ゾンビ)、暁 和之(ゾンビ)、暁 千紗(ゾンビ)
投下します
実に恐るべき地震であった。
前世における、世界最高峰の大魔導士たちが集っての儀式魔法であっても、あるいは魔王の絶大な魔力であっても、
これほどの大災は引き起こせないだろう。
そして恐るべきは、これにも耐えるこの世界の建築技術よ。
人間の王都ですら一撃で滅ぼすほどの地震を以って、この学び舎は苦も無く耐えきっておる。
つくづく、異世界なのだなあ。
我は豚である。名前は和幸。
鈴のついた首輪をワンポイントのアクセサリとし、白い鼻先がチャームポイントだ。
四方を山々に囲まれた学び舎の裏側。
そこが、我が今生の邸宅である。
先ほどの地震で、邸宅の柵こそ壊れているものの、我はここから逃げ出そうという意志などまるでない。
「かずゆきー!」
ほら、来たぞ来たぞ。
そろそろ来ると思っておったわ。
この世に生まれて800日、もはや聞きなれた人間のおなごの声よ。
「かずゆきー、ほら、だいすきなとーもろこしだぞー!
みんなでそだてたとーもろこし!
かずゆきのためにもってきたんだよー!」
「こら、千紗! 待ちなさい!
そんなに急がなくても和幸は逃げないから!」
「わん、わん!!」
「パパもデコイチも、いそいで〜。
かずゆきがまってるんだよ〜!」
おお、おお、我が至福の時が来た!
両手に袋をぶら下げた屈強な男――あやつは千紗の父親であり、我と同じ名を持つ異世界の格闘家よ。
うむうむ、我と同じ名であるからには屈強なのは当然であるな。
そやつの持つ袋の中から、脳みそすらとろけそうな濃厚かつ芳醇な香りが漂ってきおる。
すい〜と、かつ、えくせれんとな我のための至高の晩餐!
たまらん! ぶっひいいいい!
「わおん!!」
おっと、デコイチも元気そうだな?
これこれデコイチ、じゃれついてくるな。
あとでたっぷり遊んでやるから。
今はだな、この黄金の一粒一粒を味わいしゃぶって舐り尽くすことに我が全生命をかけるのだ。
「わおん……」
待っておれ、腹ごしらえしたら走り込みでも取っ組み合いでもなんでもしてやる。
飼料箱になみなみと注がれていく黄金。
いまかいまかと待ちわびた黄金の海に、頭をうずめる。
うむ、うむ、やはり至高である。
この世界の食物、実に美味い。
我はどれだけ狭い世界で生きておったのか、それをまざまざと見せつけられたわ。
いや、我が邸宅は確かに狭いが、そういうことではないぞ?
本能のままに暴れまわり、仲間の躯を踏み越えて、争いに明け暮れていたころに比べれば、なんと心穏やかな日々であることよ。
下等な人間どもを滅ぼさんと、集落を襲い、男を食らい、女を犯し、赤子を踏みつぶしていた我に、まさかこのような感情が芽生えようとは。
あのころは戦利品として黄金を根こそぎさらっていったが、この目の前に広がる黄金郷に比べれば、路傍の石のようなもの!
まがいものも同然よ!
千紗が我に抱き着いて、足をばたばたさせておる。
こんな姿、前世の我が見たら、なんというだろうな?
腰を抜かして立てなくなるのではないか?
「きっとあとで、じんじゃのおねえちゃんもきてくれるよ!
おねえちゃんもかずゆきのことだいすきだもんね!」
「あのなあ、地震で犬山さんとこは忙しいんだ。適当なこと言わない!」
「くーるーのー! おねえちゃんくーるーのー!」
うむ、我は千紗を信じるぞ。
犬山うさぎは声も見た目も性格も我の好みだ。
思わずしっぽをフリフリしてしまうわ。
鈴をちりんちりんと鳴らしてしまうわ。
ぶひぃ。
千紗はもう少し大きくなろうな。
「ほら、千紗、ぶら下がらない!
和幸も困ってるだろ」
「かずゆきはわたしのことだいすきだもんね〜!
ほらー、パパもとーもろこしー!」
「うん? おいおい、おれもこれを食べるのか?
人間が生で食って大丈夫な品種だったかなこれ……」
「たーべーるーのー!!
すききらいしてたら、おーきくなれないんだぞー! つよくなれないんだぞー!
ぱぱのよーわーむーしー!!」
「よわむし!? 言ったな? パパを弱虫って言ったな!?
それを言ったらおしまいだろうがよ!
見てろ、パパは好き嫌いなんてしないぞ!
千紗よりも和幸と仲良いところを見せてやるからな! なあ、和幸?」
「わん、わん、わん!」
「あーっ! こら〜、で〜こ〜い〜ち〜!!
ひっぱっちゃだめー! パパのとーもろこしもっていっちゃダメ〜!」
我にぶら下がって我の身体を引っ張っていた千紗は、
今度はデコイチにひっぱられて行ってしまった。
とうもろこしの袋をくわえたデコイチを追いかける千紗。
うむ、眼福である。
「お互いに、苦労させられてんなあ」
いやいやカズユキさん、そなたほどではないよ。
いやいやカズユキどの、あなた様ほどでは。
なぜか心が通じ合った気がする。
「パパー、とーもろこし返してもらったよー!」
「わおん! わおん!」
「よし、食うか! 男にゃやらないといけないときがあるからな!」
おう、食え食え。
食わんのなら我がもらうぞ。
■
ぶっふううーー!
「うへえぇぇぇ……」
いったん腹休めだ。
腹に詰めすぎた。
この世の終わりを思い起こさせる大地震に揺られたときはよもやこれまでかと思ったが……。
黄金の山に眼福なおなご。
そして千紗が言うには、我が愛しの聖女・犬山うさぎの来訪が確約されておる。
ちゃんと来るよな? ちゃんと来るよな? ウソついたらふごふごするぞ?
きっと彼女もしこたま黄金を抱えているのだろうなあ。
今宵は学び舎に人が多すぎて、タヌキは来ぬだろうが……。
今度会ったら飽きるほど自慢話を聞かせてやろうかなあ!
うむうむ、幸福の絶頂とはまさにこのことよ。
「ぶぅーっふっふっふ!」
「おいおい、息切れしてんじゃねえか! お前も食いすぎだろ!
誰に似たんだよまったくよお……!」
「ぱぱー」
「わおん!」
「あのなあっ!」
今思えば、本当にあのときが幸福の絶頂だったのだなあ。
■
どこからともなく流れてきた声、その内容は半分も理解できなかった。
だが、ゾンビに関しては前世の知識がある。
大地からあふれ出した瘴気にあてられることで、ヘタをすれば都市ひとつ丸ごとアンデッドの巣窟になるという特級の災害。
こうなれば、オークだろうがゴブリンだろうがオーガだろうが関係ない。
それこそドラゴンですら抗えないと聞く。
人間ではひとたまりもないだろう。
犬ももちろん、そして当然我も例外ではないだろう。
「千紗ぁ……、う、がああっっ、あぁ、はぁ、しっかり、しろ……。
パパが、ついてるから……」
「ぱぱ……でこいち……さむい、よ……」
「くぅん……くぅん……」
そうか。人間は寒いのか。
我は、身体が燃え盛るように熱い。
勇者の剣で身体を斬り裂かれ、一度目の生を散らしたあの瞬間のようだ。
どくん、どくんと心臓の鼓動が大きくなるのが分かる。
たしか、耐えられぬものはゾンビになると言うたか。
前世の罪は前世の罪。
勇者に殺されたとき、我の前世の罪はすべて洗い流されたのだろうと思っていたが。
まさか、黄金の海に頭をうずめることが許されざる罪なはずがあるまいに。
もっとも、死というのはいつも突然訪れるものだ。
短いながらもよき友に恵まれた、心穏やかな生涯であった。
そうして目を閉じていたが……。
「お、前! 和幸か!?」
和之の声に、再び目を開ける。
身体の熱さが引いている。
和之と千紗、そしてデコイチが縮んでいる?
いや、違う。柵は踏みつぶせそうなほどに低く、学び舎もまた、いくぶんか縮んでいるように見える。
そうか、我は適応したのか。
そして、彼らは適応できなかったのか……。
「う、うがあああっ!!」
我の知識では、鍛え上げた肉体を以ってしても、高潔な精神を以ってしても、亡者となるのは避けられない。
和之は、千紗やデコイチとは耐性の差があるのか、それとも単に肉体が大きくて進行が遅いだけなのか。
だが、遅いか早いかの違いだけだ。
彼も、いずれ亡者となるのだろう。
「な、なあ、和幸。お前、無事だったのか……?
も、し、おれの言葉が、通じるんなら……!
ぎぃっ!! はぁっ、はぁっ!
いま、すぐ、おれ、を、殺せ!
娘に、手を、かける……ッ!! 前に!! 殺せええぇぇっ!!!!
そして、どうか、ちさ……を……
グワアアァァッ!!!!」
それが、和之の遺言であった。
我と同じ名を持つ誇り高き勇士よ。
そなたの誇り、聞き届けた。
我は一息に木の柵を引き抜き、和之の心臓目がけて突き刺す。
「ガァアアアァァ……ッ!!」
びくりと痙攣し、それっきり和之の動きは止まった。
和之が千紗を殺すことはない。
だが、デコイチが、血に飢えたオオカミのように、千紗の肉を噛みちぎっている。
仮にデコイチがいなくとも、学び舎の表に集まっているであろう亡者たちに食い殺されるだろう。
もはや、助かるまい。
ならばいっそ、苦しまぬように送ろう。
我が最愛の友たちを、この手で送ろう。
■
二人の小さな友の命を絶ち、その肉体を丁重に寝かせる。
なつかしき肉体だ。
だが、肉体こそ精強であるものの、気の向くままに暴れていたあのころのようには動かせない。
平和な生活に慣れ切り、勘も技術もなまりきったらしい。
もはや人間を襲って食らっていたあのころに戻る気もなければ、戻れることもないだろう。
この村には、少し馴染みすぎた。
千紗ほどではなくとも、我と親交のある者たちもいる。
犬山うさぎはどうなっただろうか。
彼女は村の中央に佇む、神社と呼ばれる聖殿に住むと聞いたことがある。
もし彼女もまた、亡者となり苦しんでいるのであれば、友たちの元に送るべきかもしれない。
いずれにしろ、三度目の生だ。
風の吹くままに、進んでみるのもいいかもしれない。
飼料箱に入った、ずいぶんと狭くなった黄金の川。
掌に取り、一粒一粒を噛み締める。
姿は変われど、至福であることに変わりはない。
けれども、何かがぽっかりと抜け落ちたように感じる。
まだ袋に入ったままの黄金を手に取り、柵を片手に学び舎の塀を越える。
北西に広がるのは、緑の海。
ざあざあと風に揺れてこすれる穂の音が、どこか寂しく感じられた。
【C-7/小学校北西/一日目 深夜】
【和之】
[状態]:健康
[道具]:とうもろこしの入った袋、木の柵
[方針]
基本行動方針:風の向くまま、村を散策する
1.犬山うさぎの様子を見に行く
2.亡者になった知己は解放してやる
※デコイチ(ゾンビ)、暁 和之(ゾンビ)、暁 千紗(ゾンビ)は死亡しました。
小学校裏の飼育小屋に遺体が葬られています。
投下終了です。
ゲリラで投下します
痛い。
頭が痛い。
だけど、嫌な気分じゃない。
だって、知っているから。
この痛みは、私とあの子の、絆の証だって。
目を覚ますと、私が私を見つめてました。
なんで?なんで?二人いる?私が?
そこにいる私は、だけども私とは全然違くて。
服を着ておらず何故か全裸で。
肌には沢山の生傷があって、薄汚れていて。
だけど顔は、私に瓜二つで。
―ああ、そっか
そこで私は気づいた。
目の前のそっくりな女の子の正体に。
―やっと、会えたんだね
赤ん坊の頃、両親によって捨てられた双子の妹。
それが、目の前のそっくりな少女なんだと、熊田清子は確信した。
―こんなに傷だらけで、泥だらけで
―大変だったよね、苦しかったよね
―でも、大丈夫
―私はあなたを捨てたクソ親とは違う
―私はあなたを捨てない
―両親が拒否したって知るもんか
―もし一緒に住むことを拒むなら、こっちから出ていって二人で暮らそう
意識が、遠くなる。
もっと話がしたいのに、瞼が重い。
―ごめんね、ちょっと眠るから、またお話ししようね
―目が覚めたら、これまで一緒にいられなかった分、いっぱい思い出を作ろう
―一緒に学校に行ったり、お買い物に行ったり
―くだらないことで喧嘩して、また仲直りしたり
―あっ、まずはその泥だらけの身体やボサボサの髪を綺麗にしてあげないと
―ふふっ、お風呂で洗いっこしよっか
視界が闇に染まる。
もう愛しの妹の姿が見えない。
だけど、そこにいることは確かに感じられた。
―ねえ、あなたには名前、あるのかな
―あるわけないよね、生まれてすぐ捨てられたんだし
―後で、私がかわいい名前つけてあげる
―まずは、私の名前を教えてあげる
―私の名前は、熊田清子
―私は……あなたの……
「お……ね……ちゃ……だ……よ……」
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
それは、痛みによる覚醒か、あるいは双子の絆の力か。
ゾンビと化した熊田清子は、自分と瓜二つの少女に押し倒された直後、人としての意識をほんの一瞬だけ取り戻し。
そして、死んだ。
【熊田清子(ゾンビ) 死亡】
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
クマカイ(研究所命名)は、少女の捕食を終え、ご満悦だった。
―これが人間のお肉。
―私とそっくりな肌をした生物の、お肉。
―もっと食べたい、もっと味わいたい。
そんな衝動にかられながらクマカイは、ふと、自分の変化に気づいた。
いつの間にか、自分の姿が変わっている。
自分がたった今食べた少女がまとっていた布を纏っている。
そして、布の内側の肌は、生傷や汚れが消えた綺麗なものになっている。
どうやら自分は、食べた少女の肉を、纏ったらしいとクマカイは察知した。
―それにしてもこの布、邪魔だな
普段全裸で活動しているクマカイにとって、身体を包む布…服は、邪魔なものだった
いっそ脱いでしまおうかと一瞬考えたが、
―いや、ここは人間の里
―人間のふりをしていた方が、獲物の警戒心を下げる
クマカイは、並みのクマなら難なく倒せるほどの戦闘力を有し、野生と本能で生きる人の皮をかぶった獣であるが、決して脳筋ではない。
かつての母グマがそうだったように、クマ社会では、強さだけでは決して生き残れないのだ。
集団でクマに襲われれば、有利な地形に敵を誘い込み罠を仕掛け。
片目を失ったヒグマには、死角から攻撃を仕掛け。
そうした狡猾な知恵を持ってして、彼女は生き抜いてきた。
―こいつはすぐに喰ったが、まずは人間を観察するとしようか
―人間の仕草や言語を最低限でも覚え、弱点を探る
―母の背中を見てクマ社会に溶け込んだように
―この人間社会でも、人間に溶け込んで見せようじゃないか
そして最後は、みんなお腹の中。
お腹いっぱい、食べてあげる。
【H-4/森/1日目・深夜】
【クマカイ】
[状態]:熊田清子に擬態
[道具]:なし
[方針]
基本.人間を喰う
1.まずは人間を観察する
投下終了です
投下乙です
>黄金の至福
意外と豚生活満喫していたのねオークくん
しかしそのほほえましい生活もこのVH台無しに、せっかく仲良くやっていたのに悲しい
それはそれとして普通に街中にオークがいるとか他の参加者からすれば怖すぎない?
>刹那の夢
躊躇いなく人喰うとか野生児怖わぁ……
本人は気づいていないが姉を食ってしまったのはかなりの悲劇
清子の姿となったことがどう影響するのかも気になるところ
それでは私も投下します
「きゃ、きゃひぃ〜〜〜〜〜〜っ!!」
グルグルの丸眼鏡の男が素っ頓狂な悲鳴を上げながら、ゾンビだらけの畦道を白衣を振り乱して逃げ回っていた。
彼、与田四郎は運動すらまともにしたことのない貧弱な研究員である。
カフェインで眠気を覚ましながら足りない栄養をサプリメントで補給する生活を送っていては体力など付くはずもない。
そもそも白衣とローファーが運動に適していない。
すぐに息も絶え絶えになって駆け抜ける足が緩む。
「はひ…………はひぃ…………」
完全に体力は尽き、もはや小学生でも追いつけるような速度である。
こうなっては格好の獲物だ。
背後から大量のゾンビがすぐそこまで迫っていた。
残念。敢え無く与田四郎の人生はここで終わってしまった。
と思われたが、次の瞬間だった。
バンと勢いよく四郎の背後にあった掘っ立て小屋の扉が開かれたのだ。
そこから伸びた白い手が白衣の襟首を捕むと小柄な四郎の体を小屋に引きずり込んだ。
そのまま乱暴に放り込まれ四郎は尻もちを付く。
同時に扉が閉まり、外のゾンビたちをシャットアウトする。
外からはガリガリと扉を引っかく音がするが突破はできないようである。
「ハロハロ〜。こんばんは与田センセ」
「は、花子さん!? どうして」
軽い調子で掘っ立て小屋に立っていたのはスーツ姿の麗人――――田中花子だった。
最近村にやってきた観光客で、大した病気もないのに診療所に足蹴く通っていた女性である。
四郎も医師として往診したことがある。
その時、妙に四郎の個人情報を探ってきたので自分目当てで通っていたのではないかと己惚れていたが。
こうして助けてくれた辺り、己惚れでもないのかもしれない。
そんな妄想を支持するように、尻もちを付いたままの四郎に向けて花子から優しく手が差し伸べられる。
「えっ?」
だが、その手を取った瞬間、ぐいと手を引かれたかと思えばひっくり返され、あっという間に地面にうつ伏せに組み伏せられる。
そのまま後手に固められ、後頭部に触れたのは柔らかな胸の感触などではなく、冷たく固い鉄の感触だった。
それが突きつけられた銃によるものだと気づいた瞬間、四郎の体は震えあがった。
「うっ……ぐ!? な、なにを!?」
「ちょっとお話聞かせてもらっていいかしら? 『未来人類発展研究所』の研究員、与田四郎さん」
「な、な、な、な、何の事ですぅ?」
「おとぼけはなしにしましょ。とっくに調べは付いてるのよねぇん。それに――――」
軽い調子から一転、その声が冷たく低いモノに変わる。
「こっちも相棒がウイルスにやられて気が立ってるの。お分かり?」
殺意すら籠った声に四郎は付きつけれらた銃よりも恐怖を感じた。
田中花子は某国に送り込まれたエージェントである。
その目的はこの村にある研究所の調査。
潜入と下調べが終わり、ようやく本格的な調査を行おうという段階になってこのバイオハザードに巻き込まれたのだった。
通常であれば花子もターゲットにこのような強硬手段は取らない。
相手に調査があったことすら疑わせないのが一流のエージェントのやり方だ。
だが、ここまでの緊急事態である。既になりふり構っている場合ではなくなっていた。
「それじゃあ、楽しくお話ししましょうか、与田センセ」
■
尋問、もとい楽しいおしゃべりを終える。
四郎は快く話し合いに応じてくれたため、粗方の事情はつつがなく聞き終えることができた。
話し渋るようなら手足の一つでも打ち抜くつもりだったので少々拍子抜けではあったが。
「……ウイルス研究ね。つまりさっきの放送の内容は正しかったと言う事でいいのね?」
「え、ええ。そうですね。内容としてはだいたい合ってます。まぁ僕も知らないような内容も何点かありましたけど……」
そう僅かに研究者は口ごもった。
「知らなかったって例えば?」
「えっと、ゾンビだの女王だの例えと言うか呼び方は初耳でしたし、後は48時間後に処理される、なんて話とか……」
48時間以内に事態の解決が診られない場合、全てが焼き払われる。
そう言う話だったか。
「その処理の当たるのは誰なのかしら? 研究所お抱えの特殊部隊でもいるの? それとも何か国と取り決めが?」
「知りませんよ。知る訳ないでしょ僕が。そりゃあ警備員くらいはいますけど、軍隊みたいな強力な人達でもないですし」
「ま。そうよねぇ」
この下っ端が上の条約を知っているとはさすがに思ってはいないが、少なくとも与田の知る範囲では研究所にお抱えの兵隊いなさそうだ。
そうなると外部組織という事になるが、この手の汚れ仕事を担う組織にはエージェントである花子にはいくつか心当たりがある。
有力なのは自衛隊の秘密特殊作戦部隊『Secret Special Operations Group(SSOG)』の連中だろう。
人格ではなく能力のみで選出された人外部隊。花子も過去の現場で顔を突き合わせた事もある。
奴らが動いているとなると相当に厄介だ。
「何台もドローンが飛んでたし、恐らくすでに包囲されてるというのは本当でしょうね」
「……ドローン? そんなの飛んでましたっけ?」
はてと組み伏せられたままの四郎が首を傾げる。
逃げるのに必死で気づかなかったのか、そんな惚けたことを言った。
「流石に気づいたでしょ? あれだけ飛び回ってたんだから」
「いやいや、そうだとしてもこんな夜中じゃ見えませんよ普通」
すっとぼけているわけではなさそうだ。そもそも誤魔化す理由もない。
この厚底眼鏡が伊達という事もないだろう。
「そう言えば、VHが発生してから私、目が良くなった気がするんだけど。もしかしてウイルスにはそう言う効果があるのかしら?」
その言葉に四郎は納得したようにあぁと相槌を打つ。
「それは花子さんの『異能』が視力に纏わる見えない物を見る異能だったからですね」
「『異能』?」
「ええ、ウイルスに適応すると脳に新しい機能を扱う器官が生成されるんですよ」
事もなげにそう言う研究者の姿に、エージェントは眉を顰める。
「……つまり、あなた達の研究ってウイルス使った超能力開発だったってこと?」
「いえ、副所長曰く異能はあくまで『本来の目的』の過程に生まれる副産物って話です」
「へぇ。それで? その『本来の目的』って言うのは何なのかしら?」
「知りません」
「あら? センセ、頭に素敵な穴を開けたいのかしら?」
「いやいや! 本当に知らないんですって!
僕はウイルス室の温度管理と実験動物の世話と餌やりが主な仕事で、大した事情は聞かされてないんですよぉ……!」
嗚咽する勢いで四郎が嘆く。
この様子では嘘はついていなさそうだが。
「ねぇセンセ。例えば、研究の目的が生体兵器の開発だったとしたら、あなたどう思う?」
「えっと……どうも思いませんね。僕は研究ができればいいので使用目的はあまり気にしたことはないです」
素晴らしい回答である。
そこは下っ端とはいえ秘密の研究室に招かれる研究者だけのことはある。
頭のネジが外れている。
まぁそれは別にいいとして。
問題はネジの外れた研究者にも秘密にしなければならない研究目的とは何なのか、と言う点だ。
まぁ銃を突きつけられた程度でこうもべらべら喋るような軟弱な男だ。
機密漏洩のリスクを懸念していた可能性もあるだろうが。
「気になると言えば、もう一点。あの放送をしたのは誰?」
VHの発生を知らせたあの放送。
そもそもあれは何だったのか。
「わ、わかりません。ノイズ交じりでしたし」
「だとしても心当たりくらいはあるでしょ? 同じ研究員の誰かなんだから」
あえて聞かせるように突きつける銃口を鳴らす。
その音に震えあがりながら、四郎は命乞いのように声を張り上げる。
「だから、わからないんですって!! 担当セクションによっては顔も合わせませんし、僕は本当に下っ端なんですってばぁ!
研究員を全員を把握してるのなんて所長と副所長、あとは長谷川さんくらいしかいませんよ!」
「…………長谷川? 長谷川ってあの長谷川真琴女史?」
ぶんぶんと首の取れんばかりに頷く。
確か医学界の権威を両親を持つ、脳科学学会の新星だったか。
革新的すぎてお偉方からの受けは悪いそうだが。
「……彼女も関わってたのね。それで? 所長や副所長はともかく、なぜ彼女が知っていると?」
「そりゃあ、彼女、いつも副所長のお付きと言うか秘書みたいな感じで付き添ってますから。重要資料なんかも把握してるはずですよ。
いやまぁ僕もよくは知らないんですけど。研究員じゃなく副所長の愛人なんじゃないかなんて噂もあってですね」
「与田センセ? そういうゲスい噂話が好きなのかしら?」
「あぁすいません! すいません!」
ゴリゴリと銃口で後頭部を弄る。
花子もゴシップは嫌いではないが、今はそう言った下世話な話に興じている場合ではない。
今わかったのは長谷川女史がこの研究に関わりそれなりに地位にいるという事である。
「……ねぇ与田センセ、仮にあなたがVHの発生を見つけたとして、わざわざそれを放送で伝えようと思う?」
「ぜんぜん思わないですね」
「そうよねぇ……」
診療所の地下にある研究所でVHの発生を確認したとして、そこから放送を行える放送室まではそれなりの距離がある。
車を飛ばせば十分に間に合うだろうが、あれ程の大地震が起きた直後に車など乗るだろうか?
まぁ緊急時であれば乗ることも辞さないだろうが。
ウイルスに侵され、どうしても伝えなくてはと言う使命感に駆られて?
そんな真っ当な人間があの研究所にいるのだろうか?
「ま、いいわ」
聞くことは聞いたのか、四郎を押さえつけていた花子が立ち上がる。
組み伏せられていた四郎がようやく解放された。
四郎は息をついて極められていた手首を擦っている。
「どうするにしたってやっぱり、研究所を調べるしかないわね」
VHの解決を目指すにしても情報が足りない。
手当たり次第に生存者を殺していくと言う強硬策は最終手段だろう。
常であれば厳重な警備で忍び込むのは難しいが今であれば警備もザルだ。
忍び込むのは容易いはずだ。
代わりにゾンビが徘徊しているがその辺はご愛敬ではあるのだが。
「と、言う訳で、エスコートよろしくね与田センセ」
「いやいやいやいやいや! VHの発生源ですよ!? 深夜でも研究者は大量に詰めるんですからゾンビだらけですよ!?
だいたい、僕のパスじゃ大したフロアまでいけませんって!」
人的警備がなくなったとしても機械認証は生きている。
爆薬でもあれば強引に突破するのも一手だが、生憎手持ちは軽い工作セット程度でそこまでの用意はない。
まずは四郎のIDパスで調べられる範囲を調べてもいいが、それよりも深く調べられるのならそうしたい所だ。
「さっきの放送、与田センセの知らなかった情報も知ってたってことは、告発者はあなたより上の権限を持ってる人って事よね?」
「かもですね」
と言うより、与田より下がいないのだからだいたいは上だろう。
あの放送によれば告発者はゾンビになっているはずだ。
普通に考えるなら放送室に行けばその周辺に屯している可能性は高いだろう。
見つけ出せば上位のIDパスが手に入るかもしれない。
となると選択肢は二つ。
研究所か、放送局か。
「どっちにせよしばらく付き合ってもらうわよ、与田センセ」
「ひぃ〜〜っ。そんなぁ!」
【F-3/掘っ立て小屋/1日目・深夜】
【田中 花子】
[状態]:健康
[道具]:ベレッタM1919(9/9)、弾倉×3、通信機(不通)、化粧箱(工作セット)
[方針]
基本.48時間以内に解決策を探す(最悪の場合強硬策も辞さない)
1.研究所を調査するor放送室周辺を調べて告発者のゾンビを探す
【与田 四郎】
[状態]:健康
[道具]:研究所IDパス(L1)
[方針]
基本.生き延びたい
1.花子に付き合う
2.花子から逃げたい
投下終了です
投下します。
◆◇◆◇
ほんの小さい頃。
チョコレートの味を知らなかった。
けれど、洗剤の味は知っていた。
どうしてだっけ。
はっきりした理由は思い出せないけれど。
記憶の中で、漠然と覚えているのは。
幼い日の私が、何かの拍子にお母さんを怒らせたこと。
いつもよりずっと取り乱してて、私に強く当たっていたこと。
ただ、それだけだった。
私―――哀野 雪菜は。
きっと神様から嫌われていた。
お父さんは、いつも家を開けていた。
“パパは若いすずめと遊び歩いてる”。
お母さんは、そんなことを言っていた。
“あんたができたから、パパは家を嫌うようになった”。
お母さんは、何度もそう言っていた。
私が生まれて、お父さんは家庭が煩わしくなったらくて。
縛られるのが嫌で、外に飛び出していた。
思い出したように、時折帰ってきて。
そしてすぐにまた、何処かへと行ってしまう。
私は、お母さんに嫌われていた。
お母さんは、私を憎んでいた。
叱って、怒鳴りつけて、叩いて。
取り乱しながら、私のことを躾けていた。
何度謝ったとしても、お母さんが怒っていたらなんの意味もない。
痛いのも、熱いのも、寒いのも、苦しいのも、怖いのも。
ぜんぶ、お母さんから教わった。
痛い、やだ、怖い、お母さん――――。
そんなふうに私が泣き言を漏らすと、お母さんはもっと怒り出すから。
気が付けば私は、声をぐっと堪えるようになっていた。
時折耐えきれなくなって、胃の中のものを戻したりして。
そのたびに“掃除”なんかもさせられていた。
雑巾や塵取りはなかった。
毎日、毎日。
お母さんは、気難しい顔をして。
悲しそうな横顔をちらつかせていて。
何かあった時には、表情を歪ませて。
物を投げられたり、顔を叩かれたりして。
そして、いつも同じことを言われる。
―――あの人を返してよ。
―――パパを、返してよ!
なんて答えれば、良かったんだろう。
どうすればお父さんは帰ってきてくれたんだろう。
どうすればお母さんは泣かずに済んだのだろう。
何も分からないから、私は同じ日々を繰り返し続ける。
身体中に痣を作りながら、自分への絶望を重ねていく。
お父さん。お母さん。
生まれてきて、ごめんなさい。
だめな子供で、ごめんなさい。
もう命なんて要りません。
苦しいのも、痛いのも、嫌です。
だから神様、お願いします。
この世界から飛び降りる勇気を、ください。
そう思った日は、数知れない。
命ある今を呪った日は、数えきれない。
それでも、遠いところに行く勇気なんて持てなかった。
―――ごめん、ごめんね、雪菜。
―――ママが悪いの。ママがこんなだから。
―――だから、ごめんなさい……。
私に暴力を振るった後、いつも泣きながら謝ってくるお母さんが可哀想だった。
いつかは“仲直り”が出来ることを、私自身も望んでいた。
だから私はぼんやりと、苦痛の日々を過ごし続けて。
気が付けば、制服に袖を通す年齢になっていた。
お母さんも、やがて歳を取って。
私が大きくなった頃には、大人しくなっていた。
白髪を増やして縮こまり、すっかり弱々しくなっていた。
それでも時折、昔のように声を荒らげたり物に当たったりする。
帰ってこないお父さんのことで泣きじゃくる日もある。
もう、見慣れた光景だった。
何かを諦めている自分がいた。
そして―――胸を痛めている自分もいた。
お母さんも、お父さんも。
どうして、こんなことになってしまったんだろう。
どうすれば、幸せになれたんだろう。
お母さんに泣いてほしくない。
お父さんに帰ってきてほしい。
家族三人で、仲良く過ごしたい。
ずっとそう願い続けていた。
けれど、もう何もかも手遅れだ。
幸せの芽は、枯れ果ててしまった。
この先には、きっと何もない。
私は、ひどく悲しかった。
だって。お母さんやお父さんに、何も与えられなかったから。
振り返ってみれば。
後悔を背負ってばかりの人生だ。
けれど、いつだって。
一筋の光だけは射していた。
―――ねえ、雪菜。
高校の教室。
隣の席で、あの娘が呼び掛ける。
同じクラス。同じ部活動。
隣り合わせの出席番号。
届かぬ思い出が、鮮烈に焼き付く。
こんな人生でも、生きる価値はある。
そう思わせてくれた、一人の友達がいた。
◆◇◆◇
◆◇◆◇
星が、点々と輝く。
紺色の空に、光が灯される。
まるでプラネタリウムみたいに。
天の海が、優しく輝き続けている。
そんな光景が、酷く綺麗に横たわっていて。
それが途方もなく虚しくて、残酷に映った。
変わらない。世界は、変わらない。
誰が死んでも、生きても。
悪夢みたいな光景が、広がっても。
空は何一つ、語り掛けてはくれない。
ただ呆然と、星の燈火が私達を見下ろす。
星空は、私を導いてくれない。
淡々と、私を見つめるばかりで。
だからこそ、私は自分の足で走るしかなかった。
私には、友達がいた。
後悔を背負う人生に、一筋の光を与えてくれる娘がいた。
愛原叶和。高校のクラスメイト。
同じ演劇部に所属する、無二の親友だった。
私は、その娘を追いかけてこの山折村まで来ていた。
小刻みに息を吐きながら、私は走り続ける。
大してあるわけでもない体力を振り絞って。
真夜中の村を、がむしゃらに駆けていく。
――――最悪な結末を迎える前に……どうか事態を解決してほしい……。
――――それだけが……私の望み……だ――――。
滞在先の小さな民宿。
こじんまりとした宿泊部屋。
大きな地震が起きて、思わず飛び起きて。
何が起こったのかを確かめようと開いたスマートフォンは、一切の電波が通じなくて。
それから暫くして、あの“放送”が何処からか響き渡った。
訳がわからなくて。
何が起きたかも理解できなくて。
けれど、酷く胸騒ぎがした。
何かとんでもないことが起きてしまって。
取り返しのつかないことになってしまった。
そんな実感が、胸の内から込み上げてきた。
恐怖と不安が、焦燥が。
頭の中を、迸るように駆け巡っていった。
だから私は、すぐに着替えて。
何かに突き動かされるように、外へと飛び出した。
民宿を営んでいる人達の姿は見なかった。
唸り声が聞こえてきたから、確かめることを拒んだ。
そして私は、原っぱを走り続けていた。
ぽつぽつと耳に入ってくる呻き声は、振り切った。
この先に湖があって。その側に丘がある。
そこに叶和の実家があるらしい。
何で、今―――自分で自分に問い掛けてしまう。
理由は分かっていた。とっくに悟っていた。
今会えなかったら、何かが手遅れになる気がした。
それだけだった。
地図もなければ位置情報アプリも使えない。
頼りになるのは昼間に出会ったおじいさんの説明と、後は私のカンだけ。
余りにも曖昧な道標だけれど、それでも私は止まれなかった。
眼の前に続く道を、無我夢中で走り抜けていた。
―――愛原さん?
―――あぁ、湖んとこの山沿いの丘だな。
―――そこの手前っ側の家に住んどるよ。
今日の日中に、この村に辿り着いて。
私は、住民のおじいさんから話を聞いた。
探し人である叶和のことを、知っていた。
―――ひと月前になって、息子夫婦が帰ってきたんだと。
―――お嬢ちゃんくらいの歳の娘連れててなあ、べっぴんさんだったねえ。
おじいさんから話を聞いたとき。
私は、ひどく、ひどく、安心した。
良かった。間違ってなかった。
ここだった。この村だった。
正しかった。ここが、叶和の故郷だ―――!
安堵と高揚を感じていた。
何も考えず、無邪気に喜んでいた。
けれど結局、私は躊躇いを抱いた。
今日の日中に、叶和と会うことは出来なかった。
◆
◆
始まりは、数ヶ月前。
放課後、演劇部の活動。
舞台上での練習の最中。
叶和が“休憩したい”と言いだした。
ちょっと調子が悪い。風邪っぽいかもしれない。
そんなことを言って、舞台袖の奥側へと休みに行っていた。
皆が練習を続ける中。
私は叶和が気になって、様子を覗き込んだ。
機材や道具の片隅で。
隠れるように座り込んで。
荒い呼吸で、激しく息切れをしていた。
疲れ果てて、苦しそうな表情で。
息を整えようにも、上手く行かない様子で。
けれど、私がいることに気付いたら。
―――大丈夫。大丈夫だから。
そう言って、いつもの笑顔で小さく手を振ってきた。
見られたくない。そう言わんばかりに、彼女はその後も身を潜めていて。
それでも平静を装うあの娘の姿を見て、それ以上は踏み込めなかった。
後日、叶和自身が語ったように。
皆は“ちょっとした風邪”だと信じていた。
暫く調子が悪いから、部活は休むね。
そう付け加えて、叶和は練習を暫く休むようになっていた。
叶和の異変に気づいていたのは、私だけだった。
つくづく、思う。
やっぱり、私は。
神様に嫌われているのだと思う。
私の幸せを、取り立てに来たのだから。
それから暫くして、ある日の放課後。
夕陽が指す、二人きりの教室で。
叶和は私に、打ち明けてくれた。
―――あたしさ。
―――もう、あんま長くないんだって。
―――心臓の病気で、治らないらしいんだ。
この時、私は。
どんな言葉を掛ければ良かったんだろう。
茫然として。頭が真っ白になって。
上手く言葉が出てこなくて。
夕焼けみたいに揺れる叶和の瞳にも、気付けなかった。
これを告げる上で、この娘がどんな苦悩と恐怖を背負っていたのか。
そのことを察する余裕もなかった。
だから私は、ありきたりな同情の言葉しか吐けなくて。
舞台上で演じたら失笑されるような、陳腐な台詞しか出てこなくて。
つまらない三流の芝居だと言われるような、ぎこちない寄り添いしか出来なくて。
この時の私が、叶和にとって。
どれほど遠くに感じられたのか。
何一つ、気付けなかった。
だから私は―――叶和をひどく怒らせて。
それきり一度も話しかけられないまま。
何処か遠くへと、引っ越してしまった。
お母さんも、お父さんも、全部だめになって。
今度は、叶和のことを取り零した。
それでも、今度は。今度ばかりは。
このまま終わらせたくなかった。
なけなしのお小遣い。
ちっぽけな情報網。
必死になって振り絞って。
無我夢中で握り締めて。
そうして、一ヶ月。
私は、山折村のことを知った。
会ってどうしたいのか。
何を言いたいのか。
分からない、分からないけれど。
とにかく、このまま終わってしまうのは嫌だったから。
だから私は電車やバスを乗り継いで、この村へと訪れた。
――――そして、叶和の家を知った。
――――知った、はずだったのに。
――――足踏みしてしまった。
帰ってこないお父さんが脳裏を過ぎった。
怒鳴り散らすお母さんが脳裏に浮かんだ。
そして、叶和が引っ越してしまう前。
彼女に送ったまま返事が来なかったメールのことが、脳裏に焼き付いていた。
だから、日中。
向かおうと思えば、すぐに行けたのに。
拒まれるのが、怖かったから。
今度こそ何かが断ち切れるのが、怖かったから。
私がいることで、“また”何かを駄目にしてしまうような気がしたから。
この遠い村まで、訪れたのに。
結局私は、民宿へと引き返して。
葛藤と鬱屈を抱えたまま、自室で呆然と休んで。
その日の夜に、この“災害”に巻き込まれた。
振り返ってみれば。
後悔を背負ってばかりの人生だ。
ただただ私は、思い知らされる。
◆
◆
大きな湖が、見えた。
月の光に反射して。
星空が、鏡のように浮かび上がる。
そんな幻想的な光景さえも、今の私にはどうでもよかった。
必死になって、周囲を見渡す。
話に聞いた“立地”の情報を頼りに。
私は、あいも変わらずに奔る。
南西にある湖。
近くに、ほんのささやかな丘が存在し。
そこを中心に、幾つかの家があり。
手前側の家に、“愛原さん”が住んでいる。
それが村民から聞いた情報だった。
何度も、何度も。
湖を背景に、私は駆け回って。
周囲にあるものを、手当たり次第に探って。
――――あった。
――――多分、だけど。
――――あそこだ……!
そして私は、家屋の立つ丘を見つけた。
近くに木々が点在する家屋は、夜の闇に紛れるように存在し。
普段ならすぐに足踏みしてしまいそうな暗がりの方へと、私は思わず向かう。
緩やかな丘を上って、そのまま行こうとして。
やがて、私は。
思わず、足を止めた。
家のすぐ前。
私の10メートルほど先。
そこに人の影が、立っていた。
寝室から起きた直後のように。
寝巻き姿で、そこに佇んでいた。
息を呑んで。
呆気に取られて。
胸騒ぎがして。
私は、沈黙する。
月明かりに照らされる。
明るい髪色のボブカット。
私とそう歳の変わらない。
痩せた顔の、女の子。
運命というものは。
どこまで行っても、残酷なものだ。
いつだって、心を置いてけぼりにして。
横たわる現実を、淡々と突きつけてくる。
うんざりするくらいに、惨たらしい。
星が輝く、綺麗な夜空。
星が映る、綺麗な水面。
どんな装飾よりも美しい情景が。
今では、どうでもよく思えてしまう。
淡々と転がる運命の前では。
ひどく、ちっぽけに思えてしまう。
ああ。知っていた。
眼の前にいるのが、誰なのかを。
すでに、悟っていた。
私は一体、何者と対峙したのか。
「――――叶和……」
そこに立つ人影を、見つめて。
私は、呆然と言葉を紡いだ。
◆
◆
―――愛原叶和。
出会ったのは、高校の時。
一年の頃から、同じクラスだった。
名前順ではすぐ隣。部活動も同じ演劇部。
派手な見た目と、快活な人柄に、最初は戸惑ったけれど。
それでも共通の話題があったおかげで、自ずと親友のような間柄になっていた。
小学校、中学校の頃。
私は、ずっと人を避けていた。
クラスの片隅で、大人しくしている方だった。
いつだって、長袖の服を着て。
身体の下にある痕を、本音ごと覆い隠していた。
私は、ずっと自分を好きになれなかった。
私は、両親への負い目を抱えていた。
お母さんは、幼い頃から私に躾を行ってきた。
きっと私が、どうしようもなく駄目だったから。
両親の心を繋ぎ止められなかった自分が、遣る瀬無くて。
だからお母さんやお父さんへの後悔を、ずっと背負っていた。
誰か打ち解ける気になんて、なれなかった。
けれど。高校生になって。
叶和は、私の殻を破ってくれた。
私を好きになれない、私の代わりに。
叶和が私を、好きでいてくれた。
私と叶和は、同じ演劇部だ。
何故なら、叶和が誘ってくれたから。
こんな私を、友達だと思ってくれて。
そうして、手を引いてくれた。
叶和とは、親友同士だった。
自然と波長が合って。
自然と馬が合って。
休日も、よく一緒に過ごすようになっていた。
一緒にカフェに行ったり。
駄弁りながら買い物をしたり。
他の友達も交えて、カラオケなんかにも行ったり。
叶和と出会ったことで、日常に一筋の光が射すようになっていた。
私達は、何があっても。
ずっとずっと、親友同士。
無邪気な想いで、そう信じていた。
そんな日々が変わらないことを。
あの頃は、信じていた。
◆
◆
「叶和、だよね」
私は、呼びかける。
返事は返ってこない。
沈黙だけが、木霊する。
「……ねえ、私だよ。雪菜だよ」
それから、言葉を詰まらせて。
思考が搔き混ざって。
「叶和、その……」
何を言えばいいのか。
何をしに来たのか。
「急に……びっくりさせたかも、だけど」
考えていたことは、曖昧になって。
「……あの日のこと、本当にごめん」
やがて口から飛び出したのは。
そんな謝罪の一言だった。
「あの時……叶和の気持ち、ちゃんと解ってなかった」
この村まで来たきっかけは、後悔からだった。
あの時、頭が真っ白になって。
叶和を怒らせて、仲違いしてしまって。
連絡を取り合うこともできず、叶和は遠い故郷に引っ越してしまって。
それを知ってから、私はなけなしの想いを握りて旅に出た。
「……それに、ここまで来ちゃって」
叶和に会ってどうしたいのか。
何を言いたいのかも、定まっていなかった。
「だけど、それでも……」
ああ、それでも。
私は、ずっと思っていた。
「あのまま、終わりたくなかったから」
そして、眼の前の相手と、私は向き合う。
叶和は、ゆっくりと歩き出していた。
よろよろと、覚束ない足取りで。
「叶和と、もう一度話したかったから」
叶和が、歩く。
少しずつ、緩慢なリズムで。
私の方へと、近づいてくる。
「大切な友達に……後悔したくなかったから」
叶和は、何も語らない。
私の言葉に、何も言わない。
ただぼんやりと、焦点の定まらない眼差しを向けて。
緩やかに、動き続ける。
「だから」
そんな叶和を、見つめて。
私は、泣きそうな顔になりながら。
ただ愕然と、思い続ける。
「ねえ、叶和……」
一言でもいいから。
何か、答えてよ。
返ってくるのは。
言葉ですらない、呻き声だけ。
虚ろな眼差しで、私を見つめて。
手の届く距離まで、近づいてきて。
「ねえってば―――――っ!!」
私は、声を荒らげた。
叶和が、口を大きく開いた。
だらしなく涎を垂らしながら。
私の方へと、ぐいっと顔を近付けて。
首筋の皮膚へと目掛けて。
牙を、剥いた。
思わず私は、動揺して。
そのまま咄嗟に、右腕で首元をかばった。
そして、叶和の歯が―――手首と肘の間へと。
前腕へと、力の限り喰らいついた。
激痛が、走って。
思わず、歯を食いしばった。
噛みつれた箇所から、血が吹き出て。
叶和の顔の半分を、真っ赤に汚した。
――――痛い。痛い、痛い、痛い――――!
叫びそうになりながら。
それでも私は、必死に堪えて。
なんとかして、叶和を引き剥がそうとした。
その直後だった。
叶和が、唐突に。
悶え苦しんでいた。
.
私の腕から、口を離して。
たたらを踏んで、仰け反って。
顔面を片手で押さえるようにして。
獣のような呻き声を上げて。
蒸気のような煙を、漂わせて。
叶和は、必死に暴れていた。
「……え?」
私は、呆然とした表情で。
そんな間の抜けた言葉を吐くことしか出来なくて。
惚けたように、立ち尽くしてしまった。
何が、起きたんだろう。
私は、唖然とするしかなくて。
やがて叶和の顔を見つめて。
ただただ私は、言葉を失った。
叶和の顔の半分が、溶け落ちていた。
真っ赤な返り血に染まった左目の周辺が。
まるで硫酸でも掛けられたみたいに。
熱した鉄の塊でも押し付けられたみたいに。
彼女の端正な面は、灼かれていた。
私の思考は、混乱へと落ちる。
――――なんで。
――――何が、起きたの?
答えは、分からない。
誰も、教えてくれない。
――――ねえ。
――――なんで。
何故なら。
知っているのは。
私自身だから。
――――お願いだから。
私の身に起こったことは。
もう、漠然と理解していた。
血が、変質していたのだ。
――――答えてよ、誰か。
自分の血。自分の体液。
どんな作用が起きるのか。
いったい、何ができるのか。
奇妙な感覚で、掴んでいた。
『傷跡(きずあと)』が、刻まれる。
――――ねえ、神様。
――――ねえってば。
それでも私は、理解を拒む。
眼の前の現実を受け止めきれなくて。
自問自答を繰り返して。
意識が、心の中へと沈んでいて。
だから。
私は、気付くことに遅れる。
.
叶和が、がむしゃらになって。
私へとまた迫っていて。
まるで縋るように、腕を伸ばしてきて。
酷く焼け焦げて、半分に溶け落ちた顔で。
私に、必死に組み付こうとしていた。
「あっ――――――」
虚を突かれて。
表情を、引き攣らせた。
その瞬間に。
恐怖と焦燥が、込み上げてきた。
お母さんから受けた躾とは違う。
より明確で、鮮烈な。
そんな“死のイメージ”が、脳裏を過ぎった。
自分の異常は、すでに理解していた。
“脳と神経に作用して、人間を変質させる性質を持っている”。
あの放送で、ウイルスについてそう語っていた。
私に起こっていた“異変”を目の当たりしてから。
私はもう、その使い方を直感で理解してしまった。
いやだ。
しにたくない。
そして、気が付いたときには。
私は、右腕を無我夢中で動かして。
血に濡れた、傷口の断面を。
迫り来る叶和の顔へと。
破れかぶれに、押し付けた。
――――“アンタが生きてくための思い出作りに”。
――――“あたしを、巻き込まないでよ”。
――――“この先アンタが何十年生きるのか、知
らないけどさ”。
――――“そんだけあっても、まだ不満なわけ?”
ふいに、思い出した。
あの日。あの教室。叶和の言葉。
叶和から病気を打ち明けられて。
私がどうしようもなく失敗して。
そして突き放された、あの瞬間。
私と叶和。
ふたりが隔たれた。
そんな断絶の瞬間。
それを、思い出した。
ああ、本当に。
後悔を背負ってばかりの人生だ。
◆
◆
空には、相変わらず星々が浮かぶ。
私達のことなんて、知る由もないように。
唖然とするほど、綺麗に輝いている。
そんな景色の下で、私はただ立ち尽くして。
物言わぬ“死体”を、虚ろな眼差しで見つめていた。
私の友達。私の親友。
唯一無二の、掛け替えのない娘。
その成れの果てが、転がっている。
顔という“個”を喪った、彼女の亡骸。
愛原叶和という人間は、もう何処にも居ない。
“行方知れず”のまま、夜の中に消えていく。
涙は、溢れなかった。
何かが、枯れ果てたように。
ただ、目を開いていた。
泣いたって、どうしようもない。
何一つ、良いことなんてない。
ずっと昔から、そんな諦観を抱いていた。
どこで、間違えたんだろう。
どこで、こうなっちゃったんだろう。
頭の中で、想いと記憶があべこべになる。
疑問に対する答えが、幾つも飛び交う。
この村へと、訪れてしまったから。
私が、叶和を終わらせてしまったから。
研究所なんてものが、日常の裏側にあったから。
あのとき叶和に、正しい言葉を掛けられなかったから。
始まりから、私が駄目な子だったから。
お母さんとお父さんの心を、繋ぎ止められなかったから。
神様から、いつまでも嫌われてるから。
この世に―――生まれてしまったから。
走馬灯が過るように。
淡々と“理由”を羅列しても。
どれが正解なのかは、誰も答えてくれない。
ただ虚しさだけが、転がっていく。
真相は、闇夜の中に溶け込んでいく。
景色は、何も変わらない。
虚しい夜。虚しい空。虚しい闇。
世界は何も語らず、其処に居続ける。
私はいつも、後悔を重ねて。
何かを延々と、取り零していく。
そうして、叶和は死んだ。
最後まで、向き合えないまま。
私が、この手で殺した。
そうだ。
愛原叶和は、もういない。
どこにも――――いない。
茫然とした意識で。
眼前の事実を受け止めた。
その瞬間から。
私の中で。心の奥底で。
何かが、ぷつんと切れていた。
もう眠れそうもないくらいに。
酷く、目が醒めていた。
それが、決意だったのか。
あるいは、逃避だったのか。
それとも、もっと違う感情だったのか。
答えは雁字搦めのまま、私は突き動かされる。
やがて、視線を落として。
“噛み跡”が残る右腕を見つめた。
まだ、血は流れている。
未だに止まる気配は無い。
体液を、酸に変える。
そんな自分の能力を“認識”した直後から。
その使い方は、何となくだけど、理解できていた。
だから私は、流れる血へと意識を集中させる。
じゅう―――と、傷口が“焼ける”音が響く。
焼き鏝を押し付けられたみたいに、苦痛が迸る。
けれど、私は歯を食いしばって堪えた。
慣れている。こういう痛みは、知っている。
煙草を押し付けられる熱さだって。
ほんの小さい頃に体験した。
だから、これくらい。
なんてことはない。
表情を歪めながら、必死に耐えて。
やがて噛み跡を焼灼して、出血を強引に止めた。
瞬間的な痛みが、ゆっくりと引いていき。
ふぅ――――と、息を吐いた。
私の能力は、自分には悪影響は与えない。
そのことは、ぼんやりと理解できた。
けれど、あくまで“悪影響”だ。
自身に影響を与えようと、自発的に能力を使えば。
そうして私は、“止血”を試みた。
威力を限界まで抑えて、傷口から溢れ出る血で“能力”を発動して。
そのまま出血している表面のみを酸で焼いて、無理矢理に応急処置をした。
火傷の痕が、右腕に残る。
包帯の下に隠れた痣と、さして変わらない。
だから、思うところもなく。
顔を上げた私は、あの“放送”を追憶する。
――――ウイルスには全ての大本となる女王ウイルスが存在する。
――――これを消滅させれば、自然と全てのウイルスは沈静化して死滅する。
正気を保った人間の中に、その“女王”がいて。
“女王”が死んだら、この事態は終わりを迎える。
48時間。それまでに終わらせなきゃ、この村は全部なくなる。
叶和の思い出もろとも、何もかも消えてなくなる。
咀嚼するように、認識してから。
「……止めなきゃ」
ぽつりと、呟いた。
もう、腹は括っていた。
「止めなきゃ」
言葉を、繰り返す。
自分に言い聞かせるように。
「絶対に……」
止めて―――どうする?
叶和は帰ってこないのに。
私が全部だめにしたのに。
そんな声が、心の中で響く。
迷いや不安が、込み上げてくる。
それでも。それでも、私は。
何かを、しなくちゃいけないと。
そう思っていた。
これ以上、後悔を重ねたくないから。
女王は、“行方も知らず”。
それでも、この村の何処かにいる。
一体誰なのかなんて、宛はひとつもない。
けれど。今はただ、動くしかない。
探して、探して―――絶対に終わらせる。
もしもその正体が、自分だったら。
きっと私は、確信するだろう。
神様は、今になって。今更になって。
“飛び降りる勇気”を押し付けてきたのだと。
【F-2/湖付近/1日目・深夜】
【哀野 雪菜】
[状態]:後悔と決意、右腕に噛み跡(異能で強引に止血)
[道具]:
[方針]
基本.女王感染者を殺害する。
1.止めなきゃ。絶対に。
[備考]
※通常は異能によって自身が悪影響を受けることはありませんが、異能の出力をセーブしながら意識的に“熱傷”を傷口に与えることで強引に止血をしています。
無論荒療治であるため、繰り返すことで今後身体に悪影響を与える危険性があります。
◆◇◆◇
それから、暫しの時間が過ぎ。
村を探索していた“防護服の男”は、湖近くの丘で奇妙な死体を発見することになる。
―――こりゃあ、酷いもんだ。
恐らくは若い少女だった。
そう、“恐らく”だ。
身体的特徴からそう判断した。
何故、そのような曖昧な言い回しを取ったのか。
顔面を溶かされていたからだ。
最早“人の面”としての原型を失っていた。
辛うじて残された後頭部の断面だけが、虚しく横たわっている。
その遺体を、男は何てこともなしに観察する。
情報曰く、ゾンビ共は“映画で一般的に見るような挙動”で他者を攻撃する。
噛み付く、組み付く、引っ掻く。
まさしく本能に突き動かれるような加害方法だ。
何か道具を使ったりなどという小細工を用いることは、基本的に無いとされている。
つまりこれは、人の手による“他殺”である。
酸のような何かを顔面に叩きつけ、殺害した―――そんな所だろう。
この少女が“正常感染者”だったのか、あるいはゾンビだったのか、今となってはその区別を付けることも出来ないが。
これだけの殺傷力を持った攻撃を、ただの民間人が行えるだろうか。
顔面の大半が溶かされているのだ。単なる硫酸の類いにしては余りにも強すぎる。
少なくとも、“現地調達した物資”で生み出せる威力ではない。
なれば、思い至ることは一つ。
―――これが“異能”なのかもしれない。
生物を強酸で溶かす。
大方、そんな能力だろうか。
男は死体の損壊状態から、淡々と推測する。
異能とやらがどの程度の規模や効果を持つのか、未だ判然とはしないが。
研究所連中の秘匿主義には困らされたものだと、男は苦笑しながら思う。
しかしこの死体を作り出したのが例の“正常感染者”ならば、ただ見過ごす訳にもいかない。
女王は、正常感染者の中に潜んでいる。
女王を殺害すれば、事態は収束する。
女王の判別手段が存在しない以上、無差別の殺人となる。
タイムリミットは48時間、それまでにケリを付ける。
それが今回の任務の概要だ。
男はこれから取るべき行動を思案する。
地獄と化した山村の夜は長い。
狩りはまだ、始まったばかりだ―――。
そうして男は、思考を続けて。
その場から歩き出した、その直後。
建物の直ぐ側。
ぽつんと茂る林の木陰から。
小さな影が、飛び出した。
丁度、男の死角だった。
それは不意を突くように姿を現して。
唾液を零しながら、口をがばりと開く。
そして―――その影は。
まだ幼い子供は。
男の右脚へと、牙を向いた。
◆◇◆◇
◆
男の足元で。
子供は、捻じ伏せられていた。
靴の裏で、頭の側面を踏みつけて。
身体を地面に縫い付けていた。
防護服に身を包んだ男が、見下ろす。
幼稚園児程度の女の子だった。
まだ物心が付いたばかりの歳だろう。
百数センチほどの身体が、地に伏せて藻掻いている。
血に飢えた唸り声を上げて。
獰猛な白目を剥き出しにして。
口元からは、理性なく涎を垂れ流して。
子供は、手脚を動かして暴れる。
胴体を縫い付けられた昆虫が、必死に足掻くかのように。
“正当防衛”――男はそう認識していた。
木陰から飛び出した子供は、男の足元に噛み付こうとした。
しかし突然の事態にも、男は即座に反応した。
足払いの一振りで、小さな身体を容易く転倒させ。
子供が怯んだ隙にすかさず右足を頭部に叩きつけ、そのまま踏みつけるように地面に押さえ付けていた。
秘密特殊部隊、SSOG。
男はその隊員―――成田三樹康だった。
近場には家屋が幾つか存在する。
そのいずれかに住んでいた子供がゾンビ化したのだろう。
典型的な田舎とされるこの山折村だが、規模や立地の割に未成年の人口は少なくない。
故に、
現村長が村の発展のために随分と施策を重ねていた、とは聞いている。
大方この林が子供の“遊び場”であり、本能的にそこへ足を運んでいたのかもしれない。
ゾンビになった人間が、どの程度“正気だった頃の感覚”を残しているのか。
その実態は分からないが、これくらいの歳の子供は“かくれんぼ”が好きなものだ。
こういう自然に囲まれた土地なら、尚の事。
―――まあ、何だっていい。三樹康は無意味な思考を打ち切る。
「さあて、と……」
任務の標的は、女王感染者だ。
村中を徘徊する亡者の群れは、単なる障害でしかない。
―――さて、殺すか。
これから散歩にでも出かけるような気軽さで、三樹康は思考した。
視線を落として、再び子供を見下ろす。
足元の感覚。靴の底から伝わる感触。
骨と肉で出来た、小さな塊。
地面と足で挟み込むように、その頭部を踏み躙った後。
そのまま足を持ち上げ。
勢い良く、振り下ろした。
靴底が、叩きつけられる。
子供の頭部が。頭蓋骨が。脳が。
激しい衝撃によって、揺さぶられる。
銃は使わない。弾の節約だ。
素手か刃物、あるいは。
“靴底”で殺せるなら、それで十分。
そういえば。
娘の“三香”はもうすぐ5歳になる。
獰猛な子供の頭部を踏みつけた直後。
三樹康はふと、そんなことを思い返す。
家庭で自分の帰りを待ってくれる、愛する家族だ。
活発で賑やかな娘だ。保育園の友達も多いらしい。
休日には女児向けアニメなんかに度々付き合わされるが、三香が楽しんでいる姿を見ると自然と嬉しくなる。
最近は仕事が忙しかったので、家庭での時間が減っていた―――親として良くない傾向だ。
任務が終わったら、久々に三香を大きな公園にでも連れていってやろう。
きっと妻の“香菜”も喜ぶだろうし、自分としても娘と触れ合う時間が欲しいところだ。
誕生日のプレゼントも考えないとな。三樹康は思いに耽る。
思えば、足元で藻掻く“この子供”も。
ちょうど自分の娘と同じくらいの年頃だ。
この村の地下に、研究施設が設けられなければ。
あの妙な連中が、未知のウイルスなど研究していなければ。
あるいは、不幸な大地震が起きなければ。
足元で暴れるこの子は、家族と共に平穏な日々を過ごせていた筈なのだろう。
―――ああ、悲しいもんだ。
靴底を、子供の頭部に叩きつける。
―――不憫で、可哀想な子だ。
靴底を、再び頭部に叩きつける。
―――で。
靴底を、頭部へと繰り返し叩きつける。
―――だから?
―――だから、何だ。
何度も、何度も、何度も、叩きつける。
―――お前は、別に俺の娘じゃない。
靴底を、全力で叩きつけた。
―――なら、虫と同じってことだ。
靴底に、べしゃりと潰されて。
子供の頭部が、果実のように破裂した。
足元に広がる真紅の血肉。
靴の裏を汚す“水溜り”。
土と草を蝕む緋色は、未だ命の温もりを遺す。
生ける屍だった子供は、頭部を足で叩き割られ。
西瓜のように砕かれた皮膚から、脳漿を撒き散らしていた。
最早足掻くこともなければ、ぴくりとも動かない。
「……なあ、大田原さん」
そんな光景を見下ろしたまま、言葉を零す。
この村へと共に送り込まれ、別行動を取っている“同僚”を思い起こしながら。
「あんたの言う通り、“秩序”ってモンは良い」
淡々と、呟き続ける。
誰にも聞こえぬ声で。
何処か愉悦の熱が込められた言葉と共に。
「なにせ大義は、人道を踏み躙れる」
そして、彼は。
口角をゆっくりと吊り上げて。
嗜虐的な笑みを、浮かべていた。
上からの命令は既に下っている。
“研究所”の意向を気にする必要など無い。
パンデミックの拡大防止。
機密情報の漏洩防止。
即ち、女王感染者の暗殺による事態収束。
それがこの村に送り込まれた“数名の特殊部隊員”に与えられた任務だった。
女王感染者の判別ができない以上、この作戦は民間人を犠牲することを前提とする。
そして多数のゾンビが徘徊しているという異常事態―――自己防衛を目的とした発砲許可も降りている。
つまるところ、“多少の暴力行使はやむを得ぬと許されている”。
だからこそ、彼は高揚していた。
まるで、玩具を与えられた子供のように。
懐に携えた拳銃を使う瞬間を、待ち侘びる。
任務の際は、いつだって昂りが訪れる。
相手が生者だろうと死人だろうと、関係はない。
殴って、刺して、撃って―――それで止まるのなら、普段と同じだ。
そう、いつも通りの“人間狩り(マンハント)”だ。
何処からか、呻き声が聞こえてきた。
住民共の成れの果てが、他にも引き寄せられたか。
血の匂いでも、嗅ぎつけてきたか。
まあ―――龍は何だっていい。
男は不敵に笑いながら、ナイフを取り出す。
兎でも狩るかのように、飄々と。
成田三樹康。
彼は、妻子を愛する“良き父親”である。
そして、国に飼われた“快楽殺人者”だった。
【F-2/湖付近/1日目・深夜】
【成田 三樹康】
[状態]:健康
[道具]:防護服、拳銃(H\&K SFP9)、サバイバルナイフ
[方針]
基本.女王感染者の抹殺。その過程で“狩り”を楽しむ。
1.「酸を使う感染者(哀野 雪菜)」を探すか、あるいは。
[備考]
※ゾンビ化した愛原 叶和の死体を確認しました。
投下終了です。
最後に入れ忘れた状態表で1レス使ってしまって申し訳ありません。
投下します
すみません、トリップ間違ってました。改めて投下します
『…………ああ、意識が薄れてきた……どうやら私は適応できなかったようだ。
これを聞いている誰か……勝手な願いであることはわかっているが…………最悪な結末を迎える前に……どうか事態を解決してほしい……。
それだけが……私の望み……だ――――ガガガッ――ジジッ―――ガッ』
誰とも知れない人物の声が途切れる。
じっと、微動だにすることなくその言葉を聞き届けた老人――八柳藤次郎は瞑目した。
数時間前に発生した大地震の衝撃も冷めやらぬ深夜。
テレビ、電話といった通信手段は沈黙し、市外からの救助も未だない。
陸の孤島と化した山折村の、古民家群にある屋敷の一室、同上の中央に藤次郎は座している。
明かりも点けていない道場は寒々とした静謐な空気に満ちている。
だが、先ほどからずっと、戸口を叩き続ける音がある。
ドン、ドン。ガリ、ガリ。
戸口はただの引き戸だ。田舎の屋敷ゆえ鍵などもない原始的な戸は、しかし滑ることなく外側から殴打され続けている。
そこにいる者達は、戸を空ける程度の知能すらもう持ち合わせていない。
呻き声を上げ、生きた肉の匂いに惹きつけられ彷徨う。それはまさしく輪廻転生から外れた亡者であろう。
その亡者たちの名を知っている。
人生の大半を連れ添ってきた妻。家族同然の付き合いをしてきた隣人たち。
彼らはいまや、放送で告げられたところによると正気を失った怪物――ゾンビ、というモノに成り果ててしまった。
伝えられた内容は荒唐無稽で、普段の藤次郎ならば一笑に付したであろう。
だが藤次郎は既に見てしまった。
数分前まで言葉を交わしていた妻が、急に苦しみだし、呻きだし、そして屋敷に避難してきていた隣人たちに襲いかかった瞬間を。
隣人の首に食らいつき、肉を食い千切る。目前の出来事に理解が遅れた藤次郎は止める間もない。
妻だけでなく、他にも数名の隣人が「そうなった」。
彼らの矛先が――否、牙が、ただ一人「そうならなかった」藤次郎に向いた瞬間、長い人生の中であまり経験のないことであるが、藤次郎は逃げを打った。
そして逃げ込んだ道場で、先の放送を聞いた。
八柳藤次郎は剣客である。少なくとも自分で自分をそう認識している。
年老い、村に腰を落ち着けた今もなお、剣を手放すことはない。
孫を始めとする村の若者に剣を手ほどきし、不審者の報があれば見回りをし、村のために何かできることをと常に考えている。
地震発生直後、さして歳の変わらぬ老いた隣人たちが藤次郎の屋敷に避難してきたのも、非常時における藤次郎の頼もしさを知っているからだ。
救助が来るまで下手に動くべきではないと、屋敷に留まり事態の変化を見守っていたところ、惨劇は始まった。
自分はどうやらウイルスに適応したらしい。妻らのように正気を失うような自覚症状もなく、体は想像通りに動く。
ウイルスは空気感染するということだが、適応するかどうかは個人差があるということ。妻には適応しなかった。
幸か不幸か、帰省中の孫、八柳哉太は今この屋敷にはいない。地震発生直後、藤次郎が止めるのも訊かず飛び出していったからだ。
哉太は正義感の強い子だ。今は都内に移り住んでいるが、村に知り合いがいないわけでもない。
友人が怪我しているのならば助けねば、と思ったのだろう。祖父としては、その心意気や良しと言ってやりたいところ。
だがこの状況では。助けようとした村民に襲われているか、あるいは哉太本人も「そうなって」しまっているか。
仮に哉太も「そうなって」しまっていたとしても、女王感染者とやらを消滅させれば快復する。放送を信じるならば。
声の主は女王感染者を狩れと言った。それこそがこの地獄から抜け出すただ一つの方法だと。
時間制限があるとも言っていた。48時間以内に女王感染者を排除できなかった場合、この村の全てが焼き払われると。
感染を村外に広めないための強行手段であろう。であればそこには一切の容赦はないはずだ。
それこそ空爆のような抗えない手段で以って、確実に村は消滅することになるだろう。
「……征くか」
藤次郎は座禅を解き立ち上がると、道場の奥の神棚へと歩み寄った。
そこには刀があった。藤次郎が若かりし頃、常に共にあった半身。
同村の剣術家である浅葱 樹翁が若輩時代、ヤクザの剣客として刀を振るってきたように、藤次郎にもまたそういう時代があった。
藤次郎が剣を学んでいた頃は、折りしも日本は敗戦から立ち直ろうとしている時代。鉄火場の種は道を歩けば大安売りだった。
さらに強く、さらに鋭くと、敵を求めて村を飛び出し幾星霜。
あるときは街の剣術道場に一手御指南と喧嘩を売る勢いで、あるときはヤクザに脅かされる罪なき者の盾となり。
その旅の中で手にした刀は無骨極まる鉄の牙。銘なく、飾りなく、ただただ頑健な鋼だけがある。
売りつけてきた闇市の商人曰く、戦国時代から戦場を渡り歩いてきた妖刀。
実際に妖刀かはともかく、戦国時代から振るわれ続けてきたという触れ込みだけは真であったようで、ずっしりと重い刀身からは今なお薄く血が香るほど。
切れ味など二の次、刀はとにかく折れず曲がらずが一番だという刀匠の声が聞こえるかのように、その硬度ときたら折り紙つきだ。
藤次郎の手に渡ってからも何度か血を吸ったこの刀は、村に戻ってきた今では不要のものと厳重に封を施し、されど人を斬ったことを忘れてはならぬと奉ったもの。
その刀を腰に差し、藤次郎は道場の引き戸を開け放った。
途端、殺到してくる感染者たち。その先頭にいるのは変わり果てた妻だ。
藤次郎はスゥ、と軽く息を吸い、腰を落とし、そして一閃。
なまくらと言って差し支えない打刀は、飛燕よりも疾く駆け、肉を骨を断ち切った。
妻の、妻だったモノの頚が遠く飛んでいく。その様を見届けることなく、藤次郎は刃を二度三度と奔らせた。
時間にして三秒。五人もの人間の頚が宙に舞うには十分な時間だった。
妻の頚が血に落ちるよりも疾く、血振るいを済ませた刀が鞘に収められる。
チン、と微かな納刀の音が、殺戮の終わりを告げた。
放送を聞いた藤次郎の動揺は漣のように行き過ぎ、残ったのは冷えた決意だけだった。
来るべき時が来た。ゆえに動く。
哀切も、慟哭も、大願の前には何するものぞ。藤次郎の手を寸毫も緩めさせはしなかった。
刀を手にした瞬間から意識が冴え渡っている。心なしか体も軽い。今なら獅子の群れであろうと瞬きの間に斬り捨てられよう。そう感じる。
妻に、斬り捨てた者たちに一瞥もくれることなく、藤次郎は道場を出る。
賽は投げられた。河を越えた。もう戻れはしない。
悔いる言葉、冥福の祈りなど意味がない。これから藤次郎は村にいる全ての者を斬りに行くのだ。
許されはしないし、許されてはいけないし、許されたいとも思わない。
女王感染者が誰なのか。それも意味がない。誰が女王であろうと斬るし、またそれで感染が収束したとしても関係ない。
藤次郎は以前より村を滅ぼしたいと思っていた。
言うなればこれは機会だ。長年の悲願を果たす、おそらくは最初で最後の機会。
藤次郎が村を滅ぼすか、あるいは空爆が村を焼き尽くすか。どちらであっても藤次郎は構わない。
元より自分だけ生き残ろうなどとも思っていない。滅ぼすべき村とは、藤次郎も当然に含まれている。
だが無駄死する気はない。志半ばで果て、村の存続を許してはならない。死ぬのであれば積み上げた屍の上で、最後の一人になってからだ。
村の歪み。
それはいつからか村に巣食い出したヤクザどもであり、現村長が招き入れた外部の研究所であり、そして長年藤次郎と暗闘を続けてきた前村長だ。
これら全てを排除するべく藤次郎も長年動いてはきたが、何一つ功を奏したことはない。
このまま老い、朽ちていくだけなのかと半ば絶望しかかっていた藤次郎の前に降って湧いたこの地獄は、藤次郎にとっては福音だった。
村を滅ぼす。これを為すには今しかない。
何としても、誰であっても斬って捨てる。
ソンビには快復の可能性がある? ふざけるな、斬る。頚を落とせば快復も何もなかろう。
村人であっても、移住者であっても、友であっても、幼子であっても、男でも女でも例外はない。
今、山折村に存在するすべての命を否定する。
例外はない。半生を共に生きた妻であっても。剣を教えた弟子であっても。正道を生きる、最愛の孫であっても。
これは最高にして最後の機会。だが最悪のタイミングでもあった。
村外に出していた孫が、哉太が帰省してきているからだ。
哉太だけは関わらせたくなかった。腐敗と悪徳が潜むこの村の中で唯一、まっさらで穢れなき魂。
目に入れても痛くはない。背が伸び藤次郎自身より大きく成長した今となっても、偽りなくそう思っている。
だが、それでもだ。
村人を一人残らず斬り殺すと決めたのに、己の孫だけは見逃すなどという道理が通るものか。
例外はない。孫も、そして自らも、この閉じた村の中で諸共に果てるのみ。
全て斬り殺し、静寂となった村に何の意味がある? 未来なく、ただ朽ちゆくだけの廃墟に。
それが望みだ。藤次郎は何かを正したいわけではない。
全てが無となる世界。山折村はもはや在るだけで罪深いのだ。
村人の大半に責任はない。それを負うべきは老人たちだ。
藤次郎や前村長といった古き者。歪みを生み出し、歪みから利益を得て、歪みを正さず見逃してきた者たち。
だが「山折村の住人である」というだけで、生まれる前から烙印は刻まれているのだ。何をどうしたところで切り離せるものではない。
故に、終わらせる。一切を零に戻す。
その果てに藤次郎が残ったのならば、もう思い残すこともなし。腹を切る。それで終わりだ。
命はとうに捨てている。ならば罪の意識に苛まれることも、刀が鈍ることもない。
この手で妻を斬った瞬間すらも、藤次郎の心は微塵も揺らぎはしなかった。ああ、やはり己は斬れてしまうのだ、と、そう感じたくらいだ。
妻は天国に行くだろう。良き妻であり、良き母であった。
己は地獄の、それも最下層に落ち、永遠に裁かれ続けるだろう。望むところ。
生まれ変わってもまた、などと言うつもりはない。もし次世があるならば、妻には己のような外道と関わることなく平穏に生きてほしい。
今より為すのは正義ではない。紛れもなく邪悪。
罪人を救済する、などと思い上がった考えもない。行うのはただの大量殺人だ。藤次郎は望んで異常殺戮者となる。
当然、誰も藤次郎の行いを認めはしないだろう。敵対は必然だ。
刀を手にした時より感じる心身と感覚の異常な冴えの正体を、藤次郎はこれまた第六感ともいうべき強烈な直感によって理解していた。
なまくら刀にもかかわらず容易く人の頚を落とせたのは、ひとえに藤次郎の技量の賜物――というだけではない。
常よりも疾く、力強く、しなやかに。藤次郎の剣は別次元に鋭くなっている。
修練の末に手にしたものではない、しかしまるで新たに第三の腕が生えてきたかのような、己の思い通りに操れるという確信がある。
これがウイルスによる脳神経の変異作用というものであるならば、当然恩恵は藤次郎だけに与えられたものではないだろう。
幼子でも老人でも関係なく、正気を保っている者ならば藤次郎と同等以上の「何か」を得ているはず。
況んやそれが銃持つ警官やヤクザども、あるいは剣を教えた弟子たちであるならば、危険性は跳ね上がる。
藤次郎がこの村で教えてきた剣は活人剣だ。平和な世にあってはスポーツの側面も持つモノ。
藤次郎が求道の中で振るってきた剣は殺人剣。平和な世には似つかわしくないモノ。
刀を手にし、幾人も斬り捨ててきたからこそ、若い者たちにはそうなってほしくないと、人を斬る裏の業は決して教えなかった。
教えたのは表の技。剣道と名を変えた剣の技を、光当たる道を行く者にふさわしき正しい剣を。
刀とともに殺人剣は封印していた。だが、その戒めを解く時が来たのだ。
殺人剣ならぬ活人剣を教えた弟子たちは、裏の業を知らぬというだけで人を斬れぬ訳ではない。剣士としては一流なのだから手強いのは当たり前。
かつて藤次郎に教えを受け、そして出奔した沙門天二などはまさに裏にどっぷり浸かっている身だ。思いつく限り最大の難敵であろう。
だからこそ、油断はない。誰であろうとただ斬るのみ。
明かりなき道を進む藤次郎の前に、何人もの――何体ものゾンビが立ち塞がる。
顔も名前も知っている。今朝も挨拶したばかりの、三軒隣に住む一家だ。
藤次郎は一切足を止めることなく、音もなく抜いた刀を納刀した。背後で崩れ落ちる音。
感覚は事象の一歩先を行き、目の前に迫る者がどう動くかが手に取るようにわかる。繰り出す刃は一切の力みなく、豆腐がごとく頚を断つ。
生存者は斬る。ゾンビも斬る。快復の可能性など残さない。
散歩するように無造作に、藤次郎はゾンビの頚を刎ねながら進む。
まずは何をする、という指針は特にない。出会った者全てを斬るのだから順番はどうでも良い。
我が道は修羅道、後退はなし。歩み続け、倒れ伏すまで、刀とともに在る。
と。
少しだけ、藤次郎は思い直した。
村人は皆殺しにする。その決意に翳りはない。
だが一つだけ。万に一つも一つだけ、「そうなった」ならば「それも良い」と、思うことがあった。
それは、孫の哉太が幼き日に語った夢。
――じいちゃん、おれ、大きくなったらヒーローになるんだ!
――悪いやつをやっつけて、みんなを守る正義のヒーローに!
目を輝かせ夢を描く哉太に、藤次郎はこう返した。
――なれるぞ。哉太が誰かを守りたい、その気持ちをずっと忘れないでいられるならな。
もし哉太が、あの日の志を忘れず、悪と為り果てた藤次郎の前に現れたならば。
藤次郎を「悪」だと断じ、「正義」を貫くと吠えるのならば。
ヒーローである、その揺るがぬ覚悟があるのなら。
そのときは、「正義に倒される悪」になるのも、悪くはない。
藤次郎は微かに笑い、迫り来る亡者の群れに斬り込んでいった。
【E-8/古民家群/一日目 深夜】
【八柳藤次郎】
[状態]:健康
[道具]:藤次郎の刀
[方針]
基本.:山折村にいる全ての者を殺す。生存者を斬り、ゾンビも斬る。自分も斬る。
1:出会った者を斬る。
※藤次郎の刀
八柳道場に奉られていた銘のない刀。名刀ではなく、切れ味も悪く鈍器に近いが、とにかく頑丈。
戦場では鋭いだけの刀など血脂ですぐダメになる。ならば端から切れ味など捨て、硬い棒で殴り殺せば良いという、実用一辺倒の刀。
投下終了です
投下します。
えー、おほん。それじゃあHearingを始めるわよ。ヤナギカナタ。
「おう。これで前々回と前回、今回の事件を合わせて三回目だけどな」
雰囲気よ雰囲気。まずはさっきZombiesを倒したケンドーの名前は何?
「八柳新陰流。新陰流をベースに中国拳法とか合気道をミックスさせた総合格闘技みたいな剣術だ。開発者はうちの爺さん。
なんでも爺さん曰く武装した集団相手でも刀とステゴロでも戦えるようにするため開発したらしい」
ええ……?そんな無茶苦茶な……。それじゃあ他のStudentsもカナタみたいに動けるの?
「いいや。他の門下生は道場稽古オンリー。触れ込みは『週二回のレッスンで女性でも暴漢から身を守れる剣道』だしな。
だけど爺さんから認められた門下生に限り特殊な稽古を受けさせて貰えるんだよ」
特殊なTraining?カナタの他に認められたStudentsって誰なの?
「この村にある森の立入禁止区域で年単位で行われる稽古だ。そこで化けも……いや色々な稽古を行う、所謂山籠もりってやつ。
今まで認められた弟子は三人。俺と茶子姉……虎尾茶子と後は破門されたもう一人だな。
基本的には二人一組で爺さん直筆の武術書に沿って稽古をする。その間外部とのやり取りは関係者だけに限られる。
俺は10歳の時茶子姉と二人で一年間稽古をした。その間俺は通信教育、茶子姉は休学したな」
そんな時代錯誤的なTraining、よく今のご時世で許されたわね。チャコネエ…Ms.チャコのParentsは何も言わなかったの?
「色々事情があったらしい。茶子姉はその時精神的にかなり来ていたみたいでな。本人からは何も聞けなかったよ。
爺さんも何も聞くなって頑なに教えてくれなかったしな。それで何故か茶子姉は強くなりたいって言ってた。
そんな状態の茶子姉を放っておけなくてさ、俺も爺さんに頼み込んで一緒に稽古を受けさせて貰ったって訳だ」
ふーん。Ms.チャコってこの写真のアンタに腕を絡めて嬉しそうに笑ってる美人さん?アンタはそっぽ向いて顔を真っ赤にしてるけど。
「おま……勝手に余計なところ触るなって言っただろ……これ俺のスマホだぞ。
茶子姉は上京前は二日に一回うちに夕飯集りに来て勝手に俺の部屋に泊まっていく人使いが荒くて性格悪い姉弟子以上終わり!」
自分で答えを言ってくれてThanks。Ms.チャコはカナタのGirl friendってことね!
「おい、録音止めろ」
◆
時を遡ること約一時間前。
「何で……なんでこんなことがRealに起こっているのよ……!」
ここは山折村南西部に位置する高級住宅街の一角。地震により崩れたブロック塀があちこちに散らばっている。
その中で探偵のような衣服を身に纏った少女が長い金髪を揺らしながら何かから逃げ回っていた。
彼女が逃げ回っているものの正体。それは怠慢な動きでありながら明確な殺意……否、本能を持って正者を食らう怪物、ゾンビ。
一体だけなら難なく少女も逃げおおせることができるのだが、その何十倍の数が襲い掛かって来たとなれば話は別だ。
少女を発見次第、ゾンビは本能のまま襲い掛かる。それが幾度となく繰り返されれば、答えは明白。いつの間にか少女を取り囲むようなゾンビの集団が出来上がっていた。
彼女の手持ちは斜め掛けショルダーバッグに催涙スプレー、スタンガン、ロープ。どれもゾンビ相手では効果があるのか怪しい物ばかりだ。
(ど……どうにかして逃げ切らないとこのままじゃ……。あ、あそこに抜け道が……!)
辺りを見渡した少女の視線の先にはゾンビの気配がなさそうな路地裏。そこを抜ければ住宅街から抜けられるかもしれない。
僅かな希望を見出し、少女は決死の覚悟でゾンビ達の隙間を縫うように駆け出し路地裏に駆け込む。
その間にバッグから何かを落とした気がしたが、気にしている場合ではない。
「や……やったわ!これで……きゃあっ!」
路地裏に逃げ込んだ瞬間、アスファルトの亀裂に足を取られ、スッ転んだ。
痛みをこらえてすぐに起き上がり視線を出口に向けて駈け出そうとするが、その先にはゾンビがいた。
悲鳴を飲み込んで背後を振り向くも、その先にも大勢のゾンビが待ち構えていた。
ちょうど挟み撃ちする形で少女の逃げ道を塞いでいた。
「うぅ……ああぁ……」
絶望の声を漏らしながら、少女はペタンと地面に座り込む。
ゾンビ達は少女の存在に気が付くと、怠慢な動きで少女を食らうために距離を詰めていく。
「ぃゃ……いや……誰か……だれか……ッ!」
眼前に迫る恐怖に耐えきれず、少女は目を瞑る。ゾンビ達は少女の様子に目もくれず、手を伸ばし、そして―――。
「八柳新陰流『這い狼』」
一条の風が吹く。何度か何かが砕ける音が少女の耳に届く。
ドサリと何かが倒れる音と共に少女は目を開く。
目の前にはしゃがみ込むような姿勢のまま木刀を振るった――腰には大小二振りの刀が差してある――青年の姿。そして膝を砕かれて倒れたゾンビの集団。
自分は彼に助けられたのだと理解し、安堵の息を漏らす。
青年は自分を助け起こそうと手を伸ばし、少女はその手を取ろうとする。
「おい、大丈夫か?怪我とかして……マジかよ……」
「ええ、Thank you。助かりま……あーーーー!」
折れた街灯に照らされた互いの顔を確認すると、青年は顔を引きつらせ、少女は指をさして驚愕の声を上げた。
「ヤナギカナタ!」「天宝寺アニカ……」
◆
路地裏にてうーうーと唸る膝が砕けたゾンビを間に挟んでアニカと哉太は向かい合う。何ともシュールな光景だが当人達は大真面目だ。
「二ヶ月ぶりの再会ね。どうしてカナタがこんなところにいるのかしら」
「ここが俺の地元だからだ。色々あるって両親に呼び出された。アニカは何でこんなクソド田舎に来ているんだよ」
天宝寺アニカは天才小学生探偵としてテレビや雑誌などで最近引っ張りだこの有名人だ。
彼女に会うのはこれが三回目。一度目は彼女に救ってもらい、二度目はこちらが事件解決のために彼女と共に動き、助けた。
そんな彼女がここに来ているということはテレビ番組の企画か、それともこのVHを事前に察知して来たのか。
アニカの口が重々しく開く。
「……家出」
「ハァ?お前なあ、県を跨いでまで家出するバカがどこにいるんだよ!親御さんとか関係者の方々に迷惑がかかるって分からないのか!」
「うっさいわね!High schoolサボってデュエマの大会に参加する不良には言われたくないんですけどー!」
ギャアギャアと大声で罵り合う二人。その声に反応して再びゾンビ達が集まり、二人を挟み撃ちにする。
「ほーら、アンタがうるさいせいでまた囲まれちゃったじゃない!数も増えてるし!さっきの『High-Low』で何とかしなさいよ!」
「『這い狼』な。それにこの数だと最悪木刀が折れかねない」
「じゃあベルトに差してる大小のSamurai Swordでガンリュウジマしなさい!」
「できる訳ねえだろ。ゾンビ共の中には顔見知りだっているんだぞ」
「じゃあどうするのよ!?Checkmateじゃない!」
もうダメだ―おしまいだーと嘆くアニカを尻目に、哉太は冷静に現在の状況を把握していた。
ゾンビとは言え、集団の中には己や自身の両親と親しかった人間がいる。できる限り傷つけたくないし、殺すのは最終手段にしたい。
故に結論は一つ。頭を抱えて座り込むアニカを小脇に抱える。
「きゃっ……ちょっとカナタ、何をする…」
「こうするんだよ!」
アニカを抱えたまま跳躍し、眼前のゾンビの頭を踏みつける。
その勢いのまま再び跳躍してブロック塀に乗り、勢いを殺さぬように再び跳躍。今度は家の屋根へ飛び乗った。
「……ニンジャ?」
「違う。うちの流派のパルクールみたいなもんだ。俺の姉弟子と破門されたもう一人は壁伝いの八艘飛びができるぞ」
「それ、パルクールじゃなくない?」
小脇にアニカを抱えたまま、哉太は屋根を飛び移りながら疾走する。その最中、ふわりとアニカの帽子が宙を舞う。
「あ、帽子が……」
「今度弁償してやるから諦めろ」
◆
「……マジで?」
「そう、オカルトみたいだけどマジよ」
高級住宅街から抜け出した郊外。アニカを降ろした哉太は説教しようと口を開くも、目の前の出来事に目を見開いた。
落とした筈のアニカのハンチング帽がマジックのように哉太の頭上より上まで浮いていた。種も仕掛けもなさそうだ。
「カナタ、放送で言ってた『力』ってWord、覚えてる?」
「ああ。もしかして女王感染者を止めるとか適応できるできないとかか?」
「That's right。前回ワトソン役を引き受けただけあって察しがいいじゃない。
もしかしたらカナタにも私みたいなSupernatural powerが備わっているかもね」
出来の良い生徒を褒めるようにアニカは哉太に笑いかける。
超能力、超能力……と呟き、何やら考え事をしている哉太が何だか少し子供っぽくて面白い。
「それじゃあ、今後の話をしましょうか」
「今後……女王感染者を見つけて……殺すのか?」
「Noよ。仮にも探偵である私が殺人に加担するなんてできる訳ないじゃない。
この村のandergroundにあるって言ってた研究施設を見つけ出してウィルスへの対抗手段を見つけ出すのよ」
「ハードル高くないか?」
「でもやってみなくちゃ分からないじゃない。そのためにはまずは研究施設を見つけるためにYamaori Villageの人達へのHearingよ。
まずは第一村人のカナタにHearingを……Hearingを……」
ガサゴソとバッグからスマートフォンを取り出そうとするが見つからない。
衣服のポケットを裏返しても、バッグの中身をぶち撒けても、どこにも見当たらない。
「……落としちゃった……」
「……俺のを貸してやる。変なところ弄るなよ」
◆
そして冒頭のやり取りを経て、現在に至る。
哉太の拳骨により聞き込み調査は強制終了させられた。
「うぅ……暴力で解決だなんてサイテーよ。これだからPhysical monsterって奴は……」
「喧しい。ほとんど捜査に関係なさそうな質問だっただろうが。俺のプライバシーに関わるからデータは消しとくぞ」
頭を抑えて呻くアニカの答えを聞かずに音声データを消してから再び自身のスマートフォンを渡した。
恨めし気にこちらを見上げる彼女を無視し、顎をしゃくって聞き取り調査を再開するように促す。
「このDV男め……。それじゃあHearingを再開するわ。アンタの……まぁ友人のMs.チャコの職業は何かしら?」
「山折村の役場職員だ。非正規雇用だけどな。部署は確か、建築関係の部署だった筈だ」
「Building……カナタ、Ms.チャコのPersonalityとアンタが帰省してからの彼女の行動、交友関係を教えてもらってもいいかしら?」
アニカの雰囲気が生意気な子供から有無を言わせぬ探偵の持つ独特のそれへと変わる。
容疑者として彼女に接した時のものと同じだと感じ、哉太は一呼吸置いてから口を開いた。
「茶子姉……いや虎尾茶子の性格は表面上は明るくて人懐っこく面倒がいい。そして近しい人間には我儘で自由奔放に振る舞う。
だが、中学卒業後は俺以外には頑なに本心を見せなくなっていった。あの人の両親や友人の犬山はすみさん、俺の爺さんにもだ。
だけどそれでも俺には何か重要なことを隠している気がしてたよ。
それから俺が帰省してからだな。『何で今里帰りしてきたんだよ……』ってぼやいて機嫌が悪かった。ゲームで俺をしばき倒したら機嫌が治ったが。
いつもは帰省した瞬間から終始ウザ絡みしてきたが、今日は一緒に昼飯食った辺りから落ち着きがない様子で一人でスマホを弄り回していた。
昨日、俺の隣に布団を敷いて寝るときも落ち着きがなかった。はすみさんに聞いてみたが、男の気配は全くないって聞いて安心したが……」
「惚気の部分は置いといて……なるほど重要な情報ね。Thanks」
惚気じゃねえとぼやく哉太を他所にアニカは頭脳をフル回転させ、結論を口にする。
「気分を悪くしないで頂戴ね。彼女……Ms.チャコは研究施設について何か知っている人だと思うわ」
「な、何を根拠にそんなことを……!」
「末端よ末端。落ち着きなさい、カナタ。彼女はBuilding関連の職員よね。だから地下研究施設の建設について情報を持っていると思うの。
それからアンタが帰省してから落ち着きがなかった様子ね。これは何らかの事情で実験について知ってしまったからだと思うわ。
そこで何が起こるが推測できてしまった。解決する前にアンタが今の時期に帰省して欲しくなかったのよ。
……まあ、地震が起きてVHが起きてしまったことは彼女にとっても想定外だったでしょうね」
安心させるようにこちらにウィンクするアニカ。
それはつい先程までゾンビに囲まれて騒いでいた少女とは思えぬほど大人びた仕草だった。
「……何で俺の時だけいつもの猫かぶりしないんだよ……」
「だってー、カナタにそれやったらなーんか負けた気がするのよねー」
口を尖らせ拗ねたようにアニカはぼやいた。
「なら、次に向かう場所は役場か?茶子姉がいそうな」
「No。人が集まりそうなschoolよ。避難所に指定されているみたいだし。
アンタが言うにはMs.チャコはアンタより強いみたいだしきっと大丈夫よ。それに彼女と同じ職場の人達や他の住民達の話が聞きたいわ」
筋が通る上こちらにかなり気を使った発言だった。
これで食い下がったら、幾度も難事件を解決してきた――いつかの自分の無罪を証明してくれた彼女への冒涜だ。
それを知ってか知らずか、アニカは年相応の笑みを浮かべ、拳を突き出す。
哉太もそれに答えるようにその小さな拳に己の拳を突き合わせて、苦笑を漏らす。
「頼りにしてるぜ、アニカ」
「しっかりエスコートしなさいよ、カナタ!」
【C-4/高級住宅街郊外/1日目・深夜】
【天宝寺 アニカ】
[状態]:健康
[道具]:催涙スプレー、ロープ、スタンガン、八柳哉太のスマートフォン、斜め掛けショルダーバッグ
[方針]
基本.このZombie panicを解決してみせるわ!
1.まずはYamaori Villageの人達にHearingよ。
2.とりあえず人が集まりそうなschoolに行ってみましょうか。
3.Ms.チャコが地下研究施設について何かを知ってるかもしれないわね。
4.私のスマホどこ?
※異能の存在に気がつき、任意で発動できるようになりました。
※他の感染者も異能が目覚めたのではないかと考えています。
※虎尾茶子が地下研究施設について何らかの情報を持っているのではないかと推理しました
※C-4の住宅街のどこかに自分のスマートフォンを落としました。
【八柳 哉太】
[状態]:健康
[道具]:木刀、脇差、打刀
[方針]
基本.生存者を助けつつ、事態解決に動く
1.このバカ(アニカ)を守る。
2.知り合いを探す(個人的には茶子姉優先)
3.ゾンビ化した住民はできる限り殺したくない。
※自分にもアニカと同様に何らかの異能に目覚めたのではないかと考えています。
「ところで、その……解決したら家出のフォローしてくれると助かるんだけど……」
「知るか。自業自得だボケ」
「あう……」
投下終了です。
投下乙です
>行方知れず
生い立ちからして不幸すぎるぜ雪菜ちゃん!
探し求めた親友を訪ねてみればゾンビとなって最悪の再会と言う不幸、悲しい決意に突き動かされて皆殺しを選ぶ、仮に達成できても幸福にはなれそうにない
そして成田さん、やはり特殊部隊側もまともな人間じゃない、ジョーカーとしてはいいけど公務員としてはどうなの?
>鬼の刃
修羅の道を歩む八柳のジイ様の覚悟がすごい
山折村が歪んでるって言うのは、うん……まあ、そうだね、と言う納得しかないんだよなぁ
強い決意と凄みのある実力者であるジイ様だけど唯一の空白である孫の存在がどう影響するのか
>天宝寺アニカの華麗なる事件簿-山折村の厄災編
そしてその孫は幼女とイチャイチャしていた
意外な繋がりだけど、確かに村内の住民が知り合いなのは当然として村外の人たちも知り合いでもおかしくはないよね
ほっこりできるだけでなく頭脳と武力でいいバランスのコンビではある、頑張ってこのVHを乗り切って欲しい
投下します
正常感染者。
それはこの山折村で引き起こされたバイオハザードにおいて、人間としての理性を欠如したゾンビになることはなく、正気を保った者達のことである。
だが、しかし。
ゾンビにならず人間性を失わないことと、正気を保つことは、必ずしもイコールで結ばれはしない。
「ふふ…あはは…」
これは、人間のまま正気を失った、一人の少女の物語
♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥
「あれは…」
小田巻真理を追っていた朝顔茜は、一人の少女の姿を見つける。
ペタリと地面に座り込んで、うっとりとした表情で上空を見上げている。
(あれは…上月さん?同じクラスの)
上月みかげは茜と同じクラスの女の子である。
まあ、山折高校は生徒数も少ないから1学年1クラスなので、同学年はみんな同じクラスなわけだが。
「えへへ…うふふ…もうやだ、圭介くんったら」
(…ゾンビ?)
みかげの様子は、正直あまり正気には見えない。
なので、一瞬ゾンビ化してるのかと考えた。
だが、嬉しそうな表情でトリップしたその様子は、なんか違うような気もする。
(小田巻さんみたいに現実逃避中、とか?)
とりあえず、一応声をかけてみよう。
もしもこっちに気づいて襲ってくるようなら逃げる!
「あの、上月さん、だよね?大丈夫?」
茜の呼びかけに、みかげはハッと驚いた様子でこちらを向く。
「朝顔さん…」
「良かった、正気だったんだね」
こちらの呼びかけに応答してくれたことに、ホッとする。
やはり彼女は、ゾンビにはなっていなかったようだ。
茜が警戒を解いて安心していると、今度はみかげの方から声をかけてくる。
「あの、圭介くん知りませんか?」
「圭介って…山折圭介くんだよね?村長の息子の、同じクラスの」
「はい、私の愛しの恋人です」
「え?」
みかげの言葉に、茜は呆気に取られる。
山折圭介は、前述の通り村長の息子であり、将来は父親の跡を継いで村長になるのだろうと周囲から期待されている、この村では有名人である。
そんな圭介に去年恋人ができたとなれば、その噂は村中に広まることとなり、当然同じクラスの茜も知らないわけがない。
「何を…言ってるの?あなたが…山折君の恋人?」
そんなはずはない。
だって圭介の恋人は日野ひか…
「はい!『去年圭介君の方から私に告白してくれて、私達は恋人になったんです』」
「ああ…そうだったね。『上月ちゃんは山折君の恋人』だったね」
そうだ、山折圭介は去年、上月みかげと恋人になった。
それが事実だ。
なんで私、山折君の恋人が別の人だって勘違いしてたんだろう。
「はい、だから彼のことが心配で…」
「そっかあ、う〜ん…まだ家にいるか、あるいは避難所に指定されてる学校の方に行ってるとか?」
「そうですね…とりあえず学校の方に向かってみます」
そういうとみかげは茜に背を向けて立ち去ろうとする。
茜は一瞬それを見送りかけて…ハッとしてみかげの手を掴む。
「まった、上月さん!一人じゃ危ないよ、私も行くよ!」
「いいんですか?」
本当は小田巻を追いたい気持ちもあるが、しかし彼女は完全に見失ってしまって、ちょっと今から追いつくのは厳しそうである。
氷月さんや優夜も学校の方に行ってるかもしれないし。
それになにより…あまり話したことないとしても、同じクラスの友達を放ってなんておけない。
「私、なんか知らないけど炎を出せるようになったからさ。これで上月さんのこと、守ってあげるよ」
「朝顔さん…ありがとうございます」
「その代わりといってはなんだけど…山折君との話、もっと聞きたいな〜。恋バナしよ恋バナ」
「はい、『私と圭介君の思い出』、たっぷり聞かせてあげますね」
♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥
上月みかげは、不満を内にため込むタイプだ。
例え好きな人が親友と恋人になっても、笑顔でそれを祝福し、内心の葛藤を決して表に出そうとしなかった。
親友から惚気話を聞かされても、二人のデートをこっそり尾行して傷つく自傷行為を繰り返しても、それでも彼女は負の感情を表に出すことなく、我慢した。
しかし、此度のバイオハザードは、そんな彼女の許容量をはるかに超えるストレスだった。
いや、普段から我慢を繰り返し胸の内にため込んでいたからこそ、爆発したというべきか。
上月みかげは…壊れた。
あまりに理不尽な現実を前に、彼女が取った行動は…現実から目を逸らすこと。。
山折圭介と親密な親友の姿を、山折圭介とデートする親友の姿を、全て自分に置き換えて。
記憶の改竄をはかったのだ。
過酷な現実を、幸せな妄想で上書きしたのである。
元々正気だったころから、そういう妄想は何度もしてきた。
しかし正気を失った今、彼女にとってその妄想は全て現実である。
上月みかげはこれからも、あらゆる人々に自分と圭介が恋人であるという彼女だけの現実を伝え、信じ込ませていくだろう。
そう、それは山折圭介自身にも。
彼女の妄想がこの山折村に何をもたらすのか。
それはまだ、誰にも分からない。
【E―8/古民家群/1日目・深夜】
【朝顔茜】
[状態]:健康、戸惑い
[道具]:???
[方針]
基本.自分にできることをしたい。
1.上月みかげと学校の方に行く。
2.優夜、氷月さんは何処?
3.あの人(小田巻)のことは今は諦めるけど、また会ったら止めたい
※能力に自覚を持ちましたが、任意で発動できるかは曖昧です
※『去年山折圭介が上月みかげに告白して二人は恋人になった』思い出を真実の出来事として刻みました。
【上月みかげ】
[状態]:健康、現実逃避による記憶の改竄
[道具]:???
[方針]
基本.圭介君圭介君圭介君圭介君圭介君
1.朝顔茜と共に学校の方に行く。
2.私と圭介君は恋人…♪
※自分と山折圭介が恋人であるという妄想を現実として認識しています。
投下終了です
投下乙です
>偽りの記憶は時に真実よりも甘美で
自分の記憶改竄は能力関係なさそうでこわい(小並感)
記憶改変は思い込みの激しいヤンデレが持ってはいけない能力すぎる
つき合わされる茜ちゃんはすっごいかわいそ、VHに比べれば今のところ害はないけど今後も被害者増えそうで迷惑すぎる
投下します
「クソっ! クソっ! ふざけんじゃねぇ!!」
「どいつもこいつも俺の事馬鹿にしやがって!!」
「おい、何見つめてやがんだ、てめぇも俺の事馬鹿してんのかよっ! オラッ!!」
「クソがっ、クソがっ! おい、勝手に気を失ってんじゃねぇ!! 本当に骨へし折られてぇか!? ああん!!!」
いつもの事だ。仕事から返ってきて、苛立って、私を殴ってくる。
何度似たようなことを繰り返したのか、何度同じ地獄(ふつう)を過ごしてきたのか。
小さい時にお母さんは言っていた、「いつかヒーローがあなたを助けてくれる」って。
でもそんな事嘘だった。お母さんは電球を買いに行ってくると言い残して返ってこなかった。
結局、お母さんは私のことなんて見ていなくて。でもこの時だけはまだ心の底でお母さんのこと信じていて。
お父さんが言っていた。「あのクソビッチは俺たち見捨てて他の男に逃げやがった」だなんて。
数日前だったか。お母さんみたいな色黒の女の人が男の人と一緒に歩いている所を見て、その時に。
『あ? 子どもなんて作りたくないわよ。前にそれで痛い目見たからね。』
なんて事言ってたの、聞いた。
多分、その時から。私は何もかも諦めたんだと思う。
殴られて、蹴られて、焼かれて。痛くて痛くて。それでも助けが来ない日々に、私は等に壊れていた。
助けを呼ぶなんて考えも浮かばないまま、全てを諦めて、受け入れた。
どれだけ苦しんでも、助けなんて呼んでも無駄だって自分でそう殻に閉じこもった。
叫んで、それが無駄であることを悟るよりも心が痛まないだろうから。
諦め続けた日々が続いて、続いて、続いたそんなある日に。
いつものように私で憂さ晴らしに来たお父さん。何度も殴られた所で慣れている。でも、今日は何かが違った。地震。何もかもが大きく揺れて、お父さんの身体が簡単に転がり頭を打った。
幸いにも、私が閉じ込められた小部屋には、大きく倒れるような家具は何もない。
閉じ込めるだけの、逃げ出さないようにするためだけのゴミ置き場同然の一畳半の空間。
半開きのドアから差し込む夜空の光だけが、電気が止まったこの家の中を照らしてた。
お父さんがおかしくなったのはそんな時。
まるで御伽噺の怪物みたいに白目をむいて、涎を垂らしながら此方を見ている。
お腹を減らした熊さんみたいに私を見つめている。
殴ることに飽きたから、私を殺そうとしているのかなと思った。私を食べるのかなと思った。
でも、お父さんがそう望むなら、そう望むしか無いのかなと、思った。
だって、私が何をしても無駄だから。
「……嫌だ。」
なんで、こんな事呟いたの?
無駄だって分かっているのに、どうして?
生きていても何の価値もないのに、なんで?
「……嫌だ。」
何回か、お父さんに反抗したことがあったけど、すぐに暴力で黙らせられた。
そう、全ては虚しい。何もかも無意味で無価値。
なのに。
「………ない。」
なのに。
どうして。
死んだっていいって思ったのに。
「死にたく、ない!」
あてもなく叫んで、けたたましし音が轟いたら、お父さんが眩しく輝いた。
眩しくて目を瞑った。開いたら、お父さんだったものが黒焦げになって、死んでいた。
違う。
「……え?」
―――私が殺した。
【字蔵 誠司(ゾンビ) 死亡】
■
「お母さんっ……!」
山折村に生まれて以来経験する、前代未聞の大地震。黒いポニーテールをなびかせながら、山折高等学校2年烏宿ひなたは、眼前に映し出された残酷な現実を直視する他なかった。
『先生』の猟が長引いて、森の様子がおかしいから今日はもう帰るように言われ、自転車を漕いでの帰り道に地震に遭遇。幸いにも走っていた場所こそ地割れには見舞われなかったものの、少し走らせればそこはまるで天地がひっくり返ったような光景が広がっていた。
ひび割れた道路、拉げた街灯、建物は所々崩れているものもあり、古いものでは半壊かもしくは全壊しているのも多い始末。
真っ先に母親の事が過って、不安になる。父親の単身赴任の多さから、ほぼ女手一つで自分を育ててくれたお母さん。最近体調を崩しがちのお母さん。
縋る思いでギアを上げて漕ぐ速度を上げる。目指すは自宅のある高級住宅街。瓦礫やガラス片を避けながら急ぐしか無い。
「……お母さんっっ!」
なんとか住宅街に到着。他と比べて目立った被害こそ少ないものの、それでも屋根が崩れ倒壊している家屋も目に入る。路地が見えて、あそこを右に曲がればいつもの買える場所が――――。
「……あ。」
現実は残酷で、還るべき場所は無惨にも崩れ落ちていた。
直接的な原因は、別で倒壊した隣の家屋のドミノ倒しで。努力の結晶である標本の数々も、お母さんが玄関の額縁に飾ってあった、幼少期に描いた家族の絵も、何もかも瓦礫のしたに潰れて価値のない塵芥へと成り果てているのは日を見るよりも明らか。
「おかあ、さん。おかあ、さん……っ!」
玄関があった場所、既に潰れて影も形もない残骸に、ひっそり伸びる細い腕。
間違いなく。いや、未間違えるわけがない、お母さんの腕だと、理解してしまった。
僅かな望みを賭けて、触れてみた。夜風のせいだと思いたかった。冷たかった。
背負っていたリュックサックが途方もなく重く感じた。
お母さんは、死んでいた。
「うああああああああああああああん!!!!」
込み上げた哀しみが決壊して、泣き叫んだ。
隣に誰かがいるかもしれないのに、それでも泣かずにいられなかった。
余り家に帰ってこないお父さんに代わって自分を育ててくれたお母さん。何時までも続くと思った日常が、こんなにも容易く壊された。
泣かずにはいられなかった。叫んで、叫んで、喉がはち切れんばかりに泣き続けた。
「あああ、ああああああああああ!!!」
やり場のない感情だけが、どうしようもない悲しみが。
ただ、叫ぶだけしか無い悲しみだけが、今の烏宿ひなたを構成する全てだった。
泣いて、叫んで、泣いて、叫んで。そして。
『…………聞こえ……るだろ……か…………』
ノイズ混じりの掠れた音声が、聞こえたのが、そんな時で。
喉元から込み上げるような熱さを覚えて、泣き止んだのが。
◆
『それだけが……私の望み……だ――――ガガガッ――ジジッ―――ガッ』
「……ウイルスに、ゾンビ。特殊部隊が私達を殺しに来る。女王感染者を殺さないと生き残れない……。」
突然流れた放送が、悲しみの感情を吹き飛ばした。
辛うじて聞こえた重要そうな単語を呟きながら、頭の中でぐるぐると逡巡する。
「………じゃあ、殺せば全て解決するの?」
今回の地震によって研究施設から漏れ出したウイルスによるバイオハザード。先程の込み上げる熱さもまたそれによるものなのか。
いや、それよりも。深刻なのは『女王感染者』を殺害しVHを終結させなければ、48時間後に特殊部隊が証拠隠滅を兼ねてこの村にいる全員を殺しにかかる、と。
そんな、映画かドラマの中の話みたいな出来事が、いま現実に現在進行系で発生している。
一人殺してみんなが救われる。そうしなければみんな死ぬ。これも映画ではよくある展開。
殺さないと生き残ることが出来ない。そんな残酷な真実。それでも。
「……そんな事で、納得できるわけがないよ。」
ふざけないで、と言葉を握りしめる。
自分自身でも、矛盾していると思った。『先生』の猟に付き合って、生きるために動物の命を刈り取る場面に何度も見てきた。自分もまた標本集めのために似たようなことをしてきた。
それは、動植物か、人間であるかの違いでしか無いと、そう割り切れれば済む簡単な問題だ。
でも、そう割り切って、『殺す』と選択肢を選んでしまったら最後。何時までも「殺す」という選択肢が頭に浮かんでしまう事が、その果てに価値観が、自分がおかしくなる事が嫌だった。
「そうしたら、私が私から戻れなっちゃう気がするから。」
それを超えたら、戻れなく。人にも動物にも、守るべき一線がある。それを破ってしまえば道理は道理でなくなる。例え変わらなくとも、以前の自分には二度と戻れなくなるから。
「………ッ!」
だから、烏宿ひなたは殺さない。例えそれを殺せばすべてが解決するとしても。
その子たった一人が救われない結末なんて認めたくない。
それが幼稚な現実逃避と罵られても、それでも自分の心だけは裏切りたくないと願った。
その決意と同時期だったか、数軒先で見えた家屋から発された閃光の様な輝きと轟音。
「……今まで育ててくれて。ありがとう、お母さん。」
母親だったものの手を数秒ほど握りしめた後、涙を拭って自転車を走らせる。
既に戻るべき家と母親を失ったけど、これは決別ではなく覚悟。
向かうべき場所は閃光が迸った場所。生きている人を集めて、女王感染者を殺す以外で無事に解決する方法を考える。
だからまず、手を伸ばせる場所の、手の届く範囲の誰かを助けるために少女は星々に見下されながら往く。
(私、最後まで諦めないから。)
どんな時も、最後まで諦めないで挑戦してきた。それがどんだけ苦難の道だとしても、苦しいから、辛いからという理由で投げ出したくなんて無い。
例えどれだけ下らない理由だとしても、立ち止まる理由にはなりはしないのだから。
◆
「……ここって確か。」
粗雑に放り込まれた証左となる折り目が目立つ広告紙が、郵便ポストからバラけて玄関に散らばっている。
所々罅はあれど崩壊には至らない程には丈夫であるが、妙に汚れ目立つ白い家。
ネームプレートには「字蔵」と書かれた黒いパネル。
「……恵子ちゃんの、家。」
字蔵、という名字を聞けば村の百人中百人が、あの悪名高き字蔵誠司の名前を思い浮かぶ。
嫁に手を挙げる、時代錯誤の男尊女卑の思想に凝り固まった男の風上にも置けない人。そして、その娘が字蔵恵子。
不登校児で、寡黙に父親に付き従う異様な雰囲気の女の子という印象。学校にすら通わせない父親に、どうして素直に従っているのか。
烏宿ひなたも含め、他の同級生や先生が様子を見に来た時があったが、彼女は父親に従ういい子であり続けた。少なくとも、ひなたにとっては、字蔵恵子という女の子はその程度の印象だった。
それでも、人の命に千差万別無く。そうと決まれば扉を開いて家の中へ。
いつ崩れるかわからないからスピード勝負。崩れる前に助ける、助けた後のことを考えるのは後回し。
リュックサックを自転車のかごに放り投げ、既に停電している家の中へ。居間の電球はパチパチと明滅を繰り返し、奥の半開きになった扉から肉の焦げたような匂いがする。
もしかして漏電などと思いながら、恐る恐る扉の向こうを覗いてみれば。
「……ひっ?!」
黒焦げた死体の前に座り込んで、怯えた顔でひなたを見つめる女の子の姿。
間違いない、この子が字蔵恵子だと確信した。
「恵子ちゃん、だよね? 一度だけ会ったことあるかな? 烏宿ひなただよ。」
怯える少女を優しく見つめながら、近づいていく。
大丈夫、私はあなたを助けに来たと、ゆっくり一歩ずつ。
「来ないで……。」
「大丈夫、私はあなたを助けに来たから。……心配しないで。」
少女は怯えたまま、顔を引き攣らせその表情は青ざめている。
それでも諦めず、優しい言葉を掛けながら。
「来ないで……!」
バチバチっと、か細い音。
ひなたが音に気づいた時には既に遅く。
彼女の眼前、恵子の周囲に迸る小さな稲妻と閃光。
「来ないでぇっっっ!」
瞬間、部屋の中に雷撃が迸り、その全てがひなたを呑み込んだ。
●
雷だとか、電気だとか、そう言うので怪我をした経験は初めてだった。
頭の中がシェイクされて真っ白になる感覚で、体中が焼けるように痛かった。
飛びそうな意識をなんとか繋ぎ止めて、私は恵子ちゃんをふたたび見た。
「……ぁ、ぁっ……。」
酷く、泣きながら怯えている。さっきの雷、恵子ちゃんがやったことだったんだ。
あの焼死体も同じように、恵子ちゃんがやってしまったんだって。
そんな私も、酷い怪我してるのかなって。でも、思ったより痛くなかったから比較的軽症で済んだのかな?
………ううん、やっぱちょっとキツいかも。
よく見たら、恵子ちゃんの足。凄く酷い傷の痕残ってる。
多分、恵子ちゃんのお父さんがやったことなんだ。恵子ちゃんのお父さんへの怒りとかより、恵子が今までこんな目にあって、気づけなかった自分自身を悔やみたくなってくる。
どうしてこんな事になるまで気づけなかったのか、どうして助けて挙げれなかったのか。結果論だからって割り切れる問題じゃない。
「ごめん、なさい……。」
恵子ちゃんが、怯えたまま、謝罪の言葉を絞り出して、震えてる。
分かった気がする。この子は諦めてしまった。誰も助けてくれなかったから、父親の暴力に怯えて、何もかも諦めたんだ。……私達が、気づけなかったから。
そして、理由はわからないけど、さっき私にやったみたいに、恵子ちゃんは。お父さんを、殺してしまった。
お父さんに従うことで、何も考えないようにしていた恵子ちゃんは、お父さんを殺しちゃって、それで何もかもわからなくなっちゃったんだね。
だったら、私がやらないといけないことは、決まってる。
痛む身体を引きずって、恵子ちゃんに近づいて。私がやるべきことは、抱きしめること。
ぎゅーって優しく抱きしめて、腫れた手でなんとか頭を撫でて、落ち着かせる。
「ごめんね。」
ごめんね。気づけなくてごめんね。助けられなくてごめんね。
ここまで追い込まれるまで、気づけなくて。
誰かがいたら「気にしなくてもいい」なんて声を掛けてくれるかもしれないけれど。
やっぱり、私はそんな事で割り切れないから。
「気づけなくて、助けられなくて、ごめんね。」
多分、どれだけ碌でなしな親でも、この子にとっては親だったから。
私もさっき、お母さんを失ったばっかりだから。その気持ち、分かるよ。
「……ぁ。」
恵子ちゃんの震えが止まって、ようやく泣き止んで、大人しくなってくれた。
何故だから知らないけれど、私も静かに涙を流していたんだと思う。
「……ごめんね。本当に、ごめんね。」
「……………ひなたさんは、悪くない、よ。」
そんな、慰めてくれるような恵子ちゃんの声が、静かに聞こえた。
珍しいものを見るような瞳で見つめてくれていた。その瞳に光が戻ったように見えた。
「…………ひなた、さんは。ヒーロー?」
「……ちょっと、違うかな?」
ヒーローだなんて尋ねられて、らしくもなく恥ずかしくなった。
ほんの少しだけ顔が赤くなったような気恥ずかしさ感じた。
「でも、その指。私と、同じ、力?」
「……えっ?」
恵子ちゃんに指摘されて、初めて気づいた。
私の指と指の間に、小さな電気が流れて、すぐ消えた。私も恵子ちゃんと似たような力を?
もしかして、あんな雷撃まともに受けて、無事だったのはその力のお陰?
ううん、考えるのは後にしよう。
「……恵子ちゃん、一緒に来る?」
「……………うん。」
何はともあれ、一人見つけることが出来た。
傷の方もなんか結局そこまでじゃなかったし、火傷がまだ痛むけど多分大丈夫。
そういえば、ふと前にお父さんが仕事のことで言っていたことを思い出す。
「誰かの未来を守る為に」だなんて言ってたっけ。
今ならなんとなく分かる気がする。この力は、もしかしてその為の力なのかな。
だったら俄然やる気が出てきたかもしれない。
先生や師匠を探したり、やることはいっぱいあるけれど。
今はこの子を、恵子ちゃんを守らないと。
●
お母さんは嘘つきだ。私の事なんて見もしないで、ただ自分からもお父さんからも逃げ出した卑怯者。
だからヒーローがいるだなんて嘘っぱちだって思ってたけれど。
『ごめんね。』
モノクロだった私の未来が、色づいて、鮮やかになって。
ほんの少しだけ、前向きに生きていけるようになったと思う、そう思いたい。
ごめんね、ひなたさん。そして、ありがとう、ひなたさん。
私を暗闇から連れ出してくれて、ありがとう。
ねぇ、お母さん。お母さんは嘘つきだったけど。一つだけ、本当のことを言っていたんだね。
ヒーローが、助けに来てくれたよ。
生きたいって、心の底から思えたよ。
※字蔵家に字蔵誠蔵の焼死体が残されています。
※字蔵恵子による雷撃の轟音が周囲に聞こえたかどうかは後続の書き手にお任せします
【D-4/字蔵家/一日目・深夜】
【鳥宿ひなた】
[状態]:感電による全身の熱傷(軽度・全身)、母親を失ったことによる悲しみ
[道具]:自転車(外においてある)、リュックサック(自転車のカゴの中・中に入ってものは後続の書き手にお任せします)
[方針]
基本.出来れば、女王感染者も殺さずに救う道を選びたい
1.恵子ちゃんを守る
2.私にも、恵子ちゃんと同じ力……?
3.生きている人を探す。出来れば先生やししょーとも合流したい
4.……お母さん、今までありがとう
※字蔵恵子による雷撃の傷が浅かったですが、それはひなたが無意識に能力を発動させ相殺した結果となっております。
【字蔵恵子】
[状態]:精神不安定(微小)
[道具]:なし
[方針]
基本.まだ、生きたい。
1.ひなたさんについていく。
2.助けてくれるヒーローは、いたんだね
投下終了します
投下乙です
>「ごめんね」
虐待が多すぎるこの世界。虐待親父が因果応報で死に、救いの手を差し伸べる存在がいてよかったですねぇ
奇しくも同じ系統の能力者だ、惹かれ合うのも必然なのか
けど、拠り所のない人間がこんな劇的な出会い方しちゃったら依存しちゃいそうなのが心配な所
先ほど投下したみかげと茜の話について
前回の茜の話読み返してみたら小田巻は茜に名乗ってなかったみたいなのでwiki内にて小田巻の名前に触れてる部分を修正しました
投下します
「お〇ック!!何時っ!!からっ!!この、村はっ!!
ゾンビがッ!!名産品になったんですのッ!!」
金のグラデーションオンレイヤーミディアムの髪を揺らしながら、一人の少女が惨劇の坩堝をひた走る。
陸上選手の様な美麗なフォームで地を駆けるその少女の名を、金田一勝子(きんだいちしょうこ)と言った。
彼女は、一言で言って不運だった。
勝子の実家は東京都内にあり、彼女はこの村の人間ではない、言わばよそ者である。
では何故彼女がこの山折村にいるのかと言うと、彼女の幼馴染であり使用人である少年と人生初となる喧嘩をして、家を飛び出したのが発端だった。
結果、そのまま一先ず身を寄せる場として選んだのが…この山折村だったのだ。
彼女はこの村が好きだった。
気候も自然も豊かで、都会の喧騒とは無縁の場所である。
老後はこんな村で隠居するのもいいのかもしれない…そう思うくらいには。
だが、山折村は地震に見舞われた直後から地獄の一丁目と化しつつあった。
「フッ!だが私の40ヤード走のタイムは4秒1(自己申告)!」
金銭的に恵まれた家計に生まれた事が間違いなく釣り合っていない地獄に放り込まれたのが不幸だとするなら。
勝子が類稀な健脚の持ち主だったことは幸運に入るだろう。
見る見るうちに追いすがる亡者の群れを引き離し───そして、新たな不幸に行き当たった。
「いっ!?やっべぇですの!!」
前方から迫るのは、社会人ほどの年齢と見られる黒髪セミロングの女性と、
その後ろを追いすがる感染者の群れでった。
背後を振り返れば後方のゾンビたちとはまだ距離がある、しかし今勝子が行く道は住宅に挟まれた一本道だ。
完全に挟み撃ちの態勢だ。勝子は運命を呪いたくなった。
(あ〜〜!!もう〜!!何故よりによって私の逃げる先に現れるんですの?
もうだめ、翼。私がゾンビになっても怒らないでいてくれますか…?)
今わの際。文字通りの断崖絶壁だ。
そんな瞬間に思うのは、喧嘩別れしてしまった少年の横顔だった。
はぁ、と息を吐く。
きっと、勝子の大切な使用人の少年は怒るだろう。
そりゃもうおっかなく怒るだろう。
「怒られたくねーですのー!!!!」
「え、ちょ、ちょっと!!ぐばぁッ!!」
正面から不幸を持ち込んでくれやがった女にジャンピングラリアットを決めながら。
勝子は祈った。これは間違いなく賭けだ。
賭けに負ければ、ゾンビの餌としての無残な最期が待っている。
勝子の家は金銭的に裕福だったが、昔からというわけではない。
むしろ金田一家はあまたの不幸に見舞われ、その度にしぶとく生き残り、落ちぶれた状況から不死鳥の様に再興してきた。
自分だってその一族の一員なのだ。みずみずこんな片田舎で終わってたまるものか。
そんな反骨心を悪夢へ立ち向かう楯として、勝子はその手に有った物を前方へと投げた。
その手に有ったものは
同時に、ラリアットを決めた女の背中に触れる。
助けるわけではない。自分の能力の実験台だ。
そう、能力。
勝子の中で芽生えた、運命を変える何かの予感。
それを行使する。
前方から走ってきた死の象徴たるゾンビが遂に二人の女性に追いつき、そして。
「チェック、ですの」
ゾンビたちの眼前から忽然と二人の少女が掻き消える。
直後、こつんと二つの小石がゾンビたちにぶつかって地面へと落ちた。
後方のゾンビたちも追いつき、総勢八体のゾンビが間抜けな集会を晒していた。
彼等は暫しの間標的のロストにまごついていたが、ゾンビたちが決して発せない冷静な声につられて其方へと振り向く。
先ほどまで前方にいたはずの少女が、何故か脇にある民家の、塀の上に立っていた。
そして、不敵な笑みを浮かべて、その手にあった何かをゾンビたちの頭上に投げる。
投げられたもの、それは小石だった。
例えぶつけたとしてもそれで成人男性も混じるゾンビを倒せると思えない。
「なら…それが樹に変わったらどうでしょうね?」
次瞬の事だった。
勝子の投げた小石が、脇の民家に生えていた立派な柿の木に“入れ替わった”のは。
ゾンビたちが下敷きになったのはその直後の事だった。
◆
「へぇ〜凄いのね、勝子さん。物の位置を入れ替える超能力なんて〜」
「えぇ、まぁ…私も今しがた使えるイメージが浮かんだばかりで、ぶっつけ本番ではありましたの」
一先ず、ゾンビたちから離れ、適当な民家に身を寄せながら。
二人の女性は向かい合い、情報を交換していた。
勝子が出会ったのは、犬山はすみと名乗る、巫女服の女性だった。
自身程ではないがプロポーションも器量もよい美人だったが、少しやつれているように勝子の瞳には映った。
「でも〜これからどうすればいいのかしら…」
「一先ず、助けを呼べそうな場所を探すのが先決でしょ」
その手のスマートフォンに目を落としながら、勝子は苦々し気に現状を再確認する。
地震があったとはいえ、この過疎地で、間違いなく電波が入っていなければおかしい別荘地で、電波が一切入らないというのは明らかに作為的な物だ。
きっと、このバイオハザードを起こした機関とやらが妨害電波を発生させているのだろう。
そう言った装置が試験会場やライブハウスで用いられることを勝子は耳にしたことがあった。
現状、この山折村は陸の孤島となっているのだろう。
(通信で助けを呼ぶことは望めない。かといって無策で山からの脱出を試みても、
土地勘のない私では迷った挙句感染者か証拠隠滅のための特殊部隊とやらに消されるのがオチでしょうね……ロクでもねぇ村ですわ)
状況は極めて悪い。
取り合えず、生きて帰れて目標である政界に進出した暁には、
この村は絶対ダムの底に沈めてやろう。勝子はそう誓った。
「あ、あの〜、勝子さん」
と、勝子が暗い決意を固めている最中、はすみが声を掛けてくる。
僅かの躊躇の後に彼女の口から出たのは妹の安否だった。
地震発生とバイオハザードによりはぐれ、未だ連絡が取れないという。
この時点で、はすみが何を言いたいのかが勝子には分かった。
「嫌ですわ」
「えぇっ!ま、まだ何も頼んでないのに〜」
「大方その妹さんとの合流を手伝ってほしいのでしょうけど、電話で連絡が取れない今、あてずっぽうで歩き回るのは愚の骨頂ですもの。勝算の薄い博打に付き合うつもりは…」
「ん〜でもぉ…」
自らの顎に指を添えて。
勝子の言葉を遮り、はすみは意見する。
「勝子さん、村の人じゃないですよね〜?なら、土地勘のある村の人間の協力が必要じゃないですか?」
「うぐっ!そ、それはまぁ…」
「それにぃ、この村の人たちちょっと排他的ですから、他所の方には冷たいですよ〜」
(このアマ…中々狸ですわね)
「ふふふ、勝子さんも大人になれば分かりますよ〜大人になるって、こう言う事だって」
「心を読まれた上に噴き出す闇が深い!?」
やつれた顔のはすみから地方のアビスを感じつつ、勝子は冷静に思案する。
リスクとメリットを天秤で測る。
「───聞きたいことが、一つ」
天秤は、現時点では固辞する方向に傾いていた。
だからこれが犬山はすみが金田一勝子を動かす最後のチャンス。
最後の一問を、勝子は投げかける。
「貴女にとって、妹さんは大切な方ですか?命を賭けてもいいほど」
大げさな問いだった。
普段ならば勝子も一笑に付して投げかけはしないであろう問い。
だが、現状はそれこそ生きるか死ぬかの状況で。
土壇場ですくみ上ってしまう手合いでないかどうかだけは、値踏みしたかった。
対するはすみの返答は簡潔だった。
「えぇ、たった二人の〜姉妹ですから〜」
それを聞いてはぁ、と。
勝子は大きな大きなため息を吐いた。
心中の天秤を傾けなおす。
片眼をつむって、人差し指を刺し、そして告げた。
「……いいですわ」
「えぇっ…本当?」
「二度は言いませんわよ。見返りはこのお〇ックな事態の収束までの協力と…」
───お嬢様は優しいですよね、なんだかんだ。
「私が史上初の女性総理大臣となり、
最強の政権を樹立する予定の、選挙戦での二票という所でしょうか」
(この子、思ってたより頭悪いのかしら?)
【C-4/高級住宅街/一日目・深夜】
【金田一勝子】
[状態]:健康
[道具]:スマートフォン 、マーキングした小石(ポケットに入る分だけ)
[方針]
基本.基本的に女王感染者については眉唾だと思っているため保留。他の脱出を望む。
1. 犬山うさぎとの合流を目指す。
2.能力は便利ですが…有効射程なども確認しなければいけませんわね。
3.ロクでもねぇ村ですわ。
4.生きて帰ったら絶対この村ダムの底に沈めますわ。
【犬山はすみ】
[状態]:健康、不安
[道具]:なし
[方針]
基本.うさぎを探したい。
1.勝子さんと行動を共にする。
2.生存者を探す。
3.ごめんね、勝子さん。
投下終了です
投下乙です
>逢いたくて
家出娘が集まりすぎるこの村。何の引力が働いてるの?
はすみも流石に役場勤めだけ合って中々交渉上手ね
お嬢様がおもしれー女すぎる。おバイオハザードでも生き残れそうな気がしてならない
時間ギリギリですみません、投下します
(…行ったか?)
公民館、先程郷田 剛一郎がゾンビになってしまった友を抑えつける為に奮闘していた場所である
そこの二つの部屋にはそれぞれ友がゾンビの姿で封じ込められている。
が、実を言うとその二つの更に隣のへやの帚入れにとある少女が隠れていたのだ。
少しだけ目にかかるくらいまで伸びたウェーブがかかっている長い茶髪、儚げな美しい顔立ちをしているが体格はかなりしっかり引き締まっていて、身長は高く、出る所はかなりしっかり出ていて抜群の色気を醸し出している。青いパーカーに白いシャツを着ていて、そして普通の丈のスカートを着ている
とても15歳とは思えない姿をしている少女。
岩水鈴菜、『地震の根源を閉じる事で地震を鎮める』閉じ師という仕事の見習いをしている少女
そんな彼女が何故ここにいるのか、それは12時間前に遡る
彼女は代々閉じ師をしてきた岩水家の元で長女として生まれた(弟と妹も一人ずついる、母は弟を産んだ後に病死)
彼女は休みの日は必ず地震が起こる可能性のある場所を父から教えてもらいながら歩いている。
何故かというと、彼女は高校を卒業したら閉じ師になる運命だからだ
だがやはり学校が優先である為に、地震がある場所を見る事は出来ていない。一人前の閉じ師はミミズが湧き出てきているのを視認出来るのだが、彼女にはまだ早すぎるとしてその技能は与えられていないのだ
それでも将来に向けて慣れていく必要がある為に廃墟周りをしているのだ。
そんな中、廃墟を行こうとした時に、彼女はとあるライブが目に入った。
それは自分と同年代と思われる少女たちが歌っていた姿を見る事が出来た
その少女たちは誰よりも輝いていて、心をときめかされていた
そして思わず…ライブが終わった後…リーダーに思わず話しかけていた
「あの…少し良いか?」
「ふぇ?何ですか?」
丈夫だ、ありがとな、ここまで親身に接してくれたのは貴女が初めてだ」
バスの予定表を見て分かった。そこの村への最終バスはもう間もなくだ。今日の内にその自然豊かな場所でキャンプを張っておきたいと考えたのだ。閉じ師としての仕事を考えると外れているがこれくらいなら許してくれるかもしれないと考えていたのだ。ラインを使って父にも許可はもらえた…そしてバス停まで彼女は見送ってくれていたのだ
「ありがとな…ここまでしてくれて…貴女は優しい人だ」
「私達のファンになってくれた人には…出来る限り色々したいなって思ったの、それで貴女が喜んでくれたなら本当に良かった」
気が付くと彼女はバスにも乗っていた
「…そういえば、貴女の名前、私はライブが途中参加だから聞いていなかったから知らないんだ、だから知りたいのだが…、そして…私も名乗っていなかったな」
一呼吸おいて…改めて口を開いた
「先に名乗らせてもらう、私の名前は岩水鈴菜だ」
そして…彼女は少し躊躇しながらも…バスから降りて
ピンクと茶の髪を混じっていて、可愛らしい顔を見せながら微笑みながら…
「私の名前は高谷千歩歌、だよ!!」
「…ちあか、か、その名前、覚えたぞ!!」
「鈴菜ちゃん!!後で山折村の感想、教えてね!!」
「…良いだろう!!長話、付き合ってもらうぞ!!」
その言葉を最後に二人の間のドアは閉められた
窓を開けて彼女を見ると…いつまでも笑顔で手を振っていた
「また会おうねーーー!!」
「…ああ!!」
バスが去っていくのを見つめていると後ろから話しかけてきたのは
「本当に行かなくて良かったの?ちあか、あんないしたかったんじゃないの?」
「侑ちゃん!!来てくれたんだ」
海坂侑、作曲をメインで行っている女の子で、ちあかの幼馴染だ
「それに、ちあかのおじいちゃんとおばあちゃん、確か、明日…」
「私も、それを考えたんだけど…いいの、明日もライブあるし、その為に思いっきり練習して頑張って欲しいって…夢でも出てきたんだよね、昨日」
「夢?」
「うん、おじいちゃんおばあちゃんが出てきたの…だから、墓参りよりそっちを優先しようかなぁって、出来るなら色んな場所を教えてあげたかったけど…まぁ大丈夫だよねきっと」
…この夢は彼女の運命を多く分けただろう
一方、鈴菜は村に入り、食事や観光をした後に
九時ごろ、神社の近くでテントを張って寝ている時だった。
地震が起きたのは
「ありがとう〜!!私達のライブを見せてくれて〜!!」
「あ、ああ…」
ハグしながら喜んでくれた…人懐っこく接してくれるとつい驚いてしまう…コミュニケーションをあまりとったことがないからだが
「あ、あの…大げさではないか?私達たった今初めて会ったんだぞ?」
「ううん!!出会いに初めても何もないと思うな〜私は」
「そ、そうか…」
「所で〜、何で貴女は話しかけてくれたの?」
「…気になったからだ」
「ふぇ?」
「貴女達は…恐らく高校生ではないかと私は思ったのだが…何故学生でありながらアイドルをやっているのだ?」
ライブの中で学生服を着ている歌があったのだがその服が見事に様になっていた事からの推測である
「えっと…何でかというと…一つ目は、やりたいからって理由かな?」
「やりたい?そんな気持ちだけでやれるものなのか?」
「やりたいと思ったら自分の思うようにやれる…それが学生アイドルなんだよ!!歌も服もダンスも自分たちで考えてるの!!だからすっごく楽しいんだ!!」
「そういう物なのか…」
楽しそうに言っている姿が本当に眩しかった
「もしかして…貴女、学生さんじゃない!?」
「…何故分かった?」
「あたり!!やったやったぁ〜!!…勘だよっ!!まさか当たるとは思わなかったよ〜!!」
「す、凄いな…多くの人が私の事を大人と間違えるのだぞ?」
「そうなの?意外だよ!!こんなに可愛いのに!?」
「か、可愛いだと!?奇麗なら何度も言われた事はあるが…」
「ううん、可愛いと思うよわたし、貴女の事!!学生アイドル、やってみたらどう!?」
「わ、私が!?出来るわけないだろう!?多くの人に大人と間違われるぞ!?」
「やりたいって思ったら気持ちに嘘を付いちゃダメだと思うよ!!もしやりたくなったら応援させてね!!」
「…話を変えよう、もう一つの理由は?」
「二つ目は…山折村の名前を広める為、だよっ」
「…確かすぐ近くにある村だな、それとアイドル活動に何の関係が?」
「私達九人のうち五人は皆、あの村に住んでるんだけどね…人、どんどんいなくなっちゃってるんだ…」
その顔はさっきまでの明るい顔から悲しみが滲みだしていた。
「だから、宣伝したいの、私達の生まれ育った村はいっぱい美味しい物があって、良い人達もいて、自然も豊かで、風景もほんっとうに良い場所なんだよって!!それを知ってもらうための学生アイドルでもあるんだよ!!」
「そうか…そんなに凄い村なんだな、山折村というのは」
…少し考えた後に…再び口を開けた
「なぁ、私、少しそこへ行きたくなったのだが…どういう場所なのか、詳しく教えてくれないか?」
「…興味持ってくれたの!?ありがとう!!」
それから彼女は村の様々な良い所を教えてくれた…その時の彼女も本当に楽しそうだった
「…でねでね、それからぁ!!」
「もうそろそろ遅くなってしまうからそこまでで大丈夫だ、ありがとな、ここまで親身に接してくれたのは貴女が初めてだ」
バスの予定表を見て分かった。そこの村への最終バスはもう間もなくだ。今日の内にその自然豊かな場所でキャンプを張っておきたいと考えたのだ。閉じ師としての仕事を考えると外れているがこれくらいなら許してくれるかもしれないと考えていたのだ。ラインを使って父にも許可はもらえた…そしてバス停まで彼女は見送ってくれていたのだ
「ありがとな…ここまでしてくれて…貴女は優しい人だ」
「私達のファンになってくれた人には…出来る限り色々したいなって思ったの、それで貴女が喜んでくれたなら本当に良かった」
気が付くと彼女はバスにも乗っていた
「…そういえば、貴女の名前、私はライブが途中参加だから聞いていなかったから知らないんだ、だから知りたいのだが…、そして…私も名乗っていなかったな」
一呼吸おいて…改めて口を開いた
「先に名乗らせてもらう、私の名前は岩水鈴菜だ」
一呼吸おいて…改めて口を開いた
「私の名前は岩水鈴菜だ」
そして…彼女は少し躊躇しながらも…バスから降りて
ピンクと茶の髪を混じっていて、可愛らしい顔を見せながら微笑みながら…
「高谷千歩歌、だよ!!」
「…ちあか、か、その名前、覚えたぞ!!」
「鈴菜ちゃん!!後で山折村の感想、教えてね!!」
「…良いだろう!!長話、付き合ってもらうぞ!!」
その言葉を最後に二人の間のドアは閉められた
窓を開けて彼女を見ると…いつまでも笑顔で手を振っていた
「また会おうねーーー!!」
「…ああ!!」
バスが去っていくのを見つめていると後ろから話しかけてきたのは
「本当に行かなくて良かったの?ちあか、あんないしたかったんじゃないの?」
「侑ちゃん!!来てくれたんだ」
海坂侑、作曲をメインで行っている女の子で、ちあかの幼馴染だ
「それに、ちあかのおじいちゃんとおばあちゃん、確か、明日…」
「私も、それを考えたんだけど…いいの、明日もライブあるし、その為に思いっきり練習して頑張って欲しいって…夢でも出てきたんだよね、昨日」
「夢?」
「うん、おじいちゃんおばあちゃんが出てきたの…だから、墓参りよりそっちを優先しようかなぁって、出来るなら色んな場所を教えてあげたかったけど…まぁ大丈夫だよねきっと」
…この夢は彼女の運命を多く分けただろう
一方、鈴菜は村に入り、食事や観光をした後に
九時ごろ、神社の近くでテントを張って寝ている時だった。
地震が起きたのは
「皆さん!!早く避難してください!!早くっ!!」
即座に目が覚めた彼女は地震に対する対応は常に教えられていた為、住民を広場に誘導していた。
そして、これからどうするのかを公民館に訪れて村長に話を聞こうとして走っていた時の事だった
悪夢のような放送が流れたのは
「…冗談だろう?」
研究所?ゾンビ?ウイルス?バイオハザード?
…全てが質の悪い冗談にしか聞こえなかった
「…私は、ゾンビになってしまうのか?」
ならばいっそのこと今ここで舌を切って…!!
…だが何も変化は起きなかった
となると今の放送は地震で多くの人が疲れている中行った悪趣味ないたずら…
と思いたかった
そこら中に現れ始めたゾンビを見るまでは
(…どうやら私は適応したらしい)
喜ばしい事なのかもしれない、何とかゾンビにならずには済んだ
だが周りのゾンビを見るとその喜びは一瞬で消えてしまう、その中では同じバスに乗っていた人も紛れていた。
(この人達は普通の人に戻せる可能性があるらしい、ならば…少しでも…!!)
だがゾンビを対処できる異能は自分に芽生えているのだろうか、そう思い、手に水の入ったペットボトルを持った時
(…何だ?この感覚は…!!)
水を手に持った時、本能が感じ取っていたのは、手にその水を持つ事であった。
その瞬間その水は
「…鍵!?」
鍵の形に固まった
(これならもしかすると…!!)
そして使い方も本能で分かった
彼女はあえてゾンビにみつかり…高級住宅の家に入って逃げ込んだ
それを追ってきたゾンビが家に入ってきたのを見て…窓から家を出て、カギを窓に向けた
その瞬間、
鍵穴がその窓に現れた
ガチャリ
この瞬間、窓は絶対に開く事も、壊れる事もない窓へと変化した
試しに木の棒で割ろうとしても割れなかったし、いくら開けようとしても窓は開かなかった
(…これが異能、か…どういう原理にウイルスが私に作用してこのような力を身につけさせたのか?私が閉じ師だからカギに関係する力が身についたのか?)
そう考察しながら家の窓も異能で鍵を閉めて…ゾンビたちを閉じ込めた。これで無作為に殺されはしない…はずだ。そう考え、彼女はこの状況を公民館の方に伝えるべく、公民館に向かう…向かいながら周りの風景を見る。
自分がさっきまで見ていた自然はとても静かだった、だがその静かさのおかげでとても豊かな自然の壮大さを感じる事が出来た。
だがその自然は地震によって、そしてゾンビのうめき声によって台無しになっている
(千歩歌…貴女がこれを見たらどう思うだろうな…)
彼女に会わなかったらこのパンデミックに巻き込まれることはなかっただろうだが、恨むわけが無い、こんな事誰でも予測はできないに決まってるからだ
こうして、公民館に向かい…部屋を経由して会話をしているであろうでかい声が響いている部屋に入ろうとした時の事だった。
『ソウちゃん。しばらくそこで大人しくしといてくれ。
目が醒めたら、生き残ったやつらの世話は頼むわ。
ゲンちゃん。俺は先に地獄で待ってる。
目ェ醒めたら、ケジメ付けろよ』
そして
『俺は余所者どもを皆殺しにする。
この村をめちゃくちゃにした奴らを全員殺す。
だが、それでもこの騒動が収まらなかったなら……』
という声を
そんな事を聞かされたら出れる訳がなかった。自分も余所者だから殺されてしまう可能性もあるからだ
そうして去っていった後に…
顔を出して現在に至るという訳である。
彼女はまず二人のゾンビが部屋をより出れないようにする為に異能で鍵を閉めた。
次に部屋に散らばっている資料を見る事で…三人の関係を推測してみる事にした。因みに部屋の状況を見て、剛一郎の異能は凄まじい馬鹿力によるものだというのは察することが出来た。
(『ゲンちゃん』は恐らく山折厳一郎、『ソウちゃん』は神楽総一郎だったようだな…それぞれえらい立場だったようで…幼馴染だったようだ)
そして剛一郎は村に余所者が入るのに否定派、厳一郎は賛成派、総一郎は中立派だったらしい
(…剛一郎の気持ちは分かる、村が他の人によって変えられていくとそれは従来の村が消えていく事になりかねないからな)
でも
鈴菜は見てきた、たくさんの廃墟になった場所を
そこの人の想いをたくさん感じ取ってきた。
どんどんと人が、想いが消えていく様子も感じてきたのだ
その想いが写している景色がどんなにキレイでも、現実は何もかも廃れていて
その虚しさに心も痛めてきたのだ。
そう考えると他所の人達は受け入れる必要は十分あると彼女は思った。
…もっとも、もうこのように荒れてしまった時点でもう無理になってしまったかもしれないけど
…と言うのは置いといて、まずはこれからする行動を考えるべきだ。
私は真っ先に考えたのは…地震の根源を調べる事だ。
地震の根源を調べたところで何がある?と思うだろう
だが鈴菜は疑っている。この地震には裏があるのではないか、と
どうもうますぎる気がするのだ。地震が起きた事によってトンネルは封鎖されていて誰も介入が出来ず、電波障害によって電話も使えず外の状況は伝える事も出来ず、更にその瞬間にウイルスがばらまかれて一部の人が普通の環境で人が使った場合警戒されるであろう異能を自由に使える…
出来すぎではないか?
もしかしたらこの異能で何が起こるのか実験しているのではないか?
その為に地震を人為的に起こしたのでは?…だとするなら閉じ師としてこの所業は許す訳にはいかない
調べる必要は高いと考えた。
まず、彼女は元々背負っていたリュックから荷物を取り出すことにした。この地震について調べる為にこれからどのように生き残るかを考える為である。
食べ物は…インスタント高山ラーメン、のりしおポテトチップス、ポテトサラダ、焼きうどん、それに沼津でチカって娘にもらった西浦みかん×3、更にビックマックだ。たまたま旅のための買い出しをしておいて良かったと今更に思う。、朝、昼、夜に分けて食べるか
次にAQUAの水500l×2だ、これは自分が身に付けてしまった異能の為にも取っておかなければならない。1回につき20lぐらい使っている気がするから…多くても後46回か、水がなくなったらどこかで補填する必要があるな
他にもキャンプ用具、傘、寝間着×2、制服、普段着×2…などを確認していく。我ながらよくここまで多く荷物を運べているな、普段から閉じ師の仕事に備えて足腰や腕力を鍛えている成果、かな?
そして今自分が使える武器は…この2つだけだ
一つ目はキャンプ用具の中にあったライターだ、ゾンビ達も元は人間、火には怯えてくれる…はずだ
そしてもう1つ…それは、ロシア製のマカノフの銃だ。弾数は九つか…歩いてきた道に何故か落ちていた…地震で露出したように見えたが、そもそも何故地面に隠されていたのか分からないがそれは置いておこう
銃なんて全く使ったことはない、使うことになるかもしれない、なんて事態になるとは思っていなかった。そしてこれを使うという事は人の命を奪う可能性があると言うこと
人の命を守る為に閉じ師をやっていたはずだ…その誇りを失っていいのか、考えてしまう。だが方針の為にも覚悟は決めなければいけないと思っていた。
そう、今後の方針、1つ目はさっき考えたように、この地震の根源を知る事だ
そしてもう1つ…それは女王ウイルス保有者の殺害である
勿論できる限り殺すつもりは全くない、だが、残り6時間くらいになったら…自分と同じ正常感染者も殺していく必要もあるんじゃないか、と考えてしまっている
まず最初は快楽等目的もないのに無差別殺戮を起こすような危険人物(このような人物の場合は自衛で殺してしまう可能性はあるがそれは多くの人を守る為に仕方がないと思った)、それで収まらなかったら次に先程ここにいた剛一郎さんみたいな目的があってやむおえず対象を無差別に殺す人かな、そしてそれでも収まらなかったら…殺されるべきは…自分だな
何も罪がない人を殺す事だけは絶対に無理だ、その一線だけは死守する、己の命を絶ってでも、もし自分が死んだとしても最近大切な人と会えたといっていた今でも閉じ師をやっている従兄弟がいる。そして誰よりも可愛い妹と弟がいる。彼等が私の跡を継いでくれるはずだ…父には本当に申し訳ないが
もっとも、この女王ウイルスについても詳しく調べる必要はあるだろうな、もしかしたら命は無事なまま無力化出来る可能性もある…かもしれないしな、命を助けることができるなら…諦めたくは無い
そしてまず今から行う事は剛一郎の殺戮をやめさせる事の説得だ。あの言葉を見るに地獄で待ってる…つまり罪の意識はあると考えるべきだ…だったら止める事が出来る可能性は高い。しかし今の自分であの異能をもった剛一郎さんに立ち向かうのは無理だ、だから他の村人と接触をして、どうにか説得が出来る余地を作ってから話さなければならないと考えた。また、この村の余所者にも危険な人がいると話しておく必要もあるだろう。
そう思い、座っていた木製の子供用椅子から立ち上がった、この椅子は林業が盛んな村の特産品の1つであり、地震の時に潰れてしまっていた店から拝借した物だ。地震のせいで左上の脚が外れているようだが、簡単に持ち運べる椅子として持っていく事にした(ただしリュックには入りきれなかったので両手で持ちながら動いた)
(…こんな椅子に座るなんて…子供っぽいな、私)
そう少し自嘲しながら…彼女はまず高校に向かう事にした。同年代の村人との接触は普段は寡黙である自分でもやりやすいのではないかと考えたのだ。高谷千歩歌との会話も自分の自信につながっていた。それにもしかしたら剛一郎の子供もいるかもしれないしな、その子を仲間にすれば…
そう考えて、彼女は…高校に向けての一歩を歩み始めた、地震に対するケジメをつける為に
【岩水鈴菜】
[状態]:健康
[道具]:リュックサック、キャンプ用具(テントやライターなど)、傘、寝間着×2、制服、普段着×2、ロシア製のマカノフ、インスタント高山ラーメン、のりしおポテトチップス、ポテトサラダ、焼きうどん、西浦みかん×3、更にビックマック、AQUAの水500l×2
[方針]
基本.この地震が起きた原因を調べる
1.まずは学校に行って同年代の人と接触する
2.次に 剛一郎が経営している寿司屋へ向かって彼の情報を集める。
3.ゾンビは家に閉じ込めて対処する。
4.剛一郎の危険性を多くの人に伝えながら、説得できる人と異能が強い信じられる人を探す
5.千歩歌の知り合いがいたら積極的に保護したい
6.残り時間が少なくなってしまい、どうしようもない時は危険人物→善性殺戮者→自分の順番で死んでいくしかない、だが女王ウイルスを命に影響なく無力化する方も諦めず探したい
※閉じ師の技能が使えますが、この状況ではほとんど意味がありません。
1回異能を使うと20ml水を消費します。
申し訳ございません、429は投稿ミスです。
以上、高谷千歩果も混じえて物語を作ってみました。今回はゾンビとしてではなくバックグラウンドとしてキャラを使いましたが、やはりこの場合も予約はするべきだったのではと後悔しております、後、能力や容姿、そして設定もssに合わせて変更しましたので、後で修正します。更に、このssの誤字も後で修正をします。以上、遅くなってしまい、すみませんでした。
投下乙
作品タイトルと現在位置が抜けてるよ
ごめんなさい、タイトルと現在地を忘れてましたタイトルは『滅びゆく村…それでも希望を諦めない』です。現在地は公民館近くです。
投下します
昼間であればさぞ絶景だったであろう山折村の湖。
夜であっても月が反射し、幻想的な景色となりうるはずの場所。
村の改革により小綺麗な植え込みやベンチなどが置かれたことで、
ちょっとした観光スポットとしての役割をある程度担ってもいる。
しかし、このような場所に災害の際に訪れる人は普通いない。
避難するべき場所の方角からは離れすぎているのも理由の一つ。
しかし、絶景となりうる場所には一人の男の姿が存在していた。
防護服に覆われた格好はこの風景にはとても似つかわしくない。
防護服の中の顔は女性受けのいい整った顔をしており、
事によっては引く手はあってもおかしくはないだろう。
(成田さん、いつ見ても素早いですね……)
山折村へと送り込まれたSSOGの隊員が一人、乃木平天。
素早い身のこなしで南方へと向かった成田に軽く感嘆する。
天は隊員の中でも成績としては後輩にも時に後れを取るし、
実力は先輩方に秀でているとも言い難い。非才な部類の人間だ。
腐っても特殊部隊の一人なので常人と比べれば十分すぎるほどに強いが。
とは言えレベルの違いをこうして間近で見ると少しばかり不安になるものだ。
もっとも、SSOG隊員にいる時点でその能力はある程度買われてるも同じ。
さして非才な自分にコンプレックスを抱くようなものではなかった。
(成田さんが村の出入り口に往生してる可能性のある感染者を優先、
私がゾンビに受けた傷の治療を求め向かった診療所の感染者を優先ですか。)
任務を振り返り軽くため息を吐く。
基本的に彼は博愛主義な性格をしている。
平然と仕事をしたりそこを深く考えたりしない、
そういった先輩方程の受け入れ方はしてなかった。
仕事については分別はしっかりしているので問題はないが、
今回の移動ルートはつまるところ、助けを求めた感染者を狙うこと。
助かりたい一心な住人を死に追いやるとは、やるせない気分になる。
(此処まで悲観的になるのは私ぐらいでしょうね。)
初任務で仕事を見事こなして今休暇を満喫してるらしい、
新人の小田巻真理さえも中々の神経のずぶとさを持っている。
初任務の後に『じゃあ休暇楽しんできまーす!』が言えるのは中々だ。
他にもそれを愚痴にしたが『偽善者の発想だな』とは先輩の伊庭に言われた。
ごもっともな話だ。汚れ仕事において持ち込む考えではないのだから。
偽善者と言われたって仕方ない。皮肉屋の伊庭らしいとも言えるが。
(とは言え、こんな場所だからこそ忘れたくないんですよね、自分は。)
エキスパートと言うよりは、何処かネジが外れた狂人が多く集う組織。
SSOGの隊員の何人かは気が短い隊員も多く、揉め事もよくあることだ。
そういう時の目安に、天秤としての役割を担える常識人として自分はありたい。
博愛主義を捨てきれないと言うよりは、あえて背負っていくべきものだと。
狂人の中常人を貫くと言うのもまた、ある種の狂人なのだと言う自覚はあるが。
(小田巻さんも、あの様子なら今頃休暇を楽しんでそうですね。)
こんな仕事場だからこそ休暇では、
休めるときはしっかり休んでほしいものだ。
今度彼女が行きたがっていたラーメン屋を教えてもらおう、
などと思いながら、遠くに見える目的の診療所を見やる。
此処は山折村における南西の湖であり、更に西の方だ。
避難先も学校が指定されてるのでは余計に人は離れていくだろう。
つまるところ、湖周辺に特に留まる理由はないので素直に診療所へ向かおうとする。
「!」
湖から何かが飛び出す音さえなければの話だが。
此処に巨大な水飛沫をするほどの魚はいないはず。
いればまず観光の名所として宣伝文句としている筈だ。
勿論そんな情報はない。ではなんだと言うのか。
振り返って見やればそこにあるのは、
「───ハイ!?」
ワニだ。
田舎には此方とどっこいどっこいの不釣り合いな、
と言うより明らかに育ちすぎた巨大なワニが飛び出してきた。
柵を飛び越え、頭部を丸のみにする一撃を横へ転がりながら回避。
受け身をすぐ取りながら起き上がり、サバイバルナイフを構える。
「ワニ!? いやいや、此処日本ですよ!?」
研究所に飼ってたゴリラとかの実験動物ならまだわかる。
海を渡ってくるワニも日本に出る、と言う事例がないわけではない。
しかしこれはワニだし此処は岐阜の湖。海と言うわけではなかった。
ワニが研究所を出て湖にいるとも思うが、湖付近に研究所があるならまだしも、
この近辺に研究所があるという情報は(少なくとも自分には)ない。
(何処かの金持ちが捨てたとか、そういうとこでしょうか?
山折村には富裕層もいるようですし、ありえなくはないですが。)
アメリカの某都市でバイオハザードの事件の生還者である男がニュースで、
『もうワニとかカラスとか犬は当分ごめんだ』と言う愚痴を零していた。
与太話ではなさそうだとは思ったが、よもや自分が体現者になろうとは。
こんな田舎で遭遇することについては全く考えもつかなかったが。
しかもこの状況で狂ったような動きをしてこないところを見るに、
(これ、まさか正常感染者? ワニが? いやいや、ワニなんですけど!?)
こいつも正常感染者だということに呆れてしまいそうになる。
世界観が何もかもぶち壊しだろこれは、と思わずにはいられなかった。
田舎で防護服を着た特殊部隊VSウイルスに感染した巨大ワニ、
B級どころか下手をしたらZ級のクソ映画と呼ぶべき内容だ。
観客はポップコーンを投げて帰るに決まっているだろうこの展開。
しかも厄介なことにこれが正常感染者と言うことは、だ。
(此処で仕留める必要があるとは……最初がワニって。)
あいつがただのゾンビだったら水辺からは動かない可能性もあり、
状況から人もさして来ないだろうから放置しておきたくもあった。
こんなのを相手にするのは、弾やナイフが無駄になってしまうから。
しかし、正常感染者であっては消費を覚悟してでも仕留める必要がある。
開始早々とんでもないものに出くわしたものだと驚かされるものの、
冷静にナイフを構えたまま対峙して肉薄する。
(確かワニの弱点は!)
ワニは陸上でも人間よりも素早く走れる。
個体によっては50、60キロの速度を誇る。
逃げるや距離を開こうとしてもすぐに追いつかれてしまう。
よくワニは背後が弱点だの言われるが、旋回もできる素早さではほぼ無意味。
真に狙うべきは真正面からの戦闘であり、相手も迎え撃つように接近し顎を開く。
(させません!)
強靭な顎を開くその寸前、
その口を上から踏みつけて強引に閉じさせる。
ワニは噛み砕く力は確かにとてつもないものはあるが、
開く方の力は非常に弱く、口を開けさせなければ楽に戦える。
巨大で凶悪ではあるが、顎の弱さは常識における知識と同じだったようだ。
何処で聞いたか忘れたが、そんな知識がこんな田舎で役に立つとは。
いろいろ度し難いと思いながらもサバイバルナイフを脳天へと突き刺す。
最初こそ驚かされたが、冷静に対処すればなんて事のない、
これからするべきことと比べれば些事のような戦いだ。
それで終わるはずだった。突き刺す前に水飛沫が出てくるまでは。
(いや、冗談でしょう? これ。)
ワニAのピンチにワニBが現れた!
二匹目のエントリーに『そんなバカな』と言いたい。
子供とかなら本当にギリギリ理解しよう。そういうことも恐らくある。
しかし、体格も骨格も何もかも完全に瓜二つのワニでは呆れかけた。
エントリーの仕方は最初と同じ、顔面狙いの攻撃に即座に飛び退いて離れる。
(これが感染した結果の産物……いや脳が理解を拒否したがってるんですけど!!)
完全な瓜二つは流石に常識では考えらえない。
これがウイルスに適応した存在の顛末と言ったところだ。
田舎を舞台にした特殊部隊VS超能力に目覚めた巨大ワニが二体。
さっきよりも更に地雷臭のする作品になった気がしてならない。
なんてことを考えてる余裕などない。距離を取った瞬間相手が詰めてくる。
恐ろしい程に機敏。飛び込みながら口を開き此方の肉体を噛み千切ろうとする。
近くの木へと二匹目の追撃を想定した壁へと逃げ込むように転がって回避。
(や、やりづらい!)
此処は観光スポットとして多少の公共物はあるものの、
彼の未熟な素質を補う、工夫をする手段がかなり限られている。
ワニとの戦いは殆ど素の実力で戦う以外の選択肢がなかった。
一匹目の攻撃を回避しても二匹目が迫ってくる。
木が邪魔をしてるため、回り込みながら足へと噛み付く。
「ッ!」
咄嗟にジャンプでギリギリ回避。
防護服どころか足ごとちぎられることはなく、
そのまま脳天を踏みつけると、ワニBが突如消滅する。
(え?)
先ほどまであった質量がいきなり消え、僅かに姿勢を崩すもすぐに整える。
いきなり消えたことに戸惑うが、これが力の仕様なのだと断片的に理解。
どうやらそこまでの耐久性はないようで存外楽に勝てるのではないか。
などと思った矢先、三度湖から水飛沫。
「えー……」
げんなりとした顔にならずにはいられない。
ワニAが倒されたことで背後にワニCが現れた!
もう消費だなんだを余り気にしている余裕はない。
すぐに迫るワニCと戦う前に、ワニAへとナイフを速やかに投擲。
頭部へと突き刺し、Aが消滅している間に迫るワニCの攻撃を横転して回避。
ワニが旋回している間に、空は距離を取るように全力疾走で後方へと走り出す。
無論追跡するワニの方が早い。早々に追いつきその足を噛み千切りにかかる。
(よっと!)
攻撃が来る前にジャンプし、
追うようにワニもジャンプをするはずだったがそれは叶わない。
彼が回避した結果、眼前には設置されていたベンチへと顔面を激突してしまう。
速度が出ていてブレーキを掛けなかったのであれば、怯むのは当然の帰結。
「ホッ!」
怯んだ隙にベンチに着地した後さらに跳躍。
ワニAのときのように、頭部へと全体重で踏みつける。
三度霧散したところを見届けた後、早急に地面に転がるナイフを回収。
湖にはまだ何体いるのか定かではないワニに警戒を解かないが、
「え?」
ワニDと思しき存在が湖から顔を出し、突然苦しみだす。
今まで何もなかったのに、まるで今の攻撃を痛がってるみたいだ。
最終的に溺れてるかのように沈んでいき、姿を消してしまう。
(フィードバックでもあるんでしょうか? いや、それもおかしいような。)
もし分身が消滅してダメージを受けたなら、
ワニA、ワニBの時だって何かしら反応があったはず。
なのにワニCが倒された時にだけ湖面に顔を出してきている。
そも疑問として、四体いるなら一斉に襲えばよかったはずだ。
痛みを共有しているのであれば四匹で一斉に襲う方が楽のはず。
態々一匹ずつ戦わせて、倒されてしまえばそれで終わりなんて、
ちぐはぐな行動に倒したとは感じない違和感が拭えなかった。
(……警戒は怠らないで行きましょう。)
湖に潜った以上死体の確認をするのは困難だ。
仕留めたならそれでいい。しかしまだ生きてるならば。
足元をすくわれぬように、湖の方を見ながらゆっくりと後ずさりをしていく。
警戒は怠らないが、何かが起きることはないまま湖を離れていき、
問題ないと判断した後は背を向け、診療所の方へと走り出す。
何も起きないことの方が君の悪さを感じさせるところに後ろ髪をひかれながら。
【F―1/1日目・深夜】
【乃木平天】
[状態]:疲労(小)、精神疲労(小)
[道具]:拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフ
[方針]
基本.仕事自体は真面目に。ただ必要ないゾンビの始末はできる範囲で避ける。
1.ワニ以外に珍獣とかいませんよね? この村。
2.診療所へ向かって仕事をこなす。
3.後ろ髪を引かれる。あのワニ生きてる?
※ワニ吉の死に懐疑的です。
ワニが沈んでいった湖の底では。
ワニが数匹のワニと邂逅していた。
否、厳密には彼等は全て一個体のワニ、
此処では飼い主から付けられた名前、ワニ吉と呼称する。
複数のワニは、ワニ吉がウイルスに感染したことで得た分身たちだ。
『ウイーッス僕! どうよ僕の死んだふり!
飼い主様から仕込まれた芸、すげーだろ!?』
『良いわね私! あれは名演技だったわ!
飼い主が見てたエイガって奴にも劣らなかったわよ!』
『でもよぉ俺。最近の人間ってパねえよな。
あんなにスマートに殺しに来るんだぜ?
しかもこっちが死んだふりしても警戒してたし。
あのまま隙を突こうとしてたら逆にやばかったな。
不用意に陸地に出たら、俺達イチコロなんじゃねえの?』
『だがな我。折角イマジナリーなフレンドができたのだ。
レイドバトルとやらをエンジョイしに行くのも醍醐味だろう?
我らが揃って飯を食いに行く、こんなこと滅多にないだろうからな。』
人が解することはできないが、
ワニ吉の会話を要約するとこれである。
ワニ吉はこの力を手に入れて、自分自身と会話を続けていた。
確かに分身はできると言うのが、彼が得た特殊な力ではある。
しかしあくまで分身するだけ。人格を持つ能力を有するわけではない。
どれだけ喋り方を、呼び方を、口調を変えようともワニ吉の人格は一つだけ。
つまり、これはただの一人芝居でしかなかった。
『でもよぉ僕。最初から全員で行けばよかったんじゃねえの?』
『何を言ってんだ俺。俺達がこうなってるってことは、
相手だってこれかこれ以上のことをやってのけるんだぞ。
さっきの人間見ろよ。そんな力使わずにやりやがったんだからな。
きっと本気を出したら、俺達を皆殺しにしてた可能性だってあるんだぜ?』
先の戦い一対一をけしかけたのは、人間を用心したからだ。
知能が上がったことで自分のような感染者がいるのならば、
そういう何かしらの能力に目覚めている可能性を考えた。
特殊部隊が異能を持っているわけがないのだが、
当然そんなのをワニ吉の視点からは判断できなかった。
つまるところ、天は警戒されてなければ物量で餌行きだったのだ。
知能が上がったことによって、偶然が嚙み合った結末とも言える。
神の視点でもない限り、そのようなことは判断できないのだから。
今後は追い込んでの補色など、様々な連携も想定したほうがいいだろう。
『とりあえずもう少し仲間が増えるの待つか僕。』
『そうだな俺。ワニワニパニック大作戦の為にはもう少しな。』
『もっといいネーミングセンスなかったの? 私。』
なぜこんな一人芝居をしているのか、と言うとだ。
ワニ吉は飼い主に育てられてからずっと一匹で家族がいなかった故に。
親も、子も、妻も。自分の周りには同じワニは誰一匹としていなかった。
飼い主には親がいた。自分は違う。飼い主には妻がいた。自分は違う。
テレビの向こうのワニの映像にはワニの家族がいた。自分は違う。
心が通う仲間が、家族が、友達が、あの家では得られることは一度もなかった。
飼い主? 脱走を図ってる時点で彼にとって家族と思えるような存在ではない。
芸を仕込んでくれたりしたことは、先程役立った(?)ので多少感謝はしてるが。
彼はずっと孤独のまま、下水道を中心に家族となりうる存在を探し続けて生きながらえた。
これはある意味その願いだろうか。
誰も仲間がいなかった自分に仲間が増える力を得た。
同時にこれは反動。今まで誰もいなかった結果このようなことに至っている。
たとえそれが自分の異能の分身で虚構な存在であったとしても、
同胞が目の前にいることは、彼にとっては何よりの喜びなのだから。
『問題は我等はこの湖から動くかだ。』
『決まってるじゃない私。』
『満場一致の答えになるに決まってんだよなぁ。』
端から見れば、いや端から見ても人間には理解できないことだ。
悲しき自問自答でしかないが、知能は上がっていることには変わらない。
いずれその時が来たとき彼は、同時に彼『等』はやがて陸へと乗り込むだろう。
……その時とはいつか? まあ、つまるところ。
≪腹減ってからにしようか。≫
大体腹が減った時である。
【F―1/湖底/1日目・深夜】
【ワニ吉】
[状態]:分身が少なくとも四体いる
[道具]:なんもない
[方針]
基本.生きたいように生きる
1.俺たち家族は無敵だぜぇー!!
2.腹減ったら本格的に陸へ行こう。
3.能力には要警戒だ。
※主人格(?)は一応俺と言ってる奴ですが、
なりきってるだけで人格(ワニ格?)は一つです。
※飼い主に仕込まれた芸で死んだふりを覚えてます。
他にもあるかもしれません
投下終了です
投下乙です
>滅びゆく村…それでも希望を諦めない
世襲で地震止める一族、そう言うのもいるのか
千歩果ちゃんめっちゃ逢いに行けるアイドル、善意なんだろうけどVHに巻き込まれる原因になってしまったね
ある意味凄い村だよ山折村、「人がどんどんいなくなっちゃってる」というのは意味深でしかない、なんで人がいなくなるんですかねぇ怖いですねぇ
>Normal×Anomaly
始まる特殊部隊VSワニワニパニック
平天くんも他の隊員と比べて自分を卑下しているものの対応できているのは流石
池に巨大ワニがいる、やっぱVH関係なくヤバいなこの村、ワニくんも一人芝居ながら楽しくやってるね、この村全体的に動物が楽しそうで何よりだよ
投下します
山に閉じられた山折村。
その唯一の入り口であるのが、村の南端に位置する「新山南トンネル」である。
そしてその新山南トンネルから最も遠い対面の山腹にその神社はあった。
山腹に位置するその神社に到達するには長い長い階段を登る必要がある。
加えて、その神社は古めかしいだけで大した建造物もなく見どころもない。
そのため村が目覚ましい発展して行っても、ここだけは参拝客が増えることもなく、いつも閑古鳥が鳴いていた。
だからこそなのだろう。
この神社は心地よい静謐な空気が保たれ、常に気の引き締まるような神聖な雰囲気が漂っていた。
年代掛かった小さな鳥居に、苔の生えた手水舎と石畳の道、そして境内で揺れる木々達。
本殿の裏手では山から下りてきた動物たちの姿がよく見られた。
時間に取り残されてしまったような古めかしい雰囲気が漂う、そんな神社が私――犬山うさぎは好きだった。
宮司の娘として生まれ、神社と共に育った。
庫裏で暮らしながら、神社に集まる動物たちと戯れながら暮らす。
そんな生活が好きだった。
私は今、境内に続く階段を登っていた。
村人ですら嫌厭するこの長い階段にも慣れたものである。
苦も無く登り切り、境内へとたどり着く。
「うわぁ。すっかり崩れちゃってるなぁ……」
だが、辿りついた境内は見るも無残な有様だった。
ぱっと見た限り、無事なのは鳥居と最近立て直した社務所。あとは祭具殿くらいだろうか?
老朽化の進んでいた本殿は崩れ去り、住まいである年代物の庫裏に至ってはぺしゃんこに潰れている。
両親は村民会議で公民館にいるはずだから巻き込まれてはいないはずだ。
派閥の延長戦に巻き込まれていなければそろそろ戻る頃合いだが、地震の対応で公民館にとんぼ返りしているのかもしれない。
「来てないかぁ、お姉ちゃん大丈夫かなぁ…………」
地震の混乱ではぐれてしまった姉の姿を探す。
神社(うち)に帰っているかもと考えたけれど、残念ながらそれらしき姿はなかった。
と言うより、人の気配はなく、誰もいなさそうである。
しかし念のため、境内を廻って倒壊した建物に巻き込まれた人がいないか探しておくとしよう。
参拝客がいて巻き込まれていたら事だ。
すっかり変わり果てた境内を歩く。
神社に人気がなく静寂に包まれているのは相変わらずだが。
その静寂は神聖で静謐なモノではなく、荒廃した虚無なそれに変わっていた。
思い出にある風景まで崩れてしまったようで、心に空しい北風が吹くようである。
ふと村を一望できるこの山の上から村を見つめる。
村の明かりはいつも以上にまばらだ。
特に古民家の集合した南東あたりは光が見えない。
世界に一人になってしまったような寂しさに少しだけ不安になる。
「それにしても、何だったんだろうさっきの放送」
階段を登っている最中に聞こえてきた謎の放送。
こんな緊急時にいたずら目的であんなことをする人がいるとは、思えてしまうのがこの村なのだけど。
普段あの手の陰謀論を喧伝する鴨出のオバさんとも違う、ノイズ交じりではっきりとしたことは言えないが聞いたこともない男の人の声だった。
そんな事を考えながら歩いていると、その思考を打ち切るように音のない境内にギィと古めかしい扉が開く音が響いた。
少しだけ驚いて振り返ると、ゆっくりと祭具殿の扉が開かれ、その奥より紅白の巫女服を着た少女が現れた。
明かりのない境内を月が照らす。
少女が姿を見せた瞬間、周囲の空気が変わった。
腰元まで伸びた夜を照り返す艶のある深い黒髪が揺れる。
この世の物とは思えないほど白く透き通る肌が月光に映える。
その顔には化粧気はなく唇に薄くひかれた紅のみが少女の女らしさを示していた。
「あっ、春ちゃん。そんなところにいたんだ。大丈夫だった? 怪我は無い?」
「大事ない。うさぎも息災で何より」
時代掛かった喋り方をする彼女こそが神楽春姫。
留守を任されていた我が神社唯一のアルバイトであり雇われの巫女だ。
アルバイト中だけではなく、普段から紅白の巫女服と言う変わり種で、村一番の器量良しでもある。
美人は三日で慣れると言うが、相変わらず見ているだけで息を呑むような美しさだ。
ただ美しいというだけで全てを呑み込むような威圧感がある。
彼女の周辺だけはかつての静謐さを取り戻した様である。
「ところで、祭具殿で何をしてたの?」
別に泥棒を疑っている訳ではないけれど(そもそも普段から鍵は渡しているし)、ただ彼女が祭具殿で何をしていたのか気にはなる。
春ちゃんはその端正な顔つきを変えることなく、淡々とした調子で答えた。
「これより待ち受ける苦難に向けての準備をな」
「なるほど、避難準備って事ね」
それならば私もしないといけないのだが、生憎と私物や生活用品のある庫裏は潰れてしまったし、どうした物か。
ん? けどなんで祭具殿?
「ではな。妾(わらわ)は行かねばならぬ。うさぎよ、達者でな」
疑問に首を傾げている間に、そう言って春ちゃんは私を通り過ぎて健在だった鳥居をくぐって外に向かってゆく。
「え、いきなりどうしたの? 避難所(がっこ)行くなら一緒に行こうよ」
事情も分からず春ちゃんを引き留める。
そんな私の言動に、春ちゃんは何故分からぬと言った表情で形のいい眉を顰める。
「ここにいては妾の命が危ぶまれよう」
「う、うん。だから避難しようって話なんだけど……」
わざわざ一人で行くこともないだろう。
だが、村一番の美女は優雅に黒髪を靡かせながら静かに首を振る。
「そうではない。これより不逞の輩が妾の命を狙いに来る。妾はそれに備えねばならぬ」
春ちゃんが突飛なことを言いだすのはいつもの事だが、今回はまた一段と顕著である。
「どいうこと?」
「先に放された言を聞いておらぬのか?」
方眉を吊り上げ愚者を見下すような視線を向ける。
春ちゃんは好きだけど、すぐ人を見下すそういう所はよくないと思うよ。
「つまり、あの放送が真に受けた人が襲ってくるかもしれない、という事?」
確かにその可能性はないことはないだろう。
だが、ここにいると身が危ぶまれるとはどういうことだろうか。
「然りよ。村民ならば妾の所在は知れておろう? 故に妾はここを離れねばならぬ」
確かに春ちゃんがここでアルバイトをしていることは村民であれば周知の事実である。
だが、わからない。
「ん? んん? わざわざ春ちゃんを探す事はないんじゃない?」
あの放送が真実だと仮定しても、村民を無差別に襲うことはあっても、わざわざ春ちゃんをピンポイントに狙ってはこないと思うのだけど。
「何を言うか。彼奴等は女王を狙うのであろう。女王なる存在、それに相応しきは妾を置いて他におるまい?」
「………………………………なるほどね(?)」
一片の曇りもない堂々とした態度に思わず頷いてしまった。
そう言えば春ちゃんはこういう子だった。
村の始祖を謳う、神楽家の長女。
自信を特別として疑わない圧倒的な自尊心の塊。
「け、けど。さっきの町内放送も本当かわかんないし」
そうは見えないが、地震の直後でさすがの春ちゃんも弱っているのだろうか。
他人に流されない彼女があんな放送内容を信じるのは珍しい。
春ちゃんはこちらの意見を無視するように明後日の方向を見つめると、白く美しい指先で漆黒の夜闇を指した。
「見よ、夜鳥よ」
言われて、その指差す方向へと視線を向ける。
その先にあるのは町の灯が消えているからか、いつもより明るい星々と。
「……ん? ぅん〜?」
眉間にしわを寄せながら目を細める。
標高の高い山腹であったからだろう、辛うじて私の目にもそこある何かが見て取れた。
「なに……あれ? 鳥さんじゃなさそうだけど?」
「さてな。あれが何たるかは妾も知らぬ。しかし常と外れた異なる事象が起きている証左であろうよ」
紅白の巫女は事もなげに異常事態を受け入れながら、するすると背中から刀を取り出した。
それは祭具殿に飾られていた儀式用の宝剣である。
どうやらこれを探していたらしい。
「妾は悪意には悪意を返す。女王たる妾を狙うような度し難きに掛ける情けなど在ろうものか。一切の容赦も呵責の念もなく殲滅して進ぜよう」
言って、シャンと宝剣を一振り。
美しく飾られた宝剣をそれ以上に美しい巫女が振るう姿はまるで演舞のようでもあった。
「じゃあ春ちゃんがしていた準備って……」
「決まっておろう、戦争の準備よ」
また物騒なことを言い出した。
止めるように言いたいが、止まれと言って止まる娘ではないのはこれまでの付き合いで嫌と言う程知っている。
少なくとも、春ちゃんが襲ってくる相手を撃退するだけの専守防衛に努めるのであれば襲ってくる人間がいなければ刃傷沙汰にはならないはずだが。
「ちょっと待ってて」
そう言って、パタパタと駆けてゆく。
私は形を保っていた社務所へと入ると、置かれていた物を手に取ってすぐさま引き返す。
流石の春ちゃんでも呼びかけを無視して出立するなんてことはしておらず、素直に待っていてくれたようだ。
「春ちゃんもこれ被って、あとこれも」
そう言ってヘルメットとをかぶせる。
そして、止めて止まらぬならせめてもの安全を願って御守を手渡す。
襲う人も襲われる人もいませんようにと願いを込めて。
春ちゃんは特に表情を変えないが、否定するでもなく素直に受け取りされるがままになっていた。
「では息災でな。女王が死なぬ以上、面倒になろうが自分で何とかせよ」
そう言って春ちゃんは境内を出て階段を下りて行った。
その背中を見送る。
私はどうするべきか。
やはり追いかけるべきだったかと悩み、うーんと考え込む。
ややあって決断を下した。
「避難所いこ」
【A-4/神社/1日目・深夜】
【神楽 春姫】
[状態]:健康
[道具]:巫女服、ヘルメット、御守、宝剣
[方針]
基本.妾は女王
1.襲ってくる者があらば返り討つ
※自身が女王感染者であると確信しています
【犬山 うさぎ】
[状態]:健康
[道具]:ヘルメット、御守
[方針]
基本.家族と合流したい
1.避難所(学校)に向かう
※まだVHが本当であると認識していません
投下終了です
ゲリラ投下します。
「もしもし? ああ、今ちょうど岐阜に着いたところ。お土産? 岐阜にお土産になるようなものなんて無えよ。金もないしさ。ああ、ああ、また連絡する。ああ、ははっ、わかったよ、写真もな。じゃあうまくごまかしといてくれよ。」
九条和雄はスマホをタップすると、ふっ、とマスクを外して上を向いて息を吐いた。6月の岐阜は、東京より暑い。夏休みに見るような入道雲が青空をバッグに座っているのを見ると、来ていた長袖のパーカーをリュックへと押し込めた。
離婚して出ていった母と妹に会う。言葉にするとこの旅の目的はそんなものだが、小学生の和雄には何から何まで初めての体験だった。最寄り駅の吉祥寺から中央線で立川に行き、乗り換えると中央本線で長野の塩尻まで行く。また乗り換えて今度は中津川まで行くと、ようやく岐阜県に入れた。ここからバスを乗り継いで、どのぐらいか山道を揺られれば、いよいよ妹たちがいる山折村だ。一人で電車どころかバスも乗ったことのない和雄からすると、道半ばで既に冒険した感じがある。お年玉の万札が交通費で飛んでいくのを信じ難い目で見ながらここまで来て、疲れを覚えずにはいられなかった。
それでも、和雄の足どりは軽い。何年も会ってない家族に会えることの嬉しさはひとしおだ。
「次のバスは……『ナビタイム バス 乗り換え』。中津川市から山折村……嘘だろ、着くの夕方かよ。」
スマホを持つ右手の甲で汗を拭いつつうっとうしそうに言いながらも、和雄の声はほこほんでいる。左手にさげたトイザらスのビニール袋を慎重に抱え直すと、駅前のコンビニへ入った。電車から降りて数分でかいたとは思えない汗を吸ったTシャツが一気に冷える。日本全国共通の冷房に感謝しながら、なにか飲み物でも買おうと狭い通路を早歩きしたところで、鼻先が柔らかいものにぶつかった。
短く発せられた女性の悲鳴に、反射的に「ごめんなさい!」と言う。ぶつかった時に感じた良い匂い。目を上げると、和雄より頭半個分ほど背の高い少女が、花束を抱きかかえるようにして見つめていた。
「あっ。」
その姿を見て、反射的に声が出た。さっきの電車で見かけた顔だった。正しくは、見かけた包帯の巻かれた手足、だが。
少女は「ごめんなさい」と小さな声で言うと、逃げるようにコンビニを後にした。当たったのはおれなのに、とバツの悪さを感じる。適当に近くにあったジュースを掴むと、すぐにレジへと向かった。
九条和雄と哀野雪菜、6時間後に運命の別れる二人の出会いは、そんな何気ないものだった。
「あ。」「あ。」
それからしばらくして。
本数の少ないバスを、土産物屋を覗いて時間を潰し待っていた和雄は、ふと良い匂いを感じて振り向くと、先ほどぶつかった雪菜と目があった。
「ど、どうもっす。さっきはごめんなさい。」
「え、うん。大丈夫だよ。」
謝って、赦す。交わした言葉に対して、二人の間に気まずさが流れる。こういう雰囲気は苦手だ。とりあえず皮肉で茶化したくなる。幼なじみ相手ならそれができるのにと思いつつ、何か言わなければと思い、とっさに口に出たのは、同じ電車に乗っていたことだった。
「……そういえば、さっきの塩尻からの電車にも乗ってましたよね?」
「えっ! な、なんで……」
「いや……同じ電車に乗ってて記憶に残ってて。」
さっと雪菜の顔が陰ったのに気づき、言ってからその理由に気づいた。わずかだが、手足の包帯を隠すような動きに、なぜ記憶に残ったかを察されたようだ。そして、それで傷つけたらしいとも。
気まずさをなんとかしようとして地雷踏んだか。自分に舌打ちしたい気持ちになりながら、かける言葉を探す。だが自分が傷つけた少女に向けての言葉など、小学生の和雄は持ち合わせていない。それでもわかるのは、こういうときに下手に謝ると余計に傷つけるということだけだ。なので、シンプルに言うことにした。
「お見舞いに行くんで、包帯が記憶に残ってたっす。怪我してるのにぶつかってすみませんでした。」
「……そう。」
硬い声が返ってきた。まあ、だろうなと思う。会釈をして脇を抜けると、駅の周りを散策することにした。どうやら向こうも時間を潰しているようだ。下手に近くにいるとまた出会って気まずい思いをすることになる。そうしてまたしばらく時間を潰して、そろそろバスの時間だと駅前へと戻ると。
「あ。」「あ。」
バス乗り場に雪菜がいた。「どうも」と会釈しながら、通り過ぎてコンビニに向かう。
(おいおい気まずすぎんだろ、よりによって同じバス待ってたのかよ、しかも並んでるのおれとあの人だけじゃん。)
気まずさを超えた気まずさだ。ここまで来ると運命的なものを感じる。実際は単に同じ日に東京方面から山折村に向かったというだけのことなのだが、一期一会とはこのことか。たぶん違うと思う。
舌打ち一つして、何も買わずにバス乗り場へと戻る。残念ながらバスの発車時刻はあと数分ほど。そして徐々に列が伸びている。無いとは思うが、人数オーバーで乗れませんなどとなったら大変だ。当然雪菜に気づかれるのが会釈して後ろに並ぶ。気まずい。誰でもいいからこの空気をなんとかしてほしい。
「ん? 君たちは、さっきの。」
「え?」
「?」
なんとかしてくれる人が現れた。後ろから声をかけられる。見上げると、ぼさぼさの長髪に無精髭の、くさそうなおじさんだった。
「ああ、突然すみませんね〜。さっき塩尻からの電車に乗っていたなと思いましてね〜。いや、ぜんぜん、ぜんぜん他意はないんですよ? 大事そうにおもちゃ屋の袋抱えた少年と包帯巻いた少女、絵になるな〜と思いまして、記憶に残ってたんですよ。」
「はあ……」
なんだこのおじさん、なんで小学生のおれに、馴れ馴れしく話しかけてくるんだ。和雄はそう思うも、よくよく考えればさっきの自分も似たようなものだと思い直す。汚いおじさんと同レベルなことにショックを受ける和雄を放っておいて、おじさんはスッと、カードを取り出した。白いが名刺ではない。なんだこれは?と和雄が首を傾げると、後ろから「あっ、それ!」と雪菜の声が聞こえた。
「良かった〜あなたのでしたか。いや、電車から降りるときに落ちるのを見ましてね、場所的にあなた達のどちらかが落としたんだと思ってたんですよ〜。もしかしたらと思ってたんですが、いや、よかったよかった、ええ。」
「ありがとうございます。」
何か切実な様子でカードを受け取ると、雪菜はそれを花束に添えた。メッセージカードのようだ。この人がカードの添えられた花束持ってると退院のお祝いみたいだなと、思わず失礼なことを考える。だがその失礼な考えがあながち外れではないような感じがする。自分も、かつてあんな感じで妹に花束を渡したことがあるからだ。
あれは、今から4年前のことだ。妹の九条洋子──今は離婚して苗字が変わったので、一色洋子──は生まれつき体が弱かった。小学校に上がる頃になると、症状が進んだのか入院しっぱなしになるようになった。買ってもらったランドセルを一度も担いで登校することない小学校生活。落ち込む洋子に、かける言葉を持たない和雄は、今の雪菜のような顔で花束を渡した記憶がある。
「お兄ちゃん。泣かないで。」
花束なんて何十束も渡してきたはずなのに、あの一回が記憶に残っているのは、洋子からそう言われたからだ。妹を哀れんで、涙を流していた自分を、その妹は、洋子は、気遣っていた。病気で辛いはずなのに、家族を気遣う優しさに、和雄は自分という人間の情けなさを思い知った。その時から、和雄は決して涙を見せないようにした。どれだけ辛くても、減らず口の一つでも言ってやってニヤリと笑うことにしたのだ。
だから、両親が離婚するとなったときも、和雄はただ「またな。」と言うだけだった。
小児病棟の、特に長く入院している子供の家庭では珍しくもない話だ。経済的な理由なり心情的な理由なり、とにかく大人はなにかの理由をつけて別れる。それに納得できるほど大人ではない。だが、それを責めるほど子供ではいられなかった。
離婚を選べずに後戻りできなくなっていく保護者を何人も見た。どちらかが死ぬか、あるいは両方死ぬか、子供も巻き込むか。それとも親も何かの病気になるか。そんな破滅も、数は少なくてもあった。
だから、洋子が母方の実家にある子供の緩和ケア病棟に転院すると行っても、親を責められなかった。父親は最後まで反対していたが、母親から見せられたその施設のパンフレットは、和雄から見ても良いものだと思えた。ここなら、穏やかな最期を終えられるのではないかと。それが洋子のためになるんじゃないかと。治らない治療に苦しむよりは、母親と二人で安らかに過ごしてほしいと。
「お兄ちゃん、わたしは……」
「……洋子、おれは、父さんに引き取られることになった。ほら、放っとけないだろ?」
「……うん。ごめんなさい、お父さん、わたしが……」
「いや、ちがう! ちがう……父さんがああなったのは洋子のせいじゃなくて、母さんだって……ただ、ちょっと距離を置いたほうがいいってことさ。」
「……うん。」
「父さんも母さんも、洋子を愛してる。それは知ってるだろ? ただ、ちょっと、なんていうか、花粉症みたいになってるっていうか、その……」
その時のことを思い出すたびに、和雄は自分が嫌になる。いつだって大切なときに、女の子にかける言葉を間違える。あの時もっと良い言い方があれば、あの時あんなことを言わなければと、自分の口下手を恨む。そしてこの記憶の終わりはいつだって。
「お兄ちゃん……今までごめんなさい。本当はわたし……」
それが記憶の中の、そして洋子の最後の言葉だった。一度乗ってみたいと言った新幹線での別れ際、窓の外の父と自分、窓の内の母と洋子。二つに別れた家族の記憶。
謝らせてしまった。
心優しい妹は、自分が兄の重荷になっていると思い込んでいたのか? 今でもそう、新幹線を見るたびに思い出す。だから新幹線は嫌いだ。
なぜ、自分は洋子の気持ちに気づいてやれなかったのだろうか。あの言葉を言われるまで、自分は洋子が自分自身を責めているなど全く思っていなかった。だって病気は妹のせいではない。あんな小さな体のどこに責められる理由があるのか。原因もわからない病気なのだから、わからない医者か、そんな体に産んだ親を責めるなら、わかる。全く健康体な兄を、ずるいと責めるならとても良くわかる。なのに、なぜ、あの時『今までごめんなさい』と言われたのかがわからない。自分自身を責めているぐらいしか理由が思いつかないが、そう思った理由が皆目見当がつかない。
「九条くん、着きましたよ。」
顔を上げたら、いつの間にかバスの中だった。乗客が皆立ち上がり降りて行っている。横に座っている汚い男も、だ。
礼を言って立ち上がる。どうやら思い出に浸っているうちにバスに乗って目的地に着いたらしい。しかも名前を知っているということは、たぶん自己紹介でもしたんだろうなと当たりをつける。ふだん何かに夢中になることなんてないのに、あの思い出だけは、心がどこか遠いところに行ってしまう。
「ここで乗り換えれば山折村ですね〜。病院の面会時間に間に合うと良いんですが。」
「えっ、おれ、そんなことまで言ってました?」
「あら〜? 覚えてないんですか? 自己紹介の後にお見舞いに行くって言ってませんでしたっけ。」
「やっべ……すみません、ぜんぜん。」
「まあ、上の空でしたからね〜。バス停こっちですよ。」
『満員のためドア閉めさせていただきます次の便ご利用ください次の便ご利用ください。』
「あぁん?なんで?」「次の便2時間後じゃねえかよ えーっ。」「田舎バスは観光客のことを考えないのか。」
「……乗り継げませんでしたね。」
「すみません、起こしてもらってたせいで。」
「ま、良いですよ〜。」
そのせいで次に乗るバスの列に並ぶのが遅れて、定員オーバーで乗れなくなってしまった。汚いおじさんに謝りっぱなしだな、ていうか岐阜来てから誤ってばっかだなと思う。
田舎なのにやたらと多くてなんか民度の低い観光客が、バスの運転手に詰め寄るバス停。並びながらスマホで次の便を見る。どうやら山折村への到着は夜の10時前になりそうだ。
改めて和雄の心に罪悪感がのしかかる。妹に近づくにつれて、人に迷惑をかけることが増えていく。まるであの時の自分のように。
「あっ、そうだ。よければさっきの話の続きを聞かせてもらえませんか? そこの喫茶店でもおごりますよ。」
汚いおじさんからそう言われて、和雄は断る気力も無く頷いた。迷惑をかけたのに人を気遣えるような大人を前に、子供として振る舞うしかなかった。
思わぬ拾い物をしたと斉藤拓臣は思った。
胡散臭い山折村に来て二日目だが、ガードの硬い村民ではなく中津川まで出てきて話を聞いたのが正解だった。
町の人間から評判を聞けたことは何より、胡散臭い村の中でもなお胡散臭い村の医院についての情報をもたらしてくれる人間を見つけた。
山折村で一番大きな医院は、子供向けの緩和ケア病棟を持つ。いわゆるホスピスと言っていいものだが、それをわざわざあんなクソ田舎に作るのは不自然だ。日本にもそう多くはないものが、なんであんな人口1000人ほどの村にあるというのか。
今回山折村を取材することにしたのもそれが理由の一つだが、まさか土産物屋で聞き込みをしていたらそこに見舞いに行くらしき子供を見つけるとは思わなかった。和雄が雪菜にもう一度出くわしていた時、斉藤はそのすぐ側にいたのだ。二人の話を盗み聞きして、和雄が雪菜にぶつかっこと、二人が塩尻からの電車に乗っていたこと、和雄がお見舞いに行くことを知った。そして名刺入れから、いつかもらったそれらしい適当なメッセージカードを取り出して、ぶつかった時に落としたものを拾ったという体で、山折村へのバスを待つ二人に近づいた。古典的なナンパの手だが上手く行ったようだ。まさか本当に落としていたとは思わなかったので白紙のメッセージカードをもっていかれたが、まあ、いい。元々彼女にカードを返すということを出しに和雄に近づくことが目的だ。しかも和雄はその後どういうわけか上の空になり、都合のよく話をすすめることができた。
「妹さんが入院していて、へ〜それは大変ですね〜。いや〜立派なお兄さんだ。」
「そんな……おれはぜんぜん……」
とりあえずこれで一人。あの医院への取っ掛かりができた。うさんくさいジャーナリストよりも、入院患者の親族の知り合いのほうが何かと便利だ。たとえ子供でも誰かから信頼されていることは大きな武器となる。和雄を起こしていたら先に降りた雪菜の方は前の便で行ってしまったが。まあ、いい。本命はこちらだ。
「……さて、そろそろバス停行きましょうか。また乗れなくなったら困りますし。」
回り道が近道だ。そう思うことにしている。斉藤は和雄を連れ立ってバスに乗った。あいも変わらず山道だが、村から出るときよりは乗り心地がよく感じる。さて、明日はどう攻めようか──
21時48分。斉藤が思考の海に沈むその時、突如バスが横転した。
「なにっ。」「なんだあっ。」
「ぐあっ! 痛っつぅ……なんだよ!」
悲鳴がバス内に響く。音の後に痛みがやってきた。悪態をつきながら斉藤は席を立とうとして、隣の和雄にけつまずく。そこでようやくバスが横倒しになっていることに気づいた。
「なんだよこれ……なんなんだよ。カメラカメラ……」
「斉藤さん、こっちです。ここの扉通れます。」
いつの間にか、座席の側面を足場にバスの後ろのドアの前に和雄がいた。斉藤も下敷きになっている乗客を踏み台に這っていく。非常事態だからやむを得ない。体力の限りを尽くしてドアへと行くと、二人でこじ開けて外に出た。
「なんだこれは……」
「あれ、あの村って……」
「ああ、山折村だ。」
外に出ると、谷の向こうの村から煙が上がっていた。辺りを見渡せば、これまで通ってきた道に大小の落石がある。これがバスが横転した原因だろうか。ならなぜ村から煙が上がっているのか。考えられるのは。
「地震か?」
ぐらり。斉藤が答えに行き着くと同時に、足元が揺れる。余震だ。本震かもしれない。とにかくヤバい。
バスを脱出した乗客たちから再びの悲鳴が上がる。当の斉藤も慌てて地に伏せる。長い。縦揺れが一分以上続く。
なるほど、これは大地震だ。震災だ。
つまり、チャンスだ。
この混乱に乗じれば、普通ならできない取材ができる。しかも上手く行けば山折村の暗部にも踏み込めるかもしれない。
だがその前に。
「だれか! 手伝ってくれ! まだバスの中に人が取り残されてる。」
「しょうがねぇなあ。」「いい指揮だ! 着いていこう。」「」
まずはバスの中の乗客を助けて取材だ。
脱出した乗客たちと協力して、まだ中に残る乗客を助け出していく。幸いなことに、死者はいない。何名か骨折や打撲をして歩けなくなっているが、奇跡的と言っていいだろう。いや言うほど奇跡ではないな、これだとパンチが弱い。
「やっぱ山折村行くか。今ならボロ出すだろ。どさくさに紛れれば……」
「斉藤さん、次どうします?」
「そうだな、携帯は?」
「ダメっす。つながらないっす。」
だろうなと思う。ただでさえ田舎で回線が弱いのにこれではパンクするだろう。
「そうか……なら、山折村に行こうと思う。あそこのトンネルは壊れているけれど、藪を突っ切れば峠を越えないぶん早く助けを呼べるはずだ。」
「じゃあおれも。」
「ダメだ。」
「でも!」
「君は安静にしていないと。両腕と両脚と肋骨が骨折してるんだぞ。」
「このぐらい、なんてことないっすよ。」
「そんなわけ無いだろう。ていうか君よく一人で動けたな。」
「鍛えてるんで。」
「ジャンプ理論。」
同行しようとする和雄を断る。本当になんでこいつ動けてるんだ。
助かった乗客達に簡単に取材をして、何人かリーダーシップのある人間に相談しておく。動ける人間は峠を越えて戻るようだ。まあそうだろう。斉藤だって普通ならあんな藪を突っ切ろうとは思わない。何キロもあるわけではないが、道なき道を歩くのは無謀だ。だが、それだけの価値がある。
「和雄くん、君の妹さんは入院しているんだったね。探してみるよ。」
「くっ……! すみません、よろしくお願いします。それと、もし邪魔じゃなかったら、これ、持ってってください。妹へのお土産なんです。はげましてやりたくて……手紙も入ってるんで、おれからだってことはわかると思います。」
「わかった、持っていくよ。」
ゴミを押し付けるんじゃないと思ったが、良い大人を演じた手前仕方ない。あんなキャラで話しかけるんじゃなかったとそこは後悔した。
「そうだ、俺からも手紙を頼む。この番号にかけて、斉藤は無事だ、山折村に向かったと伝えてほしい。」
「わかりました、ゼッテー届けます。」
「頼んだよ、じゃあ、また。」
さあて、蛇が出るか蛇が出るか、どのみちろくなものじゃないだろうが、行ってみるか。
「こんな藪を歩くなんて若い頃以来だな。さて、行きますか……」
こうして斉藤は、山折村へと足を向けた。
「ハァ……ハァ……3時間もかかったぞ……」
そして今、地図で言うH-5。
ガッツリ放送を聞き逃して斉藤拓臣は山折村に足を踏み入れた。
【H-5/トンネル上/1日目・深夜】
【斉藤拓臣】
[状態]:疲労(大)
[道具]:デジタルカメラ、ICレコーダー、メモ、筆記用具、スマートフォン、現金、一色洋子へのお土産(九条和雄の手紙付き)、その他雑貨
[方針]
基本.山折村を取材する。
1.よ、ようやく、村だ……
2.医院に行き、一色洋子に会う。
※放送を聞き逃しました
※VH発生前に哀野雪菜と面識を得ました。
投下終了です。
タイトルは『6月某日15時48分』になります。
哀野雪菜に関して時系列が前後する話になるため問題があれば破棄します。
投下乙です
とても濃いVH直前譚で楽しませてもらったのですが、気になることがあります
斎藤さんは放送後に村に侵入したとありますが、村のトンネルは倒壊していて通れないので彼が山折村に入るのは難しいのではないでしょうか?
3時間ぐらいあればトンネルがある土地の地表の森なり藪なりを突っ切れるかなあと思うんですけど無理そうですかね、キツそうなら破棄します。
周囲の山々が特殊部隊によって封鎖されてるのにトンネル周りだけ封鎖が緩いのは不自然な気がします
とはいえ自分は企画主でもないので(身分明かす意味でトリ出します)、最終的な善し悪しの判断はそちらにしてもらうべきなのかもしれません
地震が起きたのが21時48分
特殊部隊が都内某所でVHについての説明を受けに行ったのが23時17分
VHについての放送が流れたのが日付が変わる頃
日付変わってから封鎖が完了するまでにギリギリ間に合った的なあれってことでお願いします。
悪あがきしたけど無理っぽそうなんで一旦破棄します。
投下乙でした
一旦破棄との事ですが、一応見解を述べておきます
伝わりづらい地図で大変申し訳ないのですが
山折村の構造として四方を壁のような山に囲まれており、そこに唯一の道として砂場の山に手で開けたような一本のトンネルが引かれている、という想定なので
トンネル以外の方法で入村するにはどこを通ろうが峠越えをする必要があるという構造になってます
これはバトロワの舞台として密室的な区切りを設けるための設定なので、それを超えられるのはあまり好ましくはありません
封鎖に関しては隊長と副官が都内で事情聴取に向かっているだけで、部隊自体は事前に展開されているので、事故直後と言うのならまだしも数時間後では少し厳しいですね
出来ればバス事故のポイントをトンネル内、若しくはトンネルを超えた村内に修正していただけるのが一番なのですが、一考くださると幸いです
投下します。
この作品は性的表現が含まれています。
過激な性的描写が苦手な方には不快となる内容なのでご注意ください。
山折村の中には、自然豊かな田舎の風景には不釣り合いなほどの豪邸がある。
高級住宅街から離れた草原にぽつんと一つ建てられたそれは、朝景礼治が所有する別荘だ。
3階建てにも及ぶ広い屋敷に、入念に設置された厳重なセキュリティシステム。
金に糸目も付けずに建てられたこの家は、外部からの侵入者を警戒して建てられた訳ではない。
その逆で屋敷からの脱走者を出さないための処置だった。
屋敷の地下には豪邸の持ち主である朝景礼治が拉致した少女が何人も監禁されている。
少女達の行動全ては朝景礼治が雇った調教師によって握られており
彼の許可無しでは外出どころか部屋から出ることすら許されない。
朝景礼治のコレクションを閉じ込めるための牢獄なのであった。
監禁された少女の一人、リンは物心付いた時からこの屋敷に住んでいた。
彼女が自由に動けるエリアは朝景礼治に与えられた一室のみ。
それ以外は時々、ご褒美による夜の散歩に連れて行ってくれた。
リンは散歩が大好きだった。
空気は澄んでいて風が気持ちいいし
上空を見上げるとキラキラとしたお星さまがいっぱいに輝いていて、とっても綺麗。
楽しい散歩はすぐに終わっちゃうけど、ワガママを言わずにいい子にしていればきっと、また連れて行ってくれる。
次の散歩はいつかな、いつかな、おじさんの言う通りに上手く出来たらもっと沢山散歩が出来るかな。
そう思いながら、リンは調教師の言われるがまま、小さな体を使ってご奉仕を続けた。
その日、調教師の雇い主である朝景礼治がリンの出来上がりを見にやってくる日だった。
巨大な地震が山折村を襲った。
地震の影響で屋敷内は酷く散らかったが、調教師は大慌てで屋敷を整理した。
ピンポーンとチャイムが鳴る。
朝景礼治が屋敷にやってきたのだ。
地震によるトラブルが発生しようとも、リンに会いたい一心で向かってきたのだ。
「これはこれは朝景様、お怪我はありませんでしたか?」
「それよりもリンの様子はどうだ?」
「ええ、もちろん順調に仕上がっていますとも」
調教師に案内され、朝景礼治の元へ連れてこられるリン。
リンは朝景礼治の顔を見るなりまっすぐ彼の元へ走っていき。
「パパ、おかえりー!リンね、ずっとパパに会いたかったの!」
「ああ私もだよ、リン」
両腕を広げて朝景礼治に抱きつくリン。
リンの頭を優しく撫でてあげる朝景礼治。
一見、親子の仲睦まじい光景に見えるだろう。
しかし、これは一般的な親子愛とはかけ離れている。
「さぁリン、口を開けて」
「んっ……」
朝景礼治はリンの小さな口の中に舌をねじ込むと。
リンの舌と絡ませて唾液をじゅるじゅると吸い上げる。
朝景礼治からすればリンは己の歪んだ情欲を満たすための捌け口に過ぎない。
そして物心付いた時から仕込み続けられてきたリンも
これこそが親愛を示す行為であると認識し
それ以外の愛情表現を知らなかった。
「ぷはぁ……パパぁ、だいすき♪」
「じゃあ、次はコレを咥えなさい」
「うんっ」
朝景礼治は自分のズボンを脱ぐと、既に怒張している陰茎を取り出す。
リンは目の前にあるそれを何のためらいもなく口に含んだ。
まだ幼くて小さい彼女の口には大きすぎるほどの大きさだったが
リンのために大きくなったそれを愛おしそうに頬張って舐め取る。
「ちゅぱ……れろぉ……んふぅ……はむっ」
「ほら、もっと奥まで飲み込みなさい」
「んっ……んんっ!じゅぽっ……じゅぽっ……」
「いいぞぉ……いい気持ちだぁ……」
頭を抑え込まれて一気に喉の奥まで押し込まれる。
息苦しくなり、呼吸が乱れるリンだが決して抵抗しない。
それが朝景礼治から与えられた命令であり愛情だから。
リンは口や舌だけでなく喉の中も使って奉仕した。
「ぐっ……出すぞリン!全部飲み込むんだ!」
「んんんっ!ごくごくっ……んちゅっ、ちゅうぅぅ……ごくんっ、はぁはぁ……パパぁ……」
どぴゅっと勢いよく放たれた精液がリンの胃の中へと流れていく。
生臭い匂いが鼻腔を刺激するが、リンは嫌そうな表情を一切見せずにゴクッと音を立てて呑み込んだ。
射精はリンを愛しているからこそ出る証。
そう教え込まれたリンはむしろ精を好物として喜んで味わった。
尿道に残った精子も残らず全て吸い上げてから飲み干した。
「よし、全部飲めたな。偉いじゃないか」
「えへへ〜、ありがとうパパ♪せいしいっぱいだしてくれてありがとう〜とってもおいしかった♪」
「そうかそうか。明日もたっぷり飲ませてやるからな」
「うん!リンたのしみ!」
朝景礼治は褒められたことに喜ぶリンの頭を撫でる。
リンにとって朝景礼治から与えられる行為全てが喜びだった。
それが欲望の捌け口として使われているだけだとしても
彼女にはそれが自分に向けられた愛情として認識していた。
「では、私は風呂に入ってくる。何かあれば呼びなさい」
「はい、分かりました。いってらっしゃいませ」
「パパ〜、おやすみなさ〜い!」
調教師が深々とお辞儀をして朝景礼治を見送る。
リンもまた朝景礼治に向かって手を振った。
今日のリンの奉仕はこれで終わり。
こうして、調教という名の歪で幸せな日常がいつまでも続くと思っていた。
「ぐっ、がっ……」
「どうしたの、おじさん?」
調教師の様子がなんだかおかしい。
体をぶるぶると震わせて急に苦しみだしている。
リンは不安そうな表情で調教師に近づいた。
「ぐぅぅううう……!」
「ひっ」
恐ろしい形相で唸り出した調教師の姿に
驚いたリンは短い悲鳴を上げて尻もちを付く。
「お、おじさん……?どうして……?」
「ううううう!ううううう!」
「いやぁっ!」
リンは急いで立ち上がり、愛するパパの元へと向かった。
パパなら、パパならリンを助けてくれる。
だってパパはリンのことが大好きだから。
いつもリンのことを褒めてくれるから。
「パパぁ!たすけて!パパァ!!」
風呂場へと駆けつけるリン。
そこで彼女が目にしたのは……。
「うぐううううぅぅ!!」
「パパ……?」
調教師と同じ様に正気を失い、ゾンビと化した朝景礼治の姿だった。
「なんで、パパ……?」
「グルルル……」
「ひっ!」
朝景礼治はリンを見つけるなり、鬼のような形相をしながら近づいてくる。
その様子にリンは恐怖し後ずさる。
「パパ、どうしたの、パパ……!リンだよ、忘れたの?パパぁ……」
「ウガアアッ!」
「きゃあっ!」
よだれを垂らしながらリンに迫りくる朝景礼治の姿に恐怖したリンは涙を流しながら駆け出した。
どうして?どうしてなの?
パパもおじさんもリンのこときらいになったの?
いらなくなったの?もうあいしてくれないの?
……そんなのいやだよ。
たすけて……だれかリンをたすけてよ。
だれか……リンをあいしてっ!!
一夜にして大切な親を失った少女は初めて自分の意志で屋敷を出た。
フラフラとした足どりで必死に少女は走った。
生きるために……そして誰かに愛してもらうために……。
◆
……その頃、朝景礼治の別荘近くでは二人組の男が歩いていた。
「感謝しろよヒョロガリィ!!この閻魔様の手足として働けるんだからなぁ!!」
「ええ、閻魔さんと出会えて一生分の幸運を使い切った気分ですよ」
「そうだろそうだろォ!次期木更津組、組長の俺様にかかればこんな事件余裕で解決よぉ!!」
やたらと威勢の良いこの男の名は木更津 閻魔。
木更津組組長、木更津 王仁のドラ息子であり
普段から親の威を借りて、こうして威張り散らしているのだ。
「いやぁ、それは頼もしいですねぇ」
それとは対象的に元気が無く、暗いテンションの男の名は月影 夜帳。
村の診療所で働く薬剤師で、日頃から陰気でいまいち存在感が無い。
「それと私の名前はつきか」
「うるせぇな!お前の名前覚えにくいんだよ、文句言うんじゃねえよ!」
「そうですか……すみません」
ガリガリに痩せた体型をしている夜帳を見るなり、閻魔は『ヒョロガリ』という酷いあだ名を付けていた。
下手に訂正させようとしても、面倒になるだけなので夜帳は気にしないことにした。
「おいヒョロガリ!お前は何か武器でも持ってきたか?」
「武器はありませんが包帯やガーゼ、消毒液、それといくつかの治療薬を持ってきました」
夜帳は所持しているカバンを開けて救急道具を閻魔に見せた。
「おうおう、中々気が利くじゃねえか」
「まぁ、私これでも薬剤師ですから……」
「ヤクザ医師ぃ?」
(……バカですか?こいつ)
「見て驚け!俺はこれを持ってきたぜぇ〜」
閻魔は見せびらかすように懐から拳銃を取り出した。
トカレフTT-33、暴力団がよく扱う銃として有名である。
「どこから持ってきたんです?そんな物騒なの」
「木更津組を舐めるなよ。これぐらい事務所にいくらでもあるぜ」
「そうですか。組は無事だったんですか?」
すると先ほどまでヘラヘラ笑っていた閻魔の表情が変わった。
真剣な顔つきになり、少し前の出来事を語り始めた。
「地震が起きた後……俺は事務所にいる親父達が気になって電話をしたんだ……。
だが何度掛け直しても、誰も電話に出やがらねえ……。
仕方ねえから俺は家を出て直接、事務所まで歩いて向かった。
するとどうだよ……組の皆がどいつもこいつも化け物になってたんだよッ!!」
「……組長さんも?」
「知らねえよ!!親父がどうなったかなんて!!
俺は引き出しから銃を取ってすぐ出ていったんだからなッ!!」
閻魔は父親の安否を確認することも出来ず、逃走を選んだ。
自分を家族の様に可愛がってくれた木更津組の皆に銃口を向けたくなかったからだ。
たとえ相手がゾンビと化していたとしても。
「親父は俺なんかよりもずっと強くてすげー男だ。
それこそ何度殺されたってくたばらねーような男の中の男だ。
それに親父の側にはいつも沙門がいる、あいつだって化け物以上の強さだ。
親父達なら俺が気にかけるまでもなく自力で何とかしているだろうさッ!
とにかく、親父の件は置いておいて。俺は俺でやるべきことをやる」
親父の事は心配だがゾンビと化した構成員をどうにかする術を閻魔は持たない。
だから閻魔は他に自分が出来ることを探して実行することを選んだ。
「女王感染者を見つけることですか?」
「そうだ!そのために使えそうな生存者を見つけて俺に従わせる!誰にも俺に文句は言わせねえ!!」
「ええ、組長さんもそれを望んでると思いますよ」
閻魔は確固たる決意を誇示するように目的を高々と宣言して歩く。
夜帳も相づちを打ちながら後ろからついて行った。
(はぁ……なんて煩わしい)
閻魔の背中を見ながら内心で夜帳は愚痴を零した。
キャンキャンキャンキャン吠えるこの目障りなチワワを今すぐにでも殺してやりたい。
私の平穏を脅かす忌々しい害虫め。
なぜ、私がお前のようなガキのお守りをしなければならない?
夜は私だけの『時間』私だけの『世界』だったというのに……。
私は山折村が好きだ。
喧騒とした都会は不必要に騒がしくストレスが溜まる。
自然豊かで静かな山折村は私の心に平穏を与えてくれる。
私は夜が好きだ。
夜になれば山折村はより静寂な場所と化する。
街灯も少なく、暗闇が私を優しく包んでくれる。
誰にも私の邪魔は出来ない、私だけの時間になる。
そんな私にも嫌いな物がある。
それが木更津組だ。
やつらは静寂な山折村に災いを持ち込んでくる。
植物のように静かで穏やかな環境が破壊されていく。
特に木更津 閻魔とかいうクソガキの存在が目障りだった。
親が組長というだけで誰一人咎めようともせず
知性の欠片も無いアホ犬のようにキャンキャン毎日吠え立てる。
何度、このガキを殺してやろうと思ったことか。
大体、なんだ?その髪型といい、伊達メガネといい、無駄にハイカラな服装といい。
どれもこれも全く似合ってないじゃあないか。
これじゃあ服を着ているんじゃあない、服に着られているんだ。
周りに恐れられようとしているんだろうが。
そもそも顔つきが優男過ぎるのだ、威厳がこれっぽっちも感じられない。
まるでレッサーパンダが一生懸命に両手を上げて威嚇しているようだ。
まさに目の上のたんこぶという存在であるが
山折村で平穏な暮らしを望む私は争いごとを好まない。
ヤクザと揉め事を起こすぐらいなら知らんふりを決めて過ごすのが賢い行き方だ。
そうやって私は慎ましく生きてきた……だというのに。
大地震の影響でウイルスが漏れて村中ゾンビまみれだと!?ふざけるのもいい加減にしろ!!
せっかくの静寂で穏やかな私の夜がゾンビ騒動によって滅茶苦茶じゃあないかッ!
なぜだ!?なぜ私はこんな目に遭わなければならない!?
私はただ、静かに暮らしたいだけなのに!!
穏やかな田舎ライフを満喫していたいだけだというのに!!
ただ、ウイルスの影響で木更津組のダニ共が殆どゾンビになったのはいい気味だと言っておこう。
あいつらは生きる価値も無い人間のゴミだ。
駆除されて当然の害虫だ。
あとは目の前にいるこのチワワも死んでもらいたいものだが……。
木更津組の生き残りがいるかもしれない状況で行動を起こすのは賢くない。
仮に村にいる連中が絶滅したとしても、村の外で働く構成員達がいるかもしれない。
この災害から生きて脱出しても、木更津組から命を狙われるようでは意味がない。
そいつらが私を害しに来る可能性がある以上、このガキの機嫌は損ねるわけには行かない。
『憎まれっ子世に憚る』害虫に限って、しぶとく生き残りやすいものだ。
「……けて……たすけてぇ……」
その時、イライラを募らせていた夜帳の視界に入ってきたのは
ゾンビから必死に逃げる幼い少女の姿だった。
「閻魔さん!あそこ!」
「なんだぁヒョロガリィ……って、なんだこのガキッ!?」
「はぁはぁ……リンをたすけて……おにいさん……」
「助けてだぁ?……おいおい、ゾンビなんか連れてきてんじゃねえよボケェ!!」
息を切らした少女、リンは閻魔の体に寄り添い、助けを求める。
少女の後ろにはうめき声を上げる二人の男のゾンビがこちらに向かっていた。
しかも一人は全裸だった。
「なんで裸なんだよッ!あいつ不審者かぁ!?」
「さぁ、風呂でも入ってる時にゾンビになったんじゃないですかねぇ?」
「ちぃっ、そこの二人止まりやがれ!う、撃つぞ!!」
閻魔は銃を取り出し、二人のゾンビに向かって警告をした。
それでも二人のゾンビは歩みを止めない。
「お前らッ!!この閻魔様の言うことが聞けねえのかコラッ!!撃つぞ!?本当に撃つぞぉ!?」
「閻魔さん、彼らはゾンビですから言葉は聞こえてませんよ……」
見ればそれぐらいわかるだろう、まったく頭が悪いと夜帳は内心で毒づいた。
「くっ……くそったれがぁぁぁぁああああッッッ!!!!」
「きゃっ」
閻魔の怒号と共に銃声が鳴り響いた。
側にいたリンは耳を塞いでしゃがみ込み。
夜帳は流れ弾を警戒して閻魔の背後へと下がる。
「くそッ!くそッ!くそッ!くそッ!くそッ!くそォォォ!!」
閻魔はゾンビ二人に向かって無我夢中で引き金を引き続けた。
ゾンビとの距離がすぐそこまで来ていたのもあって銃弾は二人の急所を撃ち抜いた。
倒れた二人のゾンビはビクビクッと何度か痙攣を繰り返した後に完全に動きを停止した。
「はぁはぁはぁ……」
カチカチと銃弾が空になった銃の引き金を未だに引いている閻魔。
その手はプルプルと震えており、瞳も揺れ動き、息を荒らげている。
「おい、ヒョロガリ……俺は悪くねえよなぁ!?」
「え?」
「あいつらは俺を殺そうとした。だから仕方なく俺は撃った。これは正当防衛だよなぁ!?」
「ええ、そうですね。やむを得ない事情だったと思いますよ」
「そうだよなぁ!殺さなきゃ俺達が殺されていた。俺は何も悪くねえんだ……」
徐々に落ち着きを取り戻す閻魔、この状況では人の命を奪うのはごく当然な行為になる。
そう、自分に言い聞かせて先へ進もうとすると。
「あ、あの……」
「なんだガキ!俺たちは今忙しいんだ!」
「ひぃっ……」
「子供に怒鳴るのは止しましょうよ閻魔さん」
「俺に意見するんじゃねえよ!!」
閻魔の怒鳴り声でびくっと体が硬直するリン。
それでも怯えるよりもすがるような表情で閻魔を見つめている。
「……ちっ、何か用かよ」
「お、おにいさん!」
「なんだ?」
「リンをたすけてくれて、ありがとう!……それとリンをつれていって!」
「はぁ……?」
「閻魔さん、私も同行させるべきだと思います。
この子がゾンビになっていないという事は何かの異能に目覚めてる筈です。
もしかしたら私たちの役に立つ異能が使える可能性もあります」
「おねがい、リンをすてないで……おにいさん……」
結果としてゾンビ化した調教師と朝景礼治の手から救い出す形となった閻魔の姿は
リンからして見れば救いのヒーローの存在に見えていた。
まるで雛鳥が初めて出会った生き物を親だと刷り込みを覚えるように。
閻魔を新たな庇護者として認識するようになっていった。
パパとおじさんからリンをたすけてくれたとってもやさしいおにいさん。
あのおにいさんなら……きっとリンをすくってくれる。
だからリンをすてないで、おにいさん。
リンならおにいさんのよろこぶことぜんぶするよ。
だからリンのあたまをなでて!
リンをいいこいいことほめて!
リンのからだをぎゅっとだきしめて!
いつまでもずっと、ずっと、ずっとリンをあいして!!
「……しかたねえなぁ。次期木更津組の組長になる男として人肌脱いでやるか!」
「と、言うことは?」
「リンと言ったか?いいぜ。俺たちに付いてきな」
「わぁ〜ありがとう、おにいさん大好き!」
「ああもう!いちいちくっついてくるんじゃねえよ!」
リンは嬉しさのあまり閻魔の体にぎゅっと抱きつくも
閻魔に頭を掴まれて強制的に引き剥がされた。
「顔が真っ赤ですよ閻魔さん」
「うるせえヒョロガリィ!はっ倒すぞコラァ!……おいリン、俺の事は閻魔様と呼べ」
「うん、エンマおにいちゃん!……だいすき♪」
「だからくっつくなって言ってんだろうが!」
「ふふっ、どうやら懐かれたようですね閻魔さん」
「笑ってんじぇねえヒョロガリィッ!!」
こうしてリン、閻魔、夜帳の三人は行動を共にすることとなった。
このVHを一刻も早く食い止めるために。
【木更津 閻魔】
[状態]:健康
[道具]:トカレフTT-33(0/8)
[方針]
基本.木更津組次期組長として指揮を取って事件解決を目指す。
1.まずは使えそうな子分達を探すぞ。
2.極道モンの仁義としてリンは保護してやろう。
※リンの異能の影響で無意識に庇護欲を植え付けられています。
【リン】
[状態]:健康、木更津 閻魔への依存。
[道具]:無し。
[方針]
基本.エンマおにいちゃんのそばにいる。
1.やさしいエンマおにいちゃんだいすき♪
2.リンをいっぱいあいして、エンマおにいちゃん。
※異能によって木更津 閻魔に庇護欲を植え付けました。
リンは異能を無自覚に発動しています。
◆
月影 夜帳がリンを庇った理由。
表向きはリンの異能が何かの役に立つかもしれないというのだが。
彼の本心は別の理由によるものだった。
(ああ……なんて美味しそうな子なんだ……リンちゃん)
月影 夜帳は殺人鬼である。
今まで何人もの若い女性の生き血を吸い、殺害してきた人間だ。
そして、次の獲物は閻魔の側にくっついて離れようとしないリンであった。
せっかくこの騒動中は殺人衝動を抑え込むつもりだったのに。
こんな若くて可愛らしい少女を私に見せつけるとは、なんて残酷なんだ。
例えるなら試合前の減量中のボクサーに向かって、最高級の分厚いステーキを差し出すような行為だよ。
あんなゾンビ共に食わせるにはもったいないご馳走だ。
(いますぐにでもリンちゃんの白くて柔らかい喉に私の歯を突き立てて。
溢れ出す生き血を思う存分に吸い付くして喉を潤したい……んぐっ!?)
リンを殺害する妄想に浸っていた時、夜帳の口内で異変が起こった。
夜帳の犬歯が長く、そして鋭く強靭に変化していった。
異変に驚いた夜帳思わず口を抑え込んで犬歯を隠すした。
「どうかしたかヒョロガリ?」
「いえ、くしゃみが出そうになったので……」
「汚えな。向こうを向いてろや」
「はい、すみませんでした」
どうやら気づかれずに済んだようだ。
口元を確認すると犬歯は既に元のサイズに戻っていた。
どうやら、血を吸おうと考えた時だけ犬歯が伸びる仕組みらしい。
(……つまり私の異能は吸血行為に関連する、ということですか)
私は人を殺さずにはいられない性(サガ)を持っているが
絶対にこの災害から生き伸びてみせる。
【月影 夜帳】
[状態]:健康
[道具]:医療道具の入ったカバン
[方針]
基本.この災害から生きて帰る。
1.木更津組を敵に回すのは面倒なので今は閻魔に従おう。
2.リンはこの手で殺害する。
※自身の異能は吸血行為に関連するものと目星を付けています。
投下終了です
タイトルは性(SAGA)です
すいません、ゾンビの状況と現在位置を書き忘れていましたので追加お願いします。
※朝景礼治と調教師のゾンビは死亡しました。
※朝景礼治の別荘地下にはゾンビ化した少女達が監禁されています。
D-2/朝景礼治の別荘近く/一日目・深夜】
>>464
了解しました。バス事故のポイントをトンネル内にした修正話を投下します。
「もしもし? ああ、今ちょうど岐阜に着いたところ。お土産? 岐阜にお土産になるようなものなんて無えよ。金もないしさ。ああ、ああ、また連絡する。ああ、ははっ、わかったよ、写真もな。じゃあうまくごまかしといてくれよ。」
九条和雄はスマホをタップすると、ふっ、とマスクを外して上を向いて息を吐いた。6月の岐阜は、東京より暑い。夏休みに見るような入道雲が青空をバッグに座っているのを見ると、来ていた長袖のパーカーをリュックへと押し込めた。
離婚して出ていった母と妹に会う。言葉にするとこの旅の目的はそんなものだが、小学生の和雄には何から何まで初めての体験だった。最寄り駅の吉祥寺から中央線で立川に行き、乗り換えると中央本線で長野の塩尻まで行く。また乗り換えて今度は中津川まで行くと、ようやく岐阜県に入れた。ここからバスを乗り継いで、どのぐらいか山道を揺られれば、いよいよ妹たちがいる山折村だ。一人で電車どころかバスも乗ったことのない和雄からすると、道半ばで既に冒険した感じがある。お年玉の万札が交通費で飛んでいくのを信じ難い目で見ながらここまで来て、疲れを覚えずにはいられなかった。
それでも、和雄の足どりは軽い。何年も会ってない家族に会えることの嬉しさはひとしおだ。それに、和雄には聞かなくてはならないことがある。自分の『体質』についてだ。
和雄たち兄妹はどちらも生まれつき特異体質を持っている。妹は原因不明の病を、兄である和雄は希少な血液型を。だが今から3ヶ月前に発覚したのは、高い魔力を持つという体質だ。
七不思議のナナシ。そう名乗る怪人に、閉鎖空間と化した学校でクラスメイトと殺し合わされたことは今でもよく覚えている。その中で存在すると言われたのが、高い魔力。MP。突然のファンタジーな体質に和雄は当然驚いたが、状況が状況だけにそれどころではなく、そういうものだとして受け入れた。そして気合と機転と友情でナナシを撃退し、なんとかみんなで生き残れたのだが、それから3ヶ月。よくよく考えたら、あの時みんなは魔法っぽいのを使っていたのにおれだけそういうの無かったなと思い出し、もしかしておれも妹も血筋的に何かあるんじゃないかと気になって仕方なくなったのだ。
「次のバスは……『ナビタイム バス 乗り換え』。中津川市から山折村……嘘だろ、着くの夕方かよ。」
スマホを持つ右手の甲で汗を拭いつつうっとうしそうに言いながらも、和雄の声はほこほんでいる。左手にさげたトイザらスのビニール袋を慎重に抱え直すと、駅前のコンビニへ入った。電車から降りて数分でかいたとは思えない汗を吸ったTシャツが一気に冷える。日本全国共通の冷房に感謝しながら、なにか飲み物でも買おうと狭い通路を早歩きしたところで、鼻先が柔らかいものにぶつかった。
短く発せられた女性の悲鳴に、反射的に「ごめんなさい!」と言う。ぶつかった時に感じた良い匂い。目を上げると、和雄より頭半個分ほど背の高い少女が、花束を抱きかかえるようにして見つめていた。
「あっ。」
その姿を見て、反射的に声が出た。さっきの電車で見かけた顔だった。正しくは、見かけた包帯の巻かれた手足、だが。
少女は「ごめんなさい」と小さな声で言うと、逃げるようにコンビニを後にした。当たったのはおれなのに、とバツの悪さを感じる。適当に近くにあったジュースとチョコレートを掴むと、すぐにレジへと向かった。
九条和雄と哀野雪菜、6時間後に運命の別れる二人の出会いは、そんな何気ないものだった。
「あ。」「あ。」
それからしばらくして。
本数の少ないバスを、板チョコを齧りながら、土産物屋を覗いて時間を潰し待っていた和雄は、ふと良い匂いを感じて振り向くと、先ほどぶつかった雪菜と目があった。
ゲッ、と思ったのは和雄だけではないのだろう。雪菜も踏み出しかけた足を引っ込めている。まさかまた会うとはと思いながら、とりあえず謝っておくことにした。
「ど、どうもっす。さっきはごめんなさい。」
「え、うん。大丈夫だよ。」
謝って、赦す。交わした言葉は優しい。なのに、二人の間に気まずさが流れる。こういう雰囲気は苦手だ。とりあえず皮肉で茶化したくなる。幼なじみ相手ならそれができるのにと思いつつ、何か言わなければと思い、とっさに口に出たのは、同じ電車に乗っていたことだった。
「……そういえば、さっきの塩尻からの電車にも乗ってましたよね?」
「えっ! な、なんで……」
「いや……同じ電車に乗ってて記憶に残ってて。」
さっと雪菜の顔が陰ったのに気づき、言ってからその理由に気づいた。わずかだが、手足の包帯を隠すような動きに、なぜ記憶に残ったかを察されたようだ。そして、それで傷つけたらしいとも。
気まずさをなんとかしようとして地雷を踏んだか。和雄は自分に舌打ちしたい気持ちになりながら、かける言葉を探す。だが自分が傷つけた少女に向けての言葉など、小学生の和雄は持ち合わせていない。それでもわかるのは、こういうときに下手に謝ると余計に傷つけるということだけだ。なので考えを変える。なぜそう思ったか、シンプルに言うことにした。
「お見舞いに行くんで、包帯が記憶に残ってたっす。怪我してるのにぶつかってすみませんでした。」
「……そう。」
硬い声が返ってきた。まあ、だろうなと思う。だがこれ以上言いようがない。会釈をして脇を抜けると、駅の周りを散策することにした。どうやら向こうも時間を潰しているようだ。下手に近くにいるとまた出会って気まずい思いをすることになる。和雄は少し駅前から離れてそこら辺をぶらつくことにした。中津川の駅前は天下のJRだけあってそこそこ栄えている。それでも東京に暮らす和雄からすると田舎だなあという感想を覚えるので、人が育った環境というものは大きい。そうしてまたしばらく時間を潰して、そろそろバスの時間だと駅前へと戻ると。
「あ。」「あ。」
バス乗り場に雪菜がいた。「どうも」と会釈しながら、通り過ぎてコンビニに向かう。
(おいおい気まずすぎんだろ、よりによって同じバス待ってたのかよ、しかも並んでるのおれとあの人だけじゃん。)
気まずさを超えた気まずさだ。ここまで来ると運命的なものを感じる。実際は単に同じ日に東京方面から山折村に向かったというだけのことなのだが、一期一会とはこのことか。たぶん違うと思う。
舌打ち一つして、何も買わずにバス乗り場へと戻る。残念ながらバスの発車時刻はあと数分ほど。そして徐々に列が伸びている。無いとは思うが、人数オーバーで乗れませんなどとなったら大変だ。当然雪菜に気づかれるが会釈して後ろに並ぶ。気まずい。誰でもいいからこの空気をなんとかしてほしい。
「ん? 君たちは、さっきの。」
「え?」
「?」
なんとかしてくれる人が現れた。後ろから声をかけられる。見上げると、ぼさぼさの長髪に無精髭の、くさそうなおじさんだった。もう少し清潔感があれば俳優に似た感じの人がいたと思うが、ちょっと出てこない。
「ああ、突然すみませんね〜。さっき塩尻からの電車に乗っていたなと思いましてね〜。いや、ぜんぜん、ぜんぜん他意はないんですよ? 大事そうにおもちゃ屋の袋抱えた少年と包帯巻いた少女、絵になるな〜と思いまして、記憶に残ってたんですよ。」
「はあ……」
なんだこのおじさん、なんで小学生のおれに、馴れ馴れしく話しかけてくるんだ。和雄はそう思うも、よくよく考えればさっきの自分も似たようなものだと思い直す。汚いおじさんと同レベルなことにショックを受ける和雄を放っておいて、おじさんはスッと、カードを取り出した。白いが名刺ではない。なんだこれは?と和雄が首を傾げると、後ろから「あっ、それ!」と雪菜の声が聞こえた。
「良かった〜あなたのでしたか。いや、電車から降りるときに落ちるのを見ましてね、場所的にあなた達のどちらかが落としたんだと思ってたんですよ〜。もしかしたらと思ってたんですが、いや、よかったよかった、ええ。」
「ありがとうございます。」
何か切実な様子でカードを受け取ると、雪菜はそれを花束に添えた。メッセージカードのようだ。この人がカードの添えられた花束持ってると退院のお祝いみたいだなと、思わず失礼なことを考える。だがその失礼な考えがあながち外れではないような感じがする。自分も、かつてあんな感じで妹に花束を渡したことがあるからだ。
あれは、今から4年前のことだ。妹の九条洋子──今は離婚して苗字が変わったので、一色洋子──は生まれつき体が弱かった。小学校に上がる頃になると、症状が進んだのか入院しっぱなしになるようになった。買ってもらったランドセルを一度も担いで登校することない小学校生活。落ち込む洋子に、かける言葉を持たない和雄は、今の雪菜のような顔で花束を渡した記憶がある。
「お兄ちゃん。泣かないで。」
花束なんて何十束も渡してきたはずなのに、あの一回が記憶に残っているのは、洋子からそう言われたからだ。妹を哀れんで、涙を流していた自分を、その妹は、洋子は、気遣っていた。病気で辛いはずなのに、家族を気遣う優しさに、和雄は自分という人間の情けなさを思い知った。その時から、和雄は決して涙を見せないようにした。どれだけ辛くても、減らず口の一つでも言ってやってニヤリと笑うことにしたのだ。
だから、両親が離婚するとなったときも、和雄はただ「またな。」と言うだけだった。
小児病棟の、特に長く入院している子供の家庭では珍しくもない話だ。経済的な理由なり心情的な理由なり、とにかく大人はなにかの理由をつけて別れる。それに納得できるほど大人ではない。だが、それを責めるほど子供ではいられなかった。
離婚を選べずに後戻りできなくなっていく保護者を何人も見た。どちらかが死ぬか、あるいは両方死ぬか、子供も巻き込むか。それとも親も何かの病気になるか。そんな破滅も、数は少なくてもあった。
だから、洋子が母方の実家にある子供の緩和ケア病棟に転院すると行っても、親を責められなかった。父親は最後まで反対していたが、母親から見せられたその施設のパンフレットは、和雄から見ても良いものだと思えた。ここなら、穏やかな最期を終えられるのではないかと。それが洋子のためになるんじゃないかと。治らない治療に苦しむよりは、母親と二人で安らかに過ごしてほしいと。
「お兄ちゃん、わたしは……」
「……洋子、おれは、父さんに引き取られることになった。ほら、放っとけないだろ?」
「……うん。ごめんなさい、お父さん、わたしが……」
「いや、ちがう! ちがう……父さんがああなったのは洋子のせいじゃなくて、母さんだって……ただ、ちょっと距離を置いたほうがいいってことさ。」
「……うん。」
「父さんも母さんも、洋子を愛してる。それは知ってるだろ? ただ、ちょっと、なんていうか、花粉症みたいになってるっていうか、その……」
その時のことを思い出すたびに、和雄は自分が嫌になる。いつだって大切なときに、女の子にかける言葉を間違える。あの時もっと良い言い方があれば、あの時あんなことを言わなければと、自分の口下手を恨む。そしてこの記憶の終わりはいつだって。
「お兄ちゃん……今までごめんなさい。本当はわたし……」
それが記憶の中の、そして洋子の最後の言葉だった。一度乗ってみたいと言った新幹線での別れ際、窓の外の父と自分、窓の内の母と洋子。二つに別れた家族の記憶。
謝らせてしまった。
心優しい妹は、自分が兄の重荷になっていると思い込んでいたのか? 今でもそう、新幹線を見るたびに思い出す。だから新幹線は嫌いだ。
なぜ、自分は洋子の気持ちに気づいてやれなかったのだろうか。あの言葉を言われるまで、自分は洋子が自分自身を責めているなど全く思っていなかった。だって病気は妹のせいではない。あんな小さな体のどこに責められる理由があるのか。原因もわからない病気なのだから、わからない医者か、そんな体に産んだ親を責めるなら、わかる。血液型が特殊とはいえ全く健康体な兄を、ずるいと責めるならとても良くわかる。なのに、なぜ、あの時『今までごめんなさい』と言われたのかがわからない。自分自身を責めているぐらいしか理由が思いつかないが、そう思った理由が皆目見当がつかない。
「九条くん、着きましたよ。」
顔を上げたら、いつの間にかバスの中だった。乗客が皆立ち上がり降りて行っている。横に座っている汚い男も、だ。
礼を言って立ち上がる。どうやら思い出に浸っているうちにバスに乗って目的地に着いたらしい。しかも名前を知っているということは、たぶん自己紹介でもしたんだろうなと当たりをつける。ふだん何かに夢中になることなんてないのに、あの思い出だけは、心がどこか遠いところに行ってしまう。
「ここで乗り換えれば山折村ですね〜。病院の面会時間に間に合うと良いんですが。」
「えっ、おれ、そんなことまで言ってました?」
「あら〜? 覚えてないんですか? 自己紹介の後にお見舞いに行くって言ってませんでしたっけ。」
「やっべ……すみません、ぜんぜん。」
「まあ、上の空でしたからね〜。バス停こっちですよ。」
『満員のためドア閉めさせていただきます次の便ご利用ください次の便ご利用ください。』
「あぁん?なんで?」「次の便2時間後じゃねえかよ えーっ。」「田舎バスは観光客のことを考えないのか。」
「……乗り継げませんでしたね。」
「すみません、起こしてもらってたせいで。」
「ま、良いですよ〜。」
そのせいで次に乗るバスの列に並ぶのが遅れて、定員オーバーで乗れなくなってしまった。汚いおじさんに謝りっぱなしだな、ていうか岐阜来てから誤ってばっかだなと思う。
田舎なのにやたらと多くてなんか民度の低い観光客が、バスの運転手に詰め寄るバス停。並びながらスマホで次の便を見る。どうやら山折村への到着は夜の10時前になりそうだ。
改めて和雄の心に罪悪感がのしかかる。妹に近づくにつれて、人に迷惑をかけることが増えていく。まるであの時の自分のように。
「あっ、そうだ。よければさっきの話の続きを聞かせてもらえませんか? そこの喫茶店でもおごりますよ。」
汚いおじさんからそう言われて、和雄は断る気力も無く頷いた。迷惑をかけたのに人を気遣えるような大人を前に、子供として振る舞うしかなかった。
思わぬ拾い物をしたと斉藤拓臣は思った。
胡散臭い山折村に来て二日目だが、ガードの硬い村民ではなく、あえて中津川まで戻ってきて話を聞いたのが正解だった。
町の人間から評判を聞けたことは何より、胡散臭い村の中でもなお胡散臭い村の医院についての情報をもたらしてくれる人間を見つけた。
山折村で一番大きな医院は、子供向けの緩和ケア病棟を持つ。いわゆるホスピスと言っていいものだが、それをわざわざあんなクソ田舎に作るのは不自然だ。日本にもそう多くはないものが、なんであんな人口1000人ほどの村にあるというのか。
今回山折村を取材することにしたのもそれが理由の一つだが、まさか土産物屋で聞き込みをしていたらそこに見舞いに行くらしき子供を見つけるとは思わなかった。チョコレートかじってるガキが目に止まったのだが、そのガキが少女となにやら話し出したので聞き耳を立てれば、これがビンゴ。つまり和雄が雪菜にもう一度出くわしていた時、斉藤はそのすぐ側にいたのだ。二人の話を盗み聞きして、和雄が雪菜にぶつかっこと、二人が塩尻からの電車に乗っていたこと、和雄がお見舞いに行くことを知った。そして名刺入れから、何かのためにと持っていたそれっぽいメッセージカードを取り出して、ぶつかった時に落としたものを拾ったという体で、山折村へのバスを待つ二人に近づいた。古典的なナンパの手だが上手く行ったようだ。まさか本当に落としていたとは思わなかったので白紙のメッセージカードをもっていかれたが、まあ、いい。元々彼女にカードを返すということをダシにして和雄に近づくことが目的だ。しかも和雄はその後どういうわけか上の空になり、言ってないことも言ったことにして都合よく話を進めることができた。
「妹さんが入院していて、へ〜それは大変ですね〜。いや〜立派なお兄さんだ。」
「そんな……おれはぜんぜん……」
とりあえずこれで一人。あの医院への取っ掛かりができた。うさんくさいジャーナリストよりも、入院患者の親族の知り合いのほうが何かと便利だ。たとえ子供でも誰かから信頼されていることは大きな武器となる。和雄を起こしていたら先に降りた雪菜の方は前のバスで行ってしまったが。まあ、いい。本命はこちらだ。
「……さて、そろそろバス停行きましょうか。また乗れなくなったら困りますし。」
回り道が近道だ。そう思うことにしている。斉藤は和雄を連れ立ってバスに乗った。あいも変わらず山道だが、村から出るときよりは乗り心地がよく感じる。さて、明日はどう攻めようか──
21時48分。斉藤が思考の海に沈むその時、突如バスの上から『降ってきた』。
「なにっ。」「なんだあっ。」
「ぐあっ! 痛っつぅ……なんだよ!」
悲鳴がバス内に響く。音の後に痛みがやってきた。悪態をつきながら斉藤は席を立とうとして、頭が天井にぶつかった。したたかにぶつけて悶絶するが、頭は逆に冴えた。なぜ、天井がこんなに低いんだ?
「なんだよこれ……なんなんだよ。カメラカメラ……」
「斉藤さん! ヤバいです! 天井が『落ちて』来ます!」
「ハァッ!?」
答えは和雄が言ってくれた。バス全体が異様な音を立てて、上から押しつぶされていっている!
「さっきの看板……新山南トンネルだったよな……崩落か!」
慌てて斉藤は、横の窓から這い出た。視界の端に映ったものを思わず二度見する。後部は既に半分ほどの高さにまで潰されている。窓から突き出た腕が血塗れになって力なく垂れ下がっている。
「ふざけんな! こんなとこで死ねるか!」
「おっさん! 上!」
「おっさんおべえ!?」
そしてその『潰れの波』が後ろから迫ってきた。斜めになっていた巨大なトンネルの天井が倒れてきたとは、明るさの無いトンネル内ではわからない。だからただ単に、闇が後ろから車体を潰していくように見えた。
「和雄!」
「っぶねぇ!」
「うわっぶねえ!」
斉藤が呼びかけるのと和雄が脱出しきるのは同時だ。飛び出してきた和雄に踏み台にされかけながら、二人して車体の前へ、バスを通り越してその前へと走っていく。そこそこ運動している方だと思ったが、和雄はどんどん先を行く。若いっていいなあ!
その和雄の頭に、小さな瓦礫が掠めた。和雄は倒れた。若いってよくない!
「大丈夫か?」
「頭が……割れる……! うがあっ!」
とっさに抱き上げる。まずい、完全に膝が笑っている。とても動ける状態ではない。後ろからは崩落が迫っている。まずい、まずい、まずい──
焦る斉藤。その胸がぽんと押された。和雄が自分から離れるように左手を突っ張っていた。その意味を図りかねて和雄の目を見る。と、顔の前にトイザらスの袋を突き出された。
「これ、持ってってください。妹への……お土産……はげましてやりたくて……」
「……! わかった、持っていくよ。」
「……あざっす。」
後ろから崩落の音が迫る。その中でも不思議と、和雄の声はよく聞こえた。
斉藤は後悔した。あの時話しかけるんじゃなかった。そうすればこのバスに二人とも乗らなかった。こんなゴミを押し付けるんじゃないと思った。見ず知らずのおっさんから渡される兄貴の形見なんて、もらって妹が喜ぶか。こういうのは、本人が渡さなかったらゴミなんだ。そう言いたかった。言いたかったが、良い大人を演じた手前仕方ない。あんなキャラで話しかけるんじゃなかったとまた後悔した。
「わかった、絶対届ける。じゃあ、また。」
斉藤は袋を受け取ると、走り出した。
後ろからしていた崩落の音が前からもするようになる。肺が痛い。足が痛い。胸が痛い。
出口に差し掛かる。崩落は前でも起きた。大きな瓦礫が完全に出口を目の前で塞いだ。
「うおおりゃあっ!」
その瓦礫に飛び蹴りをかます。バランスを崩したのだろう、瓦礫の一角が崩れる。そこから這い出ると、後ろで再び瓦礫が崩れた。破片がトンネル外へも降ってくる。それから逃げるように、斉藤はひたすら前へ前へと走った。走り、走り、走って、酸欠になってバッタリと倒れる。馬鹿みたいに綺麗な夜空を見ながら、意識が遠のき。
こうして斉藤拓臣は山折村に足を踏み入れた。
【H-5/トンネル近く/1日目・深夜】
【斉藤拓臣】
[状態]:疲労(大)、気絶
[道具]:デジタルカメラ、ICレコーダー、メモ、筆記用具、スマートフォン、現金、一色洋子へのお土産(九条和雄の手紙付き)、その他雑貨
[方針]
基本.山折村を取材する。
1.……
2.医院に行き、一色洋子に会う。
※放送を聞き逃しました
※VH発生前に哀野雪菜と面識を得ました。
投下終了です。
タイトルは『死せぬ者に迫る手』になります。
お騒がせしました。
投下します。
◆
外は、静かな夜だった。
相も変わらず、星の綺麗な空だった。
先刻の大地震など、夢の出来事だったかのように。
先程の放送など、幻聴だったかのように。
そして―――夜勤の最中、この交番に“正気を失った村の老人”が姿を現し。
襲い掛かってきたその老人を、咄嗟に射殺してしまったことも。
何もかも嘘だったかのように、外界は沈黙している。
「――――♪」
交番の奥の部屋に、二つの影があった。
年甲斐もなく茶髪に染めた巡査長、薩摩圭介は。
外の静寂など興味もないと言わんばかりに。
訳の分からない歌を、口ずさんでいた。
パイプ椅子に腰掛けて、拳銃を弄りながら。
「――――♪ ――――♪」
それが“英詞の歌”であることに、暫しの間を開けてから気付く。
80年代か90年代の、有名な洋楽だった。
「――――――♪ ―――――――♪」
本当にフレーズを覚えているのかもあやふやな歌詞で、薩摩は上機嫌に歌を口ずさみ続ける。
――――暴力振るった後に、洋楽口ずさんで悦に入る。
――――お前それ、映画の悪役の真似事か。
――――40越えた男がやることじゃないだろ。
彼の上司である“巡査部長”は、そんな間の抜けた感情を抱き。
そして両脚を焼くような“痛み”に、思わず歯を食いしばった。
巡査部長は、両足を拳銃で撃ち抜かれていた。
銃創からどくどくと血を流し、床を紅く汚しながら、彼は身動きも取れずに横たわる。
その両手は、手錠によって後ろ手に拘束されている。
つい先程、薩摩圭介は。
正気を失った老人を射殺した。
やむを得ぬ判断として、銃を抜いた。
あの放送の内容と併せて、これからの行動を巡査部長が判断しかねていた最中。
薩摩は突如として銃を抜き、不意を突く形で部長の両足を撃ち抜いた。
そのまま手錠で部長の動きを拘束し、こうして悠々と椅子に腰掛けている。
「……最高の気分ですよ、部長」
得意げに銃の手入れを続けていた矢先。
薩摩巡査長が、ふいに口を開く。
「さっきの放送を聞いて、爺さんを射殺して。
そしてこの“異能”を見て、全てが俺の頭の中で繋がりました」
不敵に笑い――――左手で“指鉄砲”を作りながら。
彼は、飄々と呟く。
「これから、俺が望む世界がやってくるんだ」
彼は、“異能”に目覚めていた。
指先の空気を固めて、弾丸として放つ。
その力を手に入れて、薩摩は確信していた。
先程の放送の話と照らし合わせ、理解していた。
山折村に、未知のウイルスが蔓延した。
適合できなかった者は、ゾンビと化して。
適合を果たした者は、超能力を獲得する。
恐らくは自身と同じような発現者が村中にいるのだろうと、薩摩は考える。
そして放送によれば、適合者の中にウイルスの母体となる“女王”が存在し―――それを始末することで事態は解決する。
つまるところ、住民同士の魔女狩りが今後間違いなく発生する。
そんな状況を前にして、薩摩は笑みを浮かべる。
まるでこれから始まる地獄を楽しむかのように。
彼は愉悦の表情を浮かべて、巡査部長を見下ろす。
「まさか……君、は……」
巡査部長は、異能に目覚めていなかった。
今は理性こそ保っているが――――腹が減っていた。飢えていた。
自分の中の異常を薄々悟りながら、薩摩に問いかける。
まさか、この男は。
魔女狩りに加わるつもりなのか。
「村人同士の自主解決に、加担を……?」
「女王は殺しませんよ、部長」
あっさりと、否定。
思わず巡査部長は呆気に取られる。
そして、間髪入れず。
薩摩は、ニヤッと笑って。
口を開いた。
「謂わば守るんです。“俺たち”全員で」
――――おい、ちょっと待て。
――――そこは“この魔女狩りを楽しむ”とか。
――――そういうことを言う流れじゃなかったのか。
予想だにしない言葉が飛び出て、巡査部長は思わずそんなことを考える。
「何が解決策だ。何が特殊部隊だ。
クソッタレですよ、そんなもん。
どうして“止めなきゃ”ならないんですか」
悪態を付くように吐き捨てる薩摩。
自主解決も特殊部隊もクソッタレと言い放つその姿。
粗野に見えて、倫理的な思考に至ったかのように見えなくもない。
――――まさかこう見えて、理性的な判断を始めたのか?
――――いや、上司の脚を撃って拘束する男のどこが理性的なのか?
巡査部長の中で疑念が渦巻く。
腑に落ちないような感情が転がり続ける。
「君は、何がしたいんだッ―――」
「これから放送施設へと向かい、そこで村の生存者達に呼び掛けます。
『我々は今、手を取り合って共に戦うべきだ』と。
悲惨な魔女狩りを未然に防いで『女王』を保護し、彼らを一致団結させる」
薩摩は、横たわる巡査部長にそう告げる。
その言葉は。その方針だけは。
まるで生存者のために動く、高潔な目的のように聞こえなくもなかったが。
「そして――――山折村の大和魂を見せてやるんですよ。
ここは俺達の村だ。俺達の結束で国家の横暴に打ち勝つ」
――――な……何だって?
――――大和魂?打ち勝つ?
矢継ぎ早に飛び出した言葉に。
巡査部長は、思わず呆気に取られる。
「特殊部隊が何だって言うんです。
こっちには人知を超えた異能があるでしょう。
奴らにとっても俺達は未知ですよ」
おい。何を言ってる。
何か、何かがおかしい。
開いた口が塞がらないまま、巡査部長は思う。
こいつは一体、何を語り出しているんだ。
「それにあの放送を聞く限り、恐らくはもう村中でゾンビの群れが蠢いている。
そいつらを誘導して特殊部隊どもにぶつければ少なからず撹乱はできるでしょう。
その隙を突いて強襲を仕掛ければ、十分に我々の勝ち目があるという訳です」
何を当然のように語ってるんだ。
撹乱だの、強襲だの。
戦争の話でもしてるのか、お前は。
嫌な予感がした。
巡査部長は、冷や汗をかいた。
異様にギラついた眼差しで語る薩摩を見上げて。
恐る恐ると、問い掛けた。
「君は……一体、何をする気なんだ……」
「山折村VS特殊部隊です」
薩摩が、かっと大仰に目を見開く。
そして不敵に笑いながら、宣言した。
「村を包囲する特殊部隊に対し、全生存者を団結させて“異能を使った徹底抗戦”を行います」
即ち、山折村を舞台にした全面戦争。
異能に目覚めた全村民による、国家権力への叛逆である。
――――正気なのか、こいつ。
――――いや。
――――間違いなく、どうかしている。
何もかも荒唐無稽な計画だった。
明らかに正気の沙汰ではなかった。
得意げに思惑を語った薩摩。
対して唖然とする巡査部長。
村の警官に過ぎない彼にも理解できる。
薩摩の計画は、あまりにも無茶だった。
この男は、この災害の中で、紛争を起こすつもりでいるのだ。
異能が戦いに使えたとして。
そもそも計画の肝となる“異能持ちの生存者”が一体何人いるのか。
この村を包囲しているという特殊部隊が一体どれほどの規模なのか。
撹乱目的でゾンビ達を誘導すると言っているが、まずそんなことが現実に可能なのか。
薩摩は何一つとして把握できていない。
第一この計画、つまるところ“付け焼刃の武装をした疎らな数の村人達でプロの戦闘集団と戦う”ことを意味する。
あまりにも不確かな状況と構図で、何をどう戦うというのか。
というか強襲って、まさか村を囲んでいる山を越える気でいるのか。それも撹乱役のゾンビの群れごと。
それだけで如何に体力を消耗するのかを分かっているのか。
仮に生存者が多数残留していたとして、彼らが徹底抗戦のために本当に団結するのか。
確かに生存者同士で固まること自体には意義があるかもしれないが―――この状況だぞ。
前例のない大地震、未知のパンデミック。
そこから更に放送による魔女狩りへの扇動まで発生している。
既に生存者が大混乱や疑心暗鬼に陥っててもおかしくない中で、その荒唐無稽な話を放送して村中に叩きつける?
“未曾有の事態が発生してしますが、今こそ我々の団結で国家権力に立ち向かいましょう”とでも言う気なのか?
まさか彼は村民達を映画の登場人物か何かだと思っているのか。
つまるところ、混乱真っ只中の民間人達に“付け焼き刃の武装でプロの戦闘集団に立ち向かえ”と突きつけてるんだぞ。
実態の曖昧な巨悪を前に共闘するどころか、更なるパニックが巻き起こる可能性のが遥かに高いだろう。
それに―――その団結の呼びかけを、肝心の特殊部隊とやらが察知する可能性を考えていないのか。
生存者の不穏な動きを捉えた特殊部隊が、村への処分を急ぐ可能性を視野に入れていないのか。
それらの可能性に思い至った生存者達が、焦燥に駆られて魔女狩りを加速させるとは思わないのか。
幾らでも穴がある。
筋立ての綻びが多すぎる。
掘れば掘るほど、疑問が浮き彫りになる。
巡査部長は唖然とした表情を隠せない。
不確実で曖昧。そんな計画だというのに。
――――薩摩の目は、余りにも“本気”だった。
――――まるで理想に燃える革命家のように。
――――とんでもなく、ギラついていた。
「……そもそも……村の包囲を、突破すれば……」
そんな薩摩に慄きながら、巡査部長は口を開く。
彼の語る計画に存在する、より致命的な事柄を指摘すべく。
仮に本当に全てが上手く行って、包囲を越えられたとすれば。
「下手をすれば、村外へと感染が―――」
「それです。それ」
薩摩は指を鳴らして、得意げに相槌を打つ。
「俺の最終目的はそれなんです」
「は?」
最終目的―――?
何だ、それは。
巡査部長は口をぽかんと開く。
「村の外へと感染を拡大させ、日本の社会を崩壊させる」
そして、待ってましたと言わんばかりに。
薩摩は自らの最終目標を、宣言する。
先程の穴だらけの計画の、更に先を行く。
引き上げられた無謀のハードルを、更に飛び越えていく。
そんな無茶苦茶な思惑だった。
「何故そんな、バカな真似を……!?」
「自己防衛を目的にした“銃の使用”が出来るから」
―――何だって?
思わず巡査部長は聞き返す。
聞き間違えだったのかと、一瞬耳を疑う。
「パンデミックによって社会が崩壊したらどうなると思います?
異能を手にした俺は、理性を保ったまま自由に発砲が出来るんです。
面倒な手続きがなければ使用許可が降りなかった銃が、ゾンビから身を守るための“任意の自己防衛手段”になるんですよ」
薩摩は、高らかに語る。
熱を込めて、語り出す。
革命家が自らの目的を告げるかのように。
この田舎村の警察官は、大層な思惑を大いに語り続ける。
普段なら“漫画の読み過ぎ”だと一蹴されるような計画を、至極真剣に告げる。
巡査部長の脳裏に、走馬灯のように記憶が過る。
―――ああ。
―――そういえば、こういう奴だったよ。
もはや言葉が出ない。
呆気に取られて。唖然として。
巡査部長は、何も言えない。
先程まで語っていた大和魂だの、村の結束だの、魔女狩りを防ぐだの。
そんなものは全て、この“馬鹿げた野望のための方便”でしかなかったのだ。
真っ先に自分を無力化したのも、銃を抜こうとする度に注意する“口やかましい上司”に仕返しがしたかったから―――巡査部長は察してしまう。
思い返せば、そうだった。
薩摩圭介巡査長。
趣味は銃の手入れ。
彼は事あるごとに銃を抜きたがる。
揉め事や獣害など、何か理由をつけて銃を使いたがる。
そのくせ自己防衛の見極めは上手く、未だに厳重注意だけで済んでいる。
「あんたからの注意を気にする必要はなくなる」
巡査部長は、常日頃から思っていた。
いつかこいつは、とんでもないやらかしをするのではないかと。
「始末書だって書く必要はなくなる」
どうやら、今がその時だったらしい。
この狂気的な事態を前にして。
「それこそ、ハリウッドの主人公みたいに」
この男は。
この村の警察官は。
「――――銃を撃ちまくれるんですよ」
本気で、イカレてしまったらしい。
まともな判断すら出来ないくらいに。
何かが、ぶっ壊れてしまったらしい。
この男はどうしようもなく馬鹿で、最悪だったのだ。
「そういう訳です、巡査部長」
こいつは、元々狂うだけの素質を持ってたのかもしれない。
それがこの事件で、解放されたのだろう。
きっと、そういうことだ―――巡査部長は悟った。
次第に、意識が朦朧としていく。
視界が霞んで、五感が乱れていく。
積み重ねてきた思考が、揺らいでいく。
体質故か、あるいは奇跡的にか。
何はともあれ、随分と耐え抜いていた。
だが、巡査部長は理解してしまった。
これから自分も“理性なき屍”になることを。
「今までお努め、ご苦労さまです」
少しずつ瞳の焦点を失い。
口から、涎を垂れ流していく。
そんな巡査部長に対して。
眼の前の警官は、敬礼をする。
そして薩摩は、右手で指鉄砲を作り。
巡査部長の脳天に突きつけて。
たった一発――――射撃。
それで全てが、片付いた。
後に遺されたのは。
眉間を撃ち抜かれた死体だけだった。
【C-5/交番/1日目・深夜】
【薩摩 圭介】
[状態]:高揚、箍が外れている
[道具]:拳銃(予備弾多数)
[方針]
基本.銃を撃つ。明日に向かって撃ち続ける。
1.放送施設へと向かう。邪魔者は射殺、気が向いた時にも射殺。協力者は保護。
2.放送によって全生存者に団結と合流を促し、村を包囲する特殊部隊に対する“異能を用いた徹底抗戦”を呼びかける。
3.包囲網の突破によって村外へとバイオハザードを拡大させ、最終的には「自己防衛のために銃を自由に撃てる世界」を生み出す。
[備考]
※交番に村の巡査部長の射殺死体が転がっています。
※薩摩の計画は穴だらけですが、当人は至って本気のようです。
放送施設が今も正常に機能するかも不明です。
投下終了です。
投下乙です
>性(SAGA)
リンちゃん明るいけど、常識の壊れた子供って感じで見ていて痛々しいですね
沢山の子供を調教する鬼畜に静かに暮らしたい連続殺人鬼、ヤクザのドラ息子がかわいく見える地獄、これVH関係なく普通に住んでたってマジ?
リンちゃんの能力で何となくまとまっているけど、吸血鬼には逆効果、悪い予感しかしない
>死せぬ者に迫る手
雪菜との遭遇、和雄との出会いと別れ、こんな出来事があったんだなぁ
斎藤さんはジャーナリストとしての打算的な思考で動きながら、託されたお土産を受け取ってしまうあたり妙な人間味がある
放送を聞き逃してしまったのはかなり手痛い、目指すべき病院はVHの発生源である、病院までたどり着けるのかよりもたどり着いて大丈夫なのかの方が心配である
修正も乙でした
>薩摩巡査長の異常な愛情(または、彼は如何にして)
秩序を守る警察官が一番やべー! そりゃ村の治安も悪化する
銃を撃てる世界を創るためなら国が崩壊してもいい、完全にテロリストの思考なんよ
ハイになってるからか良くも悪くも子供じみた純粋さがあるけど、何とかが無限に撃てる銃を持ってるのは危なすぎる
投下します
「あ〜〜〜〜〜〜〜私のトラックが!!!!!????」
大地震の直後だった。
長距離トラックでの移動の最中、休憩のためにこの山折村に偶々寄ったわけだが。
仮眠をして、起きた直後に彼女が小道でお花を摘んでいたら、大地震が起きた。
彼女――佐川クローネの目の前では大変なことが起こっていた。
乗っていたトラックが横転していた。
乗っていたトラックが横転していたのだ。
「いや、そうはならんやろ……」と思い、一度目を瞑り、深刻級をする。
そして、彼女が目を開けると「なっとるやるがい」と言わんばかりに彼女のトラックが横転していた。
これでは今後仕事にならない…………からではない。
彼女が転売用に取っておいたP〇5が全部おじゃんになったからだ。
まあ世間一般的に一言で言えば『カス』。そんな感じの理由であった。
「どうすんだよ、こんなクソ田舎で……」
なんだが知らないが、先ほどからスマホが繋がらない。
これではレッカー車どころか同業者すら呼べない。
一先ず、バス停が近くにある。
バスを待とうかと考えた……が、来るはずないだろう。
だって、バスの時刻表ではもうバスの時間は明日の朝までない。
そんな時であった。
彼女の耳にも放送が届いたのは。
◆ ◆ ◆
「バイオハザード…………48時間以内の女王感染者を殺さなければならない……なんだそりゃ。
特殊部隊が殲滅しにくる……ははは……冗談が過ぎるっての……ああ、最悪だ」
どこか他人ごとのように呟き、しょぼくれる。
だが、横転した自身のトラックを見て、我に返ろうとするがもう駄目だという気持ちの方が大きい。
最悪を通り越している程度には最悪だ、
時刻は0時をとっくに過ぎた。
やがて、自分もそのゾンビとやらになるんだろうな。
傍目から見る感じは正気を保てている。
しかし、そんなことは今の彼女にはどうだっていい。
一刻も早く、この村からでなければならない。
ならばすぐに南下するべきなんだろうが、出来ない。
何事もやる気がなければどうにもならない。
人間が生きていく上で『やる気』というものは重要である。
常に一定のモチベーションなければ作業のクオリティは下がる一方になる。
育成ゲームでもやる気を最大までするところから始めるっであろう(個人差アリ)。
(こんな場所の土地勘もないし……どうしたら……そうだ!)
横転したトラックの荷台の扉を開ける。
そして、クローネは内から扉を閉じる。
籠城というにはあまりにも考えがない。
これはただの現実逃避である。
(お願いだから、誰も来るなよ……せめて、ここに私が籠っている間は!)
ここにいる誰しもが皆強い者じゃない。
ここにいる誰だって弱さを持っている。
少しのタイミングや間のズレで誰しもが彼女のような行動を起こすのだ。
ただただ、今は自分の運の無さを呪うだけであった。
【G-5/バス停近く/1日目・深夜】
【佐川クローネ】
[状態]:精神不安
[道具]:なし
[方針]
基本.VHが終わるまでトラックの荷台に籠る
1.何も考えたくない
2.死にたくない
3.P〇5を転売したかった……
※まだ自分の異能に目覚めたことに気付いていません。
投下を終了します。
投下乙です
> 『「今が最悪」と言える間は、最悪ではない』
転売厨乙。P〇5の転売は許されざるよ
作戦と言うより臆病さからノ引きこもり、外はゾンビと異常者ばかりなのでしかたないけど、特殊部隊もいるしいつまで続けられるのか
それにしたって何故休憩目的でよりにもよってこの村に来たのか、世間的にどういう評判なんだろうこの村
投下します
「こりゃ、派手に倒れちゃってまあ」
黒木真珠は、バス停の前に横転しているトラックを見ながら感心したようにつぶやく。
バス停の前に倒れちゃって、こんな田舎じゃなけりゃ大ブーイングというものである。
「一応調べてみるかね」
真珠は、トラックの運転席をまず調べてみる。
誰も乗っていない。
横転により気絶、ということはないらしい。
次に、荷台を開けてみる。
すると、
「およ、まさかの当たり。こんなとこに人がいるとは」
荷台の奥には、一人の女性がいた。
こんな所にいるということは隠れてるつもりだったのだろうが、横転トラックなんていうバカみたいに目立つものに隠れて、バカじゃないのか。
「すぴー、すぴー…うーん、うーん」
「しかも寝てるし…危機感なさすぎだろ」
あるいは恐怖心から来る疲労による睡眠かもしれないが、どちらだろうとどうでもいい。
真珠はトラックの荷台で寝ている女性を蹴り上げた。
「いたっ…ちょっとなにす……ひええっ!」
佐川クローネは、起きた瞬間仰天する。
いつの間にか眠っていて、あっさり人に見つかった上に、そいつは…拳銃を構えている。
「おはようさん。安心しろ、質問に答えてくれたらちゃんと解放してやるから」
「し、質問に?」
「ああ、ただし…嘘ついたらどうなるか、分からねえけどなあ?」
ニヤリと凄みのある笑みを浮かべられて、クローネは委縮する。
そんな彼女に対し、真珠は1枚の写真を見せる。
そこに写っていたのは、黒髪のポニーテールの女性だった。
「この女に見覚えあるか?」
「え、ええと、見覚えあるような、ないような…」
「はっきりしねえ奴は嫌いだ」
「知らないです!知らないです!こんな人知らないです!」
脅しをかけられ、あっさりと白状するクローネ。
ここの村人なら、表向き観光客の彼女の顔くらいは見たことがあったかもしれないが、休憩の為に立ち寄っただけのクローネは、知るわけがなかった。
真珠は、写真を懐にしまう。
拳銃はまだ構えたままだ。
「え、ええと、質問に答えたら解放してくれるんですよね。その銃、下ろしてもらえると…」
「ああ、約束通りちゃんと解放してやるぜ」
真珠はニコッと笑い、そして。
パン
次の瞬間、クローネの額には穴が開いていた。
「解放してやるぜ…こんな地獄に巻き込まれる、クソみてえな人生からな!…あ、もう聞こえてねえか」
【佐川 クローネ 死亡】
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
「うん?」
真珠は、トラックの荷台から降り、辺りを見回す。
「…気のせいか?足音が聞こえたような気がしたが」
いや、多分気のせいではなかったのだろうが、逃げてこの辺りにはもういないのだろう。
どっちに逃げたのかも分からないので、追いようもない。
「知ってる奴、いるのかねえ」
そう呟くと真珠は、先ほどの写真を取り出す。
「ハヤブサⅢ…てめえがこの村にいるとはよぉ。面白れぇじゃねえか」
黒木真珠には、本来の任務とは別に優先すべき任務が与えられている。
本作戦の最大の障害になり得るエージェント…ハヤブサⅢの捜索、抹殺である。
ハヤブサⅢがこの村に侵入しているという情報を得た特殊部隊は、彼女と面識がある真珠に、この別任務を与えたのである。
作戦中はハヤブサⅢを見つけ殺すことを最優先とし、その為に必要とあれば正常感染者も生かし、利用するようにとの命令だ。
まあ、今の女は役に立ちそうになかったので殺したが。
「ゾンビ化なんてつまんねえオチはやめてくれよ?ハヤブサⅢ…あんたはあたしがこの手で殺してやるんだからよ」
【G-5/バス停近く/1日目・深夜】
【黒木 真珠】
[状態]:健康
[道具]:拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフ
[方針]
基本.ハヤブサⅢ(田中 花子)の捜索・抹殺を最優先として動く。
1.ハヤブサⅢのことを知っている正常感染者を探す。役に立たないようなら殺す。
「はあ、はあ、はあ……」
斉藤拓臣は走っていた。
目を覚まし歩いていると、横転しているトラックを見つけて。
調べてみようと近づくと、拳銃の音が聞こえてきた。
やべえと思いトラックから離れて逃げ出し、今に至るというわけだ。
「見つかるなよ、見つかるなよ…!」
逃げるのに夢中の拓臣は気づかない。
敵から見つかりたくないという思いにより、無意識に異能を発動していることを。
自分の身体が、わずかに透明に消えていることを。
【G-6/1日目・深夜】
【斉藤拓臣】
[状態]:疲労(大)、恐怖、透明化(精度は低い)
[道具]:デジタルカメラ、ICレコーダー、メモ、筆記用具、スマートフォン、現金、一色洋子へのお土産(九条和雄の手紙付き)、その他雑貨
[方針]
基本.山折村を取材する。
1.今はとにかく逃げる。
2.医院に行き、一色洋子に会う。
※放送を聞き逃しました
※VH発生前に哀野雪菜と面識を得ました。
※異能を無意識に発動しましたが、気づいていません
投下終了です
投下乙です
>そして訪れる最悪
遂に正常感染者からの初の犠牲者が出てしまったか……
この特殊部隊容赦せん! 引きこもりから瓦解するのがあまりにも速すぎる、斉藤さん巻き込まれなくてよかったね
そして特殊任務で狙われる花子、因縁もありそうな二人の対決が期待できるのか
投下します
この作品は性的表現が多分に含まれています。
過激な性的描写が苦手な方には不快となる内容なのでご注意ください。
名詮自性。
名実そのものの性質を表すという意味の仏教用語である。
これはその意味が示す通りに成長した一人の愚か者の軌跡。
◆
「ぶひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「……ざぁ……こ……ざぁ……こ……」
暗闇の中、破壊されたパソコンや倒れた家具が散乱する一室。
その中央で少女に覆いかぶさった、人とは思えぬ悍ましい顔の男が豚のような嬌声をあげて絶頂し、身震いする。
短い間腹の肉を揺らした後、今度は小柄な体を持ち上げ、再び上下運動を再開する。
現在、男のなすがままになっている少女は生身の人間でも、そのような用途で使用される人形でもない。
ウイルスに適合できず、哀れ両親と同じようにゾンビになってしまった人好家の一人娘、人好心美。
その哀れな少女を玩具のように弄ぶ男の名はこの部屋の主、気喪杉禿夫。39歳無職の子供部屋おじさんであり、正常感染者。
震災の後、先程までプレイしていたエロゲーが強制終了してしまった事に激怒した禿夫は怒りの赴くまま、破壊の限りを尽くした。
そして、女王感染者を殺せばエロゲーが再開できると知った彼は怒りの矛先を変え、金属バットを持って家を飛び出した。
隣家に侵入し、二体のゾンビをミンチに変えた禿夫は、二階へ上がり、黒髪ツインテールの少女ゾンビ――人好心美を発見する。
白目を向いているが如何にも生意気そうなメスガキゾンビであったため、分からせる必要があると感じ、自宅に連れ帰った。
「ぶごぉ!ぶごぉ!ぷぎぃ!」
「まえ……がみ……すか……すか……」
再び醜い喘ぎ声を上げながら、行為に没頭する禿夫。
彼は終始気づくことはないが、他の正常感染者と同じように異能が発動している。
それは『身体強化』。感情により身体能力を強化する能力であり、強い感情を持てばトラックを横転させることすら可能になる。
そんな彼が極度の興奮状態のまま、行為に没頭するとどうなるか。
「ぷぎぃ!イグッ!まだイ゛グッ!」
「はぁ……げ……はぁ……」
何度目かの絶頂を迎える寸前、少女ゾンビの下半身が砕け、仮初の生命活動を終えた。
彼女の最大の不幸は最悪の男に純潔を散らされたこと。最大の幸運は愛する両親のもとへと逝けたことだろう。
【人好 心美(ゾンビ) 死亡】
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛!!ふざけるなああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
当然、堪忍袋の緒がミリ単位程もないこの男は納得できるはずがない。
怒りに任せて心美の頭を何度も踏みつける。そのたびに砕けた頭蓋や血液、脳漿が飛び散り、部屋をグロテスクに染める。
しばらくしてふぅふぅと息を吐き、心を落ち着けると、部屋の惨状を目の当たりにし、溜息をついて独り言ちる。
「……今度からはもっと優しくしてあげないと、女の子は壊れちゃうんだな……」
◆
気喪杉禿夫。
彼は親の愛を一身に受け、何一つ不自由することなく現在まで成長してきた男である。
彼は女児を拉致監禁し、強制性交等致傷罪に相当する犯罪を二度起こしたが、親のコネにより今まで司法によって裁かれずにいた。
しかし、二度目ともなると流石に父親も怒り、世間からの隔離という形で閉鎖的であった山折村へと押し込まれた。
流石にこの仕打ちを受ければいくら自己中心を擬人化したような禿夫でも反省するかに思われたが、そうはいかなかった。
両親を逆恨みしただけにとどまらず、女性へのストーキングや下着泥棒など数々の問題行動を繰り返し、役場や警察からの厳重注意を受けた。
その結果、禿夫の前科が露呈し、現在では山折村屈指の問題人物となった。
◆
「あああ……さっきのは中途半端で終わっちゃったから……収まらないんだな……」
ミネラルウォーターで洗い直した禿夫の剛直は未だ刺激を求めて滾りきっている。
禿夫の感情的にもやり残した感覚があり、するにしても何かオカズが欲しいところだった。
「そうだ。あれがあったんだな」
ゴミが散らばった部屋の一角を漁り、あるものを取り出す。それは水色の縞々模様の女性もののパンツ。
そのクロッチ部分に愛おしげに悍ましい口づけをする。
「ああ……アニカママのお口にマウストゥーマウス♡」
時は昼頃まで遡る。
珍しく外出して昼食を取ろうと商店街にタクシーで向かい、ハンバーガー店に入った時だった。
ふと視線を見やるとそこにはSNSやテレビでしか見たことのない天才美少女探偵――天宝寺アニカが一人で食事を取っていた。
禿夫の視線に気づくことなく、食事を終えたアニカは旅行カバンを置き忘れ、退店していった。
当然、禿夫がそれを見逃すことなく、彼女の旅行カバンを手に取り、食事もとらずに退店した。
それをアニカに届ける……なんてことはなく、狭い路地裏にてカバンを漁り、パンツを一枚拝借して短パンのポケットに入れた。
そして、彼女が尋ねるであろう役場へとタクシーで先回りし、入り口前でアニカと再会し、カバンを手渡しする。
『あ、ありがとうございます』
『ああアニカタン……だよね?おお俺と握手してくれると……』
『すいません用事があるので失礼しますさようなら』
限界まで引き攣った笑顔のまま、足早に役場の中へと去っていった。
間近で見た天宝寺アニカはまるで精巧な人形のように美しく、愛らしかった。
テレビや雑誌で見たときは可愛いだけの生意気な三次のメスガキとしか感じていなかったが、実物を見て一瞬でファンになった。
口癖である英単語を言葉の節々に挟まなかったのはきっと照れているからだろう。禿夫はそう結論付けた。
「……アニカママだけじゃ、ちょっと物足りないんだな。そうだ!」
再び部屋を漁って取り出したものはブラジャーとスパッツ。
禿夫の家から少し離れたところにある一軒家に住まう一家の姉妹――日野光のブラジャーと日野珠のスパッツだった。
つい一昨日、日野一家の不在を狙って盗んだものだった。
二人とも健康的とても可愛らしく、よく夢の中で自宅に監禁して自分の思うように弄んで楽しんでいたものだ。
だが、現実では山折圭介とかいう村長の息子というだけで二人を独占して姉妹ハーレムを楽しんでいる男がいて、もどかしい思いをしている。
無論、これは禿夫の主観であり、実際はそうではないのだが。
「アニカママとキッスをして、光ママのさくらんぼと珠っちのお口で挟んで……ぶっひーーーーーーーー!!!」
◆
「あ゛ーーーーー……そういえば今日か明日、役場の禿が誰か送るって、言ってたんだな……」
興奮もだいぶ収まり、居間のソファーで寝そべった禿夫が厳しい口調で何か言っていたことを思い出す。
辛うじて思い出せたことは誰かを禿夫の家へ送り、厳重注意するということだけだった。
今日か明日と言っていたが、時間的にはもう遅いし、明日だろう。
全く国家権力とは度し難い。自由に暮らしているだけなのに何が悪いのか。いっそのことあの禿共や山折のクソガキを―――。
「そそそうだ!!いいことを思いついたんだな!!」
せっかくVHが起こっているのだ。これを機にゾンビ化した役場の禿共や山折圭介を殺してヒーローになろう。
山折圭介や役場の人間に騙されていた日野姉妹をはじめとした女の子達、ゾンビに襲われているアニカを助け出してハーレムを作るのだ。
そうすれば、もう誰も自分を止められない。ハーレム王に、俺はなるんだな!
「ブモオオオオオオオオオ!!」
牛とも豚ともつかぬ雄叫びを上げて階段を駆け上がり、自室へと滑り込む。
頭には小型懐中電灯を二本括り付けた鉢巻。背中にはパンツ、ブラジャー、スパッツの三種の神器が入っているリュックサック。
左手には金属バット。そして、左手には―――
「ひひ必殺武器……!ショットガン!!なんだな!!」
人好邸の茂みに隠れていたショットガン――ブローニング・オート。そしてすぐそばにあった多数の予備弾をリュックサックに詰めた。
気分は邪悪で醜悪な男共からか弱い女性(美少女限定)を助け出すヒーローだ。
「とととりあえずここら一帯にいるはずの光ママと珠っちを助け出して、それからアニカママを助けるんだな。その後はぶひひひ……」
顔を醜く歪め、今後のことを妄想する。闘志と共に茶色の短パンが一層盛り上がりを見せる。
「まま待っているんだな!白馬の王子様が皆をたすけるんだな!ブモオオオオオオオオオ!!!」
雄叫びを上げ、凄まじいパワーと速さで玄関のドアを、ブロック塀を破壊し、禿夫は突き進む。
目指す未来が桃色だと信じて。
【B-3/気喪杉邸/1日目・深夜】
【気喪杉 禿夫】
[状態]:健康、興奮
[道具]:金属バット、懐中電灯付き鉢巻、天宝寺アニカのパンツ、日野光のブラジャー、日野珠のスパッツ、ブローニング・オート5(5/5)、予備弾多数、リュックサック
[方針]
基本.男ゾンビやキモ男を皆殺しにしてハーレムを作るんだな
1.ロリっ娘、巨乳JK、貧乳元気っ娘みたいにバランス良く属性を揃えたいんだな
2.まずは美少女JCJK姉妹(日野姉妹)を探して保護するんだな
3.次は村に滞在してるアニカママを保護して×××するんだな
4.ゾンビっ娘の×××はひんやりして気持ち良かったんだな
投下終了です。
不快になるような表現がNGでしたら、破棄していただいても問題ありません。
すみません、以下の場所を修正します。
>興奮もだいぶ収まり、居間のソファーで寝そべった禿夫が厳しい口調で何か言っていたことを思い出す。
>興奮もだいぶ収まり、居間のソファーで寝そべった禿夫は、夕方に電話で役場の職員が厳しい口調で何か言っていたことを思い出す。
投下を開始します。
「ヴーーーーッ、ヴニャーーーーーッ、ゾンニ゛ャ゛ーーーッ」
ゾンビと化した猫が、ノロノロ、フラフラと、歩み寄ってきていた。
自転車を引く少女の、はちきれそうなレギンスで覆われたふくらはぎに牙を突き立てようとしていた。
猫ゾンビの頭に、コツンと鉄パイプの先端が乗り、バチバチ火花が走ると、
そいつはビクビクとケイレンして転がり、動かなくなった。
死んじゃったんですか? と自転車の後ろをついてきていた小柄な少女がたずねた。
大丈夫、と自転車の少女は答え、たぶん、と付け足した。
そして、しびれて動けない猫をガレキの陰、なるべく人目につかない、安全そうなところにそっと横たえた。
ごめんね、と二人で声を合わせて。
「……ただいま」
答えてくれる住人はもういない、と頭で判っていても、染み付いた習慣はそうそう抜けるものではない。
烏宿ひなたは字蔵恵子を連れ、高級住宅街の一角に建つ自宅へと戻っていた。
「あいかわらず、ひっどい状況だなぁ……」
──といっても、地震の後に必死で帰ってきたときの道すがらを思い出す限りでは、この一帯の被害は露骨に少ない。
高級住宅街が"高級"たるゆえんだ。しかし、烏宿邸は運がなかった。
高級といえど、烏宿邸の裏に建っていた隣家の、古い土蔵造りの蔵まで現代の耐震基準を満足している訳もなく。
倒れ込んできた蔵の瓦礫が烏宿邸の2階、ひなたの部屋を直撃して、立派なツノの生えた鹿の頭の剥製や、
時に法を(無自覚に)犯してまで手に入れた草花や昆虫の標本を、ほとんどダメにしてしまっていた。
そして瓦礫の直撃を受けたひなたの部屋から、雪崩をうつようにして階段を通じて玄関までが崩壊。
ひなたの母親──烏宿そらは、家から脱出するのが安全だと判断して──
その判断がアダとなり、玄関で倒れてきた下駄箱の下敷きとなっていた。
烏宿ひなたはその母親の姿を目にして悲嘆に暮れ、それでも、と決意を新たにしていたところで、
字蔵邸から発せられた"雷撃"を目撃。その正体を確かめるため、烏宿邸を後にしたのだった。
そんな彼女がなぜ自宅に戻ってきていたかといえば──。
『『ぐうううううう〜〜〜っ』』
空腹だったのだ。字蔵邸で"救出"してきた、字蔵恵子ともども。
烏宿ひなたは震災直前まで山中で猟を手伝っていた。昼から、何も食べていない。
母には"ちょっと帰りが遅くなるけど、晩ごはん楽しみにしてるね"などと呑気に連絡を入れていた。
字蔵恵子に至っては常々空腹だった。むしろお腹を鳴らしても誰にも殴られない現状は近年で最も幸福でさえある。
そして字蔵邸にはアルコールを除く食料がロクになかった。
大小ふたつの胃袋をコーラスさせた少女はようやくいったふうに烏宿邸の敷地へと足を踏み入れた。
敷地は生け垣で囲われていて、それなりに広い庭があり、片隅には小さなビニールハウスが建っている。
いや、建っていた。震度7の直撃を受けてお陀仏だ。ハウスの中のアカマツのプランターも全滅だ。マツタケの栽培実験が。
だがそれも、今となってはささいなこと。
玄関で、烏宿ひなたの母が下駄箱の下敷きになっている。
非常時といっても、このままにしておくのはあまりに忍びない。
「恵子ちゃん……ちょっと、この辺で待ってて」
ひなたは自転車を恵子に預け、崩れ落ちた玄関へと向かった。
そして母の亡骸を移すべく、まずは下駄箱に手を掛け、力を込め──。
(あれっ、意外と下駄箱って軽いなぁ)
と拍子抜けしつつ、元通りに立て直したところで──。
がりりっ。
左の肩口に、冷たく、鋭い痛みを感じた。
「お母さん!」
それは、烏宿ひなたの母親・烏宿そらがウイルスに冒され、変わり果ててしまった者の牙だった。
「……お母さん! 生きてた(?)んだ! ……お母さん!」
それは一見すれば、死別したかに思われた親子が感動の再開を果たし、感極まって抱擁するシーンに違いなかった。
一見すれば。溢れ出る感情、そして溢れ出る──
「お母さん! 生きてたんじゃないかこのヤロウ、私には心配掛けるな心配掛けるないつもいつも言いながら。私にはメガトン級心配かけて、死んだと思って決意を新たにしちゃったじゃないかこのおばか。玄関先で冷たくなった手だけ見せてピクリとも動かないとか不動の死亡描写なんだよなんで最初来たとき一言も応えてくれなかったんだようーでもあーでもいいから何か言ってほしかったよこのおばか、私のトリ頭はぜったいあんたの遺伝だからなこのばかばかばかばかばかばかばかばか」
溢れ出る罵声、そして溢れ出る──
「ひなたさん! 血、出てます! めちゃくちゃ出てますよ!!」
溢れ出る血液。
たまらず恵子が自転車を打ち捨て、ひなたの元に駆け寄る。
恵子の右の五指の間では、"雷撃"のエネルギーが電弧となってバチバチと飛び交っている。
──が、烏丸ひなたは左の手のひらをかざし、制止するような手振りを見せた。やめろってこと──?
恵子がその意味を図りかね、戸惑っている、数秒の間だった。
ひなたの長い髪が淡く光を放った。
すると烏宿そらの肉体がケイレンするようにビクつき、動きを止めた。
そのままひなたの肩からヨダレと血を垂らしながら口を離した烏宿そらのゾンビは、力なく頭たれて、座り込むように動きを止めた。
烏宿ひなたの母親・烏宿そらは、大地震に遭って崩壊しそうな家から脱出しようとしたところ、
玄関で倒れてきた下駄箱の下敷きになり、気絶。
気を失ったままウイルスに感染し、ゾンビと化していたようだ。
ひなたが地震の後に母の手に触れたとき体温を失っていたのも、ゾンビ化の影響によるものだったらしい。
──というのが、拘束した烏宿そらのゾンビから得られた情報だ。外傷は、手足の多少の擦り傷のほかは、
額にできていたコブだけで、一見して致命傷となるようなケガはしていない。
つまり、烏宿ひなたの母は、生きている、いや、生き返るのだ。──女王感染者の影響さえ取り除けば。
「よかったですね、ひなたさん」
「素直にそう言えるキミはすごいね、恵子ちゃん」
親について良い思い出なんて一つもないはずなのに、恵子ちゃんは聖人なのだろうかと、ひなたは思う。
ちなみにひなたの母親はといえば、被災を逃れていた浴室のバスタブの中に拘束して閉じ込めている。
タオルで手足を縛っただけの、正気に戻れば自力で簡単に解けるレベルのものだ。
事情を書いたメモも書き置きしておいた。
「──さあ、お母さんのことはこれで良いとして、ご飯食べよーご飯」
「その前に、ケガを手当てした方が──」
◇ ◇
ブーーーーーーーーンと、電子レンジが低い音を立て、窓の中の料理を照らしている。
烏宿邸、庭先のテーブルの上、作り置きの料理のタッパーや冷凍食品が山と積まれたその中心で、
定格出力1000ワットの電子レンジがフル稼働していた。
山折村全域を襲った震度7の地震は送電網も破壊し尽くし、当然、烏宿邸への送電も停止している。
ならば電子レンジの電源は何か、それは当然、烏宿ひなた、の、鼻の穴である。
ひなたの左肩の歯型に消毒液を塗り込む恵子は、"百年の恋が冷めていく感覚"を身を以て味わっていた──。
(な……なんでこの人、わざわざ鼻の穴をコンセント代わりにしてるの……!?)
「一番形が近かったから、なんとなく」
と、口に出してもいない疑問に親切に(鼻声で)答えてくれた。
私を暗闇から連れ出してくれたヒーロー。優しくて、背が高くて、お顔もキレイで──でもちょっと間の抜けた──。
いや待ってくださいこの絵は間抜けさがちょっと強すぎる。
豊かな胸も災いして、まるで鼻輪で繋がれた牛だ。
心の中に描いていたヒーローの黄金像が、牛柄ビキニ鼻輪付きひなたさんのショルダータックルで粉々だ。
ピーッ、ピーッ。
ひなたの背後でガックリする恵子を慰めるかのように、電子レンジさんがアラームを鳴らした。
扉を開けば、出汁の効いたいい香りが漂ってくる。
二つ並んだタッパーのフタを開けば、キノコと鶏肉と根菜がたっぷり入ったスープの湯気が立ち上ってきた。
二つの胃袋が、待ちかねたようにデュエットを奏でた。
「「いただきます」」
と同時に手を合わせた二人は、一心不乱に食事にがっついた。
二人とも、それほどまでに空腹だったのだ。
テーブルの中心の電子レンジ様は、まだまだ次なるお代わりを用意してくれている。
恵子は血が巡りだすのを感じていた。自分の体が長い間冷え切っていたことを、今、ようやく自覚した。
なぜだか涙が溢れ出していた。
こんなに暖かくて美味しい食事も、同じものを美味しそうに食べている人と安心して囲う温かい食卓も、
もう記憶になかったからかもしれなかった。
「ひなたさん……私、こんなに幸せでいいのかな……」
恵子のぽつりと漏らした言葉に、ひなたは答えない。目の前の食事に夢中らしかった。
ちなみに電源ケーブルはひなたの鼻の穴ではなく、彼女の服の中、胸の谷間に向かって延びている。
鼻からケーブルが延びていたら食事の邪魔になるからだろう。最初に気づいてほしかった。
こうして30分もせずに冷凍庫の中身はすべて平らげられた。
恵子は自分でも信じられない量を食べた気がしていたが、ひなたはその倍くらいを食べていたように見えた。
「次は冷蔵庫も片付けようか」
まだ食べるんですか、とドン引いた恵子の表情を気取ったかのように、
「電気出すとお腹減らない?」
とひなたが言った。
「たぶん、能力の代償ってやつじゃないかなあ?」
「だったら、今度は私がやってみます」
恵子が電子レンジ大明神の電源プラグを握り、力を込めた。
あっ──とひなたが止めに入ったが、手遅れだった。
バチン、となにかが弾ける音がして電子レンジは煙を吐き、箱型の鉄くずと化した。
電子レンジを鉄くずに変えてしまったことに気づいた恵子の反応は素早かった。
久方ぶりの温かい食事で血色の良かった恵子の顔は、信号機が切り替わるように青ざめ、
0.5秒に満たない時間、ほとんど頭突きに近い勢いで地面にひれ伏した。
「な……なんなの?」
「ごめんなさいッッッッ!!」
尋常ではない悲愴さのこもった謝罪だった。
いっそここでバッサリ首を落としてくれと言わんばかりだった。
終わってしまったと、終わらせてくださいと、恵子はそこで願っていた。
父・誠司に植え付けられた、ほとんど脊髄反射に近い行動と思考だった。
「恵子ちゃん、顔上げて」
「は、はいっ……」
ああ、彼女は顔を殴るタイプか、と、恵子は反射的に思った。
ひなたさんがそんな事するはずないと、頭では判っているはずなのに。
ひなたの手が顔に差し伸べられると、恵子はきつく目をつむって備えた。
しかしその備えは幸いにして功を奏することはなく、ただ顎の下に優しく添えられるのみだった。
「ほら、立って」
導かれるままに立ち上がると、恵子の顔はひなたのその豊かな胸に優しく抱きかかえられたのだった。
「私の役に立ちたくてやったことなんでしょ? だったら、電子レンジくらいで怒らないよ。
ついさっき身につけた能力なんだし、コントロールできなくて仕方ないない」
「もごもごもごももごもっごご(……ごめんなさい。ひなたさんは優しい人なのに、こんなことしてしまって)」
「私は優しくないよ?」
「もごご(えっ)」
「私は、そんなに特別優しい人じゃないと思うよ。
……世間一般の人だったら、この非常時に善意からの行動でその辺にある家電一個こわしちゃったところで、
殴ったり、蹴ったりするほど怒ることはないんじゃないかな?
電源があるかもわからない状況で頑張ってみた結果なら、『ごめんね』で済む話じゃないかなぁ?
そりゃあ、後で弁償はしてほしい、くらいは思うかもしれないけど?」
「ぷはっ……そう……なんですか?」
「そうだと思うよ? 私が常識について語っても、信憑性はないだろうけれどね☆」
「確かに、そうですね」
「そこは素直なんだ」
「鼻の穴をコンセントにする人が言いますか」
恵子そこでようやく、自分が笑っていることに気づいた。
笑顔の表情筋を何年も使ってこなかったために、顔が引きつりそうだった。
「……と、ここで本題なんだけどね」
「何の本題ですか」
「私たちが図らずして手に入れてしまったチカラのこと」
「電気を出す能力について、ですか」
「似ているようで、実は全然違うんじゃないかなーって」
「恵子ちゃんの電気は瞬間的な力はすごいけど、長続きはしないでしょ?
生き物でいうと、デンキウナギかな? ほんの一瞬だけどすごい電流を流して、獲物の小魚を気絶させちゃうんだ。
電子部品だと、コンデンサーやキャパシタって部品に近い特性かな?
まさしく"雷撃"!!って感じの能力だよね」
「じゃあ、ひなたさんは?」
「私の力は、瞬間的な力は出ないけど、加減がしやすくて長持ちするっぽいんだよね。
生き物でいうと、強いて言えば、デンキナマズに近いのかな?
体の周りに持続する電場を作って、周囲を探るんだって。私はできないけど。
例えるならやっぱり発電機かな。体の中に"発電器官"ができた感じの能力」
恵子の頭の周りで、クエスチョンマークがいくつも飛び回っていた。
「……それで?」
「私たちの身体、どうなっちゃったんだろうなーって。
何とかして異能ってものに目覚めた人たちの身体を調べてみたら、女王感染者がだれか判って、
その人の命を奪わなくても、みんな助けられる方法が見つからないかな、思ったの」
「……おお! ひなたさんって、意外と頭いいんですね! 意外と!」
「具体的には、やっぱり異能に目覚めた後に変化が出た部位を調べるのが良さそうなんじゃないかなぁ。
私の場合は、髪の毛かな? 電気出してる時は、何やら光ってるみたいだし」
「希望が出てきましたね!」
やっぱり彼女はヒーローなのかも知れない。
第一印象とはずいぶん違ったイメージだったけれど、と、恵子は思った。
「……うん」
だから、ひなたさんの返事をしたときの表情がすこし曇っていたように見えたのは、ひとまず気にしないことにした。
◇ ◇
お腹を満たした二人は、烏宿邸のリビングでお互いの傷の手当てをして、
ボディシートで汗を拭い、着替えを見繕っていた。
ひなたの服装は地震前とそれほど変わっていない。
長袖のTシャツにフロントファスナーのフリース、ハーフパンツの下にはくるぶし丈の通気性の良いレギンスを穿いている。
肌を覆いつつ、気温に応じて脱ぎ着しやすい、山歩きに向いた格好だ。
汗をかいた上に次に着替える機会がいつかも判らないので、下着含め全身を着替えていた。
恵子はというと、通学を禁じられてからも着たきりだった夏服の制服で、
着の身着のまま家を飛び出してきた格好だった。
6月といえど、盆地である山折村の夜はそこそこ冷える。明け方の最低気温が10度前後となる日も珍しくない。
今までも少しだけ、肌寒さを感じていた。
そこでひなたがクローゼットの奥の衣装箱を引っ張り出し、お下がりを見繕ってくれるのだという。
「うんうん、ぴったりぴったり」
烏宿ひなたは女性としてはかなりの長身だ。身長は180cmをゆうに超えている。
比べると字蔵恵子は16歳としては小柄な方だ。最近計る機会はなかったが。だいたい150cm前後だろう。
小さい頃の服なら合うかも、ということで試していった結果、サイズの合う服が見つかったのだった。
もちろん、これから動き回らなければならないことを考えた山歩き用のファッションである。
恵子にとっては、脚に刻まれたタバコの火傷や青あざを覆い隠してくれるレギンスが嬉しかった。
「いつ頃の服なんですか」
「うーん、その色は確か……小5くらい? 小4だったかな?」
「……ということは、それくらいの頃から山登りしていたんですか」
「そうそう、4年生の頃、村の南西にすごい高い山あるでしょ。そこに登ったの」
えっ、あそこに? と恵子がとっさに声に出すくらいには、その山は高い。
今年は5月終わりまでてっぺんに雪が残ってたっけなぁ、とひなたがあっけらかんとして言う。
「で、初めてだからろくな装備も持たずに夕飯までに帰る気で軽い気持ちで飛び出して、
結局丸一日掛けて山頂まで行って帰ってきてね、ものっすっっごい怒られたのさあ、
お母さんに、担任の先生に、それから警察官のおじさんとか、いろんな人にね」
「よく生きていましたね?!」
「でも、その時の景色が忘れられなくてさ。私が立っていたてっぺんから下は、一面が真っ白な雲で海みたいに覆われていて、
雲の海からは、金色の太陽の光が登ってくるの。山道には、見たこともない草花が咲いていて、
それでねそれでね、学校で流行ってた"異世界"ものなんかじゃない、本物の"異世界"が、こんな近くにあったんだなって」
それ以来、ひなたはこの地の自然の魅力に取り憑かれ、
山の動植物の採集・観察にのめり込むようになったのだという。
「それでね、この辺りにはヒグマの個体群が生息してるって噂があるの。
いいえ、噂じゃない。"群"じゃなくても、少なくとも1個体は、確実に存在するって」
恵子の頭に再びクエスチョンマークが浮かんだ。
「これって凄いことなんだよ?! ヒグマってさ、現在つまり完新世では北海道にしか生息してなくて、本州に生息してたのは後期更新世、日本が氷河期だった頃だったんだよ。本州からは化石しか出てこないの。それなのに、この村の周辺の山で、ヒグマの足跡が見つかったって猟友会の人が言っててね、ああ何でツキノワグマとの区別がつくかというと、足跡の大きさが15センチくらいあって、ツキノワグマがこのサイズの足跡をつけるのはありえないの。何年も前にヒグマの眼を撃ったって凄腕の猟師さんの噂もあったけど、本当だったんだなって。でね、でね、この山折ヒグマ個体群がもし実在したとして、それが現在の北海道からブラキストン線を越えてはるばる本州に渡ってきたのか、氷河期から山折周辺の高山地帯の気候に適応して代々命を繋いできたのか、もし、後者だったら生物学的には別種となっている可能性もあるわけで……」
「ひなたさん、抑えて、抑えて」
「ああ。ごめんね、ちょっと話がヒートアップしちゃってた。
……そうだね。もう、行かないと」
◇ ◇
「恵子ちゃん、後ろに乗って」
ひなたのまたがる90ccのスーパーカブがエンジンを吹かせている。
烏宿亭のガレージから引っ張り出してきたものだ。
元々は母が、山折村を出歩くのに自動車を使うのは大げさすぎる、ということで買ったものだったが、
ひなたが高校に進学して、免許を取得してからは時々使わせてもらっている。
今ではひなたが乗る方が多い。今日はたまたま、母がカブを使ったから自転車だったけれど。
恵子がリュック越しにひなたの腰に手を回し、大きな荷台にまたがった。
「……ねえ、恵子ちゃん」
「何ですか?」
「キミは幸せになって、良いんだよ。……美味しいものを食べて、キレイなものを見て、知りたいことを学んで。
だから、生き残ろう。みんなで!」
「……はいっ!」
恵子はひなたの腰を固く抱きしめた。間に挟まるリュックサックがもどかしかった。
◇ ◇
夜闇の高級住宅街を、一筋のフロントライトが照らしていた。
かすかな希望を胸に抱いた、二人の少女を乗せたバイクの明かりだ。
しかしてハンドルを取る烏宿ひなたの胸中は、少し複雑なものがあった。
(私、この状況に少しワクワクしているかもしれない。
大地震に遭って、ゾンビになるか異能を得るか、のウイルスを勝手にばら撒かれて。
その後始末で、あと丸2日で村ごと消されるかも知れないって状況なのに)
(超常の異能がいきなり身についた私たちの身体がどう造り変えられたのか、
女王感染者が倒れるとゾンビたちが正気に戻るという、その仕組みはどうなっているのか。
……興味が尽きないんだ)
(私の異能ひとつをとっても、食べた量より発生したエネルギーの方が明らかに大きいんだよ。
適応できなければゾンビになる……っていう、リスクさえ取り除けば、
人類の立つ地平さえ変えてしまう……未来を切り開いてしまうかもしれない力なんだ)
(だから、女王感染者のことを調べたい以前に、私はただ"知りたい"んだ。
……きっと、お父さんに似たんだろうね。お盆にお正月も東京の研究所にこもりきりで、
生活費以外のお給料は全部こっちに寄越して、趣味もロクに持っていないような研究一筋のお父さんに)
【C-4とD-4境界部/高級住宅街/一日目・深夜】
【烏宿ひなた】
[状態]:感電による全身の熱傷(軽度・全身・手当て済)、肩の咬み傷(手当て済)
[道具]:スーパーカブ90cc(運転中)、夏の山歩きの服装、リュックサック(野外活動用の物資)
[方針]
基本.出来れば、女王感染者も殺さずに救う道を選びたい。異能者の身体を調べれば……。
1.最寄りの避難所(B-2 公民館)か、漁師小屋(B-6)に向かう。(次の書き手さんに任せます)
2.生きている人を探す。出来れば先生やししょーとも合流したい。
3.VHという状況にワクワクしている自覚があるが、表には出せない。
4.……お母さん、待っててね。
【字蔵恵子】
[状態]:健康、下半身の傷を手当て済、今までになく満腹
[道具]:スーパーカブ90cc(二ケツ中)、夏の山歩きの服装
[方針]
基本.生きて、幸せになる。
1.ひなたさんについていく。
◇ ◇
バイクで烏宿邸を立つ二人を見送る、獣の影があった。
テールランプを反射した、赤いタペタムの輝きは、一つ。
その獣は隻眼であったが、元々この種は視覚をあまりアテにしない。
優れた聴覚と嗅覚を頼りに生きている動物である。
(若いメス2体が、ここを去ったようだな)
(メスの大きな方……"ヒナタサン"があの"臭い"を残していた。
我の右眼を奪った武器……今なら分かる、"銃"が火を吹いたときの臭いだ)
(このまま追いついて襲い、殺すのは容易い……が、小さい方のメス、"ケイコチャン"は指から雷を落とす。
アレを受けれは、我とて無傷とはいくまい。……傷を受けた状態で"奴"と戦うのはまずい)
(ここにいる人間ども、ほとんどが呆けたようにフラついているが、
正気を保った者は油断ならぬ力を身につけている、ということだろうな)
("奴"……あの"山暮らしのメス"も含めて、だ。
爪も牙も持たず、ただ力で我を叩き伏せた、人間らしからぬ膂力の持ち主。元々、我はあのメスの臭いを追っていた。
……だがどうしたことか、奴の臭いはこの"ヤマオリ"という人間のすみかの、南の木立で途絶えていた。
残っていたのは別のメスの臭いだ。奴も何らかの"力"を身につけたと考えて間違いあるまい)
(あの"山暮らしのメス"と入れ違いになった"メス"の臭いを追うか?
それとも"銃"の臭いを残す"ヒナタサン"を追うか?
"ヒナタサン"の方は、あの乗り物が吐く臭いもあって追いやすいが……)
(いずれにせよ、腹が減った)
辺りには、呆けたようにフラつく人間がよりどりみどりだ。
(……だが、ここで襲って人間を喰い散らかすのは、良くないな。
人間ども、特に"銃"で獣を狩る連中は、足跡一つ、爪痕一つからでも痕跡を辿り、我を追いかけてくる。
既にこの"ヤマオリ"に踏み入れた以上、足跡を追われることは避けられぬが……派手な痕跡は避けるべきか)
(となると、既にこの"イエ"という巣穴に隠れている連中を喰らう方が安全だが……)
探すのは少々手間だ、と考えようとしたところで、その羆は閃く。
(……あの若いメス達が、1体"イエ"に隠していたな)
◇ ◇
「イタ、ダキ、マス」
後に独眼熊と称される、本州で初めて発見されたヒグマの野生個体が捕食したのは、
山折村在住の女性、烏宿そらであった。
VH事件の影で発生した、日本史上初の、本州で発生した羆害事件である。
【D-4/高級住宅街 烏宿邸/一日目・深夜】
【独眼熊】
[状態]:健康、知能上昇中、ちょっと喋り方を覚えた
[道具]:なし
[方針]
基本."山暮らしのメス"(クマカイ)を殺す。猟師どもも殺す。
1."山暮らしのメス"(クマカイ)と入れ違いになったメスか、"ヒナタサン"(烏宿ひなた)を臭いで追う。
(どちらかは、後続の書き手さんに任せます)
2.人間、とくに猟師たちに気取られぬよう、痕跡をなるべく残さずに動く。
※D-4 高級住宅街 烏宿邸の浴室に羆に食い荒らされた烏宿ひなたの母の死体が放置されています。
※【注意】人肉の味を覚えました!!【警告】
投下を終了します。
投下乙です
>禁色モザイク
キモスギくんキモスギぃ! 性被害が多い、もうヤダこの村
メスガキちゃんががわからされてしまった、ってそこまで行くとわからせってレベルじゃねぇぞ!
アニカも日野姉妹もえらいのに目をつけられてしまったな。銃まで手に入れて手が付けられないぞ
>「いただきます」
中々ほっこりできるやりとりで絆を深めていく少女二人いいですねぇ
烏宿さんって生き物の子と話す時早口になるよな、知識もあるし知的好奇心から考察にも期待ができる
そして死んだと思ったお母さんが生きてたと思ったら死んだ!熊って怖い、血の味を覚えた熊に人間並みの知力があるとか悪夢だよ
それでは私も投下します。
「ハハッ!!」
吐き捨てるような笑い声が響く。
中年にも差し掛かろうと言う壮年の男は年甲斐もなくはしゃいでいた。
まるで遊園地を楽しむ子供のようだ。
ゾンビが群がる地獄のテーマパークで興じるは一匹の剣鬼だった。
剣鬼が刃を一振りするたび、首が飛び、胴が別れ、命が消える。
落雷が如き唐竹割りが、ゾンビを左右対称に切り裂いた。
横薙ぎに振るわれた一撃は、一振りにて試し切りが如く二つ胴を両断する。
掴み、投げ捨て、叩き切る。
その動きは洗練されていながらどこか荒々しい。
まるで野性と理性が入り混じるような矛盾を孕んだ剣技だった。
ゾンビの血の色を証明する様に、赤い飛沫が舞う。
男の背に彫られた毘沙門天が、渇きを癒すように血化粧にて紅を引いた。
どこまで行っても世は地獄。
ならば悪鬼羅刹と謳われた鬼子が地獄を謳歌するは必定であった。
沙門天二。
それがこの剣鬼の名であった。
■
沙門天二はヤクザである。
暴力に憧れ、非合法に手を染めることに何の躊躇いもないろくでなしではあるのだが。
余程機嫌が悪くない限りは、カタギには手を出さないと言う不文律を殆ど破らなかったし。
シノギで女子供を喰い物にすることはあっても、誓って私的な理由で女子供に手を出したことはない。
そんな任侠や仁義を重んじる昔気質のヤクザであった。
母は己の体を売るしか能のない商売女で、父はヤクザにもなれない半端なチンピラだった。
そんな両親の元に育ち、当たり前に捻くれ、不登校からのドロップアウトというお決まりのコースを辿った。
何のことはない、この村ではよくある話だ。
そんな人間がどこにでもいる悪ガキの一人に成り下がるのは当然の流れだったのだろう。
だが、その流れに待ったをかけた人間がいた。
村内で剣術道場を営む八柳藤次郎というジジイだった。
天二の数少ない友人である慎之介が、どうにも藤次郎に相談を持ち掛けたらしく。
藤次郎は歪みの更生と言う、よくわからないお題目を掲げており、半ば強引に天二を門下生として『八柳新陰流』を叩き込んだ。
そんな理不尽を押し付けられながらも、大人しく従って道場に通っていたのは藤次郎が天二より強かったからである。
野生動物のように強きに従う。
それが天二の本能であり信念である。
健全なる肉体には健全なる精神が宿るというがあれは真っ赤な嘘っぱちだ。
何故なら、あのジジイ自体が歪んでいる。
人の更生(ゆがみ)を促(ただ)せるほど高尚な精神をしていない。
だからこそだろう。
天二の更生はならず、暴力に引かれる性質も変わらず、むしろその欲求はより強いモノへとなっていた。
藤次郎の行いは皮肉にも悪鬼に力を付けたに過ぎなかったという訳だ。
そして天二は「木更津網太」と言う暴を知った。
切っ掛けは些細な話だった。
天二がいつものように喫茶店で食事に髪の毛が入っていると難癖をつけて料金を踏み倒そうとしていた時の話だ。
その喫茶店は木更津組がケツモチしている店であり、たちまち彼はヤクザに囲まれた。
若く、畏れ知らずだった天二は一歩も引くことなく現れたケツモチのヤクザを返り討ちしてやった。
そんな血気盛んなチンピラの前に返しに現れたのは、あろうことか組の頂点、他ならぬ組長である木更津網太その人だった。
現れた網太は挨拶もなしに懐のドスを抜き何の躊躇いもなく天二の右目を奪った。
何という暴虐。
己を律さず、欲するを欲するがままに貪る。
藤次郎とは真逆の在り方
そしてそれは天二の求めた最強の在り方であった。
天二はすぐさま網太の盃を受け、木更津組の組員となった。
それから程なくして藤次郎には破門を言い渡されたが後悔はない。
より強きに従うは当然の流れである。
天二は網太に心酔し組のためなら、それこそなんだってしてきた。
抗争では最前線に立って何人も殺してきたし、政治家の子供を攫って脅しをかけたりもした。
大規模な抗争によってオヤジが死に、代替わりしてもその忠義は変わらず、組を拡大するために身を粉にしてきた。
暴対法の締め付けにより店のケツモチやミカジメと言った表立ったシノギはやりづらい時代になったが。
麻薬を密売。銃の密輸。賭場の運営。商売女の管理。身寄りのない子供を保護して売り飛ばしたり。
そう言った表に出ない裏のシノギに手を付け広げていった。
その成り立ちや立地の関係からか、木更津組は広域指定されるような暴力団に取り込まれることなく独立独歩を貫く組織であった。
本家にアガリを上げて直系昇格を目指すなどと言う目標もなく、この地域に根差しこの村を守る事を目的とした必要悪である。
その為、地元警察組織との癒着はズブズブに進んでおり鼻薬(賄賂)がよく効いた。
最近は銃器の横流しなんかで手打ちに出来るので、水面下のシノギを広げるのは楽だった。
ヤクザも長く続けていれば、そういう自分の血を流さず金を儲ける方法ばかりが上手くなっていく。
暴力に憧れていたはずなのに、いつの間にか小金稼ぎばかりが上手いヤクザになってしまっていた。
そうして若頭補佐、いわば組のNo3という地位にまで上り詰めたものの天二の心にはどうしようもなく渇きがあった。
何か違うと、感じていた。
天二の最強への憧れはこんなモノだっただろうか?
そんな疑問を抱いていたある日の事だった、あの大地震が起きたのは。
組員を狩りだし炊き出しの準備をしていたところで、組員たちの変異に気づいた。
正気を失い襲ってきた若集を斬り捨て、慌てて組事務所に戻る。
「…………オ、オヤジ」
だが、組事務所に戻った時には渡世の親はゾンビとなった組員たちに食い殺されていた。
それを認識した瞬間、天二は修羅と化した。
盃を交わした兄弟たちを斬り捨てる。
親殺しという外道からも堕ちた畜生ども
如何に兄弟であろうともそれを前にして己の中の『暴』を抑えきれるほど天二は出来た人間ではない。
ゾンビに人間性があるのか不明だが、この連中は飛びっきりだ。
なにせ元より暴力を是とする社会の屑どもである。
ゾンビであろうが血の気が多いのも当然という物。
一太刀するたび渇きが癒える。
肉を斬るたびに満たされていくのが分かる。
己が何者であるかを思い出してゆくようだ。
そして襲い来るその全てを切り伏せ、草原に立ち尽くす。
空には星と月。地上には山のような死体と血の海が広がっている。
オヤジと組のために尽くしてきた。
だがオヤジは死に、組員は総崩れ、跡取りはボンクラ。
天二の渡世はこれで終わりだ。
ならば一匹の剣鬼として修羅道を征くのみである。
もはや何物にも止められぬ。
天二は全てを殺し尽くす羅刹である。
通り過ぎた先の残るのは血の池地獄と死体の山だろう。
だが、阻む物などない羅刹の動きが止まった。
眼前に月光に照らされる巨大な影が落ちる。
天二は鉄砲玉として多くの組織にカチコミしてきた。
幾多の修羅場だって超えて生き残ってきた。
何人もの強者とも出会って打ち倒してきた。
だからわかる。
「――――――正常感染者(ひょうてき)を発見。処理を開始する」
目の前にいるのは怪物であると。
巌のような声。
天二もそれなりに長身な方であるのだが、男は天二より頭一つか二つは高い大男だった。
迷彩色の防護服。顔はガスマスクに覆われており人相は分からないが色男ではないのは確かだろう。
その胸板の厚さと言ったら雄大の大樹を思わせるほどに分厚い。腕の太さはそれこそ女性のウエスト程はあるだろう。
男が静かにサバイバルナイフを構えた。
知らず、足が引くのが分かった。
網太のオヤジに奪われた右目の傷がうずく。
あの日以来感じる事のなかった感情が騒めく。
網太のオヤジの返しのため敵対していた組に一人でカチコミしたした時ですらまったく恐怖を感じなかった。
八柳のジジイに破門を言い渡され半殺しにされた時だって反骨心を覚えても恐ろしいとは感じなかった。
そんな天二が、ただ対峙しただけで恐ろしいと感じている。
「ざっけんな…………!」
自らを叱咤する。
恐怖を狂気で押し込めた。
後退のネジなど外れている。
後ろに引こうとする足を抑え込み、その足で掬い上げた砂利を蹴り上げる。
実戦で鍛えた喧嘩殺法。
ガスマスク相手に効果は薄いだろうが目くらまし程度にはなる。
相手は微動だにせず砂利を避けようともしなかった。
ガスマスクのレンズが汚れる。
その瞬間を狙って砂埃を切り裂くように日本刀を振り下ろす。
ゾンビを脳天より真っ二つにせしめた必殺の一撃はしかし。
「なっ………………」
あっさりと短いナイフで受け流された。
見た目にそぐわぬ流水のような柔。
それを日本刀相手にナイフで成し遂げるとはどれほどの技量か。
男の逆手が伸びる。
万力のような握力で襟首をつかみあげられた。
引き剥がそうにも肋骨に親指を喰いこませ肉ごと掴まれている。
そして重力が万倍になったような圧力がかけられた。
「こ、のぉおお…………ッ!」
投げに入ろうとしていることに気づき相打つ覚悟で長ドスを振るう。
その抵抗を受け、大男はあっさりと手を離し後方へと引いた。
無理な体制での苦し紛れの反撃だ。
腕を切り落とすほどの鋭さはなかった。
それは他ならぬ天二がよくわかっている。
にも拘らず、それを喰らう事と天二を仕留める事を天秤にかけて、男は引くことを選んだ。
それは先ほどの攻防が男にとっては千載一遇の勝機ではなく、いつでも仕留められる程度の物でしかないという余裕の表れか。
「プッ――――――!」
目釘に湿りを加えるべく柄に唾を吹きかける。
落ちてきた前髪を両の手首でかき上げた。
「木更津組若頭補佐、沙門天二だ。殺り合うからには名くらい名乗れよ」
呼びかけにも男は無言。
無視するように腰を落とし、ただサバイバルナイフを構える。
「ちっ…………!」
舌を打つ。
目の前の相手は天二に対話するだけの価値を認めておらず、ただの標的としか見ていない。
気に食わない。天二を舐めた態度も。その淡々とした態度も。何もかもが。
「命懸けの鉄火場だぜ、もっと殺し合いを――――楽しめ」
天二が地面を蹴る。
噛み付くような直突きは最小限の動きであっさりと躱された。
だが、天二は止まらず、直突きからの横薙ぎへと移行する。
これはナイフで受けられるが手首を返し、持ち手を狙うが、敵は大きく飛び退き引いた。
「なぁるほどなぁ〜」
敵が、見えてきた。
ダメージ以上に服を切り裂かれるのを嫌っている。
その恰好からも分かる。恐らく、蔓延したウイルスを警戒しているのだろう。
「何だぁ? 流行り病が怖ぇってか? 臆病もんがぁ!」
挑発にも反応らしい反応はない。
中にはひょっとしたらロボットでも入っているのだろうか。
ケッと吐き捨て三度斬りかかる。
それは一撃の重さよりも早さと手数を重視した軽い斬撃の嵐。
狙いは手足、正確には防護服。
敵はいわば全身急所も同然。
穴を開ければそれで天二の勝ちとなる。
阿修羅が如き手数の日本刀の猛攻。
急所のみならず全身に襲い来るそれをナイフ一本で捌くのは流石の一言だ。
だが、その程度はこれまでの攻防で分かり切っていた事。天二の想定通りである。
敵の注意は急所のみならず全身に向けられている。
逆に言えば、本来厳重であった急所の守りは手薄になっていると言う事だ。
勝機と見た天二が深く踏み込む。
引き絞った弓の様に大きく体を逸らし、頭部を狙った片手面を狙う。
敵は当然ナイフで頭部の防御を固める。
刹那。天二は腰元の白鞘からドスを逆手で引き抜いた。
そして相手のナイフに引っかけるように振り下ろす。
八柳新陰流、二刀『朧蟷螂』。
脇差による一段目で相手の武器を封じると同時にそれを引き寄せ合気の要領で相手の動きをも封じ、本命の二段目で頭部を両断する。
正しく必中必殺。放たれたが最後、確実な死をもたらす一撃。
脳天をカチ割らんとする片手面を防ぐ手立ては存在しない。
だが、その絶対の死を持った一撃を前にしながら大男に動揺はなかった。
迷彩服の体が捻じれ、飛んできたのは拳。
コンパクトなフォームから放たれた戦斧のようなフックは、刀の腹を横合いから殴り抜けた。
斬撃の軌道が逸れる。
『朧蟷螂』を読んでいたという訳ではないのだろう。
目の前の男が全身に隈なく警戒線を張っておきながら、それでもなお本命の一撃に対応できる怪物であったというだけの話。
音速もかくやと言う速度で振りおろされた刀身を点で捕えた技量もさることながら、驚嘆すべきはその精神力である。
一手見誤れば即死と言う綱渡りを、事もなげに成し遂げた。
一体どれほどの修羅場を超えればこのような人間が生まれるのか。
天二をもってしても計り知れない。
刃を弾いた拳が跳ね返るような裏拳となって天二を襲う。
踏み込みすぎた代償を支払うように、避けることも叶わず鉄球めいた一撃が胸の中心に直撃する。
「ごっぷ…………っ!!」
塊のような血を吐いた。
800ccバイクに正面衝突(ぶっこみ)された時を思い返す様な凄まじい衝撃。
体は跳ね飛ばされたように地面を転がり、数回転してようやく止まった。
吹き飛ばされながらも刀を手放さなかったのは天二の狂犬染みた闘争本能ゆえか。
伏せった天二の耳にザッと地を踏みしめる音が近づく。
体制の整わぬ今近づかれるのは拙い。
天二は咄嗟に手元にあった石を掴み、投げる。
苦し紛れの抵抗である、何の意味もなさないだろう。
「「!?」」
だが、驚愕は双方から。
投石はガスマスク越しの頭部に直撃した。
何をしようと掠りもしなかった相手に、苦し紛れのただの投石が、だ。
状況が分からないのは相手も同じだったのか。
僅かに戸惑ったように動きを止めている。
「かぁ―――――っ!!」
その隙に大きく一呼吸。
無理矢理に体内の調子を整え立ち上がると、拾い上げた石を再び投擲する。
大男は咄嗟に急所を両手でガードするが、その合間を縫って腹部に岩の先が突き刺さる。
分厚い筋肉に阻まれ、大したダメージではないだろうが、天二の目は今度こそ何が起きたのかをしっかりと捕らえた。
飛ばした礫が消えていたのだ。
最初は夜に紛れて追えなかったのかと思ったがそうではない。
明確に石は『透明化』しているのだ。
知らず、天二の口端が吊り上がる。
その理解が及んだ瞬間、「それ」が「そう」であると理解した。
触れた物を透明にできるのならば、そう思い至った瞬間、手にしていた刀が消える。
天二は多くの人間を斬ってきた。
沢山の強者とも出会って来た。
だが世界は広い。
これ程の怪物が居ようとは。
間違いなく、最強の敵だ。
「感謝するぜ、お前と出会えた全てに」
不可視の刀を上段に構える。
このVHが無ければ、この出会いはなかっただろう。
敵も状況を理解したようだ。
不可視の刀の存在を受け入れ、これを撃退せんと意識を変えた。
僅かな静寂。
夜の草原を風が吹き抜ける。
静寂を破り、決戦の口火を切ったのは迷彩服の男からだった。
地を這うような低姿勢でまるでミサイルのような勢いで天二へと迫る。
上段に構えていた天二はこれを迎え撃つ。
小細工はない。
ただ全力をもって手にした刃を振り下ろした。
生涯最高の一振りと確信できる。
一撃は神速を超えた。
だが無意味だ。
刀身が不可視であろうとも、初撃であるならまだしも既に散々打ち合った後である。
日本刀の間合いも、反りも、波紋の輝きすらも既に男の頭と体に叩き込まれている。
一切の狂いなく不可視の刃をサバイバルナイフが迎え撃つ。
互いの決死を賭けたその攻防。
それはしかし、互いの空振りで終わった。
「!?」
つまり、見誤るはずのない目測を見誤ったのである。
それもそのはず。
いつの間に持ち替えたのか、天二が振り下ろしたのは日本刀ではなく短刀の方だった。
では、日本刀はどこに行ったのか?
答えは足元。
仕込んでおいた本命の日本刀を足元から蹴り上げ脇差を手放し空中で掴む。
敵はナイフを空ぶった勢いのまま体勢を崩しており、天二の手には日本刀。
振り上げれば決して外さぬ間合い。
――――――――取った。
天二はそう確信する
「?」
だが、瞬間。世界が大きく揺れた。
目の前の大男が真横に倒れる。
また地震が起きたのか? そう危惧したが違う。
倒れているのは大男だけではない。世界全てである。
つまり、倒れているのは天二の方だった。
刀を蹴り上げ、受け取り、振り上げる。
いくら意表を突こうともこの男相手に三手では遅きにすぎた。
それよりも一手早く放たれた、恐ろしく速い廻し蹴りが天二の顎下を強かに叩いていた。
倒れているのは脳が揺さぶられ平衡感覚を失ったからだからか。
「いい手だった。惜しかったな」
称賛の言葉。
人間らしい言葉を吐かなかった、男が初めて言葉を放った。
これ程の強者が自分を認めたその事実がこれ以上なく天二を満たした。
倒れこみ動けない天二の下にナイフを手にした男が迫る。
己を殺す男。
強きに憧れ、強きとして生きた。
それがこれ程の最強に殺される。
野良犬の終りとしてはこれ以上ない最期だろう。
【沙門 天二 死亡】
自衛隊。
言わずもがな、国土の防衛を目的とした武力組織である。
屈強たる戦士たちによって構成され、特別職国家公務員として素行や人格面なども問われることもある。
そんな中において、素行や人格面すら考慮せず、ただ一点、実力のみで選ばれる精鋭中の精鋭。
それが秘密特殊作戦部隊(Secret Special Operations Group)である。
国家滅亡を防ぐような秘密任務を担うSSOGの中においても屈指の武闘派。
銃などの射撃術では他の隊員に後れを取ることもあるが、こと白兵戦、直接戦闘においては右出る者はいない。
自衛隊最強。すなわち日本最強の暴力装置。
それがこの大田原源一郎という男である。
また一つ正義を成し遂げた。
その実感に大田原は打ち震える。
秩序の維持、その為の必要悪。
それこそが大田原の掲げる正義である。
先行していた偵察ドローンが捉えた住民たちが使う『異能』としか呼べぬ超常の力。
ブリーフィング時の真田副官の説明によれば脳を拡張して得る力らしい。
だとしても少し戦い方が慎重に過ぎたか。
特殊部隊の面々が装備している防護服は放射能汚染地域やこう言ったVHでの戦闘を想定した特殊行動用の防護服だ。
ある程度の防刃防弾性能はあるが、チャチなナイフ程度ならともかくあのレベルの剣士の斬撃や狙撃銃を防げるほどではない。
その状態でありながら銃器を使わず直接戦闘と言う手段を取ったのは、どのような物か実際にその身で体験してみたかったからである。
己が直接戦闘に絶対の自信があるからこそ取れる手段であるのだが。
初戦でそれを学べたのは幸運だった。
危険な力だ。
使いようによっては大田原ですら、打ち倒される可能性があった。
VHの最中では他の隊員にも万が一があるかもしれない。
通信機が生きていれば他隊員にも警告を出すところだが、他ならぬ自らの部隊が敷いた妨害電波によってそれはならない。
他隊員の有能さを信頼する他ない。
これよりは『異能』があると想定して動く。
銃器の使用も解禁する。
未曽有の大災害により日本中に混乱に包まれる夜。
しがない田舎町にて、最強の秩序の守り手が行動を開始した。
【D-3/木更津組近く/1日目・深夜】
【大田原 源一郎】
[状態]:健康
[道具]:防護服、拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフ
[方針]
基本.正常感染者の処理
投下終了です
投下します
評判通りの味だった。
仕事仲間が美味い美味いといって憚らないからどんな物かと思い、興味本位で尋ねてみたが『山オヤジのくそうめぇら〜めん』なるラーメン屋は大当たりだった。
いや、店名は一瞬「ん?」てなる名前だったが。
なんでも聞けば土日は結構な時間待たないと食べれないぐらいの行列ができるような名店で、
県外にもリピーターがいるレベルらしい。
そんな話も納得の旨さで、また仕事でこの村に来るなら寄ろうと決めた。
ただ
「君もぜひ明日の抗議活動に参加してくれませんか?
この山の檻、山檻村を正しい方向に導くために必要なことなんです!」
今日に限っては後味最悪。いや、ラーメンは何も悪くない。
むしろあのラーメンに文句をつける輩が居れば、たった一回、たった一杯あのラーメンを食べただけの浩志も店の肩を持つ。
店主も悪人ではないだろう。
スープより先に具を食べようとしたら睨まれたが、こだわりなんて人それぞれだし、あの味の前には些細な問題だ。
「いや、俺明日仕事なんですけど?」
「それはどこでですか?まさかこの村でですか?いけません!
こんな村の発展に寄与することは、子供たちの未来を狭めるも同じ!
正しい事ではありません!」
臼井浩志は目の前の謎の正義感に駆られる小太りの親父、聖河 正慈に対して盛大に溜息をつきそうになりなんとか飲み込んだ。
確かに彼の勤める会社、設楽建設は関東の方と、この山折村とで二つの社屋を持ち、仕事は何故か田舎の別荘の点検の割合が同業他社に比べ多い……さらに言えば今日の現場の別荘の持ち主らしき(確か朝景とか言う名前だった。前の現場もそうだった気がする)にゴマすりしまくる社長の姿も社員の10人に1人ぐらいは目撃してるなど、
下っ端の浩志から見ても黒い金の流れを感じる会社だが、このおっさんに浩志は仕事としか言ってないので、特にそうゆう事情を知ってる訳でもないのだろう。
なんて考えている間にも止まらずに吐き出され続けるやれ正義だの、子供の為だの、この村は閉鎖的だの正しいようで薄っぺらいどこ目線なのか分からない語りは続く。
(こうゆうのって、下手に反論しない方がいいって言うよな?
でも多少強い態度で出た方が向こうも諦めてくれるか?)
それとも今からでも無視して社屋の宿泊所に戻るか?
いや、それで会社の事こいつに悪く言われたら俺クビかな?
なんて考えていると
「あの〜すいません」
不意に背後から、スーツを着て駅を歩いていたら、そのまま景色に溶けてしまいそうな男が現れた。
顔色はあまり良くなく、なんだか具合が悪そうだ。
「はい。どうしました?何かお困りごとでしょうか?」
浩志よりも早く聖河が男に話しかけた。
まさかこの男にさっきの勧誘、と言うには一方的な成語の押し売りをするつもりじゃなかろうか?
と、思わず眉をひそめたが
「私、この村に友人を訪ねて始めて来たんですけど、道が分からなくなってしまいまして。
このあたりに、朝景という人の家を知りませんでしょうか?」
「それは困りましたね」
と、意外にも普通に対応した。
薄っぺらでも正義漢気取り通すつもりはあるらしい。
「ん?朝景?」
「知ってるんですか?」
浩志は一瞬聖河の目の前でこの話をしていいかどうか迷ったが
「……あっちの別荘とかが固まってる辺りにそんな表札があったような気が」
限りなく嘘は言ってない。
ただこの聖河の目の前で会社の不利にならない様にさえ立ち回ればいい。
そう考えて限りなくぼかして真実を伝えた。
「それだけ教えていただければ十分です。ありがとうございます!」
そう言って男は去って行こうとした。
「ちょっとお待ちを」
そんな彼を聖河は呼び止めた。
「あなたはこんな村に別荘を作るような人の元へ何をしに?」
「……別れを告げに。どうしてもつけないといけないケジメなんです」
男、宵川博もまた嘘をついた。彼はかつて文字通り金で売った娘、今はリンとよばれきっと今頃その朝景の陰茎をしゃぶっているだろう9歳の女の子の行方を知るためにやって来たのだ。
全ては未だ悪夢に現れ続ける娘だった肉体が変じた何かとしか言いようがない怪物が、自分のことなど、血のつながった親の事など何も知らず遊び半分に葬られたか、何かの気まぐれで愛猫の代わりにでもされてるだろうという事を知るために。
「素晴らしい!このような村とは縁を切ってしまうのが一番です!」
この村を聖河が言うような『山檻村』に間接的に最も貢献した男だとは露知らず、聖河は宵川を満面の笑みで賞賛した。
折角胃袋に収めたラーメンが気持ち悪く感じ出した浩志はさっさと戻ろうと、回れ右した。
その瞬間だった。
地震大国日本においても、大地震と呼んで差し付けない大揺れが訪れた。
三人は立ってられずに地面に伏せる。
「……結構長く揺れましたね」
「え、ええ……」
「全く、悪い事ばかりおこる村だ!」
いや、地震なんてどこでも起こり得るだろうと思ったが、この男にロジカルな会話をするのは無理だと判断し、浩志はズボンの泥を払って立ち上がった。
(会社大丈夫かな?
明日からの現場はまた関東の予定だったけど、また朝景さんとこの屋根修理になるのかな?)
「これからどうしましょう?」
不安げな宵川の声で浩志の思考は中断された。
自分は社屋に戻ればいいし、聖河も明日抗議をするといっていたから、今日はどこかに泊る当てがあるのだろう。
だが宵川は朝景を訪ねて来たと言っていた。
口ぶりからさするにあまりいい知り合いでもなさそうだし、このまま放置するのも目覚めが悪いかもしれない。
「不安だったら、交番にでも行ってみたらいいんじゃないですか?
丁度別荘とかある方と方向同じですし、途中までなら案内出来ますけど?」
そう言うと、さっきからあまり顔色の良くなかった宵川の顔が少しは良くなったように見えた。
「それはいい!そうと決まれば早速行きましょう!」
なんでアンタが仕切ってんだとか、浩志は言わなかった。
もうこのオッサンは好き勝手しかするつもりなさそうだし、どうせ夜が明ければ抗議でもなんでも好きにするんだから下手にトラブル起こさないようにしよう。
最悪お巡りに丸投げすればいい。
確か抗議も事前に打診が無いと交通規制とかで警察が動くというのをニュースで見たこともある。
それに最終手段だが、いざとなったら恥ずかしい荒んでいた時期があり、力仕事で日々鍛えている自分の方が有利だろう。
そう考えて浩志は二人と共に交番を目指した。
会社を横切り、右手に見える田園をが途切れたのとほぼ同時に交番が形がはっきりわかるぐらいの距離に見えて来た。
「見えてきましたね」
そう言って振り向くと、何故か二人は少し浩志との距離が開いていた。
気分でも悪くなったのか、二人とも電柱や膝に手をついて俯いている。
「2人ともどうしました?具合でも…」
「うぅうううあああああ!」
「!?」
近くにいた聖河に話しかけた瞬間、奴は小太りな体を余すことなく使って突進して来た。
なんとか避けると、激突する先を失った聖河は茂みに突っ込むように倒れ込んだ。
「別ベクトルで頭おかしくなってやがる……」
そして恐る恐る宵川の方も振り返ると、平凡な顔を暴力性に歪ませ、浩志を睨みつけている。
「クッソ!」
悪態をつきながらも浩志は突っ込んでくる宵川の膝を足が逆『く』の字になるように蹴りつけた。
がくがくと体を揺らして浩志の左横を抜ける様に倒れて来た宵川の後ろ髪と左手首を引っ掴んだ浩志は、さっき宵川が手を付いていた電信柱に顔面を叩きつけた。
白い欠片が散らばるのも構わず2,3回顔面を潰すように念入りにたたきつける。
「はぁーっ!はぁーっ!、、一体なんなんだ?」
浩志の疑問に答える者はいない。
ここに居るのはただ目に映るかつて同じだったものに襲い掛かる獣だけだ。
「がぁあああああ!」
「ッ!しまっ——」
咄嗟に左手で顔を守った浩志だったが、時期は6月。
普通に半袖のシャツでうろついていた浩志のむき出しの腕に聖河の歯が突き刺さった。
「ぐぅううう!」
今での喧嘩では感じたことの無い種類の痛みを感じる。
「このっ……似非正義野郎が!」
聖河の額にめがけて思い切り頭突きを繰り出してやると、狂っていても肉体の反応は正常なのか、腕から口を放し、フラフラと後ずさる。
「はぁっ!」
そしてやわらかい腹に一発蹴りをくれてやり、仰向けに寝転んだ顔面に容赦なく蹴りを、いや、蹴りと言うには乱暴すぎる踏みつけを叩きこむ。
十何発目かで、聖河は完全に動かなくなった。
「くそっ。まずいな。つい昔の感覚で容赦なくボコッちまった」
これ病院に連絡した所で救急車来てくれるだろうか?
そもそも大人しく治癒を受けてくれるだろうか?
過剰防衛と判断されないだろうか?
と、色々不安になりながら浩志は腕の噛まれた所をさすった。
「? なんだ?」
見るともう出血は止まっていた。
痛みも徐々にだが引き始めており、血管の辺りには薄皮が出来ている。
(まだ血も乾いてないのに何で!?)
そう驚く間にも噛み跡は徐々に小さくなっており、多分ちゃんと消毒さえしておけば、なんの傷跡も残らないだろう。
「本当に何が起こって、、」
その疑問は村中に響き渡った放送によって即座に解決させられた。
ウイルス感染。ゾンビ。ウイルスに適合した者だけに芽生える異能力。
B級アクション映画の没脚本でももう少しひねりがあるぞと突っ込みたくなるような内容だったが、ウイルスの影響下は兎も角、ゾンビと異能力は実物を見てしまっているから信じざるを得ない。
それに今の放送を無条件に信じようとしている連中も一定数居るのも間違いない。
じゃなかったら交番の方からこれまた映画でしか聞いたことの無い乾いた銃声が聞こえて来たりしないだろう。
「……会社戻るか」
社屋で待機している連中はまともだと良いんだけど。
と、脆く崩れる事が確定した期待をしつつ浩志は可及的速やかに会社に戻るべく、今来た道を戻り始めた。
【C-4/深夜】
【臼井浩志】
[状態]:健康、腕に噛み傷(異能により自然治癒中)、少しだけ失血
[道具]:今のところなし
[方針]
基本.未定(いろいろと訳が分からない)
1.とりあえず会社に戻る。
2.銃声から遠ざかる。
3.傷は、、消毒しておいた方がいいよな。その前に塞がっちまうか?
[備考]
※自身の異能やゾンビの存在を体感しましたが、
諸々の状況を飲み込めてはいないです。
※異能、超回復は致命的でない傷のみに有効です。
※薩摩が巡査部長を撃った音を聞きました。
※聖河 正慈、宵川博のゾンビを殺害しました。
投下終了です
投下乙です
>逆流
おかしなな奴らが集まる山折村、活動家の活動が正しい稀有な例である
妙な縁があった3人もVHで明暗分かれることに、娘の様子をに見に来た宵川もそのケジメを取る来なく終わってしまった
臼井くんゾンビとは言え2人を殴り殺せる辺り喧嘩が強いし再生能力もシンプルながら腐らない能力ですね
岩水鈴菜の項目を修正しました。今日中に本文を修正します。
投下します
僕の名前は宇野和義。
この山折村でしがない農家をやってます、まあどこにでもいる農民Aですわ。
若い頃にはまあやんちゃしてましたが、今ではすっかりこの村に馴染んで。
嫁もでき、子供もできて、順調満帆。
幸せ太りって言うのかな、最近は腹も出てきちゃって。
昔の事なんて、あの頃の自分の性癖なんて、すっかり風化したものだと思ってましたが。
いやあ、幾つになっても、生まれ持った性(さが)って奴は変えられないものなんですねえ。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
「それで閻魔さん、これからどこに行くつもりなのですか?」
朝影礼治の別荘を後にしてしばらく歩き、高級住宅街に足を踏み入れた頃。
特に迷いもなくずんずんと歩いていく木更津閻魔の背中に、月影夜帳は声をかける。
「ああ?別にどこだっていいだろうが。歩いてりゃ誰か見つかるだろ」
「リンはエンマおにいちゃんが行くとこならどこだってついていくよ!」
「はあ…しかし、あてもなく歩き回るのも効率が悪くありませんか?48時間という時間制限もあることですし」
適当すぎる閻魔に呆れ、そんな閻魔にリンが懐いていることに嫉妬を覚えつつも、夜帳はとりあえず自身の考えを述べる。
「学校の方へ行ってみてはどうでしょう?あそこは確か避難所に指定されていたはずですから、地震で人が多く集まっているはずですし、リンちゃんのお友達もいるかもしれないですし」
夜帳の主張は特に問題があるわけではないし、嘘も言っていない。
しかし、夜帳には個人的な思惑もあった。
学校…若い子供たちが集まる場所。
きっとそこには、リンのようなおいしそうな女の子が集まるだろう。
あそこの小中高校は、生徒数こそそれほど多くないが、女子生徒は多めだったと記憶しているし。
「『がっこう』ってなあに?」
リンが、不思議そうに夜帳に聞いてくる。
そんなリンに可愛らしさを感じつつ夜帳は不思議に思う。
学校を知らない?
「君みたいな子供が通う場所だよ。リンちゃんも、学校行くだろ?」
「知らない。リンはお家で毎日おじさんや、たまに帰ってくるパパといたから」
「外には出たことないのかい?」
「いい子にしてたら、たまにおじさんが夜のお散歩に連れていってくれるの!」
「…そうですか」
彼女の置かれていた環境をそれとなく察した夜帳は、彼女に同情を寄せるとともに、彼女を閉じ込めていた『おじさん』や『パパ』に憤る。
(許せませんね…こんな可愛い子を独占していたとは)
非情にずれた憤りではあったが。
「ともかく私は、学校に行くべきと思います」
「でもよ、人が多いってことはゾンビになってる奴が多いんじゃねえか?」
夜帳の意見に対し、閻魔がわずかに怯えを含んだ表情で反論してくる。
ったく、ヤクザの息子のくせにとんだヘタレだなこいつ。
そんな内心を隠して夜帳は穏やかに説得する。
「確かにゾンビになってしまった人は多いでしょう。ですが、ゾンビにならずに済んだ人も多いはずです。協力者を見つけるためにも、行ってみる価値はあるのではないですか?」
「…ちっ、分かったよ。んじゃ、行くか」
「いえ、待ってください」
学校へ足を進めようとする閻魔を、夜帳が呼び止める。
「なんだよ?学校に行くっつったのはお前だろ」
「私達、見られてます」
夜帳の言葉に閻魔は驚き、周囲をキョロキョロと見回す。
そんな閻魔を呆れたように見つめながら、夜帳は近くの建物に向かって声を張り上げた。
「そこにいるのは分かっています!出てきてもらいましょうか!」
夜帳がそう言うと、やがて建物の影から一人の中年の男が現れた。
この高級住宅街にはあまり似つかわしくない、いかにも農夫といった感じの男だ。
「こ、こんばんは。僕は、宇野和義といいます」
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
閻魔たち3人は、和義の話を聞く。
和義は、趣味で普段からこの辺りを散歩していて、その散歩中に地震に遭ったらしい。
閻魔たちに出会う前に出会った人がゾンビだったので、警戒して様子をうかがっていたらしい。
「しかし良かったです、無事な人に3人も会えて。それに…この子がゾンビにならなくて」
そういって和義は、リンを愛おしげに見つめる。
そんな和義の様子に、夜帳は警戒を含んだ目で彼を睨みながら言う。
「この子…リンちゃんがなにか?」
「え?ああいや、深い意味はないですよ。私にも二人の子供がいるので。2児のパパとしてこういう子供は放っておけないんです」
「…そうですか。ところで和義さん、私達は学校に行くつもりなのですが、あなたは一度家に戻って家族の安否を確かめてはどうでしょうか」
「え…それは…」
「地震より前にこっちの方に来ていたということは、ご家族の安否を確かめられていないんですよね?ご家族が心配でしょう?」
にこやかに問うてくる夜帳だが、その目は全く笑っていない。
言外に、お前は邪魔だと言われているのだ。
「こ、こんなゾンビがうろついてる場所で、一人で行動なんて!僕も、あなた達と行きます!」
「そうはいってもねえ…私達も暇ではないんですよ。あなたの家に寄り道してる暇など…」
「僕の家は古民家群の方にあります!方向的に途中で立ち寄れる場所なんですから、一緒に行ったっていいでしょう!」
「それは…そうかもしれませんが…」
夜帳は心の内で舌打ちする。
彼は、できれば和義を同行させたくなかった。
彼をリンから引き離したかった。
先ほどリンを見ていた和義の目に…自分とよく似た、怪しい光を見たから。
「俺の手足として動いてくれるなら、構わねえぜ」
「エンマお兄ちゃんがいいなら、私もいいよ!」
しかし、夜帳のそんな考えとは裏腹に、閻魔もリンも、和義の同行に異議はないようである。
ここで夜帳一人が突っぱねても、自身の立場が悪くなるだけだろう。
表向きのリーダーである閻魔の不興を買い、自分の方が追い出されることになりかねない。
「…分かりました、一緒に行きましょう」
こうして木更津閻魔一行は、新たな仲間を増やし。
途中、古民家群の和義邸を経由して学校を目指すことになるのであった。
「いいかデブ!俺のことは閻魔様と呼べ!」
「は、はい!閻魔様!」
「よしよし、生意気なヒョロガリより素直じゃねえか」
閻魔にペコペコしつつ、和義は彼らと同行できたことに安堵した。
いや、彼ではなく彼女と同行できたことに。
ちらりと、リンの方を見る。
するとリンは、ニコリと可愛らしい笑みを浮かべて。
それだけで和義は、胸が締め付けられるように苦しくなり、幸福な気持ちになる。
(ああ…リンちゃん。近くでじっくり見ると、なおさら魅力的だなあ!)
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
それは一月ほど前のこと。
僕、宇野和義は、公民館に用があって、高級住宅街の近くを歩いていました。
それにしても、人口も少ない寂れたこんな村に、高級住宅街って。
村の中に街って。
まあでも、金持ちの気持ちも分からなくはない。
自分は彼らみたいな金持ちではなくただの農民ですが、22年前ここに逃げ込んでから、すっかりこの村に馴染んだ身ですから。
ここは色々変な人は多いけど、不思議と居心地がよくて、そういう空気が、風変わりな富裕層を引き付けるのだろう。
そんなことを考えていると、一組の親子(?)らしき人が少し離れた場所を歩いているのを見つけて。
僕は、子供の方…7歳くらいの小柄な女の子と目が合った。
(!!!!!)
その瞬間、僕の中で…雷に打たれたような衝撃が走った。
彼女たちが去った後、僕はその場に崩れ落ち。
胸を抑えてうずくまっていた。
「はあ、はあ…」
なんだ、あの少女は。
目が合った瞬間、心が奪われたのを感じた。
かつて自分が犯した監禁事件。
その時に監禁したどの少女たちよりも、今の子は魅力的だった。
和義が調教したどの少女たちよりも、洗練されていた。
そう、彼女はまさに…監禁少女の鑑。
クイーンオブコンフィメント。
「はあ、はあ、はあ…♪」
和義の中で封じられていた欲望が…今再び、芽吹いた瞬間だった。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
(木更津閻魔と月影夜帳…なんとかこの二人を振り切って…僕はリンちゃんと生きる)
(48時間?証拠隠滅?そんなこと知るものか)
自分はこの村で、十分すぎるほど人らしい幸せを享受してきた。
かつて自分が犯した罪なんて、ほとんど忘れかけるくらいに、平凡に過ごしてきた。
だけど…あの日この子…リンに出会ってから封じたはずの性癖はこじ開けられて。
自分はもう、平凡な日常に戻れないだろうと感じていた。
あの日以来、時間を見つけてはリンと出会ったあの周辺を歩き回りリンのことを探していた。
妻や、近くの高級住宅街の住民には不審がられたものの、ダイエットを兼ねた散歩をしているのだとごまかして。
そして…今日もリンを探してこの辺りを歩いている最中、VHという未曽有の災害に巻き込まれ、ようやく見つけることができた。
自分は、この少女を監禁して欲望を満たすことで、自分の人生に終止符を打つ。
タイムリミットが訪れるその瞬間まで、リンと生きるのだ。
自分の欲望のままに生きて最期を迎えられるのは、きっと最高だから。
(妻も子供も…どうだっていい。僕は…この子と一緒に生きて、死ぬんだ)
失ったはずの若き日の情熱。
再び胸に灯った己の性(さが)。
それらを胸に、宇野和義は破滅の道を目指して進む。
【D-3/高級住宅街/一日目・深夜】
【木更津 閻魔】
[状態]:健康
[道具]:トカレフTT-33(0/8)
[方針]
基本.木更津組次期組長として指揮を取って事件解決を目指す。
1.古民家群の和義邸に寄ってから、学校の方に向かい、使えそうな子分を探す。
2.極道モンの仁義としてリンは保護してやろう。
※リンの異能の影響で無意識に庇護欲を植え付けられています。
【リン】
[状態]:健康、木更津 閻魔への依存。
[道具]:無し。
[方針]
基本.エンマおにいちゃんのそばにいる。
1.やさしいエンマおにいちゃんだいすき♪
2.リンをいっぱいあいして、エンマおにいちゃん。
※異能によって木更津 閻魔に庇護欲を植え付けました。
リンは異能を無自覚に発動しています。
【月影 夜帳】
[状態]:健康
[道具]:医療道具の入ったカバン
[方針]
基本.この災害から生きて帰る。
1.木更津組を敵に回すのは面倒なので今は閻魔に従おう。
2.リンはこの手で殺害する。
3.和義を警戒、彼もリンを狙っている気がする。
※自身の異能は吸血行為に関連するものと目星を付けています。
【宇野 和義】
[状態]:健康
[道具]:なし
[方針]
基本.リンを監禁し、二人でタイムリミットまでの時間を過ごし、一緒に死ぬ。
1.閻魔たちに表向き従いつつ、目を盗んでリンと二人っきりになって身を隠す。
投下終了です
投下乙です
>君と一緒にいられるなら僕は何もいらない
リンちゃん変態ホイホイすぎる
お互いがお互いを出し抜こうとしてリンちゃん争奪戦が始まろうとしている、閻魔くんはそのままでいて
そして高級住宅街にめっちゃ人が集まってきたな……熊もいるしやばいことになりそうだ
投下します
月が爛爛と輝いて、水の張られた田に反射する。
心地よい風が、まだ実もつけていない稲の葉茎を静かに揺らす。
キチキチ、ジキジキとコオロギやササキリが鳴きながら、背丈の低い草葉を揺らす。
喧噪から離れた郊外にて、東から、西から、ざっざっと草を踏みしめて進んでくる人影が、互いに一定の距離を取って立ち止まる。
ゾンビの呻き声がはびこる高級住宅街や旧市街と比べれば、田園地帯はずっと平和だ。
畔の決壊や地震による虫や小動物のパニックこそあれど、ほかは平時と何も変わらない平和な地区。
仮にゾンビがいたとして、それは田畑の様子を見に来た農夫か、あるいは田畑の作物を狙う犯罪者の成れの果てくらいであろう。
まして、互いを認識して立ち止まる人影など、正常感染者以外に考えられない。
正常感染者同士ならば、それはそれで互いにターゲットであり、敵である。
見敵必殺のスタンスを取る村人や特殊部隊を除けば、声をかけるか攻撃するか、それとも背を向けて逃げるか、現れた選択肢に逡巡する時間。
けれども、そのセオリーを無視して、西から来た小さいほうの人影が、一歩先に踏み出し、もう一人に声をかけた。
「先生?」
月光に照らし出されるその背格好、服装、容姿。
東側から来た人間は、半々日前まで目にしていたスーツ姿そのままで、違いと言えば災害時の非常用持ちだし袋を背負っていることくらいだ。
そして、かけられたその声を聞いて相手の正体に気付く。
「環? 環か!? 無事だったか!」
「せ、先生ぇ〜!」
女子生徒は環円華、教師は碓氷誠吾。
二人の関係は決していかがわしいものではない。
環はその整った容姿と小動物のような愛らしさ、そして広い交友関係から、学年で人気の女子だが、浮いた噂が流れたことはない。
碓氷はそのルックスと高い身長に軽妙なトーク、そして誠実な態度によって、女子生徒から高い人気をほこるが、決して生徒と一線を超えたことはない。
二人は山折高等学校第一学年の担任と生徒、それ以上でもそれ以下でもない関係だ。
けれど、知り合いの大半がゾンビと化し、魔女狩りを扇動するような放送すら流れた今、
近しい人間の存在というのはただそれだけで安堵を得られる。
「う、うぅぅぅ……」
碓氷の姿を捉えると、張り詰めていた緊張の糸がぷっつりと切れたのだろうか。
環の目から、堰を切ったように涙があふれ出す。
「ほかには? 親御さんや友達はいないのかい?」
「う、うぅぅ……。
パパやママは畑の様子を見るからって別れて、それっきり。
私は近所のみんなと先に避難所に行こうとしてたんだけど、……みんな、みんなおかしくなっちゃったの。
あの放送のあと、朝菜ちゃんがおかしくて、光兎ちゃんもおかしくて……」
浅見光兎と八雲朝菜。
よく環円華と一緒にいる女子だ。
何でもそつなくこなすが控えめな優等生の浅見と、その対極に位置するような天真爛漫――言い換えればクラスの問題児の女子、八雲。
趣味などまるで合いそうにない二人だが、彼女――環円華を中心によく交流しているのを碓氷はたびたび目にしている。
「それで、それでね。朝菜ちゃんが必死で私をかばってくれて……。
ねえ、先生。わたし、わたし、友達を見捨てちゃった。
助けられたかもしれないのに、友達を見捨てて逃げてきちゃった……。
先生、どうしよう。みんなに何て言えばいいのかな。
美森ちゃん、許してくれるかな……」
岡山美森は、岡山林業の二人いる社長令嬢のうちの姉のほうだ。
村の有力者の娘であり、最近は碓氷につたないながらもアプローチをかけてくるため、殊更に碓氷の記憶に残っている女子の一人だ。
姉妹そろって男まさりで、活発で、正義感の強い女子生徒。
そして、小学生のときから、岡山と環はいつも一緒に行動している、いわば親友の関係と言っていいだろう。
びくびくおどおどしている環を岡山が守っている姿がしばしば目撃されている。
「いつもみんなに、仲よくしようよって言ってるのに……!
日本で一番仲良しなクラスを作るって千歩果ちゃんと約束してたのに……!
もう、みんなと顔を合わせられないよぉ!」
うつむいてぽろぽろと涙を流す環に、碓氷は何も声をかけることはしなかった。
いつもの甘いトークは成りをひそめ、今はただ一人の大人として、生徒の言葉を聞いていた。
野暮な非常袋は地面に置き、ただ、そっと近づいて、優しく抱きしめるように、そっと背中をさすっていた。
背中にざらざらとした土の感触があるが、それで手を止めることはしない。
環も碓氷の胸に顔をうずめ、言葉を切らしながら嗚咽する。
頭が胸板に押し付けられる感触を直に感じつつ、あたりを見回すが、まわりにはゾンビも、ほかの正常感染者もいない。
桃のようなシャンプーの香りと、土の香りの入り混じった匂いを感じながら、碓氷はそっと環の頭を撫でた。
■
■■■■
■
学校は楽しい。
優しくてかっこいい先生。個性豊かなクラスメート。笑顔が絶えない明るい教室。
ひとつ上の学年じゃ、いじめも起きたりしてるみたいだけど、どうしてそんなことするのかな。
痛いのなんてイヤじゃない。心ない言葉は傷つくじゃない。
私はしがない農民の子。日本人らしく、クラスみんなで仲良くするのが一番いいって思ってるの。
けれど、私はトクベツに目立つことは何もしない。
小学生のときも、中学生のときも、高校生の今も、学校生活がとっても充実するようにちょっとがんばるだけ。
小学校に入学した私は真っ先に、高谷千歩果ちゃんや犬山うさぎちゃん、岡山美森ちゃんに声をかけた。
私と友達になってよってお願いした。
誰もが認める、明るくてかわいくて人を引き付ける魅力のある女の子。
ちょっとマイペースだけれど、はんなりしてて育ちのよさそうな、旧い神社の子。
男まさりで快活な、村の有力企業の岡山林業の社長令嬢のお姉ちゃんのほう。
当時の私は村の事情なんて知りっこない。だから彼女たちに声をかけたのは直感。
関係を作っておけば、九年間、クラスの上位階層が約束されるという直感にしたがったの。
体育の授業でペアを組んだら、私一人余るなんて耐えられな〜い!
トイレにこもってぼそぼそとお弁当を食べる毎日なんて耐えられな〜い!
遠足の班決めで、ありあわせの余り物で作ったごった煮の味噌汁みたいな組に入れられるなんて耐えられな〜い!
だから、ただの農家の娘にすぎない私は、賭けに出て、賭けに勝った。
最初に立場を築き上げれば、小中学校の九年間、ずっと快適なスクールライフが約束されるの。
脳みそが性欲や嫉妬やお気持ちでできてる、猛牛ばりの突撃バカどもが、私の立場を奪えるわけないじゃない。
え〜? そんなブサイクなツラで、クラスの人気者になれるってほんとに思ってるの〜?
え〜? そんなヒステリックな性格で、クラスの中心にいられるってほんとに思ってるの〜?
そんな内心、みんなには絶対に見せない。
ちゃんと信用を溜めておかないと、猟友会のブスみたいに、何を言ってもみっともないの一言で流されちゃう。
いつもうわキツセンスの若作りファッションしてるから思わず鼻で笑っちゃうんだけど、
私のことをメスガキ呼ばわりして怒り狂ったところで、普段の行いがイタいしそれ以前にブスだから、悪者になるのはいつも向こうだ。
信用貯金はとっても大切。
小物のザコ相手に擦り減らすなんてムダだよね。
面倒なヤツが絡んできても、友達の後ろに隠れて、怯えた目で見つめておけばそれでいい。
誰か助けてってお願いすればいい。
暴力男子は美森ちゃんが成敗してくれる。
嫉妬女子は私より目立つ千歩果ちゃんが引き受けてくれる。
仲直りは、ほんわかしたうさぎちゃんが仲介してくれる。
私は三人を盾にして、仲よくしようよ〜ときれいごとを吐き続けるだけでいい。
私一人だけが目立たないように、私一人だけが飛び出ないように、クラスみんなでまあるく手をつないで、少しずつ少しずつ仲良しの環(わ)を広げていくの。
一年も経てば、クラスの上下関係は揺るがない。
だからこそ、こう、はっきりと言える。
『クラスのみんな、仲良くしようよ♪』
学校って、ほんと〜に楽しいねっ♪
学年の中心の四人娘。
中学生にあがるころには、私のまわりにも人が寄ってくるようになった。
そうだよ、私と仲良くなっておけば、中学生活は安泰だよ♪
そうだよ、私と関係を作っておけば、スクールライフは充実だよ♪
美森ちゃんは元気っ子で男子とも仲良くできるけど、仲良しの環を広げること自体にはさして興味はない。
うさぎちゃんは飼育委員のお仕事が充実しすぎてて、あまりクラスの関係には首を突っ込まなくなってきた。
そして千歩果ちゃんは学生アイドルになって山折村の名を広めるんだと、中学の卒業とともに村の外へと出ていっちゃった。
ふーん、ほ〜ん、へ〜。
そっかー、千歩果ちゃんいなくなっちゃうんだ。
でも、大丈夫。
もう、あなたがいなくなっても、十分にクラスの中心で居続けられるから。
『今まで仲良くしてくれてありがとう♪
でも、離れても私たちは友達だよ♪
千歩果ちゃんが外の人をたくさん連れて帰ってきたら、日本一の仲良しクラスを見せちゃうから!』
白々しくて薄っぺらくて口に出すのも恥ずかしい。
けど、九年もそんなキャラを演じ続ければ、息を吐くように言葉に出せる。
バス停の前で、ハグして、言葉をかけあって、バスがトンネルの向こうに消えるまで手を振る親友の理想のお別れ。
そうして、千歩果ちゃんはいなくなった。美森ちゃんもうさぎちゃんもクラスの雰囲気作りにはさして興味はない。
好きにしちゃっていいよね。
私の自由にクラスを作っちゃっていいよね。
小中学校は統合されてるのに、高等学校だけ独立しているのは、高校から入ってくる生徒たちがいるから。
村長の村おこしの一環で、優秀な先生と生徒を集めて進学率をアップ……ってそんなのどうでもいいか。
とにかく、高校になると外から新しい友達が入ってくる。
高校デビューに失敗して白い目で見られるのはつらいよねぇ。
誰とも話す勇気が持てずに、家と学校を往復するだけの生活はつらいよねぇ。
仲のいいクラスメート同士がカラオケの約束をする中、自分一人だけ置いてかれるのはつらいよねぇ。
ノートの裏にくっだらねえ漫画を書いては、それが見つかってせせら笑われるのはつらいよねぇ。
だから私が助けてあげるよ。
『ねえ、そっちで見てるだけじゃなくてさ、こっちにおいでよ』
『わあ、すごい! すごーい! それ、本当に動かせるんだ!』
『ね、キミ、頭いいんだよね? ちょっと教えてほしいところがあるんだけど、いいかな?』
『うふふ、キミってとっても面白い人なんだね。私は円華って言うの。その、よければ、お友達になってほしいな』
私は、何も与えていない。
ただ、声をかけてあげるだけ。
ただ、ほめてあげるだけ。
ただ、認めてあげるだけ。
何度かそれを繰り返すだけで、山奥に一人送り込まれて不安な外部生は、私に心を開いてくれるの。
はぐれぼっちの男子たちは、その才能を私のために使ってくれるようになるの。
承認欲求に飢えていた女子たちは、私に必死にアピールし始めるの。
デビューに失敗してどん底のスクールライフに絶望していた陽キャ崩れは、私にすがってくるようになるの。
自分に気があるんじゃないかと勘違いしたマヌケな男子が、格好つけようとしてくるようになるの。
たまに口の悪い身の程知らずの新入りが私を妬んで暴言を吐いてくることもあるけれど……ねえ、キミは誰を相手にしてるか分かってるのかな?
『私は仲良くしたいだけなのに……ひどいよう』
私の願い言葉に出すだけで、小学生からの親友の美森ちゃんは私の盾になってくれる。
私の『おともだち』たちが無言の非難を反逆者に浴びせてくれる。
ありがとう。私の味方になってくれて。
ありがとう。私を信じてくれて。
ありがとう。めんどくさい汚れ仕事を全部やってくれて。
ありがとう。私に逆らうバカを懲らしめてくれて。
山折村の村人はみんな知り合い。
あいつは育ちが悪いとか、あいつは性根が曲がってるとか、そんな噂はあっという間に広がる。
たった一人で、村中の無言の重圧を三年間受け続けるなんて、とっても耐えられないでしょ?
クラスのみんなからひそひそと噂されるのなんて、とても耐えられないでしょ?
くだらない嫉妬にまかせて、私に逆らったこと、後悔してるでしょ?
いくらでも人のいる都会ならともかく〜、閉じられたこの村でこの先やってけると思うなよ?
立場を理解していないバカがたじろいだところで、優しくみんなを諭すの。
『ありがとう、みんな。でも、やりすぎちゃダメだよ。
私はみんなと仲良くしたいだけなんだから』
そうすれば、騒動はおしまい。
あとは多忙なうさぎちゃんをなんとかつかまえて窓口にして、頭を下げて私に詫びを入れるなり、
あるいは一人で惨めな高校生活を送るなり、お好きにどうぞ。
ネチネチと陰口叩くしかできないやつなんて、所詮はザコ。
消えない上下関係を刻みこんで、心を圧し折ってあげるだけで、それ以上は何もできなくなる。
陰口も誹謗中傷もなくなって、クリアな空気に満ち溢れた明るいクラス。
暴力なんて何一つない、平和な仲良しクラス。
仮に他学年だったらそうはいかなかったかもしれない。
私があと一年二年はやく生まれてたら、こうはならなかったかもしれない。
二年生は陰湿で暴力的でいじめや不登校が横行してる反社集団。
うかつに近づけば、大火傷が待ってる。
美森ちゃんのお父さんみたいなファッション木更津組ならともかく、真の木更津組と繋がってそうな人たちには関わりたくない。
三年生はお前ら鎌倉武士団かよってくらい男子も女子も武術を習ってる人が多い。
それこそ美森ちゃん級の武闘派がわんさかいる上に、村長の息子っていう絶対的な中心人物までいる。
クラスの中心にはなれっこないし、次期村長の隣の座をめぐって、山折殿の三人娘で情念バトルとか、心底やりたくないよね。
けれど私は山折高校の一年生。
上級生の事情なんて知らないもん。
私を常に守ってくれる親友たち。
愛しい愛しいクラスメートのみんな。
背が高くてイケメンで顔のいい先生。
私の城は決して崩れない。
私を守ろ♪ 私に貢ご♪ 私に捧げちゃお♪ 私を称えちゃお♪ 私に従お♪ 私に忖度しよっ♪ 私に搾取されちゃお♪
そしたら、代価としてお前らに『ありがとう』をくれてあげる。
山折高校一年は、クラスのみんながとっても仲良しで、笑顔に満ち溢れた理想のクラスです!
胸を張って、笑顔で私はそう言えるよ。
さあ、クラスのみんな、仲よくしよう! みんなで環になって、仲良しを広げよう!
■
■■
■
私の城は決して崩れない。
山折村という堅固な土台の上に建った山折高校第一学年と言う城。
友達という兵隊が、親友という親衛隊が私を守ってくれる。
土台ごと崩れる事故なんて想定していない……。
クラスどころか村どころか国まるごと敵にまわる想定なんてしてない!
9年かけて作った城が島ごと沈む想定なんてしてない!
さっきまでお話してたお友達がいきなり襲ってくるなんて考えたこともない!
「光兎ちゃん! 元に戻ってよぉっ!」
光兎ちゃんは低い呻き声をあげ、赤い眼を鈍く輝かせ、じりじりとにじりよってくる。
慎重で臆病でヘタレだからこそ、一息に押し寄せてこないのかもしれないけれど、いつもの理性的な姿はどこにもない。
「ねえ、朝菜ちゃん……。私たち、友達じゃなかったの? どうしてこんなことするの……?」
朝菜ちゃんは狂ったような笑い声をあげて、腕を振り回す。
そこには、いつものバカやってるときのどうしようもなさは微塵も感じられなかった。
朝菜ちゃんに持たせていた荷物が腕からすっぽ抜けて、私の顔をかすめる。
それに呆けていた隙に、朝菜ちゃんが私を押し倒してきた。
光兎ちゃんもじりじりと私を食い殺そうと近づいてくる。
今まで荷物持ちなんかさせてごめんなさい。
ウチの農園のお手伝いに駆り出してごめんなさい。
ボランティアのとき力仕事を全部任せてごめんなさい。
私のお願いに不満があったなら、言ってくれたら直したのに。
だって、私たち友達でしょ?
そんなふうに謝ったところで、ゾンビとなった二人は止まらない。
そもそも、私自身、その言葉は薄っぺらいなって思っちゃう。
ゾンビは肉体のリミッターが解除されてものすごい力を発揮すると聞いたことはあるけれど、これは単純に身体能力の差。
加えて、一対一でもマウントを取られているのに、二対一。この優位性は覆らない。
助けてくれる友達も親友も、ここにはいない。
「離して、離してよ、離せええェッ!」
そんな言葉が届くはずないのに、私は演技すら捨てて醜く叫ぶ。
頭。首。腕。掌。腹筋。足。膝。
抵抗なんてムダ、そんな理に逆らうように、ありとあらゆる箇所で抵抗する。
そして、存在するはずのないところに、存在するはずのない感覚を探り当てた。
押さえつけられているはずの私が、押さえつけている腕の力を緩める感覚。
自分の身体じゃないものを自分の身体のように動かす感覚。
まるでコンピュータゲームのコントローラを操作するような奇妙な感覚だった。
ゾンビとなって白目を剥いた朝菜ちゃんは、だらんと力無く呆けたままだ。
光兎ちゃんはゆっくりと近寄ってきている。
彼女に捕まる前に、地面を蹴って、必死で拘束を解き、身体を抜け出すや否や、
糸の切れた操り人形のような朝菜ちゃんの肉体を渾身の力で蹴り飛ばした。
後ろからねじり寄ってきた光兎ちゃんの身体を巻き込んで倒れ込む。
今ならきっと逃げられる。
逃げて、逃げて、……それで?
感情が冷え切っているのが分かる。
バカを見下すときの感情とはまた別、もっと鋭くて冷たい感情がこぽこぽと湧いてくる。
命の危機の為せる感情なのかもしれないし、
あるいは私の感情がみんなの行為を裏切りだと感じてるのかもしれない。
あるいはもっと原始的な、人間の遺伝子に刻み込まれた生存本能というやつなのかもしれない。
光兎ちゃん。
会話にヘタれて、席を立って歩いては、席に戻って座ってたときのことはよく覚えてるよ。
地震の後、すぐに駆け付けて何すればいいか教えてくれたこと、ほんとありがとう。
日持ちのいい保存食とか、もう一回余震が来たらうちの家も危ないこととか、色々教えてくれてありがとう。
こんなときにはしゃぎまわる朝菜ちゃんのたずなを締めておいてくれてありがとう。
ほんと危機管理も対応力すごいよね。
あなたがお友達でほんとによかったぁ。
それから、朝菜ちゃん?
入学式で天元突破のアホさを堂々と見せつけてドン引きされてたの、よく覚えてるよ。
見かねてグループに誘ってあげた後は、ずいぶんと気を許してきたよね。
はっきりいってめちゃくちゃウザかったし、あなたとお話するときは精神修行してるみたいだったよ。
日課の煽りなんて、いつか脳みそが爆裂するんじゃないかってひやひやしてたよ。
岡山社長に『お勤めご苦労様です』って本当に言ったのは大爆笑だったよね。
二人とも、美森ちゃんたちと違って利用価値のある取り巻き程度としか自覚してなかったんだけどさ、
どうやらとっくに私たちはお友達だったみたい。
そっちはどう思ってたのかな? 気付くのが遅くなってごめんね。
二人とも、ありがとう。
光兎ちゃんが上に乗ってる朝菜ちゃんの身体にツメを立て、朝菜ちゃんが肘や掌で光兎ちゃんの身体を殴りつける。
同士討ち、仲間割れ。そんな光景。
いつもの学校だったら、喧嘩なんてしちゃダメだよ〜って言いながら、誰かに仲裁させるんだろうな。
さっきまでの私なら、きっとこの隙に一目散に逃げていたんだろうな。
再び見えない感覚を動かす。
その感覚は朝菜ちゃんの身体と繋がって、私の一部であるかのように動かせる。
今までありがとう。
朝菜ちゃんが光兎ちゃんの首筋を噛みちぎる。
ぴゅーっと噴き出す血しぶきが朝菜ちゃんの顔を濡らす。
今までありがとう。
用水路を補強するコンクリートに朝菜ちゃん自身の頭を打ち付ける。
一回。血が噴き出る。
二回。ばっくりと額が割れる。
三回。全身がぴくりと震えて、動かなくなる。
首から血をだくだく流してた光兎ちゃんも、だんだん動きが鈍くなって、斃れちゃった。
二人を手にかけた感覚はまるでなかった。
私はただ、こう動いてとお願いして、朝菜ちゃんがその通りに動いてくれた、それだけの感覚だった。
私は小学校、中学校、そして高校と、充実して平穏な生活を送るのが望みなの。
でも高校生活はもうダメそう。
せっかく作りあげた私の城はめちゃくちゃになっちゃった。
こんなの、私に限ったことじゃないかもしれないけれど。
これまで散々他人にお願いをしてきたからかもしれないし、
元々そういう素質があったのかもしれない。
割と自分自身のこと、ロクでもない性質だなーって思ってたけれど。
いざというとき、私は他人の命すら犠牲にすることができる。
そういう人間だったみたい。
あなたの命をかけて私を守ってね、と臆面もなく言える人間だったみたい。
けれども、私は決して強くはない。
圧倒的な暴力には成す術もなく殺されてしまう。
それどころか、相手が二人いるだけで、あっという間に殺されてしまうだろう。
保護者が必要だ。
友達が必要だ。
私のお願いを聞いて、それをかなえてくれる仲間が必要だ。
哀れさをにじませろ。
弱弱しさを演出しろ。
無力さを漂わせろ。
いつでも殺せると思わせろ。
これまでずっと培ってきた演技力で、懐へと入り込んでいけ。
他者への接触そのものが、命を張った賭けになる。
けれど、小学校のころから、やることは変わらない。
この人なら、私によくしてくれる。
この人なら、利用できる。
そんな人間を探し出して、仲間になるの。友達になるの。
ねえ、道の向こうから歩いてくる誰かさん。
もしよければ、友達になってくれないかな?
私を守ってくれないかな?
■
■■■
■
なんで僕は教師になったんだろうね。
ま、誰かにそう聞かれたら、高校時代の恩師のような素晴らしい先生に僕もなりたかったから――そんなテンプレみたいな回答をするだろうけどさ。
ホンネ?
もちろん、若い女の子たちと楽しくおしゃべりができる仕事だと思ってたから、に決まってるでしょ?
成人女性には成人女性のいいところはあるけれど、それとは別に癒しも欲しいじゃない?
女性の嫉妬深さや疑り深さは、大学在学中に十分に経験させてもらったよ。
向こうから僕に告白してきたくせに、ちょっと僕が友達と遊ぶだけで怒り出すコなんてザラにいたしね。
よくWEBの連載漫画に出てくる束縛彼女ってやつなのかもしれないね。
付き合うコ付き合うコ、そんなコばっかりだと女性不信になっちゃいそうだよ。
合コン? 別にいいじゃん、友達や女の子とおしゃべりするだけでしょ?
キャバクラ? 別にいいじゃん、僕がお金払って女の子と楽しくお酒を飲んでるだけなんだから。
ホテル? 別にいいじゃん、向こうがその気になって誘ってきたんだから応えてあげないと失礼でしょ。
けれどまあ、実際少しでも疑われるとガミガミ言われるし、だったら大手を振って女の子と話せる仕事に就けばいいかなって。
水商売や芸能人も考えたけど、前者は年取ったら難しくなるし、後者は道のりが険しい。
他に何かないかなと考えたとき、教職が選択肢に上がってきたわけだね。
女子高に行かなかった理由?
さあ、面接に落ちただけだから、担当の人に聞いてよ。
たぶん女の子の教育に悪いと思われたからじゃないかな?
今流行のルッキズムってやつ?
人を容姿で差別するなんて、時代に逆行してるよね。
それで念願の教師になれたわけだけれど、見事に職業の選択を間違えたなあとも思ってはいるんだ。
まさか就職希望地がまったく反映されないなんて思うかい?
県で一番女の子がかわいい高校がいいって答えたら、B29が空を飛んで空襲警報が発動しそうな風景をしたド田舎に飛ばされたんだよ?
あの面接、やる意味あった? 絶対面接前に配属地決まってたでしょ。
けど、速攻投げ出すのも負けた気がしてイヤじゃない?
だから、早く次の配属先が決まらないかなーって思いながらダラダラと教師続けてたんだけど。
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■■
■
こんなことなら、さっさと教師辞めて東京か大阪で別の仕事を探すべきだったと心から後悔してるよ。
何? ウイルス漏れ? バイオハザード?
そんなZ級映画みたいなこと本当に起こるワケ?
「先生ぇ……私たち、どうなるんだろ」
不安そうな声をもらしながら、僕にぴとりとくっついてくる女子生徒。
岡山美森ちゃんっていって、僕が担任やってるクラスの女子のトップ層みたいな子だ。
ヒノキみたいに色白で手触りのよさそうな肌をした茶髪の女の子で、男子とも女子ともすぐに打ち解ける。
僕にも積極的に話しかけてくるから、よくクラスの関係性とかを教えてもらってた、そんなコ。
僕は放送を聞きながら、これヤバいんじゃないと思ってすぐに校舎に避難したけれど、校庭に残ってる人たちは次々とゾンビになっていく。
美森ちゃんもちょっと前までは元気だったのに、今や座り込んで、息を荒げて苦しそうにしてる。
「大丈夫だよ、先生がそばにいてあげるから」
美森ちゃんが、僕の腕をぎゅっとつかむ。
こういう雰囲気も嫌いじゃないんだけど、今は少し鬱陶しいんだよね。
さてはて、ふと、違和感を覚えた。
美森ちゃん、キミ、なんで青く光ってんの?
いや、これ光っているのは彼女じゃないな。
僕の目が、彼女の感情を検知して、光として感じ取っているんだ。
青は信頼の証。そして赤は不信の証。
一人一人に信号機が外付けされたかのように、みんなが僕をどう思っているのかがわかる。
ああ、これが適合なんだ。
そして、彼女はそうじゃなかった。
美森ちゃん、君は本当にすごいよね。
友達が心配で居ても立ってもいられないからって、学校まで来る行動力、僕にはとてもマネできないや。
僕も避難所の学校に来る道中でさ、いろんな人の助けを求める声を聞いたけど、全部無視したからね。
ガレキの山の前で誰かママを助けて〜とぴぃぴぃ泣いてる男の子とか、
今にも潰れそうな家屋の前でまだ息子が家の中にいるんですと喚いてるおばさんとか。
そういう人たちを助けるのって、警察とか消防、あと自衛隊の仕事でしょ?
僕が勝手に仕事取っちゃダメでしょ。
僕が地震の後したことって、校庭に溢れかえってる避難民に体育館を解放して、
その間に教室に置いてあった備品の、災害時帰宅支援者向け非常用持ちだし袋を自分用に確保することくらいだったしね。
僕は器用じゃないから、自分のことで精一杯なんだ。
体育館や校庭に集まった避難民たちは、もうほぼほぼゾンビと化してしまってる。
まだ正気の避難民もいるみたいだけれど、完全にゾンビと化した避難民に寄って集って食いちぎられてる。
うわ、こんなこと本当にあるんだってちょっとドン引きだよ。
僕もそろそろ、お暇しないと本当にまずいかもね。
「先生ぇ……どこ、行くの?」
美森ちゃんが僕を引き留めようとして、掴んだ腕に力を込める。
ものすごく冷たい。死人みたいだな。ああ、ゾンビだったよね。
平時なら夜の校舎でこういうシチュエーションって男冥利に尽きるけど、ごめんね、今は非常事態なんだ。
「どうやら、僕は適合者に選ばれたらしい。
だから、岡山は先生を信じて、そこでなんとか耐えてくれ!」
「え、そんな……。こんなところで、耐えてだなんて……。
こんなところで、待っててだなんて……」
腕に絡みついた美森ちゃんを乱暴に振り払う。
普段の快活さからは想像もできないほど弱弱しくなった彼女は、抵抗といった抵抗はおこなわない。
「大丈夫だ、必ず助けを呼んでくるから!」
「やだ、先生! 行かないでっ! 見捨てないでっ!」
それでも僕の足にすがりついてくる岡山。
鬱陶しいなあ。
だから、蹴り飛ばした。
「いたっ! あ、あああっ……!」
青い光を放っていた岡山美森。
何が起きたのか理解できないとばかり呆けていた彼女から、青い光が消えていく。
淡いその光が青から赤へと変わっていく。
ひどいなあ。僕を信用してくれないなんて。
じゃあ、もういいよ。
だって、僕を信じてくれないんだから、仕方ないよね。
「先生、せんせぇぇ……あぁぁぁぁァァァァッッッ!」
かわいい生徒の断末魔を聞きながら、左の耳から右の耳へと聞き流して、非常口から校舎の裏側へと出ていく。
まあ別に本当に死んだわけじゃないし、最終的に女王感染者が死ねば元に戻るわけだし、僕が彼女を見捨てたわけじゃないんだよ。
蹴り飛ばされた? それは気のせいじゃない?
目覚めた超能力は便利だけど、これで女王感染者を殺すことはできない。やはり武器が必要だ。
鍬や鋤、斧なら校舎にもあるけど、常時携帯するには少し重すぎるし、今から学校のプレハブ倉庫を開けるのはちょっと手間がかかりすぎるよね。
ここはやはり、銃などどうだろう。
交番か猟師小屋ならば武器もあるはずだよね。
田畑を通ればほとんどゾンビには遭わないし、道中で桃などの食料を得ることもできる。
それに、もし青い光の適合者を見つければ、有利に立ち回ることだってできるだろう。
そう、たとえば目の前から来ている誰かのように、ね。
■
■■■■
■
「……先生、ごめんなさい」
嗚咽が収まったところで、環はようやく顔を上げることが出来た。
その時にはもう、目の周りも鼻の頭も真っ赤になっていたけれど。
「いいよ」
それでも碓氷はなにも言わなかったし、何も聞かない。
黙ってハンカチを差し出して、受け取った環が涙を拭うのを待つ。
「ありがとう」
「うん」
どことなく気まずい雰囲気が漂う。
数十秒の静寂のあと、それを破ったのは環のほうであった。
「先生、私も一緒に行っていいですか?
一人じゃ心細いし、また誰かに、友達に襲われたらどうしようって、不安で、不安で……」
環が声を震わせる。
手を離せば二度と戻ってこないような、小さくて、儚くて、か細い声。
庇護欲をそそられるような気持ちを抑えて、碓氷は優しい声で答えを返す。
「もちろんさ。
というより、環が一人で行こうとしていたら、間違いなく止めていたよ。
でも、家には戻らなくていいのかい?」
「家に戻っても、きっとパパもママも、おかしくなっちゃってる。
友達がおかしくなってるところも、パパやママがおかしくなってるところも、見に行きたくはないです。
こんなの私のワガママです。
けれど、先生お願いします。一緒に連れていってください」
孤独に怯え、現実に怯える、まだまだ幼くか弱い少女。
たとえ断っても勝手についてくることは火を見るよりも明らかだ。
「分かった。環の判断を尊重しよう。
とはいえ、先生も身を守る手段は欲しいからね。
正気を失った村人たちに遭わずに、猟師小屋か交番にいけそうなルートがあれば教えてくれないかな」
「ありがとうございます、先生!
交番はこっち、猟師小屋ならここから……」
環の先導で、二人は目的地を目指す。
かつて環が高谷千歩果に語った、日本で一番仲良しな理想のクラス。
教師と二人の生徒しか残っていないけれど、強い信用で結ばれた、仲良しの環。
その結実が、ここにあった。
【C-6/田園地帯/一日目 深夜】
【環 円華】
[状態]:健康、ウソ泣きで顔が腫れてる
[道具]:なし
[方針]
基本行動方針:他人を盾にして生き残る
1.信用できる盾(碓氷 誠吾)からさらなる庇護を得る
2.手駒を集める
【碓氷 誠吾】
[状態]:健康
[道具]:災害時非常持ち出し袋(食料[乾パン・氷砂糖・水]、軍手、簡易トイレ、オールラウンドマルチツール、懐中電灯ほか)
[方針]
基本行動方針:他人を蹴落として生き残る
1.自分を信用する女(環 円華)のさらなる信頼を得る
2.捨て駒を集める
※災害時非常持ち出し袋:食料や軍手、簡易トイレや懐中電灯など色々入っています。
※浅見光兎(ゾンビ)、八雲朝菜(ゾンビ)は死亡しました
投下終了です
投下乙です
>みんな仲良し山折高校第一学年
打算で生きてきた二人が互いを利用し合おうとする、ある意味お似合いな二人である
円華のクラスカーストを高めるための生き方は現実でもありそうな話だけど、VHが起きたせいでよくある話で終わらなくなってしまった
異能も他人を利用する物と他人の信用を測る物と言う生き方を体現したような力で、VHの中でどう生きるのか
投下します。
「よぉ『せんせー』。烏宿ちゃんとのデートはどうだった?」
「ちょっ、やめてくださいよ六紋さん。烏宿さんは後輩というか教え子というか、そんなものでして」
山折村の猟師・嵐山岳の携帯に着信が入ったのは、
彼を『先生』として慕う烏宿ひなたとの猟を終え、
猟師小屋に戻ってきた時だった。
嵐山岳。高校卒業後、村を離れて大学で生物学の学位を取得。
その後村に戻り、猟師になったという異色の経歴の持ち主である。
眼鏡を掛け、性格も表情も穏和な彼は、一見すると教師か研究者のようである。
だが、子供のころから村の山々を駆け巡り、逞しく育ったその身体は、
彼が間違いなく山の男であることを証明していた。
発信者は六紋兵衛。
『現代の名人』と称される、山折村一番のベテラン猟師である。
「くっひっひ、どうだか。いろいろ聞き出してえところだが……」
六紋が咳払いをした。彼の声が、ひょうきんなオヤジから、練達の猟師のものに変わる。
「嵐山。これからマジの話をする。――ヒグマが出たぜ」
「えっ……」
嵐山は絶句した。
■
山折村周辺の山にヒグマがいる、という噂はあった。
その噂の出所となったのは、六紋兵衛その人である。
数年前、ある霧の深い日のこと。
山の奥地を歩いていた六紋の前に、突如3mはあるかという巨大な影が現れ、襲い掛かってきた。
六紋は咄嗟に銃を構え、その右眼を撃ち抜いた。
そいつは呻き声を上げ、霧の中に消えていった。
この日本で3mを超える陸生動物など、ヒグマしか考えられない。
だが、学術的には、本州にヒグマは存在しないはずである。
当の六紋すら、悪い夢でも見ていたのではないか、との疑いを抱いていたほどだったが、
万一を考え、「ヒグマの疑いあり」としてこれを報告した。
その後、猟友会は周辺の山の調査を継続的に行ったが、
決定的な証拠を掴むことができないまま月日が流れた。
状況が動いたのは今年に入ってからだ。
ヒグマのものと見られる足跡が発見されたのである。
この山にヒグマがいる可能性は極めて高い――
それを知った猟友会は、北海道の猟友会とも協議を実施、警戒を引き上げようとしていた、
その矢先のことだった。
■
「……何があったんですか?」
「山でヒグマに荷物を奪われたっていう男が来たんだ。
しかもその男ってのがな。聞いて驚け。工藤清澄だ」
嵐山の目が点になった。
「えっとぉ…… どなたでしたっけ?」
「っっかぁぁ〜〜……これだからインテリさんは。男ならMMAの世界戦くらい見るもんだぜ?
一言でいや、世界的格闘家だよ。山で修行中に一休みしようとしたら、自分の荷物をクマがあさってたんだと。
で、本気の蹴りを背中にかましたんだが、その瞬間悟ったってよ。『あ、こりゃ無理だ』って。
幸いこっちを振り向きもしなかったんで、何とか逃げることができたってさ」
「それはその…… なんというか」
「聞くに、あの巨漢の工藤清澄が、見上げなきゃらないほどデカかったそうだ。
言ってることが嘘じゃなけりゃ、まず間違いなくヒグマだわな」
嵐山は思案する。
つまり、そのヒグマは相当村に近いところにいるということだ。
下手をすると、今夜にでも村に降りてくるかもしれない。
熊撃ち用のライフル銃自体は、足跡が発見された後、
猟友会メンバーであり投資家でもある山狩昴が、気前よく全員分を手配した。
だが、それで熊を射殺できるかどうかは話が別だ。
的確に眉間や心臓を撃ち抜かなければ、興奮したヒグマが時速50キロを超えるスピードで襲い掛かってくる。
一応、模型を使った訓練はしているが、実践でそれができる自信ははっきり言ってない。
この村でそれが可能なのは、六紋だけだろう。
「……でだな、嵐山。ここからが問題なんだが……」
……ここから?
ヒグマがいる、それ以上に重大なことなんて……
訝しむ嵐山に、六紋が、低い声で告げた。
「そのヒグマ、右眼が無かったそうだ」
嵐山は、息を呑んだ。
「……手負い、ってことですか。しかも、右眼って……?」
「ああ。あの時、俺が仕損じた奴の可能性が高い」
背中に冷気が走った。
手負いのヒグマは、凶暴化する。一刻も早く駆除しなければ、恐ろしい事態を招きかねない。
「……嵐山よ。手負いのヒグマは、恐ろしいぜ。
俺は北海道で見た。本物の、化け物だ」
「……はい」
「俺はあの時、自分の眼を信じられなかった。鬼か天狗でも出たのかと思ったぜ。
だが、それも言い訳だ。
ヒグマを手負いで逃したなんちゃあ、この六紋兵衛、一生の不覚だ。
俺が作った化け物の為に、一人でも死ぬなんてことがあっちゃ、俺ぁ死んでも死にきれねえ。
この村を守る為にも、討たなきゃなんねえ。
奴の首は取るぜ。この村の為にも、な」
嵐山は、これほど鬼気迫った六紋の声を聞いたことが無かった。
六紋が咳払いをし、口調を普段の調子に戻した。
「つーわけでだな、明日からは山狩りの準備だ。
ま、あんまり不安になるな。ダチの北海道の連中も呼ぶ。
どいつも腕利きぞろいだ。お前ら若ぇ奴らにゃ無理はさせねえからよ。
ただまあ、今夜現れた時の為に、悪いが一晩小屋で待機してくれねえか?
俺ももう少ししたら戻る」
「分かりました。ところで六紋さんは今どこにいるんです?」
「公民館に向かってるとこだ。村のボスのトリプル一郎にこれを伝えに――
次の瞬間、未曾有の大地震が山折村を襲った。
■
「くっ…… 治まりましたか」
嵐山は、テーブルの下から這い出しながら言った、
古い狩猟小屋は、幸い壁や天井は崩れはしなかったものの、
窓の一部が割れ、中はまるで嵐が過ぎ去った後のようだ。
「つっ……」
割れたガラスで左手首を切ってしまった。
傷口は小さいが、動脈を切ってしまったらしく、血が噴き出る。
包帯をきつく巻き付け、なんとか止血する。
「電話は…… 通じるはずがありませんか」
六紋には待機するように言われたが、ここは被災者の救護が優先だ。
まずは避難所に向かうべきだろう。
ザックにロープや非常食、水、医療品を放りこむ。
銃を持っていくかは迷ったが、
この状況で、万が一にでもヒグマが避難所を襲えば大惨事である。
杞憂で済むことを祈りつつ、使い慣れた散弾銃と、山狩からもらったライフル銃を肩に掛けた。
村の避難所は、公民館か学校である。
公民館には六紋が向かった。なら自分が行くべきは学校だろう。
誰かが戻ってきた時の為に、書置きを残し、小屋を出た。
田園沿いをしばらく歩き、広場が見えてきたころ、
運命の放送が鳴り響いた。
■
(ウイルス…… ゾンビ…… 解決策は女王感染者の殺害…… タイムリミットは48時間)
嵐山は、悪夢ともいうべき内容に驚愕しながらも、冷静になるよう自分に言い聞かせ、放送の内容を反芻する。
(素直に受け取れば、速やかに女王感染者を殺害する。
すなわち、正気の人間全員が互いに殺しあう、あるいは自殺する――のが最善ですね。
最悪、正気の人間が全員犠牲になるだけで、ゾンビ化した人間を含め、全てを救うことができる)
その誘惑に対し、嵐山は、首を振る。
(それを決断するには早すぎます。そもそも、あの放送が本当に真実なのか分かりません。
ウイルスは研究施設から漏れた、と言ってましたね。
つまり、その施設なら、何か手掛かりがある可能性が高い。
……考えていても仕方ありません。とにかく、まずは生存者を――!?)
先ほど負った手首の傷が、突然疼いた。思わず包帯を外すと、
開いた傷口から流れ出た血が、散弾銃の実包に変化していた。
(血が弾に……? そうか。これが私の異能……)
散弾銃に装填したところ、ピタリと収まり、普通の弾と同じように使えそうである。
物は試しと、今度はライフル銃の弾丸をイメージしたところ、
思った通り、ライフル弾に変化した。
(……血を失うという代償があるにしても、
弾丸を補充できるというのはありがたい。だが……)
嵐山は、眉間にしわを寄せた。
(……気に入りませんね)
運命が、自分に撃て、撃て、撃ち殺せ、と言っている気がした。
昔から、自然と動物が好きだった。
晴れの日は山を、森を駆け回り、
雨雪の日は図鑑や本を読んで育った少年は、
のちに村を出て、街の大学に進学した。
生物学のゼミで、研究やフィールドワークに明け暮れる日々は充実していたが、
どこか、物足りなさを感じていた。
就職先について悩んでいたころ、たまには息を抜こうと久しぶりに山折村に帰省した。
自分の原点である山に登り、山頂から村を見下ろしたとき、彼は悟った。
ああ、自分は、この山折村が好きだったんだ。
向かうべき道は決まった。
猟師・嵐山岳を理解できないという者は多い。
動物好きは周知であるのに、獣害が発生した時はその駆除に率先して動く。
ではシカやイノシシやクマは邪魔だから全部駆除してくれ、と言えば、それは良くないと諭す。
人と自然は、完全に相容れることはできない。
どうしても払えない業があるなら、せめて自分がそれを背負う。
その上で、その業をできるだけ軽くするため、自分のできることを探し続ける。
それが嵐山岳の信念だ。
これからどうすべきか整理する。
まずは高校と小中学校周辺にいる生存者を探す。
ゾンビは多いだろうが、学校なら隠れられるところも多いし、生存者もいる可能性が高い、と踏んだ。
救出できたら、猟師小屋へ戻る。
近くに住宅や人が集まる施設は無いので、周囲にいるゾンビはかなり少ないはずだ。
猟をするときの非常食も、水も、医療品もある。
さらに、あまり使いたくはないが、予備の銃や弾丸もある。
少人数の拠点にはうってつけだろう。
当面の安全が確保出来たら、ウイルスが保管されていたという研究施設を探し出す。
それから先は、その時に考えるしかない。
六紋さんはどうしただろうか。
正気を保っているなら、彼なら心配はいらないだろう。
だが、もし、ウイルスに適応できていなかったら……?
首を振って余計な考えを捨てる。
分からないことは考えても仕方ない。
今は、自分がやるべきと信じたことをやるしかないのだ。
深呼吸をして、覚悟を決める。
(猟友会のみんな…… 烏宿さん…… 無事でいてください)
散弾銃を握りしめ、目の前の山折高校に向け歩き出す。
だが、彼は知らない。
村の猟師でウイルスに適応できたのは、彼一人だけだということを。
彼は知らない。
猟友会が追ってきた片眼のヒグマが、
彼を慕う少女、烏宿ひなたのすぐ近くに姿を現したことを。
彼は知らない。
自衛隊の秘密特殊作戦部隊が、
正常感染者抹殺を目的とした作戦行動を既に開始していることを。
この先に何が待ち受けているのか、彼に知る由はない。
全ては、霧の中だ。
【C-7/高校裏手/1日目・深夜】
【嵐山 岳】
[状態]:健康、左手首に軽度の切り傷(止血済)
[道具]:散弾銃(残弾3/3)、ライフル銃(残弾5/5)、小型ザック(ロープ、非常食、水、医療品)、ウエストポーチ(ナイフ、予備の弾丸)
[方針]
基本.生存者を探し、安全を確保する。その後、バイオハザードの解決策を考える。
1.高校、小中学校周辺の生存者を探す。生存者を見つけたら猟師小屋に戻る。
2.猟友会のメンバーや烏丸ひなたが心配。
3.片眼のヒグマ(独眼熊)のことは頭の片隅に置いておく。一応警戒はする。
■
「あ、が、が、が、が」
放送が流れる直前、六紋兵衛は、公民館に続く道の途中で突っ伏していた。
彼はウイルスに適応できなかった。そして不適応者はゾンビとなる。
歴戦の猟師である彼とて例外ではない。
自分の脳が侵食されていくのが分かる。
六紋兵衛の人格が、破壊されていく。
「あ……?」
突然、ほんの一瞬だけ、自分の嗅覚が異常に鋭敏になった気がした。
それは、もし彼がウイルスに適応した時に得られたであろう異能の一端か、それともただの幻覚か。
「これ、は……」
忌まわしき臭いが、風に乗って、彼の鼻に届いた。
「忘れもしねえっ! あの時、霧の中で嗅いだあの臭いだ!!
奴はもうこの村の中にいる…… いやがるっっ!!!」
立たねば。己が撃たねば。自分が生み出したあの怪物を。
だが、その意志がもう、彼の身体を動かすことはない。
ウイルスに支配された身体は、応えない。
「何百何千と殺生をしてきた俺だ…… 俺は死んでもいいっっ!!」
だが、若ぇ連中だけは…… この村だけはっっ!!!」
残された最後の力を使って叫ぶ。
その叫びが誰に届くことはない。六紋兵衛にできることは、何もない。
次の瞬間、ウイルスが、彼の人格の最後の一片を刈り取った。
深い霧の中で、悪鬼のように笑う片眼の羆を幻視しながら、六紋兵衛の意識は途絶えた。
彼はしばらく、死んだように動かなかったが、やがて、ゆっくりと起き上がった。
だが、そこにいるのは最早、
「あーー……」
一人の老人のゾンビだけ。
※ライフル銃(残弾5/5)を背負った六紋兵衛(ゾンビ)が公民館近くの路上(B-3)にいます。
投下終了します。
投下乙です
独眼熊の因縁の相手は六門さんだったか
割と近くにいるけど、独眼熊的にはこの状態の相手に仇討つの、納得できるのかできないのか
それと別件で気になることがあったので、次レスでいいます
気になることというのは、日野珠についてです
初登場回での描写によれば彼女は、お隣さんが人を食うのを見て逃げ出し、異能の光を辿って天原くんとスヴィア先生のとこにやってきたということですが
気になるのは彼女の自宅と現在地の距離です
この話が投下された時点で山折家の位置は判明してなかったので仕方ありませんが、日野家は山折家の近くである高級住宅街にあるはずです
そしてお隣さんのゾンビ化を目撃してることからVH発生時点で彼女は高級住宅街にいたと思われます
そうすると珠は、逃げ出した後、もっと近場で発見してもいいはずの異能の光を4〜6マス分くらいは離れた場所で発見し、凄まじい速さでここに到達したことになります
なんらかの理由付けができるならこのままでもいいと思うのですが、仮にそのまま通すとしても上記の点は留意しておくべきかと思います
>>574
どうもです。指摘部分としては、珠ちゃんやお隣さん等は避難所に避難していたという前提で書いてました
というわけで問題箇所となる部分の修正を投げておきます
●
訳が、分からなかった。
あの地震でみんな逃げてきて、避難所でやっと一息つけるとおもったらみんな苦しみだして。
周りのみんながおかしくなった。最初は一人がおかしくなって。
誰かが噛まれておかしくなって、おかしくなって。
お隣さんが、みんなを食べていて。
分からなかった。ただ怖かった。
怖くて、怖くて、誰かが呼んでいる声やうめき声を無視して、飛び出して、逃げて。
逃げて、逃げて、逃げて。強い光のある方へ逃げた。
その光が何か、わからなかったけど。逃げるしかなかった。
なんで光の方へ逃げようとしたのかわからなかったけど、何かがありそう、なんて曖昧な理由で。
もしかしたら、誰かいるかもしれないって、そんな事思って。
私は、おかしくなったみんなから逃げた。
>>575
ありがとうございました、これで問題ないと思います
こちらも、珠ちゃんもおばさんも避難所に移動してるって可能性を見落としてました、すみません
投下乙です
>霧の中
流石にヒグマが出たともなれば猟友会もてんやわんやだったんですねぇ、いやホントになんで岐阜県にヒグマがいるの……?
独眼熊の右目を奪ったのはベテラン猟師である六紋さんと言うのは納得しかない
嵐山さんは温和な猟師というギャップ、危険人物だらけの住民の中、理知的で猟師だけあって装備も充実しているあたり頼もしい
それでは私も投下します
地獄の釜が開いたような世界において、そこだけがまるで聖域であるかのよう静寂に包まれていた。
月光のみが照らす薄暗い草原にて、小柄な少女が長身の男の前で忠義を示すように片膝をついていた。
「ようやく……ようやく出会えました、同志よ」
言って、色黒の少女は随喜の涙を流した。
その涙を受ける男は無言のまま、少女を見下ろす。
それは零れ落ちそうなほどに見開いた目玉が特徴な痩せぎすの男である。
男の纏う祭服ような長いローブが夜に揺れるのも相まって、それは宗教画に描かれる洗礼を受ける信者の様でもあった。
「同志が聖戦のため、この村に向かったと聞き及び勝手ながら馳せ参じました。
同志よ。私を覚えておいででしょうか?」
起立する大男と跪く小娘。
その身長差もあってか、ギョロリとした目玉が見下すように少女を捉える。
「……覚ぇでぃるぞ」
地の底から響くようなしゃがれた声。
喉に欠損を抱えているのか、発音のズレた喋り方だった。
「革名……征子」
「ええ……! ええ、貴方に薫陶を受けた征子にございます」
革名征子。
彼女は政府高官の娘として生まれ、父の権威を振りかざして威張り散かすそんな高慢な少女だった
父は多忙でほとんど家に帰ってこず、その憂さを晴らすように母は征子を連れ二人で海外旅行に連れて行くのが趣味だった。
10歳になる頃には欧州、北米、亜細亜の諸外国の殆どを回り切り、南米ツアーの途中ベネズエラを訪れた時に事件は起きた。
政府高官の娘と言う彼女の立場を知るテロ組織に征子が誘拐されてしまったのである。
そして、そのテロ組織において彼女の「教育係」だったのがこの物部天国である。
それはテロ組織の方針か、それとも天国の個人的な信条か、人質と言う立場でしかなかった征子には今でも判別できないが。
人質として攫ってきた征子に天国は己の掲げる思想と理想を語って聞かせた。
戦争や虐殺への抗議。腐敗の根絶。平等で公平な社会。世界の救済。
10歳の子供に対して、今の世界や体制がいかに間違っているのか、世界の醜さを噛んで含めるように。
彼女が救出されるまでの4カ月間、毎日毎日聞かせ続けた。
そしてその洗脳めいた教育を受け、まだ分別のない幼かった彼女はそのお題目を真に受けた。
大抵のテロリストは掲げる理想だけは綺麗で真っ当なモノだ。
目的達成の手段として自身が人質として取られているという醜い事実を忘れ、その綺麗なだけの目的に感銘を受けた。
小学生だった征子にとっては彼の語る理想は刺激的で、隠された世界の真実を知った気分だった。
むしろ真実を覆い隠してきた父やこれまでの世界の方が醜く思えた。
だから、救出された後もその偽善と欺瞞に満ちた世界の醜さに吐き気がした。
周囲は全て醜い豚に見え全てに噛み付く様に反抗していた。
周囲からすれば陰謀論を風潮する頭のオカシイ少女だっただろうが。
だが、それも成長するにつれ世間との折り合い方を覚えていく。
自身の知る世界の真実、衆愚の知る世界の真実。それらの差異、ズレを学びながら補正して行く。
そうして表面上はただのミリタリーオタクとして振る舞い、「来るべき日」に備えて鍛え続けてきた。
そうして、やってきたのが今日という日だ。
政府高官の娘という伝手をすべて使って国内テロ組織の動きを徹底的に調べ上げ、天国たちがこの辺鄙なこの村に訪れると知った。
いてもたってもいられず征子は闇ルートで揃えた装備を整え、こうして聖戦の地に馳せ参じたのである。
あるいはこの惨劇も、研究所を狙った同志の成果であるとすら征子は考えていた。
「…………ぉ前ぁ日本人だなぁ」
「え、ええ。そうですが」
征子は日本政府高官の娘であるから人質として攫われたのだ。
それを攫った天国が問うまでもない事実である。
黒いローブがゆらりと不気味に揺らめいた。
「―――――――ならば死ね」
「え?」
唐突に突きつけられた死刑宣告。
さしもの征子もこれには戸惑う。
「日本人は死すべきだ。世界で最も愚かな民族それが日本人である。国民の生命が脅かされている状況でも己が既得権益を優先する政府に、隣国で戦争が起きようとも危機感を持たない平和ボケした国民どもよ。マスコミの垂れ流す情報を鵜呑みにして自らの頭で考える事を辞めた奴らにでは啓蒙する機会すらない。己が無知を知れ、己が恥を知れ、己が罪状を知れ。それすらも出来ぬなら首をくくって死ぬが良い。憲法違反の自衛隊に守られる事を恥ずことすらない愚かで恥ずべき民族よ。第二次で鬼畜が如き米帝に受けた仕打ちを忘れ米国に尻尾を振るだけの狗となる日米安保など今すぐに破棄すべきだ。死刑制度などと言う犯罪者から更生の機会を奪い、被害遺族への損害補償や償いの機会すら奪い取る野蛮で残酷な国際的潮流に取り残された時代遅れの制度を続けている愚かな司法。国民が一致団結し節電を行えば原発に頼らずとも十分な電力は供給できるにも拘らず、地震大国でありながら放射性廃棄物の処理方法が確立も確立せず原発再開の声が後を絶たぬのは暴利を貪る政府や電力会社の陰謀に他ならない。これを腐敗と呼ばず何と呼ぶのか。民主制を謳いながら長らく続く一党支配による政治腐敗を打破できぬ愚かな国民、具体的な提案もできず国を背負う覚悟もない野党ども。何もかも腐っている。飼いならされる事に慣れきった家畜どもには自らの頭で考え行動する事すらできないのだ。責任感を捨てた人間に未来など無い。上も下も何もかもが救うべきに値しない愚かさである。不浄なる血脈を救うは血で贖う他ない。やはり日本は滅びるべきである!!!!!!!!!!」
恨み言を呪詛のように淀みなく並び立てる、その様子に征子も困惑を隠せず呆気に取られていた。
支離滅裂でただ恨みを吐くだけで内容がない、耳を傾けるに値しない戯言である。
「…………ど、同志?」
征子が共感したのは、もっと理路整然として輝かしい思想だった。
このような妄言を垂れ流す男ではなかったはずだ。
天国は確かに狂っていた。
テロリズムに傾倒する時点で正気ではない。
だがそれでも、征子の知る天国は己が狂気をコントロールできる理知的で聡明な男だった。
しかし征子の目の前にいる男どうだ?
その瞳に浮かぶ狂気の色は。理性の欠片も感じられない。
それこそ周囲に溢れるゾンビと大差がない様にすら思える。
この男がここに至るまで、いったいどれほどの出来事があったと言うのか。
物部天国。
彼の活動は学生運動から始まり日本赤軍へと編入するお決まりのコースだった。
そして日本という国に絶望した彼は国内を飛び出し海外テロ組織にまで辿り着いた。
それは世界救済を謳う国際的テロ組織であり、北部に位置する大国を諸悪の根源として目の敵にしていた。
征子を人質として攫ったのも同盟国の政府高官の娘を人質として大国に牽制したかったからだろう。
結局、彼の所属していた組織は軍の介入より壊滅し、帰国を余儀なくされた天国は自らをリーダーとするテロ組織を国内で結成。
国際指名手配犯としてテロルのカリスマだった天国は腐敗した日本破壊を目標に掲げ同志を集った。
多くのパトロンや賛同者が集まり彼らは国会議事堂の爆破を計画を始めた。
しかしその計画は組織内部に送り込まれていたエスにより公安当局に把握されており、計画実行前に組織拠点に踏み込まれ、構成メンバーの殆どが逮捕された。
だが、その混乱に生じてリーダーである天国は逃亡。
潜伏先を転々としながら単独でのテロ強硬を目論む。
しかし、その決断が公安よりも深い闇を動かす事となった。
天国の逃亡生活はあっという間に終了した。
恐るべき迅速さで12か所あった潜伏先は瞬く間に潰され、天国は下水道に設置していた最後の隠れ家にまで追い詰められた。
そして彼の潜む下水道には重火器を装備した特殊部隊と思しき部隊が展開されていた。
今更になって思えば、重火器の使用を前提とした作戦を展開するために目撃者が出ない場所に追い詰めるべくこの隠れ家を最後に残したのだろう。
日本国内でここまで大胆な作戦行動を行える組織があるとは天国ですら思いもよらなかった。
そして下水道を逃げ回っていた所を容赦なく銃撃された。
頭部に銃弾を受けた天国はそのまま下水へと落ちた。
その間際に見た、己を狙撃した男を覚えている。
切れ長の、まるで爬虫類のような冷たい目をした男だった。
頭部に弾丸を喰らい、汚水と糞尿に塗れながらも、それでも天国は生き延びた。
だが、弾丸は手術でも摘出できない脳の深くに食い込み、脳を激しく損傷させた。
そして脳に残留する弾丸は種子のように根を張って、その憎悪を花と咲かせた。
そうなっては正気など保っていられない。
食事中も入浴中も排泄中も睡眠中すらも、何をしていても四六時中憎悪が脳を焼く。
脳に残った弾丸を中心に、己を貶めた日本人を殺せと悲鳴のような叫び声がする。
天国にもテロリズムという手段に訴えかけるに足るそれなりの理想と、それなりの良識があった。
そんな正気など狂気によって焼き切れた。
もはや高潔なテロリストだった物部天国と言う男はいない。
そこに在るのは呪いのように日本人への憎悪を垂れ流すだけの物部天国だった抜け殻に恨みと憎悪と狂気だけを詰め込んだ狂人でしかない。
細く枯れた枝木のような指が征子を指す。
「日本人ょ――――――――呪ゎれょ」
瞬間。
征子の体が爆発した。
■
呪い。
それは言葉によって他者に災禍を与える超自然的な現象である。
災禍の詳細は病気にする。財産を失わせる。果ては死を齎すなど様々だが、共通しているのは対象に対する悪意によって成り立ち不幸をもたらすという点だ。
脳を損傷し日本への憎悪を拗らせた天国は怪しげな呪術に傾倒した。
その信憑性など定かではない黒魔術や血の儀式に手を出した。
果たしてその成果が為ったのか因果関係は不明であるが、天国の覚醒した『異能』は相手を呪う呪詛の類であった。
狂おしいまでの憎悪を向けた「日本人」のみを対象とする、武器を暴発させ相手の自滅を引き出す自業自得の呪い。
相手が強力な武器を持つ者ほど手痛いしっぺ返しを食らう、この世で最も原始的な報復の呪詛であった。
その結果がこの爆発である。
征子が覚醒した『異能』はそれは己が肉体を爆弾として爆発させる力だった。
武器として判定されたこの異能が征子本人の自覚よりも早く呪詛によって強制的に引き出される。
全身を爆弾と化した征子の体が爆発を繰り返す爆発地獄が発生した。
連鎖する爆炎を見届け天国は踵を返す。
背後で繰り返される爆発の結末を振り返ることなくその場を去った。
彼にとっては日本人を一人呪殺したに過ぎない。
取るに足らなない些末事である。
彼の行うべきは日本人の根絶。
1億2000万を殺さねばならぬのに1匹註したところで喜んでいられようか。
天国は進む。
手始めにこの場にいる日本人を全て呪い殺さんがために。
■
黒衣の教祖が去りし後。
爆発は止む様子を見せなかった。
一つ爆発が終わるたびに次の爆発が始まり、断続的に少女の爆発は繰り返される。
連鎖的に続く爆音は鳴りやむことなく、周囲にまき散った炎が草原を燃やしていた。
燃える草葉が風を生み、発生した上昇気流が炎を巻き上げる。
その爆心地に在りながら、革名征子は生きていた。
己が体を爆弾とする『異能』。
爆発はあくまで征子の肉体を起点とするだけで、肉体そのものが爆発してる訳ではない。
いくら爆発しようとも彼女の体が消費されるわけではなく、この異能によって引き起こされた爆発が直接征子を傷つけることもない。
間接的な影響として、こうも爆発を続けられては呼吸は困難となるのだが、爆発自体は一過性の物であり次の爆発までの僅かな隙間を縫えば不可能という程ではない。
影響があるとするなら爆発により持参した装備が使い物にならなくなったことくらいだろう。
異能がいくら爆発しようとも征子は死なない。
征子が生きている限り呪詛によって征子は爆発し続ける。
つまり、天国にかけられた呪いを解くか征子が生命活動を停止するまで彼女は無限に爆発し続けるという事である。
「…………何故です」
だが、それすらも征子にとっては大した問題ではない。
繰り返される爆発よりも、彼女にとって問題だったのはただ一つ。
人生の半分近くの長き時間、待ち望んでいだ同胞との再会がこんな形で終わったことである。
征子にとっては待望でも天国にとって征子は一時を共にしただけのただの人質であり、同志などではなかった。
その事実を受け入れられず、何故という疑問が征子の頭を埋め尽くす。
「何故なのです、同志ぃいいいいいいいい!」
悲痛な叫びは繰り返される爆音に掻き消されて行った。
【D-1/草原/一日目 深夜】
【物部 天国】
[状態]:健康
[道具]:C-4×3
[方針]
基本行動方針:日本人を殺す
1.日本人を殺す
2.日本人を殺す
3.日本人を殺す
【革名 征子】
[状態]:呪詛、無限爆破中
[道具]:AK-12(爆発により損傷、使用不可)、コンバットナイフ(爆発により外面が損傷、使用可能)
[方針]
基本行動方針:同志に従う、従いたかった
1.同志、どうして……
投下終了です
投下します
山折圭介の手にする懐中電灯の光が闇を照らす。
もう片方の手は、体温を感じさせない冷たくなった恋人、日野光の手をしかと握っている。
歩き始めて数十分。まだ誰にも出会ってはいなかった。
「夜の村がこんなに怖いなんて、知らなかったな……」
こんな時間に圭介が出歩くことはめったにない。
山折村には24時間営業のコンビニが存在しないため、中高生たちも必然的に飲食店などが閉まる21時以降の外出は避ける傾向にある。
だからだろうか、慣れ親しんだ村の道がとても恐ろしい。
あの曲がり角を曲がれば誰かが、いや……ゾンビがいるのではないか。
「諒吾やみかげは大丈夫かな……親父も……あ、珠やおじさんとおばさんもだよな、光……」
VH収束唯一の方法である女王感染者を探す、と決めたものの、具体的な方針はない。
特に仲の良い友人である湯川諒吾や上月みかげ、父親、そして光の家族のことを思う。
女王感染者を見つけるのならば、彼らが意識を保っていた場合……
「殺さないといけない……この場合、ゾンビであってくれたほうがいいのか……くそ、何だよそれ……」
ゾンビになってしまっても、適切な治療をすれば後遺症は残るが助かる。
だが正常な人間である、つまり女王感染者の疑いがある場合、殺害せねばならない。
家から持ってきた木刀がやけに重く感じる。
これを人に向けて使ったことはない。
だが十分、人を殺せる武器だ。
「お袋は多分安全だ……」
自分が人を殺す想像を打ち消すように、圭介は自宅に残してきた母のことを思う。
母は両手両足を縛り猿ぐつわを噛ませ、自宅の地下室に押し込んでおいた。
まさか自分の母親にこんなことをする日が来るとは、と少し泣きたくなった。
とにかくあれなら山折家に誰かが侵入しないかぎり見つかることはないはずだ。
――タァァ……ン――
びくりと圭介は体を震わせた。
そう遠くない距離から爆竹が弾けるような音が聞こえた。
「あれは、銃声……!?」
ごくりと圭介はつばを飲んだ。
銃を持っている奴がいる。
木刀なんかで銃に勝てるはずがない。
八柳道場の師範代とかなら別かも知れないが、圭介にそこまでの腕はない。
「ヤクザかな……?」
決して規模の大きくない山折村にはなぜかヤクザがいる。
村の人間が具体的に大きな被害にあっているわけではない。
だが住宅地のすぐ側にヤクザがいることで、村長である父親は随分と村人から突き上げられていたものだ。
子供の頃から決してあいつらには近づくな、と教えられてきた。
銃声は南西、まさに木更津組事務所からだ。
「……今はまだ銃を持ってる奴には会いたくない。光、こっちに行こう」
光の手を引き、銃声から遠ざかる方向へ走る。
いくつかの角を曲がったとき、圭介たちの前に何かが吹き飛んできた。
「うわっ!な、何だ……!?」
圭介は反射的に光を背中に庇い、飛んできたものを体の正面で受け止めた。
それは人間……否、ゾンビだった。
「こ、こいつ……山岡伽耶!?」
もはや意味のない言葉を繰り返すだけのゾンビであったが、その顔には見覚えがあった。
少し前に都会から療養目的で村に来た、圭介より一つ年下の山岡伽耶という美少女であった。
もっとも今の山岡伽耶は、口からよだれを垂らし、目は焦点が合っていない。
何より殴られたらしく鼻血を流し歯が何本も欠けている顔はもはや美少女と呼ぶのは難しい。
「あれえ?きみ、山折圭介くんだよね?村長の息子さんの」
伽耶の吹き飛んできた先から話しかけてきたのは、迷彩色の防護服にガスマスクをした人物だった。
特殊部隊員、広川成太。
圭介たちに向かって散歩するように無造作に歩いてくる。
「不思議だねえ。きみはそのゾンビには襲われないのかな?」
圭介が受け止めた伽耶はゾンビであり、ゾンビであるならば圭介には逆らえない。
言葉に出さずとも接触していれば命令は有効なのか、反射的に自身と光の身の安全を考えた圭介に伽耶は襲いかかってこない。
広川の後ろには何体かのゾンビが倒れている。
「なるほど、それが君の『異能』なんだね」
「あ、あんたは誰だ!?」
圭介も見たことがない男。
何よりその軍人のような格好から、村民ではなく旅行者でもないことは明らかだ。
「うーん、答えてあげてもいいんだけど……いややっぱダメだな。異能持ち相手に油断はできない」
広川はあっさりと言って、腰の後ろから取り出した拳銃を圭介に向けて、発砲しようとした。
しかしその前に、圭介は叫んでいた。
「……山岡!『あいつに突っ込め』!」
その命令は広川が引き金を引くより一瞬早い。
バネ仕掛けのように飛び上がった山岡伽耶が両手を広げて広川に突進した。
その速度は陸上オリンピック選手並みに速い。
ゾンビとなって肉体のリミッターが外れた上に、圭介によって指向性のある命令を与えられたゾンビは野放しの状態とは別次元の運動能力を発揮した。
代償に肉体は反動で傷つくが、ゾンビには無意味。
「おっと!速いな!」
伽耶は一瞬で広川の目前まで迫る。
こうなると射線は伽耶に遮られてしまうため、広川は瞬時にバックステップ。
「おまえら!『そいつを捕まえろ!』」
圭介の命令が飛ぶ。
広川が一度打ち倒した六人のゾンビが立ち上がり、一斉に広川に向けて走り出す。
光がそこに加わらなかったのは、圭介がしっかりと手を握っていたからだ。
「あらら、やっぱ頭を潰しとかなきゃダメだったか!」
どのゾンビも伽耶と同じく通常より速い。
圭介の異能はゾンビの数が増えるほど精度は落ちていくが、単純な命令であれば問題はない。
動き回る広川を『捕まえる』ためにゾンビたちが殺到していく。
近づくにつれ、圭介にもそのゾンビたちの顔が判別できていく。
「あれは山岡とよく一緒にいた奴らか……?」
鈴木冬美、鈴木夏生、桐野七海、水沼俊雄、三上優也、範沢勇鬼。
山岡伽耶の使用人たち。
名前は知っているが圭介とは同じ高校である以外特に交流のない水沼俊雄。
親父から危ない奴だから近寄るなと警告されていた、村外れの一軒家に住む……名前は知らないが巨漢の男。
もう一人小柄な男がいたが、名前は知らない。
どういう理由だかわからないが、彼らはVH発生時は一箇所に固まっていたのだ。
そして全員がゾンビ化し、広川に襲いかかってあしらわれたのだろうと圭介は推測した。
「こいつはピンチ……!ああ、燃えてきたぜ!」
今度はあしらうとはいかない窮地において広川は笑う。
ゾンビに囲まれ、一人奮闘する男。
そのシチュエーションは広川の自尊心を刺激する。
通常の任務ではそんな面を見せることはないが、これではまるで映画のような状況だ。
そして同僚が誰も見ていないとなれば、少しハイになろうとも仕方がないではないか。
「俺は負けない!魂のないお前たちになど決して……!」
七人のゾンビの手足が広川を捕まえようと乱舞するが、広川にはかすりもしない。
いくら肉体のリミッターが外れようと、ゾンビたちの動き自体は素人である。
特殊部隊として研鑽を積んだ広川にしてみれば、多少難易度が高いだけの鬼ごっこに等しい。
伸ばされた手を掴み、一瞬で背後に回り、首を抱え込む。
――ゴキリ――
骨を折る生々しい音が圭介にも聞こえた。
山岡伽耶の首がへし折れ、だらりとぶら下がる……が。
「そこは死んどきなよ、人としてさ」
一瞬で冷め、呆れたように言う広川。
首を折られた伽耶はそれでもなお活動を止めず、手足を振り回して広川を捕らえようとしている。
「やっぱこうするしかないか」
拳銃の代わりにサバイバルナイフを抜く広川。
ナイフというが、サバイバル時には斧のように木を断つことにも使われる大型のものである。
刃渡りの短い刀とでも言うべきそれが一閃すると、伽耶の首はぽとりと落ちた。
「ヒッ……!」
「おいおい、きみがこの子をけしかけたんだろ?そんな顔するなよ」
山岡伽耶の首は胴から切り離された、つまり死んだ。
もう助からない。
VHが解決しても、もう生き返りはしない。
「おェェェッ……!」
圭介はその場に両手をつき、嘔吐した。
女王感染者を殺す、そのつもりだった。
だがこうして実際に目の前で人が死ぬ瞬間を……殺される瞬間を見ると、覚悟なんて吹き飛んでしまう。
「おやおや。頼むよ、ゾンビを操る悪の親玉がそれじゃ締まらないだろ?」
醜態を晒す圭介を侮蔑するように見下ろして、広川は淡々と残ったゾンビを始末にかかる。
ナイフが振り抜かれるたび、ゾンビたちの手足がボールのように切り飛ばされていく。
水沼俊雄の首が宙を舞ったとき、胃の中の物を全部吐き終えた圭介はようやく立ち上がり、ふらふらと光の手を引いて逃げ出そうとする。
――タァン――
圭介の足元でアスファルトが弾ける。
振り向けば、ゾンビたちを切り刻みながら広川が片手で拳銃を抜いて撃ってきていた。
さすがに動きながらでは狙いが定まってはいないが、その眼光は圭介を射すくめるには十分だ。
「逃がさないよ。俺の仕事はきみみたいな奴らを狩ることなんだ」
ついさっき『殺す気になった』だけの自分とは違う。
日常的に『殺してきた』ものの目。
殺意の純度が違う。
「う……あ……」
逃げられない。
木刀など何の役にも立たない。
自分も光も、こいつに殺される……!
震え、立ちすくむ圭介の様子に完全に心を折ったと判断し、広川はゾンビたちの殲滅に本腰を入れる。
すべてのゾンビの首が刎ねられるまで数十秒も必要ない。
圭介の目の前で、一際大きな巨漢ゾンビが広川に蹴り飛ばされた。
巨漢の首は太く、戦闘中にナイフで切り落とすのはさすがの広川とて無理があるため、後回しにしたのだ。
100キロを超える筋肉の塊は住宅の門扉を軽々吹っ飛ばした。
「た、立て!休むな、畳み掛けろ!」
「ゴアアアアア!」
圭介の檄に巨漢はすぐさま熊のような雄叫びを上げるが、門の割れた鉄棒が背中に刺さったため、中々立ち上がれない。
だが、立ち上がったところで、この巨漢ゾンビでさえ広川には勝てない。
ゾンビを操るだけでは、広川には勝てない。
圭介と光はここで死ぬのだ……
「……光」
絶望に呑まれかけた圭介は、光を見た。
光は何も言わない。
ただ圭介の目を見つめ返すだけだ。
その冷たい瞳が、しかし、圭介を奮い立たせた。
「やらせねえ……光だけは絶対に……守る……!」
光から勇気をもらった。
恋人が見ている前で、これ以上情けない姿を晒す訳にはいかない。
圭介は手を伸ばし、その『光』を、掴み取った。
「……デカゾンビ!これであいつの防護服を引っ掛けて破れ!」
圭介は巨漢ゾンビの腰に刺さった鉄棒を引き抜くと、折れて先の尖ったそれを持たせて突っ込ませた。
あんな物々しいマスクや防護服を着用しているのなら、山折村に蔓延するウイルスを警戒しているに違いない。
ならば防護服に穴が空くことを嫌うはずだ、圭介はそう読んだ。
「ちっ、遊びは終わりだ!」
一方、圭介が広川の弱点を見破ったことで、広川としてももう手を抜くことはできなくなった。
圭介の読んだ通り、防護服に僅かでも穴が開けば広川もたちまちウイルスに感染する。
ウイルスに適応すれば異能に目覚めるかもしれないが、同僚のSSOGに狩られる。
適応しなければゾンビになる。
どちらも御免だ。
残るゾンビは巨漢の他に二体、計三体。
余裕で捌ききれる。
「ゴオオオオ!」
二体のゾンビの首を落とし、最後の巨漢ゾンビを余裕を持って迎え撃つ。
野良ゾンビと違い武器を持たされているが、しょせんはゾンビ。
巨漢ゾンビが尖った鉄棒を振りかざす。
「見え見えなんだよ!
巨漢ゾンビの攻撃は予備動作が大きい。
振り下ろしをサイドステップでかわし、がら空きになった首にナイフを叩き込み、山折圭介を射殺してザ・エンドってね。
「えっ」
そう目論んだ広川のナイフを持つ腕は、巨漢ゾンビの掌にガッチリと掴まれていた。
「な、何がアアアアアア!?」
ベキッ、と枯れ木をへし折るように、巨漢ゾンビは広川の片腕を握り潰した。
リミッターのない巨漢ゾンビの握力は人間など比較にならない。
広川は痛みに絶叫しながらも、もう片方の手で巨漢ゾンビの頭に拳銃を突きつけ全弾を発砲した。
頭を打ち砕かれながらも、巨漢ゾンビは広川から手を離さない……逃がさない。
硬直した筋肉は脳からの命令なくとも緩まることはない。
「離せ!このくたばり損ないが!」
「無駄だよ。そいつには死んでもあんたを逃がすなって……腕が壊れても握り締めろって命令してある」
だらだらと脂汗を流す広川の前に圭介が立つ。
その手は光……そして『光』を握り締めている。
「ま、待て山折圭介くん……落ち着け。そうだ、話し合おうじゃないか」
「俺の『異能』……イメージを強く思い描ければ、ある程度ゾンビにその動きをトレースさせることもできるみたいだ」
圭介は村の剣道場で指南を受けたことがある。
師範代や弟子ら達人には及ばないまでも、それなりの剣の心得がある。
だから、大上段から大振りな動作で振り下ろされる剣の捌き方も知っている。
多少武道の心得があればこうする、という動きを予測できる。
圭介は巨漢ゾンビにあえて読みやすい動きをさせ、広川の対応を読み、さらにその先の動きも仕込んだ。
それが、首を狙ってくるナイフを受け止めること。
大雑把にゾンビを突っ込ませるだけで精密な命令などできやしないと高をくくった広川の予想を越えたのだ。
手を伸ばすように自然に、できる、と思えた。
もしかしたらこの力は生まれた時からあったんじゃないか、そう錯覚するほど自然に。
「そのゾンビは死んでも手を離さない。まあゾンビだからもう死んでるか……」
「圭介くん、誤解なんだ。俺はこいつらに襲われて、きみが命令したのかって勘違いしてしまってね?だから俺にきみへの敵意はないんだ」
ヒーローらしからぬ、何よりプロフェッショナルらしからぬことをべらべらと並べ立てる広川。
広川の視線は圭介が左手にぶら下げているものに注がれていた。
「これ、そこの門の裏に隠してあったんだ。困るよな、人の村にこんな物騒なもんをさ」
一方圭介は、心臓は破裂しそうなほどうるさいのに頭は不気味なほど冴えていくのを感じていた。
右手に握った光の手は冷たい。
左手に握った『光』も冷たい。
「そんな物騒なもの捨てなさい。第一、使い方なんて知らないだろ?」
「ダネルMGLっていうんだろ。わかりやすい説明書もついてたよ」
ダネルMGL、連発が可能な擲弾発射器、要するに携行型の連発式グレネードランチャーである。
ある武器ブローカーが村中に隠した武器を、この局面で圭介は手に入れた。
そいつ自身は武器の扱いに長けているわけではないようで、取扱説明書は絵付き。
予備弾の装填などはともかく、少なくとも箱から取り出してすぐ撃てる程度にはわかりやすかった。
淡々とセーフティを解除する圭介を見て、広川はゴクリとつばを飲む。
素人でもプロを殺せる武器だ。
そして、圭介が広川に向ける目は、殺意に満ちていた。
「待ってくれ!きみ、そいつを俺に撃てばきみは人殺しだぞ!いいのか!?」
「どのみち女王だって殺さなきゃいけないんだ。あんたで練習させてもらうよ」
「俺は役に立つ!そうだ、情報を提供するよ!誰が女王かも俺は知っているぞ!」
「そうなのか。でも俺はあんたを信用したくないから、あんたを殺してから探すことにするよ」
命乞いの言葉は虚しく通り過ぎる。
広川がゾンビたちを切り刻んでいたとき、楽しんでいたことを圭介は忘れていない。
こいつの言葉は何一つ信用に値しない。
たとえ真実であったとして、少しでも広川を自由にすればたちまち逆襲してくるだろう。
殺せるとき、すなわち今、殺す。
それが自身と、何より光を守る最適な選択だからだ。
「い、嫌だ!俺はヒーロー、ヒーローのはずだ!こんなクソ田舎で死にたくない!」
「クソ田舎で悪かったな。こんな村でも俺たちの村だ!」
「や、やめ……!」
光から手を離し、圭介は腰を落として擲弾砲を構えた。
引き金を引けば弾は発射され、広川を焼き尽くし……殺す。
張り裂けるほど目を見開きいやいやと首を振る、哀れな広川に向かって。
「俺の村から出て行けよ、クソヒーロー!!」
「……このナイフは使える、銃はもうだめだな」
戦いが終わって数分、動くものはもう圭介と光だけ。
ゾンビたちは全滅した。
大半が広川の手により首や手足を切り落とされ、さらに圭介が放ったグレネード弾により原型を留めていない。
血に濡れたナイフだけ回収し、圭介はその場を離れた。
「……先に襲ってきたのはあいつだ。正当防衛だろ」
物言わぬ光に言い訳するように独り言がこぼれる。
生き延び、光を守ることができた。
その代償に、圭介の手は汚れてしまった。
それでも圭介はこの戦いで得たものがあると思った。
「ゾンビたちは……武器になる」
山岡伽耶、鈴木冬美、鈴木夏生、桐野七海、水沼俊雄、三上優也、範沢勇鬼。
全員を知っているわけではないが、これら七名は紛れもなく圭介の命令で戦い、そして死んだ。
圭介は彼らと縁浅いがゆえ、決断も軽くできたと言える。
今後父親や友人に出会ったとき、広川と同じように命令し、あるいは引き金を引けるか、それはまだわからない。
わからないが……戦い方だけはわかった。
ゾンビは無数にいる。
圭介にとっての『弾丸』あるいは『盾』は、いくらでも。
顔も名前も知っている誰かでさえも。
「俺は……死なない。光を守るんだ……俺が……!」
ずっしりと重い重火器の重み、人の命を奪った重み、これから奪う命の重み。
そんな重さを、光の手の冷たさだけが忘れさせてくれた。
【広川成太 死亡】
【山岡伽耶(ゾンビ) 死亡】
【鈴木冬美(ゾンビ) 死亡】
【鈴木夏生(ゾンビ) 死亡】
【桐野七海(ゾンビ) 死亡】
【水沼俊雄(ゾンビ) 死亡】
【三上優也(ゾンビ) 死亡】
【範沢勇鬼(ゾンビ) 死亡】
【B-3/高級住宅街/一日目・黎明】
【山折 圭介】
[状態]:健康
[道具]:木刀、懐中電灯、ダネルMGL(5/6)+予備弾6発、サバイバルナイフ
[方針]
基本.VHを解決して光を取り戻す
1.女王を探す(方法は分からない)
2.正気を保った人間を殺す
3:でも親父や友達、珠は……?
※異能によって操った光ゾンビを引き連れています
※広川の拳銃はグレネード弾によって破壊されました。
投下終了です
投下乙です
>Danger Zone
圭介くんのゾンビポケモンバトル、物量と精密操作を切り替えられるのは便利で思ったより強力
ゾンビとはいえ大量の命を消費する外道戦術なんだけど守りたいモノのために圭介くんは未熟だった覚悟を固めたね
そして特殊部隊初の脱落者が。広川くんヒーローである自分に酔っていて精神的に未熟、自分が殺されるかもという覚悟が足りなかった
投下します。
――――――君は……そうか、まだ、生きている、人間が……。
――――――私は、田宮……。この、診療所の、院長であり、この事態を起こしてしまった人間の一人……だ……。
――――――……氷月、海衣君か。謝って、すむ、問題ではないが、君達の、故郷を、こんな風に、してしまって、すまない。
――――――……私は、あくまで、未来人類、発展研究所、の、末端の、人間に、過ぎない。だから、真実は、何も知らないんだ。
――――――もうじき……君達正常感染者を、隠滅すべく……政府の、特殊部隊が、この、診療所にも……。
――――――これは、この診療所の、マスター、キー、と、院内の、地図、だ。これを、使って、診療所から……。
――――――……そうか。君は……。いや、私に君を、止める資格は、ない。これも、持っていきなさい……。
――――――私は……君とは違い、ウイルスに、適合、できなかった。もう、じき、他の患者たちのように……。
――――――逃げ……か……。君の怒りは、尤もだ。だが、この方法でしか、自分の、後始末は、できそうにない……。
――――――氷月君……。私に、いう資格はないと思うが、どうか、生き延びることだけを……考えてくれ……。
――――――ワたシに、残されたじカんは、もう、少ナい。行きナさイ、氷月君。
――――――……スまなイ、氷月君……。
バタン……。
カチャ、バンッ!
◆
山折村西部に位置する診療所『山折総合診療所』。
山々に囲まれた自然豊かな環境の中で最新鋭の設備や医療技術を患者に提供する、限界集落にありながら県内でも有数の医療施設である。
それ故に建物自体の耐震性も高く、震度7という大地震が直撃しても物の落下などの軽微な影響で済み、入院患者にはほとんど悪影響はなかった。
しかし―――――。
◆
山折総合診療所本館三階。
月明かりが照らす廊下を白い入院着を身に纏った黒髪の少女が涙を滲ませて裸足のまま走っていた。
彼女の名は一色洋子。緩和ケア病棟にて自らの最期を待つばかりの少女だった。
しかし地震発生から僅かばかりの時間の後、病弱であった彼女は『普通の人』と同じようになっていた。
今までぼやけて見えていた景色が鮮明に映り、空気も今まで以上に暖かく感じる。
洋子は歓喜した。何故、今まで抱えていた難病が完治したのかは分からない。だが現に、彼女は『普通の人』と同じになれたのだ。
彼女の夢。恋焦がれる兄――九条和雄の優しい声で目を覚まし、一緒に学校に通い、夜は彼に優しく抱きしめられて眠る。
叶うことのないと諦めていた夢が叶う。洋子はその事実に涙を流して喜んだ。
だが、その喜びは一瞬で消える。
ぐちゃぐちゃと肉か何かを咀嚼する音。静まり返った病室に響く鮮明な音が『正常』になった鼓膜に届く。
不可思議に思い、視線を横に向ける。そこには一心不乱に人肉を貪り喰らう母親であった怪物――ゾンビがいた。
洋子は絶叫し、病室から飛び出した。だが、廊下にも病室と同じ地獄が広がっていた。
夢だ、と思いたかった。しかし、肌から感じる風も、足の裏から感じる廊下の冷たさも、あちこちで聞こえる呻き声も。走った時の息苦しさも。
全て現実だと洋子に残酷に突き付けていた。
(お母さん……どうして……。お兄ちゃん……)
胸を刺す深い悲しみ。そして今日お見舞いに来るのを楽しみに待っていた最愛の人。
母は怪物になってしまった。兄も自分と同じように巻き込まれてしまったのだろうか。それとも―――。
(―――ダメッ!何も考えちゃダメ……!)
心の痛みと背後からの脅威から逃れようと疾走し、ある部屋の前を通り過ぎようとした刹那―――。
洋子の服を何かが引っ張り、部屋へと引き摺り込んだ。
「ひぃ……ンぐ……んーーー!!」
恐怖のあまり絶叫しようとする洋子の口を白く綺麗な手が塞いだ。
強張った表情のまま、洋子は視線を上に向ける。
「……静かに」
視線が交差する。
月光の薄明りのみを光源として瞳に映し出されたものは、唇の中央に一本指を添えた見目麗しい少女の顔であった。
少女は洋子が落ち着くのを確認すると口から手を放し、洋子を正面に向かせて「大丈夫だよ」と小声で言い聞かせた。
直後、すぐ隣の部屋からアラーム音がけたたましく鳴り響いた。
「……ゾンビ達は大きな音に引き付けられる習性があるみたい。少し経ったら、部屋を出よう」
◆
「あの……わたしは一色洋子です。ええと……」
「氷月海衣」
「氷月、さん。助けてくれて……ありがとうございます」
「別にいい」
部屋の前で群がるゾンビ達を背後に、洋子はブレザー姿の長い黒髪の美しい少女――氷月海衣に手を引かれて歩く。
洋子の海衣に対する印象は決して悪いものではない。助けてくれた上こちらの体調を気遣って歩幅を合わせてくれている。
「……氷月さんは誰かのお見舞いでここに来たんですか?」
「……父親が両足を骨折したからリハビリの手伝いに。だけどゾンビになった」
「あ……すみません」
「別に構わない。事実だから」
こちらの無神経な質問にもちゃんと返答してくれている。それでいて怒ったりもしない。
しかし状況のせいなのかも知れないが、会話を早々に切り上げてしまうため、素っ気ないと感じてしまう。
悪い人ではないと思いつつも、取っ付き難い冷たい人という苦手意識を持ってしまっている。
「あの……わたしにできることがあったら……」
「今は特に何も求めていない。君は自分のことだけを考えて」
「…………はい」
突き放すような言い草に何も言えず、下を向く。
まるで自分を邪魔者扱いするような言葉。洋子の瞳にみるみる涙が溢れ、雫を落とす。
ふと、ある部屋の海衣の足が止まる。
何か自分のせいで彼女の気を悪くしたのか不安になり、海衣の顔を見上げる。
「あの……何か……」
「洋子ちゃん、ちょっと待って」
海衣はスクールバッグから鍵束を取り出し、ドアを開けて中へ入る。
さほど時間がかからないうちに彼女は部屋から出てくる。その手には子供用の踝まで覆うタイプの白いルームシューズ。
「これ、履いて。裸足だと冷たいでしょ」
「……はい」
「それから、これ」
海衣がスクールバッグから取り出したものは小型の懐中電灯。それを洋子に手渡した。
「これで階段を降りる時、明るくしてくれる?転ぶと危ないから」
「……はいっ!」
「あまり大きい声出さない」
◆
診療所本館二階の中央階段前。
懐中電灯が照らすその先には、医療関係者や入院患者、そしてその家族と思わしきゾンビ達が密集していた。
「これは、一階に降りられそうにないね」
「そう……ですね」
懐中電灯を消し、ゾンビ達に気づかれぬように二人はその場を後にする。
「……氷月さん、これからどうします?」
「……洋子ちゃん。私が言ったこと、覚えてる?」
教師が生徒に問うような口調で海衣は問いかける。こちらを責めているような様子は微塵もない。
「ええと…確か、大きな音に反応する……でしたよね」
「そう。正解」
ほんの僅かだけ微笑みかけ、スクールバックの中を見せる。
懐中電灯で中を照らすとそこには複数のスマートフォンと防犯ブザー、そして鍵束と何かの紙切れがあった。
「これ全部、氷月さんのものなんですか?」
「違うよ。防犯ブザーは自前のだけど、スマホは君と会う前……一人でゾンビ達から逃げ回っているときに回収した」
「じゃあ、さっきのアラーム音の正体は……」
「お察しの通り。ゾンビから逃げるために設置したものだよ。私のスマホも別の場所にタイマーを設定して置いてある」
「そうなんですね。じゃあ、この鍵束と紙は?」
「これは……病院のマスターキー。紙切れはこの病院の地図。詳しいことはここから脱出したときに話すよ」
◆
中央階段から離れた場所にある病室を出て、海衣は鍵を閉める。
「アラームセット完了……ですね」
「そうだね。小型スピーカーを見つけるとはお手柄だよ、洋子ちゃん」
「そんな、わたしは偶然見つけただけで……」
白く綺麗な手が洋子の髪を撫でる。両親や兄とは違う、こそばゆい不思議な感覚。
自分を助けてくれた海衣の役に立てた。その事実がとても嬉しく感じる。
「これからどうします?」
「アラームが起動するまでに階段近くの部屋まで移動して待……機……」
真下からぐちゃり、ぐちゃりと何かを砕く音が聞こえたと同時に海衣の言葉が止まる。
何事かと洋子は彼女の顔を見上げる。
「あの……氷月さん。一体――」
「―――洋子ちゃん、ヤバい。特殊部隊員が私達を殺しにきた」
今までにないほど顔を強張らせた海衣が困惑する洋子の手を引き、すぐ隣の部屋へと滑り込むように入り、鍵をかけた。
部屋には病院の荷物や白衣がロッカーに詰め込まれている、病院関係者のロッカールームだった。
状況が読み込めていない洋子に人差し指を口に当てるジェスチャーをした後、海衣は小声で話し始める。
「洋子ちゃん、ノイズ交じりの放送覚えてる?」
「ごめんなさい、ちゃんと聞けてなかったです」
「そっか。詳しい説明は後でする。下で暴れまわっているのはゾンビ達を殺すために政府から派遣された特殊部隊員」
「な……何でそんな人達がわたし達をこ、殺すだなん―――」
「詳しい話は後」
ぴしゃりと疑問をはねつけ、海衣は最奥のロッカーへと洋子を抱き込むような形で中に隠れる。
何故、特殊部隊員だと分かったのだろうか?ゾンビを倒すのなら何故、そこまでその人達を危険視するのか?
洋子の頭にはいくつもの疑問が浮かび上がる。しかし、それらはすぐに消える。
人体を破壊する音が何度も闇の中で響き、唐突に止まる。直後、コツコツと階段を上る靴音が聞こえた。
足音が止まる。そして――――
「―――――ぅ……ぁ……」
侵入者はまだ遠くにいるはずなのに。こちらの存在を察知していないはずなのに。
心臓を鷲掴みにされたような感覚。極寒の地に放り込まれたように肌が粟立つ。細胞一つ一つが危険信号を発する。
それは洋子が今まで無縁だと思っていた感覚―――殺気。
足音が廊下に響く度に竦み上がり、悲鳴が漏れそうになるが、海衣の手が洋子の口を塞いでくれたお陰で声を出さずに済んだ。
このまま自分達に気づかずに通り過ぎてほしい。洋子は心の底から祈った。だが―――
小型の重機でドアを破壊したような轟音。同じ人間が出したとは思えない音が、鼓膜を揺らす。
洋子は本能で理解する。侵入者は間違いなく、自分達を殺すつもりなのだと。
もし自分ひとりで隠れていたのであれば悲鳴を上げてしまい、侵入者の餌食になっていたのだろう。
しかし、すぐそばには自分を助けてくれた存在、氷月海衣がいる。
彼女の掌のひんやりとした体温だけが、自分の正気を保たせてくれた。
徐々に破壊音が、自分達のいるロッカールームへ近づいてくる。
足音が止まる。洋子の息が止まる。
直後、隣の部屋からスピーカーによって増幅されたアラーム音が鳴り響いた。
再び侵入者の足音が廊下に鳴り響く。安堵の息を漏らし、洋子は急いでロッカーから出ようとする。
「……駄目。まだ奴はこの近くに」
海衣の言葉のすぐ後。破壊音が響く。そして何かを砕く音が地を揺らす。
数秒後、再び足音がロッカールームの前で止まる。そして―――。
轟音。人外の膂力で生み出された破壊。耳を劈くような風が、禍々しい殺気が、洋子の肌を突き刺す。
立っていられず、海衣の腕を掴む。再び感じる海衣の体温。その時感じる腕の僅かな震え。
(……氷月さんも、怖いんだ……)
気丈に振る舞っていた彼女も自分と同じ子供なんだ。その事実が洋子に親近感と不安を抱かせた。
「正常感染者(ゴミ)共は、どこにいる?」
闇に響く女の声。美しい声であるのに、地獄の底から響くような悍ましさを感じる。
震えを抑えるように洋子が海衣の身体に抱きつく。海衣もまたそれに答えるように洋子を抱きしめ返す。そして―――。
『ザザ……い……い……。ひ……さ……。ガガガ……わた……ち……ピー…』
『ガガ……ピー……え……こ……く……ザザ……ごめ……い……づ……ん……こ……よ…ガガガ、ピー』
ロッカールームのスピーカーからノイズ交じりの誰かの声が響く。
「そこにいたのかぁ、正常感染者(ゴミ)が。場所を知らせてくれてありがとよぉ!!」
獲物を前に舌なめずりする獣に似た、残虐さを滲ませた喜悦の声。
突き刺すような殺気が、重々しい足音と共に遠ざかっていく。
「……行き……ましたか……?」
「うん、行ったみたい」
「じゃあ、もう―――」
「まだ駄目」
ロッカーから出ようとする洋子を海衣は制する。
それから数十分後、スピーカーから破壊音が発せられる。
「氷月さ―――」
「今がチャンス。洋子ちゃん、急いで出るよ」
◆
リハビリ病棟一階放送室。
『イエーイ♪氷月さん聞こえる〜?私達クラスの皆とカラオケに行ってま〜す♪』
『ちょっと、ええ……?ごめんなさい、氷月さん。もし今度良かったら、茜さんだけとでも一緒に遊んで』
「ふざげやがってええええええ!!!」
防護服を身に纏った女が、床にスマートフォンを叩きつける。
スマートフォンから煙が発生する。それでも文字通り壊れた機械のように音声がリピート再生され続ける。
彼女の怒りは更に増し、診療所内で拾った武器―――スレッジハンマーでスマートフォンを粉々に粉砕した。
それでも怒りは収まらず、ハンマーを振り回して放送室内の設備を破壊し尽くす。
程なくして冷静さをある程度取り戻したが、女の怒りはまだ収まらない。
怒りの矛先は破壊したスマートフォンの持ち主。己を姑息な罠に嵌めた小娘、氷月海衣。
(糞餓鬼が……舐め腐りやがって……!)
いつものように懐から煙草を取り出そうとするが、防護服を身に纏っていることを思い出し、吸えないことに苛立ちを募らせる。
(いいぜ、そっちがその気なら乗ってやる。氷月海衣、てめえを発見次第ぶっ殺してやる!!)
女の名は美羽風雅。
政府により肉体の大半を機械に改造された半サイボーク。
日本政府に飼われる『狂犬』。そして秩序の具現者たる大田原源一郎に次ぐ実力を誇る『暴力装置』。
【E-2/診療所リハビリ病棟1F 放送室/1日目・深夜】
【美羽 風雅】
[状態]:健康、怒り(大)、苛立ち(大)、氷月海衣に対する殺意(大)
[道具]:防護服、拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフ、スレッジハンマー
[方針]
基本.正常感染者の殲滅
1.診療所内にいる正常感染者を殲滅する。
2.まだ院内にいるはずの氷月海衣は探し出して殺す。ただし任務に支障はきたさないよう注意する。
3.煙草が吸いてェ……。
※放送設備及び氷月海衣のスマートフォンが破壊されました。
◆
同行者の小さな手を引きながら、海衣は廊下を駆ける。
「氷月さん、あの……放送室の人達は……?」
「大丈夫。あれは私のスマホの動画データだから」
洋子を安心させるようにできる限り優しい声で返答する。
ほっと彼女の安堵する息が聞こえる。この状況下でも他人を気遣える優しい子だと感じた。
(朝顔さんに嶽草君。不本意だけれど助かったよ)
ここにはいない、よく絡んでくる二人のクラスメート―――朝顔茜と嶽草優夜の顔を思い出す。
休み時間によく話しかけてくる二人は正直鬱陶しいと思ってはいたものの、不快には微塵も感じていなかった。。
つい先日、動画データを送ってきたのもきっと善意なのだろう。だからこそ尚更質が悪いと感じるが。
だが、無意識のうちに二人の無事を祈る自分がいた。自分が思う以上に二人の存在が大きくなっていたらしい。
――――――納得できません。私が、私達がそんな勝手な陰謀に巻き込まれるなんて。
――――――何も知らずに生き延びるだなんて私自身が許せません。どれだけ時間がかかっても、いつか真実に辿り着いて見せます。
――――――逃げるんですか。責任も取らずに。卑怯です。
――――――……分かりました。田宮院長、どうか安らかに。
つい数時間前の、田宮院長との最後のやり取りが遠い昔の出来事のように感じる。
放送の内容や田宮院長の言葉通りなら、このVHは人為的に引き起こされたものらしい。
何も知らずに、ただ女王感染者が殺されるのを震えて待つ?そんなことできるはずがない。
何故山折村が、何故自分達がモルモットになったのか。真相を知るまで死ぬ訳にはいかない。それは怒りに任せた衝動のようなもの。
「洋子ちゃん。これから私も君も、危険な目にたくさん合うかもしれない。怪我をするかもしれない」
「……はい」
「でもそれはこの地獄で生き延びるために必要になること。だから、最低限の覚悟はしておいて」
「……分かりました。氷月さんについて行きます」
「よろしい」
小さくも力強い洋子の声。幼くも勇気のある彼女に元気をもらった気がした。
スカートのポケットには用途不明のカードキー。田宮院長から最後に託されたものだ。
それをこっそりと握りしめる。
深夜の病棟。
一人は想い人に再会するために。
一人は真相を解き明かすために。
少女達の夜回りは続く。
【E-1/診療所本館2F/1日目・深夜】
【氷月 海衣】
[状態]:精神疲労(小)、決意
[道具]:スマートフォン×5、防犯ブザー、スクールバッグ、診療所のマスターキー、謎のカードキー、院内の地図、
[方針]
基本.VHから生還し、真実に辿り着く
1.何故VHが起こったのか、真相を知りたい。
2.特殊部隊員(美羽風雅)から逃げ切り、診療所から脱出する。
3.女王感染者への対応は保留。
4.朝顔さんと嶽草君が心配。
※自分の異能に気づいていません。
※生前の田宮高廣から用途不明のカードキーを渡されました。
【一色 洋子】
[状態]:疲労(小)、精神疲労(中)、精神的ショック(中)
[道具]:小型懐中電灯
[方針]
基本.生きてもう一度お兄ちゃんに会いたい
1.氷月さんについて行く。
2.お兄ちゃん(九条和雄)が心配。
3.お母さん……。
※自分の異能に気づいていません。
※放送を聞いていません。
※兄(九条和雄)もVHに巻き込まれたと思っています。
投下終了です。
投下乙です
>深夜病棟廻
海衣さん、院長に重要っぽいアイテムを託されて一気に重要ポジに、なかなか機転も効くし良識もある、山折村の村人にしておくには惜しい逸材
洋子ちゃんは兄の遺言と形見を持つ斎藤さんと合流出来ればいいんだけど、本人は病弱だったこともあり海衣さんに頼り切りだけど強く生きてほしい
そして元暴走族と言う事もあるだろうけどやはり特殊部隊員の治安も悪い、サイボーグであり大田原に次ぐ実力は参加者にとってかなりの脅威ですね
投下します
それはマンションのような巨大な船だった。
船舶とは本来、広大な海を渡る移動手段として生み出されたモノである。
だがそれは移動手段ではなくレジャーを目的として生み出されたクルーズ船であった。
華やかで美しい豪華絢爛なデザインはまるで芸術品のようであり、その雄大さは人々の心を圧倒して已まないだろう。
海上の雄大な景色を堪能しながらレストランで世界各国の豪華な食事に舌鼓を打ち。
遊覧しながらカジノやオペラと言ったエンタテイメントを楽しめる総合娯楽施設である。
果てにはテニスやフットサルなどと言ったスポーツ施設まで完備されていた。
正しく一つの街を詰め込んだような豪華客船である。
宿泊施設となる船室は一般客船からスイートルームまで様々な部屋が完備されおり。
中でもVIPルームは一流ホテル以上の豪華で広々とした空間が提供されており、各国の要人御用達となっていた。
そんな豪華客船の社交場に、ひと際目を引く一凛の薔薇があった。
日に焼けた健康的な肌に鍛え上げられたスラリとしたスタイル。
短く切りそろえられた髪は中性的な彼女によく似合っていた。
肩のざっくりと開いた薔薇のような深紅のドレスは女のエキゾチックな魅力を引き出していた。
その薔薇の名は黒木真珠。日本の特殊部隊に所属する自衛隊員である。
無論、彼女がこの豪華客船に乗り込んでいるのはプライベートではなく任務のためである、秘密部隊は生憎そこまでの高給取りではない。
各国の要人たちが集まる豪華客船への潜入作戦。
にこやかな笑顔で男たちの誘いを断りながら、真珠は給仕から受け取ったマリンブルーのカクテルを片手に標的を確認する。
彼女に課せられた任務はA国とB国の間で秘密裏に取り交わされた軍事開発に関する機密文書の入手だった。
その文書を保有している標的であるA国の外交官に向かって真珠は近づき親しげに声をかけた。
「ごきげんようミスター」
素早く周囲の警護が遮るように壁になったが、その動きを男が制した。
「こんにちはレディ。私に何かご用かな?」
彼は人の良さそうな穏やかな笑みを浮かべて真珠を見つめた。
実に外交官らしい温和で人の好さげなつくり笑顔である。
「ええ。あなたに渡したいものがありまして」
そう言って後ろ手にドレスのポケットに手をかける。
その動きにいち早く反応した警護が真珠の手首をつかみ捻り上げた。
「きゃ………………!」
逆の手に持っていたカクテルが零れ、深紅のドレスを汚す。
警護に取り押さえられた真珠の手に握られていたモノが落ちる。
「……えっと、カフスボタンを落とされたのではないかと」
紅い絨毯の上に転がったのは銀色のカフスボタンだった。
外交官の男が自分のスーツの手首を確認する。
だが、そこにはカフスボタンが付いていた。
「警護の者が失礼をしました。しかし、わざわざ届けて頂いて申し訳ないのだが、同じデザインのようだがどうやら私のモノではない様だ」
「そのようね」
さっと男が合図すると、警護が真珠から離れる。
解放された真珠は自分のドジに苦笑するように手首を擦りながら立ち上がった。
「ケガはないかな? レディ」
「ええ。問題ないわ元気な物よ」
そう言って健在を示すように押さえつけられていた手首と肩をぷらぷらと動かす。
それを確認して外交官の男はドレスに目を移した。
深紅のドレスは青い液体に侵され汚れてしまっていた。
「ドレスが汚れてしまったね。用意させよう」
「いえ、そんな。悪いですわ。私の勘違いが招いた結果ですから自業自得ですわ」
「そうはいかない。社交場の美しい花を汚したままともなれば私の名誉にかかわる」
「ま。お上手ですこと。そんな事言ってたくさんの女性を泣かしてきたのでなくて?」
「はは、私はまだ独身だよ。案内させよう。おい」
外交官が声をかけると警護の一人、大柄な黒人男性が案内役として前に出た。
恐らくは監視役も兼ねているのだろう。
「コチラです」
外交官の男に会釈して、真珠は無骨な男の案内に従いその後ろについて行った。
彼女が通されたのはVIPルームだった。
幾つかのセキュリティを通過して、仰々しいまでに豪華な扉をくぐると2体の女神の彫像が出迎える。
光り輝く程に磨かれた白い大理石の廊下。ロビーの中央にはなんと噴水があった。
その奥にある大階段からしてフロアが分かれているようだ。
これが船内に用意された宿泊施設であると言うのだから信じられない光景である。
「よろしいんですの? こんなにあると迷ってしまいますわ」
花の咲いたような声を上げて真珠は煌びやかな青と白のドレスを手にしていた。
案内された衣装室には色とりどりの宝石のように大量のドレスが並んでいた。
置かれたクローゼットも一つや二つではない。それこそ100着以上のドレスがあるだろう。
独身の男性外交官の部屋にこれだけの女物のドレスがあると言うのも女装癖でもない限りはおかしな話である。
何人の女を連れ込んでいるのか、女好きと言う情報は確かなようだ。
「……これも可愛らしいし、あっこれも素敵なデザイン。うーんどうしましょう」
目移りする様にクローゼットを漁り次々とドレスを手に取り、悩ましげな声を上げる。
案内役の男は無言のまま真珠を見つめ扉の前で待機している。
「あの……着替えたて確かめたいのですけど。よろしいですか?」
「ええ、構いませんよ」
案内役の警護に許可を取る。
だが真珠は手にしたドレスで口元を隠し、頬を赤らめもじもじと照れくさそうな仕草をした。
「えっと、もしかしてここに居られるおつもりなのでしょうか………?」
「あっ。いえ……そのような。失礼しました」
そう言って、慌てて警護の男は外に出た。
それを確認して、真珠の顔は淑女から獰猛な獣のソレに変わる。
手にしていたドレスをその場に投げ捨て、外の警備に気づかれぬよう小さな窓から衣裳部屋を抜け出た。
この客船の設計図は把握済みである。
VIPルームは高級マンションのような作りになっており、幾つかの部屋に別れている。
所々に警備は配置されているようだが、一番セキュリティの厳しい入り口は突破した。
あとは物の数ではない。
警備の目を掻い潜り、真珠は苦もなく標的の部屋へと侵入を果たした。
私室兼執務室なのだろう。部屋の端にはトランクが置かれ、机の上にはいくつかの資料が並んでいる。クルーズ船の中でご苦労な事だ。
当然電気などはつけず、足音も立てず薄暗い部屋を進む。
まっすぐ奥の机までたどり着き、その上の資料を漁ろうとしたところで。
「ハロー。何かお探しかしら?」
何者かに背後から銃を突きつけられた。
ゆっくりと両手を上げてその場に直立する。
しくじった、先んじて部屋に潜伏していた存在に気づかなかった。
「ルームサービスって訳じゃあなさそうね。何者かしら?」
「そう言うテメェこそ警備の人間って訳じゃなさそうだな、何もんだ?」
「あら? 聞いてるのはこっちなんだけど?」
「チッ…………!」
突き付けた銃を鳴らす。
当然その程度で口を割るような真珠ではないが。
無言を貫く真珠に対して女は苛立つでもなく、余裕を持った様子で口を開いた。
「そうねぇ。貴重品や貴金属類じゃなく真っ先に資料に向かっていた辺り泥棒って訳じゃあなさそうね。
話している英語にも不自然なくらいに癖や訛りがない。どこかの諜報機関の人間って所かしら?」
目ざとく見透かされている。
他国への潜入を行う捜査官にとってもっとも重要なのが言語である。
他言語の取得は当然として、訛りなどの出身の特定につながる要素は徹底的に矯正される。
あまりにも流暢な発音は逆説的にその正体を示していた。
「あら、だんまりなの? せめてお名前くらい伺ってもよろしいかしら?」
「ハッ。言う訳ねぇだろ、ボケがッ!!」
「ッ!?」
一瞬の隙をついて深紅のスカートが翻る。
それを目晦まらしにして放たれた廻し蹴りが銃を握った手首を弾いた。
隠密としては後れを取ったが真珠の本領はこちらである。
体術ならば後れを取ることはない。
続けて、廻し蹴りの勢いのまま放たれた足払いは跳躍によって躱された。
相手の跳躍先は先ほど弾かれた銃の元である。
真珠はスカート下のホルダーに忍ばせていた銃を引き抜く。
互いに銃口を突きつけ合ったのはほぼ同時。
「思ったより可愛らしい顔してるのね、お嬢さん」
「ケッ。口の減らねぇ女だ」
向き合って銃口を突き付け合う。
互いに動きを牽制し合った膠着状態である。
だが、いつまでもこうしている訳にもいかない。
「で? いつまでこうしてにらめっこしているつもりだ?」
「そうねぇ。銃声は立てたくないでしょう? お互いに」
「……そうだな」
銃声が伝わり外の警備が駆けつけて騒ぎになるのは避けたい。
なにより血痕や死体のような証拠が残るのはマズい。
命が脅かされる状況でなければ元より銃を撃つと言う選択肢はない。
「なら、ひとまずここは分けって事にして、お互い見なかった事にしない?」
「てめぇが出てくってんなら止めはしねぇよ。あたしはまだやることがあんだよ」
邪魔が入ったおかげで資料の探索はまだ出来ていない。
部屋へ探索が出来る次の機会を得るのは簡単ではないだろう。
「B国との機密文書を探してるんなら生憎ね、ここにはなかったわよ」
目的を言い当てられたことは驚くべきことではない。
この部屋に侵入している以上、相手の目的も似たような物だろう。
この女が先んじて部屋にいたのも事実である。
既に家探しを終えていてもおかしくはない。
「……それを信じろってか?」
「別に自分で探してもらっても構わないわよ? 時間の無駄だろうけど」
僅かに思案する。
元より真珠もこの部屋に「ある」と確信していた訳ではない。
一つずつ「ない」ことの証明して最終的な在処を明らかにしていく作業の一つだ。
チッと大きく一つ舌を打って真珠が銃を降ろす。
それを見て女もふぅと息を吐いて銃を収めた。
「まあいいさ。どっちにせよ警備も戻ってくるころだ」
着替えに迷っていると言っても、そろそろ様子を見に来る頃合いだろう。
衣装室に戻らねば怪しまれる。資料を漁っているだけの時間はもうない。
どちらにせよ時間切れだ。
「オラ、行けよ。見逃してやる。だが次はねぇぞ」
そう言いながら真珠も執務室を後にしようとする。
だが、その背が引き留められた。
「ねぇ。私と協力しない?」
「ぁん?」
足を止め振り返る。
「幸いと言っては何だけどお互い目的は同じようだし、資料を見つける所までは協力できると思うのだけど、どうかしら?」
資料の発見と言う目的は共通である。
最終的に自分が手に入れると違いはあれど、その過程までは協力できるかもしれない。
そういう提案である。
「いいぜ。乗ってやるよ」
意外にも、真珠はこの提案を受けいれた。
これは最後に殺し合いの争奪戦になるのを見越しながらの提案である。
彼女はそこが気に入った。
それが出来るからこそ彼女たちは潜入員なのだろう。
「協力するのなら名前くらいは聞いておきたいんだけど?」
協力関係を結んだ以上、呼び名くらいは決めておかないと不便である。
それは真珠でも理解できる。
「名乗るならまずそっちから名乗れよ」
「私? 私はマリー・アントワネット。マリーって呼んでね」
「マリーってツラかよ。適当な偽名を名乗りやがって」
同時見てもアジア系の顔だ。
隠すつもりもない偽名である。
「それで? そういうアナタのお名前は?」
「そうだな…………田中花子だ。好きに呼びなよ」
意趣返しのつもりで、適当な偽名を返した。
■
それから豪華客船を舞台にしたスパイアクションが繰り広げられたのだがそれはまた別の話。
第三勢力の登場や魔改造により強化された警備兵との戦いなどを乗り越え、彼女たちは機密文書の入手に成功する。
そしてクライマックスの舞台は船の甲板の上。
機密文書の所有権をかけて、真珠とハヤブサⅢの最期の対決が始まろうとしていた。
だが、殺し合いが始まろうかと言うその直前、ハヤブサⅢはあろうことか商品である機密文書に向けて火を放った。
真珠が呆然としている隙にハヤブサⅢは海へと飛びこむ。
「なっ!?」
ここは大西洋のど真ん中。
泳いで陸地に辿り着ける距離ではない。
慌てて飛び込んだ先を除いた真珠が見たのは、浮上するヘリコプターの縄梯子に捕まる姿だった。
「じゃあねぇんマジュ。バッハハーイ!」
「ハヤブサⅢぃぃい。テェ……んメェェェェエエエエエ!!!!」
真珠の絶叫も虚しくプロペラ音に掻き消されてゆく。
そうしてハヤブサⅢは豪華客船から去って行った。
最初から彼女は機密文書を手に入れるためではなく、機密文書を処分するために動いていた人間だったのである。
そんなこんなで、真珠の潜入任務は失敗に終わった。
このような失態。とんだ恥をかかせてくれたものだ。
なにより任務を任せてくれた隊長である奥津に顔向けできない。
次に出会ったら殺す。
必ず殺す。
そう決めていた。
■
と言うのが去年の話。
そして現在、山折村にて。
真珠は拳銃を片手にトラックの荷台に寄りかかりながら思考していた。
むやみに動くのではなく、まずは動き方を決める。
真珠は獣ではあるが、考えなしに動くほどバカではない。
本能だけで動くのではなく、獲物を追い詰める理性的な獣である。
目撃証言を当たる正攻法も並行して進めていくべきだろうが。
先ほどのトラック運転手の様にハズレを引く可能性が高い。
まずは敵の動きに予測をつけた方がいい。
敵の行動範囲であれば目撃証言の精度も上がる。
トントンとリズムよく指で拳銃を叩く。
共闘した時の奴の動き、思考、経験を思い返しながら相手の思考をトレースする。
この状況でハヤブサⅢなら、何を目的として、何を考え、どう行動する?
暫しの集中の後、ポツリと結論を呟く。
「…………放送室だ」
奴がこの村に来た目的は十中八九研究所の調査だろう。
この状況であれば、なおさら原因となった研究所の調査を優先するはずだ。
ストレートに考えれば地下に研究所のある診療所に向かうのだろうが。
ただ向かったところで、セキュリティが突破できないのでは意味がない。
ならばまずはセキュリティパスを入手する必要がある。
どこで手に入るかを考えれば、あの放送を行った研究者を探すはずだ。
そう結論付けた真珠は行動を開始する。
トラックから離れ進路は一路北へ。
目的地は放送室。
その予測は大きくは外れてはいなかった。
見落としがあったとするなら、既に標的が研究所潜入に必要な研究者を確保している可能性だが、これを予測しろと言うのもなかなかに酷であろう。
果たして宿敵との再会は為るか。
特殊部隊員は夜を行った。
【G-5/バス停近く/1日目・黎明】
【黒木 真珠】
[状態]:健康
[道具]:拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフ
[方針]
基本.ハヤブサⅢ(田中 花子)の捜索・抹殺を最優先として動く。
1.放送室へ向かう。
2.ハヤブサⅢのことを知っている正常感染者を探す。役に立たないようなら殺す。
投下終了です
投下します
ワニと言う人生でも滅多にないであろう異質な交戦を経て、
あれからも何事もないまま病院に近しい外観の診療所へ辿り着いた天。
何事もない方が気持ち悪く感じるが、ひとまずそれは置いて静かに忍び込む。
ゾンビが多いと思って正面からではなく非常階段を使おうとしたものの、
道中に何体かゾンビがいたので素直に正面の玄関から入ることにする。
玄関のゾンビはかなりの数が死体として転がって忍び込むのは容易で、
倒れているこの村の住人の遺体を踏まないように歩いていると、
「どこへいきやがったあああああッ!!!」
「!」
一人の女性の怒号が院内に轟く。
マイクを使ってないにもかかわらず、
肌がピリピリと感じる怒気は相当なものだ。
ただの怒号であっても動くべきことではあるのだが、
聞き覚えのある声とも、あってより駆け足で向かう。
声の下へ駆けつければ、同じ防護服の人間の姿だ。
部屋の中のロッカールームがいくつも破壊されている光景は、
さながら災害の後とも受け取れそうな状況に見えてしまう。
「え、美羽さん? 何故診療所にいるんですか!?」
声から予想はしていたが、
此処にいない筈の同僚の姿に困惑する。
この作戦に参加してる人物ではあるものの、
同じSSOGが早くも出くわすこの状況は普通に問題だ。
ただでさえ少数精鋭で出してきている現状において、
人数が固まっていては余り好ましいことではない。
「あぁ? なんだ乃木平じゃねえか。何って、仕事だろうが。」
踏み潰したロッカーから足を離し、
後頭部を掻きながら彼の方を見やる。
(と言っても防具服越しなので掻けないのだが)
防護服の都合上相手の表情は伺えないものの、
先の発言と今の声色も合わせて相当頭に来てるようだ。
気の短い彼女では嫌と言うほど聞き慣れた声色である。
「いやいや、そういう意味ではありませんって。
別の任務がある黒木さん以外は、場所が指定されていたはずですよ。」
天は診療所を、大田原は木更津事務所、
成田はトンネル付近、広川は高級住宅街、
そして彼女が向かうべきは公民館のはずだ。
黒木だけはあるエージェントを追跡する為に基本自由行動。
そうして一度はまばらに散りながら、感染者の排除をしていく。
無駄に集まってはその効率は落ちてしまうし、見落とすものも多い。
時間をかけていては住人が自分達の存在に気付いて結託してしまい、
より任務に支障が出てしまう可能性も出てくる。
「あ? そうだったか?」
「大田原さんの作戦を聞いて……ああ、
あの時美羽さんは招集された伊庭さんと喧嘩してましたっけ。」
そういえばあの時自分が宥めていたような、なかったような。
思い返せば話を聞きそびれていたことについてはありえなくはない。
任務に忠実な彼女が此処にいるなんてありえないとは思ったものの、
皮肉屋の伊庭の発言に噛み付いて話を聞きそびれてたのなら、仕方ないかと。
元々が暴走族だ。規律を重んじたりする此方の方針とは相性が悪いのと、
サイボーグ故に成果やデータはしっかり出してるため余り咎められず、
どうしたものかとため息を吐きながら頭を抱える。
「それと、診療所からアラーム音がしてよ。
連中がいるって分かって優先したっつーのはある。」
「事情は分かりました。ですが公民館へと向かってください。
いくらSSOGであれども、相手が束になれば非常に危険です。
集団を形成し能力を把握する前に対応しないと、全滅の危険すらあります。」
ワニによる数の暴力を嫌と言う程味わって、
危うく任務開始前から死亡するかもしれなかった最初の戦い。
あのような異能を知能を持つ人間が使えばどうなるか想像したくないことだ。
集団を形成し、束になってしまうことの方が猶更危険になる。
下手をすれば人一人、銃で殺すことすら困難になりかねない。
「行く前に、まずぶっ殺しておきてえ奴がいんだよ。」
「それも私が対応します。ですから───」
「……あ?」
威圧。
先ほどまで誰かに向けていた殺気が、
そのまま天へと向けられるかのような威圧感が襲う。
『俺の獲物だぞ、なんでテメエに譲らなきゃいけねえんだよ』、
とでも答えるかのような、視線だけで人を射抜けるような鋭い眼差し。
防護服越しでも感じたそれについては慣れたものであり、特に物怖じもしない。
口論に喧嘩。美羽を相手する時においてはありふれた光景の一つだから。
「美羽さん。今の貴女ははっきり言って冷静ではありません。
一度貴女の最初の任務である公民館へ向かって落ち着きましょう。」
大声から美羽が短気な人物であることは、既に相手も気付いているはずだ。
相手は素人ではあるが、彼女を煽れる程度には冷静な立ち回りをしている。
だったら相手はより、彼女の冷静さを失わせるべく罠にはめていくだろう。
相性が悪い。このまま頭に血を上らせて更に冷静さを失うのは目に見える。
異能を理解しているかもしれない相手に致命的な隙を晒すのは極めて危険だ。
なら二人で病院の感染者を始末しに行けばいいだけの話では?
とは思われる話だが、二人は性格から能力まで相性が悪い部類になる。
サイボーグ故に単騎で強い美羽に動きを合わせられるわけもなければ、
性格面においても真面目よりになる彼と相性がいいとは言えなかった。
人間離れした彼女についていけるのはこの任務だと大田原と成田ぐらいなものだが。
未知の異能の前に下手な連携で挑んで全滅、と言う最悪に転じる可能性も高い。
此処で優先するべきなのは、どちらか一人でも生き残って行動することだ。
異能を一足先に見た彼にとって異能の存在を警戒をしすぎているという、
臆病さが何処かにあることは否めないものの、警戒に越したことはない。
「相手の目的は無駄に徘徊とゾンビを処理させてきて、
その隙を突いて逃げるか、此方を攻撃してくるでしょう。
大田原さんに次ぐ戦闘能力を有した貴女を長時間留まらせて、
無駄に時間を浪費することの方が、任務に支障が出てしまいます。」
ただ、天の思惑はもう一つある。
彼女は好戦的である以上、出会えばゾンビでもまず皆殺しは確定だ。
癇癪を起こした結果がこのロッカールームを考えれば想像は容易で、
博愛主義の彼としては、ゾンビと言えども無駄に死なせたくはない。
必要以上の犠牲者を出させない為にも、彼女を一度頭を冷やしてもらうべき、
という私情も一応はあるのだが、彼女はその有り余る強さはSSOGでも指折りの強さ。
ゾンビ相手にしても無駄な消耗をさせるべきではない、合理的な理由がちゃんとある。
例えるならば、美羽は自由に暴れて活躍する将棋で言う飛車のような立場。
飛車が一つの駒相手に執着し続けては、勝てる勝負も勝てない。
「SSOGに忠義を尽くすと言う、
貴女が命令無視を続けると言うのであれば別です。
私が代わりに公民館へ向かうようルートを変えるので。」
「……チッ。まーたテメエに諭されるのか。気に入らねえ。」
オオサキや黒木と熱くなりがちな人物が多く、
伊庭のように棘のある言い方、マイペースが過ぎる南出。
騒ぎの火種になる人物を宥めて終わらせるのは基本的には天だ。
反論が妙にしづらい言葉を並べてくるのが腹立たしく、彼女としては合わない。
こんな性格ではあるが、恩人であるSSOGの命令に対しては忠実だ。
私情よりもまずは任務の方を優先するべきことについては事実である。
だからそれを引き合いに出す。伊庭と違い棘を抜いた風な言葉が余計に腹が立つ。
「ご理解いただけたようで何よりです。ですので───」
言葉を遮るように、窓の向こうで何かが派手な音と共に輝く。
何事かと二人が確認すれば、深夜の世界に爆発が軽く周囲を照らす。
流石に遠いので音も光も大して強くないものの、視界に捉えるには容易だ。
呪いを受け、無限に爆発している革名征子の異能の一部始終を軽く見やる。
「派手にやってやがるな。」
「そのようで。」
「頭冷やすついでにアイツか、近くにいる奴でもぶっ殺してくるか。」
「分かりました。ですが美羽さんも気を付けてくださいね。
あの様子だと、相手が持つ能力はかなり攻撃的なので。
後、増殖するワニが湖にいますのでそれも気を付けてください。」
「分かってるよ。大分頭から血は……ワニ?」
「ワニです。」
「……どういうこった?」
「うん、予想してましたよその反応。」
予想通りの反応に哀愁漂う返しをする。
お前ストレスで頭いかれたか? と思われてそうで
流石にこれ以上長話をしている場合ではないのもあって、
簡潔な説明だけに留めてそれ以上の説明はしなかった。
◇ ◇ ◇
美羽が駆け足で戻ってくることもあって、三階へと行かざるを得なかった二人。
診療所からの脱出が目的であるのは、攪乱しているところから気付いているはずだ。
なので此方に直行することが余りないと判断し、あえてそのままで軽く様子をみる。
上がってくる様子はないのでそのままリハビリ棟へ戻るように歩を進めていると、
「氷月さん、あれ!」
洋子の視線の先は窓の向こうの爆発の光。
更にそこへ駆け足で向かっている一人の姿がある。
逆光もあって誰かは完全には把握できなかったものの、
全身を覆う防護服と思しき格好であることだけは伺えた。
この状況でそんな恰好をしているのは、特殊部隊なのは間違いない。
「あれが特殊部隊、ですか?」
「多分ね……移動した?」
去ってくれたことに歓喜の表情を浮かべる洋子。
暴力的な存在が離れてくれたことに安心感が出るのは、
当然と言えば当然ではあるのだが。
(今がチャンス……本当にそう?)
海衣はどうも腑に落ちなかった。
先ほどまであれほど怒り狂った相手が、
こうもあっさり院内に残ってるであろう人を見過ごすのか。
確かに爆発は小さいと言えど、煩わしく思うところもあるだろう。
耳障りと思うなら優先順位を変更すると言う可能性については、
あの気の短そうな言動から察せられたが、完全には安心できない。
『いい、海衣? 貴女が氷月家を再興するのよ。』
脳裏にちらつくのは、自分を大事に育てている両親。
もっとも、大事と言うのは政略の為の道具としての意味合いだ。
そこに愛情と言うものはなく、ただ返り咲きたい為だけに育てる。
そんな立場から脱出を目論んでいる彼女は、長い雌伏の日々を過ごし続けた。
故に『だからと言って安心するにはまだ早いぞ』と長年の経験が告げている。
下の階層から怒号はなくなったので、あちらへ向かったのは間違いないとしても。
「まだ慎重に行くから、油断しないで。」
「は、はい。」
足音をなるべく立てず、再びリハビリ棟へ歩を進める。
何か嫌な予感がする以上、油断することは決してしない。
(さっきの騒ぎでゾンビが……やっぱり出られない。)
美羽が派手に壊していたところから、
残っていたゾンビが集まってしまったのだろう。
一階には最初に本棟の中央階段のように集まっている。
非常階段も確認したが、狭い通路にゾンビがいて回避不可能だ。
スマホを一階へ落として誘導と言う手段もできなくはないが、
一応は他人のものだ。脱出のためとはいえ乱雑な扱いは避けたい。
出られるとするなら、やはり本棟の中央階段だけになる。
三度本棟の二階へ戻ることになるものの、
「!」
ゾンビらしからぬ整然とした足音に強く反応する。
遠い位置ではあるものの、一室一室を確認するような音が耳に届く。
同じ正常感染者? だったら声を掛ければいいはずだ。確認する必要はない。
確信はないが、長年の経験に従わずにはいられない程度に警戒レベルが上がる。
遠からずこちらへと気付く可能性はあるが、スマホや放送室の誘導はもう使えない。
しかも相手は先と違いローラー作戦の如く一室一室をきちんと確認している。
気付かれたらまず追いつかれてしまうし、身を隠すことも困難だ。
ゾンビをかいくぐりながらこの逃走劇をやり遂げるのは極めて厳しい。
「洋子ちゃん、今から賭けになるから気を付けて。」
「え?」
できることは、相手が持っているであろう先入観からくる賭けだ。
◇ ◇ ◇
(此処は───)
部屋のドアをスライドしようとしたが、
壁から聞こえるぐちゃぐちゃとした音とうめき声。
そっと扉をスライドさせ部屋を覗けば、そこはゾンビだけがいる。
ゾンビがいるのであれば人はいないのでそっとドアを閉じて、
病院から少しばかり拝借した医療テープを貼っておく。
生きたゾンビがいるかどうかの確認のための目印のようなものだ。
(此処もなし、と。次で本棟二階は最後ですか。)
何度目か忘れながら、静かにドアをゆっくりとスライドさせる。
生きているゾンビの気配はなし。ドアの傍で隠れる人影もなし。
中は診察室で、ベッドと机に置かれたパソコンと施錠された窓が目立つ。
よくある診察室の内容だが、部屋の奥にはゾンビの死体が三人程転がっている。
一体が二人に被さるように倒れており、感染してゾンビになる前に食われたのだろう。
軽く一瞥した後テーブルの下とベッドの下も確認していくが、人影となるものはなし。
(既に病院から出た? 念の為リハビリ棟も確認してから……)
静かにドアを閉め、リハビリ棟の方へと確認に向かう。
足音が遠のいていった少し後、もそもそと動くゾンビの死体、
「大丈夫、もう行ったみたい。」
ではなく、その下にいた海衣と洋子の二人。
二人はゾンビの死体に紛れ込むと言う賭けに出た。
先ほどと違い慎重に部屋を探索していた相手では、
ロッカールームや動画と言った手段は通用しない。
だが特殊部隊は『生きている正常感染者』を優先する。
(ワニ吉に独眼熊のような例外が過ぎる正常感染者も複数いるが割愛)
既に倒れている死体については調べない可能性は十分にあった。
倒れている死体の数も相当だ。診療所とは言うが施設は中々に広く、
数々の死体までも確認をする暇などないと踏んだ賭けに出ることを選んだ。
気付かれれば間違いなく死ではあったのは事実ではあるが、
その試みはうまく行ったことに安堵する。
(まだ。さっきみたいなフェイントの可能性もある。)
とは言えまだ油断はしない。
リハビリ棟に行ったからと言って即座に踵を返す、
なんてことだってありうるので警戒して少し待つがそれもない。
安全と判断できたため二人は階段へと向かう。
普段なら五分と掛からない移動のはずが、相当な遠回りになった。
こんな命懸けのかくれんぼ、或いは鬼ごっこはもう二度とごめんだ、
そう思いたくなるぐらいに精神的な疲労が二人に襲い掛かる。
階段を洋子がライトを照らそうとしたものの、海衣が静止する。
「此処は死体が多いから、見ない方がいい。」
薄暗い月明かりから僅かに見える階段に転がるシルエット。
ゾンビは殺さない限りは起き上がる。横になってるのは死体だ。
誰が殺したかは最早考えるまでもない。あの暴力的な特殊部隊員。
となれば、相当グロテスクな死体となっている可能性だってある。
余り子供に見せるべきではないし、自分自身だって見たくない。
月明かりのお陰で足場は辛うじて見えるので、
手すりと共に慎重に歩けば問題はないだろう。
そうして二階の階段を降りようと一段目を降りた瞬間。
何かが足に軽く引っかかるような感覚と共に、
近くのペットボトルが倒れ、盛大に中身を階段へとぶちまける。
中身をぶちまけたペットボトルは階段を濡らした後、
小気味いい音と共に段差を跳ねていく。
(テープ付きのペットボトル? なんでこんなものが───!)
こんなもの人為的でなければ設置されないのと、
音と同時に遠くから隠す気がない全速力の足音が此方へと迫りだす。
音を鳴らして転がるペットボトルの意味に気付き、洋子の手を引いて階段を下りていく。
遺体と血だまりのせいで駆け足で降りれないことがもどかしく感じる僅かな時間のロス。
このまま中央階段を降り、後は右へ走れば病院の正面玄関口ではあるがそれは悪手。
外へ出たところで病院の子供と高校生が特殊部隊相手に足で勝てるわけがない。
寧ろ遮蔽物を失ってしまい、完全な詰みになることは間違いないだろう。
この短時間でできる選択肢と言うのがあるとすれば。
「洋子ちゃん、階段を降りたら椅子の下に隠れて。
後は私が囮になってる間に病院を出て。」
「でも、それだと氷月さんが!」
相手は此方が二人であるとは思ってない筈だ。
追跡中ならゾンビの死体に紛れ込めば恐らく誤魔化せるだろう。
しかし、それは海衣を一人で特殊部隊に任せることにも繋がることだ。
一人になる不安もあるが、それ以上に囮にすることの方に不安がある。
逃げ切れる保障がどこにもないのに、海衣が囮を引き受けることへの不安が。
「もう時間がない、お願い。
万が一私が死んだら、死体から荷物を持って行って。」
今の状況ではもう選択肢がない。
二人が逃げ切る前に全滅の恐れがある。
時間にして一分にも満たない程の短い時間。
こんな短時間では作戦を立てる暇すらない。
今出来うる最善は、これしか思いつかなかった。
(まるで、嶽草君みたい。)
バイトの掛け持ちで忙しい鐘内の代わりに当番を変わったり、
山岡伽那の事件が起きる前も山上や田辺に面倒ごとを押し付けられたりと、
彼は都合のいい便利屋としての側面がクラス内でもよく目立っていた。
面倒な立場を引き受ける今の姿は、何処か彼に重なる部分はある。
自分の為に生きることを願いながら過ごしてきた彼女にとっては、
他人のために奔走する彼のことは少々理解できなかったが。
階段を降りて遂に一階へと降り立つ。
同時に洋子の手を放して行動を始める。
洋子が椅子の周辺へと倒れるように隠れて、
自分は近くの廊下を走り抜けて何とかする。
はずだった。
二発の銃声はそれを許さない。
予定通り確かに受付近くの椅子へと倒れたが、
洋子の意志ではなく、銃弾が彼女の胸を貫いたからだ。
胸を貫かれた痛みに、洋子はまともに声が出せずに倒れる。
同時に銃声に反応したことで海衣は躓いて近くの柱へと転がるように倒れるが、
不幸中の幸いか、その結果もう一発の銃弾は海衣の髪の毛を少し吹き飛ばしただけに留まる。
柱から覗くように二階を見やれば、特殊部隊と同じ格好の人間が銃を構えた状態で立つ。
「二人とも、それ以上動かないでください。」
足を滑らせないよう階段をゆっくりと下りつつ、
しかし銃口は海衣の柱へ向けたまま、天が冷徹に告げる。
元々が作戦と呼べるものではなかったものの、作戦は失敗だ。
今出れば銃の餌食になるし、逃げ切ることすら不可能でどちらも死ぬ。
完全な詰みの状況へと陥ってしまっていた。
(雑な仕掛けでも使えるものですね。)
海衣が足に引っかけたのは、彼が用意した簡素な鳴子のようなものだ。
今も忍ばせてた医療テープを誰かのペットボトルにくっつけて、
さながらゴールテープのように誰かがかかるのを待つと言う簡単な代物。
超がつくほどお粗末な、ありあわせのもので何とか用意した産物だ。
二階から一階へ降りる階段付近のゾンビは美羽が一度は蹴散らしている。
お陰で二階と一階の玄関口周辺は、ゾンビではなく死体だけが転がる状況。
ゾンビを誘導しない限り、それに引っ掛かるのは正常感染者だけになる。
二階にはいないのではと思いながらも一応用心して仕掛けたものだが、
うまくはまってくれた。
(女子高生に中学、いやあれは小学生?)
何とも嫌な組み合わせだと思った、
防護服の中では苦虫を嚙み潰したような顔をする。
汚れ仕事らしい、堅気の人間を容赦なく蹂躙していく任務。
美羽であれば苛立たせた相手だ。笑みを浮かべて殺しただろう。
面倒が嫌いな三藤なら何も思うことなく、殺しただろう。
いつも笑顔でいる蘭木であれば、変わらず笑顔でこなしただろう。
でも、自分には子供たちを相手にできそうにない考えだ。
(駄目、もう逃げきれない。どうすればいいの……!?)
院長の話では正常感染者は特殊な力に目覚めるそうだが、
自分の持つ能力が何なのか、未だに分からない。
この状況を打開できるものが欲しいと願うものの、
未だにその能力が何なのか。それは判断さえもつかなかった。
ただ柱の陰から相手を見て死を待つことしかできることがない。
「氷月、さん。」
振るえた声で洋子が名前を呼ぶ。
暗いのも相まって表情は伺えないが、
痛みを堪えながら言葉を発してることが分かる。
自分の判断の甘さが彼女を死に追いやることになる。
こんな形で終わることになる。彼女はどれだけ恨んでいるのか。
でも違った。
「逃げ、て。」
彼女が口にしたのは恨み言でも何でもなかった。
足手纏いの自分を救った、ヒーローのようなもの。
そんな彼女に生きてほしいと切に願う、祈りの言葉。
命の燈火が消える前に、ふり絞った最後の行動。
言葉と共に、空へと何かが投げられたものを二人は一瞥する。
近くのゾンビとなる人が落としていたであろう、ただのスマホだ。
ただし、空高く上がったところでアラームの鐘の音が鳴り響く。
確かに異能の類か、或いは何かしらの危険物かと一瞬注目するが、
(これは恐らくブラフ! 本命はもう一人を逃がすための方!)
至って冷静な判断で海衣の方へ視線を向ければ、玄関へ走る姿。
状況からスマホに警戒した隙を突いての逃亡と言う悪あがきだろう。
悪あがきは通用することなく、その引き金が鐘の音の中で引かれ、
「え?」
ない。引き金が妙に重い。
感情の問題ではない。物理的にだ。
引くことができず、しかも手が異様に冷たい。
何事かと手元を見やると、
(引き金と指が凍っている!?)
指と引き金が覆うように凍っており、
軽く引くだけで人の命を奪う銃も軽くでは奪えない。
海衣は完全な意識はしてないが、能力の行使はしていた。
視界に入っている空気を凍らせることもできるその能力で。
距離はあったので効果が出るまで遅かったが、今それが文字通り形となる。
強引に引き金を引けば撃てたかもしれないが、その一瞬の硬直は、
彼女が病院の外へと出て行ってしまう決定的な隙となる。
(グッ、手が凍ってるせいでナイフに切り替えもできない!)
腕が凍って動かなくても追跡自体はできるものの、
あくまで追跡だけだ。自衛手段が足だけになっている。
敵は正常感染者以外にも徘徊するゾンビだっているわけだ。
なので追跡の前に、階段の手すりに手を叩きつけて氷を砕く。
手が少し凍っていて動かしにくいとは言え、動きに致命的な支障はない。
時間はロスしたが、今なら十分に追いつける程度の時間のはずだ。
追いつけるはずだった。だがそれもまた叶うことはなかった。
彼が唯一知らない、美羽も(気付いてないので)伝えてない情報。
(ゾンビの群れ!?)
ゾンビは大きな音に反応すると言うことを。
手間取った間に一階には、残っていた患者や医師のゾンビが集う。
当然、矛先は未だ鐘を鳴らし続けるスマホが落ちた場所───階段の方だ。
玄関口を出ていく海衣には目もくれず、天の方へとゾンビが殺到する。
(まずい!)
鈍重なゾンビと言えども一階に集まったのはそれなりの数だ。
何体かはすでに胸を撃ち抜いて手遅れだったであろう洋子の肉を喰らっているが、
たとえそれを差し引いたとしても迫ってくる数が多すぎて一階に降りられない。
全員相手をするつもりはないし、逃げる以外の選択肢はない。
二階で開いてる適当な部屋から、そのまま窓から飛び降りて外へと出る。
早急に玄関の周辺を見やるが、既に周囲に彼女の姿は見当たらない。
(完全な移動経路の特定は困難か……!)
相手は正常感染者だったとはいえ、
吉田や大田原と言ったベテランであったのなら、
あれぐらいのトラブルも難なく切り抜けてしまうのだろう。
まああの二人であれば、エンカウントした最初の時点で終わっていたか。
未熟な自分が今改善できるのは、実力を嘆くよりも相手やゾンビの考察だ。
(分身、爆発、そして今度の異能は凍らせる。
手を伸ばしたり何かをしていた様子はなかった。
となると、能力は『視界を向けている』のが条件?
いえ、そもそもあの異能はどちらの異能だったかも判断が……)
考えるべきことは山積みだ。
決して優れてるとは言えない腕を、
頭の回転や状況を利用して補っていく。
先の銃撃の甘さも、成田から教わってようやくあの程度だ。
とは言え、まだうまくやれている方なのかもしれないが。
(『うまくやれている方』か……)
まるで、人を殺すことで得る仕事の達成感のような感情。
この仕事に就いた時点でそれは覚悟はしてきたことだ。
仕事の為に子供を殺したことの経験はもう何度もある。
被害者面するな。これは任務だ。割り切って従事するべきだと。
こっちの都合で殺した自分が、彼女に対してできる贖罪などない。
「……その名前、覚えておきます。某洋子さん。」
精々、その名を最期まで忘れないことだ。
窓から確認できるゾンビの数から、彼女の死亡確認はできそうにない。
玄関口を一瞥した後、天は海衣を追うべくその場を離れた。
天が集まったゾンビで難儀してる間、
病院を脱出し、全力でその場から離れる海衣。
(逃げるしか、なかった。)
あの状況でできる最善はこれだけだ。
どうあがいてもあの場で自分にできることなどなく、
ただ全滅を避けるために選べたのはこれだけだと。
選択肢はなかったとは思うも、同時に見捨てたと言う後ろ暗い感情。
(……ごめんなさい。)
謝ること以外にできることなどない。
せめて、彼女の死を無駄にしない為にも生きる。
それだけが今の氷月海衣のできる唯一の行動だ。
診療所での戦いはこれで幕を閉じる。
此処から生きて出た者達もまた勝者に非ず。
任務優先と言えど、雪辱自体は晴らせてないサイボーグ。
結果的に一人逃がすことになった凡人。
人を見捨てることになってしまった少女。
此処にいたのは、いずれも敗北者である。
【D-1/1日目・深夜】
【美羽風雅】
[状態]:健康、怒り(大)、苛立ち(大)、氷月海衣に対する殺意(中)、乃木平天に対する苛立ち(中)
[道具]:防護服、拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフ、スレッジハンマー
[方針]
基本.正常感染者の殲滅。
1.爆発の場所か、近くにいる正常感染者をぶっ殺す。
2.煙草が吸いてェ……。
3.氷月海衣が生きてたら任務に支障が出ない範囲で殺しに行く。
4.分身するワニってなんだ。
※放送設備及び氷月海衣のスマートフォンが破壊されました。
※乃木平天からワニ吉の情報をある程度伝えられています。
【E-1/診療所前/1日目・深夜】
【乃木平天】
[状態]:疲労(小)、精神疲労(小)、手が凍結(軽微)
[道具]:拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフ、医療テープ
[方針]
基本.仕事自体は真面目に。ただ必要ないゾンビの始末はできる範囲で避ける。
1.ワニ以外に珍獣とかいませんよね? この村。
2.氷月と呼ばれた人を追う。(恐らく凍らせる能力)に警戒しつつ。
3.後ろ髪を引かれる。あのワニ生きてる?
4.某洋子さん、忘れないでおきます。
5.美羽さん、色々な意味で大丈夫でしょうか。
6.能力をちゃんと理解しなければ。
※ワニ吉の死に懐疑的です。
※氷月海衣の能力を『視界のものを凍らせる』と思ってますが、
一色洋子の能力と言う可能性も捨てていません。
※ゾンビが強い音に反応することを察してます。
※もしかしたら医療テープ以外にも何か持ち出してるかもしれません。
【E-2/1日目・深夜】
【氷月 海衣】
[状態]:罪悪感、精神疲労(中)、決意
[道具]:スマートフォン×5、防犯ブザー、スクールバッグ、診療所のマスターキー、謎のカードキー、院内の地図
[方針]
基本.VHから生還し、真実に辿り着く
1.何故VHが起こったのか、真相を知りたい。
2.特殊部隊員(乃木平天)から逃げ切り、カードキーの用途を調べる。
3.女王感染者への対応は保留。
4.朝顔さんと嶽草君が心配。
5.洋子ちゃん……
※自分の異能に気づいていませんが、無意識には行使できます。
※生前の田宮高廣から用途不明のカードキーを渡されました。
胸の傷が致命傷で助かりようはなく、既にほとんど声も出せなかったが、
ゾンビに襲われる中、洋子は意識ある限り声を必死に抑えていた。
悲鳴を上げてしまえば海衣が足を止めてしまうんじゃないか。
僅かな可能性であっても避けるため絶対に声は出さないと。
弾丸に貫かれた時の痛み以上のものが襲ってきても、
肉が噛み千切られようとも、死ぬのだとしても絶対に。
(お兄、ちゃん───)
許されぬ恋情を抱いた血の繋がった兄、和雄は今どうしてるだろう。
今日は見舞いに来るはずだったから、此処に向かっているはずだ。
だとしたら、今日だけは。こんな危険なところには来ないでほしい。
兄に起こった悲劇を知ることがないまま死ぬと言うのは、
ある意味では彼女にとって幸福なのだろうか。
特殊部隊も、正常感染者もいなくなった診療所。
ただ蠢くゾンビ達が当てもなく徘徊しているだけの場所。
そこに、ただ一つだけの例外が存在している。
ある意味で天は運が良かったのかもしれない。
もし念の為死亡の確認をしようとしていたら、
新たな宿主になっていたかもしれないのだから。
一色洋子の中に巣食っていたその『厄災』は。
誰に知られることもないまま、胎動を始めている。
【一色洋子 死亡】
※E-1診療所本棟一階に『巣食うもの』がいます。
また小型懐中電灯(電源OFF)があります。
以上で投下終了です
死亡の展開は >>291 に則ったつもりで書きましたが、
問題があれば修正します
投下乙です
>Losers
洋子ちゃん……天は超人揃いの面子に比べれば若くてまだ未熟なところがあるとはいえ堅実で実力もある、一般人が銃で狙われたらどうしようもないよね
囮になるはずが洋子ちゃんを見捨てて逃げるしかない海衣の無念たるやいかばかりか
美羽の命令無視から始まった一人が去っても入れ替わりで特殊部隊がやってくる診療所とか言う地獄
さらに洋子ちゃんの中の厄災まで巣食い始めて、形見を届ける斎藤さんのハードルがベリーハードになってるのでは?
投下します
スヴィアを少し離れた林に隠れさせ、天原創は来訪者の接近を待っていた。
茂みに伏せって呼吸を抑えて気配を殺す。
異常聴覚と思しきスヴィアの異能によって何者かの接近をいち早く知れたのは大きなアドバンテージだった。
視界の悪い夜の籔林で待ち伏せれば、確実に先手が取れる。
創はこの齢にして最前線で働く一流のエージェントだ。
完全に気配を遮断して物陰に隠れた創を発見するなどプロでも難しいだろう。
この状況なら、創は例え特殊部隊の精鋭が相手でも後れを取らない自信がある。
草木を踏みしめる足音が近付いてきた。
ここまでくれば異能に目覚めていない創の耳でもはっきりと聞こえる。
草木をかき分ける足音は、一直線に創に向かってきているようだ。
偶然にしては迷いがなさすぎる。
創の気配遮断を見破れる相当な手練れか、いや、それにしては挙動が軽すぎる。
よもやスヴィアのような索敵に向いた異能持ちか、サーマルビジョンや暗視ゴーグルのような装備でもしているのか。
ともかく、このまま相手に主導権を握らせるのはマズい。
そう判断した創は、手遅れになる前に茂みから飛び出した。
「あっ創くんだ!」
だが、それを出迎えたのは、同級生である日野珠だった。
創は飛び掛かろうとした動きに急ブレーキをかけ、少女の目の前で制止する。
「ひ、日野さん…………!?」
「やだなー、いつも珠って呼んでって言ってるじゃん。この狭い村だとお姉ちゃんとわからなくなっちゃうからね」
「そ、そう言われても」
先ほどまでの剣呑さはどこへやら。
少年は何やら照れくさそうにもじもじと身をよじっている。
そんな創の胸に少女の手がそっと置かれた。
「けど、よかった……変になってない知り合いに逢えた」
そう言って、少女は心底安心したように息を吐いた。
切らせた息を整えながら、向けられる人懐っこい笑顔に少年はドギマギした。
「来訪者はキミだったんだね。日野くん」
異能によって遠くからそのやり取りを聞き取ったのか。
現れた人物に危険がない事を確認して身を隠していたスヴィアも姿を現した。
「あっ。そっちはスヴィア先生だったんですね」
「? 『そっち』?」
不可解な言動に首を傾げる。
まるで遠く離れていたスヴィアの存在に気づいていたような言い草である。
「それで、た、珠さんはどうしてここに?」
「えっとね……学校の避難所にいたんだけど、お父さんやお母さん、周りのみんなが変になって、それで……」
怖くなって逃げてきた。と言う話だ。
状況を察していた創やスヴィアは、一早く人の集まる場所からは退避していたが、やはり学校はゾンビの巣窟になっているようである。
だが、創が聞きたかったのはそこではない。
「どうして僕たちがここにいると分かったのかな?」
改めて問い直す。
周囲に目印になるような建物がある訳ではない。むしろ目立たないよう創がこの場所を選んだ。
身を隠していた創に向かって一直線にやって来たのだ、偶然にしては出来すぎている。
「光みたいなのが見えて、そこに創くんたちがいたんだよ」
「光?」
そう言われても、心当たりがなかった。
当然ながら電気で位置を知らせるようなヘマはしていない。
スヴィアも同じなのか怪訝そうな表情をしている。
その反応に、不思議そうな顔をした珠が首を傾げながら地面を指す。
「え、だって、そことかも光ってるよね?」
二人が指された方向を見る。
だが、そこには当然、光るようなものは何もなかった。
「た、珠さん。この辺かな?」
「う、うん」
念のため創が示されたポイントに向かう。
軽く土を払って地面を調べた。
すると、なんと埋められていた銃を発見した。
「何でこんなところに…………」
疑問の声を上げながらも、銃を拾い上げる。
すると。
「あっ。光が消えた」
それを拾った瞬間、彼女に見えていた光は消えたようだ。
手にした銃をしまいながら創は珠ではなくスヴィアへと視線を向ける。
「どう思います? 先生」
「そうだねぇ……ボクの聴覚と同じくウイルスの適合によって得た力だとは思うが。失せ物探し、いや隠れた物を探す異能か……?」
「いや……それじゃ隠れる前の僕らを捕えてこちらに向かってきたことに説明がつかない。見ているのはそれよりもっと別の……」
「ん? ん? 何の話をしてるの?」
次々と話を進める二人に当人である珠は置いてきぼりである。
それに気づいた二人は、ひとまずエージェントと研究員と言う素性はボカして簡単な説明をした。
「うーん…………つまり、この光って私だけに見えていて創くんや先生には見えないって事、かな?」
「ああ、それがキミの『異能』だろう」
『何か』を光としてとらえる異能。
今わかるのはそれだけである。
「じゃあ、光を追いかけて行けばいいことがあるってことだよね!」
「いや、そうとは限らないよ。その光と言うのが何を意味しているのか詳細が分からないのだから妄信するのは早い」
「えぇ、創くんロマンがないよぉ」
夢見がちな中学生と違ってエージェントは慎重で現実的だ。
「いや、天原少年の言う通りだ。仮にキミの異能が隠れた物を光として視覚化できる能力だとしても、隠れた先にあるのが幸運とは限らない。
ボクも不用意に触れるのはお勧めしないな」
「うぅ。はぁ〜い」
不満そうだが、ひとまずの納得をした。
流石に教師に窘められては、珠としても納得せざるをえない。
「あっ」
だが、そこで球が何かに気づいたように声を上げた。
同時にスヴィアも背後を振り向く。
「あっちの方にも光が見えるよ」
「確かに、2人分の足音が聞こえるね」
創も同じ方向に注意を向けるも何も見えないし、何も聞こえない。
広がるのは夜の闇と静寂ばかりである。
「まったく、自信無くすなぁ……」
創はエージェントとしてはかなりのエリートだ。
そんな彼が、この中で探索能力が一番劣っていると言うのはなかなかにキツイ状況である。
もっとも損得の天秤にかければ、味方に探索能力持ちがいるという状況は悪くないのだが。
「誰かがいるって事だよね? それじゃあ迎えに行きましょう!」
「待ちたまえ。言っただろう、その光が指し示すのが必ずしもいいモノとは限らない、と」
「うっ。そう、でした」
駆け出そうとする珠をスヴィアが制止する。
「それでどうする天原少年。足音はこちらに向かっているわけではなさそうだ、隠れていればやり過ごすこともできると思うが」
スヴィアは創に判断を委ねた。
研究員であるスヴィアよりもエージェントである創の方がこう言った場面の判断は適切だろう。
創は僅かに思案し、決断を下した。
「……こちらから接触しましょう」
スルーすることはできる。
だが、創は接触を決断した。
「一応、理由を聞こう」
「足並みをそろえた2人組という事はゾンビである可能性はないでしょう。
複数名で行動を共にしている時点で無差別に女王感染者を狙う輩という訳でもなさそうだ。被災者である可能性は高い。
一番リスクがある可能性は送り込まれた特殊部隊が連携して動いている場合ですが、その場合とっくに僕らは発見されているはずだ」
「なるほど。一理ある。だが、危険人物ではないにしてもわざわざこちらから接触する理由はあるのかい?」
問われ、創が言葉を切る。
そして視線を向けたのは珠だった。
「ひ……珠さん。光はどちらに進んでいます?」
「えっと、あっちからあっちかな。あっ……!」
そう言って珠は指で空をなぞる。
そこまでやって彼女も気づいたようだ。
「進行方向にあるのは避難所である学校です。なら止めた方がいい」
今の学校はゾンビの巣窟である。
放っておいて餌食になったのでは流石に寝覚めが悪い。
ただの被災者が向かっているのであれば速めに制止したほうがいいだろう。
「了解した。キミの判断に従おう」
■
「みか姉!」
「珠ちゃん!?」
懐いた猫みたいに飛び込んで来た珠を受け止めその頭をよしよしと撫でる。
創たちが接触した先に居たのは二人の少女だった。
上月みかげと朝顔茜。創の推察通り、危険人物ではなかったようである。
「よかったよ、みか姉」
「うん。珠ちゃんも無事でよかった」
珠にとってみかげは姉の親友である、普段からよく可愛がってくれる大事な姉貴分だ。
みかげにとっても球は子供の頃から付き合いのある可愛い妹分である。
少女たちが再会を喜び合うその横で茜はスヴィアと創と向き合っていた。
「えっと、確かスヴィア先生と、君は……中等部の転校生だよね?」
スヴィアは先週新任したばかりの教師だが、珍しい外人教師でありイメージと見た目のギャップもあり更にボクッ子、属性モリモリで印象に残っている。
4月に転校してきたばかりの創の顔までは流石に高等部の校舎が違う事もありはっきりとは覚えていないが。
狭い村だ、中等部に二人の転校生が来たという噂くらいは聞いている。
「ええ。天原創です。よろしくお願いします」
「私は朝顔茜。よろしくね天原くん。けど……握手はごめん」
握手を拒否られ微妙に創の思春期がショックを受ける。
その様子を見て、慌てたように茜が手を振る。
「あっ。ごめんごめん。そうじゃなくて」
握手の代わりに手を前に伸ばす。
そして掌を上に向けたうーんと力を籠める
すると一瞬、掌から炎が噴出した。
「なんか、手から炎が出るようになっちゃって。まだそんなにうまくコントロールできなくって。握手してるときに出たらヤバいじゃん?」
「ああ……そういう事ですか」
少年はほっと胸をなでおろす。
「なんなんでしょうねこれ?」
「異能だね」
答えを期待したわけではない茜の呟きに、スヴィアが答える。
そしてウイルスに適応した人間は異能に目覚める可能性がある、と茜も簡単な説明を受けた。
「そっか。異能……異能かぁ…………」
漫画の世界の話だが、まあ実際炎が出てるんだから納得するしかない。
「ボクの見た所、単純に炎を出す能力という訳ではなさそうだが、詳しく調べてあげたい所だがその辺は後だね」
「そうですね。朝顔さんたちは避難所である学校に向かっていたようですが」
「ええ。そうなの。探してる人がいるから、みんなが集まってるだろうと思って」
「だったらやめておいた方がいいですね。あそこは既にゾンビの巣窟になっています、近づかない方がいい」
創の説明に、大きく反応したのはみかげだった。
「そんな! じゃあ圭介君は無事なんですか!?」
「圭介? 村長の息子さんの?」
「ええ、そうよ!! 決まってるでしょ!?」
創に食って掛かる勢いのみかげに僅かに気圧されながら。傍らの珠がなだめる。
「お、落ち着いてよ、みか姉」
「あっ……ごめんなさい。取り乱してしまって。けど恋人である圭介君が心配で」
「…………え?」
突然飛び出した言葉が理解できず、思わず珠は聞き返していた。
「何言ってるの…………みか姉?」
「ん? どうしたの珠ちゃん?」
何を疑問に思っているのかわからないと言うように、みかげは心底不思議そうに首を傾げた。
そこにあるのはいつも通りの優しい笑顔である。
それが、珠にはどこか不気味なものに見えた。
「今、圭介兄ぃが恋人って…………」
「? 珠ちゃんも知ってるでしょう? 『去年、圭介君が私に告白してきてくれたんじゃない』」
「そう…………だったね!」
その言葉で珠の迷いは一瞬で晴れた。
二人が恋人同士なのは当たり前の事なのに何を不気味に思っていたのか。
「それで圭介君は無事なの?」
「わからないけど、圭介兄ぃは避難所にはいないよ。多分まだ家の周りにいるんじゃないかな?」
「……そうなのね、ならこうしてはいられないわ。圭介君の家に向かいましょう」
「うん、そうだね」
「もちろん、私も付き合うよ」
恋人の下に向かおうと言う少女の決意に、俄かに周囲の少女たちも沸き立つ。
少女の想い出に共感し、彼女の恋を応援していた。
だが、ただ一人、みかげの想い出に踊らされていなかった者がいた。
「待ってください。方針はもう少し慎重に決めるべきです」
圭介第一の方針を掲げるみかげに、創が異を唱える。
天原創に宿った異能は「異能を無効化」する右手だった。
異能に対するカウンター。他者の異能が無ければ存在しえない力である。
いくら天才エージェントとは言え己が異能を自覚するにはまだピースが足りなかった。
だが、自覚はなくともその力が宿った以上発動はする。
みかげの異能は言葉によって相手の認識に作用する異能である。
対象全体に作用する以上、その右手に触れて無効化される。
故に、この場において創だけがその影響下から逃れていた。
だが、外様である創は調査によってある程度の人間関係は把握しているが、残念ながら体感としてまではその関係を把握していない。
圭介の女関係も情報として把握しているが、まあそういう事もあるだろう、と言う程度の認識しか持てなかった。
彼女の話す内容がいかにありえない話なのかを指摘する役割を担うに至っていない。
「恋人を心配する気持ちはわかります。けれどこう言っては何ですが、圭介さんが適合してるとも限らない。
そんな不確かな方針よりも根本的解決に向けて動くべきだ。それこそがゾンビとなった人や他の感染者を救うことになる」
人間関係の齟齬よりも、エージェントが気にするのは今後の方針だ。
女王暗殺は最終手段としても、もっと別の解決方法がないかを検討し、その材料を集めるために動くべきである。
そう冷静なエージェントとしての意見を情に流されず貫き通した。
だが。
「天原くん………それは少し冷たんじゃないかなぁ?」
「そうだよ創くん。そんな意地悪はいっけないんだよ」
「うっ」
周囲は違う。
少女たちは感情に流され、みかげの意に沿うよう彼女を盛り立てる。
上月みかげの異能。
それは自らが語った想い出を周囲に信じさせる力である。
この能力の真に恐ろしい点は、その「共感性」にあった。
他人の知らない想い出話を語られる事程つまらないものはないだろう。
だが、この異能は違う。
強制的に語られた想い出の当事者としての感情を共感させられるのだ。
まるで彼らの行く末を見守ってきた親しい友人の様に。
あるは恋物語の映画を見ている観客のように。
感情移入を強制されるのだ。
自覚なく恋を振りまく宣教師。
それが、今の上月みかげという少女である。
創からすればこの状況はやりづらい事この上ない。
女三人寄れば姦しいと言うが、屈強な敵兵士に囲まれている方がまだやりやすい。
理屈ではなく感情でこられると正直手の打ちようがない。
それが集団の多数を占めるのだからどうしようもない。
創は助けを求めるようにスヴィアに視線を向ける。
だが、その期待はあっけなく裏切られた。
「いいじゃないか天原少年。ボクも彼女たちが出会えるように力添えしたいな」
帰って来た回答は想定外のモノだった。
スヴィアは思慮深く聡明な人間である。
そんな彼女までが感情論に乗っかるというのは流石に少しおかしい。
もっとも創とてスヴィアの人となりの全てがわかっているわけではない。
スヴィアが恋バナに感化された可能性は否定しきれないが、やはり違和感はぬぐいきれない。
なにより、創が感じている違和感は会話の主導権をみかげが握っている事である。
こう言っては何だが、彼女にそこまでの統率力や求心力があるようには見えなかった。
教師であるスヴィアまでもが彼女の言動に従っているのは流石におかしい。
(まさか洗脳の類か? それとも心情を共感させる異能? いや異能による強制的なモノならば僕にも同じ症状が現れているはずだ。
だとするなら同性のみに作用する、などの条件があるのか?)
少なくとも悪意的な思惑は今のところ感じられない。
だからこそ厄介とも言えるが。
ゾンビや特殊部隊が迫っている中で、色恋沙汰を話の中心に据えられてはそのうち立ち行かなくなる。
己の異能に本人が自覚的であるとは限らない。
当の創本人も己の異能を未だに自覚していない。
そして仮に無自覚であるのならこれが一番マズい。
素人に銃を持たせても、碌なことにならない事を創は多くの経験から知っている。
(現在の状況にあるのかをスヴィアに直接訪ねるか? だがマインドコントロール下にあるなら下手に触れるのは危険か)
異能の影響だなんてのは創の考えすぎで、本当に全員が彼女の心情に寄り添っただけの可能性もある。
まあ、それはそれで困るのだが、それが一番平和的だ。
(…………ひとまずは様子見か。判断材料が足りない)
答えが出ず、ひとまず保留とした。
最年少でエージェントの資格を得た天才も、年頃の女の子は分からないことだらけだ。
この判断が、どう影響するのか。
さしもの天才エージェントにも分からなかった。
■
結局、一同は高級住宅街に向かう事となった。
女子の団結力に説得も叶わず、なすすべなく創が折れた。
方針が決まってしまった以上は、文句を言っても仕方がない。
集団の先頭を創が務め安全な道筋を模索。
殿を教師でありレーダー役のスヴィアが務め、女学生3人を守るような形で隊列を組んで進んでいた。
非戦闘員を4人抱えて戦闘要員が創1人と言う状況で交戦は厳しい。
攻撃的な異能を持っている茜もいるが、さすがに彼女を戦力として数えるのは難しいだろう。
この状況では回避の一手だ。
幸い、珠とスヴィアの異能があれば索敵は万全である。
ゾンビや他の生存者を避け整備された順路ではなく藪道を進む。
そんな状況にもかかわらず少女たちは恋バナに花を咲かせていた。
みかげの影響によるものなのか、それとも女子中高生の生態なのか。
初心な少年には判断がつかなかった。
「ところで珠ちゃん、どうして圭介君は一緒じゃなかったの?」
歩きながら珠にみかげが問う。
珠とその家族が避難しているのに、何故圭介は家に残っているのか。
少なくとも圭介は家にいるかもと言えるだけの根拠があるからには、何らかのやり取りはあったはずだ。
「圭介兄ぃはお姉ちゃんと一緒にいると思うよ?
お姉ちゃんが圭介兄ぃが心配だから様子を見に行くって、だから私達には先に避難所に行ってて、って……あれ…………?」
そこまで言って、珠は自分の言動に首をかしげる。
何故、家族を置いてまで圭介の様子を見に行く姉に違和感を覚えなかったのだろう。
圭介の所に行くと言った姉を何故当たり前のように受け入れたのか。
「そう……なんだ。光ちゃんと」
みかげはどこか暗い声でつぶやく。
その闇は、彼女にとっても無意識なのだろう。
だが、すぐさまその闇を振り払うような笑顔を見せた。
「大事な『幼馴染』だもんね、心配なのも当たり前だよ」
「う、うん。そうだよね」
胸の底にざわつきを覚えながら。
納得に足る理由を提供され、珠もこれに同意する。
「けど焼けちゃうなぁ……恋人の私を差し置いて心配されちゃって」
「お、お家が近いからだよ。圭介兄ぃが一番好きなのはみか姉に決まってるもん。私だって応援してるんだから!」
「そうですよね。『私たちが結ばれた時に珠ちゃんも祝福してくれたもんね』」
「うんうん! 告白前に圭介兄ぃから相談を受けていたからね、二人が結ばれて私も嬉しかったよ」
僅かなノイズ。
確かに珠は圭介やみかげの妹分として両方に可愛がられている。
だが、みかげに告白するのに、実の妹ならまだしも、その友人の妹に相談などするだろうか?
いや。している以上するのだろう。そう納得するしかない。
「圭介兄ぃ普段はおーぼーなのにヘタレな所があるからねー。どうせ好き同士なのにイジイジしてるんだから」
「ふふっ。そんな圭介君も可愛らしいです」
「こっちは大変だよぉ。くっついてからもいつも家でも圭介兄ぃばっか聞かされて…………………………家、でも?」
珠の脳裏にノイズの様に圭介との惚気を自宅で語る誰かの姿が映った。
みかげは自宅に遊びに来ることも少なくない。
その時に聞かされた? いや、もっと日常的な、当たり前の風景で。
「……あれ? あれれ?」
珠が混乱したように頭を抱える。
何か、致命的な矛盾があるように。
「どうしたの珠ちゃん?」
己が少女の苦しみの元凶とも知らず、みかげは本気でその身を慮っていた。
それこそが彼女の歪み。
精神を崩壊させた彼女は、想い出をゼロから創造するのではなく日野光と言う少女が居た場所に自分を置き換える事で己が願いを実現した。
それ故に矛盾が生じる。
他人や友人程度の関係性であれば、その矛盾も『解釈の余地』で有耶無耶に誤魔化せただろう。
だが、珠は光の実の妹だ。産まれてからずっと一緒にいた仲良し姉妹である。
その存在を塗り替えられては、あまりにも整合性が取れない。
許容量を超えた処理を要求された脳が悲鳴を上げ、珠が目眩を起こしたようにふら付いた。
「日野さん!?」
だが、地面に倒れようとする直前、先頭を歩いていた創が咄嗟に振り返りその体を支えた。
頭を打たないように右手を添えて、抱きしめるような体制で引き寄せる。
「あ…………ありがと。創くん」
「あ、う、うん。無事でよかった、です」
体が密着してしまっていることに戸惑う創を余所に、珠は気にした風でもなくあっさりと離れた。
それよりも、別の何かに気を取られているような様子である。
「本当に大丈夫ですか? 珠ちゃん」
「あっ……うん。ちょっと目眩がしただけ」
みかげに心配の声をかけられ、珠は僅かに視線を逸らす。
彼女らしからぬ表情で何か考え事をするように押し黙ってしまった。
(いつも通り優しいみか姉だよね。だけど……)
盗み見るようにみかげの様子を窺う。
少なくとも珠の見る限りおかしなところはない。
だけど言ってる事がなにかおかしい。
創の右手に宿る異能によって珠の認識は正常に戻っていた。
だが認識が元に戻っただけで、記憶がなくなったわけではない。
みかげの言動は覚えている。
考える。
圭介と恋人であると言ったみかげの真意を。
嘘をいってい風には見えない。
と言うより、珠にそんな嘘をついても意味がない。
だからこそ、よくわからない。
(圭介兄ぃがみか姉にも手を出して、二股してる? いやいや。お姉ちゃん大好きな圭介兄ぃが、そんな事をするとは思えないよね)
だいたい圭介にそんな甲斐性はない。
何よりみかげは姉の親友だ。2人が結ばれた時に、誰よりも祝福してくれたのは他ならぬみかげである。
そんなみかげが略奪愛のような事をするとは珠にはとても思えなかった。
(大好きな人がいても他の子に手を出したりする? 男の子ってそういうモノなのかなぁ?)
清子ちゃんがそんなことを言っていた気もする。
正直、珠には男女の機微などまってくもって分からない。
男の子と女の子、それを分けて考える必要すらよくわかっていない。
子供なのだ。
それでも、これがかなりデリケートな話であることは珠にだってなんとなくだけど分かる。
みかげに直接どういう事なのか問いただすのが一番手っ取り早いのだろうけど。
さしもの彼女にもそれは躊躇われた。
彼女の猪突猛進さもこの手の話題には発揮されないようだ。
まずは誰かに相談すべきだろうか。
大人であるスヴィアか、姉たちと同年代の茜か、それとも創に男の子としての意見を聞くか。
迷いながら4人を見る。
すると、それぞれに大きさの違う光が見えた。
特にみかげから見える光は一際大きな光だった。
思わず不安を感じてしまうくらいに。
この光は何なんだろう?
異能によるものとは聞いたが、結局その結論は出ていない。
今見えているのは、それぞれに話しかけた場合の「何か」なのだろうか。
大きければそれだけいいことがある?
けれど創もスヴィアも、まだよくわからないのに決めつけるなって言ってた。
(どうしよう?)
光に惑う迷い猫のように、珠は思い悩んでいた。
【D-7/道外れ/1日目・黎明】
【天原 創】
[状態]:健康
[道具]:???、デザートイーグル.41マグナム(8/8)
[方針]
基本.この状況、どうするべきか
1.ひとまず少女たちを安全なルートで先導する
2.みかげの異能に関する疑惑と対応は保留。
3.女王感染者を殺せばバイオハザードは終わる、だが……?
【日野 珠】
[状態]:健康
[道具]:なし
[方針]
基本.創くんたちについて行く。
1.みかげの言動の齟齬について誰かに相談する?orみかげに直接聞く?
【上月 みかげ】
[状態]:健康、現実逃避による記憶の改竄
[道具]:???
[方針]
基本.圭介君圭介君圭介君圭介君圭介君
1.圭介君に逢うため高級住宅街の方に行く。
2.私と圭介君は恋人…♪
※自分と山折圭介が恋人であるという妄想を現実として認識しています。
【朝顔 茜】
[状態]:健康
[道具]:???
[方針]
基本.自分にできることをしたい。
1.上月みかげと圭介を再開させる。
2.優夜、氷月さんは何処?
3.あの人(小田巻)のことは今は諦めるけど、また会ったら止めたい
※能力に自覚を持ちましたが、任意で発動できるかは曖昧です
※『去年山折圭介が上月みかげに告白して二人は恋人になった』想い出を真実の出来事として刻みました。
【スヴィア・リーデンベルグ】
[状態]:健康
[道具]:???
[方針]
基本.もしこれがあの研究所絡みだったら、元々所属してた責任もあって何とか止めたい。
1.それはそれとしてみかげと恋人を出会わせてあげたい
※『去年山折圭介が上月みかげに告白して二人は恋人になった』想い出を真実の出来事として刻みました。
投下終了です
投下します
そこにあるのは、あり得ない光景の一端。月夜に映る住宅街の暗闇を裂く一陣の人影。
コンクリートで出来たブロック塀を、鉄筋素材で出来ているであろう壁を、意図も容易く人の形をした大穴を開けながら突き進む怪物がいた。
デストロイヤー、まさに今の彼が何なのかを当て嵌めるならこの言葉が一番相応しいであろう。
全てを破壊し尽くし、邪魔するもの全てを破壊し尽くす。求める願いはたった1つ。
「見つけたんだなぁ、アニカママぁぁぁぁぁっ!!!!」
ハーレム王への道の第一歩、ロリママになるかもしれない天宝寺アニカを捕獲す(たすけ)る為に。
隣で険しい顔をしているムカつくイケメンをぶっ飛ばすことから、気喪杉禿夫の栄光のロードが始まる。
◆
「……っ!」
八柳哉太と天宝寺アニカが目撃した"それ"は、紛れもなく"異常"である。
林業周りで使われる丸太を有に超える太さのそれ、脂ぎっった身体に見るからにブサイクな丸顔。
だが、それを全て帳消しにするかのような巨躯。並の枝木に負けず劣らずの太さな大腕。宛ら脂肪の城壁ともいうべきモンスターが舗装された大地に罅を入れて屹立していた。
ハゲている頭に月光が玲瓏たる輝きを放っているのは一種の神秘。ただし、それが示すは美しさではなく醜悪さであるのだが。
「見つけましたぞぉぉ、アニカママぁぁぁぁぁっ!!!!」
「ひぃっ!? あ、あなたは……!」
蟇蛙の如き瞳孔がギョロリと蠢き、怯えを見せるアニカの方を見つめる。
アニカは名前を知らずともこの男の事は知っている。ハンバーガー屋さんに置き忘れた旅行カバンをわざわざ届けに来てくれた見知らぬデブ。そこまでならちょっとした美談で片付いた所であるが、カバンからサラッとパンツを盗まれていたと言う事実が、彼女に警戒と怯えを覚えさせるに十分であった。
「……何の用だ、おっさん?」
アニカを守るように前へ出たのは八柳哉太。来て数日ぐらいしか経過していないアニカとは違い、哉太は眼前に居るこの見るからの社会不適合者を睨む。
「お、お前、いきなり出てきて生意気なんだな……!」
「いきなりと言われてもな、こいつとは知り合いなんだ。俺の相棒に手を出そうってなら容赦はしないぞ。」
気喪杉の人外じみた威圧に気圧されること無く逆に睨み返す。
気喪杉禿夫の悪評は山折村の住人ならば誰でも知っている。哉太とて面識は無いにしろ悪い噂と、現状で確認できた言動や挙動で噂に偽りなし、ということは火を見るよりも明らか。
「……ぱ、Partner……」
肝心のアニカはと言うと、哉太の「相棒」発言に何かしら思う所があったのか、頬が赤くなってもじもじしている。別段アニカは哉太を異性として意識している、とは言いづらいが、少なくとも相棒発言で少し照れくさく、というか恥ずかしくなったのは確かだ。恥ずかしくなって、一周回って冷静に戻った。
で、その光景を見た気喪杉禿夫と言えば、顔を真っ赤にして激怒。何故かタンクトップを破り捨てて、吹き出した汗を飛び散らせながら関取の如く四股を踏む。
「あ、相棒ぉぉぉっ!? そ、そんなイケメン顔して俺のアニカママを独り占めしようとしてるんだな! 許せんぞこの卑怯者!」
「勝手に変な解釈するな。あと卑怯者のフレーズは嫌になるほど聞き飽きた。」
そのお門違いの怒号と同時に気喪杉に四股踏みされた道路は大きくひび割れる。
もはや人の話を聞いていない勘違いモンスターを相手に哉太は呆れ果てながらも、木刀の切っ先を向ける。
「……あのMonsterのskillはPhysical Upの類。……油断しないでね、カナタ。」
「言われなくても分かってる。足踏みで地面割るようなやつ相手に長期戦なんて出来るか。」
気喪杉がVHで得たであろう異能はアニカの見込みでは身体強化系統。しかも地面を足で割れるような怪力を相手に、まともに戦うなんて自殺行為に等しい。だったら、相手が本領を発揮する前にさっさと沈めてしまえば良い。
「申し訳ないが、ちょっとばかし再起不能になってもらうぞ。」
「調子に乗るんじゃないんだなぁぁぁっ!!!」
短期決戦、狙うは首の後ろの松風。疾く駆ける。
対して気喪杉禿夫は迫るイケメンに対して拳を叩きつける。だが所詮素人の拳。軌道が見え見えのテレフォンパンチは軽々と避けられる。
ただし、外れた拳が叩きつけれられれば地面はひび割れ破片が飛び散る。恐るべき破壊力だ。回避した哉太も、見守るアニカもまた冷や汗が流れた。
「ぬううううっ!!!」
攻撃が外れ、気喪杉の顔に分かりやすく苛立ちの表情が浮かぶ。思った通りの短気と言うか、本当に図体と馬鹿力だけの相手。それでも油断ならないと気を引き締めて背後を周り、構え、そして―――。
「八柳新陰流『抜き風』」
慌てふため動く気喪杉へと、一陣の風の如く繰り出したその技は。
「……!?」
「ええっ!?」
気喪杉禿夫の体中に滑った汗によって木刀が滑り、空を舞った。
そんなバカな、と哉太もアニカも頭に浮かぶのは同じこと。
滑りによって生じた空振りというアクシデントによる予想外は、ほんの一瞬哉太の動きが鈍る。
「……俺のかーちゃんはな、昔デブだなんて馬鹿にされてた俺にこう言ってくれたんだな……!」
「カナタ、避けてぇ!」
哉太の意識がスローモーションになる。アニカが何か叫んでいる。目の前のデブが何か語っている。
「『あんたはデブじゃないわ。ただふくよかなだけよ。ふくよかな分、他の人より筋肉があるのよ。』って。……だから、テメェみたいな恵まれただけのイケメンに俺が負けるはずないんだなぁぁぁっ!!!!」
そんなどうでもいい自分語りが終わる直後、哉太の腹部に、気喪杉の一撃が炸裂した。
「―――ガッ!?」
臓器が軋み、骨がバキバキと折れる音。その感触と苦痛を味わいながら、押し出された空気と共に血反吐を撒き散らしながら、哉太の身体は遥か後方へと殴り飛ばされる。
電柱に激突しながらゲートボールのように数回跳ね、最後に何か大きな音が鳴り響くとともに哉太の身体は大きく地面に叩きつけられる音が、アニカの絶望の表情と共に耳に届く。
デブは弱い、と何も知らない者は言うだろう。だが、デブは弱くない、むしろ強い。
並大抵のメタボ以上の脂肪と言う名の重荷を背負っているが故に、生きているだけで常人より遥かに筋肉の量が多い。
高揚した精神より多量に発生し流れる大量の汗は、剣技や組技を防げる簡易的な防御アーマーとなる。高速で動くデブに刃筋を立てるのは達人にも不可能。それが木刀であるなら尚更。
そして、気喪杉のパンチ。インパクトの次の瞬間、遅れてくる脂肪の振動が反作用を押し込み力を増幅させる。
発剄の原理にも似た、武術の達人が長い修業の果てに身につける技術を。
――デブは、生きているだけで手に入れた。
加えて、気喪杉の異能は感情に左右する身体強化の類だ。少なくとも破壊力のある拳やある程度早く動けるほどに筋力も増加している。今の彼は引きこもりニートではない。
強化された肉体により、デブという体質をメリットに変化した事によって生まれた怪物。
悍ましき欲望と醜き性欲を力に、狂った妄想の元に突き進む暴走列車。
あらゆる技も全て滑らせ、叩き伏せ、完膚なきまでに破壊する。
―――『破壊者』。そう、今の気喪杉禿夫は、最低最悪の蹂躙者そのものだった。
◆
「い、一体全体どうなっていますの!? どなたか知りませんがおバウンドしながら飛んできて……!?」
犬山はすみの姉である犬山うさぎとの合流を第一目標に、先ずは山折神社に向かおうと方針が決まろうとしていた直後。
金田一勝子が目撃したのは、電柱にバウンドされ吹き飛ばされて、地面に叩きつけられた青年の姿という、完全に映画の世界だと勘違いしても違和感なさそうな異常な光景。
そもそも、人間一人をバウンドさせながら吹き飛ばすという現象を引き起こした何かの存在がよっぽど脅威。嫌な予感がする。災害を擬人化させたような何かが、此方へと近づいてくるような感覚。
この場から逃げないと、という警鐘。だが、吹き飛ばされ現在進行系で大怪我を負った彼を見捨てては金田一家の名折れになる。
「……この子、確か八柳さんの所の……!」
「お知り合いですの?」
「彼のお爺さんが八柳新陰流と言う剣術の道場をやっていたので、役所仕事で訪れた時に面識はあります。確か都内の高校へ行ってたはずですが……。」
「そういうのは一旦置いときましてよ。………彼、無事ですの?」
「………。」
少なくとも、はすみの表情は暗く。それだけで金田一にも彼の様態は一目瞭然だった。
何度か電柱に叩きつけられた衝撃で木刀は見事に真っ二つになっており、両手両足はあらぬ方向へ曲がってへし折れ、腹部に大きな衝撃が与えられたのか大きく鬱血している。吐血している血の量を顧みて、明らかに無事ではすまないだろう。少なくとも、臓器へのダメージは致命的だ。なのに。
「ごっ、ガハァッ!!」
「……えっ? ……哉太くん大丈夫!?」
血反吐を撒き散らし、悶えるように苦しんでいる。少なくとも、まだなんとか生きている。
生命の危機に反応した八柳哉太の異能の強制発動。肉体再生の代償による激痛が、今彼を襲っている苦痛の正体。今、八柳哉太の体内では傷の再生が開始しているが、ダメージの大きさからして時間がかかることが明確。恐らく、犬山はすみの耳には八柳哉太の体内で起こっている再生と言う名の人体が発してはならない奇音が鳴り響いているだろう。
少なくとも「これでは助からない」と思っていたはすみは面食らっていた。
「ちょっちょちょちょちょ、何これ!? 一体何がどうなってるの!?」
「ひ、ひなたさんアレ!」
そして、現れたのは新たなる客。妙な騒音に一旦乗車していたスーパーカブから降りて、様子を見に来た鳥宿ひなたと字蔵恵子。
道路の惨状は火を見るよりも明らか。それ以上に目を引いたのは見るも無惨な姿で倒れている八柳哉太の姿だ。
「先に言っておきますが、これは私達のせいでは断じてありませんわ。」
二人の視線を察してか、事前に否定の言葉を金田一は告げた。
どちらかと言えば、八柳哉太の姿で少女が、字蔵恵子の怯え顔が見えた事での弁解ではあるのだが。
少なくとも、鳥宿ひなたはちゃんと状況を理解していたようではあった。
「そんな事言われなくても分かってる! そっちは確か施設課のはすみさん……ですよね。それで、この人大丈夫なんですか!?」
「あ、ひなたさん、あの時はどうも……じゃなくて。……わからないんです。だって、こんな傷、本当なら助からないはずなのに……! 突然苦しみだして、それに哉太さんから変な音がして……。なんかこう、バキバキボリボリって……!」
オーバーな表現に思えるが、はすみからすれば全くの事実。少し気になってひなたが彼の近くに耳を傾ければ、言葉通り何かが折れたり砕けたりするような音。
彼も何かしらの異能、恐らくこの傷で生きている事を踏まえれば再生能力の類なのかな?などとひなたが思った矢先のこと。――はすみとひなたを隙間をくぐり抜けるようにして、何かが飛んできた。
「……あ゛っ」
飛んできたそれが、三人が知覚し振り返る頃には、既に字蔵恵子の身体に叩きつけられ、彼女をビリヤードの球のように吹き飛ばしていた。吹き飛んできたのは天宝寺アニカの身体そのものだった。
「……な、なんですってぇぇ――ッ!?」
金田一勝子は信じられないものをまたしても目撃した。
今度は、人が人がビリヤードのように激突する光景。妄想でも錯覚でもない。そんなチャチなものでは無い恐ろしい光景。そして、それを引き起こした人物(モンスター)は。
「……ふぅぅぅぅ。軽くビンタしたつもりだけど、ちょっと張り切りすぎちゃったんだな……。」
「―――ッ!?」
跳躍し、轟音とともに着地して、既に金田一勝子たちの背後へと立っていた。
◆
「け、恵子ちゃんっ!?」
「あの、ちょっと、これ、どういうことなんで……え?」
動揺しながらも、ひなたは既に吹き飛ばされた恵子の方へと向かっていた。
はすみは尋常ならざる事態に混乱し直後、勝子の直ぐ側にいる怪物に、恐怖した。
「……恵子ちゃん! それにそっちの人も大丈…………!?」
吹き飛ばされた方の恵子は、衝撃で地面に叩きつけられた程度だったが、それでも彼女にとっての痛みは如何程のものか、それでも余り痛そうな反応はしていなかったのが幸運だったのか、それとも。
そして問題は片方、吹き飛んできた金髪の少女の方。思いっきりビンタされたのか、顔が大きく腫れ上がっている、口や鼻からも血が流れており、どのくらい大きな力で張り飛ばされてきたのか伺い知れない。
「……かな、た。かな゛、た゛ぁ………。」
その金髪の少女は、譫言の用に、「かなた」という名前を読んで、倒れ尽くす八柳哉太へと手を伸ばそうとしている。……その瞳に溜まった涙を流しながら。
こっちは身体へのダメージはそこまでではない。だが女の子にとって大切な顔が此処まで痛めつけられて、と言うよりも自分よりもあっちの彼の事がどれだけ心配なのかも、素人目からしても伺い知れる。
「……ひなた、さん。私は、大丈夫。」
「……大丈夫って、大丈夫ってそんな……!」
「だって、痛いのは、慣れてるから。」
「―――――――ぁ。」
恵子の弱々しい笑顔に、鳥宿ひなたの思考が静止した。
失念していたわけではない、彼女はこのVHの時まで、実の父親に虐待され続けた。誰にも助けを求めることが出来ず、全てを諦めて。
だから、慣れている。痛みという感覚に、度重なった虐待に、父親に言われて痛みを取り繕う事に、慣れているのだから。
それは、恵子なりにひなたを心配させまいと振り絞ったやせ我慢であることなんて、火を見るよりも明らかな事だから。
「……あい゛つ、は゛、滅茶苦茶………。みんな゛、逃げ………。」
ある意味女として酷い状態だったアニカの方は己の傷も厭わず、声を上げる。
少なくとも、アクシデントがあったとは言え哉太がこうも容易くやられてしまったのだ。
自分の異能で何とか出来る相手なら既になんとかしている、それが出来ない相手に取れる選択なんて、みんなで逃げるぐらいしかない。
「ん〜、話し合いはおわったのかぁ〜。俺は紳士だからさぁ、話が終わるまで待ってあげるんだなぁ。」
問題の怪物(モンスター)は、自らを紳士と自称し、余裕の態度で待機していると来た。
ただし、目の前の獲物を逃がすつもりなど、毛頭ない。少なくとも、八柳哉太(イケメン)は殺すという意思表明である眼光だけが妖しくギラついている。
「「―――ひなたさん」」
「勝子さん? ひなたさん?」
それは、同時だった。金田一勝子と鳥宿ひなたの言葉が一字一句シンクロニティを果たしたのは。
二人の視線の先は欲望を満たさんと舌舐めずりする破壊の異形(フリークス)。今にも襲いかかってもおかしくないそんな怪物。
「……そこの方々を安全な場所に避難させてくださいまし。」
「勝子さん、それってどういう……!」
「あの怪物、一度叩かないと本当に懲りないかも知れませんわ。だからここで再起不能にするのが最適解。」
あの怪物は間違いなく自分たちを含めた皆を逃がすつもりはない。というか逆になんか高揚というか興奮している。
だから、この舐め腐った態度をとるこのおデブの傲慢をへし折って再起不能にしたほうが良い。
他に災いを齎す様な相手を、そのままにしておくつもりは、今の金田一勝子には存在しない。
まず、あの跳躍力を見せつけられて、怪我人三名抱えて無事に逃げられるとなんて思ってはいない。
勝算の薄い博打は嫌いだが、これは賭けの舞台に無理やり参加させられたようなもの。退席なんて許してくれない。
「それに、大切な妹さんと合わせる約束をしたのに、それを放って勝手に力尽きるつもりはありませんもの。金田一家家訓その1『迫る困難はメガクラッシュ』ですのよ!」
「意味がよくわかないんですが勝子さん」
「はすみさん。ここは私たちに任せて貰えませんか。」
「ひなたさんまで、任せてって……!」
犬山はすみは察する。この二人は、あの怪物の足止めをするつもりだと。あの人間一人を拳で吹き飛ばす、壁や地面にヒビを入れるようなモンスターに、だ。
「……はすみさん。恵子ちゃんの事、お願いします。」
「流石に怪我人を守りながらでは守りたいものも守れません。はすみさん、この子達のこと、よろしく頼みますわ。」
だが、二人は怯んでなどいない。ちゃんとやることやって戻ってくるという決意の元に燦然と瞳を輝かせている。だから、こうして頼んでいるのだ。
「……ひなた、さん。」
「恵子ちゃん、心配? 私は大丈夫、大丈夫だから。今はこのお姉さんと一緒に安全な場所に隠れておいてね?」
「ほんとに、ほんとに大丈夫!?」
そして一方、未だ痛みを耐える恵子もまた不安を顕にしていた。
何せ相手は文字通りの怪物、欲望と性欲に身を任せる狂戦士にして破壊者。何が起こるかわからない、生まれて初めて感じる別種の恐怖に字蔵恵子は囚われている。
「だいっじょーぶ!! 遭難しかかっても何だかんだで生きていたんだし、大丈夫! ……それにさ、キミにはもっと教えたいことととかあるし、幸せになって欲しいから。――だから、信じて。」
だが、そんな事知るもんかと、天真爛漫、軽快に鳥宿ひなたは言葉を返した。
根拠のない自身ではあるけれど、その明るさだけでも、字蔵恵子の不安を取り除くには十分な言葉。
「………わかった。わかったよ、だから、死なないで、死なないでね! 約束、だよっ!」
「うん、約束。必ず守るから。恵子ちゃんも、無事でいてね。」
約束。それはかつて、字蔵恵子にとっては呪いだった言葉。家に縛り付ける為だけに用意された母の呪い。
だがこれは違う、初めて信頼できる、初めて信じることの出来る、そんなヒーローとの約束。
そんな鳥宿ひなただからこそ、字蔵恵子は信じるのだ。
勿論、不安もある、心配もある。彼女は完璧なヒーローではない。それを知っているから、字蔵恵子もまた。
「あ、あああの、大丈夫、です、か……?」
「……あな゛た、誰……?」
文字通り酷い顔にされた少女。上手く立てない彼女の手を取る。
近くの家屋に哉太の身体を連れ込む犬山はすみの姿についていくように、彼女を手を取って歩き始める。
「……恵子。字蔵恵子、です。」
「……ケイコ。ケイコ、ね゛。……あり゛、がと。」
恵子の手を取りながら、アニカもまた近くの家に避難する。
彼女にとっての不安は、あの二人であの化け物相手にして無事でいられるのか。
そして何より、真に不安なのが。自分を相棒(パートナー)だなんて言ってくれた、八柳哉太が無事であるのかどうかだった。
◆
「……むふ、むふふふふ………! 巨乳JKに本物のお嬢様と出会えるだなんて、俺は幸運なんだなぁ!」
残された二人の少女の毅然とした表情を前にしても、気喪杉禿夫の気味の悪い笑いは止まらない。むしろ、彼にとってこれは一種の幸運だ。
狙い目である巨乳JKと遭遇し、しかもおまけで見るからに分からせがいのある強気お嬢様もいる。
隠れられたがお目当ての一人であるアニカママとおまけの可愛い二人までいると来た。これは昂ぶらずして何が男か。ついでに気喪杉のビッグマグナムも臨戦態勢である。
「みんな、みんな纏めて白馬の王子様である俺のお嫁さんたちにしてやるんだな!」
「白馬の王子様? 白豚の見にくい王様の方が似合ってるのでなくて?」
「し、白豚だとぉ!?」
あからさまな煽りに反応、「やっぱり」と言わんばかりに気喪杉は蒸気機関車のごとく煙を耳から吹き出し激昂。それを、金田一勝子は冷めた視線で見つめていた。
「おおお俺はドS女にイジメられるより、いじめて分からせるのが良いんだぁ!!!」
「誰がそっちの趣味の話を聞きたいと言いまして? ……はっきり言わせてもらいますわ。貴方のような人の心を踏みにじるような化け物に救いなんて訪れませんわよ?」
明らかに、金田一勝子の言葉に怒りと苛立ちが込められている。
あんな小さな女の子の顔が滅茶苦茶になるような事をしておいて、男の風上にも置けない汚物。
翼はブチギレさえすれど自分に手をだすことはしなかった(たまにジャーマン掛けられる)。いや、翼を知っているからこそ、金田一勝子は目の前のモンスターに対して怒りを顕にしていたのだ。
「――ねぇ。なんであんなこと出来るの?」
一方、鳥宿ひなたが気喪杉に発した言葉は、余りにも冷たく低い声だった。
勝子もまたその低すぎる声に反応して其方を見れば、静かに電気が周囲を迸っている。
明らかに、起こっている。自分なんかよりも、数段ほど。
「あんなこと? あーあれはただの愛のビンタなんだんだな! 聞き分けが悪い子供はああやって躾けるって父ちゃんが言ってたんだな! あ、勿論手加減はしたんだよ、なんだって俺は紳士なんだからな!」
「…………。」
「そう、ファミリービンタ。アニカママはもうすぐ俺の家族になるのに、聞き分けが悪かったから愛をこめてファミリービンタをしてやったんだな!」
「…………。」
「ファミリービンタをすれば、どんな気の強い女の子でも素直になるって父ちゃんが言っていたんだな! 父ちゃんも母ちゃんと喧嘩してた時によくやってたんだな!」
黙ったまま、表情を見せないひなたを知ってか知らないか、誰も望んじゃいない気喪杉の勝手な理論がペラペラと響き渡る。
「……なんて身勝手な。」
勝子は、反吐が出そうだった。それ以上に、この男の家族環境もまた、余りにも吐き気を催す邪悪が煮詰まったものだと。
両親に甘やかされ。いや、特に父親に甘やかされて。蛙の子は蛙というが、ここまでねじ曲がった物の怪が生まれるだなんて。
尚更、気に入らなかった。尚更、金田一勝子はこの男を許すわけにはいかなかった。
「身勝手、何が?」
尾びれもせず、楽観的に怪物は返事をする。まるでそれが何も間違っていない、相手が間違っているだけという認識であるように。
「じゃあ、君たちカワイコちゃんにも一発ファミリービンタをお見舞いしないといけませんなぁ。あ、勿論ムカつくさっきのイケメンは処刑確定なんだな、むっふっふ――――。」
「黙って。」
その稲妻にも等しい一言が、気喪杉の言葉を遮るように、雷鳴とともに告げられた。
「すごく痛いはずなのに、恵子ちゃんは私に向かって笑顔だった」
恐らく、この感情は鳥宿ひなたという人間が生まれて初めての感情だっただろう。
「子供の身体が剛速球ほどの速さでぶつかってきて、すごく痛いはずなのに、なのにあの子は。」
普通にプロ野球選手の剛速球をもろにぶつけられたらものすごく痛い。いや、痛いというよりも骨が折れてもなんらおかしくはないのに。
「慣れているから」だなんて取り繕って、笑っていて。……骨が折れていただなんて、見るからに明らかだったから。
「笑ったの、苦しいはずなのに、辛いはずなのに。私を慰めるような事言ってくれた。」
心が、すごく傷んだ。締め付けられるような、そんな感覚。
今まで味わったことのない、孤独や苦痛とは全く違う、心の痛み。
「……貴方には、わからないんですね? 誰か痛みも、心の痛みも。」
拳を握りしめて、その瞳から雫を零しながら、睨み返すように、鳥宿ひなたは眼前の気喪杉禿夫(モンスター)を凝視する。
「……何いってるのかわからないんだな? ……でも、こういう女は一度黙らせて分からせればいいんだな。」
だが、そんなひなたの悲痛にも似た思いを気喪杉は一蹴。既にこの怪物は、女の子を黙らせてハーレムにする、男は殺すの単純明快な思考しか考えておらず。
「……あなたは絶対に許さない。」
雷光が、弾ける。鳥宿ひなたが文字通り光り輝く。
「……謝らせる。恵子ちゃんにも、金髪のあの子にも、そしてあの男の人にも。」
鳥宿ひなたは人を殺さない。だけど目の前のこいつは許さない。
だから、止めて、謝罪させる。謝らせる。迷惑かけた分、目一杯反省させる。土下座させる。
「……真っ先に謝らせるってなんとまぁ、呑気なのか本気なのかイマイチわかりませんわね。」
そして同じく、気喪杉禿夫(モンスター)と相対するは金田一勝子。
「ですが。……あいつの事が許せないと言うのは、同意見ですわね。」
見るからに、ひなたなる人物の異能は電気に関連する異能であろう。
多少冷静ではなさそうとは言え、彼女の発言から察するに人を殺すような危険人物ではなさそうなのは重畳か。
「詳しい事情は、このお◯ッククソデブ野郎を叩きのめしてからですわね!」
クエスト:気喪杉禿夫(デストロイヤー・フリークス)の撃破――開戦(オープン・コンバット)
◆
(さて、どうするべきか。)
そして、始まろうとしている戦場より少し離れた場所にて。潜む影が一つ。
("ヒナタサン"の臭いを追ってみれば、なんだあの男は。)
独眼熊。鳥宿ひなたの臭いを追い、潜むように追跡してみれば。
まるで自分たちと対して変わらない大きさを誇る大男の姿が見えた。少なくとも憎き猟師どもの類ではないが、その体躯は自分のような大型動物にも引けを取らぬ何かを感じた。
それと相対するは目標の一つである"ヒナタサン"と呼ばれていた人物と、見知らぬ妙に派手な女。
(いや、今はそんな事はどうでもいいか。)
問題の大男の相手はあの二人に投げるとして、狙うは家屋に逃げ込むように入った4人。
都合が良い。手負い3名、女一人。手負いの内一人は、小さい方のメス"ケイコチャン"と呼ばれた人間。
だが怪我をしている、それでも警戒を怠るつもりはない。
(次の獲物は奴らにするか。それとも。)
思考する、考察する。羆らしからぬ、羆より進化したその脳で。
逃げ込んだ獲物を喰らうか、このまま去って"山暮らしのメス"を探すか。
前者は手負いの数からしてデメリットは小さい。今後の"ストック"の為に実行するのも手か。
影より潜みて、独眼の怪物は思考する。
【C-4/高級住宅街/一日目・深夜】
【烏宿ひなた】
[状態]:感電による全身の熱傷(軽度・全身・手当て済)、肩の咬み傷(手当て済)、気喪杉禿夫に対する怒り(大)
[道具]:スーパーカブ90cc(路上に放置)、夏の山歩きの服装、リュックサック(野外活動用の物資入り)
[方針]
基本.出来れば、女王感染者も殺さずに救う道を選びたい。異能者の身体を調べれば……。
1.最寄りの避難所(B-2 公民館)か、猟師小屋(B-6)に向かう。(次の書き手さんに任せます)
2.こいつ(気喪杉禿夫)は許さない。絶対にみんなに謝らせる。
3.生きている人を探す。出来れば先生やししょーとも合流したい。
4.VHという状況にワクワクしている自覚があるが、表には出せない。
5.……お母さん、待っててね。
【金田一勝子】
[状態]:健康、気喪杉禿夫に対する怒り(大)
[道具]:スマートフォン 、マーキングした小石(ポケットに入る分だけ)
[方針]
基本.基本的に女王感染者については眉唾だと思っているため保留。他の脱出を望む。
1.犬山うさぎとの合流を目指す。
2.このクソムカつくお◯ックデブ野郎をお高い態度をへし折って差し上げますわ。
3.能力は便利ですが…有効射程なども確認しなければいけませんわね。
4.ロクでもねぇ村ですわ。
5.生きて帰ったら絶対この村ダムの底に沈めますわ。
【気喪杉 禿夫】
[状態]:健康、興奮
[道具]:金属バット、懐中電灯付き鉢巻、天宝寺アニカのパンツ、日野光のブラジャー、日野珠のスパッツ、ブローニング・オート5(5/5)、予備弾多数、リュックサック
[方針]
基本.男ゾンビやキモ男を皆殺しにしてハーレムを作るんだな
1.ロリっ娘、巨乳JK、貧乳元気っ娘みたいにバランス良く属性を揃えたいんだな
2.目の前の巨乳JKとお嬢様を黙らせてハーレムにしてやるんだな
3.隠れた女の子たちも纏めてハーレムにするんだな。後、あのイケメンは殺す。
4.美少女JCJK姉妹(日野姉妹)を探して保護するんだな
5.ゾンビっ娘の×××はひんやりして気持ち良かったんだな
【独眼熊】
[状態]:健康、知能上昇中、ちょっと喋り方を覚えた
[道具]:なし
[方針]
基本."山暮らしのメス"(クマカイ)を殺す。猟師どもも殺す。
1.人間、とくに猟師たちに気取られぬよう、痕跡をなるべく残さずに動く。
2.家屋に逃げ込んだ手負い込みの獲物を仕留めるか、一先ず離れて"山暮らしのメス"(クマカイ)と入れ違いになったメスを探すか。(どちらかは、後続の書き手さんに任せます)
【C-4/高級住宅街・ある一軒家内/一日目・深夜】
【犬山はすみ】
[状態]:健康、不安
[道具]:なし
[方針]
基本.うさぎを探したい。
1.勝子さんと行動を共にする。
2.勝子さん、ひなたさん、大丈夫でしょうか……?
3.生存者を探す。
4.ごめんね、勝子さん。
【字蔵恵子】
[状態]:ダメージ(中)、骨折(骨折部位は後続の書き手にお任せします)、下半身の傷を手当て済、今までになく満腹、不安
[道具]:夏の山歩きの服装
[方針]
基本.生きて、幸せになる。
1.ひなたさんについていく。
2.ひなたさん……
【天宝寺 アニカ】
[状態]:全身にダメージ(中)、顔面に大きい腫れ、鼻血。頭部からの出血(中)
[道具]:催涙スプレー、ロープ、スタンガン、八柳哉太のスマートフォン、斜め掛けショルダーバッグ
[方針]
基本.このZombie panicを解決してみせるわ!
1.まずはYamaori Villageの人達にHearingよ。
2.とりあえず人が集まりそうなschoolに行ってみましょうか。
3.Ms.チャコが地下研究施設について何かを知ってるかもしれないわね。
4.私のスマホどこ?
5.……ヤナ、ギ……
※異能の存在に気がつき、任意で発動できるようになりました。
※他の感染者も異能が目覚めたのではないかと考えています。
※虎尾茶子が地下研究施設について何らかの情報を持っているのではないかと推理しました
【八柳 哉太】
[状態]:意識混濁、全身にダメージ(大・再生中)、臓器破損(再生中)、全身複雑骨折(再生中)
[道具]:木刀(へし折られた)、脇差、打刀
[方針]
基本.生存者を助けつつ、事態解決に動く
1.このバカ(アニカ)を守る。
2.???
※自分にもアニカと同様に何らかの異能に目覚めたのではないかと考えています。
投下終了します
時間帯は両方とも深夜ではなく黎明です。ミス申し訳ございませんでした
投下乙です
>Behavior observation
デブってすごい、僕はそう思った。太ることにそんなメリットがるんだなぁ
気喪杉が完全なるモンスター、これに立ち向かう女子たちが強い、強い女が多すぎるこの村
さらに逃げた面々にも熊が迫ってどっちもかなりのピンチ、哉太ははよ起きろ
投下します
「道を開けよ」
たった一言、透き通った清水のごとき声を風に乗せただけ。
それだけで、げに恐ろしき地獄の亡者どもが恐れ多きとその場にひざまずく。
「女王の御前である」
亡者の群れに一歩たりとも退かぬ、堂々とした振る舞い。
神の社より地に遣わされんは、一人の清らかな乙女である。
恐ろしいほどまでに白い、絹のような珠肌。
均整の取れた高い鼻梁。
月の光を照り返し、しだれ落ちる滝のような黒髪。
神格を帯びた宝剣を携え、穢れなき装束に身を包み、しゃなりしゃなりと歩んでくる。
乙女の名は、神楽春姫。
しゃらん、しゃらんと鈴の音が鳴り響くかのようなその優美な所作に、見惚れぬ者などおらぬだろう。
そのなりはまさに女王、いや、さながらこの世に顕現した女神といえよう。
仮に彼女が本当に神官の祈りに応えて世に現れた女神であるとするなら、
『無病息災』と書かれた白く丸く丈夫な冠の存在に、神官らは大いに困惑するに違いなかろうが。
当の本人は装束の歪みなど気にも留めず、泰然たる態度で亡者たちが蠢く下界へと足を踏み入れる。
亡者たちはその圧倒的な存在の差を前に、道を空け、ひざまずき、首を垂れる。
それはまるで巡幸に訪れた女皇を敬うかのようであり、彼女の道を遮る不遜な者は一人として存在しなかった。
■
公民館は高級住宅街のはずれに位置する。
ほんの数十年前、公民館は木造の集会場であり、高級住宅街は一面に広がる田畑であった。
しかし、山折厳一郎が村長となってからは、山折村の心臓部として著しい発展を遂げている。
ここに居を構えるのは、山折村でも比較的裕福な層や、村外から移り住んで来た者たちである。
村長の施策によって山折村に移り住む人間は徐々に増えており、ミナセ株式会社をはじめとした大手開発企業を中心に高級住宅街はいまだ拡張中だ。
剛一郎は建設中の住宅地、その工事現場から丸棒材を拝借し、それを片手に住宅街へと足を踏み入れた。
だが、幸か不幸か、剛一郎は正常感染者にも、特殊部隊にも出会ってはいなかった。
広川成太が安易に銃を使っていればこの時点で出会っていたかもしれないが、弾も無限ではないし、
何よりターゲットに銃声を聞かれて潜まれたら面倒だということで、極力ナイフと体術を主としていた。
故に、二人は出会うことはなかった。
ぽつぽつと路上をうろつくのは、剛一郎の村人のゾンビのみである。
そのすべてが顔見知り、顔見知り、顔見知り。
古くから村に住む中間層の住人か。
地震の被害の調査のため、住宅街に派遣した派閥の仲間たちか。
そして彼らの連絡を受けて公民館へと向かっていた、仲間の家族か。
いずれにしても積極的に絡み絡まれる必要はなく、まして争う理由など一切ない。
そもそもの話だが、高級住宅街の民家の多くは巨大地震に十分に耐えたのだ。
特に北西部。ここは拡大し続ける住宅街の外縁部にあたり、3年以内に建てられた新築物件が多い。
災害時に、自分はまだ大丈夫だと認知してしまうことを正常性バイアスというのだが、
この地域に限れば事実として問題のなかった住宅が大半である。
ゆえに公民館に避難してくる者も限りなく少なく、家の中に籠って夜明けを待つ者がほとんどであった。
耳をすませば、あちこちの住宅からゾンビたちの呻き声が聞こえてくる。
しかし、路上をうろつくゾンビの数は古民家群とは比較にならないほど少ないといえよう。
逆に、古民家群は住居そのものが全壊あるいは半壊し、家をなくした住民も多い。
彼らが最寄りの避難所、すなわち学校に逃げ込んだことで、学校はゾンビの密集地帯となっているのである。
剛一郎は顔見知りのゾンビを発見しては、角を曲がり、電信柱や車の影にて隠れてやり過ごす。
ゾンビたちは動きものろく、視線を振り切った先で姿を隠して音を消せば、ふらふらとどこかへ立ち去っていく。
二度も角を曲がれば、完全に行き先を見失ってしまう。
そうして二度ほどゾンビを振り切り、再び同じ要領で角を曲がったところ、偶然の挟み撃ち。
正面から見覚えのあるゾンビがよろよろと歩いてきた。
「六紋のオヤジ……。
アンタもそうなっちまったのかよ」
古くから山折村に住む者であれば、いや、最近越してきた者であっても、彼の顔を知らない者はそうはいないだろう。
仙人のような風貌ながら、それに見合わぬ人懐っこさと豪放さは、今やかけらもない。
彼もまた、ほかのゾンビたちと同じく、白目を剥いてよろよろと歩いていた。
さすがに今回は無傷ではやり過ごせないと、手に持つ棒材をがっちりと握りしめる。
だが、兵衛が襲い来ることはなかった。
「あ〜」と間の抜けた声をもらしながら、何かに導かれるかのようにふらふらと南へ進んでいく。
腹を空かせた人間が焼かれた肉の匂いに引き寄せられるように、自身に満ち滾った男が極上の美人へと迫るように。
彼が内包する狩人の本能に誘われるまま、ふらふらと南へ、南へと歩いていくのである。
六紋兵衛は学生時代の先輩後輩の関係にあたる。
彼と近い世代の男性で、彼に連れられて山中を歩き回ったことがない者などほとんどいないだろう。
山のあちこちに作られた秘密基地を引き継いだこともあれば、獲物を振る舞ってもらったことだってある。
猟友会の裏の窓口としても、今に至るまで、色々と世話になっている人生の先輩だ。
襲ってこないのであればそれに越したことはない。
郷愁に駆られ、なんとなしに兵衛の背を見送れば、異様な光景が目に入った。
兵衛が、交差点で東の方向を向いて、ひざまずいている。
何事かと引き返せば、兵衛の向く先、うろついていたゾンビたちも、一斉にひざまずいているのである。
その先には、燦然と輝くような、いっそ神々しいまでの存在がある。
野生の勘など一切持たぬ剛一郎でさえ、感じ取れる圧倒的存在感である。
一体何者が、と、身震いするような感覚と共に住宅街の奥を睨め付けると。
「なんぞ、誰かと思えば郷田の家の者ではないか。
鬼が地獄の淵より這い出てきたのおったのかと思うたわ」
住宅地の奥から悠々と歩いてくるのは、神楽春姫。
剛一郎の親友兼悪友である神楽総一郎の長女であった。
■
正体が分かれば、先のは気のせいだったのかと思うほど、畏れがすっと引いていく。
郷田家も神楽家も村の重鎮、山折家も含めて、家単位での面識があって然りである。
剛一郎が神楽弁護士事務所にカチコミをかけることもあれば、総一郎が郷田寿司に乗り込んできて、嫌味を言って帰っていくこともあった。
剛一郎が借地契約や土地賃貸借契約で総一郎をたよることもあれば、総一郎がハレの日のとびきりの馳走を剛一郎に注文することもあった。
おおよそそのような関係である。
なお、春姫は越前蟹や鯛、甘海老を好む。
「何やら無骨なものを携えておるようだが、汝も妾を殺しに来たのか?
しからば、切り伏せてくれよう」
「待て、待て待て、なんでそうなるんだよ春ちゃん!?
いくらなんでも話が飛びすぎだ!」
宝剣をくるりと回して戦闘態勢に移行する春姫に対して、剛一郎は慌てて静止をかけた。
出会い頭に自己完結するのはおおよそ普段通りといえるが、それで一方的に返り討ちにされては堪ったものではない。
そんな剛一郎の思考は気にも留めないのか、春姫は眉をひそめる。
「妾は女王であるぞ?
うさぎといい、汝といい、この村の者はみな、先の言を聞いておらぬというのか?
喉元に劔を突き付けられてなお、見下げ果てた鈍重さよな」
心配をしているのか見下しているのか、判断に困る。
春姫の放言癖は村人であればだれでも心当たりがあろう。
今は村外で暮らす剛一郎の倅に、山折の跡取り息子。
いずれも、春姫の言動には振り回されていたものだ。
それでも子供の言うことだと剛一郎は気に留めていなかったが、此度の放言はとびきりである。
「放送を聞いてっから訳が分からねえんだよ!
春ちゃんの言う女王ってのはよ、女王感染者ってやつのことを言ってるんだろ!?
その言葉、ガキの冗談じゃ済まねえんだぞ!?」
「この期に及んで、つまらぬ冗談を言うと思うてか?
それとも、妾に前言を翻せと言うておるのか?
妾が命惜しさに、そのような見苦しい真似をするはずがなかろう」
剛一郎は春姫が冗談を言うような性格ではないことも知っている。
一度言い出せば、本人が納得するまでは決して引かぬ媚びぬ訂正せぬ。
殊に山折家や郷田家が相手であれば、テコでも意見は翻さぬ。
「自分が女王感染者だって、本気でそう言ってんのか……!
それが何を意味してんのか、本当に分かってんのか!?」
「くどい。女王は妾である。同じことを言わせるな。
それとも、我が神楽家こそが村の始祖たること、郷田の家のは未だに認めておらんという腹か?」
春姫の視線は、剛一郎を冷たく射抜く。
身長は、頭一つ分以上の差があり、春姫からは自然と見上げる形となるというのに、
剛一郎が思わず身を竦ませてしまうほどの気迫を伴った視線である。
しかし剛一郎とて、自分の子ほどの年齢の者に圧倒されて即座に引き下がるなど、プライドが許さない。
そのまま数秒、にらみ合いを続け。
「ああ、分かった、分かったよ。
百歩譲って春ちゃんが女王だとしよう」
折れたのは剛一郎だ。
こうなった場合の春姫の頑固さはよく知っている。
曲がりなりにも五十余年生きているのだ。
相手に譲らなければ立ちいかない場面があることも知っている。
だが、それはそれ、これはこれ。
「これからどうするつもりなんだよ?」
女王感染者であるならば、すべての正常感染者から狙われる立場にある。
誰かに殺されるか、村ごと焼かれるかのどちらかの運命しかないのだ。
今いるこの場所は神楽家の方向とも少々外れている。むしろ山折家への道中だ。
何の目的でこんなところをうろついているのか。
剛一郎の問いは、彼でなくとも、誰もが抱く問いであろう。
その問いに、春姫は一切の淀みなく答える。
「無論、知れたこと。
禍の元凶たる山折の首魁の征伐に決まっておろうが」
「山折の首魁……? 村長か?」
さも山折厳一郎がすべての元凶であるかのような堂々とした物言いである。
冷静に考えればそんなはずはないのだが、あまりに超然としすぎているため、剛一郎のほうが歯切れが悪くなる。
「ほかに誰がおるというのだ。
山折の跡取りなど、おなごに囲まれて悦に浸っておる猿山の大将にすぎぬ。
先代の老いぼれは歳の割には精強なれど、所詮は隠居人であろう」
常に自身を特別と置く春姫だが、山折家を語るときはそのトーンが殊更に強まる。
郷田家と神楽家も年中意見を戦わせているが、神楽家と山折家はそれ以上に折り合いが悪い。
村長という役職も村の名も、村の始祖を名乗る神楽家にとっては目の上のたんこぶのようなもの。
総一郎と厳一郎は同性の幼馴染ということもあり、最終的には協力し合える仲に落ち着いているが、それがむしろ例外。
春姫の山折家嫌いは先祖代々筋金入りといえよう。
仮に将来、圭介が悪政を敷こうものなら、春姫は即座に首を切って村長の座を明け渡させるに違いない。
「もっとも、汝の様子を見るに、山折の家のは、自宅ではなく公民館におったようだが。無駄足だったらしいな。
父上と相討ったか、あるいは山折の家のも、父上も、亡者に堕ちたか。
どちらだ?」
「……村長も総一郎も、正気を失っちまった。
部屋ん中に隔離したんでしばらくは無事だろうが、誰かが不用意に開けないとも限らねえ。
いつまで持つかは分からん」
「そうか、父上は堕ちたか。それがさだめなのであろう。
しかし、山折の家のが亡者に堕ちたとなれば、糸を引いておるのは他におるようだな」
春姫は神妙な顔で独り言つ。
しかし剛一郎には話の導線をさっぱり追えない。
もっとも、こうなった彼女の言葉を理解できるのは、実父の総一郎だけであろうが。
「待て待て、待ってくれ。
また話が飛びすぎてるぞ!
春ちゃんは何の目的で動いてんだよ!?
糸を引いてるってなんだよ!?」
「いちいち騒がしいぞ郷田の家の。
妾の目的と言うたか?
当然、騒動の収束に決まっておろう」
「収束って……女王感染者とやらを殺すってことだろ!?
女王が春ちゃんだってんなら、収束って何をするつもりなんだよ!?
訳が分からねえ!」
「ならば聞くが、汝は抗体や治療薬の類が一切ないと本気で信じておるのか?」
「……あん?」
「先ほど放たれた言の主は、研究所とやらの尖兵であろうがな。
そもそも、中央と密約を結んでおると聞いておらなんだか?
国家そのものを滅ぼしかねん研究に、中央がたずなを付けぬと思うてか?
これがならず者どもによる野放図な研究であれば、それこそ特殊部隊とやらが一切の痕跡すら残さずに殲滅するに決まっておるわ」
ウイルスが漏れ出せば、48時間後に特殊部隊が山折村を焼き払うという条約を結んでいる。
裏を返せばつまり、国家が『未来人類発展研究所』を承認していることにほかならない。
「仮にウイルスとやらが外に漏れ出た際の取り決めについてもきな臭い。
なぜ48時間もの猶予を授ける?
災禍が外へと広がらぬように、直ちに焼き払うべきだとは思わぬか?
焼き払われるのがこの山折村と思えば、腹が煮えくり返ることこの上ないがな」
「それは……なんだ、その、猶予期間ってやつじゃないのか?」
剛一郎の煮え切らない答えに、春姫は小さくため息をつき、視線をずっと先のほうへと動かす。
「村を囲む山々を見よ。
あれらは人の身では、そう容易くは超えられぬ。
しかし、鳥獣の類、あるいは羽虫どもであれば造作もなかろう。
それらの呼気に紛れてウイルスとやらが広がらぬとどうして言い切れる?
渡り鳥が一羽、ここから飛び立っていくだけで、天下が災禍に覆われる可能性すらあるのだぞ?」
もちろん、虫や鳥もウイルスに感染するのであれば、放送でその旨については確実に伝えられていただろう。
だが、直接の感染はないにしても、ウイルスを運ぶ可能性は否定できない。
人間を最も殺害する生物は、蚊だと言われている。
蚊に限らず、コウモリ、貝類など、ウイルスや寄生虫といった病のキャリアーとなる生物は枚挙に暇がないのだ。
「もっとも、研究員も中央も、そこに気が回らぬ無能とは到底思えぬ。
気候か、それともなんらかの特性ゆえに畜生経由では村外には広がらぬのか。
あるいは村外に広がらぬような処置が為されているのやもしれぬ。
いずれにせよ、何らかの調べはついているであろう。
それを探りに行くのだ。
研究所の位置も、ある程度は予想できておるしな」
山折厳一郎が騒動の首魁ではなかったが、春姫の目的地がなくなったわけではない。
研究所を開設できるほどの広い地下室に心あたりはないが、
神楽家の古文書か、あるいは弁護士事務所や役場に保管されているであろう借用書・契約書など、調べるあてはいくらでもある。
それに、怪しい場所にはすでに目星がついているのだ。
古くからあるにも関わらず村の外れに位置する大型の建造物はその最大候補であろう。
公民館や神社も村はずれに存在するが、こちらは総一郎や春姫本人が頻繁に出入りしており、取り立てて怪しいところはない。
古民家群は旧家も多いが、外部からの人間がこの一帯に頻繁に出入りしようものなら、それこそ剛一郎が黙ってはいないだろう。
これらを除外すれば、特に怪しいのは学舎や診療所である。
いずれも教師や医師など、外部からの人間が入り込みやすいこの二か所は、研究所の最有力候補である。
あるいは、放送を流した人物の顔を見てもよいかもしれない。
それが見知った教師や医師であれば、答えも同然なのだから。
放言と奇行の目立つ春姫ではあるが、そもそも彼女は村唯一の弁護士の娘である。
一部を除けば考え方そのものはロジカルだ。
この騒動に何らかの対策はあると言い切られてみれば、剛一郎としてもうなずける部分も少なくはない。
だが、それと同時に一片の可能性が脳裏をよぎっていった。
「待てよ、じゃあ何か?
御上や研究所のやつらは、俺たちの村を使って、人体実験をしてやがるってことじゃねえのか!?」
厳一郎は公私すべてを村の発展に捧げてきた。
政治家に頭を下げ、村の住人を説得し、企業には足元を見られ、ときには強引に事を運ぶこともあった。
その強引さは忌避されるべきだが、しかし対立する剛一郎から見ても、燃え上がるまでの情熱にはある種の敬意を感じたものだ。
そんな厳一郎に言葉巧みに近づき、自分たちに被害が広がらないことを確信したうえで、事故を装い山折村にウイルスをバラまいたのだとしたら。
非道な実験をひそかにおこない、最後には村丸ごと、実験台として使いつぶしたのだとしたら。
あまりに、あまりに非道ではないか。
だが、剛一郎のたどり着いた可能性について、春姫はふるふると首を横に振る。
「短慮なことよ。
人体実験とやらになっているのかもしれんが、そのようなもの、副次的なものに決まっておろう。
主たる目的はほかにある」
一切の迷いなく、きっぱりと言い切る。
これほどの惨状をして、副産物的な作用と言い切るのだ。
剛一郎は怒りを忘れ、息を凝らしてその続きに耳を傾ける。
「彼奴らの真の目的はな」
仰々しい様子で言葉を切る春姫。
剛一郎がごくりと唾を呑み込む。
「神楽家の、滅亡よ」
「………………?」
「もう一度言っておこう。
妾こそが女王である。
故に、この騒動の本質は、村ひとつ巻き込んだ弑逆に等しい」
(なあ、総ちゃん。
お前、子育てだけは、決定的に間違っちまったんじゃねえか?)
「神楽家が村の始祖であること、汝は認めずとも理解はしておろうが……。
旧き伝承によれば、我が血筋の源流は帝に連なっておる。
しかれば、我が神楽家が狙われるのも当然よな」
あまりに常識外からの解答に、思わず毒気を抜かれてしまう。
毒気どころか、全身の力すら抜けてしまうが。
ただ、もし対抗策があるのなら。
村人を犠牲にせずに済む方法があるのなら。
先の見えない暗闇の中に一筋の光が差した気がした。
「とにかく、春ちゃんの目的は分かった。
要は研究所に殴り込んで、高みの見物をキメてやがる連中を締め上げて、騒動を止める方法を探すってか。
なら、俺も行くぜ! 行かせてくれ!」
対立する郷田家と神楽家が再び手を組み、村を侵略者から守る。
剛一郎はそれを疑わず、春姫に対して手を差し出した。
それに対する回答は。
「汝の随伴は受け付けぬ。失せよ。
流されるままの意志弱き者など、随伴されても邪魔なだけよ」
春姫は差し出された手を払いのける。
明確な拒絶であった。
「何を……? どういうことだよ?
俺は、この山折村のみんなを守ろうと……!」
剛一郎は理解ができなかった。
またしても、いつもの自己完結か?
ここは手を組むべき場面ではないのか?
その言外の問いを、春姫は一切拒絶する。
「汝が真に村を守りたいのであれば、なぜ妾を弑せぬのだ?」
気炎を上げる剛一郎を前に、春姫はぴしゃりと言い切る。
「それで、この騒動は終幕よ。
父上が生きておれば、民草の支持を取り付け、必ず中央と研究所の無法を暴き、法を武器に戦い、勝訴するであろう。
仮に汝が民草を一人でも多く救いたいのであれば、今すぐ妾の命を絶つべきなのだ。
それが出来ぬ時点で、貴様の言は欺瞞よ」
視線そのものが温度を持っているのではないかと思うほどに冷たく、鋭い。
ただ視線を向けられただけだ。
なのに、全身から汗がぶわりと噴き出し、呼吸が粗くなっていく。
「無論、おとなしくこの命、くれてやるつもりもないがな。
妾が地に斃れ伏せば、神楽家の血は絶える。これでは奴らの思うつぼよ。看過できぬ。
先ほど申した通り、立ち塞がるのであれば返り討ちにしてくれよう。
さ、郷田の家の。どうするのだ?」
女神の威光に中てられた愚か者のように、剛一郎は立ち竦み、動けない。
村を守るには、女王を殺すしかない。
自称とはいえ、女王は神楽春姫であると認めたのだ。
村を守るのであれば、神楽春姫を見逃す道はどこにもない。
郷田剛一郎が村を守るのは、村人たちを家族のように思ってきたからだ。
逆説的に、村を侵略するよそ者は容赦なく排除できても、村人に手を出すことはできない。
まして、幼いころから親交のある友人二人の間にできた娘であるなら、なおさらだ。
そして、村を守るにはその娘を殺さなければならない。
剛一郎がいつか陥っていたであろうジレンマだ。
運命は容赦なく、剛一郎にその矛盾を突き付ける。
春姫は、行く手を阻むならばよそ者だろうが村人だろうが容赦はしない。
けれども、剛一郎はよそ者には容赦はしなくとも、村人には最大限の温情をかける。
春姫こそが女王にふさわしきを知るは、昔ながらの村人たちである。
ゆえに、春姫に襲い来る類の人間たちは、剛一郎が最も守りたい類の人間たちである。
春姫が女王とは限らない、そう主張するのも自由であろう。
先延ばしにした結果、さらに苦しい局面で必ず同じ課題を突き付けられる。
最も苦しい場面で、そのツケが必ず回ってくる。
剛一郎とて愚かで短絡的な男ではない。
けれども、厳一郎のように清濁併せ呑む狡猾さを持ち合わせているわけでもない。
ゆえに袋小路に陥るのだ。
剛一郎が春姫のことを知っているように、春姫とて剛一郎を知っている。
互いの家で顔を合わせたこともあるし、父親からも人となりを聞かされてきた。
剛一郎に従者としての利用価値がない。
足を引っ張る可能性のほうが高い。
春姫はそう判断した。
そして春姫は父親と違い、剛一郎に対する情など一切持ってはいない。
「うつけ者めが。
道を開けよ」
判断は下された。
硬直する剛一郎に、もはやかける言葉も情けもない。
立ちすくむ巨漢は、行く先々でひざまずく亡者と同じ存在へと落ちた。
春姫にとって、もはや彼は路傍の石にすぎないのである。
兵衛が立ち上がり、南へと歩を進めても。
春姫の道行く先のゾンビたちが、その姿が見えなくなったことで解散しても。
剛一郎は立ち尽くしていた。
住宅街のどこかに響いたダネルMGLの爆発を聞き、ようやく気を取り戻すが。
行く?
どこへ?
何をしに?
守ればいいのか。
殺せばいいのか。
それすらも定かではなく。
『後ろは俺に任せろ! 俺が村を守ってやる! お前らは前に進め!』
かつて友に語った誓いが、風に吹かれた砂の城のように、さあっと崩れ去っていくような気がした。
【神楽 春姫】
[状態]:健康
[道具]:巫女服、ヘルメット、御守、宝剣
[方針]
基本.妾は女王
1.研究所を調査し事態を収束させる
2.襲ってくる者があらば返り討つ
※自身が女王感染者であると確信しています
【郷田 剛一郎】
[状態]:健康
[道具]:丸棒材
[方針]
基本行動方針:ゾンビも含めて村人を守りたい、よそ者は排除したい
1.???
投下終了です
現在位置と備考を抜かしていました。失礼しました。
【C-3・B-4境界部付近/高級住宅街/一日目・黎明】
※六紋兵衛のゾンビは南部へと進んでいます
投下乙です
>郷愁は呪縛に転ず
春姫が唯我独尊すぎる、弁護士である父譲りのロジカルな思考と世界を自分を中心に考える思考が合わさり導き出されるカオス
確かにこのウイルス人間以外にもバリバリに感染するんだよね、熊にもワニにもオークにも感染するってなんだよ(ほんとになんだよ)
剛一郎の村人を守ると言う決意と守るには村人を殺さなければならないと言う矛盾はいつか辿り着くとは思っていたが親友の娘に指摘されるとは、剛一郎の精神が持つのか
投下します
「決めた。診療所に向かいましょう」
掘っ立て小屋を出た所でエージェント、田中花子はそう切り出した。
それにつき合わされている研究者、与田四郎は半ば諦めの気持ちのまま意見を述べる。
「はぁ、いいんですか? 僕のIDパスだと大したところまで行けませんけど」
彼女たちの目的は研究所の調査。その為には研究者IDが必要となる。
与田の持つIDレベルは最底辺の1。深い調査を行うにはより上位のIDが必要となるのだが。
「与田センセ、あなた普段は診療所で医師の仕事をしているのよね?」
「ええ。そうですね。と言うか花子さんにも診察しましたよね?」
「それって他の研究者もやっている事なのかしら?」
「まぁ全員ではありませんが、何人かは」
村内にある研究所を拠点として活動する以上、完全に研究所に閉じこもって生活するのでなければ表向きの職業が無ければ近隣住民に不審がられる。
そう言った対策のため研究員の何人かは医師やナースと言った医療従事者としてあの診療所で働いていた。
その解答に答えを得たりと花子はにぃと笑う。
その悪戯を考え付いたような笑顔に与田は嫌な予感がした。
「だったら、病院内にもパスを持った人間がいると思わない?」
「それは…………まぁ」
いない、とは言い切れない。
深夜帯とはいえ深夜勤務のナースや医師は何人かいたはずだ。
その中に研究員が含まれている可能性は少なくはないだろう。
「センセのパスでは入れるエリアだって一応機密エリアなんだから上位パスを持った人間がいたとしても不思議じゃない。
そこで一つ、また一つと進みながら徐々にパスレベルを上げて行けると思わない?」
「そ、そんなわらしべ長者的な……無茶ですよ」
仮に上位の研究者が探索範囲にいたとしても、それはつまり一人一人ゾンビを調べると言う事だ。
どう考えても無茶過ぎるプランである。
「大丈夫よ。手あたり次第と言っても医師や関係者に限られるんだったら調査対象は大した数じゃない。
私の『眼』があればある程度の選別はできる。患者のゾンビが邪魔にはなるでしょうけど、動きも鈍いし統率も取れていない。
この程度なら問題ないわ。入院患者のゾンビならなおの事でしょう?」
そう雑談しながら、ついでのように適当にゾンビを蹴散らしていく。
与田としても下手に逃げ出すより彼女の周囲にいた方が安全であると思わせるくらいの説得力はある。
だからと言って、無茶なところに突っ込んでいくのにつき合わされるのは御免被りたいところなのだが。
「あ。センセちょっとストップ。診療所の方から誰かこっちに来るわね」
花子の鷹の眼が遠方から走っている何者かを捉えた。
進行方向からして、診療所からやって来たようだ。
「はぁ……まあゾンビだらけでしょうからね。C適合者がいるなら逃げてくるんじゃないですか?」
与田が投げやりな相槌を打つ。
かく言う与田もゾンビだらけになる前に診療所から逃げてきた口だ。
危機察知能力だけは高い男である。
「接触しましょう、診療所の現状を聞けるかもしれないわ」
「えぇ……放っておきましょうよ。危ない人だったらどうするんですかぁ?」
「あらセンセ? 私が暴漢に負けるって心配してくれてるの?」
「いや、それは全然思ってないですけど」
掘っ立て小屋で花子に押さえつけられ尋問された時点で与田の中の可憐な花子さん像は儚くも崩れ去っていた。
与田の心配は自分が巻き込まれるかどうかである。
その態度に呆れたようにため息を零す。
「大事な情報源よ。ある程度のリスクは呑み込まなきゃ」
既に緊急事態の真っ只中だ。
何のリスクも侵さないなんて段階はとうに過ぎ去っている。
不満げな与田をその場に置いて、花子は来訪者に向かって行った。
■
「こんばんはお嬢さん。少しお話よろしいかしら?」
月の照らす田舎道。
少女の行く先に立ち塞がるようにその道の中央にレディスーツの麗人は立っていた。
息を切らせながら走っていた少女は行く手を塞がれ、仕方なしにその足を止める。
「…………悪いけど、追われてるの。邪魔するつもりがないならそこを退いて」
目の前の相手を邪魔だと言わんばかりの冷ややかな眼で睨み付けながらも相手に応じる。
だが、相手は端から退くつもりなど無いのか、その場を一歩も動かず堂々とした態度で問い返す。
「追われてる? 穏やかじゃないわね。いったい誰に追われているのか聞かせて貰ってもいいかしら?」
その呑気な態度に苛立ちを隠せず少女は歯噛みするも、答えねば退かぬ相手と理解し半ば八つ当たりのように答える。
「特殊部隊に」
「へぇ」
返って来た最悪の答えに女の鷹のような眼が細まる。
「巻き込まれる前に離れて。あなたも逃げた方がいい」
「っと、待った」
そう言って脇を抜けて駆けだそうとする少女の腕を掴んで引き止める。
強引な引き留めに煩わしさを隠しもしない視線を向けるが、女は場違いなまでに不敵な笑顔を返して。
「そう聞いちゃますます放っておけないわね。とりあえず場所を移しましょう。
安心なさい。かくれんぼは得意なの。それなりに時間を稼げると思うわよ?」
■
3人は花子の案内に従い、脇道にある大きな溝に場所を移していた。
街道を外れた場所にある自然の要害。確かにここであればそう簡単には発見はされないだろう。
「なるほどね。診療所はそんなことになっていたのね」
そこで診療所であった出来事のあらましを聞いて花子はそう呟いた。
特殊部隊の襲撃を受け一人の少女を犠牲にして逃げて来たと言う話だった。
「特殊部隊を2人相手に、頑張ったわね」
「頑張ってなんて…………いません。私は」
頑張ったと言うのなら洋子の方だ。
海衣は洋子を見捨てて逃げるしかなかった。
そんな自分に労われる資格はない。
「自分を責めるべきではないわ。いい? どう考えても襲ってきた方が悪いのだから、被害者であるあなたが気に病むことではないの」
花子の言い分は正論だとは思う。
だが、正論で納得できていない事もある。
自罰的な性格の海衣には受け入れがたい。
「だからと言って、忘れろと言うの?」
幼い少女の犠牲を。
その犠牲のもとに成り立つ自分の命を。
すべて忘れて生きていくことなど出来るはずもない。
「そうね。その疵はいつまでもあなたに付きまとうわ、だからと言って自分を責めることに対した意味はないの。
それは間違えた自己満足よ。報い方を間違えない事ね。その疵に報いたいのならもっと図太く生きなさい」
「お説教……ですか?」
「大人のお節介と言うやつよ。別に聞き流して貰って構わないわ」
これ以上続ける気はないのか、それだけ言って話を切り替える。
海衣も自ら続けたい話題ではないためぐっと意見を呑み込んだ。
「特殊部隊に関してだけど一人は診療所を離れ、交代でやって来たもう一人が海衣ちゃんを追ってきていると言う事でいいのね?」
「……はい。恐らくは」
目下、緊急の要件はこれだ。
戦場においてまずは診療所を抑えるというのは当然と言えば当然だが。
ゾンビの巣窟になっているのは想定通りだが、まさか特殊部隊員が2人も配されていようとは花子をしても予想外である。
そしてそのうちの一人が今も海衣を追ってきているという非常事態である。
「それにしても院長か……」
特殊部隊員の襲撃もそうだが、それ以上に話の中で花子が気にかかったのは院長を名乗る男に託されたと言うカードキーについてだ。
その辺に関して関係者である与田に尋ねる。
「田宮院長ですか? 研究とは直接関わりがあった訳ではないですけど。
まあ場所の提供をしてくれてる関係もあってか所長や副所長とは懇意にしていたみたいですよ。上の話なので具体的にどんな関係だったかまでは知りませんけど」
いつも通りの曖昧で有益な情報を提供してくれた。
だとするなら、ある程度特別な権限が用意されていてもおかしくはない。
「ねぇ、海衣ちゃん。そのカードキー私に譲ってもらう訳にはいかないかしら?」
「それは……」
当然ながら、口を濁らせ否定的な反応を示す。
院長に果たすような義理はなくとも命懸けで託された物である。託された以上は責任がある。
おいそれと他人に渡すのは躊躇われる。
口にせずともその迷いを察したのか、花子はポンと手を叩く。
「それじゃあ取引をしましょう。私がそのカードキーを貰う代わりに、あなたの事を守ってあげる」
そう取引を提案してきた。
その上から目線ともとれるその提案に、海衣が表情を険しくする。
「守るって、どうやってです?」
「決まってるでしょ? 撃退するのよ」
「そんなにあなたは強いんですか?」
その言葉には強い苛立ちが含まれていた。
当然だろう。なすすべなく一人の少女を犠牲にしてまで逃げてきたのだ。海衣は護れなかった。
自分が出来なかったことを容易く口にする軽慮さは許しがたいものがある。
「そうねぇ。特殊部隊には私も1人知り合いがいるけど、普通に戦ったら多分負けちゃうでしょうね」
「ダメじゃないですか」
思わず横から与田がツッコンだ。
花子は気にした風でもなく平然と続ける。
「大丈夫よ。普通に戦う気なんてないんだから」
「それは、何か罠を仕掛けると言う事でしょうか?」
「そうね。それも含めて作戦を立てましょう。さしあたっては追ってきている敵の事を教えて欲しいんだけど」
敵の事を知るのは海衣だけだ、必然的にその情報は海衣の口から語ることになる。
先ほどの襲撃は忌まわしい記憶だが、思い出さねばならない。
海衣は堪えるように胸を押さえながら敵を語り始めた。
大丈夫だ。苦痛を堪えるのには慣れている。
「追ってきているのは迷彩色の防護服に身を包んだ男で、詳しくはないので種類までは分かりませんが銃を持っています。それから、」
「ああ、そうじゃなくって」
だが、その説明は横から制止された。
「確かに敵の武装も大事だけど、そっちはだいたい予想がつくから大丈夫。
それよりも私が知りたいのはそうじゃなくて。人間性や人となりの方」
「……人間性?」
そんな事を知ってどうすると言うのか。
それ以前に海衣は一方的に敵の襲撃を受けただけである。
私的な知り合いでもないのだから人間性など分かるはずがない。
「そんなの、分かる訳ないじゃないですか」
「いいえ。接触した以上分かることは必ずある。どんな細かな事でもいいわ。銃を撃ったと言っているけど撃つ前に警告はしてきた? それとも問答無用だった?
行動は慎重だったかしら? それとも杜撰で激昂しやすい? 言葉遣いはどうだった? 声色は? 強張っていた、それとも余裕を含んでいた? そもそも言葉を発したのかしら?
何か癖のような物はあった? 気になる点は? あなたの感じた印象でもいいわ。私が知りたいのはそういう所」
つらつらと並べ立てられる。
その目にどこか気圧され思わず海衣は息をのんだ。
ひょっとして目の前の相手は、思った以上に得体の知れない相手なのかもしれない。
■
「ありがとう。海衣ちゃん、細かく覚えていてくれて助かったわ」
一通りの聴取を終え、ひとまず花子は海衣に礼を述べた。
実際、海衣の記憶力が優れていたおかげで、思った以上の細かな言動を知れたのは花子としても収穫だったようである。
「かなり慎重かつ用心深い性格みたいね。細やかなところにも気づく辺り、普段は気遣いも出来そうないい男なのかも……っと失礼。
病院の備品で罠を張るあたりそれなりに機転も効く。教科書通りの特殊部隊員って所かしら、SSOGにしては逆に珍しいわね」
独り言のように呟きながら、獲得した情報からプロファイリングを行ってゆく。
頭の中で分析を巡らせているのか、視線を空に這わせながらうーんと唸りを上げた。
「付け入る隙があるとするなら。汚れ仕事を割り切ってやってるタイプと言う事ね」
その発言に与田が首をかしげた。
「割り切ってるんでしょう? 付け入る隙になるんですか?」
「ええ。楽しんだり何も感じていない訳じゃない、割り切る作業が必要である人間と言う事よ。
わざわざ「動くな」なんて無駄な警告を入れたのもそのためよ」
「普通は撃つときって警告する物じゃないんですか?」
「撃たないという選択肢がある場合はね。けど今回は違う。相手を殺すことを前提とした戦場でそんな警告をする必要はない。
それは自分の罪悪感を消すための行為でしかない。つまり戦場での経験が乏しい」
それを覚悟や使命感で補っている時点で戦場においては初心者(ルーキー)だ。
人間的な好感は持てるが、戦場においては邪魔な荷物でしかない。
それは十分に付け入る隙になる。
悪役染みた発想だが、戦場においては必要なのだろう。
「敵も知れたことだし、お次は自分たちの武器についても確認しておかないとね」
言って、ずいと花子が迫るような視線を向けたのは与田の方だった。
「な、なんです?」
「ねぇ与田センセ、そろそろあなたの異能について教えて貰ってもいいかしら?」
「な、何のことでしょう?」
尋問染みた言いぐさに与田は僅かに怯みながら視線を逸らす。
だが、逃すまいとさらに花子が距離を詰める。
蛇に睨まれた蛙のようだな、と傍から見ていた海衣は思った。
「アナタ、私の異能を『隠されたものを観る目に関する異能である』と推察ではなく断定したわよね」
「うっ」
咄嗟に否定しようとするが、全てを見通すような花子の瞳がそれを許さない。
このエージェントに限って記憶違いなんて事はありえない。誤魔化しは無意味だ。
確信を持った彼女は口調で続ける。
「アナタが何を企んでてどこまで思惑があるのかに関して今は触れないでおいてあげる。
けど、このままだとアナタも死ぬことになるわよ。カードの切り時を間違えない事ね」
与田はバツの悪そうに視線を逸らしていたが。
観念したのか、ため息とともにメガネを上げ直した。
「お察しの通り、僕の異能は他人の異能を見抜く異能……だと思います」
「はっきりしないのね」
「そりゃあ僕だって目覚めたばかりで確証がある訳ではなかったですから」
僅か乱れた白衣を整え、与田の目が海衣へと向けられる。
まるで全てを診られているかのようなその瞳に海衣は一瞬、寒気のような感覚を覚えた。
「氷月さんの異能は視認した範囲に存在する自然物の温度を下げる能力ですね。
氷月さんの手に近く、対象とする範囲が小さいほど効果が増すようですよ」
研究者が端的に海衣の異能を要約する。
その説明を受けた瞬間、海衣の中で世界と繋がる感覚があった。
「それが、私の…………異能」
脳が外に向かって開くような感覚。
全てを凍らせる、氷みたいな自分に似合いの力。
何となくの感覚的な物でしかなかった曖昧な力が、言語化され明確な形を得た。
仕切り直すように花子がパチンと手を叩く。
その音に二人の視線が向けられた。
「OK。これで出せる手札は揃ったわ。それじゃあ本格的な作戦会議と行きましょう」
■
迷彩色の男が夜の道を行く。
診療所より逃亡した少女の追跡を行っていた特殊部隊員、乃木平天はその道中で足を止めた。
足を止める様な目立った何かがある訳でもない、ただ土と草の景色が広がるだけの田舎道。
その場に片膝をついて何かを調べるように地面へと触れる。
足跡が唐突に途切れた。
いや、途切れたと言うより隠蔽工作が含まれるようになっている。
逃げている途中で突然あの少女が尾行対策に目覚めた、なんてことはないだろう。
恐らく、何者かと接触もしくは合流を果たした。
これらの工作は合流した何者かによるものと推察できる。
だとしても合流したのは何者か。
一介のミリタリーオタクにしては少々手際が良すぎる。
アドリブでこれだけのことができる人間が村内にそうそういるとは思えないが。
足跡の消された草原に触れる。
如何に手練れであろうとも、この短時間で完全に痕跡を消すなど、流石に不可能である。
注意深く僅かな痕跡を観察していけば、時間はかかるだろうが追跡は可能だ。
こう言った細やかな作業は天の得意とする所である。
追跡速度は落ちるだろうが、人数も増えているうえに足跡を隠蔽しながらでは相手側の機動力も鈍っているはずだ。
敵の隠蔽と天の探索。どちらが早いかの勝負である。
周囲への警戒を怠らず、足取りを追う。
整えられた道筋を逸れ、獣道へと分け入ってゆく。
そうしてしばらく進んだところで、行く手に人影を捉えた。
銃を構え、慎重な足取りで近づいてゆく。
そこには白衣を着た男が両手を上げて立っていた。
「う、う、ううぅ撃たないでくだしゃーーいいいいいいい」
■
「まずはそうねぇ……数の利を生かすべきよね。そう思うわよね? 与田センセ」
「え、嫌ですよ。囮役になれとか言わないですよね?」
満面の笑みを向けられ、自分の役割をいち早く察した与田はいやいやと首を振る。
だがそんな否定が許されるはずもなく、司令官はそのまま話を進める。
「まず与田センセには敵の前に出て行ってもらう。そこでみっともなく命乞いをして時間を稼いで頂戴。得意でしょそういうの?
そしたら、その隙に私が後ろから出て行って相手を撃つから」
「絶ッッ対に嫌です! 殺しに来てる特殊部隊の人間なんですよ!? そんな相手の前に姿を晒すだなんて!!」
「大丈夫よ。いきなり撃たれることはないわ。一言二言は言葉を交わしてくるはずよ」
花子のプロファイリングによれば相手は好んで人殺しをしている訳ではない。
汚れ仕事を汚れ仕事として覚悟をした上で行っている人物だ。
向かってくる相手ならまだしも、命乞いをする相手を問答無用で撃つことはないだろう。
罪悪感を軽減する作業が発生するはずである。
「多分ね」
■
「う、う、ううぅ撃たないでくだしゃーーいいいいいいい」
姿を晒した与田は命乞いを始めた。
作戦通りの行動だが、無論、これは演技ではない。
本気も本気の命乞いである。
「ぼ、ぼ、ぼぼぼぼぼぼかぁ、何の武器も持たない研究者でしてえええええええええ、抵抗なんてしませんのでえええええ!!!!」
先ほどの大地震以上にガクガク震え、両手を晒して祈るようなポーズで土下座する。
人間ここまで恥も外聞も捨てられるのかと感心するような芸術品のような命乞いだった。
余程無慈悲な人間でもない限りは撃つのを躊躇わせるだけの迫力があった。
「……悪いですが、こちらも任務なので」
だが、そうはいかない。
天に任されているのは任務である。
どれだけ心苦しかろうが、それ以上の大義がある。
「え!? 待ってッ! ホントに1回待って! お願いお願いお願いしますぅぅぅぅう!! ひぃいぃいいいいいぃいいいぃっっ!!!」
震える標的の頭部に標準を合わせる。
どれだけ同情や罪悪感が芽生えようとも、その引き金が鈍ることはない。
「うわあああぁぁぁぁああああああああああああああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁああっっ!!!」
絶叫。
そして、銃声。
「は、はひぃ…………?」
だが、与田の額に穴が開く事はなかった。
何故なら銃声は天が構えた銃より発せられたものではなく、その背後から。
突然物陰から飛び出した女が天に向かって狙撃したのである。
完全なる死角から放たれた弾丸。
だが、その銃撃をまるで予測したかのように天は反応した。
仰け反るようにして銃撃を避ける。
「やはり囮か―――――」
「チッ」
天は咄嗟に男に向けていた銃口を女の方に向け引き金を引く。
襲撃に失敗した女が舌を打ちながら、転がるようにしてこれを躱した。
女は留まることなく即座に踵を返して逃亡を図った。
振り返れば囮だった男も一瞬の隙をついて涙と鼻水と悲鳴を上げながら別方向へ走り出していた。
銃撃をしてきた危険な相手と、即座に仕留められる相手。
どちらを追うか。天は迷うことなく女の背を追った。
より危険度の高い標的を優先するのは当然の判断だろう。
女の背を追いながら、その背に向けて銃撃を行う。
女も負けじと振り返りながら銃を撃って応戦する。
だが、走りながらの銃撃がそう簡単に当たるはずもない。
互いに牽制と足止め狙いの銃撃を交えながら追いかけっこを続ける。
その立ち回りからして明らかに素人のそれではない。
少女に合流した工作員はこいつだ。天はそう確信する。
だが、同時に一つの疑念が頭をよぎる。
ならば、先ほどの白衣の男は何だ?
立ち回りからして協力者には違いなかろう。
あれを囮にしていたとするならば。
敵の狙いは…………。
冷静に頭を働かせた天が周囲を見渡す。
そして気付く。この先に何があるのか。
(この先は…………)
――湖だ。
忘れるはずもない。
天にとってはワニと死闘を演じた場所である。
それで敵の狙いが読めた。
恐らくそこに診療所から逃した少女がいる。
冷気を操る異能を活用して攻勢に出るために、水場に誘導するつもりなのだろう。
それに気づいた天は女を追う足を緩めた。
そんな事をすれば普通であれば逃してしまうだろうが、そうはならないと言う確信がある。
すると、天の予測通り、逃げているはずの獲物までが足を緩め始めた。
バテたと言う訳ではないだろう。釣り糸の動きを獲物に合わせたに過ぎない。
そして徐々に互いの足は緩まってゆき、遂に互いに足を止めた。
「乗りませんよ」
「あら、臆病なのね」
安直な挑発には乗らない。
何も遮るもののない草原で互いに向き合う。
そして初めて相手の顔をはっきりと見る機会を得て、その顔に見覚えがあることに気づいた。
「…………ハヤブサⅢ」
「あら、私ったら有名人」
作戦開始前のブリーフィングで共有された最優先警戒人物。
黒木真珠が対応に動いているはずだが、先に出会ったのは天になったようだ。
「そういうアナタは自衛隊の秘密部隊の人間ね。
マジュはお元気? 今度一緒に合コンでも行こうって誘っておいてもらえる?」
「ふっ。愉快な人だ」
言葉の内容には反応せず感想だけを述べ、天は逆手にしたナイフを左手に、同時に右手で拳銃を構える。
天とて精鋭中の精鋭である特殊部隊の一員だ。
誰が相手であろうとも正面からの直接戦闘で後れを取ることはない。
水場までは距離がある。
誘導は失敗に終わった。
この地を戦場とする他ないだろう。
ふぅとハヤブサⅢと呼ばれたエージェントが息を吐く。
気合を入れ直すように銃を構える。
「さて、ここからが踏ん張りどころね」
■
「…………そんな作戦で仕留められるの?」
海衣の言葉には落胆が含まれていた。
ただ囮を出して背後から撃つ。こんな単純な作戦で仕留められるような相手ではない事を敵の強さを知る海衣は理解している。
信頼を得られるかの分水嶺。疑念を含んだこの疑問に対して花子はあっさりと答えた。
「無理でしょうね。慎重そうな性格からして囮を使ったところで見抜かれるのがオチよ」
「えぇ!? だったら何のために僕は命を懸けるんですか!?」
いい年をした成人男性の嘆きを無視して、女スパイは説明を続ける。
「もちろん失敗するのは織り込み済みよ。私の襲撃が失敗した時点で囮役のセンセも逃げていただいて結構よ」
「逃げたところで僕の足じゃすぐに追いつかれますって!!」
「相手が適切な判断力を持っているのなら、情けなく喚くだけの与田センセよりも戦力持ちの私の方を優先するはずよ」
感情に流されず冷静で的確。
花子の知る特殊部隊員、激昂しやすい真珠と違い、常にプロの判断ができる。
だからこそ動きが読みやすい。
「つまり、そのままどこかに誘導する、と言う事でしょうか?」
「そうか! 分かりましたよ花子さん。湖の方に誘導する訳ですね?」
海衣に宿った自然物を凍らせる異能。
周囲に大量の水があればその真価を発揮できるだろう。
そこに海衣を待ち伏せさせておけば、有利なフィールドで戦える。
「海衣ちゃん。あなたの異能は相手にバレてるのよね?」
「はい。殆ど無意識でしたが相手の手を凍らせたので恐らくは」
「なら無理ね。水辺に誘導しようとすれば、まず間違いなく警戒されるわ」
水と氷。
有効ではあるのだろうが、発想としては余りにも安直だ。
誰にでも簡単に予測できてしまう。
「だったらどうするんですかぁ〜」
疑問ばかりの愚鈍な生徒に教師の様に答える。
「なので、その警戒を利用します」
■
対峙するエージェントと特殊部隊員。
決して表に出る事のない闇に生きる仕事人が、辺鄙な村の草原で向き合っていた。
天は敵を見据えながら冷静に戦場を確認する。
遮蔽物のない草原。
これだけ視野が開けていれば伏兵はない。
近場にある森が気がかりだが、狙撃銃でも用意していない限りは警戒していれば対処できる。
対する敵の装備はベレッタM1919のみ。
携帯性に優れ居ているが火力に乏しい25口径の小型銃だ、脅威ではない。
最悪強引に制圧することも不可能ではないだろう。
ジリっとすり足で様子見のように距離を詰める天。
だが、敵は大胆にも先手を取って駆け出した。
勝負を焦ったのか。それは判断ミスだ。
完全に待ち構える特殊部隊の人間に無防備に迫るなど、殺してくれと言っているようなものである。
この勝機を見逃す程、未熟者ではない。
天は銃口を構え、駆けまわる花子に向かって足を踏み込んだ所で。
その足を滑らせた。
「ッ!?」
すぐさま体制を整えるが、既に花子が距離を詰めている。
咄嗟に敵を近づかせぬよう銃を連射するが、敵は銃撃の隙間を縫うように蛇行して躱す。
そして間合いを詰めた花子の跳び蹴りが炸裂した。
「くっ!」
何とかガードし直撃は防いだ。
腕に足裏を乗せたままの敵を力任せに弾く。
花子はその勢いのままバク宙で後方に着地する。
対する天は勢いに押された足がまたつるりと滑った。
「まさか…………」
ここの周辺、一帯の地面が凍っている?
まだ6月だ。自然凍結はあり得ない。
どう考えても敵の仕込みだ。
つまり、想定した戦場は湖ではなく。
(ここか…………ッ!?)
だが、敵は平然と地面を走っている。
相手の靴は氷上用のスパイクと言う訳でもない。
理屈が合わない。どういう仕掛けだ。
(氷上でも滑らない異能? そんなピンポイントな!)
混乱を抱えたまま、後退るように一歩引いたところで、天は理解する。
その地面は凍っていなかった。
つまり、このフィールドには凍った地面と凍った地面が入り混じっていた。
■
「海衣ちゃん。与田センセが時間を稼いでいる間にアナタには地面を凍らせて欲しいの」
手書きの地図でポイントを指定しながら花子がそう作戦を説明する。
「地面を、ですか?」
「そ。相手には私が水辺に誘導していると考えるはずよ。本命はその途中の草原。そこで罠を張る。
こちらの意図を読んだつもり相手はただの草原に誘導されているとは思わないでしょう?」
相手の警戒と慎重さすらも利用する。
自分が相手の思惑を読んでいると思っている人間ほど操りやすいものはない。
だが、説明を受けた海衣の反応は芳しくはなかった。
「ですけど……地面を辺り一帯凍らせるとなると、時間がかかりますよ?」
与田の説明によれば海衣の異能は対象の範囲と効果が反比例する。
地面一帯となればどれだけ時間が掛かるのかわかったものではない。
「いいえ。一帯全てを凍らせる必要はないわ。むしろ凍っている地面と凍ってない地面が疎らな方が理想的ね。
安心して。時間は与田センセがたっぷり稼いでくれてるはずだから」
「えぇ…………ぼくぅ?」
凍った地面と凍ってない地面が入り混じったフィールドで敵を迎え撃つ。
作戦は理解したが、そこで戦う花子も条件は同じだ。
「でもそれじゃあ田中さんも巻き込まれるんじゃないですか?」
「大丈夫よ」
静かに指先を立てて自らの眼を指すように鼻先に当てる。
「私には『観える』から」
■
縦横無尽にフィールドを駆けまわりエージェントが迫りくる。
その足取りに迷いも躊躇いもない。
その勢いに気圧され、半ば反射的に間合いを取とうと僅かに天は後方に引いた。
幸運にもその地面は凍結していなかったのか、滑ることなく地面を踏みしめる。
だが。
「遅い!」
「くっ」
回避が間に合わず蹴りの直撃を喰らう。
慎重に歩を選んでいる時点で遅い。
一歩一歩に判断を要求される。
一歩を躊躇わせる精神的な揺さぶりそれこそが敵の狙いだ。
一面を凍らされていた方が割り切れる分まだ戦いやすい。
花子は単純に特殊部隊に引けを取らない実力者だ。
そんな相手が一方的に有利なフィールドを用意してきた。
こうなってはいかにSSOGとはいえ苦戦は必至である。
蹴りを貰いながら反撃としてナイフを振りぬく。
だが敵は氷上で身を仰け反らスケーターの様な体勢で華麗に避ける。
続いて、殴りかかってきた花子の拳を払う。
天は出来る限りその場から地に根を張ったように足を動かさず待ちの構え。
足を止めたまま拳と蹴りナイフを打ち、払い、避け、応酬し合う。
そして、銃口を互いの顔に向け合い、同時に引き金を引いた。
銃声が互いの耳元を突き抜ける。
ギリギリで銃口を逸らし首を傾け弾丸を互いに避けていた。
腰を据えた近接戦の攻防は互角。
だが、凍っている場所、凍っていない場所。花子の眼には全てが観えている。
変幻自在に使い分けるそのアドバンテージは大きい。
足を動かせない天を嘲笑うように、花子は文字通り滑るように背後に回り込む。
天もすぐさま向き直るが、それよりも一瞬早く足元を払われた。
普段ならどうという事もない足払い。
だが、足元の不確かな状況では最上級の嫌がらせである。
「くっ」
倒れないよう踏ん張るものの、僅かに体勢を崩した。
そこに、向けられる銃口。
花子は躊躇うことなく全弾を土手っ腹に向けて撃ち込んだ。
「チッ…………!」
舌打ちは女の方から。
弾丸は防護服に阻まれ体に届くことはなかった。
天が体勢を立て直そうとしているのを見て花子も離れる。
やはり防弾。
少なくとも隠密性に特化した小型拳銃では撃ち抜けそうにない。
こうなっては決め手に欠ける。
戦況を一方的に有利に進めているようだが、その実そうではない。
この戦いには時間制限がある。
地面の凍結が溶けてしまえば、花子の有利は失われるのだ。
それが分かっているから天も無理には攻めようとせず長期戦の構えである。
「……こうなると、切り札を切るっきゃないわねぇ」
言って、花子が腕を上げた。
その手にはスマートフォンが握られていた。
そして、どこかに合図を送るようにスマホライトがちかちかと点滅する。
瞬間、空を裂くような巨大な刃が振り下ろされた。
■
「敵が私の想定した通りの展開ならここまでやってやっと五分ってとこかしら」
一通りの作戦を説明し終え、花子はそう言い切った。
ここまでやってようやく五分。
真珠と同程度の実力者がそれなりの装備を整えてきていると考えれば、まだ足りない。
「あと一押し欲しいわね」
倒すにしても撤退させるにしても、決め手となる一手が欲しい。
相手を殺し得るだけの火力がない。
何かないかと思案する花子。
そこに海衣が声を発した。
「…………なら。こう言うのはどうでしょう?」
■
地面の凍結を終えた海衣は、草原の傍らにある森の入り口で身を隠しながら佇んでいた。
本来であれば彼女の役割は終わり、あとは花子の奮闘に期待するだけなのだが。
彼女は今、草原の脇にある木々に紛れ、自ら提案した追加タスクを実行していた。
「ふぅ」
息を吐いて集中を解く。
ひとまず準備は終わった。
深く集中していたからだろうか、頬に一筋の汗が伝っていた。
巻き込まれたのは自分だ、他人に任せず何かしたいという思いもあったが。
それ以上に自身の能力を自覚した瞬間、出来ると思った。
海衣の目の前には薄く透明な氷の柱が立っていた。
高さにして20mほどはあるだろうか、もはや塔と呼んでも差し支えない高さである。
向こう側が見えるほど薄く透明な氷の柱は夜に紛れ、遠目からでは発見することは困難だろう。
光の点滅が見える。
まるで紙が直立しているかのような奇跡的なバランスで保たれたその柱。
花子からの合図を受けて、そこにそっと指先で触れる。
すると、柱が保っていた均衡が壊れ、ゆっくりと倒れ始めた。
戦場に届く長さの氷柱が、鋭い刃となって断頭台の様に戦場に落ちる。
「なっ…………!?」
氷刃が天の目の前を掠め、地面に叩きつけられた。
まるで爆裂するように氷柱が砕け散る。
氷の破片が周囲に散らばり、美しいダイヤモンドダストとなって夜に広がった。
狙撃ではなく、異能による遠距離斬撃。
それでようやく天も森に佇む海衣の存在に気づいたようだ。
決定的な一撃を持つ氷の少女を先に制圧に向かうべきか?
そんな考えが脳裏を過るが、その考えを遮るように飛び散る氷の間を縫った花子の掌打が呻る。
目の前の強敵を無視して少女の制圧に向かうことなど不可能だった。
下から突き上げられるような掌打が顎先を捉えた。
天がたたらを踏み、最後の一歩で僅かに滑る。
そこに、花子の合図に合わせて次弾が放たれた。
「くっ…………!」
振り下ろされる透明なギロチン。
天はそれを僅かに反射する月光を頼りに見極め、体勢を崩しながらも全身で跳び退き何とか回避する。
避けられた。避けられたが。
この足場の悪い状態で、いつまで避け続けられるのか?
「……………どうやら。この場では、あなた達の方が強いようだ」
このまま続ければ負けるのは天だ。
天にはそれを認められるだけの謙虚さと冷静さがあった。
花子と海衣を視界に収めながらゆっくりと後退する。
その動きを花子も深追いはしない。
どの道、今の装備では殺しきるのは厳しいだろう。
相手から引いてくれると言うのなら止める理由もない。
そうして、しっかりと距離を取った所で自身の足が凍結地帯から抜け出したのを確認し、特殊部隊は撤退を始めた。
■
(あれがハヤブサⅢ。最優先排除対象)
天は撤退しながら、先ほどの対戦相手を思い返す。
相当な手練れ。工作員と聞いていたが戦闘力も一級品だ。
天が未熟という事もあるが、恐らくSSOGでもやっていけるレベルである。
(アレの排除は黒木さんに任せた方がよさそうだ)
本部が最優先排除対象に指定したのも納得できる。
確かにあれは天には手に余る。
負けっぱなしは業腹だが、ひとまず彼女たちの処理は黒木に任せる事にしよう。
【F-4/草原/1日目・黎明】
【乃木平 天】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、精神疲労(小)、手が凍結(軽微)
[道具]:拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフ、医療テープ
[方針]
基本.仕事自体は真面目に。ただ必要ないゾンビの始末はできる範囲で避ける。
1.ひとまずこの場から撤退、ハヤブサⅢは黒木さんに任せましょう。
2.ワニ以外に珍獣とかいませんよね? この村。
3.後ろ髪を引かれる。あのワニ生きてる?
4.某洋子さん、忘れないでおきます。
5.美羽さん、色々な意味で大丈夫でしょうか。
6.能力をちゃんと理解しなければ。
※ワニ吉の死に懐疑的です。
※氷月海衣の能力を『視界のものを凍らせる』と確信しました。
※ゾンビが強い音に反応することを察してます。
※もしかしたら医療テープ以外にも何か持ち出してるかもしれません。
■
「逃がしちゃったけど。こんな感じでよろしいかしら?」
「……ええ。正直、怖いくらいです」
海衣が用意できた氷の柱は2本。
つまりは敵が撤退を決めた時点で残弾はなかった。
それが『観えて』いたにも関わらず花子はそれを億尾にも出さず、即座に切り札を2枚切り敵の撤退を引き出した。
素人の思い付きの機転や駆け引きとは次元が違う。
目の前の相手はいったい何者だろうか? そんな疑念すらよぎる完全勝利である。
作戦が嵌りすぎて目の前の相手の方が不気味に見えてきた。
「あら悲しい。こんな美人を捕まえて怖いだなんて、ね? 与田センセ」
「あっはい。そうですね」
ちゃっかり合流していた与田が生返事を返す。
「まあ結構ギリギリだったわよ。今回は相手がこちらの戦力を把握してないからできた不意打ちみたいものだし」
完勝のように見えるが、それはなるべく無傷で敵を追い返すというプランだったからだ。
何が何でも敵を殺害すると言うプランなら、与田と海衣は死に花子もそれなりに手傷を負っていただろう。
どちらにせよ手の内がバレた以上、次はない。
「それで、その。これを」
そう言って海衣がおずおずと差し出したのは報酬であるカードキーだ。
一方的な契約だったが仕事を果たした以上、渡さない訳にもいかない。
田宮には申し訳ない気持ちもあるが、正直自分が持っているよりもよっぽど活用できそうだ。
自身の手で真相を知りたいという決意を無視すれば、ベストな選択と言えるだろう。
「ありがと。ふぅん。与田センセのIDパスとは規格が違うわね」
手渡された報酬をまじまじと見つめる。
レベルが最底辺でも作り自体は同じはずだ。
それが違うと言う事は別の何かと言う事である。
「ま。確かめてみればわかるか。それじゃあ二人ともさっそくだけど診療所に向かいましょうか」
当然のように花子はそう呼びかける。
それを海衣は意外そうな顔で受け止めた。
「え。私もですか?」
「当然でしょう? 流石にここで放り出したりしないわよ」
本当に当然のことのように言う。
「それに、言ったでしょ。あなたを守るって。私、契約はちゃんと守る性質なの」
それは迫りくる特殊部隊員からと言うだけではなく、
この地獄のようなバイオハザードから守り抜くと言う契約だった。
■
そして、診療所に辿り着いた。
多少のゾンビとの小競り合いはあったが、さすがに特殊部隊に出くわすようなアクシデントはなく無事に入り口の前まで到達する。
静かに佇む診療所を前に、海衣はごくりと唾をのんだ。
「ここで待っていてと言いたい所だけど、多分私の傍にいる方が安全だと思うわ。辛いとは思うけれどついてきてもらうわよ」
あれだけの活躍を見せられた後ではその言葉を奢りだと否定することはできない。
だが、海衣にとっては苦い経験をした場所である。
なにより、自分が見捨ててしまった洋子の末路を思えば足が竦む。
踏み込んでしまえば確実にその疵と向き合う事となる。
「…………大丈夫です。行きます」
自身で罅割れ開きっぱなしになった自動ドアを潜る。
院内は静かだ。自分たちだけの足音だけが響く。
ゾンビの気配もない。
海衣が足を止める。
その先の角を曲がった先。
そこに洋子の亡骸がある。
「…………行くわよ」
海衣の様子に気づいた花子が声をかける。
無言のまま頷きを返した。
決意を籠め、一歩前へと踏み出そうとしたところで、
「おっと」
与田が地面に落ちていた懐中電灯を蹴った。
偶然スイッチが入り、廊下の先を照らす。
瞬間、海衣のみならず全員が言葉を失った。
そこには怪物がいた。
軟体とも液体ともつかないむき出しの筋肉のような赤い筋の塊。
見ているだけで全身の背が総毛立つような異形。
およそこの世に存在してはならぬナニカだった。
「ッ! 二人とも出口に走って!! 早く……ッ!!」
花子が叫ぶ。
一瞬呆けていた二人もその叫びに弾かれるように走り出した。
それを合図にしたように怪物が蠢く。
殿を務める花子に向かって触手のような筋が伸びた。
転がりながら避ける、だが、狭い廊下では完全に回避しきれず、触手の一本が足首に絡まった。
「ッ…………この!」
咄嗟に触手に向かって弾丸を2発打ち込む。
触手の先端を断ち切り拘束から脱する。
弾丸は有効。
だが、
「倒せる気は……しないわねぇ」
触手の先端を断ち切ったのみである。
本体は無傷のまま、廊下に巣食うように蠢いている。
蠢く触手。固定の体を持たないのかその数は際限なく増えている。
倒すどころか、逃げ切れる気すらしない。
(マズったかなぁ…………こりゃ)
準備もなく突入を決断した花子の判断ミスだ。
と言うより、特殊部隊の待ち伏せくらいは想定していたが、こんな正体不明の怪物がいるなんていくら何でも想定外だ。
いよいよ持って覚悟を決める花子だったが、その視界の端に動く何かを見つけた。
それは銃声に釣られたのか、脇の病室から姿を現した一体のゾンビだった。
花子はとっさにそのゾンビの腕を掴むと、そのまま引き寄せてその背を蹴る。
自らに向かって行くゾンビに反応した怪物は、その触手の矛先を花子からゾンビに変えた。
ゾンビが触手に侵され呑み込まれるように怪物に消えていった。
ゾンビもウイルスに侵されただけの人間であることを考えれば非情な判断だが。
花子はそのゾンビを囮にして、その隙に診療所を離脱した。
■
「だあーーーーーーー!! もうなんなのこの村!!!」
遂に花子の不満が爆発した。
「与田センセ! なんなのあの筋肉と粘菌で出来たみたいな化物は!?
研究所は生物兵器を作ってる訳じゃないって言ってませんでしたっけ!?」
「わ、わからないですよ」
彼女らしからぬ取り乱し方で研究員に詰め寄る。
「それでセンセ。一応アレを診たんでしょう?
あなたの異能ではあの化物はどう診えたの?」
何者かの異能である可能性。
異能によって変形した異形。
異能によって召喚された何か。
あらゆる可能性を考慮するが。
「えっとそれが、ウイルスらしい反応はなかったんですよねぇ。いやあるような気もするですがなんか違うというか……」
返ってきたのはいつも以上にはっきりとしない曖昧な答え。
異能を見破る異能を持つ与田が、そう言っているのであればそれはつまり。
「つまり、今回のウイルス騒ぎと関係ない化物って事? そんなことある?」
流石のスーパーエージェントも頭を抱える。
僅かに乱れた髪をかき上げ、気持ちを切り返るようにポニーテールを括りなおす。
「今の装備じゃ厳しい。あれと戦うんならロケットランチャーくらいは欲しいわね」
ぶつぶつと戦力計算を行い始めた花子。
そこに、海衣が話しかけた。
「あの…………田中さん」
「あら海衣ちゃん。どうしたの? 花子ちゃんって呼んでくれていいのよ?」
「田中さん、さっきの怪物ついてなんですが。私が診療所に居た時はあんなのはいませんでした」
「でしょうね。そうじゃなければあなたの話に出ないのはおかしいもの」
海衣が逃げ出してから出現したのか、それとも気づかなかっただけなのか。
ともかく、海衣が出会っているのなら海衣は既にここにはいないだろう。
「それに、あの怪物、どこか……」
「……どこか?」
「いえ、何でもないです」
「そう? 気になることがあるのならどんな事でも言ってもらえた方が助かるんだけど」
そう促され、海衣は何かを誤魔化すように言葉を続ける。
「いえ。あの、この村にはああ言ったモノがいると、友人から聞いたことがあります」
「ああ言ったモノ? 魑魅魍魎の類ってことかしら? 意外ね。そういうの信じる系?」
「いえ、そう言う訳では……」
魑魅魍魎かもと言う意見を受け、花子は考え込む。
「まあ……今更オカルトを否定するでもないか」
ゾンビや超能力の跋扈するこのカオスな状況で思い込みや偏見は捨てた方がいい。
あらゆる手段を模索すべきだ。
ため息のように大きく息を吐き、頭を切り替える。
「ともかく、診療所に侵入できないとなると研究所の調査は振り出しね」
「あっ。ありますよ。診療所から以外の別口」
「…………なんですって?」
予想外の与田の発言に花子が驚いたように眉を上げた。
「入り口というか緊急時の脱出口ですけど、診療所の外にあるはずです」
「本当に!? それはどこにあるの?」
「いや、知りませんけど」
思わずずっこける。
「与・田・セ・ン・セ〜!」
「いや、噂を聞いたことがあるだけで、そもそも偉い人のための緊急脱出口を僕が知る訳ないじゃないですか」
だったら言うなと言いたいところだが、今はその噂話程度の情報にも縋りたい場面である。
有益な情報であることには変わりはない。
「OK。状況を整理しましょう。
研究所の調査を行うには、あの診療所に巣食うナニカを倒すか、秘密の入り口を見つけるかのどちらかになると言う事ね」
魑魅魍魎と思しき謎の化物退治か、どこにあるかもわからない存在すらも疑わしい秘密の入り口を見つける。
「どちらも現実的ではないわね…………」
ギリギリ途切れていないだけで、どのルートも線が細すぎる。
「どの道、そろそろ情報収集のターンかしら……」
最短距離での解決は無理だと分かった。
それだけでも収穫だろう。
そう思わないとやってられない。
「ねぇ与田センセ、このウイルスってだいたい何%くらいが適応できるものなの?」
「えっと、マウス実験の結果なので人間に適用できるか不明ですが、3〜5%程度ですね」
「って事は単純に考えればこの村で正気を保ってて話が聞けそうなのは30〜50人だけか」
その中に欲しい情報を持っている人間がいる確率がどれだけあるのか。
その数値も時間とともに減っていく。
「地道に行きたいところだけど、時間制限もあるのよねぇ」
48時間ルール。
このルールも疑わしい所が色々とあるのだが。
このルールがあるのに特殊部隊が動いていると言うのも気がかりだ。
まあ今のところ、その検証をしている余裕はないのだが。
「悪いけど海衣ちゃんにも付き合ってもらうわよ」
「それは構わないのですが……私も友人たちの安否を確かめたいんですけど」
「勿論よくってよ。次は人の集まる所に行って情報収集をするつもりだから、そこで一緒に探しましょう」
そう言って、花子は行動を始めた。
海衣も与田と共にその後を追う。
だが、海衣の心中には一つの靄があった。
あまりにも荒唐無稽で口にはしなかったが。
海衣にはあの怪物に対して、思う所があった。
どうして、あの怪物に洋子を感じたのか。
あの場所で死んだ洋子を思う自らの罪悪感の見せた錯覚か。
それとも……。
その答えは今の海衣には分からなかった。
【E-1/診療所前/1日目・黎明】
【田中 花子】
[状態]:疲労(小)
[道具]:ベレッタM1919(7/9)、弾倉×2、通信機(不通)、化粧箱(工作セット)、スマートフォン、謎のカードキー
[方針]
基本.48時間以内に解決策を探す(最悪の場合強硬策も辞さない)
1.人の集まる場所で情報収集
2.診療所に巣食うナニカを倒す方法を考えるor秘密の入り口を調査、若しくは入り口の場所を知る人間を見つける。
3.研究所の調査、わらしべ長者でIDパスを入手していく
4.謎のカードキーの使用用途を調べる
【与田 四郎】
[状態]:健康
[道具]:研究所IDパス(L1)
[方針]
基本.生き延びたい
1.花子に付き合う
2.花子から逃げたい
【氷月 海衣】
[状態]:罪悪感、精神疲労(小)、決意
[道具]:スマートフォン×4、防犯ブザー、スクールバッグ、診療所のマスターキー、院内の地図
[方針]
基本.VHから生還し、真実に辿り着く
1.何故VHが起こったのか、真相を知りたい。
2.田中さんに協力する。
3.女王感染者への対応は保留。
4.朝顔さんと嶽草君が心配。
投下終了です
大変遅くなりました、投下します
(怖い…怖いよう…!!)
彼女はそこまで常に怖がりではない、だが、こんな未知の状況、足がすくんでも仕方がないはずだ…
その為、その足取りはとても遅かった、そもそも自分を守る為の異能についてまだ把握できていない以上、守る手段が何もないのだ、恐怖に支配されても仕方がない事ではあった
だからそこまで神社から離れてはいなかったのだ
そしてそんな彼女を見つけたのが
岩水鈴菜であった
えっと…美人でスタイルもかなり良いから…モデルさん…かな?そんな人がいたから話しかけてみたんだけど
「…ハッ!!ど…どうしたのだ!?」
驚いてる…何考えてたんだろう…
「えっと…わ、私をじっと見ていて…気になったのですが、どうしたのですか?」
硬直してる…何か…必死に考えているみたい…
「あ…え……と…」
…長くない?30秒も固まってるんだけど口もパクパクしてる…
今までの時間で確信した事がある
この人、会話苦手だ
(…よく千歩果に話しかける事が出来たと思うひとがいるかもしれないが、それくらい、彼女たちの歌が鈴菜の心を動かせていたと考えてもらいたいですby作者)
「私は、犬山うさぎです、貴女の名前を聞いてよろしいでしょうか?」
ごめんなさい、投下のやり方間違えました。最初から投下し直します
『うさぎちゃん!!私!!自分の高校で学生アイドルする事にしたんだ!!」
仲間に振りまいている明るい笑顔は、いつも輝いてて
『…本当は多くの人に受け入れられるのか、私も実は不安だけど…私人並みに出来る事…これぐらいしか思いつかないんだ!!だから、やってみたいの!!」
前向きに皆の夢を…自分の夢をかなえる為に進もうと努力出来て
『ありがとう、うさぎちゃん…私ね、負けたくないの…円華ちゃんに、だよ」
大切な人の為なら誰よりもすごい力を出せる貴女は
『言ってくれたから、日本一の仲良しクラスを見せちゃうって!!だから…私はもっと多くの人と仲良くなってその人達にこの村の事を大好きになってもらいたい!!そうすれば、円華ちゃんも…多くの村の皆さんも、死んだ家族の皆も喜んでくれると思うから!!」
私にとって…憧れだったなぁ
うさぎは学校へ向かっている…が、その足取りは重い
神社を降りた先を見た時、彼女はゾンビの群れを実際に見てしまった事で放送の内容が真実である事を知ってしまった…その理性を失った怪物のようになってしまった人を見ると
そうなるとまず不安になったのは春ちゃんだ、彼女は今、何を考えて行動しているだろう
専守防衛の為でしか戦わない様子だったけど、もしゾンビと遭遇して襲われたら…間違いなく斬っちゃうよね
それだけでそのゾンビはもう完全に死んじゃうんだよね?
もし、お姉ちゃんやお父さんやお母さんがゾンビになってたら…
そして私を心配して神社に来て春ちゃんに会ってたら…!!
そう思うと戻らなくちゃいけないのかな?
でも私が避難している事を考えて学校に来ることも考えるとやっぱり学校に行っていいのかな?
それに…今から行く学校の皆も大丈夫かな?
アスちゃん(八雲朝菜の事である)、コウちゃん(浅見 光兎の事である)とか…多くの同級生もゾンビになっちゃったのかな?
(怖い…怖いよう…!!)
彼女はそこまで常に怖がりではない、だが、こんな未知の状況、足がすくんでも仕方がないはずだ…
その為、その足取りはとても遅かった、そもそも自分を守る為の異能についてまだ把握できていない以上、守る手段が何もないのだ、これでは本当に家族に会えるのか不安になっても、恐怖に支配されても仕方がない事ではあった
だからそこまで神社から離れてはいなかったのだ
そしてそんな彼女を見つけたのが
岩水鈴菜であった
岩水鈴菜…彼女は今、学校に向かって走っていた
彼女は公民館を暫く調べた後に学校まで走っていたのだ
…途中で剛一郎を見つけた時はまだ対抗手段が思いつかないので潜めながら後を追う事にしていた
彼が高級住宅街に入った時…このまま追うべきか迷った、が、やはり仲間を集めてから…と考え、そのまま学校へ向かう事を決めた…そしてその先で
酷くおびえた様子の犬山うさぎを見つけたのであった
(…かなりおびえているようだな)
無理もないだろうなと思った、こんな事例え異能を身につけようと、心は紛れもない一般人であるのならば誰だって怖いはずだ…私は微震を何度も経験したせいかあまりこういう状況に対して免疫が出来たし、使命感に駆られているせいか恐怖心がそこまでないままでいられている。
…と考えている場合ではないな
早く話しかけなければいけないな、独りで居るよりは気分が良くなるはずだから…そして何より彼女は…絶対に一人にしてはいけないだろうな
…って何緊張しているんだ、私!!村の人と接触しなければ剛一郎さんの説得は難しいって分かっているはずだ!!
千歩果の時と同じように話しかけるんだ!!
…本当にそれでいいのか?
もし利用しようと思われてしまったらどうすればいいのだろうか…
もし逆に体格の差で怖がられたらどうすればいいのだろうか…
もし会話が上手くいかず…逆に嫌われてしまったら、彼女には嫌われたくないし…
どうすr『あの〜』…え?
…何か私を見てポツーンとしていた、えっと…美人でスタイルもかなり良いから…モデルさん…かな?そんな人がいたから話しかけてみたんだけど
「…ハッ!!ど…どうしたのだ!?」
驚いてる…何考えてたんだろう…
「えっと…わ、私をじっと見ていて…気になったのですが、どうしたのですか?」
硬直してる…何か…必死に考えているみたい…
「あ…え……と…」
…長くない?30秒も固まってるんだけど口もパクパクしてる…
今までの時間で確信した事がある
この人、会話苦手だ
(…よく千歩果に話しかける事が出来たと思う人がいるかもしれないが、それくらい、彼女たちの歌が鈴菜の心を動かせていたと考えてもらいたいですby作者)
「私は、犬山うさぎです、貴女の名前を聞いてよろしいでしょうか?」
…それから互いに簡単な自己紹介をした後に、岩水鈴菜…と言う人は言った
「本当…すまないな、私は貴女を励まそうとしていたはずなのに…」
凄く落ち込んでる…私を励まそうとしていた…という事は
そんなに私、震えていたのかな?
…それを気遣ってくれたという事は、この人は間違いなくいい人だ
「私の事を心配してくださったのですね、ありがとうございます」
「例は言わなくていい…結局貴女を励ましていないのだから」
「それでも嬉しいです、では…先程の放送について話しませんか?放送の後互いに何をしていたのかを…まず、私は…近くの神社の様子を暫く見ていました、そこで神楽春姫って人と会話して…学校へ向かおうと思い、歩いていました」
「…『神楽』春姫?」
「え?知ってるんですか?先程、この村には今日初めて来たばかりって言ってましたが…」
「…同じ姓の男がゾンビになっていたのを公民館で見てしまったのでな、もしかして…その人の関係者だろうか」
「…男の人だったら神楽総一郎さんしかいません、春ちゃんの父親です」
「名前も合っている…春ちゃんという事は女性なのだな、その子に伝えるべきだろうか…」
「待ってください、公民館にいたんですよね?という事はある程度その状況を知っているんですよね?…何人程正気を保った人がいましたか?」
「郷田 剛一郎さんたった一人だけだ、それ以外は全員ゾンビになってしまっていた」
「…そんなぁ」
嫌な予感…当たっちゃったよぉ…
「…まさか」
「私の両親が…公民館に行っていたんです…でもいなかったんですよね、正気を保っている人は…」
「…そうだ、だがこの事態がもし収まったら戻るかもしれない、そう信じるしかないんだ」
「…そうですよね」
今、この事態をどうにかする必要があるんだから…悲しんでいる場合じゃないよね…話を変えて気分リセットしよう
「そういえば何故剛一郎さんの名前を知っているんですか?」
「会議室での資料を読んでいて把握したんだ」
「そうですか…あの人は私達村の人達にはとても優しいんです」
「だろうな…村の事を本気で思っているのは彼の独り言で読み取れた」
「独り言?」
「ああ、ゾンビになってしまった山折厳一郎さんと神楽総一郎さんに向かって言っているようにみえた…そして恐ろしい事も言っていた」
「恐ろしい事…もしかして、村の外の人を全員殺す…とかでしょうか?」
「…何で分かったんだ?」
「もともとあの人が外の人が入ってくるのを本気で拒絶していましたから…女王感染者が外の人にいる可能性があるのならば村の人を護る為に牙を剥くのではと思っていました」
「…貴女なら止める事は出来ると思うか?」
「どうでしょうか…あの人の頑固は筋金入りでしたから…もう少し説得出来る人が必要だと思います」
「そうか…次は私の話をするべきだな、私は放送の後に公民館に向かって状況を村長達に話を聞こうとした途中に力を確かめようとしたらゾンビ達に遭遇し、力を使って閉じ込めてみたら上手く行って…公民館に辿り着いて剛一郎さんの独り言を聞いて…彼を説得する為に人を集めようと思って私も学校へ向かおうと思ったんだ」
「力…放送で言っていた『それを成す力』の事ですか?」
「ああ、私は水が入ったペットボトルを手に持った瞬間…なぜか本能で異能を使えると思ったんだ…こんな風にな」
すると鈴菜さんが持っているペットボトルから水が自然と流れ出てきて…鍵の形で固まったよ!?
「この鍵で扉を閉じると絶対に開けることは出来ない、壊れない扉になるんだ」
「え?じゃあどうすればその扉は開けるようになるんですか?」
「念じれば開ける事は出来る、実際公民館の扉で一回試してみたら開ける事は出来た…この力で私は多くのゾンビが殺されることがないように家や部屋に閉じ込めていきたい…そしてこの事態を一刻も早く収束させたいんだ」
…立派な人だなぁ
この人、どこまでも多くの人達を守りたいって意志に溢れてる…カッコいいなぁ…
「羨ましいです。そこまで強い意志を持って行動出来て…」
「父と母から人の命の大切さを学んで生きてきた、だから私は…その為に全力を尽くしたいんだ」
「私も出来るのならばそのように行動したいです、この神社が、村が好きなので、ですが…そもそも私にある力は何なのかすら分からないようでは…」
「…実を言うと、私のこの鍵を生み出す能力だが…鍵という要素が自分に色々と関係しているからそれに関係する能力が身についたと思うんだ」
「そうなんですか?」
「貴女も何か自分に関係する物を…考えてみたら…その力が出るのでは?」
…そう言われて考えてみたのは…和幸をはじめとした様々な動物たちの事だった、皆、とても可愛らしくて、皆との触れ合いの時間、私にとって友達と一緒にいる時と同じくらい満たされる時間なんだ
…すると
「…え?」
「兎!?兎が目の前に現れたぞ!?」
そこにいたのは…純白の兎であった
「貴女の力は…兎を召喚する力なのだろうか?」
「どうなんでしょう…まさか私の名前がうさぎだから兎を召喚する力が…?」
「何れにしてもどういう力を使えるのかは分かったな…」
う〜ん…仮に兎を呼ぶ力だとしたら正直何も役に立たないような気がする…
…あれ?急にうさちゃんが周囲を見渡し始めたよ…もしかして
「うさちゃん…何か大きな音が近くで起きたのかな」
兎は高音を聞き取る為に進化してきた生き物であり、逆に低音を聞き取る事が苦手である、飼育委員であるうさぎは知っていたのだ
そんな兎が音に反応したという事は…どこかで人では聞き取れない大きな音を聞いたという事を示していた
その兎は…西南西の方角をじっと見つめていた
「向こうで…何か起きたのだろうか!?」
…きっと鈴菜さんは向こうの人が無事なのかを心配していると思う
そしてそこへ向かいたいって思っていると思う…
事実、私と向こうの方を鈴菜さんは交互に見ている…きっと考えてくれているんだと思う、私の事を…
私は…どういえばいいんだろう…
実際、もし女王感染者を巡って戦いが起きていたら…それに巻き込まれて死んじゃったら…!!
足が震えてる…やっぱり怖いんだ私…
素直に怖いって言ったら…一緒に学校に行ってくれると思う…そうすればすぐに争いに巻き込まれる心配はなくなるよね…
ならそれで問題は…
『何でそんなに皆の事考えて行動できるの?』
学生アイドルをするって言った時に思わず質問してしまった時の事を思い出していた。
『…皆の笑顔が大好きだから』
シンプルな理由だった…でもそんなシンプルな理由でも行動できるって本当に凄いと思う
続けて…ちあかちゃんはこう言った
『私、好きになってくれた人と一緒に何かをしたり、困っているのを助けたりすると、『ありがとう』って言ってくれて…笑ってくれるのを見ていると…私、本当に嬉しいんだ…家族がいない寂しい気持ちも埋めてくれて…そんな皆の事が、そんな皆が生きていて家族が眠っている村が大好き!!だからそんな村の為に…多くの人達が笑顔になる為なら、私は何でもやってみせる!!』
…笑顔でそう言った後、自分の歌で笑顔になってくれるのも嬉しいからって言ってた。
本当に彼女は…私にとって…いや、多くの人達にとってはヒーローだったと思う
そんなちあかちゃんだったら…きっと…!!
「…行きましょう、鈴菜さん」
「良いのか!?」
鈴菜さんも驚いてた…さっきまで怖がっていたから仕方ないかも
「大丈夫です、私も多くの人達に何かが出来るかもしれないから…怖いけど…逃げたくないです!!」
「勇気」とは怖さを知ること
「恐怖」を我が物とすること
うさぎはこの瞬間、恐怖に屈しない勇気を得る事が出来た
「…そうか、なら早めにむk」
「それはダメです、鈴菜さんさっきから走りっぱなしですよね?」
「な、何故分かったのだ!?」
「貴女汗だくですよ?気づかなかったんですか?」
ふと彼女は頭を触ってみたが…その通り、汗だくだった
彼女はまず多くの人に会ってから休憩したいと思ったのだ、彼女には銃以外の力がない、故に頼れる人に会ってから休憩しようと思い、ずっと走りっぱなしだったのだ
「だから、歩いてそこへ向かいませんか?体力がない状態でそこへ向かっても何もできないのは意味がないと思います」
「…そうだな、私は焦りすぎたかもしれない」
彼女は鍵の形にした水も飲むことで水分補給をした後…二人で兎が向いている方へ歩き始めた。
「うさぎ」
「?」
「これから…よろしくな」
「…はいっ!!」
こうして二人は兎が向いている方へ歩き始めた
(…うさぎ、貴女、私の年齢、勘違いしているな?)
鈴菜はうさぎについて…実は千歩果から話を聞いていたのだ、だから最初から信用していたし、嫌われたくはなかったのだ
その時の声はとても大きかったのを覚えている、今思うと彼女は友達や大切な人の事を話している時の笑顔は1番可愛らしかったと思った
この事を何故持ち出さなかったのか?それはもし持ち出すと千歩果に関係する会話ばかりになってこの事態についての話が出来なくなる可能性を考えたのだ。(でも年齢については後で誤解を解いておくべきだな)
このVHが収まったら…彼女とは色々な話をしたい、勿論、千歩果やその友達も一緒に
そして彼女達の日常を壊したこの地震とVHは絶対に許さないと…改めて決意を決めた
(鈴菜さん…貴女と一緒ならこの事態…乗り越えれる気がします)
うさぎも進む事に決めた
家族が、村の人達が少しでも笑顔でいれるようになる為に全力を尽くす道を進む事を
【B-5/森前/1日目・黎明】
【犬山 うさぎ】
[状態]:健康
[道具]:ヘルメット、御守
[方針]
基本.家族と合流したい&少しでも多くの人を助けたい
⒈兎がいる方向へ向かう
⒉その後避難所(学校)に向かいたい
⒊出来るなら多くの人達を助けたい
⒋鈴菜さんともう少し会話しておきたい
⒌私も自衛の為の武器欲しい…やっぱり猟師小屋いってから音がする方へ向かった方が良かったかも?
【岩水鈴菜】
[状態]:健康
[道具]:リュックサック、キャンプ用具(テントやライターなど)、傘、寝間着×2、制服、普段着×2、ロシア製のマカノフ、インスタント高山ラーメン、のりしおポテトチップス、ポテトサラダ、焼きうどん、冷凍西浦みかん×3、更にビックマック、AQUAの水500l×2、木製の子供用椅子
[方針]
基本.この地震が起きた原因を調べる
⒈兎が向いている方向へ向かう
⒉次に学校に向かう
⒊次に 剛一郎が経営している寿司屋へ向かって彼の情報を集める。
4.ゾンビは家に閉じ込めて対処する。
5.剛一郎の危険性を多くの人に伝えながら、説得できる人と異能が強い信じられる人を探す
6.千歩果の知り合いがいたら積極的に接触したい、まず一人会えて良かった。
7.残り時間が少なくなってしまい、どうしようもない時は危険人物→善性殺戮者→自分の順番で死んでいくしかない、だが女王ウイルスを命に影響なく無力化する方も諦めず探したい
※閉じ師の技能が使えますが、この状況ではほとんど意味がありません。この立場は隠していくつもりです
1回異能を使うと20ml水を消費します。現在一本目の水の量は440mlです
投下が遅くなってしまいすみませんでした、タイトルは、『太陽を背中に僕らは進む』です
投下乙です
>太陽を背中に僕らは進む
うさぎちゃん前回は事態を認識してなかったのでのんきだったけど、現状を認識したらそりゃ怖い
ゾンビを気遣うその考え、みんな気軽にゾンビを殺しすぎだよね
うさぎと鈴菜は互いに足りないところを支え合ういいコンビになりそうね
投下します。
投下します
公民館に向かって一人の女がぶらつく。
まるで昼下がりに散歩でもするかのように。
その手にはおしゃれなハンドバッグの代わりにスレッジハンマー。
その眼前にはゾンビが数十体。
それを見て、彼女は口角を吊り上げて笑った。
ようやくだ。
ようやくおもいっきり。
ようやくおもいっきり暴れられる。
「……なんでいなんでい、結構わらわら出てくるじゃねぇか。
丁度いい、今からやるのは個人的な八つ当たりだ。
こちとらさっきの糞餓鬼のせいでフラストレーション溜まってんだ。
神や仏に祈る思考回路がまだまともに正常に残ってんなら、祈れ。
逃げる気があるんなら、逃げてもいいぞ、猶予は2秒だけな。
ま、逃げても追いかけて全員ぶっ殺すから関係ねぇけども!
さぁて、ゾンビどもの耐久力テストはっじまるぞ!!
せ〜〜〜〜のっ! オウラァアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」
風雅は咆哮と共にゾンビの群れに向かって爆発的な加速で突っ込む。
それとほぼ同時にグシャリという鈍い音が辺りに響いた。
二枚抜きと言わんばかりに二体のゾンビを心臓ごと左拳でぶち抜いたのだ。
「ドゥラァッッ!」
次に襲ってきたカウンターの要領で飛び膝蹴りでゾンビの顔面をぐちゃぐちゃにする。
「メンッセイッ!!」
近くにいたゾンビを掴んでワンハンドブレーンバスターで脳天から地面に叩きつける。
「テェェェヤッッ!!!」
さらに左手でそのゾンビの頭部をがっちり掴んで握りつぶす。
そのまま振りかぶり、ゾンビたちに向かって投擲する。
凄まじい速度で飛んでいきゾンビ同士が激突し、肉片が混じり合ったものが出来上がる。
「っしゃ!! ストライク!!!」
それはサバイバルナイフも銃も必要としない。
格闘技術も何もない。
ただただ圧倒的な『暴』でごり押すだけ。
それで十分だった。
時間にしてわずか数分で彼女の前からゾンビがいなくなった。
代わりに屍の山が文字通りに積みあげられた。
その上にどっしりとハンマーを片手に腰を据える。
そして、月と星と雲を見上げる。
こんな夜は一服したいが、今は出来ない。
防護服を着用しないといけないのだから。
「ったく、どこのホラー映画だってんだ……」
いつもの煙草がないので余計にイライラする。
クソまずい銘柄の煙草なのでまず一般市場には出回らない代物。
だからこそ彼女は好んで吸っていた。だって、そっちの方が大人っぽいから。
彼女は10年以上前から容姿は変わらない(サイボーグなので)。
ので、初見では結構甞めれらた態度を取られる。
そのたびに、分からせる。主に拳で、口喧嘩じゃ大抵負けるから。
『美羽風雅』は『改造人間(サイボーグ)』である。
彼女を改造した政府の科学者は世界平和を望む者たちである。
彼女は人間の自由を守るために政府の『敵』の全てと戦うのだ。
「……ドゥラァッ!!」
無造作に振るわれた拳が寄ってきたゾンビの顔面に風穴を開けた。
ゾンビの耐久力は並みの人間と変わらない。
それだけ分かれば十分だ。
異常なのは彼女の破壊能力だけ。
「キリがねぇのは別にいいが、そろそろゾンビ以外も殺りてぇな!
どっかに正常感染者いねぇかな!? いねぇよな!! いたらいいなァ! いや、いろよ!
あと増えるワニがいるんだっけか? ハンマーでワニをぶっ叩く奴は昔ゲーセンでしこたましたから得意なんだぜ?
そりゃ沢山やったぞ、叩きすぎてワニの奴の筐体が壊れたから、あのハンマーでエアホッケーやる程度には!
ま、そのあとそのゲーセンに出禁にされたけどな!!
つーか、アイツ(乃木平)、アタシが今ハンマー持ってるからワニの話しただろ、絶対!!」
一人でグダグダと愚痴をこぼす。
彼女が頭に上った血を一旦冷やすためには必要なことなのだ。
散歩、喫煙、雑談等々クールダウンが出来るならなんだって良い。
言葉と一緒に体内の熱を放出する。
彼女に48時間ぶっ通しで戦えるような継戦能力はまだ備わっていない。
今後の技術の発展次第で可能にはなるだろう。
だが、今の彼女にはそんなことは関係ない。
今、目の前にある任務をこなすだけ。
最底辺のカスのような人生を18年くらいは生きた。
事故死した暴走族族長として2年くらいは冷たいベットの上でずっと寝た。
そして、今政府の犬として10年以上は稼働している。
(まだまだ、あの人たちにアタシが貰ったモンを返しきれてないからな)
この身体が動く限り、どのような命令(オーダー)だろうとこなす。
例えば銃を持ったテロリストが相手だろうと、「殴れ」と言われればぶん殴る。
例えば敵大国がミサイルをぶっこんでこようが、「蹴れ」と言われれば蹴り飛ばす。
例えば宇宙人が円盤に乗って攻めてこようが、「落とせ」と言われれば円盤ごと落とす。
(ま、今日と明日はこの村のゴミ処理だな……つか、なんかまた熱くなってきたな)
風雅の熱放出が上手くいっていないわけではない。
近くに何かがいることは、0コンマ数秒で察した。
並みの人間なら火傷を負うだろう熱さが迫っている。
だが、風雅には関係ない。
耐熱性能も当然のように完備しているのだ。
伊達に10年以上SSOGの前線で戦い続けているわけではないのだ。
しかし、風雅の座っていた屍の山はそうはいかない。
キャンプファイヤーのように勢いよく燃え上がった。
ので、風雅はそこから少し距離を取った。
その直後に『ソレ』は来た。
「同志よ……一体、どうして……」
爆発。
周囲が赤く燃え上がる。
(なんだぁ? 発火能力か爆発能力の類か?
どちらにしろ、アイツ……周りの酸素濃度が下がって、酸欠でも起こしてんのか?)
爆炎と同時に歩いてくる少女。
その瞳には生気もなく、まるでゾンビと変わらない様子であった。
一歩、歩けば、爆発。
また一歩、歩けば、また爆発。
その場で少し止まっても、またまた爆発。
(なんだありゃ、ボンバーマンかよ)
ボンバーマンとは恐らくそういうものではないということはさておき。
歩いてきた少女―――革名征子を見た風雅の印象は「ゾンビとそう変わらない」だった。
(……人間考えることを止めちまったら、死んでるのと同義だよ)
風雅にはその少女の姿はあまりにも哀れに見えた。
だが、少女に何かあったのかは知る気にもならなかった。
『世界に裏切られて全部失くしたようなツラで歩いて同情でもしてほしいのか?』
『そんなテメェの都合なんざ、アタシが知るかよ、死ね! よし、ぶっ殺すか!』
だから、一撃で終わらせてやることにした。
それがせめてものの彼女なりの不器用ながらの優しさ……というわけではない。
(全部燃やされたら、アタシが殺す分なくなるだろうが! ボケェ!!!)
ただのエゴイスト。
だが、こんななんも考えずに動く奴に殺されるなんざ。
多少は可哀そうになる、主に他の正常感染者が。
だから、ここでこいつを殺す。
銃弾は恐らく爆風で届かない。
サバイバルナイフではリーチが短すぎる。
拳? 脚? それよりももっとうってつけのものがあるだろ。
「テメェには聞こえてねぇかもしれねぇけどな!
ハンマーを持ったサイボーグが相手にトドメを刺す台詞は昔から決まってんだよ!
耳の穴かっぽじって、その思考停止した極小な脳みそに刻み込みなぁッ!!」
その風雅の声は征子に届いてはいない。
そもそも風雅の姿など征子は最初から見えていないのだから。
――そんなこと、アタシが知ったことかよ。
そう、言わんばかりに風雅は右腕一本でスレッジハンマーを支える。
両脚におもいっきり力を込めて跳躍。
地面から約10mほどであろうか、それくらい飛んだ。
月光を背後にハンマーを振りかぶった風雅の姿がシルエットのように浮かび上がったように見えた。
そして…………
「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉッッ!!!
光になぁれええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇってなぁッ!!!!!!!!」
爆炎の明かりがハンマーを照らし、一瞬黄金色に見えたのは恐らくは気のせいであろう。
征子が次に爆発するよりも速くハンマーを振り下ろす。
サイボーグの膂力で無茶苦茶な速度で振われたハンマーは一直線に征子に向かう。
グチャリ、と。一度だけ重く鈍い短い音が辺りに響いた。
風雅はただただハンマーで征子の脳天からぶっ叩いただけ。
……だけなのだが、征子の頭蓋を粉々に、脳をぐちゃぐちゃに、肉体はハンマーと地面の間に圧し潰された。
それと同時に地面に小規模なクレーターが一つ出来た。
当たり前のことだが征子の肉体は光のような粒子にはならなかった。
代わりと言ってはなんだが、まるでトマト缶を周囲にぶちまけたように鮮烈な赤い色だけが広がった。
「やっぱ、ただのハンマーじゃ光の粒子にするのは無理だ、当たり前だわな!!」
風雅はハンマーについた返り血を払いながら、愚痴る。
また月を見上げようとするが、もう月は沈みかけている。
周囲が明るいので夜明けは近い。
…………というわけではなかった。
「ゾンビタワーはよく燃えんなぁ!」
最初の爆発で燃え上がった屍の山を見て、風雅は率直な感想を述べた。
天まで焦がすような炎が上がり続ける。
周りでマイムマイムでも踊ってやろうかと思ったが、そんなことをする暇はない。
どんなにテンションが上がっても、どんなにイラつても、任務遂行が第一。
殺せという指示があるのだからぶち殺す。
「んじゃあ……公民館にカチコミに行くとすっかぁ!」
燃え上がる屍の山を尻目に彼女は進む。
次なる目的地は『公民館』。
【革名征子 死亡】
【D-1/草原/1日目・敬明】
【美羽風雅】
[状態]:健康、怒り(中)、苛立ち(中)、氷月海衣に対する殺意(中)、乃木平天に対する苛立ち(やや中)
[道具]:防護服、拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフ、スレッジハンマー
[方針]
基本.正常感染者の殲滅。
1.公民館に向かう。
2.煙草が吸いてェ……。
3.氷月海衣が生きてたら任務に支障が出ない範囲で殺しに行く。
4.分身するワニってなんだ。頭ぶっ叩いていいのか?
※放送設備及び氷月海衣のスマートフォンが破壊されました。
※乃木平天からワニ吉の情報をある程度伝えられています。
投下終了です。
投下宣言の2重投稿失礼しました。
投下します
「鈴菜さん!大変です!」
私、岩水鈴菜と同行者である犬山うさぎは、西南西の方に向けて歩いていた。
私が先頭に立ち、うさぎが後ろを歩いていたのだが、後方のうさぎの言葉に私は振り返る。
「どうした、うさぎ。ゾンビの群れでも出たのか」
「いえ、そうじゃなくて…ウサミちゃんが消えちゃったんです」
涙目で訴えてくるうさぎ。
私達には、もう1人…いや、一匹の同行者がいた。
それは、犬山うさぎの異能により召喚された兎である。
同じうさぎで紛らわしいということでうさぎがウサミちゃんと命名したのだが…ウサミちゃんはうさぎの腕に抱かれて、彼女に可愛がられていた。
出会った当初怯えていたうさぎも、大好きな動物と触れ合って落ち着いたようで安心していたのだが…
確かに彼女が言う通り、腕に抱かれていたはずのウサミちゃんがいない。
「どこかに逃げたのか?」
「いえ、それが腕の中にいたのが、急に透明になって消えてしまって…」
「ふむ…」
鈴菜は腕を組んで考える。
直前になにか変わったことが起きた覚えはない。
いや、もしかしたら気づいてないだけで何か起きて、それが原因で消えたという可能性もなくはないが。
「もう一度出てくるように祈ってみてはどうだろうか?」
「そうですね…ウサミちゃん、出てきて〜」
そうしてうさぎは祈った。
そしてその数秒後…それは現れた。
「なああっ!?」
「どうしたんですか鈴菜さん、らしくもなく大声で……えええええ!?」
私は思わず驚きの声を上げ、目をつぶって祈っていたうさぎも遅れて驚いた。
「ぐぎゃああああああああす!!」
そこにいたのは…ドラゴンだった。
冗談としか思えないが、まるでゲームの世界から飛び出したような架空の生き物が、私達の目の前には存在していた。
一応補足しておくと、目の前にいるドラゴンの姿は、蛇のような長い身体を持つタイプではなく、ずんぐらむっくりな身体に、角や牙や羽を生やしたような、あっちのタイプのドラゴンである。
その全長は私達の3倍…5メートルはあるだろうか。
凶暴そうな牙を生やしながら、私達を見下ろしていた。
私とうさぎは、しばらくドラゴンを見上げていた。
どれほど時間が経っただろうか。
沈黙を破ったのは…新たな混沌を産む闖入者であった。
「今助けるぞ、うさぎぃぃぃぃ!!」
後ろから、声が聞こえて私とうさぎは振り向く。
そこにいたのは、イノシシとブタをミックスしたような化け物だった。
目の前のドラゴンほどではないが、やはりその身体は巨大だ。
イノシシブタは、こちらへ走ってきたかと思うと…ドラゴンに向かってタックルを仕掛けてきた。
「ぎゃああああああああああす!?」
ドラゴンは、イノシシブタの体当たりを受けて森の奥に吹っ飛ぶ。
そしてイノシシブタはこちらに…主にうさぎに向けて笑みを浮かべるといった。
「その様子…どうやらうさぎは正気の様子。さすがは我が聖女である」
妙にうさぎに対して友好的な態度のイノシシブタを見ながら鈴菜は思った。
ドラゴンにイノシシブタ…私たちは、異世界転生でもしたのか、と。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
「ぎゃあああああす!」
森の奥に吹っ飛ばされたドラゴンが、鼻息を荒くして戻ってくる。
私、犬山うさぎは状況に取り残されて未だ混乱から抜け出していなかった。
えっと、ウサミちゃんを出そうとお願いしてたら、出てきたのがドラゴンさんで…
びっくりしてたら、イノシシとブタを合体させたような人が現れて…
「むぅ、やはりあの程度では倒れなんだか。さすがは我が前世の世界にて最も狂暴と言われる種族、ドラゴン…!」
「ふしゅう、ふしゅう」
「正気を失った人間との道中の戦いで武器(木の柵)を失った状態で戦うのは厳しいが…しかし我は和幸、最も残虐なる種族、オークの戦士!我が聖女を守るため、戦い抜いてみせようぞ!」
「えっ、和幸って…和幸さん!?えっ!?」
目の前のイノシシブタさんは、和幸と…小中学校で飼っているブタの名を名乗った。
そういえば、イノシシブタさんが持っている袋…いつもトウモロコシを入れている袋だ。
あんなものを大事に持ってるってことは、やはりそういうことなのか。
(よく分からないけど…和幸さん、無事だったんだ。良かった!)
正体が分かると、急速に心が落ち着くのを感じた。
目の前にいるのは、姿形こそ随分と変わっているが、自分のよく知る、大好きな動物さん。
対峙するドラゴンも、きっと自分が生み出した動物さんだし、話せばわかってくれるはず。
うん、大丈夫。
目の前で起きているのは異世界の戦いじゃない。
学校では人間も動物もよくやる、喧嘩みたいなものだ。
そして自分は何度もその仲裁をしてきた。
「やめなさい!!」
私は大きく声を張り上げる!
ドラゴンさんも和幸さんも、驚いた様子でこちらを振り向いた。
「ケンカしちゃ、めっ!です」
人差し指を立ててうさぎがそう言うと、剣吞とした雰囲気は急激に消え失せた。
ドラゴンも和幸も、うさぎが大好きであった。
そんな彼女のふんわりとした𠮟責は、彼らを和ませ、落ち着かせたのだ。
隣の鈴菜が、驚いた表情でうさぎを見る。
「うさぎ、貴女はすごいな…」
「えへへ、動物も人間も、仲裁は慣れっこなので」
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
「とりあえず、ここでは目立つ。一度森の中に身を隠そう」
場が落ち着いたところで、鈴菜は切り出した。
一触即発の状況は回避したとはいえ、やはりまだ状況が分からなすぎる。
かといって巨体二人がいる中、見晴らしのいい場所にたむろしていたのでは目立つ。
そこで、女子二人にドラゴンとオークという珍妙な一団は、北上して森の中に身を隠すことにした。
「さて、とりあえず状況を整理したいのだが…まず、お前は何者なんだ」
そういって鈴菜は和幸を睨む。
ドラゴンの方はとりあえず、状況的にうさぎが召喚したものだということで害意はないだろうからいいが、こいつについては素性が謎だ。
「鈴菜さん、この人は和幸さん、この村の小中学校で飼ってる豚さんです」
「…すまないがうさぎ、その説明で納得しろというのは私には無理だ」
「…ふむ、では我の口から説明するとしようか」
そうしてオーク…和幸は自身の素性を説明した。
自分の前世はこことは違う異世界の残虐なるオークの戦士であったのだと。
このVHが起こった際に、前世の姿を取り戻しこのような姿になったのだと。
「…その説明を私たちに、信じろと?」
「信じぬのは勝手だが、我は嘘などついておらんぞ」
「うさぎはどう思う」
「私ですか?うーん、和幸さんが嘘をついてるとは思えませんし…それに、村の人がゾンビになったり、ドラゴンが現れてるくらいですし、そういうファンタジーが存在しててもおかしくないんじゃないかなって」
「…そう言われてみると、確かに何が起きてもおかしくない気はするから不思議だな」
確かにうさぎの異能の力とはいえドラゴンが現れてるくらいだ、オークが現れたっておかしくはない…か?
釈然としないが、そう納得するしかなさそうだった。
「では和幸、お前は私達の…いや、うさぎの味方ということでいいのだな?」
「うさぎはこの世界に転生した我を温かく迎え、芳醇なるとうもろこしを味合わせてくれた恩人である。千紗は守れなかったが…せめて彼女のことは守りたい」
「千沙ちゃん…」
和幸から千沙やデコイチの話を聞かされたうさぎは、俯く。
彼らはゾンビとなり、そして和幸の手で引導を渡された。
うさぎの脳裏には、自分を慕う少女と犬との思い出が浮かんでいた。
もう、彼女たちと遊ぶことはできない。
助かる可能性が残されている両親と違って、もう会えないのだ。
いや、千沙たちの状況を考えると、両親だって、殺し殺されを演じている可能性があるのだ。
和幸の話によれば学校にはかなり大勢人が集まっていたらしく、そのほとんどがゾンビになっている可能性があるらしい。
ウサミちゃんが示した場所での用事を済ませたら向かうつもりだったが…行くのは危険かもしれない。
「うさぎ…我を恨むか?」
「…いえ、和幸さんのしたことは、きっと間違ってなんかないです。デコイチさんだって…きっと和幸さんのしたことを責めたりなんかしてないです」
「…どうだかな」
しんみりした雰囲気の中、鈴菜が口を挟む。
「しかしお前は…自分のことを先ほど残虐なる種族と言っていた気がするのだが…」
鈴菜が懸念しているのは、果たして和幸が本当に味方として信用できるか、ということである。
残虐非道であるというなら、うさぎを慕っているふりをしているという可能性だってなくはない。
そんな鈴菜に対して、和幸は答えた。
「…転生した直後の我であったなら、己の欲望のままにこの村で蹂躙の限りを尽くしていたやもしれんな。しかし…そのような暴虐を働くには…我は少々、この村に愛着が湧きすぎた。今の我の頭を占めるは、とうもろこしの芳醇なる香りとおいしさ、とうもろこしを提供してくれる麗しき人間の姿のみよ」
「和幸さん…ごめんなさい、私今、とうもろこし持ってないんです」
「なんとっ!?…ううむ、うさぎに会えればとうもろこしを補充できると思ったのだが…とんだ誤算である」
「お家が倒壊しちゃったから、神社に戻っても用意するのは難しいかもしれないです」
「なんということだ…とうもろこしを補充できぬとは、これは由々しき事態である」
能天気な会話を繰り広げる和幸とうさぎの姿に、鈴菜は毒気を抜かれてしまった。
どうやらこのオーク、演技でなく本気でとうもろこしに脳を支配されてしまったらしい。
見た目こそあれだが、とても残虐な戦士には見えない。
「分かった、和幸。お前のことは信用しよう。これから…よろしく頼む」
「とうもろこし…とうもろこし…」
「…………」
鈴菜の友好の態度は、和幸に届いていなかった。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
「ああっ!?ドラちゃん!?」
和幸の話が終わって、次の話題に移ろうとしたところで、うさぎが声を上げた。
鈴菜と和幸がそちらを見ると…巨大なドラゴンの姿が透明になり、今まさに消えようとしていた。
「おお、我と同じく異世界に住む戦士よ、どうしたというのだ」
和幸が声を上げる中、そのままドラゴンは消える。
鈴菜は、時計を確認する。
その時刻は、5時ちょうどであった。
「…なるほど、そういうことか」
なんとなくだが、うさぎの異能の正体が見えた気がする。
「うさぎ、もう一度召喚の為に祈ってくれないか」
「は、はい!ドラちゃん、後できればウサミちゃんも、出てきて!」
そうして祈ること数秒、出てきたのは…
「蛇さん、ですか」
「やはりそうか」
鈴菜は確信した。
うさぎの異能の正体を。
「うさぎ、貴女の能力だが…時間が関係しているらしい」
「時間?」
「ああ、そして、兎、竜、蛇…この並びに、心当たりはないか?」
「兎に竜に蛇…?……あっ」
うさぎも気づいたようだ。
そう、兎、竜、蛇…この順番は、干支。
犬山うさぎの異能は、1時間ごとに、干支の順番に沿って召喚できる動物が変わる能力なのだ。
「……………」
「鈴菜さん、どうしたんですか?何か気になることでも」
「いや、何でもない。ともかく、大まかな話の整理はついた。改めて出発するとしようか」
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
数時間前ウサミちゃんが向いていた方角…高級住宅街が近づく中、鈴菜は考える。
和幸が話していた学校での出来事を。
和幸の話から分かること。
それは、人間だけでなく動物も、このVHの影響を受けているということ。
デコイチという犬は適合できずゾンビになり、和幸という豚は適合して生前の姿を取り戻した。
この事実を受けて鈴菜は二つのことを考えた。
一つは、この村の外側の山のことだ。
此度のVHにおけるウイルス。
この山に四方を囲まれた村では、そのウイルスが外部に漏れる可能性は低いだろう。
だが…山の中はどうだ?
山中ならば、ある程度はウイルスが入り込んでくる可能性があるのではないか。
そして和幸と出会う前にうさぎから聞いた話によれば、山にはクマが出没することがあるという。
もしも複数のクマがウイルスに感染しゾンビになってしまったら…あるいは適合して異能を手に入れてしまったら。
考えるだけで恐ろしい。
そしてもう一つ気になることがある。
先ほども話したように、このウイルスは動物にも感染する。
(それならば…うさぎが召喚するこの動物たちは、どうなんだ?)
ここまでうさぎ、竜、蛇と出てきたが、いずれも正気であり、ゾンビになっている様子はない。
それは正常感染者であるうさぎの影響なのかもしれないが…
鈴菜はそこで、最低なことを考えてしまった。
もし、うさぎが召喚する動物がいずれも正気を失わないのなら…彼女が生み出す動物には、ウイルスへの抗体が脳に出来上がっているのではないか。
異能の発現という形で感染してしまっている自分たち正常感染者よりも強固な、免疫を持っているのではないか。
そしてその脳を専門家が解剖・調査すれば、ウイルスの治療薬を作ることだってできるのではないか、と。
(なんてことを考えているんだ、私は…)
勿論この考察には穴がある。
そもそもうさぎが召喚する動物が普通の動物と同じ身体構造・脳を持っているとは限らないからだ。
それに…もしも彼女が生み出す動物を解剖して脳を弄ったりした場合、召喚者であるうさぎ自身にも何かしら悪影響があるかもしれない。
和幸にドラゴンが吹っ飛ばされてうさぎ自身に何もないことから。単純な攻撃のフィードバックが存在しないのは確かだが、脳まで弄られて影響がないとは限らない。
(恐ろしいのは…同じことを考える奴がいないとも限らないということだ)
もしも自分と同じことを考えた奴がいたとして、そいつが自分なんかより非情な考えの持ち主であったなら…
そいつはきっと、うさぎを利用しようとする。
彼女がどうなろうと構わず。
「鈴菜さん、大丈夫ですか?青ざめてるように見えますけど…」
「あ、ああ…大丈夫だ」
このことは、今は話したくない。
今も自分を気遣う優しい彼女にそんな重荷を背負わせたくないし。
優しい彼女に、こんなことを考えていたなんて知られて…軽蔑されたくない。
「和幸、頼みがある」
「鈴菜、だったか。我に何を望む」
「…うさぎを、守ってやってくれ。彼女を狙う、悪意から」
今の自分に出来ることは、自分と同じ考えに行きつき、そして手段を選ばない輩の魔の手がうさぎに伸びないようにすることだけだ。
しかし自分にそんな戦う力はない。
彼に頼むしかない。
和幸は、私の言葉に呆れたような表情をしながら言った。
「何を言うかと思えば…そのようなこと、頼まれるまでもないわ」
【B-4/平原/1日目・早朝】
【犬山 うさぎ】
[状態]:健康、蛇召喚中
[道具]:ヘルメット、御守
[方針]
基本.家族と合流したい&少しでも多くの人を助けたい
⒈ 高級住宅街の方へ向かう
⒉ その後避難所(学校)に向かう…つもりだったが和幸さんの話を聞く限りやめておいた方がいいかもしれない
⒊ 出来るなら多くの人達を助けたい
⒋ 鈴菜さんともう少し会話しておきたい
【岩水鈴菜】
[状態]:健康
[道具]:リュックサック、キャンプ用具(テントやライターなど)、傘、寝間着×2、制服、普段着×2、ロシア製のマカノフ、インスタント高山ラーメン、のりしおポテトチップス、ポテトサラダ、焼きうどん、冷凍西浦みかん×3、更にビックマック、AQUAの水500l×2、木製の子供用椅子
[方針]
基本.この地震が起きた原因を調べる
⒈ 高級住宅街の方へ向かう
⒉ 次に学校に向かう…つもりだったが和幸の話を聞く限り再考した方がいいかもしれない
⒊ 次に剛一郎が経営している寿司屋へ向かって彼の情報を集める。
4.ゾンビは家に閉じ込めて対処する。
5.剛一郎の危険性を多くの人に伝えながら、説得できる人と異能が強い信じられる人を探す
6.千歩果の知り合いがいたら積極的に接触したい、まず一人会えて良かった。
7.残り時間が少なくなってしまい、どうしようもない時は危険人物→善性殺戮者→自分の順番で死んでいくしかない、だが女王ウイルスを命に影響なく無力化する方も諦めず探したい
8. うさぎが召喚する動物でウイルスの治療薬を作ることが可能か?…しかし、今はこのことを誰かに話したくない
※閉じ師の技能が使えますが、この状況ではほとんど意味がありません。この立場は隠していくつもりです
1回異能を使うと20ml水を消費します。現在一本目の水の量は440mlです
【和之】
[状態]:健康
[道具]:とうもろこしの入った袋
[方針]
基本行動方針:風の向くまま、村を散策する
1.犬山うさぎを守る
2.亡者になった知己は解放してやる
3.とうもろこし…
投下終了です
投下乙です
>JUST THE WAY I AM
爆発をものともせず一撃で人間を叩き潰す戦闘力は流石のサイボーグ、身体能力は大田原を超えて人外の域ですね
暴れまわる凶暴性から狂犬かと思いきや恩義に報いる組織への忠誠心は高い忠犬でもあるギャップ、だったら命令は聞いておけ
同志に裏切られた失意のまま叩き潰された征子は憐れだけど、まあ同志に呪われた時点で彼女にとっては終わったようなものだから幕引きが早くて良かったのかな……
>可能性の獣たち
ドラゴンにオークと言う異世界ファンタジー、モンスターバトルが始まりかねない状況だったけど中心となったうさぎの人間性もあってかほのぼのしている
時間に合わせた十二支召喚だから龍がよべる4時が一番強い、と言うか現実に存在しない龍だろうと呼べると言うと言うのは凄すぎない?
召喚された動物たちの感染がどうなるかと言うのは目から鱗、感染しないのか抗体を得ているのか、次に召喚された時ゾンビになってたらどうしよう?
投下します
「ふん…………ッ!!」
右ストレートが呻りを上げ、纏わりつくゾンビの顔面を殴り抜いた。
前を塞ぐゾンビの襟首をつかみ、振り回すように脇道に投げ飛ばす。
ゾンビ溢れる山折村にて、バイオハザードに巻き込まれた臼井浩志はゾンビを蹴散らしながら自身の勤める建築会社を目指していた。
とはいえ、そこに明確な目的がある訳ではない。
その行動は無事な知り合いがいればいいな、と言う薄い希望と薄い考えによるもでしかない。
だが、進んでいくうちに、その元より薄い目的意識も徐々に薄れていった。
行けども行けども出会うのはゾンビだけで、ひょっとしたらまともな人間は自分だけなんじゃないかとすら思えてくる。
何度目かの拳を振るう。
若いころはそれなりにヤンチャして喧嘩自慢で鳴らしたものだ。
動きの鈍いゾンビなんぞに後れを取る事もないが、さすがに無傷ともいかない。
なにより、これだけ全力で人の頭を殴れば、拳も傷付くものである。
だが、破けた拳の皮が見る見るうちに再生して行く。
ゾンビから受けたひっかき傷や噛み付きもすっかり回復してしまっていた。
「どーなってんだかなぁ」
この異常な再生力もそうだし、ゾンビ騒ぎもそうだ。
臼井は自分が頭のいい方じゃない事は自覚しているが、それにしたって訳が分からない。
夢の中にいると言われた方がまだ信じられるくらいの状況だが、残念なことに痛みも疲れも確かにあるのだ。
「臼井君じゃないっすか。何してんっすかこんなところで」
進行方向の先、夜の闇から声があった。
現れたのはさっぱりとした態度の美人とおどおどとした細身の男の2人組。
このバイオハザード発生から初めて出会ったまともな人間である。
「あっ……ども。えっと虎尾さんと遠藤さんでしたよね」
ようやく出会えたゾンビ以外の正常な人間は偶然にも顔見知りだった、
臼井は作業を終えるまでの一時滞在ではあるものの建築会社の社員である。
材料となる木材を提供してくれる林業会社に勤める遠藤と、非正規職員とは言え役場の土木・建築関連の部署に勤めている茶子とは面識があった。
とは言え一作業員でしかない臼井からすれば作業中に挨拶を交わした程度の顔見知りでしかないのだが。
「っと。会社に戻ろうかと、そちらさんはどこ行くつもりだったんっすか?」
「知り合いを探しに神社の方にっすね」
「はぁ……神社っすか。遠藤さんもっすか?」
頭を掻きながら適当な相槌を打って遠藤に話を振る。
さほど親しい間ではないが最低限場を回すだけのコミュニケーション能力が臼井にはあった。
だが、遠藤は何故か臼井の視線から逃れるように茶子の後ろに隠れていた。
「? あれ。ってか、めずらしいっすね。遠藤さんが女の人といるなんて」
遠藤俊介と言えば女性が苦手で通っていたはずである。
鼻血を出して倒れるなんて漫画みたいなリアクションが面白がられて現場でよく笑いの種にされている様を臼井もよく遠目で見ていた。
そんな遠藤が――いくら貧乳とはいえ――女性に縋りついているという状況は珍しいなんてモノじゃない。
「いやー。それが聞いてくださいよ臼井君」
「え、なんすか? なんかあったんっすか?」
「や、やめて下さいよ」
仕事がらみの微妙な知り合いとの絡みを若干面倒がっていたが、あまりにも珍しい状況に興味が沸いてきた。
話題がにわかに盛り上がってゆき、その騒ぎに誘われたのか、周囲にもゾンビが集まり始めた。
咄嗟に臼井は拳を構え、同時に茶子も殺傷ではなく制圧用の木刀を構える。
だが、拳と刀、それらが振るわれるよりも早く、銃声が響いた。
驚きのまま音の発生源である背後を振り向く。
するとそこには、こちらに小走りで駆けてくる警察官の姿があった。
「げっ」
茶子が嫌な物でも見たと言うように表情を歪めた。
そして、面倒事の様にその名を呟く。
「…………薩摩さん」
誰だかよくわかっていない様子の臼井に、茶子が小声で耳打ちする。
(村の交番に勤めてる薩摩って警官で、すぐ銃を撃ちたがるやべーヤツっす)
(ああ……)
凶悪犯どころか下着ドロや万引き犯にまで発砲したがるトリガーハッピー。
実際に誰かを撃ったと言う話は意外に聞かないが、すぐに銃を抜いて撃ちたがる様は軽犯罪者から恐れられている。
その影響か山折村の軽犯罪率は低い。その反動の様に重犯罪者が異様に多いのだが。
地元ヤクザと繋がった汚職警官であるなんて噂もあるくらいの問題児で。
気喪杉禿夫を頂点とする山折村関わってはならない人ランキングの上位ランカー。
それがこの警官、薩摩圭介と言う男だった。
その話を聞いて、交番から聞こえてきた銃声は恐らくこの人がゾンビでも撃ったのだろうと白井も納得を得た。
どうやら先ほどの発砲はクソエイムによりゾンビを大きく外れていたらしく、健在だったゾンビたちを倒している間に薩摩がこちらに到着する。
「ごっ無事ですか〜〜!?」
「ご無事っすよぉ。ちなみに薩摩さんの銃は当たってなかったっすからね」
現れたのは40過ぎのくたびれた警官だった。
ただ、その目だけは妙にぎらついて、血走っているようにも見える。
それが妙に不気味で、先ほどの茶子の話の信憑性をひしひしと臼井は感じていた。
「それで、3人も集まってこんな道端で何をしてたんだぁ?」
「勘弁して下さいよ薩摩さぁん。この状況で職質もないっしょ」
茶子が適当に応対し茶を濁す。
職質が碌な物じゃないと言うのは臼井も良く知っている。
こんな極限状況で受けたいかと言うと絶対に嫌だ。
「じゃあ急いでますんであたしらはこれで」
「ああ、俺も会社行かないとなんでこの辺で」
面倒事に巻き込まれる前に、遠藤を引き連れとっとと退散を決め込む茶子。
臼井もそれに乗じてこの場を離れようとした、だが。
「待て待て待てぇえいッ!!!」
唐突に薩摩が叫んだ。
単純に声の大きさに驚いて3人は足を止めてしまった。
「聞いてくれ! これは村を守るための話だ!」
妙に芝居がかった喋り方だが、そう言われては耳を傾けざるをえない。
募金や慈善事業と同じだ、正義の話は無視する方が悪となる。
「諸君もご存じだろう! 今この村に存亡の危機が迫っている!!
この村を守護れるのは誰だ! 俺か!? お前か!? そうだ村民だぁ!
この村の村民こそがこの村を守護るんだよぉおお! 立てよ村民!」
中年警官による熱い演説が始まる。
臼井は村民ではないのだが空気を読んで黙っておいた。
「俺たちの一番の敵は何だ!! そこのキミ!」
「え、あっ。俺っすか…………? えっと、自分自身? みたいな?」
「違う! 適当なことを抜かすなッ!! 二度と言うなよ!!」
鼻先に指を押し付けられながらめっちゃ怒られた。
適当に答えたのはその通りなのだが、臼井は世の不条理を感じた。
代弁するように隣の茶子が答える。
「まあ、こんなウイルス作ってた研究所じゃないっすか?」
「惜しい! けど違う! 特殊部隊だよッッ!!」
クスリでもやってるんじゃないか?と疑うような壊れたテンションで出題者はすぐ答えを言った。言いたかったのだろう。
「この村は派閥だの都市開発だの下らない小競り合いを繰り返してきたクソ村みてぇな村だが。
今こそ小さな因縁は忘れて手を取り合う時だ! 力を合わせて共に戦うべきなんだよ!!!
バラバラになってちゃダメだ! 村人は一致団結して国家の犬ども特殊部隊を撃退するだよおおおおおお!」
テンションはメチャクチャだが、確かにその理屈には一理あった。
数が多い方が有利なんてことは戦術以前の当然の話だ。
戦力を分散して各個撃破されるくらいなら集結させた方がいいのは自明の理である。
「薩摩さんにしては良いこと言うじゃないっすか。まあ国家の犬は薩摩さんもっすけど」
「確かに一方的にやられっぱしってのは気に食わねぇっすね。俺この村の住民じゃねぇっすけど」
「えぇ……」
喧嘩慣れした2人は一定の納得を示す。
しかし遠藤だけが、その血の気の多さについて行けず気後れしていた。
「けど、事態の解決のために女王を狙ってる人もいるかもしれませんし集結するっていうのは難しいんじゃ……?」
遠藤が冷静な意見を差し込む。
むやみに人を集めたところで内ゲバが起きる可能性が高い。
女王を倒して事態を解決しようと言う人間が一人でもいれば成り立たない話だ。
「だからこその一致団結だ! 山折村の魂を見せつけてやろうぜぇえええええ!
ここは俺達の村だ! 外から来た奴らなんかに好き勝手されてたまるかよ!! そーだろお前ら!!?」
呼びかけに同意の声はなかった、が演説者は特に気にしていないようだ。
一人、根拠ゼロの絆論を掲げて盛り上がっている。
何故この人はこんなにテンション高いのだろうか。
これだけの興奮に足る「何か」があったのだろうか?
「けど、よくわかりませんけど、そういう荒事のプロに勝とうなんていくら集まったところで難しいんじゃ……」
「安心しろ! 我ら村民には目覚めた異能の力がある! 特殊部隊なんて目じゃないぜ!!」
「異能?」
「そうだ! ここまで生き延びたお前らにも心当たりくらいはあるだろう?」
言われて見れば多少なりの心当たりはある。
臼井は自身の異常に速い傷の回復。
茶子は自分自身には思い当たる所はないが、同行する遠藤に確かに異変があった。
「ってか遠藤さんのアレって異能だったんすか?」
「えぇ………………」
何の役にも立たなすぎる。どこかデメリットしかない。
これで特殊部隊なんて怪物たちとどう戦えと言うのか。
「異能の力で特殊部隊を撃退する、映画みたいでカッコいいだろう?」
ふふんと自慢げに胸を張る。
どこか状況に陶酔しているようにも見える。
「うーん。仮に特殊部隊を撃退で来たところで、それって根本的な解決にはなりませんよね?」
特殊部隊の撃退は延命にはなるだろうが根本的な解決にはならない。
ウイルスもそのまま、ゾンビになった人達も元に戻らない。
一致団結して外敵を倒した後で、女王探しの魔女狩りが始まっては、目も当てられないより悲惨な結末になりかねない。
「そう! いい質問ですね!」
どこぞのジャーナリストみたいにビシッと指差し答える。
「結論から言おう!! 解決する必要は――――、ないっ!!」
「「「ん?」」」
「ん?」
互いに首を傾げ合う。
元から微妙だった話の雲行きが急ピッチで怪しくなってきた。
「一応聞いときますけどなんでっすか?」
完全に呆れた口調で茶子が尋ねた。
碌な答えが返ってこないのは分かり切った問いである。
「異能と言う選ばれし超常的な力を手に入れた! ゾンビと言う撃っていい敵も出来た! 合法的に銃が撃てる!! そもそもなぜ解決する必要があるのか?」
「はぁ……そんなに銃を撃ちたいんならお空に向かって撃ってればいいじゃないっすか」
「バッカだなぁ……何もない所を撃っても空しいだけじゃないか。的があるから、いいんじゃあないか……」
40過ぎのオヤジがうっとりとした顔で呟くように言う。
生理的嫌悪で寒気がするような光景だった。
落ちてきた弾丸に当たってろと言う皮肉を込めた言葉だったが、その意図はまるで伝わっていないようだ。
「的と言ってもただの的じゃあないぜ。ポイントは高い方がいい!!」
「ポイント?」
「そう! ただの的は1点。動く的は3点。動物は5点。ゾンビは10点。悪党は100点だ!
今の山折村は的が集まる最高のステージだ! 特殊部隊には1000点やってもいい!!」
謎のポイント制が始まった。
薩摩にとって、どれだけ気持ちいいかのポイントである。
溜まったところで特典はない。
「銃が打ち放題の新時代はすぐそこだ! ピンチはチャンス! 山折村で世界を取ろうぜ!!!」
うおおおお、と盛り上がる薩摩だったが。
聴衆の反応は冷めた物だった。
「何言ってんだこいつ」
「頭沸いてんっすかね」
臼井と茶子の2人が辛らつな言葉を投げかける。
当然と言えば当然の反応なのだが、演説者たる薩摩は理解を得られなかったことに不満げに口を尖らせた。
「うーん。つまり君たちは、俺の最強の計画には同意できないと?」
「そーっすね。お互い時間の無駄だったと言う事で」
「まったく聞いて損したぜ」
はぁと大きくため息を付いて、拗ねたような幼稚な反応を見せる。
「正義に従えない。ってことは2人はこの村の敵かぁ」
言って、薩摩は両手の指先をそれぞれ臼井と茶子に向ける。
「ッ!?」
「――――――バン!」
瞬間。二人の体が何かに弾かれた。
臼井は太腿から血を流してその場に倒れこむ。
「あらら、頭を狙ったのに」
エイムがずれて足元なんて打ち抜いてしまった。
腿を撃たれた臼井は立ち上がることもできず、その場にうずくまっている。
「やってくれたっすねぇ…………!」
一方、茶子の方は無傷だった。
薩摩が外したのではなく、茶子は刀の腹を眼前で盾にして空気の弾丸を受けとめていた。
能力を読んでいた訳ではない。彼女が読んだのは殺気だ。
殺気を感知して、その軌道上に刀を置いていたのである。
「それが……アンタの異能ってやつっすか……?」
「どうだぁ? カッコいいだろぉ〜?」
指拳銃を見せつけるようにポーズを決める。
「ハッ! いい年扱いて、ガキの遊びみたいな能力っすね!!!」
「男の子はいつまでも子供心を忘れないんだよおおぉおおおおおおお!!!」
薩摩は指先を茶子に向け、片腕で手首を支えるように構える。
茶子はその射線に合わせて盾のように刀を構え真正面から走った。
銃口よりも指先の方が射線は読みやすく、先ほど喰らった感触から威力もそれほどではない。
十分に防げる。
一発受けた後、返す刃で即座に首を刎ね落とす。
現役の八柳新陰流の弟子として最強。
それを可能とするだけの技量が茶子にはあった。
己が悪と定めた相手であれば躊躇わず斬れ。師の教えである。
何の罪もない被害者であるゾンビを斬るには躊躇があったが、外道を斬るに躊躇いはない。
迎えるは子供遊びが如き指鉄砲。
指で銃を再現する子供のごっこ遊びの延長である。
だからこそ、その空想は形となる。
必要なのはその再現に足る具体的なイメージ。
そして反社との繋がりにより銃の横流しを受けていた彼にはイメージを確固たる物とする様々な銃を撃った経験があった。
「――――――S&W M500」
イメージするのは最強の銃。
その指先に具現化する常人が手にしうる最大にして最強のハンドガン。
「どっっかーーーーーんッッ!!!!」
放たれる50口径の衝撃。
凶悪なグリズリーすら一撃で屠り去るその一発は、構えた刀をへし折りそのまま茶子の体を吹き飛ばした。
血と肉を周囲に飛び散らせ、ゴミみたいに吹き飛んだ茶子の体は地面に落ちる。
吹き飛んだ肩口から血を噴出させ池のような血だまりを作ると、そのまま動かなくなった。
「『銃は剣よりも強し』ンッン〜。名言だな、これは」
反動も再現しているのか薩摩の手がジンジンと痺れる。
これもまた心地よい痺れだ。
当然だが、流石に大口径は連射はできそうにない。
「テ……んメェ…………ッ!」
「……ぶひゃッ!」
甘美な痺れに意識を持っていかれた薩摩が、横合いから思い切り殴りつけられた。臼井だ。
茶子のように先読みして弾丸を防いだわけでもなく、銃の直撃を受け腿を撃ち抜かれた臼井が力強く地面を蹴って薩摩に殴りかかっていた。
左頬から顔面を思い切り殴りぬかれ薩摩が尻もちを付いたところに、頭に血を昇らせた臼井が馬乗りになる。
「死ねオラぁ!!」
ヤンキー時代に立ち戻ったように暴言を放ち、マウントポジションのまま殴りかかる。
撲殺する勢いで拳の連打を浴びせかけよう拳を大きく振りかぶった。
だが、振りぬいた拳が空を切る。
拳を振りぬいた体制のまま、腹部から血を流してそのまま崩れ落ちた。
臼井の腹部には薩摩の指先が密着状態で付きつけられていた。
銃相手に組み付いてはならない。組み付くのなら手を自由にさせてはならない。
街の喧嘩自慢でしかない白井は武器を相手にするセオリーを理解してなかった。
だが、それも致し方あるまい。
敵が銃を持っていれば警戒もしようが、子供遊びであるが故にこの銃は指鉄砲の形を取るだけで撃てるのだ。
子供に銃を持たせるような、その手軽さこそが何よりも恐ろしい。
「警官殴るとか何考えてんだぁテメェ!? 公妨(公務執行妨害)だぞぉ〜!? このぉ犯罪者がよおっっ!!!」
上に乗っていた臼井の体を引き剥がすと、薩摩は怒りに表情を歪めながら立ち上がった。
そして倒れた臼井に向かって指鉄砲を向けると、そのまま癇癪をぶつける様に連射する。
炸裂音のない空気銃が抵抗できない相手を一方的に打ちまくる。完全なる死体撃ち。
ここまで銃弾をしこたま撃ち込まれて、生きていられる人間などいるはずもない。
そのはずだが。
「ぐ………………ぅ…………ぁ……っ」
死に体の肉塊が声を上げる。
これだけの銃弾の雨に晒されながら、臼井はまだ生きていた。
それどころか、撃たれた傷がみるみる撃ちに塞がってゆくではないか。
「…………おいおい。マジかよ!? おいッ、マジかよッッ!!?」
それは驚愕か、はたまた歓喜か。薩摩が声を荒げる。
子供のようにはしゃぎながら、踊るように手を叩いた。
薩摩の指には異能による無限の残弾がある。
そして目の前には無限に再生する悪党がいる。
それが意味するところは、すなわち――――。
「――――ボーナスタイムだッ!!」
無限に悪党に銃が撃てる。
ポイント稼ぎたい放題のボーナスタイムに突入した。
両手で作った指鉄砲を悪党に向ける。
連射性を重視し威力を低めの銃を想像しながら、リズムを刻むように隙間なく交互に連射する。
「ンギモッヂィイイイイイイイイイイイイ!!!」
銃を撃つ快楽が全身を打ち抜く。
ボーナスタイムの快感に打ち震える。
「………………ぁ…………ぁぁ」
その地獄のような光景を遠藤は見ている事しかできなかった。
完全に状況においていかれ腰を抜かしてその場にへたり込むことしかできない。
「ふぅ…………」
一仕事を終えた爽やかな気持ちで、薩摩は額に浮かんだ汗をぬぐう。
つい夢中になってしまった。
やりすぎてしまったかな、なんてらしからぬ反省を少しだけした。
そこに残っていたのは、もはや人間としての原形をとどめていない血と肉片と汚物の塊だった。
朱く染まった髪の毛らしき束が散らばり、零れ落ちた眼球が野ざらしのまま転がってゆく。
臓物は合い挽き肉みたいに入り混じって、中から零れた汚物が泥みたいな汁を垂れ流していた。
薩摩はその結果には興味を持たず、背後へと向き直る。
そこには目の前の惨劇を受け入れられず瞳孔を開いた顔で呆けた遠藤と。
「………………あれ?」
血だまりの中心で寝ていたはずの茶子がいなくなっていた。
血だまりからは引きずったような血の跡が地面に続いている。
どうやら茶子は生きていて、逃げ出したようである。
ボーナスタイムに夢中になって気づかなかったようだ。
血の跡を追えばトドメはさせるだろうが、薩摩はそうはしなかった。
銃が撃ちたいだけで別に茶子を殺したいわけじゃない。
極端な話、銃を撃つという手段が達成できるなら茶子の生死という目的はどうでもいいのだ。
臼井は死に、茶子は逃げた。
この場に残ったのは薩摩と、事態についていけず腰を抜かしたままその場で動けなくなった遠藤だ。
「遠藤くぅ〜ん」
「……ぅ…………ぁあ」
喉の奥から絞り出すような音が漏れる。
声をかけられ、恐怖と混乱でとまっていた遠藤の頭が再起動を強制された。
「君は俺の理念に賛同して、協力してくれるよね?」
不気味なまでににこやかな声で、薩摩が答えを迫る。
断ればどうなるかなど、考えるまでもない。
「ぼ、僕は…………」
喉が窄まり、奥底から震える。
この答えで己の運命が決まるのだ。
怖くないはずがない。
「僕は………………付いていけません」
ガタガタと震えて涙を流しながら、それでも首を横に振る。
一緒に行くわけにはいかなかった。
薩摩が不愉快そうに眉根を寄せた。
ぶち壊れた理解不能な倫理観。
快楽のために人を殺した凶悪性。
ついて行かない理由は山のようにある。
「だって…………」
だが、それだって生き延びたいのなら嘘をついて首を縦に振ればいい。
それだけなのに。
どうしてもそれはできない。
彼にはそうできない理由がある。
その最大の理由。
それは。
「だってあなたが――――――巨乳美女に見えるからぁあああああ!!」
ターン。
「訳が分からん」
実銃で遠藤の額を打ち抜き、この村で最も訳の分からない男はそう言った。
【臼井 浩志 死亡】
【遠藤 俊介 死亡】
【D-5/道/1日目・黎明】
【薩摩 圭介】
[状態]:左頬にダメージ。高揚、箍が外れている
[道具]:拳銃(予備弾多数)
[方針]
基本.銃を撃つ。明日に向かって撃ち続ける。
1.放送施設へと向かう。邪魔者は射殺、気が向いた時にも射殺。協力者は保護。
2.放送によって全生存者に団結と合流を促し、村を包囲する特殊部隊に対する“異能を用いた徹底抗戦”を呼びかける。
3.包囲網の突破によって村外へとバイオハザードを拡大させ、最終的には「自己防衛のために銃を自由に撃てる世界」を生み出す。
[備考]
※交番に村の巡査部長の射殺死体が転がっています。
※薩摩の計画は穴だらけですが、当人は至って本気のようです。
※放送施設が今も正常に機能するかも不明です。
虎尾茶子は草原を這いずりながら逃げていた。
左肩の肉が吹き飛び白い骨が見えていた。
肩から下はピクリとも動かない。繋がっているのが奇跡のような状態である。
動くたび傷口より零れた血液が地面に赤い線を引いていた。
まさに命からがらと言った有様である。
「クソっ…………あのジジイッ」
茶子は吐き捨てるように悪態を付くが、今は逃げるしかない。
完全なる敗走。弾丸が肩に逸れ生きているのは敵の射撃の下手さに助けられたに過ぎない。
茶子には薩摩が臼井に夢中になっている間に遠藤を見捨てて逃げるしか選択肢がなかった。
力が足りない。それ以上に異能に対する理解が足りなかった。
遠藤のような例しか知らず。自己の異能すら自覚していない。
そんな状態で勝てる相手ではなかった。
(商店街が近いか……? 薬局はどのあたりだったっけ……? ダメだ頭がぼーっとしてきた)
血を流しすぎている。
まずはこの傷を治さなければならない。
せめて血止めだけでもしなければ、出血多量で死にかねない。
この状況でゾンビや危険人物、ましてや特殊部隊なんかに出会ったら終わりである。
茶子は意識を保つべく唇を強く噛み締め、草原を這い続けていった。
【D-4/草原/1日目・黎明】
【虎尾 茶子】
[状態]:左肩損傷
[道具]:木刀
[方針]
基本.ゾンビ化された人は戻したいが殺しはしたくない
1.今は逃げて傷を治す
2.神社に行って犬山はすみやその家族を保護する
3.自分にも異能が?
[備考]
※自分の異能にはまだ気づいていません。
投下終了です
投下します
中国の思想家である壮子(そうし)という人物の著書に「知魚楽」という小編がある。
橋の上に立って魚を見た壮子が「あれが魚の楽しみだ。」と呟いた。
それに対して同じく思想家である恵子(けいし)は、「君は魚でないのに、なぜ魚の楽しみがわかるのか。」と食って掛かったそうだ。
論理的に魚の楽しみ、という概念的な考えを表す方法はないだろう。だからこの場合恵子の言葉に反論するのは不可能だ。だが、「魚の楽しみ」を「音楽の素晴らしさ」に置き換えてみよう。この場合、個人差もあるが音楽は心地良いもの、だから理由がわかる、共感ができる。
ボクたち人間は、物事を理解したり認識する場合、論理を基礎としたり、直感に頼ったりするものだ。
だが、共感とは感情に起因するもので、ある意味後者に該当するものであれど、その本質はある意味違うものだ。
「何となく」。何らかの背景に類似点を見つけて、魅力を感じることで、「共感」という感情に至るのだ。
共感とは一種の正しさでもあって、一種の同調圧力でもある。ポール・ブルームという心理学の教授が「共感は悪い指針であり、いい人であるためには自制心と正義感とともに客観的な思いやりが必要」だとも言った。
え、どうして今更こんな事を語りだしたかって? 読者諸君は落ち着いて座席に座りたまえ。
他人の心情に共感するのは別に悪いことではない。だが、思いに踊らされるがままに共感するのは危険だ。共感という中身の見えない欺瞞の果てに待ち受ける結末は、大体碌でもないものと相場が決まっている。
「まず自分を疑え」。ボクの親友が口癖の様によく言っていた言葉だ。言ってしまえば「前提を考え直せ」という学者の心構えみたいなもので、そうすることで別の切り口を見つけられたり、新たなアイデアを思いついたり、と。まあ、覚えておいても損はない言葉だ。
さて、これから話すのは「どうしてボクは上月みかげの恋バナに共感したか」という理由の一つ。ボクがこの村にやってきた理由である、親友の話でもあり、ボクの過去の話だ。
また長ったらしい話をすると思うが、ここは素直に耳を傾けて聞いて欲しい。あくまでボクがそう思った理由を話しているのだから。
◆◆◆◆◆
名前でわかる通り、ボクは日本人ではない。
と言ってもボクが故郷に居たのは生まれてからほんの数ヶ月の間。その後は両親が日本に引っ越して日本での生活を始めたから、この通りボクも日本に染まったと言うべきか。
父親は高名な科学者で、よくボクを外へ連れ出しては色んなことを教えてもらったものだ。
成績が悪かった時は、「理解するまで引いたラインより先に進むな」なんて父親に言われたのも懐かしい。
厳しい部分、世間一般で毒親なんて言われても仕方がない部分があったにしても、娘には愛を以て接してくれた、そんな良い父親だった。
科学者にとってラインの超えるということは、解き明かすと言う事だ。宿題の内容だとか、勉強で言うならそういうものなら一定のラインというのは存在する。
だが、科学者が行き着く先にラインと言う名のゴールは存在しない。無明の地平線を走り求め、終わりのないマラソンを走り続ける。
学生だった頃は、兎に角勉強に熱中していたかな。優秀だからということで揚げ足を取られることもあったが、少なくとも悪くはない学生生活だったよ。
けれど、今思えば、同年代の友達はいなかった。見果てぬ境界線を求めて、当てのないゴールを目指し続けて。博士号を取った時も、適当の持て囃して称賛したり、嫉妬の目を向ける同業の姿。
ボクに友達はいなかった。いや、友達が欲しいという認識は。その時は、どうだったのかな。
17の頃、教授の薦めでボクは『未来人類発展研究所』のいち研究員になった。
人類の発展というお題目の元、人体の可能性を追求し続ける、科学者にとって一種の憧れの場所、到達点の一つ。
だからと言って究明が止まるわけではない。その先を求め続けなければならない。線なんて無い、文字通りの孤独な道だ。究め続けて、探し求めて。科学者に、研究者にゴールなど存在しない。
ボクも恐らくは、いや、"彼"と出会わなければいずれ、究明のためだけに考えるだけの葦になっていたのかもしれないね。
……"彼"が出会ったのは研究所に来て数日後の話だ。細菌関連の資料を運ぶように言われて2Fの資料室に訪れた際に、大量の書類を地面にぶちまけて慌てふためいている、見るからに好青年、というべき若き研究者だ。
『あっ、あの……す、すみません! ぶへっ!? ちっ、違うんですこれ、いやそのっ、体質、みたいなもの、で……すみませんでしたぁぁぁぁっ!!!』
あの時の彼の慌てっぷりは今でも鮮明に覚えている。余り女子に耐性がなかったのか、ボクの顔を見た途端に鼻血を垂らしててさ、今でも思い出し笑いをしてしまうよ。
未名崎 錬(みなさき れん)、ウイルス学を専門分野とする若い職員だ。昔から女性に対して免疫がなくて、その癖してモテやすい顔をしているから学生時代の頃はよく苦労していたらしい。
この出会いが切っ掛けかどうかは知らないが、1ヶ月後に上司の命令で彼がボクと同じ部署に異動してきたのだ。まあ助手が欲しいとは近々思っていたから、この時のボクは都合がいいぐらいとしか思わなかったかな。
けれど彼は、……錬は一緒に居て愉快なやつだったよ。如何せん鼻血癖は直して欲しいと思ったのだが、意外に飲み込みが早い。分野が違う、というのもあるが、彼の提案には度々助けられたものだ。
「まず自分を疑え」。口癖みたいにこの言葉をよく言ってたよ。自分を見つめ直し、見落しを探し当てる。
人間というのは物事を主観的に見がちなものだ。まずその前提を振り払い、別の視点から見つめ探し当てる。基本中の基本、だが基本だからこそ大切な心構えでもある。
女子に弱くて、すぐ鼻血を出して、その癖してしっかりしている部分はしっかりしていて。……放ってなんておけなかった。彼と一緒に仕事をしている内に、オフの日には何かと理由をつけて彼と一緒にお出かけしていたっけか。
嬉しかったのかもしれない。学生の頃は同年代の友達なんていなくて、肩身は狭くなかったけど、ほんの少し寂しかった。
普通に話し合って、普通に共に並んで歩いて、そんな当たり前の事がこんなに楽しくて、嬉しいと思ったのは、ボクは初めてだった。それに…………。
錬には、好きになった人がいたらしい。ボクの後にやって来た四宮晶(しのみや あきら)という女の人だ。ボクと一緒に仕事している後ろ姿を度々見かけた頃から狙っていたらしくてね。驚いたのは、錬の方も彼女のことが好きになっていたって話だ。
ああ、告白の場面にはボクも同席させてもらったよ。こういうのにはボクは疎かったが、出来る限りのサポートはさせてもらったつもりだ。そして、見事錬は晶と結ばれた。
晶も正式にボクの助手の一人になって、晶と錬の中はいっそう進展していったんだ。勿論、ボクの助手として十分こき使わせてもらったけれどね。
……ボクの方が、先に錬の事が好きだったのに、な。
先に告白してしまえば、だって? それが出来たらボクは苦労なんてしなかったさ。でも、仕方ないよ。ボクの方が先に好きだったとしても、例えそれが錬に分かっていたとしても。錬が選んだのは晶との道だ。
錬は晶という線の向こうに行ってしまったんだ。それは彼が望んだ結末だ。思うところはボクだってあるさ、でもね。
悔しいけれど、それでも錬と彼女の幸せを願い応援することが、ボクに出来る唯一無二の恋の心残りだ。
錬の幸せは錬のものだから、それを奪っても、横取りしても行けないんだよ。例え、先に好きになったのは、自分自身だったとしても。彼の幸せは、彼が選んだ道だから。
……え、ボクが泣いているって? そ、そんな事は……あはは。否定、出来ないのがもどかしいな。
また、線の前に取り残されてしまった。
◇
数ヶ月後、ボクは未来人類発展研究所を辞めた。いや、辞めさせられたと言うべきか。
脳科学部門における主任をやっていた◆◆暁彦(◆◆◆◆◆ あきひこ)。燃えるような瞳に、叔母の形見らしい黒瑪瑙のネックレスを肌見放さず持ち歩いているという妙な人物。ボクは彼と意見の相違から大いに揉めた。
『科学の発展に犠牲はつきものなのは君も理解できているだろうスヴィア研究員。いや、でも犠牲になってしまった者たちには私も嘆いているよ。私たちがもう少し頑張っていれば、彼らも命を落とさずに済んだのでは? と度々思い出すことがあるものさ。』
そう悲しげに喋る主任の姿は、ボクには別のものに見えた。
傍目からすれば過去の過ちを背負い邁進する高潔な人物に見えるだろう、だが。この男は違う。
違う何か、彼の言葉を聞けば聞くほど、深淵の貯水湖から這い出る黒い腕に掴まれ引き摺り込まれてしまうような、気持ち悪い感覚があった。
そも、あの時のボクは彼が人間であるかどうかすらも疑わしく思っていた。
主任は研究所でも所長や何かと噂が絶えない副所長からも絶大な信頼を得ている人物だ。そんな人間に感情論な物言いをしたのだから、この結末も避けられないものだったのだろう。
本当ならボクは錬と晶の二人を巻き込むつもりはなかった。だが、ボクの話を聞いて彼らも彼らなりに研究所の闇を探るつもりで奮起していたようだ。ボクは勿論止めようとしたさ、でも、二人の熱意に押し負けてしまったよ。今思えば、あそこで押し負けていなければ、なんて思ってしまう。
山折村に向かう3ヶ月前の話だ。新たに教師免許を得て転々としていたボクに届いたのが晶が病院に運ばれたという緊急のメール。何が起こったのかわからないが、直ぐ様病院に向かい彼女に事情を聞いた。
意識が曖昧なのか、錬の名前と、山折村の名前をボソボソと呟いていた。
山折村。そして錬の名前。彼と彼女に何が起こって、何を知ったのかわからない。
だが、あの時二人を止めることが出来なかった、ただ線の前から引き下がるしか自分は腹立たしくなって、その後は衝動じみた心意気で行動していたのだろうか。
――以上が、ボクが山折村に来た経緯だ。
大地震を発端としたVH騒ぎ。研究所が秘密裏に生み出したであろうウイルス。
真相の証明には未だ遠いが、この村には確実になにかがある。それは事実だったのだろう。
しかし、しかしだ。上月クンの話を聞いて、思わず錬の事が一瞬過ってしまうだなんて、未練なんて忘れてしまったはずなんだけどな。
ボクと違って、キミは想い人に結ばれる事が出来たんだから。1年前だったか、ボクもその光景が今のようにも思い出せ―――――――――――
◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯
「時に上月くん。キスの味とはどういうものか心当たりはないのかい?」
「……ふぇ?」
「スヴィア先生!?」
開口一番、この場に似合わぬ話題を切り出したのはスヴィア・リーデンベルクであった。
キスの味、と言う女子にとっては恋の味、ともいうべきディーブな内容。そして、間違いなく混乱したのは天原創の頭である。
「何、生まれてこの方、恋愛らしい人生経験は殆どなくてね。学生時代の頃は勉学ばかりだった。上月くんは山折くんと付き合っているのだろう? キスの一つや二つ、経験はあるんじゃないかな?」
さも当然のように、「素人質問で恐縮ですが?」感覚で再び訪ねてくる。
実際、スヴィア・リーゲンベルクという人間は学生時代の頃、恋愛という概念には全く関係のなかった人間。恋愛やら趣味やらに走る前に勉強やら実験やらを趣向とするタイプだった。
困惑する天原や、ポカーンと口を開く茜と珠。その風貌なら男の求婚やらバレンタインデーチョコ大量にもらってるやらのイメージがあったのだが、そのイメージが真正面から鉄球をぶつけられたかの如く粉砕された。
「ままま待って!? キス、キス……うん。『日が暮れるまでしたよ! み、みんなだって覚えてるはずだよね!?』」
上月みかげは顔を真っ赤にして答えた。というか堪えた。
壊れた彼女の心の中において、『山折圭介は自分の彼女』である。それを自覚なき異能でその思い出を周囲に押し付けているだけだ。
知ってか知らずか、それすらも己の思い出として『認識せざる』得なかったのか。顔を真っ赤にしながら切り出した言葉がこれだった。
ちなみに、置き換え先の日野光は山折圭介の告白当時にディープキスはしていなかったり。恐らく、彼女自身が圭介にキスする場面を妄想してキスの練習していた記憶が混濁していたのだろうが、それを他が知る由はない。
「……そういえば、そうだったな。前に読んだ本の通り、絶景の中で濃厚なキスを恋人同士はするとあったが、本当だったとは! 所で上月くん肝心のキスの味は」
「何処で見つけたんですか先生そんなベタベタな内容の本。」
何か納得げな表情のスヴィア先生に、思わず茜は冷めた視線で突っ込んだ。
何なら珠もジト目であり、天原に至っては「嘘だろ……」なんて驚愕の表情を浮かべている。
「……き、キスの味……。『あ、でもちょっと前にデートした時に転んじゃってその時に圭介くんにキャッチしてもらった時に、唇が重なってレモンの味が……』」
「ほうほう。レモン味なのか。大体は無味無臭だったり唾液の味という話は聞くが、そこはやはり個人差なのかな?」
「お、思ったより食いつきが激しいです先生!?」
いつの間にかタジタジになっていた。スヴィア・リーゲンベルクという人間がここまで恋バナに喰い付くだなんて、上月みかげも含め全員が予想外だっただろう。
(あれ、その思い出って……?)
ただ一人、日野珠はそれに覚えがあった。
姉が初めて圭介をデートに連れ出した際、階段で盛大にすっ転んで圭介が身体で受け止めた形で事なきを得たのだが、その時に唇と唇が盛大にキスをかましたのだ。
姉のデートプランにはみかげも手伝っており、自分と一緒に物陰からサポートしていたのはいい思い出。だからこそ覚えている内容ではあるのだが、その光景をまるで自分の実体験のように語っているのだ、流石に何かがおかしいとは思った。
先のこともあり、いい加減みかげに話しかけるべきか、それとも他のみんなに話をしてみるか、と頭の中で逡巡しながらも、目の前の恋バナはまだ続く。
「……そもそも、先生だって私が圭介くんと恋人だってこと知ってるんですから、いくら気になるからってそんなこと聞かれたら私だって恥ずかしいですよ!」
「いやすまない。つい熱が入ってしまったよ。あと、やはり告白の際はするよりもされる方が上月くんにとっては」
「あー! あー! それ以上は恥ずかしいから言わないでぇ〜!? みんな私が圭介くんに告白された事、一年前に知ってるはずなのにこれ以上掘り返さないで恥ずかし―――」
あからさまに恥らいを見せながら声を上げてしまうみかげ。だが、その言葉を聞いたスヴィアが何かを確信したかのように眉を顰め、天原に見えるように中指を一定の間隔で掌に当てる所作を見せながら。
「……一年前のボクはまだ山折村に来てなかったんだが、どうしてそのボクが一年前の山折村の学生の恋沙汰事情を『最初から知っている』んだい?」
スヴィア自身にとっての、単純な疑問を口にした。
「―――――――――――――――――――――――――――――――――何、言ってるんですか?」
空気が変わった、間違いなく。上月みかげの顔が、ぐるりと人形のようにスヴィアの顔を向いて。
ゆっくりとその口元に赤い半月を浮かび上がらせて。
「『何言ってるんですか私と圭介くんが付き合ってることなんてみんなが知っていることなんですよ、だって私が最初に圭介くんの事が好きだったんですから、私と結ばれないなんてあり得ないですよね。ねぇ!!』」
「み、みか姉……?」
「上月さん!? だ、大丈夫……?」
言葉を紡ぐ。壊れたテープレコーダのように。思いの丈をぶち撒けるように。
茜と珠が動揺している反面、スヴィアは毅然とした態度でみかげを見据え、天原はスヴィアのハンドサインを確認している。
「『先生も冗談キツイですよ圭介くんの告白は村でも結構話題になってたじゃないですかああそうだったんですね先生その時出張だったんですねだからそんかこと言ってたんですね。あはは私ったららしくないなぁはははははは!』」
「みか姉落ち着い―――」
「『『『私が誰よりも早く圭介くんの事が好きだったから、だから圭介くんは私の事が好きで当たり前なの!』』』」
そう、上月みかげが叫べば。全員に何かが迸るようなものが通り過ぎて。少しの静寂。
「……そう、だな。そうだったな。申し訳ない上月くん、どうやら忘れていたようだ。」
「――いえ、こっちもなんだか熱くなってごめんなさい。でも分かってくれるならそれで大丈夫です。」
結果だけ告げるならば、改めて思い出を刻まれたというべきだ。
此処にいる全員に、正しくは天原以外の全員に、改めて『上月みかげは一念前に山折圭介から告白されて晴れて恋人同士になった』という思い出を。謂わば、二重掛け。
「……そう、だっけ。いや、そう、だよね。うん。………?」
「……珠ちゃん?」
だが、再び刻まれたとて、それまでのやり取りがなくなっているわけではない。
一度浮かんだ疑念は、再び植え付けられたとしてもこびり着いたままなのだ。
そう、記憶を刻みつけて、共感性を植え付けるだけ、ただそれだけなのだから。
日野珠に一度宿った疑問は、そう簡単に消えない。
「………じゃあ、謝罪ついでにボクの方からちょっとした助言だ。」
何かを理解したかのように、真摯な目でスヴィアはみかげの顔を見つめる。
「実はね、ボクには好きだった人がいるんだ。……別の子に取られてしまったけれどね。ボクの方が、先に好きだったのに。」
「……スヴィア、先生。」
その告白に、本心から、みかげは何か心苦しいものが、無意識な同情心が湧いた。
何故か、悲しいものを感じた。
「でもね。それは彼自身が選んだ事だから。どれだけ苦い思い出でも、それを否定してはいけない事なんだ。そんな事をしたら、彼への恋心まで否定してしまいそうだから。」
「だったら、先生も告白したらよかったんじゃ。」
「それが出来たら、苦労なんてしなかったよ、ボクは。でも、どれだけ善くない現実でも、その目だけはそらしたくないと思ってる。上月くんも、いつか、それを分かって、後悔のない選択が出来るようになって欲しい。」
寂しくも、それでも確固たる決意のもとに浮かんだ言葉だったのだろう。彼女が彼をどれだけ好きだったのか、その初恋が破れた時の彼女の心情が、どのようなものだったのだろう、それでも。
「受け入れろとは言わない。気持ちをぶちまけても構わない。それでも、好きな人が本当に好きだと言えるのだったら、彼の心まで裏切らないようにしてくれ。」
そんなスヴィア・リーゲンベルクの言葉が、上月みかげにはどうしようもなく刺さったのだ。
「……善処、します。」
それ以上、上月みかげは何も言い返せなかった。
自分は山折圭介の恋人だ。でも、本当に圭介が好きと選んだのは自分だったのか。
植え付けられた、植え付いた記憶ですら拭えない真実、山折圭介が、日野光の事を見ていたことは、今の壊れた心でも、覚えている。
だけど、本当に、彼の幸せを願うなら。「私のほうが先に好きだった」けれど、それでも本当に彼のことが好きだと言えるのなら―――。
「……わたし、は。」
ひび割れた心が目覚めるには未だ遠く。
しかして、それでもその真実が怖くて目を背けたくて。
でも、本当に彼の、山折圭介の幸せを願うのならば。彼女の未来は、未だ見えない。
◆
(……最悪だ。)
天原創の懸念は、最悪の形で当たった。
スヴィア・リーゲンベルクの謎のハンドサイン。あれはモールス信号の動きを指の動きで再現したものである。咄嗟に思いついたからだろうが、自分でなければ通じない内容だ。
(……記憶操作、いや。記憶を刻みつける異能。)
記憶操作能力。それが上月みかげの異能。ただし、記憶の書き換えではなく、記憶の注入。ようするに思い出を貼り付ける能力である。
あの問答で、スヴィア・リーゲンベルクという人物は上月みかげの異能をある程度考察し、その内容をモールス信号として自分に伝えた。
(……放ってはおけない。だが、下手に事を動かせば……。)
もし仮に、下手に真実を明らかにすれば、偽りの真実を固着させんと異能を暴発させる可能性も無きにしもあらず。上月みかげの存在が、爆弾そのものだ。最悪今後に影響させかねない、それこそパンデミックよりもよっぽど厄介な。
(……だがスヴィア先生。それをある程度分かっていて。)
だが、スヴィア・リーゲンベルクがハンドサインとして天原に伝えた内容の最後は。
「出来る限りのことはする、後は彼女次第だ。」
(……先生、あなたは。)
上月みかげを、生徒を信じるのですか。と。
ただ、天原創は見守るしかなかった。
【D-6/道外れ/1日目・黎明】
【天原 創】
[状態]:健康
[道具]:???、デザートイーグル.41マグナム(8/8)
[方針]
基本.この状況、どうするべきか
1.ひとまず少女たちを安全なルートで先導する
2.みかげとその異能に関しては保留。というか下手に手を出せない
3.女王感染者を殺せばバイオハザードは終わる、だが……?
4.スヴィア先生、あなたは……
※スヴィアからのハンドサイン(モールス信号)から、上月みかげは記憶操作の類の異能を持っているという考察を得ました
【日野 珠】
[状態]:健康
[道具]:なし
[方針]
基本.創くんたちについて行く。
1.みかげの言動の齟齬について誰かに相談する?orみかげに直接聞く?
※『去年山折圭介が上月みかげに告白して二人は恋人になった』想い出を真実の出来事として刻みました。ただし、一度根付いた疑念は取り払われません
【上月 みかげ】
[状態]:健康、現実逃避による記憶の改竄
[道具]:???
[方針]
基本.圭介君圭介君圭介君圭介君圭介君
1.圭介君に逢うため高級住宅街の方に行く。
2.私と圭介君は恋人……けれ、ど。
※自分と山折圭介が恋人であるという妄想を現実として認識しています。
【朝顔 茜】
[状態]:健康
[道具]:???
[方針]
基本.自分にできることをしたい。
1.上月みかげと圭介を再開させる。
2.優夜、氷月さんは何処?
3.あの人(小田巻)のことは今は諦めるけど、また会ったら止めたい
※能力に自覚を持ちましたが、任意で発動できるかは曖昧です
※『去年山折圭介が上月みかげに告白して二人は恋人になった』想い出を真実の出来事として刻みました。
【スヴィア・リーデンベルグ】
[状態]:健康
[道具]:???
[方針]
基本.もしこれがあの研究所絡みだったら、元々所属してた責任もあって何とか止めたい。
1.先生は、生徒を信じて、導いて、寄り添う者だ。だからボクは……
2.上月くんの異能に関しては保留、下手に刺激しても悪化させるだけだ。だからせめて、彼女が間違わないように言葉を掛けて、信じるしか無い。
※『去年山折圭介が上月みかげに告白して二人は恋人になった』想い出を真実の出来事として刻みました。ですが、それが上月みかげの異能による植え付けられた記憶であるということを自覚しました。
投下終了します
>>723 と>>724 の間に入るはずの文章が抜けていました
収録時には>>723 と>>724 の間にこれを挟んでもらえると助かります
◇
(……せめて、伝えることは伝えた。)
スヴィア・リーゲンベルクは、やれることをやった。「自分を疑え」、今は行方知れずの錬の言葉。
ふと思い出した過去に、上月みかげの言った「一年前に山折圭介に告白されて恋人同士になった」という事実。そも、自分はその頃はまだ研究員だった。
まず、知り得るはずがないのだ、山折村にいなければ知り得ない事を、その時点で知っている、という事がおかしいのだから。だから気づいた。
だが今、彼女の異能からなる記憶の矛盾を指摘するのは危険だ。
自分の記憶の疑い、口に出しただけであの有様だ。異能そのものが戦闘に直結するものではないとは言え、その脅威はVHなんかよりも、場合によっては上回る。
(私は先生だ。生徒を無理に従わせるだなんて、らしくないよ。)
今のスヴィアは、先生だ。生徒を教え導き、間違った道に寄らないようにする。
だが、上月みかげの今の精神状態は、矛盾に耐えきれない。何かのはずみで、暴走してしまいかねない。
だから、アドバイスだけした。彼女の心が何を抱えて、何を思っているのかなんて、わからない。
ここにいるみんなは自分を除いて学生だ。天原創に関しては何かしら隠しているし、それ以上追求するつもりもない。
(私は信じて、導いて、寄り添うぐらいだ。)
真実を突き止めたいというのは本心だ。だが、それと同じように、教師として、先生としてこの子たちを守らないと、という思いもある。
(上月くん、辛い現実が待っていたとしても、本当に山折クンの幸せを願うのなら。……彼の為に、彼が間違った道を選んだのなら、正しい場所に引きずりあげれるように、なってほしい。)
だから、言葉を掛けて、それで何かが良くなる可能性を、願うだけ。それぐらいしか、出来なかった。
未来なんてわからないから、それでも。もし最悪の未来が待っているのなら、その時は――。
投下乙です
>心という名の不可解
スヴィア先生もBSS経験者だった! 経験者からの含蓄のあるアドバイスでみかげの心にも何か響いたか?
科学者らしい観点から洗脳状態でも自分を疑えるのは流石、友人との過去がしっかり生きていてよかった
色々無法だったみかげの異能にもいろいろ綻びが見えてきたね、いや終始何と戦ってるんだと言う話ではあるんだけど
投下します
ずっと真夜中でいいのに。心のどこかで思っていた。
お医者さんの言葉を聞いてから、今まで普通だと思っていた景色がセピア色の色褪た。
周りの誰かの声はただの雑音にしか聞こえなくなった。
「この世は舞台、ひとはみな役者。」ってシェイクスピアが言ってた。
そうだとしたら、私はただこんな人生で終わる役だったの?
私は、誰かという役者の引き立て役だったの?
そんなの認めたくない。そんな刺身のツマのような役割のままだなんてまっぴら御免。
私はそんな路傍の綺麗な石ころなんかじゃない。
雪菜だってそう、最初はただの綺麗だけどくすんだ石ころ。
最初は席が隣だとか、出席番号が近いだとか、そんなありふれた繋がり。
でも、どうしてか私はあの子が放っておけなかった。一人にしてはいけなかった。
神様に嫌われてる、なんて自嘲してたあの子。
雪のように儚くて、それでも人以上に優しかったあの子。
だから、私があげないといけなかった。
取り立てられた幸せを、その分私が与えないと、だなんて。
溶けない氷の中で苦しんでいるあの子を、ほんの少しでも溶かしてあげれれば、なんて。
そんなあの子を、私が追い詰めた、苦しめてしまった。
役者は感情が大事だ。演技で表情で、感情で表現して、観客を盛り上がらせる。
なのに、私は言葉だけで分かった気になって、雪菜がどんな顔してるかなんて、気にすらして無くて。
あの子が、本当に遠い距離に言ってしまったように思えて。
「あなたも、私を人生の引き立て役でしか思ってなかったの?」なんて的はずれな怒りだけ湧いて出て。
八つ当たり。最低の八つ当たり。
他人の幸せに、普通の人生を送れる周りに妬んで、恨んで。
雪菜があたしと出会うまで人並みの幸せなんて縁のない、最低な人生歩んでいたの知ってたのに。
謝りたかった。でも怖かった。
あの子は臆病だから、もう二度と口も聞いてくれないかも。
怖かった、あの子が本当に遠くへ行ってしまったことが。
いつも触っていた携帯電話の返信を見るのが怖くて、もうずっと電源をつけていない。
ずっと真夜中のままで、それで良いと思った。
それが、私への罰なのだと。
最後の記憶、雪菜の姿、雪菜の声。
聞こえてたよ、そうだよね。
雪菜ってば、そういう所は突発で、行動力あるんだから。
演劇の時も、あたしがしくじった時にアドリブやってくれてすごく助かった。
後悔したくなかっただなんて、後悔したのはお互い様だよ。
だから、喧嘩両成敗。雪菜も謝ったんだから、私も謝れば良い。
それで、元に戻れるだなんて、こんな大地震が起こった後でも、呑気に考えてた。
血腥い臭いと、鉄のように鈍い味。
意識が朦朧で、何も考えられない。
まるで、白昼夢みたいに、とまってくれない。
◆◆が叫んでいる、私の名前を呼んでる。
お腹が減った、何か食べないと。
おいしいおにくがある、たべないと。
……違う、それはおにくなんかじゃない。
あたしのたい切な親友。なか直りしたかったあのこ。
あたしの顔を、溶かしている―――
雪菜があたしを殺した。違う、あたしが殺させた。
見たくないものを、見せられ続けるのが、あたしの罪の、その罰だというのなら。
ねぇ神様、謝らせてよ。
それが無理ならせめて、雪菜を赦してよ。
こんな終わり方、あんまりじゃない。
こんな残酷な舞台、あんまりじゃない。
私は雪菜の引き立て役だった。最悪の形で彼女を傷つけ追い詰めて、有能な役者の一人として『壊す』為の。
ねぇ神様、あたしがいけなかっの?
神様から奪われたものをあの子に与え直したのがいけなかったの?
そんな物語、くそくらえと言いたかった。
あたしは、あの子があんな苦しみながら、傷ついて奈落を進むしか無い姿なんて、見たくなかった。
あたしの、ばか。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「恐怖はたしかにそこにあります。……それは様々なかたちをとって現れ、ときとして私たちの存在を圧倒します。
しかしなによりも怖いのは、その恐怖に背中を向け、目を閉じてしまうことです。
そうすることによって、私たちは自分の中にあるいちばん重要なものを、何かに譲り渡してしまうことになります。
私の場合には――それは波でした」
―――村上春樹「レキシントンの幽霊」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
月は無慈悲な夜の女王、とも誰かが言った。
曰く、満月はあの世とこの世を繋ぐ神様の覗き穴だとも。
山折村に訪れた霊能力者が言うには、「霊の声が聞こえやすい」だとか。
勿論、それを聞くことが出来るのは、本当に素質のあるものに限られる、のだが。
「止めなきゃ」
月は無慈悲な夜の女王である。
屍生人蔓延り地獄となった山折の村を天覧している。
月だけが、燦然と輝いて、照らしているだけ。
月が、自転車を我武者羅にこぐ少女を見下ろしている。
「止めなきゃ」
必死に、何かを探し求めるように、自転車をこぐ少女がいる。
譫言のように、言葉を反復させる少女がいる。
その目に輝きはない。だが、斑点のようにか細い光だけがある。
舗装された道路も、獣道も、その違いすら、気にしないで。
「止めなきゃ」
だが、地震の際における自転車による走行には危険が及ぶ。
所々に散らばったガラス破片。小さいものならまだしも、それなりの大きさのものを踏めばタイヤのパンクは確実だ。
2階建ての建造物から割れ落ちたガラス、それがまばらに、撒菱のように散りばめられている。
それを正確に避けながら走らせる余裕を少女は、――今の哀野雪菜は持ち合わせてなんていない。
「あっ」
夢から醒めたような、そんなあっけからんな声を上げて。
運悪く、一回り大きなガラス破片に乗り上げて、タイヤが裂けて。
その身体が、自転車と共に飛び上がって。ガラス破片の海に落ちていく。
ブチ、ブチ。肉が裂ける音、血が滲んで、溢れ出る。
透明に、赤い穢れがこびり付く。
「……う゛……あ゛……。」
どくどく、どくどくと。血が溢れ出る。
それでも、立ち上がる。痛みを無視して、突き動かされるように。
何処に? 宛も分からない女王感染者。殺せば全て終わる元凶は未だ行方知れず。
既に、理由なんてなくなってしまっているというのに。
「止め、なきゃ。」
だが、理由がなくなったというだけで。
謝るべき友達は、もうこの世にいないというだけで。
噛み引き千切られた秒針は、もう二度と止まること無く、朽ち果てるまで動き続ける。
足を止める理由なんて、とっくに壊れている。
逃げることより、進むことを選んだのならば、それが永遠の刹那に刻みつけられた呪い。
「後悔したくない」という、どうしようもない罪悪感。
「止め、なきゃ。」
ぐじゅぐじゅ、傷が焼ける音。顔を苦痛に歪ませ、それでも歩く。
足取りは遅く覚束なく、もしも誰かに狙われたのならば、追いつかれてしまうだろう。
ぐじゅ、ぐじゅ。焼け落ちた液体が地面に零れて、濁らせ溶かす。
「………止めなきゃ。」
血を流しながら、傷口を溶かして塞ぎながら、歩き続ける、何処までも。
悲しみが流れ落ちて、地面を溶かす、ガラスを溶かす。
湖畔近くに放置されていたので借りパクして使わせてもらった自転車はもう使えない。
だから、歩き続ける。それは、悲しき聖者の行進か、血出の花道か。
出口の見えない結末を、闇雲に探し続けて。少女は刹那の狭間に囚われ続ける。
既に壊れた、秒針が砕けた腕時計が、寂しそうに横たわる姿を見向きもしないまま。
点滅する街灯に一瞬現れた、明るい光の玉に目もくれないまま。
◆◇◆◇
これは、大したことのない与太話。
霊魂と呼ばれるものが、電磁気的エネルギーを持った意識体の可能性がある、なんて確証のない話。
この村は、霊の声が聞こえやすい。そんな噂。
なんにも関係ない。どうでもいい与太話。
※タイヤがパンクして使い物にならなくなった自転車が商店街に残されています
【D-3とD-4の間/商店街/1日目・黎明】
【哀野 雪菜】
[状態]:後悔と決意、右腕に噛み跡(異能で強引に止血)、全身にガラス片による傷(異能で強引に止血)
[道具]:
[方針]
基本.女王感染者を殺害する。
1.止めなきゃ。絶対に。
[備考]
※通常は異能によって自身が悪影響を受けることはありませんが、異能の出力をセーブしながら意識的に“熱傷”を傷口に与えることで強引に止血をしています。
無論荒療治であるため、繰り返すことで今後身体に悪影響を与える危険性があります。
だれかあの子を助けてほしい。
誰かあの子を救って欲しい。
謝りたくても、手を伸ばしたくても、何もかも届かない。届いてくれない。
私は地獄に堕ちてもいい。だから、誰でもいいから。
あの子を、雪菜を、助けて。
せめて、私の心を、伝えて。あの子の、後悔を―――。
投下終了します
投下乙です
>秒針を噛む
親友を想う本物の幽霊なのか、それとも誰かが見た都合のいい幻影なのか
互いを想いあうが故に止まれない雪菜と止めてほしい叶和、生死を分かったすれ違いが悲しい
何気に地獄の高級住宅街の方向に近づいているけど、誰かに出会った時どちらの少女の願いが叶えられるのか
投下します。
「なんだよ……これ……」
やや釣り目がちの青年、山折圭介の視線の先には綺麗な人型に破壊されたコンクリート壁。その先にも同じく人型に破壊された家壁。
それが連続して続き、トンネルのような道を作り出している。
恐らくこれを作り出した存在は自分と同じ正常感染者。それも壁を破壊できるほどの力を持った強力な。
であるならば、答えは一つ。光を取り戻すためにも早々に始末しなければならない。
得物は腰に差した木刀。そして特殊部隊員、広川成太との戦闘の最中に手にしたグレネードランチャー『ダネルMGL』。
そのグリップを握り締める。そして傍らにいる恋人、日野光の手を握り、優しく語りかける。
「大丈夫だ、光。お前を絶対に助けるからな……」
恋人の返答はない。彼女はVHにてウイルスに適合できず、ゾンビ化してしまった被害者であったため、それは当然のことである。
圭介は無意識のうちに異能を使用した。使用してしまった。すると、光は圭介を肯定するように、こくんと頷いた。
異能の使用に気づき、圭介は虚無感を感じる。しばしの沈黙の後、光の手を取り、駈け出した。
命乞いをする相手を無慈悲に殺害した凶行から逃れるように。そして、これからも罪を重ね続ける黒い決意を抱いて。
【B-3/気喪杉邸前/一日目・黎明】
【山折 圭介】
[状態]:健康
[道具]:木刀、懐中電灯、ダネルMGL(5/6)+予備弾6発、サバイバルナイフ
[方針]
基本.VHを解決して光を取り戻す
1.女王を探す(方法は分からない)
2.正気を保った人間を殺す
3.穴の先にいると思われる正常感染者を殺す。
※異能によって操った光ゾンビを引き連れています
◆
「ギィ……あが……げァ……ガハッ……!」
敷布団の上で黒髪の青年、八柳哉太は身体から人体から発してはならない音のはーもにーを奏でながら悶え苦しんでいた。
時折口から吐き出される赤黒い血反吐には肉片が混ざり、シーツの上に悍ましい水たまりを作り出す。
その様子をすぐ傍で座り込んで見つめる金髪の美しい少女、天宝寺アニカ。
腫れあがった右頬には消毒液を浸み込ませたガーゼで処置が施してあり、頭部の怪我の処置も鼻血も止血されている。
表面上の傷の処置は済んでいても、刻み込まれた心の傷はどうしようもない。
「カナタ……ごめんなさい……」
彼の異能である『肉体再生』。命だけは助けてくれるものの、その苦痛は肩代わりなどしてくれない。
故に、アニカは下手に手を出すことはできず、パートナーと呼んでくれた青年が苦しむ様子を見ていることしかできない。
頬にはいくつもの涙の跡ができてあり、現在進行形で増えつつある。
憔悴し、呆然とするアニカを見て、悲しそうに顔を歪める巫女服の美女、犬山はすみ。その傍らにはこの家の救急箱が置いてある。
「あの、はすみさん。大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ〜恵子ちゃん。アニカちゃんのことが気になって〜……。手当、遅くなってごめんなさいね……」
「……いえ、大丈夫です。こんなことは慣れてますので」
そう言ってはすみに痛々しい笑顔を見せる小柄な黒髪の少女、字蔵恵子。自身が務める役場の同僚、字蔵誠司の実娘。
男尊女卑の旧世代の男。彼が実の娘にしでかしていたことが想像できてしまう。『慣れている』とはそういうことだろう。
大人である自分ができることがあったんじゃないか。そう思うとやるせない気持ちになってくる。
今もそうだ。治療と言いながらもできることは彼女の折れた右腕に救急箱から取り出した包帯を巻いて固定することだけ。
苦しんでいる友人の弟分である哉太に何もしてあげられず、彼と深い仲と思われるアニカの心を癒すこともできない。
むしろ怪我人である恵子に『私よりも先に天宝寺さんの治療をお願いします』と気遣いをされている始末だ。
はすみ達のいる場所は高級住宅街の端の方にある一軒家の二階。
一階には夫婦と思われる中年の男女のゾンビ二体が闊歩していた。
それらへの対処法を持たない彼女らは重症である哉太を二階の寝室へ運び、布団を敷いてそこに寝かせた。
救急箱は一階に一人降りたアニカが自身の能力であるテレキネシスを使い、持ってきてくれたものだ。
包帯を巻いている途中、恵子が口を開く。
「……はすみさん。ひなたさん達が戦ってくれている人間?っぽい太った男の人って、誰なんですか?」
「……あの人は気喪杉禿夫。この村で一番の危険人物。高級住宅街に来たのは、彼に対してクレームが入ったと注意するためなんです。
総務課長や振課課長からは明日でいいって言われたけれど私自身、彼に我慢できなかったから今日済ませる予定で来ました。
でも……まさか小さい子にまで手を上げる人物だったなんて……」
ちらりとアニカに視線を向ける。妹と一緒に見る動物と触れ合うテレビ番組でしか見たことのない少女。
可愛らしく無邪気に笑う彼女しか知らないはすみにとって、痛々しく泣いている姿は見ていて辛いものがある。
「はい、巻き終わったわよ、恵子ちゃん。……こんなことしかできなくてごめんね……」
「ありがとうございます。……謝らないでください、はすみさん。私は大丈夫ですから……」
そう言って再び痛々しい笑顔を向ける恵子。こんないい子に辛い思いをさせている自分が情けなく感じる。
せめて、この子の腕だけでも治療できないか。自分にもそんな異能があるんじゃないか。
そう思い、恵子の腕に巻いたばかりの包帯に優しく触れて、目を瞑る。
すると、自分の中の奥深くに何が、暖かいものがある感じがした。
『それ』はまるで自分に第三の腕が生えたようなもののように感じる。
はすみは自分の中に眠る『それ』を掬い上げ、掌まで押し上げる。
すると、掌に淡い光が灯る。その光を包帯へと移動し、浸透させる。
「はすみさん……これって……」
「……多分、私の異能だと、思う。もうちょっと使ってみるからじっとしていて」
言いながらも、異能の使用を続ける。自分の中から何かが吸い取られるように感じるが、無視する。
しばらくして掌の淡い光が消える。どうやら異能の行使が終わったらしい。
「……終わったわよ、恵子ちゃん。調子はどうかしら?」
「……なんだかじんわりとポカポカしてきて癒される感じがして、右腕だけじゃなく、足の痛みも少しずつ楽になった気が……」
言葉を途中で区切り、驚いた表情でズボンをふくらはぎまで捲る。すると、煙草で根性焼きされた跡がうっすらと消えかかっていた。
「はすみさん、これって」
「もしかすると、私の異能は掌で触れたものに何か、特別な力を与えるものなのかも……うッ……」
「はすみさん!」
唐突に眩暈がし、床に手が付く。身体を左腕で支えようとする恵子に大丈夫だと答える。
「……大丈夫じゃないと思います。きっとそれははすみさんの力の代償じゃ……」
「本当に大丈夫よ〜恵子ちゃん。先週茶子と飲みに行って二日酔いになった時もこんな感じだったから〜」
「そ、それならいいんですが……」
例えを出すと納得してくれた。自分を見る恵子の目が残念なものを見る目に変わったのは気になるが。
「……ひなたさん達、大丈夫でしょうか」
「……きっと大丈夫よ〜。勝子さんも、ひなたさんもガッツがあるから、負けませんよ〜」
二人の視線は―――気喪杉禿夫(デストロイヤー・フリークス)の戦場。
◆
はすみ達の滞在する二階建ての一軒家から大分離れた高級住宅街。
電柱が折れ、半ば千切れかかった電線が地面へ垂れ下がる。アスファルトには亀裂が入り、何かによって潰された軽自動車が燃え盛る。
異様な光景をバックに本当に人かと疑いたくなるような醜悪な風貌の男、気喪杉禿夫は下心丸出しの下劣な笑みを浮かべる。
相対するは金髪の茶色い学生服を纏ったお嬢様、金田一勝子と夏登山用の服の長身ポニーテールの少女、烏宿ひなた。
「んっふっふ〜、モノホンの爆乳お嬢様にぃ〜ちょっと百合が入ってそうな恵体のポニーテールJK♡二人のさくらんぼで俺のハイパー兵器を挟んで欲しいんだな♡」
全身を舐めまわすようなオーク擬きの視線に二人の少女は揃って激しい嫌悪感を示す。
汚物。ハーレムなどと宣い、女性をトロフィーとしか見ていないような最底辺の男にくれてやるものなどない。
勝子自身もその美貌故に多くの男性からそう言った視線をぶつけられたことも多々あるが、ここまでの嫌悪感を抱いたことはない。
「そんなの……お〇ックですわ!!この……ド変態マザーお〇ック野郎!!」
その言葉と共に小石を気喪杉の頭上へと投げ、異能を発動させる。すると小石が街路樹へと変貌し、怪物を押しつぶさんとする。
怪物は豚のような雄叫びと共に掲げた金属バットを振り下ろし、樹木へと叩きつける。
ミシミシ、バキリと樹木は怪物の膂力によって小枝のように叩き折られる。
怪物に接近戦を許せば即敗北。勝子もひなたもそれを理解してるため、攻撃手段が限られる。
「おいたをする小鳥ちゃんには〜分からせが必要なんだな♡」
勝子をターゲットに定めた気喪杉は背中に汚らしい短パンの隙間に金属バットを差し込むと、抱擁するかのように両手を広げて悪臭を放つ体で迫ってくる。
凄まじい速度だが、軌道がまるわかりなため、回避するのは容易い。
怪物の脇をすり抜けるように走る。抱擁を求めた気喪杉の両腕は空を切る。
それと同時に足元に落ちていた千切れかかった電柱のワイヤーを手に取り、気喪杉の腹肉の間に挟む。
「ぶひッ」
「……ひなたさんッ!!」
「はいッ!」
それと同時に異能を使用し、勝子はひなたと自身の位置を入れ替える。
ワイヤーを掴んだひなたは気喪杉が反応する前に異能を発動させる。
電線を伝い、自身の最大出力――およそ3000Wの電流が気喪杉の身体へと流れる。
駄目押しとばかりに勝子は再び小石を怪物の頭上に投げ、異能を発動。頭上には気喪杉の着地によって破壊され、炎々と燃え盛る軽自動車が落下する。
必殺の布陣。勝子とひなたの考えうる限りの最善手。並の人間であるならば、生き残れるはずもなし。
しかし、相手は異能により爆発的に強化された怪人。
「ブモオオオオオオオオオ!!!」
怪物は牛とも豚とも言えぬ雄叫びを上げて電線を掴んで引き千切り、頭上の車へは脂肪で分厚くなった両手でフロント部分を支えて持ち上げ、そのまま勝子の背後にある民家へと投げつける
激突した車は爆発し、勝子の金髪を風で揺らす。
「ビリビリさせると女の子のお×××は濡れ濡れになるんだな♡君より小さい子で試したことがあるから分かるんだな♡」
「お〇ック……!」
ひなたの最大出力の電撃も気喪杉には効果が薄い。長い間培った怪物の脂肪の鎧を貫くには些か火力が足りず、皮膚をほんの少し焦げさせるだけになった。
自身の物体転送による押しつぶしも怪物の膂力の前には残骸という結果に終わる。
決定打がなく、攻め手にかける。その上時間が経つほど転送する物体もなくなり、臨時バディとなったひなたの体力も減っていく。
短期決戦も長期戦も不可。今のところ、防戦はできているがそれもいつまでもつのか。既に八方塞がりの状況だった。
次の手を打とうと、マーキングした小石を取り出そうとポケットに手を入れた瞬間―――
「勝子さん!」
「――――え?」
ほんの僅かな時間、気喪杉から注意を逸らしてしまう。ひなたの声で怪物への警戒した時にはもう遅い。
勝子の眼前には悪臭をまき散らし、脂ぎった笑顔で手を振るう怪物の姿。
「ファミリー♡分からせビ〜ンタ♡」
「―――くっ……!」
目を瞑り、無駄だと知りつつも腕で張り手の衝撃を防ごうとする、
しかし、気喪杉のビンタが勝子を張り飛ばすことはなかった。
無人で走る原付―――スーパーカブ90CCが最大速度で気喪杉の身体に激突してビンタの軌道をずらす。
「ブモぉッ……この、クソボケがあああああああ!!!」
顔から湯気を出し、原付のハンドル部分を両手で握り、はるか遠方へと投げ飛ばす。
そして怒りの表情のまま、スーパーカブが走ってきた方向を向く。
「誰がやりやが……おお♡君は……♡」
気喪杉から怒りの表情が消え、代わりに勝子達に向けた以上の下品で邪悪な笑顔を浮かべる。
勝子達も突然の乱入者に驚き、その方向を向く。
「君は……!」「貴女は……」
異能による物体操作で原付のエンジンを動かし、気喪杉へとぶつけた正常感染者。
月明かりに照らされた長いストレートの金髪。探偵のような服装に西洋人形のように愛らしい顔。
腫れた右頬をガーゼで処置されてもその美しさに変わりはない。
怒りに満ちた表情で気喪杉へと敵意を露わにする少女の名前は美少女探偵――――
「アニカママぁ〜〜〜〜〜♡♡♡♡」
――――天宝寺アニカ。
◆
窓から顔を出す月をバックに恵子はテレビでしか見たことがないアイドル的存在――天宝寺アニカの隣に並んで座る。
寝室にははすみと未だ恐怖を感じている男性、八柳哉太がいる。
彼の身体からの発されていた異音が既に小さくなり、現在は新たに敷き直した布団の上で安らかな寝息を立てている。
今は容態を見るため、はすみが哉太の傍らにいる。
はすみはアニカに「哉太くんはもう大丈夫だから、少し夜風にあたって見たら?」と気遣い、アニカもそれに応え、寝室の外へと出た。
そして、恵子にも優しげな声で「恵子ちゃん、アニカちゃんのこと、見ててくれる?」と頼み、恵子もそれに応えた。
「……天宝寺さん…あの、大丈夫ですか……?」
「……Yes。ありがとう、ケイコ……」
掃き出し窓から流れる夜風が、二人の身体を優しく撫でる。
アニカの言葉には張りがない。恵子自身もひなたに慰められていたばかりであったため、自分よりも小さい子を慰めるためにはどんな言葉をかければいいのか分からない。
「ケイコ……Elementary schoolでは、どんな風に過ごしているの?」
「え……あの、えれめんたりースクールって、一体……?」
「……Sorry。小学校のことよ……。友達のこととか、好きな給食のこととか、休み時間に何をしているかとか聞きたいの……」
「あの、私は……不登校ですけれど…高校生……です。べ…別に呼び捨てが嫌なわけじゃなくて……ええと……。
む、むしろケイコっていう呼び方の方か天宝寺さんと友達になれたって感じがしてそっちで読んでもらった方が……!」
「……I'm Sorry、ケイコ……」
言葉と共に再び膝の中に顔をうずめるアニカ。
ひなたに救われるまで対等なコミュニケーションなど数えるほどしかなかった恵子にとって、はすみやひなたのように子供を慰めることは困難だった。
再び静寂が場を支配する。
「……あのね、ケイコ。私の話、聞いてくれる?」
「……はい」
そうしてぽつぽつとアニカは自分のことを語りだす。
初めて哉太と出会ったのは約半年前。木刀による殺人事件の容疑者として接したことが始まりだった。
そこで自分が最も疑われた彼の無罪を証明したこと。もう二度と会わないものだと思っていたが、二ヶ月前の事件で彼と再会した。
とある孤島での出来事。脳科学の研究を行っている科学研究機関とスポンサーとなった企業のショッピングモールの複合施設。
そこで犯人の分からない大規模なテロ事件が発生し、哉太とアニカは成り行きでコンビを組み、一週間共に過ごし、事件を解決させたこと。
その時知った互いのパーソナリティやある程度の人間関係。人死にが出ていたのに不謹慎な話だが、楽しかったこと。
天宝寺さんは八柳さんのことを大切に思っている。
それはまるで自分がひなたに抱いている感情と似ていると感じ、得体のしれない人物だと思っていたアニカに対してシンパシーを恵子は感じていた。
アニカの話が終わり、再び沈黙が続く。
自分も何か話すべきか迷っていると、再びアニカの口が開く。
「ケイコ……少しトイレに行きたいから、先にBedroomに戻ってMs.ハスミとカナタの様子、みていてもらえる?」
「……はい。天宝寺さん、あまり気を落とさないで……」
「Thanks……」
アニカの言葉の後、恵子は寝室へと足を運ぶ。
引き戸を開けると、疲れた様子の犬山はすみと恵子が未だ恐れ、近づけないでいる男という存在――眠る八柳哉太。
「恵子ちゃん、おかえり。アニカちゃんは?」
「天宝寺さんはトイレに行くから先に戻ってって言って……」
「そっか……。ん?待って、確かトイレは一階にしかなかった記憶が……」
「―――え?」
はすみの言葉に頭が一瞬、真っ白になる。下にはまだ二体のゾンビがいるはずだ。
脳裏に浮かぶのは最悪の光景。自分より幼い女の子が抵抗できず、肉を貪られるビジョン。
「―――すみません、私、天宝寺さんの様子見てきます!」
制止しようとするはすみの声を聴かず、寝室から飛び出す。
階段の一歩手前。降りる前にふとベランダを見やり、恵子の足が止まる。
掃き出し戸の開いたベランダ。その手すりに固結びされたロープが見えた。まさか―――。
「天宝寺さん!」
ベランダへと飛び出すと同時にロープが解け、落下する。
急いで下を見下ろすと、庭先にはロープをショルダーバッグにしまい、駈け出すアニカ。
恵子が声をかけたところで止められる訳もない。美少女探偵は怪物が暴れまわる戦場へと駈け出していた。
◆
「アニカママ〜♡♡ようやくあの腐れイケメンを捨てて俺のママになってくれるんだな〜♡♡」
気持ち悪い猫撫で声で自分の三分の一も生きていない少女への身勝手な恋慕を振りかざすオーク擬き。
肉を揺らす汚らしい歩き方で近づき、ねっとりとした声色でアニカに囁く。
「お・に・い・ちゃ・んって呼んで欲しいんだな♡」
性欲丸出しの気喪杉に対するアニカの返答はこれだ。
「身体洗ってから出直してきなさい!Disgusting man!!!出直しても絶っっっ対に呼んでやらないけどね!!!」
「な……な……な……!!」
数時間前に最推しになった少女からの罵倒。その言葉に大人の対応をできる程、子供部屋おじさんの精神は育っていない。
「こ……このメスガキーーーーーーー!!!」
耳と鼻、口から蒸気を吹き出すモンスターチャイルド。あまりにも大人げなさすぎる姿へのアニカの目線は冷ややかだ。
飛びかかろうと両手を広げ、飛びかかるもアニカは横に身体ごと飛び込んで回避。
愛とオシオキの抱擁を回避された気喪杉は血走った目でアニカの方へと向き直るも、目の前には異能によって宙へ浮く催涙スプレー。
気喪杉が反応する前にスプレーが発射される。両手で目を覆い、悶え苦しむ。
「ぶいいいいいいい!!いだい……いだいんだなあ!」
「そっちのええと……金髪の人と背の高い人!!」
「金田一勝子ですわ!」「烏宿ひなただよ!」
「私は天宝寺アニカ!Ms.ショウコとMs.ヒナタ!お願い!!」
こんな小さい女の子が頑張ろうとしているのだ。ここで踏ん張れなくては年上としての面子が保てない。
勝子とひなたは気喪杉が悶えている隙に次の攻撃の準備をする。
「……おや?これは……?」
物体のマーキングをしている最中に、勝子の足元にはあるものが転がっている。
気喪杉への有効打にはなりえるものではなさそうだが、この物体の名前を勝子は知っていた。
「あれ?」
遠方―――恵子達の避難先で雷鳴が聞こえる。これは確か、恵子の異能によるものだと記憶してる。
不安が胸を過るが、すぐに気持ちを切り替え、怪物への対策を練り始める。
◆
アニカが視界から消え、どれくらいの時間が経ったであろう。
行動しようにも、長い間父親によって植え付けられていた諦観がそれを許さない。
ふと、背後からみしみしと床を踏みしめる音が聞こえる。はすみではない。気配からそれを察する。
足音が止まる。冷汗が流れ、恵子の矮躯が固まる。
恐る恐る振り返るとそこにはひなたの頭半分ほど高い巨躯があった。
「―――アニカは、行っちまったのか?」
はすみの高い声ではない。恵子が恐れる存在―――男の声。
「ヒィ……!!」
「お、おい!大丈夫か!?」
怯える自分を気遣う男。天宝寺さんの大切な人、八柳哉太。
傷つけてはいけないと理性では分かっていても恐怖に支配された本能が許してくれない。
「あ……ぁ……」
「ちょっと、はすみさん、来てください!この子なんか……!」
「いやぁあああああああああ!!!」
やっちゃいけないと分かっていても本能で脅威を退けるべく、異能が勝手に発動する。
哉太はそれを察すると、バックステップでベランダから距離を取る。
雷鳴が轟き、空間を揺らす。その様子に何かできる訳もなく、哉太は呆然と眺める他なかった。。
「哉太くん、ちょっとどいて!」
「は……はい……!」
声と共に蹲る恵子の背中を優しくさする女性の手。何か背後で二人が話しているようだが内容が分からない。
背中をさすられ続け、恵子はようやく落ち着きを取り戻す。
きょろきょろと辺り見渡す。そこにはゴム手袋を嵌めたはすみと気まずそうにベランダから出て背を向ける哉太。
「恵子ちゃん。何があったのか、話してもらえる?」
こちらを心配するはすみの優しい声。その声に安堵と罪悪感が募り、恵子の双眸から大粒の涙が溢れだす。
そしてぽつぽつと先程あった出来事を言葉を詰まらせながら話し出す。
「……そう。そんなことがあったのね……」
「………………」
話し終えた恵子を責める訳でもなく、悲し気な表情で背中をさすりながらはすみは答えた。
哉太は恵子を気遣ってか、背中を向けたまま無言を貫いていた。
数秒の沈黙の後、はすみは手すりを掴んでふらつきながらも立ち上がる。
「は、はすみさん?どうしたんですか?」
「心配しないで、恵子ちゃん。ちょっとあの子を、アニカちゃんを助けに行くだけだから……」
「で……でも、そんな様子じゃ……」
「大丈夫よ〜。すぐ行って戻ってくるだけだから〜」
力なく自分に微笑みかけるはすみにかける言葉が見つからない。身体を使って押しとどめようにも、指先一本動かない。
ベランダから出て、階段を降りようとするはすみは背後を、恵子へ向き直る。
「それじゃあ行ってきま」
「―――はすみさん、俺が行きます」
はすみの言葉を遮る青年、八柳哉太の声。
怯えて竦み出す恵子の傍をすり抜け、ベランダの手すりに足をかけ、登る。。
「か……哉太くん!?身体、大丈夫なの?」
「……正直立っているのもきついっす。歩くたびに激痛が走るし、呼吸するたびに口の中には血の味がします」
「だったら――」
「でも、この中であの豚野郎の相手ができるのは俺だけっすよ。
それに、奴が殺そうとしているのは俺で、他は言っちゃ悪いが戦利品。俺に執着している間に逃げれば何とかなると思います。
それから、字蔵さん……だったか?」
「は……はい……!」
不意に名前を呼ばれ、恵子の身体が硬直する。
哉太が安全な存在だとだと分かっていても、男という存在だけで心が明確な拒否反応を起こす。
その様子を背中で感じながらも、哉太は精一杯の優しい声で恵子に語り掛ける。
「俺は奴との戦いで多分、死ぬと思う。そうなると心残りはあのバカ――アニカだ。
そうなったら押し付けるようで悪いが、アンタがその、あいつのことを助けてやってくれ。
はすみさんからアンタは人に寄り添える優しい人だって聞いた。だから、あいつの友達になれると思う」
「…………ッ!!」
寂しそうな優しい男の声。天宝寺さんが大切に思っている男は勝手に死にに行こうとしているのだ。
恵子は男という存在に対して恐れだけではなく、明確な怒りを持った。
それを口に出そうとしても、癒えぬ傷跡が言語化を許さない。
「じゃあな、字蔵さん。はすみさんとあいつを頼ん」
「待ちなさい、哉太くん」
ベランダから飛び降りようとする哉太の腕を白く華奢だが、力強い手――はすみの手が掴んだ。
そのまま静かな怒りを湛えた目線で、彼にベランダから降りるよう促す。
「哉太くん、君がいなくなった時のこと考えてる?」
語気こそ穏やかだが、大人として子供を叱る厳しい口調。
その言葉にまだ高校三年生の子供である哉太は何も反論できず、視線を逸らすことしかできなかった。
「私だけじゃない。藤次郎さんも、アニカちゃんも、恵子ちゃんも、二度と立ち直れないほどの深い傷を負うと思うの。
まだ君は圭介君との仲直りもしていない。それに―――また茶子を泣かせるつもりなの?」
「…………でも、方法はこれしかないじゃないっすか……!」
はすみに言い負かされ、弱々しい反論しかできない哉太の様子に恵子に衝撃を与えた。
男が女に暴力ではない方法で敗北する。ドラマや映画などのフィクションでしか見たことがない光景が目の前に広がっていた。
恵子の様子に気づくことなく、はすみは俯く哉太に優しく語り掛ける。
「哉太くん。鞘から大きい刀と小さい刀、抜いてくれる?」
「……はい。はすみさん、一体何をするつもりなんすか……?」
抜き身になった脇差と打刀をはすみに渡す。はすみは二振りの刀の反りを左右の手でそれぞれ掴む。
はすみの両手に淡い光が灯り、刀へと行き渡る。恵子と哉太は同時に理解する。これは彼女の異能だと。
「……ッ……ぅ……」
「はすみさん、大丈夫ですか!?」
「……ぅ……まだ……大丈……夫……!」
苦しそうな顔をしながらも恵子に気丈に笑いかけ、異能の行使を続ける。
その様子に耐え切れず、哉太は彼女から刀を取り上げようとするが、その背中の気迫に押され、見守ることしかできない。
「哉……太くん……。絶対に死んじゃ駄目よ……。必ず、みんなで帰ってきて……!」
「―――――ッ!」
その数秒後、はすみの手から二振りの刀が離れ。彼女の身体は仰向けに出す。
意識を失う寸前、はすみと哉太の視線が合う。はすみは優しく微笑んでいた。
困惑の表情を浮かべる哉太に、はすみの口が動く。
「がんばれ、男の子」
◆
奇抜な髪色の小さなメスが飛び出してさほど時間が経たないうちに、手負いだった筈の背の高いオスが家屋の二階から飛び降りて駈け出した。
今、家屋にいるのは猟師ではない力を持たぬメス二匹。うち一匹は狙いを定めていた小さなメス――ケイコチャン。
これはストックを補充する好機だ。
人の知恵を異能という形で身に着けた恐るべき害獣――独眼熊は獲物を狩るべく、ヒトの塒へと歩み出す。
◆
哉太の寝ていた布団に恵子は意識を失ったはすみを寝かせた。
やつれ、眠る彼女にできることなど自分にはない。
他の人の優しさに甘えて寄生し、自分では何も行動せずに与えられるのをただ待つプレデター・プリンセス。。
アニカや哉太のように恐ろしい目に合いながらも戦場に向かう勇気も、はすみのように男に立ち向かえる強さも自分にはない。
ぽつぽつと手の甲に雫が滴り落ちる。
そして、安らかに眠るはすみに。戦場に向かっていったアニカ達に。今なお怪物に立ち向かっているひなた達に。
「役立たずで……ごめんなさい……」
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンポーン。
玄関からチャイムが何度も鳴る。
意識外の出来事に文字通り飛び上がった。
もしかして、ひなたさん達が帰ってきたのかも。
自己嫌悪によって冷静さを失っていた恵子はそう判断し、寝室を飛び出した。
急いで下の階へ降り、玄関の鍵を開ける。
「おかえりなさい!ひなたさ―――――」
「ダダイマ、ケイコチャン」
◆
先程とは比べ物にならない大きさの雷鳴がひなたの鼓膜を揺らす。
気喪杉から意識が逸れ、音のした―――恵子達が治療を受けていた一軒家の方向へと顔が向く。
「ひなたさん!」
「え……うわっ……!」
「ロリ♡JK♡お嬢様♡俺♡の分からせ4Pなんだな♡」
勝子の声で集中力を取り戻す。
その刹那、上空から自分の数メートル先に偏った保健体育の知識を披露する子供おじさんが降ってきた。
「マンマ♡」といい年をした中年のおっさんが女子高生に母性とハグを求め、両手を広げて突進を仕掛ける
突然の出来事に回避行動が取れず、身を固めると十数メートル先まで転送される。
気喪杉が抱きしめたのは自分ではなく街路樹。それも数秒も経たないうちにバキバキとへし折られる。
そのすぐ後ろでアニカが異能を使用し、家に置かれていたバイクのエンジンを動かして突撃させる。
だがそれも気喪杉が十メートル近く跳躍することで難なく回避される。
アニカの参戦により二人だけだった時よりは幾分か戦いは楽になったものの、戦況は変わらず。
自分達の疲労は溜まるばかりで、気喪杉へは有効なダメージをほとんど与えられていない。
「ぼーッとしているとあの変態にお〇ックされますわよ!」
「ご……ごめん、勝子さん」
フォローしてくれた勝子に謝罪し、戦闘へと意識を向けようとする。
「ひなたさん、受け取りなさい!」
「え……?」
勝子から小石を投げられ、ひなたはそれをキャッチする。
すると勝子の能力によって小石は別の物体に変貌する。それは―――。
「なんでここにライフル銃が……?」
せんせーやししょーが自分によく見せてくれていた銃が手元に現れた。
純粋な疑問を問う前に、ひなたの耳に勝子の声が届いた。
「―――行きなさい、ひなたさん」
「でも……それじゃ、勝子さんとアニカちゃんの負担が……!」
「たった今、私はあのお〇ッククソデブ野郎をお〇ックする策を思いつきましたの。
冷たい言い方ですけれど、その作戦にはあなたの存在が寧ろ邪魔になりますわ。
だから私達の役に立ちたいのであれば、はすみさんにあの小さな女の子、怪我人を頼みましたわよ」
ちらりとアニカの方を見る。気喪杉の次のターゲットはあの子のようだ。
そして、勝子の方を見る。彼女の指揮のおかげで戦線が成り立っていた。だから、自分にできることは彼女達を信じることだけ。
戦場を放棄することに申し訳ない気持ちを感じながらも、ひなたは背を向ける。
「勝子さん、ありがとう!信じているからね!!」
銃を背負い、その言葉と同時に駈け出す。
勝子の目に映るのは徐々に小さくなっていく戦友の背中。
「……ま、そんな策がポンポンと思いついたら苦労などしませんけどね」
苦笑し、ポケットに手を入れる。
たくさん補充していたマーキングしていた小石はすでに片手に収まるほど少なくなっていた。
それでも諦める訳にはいかない。せめて、今現在も怪物に執拗に狙われ続けている小さなレディーだけでも逃がさなければ。
決意を胸に秘め、勝子は小石を取り出した。
◆
走るたびに全身に激痛が走る。呼吸するたびに内臓が悲鳴を上げる。
治りかけている傷が開き、その度に異能によって無理やり回復される。己の耳に全身から発せられる異音が響く。
立ち止まりたい。休みたいと全身が訴える。
それでも地獄へ向け、走り続けるしかない。
『がんばれ、男の子』
俺は託された。皆の命を。心を。
勝手に自分の事情に首を突っ込んで勝手に自分を絶望の底から救い出したバカのことを。
音のする方へと走り続けると、銃を背負った長身の少女の姿が見えた。
少女も自分も立ち止まることなく駆け抜ける。そしてすれ違う。
一瞬だけ目が合った。
互いに名も知らぬ人間同士。だがその目だけで伝わることがあった。
"任せろ/任せて"
◆
ぐちゃり、ぐちゃりと片目を失った巨大熊は人間の肉と内臓を貪る。
今の壁際に追い込まれた少女、字蔵恵子は熊の補色を身体を縮こませ、震えて見ていた。
怪物が貪るのは、ゾンビとなっていた中年夫婦の死体。
食事の傍らで恵子に視線を向けるたびで小さな悲鳴を漏らし、怯える姿は独眼熊の心を大いに愉しませてくれた。
知能が人間並みになった怪物は、時間が経つにつれ進化を遂げていた。
その進化の最中、開花したもの。それは獲物を嬲り、嘲るという原罪『悪意』
もっと愉しませてもらおう。
そう考えた羆は獲物からある部位をもぎ取り、恵子へと投げつける。
「……ヒィ……!!」
壁に張り付いて、ずり落ちた物体。それは喰らっているメスから捥ぎ取った片方の乳房だった。
それからは少女にとっての地獄、羆にとっての娯楽が始まる。
怪物が食事を中断する度に投げつけられる。
眼球、肋骨、男性器、肺腑、胃袋、脳、子宮。
恵子の周りにも簡易的に地獄が広がる。これがお前の末路だと言わんばかりに。
そしてしばらくして独眼の怪物の食事が終わる。
独眼熊は恵子に嗜虐的な笑顔を見せた後、立ち上がる。
自分の身長の倍はあると思われる巨躯が一歩一歩と近づく。
恵子の恐怖で彩られた顔は、次の食事前の最高の娯楽だった。
◆
「おおお俺から何で逃げるんだなああああ!!!」
顔から湯気を出し、父親ほどの年齢の性犯罪者が性欲の赴くままに襲い掛かってくる。
馬鹿の一つ覚えとばかりに突撃を繰り返す気喪杉の行動を読んで回避することは小学生でも容易い。
だが、それが幾度となく繰り返されると話は別だ。
運動神経がクラスで一番高くとも天宝寺アニカはただの小学生。
異能によって持ち上げられる物体もなくなりつつある。
催涙スプレーを使おうにも、バックから取り出した瞬間に気喪杉に接近を許してしまう。
最初に使ったのなら最後まで手に持っておくべきだったとアニカは後悔した。
サポートしてくれていた勝子の体力も限界に近い。
つい先程、マーキングされた最後の小石を使い切った彼女のできることは少ない。
現在のロリコン怪人のヘイトは自分にのみ向けられてる。
「アニカママのぉ!赤ちゃん部屋にぃ!ファミリービンタなんだなぁ!!」
眼前に迫るモンスターチャイルドの横凪ぎの張り手。
アニカはバックステップで回避しようとするが、もつれ思うように動かない。
遂に体力の限界が来てしまった。
迫る怪物の張り手。アニカのできることは衝撃に備え、身を縮めることだけだった。
しかし衝撃は全く別の方向から来て、アニカは地面へとうつ伏せに倒れこんだ。
急いで顔を動かす。そこには勝気な笑顔を浮かべる金髪の美女、金田一勝子。
次の瞬間、張り手が勝子の身体を吹き飛ばし、ブロック塀へと叩きつけられる。
「Ms.ショウコ!!」
叩きつけられたブロック塀からずり落ちる勝子の身体。
意識が落ちる寸前、勝子の唇が力なく動く。
「お〇ック」
ガクンと首が下を向き、勝子は気を失う。
その様子を見た気喪杉は落胆した顔をしながら十メートルほどの高さに跳躍し、意識を失った勝子の前に立つ。
性犯罪者はしゃがみ込ん贅肉が纏わりついた両手を突き出し、無防備の彼女の胸に置いた。
「―――――――!!」
そのまま醜悪に顔を歪めて何度も胸を揉みしだいた。
アニカ自身もこの手の輩に付きまとわれたことはあるし、そう言った犯罪についても何度も関わったことがある。
その中でもこの汚物は下位を首位独走するほど汚らしい。
自分の口では発したくない罵倒が心の中で何度もこの社会不適合者にぶつけられている。
ひとしきり楽しんだ後、気喪杉はアニカに向き直る。
「アニカママは心配しなくてもいいんだな。俺、手加減したから死んでいないんだな」
鼻の下を伸ばして君の悪い笑顔を向けた怪物は優しさを勘違いした言葉を悪臭のする猫撫で声で話しかける。
気喪杉は笑顔らしきものを向けたまま、脂肪を揺らしながら接近する。
185cmの怪物は145cmの探偵を見下ろす。
「アニカママが素直にならないからお嬢様も酷い目に合ったんだな。悪いのはアニカママなんだな」
その言葉の後、怪物はアニカの目線まで屈んで、右頬を向ける。
「俺は紳士だからほっぺにキッスで許してあげるんだな。分からせられたくなければ、いい子だから分かるよね?」
目を閉じ、お姫様の口づけを待つ。アニカの返答は既に決まっていた。
バッグから取り出したスタンガンを怪物の右頬に当てた。
「私のAnswerはこれよ!このDisgusting man!!」
「づ……ぁ……このメスガキがああああああ!!!」
怒号と共にアニカの腹部を優しく押す。
それだけで彼女の矮躯は数メートルほど吹き飛び、咳き込む。
アニカは気喪杉の顔を見る。
怒りのあまり感情がオーバーフローし、無表情になっていた。
気喪杉は短パンを力ずくで引き千切り、怒張を見せつける。
「メスガキが……分からせてやるんだな」
分からせ宣告に対して美少女探偵は敵意を持った瞳で吐き捨てる。
「Go to hell(地獄に落ちろ)」
◆
手の届く距離まで獲物に迫る独眼熊/気喪杉。
かたや怯えて涙を浮かべた瞳、かたや敵意と怒りに満ちた瞳。
獲物に向かって同時に、同じ言葉を言う
「イ・タ・ダ・キ・マ・ス」
◆
その瞬間、背後から銃声が響いて、独眼熊は手を止める。
手を伸ばした気喪杉の手は空を切る。
振り向いた片目の怪物の視界にはライフル銃を構えたもう一匹の獲物。
空を切った数メートル先にはアニカを抱きかかえ、こちらを睨むクソッタレのイケメン。
恵子/アニカは彼女/彼の名を呼ぶ。
「ひなたさん……!」「カナタ……!」
【C-4/高級住宅街・ある一軒家内/一日目・黎明】
【犬山はすみ】
[状態]:異能使用による衰弱(絶大)、気絶
[道具]:救急箱
[方針]
基本.うさぎを探したい。
1.勝子さんと行動を共にする。
2.勝子さん、ひなたさん、哉太くん、アニカちゃんは大丈夫でしょうか……?
3.生存者を探す。
4.ごめんね、勝子さん。
【字蔵恵子】
[状態]:ダメージ(中・回復中)、右腕骨折(回復中)、下半身の傷(回復中)、恐怖(特大)、精神的ショック(特大)、無力感
[道具]:夏の山歩きの服装、包帯(異能による最大強化)
[方針]
基本.生きて、幸せになる。。
1.ひなたさん……!
2.死にたくない。
※異能により最大強化された包帯によって、全身の傷が治りつつあります。
【烏宿ひなた】
[状態]:感電による全身の熱傷(軽度・全身・手当て済)、肩の咬み傷(手当て済)、気喪杉禿夫に対する怒り(大)、疲労(大)、決意
[道具]:夏の山歩きの服装、リュックサック(野外活動用の物資入り)、ライフル銃(4/5)
[方針]
基本.出来れば、女王感染者も殺さずに救う道を選びたい。異能者の身体を調べれば……。
1.恵子ちゃんを助ける。
2.まさか……羆……!?
3.勝子さん、ありがとう。
4.生きている人を探す。出来れば先生やししょーとも合流したい。
5.VHという状況にワクワクしている自覚があるが、表には出せない。
6.……お母さん、待っててね。
【独眼熊】
[状態]:健康、知能上昇中、ちょっと喋り方を覚えた、銃に対する驚愕、字蔵恵子に対する悪意(大)
[道具]:なし
[方針]
基本."山暮らしのメス"(クマカイ)を殺す。猟師どもも殺す。
1.人間、とくに猟師たちに気取られぬよう、痕跡をなるべく残さずに動く。
2."ヒナタサン"は猟師だったのか。
3.ヒナタサン"を殺した後、"ケイコチャン"を嬲り喰らう。
【C-4/高級住宅街/一日目・黎明】
【気喪杉 禿夫】
[状態]:興奮、天宝寺アニカへの怒りと欲情(大)、八柳哉太への憎悪(絶大)、右頬にダメージ(小)、全身にダメージ(極小)
[道具]:金属バット、懐中電灯付き鉢巻、天宝寺アニカのパンツ、日野光のブラジャー、日野珠のスパッツ、ブローニング・オート5(5/5)、予備弾多数、リュックサック
[方針]
基本.男ゾンビやキモ男を皆殺しにしてハーレムを作るんだな
1.ロリっ娘、巨乳JK、貧乳元気っ娘みたいにバランス良く属性を揃えたいんだな
2.目の前の巨乳JKとお嬢様を黙らせてハーレムにしてやるんだな
3.隠れた女の子たちも纏めてハーレムにするんだな。後、あのイケメンは殺す。
4.美少女JCJK姉妹(日野姉妹)を探して保護するんだな
5.ゾンビっ娘の×××はひんやりして気持ち良かったんだな
【金田一勝子】
[状態]:全身にダメージ(大)、疲労(大)、気喪杉禿夫に対する怒り(大)、気絶
[道具]:スマートフォン
[方針]
基本.基本的に女王感染者については眉唾だと思っているため保留。他の脱出を望む。
1.犬山うさぎとの合流を目指す。
2.このクソムカつくお◯ックデブ野郎をお高い態度をへし折って差し上げますわ。
3.能力のこと、段々分かってきましたわ。
4.ロクでもねぇ村ですわ。
5.生きて帰ったら絶対この村ダムの底に沈めますわ。
【天宝寺 アニカ】
[状態]:全身にダメージ(中)、顔面に大きい腫れ(処置済み)、頭部からの出血(処置済み) 、疲労(特大)、精神疲労(小)、気喪杉禿夫に対する生理的嫌悪感(絶大)
[道具]:催涙スプレー(半分消費)、ロープ、スタンガン、八柳哉太のスマートフォン、斜め掛けショルダーバッグ
[方針]
基本.このZombie panicを解決してみせるわ!
1.あのMonsterは絶対に許さない!!
2.Ms.チャコが地下研究施設について何かを知ってるかもしれないわね。
3.私のスマホどこ?
※異能の存在に気がつき、任意で発動できるようになりました。
※他の感染者も異能が目覚めたのではないかと考えています。
※虎尾茶子が地下研究施設について何らかの情報を持っているのではないかと推理しました
【八柳 哉太】
[状態]:全身にダメージ(大・再生中)、臓器損傷(再生中)、全身の骨に罅(再生中)
[道具]:脇差(異能による強化・中)、打刀(異能による強化・中)
[方針]
基本.生存者を助けつつ、事態解決に動く
1.このバカ(アニカ)を守る。
2.全員で生きてはすみさんのところに戻る。
※自分の異能を知りました。
※脇差と打刀が異能により強化され、怪異及び異形に対する特効を持ちました。
投下終了です。
投下乙です
>魔人戦線――絶望への抗い
2匹の怪物に立ち向かう目まぐるしい展開が熱すぎる、決着がどうなるのか気になりすぎる引き
そして気喪杉くんが相変わらずキモい、これだけキモいのに全員が決死の覚悟で挑まなければならない怪物並みの強さなのが酷いよね
チャイム鳴らしてやぁとやってくる人喰い熊は怖すぎる。これに挑む猟師の弟子と言うのはなかなか因縁めいている
『太陽を背中に僕らは進む』を大きく修正しました
『可能性の獣』との矛盾は起きないように修正してあります。
透過します。
(これは……当てが外れましたか?)
高校に着いた嵐山が見たものは、校舎内外に蠢くゾンビの群れだった。
学校には多数の避難者が集まる、という見立ては間違っていなかったのだが、
肝心の生存者がいる気配が全くない。
悲鳴や助けを求める声の一つでも聞こえればよいのだが、
耳に届くのはゾンビの呻き声だけだ。
(少なくとも、校舎の外に生存者がいる可能性はかなり低い、ですね。
屋内なら、どこかに隠れてやり過ごせているかもしれませんが……)
この暗い中、たった一人でゾンビの巣窟と化した校舎に突入するのは躊躇わざるを得ない。
ゾンビと鉢合わせするのは免れないし、
いずれ発砲せざるを得ない状況に追い込まれるだろう。
あの放送は、『ゾンビとなった者も適切な処置を受ければ元に戻る』と言っていた。
それが真実だと素直に信じることはできないが、回復の可能性が示されている以上、
無闇にゾンビを殺すわけにはいかない。少なくとも、今はまだ。
ひとまず、明るくなるまで学校の近くに身を潜めることとした。
学校のどこかに隠れている者がいても、日も出ていない今は動けないかもしれない。
それに、学校の現状を知らない避難者がこちらに向かってくる可能性もある。
目と耳を学校に向け、変化の兆候を見逃さないようにしたまま、
ひたすら、待つ。
さらにこの時間を利用し、頭の中でこのバイオハザードの解決策の検討を進める。
『女王は周囲のウイルスを活性化させ増殖を促す』
『女王を消滅させれば、自然と全てのウイルスは沈静化して死滅する』
『バイオハザード発生から48時間以内に事態の解決が見られない場合、この村の全てが焼き払われる』
自分の生物学の知識と、あの放送の内容から、一つ一つピースを組み立ててゆく。
すると、ゾンビ化したカラスが、高校の屋上からよたよたと飛んで行くのが見えた。
(ふむ、鳥や動物も感染する、と)
これも一つの情報として、検討に加える。
やがて、一つの仮説がまとまったころ、
(ん…?)
小中学校のあたりから、足音が聞こえた。
誰かがこちらに走ってきている。明らかにゾンビのそれではない。
だが、肝心の走っている人間の気配がしない。
幽霊のように、足音だけがこちらに近づいてくる。
(なんだ…?)
嵐山は立ち上がり、目を凝らした。
(女の人…?)
小柄な女性が、小中学校から小走りでこちらに向かってくる。
服装からして、村の人ではなさそうだ。観光客だろうか。
このまま道なりに商店街や放送室の方に向かおうとしているようだ。
自分の存在には気付いていないらしい。
このままではあっという間に通り過ぎ去ってしまう。
彼女がどんな人間か分からないこと、また先ほどの奇妙な感覚というリスクはあるが、
初めて出会った生存者だ。どんなことでも情報が欲しい。
嵐山は、彼女と接触することに決めた。
「ちょっと! ちょっと待ってください!!」
そう叫びながら、嵐山は道に飛び出した。
■
(なんつーかもう、疲れた……)
古民家群を抜け、小中学校に辿り着いた小田巻真理は、
半分死んだ眼をしながらこれまでの紆余曲折を思い返していた。
自分に火傷を負わせたボブカットの少女から一時退避した後。
最初に女王感染者候補を仕留める為の武器を探したが、
結局のところ、銃はおろかナイフや包丁の一本すら見つからずじまいだった。
あの少女は途中まで自分を追ってきたようだったが、諦めたのか、全く気配を感じない。
これ以上無駄な時間を使うことはできない。
彼女が自分を危険人物だと触れ回る前に、仕留めねば。
武器に関しては、エレガントさの欠片もないが、
その辺の石かレンガでも使うしかねえと観念し、彼女を追跡することに決めた。
さて、彼女はどこに行ったのか。眼に入ったのは、北にある学校だ。
(そうか、避難所がある学校で注意喚起してるんじゃ!?)
鋭いぞ私、と自賛しながら学校に向けて走り出した。
そこからが小田巻真理の一大スペクタクルアドベンチャーの始まりだった。
最初に立ち塞がったのは、倒れた電柱に潰された軽トラから漏れ出したガソリンの海。
おっかなびっくり迂回していると背後からゾンビの群れがこんにちわ。
ダッシュで逃げるも、今度は盛大にガス漏れを起こしている倒壊家屋が行く手を阻む。
頭を抱えて道を変えようとすると、そちらでは破損した消火栓から水がどぼどぼ流れ出る中に
地震で切れて垂れ下がった電線の端が突っ込んで漏電地獄が出来上がっていて、
一縷の望みを託して小さな脇道に飛び込むも、
そこではゾンビ化したブルドッグ一家との挟み撃ちエンカウントがお待ち受け……
そんなてんやわんやの末、小中学校の裏手に辿り着いた頃には
時間は既に3時を回っていた。
そう言えば気になることがあった。
自分からゾンビの視界に入ってしまった場合を除き、
ゾンビ側から目を付けられることが殆ど無かった気がする。
気付かれないよう足音を立てない歩き方をしていたし、
時には車や塀の影に身を隠してもいたが、
住宅街にいたゾンビの数からすれば、何回か襲撃されていてもおかしくはなかった。
唯一、ゾンビブルドッグ一家にだけは、
服に染み付いたラーメンの甘美な香りに誘われたのか、
かなり長い間追い回されたが。
今のところは、SSOG仕込みの隠遁術が効いたのだろうと、自分を納得させた。
それも一面の事実ではある。
だが実際のところは、身を隠そうと意識するうちに
彼女自身の異能――『気配を消す異能』も発現していたのだ。
その事実にまだ彼女は気付いていない。
さて、と気を取り直し、周囲の状況を確認するも――
(うえっ)
小中学校も高校も、見渡す限りゾンビ、ゾンビ、ゾンビ。
明らかに避難所としては機能していない。
想像以上の事態に身体が震える。
やはり、事態の収拾を急ぐ必要がある。
では、あのボブカットの少女、ないし他の正常感染者はどこにいるのか?
北西の田園沿いはほとんど施設らしきものが見当たらない。
東はすぐに森と山。今まで自分がいた古民家群はここに負けず劣らず悲惨な状態だ。
となると、南西の商店街方面。
そこまでは広い道が続いており、ゾンビから身を隠しながらも
今までよりずっと早いペースで移動できそうだ。
ここで彼女は、今まで取った遅れを取り戻さなくては、と、
極力足音を消す歩き方から、隠密性は下がるが速度が上がる小走りに変えた。
結果として、これがまずかった。
そのままの歩き方だったら、彼女の存在は誰にも気づかれなかったろう。
だが、小走りに切り替えたことで、多少ではあるが足音が生じ、
近くで聞き耳を立てていた別の正常感染者に聞かれてしまったのだ。
「ちょっと! ちょっと待ってください!!」
「……ハイ?」
眼鏡を掛け、2丁の猟銃を持った青年が、物陰から目の前に飛び出してきた。
■
「突然すみません。
私はこの村の猟友会に所属する嵐山という者です。
こんな物騒なもの持っていて申し訳ありません。」
「猟友会…… 猟師さん、ですか」
「あなたに危害を加えるつもりはありませんので、
少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
(さて、どうするべきでしょうか)
話しかけながら、嵐山は思案する。
ようやく見つけた生存者である。害意が無いなら保護したいところであるが、
女王感染者殺害を狙い、自分を襲ってくる可能性も無視できない。
恰好から見れば、彼女はただの観光客であり、見たところ武器も持っていなさそうだ。
だが気になるのは、あの妙な感覚である。
足跡が聞こえたから気付けたものの、彼女はあの時完全に気配を消していた気がする。
それが彼女の異能なのか、それとも他の理由があるかは分からないが、
とりあえず、まずは素性の確認だ。
「え〜と、この村の人ではないですよね?」
■
(えー、ハイ、武器は欲しかったですよ。
どっかに銃落ちてないか、とは思ってましたよ。
でも、銃を持った人間さんまで出てきてとは思ってねえよおおおおおお!!!)
小田巻は、内心汗を滝のように流していた。
状況は最悪だ。こっちには何も武器が無い。
目の前の男は猟銃を2丁持っている。手にしているのは散弾銃、背負っているのはライフルか。
表情や口調は穏やかだが、おそらく警戒は解いていない。
不幸中の幸いは、問答無用でいきなり撃ってくるような人間ではなかったということだ。
(不意を突いて銃を奪う、あるいは締め落とす?
お人好しそうだし、口でなんとか切り抜ける? 落ち着け、落ち着け私)
ここはひとまず、ただの観光客を装うこととした。
「え、えーと、私は小田巻っていいます。
この村には観光で、有名なラーメンを食べに来てまして……」
よし。嘘は言っていないぞ、嘘は。
一瞬、偽名を使うことも考えたが、
身分証を見せろとか言われたら完全に疑われるので止めた。
潜入任務用のダミーなんて持ってきてねえです。
「ああ、『山オヤジ』さんですね。あそこは本当に美味しいですよねえ。
私が取った獲物も何度か使ってもらったことがあるんですよ。
……ところで、私のほかに正気を保っている方と会いませんでしたか?」
ほら、きたぞ。どう答える?
「その前に、その銃から手を放して貰えませんか?
すみませんが、あなたが信用できる人物か分かりませんので」
「殺す気だったなら声もかけずに撃っていました。それではいけませんかね?」
「聞きたいことを聞けるだけ聞き出して、ズドン、てこともあるかもしれませんし」
「ふむ……そうですね」
「それに、危害は加えないって言ってましたけど、
じゃあ、あなたはこの状況で何をしようとしてるんですか?
女王を殺さないと2日後にはこの村焼かれちゃうんでしょう?
それじゃ問題の先延ばしにしかならないじゃないですか。
他に解決するアテでもあるんですか?」
「あります」
「………………ハイ?」
え。
ちょっと待って。
今なんて言った。
他の解決策が、ある、と?
「ここまでずっと考えていました。
この状況で、顔見知りでもない相手に自分を信用してもらう為には、
殺し合い以外の具体的な解決策を示すしかありませんから。
あくまで仮説に過ぎませんが、私なりの解決策は幾つか考え出しています」
と、目の前の男は語る。
私を油断させるための出まかせだと思いたい。
だが、男の眼差しは真剣だ。
「あなたから信用を頂く為にも、私の仮説と解決策を説明させて戴きたい。
よろしいでしょうか?」
「……分かりました。
先に言っときますけど、その後に信用するか、しないかは別ですからね」
「無論です。では……」
男は語り始めた。
「まず、あの放送の内容。
私が気になったのは、『女王は周囲のウイルスを活性化させる』
『女王が死ねば、他のウイルスも死滅する』という点です
では、女王の存在は周りのウイルスにどうやって伝達されるんでしょうか。。
女王が死んだとき、他のウイルスはそれをどうやって検知するんでしょうか。
1kmや10kmだったら、音や電波が届くかもしれない。
しかし100km、1000kmも離れたら? いっそ地球の裏側だったら?
そんなに離れていて、女王の生死を認識することなんかできますか?」
「え、え〜と、直感ですが、できないと思います」
「そう。ここから、『女王は何らかの信号を発信している』と推測できます。
そして、その信号には有効範囲があると考えた方が常識的です」
「は、はい。それで?」
「ここで、『女王が死ねば、他のウイルスも死滅する』特性を考えます。
『信号説』で考えると、他のウイルスは『女王からの信号の断絶』を以て女王の死を認識することになります。
だが、その信号には有効範囲がある。
つまり、『女王以外のウイルスは、女王からある程度離れては生きていられない』ことになる。
……話は変わりますが、このウイルスが人間以外の動物に感染することは知っていますか?」
本当に急に話が変わるな。
「は、はい。さっきゾンビのブルドッグに追っかけられました」
「ええ。このウイルスは人間以外の動物にも感染する。
その特性を考えると、48時間の猶予や山の周囲の封鎖は不自然だ。
いくら厳重に封鎖したところで、鳥や獣は止められないでしょう。
2日もあれば隣の町に行くには十分すぎる。
ですがそれも『信号説』で説明できます。
ウイルスに感染した鳥が飛び立ったとしても、じきに女王の信号が届かなくなりウイルスは死滅する。
要するに、女王さえ逃がさなければ良いんです」
私は口をあんぐりと開けていた。
「もちろん、女王感染者が鳥だったらという問題も考えられますが、
研究者がその可能性を見過ごすとは思えません。
最初にウイルスが漏れ出した研究所付近の人間が女王感染者だと目星がついているか、
それとも、ウイルスが脳に作用することから、
女王感染者の宿主には発達した脳が必要で、
すなわち人間、あるいは大型の動物でないといけないのか…」
「ちょちょちょちょちょっと待ってください!」
もう頭のキャパシティが限界だ。つか私が今すぐ聞きたいことはそんなことじゃない!
「あなた猟師ですよね!? あなた何者なんですか!?
私よりもあなたの方がずっと怪しくないですか!?
実はこの事故の関係者だとかじゃないんですか!?」
「え〜と、一応、大学の生物学科を出ていましてね。
こういうの考えるの、好きなんですよ」
と言って、彼はにへらと笑みを浮かべた。
ぶん殴りたい。
「とにかく! 理屈があるというのは分かりましたから、
あなたの考えた解決策とやらを聞かせてください!
端的に! 分かりやすく! お願いします!!」
「ええ、分かりました。では……」
こほん、と咳払いして、彼は話を再開する。
「この『信号説』が正しい場合、解決策が2つ考えられます。
一つは、女王ウイルスの出す信号を何らかの形で遮断する。
生物由来の信号ですし、遮る手段が全く無いとは思えません。
もう一つは、防護服を着せるなどして周囲への感染を防いだ状態で、
他のウイルスに信号が届かなくなる距離まで女王感染者候補を全員引き離してしまう。
このどちらかを行えば、他のウイルスは女王からの信号を受けられなくなったことで
『女王は死んだ』と認識し、死滅します。
その後、感染者候補の処置が別に必要となるでしょうが、ひとまずパンデミックは防げます。
お分かりいただけ――って、大丈夫ですか?」
嵐山が心配そうに顔を覗き込んできた。
「え、ええ。大丈夫…… ちょっと考えさせて」
私は文字通り頭を抱えていた。
まさか本当に女王感染者殺害以外の解決策を提示してくるとは。
彼の仮説は、筋は通っているように思える。
それに、自衛隊のブレーンなら、彼の考えたことくらい検討済みの筈だ。
すなわち、自衛隊も全く別の解決策を以て動いているかもしれない、
という可能性が頭をもたげたことにより、
女王感染者殺害による事態の収拾という自分の決意はかなり揺らいでしまった。
そもそも、あの放送も、『特殊部隊が村の周囲を封鎖している』『48時間後に村を焼き払う』とは言ったが、
『特殊部隊が生存者殺害を目的に動いている』とは言っていない。
今回の事件がSSOG案件というのも、隊員としての見地から自分がそう判断しただけにすぎない。、
だが、自衛隊たるもの、あやふやな仮説に縋るより、
多少の犠牲が出ようとも確実な解決策を取るはずでは?
という考えも自分の中にはあるわけで。
堂々巡りだ。
答えが出ない。
私は、どうすればいい?
ふと顔を上げると、学校が目に入った。
視界の隅に、何かが映った。
異様な胸騒ぎがして、私は立ち上がった。
「小田巻さん?」
嵐山の声掛けを無視して、目を凝らす。
学校の前で、何かが起きている。
『それ』を認識したとき。
――血の気が引いた。
次の瞬間、私は、嵐山に飛び掛かっていた。
■
「小田巻、さん!?」
小田巻真理に突然飛び掛かられ、嵐山は後ろに倒れた。
彼女は、自分が背負ったライフルを奪い取ろうとしている。
分かってくれなかったのか――
止むを得ず、反撃を入れようとした瞬間、気付いた。
彼女はこっちを向いていない。
必死の形相で、学校の方を睨みつけている。
「いいから! それ! 貸して!! 今すぐ!!!」
小田巻は、ライフルを奪い取ると、嵐山ではなく、学校の方向にその銃口を向けた。
嵐山もつられてその先を見る。
そこに居たのは――
血塗れの、剣鬼。
■
斬る。
斬る。
斬る斬る斬る。
道場周辺の亡者を粗方斬りつくした八柳藤次郎は、
さも当然の如く、次の狙いを学校に定めた。
教え子達がいるかもしれないが、今となっては早いか遅いかだけだ。
「ほう、おるわおるわ」
学校に蔓延る亡者の群れ。
常人にとっては恐怖でしかない光景を前に、
藤次郎は愉悦の表情を浮かべた。
次の瞬間、一切の躊躇もなく斬り込む
老若男女、誰であろうと関係は無い。
この呪われた村の民を鏖殺せんと、その剣が躍る。
校舎が、塀が、道路が、血で染まってゆく。
だが何よりも血塗られしは、彼の剣と、そして肉体。
八柳新陰流師範・八柳藤次郎。
校門周辺にいたゾンビの大半を斬りつくしたころ、
突如射撃音が響き、銃弾が足元で跳ねた。
「……む」
威嚇射撃だ。
そして、それを撃ったであろう人間達が、こちらに近付いてきた。
一人は猟師の男。どこかで見覚えがある。村の人間だ。手にしているのは散弾銃。
もう一人は、若い女。恰好からして、観光客か。
動けば撃つとばかりに自分にライフルを向けている。
先ほど威嚇射撃をしたのもこちらのようだ。
その無駄の無い射撃姿勢から、見かけによらず、かなりの腕前であることを藤次郎は見抜いた。
嵐山・小田巻の両名と藤次郎は、10mほどの距離を挟んで相対した。
小田巻に銃を向けられながら、藤次郎はいささかの崩れもなく泰然としている。
嵐山が一歩前に出た。
「八柳先生、ですね。剣道場の」
「……君は確か、猟友会で見たな」
「ええ。嵐山といいます。……先生。答えてください」
「嵐山さん。その人は、話しても無駄な人間ですよ」
小田巻が忠告するが、嵐山も、頭では分かっている。
八柳藤次郎が何をしてきたかは、聞くまでもなくその風貌が如実に語っている。
袴からは赤い滴がぽたぽたと垂れ、
白かった上衣は元の色が残っている場所を探すのが難しいほど返り血に染まっていた。
それでも、どうしても問わざるを得なかった。
「何人、斬ったんですか」
「数えてはおらん。百には届いておらぬだろうが」
「放送を聞いていなかったんですか!?
その人達だって元に戻れたかもしれないんですよ!?」
「そんなことは問題ではない」
「……なんですって?」
「嵐山君といったか。いみじくも村の者なら、知らぬわけではあるまい。この村の歪みを」
「……ええ。黒い噂なら、幾つも聞いてますよ。
でも、あなたが斬った人が全部当事者なはずはないでしょう」
「確かに、大半の者に責など無かろうて。
村の者の殆どは、君のような善良な人間であることも認めよう。
だがそれでも、この山折村が産み育ててきた業からは逃れぬことはできぬ。
この呪われた村が存在し続ける限り、歪みは生まれ続けるのだ。
精算の手段は、今やただ一つ。すなわち、この村を無に帰すこと」
意味が分からない。
嵐山は、藤次郎と直接話したことはない。
だが、彼の悪い噂は聞いたことが無い。
むしろ人格者であり、教え子達にとっての良き師匠であり、
長年村の為に尽くした人間だと聞いていた。
「……つまり、村を滅ぼす、と?
ゾンビであろうが何であろうが関係なく、村の人間を全て殺す。
それがあなたの目的だと?」
「そうだ。それが、我が長年の宿願。
山折宗玄を初めとした外道の輩。村に蔓延る無頼漢ども。
銭金に釣られ、この事態を引き起こしたウイルスなぞを持ち込む欲呆け。
この村は存在しているだけで、呪いを振りまくということが分からんか」
「……先生。私は、あなたが一体どれだけのものを見て、
どれだけ絶望に打ちのめされてきたのか、分かるなどとは言いません。
でも、あなたは子供達に剣を教えていたんでしょう。
子供だって、孫だって育てた。
村を呪いながらもそれが出来たのは、
少しでも明日が良くできると、そう信じたからじゃないんですか!?」
「ふん――」
藤次郎は鼻を鳴らした。
「老いさらばれるにつれ、ふとその様な思いを抱いたこともある。
儂は充分にやった。儂のような老人がもう口を出すことはない。
純粋なる教え子達。そして可愛い孫。村の明日は、彼らに託せばそれで良いと。
歪みを忘れ、希望だけを見、座して果つるのを待つことが出来れば、どれほど良かったことか。
――だが! その果てが、この有様よ!!」
今や、亡者と廃墟の坩堝と化した村一帯を指ししながら、藤次郎は言い放った
「――嵐山君。よしんばこの危機を乗り越えたとしても、
この村が卑しき者どもの欲望を呑み続ける限り、第2、第3の悲劇は必ず起きよう。
故に滅ぼす。山折村の血はこの世に一滴たりとて残さぬ」
「だから、教え子たちも殺すって言うんですか!? ご家族だって!!」
「妻は斬ったわ。最初にな」
平然と言い放つその姿に、嵐山も、小田巻も息を呑んだ。
「……狂ってるわ、あなた」
小田巻は吐き捨てるように言った。
職業柄、タガが外れた人間には慣れている。
そもそも、大田原にしろ成田にしろ蘭木にしろ美羽にしろ、
SSOGのメンバーは大概タガが外れている。
むしろタガが外れてなければやっていけないレベルだ。
味方すら目を背けるような所業も顔色一つ変えずやってのける、それがSSOG。
だが、そこには大義がある。
それが鬼畜の所業であっても、彼らがそうすることによって、守られる者、救われる者が確かに存在する。
だからこそ彼らの存在は許容される。
だが、目の前の男はどうだ。
そんなことをしたことで誰も救われなどしない。
村全体を巻き込んだ無理心中。
彼がやろうとしていることは、小田巻の耳にはそんなものにしか聞こえない。
「狂う?」
藤次郎はそれを鼻で笑う。
「儂は正常だよ。
これは、儂の生涯を賭けた結論よ。
村の呪いと相対し続けてきた、この儂の――」
「ふざけるな」
嵐山の、重く鋭い声が、藤次郎の言葉を遮った。
藤次郎が、半瞬息を呑んだ。
小田巻も思わず顔を向けた。
「呪いだの歪みだの、自分を正当化するのもいい加減にしろ。
千人もいるこの村を、その剣で、あんた一人で全部殺す?
それが考えた結果だと? 笑わせるんじゃない。
あんたはただ、自分の思い通りにならなかった憂さを晴らしたいだけだろう」
嵐山の声に、もう今までの穏和さはない。
怒気を隠すこともしてもいない
その言葉が纏うのは決意。この村を守る為、八柳藤次郎を討つ、と。
「……憂さ晴らしか。確かに、そうかもしれんな」
藤次郎が息を付く。
「今や修羅を名乗るもおこがましい。儂は外道。外法の道を行くのみよ。
――止めたければ、儂を殺すことだ」
瞬間、藤次郎が身を翻した。
小田巻が瞬間的に反応し、引鉄を引こうとするが、
(え――!?)
人間の顔がこちらに向かってきていた。
いつ拾ったのか。
藤次郎は、自分が斬り落とした女児の首を後ろ手に隠していた。
それを小田巻目掛けて投げつけたのだ。
「小田巻さん!」
(そんなんで怯むか! SSOG舐めんなぁっ!!)
頭が顔に当たり、吐き気を覚えた。だが銃口は動じることなく、藤次郎に向けて火を噴く。
「ほぅ……」
奇襲が通じなかった、そう見た瞬間に藤次郎は後退に転じ、銃弾を躱す。
あそこで一瞬でも隙を見せれば、一息に間合いを詰め斬り捨てていたところだ。
そこで、動揺も見せず、撃ち返してくるとは。
やはりこの女、見た目によらず強敵だ。
それに、猟友会の男もいる。相手は銃使い二人。
異能により、自分の身体能力は、全盛期と同等までに上がっている。
だが、耐久力までは変わるまい。銃弾を一撃でも受ければこちらの敗北。
一旦大きく間合いを取り、呼吸を整える。
「嵐山さん!」
「なんです?」
小田巻の顔も変わっていた。
今や観光客のそれではない。それはまさに、戦士の顔。
「私の素性については、今はノーコメントとさせて下さい。
今はあの人を排除する。それでいいですね?」
小田巻も決断した。この戦いに自分の全力を尽くす、と。
嵐山に自分の正体を悟られるのは、もう止むを得ない。
あの男は、間違いなく大田原クラス。
そんな相手に、実力を隠したまま勝つことなど出来はしない。
「ええ。お互い生き延びられたら、ゆっくり説明してもらいますよ」
嵐山は、ライフルの弾薬ケースをウエストポーチから出し、小田巻に向け放り投げた。
それを受け取った小田巻は、早速撃った2発分をライフルに装填する。
東の空が白みはじめた。
間もなく朝が来る。
山折村の運命を決める2日間、その第1日目の朝が。
血塗られた剣を手に、藤次郎が地を蹴る。
迎え撃つ、小田巻と嵐山。
感染者にしてSSOG隊員、小田巻真理。
山折村の猟師、嵐山岳。
そして、血塗れの剣聖、八柳藤次郎。
それぞれ違う明日を見る三者が、交錯する。
【C-7/路上・小中学校近く/1日目・黎明】
【小田巻 真理】
[状態]:疲労(軽度)、右腕が汚れている、右腕に火傷
[道具]:ライフル銃(残弾5/5)、予備のライフル弾、???(他に武器の類は持っていません)
[方針]
基本.女王感染者を殺して速やかに事態の処理をしたい、が、迷いが生じている。
1.目の前の危険人物(八柳藤次郎)を排除する
2.結局のところ自衛隊はどういう方針で動いているのか知りたい
※まだ自分の異能に気づいていません
【嵐山 岳】
[状態]:健康、左手首に軽度の切り傷(止血済)
[道具]:散弾銃(残弾3/3)、小型ザック(ロープ、非常食、水、医療品)、ウエストポーチ(ナイフ、予備の弾丸)
[方針]
基本.生存者を探し、安全を確保する。その後、バイオハザードの解決策を考える。
1.八柳藤次郎を倒す。
2.高校、小中学校周辺の生存者を探す。生存者を見つけたら猟師小屋に戻る。
3.猟友会のメンバーや烏宿ひなたが心配。
4.片眼のヒグマ(独眼熊)のことは頭の片隅に置いておく。一応警戒はする。
※小田巻真理の異能が「気配を消す異能」ではないかと疑っています。
【八柳 藤次郎】
[状態]:健康、血塗れ
[道具]:藤次郎の刀
[方針]
基本.:山折村にいる全ての者を殺す。生存者を斬り、ゾンビも斬る。自分も斬る。
1.目の前の2人を斬る。
投下終了します。
投下乙です
>山折村の明日
嵐山せんせーは流石の考察力、助かるぅー
小田巻さんは情報次第でどちらにも転ぶ微妙な立場だけに解決策を提示できるせんせーとの出会いは良い方向に転ぶのかもしれないね
八柳の爺ちゃんは新陰流の開祖だけあって格が違いそう、村の殲滅を願う思考に関してはこの村の闇を見てきた読者からすれば否定もしづらいんだよなぁ
まとめwikiにて、>>751-761 の誤記や一部表現の修正を行いました。
話の内容に変更はありません。
投下します
「あそこが猟師小屋です。
明かりはついてないみたい? 誰もいないのかなあ」
月明かりだけを頼りにのぼる真っ暗な山道。
段々畑を上へとのぼり、田園地帯を抜けた先。
山と里との境界線、そびえ立つ山折岳の麓。
そこにひっそりと佇んでいる、カビの生えてそうな古い木造のちゃちな小屋が猟師小屋。
建物は母屋と納屋、あと車庫とに分かれてるけど、どれもこれも古くてよくあの地震で崩れなかったよね。
中は明かりがついてないけど、玄関灯だけはつきっぱなしで、ブイブイや蛾がたくさん集まってる。
窓ガラスが割れてるみたいで中も少し覗けるね。
たまに猟友会の人たちが詰めてるらしいけど、人がいるかいないかは半々ってところかなあ。
「環、ちょっと待ってくれないか? 歩くのが速すぎる……!
僕、まだ革靴だから歩きにくくてさ」
うーん、山歩きに革靴は山をナメてるけど。
先生のは装備じゃなくて単純に体力と慣れの問題じゃないかな?
「先生体力なさすぎですよう。
ほら、もうちょっとで目的地ですから、がんばりましょう?
ふれーふれー♪」
ほらほら先生、がんばれがんばれ?
かわいい生徒が応援してるんだよ?
プライド見せて?
「……いや、そういう応援は勘弁してくれないかな。
恥ずかしいから。ほんと恥ずかしいから」
そう? 私は応援大好き。
クラスの威信を全部背負ってガチガチしてる健康優良児と仲良くなれる機会だもん。
炎天下、汗を飛び散らせながら敵チームとぶつかるクラスメートを、
テントの下でわらびもち飲みながら眺めるのは気持ちいいよね。
三位決定戦のチームに、決勝進出チームとしてエールを送るのはたまらないよね。
フレッシュトマトみたいに真っ赤な顔して、今にも破裂しそうな顔して走ってる運動音痴ちゃんたちを、
ゴールテープ前で拍手で出迎えてあげるのは優悦を感じるよね。
「ほら、先生。あと100メートルもないですから」
「いやさ、僕は子供じゃないんだから、先に小屋に入って待っててくれてもいいんだよ?」
「ええっ? 先生を置いて、私一人で先にくつろいでるなんてできませんよう!
それに暗くてちょっと怖いですし……」
「……」
「……」
今のは言い訳がわざとらしかったかなあ。
まわる頭があるなら気付くよね。気付きますよね。
猟師小屋の中に明かりは見えない。
入り口を照らす玄関灯だけが母屋をぼんやり浮かび上がらせてる。
夏の電力不足でもあるまいし、政府に節電をお願いされたわけでもないし。
カテエネポイント1000P溜めるチャレンジでもやってなきゃ、この状況で明かり消さないでしょ。
暗い小屋にはまずゾンビはいない。
わざわざ明かりを消してからゾンビになるやつもいないしね。
ただ、誰かが目立たないようにここまで逃げ込んできて、暗闇の中で潜んでる可能性だってある。だから。
夜分遅くに失礼いたしますって感じで夜回り先生をお願いしたいなあ、って。
聖職者として、危険なシーンは一手に引き受けてほしいなあ、なんて。
ダメですか?
女子生徒を先頭に立たせちゃいますか?
保護者として、相応しい行動を取るべきだと思いま〜す。
先生が女子高生とパパ活してるって警察にタレコミしてもいい?
女子生徒随伴罪で村の警察から発砲されるようになるけどいい?
先生。ファーストペンギンお願いします!
■
円華ちゃん。
ちょっと年長者に対する思いやりが足りないんじゃないかな。
ド田舎生まれの君たちと違って僕は都会人だからさ。
くぼみができてたり、ぬかるんでたりする悪路は歩き慣れてないんだよね。
あと、そもそも僕に付いてきてほしいって最初に言ったのは君だからね?
もう少し、僕のペースに合わせてくれてもいいと思うんだよ。
あとさ、キミの言う『暗くてちょっと怖い』ってさ、『暗いのが怖い』じゃなくて、
『暗闇から誰かが襲ってくるかもしれないから怖い』だよね?
キミ、くぼみを避けてスイスイあぜ道を進んでたもんね。
光は青。僕を信用してくれるのは分かる。
けど、この光って悪意があるかどうかまでは分からないんだよ。
キミってさ、もしかしなくても、男をATMとしか思ってない女の子ってやつじゃない?
出すもの出せないと、一瞬で赤に変わったりしない?
「……」
「……」
数秒の沈黙のあと、円華ちゃんは道から少し外れた藪の影へと入っていく。
そこで、彼女は少しうつむいて軽く息を吐き。
意を決したように口を開いた。
「先生、ごめんなさい。
もしかしたら私、先生を信用しきれていなかったかもしれないです」
なるほど。
いや、それウソだよね?
だって、キミの光は青いじゃない。
キミは僕を信用している。そうだよね?
「甘えちゃいました。試すような行動、取っちゃいました。
先生だって怖いはずなのに、危ないところを全部押し付けようとしちゃいました。
ごめんなさい。
あの放送を聞いてから、ずっと怖かったんです。
みんな私を殺しに来るんじゃないかって。
微笑みの裏で、私を殺そうと刃物を研いでるんじゃないかって。
友達を見捨てたときから、私の味方はいないんじゃないかって」
「うーん、環はさ、先生のことを殺そうと思ってたの?」
「……! そんなワケないじゃないですか!」
「僕だって同じだよ。大事な生徒を手に掛けられるわけないじゃないか」
「せんせぇ……!」
全部ウソだと仮定してさ。
藪の影まで移動したのも、小屋に誰かいたときに、銃で狙撃されないため、かな?
ちゃっかりしてるよね、キミ。
「先生、あの、もう一つ。
気持ち悪いかもしれないけれど、聞いてくれますか?
私、いつからか、変な超能力みたいなもの……言葉にすると、そうですね。異能、とか?
そんなものが使えるようになってるんです」
……薄々そうじゃないかなって思ってたけど、やっぱり、僕以外もなのか。
けれど、おそらく僕と同じ性質のものじゃあない。
そっちから聞かせてくれるなら、ありがたく拝聴させてもらおうじゃない。
「それって、どんなものなの? 怖がったりしないから、見せてほしいな」
「ゾンビになった人の動きを止める異能です。
正気の人に使ったことはないので、お願いですから、びっくりしないでくださいね」
そういうと、円華ちゃんの眼が僕を射すくめる。
その瞬間、息が止まる。
まばたきが止まる。
指一本、身じろぎ一つできなくなる。
これ、金縛りってやつ?
思考だけはクリアなのもそれっぽい。
え、ちょっと待って? ほんとに息できないんだけど?
僕を殺す気なんてなかったんじゃないのか!?
全部ウソだとしても、いくらなんでも早すぎない!?
おい、やめろ、これは本気でまずい!
「!!!!」
動いた。
感覚が戻るまでにかかったのは、五秒くらいだったんじゃないかと思う。
「せ、先生! 大丈夫でしたか!?
そんなに危険なものだとは思ってなくて!」
「ハァ、ハァ、息が止まったかと思った。
これ、人には使わないほうがいいね」
事故か、故意か。
今すぐ糾弾したい気持ちはあるけれど、この状況でそれはまずい。
だって円華ちゃん。キミ、またウソついたよね?
ゾンビの動きを止める異能だと言ったときだけ、キミは赤い光を放ってたから。
■
映画特撮ドラマアニメ漫画ゲームラノベ、クラスのみんなと話をしていればある程度の知識は自然と入ってくる。
私個人としては、新作スイーツとか最先端コスメのほうが興味あるんだけど、
休み時間にオタク共に話しかけてやると、壊れた蛇口みたいにドバドバとどうでもいい豆知識を吐き出してくるんだよね。
このチカラ、学校でもたびたび流行ってる、少年漫画とか"異世界"ものに出てくる能力そのものだよね?
チート……って呼び方はオタクたちと同類に思われそうだから異能と呼ばせてもらうけど。
最終的な勝ち負けはともかく、あの手の物語でやってることは知識と応用の応酬。
何ができるかは、知っておかないとダメだよね。
備えあれば嬉しいな。私の好きな言葉だよ。
最初にしっかり基盤さえ作って備えておけば、ラクでもズルでもなんでもできるってこと。
クラスの立ち位置確保も、友達作りも、全部そう。
異能だってその辺は違わないでしょ?
私が誠意を見せて『お願い』すれば、みんなが私の言うことを聞いてくれる。
お友達として、私の言うことを聞いてくれる。
ウソはついていないからいいよね?
止まる以外のことも『お願い』できるけど、アイコンタクトでいいけど、そんなのは些細なことだよね?
もちろん、友達や仲間のことも知っておかなくちゃダメ。
だからお願い、先生。
「私の異能はさっきお見せしたようなものなんですけれど、
先生の異能ってなんなんですか?」
私に先生の異能、おしえて?
「……」
どうしたんですか、先生?
「僕の異能は、人間が光って見える異能だ。
正気を保った人間であれば、遠くにいてもぼんやりと光が見える。
ゾンビたちには効かないのが欠点だけどね。
きっと、生徒たちを守るために、偵察のような異能を授かったんじゃないかなって思ってるんだ」
……。
「そう、ですか。先生らしいです。
とても優しくて、いつも私たち生徒のことを考えてくださってて、本当に尊敬します。
あ、光が見えるってことは、小屋のほうってどう見えてますか?
窓とかから、光漏れてたりしませんか?」
「ああ、それは大丈夫そうだね。僕の異能だと、誰かが窓からこちらを見てるって感じはなさそうだ。
じゃあ、僕が正面の扉を担当するから、環は窓のほうから、中に人がいないか見てくれないかな。
万が一誰かいても、それで対処できるはずだ。
大丈夫、僕は君を信じてるからさ」
「わ、分かりました。なんとか、やってみます!」
……。
……先生。
異能を語るときさ。
なんで目、逸らしたの?
なんで瞳が右上に揺れたのかな?
口を開くまでの不自然な間、あれってさ、どう答えようか考えたってことじゃないですか?
準備してなかった? それとも、私の異能にびっくりして、考えてたウソがどこかに飛んで行っちゃった?
先生さ。
もう自分の異能で何ができるか、分かってるよね。
本当に人が光って見えるだけの無害な異能なら、先生が言葉通りの生徒思いで誠実な人だったら、
この緊急事態で、わざわざ今まで異能のことを隠し通さないと思うんだ。
それとも、16年しか生きていない小娘ならだまくらかせるとでも思ってた?
それはちょっと、悲しい気持ちになっちゃうな〜。
■
(生徒の真剣なお話を誤魔化すなんて、ひどい先生だよね)
(また僕の言葉を信用してくれなかったんだ。先生を信用しないだなんて、悪い生徒だなあ)
(ねえ、先生?)
(ねえ、円華ちゃん?)
((お前はウソをついている。だからお前は信用できない))
■
結局、母屋の中は空振りだ。納屋にも車庫にも、誰もいなかった。
あと円華ちゃん、僕から言わせてもらうとね、その異能使っておけば、誰かいてもどうとでもできるんじゃない?
それとも、人に使ったことがなかったから僕で試してみたりした?
声か。視線か。何秒有効か。そんなフィードバックが欲しかったのかな。
それと、自分から異能の話を振っておきながら一部を隠してる件。
自分から切り出せばそれ以上は追及されない。
そんな魂胆が透けて見えるよ? 僕じゃなきゃ見逃しちゃうけどね。
母屋は地震の影響か、ずいぶん荒れ果てているけれど、武器や食料は無事らしい。
高校からは慌てて逃げてきたからね、僕も円華ちゃんも、小屋にあったものを使って再度荷造りしてる。
殺し合いならここで毒を仕込むとか定番だけど、ここに来たばかりでいきなり毒なんて調達はできないだろうし、ずっと手元に荷物は置いてあるからね。
そこの心配はしていない。
あと、少し前までは確かに誰かがいたらしい。
避難所へ救護活動をしに行くということと、ヒグマが山から降りてきていることへの注意書きがあった。
ヒグマ……?
「ヒグマってなんなんだ……?」
「いるらしいですよ、ヒグマ。
猟友会の六紋名人が見つけたそうですし、今の二年生の人たちも騒いでましたよ。
それに山折村の七不思議にも出てくるくらいですしね」
「いや、ナチュラルにいるらしいって言われても困惑するんだけど?
あと学校の七不思議じゃなくて?」
「山折村が小さな村だからじゃないですか?
湖のワニなんてのもありますし。
プールの代わりに湖使ってますから、あそこも学校扱いされてるのかもですけど」
「ちなみにヒグマの七不思議ってどんなやつ?」
「夜に学校の裏山に入ると、笑顔を浮かべた巨大な人面ヒグマが現れるそうです。
『風さん風さん、ご所望のハチミツです。どうかお帰りください』ってハチミツを差し出せば立ち去っていくそうです」
その七不思議を考え出した人は一体何を考えていたんだろう?
個別のシチュエーションは定番に見えるけど、構成のパーツがおかしくない?
「一時期は肝試しの定番だったんですけど、猟友会の人たちに激怒されて廃れたみたいです。
それからは、『真夜中、霧がかった日に山に入ると化け物に襲われて、歩いても歩いても山を抜けられなくなる』
っていう新しい七不思議ができたんですよ」
「激怒されたの?」
「……怖いですよね〜。荷物にハチミツ入れておきますか?」
「それはクマじゃなくて猟友会の人たちが怖かったってことだよね?」
最初にそのウワサ流したの、絶対村の偉い人の誰かでしょ。
学校の裏山ってあたりも子供の侵入防止用っぽいよね。
というかその七不思議さ、『村の地下に秘密の研究所がある』みたいなの、なかった?
にしても、ゾンビだけでも手を焼くってのに、ヒグマとかほんとに勘弁してよ。
ほんとこの村なんなんだ。もう街に帰りたいよ。
ヒグマの目撃地がこの近くじゃないことだけは救いだけどさ。
手紙によれば、昼間の時点での目撃箇所は村の南西にある高山の麓。
猟師小屋にあった山折村周辺の古地図。
ハンターマップには載っていない、細い獣道まで細やかに描かれている地図。
その南西部にバッテンが付けられているから。
だから、こっちのほうにはヒグマは当分来ないはずだよね。
外に出たらいきなりヒグマに出くわしてゲームオーバーは笑えないけど、可能性としては低い。
むしろ、危ないのは小屋の中のほうだ。
円華ちゃん。
今、キミは僕を信用していないよね。
異能を語ったとき、僕は敢えて不審な動きを見せた。
敢えて、不自然な間を取った。
口では尊敬していると言いながら、心は正直だね。
キミはあれからずっと、赤く光ったままだ。
異能がなければ気付かなかっただろう。
女の子って本当に怖いなあ。
五秒といえども、動きを止められたら太刀打ちできない。
けれども、キミは僕の言葉を信用していない。
だから、今は僕の異能を警戒してるんだろう?
キミがウソをついたように、僕もウソをついてるって考えるはずだから。
「環。そろそろ午前1時もまわるだろう?
先生が見張っておくよ。一度仮眠でもとったらどうだ?」
「あっ、そうですね。ありがとうございます。
それじゃ、夜更かしはお肌にも悪いですし、先に休ませてもらいますね、先生」
■
うわ、なにこれ、お酒の匂い?
猟師小屋の奥のお座敷に入ったとたん、宴会のときによく漂ってる香り――
甘いような辛いような、胸に溜まるような重い香りが鼻をつんざく。
見回すと神棚が地震で倒れてて、お供えのお神酒が割れて、畳や散乱した毛皮に染みわたってた。
白熱電球点けてたら延焼しちゃいそう。
寝室としては環境サイアク。
祀ってるのって山の神とかいうやつだよねえ。
鴨出のオバサンが何かにつけて吹聴してる神さまでしょ。
うさぎちゃんとこの神社で毎年六月の終わりごろにやってる鳥獣慰霊祭関係のやつ。
憑代役の女の子の前で剣舞とかやってる物々しい儀式。
絶対山の神って祟り神だよね。祟りを鎮めるために山のどこかに祠立ててそうだよね。ここで寝てると祟られそう。
作業部屋から持ち込んだザックを開ける。
音の違うたくさんの熊鈴に、拝借してきたくくり罠、あと寝袋。
まあ、女子として手鏡の一個くらいは持っていきたいし、火種なんかも何かと入り用だろうし。
ヒグマに火って効くんだっけ? 知らないけど。
布団は押し入れの中、カビ生えそうだけど引っ張り出して、中央に敷く。
空気こもりそうだし、窓を背にして扇風機を最大風量で回しちゃえ。
ぶおおおっと大きな風斬り音が鳴り響くけど問題ないよね。
部屋の窓ガラスは割れてて、人間一人十分通れるスペースがある。
虫とか入ってきそうだなあ。
部屋のドアにカギがないのも、というか障子にカギなんてあるわけないんだけど、それもちょっと嫌だよねえ。
窓の向こうには、採光窓すらない大きな納屋の入り口があるし、
ほんとに真っ暗で、あそこから誰か覗いてそうで怖いよねえ。
外套とか足袋とか食料は山狩り――いや、ヒグマ狩りのために準備されたものなんだろうね。
マスクもあったけど、これは感染症対策かな。今さら感染症もクソもないけど。
熊狩り用の銃も用意されてたようだけど、私のザックには入れてない。
だって私、銃なんて使えないもん。
銃なんて初見の人が一日二日練習して当たるものじゃないでしょ。
誰かにお願いして撃ってもらう選択肢もあるけど、
そのために2.5リットルペットボトルの二倍くらい重いものを持ち歩くの、ちょっとナンセンスかなって。
それよりは、ユーティリティナイフや剣ナタのほうがまだ使いやすいと思う。
持ってきたのかって? そんなの使うなんて野蛮じゃない?
私がナイフ振り回したところで、古民家に立ち並ぶ武士養成所の皆々様がたに通用するわけないじゃない。
それよりは、誰でも雑に使えて雑に効果的なものがいい。
それこそが護身武器に求められる規格だと思うんだよね。
そんな都合のいいもの、あるんだよ。
ポリスマグナム。
米軍御用達、お高いお高い1桁万円の催涙スプレー。
男社会の猟友会にも人間(♀)の事務員はいる。
意識は高そうだから持ってると思ってたし、ロッカーを開けたら案の定ごろごろっと出てきたよ。
別に事務員はクマ狩りなんて行かないでしょ。
99年使われないまま付喪神になっちゃうなんて、とっても残酷。
私が消費してあげて、環境スリーアールの精神でSDGsに貢献するの。
催涙スプレーは女の子のマストアイテム。常識だよね。
自分に使うのはアルコールスプレー、他人に使うのは催涙スプレー。常識だよね。
これがなきゃ、夜道なんてとても歩けない。
今日だって持ち歩いてたんだよ? 朝菜ちゃんにぶん投げられて水路にどんぶらこしちゃったけれどさ。
――あの子は前も腕をクロスさせてスプレー二刀プッシュ! とかやらかして催涙スプレーの威力を私に刻み込んでくれたけどさ。
山折村は廃棄物処理場なんかじゃないんだよ?
噂じゃ二年の先輩の実家がそんなことやってるらしいけど、それを聞かなかったことにしても、
11月25日違反が平然と闊歩してるのはひどいと思わない?
『俺も君たちとお友達になってあげるんだな♡』じゃねーよ! 私のほうからお断りだよ!
『むふん、パパって呼んでくれてもいいんだな♡』じゃねーよ! 金積まれても願い下げだよ!
『俺の好意を断るなんて、礼儀がなってないんだな。これは分からせてあげないといけませんなあ』じゃねーよ! 礼儀がなってないのはお前だろ!
貴方様のご劣情に対して総合的に検討しました結果、ご期待に添えかねました。
警察に相談することになりましたことは大変心苦しい限りでございますが、貴方様の今後のご冥福をお祈り申し上げます。
本ッ当に治安悪いのがいるよね。
そんな場所なだけに、山折村クリーン作戦であの辺の住宅街の路地裏に行くときなんか、催涙スプレーは絶対必要だよ。
ワンプッシュで手軽に国際貢献。うれしくて涙が出ちゃう。
そしてここにあるのはそんな生易しいものじゃない。
グリズリーすら泣きながら緊急搬送されるクマ専用の超強力版。
ゴキジェットならぬクマジェット。
部屋の隙間から噴き出されたら、異能とか関係なく悶絶する。
まともに吸い込めば、目も開けられない息もまともにできないと思うなあ。
そのまま一昼夜のたうち回って、あとは野となれゾンビのエサとなれ、ってヤツ?
ハンカチ? マスク? 関係ない。
固定ホルダー? セーフティピン? 関係ない。
だって、『お願い』すればそのマスク外してくれるもんね?
『お願い』すれば、ピンを外すまで待ってくれるもんね?
真鍮の鈴に細いテグス糸を通し、取り付ける。
飲食店の扉を開けたときにからんからんと鳴りわたるベルをイメージして、音が響くように取り付ける。
先生が何か企んでるのは分かってるから。
こういうとき、仲の良いお友達がいたら先生の様子を見てきてもらうんだけどなあ。
実際、誰がどんな異能持ってるかって分かりっこないじゃない?
呪詛返しみたいな、私を殺すとお前も死ぬぞ、なんて異能の人がいたら最悪じゃない?
だからそういうことはできるだけ誰かにお願いしたいんだけど、誰もいないから自分でやるしかないんだよね。
ほんと億劫。
別に先生を信じていないわけじゃないよ?
でも、私たちはちょっと仲良しが足りないみたいなんだよね。
先生だって大人の男性だし、万が一があったらイヤじゃない?
頼りがいのある大人の男性は嫌いじゃないけどお、ナイフ隠し持ったボディガードとか怖いじゃない?
裏側にどっぷり毒の塗られた盾ってヤでしょ?
だからいざというときは身を守らせてもらうけど、仕方ないよね。
地震こそあったけど、朝起きて普通に一日生活して、お昼寝もしないままもう日が回った。
生活サイクルの破綻は美容の敵、健康の敵。
だからありがたく仮眠させてもらうね。
寝袋に身を包んで、イメージする。
異能がもっと、もっと私に馴染むようにとイメージする。
脳により強く結びつくように、身体とより一体化するように。
虫の声を子守唄に、意識を深みへ深みへと沈めていく。
■
道端で力尽きてる二人。
僕の受け持ってる学年の生徒。
円華ちゃんとよく一緒にいた二人だね。
さて、何が起こったのか、藪蛇な詮索はしないけれどさ。
ヘタを打っていたら、僕もこの二人の仲間入りだったと考えておくよ。
『小屋の外に誰かがいるようだから、様子を見てくる。
もし戻ってこなければ、僕は死んだものと考えてくれてかまわない』
そんな建前以外のなにものでもない書き置きだけ残した。
猟師小屋にあった衣服をまとい、武器をいくつか見繕う。
ライフルは屋台のコルクライフルしか使ったことなくて、持っていくか悩んだけど、ないよりはいいよね。
そして、荷物を手に、暗視スコープを手に、足早に猟師小屋を離れた。
追いかけてくる様子はないし、考えすぎだったかもだけれど。
――そもそも考えすぎないといけない事態そのものがダメじゃない?
決して僕は円華ちゃんのことが嫌いなわけじゃないんだよ。
学校や村の噂に詳しいし、慕ってくれるし、見た目も十分かわいいしね。
けれど、……なんていうか、一緒にいて疲れるんだよねえ。
仮眠を取っていいと僕は言った。
そして、彼女は僕を信用していない。
だったら、眠ってる間に襲ってくるって考えるよね。
見張りしておきますから先生は眠ってくださ〜い! なんて言われたら僕だって同じこと考えるよ。
このまま何もせずに一晩過ごす?
そしてずっと気を張り詰めたまま、日中も過ごすかい?
いや、そこまでする義理なんてこれっぽっちもないでしょ。
所詮教師と生徒、僕にとってはただの商売客なんだしさ。
彼女さ、今きっとパトランプみたいに真っ赤っ赤に光ってると思うんだよね。
レッドオーシャンの中で我慢するよりは、やっぱりブルーオーシャンでしょ。
虎穴に入らずんば虎子を得ず、だっけ。
だとしたら、僕は兎の穴を探して兎の子を売って生きる。
円華ちゃん、僕たちは会わなかったことにしようか。
そのほうが、気疲れしないでしょ? お互いにさ。
フレネミーな子はしばらくお腹いっぱいだ。
美森ちゃんが適応できてたら便利だったんだけど、彼女ももうゾンビだからねえ。
もっと純朴で心から僕を慕ってくれそうな、青々と光ってる子、どこかにいないかなあ。
【B-6/猟師小屋/一日目 黎明】
【環 円華】
[状態]:健康、仮眠中
[道具]:ザック(手鏡、着火剤付マッチ、食料、ポリスマグナム(1秒×7回分)×2)、熊鈴複数、寝袋、テグス糸、マスク、くくり罠
[方針]
基本行動方針:他人を盾にして生き残る
1.襲撃警戒中
2.仮眠中
3.手駒を集める
【B-5/道はずれ/一日目 黎明】
【碓氷 誠吾】
[状態]:健康
[道具]:災害時非常持ち出し袋(食料[乾パン・氷砂糖・水]二日分、軍手、簡易トイレ、オールラウンドマルチツール、懐中電灯、ほか)、ザック(古地図、寝袋、剣ナタ)
山歩き装備、暗視スコープ、ライフル銃(残弾5/5)
[方針]
基本行動方針:他人を蹴落として生き残る
1.もっと信用させやすい人間を探す
2.捨て駒を集める
投下終了です
投下します
「大田原さん。今回の人選、何なんでしょうね。」
山折村へ突入する前に装備を確認してるときのことだ。
特に他愛のない些細な雑談を、念入りに確認する大田原へ振る。
今回の任務の人選について、成田なりに軽く考えてみていた。
別に人選に異論はない。単に突入する六人はどのような理由で選ばれたのか。
たまたまそこにある雑誌にクロスワードがあって手を出した、と言ったレベルだ。
大田原は有事の際、指示を仰ぐリーダーとして適任はないと成田自身理解してる。
未知なる異能による不意打ちにも冷静な対応ができることは間違いないはずだ。
総合的な能力面から言って、今回の任務で選ばれない道理はないと。
黒木は嘗て交戦したハヤブサⅢが山折村にいると言う確かな情報があった。
黒木曰く『間違いなくアイツは正常感染者だ』と言い切る根拠はともかくとして、
もしその時は面識のある彼女が最も立ち回りに優れてるので納得できる。
美羽は総人口は少ないと言えども、村の人数に対して僅か六名では手に余る数だ。
しかも正常感染者の能力次第では、六人だけではかなりの苦戦を強いられるだろう。
それだけの人数を対応できる体力や膂力を持つ彼女が抜擢されるのも妥当と言える。
乃木平は実力面で言えば六人の中で最も劣るところはあるが、
大田原程ではなくとも異能を相手にしても冷静に分析して立ち回り、
場合によっては引き際を見極める判断能力の高さから生存が期待できる。
広川は若手ながらも数々の実績を上げてきており、
今回の任務に参加させても問題ないと判断されたのはミーティングで聞いた。
なので、特に推測する意味がないため殆どノーコメントだ。
「別に俺を過小評価するつもりはありませんけど、
五十嵐やオオサキとか、他の方が適任だと思いますがね。」
成田は特に銃を用いた精密な射撃能力に長けた人物だが、
今回狙撃銃が持ち込めない都合、自分が選ばれる優先順位は下がると考えた。
オオサキは少年兵の経験から活きる勘が働く。乃木平同様に生存率は高いはず。
五十嵐は土地勘があるとのことなので、立ち回りにおいて強みになるはずだ。
射撃能力だけで二人を押しのけられるかと言われると、少し怪しくも思う。
「オオサキは前の任務の怪我がまだ治りきっていない。
五十嵐は土地勘があるはずだが、地縁はないとも言っていた。
別の場所との記憶の混濁がある可能性を考慮して、今回は外れたそうだ。」
「その空席に俺ってことですか?」
「いや。今回は弾の補充が全く期待できない以上、
一発一発を無駄に使わない必要がある。俺はお前だからこそだと思っている。
特に、自然による遮蔽物が多いトンネル周辺は、精密な射撃技術は特に有用だ。」
不愛想と思える返し方だが大田原とはそういう人物だ。
任務中はストイック。語り合う言葉は少ないものの、
彼と言う人物はその少ない言葉だけで何となくわかる。
「なるほどね、ちゃんと意味があると。
ま、選ばれた以上仕事はしますよ……存分に。」
装備の確認を終えて席を立つ成田。
好物の料理でも出されたかのように、鋭い瞳を輝かせながら。
◇ ◇ ◇
人は自分で見たものだけを信じることも多い。
震災にパンデミックと立て続けに起きた災厄。
たとえ放送や避難勧告が出されていたとしても、
一部の人はそれを無視して藁にも縋る思いで、
トンネルから抜け出そうとする人もいるものだ。
そういった考えの住人はいたようで、トンネル付近にもゾンビはいくら徘徊していた。
もっとも、崩落した事実であったのでトンネルを前に往生せざるを得なかったが。
(正常感染者はなし、と。)
首があらぬ方向へ曲がったゾンビを椅子代わりに、成田は周囲を見渡す。
ダブルで起きたパニックだ。人の心理は想像を超えたものになりうる。
そういうところもあってトンネル付近も確認することになったのだが、
残念ながら正常感染者らしい人の姿は何処にもなく徒労に終わった。
少し北上しながらバス停周辺まで到着しても、特に出会わず今に至る。
(遠くならどうだか。)
横転したトラックを横目に、
今椅子代わりにしている男が持っていた、
双眼鏡を片手に遠くの方を軽く見渡す。
狙撃銃の扱いに長けるので視力に優れてる彼は、
朝を迎えてないこの環境でも十分視認することができる。
(森の方に一人いたか。)
月明かりと言う恩恵も受けたお陰で、
木々の隙間から森を駆ける一人の姿を捉える。
黒い長髪に随分と身嗜みが整っている少女で、
人里から離れた場所を歩く恰好とは言い難い。
ゾンビ達と違ってはっきりと動いていることが伺える。
(行先は北か───ん?)
捉えた姿の口元には、赤黒い液体が多量に付着しているのに気づいた。
バーベキューでもやってソースを大量にかけた結果、なんてことあるわけがない。
見慣れてきた血だ。通常の返り血ではああはならないので、想像するに難くない。
あの感染者は生物を喰らっている。それが動物か人間かまでは分からないが。
ゾンビと変わらない行為をしているしおぼつかない歩き方はゾンビに見えたものの、
途中から機敏な動きで森を駆けるその姿はゾンビとは思えないので、
正常感染者であることは察せられた。
「随分野性味があって、狩ってみたさはあるな。」
遠巻きなので分からないが、
その端麗な姿なのに動きは途中からは獣の如き動き。
狩りの対象としては珍しくて軽くそそられるが、
(……いや、少しあれは泳がせてみるか。)
殺すのは少し待ってみた方がいいと判断する。
と言うのも、何を発揮するかまでは分からないが
相手は何か生物を食べることがトリガーの異能なのだろう。
口元の血を考えると、生きたままか死んで間もない奴から喰ったはず。
踊り食いと言った文化は確かに人間にも存在していることではあるが、
その踊り食いだって寄生虫感染の恐れがあるもので、躊躇われる行為だ。
血抜きもされない生物を食うのは、普通の人間ではありえない行為になる。
にもかかわらず対象は実行している様子。通常の思考回路では到底できない。
あれが他の正常感染者と合流したところで、共に行動することは難しいだろう。
この状況ではたとえ動物だったとしても、人を喰らった危険人物と思われやすい。
そうなれば感染者同士の戦いが勃発する可能性の方が高いはずだ。
「此方にとって都合がいいなら、越したことはないな。」
特殊部隊の人数は僅か六名、かつ黒木は別任務で仕事がしづらい。
村の連中同士で自ら数を減らしに行く可能性のある人物を狩るのは、
優先順位を考えると放っておく方が寧ろ利益に繋がるだろうと判断した。
任務の最優先は確かに女王感染者となる人物を見つけ殺すことではあるが、
あれが正常感染者に向かって戦いを挑むようであればそれに越したことはない。
もしあれが女王感染者であれば退治されてしまえばそれで事態は解決。
違ったとしても、女王感染者を倒して事態を終える可能性もある。
特殊部隊のような洗練されてこそいないものの、
軽やかな身のこなしで森を駆ける姿は常人離れしている。
ゾンビ程度ならなんなく蹴散らせてしまうのだろう。
無論、あれを放置して余計な犠牲者は出るのは確実だ。
───で?
彼が犠牲者に抱くのは所詮、それだけにすぎない。
多少の犠牲は哀れむことはするが、躊躇うこともなく。
SSOGは単に人を守る仕事と言うわけではない。
結果だけ見れば多くの人々を守ることだとしても、
やってることは結局汚れ仕事の一言で片付くようなものだ。
広川はこの仕事を未だ英雄視してるが、そんなものは程遠い場所にある。
もっとも、成田の場合は寧ろ汚れ仕事だからこそ楽しんでる節はあるが。
(念の為追っておくとするか。)
周辺にターゲットはいなかったことだ。
現在の目的地がない以上、今は彼女を追うこときめた。
正常感染者同士の戦いで漁夫の利も十分に狙えるはずだ。
任務遂行の為であれば冷徹かつ非情になって行動できる。
それがこの男、成田三樹康の一番の強みとも言えるだろう。
【G-4/バス停近く/1日目・黎明】
【成田三樹康】
[状態]:健康
[道具]:防護服、拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフ、双眼鏡
[方針]
基本.女王感染者の抹殺。その過程で“狩り”を楽しむ。
1.「喰らうことで発揮する感染者(クマカイ)」を追う。
2.追った後感染者と戦うようなら放置。和解するなら排除、状況次第で漁夫の利も視野。
3.「酸を使う感染者(哀野雪菜)」も探して置きたい。
[備考]
※ゾンビ化した愛原叶和の死体を確認しました。
以上で投下終了です
クマカイの描写がほぼ皆無なので予約にも状態表も入れませんでしたが、
問題がありましたら破棄でお願いします
投下乙です
>お前はウソをついている
腹黒同士の腹の探り合い、地の文のノリからも性格の悪さが伝わってくる
結局けん制し合ったまま物別れ、まあ利用するなら同族より騙しやすい人間の方がいいのはそりゃそうよ
共に武器を手にして異能と合わせて強力な使い方はできそうだけど、怪物だらけのこの村でどこまで通用するのか
>追跡者
SSOGの選出理由が知れて面白い、意外と成田さん自己評価そんなに高くないのね
危険人物を泳がせる方針はクレバーな判断
生き残った特殊部隊でキススコアついてないのは成田さんだけなのでクマガイを利用した成田さんの活躍に期待
それでは私も投下します
山腹にあるその神社は村の中でもひと際高い場所にあった。
ご利益があるのかすら怪しい古いばかりで寂れた神社である。
誰も喧伝しないから村民の誰も何の神様を祭っているかも知らない。
辿り着くまでの長い階段のせいか村人すらろくに寄り付くことがなく、参拝客より野山から降りてくる動物の方が多いだろう。
そんな過疎化した村の中でも辺鄙な場所に、郷田剛一郎は足蹴く通っていた。
昔から、ここから見る景色が好きだった。
山腹にある境内からは村の全貌を見渡せる。
周囲を壁のように山々に囲まれ、見えるのは自然と田畑ばかり。
そんな見どころのない風景だが、村は季節によってさまざまな顔をのぞかせていた。
春は桜吹雪が舞い散り。
夏は眩い新緑に彩られ。
秋は紅葉が山を染めた。
冬は深々と降り積もる雪が世界を白に染める。
そんな広大な自然を見ているだけで、胸の中が満たされてゆく。
だが、広大な自然が広がると言えば聞こえはいいが、何もない寂れた田舎町。
立地の関係から交通の便は悪く、村に続くのは車も通れない小さなトンネルが一つだけだ。
トンネルの外まで徒歩で移動しても、その先にあるバス停から出ているバスは1日2本。
大人の手を借りず子供が村の外に出る方法は殆どなかった。
これだけ不便な上に、名産や名物もないのだから観光客が訪れる事もない。
山以外何もないと誰もが口にする、寂れてゆくだけのよくある限界集落。
それが我が故郷である山折村の現在だ。
将来は村を出て大きくなって戻ってくると幼馴染の一人は言った。
頭のいい男だ。どこに行っても成功するだろう。
将来はこの村を都会にも負けぬほど盛り立てると幼馴染の一人は言った。
有言実行の男だ。必ず成し遂げるだろう。
共に村の発展を願いその決意を誓い合った。
だが、剛一郎は違う。ありのままのこの村を愛していた。
この村を離れようとも、この村を変えようとも思わない。
その郷土愛だけは誰よりも強かった。
この村の歴史。この村を育む自然。この村に生きる人々。
この村の何もかもが、愛おしい。
この境内から村を見渡しているとその愛情を実感できる。
だが、剛一郎が神社に足気く通っていた理由はそれだけではなかった。
『ゴウちゃん』
紅白の巫女服を纏った少女が名前を呼ぶ。
月の女神も怯むほどの美貌を持った村一番の器量よし。
同世代の誰もが彼女に夢中になった。村のマドンナ。
そのご多分に漏れず、剛一郎もその一人だ。
男女の駆け引きなど分からぬ剛一郎であったが。
野山で摘んだ花を送り、慣れぬ文をしたため、不器用ながらにアプローチを繰り返してきた。
同じく彼女を落とさんとする悪友たちと競い合い、共に輝かしい青春を過ごした。
そうして、学生生活も終わる18の秋。
春には彼女は大学進学のため村外に移住し、剛一郎はこの村に残る。
村の発展に寄与するため地主である両親の土地を使って商売を始めるつもりだ。
大学を卒業すれば彼女も故郷に戻ってくるかもしれないが、未来のことは分からない。
実際、進学ために村外に出て帰ってこない若者は多い。ともすれば今生の別れになるかもしれない。
その前に、剛一郎はその思いを打ち明けようと、この境内で告白に至った。
『ごめんなさい』
だが、幼少の頃からの想い人から帰ってきたのは拒絶の言葉だった。
『だって、あなたの一番は私じゃないもの』
そんなことはないと言いたかった。
だが、その言葉は喉に痞えたように出てこない。
言葉を詰まらせる剛一郎の様子を見て初恋の君は儚げに笑う。
『私は私を一番想ってくれる人と一緒になるわ。
だから、ゴウちゃんはゴウちゃんの一番を大切にしてね』
太陽の沈む夕暮れ。
村の全てが朱に染まる。
愛すべき村を遠く背にした彼女の姿を、今もはっきりと覚えている。
■
「えぇい!! 何を呆けてやがるんだ俺はッ!?」
剛一郎は気合を入れなおすように頬を叩く。
大事な親友の娘が危険な場所に向かおうとしているのに、何を呆けているのか。
自らの尻を叩く様に喝を入れた。
春姫は研究所に向かうと言っていた。
剛一郎が呆けていた間にかなり先には行ってしまっただろうが、行き先は分かっているのだ。
追いつけるかどうかは分からなくとも、追いかけることはできるはずだ。
走る。
この村を守護りたいという思いに嘘はない。
だが村を救うために村人を殺さねばならない。
無意識に目をそらしていたその矛盾に目を向けさせられた。
きっと春姫の言う事は正しい。妙な陰謀論めいた話は置いてくにしても。
走る。
自身の情けなさに反吐が出る。
だからと言って足を止めてどうする。
考えるよりもまず足を動かす。
それが郷田剛一郎という男だったはずだ。
愚直にも村を守護るべく駆け抜けてきたのではなかったか。
村の事であれば隅から隅まで知っていた。
足元の見えない夜道を考え事をしながらでも走り抜けられる程に、勝手知ったる生まれ育った我が故郷。
その未曽有の危機に自分はいったい何をすべきなのか?
答えの出ないまま夜の道を駆け抜ける。
そうして走っているうち、程なくして春姫の背中を捉える事が出来た。
追いつけないかもしれないという予想に反して、すぐに追いつけた理由は何のことはない。
春姫が急ぐでもなく悠然と道なりに歩いていたからである。
体力測定の50m走を歩きで突破したというのは今でも語り草だ。
世界が変わるほどの事態に巻き込まれても彼女は変わらず神楽春姫であった。
「おい。春ちゃん! 待ってくれ!」
大声で呼び止める。
春姫は歩を止めるでもなく視線だけを背後にやって追ってきた剛一郎の姿を認めると、不愉快そうに端正な顔を歪めた。
「問答は終わったはずだが? 妾の言葉が分からなんだか?」
「ああ全然わかんねぇよ! 俺は村を守護りてぇ! そのために俺たち協力すべきだろう!?」
村を守護りたいという気持ちは間違いなく本当だ。
己に矛盾が在ろうともその気持ちはだけは変わらない。
下らない問答を繰り返そうという剛一郎に春姫はこれ見よがしにため息をついて、相手の愚かさを嘆くようにやれやれと頭を振る。
「汝は人語を解さぬ猿か? それとも――――」
春姫はようやく歩を止めて振り返ると、鞘から引き抜いた宝剣の切っ先を突きつける。
敵意を向けるその眼光は、なまじ整った顔をしているだけに見る者を怯ますだけの迫力があった。
「女王である妾を討つ覚悟ができたのか?」
「…………できねぇよ。できるわけがねぇ!!」
剛一郎は拳を握り締め首を振る。
大切な親友の娘にして愛すべき村の民。
それをこの手で殺すことなどできようはずがない。
そのどちらも剛一郎の中の真実だ。
だからこそ、その矛盾は男を苦しめる。
「異な事を。村の守護者を気取るならば、女王を討つは必定。貴様のソレは逃げでしかない」
春姫は本気で女王を自称しているのだろうが、春姫が女王であるかどうかは問題の本質ではない。
問われているのは、本当に村民に女王がいた場合、剛一郎はどうするのかと言う点だ。
外敵を殺し、殺し尽くした先に、残っているのは村民だけとなった場合に、剛一郎はどうするべきなのか。
未だその答えは出ていない。
その迷いを示すように郷一郎は僅かに視線を逸らす。
「まるで怯える羊の様よな、瞳に迷い揺れておるわ。
迷い子なれば導きもしようが、老爺に呉れて遣る慈悲があると思うてか?」
殺すつもりであれ、守護るつもりであれ。
迷いを抱えた半端者はその御前に立つ資格すらない。
女王はそう告げていた。
「善行であれ悪行であれ、己が行為に曇りが無ければ迷うまい。
迷うのならば、そもそも根本が間違っているのだ」
根本が間違っている。
その言葉は正鵠を得ているようで、どこか見当違いなような気もする。
そもそも根本とはなんだ。この村を愛するこの心か。
「……ちがう、春ちゃんそれは、」
それだけは違うと、そう言おうとして。
それを遮るような乾いた炸裂音が響いた。
同時に、何かに弾かれたように目の前の春姫の体が倒れた。
「………………春ちゃん?」
呆けた声で呼びかけるが反応はない。
地面に突っ伏したまま、ピクリとも動くことはなかった。
震える視線を上げて、音の発生源を見る。
そこには。
「――――2匹の標的を発見。排除を開始する」
ガスマスクをした迷彩服の大男がいた。
その手には硝煙を上げる拳銃が。
力なく倒れる幼少の頃より知る少女。
そして、目の前には彼女を殺した外界より来た大男。
それを認識した瞬間、剛一郎は己の中で何かが切れたのが分かった。
「貴ッ様あああああああああああああああッッッ!!!!」
叫ぶ。
喉から血を吐くように喉を震わす。
思考が、理性が、正気が、振り切れる。
その叫びに呼応するように全身の筋肉が膨張を始めた。
全身に血管を浮かび上がらせ、肌は赤黒く変色する。
服を破る程に肥大化した筋肉は鋼鉄よりも強靭であり、柳のようなしなやかであった。
「ぐぅるうううううううううううううううううううう!!」
獣のような嘶きを上げて、剛一郎が手にしていた丸棒材を握り締める。
そして超握力によってヒビ割れたソレを、槍投げでもするように放り投げた。
弾丸もかくやと言う速度で投げ放たれたその投擲を、殊部隊の男――大田原は冷静にスウェーバックで避ける。
虚空を通り過ぎた丸棒材が漆黒の夜闇に消えてゆく。
だが、放たれたのは丸棒材だけではない。
その後を追って放たれたるは、通り過ぎた全てを捻り潰す人間砲弾。
異常筋力による人間の速度を超えた踏み込みにより地面が砕け、破片と共に砂埃が舞う。
余りに異様なソレを前にしながら、大田原は慌てるでもなく僅かにサイドステップを踏んだ。
人間砲弾を迎え、持ち替えたナイフですれ違いざまに胸、脇、鳩尾の三カ所を刺突した。
「…………分厚いな」
ただ事実を確認するだけの呟き。
分厚い筋肉の壁に阻まれ、ナイフによる刺突は臓器に届いていない。
通り過ぎた人間砲弾は五指で地面を削りながら静止し、突き立てた指を軸にクルリと獲物に向けて反転する。
「ふっしゅ――――――ッ!!」
砕けんばかりに食い縛った歯の間から、燃えるような荒い息を吐く。
ドクンドクンと脈打つ赤い肌、ゾンビとは違う意味で正気を失った狂戦士が村に放たれた最強の刺客へと襲い掛かる。
「ぐぅおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
雄叫びと共に放たれる拳の連打。
その拳は全てを打ち砕く破壊の鉄球である。
一撃でも掠ればそれだけで人間など容易く絶命せしめるだろう。
荒れ狂う死の嵐を前にして、正気を保てる人間などいようものか。
一つしくじれば死ぬ、その恐怖こそがミスを誘発する死の病だった。
だが、対するは日本最強。
この男に限ってはその病に罹ることはない。
自衛隊最強。一つの国の頂点に立つ武力。日本国の守護者。
その誇りこそが死の病を跳ねのける特効薬である。
荒れ狂うその領域に臆することなく、大田原は前へ。自ら一歩を踏み込む。
振り回された鉄球が如き拳をダッキングにより紙一重で避けると、そのまま流れるように胴タックルへと移行する。
だが、赤き魔人は倒れず、堪えるように踏みしめた地面に一文字が刻まれた。
タックルに失敗し、自身の胴に抱き着くように動きを止めた相手に向かって剛一郎はハンマーの様に握りしめた鉄拳を振り下ろす。
大田原は剛一郎の大樹のように分厚い体に抱き着いたまま、それを軸にくるりと回って鉄槌を避ける。
そしてそのまま背後へと流れるように回り込むと、その背に跳びついた。
足を絡め親に背負われた子の様な体勢から、蛇のように腕を絡ませ首を絞め上げる。
スリーパーホールド。裸締めとも呼ばれる締め技の一つ。
意識を刈り取らんとする責め苦から逃れるべく、剛一郎は狂ったように暴れまわる。
食い縛った口端から泡のような唾液を噴き出しながら背に張り付いた敵を引き剥がさんと藻掻くその様は、まるで猛獣だ。
だが、背後の死神は剥がれる気配すらなかった。
完璧に決まった裸締めからは逃れる術はない。
武器の通じぬネメアの獅子を絞め殺したヘラクレスが如く。
三日三晩かかろうとも相手を絞め殺すまで離れることはないだろう。
だが、永遠に解除されないはずの裸締めが唐突に解除された。
裸締めを解いた大田原は、駆け上がるようにして巨大な剛一郎の背を蹴って跳んだ。
ムーンサルトのように弧を描いて後方に宙返りをすると、大田原が飛び去ったところに一瞬遅れて、月光のような銀の光が流れた。
両の足で着地する大田原。
そして、その目の前には筋肉を肥大化させた赤黒い狂戦士と。
その脇に居る、剣を振り下ろした体制のまま大田原を睨む少女の姿があった。
サラリと黒髪を振り乱す紅白巫女。
仕留めそこなった相手を忌々し気に睨みつけ、怯むことなく真正面から対峙する。
大田原はそれらを真正面か見据え、速攻には出ず様子を伺う。
慎重なスタンスを取るのは目の前の少女を測りかねていたからである。
ここまで大田原は天二、剛一郎と連続して『当たり』を引いている。
これが異能に目覚めた村民の標準なのか、それとも上澄みなのか、現時点では大田原には判断がつかない。
仮に女が同程度の実力者であるのなら、流石に2人同時に正面から相手どるのは少しだけ面倒だ。
異能を発動前に殺害できたのならベストだったのだが、少女には攻撃を躊躇わせる何かがあった。
「な…………ぁ…………」
その姿を見て変化があった自衛隊員だけではない。
暴れ狂うだけの狂戦士が動きを止め、少女を見つめる。
紅白の少女が映るその瞳に、徐々に正気の光が灯ってゆく。
「…………ぶ、無事だったのか!? 春ちゃん!」
「当然であろう」
さらりとそう言って、春姫は大田原から視線をそらさず自身の被っているヘルメットを示す。
そこには小さい黒墨のような弾丸の痕があった。
放たれた弾丸がたまたま手にしていた宝剣に当たり、僅かに軌道が逸れた弾丸がヘルメットに当たった。
その衝撃を頭部に受けて、暫しの間気を失っていたようである。
ヘルメットがなければ即死だった。
彼女が助かったのはそんな偶然であるのだが、彼女はそれを当然であると疑っていない。
自身の幸運を疑わない。これこそが彼女を彼女足らしめる強烈な自我である。
「この兜はうさぎより献された品ぞ、妾を救うは必然であろう」
「そうかい」
その一言に、剛一郎はふっと口元を緩める。
その瞬間。ああそうか、と理解した。
己の守護りたかったもの。
己の守護るべきもの。
それがいったい何なのか。
「春ちゃん。友達を大事にしなよ。一生の宝だ」
「………………」
春姫は無言のまま、ここにきて初めて大田原から視線を逸らし剛一郎を見据えた。
全てを見通す黒曜石のような瞳で剛一郎を見つめる。
剛一郎もその瞳を正面から見つめ返した。
今度は目を逸らさない。
月光を照り返す、流れるような黒の髪。
整った目鼻立ちは月の女神が怯む程に美しい。
意思の強さを示す様な眼光の鋭さは父譲りか。
竹馬の友と初恋の君よ。
あぁ本当に、どちらにもよく似ている。
性格だけは、どちらにも似ても似つかないけれど。
「不遜にもこの妾に手を出した不敬者を誅してやろうと思うたが」
春姫は興味を無くしたように踵を返し、宝剣を鞘へと仕舞う。
剛一郎に背を向けて、大田原からすらも完全に視線を切った。
「妾は行く」
言って、春姫は歩を踏み出した。
まるで夜の散歩でも興じるような足取りで、悠然と最強の隣を闊歩する。
戦場に似つかわしくないあまりにも自然な足取りに、大田原ですら呆気に取られた。
だがそれも一瞬。当然それを許す大田原ではない。
自身の脇を通り過ぎようとする少女にその魔手を伸ばす。
だが、その一瞬の隙間を縫って剛一郎が割って入った。
手四つの形で相手の動きを受け止める。
「ではな。村の守護者よ。その本懐を存分に果たすがよい」
「応ッ、ともさぁ――――――――ッ!!」
それだけを告げ、振り返ることなく村の始祖たる女王は行く。
その背後を守護るは国の守護者に比べてあまりにも小さい、小さな村の小さな守護者。
やはり自分は、これがいい。
剛一郎が守護りたかったのはこの村の未来だ。
愛する者たちを育み、愛する者たちの生きる、この村の全てが愛おしい。
だからこそ愛する村を守護るために、愛する村人を殺さねばならない、その矛盾が剛一郎を苦しめた。
だが、未来とは何だ?
子供を殺してでも村が在り続ければそれでいいのか?
違う。村の未来とは、それを担う子供たちの事だ。
今も育まれていた若者たちの友情に、剛一郎は未来を見た。
心に浮かぶのは、日が暮れるまで駆けまわった懐かしき田園風景。
現実も知らず、夢を語るだけの未熟な子供でしかなかったあの頃。
共に手を取り、輝かしい未来を夢見た
厳一郎は村長として村を発展させた。
急激な変化は多くの歪みを齎したが、ただ緩やかに滅びゆくだけだった村を守護った。
総一郎は村外で法律家として多くの経験を積み、妻の妊娠を契機に村に戻って来た。
急発展により多くのトラブルを抱えた村に法の敷き秩序を守護った。
ならば剛一郎は人を守護ろう。
それがこの村を愛する剛一郎の役割だ。
かつて自分たちが未来(そう)だったように、新しい未来を創るのは子供達の役目だ。
春姫のように若者のたちがこの未曽有の危機に立ち向かっている。
ならば、このVHは村の希望達が解決してくれると信じて、彼らの背を守護るが大人の役目だ。
今ならば迷わず、胸を張って言える。
この村を守護る事とは子供たちを守護ることだと。
「そうだろ、ゲンちゃん! ソウちゃん!」
手四つによる押し相撲。
これは純粋なる筋肉のぶつかり合いである。
単純に力の強い方が勝つという至極単純な原始の戦い。
老いたりとて剛一郎は腕相撲では負け知らずの力自慢である。
それが異能によるブーストを得たのだ、虎に翼といえるだろう。
剛一郎の体勢は前がかりに、最強の刺客たる大田原を押し切り始めた。
このまま敵を押しつぶして制圧できる。
その芽が見えてきた所で。
「スぅ―――――――――――」
ガスマスクの下で大きく息を吸うのが分かった。
瞬間。防護服をはちきらんばかりに男の筋肉が膨らむ。
「なっ……………くッッ!?」
押し相撲が徐々に盛り返され始めた。
異能により強化された剛力が、単純な筋力によって押し返される。
「こんな……………こと、がッ!!」
押し負ける。
極限にまで鍛え上げられた凄まじい剛力。
これに対するには剛一郎では力が足りない。
否。力はある、あったはずだ。
春姫が撃たれたと思ったあの瞬間の激昂。
今の自分はあの瞬間には程遠いと自分自身でも自覚している。
春姫の生存を確認して、剛一郎は冷静さを取り戻した。
それと同時にあの力の充実も失われてしまった。
今の剛一郎の心を満たすのは、この村の守護者としての誇りと決意である。
だが、それでは足りない。
疲れ切って糖分を求めるように、足りない栄養を寄越せと脳が疼く。
誇りや決意じゃダメなのだ。異能のトリガーはこれではない。
怒りだ。
煮え滾るような憤怒が足りない。
誇りを守るために、誇りは不要だ。
剛一郎の愛した村の未来。希望。子供達。
それら全てを奪わんとする外敵に―――――怒りを燃やせ。
「ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
剛一郎の筋肉が再び尋常あらざる隆起を始めた。
皮膚は徐々に赤に染まり、その筋量は異常なまでに変貌を遂げる。
例え敵が人の極限であろうとも、人知を超えた肉体に敵うはずもない。
相手を叩きつぶすだけの筋力を得て、力を力でねじ伏せようとしたところで。
ふっと押し合う相手の力が抜けた。
剛一郎の体がつんのめる。
その足を払われ、前へと籠めた強大な突進力をそのまま利用されるように、その体が空中に放り出された。
これが合気なる技の合理。
理性のない獣などなにするものぞ、『暴』を制するがための『武』である。
そのまま宙でクルリと回された体が、背から地面へと叩きつけられた。
地面を叩き割る程の衝撃。
しかし、狂戦士に痛みを感じる理性など無く、叩きつけられて程度で鋼の肉体にダメージなどない。
剛一郎はすぐさま跳ね起きようとするが、それよりも早く振り上げられた硬い靴底がその喉元に振り下ろされた。
ゴリィという何かが潰れる音が響く。
それは1度だけでは終わらず。2度、3度と繰り返し全力で喉を踏みつける。
もはや完全に喉を潰され絶命しているのではないかと思われたが。
容赦なく振り上げられた4度目が振り下ろされる前に、その足首が取られた。
「ぎぅぅぅるるるぉぉおおおお―――――――――――!!」
潰れた喉から声にならぬ獣の雄叫びを上げて、全身から湯気を挙げた赤鬼が立ち上がる。
100Kgを超える大田原の巨体をまるで人形のように振り回して、地面に叩き付けんと鉞の様に大きく振りかぶった。
そして全力で振り下ろす、その落下速度たるや、ジェットコースターの比ではなかろう。
だが、地面に叩きつけられる前に、大田原の体がすっぽ抜けたように宙に放り出された。
大田原は中空で反転して、四足獣の如き体制で砂埃を上げ地面を滑りながら静止する。
その片手には血の滴るナイフが握られていた。
見れば、先ほどまで大田原を握りしめていた剛一郎の右手小指が欠けていた。
玩具の様に振り回されているあの状況で、大田原は小指の関節を正確に狙って切り落としていた。
握ると言う行為において小指は重要な役割を持つ。
それが欠けた状態で掴んだものを振り回していれば、すっぽ抜けるのも当然と言うもの。
腰元のホルダーにナイフをしまった大田原は、素手で構えながら挑発する様に手招きした。
それに乗せられるように猛牛の如く理性を失った剛一郎が突撃する。
放たれる突撃の勢いを乗せた剛打。
城壁すら打ち崩さんとする威力を籠めた一撃だが、それは余りに直線的すぎる。
大田原はそれに合わせるように痛烈な掌打を放ち胸の中心を強打した。
周囲に衝撃波すら走る程の直撃はしかし。
「………………っ」
大田原のガスマスクの下の顔が歪む。
鋼の肉体にダメージを与えるに至らず、むしろ、痛んだのは衝突を真正面から受けた大田原の方だった。
痛みを感じぬ狂戦士は止まらず、懐にまで踏み込みすぎた大田原の体を捻り潰さんと、両腕を広げたところで。
「ッ……ガ……………ぽっ」
その巨体ががくりと崩れた。
見れば、その顔には先ほどまで以上の血管が浮き上がっており、赤く染まっていた顔色は青が混じり紫色になっていた。
打撃によるダメージではない。
大田原が狙ったのは呼吸である。
どのような超人であろうとも酸素が無ければ人間は活動できない
むしろ肥大化した筋量に比例した酸素が必要となる。
その供給を強制的に断ち切った。
何より異能が脳の拡張により発生する物であるのならば、酸欠による脳機能の低下はクリティカルな効果があると大田原は推察した。
その為に喉を潰し、相手の呼吸に合わせて肺を強打した。
銃もナイフも使用しなかったのは、単純に拳(これ)が一番内部に響くからである。
剛一郎が地面に上がった魚の様に酸欠に喘ぐ。
その無防備となった首元に、早打ちの様にナイフが引き抜かれた。
煌めく銀光が美しいまでの線を描く。
線が首元を辿り、全てを終えた大田原が背を向ける。
僅かに遅れて剛一郎の首から壊れた水道管の様に赤い血が噴き出した。
「が………………ぁ……っ」
大量の血を流し、剛一郎の頭から血の気が引いて行く。
激昂していた意識が強制的に引き戻された。
だが、取り戻した意識が抜け出す血液と共に急速に遠ざかってゆく。
薄れる意識。
怒りも遠ざかってゆく。
そんな中で、剛一郎が想うのはただ一つ。
――――山折村。
彼の愛する故郷。
彼の愛する者たちの生きる場所。
初恋よりも、友愛よりも、剛一郎の奥底には常にこの山折村があった。
己がどうなってもいい。
せめて、その未来だけは守護らねば。
崩れ行く全身に力を籠める。
筋肉の収縮で頸動脈を止血した。
一時しのぎにもならないだろうが、一瞬持てばそれでいい。
敵は剛一郎を仕留めたと思って背を向けている。
故に、勝機はこの一瞬。
この一瞬に命燃やし尽くして、相打ちになってでも止める。
この村の希望を、未来を、若者たちを守護る。
その為に、若者たちの未来を奪うべく送り込まれたこの男だけは――――!
(――――俺が、連れて行くからよぉ!!)
己が命を燃やし尽くし、相手を道連れにせんと男の背後から襲い掛かる。
その指先が、男に掛かろうとした瞬間。
ボッ。と目の前の男の体が掻き消えた。
それが身を捻る動作であると気づいた瞬間には、全てが終わっていた。
それは正しく、希望ごとへし折るような一撃だった。
振り返りざまに放たれた鉄拳は全ての歯をへし折りながら剛一郎の口内にぶち込まれた。
そして、そのまま顔面ごと地面へと向けて拳を叩き付ける。
届かない。
決意と狂気に異能と言う埒外の力を足しても、なお足りない。
この怪物を倒すには、怪物と同じく人殺しに人生を捧げた悪鬼でなければならない。
守護者は破れ、希望は潰えた。
否。違う。
そうではない。
これはただ老兵が敗れたにすぎない。
希望はまだ潰えてなどいない。
未来を担う若者たちがいる限り。
夢見た未来は。
次へ。
【郷田 剛一郎 死亡】
■
グポッという音を立てて、血と脳症のへばり付いた拳を引き抜く。
標的の完全なる絶命を確認。
周囲に伏兵や異変がないことを確認。
そこまでした所で、ようやく大田原は残心を解いた。
凄まじい執念の男だった。
あのスペックで理性を保っていたのなら大田原とて危うかっただろう。
おかげで随分と時間を懸けさせられた。
女が去って行った方向を見つめる。
道の先は夜闇に紛れて何も見えない。
あの調子で歩き続けているという訳もあるまいし、今から追ったところで追いつけはしないだろう。
娘が向かったのは南方である。
南部は成田と乃木平の担当区域だ。
北部は美羽と広川の、中央は大田原が一人で担っている。
特殊任務を与えられた黒木を除いた5人でローラーをかけられるとは最初から想定していない。
隊員の判断によるある程度のアドリブは許されているのだが、深追いをするよりは彼らに任せた方がいいだろう。
心技体において、大田原は自身を心が優れていると自負している。
大田原を上回る技を持つ成田や大田原を上回る体を持つ美羽がそう簡単に後れを取るとは思わないが。
ここまで連戦した敵の強さを考えると広川や乃木平は少々不安が残る。
特に状況を見極められる乃木平と違って広川に関しては精神面で心配なところがある。
万が一のことがなければいいのだが。
通信機器は封じられているが、ドローンに対するハンドサインによって本部への連絡は可能だ。
偵察用ドローンは妨害電波があるため遠隔操作ではなく特定軌道を巡る自動操縦である。
充電のため1時間ごとに回収され、その際に映像データを回収される。
隊員の安全を優先し、突入班の装備は防護服を突破できない軽装備に限定したが。
重火器とまではいかずとも、狙撃銃や短機関銃などの追加支援を要請すべきだろうか。
だが、高火力の装備が戦場に登場するのは自身に対してもリスクだ。
武器を暴発させる異能などと言うものがあった場合、自ら墓穴を掘る羽目になる。
……さて、どうしたものか?
【D-3/道/1日目・黎明】
【大田原 源一郎】
[状態]:右腕にダメージ
[道具]:防護服、拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフ
[方針]
基本.正常感染者の処理
1.追加装備の要請を検討
【E-3/道/一日目・黎明】
【神楽 春姫】
[状態]:健康
[道具]:巫女服、ヘルメット、御守、宝剣
[方針]
基本.妾は女王
1.研究所を調査し事態を収束させる
2.襲ってくる者があらば返り討つ
※自身が女王感染者であると確信しています
投下終了です
投下します。
魔獣と怪人。それに抗う者達。彼らにより築かれた魔人戦線。
絶望は深淵の如く深く。希望は遥か彼方。黎明は何処へ。
されど時は無情にも進む。常夜など存在しない。
夜が明け―――――。
◆
「ヴッ……ヴッ……ヴッ……ヴッ……!」
未だ薄闇が支配する家屋の中。短い唸り声が反響する。
音の主は片目を潰された巨大な羆――仮想名称『独眼熊』。
対峙するは銃を構えた登山服姿の女子高生――烏宿ひなた。
そして独眼熊の背後――居間の壁際に追い込まれた小柄な少女――字蔵恵子。
この三名が小さな空間にて新たな戦線を繰り広げる演者である。
銃を構えつつ水平に構えつつ、ひなたは独眼熊へとゆっくりと歩み寄る。
近づく度に羆は歯を向き、荒い呼吸音を上げて威嚇する。
嵐山岳、通称せんせー曰く、羆は小太鼓を叩くような音で威嚇するらしい。
即ち導き出される解は一つ。この魔獣は銃を知り、恐れている。
ひなたは猟師ではない。村唯一の女性猟師である漆川真莉愛に駄々を捏ねて銃を実際に構えさせて貰ったことはあるものの、引き金を引いたことは一度もない。
銃弾は残り四発。予備弾数は零。猟師ですらない己の武器はたったそれだけ。
だが、引くわけにはいかない。魔獣の背後には己が心から笑顔にしたいと願う少女がいる。
数メートル先でひなたの足は止まる。羆の唸り声もそれに伴う。
暫しの沈黙の後―――
「ヴオオオオオオオオオオオオオ!!!」
雄叫びと共に独眼熊は凄まじい速さで突進を仕掛けてきた。ひなたは両隣を素早く確認する。
片方の部屋は洗面所。袋小路での戦闘になるが、恵子と魔獣との距離を離せる。
もう片方は和室。広い場所で対応できるが、恵子のいる居間と引き戸一枚で繋がっている。即ち羆との戦闘区域に恵子を巻き込むことになってしまう。
到達まで一秒未満。選択肢を誤れば自分だけでなく、恵子まで羆の食料となってしまう。
「――――――ッ!!」
新米猟師未満は和室へと転がり込む。魔獣は獲物がいた位置で緊急停止する。
片膝立ちの体勢で銃を構え、引き金を引く。乾いた音が木霊する。
だが独眼熊の背中を掠め、体毛を削っただけの結果に留まる。
「……くっ……」
銃を持つ手が震える。
猟友会に足げなく通っていたお陰で猟に対する知識は豊富だと自負している。猟を生で見て、獲物の解体の手伝いもしたこともある。
だが肝心の経験は皆無。ずぶの素人が猟銃を持ったところで獣――熟練の猟師すら仕留めることが叶わなかった羆を狩れる筈はない。
隻眼の魔獣がこちらをゆっくりと向く。表情はよく見えないが自身を嘲笑っているようにも思えた。
「ッ!このッ!!」
構え、芽生えかけた恐怖を振り払うかのように引き金を引く。
「―――ヴォッ!」
銃弾は独眼熊の左前脚を掠め、肉を削ぎ取る。
銃の威力は魔獣の皮膚を貫くことができる。その事実にひなたは安堵する。。
独眼熊は後退るようにひなたとの距離を取り始めた。
弾は残り二発。次は頭蓋を貫通させ、仕留める。
知識だけの素人に自信が芽生え始める。銃を警戒する獣はひなたを睨めつけ、後退する。
片膝立ちのまま構え、引き金に指をかけ―――
「ヴァッ!!」
「―――うわッ!!」
羆がひなたに向かって何かを投げつける。驚き、銃弾が明後日の方向へと飛んでいく。
半ば反射的にひなたの視線は自身に投げつけられた物体へと向く。
「…………ヒッ……!」
それは頭蓋が割れ、ピンク色の脳が露出した女ゾンビの顔。
頬が齧り取られて舌が力なく垂れ下がり、破壊された眼窩から飛び出した神経が繋がったままの眼球がひなたを見つめていた。
それはまるでひなたの末路を暗示しているかのようだった。
「ヒナタサン、オナカスカナイ」
魔獣が語り掛ける。その時になって漸く目の前の獣がゾンビではなく自分達と同じ正常感染者だと理解した。
独眼熊は字蔵恵子との戯れの中、悪意を成長させた。
どのような行動をすれば人間は怯えるのか。また、人間が反射的に目を背けてしまうものは何か。
それは同族の骸。仲間の死骸を貪って腹を満たしたことさえある独眼熊にとってはとんだお笑い草だった。
既に魔獣にとって烏宿ひなたは天敵の猟師ではない。生意気にも銃を持っただけの獲物に成り下がった。
僅か数十分前にひなたと対峙した怪人、気喪杉禿夫は驚異的な身体能力の人型の異形であった。
あれがぶつけていたのは汚らしい性欲。嫌悪感こそ吐きそうなほどあったが、恐れは微塵も抱いていなかった
だが目の前に存在するのは人とは異なる存在。相互理解など不可能な魔獣。
「ブオオオオオオオオオオオオ!!!」
羆は二本足で立ち上がり、耳を劈くような咆哮を上げた。
銃を構えようとしていた両腕が下がる。少女の自惚れは砕かれ、心に絶望が満ちる。
弾は残り一発。知恵をつけた魔獣を撃退できる自信は既に失せた。
その様子に独眼熊は嘲笑し、一歩、一歩と恐怖を煽るように接近する。
そしてひなたの眼前に迫る。上から見下ろしたひなたの目には明確な恐怖が浮かんでいた。
その首を弾き飛ばすべく、前足を振り上げ――――
「――――うぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
叫び声と共に独眼熊の背後から小さな衝撃が伝わる。
体毛を掴む華奢で小さな手。それが魔獣の両側を掴んでいた。
愉しみを台無しにされかけた出来事に苛立ちを感じながらもそれを振り払おうとした瞬間。
「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
電撃が迸り、独眼熊の身体を熱で焼き始める。
自身の生を半ば放棄していたひなたはハッと正気を取り戻す。
彼女はこの電撃の正体を知っている。それはひなたが誰よりも幸せにしたいと想っていた人物。
「―――――恵子ちゃんッ!!」
◆
「てててめえええええええええええ!!!俺のアニカママに何をするんだなああああああ!!!!」
天を衝く怒号。怪物は頭から湯気を吹き出し吠える。
自分が美味しくいただく筈だった推しとのまぐわいをその相棒を名乗るイケメンに割り込みされたことに激昂した。
思い通りにならないと癇癪を起こす性欲だけの愚物には目も呉れず、青年の視線はわきに抱える痛々しく頬にガーゼを当てた少女に向けられた。
「…………怖かったか?」
「――――ッ!こわ……かったわよぉ……!!ビンタされて……お腹……叩かれて……臭いMonsterに……襲われかけて……!!
カナタが……死にそうになって……もう……会えないんじゃないかって……バカぁ……!!」
抱えられながら足をバタバタさせ、大粒の涙を零して罵倒する金髪の少女―――美少女探偵天宝寺アニカ。
口を大きく開けて嗚咽を漏らすその姿にいつもの生意気な態度や自信に満ち溢れた表情の面影はない。
弱り切った相棒の泣き声に黒髪短髪の眉目秀麗な青年――八柳哉太の表情が曇る。
次いでアニカを嬲り、泣かせた張本人である心も体も人とは思えぬほど歪んだ汚物――気喪杉禿夫に怒りと敵意の混じった視線を向けた。
「いい年したおっさんが女子供相手にイキってんじゃねえ!」
「黙れえええええええええ!!!アニカママは俺のハーレムに入る覚悟がないメスガキだったから分からせが必要だったんだな!!
てめえみたいな周りに甘やかされて生きてきたコネだけのクソガキに分かるはずがぁないんだなぁあ!!」
「ハァ……おっさんマジで終わってるな、頭」
顔を真っ赤にして駄々っ子のように地団太を踏み、アスファルトに罅を入れる気喪杉へ呆れと侮蔑を吐き捨てる。
肉欲と稚拙さを言葉と行動で露わにする男へ向ける哉太の目は冷ややかだ。
こんな器の小さく幼稚な人間など見たことがない。村のヤクザの跡取りですらもここまで酷い甘ったれではない。
「ブギイイイイイイイイイイイイ!!!」
豚着いたの断末魔を彷彿させるような叫びと共にオーク擬きは略奪者を排除せんと突進を仕掛ける。
目の前にいるのは自分が最も憎む存在である男。性欲の全てを排除したその突撃は先程の蹂躙とは比較とならない速度。
小脇に抱えたアニカから感じる不安そうな視線。それを肌で感じながらも迫る単細胞へ呆れた目を向けた。
「―――――けっ」
いくら速度があろうとも、技術のへったくれもなく軌道が丸分かりな突撃ならば避けるのは容易い。
吐き捨てと共にバディを抱えたまま跳躍し、タックルを仕掛けてきた気喪杉の脂ぎった禿げ頭を踏みつける。
鉢巻きに括り付けられている懐中電灯がスポットライトの様に二人の整った顔を照らす。
勢いを殺さずに怪人の体毛と垢で黒ずんだ背中へと足を進め、二歩歩いた後、再び跳躍。背後へと着地する。
激突先を失った猛牛はその勢いのまま、ブロック塀を破壊し、家壁へと突っ込んだ。
「―――――ッ!かはっ……!」
「カナタッ!!」
地に足を着けた瞬間、膝を起点に衝撃が全身に広がり、激痛が走る。揺れ動かされた内蔵の傷が開いて呼吸器を締め上げる。
抱えていたアニカを落とし、膝を着いて咳き込む。口を押さえた哉太の手には血がべったりと貼り付いていた。
その様子を見ていたアニカの顔が青褪める。
「ウソ……アンタの身体……まだ治ってないじゃない……!?」
「まだ……大丈夫だ……!!」
全身から発せられる悲鳴を無視し、立ち上がる。そして気喪杉が突っ込んでいった方角を見据える。
遠くからでは聞こえていなかったが哉太のすぐ傍で耳を傾ければ、バキバキと苦痛を伴う異能による再生の音が聞こえてくる。
耐え切れず、アニカは哉太のTシャツを掴み、涙声で訴える。
「―――――逃げましょう!」
「駄目だ。奴を放っておいたら確実に犠牲者が出る。あそこで倒れている金髪みたいにな」
アニカに視線でその場所を示す。そこには自分を庇って重傷を負わされた上に辱められた金髪の高校生――金田一勝子が眠っている。
「それに―――――あの豚は俺のことを何があっても殺しておきたいらしい」
言葉を終えると同時に、アニカを抱いて数メートル先へ飛ぶ。
轟音と共に哉太達のいた場所にクレーターができる。
土煙の中には悍ましい顔にいくつもの青筋を立て、憎悪と殺意を剝き出しにする魔人、気喪杉が立っている。
「てめえみたいな!!ガキが!!勝手にアニカママの!!相棒を名乗っていい訳ないんだな!!!
アニカママのすべすべのお腹に厭らしく触るなストーカー野郎おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
妄言を悪臭と共に吐き出して激昂する気喪杉。びりびりと空間を震わす騒音にアニカの身が竦む。
対する哉太は頭から湯気を吹き出す年齢を重ねたお子様を挑発する。
「だったらその手に持っている玩具で俺を殺してみろ、マザコン野郎」
その言葉で漸く気喪杉は哉太と相対してからずっと握り締めていた武装の存在に気が付く。
左手に金属バット。右手には必殺武器、ショットガン。二つの構え、再び咆哮する。
アニカや倒れ伏す金髪――勝子への欲情は全て己への殺意へと変換された。
その事を確認すると、隣で不安そうな顔を浮かべている相棒へと声をかける。
「――――あそこの金髪を安全な所へ頼む」
「――――OK、I got it。信じているからね、カナタ」
信頼の言葉と共に勝子の元へと駈け出すアニカ。
受けた傷は治らず、怪物は恐らく万全。自身の戦闘スタイルである接近戦は死と同義。
だが絶望することはない。たった一つだけ。それも一度きり。怪物を無力化する手段がある。
◆
クエスト:完全武装・気喪杉禿夫(デストロイヤーフリークス・コンバットエディション)の撃破――開戦(オープンコンバット)
◆
「てめえみたいなぁ!!逃げてるばかりの卑怯者はぁ!!処刑してやるんだなあああああ!!!」
片手でショットガンを持ち上げて哉太の顔へと銃口を向ける。
その綺麗な顔を吹っ飛ばしてやると云わんばかりに構えなしの発砲をする。
気喪杉の頭にはイケメンの不快な顔が吹き飛ばされ、その亡骸へ向けて罵倒と勝利宣言をするという明確なビジョンが存在していた。
だが、気喪杉は何一つ人生経験を積んでいないヒキニート。銃を手に入れたところで標的に当てられるはずがない。
対するは気喪杉の半分以下の年齢で彼以上の修羅場を潜り抜けてきた青年。
地元のヤクザに銃で脅されたこともあり、その脅威や対策などは十分に理解している。
更に二ヶ月前のアニカと共に立ち向かった大規模テロ事件では、知識だけであった対処法を経験へと昇華させた。
「素人が動いている的に当てられる訳ないだろ」
直立して狙いを定めている気喪杉の周囲を旋回するように疾走し、照準を定めさせない。
忍耐など一欠片も存在しない怪物は、苛立ちを抑えきれず発砲する。
当然、哉太に命中することはなく、明後日の方向へと飛んでいく。
「ブッギイイイイイイイイイイイイイ!!!殺す!殺すぅぅぅうぅぅぅうぅぅう!!!」
二発目、三発目と銃弾を放つが哉太を掠めもしない。
本日何度目かも分からない癇癪を起こし、ダンダンと両足で飛んで地を鳴らす。
思い通りにならなければ幼児のように喚き散らして周囲に当たり散らす。
それを何十年も続けてきたであろう最底辺の男。何もしなくても勝手に冷静さを失って暴走する男。
アニカ程の推理力がなくともこの男のパーソナリティについては理解できた。
再び対峙してからの僅かな時間で構築した術理は奴の幼稚な精神性にかかっている。
自分らしくなく挑発したいのはアニカ達を安全圏へ避難させるだけではない。技の成功率を上げるためでもある。
再び自身に銃口が向けられる。それを遠目で感じ取った哉太は再び周囲を旋回しようとするが―――。
「ヴァーーー……」
気喪杉の癇癪や銃声が近場にいるゾンビが哉太と気喪杉の戦闘区域に集まってきた。
魔人は左手の金属バットを人ならざる膂力で旋回させ、ゾンビ達を肉塊へと変えた。
だが哉太はその精神性故、ゾンビを殺すという選択肢を取れないでいた。
気喪杉に向けていた精神的リソースを一時的にゾンビ達へ向け、回避するという選択肢以外は取れない。
故に動きが一時的に止まる。憎むべきイケメンを殺す機会を怪物は見逃さない。
「ぶッッッッッッッッ殺してやるんだなああああ!!!」
哉太へと狙いを定め、引き金を引く。三発も発砲した経験は無駄にならず、銃弾は確実に静止している哉太の身体を捉えていた。
「―――――クソッ!!」
咄嗟に自分の傍にいたゾンビを蹴り飛ばして銃弾の盾にする。
銃弾を受け、仮初の命を終えたゾンビは倒れ伏す。その事実を哉太は噛み締める。
そして気喪杉のショットガンが再び哉太へと狙いを定める。
哉太も先程と同様に銃弾を躱そうと走り出そうとした瞬間―――。
「――――ガフッ!」
重症のまま酷使し続けてきた哉太の身体が悲鳴を上げ、臓腑を締め上げる。
胸を抑え、苦悶の表情で咳き込んで吐血する哉太にゆっくりと標準を定める。
己のハーレム要因への一途で純粋な愛を踏み躙り、ロリママへのストーキングでムカつかせたイケメンの行き先はただ一つ。
「ゴオオオオオ!トゥウウウウウウ!ヘエエエエエル!!」
今度こそ仕留めんと引き金に指をかけた瞬間――――。
『突っ込め』
どこからか聞こえた言葉と共に周囲を彷徨いていたゾンビが、人間の限界を超えた速さで気喪杉へと体当たりした。
その衝撃でショットガンの銃弾が明後日の方向へと発射された。
「…………!!」
死を覚悟していた青年は突然の出来事に困惑する。耳に届いた男の声。この声の主を哉太は知っていた。
衝動的に声がした方向へと顔を向ける。
「今度は誰がやりやったんだなあああああ!!!」
何度目かも数えていない横槍に激昂する。その怒りの赴くまま、突っ込んできたゾンビの頭を踏み砕く。
憤怒の形相をその声の主へと向ける。
そこには自分のハーレム要因の一人『姉妹丼』の姉担当である光ママ。
その手を取ってこちらを睨む釣り目がちの男。立場を利用し、毎晩姉妹丼を楽しんでいると思い込み目の敵にしている男。
「山折圭介えええええええ!!!」
◆
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
独眼の怪物が天を仰ぎ、咆哮する。その巨体を覆う電撃が灯りとなり空間を照らす。
字蔵恵子の異能『雷撃』。それは自身の精神的負荷を電撃に変換し、体外へと放出する異能。
独眼熊の悪意によって蓄積され続けていた恵子のストレスは、ひなたの登場により胡散した。
しかし、魔獣の咆哮によってひなたの表情に絶望が浮かんだ瞬間、恵子の中の何かが弾けた。
『烏宿ひなたが殺される』その恐怖が精神的負荷となり、衝動的に恵子の体を突き動かす。
だが、その電撃は羆を感電死させるのには至らない。
瞬間的恐怖は蓄積された恐怖に満たず、雷撃の出力はひなたの異能による電撃の最大出力未満まで落ちていた。
独眼熊は電撃から逃れようと恵子を振り払うために身体を左右に動かす。
その怪力に少女の矮躯が浮き、藻掻きに合わせて左右に揺れ動く。
数秒も経たぬうちに左手が獣の身体から離れる。残るのは右手。
「ッ……!ううぅぅぅうぅ……!!」
苦悶の声を漏らしながらも掴んだその手は決して離さない。
「――――ッ!恵子ちゃんッ!!そいつから手を離してッ!!」
「……い……や……ですッ!!」
ひなたと焦りと憤りの混じった怒声にも恵子は決して怯むことなく反論する。
恵子の右腕は骨折している。振り回される度に感じる激痛は『慣れているから』という言葉で片づけられるほど生易しいものではない筈だ
どうしよう。どうすればいい。
先程感じていた絶望以上の焦燥がひなたの頭を支配する。
時間と共に恵子の身体から発せられる電撃の威力が弱まり、独眼熊の挙動が激しさを増す。
その最中、呆然と立ち尽くすひなたの耳に届く恵子の叫び。
「私は……今まで……ッ……お母さんと、一緒にお父さんに……いじめられてきた……あグぅ……!
……お母さんが……出て、ぃギ……行ってからは……私は独りぼっち……!」
「…………恵子ちゃん……」
悲痛が吐き出される。孤独だった少女の独白は多くの人に愛されてきた少女の胸に突き刺さる。
「でも……ひなたさんが……!助けてくれた。私は……楽しいって……生きたいって……思えたんだ……!!だから――――」
少女の身体から放電が止まる。最後の言葉が発せられることのないまま、魔獣は残った右手を振り払い、小柄な体を弾き飛ばす。
「うあッ……!」
「――――恵子ちゃん!!」
振り払われた勢いのまま、少女の矮躯は和室からすぐ向かいの洋室まで転がる。
その最中、夫婦の血と臓腑でコーティングされた床上を通過し、髪と衣服を赤黒く染める。
獲物を仕留め損ねた魔獣は、窮鼠の一噛みに激昂し、人間のような憤怒の形相を浮かべる。
殺意の矛先が木偶の坊と化した"ヒナタサン"から己の皮膚を焦がした"ケイコチャン"へと向けられた。
既に心が折られた猟師見習いに背を向け、隻眼の羆は二足歩行で小柄な少女へ歩み出す。
ひなたと恵子。手の届きそうな距離にも関わらず、魔獣が行く手を阻む。
獣が天を仰ぎ、勝利の雄叫びを上げ、爪を振り上げる。そしてひなたの視線に映る恵子の顔。
儚さと安堵が入り交じった優しい笑顔。笑顔を湛えたまま、少女の口が動く。
あ り が と う
瞬間、ひなたの中で何かが爆ぜた。
足を肩幅まで開き、体を安定させる。先台を左手で支え銃床を顎の高さまで持ち上げる。
銃床を右肩で抱えるようにホールドし、右手の一指し指は引き金へ。
顔は真っ直ぐ。標準は視線の先へ。
引き金を引く瞬間、異能を発動させる。肉体に蓄積されたエネルギーを電気へと変換。
少女の髪が淡く光を放ち、周囲を日向の如く明るく照らす。
左手から放電し、ライフル銃の先台から内部へと電流を伝わせる。
引き金を引き、内部の爆発と同時に電磁力によって銃弾を加速させる。
理論も過程も放棄し、ひなたは結果だけを実現させた。
加速された銃弾は隻眼の魔獣の脇腹に風穴を開け、恵子のすぐ傍の壁を貫く。
コンマ一秒にも満たない時間、小柄な少女のすぐ傍で鳴る破裂音。
その時恵子は精神的負荷を感じた。感じることができた。
恵子の異能もひなたと同じ電撃。しかしそれは似て非なるもの。
自身の感じた精神的負荷を電気エネルギーへと変換し、放電する。精密性と持続性に欠ける代わり範囲と威力はひなたよりも上。
ひなたに呼応するように恵子の身体も光を放つ。
電撃の持続は一秒未満。ストレス量も少なくひなたと同程度の電力しか発生しない。
だが、範囲はひなたの異能以上。電撃は羆の傷口から内部へと侵入し、内臓を焼く。
痙攣の後、独眼熊の身体は恵子を圧し潰すように倒れる。300kgを超える巨躯が恵子を潰す瞬間――――。
「―――――恵子ちゃんッ!!!」
銃を肩に担いだひなたが駆け出し、恵子の小さな体を抱きしめ、救い出す。
その背後で魔獣が大きな音を立てて倒れた。
ひなたは恵子の身体を見る。自身のおさがりの登山服は赤く染まり、頭部にも血の跡。
「―――恵子ちゃん!!どこか……どこか怪我を……!早く手当てを……!!」
「だ……大丈夫です。これはさっき転がった時の―――ひなたさん!後ろ!!」
恵子の視線の先には意識を取り戻し、二本足で立ち上がる独眼の怪物。空間を歪めかねない程の殺気がひなたの背中に伝わる。
憎悪と憤怒に塗れた表情でひなたの背中を引き裂かんと爪を振り上げ―――。
「―――――――」
ひなたは担いだ銃を膝立ちの状態で構え、銃口を怪物の隻眼へと向けた。
猟師と獣。それぞれの視線が交差する。静寂の中、響くのは互いの心音のみ。
「――――ゴアアアアアア!!」
折れたのは独眼熊。屈辱の叫びの後、ひなたに背を向けて玄関へと駈け出した。
「…………終わったんですか?」
猟師となった少女の背後から聞こえる守り抜いた少女の声。
ライフル銃の残り弾数は零。ひなたは独眼熊の銃への無知に賭けた。その賭けに猟師は勝利した。
構えていた銃を降ろし、大きく息を吐く。
「…………うん……終わっ―――――」
極度の緊張が解けた瞬間、張り詰めていた精神が限界を迎える。
言葉を終える前に全身から力が抜け、視界がぼやける。
「―――――!!―――――!!」
すぐ傍で誰かの悲痛な叫び声を聞きながら、ひなたの意識は闇に沈んでいく。
◆
気喪杉禿夫が山折圭介を憎悪するように山折圭介もまた気喪杉禿夫を侮蔑していた。
その関係性は異常事態になっても変わらない。互いの間に存在する感情は冷たい殺意のみ。
「ブモオオオオオオオオオオオオ!!!」
猛牛の如き雄叫びが地を震わす。その叫びと共に左手に持った金属バットが旋回し、周囲に集った亡者を血祭に上げる。
そして、己のハーレム要因の一人である日野光を奪い取るべく、圭介の方へと駈け出そうとするも―――。
『突っ込め』
再び気喪杉の四方からゾンビが限界を超えた速さで気喪杉の肉を喰らおうと突っ込んできた。
怪物は自身の身を守るべく武器を振るう。
気喪杉が暴れるたびに圭介は恋人の光の手を引き後退する。まるで何かから引き離すように。
このままではキリがないと気喪杉は右手に持ったショットガンを圭介へと向け、引き金を引く。
だが既に弾数は零。八柳哉太への止めを刺し損ねた瞬間に、珠は尽きていた。
「○▼※△☆▲※◎★●○▼※△☆▲※◎★●○▼※△☆▲※◎★●!!!!」
もはや人が発する音とは思えない言語で激昂し、ショットガンを遠くへと投げ捨てる。
その愚行の後、今度は両手で金属バットを握り締め、亡者達を肉塊へと変えながら突き進んでいく。
ゾンビの海を掻き分けて進む中、気喪杉の金属バットは気喪杉好みの十代前半の少女の首を吹き飛ばした。
その事実に気喪杉は激昂し、怒りの叫びを上げる。
「てめえは人間じゃないんだなああああああ!!!」
『飛び掛かってあのばい菌野郎の腹肉を食え』
返答は冷ややかな視線と亡者への指示のみ。再び怪物の元へとゾンビが襲い掛かる。
八柳哉太を殺し損ねた怒り。ハーレム要因である光と×××できないもどかしさ。怨敵山折圭介への激しい憎しみ。
いくつもの要因が重なり、気喪杉の怒りのギアが更に一段階上がる。
「ブモアアアアアア!!!」
自信の腹肉に亡者が齧りついたまま、気喪杉は圭介へ向けて跳躍する。
その着地点を瞬時に予測する。光を横抱きにして、横へと飛んだ。
その数舜後、圭介をミンチにしようとバットを振り下ろした気喪杉が降ってくる。
地面へ激突する金属バット。振り下ろした場所を起点にアスファルト上に罅割れができた。
圭介と気喪杉。憎み合う者同士が対峙する。
数で圧し潰す圭介と感情によって身体能力を爆発的に上昇させる気喪杉。
既に勝敗は決した。憤怒の表情を浮かべた魔人は怨敵を磨り潰すべく得物を振り上げ―――。
「俺に気を取られていいのか?ばい菌野郎」
徹底的な侮蔑の表情を浮かべたまま、怪物へと問う。
「命乞いは!!地獄でやってるんだな!!!」
「そうじゃなくて、お前がご執心だった黒髪の奴が逃げるけれどいいのかって聞いてるんだよ」
命の危機を感じつつも侮蔑の表情のまま、あくまで冷静な態度で怪物へと問いかける。
その瞬間、気喪杉の中に怒りと憎悪以上のものが芽生える。
憎き山折圭介を殺している隙にあのクソッタレのイケメンが逃げたらどうなるのか。
この数時間の間で色欲と憤怒以外の感情が、気喪杉の精神を揺るがす。
近場の巨乳JKを取るか。それとも超絶レアのロリママ候補ののアニカママを取るか
欲しいものは何でも手に入れてきた気喪杉に初めて出てきた二択。二兎を追い、二兎を得たい気喪杉にとっては地獄の選択。
数秒の逡巡のうち、気喪杉は苦虫を嚙み潰した表情を浮かべる。
「アニカママをゲットした後!!お前をぶっ殺して光ママをゲットする!!てめえの死体の前で3Pしてやるんだなあああああ!!!」
天を仰ぎ、最低の咆哮をする魔人。
結局、駄々っ子から精神が成長していない気喪杉は優先順位をつけて両方取るという選択しかできなかった。
圭介に憎しみの一瞥をくれた後、哉太を抹殺すべく背後を振り返る。
そこには哉太とアニカ。剣士と探偵が逃げずに待っていた。
アニカは気喪杉へと怒りの籠った眼差しを向け、哉太は腰を落とし、こちらへ走り出そうとする体勢を取っている。
◆
魔剣とは、理論的に構築され、論理的に行使されなければならない。
◆
「アニカ、サーカスは好きか?」
勝子を戦闘区域から離脱させた後、心配になって哉太の元へ戻ってきたアニカは彼に意図の読めない質問をされた。
彼の視線の先―――およそ50メートル前方にはゾンビの群れと格闘している気喪杉がいる。
「えっと、Circusは結構好き、かな?」
「そうか。じゃあ今から曲芸を見せてやる」
◆
ゾンビの群れを乗り越えた気喪杉はこちらの方へと体を向ける。
遠目からでも分かるほど憎悪と殺意に塗れた表情をしているのが分かる。
魔人は両手で金属バットを頭上まで持ち上げる。己は腰の刀には手を置かず、屈んで走り出す体勢を維持する。
薄闇に静寂が満ちる。心臓の音だけが激しい音を奏でる。
一条の風が吹く。
「―――――ッ!!」
「ブモオオオオオオオオオオ!!」」
それを合図に互いを打倒せんと駈け出す。
気喪杉は全裸で体中のブヨブヨの贅肉を揺らしながら頭上に得物を掲げて突進する。
哉太は得物には手をかけず、地面とほぼ平行―――足に向かってタックルを仕掛けるような体勢で駆ける。
あのイケメンの刀は飾りだ。俺に体当たりなんて聞かないのに馬鹿丸出しなんだな。
気喪杉は己の無知を棚に上げ、哉太の愚行を心の中で嘲笑する。
そして互いに数メートル先まで接近する。到達まで一秒未満。
気喪杉がバットを振り下ろそうとしたその瞬間、哉太は身体を捩じらせて地面を蹴った。
思った通りタックルだ。自分以外の男は馬鹿なんだなと心の底から青年の愚行を嘲る。
走った速度のまま自分へと突進してくる愚か者に対し、気喪杉は全力でバットを振り下ろす。
「イケメンのハンバーグ完成なんだなあああああ!!!!」
勝利宣言と共に金属バットが眼前の物体を叩き潰す瞬間―――。
気喪杉の濁った双眸と哉太の双眸。二つが重なり合う。刹那、金属音と共に肉を切り裂く音が響く。
八柳哉太は飛んだ数メートル先で体勢を整え着地する。左手には脇差。右手には打刀。
その背後には尻餅をついた気喪杉禿夫。金属バットは諸手で握られたまま、両肘ごと気喪杉の隣に転がっていた。
数秒の沈黙の後――――。
「ぎぃぃぃいぃいいいいいいいあああああぁぁぁ!!!!」
◆
ベースは彼の流派である八柳新陰流『這い狼』および八柳新陰流、二刀『朧蟷螂』
地滑りの如く疾走し、相手の膝を砕く『這い狼』の走法で脇差と打刀、二振りで防御と反撃を同時に行う『朧蟷螂』。
決して交わることのない剣術を以って、魔人を殺さずに無力化する。
それを可能としたものが『這い狼』による疾走の最中に僅かに軌道をずらして身体を捩じって地を蹴る動作。
勢いを殺さずに相手の脇をすり抜けるような体当たりが行われる。その際に捩じりによって発生する回転は一度。
上段から振り下ろされる攻撃に対し、逆手で脇差を抜いて打撃の軌道をずらす。それと同時に行われる抜刀する『朧蟷螂』
回転の勢いのまま無防備になった両肘を切り落とす。その勢いのまま、反撃から逃れるように相手の背後へと着地する。
八柳新陰流の『柔』の理念に則りながらも型から外れたあまりにも無滑稽な剣術。理論は穴だらけで剣術と呼べる代物ではない。
ほんの僅かでも気喪杉が冷静さを持っていれば反撃を喰らっていた。間に遮蔽物があれば失敗は必然だった。
その上、よしんば成功していたとしても気喪杉の贅肉の鎧を骨ごと断ち切るには至らなかったであろう。
しかし、それらを可能にしたのは気喪杉の足止めをしていた勝子、ひなた、アニカの奮闘。遮蔽物を取り除いて討伐の土台を作り出した。
そして犬山はすみによる打刀と脇差の強化。犬山はすみを始めとした面々は誰もが気喪杉を人型の異形だと判定していた。
故に力を付与された二振りも同様に気喪杉を異形と判定する。
犬山はすみの異能は強化の大小に関わらず、必ず異形への特効を持たされる。
故に、力を得た刀は気喪杉の肉の鎧を裂くことが可能になった。
曲芸の銘は――――八柳新陰流『這い狼』が崩し、『捩り風』
八柳新陰流は独自の魔剣を以って『皆伝』と認定される。
皆伝保有者は現在まで八柳藤次郎及び虎尾茶子のただ二名のみ。
八柳哉太、未だ皆伝に至らず。
◆
「い゛だい゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!!い゛た゛い゛ん゛た゛な゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
両腕を落とされ、激痛に悶え苦しむ全裸の不審者。
「無様……ですわね……」
「Ms.ショウコ……起きたのね……」
「ええ……アニカさん、避難させてくれてありがとうございますわ」
そう言って両腕から血を流し、顔を土砂崩れの如く汁を垂らしながら咽び泣く男を睨む。
この汚物はもう二度と食事をとることも、排泄すらも一人ではできなくなった。
だがそのことに憐憫を向ける者は誰もいない。ここにいる全員、目の前の汚物に絶対零度の視線を向けている。
「……止血だけでもしておこうか」
「……そうね、勝手に死なれちゃ困るもの」
アニカはロープを手に取り、真っ直ぐに宙に浮かせる。それを哉太は打刀で半分に切る。
それから他にも包帯やら消毒液やらが必要なのだが―――。
「ご安心なさい。私が先程マーキングしておきましたわ」
勝子が手に持った小石を宙に投げると、手元に救急箱が現れた。
「ぶええええええええええええええええええ!!!」
幼児のような見っとも無い泣き声をあげて、気喪杉は壁を破壊しながら走り去っていく。
止血が済んだ際は、こちらを顔中のの穴という穴から液体を垂らしながら睨んできたものの、哉太の存在を見た瞬間、立ち上がって逃げ出した。
少なくとも、ずっと逃げ隠れさえすればゾンビに食い殺されることはないだろう。
「ざまーーーーーーみろですわーーーーーーー!!!」
汚らしい背中を見せながら逃げ出す最底辺の男に対して勝子は高笑いする。
その様子を苦笑しながらアニカは彼女を見ていた。
「……もうダメだと思ったけど、何とかなったみたいねカナタ。……カナタ?」
シャツを引っ張ってみるが哉太の反応はない。不安を感じたアニカは彼の伺う。
哉太の視線は真っ直ぐ。その表情は沈み切っている。
パートナーの目には何が映っているのか。その視線の先を見ると、こちらに歩み寄ってくる男女。
男は一釣り目がちで健康的な体つきをしている。自分達と同じ正常感染者のようだ。
女は男と手を繋いでいる。色褪せた瞳に開いた口。彼女は男の異能によって操られたゾンビのようだ。
男女が哉太の前で制止する。
男と哉太は互いに目線を決して合わさずに話しかける。
「助けてくれたのか、山折」
「帰ってきてたのか、八柳」
親分と子分第一号。もう二度と会うことがないと思っていた元親友同士が二年半ぶりに言葉を交わす。
◆
それは私がまだ小学生の頃。
夏休みのある日。朝から山で遊びまわり、お昼を食べた後にうたた寝してしまったある日のこと。
当時は短かった私の髪を誰かが撫でる。それが嬉しくて、気恥ずかしくて、誰かの膝の上で不貞腐れてまた眠ってしまった。
拗ねた顔を覗き込む自分に似た優しい女性の顔。そんな何でもない日の夢を見た。
髪を撫でられるくすぐったい感触で目を覚ます。
誰に撫でられているのか、不思議に思い、その手の主へと視線を向ける。
「起きちゃいましたか?」
夢の声とは違う、幼さの残る声。寝ぼけ眼をこすりながらその人物へと声をかける。
「恵子ちゃん?」
こくんと頷く。夜が明けかけ、空が白みを帯び始めていた。
薄明りが恵子の顔を照らす。目は赤く腫れ、泣いていたみたいだ。
誰だ泣かせた奴は。
「ひなたさんが倒れてから、大変だったんですよ」
不機嫌な声でそう漏らす恵子。
疑った皆さん、ごめんなさい。私が泣かせたみたいです。
「……怒ってる……?」
「怒ってます」
泣きそうな寂しそうな声。そこまできっぱり言われたら何も言えなくなる。
「……ごめん……」
恵子は何も言わず、ただひなたの髪を撫で続ける。
しばらくの沈黙。だが、気まずさはいつしか暖かさに変わる。
「あのさ……我儘……言っていいかな?」
「……特別ですよ」
ほんの少しだけ不機嫌そうだが、優しさに溢れた声。
その声の形は、大好きなお母さんに似ていた。
だから、少しだけ、甘えたくなった。
「……もう少しだけ、お昼寝したいから、膝枕の続きをしてもらってもいいかな?」
返答はなく、ただ優しく髪を撫でられ続ける。
掌の温かさ、膝の柔らかさが心地よい。
微睡み、ゆっくりと瞼が落ちていき――――。
「チェストーーーーーーーーー!!」
「何事ーーーーーーー!!??」
隣部屋でガラスが勝ち割られる音がした。
微睡みが失せ、一気にたたき起こされる感触がした。
勢いよく起き上がる。その際、ひなたの頭が恵子の顎を直撃する。
恵子は涙目で顎をさすっていた。
驚き、腰を抜かした二人の前に現れたのは、金属バットを肩に乗せた金髪の美女、金田一勝子。
「あの……勝子さん?普通に玄関から入ってくればいいんじゃ……」
「そんな……時間なんて……ありませんわーーーーー!!」
ひなたのツッコミを逆ギレで無常に返す。理不尽というものを垣間見た。
その直後、
「emergency!!emergency!!emergency!!」
玄関から幼い声、天宝寺アニカの大声が響き渡る。
「カナタ!!二階からMs.ハスミを運んできて!!」
その言葉と同時にバタバタと誰かが階段を上る音が聞こえた。
「早く準備してここを脱出しないとお〇ックされますわよ!!」
「いや、どういう意味か全く分からないんですけど、何があったんです?」
ひなたは当然の疑問を投げかける。すると勝子は冷汗を流しながらその答えを言い放つ。
「特殊部隊が、今ここにいる人間全員を殺しに来ますのよーーーーー!!!」
◆
圭介と哉太。十年来の親友同士だった間柄。しかしすでにその関係は冷え切っており、互いに目線すら合わさない。
すぐ傍で困惑する二人の少女を他所に、ぽつぽつと会話らしきものを始める。
「まだこのクソド田舎でお山の大将気取ってんのかよ、山折」
「金魚の糞だった分際でよくでかい口を叩けるようになったな、八柳」
口から吐き出される言葉には棘があり、互いに歩み寄る気配を見せない。
哉太が地元を『クソド田舎』と蔑むようになった原因。そして圭介が決して友人として哉太をカウントしなくなった原因。
それは、中学卒業と同時に起きた大きな確執に合った。
「……そっちは彼女の、光ちゃんか……」
「……誰に聞いた」
「……珠ちゃん」
「……あいつらを泣かせたお前に名前を呼ぶ資格なんてねえよ」
「……お前も同罪だろうが」
その確執は当人二人だけの問題ではない。
諍いは飛び火し、仲良しグループであった彼らの絆を踏み躙った。
二人を宥めようとした諒吾。何もできず涙を流すしかできなかったみかげ。トラウマを植え付けてしまった珠。
そして、二人を叱るわけでもなく、ただただ泣かせてしまった光。
二人はどちらも加害者であり、被害者でもあった。
「…………」
「…………」
いつ終わるかもわからぬ沈黙が続く。
そして不意に、その沈黙が破られる。
「……じゃあな」
「……ああ」
圭介が背中を向け、ゆっくりと歩きだす。
その背中に対しても、哉太は視線を向けようとしない。
「いいのですの、哉太さん?これが今生の別れになっても後悔しませんの?」
横から勝子の厳しい声が聞こえる。それでも、哉太は何も返せない。
拳を握り、体を震わせる情けない男に向けて、呆れて溜息をつく。
「どうやら私は哉太さんを買い被り過ぎていたようですわね。女々しい男ですこと」
その言葉にも反論できない。歯を食いしばって耐えること以外できなかった。
今更自分に何が言える?彼らを裏切り、諍いを自分の都合で飛び火させ、絆を踏み躙った人間がかけていい言葉など知らない。
震える手にそっと小さな手が添えられる。横を見ると自分のパートナー、天宝寺アニカがこちらを悲しそうな表情で見上げていた。
「本当に、後悔しない?」
目に涙をためて訴えかける彼女に、かつて自分が傷つけてしまった妹分の姿が重なり―――――。
「圭ちゃん!!」
気づくと確執を忘れ、衝動的に昔の呼び方で彼を呼んでいた。
圭介の背中がピクリと動き、足を止める。
「圭ちゃんは皆の……諒吾くんに、みかげちゃん、珠ちゃんに光ちゃん……あいつらのリーダーなんだ!!」
いつかその背中に追いつきたい。どんなヒーローよりもかっこ良かった親分の大きな背中に叫ぶ。
「それから……光ちゃんを幸せにできるのは圭ちゃんしかいないって……俺はずっと信じている……!!
だから……絶対に死ぬな……!!絶対に死んじゃ駄目なんだ!!!」
衝動に任せた叫びを終え、圭介へ背を向ける。
もうこれ以上彼に言うことはない。きっとこれが最後の会話になる。
そう自分に言い聞かせる。
「……ま、アニカさんのパートナーとしては及第点ギリギリですわね。彼女に相応しい殿方になるよう、努力なさい」
謎の上から目線で哉太の評価をする勝子へ複雑そうな表情を浮かべる。
そんなことを知ってか知らずか、勝子は勝気な笑みを哉太に見せつけた。
「カナタ、よくできました。Good boy、Good boy」
爪先立ちで哉太の頭を撫でようとするアニカに若干馬鹿にされてないか?と苛立ちを感じる。
ガキがガキ扱いするなという意味を込めて軽く頭にチョップをする。
そして、はすみ達のいる一軒家へ歩み出そうとした瞬間――――。
「哉太!!」
不意に名前を呼ばれて足が止まる。
「この村には特殊部隊員が俺達を殺そうとしてきている!!ガスマスクに迷彩柄の防護服の奴らだ!!
俺もさっき殺されかけた!!奴らは強い!!もうすぐそこまで来ている!!」
「ええ何それ聞いてませんわ」や「Oh my gosh!」などの声が隣から聞こえる。だが情報以上の衝撃が哉太の中にあった。
「だから、お前もお前の仲間もそんな奴らに殺されるな!!絶対に死ぬんじゃねえぞ!!!」
◆
高級住宅街から離れた道沿いにある一軒家。
一行は最低限の荷物をまとめた後、全速力で高級住宅街から走り去った。
途中、哉太、勝子、ひなたら体力お化けがバテかけた三人を背負い、緊急避難先の一軒家へと雪崩れ込んだ。
その際、勝手に家を借りるのは抵抗があるといったはすみを気遣い、ここを今から自分の別荘として買ったから問題ないと力ずくの理論で無理やり納得させた。
その後は作戦会議。行動の際の最低限のルールを決めた後は疲労が溜まっていたメンバーは居間で雑魚寝することになった。
そんなこんなが起こった後の話。
もしゃもしゃ
もしゃもしゃ
玄関の軒下にて、探偵と助手が二人並んでバナナを食べていた。
時折首から下げた双眼鏡を覗き込んで招かざる客が来ないか確認している。
探偵――天宝寺アニカの顔には木乃伊の如く包帯
――怪我が大分治ったと字蔵恵子から渡されたもの――が巻き付いている。
どうやらこの包帯は犬山はすみの異能によって強化されたものらしく、直に触れている箇所には強い効果が発揮されるらしい。
会議での決定事項その一。
緊急避難先にいる間は必ず外に見張りを着けること。
率先して引き受けた二人には、家にあった双眼鏡がそれぞれに支給され、また感謝の印として一房のバナナがプレゼントされた。
「アンタ、寝なくて平気なの?」
「あー、今日は昼飯食った後は晩飯まで昼寝してた。それから晩飯食った後は茶子姉に叩き起こされるまで寝てた」
「ダメ人間」
「お前はどうなんだよ、家出少女」
「Lunch頂いた後は役場で観光案内して貰って、民宿でDinnerまでの五時間、お昼寝してたわ」
「そーかよ」
いつもとは違う生返事。何となく調子が狂うが、その原因は既に分かっている。
自分にできることは話してくれるのを待ち、相談に乗ることくらいだ。
ふと、視線を隣のパートナーへと向ける。
朝日に照らされる憂いを帯びた横顔。
八柳哉太。二ヶ月前の事件にて彼の人となりを深く理解した。
容姿端麗。それでいて自分をサポートできる程度には頭が回る。身体能力はかなり高い。
やさぐれてはいるものの、性格は善人より。
趣味はまあ、あいつまだ高校生だし、許容できる範囲……かな?
だが、最大の問題はそれらではない。
「アンタ、そのシャツのドラゴン何?」
「これは俺の切り札。オーダーメイド品だ。ヤバいだろ?」
「……アンタのスマホのストラップ、この旅館で叩き売りされてそうな剣?の奴は何?」
「叩き売り言うな。邪竜の力を宿した魔剣だ。ネトオクで一万円で落とした奴だ。ヤバいだろ?」
突っ込む気すら失せる壊滅的なセンス。この男のセンスは男子小学生の段階でお亡くなりになったらしい。
彼に不覚にもときめいたことは何度もある。しかし、そのときめきはコイツのセンスのヤバさで数秒で萎えさせられる。
「お疲れ様、アニカちゃんに哉太くん」
背後から大人の女性――犬山はすみの柔らかな声がかけられた。
手には暖かいココアが二つ。アニカと哉太に手渡される。
「Thanks、Ms.ハスミ」
「あざっす」
揃ってココアを一口含む。優しい甘さが全身に広がり、張り詰めていた緊張の糸をほぐす。
気が緩んだせいか、我慢していた眠気が一気に襲いかかり、二人の前で大欠伸をしてしまった。
「アニカ、お前は一度寝とけ」
「でも……」
「見張りは元気になった私が引き継ぐから大丈夫よ〜。実は私はアニカちゃんのファンなの〜。だからすっきりした頭で凄い推理を見せてくれると嬉しいな〜」
会議での決定事項そのニ。
休憩は臨時会議終了後、二時間取る。
会議での決定事項その三(最終)
休憩後、今後の立ち回りや特殊部隊員への対策の後に天宝寺アニカが事件解決への推理のため、各々に聞き取り調査を行う。
◆
はすみと哉太に促され、他の皆が仮眠を取っている居間へと足を運ぶ。
そして他の三人と同じように毛布に包まり、瞼を閉じる。
意識が落ちる前に脳裏を過ったのは二ヶ月前の大規模テロ事件。
八柳哉太が正体を表したテロリストの頭目と死闘を繰り広げていた時。
アニカは更なる真相を求め、研究所の奥深くまで単独潜入していた。
廊下に出た途端、目についたのは斬殺死体の山。テロリスト達とは異なる装備の武装集団。
気配を消しながら奥へと進むと、そこには二人の人間の姿。
片方は全身に迷彩色の防護服を纏った小柄な人物。遠目で見た限り、重火器は装備しておらず、代わりに利き手には血濡れた日本刀と思わしき刃物。
体つきからおそらく女性。
もう一方は白衣を纏った若い男性。おそらくこの研究施設に勤めている職員だろう。
物陰に隠れ、聞き耳を立てる。
女性と思わしき防護服の声はボイスチェンジャーで変えているのであろう、無機質で無個性な音を出している。
彼女の口から僅かばかり聞こえたキーワード。それは「ヤマオリ」と――ー。
「ミナサキ……?」
◆
半ば廃墟と化した高級住宅街の一角。そこで圭介は呆然と立ち尽くしていた。
思い出されるのは先程の気喪杉との戦闘。
光を取り戻すため、正常感染者を抹殺するため、打てる最善手はいくらでもあったはずだ。
例えば、気喪杉と哉太の戦闘の最中。二人へとグレネードをぶち込めば、光を取り戻せたかもしれなかった。
例えば、己と気喪杉との戦闘。ゾンビ共が群がっているいる隙にグレネードを爆発させれば危険人物をノーリスクで排除できたはずだ。
だが、できなかった。光と哉太。二人は物心ついたばかりの頃からの付き合いがある存在。
己の愚行のせいでもう二度と揃うことはないと思っていた三人組がこの極限状態の中で奇跡的に揃った。
脳裏に過る記憶。自分がヒーローで光がヒロイン。哉太は怪人役かサイドキックのヒーローごっこ。
何のしがらみもなく、毎日が充実していて楽しかった遠い日。
そんな思い出が蘇り、心の奥底で眠っていた「ヒーロー」だった頃の己を呼び出してしまい、らしくない行動を起こさせた。
「……光、俺はどうすれば良かったのかな?」
正常感染者の抹殺を選択してしまった圭介。
「光」を取り戻すという大義名分は揺らぎ、崩壊の兆しを見せつつある。
ギロチンリストには「八柳哉太」の文字が刻まれている。
これから更に「湯川諒吾」「上月みかげ」「日野珠」の文字が刻まれるとしたら―――。
「―――ッ!駄目だ!」
頭を振って答えを出すのを止めた。
「……学校だ。学校は避難所に指定されていたはずだ。だから、あいつらのゾンビがいる……筈だ」
圭介の口から願望が吐き出される。
「……行こう、光。俺はあいつらのリーダーだから、特殊部隊員に殺されないように守ってあげなきゃ」
物言わぬ恋人の手を引いて「リーダー」は学校へと向かう。その背中を光のない色褪せた目が見つめていた。
◆
◆
戦線が起きた住宅街から離れた場所。独眼熊の視線は眼下の物体に注がれていた。
それは、気喪杉が戦闘の最中、役立たずと罵り、投げ捨てた物。
己の目を打ち抜き、プライドを粉々にし、幼き頃に「母」を奪った物体「銃」
これが、獲物であった二匹のメスに力を与え、今まで以上の傷を負わせたのだ。
「ガアアアアアアアア!!」
屈辱と憎悪、殺意に魔獣は吠える。
それに向けて、破壊すべく前足を振り上げ―――止めた。
独眼熊の異能は脳を活性化させ、ヒトと同等の知能を授けるギフト。
魔獣は憎悪によって進化し、「悪意」を覚えた。
なれば、人の悪意に興味を持つのは必然。
魔獣は決意する。我も貴様らと同様に猟師になろう。
貴様らは我の尊厳を破壊し、大切なものを奪い、蹂躙を繰り返してきた。
ならば、貴様らもそうされても文句は言うまいな?
隻眼の魔獣は銃を口に加える。
そして引き金についた悪臭から猟師として狩る獲物を選別する。
◆
―――――朝が来る。かくして兵どもは集い、迷い、歩み出す。
だが、夜明けを超えられぬ者がここに一人。
◆
ぐちゃぐちゃと肉を貪る音が民家の中に響く。
その協奏曲を奏でる主は贅肉に顔を突っ込んで臓腑を食らう魔獣。
合いの手を添えるように時折苦悶の声を漏らすのは、両肘を失い、無力な人間と化した元怪物。
すでに臓腑の大半は食い荒らされており、例えどのような名医でも首を横に振るほどの重傷だ。
だが、気喪杉は未だ生存していた。
彼の異能である身体能力強化は感情によって精度を上げるもの。
彼の心は恐怖と絶望に満たされていた。
恐怖は生存欲求を呼び覚ますべく千切れかけた神経を活性化させ、痛覚を呼び覚ます。
絶望は一秒でも生存させるべく足りなくなった臓器を別の臓器で補うような働きをする。
自分を省みず、誰からも顧みられることのなかった男。最期は自分にすら見限られた。
「い゛た゛……ィ゛……か゛ぁ゛……ち゛ゃ゛」
その言葉を最後に男の意識は闇へと沈んだ。
気喪杉禿夫、39歳。山折村にて朝焼けを見ることなく無価値な生涯を終えた。
【気喪杉 禿夫 死亡】
【D-4/とある雑貨店/一日目・早朝】
【烏宿ひなた】
[状態]:感電による全身の熱傷(軽度・手当て済)、肩の咬み傷(手当て済)、疲労(大)、精神疲労(中)、睡眠中
[道具]:夏の山歩きの服装、リュックサック(野外活動用の物資入り)、ライフル銃(0/5)
[方針]
基本.出来れば、女王感染者も殺さずに救う道を選びたい。異能者の身体を調べれば……。
1.皆の体調を考えて、一先ず休憩する。
2.生きている人を探す。出来れば先生やししょーとも合流したい。
3.VHという状況にワクワクしている自覚があるが、表には出せない。
4.……お母さん、待っててね。
【字蔵恵子】
[状態]:ダメージ(小)、下半身の傷(小)、疲労(大)、精神疲労(大)、睡眠中
[道具]:夏の山歩きの服装
[方針]
基本.生きて、幸せになる。
1.ひなたさんについていく。
2.ここにいる皆が、無事でよかった。
【金田一勝子】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)、睡眠中
[道具]:スマートフォン、金属バット
[方針]
基本.基本的に女王感染者については眉唾だと思っているため保留。他の脱出を望む。
1.休憩後、犬山うさぎとの合流を目指す。
2.マジ疲れましたわ…。
3.能力のこと、大分分かってきましたわ。
4.先程の白豚といい、ロクでもねぇ村ですわ。
5.生きて帰ったら絶対この村ダムの底に沈めますわ。
【犬山はすみ】
[状態]:疲労(大)、異能使用による衰弱(大)
[道具]:救急箱
[方針]
基本.うさぎを探したい。
1.今は自分とここにいる子供達のことを考えて、休憩する。
2.生存者を探す。
3.ありがとう、勝子さん。
※自分の異能を知りました。
【天宝寺 アニカ】
[状態]:全身にダメージ(小・回復中)、顔面に腫れ(回復中)、頭部からの出血(回復中) 、疲労(大)、精神疲労(小)、睡眠中
[道具]:催涙スプレー(半分消費)、スタンガン、八柳哉太のスマートフォン、斜め掛けショルダーバッグ、包帯(異能による最大強化)
[方針]
基本.このZombie panicを解決してみせるわ!
1.休んだらここにいる皆からHearingするわよ。
2.Ms.チャコが地下研究施設について何かを知ってるかもしれないわね。
3.私のスマホどこ?
※異能の存在に気がつき、任意で発動できるようになりました。
※他の感染者も異能が目覚めたのではないかと考えています。
※虎尾茶子が地下研究施設について何らかの情報を持っているのではないかと推理しました
※異能により最大強化された包帯によって、全身の傷が治りつつあります。
【八柳 哉太】
[状態]:全身にダメージ(中・再生中)、臓器損傷(再生中)、全身の骨に罅(再生中)、疲労(大)、山折圭介に対する複雑な感情
[道具]:脇差(異能による強化・中)、打刀(異能による強化・中)
[方針]
基本.生存者を助けつつ、事態解決に動く
1.このバカ(アニカ)を守る。
2.休憩後、アニカの推理を手伝う。
3.ゾンビ化した住民はできる限り殺したくない。
4.圭ちゃん……。
※自分の異能を知りました。
※脇差と打刀が異能により強化され、怪異及び異形に対する特効を持ちました。
【C-4/高級住宅街/一日目・早朝】
【山折 圭介】
[状態]:健康、精神疲労(中)、八柳哉太への複雑な感情
[道具]:木刀、懐中電灯、ダネルMGL(5/6)+予備弾6発、サバイバルナイフ
[方針]
基本.VHを解決して光を取り戻す
1.女王を探す(方法は分からない)
2.正気を保った人間を殺す。
3.避難所である学校へ行く。
4.八柳哉太以外の知り合いはゾンビであって欲しい。
※異能によって操った光ゾンビを引き連れています
※学校には日野珠と湯川諒吾、上月みかげのゾンビがいると思い込んでいます。
【D-3/とある一軒家/1日目・早朝】
【独眼熊】
[状態]:出血(小)、左脇腹貫通、感電による全身の熱傷(中)、内臓にダメージ(小)、知能上昇中、烏宿ひなたと字蔵恵子への憎悪(極大)、屈辱(極大)、人間への憎悪(大)
[道具]:ブローニング・オート5(0/5)、予備弾多数、リュックサック、懐中電灯×2
[方針]
基本.人間を狩る
1.『猟師』として人間を狩り、喰らう。
2."ヒナタサン"と"ケイコチャン"はいずれ『猟師』として必ず仕留める。
3.『猟師』の経験を積むために"ヒナタサン"と"ケイコチャン"のいない群れを狩るか、"山暮らしのメス"(クマカイ)と入れ違いになったメスを狩るか(どちらかは、後続の書き手さんに任せます)
※食い荒らされた気喪杉禿夫の死体を自身のストックとして保存しています。
※烏宿ひなたを猟師として認識しました。
※知能が上昇し、道具の使い方を覚えました。
※銃に興味を持ちました。
投下終了です。
修正箇所がありましたのでお願いします。
【D-4/とある雑貨店/一日目・早朝】→【D-4/道沿いの一軒家/一日目・早朝】
投下乙です
>朝が来る
気喪杉と人喰い熊という脅威に全員が死力を尽くして挑んで得た大勝利! 気喪杉くんは序盤ボスとしていい仕事してたよ、お疲れさまでした
異能を昇華させ超電磁砲を放ったひなた、全員の助力を受け捩り風を編み出した哉太、若者たちの可能性に剛一郎も草葉の陰で喜んどる
独眼熊も理性を持ったが故に駆け引きで引くという判断をさせられたけど、これは野生としてよかったのかどうなのか
そして圭介と哉太は因縁があったのね、圭介も吹っ切れたようで身内への甘さを捨てきれていないというか、捨てられないんだろうなぁ
遅くなりました、投下します
「…所で、和幸…一つ聞きたい事がある」
「何だ?」
召喚した動物を利用する事を鈴菜が考えた後、10分歩いてから…鈴菜は和幸に質問をし始めたのだ
「お前は…感染した時…身体に何か…感じたか?」
鈴菜は…女王感染者を殺す道を選ばないようにする為、ウイルスについて考えようとしていたのだ
少しでも時間を無駄にしたくないと考えた故に出した結論である
「我がこの身体になった時…身体が燃え盛るように熱かったなぁ」
「そうか…まぁお前はそもそも肉体が豚だったのが…変化したから…肉体が熱を帯びたのかもしれない…な…私は特に体に変化はなかった…気がついたら力を得ていた…という感じだ…うさぎはどうだった…?」
「はい、私も気がついたら力を得ていたようで、全く気付かなかったです」
「やはりな…肉体変化が起きない力を身につけた場合…肉体に異常は起きないという事だな」
「…ウイルスについては我も少し気になった事はあるな」
「何だ?」
「我が介錯した千沙と和之についてだ…彼らは我がこの身体へ変化した時、寒がっていたな」
「寒がっていた…か、そういえば、私はゾンビを家に閉じ込めようとした時に…ゾンビを少し触ってみたんだ…冷たかった覚えがある…となると…」
「…となると?…どうしたんですか?うさぎさん?」
「…やはりゾンビになった人は…病気になった状態と考えた方が…いいかもしれないな…となると…女王感染者を殺す以外の治療法もある…と考えても良いだろう」
「そうか、まさか蘇生方法が複数あるかもしれなかったとは、我も少し短慮だったかもしれんな」
「反省したのならば…良かった…今後はゾンビになった人でも…殺すのはやめてくれると嬉しい…」
「ですがその治療方法を知る事が難しいですよね」
「ああ…私はそういう知識は詳しくない…だから知っている人に…会わなければ…その為には…」
「…その為には?その為にはどうするのですか?…うさぎさん!?」
「…ハッ!?…その為にはより多くの人に…会う必要があるかもしれないな…となると…今から行く先に多くの人は…いるのか?大分時間は経ってしまったしな…」
「…今の鈴菜さん見ていて分かったことがあるので、一つ言わせてください」
「…何だ?」
「…今眠いですよね?鈴菜さん」
「…なっ!?そ、そんな訳」
「さっきから言葉が時々途切れてたりしてるじゃないですか、それに目も寝ぼけまなこですし、動きも普通よりゆっくりですよ?…荷物も引きずって歩いていますし」
…そう、彼女は9時に寝て、6時に起きるという非常に健康的な生活を送っているのだ
だがこの地震が始まってから彼女はずっと走り続けていた、多くの被災者を避難させる為、ゾンビを家に閉じ込める為、正常者に出会う為…その結果、彼女はとても眠くなってしまっていたのだ
勿論こんな事態で眠くなってはいけないと考えて奮い立たせていたが、それでも眠気は誤魔化せなかったのである。
「大丈夫だ…こんな状況で寝るなんて論外だ」
「ではもしこの状況で殺しに来る人がいたら…戦えるんですか?」
「…」
何も言い返せなかった、だが次に彼女は
「…ではこの荷物は誰が持つのだ?」
「それは我が持ってやろうか?体力満タンでなければ…この先厳しいと我は思うがな」
「…本当に良いのか?」
「大丈夫です、鈴菜さん、緊急事態になったら起こしますから」
うさぎは…膝枕をするような姿勢で寝るように目で訴えかけていた
「…すまない」
まず彼女はリュックを卸し…うさぎの太い太ももの上に頭を乗せた…
「所で…この重いリュックには何が入っているんですか」
「…見ていいぞ」
リュックを開けると…大量の荷物が入っていた
「す、凄い…!!こんな多くの荷物を持って走っていたんですか?」
「なかなかの体力であるな…食べ物も入っているのか…ふむ、とうもろこしはないのか、残念である」
「…もし、多くの人に会えたら…皆で分けてくれ…それに何かあったらすぐ…起こして…欲しい…必ず…起きるから…頼む…」
そう言い残し…彼女は…ひと時の…眠りについた…
…ようやく鈴菜さん寝始めたよ
ずっとこんな重い荷物持ちながら走っていて、疲れていたんだろうなぁ
「すー、すー…」
「うさぎよ、その鈴菜という女、我が背負うか?」
…和幸さんを鈴菜さんはまだ完全に信用していない気がする
もし和幸さんが背負ったら起きちゃうかもしれない
「大丈夫だよっ、和幸さん、私、何とか背負ってみるから、だから和幸さんは荷物を持っててくれる?」
「…と言うか何故鈴菜はこのままだと歩けないことに気づかなかったのだろうか」
「それを判断出来ないくらい疲れていたのかもしれないから…仕方ないよ」
大丈夫、ゆっくりと動かせば…うんしょっ…ふうっ、良かった…起こさないまま背負う事が出来たよ…
…今確認した時に寝顔見ちゃった、本当にこの人綺麗だ…流石に春ちゃん程では無いけど十分美人さん、それに加えて
なんでだろう、私はこの人を妙齢の大人の人だと思っていた、でもこの子供っぽいあどけない寝顔を見ているとふと思った、もしかして私と…同年代なんじゃないかな?って
ちょっと後で起こした時に話聞いてみようかな?
「それで、うさぎよ、このまま向こうへ行くのか?」
「…そうしたかったけど、やっぱりやめた方がいいかもって私、思っちゃった」
理由は鈴菜さんが言っていたように、高級住宅街に行くのに時間を予想以上に使っちゃったから
ゆっくり歩いていたとはいえ、多分あのまま和幸さんに会わなかったら早く着けていたと思う、勿論会えて嬉しかったけれど、もうこんな時間じゃ向こうにいた人は移動している…と思う
でももしかしたらそこで動けない事態に陥っている人もいるかもしれない、そういう人を助ける為にはどんなに時間が経っていてもそこに行った方がいいよね?
「では何処に行くつもりだ?」
「…ちょっとある事を確かめてみようかなって」
私はあの時、ドラちゃんに喧嘩をやめるように言ったらすぐ話を聞いてくれた
なら、この頼みも聞いてくれると思う…もうそろそろ6時になりそう、早く頼まなくちゃ
「スネスネちゃん、もし近くに人が多くいたらその場所に向かってくれる?」
…蛇は人間の体温を感じ取って位置を探ることが出来るのが特徴だ
そう、彼女はもし多くの人がいるのならばまず先にその方へ向かう、いないのならば高級住宅街を先に行く…と決めていたのだ
…その結果
(す、凄いスピードで向こうへ!?)
…余程多くの人がいたのか?南の方へ一直線に向かって…時間が来たようで消えていった、もしかしたら戦いが起きている可能性もあった。でも多くの人が集まっている可能性もある、行ってみてもいいと思った。
…うさぎはふと思い返してみた、ウサミちゃん、ドラちゃん、この2体のおかげで、知り合いである和幸さんに会えた
なら、もしかしたらスネスネちゃんのおかげで知り合いに会えるかも…!!
「和幸さん!!行くよっ!!」
「わ、分かった!」
果たして彼女達の行く先で誰に会えるのか…?
【B-4/平原/1日目・早朝】
【犬山 うさぎ】
[状態]:健康、蛇召喚中
[道具]:ヘルメット、御守
[方針]
基本.家族と合流したい&少しでも多くの人を助けたい
⒈ スネスネちゃんが向かった方へ向かう
⒉ その後避難所(学校)に向かう…つもりだったが和幸さんの話を聞く限りやめておいた方がいいかも
⒊ 出来るなら多くの人達を助けたい
⒋ 鈴菜さんともう少し会話しておきたい…もしかしたら同い年?
5.お疲れ様です、鈴菜さん
【岩水鈴菜】
[状態]:健康&睡眠中
[道具]:ロシア製のマカノフ
[方針]
基本.この地震が起きた原因を調べる
1.zzz…
2 .高級住宅街の方へ向かう…つもりだがそれには時間をかけすぎてしまったか?
3 .次に学校に向かう…つもりだったが和幸の話を聞く限り再考した方がいいかもしれない
4.次に剛一郎が経営している寿司屋へ向かって彼の情報を集める。
5.ゾンビは家に閉じ込めて対処する。
6.剛一郎の危険性を多くの人に伝えながら、説得できる人と異能が強い信じられる人を探す
7.千歩果の知り合いがいたら積極的に接触したい、まず一人会えて良かった。
8.残り時間が少なくなってしまい、どうしようもない時は危険人物→善性殺戮者→自分の順番で死んでいくしかない、だが女王ウイルスを命に影響なく無力化する方も諦めず探したい
9. うさぎが召喚する動物でウイルスの治療薬を作ることが可能か?…しかし、今はこのことを誰かに話したくない
※閉じ師の技能が使えますが、この状況ではほとんど意味がありません。この立場は隠していくつもりです
1回異能を使うと20ml水を消費します。現在一本目の水の量は440mlです
【和幸】
[状態]:健康
[道具]:とうもろこしの入った袋、リュックサック、キャンプ用具(テントやライターなど)、傘、寝間着×2、制服、普段着×2、インスタント高山ラーメン、のりしおポテトチップス、ポテトサラダ、焼きうどん、冷凍西浦みかん×3、更にビックマック、AQUAの水500l×2、木製の子供用椅子
[方針]
基本行動方針:風の向くまま、村を散策する
1.犬山うさぎを守る…その友である鈴菜という少女も守るべきかもしれんな
2.亡者になった知己は解放してやる…つもりだったがもう少し考えてから解放した方がいいかもしれんな
3.鈴菜はなかなか多くの荷物を持っていたな…運動神経に関しては勇者にも劣らないかもしれん
4.とうもろこし…
タイトルは「だいすきが繋ぐ良縁」です
後、後で鈴菜の台詞は修正します
「…もし、多くの人に会えたら…皆で分けてくれ…それに何かあったらすぐ…起こして…欲しい…頼む…」
→「…もし、多くの人に会えたら…水以外の…食べ物を皆で分けてくれ…それに何かあったらすぐ…起こして…欲しい…頼む…」
です
後場所も修正します、
【C-4/分かれ道の分岐点/1日目・早朝】
です
ギリギリですみません、投下します
結論から言えば、嵐山岳には覚悟がなかった。
嵐山は猟師である。自然とともに育ち、村に住む人と山に棲む獣の狭間に立つ。
人に害を為す獣は駆除する。しかし、決して必要以上の殺戮はしない。そうすることで人と獣のバランスを保つ。
人が欲に駆られて山に深入りし過ぎることも、獣が獲物を求めて村に降りてくることも、どちらにもブレーキをかける存在だ。
ゆえに、嵐山には銃を撃つ覚悟がある。
撃てば誰かが死ぬ武器を、あまりにも容易く命を命ではなくさせる力を扱う覚悟が、嵐山にはある。
しかしてその覚悟は、猟師として培ってきたその自己認識は、当然のことながら人に向けて行使されるものではない。
獣を撃つときにだって引鉄にかける指は重い。これから命を奪うのだということを己に厳しく突き付け、吟味し、納得の上に弾丸を放つ。
遊びで撃ったことなど一度もない。畑を食い荒らす鹿や猪、あるいは人を食らわんとする熊や野犬にのみ銃口を向けてきた。
高潔、潔癖とさえ言える自律心こそが嵐山岳という人間の骨子である。
他方、小田巻真理は異なる。
彼女は自衛隊の特殊部隊に在籍する本職の対人戦闘員である。
部隊に属する同僚たちに比べれば、幾分は「普通」と評せる精神性、自我を持つ。
だがそれはあくまで異常者の集団と言って差し支えないSSOGの「中では」普通というだけであり、彼女を一般人と比べればやはり違いは明白になる。
その違いとはつまり、意識的に人を殺せるかどうかだ。
小田巻はSSOGの面々では新人とはいえ、何も義務教育終了後すぐにSSOGに入隊した訳ではない。
普通に自衛隊に入隊し、訓練を受け、適正を見出されSSOGに転属となり、隊の基準を満たすべく訓練を受け――その過程で人を殺した。
その数も一人や二人ではない。SSOGは自衛隊最精鋭かつ表に出せない汚れ仕事を担当する部署であるがゆえに、任務を任せられるにはそれなりに信頼を得ねばならない。
SSOGの任務ですらない、訓練――性能評価試験と言い換えてもいい――にて、小田巻は両手の指以上の人間を既に殺害している。
もちろんその標的は民衆に危害を加える悪党や捕らえた外国の工作員など、いなくなっても日本に何ら影響のない者たちである。
五人目を撃ち殺す頃には感覚はすっかり麻痺していた。何しろ先輩方は「おう、何人殺った? アタシは八人だ」「三人ですが、別にスコアを競うゲームじゃありませんと」といった調子だ。
SSOGにおいては人を殺すことなど罪ではない。任務を果たせないことが罪だ。
だから小田巻は自分を介抱してくれた少女をも躊躇なく殺そうとした。それは「正義」だからだ。
小田巻の行動は村一つが巻き込まれたこのゾンビ騒ぎを収拾するためであるのだから、無害な、罪のない、未来のある少女を殺害したとて、それは決して私利私欲のためではない。
少数を殺し大勢を生かす。その大義がSSOGには、小田巻にはある。
決して、自分の思想に酔って妻や隣人たちを大量殺戮している狂人とは同類ではない。小田巻真理はそう、確信している。
嵐山岳は人を愛し、獣を愛し、村を愛し、自然を愛する。
小田巻真理は大義のために人を殺すことを肯定する。
それが二者の違いであり、生死を分けた境目でもあった。
嵐山岳は、愛した村の住民である八柳藤次郎によって斬り殺される。
小田巻真理のライフルが火を噴く。照準は迫り来る八柳藤次郎の胴体中央。
高速で接近する人体の一箇所に精密射撃を行うのは至難の業だ。
小田巻にはそれを可能とする射撃技術があるが、試射もしていないライフルをこの局面で、となればさすがに厳しい。
ゆえに、まず表面積が大きく回避し辛い体幹部にダメージを与え動きを止めてからとどめを刺す。
もっとも、動物を仕留めるライフル銃が胴体に直撃すれば、人間は即死するものだが、小田巻は一切の躊躇なく発砲した。
ライフル銃の弾速は拳銃弾の優に三倍以上ある。こうして面と向かって撃たれたのならば、オリンピック短距離ランナーであったとしても回避は不可能だ。
が、八柳老人はもはや人ではない。人の形をした怪物だ。
小田巻が引鉄を引き切る寸前、藤次郎は瞬時に構えを取った。
小田巻は既に一度撃っており、藤次郎は既に一度回避に成功している。惜しむらくはこの時、小田巻は万全の状態で撃てなかったことだ。
藤次郎の奇襲に面食らうことなく反撃してのけたのは特殊部隊の面目躍如といったところだが、どうしても体勢は崩れている。
そんな状態で無理に撃ったから、藤次郎に回避の余裕を与えてしまった。と言って、撃っていなければ斬り捨てられていたのだから牽制として正解ではあったのだが。
ともかく、小田巻は一度ライフル銃の射撃を藤次郎に見せていた。見せてしまっていた。
異能により感覚が鋭敏に研ぎ澄まされている藤次郎にとっては、その一度で十分。
さすがに超音速の弾丸を目で追えるわけではないが、小田巻の指の動き、引鉄が引き切られてから弾丸が発射されるタイミング、どちらも藤次郎は見切っていた。
「――シィィッ!」
短く鋭い呼気とともに奔った剣閃は、夜の闇の中で鮮やかに光る。
光とは比喩ではない。藤次郎の剣の切っ先はこちらも一瞬だけ音速の壁を越え、その空間にあった物――すなわち小田巻の放ったライフル弾に寸分違わず斬り裂いた。
チイッ、と金属同士がこすれ合ったような甲高い音が一瞬通り過ぎる。
後に残るのは、刀を振り抜いた藤次郎の五体満足の姿。
八柳流の剣聖が振るう飛燕の剣は、工業文明の結晶たる銃の弾丸すらも捉え切る。
「嘘……」
強者や猛者など見慣れている小田巻もさすがに目を疑う。
正面からライフル弾を斬り落とせる存在など、SSOGにも存在しない――!
SSOG最凶の大田原にだってあんな芸当はできはしない。想定を遥かに超える、化け物が目の前にいる。
だがそこはやはり実戦を経験した戦闘員、小田巻は動揺を一瞬で鎮め更なる射撃を再開する。
呆けていたのはただの一瞬だが、藤次郎はその間に四歩も迫ってきていた。
再射撃が一秒でも遅ければ、、小田巻の首は宙に舞っている。
藤次郎が再び足を止め、続く二射、三射を斬って捨てる。当然のように、ただの一度も仕損ずる事なく。
「嵐山さん! 撃って!」
ライフルに装填できる弾丸は五発。三発撃って残りは二発。弾が尽きた時が小田巻の命も尽きる時だ。
だがここには銃を持ったもう一人、嵐山がいる。
嵐山の銃は散弾銃。小さな鉛球が拡散しながら飛んで行く、大型の獣用の火器だ。
あれならば老いた剣豪がどれだけの怪物であろうと、全ての弾丸を叩き落とせるわけがない。
ライフル弾を「点」とするならば藤次郎の剣は「線」、そして嵐山の散弾銃は「面」の攻撃だ。
点を線で捉えることはできても、面を一瞬で網羅することはできない。
嵐山が藤次郎に向けて散弾銃を撃てば、それでこの戦いは終わる。
しかし、嵐山岳は猟師だった。
人里を荒らす獣は撃つ。撃てる。その覚悟はある。
だが人は? 悪を為す人は撃っても許されるのか?
そうであるならば村人を威圧する極道組織の構成員は全て撃ち殺しても問題ないのか?
相手がこちらを殺そうとしているのならば、自分が生き延びるためならば、それは正当防衛ではないか?
思考を言語化して思い浮かべた訳ではない。全ては一瞬にして脳裏に浮かび、そして一瞬に消える。
嵐山は藤次郎を止めると決めた。そのために銃を使うとも決めた。
だがこの一瞬で、今まで厳しく律してきた己のルールを、「銃は人を獣から守るためにのみ使う」という猟師たちの矜持を塗り替えることは、できなかった。
「くっ……!」
一瞬。嵐山が逡巡したのは僅か一瞬だ。それ以上迷えば小田巻が死ぬ。
とっさに銃口を下げる。散弾が直撃すれば片足、悪くすれば両足は吹き飛ぶだろうが、即死することはない。
今まで高潔な猟師として生きてきた嵐山が見出した、現実とのギリギリの妥協点。
村人を鏖殺せんとする八柳藤次郎を、それでもまだ獣とは否なる人間として見ていた嵐山の、それが誤り。
藤次郎が刀を携える手とは逆の手を振る。刀を納めていた硬い木の鞘が、針となって嵐山の構える散弾銃に飛んだ。
カァン、と薪を割るような音。散弾銃を叩き落とされまいと踏ん張った嵐山の膂力が勝り、鞘は宙に弾き飛ばされた。
鞘が嵐山の視界の端を過ぎる。目線を戻した時、剣鬼は既に三歩の距離。
(まずい……っ!)
音よりも速い刃が嵐山の首を断つ――ことはない。
藤次郎の刃は、即座にフォローに入った小田巻の射撃を食い止めるために軌道を変えたからだ。
息も吐かせぬ二連続射撃が、藤次郎を後退させる。
「嵐山さん、大丈夫!?」
藤次郎が引いた機を逃さず小田巻は弾丸を再装填する。五発。嵐山から渡された弾丸の全てだ。
「ふむ……君はどうやら軍人か何かのようだな。迷いのない良い射撃だ」
できの良い生徒を褒めるように、藤次郎は小田巻へ言葉を紡ぐ。
その眼光は酷薄にして冷厳だ。漲る殺意を隠しもしていない。
「お褒めに預かり光栄ね。全然嬉しくないけど」
「君は先ほど、儂が狂っていると言ったが……躊躇なく人の頭部を撃てる君は、そうではないと言えるのかね?」
「一緒にしないで。私は正しいことのために銃を取っている。自分勝手な理屈で人を殺めるあなたとは違うわ」
毅然と、小田巻は藤次郎の「言刃」を撥ね退ける。
小田巻には大義がある。親しい者ですら眉一つ動かさず斬り捨てる狂人とは違うという自負がある。
「そうかね? 既に誰かを襲ったか、襲われたか。その行動も大義があったゆえか?」
「っ、これは……」
藤次郎は剣先で小田巻の右腕を指し示す。それは、小田巻が最初に襲った少女から受けた反撃の跡だ。
当然、顛末を藤次郎が知る由はない。だが藤次郎の眼力は、油断ならぬこの外部入村者が必要と判断すれば躊躇なく殺人を実行できる人種だと見抜いていた。
「……私がどういう人間であったとしても、あなたとは違うわ。私たちを仲間割れさせる気だったとしたら、お生憎様ね」
「仲間割れ? 異なことを言う。どうせ二人とも斬り捨てるのに、不和を起こす必要があろうか」
小田巻が一番恐れる事態は、殺戮者を前にして同盟者である嵐山に疑念を持たれることだ。
出会ってなし崩しに戦闘に入ったから説明してはいないし小田巻としてはする気もないが、小田巻も既に村民を一人襲っている。
不可解な反撃に遭い殺害にこそ至っていないが、もしあの少女が無力であれば確実に小田巻は命を奪っていた。
それを嵐山に話せばどうなるか、考えるまでもない。小田巻は村の敵と看做される。
まさか衝動的に起こした行動がこんなにも早く首を絞めるとは、と小田巻は横目で嵐山を見やる。
「そもそもそんな必要もなかろう。なあ、嵐山君」
「嵐山さん……!?」
彼が短気にも藤次郎の言に乗って自分を疑っていませんように、と祈る小田巻の願いは、嵐山の足元に広がる血溜まりの前に吹き飛んだ。
小田巻と藤次郎の問答に嵐山が口を挟まなかったのは、話の中身によるものではない。
嵐山の左手は欠けていた。肘から先がなくなった断面は間欠泉のように鮮血が滴る。
嵐山は痛みに苦悶しながらも、片手でベルトを引き抜き左上腕を締め付けることで止血を行っていたのだ。
藤次郎の斬撃は、小田巻の弾丸を斬り落とすと同時、散弾銃を支えていた左手を音もなく断ち斬っていたのだった。
ただの一瞬の逡巡。
藤次郎にあり、小田巻にもあり、嵐山だけが持っていなかったもの。
殺人への黒い意思の有無が、死線を分けた。
「いたずらに苦しみを長引かせたのは儂の未熟ゆえ。すぐに楽にしてやろう」
すっ、と藤次郎が構える。小田巻もつられて射撃姿勢を取るが、思考は激しく渦を巻いていた。
ただでさえ銃弾を無力化するような怪物であるというのに、こちらの手が一つ減る。
しかもその手は、唯一藤次郎を打倒できる可能性のある散弾銃を持つ嵐山だ。
嵐山から散弾銃を受け取る――無理だ。その僅かな時間で藤次郎は今度こそ小田巻か嵐山、どちらかを斬る。
そのどちらかとは当然、より危険度の高い方。散弾銃を持つ者が狙われる。
背中を流れる汗がぞっとするほど冷たい。小田巻は今、自分が死地にいるのだとこれ以上なく理解らされている。
「……小田巻さん、行ってください。ここは、私が」
藤次郎が動くより先に、小田巻が動くより先に、嵐山が動いた。
嵐山が足元の血溜まりを蹴る。飛び散る血飛沫の中から、小田巻は幾つかの塊をキャッチした。
十発の血の塊り。嵐山が生成した異能の弾丸だった。
そして、嵐山自身は片手で散弾銃を構え、藤次郎と対峙した。
「行ってください。そして、村を救ってください。先ほど話した仮説、あれを誰か信用できる人に伝えてください」
「嵐山さん、あなたは!? その出血じゃ!」
「長くは保ちません。だからこそ、あなたに託すんです。頼みましたよ!」
嵐山の傷は深い。無理やり止血したとはいえ流れ出た量は相当に多く。まともに動けるのはもう数分もない。
猟師としてこの失血量であとどれくらい動けるのか、その時間の中で藤次郎の撃退は可能か。
無理だ。総判断したから、嵐山は決断した。
小田巻を生かすため、捨て石になると。
片手で構えた散弾銃が撃発する。
本来両手でしっかりと支えて使用する散弾銃を片手で放つ。狙いは定まらず、反動で銃口が跳ね上がる。
しかし、狙いが定まらないからこそ、藤次郎にもその銃弾の行き先は容易には読めない。
余裕を持って散弾銃を躱せるように、大きな動作で藤次郎が跳び下がる。
「行って! 行けぇぇぇっ、小田巻ぃぃぃぃっ!!」
咆哮とともに散弾銃が放たれる。銃弾が藤次郎に命中したか見届けることもなく、小田巻は踵を返して走りだした。
嵐山の散弾銃は三発装填できる。二発撃って、残りは一発。
嵐山にはもう片手がなく、いくら弾丸を生み出せようともう再装填はできない。
小田巻は瞬間にその思考を巡らせると、躊躇なくその場を離れることを選んだ。
全速力で離れていく小田巻の背を見やり、藤次郎は嵐山へ剣を向ける。
「村の者でもない余所者のために命を捨てるか。天晴なことだ」
「八柳先生、どうか考え直してください。あなたは間違っている」
「すまんが、断る。ではな、嵐山君。先に地獄で待っておれ」
「この村にはあなたの弟子や、お孫さんだって……!」
銃声が鳴る。
お孫さんだっている、という結びの言葉を紡ぐことなく、嵐山の首は地に落ちた。
縦真っ二つに断ち割られた散弾銃が墓標のように嵐山の首の隣に突き立つ。
藤次郎なりの、男への礼。
殺し合い以外の道を模索した高潔な猟師の旅路はここで終わり。
剣鬼は逃した獲物に向かって走り出す。
地獄はまだ、終わらせない。
「ちょっとぉ、何の音なのよぉ……」
漁師小屋で仮眠を取っていた少女、環円華は銃声によって覚醒した。
寝ぼけ眼でいた数秒後、事態を把握して小屋から飛び出す。
一緒にいたはずの碓氷誠吾の姿は消えていた。
「はぁ!? あいつ、私を置いて逃げやがったの!? マジありえない……!」
これでは円華を守る肉壁がいないではないか。
とにかく銃声から少しでも離れようと、円華は荷物をまとめて走り出そうとし――運命に追いつかれた。
「……っ、あなたは」
短距離選手ばりの速度で現れたのは、円華が見たことのない大人の女だ。
手には煙立ち昇るライフル銃を持っている。あの銃声の主だろうか。
「ひっ……! こ、殺さないで!」
さすがにこれは想定していない。芽生えた異能を行使することも忘れ、円華は現状唯一の武器であるポリスマグナムを隠したまま両手を上げて降伏の意思を示す。
女は円華を睨み、はっと顔を上げる。
あれ、撃ってこない。これはいけるんじゃね?
一瞬のインターバルを得た円華が異能を行使しようと、集中を始め――
「ごめんね」
短く、女はつぶやく。
そして背後に向かってライフル銃を一発撃つと、円華に目もくれず明後日の方向へ走りだした。
「は? え、ちょ、なんなの?」
唐突に現れ、謝って、銃を撃ち、そして消える。
呆気にとられた円華が理由を知ったのは、きっかりその十秒後。
「ほう……これはしてやられたようだの。誘導されたか」
現れたのは、どう見てもついさっき人を殺してきたとわかる血まみれの刀を持った老人。
その老人を見て、言葉を聞いて、電撃的に円華は理解らされた。
あの女は、この人殺しを円華に押し付けて逃げたのだと。
「っっざっけんなクソがっっ!」
「すまんな、お嬢さん。運が悪かったと思ってくれ」
老人は当然のように円華をも殺す気らしい。
刀を向けられると思った瞬間、円華は全力で異能を行使した。
「死ねっっっっっっ!!!!」
円華の異能は、他人を操作することができる。
ゾンビにさえ及ぶその力は、全力であれば抗うことなどできない。
老人が持っている刃を自らの胸に突き刺せと、強く、強く念じる。剣を逆手に持ち替え、切腹する――はずだった。
「――ハァッッ!!!!」
しかし老人の大喝が響く。
老人の腹を貫くはずだった刃が振りかぶられる。
「ざけんな、死ね、死ね……!なんで死なないんだよぉぉぉぉッ!」
異能が効かない。頼みの綱が切れた。
動転した円華は全力でポリスマグナムを噴射した。が。
「がふっ」
全ては遅かった。
老人ではなく円華の腹に、血塗られた刃は突き立った。
「南無三」
老人、八柳藤次郎は目を瞑ったまま呟く。
藤次郎の異能は精神干渉に対しての耐性を有する。
円華によって一瞬奪われた体の自由を剣気を漲らせることで打ち破った藤次郎は、噴射された熊用の催涙スプレーに踏み込む愚を犯さず刀を投げ放った。
刀は過たず円華に命中した。
孫の哉太と同じころの、年端もいかない少女の命を奪うために。
八柳藤次郎の異能は、環円華の天敵であった。
同世代男子を手玉に取る魔性の魅力も、枯れた剣鬼には通じず。
残ったのは血塗れの修羅、ただ一人。
「く、そ、じじ……い……死ね……」
「うむ。いずれ会おうぞ」
恨み言を残して絶命した少女から藤次郎は刀を引き抜き、鞘に収めた。
小田巻はもはや追えまい。浪費した時間は僅かなれど、痕跡はまるで陽炎のように消えている。見事な隠形術だった。
いずれ仕留めねばならない。だが、今は。
「顔を洗いたいな」
催涙スプレーを喰らわなかったとはいえ、匂いは強烈だ。そもそも血の香りをまとっているのでいまさらだが。
散らばった円華の荷物を回収し、藤次郎は悠然と、次なる獲物を求めて歩き出した。
日が昇りつつある。
まずは二人。
山折村滅殺まで、まだ遠い。
【嵐山 岳 死亡】
【環 円華 死亡】
【B-6/猟師小屋/一日目 黎明】
【八柳 藤次郎】
[状態]:疲労(小)、血塗れ
[道具]:藤次郎の刀、ザック(手鏡、着火剤付マッチ、食料、熊鈴複数、寝袋、テグス糸、マスク、くくり罠)、小型ザック(ロープ、非常食、水、医療品)、ウエストポーチ(ナイフ、予備の弾丸)
[方針]
基本.:山折村にいる全ての者を殺す。生存者を斬り、ゾンビも斬る。自分も斬る。
1.出会った者を斬る。
2.小田巻真理を警戒。
【C-5/路上/1日目・早朝】
【小田巻 真理】
[状態]:疲労(中度)、右腕が汚れている、右腕に火傷
[道具]:ライフル銃(残弾5/5)、血のライフル弾(10発)、???(他に武器の類は持っていません)
[方針]
基本.女王感染者を殺して速やかに事態の処理をしたい、が、迷いが生じている。
1.生存を優先する
2.結局のところ自衛隊はどういう方針で動いているのか知りたい
3.八柳藤次郎を排除する手を考える
※まだ自分の異能に気づいていません
※嵐山岳の散弾銃は破壊されました。
※環円華のポリスマグナムは全て消費されました。
投下終了です
投下乙です
>だいすきが繋ぐ良縁
鈴菜ちゃん寝ちゃった、見た目は大人でもやっぱり年相応なのね、うさぎの優しさが染みる
時間固定で自由に選べないという縛りはあるけど召喚は便利だねぇ
まだまだ危険な高級住宅街に蛇が導くのはタイトル通りの良縁か、はたまた悪縁か
>山折村血風録・序
ライフル弾まで切っちまるとか強すぎるぜ、八柳の爺様! 元から強い人が異能でブーストされれば最強という当然の答え、その強さたるや正しく剣鬼!
嵐山せんせーは人間同士の殺し合いの舞台では猟師としての矜持が足を引っ張ってしまったが、殿を務め人を生かすために撃つというその高潔さは最後まで徹底されていたね
小田巻は円華を囮にしてヒデェwww生き残って考察を伝えるという任務に忠実であると考えればとことん軍人であると言えるのか
通りすがりに最強の爺様落ち着けられた円華はご愁傷様すぎる、天と地の実力差な上に異能の相性も最悪という状況が詰み過ぎている、小田巻を恨んでいいよ
それでは私も投下します
斉藤拓臣は走っていた。
記者は足で稼ぐものだという言葉もある。
実際、取材対象を追って走りまわることも珍しくはない。
だが、今の拓臣は違う。取材の為ではなく逃避のために駆け出していたのだ。
思えば、今日この村に来てからずっとこうだ。
大地震により引き起こされたトンネルの崩落の中を駆けだし、九死に一生を得た事に始まり。
精も根も尽き果て意識を失って目を覚ましたところに響く謎の銃声を聞き、混乱に陥って逃げるように走りだした。
震災直後は治安が荒れ、窃盗や性犯罪などの犯罪が多発するモノだが、銃声と言うのは行き過ぎだ。
この村は山々によって世間から隔絶されているとはいえ現代日本である、銃などそうそう手に入るものではない。
確か山折村には地元に根差したヤクザ――木更津組だったか――がいたはずだ。
震災の混乱に乗じてそいつらが発砲した? それとも駐在が撃った、はないにしても、その拳銃を誰かが奪いでもしたか。
文屋の端くれとして反社を取材対象にしたことは1度や2度ではない。
撃たれた事こそないが、生の銃声だって何度も聞いたことがある。
聞き間違えだったという可能性もあるだろうが、聞き及んだ音が銃声に酷似していたのは間違いない。
震災直後の非常事態。
銃声もそうであるという前提で動くべきだ。
能天気に正常性バイアスで死ぬなんて御免だ。
常に最悪を想定して動く。それが上手く生き残るためのコツだ。
地震の影響か、それとも元よりそうなのか。
いずれにせよこの村はまともじゃない状況である可能性が高い。
ジャーナリストとしてのこの村をかぎつけた嗅覚は間違ってなかった、と言う喜びの感情があるのも事実だが、それ以上に身の危険を感じている。
取材は飯の種だが、生きるために飯を食うのであってその為に命をかけては本末転倒だ。
残念ながら拓臣は二流ゴシップ記者であり、命を懸けて戦場でレポートするジャーナリストではないのである。
村外に避難しておきたい所だが、唯一の出入り口のトンネルが地震によって塞がれてしまった。
外部からの救助を待つしかないのだが、こんな辺鄙な場所の救助などいつになるのか。
それまで、村内の安全な場所に避難するか。
だが、どこが安全な場所なのかなど知るはずもない。
「って、どこだここ…………?」
足を止めて荒くなった息を整える。
安全な場所以前に現在位置すら分からくなっていた。
恐怖に駆られてがむしゃらに走ってきたが、ここは村のどの辺だろうか?
周囲を見渡せど見えるのは闇ばかり。
地震の影響もあるだろうが、北部に比べ開発の遅れている南部という事もあってか周囲に明かりが殆どない。
足元を照らすのは田舎特有の眩いばかりの星々と月明りくらいのものである。
取材対象として初日にある程度のフィールドワークを行い簡単な地形は把握しているが、流石に夜道を地図もなく迷わず歩けるほどの土地勘は得ていない。
ひとまずポケットから取り出したスマホのライトを灯す。
漠然と暗闇を進む不安を紛らわすという意味も強かったのだろう。
貴重なスマホの充電を消費するのはもったいないが、どうせ地震直後の電波障害で繋がらないのだ、懐中電灯代わりにした方が有用である。
程なくして足元を照らすライトが土を均しただけの田舎道を見つけた。
どこに繋がる道なのかは分からないが、取り敢えず道なりに進んでゆく。
シンボルマークとなる建物が見つかれば現在位置も把握できるだろう。
とぼとぼと一人歩き続ける。
暗闇を恐れるような性質でもないが、状況が状況だけに不安感に襲われる。
そして、しばらく進んだところで、右手側に建造物の影を見つけた。
それは2階建ての四角い建物だった。
1階はまるまる駐車用のスペースで埋まっており、シャッターの開いたガレージの中央に鎮座する真っ赤な車が目を引いた。
みんなの憧れ働く車、消防車である。
つまりはここは消防署、と言うより規模的に村の消防団の詰所だろう。
診療所とは逆方向である。
見当違いの方向に来てしまったようだ。
がっくり肩を落とすが、すぐに頭を切り替える。
詰所なのだとしたら中に消防団の誰かいるかもしれない。
助けを求めることもできるかもしれない。少なくとも銃声がした異常事態を報告だけでもしておくべきだろう。
それ以前にトンネルのダイハードから走りっぱなしで水の一杯でも貰いたい。
何にせよ、人がいるかどうかを確かめなくては話にならない。
地震の直後ともなれば、救助作業で出張っていて誰もいない可能性も高いだろう。
拓臣はガレージを横切り、建物横に備え付けられた鉄の階段を上がって行った。
カンカンと安っぽい足音が響く。
そして2階の踊り場まで登ったところで足を止めた。
「すいませーん。誰かいらっしゃいますかー?」
アルミサッシの扉をノックして呼びかける。
しばらく待つが返事はない。
どうすべきか僅かに悩むが、仕方なしにドアノブに手をかけゆっくりと捻る。
どうやら鍵はかかっていないようだ。
「…………お邪魔しますよ〜」
遠慮がちにそう言いながらゆっくりと扉を開く。
開いた隙間から室内の光が漏れ出し、急に刺し込んで来た強い光に目を細める。
徐々に目が慣れて行き、視界に入ってきたのは畳部屋だった。
恐らく普段はこの部屋に集まり団員たちが会議や定例会と称して駄弁ったりしているのだろう。
畳の上には座布団や団員の私物と思しき雑誌や煙草が転がっていた。
そんな憩いの場も地震によって倒れたであろうロッカーが横倒しになり、割れた食器類が畳の上に散らばり酷い有様であった。
そんな部屋の中央。
地震の影響か不安定に点滅する白熱電球に照らされながら、オレンジの消防服に身を包んだ一人の男が立っていた。
恐らく地震直後の火災を警戒して詰所まで駆けつけた真面目な消防団員だろう。
「あのぉ…………」
躊躇いがちに呼びかけるが、返事はない。
気付いていないという事もないと思うが、田舎特有の排他的な不愛想さかだろうか。
反応がないのに強引に部屋に入る訳にもいかず、かと言ってこのまま下がるも微妙な気まずさがある。
どうした物かと戸惑っていると、男に動きがあった。
男がゆっくりと振り返る。
その顔は。
「…………ぅぅぁあぁ」
そこには狂気があった。
血走り白く濁った瞳。
食い縛った歯から犬みたいに涎を垂らす。
その白い瞳が侵入者を認め、一直に飛び掛かってきた。
「うわぁああ……!!?」
押し倒され、踊り場で揉み合いになる。
振りほどこうと抵抗するが、押し倒す相手の力が強く引き剥がせない。
拓臣は腐っても記者だ。
強引な取材で取材対象に暴行を受けることもあっても殴り返したりはせず、粛々と法的な手段に訴えかけてきた。
ペンは剣より強し。殴り合いの喧嘩なんて野蛮人のすることである。まともな喧嘩なんてしたことがない。
何より、不摂生な生活を送っている拓臣が鍛え上げられた健康的な消防団員相手に力勝負で勝てるはずもない。
このまま訳も分からないまま、訳の分からない輩に襲われ殺されてしまうのか。
「冗、談……じゃねぇ…………!」
こんなところで死んでたまるかと、力を振り絞って暴れまわる。
火事場の馬鹿力か、なんとか隙間が生まれ、片腕だけは自由になった。
再び封じられる前に、この片腕をどう使うか。
殴る? 叩く? それとも掴む?
その判断が生死を分けることになる。
拓臣が掴んだのはジャーナリストの魂だった。
つまりはカメラである。
相手の目の前でシャッターを切りフラッシュを浴びせる。
強い光に相手が怯んだ隙に拘束から抜け出す。
「どおりゃああああああああ!」
フラッシュで目を焼かれた影響か、拓臣を完全に見失っている相手に向かって全力で肩から突っ込む。
タックルによって吹き飛ばされた相手はそのまま階段を転がり落ちて行った。
そして、1Fの地面まで落ちるとそのまま動かなくなった。
「ハァ……ハァ……」
全身が心臓になったように脈動する。
命懸けの死闘であった。
地面に落ちた男は生きているだろうか?
正当防衛ではあると思うが、人を殺してしまったかもしれないという事実は重い。
階段から落ちた男の生死を確かめるべく、拓臣は意味もないのに足音を殺しながら階段を下る。
急に起き上がって襲い掛かってくることも警戒したながら倒れた男の生死を確かめる。
幸いと言うべきか不幸と言うべきか、男は完全に死んでいた。
直角に首の骨が折れて生きていたら、これでそれこそゾンビだ。
「………………ゾンビ、か」
自分の思いつきを反芻する。
襲い掛かってきた男の様子は正しくそうだった。
男を殺してしまったという事実があっても、比較的罪悪感が薄いのもそのためだ。
明確な正当防衛だというのもあるだろうが、人を殺したというよりもゾンビを殺したような非現実感があるからだろう。
この村に大地震が起きたのは分かる。
だが、それ以上の異常事態がこの村で起きている。
消防団に見せかけた座敷牢か何かで、自分を消防団員と思い込んでいた精神異常者が閉じ込められていたのか?
それとも自陣によって石碑が壊れて封じていた悪霊でも解き放たれたのか?
拓臣はゴシップ記者特有の想像力を働かせる。
これがここだけではなく村中で起きているとしたら……。
先ほど聞こえた銃声もゾンビに対して撃ったというのなら合点も行く。
「冗談じゃない! こんなゾンビだらけの村にいられるか! 山越えでも何でもして逃げ出してやる!」
幸いと言うべきかここは村の東端に程近い、山越えをするならお誂え向きだ。
地震直後の山崩れというリスクはあるが、この村に留まるリスクと天秤にかければ一考の余地はある。
そう考えその足を、山の方に向けたところで。
ふと、自分の持っていた子供向けを極めたような安っぽい色合いの袋が目に入った。
崩れ行くトンネルで手渡されたトイザらスの玩具袋。
託されてしまった妹を思う兄の気持ち。
「クソったれ! こいつを届けるだけだからな……ッ!」
悪態をつきながら踵を返して山に背を向ける。
何でこんなものを受け取ってしまったのか。
これを届けるという仕事だけは、しておかないと寝覚めが悪い。
だがどうする。
確か病院は西端。端から端への大移動だ。
ゾンビが徘徊する中を徒歩で行くなんて真っ平御免だ。
ゾンビ1人相手に死にかけてるんだ、複数名に囲まれたら余裕で死ねる。
どうした物かと考えていたところで、ふと赤い車が目に入った。
「マジかよ…………」
自分の思いつきに愕然とする。
そこに在ったのは当然、消防車だ。
これに乗って行けば例えゾンビがいようとも安全に移動できる。
だが、そのためには鍵が必要だ。
和雄には悪いが、自らの命を危険にさらしてまでしてやる義理はないはずだ。
これが見つからなければ諦めよう。
そう自分に念押すように言い聞かせて、ひとまず手を合わせてから消防服の懐を弄る。
ポケットから出てきたのはハンカチ、防火手袋、そして何かの鍵だった。
いつでも出動できるよう準備をしていたのだろうか、形状からして車の鍵だろう。
見つけてしまった。
溜息をつきながら、乗用車とは違う大きな車体に足をかけ拓臣は消防車に乗り込む。
付属の鍵で扉は開いた、どうやら残念なことに消防車の鍵で間違いないようだ。
消防団の詰め所に備え付けられてる一台だけの消防車は中型のタンク車である。
拓臣が持っている運転免許は普通免許で、中型は持ってないのだが非常事態だ、許されるだろう。
まあ、人一人を殺しておいて今更だが。
運転席はごちゃごちゃとしているが、ポンプを操作せず普通に車として運転する分には多分変わらないはずである。
念のため運転方法を確認していると、収納ボックスに置かれていた四角く折りたたまれた紙を見つけた。
手に取って広げてみると、どうやらこの村の地図のようだ。
土地勘のない拓臣からすればかなり助かる代物である。
ひとまず地図を懐にしまう。
車でさっさと突っ切って荷物を届けたら災厄だらけの村をおさらばする。
病院が無事かどうかも不明だが、届けられないような状態ならその時は潔く諦める。
そう決めて、拓臣は消防車のキーを捻った。
【F-6/消防団詰所1F・消防車内/1日目・黎明】
【斉藤 拓臣】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(大)、恐怖
[道具]:デジタルカメラ、ICレコーダー、メモ、筆記用具、スマートフォン、現金、一色洋子へのお土産(九条和雄の手紙付き)、その他雑貨、山折村周辺地図
[方針]
基本.山折村から脱出する。
1.消防車で医院に行き、一色洋子に会う。
2.それが終わったら山越えでも何でもして村から逃げる。
※放送を聞き逃しました
※VH発生前に哀野雪菜と面識を得ました。
※異能を無意識に発動しましたが、気づいていません
投下終了です
みなさま投下乙です
ちょっとした指摘と言うか気になったのですが
山折村血風録で藤次郎と真理の時間帯が違うけどあってるのかな?
時間帯をまたぐほどの差はなさそうに見えたのですが
すみません、予約スレでの返答に関して再度質問します
自分が聞きたかったのは、『スネスネがどこのパートのどんなイベントに反応して南方のトンネル方面の道を指したか』です
高級住宅街の大戦ではなく別のものに反応して南方に向かったのであれば、可能性が高いのは薩摩VS茶子・臼井・遠藤戦でしょう
しかしあのパートは黎明、少なくとも4時前の出来事であり、5時過ぎのスネスネが反応するのは妙です
なのでスネスネが南方に反応してるのは時系列ミスなのか、自分が気づいてない別の要素があるのか確認したいのです
スネスネが何に反応して南に向かったのか分からなければ、自分も他の書き手も書きにくいでしょうし
返信いたします。
高級住宅街の戦いが終わって離れた多くの人達の体温に蛇は反応していたという事です。
なので、時系列としては
『朝が来る』終戦→『大好きが繋ぐ良縁』です
後、先程の文を更に修正します
『余程多くの人達がいたのか?高級住宅街を入らずに、道を右に沿りながら…消えていった』
どうでしょうか?
すみません、どうやらこちらが勘違いしていたようです
哉太達が高級住宅街を離れて外側にある一軒家に移動したから、高級住宅街を逸れてそっちに反応したということだったんですね
こちらの理解力が足りず何度も質問に付き合わせてしまいすみません、ありがとうございました
>>830 のエリアをミスってたので現在位置を修正します
【F-6/消防団詰所1F・消防車内/1日目・黎明】
↓
【F-8/消防団詰所1F・消防車内/1日目・黎明】
>>832 でご指摘いただいた点、黎明→早朝の誤りです
修正しておきました。収録していただいた方、ありがとうございます
投下します
森の中を自在に駆け抜ける少女。
その後ろ、ぴったり100メートルの距離を保ち、迷彩服の男が後を追う。
ここはトンネルの左右に広がる広大な林。
岡山林業の主たる作業現場となる人工林である。
きっちりと手入れされた人工林は見通しもよく、足場も安定し、移動には困らない。
だが、人工林といえども林は林。早朝時刻といえども夜は夜。
そして今は地震の直後だ。
平時の真昼間の草原とはわけが違う。
木々の太い根や背の低い草葉が進みゆく者の足を絡める。
地震によって柔らかくなった土砂は、天然の落とし穴のように口を開けている。
闇の中、突如現れる段差が足を中空に浮かせる。
太い樹の幹が闇から湧き出てきたように目の前に現れ、行く手を遮る。
六月の日の出時刻は午前4時40分。
その時刻をまわれば多少はマシになろうが、それはまだ10分以上先のこと。
いまだ朝日は差さず。
そんな林を全力で走り抜けるなど、目をつぶって通勤時間帯の品川駅を通り抜けるようなものだ。
熟練の猟師ですら慎重に慎重を重ねて歩くであろう早朝の人工林。
ターゲットの少女、クマカイは、まるで自宅の庭を走り回るかのように、暗い林を駆け去っていく。
―――田舎の娘ってのは、こうも容易く山林を走り抜けられるもんなのかね?
こいつの親は手を焼いていそうだな、と少しばかり同情する。
少なくとも、娘の三香は、目の前の娘と同い年になってもこれほどまでに野性的で開放的になることはないだろう。
そうなった場合、それはそれで歓迎するだろうが。
将来は世界に名だたるアスリートか、それとも大自然を護るレンジャーか。
自分にはない才が花開いたことに驚喜するだろうと、そこまで考えて苦笑する。
SSOGとして、三樹康もまた、常人ならば一日で音をあげる厳しい訓練と任務を毎日のようにこなしてきた。
スナイパーという役割を担うことが多いため、実任務では動くより『待ち』の時間のほうが圧倒的に長いが、
身体能力は常人とは比べるべくもない高みにある。
暗闇の中で気配だけを頼りに、ターゲットの脳天を狙撃したことだって一度や二度ではない。
そんな三樹康でも、クマカイを見失わないために、培った運動能力と、感覚を最大限まで研ぎ澄ます必要があった。
これは三樹康に限ったことではないだろう。
乃木平天であろうが黒木真珠であろうが、そして大田原源一郎であろうとも、
山林地帯においてクマカイに逃げに徹されれば、追いつくことは不可能だと断言できる。
彼女と並走できるとすればそれはおそらく美羽風雅のみ。
それも膂力に任せて邪魔な障害物を粉砕して進むことが前提である。
もっとも、今の三樹康とクマカイは追いかけっこをしているわけでもなければ、狩人と獲物として追い追われているわけでもない。
あくまで三樹康がクマカイを監視しているだけだ。
クマカイはすでに人工林を抜け、林業会社の敷地内へと足を踏み入れ、この村でもはやお馴染みとなったゾンビと対峙していた。
クマカイの姿は身長150センチにも満たないのではないかと思われる小柄で長髪の中学生女子。
その行く手に立ちふさがったのは、身長190センチにも届こうかという角刈りの大男・菅原分蔵。そのゾンビだ。
訳の分からない言葉を喚き散らす大男のゾンビに対し、
クマカイは人工林を駆け抜けていたときとは打って変って、媚びるように、探るように、もじもじとした動作を見せる。
男であれば気まずく目を逸らしてしまうような仕草ではあるが、ゾンビにそのような感情はない。
一切の戸惑いなど見せず、捕食せんとばかりに両腕を伸ばしてつかみかかる。
方や殴り合いなど一度もしたことがなさそうな、線の細い非力な少女。
方や還暦とはいえ屈強な肉体を持つ大男のゾンビ。
筋肉量、体格、体重。
すべてにおいてゾンビが上回る。
捕まれば、抜け出る術はないだろう。
傍から見れば、勝敗など火を見るよりも明らかである。
しかし、つかみかかったゾンビの腕は空を切る。
まるで抱き上げた猫が腕をすり抜けていくように、クマカイの肉体はゾンビの腕と腕の間を縫ってするりと抜け出していく。
そのしなやかさと柔軟性を用いて、身体の上を滑るように、脚、背、そして肩へとよじ登っていく。
獲物を見失ったゾンビはキツネにつままれたように呆けていた。
身体によじ登っていたクマカイに気付いたときには、もう遅い。
発達した首とアゴの力に任せて、犬歯が首へと突き立てられていた。
噴き出した血はクマカイの唇を赤々と濡らす。
ゾンビはたまらず小さな襲撃者を振り落とそうとするも、彼女はゾンビの背と一体化したかのように、決して背から離れない。
クマカイはその体格に見合わぬ咬合力で首をがっちりと抑え込み、クマのようにアゴを振ってその首ごとゾンビの頭をシェイクする。
首を支える筋肉に重大な損傷を加えられ、頭を揺られては、さしもの巨漢ゾンビも体幹を支えきれない。
半端な姿勢で頭から崩れ落ちたその肉体の哀れさは、羽をもがれた鳥に等しい。
それでもクマカイは勝利の余韻に浸ったりはしない。
獲物に執着するクマのように、周囲の警戒は怠らないまま、ツメで、キバでその肉を斬り裂き、食いちぎっていく。
朝日に照らされて、噴き出す鮮血がきらきらと輝いた。
―――怖い怖い。ありゃあ、まさにケモノだな。
ゾンビがクマカイに襲いかかってから、返り討ちに遭うまでに20秒も経っていない。
ゾンビはすでに俎板の上の鯉に等しく、そして三樹康にはゾンビの被食シーンに興奮する趣味など一切ない。
唯一確認すべきは、捕食をトリガーとした異能の発動であり。
――奴さん、厄介なことで。
尾行中にもかかわらず、思わず舌を打ってしまう。
小柄な少女が大男の肉を飲み込んだかと思えば、ゾンビとなっているはずの大男の姿に変化したのである。
であれば、少女の見た目も擬態だと考えるのは自然なことであろう。
―――本当に人間じゃあないのかもしれないな。
―――野犬か、野良ネコか、それともクマか?
―――害獣駆除はSSOGの領分じゃないんだがな。
まさかこの村にカニバリズムが根付いていることもあるまい。
発展著しいという山折村に人肉食が根付いていたとなれば一大スキャンダルだ。
記者に動画配信者、ジャーナリストが飛びついて、週刊誌や動画サイトで因習村だのなんだのとわめき立てるだろう。
もちろん、そんな噂は一切聞いたことがなく、上からの説明でもまわってこなかった。
人間と見誤って真正面から対峙した挙句、一皮めくると狂暴なツキノワグマが登場という事態はさすがに笑えない。
今の装備で正面対峙した場合、急所に早撃ちで全弾撃ち込めば動かなくなるだろうが、正直割に合わないので勘弁してほしいところではある。
もっとも、異様な身軽さからして、さすがに正体がクマということはないのだろうが。
「正体不明のウイルスを周囲にまき散らす人間擬きのプレデター、ね。
ま、正しく人類の敵ってやつだなありゃ。それで……だ」
食事を摂るクマカイを観察するため、木々の影に隠れてじっと観察する三樹康。
その背後から迫りくるのは二体のゾンビだ。
村に降り立ったばかりのころは、ゾンビ狩り改め正当防衛も楽しめたが、狩れども狩れども芸を持たないゾンビばかり。
十数体狩ったあたりで、狩るたびに感じていた高揚は鎮まっていき、作業感が現れてくるのもやむなし、であろう。
種として同格の生物が、知恵を絞って逃げ回り、必死に抗い、怯え、怒り、ときに意を決して立ち向かってくる、
そんな人間たちの生への渇望を圧倒的な暴力でへし折り、摘み取るからこそ人間狩りは面白いのだ。
ゾンビは単純なプログラムで組まれた機械のように、目の前にいる生物を襲うだけである。
そこには生への執着も、心震わせるような慟哭もない。
その駆逐で満足できるのなら、三樹康はわざわざ自衛隊になど入らず、ハトの駆除業者でも選び、
娘にハトさんがかわいそうだよと言われてたじたじとする平和な暮らしを送っていただろう。
もはやゾンビには視線を合わせることせず、視界の隅に姿だけを収める。
まず直線的に襲いかかってきた若い女ゾンビの首を逆手に持ったナイフで斬り裂く。
そのまま円を描くような足取りで、もう一体のサングラスをかけた女ゾンビに近づき、痛烈な蹴りを腹に叩き込んだ。
ゾンビは身体をくの字に追って地に倒れ、その頭を踏みつぶせばジエンド。
胴に突き刺さった足からの反衝撃が想定以上に小さかったことで、そんな未来予想は少しだけ逸れた。
まるで衝撃高吸収のクッションに蹴りを入れたような感覚だった。
「なんでボディアーマーを着込んだゾンビがいるんだ……?」
襲ってきたゾンビに興味を示す。
これがゲームであれば、場面が進むごとにヘルメットをかぶったゾンビや拳銃を数発撃たなければ倒れないゾンビが出てくるが、
実際の現場で出てくるのはさすがに不自然すぎる。
大柄の女のゾンビだ。
服自体はただの村人にしか見えないが、その肉体は明らかに鍛え上げられており、何らかの訓練を受けたものと推察される。
「ああ、まさかとは思うが、お前がハヤブサIIIか?
なら、我らが黒木特務隊員殿は当てが外れてお怒りだなこりゃ」
鍛え上げられたしなやかな肢体に、卓越した判断能力と頭脳を誇る一流エージェント。
もし正気であれば厄介な敵であったろう。
だが、今の相手は目の前の獲物に飛びつくしか能のないゾンビである。
両手を伸ばしてつかみかかってくるだけの女ゾンビの手を取り、まるでダンスを踊るかのように背後へと回った。
重心を崩されたゾンビの身体は力の向かう先を見失い、そのまま地へと倒れ伏した。
十数秒ほど余計に時間を無駄にしただけで、ゾンビが死亡する未来に変わりはない。
頭部をざくろのようにはじけさせたゾンビの肉体がぴくぴくと痙攣する。
哀れなゾンビの亡骸にはもはや興味はなく、情報を求めてその懐をまさぐる。
欲しいのは名刺などの身分を示す何か、あるいはスマホ。
身分証明書はダミーの可能性は高いが、たとえば指令メールがこの混乱の中で無事に残っている可能性もある。
―――浅野雅。村の雑貨店の経営者、か。
ハズレのようだ。
小さな村に根付く商店の経営者など、村人全員に知れ渡っているだろう。
そんなバレバレのダミーを用意するエージェントなどいない。
では、ただの村人がなぜボディーアーマーなどを着込んでいるのか。
ただのヤクザか、研究所御用達の商店なのか、あるいは研究所お抱えの雇われ特殊部隊か。
「っと、ビンゴだ」
未来人類発展研究所、警備主任。
お抱えどころか、当事者グループそのものを示す身分証明兼カードキーが出てきた。
それと、未だ上着の内ポケットに入っていたスマホ。
いまだ温かいゾンビの指を用いて、強引に指紋認証を突破する。
だが、メールやメッセンジャーは昨日日付の私用のメールばかり。
写真についても、もう一人のゾンビ……雑貨店の店員、浅野唯による死体廃棄写真ばかりだ。
おおかた、マヌケなエージェントが研究所員に見つかり、証拠隠滅のために森の中に埋められていたのだろう。
この写真は、その証拠写真と思われる。
ほか、唯一目を引くのはトンネルの爆破装置の起動用と思われるアプリだが、
すでに崩落したトンネルをもう一度爆破したところで何の意味もない。
何より、電波妨害によってそのアプリ自体が意味を為さない。
もはやこのスマホには価値はなさそうではあるが、いざというときの照明程度には使えるだろう。
指紋認証を解除し、持ち去ることにした。
「それよか、こっちだな」
二つのカードキー。
名札を兼ねたカードキーに書かれたLevel2という文字。
それと、用途不明のカードキーだ。
警備主任という立場から考えれば、十中八九、研究所の出入りにかかわるカードキーであろう。
残念ながら、今チームのミッションは女王感染者の暗殺であり、研究所の調査は対象外なのだが、欲しがる者はいるかもしれない。
たとえば、正常感染者であった場合のハヤブサIIIやその関係者、それを追う黒木隊員、などが有力候補である。
―――さて、向こうはどうだ?
―――奴さん、朝ご飯は食べ終わったのかね?
双眼鏡にてクマカイを確認する。
少女の姿はどこへやら、今や筋骨隆々の大男だ。
その本体は、もはや原型が分からないほどに無惨に食い散らかされていた。
だが、数秒ののち、クマカイは再び長髪の少女の姿へと戻っていた。
姿は切り替えが効くらしい。
―――年頃の女の子の食欲ってのは目を見張るものがあるな。
―――俺ももう少し、家計を見直したほうがいいのかね?
―――あれの食欲は、そういうものじゃないだろうが。
あの身体のどこに食ったものが入っているのか。
異能の発動によって食った肉が消費されるのか、あるいはウイルスの適応によって底なしの胃袋を手に入れたのか。
いずれにしろ、あの少女を放置していれば、この村のゾンビはいずれ全員、奴の腹の中なのだろう。
食事をしていたクマカイは未だ警戒を解かず。
その視線は、木々の合間に身をひそめる三樹康のほうにも一瞬向けられた。
―――おっかねえことで。
―――監視はこの距離が限界だな。
距離にしておおよそ150メートル。
拳銃の有効射程範囲のおおよそ三倍の距離だ。
三樹康といえども、この距離で相手の急所を正確に射抜くのは至難の業である。
―――さて。どうするかね?
毎回姿が変わるとなれば、これは面倒極まりない。
少女――大男を追ったのは、感染者同士の戦いによる漁夫の利のほかにも、
生物を食うことで発動するという異能の確認もあった。
正常感染者にドッグタグなどついていない以上、姿を頻繁に変えられるのは混乱の温床にしかならない。
クマカイは何かを見つけたのか、岡山林業敷地内に積まれた木材の影に身を隠している。
三樹康のいる場所からは見えないが、西からほかのゾンビか正常感染者が向かってきているのだと推察できる。
東から上る朝日を逆光に利用しようというのだろう。
―――この機に、こいつは始末するか?
―――もう一人が正常感染者なら、なおさら好都合だ。
クマカイの位置。
クマカイの予測移動経路。
襲撃するであろうポイントと、狙撃ポイント。
そこへ到達するまでに必要な秒数と、遮断物の数。
瞬時に計算し、はじき出す。
クマカイ、そしてその哀れな犠牲者の到達を待つ。
■
クマカイは内心、嘆息する。
人間のメスの振りをして年を取ったオスに近づいてみたはいいものの、結果は予想外……というより、期待外れだ。
人間のオスはか弱いメスを保護するでもなく、コミュニケーションを取るでもなく、いきなり襲いかかってきた。
それも目的は決して交尾などではない。捕食を目的とした襲撃である。
深夜に仕留めたメスからは確かに知性を感じたというのに、
仕留めたオスからは知性のひとかけらも感じなかった。
獣は獣なりに、知恵をまわし、理性と本能とを切り替えつつ大自然を生き抜いている。
知恵も理性も捨てた本能だけのケモノなど、厳しい大自然を十数年にわたって生き抜いてきたクマカイの敵ではない。
―クマより凶暴、だけどクマとは比べ物にならないほど弱い。
―イノシシのほうがまだ知恵がありそうだ。
―ニンゲンも、共食いするのかな?
―それとも、こいつは何かの病気なのか?
―もう少しだけ、様子を見ようか。
思考もそこそこに、本日二度目の食事にありつく。
人間の異様さも気にはなったが、それ以上にどうしても確認しておきたいことがあったのだ。
ぐちゃり、ぐちゃりと肉をはむ。
口いっぱいに頬張った人肉を、喉の奥へと押し込める。
肝臓、心臓、脳。
僧帽筋、肋間筋、大円筋。
脊柱起立筋、腸腰筋、大殿筋。
腹直筋、外腹斜筋、大腿二頭筋。
あらゆる肉を、生命に満ちた臓器を、上から下まで余すところなく腹に収める。
それに気付いたクマカイに湧き上がる感情は、歓喜であった。
比喩でなく、いくらでも食べられるのだ。
60歳の人間の平均体重は70kg弱と言われている。
菅原分蔵は鍛え上げられた巨漢、少なく見積もっても80kgはゆうに超えるだろう。
骨やその内側の肉、脂肪、食事に適さないいくつかの臓器。
それらの重さを差し引いても、可食部分は20kgをゆうに超える。
これはクマの一日の食事量に勝るとも劣らない。
いくら育ち盛りの若いメスといえど、野生児といえど、人間種に過ぎないクマカイが一日に一人で消費しきれる量ではない。
だのに、食べきることができている。
食べても食べても満腹にならない。
永遠の飢餓の呪い……などの大層なものではなく、
食べた肉をまとうという異能の副作用として、腹に収めた肉が消失しているのである。
空腹をスパイスにするか。
飽食による満足感を得るか。
選ぶのは自由だ。
朝日が稜線から顔を出し、村の中が太陽で照らされる。
人間の巣は盆地一杯に広がっている。
このオスのように理性を感じられない、よろよろと歩く人間たちが遠目に見える。
それはイコール、獲物の数だ。
食うも寝るもより取り見取り、まさに幸せの村である。
―だけど。
それだけじゃ満たされない。
食事は命を頂くこと。
他生物の命を奪い、腹に収めて自らの血肉とすることだ。
それはすなわち、命の征服である。
両親からの愛情を一身に注がれたであろう幼年期。
同世代の子供たちと駆け回ったであろう少年期。
肉体を鍛え上げ、知恵をつけ、一人立ちを始めたであろう青年期。
知恵を生かして、若い世代を導き育て上げたであろう壮年期。
人間一人一人、動物一体一体にドラマがあり、生の彩りと輝きがある。
その生を断ち切り、未来を閉ざし、生の輝きひとつひとつを自らの糧とする。
これが食事であり、捕食という征服行為である。
大自然という荒波に揉まれてきた者ほど美味い。
壮絶な生を送ってきたものほど美味い。
生に執着する者ほど美味い。
舌という器官から取り入れる味覚こそ同じでも、その旨みは比ではない。
自分で苦労して獲った獲物こそ美味しい。
新鮮な食材こそ美味しい。
今は亡き母熊に与えられていた、何の背景も分からないただの肉を腹に収めたときとは比較にならない美味しさ。
僅かな表情の揺れから獲物のバックボーンに想いを馳せ、悔恨と生への執着を断末魔とともに断ち切る高揚感。
これこそが狩りの報酬であり、醍醐味である。
―それにしても、イヤな感じだな。
村の領域に降りてきてからずっと感じていた、ねっとりとまとわりつくような視線が消えない。
かつて幼いころのクマカイを獲物とみなした巨大なアオダイショウが向けてきていたような、粘ついた視線を覚えている。
昨日、一度湖の南岸から村を眺めていた時に、湖の中から感じた正体不明の冷酷な視線を覚えている。
自身が獲物として狙われているのだ。
視線に気付いたとき、森を行く速度を上げたが、振り切れないまま朝を迎えた。
つかず離れず追い回し、獲物が疲れたところで襲撃に移る。
獲物同士の争いを眺め、勝者も敗者もまとめて収穫する。
クマカイ自身、これまでもおこなってきたことだ。
人間を仕留めた瞬間に現れるでもなく、食事の最中に襲ってくるでもない。
林のほうに目を向けると、その視線は霧散したが、しばらくするとまた感じるようになった。
狩人はずいぶんと慎重派らしい。
―そちらから来ないというなら、それでもいいけれど。
逸って姿を現した時こそ最期である。
それよりも、今は新たに現れたもう一人の獲物。
まだらの布に身を包んだ異様な姿の人間が走ってくる。
今纏っている男とは明らかに異質。
最小限に足音を抑え、警戒を解かないその様子は、夜闇に紛れ獲物を襲うキツネを思い起こさせる。
先ほどのオスは弱かったが、今度のオスは強そうだ。
「そこにいるのは、分かっています。
隠れても、ムダですよ」
徐行し、足を止め、何かをしゃべるマダラのオス。
この行為を、クマカイは威嚇であると判断した。
両手で持っているのは武器なのか、銃を知らないクマカイにそれはわからない。
けれども、威嚇の体勢に入った獣や虫は例外なく自身の持つ最強の武器を向けてくる。
スズメバチのような毒針が飛び出すか、ヘッピリムシのような毒ガスが噴き出されるか。
いずれにせよ、受けるべきではない。
まずはマダラのオスを倒そう。
布に付着した土や泥はまだ乾ききらず、直前まで激しい戦いをおこなっていたのだと理解できる。
冬の山でしか見られない氷が右手に張り付いているのは異様だ。
少なくとも万全の状態ではない。
一撃で仕留められればそれでいい。
そうでなくとも、息つく間も与えずに猛攻を加えれば勝ちの目は十分にあるだろう。
そして、未だ姿を見せない狩人が気にはなるが、山林に比べればずいぶんと見晴らしがいい。
不意を打たれることはないだろう。
一歩ずつ歩を進めてくるマダラのオス。
徐々に昇りくる朝日、その中央がクマカイ自身に重なる瞬間だった。
爆発的な速度でクマカイはマダラのオス、乃木平 天の前へと踊り出し、襲いかかった。
■
ハヤブサIIIとの戦いから離脱した天は、追っ手が来ていないことを確認し、30分ほどの小休止を取っていた。
村に降り立った直後のワニ軍団との連戦。
ゾンビ溢れる中での診療所の探索。
そして逃亡者を追う最中での、ハヤブサIIIとの遭遇戦。
たった3時間の間に立て続けに起きたこれらの出来事は、肉体のパフォーマンスを目に見えて落としていく。
任務前にこそ十分な休息を取ってはいるが、以降通常の方法では食事を摂ることはできず、水分の補給すら不可能。
仮眠程度は可能であるが、経口摂取による体力の回復は見込めない。
そして六月の盆地に容赦なく降り注ぐ日光は、防護服の下の肉体から確実に体力を奪っていくであろう。
そもそも、任務は最長で48時間である。
最大のパフォーマンスを丸二日ぶっ通しで発揮するなど、人間という生物である限りは不可能である。
サイボーグである美羽ですら、熱の放出という形での休息が必要だ。
長期戦になると分かった以上、それを見越した行動に切り替えなければならないのだ。
まずはハヤブサIIIの目撃情報の連絡だ。
4時に回収されていくであろうドローンに向け、ハンドサインを送る。
F-3。
ハヤブサIIIとの交戦箇所である。
本部において、山折村全体はA〜H・1〜8の64エリアに分割されて管理される。
その座標をドローンに向けて指し示したのだ。
自身の経路、そして医師風の男が同行していたという事実より、おそらく診療所を目指していたことは間違いない。
本部からの追加支援と同時に、その情報は真珠にも届けられる。
現在の経路までは想定不可能だが、真珠であれば確実に痕跡を辿っていくだろう。
もっとも、真珠がその情報を受け取れる状況にあるかはまた別の話。
たとえば、分身するクマの群れと交戦するハメになるかもしれない。
情報を受け取れない状況に陥る可能性は十分にある。
そうでなくても、同行者の異能まではハンドサインでは到底伝えきれない。
合流できるのであれば、それに越したことはない。
特に氷使いの異能についてはそれ自身が命取りになりかねないのだから。
(黒木さんは、おそらく南部から村に入っていたはず。
ならば役場のほうに向かえば、合流できる可能性があるのでしょうね)
真珠がハヤブサIIIを追い抜いていることは考えづらく、またわざわざ木更津組のほうからやって来ること考えられない。
東から向かってきて合流できたのであればそれでよし、
古民家群や放送局のほうに行ってしまったのであれば、ヘタに動かず役場周辺でアプローチを待つほうがいい。
気絶(?)したゾンビが商店街の表通りに転がっているが、おそらくハヤブサIIIが対処したのであろう。
余計な遭遇戦が避けられるのであれば、それに越したことはない。
広い林業会社を間近に捉えたとき、東の山の稜線から朝日が昇ってきた。日の出の時刻だ。
この地獄の村の様相とは似つかわない美しい朝焼けが東の空を彩っていく。
暗闇の村に光が差し込み、そして光が強くなるにつれて影も濃くなっていく。
(ん? この影?)
積まれた木材の山によって陽光が遮られ、長い影が天の足元にまで伸びてきている。
その影が、わずかに動いているのだ。
背の高い草の葉などではなく、熱に揺れる陽炎でもない。
何か長いものが木材の間から覗いており、風に吹かれてゆらゆら揺れている。
(髪の毛? 女性の長髪、といったところでしょうか)
逆光になって見えづらいが、確かに10数メートル先の木材の影に何かがいる。
天は銃を取り出し、両手で構えを取った。
「そこにいるのは、分かっています。
隠れても、ムダですよ」
殺害する以上、声をかける意味はないのだが、そうしなければ人間性がどこかに置いていかれそうで。
手をあげて姿を現すか、それともノータイムで攻撃に移ってくるか。
徐々に昇る朝日が目を眩ませる。
瞼を細め、採光量を絞ったそのとき、黒い影のようなものが飛び出してきた。
(またもや子供ですか?
いや、だが速い!?)
逆光により、姿は見えない。
長い黒髪を持つ女子と推測はできるが、そこまでだ。
クマカイの口元から未だ滴る血も、ギラギラと光る野獣のような眼光も、天の網膜には届かない。
即座に最大限の警戒網を敷くべきであるという視覚情報が、天の意識に届くのが少しだけ遅れた。
――パン、パン。
一発、二発。
乾いた音が澄んだ空気に反響する。
放たれた弾丸は一直線に、0.3秒前までクマカイの心臓があった空間を穿つ。
クマカイは最短距離を詰めるのではなく、螺旋のように大きなカーブを描いて迫ることを選んだ。
当初天が想定していた射線からは大きく逸れ、銃弾は当たらない。
カーブを描いて迫りくるクマカイ、銃弾二発を外した時点で互いの直線上の距離は10メートルを切った。
2秒あれば容易に接触できる距離である。
ならばとすばやくナイフを引き抜き、接近戦の構えを取る。
それに呼応したように、急激に天への最短距離を詰めてくるクマカイ。
天は慌てることはなく、カウンターを狙う。
腰を落としてクマカイの挙動一つ一つに注目するも。
(なっ、分裂した!?)
どこから飛び出してきたのか、少女とは別に大男が天に迫りくる。
大男は天から見て若干左寄りの上空から、少女は天から見て右寄りの下方から。
上から飛び掛かるものと、下から突き上げてくるもの。
ワニのように分裂する異能者を思わせる、しかし明らかに体格も質量も違う二人の人間。
集中が途切れる。
(男ではなく、皮?
本体は……下側か!?)
大男のほうが皮でできたダミーだと気付く。
だが、どのみち高速で射出される20kgの人肉は立派な質量攻撃である。
この場での『待ち』では大男の肉と皮を避けきれない。
接触までに一秒もない。
地走りのように地すれすれを高速で移動する相手に対し、ナイフによる迎撃は不向きだ。
何より、防護服と下前に飛び出たガスマスクが下方への視界を阻害する。
地面に転がり回避する手もあるが、少女は待っていましたとばかりにキバを突き立ててくるだろう。
右足を軸に最小限の足運びで左回転し、大男の皮を目と鼻の先でかわす。
同時に後ろ回し蹴りの体勢に移行。
回し蹴りというには軌道を外れすぎたその暴力のターゲットは、地面すれすれに突っ込んでくるクマカイの頭部である。
が、それすらを予測していたかのか。
クマカイはさらに速度をあげて前方右斜め前に飛び込み、
毛皮の間に入ったクロスズメバチを引きはがすクマのように、くるくると素早く地面を二転、三転。
その軌道は射出された人肉の真下。
天のローキックの軌道と同じ回転方向、そしてそのちょうど反対側である。
天の蹴りがクマカイの頭を捉えるどころか、背後まで回られた。
さらなる追撃に移ろうにも、クマカイは体中のばねを活用し、がら空きの背中に飛び込み、組みつく。
傍から見ればおんぶをおこなう兄妹のようにも見えるが、強引におっかぶさられる側はたまったものではない。
(狙いは首……いや、マスクか!?)
クマカイとの遭遇からたった10秒、天の思考にはっきりと焦りの色が生まれる。
ストラップを付けてしっかりと固定しているとはいえ、マスク自体は素手で着脱可能だ。
これを外されれば、瞬く間に天はゾンビになり、そのまま殺害されてしまうだろう。
ハヤブサIIIと違い、最初から殺る気満々で襲ってきた村人だ、殺す以外に活路はない。
一方でクマカイも決め手に欠けた状況に困惑を覚える。
素肌が出ているならそこを集中して攻撃すればよい。
多少の布があろうとも、ヒグマの毛皮を超える分厚さの布はそうそうない。
ならば耐久性を上回る力で引き裂けばよいだけだ。
だが、マダラのオスがまとった布は咬撃を通しそうにない。
ツメを通さず、ならば歯を通すこともないだろう。
その僅かな思考の隙を縫うように叩き込まれたのは、天の渾身の肘撃ちだった。
「ギぁッッっ!」
脇腹を正確に撃ち抜く一撃である。
天は初めてクマカイに有効打を与えた。
しかしワニ吉との死闘、海衣に与えられた右手の凍結、そしてハヤブサIIIとの接近戦による身体全体への負荷。
これらは高々30分の小休止で回復できるものではない。
特に高負荷をかけられた右手の神経細胞に、脳からの指令は100%反映されなかった。
万全の一撃ならば効果はあっただろう。
此度の一撃は、クマカイを引きはがすには程遠い。
ならばと自ら後方に倒れこむことで、体重を乗せてクマカイの後頭部ごと地面に叩きつけることを狙う天。
防護服の強度に任せた荒業である。
自身の全体重をかけたボディプレスを狙い、足にぐっと力を込める。
だが、それを黙って見過ごすクマカイではない。
クマカイは天の尻を蹴って自らの下半身を引きはがす。
天の下半身を貫くように炸裂したその蹴りは、彼の下半身への力みを妨害する。
しかしながらクマカイの全身が天から剥がれるわけではなく、腕だけはがっちりと天の肩をキープ。
体操選手のように、腕の膂力で全体重を支え、後方へ向かいたがる自身の下半身を腕と腹の力で強引に引き戻す。
その反動を用いて再度、蹴りを炸裂させた。
その力の向かう先は、天の膝裏である。
体幹を前後にぐらぐら揺らされ、強引に膝折れを起こされた天は、たまらず膝を折ってしまう。
天は機転こそ効くが、大田原ほどの瞬時の判断力を有していない。
遭遇からたった15秒、視界外とはいえ、三手もの行動を相手に許してしまい、完全にマウントを取られたことを自覚する。
正面から地面に倒れ込み、背を晒したこの状態で逆転するのは至難の業。
ナイフを入れる暇もなし、そもそもこの襲撃者はそのような隙を与えてはくれないだろう。
死を覚悟した天の耳が、パン、と乾いた音を拾う。
自分は銃を撃っていない。
では何者が?
ただちに地を転がってうつ伏せから仰向けの体勢へ。
状況を確認すると、そこにいたのは二人の同じ顔をした少女である。
短髪の全裸の少女が、長髪の少女を盾にしていた。
いや、大男と同じように、人間の肉を射出して盾にしたのだと理解した。
銃弾は寸分たがわず長髪の少女の脳天を貫き、心臓を貫き、
わずかに歪められた軌道で短髪の少女の右の耳輪を貫き、右の脇腹の肉をかすめ取っていた。
クマカイの判断は迅速であった。
天が地に倒れ伏した時、縦長の瞳がカッと見開かれるようなイメージが浮かんだ。
猛烈にイヤな予感を覚えたクマカイは、相手の姿を確認することもなく、まとっていた皮を放棄した。
ほぼ同時に、斑のオスの威嚇と同じ乾いた轟音が空気を震わせ、脇腹と右耳に猛烈な熱さを感じたのだ。
――勝てない。
そう瞬時に判断すると、工場の建物の影まで全速力で移動して、射線を切る。
だが足音が近づいてくる、斑のオスも起き上がろうとしている。
ならばと真向いの商店街へと飛びこみ、室外機が設置された店と店の間のわずかな隙間に身を滑り込ませた。
クマカイに気付いた一体のゾンビがそれを追うも、ゾンビの体格では隙間に入らない。
残されたのは、人肉と皮の塊――熊田清子と菅原分蔵の成れの果てだけであった。
それもまた、胃酸に溶かされたようにぐずぐずと溶けだし、やがて消失していった。
■
「はぁ、はぁ、はぁ……。
助かりましたよ、成田さん」
「お前、ずいぶんいいようにやられてたじゃないか」
醜態、と糾弾するのは容易いが、三樹康自身も下調べゼロで圧倒できる相手だとは思わない。
訓練なら蹴りの一つでも入れてやるところだが、これは実戦だ。
ゆえに、軽い叱責にとどめる。
三樹康の存在自体は、クマカイには気付かれていた。
もちろん、それ自体は承知の上だ。
ゾンビの捕食を観察していたときに視線が交差したのは、そういうことなのだと理解していた。
そのうえで、銃撃は問題ないと判断していた。
ただ、クマカイが襲撃した相手が天だと分かったことで、
多少の無理を押してでも攻撃に移らなければならなくなったというだけのことだ。。
『H&K SFP9』のカタログスペックとしての射程範囲は50メートル。
三樹康が発砲したのは、おおよそ80メートルといったところか。
その位置から敵の脳天と心臓を正確に狙える力量は確かなものだが、
捕食した肉を盾として利用してくることだけは想定外であった。
おかげで銃弾は急所を逸れ、手傷を負わせるに留まったのだ。
「まあ、あれは逃げたな。
大方さっきのでストック切れだろうが、ゾンビはいくらでもいる。
また姿を変えて姿を現すだろうよ。んで、だ」
三樹康は商店街を一瞥し、ため息をつく。
そこでようやく、天のほうへと視線を向けた。
「そっちの状況を報告しろ。ずいぶん動きに精彩を欠いてたようだが」
「先ほどのを含めて交戦は四回。人数は五人。確実に殺害したのは一人、生死不明が一匹。そして二回は命を拾った気がします。
どれをとっても、先ほどの相手と同じく、やりにくい相手ばかりでした」
交戦回数は実に三樹康の四倍である。
全員が食人の感染者と同レベルだとすれば、むしろ天はよくやっているほうであろう。
「随分感染者に好かれてるな。
やっぱそこも社交性が大事なのかね?」
「いや、確かに任務ではありますが、矢継ぎ早に猛者が集中するのはあまり嬉しくありませんよ」
「言うねえ。
トンネルの方は丸坊主だよ。
戦果ゼロ、正常感染者の一人もいやしない。
で、森の中に凶暴そうなのが一人いたんで、あれは使い道があるかと泳がせておいたんだが……」
「ああ、なんていうか、すみません」
「世話の焼ける……と言いたいところだが、
まだ一人も仕留めてない俺が言えた義理じゃないんだよな。
ほんと頼むぜ、乃木平次期隊長補佐官殿?」
「その呼び方は勘弁してくださいよ……」
SSOG隊員はそれぞれに特筆すべき強みを持つ。
その観点からすると、乃木平の強みはあらゆる隊員に気後れせずにモノを言えるその社交性となるだろう。
天は博愛主義者である。
殺人自体に悦楽を覚える三樹康とは、思想信条は正反対。
それでいて、後輩から特に恐れられがちな三樹康に臆せず狙撃の指導を乞える時点で、その社交性は特筆するものがある。
真理からは、成田さんめっちゃ怖いんで乃木平さんから一言話通しておいてくれません? と体よくパシられ、
大田原からも飯代と共に、訓練後の新人たちへのフォローを頼まれるほどだ。
大田原にメタメタにしごかれた新人に飯を奢り、口数の少ない大田原の代わりに今日の訓練の真意を伝える役目はだいたい天である。
舌戦において百戦錬磨の官僚や政治家たちを相手取る以上、社交性・折衝力・調整力は必須である。
そういう意味で、天は隊長補佐官候補として、適任といえよう。
もちろん、現場を知らない者の意見など傾聴に値せず、だからこそ現場での実績は必須だ。
甘やかしはしない、だが実力が一段劣ることなど最初から分かっている。
「俺はこれから役場の正面にある雑貨屋に向かう。
しばらくそこに用があるから、お前も来い。そこで一回しっかりと休め。
まだ40時間以上あるってんのに、開始早々ダウンは笑えんのでね」
「申し訳ありません……」
これが訓練中の出来事ならば、胸ぐらつかんで投げ飛ばしてしごくところだが、今は任務中だ。
優先すべき特別任務があるわけでもない。
同じ地域を担当することになった以上、へばった隊員は有無を言わせず休息させるのも仕事である。
三樹康は趣味も兼ねてSSOGに所属しているが、任務である以上、趣味を最優先することは許されない。
「浅野雑貨店。ま、交通の要所だな。ここに銃器があると睨んでる。
少なくとも、防具は確実にある。
村のやつらに奪われて面倒なことになる前に、こっちで潰しとく。
あとは逃がしたやつらの異能を全部話せ。俺も見た分は全部話す。
連中、相当に厄介なようだからな」
「了解しました」
話はまとまった。
二人の隊員は村の入り口の雑貨店を目指し、歩を進める。
ミッションスタートから、もうすぐ五時間。
地獄の任務は、まだまだ長い。
■
シャッターの閉まった人気のない商店街をクマカイは駆ける。
この村の状況、病か何かが蔓延しているのだろう。
ゆったりとした動きでうろつく冷たい人間は、腹を満たすだけのエモノ。
ただ目の前の相手を襲うだけの、ただの生きた肉だ。
最初に食ったメスのような、熱のある人間の立ち位置はまだ分からない。
あれが本来の人間の姿なのかもしれない。
であれば、あの手の人間は慎重に近づく必要があるだろう。
そしてマダラの人間はきっと狩人たちだ。
あるいは、あいつらが人間達のボスの子飼いなのかもしれない。
強く、油断ならず、そして奴らはきっと腹も心も満たせるほど美味いだろう。
そして、横槍を入れてきた蛇のような目の男。
村に来てからずっとクマカイを追っていた狩人。
―あいつだ。
―あいつがきっと一番美味い。
―絶対に、食ってやる。
【クマカイ】
[状態]:右耳、右脇腹に軽度の銃創
[道具]:なし
[方針]
基本.人間を喰う
1.銃創の手当
2.理性のない人間を食う
3.特殊部隊は打ち倒し、捕食する
4.理性のある人間は、まず観察から始める
【E-4/商店街/1日目・早朝】
【成田 三樹康】
[状態]:健康
[道具]:防護服、拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフ、双眼鏡、研究所IDパス(L2)、謎のカードキー、浅野雅のスマホ
[方針]
基本.女王感染者の抹殺。その過程で“狩り”を楽しむ。
1.乃木平 天の休息と見張りを兼ねて、朝までは浅野雑貨店を探索。銃器や殺傷力の高い武器があれば破壊 or 没収。
2.「血塗れの感染者(クマカイ)」に警戒する。
3.「酸を使う感染者(哀野雪菜)」も探して置きたい。
[備考]
※乃木平 天と情報の交換をおこなっています。
【乃木平 天】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、精神疲労(小)、手が凍結(軽微)
[道具]:拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフ、医療テープ
[方針]
基本.仕事自体は真面目に。ただ必要ないゾンビの始末はできる範囲で避ける。
1.朝までの警戒は成田さんにお願いし、しっかりした休息を取りましょう。
2.ハヤブサⅢは黒木さんに任せましょう。
3.あのワニ生きてる? ワニ以外にも珍獣とかいませんよね? この村。
4.某洋子さん、忘れないでおきます。
5.美羽さん、色々な意味で大丈夫でしょうか。
6.能力をちゃんと理解しなければ。
※ゾンビが強い音に反応することを察してます。
※もしかしたら医療テープ以外にも何か持ち出してるかもしれません。
※成田 三樹康と情報の交換をおこなっています。
【F-4/岡山林業敷地内/1日目・早朝】
投下終了します。
投下乙です
>predator's pleasures
野生の本能全開かと思いきや、思った以上にクマカイが理性的な状況判断が出来ている、高い身体能力に満腹という上限もないし思った以上に厄介
天は本当に戦闘回数が多くてお疲れ様すぎる、そして幹部候補だったとは、まあ変人揃いだから上役になれそうなの天くんくらいしかいないよね……
成田もさすがの射撃力、何気に研究所パスもゲットしたのは大きいね。事あるごとに家族を思い返してその愛情が本物だからこそ、残酷さが怖い
そして遂に特殊部隊が合流、休息後は手分けするのかこのまま連携していくのか、それによって村人に対する脅威度かなり違いそう
あと、状態票のエリア情報ですが、下に来てるのがキャラのエリア情報でいいんですよね?
>>853
それぞれの下に来てるのがエリア情報でいいです
クマカイ→【E-4/商店街/1日目・早朝】
成田・乃木平→【F-4/岡山林業敷地内/1日目・早朝】
位置逆転させていました、お手数おかけしました
投下します
閻魔一行は出来る限りゾンビを避けて高級住宅街を進んでいた。
先頭を歩く閻魔が一同を先導し道筋を決定する。
危険な立ち位置だが、そこは兄貴分としての男気の見せどころだと閻魔は考えていた。
その後ろに舎弟2人が続き左右を警戒しながら探索を続ける。
リンはその三角形の中央で囲われ、お姫様のように守護られていた。
「閻魔様。少し待ってください」
「あぁん? どした?」
左翼を務める和義が先頭を行く閻魔を呼び止めた。
何事かと、閻魔が足を止め背後を振り返る。
すると、すぐ後ろを歩くリンがふらふらとしていたのが目に入った。
「…………少し眠くなっちゃった」
僅かにまぶたを落としながら、照れたようにえへへと笑う。
リンの本来の『お仕事』は夜が本番だ、夜更かしは慣れたものである。
だが、いつもの人目を盗んだこっそりとした夜の散歩と違って、自由に歩き回れるなんて生まれて初めての事で少しはしゃいでしまった。
その疲れが一気に出たようだ。
「ンだよ急に、さっきまでンな感じじゃなかっただろうが」
「さっきまではしゃいでいても、子供は急にスイッチが落ちるものなんですよ。うちの子もそうでした」
子持ちの和義が我が子を思い出してか、はははと笑う。
幼い子供の性質を知る大人の貴重な意見だが、閻魔は不満げだ。
「確かに、そろそろ子供にはつらい時間ですね。どこか休める場所を探しましょうか」
時刻は日付を超えて既にかなりの深夜である。
普通に考えれば、10にも満たないであろう小さな子供が起きていていい時間ではない。
ひとまずの目的地である和義の家まではまだそれなりの距離がある。
そこまで歩いてゆくのも時間がかかるだろうし、それまでリンの眠気が持たないだろう。
一時帝にでもリンを休ませる場所が必要だった。
「別にリンくらい背負ったまま歩けんだろ。和義、お前が背負ってやれよ」
閻魔がそう指示を出す。
彼らはこの事態解決を目指しているのだ。立ち止まっているような暇はない。
「ええ。もちろん構いませんよ」
和義もこれを快く引き受ける。
恰幅のいい大柄な和義であれば小柄なリンを背負っても大した苦にもならないだろう。
だが、ただ一人これに異議を申し立てる者がいた。夜帳だ。
「いやいや。人一人背負って動き回るのは流石に危険では?」
「大丈夫ですよ。よく子供を背負って歩いたものです、リンちゃんくらい華奢な娘なら軽い軽い」
「ですが。ゾンビなり、誰かに襲われでもしたら、あなただけではなくリンちゃんも危険に晒すことになる」
その意見に閻魔が舌を打つ。
その舌打ちが意見に一理あることを認めていた。
流石にゾンビが徘徊する中で人一人背負って歩くというのは危険すぎる。
だが、理があろうとも閻魔が己より下の人間の進言を聞くことなど殆どない。
親が黒と言えば黒。そういう世界で生まれ育った理屈よりも面子を気にする男だ。
「わーったよ。んじゃその辺の家で忍び込めそうなのを探すぞ。もちろんゾンビのいない所でな」
だが、思いのほかあっさりと閻魔は意見を受け入れた。
舎弟やリンを危険に晒すのは閻魔とて本意ではない。
何より、リンを保護しなければならないと言う意識が彼にそう決断させたのだった。
そうと決まれば、高級住宅街に数ある家の中から休めそうな場所を見繕う必要がある。
住居不法侵入だが、大地震による震災とゾンビに襲われかねない状況で幼子を一時的に休ませるくらいは緊急避難として許されるだろう。
田舎の家は鍵をかけない、と言う話がある。
確かにこの山折村でも古民家群ではそう言った家も少なからずあるのも事実だ。
だが、この高級住宅街に限ってはそうではないようである。
家々の扉はしっかりと施錠されており、侵入可能な家はそう簡単に見つからなかった。
そして電気の付いている家もダメだ。
住民が家に居ると言う事は、その住民はゾンビになっている可能性が高い。
安全性が確保されていなければとてもリンを寝かせつけられない。
侵入しやすく人気がない。
以上の物件条件を満たすともなればそう簡単には見つかるものではない。
侵入出来そうな家探しをする様は、まるで空き巣のようだなと夜帳はどうでもいいことを思った。
「みなさん。この家ならどうでしょう? あそこから忍び込めそうですよ」
探索開始からしばらくして、和義が指さしたのはとある一軒家にあるやや高い位置にある窓だった。
十分立派な2階建ての一軒家だが、豪勢な住宅が立ち並ぶ高級住宅街にしては小ぶりな建物である。
こちらから割るまでもなく地震によって既にガラスは割れており、そこから手を回せば簡単に鍵を開くことはできそうだ。
家内の電気は落とされており、少なくともそこから見る限りではゾンビの影はなさそうだが。
「おい、中に誰もいないか確認してこい」
とは言え、安全確認は必要である。
閻魔は顎をしゃくってその指示を夜帳へと出した。
「私がですか?」
「当然だろ。こう言うのは下っ端の仕事なんだよ」
窓を通り抜けるには小太りな和義は体格的に厳しい。
かと言ってリンに危険な役割を振る訳にもいかず、長身で細身の夜帳が適任である。
もっとも閻魔でも可能だろうが、閻魔は使う側の人間である。
偵察などと言う使われる側の人間の仕事を行うはずもない。
ここで異議を申し立てても仕方がない。
夜帳は不満を飲み込むと、手を伸ばして割れたガラスの隙間から窓の鍵を開ける。
そして窓を開くと、そのまま靴のまま忍び込んだ。
どうやら窓の先はキッチンに繋がっていたらしく、降り立ったのはシンクの上だった。
そこからキッチンに降りたところで、パキリと言う音が鳴る。
どうやら割れた窓のガラス欠を踏んだようだ。素足で歩くのはやめておいた方がよさそうである。
そこから家内を探索を始める。
一部屋一部屋扉を開いて中の安全を確認してゆく。
どこも酷い荒れ模様だが、ゾンビも生きた人間もいない様だ。
荷物をまとめた形跡がある事から避難所にでも向かったのだろう。
夜帳は一通りの安全を確認してからキッチンに戻り、外にいる三人に声をかける。
「家主は留守のようですね、避難所にでも向かったのでしょう」
「そうか。なら、玄関に回って鍵を開けろ」
「了解しました」
閻魔の指示に従い夜帳は玄関に移動すると、内側から扉を開いて三人を招き入れる。
「でかした。褒めてやる」
「…………ありがとうございます」
招き入れられた閻魔が部下を労った。
しかし、そんな上から目線の言葉を受けたところで夜帳が喜べるはずもないのだが。
ひとまず家に入り込んだ閻魔たちは鍵とチェーンで施錠をして、外部から入ってこれそうな所にバリケードを築くことにした。
閻魔は現場監督の様に指示を出すばかりだったが、家具を移動する力作業は主に和義が活躍した。
ひとまずの安全は確保できた。お次は休める部屋を見繕う必要がある。
「よぅし、それじゃあ休める部屋に行くか。夜帳、部屋は一通り確認したんだよな?」
「ええ。2階脇にある誰かの私室あたりが比較的被害が少なかったですね」
安全確認のため一通りの部屋を確認した夜帳が答える。
どの部屋も自身によって酷い荒れ模様だったが、1室だけましな部屋があった。
「あの〜、その前にトイレに行ってきてもいいでしょうか? 実は漏れそうで」
股間を押さえるジェスチャーと共に和義がそう言いだした。
「ちっ。勝手にしろ。俺らは先に上に行ってるからな」
そろそろリンが限界である。
リンが欠伸をしながらうつらうつらと頭を揺らして舟をこいでいた。
「トイレはそこです。2F右手奥の部屋で待ってますので」
「ありがとうございます」
トイレの位置を指さす夜帳に礼を言って和義がトイレに駆け込んだ。
それを見送るでもなく三人は階段を登って行った。
夜帳に案内された部屋はさほど広い部屋ではなかった。
小さなリンと大人2人でちょうどいいくらいの小部屋であり、和義が戻ってくることを考えれば少々手狭な部屋である。
だが、私室の主はミニマリストの学生なのか、寝具と最低限の勉強用具しか置かれておらず、地震で倒壊するような家具もなかったお蔭で被害は少なかったようだ。
とはいえ、違う部屋にばらけているより同じ部屋に留まっている方が安全なのは確かである。
部屋にある窓から外の様子もある程度は窺えそうだ、見張りにはちょうどいいだろう。
状況的に窮屈でも我慢するしかない。
「いやぁ、水洗が流れなくて困りましたよぉ。小さい方でよかったよかった」
「汚ねぇ話すんなよ」
用を足し終えた和義が2階にやって来た頃には既にリンは眠っていた。
床に敷かれた布団にくるまり、小さく寝息を立てる姿は愛らしい天使のようだ。
見ているだけで思わず和義の顔が綻んでしまう。
ひとまず、リンはこのまま寝かしつけるとして。
三人もここで日が昇るまで休むことにした。
リンが眠ってしまえば、一つの部屋に残るのは友人でもない男三人。
リンが寝ている横でうるさくお喋りともいかない。
黙したままと言うのも中々気まずいモノである。
「三人で顔を突き合わせてもなんですし、私たちも交代で休みましょう」
「ま、そうだな」
部屋に転がっていた時計を見れば時刻はもう3時になろうとしていた。
6時ごろに出発するとして、リンは寝かせ続けるとしても、1時間交代で1人ずつ休める計算だ。
この状況で眠れるかは怪しいが、1時間横になるだけでもある程度は疲れが取れるだろう。
「それじゃあテメェら、しっかり見張っとけよ」
当然のように休憩の一番手は閻魔である。
毛布をかぶって横になった閻魔は程なくして豪快な寝息を立て始めた。
思ったより大物なのかもしれない。
「それでは私は窓から外を見ていますので、和義さんは部屋の入り口の方を見ていてもらえますか?」
「分かりました。お互い頑張りましょう」
見張り役は窓から外の様子を伺う係と、出入り口から廊下側を覗きこみ家内に異変がないかを監視する係に分担された。
互いに背を向け合って異変がないかを見張る。
眠くなってしまうような退屈な時間だが、四人分の命がかかっている以上手抜きもできない。
そうして、時計の針が進む音だけが聞こえる静寂が続く。
何事もなく時が進み、和義が欠伸を噛み殺した。
「…………シッ」
空気を弛緩させた和義を夜帳が窘め、窓の外を睨むように見つめた。
その様子に、窓の外に異変があった事のだと和義も気づいた。
遠目であるのだが、住宅街の一角で誰かが争っているようだ。
電気のような光が弾けるのも確認できた。
「ど、どうしましょうか? そろそろ時間ですし、閻魔様を起こしましょうか?」
「そうですね。起きて下さい閻魔さん」
交代の時間も近いという事もあり、夜帳が眠っている閻魔の肩を揺する。
「…………んだよ。もう少し寝かせろ」
だが、閻魔は鬱陶しそうにそれを振り払って二度寝をしようとする。
とは言えそういう訳にもいかない。
「少し、外に動きがありました」
「…………あん?」
言われて、流石に事態を理解したのか閻魔が身を起こす。
気だるそうに窓元に移動すると、夜目を凝らすように目を細めて窓の外を見る。
ただの喧嘩ではない、遠目でもわかるほどの怪物のような何かが暴れまわっている。
「んだありゃ? 大丈夫なのかよ……?」
「大人しくしていれば発見されることはないと思いますが……」
閻魔が巻き込まれることを危惧する。
騒ぎの渦中からはそれなりに距離は離れているし、これだけある住宅の中からピンポイントにこの家を探し当てるなんてことはないとは思うが。
「…………ぅうん」
俄かに騒ぎ立つ男衆がうるさかったのか、眠っていたリンが目を覚ました。
まだ眠り足りないのか、眠気眼を擦りながらリンが呟く。
「…………おしっこ」
その一言に、緊張していた雰囲気が緩和する。
リンには場を癒すそう言う才能があるようだ。
「ま。スグに巻き込まれる訳じゃねぇ、しばらく様子見だ」
閻魔が状況をまとめる。
二人もそれに頷き、切り替えるように夜帳がリンに尋ねる。
「トイレの場所は分かりますか?」
「…………わかんない」
眠気で頭を揺らしていたリンは和義がトイレに向かったのも覚えていない様だ。
そうなると案内役が必要になる訳だが。
「なら、僕が付いていくよ。さっきトイレに行ったしね」
「いえ、同行なら私が」
和義と夜帳がリンに同行を買って出た。
幼女のトイレを巡る攻防が繰り広げられる。
だが、リンが拒否を示すようにゆるゆると首を振った。
「エンマおにいちゃん。ついてきて……」
リンが頼ったのは閻魔だった
閻魔の袖口を掴んで甘えた声で言う。
「ったく。仕方ねぇな」
言いながらも閻魔も応じた。
誰かの付き添いなんてする閻魔ではないのだが、まんざらでもなさそうな態度である。
リンを引き連れ閻魔が階段を下りる。
取り残された2人は仕方なしに、窓の外の監視を続けた。
戦いも激化しているのか、かなり離れたこの家まで破壊音が聞こえ始めた。
今の所、こちらに近づいて来ることはなさそうだが、いざとなればこのセーフハウスを捨てて逃げる準備もしておいた方がいいかもしれない。
「……リンちゃんと閻魔様、遅いですね」
しばらくして、和義がそんな事を呟いた。
リンたちがトイレに向かってから10分は経っているだろうか。
確かに、ただのトイレにしては遅い。
ついでに閻魔も用足しをしているのか。
それにしても遅すぎる気もするのだが。
しばらくして何者かがドタドタと階段を駆け上がってくる足音が響いてきた。
息を切らして、部屋に駆け込んできたのは閻魔一人だけだった。
「リンが消えた…………ッ!」
突然のその報告に、和義が驚愕に口を開き、夜帳が眉根を寄せて表情を歪める。
「……どういう事です?」
「どうもこうもねぇよ! リンが消えたって言ってんだよ!?」
大声で喚きたてる閻魔は言葉を繰り返すばかりで要領を得ない。
「お、落ち着いてください閻魔様。落ち着いて、落ち着いて状況を教えてください」
閻魔を落ち着かせようとする和義自身もあわあわと慌てていた。
その様を見て閻魔もいくらか冷静さを取り戻したのか、心を落ち着かすように舌を打った。
閻魔の証言はこうだ。
トイレの前で用を足していたリンを待っていた。
だが何時まで経ってもリンはトイレから出てこず、あまりにも遅すぎるため様子を窺うべくノックをするが返事もない。
仕方なく声をかけてから扉を開いた。トイレは施錠されておらず扉は開けたが、トイレの中には誰もいなくなっていた。
という話である。
ひとまず3人は1階に降りて、現場であるトイレに到達する。
扉を開くが、当然ながらトイレには誰もいない。
血痕もなければ争った様な痕すらなかった。
閻魔も争うような音は聞いてはいない。
現場を検証すべく和義はひとまずトイレに入った。
周囲に異変がないかをかくにんし、便座の蓋を閉じてその上に乗ると窓を確認する。
「うーん、僕の入った時と変わったところはないように思います。窓もこれ以上は開きませんね」
トイレにも小さな窓はあるが、換気用でしかないのか完全に開くことはない。
猫ならともかく小柄なリンであっても流石に通れそうな大きさではなさそうだ。
念のため天井も確認したが、開くような仕掛けはなさそうである。
扉の出入り口を閻魔が監視していた以上、ここは完全なる密室。
ここから人を攫うなど不可能犯罪だ。
「いえ、可能性ならあるんじゃないでしょうか?」
「? …………なんだよ?」
疑問符を上げる閻魔に向かって、2人から不信の目が向けられる。
その視線の意味を閻魔もようやく理解した。
「なっ、俺を疑ってんのか!?」
犯人が同行した閻魔なら犯行が可能だ。
リンの失踪した際の状況を証言したのは閻魔である。
実行不可能な状況であろうとも、犯人が閻魔であるのなら、いくらでも虚偽の報告ができる。
「ばっ…………ばっ、ンな訳ねぇだろうが!!
ここで俺がリンを攫って、何の得があんだよ!」
「……まあ、確かに。そうですね」
閻魔が犯人であるならば報告に来る必要がない。
リンを目的とするのならそのまま消えればいい。
夜帳もそれを警戒して和義とリンと2人きりにならぬよう立ち廻って来た。
「とりあえず家の中を探しましょう。どこかに隠れているのかもしれない」
「そうですね」
何者かに攫われたのでなければ、リンが自らの意志で抜け出した可能性もある。
閻魔の目を盗んでこっそり抜け出し、かくれんぼのつもりでどこかに潜んでいるリンのおちゃめなイタズラである可能性だ。
不可能犯罪を考慮するよりはいくらか現実的だろう。
何にせよ探してみない事にははじまらない。
「チッ! よし、じゃあ手分けするぞ。俺は2階を探す、お前らはそれぞれ1階を探せ!」
閻魔の仕切りにより、部屋数の少ない2階を閻魔が、手広な1階を夜帳と和義が捜索することになった。
格下の舎弟どもに自身が疑われた事に対する不満は残っているが、リンが攫われたという状況がその不満を飲み込ませた。
彼女を庇護しなければならないという強い使命感によるものだ。
閻魔は2階へと上がると、まずは休憩所にしていた私室を調べる。
もしかしたら戻っているかもと思ったが、布団や毛布の中にリンの姿はなかった。
捜索場所も少ない私室に見切りをつけ隣の物置と思しき部屋に移る。
地震によって崩れた荷物をかき分け子供の隠れられそうな死角を念入りに探す。
だが影も形も見つからない。
仕方なしに、次の部屋に移ろうかと考えた時だった。
「閻魔さん!!」
1階から慌てた様子の夜帳が勢いよく駆け込んできたのは。
その様子にただ事ではない気配を察し、閻魔が応じる。
「どうしたッ!? リンが見つかったのか!?」
「いえ」
続いたのは最悪の言葉だった。
「和義さんも消えました」
「な、に…………?」
まさかの報告に閻魔も口をパクパクとさせ言葉を失う。
暫し呆然とした後、徐々に感情が追いついたのか額に血管を浮かび上がらせながら叫ぶ。
「まさか野郎がリンを攫った犯人で、逃げたんじゃねぇだろうなあッ!!?」
「いえバリケードはそのままです、一通り確認しましたが動かしたような跡はありませんでした。玄関もチェーンが付いたままです」
それが本当なら外には誰も出ていない。
外に逃げ出せるルートがあるとするならば2階の窓から飛び降りるくらいのものだが、2階には他ならぬ閻魔がいた。
誰かが来たような気配は感じていない。
混乱した閻魔は自慢のパンチパーマをガシガシと掻きむしる。
「どー言う事だよ!? どーなってんだよ!! これはよぉ!!?」
「落ち付いてください」
「なンでテメェはそんなに落ち付いてんだよ!? まさかテメェが犯人じゃねぇだろうなぁ!!?」
「そんな訳がないでしょう。だいたい、リンさんの消失を確認したのは閻魔さんじゃないですか」
あの場面で2階にいた夜帳にリンを攫うなんてできるはずもない。
そもそも誰にもリンを攫う事なんて不可能だ。
次々と人が消える魔の家に紛れ込んでしまったのか。
外にはゾンビが溢れ、地獄の様相を呈している。
あり得ないあり得ない。こんな状況はあり得ない。
混乱極まる閻魔。
その瞬間だった。
窓の外で落雷があったような光が弾けた。
見れば、遠くどこかの民家から雷鳴を纏った光の筋が放たれていた。
それを見て、閻魔の頭に電撃のような気付きがあった。
「…………もしかして異能ってやつじゃねぇのか」
感染者が目覚める異能。
あり得ざるを実現する力。
具体的にはわからないが、それがあればこの状況もあり得るのではないか?
「ようやく気付いたんですか」
つぶやきに対する無味乾燥な声。
咄嗟に閻魔はその声に向かって銃口を向ける。
「…………どういうつもりです?」
「どうもこうもねぇ! 残っているのは俺とお前だけだろうがッ!!」
この家に残ったのは2人だけ。
閻魔は自分自身が犯人でない事を知っている。
ならば必然犯人は一人。
閻魔は夜帳の異能がどう言ったモノかは知らない。
だが、異能が不可能を可能に出来るのならばリンを攫い和義を消したのが夜帳でもおかしくはない。
導き出されたその結論に、容疑者は大きなため息を付く。
「実に短絡的だ。何故そんな結論に至るのか理解に苦しむ」
やれやれと首を振る。
心底から閻魔をバカにしたような態度だった。
「この犯行が異能によるものだというのは最初から分かり切ったことでしょう。
私が分からなかったのは、この状況を引き起こした異能がリンちゃんの物なのか閻魔さんの物なのか和義さんの物なのか、という点です。
まあ今となっては動機からして和義さんの物だとは思いますが」
「何……言ってやがる…………?」
夜帳は最初から分かっていた。
「だったら何で言わなかった!?」
「まさか、そこから講義が必要だとは思いませんでしたので」
見下したような物言い。
その余りに嘗めた言動に閻魔の怒りが一瞬で振り切れた。
「あぁッ!? 俺をバカにしてんのかテメェッッッッ!!!! 殺すぞヒョロガリィ!!!」
銃口を向け恫喝する。
その瞬間、閻魔が異能を発動させた。
いや、正確には彼は異能を発動したのではなく、彼の異能は常に発動していた。
それは閻魔に恐れを為した者の動きを硬直させる異能。
彼の異能は条件を満たした時点で自動発動し、条件が満たされ続ける限り効果は永続するという凶悪な代物である。
「殺す、か。まったく、これ以上バカに付き合うのもいい加減バカらしいな」
それに対し、夜帳はただですら姿勢の悪い体を沈めて深くため息をついた。
彼の体には何の変化もなかった。これまでも一度たりともない。
それはつまり、誰一人として木更津閻魔と言う存在を一度たりとも恐れていなかったという事だ。
銃口を突きつけられているこの瞬間ですら。
「弾切れ、してるんでしょう」
「っ!?」
図星を突かれ怯んだ瞬間を狙って距離を夜帳が詰める。
両手首を掴み、相手の動きを封じる。
だが、手を封じられているのはお互い様だ。
閻魔とてこんな線の細い相手に力負けするほど貧弱ではない。
振り払うことなど容易い事だ。
すぐさま力任せに引き剥がそうとしたが、それよりも僅かに早く、夜帳が大きく開いた口から鋭い牙を覗かせた。
「……………………あ?」
その牙が、閻魔の首筋に噛み付いた。
苦し紛れの噛み付きなんてのは喧嘩でもよくある話だ。
喧嘩慣れしないヒョロガキが窮鼠のように猫に噛み付く姿を見たことがある。
だが、これは違う。
最初から相手を殺すことを前提とした殺意を込めた噛み付きだ。
閻魔にとっては殺すという言葉は脅し文句でしかない。
だが本物の殺人鬼にとってその言葉の意味はまるで違う。
線の細い薬剤師、月影夜帳は村内を賑す殺人鬼である。
これまで3名のうら若き少女を殺して、その血を啜って来た。
その牙が今、ヤクザの跡取り木更津閻魔の首筋に突き刺さっていた。
夜帳がこれまで閻魔に手を出さなかったのは、木更津組の恨みを買うのが面倒だったからである。
夜帳の望みは村での平穏な暮らし。その為にヤクザにつけ狙われる生活など御免被りたい。
だが、夜帳はここにきて閻魔の殺害を決意した。
心変わりに至った理由は三つ。
一つはここまで村を見てきて、思いのほかVHの被害と混乱が大きいと分かった事だ。
この村は終わりだ、事態がどう転んでも立ち行かないだろう。
この村の平穏は好きだったが、村の平穏などもはや望むべくもない。夜帳は住処の変更を余儀なくされていた。
それはつまりこの村に根付く木更津組からも離れられる算段が付いたと言う事である。
二つ目は木更津組の現状だ。
まあ状況からの推測が多分に含まれているため、これはそれほど確実な理由ではないが。
村の被害とリンクして、このVHで木更津組もタダでは済んでいないはずである。
壊滅とまで行くかどうかは分からないが、少なくとも夜帳への返しなどを優先していられる状況ではないだろう。
組の存亡がかかった状況で面子のための返しを優先する訳がない、そこまで行けば尊敬する愚かさだ。
そして最後の理由は単純かつ最大の理由。
ここに目撃者はいないという事だ。
そもそも、夜帳が閻魔を殺したというのが誰にも露見しなければ何も恐れることはない。
リンと和義は消失し周囲は密室。
後は死体をゾンビにでも食わせてしまえば完全犯罪だ。
鋭い牙が頸動脈を食い破り、血液を吸い出す。
紅い血液と共に命が飲まれてゆく感覚が閻魔の全身を襲う。
指先から体温が失われ冷たくなってゆくのが分かる。
「…………ぁぁ…………ぁ……っ」
吸われている。
血液が。
熱が。
命が。
冷たい死の恍惚。
渇き朽ちてゆく喉が鳴り。
己に死を齎した、その存在の名を呼ぶ。
「吸…………血、鬼」
全ての血を吸い終えた牙が首筋から離れる。
ドロついた唾液交じりの赤い液体が、名残惜し気に牙と首筋を繋いだ。
吸血鬼はミイラの様に干乾びた死体を放り投げると口端から伝う血を親指で拭う。
「不味いな。やはり粗野で野蛮な男の血はダメだ。うら若き乙女の血でなければ」
味は最悪。
だが、飲める。
そもそも、人間の体は血液を飲めるように出来ていない。
味や喉越しもそうだが、血液中に含まれる大量の鉄分が鉄過剰症(ヘモクロマトーシス)や感染症などの原因になりかねない。
実際、夜帳もこれまでも血液を飲み干そうとしてきたが失敗してきた。
人体を流れる血液量は体重の約1/13。成人男性ならば4〜5リットルはある。
仮にただの水だとしても飲み干すにはつらい容量である。
だが、それらの不可能条件を無視して、全ての血液を飲み干せた。
あれだけ大量の血液を呑み込んでおきながら、水分で胃が満たされたような感覚もない。
あるのはただ充実感と満足感。
これが異能。
夜帳は己が異能を理解した。
いくらでも血が飲める。
そして血液から相手の全てを奪い取れる。
「…………夢のようだな」
夜帳は昔から血が飲みたかった。
ステーキはいつだって血の滴るブルーレア。
小さな傷を作ってはそこから浮き出る血を舐めとって慰めていた。
人を殺したいのではなく、最初に吸血衝動があった。
殺し立ったわけではなく、吸血がしたいがために結果として殺人となったのである。
それが叶わぬからこそ彼は厭世家となり、世を儚んだ。
せめて静かに死に行けたのならと願い、この田舎に身を窶した。
だが、世界が変わった。ここであればその夢が叶う。
この混乱は、平穏な暮らしを代償にするだけの価値はあった。
血液とは命だ。
存在そのものであると言っていい。
血はその存在の全てを内包し、その全てを飲み込んだ夜帳は木更津閻魔と言う男を知れた。
「あぁ…………閻魔さん。こんな異能だったんですねぇ」
自らに恐怖した者を縛り付ける異能。
それは他人を畏怖させ縛り付けたいという閻魔の本質の具現だ。
自尊心と虚栄心ばかりを肥大化させた実に下らない男だった。
だが、その能力はいい。
夜帳は血液と共にその異能を得た。
血液を飲み干した相手の異能を獲得できる。
それを理解した。
吸血鬼を恐れた者はその動きを縛られる。
何とも吸血鬼らしい能力ではないか。
あとは霧化する異能を持った人間でもいれば最高なのだが。
「…………さて」
窓の外にゾンビが通りかかったのを見計らって、干乾びて軽くなって死体を放り投げた。
屋根を伝って志べり落ちた死体の落下音に喰いついたのか、ゾンビが群がる。
その様子を適当に見届け、閻魔は次の行動を思案する。
リンを攫った和義も探し当て、彼女を取り戻す。
これはマストだ。
取り戻した彼女から吸った血の味は、さぞ甘美だろう。
だが、探そうにも和義がどこに消えたのか、今の所見当もつかない。
異能を使ったのは間違いないだろうが、その能力の詳細もはっきりとしない。
転送や瞬間移動の類か。それとも壁抜けや透明化。
トイレの小さな窓を通れる小型化や軟体化などと言うのもありうる。
いずれにせよ推論の余地を出ない。相手の異能を把握できないうちは決めつけは危険だ。
和義の古民家群にある自宅に向かいたいと言っていた。
そこに先回りすれば待ち伏せもできるかもしれないが、家の具体的な位置までは把握していない。
どちらにせよ、あとを追うための手掛かりがない。
それは別に、気になるは2階から遠目に見た戦闘。
雷鳴によって僅かにシルエットを捉えた程度だが、少女たちが沢山いたように見える。
どういう結果になったかまでは不明だが、生きているのならそちらを追ってみるか。
接触して和義の目撃情報を聞くのもいいが、それよりも大量の少女が並ぶバイキングビュッフェをつまみ食いするのもいい。
もっとも、異能が侮れないものであると理解して以上、ただの少女とて油断は禁物だが。
戦闘音もしばらく前に収まっている。
方向は大まかにだが分かる。
あれだけ数もいればそれに目立つ。
全滅したのでもなければ、接触くらいはできるだろう。
【木更津 閻魔 死亡】
【D-4/高級住宅街/一日目・早朝】
【月影 夜帳】
[状態]:健康
[道具]:医療道具の入ったカバン
[方針]
基本.この災害から生きて帰る。
1.戦闘していた少女たちを探して和義の情報を得るか血液を吸う
2.和義を探しリンを取り戻して、リンの血を吸い尽くす
※己が異能を理解しました
※吸血により木更津閻魔の異能『威圧』を獲得しました。
■
夜帳が去り、様々な混乱をもたらしたその家は無人となった。
だが、誰もいなくなったとしても、疑問は残る。
神隠しの如く忽然と消失したリンと和義はどこに行ったのか?
その答えは家の中にあった。
更に言うならトイレの中である。
閉じられた便座の中に浮かぶ透明な小さな箱。
それは触れた物を閉じ込める檻だった。
その檻に囚われた者は五感とその異能を封じられ愛でられるだけの愛玩物となる。
その名を『愛玩の檻』。
これこそが連続婦女監禁殺人犯、宇野和義の異能である。
この檻に入り込めるのは最初に檻に触れ囚われた愛玩物が一匹と、愛玩物を愛でる檻の主のみである。
和義はトイレに檻を仕掛け、便座に座った人間を閉じ込める罠を仕掛けた。
無論、獲物以外がトイレに行くリスクはあったが、男は小便であれば便座には座らない。
水洗が壊れたという情報を流しておけば余程の腹痛でもない限り大便に立つことはないだろう。
他の獲物が掛かりそうになったら最悪檻を解除すればいいだけの話だ。
失敗したら次の機会を待てばいい。
そうして首尾よく獲物を捕らえた。
檻は設置したその場に残り続けるため、探索中にリンを捉えた檻が発見されるリスクもあった。
外部から檻を破壊されれば捕らえた凛も解放されてしまう。
そうならないよう、和義は探索に乗じて便座の蓋を閉じて檻を隠した。
まさか便器の中にリンがいるとは思うまい。わざわざ閉じたトイレの蓋を開いて人を探す輩もいないだろう。
あの月の日に見て以来心奪われた至宝。
リンという念願を己が手中に収めたのである。
五感を奪われる暗闇の中にありながら、そこに捕えられたリンは降りの中心で眠っていた。
トイレで用を足そうとしている最中に囚われたせいだろう、周囲には彼女の垂れ流した小便が広がっていた。
だが、その程度の事は彼女にとっては襲い来る眠気に勝る程のモノではなかったらしい。
この異常事態も彼女にとっては日常と変わらない。目隠しもスカトロも慣れたものである。
ここは暗いばかりのただの檻だ。
異空間なのか、周囲は殺風景で何もない。楽しむための道具もない
中に囚われた人間は五感を奪われるため反応もつまらなさそうだ。
最愛との蜜月を過ごすにはここは余りにも味気がない。
二人きりの最高の最期を目指すのなら、もっと豪勢でなければならない。
誰にも邪魔されず自由で、なんというか救われていなければダメだ。
自宅の地下には可愛がるための道具が揃っている。
リンが目を覚ましたら、誰にも見つからないよう自宅に向かおう。
「待っててねリンちゃん。最高の檻を用意してあげるから」
この場で爆発しかねない興奮を抑えるようにそう呟いた。
【D-4/高級住宅街・民家のトイレ・『愛玩の檻』内/一日目・早朝】
【宇野 和義】
[状態]:健康、興奮
[道具]:なし
[方針]
基本.リンを監禁し、二人でタイムリミットまでの時間を過ごし、一緒に死ぬ。
1.リンが目を覚ましたら自宅に向かう
2.自宅で道具を揃えたらリンと二人っきりになって身を隠す。
【リン】
[状態]:健康、木更津 閻魔への依存。睡眠中
[道具]:なし
[方針]
基本.エンマおにいちゃんのそばにいる。
1.やさしいエンマおにいちゃんだいすき♪
2.リンをいっぱいあいして、エンマおにいちゃん。
※リンは異能を無自覚に発動しています。
終了宣言忘れてました、投下終了です
投下します
(まだ着かないのか…やっぱり這っている動きだと遅くなっちゃうか)
現在、虎尾茶子は何とか商店街に向かって這い続けている
結局怪我を治す為には商店街に行くしかないと考えたのだ
実は高級住宅街の方に行って、治療用具を貰うというのも考えた、神社も近いだろうとも考えた、だがその場合、無事である薬品や包帯を探すのに手間がかかると考えたのだ
その点、商店街の薬局なら治療出来る手段は多い、地震で壊れていたとしても壊れていない物も多くあるはず
そう考えて、商店街に行く事を決めていた途中であった。
パァン!!
…銃声が響いたのは
…もしかしたらアイツが追ってくる可能性はあるんじゃないかと思っていた
でもこんなに早く来るとは…本当に…
「…逃げ切れると思っていたのかぁ?」
あのクソジジィがこんなにも早く…!!
薩摩は遠藤を撃った後…ふと考えた
何故3人が自分の素晴らしい計画に賛同してくれなかったのかを
…まずそもそも『この計画に穴があるから』という思考になるんだったらそもそもこんな計画を立てないだろう
では次にどんな考えに至ったのか?それは
『同志が少なかったからだ』
この計画を言っているのは今の所、自分一人だけだ
先の三人との接触で異能には色々な物がある事が分かった、戦闘に使える物もあれば、気づくのが難しい異能もあると
そういう異能を持つ人もいる可能性がある以上、一人だけで盛大に演説をしても多くの人の心を動かす事は無理かもしれないと考えた
ならば他の人と共に演説したらどうだろうか?
ましてや自分の異能の力が分かっていない人が共に演説すれば同じような人も賛同することが出来るかもしれない
放送室に早く行きたかったが…演説の成功率を上げた方が、計画が実現する可能性は増す
そしてその為に誰を使うか?簡単だ、逃がしたあの女を使えばいい
あの女は愚かにも血を流しながら逃げていた…追跡する事は容易いだろう
…その結果である、今、彼女は背後を取られてしまっている
「…さて、君にも改めて聞いておこう、俺の理念に賛同して、協力してくれるよね?そうすれば今逃げた事を不問にして同志として共に行動しよう…断ったら犯罪者としてあの2人と同じ場所に行く覚悟をしとけよ?」
この選択を突き付けるのはさっきまでと同じだ、違うのはもしこれでNOと言った場合、足を撃ち抜いて、木刀を取り上げて強制連行するつもりだ。そして放送の際に頭に銃を突き付けて演説させる
(…最悪だ)
逃げる前と異能の把握と怪我の状況は残念ながら変化していない、つまり今でも勝てる相手ではない
オマケに、今の牽制の銃は左腿を少し掠めて…血が流れている、勿論これは偶然である、本当は木刀を弾き飛ばし武器を奪うつもりであったのが下手だったためには全く別の場所に銃弾が飛んで偶然掠めただけである。
だがそれでも当たったという事実は立ち向かうという想いの喪失を促すのは充分であった
だからと言って計画に賛同するつもりは0だ、こんないかれたジジィの計画に賛同したら自分まで同じ奴と思われる、そんなのはごめんだ
「…いいよ、殺せば?」
彼女は観念したのだ、あの2人と同じように自分が命を終わらされる事を覚悟した
だからこの一言は単なる負け惜しみにすぎない
「あたしの命でこのパンデミックが終わるなら上等だ」
…そのはずだった
「…は?」
今の声は…何だ?
豆鉄砲をくらったような声を上げていて…振り向いてみて様子を見たら
本当に唖然としていた…それと同時に銃口も震えていた
「まさか…!!お前が女王感染者…!?」
そうだと言えばもしかしたら逃がしてもらえる…いや
…笑えてきた、もしかしてこの男、このパンデミックについて一番重要な事を考えていなかったのか!!
「残念ながら…分からないっス…あ〜でももしかしたらそうかもしれませんね?そうじゃないかもしれませんが…どうでしょうか?撃ってみれば分かるのでは?このパンデミックが終わるかもしれませんがねぇ〜」
動揺は止まっていない、調子に乗っていた顔が一気に崩れている
そう、彼は気づかされた、彼の計画の重要な欠陥を…そもそも欠陥だらけ?それはそうだが
女王感染者を守ってパンデミックを日本に広める…その為に邪魔者は残らず撃つ
だがその為には女王感染者を早く知らなければならなかったのだ
そうでもなければどんな邪魔者でも銃で正気感染者を殺す事なんて出来ない…パンデミックが終わってしまうからだ
…この欠陥の問題は薩摩の何よりも愉しみとしている銃を簡単に撃つことが女王感染者を知る事が出来るまでは出来なくなってしまう事である。だからこの欠陥は他の欠陥と違いすぐ気づくことが出来た、いや、気づかされてしまったのだ。
そして今この男はこの瞬間茶子を殺すことは出来なくなってしまった
…元々彼は元々茶子を殺すつもりはなかった、先程説明したように、連れていくつもりだったからだ
だがこの時点での一番の問題は自分の望む世界を作る事に対しての大きな障害を気づかされたことによる動揺であった
(…今だっ!!)
八柳新陰流の使い手として運動をしてきた事は伊達ではない、動揺し続けている瞬間に脱兎の如く走り出した!!
「…っ!!マテマテマテマテマテェェェェェェェエエエエエエ!!」
焦りながらも指銃を連射しようと指を向けるが、動揺している間に走られていた結果空いた距離は長く、そして距離を開けてしまった以上…もしこの状況で相手の心臓を撃ってしまったらと思うと撃つ事は出来なくなってしまった
「クソ、クソクソクソクソクソォォォォ!!」
慌てて追いかけるがまだ動揺は収まっておらず、その上運動神経も良い若い彼女をいくら警察とはいえ40代で年上である薩摩が追いつくことが出来る道理はなく…
「チクショォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオ!!何でだよォォォォォォォォ!!」
見失ってしまった…
「クソクソクソクソクソがぁぁぁぁ!!」
近くにいたゾンビを指の銃で撃ちまくりながら怒り狂う、狂い続ける
「ハァ…ハァ…ハァ…」
4体ぐらい撃ち殺した後にようやく冷静さを取り戻した
…こうなるともし放送をしたとして、それに反発する奴が現れたとしても…殺す事は出来なくなってしまった、つまり力による服従を促せなくなってしまった
そんな状況で本当に特殊部隊に勝てるのか、考えなければいけなくなってしまった
…そもそも団結した所で勝てるのかを考えていないあたり、まだ計画の成功は諦めていないようだ…
一刻も早く女王感染者を知る必要が出てきた、だがそれはどうやればいいのか、見当がつかない、研究所に行けば分かるのか?ならそちらへ早く行くべきなのか?…仮に行った所で知識がまるでない俺に本当に分かるのか?
となるとそれまで放送は後回しなのか?…だが女王感染者を知る事が出来るまでに何人生き残れるのか?少なくなってしまっていたら…勝てなくなってしまうんじゃないか?
そして何より
それまで俺はゾンビしか撃てないのか?
結局何も考えずに邪魔な奴を、ムカつく奴を、撃ちたい奴を撃ちまくる快感はこの状況でも味わえないのか?
薩摩はもう狂い叫ばなかった、叫び疲れたのだ
ただ、近くにいた6人くらいのゾンビは全員原型もない程にハチの巣になってしまっていた
…こうして有頂天になっていた者に与えられし女王感染者を知る事が出来るまでのロスタイム、果たしていつまで続くのだろうか?
【D-4/草原/1日目・黎明】
【薩摩 圭介】
[状態]:左頬にダメージ。計画の実現が難しい事が分かった事と銃を簡単に撃てなくなってしまった事に対してイラつきが止まらない
[道具]:拳銃(予備弾多数)
[方針]
基本.銃を撃つ。明日に向かって撃ち続け…たかったが考えなければいけなくなってしまった。
1.結局考えて銃を撃たなきゃいけないのかクソォォォォォ!!
2.放送施設へと向かう?それとも研究所へ向かう?そもそも研究所ってどこだ?
3.協力者は保護、それと同時に今直面している問題を解決できる方法も話し合いたい
4.放送によって全生存者に団結と合流を促し、村を包囲する特殊部隊に対する“異能を用いた徹底抗戦”を呼びかける(女王感染者を知った後にした方が良いのかを考えている)
5.それから包囲網の突破によって村外へとバイオハザードを拡大させ、最終的には「自己防衛のために銃を自由に撃てる世界」を生み出す。
6.それまではゾンビ、もしくは確実に女王感染者じゃない人(もしかしたら特殊部隊の奴等なら…)を撃ち続けて気晴らしをする
[備考]
※交番に村の巡査部長の射殺死体が転がっています。
※薩摩の計画は穴だらけですが、当人は至って本気のようです…が、少しだけ穴を認識しましたが、諦めるつもりは毛頭ありません。
※放送施設が今も正常に機能するかも不明です
「…ザマァみろって奴っす」
今頃どう行動するのか考えてるんだろうなと思うと笑える…が、それと同時に
「この事をもし早く言っていたら臼井くんも遠藤君も無事でいれたのかもしれないと思うと…申し訳なかったなぁ」
けっこう後悔したと同時に…その二人のうち何方かが女王感染者だったら良かったのにな、とも思った…そしてゾンビ達も恐らくより八つ当たりで撃たれてしまうんだろうなぁ…と思うと申し訳ない気持ちにもなってしまう
だが今の自分にそういう事を考えている時間はないと考えて…少しでも早く着く為に這うのをやめて、商店街に歩き始めた
その後茶子は念のために服などを破いて包帯代わりにして出血を抑える事で血の跡をなくしながら歩き続けて…ついに目的地である商店街に辿り着けたのであった
「…さて、まずはケガを治すためにしっかりした包帯を買いに薬局いこっか、その次はカバン…それから食べ物も集めようかな」
…こうして危険な狂人から逃げきれた者に与えられし商店街に危険人物が入ってくるまでのフリータイム、果たしていつまで続くのだろうか?
【E-4/商店街の入り口/1日目・早朝】
【虎尾 茶子】
[状態]:左肩損傷、左腿から少し出血←服で縛って抑えています
[道具]:木刀
[方針]
基本.ゾンビ化された人は戻したいが殺しはしたくない
1.まずは薬局で傷を治してから…今後を考えようかな、それから食事もしておこうかな
2.神社に行って犬山はすみやその家族を保護する、食べ物も持って行こうかな?
3.自分にも異能が?…戦闘に使えると嬉しいっスね
4.あのクソジジィ、ザマァないっス…ゾンビ達や遠藤君達には本当に申し訳ないなぁ…
[備考]
※自分の異能にはまだ気づいていません。
タイトルは『LOSS TIME&FREE TIME』です
感想ではなくて指摘で申し訳ありません。
前話時点で茶子は意識が朦朧とするレベルの出血状態です。
その状態にしてはやたらと口が回る気がしますが、まあこちらはまだ「茶子はもともと口が回るキャラ」であればわからなくはありません。
ですが、とりあえず止血をするために商店街方面へ這って移動するほど消耗しており、さらにかすり傷とはいえ追加で足に怪我をした状態では、
いくら体力がないとはいえ成人男性を振り切れるほど脱兎の勢いで走ることは非現実的だと思います。
あと、最後で服を破いて止血していますが、これができるなら薩摩に追いつかれる前にやっているはずではないでしょうか。
全体的に見て、特に薬品や栄養摂取をしたわけでもないのに茶子がいきなり回復しているように見受けられます。
>>871
ご指摘、ありがとうございます
まず、朦朧する程疲れていたのに脱兎のように逃げ出す事が出来たのは、私としてはチャンスを見つけた事による火事場の馬鹿力を発揮したと考えました、また、小説の冒頭ではただ逃げているだけのナイーブな状態だったのですが、この時は薩摩を言い負かした事によって少しハイになっていたので走る気力が湧いていたと考えました。
また、服を破って包帯にした件ですが、これは薩摩に血の跡をつけられた事から、同じ事が2度も起きないようにする為にした応急処置だと考えました。こちらも冒頭では薩摩から逃げる事しか考えていなかった…つまり恐怖に支配されていた状態だったので思いつかなかったと考えました
どうでしょうか?
どうでしょうかと言われましても、あなたが考えられていることは文章にしていただかないと読む側には伝わりませんので、その内容で加筆されてはいかがでしょうか。
個人的には、時間を追うごとに悪化していく失血状態という現実的な問題に対して、火事場の馬鹿力だの少しハイになっただのすべて精神論でカバーできるというのは無理筋だと思いますが
>>873
了解しました。
出来る限り早く加筆します
投下乙です
>LOSS TIME&FREE TIME
薩摩の穴だらけの計画が更に穴だらけに!
説得力が得られないのは賛同者が足りないからという結論はあまりにも自省が出来ていない
茶子もこの状況から舌戦で一矢報いるとは、口が上手いのは流石だぁ
>>871 で指摘されている件ですが
それまで這う事しかできなかったのにいきなり全力疾走は元気になりすぎな感じはしますね
メンタル的にハイになったところで怪我が治る訳ではないので、むしろ無茶が祟ってその後にぽっくり行きそうな気もしますし
わざわざ全力疾走せずとも薩摩が呆けている間にこっそり逃げて気付いた時には血の跡も途切れたので追えなくなった、とかでもいい気はします(まあ前話と若干展開が被りますが)
まあ、これもあくまで一案ですので修正内容についてはお任せします
修正期間に関してですが、無期限という訳にもいかないので期間を切らしていた頂きたいのですが
修正期間は>>874 から2日間として
2023/02/02 17:23:11
までに完了するようお願いします
とはいえ、ご都合もあるでしょうし上記期限で無理そうならご一報ください
>>875
了解しました。期限内に逃げ方を少々工夫して皆さんが納得出来るように直します。
おはようございます、修正&加筆案が出来ました、どうでしょうか?
動揺は止まっていない、調子に乗っていた顔が一気に崩れている
→彼女はいざという時は賢い知力を発揮する事が出来るのが特徴だ、たとえ頭が朦朧としたとしても生き残る思いを胸にその特徴を生かしたゆさぶりを仕掛けた、その結果…薩摩はかつてない程動揺していた、先程までの調子に乗っていた顔が嘘のようである。
(…今だっ!!)
八柳新陰流の使い手として運動をしてきた事は伊達ではない、動揺し続けている瞬間に脱兎の如く走り出した!!
「…っ!!マテマテマテマテマテェェェェェェェエエエエエエ!!」
焦りながらも指銃を連射しようと指を向けるが、動揺している間に走られていた結果空いた距離は長く、そして距離を開けてしまった以上…もしこの状況で相手の心臓を撃ってしまったらと思うと撃つ事は出来なくなってしまった
「クソ、クソクソクソクソクソォォォォ!!」
慌てて追いかけるがまだ動揺は収まっておらず、その上運動神経も良い若い彼女をいくら警察とはいえ40代で年上である薩摩が追いつくことが出来る道理はなく…
「チクショォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオ!!何でだよォォォォォォォォ!!」
見失ってしまった…
→
(…今しかないね)
八柳新陰流の使い手として運動をしてきた事、剣道をしてきた事は伊達ではない
今のあの男は唖然として…恐らく今の私がどんな行動をしても気づかれないかもしれない…剣道の経験がそう自分に告げていた
だとしたらブッ倒すか?…いや、唖然としていたのが目を覚めたらもしかしたら拘束する為に腕や足を撃たれる可能性はあるよね?
…この負わされた傷の分ぶちのめしてやりたかったけど仕方ない、逃げよう
…どれだけ長い時間、気を取られていたのか、彼にはもう分からない
ただ、気がついたら、目の前に虎尾茶子はいなかった
「クソ、クソクソクソクソクソォォォォ!!」
今思えば手足を撃って拘束するぐらいは出来るはずだった
だが自分は呆然としたまま見逃してしまっていた
これではここに来た時間が無駄になってしまっただけではないか
…だがその考えはすぐに一瞬で吹っ飛んだ
「チクショォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオ!!何でだよォォォォォォォォ!!」
銃を撃つのに制限がかかってしまうという事実に対する怒りで
『長い間唖然としていたな、あのジジイ…どんだけ自分の計画が成功するって思ってたんだ、本当トリガーハッピーだな』を「…ザマァみろって奴っす」と『今頃どう行動するのか考えてるんだろうなと思うと笑える…が、それと同時に』の間に入れます
その後茶子は念のために服などを破いて包帯代わりにして出血を抑える事で血の跡をなくしながら歩き続けて…ついに目的地である商店街に辿り着けたのであった
→
その後茶子は、先程は逃げる事に夢中で思いつかなかったが、服などを破いて包帯にして出血を抑える事で血の跡をなくしながら歩き続けて…ついに目的地である商店街に辿り着けたのであった
修正箇所だけ貼るのではなく修正後の作品をそのまま投下した方がいいのでは?
>>877 だけだと修正前の文章と混同して正直ちょっとわかりづらいです
>>878
確かにその方が見やすいと私も思ったのですが、レスを多く使うのはどうかと思いまして
それについては◆H3bky6/SCYさんの判断に従います
>>879
修正乙です
修正作品についてですが、仮投下スレを用意しましたのでお手数ですがこちらに作品を投下していただくようお願いします
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/16903/1675336569/l50
修正内容も確認しました
逃亡方法に関しては問題ないと思います
ただ、逃亡後に特に治療もしてないのに回復しているように見える点に関しては変わっていないように思います
歩くこと自体は構わないのですが(這う事しかできないキャラは動かしづらいというのもわかりますし)
ダメージのために這うことしかできない状態だったのが、急ぐために這うのをやめて歩き始めた、と言うのは些か唐突に感じられます
歩かせると言うのであればそれに足る理由付けを用意する必要があります
尾行阻止の止血のみならず逃亡後に改めて応急処置を行うなり、それこそ最初に提示された根性論でもいいですが、いずれにせよ無理をして歩いているような描写は欲しい所ですね
商店街に辿り着くこと事態に拘りがないのであれば下手に動かさず薩摩から逃れてその場で身を隠した、としてもよいいかと思います
>>848
すみません、容姿描写(髪の長さ)に明らかなミスがありました。
wikiのほうは修正しておきます。内容は変わりません。
> 短髪の全裸の少女が、長髪の少女を盾にしていた。
→ぼさぼさの長髪を垂らした全裸の少女が、長髪の少女を盾にしていた。
> わずかに歪められた軌道で短髪の少女の右の耳輪を貫き、右の脇腹の肉をかすめ取っていた。
→わずかに歪められた軌道でぼさぼさ髪の少女の右の耳輪を貫き、右の脇腹の肉をかすめ取っていた。
ギリギリになりましたが透過します
ワニ吉は孤独だった。
遠い遠い外国の地で生を受けるも、
充分な自我すら芽生えぬうちにハンターに捕えられ、家族とは離れ離れになった。
物心ついた時には、故郷から遠く離れたここ山折村の、動物好きとして知られる男の家で飼われていた。
自分の父母や兄弟、そして故郷についての記憶は殆ど残っていない。
だが、それらへの恋しさは常に抱いていたし、
この寂寥感は死ぬまで埋まることはないんだろうな、ということも直感的に理解していた。
飼育下の生活に全く楽しみが無かったわけではない。
飼い主の男は熱心に世話をしてくれたし、
たまにくれる鶏や豚や牛の肉は本当に御馳走だった。
自分に仕込もうとする芸の訓練も、なかなか楽しいものであった。
(上手くやればおやつをくれるのだ)
思い起こせば、この頃が一番マシな生活を過ごせていた時期だった。
だが、それも長くは続かなかった。
飼い主の家に来てから数年が経ち、身体が大きくなり、
一回の食事に魚を2、30匹は食べなければ満足できなくなった頃、
飼い主とその家族との間に不協和音が生じはじめた。
飼い主の妻が何かにつけ、自分を指さしながらキーキーと金切声を上げるようになった。
飼い主も飼い主で、それに対して豚のような怒声で応えている。
ワニ吉に人間の言葉を聞きとることはできないが、
自分のことで争っているということは理解できていた。
そして、その日がやってきた。
飼い主とその妻が一通りひどい喧嘩をした後、
飼い主がテレビを点け、ある番組の録画を再生し始めた。
飼い主もワニ吉もお気に入りの、野生のワニの生活を追ったドキュメンタリーだ。
ワニ吉は、それを見ながら、自分が生まれたかもしれない遠い遠い場所、
そしてそこに生きているだろう自分の同族達に対し、夢を馳せた。
飼い主は、澱んだ目でサケとかいう変な水を沢山あおっていた。
幸せな夢を見た。
ワニ吉は、広い広い湖の畔にいた。
隣には妻と沢山の子供達がおり、目の前には新鮮な魚と肉が山と積まれている。
子供たちは、思い思いに魚や肉にかぶりつき、妻はその様子を幸せそうに見つめていた。
では自分もと、血のしたたる肉に思い切り齧りつこうとしたその時、
飼い主の妻の悲鳴で目を覚ました。
飼い主が、妻に馬乗りになっていた。
彼は、獣のように吠えながら、妻の顔を何度も何度も、殴っていた。
……ああ。
もういいや。
もう沢山だ。
その日の深夜。ワニ吉は自分の住んでいたケージを叩き壊し、その家を去った。
■
飼い主の家から脱走した後も、孤独であることに変わりはなかった。
新たな住処とした下水道や湖にも、当然ながら同族のワニなどいるはずがなく。
ただ食べては寝、食べては寝を繰り返すだけの、無為な生を送っていた。
また、食料という新たな問題が発生した。
獲物といえば、湖の魚、下水道のネズミ、水辺に近付いてきた小動物や鳥といった程度であり、
身体の大きなワニ吉にとっては満足できるものではない。
ごく稀に、山の近くで水を飲みに来たシカやイノシシを仕留められた時は
心ゆくまで腹を満たすことができたが、そんな機会は良くて年に数回といったところだ。
それでも、ワニ吉が人間を襲うことはなかった。
物心ついたときから人間の飼育下にあったワニ吉の心には
人間に対する強い警戒と畏怖が刻み込まれていた。
人間を襲って食べるという発想すら無かったと言ってよい。
湖は学校のプール代わりに使われていることもあり、
ワニ吉が湖にいるときに学生が泳ぎに来たことも一度や二度ではない。
しかし、自分の頭上を子供が無防備に泳いでいるのを目にした時ですら、
ワニ吉は湖底の泥の中に身を潜めるなど、徹底的に人目に付くことを避けた。
結果としては、その判断が功を奏し、駆除の対象になることもなく、
ワニ吉の存在は村民にとって噂レベルの認知に留まった、
これはワニ吉の生存に繋がったが、反面、獲物としての人間を見逃すことにもなり、
ワニ吉の慢性的な餓えの原因にもなった。
このまま何も起きさえしなければ、
ワニ吉は、人間にとっての害獣になることもなく、
山折村に人知れず住む一匹のワニとして、孤独のまま生を終えたであろう。
家族に対する餓え、食欲に対する餓えを抱えながら。
だが、あのバイオハザードが全てを変えた。
ウイルス感染による知性の上昇、それに伴う自我の肥大化、
村に充満した血肉の臭いで目覚めた肉食獣としての本能、
そして、分身という異能の発現。
それらが人間への恐れを捨てさせ、ワニ吉に野望を抱かせた。
すなわち、自分と分身による一大軍団を結成。
湖・下水道という地の利と、分身体を利用し、人間を狩り、その肉を喰らう。
そして、この山折村を、自分たちの新たな故郷たる楽園とする。
これこそが『ワニワニパニック大作戦』である!
■
『『『『『『『『おぉ〜〜〜〜〜〜………』』』』』』』』
以上のような内容のワニ吉の一大演説を聞いた分身達は、
人間のように拍手をしたいところだが、身体の構造上できないので、
代わりに口をパクパクさせて驚嘆の意を示した。
ワニ吉の周りには8体の分身がいた。
この他に湖の岸で見張りをしているのが2体、周囲の偵察に出ているのが2体いる。
つまり、今存在するワニ吉の分身は合計で12体である。
蛇足ながら説明する。
ワニ吉が異能で分身1体を作るのに必要なのは10分弱である。
数を増やすことに専念すれば、20体は作り出せるだけの時間は過ぎている。
つまり、ワニ吉は敢えて今の数で増やすのを止めていた。
その理由は、
「見分けがつかねえ!!!」
これに尽きる。
ワニ吉にとって分身は、あくまで獲物を狩る為、身を守る為の手段であり、
先の乃木平天との交戦でもそうしたように、必要ならば捨て石にすることも辞さないが、
それと同時に、愛すべき疑似家族でもあった。
だが分身は分身、見た目はワニ吉と寸分たりとも変わりがない。
異能としては有用な要素ではあるが、こと家族の一員として見た場合は問題がある。
最初のうちは口調や行動に特徴をつけて演じさせることで区別していたが、
10体を超えてしまうと流石にネタも尽きる。
敵との交戦を考えると不安が残るが、湖の中にいる自分達を襲う相手がいるとは考えにくい。
今は、一人芝居とはいえ、夢にまで見た家族との会話を楽しみたい。
これ以上増やすかどうかは偵察担当の報告を待って決める、それが今のワニ吉の結論であった。
閑話休題。
「ということで、朝になったら初の『人間狩り』を試みる。
だが、人間は手強いことは分かってるし、例の異能もある。
あくまで慎重に事を進める必要が……」
と、ワニ吉が話していたその時、
『おぉ〜〜い我! 我! 大変だ!! 我ぇぇぇ〜〜〜!!!』
偵察に出ていた分身2体が慌てて戻ってきた。
「おお、そんなに慌てて、どうしたんだ俺」
『陸の方がとんでもないことになってる! とにかく来てくれ!』
山折村の南西にある診療所。ここでは、バイオハザード発生からわずか数時間にして多くの血が流れた。
ゾンビに襲われて死んだ者。SSOG隊員・美羽風雅および乃木平天により殺害されたゾンビ。そして一色洋子。
ワニ吉とその分身の一団、総勢13体は、その診療所の道路を挟んだ向かい側に上陸した。
彼らがまず目にしたのは、正気を失い徘徊するゾンビと、そこかしこに散らばる人間の死体だった。
村に漂う血肉の臭いも、バイオハザード発生直後とは比較にならないほど強まっていた。
『おいおいおいおい…… 何やってんだ人間どもは』
『引くわーー……』
『見ろよ、あの人間の女。死体を嚙み千切って食ってるぜ。まるで俺みたいじゃねえか』
『ちょっと、一緒にしないでよ。私はあんな風に白目剥いて狂ったように食べたりはしないわよ』
肉食獣であるワニにとっては、エサがそこらに置いてあるようなもので、
本来は夢のような光景のはずだが、あまりにも数が多すぎる。
ある程度人間に対する知識を有するワニ吉は、事態の異常性を正確に認識していた。
「おい、偵察に出てた俺! 正気の人間は何処かにいなかったのか!?」
『報告に戻る前、その建物の中からオス1匹とメス2匹が出てくるのを見た!
でも、もうどっか行っちまったようだ!』
その人間とは、与田四郎、田中花子、氷月海衣の3名である。
彼らとワニ吉は丁度入れ違いの形となった。
「あの中か……」
ワニ吉は、診療所を見つめながら呟いた。
そこからは、強い血の匂いが漂ってきている。
危険はあるだろうが、まずは情報が欲しい。ワニ吉は決断した。
「………よし、ワニ太、ワニ郎、ワニ兵衛! 中の様子を見てこい!!」
『イエッサー!』
『よし、任せろ自分!』
『フッ…… オレの出番のようだな』
ワニ太は、先の人間との戦いで見事な死んだふりを披露した個体であり
ノリは軽いが非常に機転が利く、ワニ吉の片腕とも言えるワニ(という設定)だ。
ワニ郎は実直で沈着冷静、周りが騒ぐ中でも常に落ち着いた判断を下し、頼りになるワニ(という設定)だ。
ワニ兵衛は冷酷非情、爬虫類的なクールさと肉食獣の苛烈さを最も強く併せ持つ生粋のハンター(という略)だ。
偵察を命じられた3体は、音もなく診療所の入り口に辿り着くと、中の様子をうかがった。
受付が見えるが、どうやらゾンビ含め、人間はいないようである。
それを確認したワニ太が、そっと扉を開けようとした。
その時であった。
突如、肉でできた触手が、診療所の奥から凄まじい勢いで伸びてきた!
それは見る間にガラス戸を突き破ると、ワニ太に絡みつき、その巨体を物ともせず持ち上げ、
「グガアアアアアアアアアーーーーッ!!!」
ワニ太の叫びを残し、掻っ攫っていた。
ワニ郎、ワニ兵衛がそれを追って診療所に飛び込む。遅れてワニ吉と残りの分身9体も続く。
そこで彼らが見たもの、それは。
『な、なんだ、コイツは……?』
無数の触手を生やし、剝き出しの筋肉とも粘菌とも取れぬ、毒々しい赤色をした怪物。
一色洋子に潜んでいたナニカ。『巣くうもの』であった。
ワニ太は、その肉の中に吞まれていた。弱弱しく手足を動かしているが、完全に食われるのは時間の問題だ。
相手は謎の怪物、だが見捨てることはできない。ワニ吉は号令を下した。
「行け! ワニ太を助けるんだ!」
ワニ吉の分身9体が『巣くうもの』に殺到し、その肉に、触手に、喰らい付きはじめた。
ワニ吉は、護衛2体と共に後方で様子を見ている。
一人芝居とはいえ、大事な家族を喰らおうとしている相手だ。
本心としては自分も飛び掛かりたいところではあるが、
相手は明らかに人間とも動物とも違う、全く未知の怪物である。
自分がやられたら終わりなのだ。冷静にならなければならない。
いざとなれば逃げる選択も頭に入れつつ、じっと戦況を見守っていた。
ワニ吉の異能『ワニワニパニック』。これは極めて強力な能力である。
特に、人間とは比較にならない身体能力を持つワニ吉とのシナジーは凄まじい。
なにせ分身の力も見た目も自分と同等。しかも数十体まで作ることができる。
ワニ吉は全長2mを超える巨大なワニである。
それがまとめて9体も殺到してきたらどうなるか。
人間なら一たまりもない。大型の肉食獣でも勝てないだろう。
陸生生物で対抗できるのはゾウくらいのものではなかろうか。
『巣くうもの』は怪物ではあるが、その身体は現実の肉に近い。
ワニの牙は容赦なくその肉に突き刺さっていく。
唯一の弱点は、頭に攻撃を入れられると分身が消滅してしまうことである。
実際、『巣くうもの』の振るう触手が偶然頭に当たり、2体の分身が消え去っていた。
だが、それも相手に弱点を突く知能があってこそだ。
『巣くうもの』は、どうやら本能だけで動いているようであり、
分身が消えたこと、そしてそれが何故消えたのかについて、分析や対策を講じようとする様子はない。
ワニ吉の分身達が、『巣くうもの』の肉を食い千切っていく。
触手が嚙み切られ、体液が飛び散り、『巣くうもの』の動きが、徐々に遅くなっていく。
だが、それでも遅かったようだ。
ワニ太が遂に、『巣くうもの』に完全に吸収された。骨一つ残すことなく、『巣くうもの』の肉に呑まれていった。
「……ワニ太、そして、さっき消えちまったワニ男、ワニ美、すまねえ。
だが、ここでこの化け物は殺すぜ。
お前ら! アイツらの仇だ! この化け物を、徹底的に喰らい尽くせ!!」
ワニ吉が、分身達にとどめの号令を掛けた。
■
妙だ。
さっきから鬱陶しく己に噛みついてくる動物達。
そいつらからは、魂を、生命力を感じない。
最初に捕えた一匹を先ほど喰らい終えたが、自分の力には全くならないではないか。
そうか。
こいつらは抜け殻か。
抜け殻は無視し、己の喰らうべき生命力の在処を探ろう。
少し離れたところに、強い生命力を持つ個体がいる。
抜け殻を操っているのはこいつか。
しかも、他者を喰らうことのできる、非常に強い肉体の持ち主であるようだ。
素晴らしい。
さて、魂の強さ、生命力の強さとは、何を以て決まるのか。
意志の強さか。それも決して無視出来たものではない。
例えば一色洋子は、まさにその意志ゆえの魂の輝きを持ち、生贄としては上質の部類であったが、
その脆弱な肉体を補う為の、血肉を喰らう力が無かった。
そう、強き魂、強き生命力は、何よりも強き肉体に宿る。
そして、魂を、生命力を喰らう己に憑かれながら、
それでもなお、強い肉体を維持するには、他者を喰らい尽くさんとする意志と力が必要だ。
依り代が血肉を喰らい、魂を磨く。その魂を我が喰う。
欠落した生命力を、依り代が再び血肉を喰らうことで補い、またその分を我が喰う。
それこそが理想の、魂の輪舞。
それを為せる新たな贄が、そこにいる。
■
「ガアアァッ!?」
突然、『巣くうもの』の全ての触手がワニ吉に向かって伸び、彼の身体を拘束した。
自分の分身に対する攻撃は完全に停止しており、明らかにワニ吉だけに攻撃を集中している。
(コイツ、俺が『本体』だと気付いてんのか!?)
凄まじい力で、身動き一つ取ることすらできない。
ワニ吉を助けようと、ある分身は触手を噛み千切ろうとし、
ある分身はとどめを刺そうと『巣くうもの』に喰らい付き、その肉を食い千切る。
その時、『巣くうもの』の肉の中から、心臓のような形をした肉塊が飛び出した。
それは触手を伝ってワニ吉に瞬く間に接近、彼の口先で静止した。
まるで、自分からワニ吉に食われようとしているが如く。
(舐めるんじゃ…… ねえっ!!)
ワニ吉は、大きく口を開け、その肉塊を嚙み砕いた。
その瞬間、『巣くうもの』の動きが止まり、ぐじゅぐじゅ音を立てながら溶け始めた。
「うええっ、き、気持ち悪ぃっ……」
ワニ吉が最後に喰らった肉塊は、まるで腐肉の塊の様で、
肉食獣であるワニ吉にとっても不快極まるものであった。
最後まで意味の分からない怪物であったが、
何とか倒しきることができたようだ。
だが、この戦いで3体の分身を失ってしまった。
朝までに体制を整えようと、一旦湖に引き上げようとした、その時。
「ガ……」
ワニ吉に異変が起きた。
まるで一か月も何も食べていないような飢餓感が彼を襲い、
そして、口からは唾液が滝のように流れ始めた。
(なんだ、なんだ!?俺に一体何が起こってるんだ!?
腹が減って仕方がねえ! 何か食わなきゃ、死ぬ!!
分身達! そこら辺から、何か食えるものを持ってこい!!
今すぐだ!! さもなきゃ俺が死ぬ!!
あ、もう駄目だ、食うこと以外、何も考えられねえ。
どうしちまったんだ、俺……)
もう理性を保っていることすらできない。
とにかく食わねば。自分が死んでしまえば『ワニワニパニック大作戦』は終わりだ。
家族と共に暮らす夢、腹いっぱい食べる夢、楽園の夢が潰えてしまう。
1体の分身が、人間の死体を引きずってきた。
ワニ吉は、半狂乱になりながらそれを食う。
だが、食っても食っても腹に溜まる気配がない。
分身達が、次々と死体をワニ吉の前に積み上げていく。
ワニ吉はそれをひたすら喰らい続けたが、
まるで餓鬼道に落ちたが如く、飢えが収まる気配はなかった。
「ギイアアアアアアアアアアアアアアーーーーッ!!!」
ワニ吉は、悲壮な叫びを上げながら、喰らい、喰らい、喰らい続けた。
■
『巣くうもの』は満足していた。。
遂に、獲物を狩り、喰らう力を持った肉体を手に入れたのだ。
一色洋子の時は、彼女一人の魂を食うことしかできなかった。
だが、これからは違う。
このワニ吉が、他者を喰らい、それを肉体に還元することで間接的に食うことができる。
さて、だ。
新たな依り代となったワニ吉には、
非常に興味深い異能があることが分かった。
それは『分身を作り出す異能』。
一色洋子が持っていた『肉体強化』の異能も興味深くはあったが、
一応、生物学的には不可能ではない能力だ。
だが、この『分身』はそうではない。
あきらかに超自然的な能力である。
思い起こせば、太古の鬼道の女王をはじめ、
かつて己を封じようとした陰陽師、僧侶、修験者といった輩の中には
その霊力を以て、人知を超えた術を使う者達がいた。
その原理については遂に知ることができなかったが、
この『異能』を分析することでその根源に近付くことが出来るかも知れぬ。
そこで、『巣くうもの』は、まず、『肉体超強化』の再現を試みた。
本来は、子供であってもオリンピック選手を超えるほどの身体能力を得ることのできる強力な異能である。
それが、初めから強い身体能力を持つ成体のワニに適用されればどうなるか。
だが、『肉体超強化』は一色洋子の異能。
『巣くうもの』が取り付いたところで、ワニ吉が使うことはできない。
しかし、この異能ならば、疑似的に再現することはできる。
やることは単純だ。沢山食わせればいい。
食わせて食わせて食わせまくり、消化器官を全開にしてエネルギーに変換、
それを片っ端から肉体の強化に充てる。
ワニ吉はこの実験が終わるまで、果て無き餓えに苦しめられるだろうが、
己の知ったことではない。
厄災は笑った。
ワニ吉の筋肉は肥大化していた。
腹に入れた肉が即座に昇華され、エネルギーとなるが、
それは生存活動に必要な分だけを残し、
『肉体超強化』を再現するための筋肉の成長に使われているのだ。
さて、食べる姿だけ見守っていても仕方ない、と、
『巣くうもの』はワニ吉に分身の異能を使わせてみた。
問題なく分身体が現れたが、どうやら、筋肉肥大化の影響は分身に反映されていないようだ。
ワニ吉の脳に巣くうウイルスが、本来あり得ない速さで行われる肉体の成長を把握しきれていないのだろう。
流石にそこまで都合よくはいかないか。
だが、眼前の手駒としては十分であろう。
肉体の強化が終わったら動き出そう。
この肉体を使い、この村に住む全ての魂を喰らい尽くし、己の贄とする為に。
それは、業を重ね続けた村への神の裁きか。
それとも、殺し合いの舞台で踊る者達を嘲笑う、悪魔の遊戯か。
神代から続く、史上最悪の『厄災』が、山折村に牙を剥こうとしていた。
【E―1/診療所/1日目・黎明】
【ワニ吉】
[状態]:『巣くうもの』寄生。飢餓感(超極大)による理性消失。『肉体超強化』の疑似再現により筋肉肥大化中。
分身が10体存在。
[道具]:なし
[方針]
基本.喰らう
1.分身に食えるものを捧げさせる。肉体の強化が完了したら全てを喰らい尽くす。
※分身に『肉体超強化』の反映はされていませんが、
『巣くうもの』が異能を掌握した場合、反映される可能性があります。
投下終了します。
時間オーバーしてしまい申し訳ございませんでした。
すみません。>>892 の内容に記載漏れがありましたので以下の如く訂正します。
「ガアアァッ!?」
突然、『巣くうもの』の全ての触手がワニ吉に向かって伸び、彼の身体を拘束した。
自分の分身に対する攻撃は完全に停止しており、明らかにワニ吉だけに攻撃を集中している。
(コイツ、俺が『本体』だと気付いてんのか!?)
凄まじい力で、身動き一つ取ることすらできない。
ワニ吉を助けようと、ある分身は触手を噛み千切ろうとし、
ある分身はとどめを刺そうと『巣くうもの』に喰らい付き、その肉を食い千切る。
その時、『巣くうもの』の肉の中から、心臓のような形をした肉塊が飛び出した。
それは触手を伝ってワニ吉に瞬く間に接近、彼の口先で静止した。
まるで、自分からワニ吉に食われようとしているが如く。
(舐めるんじゃ…… ねえっ!!)
ワニ吉は、大きく口を開け、その肉塊を嚙み砕いた。
その瞬間、『巣くうもの』の動きが止まり、ぐじゅぐじゅ音を立てながら溶け始めた。
「うええっ、き、気持ち悪ぃっ……」
ワニ吉が最後に喰らった肉塊は、まるで腐肉の塊の様で、
肉食獣であるワニ吉にとっても不快極まるものであった。
最後まで意味の分からない怪物であったが、
何とか倒しきることができたようだ。
だが、この戦いで3体の分身を失ってしまった。
朝までに体制を整えようと、一旦湖に引き上げようとした、その時。
「ガ……」
ワニ吉に異変が起きた。
まるで一か月も何も食べていないような飢餓感が彼を襲い、
そして、口からは唾液が滝のように流れ始めた。
(なんだ、なんだ!?俺に一体何が起こってるんだ!?
腹が減って仕方がねえ! 何か食わなきゃ、死ぬ!!
分身達! そこら辺から、何か食えるものを持ってこい!!
今すぐだ!! さもなきゃ俺が死ぬ!!
あ、もう駄目だ、食うこと以外、何も考えられねえ。
どうしちまったんだ、俺……)
もう理性を保っていることすらできない。
とにかく食わねば。自分が死んでしまえば『ワニワニパニック大作戦』は終わりだ。
家族と共に暮らす夢、腹いっぱい食べる夢、楽園の夢が潰えてしまう。
1体の分身が、人間の死体を引きずってきた。
ワニ吉は、半狂乱になりながらそれを食う。
だが、食っても食っても腹に溜まる気配がない。
分身達が、次々と死体をワニ吉の前に積み上げていく。
ワニ吉はそれをひたすら喰らい続けたが、
まるで餓鬼道に落ちたが如く、飢えが収まる気配はなかった。
「ギイアアアアアアアアアアアアアアーーーーッ!!!」
ワニ吉は、悲壮な叫びを上げながら、喰らい、喰らい、喰らい続けた。
そして、もはや芝居のできなくなった分身達は、
ただただ機械的に、人間の死体を運んではワニ吉の前に積み重ね続けた。
それはまるで、神に生贄を捧げるが如く。
訂正終了します
たびたびすみません。
まとめwikiに>>897 の修正を反映しました。
投下乙です
>失楽園(ワニの場合)
ワニ吉、自力で檻から脱出してたのね、感染前から賢いなこのワニ
家族に憧れるワニたちの仲良し疑似家族はほっこり(自作自演)、だが掲げる計画は普通に人にとっての害悪なんだよなぁ
そして病院で出会ってしまう野生と災厄。ワニとナニカと異能の相乗効果で元からヤバい村がさらにヤバい
増殖する強化ワニとか地獄すぎるぜ
投下します
白み始めた空の下、普段ならまだ布団の中でまどろんでいるような時間。
犬山うさぎ、岩水鈴菜、和幸の二人と一匹は人通りの絶えた町にいる。
生きた、正確には正常な意識を保った人間はうさぎたちの他にいない。
しかしその代わりとでも言うように、自我を失った村民たちがそこかしこで蠢いているのが現在の山折村であった。
和幸と呼称される存在は、うさぎの記憶では可愛らしい豚であった。もうちょっとしたらこの子食べちゃうんだなあ、とうさぎはぼんやり思っていたものだ。
しかし、今の和幸は豚ではない。否、豚ではあるがただの豚ではない。
一般的な成人男性の背丈を二倍してもなお足りない、全長4メートル。体重は十倍以上の1トン。
人の体に豚の顔面を載せた亜人、オーク。それが今の和幸である。
4メートル1トンの体躯ともなれば、どれだけ気を遣って屈もうが足音を殺そうが隠密行動など不可能だ。
和幸が一歩踏み締めるごとに丸太を地に叩きつけたような音と衝撃が生まれる。
となれば、自我なきゾンビたちが集まってくるのは必定だ。
無論、ゾンビがいくら群がろうとかつて魔王軍として人間の軍勢と血で血を洗う闘争を繰り広げてきたオークの戦士の敵ではない。
聖女うさぎとその同胞である鈴菜を守りながらであっても、和幸は労せずゾンビを蹴散らしていく。
ゾンビを殺害することは容易いが、村の住民を手に掛ければうさぎを傷つけることになる。
そのため、和幸は道すがら引き抜いた標識を即席の棍棒にし、ゾンビの足を砕いて立ち上がれないようにしていく。
和幸が腹を殴るだけでゾンビは真っ二つになりかねないため、力加減には細心の注意を払ってだ。
自由さえ奪ってしまえば、あとは鈴菜の出番。手近な家にゾンビを押し込め、閉じる。
生きてさえいれば、事態が終息すれば治療の見込みはあるだろう。
「はあ……はあ……」
「鈴菜さん、大丈夫ですか?」
「うん……平気だ。和幸のおかげで私は閉じるだけだから」
うさぎに背負われ眠っていた鈴菜は、寝入って数分というところで起こされざるを得なかった。
和幸がゾンビに対処するその騒音で眠っていられるほど図太い神経はしていない。
数分意識をシャットダウンした程度では倦怠感を拭い去るには到底足りず、むしろ寝入り端に水を差された消耗のほうが大きい程ではあったが。
「ありがとうございます、鈴菜さん。和幸さんも。村のみんなを殺さないでいてくれて」
それでも、甲斐はあった。
死が満ち満ちた地獄がごとき渦中にあっても優しさを忘れない少女、犬山うさぎの笑顔を護ることができるのだから。
和幸が薙ぎ倒したゾンビたちの中にうさぎの親類縁者はいなかったが、狭い村社会なので顔見知りではある。
彼らを殺せば、この状況では仕方のない事とうさぎは言うだろうが、その心が傷つくことは疑いない。
そんなことは、和幸にとっても鈴菜にとっても本意ではない。
ゆえに、彼らは自衛以上の武力の行使を行わない。速やかにゾンビを無力化しない。ゾンビたちでさえも護ろうとする。
彼らの行動は尊く、人として正しい。
尊く、正しいがゆえに、その優しさは踏みにじられる。
この村にいるのは優しく正しい者ばかりではない。
鉄と血の尖兵、死を運ぶ狩人もまた、いつだって蛇のように目を光らせているのだから。
死神の名は大田原源一郎。
同僚が担当する北でもなく南でもなく、人の密集が予想される東へと足を向けた大田原は、ほどなく騒音を耳にする。
戦闘音。しかも、重機が建物を押し潰すような、腹に響く重いサウンドだ。
異能により現人鬼と化した巨漢を処理した大田原にさほどの消耗はない。
正常感染者を処理するという任務にゾンビの排除は必須ではないため、大田原は必要なときだけゾンビを排除しつつ動いている。
そういう無駄を喜んでやる同僚の顔も何人か思い浮かんだが。
無駄に弾丸や体力を浪費することを嫌った大田原は、気配を殺しつつ市街地を滑るように移動していた。
やがて大田原は荒れに荒れた場所へとたどり着く。
(まるで美羽が暴れた跡のようだ)
高級住宅地の一角は、ブルドーザーが走り抜けたかのような有様だった。
硬いブロック塀や建物を一直線に押し潰す破壊跡がある。これを重機ではなく人が成したとするならば。
(先ほどの男以上の脅威が存在するということか)
大田原が撃破した正常感染者の内の一人、郷田剛一郎のマックスパワーならば同様の破壊は可能だろう。
サイボーグである美羽隊員も、大型の鈍器など適切な武器を装備しているならばおそらく可能だ。
どちらも単純なスペックだけ見れば大田原を凌駕している。油断ならぬ強敵……
(だが、真に警戒すべきはそいつではない。そいつと戦っていた相手だ)
その強敵と渡り合った者たちがいる。
ここまで怪物が荒れ狂ったのは当然、そうするべき相手がいたからだ。
単独ではなく複数人だろう。瓦礫に紛れ完全とはいかないが、足跡などから読み取れる存在痕跡は男性が二名、女性が複数名、うち一名は子ども、といったところだ。
周囲にあるのはゾンビの気配だけ、ということはこの場所で戦闘があったのはかなり前なのだろう。
ここまで派手に暴れれば部外者に察知もされやすい。急ぎ離れるのは当然の判断である。
(戦闘の心得がある者。強力な異能を持つ者。そして、異能者の集団……か)
大田原が交戦してきた男たちはどちらも強者だったが、質は違っていた。
一人目、極道らしき男の異能はさほど強力ではなかったが、男自身が手練だった。
我流ではない、きちんと指導者に教えを受けさらに実戦で研ぎ澄ませた剣士だ。もう少し異能を実戦で使い込み理解が進んでいれば、あるいは大田原とて危うかっただろう。
二人目、筋肉質の巨漢は真逆。本人にさほど武道の心得はなかろうが、異能が強力だった。
刃物すら通さない高密度の筋肉はまさに鎧であり、破城槌であった。強力さの代償か、冷静に立ち回ることが不可能だったのが付け入る隙となった。
異能は個人個人で異なる。戦闘に向いた者もいればそうでない者もいるだろう。
いずれは、本人の技量と異能が噛み合った真の強者とも遭遇するかもしれないが――閑話休題。
そう、個人の実力が特筆するほどでなくても、手っ取り早く強力な存在となるのは簡単だ。徒党を組めばいい。
正常感染者は例外なく異能を所持しているのだから、群れ集まればそれだけで一個の強力な戦闘集団となる。
SSOGが自衛隊最強の戦闘集団であるのは、隊員個々の戦闘能力もさることながら、それが一つに束ねられているからに他ならない。
鉄の結束。仲間意識ではない、言うなればプロ意識か。
己の行いこそが祖国を護っているのだ、という固い自負がSSOGの屋台骨。
それは戦闘狂の己や美羽、信の置ける成田や乃木平、別行動を取っている黒木、あるいは子どもじみた英雄願望を持つ広川であっても変わらない。
唯一の例外は新人隊員である小田巻真理であろうか。
事前の情報収集を踏まえたブリーフィングにて、小田巻が村内に滞在していたことは周知されている。
夏季休暇中であったためVH発生直前の招集に応じられなかったことはともかく、作戦行動地である山折村に単独で来訪していたのはもはや喜劇ですらある。
休暇中の行き先を事前に申告していれば止められたであろうが、SSOGは隊員のプライバシーを尊重する組織でもある。
秘密裏に建造された研究所がある村に向かうことは却下できたかもしれない。
無論、休暇申請段階ではVHは発生していなかったため結果論だが。
(小田巻……あいつも処理しなければならないな)
SSOGが出張るとなればそれは汚れ仕事だ。
先んじて偵察に入っていたならともかく、任務外で任務地に訪れ自由に行動していたとなれば、それはもう身内とは扱えない。
生きていれば、正常感染者だ。殺さねばならない。他の正常感染者と扱いを変える必要はない。
自我を失っていれば、こちらも証拠隠滅のために殺さねばならない。
自衛隊員がゾンビ化したなど醜聞以外の何物でもなく、またマスコミに嗅ぎつけられでもしたら面倒なことになる。
小田巻の現状がどうであろうと、SSOG組織として抹殺は決定されている。
小田巻の技量は優秀だが、まだ現場経験は浅い。対処は容易だろう……異能に目覚めていなければ、だが。
もし戦闘的な異能を使いこなすのであれば、先に交戦した二名以上の脅威になる可能性はある。
それでも自分や美羽、成田ならば問題なく処分できるだろうという確信はあった。
一時でも同僚だった者のため、広川や乃木平では難しいかもしれないが。
と、大田原は思考を打ち切り足を止めた。
大規模な戦闘があった場所からほど近く、そちらでも今まさに誰かが戦っていると思しき騒音が発生している。
戦っている、となればゾンビ同士の小競り合いはありえない。ターゲットがそこにいる。
装備を確かめる。拳銃の残弾は十分、ナイフにも刃こぼれや亀裂はない。
大田原は影のように物陰から物陰へ移動していく。
やがて大田原が目にしたのは巨大な豚人間と二人の少女だった。
百戦錬磨の大田原といえど一瞬目を疑った豚人間だが、少女たちと普通に会話しており、あれもまた正常感染者なのだと思い知らされる。
観察する限り、戦闘の心得があるのは豚人間のみ。少女たちは素人であろう。
もちろん異能のことを考えれば見た目通りの素人かどうかは怪しいところだが。
さて、どうする――見逃すかどうかではなく、どう殺すかという思案だが――と大田原が思案していると。
「えっ、誰かそこにいるんですか?」
少女のうち一人が、大田原の隠れている場所をまっすぐに見ていた。
気取られるほど気配は漏らしていなかったはず、と一気に警戒心を引き上げた大田原の足元には蛇がいる。
それは少女、犬山うさぎの召喚した蛇。
いかに気配や音を殺して歩いていても、大田原が人間である以上体温を無くすことはできない。
先に発見された。が、まだあちらは事態を把握しきっているわけではない。
大田原の決断は早かった。
「えっ」
物陰から飛び出しざまに蛇を踏み潰しつつ、大田原は鋭いスイングで拾い上げていた石を投擲した。
標的は大田原を見つけた方の少女、犬山うさぎだ。
うさぎはスネスネと名付けた蛇の頭が虫のように踏み潰されたことで一瞬硬直した。
その顔面に迫る、拳大の投石。次いで銃声。
「うさぎ、下がるのだ!」
すんでのところで投石は豚人間、和幸の手で受け止められた。
だが投石をフェイントにして放たれた銃撃までは、和幸といえどもとっさには防げなかった。
「鈴菜さん!」
「おのれっ、ぬおおおおおっ!!」
岩水鈴菜が右脇腹から血を撒き散らしつつ倒れた。
直後、和幸がうさぎと鈴菜を庇うように前に出て、斧のごとく振りかぶった道路標識を大田原に叩きつける!
爆撃じみた一撃。おそらくはサイボーグ美羽以上の強烈な膂力による、単純にして無慈悲に死を運ぶ刃。
大田原は横っ飛びに回避。叩きつけられた標識は舗装された路面を陥没させ、縦横に亀裂を走らせる。
(凄まじい力だ。当たればガードしようと一撃で命を持っていかれるな)
すぐ傍に死神が待っている。そんな状況下でも、大田原の戦意に翳りはない。
和幸が体勢を立て直す前に発砲。頭と胸の二箇所。
頭部を狙った銃弾は和幸がとっさに掲げた太い腕に食い込む。が、厚い筋肉に支えられた表皮を貫くことはできず、かすり傷を追わせた程度。
胸に至っては防ぐことすらしない。こちらの弾丸も胸筋に阻まれ心臓に食らいつくことはなかった。
和幸の反撃。水平に振られる標識はさながらギロチンの刃のよう。
大田原は姿勢を低く、転倒したと見まごうばかりのの高さでタックルを仕掛けた。
攻撃後の隙を狙った完全なタイミングだったはずだが、和幸の足はびくともしない。
大田原も巨漢であるが、体重はせいぜい80キロといったところ。1トンの体重を誇る和幸ではあまりにも相手が悪い。
和幸が組み付かれた足を振り上げる、それだけで抵抗の間もなく大田原の体も持って行かれそうになり、瞬時に離脱し間合いを測る。
(急所は……高い。ナイフでは狙えんな)
仕切り直し。大田原と和幸が睨み合う。
が、やはり体格差がある。強敵二人を立て続けに撃破してきた大田原だが、今度の敵は大田原の身長の二倍はある。
拳銃弾は通じず、ナイフも首や心臓といった急所には届かない。難敵だった。
和幸は誰何することもなく、大田原を敵として見定め、無言のままに構えを取っている。
この肉の壁を打ち崩すのは至難の業だ。であれば。
ナイフで太腿の動脈目掛けて切りつける、と見せかけ、大田原は鋭くターンした。
対峙している和幸を迂回し、その背後にいる少女二人へ。
小回りは大田原に分がある。スタートラインに並ぶように、大田原と和幸は横一線。
少女たちは未だ事態を把握できていない。鈴菜は腹部の出血を抑え、うさぎはなんとかして手当しようと荷物をひっくり返している。
一目で戦闘慣れしていないとわかる。脅威度はやはり豚人間が一番高い。
「いかん……!」
大田原がナイフを投擲する構えを取ると、和幸の顔が強張った。狙いは身を隠しもしない犬山うさぎ。
これは大田原にとっても賭けであった。今、大田原の数メートル横には和幸がいて、一歩で攻撃される距離だ。
もしこの怪物が人間など顧みず大田原の排除だけを考えていれば、一秒の後に大田原は肉片にされるだろう。
(だが、これが最も勝算のある手だ)
そう判断したのならば躊躇はない。失敗すれば死ぬだけだ。
大田原の手からナイフが稲妻のように放たれ……
「させるかあああああっ!」
和幸の伸ばした標識が、ナイフに追いついた。
道路標識の図の部分が盾となってナイフを弾く。
怪物は敵の排除より同胞の守護を選択した。
(予想通りだ)
大田原は、賭けに勝った。
少女たちは命を拾った。
和幸が身を呈して、そうとわかっていて勝利のチャンスよりも護ることを優先したために。
タン、タン、タン、と三度、くぐもった銃声が響く。
隙を見せた和幸の背に一瞬で駆け登った大田原は、銃口を和幸の右目に突っ込んだ。
ぐちゃり、と眼球を潰す手応え。そのまま発砲、念を入れて三度。
脳髄をかき回した銃弾は、固い頭骨を抜けることなく和幸の頭蓋の中に留まった。
それで、戦闘は終わった。
「和幸……さん」
うさぎが呆けたように呟いた。
ドウ、と和幸の巨体が倒れる。その背から大田原は着地した。
三度目の勝利。大田原の全身に震えにも似た歓喜が走る。
まともに組み合って倒せないのならば、弱点を狙う。生来が強靭なオークの戦士である和幸にはありえない発想。
弱く脆い人間が格上の強者を下すために研鑽し、練磨してきた技術や戦術の蓄積が、種族差という壁を越えたのだ。
「あなたは……何なんですか……?」
震えながらうさぎが問いかける。
大田原は、もちろん、その言葉に反応することはなく。
「……逃げて、うさぎ!」
大田原が拾い上げたナイフで命を絶たれる寸前、沈黙していた鈴菜が吠えた。
その手には銃がある。ロシア製のマカノフ、鈴菜が拾っていた武器だ。
大田原は瞬時に反応し、横っ飛びに回避。防護服の耐弾性能に期待するのは分が悪いと判断した。
一発、二発……素人の銃撃だ。走り回っていれば当たりはしない……三発、四発。
鈴菜が撃った弾数を数え、マカノフの装填数の九発までを冷静にカウントしていく。
だが、ここに大田原の誤算があった。
鈴菜はもう片方の手で何かを投げた。大田原の方にではなかったため止められはしなかった。
それはただの穀物だが、この村でただ一人には起爆剤となるものだった。
「和幸、お願い……! もう少しだけ力を貸して!」
和幸の荷物から探し当てたとうもろこしだ。
少女の願いを受け、黄金の果実は、芸術的な曲線を描いて横たわるオークの口へ吸い込まれていく。
「……ブモオオオオオオオッ」
片目を潰され、脳をかき回されれば人間ではとうの昔に死んでいる。
だが和幸は人ではない。強靭な生命力を持つオークである……!
命の源、ガソリンとなるとうもろこしを供給され、和幸の生命力は一瞬強く燃え上がった。
豚、いやイノシシがごとく鼻息を噴き出し、和幸は突進した!
(いかんっ……!)
銃撃を避けるために迎撃姿勢を取れずにいた大田原は、その機関車めいた体当たりを避けることはできなかった。
ゴッ、と音さえも置き去りにし、大田原が地面と垂直に飛んで行く。
その後を追うように和幸が走っていく。追撃、と考えているのではない。もうその程度の思考すら今の和幸にはない。
ただ目の前の敵を殺す、本能に従って和幸は走る。
「和幸、そこの赤い屋根のガレージに押し込んで!」
だが、芽生えた異能が本能にほんの少しのブレーキを掛けた。
種族は違えど友である鈴菜が和幸に求めている。
和幸は片方になった視界でなんとかその指示を示すものを見つけると、道路標識を大田原の体に沿わせて押し込んでいく。
大田原は体当たりの寸前で自ら後方に跳んだため、衝撃は幾分緩和できているが、代償として派手に吹き飛ばされてしまった。
全身へ波のように拡がる衝撃は数秒、大田原の自由を奪っていた。
「ぬうっ……!」
「ブモッ……オ、オオ、オオオーッ!」
大田原は押し込まれながらも貫手を和幸の潰れた目に打ち込む。そのまま、今度は直接脳をかき回す。
激痛による肉体の反射で和幸の腕が緩む。だが、なんとか抜け出た時にはもう遅い。
大田原は四角形の建物、ガレージの壁に叩きつけられていた。
もうもうと粉塵が立ち込める中、鈴菜はふらりと立ち上がった。
「す、鈴菜さん……?」
「うさぎ、あいつは私がなんとかする。逃げて」
撃ち尽くしたマカノフを捨て、鈴菜は足を引きずってガレージに向かう。
中では動く影が二つ見える。和幸だけでなく、襲撃者もまだ生きている。
たった数分。たった数分で状況は一変した。
ゾンビを何人か助けたからといって、安心してはいけなかった。
あれが恐らく特殊部隊。正常感染者を始末するために送り込まれた死神だ。
鈴菜は腹部の傷を思う。すぐに死ぬほどではないが、処置しなければ死ぬとわかる。
そして、その技術は鈴菜にはない。うさぎにもないだろう。
「鈴菜さん、何とかするって!?」
「これからあいつを閉じ込める。大丈夫、私も和幸も死なないから」
鈴菜は、怪我を負った自分と和幸ではうさぎの足手まといになると思った。
だからこそ。
「そうね、できたら……できたらでいいから。仲間を連れて、助けにきて」
ここが裕福な者が住む高級住宅街で助かった。こんなガレージを所有しており、さらに車が不在だったのは奇跡だ。
震えるうさぎを前に、鈴菜はガレージのシャッターを閉じるスイッチの前に、自らの異能をイメージした。
パンドラドア。絶望の底にあるただ一つの希望を信じて。
「行って、うさぎ! こんなところで死んじゃだめ! 走って!」
視界が閉ざされる寸前、うさぎがゆっくりと踵を返したのを見届けて、鈴菜はガレージの中を振り返った。
そこには瀕死の和幸と、銃とナイフを構えた特殊部隊の人間がいる。
鈴菜は壁にもたれかかると、腹部の傷を示し、言った。
「このガレージは私の異能で閉じた。私が自分で異能を解かない限り、私が死んでも開くことはない」
決然と。
窓もなく、母屋への出入り口もない。シャッターだけが唯一の出入り口であるガレージの中で。
血を失って青白くなった顔色で、しかし主導権を握っているのは自分なのだと、高らかに吠えるように。
岩水鈴菜は、特殊部隊の大田原源一郎と交渉を開始する。
「自由になりたいのなら、私を治療しなさい。和幸……そこの、私の仲間もね」
鈴菜にもうさぎにも治療できないのなら、怪我を負わせた張本人にやらせるのみ。特殊部隊ならその程度の心得はあるだろう。
こんなところで絶対に死んでなどやるものか。やりたいことはいくらでもあるのだ。
特殊部隊だろうとなんだろうと、利用できるのなら利用して必ず生き延びる。自分だけでなく、信じられる仲間とともに。
うさぎが仲間を連れて戻ってきてくれるかはわからない。が、ああ言わなければうさぎは動けなかっただろう。
それまでにこいつをなんとかしなくちゃね、と鈴菜は無理を押して笑う。
「時間はあまりない。私が死ぬまでに返答を頼む」
【C-4/一軒家のガレージ/1日目・早朝】
【大田原 源一郎】
[状態]:右腕にダメージ、全身に軽い打撲
[道具]:防護服、拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフ
[方針]
基本.正常感染者の処理
1.岩水鈴菜に対処する
2.追加装備の要請を検討
【和幸】
[状態]:右目失明、脳にダメージ(極大)、意識混濁
[道具]:折った道路標識
[方針]
基本行動方針:風の向くまま、村を散策する
1.(犬山うさぎを守らねば…)
【岩水鈴菜】
[状態]:右脇腹に銃槍、出血中、疲労(大)
[道具]:和幸の荷物(下記)
とうもろこしの入った袋、リュックサック、キャンプ用具(テントやライターなど)、傘、寝間着×2、制服、普段着×2、インスタント高山ラーメン、
のりしおポテトチップス、ポテトサラダ、焼きうどん、冷凍西浦みかん×3、更にビックマック、AQUAの水500l×2、木製の子供用椅子
[方針]
基本.この地震が起きた原因を調べる
1.大田原と交渉し、自分と和幸の傷を治療させる。情報も引き出したい
2..高級住宅街の方へ向かう…つもりだがそれには時間をかけすぎてしまったか?
3..次に学校に向かう…つもりだったが和幸の話を聞く限り再考した方がいいかもしれない
4.次に剛一郎が経営している寿司屋へ向かって彼の情報を集める。
5.ゾンビは家に閉じ込めて対処する。
6.剛一郎の危険性を多くの人に伝えながら、説得できる人と異能が強い信じられる人を探す
7.千歩果の知り合いがいたら積極的に接触したい、まず一人会えて良かった。
8.残り時間が少なくなってしまい、どうしようもない時は危険人物→善性殺戮者→自分の順番で死んでいくしかない、だが女王ウイルスを命に影響なく無力化する方も諦めず探し
たい
9.うさぎが召喚する動物でウイルスの治療薬を作ることが可能か?…しかし、今はこのことを誰かに話したくない
※閉じ師の技能が使えますが、この状況ではほとんど意味がありません。この立場は隠していくつもりです
1回異能を使うと20ml水を消費します。現在一本目の水の量は440mlです
※治療しなければ一時間ほどで失血死に至ります。
※ガレージにはシャッターの他に出入り口はありません。シャッターは鈴菜の異能によってロックされています。
【C-4/高級住宅街/1日目・早朝】
【犬山 うさぎ】
[状態]:強い動揺、一時間召喚不可
[道具]:ヘルメット、御守、ロシア製のマカノフ(残弾なし)
[方針]
基本.家族と合流したい&少しでも多くの人を助けたい
1.仲間を探して鈴菜と和幸を助けに戻る
投下終了です
投下乙です
巨漢のオークにすら対処して見せた大田原隊員だけど、鈴菜の異能で閉じ込められる結構深刻な状況で、どういう判断を下すのか
鈴菜の交渉は上手くいくのか、続きがどうなるか気になる
それと、うさぎの異能の召喚不可ですが、一応投稿主である自分は「戦闘不能で1時間召喚不可(長針が一回りするまで召喚できない)」ではなく、「戦闘不能で、(短針が)一回りするまで(同じ動物を)再召喚できない」というニュアンスで書いたつもりでした
投下乙です
>逃げ出すよりも進むことを
やはりと言うか抹殺確定の小田巻、補足されてた。ご愁傷様です
1トン越えのファンタジー生物にフィジカルで負けていても勝てる大田原さんの実戦経験
鈴菜の異能で閉じ込めたおかげで交渉に持ち込めたけど、文字通り命懸けの交渉がプロ相手にどこまで通じるのか
うさぎちゃんの応援が頼みだけど、大田原さん相手じゃ下手な助けじゃ犠牲者が増えかねないので人選がどうなるのか
投下します。
この作品は性的表現が含まれています。
過激な性的描写が苦手な方には不快となる内容なのでご注意ください。
フローリングの床に敷かれた赤いカーペット。その上に散らばる時計を持った白兎やチェシャ猫のぬいぐるみ。
子供用に作られた本棚の中には『赤ずきんちゃん』や『白雪姫』を始めとしたファンシーな絵本。
クローゼットには『不思議の国のアリス』をモチーフとしたフリルのついたエプロンドレス風のお洋服。
それらを照らす豪奢なシャンデリア。
まるで童話の中を再現したような可愛らしい子供部屋ですが、ここには窓がありません。
その中央にあるトランプ柄のシーツのベッドにはお洋服を肌蹴けさせた小さな『アリス』。
そんな『アリス』に『パパ』はいけない子だと『お仕置き』していました。
『あぁ……いい気持ちだぁ……■■■。もっと締め付けてパパを気持ち良くさせなさい……』
ベッドがギシギシと軋むたびにパパは気持ちよさそうに笑います。
ですがお仕置きを受けているアリスはとても苦しそうな表情で泣いています。
『イ"……!ギぃ……!うぇえああ……!パパぁ……ママぁ……、助けてぇ……!』
『こら、■■■。天国にいる前のパパとママのことは忘れなさい』
ワガママを言うアリスにパパはめっと叱ります。
ほっぺたが赤くなったアリスは、『いい子』になりました。
いい子になったアリスへとパパは優しく語りかけます。
『初めは痛いかもしれないけれど、慣れれば気持ち良くなるから我慢しなさい、■■■』
そう言うとパパのお仕置きがさらに激しくなります。
アリスは『いい子』でいるために涙を流しながら、両手で必死に自分の口を塞いでいました。
どれくらい時間が経ったのでしょう。
パパはいい子になったアリスの黒髪を優しく撫でます。
『いいかい、■■■。今日からは私が君のパパなんだ。お仕置きされたくなかったらいい子にするんだよ。
ママは■■■がもう少し大きくなったらなれるから安心しなさい。女の子が生まれたら親子三人で仲良くしよう』
◆
「――――――ッ!!」
朝の陽光が差し込む未だ薄暗い一室にて金髪の女性、虎尾茶子は弾かれたように飛び起きた。
ウレタン製の床には多数の栄養ドリンクの瓶や飲み干された栄養補助目的のゼリー飲料、混ざり合った缶詰の残り汁が散らばっている。
ここは合コン用の服やドレッサーが鎮座している自室でもなければ、多数のゲームやカードが散らかされている愛しの弟分の部屋ではなく、ましてはあの忌まわしき部屋でもない。
(ああそっか……あたしは銃キチから逃げ延びて……)
満身創痍の状態で商店街の北口に辿り着いた茶子は運よく入り口近くにあったチェーン展開している某有名ドラックストアを発見。
木刀を杖代わりに立ち上がって店内の様子を伺うもゾンビの気配はなく、代わりに食い散らかされた死体があるだけであった。
安全を確認した茶子は店内へと入って必要物資を確保後、レジ裏にあるバックヤードへと侵入した。
鍵をかけた後に左肩の止血と固定の処置と左太腿の簡易的な治療を行った後、水分と栄養の補給を行った。
その後、バックヤードで見つけた目覚まし時計を6時丁度にセットして仮眠を取っていた。
枕元に置いた時計を見ると時間は5時3分。およそ40分程しか眠れていない。
だがそれは些細なことに過ぎない。問題は40分の間に見た夢。
「――――ッソがぁッ!!」
衝動的に目覚まし時計を壁へと叩きつけるように投げた。ベルや歯車、文字盤が床に散らばる。
ここ数年は見なくなった悪夢を何故今更見たのか。
それはきっと命の危機に瀕したため。自身を殺すために追いかけてきた薩摩圭介の姿が■■と重なってしまったからだろう。
「とりあえず……モーニングドリンクでも作って飲むっすかねぇ……」
臓腑の中で蠢く黒い感情を抑え込み、椅子に手をついて立ち上がる。
机の上にある赤いバスケットからエナジードリンクとブラックコーヒー缶を取り出し、プルタブを開ける。
そして同じく卓上にあるタンブラーへと注ぎ、割り箸で混ぜ合わせる。
(……つーかやっぱあの連中、碌なこと考えてなかったっすね)
思い出されるのはゴールデンウイークの二週間前、4月の中旬。
連中から仕事が入ったとの連絡を受けた茶子は溜まった有休のほとんどを消費し、都内へと向かった。
肝心の仕事内容は反乱分子の始末と自衛隊から依頼を受けて開発された防護服の性能評価テスト。
どうやら反乱分子共は独自の私設部隊を作り出しているらしく、知的財産泥棒のお掃除のために茶子に白羽の矢が経ったのだと聞いた。
また、それと平行して行われる防護服のテストで重要視されるのは運動機能性と快適性。防御力は既にテスト済みのため割愛。
そして現場の孤島について一仕事。
銃火器の扱いを含めた戦闘技術や練度は村にいるヤクザ連中とは比べ物にならないほど高く、中には機械化された兵士もいた。
だが所詮アマチュア。自分の敵ではなく、弾丸は防護服を掠めることすらなかった。
仕事を終えたことを報告する際に「弾の一つでもわざと食らった方が良かったすかねえ」と冗談交じりの言葉をこぼした程だ。
(考えれば考える程、あたしも含めて関わった連中人でなしばっかだ。ホント嫌になるなぁ……)
必要とあらば人道にスタンピングをかまし、人間性を焚べて燃料にできる倫理観ゆるキャラな方々ばかり。
中には愛する妻子がこの村にいるのにも関わらず平然とした面で後ろめたいことをやれる輩もいる位だ。
そんな連中と肩を並べられる人間性を持つ自分に嫌気が指し、嘆息する。
(そう言えば浅野女史と蛇茨のお嬢、今何しているのかな?)
タンブラーの中身をかき混ぜながら、汚れ仕事専門家二人を思う。
本来ならば今夜、彼女らから金銭の類ではない報酬を受け取り、誓約書にサインすれば連中とは完全に縁が断たれる筈だった。
だが予期せぬ事態が起こり、その結果有給だけ失った働き損になってしまった。
それだけで不幸は終わらない。VHの後始末として派遣された集団はアマチュアではなくプロフェッショナル。
自分の身一つでは勝てる気がしない。
(……ま、奴が村に来ていることが分かっただけでも完全なただ働きという訳でもないか)
VHが起こった以上、ヤクザ共も奴も平等に不幸の真っ只中だ。
自分の人生を台無しにして弄んだ連中も地獄の底で苦しんでいる。そう思わないとやっていけない。
「さぁて、特製モーニングドリンク無事完成…っす」
割り箸を投げ捨て、改めてタンブラーの中身を確認する。
汚泥を彷彿させる液体が炭酸によって溶岩の如く泡立つ。地獄色のカクテルを前に茶子の表情が引き攣る。
人間が飲んでもいいものなのか、これ。
「は、はすみがよく飲んでいた奴を混ぜ合わせただけだし……味はともかく効果はあるだろ、ウン」
為虎添翼、為虎添翼と呪文のように呟きながら500mlはある液体を一息で飲み干した。
「……まっずぅ」
◆
山折村の名物って何だっけ?
「虎尾茶子」として山折村で生きて十余年。唐突にそんなことを思う。
ここ商店街の一角にて小林麺吉店主が店舗を構えるジビエを使ったラーメンが人気の『山オヤジのくそうめぇら〜めん』だろうか?
訳の分からない秘密結社から山折村を守っているという設定のご当地ヒーロー『山尾リンバ』だろうか?
毎年この時期になると行われる慰霊祭――犬山神社で神楽春姫と犬山はすみが剣舞を演じる『鳥獣慰霊祭』だろうか?
クロスズメバチの幼虫の甘露煮の混ぜご飯――役場が謎プッシュしている女子ウケ最悪のゲテモノ料理『へぼ飯』だろうか?
そら豆餡の饅頭をミョウガの葉で包んだ甘味――村民なら給食で一度は食べたことがあるであろうご当地スイーツ『みょうがぼち』だろうか?
だが少なくとも、自分の目の前にある物体は決して山折村の名物ではあってはいけないだろう。
「いやなんでドラックストアに普通に落ちてんだよこいつら」
レジカウンター前に並べられる長ドスにサバイバルナイフ、スタングレネード。
目の前に並べられた3つの物体に対して茶子は思わずツッコミを入れてしまう。
バックヤードから出てすぐ、茶子はドラックストアで物資の調達を始めた。
店内の死体から拝借したナップザック、非常事態ということで頂いた医療道具に缶詰各種に飲料水、大量の爆竹。
そしてドロップアイテムの如く現れた物騒なアイテム3種。思えば日本刀が地面から生えてる時点でおかしいと気づくべきだった。
いつから山折村はヤクザ連中が愛用していそうな便利アイテムが自生する危険地域になってしまったのだろうか?
そもそも暴力団木更津組やら人間の処理を行っている大地主蛇茨家がいる時点で今更な気がするが。
「ああもういいや、何か深く考えると無駄に疲れる気がする……」
これ以上山折村の新名物について追及するのは止めよう。
そう思い、危険物体3つを手に取り、某松本さんちから出発しようと開いたままだった自動ドアまで足を進める。
ドラッグストアから出た直後、茶子の前に現れたのは現在進行形で生まれている山折村新名物その二。
「あー、やっぱいるっすよねェ……。今じゃなくていいだろマジで……」
茶子はゾンビとエンカウントした。
恰幅の良い中年男性のゾンビで、背丈はおよそ180センチ程。
毛むくじゃらの丸顔や山歩きに適した装備やらがこのゾンビの生前という物を如実に表していた。
元山男のゾンビは茶子の存在を認知すると、緩慢な動きで襲いかかって来た。
対する茶子が構えた得物は制圧用の木刀……ではなく、刃渡り30センチ程のサバイバルナイフ。
「そんじゃ、性能評価テストといきますか」
己を捕食せんと突き出された亡者の両腕を僅かに左に動いて回避。
それと同時に踏み込まれた軸足を軽く蹴り、足払いをかける。
転倒する元山男。彼の頭が茶子の肩の位置まで落ちた瞬間、首目掛けてナイフを一度だけ振る。
茶子の右脇にドサリと巨体が倒れ込む。毛むくじゃらの丸顔はその十数センチ前に転がっていた。
遠藤俊介と臼井浩志の死。使い物にならなくなった左腕。二度目の薩摩の襲撃により間近に感じた死の気配。
僅か数時間の間に立て続けに起きた出来事は中々に堪え、己の中にあった慢心を甘ったれた考えと共に消し飛ばした。
加え、自身に配られた異能というカードは未だ不明。であるならば、今ある手札で勝負する他はない。
その為の第一歩として行動方針を大幅に見直すことを決めた。
有用な人材と極々一部の人間を除いた存在に対しては殺害を前提とした対応を行う。
ゾンビに対しても同様。積極的に殺しはしないものの邪魔だと判断すれば親しい人間以外は切り捨てる。
連中と同じ畜生にまで堕ちるが、甘い考えを捨てなければこの地獄からは生き延びることは不可能だろう。
「さて、今現在のあたしの性能評価は万全の時と比べると……100点満点中25点。
……赤点じゃないっすか。自己採点しておいて言うのも何だけど、酷いわこれ」
ナイフに付着した血を軽く振って払い、ベルトに装着したケースにしまう。その後に大きな溜め息をついた。
失血による体力減少。左腕の実質的喪失による体幹のバランス感覚の低下。それら二つの相乗効果により発生したパフォーマンスの大幅ダウン。
強力な戦闘向きの異能持ちや異能抜きでも怪物じみた戦闘能力保有者の相手をするのは無理だ。
だが、そこまで無茶をしなければ戦闘や逃走はある程度は可能なのはプラスだ。そこを考えて立ち回れば長生きできるかもしれない。
「ごめんねおっさん。あたしはまだ死にたくないんだ」
首が切り離されたゾンビに片合掌した後、背負っていたデイバックの中身を物色する。
荷物の中で見つけた有用そうなものはジッポライターにコンパスに腕時計、そして双眼鏡。
双眼鏡はいいお値段がしそうな代物。手に取って試しに覗き込んでみる。
「すっげ、100倍ズームの奴じゃん。……あれ?なんだありゃ」
双眼鏡の先には何かを喰らうボサボサの黒い毛玉。
その周囲に散らばっているのは衛生用品やら保存食やらの防災グッズの数々。
伸ばされた手にはビニール袋が握り締められており、時折ビクビクと痙攣する。
(何だあの黒毛玉。ゾンビにしては様子が変だ)
◆
―さっきとは違う、嫌な視線を感じる。
本日三度目となる食事を中断し、辺りを見渡す。
野鳥のようにこちらの食べ残しを期待して観察するのとは違う。
背中を見せた隙に食べている獲物ごとこちらを捕食しようとする野犬の群れともかけ離れている。
近いのはこちらを獲物として見ていた斑模様の人間の男のような爬虫類のような粘っこい視線。
―でも襲ってくる気配はなさそうだし、何だろう。
クマカイがこの村に来て初めて感じた背中がゾワっとするような不快な視線。
こちらへの害意がない以上、いちいち探し出す理由もない。
―ほんの少しでも私の邪魔をするなら見つけて仕留めよう。
見世物にされていることに苛立ちを感じ、不愉快そうに眉を潜めながらも食事を再開する。
黄緑色のポニーテールの少年は光を失いつつある瞳で己の血液で汚れた彼女の顔を見つめていた。
◆
(あれ、嶽草さんの甥っ子さん……確か優夜くんじゃないっすか)
オープンテラス席のある小洒落たカフェの屋上にて、茶子は黒毛玉の様子を双眼鏡で見ていた。
念のため、背後の手摺に黒と黄色のマーブル模様のロープ、通称虎ロープを括り付けただけの逃走経路を確保してある。
嶽草優夜。彼の叔父は保健福祉課で働いている役場職員だと記憶している。
優夜はうっかり屋の叔父に弁当を届けるためにちょくちょく役場へと訪れており、自分だけでなく友人のはすみからも好感度が高い。
また、彼の叔父も穏やかな人柄かつ優秀な人材であるため窓際族の字蔵某とは違い、職場でも高い評価を受けている。
親子関係はまだあまり上手くいってないらしく、心に傷を負った優夜とどう接すればいいのか分からないと度々相談を受けていた。
「…………」
できることなら助けてあげたかったが、あの傷では例え今この瞬間にVHが解決したとしても助かる見込みはない。
こちらができることは生き残るために捕食者のことを観察することだけだ。
(というかあの黒毛玉、理性があるっぽいっす)
こちらの視線に感づいたのか、時折警戒するように辺りをキョロキョロと見渡している。
食欲だけしかない亡者ではあり得ない知性的な行動。
つまりはだ。今優夜を捕食している薄汚い少女は正常感染者。即ち異能持ちの存在。
薩摩の時と同じ轍を踏まないためにも異能について知る必要がある。
(そもそも正常感染者が同じ正常感染者を食ってるなんておかしくない?)
ゾンビが正常感染者を食うのは理解できる。しかし視線の先で起こっているのは明らかに共食い。
嶽草優夜がゾンビであると仮定しても、正常感染者が同じ人間を食うのは異常だ。
(あの黒毛玉の正体は何だ?)
幼さの残る全裸の女体は土や垢で薄汚れ、ぼうぼうと伸びた黒髪はヤマアラシのようだ。
まるで生まれてから野生で生きてきたかのような風貌に茶子は頭を捻る。
施設から脱走した被検体が正常感染者になった?―――自分の知る限り被検体には子供はいない。
狼にでも育てられたか?―――ニホンオオカミは十九世紀初頭に絶滅したからそもそもあり得ない。
それなら熊か?―――尚のことあり得ない。熊が子供を育てたなんてフィクションですら聞いたことがない。
野猿か野犬にでも育てられたのか?―――これが今まで立ててきた仮説の中で一番正解に近いだろう。
(……でも『野猿』って名前は安直すぎるよな。100パーないけど熊に育てられたみたいな見た目してるし、『クマカイ』って呼ぶことにしよう)
名づけから程なくしてクマカイの食事が終わる。
すると、観察対象の身体に肉が纏わりついてくる。
数秒後にはクマカイの姿はどこにもなく、彼女の立っている場所には自分の良く知る嶽草優夜の姿そのものがあった。
(なるほど……捕食した存在そっくりに擬態できる。あれがクマカイの異能か)
ショートパンツのポケットから腕時計を取り出す。現在の時刻は5時25分。観察した時間は数分程。
これだけの短時間で得た情報は多いが、まだクマカイの擬態の精度はどのくらいなのか分からない。
引き続き観察を続けようと双眼鏡を覗き込む。
優夜に擬態後、クマカイは獣のように身体を起こし、辺りを警戒するように顔を動かした。
ふと、ある一点に頭を向けたまま、クマカイの動きが止まる。
じりじりと摺り足でその方向へ進んで飛び掛かり、何かを押し倒す。
直後、宙に浮いたようなクマカイの下に人体と言う土台が出現する。
(クマカイが察知したのは風景に溶け込む正常感染者みたいっすね)
クマカイに襲われた男は首元に歯を立てようとする彼女を引き離そうとする。
知り合いかもしれないと双眼鏡の倍率を上げて男の顔を確認する。
顔を恐怖で限界まで引き攣らせた無精髭の中年。服装を始めとした格好や雰囲気から胡散臭さを醸し出す彼を茶子は知っていた。
「……斉藤さんじゃないっすか」
斉藤拓臣。一昨日の昼休憩時に山折村についての記事を書くということで茶子に聞き込みをした胡散臭さMAXの中年男性。
役場の観光課へと案内しようとしたが、ディープな話が聞きたいとのことなので、猫を被って対応していた。
しかし、飛んでくる質問は『過去に存在してた村の因習』やら『地元ヤクザと警察の癒着』など見た目通りの胡散臭そうなものばかり。
しつこい上に『今でも夜這いっていう風習があるって本当ですか』などというセクハラ紛いの質問をしてきたため、郷田の親父を呼んで対応してもらった。
見た目で自分を軽薄な女だと決めつけ、只でさえ悪い機嫌を更に悪化させたヘラヘラとしていて嫌味っぽい小汚いおっさん。
当然の如く茶子は彼に良い印象は持っていない。だが――――。
「クマカイの事を知るついでに助けてあげますよ、斉藤さん」
地上と屋上。茶子とクマカイの距離はそれなりに離れている上、こちらの存在は認知していない。
観察した異能も薩摩のようにアウトレンジからの攻撃が可能な異能ではない。
そして今までの挙動から鑑みるに人間の文明についてはほぼ無知に近く、こちらには彼女を引き付ける手段が存在する。
ナップザックから爆竹を取り出し、ジッポライターで火をつける。
「そんじゃ、茶子さん主催の爆竹オンリーの花火大会開始っす!」
火のついた爆竹をクマカイと拓臣が組み合っている数メートル前まで投げる。
パンパンパンと彼らの背後で銃声にも似た火薬が破裂する音が響く。
ビクッとクマカイが文字通り飛び上がり、音のする方へ顔を向ける。
力が緩んだ隙に拓臣は渾身の力でクマカイの身体を突き飛ばす。
火事場の馬鹿力という奴だろうか。クマカイの身体が宙に浮き、およそ2メートル先の石畳の上に背中を打ち付けた。
足をもたつかせながら必死に商店街の南口に向かって走り出す拓臣。
捕らえかけた獲物を逃すまいとクマカイが飛び掛かろうとする寸前に再び爆竹を投げ込む。
二度目の爆音がクマカイの手前で鳴り響く。驚きはしたが先程のようなリアクションはしない。
音だけで実害がないということがバレたようだ。
そうこうしている内に拓臣は商店街を脱出し、茶子の拡張された視界からも遠ざかっていく。
なおも拓臣を追いかけようとするクマカイ。しかしその追尾を山折村新名物その二が阻む、
「こんだけ音が鳴ると否が応でもゾンビ共は集まってくるよね」
嶽草優夜の肉体は歯と両手で襲い掛かる亡者の群れに対処する。
しかし、一分も経たぬうちにキリがないと諦めてゾンビ達に背を向け、爆竹を鳴らした音の主を探し始める。
走り出すクマカイの行く手を阻むように再び爆竹を何度も投げ込む。
(奴さん、熊と猿、野犬の走法を良いとこどりしたみたいな動きだな)
縦横無尽に駆け回り、時には跳躍して回避行動をとる。そして避けられない障害物には四肢を使って対処する。
生まれてから大自然で生きてきたようなしなやかで無駄のない、洗礼された動き。
強力な異能を持とうとも並の人間では太刀打ちできないような運動能力。
(……万全の状態だったら搦め手使われても楽に勝てそうな相手だけど、現状じゃあなあ……)
ちらりと包帯と添え木で固定された左腕を見る八柳新陰流皆伝持ちの女。
足運びや攻撃手段、視線の動きを見るにクマカイが今まで戦ってきた相手は主に猪や野犬、熊などの四足歩行の生物だろう。
自身が巨大な生物に搦め手を使うことに慣れていても、対人相手で搦め手を使われる事には慣れていないようにも思える。
更に異能は不意打ちに特化したもの。強力なものだが、ロジックを理解して人間性を放り投げれば対処できそうだ。
引き続き爆竹を投げようとした瞬間、双眼鏡越しにクマカイと目が合う。
「やっべ、バレた」
◆
白い蔓のついた木の皮の束が投げ込まれる度に乾いた音が鳴り響き、知性のない人間の群れが襲い掛かってくる。
それが何度も続き、他の人間とは違う、生命力と知性がありそうな顔に体毛が付いたオスを逃がしてしまった。
だが、そんなことはもうどうてもいい。
石と木でできた人間の塒の上にいる柿色の髪のメス。左腕には白い布が巻かれているため怪我をしていることが分かる。
手負いの状態でありつつも、先程逃がしたオスとは比べ物にならない強さを持っていることが分かる。
雰囲気は斑模様の皮を纏った二人のオス――特に蛇のような目をしたオスに似ている。
―あいつもきっと、斑模様の人間と同じくらい美味い。
何度も繰り返される破裂音。
彼女はクマカイの移動先に紙束を投げ、理性のない人間に襲撃させる。
―あれが人間達を操っているものか?
彼女は四角い鉄の塊を指で開いて火を出す。
そして紙束から生える白い蔓に火をつけて投げる。
すると破裂音が響いて人間達をおびき寄せる。
種さえ分かれば何も恐れることはない。
迫りくる一匹の人間の頭に飛び乗った後、飛び石の要領で人間の頭を踏みつけつつ塒まで距離を詰める。
それでも柿色髪のメスは逃げようともせず、こちらを待ち構えている。
逃げないなら好都合。彼女を助ける存在もいないため、美味しく頂けそうだ。
足をかけた電柱のボルト部分から跳躍し、金属製の手摺に乗り移る。遂に獲物がいる屋上まで辿り着いた。
今から喰らうメスを見る。クリっとした大きな瞳に整った鼻梁。サラリとした長い柿色の髪。
そしてこれ見よがしに固定された動かせそうにもない左腕。
涎を垂らすのを抑えて、弱点に狙いを定める。
―それじゃあ、いただきます。
距離を詰めるべく手摺を蹴って爆発的な速度で飛び掛かる。
仕留めるべく手を伸ばしたコンマ一秒にも満たぬ時間の間で獲物の姿が掻き消えた。
クマカイの顔に困惑の表情が浮かぶ。
獲物の居場所を探るべく視線を動かした瞬間、鳩尾に猪の突撃にも似た強烈な衝撃が走る。
ベキリと己の中で何かが砕ける音が響く。それと同時に内臓を圧し潰されたような激痛。
「ガ…ぁ……!!」
小柄な少年の身体が宙を舞う。
下に視線を向けるとそこには拳を上に突き出した柿色髪のメス。
肺腑を圧迫されてクマカイから僅かに吐き出された血が獲物であった存在の髪を赤く染める。
背中から床に激突し、一度身体が跳ねてから手摺にぶつかって勢いが止まる。
追撃が来ると身構えるしかし近づいてくる様子はない。
不思議に思って様子を伺う。女の手には木に似た色をしている筒状の物体。
本能で危険を察知し、屋上から飛び降りようとするも既にそれはクマカイの眼前に投げ込まれていた。
一瞬の空白。せめて命だけでも失うまいと腕を持ち上げた瞬間。
破裂音と共に世界が白く染まった。
◆
「ハロハロ〜。そこの素敵なおヒゲのお兄さ〜ん、ちょっといいかしら?」
商店街南口から少し離れた道路。消防車のすぐ傍で反吐をまき散らす拓臣の背中にかけられた軽快な女の声。
反射的に飛び跳ねた後、声が聞こえた方向へと恐る恐る顔を向ける。
そこには笑顔を浮かべた長身でスーツ姿の美女。その背後にはおどついた様子の白衣の男とブレザー姿の女子高生。
普段の拓臣であれば、見麗しい麗人に鼻の下を伸ばしつつもゴシップライターとしての職務を全うすべく聞き込みを行うだろう。
「―――何ッッなんだよッッッ!!この村はよォ!!!!」
何か一つでも記事のネタ持ち帰らなければ命を懸けて山折村まで来た意味がない。
消防車を乗り回している中で生まれた、拓臣の物書きとしての使命感。
道端に車を停め、デジタルカメラとICレコーダー、スマートフォンを持って商店街へ突撃した。
そこにはこの世の地獄が具現化されていた。気配を殺しつつ、持ってきた機材で撮影と録音を続けた。
少年ゾンビが人間を喰らっている姿を取ろうとした瞬間、拓臣は存在を気づかれて襲われた。
少年ゾンビの力は人間のものとは思えぬほど強く、死を覚悟した瞬間、背後で爆竹の音が響いた。
抑え込まれた力が緩んだ瞬間、少年の身体を突き飛ばして背後を振り返らずに全力で逃げた。
命からがら消防車の前に辿り着いた瞬間、抑え込んでいた恐怖が一気にぶり返し、反吐という形で放出された。
「まあまあ、落ち着いて落ち着いて」
女が拓臣の背中を擦ろうとするも、反射的に手を振り払ってしまう。
ふと、背後に視線を向けるとそこには前日に取材をした白衣姿の天然パーマ。
「……あんた、与田四郎さんだよなッ!!山折総合診療所に勤めている!!」
「え……はい。そうですけれど……」
困惑する声を無視し、消防車に乗って助手席からあるものを取り出し、四郎へと手渡す。
「これ!九条和雄の妹の一色洋子っていう女の子に渡してくれ!!」
四郎の隣にいるブレザー姿の少女の顔が僅かに強張る。
その様子に気づくことなく、拓臣はさっさと消防車へと乗り込む。
「ちょっとお兄さん!この村は―――」
「うるせえ!!危険なのは十分分かってんだよ!!もうこんなクソ村に一秒だっていられるか!!」
美女の制止する声を聞かずにシフトレバーを倒してエンジンを吹かせる。
幸いにも取材記録は落とさずに手元に残ってある。少なくとも危険に晒された意味はあったのだ。
自己暗示のように自分に言い聞かせ、拓臣は山折村から脱出すべく消防車を走らせた。
【F-4/商店街入口前/1日目・早朝】
【斉藤 拓臣】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)、精神的ショック(大)、恐怖(大)、錯乱
[道具]:デジタルカメラ、ICレコーダー、メモ、筆記用具、スマートフォン、現金、その他雑貨、山折村周辺地図
[方針]
基本.山折村から脱出する。
1.和雄の義理は果たしたので山折村から脱出する。
※放送を聞き逃しました
※VH発生前に哀野雪菜と面識を得ました。
※異能を無意識に発動しましたが、気づいていません
【田中 花子】
[状態]:疲労(小)
[道具]:ベレッタM1919(7/9)、弾倉×2、通信機(不通)、化粧箱(工作セット)、スマートフォン、謎のカードキー
[方針]
基本.48時間以内に解決策を探す(最悪の場合強硬策も辞さない)
1.人の集まる場所で情報収集
2.診療所に巣食うナニカを倒す方法を考えるor秘密の入り口を調査、若しくは入り口の場所を知る人間を見つける。
3.研究所の調査、わらしべ長者でIDパスを入手していく
4.謎のカードキーの使用用途を調べる
【与田 四郎】
[状態]:健康
[道具]:研究所IDパス(L1)、一色洋子へのお土産(九条和雄の手紙付き)
[方針]
基本.生き延びたい
1.花子に付き合う
2.花子から逃げたい
【氷月 海衣】
[状態]:罪悪感、精神疲労(小)、決意
[道具]:スマートフォン×4、防犯ブザー、スクールバッグ、診療所のマスターキー、院内の地図
[方針]
基本.VHから生還し、真実に辿り着く
1.何故VHが起こったのか、真相を知りたい。
2.田中さんに協力する。
3.女王感染者への対応は保留。
4.朝顔さんと嶽草君が心配。
5.洋子ちゃんのお兄さんの……?
◆
炸裂音による耳鳴りと強烈な閃光による目の眩み。
その二つから漸く解放されたクマカイは辺りを見渡す。
周囲だけではなく、建物の真下や黒と黄色の蔓が巻き付いていたところを覗き込んでもあのメスの姿は影も形もない。
―逃げられちゃった。
己が喰らうはずだった人間の逃走。
それはクマカイに取って久しく忘れていた感覚を思い出させた。
―悔しいなあ。
あのメスは自分が打倒した片目の羆には絶対勝てない。
それどころか己がよく仕留める猪にすら劣るだろう。
しかし、手負いであっても自分を確実に仕留められる強さを持っている。
屈辱も怒りも当然ある。しかし、当たり散らすような真似はすまい。
人間が知恵を回すように獣も知恵を回す。
であるならば、今回の敗北も己の糧としよう。
あのメスから学んだことは数多くある。
理性のない人間は破裂音などの大きな音に誘蛾灯に群がる蛾のように集まる。
そのための道具もここにあり、使い方も学んだ。
そして、自身の耳と目を一時的に奪った筒。それもあれば次の狩りはきっとうまくいく筈だ
ふと、自分の足元を見る。割れたタイルの下で何かが光沢を放っている。
タイルを引きはがすとそこには―――。
ーやった♪
柿色髪のメスが使っていた道具、スタングレネードを手に取り少年の姿をした少女は無邪気に笑った。
【クマカイ】
[状態]:右耳、右脇腹に軽度の銃創、肋骨骨折、内臓にダメージ(小)、嶽草優夜に擬態
[道具]:スタングレネード
[方針]
基本.人間を喰う
1.次の狩りのための準備
2.準備が終えたら怪我の手当て
3.特殊部隊及び理性のある人間の捕食
4.理性のある人間は、まず観察から始める
※ゾンビが大きな音に集まることを知りました。
※ジッポライターと爆竹の使い方を理解しました。
※スタングレネードの使い方を理解しました
◆
「時刻は5時55分。結構いい時間まであそこで休めたっすね」
時間を確認した後、茶子はポケットに腕時計をしまった。
辺りを見渡すとそこには人の原型を留めていない元ゾンビの肉体が転がっている。
つまり、薩摩圭介に再度襲撃された場所へと戻ってきたことになる。
(二時間近く経てば、あの銃キチもどこかに行っているだろ)
首に下げた双眼鏡で辺りを見渡すも人の気配はどこにもない。
例えこの場に留まっていようともある程度の異能のタネが分かったため、弱体化していようとも次は薩摩を確実に殺せる。
(これからどうするか)
考えるのはVHに巻き込まれてしまったであろう連中の関係者。
その一人としてあげられるのは凄腕エージェント『浅野雅』
身体能力こそ自分に劣るものの対応力は己を超える女傑。
もし自分が情報を必要以上に漏らせば、こちらを確実に始末しに来るだろう。
それはきっとVHの真っ只中であろうとも、事態収束後であろうともあのキリングマシーンは変わるまい。
故に必要とするのは嵐山岳やスヴィア・リーデンベルグといった明晰な頭脳を持つ存在。
プロフェッショナルとやり合うことも考えると未だ見ぬ強力な戦闘能力持ちの正常感染者。
今後の方針についても、根本的なものは変わりない。
まず第一に知り合いとの合流。それは彼らがゾンビであったとしても変わりはない。
そして、この村に滞在しているというある人物の―――。
「ともかく、まず必要なものは情報よね」
首から下げた双眼鏡を覗き込む。辺りに人はいないため倍率を上げる。
すると交番と道を挟んだ先にある一軒家を見つけた。
(とりあえず、あそこに行ってみるか)
目的地を定め、未来人類研究所の派遣バイト、虎尾茶子は歩き出す。
虎穴に入らずんば虎子を得ず。行きついた先にあるものは何か。
自分と同じ正常感染者か、はたまた一時的な休息をとっている危険人物か、それともSSOGか。
「ま、その時はその時ってことで!」
【D-4/草原/1日目・早朝】
【虎尾 茶子】
[状態]:左肩損傷(処置済み)、左太腿からの出血(処置済み)、失血(中)、■■への憎悪(絶大)
[道具]:木刀、双眼鏡、ナップザック、長ドス、サバイバルナイフ、爆竹×6、ジッポライター、医療道具、コンパス、缶詰各種、飲料水
[方針]
基本.協力者を集め、事態を収束させる
1.極一部の人間以外には殺害を前提とした対処をする。
2.有用な人物は保護する。
3.未来人類研究所の関係者(特に浅野雅)には警戒。
4.■■は必ず殺す。最低でも死を確認する。
[備考]
※自分の異能にはまだ気づいていません。
※未来人類研究所関係者です。
投下終了です。
投下乙です
>かつて人だった獣たちへ
茶子に悲しき過去、もうやだこの村……。バイトとはいえ研究所との繋がりもはっきりとしたね、割と裏にどっぷりだったわこの人
クマカイは徐々に人間社会の武器を学習していく不気味さがある、そのクマカイを負傷していてもあしらえる茶子の実力も確か
斉藤さんは心折れちゃったかー、村から逃げられるのかと言うと無理っぽい、消防車にはたして乗ってどこに行くのか
あと一点、気になったのですがクマカイの位置情報抜けてますか?
それでは私も投下します
薄暗い診療所の廊下に備え付けられたLEDライトが不規則に点滅していた。
四角く区切られたような廊下に人の気配はない。
どこかひんやりとした冷たい静寂が漂っていた。
だが、その静寂を乱すクチャクチャと言う不快な音があった。
何かを喰らうような咀嚼音。
ただ喰らうという野性の響き。
その発生源に居たのは、診療所に居るはずもない異物だった。
――――ワニ。
アフリカや南米の亜熱帯地に生息する、水中生活に適応した肉食性の爬虫類。
診療所どころか通常であれば日本にいるはずもない生物である。
そんなそのいるはずもない生物が、山折村の診療所にて人肉に食らいついていた。
患者や医師、看護師。あるいはリネン業者まで。
肉食獣の群れに、院内に居た人間は手あたり次第に狩りつくされた。
程なくして、このフロアに生き残った人間はいなくなるだろう。
狩りを成し遂げたワニの群れは、その肉をただ一匹へと献上する。
群れの中でひときわ巨大なワニが、それらの肉を手あたり次第に喰らい散かす。
そう、正に喰い散らかすと言う表現が似合う暴力的な食欲だった。
ワニの王。それはワニ吉と呼ばれていたペットの成れの果て。
その異常な食欲は一色洋子の異能である『肉体超強化』を再現するための栄養補給である。
本来のワニ吉のサイズは2メートル超だったが、肉を喰らう度その体は徐々に肥大化を続けて行った。
このまま順調に育てば世界最大のイリエワニを上回る超サイズとなるだろう。
サイズの肥大化によって、本来同じものであるはずの本体と分身は異なる者へと違って行った。
違いはは差異を生み、対等で平等であったはずの立場は使う者と使われる者に明確にその立場を分けて行く。
ワニは高い社会性を持つ生き物である。
群れの中で明確な序列が設けられ、狩りの際には集団戦という概念を持ち、役割分担を設け囮や罠と言ったモノを仕掛ける知恵を持つ。
爬虫類の中でも特に高い知性を有している生物である。
群れの頂点に立つ王。
それは肉を喰らう巨大ワニ、ではなく。
それを裏から支配するナニカだった。
ナニカは異能を知った。
太古より村に蔓延る厄災は異能を知り学習を遂げる。
その過程で異能が何に起因するものかを理解した。
脳だ。
異能は能力者の脳に起因する。
今喰らっているゾンビは違う。ゾンビは異能を持たない。
その肉を喰らった所でただの栄養補給にしかならない。
それはそれで必要な行為だが、今以上に異能の解析に臨むなら必要なのは能力者の脳だ。
様々な脳を喰らい法則性を見出せれば異能を解析できるかもしれない。
そうなれば疑似的な再現などではなく、完全に己がモノとすることも可能だろう。
全ての異能を喰らって己がものとするのも夢ではない。
そうなれば天敵たる陰陽師や霊能力者など恐るるに足らない。
ナニカは真の厄災となってこんな小さな村どころかこの国、いや世界すらも侵せるだろう。
そんな王の望みに応えるように、6匹のワニが診療所から飛び出していった。
狩りは手足の役割である。
病院内のゾンビを掻き集める餌狩り役と護衛を数匹残し、王は食事を続ける。
獲物を求めて飛び出したワニは三人一組(スリーマンセル)を組み、精鋭部隊もかくやと言う連携速度で別方向へと駆け抜けて行く。
彼らは一つの思考を元に統合された群にして個。
全てを狩りつくす捕食者の群れである。
新たに捧げる王への供物は正常感染者の脳。
活け造りが望ましいが最悪首から上だけでも良い。
捕食者の群れが村に解き放たれた。
さあ、狩りの時間だ。
■
湖面は明るみ始めた東雲の空を写し、枯れた掌が空を切り取るように湖の水を掬い上げた。
救い上げた水を口元に近づけ喉を鳴らすと、フリルの多い祭服の袖で口元を拭う。
テロリスト物部天国は湖にいた。
天国が水辺に向かったのは何のことはない。
喉の渇きを潤すべく水場へと向かっただけの事である。
一仕事終えここで一時の休息をとっていたのだ。
だが、それはあまりまともな判断とは言えない。
湖水に溜まる雨水は大気中の汚れを含み、湖水には埃や土などの汚れや動物の糞尿が混じっている。
浄化していない原水を飲むのは感染症の原因になりかねない危険な行為であり、行うのは無知な子供か無茶を誇りたい馬鹿者か、狂人だけだ。
物部天国は天国は狂人なのか?
答えはYes。だが、今回に限って言えばこの行為に問題はないだろう。
彼は頭部に致命傷を負いながら人糞に塗れた下水を流されたのだ。
汚水に対する抗体も出来ようという物である。
滅菌された水道水で育った日本人と違って、この程度で腹を壊すほどヤワではない。
もっとも、そのような打算的な判断をして飲水を行っているわけではないだろう。
ただ喉が渇いたから水を飲むという獣が如き行為を実践したにすぎない。
物部天国は壊れている。それもまた事実なのだから。
日本人を殺し尽くす。
その手始めとしてこの地にある人類未来研究所の爆破を企てた。
人類未来研究所の破壊と日本人の未来。果たしてそれがどう繋がるのか。
テロを計画した同胞たちがゾンビ化した今、その答えは天国の頭の中にしかない。
そろそろ休息を終え活動を再開しようとした天国だったが、ピクリとその耳が反応する。
背後からなにやらバタバタと草原をかきわけるような奇妙な音が聞こえたのだ。
音に反応し天国が背後を振り向いた。
瞬間、目の前に飛来する巨大な顎
驚くべきことに、それは口を開いたワニだった。
地面を這いずるのではなく、まるで地面を撥ねるような疾走。
ワニは陸上であっても時速50km以上の速度で駆け抜ける事が出来る。
その速度を乗せ、跳びつく様はまるでミサイルだった。
だが天国も歴戦の勇士。咄嗟に反応して身を躱した。
しかし閉じられた顎を完全には避けきれず天国の表情が僅かに歪む。
鋭い牙が指先を掠め、右手の小指が根元から、薬指は第一関節から持っていかれた。
天国は瞬時に祭服のような衣服を千切り、傷口を圧迫して止血を行う。
正気は失おうとも適切な対応は体に染みついている。
止血を行いながら、赤く血走った眼をギョロつかせ周囲を見る。
背後には先ほど天国へと飛び掛かり、彼の指を食むワニが1匹。
そして前方、右と左それぞれから1匹ずつの同種のワニが迫っていた。
獲物を囲む三角。
息を呑むほどの連携だった。
天国は三方から取り囲まれていた。
ワニは連携を取って狩りを行う高い知能を有している。
ましてや一つの頭脳によって統合された分身体である。連携などお手の物だ。
すぐ傍には水辺。
逃げ込もうにもそこは敵(ワニ)のフィールドである。
今回のばかりは水落したところで生存とはいかないだろう。
こうなっては獲物に逃げ場などない。
正しく絶体絶命。
稀代のテロリスト物部天国の運命はテロとは無関係の野性によって失われようとしていた。
■
夜道を進む紅白の巫女。
最強の刺客をやり過ごし始祖たる巫女は背後を振り返る事なく前へと進んでいた。
それは背後を預けた守り人に対する信頼ではなく、己が行動は何一つ恥じ入ることなき当然であるという自信。
そこに一点の曇りもない。
女王は一路、道なりに南へ。
目指すは元凶、研究所のあると思しき山折総合診療所である。
堂々と道の中心を憚ることなく歩み続ける。
村々を彷徨うゾンビたちすらその道を空ける。
女王の歩みを止めるものなどいるはずもない。
だが、女王が止まるはずのないその足を止めた。
春姫の目の前には、およそ日本ではありえない光景が広がっていた。
道先を塞ぐのは3匹のワニの群れ。
機敏に動くワニたちは紅白巫女を取り囲むようにフォーメーションを組んでいた。
流石に道を物理的に塞がれては春姫とて足を止めざるおえない。
道を逸れればいいだけの話ではあるのだが、この女がそれを良しとするはずもなかった。
道を譲るのは常に他者、進むは王道、獣道など歩くはずもない。
しかし、そうなっては凶暴な肉食獣に取り囲まれるしかない。
紅白巫女が道端でワニに囲まれるのは、サバンナでもお目に掛かれないような奇妙な光景である。
「不敬な。畜生風情が女王の道を塞ぐとは」
だが女王は威風堂々にして威風凛然。
獰猛な肉食獣の群れに囲まれておきながら、怯む気配すら見せない。
純粋に道を塞がれたことに対する不快感で表情を歪めるのみである。
だが、どれだけお気持ちを表明しようとも致命的な状況は変わらない。
一流の軍人や格闘家ですら絶体絶命と呼べる状況である、一介の雇われ巫女にどうこう出来る状況ではない。
ワニの足は速い。逃げたところで逃げ切れまい。
一方的に獲物を蹂躙できるだけの戦力差が彼我にはあった。
狩人がその気になればこの巫女は肌を裂かれ肉を食い破られ、一瞬で餌となるだろう。
だが、その一瞬はいつまで待っても訪れなかった。
狩人たる肉食獣は一定の距離を取ったまま動けずにいた。
動かないではなく動けない。
むしろ、余裕を称えているのは獲物である巫女の方だ。
まるで狩人と獲物が入れ替わったかのよう。
ワニの群れには明確な序列がある。
上位の存在には決して逆らえない。
そして弱きは強きに従う弱肉強食が野性の掟。
食欲と言う野性の本能を剥き出しにした状態であるからこそ、その掟は絶対の物となっていた。
そして、その本能が目の前の存在に対する攻撃を躊躇わせている。
それは少女の異能によるものか、それとも神職に務めた巫女に備わった神気の類か。
あるいは、神楽春姫と言う少女そのモノか。
分身体は元より、それを操るワニ吉本体、そしてその奥底に居るナニカすら怯んでいた。
少女が進む。
ワニが後退する。
道の中心を女王が推し通る。
だがそうはいかない。
ワニたちの本体、その奥にいるナニカが前に進めと命令を出す。
本能と命令の鬩ぎ合い。
分身ワニの小さな脳が焼かれるように揺らぐ。
混乱の果て、無理やり背を押されるように1匹が前へとまるで千鳥足のように踏み出した。
こうなってはもはや自棄だとでも言うように、ワニは巫女に向かって噛み付こうと大口を開く。
だが、それよりも早く、開こうとした顎がむんずと踏みつけられた。
「たわけ。両生類風情が妾の道を妨げられると思うたか、…………いや爬虫類だったか? まあよい」
赤い鼻緒の草履がワニの鼻先を踏みつける。
ワニはこの地球上で最強の咬合力を持つ生物である。
だが、強力な閉じる力を得た代償として、開く力は輪ゴム一本すら切れない貧弱なものとなってしまった。
ワニと対峙した特殊部隊の青年がそうしたように、ワニの口を開かせないというのは適切な対応である。
無論、そんな動物豆知識をこの女が知るはずもない。
仮に友人が語っていたとして興味のなきことは脳に残さぬがこの女だ。
ただ踏みやすい位置に踏みやすい頭があったから踏んだまでのこと。
「――――――退け」
叱りつける様に鞘に入ったままの宝剣をワニの額に突き立てる。
瞬間、踏みつけていたワニの体が煙のように消滅した。
「なんと化生の類であったか。ならば、うさぎに憚る事もないな」
これまでの言動のどこに憚る要素があったのかは不明だが。
彼女なりに動物好きの友に気を使っていたらしい。
宝剣を鞘より引き抜く。
取り残された2匹のワニは完全に気圧されたように動きを止めていた。
「そこに直れ、妾が手ずから処してやろう。何、これも神事に関わる巫女の務めよ」
巫女が祭事に舞うが如く飾り剣を振るう。
地に伏せ常に土下座してるような体勢はまるで、斬首を待つ罪人のようだった。
【F-3/道/一日目・早朝】
【神楽 春姫】
[状態]:健康
[道具]:巫女服、ヘルメット、御守、宝剣
[方針]
基本.妾は女王
1.研究所を調査し事態を収束させる
2.襲ってくる者があらば返り討つ
※自身が女王感染者であると確信しています
■
湖畔にてテロリストはワニに囲まれていた。
コチラは南米辺りならばあり得る光景なのかもしれない。
あるいはアメリカのZ級映画か。
天国が圧迫止血していた片手を前へと突きだす。
ぼたぼたと血液が落ち、地に赤い線を描いた。
ギョロリとした血走った瞳が目の前で己が指を食む獣を捉える。
指を噛み千切られた痛みは確かにある。
だが、痛みなどでは彼は止まらない。
それ以上の怒りと憎悪。痛みを塗りつぶすほどの狂気が天国の頭の中を常に渦巻いていた。
知性を失い
理性を失い
正気を失い。
辿りついたのは狂気の果て。
指の欠けた手で皺枯れた指を立て、地を這う肉食獣を指差す。
祖国を呪うテロリストは、信じがたいことを口にした。
「ぉ前はぁ――――――日本人だなぁ?」
何を言っているのか。
日本人以前に目の前にいるのはワニである。
日本に野生のワニなどいない。
野性を超える狂気。
飢餓により正気を失ったワニでなくとも理解できなかっただろう。
だが、他者に理解できずとも。
狂人には狂人なりのロジックがある。
日本人の抹殺のため研究所を狙ったように。
日本人とは何か?
国籍か? 出自か? 血統か?
天国の考える定義は決まっている。
思想だ。
その価値観に染まっているのなら、その出自に関わらず日本人だ。
日本かぶれの外国人なんかも言語道断である。
それこそ例え動物であろうとも日本人であると言える。言えるのだ。
日本に野生のワニがいないことなど天国とて知識として理解している。
だが、それがいると言う事は愛玩動物として飼育されていたと言う事だ。
日本人に飼いならされた畜生など豚にも劣る。
野獣死すべし。
3匹のワニが同時に飛びかかる。
三方から迫る牙に逃げ場など無い。
野生最強の咢をもってすれば、人間など一瞬で挽肉に出来るだろう。
だが、それよりも早く。
「――――――――日本人は、死ね」
呪いの言葉が紡がれる。
天国の主観によって設定された相手の武器を暴発させる呪い。
分身体は紛れもなくワニ吉の用意した武器である。
ならば、こうなるのは必然であった。
3匹のワニはそれぞれがそれぞれの喉笛へと喰らい付いた。
地球最強の咬合力で鋭い牙が肉を破る。
まるで自らを喰らうウロボロス。
互いが互いを喰らっていた。
喉肉を食い破られ分身体が消滅する。
死体も残らず消え去った奇妙な現象を狂人は気にせず、歩き出す。
日本への憎悪を滾らせながら。
【F-1/湖周辺/一日目・早朝】
【物部 天国】
[状態]:右手の小指と薬指を欠損
[道具]:C-4×3
[方針]
基本行動方針:日本人を殺す
1.日本人を殺す
2.日本人を殺す
3.日本人を殺す
■
明るみ始めた空の光が、診療所にも差し込み始めた。
一心不乱に目の前の肉に夢中になっていた大型ワニの動きが、何かに反応したように一瞬ピクリと止まる。
そしてワニの目がどこか遠くを見つめるように虚空を見た。
狩りに出した分身がやられた。
あろうことか、連携を取って本気で狩りに挑んだ肉食獣が返り討ちに合ったのである。
分身を6体失って、成果は枯れた指二本。
これではあまりにも採算が取れない。
奇しくも、特殊部隊を相手取った際にワニ吉が懸念した通りの結果になっていた。
例え野性の狩人であろうとも、異能者は侮れない。
現時点でワニ吉の体長は4メートルに届こうと言う程に膨れ上がっていた。
病院の廊下は少々手狭になってきた。
そろそろ拠点を移す頃合いかとナニカは考える。
せっかく『肉体超強化』を再現できたとして、廊下から動けなくなりましたではオチとして間抜けすぎる。
このフロアは既に狩りつくした。
別棟や別フロアにまで行けばゾンビとなった人間もいるだろうが、院内に見切りをつけて別の狩場を目指してもよいだろう。
何より、このままここに留まり続ければ、あの女が来る。
分身体を退けた紅白巫女が診療所に迫っている。
それは派遣した分身の全滅を代償に得た情報であった。
印象としては太古の鬼道を扱う大国の女王のそれに近い。
ナニカを滅する事などできようもないが、それなりの覚悟で挑まねばならぬ相手だ。
せめて肉体の強化を完了し万全を期す必要があるだろう。
あの女にはナニカをしてそう感じさせる『何か』があった。
ワニ吉は理性を失っている。
飢餓により食欲を振り乱す超野性だ。
ナニカは分身を操作し、残った『餌』を出口に向かって等間隔に配置して行く。
そのままワニ吉はあんよが上手とするように診療所の出口に向かって誘導されていった。
餌を追ってワニ吉が巨体を動かすと、それだけで廊下が僅かに崩れる。
そうして、ワニが人間の地図など把握しているはずもないが、次の餌場を求めて人の多い場所を目指し始めた。
【E-1/診療所入り口/一日目・早朝】
【ワニ吉】
[状態]:『巣くうもの』寄生。飢餓感(超極大)による理性消失。『肉体超強化』の疑似再現により筋肉肥大化中(現在体長4メートルほど)。
分身が4体存在。
[道具]:なし
[方針]
基本.喰らう
1.拠点を移す(人の多そうな場所へ)。
2.異能者の脳を喰らい異能を解析する。
3.分身に食えるものを捧げさせる。肉体の強化が完了したら全てを喰らい尽くす。
※分身に『肉体超強化』の反映はされていませんが、
『巣くうもの』が異能を掌握した場合、反映される可能性があります。
投下終了です
>>913
ご指摘ありがとうございます
修正しました
>>924
申し訳ありません、クマカイの場所の表記と虎尾茶子の所持品に腕時計を追記するのを忘れていました。
表記は以下になります。
【E-4/カフェ屋上テラス席/1日目・早朝】
【クマカイ】
[状態]:右耳、右脇腹に軽度の銃創、肋骨骨折、内臓にダメージ(小)、嶽草優夜に擬態
[道具]:スタングレネード
[方針]
基本.人間を喰う
1.次の狩りのための準備
2.準備が終えたら怪我の手当て
3.特殊部隊及び理性のある人間の捕食
4.理性のある人間は、まず観察から始める
※ゾンビが大きな音に集まることを知りました。
※ジッポライターと爆竹の使い方を理解しました。
※スタングレネードの使い方を理解しました
【D-4/草原/1日目・早朝】
【虎尾 茶子】
[状態]:左肩損傷(処置済み)、左太腿からの出血(処置済み)、失血(中)、■■への憎悪(絶大)
[道具]:木刀、双眼鏡、ナップザック、長ドス、サバイバルナイフ、爆竹×6、ジッポライター、医療道具、コンパス、缶詰各種、飲料水、腕時計
[方針]
基本.協力者を集め、事態を収束させる
1.極一部の人間以外には殺害を前提とした対処をする。
2.有用な人物は保護する。
3.未来人類研究所の関係者(特に浅野雅)には警戒。
4.■■は必ず殺す。最低でも死を確認する。
[備考]
※自分の異能にはまだ気づいていません。
※未来人類研究所関係者です。
投下します
※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*
『ヤマオリ』
『ミナサキ』
その言葉を記憶の隅に留め、より真相を求めて研究所を進んでいく。
けれども、素人がたった一人で研究所を制圧するプロの部隊を欺き続けることなどできるものか。
誰かの足音が廊下にわずかに反響する。
それを聞くや否や、すぐそばのゴミ箱とゴミ箱の間に潜り込み、身を隠した。
「E研究棟フロアB。ターゲット、全員処理完了しました」
「E研究棟フロアC。こちらも同じく、処理完了」
前方から歩いてくるのは防護服を着た三人の軍人である。
一人はボイスチェンジャー、もう一人は女性と思われる声。
そして、いずれも防護服のあらゆる箇所に返り血を浴びており、殺した数が一人や二人でないことは明らかである。
「ご苦労様です。
Ms.Columbine。先ほどの交戦で、変声機のスイッチが落ちていませんか?」
「あっ……!」
「作戦中は常に自身の状態にも気を配るように。
試用期間中の行動如何では、以前の部隊に戻っていただくこともあります。
ああ、それと別に能力の否定というわけではありませんから、気にする必要はありませんよ。
この段階においては、ほぼほぼ向き不向きの問題ですからね」
「了解しました! 教官殿!」
「Ms.Wisteria。君も、他人のミスだとは思わないようにね。
他者に起こることは自身にも起こりうると考えてください」
「了解しました」
「以前の部隊でも言われていたことだとは思いますので、これはお節介ですけれどね」
(columbineにwisteria。
植物がコードネームかしら?
噂に聞く、Self-Defense ForcesのSpecial Operations Group――『SOG』?)
正体不明の部隊、とはいえ日本国でこれほど大規模な行動ができる秘密結社がそうそうあるとも思えない。
オーストラリアとの合同訓練でその実態の一部が明かされたSOG――自衛隊の特殊作戦群であれば、その統制の取れた動きも納得できる。
「さて、そこで聞き耳を立てている子猫ちゃんがいます」
(!?)
バレていた。
おそらく二人の上官と思われるその隊員は、いとも簡単に身を潜めていた侵入者の存在を看破する。
部下と思われる二人の女性隊員が、上官の男性隊員の言葉を待たずに自らが隠れているゴミ箱の間へと銃を向けた。
「あーあー、そういうのはいいですから。
うん、そうだな……。
迷子の迷子の子猫ちゃん♪ あなたのお名前なんですか? What's your name?」
剽軽な口調ではあるが、やはりその防護服にはべったりと血が付いていて、何人も殺害してきたことは明らかである。
取って付けたような英語を挟んでくるのは、当てつけだろうか。
陽気に、軽薄に、有名な童謡を口ずさみながら問いかけてくるその男性の得体が知れない。
「さて、名前を聞いても分からない。
だまってばかりの子猫ちゃんだねえ」
「教官。怖がっているだけです。
あと、教官がそれを言うと、ハラスメントです」
「えっ、そうなの?
怖がらせないようフレンドリーに話しかけたつもりなんだけど……」
「スレトニングハラスメントです。
ハラスメント研修を受け直してください」
「そんなハラスメントありましたっけ」
「今作りました」
血塗れの防護服に身を包み、銃器を構えながら、学校の休み時間のように軽口を叩く彼らは異様である。
テロリストよりもこちらのほうがよほど得体が知れない。
「あー、こほん。テロリストたちによって引き起こされた凄惨な光景に、身も竦む思いだろう。
だが、我々が来たからにはもう安心です。
丁重に送り返して差し上げなさい。
『狂犬』のお巡りさんに見つかると大変だよ?」
「その言い方はまた怒りを買うかと思いますが……」
我々が来たからには安心? どこが?
彼らが来たからこそ、不安で不安で仕方がない。
顔を出せば、それが最後、額を撃ち抜かれてジエンド。
そのイメージを拭えない。
「もしかして、秘密を知った者は生かしてはおけない! とかいう物語でよくあるアレを心配していますか?
映画の見過ぎですねえ。心配はいりません。
最奥部はすでに先行部隊が制圧済みで、部外者が侵入したなどの報告も受けていません。
Ms.Wisteria、我々N班の任務はなんですか?」
「テロリストから逃げ惑っていた無辜の民の保護と、テロリストの残党の制圧であります」
「そういうことです。
というわけで天才探偵ちゃん。パートナーくんも君を心配していたよ?
Ms.Columbine、彼女を自衛隊の詰め所まで丁重に送って差し上げなさい。
アナウンスを流してもらえば、引き取りに来るでしょう」
「了解しました!」
SOGと思われる特殊部隊の教官は、身元などとっくに特定していたらしい。
言外に、機密事項を知れば処理するというニュアンスを、
そしてお前は今回の事件の表層を浚っただけだというニュアンスを滲ませ、教官の男がタイムアップを告げる。
「さあ、かくれんぼはおしまい。保護者のところへ戻りなさい」
せめてもの抵抗に、部下の女性隊員二人の顔をマスク越しに確認する。
まるで精巧な日本人形のような、ぞっとするほど容貌の整った女性。
そちらと比べればいくぶん現実的な、かわいらしい容姿の女性。
けれどどちらも腕力はまったくかわいくなく、その気になれば素手で首を圧し折れるだろう。
物腰柔らかな口調ながら、決して逆らえない力でがっちりと腕を固定されてしまう。
「sorry、えーと、自衛隊の特殊部隊の皆さん?」
「テロ対策部隊の突入救助班ですね。
メディアのみなさんにはそれで通ります」
こんな血と暴力に塗れたの救助班があるか。
そう言いたいところだが、本当の部隊名も所属も秘匿され、真相は何もかも闇の中。
二つのキーワードと引き換えに、研究所施設から退出せざるを得なかった。
すれ違いざまに見た教官の男は、穏やかに笑っていた。
血に塗れた姿で、穏やかに穏やかに笑っていた。
※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*
■
「うわあああああっ!!!!」
全身から冷や汗を流し、誠吾は飛び起きる。
未だ外は暗く、そして外の喧騒も収まってはいない。
通称『山折村関わってはならないリスト』というものがある。
大層な名前だが、製作者がそう呼んでいるだけにすぎない。
実態は役場から学校に配送される要注意人物リストだ。
都会の大学でも不審者出没情報という名前でPDF化して配られている類の資料である。
端的に言えば、役場にクレームが入りまくる人間をまとめた注意喚起の資料であり、特筆することはほぼない。
――隅のほうに小さな文字でヅカパイこと飯塚太蔵が入っていたのは製作者の意趣返しであろう。
――おかげで飯塚先生の裏のあだ名は教師の間でもヅカパイである。
嫌がらせは横においておき、リスト掲載者はいずれも早々たるメンツ。
『トリガーハッピー』薩摩圭介。
『神の遣い』鴨出真麻。
『人型暴力』範沢勇鬼。
『山折スケバン』山上美々子。
『高潔なヤクザ』木更津組の面々。
教師たちの間でもA級村人などの隠語で呼ばれる彼らを抑えてトップに立つS級村人こそ、
『太った赤ちゃん』気喪杉禿夫である。
女の子と自らの幸福以外に思考リソースを割く気がない誠吾をして、五感に刻み込まれるそのキャラクター性。
耳が腐る、鼻が腐る、目が腐る。
何かがまかり間違って、飛び散る汗が口にでも入ろうものなら、舌どころか細胞一つ一つが壊死することだろう。
そんな有害物質から放たれる騒音を子守唄に眠ったところで、夢に見るのは悪夢だと相場は決まっている。
※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*
一度やってみたかった、大都会六本木の最高級風俗店。
身分証を受付に提示し、嬢の情報を口外しないという誓約書にサインし、30万の大金を支払って得た二時間。
リクエストしたのは、本業は元華族の資産家の一族という、まさに住む世界が違う一番人気の嬢である。
ホテルマンのような立ち振る舞いの案内人に導かれ、高級な金の装飾で彩られた木製の扉の前に立つ。
極上の女の子をこの身で抱きしめることを思い浮かべながら、その秘密の扉を開けると……。
『ブモオオオオオオオオオオオオ!!!』
そこにいたのは、ゴスロリドレスに身を包んだ三人の気喪杉禿夫であった。
※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*
というような本人には致命傷、それ以外には激しくどうでもいい夢に脳みそ丸ごとシェイクさせられた誠吾は、交番の洗面所へと駆け込んだ。
「うえっ、おええええ!!」
流し台で口をゆすぎ、悪夢の残滓をすべて水に洗い流す。
交番前の老人の死体にも、交番の中の大林巡査部長の死体にも嫌悪感はあった。
明るい場所の死体って気持ち悪いなあ、と尊厳もクソもない感想を抱き、シートをかけて視界から遮ったが、
女装の気喪杉など夢でありながら現実をはるかに上回る嫌悪感である。
嫌悪感も何も好きになれる要素もなにひとつないが。
それもこれも、外で当の本人がIQの低い悲鳴をあげて暴れまわっているせいであろう。
耳から侵入した音が夢にまで入り込んだのだ。
まさに事故そのものであろう。
円華が小動物のようなかわいい顔を、羅刹女のそれに変える前にとんずらこいたまではよかった。
やれ前方彼方を4メートルもある謎の生物が地響き立てて横切っていくわ、
やれその十数分後には高校のほうから水を張り湛えた田園を超えて銃声が届いてくるわ、
やれ当面の向かい先と決めていた住宅街で爆発炎上の大戦争が起こっているわ、
何もしていないのにどっと疲れた。
交番で休んでいた間にも絶え間なく聞こえてきたのは、
鼓膜を震わす原付のエンジン音、爆発音に炎上音、そして爆破解体のような騒音オーケストラ。
軍隊を出す異能でも持っているやつがいるのかと聞き紛うほどの大騒音である。
ゾンビの群れ、村に降り立ったヒグマ、目覚めた異能、謎の巨大生物、住宅街大戦争。
建築会社付近のボーナスショットこそ誠吾の耳に届くことはなかったが、どれを取っても今年の大ニュースでぶっちぎりの一位を取れる大騒動。
それらを目の当たりにして、誠吾が思ったことは。
(あ〜あ〜やだやだ、早く街に帰りたいよ。
生徒も村も、もういいから、バックレようかなあ)
徹頭徹尾自分の心配であった。
『かわいい生徒に安心して朝までぐっすり眠っていただくため、ここが胸突き八丁正念場、
不審人物を警戒して朝まで見回りしてたんだよ』
そんな円華への言い訳ストーリーを真実にしてしまおうかと思ったが、パトランプ赤信号を思い出して断念。
せめて心機一転しようと棚を探れば、ご当地限定カップラーメン『山オヤジのくそうめぇ〜カップ麺 せうゆ味』があるではないか。、
アニカママだのなんだの、外から聞こえてくるIQの底が抜けた言葉の数々にはため息しか出ないものの、麺は表題の通りくそうまい。
熱々の麺をずるずると啜り、コクのあるスープを胃に流し込み、人気店を再現したその味に舌鼓を打つ。
そしてまどろんだ矢先に最低の悪夢である。
腹の中が本当に気持ち悪くなった。
起き抜けに見た交番の壁掛け時計は、微睡む前の長針/短針共に3の字過ぎの時点から、今では短針が4の字を過ぎようとしていた。
外からは『ぐぎゃああああああああす』という明らかに日本の原生生物ではない雄たけびが聞こえ、
一方で気喪杉のウシガエルと豚をミックスしたような声は未だ収まらず。
げんなりしながら非常持ち出し袋に入っていたミントタブレットを弐錠取り出して噛み砕き、
直火型エスプレッソマシンに水を入れ、粉を入れ、火にかける。
新聞配達の時刻だが、配達員など来るはずないので、代わりに読むのは机の上に置かれていた逮捕令状だ。
ホシの名は月影夜帳。
最近村を騒がせていた、若い女性を殺しては血を吸ってた変態殺人犯。
職務上、夜には決して出歩かないようにと生徒に注意をしていた例の件だが、内心では犯人は侮蔑の対象である。
少し愛が重ければ、バレンタインのチョコレートに血を入れてくることくらい日常茶飯事。
消化のできない髪の毛を練り込んで、『一生あなたと一緒に添い遂げられるチョコ』なんてのを渡してくる女の子だっているわけで。
血を吸いたいなら、正面から仲良くなればいいのだ。
わざわざ殺人などというリスクを取る意味もなければ、それで逮捕令状まで出ているとなればお笑い草としか言えない。
イイ感じに染み出してきた熱々のモーニングコーヒーをカップに注ぎ、アロマを楽しむ。
熱々のコーヒーをすすり、味わいと風味を楽しむ。
全身にカフェインを染み渡らせ、やはり一日の始まりはコーヒーに限るね、と意識の高い持論を噛み締める。
外の様子を聞き取るに、徹夜の迷惑行為もたけなわといったところだ。
汚い悲鳴が聞こえ、どうやらクライマックスも通り過ぎたらしい。
『碓氷参戦!!』など断固拒否だが、
かといって死闘直後に何食わぬ顔でのこのこ参上したところで、胡散臭さのメーターは振り切れてオーバーフローするだろう。
一晩戦争していたなら、終戦後は当然どこかで休む。
その拠点を見つけだし、何食わぬ顔をして合流するのが最もリスクが低い。
声は三手に分かれたようだが、狙うべきは当然大人数グループ。
他のグループと鉢合わせないように警戒しながら、行き先にあたりを付け、誠吾も交番を発つ。
ちょうど朝日が昇ってきたことで、惨状は明確となり、戦いの激しさも相応に推測できる。
あたりにまき散らされたゾンビの肉片を遠目に、しかしあまり見すぎないように、誠吾もまた高級住宅街へと進入する。
周辺のゾンビはすべて気喪杉禿夫によって叩き潰されたか、山折圭介が連れていったために、行く手を遮るものも何もない。
その約15分後、小田巻真理が環円華を犠牲に八柳藤次郎から逃げおおせ、無人の交番に到着した。
遺体にかけられたシーツに、まだ熱の冷めていないエスプレッソマシン、そして追っ手の姿が背後に見えないことを確認すると、
備品の警棒を拝借して、彼女もまた住宅街へと分け入っていった。
朝5時前のことである。
■
木更津閻魔を始末した月影夜帳は、セーフハウスを出立し、そこで朝日を浴びる。
朝日を浴びれば灰になるのではという不安が一瞬だけ過ぎったが、杞憂だったようだ。
真祖のようでなおのこと心地よい。
自己肯定感が上がっていく。
次なる目的地は、少女たちの花園である。
山で行方不明になった子供の捜索の定番は、やはり数にモノを言わせた人海戦術であろう。
山(折村)狩りを始めるのだ。
探索、趣味、どちらにしろ、いると分かっている女の子軍団に接触しない選択はない。
『ゾンビの襲撃で、三人の同行者……木更津閻魔さん、宇野和義さん、リンちゃんの三人とはぐれてしまったのです。
袖触れ合うもと言いますか、赤の他人とはいえ、このまま死なれても寝覚めが悪い。
もし見かけたら、保護とご一報をいただけませんでしょうか。
特に宇野さんはリンちゃんを自身の子と重ねているため、見ていて危なっかしいのです。
私とて医療関係者の端くれです。
リンちゃんと宇野さん、お二方の今後のためにも、二人が落ち着くまでは引き離しておきたい』
慣れないながらも、それらしきストーリーを即興で組み立てていく。
なにしろこの男、仕事以外で若い女性と話したことなどほとんどなく、それどころか男性の友人もいない。
人生は挑戦の連続だと言われるが、複数少女との交渉など殺人よりもはるかに難易度の高い挑戦だから、準備は入念に必要である。
もっとも、複数人で力を合わせ、巨大な怪物に立ち向かっていた乙女だ。
ならば人一倍正義感が強く、可憐で清純で高潔な美少女に違いない。
閻魔は突っぱねられるだろうが、そこは日ごろのおこないの弊害である。慈悲はない。
逆にリンは率先して『保護』してくれるだろう。
そして、戦闘という激しい運動をおこなった直後の少女だ。
全身から芳香を発して、嗅覚を通じて脳をダイレクトに狂わそうとしてくるだろう。
肥料を吸いすぎて枝をたわめた瑞々しい果実のような素肌は、一突きすれば倍の弾力で押し返してくるに違いない。
不足した酸素を一分子でも多く吸い込もうとするその呼吸はなまめかしく、そこから漏れ出す声は聖書の詩を思い起こされる透明なソプラノボイスと相場は決まっている。
耳で、鼻で、目で、指で、そして味で楽しむナマ少女夢の120分フルコースだ。
(いけませんね、思わず勃牙してしまいました。
平常心、平常心……)
夢想が過ぎたかもしれない。
平常心と強く念じて、滾った牙を元に戻す。
牙が伸びすぎてサーベルタイガーのようになった男など、どれだけ寛容な女性でも顔を合わせた途端に踵を返して逃げ出してしまうのだから。
日が昇ったことで、戦いの痕跡もより鮮明となる。
日の光を浴び、あちこちに浮かび上がるは、赤黒い血の足跡だ。
気喪杉禿夫が虐殺し、山折圭介が使い捨てた無数のゾンビたち。
道路にまき散らされたその血を踏み付ければ、靴底に血の跡がべったりと貼り付く。
臓物ならばまだしも、暗がりの交戦の中、まき散らされた血を踏まない芸当などまず不可能。
気喪杉禿夫というS級の問題児を前にして、一歩ごとに足元を確認する余裕などない。
それをおこなえるのは、『目』を持ち、かつ普段から痕跡を嫌う一級エージェントの田中花子のみであろう。
逆説的に、少女たちの行き先は容易く推測が可能なのである。
この十数分後に交戦地跡に訪れた大田原源一郎とて、
和幸たちとの遭遇がなければ、そちらを追っていたことは想像に難くない。
ほどなくして、隠れ家と思わしき住宅は見つかった。
高級住宅街の南端近くにある、窓ガラスが大きく割られた一軒家だ。
周辺にはゾンビもいないのに大小いくつもの足跡が折り重なり、大勢がここに出入りしたのだと一目で分かる。
そして、夜帳が追ってこられるということは、他人もしかり。
先客の存在である。
「うげ……っ!」
厭悪が胸元からあふれ出たかのようなダミ声を耳にして、夜帳はその歩みを止めた。
玄関の扉を開け、屋内を伺っていたのはライフル銃を背負った猟師風の男だ。
(これは……どうしましょうか?)
皆が皆、閻魔のように状況も理解できない愚か者ばかりであろうはずがない。
背後を取っているとはいえ、銃持ちに素手で襲撃するのはあまりに分が悪い賭けである。
日頃猛獣と対峙する猟師であれば、肝も据わっていることだろう。
脅しと恐怖で動きを止めることなどできようものか。
だが、猟師の恰好をした男――碓氷誠吾は時が止まったかのように動かない。
怪訝に思い、一歩ずつ慎重に近づいても、まるで反応はない。
屋内を誠吾の背中越しに覗いたことでその疑問は氷解した。
(なるほど。……むごい)
連続殺人犯の夜帳を以ってして、その感想に集約される。
まき散らされた臓物とおびただしい量の血の跡が、廊下を赤黒く染めている。
靴箱の取っ手には何かの臓器が引っかかってぷらぷらと揺れており、
廊下に転がっているイモムシのような物体は、引きちぎられた人間の指である。
桃色のカーペットの上にぶちゃりと乗せられている黒いもじゃもじゃは、毛髪ごと剥ぎ取られた人間の頭皮だろう。
あまりに部位がバラけすぎており、犠牲者の数すら不明だ。
現場検証の技能など夜帳にも誠吾にもない。
ただし、人間のおこないでないことだけは誠吾にも夜帳にも分かった。
玄関に残された20センチほどの赤黒い肉球跡とツメの跡である。
(山の猛獣? この足跡はクマですか?
人食い熊が村に降りてきたのだとすれば、由々しき事態だな)
クマは臆病な動物だ。
よほど腹の虫が悪くない限り、人間に出会ったらまず警戒から入るだろう。
クマに出会ったら狩りの本能を刺激させないよう、背中を向けずにゆっくりと後退するべきだと言われている。
だが、もしクマもゾンビとなり本能のままに襲ってくるとすれば、それは惨劇の序章であろう。
人食い熊であれば同じくその顛末は惨劇でしかないだろう。
異能を持った人食い熊など、どれほど危険な存在なのか、その脅威度は計り知れない。
(そして背後から近づいた私をクマと勘違いしたことで、異能が発動した、というわけですか。
なるほど、なるほど)
強いて言えば、誠吾はタイミングが悪すぎた。
後ろからやってきた足音の主と、獰猛なヒグマを想像の中でリンクさせてしまった。
足跡の主に恐れを抱いた誠吾の肉体は『威圧』の異能により、完全に硬直していた。
クマと人間の足音が同じはずはないのだが、そんなことはヒグマの足音を実際に聞いたことがなければ分かるはずもない。
極限状態における恐怖体験による硬直。
クマによる惨状はさておき、異能の原理としては肝試しレベルであるが、一つ有用な使い方が見つかったのは事実だ。
(今なら殺すのは容易いですが……。
まずい血を飲むくらいなら、リンちゃんの動向でも訪ねてみますか?)
停止しているのが美少女ならばとるべき行動は決まっているが……。
残念ながらどこからどう見てもオスである。
「あの、すみませ……」
「すみません! そちらの方、猟友会の方ですよね!?」
「うわあっ!?」
そして夜帳の思考は、一切の気配もなく背後から現れたさらなる訪問者により、強制的に打ち切られた。
無から湧き出してきた声に肝が縮み上がる。
夜帳もまた、肝試し失格組であったのだ。
そして背後から近づいていたのがクマではないと認識したところで、誠吾の硬直も解ける。
「ふう、死んだと思ったよ……。
やあ、おはようお嬢さん。
うーん、猟友会って僕のこと言ってる?
ごめんね、これ恰好だけで、僕は猟友会じゃないんだよ」
嵐山岳と同じ集団に所属しているなら、話を聞いてくれるハードルは格段に下がる。
小田巻真理のそんなちょこざいな未来予想は、
紛らわしい恰好してんじゃねええええよおおお!!! という心の叫びと共に、のっけから崩れ去った。
■
「信じてくださって、感謝します。
最悪、デマを垂れ流すよそ者扱いも覚悟していましたので」
「いやいや、こんなかっこかわいい子の話を信じないだなんて、男としてどうかと思うよ?
ところでさ、VHが終わったら、時間ある?
この村って狭いから出会いもなくてさ。
せっかくだし、お茶でもどうかなと思うんだよね」
「……は? ああ、いえ、結構です」
「ナンパしてる場合じゃないでしょう。早く離れましょうよ。
ヒグマが追って来たなら、撃つのは碓氷さんですからね?」
「いやいや、軽い冗談じゃないですか。
月影さんも、ギスギスッッ! ってしてるよりはマシでしょ」
「あの、声かけられたの私なんですけど!?」
「ごめんごめん、ほら、そんなスネないで、ね?」
「別にスネてませんよ。あ、そこを左。
足跡はあっちの一軒家のほうにまで続いてますね」
「はぁ、大体そっちは出会いなんて職場でいくらでもあるんじゃないですか?」
「いや、生徒をナンパはさすがにまずいでしょ。常識と良識を持とうよ」
「あの、二人とも今の状況本当に分かってます? マ・ジ・で、分かってます?
あと、私を飛び越えてゲスな話するのやめてくれません?」
血ィ吸うたろかワレェ……という本心を飲み込み、
ド頭カチ割ったろか男ども……というイラつきを押し込み、
頭のてっぺんまで真っ赤っかだな……という疑念を隠しとおし、
三人は連れ立っていく。
数は力、そして信用は命綱。
未成年女子軍団の砦に向かおうとしているまさにそのときなのだ。
人権ラインを上回る身長のイケメン高校教師。
こんなプラチナフリーパスを手放すのは、夜帳も真理も憚られる。
『何者だ!?』
『イケメン高校教師です』
これだけでよし通れとはならないにしても、連合を組むまでのハードルは相当下がる。
些細なことで押し問答する時間があるならば?
一人でも多くの人間に藤次郎の危険を伝えたい。
一人でも多くの少女のふところに入り込みたい。
一人でも多くの手駒を手元に確保しておきたい。
そして、細かい話に時間を割きたくないのは、相手方の見張りに対してだけではない。
同行者に対しても同様だ。
教師がどこで猟師の恰好をして、そのとき同行者がいたのかなど明らかにする必要はない。
夜帳が女性ばかりを狙って殺した連続殺人犯であることなど、糾弾する必要はない。
猟師小屋までは追ってきていたはずの藤次郎を、小屋から住宅街までの一本道で真理がどうやって撒いたのかを問いただす必要はない。
吸血鬼垂涎、怪異もかくやという真理の隠形術が、異能によるものなのか生来の特技なのかを今すぐ尋ねる必要はない。
(VHを収束させるにしても、もう少し楽しませてもらいたいものですね。
ヤクザの男の不味い血を飲んだだけで夢が終焉に向かうのは、ちょっといただけない。
それとは別に、危険生物や危険人物への対策は怠るべきではありません。
ヒグマはまだ理解できますよ。せっかくの少女たちを殺して回る八柳藤次郎は、一体何を考えているんだ?
あまりに、あまりに非道がすぎますよ)
(女王感染者をさっさと見つけ出して、収束させたいよね。
けれど、ヒグマに剣道の先生だっけ?
こっちは僕がのこのこ出ていったところで、どうなるよ?
適材適所、そういうのは荒事専門の人に任せるよ)
(SSOGの方針も気になるけど、あの剣鬼だけは協力者を募らないとどうにもならない。
碓氷さんと月影さんがいるから多少は話もしやすいだろうけど、悪い噂が広がってたらすぐに退散するしかないわよね。
お願いだから、あの女生徒が私の噂を広げていませんように!)
バカみたいなやんやの会話はすべてが仮面。
一刻も早く大人数グループに紛れ込み、各々の目的を果たす。
その一点で、はからずも三人の中で一致していた。
故なる臨時パーティである。
末席とはいえ、特殊部隊員たる真理が素人の痕跡を見逃すはずがない。
『光』を目視できる誠吾が、物陰に隠れた正常感染者から漏れる光を見落とすこともない。
アニカたち六人が『買い取った』別荘へ、迷いなく進んでいく。
そして、逃げ隠れもせずまっすぐに向かってくる集団が見逃されるはずもなく。
「こんなに堂々とこの家に向かって来られたら、正面から対応するしかないだろ」
「心配はいらないわ〜。
碓氷先生と月影さんは私もよく知っていますし、もう一人は村外の方のようだから。
内外入り混じっているからこそ、みなさん危険性は低いと思うわ」
「俺は三人とも知らないんだが、どういう人たちなんだ?」
「碓氷先生は妹の担任の先生ね。
近年赴任してきたから、哉太君は面識はないかもしれないけれど、私は施設課のお仕事なのでたまにお見かけするのよ〜。
月影さんも同じ。診療所の薬剤師の方で、薬を融通もしてもらってるわ〜」
「薬を? はすみさん、アンタどこか具合でも悪いのか?」
「そういうのはプライバシーにかかわる場合もあるから、あまりずけずけ聞かないようにね。
私のはそういうのじゃないからいいけど。
役場勤めっていうのはね〜、色々ストレスがたまるんですよ〜」
毎週の恒例行事と化している、胃薬やサプリメントの処方による顔合わせ。
妹の担任かつ平時の業務における窓口担当。
かくして、知己であるがゆえに、犬山はすみは三人を通す。
『八柳藤次郎』が『嵐山岳』を殺害したという情報を持った、『特殊部隊員』と『連続殺人犯』を家へと招き入れる。
■
「哉太くん、そんなに警戒しなくても大丈夫よ。
先ほど言ったように、二人とは面識があるから。
いつも妹がお世話になっております〜。
いつもお薬の処方ありがとうございます〜」
「やあ、犬山さん。相変わらずお美しい。
お互い、こんなことに巻き込まれて災難だよね。
そうだ、これが解決したら景気づけに、合コンでもどう?
役場の女性陣と学校の教師陣で。虎尾さんとかも誘ってさ」
「えっ……あ〜、個人的には乗り気ですけどぉ。今返事するのはちょっと……」
「おいちょっと待ておっさん、合コンってなんだよ、てかなんで茶子姉が出てくるんだよ」
「ん? 弟さん?
はは、場をほぐすためのちょっとした大人のトークだよトーク。
虎尾さんはたまに犬山さんと一緒にお仕事関係でお見かけするし……。
教師と保護者とかお仕事先の関係のまま話しても堅苦しくて気を遣っちゃうでしょ」
「弟じゃねえよ、てか冗談とかウソつけ、絶対本気で言ってたろ!」
「はは、ご想像にお任せするよ。
見たところ、君ももうすぐ大人(※18歳)だろ?
もうちょっと余裕をもってどっしり構えてみたらどうだい?」
「あの、皆さん、それより本題に入りませんか?」
「ごほん!」
おしぼりで右腕の汚れを拭きながら、若干キレた咳払いをする真理。
ブレークしたアイスが若干フリーズアゲインした。
「みなさんに余裕があるのは分かりましたから、もういいでしょうか?」
テメェのせいだぞおっさん!
いや君も同罪だろ?
そんな二人の目線会話をジト目で見る二人。
少なくとも、真理以外のアイスはブレークしたようだ。
「小田巻です。
すみませんが、自己紹介などは後回しにさせていただければと。
私がここに来た目的は二つ。
VHの収束案の共有――これは猟友会の嵐山さんから拝聴した推論ですが、試す価値はあります。
それと、ゾンビも含めた全生存者の殺害を目論む危険人物についての情報連携をしに来ました」
「VHの収束案? もう解決方法が分かったのか、すげえ早いな。
はすみさん、嵐山って人は、誰なんだ?」
「最近村に戻ってきた猟師さんですね〜。
確か生物学の学位を持っていたはずです。
その割には姿が見えませんけど……」
「それについても、話の中で触れます」
「すみません、ちょっとアニカを呼んできたほうがいいですかね?」
「寝て起きてじゃちょっとかわいそうよ。
だから〜、後で私たちから伝えればいいと思うわ。
代わりに、ちゃんとメモを取っておきましょうね」
「分かりました。ただ、見張りのほうは……」
「僕がやるよ。そういう異能だし、道中で概要は聞いたからね」
「話はまとまったでしょうか。ではまず、VHの収束案から……」
■
※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*
※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*※*
(カナタうるさぁい。一度寝とけって自分で言ってたくせに、なんでこんなに騒いでるの?
目が覚めちゃったじゃない……)
怖い夢が中断されたのはいいことだ。
だが、15分も経っていないのに叩き起こされることになったのは立腹に足る。
ふかふかふわふわのベッドならばともかく、居間の硬い床の上で、毛布で雑魚寝。
緊急時にすぐに飛び起きられるメリットはあるが、外があまりにうるさければ当然強制的に覚醒させられる。
ひなた、勝子、恵子は肉体的にも精神的にもあまりに疲労が蓄積していたがゆえに、目覚めたのはアニカだけであったが。
ひとつ文句でも言ってやろうと、ふらふらと廊下へと足を進める。
■
「信じられないのはそちらの勝手だけれど、私はウソはついていないわ。
あの人は既に100人弱の村人を斬り殺しているのよ。嵐山さんもね」
「信じられるわけないだろ!!
爺ちゃんが村を滅ぼす!? 婆ちゃんを真っ先に斬り殺した!?
絶対に何かの間違いだ!」
「哉太くん、抑えて! 落ち着いて!」
「小田巻さんもほら、もっとオブラートに、オブラートにいきましょう。
ここでケンカしたって、ええと、いいことないでしょう、ね?」
はすみと夜帳が双方をなだめようとするが、二人は引かない。
藤次郎による虐殺の証言など、哉太からすれば濡れ衣そのもの。
見知らぬ女が根も葉もない虚言で大切な家族をハメようとしているようにしか思えない。
かつての友たちとの仲を引き裂き蹂躙した冤罪――
アニカのおかげで潔白こそ証明されたが、そもそも何故、傷害事件として処理されたのかは未だ不明の濡れ衣――
あれと同じことが、今再びおこなわれようとしているとしか思えないのだ。
だが真理本人に藤次郎との面識がある。
真理にとっては、彼が虐殺をおこなっているのは動かしようのない事実だ。
哉太が最も嫌う冤罪と、真理が最も嫌う大義のない異常虐殺者。
はすみと夜帳の静止で口論は止まらない。
「これが落ち着いてられるかっ!!!!
……爺ちゃんは村のヒーローなんだぞ!!
友達でもない、知り合いでもない、それどころか村人でもない、昨日今日会ったばかりの人間に爺ちゃんの何が分かるってんだ!」
「私だって、聞き間違いや見間違いで済ませられるようなことを言ってるわけじゃないの。
お孫さん? それはお気の毒。
あの人はあなたも迷いなく斬るわよ。
大人げない? そうかもね。けれど、事実は事実。
受け入れられないなら、死を以って思い知ることになるでしょうね」
「な、なんで私が赤の他人の仲裁など……。
そんなことをしに来たわけではないのに……」
「ええっ! ちょっと夜帳さん、しっかりしてください!
碓氷先生! 碓氷先生!」
「いや、そっち行ってもいいけど、見張りだって大事でしょ?
僕の異能ってそういうタイプの異能だしさ」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
■
(カナタと誰かが、言い争ってる?
えっ、知らない人だよね……? でも知ってる気がする?)
夢の続きがフラッシュバックする。
マスク越しに見た顔と、そこにいる女の顔がリンクして、明確な像を結び……。
■
「あんたが爺ちゃん相手に返り討ちに遭って、罪をおっかぶせて回ってるって考えるほうがよっぽど自然だろ。
その、手の形してる不自然な火傷だってそうだ。
案外、早まって村人襲ったところでも爺ちゃんに見られたんじゃねえの?」
哉太が生まれる前から数十年からずっと、活人剣を村の子供たちに指導し、
顔役の一人として大勢の村人に慕われていた藤次郎が、なぜ今さら村を滅ぼそうとするのか。
友との仲を引き裂き、村への憎悪を植え付けたあの事件は、哉太の心に大きな影を落としている。
やさぐれた彼に喝を入れ、稽古のとき以上に厳しく、けれども特別の愛情を以って接してくれた。
せめて村外の高校でやり直せるようにと、ありとあらゆる伝手を駆使してくれた。
極端、村には二度と戻らずとも暮らせるようにと色々と融通してくれたのが他でもない藤次郎である。
あり得ないことなどあり得ない。それでも、藤次郎の乱心などあり得ない。
異能という人知を超えた力がある以上、真理の言う可能性がゼロではないことくらい心の隅っこで自覚している。
ただ、認められない。認められないのだ。
腕の火傷の件は二度目の指摘だ。
結局のところそれはそれで、これはこれというしかないのだが、
二度目の指摘に真理が反論する機会は訪れなかった。
■
精神に過負荷をかけられた夜帳とはすみに、まわりへの注意力など残っているはずもない。
我関せずと外敵の警戒を続ける誠吾が、内部に注意を払うはずがない。
口論する二人はバチバチと火花を散らしている。
だから、顔色をさっと変えて廊下から侵入してきたアニカには誰も気付かず。
だから、その口から発せられる次の言葉など誰も予測できず。
「カナタ離れて! その女、特殊部隊!」
先ほどまでの騒ぎはどこに行ったのか、喧騒は静寂へと切り替わる。
一人を除く全員の視線が一点に集中し、その視線の先、真理の額から一筋の汗が流れ落ちた。
【D-4/道沿いの一軒家/一日目・早朝】
【天宝寺 アニカ】
[状態]:全身にダメージ(小・回復中)、顔面に腫れ(回復中)、頭部からの出血(回復中) 、疲労(大)、精神疲労(中)
[道具]:催涙スプレー(半分消費)、スタンガン、八柳哉太のスマートフォン、斜め掛けショルダーバッグ、包帯(異能による最大強化)
[方針]
基本.このZombie panicを解決してみせるわ!
1.まずいわ! 特殊部隊じゃない!
2.休んだらここにいる皆からHearingするわよ。
3.Ms.チャコが地下研究施設について何かを知ってるかもしれないわね。
4.私のスマホどこ?
※異能の存在に気がつき、任意で発動できるようになりました。
※他の感染者も異能が目覚めたのではないかと考えています。
※虎尾茶子が地下研究施設について何らかの情報を持っているのではないかと推理しました
※異能により最大強化された包帯によって、全身の傷が治りつつあります。
【八柳 哉太】
[状態]:全身にダメージ(中・再生中)、臓器損傷(再生中)、全身の骨に罅(再生中)、疲労(大)、精神疲労(極大)、山折圭介に対する複雑な感情
[道具]:脇差(異能による強化・中)、打刀(異能による強化・中)、双眼鏡
[方針]
基本.生存者を助けつつ、事態解決に動く
1.???
2.このバカ(アニカ)を守る。
3.休憩後、アニカの推理を手伝う。
4.ゾンビ化した住民はできる限り殺したくない。
5.爺ちゃんが虐殺なんてしてるわけないだろ! ないよな……?
6.圭ちゃん……。
※自分の異能を知りました。
※脇差と打刀が異能により強化され、怪異及び異形に対する特効を持ちました。
【犬山はすみ】
[状態]:疲労(大)、異能使用による衰弱(大)、ストレス(大)
[道具]:救急箱、胃薬
[方針]
基本.うさぎを探したい。
1.???
2.今は自分とここにいる子供達のことを考えて、休憩する。
3.生存者を探す。
4.ありがとう、勝子さん。
※自分の異能を知りました。
【月影 夜帳】
[状態]:ストレス(大)
[道具]:医療道具の入ったカバン
[方針]
基本.この災害から生きて帰る。
1.???
2.和義の情報を得て、少女の誰かの血液を吸う
3.和義を探しリンを取り戻して、リンの血を吸い尽くす
※己が異能を理解しました
※吸血により木更津閻魔の異能『威圧』を獲得しました。
【小田巻 真理】
[状態]:疲労(中度)、右腕に火傷、精神疲労(中)
[道具]:ライフル銃(残弾5/5)、血のライフル弾(10発)、警棒、???(他に武器の類は持っていません)
[方針]
基本.女王感染者を殺して速やかに事態の処理をしたい、が、迷いが生じている。
1.生存を優先する
2.八柳藤次郎を排除する手を考える
3.結局のところ自衛隊はどういう方針で動いているのか知りたい
※まだ自分の異能に気づいていません
【碓氷 誠吾】
[状態]:健康
[道具]:災害時非常持ち出し袋(食料[乾パン・氷砂糖・水]二日分、軍手、簡易トイレ、オールラウンドマルチツール、懐中電灯、ほか)、ザック(古地図、寝袋、剣ナタ)
山歩き装備、暗視スコープ、ライフル銃(残弾5/5)、双眼鏡
[方針]
基本行動方針:他人を蹴落として生き残る
1.この中の誰かを手駒にする
2.捨て駒を集める
※夜帳が連続殺人犯であることを知っています。
※真理が円華を犠牲に逃げたと推測しています。
※己の異能はおおよそ理解していますが、他人には光が見えるとしか伝えていません。
投下終了です
投下乙です
>ギザギザチャートの信頼口座
お互いを利用し合う大人たち、全員が腹に一物抱えているから成り立つ上っ面の関係、さすが汚い大人汚い
目論み通り危険人物たちが見事に集団に忍び込んでしまった、日常の信用がある立場だと強いね
哉太、孫からすれば信じがたいだろうけど、お前の爺ちゃんヤベーやつだぞ、真理を追ってきてるとしたら爺孫と出会いも近いかもしれない
そして過去のテロ事件からの特殊部隊バレ、まだ誤魔化しの利く範囲ではあるけど、ただですら爆弾を迎え入れてしまった状況はよりカオスになってきた
投下します
それは、いつかの夢。
或る記憶、悲劇の過去。
赤い光景、燃える世界。
焼け落ちようとしている二つの死体。
思い出は荼毘に付し、全ては朽ち果てるて。
覚えている、希望など微塵もない赤に塗れた現実(あくむ)を。
覚えている、遠雷のように颯爽と飛び込んできて、己を助けた彼女を姿を。
「……巻き込んじゃって、ごめんね。」
記憶の片隅に、残っている。
青空のような、腰まで伸びた髪の、小さな彼女。
赤い世界に、ただ一人、己に手を伸ばす、蒼の彼女。
「……もしもこの先、たくさん苦しい事があったとしても。あなたは、生きたい? 」
問い掛けるような、悲しげな声。
その意味を、その答えを、正しく理解できず。
生存本能のままに、その手を取った。
8年前に起きたとされる連続放火事件。
生存者0と言われた凄惨にして悪辣な犯行。
とあるエージェントが救出して、事件の影に隠された唯一無二の生還者。
これだけの大事件にも関わらず、犯人の捜査は突如として打ち切られた。
一説によれば※※※※※※※※※※※――――
これは、一人の少年の前日譚(プロローグ)
全てが燃え尽きた赤い世界で、蒼の少女に助けられた少年の。
後にエージェント、天原創と呼ばれる事となる記憶を喪った少年の物語の1ページだった。
◯ ◯ ◯
曙色の輝きが村を差す。
既に夜明けは近く、太陽の姿が山より漏れて見える早朝頃。
(……柄にもなく、昔のことを思い出してしまったか。)
高級住宅街へと向かう道すがら、天原創の頭に浮かんだのは、特に気にしなかったはずの過去。
いや、『天原創』という人間が生まれたあの日の事である。
天原創と言うのは、かつて火事から自分を救い出してくれた、とある女性が名付けてくれた名前。
過酷な未来を代償に、新たな名前とエージェントの使命をその内に、今に至った自分という証。
『少年』が覚えている最初の記憶は、炎の中で手を差し伸べてくれた女性の姿だけだ。
『少年』を助けた女性の名は『青葉(あおば)遥(はるか)』。とある特務機関に所属するエージェントであり、今回の火事もまたその任務に関わる事柄に関連する事であった。
だが、少なくとも少年を助けたのは遥の独断。上司に直談判し、少年をエージェントとする事で上は納得してくれたらしい。
失った記憶を取り戻す気は、あったのか、それとも無かったのか。それは少年にすらわからなかった。
それとも、取り戻す程の価値すら、彼にとっては無かったのかもしれない。
そして青葉遥、特務機関のエージェント。表向きでは学校の先生をやっているとか、天原創に対して「実は正義の超能力者」だとか「悪い神様を追っかけて地球に来た宇宙人」とか言いふらして、彼を誂っていたとか。
真偽の程は兎も角、彼女のお陰で天原創という少年は優秀なエージェントへと育ったのだ。
(今更、こんな事懐かしんでいてもな)
「……? どうしたんだい、天原くん?」
様子を気にしてか、スヴィアが話しかける。
少なくとも、今の天原創の表情はなにか考え込んでいるように見えたからだろうか。
「気を張ってくれているのは助かるが、それでも君は年端も行かない子供だ。無理はしないで欲しい。」
「いえ、そういうわけにも行きませんので。」
「勿論この状況だ。気を抜けとは言わないが、ボクだってこれでも大人なんだから、素直に頼ってもいい。一人で抱え込む必要なんて無いんだ。………人は、自分で思っているよりも自由なんだからね。」
「……その言葉だけでも、受け取っておきます。」
ぎこちない様子で、一応の返答。
天原創としては、タイミングが良いのか悪いのか、スヴィアの姿が、あの彼女と被って見えてしまった。
勿論、別人だというのは分かる。それでも、思うところは全くない、と言われるとそうではないかもしれない。
そういえば最後の部分、彼女も同じこと言ってたような、なんて感傷を思い浮かべながら。
「最近の学生は何事も抱え込むのが性なのかな?」
冗談混じりにスヴィアが呟く。
天原創といい、妙に何かしら考え込んでいる日野珠といい、こっちからアドバイスしたとは言え思う所が出来たであろう上月みかげといい。
斯く言うスヴィア自身としては、「こっちは大人というか先生なんだし、もうちょっと頼りにしても良いんだぞ」とは言いたい所。
「私は特に抱え込むような悩みはないかな〜? ……って訳じゃないけど私だけなんかハブられてない?」
等と気の抜けた返事をしたのは朝顔茜。
実際ハブられてる訳では無いが、会話の流れ的なものに一人置いていかれてる感。
「創くんと茜さんだけ恋バナには無縁だからじゃないかな?」
「ひどくないっ!?」
そして突っ込まれるように入る日野珠の容赦ない一言。
男友達はいるが、別段恋に至るような男子はいない。氷月に関しては仲良くなりたいとは思ってるが、そっちは女の子だしそもそも同性愛に興味があるかどうかと言われると否。
「…………」
「ちょっ、天原くんもちょっとショック受けて泣いてるー!?」
「・・・俺は泣いてなんかいない。」
流れ弾と言わんばかりに多少ショックだったのか、天原創の目尻にも涙が浮かんでいた。
「………みか姉。」
唐突だった。日野珠が、徐に足を止めて、上月みかげに声を掛けたのは。
呼ばれた上月みかげ当人は、多少首を傾げるも、それ以上に疑問に思うことはない。
「珠ちゃん、どうしたの?」
「私が山奥でよく探検しに行くのは、知ってるよね?」
問い掛けられたのは、この村においては有り触れた日常の一端。
日野珠という少女はその好奇心旺盛さから、色んな場所へ一人で探検しに行っては、ときには大人のお世話になることも屡々だ。
それは、上月みかげもよく知っていた。
「それなのにさ、記憶に靄が掛かったみたいに覚えてない、というよりもちゃんと覚えている事があるの。」
「……覚えている、事? 珠ちゃん?」
普段の日野珠の明るい雰囲気ではない。この状況下、だからという訳ではなく。
まるで何か、何か禁断の扉を開いてしまった、そんな感覚。
「前にね、私、何か見つけたはずなんだ。」
「何か? 何かって?」
「その時の記憶だけ、すっぽり抜け落ちてたの、私。」
抑揚もなく、淡々と、らしくもない表情で。断片的に。
☆
◯月◯日、いつものように山奥に探索しに行って
『■任! どう■■事で■■!?』
■■■■を見■■て
『分か■て■■■■■■■■■!? そんな事したら、最悪、この村が■■■■■』
誰かが■■■■■
『そ■に■■、■さんが■■■■すよね!?』
『それが■■■のだね?」
『■も未■■■■の■■に■げ■れるのなら本■だろう」
『――! ■■、それ本気で■■■■■■■■■、■■■■■■■政■に伝え――』
『――そうか、じゃあ死ね。」
『――は、な、何だお前たちは!? あ、ああああああああああ■■■■■■■■■―――――――!?』
人の声、■任、訴え、誰か、村の関係者?
誰か、思い出せない、絶叫、宣告、鮮血。
赤い血溜まり、ジャガー?、怖い、逃げないと。
『――チッ、村の連中は殺すななんぞ、■■■のジジィめ。」
バレた、バレた、殺される、なんで。
思い出せない、暗い、暗い、助けて。
『……記憶だけは消しておくか。」
☆
「……えっ?」
上月みかげは硬直し、思考が凍結する。いや、それは他にとっても同じ事。
ノイズが走ったかのような、そんなちぐはぐさ、違和感。それを自覚して。
「その後、ね。私は、圭介兄ぃを見つけたんだけど、さ。私、その時すっごく頭が痛くて。でもね、はっきり覚えてる事が、あるの。」
それでも、あの■■から逃げ出して、頭痛を我慢して、森から抜け出して。
藁にもすがる思いで、見えた人の所まで辛うじて走って。
日野珠が見かけた、その人とは。
「圭介兄ぃ、お姉ちゃんへの告白の練習していたんだって。圭介兄ぃが本当に好きなのはお姉ちゃんだって、そんな事言ってたの。」
「……珠、ちゃん?」
その言葉は、上月みかげにとって、決定的な亀裂だった。
(……!?)
(……これは……!)
不味い。いや、不味い所の騒ぎではなかった。
天原創の異能有りきの結果とは言え、真っ先に記憶の齟齬に気づいたのは日野珠。
その上で、『忘れていて、その上ではっきり覚えている記憶』が残っていたことが致命的だった。
これは、誰にとっても予想外の事態でもあるのだから。
少なくとも、上月みかげの異能にある程度察しが付き、刺激しないように経過を観察する方針にしていたスヴィアと天原にとっては芳しくない事態である。
「あれ、でも圭介兄ぃが好きなのはみか姉? いやだって圭介兄ぃが私に嘘をつくなんてあり得ないでも私の中だと圭介兄ぃはみか姉に告白違う圭介兄ぃが好きなのはお姉ちゃんだからあれあれあれおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいどうしてどうしてどうしてどうしてどうして―――――――――!?」
錯乱し、頭を掻きむしる。
見るかに日野珠の様子が可笑しいものへと移っている。
「珠ちゃん、落ち着いて! 何も可笑しくなんて無いよ、『圭介くんは私に告白――」
「みか姉! 圭介兄ぃが好きなのはお姉ちゃんだったんだよ! だったら圭介兄ぃが自分からみか姉に告白したのはおかしいよ!」
収めようとしたみかげへ、錯乱状態の日野珠の怒号が飛んだ。
目を見開き、まるで別人の形相で。
上月みかげに、目を伏せていた真実を叩きつけるように。
「――――――――え、あ。」
「そうだよおかしいでもあれでもどっちが正しいのおかしいのはどっちあれ頭頭頭が痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――――――!!!!!!!!!!!!!」
「ちょ、ちょっと珠ちゃん!? い、一端落ち着こう―――」
唖然とするみかげを他所に、日野珠の錯乱っぷりはますます悪化。
見かねた茜が呼び止めようとした時には既に遅い。
「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
「ま、待って!!」
発狂したかのような叫び声を上げて、勝手に何処かへ走り出してしまう。
慌てて茜も、珠を追いかけるように向こう側へと走っていく。
「おい待て、いくら朝が近いとは言え単独で……!」
「――天原くん、気持ちは分かるが今は落ち着くんだ。」
「ですが、先生……!」
「落ち着くんだ……ッ。」
いくら朝日の光が照らしているとは言え、単独行動など危険も危険。
すぐさま対応しようとした天原を止めたのは、今にも歯を食いしばりそうな表情のスヴィア。
見るからに後悔の表情。対応を先延ばしにした自分を悔やむその感情。
追いかけてるのはいい。だがそれでは上月みかげを放置することになる。
逆に連れて行ってもさらなる刺激になってしまい混乱を加速させるだけかもしれない。
どうすれば良い、と脳細胞を回転させようとした。
―――その直後である。
「――――ッッッ!?」
銃声。それは、それなりに遠く離れた天原たちにも聞こえる程に。
特に聴覚が強化されているスヴィアにとっては、思わず耳を抑えなければならない程には。
それが何発も続いて、そして止む。
「……先生っ!」
「だ、大丈夫だ。少し耳に響いただけ、だ。」
抑えた耳を離し、多少音が聞こえづらいながらも天原の言葉に応じる。
思っていた以上に響いたが、直接的なダメージは小さい。と言っても多少は耳鳴り状態ではあるが。
「……無事かね、上月くん……上月くん!?」
周囲を見渡してみれば、いつの間にか上月みかげの姿は無い。
天原が足元をよく見れば、道路の隙間から生えた雑草を踏んだ、分かりやすい靴の痕跡
「……まさかっ!?」
考えられるのは一つ、上月みかげもまた何処かと走っていってしまったということ。
あの銃撃音声の間に。一体どうして、と。
「……クソっ!」
思わず、スヴィアはそう吐き捨ててしまった。
ボクのせいだと、ボクが様子見に徹してしまったからだと、後悔していた。
ほんの少し、瞳から水滴が少し零れ落ちる。
「……先生。」
「……はは、情けないな、ボクは。……三人を探そう、まだ近くにいるかもしれない。」
それでも涙を拭い、三人を探そうとするのは、如何せん大人としての、先生としての責任を全うしようとする心なのか。
でも、打ち拉がれる時間なんて無い。そんな事をするなら、あの三人を探すことを優先するべきだと、そう考え直して。
「……誰、ですか?」
そこに、少女はいた。
包帯を巻いて、今にも新しい火傷の痕を残す、そんな少女の姿が。
二人の前に、現れたのだ。
【E-5/商店街と道路の間/一日目・早朝】
【スヴィア・リーデンベルグ】
[状態]:健康、耳鳴り(小)、動揺(小)
[道具]:???
[方針]
基本.もしこれがあの研究所絡みだったら、元々所属してた責任もあって何とか止めたい。
1.先生は、生徒を信じて、導いて、寄り添う者だ。だからボクは……
2.……三人を探そう。まだ遠くには行っていないはずだ。
※『去年山折圭介が上月みかげに告白して二人は恋人になった』想い出を真実の出来事として刻みました。ですが、それが上月みかげの異能による植え付けられた記憶であるということを自覚しました。
【天原 創】
[状態]:健康、動揺(小)
[道具]:???、デザートイーグル.41マグナム(8/8)
[方針]
基本.この状況、どうするべきか
1.ひとまず少女たちを安全なルートで先導する
2.女王感染者を殺せばバイオハザードは終わる、だが……?
3.スヴィア先生、あなたは……
4.まさか、こんな事になるとは……。早く三人を探すべきか。
※スヴィアからのハンドサイン(モールス信号)から、上月みかげは記憶操作の類の異能を持っているという考察を得ました
【哀野 雪菜】
[状態]:後悔と決意、右腕に噛み跡(異能で強引に止血)、全身にガラス片による傷(異能で強引に止血)
[道具]:
[方針]
基本.女王感染者を殺害する。
1.止めなきゃ。絶対に。
[備考]
※通常は異能によって自身が悪影響を受けることはありませんが、異能の出力をセーブしながら意識的に“熱傷”を傷口に与えることで強引に止血をしています。
無論荒療治であるため、繰り返すことで今後身体に悪影響を与える危険性があります。
◯ ◯ ◯
「あああああ、ああああああああああああああああ!」
「まって珠ちゃん! どうしたの、一体どうしたの!?」
逃げるあの子と、追いかけるあの子を。私は追いかけている。
今更、私にそんな資格なんて無いはずなのに。
珠ちゃんを追いかけて、私はどうしたいの?
銃声が聞こえて、何処に危険な誰がいるのが分からないのに。
私は、私の理想の中に溺れていたかったのかもしれない。
現実を受け入れたくなんて無かっただけかもしれない。
私は、現実(あくむ)を知っていたのに。
ずっと我慢していたくせに、我慢して、我慢して、我慢して。
我慢できなくて。
『受け入れろとは言わない。気持ちをぶちまけても構わない。それでも、好きな人が本当に好きだと言えるのだったら、彼の心まで裏切らないようにしてくれ。』
ああ、そうだった。そうだったんだね、先生。
私は、圭介くんを裏切っていたんだ。
こんなずるいことで、異能(わけのわからないちから)で、みんなを騙して、私の現実を押し付けようとした。
私への、罰なのかな。
あやまらないと、手遅れになる前に、手遅れになる前に。
せめて、後悔するんだったら、全てぶちまけてから。そうじゃないと。
私は、私自身に納得なんて出来ないよ。
だから、今は二人を追いかけないと。
「―――おい、お前らこんな所で何やってる!?」
―――走る二人の前に、警察の人?
【D-5/一日目・早朝】
【日野 珠】
[状態]:錯乱(大)
[道具]:なし
[方針]
基本.何もわからない
1.みか姉、なんで嘘付いたの? どうして??
※『去年山折圭介が上月みかげに告白して二人は恋人になった』想い出を真実の出来事として刻みましたが、それが嘘だと認識しました。
【朝顔 茜】
[状態]:健康
[道具]:???
[方針]
基本.自分にできることをしたい。
1.上月みかげと圭介を再開させる。
2.優夜、氷月さんは何処?
3.あの人(小田巻)のことは今は諦めるけど、また会ったら止めたい
4.今は珠ちゃんを追いかけないと
※能力に自覚を持ちましたが、任意で発動できるかは曖昧です
※『去年山折圭介が上月みかげに告白して二人は恋人になった』想い出を真実の出来事として刻みました。
【上月 みかげ】
[状態]:健康、現実逃避から覚めた事を起因とする精神的ショック(中)
[道具]:???
[方針]
基本.私は―――
1.二人を追いかけて、珠ちゃんに、謝らないと
2.私と圭介君は恋人……そう、思い込みたかった
【薩摩 圭介】
[状態]:左頬にダメージ。計画の実現が難しい事が分かった事と銃を簡単に撃てなくなってしまった事に対してイラつきが止まらない
[道具]:拳銃(予備弾多数)
[方針]
基本.銃を撃つ。明日に向かって撃ち続け…たかったが考えなければいけなくなってしまった。
1.結局考えて銃を撃たなきゃいけないのかクソォォォォォ!!
2.放送施設へと向かう?それとも研究所へ向かう?そもそも研究所ってどこだ?
3.協力者は保護、それと同時に今直面している問題を解決できる方法も話し合いたい
4.放送によって全生存者に団結と合流を促し、村を包囲する特殊部隊に対する“異能を用いた徹底抗戦”を呼びかける(女王感染者を知った後にした方が良いのかを考えている)
5.それから包囲網の突破によって村外へとバイオハザードを拡大させ、最終的には「自己防衛のために銃を自由に撃てる世界」を生み出す。
6.それまではゾンビ、もしくは確実に女王感染者じゃない人(もしかしたら特殊部隊の奴等なら…)を撃ち続けて気晴らしをする
投下終了します
薩摩圭介の状態表から備考が抜けていました
[備考]
※交番に村の巡査部長の射殺死体が転がっています。
※薩摩の計画は穴だらけですが、当人は至って本気のようです…が、少しだけ穴を認識しましたが、諦めるつもりは毛頭ありません。
※放送施設が今も正常に機能するかも不明です
投下乙です
>End Dream→Starting Nightmare
あーもうめちゃくちゃだよ。みかげの異能による無意識洗脳は破綻は見えていたけど、ついに突き付けられてしまった
盤石だったチームも珠の暴走によって分断され、それぞれが危険人物とエンカウント、プロである天原くんの方はともかく戦えそうなのが茜しかいない方はヤバそう
銃キチ薩摩も夢破れた今どう出るかも読めない、無差別に撃ってくることはないと思いたい所だけど
投下します
神楽春姫。
山間の集落・山折村の始祖に連なる血統であり、村の全てを司る女王である。
過去現在未来に並ぶ者なき美貌、神が手ずから彫刻したかの如き均整の取れた肢体、身に纏うは触れれば裂かれるほどに静謐な王気。
その全ては、己こそが頂点であると覚っている春姫の精神によりもたらされしもの。
春姫は何も学びはしない。生まれながらに世の全てを識っているからである。
春姫は何も鍛えはしない。生まれながらに世の全てを凌駕しているからである。
春姫は何も恐れはしない。生まれながらに世の全てを呑み込んでいるからである。
悠然と、春姫は一歩を踏み出す。
その一歩が刻んだ静かな足音は、対峙する二匹の魔性――ワニたちを恐れさせる。
ワニという自然界の強者が、ヒトという自然界の弱者を恐れている。
これは、ワニたちが本当の意味での天然自然から生まれた存在ではなく、あくまで異能により生み出された存在であることも原因の一つだ。
オリジナルであるワニ吉という存在も、カテゴリでくくれば春姫や他の者らと同じウイルスの正常感染者に過ぎない。
異能で生まれた存在ゆえに、異能の影響もまた受ける。
春姫の異能は異常感染者であるゾンビたちの脳内シナプスに働きかけ、敵対意識を奪い去るものであるが、副産物として正常感染者の意識に重圧をかける力もある。
強い意思を持たれれば打ち破られてしまうとはいえ、春姫がこの時相対しているワニたちにそこまでの自我はない。
結果、自分たちより圧倒的弱者であるはずの春姫の眼光が、まるで巨大な竜のように恐ろしく思えてしまうのだ。
じっと、睨み合うこと一分、二分……十分。
「飽いたわ。所詮は畜生であったか」
沈黙を破ったのは、春姫だった。
十分もの間、微動だにせずワニどもの動きを待ち受けていたのは構えた剣が重かったからだ。
女王たるものが足軽のように駆けていくなど恥ずべきこと。
来た順に迎え、斬り捨ててくれよう。そう思っていたのだが、このワニたち一向にかかってこない。
ご立腹した女王は、もはやかける情けは尽きたとばかりに宝剣を振り上げた。
「妾の歩みを遮るもの、すなわち叛逆者なり」
振り上げた剣の重みに一瞬ひっくり返そうになるもなんとか踏み留まり、春姫はじり……じり……と間合いを詰めていく。
ワニたちは固唾を呑んで見守る。いつだ、いつ打って出る?
この恐ろしいヒトのメスはしかし一匹だ。数の利はワニたちにある。
「畜生であれ、妾に牙を剥く以上見逃す道理はない」
左右に分かれ同時に飛びかかれば、いかにこのメスの刃が鋭かろうとどちらかはあの柔らかそうな肉に歯を突き立てることができる。
無論、どちらかは確実に命を落とすことになるが、異能で生み出されたワニたちに利己愛はない。
結果的に目的を遂げられるのであれば、相対としてのワニ吉の勝利となる。
と、論理的に理解はしていても、行動を許さないのが春姫のもたらすプレッシャーである。
ワニと違い、道具を持たねば犬一匹にすら殺されかねない脆弱な種族、ヒト。
しかしヒトは、道具を持つことにより自然界のあらゆる生物を凌駕し、この星の霊長となった。
油断してはならない。それは本能からくる警告だ。
ゆらゆらと……まるで陽炎のごとくゆらめく春姫の剣先は、今だ飛びかかろうとワニたちが行動に出る半瞬先に、突き付けられる。
そのため睨み合いは膠着し、時間だけがいたずらに過ぎていった結果、春姫は飽きた。
均衡を崩し、ゆっくりと接近してくる死の刃。こうなれば、ワニたちももう様子見などしていられない。
素早く左右に散開し、春姫を挟む位置取り。
「ほう? ようやっと目が覚めたか。よいぞ、二枚におろしてくれよう」
春姫の異能が与えるのはあくまで精神的な重圧であり、強い敵意を持たれればそれを掣肘するほどではない。
ついに殺気を漲らせる二匹の捕食者に対し、春姫はうっすらと笑う。
凄絶な美貌が歪む。村の男が見ていれば、慕情よりも先に悪寒を覚えるほどだろう。
バネが弾けるように、二匹のワニは春姫へと突進した。
迎え撃つ春姫、構える宝剣を腰だめにし、剣の重みに導かれるように回り出す。
まず右のワニを両断し、回転の勢いを逃さず左のワニを真っ二つ!
「……グァ???」
剣の重みに振り回された春姫の体はグンと大きく傾ぎ、ワニたちの目測から外れる。
なにせ踏ん張りもしていない手で振っただけの剣。当の春姫本人ですら予期していない動きに、ワニたちはついていけない。
目標を見失ったワニAの先には、自分と同じ顔をしたワニBがいる
鋭い歯は春姫の柔らかな肉ではなく、同胞であるお互いを喰らい合ってしまう。
空中でワニABとなったワニたちの傍ら、まだ回っていた春姫の宝剣は偶然にもワニABの頭を叩いた。
それでワニたちは消えた。勝負あり。
「そうであった、化生であったな。ワニの肉とやらも一度食してみたかったが」
勝利した春姫は宝剣を鞘に納める。
春姫には何の感慨もない。女王たらば、勝利は必然である。
だが、無傷ではない。くるくる回って三半規管にダメージを受け、春姫は軽く酔った。
「むう……造作もないとはいえ、化生を侮ってはならんな。妾をここまで追い込むとは」
春姫は手近な椅子に腰を下ろし、死闘の傷を癒やす。
亡者となった村人たちは女王である春姫に手向かうことはない。それは世の理である。
だが化生、あるいは正常感染者はそうもいかない。先ほど郷田のが相手取った、いわゆる特殊部隊という輩もそうだ。
いかに春姫が天上天下に唯一人の至高存在としても、その身体は未だ絶対には程遠い。
より強い力がいる。より強く輝く、女王の象徴となる力が――
「ぉ前はぁ……日本人だな?」
うとうとと――思索に耽っていた春姫は、気付くのが遅れてしまった。
西から、ワニではなく別の存在が接近してきていたことに。
日本人に苛烈なる殺意を抱く男、物部天国に、先に発見されてしまったことに。
「いかにも妾は日本人であるが。貴様は何者だ?」
「日本人はぁ……死ね」
春姫の、女王直々の問いに闖入者が応えることはない。
艶のある長い黒髪、宝石のように深く済んだ黒瞳。白と朱の巫女装束、安全第一と印字されたヘルメット、神社古来の宝剣。
神楽春姫を構成するあらゆる要素が、「こいつは日本人だ」という確信を物部天国に抱かせる。
であれば、導き出される結果など決まっていた。
神楽春姫は、携えていた宝剣逆手に持ち、躊躇うことなく自らの心臓に突き刺した。
白い衣を真っ赤な血に染めて、神楽春姫はここで命を落としたのだった。
(……ここは何処だ?)
神楽春姫は暗黒の海にいた。
先ほどまでいた山道ではなく、春姫の周りには闇しかなかった。
ともすれば自分の手すらぼやけてしまうほど濃密な闇の触手が、春姫を貪ろうとまとわりついてくる。
(あ奴の手にかかり、妾が死んだというのか?)
春姫が覚えている最後の記憶は、祭服を着た小汚い男に聞き捨てならない侮辱を受けたところまでだ。
女王たる春姫に死ねなどと、万死に値する不敬である。
だが、気が付けばあの男はおらず、どころか春姫はまるで宇宙に放り出されたかのような場所にいる。
死後の世界、というやつだろうか。であればこの闇は春姫を涅槃へと誘う地獄の官吏か。
なんとなく現状を理解した春姫は、
(不敬。妾は女王であるぞ。下がれ、下郎!)
剣を抜き放ち、裂帛の気合を迸らせた。
無明の暗黒の中にあって、それでも神楽春姫が揺らぐことはない。
光がない? 笑止。まさに笑止千万。
(この世の光とは、すなわちこの神楽春姫自身である――!)
ここに光がないわけがない。神楽春姫こそが光なのだから。
(妾は女王である。この妾の魂魄を、閻魔如きが自由にできると思うてか!)
春姫は宝剣を掲げる。
神社に伝わる儀礼用の宝剣は、ただ装飾されただけの刃もないなまくらだ。
そのなまくら剣がいま、星をも凌ぐ輝きを放っている……!
(これこそは妾が女王たる証。混迷を切り裂き、世に一筋の閃きをもたらす救世の剣なり!)
闇を、光が斬り裂いていく。遍く世の四方を照らす曙光がここにある。
もはや太陽と表せるほどに光り輝く宝剣を手に、神楽春姫は浮上していった。
ここは地獄か煉獄か。いずれにしろ春姫がまだ来るべき場所ではない。
春姫がいまいるべき場所はただ一つ。災いに晒されし山折村。春姫が治めるべき故郷である――!
.
春姫はムクリと起き上がり、まだそこにいた物部天国に剣を突きつけた。
「女王たる妾に対する無法狼藉、もはや許しがたし。罪の重さを測るまでもない。首を差し出すがよい!」
貫かれた心臓から噴出した血によって、春姫の巫女装束は真っ赤に染まっている。
にも関わらず平然と立ち上がってきた春姫に、天国の怒りは即座に臨界を突破した。
「ァァアアアアアアアアアア日本人日本人日本人! なぜ死なないなぜ死んでない許されない死ね今すぐ死ねお前たちは生きていてはならない死すべきだ死ななければならない!」
日本人はみな死ななければならない。生きていてはおかしい。
一度殺した日本人など以ての外だ。即座にすぐに速やかに念入りに確実に徹底的に殺して殺し死死死……天国の異能が炸裂した。
「死ね日本人! お前たちは地球の癌、世界の膿、宇宙の塵! 死ね、死ね、死ね死ぬのだ!」
「やれやれ、化生の次は狂人と来たか。妾の村を土足で荒らす不届き者がこれほどまでに醜悪であるとはな」
だが、二度目はなかった。
物部天国の異能は、日本人を呪い殺す邪まな呪詛は、神楽春姫に届くことはない。
春姫がその手に携える宝剣、否、異世界の聖剣ランファルトが、春姫に振りかかる呪いを片端から焼き払っているからだった。
「なぁ……? なんだお前は……なぜ死なないのだ……? 日本人なのに……? なんで生きていていいと思っているのだ……?」
「日本人日本人とうるさい猿よな。妾は女王であるぞ。貴様ごとき野蛮な気狂いの言霊が通じると思うてか」
春姫は無論、天国の異野のことなど露とも知らない。
彼女にあるのは己が女王であるという圧倒的な自負、常にそれだけである。
神社に伝わる宝剣が実際に光り輝いているのも、女王が携えし剣であるならば当然のこと。何もおかしくはない。
「キィィエエエエエエエッッ! 許されざる日本人、日本人のくせに日本人の分際で日本人日本人日本人……!」
「もはや言葉すら通じぬか。であれば是非もない」
指が欠けた拳を握り、物部天国は神楽春姫へと殴りかかる。異能が通じぬならば直接打ち殺すまで。
それは実際、春姫に対し最適解ではあった。
天上の美が地上に舞い降りた存在である春姫とて、野蛮なハンマーの一撃には到底耐えきれはしない――先ほどまではそうだった。
だがしかし今、春姫の手には聖剣がある。
「空に太陽、地に人ありき。しかして妾はその狭間に立ち世を背負う者……すなわち女王である」
神楽春姫には意志がある。他を圧倒する強烈な個が春姫を構成する全て。
この世界の中にあるもう一つの小さな世界。
神楽春姫とはすなわち、意志を持つ世界そのものである!
「神楽春姫。この名を土産に逝くがいい――!」
聖剣が主の求めに応じて破邪の光を撃ち放つ。
それは闇を裂く光にして、女王が臣民に見せる希望の輝き。混迷の世を導く救世の一撃であった。
光は束ねられ、超高温の熱線となって駆け抜ける。
線が過ぎた後には、人の胸辺りの高さで切り揃えられた森だけがそこにあった。
狂人の姿はもはやない。女王の前に滅び去ったのだった。
「……妾の村に不浄は許さぬ。何人たりとてな」
春姫は宝剣を――いまや聖剣となった宝剣を、鞘に収めた。
そして当初の考え通り、研究所のある西へと足を向ける。
春姫の歩みに陰りはない。手にする剣が見せた強大な力を疑うこともない。自らが死の淵より蘇ったことを不思議とも思わない。
その聖剣は山折の血族にして異世界の勇者ケージ・スゴクエライ・トテモツヨイ・ヤマオリによって村にもたらされたものであることも。
勇者がゾンビとなったため主を失い、存在を保てず霧散していたことも。
滅ぼすべき魔である【巣くうもの】の気配に引き寄せられ、光の粒子となって周辺を漂っていたことも。
さらに物部天国の日本人を殺す【呪い】によって命を落とした神楽春姫を、魔に立ち向かう次なる勇者として選んだことも。
死に瀕した春姫を救うため、聖剣の欠片が春姫と融合し心臓を再生したことも。
本来であれば高潔な人物を主に選ぶ聖剣の意志が、融合が仇となり強大な自我を持つ神楽春姫によって塗り潰されたことも。
田舎の村の宝剣に聖剣の力だけを移したことも。
春姫は知らず、ただ己が女王であると天地に誇る。
それこそが神楽春姫の神楽春姫たる所以なのだから。
【F-2/道/一日目・早朝】
【神楽 春姫】
[状態]:健康
[道具]:血塗れの巫女服、ヘルメット、御守、宝聖剣ランファルト
[方針]
基本.妾は女王
1.研究所を調査し事態を収束させる
2.襲ってくる者があらば返り討つ
※自身が女王感染者であると確信しています
【宝聖剣ランファルト】
異世界の勇者ケージ・スゴクエライ・トテモツヨイ・ヤマオリが携えし「聖剣ランファルト」が、山折村の神社に伝わる宝剣を依代にした姿。
ランファルトという銘はかつて聖剣の担い手であった勇者の名から取られている。
本来の主がゾンビになったため実体が保てず霧散していたが、滅ぼすべき悪――【巣くうもの】の顕現に呼応して再び現れた。
かつての勇者の手にあった時代から悠久のときが過ぎ、性質はかなり変化している。
神楽春姫の神罰を受けた物部天国だが、死んではいなかった。
目も眩むような光の斬撃は春姫自身の目も眩ませていたため、余波の衝撃で吹き飛ばされた天国はなんとか逃げおおせることができたのだ。
大きな傷を負ったわけではなかったが、それでも今の物部天国は敗残者だった。
「日本人が日本人め日本人が日本人が……神楽、春姫ェ……! アアア殺す殺す殺す殺す、必ず必ず必ず殺す……!」
日本人殺すべし。物部天国の救済を拒んだあの魔女、神楽春姫を許すまじ。
殺さねばならない。必ず殺さねばならない。絶対に殺さねばならない!
それには力がいる。開眼した力だけでは、一度死んで生き返った魔女を殺し切るにはこれでも足りない。
さらなる力を、武器を、呪いを、死を。
人でありながらも邪悪なる魔そのものとなって、物部天国は這い進んでいく。
日本人の一切根絶、それだけを心の支えにして。
【F-3/森/一日目・早朝】
【物部 天国】
[状態]:疲労(中)、右手の小指と薬指を欠損
[道具]:C-4×3
[方針]
基本行動方針:日本人を殺す
1.日本人を殺す
2.日本人を殺す
3.日本人を殺す
4.神楽春姫を今度こそ絶対に完膚なきまでに殺す
診療所を離脱し、一路北に向かっていたワニ吉――の中に潜む何か――は振り返った。
何かが見えたわけではない。だが予感がした。
いま、何か恐ろしいモノが生まれたのだ、と。
その方角は、分身を退けた女がいる方角だった。
心臓が早鐘を打つ。
あの女は先ほども恐ろしいと思った。だが今は、今感じるプレッシャーは先ほどの比ではない。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
絶対にあの女に出遭ってはならない。
そう確信している。理屈ではない、本能だ。
あれは敵とか獲物とかそういうモノではない。
言うなれば人間の形をした滅びそのものだ。ヒトに対して自身がそうであるように、自分にとっての天敵があの女なのだ。
初めて知った感情、その名を恐怖と呼ぶことも知らず、かつてワニ吉だった何かはバタバタと必死に逃げていく。
邂逅の時は、まだ遠い。
【D-2/道/一日目・早朝】
【ワニ吉】
[状態]:『巣くうもの』寄生。飢餓感(超極大)による理性消失。『肉体超強化』の疑似再現により筋肉肥大化中(現在体長4メートルほど)。
分身が4体存在。
[道具]:なし
[方針]
基本.喰らう
1.拠点を移す(人の多そうな場所へ)。
2.異能者の脳を喰らい異能を解析する。
3.分身に食えるものを捧げさせる。肉体の強化が完了したら全てを喰らい尽くす。
4.神楽春姫から逃げる。絶対に近づかない
※分身に『肉体超強化』の反映はされていませんが、
『巣くうもの』が異能を掌握した場合、反映される可能性があります。
投下終了です
投下乙
>導かれしモノたち
なんか自信満々に生きてたら呪いや巣食うものくんみたいな邪の者の天敵属性を獲得した女
君だけ世界観違くない? まあ異世界転生者がいる時点でおかしいんだけど
同志やワニくんの他の参加者への脅威は変わらずだけど、神楽春姫と言う天敵を得てどうなるのか
春姫は春姫で特殊部隊とかには勝てなそうなので妙な三竦みがある
あと連絡事項なのですが
大半のキャラクターが早朝に達しておりますので、現在の予約が途切れた段階で定時会議を投稿する予定と考えております
ですので会議前の話を投稿したい方がいらっしゃる場合は、お早めに予約するようお願いします
投下します
ある任務を終えた後の事。
廊下で美羽の道を塞ぐように立つ男がいた。
特殊部隊だけあって、整った体格に男らしい顔立ち。
女性が好む中年の男性像は、概ねこういうのではないだろうか、
とでも言いたげなぐらいに完成されているかのような姿をした人物。
彼女同様に、十年以上SSOGに従事し続けてきた男、伊庭恒彦。
「おい、どけよ脇役。」
これが同じ隊員の振る舞いかと疑いたくなるように上から目線の物言い。
特殊部隊と言う場所に配属されようとも、彼女は昔からこの態度のままだ。
今更改めるつもりはない。仕えるのは政府であって、同僚ではないのだから。
脇役と言うのは彼女の中での伊庭のあだ名で、主に彼の強みは仲間との連携だ。
仲間のサポートに徹する能力は乃木平を以上ではあるものの結局は裏方メイン。
表立って活躍することはないし、何よりもこの男が気に入らないのでそう呼ぶ。
「ハッ、その脇役に助けられてたお前がよく言えたな。」
「あ?」
まーた始まったよ、と内心でごちる美羽。
長年のベテランである吉田にさえ皮肉を零す男だ。
昔はこういう奴ではないのは長い付き合いで知ってはいる。
例えるならば、昔は乃木平と広川を足したかのような輝いてた奴だ。
礼儀正しく、理想を追い求め続けていたこれもまたある意味忠犬のような。
今となっては、最早見る影もないぐらいにクールを通り越してドライになる。
もっとも、彼がどう変わろうと知ったことではない。興味もない。
ただひたすらに面倒くさい。口喧嘩で勝てないことをいいことに、
言いたい放題言う彼を気に入ると言う方が稀有な人間だろう。
「お前が独断専行したお陰で無駄な労力を費やした。
ついて行こうとした隊員が、危うく犠牲になるところだったぞ。」
「ハッ、そいつぁ悪いな。てめえら凡人にゃ、
機械化したこっちについてこれねえもんなぁ?」
機械化した身体は実験段階とはいえ凄まじいものだ。
世界観を間違えたのではないのかと一時期思った程のオーバーテクノロジー。
実験段階だから世に出回ってないとは言え、とんでもない身体を手にしている。
無論、並の人間ではこの技術の結晶とも言える身体は使いこなせない。
美羽のような頑強な人間の域に達することでようやく実現可能なのだから。
「所詮、暴走族の成り上がりでは下を気遣う器はないらしいな。」
「アァ?」
異様な空気が漂う。
此処に人がいた場合、その気迫に逃げ出してしまいそうな。
そんなピリピリとした空気が漂い始めた。
「それが狂犬とは笑わせる。飼い主に忠実なのが犬だ。
その犬が飼い主、もとい上の命に従わず無駄な犠牲も出しかねなかった。
恩返しか? 所詮お前は、暴走族と言う小さい世界で粋がっていた狂犬にすぎん。」
一触即発。
決して珍しいことではない。
元々この二人は相性がすこぶる悪ければ、
十年以上この仕事で生き延びてきた、つまり何度もしてき光景た。
実も蓋もないことを言うのならば、これはいつもの日常茶飯事。
これを止めるのは何時だって仲裁役である乃木平天、
「あー! 探しましたよ風雅先輩ー!!」
「ゲッ。」
ではなかった。
左耳から右耳へと貫通しそうな、はきはきとした声が届く。
派手な金髪で、普段着ならチャラ男にも見えそうな若い青年。
SSOGきってのムードメーカーとして名高い男、広川成太だ。
声を聞いた瞬間、美羽の表情が凄まじく嫌そうなものへと変わる。
付き合いの長い間柄ではあるが、初めて見る反応に少し伊庭も面食らう。
「おい邪魔すんなヒロイック野郎! こっちは……」
「足、大丈夫ですか?」
「はぁ? 足だぁ?」
「足の音がおかしいからひょっとして故障してるんじゃないかって、
倒れる寸前に天先輩から聞いたんで、俺が様子を見に来たわけですけど。」
先の任務では乃木平も参加していた。
無論、サイボーグの彼女に凡人がついて行けるはずもなし。
それでもなお彼女の動きに合わせ死に物狂いで動いた結果、
無事(無事とは言わない)過労で倒れてしまってたりする。
伊庭が手助けしてなければ色々彼は危うかった場面も多いのだが、
そのことを伝える前にこうして広川が出てきてしまったので止めざるを得ない。
「……言われりゃ、少しおかしいかもしれねえな。」
右足を軽く動かせば、普段とは違った音が何処か混ざっている。
動きに支障が出るほどのものではないが確かに違和感はあった。
戦場で何で彼がそれに気づいてるのか。微妙に呆れ気味な顔になる。
ぶっ倒れるまで他人の心配するって頭おかしいんじゃないのかと思えてならない、
「ほらやっぱり! メンテナンスしに行きましょうって!」
「おい引っ張んじゃねえ! 伊庭ァ! テメエ後で覚えておけよ!!」
ガッと首根っこを掴まれながら彼女を引きずっていく。
サイボーグで体重は結構あるのだが難なく引っ張られる。
とは言えサイボーグ部分となっては放置するわけにはいかない。
伊庭との決着は後回しにせざるを得ず、素直にそのまま引きずられていった。
「どうでした?」
「修理必須だとよ。お陰で暫く動けん。」
両足のない状態で椅子に座りながら煙草を吹かす。
クソまずいの感想に尽きる。タールが余りにもきつい。
こんなのタバコ好きであっても吸わないだろう代物。
現に広川は隣で酷く咽ている。隊員には喫煙者が多く、
慣れてる方でも彼女のだけは未だに慣れないものだった。
「サイボーグってやっぱその辺大変っすよね。」
「ああ。」
「でも俺かっこいいと思うんですよね!
やっぱ正義の味方ってサイボーグであること多いし!
サイボーグ009とか、勇者王ガオガイガーとか。風雅先輩知ってます?」
「ガオガイガーなら分かる。ゴルディオンハンマーは好きだ。」
「風雅先輩、ハンマーと言えばゲーセン出禁になってましたもんね。」
「……見てたのかよ。」
「いえ、ゲーセンの出禁の写真で見ました。」
足が修復されるまでの間、
他愛のない雑談に興じる二人。
と言うより、興じざるを得ないと言うべきか。
離れようにも足はないので移動しようがなければ、
何か身体に異変があった時、広川が離れてたら色々面倒くさいから。
サイボーグは便利なようで実験体な部分はあるので色々と面倒もある。
そうであったとしても、命を救ってもらった以上はその恩を返すつもりだが。
「広川。」
「何ですか?」
「テメエ、なんでアタシに絡む?」
美羽は基本的に隊員と慣れ合わない、或いは相性が悪かった。
皮肉屋の伊庭とはぶっちぎりで相性が悪く、喧嘩は最早日常茶飯事。
熱くなる黒木、粗暴なオオサキとも口論、時には喧嘩になることもある。
笑顔が気持ち悪い蘭木もアウト。面倒ごとを避けたがる三藤は避けるし、
当然経歴と外見の都合も相まって新人の小田巻は乃木平を使って話す。
余り隊員同士必要以上に慣れ合わない大田原、成田辺りは当然な話で。
似たような異質な経歴で入隊している南出とはたまにふざけたりするが、
それ以外で話しかけてくるのは乃木平と、そして何故かこの広川ぐらいなもの。
前者は別におかしくない。成田でも吉田でも伊庭でも社交的であろうとする奴だ。
なので何も問題はないのだが、広川が妙に絡んでくることについては違和感があった。
年代的に話が特に合うわけでもない。特撮とかの話をされても正直まだ分からない。
「風雅先輩がかっこいいからですけど、問題あります?」
「ハッ、元暴走族にかっこいいとか言っていいのかよ、ヒーロー志望者。」
ヒーロー願望とか言う学生気分どころか、
小学生かと疑いたくなるような子供じみた考えを持った奴。
道を妨害し、交通を邪魔し、騒音で周囲を騒がせ、下手をすれば警察沙汰。
暴走族なんてものはそういうもので、社会から爪弾きにされて当然の存在。
しかもそこいらのチンピラではない。関東最大の暴走族と組織レベルのもの。
ヒロイックなことばかり言う人間が、瞳を輝かせるものではないだろう。
「別にいいじゃないですか。元々悪人だった人が、
改心して正義の味方になるって、何らおかしい話じゃないですよ。
ドラゴンボールは知ってます? あの作品だってベジータに限らず、
ピッコロや天津飯だって元々は悪党や敵だったのに、後の話じゃZ戦士ですよ?」
「あー、言われればそうか? つってもZまでしか知らねえけど。」
「それにバットマンとかロールシャッハとか、
ダークヒーローとかだっているんですからそれぐらい普通ですよ。」
「……ハッ、どっちにしろヒーローなんて柄じゃねえよアタシは。」
煙草を灰皿へと押し付け、髪をかき上げる。
どんな形であれヒーロー。そんなものに微塵も憧れない。
この三十年以上の内、半分以上をアウトローか過酷に生き続けてきた彼女に、
アニメとかならまだしも正義の味方だのヒーローだの、そんな存在に微塵も興味がない。
恩返しの為政府に与してるだけであって、政府の正義だ云々と言った信念も薄かった。
逆に言えば、恩返し一つでどこまでも無茶ができているのが彼女の最大の強みでもあるか。
「そうですか? 残念。あ、どうせだし風雅先輩、
忍剣無双ギンガって新番組がその内やるんですけど見ませんか?
主演は正義感の強い俳優として最近話題沸騰の茶畑悠詩朗ですよ!」
「いや、知らねえ。最近テレビそんな見ねえし。」
「まあとにかく見ましょうよ!俺挿入歌を担当する綿貫莉子が好きで───」
「分かった分かった、一話見て興味出たら見といてやるから。」
会話のキャッチボールと言うより会話の壁打ちのようなマシンガントーク。
彼女としては慣れないものではあるが、余り悪い気はしなかった。
◇ ◇ ◇
「つっまんねえなぁ。おい。」
ボンバーマンを倒してからと言うもの、
北上するまでの正常感染者はゼロ。
公民館に到着しても正常感染者ゼロ。
その後適当に徘徊しても正常感染者ゼロ。
当然収穫もゼロ。感染者の殺害人数が唯一ゼロではない。
こうなるなら診療所へ戻って氷月とかをぶち殺した方が、
仕事になるのではないかと思いながら美羽は歩いていた。
一応は幸いと言うべきだろうか。サイボーグと言えども、
なんの考えもなしに動かし続ければ流石にガタは来るものだ。
クールダウンする時間は必要ではあるのだが、流石に長すぎる。
どこ行ってもゾンビだけで正常感染者は見つけられないので退屈だ。
流石に単調なゾンビを殺すのも飽きたので邪魔なゾンビ以外は放置する程に、
退屈と言うものを味わいながら高級住宅街を徘徊していた。
「おいおい。こいつぁ派手にやりやがったな。」
そして見つけた数々の死体は、さながら地獄絵図。
スプラッタ映画でもなければお目にかかれないような光景。
原型をとどめていない数々の死体や辛うじて焦げなかった遺体の一部。
焼け焦げた姿では此処にいたであろう男女の区別などつかないものだ。
けれど、一人だけ誰がそこにいたのかを知る手がかりだけはあった。
爆発から難を逃れた砕けたガスマスクは自分達と同じもの。
誰のものかとなると、殆ど一択のようなものであった。
辛うじて耳に残っていたミーティングの内容には、
この高級住宅街に行く奴が誰かは知っていた。
「なんでつまんねえとこでくたばってんだよ、てめえは。」
分からずとも確信は持てた。この死体の内の一体は広川だと。
この死体で熱がないことから、死後から数時間は経過してるだろう。
となれば任務開始早々に死んだと言うことすらも理解できてしまった。
とんでもないスピード殉職をかましていたことに呆れ溜息を吐く。
「あーあー、ヒーロー志望の結果が死亡かよ? ざまぁねえなぁおい。」
これがヒーローの姿ならとんだ笑い話だ。
成田からも評価された射撃能力も意味をなさなかったか。
或いはヒーローらしい戦い方でもやってしまったのかは定かではない。
なんにしても広川成太は死んだ。それだけは確信が持てた。
「新番組の感想は墓前でやれってか?
まったくよぉー、つまんねえ死に方しちまったな。
少なくともヒーローの死に方じゃねえぞ、そういうのは。」
悲しいとは正直余り思わない。
別にこの仕事で死んだ人間なんて何人も見た。
死体の一部すら回収できないままの過酷なこともある。
仲間の死に悲しむほど彼女は別に情に厚い性格ではないし、
『ああ、死んだのか。』程度だ。今回任務に参加した大体はそういう反応と思った。
成田、黒木はそうなるだろうし、大田原は残念がるかもしれないが結局はその程度。
彼に対して涙を流して悼むのは精々乃木平ぐらいなものだろう。
「生憎と正義の味方っつーのは性に合わねえし、
テメエとは結局のところ隊員同士でしかねえんだわ。」
元暴走族であり、忠義は変わらないが性格はそのまま。
であれば正義の味方なんて気取るつもりは何処にもないし、
死者を汲み取るようにヒーローの遺志を受け継ぐとかも暴走族時代ならまだしも、
あの時ほど人間関係が薄い相手にそこまでの義理立てと言ったものはない。
───それはそれとして。
「ま、正義の味方じゃないってことはだ。
しょうもねぇ私情の仇討ちぐらいは考えてやるよ。」
特殊部隊を殺せるだけの異能? 強さ? 上等だ。
アタシにこそそういうのが相応しい、返り討ちにしてやるさ。
割合的には殺した奴の面を拝んでみたいと言った意味合いが大きいだろう。
ただ、そこにほんのちょっぴり。ほんの一割程度かもしれないが。
存外こいつとのやりとりはつまらなくはなかった日々はあったと思えた。
僅かばかりの惜しさ、センチな気分を感じながらスマスクの残骸を投げ捨てる。
「あばよ、ヒーロー志望者。」
狂犬は止まらない。特殊部隊を殺しうる人間がいたとしても。
人狼(ヴェアヴォルフ)は止まることを知らない。
【B-3/高級住宅街/1日目・早朝】
【美羽風雅】
[状態]:健康、怒り(中)、苛立ち(中)、氷月海衣に対する殺意(中)、乃木平天に対する苛立ち(やや中)、ちょっとだけセンチな気分、広川を殺した相手に興味
[道具]:防護服、拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフ、スレッジハンマー
[方針]
基本.正常感染者の殲滅。
1.公民館に向かう。
2.煙草が吸いてェ……。
3.氷月海衣が生きてたら任務に支障が出ない範囲で殺しに行く。
4.分身するワニってなんだ。頭ぶっ叩いていいのか?
5.正義の味方なんざ興味はねえが、仇討ちぐらいはしといてやるよ、ヒーロー。
6.広川ぶっ殺した奴の面を拝んでみたい。まあぶっ殺すけどな。
※放送設備及び氷月海衣のスマートフォンが破壊されました。
※乃木平天からワニ吉の情報をある程度伝えられています。
以上で投下終了です
掃き溜めの戦狼の状態表ですが、1のところ消し忘れてました
内容はほぼ変わりませんが下記に修正しておきます
1.広川ぶっ殺した奴の面を拝んでみたい。まあぶっ殺すけどな。
2.氷月海衣が生きてたら任務に支障が出ない範囲で殺しに行く。
3.分身するワニってなんだ。頭ぶっ叩いていいのか?
4.正義の味方なんざ興味はねえが、仇討ちぐらいはしといてやるよ、ヒーロー。
5.煙草が吸いてェ……。
投下乙です
>掃き溜めの戦狼
特殊部隊は個人主義の集まりなのでバチバチ、そりゃ人当たりのいい天くんは貴重ですわ
とは言え流石に仲間の死には思う所もあるよねぇ。仇討ちの一つくらいはしたくもなる
まあ下手人が圭ちゃんであるとバレるような証拠はなさそうだけど、戦う事もあるのだろうか
投下します
陸自特殊作戦群。
それは、自衛隊の中でも選りすぐりの精鋭を集めた、日本の防衛を担う部隊である。
偵察、諜報、テロ対策、ゲリラ戦及び対ゲリラ戦、破壊工作、情報交錯、暗殺、etc。
国家の損益に関わる表に明かせぬ裏仕事全般を請け負っており、その任務は多岐に渡る。
その特性故に、特殊部隊の任務内容は秘匿されており、一般的に公開されることはない。
だが、しかし。
陸自の中に特殊作戦群が存在すること自体は情報として公開されている周知の事実である。
闇とはより深く、人の眼に届かぬ奥底に存在する物である。
陸自秘密特殊作戦群。
任務内容を秘匿される特殊作戦群と異なり、秘密特殊作戦群はその存在自体が表向きに秘匿されていた。
つまりは、より表沙汰に出来ない深い闇を請け負うのがこの秘密部隊の役割である。
そこに所属する隊員は単純な戦闘員という訳ではない。
高い戦闘力はもちろんの事、高度な作戦行動を理解する頭脳。
不測の事態に対する対応力。孤立した現場での自己判断力。
長時間の任務をこなす体力。危機的状況に動じぬ精神力。
秘密部隊の隊員には万能を求められる。
無論、どうあっても人間である以上は個人の向き不向きはある。
万能性を求めはすれど、技術的な専門性も必要となるため最終的には適材適所だ。
例えば、大田原源一郎は直接戦闘において最強の男ではあるのだが、潜入工作員(スパイ)には向いていないだろう。
無骨な大男である彼はどこに居たって怪しまれてしまう。潜入作戦には適していない。
潜入工作員に求められる条件は、第一に悪目立ちせずどこにでも溶け込める体格。
見る者に好感を与える一定以上に整った容姿。
対象から情報を引き出すための語学力、洞察力、社交性、交渉術。
また対人以外を想定した情報取得及び工作のための機械知識。
そして、通常の潜入工作員とは異なりSSOG隊員に求められる最後の一点。
敵地でのスパイ行為が発覚した場合、単独で帰還可能な戦闘力を保有している事。
黒木真珠は、その全ての基準を満たしていた。
真珠は潜入員として多くの特殊任務を与えられ、その全てをこなしてきた。
各国の機密情報を得た事も、逆に処分したこともある。国家存亡の危機を救っただって一度や二度ではない。
そんな彼女の唯一の失敗が某国間の軍事開発文書を巡る豪華客船の侵入作戦である。
その土を付けたハヤブサⅢを仕留める事、これこそが今作戦における黒木真珠に与えられた任務だ。
彼女が向かっているのは標的の移動先と予測したポイント。
村の中央からやや東にある放送室である。
道中にはうろうろとゾンビがたむろしているが、真珠はできうる限りのゾンビとの接触を避けるように順路から外れたルートを辿っていた。
かなり慎重な足取りで、気配を殺して歩いている。
それはゾンビに囲まれることを危惧しての事ではない。
格闘一家の末娘。五人兄妹の紅一点として生まれ物心つく前から格闘技術を叩き込まれた。
肉体構造から違う美羽のような反則を除けば、SSOG内でも素手格闘においては大田原以外には負けなしの実力者だ。
ゾンビ如きに囲まれたところで、彼女の能力を持ってすれば突破することなど容易いだろう。
それは自らの安全のためではなく、むしろ逆。
ゾンビを無駄に殺すようなマネをしたくはないからである。
任務の優先順位として正常感染者は処理よりも情報の聴取や任務のために利用する事を優先するが、部隊の目標を無視するわけではない。
任務の邪魔にならない範囲であれば処理できるのであれば処理する。トラックの女の様に。
だが、ゾンビは別だ。余り殺すべきではない。
それは道徳心だとかの問題ではなく、無意味に殺せばその場に痕跡が残るからである。
他の隊員とは違い、ハヤブサⅢの捜索を目的とする以上、痕跡を残すような真似は上手くはない。
恐らく、その痕跡を発見すれば敵はすぐさま逃げ出すだろう。
あの女に本気で逃亡されるとなると流石の真珠とてお手上げだ。
任務は速やかに密やかに。
追う側も追われる側も痕跡を残さず。
気付いた瞬間に全てが終わるような。
これは静かな戦争だ。
だが、それにしたって今のところ道すがら見かけるのはゾンビばかりである。
正常感染者の一人でもいれば、目撃証言を聞き込み予測の裏を取るところなのだが。
もしかすると、ウイルスに適合できた正常感染者の数は思いのほか少ないのか。
そうなると最初に出会った女を撃ち殺してしまったのは少々早まったか。
まあ、残しておいたところで大した役にも立たなかっただろうが。
それとも単純にこの周囲が開発の進んでいない南地区だからだろうか。
周囲の人口が少なければ比例して正常感染者も少ないだろう。
北側を担当している美羽や広川は今頃お楽しみかもしれない。
そんな事を考えているうちに、正常感染者と出会う事なく放送室が見えるとこまでたどり着いた。
放送室の周囲には数体のゾンビは彷徨っていたが、一見した限りでは研究員らしき影は見当たらない。
まあ、これ見よがしに分かりやすく白衣やネームプレートでも掲げてくれているとは思わないが。
これを精査していくとなると中々に手間と時間がかかるだろう。
もっとも、真珠の目的は研究員ではなく研究員を捜索しているであろうハヤブサⅢである。
研究員はあくまでも餌。これに喰いつく魚がいるかどうかだ。
釣り人は鋭く目を光らせ、防護マスク越しに周囲を見渡す。
それらしい気配はない。
だが、気配を遮断して身を隠すくらいはお手の物な相手だ。油断はできない。
先にコチラの姿を発見されるわけにはいかない。
奴の前に姿を現すとしたら、逃げられない状況を作ってからだ。
周囲への警戒を怠らず、慎重な足取りで放送室に近づく。
小さな村に村内放送を届ける老朽化の進んだ小ぶりな施設だ。
様々な開発の進む山折村だが、今時村内放送など流行らないのか、この放送室に手は付けられていないようだ。
真珠はその入り口にまで近づくと壁際に背を付け、銃を片手に構えながらゆっくりと扉を開いた。
突入と同時に銃口を素早く死角に向け室内をクリアリングする。
室内に人影はない。
正常感染者やゾンビはおろか、死体の一つも転がってはいなかった。
一見した限り放送室に異変はなさそうである。
当然、ハヤブサⅢの姿もない。
奴であれば気配を殺して身を隠している可能性もあるため、念のため隠れられそうな場所も一つ一つ潰して行く。
とは言え放送設備の置かれた放送室とその脇に談話室と思しき部屋があるだけの小さな施設だ。探索はすぐに終了した。
結論として、ここにハヤブサⅢはいない。
外にもそれらしい姿もなかったとなると可能性は三つ。
1.単純に読みが外れた。
2.既に目的を達して立ち去った後である。
3.ここに向かっているが、まだ訪れていない。
3であればここ待ち伏せる事もできるが、2であった場合致命的だ。
逆に2を予測しその後を追っても、3であった場合入れ違いになって標的から遠ざかる。
ここで読みを外すと厄介だ。
どうした物かと、思案しながら、何気なく放送室の機器を触っていたところで。
「……………………?」
なにか、異変を感じた。
その違和感を確かめるべく、改めて機器を調べる。
地震の影響か床に落ちたマイクを拾い上げ、ミキサーやそこに繋がる配線を一つ一つ確認して行く。
最前線で最新機器に囲まれている彼女からすれば旧時代の遺物だがこの手の機器の基本は同じだ。
説明されるまでもなく操作法や構造は大方理解できる。
その上で、検証を進めていくたびに防護マスクの下にある真珠の表情が怪訝なものへと変わってゆく。
理解できないと言うよりは、あり得ないと表情である。
だが、真珠の工作員としての実力が確かだからこそ、その結論に間違いないと告げていた。
「…………壊れてやがる」
放送設備は壊れていた。
人為的に破壊されたような形跡はない。
おそらく単純に地震の影響で壊れたのだろう。
元より老朽化した設備だ、地震で壊れること自体に不思議はない。
不思議があるとするならただ一点。
ここの放送設備は地震が発生した時点で壊れていた。
ならば、あの放送はなんだったのか?
先行して村の周囲に警戒線を張っていた真珠もあの放送は耳にしている。
確実に放送はあった。
それは確かだ。
だが果たして、あの放送は本当にここから発せられたものなのか?
「きな臭くなってきやがったな」
SSOGが扱う案件だ。
きな臭いのは珍しくもないが、研究所の怪しさはいよいよもって悪臭が漂ってきた。
こうなってくると放送の意味合いも変わってくる。
ハヤブサⅢがこの村にやってきたのは研究所の調査が目的だろう。
だが奴は研究所の何を調べていた?
奴は国際エージェントだ。
動くとするならば国際情勢に関わるような戦争危機や国際法違反の兵器開発。
後は国家存亡にかかわる事態、か。
それがこんな片田舎の研究所とどう繋がる。
現在起きているバイオハザードからして、ありうるのは兵器開発だが。
奴は何の目的で、どう言う名目で動いている?
少しだけ、興味が出てきた。
だからと言って興味を任務より優先させることはないが、標的の目的自体にも目を向けてもいいかもしれない。
【D-5/放送室内/1日目・早朝】
【黒木 真珠】
[状態]:健康
[道具]:拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフ
[方針]
基本.ハヤブサⅢ(田中 花子)の捜索・抹殺を最優先として動く。
1.研究所(ハヤブサⅢの目的)に興味
2.ハヤブサⅢのことを知っている正常感染者を探す。役に立たないようなら殺す。
投下終了です
以上の投下で予約が途切れたため放送に入る予定です
駆け込みがないか念のため1日ほど猶予を設けますが
お話的には、放送が村内に流れる訳ではなく参加者的にはそのまま地続きになるので、絶対にこの時間帯じゃないとダメと言う話でもなければ無理に急ぐ必要はないと思います
新規の予約はありませんでしたので、それではこれより第一回定時会議を投下します。
山折村は人里離れた山奥に位置する集落である。
周囲を山々に囲まれ、外界への唯一の出入り口は南のトンネル一本のみであり、そこから出ても最寄りの町まで数十キロは離れている。
正しく辺鄙な場所という表現がぴったりとハマるド田舎である。
近年は目覚ましいまでの開発により村内は未曽有の発展を遂げているものの、その不便な立地までは変わっていない。
周囲の森林も村の開拓のため林業会社によって大量に伐採されたが、広大な山々にとってはそれはごく一部にすぎず、未だ高い山々と深い森林が村を取り囲むように広がっていた。
そんな山折村から僅かに離れた山林地帯に広がる鬱蒼とした樹海。
未だ開拓の手は伸びておらず、足を踏み入れるとしたら遭難者くらいしかいないようなおよそ人の寄り付かぬ自然の要害である。
その奥深く、高木のない開けた草地に周囲の目をごまかすような草色のアーミーテントが敷かれていた。
それは傍から見れば災害派遣された自衛隊の臨時拠点にしか見えないだろう。
もっとも震災直後のこの状況で人里離れた辺鄙な場所に近づく人間がいるとも思えないが。
それは山折村特別作戦における臨時作戦指令室だった。
テントからは血管のように何本ものケーブルが所狭しと伸びており、有線による通信環境の確保がなされている。
その周囲を迷彩色の防護服を着た何人もの人間が慌ただしく走り回りっていた。
村からの逃亡者がいないか山に仕掛けたカメラの映像を監視。
また村内の監視を途切れさせぬよう飛来するドローンを回収し充電、発進のローテーションを行う。
そして回収した映像を別のモニターに繋ぎ、解析と編集作業を並行して行っていた。
ここまた後方支援部隊にとっての戦場である。
仮設テントには簡素なテーブルが置かれており、その前に置かれたパイプ椅子に二人の男が鎮座していた。
全身を防護服で身を固めた二人こそ、陸自秘密特殊部隊の隊長である奥津と副官である真田である。
地震発生から初の朝日を迎え、時刻は朝6時。
事前に取り決められた研究所との定時会議の時刻である。
真田はテーブル上に置かれたノートパソコンを操作し、傍受が防止された軍用の回線を用いて通信ソフトを立ち上げる。
モニター上に一人の凛とした白衣の女性が表示された。
『おはようございます』
冷たく透き通る氷のような声。
声のみならず女は氷でできた彫像のように表情を変えぬまま、そっけない挨拶を述べる。
「おはようございます。防護マスク越しで失礼。奥津です」
「おはようございます。真田です」
防護マスクで顔の隠れた両名が改めて名乗る。
作戦行動区域外ではあるが、バイオハザード被害区域内である。
防護マスクを外す訳にもいかない。
「長谷川さんだけでしょうか? 染木博士はどうされました?」
『博士はお休みになっておりますので、今回は私だけで対応させていただきます』
長時間の任務も慣れたものである自衛官二人は当然徹夜であるのだが。
地震発生から深夜のミーティングは老人にはつらいモノがあったのだろう。
今回のミーティングには欠席の様である。
徹夜は画面上の女史も同じなのだろうが、そうとは思えぬほど凛とした仕草で粛々と仕事をこなしていた。
研究員も徹夜慣れしている職業なのかもしれない。
「了解しました。早速ですが会議を始めましょう。よろしくお願いいたします」
『よろしくお願いします』
画面越しに頭を下げ合い、山折村で発生したバイオハザードを巡る第一回定時会議が始まった。
奥津は背後に控え、まずは議事進行役である真田が話を進める。
「まずは感染者についてですが、村内に確認できた正常感染者は41名。
こちらを頂戴しました住民情報と照らし合わせて名簿を作成いたしました。別途資料としてお送りしていますがご確認いただけましたでしょうか?」
『ええ。確認しております』
サーモグラフィ付きのドローンによる上空からの航空偵察であるため、室内に引き籠りでもいた場合は正確ではない可能性はあるが、正常感染者の把握はおおよそ完了している。
そこから研究所より提供された村民データとの照合を行い、念のため別ルートから入手した住民データとも裏取りを行った上で正常感染者名簿を作成した。
一部、情報不足のため仮称で対応した不明な人間もいるが、大方のラベリングはできている。
「現時点で活動停止を認められた正常感染者は
佐川 クローネ
沙門 天二
一色 洋子
革名 征子
臼井 浩志
遠藤 俊介
郷田 剛一郎
気喪杉 禿夫
嵐山 岳
環 円華
木更津 閻魔
映像撮影できない場所も含むため一部推察を含みますが、以上11名となります」
ドローンによって撮影された村内の映像は事前の取り決め通り研究所に随時送信されている。
もっとも、村内での特殊部隊の活動は研究所には明かしていない極秘作戦であるため、特殊部隊員に関わる場面を編集したデータではあるのだが。
現在もこのテントの外では工作員たちの必死の編集作業が行われている。
そのため、村内で脱落したもう一人、特殊部隊の隊員である「広川 成太」の名はここでは出せない。
彼の死は誰にも知られることなく秘密裏に処理されるだろう。
それが秘密部隊に属するモノの宿命である。
ドローンによる映像は元より完全な物ではない。
向こうも不信は感じているだろうが多少の欠落や齟齬があろうともある程度は誤魔化しが利く。
『こちらでも、お送り頂いた映像データを精査させて頂きました。
確認の結果、C感染者の活動に変化はありませんでした。今後も経過を観察して行きますが現時点で活動を停止した感染者の中にA感染者はいなかったと思われます。
こちらからの報告は以上となります』
11名の死者に女王感染者は含まれていない。
事務的に述べられた報告は、山折村の地獄は続くという宣言であった。
「では、こちらから何点かお尋ねしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
『なんでしょう?』
「感染者についてなのですが、人間以外にもウイルスに感染したと思しき動物が確認されました。
[HE-028]ウイルスは人間以外にも感染するものなのでしょうか?」
生体や遺伝子構造の違いから特定のウイルスに感染しない場合もありうるが、ウイルスに感染するのは人間だけとは限らない。
人間を一番殺した生物は感染症を運ぶ蚊である、なんて言うのは有名な話だ。
それは[HE-028]にも当てはまる話なのか。
村を取り囲む包囲網はあくまで感染した人間を外に出さないための処置である。
蟻の子一匹逃さぬ警備と言っても実際に蟻の子一匹逃さぬことなど不可能だ。
人間以外にも感染する場合、感染拡大を防止するための封鎖も話が変わってくる。
『低確率ではありますが感染はします。ですが村外への感染拡大を懸念しておられるのなら問題ありません。
C感染者内の[HE-028]はA感染者の影響下でしか活性化しませんので、A感染者の影響外では空気感染するほどの感染力はありません』
「つまり、女王の周囲でなければ感染拡大の危険性はない、という事ですか?」
『ええ。48時間経過して定着する前であればの話ですが』
48時間のタイムリミットまでは女王がいなければ感染拡大は起こらない。
それが事実ならば虫や小動物が村外に抜け出したところで問題はない。
「ですが、動物が女王ウイルスを外部に持ち出す危険性はあるのでは?」
『その点も問題ありません。[HE-028-A]が繁殖を行うには一定以上の脳サイズを必要とします。
そのため最低でも感染者には新生児並、約400g以上の重量が必要となります』
つまり少なくとも人間大の生物である必要があると言う事だ
それを逃しさえしなければ感染拡大は防げる。
「新生児並ですか。しかしマウス実験が行われたと聞きましたが」
最初の染木博士の説明でそんな話があったはずだ。
動物実験においてマウスは人間に遺伝子構造が近しい哺乳類として多くの場面で扱われる。
だが、一定以上の脳サイズを要するのであればマウスでは実験にならない。
『はい。小動物にも[HE-028-A]は感染はします。しかし繁殖ができないため、周囲への影響は小規模にとどまり10分と持たず消滅します』
「つまり、これほど広い範囲に高時間ウイルスの影響が出ている以上、女王は人間、あるいはそれに匹敵する脳サイズの生き物の中にいると?」
こくりと映像越しの長谷川が頷く。
感染拡大のカギはやはり女王にある。
女王は人間大の生物でありこれを取り逃すほど特殊部隊の監視網はザルではない。
『質問は以上でよろしいでしょうか?』
「長谷川女史。最後にもう一つ、お聞きになってもよろしいでしょうか?」
画面背後でやり取りを副官に任せていた奥津が声を上げた。
引き留められた長谷川は通信を切ろうと伸ばした手を止める。
『なんでしょう?』
「現在、山折村では住民同士での殺し合いが発生しています」
『そのようですね。把握しております』
住民同士の殺し合いという不穏な報告に動じるでもなく応じた。
映像を確認したのなら当然それは把握しているだろう。
11名の犠牲者は震災後の混乱ではなく、明確な殺意によって殺されている。
もっとも半数近くが送り込まれた特殊部隊の手によるものであはあるのだが。
「どうやらその原因となる告発があったようだ」
『そうですか』
平然とした相槌に揺らぎは感じられない。
それを気にせず奥津は続ける。
「途中からですが現地に待機していた隊員が録音したデータがあります。お聞き願えますか?」
相手からの返事を待たず、通信ソフトに音声データを共有すると再生を始めた。
『……我々は……秘密裏にこの村の地下で……とある研究を行っていた……』
■
『それだけが……私の望み……だ――――ガガガッ――ジジッ―――ガッ』
音声データが終了する。
情報を突きつけた興津は、防護マスクで隠れた鋭い目つきで画面上の女史の表情を伺いながら問う。
「村内に流れていた音声は以上です。
内容からしてこの放送を行ったのは研究員のどなたかだと思われますが、どなたの声か分かりますか?」
問いを投げられ。
長谷川は動じることなく、鉄仮面のまま一言。
『私には分かりかねます』
「心当たりもありませんか?」
『ええ』
端的な返答。
画面越しの涼やかなまでの氷の表情に変化はなかった。
こうも堂々と言い切られては追及のしようもない。
『要件は以上でよろしいでしょうか?』
「ええ。ご協力感謝いたします。それではまた6時間後に」
『はい、お疲れ様でした』
別れの挨拶と共に通信ソフトが終了する。
通信終了画面に移り変わったのを確認し真田は防護マスクの下で息を付いた。
「目立った反応はありませんでしたね」
「どうかな。知らなかった事実を突き付けられたにしては無反応すぎる気もするが」
最初からこの揺さぶりに対する心構えができたようにも思える。
出会ってからあの女史の鉄仮面が剥がれた姿を未だに見たことがないので、元からそう言う反応を示さない人間である可能性もあるため何とも言えないところだが。
「やはり、揺さぶりをかけるとしたら梁木博士の方でしょうか?」
「それもどうかな。あのご老公は口は軽いが喰えなさではあの女史よりも厄介そうだ」
今回の会議ではいなかったが、次の会議ではあの老人も出てくるだろう。
その時にどう出るのか、読めなさという意味では長谷川とは比べ物にならない。
「しかし。まったくよく録音してくれたものだ。こういう咄嗟の目ざとさは探の強みだな」
部隊長は隊員の一人を褒め称える。
村内に放送が流れ始めたあの瞬間、山中で妨害電波の設定作業を行っていた隊員の一人がその放送を録音した。
途中からとは言え、記録に残すことができたのは大きな収穫である。
先ほどの揺さぶりは元より、そのお蔭で奥津達もその内容を確認できた。
「ゾンビ、女王。これらの用語は放送にも使われていたな」
「そうですね」
だが、それは少しおかしい。
これらは染木が門外漢である自衛官たちに説明するにあたり用いた俗称だ。
面白がって使っていた博士が例外で、研究者たちの間で使われる用語としては恐らく女史の方が正しいのだろう。
放送者が研究者であるのならば、その俗称を使うのは少々違和感がある。
「研究者ではなく村民に向けての放送だったから俗称を用いたということでは?」
「確かに、可能性としてはあるだろう。だが、あの状況でそこまで気を使える余裕があった、とは素直には考えづらいな」
声を聞く限り、放送者はかなり切羽詰まった様子だった。
その状況で一般人に分かりやすく、などと気を使える余裕があるのだろうか?
とするならば、咄嗟でも使われるほど普段から使用されていた俗称なのか。
それとも、そもそも切羽など詰まっていなかったのか。
それにあの放送で気になるのはもう一点。
「真田。仮に48時間が経過して住民を処理するとして、お前ならどんな方法を取る?」
「そうですね…………地形からしてやはりガスでしょうか」
山折村は山に囲まれた盆地にある。空気より重く沈殿する毒ガスを流し込むのにおあつらえ向きな地形である。
隊員はウイルス対策の防護服を装備しているため、作戦準備もスムーズにいくだろうし自然災害に偽装しやすいのもメリットだ。
実際、48時間経過後はそう言う方針になるだろう。
「そうだな、俺もそう考える。
だが、放送内ではこう言っている『村の全てが焼き払われる』とな」
「焼き払われる、ですか。確か博士も……」
真田は僅かに考え込むように口を噤む。
そして最初の打ち合わせの際に言っていた染木の言葉を反芻する。
「『やるのなら空爆をお勧めする。炎で焼いてしまえウイルスも確実に焼却できる』でしたか」
いくら特殊権限を与えられた秘密特殊部隊とはいえ、現代日本でおいそれと空爆などできるはずもない。
証拠隠滅のために目立つようなマネをしては元も子もないだろう。
それは効率よく住民抹殺と証拠隠滅を謀りたい工作員と、効率よくウイルスを滅菌したい研究者との考え方の違いか。
工作員ならばそんな手段は選択肢にも浮かばない。
「研究所との取り決めは証拠隠滅と感染拡大の防止だけだ。処理方法に関しては指定はない。
にも拘らず、放送の男も染木博士も炎による処理を示唆している」
「炎が有効と言うのが研究員の共通認識だったという事なのでしょうか?」
「あるいは、同じ人物から発せられた発想なのか、だな。俗称といい妙なところで共通項が多すぎる」
そうなると、疑われるのは放送者に対する副所長の何らかの関与だが。
問題は通信の制限された山折村にどうやって関与したかだ。
通信妨害の工作はされているが抜け道がない訳ではない。
回線の切断は電話会社や通信業者の公開情報に基づき行われている、それこそ地下研究所に秘密の専用回線でも引いていれば回避できる。
想像の域は出ないが研究所の詳細が分からぬ以上、絶対に無理だと断言するには早い。
研究所を調べられれば早いのだが、そうもいかないだろう。
「そう言えば、研究所の調査はどうなっている?」
「申し訳ありません、まだ洗えているのは簡単な情報のみですね。資金の流れや背後関係など細かい所は追っている所です」
「そうか。ひとまず現時点で分かっている情報を報告してくれ」
「了解しました」
副官はノートパソコンとは別に手元のタブレットを操作して、ファイルした資料を表示する。
そうして改めて報告を始めた。
「――――――未来人類発展研究所。
名前の通り『人類の未来を発展させる事』を目的として立ち上げられた研究組織で設立は2014年です。
本部が設置されているのは東京の八王子。山折村支部が出来たのは今から4年前の2018年の事のようです」
「支部、という事は他にもあるのか?」
「はい。現在は4つの支部があり、山折村は2つ目の支部に当たるようですね。
1つ目は静岡、3つ目は青森、4つ目は富山。いずれもかなり人里から離れた場所に支部を設けているようです。
まあ危険物を扱う施設としてそれほど珍しいことではないですが」
非常事態を想定して、危険物を扱う施設は人里から離れた場所に置かれるのが常である。
実際、隔離された環境であったからこそ現在起きているバイオハザードの被害も山折村内で留まっているのだ。
「副所長である梁木百乃介博士についてですが、役職は副所長となっていますが開発の実質的なトップは博士のようですね。
所長は資金繰りや政治的な根回しが主なようで現場にはあまり顔を出しておらず、染木博士が現場を取り仕切っているそうです」
「なるほど」
あの老人にはそれなりの風格、と言うより雰囲気があった。
開発のトップというのも頷ける。
「染木博士は界隈では名の知れた細菌・ウイルス学の相当な権威ですね。
これまでは国内外の大手製薬会社を転々としてワクチン開発などを行っていたようです。
裏は取れていませんが戦時中は細菌兵器の開発を行っていた、なんて噂話もあったようですね」
「戦時中って……幾つなんだ、あのご老公は?」
「戦争で戸籍が消失したとかで正確な年齢は不明なようです、まあ噂程度の話ですので」
戦中20歳前後だとしても現在100歳近くという事になる。
あり得ないとまでは言いきれないが、むしろあり得そうに思えてしまうのはあの老人の放つ怪しげな雰囲気故だろうか。
「研究員である長谷川真琴さんは両親ともに医学者ですね。
本人もあの年にして脳科学に関する幾つもの革新的な論文を発表しています。革新的過ぎてあまり学会には受け入れられていないようですが」
「脳科学……それにウイルスか」
報告を聞き、奥津は独りごちる。
確か博士は研究内容を『ウイルスによる脳の拡張』と言っていた。
当然と言えば当然の事なのだが、二人の専門分野はこの研究目的と合致している。
「ひとまず現時点ではこのくらいです。ほとんど公開情報をまとめた程度のモノですが」
「いや、十分だ。引き続き頼む」
「了解しました。次の定時会議までにはある程度まとまった報告が出来るかと」
震災直後の6時間で任務の合間を縫って調べたにしては十分だろう。
次にまとめられる情報に期待だ。
次の定時会議は6時間後。
その時には博士も出席し、役者も揃っているはずだ。
駆け引きも勝負も、その時になるだろう。
■
「おはよう」
挨拶と主にとある病院内にある会議室の自動扉が開く。
デジタル会議を終えコーヒーブレイクをしていた女性研究員の元に現れたのは腰を曲げた白衣の老人だった。
「お早いですね博士」
「この年になると朝は早いのサ、徹夜のような無茶は聞かなくなるけどネ」
年は取りたくないものだと、そう言いながら腰を叩く。
女研究員はコーヒーを置いて立ち上がると、机の脇にまとめてあった資料を手に取った。
「データ。まとめておきました」
老人はアナログ派なのか、研究員はプリントアウトした資料を博士に手渡たす。
資料を受け取った老人は唾で指を濡らして素早くページを捲って次々と目を通してゆく。
「イイネ。イイネェ。適合の傾向が分かれば適合条件も割り出せる
若者が多いナァ。人口比率で言えば村外の人間が多いのも気になるネ」
あの村で起きている何もかも、研究員にとってはそのデータは宝の山だ。
正常適合者の名簿だけでも値千金の価値がある。
「イヤハヤ。天変地異サマサマだネ」
染木は資料を見ながら歓喜の声を上げる。
コーヒーメーカーから老人の分のコーヒーを注ぎながら長谷川が訪ねた。
「それで? 地震が起きるのは”仕方がない”として。今回の件、どこまでが博士の仕込み何ですか?」
「仕込みだなんて失礼だネェ。大したことはしてないサ。少なくともバイオハザードの発生には関与してないヨ」
その発言に無表情だった長谷川が初めて僅かに表情を動かした。
「てっきり、博士が手引きしたものだと思っていましたが」
「イャイャ。ソコまで非人間じゃないヨ。ワタシも」
「はぁ……」
どの口が言うのかと言う冷たい視線を向けるが口にはしない。
その視線も気にせず博士は人差し指と親指を近づけ小さな隙間を作る。
「ワタシはほーんの少しだけ事態が動くヨウ介入しただけだヨ。何事も準備はしておくものだネェ。
それに”時間がない”と言っても、ワタシがヤルならもっと巧くやるサ。
少なくとも研究成果や研究員は引き上げさせるヨ、条件の整った貴重な支部一つ潰すのも勿体ないしネ」
倫理や人道ではなく、もったいないと言う効率による判断である。
だからこそ、この老人は犯人足りえない。
「では誰が? まさか『本当に事故だった』なんてオチはありませんよね?」
「それはないだろうネ。そもそも研究所のウイルス管理室なんて厳重な作りになってるものだヨ。
耐震管理なんてその最たるものサ。それこそM8級が直撃しても壊れないはずだヨ」
「では、人為的な介入があったと?」
「だろうネ。悪意の外部犯か善意の内部犯かは分からないけどネ」
軽い調子で言いながらコーヒーを受け取る。
湯気が老人のメガネを曇らせた。
「起きてしまった事態は最大限利用させてもらうとするサ。キミもソウだろゥ?」
その問いに女から否定の言葉はなかった。
ただ涼やかに肩をすくめるだけだ。
その反応に老人は口端を吊り上げにぃと笑う。
この状況を謳歌するのは研究者の性だ。
生きたデータを取るうえでこれ以上の状況はない。
「マァ。1000人くらいの犠牲は容認しようじゃあないか」
研究者は悪魔のように黒く、地獄のように熱い液体を啜る。
「ナニせ、世界を救う研究なンだからネ」
投下終了です。
ありがとうございました。
予約の再開は
2023/02/17 00:00:00
からとなります。
また第一回定時会議を迎えるに伴い予約期間を変更します。
以降は基本予約期間を5日、延長期間を3日とします。
それでは今後もよろしくお願いします。
次スレです
オリロワZ part2
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1676547808/
定例会議投下乙です
なるほど、こうして特殊部隊と研究所で腹の探り合いしながら情報交換していくわけか
それと一つ気になったのですが、正常感染者が44人じゃなく41人になってるのはミスでしょうか、それとも意図的なものなのでしょうか
>>994
ワニ、クマ、ブタを除いた人間41名ですね、この時点では獣はカウントに入っていないので
今月になって読み始めて、ようやく追いついた。めちゃくちゃ面白い!
特殊部隊員がいい味を出していて、たとえ村人側が結束したとしても勝負はどちらに傾くかわからないくらいの緊張感だし、
女王感染者の話もあるから、今後どうなるか予想がつかないってところも含めて応援してる!
投下後すぐwiki編集されててスゲーと思う
ジョーカーがきちんと仕事をしている稀有なロワ
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