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チェンジ・ロワイアル part3
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【当企画について】
・様々なキャラに別のキャラの体を与えてバトロワをする、という企画です。
・コンペ形式で参加者の登場話を募集します。
・初心者から経験者まで誰でも歓迎します。
【参加者について】
・このロワの参加者は皆、自分の体とは別人の体で戦うことになります。
・参加者として扱われるのは体を動かす精神の方のキャラクターです。
・精神と体の元になるキャラの組み合わせは自由です。
【ルール】
・全員で殺し合い、最後に生き残った1人が勝者となる。
・制限時間は3日。
・優勝者だけが元の体に戻れる。
・優勝者はどんな願いでも叶える権利を得る。
・参加者は皆爆弾入りの首輪を嵌められている。これが爆発すると如何なる存在でも死亡する。
・主催者は権限により首輪を独自の判断でいつでも爆破することができる。
・主催者が「これ以上ゲームを続けることは不可能」と判断したらその時点で全参加者の首輪が爆破される。
・参加者は最初、会場のどこかにランダムにテレポートさせられる。
・NPCなどは存在しない。
・ゲームの進行状況等は6時間ごとに行われる放送でお知らせする。
・定期放送ごとに禁止エリアが3か所発表される。
・禁止エリアに立ち入ると首輪が5分後に爆破される。
・禁止エリアが有効となるのは放送から2時間後。
・禁止エリアに立ち入った場合、首輪は事前に警告音を鳴らす。
【支給品について】
参加者にはデイパックというどんなものでも入る小さなリュックが渡されます。その中身は以下の通りです。
・地図:会場について記されている。
・食料(3日分):ペットボトルの水やコンビニ弁当など。
・名簿:参加者の名前が羅列してある紙の名簿。最初は入っていません。本編開始とともに配布について放送でお知らせされます。
・ルール用紙:ルールについて書かれたA4サイズの紙。
・ランダム支給品:現実、フィクション作品などを出展とするアイテム。最大3つまで。
・身体の持ち主のプロフィール:このロワで与えられた体の元の持ち主について簡単に記してある。記載事項は名前、顔写真、経歴、技能といったものなど。
【追加支給品】
・コンパス:方位を知るためのアイテム。手持ちサイズの小さなコンパス。赤い針が北を指す。
・名簿:参加者の名前が羅列してある紙の名簿。五十音順で記されている。身体についての記載は無い。
【支給品についての注意事項】
・2021年9月22日現在、既に登場している参戦作品以外からの出展で支給品を登場させることを禁じています。
【開始時刻について】
・開始時刻は夜中の24時からです。
【時間表記】
深夜(0〜2)
黎明(2〜4)
早朝(4〜6)
朝 (6〜8)
午前(8〜10)
昼 (10〜12)
午後(12〜14)
夕方(16〜18)
夜 (18〜20)
夜中(20〜22)
真夜中(22〜24)
【状態表について】
・状態表には以下のテンプレート例に示すように[身体]の欄を表記することを必須とします。
【状態表テンプレート例】
【現在地/時間(日数、未明・早朝・午前など)】
【名前@出典】
[身体]:名前@出典
[状態]:
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3
[思考・状況]基本方針:
1:
2:
3:
[備考]
・死亡者が出た時は以下のように表記してください。
【名前@出典(身体:身体の名前@出典) 死亡】
【予約ルール】
・予約する場合は2週間を期限とします。
・期限を過ぎて何も連絡が無ければ予約は取り消しとなります。
・予約を延長する場合はもう1週間までとします。
・予約が入っていないキャラならば予約なしのゲリラ投下も可能です。
・予約期限を過ぎた場合、同じキャラを再予約ができるのは5日後とします。
まとめwiki:ttps://w.atwiki.jp/changerowa/
専用したらば:ttps://jbbs.shitaraba.net/otaku/18420/
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3スレ目を建てました。
今後ともよろしくお願いいたします。
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第二放送投下、そして3スレ目設立お疲れ様です。
さすがにこの新キャラは予想外過ぎでした。
面倒ごとも何度かありましたが、それでもここまで進んで楽しんで読んでいた私としても嬉しいです。
第二放送を越えてからも面白い話の投下を楽しみにしています。
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申し訳ありません、今更な話なのですが、時間表記に関するルールにミスがあったことに気付きました。
【14時〜16時】の時間表記についての記述が抜けていました。
これについてですが、これまで【12時〜14時】を【午後】としていましたが、今後はこの【14時〜16時】を【午後】と時間表記するようにしたいと思います。
【12時〜14時】については【日中】と時間表記するようにしたいと思います。
まとめwikiのルールのページでも修正します。
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大首領JUDOを予約します。
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一旦仮投下しました。
他の方々の了承を得たら投下する予定です。
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仮投下したのを投下します。
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放送が始まる数分前、橋の近くの物陰にてJUDOは目を覚ました。
JUDOは気絶する前の戦闘や風都タワーでの戦いのことを思い返していた。
「我は何をやっていた」
風都タワーでの戦いで人間の肉体を使っているとはいえ、全員を仕留めることが出来なかったが、これからは人間は餌ではなく敵と認識し、参加者を殺す決意をした。
しかし、問題は赤い痣の男との戦いがディケイドライバーを破壊され、屈辱や侮辱を味わうことになってしまった。
冷静に考えてみれば人間の肉体が脆いのが分かっているのになぜ赤い痣の男と会った瞬間に撤退を選ばなかったことを悔やんだ。
JUDOは撤退を選ぶのは癪であるが、ここまで戦える状態でないのなら闘争心を自制して撤退を選択してファイズアクセルで逃走に使うことは容易だったのに意固地なプライドのせいで、それをせずにこのような結果を生んでしまった。
このようなことで我慢ができなければ優勝など夢の夢だ。
悔やんでいても仕方ない、今は葛飾署に置いてきた荷物を回収しに向かわなければならない。
それに赤い痣の男には荷物を持っていなかった、もしかしたら葛飾署付近にそのままにしているかもしれない、それも回収する。
道具がないと戦いが出来ず、渇きも満たせない。
これもなぜ荷物を置き去りにするようなことをしてしまったのか、赤い痣の男との戦いでは反省すべき点が多い。
破壊されたディケイドライバーの残骸の回収もしなければいけない。
ディケイドの力がまだ三つも取り戻せないまま、破壊されてしまったが、JUDOの目は死んでいなかった。
置いていった赤い痣の男の荷物にディケイドライバーを直す道具があるのかもしれない。
本来、壊れた物の回収はしないが、ディケイドライバーは諦めるなというのがあるからだ。
そうでなくても他の仮面ライダーの変身道具があるのかもしれない。
元の肉体とは違って、今は道具がないと戦いの愉しみができない。
JUDOは起き上がり、荷物や道具を回収するために火災が起きている街に向かう。
本当なら街に行くたくないのが本音だ、自分の蒔いた種とはいえ、鬼火や烈火弾を撒き散らし、葛飾署周辺が燃えてしまっている。
幸い葛飾署には被害は受けなかったが、いつ葛飾署も燃え移るのも時間の問題だ。
急いで自分と赤い痣の男の荷物を取りに行かないといけない。
△
街には自分のしたこととはいえ、いくつかの建物が激しく燃えていた。
葛飾署も含めて、まだ燃えていない建物もあるがそれも時間の問題だろう。
荷物を取ったら即急に離れる、ここは休憩すら出来ない、この街に留まる気はない。
少し進んでいたらJUDOにとって見慣れた物を見つけた。
(あったな)
その途中で赤い痣の男に破壊されたディケイドライバーの残骸を拾った後に定時放送が始まった。
(この場所にはないか)
放送の内容に興味があったのはモノモノマシーンの存在だが、JUDOは条件満たしているが、この中心部にはないことが明確となり、他の仮面ライダーの変身道具を入手出来なくなった。
死者については仮面ライダーWの片割れ以外は目を引くことはなかった。
体制を立て直したら再戦するつもりだったが、あの後、何があったのかは知らないが死んだらしい。
再度遭遇したら自らの手で殺すつもりだったが片割れが死者として呼ばれた以上は興味がなくなった。
そんなことを考えていたら葛飾署にたどり着いた。
本来なら赤い痣の男が来なければ放送後も風都タワーでの戦いの疲労を取るはずの施設で離れる予定だったが、午後一時頃には雨が降り、火事も収まり、葛飾署も燃え移らなくなるので安心している。
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戦いに夢中で放置してしまった自身の荷物を取り、次に赤い痣の男が放置した荷物を回収しに行く。
本当なら葛飾署で待機して雨で火事が納まるまで待つのだが、火事で道具が燃えて取り返しがつかない、そうでなくても悠長しすぎたら他の参加者に取られかねない。
恐らく、葛飾署の近くに置いてあるのだろう。
行動に移したものの地面にも火が点いている中、火を避けながらくまなく探したが、どれも民家が燃えていて近づくことができないでいた。
仕方なく諦めて立ち去ろうとした時だった。
まだ燃えていない民家を見つけ、移動をする。
来てみたら赤い痣の男の荷物が燃えていない民家の近くに放置していたのだ。
(奇跡と捉えるべきか)
偶然ではあるがこの民家に火が燃えていないことは幸運であろう。
一歩間違えれば赤い痣の男の荷物共々、燃え尽きていただろう。
(この場にはもう用はない)
今のこの様で他の参加者と会わなかったのはこれまた運が良かったかもしれない。
赤い痣の男の荷物を回収したJUDOは速やかに葛飾署へと戻って行った。
△
葛飾署の中に入ったJUDOは休息をとる前に使える道具がないか探索した。
結局、どこを探しても武器らしいものがなく、半明きになっている所があったが誰かが既に武器を取ったのだと推測できる。
収穫があるとすれば更衣室のロッカーでレインコートを見つけたことだけ。
次の放送までしばらくの間、雨が降り続けるから傘やレインコートがないと風邪を引いたり、熱があったら戦いに支障が出る。
移動の時はこれを着ていこう
探索を終えたJUDOは署長室に入り、腰を下ろした。
早速、赤い痣の男が放置した荷物の確認をすることにした。
最初にデイバックから発見したのはJUDOが驚愕せざるを得ない物だった。
「これは大当たりなのか?」
取り出したのは時計の模様をした赤色と青色の風呂敷だった。
ハズレの支給品かと思ったが、説明書によると風呂敷を被せると赤が表なら物や人が古くなり、逆に青が表なら新しくすることができるらしい。
これが本当ならディケイドライバーを修復できるかもしれない。
ディケイドライバーを直す道具が見つかるまで他のライダーの道具を使わざるを得ないと思っていたが、こんなにも早く見つかるとは。
「試してみるか」
騙されたと思ってディケイドライバーの残骸に赤色を表に被せ、包み込むと秒針音が響いていた。
一分もしない内にチクタクする音が鳴りやんで、風呂敷を広げてみるとディケイドライバーが破壊される前の状態に修復されていた。
タイムふろしきの効果が本物だと確信したJUDOは刀部分が折れていたライドブッカーを風呂敷にディケイドライバーと同様のことをして、刀部分が折れる前の状態に戻った。
「これで我の戦いの楽しみを取り戻すことはできた」
ディケイドライバーを破壊されたときは絶望感が襲ったが、プライドの高さとディケイドライバーを切り捨てず修復できる可能性を賭け、諦めなかったことが奇跡に繋がる事ができた。
しかし、タイムふろしきの使用は3回に制限されており、残りの1回はまたディケイドライバーを破壊されたときに取っておこう。
勿論、二度も同じ轍を踏まないよう、今まで以上に警戒はするが、万が一のためだ。
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ディケイドライバーも元に戻り戦う力を取り戻せたのはよかったが、問題は未だに疲労が回復しきっておらず、戦う体力が少なすぎることだ。
よって、しばらくの間は休憩しながら他に使える道具がないか調べる。
今後はディケイドの力を一辺倒にせず、いざというときに他の道具を使う。
参加者の道具も回収することも決めた、敵に戦力を与えないために。
最初に出会ったリオン・マグナスの道具の回収をせず放置したのは勿体なかったと今更ながら思う。
デイバックから色々と取り出すと警棒は使えるか怪しいがトビウオという乗り物はJUDOの現在地を考えると移動手段として使えるが雨が降ることやいつまでも飛んでいたら目立って不意打ちが待っているから余り使用は控えるべきだ、アクションストーンは使う度に体力を消耗するらしいのでトビウオと同様、控えるべきだろう。
最後の一つは賢者の石で説明書を見たら体力を回復したいJUDOが望んでいた物で何度目になる奇跡が起きていた。
すぐさま賢者の石を使用し、身体の傷が治り、疲労もかなり取れた。
賢者の石は放送毎に一回しか回復できないらしい、次の放送後になるまでは回復は不可能だ。
「ここまで何度も奇跡が起こるとは偶然か?」
二回目の放送が始まってから誰とも会わず、痣の男の荷物を取ったおかげで修復できる物と回復できる物をあっさりと手に入れた。
これまでの運を、奇跡を立て続けに起こっていた。
少々、都合が良すぎるかもしれないが、出来すぎていると。
そんなことはもう考えないでおこう。
支給品の確認と試しが終え、今後の行き先を選択する。
風都タワーにもう一度行くが、自分が来る頃には仕留められなかった連中は既にいないだろうが、誰かが入れ違いでくるかもしれない。
参加者がいてもいなくても西か東のどちらかに行くことは変わらない。
今すぐにでも戦いを愉しみたいが、もう少し、休憩しながら雨で火があちこちに消えるのを待つのと特に赤い痣の男との戦いでの頭を冷やさなければならない。
JUDOは疲れているにも関わらず、撤退を選択せずに戦いたい本能やプライドの高さが相まってこのような顔末になってしまった。
二度とこんなことにならないよう疲れているときは、癪ではあるが撤退を必ず選び、きちんと自制することを決めた。
これくらいできないとすべての参加者を始末するのは夢の夢になる、両面宿儺も放送で呼ばれなかった所をみると小学生の体でも上手く立ち回っているだろう。
今のJUDOの身体は異形ではない、人間だ。
人間の身体とはいえ、JUDOはどん底まで落ちて、井の中の蛙で世界は広いことを知った。
「痣の男に人間共、餌ではなく、敵として殺す。貴様らに負けない。これが我のリベンジだ。」
改めて、人間を敵と認識し、もう油断も隙も作らない。
特に屈辱と侮辱をした痣の男だけは絶対に自分の手で殺す、奴との戦いに負けて、屈辱を受けただけでなく、ディケイドライバーを壊し、逃走した行為は侮辱以外にない。
奴と再び遭遇次第、仮に命乞いしたとしても二度と許さない、完膚泣きまで勝利する。
そうこうしている内に雨はとっくに降っていた。
JUDOはデイバックからコンビニ弁当を出して食事にする。
そういえば何も食べていなかった、とJUDOはゲームが始まって初めての食事を取る。
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【E‐4 葛飾署/日中】
【大首領JUDO@仮面ライダーSPIRITS】
[身体]門矢士@仮面ライダーディケイド
[状態]負傷(小)、疲労(小)
[装備]ディケイドライバー+ライドブッカー+アタックライド@仮面ライダーディケイド
[道具]基本支給品×5、賢者の石@ドラゴンクエストシリーズ、警棒@現実、アクションストーン@クレヨンしんちゃん、トビウオ@ONE PIECE、タイムふろしき(残り使用回数:1回)@ドラえもん、精神と身体の組み合わせ名簿×2@オリジナル、レインコート@現実
[思考・状況]
基本方針:優勝を目指す。
1:闘争を楽しむが、今はまだ休息を取りながら火が収まるのを待つ。
2:その後、風都タワー行き、誰かがいれば闘争を楽しむ。
3:2がいてもいなくても西か東どちらかに向かう。
4:改めて人間どもは『敵』として殺す。
5:屈辱と侮辱をした痣の男(ギニュー)は絶対に絶対に絶対に絶対に殺す。
6:宿儺とは次に出会ったら、力が戻った・戻ってないどちらにせよ殺しあう。
7:疲れが出た場合は癪だが、自制し、撤退を選択する。
8:優勝後は我もこの催しを開いてみるか。
[備考]
*参戦時期は、第1部終了時点。
*現在クウガ〜響鬼のカードが使用可能です。
【タイムふろしき@ドラえもん】
元は鳥束零太に支給
時計のトレードマークのふろしきで、赤色を表に被せると古い人・物の時間を巻き戻すことができるが、青色を表に被せると新しい物の時間を進行することができる。
本ロワでは制限により、使用回数は3回までとする。
また首輪解除はできないものとする。
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投下終了します。
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初投下お疲れ様です。
短いながらも、JUDOというボス格キャラの心理掘り下げが利いていて面白かった!
>「痣の男に人間共、餌ではなく、敵として殺す。貴様らに負けない。これが我のリベンジだ。」
うん、キャラの心情の変化がこの一言に顕れていて大好き。
前半にリオンを仕留めて以降、中々逃げられたり負けたりで中々良い所が無いJUDOですが、その砕かれたプライドの描写が良かったです!
回復アイテムゲットしたのは良かったですが、ここからどうなるかも気になるキャラですね。
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雨宮蓮、エボルト、環いろは、ジューダス、檀黎斗、空条承太郎、ホイミンで予約します
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投下します
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「はあ、はあ、はあ…」
ホイミンは走る。
ひたすら走る。
現実から逃避するように。
何も考えたくなくて。
―ホイミン君
考えたくないのに。
ホイミンの脳裏には、声が響く。
志村新八の、声が。
―痛い、痛いよ、ホイミン君
―助けてよ、ホイミン君
「うわああああああ!!」
そうして幻聴に苛まれながら、走り続けたホイミンは。
「…あれ、ここって確か集合場所の」
それは、風都タワーに向かう途中でシャルティエが目印を残した場所。
E-5の集合場所に着いた直後…放送が始まった。
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風都タワー展望台。
JUDOとの戦いと新八の死、ホイミンの逃亡。
それらの事件が終わった後、特に負傷の激しかったジューダスと蓮は、エボルトに渡されたピーチグミである程度回復した。
残りひとつとなったピーチグミは、「所持者特権って奴だ」という謎理論をふっかけたエボルトが食べた。
また、ジューダスの支給品の最後の一つに『エルフののみぐすり』があった。
今いるメンバーの中では蓮のSP、いろはの魔力、ジューダスのTPに作用するものだ。
ジューダス本人は使わなくとも問題ないということで、蓮といろはが半分ずつ飲み、それぞれSPと魔力を回復させた。
放置されていた荷物については、サイクロンメモリ及び新八の荷物を蓮が、エターナルソードは、元々の所持者であったジューダスが武器は足りているということで、エボルトが持つこととなった。
『18年後ォ!?』
再会したマスター、リオン・マグナス…いや、ジューダスの話に、シャルティエは仰天する。
ジューダス達は今、黎斗と共に気絶している空条承太郎の見張りを行っていた。
危険人物かもしれない黎斗に、一人で見張りをさせるのは危ういというジューダスの判断からだ。
そして、承太郎の目覚めと放送を待つ中、長年の相棒である物言う剣・シャルティエにせがまれて、ジューダスは自分の素性を明かした。
『てことは坊ちゃんは今三十…』
「何を聞いていたんだシャル。僕は十八年前に死に、十八年ぶりに蘇った。歳など取っていない」
『へえ、それにしてもスタンの息子と旅をねえ。なんとも不思議な運命ですねえ』
「…一応聞いておくがシャル、千年前にカイル・デュナミスという金髪のガキと知り合ったことは?」
『ないですよそんなの』
「そうか…やはりお前はエルレインの干渉を受けていない世界から来たと考えてよさそうだな」
神を倒して、歴史の修復作用が働いた後の世界においては、カイルたちの冒険の記憶は消え、なかったことになっているはずだ。
このシャルティエは、その修復作用が働いた後の正しい歴史の住人なのだろう。
そして、このシャルティエがリオン・マグナス時代のものでかつエルレインの干渉を受けていないとなると、この殺し合いの場で死んだリオン・マグナスも、同じくエルレインの干渉を受けていない正しい歴史の人物だった可能性が高い。
「うぐっ…」
『あっ!?承太郎さん!?』
「シャルティエ…か?戦いは、どうなった?新八は…無事か?」
目を覚ました承太郎の問いの答えは、まもなく明らかとなった。
直後に行われた、放送によって。
風都タワーに集う6人の参加者。
その雰囲気は、どんよりとして暗い。
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「新八、ホイミン…」
特に暗い、というより機嫌が悪そうなのは、先ほど目を覚ましたばかりの空条承太郎だ。
彼は、この場で死んだ志村新八と、殺したホイミンと、この殺し合いの場で最も長くいた。
自分が気を失っている間に起きた惨劇に、苛立ちを隠せないようであった。
承太郎は、立ち上がる。
「悪いが、先に行かせてもらう」
そういってその場を離れようとするが、
「いや、待ってくれ」
呼び止める声に、足を止める。
そして、振り向くと呼び止めた人物…雨宮蓮を睨む。
蓮は言葉を続ける。
「承太郎、どこを探すつもりだ?」
「どこでもいい、ここを飛び出して時間が経ってねえってなら、バイクで虱潰しに…」
「やめておけ」
承太郎の言葉を遮り否定の言葉を紡ぐのはジューダス。
「その重傷で一人であてもなくこの周辺を探すつもりか?この近くには、僕達が先ほどまで戦っていた男も近くにいるんだぞ」
ジューダスは、他の者には告げていないが、放送の前に悪人レーダーを密かに使用していた。
すぐ近くにいる二つの気配を除けば…南に2つ反応があった。
ひとつは先ほどの男…JUDOのものだろう。(もう一つの反応は現時点で既に離れているがギニューのものである。ジューダスはギニューが探索範囲内を離れていることに気づいていない)
なお、ホイミンの逃走直後にも使ったのだが…幸か不幸か、ホイミンにレーダーは反応しなかった。
ともかく、JUDOに加えてもう1人敵がいるかもしれないのだ。
うかつに動き回らせるべきではない。
「落ち着いたらどうだい、承太郎君。ここは殺し合いという、コンティニュー不可能なゲームだ。一つの判断ミスが、取り返しのつかないゲームオーバーにつながる可能性があるのだから」
「黎斗さんの言う通りです、みんなで、ホイミンさんを探しましょう」
黎斗といろはも、承太郎を説得する。
「……………」
承太郎の脳裏に浮かぶのは、一人の侍との約束。
彼は、坂田銀時は、自分に新八とホイミンを託した。
その約束を…守れなかった。
それ故に承太郎は、らしくもなく焦っていた。
(…すまねえ、坂田銀時)
黎斗達の言葉でいくらか激情から冷めた承太郎は、頭の中で詫びる。
(もうこれ以上奪わせねえ…あんたとの約束を、これ以上違えるようなことはしねえ)
ホイミンは生きている。
もう一人の仲間、神楽もどこかで生きている。
あの侍との約束は、まだ終わっていない。
約束をこれ以上破らないためにも…
「…悪かった」
承太郎は再びその場に座り込む。
暴走した新八を、承太郎一人では止めることはできなかった。
未来の後輩に無敵と呼ばれたスタンドを持っていようとも、彼は万能ではない。
なんでもできるスーパーマンではない。
だから…力を借りよう。
今ここにいる、仲間たちの力を。
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「さて、こいつが落ち着いたところで…蓮、話したいことがあるんだろう?」
承太郎が落ち着いたところで、エボルトが蓮に話を促す。
エボルトの言う通り、蓮は放送が終わってから、考えていることがあった。
「俺とエボルト、承太郎とホイミンには数時間前、別の仲間がいた」
野原しんのすけ、犬飼ミチル、ゲンガー、エーリカ・ハルトマン。
彼ら彼女らは、アドバーグ・エルドルの救出のため、街に残った。
しかし…
「エルドル氏、そしてハルトマンは放送で呼ばれた」
エルドルに関しては、無関係の所で死んだという可能性もなくはない。
だが、ハルトマンは気絶しながらも彼らと一緒にいた。
向こうも、何かがあったと考えていいだろう。
ホイミンの事とは別に、こちらも何とかしなければいけない。
「俺は、しんのすけ達を助けるために、全員で街に戻るべきだと思ってる」
「…ホイミンの捜索は、どうする」
承太郎が睨んでくるが、蓮は構わず続ける。
「…俺たちは全員さっきの戦いでボロボロだ。できれば全員で行動したいと思っている。それに…俺はあいつを…ホイミンを信じてる。付き合いこそ短いが…仲間を放送で呼ばれて、大人しくしてる奴じゃないって」
蓮が考えているのは、ホイミンがエルドルやハルトマンの死を聞いて、街に戻る可能性だ。
というより、この風都タワーか東の街以外の場所に行かれていたら、それこそジューダスが先ほど言っていたようにあてもなく探すしかなくなる。
「一ついいか」
と、ここでジューダスが意見を出す。
彼には、蓮とは別に考えがあった。
「放送前にシャルから聞いたが、お前たちは、先ほど禁止エリアになったE-5を集合地点に定めたそうだな?」
「ああ、そうだぜ?その剣が出した魔法を目印にな」
ジューダスの問いに、エボルトが答える。
蓮たちは風都タワーに行く途中、E-5でシャルティエに岩壁の目印を作っていた。
そして、その場所は先ほど禁止エリアに指定された。
ジューダスとエボルトの会話を聞いて、蓮はハッとする。
禁止エリアということで無意識に選択肢から外していたE-5だが…
「そうか…その可能性もあったか」
しんのすけ達や、ホイミンが目印を目指していた可能性はある。
しかし、禁止エリアに指定された為、普通ならもう既に離れているだろう。
だからこそ蓮は、ホイミンが向かう可能性としてその場所を無意識に排除していた。
だが、今のホイミンは…もしかしたら…!
「E-5が禁止エリアに指定されるまで、2時間を切っている。あそこは、空を飛べる僕がここから飛び降り、川を突っ切った方が早いだろう。E-5の探索を切り上げたら、街に向かう」
「あ、それなら私も行きます。この身体、飛行魔法が使えるようですから」
禁止エリアは放送から2時間後に指定される。
時間が押しているということで、ジューダスといろはは話し合いを切り上げて先に出発することとなった。
「こ、これを飛び降りるんですか?」
「行くぞ」
「ま、待ってください」
先に展望台から飛び降りたジューダスを追うように、いろはも飛び出す。
しばらく自由落下に任せた後、ギリギリのところで彼らの身体は宙を舞った。
そして、E-5に向けて飛んでいくのであった。
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「過去に戻って黒幕を倒し、殺し合いそのものをなかったことにする…か。こんなことが、本当に可能なのだろうか」
ジューダス達が出発した後、残りの4人はバイクで街へ向かうため、タワーを降りていた。
なお、新八の死体については放置はできないということで、承太郎が回収して持っている。
降りながら、黎斗達以外のものはジューダスに読んでおいてくれと言われ託されたメモを読んでいた。
大胆なジューダスの作戦に、蓮は上手くいくのか不安を感じていた。
そもそもの話、計画を立てたジューダスも感じているだろうが、現時点で真の黒幕が誰か、どれほどの勢力なのかも不明であるし、ジューダスの言う時空に干渉する力というのが何なのかが分からない。
見通しは現状、かなり不透明と言わざるを得ない。
「一応あいつから譲り受けたこのエターナルソードとかいう剣も、時を越える力って奴があるらしいぜ?使用条件があるのか、力が封印されてるのか、当然、今そんな力は使えないが」
エボルトは剣を見せてやりながら、ジューダスの計画について考える。
このエターナルソードも含めて、時空に干渉する力、という奴は厄介だ。
エボルトの計画が、過去を遡りやり直すという形で覆されてはたまらない。
しかし、この計画を実行し歴史が修復された場合、記憶もなくなるだろう。
エボルトとしては、この計画を実行せずに時空に干渉する力という奴を排除したいところだった。
(それより…おい、千雪)
(…なんでしょうか)
エボルトは、自分の心のもう一人の住人に声をかける。
すぐに、千雪は反応した。
(…なるほど、どうやらお前は消されてはいないようだな)
(…まあ、私の持ってる情報なんて、あちらにとってもたいしたものではないでしょうし)
先ほどの放送で、肉体の人物の精神の復活について言及があった。
場合によっては消す、とも。
とりあえず今は、そういう事態にはなっていないらしい。
(しっかし、想定外ねえ。その割に、妙にあっさり接触できたが)
もし自分と千雪のこの接触も主催陣営にとって想定外だったのだとしたら、奴らはエボルトの力を理解せずにこの殺し合いの場に呼んだということになる。
それは少々、迂闊すぎないだろうか。
(…いや、この殺し合いゲームには、当初からそういう綻びみたいなものがあったな)
開始してしばらくしてから配られる名簿。
最初の6時間の後に後出しで伝えられた地図の施設表示ルール。
どうにも、突貫で作ったような歪さが、この殺し合いゲームにはあった。
(まあ、いい。奴らに隙があるというのなら、たっぷりそれを利用して、蹂躙してやるまでだ)
やがて、彼らは風都タワーを降り終え、地上に出た。
ハードボイルダーには蓮とエボルトが、銀時のスクーターには承太郎と黎斗が乗り、彼らは東の町へと向かうのだった。
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【D-4 風都タワー付近/日中】
【雨宮蓮@ペルソナ5】
[身体]:左翔太郎@仮面ライダーW
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)、SP消費(中)、体力消耗(小)、怒りと悲しみ、ぶつけ所の無い悔しさ
[装備]:煙幕@ペルソナ5、T2ジョーカーメモリ+ダブルドライバー@仮面ライダーW
[道具]:基本支給品×3、ロストドライバー@仮面ライダーW、ハードボイルダー@仮面ライダーW、、スパイダーショック@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜2(煉獄の分、刀剣類はなし)、T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、新八のメガネ@銀魂、両津勘吉の肉体、ジューダスのメモ
[思考・状況]基本方針:主催を打倒し、この催しを終わらせる。
1:東の町へ戻る。
2:仲間を集めたい。
3:エボルトは信用した訳ではないが、共闘を受け入れる。
4:今は別行動だが、しんのすけの力になってやりたい。
5:体の持ち主に対して少し申し訳なさを感じている。元の体に戻れたら無茶をした事を謝りたい。
6:逃げた怪物(絵美理)やシロを鬼にした男(耀哉)を警戒。
7:ディケイド(JUDO)はまだ倒せていない気がする…。
8:新たなペルソナと仮面ライダー。この力で今度こそ巻き込まれた人を守りたい。
9:推定殺害人数というのは気になるが、ミチルは無害だと思う
[備考]
※参戦時期については少なくとも心の怪盗団を結成し、既に何人か改心させた後です。フタバパレスまでは攻略済み。
※スキルカード@ペルソナ5を使用した事で、アルセーヌがラクンダを習得しました。
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。
※翔太郎の記憶から仮面ライダーダブル、仮面ライダージョーカーの知識を得ました。
※エボルトとのコープ発生により「道化師」のペルソナ「マガツイザナギ」を獲得しました。燃費は劣悪です。
※しんのすけとのコープ発生により「太陽」のペルソナ「ケツアルカトル」を獲得しました。
【エボルト@仮面ライダービルド】
[身体]:桑山千雪@アイドルマスター シャイニーカラーズ
[状態]:ダメージ(小)、疲労(大)、千雪の意識が復活
[装備]:トランスチームガン+コブラロストフルボトル+ロケットフルボトル@仮面ライダービルド、エターナルソード@テイルズオブファンタジア
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品0〜2(シロの分)、累の母の首輪、アーマージャックの首輪、煉獄の死体
[思考・状況]
基本方針:主催者の持つ力を奪い、完全復活を果たす。
1:東の町へ戻る。
2:蓮や承太郎を戦力として利用。
3:首輪を外す為に戦兎を探す。会えたら首輪を渡してやる。
4:有益な情報を持つ参加者と接触する。戦力になる者は引き入れたい。
5:自身の状態に疑問。
6:出来れば煉獄の首輪も欲しい。どうしようかねぇ。
7:ほとんど期待はしていないが、エボルドライバーがあったら取り戻す。
8:千雪にも後で話を聞いておく。
9:余裕があれば柊ナナにも接触しておきたい。
10:今の所殺し合いに乗る気は無いが、他に手段が無いなら優勝狙いに切り替える。
11:推定殺害人数が何かは分からないが…まあ多分ミチルはシロだろうな(シャレじゃねえぜ?)
12:ジューダスの作戦には協力せず、主催者の持つ時空に干渉する力はできれば排除しておきたい
[備考]
※参戦時期は33話以前のどこか。
※他者の顔を変える、エネルギー波の放射などの能力は使えますが、他者への憑依は不可能となっています。
またブラッドスタークに変身できるだけのハザードレベルはありますが、エボルドライバーを使っての変身はできません。
※自身の状態を、精神だけを千雪の身体に移されたのではなく、千雪の身体にブラッド族の能力で憑依させられたまま固定されていると考えています。
また理由については主催者のミスか、何か目的があってのものと推測しています。
エボルトの考えが正しいか否かは後続の書き手にお任せします。
※ブラッドスタークに変身時は変声機能(若しくは自前の能力)により声を変えるかもしれません。(CV:芝崎典子→CV:金尾哲夫)
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。
-
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:燃堂力@斉木楠雄のΨ難
[状態]:疲労(極大)、全身にダメージ(大)、銀髪の男(魔王)への怒り、気絶中
[装備]:ネズミの速さの外套(クローク・オブ・ラットスピード)@オーバーロード、MP40@ストライクウィッチーズシリーズ
[道具]:基本支給品×2、予備弾倉×2、童磨の首輪、銀時のスクーター@銀魂、フィリップの肉体
[思考・状況]基本方針:主催を打倒する。
1:東の町へ戻る。
2:ホイミンを早く見つけたい。
3:主催と戦うために首輪を外したい。
4:DIOは今度こそぶちのめす。ジョナサンの身体であっても。
5:銀髪の男(魔王)、半裸の巨漢(志々雄)を警戒。
6:エボルトはどうも信用しきれない為、警戒しておく。
7:天国……まさかな。
[備考]
※第三部終了直後から参戦です。
※スタンドはスタンド能力者以外にも視認可能です。
※ジョースターの波長に対して反応できません。
※ボンドルドが天国へ行く方法を試してるのではと推測してます。
またその場合、主催者側にDIOの友が協力or自分の友が捕らえられている、自分とDIOの首輪はダミーの可能性があると推測しています。
※時間停止は現状では2秒が限界のようです。
【檀黎斗@仮面ライダーエグゼイド】
[身体]:天津垓@仮面ライダーゼロワン
[状態]:ダメージ(大)、疲労(極大)、胴体に打撲
[装備]:ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、バットショット@仮面ライダーW、着火剛焦@戦国BASARA4
[道具]:基本支給品、アナザーディケイドウォッチ@仮面ライダージオウ、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:優勝し、「真の」仮面ライダークロニクルを開発する。
1:東の町へ向かう。
2:人数が減るまで待つ。それまでは善良な人間を演じておく。
3:ジューダスに苛立ち。機を見てどうにかしたいが、別行動になってしまったな。
4:痣の少年(ギニュー)に怒り。
5:余裕があれば聖都大学附属病院も調べたい…が、微妙な位置が禁止エリアになったな。
6:優勝したらボンドルド達に制裁を下す。
[備考]
※参戦時期は、パラドに殺された後
※バットショットには「リオンの死体、対峙するJUDOと宿儺」の画像が保存されています。
-
(ど、どうしよう…)
放送を聞いて、ホイミンはうろたえる。
今いるここ、E-5は2時間後に禁止エリアになってしまうらしい。
今すぐ離れないと…
―離れて、どうするの?
しかし、そんな思考に、ノイズが走る。
―僕にあんなことしておいて、まだ惨めに生に縋るの?
「ああ…あああ……」
そうだ、新八の言う通りだ。
今更…生きてどうするっていうんだ。
僕の中には悪魔が棲みついてて…その悪魔は新八君を食べちゃった。
だったらいっそ…このまま…
(でも…)
しかし一方で、気になることもあって。
放送で、アドバーグ・エルドルやエーリカ・ハルトマンの名前が呼ばれた。
しんのすけ達の方でも何かがあったらしい。
それを放っておいて、いいのだろうか。
ホイミンの中に残る善性が、そう訴えかけてくる。
―行ってどうするの?僕みたいに食べちゃうの?
しかし、また思考にノイズが走る。
ああ、やっぱりダメだ。
僕は、何をしてもみんなに迷惑をかけちゃう、悪いホイミスライムになっちゃったんだ。
このまま死んだ方が、みんなの為なんだ。
そうしてホイミンは、考えることをやめた。
シャルティエが残した岩壁に寄りかかり、死の時が来るのを待った。
しかし、そんな彼のもとに、
「いました、ジューダスさん!」
「動く気のないあの様子…嫌な可能性が、当たったか」
『ホイミン君!』
天空からの使者が、舞い降りてきた。
-
【E-5 シャルティエの岩壁前/日中】
【環いろは@魔法少女まどか☆マギカ外伝 マギアレコード】
[身体]:高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)、魔力消耗(中)、右肩と腹部に刀傷(処置済み)、悲しみと無力感、なのはの身体でいる事への恐怖(ある程度克服)
[装備]:レイジングハート@魔法少女リリカルなのは
[道具]:基本支給品(リトの分)、仮面ライダークロニクルガシャット@仮面ライダーエグゼイド、エッチな下着@ドラゴンクエストシリーズ、ニューナンブM60(5/5)@現実、鎖鎌@こちら葛飾区亀有公園前派出所
[思考・状況]基本方針:元の体に戻る。殺し合いには乗らない。
1:ホイミンと接触
2:ジューダスさんの言う方法なら、結城さんが助かるかもしれない。
3:もしも私の記憶が私のものじゃなくなっても、皆の事は絶対に忘れない。
[備考]
※参戦時期は、さながみかづき荘の住人になったあたり。
※自分のデイパックを失いました。
【ジューダス@テイルズオブデスティニー2】
[身体]:神崎蘭子@アイドルマスター シンデレラガールズ
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、右肩に刺し傷(処置済み)、脇腹に裂傷(処置済み)、上半身に細かい切り傷(戦闘に支障なし)、天使化
[装備]:シャルティエ@テイルズオブデスティニー、パラゾニウム@グランブルーファンタジー
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本方針:主催陣営から時渡りの手段を奪い、殺し合い開催前の時間にて首謀者を倒す。
1:ホイミンと接触
2:黎斗を警戒。何を考えている?
3:エボルトも悪の魂の持ち主のようだが…。
4:痣の少年(ギニュー)は次に会えば斬る。
[備考]
※参戦時期は旅を終えて消えた後。
※天使の翼の高度は地面から約2メートルです。
※天使化により、意識を集中させることで現在地と周囲八方向くらいまでの範囲にいる悪しき力や魂を感知できるようになりました。
※蘭子の肉体はグランブルーファンタジーとのコラボイベントを経験済みのようです。
【ホイミン@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
[身体]:ソリュシャン・イプシロン@オーバーロード
[状態]:ダメージ(中)、魔力消費(大)、精神的動揺(大)、諦観
[装備]:アンチバリア発生装置@ケロロ軍曹
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:このまま禁止エリアに留まって死ぬ
1:もう、どうでもいいや。
[備考]
※参戦時期はライアンの旅に同行した後?人間に生まれ変わる前。
※制限により、『ホイミ』などの回復魔法の効果が下がっています。
※プロフィールから、『ソリュシャン・イプシロン』と彼女の持つ能力、異世界の魔法に関する知識を得ました。
※精神にソリュシャンの影響を受けました。今後更に悪化するかもしれません。
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投下終了です
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すみません、承太郎の気絶中消し忘れてました
収録の際消していただければ
後、支給品の解説も追記します
【エルフののみぐすり@ドラゴンクエストシリーズ】
ジューダスに支給。
MPを全回復させる薬。
ペルソナのSPやテイルズのTP、魔法使い系の魔力消費など、MPに類するものも回復可能。
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絵美理で予約します。
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桐生戦兎、杉元佐一、我妻善逸、悲鳴嶼行冥、神楽、胡蝶しのぶ、姉畑支遁を予約します。
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投下します。
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どこにでもいるごく普通の殺人鬼、絵美理が迷い込んだのは、山の中であった。
怪物(アルフォンス)により投げ飛ばされた後、ここにたどり着いた。
具体的な場所としては【C-4】、山の麓の辺りだ。
絵美理は今、その上空で筋斗雲に乗っている。
この場所に来たのはたまたまだ。
水着姿でチェーンソーを持ちながら山の中を徘徊する癖のあった彼女だが、今はそんなことはできない。
今山の中に入るつもりはなかった。
自分の意思に反した場所移動は、彼女に更なるストレスを与える。
「………んん?(スンスン)」
イライラしながらも次はどこに行こうか、やっぱ春の屋に行こうか、それとも頑張ってさっきの場所に戻って化け物共を切り刻みに行こうか、
そんなことを考えていた時、彼女はある臭いに気付く。
「焦げ臭いですね…どなたかお料理にでも失敗したのでしょうか」
絵美理はそんなことを考えながら、臭いの来た方向へと顔を向ける。
そこでは、山火事が起きていた。
「あら、ただの火事でしたか。ということは、どなたか居るかも……しれませんねええええええええぇぇぇぇーっ!!」
絵美理は目を大きく見開いて、その火事に興味を向けた。
火災現場は危険だとか、彼女はそんなことを考えるためには頭を使わない。
とりあえず何らかの異常があれば、人が居そうであれば、とにかく獲物を狙うために動くだけだ。
だが、彼女がすぐにそっちの方に向かうことは無かった。
「えぇぇぇぇぇぇ………ん?」
先に島全体にチャイムが鳴り、定期放送第二回が始まったからだ。
◆
「クックック…!こいつはいいことを聞いた!」
流石の絵美理も放送が始まれば大人しくその場で止まり、話に耳を傾けた。
今回の発表者はどんな奴だとか、前回の放送から今まで何人死んだだとか、そんなことに興味はない。
何か身体側の存在として発表された天使の悪魔には何か見覚えあるような気もしたがまあ気のせいだ。
何か最初の方で身体側の精神の発生がどうたらこうたらみたいな話もあったが、それも彼女の気にすることではない。
放送で大人しくしていたのは単に、禁止エリアはどこだとか、自分にも直接影響のある情報だけを求めていた。
しかし今回の放送では、それ以外にも彼女にとって有益な情報があった。
「モノモノマシーン…新たなアイテムを手に入れる機械であり機会か…。そいつは面白い!」
絵美理の関心を引いたのはモノモノマシーンだ。
こいつは、死体から回収した首輪があれば使えるらしい。
それだけでなく、誰かの殺害に成功したものならば一度だけ無料で利用可能とのことだ。
絵美理はこれまで最低でも2人か3人は確実に自分の手で殺している(実際は1人は勘違い)。
一度は確実に利用可能だ。
首輪については、一応殺した後ほったらかしにした状態のものに一つ心当たりがある。
しかしそれを回収しに行こうとは思わない。
その場所からはもうだいぶ離れてしまったし、そもそもそこは今の放送で禁止エリア内に指定された。
もはや回収は不可能だろう。
だからその首輪についてはもう考えることはない。
前回のボーナスであった精神と身体の組み合わせ名簿は、身体側にも自分の知る名前が無かったため絵美理の役には立たなかった。
だが今回が初発表のボーナスは、彼女にも十分役立つものだった。
ふざけた口調で気分が悪くなるとかも言っていたが、そんな都合の悪い事は聞き逃した。
-
「あっ、そうだ。そういえば参加者の中には『柊』さんがいましたね」
名簿について考えた時、ふとそんなことも思い出した。
ここでいう参加者の柊さんとは、柊ナナのことだ。
ナナが持つこの名字は、かつての絵美理の花婿候補であり、彼女の頭部を粉砕した男と同じものだ。
※その時の絵美理は頭部を失っても即死せずに生きていた。最終的な死因は自爆。
「柊姓の方には個人的な恨みがありますし、優先的に殺しましょっか♪」
もう始まってから12時間経っているのに、かーなーり今更ながらそんなことを彼女は決める。
柊ナナ自体には絵美理との縁は全くないので、完全に八つ当たりで決めていた。
「よーし、とりあえずまずはあっちの方に行ってみましょうか♪」
それはともかくとして、絵美理は火事が起きていることを気にせずに、そっちの方へ行くことを決めた。
火事程度で臆するような絵美理ではない。
と言うよりは、火事現場が危険であると考える前に行動した。
一々そんなこと気にする彼女ではない。
ただ、たまたまそっちの方に興味が向いたから、行くだけだ。
瞬間瞬間の気分・ノリでやることを決める。
川越市民とはそういう生き物なのだ(風評被害)。
まあ、一番近いモノモノマシーンのある場所が、現在地から西側にある網走監獄のものなので、なるべく西に近づけるように動きたかったという考えも一応なくは無かったが。
「その前に…これを被っておきましょう」
絵美理は火災現場に突っ込む前に、基本支給品である水の入ったペットボトルを数本取り出す。
そして、これを開けて自分に向けて豪快に振りかける。
水まみれになることで、多少は熱に耐えれるように、そして服に火が燃え移りにくくなることを考えての行動だ。
殆ど考え無しの絵美理でも、危険な場所に突っ込む前に可能な限りの対策は思いつける。
二人分の未使用の基本支給品が手に入っているため、このような手段を講じることもできた。
「それじゃあ今度こそ…行くぜえええええええええぇぇぇぇっ!!」
◇
絵美理は、山火事が起きている部分へと、筋斗雲に乗って突っ込んでいく。
木々は燃え盛っており、既に倒れているものや、まだ立っていてはいるが今にも倒れそうなものもある。
と言うか、絵美理が通ろうとした瞬間、彼女に向けて倒れて来た木があった。
「邪魔だああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
『ヴヴン!!』
そんな木が現れれば、絵美理はすかさず胸のスターターを引き、チェンソーの悪魔の姿を展開する。
そして、自分に接触しそうになった木を破壊する。
絵美理はこうして、炎に囲まれた森の中へと突入した。
彼女は、収穫を求めて人の存在を探した。
しかし、この場所で生きた人間がいる様子はなかった。
「あ、あれは…!!」
けれども絵美理はやがて、あるものを見つける。
「よっしゃああああああぁぁっ!!首輪ゲットだあああああああぁぁぁっ!!」
そこにあったのは、人間の死体だった。
だがそれには既に火が燃え移って、焼け焦げて真っ黒だった。
元は誰であったのかの判別はつかない。
もっとも、絵美理はそんなことに興味は全くないが。
絵美理はこの黒焦げ死体を見て、首輪を手に入れるチャンスが早速来たと思った。
筋斗雲に乗った勢いのまま、この死体に向けて手を伸ばす。
もちろん、手のチェンソーは引っ込めてだ。
そしてそのまま落ちてた体を掴み、持ち上げた。
彼女がとっさに掴んだのは、頭の部分だ。
-
「あっれえええええええぇぇぇーっ!!?」
しかし、絵美理はその死体の全部分を持てなかった。
死体が、既に切り分けられていたからだ。
具体的には、三分割されていた。
彼女が掴めたのは、死体の頭の部分にだけだ。
他の胴体部分は地面に取り残されたままだ。
勢いをつけて進んでいたため、残された部分は彼女の後ろの方へと遠ざかっていく。
予想外の展開に、流石の絵美理も驚く。
持ち上げる直前まで思っていたよりも腕にかかる重さがかなり軽かったため、素っ頓狂な声もあげてしまう。
「こ、こいつ…首輪がない、だとぉ!?」
同時に、彼女はこの燃え焦げた生首にあるべき物が無いことに気付く。
慌てて、胴体部分の方に探しに戻る。
「こっちにも無い!?もしかして、どなたか持っていきました!?」
残された胴体部分にも首輪は残ってなかった。
そして、絵美理もここに首輪がない理由を察する。
彼女が頭部だけを拾ってしまったのも、同じ理由だった。
絵美理がここに来る前から、何者かによりこの死体の首は切断されており、首輪も持ち去られていた。
そして死体の頭を拾ったと同時に、状況が更に変わる。
絵美理もいるこの場所、死体の落ちている所に向けて、燃えている木が倒れて来た。
「ちっ!これ以上は無理かっ!」
絵美理はこれ以上ここで何かを探すことを諦めた。
倒れてきた木を避け、筋斗雲に乗ったまま、西に向かって移動し始めた。
同時に、倒れた木が残る死体の部位を潰した。
炭化した焼死体は、木の下敷きになって潰され、原型のない粉々な状態になる。
この場所はとても熱く、煙たい。
幸いにも衣服に火が燃え移ったり、煙による中毒症状を引き起こしている様子はない。
水を被っていなかったら、今以上に酷い状態になっていたかもしれない。
けれどもやはり、ここは苦しい事には変わりない。
とりあえず手に入れたものはあるので、この場所はもう用なしとして、もう次に行くことにする。
絵美理は勢いのまま、筋斗雲を斜面に沿って走らせ、山を登って行った。
◆
「お邪魔しまああああああああああああああぁぁぁぁぁぁーすっ!!」
絵美理はやがて、山の中にポツンと建っていた一軒家を見つけ、その中に勢いよく転がり込んだ。
そこは、地図上においても施設として記された建物、竈門家だ。
絵美理は筋斗雲に乗ったまま、この竈門家の出入り口の扉をぶち壊しながら入った。
そして、荷物と火災現場から持ってきた生首を家の中の床に向けて乱暴に放り投げる。
部屋の中央の辺りでどっかりと座り込む。
それと疲れたのでチェンソーの悪魔の姿は解除しておく。
「残念な結果でしたが、仕方がありませんね」
流石の絵美理も今回は諦めた。
火事の現場は思ってたより熱く苦しい場所だった。
さっき降り始めた雨でいずれ鎮火するようではあるが、もうあそこには戻ることはないだろう。
今突っ込んだばかりのこの一軒家の中にも、人がいる様子はなかった。
それもちょっと残念な気持ちはある。
一応痕跡は残っているのだが、そのことに彼女は気づかない。
だがそんなことを気にするより、これからのことを考えるべきだ。
「さて…先にお昼にでもしましょうか」
そして、絵美理はすぐに網走監獄に向かうのではなく、一旦この家の中で休憩することにした。
なるべくなら早めに網走監獄に行きたいところではあるが、今はちょっと疲れ気味だからだ。
そしてまずは、昼食を摂ろうとした。
絵美理はコンビニ弁当を取り出し、ふたを開ける。
今は何だかタンパク質をとりたい気分、だからまずは肉が入っている弁当を選ぶ。
今回選んだのは、唐揚げの入ったものだ。
-
「……………うーーーーん………」
唐揚げを口に含んですぐ、絵美理は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「何かもの足りませんねえ……」
絵美理にとってこの唐揚げ弁当は、味が薄いように感じた。
自分が今求めているものは、鶏肉の味ではなかった。
そのことを、実際に食べてみることで自覚した。
「人肉が食べたくなってきました……」
だんだんと、そんな気持ちになってきた。
川越市民にとって人肉食はそこまで珍しいものではなかったはず。
例えば、死体をネクロマンサーが蘇らせることによって誕生するゾンビを加工して作るゾンビーフというものが、世界線によっては川越市に存在する。
※詳しくは「えろえろ監禁病棟」で。
絵美理自身も既に、結構前にこの殺し合いの舞台のある東の街の中で、人の手首を食べた。
あれは死亡してからかなり時間の経った人の手首だったためか、あんまり美味しくなかった。
新鮮だったら何か違ったかもしれない。
「これは焦げていて使えませんね」
絵美理は地面に転がした生首に目を向ける。
だが、これを食べようとは思わない。
今自分が食べたいものは確かに人肉だが、これはほとんど炭化している。
ウェルダン以上の焼き加減だ。
どんな食材だって、真っ黒になるまで焦げればまずい。
料理が得意な絵美理は、そんなこと当然のようによく分かっている(はずだ)。
人の肉も同じだ。
せっかく…というよりは勢い余って持ち帰ってしまった生首だが、ちょっとここでは使い道が無いかもしれない。
「何かないですかね…」
絵美理はもう一度デイパックに手を伸ばし、中を探る。
食べ掛けの唐揚げ弁当は中に戻す。
自分を満足させなかった弁当はイライラに任せて壁にでも叩きつけてもおかしくなかった。
だけど、料理を趣味とするものとしてそんな食べ物を完全に無駄にするようなことは止めておいた。
ストレスが最大まで溜まってたら何か違ったかもしれない。
とにかく、絵美理は他に何か昼食のために使えそうな物を求めてデイパックの中をこれまでよりも更に深く探った。
やがて、彼女はあるものを見つけることになる。
「あら?これは何でしょうか?」
それは、杖だった。
先端に二本の角が生えたドクロのような飾りの付いた杖だった。
「こんなものもあったのですね」
絵美理はこれをここで初めて見つけた。
彼女は自分の持ち物を全て確認できていたわけではなかった。
和服の男から新たに2つのデイパックを奪った後、それらの中身を乱雑にまとめたため、これはデイパックの奥の方に潜り込んでしまっていたようだ。
だから気付かなかったのだろう。多分。
絵美理はこの杖の説明書も見つけ、使い方を確認する。
「何ッ!?これを振ると欲しいものが手に入る…だと!?」
そこには、想像もつかなかった効果が記されていた。
この杖を振ると、振った当人が望む物が何でも一つ、手に入るらしい。
新しく役立つアイテムが欲しいのならば、先の放送で発表されたモノモノマシーンよりも便利そうなものだった。
ただし、この杖にはそれ相応のデメリットが存在した。
「使えるのは一人一回まで…しかも望んだ効果を持つ物が絶対に手に入るとは限らない…杖が折れたら出したものは消えてしまう…」
制限としては、使用回数があった。
そして、この殺し合い以前から存在する、杖自身の特徴として、必ずしも杖を振った当人が望む通りのものが出る訳ではないとのことだった。
具体的にどんなものになって出てくるとかは、説明書には書いてなかった。
また、杖が折れてしまえば、出した物も消滅してしまうとのことだ。
「そして、一度使ってしまえば、体の大きな怪物になり、杖を守りたくなる心が現れる…」
これが、杖を使う上での最大のデメリットと呼べるものだった。
この杖で何かを出すと、使用者は呪われ、何かでかくて怖い奴に変えられてしまう。
そして、杖を折らないでっていう、二つ目の心ができてしまう。
この怪物化も一応、杖が折れれば解除されて元に戻るようだ。
「うーん…これは今は使わないでおきましょう」
絵美理はそう判断する。
わざわざモノモノマシーンのところまで行かなくともアイテムを一つ、それも自分の望むものを出せるというのは魅力的だ。
今何故か食べたい気分な、美味しい人肉を出すこともできるかもしれない。
それでも、ここでは使わないことにした。
本当に望んでいるものが出るのかも分からないし、一回しか使えない以上使いどころをよく見極めないといけない。
-
でかい怪物になるっていうのは、それが殺し合いに有利な姿ならば別に問題ないとは思う。
なんかでかくて強いやつになって、弱者をバーンとねじふせるのはきっと気持ちいいだろう。
ただ怪物化すると、どうも杖に操られるようになってしまうらしいのは、少し嫌な感じがする。
この杖を使うのは、使わなければ本当にどうしようもないという状況の時にするべきだろう。
今一番食べたい食材の塊なら、この舞台には最大であと38体残っているはずだ。
いずれはそいつらを狩ればいい。
休憩後に向かおうと思っている網走監獄にだって、モノモノマシーン目当てで自分以外のやつが来るかもしれない。
その時がチャンスだ。
絵美理はそう決めると、杖もデイパック内に戻す。
そして、今は昼食を中断することにし、そのまま床の上に寝っ転がる。
「血だけでも少し飲んでおきましょう…」
せめてもの口直しをしようと彼女は思った。
絵美理は輸血パックを1つ取り出し、輸血口を開け、自分の口をつけてチュウチュウと吸う。
パック内の3分の1程吸ってから、これもデイパック内に戻す。
「あああああああああああああぁぁぁぁぁぁ……!やっぱ人肉が食いてえええええええええええぇぇぇぇぇぇ……!食いてえよおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ………!」
絵美理は仰向けに大の字になって寝っ転がりながらそう喚く。
今は我慢すべきだと自分で判断したものの、やっぱ辛い。
血は一応口直しになったが、これだけだと満足できない。
一応休憩することにはしたが、動けると思ったらすぐに出発しよう。
そう考えながら床の上で寝っ転がる絵美理の顔は、気が抜けている少しだらしない表情にも見えた。
その頬には、まだ小さいが、青黒く変色した血管が浮き上がっていた。
彼女は、そのことに気付いてなかった。
◆
溶源性細胞の感染者が発症するまでの時間には個人差が存在する。
そもそも発症しないことだってある。
発症するとしても、感染してすぐに発症するという例は確認されていない。
けれども、発症までの時間やその平均といった詳細なデータもまた存在しない。
確認できていないだけで、感染から発症がかなり早かった例も存在したかもしれない。
そして、今の絵美理の身体であるデンジは、チェンソーの悪魔の力により、血を飲めば一瞬で傷が再生する。
もしかしたら、経口摂取した血も、一瞬で体中全体に巡るようになっているかもしれない。
それにより、溶源性細胞の症状が早めに出ることはありえるかもしれない。
……………これは拡大解釈というか、妄想が過ぎるだけで、別にそんなことはないかもしれない。
【C-3 竈門家/日中】
【絵美理@エッチな夏休み(高橋邦子)】
[身体]:デンジ@チェンソーマン
[状態]:疲労(大)、イライラ(中)、溶原性細胞感染、空腹感、服・体が濡れている
[装備]:筋斗雲@ドラゴンボール、圧裂弾(1/1、予備弾×2)@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品、輸血パック×3(1つは3分の1程消費)@現実、虹@クロノ・トリガー、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、杖@なんか小さくてかわいいやつ、ランダム支給品0〜1(童磨の分)
[思考・状況]
基本方針:皆殺しだぁぁぁぁぁーっ!
1:休み終わったら網走監獄に行くぜぇぇぇぇぇーっ!
2:新鮮な人肉が食いてぇぇぇぇーっ!
3:「柊」は絶対に私がぶっ殺すぜぇぇぇぇーっ!
[備考]
※死亡後から参戦です。
※心臓のポチタの意識は封印されており、体の使用者に干渉することはできません。
※女性の手首@ジョジョの奇妙な冒険を食べました。
※炸裂弾@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-は全て使用したため、一つも残っていません。
※鵜堂刃衛(身体:岡田以蔵)を殺したのは自分だと思い込んでいます。鵜堂の名前までは分かってません。
※オリジナル態の血液を摂取した為、溶原性細胞に感染しました。チェンソーの悪魔変身時への影響等は現状不明です。
※竈門家の出入り口の扉が破壊されました。
※竈門家内に焼け焦げて誰か判別不可能になった遠坂凛(身体)の頭部があります。
※C-4内にあった残りの遠坂凛(身体)の死体は、焼かれて炭化した状態で倒木の下敷きになり、原型をとどめてない粉々の状態になりました。
-
【杖@なんか小さくてかわいいやつ】
童磨に支給。
うさぎがリサイクルショップで買った杖。
この杖を振ると、自分が欲しいと思っている物が出てくる。
例えばちいかわ原作においては、うさぎはイチゴのショートケーキを、ハチワレはカメラを出していた。
ただし、これで出すものには振った当人が望んでいなかった効果を有する場合がある。
前述の原作劇中での例の場合、ケーキには特に異常は見られなかったが、カメラには撮ったものを消してしまう効果があった。
また、この杖には呪いにより使った者を大きな怪物に変えてしまう効果もある。
うさぎの場合、全身が真っ赤になり、声も変わり、大きくなった後は耳が増えていた。
ハチワレの場合、耳が頭頂で1つにまとまって角のようになり、額に三つ目の目が現れ、大きくなった後は毛の色がくすんで足の爪が鋭く太くなっていた。
怪物化したものは、「杖を折らないで」といった、杖を守ろうとする意思が発生するようである。
ハチワレはこの状態を「心がふたつある」と表現した。
こうなると、杖を害しようとする者に対し襲いかかるようになると思われる。
この杖が折られると、杖で出された物品は消え、杖を振ったことで怪物化した者も元に戻る。
本ロワにおいては、この杖は1人につき1回までしか使えないものとする。
またこの杖が折られることによって消失する物品には、別参加者に支給され、この舞台上に存在している【撮ったものが消えるカメラ@なんか小さくてかわいいやつ】も含まれるとする。
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投下終了です。
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自作「NEXT W MISSION」にて、エボルトとホイミンの精神・肉体組み合わせ名簿の追加を忘れていたので、wikiの状態表に追記しました
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議論スレにも書き込んだことですが、拙作「人生は選択肢の連続」でのグレーテの状態表の備考欄に以下の文を追記したことを報告します。
この話以降の状態表にも追記してあります。
【追記事項】
※広瀬康一を絵美理と同種の危険な存在と認識しています。
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テスト
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投下します。
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――揺れて消えて歌っているの 泣きそうな酸欠少女
◆
空気が引き締まる、とはこの事だろう。
死亡者及び禁止エリアの発表、バトルロワイアルの進行をより進めるギミック、そして新たな主催メンバーの顔見せ。
全ての参加者にとって無視できない情報の開示は、必然的に会場全域へ只ならぬ緊張感を与えている。
それはこの男、姉畑支遁も例外ではない。
未だ目を覚まさぬ少女と共に、邪悪なるスタンド使い一派の元からの逃走。
少女を見捨てるか否かの決断もロクに出来ず、しかしまずは自分へ怒りを向ける男達から少しでも離れねばと脇目も振らずに足を動かし続けていた時だ。
6時間前に聞いたものと全く同じ音が鳴り響き、定時放送の合図だと気が付いたのは。
放送が始まったとあっては姉畑と言えど一旦足を止める。
チラチラと背後を警戒しつつ上空を見上げると、人間とも動物とも違う奇怪な生物が映し出され、淡々と連絡事項を伝えた。
「そ、そんな……」
モニターが消えた直後、姉畑は悲劇を目の当たりにしたかの如き顔で項垂れる。
本体の感情に呼応しているのか、股間部分の象も耳を垂らし露骨に落ち込んだ雰囲気を出す。
DIOに付き従っていたオランウータンの死亡は姉畑の心に影を落とした。
精神が貨物船という人間どころか生物ですら無かったのは衝撃的過ぎるが、それ以上にショックの方が大きい。
もう二度とあの猿と交わる事は出来ない。
一度は手元に確保していただけに、つくづく損失が悔やまれる。
加えて貨物船が死んだと言う事は、もう一匹の猿だってこの世から永遠に姿を消してしまった事になるではないか。
二足歩行で喋るカエルの時と同じだ、自らの罪の証を己が手で消し去る機会すら失われてしまった。
死を嘆く相手は他にもいる。
先程自分に刀を突き付け脅した翼の生えた少年、ふわふわした癖っ毛が特徴の少女。
殺し合いにて与えられた肉体こそ人間やそれに近い姿をしているが、精神は別。
愛くるしい鼠のような動物と、雲のようにふんわりした毛の犬。
あんなに可愛らしい動物たちが自分と交わる事なく死んでしまった。
出来る事なら体を入れ替えられる前の彼らと出会い、己の愛をたっぷりと注ぎ込んであげたかったがもう叶わない。
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放送を行ったハワードなる男はポケモンに対し並々ならぬ思いを抱いているように感じた。
だがそれなら何故、ピカチュウのようにポケモンを殺し合いに巻き込んでいるかが疑問である。
ポケモンという未知の動物と愛し合う機会をくれた事には感謝しているも、本当にハワードはポケモンを言葉の通り高貴な生き物として扱う気があるのか。
どうにも首を傾げてしまう。
動物たちの死に心を痛めて、ハワードの言動に困惑していたからだろう。
姉畑の全身から力が抜けて行く。
それはつまり、少女への拘束も緩まった事だ。
「――っ!!」
姉畑が違和感を感じた時には既に遅い。
鼻を巻き付けていた柔らかな感触が消え失せ、あっと声を出す間も無く背後を取られた。
上半身を生やした象の背中に何かが乗っている、それが分かっても振り落とすどころか身動ぎすら不可能。
首に伝わる異様な冷たさ、視線を下げると刃こぼれ一つない刃が添えられているのが見える。
「ひ、ひぃっ!?」
「動かないでそのまま聞いてください。どうしても動きたいなら止めませんが、その場合首が繋がっているかは保障出来ませんよ?」
貼り付けた笑みを浮かべた胡蝶しのぶの言葉に、姉畑は黙って頷くしかない。
DIOから逃げる時には気絶していたが、移動中の激しい揺れと今しがた起きた大音量の放送により意識が覚醒へと向かったのだ。
殴打を受けた全身と右足の欠損箇所が酷く痛むも、あくまで余裕を装った表情を作り続けたまま問う。
「私が気を失ってから目を覚ますまでの間、何が起きたかを教えてください。勿論嘘は無しですからね?」
有無を言わさぬ威圧感に姉畑が出来る事と言えば、青褪めた顔で要求を呑むのみ。
怯えが混じった声色でしのぶに事のあらましを伝える。
と言っても話す内容はそう多くは無い。
しのぶの同行者だった翼の生えた少年に半ば脅される形で、戦場から追いやられた。
自分が逃げた後、DIO達と翼の生えた少年に何が起きたか具体的には分からないと。
「……そう、ですか。デビハムくんが…」
「その、さっきの放送で名前も呼ばれまして、多分DIOの手に掛かったのでは、と……」
気まずそうに言葉を続ける姉畑へ特に何かを返しはせず、デビハムの死を受け入れるように目を閉じる。
桐生戦兎達に関する嘘などからデビハムが殺し合いに乗っている側の参加者だったのは、ほぼ間違いない。
一方でデビハムがいなければしのぶは今こうして生きていなかったのも、紛れも無い事実。
姉畑の説明通りならしのぶを連れて行くよう言われたらしい。
デビハムの真意は結局分からず終いのまま、最期を看取る事も無くしのぶだけが生き延びた。
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向こうは嫌がるだろうけど、礼の一言くらいは伝えたかった。
僅かな未練と喪失感に、小針で刺されたような痛みが不意に来る。
だが何時までも感傷に浸ってはいられない。
幸いと言うべきか鬼殺隊の仲間達は一人も名前を発表されなかった。
彼らの無事に一先ず安堵し、次いでどう動くかに思考を割く。
本音を言うとすぐにでも市街地へ戻ってDIOとその部下である少女をどうにかし、大崎甜歌を正気に戻したい。
が、それが如何に無謀かも当然理解している。
負傷も疲労も決して軽くない状態で戻った所で、ただ無駄死にという末路を迎えるだけだろう。
ここは一度病院へ戻り悲鳴嶼と合流してから、改めてDIO一派への対策を練るのが最善のはず。
もしかしたら竈門家に向かった彼の方は善逸や輝哉と再会しているかもしれない。
逸る気持ちを静め取り敢えずの方針を決定、運が良いのか早急に戻る為の「足」もある。
「お話は分かりました。まず、私を運んでくれた事には感謝しています」
「そ、それは何よりです。…あのー、でしたら私はそろそろ別行動を取っても…」
「じゃあこのまま私の指示通りに移動してくださいね?」
「え?……えぇ!?」
感謝している、それに嘘は無い。
が、それで信用するかどうかは別の話。
この奇怪な姿の少年だか少女だか分からぬ者が現れたお陰で、DIO達から逃げる事が出来た。
しかし幾ら何でも戦いの真っ最中に、動物の肉体とはいえ参加者を凌辱するような人物は信頼できる善人とは言い難い。
DIOや奴に付き従っていた者達とはまた違った意味で、警戒しておいた方が良いように思える。
なので監視兼迅速な移動の為の足として、今しばらくの間は首に刀を当てたままとするのがしのぶの出した決定。
肉体は生理的御嫌悪感を激しく齎す異形であっても、精神がただの人間の可能性もある為問答無用で殺すつもりは今の所無い。
尤も姉畑からしたら堪ったものではない。
いきなり殺されずに済んだ事だけは良しとして、これ以上しのぶに付き合っていてはピカチュウやまだ見ぬ動物と愛し合う機会が益々遠ざかってしまう。
だが馬鹿正直に自分の欲望を伝え抗議したら、即座に首を掻っ切られそうである。
刃はピタリと首に添えられたまま、振り落とそうにも不審な動きを見せたら彼女の方が速く対処に回るだろう。
この時点で姉畑に取るべき選択肢など一つしかない。
「何か不満でも?」
「わ、分かりました…。指示に従いますから命だけは…」
すっかり消沈した様子を隠さずに返すと、ニコニコとした顔で目的地を伝えられた。
一体全体どうしてこうなってしまったのやら。
欲望に身を任せた結果の自業自得と自覚しているのかいないのか、己の不運を嘆きながら象の太い足を動かし始めた。
-
◆◆◆
放送を聞き逃すまいと移動を一旦中止したのは姉畑だけではない。
サッポロビールの宣伝カーを猛スピードで走らせていた戦兎一行も同様である。
病院を出発してから車内には常に緊張感が漂っていた。
鬼殺隊の仲間の安否が知れず、今この瞬間に殺されていてもおかしくはない。
最悪の事態も覚悟の上とは言えそうなる前に助け出さねばと、悲鳴嶼・善逸両名の顔に浮かぶは渋い表情。
目的地にて待ち構えているだろう強敵、DIOとの再戦を前に運転中の戦兎もまた顔付きは非常に厳しい。
進行方向を睨み付ける戦兎をチラリと視界に入れ、さりとて何か言葉を掛けるでもないのは杉元。
コルト・パイソンに銃弾を籠め、譲り受けた歩兵銃の軽い動作確認を行う。
DIOの強さは痛いくらい身に染みている。
現状の最優先は胡蝶しのぶの救出であるが、DIOと戦闘になる可能性は非常に高い。
こちらの勝ち筋を少しでも上げるべく、事前の準備は一つでも多くやっておいて損は無いと考えての事だ。
(変わんねぇな)
戦場に赴く前の張り詰めた空気。
数秒前まで五体満足でいた自軍の兵士が、瞬きの間でそこら中に飛び散るのが珍しくも無かった。
戦争が終結した後も、アシリパと共にアイヌの金塊を巡る争奪戦に自ら飛び込み、杉元は戦いの渦中で足掻き続けた。
そして此度の殺し合い。
己の肉体も違えば、肩を並べ戦う仲間もアイヌの金塊とは無縁の者達。
されどするべき事は、杉元佐一がやらねばならない事は日露戦争の時から何一つとして変わっていない。
敵を殺す。杉元にとって立ち塞がる敵との戦いはあくまで通過点だ。
DIOを、まだ見ぬ殺し合いの賛同者を、ボンドルドら主催者どもを殺す。
そうしてアシリパ達の元へ帰り、尾形百之助をこの手で確実に仕留める。
(頼むぜ尾形。俺が殺す前に勝手にくたばるなよ)
薄ら笑いを浮かべた狙撃手への殺意が胸中で燃え上がる。
それに冷水を浴びせるかのように、定時放送の合図が鳴り響いた。
今回発表された情報もまた、聞き逃してはならないものばかり。
故に自動車を急停車させ、全員がハワードの言葉へ集中した。
-
先に言ってしまえば、四人の男達にとって二回目となる放送はそれ程大きな動揺を生みはしなかった。
戦兎はまたしても仮面ライダーの力がありながら、多くの犠牲者を出してしまった事を悔やむ。
だが無力感が湧き上がろうともそこに諦めや自暴自棄が入る余地は存在しない。
発表された死者の中に甜歌はいなかった。
ならばウジウジと意気消沈している場合ではない、最初に出会った時の約束を守る為にも彼女の洗脳を必ずや解く。
それにDIOやエボルトと言った強敵も健在、連中を放置して戦いを投げ出すなど真っ平御免だ。
もう一つ気になった情報は身体側の人物の精神の発生という現象と、状況次第では消すのも辞さない警告。
これが該当する人物が斉木楠雄の事ならば、主催者が放送でわざわざ脅さねばならない事態が起きたのだろうか。
もとより病院に帰還したらナナから詳しく聞くつもりだったが、その重要性が増したようだ。
杉元が放送の内容に関して強く思う事は無い。
全くの杞憂であると本人は知らないが、アシリパ達の肉体が無事であるのには安堵。
死者の中に知っている者はおらず、冷血漢でも無いが全く面識の無い連中の死に一々嘆く程熱血漢でもない。
姉畑も無事であるのには素直に喜べないので保留にしておく。
後は自分と因縁深い施設、網走監獄に何やら道具が手に入る機械が設置されたらしいくらいか。
手に入れる為の条件は満たしていないが、今後もし網走監獄に行くようであればその機械を確認しておいて良いかもしれない。
善逸と悲鳴嶼もまた、死亡者発表で鬼殺隊の仲間の名が呼ばれずに安堵の息を漏らした。
現状最も安否を心配するしのぶも、未だどこにいるのか不明な輝哉も無事。
無惨が依然として生存中であり十人もの死者が出たのを思えば気は緩められないが、まだ最悪の事態にはなっていない。
死者の中にはデビハムもいた。
てっきりDIOにゴマをすり部下になったと考えもしたが、そうはならなかったのだろうか。
DIOの不興を買い手ずから始末されたか、本性を現すもしのぶに返り討ちに遭った可能性とてある。
嘘を吐いた件を問い詰めたい気持ちはあったものの、死んでしまってはどうにもならない。
それでも大手を振って死を喜ぶ気は起きず、悲鳴嶼は黙祷の意を示す。
各々思う所や考えねばならない情報はあるが、精神に揺らぎを生じさせるものは皆無。
今は簡単に情報を整理し、しのぶがまだいるかもしれない街へと急行する。
乗車しているのが四人の男達だけならそうなっただろう。
だが現実は違う。
しのぶ救出へと向かう五人目の少女。
彼女の存在により事態は予期せぬ方へと転がり出す。
-
○
『伊藤開司…その身体の名は長谷川泰三』
ガツンと鈍器で殴られたような感覚に陥る。
殺し合いにおいて最初に出会った仲間。
マダオという大変不名誉な渾名で呼びはしたが、意外な所で頭も回るし根性もある男だった。
険悪というか、どこか気まずい空気のまま別れたあの時が最後となってしまった。
仲直りの機会は二度と訪れない。彼の肉体となっている男をかぶき町で見る事も永遠にない。
『エーリカ・ハルトマン…その身体の名は操真晴人』
五人で離れの島から移動した先で出会った仲間。
共有した時間は余りに短く、一時間にも満たない。
だけどこのふざけた殺し合いを止める為に、協力を約束した相手だ。
折角見つけられた彼女の仲間の体に関する情報も、結局伝えられないまま。
もし彼女の方へ同行していたら、お互いをもっと知れたのだろうか。
『志村新八…その身体の名はフィリップ』
最も呼ばれたくない、呼ばれて欲しくない名前が鼓膜を震わせた。
何かの間違いだと、うっかり生きてる参加者の名前が混じっていたと馬鹿な期待をしてしまう。
だが無情にも、表示された画像に映るのは大切な仲間であるメガネの少年。
もういない銀髪の侍と同じ、自分にとっての帰るべき居場所。
最初の放送の後に冷静さを欠いてしまった時、彼の言葉を思い出したから自分の間違いを自覚出来た。
だけど、それを言ってくれた彼はもういない。
あの時と同じように、思い出が黒く塗り潰されていく。
『ニコ・ロビン…その身体の名は大神さくら』
地獄はまだ終わらない。
筋骨隆々の肉体に似合わぬ知的な雰囲気のあった女性。
島を早く出るかどうかで少しばかり揉めてしまったけど、死んで欲しくなどない仲間だった。
可愛いもの好きという意外な一面もあり、生きていればもっと多くの顔を見れたのかもしれない。
自分に与えられた女の肉体を持ち主に無事返し、彼女の安心した顔を見る。
そんな未来は無くなった。
ハワードが他にも何かを長々と話していたが、頭にはまるで入って来なかった。
まるで6時間前の定時放送の時と同じ。
そんな風に考える余裕すら残っていない。
やがて伝達事項を全て言い終えたハワードの姿が消え、会場には静寂が戻ったとほぼ同時の瞬間。
弾かれたように神楽は後部座席から飛び出し、振り返りもせずに走り去って行った。
-
○
「あっ、おい!」
遠ざかる背中に呼び掛けるも止まる気配は無い。
すかさずエンジンを吹かし追いかけようとする戦兎へ、意外なところから待ったが掛る。
「待て、神楽は私が追う。そちらは街へ行き胡蝶を助けてやってくれ」
ハンドルを握った戦兎を制しそう言ったのは悲鳴嶼。
思いもよらぬ言葉に目を瞬かせる戦兎を迷い無く見据え続ける。
「今の放送で胡蝶の生存は確認出来たが、無事なままとは言い切れまい。ここで時間を食う事態は私としても避けたい。
無論、だからといって神楽を放って置く事も出来ん」
「だからアンタが一人で追いかけるのか?」
首を縦に振る悲鳴嶼に、戦兎は考え込む姿勢を取る。
相手の言葉に間違いはない。
生存が確認されたからと言って今もしのぶが安全な状態と言う訳ではなく、DIOと交戦中だったり、或いは重傷を負い身を潜めている可能性もある。
あくまで仮定の話だが、甜歌に使ったのと同じ方法で洗脳されているかもしれない。
戦兎としても神楽を放置しておくつもりがないとはいえ、しのぶの事を考えれば時間を掛け過ぎるのは悪手。
言い方は悪いが、神楽を落ち着かせるのに時間を割いたせいでしのぶの方が手遅れにならないとも言い切れないのだ。
「桐生、俺も悲鳴嶼に賛成だ。今俺らがいる場所は禁止…えりあ?とかってのになったんだろ?なら余計にチンタラしてる余裕はねぇぞ」
杉元の言う通りだ。
現在戦兎達がいるのはD-2、放送で新たに禁止エリアに指定された場所。
機能する2時間後までは十分な猶予があり、車ならば余裕を持って抜けられる。
だがもし神楽の対応に時間を掛け過ぎてしまえば、しのぶのみならず戦兎達全員の命が聞きに陥ってしまう。
暫しの思考の末、口を開いた。
「……分かった。俺達は先に街に行くから、神楽は任せる。それと、これを持っていってくれ」
デイパックから取り出したのは元々戦兎に支給されたライズホッパー。
街への移動に当初は自分が使おうとしていたバイク。
禁止エリアから脱出するにしろ、神楽と共に街へ向かうにしろ足があって損は無いと考えての譲渡だった。
「これは……ああいや、有難く受け取ら取らせて貰おう」
困惑の表情を作るも、ややあってライズホッパーに跨る悲鳴嶼。
元の肉体は盲目であった彼に乗り物の運転など不可能な筈であり、本人も良く分かっている。
しかし不思議な事に今ならば、今の肉体ならばこの二輪車らしき物も動かせると直感的に理解した。
何とも言えない感覚に戸惑いを覚えつつ、ハンドルを握り締める。
-
「胡蝶を見つけたら頼む」
「ピカ……」
戦兎、杉元、そして善逸。
順番に視線を合わせ、短く告げるとバイクを走らせた。
柱直々の言葉、ズッシリとした責任感が圧し掛かるのを善逸は感じる。
小さな体では圧し潰されそうになり、絶対無理だと弱音を吐きそうになるも必死に抑える。
しのぶに死んで欲しくないのは自分だって同じ、それに今は及び腰になっている場合ではない。
「俺達も行こう」
仲間が頷いたのを確認し、戦兎もまた街へ向けて自動車を発進させる。
本当にこの選択肢で良かったのか。
僅かに残った後ろ髪を引かれる思いを振り切るように、自動車のスピードが上がった。
【D-2 車内/日中】
【桐生戦兎@仮面ライダービルド】
[身体]:佐藤太郎@仮面ライダービルド
[状態]:ダメージ(中・処置済み)、全身打撲(処置済み)、疲労(小)、運転中
[装備]:ネオディケイドライバー@仮面ライダージオウ、サッポロビールの宣伝販売車@ゴールデンカムイ
[道具]:基本支給品、デビ太郎のぬいぐるみクッション@アイドルマスターシャイニーカラーズ、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを打破する。
1:胡蝶しのぶの救援に向かう。
2:とりあえず今は救援優先、積極的に戦うわけにはいかないだろう。
3:もし"手遅れ"だった場合はすぐに病院に戻り柊達と話をする。だが、それを望むわけにはいかない。
4:斉木楠雄が柊の中にいたのか?何故だ?何か有用な情報を得られればいいのだが…
5:佐藤太郎の意識は少なくとも俺の中には存在しないということか?
6:甜花を正気に戻し、DIOを倒す。あいつの手を汚させる訳にはいかない。
7:他に殺し合いに乗ってない参加者がいるかもしれない。探してみよう。
8:首輪も外さないとな。となると工具がいるか
9:エボルトの動向には要警戒。誰の体に入ってるんだ?
10:柊ナナに僅かな疑念。できれば両親の死についてもう少し詳しいことが聞きたい
11:柊から目を離すべきでは無いと思うが…今はどうにもできないか
[備考]
※本来の体ではないためビルドドライバーでは変身することができません。
※平成ジェネレーションズFINALの記憶があるため、仮面ライダーエグゼイド・ゴースト・鎧武・フォーゼ・オーズを知っています。
※ライドブッカーには各ライダーの基本フォームのライダーカードとビルドジーニアスフォームのカードが入っています。
※令和ライダーのカードが入っているかは後続の書き手にお任せします。
※参戦時期は少なくとも本編終了後の新世界からです。『仮面ライダークローズ』の出来事は経験しています。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※ジーニアスフォームに変身後は5分経過で強制的に通常のビルドへ戻ります。また2時間経過しなければ再変身不可能となります。
【杉元佐一@ゴールデンカムイ】
[身体]:藤原妹紅@東方project
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、霊力消費(小)
[装備]:神経断裂弾装填済みコルト・パイソン6インチ(6/6)@仮面ライダークウガ、三十年式歩兵銃(装弾数5発)@ゴールデンカムイ
[道具]:基本支給品、神経断裂弾×33@仮面ライダークウガ、ランダム支給品×0〜1(確認済)
[思考・状況]
基本方針:なんにしろ主催者をシメて帰りたい。身体は……持ち主に悪いが最悪諦める。
1:戦兎達と胡蝶しのぶという奴の救援に向かう。
2:あのカエル(鳥束)、死んだのか…。
3:俺やアシリパさんの身体ないよな? ないと言ってくれ。
4:なんで先生いるの!? できれば殺したくないが…。
5:不死身だとしても死ぬ前提の動きはしない(なお無茶はする模様)。
6:DIOの仲間の可能性がある空条承太郎、ヴァニラ・アイスに警戒。
7:精神と肉体の組み合わせ名簿が欲しい。
8:何で網走監獄があんだよ…。
9:この入れ物は便利だから持って帰ろっかな。
[備考]
※参戦時期は流氷で尾形が撃たれてから病院へ連れて行く間です。
※二回までは死亡から復活できますが、三回目の死亡で復活は出来ません。
※パゼストバイフェニックス、および再生せず魂のみ維持することは制限で使用不可です。
死亡後長くとも五分で強制的に復活されますが、復活の場所は一エリア程度までは移動可能。
※飛翔は短時間なら可能です
※鳳翼天翔、ウーに類似した攻撃を覚えました
※鳥束とギニュー(名前は知らない)の体が入れ替わったと考えています。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。また自分が戦兎達よりも過去の時代から来たと知りました。
-
【我妻善逸@鬼滅の刃】
[身体]:ピカチュウ@ポケットモンスターシリーズ
[状態]:精神的疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:殺し合いは止めたいけど、この体でどうすればいいんだ
1:しのぶさんをみんなと一緒に助けに行く。
2:お姉さん(杉元)達と行動
3:しのぶさんは大丈夫かな……無事でいてほしいけど…
4:炭治郎の体が……岩柱のおっさんにも何とか伝えることができたら…
5:煉獄さんも鳥束も死んじゃったのか……
6:無惨を警戒。何でアイツまで生き返ってんだよ!?
7:……かみなりの石?何かよく分からない言葉が思い浮かぶ…
[備考]
※参戦時期は鬼舞辻無惨を倒した後に、竈門家に向かっている途中の頃です。
※現在判明している使える技は「かみなり」「でんこうせっか」「10まんボルト」の3つです。
※他に使える技は後の書き手におまかせします。
※鳥束とギニュー(名前は知らない)の体が入れ替わったと考えています
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。また自分が戦兎達よりも過去の、杉元よりも未来の時代から来たと知りました。
※肉体のピカチュウは、ポケットモンスターピカチュウバージョンのピカチュウでした。
◆◆◆
「うううあああああ……!!」
涙と鼻水で顔をグシャグシャに歪め、神楽は走る。
何処へ行くかなど決めていないし、自分が何処へ行きたいのかも分からない。
どんな顔でいるのかすら気付かずに、それでもじっとしていたら自分自身が壊れそうな予感があった。
神楽とて分かってはいた。
自分達が巻き込まれた殺し合いは、万屋銀ちゃんがこれまで解決してきたような事件とは何かが違う。
時にはボケとツッコミの応酬で周囲を巻き込み、時にはジャンプ漫画らしくシリアスに〆た騒動とは別の異質なナニカ。
それを証明するように、最初の6時間で銀時が命を落とした。
万年金欠、糖尿病持ちの駄目人間。だけど立ち塞がる障壁を刀一本で叩きのめす侍。
神楽のみならず、かぶき町の住人から親しまれ信頼されるあの男ですら、ここではあっさりと死んでしまう。
だが理解しているのと、実際に受け入れられるかは別の話。
銀時だけでなく、新八も神楽の知らないどこかで死んでしまった事実が堪らなく苦しい。
神楽にとっての当たり前だった万屋銀ちゃんは、余りにも理不尽な形で失われた。
銀時の時は康一の支えもあってある程度は持ち直せたが、喪失の傷が完全に癒えたのではない。
今回の放送では新八と殺し合いで出会った仲間達の死により、傷はより深刻化している。
-
康一に論された際に思い出した新八の言葉。
夜兎の血に呑まれ暴走した自分を救ってくれた、大事な記憶。
大き過ぎる悲しみの影響なのか、記憶の中の新八が真っ黒に塗り潰されていくように感じてしまう。
それだけはやめてと、記憶まで汚し奪い去るのだけはやめてくれと頭を抱え、
「……え?」
予想外の光景が浮かび上がった。
視線の先に女が立っている。
傷だらけで、額から流れる血が酷く痛々しい。
だというのに女が浮かべるのは不敵な笑み。
煙草を咥え、恐れなど何もないとばかりに力強い瞳で、目の前の銃口を睨んでいた。
『ノジコ!!ナミ!!』
女が誰かの名前を叫んだ。
知らない女の記憶なのに、どうしてか冷汗が止まらない。
その先に起こる光景を、頼むから見せないでくれと心から懇願する。
『大好き♥』
見つめる先で、赤が飛び散った。
「あ、うぐううう…うぐあああああああああああ!!!」
頭が痛い。心が苦しい。
知らない光景なのに、どうしてこうも胸が引き裂かれるようなのか。
理解できずに気持ち悪さを覚えるも、奇怪な光景はまだ続く。
今度は別の人物たちがいる。
さっきの女と同じく、その全員を神楽は知らない。
ただ一つだけ、根拠も無いのに分かる事があった。
これから起こるのは良くない事だと。
『ゾロが消えた……!!! てめえゾロに何しやがったァ!!! 今……たった今目の前にいたのに!!』
消されていく。
不気味な大男に触れられた人々が、まるで最初からそこにいなかったかのように跡形もなく。
誰も彼もが必死に抵抗するも、全てが無意味とばかりに一人、また一人と数を減らすばかり。
大男の魔の手は遂に自分にも向けられた。
何故か肉球の付いた掌が眼前に迫り、自分は声を震わせ助けを求める。
『ルフィ、助け』
麦わら帽子の少年へ伸ばした手は掴まれず、視界が真っ黒に染まった。
-
「あ゛ああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
オレンジ色の長髪を振り乱し、飛び出したのは喉が枯れる程の絶叫。
知らない記憶が自分の中に巣くうおぞましさ。
知らない記憶なのに自分の心が引き裂かれる不気味さ。
知らない記憶のせいで本来持つ『神楽』の記憶が忘却の彼方へ追いやられるような恐怖。
知らない記憶のせいで、自分が自分じゃ無くなりそうな感覚に神楽は泣き叫ぶ。
絶大な喪失感を味わった精神に反応したのか、肉体の記憶が見せたのもまた耐え難い喪失の光景。
脳が掻きむしられるように痛い、心臓が握り潰されるようで苦しい。
もし肉体の記憶を見たのが別の瞬間ならば、困惑しつつもそういうものと受け入れられたかもしれない。
だが今は、何もかもタイミングが悪過ぎた。
説明するまでも無い事だが、バトルロワイアルでの神楽が平常心を保てたのは序盤も序盤のみだ。
銀時達の肉体が吉良吉影のような危険人物に奪われている可能性を危惧していたものの、カイジら仲間の存在も有り暴走するような事態にはならなかった。
狂い出したのはメタモンと遭遇してから。
うっかりゲンガーの名を口にし、殺し合いに乗った参加者に仲間の情報を知らせるミス。
悪意があっての口論でないとはいえ、カイジとの間に良くない空気を残したままの別れ。
一回目の放送で知った銀時の死と、八つ当たり気味に巨大な虫を殴ろうとした。
康一との会話である程度持ち直せたのに、その後に出会ったアルフォンスとの会話で巨大な虫への対応を自分が間違えてしまった可能性を自覚。
ようやく出会えた銀時の肉体を持つ参加者は、仲間の体で良からぬ事をやっていたらしい。
これら全ての積み重ねは神楽の精神に負担を掛け続け、二回目の定時放送がより決定的となった。
「神楽!」
狂乱としか言いようの無い振る舞いの神楽の背へ、聞き覚えのある男の声が放たれる。
戦兎から譲り受けたバイクを走らせ、ここまで追いかけて来た悲鳴嶼だ。
日常的にスクーターを運転していた肉体の恩恵か、少々苦戦しながらも転倒せずに探し人を見つけた。
(やはり志村新八の死が相当に堪えているか……)
銀時のプロフィールでも知った、万屋銀ちゃんの従業員との関係。
単なる上司と部下で言い表せるような浅いものではなく、信頼し合える仲間。
だから新八を失った神楽が我を忘れて悲しむのも無理はない。
せめて銀時の肉体となった自分が心の傷を完璧に癒す事は出来なくとも、少しでも立ち直れる切っ掛けになれれば。
打算などは微塵も無い想いで、ライズホッパーを降りた悲鳴嶼は神楽に近付こうとする。
-
「っ!!!」
赤く腫らした瞳で悲鳴嶼を見る神楽の心に宿ったのは安堵ではない。
銀時がいる、だけど中身は全くの別人。
殺し合いの参加者は、精神と肉体がそれぞれ別という大前提を忘れたのではない。
それでも今、神楽には銀時の姿をしたナニカがへ近付いて来るのがどうしても受け入れられなかった。
たとえ身体は銀時であっても、浮かべる表情は自分の知る銀時とは何かが違う。
他者の記憶に蝕まれた自分のように、酷く歪な存在に見えてしまう。
神楽が抱いたのは、悲鳴嶼への猛烈な拒絶感だった。
「来るな…」
もしも追いかけて来たのが、バトルロワイアルで神楽と最も長く行動を共にしていた広瀬康一だったら。
仲間を次々に目の前で失い喪失感を共有出来ただろうゲンガーだったら。
神楽も素直に悲しみをぶつけられたのかもしれない。
「来るな…!」
或いは病院に留まり続け互いの親交をもっと深めていたなら、悲鳴嶼という男への見方が改善された可能性もある。
「来るな…!!」
所詮それらは全てたらればの話。
神楽にも悲鳴嶼にも何か罪がある訳では無く、只々運が悪かった。
――だからこのまま、後戻りはできない方へと転がり落ちていく。
「来るなぁあああああああああああああああああっ!!!」
『流水!抜刀!』
『ライオン戦記!流水一冊!百獣の王と水勢剣流水が交わる時紺碧の剣が牙を剥く!』
四肢は蒼と黒で構成されたスーツを纏い、豊満な乳房を揺らす胸部には百獣の王を象った装甲。
仮面ライダーブレイズ。
康一から託された聖剣は、誰もが望まない形でその力を解放した。
-
○
「ああああああああああああっ!!」
「くっ…!神楽…!」
明らかに正気とはかけ離れた絶叫と共に聖剣が振るわれる。
狙いも動きも滅茶苦茶で、ただ必死に己へは近付かせまいとする刃。
それを時には躱し、時には肉切り包丁で防ぐは悲鳴嶼。
切っ先を掠らせせず未だ傷一つ無い。
肉体の状態とは裏腹に、表情は些か苦し気であるが。
(いかんな……)
しのぶの救出の事も有り、全員で神楽を追いかける選択肢は取れなかった。
だから彼女の仲間の肉体を持つ自分が残り、何とか落ち着かせる。
未遂に終わったとはいえ銀時の肉体で脹相と淫らな行為に及んでしまいそうになった事への負い目もあってか、銀時の仲間を支える役目を引き受けたのだが、逆効果だったのか。
現状が悪化している事へ自らの不甲斐なさを恨むも、それで解決するなら神楽は剣を抜いていない。
己へ喝を入れるように得物を強く握り直す。
このまま錯乱状態の神楽に誰かを傷付けさせる気は無く、自分が死ぬ気も無し。
一度距離を取り、全身に力を漲らせる。
――岩の呼吸 壱ノ型 蛇紋岩・双極
鎖の先に繋いだ肉切り包丁をブレイズ目掛け投擲。
本来であれば鉄球と手斧を同時に投擲し、挟み込むように攻撃する技だ。
此度は括りつけた得物は一つだけ、おまけに岩の呼吸による動きが全く染み付いていない肉体な為、威力の低下は免れない。
されどこれで問題無し、目的は対象の滅殺ではなく無力化。
肉切り包丁は悲鳴嶼の狙い通り、ブレイズの持つ聖剣へと直撃した。
「ぅあっ!?」
大きく振りかぶった直後に聖剣へと走る衝撃。
右手へ痺れが襲い掛かり、同時に握り締めていた柄の感触が消え失せる。
クルクルと回転しながらあらぬ方向へと弾き飛ばされた聖剣は、離れた位置へと落ちた。
ブレイズに変身していたのが本来の使い手、新堂倫太郎ならば自らの聖剣を手放す真似はしなかっただろう。
現在水勢剣流水を持つ神楽、元々流水を支給された康一。
精神と肉体を含め、彼らはどちらも元々剣士ではない。
そもそも聖剣に選ばれ仮面ライダーに変身可能なのはソードオブロゴス所属の剣士達や、神山飛羽真のような例外中の例外のみ。
如何に神楽や康一であっても、そう簡単に所有者と認められはしない。
そういった問題はボンドルドらが流水に細工をした為、本来ならば変身不可能な参加者でも扱えるようになっている。
尤もあくまで変身が可能なだけであり、剣の技術までは付与されないが。
-
「あああああああ!!」
「っ!」
聖剣が手から失われてもブレイズに止まる気配は皆無。
握り締めた拳を真っ直ぐに放ち、身を捩った悲鳴嶼頬スレスレを通過。
顔の真横で空気が切り裂かれ、タラリと流れる一筋の冷汗。
相手がどれだけ動揺しようと冷静さを完全に失っているブレイズには関係無い。
癇癪を起した子供のように両腕を振り回す。
「ぬぅ…!」
型も何も無い出鱈目な動きだが、剣を振るっていた時よりもキレが増している。
むしろ剣という枷を取り払ったのか、却って無手の方が厄介だ。
ブレイズの急な変化に悲鳴嶼は戸惑いを隠せない。
銀時や新八が剣術を得意としていたのに対し、神楽は番傘を豪快に振り回す他素手での肉弾戦で敵をなぎ倒して来た。
精神が万全の状態とは程遠く夜兎の肉体で無くとも、培った戦闘技術までは失われていない。
不慣れな得物を弾かれた事で結果的に本来の戦い方で暴れているのである。
神楽の肉体であるナミは単純な戦闘能力こそモンキー・D・ルフィやロロノア・ゾロといった面子に比べれば大きく劣る。
しかし麦わらの一味の航海士として幾つもの大冒険を経験した事で、体力と打たれ強さは同年代の女性を大きく上回るくらいに高い。
加えて神楽が変身したブレイズもまた仮面ライダーの例に漏れず、身体能力を大幅に強化している。
よって今の神楽は元の肉体と謙遜無いレベルで戦闘が可能なのだ。
拳を防いだ肉切り包丁が軋み、馬鹿正直に防御するのは愚策と判断。
腹部目掛けて繰り出された蹴りを、後方へ跳んで躱す。
――岩の…
聖剣を弾き飛ばした時同様、繰り出すは岩の呼吸の型。
が、いざ技を放とうとした瞬間に迷いが生じた。
放とうとした技が不発に終わり僅かな間だが全身が硬直。
誰がどう見ても失策だ。
-
「うわあああああああああっ!!」
己の失敗を悟った時には既に、眼前には拳を振り上げるブレイズの姿。
咄嗟の判断で肉切り包丁を拳に叩きつける。
魂を鎧に定着させたバリーが振るえば人体だろうとハムのようにスライス可能な凶器。
しかし10.4tのパンチ力を真っ向から迎え撃つのは土台無理な話だ。
分厚い刃は砕け散り、半分程の長さへとなった。
「っ!」
されど悲鳴嶼の行動は無駄な抵抗ではない。
岩の呼吸の型ではないが力を込めて肉切り包丁を振るったのだ、拳の勢いもある程度落ちる。
強引に全身を動かすと筋肉が悲鳴を上げるが今は無視。
どうにか攻撃をやり過ごす事に成功、だが喜ぶ暇など無い。
「ああああああああっ!」
回避したかと思えばまたすぐに放たれる拳。
ブレイズの動きを止めるべく鎖を巻きつけようと肉切り包丁を投擲。
蝿でも叩き落とすかのようにはたき落とされ、残った刃の部分も完全に破壊された。
「消えろォオオオオッ!!」
「ぐぁ…っ!」
使い物にならなくなった肉切り包丁を外し、鎖を両腕に巻き付ける。
すかさずブレイズの腕が振るわれた。
回避が間に合うかどうかは賭け、失敗すれば軽くない傷を負う。
よってここは防御を選択、交差させた両腕で襲い来る衝撃に備える。
間髪入れずに両腕へ走る鈍い痛み、しかし折れてはいない。
破壊が困難な海楼石の鎖だからこそ、ブレイズの攻撃にも耐えられたのだ。
悪魔の実の能力者にとっては厄介な代物だが、悲鳴嶼にとっては有難い支給品である。
と言っても殴られた際の衝撃全てを防ぐ事は叶わなかった。
「ぬ、おお…!」
吹き飛ばされた先で何とか着地。
がっしりと両足で地面を踏みしめ、未だ正気を失ったままの少女を見やる。
意識を外せば相手はお構いなしに殴りかかって来るだろう。
-
状況は圧倒的に悲鳴嶼が不利だ。
武器を一つ失い、周囲を見回しても代わりの日輪刀が落ちているなんて都合の良い展開は無い。
戦闘中に迷いで隙を晒すなどと、柱にあるまじき己の失態を呪う。
とはいえ悲鳴嶼が迷いを抱くのも無理からぬこと。
相手が鬼や殺し合いに乗っている極悪人であれば、何の迷いも抱かず猛烈に攻め立てた。
今頃は鍛え上げた岩の呼吸を用いて撃破ないし無力化していた筈だ。
だが神楽は仲間の死に精神を激しく揺さぶられているだけで、殺し合いには否定的な少女。
悲鳴嶼の体の持ち主、坂田銀時の仲間であり自分が傷つけて良い相手では無い。
悲鳴嶼が類稀な己の肉体を鍛え上げ、呼吸を習得したのは鬼を滅ぼす為。
鬼を殺す為の技を、悪人でもない少女相手に使うなど鬼殺隊としてあるまじき所業ではないのか。
よりにもよって坂田銀時の肉体で、彼の仲間を攻撃するなど個人への侮蔑ではないのか。
武器を弾く程度ならいざ知らず、装甲で覆われているとはいえその身に直接刃を叩きつけるという行為。
それらが原因となり、悲鳴嶼はこの戦いで思うように力を出せずにいた。
腰と背部の装甲、メインドイルが流水の如き勢いをブレイズの攻撃に付与する。
正式な変身者である剣士ならば、世界の均衡を守る為の戦いにて用いたブレイズの機能。
それが今はどうだ、人を喰らう鬼を殺す人間への暴力として振るわれているではないか。
剣士達も、元々聖剣を支給された康一ですら決して望まない使われ方だ。
「アアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
悲鳴嶼目掛けて飛び蹴りが放たれた。
メインドイルにより動きを高速化させただけではない。
脚部に取り付けられた猛獣の爪が、俊敏性とキック力を底上げしている。
神楽が意図しての事で無いとはいえ、ここに来てブレイズの各部機能が最大限に発揮された一撃。
(まずい…!!)
迫る蹴りがこれまで乱雑に腕を振り回していたのとはわけが違うのを察知。
流石にこれを真正面から防いでは海楼石の鎖があっても、両腕が使い物にならなくなるのは確実。
全身の筋肉を総動員して回避行動に集中、次の瞬間ブレイズの蹴りが地面を貫いた。
-
流水のトリガーを引き発動する蹴り技程では無いが、威力は十分にある。
幸いブレイズの蹴りによる被害を受けたのは地面に生えた草花のみ。
地面が引っ繰り返されたように、ブレイズと悲鳴嶼の周りを土埃が覆い隠す。
両目へ異物が侵入する痛みへ反射的に悲鳴嶼は瞼を閉じた。
この状況でその行為が失敗なのは言うまでもない。
視界を閉じた一瞬の隙にブレイズは接近、バイザーに搭載された機能で悲鳴嶼の姿を正しく捉え右腕を振り被る。
急速に迫った気配を感じ取るも、最早手遅れだ。
悲鳴嶼が元の肉体のままであれば、こうも接近を許さなかっただろう。
盲目故に視界を封じられようと無問題、研ぎ澄まされた感覚により気配を目で見る以上に察知可能だ。
皮肉にも元の肉体には無かった視覚から得られる情報により、窮地に陥っている。
盲目で無くなった事が却って悲鳴嶼の持つ盲目故の超感覚を鈍らせてしまった。
上弦の壱との死闘で開花した透き通る世界を使っていないにも関わらず、目に映る光景がいやにゆっくりと感じられた。
マズい事が起きる前兆だと理解しても、動き出すには少しばかり遅い。
(――――っ!!)
迫り来る拳に両目を見開く事しか出来ず――
顔に熱さを感じた。
見惚れる程に鮮やかな赤が散らされ、頬を濡らしたからだ。
ヒューヒューと奇妙な音が聞こえる。
はてこれは一体なんだと耳を澄ませてみれば、発生源は即座に判明。
自分の喉からではないか。
負傷した訳でないのに何故こんな音が鳴るのか。
きっと目の前の光景に動揺が抑えられないからだろうと、どこか冷静に考えている自分がいて、それがどうにもおかしかった。
視線を奥の方にやれば、散々暴れ回っていた少女までもが動きを止めている。
向こうも動揺し凍り付いているのは明らか。
受け入れ難い光景を前にし、自分でも驚く程か細く消えてしまいそうな声が、震える唇から這い出た。
「しのぶ……?」
胸を貫かれた彼女は返す言葉も出せず、吐き出した血で白桃色の唇を真っ赤に染めた。
-
○○○
見つけたのは偶然だった。
病院へ向かう途中、ふと聞こえたのは何者かが争っているだろう激しい音。
ただ事ではない雰囲気に、聞いてしまったのなら無視はできない。
自身の負傷を忘れたつもりは無いが、聞かぬ振りをして通り過ぎるような合理的思考にはなれない自分に苦笑いを浮かべる。
刀を突き付けたまま指示を出せば、後ろからでも青褪めているのが分かる表情で頷かれた。
近付くに連れ耳から得られる情報も増えていく。
片方は獣に似た叫び声を上げているが、恐らく女性だろう。
もう片方は男性、短く苦し気な声が途切れ途切れに聞こえて来る。
嫌な予感がしたのはそこからだ。
男性の声に聞き覚えがあり、まさかと思いながら天使なのか化け物なのか分からない足を急かし、件の人物らの姿が見える位置へ到着。
そこで見たのは病院で合流する筈の仲間が戦っている光景。
DIOや大崎甜歌と同じような鎧の人物相手に、彼はほぼ防戦一方。
鎧の蹴りで二人の姿が覆い隠された時、肩を叩いてあそこへ介入するよう指示を出した。
だが返って来たのはまごまごした煮え切らない態度。
怯える姿にこれ以上は時間の無駄と判断、背中から飛び降り彼の元へと駆け出した。
右足が焼けるように熱い、体中が軋みを上げて激痛を訴える。
不思議な事にどれだけ痛みが伝わって来ようと、走る速度が衰える事は無かった。
あとほんの少しの距離が非常にもどかしく、ただ前だけを見て駆ける。
徐々に鮮明となる二人の姿。
鎧が彼を手に掛けんとする、絶体絶命の瞬間。
どうしてだろうか、目の前の光景が忌まわしき過去と重なる。
血を流し、立つ事すらままならなくなった姉。
最後まで鬼を恨む事無く、仇の情報をくれと訴える自分を見つめた悲し気な貌。
自分が仮面を着ける原因となった、忘れられないあの日。
どうして、どうして、どうして。
どうして私の元からいなくなるの。
どうして私から奪っていくの。
お願いだから、これ以上私の大切な人達を殺さないで。
-
駄々をこねる幼子のような想いで彼の前に飛び出し、胸に痛みが襲って来た。
私も、彼も、蒼い鎧も動こうとしない。
すぐ後ろで私を呼ぶ声、返事をしたいのに言葉が上手く出せず、嘔吐のように赤い塊が零れる。
胸を貫く異物がふと消え去った。
同時に辛うじて立っていた力さえ抜けていき、萎んだ様に地面へ横たわる。
あれだけ強く握り締めていた刀すら手放してしまった。
言葉にならない声が聞こえ、億劫ながら視線だけを動かせば、見えて来たのは後退る鎧。
怯えるような様へ何かを思うより早く、私が落とした刀が拾い上げられ、
「――――ぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」
銀色の髪を赤く染めた彼が、鬼も裸足で逃げ出す程の怒気を露わに振るった。
棒立ちだった鎧は無防備な体に幾度も刃を叩きつけられ、まるで紙風船のように吹き飛んで行く。
鎧が地面へ落ちる所を見届ける前に、彼が私を抱きかかえた。
「しのぶ!!お前の鞄に病院で集めた物資がある筈だ!今それを…」
彼の言葉は最後まで続かない。
私がやけに重く感じる腕を持ち上げ、彼の頬に手を当てたから。
そのまま首を小さく横に振れば、それだけで向こうも理解したようだった。
自分の状態は自分が一番良く分かっている。
中途半端な最期だなと思う。
姉の仇は見ず知らずの誰かに取られ、同行した少年は気絶している間に殺され。
体を持ち主に返す事も、元の時間に戻る事すら叶わない。
自分が失敗したせいで鬼殺隊の勝利が無に帰す可能性を考えると、申し訳なさで死んだ仲間達に顔向けできない。
だけど
「良かった……」
私の胸いっぱいに安堵が広がっている。
たとえ本来の歴史では死んでいるのだとしても。
上弦の壱や鬼舞辻無惨を倒す為の必要な犠牲なのだとしても。
本当の兄のように慕っていたあなたが無事でいてくれたのなら、それだけで私は良かったと心から言える。
滲む視界も徐々に見えなくなる中で、最後に一つ新しい未練が生まれた。
他者の肉体とはいえ、目が見えるようになった彼。
今の彼に一度で良いから、自分の本当の顔を見て欲しい。
そう思ってしまうのは、我儘なのだろうか。
-
○
両腕に抱いた少女の瞼が閉じ、それが何を意味するのか。
分からない程、悲鳴嶼は愚鈍では無い。
去来するのは多大な喪失感。
殺し合いに招かれる前にも彼女の死は味わった。
だが何故だろうか、あの時よりもずっと胸が痛い。
その理由は悲鳴嶼にも分からない。
何時までも打ちひしがれたように動かない、という訳にはいかない。
上弦の壱を撃破した時と同じだ。
戦いはまだ続いている、悲しみに暮れている時間すら惜しい。
吹き飛んだ先で鎧が解除され気を失ったらしい神楽を連れ、ここを離れる必要がある。
でなければ数時間後には首輪の爆発が起こってしまう。
視界の端にチラチラと映る奇怪な存在。
襲って来ない所を見るに殺し合いには乗っていないと見て良いのだろうか。
いずれにしろしっかりと話を聞かねばなるまい。
立ち上がると風が吹いた。
凄惨な場には酷く不釣り合いな暖かさ。
しゃくりを上げる子どもの濡れた頬を、泣かないでと撫でるような、そんな優しい風だった。
【胡蝶しのぶ@鬼滅の刃(身体:アリーナ@ドラゴンクエストIV) 死亡】
【D-2 草原/日中】
【悲鳴嶼行冥@鬼滅の刃】
[身体]:坂田銀時@銀魂
[状態]:疲労(中)、両腕に鈍い痛み、喪失感
[装備]:時雨@ONE PIECE、海楼石の鎖@ONE PIECE、
[道具]:基本支給品、ラッコ鍋(調理済み・少量消費)@ゴールデンカムイ、病院で集めた薬や包帯や消毒液
[思考・状況]
基本方針:主催者の打倒
1:…………。
2:まずは神楽を連れてここを離れる。
3:奇怪な姿の参加者(姉畑)とも話す必要がある。
4:神楽には自分たちに何が起きたのかは話せない。
5:無惨を要警戒。倒したいが、まず誰の体に入っているかを確かめる。
6:デビハムは結局嘘をついていたということか…。
7:脹相が危うい行動をしなければいいのだが…一応色々言ってはおいたが…。
8:両面宿儺や加茂憲倫とやらについてはしのぶの意見も聞きたかったが…。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※海楼石の鎖に肉切り包丁を巻き付けていましたが破壊されました。
※両面宿儺や加茂憲倫は鬼の一種なのか?と考えています。
※脹相の境遇は竈門炭治郎に近いものなのでは?と考えています。
-
[身体]:ナミ@ONE PIECE
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、膝に擦り傷、銀時と新八の死による深い悲しみと動揺、精神的疲労(極大)、悲鳴嶼に対し不信感(中)、脹相に対し不信感(小)、気絶
[装備]:魔法の天候棒@ONEPIECE、仮面ライダーブレイズファンタステックライオン変身セット@仮面ライダーセイバー
[道具]:基本支給品、スペクター激昂戦記ワンダーライドブック@仮面ライダーセイバー
[思考・状況]基本方針:殺し合いなんてぶっ壊してみせるネ
0:…
1:私…人を殺しちゃったアル……
2:新八…皆…
3:康一、気を付けていけヨ
4:メタモンの野郎…今度会ったらただじゃおかないネ
5:あの虫(グレーテ)は……
6:DIOが仮面ライダーとかどうとか言ってたみたいだけど…何か色々話しそびれたネ
7:私の身体、無事でいて欲しいけど…ロビンちゃんの話を聞く限り駄目そうアルな
8:銀ちゃんを殺した奴は絶対に許さないネ
9:さっきの記憶は何なんアルか……
[備考]
※時系列は将軍暗殺編直前です。
※ナミの身体の参戦時期は新世界編以降のものとします。
※【モナド@大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL】は消えました。カメラが破壊・消滅したとしても元に戻ることはありません。
※仮面ライダーブレイズへの変身資格を受け継ぎました。
※放送の内容は後半部分をほとんど聞き逃しましたが、アルフォンスから教えてもらいました。
※アルフォンスからダグバの放送が起きた事を聞きました。
【姉畑支遁@ゴールデンカムイ】
[身体]:クリムヴェール@異種族レビュアーズ
[状態]:疲労(極大)、未知の動物の存在への興奮、下半身露出、DIOへの恐怖(大)、必死、象のSMILE
[装備]:ドリルクラッシャー@仮面ライダービルド、逸れる指輪(ディフレクション・リング)@オーバーロード
[道具]:基本支給品×2(我妻善逸の分を含む)、青いポーション×1@オーバーロード、黄チュチュゼリー×2@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド
[思考・状況]
基本方針:色んな生き物と交わってみたい
1:ど、どうしましょうこの空気…今の内に離れるべきか…。
2:DIOから逃げる。
3:貨物船の生態(もう片方(スタンド)とダメージを共有している点)が興味深い、もっと知りたい、仲良くなりたい。ですがもう…。
4:ピカチュウや巨大なトビウオと交わりたい。他の生き物も探してみる。
5:あの少女(杉元)は私の入れ墨を狙う人間なのでしょうか?
6:何故網走監獄がここに?
7:人殺しはやりたくないんですが…
[備考]
※網走監獄を脱獄後、谷垣源次郎一行と出会うよりも前から参戦です。
※ピカチュウのプロフィールを確認しました。
※象のSMILEとしての姿は、象の背中から上半身が生えている、足が象の牙にあたる鼻の付け根の横の部分から生えている、象の左右の鼻の穴がそれぞれ左が男性器・右が女性器になっています。
※バリーの肉切り包丁@鋼の錬金術師は破壊されました
※近くにライズホッパー@仮面ライダーゼロワンが停車しています。
※しのぶの死体の傍にデイパック(基本支給品、鉄の爪@ドラゴンクエストIV、病院で集めた薬や包帯や消毒液)が落ちています。
-
投下終了です。
-
野原しんのすけを予約
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投下します。
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「ここはどこだゾ」
起き上がったしんのすけはここがどこなのか分からずにいた。
先程までおじさん(産屋敷)と話をするためにミチルと一緒に下水道に降りて、その男と鬼になってしまったアドバーグと戦闘になった所を新たに現れた悪者によって危機に見舞われて、以降の記憶はない。
気が付いたら見たことのない建物の中にいる。
「オラこんなの着けた覚えないけど、もしかして」
よく見たら腕にブレステッドのような道具が着けられていた。
当然、しんのすけは装着した覚えはない。
心当たりがあるとすればミチルしかいなかった。
恐らく、ミチルがしんのすけを逃がすためにこのブレスレッドの何らかの効果で別の場所に飛ばされたのだと推測する。
「今すぐに戻らないと」
ミチルが逃がした気持ちは分からなくはないがしんのすけは他人を見捨てるほど薄情ではない。
ブレスレッドの効果で他の場所に行けるなら、もう一度、下水道に戻れるかもしれない希望を抱く。
スイッチらしき箇所を見つけ、押し込んだが何も起こらなかった。
「おかしいゾ」
もう一度やったが、何も変わらず。
何も効果がないということはすぐにミチルを助けに行くことが出来なくなってしまった。
しんのすけは知らないが、ブレスレッドことぴょんぴょんワープくんは一度転移したら六時間立たないと再使用出来なくしている。
そのことを知らないしんのすけは壊れてしまったか、一度使用したら二度と使えないようになっていると考えるしかなかった。
とりあえず転移された場所がどこなのか確認しなければならない。
今までは煉獄、蓮、エボルト、ミチル、ゲンガーといった同行者に恵まれ、彼らに地図の確認や行き先を決めたりしていたが、今はしんのすけ一人しかおらず、自分で状況の把握をしなければならない。
建物の外に見えるのは海だ。
ぴょんぴょんワープくんをデイバッグにしまい、代わりに地図を取り出し、海が目印で、自分が今いる場所は確信できないが網走監獄、フリーザの宇宙船、万事屋銀ちゃんのいずれか転移したであろう。
デパート、ラーメン店、ギャンブル場は流石に雰囲気からして違うのが分かる。
実際はしんのすけが転移した場所はフリーザの宇宙船で、フリーザがいた部屋みたいな空間なのだが、しんのすけは知る術はない。
-
場所の特定ができない間に主催者による定時放送が始まった。
△
今回の放送で発表された死亡者の中にはしんのすけが知っている名が何人もいた。
彼らのことを思い返していた。
一人目は志村新八
新八本人には会ったことはないけど、しんのすけが出会って直ぐに別れた承太郎とホイミンの仲間と聞いている。
新八を助けに行くためにエボルトと蓮は別行動を取った。
放送で呼ばれたのを見ると間に合わなかったと悲しむしかなかった。
二人目はアーマージャック
ルブランで自分たちを襲い、シロを殺した悪者で、今思えば映画の世界に閉じ込められた事があった時に戦ったジャスティス・ラブと同類な悪者だと思った。
今まで巻き込まれた事件と同じくこの殺し合いでも今までと同じく蓮とミチルと力を合わせてアーマージャックをやっつける事ができた。
エボルトから聞いた話によるとかめはめ波を受けてなお、生き延びていたが、そのエボルトが止めを刺したらしい。
三人目はエーリカ・ハルトマン
気絶していたため、どういう人柄かは分からないが、最後まで仲間だと認識している。
男の身体だけど、ラーの鏡で本当の姿を見た時は可愛い顔立ちで気に入り、下水道から戻ったらたくさんお喋りしたかった。
放送で呼ばれたということは恐らく、目を覚ました後に自分とミチルが戻ってくるのが遅いと感じ、痺れを切らしてゲンガーと一緒に下水道に行って、悪者に殺されたのだろう。
悲しい気持ちもあるがハルトマンには申し訳なさを感じた。
四人目はキタキタおあじことアドバーグ・エルドル
出会った当初はキタキタ踊りのことで意気投合して、波長もあい、親近感を抱いた。
しかし、シロと同じく、鬼になったと知った際、シロ程ではないが、ショックだった。
キタキタおあじもハルトマンと同じく下水道に現れた悪者に殺されたのだろう。
鬼になっていなかったら、気の合う友達になれただろう。
最期はシロ
かけがえのない大事な家族。
一緒に生きて、悪趣味なゲームから脱出して、家に帰るはずだった。
再会したが、鬼になって襲っただけでなく、家族のことも忘れたと知った時はショックを受けた。
アーマージャックとの戦いで最後の最後で自分のことを思い出して、庇って、亡くなった。
今もなお、悲しいけどルブランから離れる前にめいっぱい泣いたから、シロの死を引きずらずに前を向く。
しんのすけは放送で呼ばれた者たちを思い返した後、今回の放送で気になることがまだある。
「あの悪者の見た目が違うゾ」
定時放送の担当がスーツを着た白い宇宙人だけど別の名前を聞いたことで心当たりがある。
シロが殺されそうになった際、悟空の記憶がフラッシュバックされていた時だ。
フリーザという宇宙人はしんのすけが今まで対峙したどの悪者より、極悪人で悟空の仲間らしき人が容赦なく殺される光景を見た。
問題は放送で映像に映っていたのと悟空の記憶で見たフリーザの容姿が違うこと。
もしかしたら同姓同名の別人か本来の姿ではないのかもしれないけど、証拠がない。
フリーザの宇宙船という建物を配置したのも何か関係あるかは分からない。
-
フリーザの件を切り上げ、ミチル達の安否を案じていた。
ミチル達を助けに行きたいが、しんのすけの現在地は海沿いのどこかの建物でEー6の下水道とは程遠い最長すぎる距離。
仮に向かったとしてもすべての結末がとっくに済んでいるだろう。
助けに向かっただろうゲンガーもいるから無事であることを願うしかない。
それにおじさん(産屋敷)とも話ができなかった。
下水道に現れた悪者によってお互い一言も話しをする余裕がなかった。
外を見ると太陽が雲に隠れており、男は下水道から出てくるだろう。
遭遇したら今度こそ落ち着いて話して、殴ったことを謝罪したい。
真実が何であれ、男と向き合うことを決めた、きちんと向き合わないといつか後悔するかもしれない。
「そんじゃ、誰か探すゾ」
そもそも現在地が不明なら、この建物に誰かいるか探して、事情を話して、今いる場所の把握をする。
しんのすけはフリーザのいる部屋みたいな所から出て、建物内を捜索する。
△
「一人もいない」
しんのすけは建物の中に誰かいることを期待して、くまなく捜索したが、誰とも遭遇できなかった。
建物内がSFファンタジーじみたのもあって、少し興奮したが。
その途中で別の部屋で小さなドーム型の機械を見つけた。
説明書きによると治療装置と言って、この中に入って、怪我を回復させる機械らしい。
しんのすけは最初、使用しようと考えたが、怪我の酷さ次第で長時間手間がかかるデメリットがあると知り、やめた。
そもそも装置を使ったとしても回復の最中に悪者に襲われたら一溜りもない。
治療装置を使用するのなら同行者が必須、しんのすけには現在、単独行動で今の所、使用する余地はない。
第一、この建物に誰かが来た場合はしんのすけより怪我が重傷であればその人に譲らないといけない。
治療装置のことは置いといて、しんのすけはまだ入っていない扉の前に立っていた。
せめてこの部屋に誰かいることを期待して扉を開けた
「本当に誰もいなかったゾ」
見渡すと巨大なモニターとコンピューターがある部屋だが、ここにも人がいなかった。
しんのすけは建物内に人がいないことに寂しさを感じた、悪者がいるよりはマシだけど。
しんのすけは現在地を把握するべく、この部屋にある機械を使うしかない。
幼いしんのすけにとって、コンピューターには全然詳しくないが、1つのボタンがあった。
「ポチっとな」
適当にボタンを押すとモニターが起動し、文字や名前が映っていた。
そこでしんのすけは無視できない名前を見つけた。
「フリーザ軍って・・・・、この建物はあの悪者のアジトだゾ」
しんのすけはようやく今のいる場所がC-1のフリーザの宇宙船だと気づいた。
SFファンタジーのような建物の構造なのも宇宙船なのだと納得する。
しんのすけは現在地が分かったが、フリーザについて知りたいと思っている。
先程の放送と自分が見た悟空の記憶でのフリーザの容姿についての疑問を解消したい。
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しんのすけは機械の操作に苦戦しながらもフリーザのデータを開いた。
画像には先程の放送に映っていたフリーザの容姿だった。
その後もデータを読み取って行くが、戦闘力が53万とか訳の分からない数値の基準もあったが、項目に重要な情報が記されていた。
「変身?オラが見たあの光景はそういうことだったゾ」
能力の欄に変身と書かれていた。
ここでしんのすけはフリーザが同一人物だと確信した。
画像に映っているのが確証はないけど仮の姿でしんのすけが見た悟空の記憶での光景は多分本来の姿であることを。
フリーザが極悪人なら、なぜ他の悪者の主催者によって身体だけ使われているのか知る術もない。
しんのすけは燃堂とは違って、主催者も参加者と同じく身体を入れ替えられている事実をミチル達から丁寧に教えて貰い、理解している。
ミチルの話しによるとミチルの同級生もフリーザと同じく身体を使われているらしい。
フリーザと違うのはミチルの同級生は悪人ではないと聞いている。
身体側は善・悪人、問わないかもしれない。
「オラ達の前に立ち塞がるならやっつけなくちゃいけないゾ」
しんのすけは決意する。
フリーザの身体を使っている人物は知らない。
でも、フリーザに関しては色々分かったような気はする。
このゲームを開いた悪者たちと手を組んで力を借りたのか或いはただ単に騙された側なのかもしれない。
もし、フリーザ自身がしんのすけ達の障害になるなら対峙する覚悟はある。
しんのすけは今後のプランの前に気がかりな事がいくつかある。
「オラの身体はどうなっているゾ」
ここに来てしんのすけ自身の身体の行方を気になり始めていた。
女の人が使っていることは組み合わせ名簿で確認している。
ここに来る前は興奮したが、今更気が付いたが、自分の身体が悪者に悪用されている可能性についても。
しんのすけは悪い女性に何度も騙されてはいる、それはまだ朝飯前だ。
一番危惧しているのはス・ノーマン・パーのような狡猾すぎる悪者に悪用されることだ。
しんのすけはス・ノーマン・パーの件は今でもトラウマだ、言うのも何だが自分の身体は非力に近く、幼い身体を利用して皆を信用させる戦略をされてもしたら手が出せない。
自分の身体がいい人に使ってくれるのを願うしかない。
「煉獄のお兄さんのお友達も捜すゾ」
シロの鬼化や休む暇がない戦いの連戦で頭になかったがもう一つは煉獄の仲間のことだ。
煉獄の仲間のことは詳細は不明だが、少なくとも皆と言っていたことから二人以上いるのは確実だ。
どんな人達かは知らないが煉獄は仲間達のことを信頼に置いている。
まだ生存しているなら、放送で承知しているが、煉獄の死を自分の口から伝える義務がある。
今度こそ今後のプランを立て始める。
フリーザの宇宙船に残って誰か来るのを待つか、或いは離れて動くか
動くにしても禁止エリアは入ったらどうなるか蓮に教えてくれたからDー2に移動は却下。
しんのすけはどの選択を取るかは神のみぞ知る。
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【C-1 フリーザの宇宙船の内部/日中】
【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[身体]:孫悟空@ドラゴンボール
[状態]:体力消耗(極大)、ダメージ(中)、腕に斬傷、胸部に斬傷(大・止血済み)、貧血気味、右手に腫れ、左腕に噛み痕(止血済み)、決意、深い悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ぴょんぴょんワープくん@ToLOVEるダークネス(6時間使用不可)、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:悪者をやっつける。
1:ここで誰か待つ?それとも動く?
2:おじさん(産屋敷)とちゃんとおはなししたい。
3:逃げずに戦う。
4:困っている人がいたらおたすけしたい。
5:ミチルちゃん達の無事を祈る。
6:オラの身体が悪者に使われなければいいが・・・・
7:煉獄のお兄さんのお友達に会えたらその死を伝える。
[備考]
※殺し合いについてある程度理解しました。
※身体に慣れていないため力は普通の一般人ぐらいしか出せません、慣れれば技が出せるかもです。(もし出せるとしたら威力は物を破壊できるくらい、そして消耗が激しいです)
※自分が孫悟空の身体に慣れてきていることにまだ気づいていません。コンクリートを破壊できる程度には慣れました。痛みの反動も徐々に緩和しているようです。
※名簿を確認しました。
※気の開放により瞬間的に戦闘力を上昇させました。ですが消耗が激しいようです。
※悟空の記憶を見た影響で、かめはめ波を使用しました。
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投下を終了します。
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両面宿儺、広瀬康一、グレーテ、主催陣営で予約します
ちょっと際どい内容になりそうなので仮投下スレに投下し、投下したらこちらにも連絡します
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投下お疲れ様です。
今まで煉獄さんやジョーカーみたいに、誰かと一緒にいたことがほとんどなので、
1人のしんのすけ目線での話は何だか新鮮です。
唯一フリーザの姿を、主催者発表の前より知っている参加者というのもあって、これからどうなるか気になりますね。
次の作品も楽しみにしてます。
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仮投下しました、意見お願いします
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本投下します
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「仗助君の身体に入ってるのは犬飼ミチル…名前からして女の子かな?」
広瀬康一は、名簿を見ながら呟く。
今彼が見ているのは、精神と肉体の組み合わせが記された特別な名簿。
両面宿儺…いや、関織子から提供されたものだ。
ちなみに宿儺に奪われたウォッチについては、織子さん経由なら少しは聞きやすいと思ってそれとなく尋ねたところ、なんと宿儺が襲撃者―その特徴からおそらくメタモンーに、渡してしまったらしい。
抗議したかったものの、それで宿儺の機嫌を損ねて織子に危険が及んではたまらないので、押し黙った。
(ゲンガー君が言ってた、『精神と肉体はなにかしら共通点がある』ってのをふまえると…仗助君のスタンド能力みたいに、回復能力を持ってるとかかな?)
康一の脳裏にはRPGによくいるローブに身を包んだ僧侶の姿が浮かんだ。
(あるいは…見た目がヤンキーっぽい人だったりして)
ヤンキーっぽい見た目の女性を想像して康一の脳裏に浮かんだのは、どういうわけか由花子だった。
いや、付き合う前のあれこれを考えるとね?
恋人への失礼な想像を頭を振ってすぐに振り払う。
(承太郎さんの肉体は燃堂力…知らないなあ。メタモンの肉体は神代剣)
燃堂力…名前的に念動力を使えたりするエスパー少年だったりするのだろうか。
スタンドもある意味エスパーみたいなもんだしなあ。
そしてメタモン。
ゲンガーの話によれば、この個体のポケモンは、『へんしん』を唯一の特徴とするらしい。
ゲンガーがそうであるように、ポケモンの頃の能力は使えなくなっているのだろうが…自分たちが出会ったメタモンは死人に化けてみせた。
あれは、この神代剣の能力だったのだろうか。
(そして何より気になるのは…DIOの肉体。ジョナサン・ジョースター)
康一はDIOについてそこまで詳しく知っているわけではない。
ただ、その存在は承太郎やジョセフ…ジョースター一族にとって深い因縁のある相手だということくらいは聞いている。
そのDIOに、ジョースター家の…承太郎さんたちの一族の身体が奪われている。
漠然とした不安を感じずにはいられない。
「ありがとう、織子ちゃん、これ返すね」
組み合わせ名簿を見終えた康一は、名簿を返そうとする。
「待って、一応グレーテさんにも見せてきたらどうかしら。言葉は通じなくても、知り合いの名前があったら何かしら反応があるかもしれないし」
「それもそうか、じゃあ…」
康一は立ち上がってグレーテのもとへ向かおうとして…
放送を告げるチャイムが鳴ったのは、その直後だった。
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〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
「そ、そんな…カイジさん、ロビンさん、エーリカさん…!」
放送を聞いた康一は、その場でガクリと膝を折った。
この殺し合いが始まってすぐに出会い、別れた5人の仲間。
その内の3人が、放送で呼ばれた。
つい数時間前まで一緒にいた仲間の半分以上が、死んだ。
特に、カイジの死は康一に強くのしかかる。
メタモンの襲撃後、別行動を取ると言って別れたカイジ。
あの時、無理やりにでも止めていれば、少なくともカイジは死ぬことはなかったのではないか。
そんな後悔に、とらわれる。
「康一さん…」
そばにいた織子は、どう声をかけたらよいものかと逡巡する。
しかし、すぐに心を決めた彼女は、自分の心のうちに潜む住人へと呼びかけた。
(…宿儺さん)
(それがこの男の笑顔に繋がるというのなら、好きにしろ)
(ありがとう)
宿儺の了承をもらった織子は、康一に声をかけた。
「…康一さん、行きましょう」
「織子ちゃん…?」
「まだ、仲間がいるんですよね。だったら、手遅れになる前に動かないと!」
織子の言葉にハッとする。
そうだ、確かにカイジも、ロビンも、エーリカも死んだ。
だけど、病院へ行くために別行動を取った神楽や、ロビンやエーリカと一緒にいたゲンガーはまだ生きている。
特にゲンガーは、ロビンやエーリカを死に至らしめた事件の渦中にまだいる可能性もある。
急いで、合流しないと。
「織子ちゃん、僕、名簿を見せるついでにグレーテさんに出発すること伝えてくるよ!」
気を取り直して立ち上がった康一は、そういって部屋を出た。
「あっ…私も一緒に行ったほうがいいかしら」
グレーテはひとまず落ち着いたとはいえ、まだその精神は不安定なはずだ。
自分には心を許してくれていると思うが、康一に対してもそうかは分からない。
そう考えた織子は、康一の後を追おうとして、
「え?」
突然、視界が暗転した。
「え?なにこれ?」
辺りは真っ暗闇で、何もない。
何も見えない、聞こえない。
「宿儺さん!?」
両面宿儺に呼びかけるも、反応がない。
突然の事態に織子が困惑していると、
「申し訳ありませんが、関織子。あなたはここまでです」
そんな言葉と共に、彼女の意識は急速に薄れていき、やがて完全に消えた。
「さようなら、織子。そして、『また会いましょう』」
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
「おい、小娘!?おい、返事をしろ!」
両面宿儺は、自分の中に眠っているはずの少女に呼びかける。
先刻、周囲が暗転してボンドルドが姿を現し「申し訳ありませんがここまでです」と言ったかと思うと、こちらの意図とは関係なく強制的に肉体の主導権が宿儺に移った。
そして、裏に引っ込んだはずの関織子の意識が…完全に消失していた。
呼びかけるも、応答はない。
「ボンドルド…あの男…!この俺を虚仮に…!やってくれたなあ…!」
-
【C-5 村(春の屋)/日中】
【両面宿儺 @呪術廻戦】
[身体]:関織子@若おかみは小学生(映画版)
[状態]:満腹、ボンドルドへの怒り
[装備]:カブトゼクターとライダーベルト@仮面ライダーカブト 特級呪具『天逆鉾』@呪術廻戦
[道具]:基本支給品x3(メタモンx2)、魔法の箒@東方project 魔法の箒@東方project 桃白白@ドラゴンボール(身体:リンク@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド)の死体、ケロボール@ケロロ軍曹、、精神と身体の組み合わせ名簿@チェンジロワ、撮ったものが消えるカメラ(残り使用回数:1回)@なんか小さくてかわいいやつ 魔神の斧@ドラゴンクエストシリーズ
[思考・状況]基本方針:主催は鏖殺。その他は状況による
1:厄介なことになった…どうする…?
2:JUDOと次出会ったら力が戻った・戻ってないどちらにせよ殺し合う
3:脹相……あの下奴か。どうでもいい
4:縛りにより虫けら(グレーテ)はとりあえず生かす。下奴(康一)はどうでもいい
5:コイツ(天逆鉾)の未確認の効果を試してみたい。(首輪など)
6:はー、めんど
[備考]
※渋谷事変終了直後から参戦です。
※能力が大幅に制限されているのと、疲労が激しくなります。
※参加者の笑顔に繋がる行動をとると、能力の制限が解除していきます。
※関織子の精神を下手に封じ込めると呪力が使えなくなるかもしれないと推察しています。
※関織子の精神が消失しました。呪力がどうなったのかは次の投下にお任せします。
※デイパックに桃白白@ドラゴンボール(身体:リンク@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド)の死体が詰められています。
※組み合わせ名簿から脹相がいるのを知りましたが、特に関心はありません。
※天逆鉾の効果で仮面ライダーへの変身ツールに故障を与えられることを確認できました。
※参加者の肉体に呪霊やそれに類する存在がいる可能性を考えています。またその場合、首輪に肉体の力を弱める術式が編まれていると推測しています。
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【広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:エレン・イェーガー@進撃の巨人
[状態]:吉良吉影の死に対する複雑な感情、背中に複数の打撲痕及びそれによる痛み、両面宿儺に対する戦慄
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、タケコプター@ドラえもん、精神と身体の組み合わせ名簿@チェンジロワ
[思考・状況]基本方針:こんな殺し合い認めない
1:グレーテを呼んでくる
2:両面宿儺を強く警戒。でも下手に逆らって織子ちゃんに危害を加えられたら…
3:神楽さん……無事を祈っています。
4:まさか吉良吉影が死ぬなんて…しかも女の子の身体で…
5:仮面ライダーの力が無くなった分も、スタンドの力で戦う
6:いざとなったら巨人化する必要があるかもしれない。
7:メタモンにまた会ったら絶対に倒さなくては!
8:メタモンが僕らの味方に化けて近づいてくる可能性も考えておかなきゃ
9:皆とどうか無事に合流出来ますように…そして承太郎さん、早く貴方とも合流したいです!
10:DIOも警戒しなくちゃいけない…ジョースター家の人間の肉体を使ってるなんて
11:この身体凄く動きやすいです…!背も高いし!
12:仗助君の身体を使ってる犬飼ミチルちゃん…良い人だと良いんだけど…
13:吉良吉影を殺せるほどの力を持つ者に警戒
[備考]
※時系列は第4部完結後です。故にスタンドエコーズはAct1、2、3、全て自由に切り替え出来ます。
※巨人化は現在制御は出来ません。参加者に進撃の巨人に関する人物も身体もない以上制御する方法は分かりません。ただしもし精神力が高まったら…?その代わり制御したら3分しか変化していられません。そう首輪に仕込まれている。
※戦力の都合で超硬質ブレード@進撃の巨人は開司に譲りました
※仮面ライダーブレイズへの変身資格は神楽に譲りました。
※放送の内容は後半部分をほとんど聞き逃しています。具体的には組み合わせ名簿の入手条件についての話から先を聞き逃しています。
※元の身体の精神である関織子が活動をできることを知りました。
※アナザーウィッチカブトは宿儺に無理やり奪われました。
【グレーテ・ザムザ@変身】
[身体]:スカラベキング@ドラゴンクエストシリーズ
[状態]:睡眠中、満腹、スカラベキングの精神復活
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:生きて帰れたら、兄に謝罪したい
1:……ZZZ
2:オリコ……ワカオカミ……この小さなjapanischMadchenが私を助けてくれた…
3:オリコの血…とても美味しくて……何だか良い気分だったわ…
4:私はグレーテ・ザムザ。心まで怪物になったわけではないわ
5:グレゴール兄さん……私、兄さんに謝らなくてはいけない…
5:キュイイイイイイ!!!(ニンゲン!!!)
[備考]
※しっぽ爆弾は体力を減少させます。切り離した腹部は数時間ほどで再度生えてきます。
※デイパックの破れた傷が広がっています。このまま移動し続ければ他にも中身を落とすかもしれません。
※血の味を覚えました。
※吉良吉影を殺したのは軍服姿の大男(犬飼ミチル)だと思い込んでいます。
※放送の内容は後半部分をほとんど聞き逃しています。
※広瀬康一を絵美理と同種の危険な存在と認識しています。
※織子により、ひとまず落ち着きました。(体が毒虫でもグレーテであると自信を持ちました)
※スカラベキングの精神が復活しました。
※脳内にスカラベキングの声が時折響きます。ただし、グレーテはまだ、それがこの身体の持ち主の声とは思っていません。
※織子の血を吸った際、宿儺の持つ呪力が身体に混ざりこんだ可能性があります。
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「両面宿儺に宿る精神…関織子の封印ですか?」
時間を少し遡って、場面はこの殺し合いの主催者たちが集う場所。
放送が終わった後、斉木空助はボンドルドにそのような提案をした。
「ああ、他はともかく、彼女については早急に対処した方がいいと思うよ。『ボス』にも進言して、許可をもらってる」
「確かに彼女は、宿儺によって自分の意思で身体を動かせるようになっている…厄介ではあると思いますが…」
「別にそれだけなら僕も放置しておいていいと思うよ。でもさ…彼女、それ以上に厄介かもしれないんだよね」
「ほう?どういうことでしょうか?」
空助の言葉に、ボンドルドは興味を示す。
空助は、話を続ける。
「これまでに起こった精神の復活…想定外なことはあったけど、原因自体ははっきりしてるものがほとんどだ。宿儺やエボルトは固有の能力で、ギニューもボディチェンジの綻びといった感じでね。だけど、いくら調べても原因が見つけ出せない存在がいる。…ン・ダグバ・ゼバの肉体の櫻木真乃、グレーテ・ザムザの肉体のスカラベキングだ」
ダグバにもグレーテにも、肉体の精神を復活させるような能力などない。
肉体側の真乃やスカラベキングにも。
それなら何が原因なのかと空助は考え…視点を内ではなく、外に向けた。
原因が内側ではなく外側にあるのではないかと。
そうして目をつけたのが…関織子だった。
「ダグバは、織子ちゃんの精神が復活したのと時を同じくして、両面宿儺と接触した後、唐突に肉体の精神を復活させた。グレーテさんもやはり同様に宿儺と織子ちゃんとの接触のタイミングで肉体の精神が復活した」
「つまり、織子の精神の復活が、感染するように周囲の参加者に精神の復活を促していると?」
「推測とはいえ、状況的にはそう考えざるをえない」
「…ふむ、あなたの考えはよく分かりましたが、しかしそれならば、彼女を宿儺ごとこちらに転送して調査するべきではないですか?」
ボンドルドとしても、もし本当に関織子がそんな特殊な体質を持っているというのなら、手元において調べたいところだった。
故に、封印するよりは調査をするべきではないかと意見を出す。
「おいおい、まだこの殺し合いは中盤に入ったばかりだ。そんな状況で、殺し合いを円滑に進めてくれそうな強力な駒を舞台から追い出すのは、あまりいい手とはいえないんじゃないかな」
「…分かりました、彼女については今から出向き、手を打ちましょう。その代わり、こちらも一つ頼みごとをしてよろしいでしょうか」
「なんだい?」
「あなたの知り合い…鳥束零太の肉体を、使わせてほしいのです」
-
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
「ほ、本当なんですか、ウリ坊や美陽ちゃんと会えなくなるって!」
紫の髪に、白いバンダナの男は、涙目で言った。
その姿はこの殺し合いにも精神側で参加し死亡した鳥束零太のものである。
しかしそこに潜む精神は、これまでの例にもれず別人のものだ。
「はい、『関織子』さん…あなたの霊界通信力は非常に不安定で、このままではあなたが小学校を卒業する前にその力は失われ、お友達のユーレイとは永遠に会えなくなってしまうでしょう」
鳥束零太…いや、その中に入っている関織子に声をかけるのは、穏やかな語り口で話す仮面の男。
ボンドルドである。
「そんな…なんとかならないんですか!?」
「今あなたが入っている肉体の男性は、霊能力者…あなたの霊界通信力とよく似た力を、あなたより安定した状態で使うことができています。私の研究が実れば、あるいはなんとかすることができるかもしれません」
「ウリ坊や美陽ちゃんと…お別れしなくていい?」
「はい、あなたが私の研究に協力してくれれば。お願いできませんか?」
穏やかに研究への協力を求めてくるボンドルドに、織子は俯く。
そして、顔をあげると言った。
「…約束してください、私や私が今入っている男の人を、ちゃんと無事に帰すって」
「…ええ、それはもちろん」
「それなら…協力します」
織子はそういうと、「よろしくお願いします」とぺこりと頭を下げる。
「ありがとうございます」
ボンドルドは、変わらない穏やかな口調で、礼を言った。
(『完全な霊能力の肉体』と『不完全な霊能力の精神』…異なる世界の、似て非なる力が混じりあった時、どんな可能性が生まれるのか…見せてもらいましょうか)
仮面の下の瞳に、怪しい輝きを隠しながら。
【追加主催陣営】
【関織子@若おかみは小学生(原作版)】
[身体]:鳥束零太@斉木楠雄のΨ難
[備考]
※殺し合いについて説明を受けていません。
※参戦時期は少なくともウリ坊や美陽に会えなくなることを聞かされる前です
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投下終了です
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失礼致します。当方、書き手になるかどうか決めかねている一読者です。
ロワオリジナル支給品の漠然としたアイディアについて、単なるアイディアの段階なのですが事前に有りか無しかをここでお伺いしてもよろしいでしょうか?
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すみません、ふと気付いたことがありまして
しんのすけの目の前で肉体消滅で残されたシロの首輪なんですが
これ、90話で自分が忘れてて触れなかったのが悪いのですが、状況的に拾われてないのは不自然だと思うのです
自分が90話で追記するか、今後のリレーで後付けで誰かが拾ったことにした方がいいと思うのですが、どうでしょうか
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>>82
アイディアについての相談は大丈夫です。
ただ、このようなことについての話し合いは、専用したらばの議論スレでお願いしたいです。
具体的な内容についての書き込みはそちらの方でお願いいたします。
>>83
追記しても大丈夫だと思います。
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>>84
>>82です。ありがとうございます。1時間ほど前に議論スレに書かせて頂きました。
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>>84
ありがとうございます
では、冒頭部分を次のようにします
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「よ、戻ったぜ」
席を外していたエボルトが戻ってきた。
その手には、沢山のデイパックがあった。
「デイパック、回収してきたぞ」
「すまないな、エボルト」
ルブランの屋根裏部屋で襲ってきたアーマージャックに対応するため、ミチルはデイパックを放置状態だった。
故に、エボルトに取ってもらってきたのだ。
これは後でミチルに返すとしよう。
「そういやあの犬っころの首輪はどうした」
「しんのすけに渡した、一応家族の形見だしな」
「そうか、まあいい。…でだ、そっちの新顔、ミチルって言ったか」
「ああ、シロの身体の本来の持ち主だ」
---------------------------------------------------------------
これに加えて、90話以降のしんのすけの状態表にシロの首輪を追記します
-
>>82です。
犬飼ミチル、産屋敷耀哉 予約させて頂きます。
現在議論スレでお尋ねしている支給品の件も踏まえ、11/13(日)目途で仮投下できるようにするつもりでいます。
また粗筋を考えていく中で別件でお尋ねしたいことができました。こちらも議論スレに書かせて頂きますね。
-
仮投下しました。本投下は仮投下スレ記載の通り11/14以降の予定です。御意見頂けますと幸いに存じます。
-
議論スレへの誤爆失礼しました。
予告より早くなりましたが、リアルの都合により今から投下します。
-
下水道の床は、ごくごく緩やかな下り勾配となっていた。南西側が上で、北東側が下になる形の勾配だ。
少なくとも、E-6でミチルたちが魔王に襲われた辺りから、D-6の境界辺りまでは。
「…………………は?」
衝動に突き動かされた耀哉は、走行中、複数の分岐の選択を通り過ぎて行った。いずれも走行を止めることなく、地上までの距離がより長くなる深い場所へと反射的に無意識に突き進み、ミチルと共に、T字路の|と―が交わる箇所に行き当たる。
左右には果ての見えない下水路が続く。後方は今まで北上してきた下水路があり、前方は壁だが、地上に出るための整備用のハシゴだけがある。
耀哉が正気を取り戻した場所は、そのような構造をしていた。
◆
「…え?」
身体が震える。寒気ではない、あまりのおぞましさと己の不甲斐なさに。
「ここは……どこだ…?君は…?
私は……何をした……?何を、したんだ……?」
見知らぬ場所、見知らぬ人。分かっている。分かるしかない。認めたくないが、人として絶対に許されざることをやったとしか思えない。
(この身体が御しれなくなり、シロのように誰かを襲った……!)
悪臭に満ち満ちた、ここはおそらく廃水用の水路。足元には支給されていた乗り物。
目の前には、片目が潰れた上に傷だらけの青年、変わった髪型の、知らない青年。刀を持っている。呆然とした様子で、こちらを見ている。
「何を、って……!! ――覚えていないんですか……? ッ!」
何か勘付いたらしい青年は、まるで女性のように腰を抜かして数歩下がり、背後の壁、ハシゴの真横にもたれ込んだ。持っていた刀が床に転がる。
続ける言葉は、極めて限りない正解。
「もしかして、……ときどき記憶と正気を無くして、襲い掛かってくるような、……そんな能力者なのですか、あなたはっ……!?」
目の前のこの彼は鬼ではない。今の耀哉にはそれが感じ取れる。
髪型は奇妙だが、善良で勘が強いだけのヒトだろう。この反応から考えて、おそらく耀哉が襲ってボロボロにしたと思われる。
「……。ああ。鬼を増やす衝動が抑えられない、……らしい。……本当にすまない、私の心が弱かったからだ……!!」
耀哉はその場で勢いよく土下座した。横倒しのマシンディケイダーにも路面の汚水にも一切構わず、身体を伏せ続けたまま尋ねる。
「どうか教えてほしい。ここはどこで、私は、……この身体で、どれほどのことをやってしまったんだい……!?」
-
「ええっと、……頭を上げて下さい。えっと……」
へたり込んだ青年は明らかに口ごもっていた。気を使われているのか、疲れているのか、酷く切り出し方に迷っている風で。
長い思考の末に出た言葉は、「ここは地下の下水道で」という台詞。
座した耀哉が、それだけ聞いた段階で。
――『初めまして、殺し合いに参加している皆さん』
放送が始まった。
地下の下水道では、島の中央のモニターを見ようがなかった。画像を映し出す機器類も全く無い場所で、青年と耀哉は座ったまま音声だけを聴いた。
姿の見えない主催の自己紹介を経て、想定外の事態のこと、死亡者の発表。……途中、目の前の青年は「エルドルしゃん……」と呟いた。明らかに知り合いが死んだらしい口調だ。
そして幾人かの名前が呼ばれた後、――『シロ』の名が出た。
(あの子は、死んでしまったのか……!!)
心の内で強く悔い、無言で瞑目する。自分がうかつにも鬼化させてしまったあの犬。どんな死に方をしたのだろうか、知る術はない。
各々の参加者の反応に構わず、ボーナスについて、モノモノマシーンについて、と、放送が進んでいく。
その次の内容は、耀哉にとってはあまりにも重大すぎた。
――『後は、天気の話をしておこう』
『空をよく見れば分かるだろうが、雲が多く出始めている』
「!?」
――『今から一時間もすれば、雲はこの島全体を覆うことになる』
『やがては、雨が降ることになるだろう。それもかなりの大雨だ』
『雨に濡れて風邪を引かないよう、傘なりレインコートなりを探してみたら良いだろう』
『だがもしかしたら、この雨で火事の勢いも弱まり…やがて鎮火することがありえるかも、しれないな』
「何だと……」
雲が出始めている。雨が降り出す。いずれにせよ極めて重大な情報だった。
いずれ陽光が射さなくなる、あるいはもう射さなくなっている、ということ。自殺を志向する耀哉にとって、最悪の事態でしかない。
――『最後に、私個人の夢を話す』
前を見る、傷だらけの奇妙な髪形の青年が座っている、その真横にハシゴ、ここは地下で、ハシゴを上れば、ひょっとしたら、そうすれば、外は、きっと、空模様次第で、もしかしたら。
――『私の夢は、人とポケモンが本当の意味で共に寄り添った暮らしをする世界だ』
衝動を抑えられない己、この彼と自分は距離を取るべきで、ここは殺し合いの場、手ぶらでは目の前の彼は残せまい、己の物を全て全て託し、この鞄を、いや、鞄に全ての物を入れて……!!
「そうだ……!!」
とっさの機転。
支給品を出す時の仕組みが人知を超える物であったなら、支給品を仕舞うときでも同様のはずではないのか、というひらめき。
――『ポケモンというのはとても高貴な生き物だ…』
厳密には2回目の発想ではあった。正確に言えば、地上からこの下水道へ逃げ込むときも、全く同じ内容の機転を働かせて行動を取っていたのだから。
もっともその頃の記憶は今の耀哉には無く、主観としては初めて気が付いた着想。
それは果たして想像通りだったようで、人を載せて走行できる大きな支給品は、バックパックの中にどうしてか綺麗に収まったのだ。
「この荷物、君に譲ろう。今入れた物のほかに、飲み物と特殊な地図が入っていた、はずだ……!!」
脚を投げ出している青年の膝の上に、バックパックを落とす。
「えっ!?」
――『そんなポケモンと人類の未来を、私はより良いものに変えていきたい』
驚く声が出た俯き顔をまともに見ず、よく分からない内容に突き進む放送を無視して、耀哉は強くハシゴを掴んだ。
-
◆
元々ミチルと耀哉が立っていた下水道の天井。その一部をくり抜く形で穴があり、ギュッと狭くなった丸いだけの空間が伸びている。
蓋と下水道本体を繋げるためだけの、整備用のハシゴが壁にあるだけの細長い空間こそを、人(man)が作業に行き来する縦の穴(hole)、すなわちマンホール(=man+hole)と呼ぶ。
◆
――『それを実現するために、私はこの殺し合いの運営に参加することを決めた』
耀哉の個別支給品は3つだった。
1つ目はマシンディケイダー。2つ目は、とても甘いらしい上に飲めば体力を大量回復するかもしれない、おまけに飲みかけにできない飲み物。3つ目が、2回目の放送後から使い物になるという参加者の身体の配置図、……それが全てだったと思う。
飲み物は、今までどう使ってきたか自分でも分からない。記憶の限り極度に疲労する機会もなく、使う時は1本の中身を全部飲み干すしかないという仕様からして、試飲さえしなかった。正気を失っていた頃はどうだろう。人ならざるこの身体で必要だとは思えないけれども。
配置図の方は、おそらくはそのままのはずだ。同梱の説明書通りの代物なら、今まで白紙のはずだろうから。
……いや、ひょっとしたら、今までに誰かから支給品を奪ったりしている恐れは、無いとは言い切れないか。
(だが、確かめる時間があるはずもない。時間を浪費して空が曇ってしまったら……)
正直なところ、さっき荷物を渡した青年にとって、本当に役立つ物品なのかどうかも全く不明瞭。
しかし少なくとも耀哉には必要のない物のはずだ。
外が死ねる環境ならば、当たり前だが、余計な物は持たなくともいい。
仮に死ねない環境であったとしても、やはり不要のはずだ。余計な移動手段は周囲に害だし、回復の道具も不要、余計な位置情報を目にした時の反応も、今は考えるだけで恐ろしい。……それを手掛かりに他人を探し回るだろうから。
――『だからこそ、君たちには引き続き頑張ってもらいたい』
『健闘を祈っている』
ちょうど放送が終わった頃合いに、マンホールを登り切った。
片腕でハシゴを持ったまま、もう片腕で力を込めて頭上の蓋を持ち上げる。おそらく正規の手順とは違う形で、不自然にミシミシと蓋がズレていき、……あっけなく腕先が炙れた。
(……よかった)
この蓋の一枚上が屋外であること。とりあえずこの瞬間は陽光があること。どちらにも安堵を感じた。
今まさにこの瞬間において、死ねる程度の日差しはあると信じたい。即死できない弱さであったとしても。
片腕が少しずつ灼ける苦痛は当然に無視して、蓋を横方向にずらすように力の向きを変えた。ただ顔は下を向く。最期の一瞬まで喋れるように。
「ひどく迷惑をかけて心苦しいが、……遺言を聞いてはもらえないかい。……言い訳がましいが、私が制御しきれなかった、この身体のことを話したい」
傷だらけの青年は、不甲斐ないこちらを見上げてくれている。そのまま、上から言葉を続けた。
「鬼舞辻無惨、という名の、許し難い鬼の身体だ。……奴もまた、殺し合いに巻き込まれている。精神の方は、誰の身体に居るのか分からない。……どんな身体であれ、ここでもまたロクなことはしていないだろう。……千年前から大正の今に至るまで、大勢を鬼に変えて……、凶行を重ねた……、そんな性質の、やつだか、ラ……」
喋るほどに擦れゆく声でここまで話せた頃、ゆるやかに壊れゆく四肢がハシゴを保持し切れなくなった。
落下する。目を見開く青年の顔が、白くかすれるように溶けていく――。
◆
ちいさな落下物がひとつだけ地面ではねて、ちょうどミチルの太ももに飛び込むように転がり込んできた。
(あの人の首輪、ですか……)
壁にもたれ掛かって座ったままのミチルは、譲られたデイパックを左手で抱えたまま、指先だけで首輪を摘み上げて、また真上を見上げる。
蓋がズレきって丸く見える穴の、遥か上。雲が、空を全て覆いつつあった。
ミチルには鬼の消え方について知識がある訳では決してないけれど、もうこんな風に曇ってしまったなら、もう十分に日光を浴びることはできないような気がする。……変な言い方だが、滑り込みで何とか自死を選び取った瞬間だったように思えて。
(シロちゃん、エルドルしゃん……)
決して好き好んで彼等を鬼にする人格ではなかったのだ。あの人物は。
思えば、本来話すべき事を、ミチルからは何一つまともに話せなかった気がする。しんのすけが謝りたがっていた事も、自分が、精神と身体の組み合わせ名簿を持っていることも。
お互いに名乗りもしなかったが、身体の方は「きぶつじむざん」だと、最期に言っていた。ならば精神の方の名前は、組み合わせ名簿から分かるだろう。
整備用のハシゴを見上げても、あの人の姿はもう見当たらない。
【産屋敷耀哉@鬼滅の刃(身体:鬼舞辻無惨@鬼滅の刃) 死亡】
-
【D-6とE-6の境界 下水道(蓋が外れたマンホールの真下)/日中】
【犬飼ミチル@無能なナナ】
[身体]:東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険
[状態]:ダメージ(大)、疲労(極大)、右目失明、左背面爆傷、右肩に裂傷、深い悲しみ(極大)、無力感(極大)
[装備]:
[道具]:ミチルのデイパック(基本支給品×3、ラーの鏡@ドラゴンクエストシリーズ、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、ランダム支給品0〜1)、耀哉のデイパック(基本支給品、マシンディケイダー@仮面ライダーディケイド、ミックスオレ(残り?本)@ポケットモンスターシリーズ、2つ前の放送時点の参加者配置図(身体)@オリジナル)、耀哉の首輪
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしたくない。
1:……
2:どうしてキョウヤさんが…
[備考]
※参戦時期は少なくともレンタロウに呼び出されるより前
※自身のヒーリング能力を失いましたが、クレイジーダイヤモンドは発動できます。ただし傷の治療は普段よりも完治に時間が掛かり、本体に負担が発生するようです。
※名簿を確認しました。
※第2回放送は音声のみ聴きましたが、最終盤(ハワードが個人の夢を話す辺り)の把握がいまいちです。
※【ミックスオレ(残り?本)@ポケットモンスターシリーズ】は、1本開封して消費し始めると飲みかけにはできない仕様です。残数・回復効果の有無は、後続の書き手に任せます。(洗脳状態の耀哉が全て飲み切っていた可能性もゼロではないものとします)
※【2つ前の放送時点の参加者配置図(身体)@オリジナル】は、現時点で第1回放送時点の参加者配置図(身体)となっています。第3回放送開始終了時には一旦表示が消失し、改めて、第2回放送時点の参加者配置図(身体)が表示されます。
※【物干し竿@Fate/stay night】が手元から離れました。現時点でミチルがすぐに拾い上げられる場所に転がっているものの、本人が落としたことに気付いていません。
※下水道の壁のハシゴを登ると、地上に出られます。少なくともこのマンホール穴の真上には、日差しや降雨を遮る物は存在しません。
※少なくともE-6の地下の一部の範囲では、下水道は一本道ではなく複数の分岐が存在します。またこの範囲での床の勾配は、南西側が上で、北東側が下のごくごく緩やかな下り勾配です。何らかの理由で水量が増した場合、下水は北東に(D-6とE-6の境界線に向けて)流れます。
【2つ前の放送時点の参加者配置図(身体)@オリジナル】
当該放送時点での全生存者の配置図(身体)が表示されている地図。参加者の写真のみが掲載されており、氏名の記述は無い。(マップの書式は、当企画wiki資料コーナーの現在位置ページの図面に準拠)
第2回放送終了以前は、当アイテムの説明書および白紙が支給されている状態となっていた。
第2回放送終了時に、白紙上に初めて第1回放送時点の参加者配置図(身体)が表示される。次回の放送終了時には従前の配置図が消失し、改めて新しい配置図が表示される仕組み。
【ミックスオレ@ポケットモンスターシリーズ】
ポケモンの体力を回復するとても甘い缶ジュース。おおよその場合、350円で購入可能で、HPのみを70〜80回復する。毒・麻痺・やけど等の状態異常に対しては効果がない。
原作で飲みかけという概念が存在しないためか、当ロワでは飲みかけにはできない制限付き。
ポケモンが飲んだ場合は必ず体力回復効果が生じるが、ポケモンではない参加者が飲んだ場合の効果は不明瞭。また、使用する場合は、缶1本分の中身を全て飲み干すしかない。
つまり、このジュースを飲み干した場合、単に美味しいだけの飲料ということが分かるだけかもしれないし、実際に体力を回復するのかも分からない。
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投下終了です。
仮投下からの変更点は、細かな言い回し・表現方法の微修正のほか、以下の通りです。
・耀哉がシロの死亡情報に無反応になっていた点を修正
・ミックスオレの説明文の修正(ポケモンに対しては確定で体力回復するアイテムという趣旨を追加+使用時に缶ごと1本飲み干さないといけないように読めた点を書き直し)
・下水道関係の情報を追加(耀哉の逃走ルート上に分岐が存在したこと+勾配の方向および増水時の水流について)
また予告通りSSタイトルを変更しました。
最後に私信を失礼致します。
前スレのレス675-676を書き込まれた名無しの方に感謝申し上げます。
過去ログの読み込み中に拝読した時、(書いた時の意図と異なるとは思いますが)私が想像したのは「マンホールに半端に詰まってしまい、スケキヨ状態で押しても引いても穴から出られなくなって、縦にもがいている大型バイク」の姿です。
そういう事態がなぜ発生しなかったのか、デイパックの性能から派生させる形で考察して肉付けした結果、こういうSSになりました。
そういうわけで、タイトルも内容もあなたの書き込みが元ネタです。そもそも当該の書き込みがなければ当作は生まれませんでした。ありがとうございました。
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お疲れ様です、感想を投下させていただきますお館様自身に罪はないけれど悲壮感がすごい、お労しやお館様。シチュエーションは大幅に違えど無惨の肉体は太陽の光でしか滅ぼせないと改めて思いました。
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雨宮蓮、エボルト、空条承太郎、檀黎斗、遠坂凛、キャメロット城、バリー・ザ・チョッパー、ゲンガー、犬飼ミチル、魔王、鬼舞辻無惨、メタモン、ン・ダグバ・ゼバを予約し先に延長もしておきます。
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専用したらばに昨夜立てて頂いた創作裏話スレで、>>90-94の解説を投下しました。何かのお役に立てば幸いです。
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初投下お疲れ様です。
御館様、そうなるしかないよなあ。
割と最初からどうなるのか気になったキャラでしたが、落ちるべきところで落ちたと思います。
T字路の表現を始め、何かと雑に書かれてしまいがちな地形の描写が上手いなと思いました。
次の作品も楽しみにしてます。
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ギニューを予約します。
際どい内容になるかもなので一旦仮投下します。
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一旦仮投下しました。
他の方々の了承を得たら投下する予定です。
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ゲリラ投下します
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「とりあえず自己紹介から。私は柊ナナ、こんな身体ですが、女性です」
「俺は脹相。俺もこんな姿ではあるが、精神は男だ」
戦兎達が病院を去った後、ナナと脹相は話をするべく、とりあえず改めて自己紹介を行った。
「おう、俺は燃堂力。こいつは俺の相棒の弟だ!」
ついでに、燃堂がナナの肩を馴れ馴れしく抱きながら紹介してくる。
「ほう、その肉体の人物には兄がいるのか」
「お兄さんがいるのは事実ですが、この人の言うことは鵜呑みにしないでください」
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「私のこの肉体は斉木楠雄。この燃堂さんの友人で…最初の放送で出てきた、斉木空助の弟に当たります」
「…こいつの兄が、殺し合いの運営に関わっている、のか?」
ナナの話を聞き、脹相は内心で憤りを感じた。
脹相にとって、弟はかけがえのないものであり…自分は兄として、彼らを強く愛している。
無論、兄弟にだって色んな関係があるのだろう。
そうとは分かっていても、弟を巻き込む斉木空助には怒りを感じずにはいられず、彼にとって主催陣営はますます相容れないものとなった。
「この肉体について話をする前に聞きたいのですが…脹相さん、超能力、という言葉についてどういうイメージを持ってますか?」
ナナは、脹相に超能力についての見解を尋ねた。
この世界には、さまざまな時代、さまざまな世界から人が集められている。
杉元や悲鳴嶋のような古い人間なら超能力と言われてもピンと来ないだろうし、別世界の人間なら超能力という言葉に対して全く違うイメージを抱いている可能性もある。
故に、超能力という言葉についての認識のすり合わせを行ってから話をしようと思ったのだ。
「超能力…呪術、とは違うのか?」
案の定、脹相という男は超能力という言葉に別のものをイメージしているようだった。
呪術、というのが何なのか分からないし後で詳しく聞きたいところだが、字面的に斉木楠雄や自分の世界のそれとは別種のもののように思う。
「そうですね…テレビなんかでみるような、サイコキネシスとか予知能力とかって言って、伝わりますか?」
「…ああ、一般的なイメージとして浸透してる類の超能力か。ああ、分かるが…そいつは、超能力者ということか?」
「はい」
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認識のすり合わせが済んだところで、ナナはプロフィールに書かれていた内容や、斉木楠雄本人から聞いた話を交えて、超能力者としての彼の能力を説明する。
「それほどの能力が、その男に備わっていると言うのか…?」
「ええ、もっとも今はほぼ何も出来ない状態ですが」
ナナから聞かされた斉木楠雄のスペックに、脹相は軽い驚きを漏らす。
誇張でないなら、特級の呪術師や呪霊など目ではない。
規格外すぎていまいち現実感が湧かないが。
もしもその能力を問題なく使えたならば、優勝など朝飯前だろう。
「そうですね…まずは彼の精神が復活した経緯について、簡単に説明しましょうか」
ナナは説明する。
殺し合いが開始してすぐ、燃堂とラーメン屋に入ったタイミング辺りで、斉木楠雄の精神が密かに復活していたこと。
少し前に、サイコメトリーによってその精神と接触できたこと。
そしてボンドルドの介入により、斉木と通話ができなくなったこと。
「『かめ』…その言葉を直前に残して、彼の意識は消えてしまったのですが、脹相さんには何か心当たりがありませんか?」
「いや…特に思いつくものはないな」
「そうですか…」
「俺としては、その男の精神が復活した理由が気になるが…」
脹相は、燃堂の方へ顔を向けていった。
「燃堂力。お前は、斉木楠雄と頻繁にラーメン屋へ行ってるのか?」
「おう、放課後はよく相棒を誘ってラーメン食うぜ」
「ふむ…既視感を感じさせる風景が、斉木楠雄の精神を呼び出したか?いや、だが…」
脹相は、自分の述べた考えに引っかかりを覚えたらしい。
ナナにはなんとなく、脹相が感じている引っかかりの正体が分かった。
ナナ自身も、それに近い引っかかりを感じていたからだ。
『初めまして、殺し合いに参加している皆さん』
そして時刻は正午となり。
ハワードによる放送が始まった。
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「まさかミチルちゃんの身体まで参加してたなんて」
放送で呼ばれた知人の名前に、ナナは呟く。
犬飼ミチル。
ナナと同じ能力者の学校に通う女の子。
精神側で参加者として名を連ねていたが、肉体側にも彼女の存在はあったらしい。
自分の肉体に憑依していた人物が死んだとしって、今頃何を思っているだろうか。
「しかし、犬に猿、船?…ハムスターとは、一体この殺し合いを仕組んだ連中は何がしたいんだ」
脹相は呼ばれた死者の姿にそう呟く。
彼の呟きにナナも内心で頷く。
鳥束霊太のカエルといい、参加者の選定は、珍妙と言っていい。
…いやまあ、ミチルの肉体に犬が入っていたのは、変な納得感があったが。
「とはいえ、DIOの仲間の貨物船?や、しのぶさんに同行していたデビハムが死んだのは、こちらにとっては好都合ですね」
何があったかは分からないが、しのぶは無事で、なおかつ彼女の同行者である危険人物、デビハムは死に、DIOの手下も死んだ。
甜花救出・しのぶ救出を目指す戦兎達にとっては、追い風といっていい。
「小力2号…」
一方で、ハワードが写っていた上空を眺めながら、燃堂は何やら黄昏ていた。
彼らしからぬ沈んだ様子に、ナナは不審を覚えた。
「燃堂さん、どうかしたんですか?」
「おう、デビハムって奴見て、うちで飼ってるハムスターを思い出してよ」
「…燃堂さんがハムスターを?」
ナナは驚く。
こいつに、動物…しかも小動物を飼うような繊細なことができたのか、と。
「なんだよ、俺のこの顔でハムスターは似合わねえってか!?」
「いや、燃堂さんの元の顔知らないですし、むしろ今の顔は見た目だけなら似合うとは思いますけど」
元の顔はそんなにガラが悪いのだろうかと、ナナは思った。
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「それよりも柊ナナ、先ほどの話の前に、気になることがあるのだが」
脹相の言葉に、ナナは頷く。
「分かってます、禁止エリアのことですよね」
「ああ、この病院の一部が、禁止エリアになる可能性があるが…どうする?」
「…ちょっと考える時間をください」
そう言うとナナは、自分の荷物から地図を取り出す。
新たな禁止エリアの場所にバッテンをつけながら、地図を睨んだ。
(まず、禁止エリア発動後までここに留まるのは、やめておいた方がいいだろう)
病院の一部が禁止エリアになるということは、それだけ自由に動ける場所が減るということで。
万が一敵の襲撃があった時、こちらの動きが制限される。
後ろが崖の狭い通路に立つような自殺行為だ。
戦兎と情報交換をしたいのでできれば待ちたいものの、それに拘って命を落としては本末転倒である。
(せめて禁止エリアになるまでここに留まりたいが…それはそれで問題がある)
ナナが懸念しているもの…それはもう間もなく大雨が降るということだ。
雨の中の移動は、リスクが高い。
それならば、降る前に移動してしまった方がいいのではという考えも浮かぶ。
(カエルの肉体が参加しているくらいだ、水場で有利になるような敵の存在がないとも限らない。やはりここは…)
ナナは結論を出すと、言った。
「戦兎さんたちには申し訳ありませんが…すぐに移動しましょう」
「おう!昼飯食いに行くんだな!」
「それは構わないが、どこに行く?戦兎達を追うのか?」
燃堂の言葉を無視して、脹相は尋ねる。
戦兎達と合流するのかという問いに、ナナは首を振った。
ナナとしても彼らとは合流したいのだが、こちらから出向いてしまって、戦兎達とすれ違いになり、自分たち3人だけでDIO達に遭遇する、などというシャレにならない可能性もある。
では、ナナが考える行き先とはどこなのか。
「それは…ここです」
ナナが地図のある地点を指す。
それは…『フリーザの宇宙船』だ。
「フリーザの宇宙船…先ほどの放送の主、ハワードが使っていた肉体と関係がありそうな場所か」
「ええ、それにここなら、道中の安全もある程度保証されますから」
ここからフリーザの宇宙船にまっすぐ向かおうと思えば、2時間後に禁止エリアになるD-2を横切ることになる。
そして禁止エリアになるということは、逆に言えば参加者がこのエリアから距離を取るということだ。
つまり、敵の襲撃を受ける可能性がぐっと下がるのだ。
目的地のフリーザの宇宙船付近に敵がいる可能性も、全くないとは言えないが、低いと思っている。
先ほどの放送で示唆されたモノモノマシーンが北の網走監獄にあるとはいえ、殺し合いに積極的な参加者なら、会場の端寄りに位置し、町などがあるわけでもないあの付近にいつまでも留まらないだろうと考えられるからだ。
むしろ、治療機材があるこの病院の方が、襲撃の可能性は高い。
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「了解した。道中は、俺が二人を運ぼう。ユニットの試運転もしたいからな。だが、その前に…柊ナナ、放送前にしていた話について、もう少し話をしたいのだが、構わないか?」
「斉木楠雄の、精神復活の経緯について…ですね」
「ああ、俺はさっきのあの話を聞いて引っかかったことがある。随分とあっさり、精神の復活を許しすぎではないか?ということだ」
そう、脹相が引っかかりを覚え、ナナも疑問に感じていたこと。
それは、斉木楠雄の精神の復活が、かなり容易にされてしまったことだ。
「私も同じ疑問に行きつきました。脹相さんには言ってませんでしたが、ここから西にあるPK学園というのは、斉木さんや燃堂さんの母校なんですよ。馴染みのあるラーメン屋と母校が近くにあり、知り合いである燃堂さん、ついでに言うと最初の放送で死んだ鳥束さんも斉木さん達と同じ高校に通う知人で、この殺し合い会場でも割と近くにいたようなんです」
「…できすぎているな」
「はい、まるで、斉木さんの精神復活を促すかのごとく」
不審なことは、他にもある。
ナナが、サイコメトリーで斉木の精神に接触できたことだ。
サイコメトリーは、他の超能力同様、基本的に使えなくなっていた。
それが、斉木本人の肉体にだけ通用した。
今になって思うと、あそこだけサイコメトリーのセキュリティに穴があったのも、何か作為的めいたものを感じる。
「だが、先ほどの放送でハワードは、精神の復活は想定外だと言っていた。あれは噓だと言うのか?」
「それは分かりません。もしかすると私以外にも精神の復活が確認されていて、そちらは本当に想定外だという可能性もあります。ですが…少なくとも、斉木楠雄の精神復活に関しては想定外ではないと、私は思っています」
「随分確信を持った言い方だが…」
「だって考えてみてください。主催陣営には、彼の兄、斉木空助がいるんですよ?」
ナナの言葉に、脹相はハッとする。
そうだ、斉木楠雄には関係者…それも彼の兄が、主催陣営にいるのだ。
それなのに、想定外の精神の復活ということが、有り得るだろうか。
(いや、俺自身、弟の悠仁の存在に最近まで気づいてなかった。絶対に有り得ないと断言はできないが、しかし…)
ラーメン屋やPK学園、燃堂や鳥束を近くに置いて、実際その内の一部が精神の復活を促した可能性があるとなれば、やはり意図的に精神が復活するように仕向けたように思える。
「主催陣営…あるいは斉木空助は、斉木楠雄の精神の復活を促して、何かをしようとしていた…のか?」
「…分かりません、精神を消したのなら、仮に何か目的があったのだとしても、用済みということなのかもしれませんし」
ナナも脹相も、俯いて沈黙する。
やろうと思えば世界すら滅ぼすせるほどの超能力を持った斉木楠雄に対して意図的に行われたかもしれない精神の復活に、うすら寒いものを感じた。
「お〜い、お前ら何やってんだ?早く飯食いに行こうぜ」
そんな重い空気を全く読まない、燃堂の能天気な声が響く。
どうやら未だに昼食の為に移動するのだと思っているらしい。
「…ともかく、行くか」
「ええ、後で戦兎さん達にこちらを追ってもらえるように、メモ書きを置いておきましょう」
ナナは紙に、禁止エリアと雨への懸念からフリーザの宇宙船へ移動する旨を書いて、目につきにくいが探せば見つかるような場所に置いておいた。
そして、脹相はナナと燃堂を抱えてストライカーユニットを起動させると、フリーザの宇宙船を目指すのであった。
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【D-2/日中】
【脹相@呪術廻戦】
[身体]:ゲルトルート・バルクホルン@ストライクウィッチーズシリーズ
[状態]:疲労(小)
[装備]:竈門炭治郎の斧@鬼滅の刃、松平の拳銃@銀魂
[道具]:基本支給品、アタッシュショットガン@仮面ライダーゼロワン、零余子の首輪、予備マガジン、フラックウルフFw190D-6@ストライクウィッチーズシリーズ
[思考・状況]基本方針:どけ!!!俺はお兄ちゃんだぞ!!!主催者許さん!!!ぶっつぶす!!!
1:フリーザの宇宙船に向かう
2:殺し合いには乗らない。
3:「出来る限り」殺しは控える。
4:一応悲鳴嶼の言う通り危うい行動はしないよう注意する。
5:あいつ(神楽)には嫌われたみたいだな…
6:両面宿儺を警戒。今は遭遇したくない
7:もし虎杖の肉体が参加させられているなら、持ち帰りたい
8:お前が関わっているのか?加茂憲倫…!!
9:斉木楠雄の精神の復活は想定内なのか?だとしたらなんのために?
10:自分の弟を殺し合いに巻き込む斉木空助に不快感
[備考]
※原作第142話「お兄ちゃんの背中」終了直後から参戦とします。
※ユニット装着時の飛行は一定時間のみ可能です。
※虎杖悠仁は主催陣営に殺されたと考えています。
※竈門炭治郎の斧に遠坂凛(身体)の血が付着しています。
※服や体にも少量ですが血が飛び散っています。
※悲鳴嶼行冥たち鬼殺隊を呪術師の集まりだと思ったままです。
※鬼舞辻無惨は呪霊の一種だと思っています。
【柊ナナ@無能なナナ】
[身体]:斉木楠雄@斉木楠雄のΨ難
[状態]:精神的疲労
[装備]:フリーズロッド@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品、ライナー・ブラウンの銃@進撃の巨人、ランダム支給品0〜1(確認済み)、病院内で手に入れた道具多数
[思考・状況]
基本方針:まずは脱出方法を探す。他の脱出方法が見つからなければ優勝狙い
1:フリーザの宇宙船に向かう。できれば戻って来るのを待ちたかったが…
2:「かめ」とは何だ…?後に続く言葉はあるのか?何か重要なものなのか?
3:「かめ」は「仮面ライダー」なのか?ならば、主催陣営の誰かが変身するということなのか?
4:斉木楠雄の精神復活は想定内だったのか?だとしたら何のために?
5:変身による女体化を試すべきかどうか…
6:犬飼ミチルとは可能なら合流しておく。能力にはあまり期待しない
7:首輪の解除方法を探しておきたい。今の所は桐生戦兎に期待
8:能力者がいたならば殺害する。並行世界の人物であろうと関係ない
9:エボルトを警戒。万が一自分の世界に来られては一大事なので殺しておきたい
10:可能であれば主催者が持つ並行世界へ移動する手段もどうにかしたい
11:何故小野寺キョウヤの体が主催者側にある?斉木空助は何がしたい?
12:斉木楠雄は確実に殺害する。たとえ本当に悪意が無かったとしても、もし能力の暴発でもして自分の世界に来られたらと思うと安心できない。
13:12のためなら、それこそ、自分の命と引き換えにしてでも…
[備考]
※原作5話終了直後辺りからの参戦とします。
※斉木楠雄が殺し合いの主催にいる可能性を疑っています。
※超能力は基本的には使用できませんが、「斉木楠雄」との接触の影響、もしくは適応の影響で使えるようになる可能性があるかもしれません。
※サイコメトリーが斉木楠雄の肉体に発動しましたが、今後は作動しません。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※貨物船の精神、又は肉体のどちらかが能力者だと考えています。
※小野寺キョウヤが主催に協力している可能性を疑っています。
※主催側に、自分の身体とは別の並行世界の斉木楠雄がいる可能性を伝えられました。今のところは半信半疑です。
※主催側にいる斉木楠雄がマインドコントロールを使った可能性を疑っています。自分がやったかどうかについては、否定されたため可能性としての優先順位は一応低くしています。
※並行世界の同一人物の概念を知りました
※主催陣営が参加者の思考までをも監視している可能性を考えています。
※「かめ」=仮面ライダーだと仮説した場合、主催陣営の誰かがビルド、斬月、エターナルのいずれかのライダーに変身するのではないかと考えています。
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【燃堂力@斉木楠雄のΨ難】
[身体]:堀裕子@アイドルマスターシンデレラガールズ
[状態]:後頭部に腫れ、鳥束の死に喪失感
[装備]:如意棒@ドラゴンボール
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:お?
1:お?
[備考]
※殺し合いについてよく分かっていないようです。ただ何となく異常な場であるとは理解したようです。
※柊ナナを斉木楠雄の弟だと思っているようです。
※自分の体を使っている人物は堀裕子だと思っているようです。
※桐生戦兎とビルドに変身した後の姿を、それぞれ別人だと思っているようです。
※斬月に変身した甜花も、同じく別人だと思っているようです。
※斉木空助を斉木楠雄の兄とは別人だと思っているようです。
※斉木楠雄が病院の近くにいると思っていましたがそのことを忘れています。
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投下終了です
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本投下します。
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赤いコートを羽織っている少年、ギニューは川を沿って移動していた。
JUDOとの戦いの後、フリーザの宇宙船に向かうか、放置してしまった荷物を取りに街の中心部に戻るか深刻に悩んでいた。
選んだのは前者で予定通りフリーザの宇宙船に向かうことだ。
後者は戻ったとしても茶髪の男の戦力がなくなったのはいいが問題はその後に妙に聞こえてくる声のせいで止めを刺せず放置してしまったことで今頃、再起している可能性を考え、ギニューの今の状態では諦めざるを得なかった。
それ以外にも一回目の放送以降、街の中心部にいる参加者を狙い続けた結果、余りにも留まりすぎた。
余程のことがない限り、道草している暇はない。
「どうして、どうしてこうなった」
ギニューは苛立っていた。
JUDOの戦いの中で聞こえてくる声のせいで他の参加者を殺すことができないことに。
その挙句、優勝するとか考えると頭痛が出てしまう、これのせいで冷静さを奪われ荷物を放置してしまうミスを犯した。
トビウオや賢者の石という便利な支給品があったのに失う羽目になった。
一体どこで間違えてしまったのか。
言うまでなく妙な声が聞こえた時点で違和感に気付いて、戦闘を中断すべきだった。
そこに気付かなかった時点で泥沼にはまった。
「一刻も早くチェンジしなければ」
干渉されたことでこの身体も使い物にならない。
他の参加者と会うまでそれまでは辛抱するしかない。
重要なのは言葉を喋ることと聞こえてくる声に干渉しないことだ。
またしても背水の陣になったと思っていたら、チャイムが鳴り響いた。
上空に巨大な映像が浮かんだ瞬間、ギニューは頭が真っ白になった。
そこに映っているのは自分が仕えている主の身体なのだから。
「なぜ、フリーザ様の身体が」
見間違えるはずがない、白い肌に紫の光沢をする短い円錐型の黒い二本の角が特徴の容姿。
紛れもなくフリーザ本人の身体だ。
死んだと思っていた主人が生き返っていたのだ、主催者の願いを叶える力はあるのだと再確認できた。
そこはいいが、また新たな問題が発生したと頭を抱えるしかない。
(フリーザ様に何があった?)
当初はナメック星で超サイヤ人に殺されたフリーザを生き返らせるために迷いなくゲームに乗った。
しかし、たった今、状況が変わってしまった。
フリーザの身体が主催者の一人によって奪われていた。
フリーザの精神は無事なのかどうか気になって仕方ない。
(今は放送に集中しよう)
今も動揺は抑えられないが、今は放送を聞くことを優先し、冷静さを取り戻した。
死亡者発表、禁止エリア、組み合わせ名簿、モノモノマシーンなど一回目の放送と同じく重要な情報量が多かった。
荷物を放置してしまったが故、組み合わせ名簿に孫悟空やベジータの身体が誰なのか、そもそもあるかないかの確認が取れなくなった。
モノモノマシーンだってそうだ一応、設置された二ヶ所の施設の名前の把握はできたけど肝心な地図がないと分からない。
妙な声のせいでおじゃんになった。
全ての伝達事項を語った後、フリーザの身体を利用しているハワードという男の映像が消えた。
フリーザの身体を勝手に使っているハワードには怒りがあるが殺気を出してしまったらまた頭痛がするので我慢した。
-
フリーザの精神がハワード達に何されているのか分からないのにギニューはこのゲームが始まってから自分の不甲斐無さに恥じていた。
ギニューは振り返っていた。
ケロロの身体だった頃は他よりスペックの差があったとはいえ、変体天使(姉畑)になすすべなく屈辱を受けた。
それでもフリーザのために諦めなかったことで炭治郎の身体を入れ替えることに成功した。
この身体でやっと参加者を一人殺害に成功し、これからだと思っていたのに干渉されたせいで誰も殺せず余計なことを考えたら頭痛がする始末でボディチェンジ以外は八方塞がりだ。
でも、今はフリーザの宇宙船に行かねばならない。
「そろそろ出発するか」
重い腰を上げ、急いで目的地に辿り着かないといけない。
その時だった、
視界が黒く暗転し出したのは。
「これは何だ?」
ギニューは突然のことで困惑していた。
△
放送が始まった時刻にて。
ボディチェンジの綻びにより、復活した炭治郎の精神は放送を聞いていた。
鬼殺隊の人達が呼ばれなかったことに安心したが、無惨が健在で油断できないことや改めて結城という男の子の罪悪感がある。
(本当にごめんなさい、結城さん)
放送を聞いてまた胸を締め付けられた。
一刻も早く鬼殺隊の人達や茶髪の女の子に断罪してもらうことを強く心に決めた。
自分の身体でこれ以上罪を重ねないために。
(とりあえず今はギニューの行動を妨害するしかない)
ギニューはフリーザのことで動揺していたけど炭治郎には関係ない。
ハワードの伝達でものものましーんという明らかに殺し合いを加速させるものが導入された。
ギニューはその条件を満たしている。
ものものましーんを使わせないよう干渉するしかないと考えた。
その後、ギニューはあれこれ考え込んでいたが、炭治郎は邪魔をしまくって殺し合いに反対する参加者を守る形にする。
逆に乗っている参加者に会ったら無力化する。
そのために記憶の遺伝を通してギニューに透き通る世界を習得させ、意図していなかったが、ヒノカミ神楽も不完全ながら完成させた。
自分がギニューを封じ込め続けるしかない、誰かが討ってくれるまで。
ギニューが動き出そうとした瞬間だった。
(何だこれは?まさか)
視界が暗黒に染まったのは。
炭治郎は困惑した、唐突すぎる事態に。
何もかも周りが真っ黒になったと同時に嫌な予感がした。
-
「申し訳ありませんが、竈門炭治郎。あなたはここまでです。そして、修正しましょう。」
黒い仮面被った男ボンドルドが現れ、そう言った。
意識が急激に薄れていく中、炭治郎はギニューに干渉したことが間違いで、主催が対策を立てないはずがない。
透き通る世界と不完全だが、ヒノカミ神楽を習得させたのが裏目に出てしまった。
これらが今後、悪行に使われるとなると自分を責めていた。
ギニューに干渉すれば何とかなると思っていたけど、やはり甘かった。
せめて誰かが討ってくれるのを願おう。
(みんな、ごめんなさい。ごめ・・・・)
炭治郎は謝罪をしながら彼の意識は完全に消失した。
△
「何なんだ、今のは?」
急に視界が暗転したと思ったらボンドルドが現れ、一言だけ告げて一瞬で消えた。
しかも言ったのは自分ではない。
今の身体の竈門炭治郎に向けられたことだ、答えは一つしかない。
「俺の知らない内に炭治郎の精神が目覚めたというのか。」
放送で最初の伝達で身体側の精神が復活したとか言われていた。
そうなら全部納得できる。
いつから目覚めたのかギニューには思い当たる節はない。
炭治郎の精神が干渉したせいで荷物を放置する原因になったと思うとやるせない。
「ギニューですね。」
聞き覚えのある声が聞こえた。
後ろを振り向くとボンドルドが立っていた。
日輪刀を構えて警戒するが、定時放送と同じホログラムだと察した。
炭治郎の精神が消失したことで厄介な枷は外れていたことに安心した。
「もう知っていると思いますが、初めましてギニュー。私はボンドルド。以後お見知りおきを。」
「貴様、俺に何の用だ」
「警戒なさないでください。私はあなたを始末するために来たわけではないのです。」
ギニューが警戒するもの無理はない。
何しろ仕えている主人の身体を勝手に使用しているのだから。
「ギニュー、私はハワードから伝言があります。」
「伝言だと?」
主催側からギニューに伝えたいことはフリーザのことだろうか。
ハワードからの伝言ならフリーザの精神の安否を知ることができる機会だ。
「単刀直入にお伝えします。『ギニュー、我々と契約したい、主催側のジョーカーとなって役割を果たしつつ、優勝を目指してくれればいい』とのことです。」
「なん、だと・・・・」
ハワードからの伝言はギニューの斜め上を行く驚愕せざるを得ない内容だ。
なぜ自分にスカウトを持ちかけたのか訳が分からないが、心当たりが1つある可能性を。
-
「その前に一つ聞きたい」
「はい。何でしょう」
「フリーザ様も言っていたことなのか?」
炭治郎の身体の精神あったのならフリーザの精神だってある可能性が高いじゃないか。
フリーザの意思なら勿論、喜びたかったが、現在、これといった根拠はない。
「さあ、どうでしょう。あなたが役目を果たして生き残れば自ずと真実は見えてきます。」
「あくまであやふやか。」
「ギニューどうしますか?契約して我々の仲間になりますか?」
正直、胡散臭いとしか言えない。
フリーザの身体を勝手に使っているハワード達に怒りがあるが、今でも堪えている。
だが、主催側に移ればフリーザの精神の安否がいずれ分かる日が来る。
ここで断ってしまったらフリーザの完全復活が永遠になくなるかもしれない、どっちにしろ賢い選択をするしかない。
「いいだろう。契約を結ぼう。」
「契約成立ですね。では、優勝を目指して頑張ってください。」
「質問がいくつかあるがいいか?」
「それは構いません。」
契約したのはいいが、ボンドルドに聞きたいことがたくさんある。
まず真っ先に聞くべき疑問がある。
「炭治郎の精神はいつ復活していた?」
「あなたがボディチェンジでケロロ軍曹の身体から竈門炭治郎の身体に入れ替わり、精神復活の綻びが起きてしまってからです。」
「そんな前から」
ギニューは驚愕していた、ボディチェンジした瞬間から既に狂いだしていたことに。
そうなるとケロロの精神も復活していたということになるが既に死亡しており、どうでもいいと直ぐに興味をなくした。
いろは達との戦いまでは干渉して来なかったことが奇跡だ。
「本来なら精神の復活はごく一部の参加者のみのはずでしたが、我々もギニューのボディチェンジのような想定外が発生してしまったのです。」
「俺は今後もボディチェンジを使っていくが、また精神が復活するのでは不安要素だな。」
炭治郎より、強い身体を見つけたと判断できたら入れ替える。
その方針は今も変わらない。
だが、ボディチェンジをしてもまた同じ悪循環に陥るのではと不安でしかない。
「ボディチェンジは修正をさせていただきました。二度と精神が復活できないよう一回発動したら二時間の間発動しない制限をかけました。」
「そうか、なるほどな」
ボディチェンジに制限をかけたのは癪だが、また精神が復活して厄介になるよりはまだいいほうだ。
一度使うと二時間使えないデメリットはあるが炭治郎より強い身体なのか今以上に見極めて判断しよう。
「次に俺がジョーカーに選んだ理由は?」
ギニューはなぜボンドルド達にスカウトされたのか意味が分からなかった。
実は優勝したら主催を出し抜いて、フリーザの身体を奪還し、完全に復活させるのを考えているのに。
彼らはその事を分かっているかは不明だ。
「理由はハワードから聞かされていないです。私の推測ではフリーザの身体なのかもしれません」
「同情なのか」
「本来なら竈門炭治郎の精神を封印せずに放置するはずだったのです。ところがハワードがある人物に説得して許可を貰うことができました」
「ある人物だと?」
「ギニューが我々側のジョーカーにさせるのを条件に決定しました。」
-
ギニューは初めて知る、やはりまだ姿を現していない主催メンバーがいる。
ボンドルドの口振りからすると主導者だろう。
しかしだ、ハワードが救済されなかったら自分はこのまま詰んだ状況で一歩間違えたら終わっていたかもしれないことを。
同時にハワードの気紛れだと推測する。
どの道、契約を結べばフリーザを完全復活できるチャンスを待つしかない。
「それよりある人物とは誰だ?」
「お答えできません。我々側の質問は禁止事項です。」
「またあやふやか」
主導者辺りの人物を知りたかったけど、ボンドルドは一切、口を開くつもりはないと判断した。
どうにも自分に主催者の情報を共有させる気はないようだ。
「では、お喋りはこれまでにしましょう。今の所、この辺りに誰もいませんが、念には念を入れましょう。」
「俺もフリーザ様の宇宙船に早く向かいたのでな」
「ギニューさんには横にあるデイバッグと首輪をサービスします。」
ギニューは横を見るといつの間にかデイバッグと首輪が置いてあった。
横にあるデイバッグと首輪を拾い上げた。
「このデイバッグはある参加者が荷物と一緒に海に沈んだ時に、首輪も禁止エリアに指定されたD-8にある死体から首輪を取り出し、それぞれ回収した物です。」
首輪はともかく海に沈んだと聞いて一体どうやって荷物を回収出来たのだと引っ掛かっていた。
何はともあれ放置してしまった荷物をボンドルドがリサイクルみたいな形で用意してくれたことは悔しいが感謝だ。
「私はこれで失礼します。今から他の仲間に用がありますので。それではご健闘を祈ります。」
そう言うとボンドルドは消えるようにフェードアウトした。
この場にはギニューしかいなかった。
ボンドルドの言う他の仲間とは関織子で霊能力の実験の件で用があるとのことだが、主催の情報を一切得ていないギニューは知る由もない。
(考えをまとめないとな)
主催側の契約により、ジョーカーになったギニューはこれからの方針や情報を整理する。
すべての参加者を始末して優勝する方針はジョーカーになる以前から変わらない。
そもそも主催側と契約したのはボンドルド達には秘密だが、本心は連中を出し抜いてハワードからフリーザの身体を奪還し、フリーザを完全に復活させることだ。
契約の話を持ちかけた時、運が回ってきたと考えたのだ。
主人の身体を勝手に悪用する時点で返すつもりないと理解しているつもりだ。
他の乗っている奴らが仮に優勝しても真っ正面から歯向かうのは馬鹿のすることだ。
ならば主催側の仲間になる振りをして、隙を伺い、チャンスを待った方が効率的だ。
この殺し合いの最中に炭治郎より強力な身体があればボディチェンジして主催を出し抜く準備をする。
(最も奴らは穴がある。が、油断はしない)
ハワードとボンドルドは身体側の精神の復活は想定外と告白した。後者は一部を除いてと言っていたが。
つまり、主催側は管理が杜撰していることを露呈したようなものだ。
実際、今更ボディチェンジに制限をかけたことがその証拠。
穴がある候補は今の所はそれだけだ、生き残り続けば候補は増えるかもしれない。
勿論、ギニュー自身も慢心をせずに本心を悟られずに上手く立ち回ることだ。
-
次はモノモノマシーンの件だが施設名は記憶したが、当初は地図もなく、場所の把握は出来ないはずだった。
ボンドルドが荷物をおまけで貰ったために場所の特定はできた。
「フリーザ様の宇宙船の近くにあるのか」
地下通路のほうは入り口がわざわざ南東まで行くのは論外。
もう片方の入り口らしき場所は地図にすら載っておらず当然、断念する。
なら、フリーザの宇宙船の近くにある網走監獄に行くほうが手っ取り早い。
フリーザの宇宙船を調べ終わった後にそこに行ってモノモノマシーンを利用しよう。
ギニューは一人殺害していることとおまけで貰った首輪で最低でも二回はできる。
フリーザの宇宙船のルートだが問題が発生した。
Dー2が禁止エリアに指定されてかなり遠回りをする羽目になった。
トビウオがあれば今頃、禁止エリアに指定される前には素通りできたが炭治郎の精神のせいで放置してしまい、面倒なことになった。
ボンドルドが渡された荷物だがリサイクルされたような物なので支給品は一つしかない。
でも、トビウオの代わりとなる物があった。
「トビウオ程性能は少し劣るがないよりはマシだ」
ギニューが出したのはバギブソンというバイクで推定最高時速は400kmを叩き出すほどの高性能だ。
性能の高いバイクなら三回目の放送が始まるまでには宇宙船に辿り着くだろう。
「組み合わせ名簿はおまけで追加してくれないか」
首輪をデイバッグに仕舞い、組み合わせ名簿を探したが代わりのデイバッグにはないみたいだ。
当初から渡されたデイバッグでないと意味がない。
これで孫悟空やベジータの身体があるかどうか知る機会を失った。
誰かから組み合わせ名簿を奪うしか手はない。
(もう軽率な行動や誤った判断は二度としない)
ギニューは反省すべき点がある。
いろは達の戦いの後に直ぐに街の中心部から離れなかったことだ。
あの連中に執着しすぎたせいで炭治郎の精神が邪魔をするようになってしまい、無様な失態を晒した。
いろは達にこだわらなくても宇宙船に行っている間に他と潰し合えば問題なかったのに。
ここはバトルロワイアルその事を再度理解しないと最終的にハワード達に制裁を下して、フリーザの身体の奪還は叶わなくなってしまう。
もし、フリーザの精神が自分の失態を見たら憤慨して、最悪処刑は免れないかもしれない。
そうだとしても最後まで忠誠を貫いて完全復活を成し遂げる。
「これだけ、礼を言う炭治郎。貴様が無駄な行動をしたお陰で透き通る世界は習得して、ヒノカミ神楽という技の存在を知ることができた」
炭治郎の精神が邪魔をし続けたのは腹が立つが嬉しい誤算もある。
透き通る世界を意図しない方向で使えるようになり、ヒノカミ神楽もこんな形でこの技の存在を知った。ついでに超スピードも。
後はヒノカミ神楽を完全に使いこなせるようにする。
記憶で見た限り、別の痣の男はあれが完成された技を披露していた、つまり、今のギニューのヒノカミ神楽はまだ不完全だ。
次に遭遇する参加者と戦闘になる際、可能ならヒノカミ神楽を完成させる楔になってもらおう。
(ハワード達よ。俺は掌の上を承知の上で従おう。忘れるな、優勝したらフリーザ様の身体を勝手に悪用したのを後悔させてやる)
自分をどこかで見ているだろうボンドルド達にギニューは心の中で言い聞かせた。
今はジョーカーとしてゲームを続けよう。
「今度こそ出発しよう」
-
バギブソンがあるとはいえ宇宙船まで長く感じそうなのは変わらない。
宇宙船に辿り着くまでの間は参加者の戦闘は余程のことがない限り、控えよう。
今まで寄り道をした分、遅れを取り戻さないと。
ギニューはバギブソンに乗り、走って行った。
△
ギニューの現在地はE-2とE-3の境目の川の橋である。
高性能でスピードが速いのはいいが、一度転倒しかけたのだ。
バギブソンを走らせた後に雨が降ってきたようで、雨は地面が滑りやすく乗り物も例外ではないのにバギブソンのスピードが速すぎる故に曲がり角に右折する際、危なく転びかけた。
こんなんで怪我をしたら洒落にならない、ギニューは直ぐに反省して気を引き締めていた。
今度は慎重に川の橋から右折してE-3の反対側の位置に行くことができた。
バギブソンの扱いも段々と慣れてきた。
次に北上に進行するはずがこの場所に奇妙な建物を発見した。
(地図に載っていない建物か)
E-3に建物がないことは確認している。
だが、発見したとなれば武器が置いてあるのを考えると調べないわけにもいかない。
バギブソンを新たに発見した建物に進路を変えた。
ギニューは仕方ないとはいえ、また寄り道することに溜息を吐いた。
目の前にある大きな屋敷=みかづき荘に着いたギニューはバギブソンをデイバッグに仕舞った。
屋敷に入る前に隣には奇妙な公衆電話が設置していた。
看板に何が書いてあるのか見ると運要素のギミックであった。
公衆電話:
『会場内の出入り口をそれぞれ一か所に設置されており、電話をかけると出口のほうへと転移できます。ただし、最初に使った人が転移すると十分の間だけそのままの位置で利用可能であるが、それを過ぎると出入り口の公衆電話は会場内のいずれかにそれぞれ転移され、六時間の間は利用できなくなります。再稼働後は再び利用できます。』
ギニューは知る術もないが、この公衆電話はプリキュアの敵対勢力の一つノワール一味がアジト側のモノクロな異世界と現実世界を行き来する転移装置。
今回は主催者の手によりただのワープになっている。
(賭けだけど、利用しない手はない)
ギニューはこのギミックを使用したいと思っている。
他の参加者なら疑問を抱くだろうが、ジョーカーとしての役割が与えられている自分なら言えるが嘘を言うとは考えにくい。
モノモノマシーンもそうだが、このゲームを加速させるために多少のギミックは用意している。
我々はこの殺し合いを円滑に盛り上がりを見せるため。
公衆電話を使わざるを得ないのは散々道草をしまくっているのが原因。
今だって大きな屋敷にあるかもしれない武器を参加者に取られないよう探索せざるを得ない。
出口が宇宙船のC-1なら楽だが、下手すると遠い場所に転移してしまう諸刃の剣でもある。
一分一秒宇宙船に着くには思い切って使おう。
(公衆電話は一旦置いておこう。この屋敷を調べるのが先だ)
屋敷の構造を見ると二階建てだ、そう思いながらドアノブに手を掛けた
-
念のため警戒しつつ、中に入り、まずは一階を探索する。
目に入ったのはテーブルに椅子とソファー。
向かいにカウンターバーにいくつかの椅子がある。
探索してみたがここには武器らしい物はなかった。
だが、冷蔵庫にはプリンアラモードが保存していた。
無論、ここで食事をするわけにはいかずラップをしてデイバッグに仕舞った。
宇宙船を調べ終わったら休憩して食べるのも悪くない。
続いて二階の探索を始める。
階段を昇るといくつか部屋があり、その一つの扉を開けた。
見渡すと机にベッドなどが置かれてある普通の空間だ。
この部屋は数時間前に二度も交戦した環いろはの部屋だ、当然、ギニュー本人は知らぬことだが。
隅々まで調べたが、この部屋にはないようだ。
「結局、収穫はなしか」
二階の他の部屋も調べたが目ぼしい物はなかった。
武器がないのは残念であり、ないのも朗報であり、複雑だ、それ以上に時間を無駄にした。
甘いものだけはゲット出来たのでそれだけはよしとする。
この屋敷は見る限り宿泊施設のような空間だとギニュー本人の感想だった。
ギニューは屋敷の玄関から出た後、屋敷の隣にある公衆電話の前に立っていた。
公衆電話を使う決意は揺らぎがない。
トビウオがない状況では途中で会った参加者と交戦する事態は避けられない。
宇宙船に到着するまではリスクを減らしておきたい。
特にあそこには回復ポットがある。使用されていないのか確認もするが自分が使うかは状況による。
「さて、吉と出るか凶と出るか」
ギニューは迷いなく公衆電話に入り、受話器を取り、耳に近づけた。
出口が宇宙船の近くにあるのを願いながら。
「もしもし、ギニューだ。」
そう言うと急に扉が閉まり、ギニューは消えていった。
残っているのはブランブランとなった受話器と閉まった筈の扉はギニューが転移した瞬間に開いた事だった。
△
転移を果たしたギニューは出口の公衆電話から出た瞬間、この一帯は正方形のような大きな壁がある。
見渡すと多くの舎房があることで思い当たる施設は一つ網走監獄にワープ出来たのを知る。
「思ったより短縮できたな」
出口として利用できた公衆電話も入り口と一緒に転移されるのを惜しいと思いつつ宇宙船までの距離まで短縮した。
あの屋敷に立ち寄ったのは無駄ではなかった。
ここなら参加者と会うことはないだろう。
そう思った瞬間、網走監獄に転移して、ある物がここにあるのを意味していた。
「そうだ。モノモノマシーンがあったのだ」
この場所にはモノモノマシーンがある。つまり、新しい武器を増やすチャンスだ。
同時にギニューは致命的な問題があるのを気づく。
-
「また寄り道をしないといけないのか俺は」
網走監獄内にどこにあるか不明なモノモノマシーンを死にもの狂いで時間を掛けて見つけなければならない。
また宇宙船に到着する時間が長くなった。
だからといって網走監獄から行ったり来たりするのは面倒臭い。
予定を変更してモノモノマシーンで武器の調達後に今度こそ本当に道草せずに宇宙船に行こう。
ここに留まり続けたらモノモノマシーン目当てで他の参加者と鉢合わせになりかねない。
急いで見つけてこの場から去ろう。
「監獄内を探すか」
ギニューはボーナス装置を見つけるためだけに捜索を開始する。
【B-1 網走監獄/日中】
【ギニュー@ドラゴンボール】
[身体]:竈門炭治郎@鬼滅の刃
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、上半身に火傷、右腕に切り傷、全身に音によるダメージ、姉畑への怒りと屈辱(暴走しない程度にはキープ)
[装備]:竈門炭治郎の日輪刀@鬼滅の刃、エドワードのコート@鋼の錬金術師
[道具]:基本支給品、バギブソン@仮面ライダークウガ、プリンアラモード@現実、刃衛の首輪
[思考・状況]
基本方針:ジョーカーの役割を果たしつつ、優勝し、主催を出し抜き制裁を下して、フリーザを完全に復活させる。
0:何で寄り道ばかりしている俺は
1:網走監獄のどこかにあるモノモノマシーンを見つけ出す。
2:その後、フリーザの宇宙船に向かう。
3:もしベジータの体があったら優先して奪う。一応孫悟空の体を奪うことも視野に入れている。
4:ヒノカミ神楽を完全に使いこなせるようにする。
5:変態天使(姉畑)は次に会ったら必ず殺す。但し奴の殺害のみに拘る気は無い。
6:炎を操る女(杉元)、エネルギー波を放つ女(いろは)、二刀流の女(ジューダス)にも警戒しておく。ロクでもない女しかいないのかここには。
[備考]
※参戦時期はナメック星編終了後。
※ボディチェンジにより炭治郎の体に入れ替わりました。
※全集中・水の呼吸、ヒノカミ神楽をほとんど意識して使えるようになりました。
※隙の糸、透き通る世界が見れるようになりました。
※竈門炭治郎の精神が消失しました。
※主催側のジョーカーとしての参戦になりました。但し、主催側の情報は何も受け取っていません。
※ボディチェンジは普通に使用が可能ですが、主催によって一度使用すると二時間発動できない制限をかけました。
【バギブソン@仮面ライダークウガ】
元は木曾に支給
グロンギ族のゴ集団に所属するゴ・バダー・バの愛用のバイク。
通常のオートバイだが、バダーの棘状の装備品を差し込み口に差し込んで専用バイクになった物。
トライチェイサー2000を圧倒する高性能でもある
[公衆電話@キラキラ☆プリキュアアラモードについて]
元々はノワール一味のアジト側の異世界と現実世界を繋ぐ転移装置。
本ロワでは主催者の手によりワープするのみになっている。
本ロワ会場内においては出口と入り口それぞれ1か所に設置されており、電話をかけると出口のほうへと転移できます。
但し、制限により、最初に使った人が転移すると十分の間だけそのままの位置で利用可能であるが、それを過ぎると出入り口の公衆電話は会場内のいずれかにそれぞれ転移され、六時間の間は利用できなくなります。
再稼働後は再び利用できます。
公衆電話の出入り口は次にそれぞれどこに転移されたかは後続の書き手に任せます。
【みかづき荘@魔法少女まどか☆マギカ外伝 マギアレコード】
E-3の北の方角に設置された施設
環いろは達が下宿している屋敷。
元は七海やちよの祖母が宿泊施設として使っていた。
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本投下完了です。
-
志々雄真実
予約します
-
116話のまとめサイトで>>117が欠けているので追記をお願います。
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>>122
コピーペースト時のミスっぽいですね……。当該レスの内容が大部分抜けていたので今修正しました。
私の方で抜けがないかざっと確認しましたが、他に文章が抜けている箇所はございませんでしょうか?
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>>123
問題ないです。
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>>124
そうでしたか。確認ありがとうございます。
全くの別件ですが、当ロワのルールの確認と、◆OmtW54r7Tc様の「仕組まれた復活?」の描写についてお伺いしたいことがあり、先ほど議論スレに書き込みました。御確認下さい。
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指摘事項に関して修正もとい、削除を行いました
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>>122抜けがあったのは私の編集ミスだと思われます。申し訳ありませんでした。
>>123修正してくださってありがとうございました。
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投下します
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ため息をすると幸せが逃げて行くとは言うが、こんな状況では幸せもクソもないだろうと凛は思う。
実はこれまでの事は全部夢で、瞬きの瞬間に自室のベッドで目を覚ます。
そんな展開にはならないものか。
荒唐無稽な内容にツッコミを入れ、けれども所詮はただの夢。
何時までも引き摺っていては、嫌味ったらしい笑みを浮かべた赤い奴にあれこれ皮肉を言われる事間違いなし。
さっさと切り替え聖杯獲得に向けての一日を始める。
そんな現実逃避気味な思考をしてみても、目に映る光景は変化はない。
これは紛れも無い現実。
体をジャガイモ頭の5歳児に変えられ、殺し合いに巻き込まれた。
事実は依然として変わらないのである。
「何か疲れた顔してんなぁ」
「そりゃそうでしょ。というかあんたも人の事言えないじゃないの」
マスコットキャラクターのような姿となったバリーにそう返す。
凛の隣に座り込んだ彼には、何とも言えぬ哀愁が漂っていた。
そっちはそっちで気苦労があるのだろうか。
今回起きた戦いに関して、自分はほとんど蚊帳の外だった。
気を失ったまま目を覚まさず、定時放送すら聞き逃す始末。
ようやく意識が浮上した時には何があったか詳しく知る余裕も無く、ただ危機的状況を変える為に戦場へ介入。
一先ず危機は去ったと見て、雨を凌げる場所にどっかりと座り込み今に至る。
「…ま、いつまでもこのままじゃいられないわよ」
言いながら立ち上がる。
よっこらせとつい中年のような言葉を使ってしまったが、隣の獣は気にした様子も無い。
とにかくまずは、知らなければならない。
何が発端で戦いが起きたのか。
そして、何故彼らは死んでしまったのかを。
-
◆
時は定時放送が始まる数分前まで遡る。
大通りを走る金髪の少年、ゲンガー。
バリーに言われるまま幽体離脱を解除し、デイパックを引っ掴むや否や駆け出した。
必死の二文字がこれ程似合う姿も中々無いだろう程に、表情は切羽詰まったものになっている。
突如(二つの意味で)牙を剥いた産屋敷(無惨)を相手に、キャメロットが重傷を負った。
今のゲンガーの頭にあるのは、エボルトから譲渡された回復効果のあるらしいグミを持って行く事のみ。
正直食べたとしても失った腕までは取り戻せないだろうが、死ぬよりはマシと自分に言い聞かせる。
いや、本当はまた自分に関わった者が死ぬのが恐いだけだ。
もしこのままキャメロットが助からなければ、やはり自分は忌み嫌われる方のアブソルではないか。
凛達と遭遇した時はキャメロットの言葉で情報交換を承諾したが、手を振り払い立ち去るのが正解だったのではないか。
選択を間違えたツケを、よりにもよってキャメロットに支払わせた。
そのような結果を認める訳にはいかない。
だからゲンガーは走る、一秒でも早くキャメロット達の元へ戻る為に。
やがてバリー達と別れた場所へ戻ったゲンガーを、
「よう、随分慌ててんなぁお前」
呑気に手を挙げて反応するキャロットが迎えた。
「は?」
ついさっきまでの必死な形相は、一体全体何処へ消えたのやら。
子どもの落書きのような間抜け面へと一瞬で変わる。
目の前にいるのはキャメロット。
但し失った筈の腕は指一本欠ける事無く存在しており、しかも様子が何やらおかしい。
そう長い時間共にいた訳で無いとはいえ、彼女は生真面目を絵に描いたような少女だったではないか。
なのに今目の前にいるキャメロットは、真面目さとは正反対の口調と態度。
放送前にルブランで出会ったエボルトのようだ。
-
「おいキャメロット…だよな?」
「違う違う。そこの合成獣っぽいのにも言ったが、俺はグリードだ」
いや誰だよ。どう見てもキャメロットだろ。
反射的に出掛かった言葉をグッと飲み込み、指差した方を見る。
視線を向けられたのはどこか遠い目をしているバリー。
傍には凛がその小さな体でぐったりとしており、こちらは未だ気絶中らしい。
どうも様子のおかしいキャメロットを気にしながらも、事情を知っているならとバリーに聞こうとした時だ。
忌まわしいチャイムが島中に響き渡ったのは。
○
「……」
一回目の時と同様、主催者による定時放送には思考を大なり小なり掻き回される。
怒りか、悲しみか、或いは自分自身でも判断できないナニカか。
複雑に絡み合った感情のまま、ゲンガーは仲間の死を改めて噛み締める。
カイジとロビンは言わずもがな、この目で最期を見たのではないがハルトマンもやはり死んだらしい。
また直接の面識は無いが志村新八とアドバーグ・エルドル。
前者は承太郎達が、後者はミチル達が救出に向かった筈だが間に合わなかったのか。
複数の死者が出ている状況な為、大手を振って喜べはしないが無事な者もいる。
最初の放送前に別れた神楽と康一の名は発表されていない。
ということは今頃とっくに病院へ着き、戦力を整えているのだろう。
カイジも彼らと別行動を取らずに居たら、死なずに済んだのかもしれないのはやり切れなかった。
風都タワーに向かった4人と、下水道に降りた二人も無事。
もし彼らの内から死者が出ていたら、今度こそ自分は心が折れていたかもしれない。
そうならずに済んだのは良かったと言うべきなのか。
或いはこの先そうなる前に、自分は彼らと距離を置くべきなのかは判断が出来なかった。
-
(にしてもあの青白い顔の野郎、何言ってんだ?ケケッ、お節介も良いところだぜ)
ハワードなる男は熱心に己の夢を語っていた。
ゲンガーにとっては、呆れと苛立ち以外の何を抱けば良いのか分からない内容だ。
ポケモン愛に溢れているようだが、そもそもそのポケモンを殺し合いに巻き込んでおいてどの口が言うのか。
アレは自分の理想に酔っていて、馬鹿げた真似をしているのに気付かないタイプかもしれない。
木曾が死んで以降強まった主催者への苛立ちは、ここに来てより大きくなった。
ボンドルドや斉木空助は勿論、あのハワードの計画も徹底的に邪魔してやらねば気が済まない。
「へぇ、こいつもいるって事はやっぱり親父殿は無関係か?」
ゲンガーが苛立ちを燻らせている横では、名簿を眺めるグリードの姿があった。
殺し合いの大まかな詳細はバリーから聞いたものの、自分の意識が表に出るまでに何があったかは未だ不明。
言ってしまえば最初から殺し合いに参加していた連中とは違い、途中参戦のようなものだ。
情報面でも12時間分の遅れがある。
ならばまずは基本的な事からとデイパックを漁り、知った名前があるかを確認。
見つけたのは一人、アルフォンス・エルリック。
鋼の錬金術師の弟で、兄と同じ人柱候補。
ウィンリィ・ロックベルの事をチラつかせ牽制までした相手を、こんないつどこでアッサリ死んでもおかしくない催しに巻き込んだ。
お父様とも呼ばれるホムンクルスの創造主にしては、違和感しかない行動だ。
ほぼ確定だとは思っていたが、やはり今回の殺し合いには関わっていないと見て良いだろう。
名簿を仕舞い、次はこの三人をどうするかだ。
気絶中のガキはともかく、バリーとゲンガーからはまだ情報を引き出せるし、何だったら手頃な部下として生かす手もある。
優勝にしろ他の方法で望む全てを手に入れるにしろ、じっくり頭を働かせねばなるまい。
(食わせといてやるか…)
思考の海に沈むグリードを他所に、ゲンガーはデイパックからピーチグミを取り出す。
元はキャメロットに食べさせるつもりだったが、当の本人は腕も治ってピンピンしている。
何故か様子が明らかにおかしくなっている理由はバリーに聞けば良い。
ただこのグミが必要な人物はキャメロット以外にもいる。
遠坂凛。死んではいないが幼い体で受けるには酷な傷を負わされた少女。
気を失っている今は咀嚼など不可能なので、口に含ませるとミネラルウォーターでむせないよう慎重に流し込む。
ゴクリと音を立て嚥下したのを確認、心なしか顔色も良くなったように見えた。
-
安堵の声を漏らしたゲンガーへ、ふと思いついたようにバリーが声を掛ける。
「なぁゲンガー、お前が持ってたこの刀俺に譲ってくれねえか?」
「あん?急に何言ってんだ?」
「いやーやっぱこういう得物の方が使いやすいんだよなぁ」
前々から殺しに使っていた肉切り包丁程ではないが、やはりこういった刃物はしっくり来る。
既に殺し合いそのものに対して心が折れかけているものの、完全に諦めてしまうのもそれはそれで少し癪。
なのでせめて使い慣れた得物を手元に置くくらいはしておきたかった。
「代わりにこの傘やるからよ。頑丈でしかも銃が仕込んであるんだぜ?」
「…何で傘にんなもん付いてんだよ」
「俺に聞くなよ。元々使ってた奴…確か神楽だかってのに聞いとけ」
思わぬ名前が出て来た事に驚く。
別行動中の仲間の私物が、こうして支給品となっていたのか。
それを知ったら武器の交換もやぶさかではない。
神楽と再会した時に返すまで、自分の手元に預かっておくという形で使わせてもらう。
だが八命切は元々木曾の支給品。
別に彼女の愛刀という訳では無いだろうが、それを手放すのには少々抵抗があるのも事実。
(まぁ、アイツは別に気にしないんだろうけどよ…)
からっとした笑みで、お前の好きにすりゃ良いさとでも言いそうだ。
暫しの躊躇を見せ、そこで気付く。
ミチルから譲渡された吉良の支給品に、バリーが欲するだろう武器がある。
自分は既に八命切を持っていた為、使う機会が無く仕舞ったままにしてあったのだ。
バリーに伝え実物を見せてやるとそれでも良いと言われたので、番傘と交換する。
(やーっと良い得物が手に入ったかぁ)
七宝のナイフというらしい剣。
殺人鬼が使うにしては小奇麗な見た目だが、斧や番傘よりも遥かにしっくり来る。
望んだ武器を手に入れ、後はこれで思う存分殺しができれば文句なしだが現実はそう甘くない。
剣一本で実力差を覆せるようなら諦め気味な思考になどなっておらず、また当分、下手をすれば生きて帰るまで殺しはおあずけかもしれない。
-
物々交換をし終えた二人に、グリードが話しかけようとする。
が、その前に一つやる事があった。
「おい、何時までコソコソ隠れてるつもりだ?とっくにバレてんだよ」
建物の陰に向け言葉をぶつければ、ビクリとあからさまに動揺した気配が伝わる。
盗み聞きして情報を手に入れる算段なのか知らないが、そうはさせない。
引き摺り出してやった方が早いかと考え、すぐにその必要は無いと分かった。
「待って!僕は敵じゃないよ!」
物陰から白い服の青年が慌てて姿を現わしたのだから。
○
冷水を浴びせられた、とでも言うべきか。
定時放送を聞き終えたメタモンは、先程までの錯乱が嘘のように落ち着きを取り戻している。
いや、完全に動揺を抑えられたかと言えばそうでもない。
過去のトラウマは未だ根深く刻まれているし、放送で10名の死者が発表されまたしても「へんしん」出来る数が減った事は悔しくて堪らない。
(ッ!!!落ち着け…落ち着けぼく……)
だがここで熱くなればまたしても失敗を繰り返すだけだ。
トレーナーに捨てられた忌々しい記憶をほじくり返された挙句、貴重なへんしんを一つ喪失、アナザーカブトへの半ば強制的な変身。
それらのトラブルが引き起こした結果とはいえ、考え無しの馬鹿と罵倒されても仕方ない行動を取った。
蒼い鎧の戦士やチェンソーの怪物との戦闘は無意味に傷を増やすだけで終わったが、戒めにはなっただろう。
二度とさっきのような無様は晒したまるか、自分はいらないポケモンなんかじゃあない。
己の心にキツく言い聞かせ、傷ついた体を休める場所を探しに街へと足を踏み入れた。
手頃な施設を探す最中、聞こえて来たのは誰かの話し声。
物音を立てないように近付き、物陰からそっと顔を覗かせると金髪の少年少女に奇妙な動物、横たわった幼子の四人組がいるのを発見。
初めて見る顔ぶれだったが、一つ見覚えがある物に気付いた。
動物が被っている帽子。あれと全く同じデザインの物をメタモンは知っている。
バトルロワイアル開始からそう間もない頃、村で金髪の青年と殺し合っていた毛むくじゃらの巨漢。
自分が青年を殺すと不利を悟ったのか、四足歩行の姿に変化し一目散に逃げ出した。
あの時の参加者が被っていたのと同じ帽子という事は、同一人物(人じゃない)なのではないか。
巨漢と四足歩行以外の姿にも変化出来ると考えれば、成程不思議は無い。
-
そこまで考えた所で、金髪の少女の声に強制的に思考を打ち切られた。
(ば、バレてる!?)
自分では上手く隠れたつもりだが、向こうにはお見通しのようだ。
相手の能力に感心している場合ではない、切り抜ける方法を考えなければ。
まごついている間に少女からの威圧感が膨れ上がる。
それを受けてメタモンは腹を括った。
どうせバレているなら下手な真似に出て警戒心を煽るより、こっちから姿を見せて敵では無いとアピールした方がマシ。
今すぐに殺さずとも、近くで隙を狙えば良いだけだ。
そうと決まれば早速物陰から出る、その前にサソードヤイバーを路地裏の方へ隠す。
帽子の動物が村で遭遇した参加者だとすれば、凶器も見られているはず。
デイパックが手元に無い以上はこうするしかないだろう。
故障し変身機能が失われたサソードヤイバーなら、一時的に手放すのにもさして躊躇はなかった。
幸いあの時はサソードに変身していた為、現在の神代剣の姿は知られていない。
覚悟を決めるように深呼吸し、少女達の前に飛び出た。
○
敵じゃない。
両手を上げ全身でそうアピールする青年を、グリードはジロリと眺める。
大層な金をかけただろう白い服は所々が破れ、傷だらけだ。
態度だけなら気弱そうな青年だが、それは表面上のものでは?
傍らのバリーとゲンガーも同意見なのか、警戒を滲ませた瞳を向けている。
すると視線に気付いたらしいメタモンは慌てて口を開いた。
「あ、この傷はここに来るまでに襲われたからなんだ!僕は殺し合いに乗ってなんかないよ!」
襲われたから対処した。理由としては真っ当なもの。
見たところ武器は持っていないようだが、参加者はスタンドなど固有の能力を持つ者もいる。
或いは肉体の方に何らかの特別な力が備わっているのか。
どちらにせよ、即座に戦闘にはならないだろうと対話を続けた。
-
「で?そもそもお前は誰だ?どんな奴と殺り合った?」
「え、うん、僕は――」
名前を聞かれる事は当然予測していた。
だがここで馬鹿正直に「メタモンです」と名乗る訳にはいかない。
最初の定時放送前に遭遇した三人組はゲンガー経由でメタモンの事を知っており、おまけに彼らには殺し合いに乗っている事がバレてしまった。
ということはあの三人が他の参加者にも自分への警戒を促していても、何ら不思議ではない。
もしかすると目の前の連中の中にゲンガーがいる可能性だってある。
だからここは別の名前を使う。
単に自分の名前を言うだけなのに時間をかけては怪しまれること、間違いなし。
賭けに出る心構えで一つの名を口にした。
「黎斗。檀黎斗って言うんだ」
「そうかい。で黎斗、お前はここに来るまで何があったんだよ?」
賭けには勝った。
グリードは檀黎斗という名には特に反応を見せず、後ろの二人も同じ。
運が良い事に今この場には檀黎斗と面識のある人物はいない。
生存者の中から適当な名前を口にしただけだが、上手くいったらしい。
内心でガッツポーズをしつつ、メタモンはグリードの質問に答えた。
内容としてはこうだ。
6本の腕と触手を生やした怪物に変身する黒髪の少年、空飛ぶ雲に乗ったチェンソー頭の怪人。
危険な参加者二名の殺し合いに巻き込まれ、どうにか逃げる事に成功。
幸い自分に与えられた肉体はただの人間では無く戦う力があったので、死なずに済んだ。
実際はメタモンの方から少年を襲ったのが切っ掛けとなったのだが、それを言う必要は無い。
また少年の特徴からバリー達とは別行動中のアルフォンスであると判明した。
-
「アルフォンスのやつマジか…」
「あの金髪チビの弟がねぇ…」
殺し合い以前よりアルフォンスを知っている二人は思い思いに呟く。
村での情報交換の際にアルフォンスの肉体が暴走の危険性があるとはバリーも聞いていたが、危惧した通りになったというのか。
人間だった頃の肉体を理性なき獣のようにされた経験があるバリーとしては、少しだけ同情の念を抱いてしまう。
グリードの方は別に同情などする気は無い。
だが兄弟揃って甘ちゃんな印象のあった錬金術師、その片割れが難儀な目に遭っているのには多少の驚きがある。
凛が起きているか、或いはキャメロットの意識が健在ならばもっと詳しく聞こうとしただろう。
だが此度はそうならず、徐々に近づいて来る音に全員が気を取られた。
「あ?こりゃぁ…」
真っ先に音の正体に気付いたのはゲンガーだ。
これと同じ音を放送前にも何度か聞いた。
エンジンヲ吹かし、タイヤがアスファルトを擦れる音。
誰かがバイクを走らせている。
やがて操縦者が姿を見せた。
白いバイクを駆るのはゲンガーにも見覚えがある特徴的な髪型の少年。
アドバーグ・エルドル救出の為に下水道へと降りた仲間。
「ミチル!?」
「ゲンガーしゃん!?ご、ごめんなさい!今は…」
バイクを急停車させたミチルの元に駆け寄るゲンガー。
何故そうも焦っている、しんのすけは一緒ではないのか、地下で何があったんだ。
湧き出る疑問をぶつけようと口を開きかけ、何故彼女が焦っているのかが分かった
ミチルが走って来た方から、表情を憤怒一色に染めた猛獣が迫っているのが見えたのだ。
-
◆◆◆
どれくらいの時間そうしていただろう。
一分?数十分?或いはほんの数秒?
壁に背を預けたまま、ミチルは自分の真上をぼんやり見上げていた。
僅かな日差しすらも雲に遮られ、灰色の空がずっと上の方に見える。
もう少しだけ早く雲が覆っていたら彼は死ななかったのだろうか。
考え続けた所で、起きてしまった事は変えられない。
「きぶつじむざん」なる者の肉体を得た男は死んだ。自ら死を選択した。
時を戻す術も死者を生き返らせる力も持たないミチルが、もうあの男自身にしてやれる事は無い。
「……」
のっそり立ち上がると全身が酷く痛む。
痛みを感じるのは生きている証拠、死者はこんな痛みにさえ無縁である。
二人分のデイパックを担ぎ直し、梯子に手を掛けた。
まだ自分にはやる事が残っている。
どこかへ転移したしんのすけ、地上で待機している筈だが同行者が死んだらしいゲンガー、風都タワー向かった蓮達。
そして未だどこで何をしているのか分からないナナ。
彼らと合流し、殺し合いを止めなくては。
一人でも多くの傷ついている人を治さなくては。
自分一人で抱えるには余りにも重い無力感に無理やり蓋をし、ミチルは地上を目指す。
痛む体に鞭を打つようにして、梯子を一段ずつ昇っていく。
地上までがやけに長く感じるのは、きっと気のせいではあるまい。
彼は一体どのような気持ちで、自ら死へと近付いていったのだろうか。
絞首台への階段を上る罪人、では無い。
あの男にあったのは一刻も早く死ななければという焦り。
そして、崩壊する彼の貌には安堵らしきものがあった。
-
「……」
死ぬのは嫌なことだ。
嬉しいことも、美味しい物を食べるのも、友だちと笑い合うのも、生きている者しか出来ない。
だけど、彼にとって死は悲劇では無く救いだったのだろう。
死ぬ事だけが唯一、彼の心を救う方法だったのかもしれない。
ヒーリング能力もクレイジー・ダイヤモンドも体の傷は治せるけど、心の傷までは癒せない。
結局のところミチルが彼の為にしてやれる事は、最初から無かったのだ。
「……」
それでも。
彼が鬼にしてしまった犬の家族が謝りたがっていたと伝えられなかったのは、どうしようもなく悲しかった。
ほとんど外されていた蓋をどかし地上へ這い出ると、やけに風が冷たく感じる。
もうじき雨が降るなら更に気温は低下するはず。
軽く身震いしながら、自身のデイパックの口を開いた。
まず取り出したのは精神と肉体の組み合わせ名簿。
元々はアーマージャックの支給品だったのをエボルトから譲渡された物だ。
名前を一つ一つ確認していき、目当ての組み合わせを見つけた。
鬼舞辻無惨。
男から聞いた「きぶつじむざん」は精神と肉体の両方参加している。
精神の方はミーティなる者の肉体に入っているらしく、こちらはどんな体なのか不明。
そしてもう一つ、肉体側の無惨の横に記載された名は
「産屋敷輝哉、さん…」
もういない彼の名を忘れぬよう言葉に出す。
-
組み合わせ名簿を仕舞い、今度は輝哉に譲渡されたデイパックを開け中身に手を付ける。
彼の言った通りなら支給品はどれも有用なものばかり。
内の一つである生存者の肉体の配置図を手に取った。
記されているのは一回目の定時放送が終わった直後、今より6時間も前の情報な為現在地の確認には余り役に立たない。
それでも知りたかった情報を一つ手に入れられた。
「ナナしゃんは…あっ!病院の近くにいるんですね」
島の西側に位置する街、そこから北東の聖都大学附属病院近くにナナの体である斉木楠雄の名が載っている。
更に周りには四名の肉体の名もあり、そこからナナが集団で行動しているのが分かった。
向こうも殺し合いを止める仲間を作り、彼らと行動を共にしているのなら一安心だ。
距離がかなりある上に今も病院付近にいるかは不明なので、早急な合流は難しい。
それでも知るだけの価値はあった。
配置図を一旦デイパックに戻し、次に取り出したのは缶ジュース。こちらは5本入っていた。
同封していた説明書によると、本来はポケモンの体力を回復させる効果があるとのこと。
だから人間の体である自分が飲んで効果が現れるかは不明。
実際に飲んで試してみなければ分からないが、もし効果があるなら非常に助かる。
クレイジー・ダイヤモンドで傷ついた人を治すには、まずミチル自身が生きていなければならない。
重症の身を回復させるのに肝心のスタンドは効果を発揮しない、故にこういった道具があるのは有難かった。
「輝哉さん、使わせてもらいます」
一言断りを入れ口を付けると、濃い甘さが喉に流れ込む。
このまま一気に飲み干して効果を確かめようとし、
「……」
奇妙な生物が物陰から現れた。
-
◆◆◆
定時放送に耳を傾けるのは殺し合いを阻止すべく動く者達だけではない。
鬼舞辻無惨にとっても主催者から伝えられる情報は無視出来ず、足を止めた。
今回発表された死者の中に無惨の知る者は皆無。
目障りな鬼狩りどもは六時間前に死んだ炎柱を除き健在。
おまけに先程交戦したキャメロット達もまだ生きているらしい。
放って置けばバリーが片を付けると思っていたが、死にかけの小娘や餓鬼すら始末できないとは。
何故揃いも揃って無能ばかりなのか、全くもって使えないと苛立ちが募る。
唯一の朗報と言えば産屋敷輝哉が生存中なことくらいか。
自身の肉体を今この瞬間にも好き勝手にされていると思うと、怒りで己の脳髄を掻きむしりたくなるのを抑えられない。
一刻も早く確保に向かわねばなるまい。
禁止エリアは機能するまで時間に余裕があり、差し迫った問題ではない。
モノモノマシーンとやらも今は頭の片隅には留めておく程度。
但し、会場全域に雨が降るのは重要な情報だ。
太陽が雲に遮られるなら、輝哉が自ら陽光を浴び肉体を滅ぼす事は不可能。
現在地下にいるらしい輝哉がどのような状態かは不明だが、懲りずに鬼を増やそうとしているなら何よりの朗報だろう。
鬼の動きを阻害する日の光が無いなら、日中だろうと関係なしに活動が可能。
となれば、外に出てあっちこっちに行かれる前に地下という閉鎖空間にいる今の方が見つけやすい。
考えを纏め終えた無惨は、当初の予定通り急ぎ地下への入り口を探しに走り出した。
-
それから間もない頃だった。
無惨が地面から這い出る少年を見つけたのは。
咄嗟に物陰に隠れ、じっと少年の様子を観察する。
地面に空いた穴、そこへ被せられただろう蓋をどかし地上へと顔を出した。
ならばあれが地下への入り口か。
だが一つ疑問が生まれる。
少年は地下にいた、輝哉も聞いた話が確かなら地下にいる。
では少年は何故五体満足で地上へ上がって来れたのだろうか。
様子を見た限り鬼にされてはいない。もし鬼になっていたら今頃は全身の傷が再生を始めているだろうに。
偶然輝哉とは遭遇せずに済んだ可能性もあるが、次に少年が放った一言に否定された。
「産屋敷輝哉、さん…」
「!?」
聞き間違いではない。
少年は今確かに産屋敷輝哉と、鬼狩りどもの長の名を口にした。
当然自分がアルフォンスの時のように偽名として産屋敷の名をあの少年に使った覚えは無い。
だというのに何故産屋敷輝哉の名を口にした。
何かの紙を見ながら呟いたのは分かるが、その内容まではここからでは確認できない。
ここで新たに気付いた事があった。
少年は支給品が入った鞄を二つ持っている。
一つは少年が最初から所持していたとして、もう一つはどこで手に入れたのか。
ドクンと心臓が嫌な音を立てる。
無惨の脳内では目に入る情報が一つの結論を作り出そうとしている真っ最中だ。
それは考え得る限り最悪の事態。
しかしまだそうと決まった訳では無い。結論を焦り失敗は犯せない。
確かめる為にも、ここで無惨は行動に出た。
綱渡りにも程がある方法だが四の五の言っている場合ではない。
意を決し、飲み物らしき容器に口を付けている少年の前へ自ら姿を見せたのだ。
-
○
「あ、あの…」
いきなり現れた猛獣に缶ジュースを飲む手は止まり、遠慮がちに口を開く。
豹、で良いのだろうか。
後ろ足や爪が一般的な豹のソレとは異なっており、歪な形をしている。
物陰からヌッと姿を見せたのには仰天したが、相手はいきなり襲う真似はせず静かにミチルの傍まで近付いて来た。
よく見ると首輪を填めており、この豹もまたボンドルドに選ばれた参加者である事が分かる。
「あなたは…」
問い掛けてみるも豹は首を横に振るだけだ。
どうしたものかと考え、もしや体のせいで言葉を喋れないのではと気付く。
尋ねてみると首を縦に振った。人語が話せないだけで意思疎通自体は可能と見て良いだろう。
自分と会うまでどうのように行動していたのか気になるが、まずは基本的な所から始めるべき。
飲みかけの缶ジュースを置いて、名簿を取り出す。
説明書にあった通り飲み干さなければ効果は発揮しない。それは一旦後回しだ。
「えっと、名前を教えてもらっても良いですか?」
豹に見えるように名簿を広げる。
話せなくとも言葉が分かるならば。そう思い伝えると右足の爪で一つの名を指した。
「お名前は…バリーさん?」
爪の先を見て確認を取ると頷かれた。
バリー・ザ・チョッパー、初めて聞く名前だ。
組み合わせ名簿にも当然載っていたのだろうが、最初に確認した時はナナなど知っている名前の方に目が行ったので覚えていない。
-
名前の確認は澄んだが、豹は続けて別の名を爪で指している。
今度は何だろうと思いもう一度爪の先へと視線を向け、ミチルは凍り付いた。
「えっ…」
産屋敷輝哉。爪の先にあるのは確かにその名前。
どうしてついさっき死んだ男の名を教えるのか分からず困惑し、あっと気付いた。
「もしかして…輝哉さんのお知り合いの方ですか…?」
コクリと肯定され、ミチルは次に何と言うべきか迷った。
自分の勝手な想像になってしまうが、人では無い肉体で言葉も話せず苦労しただろうこの人物。
そんな相手に探し人だろう男の死を伝えるのは、ミチルとしても非常に言い辛い。
だがここで誤魔化したとして、それが良い結果にならない事は確か。
であるなら、輝哉の最期を見た者として自分の口から言わねばならないだろう。
「あの、バリーさん。輝哉さんは…」
躊躇しそうになる己を叱咤し、その言葉を告げた。
「ついさっき、亡くなったんです」
「――――――――――――――――――――」
彼女は気付かない。
悲痛な声色で告げた産屋敷輝哉の死。
それが目の前にいる輝哉に与えられた肉体の持ち主、鬼舞辻無惨の思考を停止させる破壊力を秘めたものだとは。
バトルロワイアルで無惨が何よりも優先するのは自分の肉体を取り戻すこと。
屈辱を与えたボンドルド達を殺すのも、元の世界に帰還するのも、自分の体に戻ってからという前提の上に成り立っている。
仮に今すぐ会場から脱出できるとしても、体が出来損ないのミーティでは何の意味も無い。
唯一無二の完璧な鬼の肉体以外でも妥協するような考えの持ち主なら、そもそも長きに渡り数多くの恨みなど買っていないだろう。
生命の危機に陥った事は、数百年以上も前に耳飾りの剣士との邂逅で味わった。
肉体を急激に劣化させられた事は、本来辿る筈だった鬼殺隊との決戦で味わった。
だが、肉体だけが完全に消滅し精神は置き去りになったなど、後にも先にもこの瞬間のみ。
元の肉体に戻るという大前提を完全に潰されたのは、無惨と言えどもすぐには現実を受け入れられない。
-
垂らした血が水を変色させるように、ゆっくりと状況を理解していく。
産屋敷輝哉が死んだ。つまり鬼舞辻無惨の肉体も滅んだ。
どうやって死んだ。首を落とし心臓を貫いたとて無意味だろうに。
空は既に雲に覆われ陽光を浴びるのは不可能。僅かでも太陽が照らす場所を偶然見つけたのか。
いや、死因を考え何の意味がある。
「ごめんなさいバリーさん…!私が…止めなかったせいで…」
外見とは不釣り合いな口調で餓鬼が何かをほざいている。
つまりそういうことか。
この獣の糞のような頭をした餓鬼は、産屋敷が自死する場に居合わせながらそれを止めようともしなかった。
失われるなどあってはならない肉体の消滅を、指を咥えて見ていたのか。
それは余りにも身勝手で理不尽な怒り。
尤も今の無惨に正論を説いたところで返って来るのは爪と牙。
無惨という男は一度スイッチが入れば余程の事が無い限り、自分から矛を収める真似はしない。
此度は今すぐにでも元の肉体を復活させたうえで精神を戻し、早急に脱出可能と奇跡染みた現象でも起こらなければ無理だ。
未だ慣れない体、無意味でしかない殺し、ドグーはまだ再使用不可能。
誰が見ても悪手以外の何ものでもない、しかし無惨には知った事ではない。
「▂▂▅▆▆▆▇▇▇▇▇▇▇▇ッ!!!」
八つ当たりという人間臭い衝動に突き動かされるまま、無惨はミチルに爪を振るった。
「あぐっ…!」
目の前の豹が発する雰囲気が一変したのを感じ、咄嗟に距離を取ったのが功を為したらしい。
内臓にまで到達させ深く抉るはずの爪は、片腕を切り裂くに留まった。
使い物にならなくなる程で無いが相応の痛みはあり、ポタポタと落ちる雫がアスファルトに染みを作る。
置いていた缶ジュースが倒れ中身が零れたのも、今は気にしている余裕が無い。
-
「ま、待ってください!私は…」
口を開いたものの次に何を言うべきが分からない。
相手にとって輝哉はとても大切な存在だったのだろう。
だから彼の死を防げなかった自分への怒りをぶつけている。
殺し合いに反対する者同士で争うなど馬鹿げているが、相手の怒りを否定もできない。
と、このようにミチルは考えているが実際は見当違いも良い所である。
本当の事を教える気は無い無惨は聞く耳持たずと飛び掛かった。
「っ!クレイジー・ダイヤモンドさん!」
爪を首に突き立て引き裂かんとする獣。
迫る殺意を防いだのは、ハートの装飾が施されたスタンドだ。
下水道への入り口を塞いでいた蓋を拾い上げ、即席の盾とする。
金属を擦るような不快な音が両者の鼓膜を震わせた。
相手が明確に殺し合いに乗っているならここから反撃に移るのだが、今対峙しているのは大切な人を失い怒りに囚われている者。
そのように見てしまっているミチルとしては、どうしても攻撃へ移るのに躊躇が生まれる。
ミチルが判断を遅らせている間にも無惨は動く。
金属製の丸い蓋を破壊するのは諦め、一度距離を取って再度飛び掛かる。
但し今度は真正面からでは無く、右側へ回り込んでからの突進だ。
「っ!」
先程と同じように蓋を翳すも、今度は少しばかり反応が遅れ胴体を浅く切り裂かれた。
追撃は仕掛けずある程度の距離を取った無惨は、常にミチルの右側を移動し続ける。
次の攻撃に備えようにもミチルは下水道での戦闘の際に右目を失明、故に反応がどうしても遅れるのを避けられない。
無惨もそこを狙っているのだろう。
-
(どうしよう…)
言葉で相手を落ち着かせたいが、あの様子からして聞く耳持たずだ。
それに現在のミチルはコンディションも最悪。
正直に言ってこのまま戦うにしても、すぐに息が上がりそうである。
だからと言ってこのまま大人しく殺されるつもりもない。
悩んでいる間にも無惨は止まらない。
前足を振り被り襲い掛からんとする獣を前に、ミチルは何とクレイジー・ダイヤモンドを操作し蓋を真っ二つに叩き割った。
防御を捨てた敵の行動に一瞬の硬直、その隙にクレイジー・ダイヤモンドは蓋の片方を無惨へ投擲。
とはいえ投げるフォームは余りにも雑、慣れない体とていのちのたまによる強化が活きており見切るのは容易い。
あっさり躱し今度こそミチル本人を殺そうとする。
「ドラァ!」
だがミチルは手元に残ったもう片方の蓋に、クレイジー・ダイヤモンドで触れた。
すると無惨の背後から今躱した筈の蓋が猛スピードで飛来するではないか。
まさかの攻撃に僅かながら対処が遅れ、無惨の背中を鈍い痛みが襲う。
低く漏らす呻き声、元の肉体ならば気にも留めない痛みさえ出来損ないの体には響く。
怒りで両目が血走る。
無惨が動きを止めた事で、ミチルはほんの少しの猶予を得た。
輝哉が使っていた白いバイクを取り出しエンジンを掛ける
目的はこの場からの逃走、そしてバリー(無惨)を引き連れた上でだ。
ミチルが危惧するのはこのままここでバリー(無惨)を相手にし、結果下水道で襲って来た銀髪の男に追いつかれる事だ。
もし自分達が去った後あの男がこちらを追跡していた場合、地上に出た知られミチルが昇って来た穴から顔を出すかもしれない。
ただでさえバリー(無惨)へどう対処すれば良いかも分からない時にあの男まで現れたら、今度こそ死を覚悟する事態になりかねないのだ。
バイクを急発進させるとバリー(無惨)が追いかけて来るのがミラーで確認出来る。
これで良い。自分を殺そうと追うのなら、それが結果的に銀髪の男から少しでも引き離せられるのだから。
すぐにバリー(無惨)へ追いつかれない程度にはスピードを出し、かと言って完全に振り切る程の速さは出さない。
見当違いの善意が、皮肉にも肉体へ慣れていない無惨がバイクで逃げる相手を見失わずに済んだ。
ミチルが何を思って逃げているなど知るつもりも無い無惨はただ、己の肉体の消滅を防げなかった無能への怒りを糧に街を駆けた。
-
◆◆◆
「げーっ!産屋敷!?」
放送前に暴れ回った猛獣がまたもや現れ、思わず仰け反るのはバリー。
何故かは知らないが殺せるチャンスを自ら捨て逃げた筈が、こうして戻って来た。
厄介事を連れて来たミチルを思わずジト目で見ると、向こうもポカンとした顔になっている。
「どうして輝哉さんの事を…それにあの人はバリーさんですよ…?」
「は?何言ってんだ兄ちゃん」
あの猛獣は産屋敷輝哉の筈だ。
最初に名前を聞いたのはアルフォンスで、バリーが直接聞いたのではないが。
というかそもそも何故自分の名前が勝手に使われているのか。
「どこで何を聞いたのか知らねえけどよ、バリーは俺だぞ?」
「え……」
バリーを名乗る珍獣からの思わぬ言葉に混乱が頂点に達した。
自らをバリー・ザ・チョッパーと教えた豹はバリーではない。
しかも何故かバリーを名乗る珍獣は豹を産屋敷だと言った。
何がどうなっているのか、脳内はあっという間にクエスチョンマークで埋め尽くされる。
(もしかして…)
はた、とある事に気付く。
自分は豹が怒り狂っている理由を輝哉が死んだからだと思っていた。
だが豹が本当に重要視していたのは輝哉ではなく、輝哉の精神が入っていた肉体だとしたら?
輝哉が死んだということは、当然彼に与えられた肉体の喪失に繋がる。
あの肉体が失われて最も怒りを覚えるのは誰か。
該当するのはたった一人、肉体の本来の持ち主だ。
その持ち主とは
-
「鬼舞辻無惨…!」
口に出したのは輝哉が死に際に遺した悪鬼の名。
同時に豹が放つ殺気が更に激しいものとなり、暴風の如くミチルへ叩きつけられる。
(誰に断って私の名を口にしている!忌々しい餓鬼が!!)
悪魔の実を食べてもベースとなったのがミーティの為、放たれる怒声は奇怪な鳴き声に変換される。
しかしその場にいる一同が、不出来な肉体の猛獣は言葉で止まる事など有り得ない程の憤怒を抱いていると確信した。
「何でそんなキレてんのかは興味無ぇが、寝起きの運動にゃ丁度いいな」
慄き、顔を強張らせる面々の中で唯一軽口を叩くのはグリードだ。
荒れ狂う無惨の怒りを前に、むしろ望む所と獰猛な笑みを浮かべる。
手にはキャメロットが使っていたような武器は無い。否、グリードにとっては己の肉体こそが最大の武器にして盾。
呼吸をするのと同じくらい自然に両手を硬化、白魚のような指は黒一色に染まり獲物の血を今か今かと待ち侘びている。
長々と「おあずけ」してやる気は無い、どうせ向こうは殺す気満々なのだ。
まどろっこしいのは抜きだとでも言うように飛び掛かる。
響くは金属同士がぶつかったような音。
鼓膜をキンキン震わせる感覚に、グリードは不敵に笑う。
無惨の背後より現れ剣を振るって来た、銀髪の剣士に向けて。
銀髪の剣士…魔王はアドバーグ・エルドルの死亡後、逃げた輝哉の追跡を決めた。
敵は太陽が弱点ならば、日が沈むまでは地下水路に潜伏せざるを得ない。
相応の広さがあろうと地上よりは動きも制限される場所。
ならば逃がす手は無いと追いかけ、道中地下空間にまで聞こえた定時放送に足を止め暫しの熟考後、改めて進み続けた。
その先で見つけたのは投げ捨てられた刀と、遥か頭上の穴に繋がる梯子。
分かり易い痕跡を前にした魔王が、男は外に出たと理解するのは時間が掛からなかった。
放送で知らされた天候の変化に関する情報と照らし合わせ、弱点の太陽が遮られたなら地上での活動に問題無しと判断したのだろう。
再びアスファルトを踏みしめた魔王が発見したのは、転がる飲み物の容器と血の跡、更には何かを擦ったような痕跡だった。
ミチルがマシンディケイダーを急発進させ出来たタイヤ痕とは分からずとも、敵はまだそう遠くへは行っていない事を確信。
ピサロの身体能力を駆使すればバイクだろうと動物の脚力だろうと問題無し。
幾つもあった地下の分岐で道を間違えず、そう時間を掛けずに地上に出たミチルを発見できた。
手繰り寄せた「幸運」につい首にかけたアクセサリーを意識するのは無理もない。
-
そうして見つけた一団の中に太陽が弱点の男の姿は無く、男に捕らえられた少年だけがいた。
運良く逃げたのかとも考えたが、どうせ殺す事に変わりは無いのならどうだっていいと思考をアッサリ打ち切る。
「ハッ!飛び入り参加のつもりかよ!」
「……」
魔王は何も答えない。
元より彼の目的は参加者の殲滅。対話の余地は皆無。
返答代わりに少女の細い首へと振るわれる剣。
破壊のと名に付けられているように、一撃の威力は決して見掛け倒しでは無い。
だが魔王が相手取るのはひ弱な子羊に非ず。
強欲の名を冠したホムンクルス。そう易々とくれてやる命は持ち合わせていない。
「ウラァッ!」
右手で剣を弾き返し、左手の爪を突き刺す。
後方へと身を引けば親指一本分の距離が足りず、爪は貫けない。
ならばと距離を詰める相手を前に、こちらも真っ向から迎え撃つ。
グリードと魔王が戦闘を開始した一方で、残された面々も各々動き出した。
「バリー!凛を連れて下がってろ!」
「へ?あ、おう」
キャメ子と気安く呼んでいた少女の変貌っぷりに呆気に取られていたが、ゲンガーに促されるまま付近に身を隠す。
自分でも情けないとは思うが変に意地を張っても無駄に命を散らしそうなので、ここは大人しく従った。
ゲンガーもまたレンタロウの能力を使う為に、生身の体を隠せる場所へと走る。
-
必然的に無惨と対峙するのはミチルとメタモン。
クレイジー・ダイヤモンドを出現させ、もう一人はスコルピオワームへの変身を完了させた。
思わずギョッとするミチルへ慌てたような仕草でメタモンは言う。
「待って!これは僕の体がこういう生き物みたいなんだ。でも僕は別に殺し合いに乗ってるとかじゃないよ!」
「あっ、はい。ご、ごめんなさい私…」
「ううん、気にしてないから大丈夫だよ。僕は檀黎斗って言うんだ」
「犬飼ミチルです、黎斗さん」
最低限の自己紹介をし無惨に向き直る。
怪物に姿を変えたのには驚いたが、ゲンガー達といた事からもとりあえず敵では無いと判断。
詳しい話は後回しで戦いに集中しなくてはならない。
メタモンも今は殺し合いに乗っていない振りをしたまま、ミチル達に協力すると決めていた。
新しい姿にへんしんするには自分の手で参加者を殺す必要がある。
ならここは協力して無惨を追い詰め、弱った所を自分がトドメを刺せば良い。
加えて自分が殺そうと思っていたゲンガーまでいる。
鶴見川レンタロウという人物の体になっているとだけは知っていたが、まさかさっきの少年がそうだとは思わなかった。
嬉しい誤算に、暫くは味方の皮を被って殺す機会を待つ事にしたのだ。
メタモンの邪悪な思惑を知らないまま、ミチルはクレイジー・ダイヤモンドの拳を放った。
-
◆
「……」
口を一文字に引き結び剣を振るうは魔王。
敵に掛ける言葉は存在せず、今はまだ呪文を唱える場面でも無い。
必要なのは相手を殺す意思のみだ。
「顔の良い割にゃあ無口なやろうだな!それじゃあ女は付いて来なねえぞ!」
舞おうとは反対に軽口を叩くのはグリード。
言葉だけなら気の知れた友人に向けたものにも聞こえる。
だが彼らの周りに響くのは安酒を提供するバーの喧噪ではない。
破壊の剣と硬化させた両腕が幾度も火花を散らし合い響かせる、殺し合いの音だ。
首を狙った刃は悉く弾き返され、顔面を引き裂かんとした爪は刀身に防がれる。
互いにまだ掠り傷すら負わされておらず、表情からも余裕が満ち溢れていた。
「おらよっと!」
これまで爪を用いていたグリードは拳を握り締め、真っ直ぐに叩き込む。
硬化させた腕によるパンチだ、生身の肉体などプリンよりも簡単に破壊できる。
だがグリードが伸ばした右腕の先に感じたのは泥の中に突っ込んだような不快感では無く、ヒュンと手の甲を撫でる空気の冷たさ。
見れば分かる通り拳は外れた、標的は自身の頭上へと跳躍したのだから。
人体を容易く破壊可能なのは魔王も同じ。
与えられた肉体と支給品の両方が、全参加者の中で上位に位置するレベルの『当たり』だ。
砂金のような眩い髪を赤く染め、しなやかなな少女の体を股まで真っ二つにする。
振り下ろされた剣はしかし、凄惨な光景を生み出すには至らない。
放った拳が空を切ったと理解したと同時に頭上を見もせず、ただ同じ場所へ立っているのは馬鹿のする事とグリードは後方へ飛び退いていた。
-
「チッ!どうも動き辛ぇな…」
性別が男であり殺し合いの前に入っていた器も男であった為か、セイバーの服装は少々違和感を覚える。
青い生地のスカートを引き裂くと具足を履いた細い足が露わとなった。
元々この肉体を与えられたキャメロットが見たら抗議するだろうが、彼女の意識は未だ奥底へと閉ざされたまま。
もう暫くは強欲のホムンクルスの勝手気ままなステージだ。
足回りのヒラヒラしたのが無くなり、先程よりも動き易くなった気がする。
確かめる為にも魔王へと接近、馬鹿正直に突っ込んだ相手への返答に切っ先が突き出された。
つい今しがた魔王がやったのと同じように、グリードは跳躍して回避。
相手の頭部目掛けて右脚を伸ばせば刀身に防がれるも予測済み。
伸ばしたままの足に力を込め刀身を踏みつけるようにして更に跳躍。
少女の体とはいえ全体重を一点に集中させた重みが靴底から刀身へと伝達。
僅かに魔王の体勢が揺らぐ。
それで尻もちを付くような無様は晒さないが、背後へ着地したグリードに次の一手を許してしまう。
「シィッ!」
左足を軸にして反対の足で蹴りを放つ。
これまでは両腕のみだった硬化の範囲を右足にも広める。
金属製の具足以外は黒く染まった脚に対し、魔王が取る手は迎撃。
掬い上げるように真下から振るわれる剣、硬化させた足を斬り落とせはしないが狙いは別。
グリードの意思に反し右足が高く跳ね上げられ、魔王に向けて強引に股を見せたのような格好となった。
「おいおい、こりゃ女の体なんだ。ちったあ気を遣ってやれよ!」
跳ね上げられた足をギロチンのように振り下ろす。
身を捩り躱す魔王、攻撃がまたしても空振りとなったグリードへ当然のように迫る剣。
しかし外した直後は隙が生まれる事くらいグリードも承知だ。
背中から地面に倒れるようにして回避、顔の真上を剣が通過し鼻先が冷たく感じる。
両手をアスファルトに付け支えとし、両足を魔王へと突き出した。
硬い靴底を破壊の剣で防御、足を伸ばしたまま押し出すように力を込めると反動で立ち上がる。
「オォ!」
左手で作った手刀を心臓目掛けて放つ。
そこいらのサーベルなどよりよっぽど上等な得物だ。
とはいえ得物の質で言えば魔王の剣とて間違いなく上位に位置する。
左手を弾き返し、続けて繰り出された爪にも対処。
刀身を引っ掛かれキリキリと耳障りな音がし、自分でも気づかない程に小さく眉間に皺が寄る。
横薙ぎに振り払った剣は姿勢を低くした事で躱され、五指で数えられる程度の頭髪がハラハラと舞う。
-
「うおっ!?」
顔の真正面から迫り来る靴底を慌てて避ける。
鼻をへし折られひしゃげた顔面にはされずに済んだが、少しばかり耳にヒリヒリした痛みが残った。
女は殴らない主義のグリードとしては、異性への扱いを知らないガキかと呆れる他無い。
だったらこっちもその整った顔を台無しにしてやったって、文句は無いだろう。
顎を打ち上げるように硬化させた拳でアッパーカットが繰り出される。
「フン…」
見えているとでも言いたげに鼻を鳴らして対処に回る。
何て事は無い、ただほんの少しだけ身を引いてやれば良いだけ。
そして攻撃を仕掛けて来たのならば、こっちもタダでは済ましてやらない。
敵はまだ破壊の剣のリーチ内にいる。
軽く振るうだけでほっそりとした腰が両断され、数秒後には地面が赤く汚れた光景が完成だ。
実力が高かろうと低かろうと死ぬときはどちらも一瞬である。
「もう勝った気になってんのか?」
だがグリードとて自身が敵の攻撃範囲内から抜け出せていないなど分かり切っている。
となればこちらの攻撃を当てるのみならず、敵の攻撃への対処にも常に気を回していて当然だ。
躱された場合の為にアッパーカットを放ったのと反対の手は空けておいた・
「む…」
短く唸る魔王が睨むは、破壊の剣をガッチリと掴んだ少女の姿。
硬化させた手ならば斬られる心配も無い。
「大した腕だなオイ。ラースの奴にも教えてやりてえよ」
剣を掴む手の力は微塵も緩めず、鼻先が接触する程の距離で挑発染みた言葉を口にする。
返答は期待していない、どうせ次に相手がどう出るかなど分かり切っているのだ。
「ッ!!」
両手で柄を握り締め、筋肉が盛り上がる程に力を込め振るう。
掌に掛かる圧力が数段増したのを認識したと同時、グリードは背後へ吹き飛ばされていく。
空中で体勢を整え着地、すかさず急接近する魔王へ上等だと笑ってやった。
-
○
弾丸を思わせる勢いで豹が突進して来た。
歪な後ろ足では本来地球上に存在する豹程の速度は望めなくとも、人間が発揮できる運動能力は凌駕している。
激突すれば人の体などロケット花火のように吹き飛んで行くだろう。
この場に何の力も持たない人間がいればの話だが。
「ドラァッ!」
逃げも隠れもせず真っ向から迎え撃つは強靭な拳。
東方仗助のスタンド、クレイジー・ダイヤモンドがミチルの戦意に応じて現れた。
破壊力とスピードは近接最強の性能を誇るスタープラチナにも引けを取らない。
唯一劣る射程距離も、敵の方から近付いて来るのだから好都合。
街を苦しめる邪悪を決して許さぬ意思は今、鬼舞辻無惨という邪悪を叩きのめさんとする。
吸い込まれるように顔面ど真ん中へ当たる筈の拳はしかし、地から足を離した状態での強引な回避により不発。
いのちのたまを飲み込み能力を上げていたからこそ、ギリギリで当たらずに済んだ。
「ドラララララララララッ!」
だが無惨は未だクレイジー・ダイヤモンドの射程距離内からは抜け出せないまま。
ならばここで攻撃の手を緩める愚行は犯せない。
着地した直後に降り注ぐ拳の嵐。
動物系の悪魔の実を食べた者には常人よりも遥かに上の生命力が齎される。
だからといって攻撃全てをノーダメージで凌げる訳ではなく、まして鬼の肉体にあったような再生効果は望めない。
故に無惨が取るのは当然回避一択だ。
-
「えいやっ!」
横っ飛びに躱した直後、破壊されたアスファルトの破片が目に入りそうになる。
尤も無惨には破片などよりも優先し対処に回らねばならない問題があった。
クレイジー・ダイヤモンドのラッシュを避けた所ですかさず襲い来る、銀の外殻を持つ怪人。
スコルピオワームがカギ爪を振り下ろして来たのだ。
回避が間に合うかどうかは微妙な所、故に前足を振るいこちらも爪をぶつける。
「うわっと…」
爪同士がぶつかりどちらも少しの痺れが伝わった。
一撃を凌いだ無惨はスコルピオワームから離れ、再度ミチルに狙いを付ける。
現在の無惨が最も殺したい相手は、自分の肉体の消滅を防げなかったミチルだ。
慣れない体でわざわざ追いかけて来たのも、全ては彼女を殺す為。
足を動かす度に生じる尋常では無い違和感を、いのちのたまの効果で強引に補強。
ミチルの反応が遅れる右側へと駆け、対処を許さず飛び掛かった。
無惨が取った戦法自体は間違っていない。
但しそれが通用するのはさっきまでのミチル相手にであると、身を以て教えられる。
「ケケッ!邪魔しに来てやったぜぇ!」
聞き覚えのある声が頭上より掛けられた。
レンタロウの能力により幽体となったゲンガーが参戦。
放送前の戦闘により肉体への攻撃は無意味と知る無惨は、振り下ろされた刀への回避に思考を注ぐ。
柄の部分を狙って前足を振るう。
力の強さでは一般男子高校生でしかないレンタロウより、ネコネコの実を食べたこちらが上。
手から弾き飛ばしてしまえば無手、一々相手をする必要も無くなる。
だが忘れてはならないのは、敵はゲンガーだけでは無いという事。
無惨が相手取らねばならないのは複数人存在し、少しの時間だろうと一人へ気を回せば当然他の動きを許す事になる。
「ドララララァッ!」
誰の声だとは考えずとも瞬時に分かる。
自分へ向けられた敵意が一瞬逸れたと分かったミチルがクレイジー・ダイヤモンドを操作、ラッシュを放つ。
ミチルを殺す為に飛び掛かった、言い換えればクレイジー・ダイヤモンドの射程距離内に無惨の方から近付いてくれた。
更にゲンガーが妨害に動いたお陰で隙を突く事まで出来たのである。
再度全身の筋肉を総動員し、不格好な体勢のまま避けるも数発が命中。
吐き気のするような鈍い痛みに襲われ、口に挟んだ召喚石を零しそうになった。
-
(何だこれは。何故こんな事になっている?)
弱い。余りにも弱すぎる。
無惨本来の肉体であればこんな無様を晒す筈が無い。
埃を掃うように腕を振り、蟻を踏み潰す程度の考えで足を動かす。
たったそれだけで人間複数人を纏めて薙ぎ払えるのが無惨の肉体だ。
例え鬼殺隊の柱や痣を発現させた隊士が数十人束になったとしても、群れを成した害虫程度でしかない。
縦横無尽に振るわれる肉の無知と大量の管、わらわらと集まるしか能の無い連中を殲滅可能な血鬼術。
必死こいて振るった日輪刀など何の意味も為さない、複数の脳と心臓から為る生命力。
鬼舞辻無惨という鬼を構成する能力全てが、ただの一つとして使えないとは何たる屈辱。
四肢を地に着け畜生のように駆けねばならない、日輪刀どころか拳の一発ですら下手をすれば致命傷になりかねない。
どれだけ不平不満を並べても、こんなものが自分に残された身体であるなど地獄以外の何だと言う。
悪魔の実を食べ自力での移動が可能になった。
いのちのたまを飲み込みある程度の強化は叶った。
そこまでしてようやく戦いが可能なレベルにまでなる程に弱い。
出来損ない以外の言葉が見つからない体だ。
遠坂凛ですら幼い子どもとはいえマトモな人間の身体を与えられたというのに。
少なくとも肉体の面に関しては、全参加者の中で最も不遇な扱いだと思わずにはいられなかった。
何故自分がこのような理不尽な目に遭わねばならない。
何故何もかもが自分の思うように進まない。
取り巻く環境全てを呪ったとしても、無惨の現状に変化は訪れなかった。
(これなら…!)
勝てるとミチルは確信する。
人数差も保有する能力でも有利なのは明らかに自分達。
このまま押し切り倒せば、銀髪の剣士と戦闘中の少女へ加勢が出来る。
まだ名前もロクに聞いていないがゲンガーと共にいた事から敵ではないはず。
早急に決着を付けるべくクレイジー・ダイヤモンドを操作し、スコルピオワームのカギ爪をどうにか躱した無惨の背へ殴りかかった。
-
「へぇ、こんなに集まってたんだ」
不意に聞こえた声により、無惨への攻撃に集中していた意識が割かれた。
反応を見せたのはミチルだけではない。
戦場に居る者全てが乱入者の存在に気付き動きを止めている。
「よっと」
可愛らしい声で浮遊する絨毯から飛び降りたのは、クリーム色の髪をした少女。
外見は殺し合いの空気には似つかわしくないほんわかしたもの、しかし纏う空気は残忍な喜びに満ちている。
自身へ集中する視線を意に介さず、どこからか取り出した赤い機械を腰に装着。
顔の横へと掲げた右手には、メロンの装飾が施されたクリアパーツの錠前。
「あのベルト…まさか…!?」
(もしかしてあの女の子もへんしんを!?)
一連の動作に何人かが顔色を変えたのを見て、少女の笑みが深まったように感じられた。
『メロンエナジー!』
「変身」
『ロックオン!ソーダ!メロンエナジーアームズ!』
全身を白のインナースーツで覆い、頭上から降って来た巨大なメロンが展開。
胸部装甲と化し、アーマードライダー斬月・真への変身が完了。
専用武器のソニックアローを軽く振るいながら、ダグバは新たな玩具達を期待の眼差しで見つめた。
放送前、体力回復をしようと283プロへ向かっている最中の事である。
となりのエリアに突如として灰茶色の巨大な土偶が現れビームを放ったのは。
参加者ではなく、支給品か何らかの能力によるものだろうとは分かった。
正体が何であれ強く興味を引かれた事は確か。
すぐにでも巨人が現れた地点へ赴き、自身が笑顔になる為のゲゲルを始めたい。
そう考えたものの疲労が無視できない程に蓄積していたのも事実。
どうしようか悩んでいる内に土偶は消え、今から行っても既に戦闘は終わっている可能性が高くなった。
落胆しつつも土偶を出現させた者が生きていれば、殺し合う機会は幾らでも訪れると自分を納得させ改めて283プロへと到着。
初めて訪れる施設のはずなのに、何故か見覚えがある気がしてならない奇妙な感覚に襲われた。
とはいえダグバにとってはそう深く考える程の事でもなく、まぁいいかと適当に座って休んでいると聞こえて来たのは二回目の定時放送。
先程殺した青年(精神は少女)以外に知る者はおらず、死者に対して特別興味は抱かない。
モノモノマシーンなる設置物を使えば遊び道具が手に入るらしいので、今後は首輪の回収もしておこうかと方針に一つ付け加え、暫くはぼうっと天井を眺め数十分が経過。
そろそろ良いかとデイパックを掴み、283プロを出発したのだった。
到着した先で見つけたのは複数の参加者。
しかも自分を吹き飛ばした金髪の少女までいるではないか。
思わぬ再会に胸が弾む。
-
万全ではないが戦闘に支障が出ない程度には回復し、移動の際には魔法のじゅうたんを使ったので余計な体力も消費していない。
新しいゲゲルを始めようと無邪気に意気込む白い弓兵へ、真っ先に敵意を抱いたのは幽体の少年だ。
「あの女…!また来やがったのかよ!」
「ゲンガーしゃん?あの人を知ってるんですか?」
怒気と恐れの入り混じった言葉を吐き捨てるゲンガーに、ミチルはただならぬものを感じる。
この様子からして味方で無いのは明らかだった。
「あいつは…ハルトマンを殺した女だ」
苦い物を絞り出すようにして告げた内容に、思わず顔が強張る。
自分としんのすけが地下に潜っている間、あの少女に襲われハルトマンは命を落としたのか。
肉体は少女でも中身は随分と邪悪な参加者らしい。
一気に攻め立て無惨を倒す筈が、新たな危険人物の乱入でどう転ぶか分からなくなった。
見ると銀髪の剣士と、それに相対する少女も白い弓兵の登場に次にどう動くべきかを計りかねている様子。
視線を一身に集める当の本人は早く遊びに混ざりたいとでも言いたげに、悠々と近付いて来る。
だが乱入者は一人だけではない。
ダグバの参戦が呼び水となったかのようにして、また別の参加者が戦場へと現れた。
低く唸るような音が複数、全員の耳に届く。
これと似たような音には何人か聞き覚えがあった。
丁度ミチルがゲンガー達の元へ無惨を引き連れ現れた時と同じ、エンジンを吹かす音。
疾走する二台のバイクがアスファルトを擦りながら急停車。
新たに四人の男が戦いの場へとエントリーを果たす。
-
「蓮しゃん!皆さんも!」
「ケケッ!良いタイミングで来るじゃねえか」
帽子の青年、雨宮蓮は仲間達が上げる歓喜の声に軽く頷き返す。
風都タワーを出発し、ハードボイルダーを飛ばして来た甲斐があったようだ。
既に戦いが勃発してはいたが、ミチルもゲンガーも無事。
何人か見知らぬ顔もチラホラ見え、いるはずの姿が見当たらない事に気付いた。
「ミチル、しんのすけは一緒じゃないのか?」
「それが…今は一緒じゃないんです。私が支給品を使ってしんのすけしゃんを逃がして、それからどこにいるかは…ごめんなさい…」
これまた予想外の返事が返って来た。
放送で発表されなかったから無事だとは思っていたが、まさかそんな事態になっていたとは。
具体的に何があったかはともかくしんのすけだけを逃がしたくらいだ、余程切羽詰まった状況だったのだろう。
しんのすけの安否は非常に気になるが、それはこの場を切り抜けてからミチルに詳しく聞き改めて探しに行く。
ゲンガーは白い仮面ライダーらしき参加者を睨んでいるし、承太郎も銀髪の青年へ敵意を露わにしている。
どうやらあの二人は高確率で殺し合いに乗っている側の者らしい。
「お喋りは終わってからにしようぜ。向こうは呑気に待っちゃくれないだろうよ」
「ああ、分かってる」
「…あっちの銀髪の男、アイツは俺が相手をする」
「ならば私はあの奇妙な動物の方に回ろう。他は任せたよ」
それぞれが変身する為のアイテムを取り出す。
ある者は露骨に目の色を変え、ある者は警戒を強める。
反応は様々だが蓮達がやる事は一つだけだ。
-
『JOKER!』
――COBRA――
「「変身!」」
「蒸血」
『JOKER!』
――MIST MATCH――
――COBRA…C・COBRA…FIRE――
ガイアメモリ、カードデッキ、フルボトル。
切り札の記憶が、ライダーバトルの参加者の証が、地球のエレメントの一つが。
三人を戦士へと変え、戦場に新しい風を巻き起こす。
「スタープラチナ」
短い言葉に応じ現れるは星の名を冠したスタンド。
傍らに拳闘士を出現させた承太郎は魔王と対峙する。
坂田銀時を殺した因縁の敵だ。
二人掛かりでも苦戦は免れなかった男の放つプレッシャーは健在。
されど承太郎に恐れは無い。今度こそスタープラチナの拳で再起不能なまでにブチのめす。
「何だ、お前もこっちで遊びたいのか?」
「悪いがこいつの相手は譲れねぇ。テメーも“乗ってる”側なら纏めてブチのめすがな」
「ハッ、狂犬みてぇに噛み付くなよ。…にしても面白いモン持ってんなぁ」
拳闘士のような人形、一瞬で鎧を纏った道具。
錬金術やホムンクルスの固有能力とは別種のそれらを興味津々に見つめる。
ああいった力の持ち主や技術を掻き集めるだけの力をボンドルド達は我が物としている。
益々以て連中の持つ一切合切を手に入れたくなった。
その為にも、先程からビリビリしたさっきを放ち続ける銀髪の男には消えてもらおう。
向こうが等価交換に乗ってこちらに何かを差し出すつもりならともかく、話自体する気が皆無のようだ。
-
承太郎とグリードを油断なく見据えながらも、魔王は考える。
スタープラチナと呼ばれる人形のような存在を従える強面の男、その脅威は身を以て味わっている。
文字通り何をされたか分からず、気が付けば全身を殴られていた謎の攻撃。
回復呪文が無かったらあのまま死んでいた可能性とてある程の傷を負わされたのは、記憶に新しい。
謎の攻撃に対する一番の対抗策は、発動される前に殺すこと。
最もそう簡単に殺せる弱者とは思っていない。
ならば次善の策として浮かんだのを実行する。
強面の男の仲間らしき連中が使った道具、その効果により変化した姿。
それらを見て使う価値有りと判断した最後の支給品を取り出す。
龍のエンブレムが描かれた黒い小箱。
似たような物を連れの一人が持っている承太郎は顔色を変えた。
どんな反応をされようと、魔王に今更使う気が失せたなどと言う気は無し。
近くのガラス窓に小箱を翳すと、腹部に金属製のベルトが出現。
「変身」
小箱が装填されると鏡像が幾つも重なり合い、ピサロの肉体を覆い隠す。
全身に黒い装甲を纏い、フェイスシールドに隠された複眼が赤い光を放つ。
仮面ライダーリュウガ。
13人の仮面ライダーからなるライダーバトルの参加者。
だがリュウガの変身者は他の参加者と違い、現実世界に生きる人間では無い。
仮面ライダー龍騎の変身者である城戸真司と瓜二つの姿をしたミラーワールドの住人、それこそがリュウガの変身資格を得た存在。
尤も此度はあくまで参加者の武器としてデッキが支給されているに過ぎないが。
役者は揃った。
もう後戻りはできない。
開戦の時を待ちわびていたグロンギの王が、さも楽し気にソレを口にした。
「さあ、ゲゲルを始めよう」
-
◆
白、黒、赤。
三色の異なる装甲の戦士により繰り広げられるライダーバトル。
肉体、精神、或いはその両方が本来の変身者とは別人なのが、このバトルロワイアルの異質さを如実に表している。
「ペルソナ!」
先手を切ったのは雨宮蓮の変身した、仮面ライダージョーカー。
ガイアメモリの固有能力とは別に、蓮本人が持つ力を解放。
自らの仮面を引き剥がし、反逆の意思に目覚めた証。
シルクハットのような頭部を持つペルソナ、アルセーヌがスキルを発動。
放たれたのは二つ、ラクンダとスクンダ。
然程SPを消費せずに対象の耐久力と敏捷性を低下させる、使い勝手の良いスキルだ。
敵の能力が下がればその分こちらは有利になる、シャドウ相手にも使っていた基本的な戦法である。
「んー?」
自らを襲った倦怠感らしき気持ちの悪さに、斬月・真は首を傾げる。
相手が何らかの攻撃を行ったのは見れば分かるが、どういった効果かは不明。
訝し気にジョーカーを見るも、動いてみれば分かるだろうとあっさり疑問を放棄。
ソニックアローを片手に斬り掛かった。
『そっちから来てくれるとは嬉しいねぇ』
最初の標的に選ばれたのはブラッドスターク。
変身前の女性とは似ても似つかない壮年男性の声で軽口を叩く。
恋人を抱擁するかのように両手を広げ、斬月・真の接近を歓迎する姿勢を取る。
本当に愛しい相手を受け入れるならば、左右の手にそれぞれ武器を持ってはいないのだが。
-
ソニックアローのシャフト部分による斬撃で火花が散った。
但しブラッドスタークの装甲へのダメージによるものではない。
刃が到達する寸前、左手に握った剣を翳しソニックアローを防いだ。
ふざけたポーズからは考えられない反射速度、このくらいはやってもらわねば楽しめないと斬月・真はじんわりと笑う。
「いくよ?」
短く尋ねる、返答は聞かない。
一度防いだからといって勝負が決まった訳では無く、続けてソニックアローを振るう。
ブラッドスタークもまた一撃で終わるとは思っておらず、的確に防ぎ続ける。
アークリムと呼ばれるソニックアローの刃は対インベス・アーマードライダーを想定した切れ味を誇るが、ブラッドスタークの持つ剣は破壊されずに原型を保っていた。
「凄い剣だね」
『だろ?ジューダスの奴には感謝しなきゃなァ』
元はジューダスに支給されたのを譲って貰ったが、大した得物だと感心を抱く。
エターナルソード。
剣が持つ真の力は現状使えないようでも、武器としての性能は優秀だ。
「アルセーヌ!」
斬月・真が相手をしなければならないのはブラッドスタークだけではない。
少しばかり斬り合いに意識を向け過ぎた時、ジョーカーがペルソナに指示を出す。
左腕部より火花が散り、ソニックアローを握る力が幾分弱まる。
スラッシュの援護を受けたブラッドスタークが一歩踏み込み、エターナルソードを横薙ぎに振るった。
大振りだが威力は高い、ソニックアローの防御こそ間に合ったもののたたらを踏みよろけるのまでは防げない。
追撃を仕掛けるブラッドスターク。
だが斬月・真は新世代型のアーマードライダーだけあって、持ちうる能力も高スペックだ。
エターナルソードに対し右肩の装甲を突き出して防御。
特殊なコーティングの効果で斬撃の威力も低減させられ、傷を与えられない。
刃を防いだままの体勢でタックルをけし掛ければ、今度はブラッドスタークが体勢を崩された。
黄金色のラインが斬月・真の脚力を強化し、よろけて隙だらけの胴体へ蹴りが放たれる。
-
『っとォ、危ねぇな』
伸ばされた白い装甲の足はブラッドスタークが地面に倒れた事で外れた。
と言うよりはブラッドスターク自らアスファルトの上に背中から倒れ込み、蹴りを躱したのだ。
上体を起こさずこのままの体勢で攻撃に移る。
武器はエターナルソードのみではない、ブラッドスターク本来の装備が右手に握られていた。
照準は既にメロン柄の装甲へと合わせている、後はトリガーを引くだけで良い。
トランスチームガンの銃口が火を吹き、斬月・真の胸部装甲へ連続して高熱硬化弾が命中。
ゲネシスドライバー同様に、トランスチームシステムもまた仮面ライダーとの戦闘目的で開発された兵器。
ならば斬月・真相手が相手でも、装甲により低減されるがダメージ自体は与える事が可能。
銃撃により斬月・真は強制的に動きを止められた。
自分が行動に移せる十分な隙を確保したブラッドスターク、そのまま地面を転がり一旦距離を取って立ち上がる。
そして相棒へとバトンタッチ、選手交代とでも言わんばかりに前へ出たのはジョーカー。
レッドメロンの果肉のような色合いのレンズを赤い瞳で睨み返す。
「次は君?」
「ペルソナ!」
質問の答えには行動で返してやる。
アルセーヌが出現し長い腕を振るい、ナイフのような爪が斬月・真を襲った。
ソニックアローの刃で防御、続けてジョーカーの拳が脇腹を狙う。
ライドウェアに覆われているとはいえ、装甲部分程の耐久性は期待できない。
脆い部分が狙われやすいのは斬月・真にも分かっている事。
左腕を拳の前に持って行き防御、ジョーカーの方が握った手から若干の痺れを感じた。
ケンライコウと呼ばれる腕部を保護するプレートだ。
薄さに反して強度は非常に高い。
拳の痛みに僅かながら怯んだジョーカーをソニックアローで斬り付ける。
盛大に火花を散らして後退、斬月・真が追撃を仕掛け斬撃の嵐がジョーカーを逃しはしない。
アークリムに切り裂かれるのを防ぐは拳部分を覆う手甲。
ジョーカーの全身を保護する強化外骨格と同等の強度を持つナックルも、防戦一方では格闘戦での本領を発揮できない。
-
と、斬月・真は別方向からの殺気にジョーカーへの攻撃を中断。
小気味良い発砲音が響き、高熱硬化弾が殺到する。
今度は先程と同じとはいかない、ソニックアローを振り回し銃弾を斬り落とす。
高熱硬化弾も命中しなければ恐れるに足りず、斬月・真の視覚センサーは迫る弾を正確に捉えていた
『使え蓮!』
しかし銃を連射し意識を自分に釘付けに出来たのなら、ブラッドスタークとしては無問題。
ジョーカー目掛けて武器を一つ投げ渡す。
キャッチすると同時に斬月・真へ斬り掛かるジョーカー。
銃弾を斬り落としながらジョーカーの刃を弾き返そうとするも、逆に絡め取られ硬直。
武器を持つのとは反対の空いた手が握り拳を作り、腹部へ一撃入れる。
低く呻いた声に耳は貸さず、脚力を増幅させた上での二撃目が叩き込まれた。
蹴り飛ばされた事で必然的に距離を取る事には成功。
ソニックアローの弦を引き絞り、弓としての本来の使い方を行う。
エネルギー矢がジョーカーを射るべく発射され、前に出たブラッドスタークに斬り落とされた。
その横を駆け抜けるのはジョーカー、右手で得物をクルリと回し急接近を試みる。
近付かせまいと放った矢は、ジョーカーの後方より発射された銃弾により霧散。
心強い援護を得たジョーカーが止まる事は無い。
「ケツアルカトル!」
翼の生えた大蛇が出現、牙を剥き出しに主の敵を威圧。
ジョーカーの意思に従い純白の翼で暴風を巻き起こす。
マハガルーラ。広範囲の敵に疾風属性のダメージを与えるスキル。
かまいたちに襲われたような斬撃が装甲の上から刻まれ、更には吹き飛ばされそうになる。
しかし斬月・真の体重は100kgを超える為、多少足に力を込めるだけで問題無い。
尤もそれは、ジョーカーが攻撃を当てられる距離までの接近を許す隙に繋がった。
-
振り下ろされた刃をソニックアローで受け止める。
押し返すべく力を込めようとし、アークリムに掛かった重みが消えたと気付いた時には遅い。
胸部装甲を撫でるように刃を走らせ、敵から散った火花を全身で受けつつジョーカーは敵に防御や反撃を許さない。
右手で振るうのはバルブの付いた短剣、スチームブレード。
怪盗団がパレスで活動する際、それぞれの戦闘スタイルにあった武器を持ち込んでいる。
パンサーは鞭、フォックスは刀といったようにメンバー一人一人得意とする得物も違う。
リーダーであるジョーカーが得意とするのはナイフだ。
現実世界で手に入れたレプリカのナイフは認知の世界で本物の切れ味を発揮し、数多のシャドウを斬り伏せて来た。
現在使っているスチームブレードもまた、ジョーカーが使い慣れたリーチの武器。
強化された仮面ライダーの身体能力と、そこいらのナイフを凌駕する性能の刃物が揃った状態なら、パレスに侵入した時と同じ感覚で戦える。
リーチこそソニックアローが上でも、取り回しと振るうスピードの面ではスチームブレードに軍配が上がる。
ましてバトルロワイアルに巻き込まれる前より培った経験も加算されているのだ。
ジョーカーへと有利が傾くのは必然だろう。
「っ!?」
だが斬月・真とていつまでも一方的な展開を認めはしない。
スチームブレードをガッチリと掴み、力づくでジョーカーの猛攻を止めた。
急速加熱した刃は並の装甲など瞬時に溶かし斬るが、斬月・真のスーツは耐熱性にも優れている。
刃を止めるのは片手で十分、もう片方の手にはソニックアローで斬り付ける役目があるのだから。
「ケケッ!背中ががら空きだってなぁ!」
しかし役目は果たされない。
背後より斬り付けられた衝撃に気を取られ、スチームブレードを握る力に緩みが生じる。
逃してなるものかと右手を引き、スチームブレードを己の手元に戻した。
刃が手の中から消えたのを理解した斬月・真は、その場で回転するようにソニックアローを振り回し前後の敵を牽制。
背後へ跳んだジョーカーはともかく、後ろから不意打ちを仕掛けた者には効果が無い。
「今から俺もこっちに混ぜてもらうぜ!」
幽体故に今の斬撃を無傷で凌いだ少年、ゲンガーは刀を肩に担いで言う。
仲間の敵討ちなんて柄では無いと自覚している。
それでもハルトマンを殺した相手にすごすご引き下がるのも、それはそれで苛立ちを覚える自分がいるのだ。
だから倒せはしなくても、徹底的に邪魔をしてやると意気込みこちらの戦闘に介入した。
三人に増えたゲゲルのターゲットを前に、ダグバは考える。
山間部での戦闘は小さな少年が何かしらの策を講じたが、直接自分を相手取ったのはキャメロット一人。
放送前の戦闘は今と同じく幽体の少年がウロチョロしていたが、直接自分を相手取ったのはハルトマン一人。
村で出会った宿儺とのアレは戦闘と呼べるかも怪しい。
そして現在戦闘中の二人組、蓮とエボルトはチームワークを発揮して共に自分と戦っている。
当初はキャメロットとの再戦を行うつもりだったが、ジョーカー達との戦闘も楽しい。
これまでとは違う戦いに、まだまだ楽しめそうだとダグバは心を躍らせた。
-
○
承太郎と魔王。
因縁を持つ彼らが互いに関して知っている事は少なく、深く踏み込む気も無い。
魔王にとっては厄介な力を持つ、最後の一人になるまでの障害でしかなく。
承太郎にとっては坂田銀時という肩を並べて戦った男を殺した敵でしかない。
どんな事情があって殺し合いに乗っただとか、悲惨な境遇があるかなど知らないし知る気もない。
仮に魔王本人の口から語られたとて、叩きのめさない理由にはならないのである。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!」
対話は不要、先手必勝あるのみ。
仲間を殺された怒り、みすみす仲間を死なせた己への怒り、決して許せぬ悪を前にした怒り。
表向きはクールに、されど内に秘めた業火の如き激情を乗せた拳。
一発一発に込められた破壊力たるや、有象無象のスタンド使いの抵抗をも許しはしない。
直撃すれば再起不能は確実、たとえ殺す事になっても承知の上でラッシュが放たれる。
だがスタープラチナだろうと苦戦は免れない、早期の決着は不可能に等しい。
精神・肉体共に魔王の名は飾りでは無い。
だからこそ彼らはそれぞれの世界で人間達に恐れられて来たのだから。
肉を潰し、骨を砕く拳は全て破壊の剣に阻まれる。
戦意は十分、手加減など一切していない、しかしそれで倒せるような相手でない事は承太郎とて理解していた。
魔王とはこれが二度目の戦闘だがやはり一筋縄ではいかない相手だと改めて痛感。
故に余計な思考で集中力を乱すのは愚の骨頂、考えるべきは己のスタンドで相手を倒すその一点のみ。
ラッシュの勢いを僅かにでも緩めれば死が待っていると己に言い聞かせ、ひたすらに殴りつける。
魔王の横合いから迫る青い影。
悪魔も裸足で逃げ出すような凶暴さを剥き出しにした笑みを浮かべるは、強欲のホムンクルス。
硬化させた両腕でならば、人体などほんのちょっぴり力を入れるだけで紙の様に引き裂かれる。
グリードの接近は一々視線を向けずとも気付いていた。
破壊の剣を振るう手は休めず、片足をグリードへと突き出す。
さっきと同じだ、女だろうとお構いなしに顔を狙って来た。
コイツは本当に女の扱いを知らないのか。そう呆れを呟くのは内心に留めておき上半身を捻って回避に動く。
直撃はしない。が、左耳付近に焼けるような熱さを感じる。
完璧な回避は出来なかったようで耳が千切れたらしい。
コロリと落ちた肉の塊には目もくれず腕を伸ばし切り裂く。
再生が完了したばかりの耳が拾ったのはキン!という甲高い音。
龍の頭部を模したガントレットが硬化した爪を防いでいる、ならばそれごと腕を破壊しようにも今度は顔を掴まれた。
抜け出そうと藻掻く必要は無かった、すぐにラッシュを放つスタープラチナへ投げ付けられたからだ。
一応敵ではないと判断した少女にまで拳が叩き込まれそうになり、スタンドを一度解除。
殴られずに済んだグリードもまた即座に体勢を立て直す。
-
『SWORD VENT』
破壊の剣を左手に持ち替え、右手でデッキからカードを引き抜く。
流れるように先程グリードの爪を防いだガントレット型の召喚機に装填。
他のライダーとは違う低くくぐもった電子音声が、カードの読み込みを完了した事を伝える。
頭上から飛来して来たのは龍の尾を模した青龍刀、ドラグセイバー。
奇しくも龍騎が使うものと同じ名の剣を掴み、双剣を打ち鳴らす。
色合いに違いがあるだけでなく、剣自体のAPも龍騎より上。
手数を増やし魔王は疾走。脚力もまた龍騎の倍だ。
駆け出した勢いを殺さずに跳躍、ピサロの特技の一つであるムーンサルトを繰り出した。
得物が一本増えた事で脅威も増している。
左右に伸ばした剣が空気を切り裂き、余波だけで皮膚に赤い線が生まれそうだ。
独楽のように迫る魔王へグリードは防御を選択、硬化させた両腕を交差させ構えを取る。
喧しい音が気になるもののダメージは皆無、だが双剣を叩きつけられた衝撃までは防ぎようが無い。
体が宙に浮き後方へと吹き飛ばされ、追いかけるように回転した状態の魔王が接近。
硬化範囲を広めようとするも間に合うかは微妙な距離。
一度斬られた程度で死にはしないが、ホムンクルスの生命力とは無限の命を約束するものではない。
賢者の石の錬成に使われた魂のストックが切れれば、人間同様呆気なく死に至る。
「スタープラチナ・ザ・ワールド」
尤も魂一つを消費する必要も無くなった。
急ぎ硬化させるグリード、回転斬りを放つ魔王。
どちらも空中にて動きをピタリと止め、傍から見ればトリック映像のような何とも奇妙な絵面となる。
グリードだけではない、戦場いる全ての参加者が瞬き一つせず凍り付いたように動かない。
承太郎が時の止まった世界への入門を許されるのは、2秒という極僅かな間のみ。
公園にて半裸の巨漢との戦いから今に至るまで、スタープラチナに課せられた制限が解除される気配は無い。
DIOとの戦闘で開花させた時を思えば大幅な弱体化をされている。
それでもこの2秒間は何者も承太郎の攻撃を防げず、承太郎へ傷を付ける事も叶わない。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!」
双剣を用いたムーンサルトも時間停止中ならば恐れるに足りず。
魔王とグリードの間に割って入るように跳躍し、スタープラチナのラッシュを放つ。
効果が切れるまでに動作一つも無駄にはできない。
文字通り、時間の許す限り拳を振るった。
-
時が動き出し、魔王は後方へと殴り飛ばされる。
グリードにしてみれば訳が分からないだろう。
いきなり目の前に人形らしき存在を操っていた男の背中が現れ、自分を斬ろうとしていた男は吹き飛んでいるのだから。
何が起きたと疑問を貌に貼り付けながら着地、正面の男に尋ねようとするがそれどころでは無いと気付く。
「マヒャド」
少し離れた位置で立ち上がった魔王が呪文を詠唱、冷気の嵐が吹き荒れる。
すかさずスタープラチナのラッシュで冷気を霧散させ、グリードも距離をとって躱す。
しかしどちらも完全な対処には至らない。
四肢が凍り付き、動きに支障が出る前にどうにか砕いた。
(成程…)
これまでの戦闘を通じて、魔王は自身が変身した姿への評価を内心で下す。
思った以上に使えると。
カードデッキの存在はバトルロワイアル開始直後に、デイパックの中身を確認した時から把握していた。
ご丁寧に付属していた説明書にも目を通し、使い方も頭に入れてある。
だがこれまでの戦闘で魔王がカードデッキを使い、リュウガに変身した場面は一度も無い。
理由としては、デッキを使い変身するのは却ってピサロの力に枷を付けるのではないかという懸念があったからだ。
装甲を纏えば確かに耐久力は上げられるだろう。
しかし魔王のイメージとしては装甲を纏うと聞くと、どうしても鈍重な鎧を着こんだ姿を思い浮かべてしまう。
それではピサロの優れた身体能力を発揮するのに邪魔になるのではないか。
加えてもしこの未知の技術を用いた装甲を纏った際、魔法の使用にまで支障が出たら、ピサロの肉体は宝の持ち腐れも同然である。
だからイマイチ使う気も起きずデイパックの奥底へ放置していた。
それでも使用を決めたのは、承太郎の能力を警戒しての事だ。
予めこちらの耐久力を引き上げておけば、もしあの力を使われても被害を最小限に留められる。
カードデッキの力がプラスとなるかマイナスになるかは賭けだったが、結果として見れば間違いなくプラスのほう。
鈍重どころか今まで以上に動きのキレが増し、魔法もこれまで通り使用可能
何より承太郎が使った奇妙な攻撃を受けても、ダメージこそゼロではないが十分戦闘可能な程度には防いでいる。
これならばもっと早くに使っていればと己の判断を悔やむが今更だ。
殺意に呼応し光を放つレッドアイが、承太郎達に最大限の警戒を抱かせた。
-
○
10人以上の参加者が入り乱れる戦場で、最も戦況が危ういのは誰か。
大多数がこう答えるだろう。
それは鬼舞辻無惨で間違いないと。
『HOLD VENT』
脚部の召喚機にカードを読み込ませ、ベルデはバイオワンダーを装備。
自らの契約モンスターの目を模した武器は、一般的な地球の生物以上の肉体強度を持つミラーモンスターにも有効打を与えられる。
動物系悪魔の実を食べたとはいえ、元がミーティの肉体である無惨も直撃すれば重症は免れない。
ワイヤーがしなり先端の本体が無惨の頭上より襲い来る。
全身の筋肉を余すところなく使い横っ飛びに回避、だが逃げた先でも脅威が待ち受けていた。
「せりゃあ!」
スコルピオワームのカギ爪だ。
マスクドライダーシステムの資格者を苦戦させる、成体ワームの中でも上位の能力を持つ個体。
こちらもベルデ同様今の無惨が相手をするには手が余る。
しかし無惨とてずっと逃げ回るだけに思考を費やしてはいない。
回避では無くあえて真正面からの突進を決行、背中スレスレの位置をカギ爪が通過したが斬られずに凌いだ。
腹部への衝撃に呻くスコルピオワーム、痛みこそ小さいが突き飛ばされ尻もちを付く。
数秒程度とはいえ一人に対してマウントは取れた。
と言っても、無惨が相手をしている他の二名は依然として自由に動けるままだ。
「ドラララララララララァッ!!」
最も耳障りで腹立たしい声が無惨の耳に届き、否応なしに脳が茹で上がる。
殺してやりたい、その顔を引き裂き全身の肉を食い千切ってやりたい。
鬼とは違い人間の血液に不快感を示す肉体であっても、殺してやれるのなら些細な問題だと歪な歯を打ち鳴らす。
だがどれだけ思った所で鉄砲の掃射よりも激しい殴打の嵐を前にして、無惨がやれる事と言ったら回避一択。
一度距離を取るしかなかった。
-
次から次へと敵の増援が現れるこの状況。
無惨が本来辿る筈だった鬼殺隊との決戦と似ているのは果たして偶然か。
未来を見通す力までは有していない無惨からしたら、相見変わらぬ不快感に発狂しそうなのを抑えるので手一杯。
無理やりに動かし続けている事に多少の成果があったのか、放送前よりは肉体にも幾分慣れを覚えている。
尤も少し慣れた程度で好転するような現状ではなく、殺してやりたいミチルには爪も牙も届かない。
全く嬉しくないおまけとして、鬼の肉体には無縁だった疲労が蓄積しているのも非常に鬱陶しい。
いのちのたまのデメリットは容赦なく無惨の体力を削り、彼のストレス増大に一役買っていた。
更に無惨を苛立たせるのは、現在別の者と戦闘中であるキャメロットの存在。
放送前に片腕を失い、もう片方も使い物にならなくしてやったのは覚えている。
だというのに、そんな事実は最初から無かったとでも言わんばかりに両腕は綺麗なままではないか。
どんな小細工を使ったかは知らないが、鬼でもない小娘が短時間で負傷を完治させるなど気味が悪く、不愉快で仕方がなかった。
不快感が絶頂に達しかけている無惨とは反対に、ミチルは自分達の勝利を確信していた。
ハルトマンを殺した白い弓兵の方へ行かせて欲しいとゲンガーに頼まれ、入れ替わりに手を貸してくれた緑の騎士。
自己紹介の暇も無く無惨が襲い掛かって来た為、名前も聞いていないが蓮達と一緒に来たのだから味方と判断して良いだろう。
彼との協力もあって自分達は無惨相手に戦いを有利に運んでいる。
最初は輝哉の死に嘆き苦しみ我を忘れているのだと勘違いした。
蓋を開けてみれば、豹の正体は輝哉が言っていた邪悪極まりない鬼。
アーマージャックのように他者を平然と蹴落とす外道とあっては、ミチルも手加減するつもりはない。
(いける…いけるはず…!)
ベルデが振るったバイオワンダーを避けるも、またもやスコルピオワームが待ち受けている。
無惨も流石に分かっていたのか、スコルピオワームがカギ爪を振るうより先に前足を動かす。
銀の外殻にミーティの名残を覗かせる爪が突き立てられた。
猛獣の爪だろうと強度ならばワームの肉体の方が上。
それを否定するかの如くスコルピオワームの胴体に走る鋭い痛みは、いのちのたまの恩恵があってこそ。
ぎゃっ、と短い悲鳴がミチルにも聞こえて来た。
致命傷には程遠い為か即座に反撃に移りカギ爪を振るうが、察知し避けようと飛び退く無惨の方が速い。
「黎斗さん!」
咄嗟に彼の名が口を突いて出る。
無惨との戦闘で会ったばかりの相手でも、殺し合いを止める志を共にした仲間だ。
負傷した仲間を気遣うのはおかしなことではない。
-
「なんだって?」
そうだ、その行為自体に不審な点は無い。
問題は口にした名前。
その名をスコルピオワームに向けて言うなど有り得ない。
何せ黎斗という名は…
「待て、君はどうして私の名前を知っているんだ?いやそれより、何故あの怪人を黎斗と呼ぶ?」
「え……?えっと…え?あの、言ってる意味が…」
「…意味が分からないはこちらの台詞だ。檀黎斗がこの私以外のどこにいる」
この人は一体何を言っているんだろうか。
檀黎斗とは銀色の異形に姿を変えた白い服の青年の名前だろうに。
ついさっき本人がそう名乗っていた。
なのに目の前にいる緑の騎士に変身した人は、自分こそが檀黎斗だと言う。
困惑を表情に浮かべるが、向こうも仮面越しから戸惑いが感じられる。
嘘を吐いている?いや、こんな状況で嘘を吐く理由が見当たらない。
それに彼の反応は演技では無く素で困惑しているとしか思えない自然なものだ。
サッと顔が一気に青褪める。
同じような状況がついさっきも無かったか?
他人の名を騙り、自分はそれにまんまと騙された。
二度目は絶対に有り得ないと、どうして言い切れようか。
-
「なら…」
檀黎斗が緑の騎士に変身した人なら、あの青年は誰だ。
弾かれたように視線を向け、
「そっか…バレちゃたんだ」
感情の乗らない淡々とした声に、こちらを見つめる兜に隠された瞳の冷たさに、
全身を悪寒が駆け巡った。
「――っ!!」
マズい。
青年の正体が何なのかとか、どういうつもりで檀黎斗を名乗ったのかとか。
そういった疑問全部は後回しにするしかない。
動かなければ、青年が何かをするより早く行動に出なければ。
心臓が奏でる鼓動が異様に速くなり、体中に流れる汗が衣服を濡らす。
動け、動け、動け。
動かないと、死――――
「クレイジー・ダイヤモンドさ
「クロックアップ」
-
○
「ぇ……?」
気が付いた時には全てが終わっていた。
視線の先には鉛色の空。
背中から伝わるのは冷えたアスファルトの硬さ。
ややあって一番の変化に気付く。
胸が炙られているように熱い。
首を動かそうにもやけに億劫に感じられ、辛うじて両目で確認ができた。
赤。
ペンキでもぶち撒けたか、容器いっぱいのトマトジュースでも零したか。
それにしてはツンとした鉄の臭いが鼻孔を刺激する。
それなら答えは一つしかない。
(血…)
誰の、などと考えるだけで馬鹿馬鹿しい。
ついでに言うと、今も胸から溢れ出す量が何を意味するかも分かる。
お人好しで純粋過ぎる面があれど、頭の回転は非常に速い方だ。
だから、全てを理解するのは容易い。
「いや……」
産屋敷輝哉が言い遺した狡猾な鬼。
生きていた頃の彼には何一つとしてしてあげられなかったが、せめて彼が最後まで心残りだったろう悪鬼を倒す事で手向けとする。
不可能だ。
「いや……」
会場のどこかへ転移させた勇気ある少年。
家族を失っても歯を食い縛って戦う彼の安否を確かめ、肩を並べて殺し合いの打破を目指す。
不可能だ。
「こんなの……」
共に殺し合いに参加させられた少女。
家族の死を自分のせいだと責める彼女の心の傷を癒し、この先も友達でいたい。
不可能だ。
何もできない。
誰かの痛みを消し去る事も、誰かの心の支えになる事も、全てが叶わない。
「やだぁ…!」
犬飼ミチルは、ここで死ぬのだから。
-
雨が降っていた。
真っ赤な血も、絶望の涙も洗い流す。
そんな雨が、降り続けていた。
-
◆
想定外だった。
ミチルの仲間らしき男が連れていた内の一人、まさかそいつが本物の檀黎斗だったとは誤算でしかない。
案の定自分へ警戒の眼差しを向けた姿に、メタモンは彼女の殺害を決断した。
自分こそが本物の檀黎斗だと嘘を貫く手もあったが、言った所で向こうが信じる可能性はゼロに等しい。
もっと前からミチルの前で善良な参加者を装い信頼関係を築いていたならまだしも、手短に自己紹介を済ませた程度の間柄だ。
それに本物の黎斗を連れて来た蓮という帽子の男、彼はミチルから相当信頼されているのが戦場に現れた際の反応で見て取れる。
加えてミチルだけでなく、ゲンガーも蓮達の参戦には安堵の笑みを浮かべていた。
どれだけ必死に嘘を吐いてもミチル達は間違いなく蓮と、蓮が共に行動していた本物の黎斗の味方をするのは確実。
だから決めたのだ。
温存していたクロックアップを使い、抵抗する暇も与えずにミチルを殺す事を。
この手で殺したいゲンガーは幽体となり物理攻撃は効果が無い。
仮面ライダーに変身中の黎斗はクロックアップを使っても一撃で殺せるかは微妙。
豹のような参加者も殺せはするが、へんしんする姿は人間の方が後々使える。
標的に選ばれたミチルはメタモンへの反応が遅れ、クロックアップの使用を許してしまった。
カギ爪をミチルの胸から引き抜き、血が付着したままのソレを今度はベルデに振るう。
エナジーアイテムを使ったかのような高速移動と、あっという間に殺害された学ランの少年。
二重の衝撃に硬直から解かれた時には既に、カギ爪はベルデを切り裂いた後だった。
血しぶきのように散らされる火花、よろけたベルデを蹴り飛ばし更に距離を離す。
ゲンガーを殺せず、変身する道具を奪えなかったのは名残惜しい。
しかしクロックアップが無制限に使えるならまだしも、制限がある状態で乱戦に臨むのは利口とは言えない。
放送前の戦いのような、いらないポケモンと捨てられるような無能には成り下がりたくなかった。
一人殺せたので良しと自分を納得させ、ここは早々に退き上げるに限る。
スコルピオワームの変身を解除、すかさず懐から取り出したのはアナザーカブトウォッチ。
アナザーカブトのクロックアップは変身後すぐに使える為、逃走にはもってこいだ。
『カブトォ…』
「へんしん!」
アナザーウォッチを体内に埋め込み、仮面ライダーカブトを歪めた怪人へと変わる。
後はクロックアップを使えば良いだけ、ワームに変身した時と同じ感覚で発動が可能。
既に頭は逃走一択となっているメタモンは戦場の変化に見向きもしない。
自分が今殺した少女の事すら、へんしんする姿が一つ増えた程度にしか見ていない。
「ペルソナァッ!!!!!」
そんなメタモンを、決して許しも逃しもしない男が一人。
偽りの太陽を滅ぼすべく、断罪の光が異形の肉体を貫いた。
-
○
ミチルが殺された。
共にアーマージャックを倒し、シロの死に深い悲しみを見せていた少女。
推定殺害人数なんて物騒な記述を見つけたもしたが、冤罪に違いないと信じられるくらいには優しい人間だった。
だというのに、どうしてミチルは殺されなければならない。
仲間の死は余りにも突然で、理不尽だ。
雨宮蓮の周りはいつだって理不尽に満ち溢れていた。
バレー部への暴力で高巻杏の親友を自殺未遂に追い詰めた鴨志田。
贋作の商売に欲を膨らませ喜多川祐介のサユリへの想いを踏み躙った斑目。
他者をATMとしか見なさない傲慢さで新島真の正義感を嘲笑った金城。
心の怪盗団が対峙して来たのは、他者へ平然と理不尽を押し付け自らの欲を満たす大人達だ。
理不尽が渦巻くのは殺し合いも同じ。
煉獄杏寿郎が死んだ。
シロが死んだ。
志村新八が死んだ。
死んで良い筈の無い者達が、次から次へと命を散らしていく。
そうしてまた一人、蓮の元から去って行った。
仲間の危機に何もできない、気付いた時には最早手遅れ。
愕然とした顔で立ち尽くすゲンガー、白い弓兵を一人で相手取っているエボルト。
こんなに近くにいる彼らがどこか遠く感じられる。
ミチルを殺した怪物は茶髪の青年になり、また新たな姿へと変わった。
沸々と湧き上がる怒り。
ミチルを殺しておいてまだ傷つける気なのか。
どうしてミチルが死ななければならない。
自分はどれだけ命を取り零せば気が済む。
怪盗団のリーダーとしての使命感、悪党を見過ごせない正義感。
それらとは別種の感情が蓮を動かす動力源となる。
背後に出現するは禍津と名付けられた魔人。
全身に纏うオーラは偶然にも絆を結んだ共犯者が変身する姿と同じ、血を被ったような色。
主が抱く負の感情に促されるまま、長得物より閃光を放った。
-
○
「ぎゃああああああああああああ!!!?!」
喉が枯れるような絶叫を上げ、苦痛を訴える異形。
直撃した光はアナザーカブトの全身を焼き焦がす激痛を与え、逃走を阻止するのに成功。
マハジオダイン。
広範囲の敵に電撃属性の大ダメージを与えるスキルは、アナザーライダーの肉体をも容赦なく痛め付けた。
焼けた肉体からは刺激臭が漂い、それが却ってメタモンを正気に戻す。
痛みにいつまでも悶えている余裕が抱ける状況ではない。
攻撃して来た者への無防備を晒していてはマズいと振り返る。
「ぶぐぅっ!?」
直後、視界いっぱいに入ったのは黒い握り拳。
人間で言えば丁度鼻の部分への一撃に、頭の奥まで響くような痛みが来た。
目から星が出る、陳腐な喩えを味わうかのように視界が安定しない。
顔への痛みも引かない傍から、脇腹へ走るのは鈍痛。
足首に装着されたアンクレットがジョーカーメモリの力を増幅、脚力を限界まで強化。
しなやかながら敵を射る針のような鋭さも持ち合わせた蹴り。
焼かれた箇所への追い打ちとも言える痛みに悲鳴が漏れるのを抑えられない。
思わず蹴られた箇所を抑えながら後退る。
「ぎぃっ!?」
その行動をジョーカーは許さない。
逃がしてなるものかと力強く踏み込み、左手のスチームブレードを振り下ろす。
武器内部の機能が刃を急速加熱し、溶かしながら斬るという独自の効果を付与。
マハジオダインで焼かれた身体へ更なる熱が襲い、まるで拷問を受けているようだった。
-
「調子に…乗るなああああ!」
一方的に痛めつけられ遂にメタモンが怒り叫ぶ。
吠え立てたくらいではジョーカーが止まらない事は分かっている、故に多少の痛みを無視して殴りかかった。
アナザーカブトとて元は仮面ライダージオウこと常磐ソウゴの前に立ち塞がった怪人。
そうそう簡単に撃破されるような存在ではない。
反撃を受けたジョーカーが怯み、今度こそクロックアップを発動させるべく腰の装飾に手を当てる。
「ペルソナ!」
させじと歯を食い縛って痛みに耐え、ケツアルカトルのスキルを発動。
巨体を震わせメタモンの全身を弾かれるような痛みが駆け巡る。
一瞬、クラリと脳に不快な感覚が走るも頭部を振って正気を保つ。
もう邪魔をされて堪るかとクロックアップを――
「……え?」
クロックアップをどうやって使うのか分からない。
これまで問題無くやれていたのが急にどうすれば良いのか思い出せない。
肝心の発動の仕方だけが頭の中からスッポリと抜け落ちたかのようだ。
ケツアルカトルが放ったスキルの名は忘殺ラッシュ。
敵全体に物理属性のダメージを与える以外にもう一つ、対象を忘却状態にする効果を持つ。
忘却状態にされると固有のスキルを一定の間、忘れてしまったように使えなくなる。
アナザーカブトのクロックアップを急に発動不可能になった原因は、このスキルを受けたからだ。
「な、なんで…ぐげっ!?」
理由を知らないメタモンは混乱するばかりだがジョーカーには関係無い。
敵の動揺など知った事かと言わんばかりに責め続ける。
わなわなと震える胴体へ捩じり込む拳、内臓まで潰されたと錯覚する痛みでメタモンは吐き気を覚えた。
-
くの字に曲がった体、地面を向いた顔に再び拳が叩き込まれ無理やり上を見上げる体勢となる。
視線が灰色の雲を見ている間、スチームブレードが肉体を焼き傷をより深く抉った。
よろけて下がった時は攻撃の手も止まった、そう思った次の瞬間回し蹴りが炸裂。
蹴り飛ばされて背中から地面に叩きつけられる。
「マガツイザナギ!」
起き上がる事など許可していない。
自分を見下ろす赤い瞳はそう告げているようで、言葉では無く暴力が降り注ぐ。
スチームブレードを放り投げ、両の拳を幾度となく叩きつける。
その度に、聞くに堪えない潰された声がメタモンから発せられた。
痛め付けるのはジョーカーだけではなく、彼の背後に立つペルソナも同じ。
憎き相手を嬲るが如き鬼気迫る様で、マガツイザナギが長得物を幾度も突き立てた。
「アアアアアアアアアアッ!!!」
「ぐべっ!ぎゃいっ!ごぶっ!も゛、や゛べ、ぶぶぅっ!?」
静止を求める声は届かない。
顔面を貫くのではと思わせる勢いで拳が突き刺さり、ビクビクと全身が痙攣する。
これまで耐えて来たアナザーカブトの肉体にも限界が来たのだろう、首元からアナザーウォッチが排出された。
ジョーカメモリはただ単に格闘能力を強化するだけではない。
使用者の感情が激しく揺さぶられれば揺さぶられる程高いエネルギーを発し、性能の限界を超えた力を引き起こす。
ミチルを殺したメタモンへの怒りはメモリの能力を最大以上に高め、反撃もロクにさせない猛攻を可能にした。
(こ、殺される…!)
生身に戻り腫らした顔を恐怖で引き攣らせる。
早くスコルピオワームに変身し、黒い仮面ライダーから逃げなくては。
自分はまだたくさんの姿にへんしんしなくてはならない、へんしんこそが最強の技だと証明しなければ。
死んでしまえば、自分は一生「いらないポケモン」のままだ。
それに道半場で死んだら願いも叶えられなくなる。
優勝し、姉を生き返らせる事だって…
-
「は?」
自分は今何を考えた?
生き残る理由はへんしんする姿を増やし、それからワームに殺された姉を生き返らせる。
違う。姉を殺したのは自分だ。彼女を殺し弟に擬態した。
違う。自分は神に代わって剣を振るう男。全てのワームを倒し頂点に立つ。
違う。自分はワーム。だから自分も含めたワームを消し去る。
違う。ワームは天道達の手で根絶された。だから自分も消えなければ。
違う。自分は既に死んだはず。あの夜、じいやが最後まで手を握ってくれて
「ちが…違う…ぼくは…違う!」
違う。自分はメタモン
違う。自分は神代剣。
違う。自分はポケモン。
違う。自分はワーム。
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。
「ぼくはメタモンだ…!メタモンなんだよぉ…!!」
村で両面宿儺が変身したカブトを前に、脳裏に蘇った記憶。
自分のものではないそれに深く考えるより先に、へんしんを一つ奪われ過去のトラウマが再発。
精神的な問題もあって忘れかけていた記憶が、今になってより鮮明に浮かび上がった。
メタモンにとっては全く歓迎できない事態だ。
己のアイデンティティのへんしんみならず、メタモンという存在自体が掻き消され否定されるに等しい。
「ぼ、ぼくは、へんしんだ、こんな、こんないっぱいへんしんする、ぼくはメタモン」
メタモンには最早自分が何を言っているのかも分からない。
ただ己の存在を確かめるかのように思い付いた言葉を片っ端から吐き出し、姿を変えていく。
銀色の怪物、緑の帽子を被った青年、特徴的なリーゼントヘアーの少年。
そして最後に、正気を失った笑みを浮かべる神代剣へと。
-
『JOKER MAXIMAM DRIVE!』
メタモンが見せた一連の行動はジョーカーを止めるに至らない。
むしろ一瞬とはいえ仗助に擬態した事で、火に油を注ぐ結果となった。
仲間を殺すだけでは飽き足らず、その姿まで奪う。
拳を振り下ろさない理由が、どこにあるというのか。
スロットに装填したメモリから、腕部を強化するエネルギーが拳へ伝達。
黒紫色の炎が宿り、破壊力を極限まで高める。
街を泣かせるドーパントを撃破し、バトルロワイアルにおいても度々振るわれた技。
それを今、異形の姿を解かれた青年にぶつけようとしている、
蓮は、心の怪盗団のリーダーは、仮面ライダージョーカーは
【踏み止まる】
→【振り下ろす】
本当にこの選択で良いのだろうか…
【踏み止まる】
→【殺す】
「うわぁぁアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
怒りに身を任せるように、或いは迷いを振り切るように叫び声を上げる。
そして、視界が赤く染まった。
壊れた笑みは原型を留めず破壊され、赤とピンクが混じった肉が散らばった。
ふと、どこか見覚えのある光景に感じられるのは気のせいだろうか。
ややあって、ああと思い出す。
殺し合いが始まって間もない頃、公園で見つけた女の死体。
それと同じ惨状を自分が作ったのだ。
-
○
「何でだよ……」
誰に向けるでもなく口から這い出た呟きは雨音に掻き消される。
ミチルが殺され、殺した奴の正体はメタモンで、メタモンは蓮に殺された。
足元に根を張ったように一歩も動かず、一部始終を見たゲンガーの表情はまるで全てに疲れ切った老人のよう。
これで5人目だ。自分は後何人関わった者の死を目の当たりにしなければならないのだろうか。
「君一人になっちゃったね」
『ああ、全員傷心中なもんでなァ!』
ゲンガーの精神状態に関係無く、戦い自体は未だ継続中。
遺されたエボルト単独でダグバを相手取る他無かった。
ソニックアローとエターナルソードが斬り結ぶ。
リーチ・威力共に勝っているのはエターナルソード。
真の力が封じられていようとそこいらの剣が鈍ら同然の切れ味・強度を誇る。
だがソニックアローとて新世代のアーマードライダー専用の装備だけあって、高い性能を持つ。
精霊王オリジンの力を借りて作られた武器相手でも破壊される事なく打ち合いが可能だった。
急所を狙った長い刀身をソニックアローで防ぎながらも、反対の手に警戒をする。
案の定右手が跳ね上がりトランスチームガンの照準が向けられた。
相手の武器が剣一本銃一丁のどちらかならまだしも、両方では少しばかりやり辛い。
斬り合いを続けたまま銃弾を防ぐのは困難、ゴムのように柔軟な靴底で地面を踏みしめ背後へ跳ぶ。
距離を取ったと同時に響く銃声、ソニックアローを回転させるように振るい高熱硬化弾を斬り落とす。
このまま弾を防ぎ続けているだけでは動きを止められたも同然。
身を捻るようにして横へと跳ぶ、身体の端を掠める銃弾は無視して弦を引き絞り発射。
敵もまたステップを踏むようにエネルギー矢を回避、トリガーを引き続ける。
弦を引いて放つ弓と、引き金を引く銃。
攻撃に必要な工程が一つ多い分、隙ができやすいのは斬月・真。
一発ごとの威力はまだしも、連射性においてもやはり銃が上。
遠距離の撃ち合いもまた、ブラッドスタークが事を有利に進めていた。
-
「もうちょっとかな…」
敵に向けてではなく、何かを確認する為の言葉だ。
もう少しで自分の望み通りの展開になる、だからその時までは斬月・真のままで楽しむとしよう。
あくまでも殺し合いをゲームと捉えた思考で、ロックシードをソニックアローに装填。
エネルギーが充填され、必殺の威力を矢に付与する。
『ロックオン!メロンエナジー!』
通常の攻撃時以上の光を発し、緑の矢が射殺さんと迫る。
一方のブラッドスターク、敵が錠前を弓に装填した時点で高火力の攻撃が来ると確信。
敵のライダーシステムは初めて見るが、一連の動作はこちらの知識にある姿と似通っていた。
ならば対処法は実にシンプル、同等の威力で真っ向から相手をしてやる。
コブラロストフルボトルをトランスチームガンのスロットに装填、ボトルの成分が銃弾を強化した。
――STEAM BREAK!COBRA!――
矢を噛み砕き、その先にの斬月・真をも喰い殺すコブラ。
コブラを射抜き、その先のブラッドスタークをも仕留める矢。
殺意を十分に籠めた互いの一撃は喰らい合うようにして爆発、エネルギーの余波が両者を襲う。
吹き飛ばされたブラッドスタークが受け身を取り、顔を上げると視覚センサーが瞬時に敵の姿を感知。
再度ロックシードをソニックアローに装填していた。
『メロンエナジースカッシュ!』
アークリムにエネルギーが迸り、横薙ぎに大きく振るう。
緑色の刃が衝撃波となって離れた位置のブラッドスタークへと襲い掛かった。
今度はトランスチームガンにボトルを装填する時間はない。
全身を赤い液体状に変化させ、地を這うかのように移動し回避。
頭上を刃が通過した後で実体化、視界の端では刀を弾き飛ばされたゲンガーが慌てて拾いに行くのが見える。
刃を飛ばして来た当の本人は何故か変身を解除し、生身を晒していた。
ゲネシスドライバーをデイパックに仕舞い、新たなベルトに手を伸ばす。
-
『ARK ONE』
「もう良いみたいだね」
ベルトを巻き、手にしたプログライズキーを起動させる。
地の底から響くような電子音声は、変身が可能だと知らせる合図。
ゲネシスドライバーと違い再変身に一定の時間を必要とする制限が掛けられており、ダグバはこの時をずっと待っていたのだ。
男女問わず凍った心を解きほぐす笑みで、新たなステージの始まりを告げた。
「変身」
『SINGURISE』
アークドライバーワンから放出された液体金属が、ダグバの全身を包み込む。
赤い稲妻を発しながら瞬く間に硬質化、パワードスーツへと形を変えた。
胸部を覆う装甲にも赤いクロスしたラインが走り、白をより一層際立たせる。
異なる色の瞳を光らせ、全てのフェーズが完了。
『破壊 破滅 絶望 滅亡せよ』
『CONCLUSION ONE』
メロンを被ったライダーとはまた別の姿。
ベルトも違う事から根本的に別物のライダーシステムらしい。
だが外見や使用した道具の違いは重要ではない。
装甲の上からでもヒシヒシと感じる、肌を刺すようなプレッシャー。
直接対峙しているだけで、相手の危険度が爆発的に跳ね上がったと理解する。
「あいつ…!」
チラと横目で見やれば、戦慄を露わにしたゲンガーの姿があった。
幽霊のような状態となっているのに、分かり易く恐怖を表情に貼り付けるとは。
どこかシュールな絵面だが、冗談めかして笑い飛ばせる状況ではない。
「あの白いの…アレがハルトマンを殺したやつだ…!」
『成程ねぇ…』
今の姿で猛威を振るいハルトマンを殺したのなら、ゲンガーの反応も納得だ。
ブラッドスタークでどこまで食らい付けるか。
手持ちのカードを思い浮かべ、生き延びる算段を組み立てる。
その眼前へこれまでとは段違いの速さで迫り、悪意の象徴が牙を剥いた。
-
○○○
雨が勢いを増している。
掌にこびり付いた血も洗い流してくれるだろう。
だけど、別の大事なものまで流されていくような。
そんな気がしてならなかった。
-
◆
アークワンを前にしたブラッドスタークの戦闘方法は変わらない。
左手の剣を振るい、右手の銃を撃つ。
エターナルソードが優秀な武器なのは今更説明するまでもなく、トランスチームガンは使い慣れた装備。
並大抵の相手ならば1分と掛けずに仕留められる。
「えいっ」
『ぅおっ!?』
残念ながらアークワンはその並大抵の枠には入らないライダーだ。
刃を素手で弾き、時には流水の如き軽やかな動作で以て躱す。
そうして生まれた小さな隙を突いて打撃を放ち、着実にダメージを与えんとする。
攻撃が空振りした直後に迫る拳、ブラッドスタークもまたアークワン同様の動きで対処した。
大きく身を捩ればその分次の動作に遅れが出る為、回避はあくまで最小限の動きに留める。
装甲を掠めるだけでも刺すような痛みが来るが、直撃を食らうよりはマシと無視。
握った拳を解き手刀に変え、ブラッドスタークの喉を襲う。
エターナルソードを翳して防御、ソニックアローを振り回していた時よりも一撃が重い。
刀身より伝わる痺れはより強く柄を握り締め誤魔化し、薙ぎ払うように大きく腕を動かす。
威力は高いだろうが隙が大きく躱しやすい、スッと身を引いただけで剣は当たらない。
『そらよっ!』
「わっ」
しかし次の動きにはアークワンも多少の驚きがあったらしい。
自らの頭部をブラッドスタークが突き出した。
頭突きという原始的な手に出たのではない、煙突のような一本角をアークワンに向ける為だ。
セントラルスタークという煙突型のユニットより、勢いよく蒸気が噴射する。
標的は至近距離にいるアークワン、その顔面へモロに噴きかけられた。
生身の相手ならば顔中の皮膚が焼け爛れるが、アークワンは頭部を保護するパーツも非常に高い耐久性を持つ。
その点はブラッドスタークも分かっており、これはあくまで目眩まし。
蒸気で視界が塞がれるのは一瞬のこと、視覚装置が作動し敵の位置を炙り出す。
-
距離を取ったブラッドスタークを真紅の瞳が睨み付ける。
元より視界を封じれるのは数秒にも満たないだろうと踏んでいたので、今更怯えもしない。
エターナルソードを地面に突き刺し、手にしたフルボトルをトランスチームガンに装填。
こちらが銃口を向けると相手も掌を翳す。
倒せはしないだろうが少しはダメージを期待して、トリガーを引いた。
――FULL BOTTLE!STEAM ATTACK!――
ロケットフルボトルの成分を付与したエネルギー弾を発射。
命中し爆発に巻き込まれるだろう予想は呆気なく打ち砕かれる。
アークドライバーワンの中央部が発光、変換された悪意のエネルギーが腕へと流れ込む。
翳した掌を照射口としてスパイトネガが放たれると、エネルギー弾は跡形も無く消滅。
余波だけでブラッドスタークの装甲からも軽く火花が散った。
大きな期待はしていなかったとはいえ、こうも呆気なく対処されるとうんざりするというもの。
ため息一つを零す間にアークワンが接近し蹴りを放った。
対するブラッドスタークも警戒は一切緩めていない、合わせるように蹴り上げ互いの脚部がぶつかり合う。
装甲が軋み、このままぶつけ合ってもこちらが不利と察したブラッドスタークは足を引っ込める。
「アルセーヌ!」
聞き慣れた声を聴覚機能が拾った。
シルクハットの頭部を持つ怪人がアークワンとの間に割って入るように出現、異様に長い脚を振り下ろす。
片腕で踵落としを防ぐと怪人は霞のように姿を眩まし、再度距離を取ったブラッドスタークの隣に黒いボディの戦士が並んだ。
-
○
足元に転がるのは顔を潰された死体。
体格から男性だとは分かるものの、生前どんな顔をしていたのかは誰も分からないだろう。
まだ殺し合いが始まったばかりの時、同じように顔をミンチにされた死体を見た。
もっと早くに見つけられたら、殺される前に助けられたのにと無力感を味わったのを覚えている。
今度は自分が死体を作る番になった。
シャドウを倒す時とは違う感覚。
感情の一側面を具現化させた存在を、仲間と協力し華麗に蹴散らすのではない。
拳に付着した血が明確に命を奪い去った事を嫌でも実感させる。
誰かに強要されて殺した訳では無い。
紛れも無く蓮自身がこれで良いと選択し、拳を振り下ろした結果だ。
ミチルを殺した許し難い男を同じように死へ追いやり、終わってみれば達成感や満足感は微塵も訪れない。
代わりに取り返しの付かない何かをしたような、仲間達の顔をマトモに見れないような後ろめたさだけが去来した。
当たり前だ、オタカラを盗み悪党を改心させる怪盗団のやり方とは違う。
自分で決めた事だというのに、殺したという事実が今更になって重く圧し掛かる。
雨で洗い流されたはずの血が、未だにこびりついているように見えた。
「……っ」
しっかりしろと自分に言い聞かせ、軽く頭を振るう。
やった事に言い訳をする気は無い。
簡単に割り切ったり、吹っ切ったりしていいものでも無い。
それでも今は戦いを放棄する事無く、戻らねばならなかった。
-
「雨宮君…」
気遣うような声色で背後から話しかける者が一人。
カメレオンに似た頭部の騎士、仮面ライダーベルデに変身した黎斗だ。
仮面に隠され素顔は見えないが、心配気な表情をしているだろうことは態度からも察せられる。
ポンと肩に軽く手を置き、慎重に言葉を選びながら口を開いた。
「今すぐ整理を付けるのは難しいとは思う。だが…」
「…分かってます。まだ戦いは終わってない」
そうだ、敵はミチルを殺した青年だけではない。
白い弓兵の相手をエボルトとゲンガーに押し付けてしまった。
すぐに戻らなくては。
黎斗の言う通り簡単に整理できる精神状態でない事は自覚している。
だがそういった事情は全て後回しだ。
今はとにかく、戦いの場へ戻り自分のやるべき事を果たす事に集中するしかない。
エボルト達の元へ駆けて行く背中を見送り、黎斗もまた自身の敵へと意識を戻す。
蓮が言ったばかりではないか、戦いは終わっていないと。
ならば自分も敵の排除へ取り掛かるまで。
「…なんだと?」
その筈だったが、とんだ肩透かしを食らう羽目になった。
さっきまでミチル達と共に相手をしていた豹。
言葉を話さずとも敵意を撒き散らしていた猛獣は何時の間にやら遠く離れた位置にいる。
こちらに尻を向け歪な足を必死に動かす姿は、誰がどう見ても逃げているとしか思えないものだった。
-
○
『よぉ。復帰早々悪いが手伝ってくれ。俺だけじゃちょいとキツいんでな』
「ああ、遅れてすまない」
軽口への返答は簡潔に済まし、白い仮面ライダーへと集中する。
対峙しているだけで喉がヒリつく程のプレッシャーだ。
ドス黒いオーラを纏っているかのような錯覚を覚え、アーマージャックを相手にした時と同じ緊張感が漂う。
間違いなく、先程までのメロンを被った戦士よりも危険。
ゴクリと唾を飲み込んだ音がやけに大きく聞こえた。
「ペルソナ!」
自らの恐れへ決別するかの如く、力強い呼びかけでアルセーヌを出現させる。
放つスキルはラクンダとスクンダ。
一定時間の経過により効果が切れたステータス低下を再度引き起こす。
アークワンの耐久性と敏捷性が削ぎ落される。
更にペルソナをマガツイザナギにチェンジ、自分とエボルトを対象にヒートライザを発動。
SP消費は馬鹿にならないが出し惜しみして負けるよりは積極的に使うべきだ。
力が漲り体が軽くなった。
少しでもこちらの勝ち筋を上げ終えると、準備が整ったとばかりに疾走。
ジョーカーの身体能力にステータス強化のスキルを上乗せし、爆発的な加速力を得ている。
駆け出すと同時にジョーカーメモリをスロットに装填、右拳へエネルギーが集まっていく。
全身が弾丸と化した勢いのまま、真っ直ぐに拳を突き出した。
「ライダーパンチ!」
風都最大の危機を迎えたNEVERとの戦いでは、メタルドーパントを撃破した技。
ペルソナのスキル効果もあり、あの時よりも威力は格段に上。
ドーパント相手ならば即座に片が付いてもおかしくない一撃はしかし、アークワンが僅かに顔を逸らしただけで不発に終わった。
避けられた、そもそも今の自分の速さ相手に反応された。
驚愕が脳内を支配し凍り付くジョーカー。
その顔面をアークワンが鷲掴みにし、五指にゆっくりと力を入れる。
メモリの力で肉体を変化させた強化皮膚は頭部にも行き渡っているというのに、軋みを上げ痛みが襲って来た。
-
「ぐ…あぁぁ…!!」
アークワンの腕を引き離すべく右手で掴むがビクともしない。
左手で振るったスチームブレードも腕の装甲で弾かれている。
このままではたとえ変身していようと砕かれるのは時間の問題。
であれば、危機に駆け付けるのは彼の共犯者。
赤い影に変化し地面を這い、アークワンの背後で実体化。
がら空きの背中に向けてエターナルソードを振り下ろす。
だが当たらない。
背後を見ないままに振るった裏拳で刃を弾き、次の斬撃が来る前にスパイトネガを放射。
後ろにも目があると錯覚させる動きだ、舌打ちしながらエターナルソードで防御の態勢を取った。
「ペル、ソナッ!」
マガツイザナギが長得物をアークワンに叩き込む。
ダメージこそゼロに等しいが拘束する力は緩んだ、胴体を蹴り上げ後方へと退避する。
「ペルソナ!」
発動するスキルはまたもやマガツイザナギのもの。
長得物を豪快に振り回し斬撃の嵐を巻き起こす、木っ端微塵斬り。
アークワンと周囲一帯が切り刻まれ、地面にも無数の痕が刻まれていく。
「なっ!?」
ジョーカーが驚愕するのも無理はない。
アーマージャックをも一度は地に伏せたスキルが直撃して尚も、アークワンは不動のまま。
装甲にもパワードスーツにも傷は見当たらない。
一度だけ鬱陶し気に肩を回し、直後ジョーカーへと急接近した。
-
『俺を忘れるなんざ悲しい真似はするなよ』
アークワンがジョーカーの眼前へ到達したのと同じタイミングで、ブラッドスタークも赤い影状から実体化。
ジョーカーヘ放たれた蹴りを防ぎ、相棒が動く隙を作ってやる。
意図を察せない程鈍い頭では怪盗団のリーダーは務まらない、アークワンの真横へ移動しスチームブレードを振るう。
『二対一で悪いが恨むのは無しだぜ!』
軽口を叩きながら振るわれたエターナルソードを、肩部装甲を変化させ防ぐ。
ブラッドスタークの顔面を串刺しにせんと、流体金属が鋭利な形状となった武器。スパイトエッジが突き出された。
エターナルソードを翳して防御、キリキリと金属同士が擦れる。
流体金属の変化は一つに留まらない、枝分かれしたように刺突剣を伸ばしブラッドスタークへ到達させようと迫った。
「くっ!」
ブラッドスタークに向けたのとは反対の肩部装甲も同じ変化を見せ、ジョーカーを襲う。
スチームブレードを振るい、時にはアルセーヌのスラッシュで弾く。
だがそうやって一つ防いだ傍から、三つ四つと新たな刺突剣が来るため対処が間に合わない。
ペルソナをマガツイザナギにチェンジし、長得物を大きく振り回す。
リーチがある分こちらの方がまだ防ぐのに向いている。
「ぐあっ!」
それでも次から次へと数を増やすスパイトエッジに手を焼き、とうとう胸部を突き刺された。
本体が怯んだ事でペルソナも消失、遮る物の無くなった凶器の群れが殺到。
ジョーカーが歪な剣山と化す前に銃声が幾つも木霊し、スパイトエッジが破壊されていく。
エターナルソードを振り回して自身へ迫る刺突剣を防ぎつつ、ジョーカーの方へ銃を向けたブラッドスタークだ。
礼を言う代わりに頷き返しペルソナをチェンジする。
「ケツアルカトル!」
マハガルーラを放ちスパイトエッジを纏めて吹き飛ばす。
無数の刺突剣が消えアークワンへの接近が可能となり、すかさずメモリをスロットに装填した。
-
『JOKER!MAXIMAM DRIVE!』
「ライダーキック!」
アンクルにクレストが浮かび上がるのは、エネルギーが伝達された合図。
跳躍しアークワンの胸部目掛けて飛び蹴りを放った。
靴底より衝撃が叩き込まれる寸前で上半身を捩る。
アークワンに当てる筈だった蹴りは装甲をほんの少し掠めるのみ。
攻撃が当たらず、敵へ自ら接近している。
これを隙と言わずに何と言うのか。
腹部へ捩じり込むように放たれる拳、ジョーカーの体が打ち上げられた。
「がはっ…」
強化皮膚など何の意味も無いのではないか。
そう思ってしまう程の痛みが引くだけの猶予を与えず、ジョーカーと同じ位置まで跳躍し追い打ちを掛ける。
が、アークワンがそれ以上ジョーカーを痛めつける事は無かった。
エメラルドグリーンの巨体を持つコブラが出現、ジョーカーを咥えて回収したのだ。
空を切るアークワンの攻撃、標的を邪魔をしたコブラへと変更。
察知したコブラがジョーカーを放り投げると、ややふらつきながらも着地に成功。
アークワンが地面に落ちる気配は無い。
まるで見えない足場があるかのように、宙へと浮いたままである。
脛部装甲に備わった機能を使い引力を操作、空中浮遊を可能としているのだ。
掌の照射形成機を向け、アークドライバーワンから悪意を変換させたエネルギーが流れ込む。
地上より見下ろすコブラも口を大きく開け、迎撃態勢に入った。
スパイトネガと火炎がほぼ同時に放射。
勝利したのはアークワンの放つ波動、コブラの巨体は飲み込まれエネルギー体故に霧散する。
-
『一旦返せ!』
「っ、ああ!」
コブラを召喚したブラッドスターク本人もこの結果は予想の範囲内。
投げ返されたスチームブレードをトランスチームガンと合体、連射性能と狙撃精度を高める。
――ROCKET!STEAM ATTACK!ROCKET!――
追尾機能付きのロケット弾が、煙を噴射しながらアークワンを狙い撃つ。
ジョーカー達の頭上で爆発が起き、煙が彼らの視界を一時的に封じた。
直後、爆風をスパイトネガで吹き飛ばしながらアークワンが地面に降り立った。
ロケット弾が効いた様子は見られない。
両手を翳し照射形成機から赤い光線を放つ。
但し此度は直接攻撃の目的ではない。
アークワンの照射形成機はスパイトネガを放出するのみが機能ではない。
多次元プリンター能力により武器をその場で製造する事も出来る。
人工知能アークが配下のヒューマギアを使って変身した仮面ライダー、アークゼロと同じ力だ。
青いラインが特徴の拳銃型変身ツール、ショットライザーを二丁生み出し銃口を向ける。
50口径の対ヒューマギア用徹甲弾を連射、常人ならば肩が吹き飛ぶ反動も問題にならない。
エターナルソードをジョーカーに投げ渡し、ブラッドスタークは地面を転がって回避。
徹甲弾を紙一重で躱しながら自身もトランスチームライフルを撃つ。
「うわっ」
『良い腕してるだろ?』
ショットライザーを連射したアークワンに比べて、ブラッドスタークが撃った弾は少ない。
しかし狙いは正確無比。
両手のショットライザーに命中させ弾き飛ばした。
銃撃の嵐が強制的に止まり、エターナルソードで防御していたジョーカーが接近戦に持ち込める状況の完成だ。
-
斬り掛かるジョーカーを前にしてもアークワンは慌てず掌を向ける。
光線を発射し再度武器を製造。
ライトグリーンのラインが入った剣、アタッシュカリバーを装備。
元はゼロワンが使っていたアタッシュウェポンは、装甲車を一撃で切断する破壊力を誇る。
エターナルソードと打ち合うのにも問題無い武器だ。
剣の扱いには慣れていないが、ジョーカーの身体能力と剣自体の破壊力で補う。
僅かにアタッシュカリバーが押されるも、スパイトネガを放出。
赤黒いオーラを刀身に纏わせ破壊力を爆発的に上昇。
エターナルソードを押し返すと、力任せに防御を崩し切り込む。
刀身がジョーカーの胴体を走る直前に連続して銃弾が命中。
狙いを外されたアタッシュカリバーを避け、エターナルソードで薙ぎ払うように斬る。
「残念だったね」
「くっ…」
エターナルソードがアークワンに当たる事は無かった。
もう片方の手にもアタッシュカリバーを製造、装備し防御に翳したのだ。
そちらにもスパイトネガを流し込み、赤黒いオーラを纏った双剣を振りかざす。
「ッ!!」
エターナルソードで咄嗟の防御こそ間に合ったが、到底防ぎ切れない斬撃の嵐がジョーカーを襲う。
防ぎ漏らした箇所から次々と火花が散り吹き飛ばされる。
ロクに受け身も取れず地面に叩きつけられ、変身解除されなかったのは奇跡だろう。
手元にエターナルソードが有り、ヒートライザで耐久力を強化していた恩恵だ。
それでも決して軽くないダメージで、立ち上がろうにも激痛が走り力が入らない。
-
『で、今度は俺の番ってことかい!サービス精神旺盛で嬉しい限りだ!』
軽口の返答として急接近し双剣が振るわれた。
トランスチームライフルのブレード部分で防御し、時には装甲ギリギリの位置を躱す。
小さな隙を突いては至近距離で引き金を引き、麻痺毒を含ませた蹴りを放つ。
どちらもアークワンには届かない。
蝿でもはたき落とすような容易さで斬り落とされ、麻痺毒もまた効果が無し。
互いに目立ったダメージは無く、一見すれば互角。
実際はブラッドスタークが不利であるし、本人もその点は理解していた。
アークワンは億単位の非常にハイスペックな演算能力がある。
敵の動きを予測し常に先手を取り、攻撃に対しても最適解を即座に弾き出す事が可能。
多対一でも圧倒し瞬く間に戦闘不能へ追い込む程だ。
これによりブラッドスタークがどこから攻撃してこようと、その全てが見えているかのように対処できる。
トリガーに指をかけたなら、引く前に銃身をずらし当てさせない。
麻痺毒を放った蹴りも、足を動かしかけた時点で既にどの方向へ避ければ良いか答えを決定済み。
仮面ライダーゼロツーにこそ一歩劣るものの、破格の性能を持つライダー。
そんなアークワンに不利とはいえブラッドスタークは食らい付いている。
これにも理由があった。
トランスチームシステムにはハザードレベルの変化を引き起こす機能は無く、殺し合いに参加した時期のエボルトはまだ感情を得ていない。
故にビルドやクローズといった仮面ライダーと違い、ハザードレベルを上昇させ自身を強化するのは不可能。
代わりにブラッドスタークには、バイザーから伸びたブレード状の箇所にデータ収集装置が搭載されている。
装置をフル稼働し戦闘データをリアルタイムで集約、敵の一挙一動から細かい癖まで全てを観測していた。
これによってアークワンの動きを読み取り、対処を可能としたのである。
尤も実際に可能とするには相応の戦闘技術が必須だが、その点は変身者であるエボルト自身のスペックでクリアされた。
-
とはいえこれだけで勝てる相手なら、アークワンはこうも猛威を振るってなどいない。
演算能力以外にアークワンが持つ絶対の力、スパイトネガ。
変身者の悪意を破壊のエネルギーに変換し攻撃に用いる能力。
波動として放つ以外にも使い道があり、現在の戦闘でも使用している。
それはスパイトネガを自身に纏わせ攻撃を強化するもの。
スパイトネガは変身者の悪意が強大であればある程、より力を増す。
自らの心を憎悪で縛り付けた飛電或人もまたアークワンに変身したが、彼は元々善人の側にいる青年だ。
対してダグバは究極の闇をもたらすグロンギ族の王、秘める悪意に底はなく無尽蔵と言っても過言ではない。
その為スパイトネガによる強化は留まる所をまるで知らず、ブラッドスタークが食らい付いた傍から一気に引き離す事だって可能。
ギリギリで躱していたのにも限界が訪れるのは時間の問題だった。
とうとうその時はやって来る。
片手でトランスチームライフルに対処しながら、もう片方の手はアタッシュカリバーを投げ捨て新たに武器を製造。
バトルロワイアルにおいては脹相に支給された銃、アタッシュショットガンをブラッドスタークに突き付ける。
『ッ!おいおい!』
ブラッドスタークが焦りを露わにするのも無理はない。
ショットライザー以上の威力を秘めた銃が、至近距離で向けられている。
睨み付ける銃口には赤黒いオーラが纏わりついており、スパイトネガで威力強化を図ったのは明らかだ。
ダメージゼロで切り抜けるのは不可能と判断、ならば少しでもダメージを軽減する方へ持って行く。
胸部装甲にの装飾が発光し、召喚された大蛇を即席の盾として自身に巻き付ける。
同時にアタッシュショットガンの引き金が引かれ、貫通力に優れた大型の弾丸が発射。
大蛇を盾にした甲斐もあってある程度は威力が削ぎ落されるも、やはりダメージ自体の無効化は叶わない。
装甲から火花を散らして吹き飛ばされ、偶然にもジョーカーの傍へ叩きつけられた。
『っ、ああ痛ぇなオイ!大怪我でも負って活動休止になったら堪ったもんじゃねぇな』
心にもない事を口にする態度は変わらないが、受けたダメージは洒落にならない。
アーマージャックやディケイドに続き、今度もまた化け物染みた力の持ち主だ。
貧乏くじばかり引かされている気分になるも、愚痴った所で状況は好転せず。
揃って倒れた二人を見下ろし、アークワンはドライバー上部のスイッチに手を掛ける。
このまま一気に終わらせるつもりだ。
-
『悪意』
『恐怖』
『憤怒』
『憎悪』
『絶望』
『PERFECT CONCLUSION』
ハルトマンを殺害した蹴り技の時と違い、五段階までのラーニング5で放つ。
全方位にスパイトネガを放ち周囲一帯を衝撃波で消し飛ばす技だ。
だがダグバが変身したアークワンは、或人の時とは違う行動に出る。
アタッシュショットガンを放り投げて、代わりに取り出した八角形の道具を翳す。
霧雨魔理沙のマジックアイテムはこれまで、魔力の代わりにロックシードのエネルギーを代用して攻撃に用いていた。
と言う事は、代用可能なエネルギーが他にもあれば同じく攻撃に使える。
アークワンにはスパイトネガというこれ以上ないくらいの、悪意のエネルギーが宿っている。
加えてアークローダーを押し込みスパイトネガの出力を底上げした状態故に、ロックシードを使っていた頃より脅威も格段に増している。
スパイトネガが充填されミニ八卦炉が一層の邪悪な輝きを発する。
自分を楽しませた相手を消し去ってやるべく、力を解放せんとし、
「やめろおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
アークワンの全身に無数の触手が絡みついた。
粘液にも似た黒いソレらはアークワンの動きを封じ、必殺の一手を取らせまいと蠢く。
邪魔をしたのは金髪の少年、幽体のまま月に触れる(ファーカレス)を使ったゲンガーだ。
アークワンにしてみれば優先して殺そうとも思わない、言わばどうでもいい相手。
そんな者にまたもや邪魔をされたのは少しばかり腹立たしい、ミニ八卦炉を持つのとは反対の手で波動を放ち触手を蹴散らした。
-
しかしゲンガーの行動は決して無駄ではない。
稼いだ僅かな時間の間に、ジョーカー達も勝負に出た。
「マガツイザナギ!」
スパイトネガと似た色のオーラを纏ったペルソナを召喚。
急ぎスキルを発動するが、これは敵を直接攻撃する類のものではない。
コンセントレイト。
次に使うスキルの威力を一度だけ2倍以上にまで高める。
必殺の一撃を放つ為の前準備とでも言うべき、勝負を決めるのに重宝するスキルだ。
「……!」
長得物を構えるマガツイザナギに力が集束し、ジョーカー自身もそれを感じ取る。
『付き合ってやるぜ相棒。でなきゃこっちまでお陀仏だ』
腹を括ったのか、軽口の中に真剣さを交えたブラッドスタークも隣に並ぶ。
エターナルソードを拾い上げ構える。
刀身は赤い光を帯び、こちらもマガツイザナギと同じく力を溜めている最中のようだ。
ブラッドスタークの機能ではなくエボルト自身の能力。
スカイウォール付近の戦闘では複数の仮面ライダーを吹き飛ばし、風都タワーでもJUDO相手に使ったエネルギー波。
トランスチームガンに流し込み銃弾を強化した事もあったが、アークワン相手ではそれをやっても倒せるかは微妙なところ。
だからブラッドスタークの装備以上に、自身の力を流し込み放つ媒介として相応しい剣を使う。
現在の自分が出せる限界のブラッド族のエネルギーをエターナルソードに纏わせ、振り下ろすタイミングを待つ。
ジョーカーとブラッドスターク、二人の準備が整うと同時にアークワンも月に触れる(ファーカレス)の拘束を脱した。
あとはもう互いに力をぶつけ合うだけだ。
「ペルソナァッ!!!」
マガツイザナギが豪快に長得物を振るい、閃光がアークワンへ一直線に向かう。
アナザーカブトを焼き焦がした時以上の勢いだ。
隣ではブラッドスタークがエターナルソードを振り下ろし、巨大な真紅の刃を飛ばした。
雷撃と斬撃、現在の彼らが出せる最大火力の技を前にアークワンが放つのもまた桁外れの力。
ミニ八卦炉から放たれたレーザーは、威力も範囲もロックシードをエネルギー源とした際の比では無い。
エネルギーの余波だけで周囲の建造物を破壊し、真っ向勝負を挑んだ者達をも消し去らんとする。
禍津、破壊、悪意。
三者三様の力が激突し、全員が光に包まれた。
-
◆
「犬飼…!っ!?」
「余所見すんなよ!突っ立ってるだけなら引っ込んどけ!」
ミチルの死を目撃したのは蓮達だけではない。
承太郎もまた、リーゼントヘアの少年が銀色の異形に殺される瞬間を見た。
未来において出会う筈だったスタンド使いの肉体を持つ少女。
風都タワーに出発する前、情報交換をした程度の間柄だが志は同じ仲間。
そんなミチルが余りに呆気なく命を散らしたのには、承太郎と言えども一切動揺するなというのは難しい。
生憎と仲間の死に長々と思いを馳せていられる程、状況は優しくない。
グリードが叫んだ通りだ。
現にミチルの死に気を取られた承太郎へ不可視の刃が襲い掛かった。
咄嗟にグリードが硬化させた両腕で防がなければ、今頃はスタープラチナ諸共スライスされていただろう。
致命的な隙を晒した己の間抜けさへ内心で叱咤するように、斬り掛かって来た仮面の騎士をスタンドで迎え撃つ。
既に飽きる程見た剣の腕は、放送前と変わらずこちらの肝を冷やす強さ。
されど大人しく首を差し出してなどやりはしない、スタープラチナが自慢の拳を繰り出す。
「オラオラオラオラオラオラオラオラ」
首と言わず全身を狙い縦横無尽に、それでいて研ぎ澄まされた斬撃が無数に襲い来る。
ならばこちらも相応の手数で対処すべく、精神力を高めラッシュを放った。
刃を拳が打ち返し、一撃たりともこの身に受けはしない。
リュウガを仕留めんとするのは承太郎一人にあらず。
硬化させた両手で、承太郎とは別方向より接近しグリードが仕掛ける。
こちらもまた生身の動きとは思えない程の速さで、両腕を振るい続ける。
既にドラグセイバーを手放したリュウガは破壊の剣一本で、承太郎とグリードの猛攻を凌いでいた。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」
「ハッ!こりゃ冗談じゃなく本気でラースとも殺り合えるかもな!」
険しい表情のままスタープラチナで拳を打ち込む承太郎。
同じ男から造られた兄弟の名を口にしつつ、攻める手の激しさを増すグリード。
両者は内心で同じ考えを抱いた。
黒い鎧を纏ってから、明らかに敵が強くなっていると。
-
神崎士郎が開発したカードデッキに限らず、仮面ライダーとは変身後の基本スペックが設定されている。
それぞれに差はあれど、共通しているのは生身の人間では不可能な超人的能力を得られること。
また当然ながら同じ変身ツールを使っていようと、変身者が生身の時点で高い運動能力を持っていれば、そちらの方が変身後もスペック以上の能力を発揮可能。
要は変身前の身体能力に上乗せする形で、仮面ライダーの力を得る。
バトルロワイアルにおいてリュウガに変身したのは魔王。
彼に与えられた肉体であるピサロが素でどれ程の強さを持つかは今更語るまでも無い。
参加者の中でも間違いなく上位の肉体をリュウガに変身した事で、より一層の脅威と化したのだ。
(チッ!流石にヘビー過ぎじゃあねぇか…!)
生身の時でさえ銀時との二人掛かりで苦戦したというのに、より強力になっている。
現在共闘している名も知らぬ少女もまた相当の強さがあるのは分かるが、相手が相手だけにやや押されている。
それは自分も同様であり、少しずつだがスタープラチナに刃が走るのを防ぎ切れない。
フィードバックで承太郎自身にも傷が付けられる。
いろはの回復魔法で致命傷からは逃れられたが、万全とは言えない身にはよろしくない事態だ。
「っぶね!」
破壊の剣で猛攻を捌きながら、左手でグリードの顔へ拳を放った。
リュウガに変身した状態で殴られれば、花火のように顔のパーツが散らばるだろう。
首から上を捩って躱すが、その瞬間だけは攻撃の勢いも衰えた。
腕は伸ばしたままで握った拳を解き、グリードの肩を掴む。
突然の拘束に藻掻くグリードが抜け出す前に持ち上げ、スタープラチナへと投げつける。
二度目となる同士討ちの危機にリュウガへのラッシュを急停止、スタープラチナでグリードをキャッチ。
あのまま殴り続けていればグリードに殴打の嵐が当たるところだった。
二人からの攻撃が止まろうと、リュウガが剣を振るう手は止まらない。
「チィッ!」
両腕を交差させグリードが剣を防御。
金属同士の衝突で鼓膜が痛むような音が鳴り、それを掻き消す勢いで再度スタープラチナがラッシュを放つ。
二度目の打ち合いに持ち込む気は無いのか、リュウガは大きく後退。
剣を振り回すだけが己の持つ全てではない。
片手を翳し呪文を唱える。
-
「ルカナン」
倦怠感と言うべきか、不快な感覚が承太郎達を襲う。
外傷は無いが戦況を有利に進めるのに打ってつけの呪文だ。
唱え終わればすかさず剣を振るい不可視の刃を放つ。
しんくう刃なら離れた位置からでも、敵を斬り殺せる。
相手の攻撃方法におおよその当たりを付けていた二人は、剣を振りかざした時点で対処に回った。
見えない何かを打ち消すように拳を放ち、承太郎がしんくう刃を霧散させる。
グリードもまた空気の揺れを察知する己の感覚を頼りに腕を振るう。
硬化させた手なら真空の刃だろうと傷一つとして付けられはしない。
「……あ?」
その自信は呆気なく崩された。
しんくう刃を防ぐべく振るった両腕が、肘の辺りからズルリと地面に落ちる。
骨まで綺麗に断たれた切断面からは血が噴き出し、すぐに再生が始まった。
魂のストックには余裕がある、だから治った事は驚く事でも無い当たり前の光景。
それより問題は硬化させた腕が斬り落とされた事だ。
最強の盾の名の通り、単純な物理攻撃でグリードの能力を突破するのは難しい。
現在のグリードの記憶には無いが、ダブリスで戦ったエドワードのように錬金術を使った訳でもない。
困惑するグリードを見てリュウガは呪文の効果が発揮されたと確信を抱いた。
ルカナンとは敵全体の防御力を低下させる効果を持つ。
これによりグリードの硬化させた皮膚を、通常よりも脆くさせたのだ。
最強の盾はこの瞬間、最強の座から蹴落とされた事になる。
「おいおい笑えねぇぞ…」
自身の能力を弱体化させられ、困惑から一転怒りと焦りを表情に浮かべる。
これが永久的なものなのか、それとも時間経過で元に戻るのかは不明。
確かなのは、この戦闘中自分は非常に不利な状態にされてしまったのだろう。
-
○
勃発する戦闘を物陰から覗くバリーの心は完全に折れかかっていた。
ホムンクルスのグリードが自分よりも格上なのは分かるとして、他の連中もべらぼうに強い。
殺し合いが始まった直後はウキウキだったが、今となってはよくこれまで生き延びられたものだと自分を褒めたくなる。
「どうせなら俺にもああいう体とかもっと強い武器とか寄越せよ…」
剣一本とマッチョになれるトナカイの肉体では、とてもじゃないが勝ち残れる気がしない。
あんまり考えたくは無いが、生き残っている中で自分は下から数えた方が早いレベルの力ではないのか。
殺しを楽しむのは生きて帰ってからにして、ここでは脱出派に大人しく協力する。
半ば投げやり気味だった方針もいよいよ現実味を帯びてくる始末。
ついでに帰れるならこの剣は持って帰ろうかと遠い目をした時、すぐ隣で身動ぎの気配があった。
「んん……バリー…?って、いたた…」
「おう起きたか。慌てて動くと痛ぇだろ」
「私確か…そうだ、産屋敷が急に…」
「あー、もうそんな事態じゃ無くなってんだ」
酷く疲れた顔で言うバリーを訝し気に思いながら、頭をさすって起き上がる。
詳しく事情を聞く前に、何やら激しい物音や怒声が目覚めたばかりの脳にガンガン響く。
渋い顔をしてそっと顔を覗かせる。
瞳に飛び込んだのは、知ってる者と知らない連中が派手にドンパチやらかしている光景。
成程これは見ているだけで胃がもたれそうだ。
「待って、あれって…キャメロット?」
殺し合いが始まってから最初に遭遇し、これまでずっと行動を共にしていた少女。
キャメロットは黒い鎧の騎士と戦闘中のようだが、その手に剣は持たず黒ずんだ両腕を振り回している。
ついでに獰猛な笑みで軽口を叩くという、青い槍兵を思わせる様だ。
戦闘スタイルもキャメロットのものとは違い、まして肉体であるセイバーと違う。
困惑する凛の疑問を解消させたのは、頬杖を突くバリーだった。
-
「なんかよ、キャメ子の嬢ちゃんはグリードってのになったんだと。ほらアレだ、アルフォンスが言ってたホムンクルス」
「それって…賢者の石を飲み込んだから?」
「多分そうなんじゃねえか?今んところ俺らを襲う気は無いみてえだけどな」
これまた頭の痛くなる問題が発生した。
ホムンクルス。アルフォンスの危惧していた事が本当になってしまうとは。
そのグリードとやらの人格が現れたとして、キャメロットの精神はどうなっているのだろう。
眠っているだけ?まさか消滅してしまった?
自分が気絶している間にとんでもない事が次々に起こったらしく、寝起きの頭には優しくない事態だ。
だがまず、差し迫った問題としてグリードと戦っている騎士をどうにかしなければならない。
こちらから見ただけでも、押されているのはグリードとやたら凶悪な顔の男。
後者はバリーに聞くと殺し合いには乗っていないらしいとのこと。
ならキャメロットの安否やグリードをどうするかなどを考えるには、あの黒い騎士を撃退か撤退に追い込む必要がある。
とはいえその為の武器は手元に無い。
バリーは戦えるだろうけれど、あの場に突っ込ませて戦況を好転させられるかはかなり怪しい。
離れた場所で戦っている者達に救援を頼もうにも、あっちはあっちで手一杯に見える。
というかあちらも非常に危険な輩が暴れており、頬を汗が伝った。
ふと、ある可能性に気付く。
「ねえバリー、あんたの支給品に何か使えそうな道具ってある?」
「…まぁあるにはあるというか、けど本当に使えるかはよく分かんねえぞ?」
「それは私も見て判断するわ。とにかくあるなら出して」
煮え切らない答えにいいから見せろと急かせば、微妙な顔をでデイパックの口を開けた。
バリーに支給された最後のアイテム、それを説明書と共に受け取り内容を確認。
読み終わると思わず呆れ顔を向ける。
「あんたねぇ…こんなの持ってるならもっと早くに言いなさいよ」
「んなこと言われてもなぁ」
まぁ正直気持ちは分からんでもない。
自分だって何も知らずに渡されても、バリーと同じく微妙な反応となるだろう。
だが説明書を読んで分かったが、これはほぼ間違いなくしんのすけと関係のある物。
しんのすけのプロフィールを把握していたからこそ、この支給品も恐らく役に立つと判断出来た。
自信を持って最善だとは言えずとも、自分が取れる一番マシな手だ。
戦闘に介入すべく、渋るバリーを引き摺って飛び出した。
-
○
状況は承太郎とグリードが確実に不利。
最強の盾を弱体化させられたグリードでは、リュウガの剣とぶつかり合う事は不可能。
自ら腕を斬り落としてくださいと差し出しているのと変わらない。
必然的に回避へ重点を置いた動きとなる。
リュウガを真正面から迎え撃てるのが承太郎一人になり、その分負担も増加。
既にスタープラチナのラッシュでも防ぎ切れず、また一つ新しい傷が刻まれた。
歯を食い縛り痛みに耐え、ひたすらに拳を放ち続ける。
少しでも勢いを緩めればそこをから一気に崩されてしまう。
そうなれば待っているのはロクな抵抗も出来ずに斬り殺される末路ただ一つだ。
効果的なダメージを与えられなくても、ここは再び時を止めようと息を吸い込む。
「うおおおおおおおおおっ!!」
その時、こちらへ向けて全力疾走してくる者が見えた。
帽子を被ったトナカイだ。
心なしかヤケクソ気味な顔をしているような気がする。
よく見ればトナカイの背には小さな子供がしがみついているではないか。
「こうなりゃヤケだクソッタレ!」
子どもが飛び降りると同時に、トナカイことバリーは分厚い筋肉の大男と化す。
四足歩行の時は口に加えていた剣で、リュウガに斬り掛かった。
乱入者に少々面喰ったものの、特別大きな動揺もなくリュウガも破壊の剣を振るう。
七宝のナイフが弾き飛ばされかねない衝撃に、バリーは早くも後悔していた。
(いや無理だろこれ…)
内心で諦めの言葉を漏らしながらも、必死にリュウガとの剣戟へと持ち込む。
実力は敵が圧倒的に上。
しかしバリーとて元は第五研究所の番人を任され、アルフォンスとも渡り合った男。
ひーひー言いながらも簡単に命はくれてやらない。
とはいえこのままではバリーが殺されるのも時間の問題。
それでは何の為にわざわざ介入したのか、無駄になってしまう。
一か八かの勝負、こうなれば腹を括るだけだと凛は起死回生の『トランプ』を掲げ叫んだ。
-
「スゲーナ・スゴイデス!」
光が溢れた。
凛の意思に応えるような、力強い光が戦場を照らす。
それだけではない。
輝きを増すカードの中から三体の戦士が現れたではないか。
「っ!!」
目を見開く凛に背を向け、彼らは堂々とアスファルトを踏みしめる。
降り続く雨音すらも掻き消す声で、自らの名を臆さず言い放った。
「アクション仮面参上!!」
「カンタムロボ参上!!」
「ぶりぶりざえもん、ただいま参上」
アーマースーツを纏った仮面のヒーロー。
緑色の重厚なボディを持つ正義のロボット。
子どもの落書きのような二足歩行のブタ。
個性的と言う他無い面々の登場に、誰もが呆気に取られた。
彼らを召喚した凛も含めてだ。
「ほんとに出た…」
説明書に書かれていたとはいえ、成功を目の当たりにすると驚きが隠せない。
バリーに支給された三つ目の道具はトランプのカード、それが二枚。
何でもこのトランプを掲げ、先程言った言葉を唱えると彼らを召喚できるとのこと。
アクション仮面、カンタムロボ。
しんのすけのプロフィールに記載されていた、彼が大好きなテレビ番組のヒーローたち。
ついでにぶりぶりざえもんというのも、しんのすけが考えた救いのヒーローらしい。
確かにバリーが疑わしく思うのも無理はない。
説明書を読んだだけでは、アクションなんちゃらだのを呼んだ所で何の役に立つのかまるで分からないのだから。
だがしんのすけのプロフィールで彼らの名に見覚えがあった凛は違う。
テレビで活躍するヒーローならば、戦闘面でも十分役に立つはず。
一つの可能性に賭けてトランプを使おうと決心したのだった。
-
「待たせたねしんのすけくん!後は我々に任せてくれ!」
「いや私はしんのすけじゃ…」
誤解を解く前にリュウガへと構える三体。
戦ってくれるなら良いかと続きの言葉を飲み込み、凛は彼らの背を見守る。
「あの鎧の男…只者ではないな」
「ああ、油断すればあっという間にやられてしまう!」
剥き出しの口元を引き締めるアクション仮面に並び、カンタムロボも緊張を滲ませた声で返す。
彼らはブラックメケメケ団の怪人や、ミッドナイトのロボット軍団と死闘を繰り広げた戦士たちだ。
だからこそリュウガの持つ力が如何に危険なのかも直感で理解した。
負けるつもりは無いが、そう簡単に勝利できる相手でもない。
強敵を前に緊張感が高まる。
そこへ水を差すように前へ出る者がいた。
「ふん、情けない奴らめ。臆病者は引っ込んでいろ」
「な、なに!?」
聞き捨てならない発言に鼻白むアクション仮面達を無視し、黙ってリュウガの方へと近付く一匹のブタ。
しんのすけと変わらない身長ながらも、その足取りに恐れは微塵も感じられ無い。
救いのヒーローの肩書は飾りでは無いとでも言うように、ぶりぶりざえもんの姿は力強かった。
黒豆のような目でリュウガを鋭く見据え、睨み返すレッドアイにも動じない。
やがて腰から刀を引き抜き、両手で構える。
戦う覚悟はとっくに完了済みだ。
「さぁ、どこからでもかかって来るが良い!」
臆さずにぶりぶりざえもんは叫ぶ。
凛達に向かって。
どこに出しても恥ずかしい、余りにも堂々とした裏切り宣言だった。
-
「何をやってんのよこのブタは!?」
「貴様ァ!裏切るとはどういうつもりだ!」
「恥を知れ恥を!」
非難轟々の声もどこ吹く風。
構えた刀(実は千歳飴)を一舐めし、鼻で笑い告げる。
「黙れ!私は常に強い者の味方だ。さぁご主人様〜♡一緒にこの馬鹿どもを倒してしまいまブベェッ!?」
さっきまでの態度は何処へいったのか、露骨に媚びた笑みを浮かべるブタ。
そんなぶりぶりざえもんへリュウガからの答えは、無言の蹴りだった。
ボールのように地面を転がりながら凛達の元へと戻る。
どの面下げて帰って来たとばかりに、裏切り者のブタへ容赦なく足が振り下ろされる。
「ど、動物虐待反対〜!」
ぶりぶりざえもんの哀れな悲鳴が響く中、何とも言えぬ空気が漂っていた。
「なぁ、ありゃサーカスの団員かなんかか?」
「俺に聞くな…」
大いに呆れを含んだグリードからの質問に、承太郎は真顔で返す。
シュールな空気を再び緊迫したものに変えたのは、殺到する不可視の刃だ。
「っ!全員私の後ろへ!」
真っ先に反応したカンタムロボが自らの身を盾にした。
特殊合金で作られたボディはスーパーロボットの名に恥じない耐久力がある。
しんくう刃を防ぎ、間髪入れずにリュウガが斬り掛かる。
跳躍してからの回転斬り、ムーンサルトだ。
これに対し全員が回避を選択。
各々地面を転がり己の身をリュウガの剣から守った。
-
地面に降り立った魔王へと飛び掛かる二つの影。
承太郎の操るスタープラチナと、アクション仮面だ。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」
「アクションパーンチ!!」
迫り来る拳に対し、飽きもせずにと呆れは抱きはしない。
承太郎のスタンドはもとより、アクション仮面の拳もまた油断できない破壊力があると見た。
だからやる事は同じ、リュウガへの変身で強化された力を以て返り討ちにする。
拳諸共叩っ斬る勢いで振るわれる剣。
数では承太郎達が勝っていても、単独で互角以上に渡り合えるのが魔王である。
しかし承太郎単体で戦っているのに比べたら、アクション仮面が隣で格闘技を繰り出しているのは有難い。
怪人達との長きに渡る戦いで磨き上げた技の数々はここでも健在。
スタープラチナと共に破壊の剣の刀身へ、絶えず衝撃を与えていた。
「バイキルト」
ならば更なる力で叩き潰すのみ。
呪文によりリュウガの攻撃力が強化。
ただでさえ苦戦必至の能力へ磨きがかかり、一転して承太郎達が防戦一方へとなる。
何せ一撃一撃が異様に重い。
次第に防ぐのもままならなくなり、両者の体へ刃が走った。
「ぬぅ…!」
「ぐっ!」
戦闘スーツを纏っているアクション仮面はまだマシな方だ。
痛みはあるが致命傷だけは避けられたのだから。
しかし承太郎は違う。
スタープラチナの上半身が斬られ、本体の承太郎もまた深い傷を刻まれる。
-
(こりゃあちとマズいか…)
傷口から出血し、意識が軽く飛びそうになる。
人並外れた体力の燃堂と言えども、この傷では限度がある。
承太郎にとってのピンチは、リュウガにとってのチャンス。
一気に畳み掛けるべく強く踏みこむ。
「させるか!」
目の前で命が失われそうならば、全力で助けるのがヒーロー。
承太郎を庇うように前に出たアクション仮面と、同じく駆け付けたカンタムロボ。
拳や蹴りを放ち、承太郎への追撃を阻止する。
カンタムロボの太い金属の四肢から繰り出される打撃は強烈だ。
同じく並外れた強度を持つミッドナイトのロボット達を撃退してきただけのことはある。
そのカンタムロボでさえリュウガ相手には決定打を与えられない。
アクション仮面と息の合った呼吸で放つ技の数々を防がれ、反対に敵の攻撃を食らえば一気にエネルギーを持っていかれる。
己のメタルボディでさえ呆気なく破壊されかねない。
その事実にロボットでありながら凍り付く感覚を覚えた。
「おらよっと!」
リュウガと戦う者がまた一人参戦。
背後よりリュウガの頭部目掛けて蹴り付けたグリードだ。
未だルカナンの効果は継続中であり、ならば少しでも脆い部分に狙いを付けた。
痛みは皆無だが頭部への衝撃に幾分か視界が揺れ動く。
その隙にアクション仮面達は自分達の攻撃を届かせようとし、不可能に終わった。
片手を翳したリュウガが小さく呟いた、マヒャドと。
吹き荒れる冷たい風、アクション仮面とカンタムロボが凍り付き動きを封じられる。
背後から頭部へ二度目の奇襲を仕掛けるグリードも、回し蹴りで吹き飛ばされた。
-
「スタープラチナ・ザ・ワールド…!」
こうなれば動ける、というより無理にでも動かねばならないのは承太郎だ。
時間そのものを凍り付かせた世界で、リュウガの装甲へ無数の拳が叩き込まれた。
再び熱を帯び動き出した世界、遥か後方へと吹き飛ぶリュウガから視線は逸らさず口を開く。
唐突な現象に困惑している二人のヒーローに向けて。
「アンタら二人、この際片方でも良い。殴る蹴るより火力のあるモンを持ってるか?」
「あ、ああ。私はあるが…」
「私も持っている。いやそれより、今のは君が…?」
「悪いが質問に答えてやってる時間は無ぇ。俺が合図したら…そうだな、あそこに向けてぶつけてくれ」
承太郎が指示した場所には何も無い。
リュウガへ当てろと言うなら分かるが、何故あそこなのか。
当然の疑問が二人に浮かび意図を問い質そうとするも、承太郎の顔を見て口を噤む。
凶悪犯としか思えない顔、だというのに両目に宿る力強さにが見覚えがあった。
彼らの相棒である少女と少年を思わせるその目を見たなら、答えは一つ。
「分かった。君を信じよう」
「ああ!君からは我々と同じ正義の心を感じる!」
「…信用してくれたんなら文句は無ぇ。後は頼むぜ」
『STRIKE VENT』
話が纏まった途端に鳴り響く電子音声。
ドラゴンの頭部を模したガントレット、ドラグクローを装備。
地面に散乱したガラス窓の破片から巨体が飛び出した。
黒い胴体と赤い瞳のドラゴンが、同じ色をした騎士の頭上を旋回する。
リュウガの契約モンスター、ドラグブラッカーだ。
ドラグクローを承太郎達に向けて突き出し、同時にドラグブラッカーが火炎ブレスを放射。
「オラオラオラオラオラオラオオラオララオラオラオラオラァッ!!」
黒く染まった炎を前に、傷の痛みを噛み殺しラッシュを放つ。
目視不可能なスピードで放たれる拳だ、発生する風圧もまた桁外れ。
炎の勢いを急速に弱め鎮火させる。
偶然にも殺し合い開始より間もない頃、DIOが杉元相手に行ったものと同じだ。
となれば、受けるダメージも同様のもの。
焼き潰されはしなくとも、両腕に火傷を負うのまでは避けられない。
ヒリヒリとした痛みに顔を顰める。
だがまだ戦えるならば、この程度の傷は二の次だ。
炎を無力化されただけでリュウガ本人は健在、ドラグクローを捨て破壊の剣で仕留めに来る。
-
「シィッ!」
剣が承太郎へ到達するのを妨害に、グリードが腕を振り下ろす。
一歩身を引き回避、邪魔するならば斬るまでと今度はこちらが剣を振るう。
狙いは顔。
人間ではあり得ぬ再生能力を持っているようだが、口から上を地に落とされては生きられまい。
迫る殺意の塊にグリードが目を見開き、
黒に染まった頬で刃が止められた。
「〜っ!馬鹿力かよ!首が折れそうだ!」
両目を吊り上げ抗議するグリードの顔には傷一つない。
ルカナンの効果が切れ、最強の盾を取り戻したからだ。
ならもう一度呪文を唱えれば良い。
防御力を低下させる四文字の言葉を口にしようと開きかける。
「今だ!」
それを止めたのは承太郎の怒声!
リュウガには何のことか分からないが、ヒーロー達にとっては別。
熱き心を秘めた少年への信頼に応える為、自らの必殺技を放つ。
「アクションビーム!!」
「カンタムパーンチ!!」
悪しき魂を焼き尽くす閃光。
心なき鋼鉄を粉砕する拳。
数多の敵を葬った、アクション仮面とカンタムロボを代表すると言っても過言ではない技だ。
但しどちらもリュウガがいるのとは見当違いの方向へと放たれている。
だがこれでいい。承太郎の狙い通りだ。
「スタープラチナ・ザ・ワールド」
全てが、止まる。
世界そのものが鼓動を止め、息絶えたかの如き光景。
唯一鼓動を打ち鳴らす少年は、一度深く息を吸い込む。
負った傷は深い、立っているだけでも体力を消費する。
だというのに短時間で連続して時を止め、その上で全力の拳を放つのだ。
本当に今更の話ではあるが、燃堂力の肉体に相当な負担を強いている事を申し訳なく思う。
ただ謝罪は生き延びて、燃堂に会ってからだ。
ヒーロー達は承太郎を信用した、だったらしくじる訳にはいかない。
-
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!」
剣を振りかざしたままのリュウガへ放たれる殴打の嵐。
やはり生身の相手を殴る時とは違う感触、ガシャガシャと軋む音が喧しく響く。
そして時は動き出し、吹き飛ばされる騎士。
この戦闘中何度も味わった現象だろう。
だがこの時だけは違った。
「がぁっ!?」
どれだけ威力があっても、馬鹿正直に放ってはあっさり対処される。
なら簡単だ。
こちらから当てるのではない、向こうから当たりに行けば良い。
防御も回避もできない無防備なところへ、ヒーロー二人の必殺技が直撃。
予期せぬ衝撃には流石に声も抑えられない。
より遠くへと吹き飛ばされた挙句、建ち並んだ店の一つに突っ込んで行った。
これで再起不能になるなら何も言う事は無し。
そうはならないとは分かっているが。
『AD VENT』
案の定倒すには至らなかったらしい。
先程も火炎を吐き出した黒龍が出現、契約主に近付けさせまいと炎を吐き牽制。
余りの高熱にドラグブラッカーの周囲に降り注いだ雨粒が蒸発している。
必然的に全員リュウガへの追撃を断念し、足を止めた。
-
やがてドラグブラッカーは鏡面世界へと姿を消した。
今度こそと重い足を引き摺ってリュウガの元へと走り寄り、人の気配が完全に消えているのを察知した。
逃げた、ということか。
数の不利を考えて撤退を選んだのかもしれない。
尤も仮にあのまま戦っていれば、承太郎達の全滅で終わった可能性は決して低く無い。
負傷もそうだが、助っ人として現れたアクション仮面達にも活動限界がある。
彼らは支給品の効果で呼び出された影法師、永遠の現界を主催者達は望まないだろう。
現に三人の体は幽体のように透け始めている。
「我々はここまでか…。しんのすけ君、それから皆。後は君達に任せた」
「私達が力になれるのはあと一度だけだ。もしまたピンチになったら、必ず呼んでくれ」
ヒーローらしい台詞と共に、アクション仮面とカンタムロボは姿を消した。
最後まで自分をしんのすけ扱いしていたが、次に呼ぶ時があったら説明すれば良いかと凛は自分を納得させる。
そもそも説明出来る程の余裕があったらの話ではあるのだが。
そう言えば後のもう一匹はどうしたのだろうか。
戦闘中も自分やバリーと共に隠れて、呑気に寝そべりながら尻をかいていたのは嫌でも覚えている。
蹴っ飛ばしてやろうかと思ったって仕方のない事だ。
「ん?」
ちょいちょいと服を引っ張られ、振り返るとぶりぶりざえもんがいた。
別れの挨拶でもしたいのかと思ったら、掌(或いは前足)を差し出たではないか。
もしや握手のつもりかと考え、
「救い料一億万円!ローンも可!」
「…………」
沈黙。
「アンタはなにもしてないでしょうがあああああああああああああ!!!!!」
遠坂凛、魂の叫びが街に木霊した。
-
◆
そうして場面は冒頭に戻る。
ホムンクルスに意識を乗っ取られたキャメロット。
重症の傷を負った強面の男。
いつのまにか姿を消しているゲンガー。
自分が気絶している間に状況はかなり進んだのは確か。
それら一つ一つに対処しなくてはならないが、やる事が多過ぎて頭痛がしてくる。
意味の無い事とは理解しつつも、結局はため息を零す凛だった。
【D-6 街/日中】
【グリード(キャメロット城)@鋼の錬金術師(御城プロジェクト:Re)】
[身体]:アルトリア・ペンドラゴン@Fateシリーズ
[状態]:グリードによる精神の乗っ取り、マスターによるステータス低下、疲労(大)、精神疲労(大・キャメロットの精神)、複雑な心境(キャメロットの精神)、ワクワク(グリードの精神)、気絶中(キャメロットの精神)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(確認済み、剣以外)、逆刃刀@るろうに剣心、グリードのメモ+バリーの注意書きメモ
[思考・状況]基本方針:この世の全てが欲しい! ボンドルドの願いも!
1 :欲しいものを全て手に入れる。けどどういう手順で行くかねぇ。
2 :キャメコにはどう交渉したもんか。
3 :親父がいねえなら自由を満喫するぜ!
4 :放送の元である村へ行き、白い弓兵(ダグバ)を斬るはずでしたが……
5 :ゲンガーさんと凛さんを守る。
6 :アーサー王はなぜそうまでして聖杯を……
7 :バリーさんと彼の言う鎧の剣士、それと産屋敷に警戒。
8 :……大丈夫なのでしょうか、賢者の石。
9 :リオン・マグナス……その名は忘れません。
10:……
[備考]
※参戦時期はアイギスコラボ(異界門と英傑の戦士)終了後です。
このため城プロにおける主人公となる殿たちとの面識はありません。
※服装はドレス(鎧なし、FGOで言う第一。本家で言うセイバールート終盤)です
※湖の乙女の加護は問題なく機能します。
約束された勝利の剣は当然できません。
※『風王結界』『風王鉄槌』ができるようになりました。
スキル『竜の炉心』も自由意志で使えるようになってます。
『輝ける路』についてはまだ完全には扱えません。
(これらはキャメロットの精神の状態でのみ)
※賢者の石@鋼の錬金術師を取り込んだため、相当数の魂食いに近しい魔力供給を受けています。
※名簿をまだ見ていません。
※Fate/stay nightの世界観および聖杯戦争について知りました。
※Fate、鋼の錬金術師、ポケダンのある程度の世界観を把握しました。
※グリードのメモ+バリーの注意書きメモにはグリードの簡潔な人物像、
『バリーはちょっと問題がある人だから気をつけて。多分キャメロットさんが無事なら乗らないと思う。
後産屋敷さんはまともに喋れてないのもあるから、殆ど人物像が分からないのも少し気をつけておいて。』
の一文が添えられてます。
※グリードに身体を乗っ取られました。
彼女が気絶してる中一方的に肉体を使っている為、
意識が戻ればある程度忖度しつつも等価交換を要求します。
※現在キャメロットの意志は眠ってます。
スキル、宝具がキャメロット同様に機能するかは別です。
湖の乙女の加護は問題なく発動します。
※グリードの記憶は少なくとも二代目(所謂グリリン)であり、
少なくとも記憶を取り戻す前のグリードです。
※グリードが表に出たためホムンクルス由来の最強の盾が使えます。
最強の盾がどう制限されてるかは後続の書き手にお任せします。
※キャメロット城の名前をキャメコと勘違いしてます。
※一度石化された後腕が砕けたので右腕の袖が二の腕までになってます。
※ゲンガーと情報交換してます。
-
【遠坂凛@Fate/stay night】
[身体]:野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん
[状態]:頭部と全身強打(ある程度回復)、精神的ショック(大)
[装備]:スゲーナ・スゴイデスのトランプ×1@クレヨンしんちゃん
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:他の参加者の様子を伺いながら行動する。
1:で、結局何が起きたのよ。
2:サーヴァントシステムに干渉しているかもしれないし第三魔法って、頭が痛いわ。
3:私の身体に関しては、放送ではっきり言われてもうなんか吹っ切れた。
4:身体の持ち主(野原しんのすけ)を探したい。あと一歩まで来てるのよ。
5:アイツ(ダグバ)倒せてないってどんだけ丈夫なの。
6:アルフォンスは心配だけど、一先ず彼にサポートを任せる。
7:施設とかキョウヤ関係者とか、やること増えてきたわね……
8:ゲンガーとバリーとも行動。少なくとも私よりは頼れるのは羨ましいわ。
9:ある程度戦力をそろえて、安全と判断できるなら向かうC-5へ向かいたかったけど……想定外の展開か。
[備考]
※参戦時期は少なくとも士郎と同盟を組んだ後。セイバーの真名をまだ知らない時期です。
※野原しんのすけのことについてだいたい理解しました。
※ガンド撃ちや鉱石魔術は使えませんが八極拳は使えるかもしれません。
※御城プロジェクト:Reの世界観について知りました。
※地図の後出しに関して『主催もすべて把握できてないから後出ししてる』と考えてます。
※城プロ、鋼の錬金術師、ポケダンのある程度の世界観を把握しました
※ゲンガーと情報交換してます。
【バリー・ザ・チョッパー@鋼の錬金術師】
[身体]:トニートニー・チョッパー@ONE PIECE
[状態]:疲労(大)、全身に切り傷、頭脳強化(ブレーンポイント)、かなり精神折れかけてる
[装備]:七宝のナイフ@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本方針:存分に殺しを楽しむ、はずなのになぁ〜〜〜うまくいかねぇ。
1:存分に殺しを楽しみたいが、何か段々詰んできてねえか? 俺。
2:あの鎧野郎(メタモン)をどうにかしたいので今は集団に紛れ込んでおく。
3:武器は確保したけど勝ち残るのは無理な気がしてきた…。
4:いい女だが、姐さんほどじゃねえんだよな。後もう少し信用されておきたい。
5:使い慣れた得物は手に入ったけどよぉ…。
6:アルフォンス、相変わらず甘い奴だな。
7:キャメ子の嬢ちゃん、乗っ取られてるー!?
8:産屋敷(無惨)まじかよ……
9:最悪生きること優先したほうがいいんじゃねえのか? これ。
[備考]
※参戦時期は、自分の肉体に血印を破壊された後。
※城プロ、Fate/stay nightの世界観および聖杯戦争について知りました。
-
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:燃堂力@斉木楠雄のΨ難
[状態]:疲労(絶大)、全身にダメージ(大)、無数の細かい切り傷、胸部に裂傷(大・出血中)、両腕に火傷(中)、銀髪の男(魔王)への怒り
[装備]:ネズミの速さの外套(クローク・オブ・ラットスピード)@オーバーロード、MP40@ストライクウィッチーズシリーズ
[道具]:基本支給品×2、予備弾倉×2、童磨の首輪、銀時のスクーター@銀魂、フィリップの肉体
[思考・状況]基本方針:主催を打倒する。
1:目の前の連中と話す。雨宮達とも合流しておきてぇ。
2:ホイミンを早く見つけたい。
3:主催と戦うために首輪を外したい。
4:DIOは今度こそぶちのめす。ジョナサンの身体であっても。
5:銀髪の男(魔王)、半裸の巨漢(志々雄)を警戒。
6:エボルトはどうも信用しきれない為、警戒しておく。
7:天国……まさかな。
[備考]
※第三部終了直後から参戦です。
※スタンドはスタンド能力者以外にも視認可能です。
※ジョースターの波長に対して反応できません。
※ボンドルドが天国へ行く方法を試してるのではと推測してます。
またその場合、主催者側にDIOの友が協力or自分の友が捕らえられている、自分とDIOの首輪はダミーの可能性があると推測しています。
※時間停止は現状では2秒が限界のようです。
遠坂の考察
①:一部参加者しか目指しそうにない場所=一部参加者のみに伝える何かを用意している
主催の中の誰かが此方(対主催)にとって有利になるように託した、と言う可能性を考慮。
②:施設の後出しで地図に表記は、主催者もすべての施設の場所を把握してないかもしれない。
或いは主催の誰かが置いた何かの施設が彼らにとって都合の悪い何かなのではないか。
③:小野寺キョウヤを名乗ったことから、小野寺キョウヤを知る参加者に何か大切なものがある可能性。
④:①に備えて自分に関係してそうな施設(聖堂教会等)などの記載
これらと今まで得た情報や遠坂の考えをメモにして纏めてます。
より具体的な内容は後続の書き手にお任せします
-
◆◆◆
承太郎達から離れた事を確認し、魔王は変身を解く。
撤退を選んだ理由は承太郎が推測した通り、数の不利を悟ったからだ。
多対一の状況など今の始まった事では無いし、殺し合いに参加させられる前からあった事ではある。
だが承太郎とグリードの二人だけなら押し切れたはずが、途中参戦した二人のせいで狂い始めた。
殺し合いに優勝し姉を取り戻す目的は変わっていないが、何も自分一人で参加者全員を殺す必要がある訳ではない。
あそこで殺す事に意固地になって、その結果取り返しの付かない事態になったらそれこそ後悔してもしきれなくなる。
故にあの場は退いた。
カードデッキの試運転は済ませたのだ。
それにあの場にいた何人かは自分以外の者の手で殺されたので良しとする。
尤も魔王の懸念は単なる取り越し苦労に過ぎない。
あのまま留まっていれば直にアクション仮面達はタイムリミットで消滅し、魔王の手で一気に全滅へ追いやる事だって不可能ではなかったのだから。
プライドも何もあったもんじゃない己を内心で嘲笑う。
今更な話だ。
殺し合いに乗り優勝報酬に縋ろうと決めた時点で、復讐の為に名を捨て「魔王」になった時点で既に自分は…。
「……」
余計な考えを振り払う。
モノモノマシーンが設置されたカジノは禁止エリアに指定された。
どちらを目指すかも考えねばなるまい。
頭の中を優勝の為のみに働かせ、魔王は孤高の道を往く。
【D-6 街(承太郎達から離れた位置)/日中】
【魔王@クロノ・トリガー】
[身体]:ピサロ@ドラゴンクエストIV
[状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、ダメージ(中)
[装備]:破壊の剣@ドラゴンクエストシリーズ、テュケーのチャーム@ペルソナ5、リュウガのカードデッキ@仮面ライダー龍騎
[道具]:基本支給品×2、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、電動ボート@ジョジョの奇妙な冒険、物干し竿@Fate/stay night、吉良の首輪、アドバーグの首輪
[思考・状況]基本方針:優勝し、姉を取り戻す
1:どこへ向かうか…。
2:強面の男(承太郎)は次に会えば殺す。
3:剣を渡した相手(ホイミン)と半裸の巨漢(志々雄)も、後で殺す。
4:ギニューという者は精神を入れ替える術を持っている可能性が高いため警戒する。
5:悲鳴嶼行冥や他に似たような気質(殺しても止まらない)を持ちそうな者達と戦う際は、例え致命傷を与えても油断するべきではないだろう。
6:モノモノマシーンを使う為に、可能な限り首輪も手に入れる。
7:魔王城があるかもしれない。(現状の探す優先度は低い)
[備考]
※参戦時期は魔王城での、クロノたちとの戦いの直後。
※ピサロの体は、進化の秘法を使う前の姿(派生作品でいう「魔剣士ピサロ」)。です
※回復呪文は通常よりも消費される魔力が多くなっています。
※ギニューと鳥束の精神が入れ替わった可能性を考えています。
-
◆◆◆
「痛た…」
鈍く痛む箇所を擦りながらダグバは身を起こす。
周囲を軽く見回すと、どこかの民家に突っ込んだらしい。
破壊された家具の残骸が床一面に広がっている。
同時に自分の掌を翳すと、黒いスーツではなく生身の白い指が見えた。
「あーあ、終わっちゃった…」
アークワンの変身可能時間は過ぎ、これでまた2時間待たなければ変身は不可能。
放送前も思った事だが、やはりこの制限は余計な真似でしかない。
頬を膨らませながら立ち上がると、体の節々が痛む。
耐えられない程の痛みでもないとはいえ、疲労も蓄積している。
無理をしてでも戦場に戻り斬月・真で遊び続けるか、一旦退いて次の遊びに備えるか。
暫し悩んだあと、結局選んだのは後者。
283プロか、他の手頃などこかで体力をさせる為に移動しようとし、
「あれ?」
またしても奇妙なものを見た。
床に散らばったガラス窓の破片。
その内の一枚に自分の、というより自分に与えられた少女の泣き腫らした顔が映っている。
目を擦りもう一度破片を覗き込むと、そこには不思議そうな顔をする今のダグバが映し出されるだけ。
「んー…」
戦闘後の疲れでこうも立て続けに見間違いをするとは、リントの体とは思った以上に脆いのだろうか。
言い表せない引っ掛かりを感じるも、さりとて大騒ぎする程の一大事でもない。
とにかく休める場所に向かおうと、魔法のじゅうたんに飛び乗った。
-
あっさりと切り替えたダグバの気付かぬ所で、肉体の持ち主である櫻木真乃の精神は泣く事しかできなかった。
自分の体が殺し合いの道具として利用されている、自分の体で人を殺してしまった。
何より真乃の精神を蝕んでいるのは、二度に及ぶアークワンへの変身。それにより起こってしまった悪意の侵食。
もしもの話だが、アークワンに変身したのが真乃本人だったなら思考すら許されなかっただろう。
アークワンプログライズキーに内包された悪意は善良な少女である真乃の精神で耐えられるような、生温いものではない。
自我を失い、人類滅亡のままに動く機械と化してもおかしくはなかった。
だがバトルロワイアルにてアークワンに変身したのは、真乃の体の主導権を得たダグバの精神。
内包された悪意の大部分の影響は、実際に変身したダグバに及び真乃にはその余波が来たとも言うべき状態。
だからこそ発狂し自我を喪失するような被害を受けずに済んでいる。
但しそれは真乃にとって何の救いにもならない。
狂う事も出来ず、ただ自分の中の何かがおぞましいものへと少しずつ変貌する。
そんな絶望を味合わされているのだ。
何よりも彼女を苦しめるのは先程の戦闘。
赤い装甲服姿に変身したのは何と、真乃と同じ事務所のアイドルだったのだ。
見知った人の体まで殺し合いに利用され、しかも自分と戦わせられている。
誰にも聞こえぬ悲鳴を上げる中で、悪意に蝕まれつつある真乃は、
自分の体でアイドルの仲間を殺そうとしている光景に、一瞬暗い喜びを感じた。
気付いた時には愕然としたのは言うまでもない。
もしこのまま体を使われ続けたら、自分の心は本当に壊れてしまうのではないか。
そもそも人殺しに体を使われた自分では、プロデューサーや灯織とめぐるの元に帰る資格など無いのではないか。
イルミネーションスターズという自分の居場所は、無くなってしまったのではないのか。
先の見えない、自分ではどうにもできない絶望に、真乃にできるのは涙を流す事だけだった。
【D-6とD-7の境界 街/日中】
【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
[身体]:櫻木真乃@アイドルマスターシャイニーカラーズ
[状態]:ダメージ(大)、脇腹に強い打撲痕、消耗(極大)、苛立ち(大分緩和)、櫻木真乃の精神復活及び汚染、アークワンに2時間変身不能
[装備]:ゲネシスドライバー+メロンエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、ミニ八卦炉@東方project、魔法のじゅうたん@ドラゴンクエストシリーズ
[道具]:基本支給品×2、アークドライバーワン+アークワンプログライズキー@仮面ライダーゼロワン、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]基本方針:ゲゲルを楽しむ
1:283プロか、他の所でもいいので休める場所を探す
2:見失った二人(キャメロット、凛)やさっきの二人(蓮、エボルト)と再戦する。そんなに離れてないし、またすぐ会えそうだね
3:あの青い着物姿のリント(宿儺)とはもう戦いたくない
4:アークワンにはまた変身したいなぁ
5:??????????
[備考]
※48話の最終決戦直前から参戦です。
※櫻木真乃の精神が復活したことにはまだ気づいていません。
-
◆◆◆
「おー痛ぇ、ったくロクな目に遭わねぇな」
ダグバとは反対の方向。
同じく吹き飛ばされたエボルトがのっそりと上体を起こし、体を擦る。
床にはボールペンやマーカーが転がっており、ここは文具店らしい。
隣では蓮が両目を閉じたまま床に横たわっていた。
死んではいない、気絶しただけだ。
よく気を失う奴だと思い、厄介な参加者とばかりぶつかっているのだから当然かと考え直す。
その相棒である自分もまた、面倒な相手なのを相手にする羽目になっているが。
さっきの白い仮面ライダーもそう。
あんな強力なライダーシステムを支給するなら、自分にもエボルドライバーを寄越せと不満を口にしたくなる。
仮に言った所で、今からでも贔屓してくれはしないだろうとは分かっていた。
(…で、お前もいい加減落ち着いたらどうだ?千雪)
(っ!落ち着けるわけ無いじゃないですか…!)
返って来た言葉に薄ら笑いを浮かべる。
肉体の持ち主様は大層不機嫌であられるご様子。
皮肉気な言葉を思い浮かべつつ、無理もないかと納得する。
先程の少女が白い仮面ライダーへ変身した時には、それはもう千雪の動揺が激しく伝わったものだ。
櫻木真乃。不運にも彼女の体は殺し合いに積極的な参加者のものと化している。
だからといってエボルトに手を抜いて戦うだとか、傷つけないで事を治めるのは無理な話。
そんな温い手段で掛かればこっちが危うくなる相手だった。
-
(なんで…どうして真乃ちゃんが…。甜歌ちゃんと甘奈ちゃんだって、どうしてこんな目に…)
千雪からしたら到底理解が追い付かない。
自分達が、283プロのアイドルが何をしたというのか。
同じユニットのメンバーであり本当の家族のように仲良く過ごして、同じ事務所の仲間であり切磋琢磨し合うライバルでもある少女達。
本当ならば今も学校生活や、アイドルとしての活動で充実した一日を送っていたはず。
なのにどうして、大崎姉妹や真乃がこんな残酷なものに巻き込まれなければならない。
理不尽を強いる主催者達へ怒りが湧き、同時に何もできないでいる自分への無力さに腹が立つ。
(案外お前らの過激なファンが主催連中に混じってるのかもな?)
(ふざけないでください!)
(悪かったよ、ほんの冗談だ)
軽薄な態度を取ってはいるが、エボルトからしても千雪の疑問は理解できる。
殺し合いに参加させるなら精神も肉体ももっと相応しい者がいるだろうに、何故非力なアイドル連中を選んだのか。
何か特別な理由があってのこと、まさかとは思うが本当にファンの仕業ではないはずだ。
ついでにそろそろ千雪に話を聞いておこうかとも考える。
本人曰く大した情報は無いらしく、主催者が千雪の意識を消していない事からも彼女の存在は特別危険視するものでも無いのだろう。
本当に使い物にならない情報かどうかは、聞いてから判断するが。
「いや、それもアリっちゃアリか?」
主催者側に不都合な肉体の意識があれば消しに来る。
言い換えれば、主催者の方から参加者への接触を図りに来るのだ。
それを利用すれば主催者から情報を引き出すか、或いは引き摺り下ろして如何様にでも扱う事だって可能。
既に肉体側の意識の復活という土台は出来上がっている。
ここからあえてボンドルド達が腰を上げる事態となるような何かをわざと引き起こし、向こうからやって来るのを待ち構える。
方法としては悪くない。
問題は主催者を動かす為の方法と、肉体の意識だけでなく精神側の参加者も不要と見なされ首輪を爆破させられる末路も有り得ること。
前者に関してはある程度思い付きはする。
主催者が肉体側の参加者に求めるのは精神側の参加者の器として使われる事のみ。
実験と称した殺し合いで重要視されるのはあくまで精神が参加している者だけであり、肉体側の意識は不要と見なされている。
だから肉体の意識の復活が起きない前提で、殺し合いを始めたのだろう。
と言う事は、肉体側の意識が必要以上に殺し合いに干渉するのを主催者は嫌っているのではないだろうか。
具体的な方法はまだ手探り状態だが、追々考えていけば良い。
-
眠りに落ちた怪盗を尻目に、蛇は策を巡らせる。
彼にとっては囚われた偶像すらも、道具の一つに過ぎなかった。
【D-6とD-7の境界 街(ダグバとは離れた位置)/日中】
【雨宮蓮@ペルソナ5】
[身体]:左翔太郎@仮面ライダーW
[状態]:ダメージ(大)、疲労(極大)、SP消費(大)、体力消耗(中)、怒りと悲しみ、ぶつけ所の無い悔しさ、気絶中
[装備]:煙幕@ペルソナ5、T2ジョーカーメモリ+ロストドライバー@仮面ライダーW
[道具]:基本支給品×3、ダブルドライバー@仮面ライダーW、ハードボイルダー@仮面ライダーW、、スパイダーショック@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜2(煉獄の分、刀剣類はなし)、T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、新八のメガネ@銀魂、両津勘吉の肉体、ジューダスのメモ
[思考・状況]基本方針:主催を打倒し、この催しを終わらせる。
0:……
1:ミチルを殺した男は許せなかったが、俺は…。
2:仲間を集めたい。
3:エボルトは信用した訳ではないが、共闘を受け入れる。
4:今は別行動だが、しんのすけの力になってやりたい。今どこにいるんだ?
5:体の持ち主に対して少し申し訳なさを感じている。元の体に戻れたら無茶をした事を謝りたい。
6:逃げた怪物(絵美理)やシロを鬼にした男(耀哉)を警戒。
7:ディケイド(JUDO)はまだ倒せていない気がする…。
8:新たなペルソナと仮面ライダー。この力で今度こそ巻き込まれた人を守りたい。
9:推定殺害人数というのは気になるが、ミチルは無害だと思う
[備考]
※参戦時期については少なくとも心の怪盗団を結成し、既に何人か改心させた後です。フタバパレスまでは攻略済み。
※スキルカード@ペルソナ5を使用した事で、アルセーヌがラクンダを習得しました。
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。
※翔太郎の記憶から仮面ライダーダブル、仮面ライダージョーカーの知識を得ました。
※エボルトとのコープ発生により「道化師」のペルソナ「マガツイザナギ」を獲得しました。燃費は劣悪です。
※しんのすけとのコープ発生により「太陽」のペルソナ「ケツアルカトル」を獲得しました。
【エボルト@仮面ライダービルド】
[身体]:桑山千雪@アイドルマスター シャイニーカラーズ
[状態]:ダメージ(大)、疲労(極大)、千雪の意識が復活
[装備]:トランスチームガン+コブラロストフルボトル+ロケットフルボトル@仮面ライダービルド、エターナルソード@テイルズオブファンタジア
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品0〜2(シロの分)、累の母の首輪、アーマージャックの首輪、煉獄の死体、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル
[思考・状況]
基本方針:主催者の持つ力を奪い、完全復活を果たす。
1:考えなきゃならねえ事が増えたな。
2:蓮や承太郎を戦力として利用。
3:首輪を外す為に戦兎を探す。会えたら首輪を渡してやる。
4:有益な情報を持つ参加者と接触する。戦力になる者は引き入れたい。
5:自身の状態に疑問。
6:出来れば煉獄の首輪も欲しい。どうしようかねぇ。
7:ほとんど期待はしていないが、エボルドライバーがあったら取り戻す。
8:そろそろ千雪にも話を聞いておく。
9:余裕があれば柊ナナにも接触しておきたい。
10:今の所殺し合いに乗る気は無いが、他に手段が無いなら優勝狙いに切り替える。
11:推定殺害人数が何かは分からないが…まあ多分ミチルはシロだろうな(シャレじゃねえぜ?)
12:ジューダスの作戦には協力せず、主催者の持つ時空に干渉する力はできれば排除しておきたい。
13:千雪を利用すりゃ主催者をおびき寄せれるんじゃねぇか?
[備考]
※参戦時期は33話以前のどこか。
※他者の顔を変える、エネルギー波の放射などの能力は使えますが、他者への憑依は不可能となっています。
またブラッドスタークに変身できるだけのハザードレベルはありますが、エボルドライバーを使っての変身はできません。
※自身の状態を、精神だけを千雪の身体に移されたのではなく、千雪の身体にブラッド族の能力で憑依させられたまま固定されていると考えています。
また理由については主催者のミスか、何か目的があってのものと推測しています。
エボルトの考えが正しいか否かは後続の書き手にお任せします。
※ブラッドスタークに変身時は変声機能(若しくは自前の能力)により声を変えるかもしれません。(CV:芝崎典子→CV:金尾哲夫)
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。
-
◆◆◆
雨が降りしきる街を駆け抜け、戦場から離れるのは無惨だ。
何故戦闘の継続ではなく急に逃走を選んだのか。
理由は一つ、ミチルが死亡したからだ。
殺したかった相手が自分以外の手により、しかも手を下したのはそれまでミチルと共闘していた異形。
予期せぬ事態を目の当たりにした事で脳を焦がす怒りは鳴りを潜めた。
言ってしまえば、獲物を横取りされ萎えたのだ。
ミチルは勝手にくたばり、他の連中は健在であるが自分がわざわざ相手をする理由もない。
キャメロットへの不快感は燻っていても、あの場へ乱入するのが如何に無謀かは頭の冷えた今なら理解できる。
無駄でしかない戦闘行為に見切りを付け逃げを選んだ。
逃走中の無惨の頭からは既にミチルへの怒りはどうでもいいものと失せ、代わりに彼女が口にしていた名が浮かんでいる。
ナナしゃん。何かの用紙を見ながら確かにそう言っていた。
間違いなく柊ナナの事だろう。
しかもあの時ミチルはナナが病院の近くにいると分かったようだった。
これらの情報から推測するに、あの用紙には参加者の位置情報が記されていた可能性が高い。
会場に設置された病院と言えば、ここから西にある聖都大学附属病院のみ。
ならば急ぎそちらへ向かい、周辺にいると思われるナナを確保。
主催者と関係のあるだろう肉体を持つナナを利用し、自分の肉体を取り戻す為の足掛かりとして使う。
「――っ」
思わず足を止める。
自分でも呆れるくらいに先行きの全く見えない方法。
ナナを確保できたとしても、そこから主催者に繋がる方法を確実に得られるとは限らない。
得られたとしても、元の肉体を取り戻すのには役に立たないかもしれない。
優勝して願いを叶え肉体を取り戻すのも考えてはみたが、こんな出来損ないの体で勝ち残れるのか。
勝ち残ったとして、ボンドルドらが素直にこちらの要求を呑むのだろうか。
必ずしも優勝する必要はない、メモに記された内容が事実だとしても消滅した肉体を取り戻す術が見つからなければ無意味。
お先真っ暗とは正にこういう事だ。
それもこれも全ては産屋敷の死を止められなかったミチル、自分の体で好き勝手やった挙句に自害した産屋敷、何より根本的な原因を作ったボンドルドら主催者。
既に死んだ二人と、今の自分ではどう足掻いても手の届かない連中への怒りがあっという間に再熱。
歪に生えた歯を打ち鳴らし、
-
背中に怒りとは別の熱さを感じた。
「!?」
熱さは直ぐに焼けるような痛みへと変わる。
振り返った無惨が目にしたのは、降りしきる雨が生み出す人の輪郭。
やがてそれはハッキリと色彩が露わになり、緑色の装甲を纏った騎士が姿を見せた。
ミチルと協力していた者だと気付く。
右手にぶら下げた長い蝋燭、先端から滴り落ちる液体は無惨の血。
この騎士に斬られたと理解した瞬間、無惨の脳は痛みを忘れる程の怒りで満ちた。
『AD VENT』
だが緑の騎士…ベルデはどこ吹く風でカードを挿入。
召喚機が告げたカードの効果は、自らの従僕の呼び出すもの。
横合いから無惨の胴体が蹴り付けられ、濡れたアスファルトを転がる。
二足歩行の巨大なカメレオン型モンスター、バイオグリーザだ。
ベルデ同様全身を透明化させているが、雨によって輪郭が丸分かりとなっている。
(ふざけるなぁ…!!)
背後から斬られた。
畜生に蹴り飛ばされた。
認められない、あってはならない屈辱に怒りと不快感はあっさり頂点に達する。
だがどれだけ怒りを覚えようとも、無惨が不利なのは変わらない。
慣れない体、いのちのたまのデメリットによる体力の大幅な消費。
取れる手段は一つ、いい加減使えるようになっただろう召喚石でドグーを呼び出す。
-
『FINAL VENT』
が、むざむざ敵の抵抗を許すようなプレイをする気は、ベルデには無かった
バイオグリーザが伸ばした舌がベルデの足首に巻き付き、振り子のにも似た動きで無惨へと急接近。
足をガッチリと固定し、空中へと移動したタイミングでバイオグリーザが舌を離す。
急な勢いで掴まれ宙に投げ飛ばされた衝撃で、召喚石が口から零れ落ちた。
呆然と見つめる無惨に構わず、ベルデは技の総仕上げに入る。
「!!!?!」
無惨の頭部を真下に固定した体勢で、垂直に落下。
結果どうなるかは考えるまでも無い。
藻掻き暴れようにも、最早無惨には拘束を脱するだけの力は残されていなかった。
ただ自ら冷たい地面に近付いて行くのを、見開いた両目で凝視するだけ。
(ふざけるな貴様あああああああああ!!!)
鬼となった者は人間の寿命から解放され、長き時を生きられる。
しかしどんな生物も必ず終わりを迎えるように、鬼も永遠の時は生きられない。
ある鬼は、何度生まれ変わっても断ち切れない兄妹の絆を信じ共に逝った。
ある鬼は、自らが芸術と信じてやまない歪さを捨てられないまま完全敗北を喫した。
ある鬼は、嘘にまみれた己の半生を思い返し焼き尽くされた。
ある鬼は、守りたかった者と守れなかった己を自覚し、自らの拳で終わらせた。
ある鬼は、生まれて初めての感情に頬を染め、愛を囁きながら地獄に落ちた。
ある鬼は、何もかもを捨てた果ての虚無に絶望し、されど届かぬ日輪への執着だけは捨てられず消え去った。
そして無惨は、全ての鬼の始祖である男は――
「▂▂▅▆▆▆▇▇▇▇▇▇▇▇ッ!!!!!」
己の血肉で地面に赤い花を咲かせる。
神罰をも恐れぬ鬼に下ったのは、神の才能を欲しいがままにする男からの、慈悲も宿らぬ終焉だった。
-
○
逃げた無惨を追跡したベルデが奇襲に成功した理由。
クリアーベントで姿を消しただけでは気配はそのままであるし、雨のせいで輪郭が浮かび上がってしまう。
だからベルデ、というよりはカードデッキを使うライダー全員に備わった機能を使った。
それはミラーワールドへの侵入。
本来神崎士郎が主催のライダーバトルとは現実世界ではなく、鏡の中の世界で行うものだ。
当然カードデッキで変身したライダーは、ミラーワールドへ入り込むことが可能。
バトルロワイアルではミラーワールドへの侵入も制限の対象らしく、通常よりも短い時間しか入れなかった。
しかし一回の奇襲を成功させるには十分な時間だ。
これらベルデの能力を用いた結果、無惨を仕留めるのに成功。
とはいえ最大の理由は、無惨自身が元の肉体の消滅や原因となった者達への怒りで警戒を疎かにしてしまった事だが。
「君の遺した物は全て私が有効的に使ってやろう。ゲームオーバーだからといって気を落とさないでくれ」
支給品と、潰れた頭部から首輪を回収した黎斗は悪びれる様子も無く微笑む。
最初は無惨にアナザーウォッチを埋め込み適当に暴れさせる事も考えたが、こんな中途半端な体の動物でもウォッチが作用するかは不明。
だったら殺して支給品を奪い、モノモノマシーンとやらの使用権を得た方が良いと判断したのだ。
メタモンが使っていたアナザーウォッチも回収してある。
着々とゲームクリアへの準備も整いつつある現状へほくそ笑み、黎斗は雨降る道を悠々と戻って行った。
【D-6 街(西側入り口付近)】
【檀黎斗@仮面ライダーエグゼイド】
[身体]:天津垓@仮面ライダーゼロワン
[状態]:ダメージ(大)、疲労(極大)、胴体に打撲
[装備]:ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、バットショット@仮面ライダーW、着火剛焦@戦国BASARA4
[道具]:基本支給品×2、アナザーディケイドウォッチ@仮面ライダージオウ、アナザーカブトウォッチ@仮面ライダージオウ、召喚石『ドグー』@グランブルーファンタジー、無惨の首輪、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:優勝し、「真の」仮面ライダークロニクルを開発する。
1:蓮達の元へ戻る。
2:人数が減るまで待つ。それまでは善良な人間を演じておく。
3:ジューダスに苛立ち。機を見てどうにかしたいが、別行動になってしまったな。
4:痣の少年(ギニュー)に怒り。
5:余裕があれば聖都大学附属病院も調べたい…が、微妙な位置が禁止エリアになったな。
6:優勝したらボンドルド達に制裁を下す。
[備考]
※参戦時期は、パラドに殺された後
※バットショットには「リオンの死体、対峙するJUDOと宿儺」の画像が保存されています。
-
◆◆◆
「ケケッ、こりゃ無理だな…」
瓦礫に圧し潰されながら、僅かに息が残っていた少年が力無く呟いた。
痛みはほとんど感じられず、倦怠感と眠気ばかりが襲って来る。
手遅れ以外の何ものでもない己の有様に、ゲンガーは自嘲するしかない。
ダグバがミニ八卦炉から撃ったスパイトネガの砲撃。
複数の建造物を巻き添えにした中には、ゲンガーが生身の肉体を隠した民家もあった。
アークワンとジョーカー達が技を放った瞬間に幽体離脱は解除、戻った肉体は既に虫の息で即死しなかったのが奇跡だ。
どうせ奇跡が起きるなら、何とか生き延びられたくらいのスケールが起きて欲しかったと思わないでもない。
「何やってんだろうなぁ…俺…」
ミチルが殺された後は蓮達の援護に動きもせず突っ立ているという、なんとも情けない様。
その間ずっと同じ考えが頭の中をグルグルと巡っていた。
自分はこのままここにて良いのか、自分がいたせいでミチルまで不幸の巻き添えになったのではないか。
今思えばあの時肉体に戻って蓮達から離れていれば死なずに済んだ。
或いはアークワンがミニ八卦炉を構えた時点で急ぎ能力を解除し逃げていれば、ギリギリ助かったかもしれない。
結局どちらも選べず、ただ考えるより体が動いてアークワンの邪魔をし、その結果死にかけている。
(こんな気分だったのかよ…)
ここに来てからの自分はずっと置いて行かれる側、生かされる側だった。
木曾が剣士相手に命を削り、ロビンが自分だけでもと逃がし、ハルトマンが脅威を遠ざけようとした。
だけど今、自分はようやく彼女達と同じ側になる。
真っ先に感じたのは、残された連中への申し訳なさ。
木曾達もこんな風に感じていたのかと思うと、何だか死んでしまう事にバツが悪くなるではないか。
-
どちらにせよ、今になって後悔したとしても遅い。
眠気はピークに達し、限界が間近に迫っているのを実感する。
重い荷物をようやっと降ろしたように息を吐き、ゆっくりと目を閉じ、
思い浮かんだのは少女の姿。
水兵服を着た少女、眼帯を付けた少女。
自分がこの地で一番最初に出会い、その最期を目撃した少女。
「ケケッ…お前かよ……」
たった数時間一緒にいただけの相手が、最期に想う相手だとは。
我が事ながら可笑しくて仕方がない。
けれど悪い気分では無い。
失って、失って、失い続けて。
自分の命まで失って。
それでも、彼が最後に浮かべたのは、憑き物が落ちたように穏やかな笑みだった。
◆
雨が降っている。
無念も、
狂気も、
憤怒も、
■■さえも、
一切合切を洗い流す。
そんな雨が、降っていた。
【犬飼ミチル@無能なナナ(身体:東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険) 死亡】
【メタモン@ポケットモンスターシリーズ(身体:神代剣@仮面ライダーカブト) 死亡】
【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃(身体:ミーティ@メイドインアビス) 死亡】
【ゲンガー@ポケットモンスター赤の救助隊/青の救助隊(鶴見川レンタロウ@無能なナナ) 死亡】
-
【全体備考】
※D-6の街に以下の物が落ちています。
ミチルのデイパック(基本支給品×3、ラーの鏡@ドラゴンクエストシリーズ、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、耀哉の首輪、ランダム支給品0〜1)
耀哉のデイパック(基本支給品、マシンディケイダー@仮面ライダーディケイド、ミックスオレ(残り4本)@ポケットモンスターシリーズ、2つ前の放送時点の参加者配置図(身体)@オリジナル)
サソードヤイバー&サソードゼクター@仮面ライダーカブト(天逆鉾の効力により変身不可)
八命切・轟天@グランブルーファンタジー、月に触れる(ファーカレス)@メイドインアビスの二つはダグバの砲撃により消滅した可能性もあります。
※ゲンガーの死体の傍にデイパック(基本支給品×3、シグザウアーP226(弾切れ)@現実、タケコプター@ドラえもん、サイコロ六つ@現実、肉体側の名簿リスト@オリジナル、神楽の番傘@銀魂)が落ちていますが、瓦礫に埋もれた可能性もあります。
【七宝のナイフ@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド】
英傑ウルボザが愛用していた屈指の名剣。
ウルボザがこの剣を振るう姿は華麗な踊りのようだったと伝えられている。
【リュウガのカードデッキ@仮面ライダー龍騎】
仮面ライダーリュウガに変身する為のデッキ。
黒龍型モンスター、ドラグブラッカーと契約している。
龍騎を黒く染めたような外見だが、スペックは龍騎よりも高い。
【スゲーナ・スゴイデスのトランプ@クレヨンしんちゃん】
映画第四作「ヘンダーランドの大冒険」に登場した魔法のトランプ。2枚支給。
トランプを持って念じながら「スゲーナ・スゴイデス」と唱えるとあらゆる魔法が使える。
本ロワにおいては「アクション仮面、カンタムロボ、ぶりぶりざえもんのヒーロー三人衆を召喚する」効果に固定されている。
魔法は一回につき一枚であり、使用すると消滅する。
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投下終了です
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投下乙です。
100レス超の投下完了早々にすいません。細かい点について議論スレに書き込ませて頂きましたのでご覧いただけますと幸いです。
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仮投下スレに投下しましたので、確認をお願い致します。
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ギニュー、絵美理で予約します。
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すいません、予約延長期間について相談です。
ドライアイの悪化とリアルの都合により筆が止まっています。
12月9日(金)までの延長とし、この時点で投下がなければ破棄、という扱いは可能でしょうか。
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>>237
了解致しました。
延長期間を9日までにしても構いません。
念のため聞いておきたいのですが、延長期間は具体的にはこの日の何時何分までを希望していますでしょうか。
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本来の期限を過ぎましたが、>>238に対する返答が無いため、一先ず延長期間は9日から日付が変わった瞬間の2022/12/10(土) 00:00:00までとしておきます。
これについて何か変更したいということがあればご連絡ください。
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>>239
すいません、延長期限はその通りで問題ありません。ご迷惑をお掛けします。
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コロコロ言うことが変わる形となり大変申し訳ありません。
ごく短いSSになりますが、何とか本来の延長期限までには投稿できそうです。紙原稿ベースで八割方は書けました。
12月11日(日)22:49:43までの再々延長は可能でしょうか?
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>>241
了解致しました。
延長期限を本来可能な最長期間までに変更しても問題ありません。
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>>241
了解致しました。
延長期限を本来可能な最長期限までに変更しても問題ありません。
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予約を延長します。
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お待たせしました。今から投下します。
-
地下通路の中では、島の中央のモニターを見ようがなかった。下水道等と同種の、画像を映し出す機器類は全く無い場所であったから、志々雄真実もまた第2回放送については音声のみを聞いた。
(……それなりに死んだな)
元より、人が死んだという情報で凹むような柔な精神とは対極にある気質だ。知った名前が誰ひとりとして呼ばれない、弱者の名前を羅列するのみの放送を聞いたとして、この男が感傷にふけるはずがなかった。
禁止エリアは現在地では関係無く、モノモノマシーンのことは既に見知っている。天気の情報もこの場では関係なく、その他の情報はそれこそ些事だろう。動揺する要素がどこにあるというのか。
ただ、死亡者の人数を考えるに、かなり前から今までの間にもどこかで派手な殺し合いがあったと考えられ、しかしそのような出来事とは無縁な場所を突き進んでしまっているらしい、という強い確信だけが生まれた。少々苛立たしいことだが、そのこと自体は受け止めるべき事実だった。
歩を進めながら地図を広げる。
この地下通路の入口は【G-7】にあった。この入口の方は地図に表示されているが、出口がどこにあるのやら、どこを探しても記載がない。第1回放送で明言されていた地図の法則を踏まえるに、地下通路の出口側には足を踏み入れた者はまだ誰もいないと判断するべきだろう。……つまり、他の参加者が、出口側の方からこちらへと突っ込んでくる見込みはない。
だから当面の間、ここで強者と殺し合いになる見込みはない。思い至った結論に舌打ちしながら、ただただ、ひとりで前へと進んだ。
◆
長い距離をひたすらに歩んで到達した、地下通路のもう一方の終点側。誰も地上からここに入れなかった理由は、見たとたんに知れた。建物の残骸にうずもれている。
ただの残骸という訳ではなく、その内訳は、明らかに燃え尽きた末の黒焦げの瓦礫、白い灰、ところどころから白煙さえ上がっている。崩れて燃えて、おそらくは雨で鎮火しつつある状況、というところだろうか。いや、燃えた末に崩れたという推論もあり得るが、それはどうでもいい事だ。
志々雄は地下通路を振り返る。今まで進んできた道を誰かが追ってくる様子は見受けられない。前方はこの有様。
来た道を戻るか、瓦礫を崩すことを試みるか、現状でこの二択ならばどうするべきか……
「崩すとするかね」
この残骸を崩した先の地上がどうなっているかは知れたものでなく、誰かがいると明言できるわけがないのだけども。
焼けた建造物の強度は燃える前に比べてひどく脆いということも、今の「柱の男」の身体にそれを崩し得る実力があるということも、どちらも事実として志々雄は知っている。
◆
-
「これは、……山火事の跡、ってところかい」
そして地上に頭だけを出して周りを見てみた時、真っ先に口から出た言葉が、これだった。
予想の範疇ではあるが、天候は先ほどの放送で予告された通りの雨だ。枝も何もあるどころではない、黒炭化した木々が何本もそびえ立つ場所。元々は森だったと思われる。見通しが悪いなりの判断だが、ひとまず人影は見当たらない。どの方向を見ても、どこか既視感のある山火事の跡地が強い雨粒に打たれ、白煙を吐き、……ただ、すぐ近くに、何か得体の知れない小さな建造物が1つだけ。
一旦地下通路に引っ込んで地図をまた出して見る。今この瞬間に『地下通路②』の文字が出現した、この場所は【G‐3】。志々雄が最初に足を踏み入れたと見做されたのだろう。
地図をしまって地上に出てみた。ただ頭上にかざしたデイパックを気休めの程度の雨除けにして、得体の知れない建造物の方に近づいてみる。説明書き付きの看板を読めば、正体は知れた。
公衆電話:
『会場内の出入り口をそれぞれ一か所に設置されており、電話をかけると出口のほうへと転移できます。ただし、最初に使った人が転移すると十分の間だけそのままの位置で利用可能であるが、それを過ぎると出入り口の公衆電話は会場内のいずれかにそれぞれ転移され、六時間の間は利用できなくなります。再稼働後は再び利用できます。』
どうも、こちらの公衆電話は出口側のようだった。何時間前からここにあるのかは分からないが、いずれここから誰かが移動して来るということなのだろうか。
しばし思案する。
本来、今の時間帯は日差しのある時間帯のはずだ。先ほどの放送で雨が降ることは予告されていたが、いつまで降り続けるかは明言されていなかった。
夜になると暗い時間帯が長く続くというのは間違いないが、この雨の時間帯が長く続くかどうかは不確実である。下手に歩き回った先で急に晴れてしまった場合、強者と殺し合うどころではなく、生命を落とす事態になるだろう。支給された鎧を纏うという方法はあるにはあるが、あれを着て長い間移動するのはひどく窮屈だ。積極的な使用はどちらかといれば避けたい。
地下通路の出入口は先ほどどちらも地図に載った。モノモノマシーンが地下通路にあることも放送で言っていた。血の気の多い強者は、地図を見ながら首輪を所持した状態でモノモノマシーンを目指すはずだ。そして、この公衆電話で遠くから転移してくる者も、もしかしたらいるかも知れない。
とすると、次に取るべき一手は、……ここで誰かが来るのを待ち伏せて襲う、という行動だろうか。
あの地下通路の出口の瓦礫をもう少し片付けて、今後起こり得る戦い流れ次第では速やかに行き来できるようにする。その上で、地下通路の出口近くに身を潜めて、誰かが地上から降りてくる、あるいは公衆電話から出てくるのを待つ。
少なくとも本格的な夜の帳が降りるまでは、そうすることに決めた。
-
【G-3 森 地下通路②付近】
【志々雄真実@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-】
[身体]:エシディシ@ジョジョの奇妙な冒険
[状態]:疲労(小)、諸々のストレス
[装備]:エンジンブレード+ヒートメモリ@仮面ライダーW、アルフォンスの鎧@鋼の錬金術師
[道具]:基本支給品、炎刀「銃」@刀語
[思考・状況]基本方針:弱肉強食の摂理に従い、参加者も主催者も皆殺し
1:参加者を探して殺す
2:首輪を外せそうな奴は生かしておく
3:戦った連中(承太郎、魔王)を積極的に探す気は無い。生きてりゃその内会えんだろ
4:とりあえず地下通路の瓦礫をどけて強者を待ち伏せる
5:未知の技術や異能に強い興味
6:日中、緊急時の移動には鎧を着る。窮屈だがな
7:誰か殺せたり、首輪を手に入れる機会があれば"ものものましーん"のあるこの場所に戻ってくることも一応考えておこう
8:だが、自分の首輪を外すためには、残しておくための首輪の予備も必要になるか?
[備考]
※参戦時期は地獄で方治と再会した後。
※G-3 地下通路②のすぐ近くに、【公衆電話@キラキラ☆プリキュアアラモード】の出口側が出現しました。入口側がどこにあるのかは後続の書き手にお任せします。
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以上です。長い間お待たせして申し訳ありませんでした。
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創作裏話スレで、>>246-248の解説を投下しました。何かのお役に立てば幸いです。
-
投下します。
-
&sizex(7){エッチな獄中生活}
[入監]☚(クリック)
[帰監]
[出監]
♪ラデツキー行進曲
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&sizex(6){『キャアアアアアアアアアアァァァァーッ!!!』}(爆発)
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どこにでもいるごく普通の特戦隊の隊長、ギニューは今、網走監獄の敷地内を歩いていた。
そんな時に、突如として声をかけられた。
『やあギニュー。ちょっとだけ話をしてもいいかな?』
それと同時に目の前に、前の放送直後の時の、ボンドルドが現れたのと同じようにホログラム映像が現れた。
「お前は…確か、斉木空助といったか。お前たち、今度は何の用だ」
現れたのは小野寺キョウヤの身体を使う男、主催陣営の一人の斉木空助だ。
『君、この監獄にあるモノモノマシーンを探しているよね。実はそれ、結構分かりにくい場所にあってね』
「何だと?」
『だから、君だけにはその場所を教えてあげようと思ってね。せっかくジョーカーってことになったんだし、これくらいなら別にいいかなって』
空助が…と言うよりは、主催陣営が今ギニューに接触した目的は、探そうとしていた物の場所を教えるためだった。
網走監獄は広く、建物の種類もそこそこ豊富なため、分かりにくいという言葉には説得力があった。
ここで探そうとしていたものが、わざわざ教えてもらわなければ分からない場所にあったという事実には少し苛つきを感じた。
だがそんなものだということは、他参加者が発見するのも難しく、ここで自分だけが独占できるかもしれないというのならば、今回の話はそこまで悪くないかもしれない。
『モノモノマシーンがあるのは教誨堂という建物の中の地下室。ちなみに教誨堂はあっちの方ね』
空助は教誨堂のある方に向けて指を差す。
『それから、こう書かれている看板があるからそれを目印にするといいよ』
空助はさらに、文字を書き込んだ手持ち式のホワイトボードを見せる。
そこには、「堂 誨 教」と書かれている。
この網走監獄が機能していた頃の日本では、横方向の文章は右から左に読んでいたためこう書かれた。
実際、教誨堂にはこう書かれた看板がある。
「なるほど、分かった。すぐにでもそこに向かおう。だが、もう一つだけ聞きたいこともある」
『ん、何?』
ギニューの言葉に空助は少しわざとらしく首をかしげる。
「何故今回はボンドルドではなくお前が来たんだ、斉木空助」
ギニューが気になったのはその点だ。
場所を教えるくらいなら別に、前と同じくボンドルドでも可能だったのではと思ってしまう。
『それはまあ、一人だけに仕事を集中させるのも何だしってだけのこと。あんまり気にすることじゃないよ』
空助はこれまでと同じよう軽薄そうに答える。
ボンドルドに何か他の役割があることを隠すために誤魔化しているのか、それとも本当に深い理由も無くただ労力を少し軽減しようと思っただけなのか、判断はつかない。
『じゃあ今回はこれで終わりだから、後はジョーカーらしく頑張ってね』
空助は一方的に話を打ち切り、ホログラム映像も切られる。
後にはギニューが1人ポツンと立ったまま残される。
(一先ず、さっさと教誨堂という所に行くか)
気持ちはまだもやっとした部分があるが、とりあえずは目的の場所に向かうことにした。
時間がかかると思ってたモノモノマシーンの捜索も、これで短縮できる。
マシーンが見つけて使用することができれば、宇宙船にもすぐ行ける。
ギニューは先ほど空助が指を差した方角に向けて歩き出した。
◆
「くそっ…!何で寄りにもよってこんなものが出てくるんだ…!」
結果的に言えば、ギニューは教誨堂に何とかたどり着き、モノモノマシーンを発見・利用することができた。
教誨堂内の地下室は、すぐにそれだと分かる入口が見つからなかった。
入ってすぐの広間の奥の方には左右二つの扉があった。
最初は右の方を調べてみたがそこには何もなかった。
後に探ってみた左の方が、件の地下室に繋がっていた。
やがて地下室内にあった牢屋の中で、モノモノマシーンを発見した。
-
モノモノマシーンに近づいたら音声が流れた。
流れたのは前の放送でハワードが言った通りな、神経を逆撫でする口調での説明だった。
予告されていたものではあったが、流石に実際に聞くと苛つく気持ちがどうしても出てしまう。
それでも一先ずは気にせずに、役立つ物を手に入れるため、マシーンのハンドルを回してみた。
最初の参加者殺害分の1回で出たのは、ギニューが望んでいたような武器類ではなく、瓶に詰められた黄緑色の薬だった。
一緒に出てきたこの薬についての説明書を読んだ時、ギニューは前述のような台詞を漏らしてしまった。
何とこの薬には、材料として「ガッツガエル」という種類のカエルが使われているらしい。
せっかくケロロの身体は捨てられたのに、カエルとの縁がまだ断ち切れていなかったようで、思わず声が出てしまった。
説明をよく読んで見ると、この薬は「スタミナ薬」といい、飲めばスタミナを一時的にだが元の上限以上に回復できるらしい。
要するに、疲労が無くなるだけでなく、一度だけなら普段以上に連続で激しい動作をすることができるということだ。
より簡単に言えば、かなり元気になれるということになるだろう。
武器ではないが、役に立つものである。
(だが…カエル、カエルかあ…)
しかし、ギニューはこの薬を飲むことに拒否感を抱く。
現状、かなり疲労している状態のギニューにとって、この薬の効果だけならかなり良いものだ。
けれども、材料にカエルが使われているとなると、たとえこの身体でいるのは一時的であるに過ぎないにしても、体内に取り入れるのには拒否感が現れてしまう。
自分が二度もカエルになってしまった経験があるから、なおさらだ。
◇
(……とりあえず、もう一度回すか…)
スタミナ薬を飲むかどうかは後にして、ギニューは主催陣営からもらった首輪一つ分マシーンを利用することにした。
首輪をマシーンの投入口に入れ、ハンドルをもう一度回した。
「これは…ただの料理か?」
次に出てきた物もまた、武器類では無かった。
出てきたのは、お盆に乗せられた、定食セットだった。
米が一膳、みそ汁一杯、そして何かの肉の生姜焼きだった。
それぞれが入ったお茶碗や皿の上にはラップが掛けられている。
ギニューはこの定食セットを、お盆の端に手をかけて持ち上げる。
そしてギニューはこれら3品の品の他に、一つのメモが一緒に乗っていることに気付く。
この紙に書かれているのが、この定食の名前のようだった。
「マキマの生姜焼き定食?マキマという人物が作った、ということか?」
メモに書かれているのはそれだけだった。
これ以上にこの定食を説明する物は存在しない。
生姜焼きに使われている肉が何なのかも、ここで分かることは無い。
◇
「はぁ…上に戻るか…」
モノモノマシーンを回し終えたギニューは一つため息をつき、ここを出ることにした。
全体的な結果としては、ギニューが望んでいたようなものにはならなかったと言えた。
得られた物の一つはちゃんと役立ちそうな効果があるとはいえ、心情的にはあまり使いたくないと感じてしまうもの。
もう一つは、ただの食事セットにしか見えず、特別な効果があるようなものじゃなかった。
結局、殺し合いに直接役立ちそうな武器等は入手できなかった。
もしここで主催陣営が現れず、かなりの苦労の末にマシーンを見つけて利用したとして、結果が同じだったらと思うと、それよりはまだ良かったかもしれない。
そう考えても、気分が少し下がったままなのは変わらない。
ギニューは薬と定食セットをデイパック内にしまい、とぼとぼと歩きながら階段を登って地下室を出た。
そして教誨堂の広間も通りすぎ、建物の外に出ようと扉に手を掛けた。
雨音に書き消されそうなくらい小さく軋む音を出しながら、扉を半分程開けた、その時だった。
ギニューの身体の炭治郎の嗅覚が、ある臭いを捉えた。
雨の匂いに紛れた微かなものだったが、確かに感じ取れた。
なぜならそいつは、教誨堂の直ぐ側に来ていたのだから。
ギニューが感じ取ったのは、血と、大きな殺意の香りだった。
同時に、ギニューは匂いのしてきた方向…上空へ向けてふと顔を向けた。
そこに、匂いの根源が居た。
ギニューは、そいつと目があった。
-
黄色い小さな雲の上に乗った、金髪でチンピラ風の容姿をした男がそこに居た。
男の顔には、青黒い血管のようなものが浮かび上がっているように見えた。
ギニューと目があった瞬間、そいつは手を自分の胸元にまで持っていった。
「いただきまあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっっっす!!!!!!」
『ヴヴン!!!!!』
チンピラ…絵美理は、自分の胸のスターターを引いてチェンソーの悪魔の姿へと変じ、食事に対する感謝の言葉を述べながら、ギニューの方へと突っ込んでいった。
殺意と、暴力と、破壊と、狂気と、混沌と、食欲と、あとその他諸々の化身とも言える存在が、そこに居た。
◆◆
絵美理がこの網走監獄まで来た過程は単純、
竈門家内である程度まで休み終わった後、筋斗雲に乗って全速力で山の中を突っ切ってここまで来た。
焼け焦げた生首は、特に役立てる方法が思い付かなかったので床の上に転がしたまま放置してきた。
ちなみに、最短ルートを行くため、方位磁石で方角を確認した後、竈門家の壁を一部壊して通り抜けて真っ直ぐに進んで来た。
それと、水に濡れた上着が重いと思ったので捨ててきた。
上半身裸になることに羞恥心は無い。
だって元からエッチな女の子だもん。
それにチェンソーマンは服なんて着ないし言葉も喋らないしやること全部滅茶苦茶だし。
絵美理は滅茶苦茶にベラベラ喋りまくってるけど。
ともかく、彼女はやがてこの網走監獄までたどり着き、その敷地内に侵入した。
絵美理は網走監獄に入り、適当なところからモノモノマシーンを探そうとした。
筋斗雲に乗っていた絵美理は、監獄に入るためにわざわざ正門から入る必要はなかった。
絵美理は監獄の周りを飛び回って中をある程度俯瞰した後、適当な壁の上から監獄内に突入したのだが、その壁の近くにたまたま教誨堂が存在していたのだ。
この網走監獄のどこに教誨堂があるかについては、ゴールデンカムイ原作の第136話を参照だ。
絵美理は、ギニューが教誨堂の出入口の扉を開けたタイミングで、その近くを通りすがるところだった。
扉を開ける音がかすかに聞こえたため、絵美理もそっちの方向に目を向けることができた。
絵美理は、先ほどからずっと人肉が食べたいと思っていた。
だからギニューを見つけた時、この人間を食べようと、直ぐに方針転換した。
◇
「うおあっ!!?」
突然現れ、襲いかかってきた敵対存在に対し、ギニューは驚きの声を出しながら咄嗟に横方向に避けた。
同時に、絵美理は半開きの状態になっていた教誨堂の扉をチェンソーで破壊しながら、建物内へ突入した。
攻撃を避けられた絵美理は勢い余って、筋斗雲ごと教誨堂の奥の方へと行ってしまう。
だがすぐに体勢を立て直しギニューの方へと向き直る。
ギニューもその間に、少し慌てながらも竈門炭治郎の日輪刀を鞘から抜き、敵の方に向き直る。
その際の少しの移動で、ギニューは先ほど破壊された出入口を背に向ける形になる。
「三枚下ろしだあああああああああああああぁぁぁぁぁぁーっ!!」
絵美理は再び入口近くのギニューの方へと突撃してくる。
右腕のチェンソーを振り上げ、ギニューを切り裂こうとしてくる。
それに対しギニューは体勢を整え、今使える技の中で、相手の攻撃を受け止められるものを出そうとする。
――水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き
それは、水の呼吸の型の中で最速を誇る突き技だ。
この技が、今にも自分に届きそうなチェンソーに対応できるものとして、ギニューが咄嗟に出せたものだった。
突きにより、刀の切っ先と振り下ろされるチェンソーの刃がぶつかった。
回転する刃が刀を表面から削り、火花を出した。
「グ、ガアーッ!?」
刀とチェンソーがぶつかり合った瞬間、ギニューは後方に吹っ飛ばされた。
絵美理の方が、パワーで上回っていたからだ。
よく鍛えてある竈門炭治郎の肉体だが、現在の疲労状態も相まって、悪魔の力と、ある細胞に感染している今の絵美理の怪力には敵わなかった。
だが絵美理の方は何事もないというわけではない。
チェンソーが刀とぶつかった反動で絵美理の頭よりも後ろの方に押され、彼女もよろめき、筋斗雲と共に後退させられていた。
その勢いは、ギニューよりは少し弱かった。
ギニューは勢いで、絵美理が破壊した教誨堂の出入口から外に押し出される。
けれども、地面が雨によりぬかるんでいたが、よろめきながらも、そこに何とか着地する。
-
「ぐっ…!いきなり何だ!誰だお前は!」
着地したギニューは、相手に対し思わずそう叫ぶ。
今の状況に、まだついてきれていないようだった。
「なんだてめぇはだああああああぁぁぁ〜〜っ!!?」
絵美理はそれに答えようとする。
「我が名は絵美理!どこにでもよくいるごく普通のエッチな女の子だ!ただし…エッチはエッチでもHellの方だがなあああああああぁぁぁーっ!!」
絵美理が返したのは、彼女のお決まりの前口上(ちょっとアレンジver.)だった。
「そう言う貴様こそ何者だああぁーっ!貴様が『柊』かああぁーっ!!」
「ヒイラギなんぞ知るか!俺はフリーザ様直属のギニュー特戦隊の隊長、ギニューだ!」
「そうですか。違いましたか。まあ、別にどうだっていいですけどね」
絵美理の方が逆に聞き、ギニューはその問いに即興のポーズをとりながら答えた。
だが自分から聞いておきながら、その答えには興味が無さそうに、絵美理は一瞬だけスンと静かに話す。
ギニューが勢い余ってフリーザについても喋ってしまっているが、絵美理はその点に関しても全く気にかけていない。
そして静かになったのは、本当に一瞬だけだった。
「私は今…とても腹が空いている!そして…すごく人肉が食べたい気分だ!だから…貴様を食らって、我が血肉とする!!」
◇◇
(何なんだ、こいつは…)
ギニューは絵美理の言動に対し、そう思った。
この網走監獄に自分以外に人が来ること自体はそもそもあり得たことではあった。
この施設にモノモノマシーンがあるという連絡は参加者全員に向けて通達されていた。
だが、自分の次にここを訪れたのがよりにもよってこんな奴になるとは思ってもなかった。
見た目と実際の性別が合っていないことは、この殺し合いにおいては不思議なことではない。
しかし、何というか、さっきから必要以上にうるさすぎる。
口調も女らしくないどころか、安定していない感じがする。
それと自分を普通のエッチな女の子だとか言っていたが、先ほどからの発言の仕方からして普通とは遠すぎる思ってしまう。
大体エッチはエッチでもヘルの方だとか言っている意味が、ギニューには理解できない。
エッチとヘルを結びつけられない。
これまでこの殺し合いで出会ってきた女たちは皆ろくでもない女ばかりと思ったが、目の前の絵美理と名乗る女?は、そいつらを遥かに超えるろくでもなさかもしれない。
自分のことを食うと言っているのは、人間を補食するタイプの異星人の身体だからなのか、それとも精神の方の趣向なのか、その辺りも分からない。
気分だとか言っているから、聞いても詳しくは答えないだろうし、ギニューもそれについて聞くつもりはない。
突然『柊』なのかどうなのか聞いてきたのは、おそらく参加者の『柊ナナ』のことを指しているが、ギニューは一々そこを気にかけはしない。
会ってもいないしいずれは殺すかもしれない相手の知り合いのことなど、自分は知るかとしか言えない。
せいぜい、こんな奴が気にかける『柊ナナ』とやらはそれこそ一体どんな奴なのだろうかといったことが、脳裏に一瞬浮かぶが、今はそれについて詳しく考察する時ではない。
なおギニューは知らぬことだが、柊ナナは絵美理とは全く関係が無いし、実際には絵美理の方からのかなり身勝手な理由での一方的な因縁付けである。
何にせよ、ただ変な奴と扱えばいいのか、とんでもなくヤバい奴だとすればいいのか、絵美理についてどう思えばいいのかの判断がギニューにはつかなかった。
(だが、油断してはならない)
先ほどの打ち合いで、相手の身体のパワーをある程度実感した。
そこから思うのは、相手は現状の自分よりも、もしかしたら強いかもしれないことだ。
今戦うのは避けられそうにないのに、このままでは勝てない可能性もある。
この状況を切り抜けるために、ギニューは瞬間瞬間の判断を誤るわけにはいかなかった。
◆◆
「サイコロステーキにしてやるぜえええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇーっ!!!」
先に絵美理が動く。
腹が減っているからか、具体的な料理名を叫び、両腕のチェンソーを振り上げながらギニューの方に再び突撃してくる。
「うおあっ!?」
しかし一瞬、視界が遮られる。
大きな赤い布が、絵美理の頭部目掛けて覆い被さっていく。
これは、ギニューが投げたエドワードのコートだ。
「何だこんなものおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉーっ!!」
絵美理は頭と両腕のチェンソーを振り、コートをあっさりと間に切り裂く。
コートはバラバラになり、その破片が絵美理に降りかかる。
-
「ハンバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァーーーーッグ!!!」
そして開いた視界に捉えたギニューを絵美理は某師匠のお笑い芸人のように叫びながら切り裂こうとする。
具体的な肉料理名を何度も叫ぶのは、腹が空いているからだろうか。
ともかくとして、コートを投げたばかりでほぼ棒立ち状態のギニューに、チェンソーの刃が迫る。
――ヒノカミ神楽 幻日虹
「ハァッ!?」
しかしチェンソーが届いた瞬間、その攻撃が相手の体をすり抜けた。
その直後に、幻でも見ていたかのように消え失せる。
「どこ行きやがったああああああああああああああああぁぁぁぁぁーっ!!」
絵美理は辺りを見回し、消えたギニューを探す。
けれども、ギニューはすぐには見つからない。
ギニューは今、絵美理の背後に位置する教誨堂の入口付近に移動していた。
だがギニューはそこから絵美理に対して死角からの攻撃を行おうとしない。
今そうしても、気付かれて防がれてカウンターされる可能性の方が高いと判断した。
だからギニューは、ある決意する。
ギニューはデイパックの中から先ほど手に入れた薬瓶…スタミナ薬を取り出す。
このような状況になってしまった以上、もはやこの薬を飲むことについてうだうだ考えている場合ではない。
こんなカエル汁を飲むことに対して抱く忌避感も、今は耐えるしかない。
ギニューは絵美理がまだ自分の位置に気付いていない隙に、すぐさまこのスタミナ薬を飲み干す。
すると確かに、体から疲労感が消えていく感覚があった。
体中にエネルギーが満ち溢れる感じがした。
刻まれた傷や痛みまでは癒えなかったが、今はそれも耐えるしかない。
「そこかああああああああああああああああああぁぁぁぁーっ!!」
ギニューが薬を飲み終えると同時に、絵美理もギニューの位置に気付く。
もう一度、両腕のチェンソーを振るいながらギニューへと迫っていく。
――ヒノカミ神楽 炎舞
「ぐあぁっ!?」
「くっ…!」
しかし、ギニューに刃が届きそうになった瞬間、両腕とものチェンソーがギニューの刀によって弾かれた。
それだけでなく、チェンソーにかなり小さいがヒビも入っていた。
先の雫波紋突きの時と違い、絵美理の方も思わず声を漏らし、ギニューはあまり後退りさせられずにその場で踏みとどまれた。
ギニューが今出した技の炎舞は、大きな半円を描く斬撃を二度入れる連続技だ。
この技は本来一撃を躱されてももう一度狙えるようにするためのものだが、ここにおいてはそれぞれ別方向からせまるチェンソーをどちらも弾けるようにするために使われた。
チェンソーを弾かれた絵美理は、筋斗雲の上でバランスを崩しかける。
今回のギニューの攻撃は先と違い、たしかに絵美理に対抗できているようだった。
疲労感が無くなっている分、前よりもしっかりと刀を握り、地にしっかりと足を踏み込んで技を出せた。
そのため、筋力の差がある相手でも対応できていた。
そしてギニューは、今の打ち合いである事に気付く。
(こいつ…力に対して技術が伴っていない!戦闘に関しては素人か!?)
それは今から12時間ほど前にも、今のギニューと同じく鬼殺隊の全集中の呼吸の技術を持つ者も気付いたことだった。
絵美理は相手を殺そうとする気概だけなら自分をも超えそうだが、戦いのための技術ならば自分よりもはるかに格下であるとギニューは感じた。
両腕の凶器もただやみくもに振り回しているだけ、そこにこいつの隙がある。
スタミナ薬を飲んだ今なら、怪我がまだある現状でも勝機はある。
そう、ギニューは思った。
「この痣野郎おおおおおおおおおおおぉぉぉぉーっ!肉団子にしてやるううううううううううううぅぅぅぅーっ!!」
絵美理は学習していないかのようにチェンソーを振り回しながらまたも突撃をかます。
それに対しギニューは、後ろ向きに飛んで教誨堂内に戻りながら、その攻撃を避ける。
絵美理は勢いで、それを追う形になって彼女も教誨堂内に再び入る形になる。
「下ががら空きだ!」
――ヒノカミ神楽 陽華突
ギニューは、素早く筋斗雲に乗った絵美理の下の方に潜り込んだ。
そこからすかさず跳び上がり、刀を真っ直ぐと突き出しながら、上空にいる絵美理に向け一点集中の攻撃を仕掛けた。
この攻撃により、絵美理の足を傷つけながら彼女を雲の上からバランスを崩させて落下させるつもりだった。
だが、結果的に言えばそんなことにはならなかった。
ギニューの刀は『ガキィン』という金属同士がぶつかり合う音と共に受け止められた。
刀がぶつかったのは、絵美理の足からも飛び出て来たチェンソーであった。
「なっ!?」
ギニューは思わず、驚きの声を漏らす。
さっきから腕のチェンソーをブンブン振り回してはいたが、まさか足からも生えてくるとまでは想像していなかった。
-
「うおおおおおおおおおおおおおおおお肉まんんんんんんんんんんんんんんんんーっ!!」
刀を弾いた後も、絵美理は足のチェンソーの刃をそのまま回転させる。
ちなみに、彼女が発動させていた足のチェンソーは右足片方だけだ。
結果、足のチェンソーはそのまま絵美理の乗る筋斗雲を切り裂いた。
「んんんんなあああああああぁぁぁぁーっ!」
絵美理は、バランスを崩して筋斗雲の上から右足から落下し始めた。
足先のチェンソーを、下に向けながら。
「くっ!」
陽華突が失敗したギニューは跳躍による勢いがついたまま上昇、足のチェンソーへと頭から近づいていく。
チェンソーが触れそうになり、頭を咄嗟に横に振って避ける。
体の上昇に伴い、右耳にチェンソーの刃が掠め、肩の鬼殺隊の隊服を切り裂き、肩の肉をほんの数ミリ抉る。
そこで体の上昇は止まり、下に向かって落ちる。
絵美理はもう片方の足が筋斗雲に乗ってため、ギニューは彼女よりも早く自由落下、先に床の上へと着地する。
その直後に、自身のすぐ上で回転する凶器がそのまま自分に向かって落下して来ていることを認識する。
これもまたすぐに、後ろの方に向かって跳び、避ける。
そして、絵美理は右足で床の上を派手に切り裂き、破壊しながら着地する形になる。
「ふう、まさかこんなものが出るとは思いませんでした」
筋斗雲から落ちた絵美理は、急に落ち着いた感じになり、足のチェンソーも引っ込めた。
(まさか、こんなこともできるとは)
その様子を見ていたギニューは考える。
さっきは相手の足からチェンソーの刃が出るということまで想像が及ばず、危うく頭から切り裂かれるところだった。
しかもどうやら、相手の方も自分が足からも出せることをよく把握せずにやったみたいだった。
(やはり、ここは『アレ』をやってみるべきか)
ギニューは絵美理を倒すために必要な手段の一つについて考え始めていた。
早くフリーザ様の宇宙船に行くためにも、これをやるしかないと判断していた。
足のチェンソーのように、自分の知らない新たな技を急に出されるのを防ぐためにも、相手を早く倒すしかないと思い始めていた。
そのためにも、先ほどからこの教誨堂の建物の中になるべく誘導ようにしていた。
外の雨の環境では、足下が滑る可能性や、雨の匂いで相手の匂いが紛れて炭治郎の嗅覚を上手く扱えないかもしれないからだ。
そして今、絵美理が急に一瞬落ち着いたことで、ギニューも新たに呼吸を整える時間を作ることができた。
スタミナ薬による疲労回復も十分残っている、考えている手段である『技』を出すことは可能と思われる。
今切られた肩の痛みや体にある他の傷の痛みも含め、それにより体を動かすスピードも落ちるかもしれないが、それらを気にする暇はない。
とにかく、それに挑戦するしかないのだ。
以前の時は殆ど竈門炭治郎に操られた状態で行ったらしき最終奥義…ヒノカミ神楽、十三の型を。
◆◆
「ふぅ……もつ煮込みいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃーっ!!」
絵美理は一息入れた後、再びチェンソーを振り回しながらギニューの方へと向かってくる。
――ヒノカミ神楽 円舞、碧羅の天
「ぶおぉっ!?」
またまた、チェンソーの刃が弾かれる。
正面から弧を描く斬撃と、円を描く斬撃が両腕の凶器にぶつかる。
その刃に入っていたヒビが、先ほどより少し大きくなる。
――ヒノカミ神楽 烈日紅鏡、灼骨炎陽
「ぬうううううううううぅぅぅぅぅーっ!ナゲットオオオオオオオオオオォォォォーッ!!」
今度は、絵美理が防ぐ側に回る。
∞を描くような斬撃と、高速の回転斬りを、自分の体に直接届かないよう二つのチェンソーを動かし、守る。
チェンソーに入るヒビが、さらに大きくなる。
――ヒノカミ神楽 陽華突
「ぐうぅっ!カツッ!!」
先ほどもやられた飛び上がりの突き技を、今度は両腕のチェンソーを交差させて自分の胸元の真ん前で防ぎ、すぐにカウンターを仕掛ける。
チェンソーは回転する刃の近くだけでなく、側面から見ての中央辺りにも新たにヒビが入る。
カウンターもまたバックステップで避けられ、距離をとられる。
――ヒノカミ神楽 日暈の龍 頭舞い
「どわあああああああああああああああぁぁぁぁーーっ!!」
距離をとられたと思った瞬間にすかさず、ギニューは素早く接近しながら攻撃を仕掛けてきた。
絵美理がそれに対抗しようとして両腕を突き出し、刀とチェンソーがぶつかり合ったその時だった。
ヒビが遂に全体に周り、腕のチェンソーは両腕とも砕け散った。
-
――ヒノカミ神楽 斜陽転身
先ほどの技で絵美理の後方に移動する形になったギニューは、そこから跳躍する。
そのまま空中で身を捩り、体の上下と前後を反転させながら背後から絵美理の頚に向かって刀を振るう。
「まだまだあああああああああああああああぁぁぁーーっ!!」
しかし絵美理はすぐに首から振り向き、自分の体を回転させ、頭部のチェンソーを振り、それで刀を受け止めた。
――ヒノカミ神楽 飛輪陽炎
刀を弾かれた後のギニューは、空中で一回転した後着地し、すぐさま次の技を仕掛ける。
「ぱああああああああああああああああああぁぁぁぁーっ!?」
振られた刀は切っ先がまるで陽炎のように揺らぎ、絵美理からはまるで刀身が伸びたかのように一瞬見えた。
その不可思議な現象のせいで攻撃範囲が読めず、頭のチェンソーを防御のために使えず、咄嗟にチェンソーの無い腕を前に出すことしかできなかった。
結果、両腕の前腕部が刀により深く斬られた。
切断されるまでには至ってないが、肉だけでなく骨にも切れ込みが入れられる。
直接的な痛みを伴うダメージを受けた絵美理は、今までよりも更に大きく後退りさせられる。
――ヒノカミ神楽 輝輝恩光
そこからギニューは鋭く強く踏み込み、素早く剣を振り抜いた。
刀が再び、絵美理の首元目掛けて飛んでくる。
「寿司いいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃーっ!!!」
それに対し絵美理は頭を強く下に向けて振り、刀と頭部のチェンソーを再びぶつかり合わせる。
「ぐえええええええええええええええええぇぇぇぇーっ!?」
しかしここでも、絵美理の刃は破壊された。
両腕のものとは違い、頭部のチェンソーはこの二回目の激突で砕かれた。
◇
(いける…!)
ここまでヒノカミ神楽が繋がって、ギニューはそう確信する。
自分が目の前の化け物女(?)相手に勝てるということを。
主要武器であろう腕と頭のチェンソーを砕くことには成功した。
足のチェンソーはまだ残っているが、これだけで自分に対抗できるのは難しいだろう。
足を持ち上げて振り回すにしても、基本的に片方の足は地面に着けて立っていなければならない。
警戒するにしても、『透き通る世界』で相手がチェンソーを展開するタイミングは読めるだろう。
今回の戦いでのこの境地は、ヒノカミ神楽十三の型を行っている途中で入れている。
それにより相手の体の構造も把握できている。
相手は基本的な構造は人間のものと同じだが、外観からでも分かる頭部と両腕は透き通る世界でも違って見える。
足もチェンソーにしようものなら、実際に飛び出てくるよりも前に先に気付けるだろう。
あと、相手は心臓の形が普通とは違って何らかの生物のように見えることであるが、今のところはそれに何らかの特殊な動きがある様子は見られない。
せいぜい気になることがあるとすれば、最初にこの教誨堂の外で遭遇した時に変身の際に引いていたスターターと心臓が繋がっているところだろうか。
そこから導き出される答えとしては、相手の体からチェンソーを生やす能力は、特殊な心臓に由来するということだろうか。
ともかくとして、ギニューはこの瞬間有利な状況にいた。
相手の能力は心臓に秘密があるようで、そこを何とかしなければまたスターターを引くなりで砕いたチェンソーも復活する可能性は考えられる。
だがそうなる前に首でも心臓でも斬って捨ててしまえばいい。
もはや自分の完全勝利は揺るぎないものだと、そう思っていた。
◆
――ヒノカミ神楽 火車
ギニューは絵美理の真上に飛んだ。
(見えたぞ…隙の糸!)
上に飛んだ分、相手は自分に向けて残された足のチェンソーを届かせることは難しくなる。
まだ十二の型全てが繋がっているわけではないが、これで相手の首目掛けて刀を振るえる。
首を刎ねられて死なない奴はいない、これで今回の戦いは終わりだ。
そう思った瞬間だった。
『透き通る世界』が奇妙なものを捉えた。
-
「ばああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁーっ!!!」
「!?」
絵美理の体から、突如として蒸気が噴き出した。
同時に、『透き通る世界』で、絵美理の体の構造が一瞬で変化していく様子が見えた。
『隙の糸』も、その時切れた。
相手の体のまだ人間だった部分中に、青く変色した血管が次々と張り巡らされるように浮かび上がった。
そして、それらの部分もまた、通常の地球人類とは異なる形に変わっていった。
「刺身ィッ!!」
「うおっ!?」
絵美理の首元へと向かっていたはずの刀が弾かれた。
彼女はその刀を、自分の頭を振って弾いた。
既に、チェンソーは無いはずの頭でだ。
元から悪魔としての異形をしていたその頭部には、チェンソーとは違う、新たなものが生えていた。
頭から生えていることを鑑みれば、それは『角』と呼ぶのが適切だろうか。
それとも、本来それを持つ生物の体の部位の正式名称として、『顎』と言うべきだろうか。
絵美理の頭部から生えていたのは、まるでクワガタムシの顎のようなものだった。
この2本の突起が、まるで角のように出現していた。
先のギニューがヒノカミ神楽の火車を行おうとした際に刀がぶつかったのも、これのようだった。
そして、首からしたの胴体部分も、これまでのような人の肌が見えなくなり、まるで昆虫のような怪人のものになっていた。
腰の辺りには、それこそ昆虫が持つような肢のようなものがいくつか生えていた。
それは、本来の昆虫のものよりは大きかった。
◇
絵美理の体から突如として出現のは、溶原性細胞に感染した者が変貌するアマゾンの一種であるクワガタアマゾンの特徴である。
溶原性細胞により人が変じたアマゾンは、赤の他人同士でも似たような生物の特徴を備えた姿のアマゾンになることがある。
実際のクワガタアマゾンは、ある結婚式の途中だった花嫁が変貌したものしか確認されていない。
しかしここで、新たにそのクワガタアマゾンの力が発現した者が現れていた。
◇
「ヤバジュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥーーーーッス!!」
ギニューが困惑している間にも、絵美理は更に新たな攻撃を仕掛けてくる。
前述した昆虫の肢が、ギニューに向けてかなりの速さで刺突するように伸びてきた。
「くっ!」
――ヒノカミ神楽 幻日虹
ギニューはその肢の刺突を、体を高速に捻り、回転しながら避ける。
「鍋ぇっ!マジ闇鍋えぇっ!!」
避けられた後も、絵美理は肢による刺突を連続で続ける。
四方八方に向け、ひたすら無差別に複数の肢を何度も突き出す。
ほとんどは教誨堂の壁に当たり、それを破壊し穴を開け、外で降る雨が見える。
――ヒノカミ神楽 炎舞
無差別な攻撃はやがて視界外にいたギニューにも迫る。
その向かってくる肢を、ギニューは炎舞で防ぎ、斬った。
それにより肢が二本、切断される。
しかしこれは、相手に対し致命的なダメージにはならない。
「そこかああああああああああああああああああぁぁぁぁーっ!肉だけカレエエエエエエエエエエエエエェェェェーーッ!!」
肢を斬られたことで絵美理はギニューの位置を把握する。
そこからさらに、肢を伸ばして刺突を仕掛ける。
――ヒノカミ神楽 円舞
それも何とか、ヒノカミ神楽の型で防ぎ、肢に切れ込みを入れる。
そして、ヒノカミ神楽十三の型も、円舞と炎舞が繋がり一周を果たしていた。
(よ、よし…これならまだ何とか…)
突如相手の体が、チェンソーに全く関係のない形に大きく変化したのは驚いたが、ギニューはまだ何とか対応できていた。
ヒノカミ神楽十三の型は十二の技を続けて繰り返すことに意味がある。
早期決着が難しそうだが、まだ自分が負けたわけではない。
そう思い、絵美理の方にギニューが目を向け、次の技を仕掛けようとした。
その時、絵美理は、怪物と化した腕を自身の胸の方に持っていった。
刀による腕の傷はそのままだが、彼女はその痛みに耐えながら指を胸のスターターに引っ掛けようとしていた。
(!…まずい!)
絵美理が今何をしようとしているのかをギニューは直感する。
おそらく、先ほど自分が砕いたチェンソーを復活させようとしているのだと。
先の肢を伸ばして刺突する攻撃のせいで、絵美理とギニューの距離は離されてしまっていた。
ギニューがここから攻撃するのと、絵美理がスターターを引くのとではどちらが間に合うのかは分からない。
今の絵美理にこのままチェンソーの復活を許してしまえば、どうなるのかは分からない。
-
(こうなったら…!)
ギニューは咄嗟に、あるものを絵美理に向かって投げつけた。
それは手に持つ日輪刀ではない。
貴重な武器はそう簡単に手放すわけにはいかない。
ギニューは今、自分が背負うデイパックの中に手を入れ、何かを掴み、それが何なのかを確かめずに投げた。
先ほどスタミナ薬を出した際に出し入れ口は開けっ放しだったため、手を突っ込むことはすぐできた。
そして今は、このデイパック内に武器になりそうなものは特に入っていない。
強いて言うならばバギブソンは攻撃に使えるものだろうが、それはさっと手に取って投げられるものではない。
今投げた物は、デイパック内の上の方にあったことから、おそらくは先ほどモノモノマシーンから入手したものの内のどれかだ。
「あたっ!?」
ギニューが投げた物は絵美理の頭辺りに当たった。
その時点で、胸のスターターはまだ引かれていなかった。
そして絵美理はここで、物をぶつけられた衝撃で怯むだけでなく、動きを止めてしまった。
さっき絵美理の頭にぶつかったものは、ギニューが手に入れたばかりの、生姜焼きが乗った皿だった。
絵美理の頭にそれが当たった後、衝撃でラップがずれ、中の生姜焼きは皿からこぼれ落ちた。
その生姜焼きは、皿が当たったことでのけぞって上向きになった絵美理の顔に落ちた。
その中から、衝撃に驚いて絵美理が開けた口の中に入ったものもあった。
絵美理はそんな生姜焼きをほぼ無意識に咀嚼、飲み込んだ。
その時絵美理は、こう感じた。
自分は、この生姜焼きを食べたことがあると。
生姜焼きは、前に食べた弁当とは違い、味を感じた。
舌の上で感じるこの味は、自分の記憶にはないはずなのに。
それに何だか、普通は食べ物に対しては抱かないようなこともこの生姜焼きに感じる。
言うなれば、これは異性に対する愛情…
「スキありーーーーーーっ!!!!」
と、絵美理が思った瞬間だった。
――円舞一閃
轟音と共に、高速の刃が彼女の首元目掛けて飛んできた。
◇
今ギニューが放った技は、ヒノカミ神楽十三の型に繋がるわけではない。
けれども、今放てる技の中で相手を仕留められる可能性が高いのはこれであるような感じがした。
これはかつて、竈門炭治郎が上弦の肆との戦いで編み出した、ヒノカミ神楽の円舞と雷の呼吸の霹靂一閃を組み合わせた技だ。
雷の呼吸の応用で、足に力を集中させて地面を蹴り、円舞に霹靂一閃の如き速度を乗せた技だ。
そして、ギニューはこれで遂に、絵美理の首に対し日輪刀の刃を通すことができた。
ギニューは生姜焼きが相手の口の中に入ることを狙って皿を投げたわけではないが、結果的に大きな隙を作ることができた。
「ふう…ようやく終わったか」
遂に戦いに勝利したと確信したギニューは、勢いで絵美理のいた場所を通り過ぎたままの所で、彼女を背に向けながら一息つく。
これでようやく宇宙船の方に行けると、安心した気持ちも出てくる。
後には、戦いの終わった静かな空間が残っていた。
…そう、どこか不自然なほどに不気味な静けさがそこにあった。
「………ん?」
ギニューも違和感に気付いた。
自分が首を斬ったはずならば、その首が落ちる音や、動かぬ死体となった相手が倒れる音が聞こえるはずだ。
しかし、そんな音が聞こえてくることはなかった。
ギニューはゆっくりと振り向いて、自分の背後の様子を確かめた。
『ヴヴン』
「まだ首を斬られただけだああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁーっ!!!」
戦いはまだ終わっていなかった。
とにかくイカれているとしか形用できないその女は、未だしぶとくその場所に立っていた。
その姿は、異形から人の姿に戻っていた。
チェンソーの悪魔としてでも、クワガタアマゾンとしての姿も維持できていなかった。
振り向いたギニューが見たものは、太い銃のようなものをこちらに向けている絵美理の姿だった。
-
◆
絵美理は確かに、円舞一閃によって首を斬られたはずだった。
しかし、彼女はまだ生きていた。
彼女の今の身体であるチェンソーマンことデンジや、感染している溶原性細胞に、その秘密があるわけではない。
いや、これがデンジの身体だったりアマゾン化したりしてなかったらここに立って元気よく銃口を向けたりすることはできないのだろうが、その辺については後だ。
とにかく、絵美理がここで致命的な攻撃を耐えられたのは、彼女自身のその異常な精神性によるだった。
絵美理はかつて死の直前、自分の花婿候補に頭部を粉砕された。
しかし彼女はその時、即死せず頭が無いままに喋り、動けていた。
その時のような根性とも、不条理とも呼べそうなものが、発動していた。
チェンソーの悪魔の心臓を持つデンジは元々、致命傷を受けても、胸のスターターを引けば復活できた。
もちろんただではなく、体に血が十分に足りてないといけないが。
それに、完全に死んでいる状態であれば、他者にスターターを引っ張ってもらわないと復活はできない。
しかし絵美理は、そうなる前に自力で引いた。
隙を晒して首を斬られた直後、彼女の首から下は動き、まず両手が頭をキャッチした。
そして頭と首から下の断面を合わせ、片手で頭が吹っ飛ぶのを抑え、片手が胸のスターターを引いた。
それにより、斬られたばかりの首の切断面を、接着した。
ついでに、腕の斬られた部分の傷も一応塞がっていた。
なお、チェンソーは血が足りなくて再生できなかった。
首がくっついたことには、先ほどぶつけられた生姜焼きを食べることができたのも幸いした。
本来悪魔は、肉ではなく血を摂取することで回復する。
しかし今の絵美理は悪魔の(心臓を持つ)体だけでなく、アマゾン細胞の一種である溶原性細胞も保有している。
アマゾン細胞を持つ者…アマゾンはタンパク質、特に人のものを好む。
そしてアマゾンには、高い回復力を有する者もいる。
そんなアマゾン細胞が悪魔の体に感染・反応・融合…その際に、変異が起きた可能性がある。
今の絵美理は、タンパク質の摂取だけでもある程度血の代わりとなるかもしれない。
そして絵美理が食べたのは、人の形をした悪魔の肉だ。
首の接着のためならば、足りない分の血をこれで補うには十分と見られるかもしれない。
ここにあった精神が絵美理でなければ、こんなことにはならなかった。
彼女の前の死の時とは違い、頭部が粉砕されていなかったから成功した。
とんでもない無法で、インチキな、離れ業だが、今ここで実際に起きてしまった。
『そうはならんやろ』と言われても、『なっとるやろがい!』としか答えられない。
精神が身体の影響を受けるだけなのではない。
身体もまた、精神の影響を受けるのだ。
◇
首を治した絵美理は、直ぐ様に敵…ギニューを殺そうと思った。
それほどの、大きな怒りを感じていた。
自分を殺しかけたこともそうだが、それ以上に許せないことがある。
それは、自分に向かって生姜焼きの入った皿を投げつけて来たことだ。
自分にぶつかった生姜焼きは皿の上からこぼれ落ちた。
そのうちの少しは自分の口の中に入ったが、ほとんどは床の上に落ちた。
相手は、食べ物を粗末に扱ったのだ。
それに何故だか、この生姜焼きを乱雑に扱われたことが、自分の愛する者を乱暴にされたのと同じような気持ちになる感じがする。
絵美理はそのように錯覚していた。
だから、今すぐどんな方法を使ってでも確実にギニューを殺そうとした。
そのための手段として、これまで腰の方で装備状態にはあったが、使おうとしなかった武器を取り出した。
それを使おうとしなかったのは、これを当てることによる爆発で、相手の体の可食部が吹っ飛んで食べられない状態になることを考えてのことだった。
相手は以前これを喰らわせた奴のように体を鎧のようなもので覆っているわけではない、爆発の威力で台無しになる可能性は十分考えられた。
しかし、怒りに身を任せた絵美理はそんな風に考えていたことを忘れた。
とにかく相手をすぐに殺すことしか考えていなかった。
血が足りなくなってチェンソーをすぐに出せないこの状況、デイパック内から輸血パックやその他のアイテムを出す時間も惜しかった。
絵美理は腰から引き抜いたその武器…圧裂弾を構え、銃口をギニューに向けた。
「ポップコーンにでもなっちまいなあああああああああああああああぁぁぁぁーっ!!ンゴェャッヨ砲おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーっう!!!」
絵美理は、思いっきり大嘘な技名を叫びながらその引き金を引いた。
圧裂弾は真っ直ぐにと、ギニューに向かって行った。
-
ヒノカミ神楽を繰り返していたギニューにはこれを避ける体力は残っていなかった。
スタミナ薬で回復した分も、もう使い切っていた。
ギニューが避けようとしない様子を見て、絵美理が勝利を確信したその瞬間だった。
「チェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンジ!!!!」
二人の世界が、変わった。
◆◇
その時、絵美理が見た光景は、信じられないものだった。
自分の目の前に、絶対にいるはずのない人物が立っていたからだ。
そこにいたのは自分が身体を使っていたはずの男、『デンジ』だ。
見えるはずのないものはそれだけではない。
視界に写ったのはほんの一瞬にも満たない時間、認識することなんて絶対に不可能なもの。
それは絵美理自身がさっき放ったはずの、圧裂弾だ。
目の前で立っているデンジも、圧裂弾を発射するための銃をその手に持っている。
それを持っていたのは自分のはずなのに。
デンジを姿をした奴は、これで終わりだとでも言わんばかりに、絵美理に背を向け蹄を返して歩き出す。
そして、絵美理はこれを認識することは終ぞ出来なかったが、彼女の意識が存在する身体も、変わっていた。
絵美理は、自分が戦っていた相手のギニューが身体に使っていた、『竈門炭治郎』になっていた。
ギニューと絵美理は、互いの身体が入れ替わっていた。
絵美理がそのことを理解する暇もなく、圧裂弾は今の彼女の身体である竈門炭治郎の腹の辺りに命中した。
弾は体内に撃ち込まれ、そのままそこで起爆した。
彼女/彼の身体は、オレンジ色の液体をまき散らしながら、内側から弾け始めた。
「ぶっぽるぎゃるぴるぎゃっぽっぱあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!!!!?!!!!?!!!!??!!!!!??!!!!!!!!!???!!」(CV:花江○樹)
『絵美理は1827381537354つの肉片に別れた!』
『絵美理は死に55631133927858324899021345438957649611335470526歩近づいた!』
状況を理解できないずに大混乱したまま、絵美理は断末魔にかつての花婿候補の鳴き声と同じ言葉を叫んだ。
激しい轟音・閃光と共に、彼女を中心とした大爆発が起きた。
周囲の床や天井、屋根までも巻き込まれながら、そこにあったものは全て吹っ飛ばされた。
こうして自分で引いた引き金により、彼女自身は全く訳が分かってないまま、自業自得に、
絵美理は生命活動を停止…死んだのだ。
【絵美理@エッチな夏休み(高橋邦子)(身体:竈門炭治郎@鬼滅の刃) 死亡】
-
◇◆
「ゼエ…ハア……あ、危なかった…!」
教誨堂内に後に残ったのは、周りが焼け焦げている床の大穴と、雨が入り込む天井の穴と、竈門炭治郎の身体に背負われていたデイパックが焼き飛ばされたことで散乱した中の荷物、
そして、どっと襲ってきた肉体的・精神的疲れからその場に膝をついて座り込んだ、デンジの身体を手に入れたギニューだった。
今回はかなり肝が冷えた。
この殺し合いの中では今までで一番かもしれない。
(……まるで、何ともなかったかのようだ)
ギニューは首をさすり、これが確かに傷もなくくっついていることを確認する。
今でこそこれは自分の体になっているが、取り替える前は確かにこれを斬ったはずだった。
けれど、今は傷痕一つも残っていなかった。
自分が斬り着けた腕の方の傷も、綺麗に消え失せていた。
まさか胸のスターターを引くことで再生するのがチェンソーだけでなく、致命的な傷までもだとは思っていなかった。
今回のボディ・チェンジは咄嗟のことで、元からやるつもりではなかった。
相手の身体はチェンソーやクワガタの能力を持っており、おそらく竈門炭治郎のものよりはスペックは高いとは思われたが、そこまで積極的にチェンジしようとは考えていなかった。
今のボディ・チェンジは一度使うと二時間使えなくなる、使用する際はもっと慎重にしたかった。
今の自分で殺せそうならば、それはそれで進めるつもりだった。
相手が腰に大きな銃を着けていたことにも気付いていて、警戒もしていたが、それを使われる前に倒せるはずだった。
しかし、まさか首を斬った直後にそれを治して、それからさらに銃を使ってくるとまでは流石に想像に及ばなかった。
そのおかげで、咄嗟のボディチェンジをするしかなくなった。
そうしなければ死んでいたのは自分だった。
この身体は竈門炭治郎のものより上手く扱えるかどうかは分からないが、切り替えていくしかない。
そのためにもまずは、この身体の人物のプロフィールや、デイパックの中にあるものを確認しなければならない。
その次には、今の爆発で元々自分が持っていたデイパックが破け、吹き飛ばされたことで散らばった中身を回収しなければならない。
それから、着替えも欲しいと思っている。
絵美理が服を脱ぎ捨てていたため、ギニューは今上半身裸だ。
正直なところ、寒い。
雨が降っているため、気温も下がっている。
何を思って服を脱ぎ捨てていったんだと、ギニューは思う。
だから、何か新しい服が欲しいと思っている。
この場所は監獄だ、囚人用か看守用といった服はあるかもしれない。
流石に囚人服は嫌ではあるが。
「そういえば…首輪はどこに行った?」
ここで言う首輪とは、自分が今着けているもののことではない。
この首は自分によって一度斬られたが、その際に外れてしまう前に治されたようだった。
と言うか、斬って外して治すということをやろうとした場合、主催がどのような動きを見せるかは分からない。
とにかく、今ここで述べられているのは絵美理の首輪の方の話だ。
身体を入れ替えたとはいえ、お互いに首輪は着いたままだった。
絵美理を死に追いやれたのだから、新しい首輪を回収してモノモノマシーンをもう一度使用できるはずだった。
しかし、目に見える範囲には首輪が無い。
そして、それが付いているはずの死体は爆散して消滅してしまったようだ。
そこから、ある可能性が考えられる。
「まさか、誘爆したか?」
実は、その通りだった。
竈門炭治郎の身体に着けられていた首輪は、圧裂弾の爆発に巻き込まれて誘爆、消失してしまった。
「くっ……!せめてこの体を手に入れられたことが幸いか…」
結果としては今回の戦いはギニューの勝利だったが、どこか晴れた気分にはなれない。
何か、勝ったような気がしない。
苛つきも感じている。
結局のところ、間一髪でボディ・チェンジができなければ自分は死んでいた。
相手が強力な爆発物を使ってきたせいで、自分の元からの荷物はバラバラになり、使えたはずの首輪も失われた。
服が無くて寒いため、服を探すという余計な手間をかけさせられることになった。
それに戦いの余波でこの教誨堂はあちこち破壊されてボロボロになっている。
外から見てもこのことはすぐに分かるだろう。
それにより他参加者が監獄を訪れた場合、ここで何かがあったのかと気になって近づき調べてみて、モノモノマシーンを発見するのに時間がかからないかもしれない。
こんなことになったのはどれもこれもあの頭のおかしすぎる女…絵美理のせいだった。
まだプロフィールを確認していない今、実際に戦ってみて感じられた強さしか身体の良いところは分からない。
それに他にやるべきだろうことが増えたせいで、宇宙船に行くのが更に遠ざかってしまっている。
この事実もまた、ギニューに対しストレスを与えてしまう。
-
「それに何だか…腹が減った」
ギニューは空腹も感じていた。
これは元々絵美理が感じていたものを、ギニューは引き継いでいた。
この身体には先ほどの戦いの際に生姜焼きを少し食べていたが、それだけでは足りなかったようだ。
そしてこの空腹を紛らわせるものは、すぐそこにあった。
◇
「これは…さっき投げた生姜焼き…」
ギニューは、自分が投げて絵美理の口に入らずに床に落ちた生姜焼きに目が釘付けになった。
この生姜焼きが、美味しそうに見えてきた。
『ゴクリ』
ギニューは唾を飲み込んだ。
床に落ちたものを食うなど、そんな浅ましい真似はフリーザ様直属の特戦隊隊長としてのプライドが許さないはずだった。
しかし、ギニューは思わずその生姜焼きに手が伸びた。
色んな疲れのせいもあるのか、思考力が低下しているようだった。
ギニューはほぼ無意識のうちに、床の生姜焼きを拾い上げ、それを口の中に運んだ。
ギニューもまた、生姜焼きを咀嚼し、飲み込んだ。
生姜焼きは、とても美味しく感じられた。
思わず、他に落ちている生姜焼きにも手が伸び、それらも次々に口の中へと放り込んでいった。
「………ハッ!お、俺は一体何をしているんだ!?ペッ!ペッ!」
正気に戻った時は、既に生姜焼きを平らげていた。
もう床の上に落ちていたりはしない。
ギニューは、自分が粗末にした分の後片付けをしたのだ。
慌てて吐き出そうと思っても、何故だかそんな気になれない。
汚れたものを口に運んだという思いはあるため、せめてのこととして唾を飛ばす。
「チッ…この体もかなり厄介な代物のようだな」
ギニューは今の自分の行動を身体に何か原因があると考える。
空腹ならば勝手に、無意識のうちに、例え汚れていても食べ物に手を伸ばしてしまうようでは扱いは難しいかもしれない。
よって、自分がやらなければならないことの内、優先順位を最初にするのはプロフィールの確認とした。
これからこの身体とは最低でも二時間は絶対に付き合わなければならない。
犬みたいな浅ましい真似を勝手にしてしまうのがそれなりに強い力を持つこの身体を捨てる理由にするには弱い、これで新たにボディチェンジするつもりがあるわけではない。
でも、念には念を入れて確認は必須だと判断した。
せめてもっと良い情報が手に入ればと思いながら、ギニューはデイパックの中からプロフィールを取り出し、内容に目を通し始めた。
-
【B-1 網走監獄 教誨堂内/午後】
【ギニュー@ドラゴンボール】
[身体]:デンジ@チェンソーマン
[状態]:肉体的疲労(大)、精神的疲労(大)、貧血、イライラ(中)、溶原性細胞感染、体質の変化、クワガタアマゾンの特徴の発現、空腹感(微小)、上半身裸、服・体が濡れている、姉畑への怒りと屈辱(暴走しない程度にはキープ)、ボディチェンジ使用不可(残り約2時間)
[装備]:圧裂弾(0/1、予備弾×2)@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品、輸血パック×3(1つは3分の1程消費)@現実、虹@クロノ・トリガー、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、杖@なんか小さくてかわいいやつ、ランダム支給品0〜1(童磨の分)
[思考・状況]
基本方針:ジョーカーの役割を果たしつつ、優勝し、主催を出し抜き制裁を下して、フリーザを完全に復活させる。
1:この身体(デンジ)のプロフィールとデイパック内にある他のものを確認する。
2:新しい服を監獄内で探す。
3:散らばった荷物を回収する。
4:何でこうもフリーザ様の宇宙船に行くのを後回しにしなければならないようなことばっかり起きるんだ…!結果的には勝ったのに全然スッキリしない…!
5:もしベジータの体があったら優先して奪う。一応孫悟空の体を奪うことも視野に入れている。
6:ヒノカミ神楽とかは今も使えるのか?
7:変態天使(姉畑)は次に会ったら必ず殺す。但し奴の殺害のみに拘る気は無い。
8:炎を操る女(杉元)、エネルギー波を放つ女(いろは)、二刀流の女(ジューダス)にも警戒しておく。
9:ここにはロクでもない女しかいないのかと思っていたが、さっきの絵美理とかいう頭のおかしいうるさい女と比べたら、他は全然マシなやつらだったかもしれん。
10:さっきの奴(絵美理)が気にしていたヒイラギにも少し警戒。
[備考]
※参戦時期はナメック星編終了後。
※ボディチェンジによりデンジの体に入れ替わりました。
※今後も全集中・水の呼吸、ヒノカミ神楽を今の身体で使用可能かどうか、透き通る世界が見れるかどうかは後続の書き手にお任せします。
※主催側のジョーカーとしての参戦になりました。但し、主催側の情報は何も受け取っていません。
※ボディチェンジは普通に使用が可能ですが、主催によって一度使用すると二時間発動できない制限をかけました。
※デンジの身体の参戦時期は、少なくとも第一部終了以降とします。
※オリジナル態の血液を摂取した為、溶原性細胞に感染しました。
※クワガタアマゾンの特徴が発現してきています。チェンソーの悪魔への変身時にもクワガタアマゾンの特徴が混じった状態になることがあるものとします。
※肉の摂取でも、ある程度は血の代わりになるよう体質が変化してきているものとします。
※溶原性細胞によるアマゾンの特徴として、特定の部位への執着があるかどうかは後続の書き手にお任せします。
※竈門家の中に遠坂凛(身体)の焦げた頭、デンジの上半身の服が放置されています。
※竈門家の壁の一部が人の通れるサイズに破壊され外に出られるようになっています。
※教誨堂内に【筋斗雲@ドラゴンボール】が二つに切り分けられた状態で存在します。元に戻して今後も使用可能かどうかは後続の書き手にお任せします。
※教誨堂は、出入口の扉が破壊され、壁にいくつかの穴、床と屋根・天井に周りの焼け焦げた大きな穴があります。
※【エドワードのコート@鋼の錬金術師】は破壊されました。
※マキマの生姜焼きが入っていた皿が教誨堂内の床に落ちています。
※竈門炭治郎の身体に背負われていたデイパックの中身(基本支給品、バギブソン@仮面ライダークウガ、プリンアラモード@現実、定食の残りの米とみそ汁)と【竈門炭治郎の日輪刀@鬼滅の刃】は教誨堂内かその周囲のどこかに爆風で飛ばされ散らばっています。それぞれどんな状態にあるのか、使用可能かどうかは後続の書き手にお任せします。
※竈門炭治郎(身体)の遺体は爆散して残っていません。また、そこに着けられていた首輪も誘爆により失われました。
[モノモノマシーンの景品紹介]
【スタミナ薬@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド】
ガッツガエルとマモノ素材を使って作成する薬。
飲むとがんばりゲージが上限を超えて回復する。
【マキマの生姜焼き定食@チェンソーマン】
デンジが作ったマキマの生姜焼き定食。
米、みそ汁、生姜焼きの三点セット。
どこの部位の肉を使っているかは不明。
◆◆◆
-
♪オーラ・リー(Aura Lee)
今回も厳しい戦いだった…だが我々は勝利したのだ!
絵美理…とても恐ろしい相手だった…
彼女の敗因は、相手の見方にブレを生じさせてしまったことだ。
最初は相手のことを『食料』だと認識して、『狩り』のつもりで戦っていた。
しかし、最後の最期で相手を排除すべき『敵』と認識してしまった。
途中まで叫んでいた料理名は実際に調理できるつもりのものの名を叫んでいた。
しかし最後のポップコーンは…ただの比喩表現だった。
それほどまでに絵美理は相手に対して怒りを抱いていた。
けれども彼女が怒りを抱いたのは、相手が食べ物を粗末に扱ったからだ。
そこだけは、彼女の信念はズレていなかったことを示しているだろう。
今回の戦いでは米やみそ汁にプリンアラモードも犠牲になった可能性がある。
もしそうなっていたらそれらに使われた食材を育てたり、収穫したり等してくださった農家を始めとする生産者の方々にとても申し訳ない…
今できるのは、せめてもの無事を祈ることだけだ。
現代においても、まだ食べられるのに捨てられてしまう食品が大量にある。
令和2年度のデータにおいては、年間522万tもあると推計された。
そんな食品ロスを減らすためには、一人一人の行動が大切だ。
例えばただ食べ残しをしないだけでなく、食べ物を買う際には消費期限の近いものを優先して購入・消費するといった方法もある。
そして日本には「もったいない」という言葉が存在する。
これは日本が世界に誇る文化の一つとして見られることもある。
この言葉を心に留めて、しっかりと食べて生きていきたい。
さて、今日の晩御飯は何にしようかな…
◇◇◇
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&sizex(7){おしまい}
♪ハンガリー舞曲 第5番 終奏
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&sizex(6){『キャアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァーッ!!!!』}(爆発)
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投下終了です。
-
アルフォンス・エルリックを予約します。
-
あげ
-
投下します。
-
「何で…俺達は生きてちゃダメなんだ…!!」
◆
真っ先に感じたのは頬を撫でる風の冷たさ。
次いで草木の匂いと、地面の硬い感触。
草原に寝転がっていれば、当たり前のように感じられるそれら。
血の一滴すらも流れていない空洞の鎧とは無縁の感覚が、アルフォンスの意識を目覚めさせる。
「っ……」
体の節々が鈍く痛むも、戦闘中の時程ではない。
この肉体は普通の人間よりもずっと傷の治りが早い。
完全に回復とまではいかなくとも、移動に支障が無い程度には傷が塞がっていた。
周囲に参加者は影も形も見当たらない。
先の戦闘で遠ざけた二体の異形は勿論のこと、他の参加者もだ。
睡魔には勝てず眠りに落ち、どれくらいの時間が経ったのだろうか。
-
のっそりと体を起こしたタイミングで、聞き覚えのあるチャイムが鳴った。
6時間前と同じ、定時放送の合図。
弾かれたように見上げると、やはり前回同様空に主催者の姿が浮かび上がっている。
ただ最初の時とは違い、映っているのはボンドルドではなく初めて見る者だが。
「人…じゃないよね…?」
服装こそ普通だが、着ている存在はどう見ても人間ではない。
ハワードと名乗った男曰く、あの肉体はフリーザという名らしい。
知る事ができたのは名前だけであり、フリーザについて他に何か情報を口にはせずハワードによる伝達事項が続く。
主催者も予期せぬ事態と警告、禁止エリアと死亡者の発表、殺し合いを促進させる設置物について。
最後に天候の変化とハワード個人の夢を語り、放送は終了した。
また6時間後の放送も彼が担当するのか、はたまた別の誰かが参加者への顔見せを行うのか。
現段階では不明である。
まずは得られた情報を整理すべく一度深呼吸し、頭を働かせる。
寝起きだろうと容赦なく腹の虫が鳴り続けているが、この数時間で空腹を無視するのにも慣れた。
たんぱく質を寄越せと訴える本能を黙殺し、考え事に集中する。
発表された死亡者について。
村の近くで別れた凛達も、その直後に情報交換した神楽も無事。それは良い。
悪いニュースとしては、神楽が信頼できると言った仲間の名が4人も呼ばれたこと。
誤解を解こうとした結果とはいえ、最後に見た神楽の姿は精神的に参っている様子だった。
放送が彼女への追い打ちとなり、良からぬ事態になっていないだろうか。
時間を考えても神楽は既に病院へ到着している筈。
そこで誰か支えになってくれる人と出会えていれば良いのだが。
今のアルフォンスにはそう願う事しかできなかった。
それに知らない人物や、中には人どころか生物ですらない参加者もいたが、やはり10人もの参加者が死んだのには暗い気持ちとなるのを抑えられない。
彼らの死を、ペースが落ちたで片付けるハワードにも怒りがある。
とはいえここで感情的になっても解決には何ら貢献しない。
-
ボーナス名簿やモノモノマシーンは誰も殺していないアルフォンスには無用の情報。
一応頭の片隅に留めておく程度のもの。
死亡者と同じくらいに気にかかったのは、最初にハワードが伝えた事。
身体側の人物の精神の発生という、主催者からしてもアクシデントと捉えているだろう現象。
言葉の通りに捉えるなら、元々の肉体の持ち主の精神が後から肉体に入れられた別の精神と接触した。
この情報、アルフォンスにはどうも不可解な点が多く感じられる。
まず肉体から元の持ち主の精神を抜き出し、肉体を空っぽの状態にする。
それから肉体へ別人の精神を封じ込め、殺し合いの参加者として登録が完了。
殺し合いにおける参加者の状態とは、大まかに言うとこういうものだと思っていた。
凛がその分かり易い例だ。
彼女は精神・肉体の両方が殺し合いに参加している。
元の肉体から追い出された凛の精神は、野原しんのすけという少年の肉体に入れられた。
その際しんのすけの肉体からも精神は抜かれ、別の誰かの体に入っている。
残された空っぽの肉体の方には零余子なる者の精神が入れられた。
精神と肉体、それぞれがバラバラとなっている。
だが放送の内容が真実ならば、アルフォンスが考えていた参加者の状態とは違う事になるのだ。
身体側の人物の精神の発生、つまり精神側の参加者に与えられた肉体は空の器ではなく、表に出れないだけで元の持ち主の精神が存在するのではないか。
参加者として登録もされていない肉体側の精神の行方は、殺し合い開始当初から気になっていた事ではあった。
主催者に捕らえられている、若しくは既に消されている。
可能性としてあり得るのは主にその二つであったが、ここで提示されたのは第三の可能性。
肉体側の精神は、後から入れられた精神と干渉できないよう封じ込められている。
それが何らかの形で綻びが生じ主催者も予期せぬ事が起きた結果、放送で警告するに至った。
-
しかしそうなると、また新たに分からない事が増えてくる。
肉体側の精神が元の肉体に宿ったままならば、凛のように精神と肉体両方が参加している者はどう説明するのか。
空っぽの肉体に精神を入れた参加者と、意識を封じ込めた肉体に精神を入れた参加者の2パターンを用意し、それぞれ違いを見るつもりだったと言うなら分からんでもない。
一番初めの放送でボンドルドは、殺し合いを何らかの実験に捉えている節はあった。
なら実験結果をより多く知る為に別々の措置を施したのは、有り得ない話ではない。
疑問はまだある。
放送でわざわざ警告する辺り、主催者にとって参加者が肉体の持ち主の精神と接触するのは宜しくない事らしい。
肉体側の精神との接触で、殺し合いの進行に起こる不都合とは何なのか。
主催者に関する重大な情報を漏らす?
違う。そんな大事な情報を持っている者なら最初から参加させないか、精神を予め消している。
精神側の参加者と協力して主催者を倒そうとする?
違う。仮に協力し合えたとしても首輪で命を握られているのは変わらない。反抗されてもスイッチ一つで片は付く。
だったら何なのか。
「体の持ち主が、自分の体を取り返すこと…?」
起こり得る可能性は否定できない。
この目で見た訳ではないが、身体側の意識の復活は実際に起きている。
ならば後から入った精神を押し退け己の体を取り戻し、名簿に登録された参加者に代わって殺し合いで動き回る。
そういう事態はボンドルド達には望ましくない。
当たり前と言えば当たり前だ。
殺し合いでどう動くかを見たいのは精神側の参加者。
なのに肉体側の参加者に取って代わられたら、意味が無い。
-
では、身体の持ち主の意識の復活が起きた理由は何だ。
ハワードが言っていたように、主催者も予測していなかった事態。
それが起きてしまったのは何故か。
ボンドルドらの措置がお粗末だった、と言うだけなら簡単。
だが本当にそうなのかと問われたら素直に頷けはしない。
顎に手を当て考え、ふと思い出す。
「待って、確か遠坂さんが…」
情報交換の際、彼女からある仮説を聞かされた。
それは会場に設置された施設に関する考察。
・一部参加者しか目指しそうにない場所=一部参加者のみに伝える何かを用意している。主催の中の誰かが此方(対主催)にとって有利になるように託した、と言う可能性を考慮。
・施設の後出しで地図に表記は、主催者もすべての施設の場所を把握してないかもしれない。或いは主催の誰かが置いた何かの施設が彼らにとって都合の悪い何かなのではないか。
これらの考察から弾き出されるのは、主催者の中には参加者に味方する者いる可能性。
純粋な善意からか、独自の思惑でボンドルド達を排除したいかは不明だが、とにかく打倒主催者を目的とする参加者が有利となるよう働きかけている。
もし本当にそのような人物がいるなら施設の設置以外にも動いており、それが肉体側の意識の復活。
ボンドルド達が施した肉体側の精神が表に出ない措置に綻びを生じさせた。
殺し合いの破綻に繋がるからか、別の思惑があるのか。
何にせよボンドルド達の望まない事態を意図的に引き起こした。
結果、今後はより一層参加者に不測の事態が起きないかの警戒心を強めるに終わったようだが。
(もしかしてそれが狙い…?)
ボンドルド達の警戒心を参加者の方へ強く向けさせ、その隙に何か別の行動を起こす。
そういった狙いがあり、参加者達は丁度良い囮として利用されている。
尤も本当に主催者の中にそのような人物がいればの話だが。
長々と考えたが、現段階で出来るのは推測だけだ。
凛達と合流し改めて意見を出し合うか、身体側の意識が復活した参加者と接触し情報を集めれば答えは見えてくるのかもしれない。
-
その前に行かねばならない所がある。
昆虫に似た怪人との戦闘で足止めを食らったが、アルフォンスは村方面に行き康一と巨大な虫を探すつもりだったのだ。
放送で彼らは呼ばれなかったが、今も無事でいる保障は無い。
もしかすると誤解から互いに望まぬ争いへと発展しているのかもしれない。
風都タワーの調査という当初の目的から大きく外れてしまっているのを凛に謝罪し、改めて村へ急ぐ。
と、またもや大きく腹の虫が鳴った。
人間の肉を喰わせろと叫び続けるアマゾンの本能。
分かりましたと従いはせず、水を飲んで誤魔化す。
食人という禁忌への衝動。
体の持ち主である千翼もまた、必死に抗っていた。
だったら自分も屈する訳にはいかない。
「……」
そうだ。
千翼は耐え難い空腹に苛まれても人を食べようとはしなかった。
だけど千翼が周囲に望まれたのは、生ではなく死。
誰も千翼が生きる事を望まない、認めはしない。
同情や、愛情や、殺意以外を向けはしても、生きて欲しいとは誰も言わない。
唯一彼を助けようとした友でさえ、千翼の運命を変える事は出来ず。
生きる事を諦めなかった少年は、誰からも生きる事を許されないまま終わりを迎えた。
千翼の人生を一から十まで知った訳ではないけれど、夢で見た彼はいつも傷ついていたのははっきりと覚えている。
全ては起こってしまった事に過ぎない。
今更知ったとて、アルフォンスが千翼にしてやれる事は一つもない。
エルリック兄弟が母の死という悲劇を変えられなかったように、千翼の物語の結末を変える事も不可能。
-
殺す以外にどうしようもない命。
嘗て、スカーが手にかけた合成獣が思い出される。
錬金術師の驕りがあの合成獣を生み出したとスカーに糾弾された時、自分とエドワードは何も反論出来なかった。
ニーナとアレキサンダーを元に戻す事も出来ず、問題を先送りにしていただけ。
仮にスカーが殺さなくとも、軍によって殺処分されていた可能性は十二分にある。
「それでも、僕はやっぱり認められない。ううん、認めたくない」
命を奪う事を、肯定したくはない。
生まれて来る命に罪はない、生きる事は罪ではない。
千翼の周りの大人たちから何を馬鹿なと言われようと、アルフォンスは千翼の生を否定したくはない。
周囲から死を望まれるだけの理由があったとしても、生きて良いんだと切に思う。
だから、その言葉を千翼に直接言えない事が無性に悲しかった。
【C-5 草原/日中】
【アルフォンス・エルリック@鋼の錬金術師】
[身体]:千翼@仮面ライダーアマゾンズ
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、空腹感、自分自身への不安
[装備]:ネオアマゾンズレジスター@仮面ライダーアマゾンズ、ネオアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]基本方針:元の体には戻りたいが、殺し合うつもりはない。
1:康一さん達が心配。様子を見に村へ行く。
2:遠坂さんに頼まれた地図上の施設を巡る。空腹には十分気を付けないと。
3:ミーティ(無惨)に入った精神の持ち主と、元々のミーティを元の身体に戻してあげたい。精神が殺し合いに乗っている可能性も考慮し、一応警戒しておく。
4:殺し合いに乗っていない人がいたら協力したい。
5:バリーは多分大丈夫だろうけど、警戒はしておく。
6:もしこの空腹に耐えられなくなったら…
7:千翼はやっぱりアマゾンなの…?
8:一応ミーティの肉体も調べたいけど、少し待った方がいいかも。
9:機械に強い人を探す。
[備考]
※参戦時期は少なくともジェルソ、ザンパノ(体をキメラにされた軍人さん)が仲間になって以降です。
※ミーティを合成獣だと思っています。
※千翼はアマゾンではないのかとほぼ確信を抱いています。
※支給された身体の持ち主のプロフィールにはアマゾンの詳しい生態、千翼の正体に関する情報は書かれていません。
※千翼同様、通常の食事を取ろうとすると激しい拒否感が現れるようです。
※無惨の名を「産屋敷耀哉」と思っています。
※首輪に錬金術を使おうとすると無効化されるようです。
※ダグバの放送を聞き取りました。(遠坂経由で)
※Fate/stay nightの世界観および聖杯戦争について知りました。
※千翼の記憶を断片的に見ました。
※アマゾンネオ及びオリジナル態に変身しました。
※久しぶりの生身の肉体の為、痛みや疲れが普通よりも大きく感じられるようです。
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投下終了です。
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ン・ダグバ・ゼバを予約
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野原しんのすけ、柊ナナ、燃堂力、脹相を予約します。
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更新キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
全裸待機(´ε` )
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投下します。
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「あそこへ行こうかな」
グロンギの頂点に立つン・ダグバ・ゼバは先程の戦闘が終わってしまった後、体力を回復させるべく休憩する場所に向かっていた。
二回目の放送が始まる前に行った283プロか候補として食酒亭にするか迷っていたが、選んだのは前者に決めた。
別に食酒亭でも構わなかったけど、単純に見慣れた場所で休息を取ったほうが手っ取り早い、それだけだった。
本来の体なら休息を取らずにD-6に戻って、見失っていたキャメロット達や先程戦ったエボルト達と再戦と行きたいが、残念ながら今は脆いリントの体だ。
無理はせずに退くことを決めた。
幸い、魔法のじゅうたんのおかげで余計な体力を消費しなくて済むので再度便利な道具だと感じた。
移動中にダグバは今頃になって重大なことを思い出した。
「そういえばクウガの体のこと忘れてたな」
ここに来て失念してことがあった。
クウガ=五代雄介の精神がいないことは最初に名簿で確認している。
五代の精神が参加していないからといって、体だけある可能性が低いわけではないことを。
もし、ここに五代の体があるのなら、それはそれで面白いかもしれない。
今更、思い出すなら精神と身体の組み合わせ名簿を碌に確認もせずに宿儺に渡してしまったことを勿体なかったと後悔する。
だからといって精神と身体の組み合わせ名簿を宿儺から取り戻す気にはならない。
それだけの理由で宿儺に会って、また意地の悪い笑みを浮かべながら、挑発を繰り返されるのは御免だ。
放送で名前が呼ばれなかったのを見ると同じ行為を他の参加者にしているのは容易に想像できる。
まともにやる気がないなら、自分の知らない場所で勝手にくたばってくれれば有難い。
宿儺を思い返すのはもう最後にしよう。
思い出すたびに向かっ腹が収まらずにストレスを溜めてしまうから。
強引にもう一つの方法を切り返した。
なら、他の参加者から荷物を奪って精神と身体の組み合わせ名簿を手に入れるしかない。
D-6にいる面々なら誰か一人でも持っているかもしれないので頭に留めておく。
五代の体を使っているその参加者とゲゲルを楽しむのも悪くない。
クウガの件を考えている内に283プロが見えてきた。
283プロに誰かいるかもしれないが、それはない。
恐らく、東の町にいる全参加者が集まってドンパチを繰り広げたのだから今も手薄だろうし、心配はない。
それでも入れ違いで居座っている場合はここまで温存していたあの支給品を使わざるを得なくなる。
到着したダグバは魔法のじゅうたんを仕舞い、二度目となる283プロに入っていった。
△
283プロの中に入ったダグバは改めて一階を見渡してみるとペットショップ、クリーニング店、靴屋、書店などまるでリントが普段、何かを買う建物のデパートみたいだと思った。
一度来た際は適当に座ればそれでいいという理由で一階の中を流し見しており、覚えているはずがなかった。
きちんと見てみると大きい建物ではないのに軒を連ねているのが分かる。
どうやらここには二度来ても無人のようだ。
実は一回訪れた時に休んでいた場所は上の階にある居間みたいな所で座っていた。
今回も同じ場所で座ろう。
その前に上の階に行く前にある問題を片付けるべくクリーニング屋に向かい、中に入った。
-
ダグバはクリーニング屋に寄ったのは放送で大雨が降る予告をされていたので分かっていたが、戦闘の最中に雨が降り、服が濡れていた。
斬月・真とアークワンに変身中は鎧に覆われている間は濡れていなかったが、生身なら別だ。
濡れた服による不快感と寒さで体力が多少奪っているのもあって仕方がなかった。
改めてリントの体はいくつか不便だと再確認。
そんな中、クリーニング屋を目に留まったことでちょうど別の服を着替えるうってつけの場所だ。
濡れた真乃の衣服を下着と靴下以外は全て脱いだ。
周りを見るとそれぞれ白いTシャツ数十枚、水色のジャージが数十着置かれている。
別の衣服が見当たらず、全部同じTシャツとジャージしかない。
「まあ、いいかな」
他の参加者ならツッコミを入れていただろうがダグバは服があればそれでいいと思い、気にはしなかった。
ダグバは置かれている着替えを手に取り、白いTシャツと水色のジャージを袖に通した。
衣服を替えたことで大分、スッキリしている。
休憩後は移動のためにずぶ濡れに逆戻りになってしまうが。
靴屋があるものの靴を履き替える気は一切ない。
クリーニング屋を後にして、上の階に向かっていった。
△
上の階に上がったダグバは扉を開け、事務所の居間みたいな場所にお邪魔した。
一回来た際、この部屋の内装もほとんどうろ覚えなのはさっさと体力を回復してゲゲルを再開したいから。
先程座ったソファーとテーブル、テレビ以外は記憶になかった。
きちんと見ると家具はおろかいくつもの棚の中に沢山の資料やその上に救急箱に黄色いランドセルなど置いている。
窓の外側に283と文字が反対に書かれ、右側にはキッチンがある。
今、冷静に283プロの中の周りを見ることできたのはまた暫くはゲゲルが出来ず、羽を伸ばしているかもしれない。
クウガを思い出したのも同じ理由だ。
ソファーに座り、デイパックをその隣の床に置いた。
ダグバはライダーの変身アイテムのことで考えていた。
「本当に余計なことをしてくれたね」
アークワンは斬月・真よりも高性能なのは二度の戦闘で実践という形で理解した。
繰り返し何度も思っているが制限をかけたのは余計な真似しかない。
長い休憩で変身制限が過ぎても最初にアークワンに変身できるが、デメリットがあるとすればゲゲルの最中に強制的に変身が解除されることだ。
こんなんで隙が生まれて足もとを掬われたらたまったものではない。
「仕方ない、我慢するか」
アークワンの制限が解かれても今まで通り、基本は斬月・真に変身する。
少々、不自然かもしれないが制限のカバーをするにはこれしかない。
考えてみると切り札をいきなり出すのではなく、後から出す手は悪くない。
変身アイテムは一応解決したがもう一つの問題を考えようとした時だった・・・
「眠くなってきた」
-
ここで眠気が襲ってきた。
殺し合いが始まってから一回分の休憩を除けばダグバは戦闘か移動しかしていなかった。
疲れが溜まって限界が来たのだ。
よって今から仮眠を取り、次のゲゲルに備える。
もう一つの問題も起きてからにする。
ダグバはソファーで仰向けになり、目を閉じた瞬間に眠りについた。
△
ダグバはゆっくりと目を覚ました。
時計を見るとどうやら一時間以上は寝ていたようだ。
周囲を見ると何も起きないのを考えると幸い、誰も来ることはなかった。
外も変わらずに雨が降っている。
ダグバは後回しにしていた問題を思い出した。
ミニ八卦炉の消耗が激しすぎていたことだ。
今まで消耗がそれほどではなく深く考えずにいたがエボルト達との戦いの後、死活問題になったと気づいた。
この力は強力なビームが撃てるし、本来の体が使っている超自然発火能力と同じ炎で気に入っている。
何回も使用するには解決できるあの支給品がある。
「この場面で使いたくないけど、しょうがない」
デイパックから取り出したのは水色の瓶が入っている液体。
あの支給品の名はエリクシールと言い、今まで受けたダメージや怪我だけでなく、消費した魔力やSPとTPというのを全てのステータスを全回復させる豪華なものらしい。
今まで温存していたのはゲームが序盤、中盤だったり、死にそうな状況ではないから。
しかし、今は出し惜しみしている場合ではない。
ダグバはエリクシールを半分ほど飲み干した。
すると傷が治り、ダメージと消耗も軽減された。
だが、半分しか飲んでいないが故、全回復には至ってない。
今後のことを思うと全部飲むのは躊躇した。
もう半分はゲーム終盤か本当に死にそうな場面しか使わない。
それまでは我慢して温存する。
「なんか、お腹すいたな」
唐突にダグバのお腹から腹の虫がなった。
ここまでゲゲル開始直後から食事を一切取っていない。
第二回放送直後の休憩を除けば大半が移動と戦闘に費やしている。
「腹が減っては戦ができぬって言うしね」
今は食事を取って次のゲゲルに備えることに決めた。
デイパックからコンビニ弁当を取り出した。
ついでに冷蔵庫に料理があると考え、中を開けたら沢山のおやつがある。
その中からチョコレートケーキを一つ取った。
ダグバはロースかつ丼を食べることにした。
キッチンに電子レンジがあったので温めた。
温かいご飯とサクサク揚げたカツにふんわりとした卵がある。
まずはロースカツを食べた。
-
「うまいね」
肉の味が濃く、ジューシーな感じがした。
卵やご飯も豪快に平らげ満足のいく主食だ。
ロースカツ丼完食後はチョコレートケーキを食する。
食べてみると甘くて濃いチョコの味がした。
リントの食文化でいうデザートは後と意見もあるらしい、それになぞっただけ。
食べ終わったダグバは立ち上がり、デイパックを背負う。
今後はどこに行こうか考えている。
キャメロット達とエボルト達が近くにいる以上彼らと再戦して、精神と身体の組み合わせ名簿を入手するのも悪くない。
でも、この町から離れて未知な参加者がいる西に行くのもいいかもしれない。
だが、春の屋付近はやめておく、もういないだろうが宿儺がいる可能性も否定できない。
あの村に行く気はなし、同時に宿儺のことはもう思い出さない。
「さあ、今度は誰が僕を笑顔にしてくれるか楽しみだな」
休息を十分に済み、ゲゲル再開の準備は整った。
アークワンの変身制限もとっくに過ぎている。
狩りの時間の始まりだ。
ダグバは与り知らぬことだが、真乃の精神はまた泣き始めた。
安らぎの時間が終わりを告げられ、地獄に戻ってしまうのを絶望する以外ない。
ダグバが休憩に入っている間は多少泣き止んでいた。
二度も283プロに訪れた際はゲームに巻き込まれる前のことを思い出した。
プロデューサーにスカウトされてアイドルになって、風織とめぐると出会ってイルミネーションスターズというグループを結成した。
友達がいない真乃にとって大切な二人で固い絆で結ばれている。
他の同じ事務所のアイドルとは切羽琢磨するけど大事な仲間とも会えた。
今が幸せで夢に向かうと思っていた・・・
殺し合いに巻き込まれて悪い人に使われた時点で幸せは脆くも崩れ落ちた。
アークワンによる二度の変身で悪意に侵食し、蝕まれつつある。
段々、自分が自分でなくなり、おぞましくなる気がする。
死にたくない恐怖、犯した罪から目を背け逃げる気持ちが強くなっている。
今はどうやって笑えばいいか分からないほど笑顔がなくなった。
意識が復活しなかったら生き地獄を味わっていなかったであろう。
さらに放送で主催者から消すと宣告されており、追い打ちをかけられた。
四面楚歌で精神的に限界を迎え、真乃はひたすら絶望しかなかった。
-
【D-7 283プロ/午後】
【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
[身体]:櫻木真乃@アイドルマスターシャイニーカラーズ
[状態]:満腹、ダメージ(小)、消耗(中)、苛立ち(大分緩和)、櫻木真乃の精神復活及び汚染
[装備]:ゲネシスドライバー+メロンエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、ミニ八卦炉@東方project、水色のジャージ@アイドルマスターシャイニーカラーズ
[道具]:基本支給品×2、アークドライバーワン+アークワンプログライズキー@仮面ライダーゼロワン、魔法のじゅうたん@ドラゴンクエストシリーズ、エリクシール(半分消費)@テイルズオブデスティニー、真乃の衣服
[思考・状況]基本方針:ゲゲルを楽しむ
1:どこに行く?
2:見失った二人(キャメロット、凛)やさっきの二人(蓮、エボルト)と再戦する。そんなに離れてないし、またすぐ会えそうだね
3:あの青い着物姿のリント(宿儺)とはもう戦いたくない
4:クウガの体があるなら戦うのも悪くない
5:アークワンにはまた変身したいなぁ
6:??????????
[備考]
※48話の最終決戦直前から参戦です。
※櫻木真乃の精神が復活したことにはまだ気づいていません。
【エリクシール@テイルズオブデスティニー】
ン・ダグバ・ゼバに支給
味方一人のHPとMPを全回復させる回復薬品。
購入による入手が不可な希少なアイテム。
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投下終了します。
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延長します。
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投下します。
-
前回までのあらすじ
「俺のこの顔でハムスターは似合わねえってか!?」
――――
移動すべきか、待つべきか。
二つに一つの選択肢を決めあぐねるしんのすけの思考を中断させたのは、低く奇妙な音。
発生源が自分の腹部からだと理解すると同時に、猛烈な空腹に襲われた。
「オラ腹減ったゾ……」
腹部を抑えへたり込む姿からは、先程までの真剣に考えていた様子は見当たらない。
だが仕方のないことだろう。
しんのすけが最後に食事をしたのは、一回目の定時放送よりも前のこと。
以降は連戦に次ぐ連戦で食事を取っている余裕は無かった。
体力を大幅に消費した体がエネルギーの補給を訴えるのは至極当然である。
それにサイヤ人は地球人とは比べ物にならない程の大食漢。
大盛りカレー一杯だけでは、とてもじゃないが腹は膨れない。
「…先にご飯にしますかな〜」
やはり空腹には勝てず、デイパックから食料を取り出す。
煉獄と共に食べた水水肉以外に、参加者全員に支給された弁当がある。
どっかりと床に座り込むと蓋を開け食事を取り出した。
「ごちそうさま〜」
それを言うならいただきますだろとツッコミを入れる者は皆無。
少しばかりの寂しさを感じつつ、プラスチックのスプーンで弁当を掻っ込んでいく。
ハンバーグ、フライドポテト、スパゲッティナポリタン、エビフライ、ポテトサラダ、白米。
子どもの大好きな物をこれでもかと詰め込んだ弁当をあっという間に平らげた。
一般の成人男性ならば十分なカロリーを摂取出来たが、悟空の肉体では全然足りない。
弁当一つなど、おやつと大して変わらないのだ。
ルブランで蓮がよそってくれたカレーの味が恋しくなってくる。
-
「……お?」
空腹にため息をつきかけた時、ふと顔を上げる。
何かの音、いや何者かの話し声が聞こえた。
宇宙船に誰かがやって来たのだろうか。
距離が離れている為ミチル達では無いはず。
ひょっとして煉獄の仲間か、或いはアーマージャックのような悪者かもしれない。
正体を確かめる必要がある。
いつついつでも芋虫行脚を使い、音を立てずにハッチの方へと向かう。
以前、ブラックパンダラーメンの製造工場へ忍び込んだ時にも活用したぷにぷに拳の奥義である。
その時はかすかべ防衛隊のメンバーで唯一奥義習得を為していなかったマサオが原因でピンチになったが、しんのすけならば無問題。
やがて話し声がハッキリ聞こえる場所まで移動すると、物陰から相手の姿を覗き込んだ。
◆◆◆
体が覚えているとでも言うのだろうか。
両脇に男女を抱えながら空中を移動している脹相はそんな事を思った。
杉元から譲渡されたストライカーユニットは問題無く起動している。
同封された説明書通りに装着し、移動を開始して数十分が経過。
初めこそ飛行に少しばかり苦戦したもののすぐに慣れ、こうして安定した速度を保ち飛んでいる。
ユニットの使用も空を飛ぶのも初めてだというのに、こうも短時間で使いこなせるのは自分の事ながら驚きだ。
だからこれは肉体に染み付いた記憶の為せる技なのかもしれない。
やがて目的地であるフリーザの宇宙船に到着すると、抱えていた二人を降ろした。
ついでにユニットは外してデイパックに仕舞って置く。
「無事に着いたみたいですね……」
安堵の言葉とは裏腹に、疲れた顔でナナが言う。
ヘリや飛行機とは違う空の移動だけが原因ではない。
「お?あそこで昼飯が食えんのか?」
ナナを疲れさせた最大の原因は呑気に首を傾げるポニーテールの少女。
移動の理由を全く分かっていない燃堂にあった。
正直脹相からしてもナナの気持ちは分からんでもない。
移動中はやいのやいのと騒いでいたし、空を飛んでいる自分を「お?お前ロボットだったのか?ビーム出せるのか?」とトンチンカンな質問をするし、落ちないように強く抱えれば胸の感触に顔をだらしなく緩ませたりとそれはもう大変の一言に尽きる。
特に最後のは竈門家で起こった悲鳴嶼とのいかがわしい行為(未遂)を思い出してしまい、精神的に宜しくなかった。
-
「……とりあえず着いたなら中に入るか」
「そうですね……ちょっと燃堂さん!?だから勝手に行かないでくださいってば!」
疲れた思いを共有する暇もなく、一人でズンズン進んで行く燃堂を慌てて追う。
少しでも目を離すとこれなのだから、お前は園児かとPK学園を訪れた時と同じツッコミを入れたくなるが我慢。
「おーい!誰もいねぇのかー?おれっちはチャーシューメンなー!」
「大きな声出さないでくださいよ…あと一応言っておきますけど、ここラーメン屋さんじゃないですからね…?」
「…まぁ、どの道中に入る事に変わりは無いだろう」
この短時間で燃堂のフリーダムっぷりを嫌と言う程知り、今まで振り回されたナナには脹相も流石に同情する。
何にしろ、今言った通り中に入るつもりだったのは本当のこと。
脹相が先頭を歩くと、後ろに燃堂が続き最後尾をナナが歩く。
後ろを燃堂にしてしまえばはぐれる可能性が非常に高く、先頭など以ての外。
よって必然的に燃堂は真ん中へ置く形となった。
警戒しながら進む脹相の手には、歩兵銃との交換で手に入れた拳銃。
構えたソレの安全装置は解除済みだ。
赤血操術が使えない以上、頼れるのはウィッチの能力とこういった銃火器のみ。
脹相自身はともかく、肉体であるバルクホルンは軍人だ。
当然銃の扱いには慣れており、拳銃も手に自然と馴染むように感じられる。
威力は劣るが取り回しに関しては、元々支給されたアタッシュショットガンよりも拳銃の方が使い易い。
「何か高そうな店だけどよ、ステーキでも食うんか?俺っち金なんか持ってねぇぞ?」
「いい加減飯の事から頭を離せ…」
能天気にも程がある呟きが背後から聞こえ、ため息交じりに返す。
最後尾からもため息がしたのは気のせいではないだろう。
直後、何かが急接近する気配があった。
「っ!」
先客がいたと察知し銃口を向ける。
向こうが有無を言わせず攻撃を仕掛けるつもりならば、こちらも容赦はしない。
引き金にかけた指へ僅かに力を込めながら、襲撃者の姿を捉えた。
-
「ヒューヒュー♪かのじょたち〜♡。オラと一緒にお茶しな〜い?」
「は……?」
目の前に現れたのは一人のの男。
所々が破れた胴着を着こなすその肉体は、見事なまでに鍛え上げられている。
虎杖と肉弾戦で渡り合う程の高い格闘術を持つ脹相から見ても、感心する体付きだ。
黙っていれば歴戦の戦士の風格を漂わせるだろうに、あろうことかこの男は初対面の自分達をナンパして来た。
何故殺し合いという緊迫した状況でナンパをするのか、そもそもこっちは体は女でも精神は男というのを考えないのか。
余りに不可解な行動に脹相は間の抜けた表情となるのを抑えられない。
「おー!何だこいつ、ワカメみてぇに動いてんぞ!」
「……何ですかその喩え」
微妙なチョイスの比喩に力無く返す。
全身を軟体動物のようにくねらせる胴着の男を見て、揺蕩う海藻を連想したのだろうか。
男はいやらしさを全開にした笑みで燃堂と脹相に熱い視線をぶつけている。
燃堂はともかく脹相は堪ったものではないだろう。
(こいつの同類か…)
燃堂と似たタイプの奴がもう一人増えたらしい。
余計な戦闘にこそ発展していないが、面倒事には変わりない。
取り敢えず話を聞くしかないと、明らかに引いている脹相に代わり前へと出た。
○
フリーザの宇宙船は単に惑星間を移動するだけではない。
長期の星間飛行を想定し船内には居住スペースが設けられており、不時着時には基地としても機能する。
と言ってもバトルロワイアルにおいてはあくまで一施設に落とし込まれたが。
兵士の装備である戦闘服や光線銃等、フリーザ軍の標準装備であるスカウターすら取り除かれ武器庫はもぬけの殻。
回復ポッドはたった一回の使用しか許されず、宇宙船としての移動すら不可能。
最初に宇宙船を訪れたヴァニラ・アイスが落胆したのも納得の有様。
だが殺し合いを有利に進める武器は無くとも、主催者の手で用意されただろう物は存在した。
「ボンドルド達は何を考えている?」
「私達が空腹で倒れたら殺し合いの進行に支障が出るから、でしょうか…?」
スープを口に運ぶ脹相の向かいでは、ナナがサラダをフォークで突いている。
少し離れた席にはハンバーガーや骨付き肉にかぶりつき、オレンジジュースで流し込むしんのすけと燃堂がいた。
-
ここは宇宙船内の食堂スペース。
フリーザと配下の屈強な部下たちだって腹は減るし喉も渇く。
彼らに食事を提供するこの場には、調理済みの料理がいくつか置かれていた。
場所を変えてしんのすけから話を聞こうとし、ナナ達が辿り着いたのがこの食堂。
折角なので食事がてら情報交換を行い、一段落着き今に至る。
「んぐんぐ…んーしつこいお味。ネネちゃんのママを思い出しますなー」
「お?ギロチンのまさゆき?何言ってんだお前?」
お前の方こそ何を言ってるんだと内心で呆れつつ、ドレッシングのかかった野菜を咀嚼する。
初めて食べる味だが中々に美味い。
「情報が多く手に入ったのは喜ぶべきか」
「考えないといけない事が一気に増えた気もしますけどね…」
しんのすけの説明は所々で要領の得ない部分はあったものの、根気強く話を聞き出した。
そうして手に入れた情報は、どれもこれも無視できないものばかり。
最初に驚いた点としては、やはりしんのすけが5歳の幼稚園児だったこと。
言動から肉体よりも下の年齢だろうとは予想したが、まさかそこまで幼いとはナナも脹相も思わなかった。
というか5歳児ですら殺し合いを大まかとはいえ理解しているのに、何故燃堂はああなのか。
燃堂らしいと言えばらしいので、双方そこを深く考えるのは早々に打ち切ったのは言うまでもない。
話を聞くにしんのすけは定時放送の前は宇宙船では無く、東側の街にいたらしい。
そこで危険な参加者との戦闘中に気を失い、目が覚めると既に宇宙船内にいた。
しんのすけの推測だが、仲間の一人が奇妙なブレスレットを装着し自分を逃がしたとのこと。
(その仲間がまさか犬飼ミチルとはな…)
クラスメイトであり、利用価値のある犬であり、いずれは殺すべき能力者。
バトルロワイアルで機会があれば合流しようと方針に加えておいたが、こんな形でミチルの動向を知る事になるとは。
しんのすけからミチルの事を聞いた時には仮面を着けて心配する素振りを見せておいたが、驚きは本心からだ。
改めてしんのすけから得た情報を整理する。
-
まず予想した通りミチルは殺し合いに乗っていない。これは良い。
続いて現在の肉体は奇妙な髪型の少年。男の体を与えられたのは自分も同じなのでそこも別に興味は無し。
だがミチルに与えられた肉体は一般人ではなく能力者。
人型の存在を出現させ敵を殴り、時には味方の傷を癒す力があると言う。
戦闘向き且つヒーリングも併せ持った能力者、敵に回せば面倒だがこちらの犬として使うには優秀だ。
何より今のミチルが使う人型を出現させる力は、DIOの能力と非常に酷似している。
ひょっとするとDIOと同じ世界出身の能力者の肉体に入っているのかもしれず、そう考えると益々合流すべきという考えが強まった。
とはいえ場所が場所だ。
すぐに会いに行くのは難しいし、戦兎達を無視して東の街へ向かう訳にも行かない。
合流は当分先となるだろう、その時までミチルが生きていたらの話だが。
ミチルの身体の少年以外にも、DIOに繋がる情報があった。
放送前にしんのすけ達と出会い、その後すぐに別行動を取った少年。
空条承太郎と名乗った参加者とナナは直接の面識は無い。
しかし戦兎と杉元がこう言っていた、最初にDIOと会った時二人の参加者の名を出されたと。
それが空条承太郎とヴァニラ・アイス。
DIOとの関係性は不明、仲間かもしれないし敵対関係にあるのかもしれない。
が、しんのすけ曰く承太郎は殺し合いには乗っていない。
ということはDIOとは敵対している男の可能性が高い。
更にこれまた予想外の情報だが、承太郎の精神が入っている肉体は驚くべき事に燃堂らしい。
自己紹介した際、喋る剣(シャルティエ)が精神と肉体両方の名を言うよう提案した為燃堂の事も知ったのだという。
外見の特徴を聞くと、不良どころかヤクザなのではと思えるくらいに人相が悪い。
燃堂と二人でラーメン屋に居た時はどんな間抜け面なのやらと思ったが、実際にはとんでもない悪人面である。
(その承太郎という男とも早急に合流すべきか?)
DIOの事を抜きにしても、承太郎が燃堂の体に入っているのは見過ごせない。
斉木の話で燃堂が死ぬのは悪い結果に向かう可能性が高い事を知った。
であれば、精神のみならず肉体の燃堂も念の為手元に確保した方が良いのではないか。
承太郎はしんのすけ達との情報交換後、志村新八という仲間を救出すべく島中央の施設へ向かった。
だが新八が放送で名を発表されたということは、救出は失敗に終わったと見るべきだ。
それに何時までも同じ施設へ留まっているとも限らず、既に移動した可能性とて十分ある。
ミチル同様、承太郎とも早期の合流は難しいかもしれない。
-
他にナナの知っている者の情報と言えば、鶴見川レンタロウの体がゲンガーという参加者に与えられていたくらいか。
尤も今のナナはレンタロウをモグオの取り巻きの一人としか認識していない。
そう遠くない未来、正史において自分が「友達」を失う原因になるとは知り得なかった。
(まぁこの二人は良い。いや良くない部分もあるが)
頭の痛い所は有れど、他に得られた人物の情報よりはずっとマシ。
何せしんのすけから齎されたのはミチル達に関するものだけでなく、厄ネタと言っても過言ではないものまであったのだから。
「柊ナナ、そのエボルトという参加者は間違いなく危険なんだな?」
「はい。私も戦兎さんから聞いただけですけど…信じて良いと思います」
しんのすけ達には聞こえないよう、小声で言葉を交わす。
幸い二人が気付いた様子は無い。
「おねえさんが持ってる棒、何か見覚えがあるゾ?」
「これか?これはおれっちがスプーン曲げで使うからあげらねぇ。どうしても欲しいなら代わりの棒をくれよ」
「オラの棒が欲しいだなんて〜はーと。おねえさんったらだいた〜んはーと」
あの二人の会話は聞いているだけで疲れるので無視。
それよりしんのすけが行動を共にしていた仲間はミチル以外にもおり、その中には戦兎が警戒を呼び掛けていた男もいる。
話を聞いた限りでは殺し合いに乗っておらず、度々しんのすけもピンチの場面を救われた。
信頼できる仲間らしいが、戦兎から本性を聞いているナナにしてみれば全く信じられない。
「仲間のふりをしているだけで、実際は優勝の機会を虎視眈々と狙っている。そう考えた方が納得がいきます」
「それか、馬鹿正直に優勝を目指すより脱出狙いで動いてるとも考えられるな」
脹相の言う可能性は有り得る内容だ。
脱出方法を探しつつ、不可能と分かれば優勝狙いに切り替える。
誰にも打ち明けていないがナナと同じ方針をエボルトも取っているのだとすれば、しんのすけの味方として振舞っているのも納得がいく。
-
(問題はエボルトの精神が入っている体の方だが…)
エボルトに与えられたのは人間の成人女性の肉体。
やれ美人だの胸と尻が大きいだのと、どうでもいい情報をしんのすけが熱弁したのは記憶に新しい。
ついでにそれを聞いていた燃堂もだらしない表情と化したのを白い目で見た。
容姿やスタイルはともかくとして、重要なのはエボルトが人間の女性の体である事だ。
もし殺し合いに参加しているのが精神と肉体両方エボルト本人ならばまだしも、体は別人というのは厄介である。
ナナはともかく、戦兎やミチルのようなお人好しは確実にその状態のエボルトへ攻撃できない。
エボルトを殺すという事は即ち、体の女性を巻き添えにする事に他ならないからだ。
これでは仮にナナがエボルトを殺した場合、体を奪われた女性まで巻き込んだと戦兎達から見られ余計な不和を生じさせるのではないか。
(いっそ、こちらのあずかり知らない所でDIOのような参加者と相打ちになれば楽なんだがな)
望み薄な期待だとは分かっていても、思わずにはいられない。
「エボルトの事も無視出来ないが、俺は鬼というやつが気になる」
「しんのすけ君の飼い犬を怪物に変えた男、ですか?」
「ああ、鬼については悲鳴嶼から聞いている」
未だに鬼を呪霊の一種と勘違いしているが、しんのすけから聞いた内容は悲鳴嶼の説明とも一致する。
人を喰らい、太陽を弱点とする異形の存在。
そのような怪物に飼い犬を変貌させられ、さらにはキタキタおあじなる女も鬼にされた。
後者に関しては外見の特徴から二回目の放送で名を呼ばれたアドバーグ・エルドルと分かったが。
「しんのすけ君たちが出会った男の手で二人、いえ一人と一匹は鬼にされた」
「そして悲鳴嶼曰く、鬼は鬼舞辻無惨という男が生み出したやつを指して言うらしい」
「ということは……その無惨の体になった何者かが鬼を増やしている。そう考えるべきですね」
竈門家で悲鳴嶼から鬼に関する詳細を聞いていた脹相はともかく、ナナには初耳の情報だ。
無惨が危険人物であるのだけは善逸から伝えられたが、まさかそのような力を持った化け物だとは驚きである。
尤も無惨の体を動かしているのは別の参加者で、その正体は不明。
しかしナナと脹相には無惨の体を与えられた者が誰なのか、答えに辿り着いていた。
-
「最初にしんのすけ君達が無惨の体になった誰かと会った時、その人は鬼に関して詳しく知っているような素振りだったんですよね…」
「ああ…プロフィールに鬼の生態が詳しく記載されていたとも考えられるが、前々から鬼を知っていたからとも考えられるな」
鬼を殺し合い以前より知っているのは、悲鳴嶼達鬼殺隊に属する者か無惨の手で鬼にされた者。
悲鳴嶼曰く三体の鬼が殺し合いに参加していたらしいが、一回目の定時放送で全員死亡が確定した為除外。
精神と肉体が別々になっている以上、精神側の無惨が自身の肉体に入っているとは考え辛い為これも違う。
では鬼殺隊の者達ならばどうだ。
善逸はナナ達と、悲鳴嶼は脹相と行動を共にしていて、しのぶはデビハムと共に街へ行った。
煉獄という男は最初の6時間の内に死亡しており、しんのすけが最期を目撃している。
ならば残る候補はただ一人。
「産屋敷耀哉。そいつが無惨の肉体に入っている可能性が高い、か」
「はい、善逸さんは信頼できる相手として名前を挙げてましたけど…」
二人の推測が正しければ、悲鳴嶼達にとっては何とも悲惨な話だろう。
よりにもよって自分達の仲間が宿敵の体になっているのだから。
「だが何故悲鳴嶼の仲間が鬼を増やそうとする?」
「それは……産屋敷さん自身も無惨の体を制御出来ていないから、とか?しんのすけの君も言ってたじゃないですか、最初に会った時はシロって犬を鬼にした事を凄く後悔しているみたいだったって」
あり得ない、とは脹相も言い切れない。
特級呪霊である無惨(勘違い)の肉体に人間の精神を入れるのだ。
幾ら空っぽの器と言えども、悪影響が一切ないとは考えにくい。
無惨の肉体を支配下に置いたつもりが、逆に精神の方が肉体に支配されたと言うべき状態。
いずれにせよ、悲鳴嶼と合流した際にこれを伝えねばならないのは非常に気が重かった。
情報を纏め終えると同時に、食事も完食する。
しかしまだまだやる事は多い。
腹をさすっているしんのすけの元へ近付いた。
「ちょっと良いですかしんのすけ君」
「お?どしたのナナちゃん。おトイレなら…どこだっけ?」
「何だよ相棒の弟。ウ○コか?」
「…………いえ、そうじゃなくて」
こいつらの頭にはデリカシーのデの字も無いのか。
しんのすけは幼稚園児だし一応仕方ないが、もう片方の馬鹿は仮にも高校生だろ。
そういえば自分が斉木の弟という設定はまだ続いているんだったか。
いい加減にしろ燃堂。
そんな風に言ってやりたい気持ちを抑え、一度咳払いし改めて話した。
「しんのすけ君がフリーザの情報を手に入れた部屋。そこに案内して欲しいんです」
-
○
この部屋に来るのはナナ達は初めて、しんのすけは二度目となる。
巨大なモニターが設置されたこの部屋に案内され、早速操作を開始する。
しんのすけは適当に押していたらフリーザの情報に辿り着けたと言い、どれを押せば良いのか正解は知らなかった。
なのでナナと脹相がそれらしきボタンを試し試しで押していく。
こういった場では燃堂も面白がってボタンを片っ端から弄りそうに思えたが、今は別の物に夢中な様子。
「どうだこれ。かっこいいだろ?」
「あーズルいズルい!オラもやるー!」
部屋の中央にある椅子に座りポーズを取る二人。
緊張感の欠片も無いが一々指摘するのも面倒なので、コンピューターの操作に集中する。
やがてモニターには放送で姿を見せたのと同じ、奇怪な生物の画像が表示された。
「戦闘力53万…?数値化させたところで基準が分からんだろう」
「まぁボンドルドの仲間が体に入ってるくらいですし、相当強いのでしょうけど…」
実際にフリーザが戦っている場面を見た事のないナナ達は、想像で言うしかない。
ただしんのすけは肉体の記憶でフリーザを見たらしく、その時は髪の毛の無い男がフリーザの手で殺される光景だったらしい。
戦兎が佐藤太郎の記憶を夢で見たのとは違い、しんのすけは起きている時に孫悟空の記憶を見た。
肉体の記憶を見る条件は眠りにつく以外にもあるのだろうか。
「フリーザとかいう奴がどの程度の強さかはハッキリしないが、しんのすけなら対抗できるんじゃないか?」
「そう…かもしれないですね。悟空という人の記憶でフリーザを見たのなら、フリーザと戦った事があるのでしょうし」
「勝てるかどうかは別だろうがな」
それはそうだろうとナナも同意する。
しんのすけから悟空のプロフィールを見せて貰ったが、斉木に負けず劣らずの出鱈目な強さを持つのは理解した。
サイヤ人というのは初耳だが、エボルトのような地球外生命体も参加しているのだ。
他にも地球外の存在がいるという事なのだろう
更にしんのすけ自身もアーマージャック等の危険な参加者と戦ったと言い、悟空の力を引き出せてはいるのだろう。
が、恐らく引き出せる力には制限が設けられているとナナは睨む。
というかそうしなければ、悟空の力は斉木と同様にバトルロワイアルを崩壊させてもおかしくない程だ。
そのように力を制限された状態で、ハワードが操るフリーザの体に勝てるかは怪しいところである。
それでも悟空の力をある程度使えるのは、味方として見れば心強い事に変わりないが。
-
(……いや待て)
ナナの中で何かが引っ掛かる。
しんのすけは殺し合いが始まった当初、瓦も素手で割れないくらいには悟空の力を使いこなせなかった。
現在は完全にとまではいかずとも、悟空の力を使いこなせている。
時間経過で悟空の肉体にしんのすけの精神が馴染んだから、悟空の記憶を見た事で無意識に力を引き出せるようになったから。
理由は複数あれど、重要なのは最初は使えなかった悟空の力を徐々に使えるようになった事実。
この事実が、ナナに一つの仮説を立てさせた。
(進化している、のか…?)
病院でサイコメトリーを試し、斉木楠雄と接触した際に聞いた話が思い起こされる。
斉木の兄、空助は弟の肉体を生まれつきの超能力を制御する為に進化していると考えた。
これをしんのすけと悟空に当て嵌めれば、こうは考えられないだろうか。
孫悟空の体に本来入れるべき精神では無い野原しんのすけという異物が入った。
言うなれば、最新鋭のヘリコプターに普通自動車の免許しか持っていない一般人が乗せられた状態だ。
乗り物がどれだけ高性能でも、操縦者の技量が全く追い付いていない。
では乗りこなすにはどうするべきか。
操縦者が少しずつ乗り物に慣れていく、それも一つの方法であるのは間違いない。
だがより手っ取り早い方法もある。
(肉体側の意識との接触…しんのすけの場合は記憶の閲覧か)
しんのすけが初めて悟空の記憶を見たのは定時放送の少し前。
耀哉が鬼と化したシロを殺そうとした時だ。
あの瞬間、しんのすけは悟空がナメック星でフリーザと戦った時の記憶を見た。
事実、それが切っ掛けとなり気の解放やかめはめ波など悟空が当たり前のように使っていた力を、しんのすけも使えるようになった。
他にもしんのすけが戦ったアーマージャックにも同様の現象が起きている。
吉良との戦闘で絶体絶命の危機に陥った時、アーマージャックはクレナイ・ガイがサンダーブレスターを制御出来ず暴走した際の記憶を見た。
その影響でバトルロワイアル開始から使えなかったサンダーブレスターの技を使い出したのだ。
つまり肉体側の記憶の閲覧とは、肉体の持つ力の引き出し方を精神へ強制的にインストールする事ではないだろうか。
-
ここで最初の話に戻るが、ナナはしんのすけを進化しているのではと考えた。
この場合、斉木のように肉体が進化しているのではない。
精神だ、しんのすけの精神が悟空の体と適応し進化しようとしている。
(……)
精神が体に適応し進化する。
斉木との接触によりナナが立てた仮説の一つ。
ナナ自身は自分が「超能力者」へ進化するかもしれない可能性を恐れた。
ではしんのすけは?
悟空の体にしんのすけの精神が完全に適応した時、彼は人間の子供から「サイヤ人」へ進化するとしたら?
主催者の狙いとは精神を別人の肉体に適応させ進化させる事ではないのかと、疑念が募り出す。
(…私やしんのすけは体の持ち主が持ち主だから分からんでもない。だが他の参加者はどうなんだ…?)
例を挙げれば大崎甜歌。
彼女は妹である大崎甘奈の体に精神を入れられている。
だが甘奈は超能力者でもサイヤ人でもなく、アイドルをしているとはいえ普通の人間だ。
もし甜歌の精神が甘奈の体に適応したとして、果たしてそれは進化と言えるのか疑問でしかない。
いやそもそも、自分やしんのすけとて進化と言って良いのだろうか。
肉体の持つ能力を使えるようになった、それだけならまだ良い。
しかし適応による進化が能力の使用のみに留まらないなら、起こり得るのは進化などという現象ではない。
元々の自分を失い、肉体に適応した思考しかしなくなる。
進化と言うより、変貌と言っても過言ではないだろう。
そんなものが殺し合いを開いた理由で、ボンドルドの言う未来を切り開く鍵だと言うのなら到底理解出来ない。
(…………)
もしかすると、殺し合いで優勝者が出るかどうかは重要ではないのかもしれない。
ボンドルド達が欲しいのは進化を果たした参加者であり、そこに至る為の過程として殺し合いが好都合だから開催したに過ぎない。
最初から目的は進化を果たした参加者であって、優勝したかどうかは関係が無いんじゃあないか。
仮に優勝者が出てもその者が進化していなかったなら、主催者の目的は果たせずに終わったということ。
なら、素直に優勝者を帰してくれるどころか失敗作として処分されてもおかしくはない。
いやむしろ、まだ参加者が複数生存しているタイミングで進化を果たした者が現れる可能性のほうがマズい。
その場合、最後の一人になるまで待たずともその参加者だけを確保すれば良いのだから。
残る参加者は全員用済みとして首輪を爆破される、そのような末路が無いとどうして言い切れようか。
-
(現段階ではあくまで私の推測止まりに過ぎないが……)
仮に正しいとするなら、優勝したところで元の世界に帰れる可能性は限りなく低いのでは?
もしもの場合の方針を一つ潰されたに等しく、頭痛の種が一つ増えた。
飛躍し過ぎた考えと言えばそれまでだが、否定材料も無い以上は忘れる事も不可能だ。
「む、こいつは…」
思考の海に沈んでいたナナを引き上げたのは脹相の声。
どうやらフリーザ以外にも役立つ情報が無いかと、操作を続けていたようだ。
ちなみに奥の方にあるボタンを押そうと前屈みになっていた。
今更説明するまでもないが、ウィッチはストライカーユニットの装着する際はユニットに干渉しないよう素足や密着度の高いストッキングが望まれる。
それは脹相の肉体のバルクホルンも例外ではなく、彼女が下半身に履いているのは布一枚。
よって、前屈みなのもあり後ろから見ると布一枚で隠された尻を突き出した体勢であった。
「いや〜、絶景ですな〜」
椅子でポーズを取るのには飽きたのか、しんのすけと燃堂は鼻の下を伸ばしながら脹相を見ている。
二人にに白い目を向けつつ、視線を遮るようにナナは脹相の背後に立つ。
残念そうな声が聞こえるが無視。
モニターに表示されたのは紫色の肌を持ち、黒い角を生やした人外の画像。
名前欄にはギニューとあり、どこかで見覚えのある名にハッとして名簿を取り出す。
予想通りモニターのものと同じ名前が記載されていた。
「このギニューと言う男はフリーザの仲間なのでしょうか?」
「部下の可能性も考えられるが…待て、あそこを見てみろ」
脹相が指をさした箇所にはボディーチェンジと記されている。
残念ながら具体的にどういった能力なのかの説明は書かれていない。
だが名前から察するに、自分と他者の肉体を入れ替える能力と推測が可能。
まさに参加者達の身に降りかかったものと同じではないか。
-
「こいつがボンドルドに協力し、俺達の体を入れ替えたのか?」
呟く脹相だが、その表情はどこか釈然としない様子だった。
本当にギニューが主催者に協力したとして、それならどうしてギニューまで参加者になっているのか。
もしかするとボディーチェンジを参考にして体を入れ替える術式を加茂憲倫が組み上げたのであり、ギニュー本人は主催者と直接の繋がりは無いのかもしれない。
仮説なら幾らでも立てられるが、どれも根拠が弱いものばかり。
ナナもまた難しい顔で考え込んでいた。
ギニューの能力が他者との肉体入れ替えだとして、その範囲はどれくらいのものなのか見当がつかない。
自分と他人の体を入れ替えるのみであり、他人同士の体の入れ替えは不可能という制限が無いとも言い切れない。
加えて、放送では肉体側の意識が目覚める現象が発生していると言われた。
現にナナ自身とて斉木の精神と接触を果たしている。
ボンドルド主催の殺し合いは他人の体と入れ替わったという単純な事態を超え、もっと複雑なものに化しているんじゃあないのだろうか。
現状を鑑みると、そういった結論に至っても不思議はない。
「そういえば……」
「どうした?ギニューの事で何か分かったのか?」
「ギニューかどうかはまだ分かりませんが、杉元さんから聞いた話で気になる事を思い出しまして…」
まだ病院を脹相達が訪れる前、戦兎達とそれぞれの持つ情報を照らし合わせていた時だ。
PK学園でDIOと戦う前にも杉元は危険な参加者と戦闘を行っており、その人物の事を聞かされた。
名前は知らないが痣と札のような耳飾りが特徴の少年。
杉元からも油断ならないと言わしめる、高い戦闘技術の持ち主。
何より無視できない情報として、少年の体に入っていた精神は途中で別人の精神に入れ替わった可能性が高い。
そもそも最初に少年の体に入っていた精神は、恐らく鳥束霊太だった。
それが途中で肉体を追い出され、ケロロという名のカエルへと精神を閉じ込められたのだ。
状況証拠に過ぎないが、鳥束と元々ケロロの体に入っていた何者かの体が入れ替わったと判断してもおかしくはない。
「つまりその時に体を入れ替えたのがギニューだと?」
「可能性としては有り得る話だと思います。今でもその少年の体に入っているかは分かりませんけど」
ちなみに悲鳴嶼達と情報の共有をもっとしっかり行っていたら、耳飾りの少年は竈門炭治郎だと気付けただろう。
-
「ギニューが本当にボンドルドに協力したかは別として、フリーザと関係があるのはほぼ確定だ。なら奴を捕えればフリーザの情報を引き出せるかもしれん。今どこに居るのかは知らんが」
「…思ったんですけど、ギニューも宇宙船に向かっているとは考えられませんか?自分と関係のある場所なら気になるでしょうし」
ナナの言う通り、ギニューがフリーザの関係者ならば宇宙船を無視するとは考えにくい。
それならこのまま宇宙船でギニューを待ち構え、やって来た所を捕えてフリーザに関し知っている事を吐かせる。
肉体とはいえ主催者側にいる者の情報を手に入れられるチャンスだ。
問題は自分達だけでギニューに勝てるか否かという点。
戦兎達がいつ宇宙船へ来るか分からない以上、彼らをアテには出来ない。
斉木の超能力を使える確実な保障の無いナナと、一般人の燃堂は戦力として数えるには不安が大きい。
よって戦闘は脹相としんのすけに任せるしかないだろう。
何にしても既にフリーザの宇宙船へ行くと戦兎達へ書き置きを残しているのだ。
今になって宇宙船以外の場所へ移動し、戦兎達との合流が遠のく事態は避けたい。
モニターから粗方の情報を入手し終えると、しんのすけと燃堂にこれからの方針を伝える。
自分達はこのまま宇宙船で戦兎達を待つ、もしかしたらギニューという危険な参加者がやって来るかもしれないので用心して欲しい。
「お?その牛乳とかってのと喧嘩すんのか?」
「ギニューですよ、それに喧嘩じゃ…いえとにかく用心しおいてください」
燃堂への詳しい説明はこちらが疲れるだけなので放棄。
危険な輩が来るかもしれないという事だけ分かれば、今はそれで良しとする。
やる気満々に如意棒を振り回している燃堂とは反対に、悩んでいるような顔をするのはしんのすけだ。
「ねーねーナナちゃん。煉獄のお兄さんのお友だちは別のところにいるの?」
「え?あ、はい。さっきも言いましたけど、善逸さん達はしのぶさんという方を助ける為に街へ向かったんです」
「……オラも、そっちに行っちゃだめ?」
ナナ達と話をしたお陰で煉獄の仲間の名前と、今どこにいるかを知る事が出来た。
しんのすけとしては彼らに会い、煉獄の事を伝えたいという気持ちが強い。
それに善逸達が向かった街には相当な強さを持った危険な男がいるかもしれないのだ。
煉獄の友達がピンチになっているなら、何としても助けたい。
-
「ちょいと待てよムキムキ」
「…今のはしんのすけの事を言ってるのか?」
「多分…あ、筋肉質だからムキムキ呼びなんですね」
「安直過ぎるだろ」
小声で会話するナナと脹相には気付かず、燃堂はしんのすけと正面から向き合う。
真剣味を帯びキリッとした瞳、それでいて安心させるような笑み。
これまでの馬鹿とは別人のような雰囲気が漂っていた。
「おめーが小力3号達を心配すんのは分かった。でもよ、アイツらなら大丈夫だと思うぜ?デオとかいう奴になんか負けやしねーよ」
「でも……」
DIOの名前を言い間違えてるのはともかく、戦兎達への信頼を込めた言葉だ。
それでもしんのすけは納得がいかず、口籠る。
「桐生が言ってたんだよ。おれっちにはおれっちの役割があるって。だからおれっちはここで桐生達が来るのを待つし、牛乳が襲って来んのなら返り討ちにしてやる。桐生がおれっちを信頼してくれたんなら、おれっちはそれに応えてぇ」
「……おい、こいつは誰だ?」
「……気持ちは分かりますが、燃堂さんですよ」
急にマトモな事を言い出した燃堂に困惑を隠せないナナと脹相。
だが燃堂とて年がら年中馬鹿な事しか言わない男でもない。
嘗て斉木が超能力を使った場面を友人一同に見られた時、混乱する海堂達を落ち着かせたように燃堂だって真面目になりもする。
「…まぁ、お前の気持ちを否定するつもりは無いが、どの道その体じゃあ却ってアイツらの足を引っ張るだけになるんじゃないか?」
脹相の指摘にしんのすけは言葉に詰まった。
サイヤ人は地球人よりも高い生命力を持つとはいえ、今のしんのすけは万全とは程遠い。
おたすけするつもりが、自分のせいでピンチに追い込んでしまう。
それはしんのすけだって望まない。
-
「あっ!お毛が酷いなら治せるのがあったゾ!」
微妙にイントネーションが違うが、それを言われるより早く部屋を出る。
何事かとナナ達が後を追いかけ、辿り着いたのはドーム型の機械…回復ポッドが置かれた部屋。
ご丁寧に説明書きがされてあるのを見つけ、これで傷の回復が可能らしい。
確かにこれを使えばしんのすけも万全の状態で戦える。
だが困った事に、回復ポッドは一度しか使えない。
もし戦兎達がここに来た時、重症の者がいるにも関わらず先に回復ポッドを使ってしまったせいで助からないとなるかもしれない。
特にそれが戦兎だった場合は非常にマズい。
首輪の解除の有力候補であり、斉木が伝えようとした言葉に関係するだろう人材だ。
現状、ナナの中では燃堂と同じく死ぬのを防ぎたい相手である。
一方でギニューがやって来る可能性を考えれば、しんのすけを万全の状態まで回復させ待ち構えるのも悪い手ではない。
尤も回復にどれくらいの時間が掛かるか不明な以上、回復の途中でギニューに襲われる可能性にも留意する必要があった。
(さてどうする?)
今使うか、温存すべきか。
回復ポッドの使い道にナナは頭を悩ませた。
【C-1 フリーザの宇宙船の内部/午後】
【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[身体]:孫悟空@ドラゴンボール
[状態]:体力消耗(大)、ダメージ(中)、腕に斬傷、胸部に斬傷(大・止血済み)、貧血気味、右手に腫れ、左腕に噛み痕(止血済み)、決意、深い悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ぴょんぴょんワープくん@ToLOVEるダークネス(4時間使用不可)、ランダム支給品0〜1、シロの首輪
[思考・状況]
基本方針:悪者をやっつける。
1:街に行きたいけど、待ってる方が良いの…?
2:おじさん(産屋敷)とちゃんとおはなししたい。
3:逃げずに戦う。
4:困っている人がいたらおたすけしたい。
5:ミチルちゃん達の無事を祈る。
6:オラの身体が悪者に使われなければいいが・・・・
7:煉獄のお兄さんのお友達に会えたらその死を伝える。
[備考]
※殺し合いについてある程度理解しました。
※身体に慣れていないため力は普通の一般人ぐらいしか出せません、慣れれば技が出せるかもです。(もし出せるとしたら威力は物を破壊できるくらい、そして消耗が激しいです)
※自分が孫悟空の身体に慣れてきていることにまだ気づいていません。コンクリートを破壊できる程度には慣れました。痛みの反動も徐々に緩和しているようです。
※名簿を確認しました。
※気の開放により瞬間的に戦闘力を上昇させました。ですが消耗が激しいようです。
※悟空の記憶を見た影響で、かめはめ波を使用しました。
-
【柊ナナ@無能なナナ】
[身体]:斉木楠雄@斉木楠雄のΨ難
[状態]:精神的疲労
[装備]:フリーズロッド@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品、ライナー・ブラウンの銃@進撃の巨人、ランダム支給品0〜1(確認済み)、病院内で手に入れた道具多数
[思考・状況]
基本方針:まずは脱出方法を探す。他の脱出方法が見つからなければ優勝狙い
1:フリーザの宇宙船で戦兎達を待つ。回復ポッドは今使うか温存すべきか…
2:宇宙船にギニューが来るなら、捕えてフリーザに関する情報を吐かせる
3:「かめ」とは何だ…?後に続く言葉はあるのか?何か重要なものなのか?
4:「かめ」は「仮面ライダー」なのか?ならば、主催陣営の誰かが変身するということなのか?
5:斉木楠雄の精神復活は想定内だったのか?だとしたら何のために?
6:変身による女体化を試すべきかどうか…
7:犬飼ミチルとは可能なら合流しておく。能力には期待出来そうだ
8:首輪の解除方法を探しておきたい。今の所は桐生戦兎に期待
9:能力者がいたならば殺害する。並行世界の人物であろうと関係ない
10:エボルトを警戒。万が一自分の世界に来られては一大事なので殺しておきたいが、面倒な事になったな
11:可能であれば主催者が持つ並行世界へ移動する手段もどうにかしたい
12:何故小野寺キョウヤの体が主催者側にある?斉木空助は何がしたい?
13:斉木楠雄は確実に殺害する。たとえ本当に悪意が無かったとしても、もし能力の暴発でもして自分の世界に来られたらと思うと安心できない。
14:13のためなら、それこそ、自分の命と引き換えにしてでも…
[備考]
※原作5話終了直後辺りからの参戦とします。
※斉木楠雄が殺し合いの主催にいる可能性を疑っています。
※超能力は基本的には使用できませんが、「斉木楠雄」との接触の影響、もしくは適応の影響で使えるようになる可能性があるかもしれません。
※サイコメトリーが斉木楠雄の肉体に発動しましたが、今後は作動しません。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※貨物船の精神、又は肉体のどちらかが能力者だと考えています。
※小野寺キョウヤが主催に協力している可能性を疑っています。
※主催側に、自分の身体とは別の並行世界の斉木楠雄がいる可能性を伝えられました。今のところは半信半疑です。
※主催側にいる斉木楠雄がマインドコントロールを使った可能性を疑っています。自分がやったかどうかについては、否定されたため可能性としての優先順位は一応低くしています。
※並行世界の同一人物の概念を知りました
※主催陣営が参加者の思考までをも監視している可能性を考えています。
※「かめ」=仮面ライダーだと仮説した場合、主催陣営の誰かがビルド、斬月、エターナルのいずれかのライダーに変身するのではないかと考えています。
-
【燃堂力@斉木楠雄のΨ難】
[身体]:堀裕子@アイドルマスターシンデレラガールズ
[状態]:後頭部に腫れ、鳥束の死に喪失感
[装備]:如意棒@ドラゴンボール
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:お?
1:お?
[備考]
※殺し合いについてよく分かっていないようです。ただ何となく異常な場であるとは理解したようです。
※柊ナナを斉木楠雄の弟だと思っているようです。
※自分の体を使っている人物は堀裕子だと思っているようです。
※桐生戦兎とビルドに変身した後の姿を、それぞれ別人だと思っているようです。
※斬月に変身した甜花も、同じく別人だと思っているようです。
※斉木空助を斉木楠雄の兄とは別人だと思っているようです。
※斉木楠雄が病院の近くにいると思っていましたがそのことを忘れています。
【脹相@呪術廻戦】
[身体]:ゲルトルート・バルクホルン@ストライクウィッチーズシリーズ
[状態]:健康
[装備]:竈門炭治郎の斧@鬼滅の刃、松平の拳銃@銀魂
[道具]:基本支給品、アタッシュショットガン@仮面ライダーゼロワン、零余子の首輪、予備マガジン、フラックウルフFw190D-6@ストライクウィッチーズシリーズ
[思考・状況]基本方針:どけ!!!俺はお兄ちゃんだぞ!!!主催者許さん!!!ぶっつぶす!!!
1:フリーザの宇宙船で悲鳴嶼達を待つ。ギニューが来るなら捕えてフリーザに関する情報を吐かせる。
2:殺し合いには乗らない。
3:「出来る限り」殺しは控える。
4:一応悲鳴嶼の言う通り危うい行動はしないよう注意する。
5:あいつ(神楽)には嫌われたみたいだな…
6:両面宿儺を警戒。今は遭遇したくない
7:もし虎杖の肉体が参加させられているなら、持ち帰りたい
8:お前が関わっているのか?加茂憲倫…!!
9:斉木楠雄の精神の復活は想定内なのか?だとしたらなんのために?
10:自分の弟を殺し合いに巻き込む斉木空助に不快感
[備考]
※原作第142話「お兄ちゃんの背中」終了直後から参戦とします。
※ユニット装着時の飛行は一定時間のみ可能です。
※虎杖悠仁は主催陣営に殺されたと考えています。
※竈門炭治郎の斧に遠坂凛(身体)の血が付着しています。
※服や体にも少量ですが血が飛び散っています。
※悲鳴嶼行冥たち鬼殺隊を呪術師の集まりだと思ったままです。
※鬼舞辻無惨は呪霊の一種だと思っています。
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投下終了です。
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age
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DIO、大崎甜歌、ヴァニラ・アイスを予約します。
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更新キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
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投下します
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もうすぐ放送が始まる。
DIOの言葉に嘘偽りは無く、事実そう口にしてから僅か数分後のことだ。
晴れ渡る青空を鉛色の雲が覆い隠し、島中にチャイムが鳴り響いたのは。
6時間ごとの定時放送を知らせる合図。
緊張で身を竦ませる甜歌、忌々しそうに頭上を睨み付けるヴァニラ。
部下達とは正反対に至って涼しい顔で、DIOは主催者の言葉を静かに待つ。
『初めまして、殺し合いに参加している皆さん』
中央付近に浮かび上がった巨大モニター。
更には施設や民家に設置された全ての画面のある機器。
そこに映し出されるは仮面の怪人物でも、笑みを浮かべた青年にも非ず。
青白い肌をした異形。
主催陣営の新顔が登場して尚も、DIOには微塵の動揺も無し。
斉木空助が現れた時から殺し合いを仕組んだのは複数人いると分かっていたのだ。
今更一人二人増えた所で騒ぐ程の事ではない。
参加者達からのリアクションを知った事では無いとばかりに、ハワードと名乗った異形は伝達事項を口にする。
前回同様に死亡者と禁止エリアの発表、殺し合いを促進させるギミック、彼らにとってのアクシデント。
そしてハワード個人の夢を最後に再度チャイムが鳴り、二回目の放送は終わりを告げた。
「……」
映像が消え、聞こえるのは風の吹く音のみ。
雲が出て来たからだろう、放送前よりも頬を撫でる風は冷たい。
ほんの数秒前までモニターの浮かんでいた場所を見上げつつ、DIOは腕組の姿勢を解かずに沈黙を保つ。
手に入った情報は多い、一つ一つをじっくりと噛み砕き今後の方針に溶け込ませる。
-
発表された死亡者の中にDIOが標的と見定めている者達はいなかった。
空条承太郎。
目障りなジョースターの小僧であり、ザ・ワールドが真の力を取り戻すのに必要不可欠なスタンド使い。
桐生戦兎、杉元佐一、我妻善逸。
小癪にも自分へ傷を負わせた、しかし相応の力はあると認めざるを得ない連中。
何より殺してやりたい、ついさっき逃げた変態天使の姉畑支遁。
簡単に死ぬような男達では無いだろうとは分かっていたが、やはりと言うべきか全員健在。
ならばこのDIOが手ずから始末してやるまで。
生存している者達をどうするかはこれまでと何ら変わらないスタンスだ。
一方で死亡した者達、今回放送で名を呼ばれた10名の内DIOが知っているのは2人。
正確に言えば一匹と一隻か。
どちらも自分の目の前で死んだ、というか片方は自分が首を斬り落とした相手である。
別段今更になって気にするような連中で無いとは思っていたが、放送で表示された元の肉体の画像には少々面食らった。
片や人間どころか小動物、片やそもそも生物ですらない。
(……本当に貨物船だったのか)
何故フォーエバーの体になった者は自らを貨物船と名乗ったのか。
殺し屋としての通り名でもなく、ニックネームなどでもない。
単純明快ながら予想外にも程がある答え。
貨物船は本当に貨物船だったから。
何を言っているのか分からないかもしれないがれっきとした事実。
人間以外にもスタンド使いが存在するのは知っている。
ジョースター一行のイギーや、DIOが館の警護を任せていたペット・ショップなどが分かり易い例だろう。
何より貨物船の肉体だったフォーエバーだって人間ではなくオランウータンだ。
だが貨物船は人間でも動物でもなく船、無機物ではないか。
スタンドを使えるようになったから貨物船に意思が宿ったのか、意思がある貨物船だからスタンドも使えたのか。
考えれば考える程意味が分からなくなる。
なのでDIOは早々に貨物船について思考を重ねるのを放棄した。
不可解な存在だろうと既に死んでいるのだ、生きている者へは何の影響も与えない。
また貨物船の正体程の驚きは無いが、デビハムが実は小動物だったというのも中々に衝撃的だ。
ラブを嫌悪するハムスター。
文字にしてみても意味が分からない。
それを言ったらサキュバスの風俗店をレビューする天使や、動物に性的興奮し強姦する変態なども大概ではあるが。
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疑問はあるが貨物船もデビハムも所詮は死者。
長々と連中に関しての考察に費やした所で時間の無駄。
前回の組み合わせ名簿と同様、また殺し合いを有利に進めるシステムが導入された。
モノモノマシーンとやらを使えば何らかの道具が手に入る。
元々支給されたエターナルメモリやホレダンの花粉のように役立つ物を入手可能ならば、利用しない手は無い。
それだと貨物船を殺したのは早計だったというほんのちょっぴりの後悔が浮かぶ。
モノモノマシーンは参加者を殺した者なら一度だけ首輪を投入しなくてもる用が可能。
ならPK学園で一人殺していた貨物船にも利用権は存在した。
貨物船にモノモノマシーンを先に使わせてから、改めて用済みとして始末するべきだったか。
そのように考えるが、貨物船は既に重症の身だったのを思い出す。
あれでは余計な荷物を抱えたまま移動するのと同じ、やはり殺しておいて正解だった。
それにモノモノマシーンの使用権は貨物船を殺したDIOにも有しており、回収可能な首輪が目の前に二つ転がっている為三回は確実に利用できるのだ。
問題はモノモノマシーンが設置された場所の方。
現在DIO達がいるエリアから北上すると行く事が出来る網走監獄に、一つ目が設置されている。
監獄と言うからには相応の広さと防衛設備が整っているだろう。
自分達がモノモノマシーンを使うついでにそこを拠点とし、モノモノマシーン目当てで近付いて来た参加者を待ち構えるのも一つの手。
なのだが面倒なことにD-1とD-2が禁止エリアに指定されてしまった以上、網走監獄へ向かうには遠回りしなくてはならない。
余計な事をされたと思いながら地図を取り出すと、南西の森林エリアにこれまで無かった施設名が追加されているのを見つけた。
偶然とはいえ今のDIOには好都合。
よってここはモノモノマシーンのもう一つの設置場所、地下通路を目指す。
こちらもすぐに到着可能という距離では無いが、南下した際にはジョースター邸にも立ち寄れる。
DIOとも因縁深いあの屋敷があるのはF-4。
杉元との戦闘で火事が起きた森林エリアに有り、わざわざ火の中に突っ込む気も無いので探索を諦めていた。
その問題は直に振る雨が解決してくれる。
放送でハワードが火事の勢いが弱まり鎮火するかもしれないと言ったのは記憶に新しい。
あのようなどこか含みのある言い方をしたのは、暗に火事になっていた森林エリアが探索可能になったと伝えたかったのだろうか。
であればジョースター邸だけでなく、他にも何らかの施設が存在するのかもしれない。
最悪森林エリアの探索が無駄足に終わったとしても、火事が弱まり地下通路に入れるならそれで問題無し。
とは言ったものの今すぐ地下通路へ向けて出発する訳ではない。
DIOを含めて全員が体力を消耗している。
ここは一度PK学園に戻って体力を回復させるなどの準備をしておく。
あと一時間もすれば雨が降る、ならハワードの言った通りレインコートなり傘なりもPK学園で手に入れておくべきだろう。
体を冷やして無駄にコンディションを低下させる必要もあるまい。
雨具が見つからなければエターナルに変身すれば良い。
もしかしたらPK学園で休んでいる間に甜歌を奪還すべく戦兎達がやって来るかもしれないが、その時はその時だ。
纏めて返り討ちにし、柊ナナを奪うのみ。
-
これからどう動くかは決まった。
まずは死者二名が残していった支給品と首輪の回収を済ませ、PK学園に戻る。
地図を仕舞った主の考えを察したらしく、青い髪の少女がDIOの眼前で跪く。
「DIO様。雑事は私が…」
「そうか。なら我々は先に学園へ行く。お前も済んだらそこに来い」
主に余計な手間を掛けさせるなど以ての外。
ヴァニラの申し出に遠慮も感謝も抱かず、当然の事として受け入れる。
首を垂れたままの部下へ背を向け、傍らの甜歌を伴いPK学園への道を引き返した。
「甜歌、私達は先に戻っていよう」
「う、うん……。でも、いいの……?」
「構わないさ。色々あって君も疲れているだろうし、一刻も早く休ませてあげたいと思ったんだが…迷惑だったかい?」
「っ!う、ううん!そんなこと、ないよ……!」
愛する男が自分を気遣ってくれている。
姉畑に怒りを燃やしていた時とは違う、甜歌の大好きなDIOらしい優しさ。
瞬く間に頬を染め、心が浮かれ出す。
学園を出発する前と比べたら幾分か精神的な余裕を取り戻し、甜歌が喜ぶだろう言葉選びを行ったDIOは好青年のスマイル。
それが表面上のみである事は甜歌以外の目には明らかだった。
戦闘と移動の疲れからかふらつきを見せる甜歌の肩を抱き歩く。
真っ赤に茹で上がる少女と共に主が去り、残されたのは狂信者ただ一人。
散らばった物資を回収すべく、まずは胸から刀を生やした死体へと近付く。
その内心は、彼自身も驚く程に落ち着いていた。
◆◆◆
「お待たせしました、DIO様」
「構わん、入れ」
必要な物を全て回収し終え、ヴァニラは迅速にPK学園へと移動。
初めて訪れる施設であったが、地図に記されていた為特に迷う事なく到着。
中へ入ると人の気配が二つあるのを、校長室と呼ばれる部屋から感知。
許可を貰い入室、学校長専用の椅子に堂々と腰掛けるDIOの姿がそこにあった。
チラと視線をずらせばもう一人の存在も確認、来客用のソファーへ横になる少女。
スヤスヤと可愛らしい寝息を立てる甜歌へヴァニラが向ける目は険しい。
DIOの眼前で呑気に眠りこけるとは何たる不敬。
部下が顔色を変えたのを目敏く見つけたのか、何でも無いようにDIOが言う。
-
「寝かせておいてやれ。脆い人間の肉体だ、休まねば使い物になるまい」
「はっ。DIO様、まずこちらを……」
差し出されたのは先程回収した複数の物。
デビハムに支給された大業物、秋水。
ワノ国の剣豪リューマの愛刀。
スリラーバークにてロロノア・ゾロが一騎打ちの末に手に入れ、後に閻魔と交換するまで振るわれた名刀である。
刀剣類への目利きが得意でないDIOからしても、強度と切れ味の異様な高さには感心を抱いたものだ。
デビハムの支給品はもう一つある。
アトラスアンクルという名のアクセサリーは、装着者の力を強化する効果を持つ。
デイパックに入っていた説明書を読んだヴァニラはこれも使えると判断、死体から剥ぎ取った。
鞘に納められた秋水とアトラスアンクルを受け取りデイパックへと仕舞う。
支給品以外にヴァニラが献上したのは死体から回収した首輪が二つ。
念の為にとデビハムの肉体に関するプロフィール用紙もだ。
それらも同じく自身のデイパックへ放り、DIOは改めて跪く部下を見やる。
「ご苦労だったなアイス。では、改めて報告を聞こうか。お前の肉体である小娘についても含めて」
ヴァニラの全身が引き締まる。
避けては通れぬ質問だと分かってはいても、実際に聞かれれば緊張が顔に浮かぶ。
だが黙秘するなど断じて否だ。
たとえ自らの無能さを口にせねばならないとしても、DIOからの質問に無言を返すのは不敬どころの話ではない。
無意味に沈黙を続けて主を待たせるつもりもなく、意を決してヴァニラは口を開いた。
自身に与えられた肉体、立神あおいの経歴と持ち得る能力。
キュアジェラートの力ならばDIOの肉体を傷付けず確保可能である。
上記に関してはDIOの体は殺し合いの参加者には与えられていないと本人から伝えられ、不要な心配だと気付いた。
最初の6時間で発見したフリーザの宇宙船という施設、一度だけ使える回復ポッドの存在。
宇宙船内で見たフリーザとギニューの情報。
参加者との遭遇は市街地で戦闘になったデビハム達が初めてである。
以上を説明すると、校長室には暫しの沈黙が流れた。
承太郎を始めとするDIOの障害をただの一人も始末していない。
失望されてもおかしくはなく、不要と見なされても当然。
このような役立たず、DIOの手を煩わせる前に自ら命を絶つべきか。
本気で実行に移しかねないヴァニラを引き留めたのは、ややあって放たれたDIOの言葉だ。
-
「ふむ、まぁそういう事もあるだろう」
「は?…はっ!DIO様、私は…」
「アイス、お前の忠誠と能力に今更疑念を抱きはしない。大した成果を挙げていないと自覚しているのならば、これからの働きで挽回する。そうだろう?」
「はっ!この身を粉にし、DIO様に尽くす所存でございます」
ヴァニラが思っていたような成果を挙げていない。
全く落胆しなかったと言えば嘘になるが、だからといってアッサリ切り捨てるのは愚行である。
超人的な身体能力と氷を操る能力を持つプリキュアの体、強力無比なスタンドのクリーム。
何よりDIOへの絶対的な忠誠心。
これらを併せ持つヴァニラを一時の感情で失うのは余りに惜しい。
殺し合いが中盤に差し掛かった現状、今後を考えればまだ必要な人材故にDIOはヴァニラを生かした。
加えて参加者がどの地点からスタートするかは完全にランダム。
ならヴァニラのように誰ともロクに会えなかったという事態が起きるのも、分からんでもない。
恭しく首を垂れるヴァニラへこれからどう動くかを伝え、雨具の確保と見張りを命じる。
ついでにもう一つ、学園内に死体がある筈だから首輪を回収しておくことも。
貨物船が殺した参加者の首輪は手付かずで放置していたのを思い出したからだ。
命令を受けたヴァニラは心なしか、先程よりも生き生きとした様子で退出して行った。
パタンと扉が閉じられれば、後には小さな寝息と時計の針が規則的に音を立てるだけ。
完全なる静寂ではなく、されど耳を削ぎ落したくなる程の騒音にもあらず。
得られた情報を再度噛み砕き、咀嚼し、己の糧とするのに問題無い。
フリーザの宇宙船。
ヴァニラの話では宇宙船内の機器を使いフリーザの画像を見ており、放送で姿を見せた異形と同じ容姿だと言う。
であれば、放送でハワードが自らの精神を閉じ込めた肉体と関係のある施設と見て間違いない。
と言っても現段階でDIOが宇宙船へ向かう優先度は低く、時間に余裕があれば一応行ってみる程度のもの。
肉体のみとはいえ主催者側にいる者の重大な情報を会場の一施設に置いてあるとは考えにくく、事実ヴァニラからも基準不明の戦闘力やら詳細不明の技名しか分からなかったと伝えられた。
フリーザに関する情報目当てで宇宙船を目指す価値は相当低いだろう。
唯一宇宙船へ行く価値を見出せるものとしては回復ポッドがあるが、一回しか使えないという点がマイナスだ。
ヴァニラが去った後で宇宙船を訪れた者が既に使ってしまったかもしれないし、今こうして考えている間に使われている可能性もある。
それに宇宙船は網走監獄と同じ、街から北のエリアに設置されているのも困りものだ。
禁止エリアを避けて向かわねばならず、時間をロスしたせいで他の参加者に回復ポッドを使われたとなっては目も当てられない。
現状、傷は負ったものの回復ポッドが必須な程でも無い為、やはり優先して宇宙船へ行こうという気にはなれなかった。
-
尤もフリーザの宇宙船を発見したのが全くの無意味という訳でもない。
ヴァニラが宇宙船内で見たのはフリーザ以外に、別の者の情報もあった。
ギニューという、殺し合いの参加者として名簿に登録された男だ。
こちらもフリーザ同様そこまで詳しいプロフィールでは無かったらしいが、気になる点もある。
それがボディーチェンジ。ギニューの特技であり具体的な内容は不明。
しかし名前から察せられるのは、他者の肉体で殺し合うバトルロワイアルの特殊なルール。
一つの予感に駆られてデイパックより名簿を取り出す。
参加者を殺害した者にのみ与えられる、精神と肉体の組み合わせを記した特殊な名簿。
貨物船から献上されたのとは別に、自らの手で部下を始末したDIOにも同じ物がもう一冊支給されたソレを開く。
「…やはり、か」
名簿に記載されたギニューの肉体の名はケロロ軍曹。
おかしな話だ、何せケロロ軍曹とは最初の定時放送の際に死者として名前が発表された。
その時に精神として名を呼ばれたのは鳥束霊太なる少年。
だが組み合わせ名簿には鳥束の肉体の名は竈門炭治郎となっており、ケロロ軍曹とは一文字も合っていないではないか。
主催者のミス?絶対にあり得ないとは言い切れないが、ギニューについて知った今となってはその線は低いように思える。
恐らくだがギニューはボンドルド達とは別に、他者と肉体を入れ替える能力を有している可能性が高い。
スタンドとて最強と豪語するザ・ワールドもあれば、嘗て友との語らいで手に余ると言ったサバイバーなど固有の能力は千差万別。
それに参加者には杉元の体の少女のように、スタンド以外の特殊な力を持つ者も存在する。
なら肉体を入れ替える能力者がいたとしても、何らおかしな話ではない。
ギニューが本当にそういった力の持ち主だというならば、要警戒が必要だろう。
もし自分がケロロのような体と入れ替わってしまたらと考えると、DIOと言えども悪寒が走るのを抑えられない。
スタンドは変わらず使えるからと言って、あんなふざけた生物の体になるのは生理的にもプライド的にも抵抗がある。
ヴァニラからはギニューが主催者と繋がっている可能性もあると報告された。
ただこちらに関してはあくまで推測の域を出ず、ヴァニラ自身もあくまで可能性の一つという認識。
実際にギニューと遭遇した際に確かめてみれば良いとして、ギニューに関して考えるのはここまでとなった。
「それにしても……」
険しい顔付きから一転、嘲笑を浮かべるDIOが思い返すは先程の放送。
肉体側の意識の復活という、主催者側にとっても予想外の事態。
何故そのようなアクシデントが起きたかはともかく、それをわざわざ参加者に知らせるとは。
あれでは自らの管理能力の杜撰さを露呈したも同然だろうに。
存外、ボンドルド達が開催した殺し合いには穴が多いのかもしれない。
とはいえ、連中の持つ力が今だ底知れないのも確か。
ならばDIOの方針に変わりは無し。
最後に勝利し笑うのはボンドルドでも、斉木空助でも、ハワード・クリフォードでもない。
このDIOが主催者すらも支配下に置き、奴らの力を一つ残らず手中に収めるのだ。
-
○
「これは…カエルなのか?」
机と椅子の残骸が散乱する教室にて、乾いた血の上に横たわる死体。
人間の幼子くらいのサイズをしたカエルらしきそれはケロロ軍曹。
今は亡き鳥束霊太がボディーチェンジにより精神を閉じ込められた体である。
人間以外が参加しているのを知ってはいたが、実際に奇妙な生物を目にするとやはり困惑を隠せない。
まじまじと見つめるもヴァニラはすぐにどうでも良いかと興味を失くす。
死んだ相手を長々と考えた所で何になるのか。
それよりDIOから受けた命令の方が重要、ケロロの首には未だ首輪が装着されたままだ。
キュアジェラートの能力で右手に冷気を纏わせる。
此度はデビハムやしのぶとの戦闘時で作った氷のブロックではなく、刃状へと変化。
右手を振るい首を斬り落とし、地面を転がる首輪を拾う。
これで一つ目の目的は果たせた。
支給品なども落ちてない以上、この教室に長居する理由も無く早々に出る。
廊下を歩いている最中、ヴァニラが考えるのは定時放送で姿を見せた異形。
二度目となるフリーザの姿を目の当たりにした時、自分の中に絶望が広がっていくのを感じた。
宇宙船内で画像を見た時と同じ衝撃。
DIOに匹敵、或いは凌駕する悪のカリスマなのではないか。
あり得て良い筈が無い存在にまたもや自らの忠誠心が崩壊する音が聞こえ、その直後、フリーザが自らをハワード・クリフォードと名乗った瞬間ピタリと音が止んだ。
不思議な事にあれだけ自らを苦しめていたフリーザのカリスマを微塵も感じられず、その後はハワードが連絡事項を伝えるのをヴァニラ自身も驚く程冷静に聞いていた。
(…フン、やはり私のくだらん思い違いだったということか)
一時期はアイデンティティの崩壊の危機を招いたフリーザの存在。
それをヴァニラは単なる勘違い、或いは未知の生物を目にした事による動揺に過ぎないと片付ける。
考えてみれば当然の話だ。
世界を支配するに相応しいカリスマの持ち主が、ホイホイ簡単に生まれる筈が無い。
DIOに匹敵する存在など、まして凌駕する者などいる訳が無い。
だからこそDIOは唯一無二の悪の救世主として君臨しているのだから。
第一あのようにどこぞの馬の骨とも知れぬ輩へ体を奪われ好き勝手されている者が、DIOを超える悪な訳が無かろう。
主を信じ切れなかった己の脆弱な忠誠心を強く悔やみ、同時に決意する。
もう二度とフリーザにも、他の何者にも心を揺さぶれるような醜態は晒さないと。
-
(そうだ…頂点は常にDIO様ただ一人なのだ!)
ヴァニラにとって一つ幸運があるとすれば、主催者として顔を見せたのはフリーザ本人では無かった事だろう。
肉体こそは紛れも無く宇宙の帝王であっても精神は全く無関係の男。
それ故にフリーザ本人が持つ存在感、数多くの惑星を支配下に置いた帝王としての貫禄が失われている。
ハワードの精神が入ったフリーザを見たヴァニラが抱いたのは猛烈な違和感。
なまじ宇宙船で見た画像でフリーザのカリスマを感じ取っただけに、放送でのフリーザからは酷くちぐはぐな印象を受けた。
ある意味ではDIOと正反対の状態だ。
ジョナサンの肉体であろうと精神はDIOのもの、その為支配者のオーラとも言うべき存在感に当てられた参加者は複数いるのだから。
全ては自分の不甲斐なさが引き起こした勘違いである結論付けたヴァニラだが、果たして彼は気付いているのだろうか。
ただの勘違いであそこまで精神を揺さぶられはしない。
DIOという強烈な悪を知っているからこそ、画像だけでもフリーザが絶対的な支配者であると感じ取ったと言うのに。
何よりフリーザへの畏怖を勘違いで誤魔化し続けても、DIOへの忠誠に罅が生じた事実は変わらないのだ。
本人の気付かない所で罅は少しずつ、されど確実にヴァニラの心を蝕んでいた。
○
スタンド使い達の思惑を知らぬまま、甜歌は眠り続ける。
一足先にPK学園に到着した際、うっかり欠伸を漏らしたのをDIOに見られた。
羞恥に顔を染めるとDIOからは無理せず寝ても良いと言われ、その優しさに胸が高鳴ったのは言うまでもない。
起きて少しでも長く大好きな異性の顔を見たり話をしたいという気持ちはあったが、度重なる戦闘や諸々の事態で心身ともに疲弊していたのもまた本当のこと。
それに甜歌は元々お昼寝が大好きな少女、迷いはしたが最終的にはDIOの言葉に甘え睡眠を取る事にした。
ヴァニラと言う名の少女との関係をDIOに聞きたかったが、DIOは甜歌を自分を無視して浮気に走るような男ではない。
きっと自分が心配するような関係では無い筈と己に言い聞かせ目を閉じ、数分もしない内に夢の世界へと旅立った。
「うゆ……なーちゃん……」
寝言で妹の名を呟くその顔は、幸せいっぱいなふにゃりとした笑み。
ここが殺し合いの場である事を忘れさせる、幸福に包まれた姿。
されど目を覚ました彼女を待ち受けるのは283プロダクションでの幸せな日々ではなく、邪悪の化身に利用される偽りの幸せ。
まやかしの愛に囚われた少女が解放される気配は未だ皆無。
だがその瞬間は近付いている。
甜歌は気付いていない。いや気付く事を恐れているのか。
先の放送で桐生戦兎の名が呼ばれず安堵したことを。
その戦兎が仲間と共に、甜歌達がいるエリアへ向かっていることを。
-
◆
帝王は完全なる勝利を収めてはいない。
狂信者は自らの背信と真に向き合えてはいない。
少女は己を縛り付ける偽りの愛から解き放たれていない。
本当の夜明けは未だ訪れる事無く、誰もが先の見えぬ暗闇を藻掻き続けている。
【E-2 街 PK学園高校/日中】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:ジョナサン・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険
[状態]:ダメージ(中)、両腕火傷、疲労(大)、火に対する忌避感、姉畑支遁への屈辱と怒り(大・幾らか冷静にはなった)
[装備]:ロストドライバー+T2エターナルメモリ@仮面ライダーW
[道具]:基本支給品、ジークの脊髄液入りのワイン@進撃の巨人、秋水@ONE PIECE、アトラスアンクル@ペルソナ5、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル×2、クリムヴェールのプロフィール、ピカチュウのプロフィール、天使の悪魔のプロフィール、デビハムくんの首輪、貨物船の首輪
[思考・状況]基本方針:勝利して支配する
1:学園で体力を回復させた後、G-3の地下通路へ向かう。
2:アイスと甜花を従えておく。
3:どちらも裏切るような真似をしたら、或いは役立たないと判断した場合も殺す。アイスにそれは無いだろうがな。
4:アネハタは必ず殺す。三度目は無いと思え。
5:学園から逃げた連中への苛立ち。次に出会えば借りは返す。(特にスギモト、戦兎、ピカチュウ(善逸))。
6:元の身体はともかく、石仮面で人間はやめておきたい。
7:承太郎と会えば時を止められるだろうが、今向かうべきではない。
8:ジョースターの肉体を持つ参加者に警戒。東方仗助の肉体を持つ犬飼ミチルか?
9:エボルト、柊ナナに興味。
10:仮面ライダー…中々使えるな。
11:少女(しのぶ)は…次に会う事があったら話をすれば良いか。
12:ギニューの能力が本当に肉体を入れ替えるのなら要警戒。
13:もしこの場所でも天国に到達できるなら……。
[備考]
※参戦時期は承太郎との戦いでハイになる前。
※ザ・ワールドは出せますが時間停止は出来ません。
ただし、スタンドの影響でジョナサンの『ザ・パッション』が使える か も。
※肉体、及び服装はディオ戦の時のジョナサンです。
※スタンドは他人にも可視可能で、スタンド以外の干渉も受けます。
※ジョナサンの肉体なので波紋は使えますが、肝心の呼吸法を理解していません。
が、身体が覚えてるのでもしかしたら簡単なものぐらいならできるかもしれません。
※肉体の波長は近くなければ何処かにいる程度にしか認識できません。
※貨物船の能力を分身だと考えています。
※T2エターナルメモリに適合しました。変身後の姿はブルーフレアになります。
※主催者が世界と時間を自由に行き来出来ると考えています。
※杉元佐一の肉体が文字通り不死身のものである可能性を考えています。
-
【大崎甜花@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[身体]:大崎甘奈@アイドルマスターシャイニーカラーズ
[状態]:疲労(大)、胴体にダメージ(中)、DIOへの愛(大)、姉畑への恐怖と嫌悪感と怒り(大)、服や体にいくつかの切り傷、戦兎に対し複雑な気持ち、睡眠中
[装備]:戦極ドライバー+メロンロックシード+メロンエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、PK学園の女生徒用制服@斉木楠雄のΨ難
[道具]:基本支給品、甘奈の衣服と下着
[思考・状況]基本方針:DIOさんの為に頑張る
0:……。
1:DIOさん大好き♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥
2:あの人(姉畑支遁)……絶対に許さない…!
3:戦兎さん…DIOさんに酷いことしたのに……この気持ちは何で…?
4:ナナちゃんと燃堂さんも……酷いよ……。
5:なーちゃん達はDIOさんが助けてくれる……良かった……。
6:千雪さんと、真乃ちゃんまで……。
7:ヴァニラちゃんっていう女の子……DIOさんとどういう関係なんだろう……。
8:貨物船さん……死んじゃった……。
[備考]
※自分のランダム支給品が仮面ライダーに変身するものだと知りました。
※参戦時期は後続の書き手にお任せします。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※ホレダンの花の花粉@ToLOVEるダークネスによりDIOへの激しい愛情を抱いています。
どれくらい効果が継続するかは後続の書き手にお任せします。
【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:立神あおい@キラキラ☆プリキュアアラモード
[状態]:疲労(中)、全身に切り傷、精神的動揺、DIOのカリスマへの僅かな疑問(無意識)、キュアジェラートに変身中
[装備]:スイーツパクト&変身アニマルスイーツ(ライオンアイス)@キラキラ☆プリキュアアラモード
[道具]:基本支給品、回転式機関砲(ガトリングガン)@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-、鳥束の首輪
[思考・状況]
基本方針:DIO様以外の参加者を殺す。
1:雨具を確保し学園での見張りをする。
2:参加者は見つけ次第殺す。但し、首輪を解除できる者については保留。
3:空条承太郎は確実に仕留める。
4:あの娘(甜歌)は、DIO様に従うのなら自分から言う事は無い。
[備考]
※死亡後から参戦です。
※ギニューのプロフィールを把握しました。彼が主催者と繋がっている可能性を考えています。
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投下終了です
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グレーテ・ザムザ、広瀬康一、両面宿儺、アルフォンス・エルリックで予約します。
また、私が構想中の今後の予定について、重大なお知らせがあります。
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【チェンジ・ロワイアル新企画開始予定のお知らせ】
Twitterの方では前々からお話ししていましたが、現在このチェンジロワと同コンセプトの新たなロワ、シン・チェンジロワイアルの企画の開始を現在計画中です。
このロワもコンペ形式で参加者を募集する予定です。
なお、新たな企画を開始するからと言って今のチェンジ・ロワイアルを止めるつもりはありません。
コンペ開催中も、チェンジロワでの予約や投下をすることは可能にするつもりです。
自分でも本当に企画を立てるかどうかは長い間悩んでいましたが、ほとんどの準備が完了したため、いつまでも迷うくらいならと思い今回の連絡に至りました。
これにより、書き手の取り合いなど様々なリスクが発生するだろうことは理解しているつもりですが、それらを承知の上で行いたいと考えております。
まだこちらの企画が完結したわけではないのに、私の身勝手でこのようなことを言い出して誠に申し訳ありません。
ですが、どうかご了承のほどをよろしくお願いいたします。
ひとまずは、私が今日ここで予約した分の投下が終了しましたら、その後に今後の予定などを連絡しようと考えています。
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【追記】
シン・チェンジロワイアルにおいてチェンジ・ロワイアルと違う主な要素としましては、意思持ち支給品なども精神チェンジの対象とすること等を予定しております。
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悲鳴嶼行冥、神楽、姉畑支遁を予約します
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すみません、>>334のキャラを
桐生戦兎、杉元佐一、我妻善逸、悲鳴嶼行冥、神楽、姉畑支遁、DIO、大崎甜歌、ヴァニラ・アイスに変更し改めて予約します
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急病のため、予約を破棄します。
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投下します
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――君が一番ほしかったもの すべてがそこにありますように
◆
まるであの時の再現のようだと、仲間の亡骸を胸に抱いた悲鳴嶼は思う。
半身を断たれ息絶えた二人の少年。
赤い妖樹を生やし、紅蓮の刃を突き刺して、凶月を地に引き摺り落とした仲間達。
文字通り命を燃やし尽くした後に訪れるのは、死という逃れらない絶対の末路。
宙を見上げたまま二度と瞬きしない双眸を閉じてやった。
生き残った兄への一途な想いをしかと聞いた。
死にゆく者へ生者がしてやれる事は少ない。
死を覆せるような奇跡を起こせるなら、自分達は鬼殺隊になってはいない。
泣き叫び、項垂れ、根を張る大樹と化したように身動ぎしないのは楽だ。
何もしない方へ逃げたい気持ちを、どうして否定できようか。
しかしそれが許されない事もまた心底理解していた。
戦いは終わっていない。
全ての元凶である悪鬼は未だ生きている、死を逃れている。
であるなら立たねばならない、鬼を打ち滅ぼす為に自らの心もまた鬼にして進まねばならない。
弟を失った男へ「立て」と言ったあの時の自分を、後悔してはいない。
そして現在、不死川に言い放った言葉を己自身に言い聞かせる。
そうだ、まだ何も終わっていない。
戦いは続いているのだ。
胡蝶しのぶの死とは戦いの終わりを意味しない、ならば生きている悲鳴嶼が歩みを止めるなど言語道断。
他者の肉体とはいえ再び現世に舞い戻る奇跡を我が身で味わった。
それなら三度目も有り得るのではと死から目を逸らすには、現実の過酷さを知り過ぎている。
だからもう、仲間の死を受け入れ再び戦いに身を投じるしかない。
彼女が家族と会える事を願って。
もう二度と引き離されない事を祈って目を閉じる。
いつかの記憶の中のように小さな娘が悲鳴嶼さん、悲鳴嶼さんと呼ぶ声はもう聞こえて来なかった。
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「……」
目を開き立ち上がる。
喪失感という名の鎖を振り払い、動き出さなければ。
まず最優先で行うべきは自分達がいる場所から脱出すること。
定時放送からそれなりに時間が経過しており、呑気に留まり続ければあっという間に禁止エリアが機能してしまう。
気を失っている神楽を回収し、早急にここを離れる必要がある。
もう一人、先程から気まずそうにあっちこっちへ視線を泳がせる奇怪な生物も無視できない。
「少し良いだろうか?」
「へっ!?は、はい!何でしょうか…?」
「もうじき我々がいる場所は、放送で指定された危険区域になる。一旦ここを離れて、それから話を聞かせてもらいたいのだが」
「えっと…その…わ、分かりました……」
敵意は感じずとも、有無を言わせぬ力の籠った眼光に射竦められ承諾した。
本音を言うとこれ以上厄介な事態に関わるのは御免だと彼、姉畑は思っている。
ただそれを口にするには悲鳴嶼からの圧が強過ぎた。
しのぶと直前まで行動を共にしていただろう参加者を、何も聞かず見逃すつもりは無い。
下手に断って余計ないざこざに発展させるよりならと頷き、禁止エリア外へ出ようとする。
その横では悲鳴嶼が気絶した神楽と共にライズホッパーへ跨りエンジンを吹かす。
走行中に彼女が振り落とされないようにと、海楼石の鎖を巻き付けておく。
しのぶのデイパック、それに彼女の遺体も自分のデイパックに仕舞う。
まるで物のように扱うのは気が引けるが、禁止エリアに放置するのも抵抗がある。
走り出した姉畑と並走しライズホッパーのアクセルを踏む。
自分と同じスピードで移動が可能、これは情報交換の約束を無視して逃げるのは難しいか。
無理に逃走へ踏み切り余計な敵を増やすのは得策ではない。
姉畑の自分本位な内心を知らず、悲鳴嶼は前だけを見て運転に集中する。
頬を伝った涙の痕は、切り裂くような強い風で乾いていった。
-
○
禁止エリアを抜けた位置。
地図で言えばE-2へと移動した悲鳴嶼達は、大木の下で情報交換を行う事にした。
ハワードが放送で伝えたように雨が降っており、ここならある程度は葉が雨粒を防いでくれる。
付近に雨風を凌げる施設が見当たらない為、取り敢えずはとこの場所を選んだ。
仮に手頃な施設を発見できても、SMILEを食べ、百獣海賊団で言う所のギフターズとなった今の姉畑が入れる場所は限られるが。
それはともかく、まどろっこしいのは抜きで話を始める。
鎖を解いた神楽は木の根元に座らせたまま、目を覚ましはしない。
「早速で申し訳ないが、どんな経緯で胡蝶と共にいたのかを聞かせてもらっても良いか?」
「胡蝶……というのはあのお嬢さんの事ですか?」
「ああ、名前も聞いていなかったのか?」
「え、ええ。……そうですね、どこから説明するべきか…」
顎を擦り考え込む素振りを見せた後、頭の中で纏まったのか説明し出す。
自分の名前は姉畑支遁と言い、元々は男で動物学者をしている。殺し合いには乗っていない。
街を訪れた際、DIOという殺し合いに乗った男と遭遇、殺されそうになった。
支給品の力で今の象の怪物のような姿となり、どうにか隙を突いて逃げる事に成功。
その途中、DIOの部下らしき少女と戦闘中のしのぶとデビハムを見付け、更にはDIOと彼の仲間である甜歌に追いつかれてしまう。
絶体絶命の危機を迎えたがデビハムから半ば脅す形で逃げるよう言われて、気絶したしのぶを運び逃走。
ついさっきの悲鳴嶼が殺され掛かった光景を見たしのぶは自分が止める暇もなく駆け出し、今に至る。
以上を話し終えたが、当然姉畑にとって都合の悪い情報は全て隠している。
ピカチュウの体となった善逸と交わろうと彼を付け狙い、杉元達とのいざこざに発展したこと。
DIOの部下であった貨物船(の分身)を凌辱し、彼を誘拐したことなど。
あくまでDIOに襲われた被害者として、自分は無害であるとアピールしたのだ。
「デビハムが…?それは本当なのか?」
「は、はい。ほとんど脅される形でしたが…」
予想外の情報に悲鳴嶼は困惑を隠せない。
デビハムは殺し合いに乗っており、しかも戦兎達を危険人物だと偽りの情報を流す卑劣な行為に走った少年。
しかし姉畑の言った内容が事実ならば、彼としのぶがDIOの元から逃げれたのはデビハムのお陰ではないか。
てっきりDIOにゴマすりでもしたのではと考えていたが、真実はまるで違う。
「そうか……」
デビハムが何を思ってそのような行動に出たのか。
本人がもうこの世にいない以上、知る術は存在しない。
戦兎達を襲い嘘の悪評を自分達に言い触らしたのを許すつもりは無いが、同時にデビハムがいなければしのぶは姉畑共々DIOに殺されていた。
最期を看取る事すら叶わなかったかもしれない。
-
複雑な胸中となりながら、姉畑から齎された情報を元に思考を重ねる。
目下最大の脅威であるDIOと部下達は未だ西の街にいる可能性が高い。
しのぶの救出を最優先で病院を出発したが、当のしのぶは悲鳴嶼の目の前で息絶えた。
それを戦兎達は知らず、今も街へ向かっている最中。
もしかすると既に街へ到着し、DIO達との戦闘に発展しているかもしれない。
話を聞いただけだがDIOは相当な強敵らしい。
戦闘が始まっているのなら、自分も戦兎達の元へ加勢に赴きたい気持ちはある。
まだDIOと遭遇していなければその前に合流し、一度ナナ達の所へ戻って戦力を整え、それから改めてDIOとの決戦に臨むべきと伝えるべきかもしれない。
いずれにしろ自分も直ぐに街へ向かい、戦兎達と合流したいのだが気を失った神楽をそのまま連れ歩く訳にもいかない。
どうするべきか悩む悲鳴嶼へ、おずおずといった様子で姉畑が問いかけた。
「あの〜…どうかしたんですか?私の話に何かおかしな点でも…?」
「いや、そういう訳ではない。情報の提供には感謝している」
「そ、そうですか。それは何よりです」
怪しまれたのかと思い冷汗が流れたが、そうではないようで内心安堵する。
「少し待ってくれ。こちらからも伝えておかねばならない事がある」
一方的に情報を提供しておきながら、こちらは何も言わないのは誠実では無い。
そう思ってか悲鳴嶼もまた自身の持つ情報を開示する。
病院で待機している三人と、街へ向かった三人。
未だどこで何をしているか分からない鬼殺隊の長と、忌むべき宿敵の鬼
耀哉と無惨はともかく、戦兎やナナ達は念の為にと肉体の容姿の軽い説明もしておいた。
「……そう、ですか。教えてくださりありがとうございます。ところであなたはこれからどうするのですか?」
「神楽を連れて一度病院まで戻ろうと思う。そちらが良ければ一緒に行こう」
殺し合いに否定的な参加者を放置する気は無い。
まして聞くところによると彼は元々只の動物学者、争いとは無縁の一般人ではないか。
戦闘に慣れておらず、象の怪物になったのも殺されそうになったが故の止むを得ない判断。
肉体こそ別人だろうと、望まない形で人を止めさせられたのには流石に憐憫の情を向けるというもの。
しかも鼻の先端が男性器と女性器が剥き出しになった、生理的な嫌悪感を抱かせる造形なら尚更だ。
鬼という存在を知っているからこそ、余計に姉畑を不憫に思う。
-
「いえ、私は街に向かおうと思います」
「なに?」
保護を提案する悲鳴嶼へ向け、姉畑が口にしたのは自ら危険地帯に戻る内容。
何を言っているのかと視線で問い返せば、そう来るのは分かっていたとばかりに理由を述べる。
「先程仰っていた桐生戦兎さん達でしたか、彼らは元々胡蝶さんを助ける為に街へ行ったんですよね?ですが胡蝶さんが亡くなった事を彼らは知らない。でしたら、私が急ぎ街へ向かい、桐生さん達がDIOと会う前にそれを伝えようと思うんです」
「それは……」
まさしく悲鳴嶼が考えていた、神楽を放っては置けないが為に諦めた事を姉畑が代わりに引き受けるのだと言う。
願っても無い提案だが、では頼むと頷けはしない。
相手が鬼殺隊の仲間ならまだしも、姉畑は守るべき一般人。
たとえ支給品の効果で人外の力を手にしていようと、危険が待ち受けていると知っていながら送り込む真似は出来ない。
「心配は無用です。この体なら多少の無茶をしても平気ですし」
「しかし……」
「…それにもう、罪のない命が失われるのは懲り懲りなんですよ」
顔色を曇らせ、俯きがちに呟く。
口先だけではない、本当に死者が出たのを嘆いている様に見える。
思わず掛ける言葉を飲み込んだ悲鳴嶼へ、あえて朗らかに笑って言う。
「ま、まぁもし既に戦いが起きていたらその時は素直に逃げます!流石に死にたくはないので!」
「…そもそも街へ向かう事に賛同しかねるのだが」
「ご心配は有難く受け取らせて頂きます。ですが、私は本当に大丈夫ですので!」
「なっ、待て!」
言うや否や象の巨体で悲鳴嶼に背を向け、街の方角へと駆け出す。
静止の声をぶつけるが姉畑が止まる様子は無い。
ライズホッパーのエンジンを切り、降りていたのがここでは悪い方に動いたか。
再度エンジンを吹かすのを待ってはくれずに、姉畑の後ろ姿はあっという間に見えなくなった。
-
○
運が良かった。
悲鳴嶼との情報交換は全てが姉畑にとって都合の良い展開に動き、喜びの笑みを抑えられない。
もし悲鳴嶼が病院で情報の共有にもっと時間を割いていたら、きっとこうはならなかった。
殺し合い以前から姉畑を知り、会場でも姉畑と遭遇し異常性を目の当たりにした男。
杉元から危険人物として姉畑の情報を得ていれば別の対応を取ったに違いない。
少なくとも素直に仲間達の情報を教えはせず、監視する為に姉畑を強引にでも自分へ同行させ、善逸がいる街へは向かわせなかった筈だ。
それらは現実に起こらなかった、もしもの話以外の何ものでもない。
しのぶが危険な状態に陥っていると知り、焦りを覚えた悲鳴嶼をどうして責められようか。
更に運が悪い、というよりはタイミングが悪過ぎたと言うべきか。
申し訳なさを抱いている少女の説得に失敗し、その少女が自分と縁の深い少女を殺害。
元の世界での仲間を含む一団が、相当な強さの危険人物の元へ向かったまま。
取り巻く状況の変化は少なからず悲鳴嶼から冷静さを奪い去った。
過去の事情もあって疑り深い性格でありながら、姉畑の話が真実か否かを慎重に吟味しなかったのは、悲鳴嶼と言えども短時間で精神的な痛みから完全には脱せなかったからだろう。
悲鳴嶼には不運な、されど姉畑にとっては幸運に恵まれたと言っても良い展開。
思いもよらぬ絶好の機会に胸を躍らせながら、脇目も振らずに街へ向かう。
罪のない命が失われるのはもう懲り懲り、悲鳴嶼に言った言葉に嘘偽りは無い。
シロ、デビハム、貨物船。
愛くるしい動物達が、自分と愛し合う前に死んでしまったのを悲しんでいるのは本当の事なのだから。
だからもうこれ以上動物達が死ぬ前に、何が何でも愛を注いであげなければならない。
そんな時に善逸(ピカチュウ)の情報が手に入った。
きっとこれは自分の愛が通じたからに違いないと姉畑は本気で思い込む。
DIO達や、金塊を狙っている可能性の高い杉元がいる街へ行くのが恐くないと言えば嘘になる。
同時にこれはまたとないチャンスでもあるのだ。
ほぼ確実に杉元達はDIOと戦闘になり、そのどさくさに紛れて善逸(ピカチュウ)を確保を行う。
危険は承知だ、しくじれば今度こそ自分は殺される。
だが自ら死地へ飛び込まねば、こんな機会は二度と訪れないかもしれない。
「待っててくださいねピカチュウ君!今度こそ、私の愛を受け取ってもらいますよ!」
今から愛し合う瞬間を思い浮かべ、鼻の先の男性器がそそり立つ。
女性器からもヌメヌメした液体が垂れ流され地面を汚す。
雨で体中が濡れるなど何のその、消す事の出来ない欲望の火を燃え上がらせた。
-
◆◆◆
(何をしているんだ私は…!)
姉畑が危険地帯へ向かうのを止められず、己の迂闊さを叱咤しても後の祭り。
運良くDIOと遭遇せず、戦兎達と先に会う可能性を否定する訳ではない。
反対に運悪くDIOに見つかり逃げる暇もなく殺される可能性だって十分ある。
追いかけようにも今の神楽を連れて行くのは、余りにも不安が大きい。
どうすべきかと頭を悩ませるが、一向に良い考えは浮かばず無駄に時間を消費するばかり。
こうしている間にも、街では良からぬ事態が起きているかもしれないのに。
「ん…んん……」
頭を抱える悲鳴嶼の傍らで、か細い声が聞こえた。
ハッと振り向けば、オレンジ髪の女が身動ぎしている。
閉じていた両目がゆっくりと開かれ、振り向いた銀髪の男と目が合う。
「銀ちゃん……?」
もう二度と会えない筈なのに、目の前にいる男の名を呟く。
自分は夢でも見ているのだろうか。
それとも今までのが全部夢で、本当は誰も死んでなどいないのか。
都合の良い方へ自然と思考が傾きかけ、
「……あ」
逃れられない現実へと引き戻される。
人間の体を、柔らかな少女の胸を貫いた感触。
ぶん殴って終わりではない、命を一つ消し去った。
吐き出された血の色は色鮮やかに記憶へ焼き付き離れない。
何より忘れられないのは、怒気を露わに刀を振るった侍の姿。
銀髪を赤く染めた彼の姿はまさに夜叉。
-
共に過ごし、共に笑い、共に怒り、共に戦い、共に帰った。
坂田銀時の怒りが、白夜叉の顔が自分に向けられ、刃を叩きつけられた痛みが今になって疼き出す。
「あああああああ……!!」
恐怖で体中が震え、涙が滝のように流れるのを止められない。
怒気を向けられたから恐いのではない、命の危機に瀕した事など何度もあった。
恐いのは自分で自分の居場所を壊してしまったこと。
大切な仲間から見放されること。
人を殺した、それも自分の命を投げ出してまで誰かを守れるような人間を。
精神的に不安定だったからとか、そんな言い訳をする気は無い。
この手で命を奪ってしまったのだ。
今まで多くの騒動に巻き込まれ、天人だったり宇宙海賊だったりテロリストだったりと、色んな連中と戦って来た。
だけど一度も殺した事はない。
善人を殺した自分はもうかぶき町には、万屋銀ちゃんには帰れない。
かぶき町の皆が自分を受け入れてくれるかも分からない。
そう考えると恐くて、悲しくて、心が壊れそうだった。
もう自分はここにはいられない。
精神が別人だろうと、銀時の前にいるのが苦しくて堪らない。
恐怖に突き動かされるまま立ち上がり、目の前の男が何かを口にするのも無視して逃げようとし――
「ぶへぇ!?」
思いっ切りコケた。
顔面から地面に激突し、女が出すべきではない声が飛び出る。
じんじん痛む額に手を当てようとし、そこでようやく自分がどういう状態なのかに気付いた。
-
「…って何じゃこりゃぁ!?」
縛られている。
鎖でぐるぐる巻きにされ、両腕が自由に動かせない。
ライズホッパーから降りた後も悲鳴嶼は神楽の拘束を解かなかった。
目を覚ました彼女がまた錯乱し逃げ出せば、さっきの繰り返しだ。
だから万が一の事を考え身動きが取れないようにしていたが、神楽からしたら混乱しかしない。
「ふざけんじゃねぇヨ!銀ちゃんの体でプレイなんざおっ始めてんじゃねーゾ!」
「す、すまない。ただ事情が……」
「大体銀ちゃんは縛るより縛られる方が好きアル!」
「……い、いやそれを私に言われても、返す言葉に困るのだが」
新八並にキレのあるツッコミは返せず、元来真面目な人間故にしどろもどろになってしまう。
平然と曝露された銀時の性癖は置いておき、起きたのなら神楽とも話をする必要がある。
どうにも締まらない空気となったが今から話すのは至って真面目な内容だ。
「神楽」
「…っ。な、なに…アルか……?」
怒鳴り声を上げたのではない。
ただ真剣な表情で一言彼女の名前を呼べば、向こうも察したのか騒がしいのが一転、しおらしい態度になる。
自分が何を言われるのかは安易に予想が付く。
ブレイズに変身した時に青い帽子の少女を殺した件。
取り返しのつかない事をしでかした自分を糾弾する気なのだろう。
分かっている、そうされて当然の罪を犯した事は自分が一番分かっているつもりだ。
それでもいざ言われるとなると、どうしようもなく恐い。
殺しておいて恐がる資格がある訳が無いとは思っても、恐くて堪らない。
-
青褪めて黙り込んだ神楽から視線は逸らさず、悲鳴嶼は静かに告げた。
「すまなかった」
「え……」
深々と頭を下げ、口にしたのは謝罪の言葉。
相手が何をしているのか、何を言ってるのか神楽には理解が出来ない。
謝るべきは彼では無いのに。
「な、何言ってるアルかお前…?何でお前が謝るネ…悪いのは…」
悪いのは、自分の方ではないか。
新八達の死がショックだったとはいえ勝手に皆の元を離れ。
康一が託してくれたブレイズの力を、八つ当たりのような形で使ってしまい。
挙句の果てに罪のない少女を殺した。
誰がどう見たって謝らなければならないのは自分の方だ。
なのに悲鳴嶼は首を横に振り、自分こそが悪いと言う神楽の言葉を否定する。
「親しい者が殺され、冷静でいられる筈が無い。当たり前の事だと言うのに私は分かっていなかった。お前がどれだけ傷付いたかをもっと深刻に受け止めるべきだった」
そうだ、大切な人間が殺されるのがどれ程辛いか。
残された者がどんな思いでいるかなど、鬼殺隊に所属する自分ならば誰よりも分かるだろうに。
神楽を追いかけていた時の自分は、本当に彼女の苦しみをきちんと受け止めてやる心構えが出来ていたか?
しのぶが危険な状況にある焦りから、やり方を間違えてしまったんじゃないのか?
もっと良い対応をしていれば、神楽がしのぶを手に掛けるのを防げたのでは?
考えれば考える程、自責の念ばかりが浮かび上がる。
だからこの場で責められるべきは自分であると、そう悲鳴嶼は言うのだ。
とはいえ神楽には到底納得できる内容ではない。
-
「違う…!違うアル…!わ、私が…」
「…私も、そしてしのぶもお前を責めるつもりは無い。怨んでもいない。気に病むなと言ってもすぐに切り替えるのは難しだろうが…。それでも、自分で自分を傷付ける真似は止せ。…そんなものは坂田銀時も望んでいない筈だ」
「……っ!」
誰よりも神楽を憎んで当然の男からそう言われては、銀時の名を出されてしまえば神楽も言葉が出ない。
口を噤み俯き、対する悲鳴嶼も本心からの想いを伝え沈黙する。
どちらも一言も発さないまま、雨の音だけがやけに大きく二人の鼓膜を叩く。
やがて先に沈黙を破ったのは悲鳴嶼だった。
「私は一度お前を連れて病院へ戻ろうと思っている。今のお前には落ち着く時間が必要だ」
「……お前はどうする気ネ?」
「病院へ送り届けたら街へ桐生達の加勢に向かう。話を聞く限り、敵は無惨にも匹敵する危険な男らしいからな。戦力は一人でも多い方が良い。」
加えて今しがた街に向かった姉畑の安否も不安である。
本当ならばこのまま街へ急行すべきだが、今の神楽を連れて行くのは彼女にとっても酷だろう。
よって一度病院へ行き、神楽を送り届けてから街へと向かう。
正直に言ってかなり時間を食ってしまうが、今はこれしかないと自分を納得させた。
「ちょっと待つヨ」
が、悲鳴嶼の考えに意を挟む者が一人。
顔を上げた神楽は、覚悟を決めた顔付きで言い放つ。
「私もこのまま街に行くアル」
「神楽、それは……」
「私も話だけしか聞いてねーけど、んなヤバい奴がいるならチンタラしてる場合じゃねーダロ。なら二人でさっさと街に行った方が良いネ」
ぐうの音も出ない正論だ。
今この瞬間にも戦兎達がDIOと戦っているかもしれないなら、時間的な余裕は全く無い。
バイクという移動手段があるとは言っても、一度病院まで戻ってからでは手遅れになる可能性も高い。
それに自分達が先程通った場所は禁止エリアに指定されてしまった。
必然的に移動は遠回りするしかなく、余計に時間を浪費する事になる。
このまま神楽と二人で街へ行くのが最善、それは悲鳴嶼とて理解している。
しかし本当にこのまま神楽を連れて行って良いものかを思うと、素直に頷けない。
自分への心配か不安か、どっちにしても渋い顔の悲鳴嶼を納得させるべく神楽は続ける。
-
「…正直、平気だって言ったら嘘になるネ。でももう馬鹿な事する気が無いのは本当アル」
「……」
自分を真正面から見つめ返す神楽からは、精神的な不安定さは感じない。
少なくとも先程のように錯乱はしないだろうとは、今の様子から分かる。
こうして自分が判断を下すのに時間を割いている間にも、街の方は状況が変わっているかもしれないのだ。
完全に納得したのではなくとも、いい加減はっきり決めるべきだろう。
「…分かった。では今から街へ向かおう」
神楽から鎖を外し、ライズホッパーに跨る。
後部座席へ彼女が座りこちらの肩に手を置いたのを確認すると、エンジンを掛け発進した。
雨が降っている為視界は悪いが、今は一刻を争う状況だ。
肉体に染み付いた記憶を頼りにスピードを上げる。
(ロビンちゃんもこんな気持ちだったアルか…)
悲鳴嶼の背中を見ながら、神楽が思うのは既にいない仲間の事。
まだ全員が生きて離れの島にいた時、ロビンは自分達の体がもうこの世にはいない可能性を話した。
ロビンが元の肉体で食べた悪魔の身がゲンガーに支給されたのは、彼女の体が殺されたから。
能力者が死ぬとその人物が食べた実は復活する、そうロビンは言っていた。
あの時のロビンは影のある表情となり、その後すぐに何かを決意したように思う。
恐らくだが、自分がもう帰れないとしても仲間の体は元の持ち主に戻そうと考えたのだろう。
神楽もまた、一つの決意を固めていた。
ロビンの仮説が本当なら、神楽の肉体も既に殺されている可能性が高い。
もう自分の体でかぶき町へは帰れないかもしれない。
それなら自分は、かぶき町に帰る為じゃなく別の事をやり切ってみせると新たな誓いを立てた。
今目の前にいる男、悲鳴嶼を生かす為である。
しのぶを殺されたのに恨んでないと彼は言ったが、神楽はそう簡単に自分を許せはしない。
だからせめてもの償いとして、悲鳴嶼を無事に帰してやりたい。
きっと悲鳴嶼はそのような償いはしなくて良いと言うだろうけど、神楽にとってはもう決めた事だ。
噛み合わない想いを乗せ、ライズホッパーは雨の中を突っ切って行った。
-
◆
自分は夢を見ている、甜歌がそう気付くのに時間は掛からなかった。
何故なら今目の前にあるのは過去の出来事。
既に終わってしまった、されど大切で幸せな記憶。
幼い頃の記憶を夢で見るのはこれが二度目だ。
一度目は甘奈が体調を崩して休んでいる時。
アルバムを捲り思い出に浸るような気持ちで、甜歌は夢の世界に身を委ねる。
アイドルになるよりもずっと昔。
甜歌と甘奈がまだ小さな子供だった頃。
両親から二人へデビ太郎がプレゼントされた日のこと。
その日から姉妹とデビ太郎はずっと一緒だった。
遊ぶ時も、ご飯の時も、甜歌が大好きなお昼寝の時だって。
真ん中に置いて、二人で抱きしめながら気持ち良く眠った。
甜歌だけでなく甘奈もデビ太郎が大好きだったから、いつも嬉しそうにしていたのを良く覚えている。
だけど、甜歌には段々とそれが嫌になっていった。
自分もデビ太郎が好きだけど、それ以上に甘奈の事も大好きだったから。
生まれた時からずっと一緒の妹が、デビ太郎に取られた気持ちになってしまったのだ。
『もういい、なーちゃんにあげる』
ある時、とうとう我慢が出来なくなりデビ太郎を放り投げた。
ヤキモチで、どうしようもなくムシャクシャする気持ちが抑えられない。
甘奈が不安がっているのにそっぽを向いて、不貞腐れた態度を取った。
今にして思えば、子供の頃とはいえ我ながら良くない事をしてしまったと反省する。
『てんかちゃんに、あげる』
でも甘奈はそんな嫌な態度を取った自分に腹を立てず、デビ太郎をあげると言ってくれた。
自分ばっかりがデビ太郎と遊んでいたから、それで甜歌を怒らせたと思って。
きっとあの時から、自分はもっとデビ太郎が好きになって、甘奈の事はもっと大切に思うようになったのだろう。
-
場面が変わる。
今度はアイドルを始めてからの記憶。
幼い頃の夢を見た、甘奈が風を引いてしまった時。
千雪とプロデューサーも協力してくれたおかげで甘奈の体調は良くなったけど、今度は甜歌が風を引いてしまった。
部屋でデビ太郎と一緒に寝ていると、甘奈が一緒に寝てくれた。
子供の時も、片方が風邪を引いたらもう片方はこっそり会いに行っていたのを今でも覚えている。
両親からは風邪が移ると言われたけど、でもやっぱり心配だったから。
デビ太郎を間に挟んで、子供の時のように眠くなるまでお話をする。
風邪を引いたせいもあってか、普段以上に弱音を零した。
何時からプレゼントを違うものにしてもらったのか、幼い頃の思い出に花を咲かせた。
流れ星のお願い事を、こっそり甘奈に教えてあげた。
全てが甜歌の記憶の通り。
実際に体験したのと同じ光景。
その筈だった。
『なーちゃん…?』
眠りに落ちるその寸前で、不意に甘奈が表情を変えた。
寂しそうな、どこか苦しそうに笑っている。
おかしい、自分の記憶が確かならあの時の妹はこんな顔をしなかったと思うが。
甜歌の疑問を余所に、甘奈は姉をじっと見つめ言葉を紡いだ。
『甜歌ちゃんは…――』
-
○
「なー…ちゃん…?」
目を覚ますと、10年以上住んでいる我が家とは違う場所が見えた。
自分が寝ていたのも自室のベッドじゃなくて、金のかかった黒張りのソファー。
壁には書類を纏めた棚と、歴代の部屋の主の写真が甜歌を見下ろしている。
寝惚け半分の意識が徐々に鮮明さを取り戻し、眠りに落ちる直前の記憶を思い出す。
「おはよう甜歌。良く眠れたかい?」
耳からするりと入った声が脳まで届き、思考を瞬く間に蕩けさせる。
甘いマスクの青年が微笑むのが寝起きの視界に飛び込み、僅かに夢の中へ残っていた意識も現実へ引き戻された。
彼が自分へ微笑みかけてくれるのに、何時までも眠ってなどいられない。
熱さを増した顔で、彼の質問へ肯定を返した。
「う、うん……!おはようDIOさん……!ぐっすり寝たから、も、もう大丈夫だよ……」
「それは何よりだ。だがくれぐれも無理はしないようにしてくれ。君にもしもの事があったら、私も辛いんだ」
影のある表情で心配を口にされると、益々甜歌の心臓は高鳴りを抑えられない。
大好きな相手がこんなにも自分を大事に想ってくれている。
それは何て幸せな事なんだろうか。
こんなに幸せで良いのかと却って不安を抱きそうになる程だ。
いや、不安がる必要なんてどこにもない。
だってDIOが一緒にいてくれるなら、何も心配はいらないのだから。
幸福を噛み締める最中、甜歌はある事に気付いた。
確かPK学園には自分とDIO以外にもう一人いた筈。
彼女は後からPK学園に来ると言っていたが、もしかしてまだ到着していないのか。
純粋な疑問、それに加えてDIOとの関係が気になる少女について聞いてみる。
-
「あ、あのねDIOさん……。さっきの、ヴァニラちゃんっていう女の子なんだけど……」
「アイスなら雨具の確保と見張りを任せている。奴は元々私の部下でね」
「部下……そっか、そうなんだ……」
部下ということは、少なくとも嫌な予感を抱いたような関係では無い。
一瞬でもDIOが自分に向ける愛を疑ってしまい、申し訳なく思う。
罪悪感を抱く甜歌だが、彼女はもう一つ勘違いをしている。
「一応言っておくが、アイスは元の肉体は男だぞ?」
「えっ……えぇ…っ!?」
思いもよらない真実に、驚きで素っ頓狂な声が飛び出た。
つまりヴァニラちゃんではなくヴァニラさんだったという事か。
考えてみればナナや燃堂のように、元々の性別とは違う体にされた参加者とはもう会っているのだ。
ならあの二人以外にもそういう者がいても不思議はない。
とんだ勘違いをしてしまい、羞恥で顔が赤くなる。
しかしDIOは甜歌を笑うでも馬鹿にするでも無く、あくまで彼女を気遣う態度を崩さない。
「すまなかったね甜歌。もっと早くに言うべきだったな…」
「う、ううん……!DIOさんは、悪くないよ……!甜歌が、勝手に間違えちゃっただけで……」
「…甜歌。改めて言うが、私が愛を向けるのは君一人だ。君も、君が大切に思う者達も私が守る。だからもう一度私を信じてはくれないか?」
「っ!?うん……!勿論、し、信じるよ……!だって、甜歌もDIOさんが、だ、大好き、だから……!」
笑みと共に伝えられたDIOからの愛に、甜歌は心が満たされる思いだった。
やっぱりDIOは優しい。
こんなにも自分の事を強く想ってくれる人と出会えて、自分はなんて幸せなんだろう。
殺し合いという恐ろしいものに巻き込まれても、DIOが支えてくれるなら大丈夫に決まっている。
何も心配はいらない、何も疑う必要はない。
DIOと共にいればそれだけで――
-
本当にそう?
「……っ」
本当に、今の自分の考えは正しいのだろうか。
DIOが自分を守ると言ってくれた時、嬉しいと心から思った。
だがDIO以外にも、甜歌の事を守ると言ってくれた人物はいた筈である。
(戦兎さん……)
そうだ。
殺し合いが始まって一番最初に出会った青年、桐生戦兎も甜歌を守ると約束してくれたではないか。
甘奈の体にされて、どうすれば良いか分からず途方に暮れていた自分を支えてくれたのは戦兎。
突如襲い掛かって来たデビハムから自分を守るために、傷つきながら戦ったのだって戦兎だ。
もし最初に戦兎と会っていなければ、自分は今こうして生きていたかも分からない。
どうして戦兎が守ってくれたのを忘れそうになったのだろうか。
いや、戦兎はDIOを殺そうとした許せない男。
愛するDIOの敵は自分の敵、そう考えるのが正しいに決まっている。
なのにどうしてか、自分への疑問はより強くなるばかり。
(そういえば、甜歌はどうしてDIOさんを…好きになったんだっけ……?)
DIOを愛する気持ちは確かに存在する。
しかし自分がDIOを好きになった切っ掛けが分からない。
これ程強く好意を抱くのならば、相応の理由があるだろうに。
考えても考えても、全く頭には浮かばなかった。
理由も無いのに好きになるなど、そんな奇妙な事が有り得るのだろうか。
そもそも自分がDIOを始めて見たのは、彼が戦兎を殺そうとしたした時。
自分達を守ろうとした戦兎へ攻撃するような人を、好きになる理由が果たしてどこに――
-
「甜歌?」
「…えっ?あ、ご、ごめんなさい……!何でもない、よ……」
訝し気なDIOの声に慌てて思考を打ち切る。
DIOは自分を愛してくれる、そして自分もDIOが大好き。
それで良いだろう、一体どこに疑問を挟み込む余地がある。
妙な事を考えてしまったのは、きっと寝起きで頭がちゃんと働いていないからだ。
DIOがいるのだからしゃんとしないと。
苦しい言い訳を重ねて、自分の心に生まれた裂け目を見ない振りする。
(そうだ……甜歌はDIOさんが大好き…なんだから……)
もうこれ以上余計な事を考えるのは止めにしよう。
きっとその方が良いと自分に言い聞かせる。
校長室の扉が開き、青髪の少女が入って来たのは丁度そのタイミングだった。
「DIO様、至急お耳に入れたいことが…」
取り乱しはせず、あくまで冷静にヴァニラは言う。
突然の入室にも慌てずDIOが無言で続きを促すと、一礼し報告を始める。
鳥束の首輪と三人分の傘とレインコートを手に入れ、見張りをしていた時だ。
PK学園へ自動車が近付いて来るのを遠目から発見したのは。
離れた位置からでもおかしなデザインだと分かる、瓶に似た車体をしていたと伝える。
「そうか……」
部下からの報告にDIOは意味あり気な深い笑みを浮かべる。
隣では甜歌も表情を強張らせ、動揺を露わにしていた。
ヴァニラが今言ったのと同じ特徴の自動車を、DIOも甜歌も知っている。
小癪にも手傷を負わせ、まんまと逃げおおせた連中が乗っていた車だ。
いずれ向こうからやって来るとは分かっていたが、どうやら今がその時らしい。
愚かにも自分を倒し甜歌を取り戻そうとでも意気込んでいるのだろうが、その判断が大間違いだと教えてやらねばなるまい。
「来るがいい人間達よ。このDIOに楯突いた事を、後悔しながら死んでいけ」
-
◆◆◆
禁止エリアを抜け市街地に入りそう間もない頃だ。
道端に転がるソレを戦兎達が見つけたのは。
「あれは……」
自動車を停止し、三人が見つめるのは身動ぎ一つしない肉塊。
アスファルトを汚した赤い液体は、降りしきる雨でとうに洗い流されている。
狂気染みた笑みを浮かべた天使と嘆きを露わにしたオランウータン。
見覚えのある死体が二つ、ゴミのように投げ捨てられていた。
「デビハム…ここで殺されたのか……」
「あっちの猿はDIOと一緒にいた奴だよな?」
PK学園での戦闘で甜歌をDIOの元まで連れ去り、その後も杉元達を妨害したのはハッキリ覚えている。
放送では貨物船の名で呼ばれ、画像も名前の通り貨物船という意味の分からない存在。
何がどうして船が参加者になったのか気にならない訳ではないが、死んでしまった以上はあれこれ考えても仕方ない。
それにデビハム、悲鳴嶼達を騙してしのぶと行動を共にしていたハムスター。
貨物船のすぐ傍で死んでいるという事は、同一人物が殺害犯なのだろうか。
「胡蝶って女がこいつらに襲われて返り討ちにしたか、DIOの奴に殺されたのか?」
デビハムが本性を現し、更にDIO一派に遭遇し戦闘に発展。
どうにかデビハムと貨物船を殺したしのぶは命辛々逃げおおせた。
或いは、DIOにとってデビハムは生かす価値無しと判断し殺害。
貨物船に関してはデビハムに殺されたか、若しくは役立たずと見なされDIOに始末された可能性が考えられる。
「誰が殺したにしろ、胡蝶の行方が気になる。街を出たか、そうじゃなけりゃまだどっかに隠れてるか。…下手すりゃDIO達に捕まってんのかもしれねぇ」
「ピカ……」
蝶屋敷で世話になった仲間が捕らえられているかもしれない。
悪い予想に善逸の顔は曇るばかり。
また煉獄の時のように手遅れになってしまう。
しのぶが既に死んでしまったとは言い切れないものの、そうなる可能性は否定出来なかった。
-
「何にしても胡蝶がどうなったかはDIOが知ってる筈だ。本当に捕まってるならそれこそ急がねぇと」
戦兎の言葉に異論は無いのか、杉元も善逸も黙って頷く。
DIOがいる可能性が高いのはこのエリアで最も目立つ施設、PK学園。
しのぶが捕まっているにしろいないにしろ、DIOがいるならほぼ確実に戦闘になる。
甜歌を取り戻す為にもDIOとはもう一度戦わねばならないと覚悟していたが、今が正にその時だ。
自動車を発進させ、死体達の横を通り過ぎる。
逝ってしまった者へ足を取られる事も無く、生きている者の為に進み続けた。
やがて目的地へと到着。
色鮮やかなグリーンの校舎は、数時間前に訪れた時とはまた違った印象を受ける。
時間帯が異なるから、理由はそれだけではあるまい。
戦兎達が去った後も戦闘が起きたらしく、校門周辺に破壊の痕が幾つも残されていた。
神聖な学び舎を汚すにも等しい行為。
殺し合いの一施設として設置された時点で、今更な話だが。
車を降りデイパックへ仕舞うと、三人は慎重に校舎の中へ入って行く。
DIOがいるかもしれない以上、いつ戦闘が始まってもおかしくはない。
雨がガラス窓を五月蠅く叩く音を聞きながら、警戒しつつ廊下を進む。
静まり返った校舎内をどれくらい歩いただろうか。
不意に杉元が立ち止まり、背後の二人を手で制止させる。
無言で数歩先にある部屋を指さすと、戦兎達にも言いたい事が分かった。
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
いる。
未だこちらから姿は見えなくとも、存在を確かに感じる。
むしろ気付かせるのが目的とでも言わんばかりに、己の気配を存分にアピールしているのか。
喉がヒリつき、緊張の汗を嫌でも垂れ流すこの存在感。
戦兎も、杉元も、善逸も正体を知っている。
警戒を最大限に高め、歩兵銃を構えた杉元が一歩、また一歩と近付き、
戸を蹴破って現れた青髪の少女に投げ飛ばされた。
-
「う、おおおおおっ!?」
少女が姿を見せ胸倉を掴んだ時点で、既に杉元は反撃に移った。
なのにこうして体が宙を浮き、来た方向へと投げ返された理由はシンプル。
敵は杉元の予想以上に素早い上に力強い。
格好は嘗て杉元が腹切りショーを披露したサーカス団にでも所属していそうな、やたらと派手で奇抜な衣装。
年だって恐らくアシリパとそう変わらないだろう。
そんな少女が牛山もかくやと言う程の怪力と、銃弾の如き速さを発揮したのだ。
初手こそ敵に遅れを取ったものの、瞬時に立て直せるのが杉元という男。
床へ叩きつけられる前に受け身を取り、素早く立ち上がる。
その眼前へ迫るは青髪の少女。
反応が遅れた戦兎と善逸を無視し杉元へと飛び掛かった。
叩き込まれる拳を歩兵銃で防御。
少女の細腕で繰り出したとは思えない衝撃に銃身が軋み、杉元も後方へと押される。
「っ!杉元!」
「構うな桐生!こいつは俺が殺る!」
駆け寄ろうとした戦兎を押し留め、少女の相手を引き受ける。
その間にも少女との攻防が繰り返され、戦兎達とは距離が離されていく。
何者かは知らないが、敵であるなら話は簡単だ。
こいつを殺して、それから戦兎達へ加勢するだけ。
「…っ。分かった!そっちは任せる!」
僅かな躊躇を見せるも、杉元に叫び返し改めて教室へ入ろうとする。
敵はあの少女一人のみではない。
本命とも言える強敵が、部屋の中で待ち受けているのだ。
善逸もそれを理解したのか、ガチガチに震えながら戦兎の後に続く。
扉が蹴破られた場所から足を踏み入れ、即座に気配を放っていた張本人が視界に飛び込んだ。
-
「数時間ぶりの再会、と言ったところかな?」
学生用の机に腰掛け、優雅に足を組む一人の男。
使い古された勉強机ですら、この男が座るだけで大金を掛けた調度品だと錯覚を抱きそうになる。
爽やかさを前面に押し出した容姿、だが放たれる雰囲気は妖艶な魅力に満ちた、外見とは不釣り合いなもの。
ただそこにいるだけで他者を圧倒し、ひれ伏せねばと思考を麻痺させるだろうオーラの持ち主。
戦兎は知っている。優雅とも言える顔の下に隠された、男の邪悪な本性を。
「DIO…!!」
「そう怒鳴るんじゃあない。彼女も怯えているだろう?数年とはいえ私も貴族の屋敷で教育を受けた身。レディへの野蛮な行為は見過ごせんな」
どの口が言うのかと内心で吐き捨てる。
DIOの隣でこちらに敵意と、形容し難い想いを籠めた瞳をぶつける少女。
やはりと言うべきか、甜歌の洗脳は解けていないままらしい。
ならば今度こそ必ず助け出す。
その前に一つ、PK学園に戻って来た目的の事で確認しておかねばならない。
「…DIO、デビハム達を殺したのはお前か?」
「うん?…そう言えばそんな奴もいたか。野良犬のように噛み付くばかりで、薬にも毒にもならん小僧だったな。ああいや、犬ではなくネズミか」
何ともつまらなそうに言うDIOへ、戦兎の表情に険しさが増す。
デビハムとは敵対関係にあったのは本当だが、こうも死者を軽視した物言いをされては不快感が湧き出す。
相手はエボルトと同じ、決して相容れない男だと改めて理解する。
言い方はともかくDIOはデビハムを知っている。
ならば行動を共にしていた人物の行方はどうだ。
「デビハムともう一人別の参加者も一緒にいた筈だろ。そいつはどうしたんだ?」
「…知らんな。運が良ければ逃げ延びた先で生きているだろう」
質問への答えを返すDIOはほんの一瞬だけ表情を曇らせた。
逃げられた事より、しのぶを連れて行ったのが姉畑なのが理由である。
ド変態の分際で自分をコケにした男を思い出し内心苛立つDIOとは反対に、戦兎と善逸は一先ず安堵で胸を撫で下ろす。
DIOと遭遇したがどうにか逃走に成功したらしい。
後は彼女を見つけ悲鳴嶼と再会させられれば問題無しだが、それをやるのはまだ先になるだろう。
目の前にいる邪悪の権化が黙って見過ごしはせず、こちらも大人しくPK学園を出るつもりはない。
-
「なら、のんびりしてられねぇな。お前を倒して甜歌を助ける、それから胡蝶を探さなきゃなんねぇ」
「女の尻を追い掛けるついでで、このDIOを倒すと?余程現実を見れていないらしいな、貴様は」
互いへの敵意を膨れ上がらせながら、ネオディケイドライバーとロストドライバーをそれぞれ腰に巻く。
右手にはライダーカードとガイアメモリ。
両者を仮面の戦士へ変身させる必要不可欠のツールが握られていた。
DIOに倣い甜歌も慌てて戦極ドライバーを腰に当て、ベルトが巻き付く。
ポケットからロックシードを取り出し、慣れた動作で起動させる。
『ETERNAL!』
『メロン!』
「変身」
「へ、変身……!」
『ETERNAL!』
『ロックオン!ソイヤッ!』
『メロンアームズ!天・下・御・免!』
真珠色の装甲を纏い、黒のローブを纏った仮面ライダー。
純白のスーツの上からメロンの装甲を纏ったアーマードライダー。
エターナルと斬月への変身が完了し、同じく戦兎も変身を行う。
「変身!」
『KAMEN RIDE BUILD!』
『鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イェーイ!』
赤と青という二色の装甲が特徴的なライダー、ビルド。
ベルト意外とは戦兎がこれまで変身していた姿と全く同じになる。
ライドブッカーをソードモードに変形させ構えると、敵もまた己の武器を手にした。
-
「ピ、ピカ〜…(な、何かとんでもないって言うか…俺だけ何となく場違いって言うか…)」
ビルドとエターナル達を交互に見ながら、善逸はついつい縮こまる。
仮面ライダーの存在は病院で戦兎から説明を受け、実際エターナルが杉元と戦う場面も目撃した。
だが変身する瞬間をこの目で見れば驚くのは当然の話。
DIOはともかく、戦兎と甜歌が腰に巻いた機械から煉獄並に威勢の良い声が発せられたのも困惑を強めた。
三人が強そうな鎧を着たのに対し、自分は黄色い動物。
可愛らしい外見に反して戦う為の力があるのは分かっているが、どうにも居心地が悪い気がしてならない。
(って、こんな事考えてる場合じゃ無いって俺!)
うっかり緊張感のない内容に頭が支配されかけたのをどうにか思い直す。
DIOは強敵だ、余計な考えで集中を乱したままで勝てる程甘くはない。
正直に言って逃げ出したいくらいに恐いけれど、そのような弱音が通用しないのは承知だ。
青褪め涙目の顔をしながら、されど自分なりに戦う覚悟を決める。
邪悪を打ち砕く正義。
正義を蹴散らす邪悪。
決して相容れる事のない闘争の火蓋が今、切って落とされた。
○
ライドブッカーとエターナルエッジが斬り結ぶ。
教室中に響き渡るは、勉学に励む場には一生縁のない殺し合いの音。
一振りの度に机や椅子が斬り飛ばされ、無惨な残骸が床に散らばる。
両者はそれらへ意識を向けない、敵を倒す一点のみに集中していた。
「無駄ァッ!」
「くっ…!」
リーチの差もあってか一撃の威力はライドブッカーが上。
しかし押され気味なのはビルドの方。
エターナルエッジはリーチこそ劣るが、その分小回りが利く。
ビルドが一振りする間に、エターナルは二撃三撃と手数の多さで攻められる。
ライドブッカーで刃を防ぐだけでは到底凌ぎ切れない。
最低限の動作で身を捩り回避、時には刃が掠めるもその程度のダメージは捨て置く。
最初にDIOと戦った時は鎧武に変身し双剣を振るったが、現在の武器は一本。
にも関わらずあの時よりも、圧倒まではいかなくとも幾分かの余裕を持って対処している。
ビルドの左目部分から伸びた、兎の耳を模したブレード状の部位。
ここにはデータ収集装置が組み込まれており、二度の戦闘でエターナルの能力をより正確に把握しているのだ。
加えて視覚強化装置には敵の気配や動作から次の動きを予測する機能が搭載されている。
別のエリアにて猛威を振るったライダー、アークワン程では無いがエターナルの動きに対し最適解を弾き出す事が可能。
元々変身していたビルドとベルト以外全く同じなのは外見のみならず、備わった機能も同様だった。
-
「そこだっ!」
「温いわッ!」
ライドブッカーを両手持ちから片手持ちに変え、右手で拳を突き出す。
ラビットフルボトルの成分により、敏捷性を強化されたパンチ。
一発の威力は左拳より低いがスピードを活かし手数で攻める戦法だ。
胴体部分へ連続して叩き込んだ拳は、エターナルエッジで全て防がれる。
素早い拳など自身の、そしてジョースターの小僧が操る異能で見慣れた攻撃。
今更珍しくも無いソレを防ぐなど、エターナルの能力を行使すれば実に容易い。
拳ではなく左手のライドブッカーを振り下ろすも、エターナルエッジで弾き返す。
次の動きへ移らせはしない、優位へ立ち続けるのは自分一人で良い。
「世界(ザ・ワールド)!」
今のがラッシュのつもりならば、何と貧弱なことだろうか。
スタープラチナは元より、波紋を行使したジョナサンの拳よりも生温い。
本当の拳とはどういうものかを、直々に教育してやる必要がある。
出現させるは最強と豪語する黄金色の拳闘士。
世界の名を冠したDIOだけのスタンド。
エターナルから流れ込んだエネルギーが本体と同様に、四肢を蒼く燃え上がらせた。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!」
「ぐぅ…っ!」
ザ・ワールドが出現した瞬間からビルドは攻撃を中止。
回避行動を取るべく、右足のバトルシューズに備わったキャタピラで後方へ下がる。
ザ・ワールドの破壊力とスピードは既に何度も身を以て味合わされているのだ。
キャタピラが高速回転し距離を取るが、敵のラシュもまた異様に速い。
数発が胸部装甲にヒット。
即座に戦闘不能に陥る程では無くとも、殺し切れないダメージが装甲の下の肉体へ響く。
(だったら…!)
回避のみを繰り返しても状況は好転しない。
エターナルが距離を詰めようと踏み込んだ時、ビルドの姿が掻き消えた。
何処へ行ったと視線を周囲に向けるエターナル。
その背後からビルドが斬り掛かる。
-
ビルドの右側胸部を保護する軽量装甲。
ここには敵の攻撃から身を守る以外にもう一つ、ラビットフルボトル効果を発揮する機能がある。
数秒間だけビルドのあらゆる動作を高速化させられるのだ。
瞬間的なスピード強化でエターナルの背後を取り、ライドブッカーの刀身が背中へと迫った。
「がっ!?」
呻き声が出る、エターナルではなくビルドから。
ライドブッカーが当たったのはエターナルではなく、彼が纏った漆黒のローブ。
背後を見ないままにローブで背後をはたく様に靡かせ、ビルドの攻撃を防御。
エターナルローブは見栄えだけの為に存在するのではない。
強靭な防御力でエターナルを守る盾としても機能する。
攻撃を防がれたビルドへすかさず叩き込まれる、エターナルの回し蹴り。
耐衝撃ボディースーツがダメージを軽減、だが完全に防ぐにはエターナルは強い。
蹴り飛ばされ足が床から放れ、教室の壁に激突。
そこで止まらず壁を破壊し、隣の教室の床へと転がった。
余裕たっぷりの悠々とした歩みで、エターナルがビルドへと近付く。
『KAMEN RIDE!OOO!』
『タ・ト・バ!タトバ!タ・ト・バ!』
立ち上がり様にカードを挿入、新たなライダーへと姿を変える。
鷹の頭部、虎の上半身、飛蝗の下半身。
800年前に錬金術士の手で生み出された、メダルを使ったコンボで変身する戦士、仮面ライダーオーズ。
「姿を変えれば勝てるとでも?」
嘲笑交じりの言葉への返答は、突き出された両腕の爪。
黄色のコアメダルの力で両腕に備わったトラクローは、強化コンクリートも容易く引き裂く。
薙ぎ払うようにエターナルエッジを振るい弾き、胴体へと蹴りを入れる。
両腕を交差させ防御、トラクローから腕へ痺れが伝わった。
-
「生憎、こっちは勝つつもりでここに来たんだよ!」
次いで放たれるはザ・ワールドのラッシュ。
これを真正面から防御しては、最初の時と同じようにトラクローを粉砕され殴り飛ばされる。
よってここは両脚、緑のコアメダルの力を使う。
緑色のラインが入った脚へ力を集中させ、横っ飛びに回避。
まるで飛蝗のような跳躍力は、その名の通りバッタレッグが発揮可能な力。
小生意気にも避けて見せたオーズへ、二度目は無いとザ・ワールドが接近し拳を放つ。
同じようにバッタレッグの跳躍で再度跳ね上がると、躱した先で待ち受けるのはエターナルだ。
直接仕留めるべくエターナルエッジを突き出し、オーズもまた蹴りを繰り出す。
タトバコンボのオーズは足底の強化外骨格が最も硬い。
バッタレッグの脚力で更に威力を上乗せした蹴りならば、エターナルに押し勝てる。
その自信は呆気なく覆された。
「ぐああああ!?」
オーズの蹴りを真っ向から受けてもエターナルエッジは破壊されず、それどころかオーズを押し返したではないか。
体勢が崩された無防備な所を容赦なくザ・ワールドが狙い、殴打の嵐が炸裂。
床へ叩きつけられたオーズを見下ろしながら、仮面の下でDIOはほくそ笑む。
(玩具にしては中々悪くないじゃあないか)
DIOは戦兎と戦いを始める前に、ヴァニラから献上された装飾品を身に着けていた。
アトラスアンクル、元々はデビハムに支給された装着者の力を強化するアクセアリー。
超人的なジョナサンのパワーを更に上げ、エターナルに変身しより強力となったのである。
今のエターナルは、ブルーフレアの基本的なスペックだけでは計り切れない力を秘めているのだ。
前回の時以上に脅威と化した男を前に、戦兎の戦意は微塵も揺るがない。
傷の痛みを押し殺し、新たなカードを手に取った。
-
○
「てやっ…!こ、このっ……!」
「ピカ!?ピカチュウ!?(うおっ!?あっぶねぇ!)」
ビルドとエターナルがぶつかり合う一方で、善逸と甜歌が変身した斬月による戦いも繰り広げられていた。
とは言ったものの、果たして行われているのを真っ当な戦いと言って良いものだろうか。
互いの得物でしのぎを削り、持ち得る技の応酬で勝利を奪う。
二人の間で起こっているのはそういった戦いのイメージとは程遠い光景。
白い鎧武者が刀を振り回し、黄色い獣が悲鳴を上げながら逃げ続けている。
闘争と言うにはどこか気の抜けた絵面がそこにはあった。
「じ、じっとしてよ……!」
無双セイバーで斬り掛かり、時にはメロンディフェンダーを叩き突ける。
何度も攻撃をしてはいるのだが、未だ掠りもしていない。
ライドウェアの機能で基礎的な身体能力を上昇させ、生身の時からは考えられない動きを可能としている。
それなのに攻撃を当てられず焦りが募るばかり。
斬月に変身したのが呉島貴虎本人だったなら、こうも逃げ続けるのは難しかっただろう。
アーマードライダーの変身者の中でも最上位のバトルセンスを誇るのが貴虎である。
しかし此度の変身者は本来黄金の果実を巡る沢芽市の争いとは何の関わりも無い少女。
バトルロワイアルでの戦闘である程度は斬月の力に慣れて来たものの、歴戦の参加者と比べればまだまだ及ばない。
何より相対しているのは鬼殺隊に所属していた我妻善逸。
気弱な面が目立つ少年であるのは本当だが、呼吸を習得し最終試練も突破した。
下弦のみならず上弦の鬼、更には鬼舞辻無惨との決戦をも生き延びた隊士。
肉体を変えられようと、経験という点では間違いなく甜歌よりも上だ。
「このぉ…っ!」
「ピカ〜!?ピカチュウウウウウウ!!(どっひえええ〜!?恐い恐いめっちゃ恐い!!)」
でんきタイプ故の高いすばやさと、トレーナーとの旅で育まれた能力。
何より善逸自身の経験を活かし斬月の攻撃を躱し続ける。
戦々恐々としている内心とは裏腹に、実際の動きは見事の一言に尽きた。
本人からしたら称賛された所で嬉しく無いだろうが。
時折危うげな場面が訪れはしても、でんこうせっかで華麗に回避。
急激に速さを上げた善逸に翻弄され、斬月は足をもつれさせる。
-
(生きた心地がしねえよやっぱり〜!)
無惨との決戦時よりはずっとマシだが、刀が掠めるだけでもこっちは気絶しそうだ。
でんこうせっかでずっと逃げ続けていれば、今よりも楽にはなるだろう。
しかし後先考えないでわざを連発してしまえば、スタミナ切れを起こしこっちが一気に不利になる。
長い旅で鍛え上げられたピカチュウの肉体であっても、無限の体力があるのではないのだから。
逃げ回っていてるだけでなく、敵を攻撃しなければ何時まで経っても戦いは終わらない。
鬼との戦いの時とそれは同じ、分かってはいても攻撃できない理由があった。
現在戦っている相手は悪鬼ではなく、DIOに洗脳された女の子。
変身しているとはいえ、幾ら何でもそのような相手に容赦なく電撃はぶつけられない。
(って言ってもなぁ…)
斬月の攻撃は避けられるが、こちらから攻撃は不可能。
仲間達もそれぞれの相手で手一杯だろうし、現状は手詰まりだ。
(……今はとにかく逃げ続けるしかね――っ!?)
思考は善逸自身の意思とは無関係に、強制的に打ち切られた。
斬月が急に無双セイバーを振るうのを止めたかと思えば、構えたまま動かなくなる。
何のつもりだという疑問は無双セイバーの、刀で言うと鍔に取り付けられた銃口を見た瞬間に解消。
「ピッカ〜!?ピカピイイイイイイ!(嘘でしょ〜!?待ってほんと待って!)」
それがどういう武器なのかは善逸も知っている。
日輪刀を主武装にする鬼殺隊で使っていた者は少なかったが、鬼以外の命を一瞬で奪うには十分な威力。
どうして刀と一体化しているのかという困惑はさておき、焦る善逸の言葉を斬月は聞き入れる気が皆無。
トリガーを引き、黄色い体を青くした善逸へ銃弾が発射された。
「こ、これでワンキルゲット……!」
無双セイバーのマズルが火を吹き、小気味良い音と共に銃弾が飛び出す。
ゲームセンターのガンシューティングで鍛えた腕前を発揮する時だ。
敵が下級インベス程度なら、全弾急所へ命中しただろう。
-
「ピカチュウウウウウウウウ!!!(おたすけえええええええええええ!!!)」
だが参加者の中でも上位の素早さを誇るピカチュウだ。
でんこうせっかで銃弾を躱し、ただの一発も掠らせない。
黄色い残像が教室中を動き回り、弾は外れたと理解させられる。
「うぅ〜…!また失敗……!」
悔しくて堪らないが切り替えていかねばならない。
トリガーを引いても聞こえるのはカチリと乾いた音だけ。
弾切れを知らせる合図、刀身部を保護するエナジーチャンバーにも残弾は表示されていなかった。
スライド部分を引き弾を補充。
グリップ内に内蔵された大容量のパワーセルがエネルギーを供給、弾が再装填される。
「よ、よし、もう一回……」
今度こそ命中させようと銃口を向け、黄色い体がどこにも見当たらない。
「え…?ど、どこ……」
キョロキョロと視線をあっちこっちに移動させる。
その時斬月の聴覚センサーは背後からの物音を拾った。
バッと振り向けば案の定、そろりそろりと移動中の善逸と目が合う。
「ピガッ!?(あっ!やばい!)」
「見つけた…!に、逃げるな……!」
あっさりと見つかった焦りは再び向けられた銃口で吹き飛ぶ。
ピカチュウは素早く、野生で過ごしていた頃よりも体力はある。
だが銃で撃たれて無事でいられる肉体構造はしていない。
はがねタイプのポケモンならばまだしも、アーマードライダーの装備で攻撃されれば死に至って当然だ。
間違っても被弾を許す訳にはいかず、善逸は逸る心のまま動いた。
駆け出した先は真正面の斬月、その足と足の間。
股の下を潜り抜けて銃弾を躱し、慌てた斬月が両脚を閉じた時にはもう彼女の背後に回った後。
変身しており着ているスカートもライドウェアの下に隠れているが、股下を通られるのは羞恥があった。
DIOから愛を囁かれた時とは別の理由で顔を赤くし、メロンディフェンダーを背後へ振り回す。
高い防御力を持つシールドは、小賢しいネズミを叩きのめす鈍器としても機能する。
床に叩きつけられたメロンディフェンダーを跳んで回避、伸ばした前足が偶然避けた先にあるものに触れた。
-
「ひゃんっ!?」
むにゅりと、装着者にフィットした為かライドウェア越しでも感じる柔らかさ。
偶然にも甜歌(肉体的には甘奈)の尻の感触が、ピカチュウの小さな前足へと伝わった。
「ピカ…ピカ!ピカピカアアア!(あっやわらけ…待って!違うって!わざとじゃないから!」
おかしな鎧を纏っているとはいえ、年頃の少女の体に触れてしまったのだ。
だらしなく顔を緩めるも、今それは非常にマズいと弁明する。
残念ながらポケモンの言葉では甜歌に伝わらないし、聞き入れる気も無い。
「こ、この…へ、へんたい……!なーちゃんの体に、え、えっちなことしないで……!」
股下を潜られた時以上の羞恥と怒りで、甜歌の顔は茹でタコのように赤一色へ染まる。
自分がされても嫌なのに、よりにもよって大切な妹の体へセクハラ染みた真似をされた。
仮面越しとはいえ顔に精液をぶっかけ、腕に切り傷を付けた姉畑と同じだ。
見た目は可愛いが中身は許し難い変態に違いないと確信、もう一つのロックシードを取り出す。
『メロンエナジー!』
『ミックス!』
『メロンアームズ!天・下・御・免!』
『ジンバーメロン!ハハッー!』
クラックから出現した巨大メロンがもう一つのメロンと合体。
二つで一つのメロンを頭から被り、展開し陣羽織に似た装甲へと変化。
無双セイバーを握り締めていた右手には新たな武器、ソニックアローを装備。
デビハム相手にも変身したジンバーメロンアームズの斬月が、今再び降臨。
怒りに沸き立つ心へ急かされるまま、エネルギー矢を放った。
-
○
『KAMEN RIDE!ZERO-ONE!』
『飛び上がライズ!ライジングホッパー!』
『"A jump to the sky turns to a rider kick."』
ライダーカードのデータをディケイドライバーが読み取り姿を変える。
オーズから別の、元は変身者も使用するベルトも戦う敵も全く違うライダーヘと。
黒地のパワードスーツの上から纏った蛍光イエローの装甲。
四肢を走るは妖しく輝く真紅のライン。
赤いレンズの瞳が浮かぶのは、バッタを模した仮面。
令和という新たな時代に君臨した始まりの戦士、仮面ライダーゼロワン。
飛電インテリジェンスの若き社長が、人間とヒューマギアとの架け橋になるべく戦った姿。
「次から次へとよくもまぁ姿が変わるものだな。大道芸でもする方が似合っているぞ?」
「そうかよ。だったらお客さん達が安心して笑えるように、あんたにはご退場願おうかな」
「間抜けな猿ほど口も回るらしい。獣の躾などもう懲り懲りだ」
戦兎に支給されたバイク、ライズホッパーの持ち主がゼロワンらしい。
ゼロワンに付いて知っているのはそれくらいで、直接の面識は無い。
何もかもが未知数なライダーだが、未知の力を試すのはフルボトルの実験の時からそうだ。
ごちゃごちゃ考えるよりも使ってみる方が手っ取り早い。
どこぞの筋肉馬鹿ならそう言うのが目に見えて、相棒らしい姿に小さく笑みが零れる。
「何に姿を変えようと、このDIOが勝利する未来に変わりは無い!」
先手必勝、急接近したDIOが右手を突き出した。
握られているのはエターナルエッジ、仮面ライダーWや上位の力を持つドーパント相手にも振るわれた魔刃。
アトラスアンクルで強化されたパワーも加わり、脅威の度合いは増している。
-
だからこそ、命中を確信した刃が躱された事には驚きを隠せない。
「何ィ!?」
黄色い閃光が迸った、そんな錯覚をエターナルは抱く。
ヤイバが装甲へ到達する僅か数ミリ手前で、ゼロワンの姿が掻き消えた。
否、消えてなどいない。
自身の真横から急激に膨れ上がる敵意を察知。
視線は正面へ向けたままで、エターナルエッジを横に大きく振るう。
「はっ!」
「ぬぅ…!?」
今度は刃から手応えを感じはしたが、それは相手を斬り裂いたのとは違う。
エターナルが振るったナイフへとゼロワンも蹴りを放ち激突。
刃は欠けず脚は斬られていない、互角のパワーで弾かれ合った。
「このDIOへ薄汚れた足を向けるなど、身の程を知れッ!!」
エターナルエッジを逆手持ちに変え振り下ろす。
ゼロワンの頭部へ突き立てる刃はしかし、空を切りヒュンという音が空しく鳴るのみ。
外したと目に映る状況を脳が理解するのを待たず、反射的に振り下ろしたのとは反対の腕で防御。
ほぼ同時に腕へ蹴りが叩き込まれた。
スーツの下で身に着けたアトラスアンクルと、手首に装着した蒼いブレスがエターナルの腕力を増幅、腕に掛かる重みを押し返さんとする。
「うおっと…!」
伸ばした脚を押されてよろけるゼロワンへ、すかさずエターナルエッジを振るう。
体勢を整えるまでの短い隙だが、エターナルが一撃入れるには十分な時間。
それもやはりと言うべきか当たらない、不安定な体勢から跳躍しエターナルの頭上を跳び越えた。
三度も躱されればエターナルとていい加減に分かる。
今の姿になってから敵のスピードが段違いに上がっている事を。
-
ゼロワンの能力を理解したのはDIOだけでなく、当然変身している戦兎自身もだ。
この短い攻防で判明した事だが、ゼロワンは脚力が突出して高い。
エターナルの攻撃を回避する敏捷性とジャンプ力は勿論のこと。
蹴りの威力もこれまで変身したライダーより上だ。
脚力へ特化したピーキーな性能は、変身者によっては使いこなせず宝の持ち腐れだろう。
と言っても戦兎には問題にならない。
元の世界でビルドへ変身していた頃より、ラビットラビットフォームというスピード重視の強化形態にもなった事があるくらいだ。
それと同じ感覚で戦えば、そうゼロワンの能力に振り回される事も無い。
大体の性能を理解したなら、後はひたすら攻めれば良い。
接近したエターナルの蹴りを再度跳んで回避。
脚をピンと伸ばし頭上から踵落としを繰り出した。
後方へと身を引きエターナル、だが完璧に避けるのは叶わず踵が命中。
ズキリと左肩を襲う鈍い痛み。
ショルダーアーマーがダメージを軽減、折れてはいない為問題無く動かせる。
それはそれとして痛みを与えられたのには不快感が湧き出し、エターナルエッジを突き刺すも既にゼロワンの姿は無い。
再び真横からの攻撃を察知、今度は拳を放って来たが腕を翳し防御。
蹴りを防いだ時程の重みは感じられない、どうやら腕力はそこまで高くないらしい。
敵もまた拳による攻撃は効果的でないと察したのだろう、腕を引っ込めると同時に片足を鞭のように振るった。
「ザ・ワールド!」
エターナルの胴体を狙い蹴り飛ばす筈の一撃は、出現した拳闘士の拳に相殺される。
ゼロワンのスピードと蹴りの威力は良く理解した。
しかし破壊力とスピードに優れているのはゼロワンだけではない。
自身が操るスタンドもまた、有象無象の追随を決して許しはしないのだから。
今度はエターナルが攻めに入る番だ。
ザ・ワールドの拳がゼロワンを狙い打ち、敵は黄色い残像を残して回避。
躱した先で蹴りを放つべく足を床から浮かせかけるも、一手早くザ・ワールドが拳を放つ。
攻撃は間に合わない、回避を優先したゼロワンは跳躍。
エターナルを見下ろす位置に来た所へ、同じく飛び上がったザ・ワールドが殴りかかる。
ゼロワンもまた蹴りを放つがこれは迎撃の為ではない。
ザ・ワールドの拳を蹴った反動を利用し床に着地、視線の先ではザ・ワールドが同じく降り立った。
-
視線が交差するのは一瞬のこと、互いの片足が跳ね上がった。
「オオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!!」
蹴りと蹴りの応酬。
膝で薙ぎ払い、爪先で貫き、足底で粉砕する。
ゼロワンが持ち得るキック力の高さは知っての通り。
ザ・ワールドも元々の破壊力に加え、エターナルのエネルギーを流し込まれ強化されている。
幾度も脚を叩きつけ合い、未だ敵へは一発も届いていない。
両者徐々に速さを増し、教室中へ破壊の痕が深く刻まれていく。
勝敗を分けるのは第三者による横槍だった。
「ぐっ!?」
ゼロワンの横合いから突き出される刃、エターナルエッジ。
スタンドを動かしている間は本体がフリーになる。
正真正銘の殺し合いにスポーツマンシップを持ち込む馬鹿はいない、刃を防ぎ意識が逸れた隙を見逃しはしない。
ザ・ワールドの蹴りが連続して胸部装甲を叩き、軋ませる。
蹴り飛ばされるゼロワンだが、このまま黙って倒れはしてやらないとカードを手にした。
それを見たエターナルも迎え撃つべく、ロストドライバーからメモリを引き抜く。
『FINAL ATTACK RIDE!ZE・ZE・ZE ZERO-ONE!』
『ETERNAL!MAXIMAM DRIVE!』
ディケイドライバーに挿入されたライダーカード。
エターナルエッジのマキシマムスロットに装填されたガイアメモリ。
どちらも必殺のエネルギーを解放し、脚に纏わせる。
先手を取ったのはゼロワン、急加速し放たれるのは威力をより強化したキック。
エターナルもまたパワーを底上げした脚を振り上げ、爪先でゼロワンの膝を蹴り上げる。
宙へ浮くゼロワンをザ・ワールドが追撃、エターナル同様マキシマムドライブのエネルギーを纏わせた右脚が放たれた。
これを紙一重で躱したゼロワン、胸部装甲を脚が掠めるもザ・ワールドへ左脚を振り下ろす。
床へザ・ワールドが叩きつけられエターナルへとフィードバックが襲う。
痛みに顔を顰めるもゼロワンは待ってくれない。
-
「はああああああああっ!!」
「無駄ァッ!!」
ゼロワンとザ・ワールドの蹴りが激突。
相手を押し返さんとパワーを集中し、エネルギーが迸る。
戦意は二人とも劣らない、されど勝利へ傾いたのはゼロワンの方か。
背後へ僅かによろめいたエターナルの胸部へ叩き込まれるゼロワンの足底。
とはいえタダではやられないのがDIOという男。
ゼロワンの蹴りが直撃する寸前にザ・ワールドを傍らに出現、ラッシュを放った。
「ぐあああああっ!」
「チィ…!!」
殴り飛ばされるゼロワンだが、エターナルもまた痛みに呻く。
蹴りの衝突である程度威力を削いではいたものの、中々に堪えるダメージ。
だが無様に膝を付くのは自身のプライドが許さない。
痛みを噛み殺しながら仁王立ちし、床へ転がるゼロワンを見下ろす。
梃子摺らされたがもう好きにさせてはやらない、近付きトドメを刺そうとし、
『KAMEN RIDE!FOURZE!』
敵はまたもや新たな姿に変わった。
白をベースにオレンジ色のラインが入った、宇宙服を思わせるスーツ。
特徴的な頭部はまるでスペースシャトルのよう。
エニグマ事件で共に最上の野望を阻止した仮面ライダー、その名はフォーゼ。
天ノ川学園高校の平和と青春を守るために、十二星座の使徒と戦った戦士。
『FINAL ATTACK RIDE!FO・FO・FO FOURZE!』
フォーゼへの変身が完了し終えると即座に別のカードをドライバーに叩き込む。
左足にはドリルモジュール、右腕にはロケットモジュールを装備。
元々はNo.1と3のアストロスイッチを使用するが、ディケイドはカードの効果でモジュールを出現させる。
ロケットモジュールが火を吹き加速、真正面のエターナルへとフォーゼを押し出す。
足先ではドリルが高速回転し火花を散らしている。
-
「ぬぉっ!?」
エターナルローブを翳し防ぐも、すぐに失敗だったと悟る。
ローブに阻まれダメージ自体は皆無だが、フォーゼが蹴りを放った勢いまでは止められない。
ロケットモジュールが噴射しエターナルへ押し出される力も増加。
押し返そうにもフォーゼの体勢は全く崩れず、そればかりか押し出す力の上昇は留まる所を知らない。
フォーゼの背部にはジェットパックユニットが搭載されている。
推進剤を噴射し体勢を制御、ロケットモジュールの噴射へ加速力を上乗せしていた。
抵抗は無駄とばかりにエターナルの足が床から離されてしまう。
「貴様…!!」
怨嗟の声が空しく漏れ、DIOは背後のガラス窓へ激突。
背中から教室の外へ押し出されてもまだ止まる気配が無い。
雨が降り続ける屋外へ蹴り飛ばされる。
放って置けばそのまま学園の敷地外へと吹き飛んで行くだろう。
尤もそうなる前に空中で体勢を整え着地。
正面を睨むとエターナルを追って外に出て来たフォーゼが、生意気にもこちらを睨み返していた。
「DIO様…」
フォーゼへ攻撃を仕掛けようとするも、聞こえたのは少女の声。
横を見やれば、校舎内で杉元を相手にしている筈の部下がいた。
-
◆
違和感を感じる。
青髪の少女と戦闘を開始し数分が経過した頃、杉元は何かがおかしいと気付いた。
DIOが待ち受けていただろう部屋から離れた位置で、相手の顔面に銃床を叩きつける。
直撃すれば鼻はへし折れ、歯は砕けること間違いなしの一撃。
間近に迫った銃床に焦りは見せず、後方へと飛び退く。
(またかよ……)
攻撃が躱された、それ自体は負傷を避ける為なのだから当然の行動。
杉元が疑問に思ったのは、少女が繰り返す同じ動きばかりをしている事だ。
こっちから仕掛ければ回避して大きく距離を取る。
それから反撃に移るでも無く、杉元の攻撃を待って再び避ける。その繰り返し。
(何考えてんだこいつ?)
部屋から飛び出して来たように、苛烈に攻めるのでは思ったが予想を裏切られた。
杉元から見ても異様に高い身体能力を駆使すれば、もっと積極的に攻撃しても良いものとは思うが。
慎重、と言えば聞こえは良いがどうにも不気味な印象を拭えない。
(誘導してんのか…?)
予め校舎内に罠か何かを仕掛けて置き、その場所まで自分を誘き寄せる。
だから回避に重点を置いた動きばかりでいるのだろうか。
この少女がいつからPK学園にいて、どういった経緯でDIOに協力しているかは分からない。
だが予め罠を仕掛ける時間的な余裕くらいはあっただろう。
施設内の構造に関する情報は敵の方が知り尽くしている。
(本当に罠があるとして、どんな仕掛けだ?)
杉元が思い浮かべる罠と言ったら、日露戦争であったような地雷。
それか野生動物を捕らえる狩猟用の罠。
どちらもこういった建物の中に仕掛ける類ではない。
一体何を仕掛けているのか、見当もつかなかった。
-
疑問の渦から抜け出せない杉元を嘲笑うように、少女はまたしても距離を取る。
が、今度はこれまでと違う動きに出た。
少女自身に変化があったのではなく、少女の背後から奇怪なナニカが出現したのだ。
髑髏のような顔をしたソレが巨大な口を開け、あろうことか少女を丸飲みにしたではないか。
呆気に取られる杉元の目の前で、ソレは自身の体をも飲み込んでいく。
「は…?」
杉元が間の抜けた声を出てしまったのも、仕方のない事だろう。
髑髏面のソレが少女と自分の体を飲み込んだかと思えば、煙のように姿を消したのだから。
意味が分からない。
アレの正体が何なのか、何故いきなり現れ少女を丸飲みにしたのか。
ひょっとして今のが少女が仕掛けていた罠なんじゃないかと考えるも、それなら少女自身が食われたのは何故だ。
自分で仕掛けた罠に嵌ってしまった?
まさかとは思うが、本当にそんな阿保らしい末路なのだろうか。
「何だってんだよ…」
DIOとの再戦には少なからず緊張があったというのに、何とも言えない空気が漂う。
予想外にも程がある事態には、さしもの杉元とて困惑を隠せない。
あの少女がどうなったのかを詳しく調べてみるか。
いやそれより、戦兎達の所へ戻って共にDIOを相手にするべきじゃないのか。
頭をガシガシ掻きながら少女が消えた位置へ近付き、
ガ オ ン ッ !
後方に飛び退き、僅かに遅れて床が大きく削り取られた。
攻撃の前兆を察知したのではない。
ただ何となく、急激に湧き上がった危機感に従い動いた結果。
戦場に身を置き続けた影響で極限まで研ぎ澄まされた、直感が働いと言うべきか。
-
「な、に――」
何が起きた、何をされた。
浮かんだ疑問が口を突いて出るより早く、踵を返し駆け出す。
あーだこーだと考える余裕が許される状況ではない。
攻撃の正体は不明なれど、攻撃がまだ終わっていなとは確信を持って言える。
だから動かねば、一点に留まらず動き続けねばならない。
足を止める事は即ち、自ら命を差し出すに等しい愚行。
ガ オ ン ッ !
ガ オ ン ッ!
ガ オ ン ッ !
姿は見えない。
気配も感じられない。
においもしなければ音も聞こえない。
ただ背後で床や壁、天井が削り取られている。
もしもさっき、後ろへ退くのがほんの少しでも遅ければどうなっていたか。
不死の肉体であってもあんな風に人体を削り取られると考えると、背筋が寒くなるというもの。
罠どころか、とんだ一撃必殺の兵器だと悪態を吐く。
(一旦外に出るか!?)
校舎内を逃げ回るよりは、広い外に出た方がこっちも動き易い。
丁度正面玄関が見えて来たのもあり、そちらへ進路を変更。
敵をどうするかは外に出てから対処法を考えるとしよう。
雨風が入り込む出入り口へと向かい、
-
ガ オ ン ッ !
杉元の目の前にあった下駄箱が削り取られた。
綺麗にコルク栓を抜いたような丸い痕は、自然に生まれはしない。
「っ!!チッ!」
舌打ち交じりに玄関から離れる杉元の足元へ、ポタリポタリと赤い斑点が作られた。
下駄箱を破壊した力に巻き込まれ、鼻先が削られたのだ。
そう時間を掛けずに再生されるだろうが、痛いものは痛い。
と言ってもこれくらいの傷ならば十分耐えられる。
次の攻撃に備える杉元だが、ここで敵は杉元の予想とは違う動きに出た。
何も無い空間へゆっくりと姿を見せるソレ。
少女を丸飲みにした髑髏が、再び杉元の前に現れた。
口の中には少女の顔があり、杉元をジッと見下ろす瞳は恐ろしいくらいに冷たい。
いきなり現れ何のつもりかと困惑に動きを止めるも、今が正に狙い時ではと我に返る。
そこからは迅速だ、両腕を跳ね上げ歩兵銃の引き金を引く。
口の中の少女を仕留めるべく発射された6.5mm口径弾が、頭部を貫き脳症をぶち撒ける役目を果たせはしなかった。
銃弾は口を外れて髑髏を僅かに掠めただけ。
「クソッ!」
自分の射撃能力の低さは杉元自身が一番理解していても、失敗に心がささくれ立つ。
これが尾形であれば一発で難なく命中させただろう。
ついつい憎たらしい男を思い浮かべてしまい、余計に苛立ちが増す。
-
「……」
少女は何も言わずに姿を消した。
またあの見えない削り取る攻撃を行う気だと、察した瞬間には既に走り出す。
玄関付近が破壊されるのを尻目に、杉元はすぐ近くの階段を駆け上がる。
より正確に言うと踊り場まで一気に跳躍したのだ。
ちんたら一段一段昇っている場合じゃあない。
現に踊り場へ足を着けた途端に階段が削り取られ、中央に綺麗な丸形ができた。
ぼうっとしていれば踊り場ごと相手の攻撃の餌食になる。
もう一度跳躍し上の階へ到達、背後の確認も無しに駆け出す。
どうせ見なくても階段がまた削り取られただろう事くらい、安易に予想が付く。
上の階の廊下を駆け、しかし逃げているだけではどうにもならない。
打開策を考えようにも、そんな簡単に思い付けば苦労はしないと舌を打つ。
ガ
オ
ン
ッ
!
「うおおお!?」
杉元の目の前、今正に踏み進めようとした廊下が削り取られた。
大穴を開けられ、下の階がここからでも見える。
一歩踏み出していれば体の全面部分を失っていたに違いない。
命拾いした安堵感を抱きかけた所へ、また髑髏が現れ口の中から少女が見下ろす。
今度も攻撃を当て仕留めるチャンス。
歩兵銃で狙いをつけ、いざ引き金を引くタイミングで少女は消え去った。
こうなっては杉元に出来るのは削り殺されないよう逃げ回るのみだ。
クソッタレ、悪態を口にした直後に教室の扉が消え去った。
(埒が明かねぇ!)
階段の所へと戻り踊り場へと跳躍。
一段ずつ昇る手間すら惜しいので再度跳んで上の階へと渡った。
廊下を駆け抜け、ふと目に付いた教室へと飛び込む。
自分が来る前に騒動でもあったのか、扉は破壊されていた。
教室内へ転がり込むと、見覚えのあるモノが転がっているのに気付く。
「こいつは…鳥束、だったよな?」
頭部が胴体と泣き別れした死体。
緑色のボディに子供くらいの大きさをした、二足歩行のカエル。
最初の定時放送前に出会った鳥束霊太、その肉体がここにある。
姉畑のウコチャヌプコロの被害に遭った後、どうやって死んだかは知らなかったがこの場所で息絶えたのか。
思いもよらぬ再会に目をパチクリと瞬かせた。
-
驚きはそう長く続かず、鳥束の事は一旦頭から追い出す。
(…で、こっからどうする?)
最優先で考えねばならないのは青髪の少女をどうするかだ。
やられっ放しは性に合わない、ここいらで反撃に移りたい所ではある。
その為には敵の攻撃の正体を明かし、突破口を見付ける。
もう一度最初から、少女が何をして来たかを思い出さねばならない。
答えに辿り着く為のヒントはそこら中にあった、後はそれを正しく組み立てれば良い。
今までだって楽して勝てた事なぞほとんど無かった。
危機的状況を打破するべく思考を働かせる。
少女は杉元に飛び掛かり、戦兎達から引き離した。
一対一の状況を作ってからも攻撃はせず、回避の繰り返し。
髑髏のような怪物に食われ、直後見えない攻撃が始まった。
攻撃されている間は気配をまるで感じられず、敵の姿も目視不可能。
何故か時折髑髏を出現させ、口の中から杉元の様子を確認している。
(……ちょっと待て。ひょっとしてあいつ、俺が見えてないのか?)
これまで得た情報を繋ぎ合わせれば、自ずと答えは見えて来る。
髑髏の口の中に籠っていれば、こっちが何をやっても少女には当たらず一方的に攻撃が可能だ。
なのにわざわざ姿を現わす理由、髑髏に籠っている間は外の様子を見れないから。
だから一々顔を出して、杉元を仕留めたか否かを確認しているのだろう。
思えば少女の攻撃は強力だが無駄が大きい。
一撃で相手を殺せるというのに、杉元をピンポイントで狙えない理由にも納得がいく。
-
(俺を引き離したのも、そういう理由かよ)
攻撃中は外の様子を見れない。
つまりそれは的確に狙いを定めて攻撃が出来ず、片っ端から破壊していくしかない。
少女がDIOから離れて攻撃を開始したのは、同士討ちを避ける為と睨む。
強力でありながらじゃじゃ馬のように正確なコントロールが効かない能力。
もしDIOとの近くであの攻撃を行ったら、DIOを巻き添えで殺すかもしれない。
近くで戦っては味方にとっても厄介な攻撃だ。
(…それが分かっても、あいつを仕留められる機会は限られたままじゃねぇか)
少女へ確実にこちらの攻撃を当てられるのは、確認の為に髑髏を出現させた僅かな瞬間だけ。
当然少女もそれを分かっており、長々と隙を晒してはくれない。
結局面倒な相手なのに変わりは無く、いつもの癖で帽子を被り直す動作をしようとし、
「…………あっ」
一つ、案を思い付いた。
上手くいけば少女へ攻撃を叩き込める十分な隙を作れる。
自分で考え付いた事ながら酷い内容だ。
少なくとも、殺し合いに巻き込まれる前なら進んでやろうとは思わない。
今の肉体だからこそ後の事を余り心配せず実行に移せる作戦。
この部屋の状況を利用して、敵へキツい一撃を喰らわせてやれる。
確実に成功する保障はどこにも無いが、やってみるだけの価値はある。
辺りを見回し手頃な物を見付けると、仕方ないと一呼吸置き『ロクなもんじゃない』作戦の実行に入った。
-
○
白髪の小娘を始末する。
DIOから命令に従い杉元を引き離し、十分距離を取ったのを見計らいクリームによる攻撃を開始した。
何でも奇妙な自動車に乗ってPK学園にやって来たのは、DIOに手傷を負わせた連中らしい。
主に手を出した不届き者を殺すのに何の躊躇も無い。
嘗てDIOの館でポルナレフ達を追いつめたように、クリームで執拗に追跡。
多少の傷こそ負わせたものの、致命傷には程遠く杉元は未だ五体満足を保ったまま。
悪運の強い奴だがそれもいつまで持つものやら。
上の階に逃げた所で却って自らの首を絞めるだけ、外に出たとしてもクリームからは逃れるのは不可能。
逆属どもにはDIOに逆らった愚かさを呪いながら死ぬのが相応しい。
(そろそろ死んだか…)
破壊した手応えを感じ暗黒空間から顔を出す。
そこはケロロ軍曹から首輪を回収した際に訪れた教室。
今破壊したのは教室と廊下を仕切る壁だったらしい。
コルク栓を抜いたような形の、円形の破壊痕から中の様子が見える。
「なに…?」
そこら中に破壊された机や椅子の残骸が散らばっているのに驚きは無い。
首輪の回収に来た時点で既にこの有様だったのだから。
そんな教室の中に杉元はいた。
但しヴァニラが予想したのとは全く異なる姿でだ。
訝し気な呟きを漏らした原因は、今の杉元の状態にある。
うつ伏せに倒れ、どんな顔をしているかはヴァニラの位置からでは見えない。
微かに呻き声を上げる彼の下には、赤い水溜まりができている。
原因は杉元の腹部を貫通した机の脚。
引っ繰り返り、破損したせいで先端が鋭利な形状になった机の脚が杉元へ致命傷を負わせたのだ。
床に転がるのは、先程自分が斬首したケロロの死体。
丁度杉元の足の近くにケロロの死体があった。
この状況から考えられるストーリーは一つしかない。
-
杉元はクリームの追跡から逃げている最中、焦りからケロロの死体を踏み付け転倒。
その結果、運悪く引っ繰り返った机の脚の部分に倒れ込み腹部を貫かれた。
(何だそれは……)
余りにも、余りにも馬鹿らしいお間抜けな末路。
クリームで重傷を負い逃げる力を失ったとかならまだしも、これでは自滅したようなものじゃあないか。
とんだ肩透かしを食らった気分になる。
忌々しいカスどもと見下してはいるが、厄介さで言ったらジョースター一行の方がずっと上だ。
あの連中ならば、こうもアホな事態は引き起こさないだろうに。
「まぁいい…」
ふざけた結果だろうと相手が虫の息なのに変わりはない。
そして自分はDIOの敵へ同情もしなければ、見逃してやりもしない。
辛うじて生きてはいるこの馬鹿へトドメを刺す。
クリームを解除し自分の足で床の上に立つ。
確実に殺すならばクリームで暗黒空間に送るのが手っ取り早いが、それだと一つ問題がある。
自分のスタンドは精密性には欠けており、杉元の首輪も破壊に巻き込んでしまう。
モノモノマシーンを使用するのにDIOは首輪を集めている。
故にクリーム以外の方法で殺す必要があった。
幸いキュアジェラートの能力ならば問題無い。
ケロロの首を斬り落とした時と同じように、手刀へクリームエネルギーを纏わせる。
氷の刃を右手に作り、ヴァニラは一歩ずつ杉元へ近付く。
呆気ないがこれで一人、殺し合いが始まってからはようやくDIOの敵をこの手で仕留められるのだ。
(それにしても…)
斬首する寸前に、ふと何て事のないように思う。
DIOはこの娘に手傷を負わされたと言っていた。
しかしその娘は自分に一撃も食らわせられず、そればかりか自滅する始末。
(案外DIO様も……)
-
――案外、なんだ?
「……―――ッ!?」
我に返ったヴァニラはあっという間に顔を真っ青にする。
今何を思ったのか、自分自身の事だというのに信じられなかった。
それを考えるなど有り得ない。
だというのに自分はそれを思ってしまった。
そんな筈はないとどれだけ否定する、そうしなければヴァニラは壊れてしまう。
案外DIOも大した事は無いんじゃあないか。
絶対の主へ、悪の救世主へ、唯一無二の帝王へ、唾を吐く言葉を思うなど断じてあってはならないのだから。
「ヌゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!違う違う違う!私はそんなふざけたものを考えてなどいない!!DIO様は有象無象のカスとは比べる事すら間違っている御方なのだ!それを…それを…!!この頭か…!立神あおい!貴様の頭がDIO様を!!!」
頭を抱え取り乱したかと思えば、今度は壁に自分の頭を打ち付ける。
キュアジェラートに変身中のヴァニラは常人よりも頑丈だが、痛みが皆無ではない。
何度も強く打ち付けていれば鈍い痛みが発生する。
しかし頭部への痛みなどヴァニラには気にしちゃあいられない。
一時でもふざけた考えを持ち、DIOへの背信行為に走った許し難い己自身を罰しなければおかしくなりそうだった。
「DIO様は絶対だ……疑うなどあってはならないのだ…!」
トドメを刺して首輪を回収する、直前までの行動すら最早ヴァニラには考える余裕が消え失せていた。
クリームを解除し、意識を完全に敵から外しているこの状態。
誰がどう見ても隙だらけ。
ならばこんな最大級のチャンスを、見逃す訳が無い。
「ォラァアアアアアアアアアアッ!!」
「なにぃっ!?」
視界の端で跳ね上がり、真っ赤に燃えるナニカが見えた。
腹の底から張り上げた声は反撃の合図。
我に返りスタンドを出現させるまでの判断はほんの数秒、されどその数秒が余りにも致命的だ。
-
「がっはぁあああああああっ!?」
左頬に走る痛み、そして猛烈な熱さ。
視界がスパークし見えない筈の火花が見える。
脳を直接掴まれシェイクされたにも等しい衝撃、思考もままならない。
だが皮肉にも飛びかけた意識を引き戻したのは、相手から与えられた痛み。
顔を炙られたかのような激痛により、ヴァニラは床に倒れた体勢から何が起きたかを理解した。
目の前に居るのは虫の息だった筈の男、杉元。
転倒し腹から出血していたのは、決してヴァニラの見間違いではない。
現に杉元の腹部は赤く染まり、カッターシャツを汚している。
杉元がやったのはそう難しい事ではない。
重症のふりをして油断を誘った、言葉にすればただそれだけの内容。
正確に言えばふりではなく、本当に自ら机の脚で腹部を貫き重傷を負った。
幾ら敵を油断させる為と言っても、そのような傷を抱えたままでは作戦が成功しても戦闘続行に悪影響が出る。
但しそれは普通の人間の場合だ。
蓬莱人である妹紅の肉体は腹を貫かれたとて死ねない、現に既に再生が始まっている。
杉元にとって嬉しい誤算だったのは、ヴァニラが予想以上の隙を晒した事だ。
何の事情があってかは知らないが、急に錯乱し壁に頭を打ち付けた時は流石に困惑した。
様子をチラリと盗み見ながら内心で軽く引きはしたものの、チャンスであるのに変わりは無い。
正気を取り戻すのを悠長に待ってはやらず、右拳を思いっきり叩きつけてやった。
相手の反応は間にあわず見事命中、綱渡りの作戦だったが無事成功である。
「おのれ…!」
怨嗟の声を吐きながら立ち上がる。
左の頬、というよりは左顔面部が痛い。
杉元は単にヴァニラを殴り飛ばしたのではなく、自身の拳に炎を纏わせていた。
少女の顔半分には痛々しい火傷の痕が浮かび上がっている。
ふざけた小細工を弄した杉元を。
何よりもそんな下らない手にまんまと引っ掛かった自分への怒りが湧き出す。
DIOへの疑いを抱いてしまった動揺を、一時的に忘れさせるくらいには大きな怒りだ。
再度思考全てを敵の排除に向けて働かせる。
-
一撃は受けた、だが許せるのは今の一撃だけだ。
もうこれ以上は反撃する暇もくれてやらず、暗黒空間へ送ってやる。
自身を飲み込ませるべくクリームを出現。
その瞬間だ、ヴァニラの右肩から鮮血が飛び散ったのは。
銃口から煙を上げる杉元の歩兵銃が撃ち貫いたのは、クリームの右肩部分。
スタンドがダメージを受け、本体へのフィードバックで同じ箇所へ傷を負った。
珍しい話ではない、スタンド使いならばそれくらい知っている。
だというのにヴァニラは一瞬の動揺で硬直し、またもや隙を晒した。何故か。
スタンドにおける絶対の法則としてスタンドはスタンド使いにしか見えず、スタンドに干渉出来るのはスタンドのみというものがある。
しかし杉元はスタンドではない、ただの歩兵銃でクリームにダメージを与えた。
これはボンドルドが殺し合いで公平さを保つために、スタンドへ制限を掛けたからである。
スタンドの制限はDIOや承太郎、既に死亡している吉良吉影などが戦闘の最中に気付き、殺し合いにおいてはスタンド使いの有利さは失われていると理解した。
だがヴァニラからしたら今になって初めて知った事実。
しのぶとデビハム相手にクリームで追跡はしたものの、その際にクリームを攻撃され無ければ、クリームの姿に言及される事も無かった。
まともな戦闘と言ったらそれくらいしかなく、後はほとんどがフリーザのせいで精神的な負担に苛まれながらの移動ばかり。
スタンドへの制限に気付く機会に恵まれず、今この時になってようやく分かるもタイミングは最悪だ。
「ごふっ!?」
腹部へ唐突に走る鈍痛。
胃の奥からせり上がり吐瀉物を撒き散らしそうになるのを耐える。
視界に映るは赤いリボンで結んだ真っ白い長髪。
敵へ隙が生まれたのは二度目。
立て続けに舞い込んだチャンスへ食いつき、ここから一気に流れを支配するべ、杉元の猛攻が始まった。
-
「がぁっ!?」
腹部へ叩き込んだ銃床で今度はヴァニラの顔を打つ。
こめかみ付近に叩き込まれる木製のストック。
先程殴り飛ばされた時に勝るとも劣らない衝撃に襲われる。
耳元で鐘を鳴らされたようだ、ぐわんぐわんと頭の内側から揺らされるよう。
「ぬぐぅ!」
復帰もままならない内から新たな痛みが来た。
脇腹へねじ込まれた杉元の左拳。
今度は炎を纏っていないが、そんなもの慰めにならない。
内臓が押しつぶされるような感覚、口の端から漏れたのは胃液か血か。
「舐めるな……ッ!!」
歯が砕けんばかりに噛み締められ、痛みへ耐え切る。
何時までも杉元の好きにさせてやりはしない。
真正面から顔面を粉砕しに掛かった銃床をガッチリと掴み防御。
反対の手にはクリームエネルギーを纏わせ、氷のブロックで覆う。
即席の凶器が完成、こちらの番と反対に杉元の顔面を潰しに掛かった。
「っと…!」
氷のブロックは空を切り、ヴァニラの攻撃は失敗に終わる。
歩兵銃を手元に戻そうとしては攻撃をモロに食らうと察し、杉元は銃を持つ手を放した。
頭を下げて拳を回避、真上を氷のブロックが通過した直後に右足を跳ね上げる。
狙いは自身の歩兵銃だ、銃身が蹴り上げられヴァニラの手から放れた。
クルクルと二人の頭上で回る歩兵銃を跳躍しキャッチ、棍棒のようにヴァニラへ振り下ろす。
-
「チィッ!」
避けるか、氷のブロックで防御するか。
ヴァニラが選んだのはそのどちらでもない。
何と振り下ろされた銃身を掴み攻撃を強制的に中断させた。
ビリビリした痛みが掌に走るのを無視し、歩兵銃ごと杉元を床に叩きつける。
「がっ……」
背中への痛みへ気を回すのは後回しだ。
仰向けに倒れた杉元に跨ったヴァニラが、氷のブロックを振り下ろす。
狙いはさっきと同じく杉元の頭部。
可憐な少女の顔を原型も留めぬ程に破壊する、冷たく凶悪な鈍器が迫る。
「ざっ…けんな!!」
自身を狙う氷の塊へ杉元は、自ら頭を叩きつけた。
思いもよらぬ反撃、頭突きを返されヴァニラの右腕が押し戻された。
額が裂け血が出ても知った事かと杉元は動く。
押し戻された右腕に上体を引っ張られ、ヴァニラが体勢を崩した今こそ狙い時。
左手を叩き付け起き上がり、さらに大きくよろめいたヴァニラへ右の拳を叩きつける。
「俺は、不死身の杉元だ!!!」
「だから何だクソカスがぁっ!!!」
燃え盛る炎の拳が狙ったのは、またしても左顔面部。
火傷が生々しく残る箇所を再び炙られる。
だがさっきと違うのは、拳を叩き込まれてもヴァニラが殴り飛ばされなかった事だ。
二度も無様に倒れ込む醜態を見せはしない。
顔を焼かれながら血走らせた目で杉元を睨み付け、こちらも拳を振るった。
「ぐぎぎぎ…!」
氷のブロックが狙うのもまた、杉元の右顔面部。
冷たさと同時に来るのは頬が引き千切られそうな痛み。
ヴァニラへ叩き込んだ拳が相手の顔から離れる。
殴られるのには慣れているが、痛いのが平気な訳ではない。
しかし杉元も耐え、殴り飛ばされないように耐えた。
僅かにでも相手から目を離し隙を作ってしまえば、またあの見えない攻撃をされる。
そうはさせるかと歩兵銃を持つ手を振るおうとし、
-
「ぐぁっ!」
蹴り飛ばされた。
バルーンスカートから伸びた脚が腹部を直撃。
反撃を許さぬままに距離を離し、ヴァニラは改めてクリームを出現させようとする。
中々に梃子摺らされたがそれももう終わりだ。
「うおおおおおおおおおおおっ!!!」
その考えは大間違いだったとすぐに思い知らされる。
杉元という男の執念深さを、ヴァニラは甘く見ていた。
「なっ…!」
蹴り飛ばされるも体を宙に浮かせ、ヴァニラ目掛け一直線に突撃。
幻想郷の住人である妹紅だからこそ可能な空中飛行を駆使したのだ
頭から突っ込まれ、胴体で杉元の頭突きを受け止めてしまう。
軋みを上げ全身が痛むヴァニラから低い呻き声が漏れ、それでも杉元は止まらない。
背後のガラス窓を突き破り、ヴァニラ諸共落ちて行く。
「よっと…」
最初にDIOと戦った時のように地面へ叩きつけられるヘマはしない。
空中で体勢を整え無事に着地。
ガラスの破片が散らばる地面を踏みしめながら、真正面を見据える。
「貴様ァ…!」
ヴァニラもまた叩きつけられず着地し、杉元へ殺意をこれでもかとぶつけていた。
プリキュアに変身した状態なら、数階から落ちても問題無く耐えられる。
睨み合う両者の間で膨れ上がる敵意。
それに水を差したのは、校舎から飛び出して来た二人の戦士だった。
-
○
「よう、桐生…か?何だそのイカみてぇな頭」
「どっからどう見てもスペースシャトルだっての!…大分やられたみてぇだな」
「こんなもん大した傷じゃねぇよ」
軽口を叩き合いながら既に外に出ていた仲間と合流する。
自分がDIOの相手をしている間、杉元の方も激戦になったのだろうか。
シャツには血が滲み、顔には殴られた痕。
と言っても傷が酷いのは相手もまた同じ。
顔半分は焼け爛れ、年頃の少女が負うには酷な傷痕が幾つも刻まれている。
「DIOの奴を連れて来て助かったぜ。あれでもう隠れる攻撃は使えない筈だ」
「…?何の話だ?」
偶然にもヴァニラだけでなくDIOも外に引きずり出され、こうして近くに揃った。
ならばあの見えない攻撃を使うのはDIOを巻き添えにしかねない。
厄介な攻撃を一つ封じた事になり、これで幾らか戦い易くなっただろう。
ヴァニラの能力の詳細を知らない戦兎からしたら、意味が分からず聞き返すのも無理はないが。
残念ながら詳しく説明をしている時間は無い。
校舎内に残された者達も外へと姿を現わした。
「DIOさん……!」
焦りを隠さず飛び出して来たのは斬月。
善逸へ怒りのままにソニックアローを連射していた彼女も、エターナルが蹴り飛ばされる姿へ意識を持って行かれた。
それまで敵意を向けていた善逸へは見向きもせず、慌ててエターナルを追いこうして外に出て来たのである。
「ピカ〜!」
少し遅れて善逸も外へ出て、戦兎達の方へと駆け寄る。
自分への攻撃が止んだのは良いものの、そこからどうするか悩んだ。
このまま隠れてようかという逃げと、幾ら何でもそれはどうなんだという正論。
恐怖心は微塵も揺らいでいないが、自分一人だけ隠れ続ける後ろめたい行為には結局走れず。
こうして外へと姿を見せた。
-
「フン……」
つまらなそうに鼻を鳴らし、エターナルは戦場を睥睨する。
戦兎と善逸は元より、ヴァニラに始末を命じた杉元も負傷は有れど未だ健在。
放送前に姉畑から聞いた、銃で頬を吹き飛ばされた傷は見当たらない。
杉元が名乗っていた不死身とはただの自称ではなく、吸血鬼の生命力にも等しい再生能力を有しているということか。
どれだけ生命力が高くても、暗黒空間に送ってしまえばひとたまりも無い。
そう考えてヴァニラに相手をさせたのだが、クリームでも仕留め切れないくらいにはしぶとい。
やはり己の手で直接始末する必要があるか。
最初に遭遇した時から煩わしい過去を思い起こさせ、自分へ炎を放った目障りな小娘。
鬱陶しい因縁などジョースターだけで十分だ。
いい加減に戦兎や善逸共々排除しておかねばなるまい。
3対3の構図が出来上がった新たなステージ。
得物を構え、戦意を滾らせる両陣営の間には、いつ爆発してもおかしくない緊張感が漂い、
――岩の呼吸 弐ノ型 天面砕き
新たに参戦した男が、その空気を叩き壊した。
「無駄ッ!」
自身の頭上から飛来するナニカをエターナルエッジで弾き飛ばす。
襲い掛かった物の正体は刀。
柄を鎖で繋がれた刀は弾かれると、持ち主の元へと引き戻される。
刀を回収したのは銀髪の男。
着流しにブーツというミスマッチでありながら、不思議と着こなしている見知らぬ参加者。
どこかで見た覚えがある、不意に浮かんだ疑問は口を突いて出ずに消え去った。
「ホアチャアアアアアッ!!」
銀髪の男の背後より飛び出したのは、青い装甲の戦士。
頭部から剣を生やしたデザインも、腰に巻いてある剣を収納したベルトも初めて目にする。
しかしこの戦士が何なのかは即座に分かった。
こいつもまた、仮面ライダーであると。
-
「失せろ狂犬が!」
青い仮面ライダーの拳は、青い髪の少女の蹴りに防がれた
DIOへ手を出すなど不届き千万。
立て続けに現れた主へ逆らう愚者どもへ、ヴァニラの怒りはあっさりと頂点に達する。
生身の少女でありながら自分と同等の一撃を繰り出す敵へ、青い仮面ライダーの驚愕が仮面越しにも伝わって来た。
敵の驚きもヴァニラにはゴミ同然に価値が無い、クリームエネルギーで氷のブロックを右手に生成。
反対にこちらから殴打を浴びせに掛かるも、敵は驚愕からの復帰が早い。
後方へと大きく跳んで拳を避け、戦兎達へと駆け寄った銀髪の男の隣に並んだ。
「悲鳴嶼!?それに……どちら様?」
「私アル。声まで忘れたとは言わせねーぞオイ」
銀髪の男こと悲鳴嶼はともかく、もう一人は見覚えが無い。
首を傾げ問い掛けると、帰って来たのは聞き覚えがある声。
病院で出会い、放送の後は単独行動を取った女。
「神楽…?お前も仮面ライダーに変身出来たのか……」
「そっちこそそのイカ頭は初めて見るネ。……ごめん、勝手に離れて迷惑かけたアル」
「いや、無事に戻って来たんならそれで良かったよ」
神楽まで仮面ライダー、しかも自分の知らないベルトを使っているのには戦兎も驚く。
一人で離れたのを気にしているようだが、こうして戻って来たのなら問題無い。
責めるつもりは全く無く、無事に帰って来た事への安堵が湧き上がった。
とはいえずっと喜んでもいられない。
悲鳴嶼達と合流出来たのなら、伝えておかねばならない話がある。
「悲鳴嶼、胡蝶はもうDIOの所から逃げたみたいだ。今どこに居るかまでは分からねぇけど」
「……」
自分達が街へ急行した理由であるしのぶの情報。
現在地は不明でもDIOという危機からは逃れられたと悲鳴嶼に伝える。
元の世界からの仲間でもあり、悲鳴嶼は一番しのぶの安否が気掛かりだった。
なら彼女に関する情報は喉から手が出るくらいに欲しかった筈。
だというのに、戦兎の話を聞いた悲鳴嶼は無言を貫く。
顔にも嬉しさは見当たらず、むしろ表情が曇ったではないか。
-
様子がおかしいのは悲鳴嶼だけでなく、隣にいる神楽も同様。
顔は見えないが表情が強張ったのを雰囲気で察せられた。
「悲鳴嶼…?」
「…いや、胡蝶の事は後で話す。今は目の前の敵に集中させてくれ」
「お、おう」
重苦しい声色から何か良くない事が起きたのを察するが、詳しく聞くのは後にするべき。
そう自分を納得させDIO達への警戒を強める。
戦兎がしつこく聞きはせずにいてくれるのへ感謝しつつ、悲鳴嶼もまた眼前の脅威を睨みつけた。
緑の陣羽織を纏った弓兵、濃い青色の髪をした少女。
その者達も危険なのは分かるが、白い鎧を纏った男は別格だと存在感だけで強制的に理解させられてしまう。
全身の細胞が張り詰め、相対しているだけでも背筋が凍り付く怖気。
間違いない、敵は無惨にも匹敵する怪物である。
「ほう…。どうやらこのDIOの力を戦う前から理解したらしいな」
緊張を面に出したつもりは無くとも、向こうにはお見通しのようだ。
黄色いレンズが悲鳴嶼を射抜き、鎖を握り締める力が強くなる。
頂点に立つ強者へ、地に伏せるしかない弱者が怯える様は心地が良い。
少しばかり機嫌を良くしたエターナルは、弾むように言葉を口にし、
「オラッ!!」
「ッ!チッ!」
寸前で火球が発射された。
エターナルの足元へ着弾した火球はそのまま霧散せず火柱を噴出。
傍らのエターナルを焼き潰さんと上がる炎を、ローブを翳し防御。
耐熱性も備えたエターナルローブのお陰でダメージはゼロ。
代わりに機嫌があっという間に急降下、全く持って忌々しい小娘だと睨み付ける。
だが憤怒一色の視線などなんのその。
不敵な笑みで受け流し、正面を向いたまま横の仲間へ言い放つ。
-
「桐生!DIOと青いガキは俺らが抑えとく。お前は甜歌って女の子を助けに行け」
「っ!…悪い、そっちは任せる」
「おう、任された」
DIOに妨害される可能性が高かったさっきまでとは違い、仲間達が引き受けてくれるなら話は別。
フォーゼからビルドへと戻り、更に変身を続ける。
甜歌救出の鍵となるカードを取り出し、ドライバーに読み込ませた。
『FORM RIDE!BUILD GENIUS!』
『完全無欠のボトルヤロー!スゲーイ!モノスゲーイ!』
純白のボディへ突き刺さる、煌びやかなカラーのフルボトル。
仮面ライダービルドの最終形態にして切り札、ジーニアスフォームへの変身を完了。
一度はザ・ワールドを追い詰めたビルドジーニアスの出現にDIOもまた警戒を強める。
自身のスタンドへエネルギーを流し込み強化、四肢が蒼の業火に包まれた。
そこへ接近するのは蓬莱人の肉体を得た不死身の兵士。
歩兵銃の銃床を叩きつけるも、交差させた両腕に防がれる。
両手が塞がっているならとエターナルを蹴り付け、反動で数十センチ下がる。
避けてすぐさま拳を放つのはザ・ワールドだ。
流石にザ・ワールド相手に真正面からは分が悪い、地面を転がり距離を取った。
「あの小娘がァ…!よくもDIO様へ…っ!?」
「余所見してんじゃねーヨ!セーラー○ーンみてぇなもん着やがって!」
杉元への怒りをぶつけるヴァニラへ蹴り掛かるは神楽が変身したブレイズ。
ノーブルソルトというブレイズの脚部が、ライオンの如き俊敏さを付与。
獲物を狩る百獣の王の一撃で仕留められる末路を、キュアジェラートの身体能力を以て回避。
ヴァニラが首を垂れる王はDIOただ一人、他の輩にくれてやる命など持ち合わせてはいない。
蹴りを凌いだヴァニラの瞳に飛び込んだのは、銀髪の男がエターナルへ再び刀を投擲しようとする瞬間。
懲りずに愚かしい真似へ走る狂犬を誰が見逃してやるものか。
クリームエネルギーで作り出した氷のブロックを弾丸のように発射、生意気にも避けた相手へ接近し殴り掛かった。
「DIOさん…!て、甜歌も援護しないと……!」
次々に変化する戦況へ置いてけぼりになった甜歌も、ようやく事態を飲み込んだ。
新しく現れた二人はDIOの敵、つまりは自分の敵。
その二人はヴァニラが相手取っているが、DIOは別の敵と戦闘中。
なら自分も戦いに参加しDIOを手伝わなければならない。
意気込み新たにソニックアローを構え、
「甜歌」
「……っ!戦兎、さん……」
目の前に、一人の男が立ち塞がった。
帝王と狂信者が猛威を振るう戦場。
その片隅で、心を囚われた少女を解放する為の戦いが始まろうとしていた。
-
◆
「無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!」
重機関銃の掃射に等しいラッシュ、威力は間違いなく銃弾以上。
ザ・ワールドが拳を連打し、殺到した弾幕は線香花火を思わせる輝きと共に霧散。
左手からは火球を、右手からはコルト・パイソンの銃弾を撃ち続けるも命中せず。
胴体や頭部へ当たる前に拳が全て払い落としてしまうのだ。
装填された銃弾は残り一発。
予備の神経断裂弾を込める余裕がこの状況である筈が無い。
ホルスターに銃を戻し、心臓を狙って突き出された刃を回避する。
「豆鉄砲に、チンケなマッチの炎。ここまで惨めでは泣けてくるな」
「他人から貰った玩具ではしゃいでるお前に言われたかねぇよ!」
背負っていた歩兵銃を構え、銃床で顔面を狙うも腕で防御。
蒼い炎が刻まれた腕の装甲は硬く、却って杉元の方が痺れた。
このまま叩きつけたとしても歩兵銃が壊れるのが先だろう。
歩兵銃のベルトを肩に掛け両手を自由に、妖力で炎を付与。
顔面狙いで拳を放てば、エターナルローブで防がれる。
「めんどくせぇもん着やがって…!」
この奇妙な黒い布はどんな仕掛けか、炎を放っても燃えやしない。
破壊は難しいと判断、跳躍しエターナルの頭上を取る。
頭部を焼き潰さんと火球を連射、上空へ扇ぐようにしてローブが振るわれ炎は掻き消された。
「!?やっべぇ…!」
「すっトロいわ!」
ローブで視界が隠されるのも束の間。
黒一面がどかされるた直後目にしたのはファイティングポーズを取る拳闘士。
ザ・ワールドが放つラッシュをモロに食らってしまえば、またしても骨折する羽目になる。
いや、今のザ・ワールドは最初に杉元と戦った時よりもエターナルのエネルギーで強化されているのだ。
骨折『程度』では済まない傷を刻み付けられるだろう。
-
「クッ…ソッタレ!」
空中というフィールドに逃げ場はない、普通の人間ならばそう。
運が良いのか杉元の肉体は普通の範疇には入らない。
そこそこ慣れた飛行能力で空中を水平に移動、ザ・ワールドのラッシュをギリギリの所で避けられた。
だが地上から距離を取っても跳んで追い付かれるのは、最初の戦闘で痛い思いと共に把握済み。
地面を降り立ち炎の弾幕を張る杉元、その全てを拳と刃で防ぎながらエターナルが迫り来る。
「ピカアアアアアア!」
「GUUUUUUUUU!?」
刃が到達するかというタイミングで、エターナルは動きを止める。
強制的に止められたと言った方が正しい。
天高くより降り注いだ雷が頭頂部から足先まで流れ込み痺れさせた。
DIOという邪悪の蛮行を天は見過ごさず、この場面で罰を与えたのか。
否、エターナルへ神罰に等しい雷光を落としたのは黄色い獣。
でんきタイプのポケモン、ピカチュウの肉体を得た善逸だ。
「ピカ!?ピッピカチュウ!?(当たった!?めっちゃ綺麗に直撃しちゃったよ!?)」
「うおおおお!やるじゃねぇかお前!」
見事な命中っぷりに謎のテンションで二人ははしゃぎ出す。
でんきタイプのポケモンが使えるわざの一つにかみなりがある。
このわざは火力こそ高いが命中率に不安が大きい。
かみなりは天候によって命中率が左右され、日差しが強ければ半分以下の確率でしか当たらない。
反面、雨天時には必中のわざとなるのだ。
「やってくれたな…家畜にも劣る害獣風情が……」
「ピカピ〜!!(ひえええ!めちゃくちゃ怒ってるよアイツ!)」
エターナルに変身し、エターナルローブの恩恵で大ダメージは回避できた。
しかしPK学園から逃げた時と言い、悉く自分へ電気を浴びせるなど万死に値する。
殺気立つエターナルから善逸を庇うように前へ出て、杉元は挑発的に笑う。
「余裕が崩れてんぞ?もっと笑ってみせろよ」
「ほざくな、火遊びしか出来んモンキーめ」
-
○
「ホアチョオオオオオオオッ!!!」
「鬱陶しいカスめぇぇ……!!」
ブレイズとキュアジェラート、仮面ライダーとプリキュア。
超人的な能力を有する二人によって繰り広げられる、壮絶な殴り合い。
彼らの勢いたるや近接パワータイプのスタンドにだって引けは取らない。
「しぶとい小娘が!」
「お前だってガキじゃねーかヨ!こちとら橋本○奈アル!事務所が黙ってねぇぞゴラァ!」
「意味が分からんわ!!」
積層装甲に覆われた拳と、氷のブロックを纏わせた拳。
強度も威力もほぼ互角だが、押されているのはヴァニラの方だ。
強力なスタンド使いではあれど、肉弾戦ならば神楽に軍配が上がる。
ブレイズ本来の戦闘スタイルである剣術よりも、殴る蹴るの方が神楽には動き易い。
変身で身体能力を強化させたのもあって、元の肉体と謙遜無い戦闘能力を発揮していた。
――岩の呼吸 壱ノ型 蛇紋岩・双極
ヴァニラをより劣勢へと追い込むのが飛来する刀だ。
投擲された刀を避けようにもブレイズの猛攻が許さない。
よって多少のダメージには目を瞑り、横へと大きく跳ぶ。
案の定数発の拳が叩き込まれたが、戦闘続行に支障は無い。
デイパックより回転式機関砲(ガトリング)を取り出し、今しがた横槍を入れた男へ照準を合わせる。
「ボロクズにしてくれる!」
「むっ!?」
レバーを勢い回し、冷えていた銃身が途端に熱を帯びた。
発射された無数の銃弾を前に、只の人間がやれる事と言ったら諦めて死を受け入れるのみ。
だが銃口を向けられたのは鬼殺隊最強の岩柱。
たとえ元の肉体ではなく、本来の日輪刀が手元に無くても培った戦闘技術までは失われていない。
全身の筋肉が唸りを上げて盛り上がる。
世界は違えど数多の敵を斬り倒した剣鬼の力を今こそ発揮する時。
-
地面を踏みしめ跳躍、踏み込みの力強さに地面へ亀裂が走った。
――岩の呼吸 伍ノ型 瓦輪刑部
「なんだとォ!?」
空中から刀を勢い良く振り下ろす。
行ってしまえばそれだけの単純な攻撃、しかし破壊力と勢いは岩の呼吸のなかでも随一。
照準を上空へ向けようとした時には既に、刀は真下へ振り下ろされている。
長い銃身が真っ二つに両断され、地面に転がる音が雨に消えていく。
額と鼻先から僅かに出血するヴァニラ、もう少しリーチが長ければ顔面も断たれていた。
武器の損失を嘆く程思い入れは無い。
クリームエネルギーで氷のブロックを射出し牽制。
鎖を振り回し砕き落とした悲鳴嶼ばかりに構ってはいられない。
蒼い影がロケットもかくやという勢いで頭から突っ込んで来る。
「ぐっ…!」
両手を氷のブロックで覆い防御の態勢に入った。
突き飛ばされ掛けるも鼻息荒く気合で耐え、ブレイズの腹部を蹴り上げる。
敵も両腕で防ぎ、顔を上げると至近距離で睨み合う。
-
○
甜歌にとって戦兎は敵でしかなかった。
自分とDIOの愛を引き裂き、DIOを倒そうとする許し難い男。
もしDIOから戦兎を殺すよう命じられたら喜んでその通りにしただろうし、最初の定時放送前の戦いでは気を失った戦兎を殺そうとしたのは事実。
再び会う事があったとしても、戦兎へ向ける感情は敵意のみ。
今更殺すのに躊躇をいだきはしない。
むしろ今度こそDIOとの愛を邪魔する存在を消し去り、何の心配も無くDIOと一緒にいられる幸福へ身を委ねただろう。
「戦兎さん……」
その筈だったのに、何故こんなにも怯えているのだろうか。
声が震え、足も震え、視界がぐらつき酷く気持ちが悪い。
どうしてこんな風になってしまったのか、甜歌自身にも不思議で仕方なかった。
戦兎と再会した、だから何だというのだ。
殺すべき男が目の前に現れた、ならば攻撃すれば良い。
ただそれだけの話だろうに、自分は一体全体何をここまで動揺しているのか。
戦兎からはまだ何もされていない。
目の前に立って、一言名前を呼んだだけ。
その結果、自分は戦兎の顔をまともに見れないような後ろめたさと、今すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られた。
理由は分からない、いや分かりたくない。
分かってしまえば自分の中で何かが壊れてしまいそうだから。
自分が目を逸らし続けてきた何かに向き合わねばならず、それがどうしようもなく恐いから。
(あ、そ、そうだ……!)
だから自分を誤魔化す為の理由を作る。
きっと自分一人で戦兎と戦わねばならない事に緊張しているだけだと。
DIOやヴァニラは他の者に対処しており、戦兎とは甜歌が単独で相手取らねばならない。
ゲームでも良くある展開だ。
パーティーメンバーの支援を受けられず、主人公単独でボスキャラとバトルする。
それで武者震いをしてしまったのだと、自分に対して言い訳を重ねた。
-
「甜歌」
「……っ!」
苦しい誤魔化しはもう一度名前を呼ばれ呆気なく崩れ去る。
白い仮面の下で彼が今どんな顔をしているのか。
どんな目で自分を見つめているのか。
想像するだけで頭の中がぐちゃぐちゃになり、涙すら零れそうになった。
「こ、来ないで……!」
故に、無理やりにでも戦兎への敵意を振り絞る。
ソニックアローの照準は真っ直ぐ戦兎に向けられており、後は弦を引き放つだけだ。
有無を言わせずさっさと矢を射って仕留める。
合理的な思考ならその結論を出すのは一瞬。
だが甜歌は、矢を射る前に言葉が先に飛び出した。
「DIOさんを傷付けるなら…せ、戦兎さんでも、こ――」
その先の言葉が出て来ない。
喉に蓋をされたように続きが押し留められ、代わりにヒューヒューという音だけが空しく這い出る。
どうして言えない、殺すとその短い言葉を口にするだけだ。
だというのに、自分の中で何かがたった三文字の言葉を言わせまいと抑えている。
それだけは言うな、言ってはならないんだと、内側から声がするようにも感じられた。
声の主は自分自身のようにも聞こえて、或いは自分の良く知る『あの娘』の声にも――
「……や、やっつける、んだから……!」
代わりの言葉を口にした。
気付かない振りをして、気付いてはならないと逃げを選んで。
フッと、微かな笑い声を戦兎が発した。
甜歌の顔が赤く染まる。
馬鹿にしているのか、今の自分が惨めだから、だからそうやって笑うのか。
至極当然の怒りと、戦兎に嘲笑されたかもしれないという悲しみ。
後者の感情からは目を背けて、精一杯の声を張り上げる。
-
「わ、笑わないで……!て、甜歌は、ほ、本当に……」
「ああいや、別に馬鹿にしたとかじゃない。ただ、何か嬉しくなってな」
怒りは困惑へと早変わり。
今のどこに喜ぶ内容が含まれていたのか。
疑問を早急に解決させたのは、続けて放たれた戦兎の言葉。
「わざわざやっつけるなんて言い直してまで、殺すって言いたくなかったんだろ?」
「〜〜〜っ!!」
嫌な所を突かれた。
目を逸らしたソレに無理やり向き合わされ、甜歌の中で何かが崩れ始める。
もうダメだ、これ以上戦兎の言葉を聞いてはいられない。
聞いてしまえば、自分は本当に砕け散ってしまう。
今も己を苛む恐怖と抵抗感に蓋をして、ソニックアローの矢を放つ。
攻撃すれば、一撃でも命中させればきっと冷静さを取り戻せる筈だと。
根拠のない考えに逃げて、矢を放ち続けた。
「……」
しかし当たらない。
片腕を軽く振るっただけで、矢は羽虫のように叩き落とされる。
通常形態のビルドを超える耐久力と動体視力。
加えてどれだけ自分を誤魔化そうとも、隠し切れない動揺を乗せた矢で貫ける程ビルドジーニアスは甘くない。
「こ、この…当たって…当たってよぉ……!」
何度放っても全て叩き落とされ、苛立ちを叫んでも意味は無い。
数十発目の矢を射ろうと弦を引いた時、ソニックアローが弾かれ手元から地面に落ちた。
赤い弓を撃ち落としたのは、戦兎の右手に握られたライドブッカー。
恐るべき早撃ちと正確な狙い。
タカフルボトルの力で射撃能力を高めたが故の結果。
-
「え、あ…」
武器が手元から失われたと理解するまでに約数秒。
それだけあれば戦兎が決着を着けるには十分過ぎる。
ビルドジーニアスが翳した片手から強烈な光が放射され、甜歌の視界を眩ませた。
斬月に変身して尚も思わず目を閉じてしまう輝きは、ライトフルボトルの力。
「きゃっ……!」
再び元の光景を視界に納める前に、甜歌へナニカが絡み付く。
目の調子が元に戻り甜歌が見たのは、吸盤の付いた触腕。
オクトパスフルボトルの力を使い甜歌を拘束し、一気に自分の方へと引き寄せる。
抜け出そうと藻掻くも無意味だ。
「は、離して……!こ、このエッチ……!」
「人聞きの悪いこと言うなっての!けどまぁ、アイドルに向けてする事じゃねぇよな」
「そ、そうだよ……!だから、」
だから離してと、言葉が続きはしない。
触腕を伸ばしたのとは反対の掌が、甜歌へと翳された。
「ひっ、な、なにを…」
「だからもう、戻って来い甜歌。お前の本当の笑顔は誰かを傷付けるんじゃなく、応援してくれる人を喜ばせて浮かべるものだろ」
掌から粒子が放出し甜歌を包み込む。
現在のビルドジーニアスはビルドドライバーとジーニアスボトルを用いない、ディケイドの能力で変身したに過ぎない。
だが60本のフルボトルの効果を引き出せたように、ビルドジーニアスが持つ他の固有能力も使える可能性へ賭けた。
ネビュラガスの悪影響で人格が変貌した多治見首相を正気に戻した時のように。
キルバスの持つブラッド族の猛毒を解毒した時のように。
甜歌を蝕み、彼女の心を歪ませた元凶を取り除く。
「あ…あ…ああああああ……」
甜歌の中で、音を立てて崩れていく。
DIOへの愛が、植え付けられた偽りの熱を帯びた感情が。
真実の心を捕えていた檻が粉々に砕け散る。
閉じ込めていた全てが破壊され、残ったのは膝を抱えて泣いている女の子一人だけだった。
-
○○○
目に映る全てが記憶にあるまま。
壁の色も、並べられたゲームソフトも、ふかふかのベッドに寝転がったデビ太郎も。
一つ残らず記憶している光景と同じ。
見慣れた日常の一部分、自分の部屋のベッドの上に自分はいた。
横になって、デビ太郎を間に挟んで自分を見つめる少女。
自分と同じ顔の女の子だって、覚えているのと同じだ。
風邪を引いてしまった彼女が治ったと思えば、今度は自分の方が風邪を引いてしまった。
情けないやら何やらで落ち込む自分のベッドに潜り込み、一緒に寝てくれた時の光景。
小さい頃も同じことをした思い出、流星群を見に行くまでに治って欲しい。
そんな事を眠くなるまで話し続けた、何て事は無いけれど自分にとっては大切な思い出の一ページ。
だけど妹が自分へ向けたのは、あの時とは違う顔。
寂しそうな、苦しそうな笑みで彼女は言う。
『甜歌ちゃんは…これで良いの?』
何がとか、どういう意味とか聞き返しはしない。
どれを指して問い掛けているのか、自分でも分かる。
分かるからこそ、妹の顔をまともに見れなかった。
『……』
『甜歌ちゃん』
ビクリと肩が震える。
怒鳴られたとかじゃあない、いつもと同じ優しい声で名前を呼ばれた。
それなのに自分は俯き布団を見るばかりで、彼女の方を全然見れない。
カチコチと時計の音がやけに大きく聞こえる中、妹は何も言わずに自分の答えを待っている。
黙ってやり過ごす気にもなれなくて、でも言葉一つを返すのにも物凄く勇気が必要で。
-
どれくらい時間が経ったのか分からない。
もしかすると1分すら経っていないのかもしれない。
ボソボソと、普段の自分よりもずっと小さく呟いた。
『良く…ない……』
何も良い訳が無い。
沢山間違えて、傷付けてしまったのが良いだなんて口が裂けても言えない。
蚊が鳴くよりもずっと小さい声だけど、彼女はちゃんと聞いてくれた。
姉の言葉はしっかり届き、顔を綻ばせる。
これまでの悲し気気な笑いから、ようやっと安堵したように。
『でも……無理……』
それでも、今の自分に彼女から笑みを向けられるのは苦しかった。
この期に及んで逃げようとする自分が情けないとは分かっていても、顔を上げれない。
自分の間違いと向き合うのが恐くて仕方ない。
全部を見ない・聞こえない振りしようと、布団の中に隠れようとする。
『大丈夫だよ』
なのに妹が掛ける言葉はどこまでも優しくて。
『だって甜歌ちゃんは、優しくて、可愛くて、かっこいよくて』
弱い自分も情けない自分も全部包み込んでくれて。
『甘奈がだーいすきな、自慢のお姉ちゃんなんだから!』
涙が出るくらいに暖かかった。
-
◆
ガシャリと音を立てて戦極ドライバーが外れる。
装甲もライドウェアも消失し、力無く崩れ落ちた甜歌を戦兎は抱き起こした。
「甜歌!」
名前を呼ぶと虚ろな瞳と目が合う。
まさか失敗してしまったのかと、嫌な予感で胸が苦しくなる。
尤もそんな悪い考えは現実のものにはならなかった。
徐々に甜歌の目は生気を取り戻し、ビルドの仮面をハッキリ瞳に映す。
「戦兎さん……」
か細い声で自分の名を呼ぶ少女は、DIOへの愛を口にしていた時とは違うと分かる。
ビルドジーニアスの浄化能力はちゃんと効果があった。
今度こそ甜歌の心を取り戻せたのだと実感し、安堵の息が深く漏れる。
が、安心は長く続かない。
戦兎が見つめるすぐ近くで甜歌がポロポロと泣き出したからだ。
「うっ…ぐすっ……うぅ……」
「ちょ、おい、どうした甜歌?もしかしてどっか怪我でも……」
オロオロし出す戦兎に、泣きながら首を横に振る。
「だって…せ、戦兎さん、て、甜歌の、こと…守ってくれて…ずっと、助けようとして、くれて…っ」
怪我など、戦兎から付けられた傷など一つも無い。
仮面ライダーとして戦い慣れている戦兎なら、甜歌を一方的に叩きのめすのは容易かっただろう。
それに成人男性と女子高生なら、変身しなくたって力で敵わない。
だけど戦兎はただの一度も甜歌を攻撃しなかった。
武器を手放させ捕まえはしたけど、直接斬ったり撃ったり、殴ったりは絶対にしなかったのだ。
自分は戦兎は何度も斬り、殺そうとまでしたのに。
-
「なのに…!たくさん、傷つけて…酷いことも、いっぱい、言って…!」
守ってくれると約束した。
戦兎は約束を破らず、自分を守る為に戦ってくれた。
DIOに操られてからも見捨てようとはせず、助けに来てくれた。
こんなにも優しい人なのに、自分は何て事をしてしまったんだろう。
彼を裏切り、傷付け、優しを踏み躙って何がしたかったんだろう。
罪悪感と、自分への怒りで心がはち切れそうだ。
「ごめん、なさい…ごめんなさい……戦兎さん…ごめんなさい…!ごめんなsわぶっ!?」
くしゃくしゃにした顔へ柔らかい物を押し付けられる。
涙ながらの懺悔も強制的にストップし、素っ頓狂な声を出してしまう。
いきなりの事で目を白黒させるも、自分の顔へ押し付けられたソレと目が合った。
見覚えがある、小さい頃からずっと知っている。
どうしてここにあるのかという疑問を思うより先に、名前が口を突いて出た。
「デビ太郎……?」
紫色の可愛らしい悪魔は、変わらぬ笑みで甜歌を見つめている。
ぽかんと口を開け呆けていると、優しい声が掛けられた。
「そんな顔してるとせっかくの綺麗な顔が台無しだぞ?」
「あ……」
その言葉は覚えている。
忘れる筈が無い。
いきなり殺し合いに巻き込まれ、体が甘奈になっていて、途方に暮れていた自分が彼と最初に会った時の言葉。
初対面の自分を本気で心配し、力になると約束してくれた戦兎が言ったこと。
顔を上げるとあったのは白い仮面で素顔は見えない。
でも甜歌には分かった。
きっと彼はあの時と同じ表情をしているんだろう。
くしゃっとした、甜歌が戦兎を信じてみようと思った切っ掛けになった笑顔。
「甜歌、DIOにお前を洗脳されたのを防げなかった俺が言っても説得力は無いかもしれないけど、もう一度約束させてくれ。甜歌も、甘奈も、殺し合いに巻き込まれた人達を必ず守る。だって俺は」
「正義のヒーロー、仮面ライダービルド…だから、だよね……?」
泣き腫らした顔でイタズラっぽく笑うと、ちょっとだけ驚いた雰囲気になった。
でもすぐに肯定されて、嬉しそうな笑い声が聞こえる。
それが甜歌にもとっても嬉しくて、今度は別の理由で涙が出そうだった。
-
「…さて、と。甜歌、悪いがもうちょっとだけ待っててくれ」
ひとしきり笑い合うと戦兎は真剣さを取り戻し立ち上がる。
甜歌の救出には成功したが、戦い自体はまだ継続中。
今この瞬間にも杉元達はDIOと戦闘の真っ最中だ。
自分も急ぎ加勢に向かわねばならない。
戦いが終わるまで甜歌には隠れてもらった方が良いだろう。
「ま、待って…!」
戦兎が何を言う気なのか察し、彼の言葉を押しとどめる。
心配してくれる気持ちは嬉しい。
洗脳されていた自分をまたこうして気遣ってくれて、胸が暖かくなるのも本当。
だけどもう、守られるだけの自分ではいられなかった。
「て、甜歌も…一緒に戦う……!」
「…いや、それは」
仮面ライダーの変身道具があり、実際に何度か変身している。
だからといって戦いへ駆り出すのには抵抗があるし、そもそも変身する必要が無いよう守ると決めた相手だ。
決意に水を差すと自覚しつつ、甜歌の言葉を否定しようとする。
「戦兎さんが、甜歌のことを守ってくれたみたいに…甜歌も、戦兎さんの、ち、力になりたいの…!甜歌だって、戦兎さんには…い、生きて欲しいから…戦兎さんの、くしゃって笑った顔…これからも見たい、から…!」
たどたどしく、それでも思いのままをストレートにぶつけられた。
言おうとしていた否定の言葉も、口の中で煙のように消えてしまう。
これには参った。
甜歌を戦場に引きずり出すのには反対だったのに、こうも真摯な想いを向けられてはその意思にブレが生じるじゃあないか。
こういう時、自分の知る連中ならば何と言うのだろう。
『うっし、んじゃ一緒にあのDIOとかいう野郎をぶん殴りに行くか!』
『ガキの癖に一丁前に根性見せやがって…あっ!違うよみーたん!俺はみーたん一筋だからね!』
『フッ…答えはもう出ている(右に同じと書かれたTシャツを見せる』
筋肉馬鹿と、ドルオタと、Tシャツ芸ヒゲの三人が口々に頭の中で好き勝手に言う。
こんな時にまで騒がしく馬鹿な連中に、ついつい笑みが零れるもそこに嘲りの色は無い。
硬い決意で真っ直ぐに見つめる甜歌へ、力強く頷き返した。
-
○
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!!」
「クソッ!!」
炎の弾幕を力づくで突破したザ・ワールドのラッシュへ悪態を吐くのはこれで何度目だろうか。
一々数えていられる余裕も持てず、地面を転がり距離を取る。
杉元の全身には無数の傷が刻まれており、戦いの激しさを如実に表していた。
「おい、まだ生きてるか?」
「ぴ、ピガ〜…(な、何とか…)」
自分の足元から聞こえた声には疲労が色濃く浮かんでいる。
でんこうせっかで翻弄し、時には電撃を放とうとするもその前に攻撃され、辛うじて避け続けた。
それも何時まで続けられるやら、疲れは容赦なく善逸の動きを鈍らせている。
元の肉体かせめて人間の体ならまだしも、この体では全集中の呼吸も使えない。
ないものねだりをしたって意味は無いと分かっていても、愚痴の一つや二つは零したかった。
休憩時間はもう終わりだ。
接近してくるエターナルとザ・ワールドを迎え撃つべく、炎と電気を迸らせる。
「っ!?チィッ!」
だがその必要も無くなった。
突如殺到するエネルギー弾と矢を斬り落とし、叩き落とす。
杉元達への攻撃が止まり、妨害した者へと怒りの籠ったレンズを向ける。
白と白。
ビルドジーニアスと斬月・ジンバーメロンアームズ。
睨み付けるエターナルの眼光にも怯まず。堂々と参戦を果たした。
「悪い、待たせちまったな。こっからは俺達も戦う」
「桐生…ってことは上手くいったんだな?」
頷く戦兎に杉元も顔を綻ばせる。
望まない形でDIOに従わされていた少女が正気を取り戻したなら、歓迎すべき事だ。
-
「…フン、そうか」
興味無さ気に鼻を鳴らすDIOからは、甜歌を取り返された悔しさなどは全く感じられない。
所詮は支給品の効果で支配下に置いただけの小娘、惜しくも何とも無かった。
「残念だよ甜歌、もう少し賢い判断をしてくれると期待したのだが」
とはいえそれはそれとして、二言三言は口にしておくらしい。
上辺だけの失望をぶつけられ縮こまりそうになるも、甜歌は負けて堪るかと自分を奮い立たせる。
操られてではない、自分の意思で戦うと決めたなら何時までも怯えていられない。
「て、甜歌はもう、間違えたりしない……!戦兎さん達と一緒に戦うって、決めたの……!」
「そういう事だ。DIO、お前の言うことなんざ俺達には響かねぇんだよ」
甜歌に続き、戦兎も啖呵を切る。
彼の言葉は甜歌に戦う為の勇気を与えてくれた。
もう二度と甜歌をDIOの好きになどさせてやるものか。
決意新たに対峙するビルドジーニアスへ、エターナルが向ける視線はどこまでも冷たい。
「全く…実に下らん。何故ちっぽけな人間の考える事は似たり寄ったりなんだ?」
小娘一人奪い返した程度で、もう勝った気になっているのか。
お仲間同士で協力し合えば勝てると、本気で信じているのか。
下らない、余りにも下らな過ぎる。
「良いだろう。貴様らの思い上がりもここまでだ」
このDIOから勝利を奪い取れるなどと言う儚い幻想。
そんなものを何時までも抱いている馬鹿どもへ、いい加減に引導を渡してやらねば。
自分達が誰を敵に回してしまったのか、どれだけ愚かしい真似に出たのかを。
世の道理をまるで知らない無知蒙昧な馬鹿どもを躾てやるのも、支配者の役目。
エターナルエッジを手の中で一回転させ、人間どもへと斬り掛かった。
邪悪を前にして戦兎は不敵に笑う。
そっちがその気なら、こっちだって容赦はしない。
戦う覚悟なら、とっくの昔に完了済みだ。
「さぁ、実験を始めようか」
-
◆
「き、来た…!」
緊張感を滲ませた声が斬月が出たのは仕方のないこと。
エターナルが猛威を振るう姿を見たのは今に始まった事では無い。
しかし凶刃の矛先が明確に自分へと向けられたのは、今この時が初だ。
それでも今更逃げたりはしない、ソニックアローを連射しエネルギー矢を放つ。
「ハンティングのつもりならば、狩られるのは貴様の方だ!」
ソニックアローから放たれる矢の速度は、アーチェリー等で使用される弓矢よりも倍。
普通ならば斬り落とすという対処法自体が不可能。
と言ってもそれを可能にするのが仮面ライダーの機能である。
一本残らずエターナルエッジで斬り捨てられ、あっという間に斬月の元へ到達。
装甲よりも脆いだろう仮面部分を狙い突き刺した。
「させるかよ!」
金属同士が激しくぶつかる音、エターナルエッジを弾き返すはソードモードのライドブッカー。
助け出したばかりの少女の危機を黙って見るなど有り得ない。
斬月を庇うようにビルドジーニアスが前へ出る。
「ナイト気取りか?無様に倒れて恥を掻くだけだぞ?」
挑発を口にしながらもエターナルの動きは素早い。
自らのスタンドのラッシュにも劣らないスピードで、刃を幾度も突き出す。
ただ速いだけでなくアトラスアンクルの効果でパワーも強力だ。
避けるのも防ぐのも困難な連続攻撃。
「お生憎様、かっこつけなきゃヒーローじゃねぇんだよ!」
それが何ということだろうか。
エターナルエッジは一突きすらビルドジーニアスに当たっていない。
ライドブッカーを巧みに振り回し刃を全て防いでいる。
時折刃を押し返し、エターナルに隙を作らせようとするおまけ付きでだ。
-
「こいつ…!」
斬り結んでいれば嫌でも分かる、敵の力が明確に上がっていると。
ジーニアスフォームへの変身による大幅なスペック上昇だけに非ず。
ゴリラフルボトルで腕力を、ニンジャフルボトルで敏捷力をそれぞれ強化し、エターナルとも渡り合っている。
「ザ・ワールド!」
エターナル単体で梃子摺るならば、もう一体戦力を投入させれば良い。
出現と同時にビルドジーニアスの横合いから放たれる無数の拳。
右手はライドブッカーを振るったままにし、左手にはウルフフルボトルの力を引き出し鋭利な爪を出現。
ザ・ワールドのラッシュを捌くが片腕ずつでは流石に少々不利。
だがこれはビルドジーニアス一人の戦いではない。
エターナルへは炎の弾幕が、ザ・ワールドにはエネルギー矢がそれぞれ発射された。
ローブを翳し、もう片方は拳で叩き落とし対処。
「おらよォっ!」
エターナルの頭部目掛けて叩き込まれる跳び蹴り。
顔を捻って躱し直撃は避けたが、己の頭を足蹴にしようとは不愉快極まりない。
殺気立つエターナルへ挑発的に笑い、杉元は炎を纏った拳を振るった。
「鬱陶しいぞ貴様らッ!!」
ローブを翻し、回し蹴りで二人纏めて蹴り飛ばす。
バックステップで距離を取った杉元、離れながらも火球を連射し少しでもダメージを与えんとする。
ビルドジーニアスは跳躍して回避。
着地はせずにヘリコプターフルボトルの力を使用。
背面に出現させたローターで空中飛行しながら、ライドブッカーをガンモードに変形。
タカフルボトルの力で射撃能力を強化、エターナルとザ・ワールドへ向けてエネルギー弾を撃った。
地上からは杉元と斬月、空中からはビルドジーニアスに狙い撃たれる。
弾幕をそれぞれ対処する最中、視界の端で黄色の動物が放電しているのが見えた。
何をされるか即座に察知、非常に面倒な理由としてアレの放つ攻撃は確実に命中してしまう。
一旦スタンドを解除し、ローブを頭から被るようにして攻撃に備える。
-
殺到する弾幕に加えて天からの雷撃。
これら全てをノーダメージで切り抜けられたのだから、改めて自分の装備へ柄にもなく感謝しそうになった。
ローブをどかせば目の前には拳を振り被る白髪の小娘。
蒼い炎を揺らめかせた腕で防御し、反対に刃を振るう。
杉元を相手取っている間に再度ザ・ワールドを出現させ、ビルドジーニアスに向かわせた。
長い脚をしならせ、岩をも削り取る蹴りを叩き込む。
対するビルドジーニアスが放つのも蹴りである。
電車フルボトルの力を引き出し片足に付与。
車輪の付いたキックでザ・ワールドと互角に渡り合う。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!」
ただの人間相手ならばゼリーを崩すよりも容易く肉片へと変える蹴り。
ビルドジーニアスを下すには数歩足りない。
「無駄無駄無駄無駄無駄むっ!?」
蹴りの連打を中断しザ・ワールドは後退。
両腕の防御でビルドジーニアスのキックは防いだが、鈍い痛みが本体へとフィードバックする。
退避せねばならなかった理由が上空から降り注いだ。
メロンディフェンダーに乗って飛行し、ソニックアローを連射した斬月である。
デビハム相手にも使用したジンバーメロンアームズの固有能力はここでも健在。
空中というフィールドからザ・ワールドを一方的に狙い撃つ。
「無駄だ無駄!」
飛行能力こそ持ち合わせていないが、ザ・ワールドは近接パワータイプには珍しく射程距離は長い。
跳躍しチマチマと矢を射る小蝿を地上へと蹴り落としてやる。
エネルギー矢を躱しながら脚を大きく振るった。
「確かに無駄だったな」
蹴りを斬月には当てずザ・ワールドは地上へ戻って行く。
いや違う、蹴りを当てる直前で地上へと吸い寄せられたのだ。
-
掃除機フルボトルの力でザ・ワールドを吸い寄せ、斬月への攻撃を阻止。
地上へ落とされたザ・ワールドは体勢を立て直す暇も無しに拘束された。
ロックフルボトルの力で鎖を射出したからだが、力任せに引き千切り抜け出す。
だが僅かな間だけでも隙が生まれたならば上出来。
海賊フルボトルの力で錨を発射。
迎撃が間に合わず直撃し、更には複数の鉄球を次々に射出。
ラッシュで粉砕するも数発は被弾してしまった。
「ぐぅ…!?ふざけた真似を…」
スタンドへのダメージは本体にも影響を及ぼす。
強烈な打撃を受けた痛みを味わい動きが鈍り、すかさず炎の拳が殺到。
エターナルローブで防ぎながら大きく跳んで一度距離を取る。
ザ・ワールド自らの横へ立たせ、いざ反撃に移るべく動き出した。
ロストドライバーからメモリを取り出し、スロットに叩き込む。
こちらが使える最大火力の攻撃だ。
『ETERNAL!MAXIMAM DRIVE!』
響く電子音声はガイアメモリのエネルギーを最大限に引き出す合図。
風都の仮面ライダーが邪悪を打ち倒すならば、エターナルは地獄を生み出す為に力を行使する。
純白のメモリから蒼い炎を思わせる輝きが、エターナルの右足へと流れ込む。
エネルギーを纏ったのはエターナルの隣に立つザ・ワールドにもだ。
本体同様に右足に蒼の炎を揺らめかせ、必殺の一撃を放つべく構えた。
「こっちも決めさせてもらう!」
『FINAL ATTACK RIDE!BUI・BUI・BUI BUILD!』
敵が最大火力で来るなら、こっちも同じ力で迎え撃つ。
ドライバーにカードを叩き込みビルドジーニアスの最大技を発動。
60本のフルボトルが全エネルギーを解放。
グラフ型の滑走路を出現させる。
標的は言うまでも無くエターナルだ、滑走路に沿って加速し蹴りを放った。
-
エターナルもまたザ・ワールドと共に蹴りを繰り出す。
足底と足底が叩きつけ合い、フルボトルとガイアメモリのエネルギーが激突。
破壊力はビルドジーニアスが上ではあれど、ザ・ワールドと共に攻撃する事で威力を高めたエターナルも負けてはいない。
そこへ加わるはアトラスアンクルの強化、そして肉体であるジョナサン・ジョースターのパワー。
それらが重なりエターナルはビルドジーニアスとも拮抗していた。
「ぐ…ああああああ…!!」
「ぬぅ…おのれえええ…!!」
互いに一歩も譲らず、溢れ出したエネルギーが装甲越しに二人の肉体を痛め付ける。
変身者自身のスペック故か、少しずつだが押され始めるのはビルドジーニアスの方。
このまま一気に攻め込めば自身の勝利は確実と、DIOは仮面の下でほくそ笑む。
『メロンスカッシュ!』
『ジンバーメロンスカッシュ!!』
だが忘れるなかれ。
エターナルへ挑むのはビルドジーニアスただ一人ではない。
彼と共に戦い、彼を守ると決意した戦士。
彼がピンチを迎えているのなら、力になるのは彼女の役目だ。
カッティングブレードを操作し、二つのロックシードのエネルギーを引き出す。
専用のアームズウェポンであるメロンディフェンダーに緑色のエネルギーが集束。
メロンに似たエネルギー体を本来は蹴り飛ばす技だが、此度は足を離さずに敵へ叩き込んだ。
「戦兎さん…!甜歌も一緒に……!」
「っ!ああ!俺達の、勝利の法則は決まった!」
ビルドジーニアスと斬月が並び、エターナルとザ・ワールドへ蹴りを放つ。
エターナルへと傾いていた勝利は逆転。
反対に押し返されていく。
「なんだとおおおおおおおおおおお!?」
仮面の下で両目を見開き、有り得ない光景を拒絶しようとするも最早無駄だ。
ザ・ワールドが押し返される、エターナルの全身が悲鳴を上げる。
勝利の風がどちらへ吹いたかなど、語るまでも無い。
「ばっ、バカなッ!?このDIOが……イエローモンキーなんぞに、このDIOがァァァァァァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!!」
絶叫虚しく、邪悪なる意思は正義の前に敗北を喫した。
-
○
閃光が収まり、DIOは地面へと叩きつけられる。
一度のバウンドでは済まずに何度も跳ね、ようやく止まった時には満身創痍も良い所だ。
エターナルに変身していなければより酷い有様だっただろう。
衝撃で腰からはドライバーが外れて、今はもう生身で横たわっている。
屈強な波紋戦士の肉体と言えども、人間である以上は耐えられる傷に限界があった。
「ぐ…お…おのれ……」
体中が痛い。
これ程の激痛を味わったのは、承太郎の下らない小細工に引っ掛かり頭部を殴られた時以来か。
人間が、取るに足らない下等な連中が自分をコケにした。
念だけで殺せるなら既に三桁は殺しているだろう怒りが沸き立つ。
だが沸騰する感情とは裏腹に体が異様に重い。
「なんだこれは…!?あ、頭が…いや体中が痛む……!吐き気までするだと…このDIOが……!?」
大き過ぎるダメージがDIOから余裕を奪い去る。
口の端から垂れる血が非常に鬱陶しい。
呼吸の度に激痛を訴える体の節々が忌々しい。
これが人間の限界、所詮人間ではこれ以上無理だというのか。
「ふざ、ける、な…!このDIOはまだ……!」
こんな痛みが何だと言う。
憎々し気に顔を歪め、己を苛む傷へ抗い上体を起こす。
悲鳴を上げる体中へ黙っていろと吐き捨て、
バンッという音と共に、DIOの額に穴が開いた。
硬直し、穴からダラダラと赤を垂れ流す。
何が起きたかを説明するなら、そう複雑な話ではない。
後頭部を弾丸が食い破って中へと侵入。
頭蓋骨を砕き、脳を貫通。
弾はのうを破壊しても止まらず突き進み、額を突き破って脱出。
もっと簡単に言うなら、頭を銃で撃たれた。
実に分かり易い、子供でも分かる『死因』。
-
「……なんだ」
起き上がった直後にまた倒れ、雨空を見上げたまま動かなくなる。
魂の抜け落ちたDIOを眺めながら、撃った本人はポツリと呟いた。
「俺でも結構当たるもんだな」
装填された最後の一発を撃ち、杉元は手元の銃を見下ろした。
「なっ!?杉元…!?」
「何で殺した、とは聞くなよ桐生。むしろあそこで殺さなきゃキリねぇだろ」
DIOが撃ち殺された。
予想外の光景に思わず声を荒げるも、冷静に返され言葉に詰まる。
杉元の言っている事は間違いではない。
DIOは人体実験でスマッシュにされた者達とは違う、変身解除されたからと言って止まりはしない。
殺す必要は無かったと言葉にするのは簡単だが、殺さずに事を収めるのが如何に難しい事か。
三都の戦争に兵器として駆り出され、ハザードフォームの暴走とはいえ命を奪った戦兎には分かる。
だからと言ってそんな簡単に割り切れはせず、かと言って感情のままに杉元を責めるのも違う。
どこか後味の悪い終わり方に、仮面の下で渋い顔を作る。
ジーニアスフォームの制限時間が切れ、通常形態のビルドに戻ったのも丁度そのタイミングだった。
「死んじゃったの……?」
顔色を悪くしながらも、現実を受け止め甜歌は息を呑む。
自らに刃を突き立てたデビハムや、DIOの手で始末された貨物船。
既に死というものを目の当たりにしたからか、決して慣れてはいないが受け入れてはいた。
自分を操り、戦兎達を苦しめて来た男。
そんな相手でも死んでしまったとなれば、心から喜ぶ気には全くなれない。
「ピカ……」
戦いの終わりを目撃し、善逸もまた何とも言えない思いで口籠った。
ふと視線を余所にやると、悲鳴嶼達も同じような顔でいる。
人を守るために鬼を殺して来た彼らからしたら、邪悪とはいえ人を殺す光景には複雑な心境だろう。
邪悪が一つ潰えたのは歓迎すべきかもしれないが。
-
「ば…かな……」
DIOの死に思いを馳せる彼らを思考を引き締めさせたのは、今にも死にそうな声。
悲鳴嶼・神楽と戦闘を続けていた狂信者、ヴァニラはこの世の終わりを目撃した老人の如き顔。
人間とはここまで絶望を露わにする事が出来るのか。
活発さのあった少女の面影は完全に消え失せ、数十歳は一気に老け込んだように見える。
それ程までにヴァニラからは生気というものが失われていた。
「DIO、様……」
有り得ないと目を逸らしても、両の瞳は残酷な現実を突き付けて来る。
悪い夢だと思い込んでも、体中に刻まれた傷の痛みが現実だと訴える。
覆しのようがない絶対の真実がヴァニラの眼前に映し出されいた。
DIOは死んだ。
唯一無二の支配者は、世界を支配下に置く事無く、志半ばで逝った。
長き歴史の中で人々の記憶に残らない、何千何万にも及ぶ支配者になり損ねた半端者。
その一つに数えられるかのように、DIOは命を落としたのだ。
「そんな…そのような事が……!」
ある筈が無い、あって良い筈が無い。
悪の救世主がこんなふざけた殺し合いなんぞで敗北するなど、どうして認められようか。
これは何かの間違いだとこの期に及んで目を逸らす。
既にその目でDIOの死を見たにも関わらずだ。
「頂点に立つあの御方が、こんな…こんな…!」
頭を振って否定の言葉を絞り出す。
しかしふと、小さな灯りが点くように一つの疑問が浮かんだ。
何故さっきから自分はDIOの死を認めようとしないのだろうか。
答えは決まっている、世界を支配するに相応しい御方がこんな惨めな最期を迎える訳が無いから。
-
それは本当に正しいのだろうか。
もしかすると前提そのものに大きな間違いがあるんじゃあないのか。
世界を支配するはずの男が死んだ。
ということはつまり、DIOは元々世界を支配するような器では無かった。
だから死んだ、ただそれだけの事ではないのか?
そも、本当に頂点に立つ男なら肉体を奪われ、飼い犬のように首輪を填められるヘマを犯すだろうか。
ジョースターどもですらない人間に敗北する無様さを晒すだろうか。
大体悪のカリスマだったら宇宙船で見たフリーザだっている。
自分がDIOを悪の救世主と崇めたのは、単なるまやかしに過ぎないのでは。
詰まる所、DIOはその程度の存在でしか――
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!!!!違う違う違う違う違う違うちがうちがうちがうちがう!!これは違う!こんなもの私は考えていない!!DIO様ああああああ!!これは私ではないんだあああああああああ!!!」
頭皮が剥がれんばかりに掻きむしり、地面を悶え転がり、喉が裂けそうな絶叫が響く。
気が狂ったとしか言いようのない有様に、その場にいる全員が困惑を隠せなかった。
直前までヴァニラと戦っていた悲鳴嶼と神楽も思わず顔を見合わせている。
「ど、どうしちゃったんアルかこいつ…。マヨネーズが切れたトッシーよりヤベー雰囲気ネ…」
「…それ程までにあの男への忠誠心が高かったのだろう」
ヴァニラが発狂した原因は忠誠を誓った主の死による錯乱と悲鳴嶼は結論付ける。
気持ちが全く理解できない訳でもない。
自分達鬼殺隊の柱とて、覚悟の上とは言えお館様と呼び慕う主の死は堪えた。
無限城で涙ながらに憎悪を口にした無一郎と、全員が同じ想いだったろう。
-
だからと言ってヴァニラを見逃すつもりも無い。
主同様の邪悪さを秘めたこの者を放置すれば、他の参加者にどんな被害が及ぶやら。
幸い、と言うのもおかしいがヴァニラは自分達の方へ意識を向ける余裕が全く無い。
今の内に動きを封じ込めておいた方が良さそうである。
ジャラリと鎖を手にヴァニラへ慎重に近付いた。
誰もがヴァニラ・アイスの錯乱ぶりに目を奪われ、意識を割かれた。
言ってしまえば、全員が油断していたのだ。
DIOという巨悪を撃破し、この場で残る敵と言えばヴァニラただ一人。
そのヴァニラが尋常ではない様子を見せたのだから、全員がそちらを強く気にしてしまうのは仕方のないこと。
今この状況を、誰よりも待ち望んでいた者がいるとも知らずに。
「今ですっ!!」
地響きがすると、最初に気付いたのは誰だったか。
PK学園近くの建物の陰からナニカが飛び出して来たのを、最初に目撃したのは誰だだったか。
冒涜的で生理的御嫌悪を感じずにはいられないモンスターに、最初に悲鳴を上げたのは誰だったか。
起こってしまった後となってはどれもが些細な話だ。
ただ一つだけ、最も危機に陥ったのが誰かと聞かれれば万場一致でこう答えるだろう。
「さぁ!行きますよ!」
「ピッ、ピッカ〜〜〜〜!!!?!(いっ、いやあ〜〜〜〜!!!?!)」
それは我妻善逸で間違いないと。
-
○
姉畑が街へ到着したのは悲鳴嶼と神楽がPK学園に着くよりも前。
雨が体に当たる寒さもピカチュウ(善逸)と会える喜びに比べたら屁でも無い。
心に羽が生えた気分で街へ着き、早速一番いる可能性の高いPK学園へと急行。
見覚えのある建物へ近付いた姉畑は、既に学園内で戦闘が発生していると知った。
壁やガラス窓が破壊され、時折奇妙な光も見えたのだ。
到着したは良しとして、このまま考え無しに突っ込むのは得策ではない。
運良くピカチュウ(善逸)だけを確保できるならまだしも、杉元やDIOに見つかったら何をされるか。
あともうちょっとの距離に求めていた動物がいるのに、今すぐ会いにはいけないもどかしさ。
しかし死んでしまったら愛し合う事も不可能だと己に言い聞かせ、涙を呑んでチャンスを待ちに入った。
幸いPK学園の周りには建造物が幾つも建ち並んでいる。
ゾウのSMILE能力者になった姉畑では屋内には入れないが、陰に身を隠せる程度の大きさがある施設なら複数あり、そこからじっと様子を窺っていた。
暫くすると戦いの場を外に移し、悲鳴嶼達も遅れて参戦。
ピカチュウ(善逸)が愛らしい姿で駆け回る姿に勃起と愛液を垂れ流すのを抑えられず、両性具有の為か小振りな乳房の先端も硬くなった。
ついつい自分で慰めそうにもなったが、この高ぶりは愛するピカチュウ(善逸)に全てぶつけようと我慢。
途中でピカチュウ(善逸)がDIOに殺されそうになりハラハラする場面もあって、どうなることやらと心配したが最終的にDIOは死亡。
一番の恐怖の対象がいなくなりほっと一安心したのも束の間、DIOの部下らしき青髪の少女がトチ狂ったかの様子で絶叫。
余りの迫力に物陰でビビり散らした姉畑は、今こそ飛び出す時なのではと思い直す。
見るとあの場にいる全員がヴァニラへ意識を向けており、自分の方へは顔を向ける素振りすら無い。
隠れ続けてチャンスをふいにするよりだったら、一か八かの勝負に出るべきじゃあないか。
(今行きますよピカチュウ君!私とたっぷり愛し合いましょう!)
そうして後は知っての通り。
物陰から飛び出しPK学園の方へ猛ダッシュした姉畑は善逸以外には目もくれず、小さな体を鼻で拘束。
ヴァニラに気を取られていた面々が気付いた時にはもう、姉畑の目的は果たされていた。
善逸を確保したならば長居は無用。
もたもたしていたらあっという間に総攻撃を受けて、善逸を取られてしまう。
象の太い足で地面を鳴らしながら踵を返す。
-
「なっ、姉畑…!?」
見覚えのある人物の乱入もそうだが、突然の凶行に悲鳴嶼の困惑は更に深まる。
PK学園に到着した時はDIO達との戦闘が最優先なのもあって後回しにしていたが、あの男も街に到着していたのか。
いや、既に戦闘が始まっていた為隠れていたというのなら分かる。
しかし善逸を連れ去ろうとするとは何のつもりなのか。
思いもよらない行動に理解が少々遅れた悲鳴嶼だが、彼への説明をすっ飛ばして駆け出す者もいた。
「やっぱりアンタかよ先生!ってか何があったの!?何でそんなとこからチ○ポ生やしてんの!?」
参加者の中で誰よりも姉畑の危険性を知る男、杉元だ。
喋るカエルとウコチャヌプコロして以降は行方を眩ませていたが、まさかこんな時に再会を果たすとは。
しかも自分達と別れてから何が起きたのか、生命への冒涜にも程がある化け物へ変貌しているではないか。
動物への異常な愛が原因で突然変異でも起こったのかと、突拍子も無い想像をするもそんな場合ではない。
ただでさえ怪物染みた巨根が、余計に恐ろしい形になっている。
アレでウコチャヌプコロされれば後ろの処女を失うだけでは済まず、冗談抜きに善逸が死んでしまう。
出来れば殺したくない相手だが、こうなっては力づくで止めるのも辞さない。
下半身の象より上半身の姉畑の方が痛みを受け易いように見える。
ぶちのめすべく飛び掛かると、杉元へ気付いた姉畑も抵抗した。
手に持った何かを投げ付けられ、咄嗟に片手で叩き落とし、
杉元の全身に痺れが襲い掛かった。
「がああああああっ!?」
拳は届かず地面に落ちた後も痺れが体中を支配し、動きが遅れる。
そうこうしている間に姉畑は再び逃走の為に足を速めた。
杉元を苦しめる痺れはDIO相手にも使った支給品、黄チュチュゼリーが原因だ。
片手で叩いた際に刺激を受け破裂、ただでさえ雨のせいで濡れている杉元にはDIOの時よりも強烈な痺れとなった。
-
「あ、あの人、また来たの……!?」
「甜歌はあいつを知って…いや話は後だ!」
別の意味でDIO以上に悪感情を向ける変態の出現に、甜歌も驚きと嫌悪でわなわなと震える。
今となっては姉畑がDIOを怒らせた件についてはともかく、その他の悪行を許した覚えは全くない。
何の前触れもなく現れた奇怪な生物だけでも仰天なのに、甜歌はそいつと面識があると言う。
驚きの展開の連続には、天才物理学者の頭脳も軽くショートしかけた。
だが早々に復帰せねばならないだろう。
善逸が連れ去れさられ、追いかけた杉元が攻撃を受け倒れた。
正体が何であれ敵であるのは間違いない。
「姉畑…!お前は…!!」
「よく分かんねーケド、あのネオアームストロングサイクロンジェットアームストロングもどきは敵アルか!?」
「……すまない、今なんと言っ…いやとにかく追うぞ!」
ここに来て悲鳴嶼も姉畑が危険人物だったと察した。
よもやそんな相手に自分は仲間の情報を馬鹿正直に話してしまったのか。
己の迂闊さに後悔と怒りが湧くも、今は善逸の救出が最優先だ。
長ったらしい謎の名称を口にする神楽への返答もそこそこに、姉畑を追いかけようとする。
各々動き出すも初動が遅れてしまったのは否めない。
余りにも唐突な事態に加え、負傷した杉元とそれまで警戒していたヴァニラの存在。
それらにも意識を割かれ姉畑の逃走がより有利になる
「二人っきりになれる場所でしっぽり愛し合いましょうね!」
「ビガアアアアアアアアアアアアアア!!!(嫌だぁあああああああああ!!だじゅげで禰豆子ちゃあああああああああん!!!)」
善逸の悲痛な叫びもどこ吹く風で姉畑は駆ける。
必死にかみなりを落としても完全体勢を持つ天使の肉体には無効化されてしまう。
頭の中は無事逃げ切れた後にピカチュウ(善逸)と交わるという、至福の光景で溢れ返っていた。
上の口と鼻の先の口からダラダラと興奮で液を垂らしながら足を動かす。
(もうすぐです!もうすぐ私はピカチュウ君と…!)
幸福一杯のそう遠くない未来を夢見て――
――彼の胸に刀が突き刺さった。
-
「なっ!?」
「えっ…!?」
「ハァ!?」
その光景は追いかけようとした戦兎達にも見えた。
彼が見つめる先では象が崩れ落ち、上半身の姉畑も項垂れている。
時折苦し気な声が聞こえる事からまだ息はあるのだろうが、それも時間の問題。
そんな状態になっても鼻の力だけは緩めず、藻掻く善逸を捕らえたままなのには執念を感じる。
何が起きたか。
手品のようにいきなり刀が現れるのはおかしい。
あの刀は彼らの後方より飛来したもの。
という事は当然あれを投擲した人物がいる。
一斉に振り向き、そして彼らは見た。
刀を姉畑へ投擲した張本人、黄金の拳闘士が仁王立ちするのを。
「馬鹿な…!?」
そうだ、そんな馬鹿な事があるものか。
アレを操る男は死んだ、アレが未だ存在しているのは有り得ない。
全員の驚愕を嘲笑うかのように、DIOは己が身をゆっくりと起こした。
-
◆
雨が激しさを増している。
それはまるでこの先に起こる怒涛の連鎖を予期しているよう。
現に天候が変わってから、東エリアの街では戦闘が激化し複数の死者が出た。
網走監獄でも血で血を争う怪物同士の戦いの末に、片方が脱落している。
闘争は一つのエリアに留まらない、各地でも次々に勃発するだろう。
ここ、PK学園前も例外ではない。
この場に集まった参加者全員に共通したもの、それは驚愕だ。
彼らの頭には絶えず何故の二文字が浮かび上がり、目の前で起きた光景を必死に理解しようとしている真っ最中。
DIOが生き返った。
ビルドジーニアス達に敗れ、頭を銃で撃たれ死んだ男が起き上がったのである。
まるで最初からそんな事実は存在しないとでも言うように。
衝撃の光景を前に、最も驚きが強いのは果たしてだれか。
DIOに打ち勝った戦兎?
DIOの支配から逃れられた甜歌?
他ならぬDIOに直接トドメを刺した杉元?
誰よりもDIOの死に取り乱していたヴァニラ?
或いは今、DIOに串刺しにされた姉畑?
正解はどれでもない。
何せDIOの復活に最も驚き、困惑している人物とは、
(何が…起きた……?)
他ならぬDIO自身。
蘇った当人が一番、己の身に起きた現象を理解できずにいた。
(あの時俺は……)
死んだと、自分でもハッキリ分かる。
頭部を硬く熱い塊が突き抜け、脳の機能が停止した瞬間。
石仮面を被り吸血鬼のボディを得てからは無縁だった、己の生が終わる感覚。
アレこそが間違いなく死だと、確信を持って言える。
-
(どうなっている……)
だが己の終わりを理解し、ほんのちょっぴりの時間が過ぎた時だ。
機能しない筈の聴覚が憎たらしい変態天使の声を拾い上げたのは。
最も殺してやりたい男の存在を感じ取り、DIOの意思は自然と姉畑の殺害に動いた。
自分の状態をより詳しく知るのも二の次にし、ザ・ワールドで秋水を投擲。
見事命中したが、冷静になった今となっては達成感よりもやはり困惑が強い。
スタンドも問題無く出せるという事は、自分は本当に生き返ったというのだろうか。
理由の見当たらない復活は喜びではなく不気味さを抱かずにはいられない。
まさか自分が気付いていないだけでジョナサンも吸血鬼だったのではと、馬鹿馬鹿しい考えまで浮かべる始末。
過去の記憶を掘り返しても宿敵が石仮面を被った覚えは無い。
大体吸血鬼になっていたら太陽の下で活動できるのもおかしいだろうに。
困惑が強過ぎる余り思考までおかしくなりかけた己へ苛立ち、
「……」
ふと、自分の足元を見た。
地面に転がる赤いバックルと、白の小さな機械。
戦兎と甜歌に蹴り飛ばされ己の腰から外れた二つの支給品。
それらを拾い、再び腰にバックルを巻き付け、
『ETERNAL!』
「――――」
カチリと、パズルの最後のピースが嵌るように。
歯車がかち合い回転し出すように。
本棚の僅かなスペースが綺麗に埋まるように。
DIOの中で、一つの答えが組み立てられた。
-
死なない肉体。
それは今のDIOと、仮面ライダーエターナルの本来の変身者である大道克己に共通していた。
だが克己が銃で撃たれても死に至らない肉体だった理由は、彼が死人だったからだ。
ネクロオーバーという、特殊な薬品と技術を駆使し死亡確定個体復環術で蘇生した死者。
身体能力の大幅な増加と、通常兵器を一切受け付けない生命力を併せ持った生物兵器。
それが大道克己と、彼が率いた傭兵集団NEVERである。
と、ここまでの説明の通り克己が死なない肉体であったのは財団Xが死後の彼に施した措置が理由。
つまりエターナルと直接の関係は無い。
そして当たり前のことだがジョナサンは克己のような死人兵士ではない。
彼は屈強な波紋戦士ではあれど、正真正銘の熱い血が通った人間だ。
強靭なタフネスを有してはいても、決して不死にあらず。
心臓を串刺しにされれば死ぬ。
頭を銃で撃たれれば死ぬ。
血を流し過ぎれば死ぬ。
全身が消し飛べば死ぬ。
超人的な身体能力があっても、人間としての致命傷を負えばまず助からない。
現在DIOの身に起きた現象とは矛盾しているのが明らか。
では何故DIOは復活したのか。
それは同じエターナルの変身者でも克己には無く、DIOにはあったあるものが原因だ。
そのあるものとは、スタンドである。
克己は死人兵士として高い戦闘力こそ有してはいても、スタンド使いではない。
彼の生まれた世界にはそもそもスタンドが存在しなかった為、当然の話だが。
一方DIOは時を止める力こそ失いはしたものの、スタンド自体は殺し合い以前と同じく使用可能。
スタンド使い共通の認識であるルールの一つに、スタンドが傷付けば本体も傷付くというのがある。
バトルロワイアルに参加したスタンド使いもこのルールの通り、スタンドを攻撃され本体にダメージがフィードバックしたのは皆経験した。
DIOとて正史においては承太郎との決戦で、スタープラチナとの一騎打ちに敗れザ・ワールドが破壊。
スタンドの末路と同じく体を真っ二つに去れ完全敗北を喫した。
つまりスタンドが受けた影響は、スタンド使い本人も同様に受けるという事だ。
-
ここで重要になるのは、DIOがバトルロワイアルでどのように戦って来たのか。
ザ・ワールドで殴るだけではない、貨物船の支給品からロストドライバーを手に入れてからはエターナルに変身した。
己のスタンドとの連携で戦兎相手に有利に立ち回り、一度は変身解除にも追いやった程。
何より大きな変化を見せたのは、杉元も戦場に颯爽と現れてからだろう。
あの時からDIOは自分のスタンドに何をしていたか。
エターナルのエネルギーをザ・ワールドに流し込み、能力を強化していた。
繰り返しの説明となるが、スタンドとは本体の生命力が像を為したもの。
故にスタンドが受けた影響はスタンド使いにも返って来る。
DIOがザ・ワールドに流し込んでいたエターナルのエネルギーとは即ち、エターナルメモリに内包された星の記憶。
全てのガイアメモリがそうであるように、エターナルメモリにも地球の記憶が閉じ込められ、仮面ライダーへの変身時に力として解放される。
エターナルメモリに内包された地球の記憶とは、その名の通り永遠の記憶だ。
永遠とは即ち、傷付くことも老いることもせず朽ち果てることも無い、滅びを回避して存在し続ける者を指す。
そのようなエネルギーをDIOは何度自分のスタンドに流し込んだのか。
戦兎・杉元との戦いに始まり、しのぶ・デビハム相手にも使い、先程の戦闘でも度々ザ・ワールドをエターナルのエネルギーで強化した。
本体に直接では無くスタンドを介した為か明確に影響が出るまで時間は掛かったが、幾度もエネルギーを流し込んだ結果は確実に現れている。
スタンド使い本体、つまりジョナサンの肉体は永遠の記憶により疑似的な不死を得たのである。
「そうか……そういう事か……フフ…フハハハハ……フハハハハハハハハッ!!!」
「エターナル!お前はこのDIOと出会うべくして出会う運命だったというわけだ!」
ジョナサンの肉体に変化が起きた詳細な理由は知らない。
しかしDIOの勘がハッキリこう告げている。
全てはエターナルメモリが引き起こした結果であると。
エターナルの力が吸血鬼の肉体を失った自分に再び、永遠を生きる術を与えたのだと。
最初にエターナルへ変身した時は出来過ぎていると思った。
もしや自分は何者かに都合の良い駒として動かされ、だからエターナルと引き合わされたのではないかと疑いを抱いた。
だが今この瞬間に初めて分かる。
誰かに操られたからではない、このDIO自らが手繰り寄せた運命であると。
-
T2ガイアメモリはT1ガイアメモリと違い、メモリ自らが所有者を選ぶ。
風都での左翔太郎、殺し合いでT2ウェザーメモリに選ばれたエーリカ・ハルトマンが分かり易い例。
エターナルメモリもまた、大道克己という男を選んだ。
他の者ではレッドフレアが限界だったのを、克己が変身した際にはブルーフレアになったように。
そして今、克己に匹敵し兼ねない適合者が再びエターナルメモリを手にする。
誰の目にも疑いようが無い、エターナルメモリはDIOにとっての運命のガイアメモリになったのだと。
『ETERNAL!』
「変身!」
『ETERNAL!』
真珠色の装甲、黄色い眼、王冠のような三本角。
全身に巻き付くコンバットベルト、漆黒のローブ、蒼く燃え盛る四肢。
拳に蒼炎を纏わせた黄金の拳闘士を傍らに立たせ、威風堂々と姿を現わす。
永遠をも支配する帝王が、再び君臨したのだ。
「人間どもよ、このDIOの支配に怯え、ひれ伏せィッ!!!」
立ち上がり、見下ろすのは自分以外に認めない。
傲慢極まりない、されど十分な説得力を秘めた存在感を放ち、ローブを強く扇いだ。
「うおおおおおおおおおっ!?」
「きゃあああああああっ!?」
エターナルローブが巻き起こすのは暴風。
蒼い稲妻を光らせながら発生した竜巻が人間達を飲み込む。
放送前に被害に遭ったデビハム達と同じだ。
揉みくちゃにされ、何とか抵抗しようにも風の勢いが激し過ぎてまともに動けない。
やがて竜巻が消え去る頃にはそれぞれが吹き飛ばされ、受け身も取れずに地面へ激突。
クラッシク音楽でも聴く様に呻き声を耳に入れながら、エターナルは一人の元へと接近する。
-
「クソッタレ…!」
吐き捨てながら立ち上がらんとする白髪の少女。
しかし杉元が自分の足で立ち上がる事は無かった。
白い装甲に覆われた腕で首根っこを掴まれ、持ち上げられる。
至近距離で黄色い瞳に睨まれれば、こっちも負けじとありったけの殺意を籠めて睨み返す。
今すぐ仮面を叩き割って、余裕の笑みを浮かべているだろう生身の顔を直接ぶん殴ってやりたい。
戦意は本物だが腕を動かす力はやけに弱い。
竜巻に巻き込まれただけではここまでにはならない。
姉畑に投げ付けられた黄チュチュゼリーによる痺れは未だ継続中。
雨で体が濡れていたのも悪影響を及ぼし、より大きなダメージとなった。
よりにもよって姉畑のせいで負傷したのはDIOもとやかく言えないので触れないでおく。
それはそれとして、始末するのに躊躇は無い。
「貴様が本当に不死身かどうか、私が試してやろう」
「ふざけ…がぁっ!?」
カッターシャツに隠された少女の膨らみ。
左胸をエターナルの腕が貫き、背後から手を出した。
赤く染まった五指に握られているのは、生命を動かす核。
果実を握り潰す感覚でほんのちょっぴり力を込めれば、ぐしゃりと無くなる。
心臓を破壊された者がどうなるかなんて、分かり切った結末だ。
「杉元…!!!」
悲痛な声にはさして関心を向けず、エターナルは腕を引き抜く。
ゴミのように地面へ放った杉元はもう動かない。
散々挑発を繰り返した口からは一文字の言葉も出ず、呼吸の音すらしない。
生意気にも睨みつけた瞳は虚空を映すばかり、瞬きもしなくなった。
再生能力を持っているようだが、生き返る気配は無い。
やはりこいつの言う不死身はまやかしに過ぎなかったと鼻で笑い、しかし念には念を押すべきか。
心臓を潰しただけでなく、首を斬り落とせばもう生き返れまい。
エターナルエッジを振ろうとし、ふと別の考えが浮かんだ。
(フム…奴の方も先に殺しておくか)
殺してやりたい人間はまだ他にもいる。
丁度そいつの元にある刃物を回収し、それで杉元の首を斬れば良いだろう。
-
「お前は後にしてやろう」
物言わぬ杉元へ告げ、エターナルは大きく跳躍。
足首に装着されたアンクレットが脚力を極限まで高める。
一跳びで目当ての人物の元まで到達し、虫の息のそいつを見下ろした。
「あ……あぁ……」
痛みに呻く度に口からは血が吐き出される。
姉畑を貫いた秋水が生えているのは彼の右胸。
心臓への命中は回避され即死には至らなかったものの、この状況で何の救いになるというのか。
象の下半身ならまだしも上半身は脆いまま、動物系の生命力もほとんど意味を為さない。
「ピカチュウ!?ピッピカ〜!(こいつほんとに生き返った!?ってかこのままじゃヤバいよ!)」
未だに拘束を解かれていない善逸が慌てふためくも、鼻の力は全く緩まない。
何故瀕死の状態でありながらここだけは力強いのか。
こんな時にまで性欲を燃やさなくても良いだろうという文句を言ってやりたかった。
「随分コケにしてくれたが、それも終わりだ。アネハタ」
死の一歩手前まで追いやったからか、それなりに鬱憤は晴れている。
後はトドメを刺してこの度し難いド変態をこの世から消し去るだけ。
こいつが生きている限りはストレスの大元になり兼ねない。
「あ…い、いや…だ……私は…もっと……動物と……愛し合うんだ……」
途切れ途切れで口にした内容に、DIOは心底呆れて開いた口が塞がらない。
今まさに殺されようとしている絶体絶命の状況で、人生の最後だろう時に言うのがそれか。
頭のおかしい変態とは分かっていたが、まさかここまでだったとは。
これで自分の欲望に完全に忠実ならばまだしも、あと一歩のところで欲に全てを委ねようとしない半端な精神。
後にも先にも、そんな輩は姉畑一人でもう十分である。
-
「…もういい」
この男の言葉を聞くだけで疲れる。
「だいすきな…どうぶつと……ぐっ…!?」
か細い声はくぐもった悲鳴に変わった。
クリムの細く白い首に指を掛け、エターナルの握力を籠めてやる。
多数の属性に耐性を持つ天使の肉体も、単純な物理攻撃には無力でしかない。
「せめて首輪と支給品だけ、このDIOの為に残して逝け」
「あっ、ぎっ」
首への圧迫感が増し姉畑の顔も変色する。
胸を貫かれたばかりなのにエターナルの腕を引っ掻き必死の抵抗を試みた。
一体どこにまだそのような力が残っていたのか。
迫り来る死を目前にし、奥底に眠る力を今だけ使えるようになったのかもしれない。
何にしても無意味な行動だ。
意識が遠のいていく中で、姉畑が思うのは大好きな動物達のこと。
彼らと愛し合っている時だけが幸せだった、彼らと一つになっている時だけ自分も大自然の一員になれた気がした。
けれどそんな事は間違っていると本当は分かっていたのだ。
だから自分の罪の痕跡を消す為に動物を惨殺し、ずっと己の歪みから逃げ続けていた。
自分のような汚らわしい罪人はここで死ぬのが正しいのではないか。
そう思ったけど、やっぱりまだ死にたくない。
もっともっと、もっともっと、愛らしくて素晴らしい動物達と一緒にいたいんだ。
だから
「いや…だ……」
ブチリと肉が引き千切れ、支えていた骨がへし折られる。
一番上の重さを消失した体はぐったりと落ちた。
正史においても姉畑支遁という男は自由気ままに己の欲を満たし続けた。
網走監獄を脱獄してからも、アイヌにとってのカムイであるエゾシカを凌辱し惨殺する罪を犯している。
後に出会った谷垣の銃を奪い、彼がアイヌに冤罪を掛けられる原因を作ったりと歯止めが効かない。
最終的にはヒグマとの性交(アシリパ曰くウコチャヌプコロ)に成功し、大満足の果てにこの世を去った。
だがひょっとすると、正史での最期こそが間違っていたのではないだろうか。
開き直って自分の性嗜好を受け入れるには常識があって、きっぱりと動物への性的興奮を断ち切るには自分勝手で。
中途半端なままで過ちだけを重ね続けた罪人。
そのような男が絶頂と快楽に包まれ死ぬのはおかしな話であり。
苦痛と絶望に叩き落とされて死ぬ、バトルロワイアルでの最期こそ本当に相応しいのではないか。
答えを示す者はどこにもいない。
無造作に投げ捨てられた生首、その頬を伝うのは雨粒か、涙か。
それすら、今となっては誰にも分からなかった。
【姉畑支遁@ゴールデンカムイ(身体:クリムヴェール@異種族レビュアーズ) 死亡】
-
○
首輪を回収し秋水を引き抜く。
能力者である姉畑本人が死んだせいか、下半身の象も息絶えていた。
瞳は灰色に濁り、長い鼻は力無く地面へ投げ出されている。
先端の男性器も活力を完全に失い、萎びたキノコのような有様。
鼻がそうなった以上は拘束も無意味。
ようやっと姉畑の元から逃れられた善逸は、そこでエターナルと視線がかち合う。
死から蘇った男、こいつも無惨のような化け物だったのか。
全身を駆け巡る悪寒、危機に急かされ電撃を放とうと丸い頬が放電する。
「ピ、ピ〜カ〜…!」
「ノロいぞッ!無駄無駄無駄無駄ァッ!!」
電撃を放つまでの溜めは致命的な隙だ。
小さな体にザ・ワールドの拳を容赦なく叩き込まれた。
大の男ですら殴り飛ばす威力のパンチに、ピカチュウの小柄な体躯は耐えられない。
血を吐きながら吹き飛ばされ、地面へ叩きつけられる直前で咄嗟に悲鳴嶼が受け止める。
人間の子供より小さい体で受けるには酷な傷に、つい表情が歪む。
殴り飛ばしたエターナルは罪悪感を微塵も抱かず、姉畑が持っていたドリルクラッシャーを拾い、間髪入れずに投擲。
標的は自分へ攻撃を仕掛けようと動きを見せたビルド。
「くっ…」
「焦らずとも全員殺してやる。無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!!」
「っ!?下がれ!」
ザ・ワールドは両腕を、エターナルはエターナルエッジをそれぞれ振るう。
刃と手刀から生み出されるのは無数の蒼い斬撃。
幻想的な色の刃は殺傷力も抜群、まともな死体は残らない。
どうにかキャッチしたドリルクラッシャーとライドブッカーを駆使し、ビルドは刃を斬り落とす。
斬月もまたメロンディフェンダーで防御するが、如何せん手数は向こうが圧倒的に上。
時折防ぎ漏らした刃が命中し、痛みに悲鳴が出た。
-
「こん…のぉ…!!」
「ぐっ…!!」
善逸を抱え悲鳴嶼は回避に集中。
時折刃が掠め着流しへ赤い染みを生み出すが行動不能になる傷ではない。
致命傷以外は捨て置き動き続かなければ、あっという間に細切れだ。
神楽もまた回避し、時には流水を抜き防ぐ。
慣れない武器と文句を言ってはいられず、ブレイズの機能を総動員させる。
「凌いで見せるか。ならばこれはどうだ?」
『ETERNAL!MAXIMAM DRIVE!』
スロットにエターナルメモリを装填。
此度は先程の蹴り技とは違い、斬撃を飛ばす技だ。
マキシマムドライブで放つ以上、威力も範囲も今放った斬撃の比ではない。
何よりの脅威として、エネルギーを纏わせるのはエターナルエッジのみではなかった。
ザ・ワールドが構えた大業物、秋水も蒼炎を纏う。
本体とスタンドが放つ二刀流の斬撃、大技の予兆にビルド達も焦り出す。
今しがたの斬撃で受けた傷もマキシマムドライブに比べたら些事。
対抗すべくカードを手にビルドが前に出る。
「下がってろ甜歌!アレはヤバい!」
「で、でも……甜歌も戦兎さんの、力になりたいから……!」
「痴話喧嘩がしたいんなら姉御の店にでも行ってるがヨロシ!お前らは退いてろアル!変身してないならヤベーだロ!」
「神楽…!」
ビルドだけに任せっ放しは出来ないと斬月も前に出る。
ロックシードをソニックアローに装填し、迎え撃つ準備は万端だ。
二人だけに押し付ける気は無いのはブレイズもである。
これまで使って来なかった流水を使った高威力の技の出し時。
生身の悲鳴嶼達に警告し、流水のトリガーに指を掛けた。
-
「キラキラルン!ジェラート・シェイク!」
しかし敵はエターナル一人ではない。
悪の救世主に使える狂信者、キュアジェラートの力を行使するヴァニラがここで割って入る。
発狂寸前の状態に陥ったかと思えばDIOの復活など変化し続ける状況に、流石のヴァニラも思考が追い付かなかった。
だが主がまだ生きているなら、自分は共にDIOの敵を排除するのみ。
揺らぐどころか崩壊寸前だった忠誠心から目を背けるのに、再度勃発した戦闘は都合が良い。
「きゃあっ……!?」
「クソッ…!」
キャンディロッドからクリームエネルギーを放出し、巨大な氷塊を生み出す。
出現させるだけではない、ここからがキュアジェラートの技の本領である。
近接パワータイプのスタンドにも劣らぬ勢いで、氷塊へとラッシュを放った。
キュアジェラート固有の技は、デビハム相手にも使用したのと同様。
砕け散った氷はビルド達へと殺到、彼らを凍り付かせ動きを封じる。
エターナルという脅威が目立ち過ぎた為だろう、ヴァニラへの警戒が疎かになった悪い方向へ傾いた。
動きを止められたなら最早敵ではない、単なる的。
二振りの刃が振り下ろされ、十字状の斬撃がビルド達へと直撃。
決死の抵抗で何人かは凍結から脱せられたが、手遅れだった。
「ぐあああああああああああああああっ!!!」
悲鳴すらも斬撃に飲み込まれ、削り取られた地面が煙を巻き起こす。
晴れた所へ広がる光景は死屍累々と言っても良い。
三人のライダーは変身を解除され倒れ伏し、痛みに小さく声を上げる事しか出来ない。
中でもダメージが最も重いのは戦兎だろう。
斬撃が当たる直前、タンクフルボトルのパワーで力任せに氷を砕き斬月を庇ったのだ。
彼女へのダメージを完全に防ぐまではいかなかったが、それでも致命傷には至らなかった。
「戦兎さん…!甜歌のせいで、こんな……う…うぅ……!」
戦兎の力になると言っておきながら、逆に彼を大きく傷つけてしまった。
どうして自分はこうなんだ。
悔しさで視界が滲むのを抑えられない。
-
「ぐ…無事、か……?」
しかし戦兎以上にダメージが深刻なのは悲鳴嶼だ。
戦兎が甜歌を庇ったように、悲鳴嶼は善逸を庇おうと彼へ覆い被さった。
凍結を何とか抜け出した時、回避に集中していれば助かったかもしれない。
けれど悲鳴嶼は凍結から抜け出せずにいた善逸を見捨てられず。
咄嗟に善逸の盾となる選択を、鬼殺隊の仲間を助ける道を選んだのだ。
「ピカ…ピカチュウ……(岩柱のおっさん…そんな、俺のせいで……)」
自分が足を引っ張ったせいで悲鳴嶼に重傷を負わせてしまった。
仮面ライダーの装甲も無しにエターナルの斬撃を受け、着流しが真っ赤に染まり、片腕すらも失くしている。
とてもじゃないが自分の無事を喜べはしない、抱くのは不甲斐なさと申し訳なさばかり。
「ほぉ……人間にしては頑丈じゃあないか。実に惜しいな。元のボディであったなら、このDIOの為に働かせてやる事もできたのだが」
「…それは、運が良い。お前の傀儡にならずに済んだ」
わざとらしく残念そうな仕草を取るエターナルの言葉を、戯言と切って捨てる。
この身を焼き焦がす怒りは上弦の壱相手に抱いたのと変わらない。
自分達は人として生まれ、人として生き、人として死ぬ事を誇りに思っている。
人間を弱者と切って捨てる怪物への傲慢さ、鬼殺隊への、人間への侮蔑に他ならない。
自分達は人であり続ける事に、後悔は無い。
「お前たちはただ、人間である事から逃げ出したに過ぎん!!」
啖呵を切り、刀を手にエターナルへと斬り掛かる。
死にかけの男とは思えない気迫、東洋で言う所の鬼、或いは夜叉と言う奴か。
そのしぶとさは認めてやるが、だから何だとエターナルは嗤う。
この男も所詮は自分の知る人間どもと同じ。
傷だらけで抗い、死を覚悟して戦うのを尊いと思い込んでる間抜け。
意気込みだけで勝てると思っているのなら、抗えない現実というやつを体に叩き込んでやる。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」
ザ・ワールドの前には遅過ぎる、脆過ぎる。
頬を狙った拳で脳を揺さぶられ。
胴体を狙った拳で臓器を潰され。
三肢を狙った拳で刀を取り落とした。
-
「無駄ァッ!!!」
「がっ……」
最後の一発は拳ではない。
手刀を作りエネルギーを纏わせれば、蒼炎の刃の完成だ。
そこいらの剣が鈍ら同然の威力をとくと味合わせてやる。
胸を貫いた手刀は一直線に突き進み、背中の皮膚を引き裂いて貫通。
ゴボリと吐き出された血で自らの着流しを更に赤く彩る。
元の白い部分を探す方が難しい。
邪魔なゴミを払い除けるように腕を振れば、何の抵抗も無しに地面を転がった。
「ぎ…銀ちゃ……!」
涙ぐんだ声に視線を動かすと、オレンジ髪の女が泣き腫らしていた。
酷なものを見せてしまい罪悪感が募る。
体の元の持ち主は既に死んでいるが、この体は紛れもなく坂田銀時のもの。
彼女にとってはまるで銀時本人が逝く姿を見せつけられた思いだろう。
自分はつくづく彼女の心を掻き乱してばかり、本当に申し訳ない。
死ぬ覚悟はとうの昔に出来ていた。
鬼殺隊に入った時点で、きっと幸福な死を迎えられはしないだろうとは、自分のみならずほとんどの隊士が思っていた筈。
鬼と戦うとは、鬼舞辻無惨を追うとはそういう事だ。
だからきっと自分の最初の死は、恵まれている部類にはいるのだと思う。
ああけれど、二度目の死まではそうならないらしい。
先に逝った者達の無念を晴らしてやれない。
今も生きて戦っている者達へ後の事を押し付けてしまう。
自分を生かす為に命を散らした少女、彼女に救われた命をこんなにも早く失った。
只々、皆に謝るしかない。
それでも、多くの未練に苦しみながらも、
「生きろ……生きてくれ……」
彼が最後に願ったのは、仲間達の無事だった。
【悲鳴嶼行冥@鬼滅の刃(身体:坂田銀時@銀魂) 死亡】
-
◆
「銀ちゃん…あ…ああああああああああああああ……!!」
「DIOッ…!お前…!!」
「そう騒ぐな。強者は弱者を踏み躙り排除する。口に付いたソースをナプキンで拭き取るように、ごく当たり前の事をしただけだろう?」
たかが人間一人の死に何故こうも大騒ぎするのか、DIOにはつくづく不思議でならない。
取るに足らないちっぽけな命を踏み潰して、だから何だと言うのだ。
蟻を踏み潰してそれを一生引き摺る訳でもないのに。
嘲笑を浮かべながら悲鳴嶼が持っていた刀を拾う。
「さて、このまま殺しても良いがその前に…聞いておきたい事がある」
エターナルエッジを突き付け問い掛ける相手は戦兎。
甜歌から聞いた話によると、戦兎は並行世界同士を融合させ全く新しい世界の創造に成功した。
スケールが大きい、実に興味をそそられる内容だ。
情報次第ではDIOが目指す天国にも何らかの形で役立つかもしれない。
甜歌からの又聞きでは不明瞭な部分もあった為、本人から聞けばより詳しく知れる。
「確か…新世界だったか。甜歌がペラペラ話してくれたが、やはり本人からの方が詳細な話を聞けるだろう。素直に話すつもりがあるなら、生かしておくかを考えてやるぞ?」
「……っ。せ、戦兎さん…ごめんなさい……」
「甜歌は何も悪くねぇって。…お前に話す事なんざ一つも無い」
予想通りの答え、生意気に笑う戦兎を仮面越しに冷めた目で見下ろす。
素直に情報を吐きはしないだろうとは分かっていた。
ジョースターのようなつまらない正義感の持ち主なら、こちらに屈しはしない。
少しは賢い選択をするという可能性をちょっぴり考えてはみたものの、結局はこの通り。
全く無駄な提案だった。
-
「ならばもう用は無い。その役立たずの小娘共々、このDIOの前から消え去るがいい!」
『ETERNAL!MAXIMAM DRIVE!』
響く電子音声が、メモリスロットに永遠の記憶が装填された事を知らせる。
此度もエネルギーを纏わせるのはエターナルエッジと、ザ・ワールドが持つ秋水。
その二本以外にもう一本、ザ・ワールドの左手に握られた刀にもエネルギーが流し込まれた。
悲鳴嶼が振るっていた業物、時雨。
エターナル専用のコンバットナイフと、大海賊時代にて振るわれた二振りの刀による三刀流が完成。
武器を一つ増やし破壊力を先程の倍に高める。
圧倒的な力で弱者を怯ませ命を刈り取るのは、何時の時代も清々しい気分になるものだ。
それも自分を苛立たせた者達を殺せるとあれば、これで気分爽快になるなというのは不可能な話。
揺らめく蒼炎に悔しさを滲ませる者、涙を流す者、未だ諦めていない者と反応は様々。
どうせすぐ、全員纏めて同じ場所へ逝くだけだというのに。
「随分と、本当に随分梃子摺らされたがここまでだッ!!」
頭上へ掲げた三本の刃が振り下ろされようとし――
戦場へ新たな炎が迸った。
-
○○○
目が覚めた時、自分がどこにいるのかすぐには分からなかった。
辺り一面真っ暗闇。
右を見ても左を見ても、上と下、前と後ろも全部闇。
実は自分の目の方がイカレて何も見えなくなったのかと不安を抱き始めた時に、辺りが急に明るくなった。
視界が明確になると、自分がどこにいるのかがようやく分かる。
と言ってもその場所に来た事があるとかそういうのではない。
自分がいるのは竹林だった。
上を見れば天を突く勢いで伸びた竹が太陽を覆い隠している。
兵士の死体と爆音発砲音が絶えず響いていた戦場の空気ではない。
彼女と共に踏みしめ、前へ前へと進み続けた雪の感触もしない。
こんな場所へは初めて来る。
だというのに何故だろうか。
竹林を見回していて真っ先に感じたのは、言葉に表せない懐かしさ。
ずっと前からこの場所を知っているような、そんな気がしてならない。
そんな風に感じる理由も分からず案山子のように突っ立っていた時だ。
いつの間にか目の前に女が立っていた。
どちらかと言うと少女と言った方が正しいのだろう。
艶のある黒髪をした、如何にもいいとこのお嬢様と言った顔立ち。
農村の出身で、訳あって天涯孤独の自分とは一生縁の無いだろう、そういう女の子。
その少女が目を細め、猫のように笑った途端、
脳裏に思い浮かべたのは、憎たらしいあの男。
微塵も似ていないのに、どうしてか忌々しいアイツを思い出さずにはいられない。
あの子の手を汚させようとしたアイツを。
あの子を自分達と同じ人殺しに堕とそうとしたアイツを。
『お前達のような奴等がいていいはずがない』
-
◆
「尾形ァ゛アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
爆炎が上がる。
誰もがその男から目を離せない。
全身を炎に焼かれ、否、炎の翼を広げた不死鳥の如き男を。
不死身の杉元、その異名に偽り無し。
「す、杉元!?お前…」
「おのれスギモト…!貴様はまだ…!!」
戦兎が目を白黒させる一方で、DIOは憤怒に顔を歪める。
エターナルの仮面では到底隠し切れない激情に、心なしか蒼炎の勢いも増す。
再生能力を持っていようと不死身など所詮は出まかせ、大層言語を口にしたに過ぎない。
そう高を括った結果、杉元は自分と同じように死から蘇った。
さっさと首を斬っていればと苛立つも後の祭りだ。
(ありがとよ尾形、お陰で思い出せたぜ)
感謝とは程遠い、殺意と歓喜がない交ぜになった獰猛な笑みで礼を言う。
あの男の存在が生きる理由と戦う理由を杉元に今一度思い出させた。
アシリパとの旅を殺し合いなどとふざけたもので終わらせられない。
必ずや尾形をこの手で殺すまで、他の誰にも自分の命をくれてやらない。
こんな場所で死んでいる暇など、無い。
「俺は死んでも生き続けてやる!」
「戯言を口にするな野良犬がァッ!!!」
炎の翼で加速し戦兎らの前に躍り出る杉元へ、エターナルがあらん限りの怒りをぶつける。
エターナルエッジ、秋水、時雨の三本からなる巨大な斬撃を放った。
三つの刃は一つとなり、触れる全てを焼き尽くし塵一つ残しはしない。
生半可な抵抗は全て無意味、真正面から蹴散らす力の塊。
チマチマ銃弾や火球を撃ったとしても、1秒すら止める事は不可能。
蒼炎が照らし出すは人間どもの絶望の表情。
-
ただ一人、杉元を除いて。
「殺してみやがれ!俺は――」
「俺は不死身の杉元だ!!!」
業火が放たれる。
蒼炎を、その先の邪悪を飲み込み焼き尽くし地獄に叩き落とす炎。
紅蓮の華が咲き乱れるが如く赤に染まる。
これまで放っていた弾幕とは、一発に籠められた妖力の質がまるで違う。
杉元佐一という男の怒りをありったけぶち込んだ殺意の塊。
ともすれば火球自体を破壊しかねない、灼熱の弾幕が雨あられと発射された。
妹紅を知る者がこの場に居れば、杉元の攻撃にこう答えるかもしれない。
凱風快晴-フジヤマヴォルケイノ-。
但し、杉元が放つのは弾幕ごっこを殺意で彩った代物。
煌びやかさや「魅せ」を完全に排除した、最早兵器と言っても過言ではない。
「ぬ…ぐ…おのれぇぇぇ…!!」
着弾の度に大爆発が起き、斬撃の威力が削がれていく。
自分の力を上回るとでも言いたげな杉元に怒りは上昇しっ放し。
炎に纏わる煩わしい記憶も引き摺られように、脳内でリピートが止まらない
「あの小娘が…!」
そして主の苛立ちに指を咥えて見ている従者では無かった。
生き返って早々にDIOへ炎を放った小娘への怒りというなら、ヴァニラとて負けてはいない。
再びキャンディロッドを取り出しクリームエネルギーを放出。
氷と炎で相性は悪いが、一瞬でも隙を作れればそれで良い。
-
「変身…!」
『KAMEN RIDE GHOST!』
『レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ!ゴースト!
「ぬおっ!?」
二度も同じ轍を踏みはしない。
体中に走る激痛を噛み殺し戦兎は急ぎ仮面ライダーゴーストに変身。
眼魂に宿る英雄たちの意思、パーカーゴーストを大量に召喚させヴァニラを妨害する。
纏わりつかれ、時には体当たりをかまされたヴァニラはクリームエネルギーの放出を止めざるを得ない。
「鬱陶しい連中め!」
クリームエネルギーを拳に纏い、氷のブロックを装着。
パーカーゴースト達を殴り飛ばすも数が多い。
目障りなパーカーゴースト達へのストレスで額に青筋が浮かんだ途端、急に彼らは一斉にヴァニラから離れていった。
まさか自分が顔に怒りを露わにしたから恐れをなしたのか。
馬鹿げた理由だと早々に思考を打ち切り、再びキャンディロッドを構える。
が、何故パーカーゴースト達が急に退いたかの理由を思い知った。
ヴァニラを邪魔するのはゴーストだけではない。
黄色い小さな獣が赤丸ほっぺをバチバチと放電させ、解き放つタイミングを待っている。
庇ってくれた男の死に対する悲しみ、猛威を振るい続ける悪党たちへの恐怖。
何よりも、仲間を殺された、仲間の足を引っ張った事への怒り。
感情がごちゃ混ぜになり自分でもどんな顔をしているのか分からない。
ただこの怒りをぶつけなければと心に従う。
「ピカアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!(この野郎おおおおおおおおおおおおっ!!!)」
「があああああああああ!!!?!」
10まんボルトが悪を貫く。
全身を雨で濡らした身には相当に堪える衝撃、ヴァニラからは絶叫が鳴り止まない。
キュアジェラートに変身していなければ黒焦げの死体が一つ出来上がっていた。
そして拮抗は遂に崩れる。
「DIOォオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
「スギモトォオオオオオオオオオオオッ!!!」
両者一歩も引かず、決して諦めず。
蒼炎と爆熱が喰らい合い、消し去り合い、片方を飲み込まんとする死闘。
その結末は、互いの力が強過ぎるが故の相殺。
刃は砕け散り、爆炎も霧散。
消滅した攻撃の余波が互いへと襲い掛かり、吹き飛ばされた。
-
「よっ…っとぉ!」
復帰が一手早かったのは杉元。
飛行能力を駆使し、転がる事無く地面へ着地。
素早く視界から情報を取り入れ、次に移るべき最適解を弾き出す。
仲間、全員負傷が重く一人死亡。
敵、疲弊は大きいだろうがどちらも健在。
自分、復活直後ではじけ過ぎたかめちゃくちゃ体がダルい。
姉畑、死んでる。
答えはこうだ。
「逃げんぞ桐生!車出せ!」
「っ、ああ…!」
言われてからの行動は迅速、戦兎も逃走に異論は無し。
サッポロビールの宣伝カーを取り出すと、急いで全員を乗せなければならない。
善逸の電撃が効いたらしくヴァニラはまだ復帰出来ていない。
となると後は…
「逃がすと思ったのか!」
エターナルだ。
ザ・ワールドと共にこちらを睨み付ける姿からは、相も変らぬプレッシャーで息が止まりそうである。
しぶとい強敵に歯噛みしつつもどうにか切り抜けなくては。
ゴーストのままで戦うか、別のライダーに変身するか。
ジーニアスが制限により使えないのは痛い、他に使える力を次々思い浮かべている間にもエターナルが迫っている。
ガンモードのドリルクラシャーを向け引き金に指を掛けた。
-
「いい加減にするヨロシ…!」
焦るビルドの視界を遮り前へ出る者。
神楽だ、ブレイズへは再変身しておらず生身のままでエターナルと対峙する。
腰にベルトこそ巻き付けているが、手に持つのは聖剣ではない。
細長い棒のような物。
神楽では使いこなせない、精々が鈍器として振るうくらいしか使い道の無かった武器。
「しつけーんだよオメーは!ストーカーしたいんならどっかのゴリラに弟子入りでもしとけアル!」
思えば、離れの島にいた時から兆候はあった。
本当へと移動するタイミング。
風の向きを考え慎重に移動しなければならない場面で、行ける気がすると自信満々に言った。
今こうして神楽が生きている事からも、結果が成功なのは分かり切っている事だ。
神楽は戦闘面での第六感ならあるだろうが、風の流れを読む技術など元々持っていない。
しかし事実として彼女の言葉に従い、本島へ渡れている。
離れの島から移動する時は切っ掛けだった。
より大きな影響を与えたのは先程の戦闘。
エターナルが発生させた竜巻に巻き込まれた時、あれもまた神楽の肉体を刺激したのかもしれない。
長時間が経過したからか、関係のある攻撃を受けたからか。
何が正しいにせよ、神楽に重要なのはこの棒の使い方。
彼女自身詳しい理由は分からない、だけど使い方が分かる。
肉体に染み付いた記憶の為せる技か、知らない筈の言葉を気付けば叫んでいた。
-
「突風(ガスト)ソード!!」
「なにぃいいいいいいっ!?」
天候棒から気泡を作り出し、強烈な突風を放つ技。
新世界の予期せぬ悪天候に見舞われても、正しい航路へと導いた麦わらの一味の航海士。
ナミの技がエターナルへ炸裂、遥か後方へと吹き飛ばして行く。
「や、やったアル……」
「おっと、大丈夫かよ?」
「大丈夫じゃねーヨ…」
攻撃の成功に安堵し、しかし直ぐに膝を付き倒れそうになった。
そこへ駆け寄ったのは杉元、神楽に肩を貸し急いで自動車に乗り込む。
車内には既に甜歌と善逸が戦兎の手で運ばれており、二人とも疲労困憊なのか肩で息をしていた。
疲れて休みたいだろう気持ちは分かるがまだ気を抜ける状況ではない。
モタついていれば今の神楽の攻撃も無駄になる。
「全員乗ったか!?」
「おう!ぶっ飛ばして行け!」
全員の乗車を確認しアクセルを踏む。
杉元の指示通り一気に加速し街を駆け抜ける。
道中、来た時に見たデビハムと貨物船の死体がまた視界に映るも無視。
排気ガスを噴射しながら、街の外へと飛び出した。
-
◆◆◆
車を走らせている間ずっと、車内には言葉というものが無かった。
度重なる戦闘を終えての疲弊、仲間と危険人物の死など諸々の理由を思えば当然と言える。
「……」
助手席の窓から顔を出し、背後を睨みつけているのは杉元だ。
歩兵銃を構え、警戒を緩めず指は引き金に掛けたまま。
逃げたとはいえDIO達が追跡して来る可能性はゼロではない。
下手をすれば車を走らせたままで戦闘に発展するかもしれず、気を引き締めておいた。
とはいえ街を抜けても追いかけてくる影は見えない。
本当に逃げ切れたと分かり、ようやっと肩の力を抜いた。
「追って来ねぇ。どうやら少しは安心して良いみたいだ」
「そうか…」
杉元からの報告に戦兎も一先ず安堵する。
ハンドルを握る力が自分でも気付かない内に強くなっていた。
戦兎もDIOが追いかけてくる可能性を考えていたが、ただの取り越し苦労苦労で済みホッとする。
運転の集中力までは切らさず、強張る指を少しだけ解す。
「そういや杉元、お前それ…」
「ん?おう、DIOの野郎に取られるくらいならこっちで拾っといた方が良いと思ってよ」
杉元が見せたのは複数のデイパック。
参加者に一つずつ支給され、杉元にも渡されたがこれらは他者に支給された物。
悲鳴嶼と姉畑、死亡した彼らのデイパックだ。
神楽が起こした突風でDIOが吹き飛ばされ、逃げる時のどさくさでちゃっかり回収していたらしい。
言葉の通り、DIO達に拾われ戦力を増強されるよりは良いので別に咎める気は無い。
-
「本当は悲鳴嶼の奴も連れてきた方が良かったんだろうけどな……」
「……」
帽子を被り直そうとし、被っていない事に気付いて毛先を弄る。
これで何度目の勘違いだろうか。
入浴中も被っていた帽子だからか無性に恋しくなる。
影のある表情で言う杉元に、戦兎が返すのは沈黙。
PK学園前に悲鳴嶼を放置したなら、きっとDIOは首輪を回収し死体をゴミのように扱う。
そう考えると杉元の言う通り連れて来て、どこかへ埋葬した方が良かっただろう。
だがあの状況で自分達に余裕は無く、デイパックを引っぺがして来るのが精一杯。
仕方のない事だと思うが、直接口に出すのは憚れた。
「……」
チラリと後部座席を見やる。
悲鳴嶼と行動を共にしていた神楽は暗い顔で外をじっと見つめていた。
自分達の中で一番悲鳴嶼の死にショックを受けているのは神楽だ。
幾ら何でも神楽がいる所でそのような事を口には出来ない。
悲鳴嶼が死んだ今、しのぶがどうなったかを知っているのは恐らく神楽だが今聞くのは流石に無理だろう。
重い空気を少しでも変えようと、今後の方針を杉元と話し合う。
「取り敢えず俺はこのまま病院に戻るべきだと思う。残して来たナナ達も心配だ」
「確か柊から話があるんだったか?」
「ああ。今俺から触りだけ話しても混乱させるから言わねぇけど、重要な内容だと思って良い筈だ」
重要と言われて真っ先に思い付くのはボンドルド達主催者。
殺し合いを仕組んだ連中に繋がる手掛かりを手に入れたのだろうか。
確かナナの体は斉木空助の弟で、空助の肉体はナナの知り合い。
であれば主催者に関する情報を知ったとしても、おかしくはない。
具体的な内容はまだ知らされていない杉元も全身が引き締まる。
-
「ナナちゃん……?」
知っている名に後部座席から反応があった。
善逸を膝に乗せた甜歌が前の席の会話に食いつく。
「ナナちゃんと、燃堂さんも…大丈夫だよね……?」
「心配すんな、二人とも無事だ。今は新しく会った仲間と一緒にいる」
「そっか…にひひ…良かった……。あう…二人にも、ちゃんと謝らなきゃ……」
DIOに洗脳されている間はナナと燃堂にも敵意を向けてしまった。
二人とも自分を助ける為に体を張ってくれた、良い人達なのに。
自分が犯した間違いに沈んだ顔をしながら、善逸の背中を撫でる。
妹の体にセクハラをしたのにはまだ怒っているけど、そもそも自分が洗脳されなければあんな事は起きなかった。
それに今は疲れたのか眠っているし、顔色もあまり良くない。
デビ太郎とは違う感触の不思議な生き物をぼんやり見ながら背を撫で続けた。
「……」
甜歌を尻目に神楽は無言を貫く。
自分よりも優先しようとした男は死んだ。
元の世界に帰してやろうという決意は脆くも崩れ去った。
銀時の肉体までもが失われ、これで本当に万屋銀ちゃんは無くなってしまったような気さえする。
守りたいものを守れず、死んで欲しくない人達を取り零し、自分だけが生き延びている。
(私は……)
これからどうすれば良いのだろう。
自分が答えを出せるまで支えてくれる男達は、想像の中ですら何も言ってくれなかった。
-
【E-2 道路 車内/午後】
【桐生戦兎@仮面ライダービルド】
[身体]:佐藤太郎@仮面ライダービルド
[状態]:疲労(極大)ダメージ(極大)、全身打撲(処置済み)、ジーニアスフォームに2時間変身不能、運転中
[装備]:ネオディケイドライバー@仮面ライダージオウ、ドリルクラッシャー@仮面ライダービルド、サッポロビールの宣伝販売車@ゴールデンカムイ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを打破する。
1:病院に戻って柊達と合流し話をする。
2:甜花を今度こそ守る。一緒に戦うなら無茶しないようにしとかねぇと。
3:胡蝶しのぶのことを神楽に聞きたいが、今の空気じゃ難しいか。
4:斉木楠雄が柊の中にいたのか?何故だ?何か有用な情報を得られればいいのだが…
5:佐藤太郎の意識は少なくとも俺の中には存在しないということか?
6:他に殺し合いに乗ってない参加者がいるかもしれない。探してみよう。
7:首輪も外さないとな。となると工具がいるか
8:エボルトの動向には要警戒。誰の体に入ってるんだ?
9:柊に僅かな疑念。できれば両親の死についてもう少し詳しいことが聞きたい
10:柊から目を離すべきでは無いと思うが…今はどうにもできないか
[備考]
※本来の体ではないためビルドドライバーでは変身することができません。
※平成ジェネレーションズFINALの記憶があるため、仮面ライダーエグゼイド・ゴースト・鎧武・フォーゼ・オーズを知っています。
※ライドブッカーには各ライダーの基本フォームのライダーカードとビルドジーニアスフォームのカードが入っています。
※令和ライダーのカードは少なくともゼロワンは入っています。他のカードは後続の書き手にお任せします。
※参戦時期は少なくとも本編終了後の新世界からです。『仮面ライダークローズ』の出来事は経験しています。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※ジーニアスフォームに変身後は5分経過で強制的に通常のビルドへ戻ります。また2時間経過しなければ再変身不可能となります。
【杉元佐一@ゴールデンカムイ】
[身体]:藤原妹紅@東方project
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、頬に殴られた痕、全身に痺れ、霊力消費(大)、再生中、一回死亡、乗車中
[装備]:神経断裂弾装填済みコルト・パイソン6インチ(0/6)@仮面ライダークウガ、三十年式歩兵銃(3/5)@ゴールデンカムイ
[道具]:基本支給品×5、神経断裂弾×33@仮面ライダークウガ、ラッコ鍋(調理済み・少量消費)@ゴールデンカムイ、ライズホッパー@仮面ライダーゼロワン、鉄の爪@ドラゴンクエストIV、病院で集めた薬や包帯や消毒液、青いポーション×1@オーバーロード、黄チュチュゼリー×1@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド、ランダム支給品×0〜1(確認済)、しのぶの死体
[思考・状況]
基本方針:なんにしろ主催者をシメて帰りたい。身体は……持ち主に悪いが最悪諦める。
1:病院に戻る。柊の話って何だ?
2:あのカエル(鳥束)、死んだのか…。
3:俺やアシリパさんの身体ないよな? ないと言ってくれ。
4:なんで先生いるの!? 死んじまったか……。
5:不死身だとしても死ぬ前提の動きはしない(なお無茶はする模様)。
6:DIOの仲間の可能性がある空条承太郎、ヴァニラ・アイスに警戒。
7:精神と肉体の組み合わせ名簿が欲しい。
8:何で網走監獄があんだよ…。
9:この入れ物は便利だから持って帰ろっかな。
10:本当に生き返ったのかよ!?蓬莱人すげえッ!
[備考]
※参戦時期は流氷で尾形が撃たれてから病院へ連れて行く間です。
※二回までは死亡から復活できますが、三回目の死亡で復活は出来ません。
※パゼストバイフェニックス、および再生せず魂のみ維持することは制限で使用不可です。
死亡後長くとも五分で強制的に復活されますが、復活の場所は一エリア程度までは移動可能。
※飛翔は短時間なら可能です
※鳳翼天翔、ウー、フジヤマヴォルケイノに類似した攻撃を覚えました
※鳥束とギニュー(名前は知らない)の体が入れ替わったと考えています。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。また自分が戦兎達よりも過去の時代から来たと知りました。
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【我妻善逸@鬼滅の刃】
[身体]:ピカチュウ@ポケットモンスターシリーズ
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、精神的疲労(大)、睡眠中、乗車中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:殺し合いは止めたいけど、この体でどうすればいいんだ
0:……。
1:岩柱のおっさん……。
2:お姉さん(杉元)達と行動
3:しのぶさんは大丈夫かな……無事でいてほしいけど…
4:煉獄さんも鳥束も死んじゃったのか……
5:無惨を警戒。何でアイツまで生き返ってんだよ!?
6:……かみなりの石?何かよく分からない言葉が思い浮かぶ…
[備考]
※参戦時期は鬼舞辻無惨を倒した後に、竈門家に向かっている途中の頃です。
※現在判明している使える技は「かみなり」「でんこうせっか」「10まんボルト」の3つです。
※他に使える技は後の書き手におまかせします。
※鳥束とギニュー(名前は知らない)の体が入れ替わったと考えています
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。また自分が戦兎達よりも過去の、杉元よりも未来の時代から来たと知りました。
※肉体のピカチュウは、ポケットモンスターピカチュウバージョンのピカチュウでした。
【大崎甜花@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[身体]:大崎甘奈@アイドルマスターシャイニーカラーズ
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、服や体にいくつかの切り傷、戦兎やナナ達への罪悪感、決意、乗車中
[装備]:戦極ドライバー+メロンロックシード+メロンエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、PK学園の女生徒用制服@斉木楠雄のΨ難
[道具]:基本支給品、デビ太郎のぬいぐるみクッション@アイドルマスターシャイニーカラーズ、甘奈の衣服と下着
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない
1:戦兎さんの…力になりたい……。
2:皆に酷いことしちゃった……甜歌…だめだめ……。
3:ナナちゃんと燃堂さんにも……謝らなきゃ……。
5:なーちゃん達…大丈夫かな……。
6:千雪さんと、真乃ちゃんのこと…戦兎さんにも教えた方が良いよね……?
[備考]
※自分のランダム支給品が仮面ライダーに変身するものだと知りました。
※参戦時期は後続の書き手にお任せします。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※ホレダンの花の花粉@ToLOVEるダークネスによりDIOへの激しい愛情を抱いていましたが、ビルドジーニアスの能力で正気に戻りました。
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【神楽@銀魂】
[身体]:ナミ@ONE PIECE
[状態]:ダメージ(極大)、疲労(極大)、膝に擦り傷、銀時と新八の死による深い悲しみと動揺、精神的疲労(極大)、悲鳴嶼としのぶへの罪悪感(大)、脹相に対し不信感(小)、乗車中
[装備]:魔法の天候棒@ONEPIECE、仮面ライダーブレイズファンタステックライオン変身セット@仮面ライダーセイバー
[道具]:基本支給品、スペクター激昂戦記ワンダーライドブック@仮面ライダーセイバー
[思考・状況]基本方針:殺し合いなんてぶっ壊してみせるネ
1:私…これからどうしたら良いアルか…
2:新八…皆…
3:康一、気を付けていけヨ
4:メタモンの野郎…今度会ったらただじゃおかないネ
5:あの虫(グレーテ)は……
6:DIOが仮面ライダーとかどうとか言ってたみたいだけど…何か色々話しそびれたネ
7:私の身体、無事でいて欲しいけど…ロビンちゃんの話を聞く限り駄目そうアルな
8:銀ちゃんを殺した奴は絶対に許さないネ
9:さっきの記憶は何なんアルか……
[備考]
※時系列は将軍暗殺編直前です。
※ナミの身体の参戦時期は新世界編以降のものとします。
※【モナド@大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL】は消えました。カメラが破壊・消滅したとしても元に戻ることはありません。
※仮面ライダーブレイズへの変身資格を受け継ぎました。
※放送の内容は後半部分をほとんど聞き逃しましたが、アルフォンスから教えてもらいました。
※アルフォンスからダグバの放送が起きた事を聞きました。
※ナミの肉体の影響で『突風(ガスト)ソード』を使えるようになりました。今後他の技も使えるかもしれません。
-
◆◆◆
変身を解除したDIOは雨に打たれていた。
ハワードは体を冷やす事への注意を促していたが、今はこの冷たさが心地良い。
火照った体は元より、熱くなり過ぎた頭も適度に冷やしてくれる。
「DIO様…」
自身を呼ぶ部下の声へ視線だけをくれてやる。
青い衣装を所々焦がした少女が跪き、自分の指示を待っている。
やはりこの男の忠誠心には疑う余地が見当たらない。
支給品の力で従わせただけの小娘とは大違いだ。
「首輪と、使えそうな道具があれば持って来い。私は一度学園に戻る」
「はっ…」
体力を回復させ次第地下通路に行く予定だったが、想定以上の傷を負った。
傷の方は放って置けば再生されるが疲労は別。
もう暫くは休んだ方が良いだろう。
首を垂れた部下に背を向けPK学園へ戻る中、DIOが考えるのはジョナサンの肉体に起きた変化。
まさか人間をやめずとも強靭な生命力が手に入るとは、完全に予想外。
エターナルの力は思っていた以上に、自分へ多大な恩恵を齎したらしい。
ジョナサンの肉体ですらこれというなら、当然元の肉体にもエターナルの力で変化を起こせる筈。
人間であるジョナサンは頭を撃たれても死なない体になった。
では吸血鬼の体ならどうなる?
吸血鬼のボディを取り戻し、ザ・ワールドにエターナルのエネルギーを流し込み続ければその時は、
太陽ですらも滅ぼす事が不可能な、真に永遠を生きる体となるんじゃあないか?
そう遠くない内に起こり得る未来を想像しDIOは笑う。
いや、起こり得るではなく自らの手で起こすのだ。
完全なる勝利を手にした後で、永遠を生きる完璧な肉体を。
-
上機嫌なDIOとは反対にヴァニラの精神は傷だらけだった。
DIOが復活した、それは喜ばしい。
やはり自分の主は死すらも超越する、他のカスどもには到底不可能な事すら平然とやってのける。
自分が仕えるのはDIOしかいない。
そうやって主を持ち上げ必死に誤魔化しても、自分がDIOへ疑いを抱いた事実は消えない。
あれは何かの間違いだと思い込んでも、忘れる事ができない。
もし自分の背信がDIOに知られたら、その時自分はどうなってしまうのか。
或いはあんな事を考えた時点で自ら命を絶つべきだったんじゃあないのか。
考えても考えても何が正しいのか分からない。
「DIO様…私は……」
呟きは雨に掻き消され、主には届かない。
ドス黒いクレバスと恐れられた精神の持ち主も、今は迷える子羊と変わらなかった。
【E-2 街 PK学園高校/日中】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:ジョナサン・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険
[状態]:ダメージ(極大)、両腕火傷、疲労(極大)、火に対する忌避感、再生中
[装備]:ロストドライバー+T2エターナルメモリ@仮面ライダーW、秋水@ONE PIECE、時雨@ONE PIECE、アトラスアンクル@ペルソナ5
[道具]:基本支給品、ジークの脊髄液入りのワイン@進撃の巨人、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル×2、クリムヴェールのプロフィール、ピカチュウのプロフィール、天使の悪魔のプロフィール、首輪(デビハム、貨物船、姉畑)
[思考・状況]基本方針:勝利して支配する
1:学園で体力を回復させた後、G-3の地下通路へ向かう。
2:アイスを従えておく。裏切るような真似をしたら、或いは役立たないと判断した場合も殺す。アイスにそれは無いだろうがな。
3:スギモトは本当に不死身だったと言うのか?
4:戦兎、スギモト、善逸は次に出会えば必ず殺す。甜歌とオレンジ髪の女(神楽)も殺す。
5:元の身体はともかく、石仮面で人間はやめておきたい。
6:承太郎と会えば時を止められるだろうが、今向かうべきではない。が、装備を整えたらいい加減に行くべきか?
7:ジョースターの肉体を持つ参加者に警戒。東方仗助の肉体を持つ犬飼ミチルか?
8:エボルト、柊ナナに興味。
9:エターナルは想像以上に使えるな。
10:少女(しのぶ)は…次に会う事があったら話をすれば良いか。
11:ギニューの能力が本当に肉体を入れ替えるのなら要警戒。
12:もしこの場所でも天国に到達できるなら……。
[備考]
※参戦時期は承太郎との戦いでハイになる前。
※ザ・ワールドは出せますが時間停止は出来ません。
ただし、スタンドの影響でジョナサンの『ザ・パッション』が使える か も。
※肉体、及び服装はディオ戦の時のジョナサンです。
※スタンドは他人にも可視可能で、スタンド以外の干渉も受けます。
※ジョナサンの肉体なので波紋は使えますが、肝心の呼吸法を理解していません。
が、身体が覚えてるのでもしかしたら簡単なものぐらいならできるかもしれません。
※肉体の波長は近くなければ何処かにいる程度にしか認識できません。
※貨物船の能力を分身だと考えています。
※T2エターナルメモリに適合しました。変身後の姿はブルーフレアになります。
※ザ・ワールドにエターナルのエネルギーを流し続けた事で疑似的な不死になりました。今後も何らかの影響が現れるかは不明です。
※主催者が世界と時間を自由に行き来出来ると考えています。
※杉元佐一の肉体が文字通り不死身のものである可能性を考えています。
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【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:立神あおい@キラキラ☆プリキュアアラモード
[状態]:疲労(極大)、全身に切り傷と殴られた痕、全身に強い痺れ、左顔面部に火傷、精神的動揺(大)、DIOのカリスマへの疑問、キュアジェラートに変身中
[装備]:スイーツパクト&変身アニマルスイーツ(ライオンアイス)@キラキラ☆プリキュアアラモード
[道具]:基本支給品、鳥束の首輪、三人分のレインコートと傘
[思考・状況]
基本方針:DIO様以外の参加者を殺す。
1:私は……。
2:首輪と何か道具があれば回収する。
2:参加者は見つけ次第殺す。但し、首輪を解除できる者については保留。
3:空条承太郎は確実に仕留める。
4:あの裏切り者の尻軽娘(甜歌)も殺す。
[備考]
※死亡後から参戦です。
※ギニューのプロフィールを把握しました。彼が主催者と繋がっている可能性を考えています。
※回転式機関砲(ガトリングガン)@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-は破壊されました。
※悲鳴嶼の死体の傍に海楼石の鎖@ONE PIECEが落ちています。
※逸れる指輪(ディフレクション・リング)@オーバーロードは姉畑の死体に填めたままです。
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歪な運命の中に囚われている
荒ぶ人生の中をあなたと歩くよ
涙の果ては此処ではないとまた夜を渡ってゆく
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投下終了です
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投下お疲れ様です、すばらしい大作を読ませていただき
至福と感謝の気持ちでいっぱいです。
それぞれのキャラの台詞回しなど各原作の理解度をとても深く感じました。
また後日まとまった感想を投下させていただきたいです。
改めまして偉大なSSをありがとうございました。
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投下お疲れ様です。
いやスッゲエな!!スッゲエもん読まされちまった!!
これはあれですかね?天国に到達したDIOとかいうやつですか?
杉元VSヴァニラ、ピカ逸VS甜花、桐生VSDIOの個人戦から始まり、岩柱と神楽集結した上での全員集合からのガチバトル
とどめに姉畑先生にDIO最終形態と、最後まで見逃せない展開が続いて盛り上がりました!
改めて、投下お疲れ様です。
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再度、グレーテ・ザムザ、広瀬康一、両面宿儺、アルフォンス・エルリックを予約します。
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雨宮蓮、エボルトを予約します
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投下します。
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アルフォンスは今、雨に打たれながらC-5の村内の道を走っている。
雨が降り始めたのはアルフォンスが村の中に入ってすぐの頃だ。
その際、アルフォンスは地図を濡らさず確認するため少しの間だけ近くにあった民家の中に入った。
そして地図を開いて目的地の位置を把握し、それがあると思われる方角に向かって気持ち急ぎ目に走り出した。
その目的地とは、地図に記された「春の屋」という場所だ。
ここには少なくとも誰かが訪れたことは確実だ。
もしかしたらその誰かは遠坂凛達が語っていた危険人物である可能性はある。
だからと言って、確認しないわけにはいかない。
少しでも康一がいる可能性があるところなら調べるべきだろう。
移動の途中で、何故だか妙に違和感を感じる気がする『公衆電話』も道の脇で見かけ、それに少し気をとられもした。
よく見ると公衆電話の隣に看板があり、それも気になったが、一先ずは先に春の屋探しを優先した。
そして、その公衆電話のあった位置から少し進んで右方向辺りに、春の屋はあった。
アルフォンスはすぐにそれがそうだと気づけたわけではない。
けれども、その建物はそれまでに見かけていた民家よりもはるかに立派で、周りから浮いている感じがしたためにこれが特殊な施設だという可能性に気付けた。
よく見てみれば、両脇に丸みの帯びた生垣が並んだ石畳の道が存在していた。
立派な建物があるのが見えたのはその奥だ。
石畳の上を進んで近づいてみれば、建物の入り口の上の方に『屋の春』と書いてある看板があるのが確認できた。
横に並んだ文字を右から左に読む文化に慣れていないアルフォンスは、看板を見てすぐにここが『春の屋』であることには気付かなかった。
けれども、濡れるのを覚悟で地図を再度確認し、書かれている施設名と見比べて少し考えてみれば、看板の読み方も察しここが目的地であることを理解した。
アルフォンスがこの建物の中に入ってみようと思った、その時だった。
「ギュイイイイィィ〜〜〜〜ッ!!」
「うわあっ!?」
入り口の閉じられていた戸を突き破って、中から突如として巨大な虫が飛び出してきた。
虫はアルフォンスに向かって、勢いよくぶつかった。
出入口が閉められていたため、アルフォンスも虫も直前までお互いの存在に気づかなかった。
アルフォンスはそのまま虫と衝突し、少し後ろに吹っ飛ばされた。
「ギュ、ギュイッ!?」
「痛た…」
虫は、アルフォンスが濡れた石畳に尻餅をついたところでようやく彼の存在に気付き動きを止める。
「えっと…君は、もしかして…」
アルフォンスは虫の姿を見て、これが神楽の話していたものなのだろうということに気付く。
神楽の話ではいきなり攻撃してきたとのことだが、今はその様子は見られない。
「ギッ…ギッ…!ギュイ…ギュイ!ギィー…!」
けれども、相手が正常な状態であるようには見えなかった。
アルフォンスに気付いた虫は、身体を右へ左へと揺らし、たじろわせている。
それから、いわゆる過呼吸の状態になっているようにも思われた。
相手の中は、恐怖、混乱、狼狽、等々…それらが混ざってどうにもできなくなっている状態のように感じられた。
「よっと…えっと…落ち着いて聞いてほしい。僕は、君の敵じゃない」
アルフォンスは尻餅状態から立ち上がり、虫に向かって話しかける。
アルフォンスは相手の様子から、自分が神楽に語ったように、相手はこれまでずっと一人ぼっちで、不安と恐怖に苛まれている可能性が高いと感じた。
だからまずは対話を試みる。
「僕は殺し合いに乗っていないし、見た目で判断するつもりもない。まずは、落ち着いて君のことを教えてほしい。喋れないんだったら、無理しなくてもいい。とにかく、まずは落ち着いてほしいんだ」
アルフォンスはできる限りの穏やかな口調で話しかける。
兎にも角にも、相手を安心させることが先決だ。
この相手を追いかけてこの村に入ったはずの康一のことも気になるため、どうか応じてくれることを祈った。
「フシュー…フシュー…フシュー…フシュー…!フィー!フィー!」
しかし、状況が改善されるようには見られなかった。
巨大な虫は、まだまだ呼吸がとても荒いように感じられる。
こちらの声が届いているかどうかも分からない。
相手の体の揺れの振れ幅も少しずつ大きくなっているような気がする。
(……ただ怖がっているだけって感じじゃなさそうだ。もしかしてやっぱり、康一さんと何かあったのか?)
相手の様子は、明らかに何かおかしいように感じられた。
けれども、それが何なのかは分からない。
自分のことを敵と認識しているかどうかも少し微妙な気がする。
前に少し考えたように、康一と誤解から争ったのではという考えも浮かぶが、だとしてもそこから何があってこうなるのかも予測がつかない。
-
「…僕のことが信用できないんだったら今はそれでもいい。僕はここから離れてもいいから、とりあえず落ち着いて…」
「ビュイッ!!」
「いっ…!」
アルフォンスは腰を引きながら手を前に出して、相手に静止を促すポーズをとった。
その瞬間に、相手は口元から触角を伸ばしてきて、アルフォンスの手に攻撃していきた。
と言っても、左手中指の先端にほんの少しかすった程度だ。
触角が当たった部分には小さな傷ができ、出血も少量あった。
「フッ…フウッ…フウッ…キュウアッ…!キュアアアッ!!ギアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
(…やっぱり、戦うしかないのか?)
さっきまではなかった攻撃を遂にしてきたことにより、アルフォンスの中にそんな思いが芽生える。
相手が恐慌状態にあるらしい以上、言葉だけで何とかなる可能性の低さは前から考えていた。
アルフォンスの指の血を見たことで、相手はより興奮してきているように見える。
こうなったら、やはり力ずくで相手を抑え込むしかないのだろうかという考えが浮かぶ。
しかし、その方法では自分も暴走してしまう危険性が考えられる。
康一の現状が分からぬ以上、それもなるべく避けたい。
アルフォンスは懐にあるアマゾンズインジェクターをすぐにでも取り出せるよう意識する。
けれども、本当にこれを使うか迷い、冷や汗を一筋流した、その瞬間だった。
『ア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
虫の背後、春の屋の奥から閃光が走り、轟音が鳴り響いた。
同時に、一つの巨影がこの旅館の屋根を突き破った。
その衝撃で、大量の瓦が宙を舞う。
春の屋を中心として発生した衝撃波により、壁も、窓も、玄関の戸も、看板も、アルフォンス達も吹き飛ばされる。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
突如として春の屋を倒壊させながら現れたのは、巨人だった。
裸の人間の男に近い姿をした、とても恐ろしい形相をした巨人だった。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!』
巨人は拳を振りかざし、言葉にならない叫び声をあげながら、それを地に向かって豪速で撃ち放った。
◆◆◆◆
悪魔は甘く囁いた 屍で道を作れ
◆◆◆◆
数時間前、怪虫…グレーテ・ザムザは、夢を見ていた。
眠り始めた当初は比較的落ち着いていたものの、時間が経つにつれやがて異変が起き始めた。
『…血ヲ吸え、血を吸エ、チヲ吸エ、血をスエ、血を吸え、ちを吸エ、血ヲ吸え、血ヲスエ、チヲスえ、ちヲスえ、チを吸え、ちをすえ、チヲ吸エ、チヲスエ、血ヲ吸エ、ちヲスエ…』
グレーテの頭の中で、そんな声が響き始めた。
『血を吸いなさい、チヲ吸いなサい、血ヲすイナサい、血を吸いナさい、チヲスイナさイ、ちをスいなさい、血をスイナサイ、チを吸いなさい、血ヲ吸いナサイ、血を吸イナサい…』
時間が経過すると、声の口調がそんな風に変わっていった。
(嫌だ…嫌だ…!私は人間、私は人間!)
声が聞こえたと感じるたび、グレーテは自分に向かって必死にそう言い聞かせる。
先ほどの少女…織子が肯定してくれた人間の自分に、必死にしがみつこうとする。
『何故拒ムの?私(あなた)ガ血を吸うのハ生物としてノ本能。血は人間にとってのパンのヨうなモノ。牛ヤ馬にとッての草のよウナもの。生きるたメニ必要なもの。何もおかシなところはナいワ』
(違う!私は人間!虫じゃない!血なんて飲まない!)
声は自分自身のことのようにグレーテに吸血を促してくる。
その声がまるで、グレーテ自身が発しているかのような錯覚すら感じてくる。
『私(あなた)は騙されてイるの。ここは殺シ合いの舞台、あの女は自分ノ優勝のために利用しようとしテいるだけ。全てを受け入れてくレるなんて、嘘よ』
(それ以上…彼女を侮辱しないで!)
グレーテの中で怒りがこみ上がる。
織子に限っては、そんなことは絶対に無いとグレーテは信じていた。
『そもそもおかシいと思わないの?ここでは身体ガ別のものになル。アんな完璧に見た目通りの言動ヲする人なんて、そレこそ不自然よ』
(…そうとは限らないじゃない!)
-
声はあの手この手で織子に対し疑念を抱くよう誘導しようとしてくる。
『あんな弱そうな身体で戦うなんて無理ダもの。きッと自分を守らせるために演技しているのよ』
(演技じゃない!彼女の優しさは本物よ!)
『でも、ヤっぱり弱そうだとは思わない?』
(………なら、私が守ってみせるわ!)
声に対し怒りを感じるのは変わりないが、それはそれとして言い分の中には認めてしまうものも一応ある。
織子の戦力状況を把握していないグレーテは自分が危険な存在から彼女を守りたいと、そんな考えを抱いてしまう。
『そうよ…ここにはまだ危険な奴らがまだまだいるワ。あの、頭から凶器を生やした化ケ物たちが…!』
(あの…化け物たち…)
それを聞いてグレーテは思い出す。
最初に自分に対し声をかけてくれた、煉獄杏寿郎を殺した頭と両腕からギザギザ刃を生やした怪物。
そして自分がこの村に辿り着くまでに遭遇した、先述の怪物と同じく頭から刃を生やし、胸には猛獣の顔が付いていた全身青の化け物に姿を変えた男。
はっきりと見れていたわけでないことも相まって、グレーテの記憶の中でそいつらの姿が実際のものよりも恐ろしいものに補正されていく。
それら以外にもグレーテが危険だと認識している奴はいる。
髪の毛を砲台のような形にまとめた、吉良吉影という人物をおそらく殺害した軍服の大男がそうだ。
グレーテがまだ遭遇していない者達にも、危険人物はいるかもしれない。
『そう…私(あなた)が戦わなければならない奴ラはまだまだいるわ…。寝ている場合じゃないの…』
(そう…私は……寝ている場合じゃ、な…い……)
いつの間にか、声に対する怒りよりも、織子のことを心配する気持ちの方が大きくなってきた。
ぼんやりとだが、このまま動かないでいたら彼女が危険な目に合ってしまうのではということを気にする不安な気持ちの方が思考を占め始めた。
『私は起きなければならない…戦わなければならない…』
(私は起きなければならない…戦わなければならない…)
夢うつつに、そんな意識が刷り込まれて行く。
謎の声が自分の考えなのか、そうじゃないのか、その境界も曖昧になっていく。
(私は…)
「………テさん!グレーテさん!」
「ギイ…?」
そんな折に、グレーテにまた別の声が聞こえてきた。
先ほどまでの自分の頭に直接響くようなものとは違う。
夢とは違う現実に発せられている声だ。
グレーテはぼんやりとした頭のまま、自分の名を呼ぶ声の主の方に目を向ける。
そこで彼女は、ほとんど強制的に、意識をはっきりと覚醒させられることになる。
「よかった…目が覚めた!」
そこにいたのは、先ほど眠りながらもその存在を再認識していた、自らを青い化け物の姿に変えていた男だった。
「ギ、ギイイィィィィィィッ!?」
グレーテはこの男がいることに衝撃を受けながら、そいつに向かって触角で攻撃を仕掛けた。
◆◇
「うわあっ!?エ、エコーズ!」
康一は驚きながらも咄嗟にエコーズACT3を発動し、それの両手でグレーテが伸ばした触角を掴んだ。
掴む力はギリギリ自分の体に届かないのを維持できる程度に手加減する。
ACT3としての能力は発動しない、それは彼女に対する"攻撃"になる。
「ギ、ギイ!ギイ!」
「グレーテさん…どうして…」
身を守りながら康一は困惑する。
グレーテに対し組み合わせ名簿を見せるのと、この場を出発しようということを伝えに来たのだが、まさか攻撃されるとは思わなかった。
「ギュイ!ギュイヤァ!」
(グレーテさん、また怯えている…?)
グレーテのただ事でない様子を見て康一は察する。
グレーテは織子によって一度落ち着いたが、その後すぐに眠ってしまい、それ以降康一は彼女と交流していない。
そして、康一がグレーテと最初に遭遇した時はやはり彼女は今よりも錯乱していて、自分の声は届いていないようだった。
また、自分と神楽の身を守るためとはいえ、過去にエコーズや水勢剣で攻撃を行ったのも事実だった。
そのため、自分はその際にグレーテに"敵"として認識され、その誤解がまだ解けていなかったことを段々と康一は理解してきた。
具体的には何が主な理由となってそう思われたのかまでは分かってない。
それでも、康一はグレーテをここで何とかしなくちゃならない事態にいることを把握した。
「くっ…!」
「ギイィ…!」
二人は今、膠着状態に陥っている。
グレーテの認識としては、目の前にいる人物は自分を追って“今”ここに入ってきた存在だ。
織子により落ち着かせられ、眠ってから、どれくらい時間が経っているか正しく認識できていない。
そして、この建物内に居るであろう織子を守りたいという思いの下、攻撃を仕掛けた。
-
しかしグレーテとしては、今この場において触角以外のものによる攻撃はできなかった。
なぜなら、織子が『全てを受け入れてくれる』と語ったこの場所を傷付けたくなかったからだ。
岩石おとしや、しっぽ爆弾、(殺し合いが始まってから一回も使ってないが)腐食液などを使えば、それにより周囲のものにも被害が及ぶ可能性がある。
かといって、今現在行っている触角による攻撃に何か効果が出ているかと言われたらそれは否定される。
触角は突如出現した謎のヒト型…康一のスタンドによって止められており、これ以上どうすることもできない。
そしてグレーテとしては、今のところは相手を殺そうと思って攻撃しているわけでもない。
相手がこの場にいることを想像できていなかったため、咄嗟のことで混乱してそのまま攻撃してしまった。
具体的にその後どうするかとかは考えていなかった。
それは触角を止められている今も同じだ。
「ギイ!ギィ!(どうしましょうどうしましょう!?)」
グレーテは新たな混乱の最中で、自分が次に取るべき行動を思い付けなかった。
「お、織子ちゃん!こっちに来て説明してくれ!織子ちゃん!」
康一は背後を振り返りながら織子の名前を呼ぶ。
この状況で誤解を解くには、グレーテが心を開いている織子に説明してもらうのが手っ取り早い。
先ほどここを発とうという話になっていたこともあり、彼女は康一のすぐ後ろにいてもおかしくないはずだった。
(何故だ!?織子ちゃんが来ない…!?まさか、宿儺が何かを…!?)
しかし、ここで織子が2人の下へ来ることはなかった。
康一の求めに対する返答も無く、ただ彼の声だけが虚しく響いた。
その理由として思いつくこととしては、宿儺が織子を引き留めて何かをやらせていることだが、それが一体どんなことなのか等については想像できない。
「ギ、ギィ…!?(えっ、オリコの名前を…!?)」
康一の発言に、グレーテの心に動揺が生じる。
流石に今は康一と初遭遇した時ほど錯乱しているわけではないため、彼が言っていることの意味を理解できる。
その口ぶりでは相手はもう既に織子と会っており、彼女を襲うようなこともなく、協力関係も取り付けられているかのようだった。
つまり、相手が実は危険な存在ではないという可能性が、グレーテの中でも生まれることとなった。
『いいえ…それこそこいつは、そう言って騙そうとしているのではないカしら?』
(そ、そうよ…まだその可能性だって…)
再び頭の中に響いてきた声により、思考の方向性が再び疑念に寄った方に戻される。
その声が自分の思考によるものではないことに、グレーテは気付かない。
(…!一瞬だけ、力が緩んだ!)
グレーテが康一に抱いている疑念が一瞬だけ揺らいだ時、触角が康一に向かって押される力が緩んだ。
そうなったのは、自分が織子の名前を出した時であることにも気付いた。
ならば、自分だけでもやりようはあるだろうと、康一は判断できた。
(そうだ…逆に考えるんだ。力ずくで無理に止めようだとか、そんな風に考える必要はないんだ)
康一はそう思考すると同時に、エコーズの手をグレーテの触角から離させた。
エコーズは続けてその場よりも上方向に行く。
グレーテの触角は、障害が失くなったことにより康一の胸の辺りに突き刺さった。
「ぐっ…」
「ギ!?」
相手が防御を止めたことにグレーテは驚かされる。
勢い余って、触角も意図せず突き刺してしまった。
『そう、それでいいの。私(あなた)はソのまま血を吸えば…』
ここぞとばかりに、グレーテの脳内に響く声は彼女に血を吸わせようとしてくる。
しかし、その声がそのまますぐにグレーテに届くことはなかった。
血も、ここで吸うことはなかった。
「『信じて!』」
誘惑の声が言い切られる前に、グレーテに別の『音』が染み込まされた。
◇◆
康一が使ったのは、エコーズACT1の能力だ。
ACT3に触角を離させた後、すぐさまACT1に変えて能力を使用した。
この使い方は、初めてこの能力を知覚した時にも行ったものだ。
『信じて』の声を『音』としてエコーズACT1の能力で相手にぶつけ、相手に繰り返し聞こえさせ、心の奥底まで届かせるための使い方だ。
しかし今においては、これだけで上手くいくとはさすがに康一も思っていなかった。
以前のこの使い方では、相手が自分と血の繋がった母親だったため、元からの信頼関係によりすぐに効果は出てくれた。
けれども今の相手はここで初めて会ったばかりで、自分のことを誤解しているままらしいため、『信じて』の訴えを染み込ませても簡単に信じてはくれないだろう。
だからここからは、もう一段階の説得が必要だ。
-
◇
「グレーテさん…あなたが僕のことをそこまで怖がっている理由は、大体だけど分かっているつもりです。前にあなたに会った時に、僕はあなたに対し『攻撃』した。」
「あなたにとってはきっと、訳の分からない常識外の攻撃だっただろう」
「でも、少なくとも僕は今、あなたのことを攻撃していない」
「あなたのことはどうとでもできはずなのに、です」
「これを信じるための根拠にするには弱いけど、少なくとも今この瞬間は、落ち着いてください」
「……僕の名前は、広瀬康一。あなたの、味方です」
◇
『騙されテはいけない!その男は化け物なのよ!』
頭の中で声は相変わらず響いている。
しかし、前よりもそれはグレーテの心に届きにくくなっている。
康一はこれを狙っていたわけではないが、染み込まされた『信じて』の音が声を打ち消していた。
それにより、グレーテは少し冷静に考えることができるようになっていた。
相手はかつて、自分に対し体の一部を重くする攻撃を行ったり、青い怪物(ブレイズ)に姿を変えたりしていた。
けれども今は、それらのようなことはしていない。
強いていうなら相手の声が自分の体の中から響き渡っている感覚はあるが、それは自分に対しダメージを与えていない。
それにもう少しよく考えてみれば、目の前の男を敵として認識するには変な点があることにも気付いてくる。
よく思い出してみれば、この康一という男は、この村に入るところまで追いかけて来たはずだ。
その時も錯乱していて記憶は混乱していたが、おそらくはこの旅館内に入った時にも自分を追っていた可能性が高い。
ならば、自分が寝ていた間にも織子に会っていただろう。
『それならきっと、手遅れなのよ。オリコはもう、こいつに殺されていルわ』
内なる声はそこからも康一に対する疑念を膨らませようとするが、これもまた打ち消されて届かない。
そもそも自分が眠った後に織子が康一に殺されたのなら、自分だって無事ですまないだろう。
そうなっていないということは、康一はさっきから本当のことを言っている可能性が高くなる。
「キ、キィ…」
グレーテは康一から触角を引き抜き、後ろに少し下がる。
まだ完全に信用できたわけではないが、康一は自分の敵ではないのではないかという思いの方が段々と強まってきていた。
それにより攻撃を止め、落ち着いて話を聞く姿勢に移行した。
「グレーテさん…ありがとう」
引き下がったグレーテの様子を見て康一は安堵する。
そして、彼女に対し今度こそ予定していた話をしようと思った、その時だった。
『ビシャアアァ』
そんな音と共に、康一の体に電気が浴びせられた。
◆◇◆
「ガッ、ハ……!?」
康一は火傷を負いながら、前のめりに倒れる。
エコーズのスタンドの像も同時に消える。
グレーテに染み込まされた音も無くなった。
康一は、電気ショックによるダメージで気を失っていた。
「……ギ?」
グレーテは今何が起きたのかを理解できなかった。
今、康一を攻撃したのはグレーテではない。
電気ショックを撃つことができるようなものも持っていないし多分使うこともできない。
また、グレーテは康一が今気絶しただけであることに気付いていない。
突雷に打たれたかのように黒焦げになったことに対し、彼女は"死"を連想してしまっていた。
グレーテは、康一が今ここで殺されたと認識した。
そして何より彼女にとって理解不能だったのは、倒れた康一の背後から現れた人物だった。
いや、そう言うよりは、自分の目に映るものを信じたくなかった。
その人物が手に持つのは、本来グレーテの支給品だった物品。
グレーテとしては、それが一体どんな道具であるかをよく確認せずに勢いで渡したもの。
自分の心を救ってくれたと思い、感謝の気持ちで渡したもの。
それが今、人への攻撃のために使われた。
「ギィ…ギイ……!??」
何よりグレーテが信じたくなかったのは、"彼女"から醸し出される気配だった。
そこに居るだけで周囲の人々を瞬く間に皆殺しにしそうな、濃厚な"殺意"と"悪意"。
見られるだけで射殺されそうな、残酷な程冷たい視線。
そんな敵意ある視線を、グレーテの恩人であるはずの人物、『織子』が向けていた。
-
「……誰の許可を得て、俺を見ている?」
口調もまた、冷酷なものに変わっている。
以前のような優しさは微塵も残っていない。
「キヒィ…!?キヒイ……!??」
グレーテの呼吸が荒くなっていく。
今目の前で起きている事柄についていけていない。
大きな動揺で、視界の焦点も合わなくなっていく。
(何故?どうして?何でそんなことを言うの?)
そう言いたくても言葉を出すことはできない。
「お前にもう用は無い。失せろ」
グレーテに対し更に冷たい言葉が投げかけられる。
かつてグレーテに対し『春の屋は全てを受け入れてくれる』などと優しい言葉をかけてくれた面影が全て嘘だったかのように。
「聞こえなかったのか…?お前に用は無いと言ったんだ!!疾くと失せよ!!この『虫』が!!!」
そいつは、織子の姿で絶対に言ってはならない暴言をグレーテに浴びせた。
これを聞いた瞬間、グレーテの中で何かが壊れた。
「ギイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィ!!!!!」
グレーテは金切り声を上げながら部屋を飛び出した。
◆◇◆◇
悪魔は狡く嘯いた 屍よ道を辿れ
◇◆◇◆
甚大なる不愉快、そんな感情が両面宿儺の中を埋め尽くしていた。
宿儺は先ほど突如として、主催陣営によって自分の中にいた関織子の人格を失わされた。
織子は完全に消滅してしまったのか、それとも封印されただけなのか、その点については分からなかった。
主催がこのような手段をとった理由はおそらく放送の通り、織子が存在することで何か不都合なことがあったからだろう。
しかしそれは、宿儺の都合には反している。
宿儺は織子に情があったわけではない。
だが自分の許可なくこのような状態にされたことが、何よりも、何よりも、腹立たしかった。
その怒りにより、こうなった理由を考察することにそこまで思考を回せなかった。
ただこの想定外のハプニングにより、宿儺の中である思いつきが一つ浮かび上がった。
それは、宿儺だけでは実現不可能なことだ。
その"思いつき"について思考を巡らせ始めていた時、先ほど別れた康一が向かった先から何やら騒ぎが起きている音が聞こえた。
宿儺は収まらない怒りを抱えながらも、そちらの方向にも意識を向けた。
少し歩いて騒ぎの起きている部屋に近づき、自分の姿が見られないよう物陰で気配を隠しながら何が起きているかを確認した。
するとそこでは、康一がグレーテに襲われていた。
宿儺としては、どうしてこんなことになっているのかについてはどうでもよかった。
けれども、彼らの間に何らかの誤解が生じていることは何となく分かった。
そして、宿儺はここで彼らがそのまま殺し合えばいいとも感じた。
現在大きな不快感・不満感を感じている宿儺としては、少しでも気分を晴らしてくれる何かを求める意識があった。
他者の不幸を見て、少しでも愉悦を感じたい気持ちも出てきていた。
けれども、彼らのいざこざはすぐに終わった。
康一が宿儺の知らない能力を使ったかと思うと、グレーテは思っていたより早くに落ち着いてしまった。
宿儺にとってこれはあまり面白くないと感じた。
だから宿儺は、八つ当たり気味に、ここで康一を攻撃した。
攻撃に使ったのは先ほどグレーテに渡されたケロボール、それにある機能の一つの電気ショックだ。
些細なことでも愉快なものを見せてくれないのであれば、自分が先ほど思いついたあることを実行することにした。
そのために康一に対し殺さず気絶するようにだけで済ませたのだが、それについての詳細は後述だ。
また、宿儺はここで自分がグレーテを殺すことができないことにも気付いた。
何気なしに少し殺意を抱いた瞬間、体が動かせなくなる感覚が一瞬あった。
織子との『織子が笑顔にした者を殺してはならない』という縛りが、まだ生きているのだ。
これも宿儺にとっては不愉快に感じた。
織子無しでは縛りなんぞ意味が無い。
それなのに縛りで行動を制限されるのは気分が良くなかった。
元は自分が言い出したことなのに、宿儺はそんな風に感じていた。
更に言えばこれは、織子の影響で生じた『宿儺が力を取り戻すには誰かを笑顔にする必要がある』というのもまだ続いていることを意味していた。
これもまた宿儺にとってはマイナスの要素だ。
宿儺だけで誰かを笑顔にするのはよっぽどの相手でないと不可能に近い。
少なくとも、ここにいる康一を笑顔にすることは完全に不可能となっただろう。
これらについてもまた色々とこれからの行動に影響が出るだろうことに苛つきを覚えた。
けれども宿儺は先に、ある思いつきを実行することを優先した。
感情ばかりに身を任せるのもそれはそれで腹が立つからだ。
グレーテは殺せなかったが、少し威圧してみればあっさりと目の前から消えた。
そして宿儺は次に、康一に近づいて彼の背中のデイパックの中を探り始めた。
-
◇◆
「ちっ…こいつの体は相応しくないな」
宿儺のある思いつき…それは自分の意識を別の身体に移すことだった。
織子の身体を、捨てることだった。
宿儺は元々、虎杖悠二の中にいた時からそんな計画を立てていた。
狙っていたのは、伏黒恵の身体だ。
伏黒が持つ潜在能力(と顔の良さ)から標的にしていた。
乗り移る方法としては、移る前の体の指に"自分"を凝集し、それをちぎり取って無理矢理飲ませるというものだ。
それができるようにするために、宿儺は虎杖と縛り(契約)を結んで『1分間誰も傷つけない』代わりにいつでも虎杖の身体の主導権を握れるようにしていた。
その『誰も』の中には虎杖が含まれない=自身の指を千切ることはできるだろうため、宿儺はこの縛りを設けた。
これをすぐにやらなかったのは、伏黒の肉体には耐性もあり、伏黒の心が折れる必要があるため、その時が来るのを待っていた。
閑話休題。
この殺し合いが始まって、宿儺は今まではこの織子の肉体から出ることは考えていなかった。
多少なりとも呪力を扱えることと、そもそもこの舞台に伏黒の肉体が存在しないことが主な理由だ。
別の身体に乗り移った結果、もし呪力を扱うことができなくなったら本末転倒だ。
そして伏黒もそうだが、組み合わせ名簿の確認によりこの舞台に自分の知る呪術師などの肉体が存在しないことも知れている。
けれども今回、主催から勝手な干渉を受けたこと、その後も自分の力を使うための条件が変わってなく結果より不便になったと感じること、
これらのことから今後も織子の肉体にいても自分が最後まで目的を達成できる可能性は低いと判断した。
そして、新たに別の乗り移ろうと思った。
最終的には伏黒恵を選ぶとしても、織子よりマシな身体を一時的に手に入れようと考えた。
そのための第一段階として、目の前の康一のものを調べた。
気を失っているのをいいことに、デイパックの中を勝手に漁り、プロフィールを取り出し、彼の肉体が自分に適しているかどうかを確かめた。
しかし結論としては、今の康一の肉体…エレン・イェーガーの身体には入るべきではないと宿儺は判断した。
エレンの肉体には大きな利点は一応ある。
巨人化能力という、とても強力な能力だ。
しかしこの能力は、暴走する危険性がある。
初めて使う時が最もその可能性が高いもよう。
それにプロフィールを読んだ感じでは、どうも意図的に情報が隠されている部分があるような気がする。
能力は強力であるが元からあるリスクと、何かきな臭いものを感じたことから、宿儺はこの身体に乗り移るのは選択肢から外した。
そもそもの話として、今の状態で自分の意識だけを別の身体に移すことが可能なのか、もしくはそれを主催側が見逃すかどうかもまだ怪しいところだ。
やるにしても、もう少し慎重にすべきだろう。
それからもう一つ、このプロフィールを読んだことで宿儺に新たに一つ別の思い付きが生じた。
これは今の自分が不可能なことを、実現可能にすることだ。
それを行うために、宿儺はケロボールを持ったまま、倒れた康一の耳元の方へと顔を近付けた。
◇
『全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て潰せ全て…』
広瀬康一の脳内に声が響き渡る。
その内容は、普段の彼からしてみれば相手にすることは無いだろうものだ。
どれだけ何度もこんなこと言われても、はい分かりましたと実行に移すなんてありえない。
何ふざけたことを言っているんだと、そう切って捨てて終わるはずのものだ。
しかし、康一はここでそんな風に考えることができなかった。
それどころか、思考することが全くできなくなっていた。
何もかもをだ。
まるで脳が溶かされていくような感覚があった。
ただただ声だけが彼の中に染み込んでいった。
これは、気絶していたからという訳ではない。
明確な原因が存在する。
それが何なのかに気付けることもない。
そして、康一に聞こえたのは、上記の言葉だけではない。
聞こえただけではない、視覚的な情報に感じられるものもあった。
-
――壁の向こうには…海があって、海の向こうには自由がある。ずっとそう信じてた…
――…でも違った。海の向こうにいるのは敵だ。何もかも親父の記憶で見たものと同じなんだ…
――…なぁ?向こうにいる敵…全部殺せば…オレ達、自由になれるのか?
見えた光景は、海だった。
自分は海の浅瀬に立っているようだった。
そこには自分以外にも、金髪の少年と黒髪の少女がいる姿が見えた。
彼らの名前はそれぞれ、アルミンとミカサだと、何故か分かる気がした。
自分は、その海の向こうを指さしているようだった。
そこで、上記の台詞を自分が話しているように感じた。
その台詞の物騒さに、停止された思考では気づかない。
――壁の外で人類が生きてると知って…オレはガッカリした
――オレは…望んでたんだ…すべて消し去ってしまいたかった…
場面が切り替わる。
上記のような台詞を、また新たな見知らぬ少年に向かって喋っている気がした。
…同時に、自分はこの台詞を"まだ"喋ってはいないように感じた。
その違和感について疑問を持つ事も何故かできない。
その他にも、康一の脳内に様々な光景が思い浮かぶ。
エルディア人がどうのこうの、世界が何とかかんとか、その内容は理解できない。
しかしそれらに共通しているのは、そんな光景を見るたびに、憎悪の感情が煽られる気がすることだ。
そんな感情は存在しなかったはずなのに。
しかしながら確実に、負の感情が康一の中で増大し始めていた。
本人に心当たりの全くない、そもそも自覚もしないまま、思考もできないままにそんな感情が溜め込まれていった。
それらはやがて、全てを終わらせる"魔王"を誕生させる。
◆
"Gott ist tot"
◆
(何で?何で?何で?何で何で何で!何で何で何で何で何デ何で何でどうしてどうしてやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ何で何で何で何で何で…何で!!)
混乱と恐怖、それらにより生じる絶望、グレーテの中はそのような大きな負の感情で満たされていた。
『やっパりそうだった。あの娘は、あのボールを手に入れるために私に近ヅいたのよ』
関織子は自分を裏切った…そうとしか、考えることができなくなった。
『全てを受け入れると言っていたのも嘘。結局、私のこトを全く見ていなかった』
『だから彼女は、私のことを"虫"と呼んだの何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で)
内なる声の意見は前と違っていて一定していない。
しかし、そのことにグレーテが気付ける精神的余裕もない。
『人間は信用デきない。どれだけ味方になってくれると言われても、結局は利用されるだけされて最後には裏切られいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!)
(私が愚かだったのそんなのどうして、どうして!どうして、どうして、こんなところで他人のために動いてくれる人がいると思ったのだロう』
(違う!違う!違う!違う!コウイチも私に優しくしようとしていた!そしテ私のせいで殺さ『れた)それも同じよ。きっと彼も私を騙ソうとしていた。最(後には裏切られ』アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!)
彼女の思考は文章としての体を形成できなくなっていく。
自分が今何を考えているのか認識できなくなっていく。
織子に裏切られたという絶望が、彼女の中から他の人間たちに対する信頼も奪おうとしてくる。
一度希望を抱いてしまったからこそ、より深い絶望の中に彼女は叩き落されていた。
「……ギイ、ギイ、ギイ、ギギギギイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィーーー!!!ギャアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァーーーーーーーー!!!」
グレーテはもはや正常な思考を失い、感情に任せて前が見えないまま春の屋の中を駆け抜けた。
やがて彼女は、春の屋の玄関にまでたどり着き、そのまま扉を破って外に飛び出た。
「ギュイイイイィィ〜〜〜〜ッ!!」
「うわあっ!?」
そして話は、最初に戻る。
◇◆◆
「ギュ、ギュイッ!?」
「痛た…」
アルフォンスに遭遇したグレーテは、一度動きを止めた。
彼女の思考回路はやはり、その時もまともに働かなかった。
「えっと…君は、もしかして…」
「ギッ…ギッ…!ギュイ…ギュイ!ギィー…!」
アルフォンスが話しかけた時、グレーテにその言葉は全く届いていなかった。
「よっと…えっと…落ち着いて聞いてほしい。僕は、君の敵じゃない」
「僕は殺し合いに乗っていないし、見た目で判断するつもりもない。まずは、落ち着いて君のことを教えてほしい。喋れないんだったら、無理しなくてもいい。とにかく、まずは落ち着いてほしいんだ」
-
「フシュー…フシュー…フシュー…フシュー…!フィー!フィー!」
『話を聞いてはいけない。この男もきっと、私を騙そうとしてアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!)
もはや狂ってしまっている思考で、ただ感情のまま体を震わすことしかできない。
「…僕のことが信用できないんだったら今はそれでもいい。僕はここから離れてもいいから、とりあえず落ち着いて…」
「ビュイッ!!」
「いっ…!」
手を伸ばされれば、反射的に攻撃をしてしまう。
まともな判断なんか全くできなくなっている。
「フッ…フウッ…フウッ…キュウアッ…!キュアアアッ!!ギアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
『チだ!血よ!血があるわ!ノまなきゃ血が違う違(ウ私は人間私は人間私は人『間今更何言ってるのは私は虫違う人間虫人間虫虫虫虫虫虫虫虫虫人間』(人』間人間人人虫虫毒虫毒虫虫虫虫虫毒人)人人人人人人虫虫害虫害虫(害虫虫『虫虫血害虫血血』血血血血血血血血血血血血血血虫!虫『虫(毒虫人嫌嫌嫌嫌!嫌嫌飲まなきゃ飲ま飲飲』嫌毒虫嫌『嫌敵『敵嫌嫌嫌)嫌嫌嫌嫌嫌嫌(オリコ何で何で何で助け何でオリ)コ助けて怖いオリコなンで裏切リどうして怖いオリコ何』でコウイチごめんなさ違うアいツ』も敵私のせいコウイチ死私のせい違う敵コイつも敵敵敵違違敵『う違う敵(兄さん助けて違う私が殺シ私のせ『いで見殺し私のセいで私のせイ死シ死兄さん死)死死あの人もあのヒトもあああああああごめんなさいごめんなさいごめ私死死死んなさいごめ)んなさごめんなさいごめんなさい私をミつケてごめんなさいごめんなさいごめんなさい死死死いごめンな死』さいあああああああああああああああああああああ!!』アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!)
自分の思考と内なる声の境目が無くなっていく。
自分が何をしたいのかも分からなくなっていく。
目の前にいる相手のことも見えていない。
グレーテは、完全に発狂してしまっていた。
そして彼女は、ここから正気を取り戻すことはもはや無い。
これから、そのための機会を奪われるからだ。
『ア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
背後の建物を突き破って現れた、その強大な"災害"によって。
◆◆◆◇
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
先述した通り、巨人が現れた際の衝撃でグレーテとアルフォンスは吹き飛ばされた。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!』
巨人が地に向かって撃ち抜いた拳は更なる衝撃波を産む。
地面を叩いた拳を中心として、多数の瓦礫が舞い上がる。
「ぐああああああああああっ!?」
衝撃波により、アルフォンスもまた宙を舞って春の屋から離されるように飛ばされる。
「ぐっ…アマゾン!!」
空中から落下しながらも、アルフォンスは元から意識していたように懐からアマゾンズインジェクターを取り出し、腰のネオアマゾンズドライバーにセットする。
『NEO』
そしてインジェクター内の薬品を流し込み、着地と同時にアマゾンネオへの変身を完了させた。
(さっきの人は!?)
アマゾンネオへと変貌したアルフォンスは、すぐに体勢を整えて前方にいたはずの怪虫の状況を確認しようとする。
「あっ…!?」
それを目にして、アルフォンスは否が応でも気づかされることになる。
もはや、"手遅れ"であったことを。
「ギ…キ……」
アルフォンスが状況確認できるようになった時、虫…グレーテは、飛び散った建物の瓦礫の下敷きになっていた。
息はまだかろうじてあるようで、瓦礫の隙間から伸ばし出された手足が動いているのが見える。
スカラベキングとしてたまたま頑丈な個体であったためか、命の灯火はまだ消えていないようだった。
けれども、声もか細くなっており、とても弱っている様子だった。
『Claw Loading』
アルフォンスは咄嗟にインジェクターを二回押し、薬液の追加注入により自身の腕にワイヤーのようなロープ付きのフックであるアマゾンネオクローを出現させる。
そしてそれを、瓦礫の下のグレーテに向けて、隙間目掛けて投げ伸ばした。
しかし、この行動も無為に終わる。
アルフォンスがクローを伸ばすと同時に、巨人も動き出した。
走り出すために最初の一歩で右足を前に出す、ただそれだけだ。
その足が向かう先は、グレーテのいる場所だ。
-
「ピギュッ」
『プチッ』
クローがグレーテの所に届くと同時に、大質量の巨大な足がそこに落ちてきた。
そこから、何かが潰れる音がした。
何が潰れたのか、アルフォンスは否が応でも理解させられる。
そこにあった命が、失われたことも。
巨人は、そこにグレーテがいたことに気付いていたわけではない。
その場所を踏み込んでしまったのは、たまたまだ。
通常サイズの人間も、足下にいる普通の虫に気付けないことはある。
そしてそんな人間は、そのままその虫を踏みつけ殺してしまうこともある。
それもまた、意識せずに気付かぬ間に。
それと同じように、グレーテは踏み潰された。
衝撃波に吹き飛ばされた後、正気を取り戻せず狂ってしまった頭のまま、自分の今の状態も認識できないままに。
心の準備もできないまま、今のようになってしまった理由を省みることもできないまま。
その命は、道端にいるようなただの小さな虫のように、あっという間に潰された。
どうしてこんなことになってしまったのか、その理由に気付くことなく、彼女の意識はここから消失した。
その答えは、きっと単純に一つだけにはならないだろう。
強いて言うとするならば、彼女は織子を…否、宿儺を信用してしまった時点で詰んでいた。
真実を見抜けというのも酷な話ではあろう。
けれどもどちらにせよ、例え主催陣営の宿儺への介入が無かったとしてもこのような結末はきっと避けられなかっただろう。
せめてアルフォンスがメタモンや絵美理に足止めされなかったら話は変わっていたかもだが、今更それを言うのも後の祭りだ。
グレーテがここにいた証は、平たく潰れて地面にへばりつかされた。
女/虫は、自分のことを呪いながら死んだ。
この話は、それでもう終わりだ。
【グレーテ・ザムザ@変身(身体:スカラベキング@ドラゴンクエストシリーズ) 死亡】
-
◆◆◇
(そんな…!)
巨大な足がグレーテを潰す瞬間を、アルフォンスは目撃した。
しかし、救えなかったことに対し悲しんだり後悔したりする暇はなかった。
そのことはアルフォンスも分かっていた。
巨人が次の標的にしているのは、自分であろうことを。
何だったら、巨人が最初から見ていたのはアルフォンスの方で、グレーテはそれに巻き込まれる形で潰された。
アルフォンス自身はそのことに気付いていない。
気付ける余裕もない。
とにかくすぐに、巨人の次の攻撃を避けなければならなかった。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!』
巨人は拳を再度構えながら前に一歩踏み出した。
グレーテが巻き込まれて踏み潰されたのもこの時だ。
これは先ほどのやみくもに地面を殴った時の攻撃とは違う。
明確に、下にいるアルフォンスのことを狙っていた。
「くっ!」
拳が振り下ろされる直前、アルフォンスは横に向かって跳んだ。
結果として、アルフォンスは巨人の攻撃を避けられた。
『■■■■■ア゛ア゛アア■■■■■■アア゛ア■■■■!!!』
アルフォンスに避けられた巨人は、勢いのまま前方に転倒した。
瓦礫(とグレーテ)を踏んづけたことでバランスを崩したこともあったのだろう。
春の屋の向かいにあった建物も、それにより破壊される。
グレーテを踏んでいた足も、そこから離されることになる。
アルフォンスはそこから、そこで一緒に潰されていたクローを引き戻す。
「…あっ!?」
そこでアルフォンスは気付くことになる。
今自分が引き戻したクローの先端に、引っかかっているものがあることを。
それは、潰されたグレーテのスカラベキングとしての身体の頭部分だった。
一緒に潰された際に、クローがスカラベキングの頭の外皮にめり込み、引っかかったのだ。
その怪虫としての頭部分には、グレーテの首輪も付いたままだった。
グレーテの首輪のついた頭部は、引き戻した際の勢いのままアルフォンスの手元へと落ちて来た。
「…ごめん!!」
頭をキャッチしたアルフォンスは、すぐにそれをどうするべきか判断した。
アルフォンスは首輪を外し、残った頭部を投げるように横に置いた。
頭が体から引き離されていたため、首輪はすぐに外せる状態だった。
アルフォンスがその行動をしている間に、巨人は起き上がろうとしていた。
外観が虫とはいえ、先ほどまで人の命があったものをぞんざいに扱うことには悪いという気持ちはある。
しかし、今後のことを思えば首輪のサンプルは必要で、巨人もすぐに起き上がりそうであったためこのような行動に出ざるを得なかった。
首輪を回収したアルフォンスは、巨人がいる方に向き直る。
『オオオオオオオオオオオアアアアアアア■■■■■■■■■■■!!!』
巨人は片膝をつきながら、今にも立ち上がりそうだった。
そしてその目は、アルフォンスの方へと向けられていた。
アルフォンスは考える、この巨人と戦って勝てるかどうかを。
答えはすぐに出る、それは難しいと。
巨人の正体については、一応予測はついている。
それは、神楽の話していた広瀬康一であろうことを。
神楽との情報交換の際に、確か康一の身体には巨人への変身能力があることを聞いた覚えがある気がする。
そしてその力は、暴走の可能性を伴う危険なものであったとも聞いたような気がする。
そのため、康一としてはむやみにその力を使うつもりがないとも。
だが今の康一は、明らかに巨人の力に飲まれて暴走しているようだった。
それにより、康一は自分の意思とは裏腹に1人の命を奪ってしまった。
そのことについてもアルフォンスは悲しみと悔しさを感じる。
先ほどの春の屋の中で一体何があったのかをアルフォンスは知らない。
そのことや時間が無いこともあり、今こんな状況になってしまった理由について考察することはできない。
そしてそもそもの話として、体の大きさが違いすぎる。
巨人の大きさは目測でおよそ10数メートル程だろうか。
そんな文字通り桁違いの相手に対し、最適な対処法なんてすぐには思いつかない。
「…くっ!」
だからアルフォンスは、逃げた。
だがそれは、諦めたという訳ではない。
(考えろ、考えろ!康一さんを、何とかする方法を!)
アルフォンスは、ここは逃げながら対処法を考えると判断した。
どれだけここで起きたことが悲しいと感じていても、そんな感傷に浸るのはまた後だ。
そうするしか、なかった。
-
『ア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアアア!!!』
自身に背を向けて走り出したアルフォンスに対し、巨人は立ち上がって雄叫びを上げながら追い始めた。
そこに明確な意思は存在しない、ただ衝動に任されていた。
これはもはや、弱点を突かれるか、彼自身の体力の限界が来ないと止まることはないだろう。
少年は自由を奪われ、破壊の権化と化していた。
――――駆逐してやる この世から 一匹残らず
◆
進撃の巨人が去り、瓦礫の山と化した春の屋から、その下から瓦礫をどかしながら這い出てくる小さな影があった。
シルバーの装甲に身を包んだそれは、仮面ライダーカブト・マスクドフォームだ。
カブトが腰のベルトからカブトゼクターを外すと、それに変身していた宿儺が姿を現す。
宿儺は顔の向きを変え、遠くの自分のいる場所から離れていく巨人の背を見つめた。
広瀬康一を巨人化させ、同時に暴走させたのは宿儺だ。
そのための道具として、ケロボールを使用した。
ケロボールには洗脳電波を発する機能が存在する。
それを使いながら、康一の耳元に向かって「全て潰せ」という旨の内容の言霊を囁き、暴走するように仕向けた。
なお、憎悪を煽るような内容の囁きはしていないし、宿儺は康一の中にそんな感情が生まれていることに気付いていない。
宿儺が今回このような行動に出た理由、それはグレーテの排除ができる可能性を少し期待してのことだ。
これまではグレーテを縛りのこともありとりあえず生かしておくことにしていたが、今はもうそんな気は失せている。
さらに言えば、一時は織子との対話で主催意外の殺害は状況によるとしていたが、今は最初の頃の方針と同じく主催・参加者の区別なく全員鏖殺しようと考えている。
織子がいなくなったから縛りの意味が無いということもあるが、やはり不快な感情が大きいということもある。
だから、今回の行動はほとんど八つ当たりのようなものだ。
"康一が暴走し、結果的に自分が殺せないグレーテを殺すことになる"そんな状況を宿儺は作ろうとした。
そのために宿儺は、織子との縛りの"穴"を突いた。
織子との縛りの内容はあくまで"自分の手で"殺さないというものだ。
他者が誰かを殺すよう誘導することまでは、縛りの範囲に入らなかった。
そのため、宿儺は康一に対し洗脳電波を使用することができた。
カブト・マスクドフォームに変身していたのは、巨人の変身によって発生する衝撃波とそれから予測される春の屋の倒壊などから身を守るためだ。
もう一つ言えば、そもそも康一に対し囁いた内容が特定のターゲットを定めないものであるため、下手したら自分が狙われる可能性もあった。
そんな内容で囁いた理由としては、ただ単純に面倒くさかっただけだ。
色々と不快な気持ちになっている宿儺としては、康一の巨人は暴走して他参加者を無差別に襲えばいいと思った。
そのための洗脳の際に自分を排除するための言葉選びをするのが面倒くさいと感じた。
それにプロフィールを読んだことで巨人の"弱点"も把握したため、今の自分の装備で対処は可能だとも判断した。
そのもしもの時の対処をしやすくするためにも、あらかじめ変身しておいた。
結果的には、その対処をすることはなかった。
もしやることになったらまあどちらにせよ面倒くさいことだっただろう。
宿儺は康一の巨人が村から去っていくのを見送ると、春の屋跡の周囲を調べ始める。
「ふん…こうなるか」
やがて宿儺は、グレーテの死骸を発見することになる。
その死骸は、頭部分だけだった。
そうなっている理由は、先ほどの巨人が暴れたことにより他のパーツは近くの別の場所に吹っ飛んで行ったのだろうと推測した。
グレーテについていたであろう首輪も、きっと同じようなことになったのだろうと思った。
「…む?」
グレーテの死骸を確認した後、辺りを再び見回してみると、宿儺はあることに気付く。
それは、近くの道の端の方に、最初にそこを通った時には無かったはずの『公衆電話』があったことだ。
妙に思ってその公衆電話に近づいて見ると、その近くには看板が立てられており、そこにはこう書かれていた。
公衆電話:
『会場内の出入り口をそれぞれ一か所に設置されており、電話をかけると出口のほうへと転移できます。ただし、最初に使った人が転移すると十分の間だけそのままの位置で利用可能であるが、それを過ぎると出入り口の公衆電話は会場内のいずれかにそれぞれ転移され、六時間の間は利用できなくなります。再稼働後は再び利用できます。』
「ふむ…なるほどな…」
宿儺はこの公衆電話を使用するかどうか思案する。
この公衆電話が前には無かった場所に現れたのは、別の場所で誰かが使ったからだろう。
-
宿儺は今、多大なストレスを抱えている。
それにより、一旦状況をリセットしたいという気分も出始めて来た。
もしかしたら、この公衆電話を使うことで、自分の新たな肉体に相応しい誰かの近くに転移することができるかもしれない。
そんな可能性も思い浮かんだ。
しかし、それは確実だとは言えない。
むしろ、余計に自分にとって状況が悪化する可能性だってある。
そもそも、おそらく主催陣営が用意したであろうものを使うというのにもどこか嫌な気持ちがある。
(……いや、ここはあえて乗ってやろうか?だが、その前に…)
けれども宿儺は、この公衆電話を使う方向に舵を切っていた。
理由としてはやはり、色々と自分にとって不愉快なことが起きたので、新たな場所から出発して気分と流れを変えたいという気持ちが出てきたからだ。
しかしその前に、宿儺は探したいと考えているものがあった。
それは、グレーテの首輪だ。
最終的に首輪を外すことを考えている以上、サンプルは多ければ多いほど良い。
そのためにも、可能な分だけ回収するべきだ。
いくら巨人の攻撃で吹っ飛んで行ったとしても、そこまで遠くには行っていないだろう。
しかし、それでもやはり見つからないという可能性も無くはない。
場合によっては、瓦礫などの当たり所が悪くて首輪に衝撃が加わり、中の爆薬が爆発してしまっていることも考えられるだろう。
そのため、あまり積極的には探さない。
見つからないようであれば、諦めて先に公衆電話の方に行く。
宿儺はそう決めて、雨に体を濡らしながら周囲の探索を開始した。
春の屋の惨状については、全く気に留めることはなかった。
そこにはもう、織子に対して意識する気持ちは残っていなかった。
天上天下唯我独尊(この世に自分以外に尊いものは無い)、そんな呪いの王が人間の都合に合わせてくれるなど、そんなことは初めからなかった。
◇◆◆
最後にもう少しだけ、話しておきたいことがある。
宿儺が、まだカブトに変身できたことについてだ。
宿儺がカブトに変身できていたのは、織子の要素がまだ残っていたからだ。
織子との縛りがまだ生きているからこそ、まだゼクターを使用することができたのだろう。
しかしそれは、織子の要素が無くなれば不可能になることを意味する。
宿儺が考えている新たな肉体への乗り移り、これに成功すれば宿儺はもうカブトに変身できなくなる可能性が高い。
一先ず今は、この仮説を立ててこの話を終わりとする。
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【C-5 村と草原の境界付近/午後】
【アルフォンス・エルリック@鋼の錬金術師】
[身体]:千翼@仮面ライダーアマゾンズ
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、空腹感、自分自身への不安、アマゾンネオに変身中、目の前で死者が出て助けられなかったことに対する悲しみ
[装備]:ネオアマゾンズレジスター@仮面ライダーアマゾンズ、ネオアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1、グレーテ・ザムザの首輪
[思考・状況]基本方針:元の体には戻りたいが、殺し合うつもりはない。
1:逃げながら推定康一さんが変貌した巨人を止める方法を考える
2:また、助けられなかった…
3:遠坂さんに頼まれた地図上の施設を巡る。空腹には十分気を付けないと。
4:ミーティ(無惨)に入った精神の持ち主と、元々のミーティを元の身体に戻してあげたい。精神が殺し合いに乗っている可能性も考慮し、一応警戒しておく。
5:殺し合いに乗っていない人がいたら協力したい。
6:バリーは多分大丈夫だろうけど、警戒はしておく。
7:もしこの空腹に耐えられなくなったら…
8:千翼はやっぱりアマゾンなの…?
9:一応ミーティの肉体も調べたいけど、少し待った方がいいかも。
10:機械に強い人を探す。
[備考]
※参戦時期は少なくともジェルソ、ザンパノ(体をキメラにされた軍人さん)が仲間になって以降です。
※ミーティを合成獣だと思っています。
※千翼はアマゾンではないのかとほぼ確信を抱いています。
※支給された身体の持ち主のプロフィールにはアマゾンの詳しい生態、千翼の正体に関する情報は書かれていません。
※千翼同様、通常の食事を取ろうとすると激しい拒否感が現れるようです。
※無惨の名を「産屋敷耀哉」と思っています。
※首輪に錬金術を使おうとすると無効化されるようです。
※ダグバの放送を聞き取りました。(遠坂経由で)
※Fate/stay nightの世界観および聖杯戦争について知りました。
※千翼の記憶を断片的に見ました。
※アマゾンネオ及びオリジナル態に変身しました。
※久しぶりの生身の肉体の為、痛みや疲れが普通よりも大きく感じられるようです。
※どの方角に向かって逃げているかは後続の書き手にお任せします。
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【広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:エレン・イェーガー@進撃の巨人
[状態]:吉良吉影の死に対する複雑な感情、背中に複数の打撲痕及びそれによる痛み(おそらくもう引いている)、両面宿儺に対する戦慄、巨人化・暴走中、ケロボールの洗脳電波により洗脳中、謎の憎悪
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、タケコプター@ドラえもん、精神と身体の組み合わせ名簿@チェンジロワ
[思考・状況]基本方針:こんな殺し合い認めない
1:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!
2:両面宿儺を強く警戒。でも下手に逆らって織子ちゃんに危害を加えられたら…
3:神楽さん……無事を祈っています。
4:まさか吉良吉影が死ぬなんて…しかも女の子の身体で…
5:仮面ライダーの力が無くなった分も、スタンドの力で戦う
6:いざとなったら巨人化する必要があるかもしれない。
7:メタモンにまた会ったら絶対に倒さなくては!
8:メタモンが僕らの味方に化けて近づいてくる可能性も考えておかなきゃ
9:皆とどうか無事に合流出来ますように…そして承太郎さん、早く貴方とも合流したいです!
10:DIOも警戒しなくちゃいけない…ジョースター家の人間の肉体を使ってるなんて
11:この身体凄く動きやすいです…!背も高いし!
12:仗助君の身体を使ってる犬飼ミチルちゃん…良い人だと良いんだけど…
13:吉良吉影を殺せるほどの力を持つ者に警戒
14:ミカサ…アルミン…誰の名前だろう…
15:エルディア人…巨人…世界…敵…
[備考]
※時系列は第4部完結後です。故にスタンドエコーズはAct1、2、3、全て自由に切り替え出来ます。
※巨人化は現在制御は出来ません。参加者に進撃の巨人に関する人物も身体もない以上制御する方法は分かりません。ただしもし精神力が高まったら…?その代わり制御したら3分しか変化していられません。そう首輪に仕込まれている。
※戦力の都合で超硬質ブレード@進撃の巨人は開司に譲りました
※仮面ライダーブレイズへの変身資格は神楽に譲りました。
※放送の内容は後半部分をほとんど聞き逃しています。具体的には組み合わせ名簿の入手条件についての話から先を聞き逃しています。
※元の身体の精神である関織子が活動をできることを知りましたが、現在はその状態にないことを知りません。
※アナザーウィッチカブトは宿儺に無理やり奪われました。
※現在巨人化能力を制御できずに暴走中です。体力の限界が来れば止まる可能性はあるものとします。それが具体的にいつ頃になるかは後続の書き手にお任せします。
※ケロボールによる洗脳も、時間経過により解ける可能性はあるものとします。具体的に何時解けるかは後続の書き手にお任せします。
※エレンの肉体の参戦時期は、初めて海にたどり着いた頃のものとします。
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【C-5 村 春の屋跡付近/午後】
【両面宿儺 @呪術廻戦】
[身体]:関織子@若おかみは小学生(映画版)
[状態]:満腹、ボンドルド含む主催陣営への怒り(特大)
[装備]:カブトゼクター&ライダーベルト@仮面ライダーカブト、特級呪具『天逆鉾』@呪術廻戦
[道具]:基本支給品x3(メタモンx2)、魔法の箒@東方project、桃白白@ドラゴンボール(身体:リンク@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド)の死体、ケロボール@ケロロ軍曹、精神と身体の組み合わせ名簿@チェンジロワ、撮ったものが消えるカメラ(残り使用回数:1回)@なんか小さくてかわいいやつ、魔神の斧@ドラゴンクエストシリーズ、エレン・イェーガーのプロフィール
[思考・状況]基本方針:主催もろとも全員、塵殺
1:織子の肉体を捨て、別の肉体に乗り移ることを検討する。
2:首輪を探し終わったら、公衆電話を使ってどこかに飛ぶ。見つからなくてもそうする。
3:JUDOと次出会ったら力が戻った・戻ってないどちらにせよ殺し合う
4:脹相……あの下奴か。どうでもいい
5:下奴(康一)はどうでもいい。あやつの肉体はどうもきな臭い。勝手にどこへでも行って暴れて最後にくたばればいい。
6:コイツ(天逆鉾)の未確認の効果を試してみたい。(首輪など)
7:(もはや"めんど"の域を超えている)
[備考]
※渋谷事変終了直後から参戦です。
※能力が大幅に制限されているのと、疲労が激しくなります。
※参加者の笑顔に繋がる行動をとると、能力の制限が解除していきます。
※脹相がいるのを知りましたが、特に関心はありません。
※関織子の精神を下手に封じ込めると呪力が使えなくなるかもしれないと推察しています。
※関織子の精神が消失しました。呪力の現状と解放条件は消失前から引き継がれるものとします。
※デイパックに桃白白@ドラゴンボール(身体:リンク@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド)の死体が詰められています。
※天逆鉾の効果で仮面ライダーへの変身ツールに故障を与えられることを確認できました。
※参加者の肉体に呪霊やそれに類する存在がいる可能性を考えています。またその場合、首輪に肉体の力を弱める術式が編まれていると推測しています。
※C-5の村にアルフォンスがいたことには気づいていません。
※「春の屋@若おかみは小学生(映画版)」は倒壊しました。
※現在宿儺が所持している「撮ったものが消えるカメラ(残り使用回数:1回)@なんか小さくてかわいいやつ」は、(※この時点ではギニューが所持している)別の場所にある「杖@なんか小さくてかわいいやつ」が破壊されれば、消滅するものとします。
※C-5の村内に「公衆電話@キラキラ☆プリキュアアラモード」があります。この公衆電話は、G-3の地下通路②近くの公衆電話に繋がっています。
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投下終了です。
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仮投下スレに投下しましたので、確認をお願い致します
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許可を頂けたのでこちらに投下します
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うん?急にどうした?
人を殺して罪悪感は無いのかって?
随分といきなりな質問だなぁおい。
そういう突っ込んだ話はもっと親交を深めてからのが普通じゃねぇのか?
ああ分かった分かった、答えてやるからそんな怒るなよ。
お前らは鼻をかんで使い終わったティッシュに愛着を持つか?
用が済んだらゴミ箱に捨てるだろ?
そういうこった。
まだ聞きたいことがあるのかよ?
俺も暇じゃ無いんだがねぇ…。
ああ、はいはい。
答えてやるからそう怒鳴るなって。
ったく、そんな掴んだらシャツが皺になっちまうだろ。
皆を騙して何も感じないのか?
おいおい俺だってそこまで冷血漢じゃあねぇぞ?
嘘ついたのは本当でも、たまに感動してウルッとしたり?騙して悪いなぁなんて思ったりもしたよ。
どうせそれも嘘だろだぁ?
やれやれ、お前さんも中々酷いこと言うねぇ。
ま、その通りなんだけどな。
-
◆
振り返ると、これまで歩いて来た道が私の足元まで続いているのが見える。
凸凹で転びそうな所もあれば、舗装されてすいすい行ける所だってある。
ずうっと遠くの方に見えるのは子供の頃の自分。
色んな事をしたいと未知への好奇心に溢れていた、何にでもなれると無邪気に信じた私。
絵本に登場するヒロインにだってなれる、そんな風に笑っていた私。
でも純真無垢なままでは先に進めない。
成長していくと同時に、憧れ幾つも忘れていった。
前へ進むにつれて、沢山の夢を諦めた。
大人になるというのは現実を知るということ。
私もその例に漏れず、仕方ないと言い訳を重ねて自分を無理矢理納得させる。
良く言えば物事を現実的に考えられる、悪く言えば冷めてつまらない。
そういう大人の道に足を踏み入れていた。
だから、あの日起こったのは私にとって運命だったんだと思う。
あの時間にあの場所を歩いていなければ。
あの人を見つけていなかったら。
袖のボタンを直してあげようと思わなかったら。
きっと私は今も、何かが欠けている道を歩き続けていたのだろう。
前を見ると、遥か向こうまで続く道があった。
どこまで続いているのかは分からない。
進んで行けばきっと多くの難題が立ち塞がり、泣きたくなるような辛い目に遭ってしまう。
そんな予感がする程に、長い道。
ああだけど、辛くて苦しいだけでないとも分かる。
彼が私の手を引いて、新しい世界へと連れ出してくれたから。
好きな事をただ全力でやるのは間違っていないと、彼が教えてくれたから。
満天の星空のように輝く舞台からの景色を、大好きな人達と一緒に見れたから。
心の底からアイドルが楽しいって言える。
だからこの先も、もっと楽しい未来が待っていると信じられる。
-
忘れていた好奇心と、ちょっぴりの不安に背中を押され一歩踏み出し、
空に大きな穴が開いた。
飲み込まれていく。
私が歩いて来た過去も、歩く筈だった未来も。
創るのは途方も無い時間と努力が必要だけど、壊すのはあっという間。
いつかの夢が消える。
いつかの諦めが消える。
いずれ来る苦労が消える。
いずれ来る幸福が消える。
私という人間を創り上げた道が無くなって、私という人間を創り上げる道が無くなっていく。
引き返す道も進む道も失って、残されたのは今に留まるだけの心許ない足場だけ。
底なんて見えない穴の真ん中にポツンと佇むしか出来ない。
そんな私を、赤い大蛇が鎌首を擡げ見下ろしていた。
-
◆
雨を憂鬱に感じたのは久しぶりかもしれない。
屋根を叩き地面で弾ける雨粒の音に、千雪はふとそんな風に思った。
鉛色のどんよりした雲に覆われた空は見ているだけで気が滅入る。
お気に入りの服が濡れて重みを増し喜ぶような趣味は持ち合わせていない。
雨の日が好きか嫌いかと聞かれたら、大声で後者を叫んだりはしないけれど。
歓迎できる日で無いと言うのは本当のこと。
だけど雨と聞いて思い出すのは、ここ最近の胸が弾む思い出ばかり。
二人きりの事務所で、雑誌のアンケートに何を書くか悩んだ時。
彼との会話の中で新しい自分を見付けられた。
偶然見つけた、何かを大事そうに抱えながら走っていた彼。
それが自分へのホワイトデーのお返しと知った時の喜び。
雨宿りの場所で選んだ観覧車の中。
滴る水すら彩りの一つに変えた夜景を、彼とふたり占めした高揚感。
急な土砂降りに見舞われたとある日。
猫と犬のようにはしゃぎながら、事務所まで駆け出した光景だって忘れてはいない。
あれだけ憂鬱な雨の日でさえ、今はこんなにも楽しいと感じられる。
アイドルの世界へ飛び込んだのは、決して間違いなんかじゃないと胸を張って言える。
なのにこの場所ではどうだ。
悪意に溢れた者達が平然と人の命を奪い取る。
自分よりも年下の少年少女が惨たらしく殺される様をむざむざと見せつけられた。
まるで今の自身の心情をこれ以上ないくらいに表す、そんな空模様。
殺し殺されなんて世界、ニュース番組やフィクションの世界でしか知らなかった千雪でも分かる。
天候が悪化するのと同じように、この先もっと沢山の悲劇が降り掛かるのだと。
-
それを巻き起こすのは殺し合いを仕組んだ主催者か。
優勝という餌に食いついた危険人物達か。
「アイドルにしちゃ、随分と辛気臭い顔だな」
或いは、己の肉体に巣食う蛇か。
文具店の奥にある従業員用のトイレ。
手洗い場に設置された鏡に映るのはこの世で最も見慣れた顔。
誰よりも知っているその顔が、見た事の無い軽薄な笑みを浮かべている。
気味の悪い感覚だ。
自分の体を動かしているのが自分では無いなんて。
千雪の内心を知った上で、エボルトはあくまで自分のペースを崩さずに言う。
「そんな顔してると折角の綺麗な顔が台無しだぞ?」
(……こんな状況で笑顔になれる訳が無いでしょう)
「ああ、そりゃ正論だ」
リップクリームを使わずとも瑞々しい唇から出た、飄々とした声。
鏡が映し出すのは憂鬱とは程遠い、へらへらした表情。
辛気臭いと言われても千雪に見えるのは、自分であって自分ではないその顔だけ。
それともこの男には、意識のみとなったこちらの姿が見えているとでも言うのか。
聞いたところでマトモな答えが返って来るとは期待していないので、疑問には蓋をしておく。
「落ち込んでる女に気の利いた言葉くらいは掛けてやりたかったんだがねぇ。中々上手くいかねぇもんだ。娘にも呆れられちまうなこりゃ」
(娘さんがいるんですか?あなたに?)
「今はおっかねぇ女の残り滓が精神(なか)に入っちまってる、可愛くて手のかかる娘がな。悪い男に騙されないかこっちはいつもひやひやしてるよ」
今頃どうしてんのかねと呟いた声色に、本心からの不安は全く感じられない。
娘がいるのが事実だとしても、真っ当な親子関係で無いのは察せられる。
件の娘の話を続ける気は無いようで、あっさりと別の話へ切り替えた。
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「ま、このままお喋りに興じるのも良いが、長々やってると相棒が起きちまうんでね」
相棒、誰を指して呼んでいるのかは千雪も知っている。
雨宮蓮、エボルトとはバトルロワイアルで最も長く行動を共にする少年。
現在は事務室まで運び、ソファーの上に寝かせてある。
ペルソナと仮面ライダーの力を駆使して、殺し合いを止めるべく奔走しているのはエボルトの視界を通して千雪も見て来た。
先程の戦いで、怒りのままに仲間の仇を討った光景も。
(蓮君は…大丈夫なのかしら……)
「さぁな。自分で持ち直せりゃ何よりだが、傷心期間が長引くようならフォローしてやるさ」
肝心のフォローが善意によるものではないのが大いに不安である。
蓮が所謂『非日常』の世界に生きる人間だとは分かる。
しかし肉体こそ成人した青年だが、精神はまだ10代の高校生。
大崎姉妹を始めとして、283プロに在籍する少女達と同年代だ。
そんな少年が心身共に幾度となく傷付けられ、仲間を失い、殺しに手を染めた。
一番近くで見ていた千雪は何度ハラハラしたことか。
一人の大人として蓮を支えてあげたいと思う反面、自分の言葉が蓮の助けになれるのか確かな自信がある訳でも無い。
何より蓮と話そうにも、肉体の主導権を握るエボルトが許可しない限りは不可能。
つくづく見ているだけで何も出来ない自分が嫌になる。
(プロデューサーさんなら……)
どんな時だって283プロのアイドル達を支えてくれた彼なら。
蓮が相手でも、彼の心の傷を癒せたのだろうか。
ここにいない人間の力をアテにしたって無意味であり、そもそもプロデューサーが殺し合いに巻き込まれていないなら喜ぶべきだろうに。
身勝手な期待をした自分への嫌悪で苦い思いが広がる。
「相棒に関しちゃ一旦置いといてだ、そろそろお前の話を聞かせて貰いたいんだがねぇ」
千雪の内心を知ってか知らずか、少しばかり急かすような言葉を掛ける。
感傷に浸らせてくれる時間は与えてもらえないようだ。
(街に着く前にも言いましたけど、あなたが望んでるような話は多分出来ませんよ…?)
「そいつは聞いてから判断する。とにかくお前が話さなきゃ始まらねぇ」
前置きは良いから早く話すよう要求された。
千雪自身は自分の話が何かの役に立つとは到底思えないが、エボルトの言うように具体的な内容を口にせねば始まらない。
暫しの躊躇を見せるも、ややあって自分が知っている限りの事を話し始める。
-
殺し合い以前に覚えている最後の光景は普段通りの、本当に普段と変わらない一日だった。
寮の自室で目を覚まし、近所の公園まで軽く走って。
事務所でプロデューサーと軽い雑談に花を咲かせ、雑誌の撮影の仕事が入っていたので現場に向かったのが昼過ぎ。
大きな問題も起こらず、周りの人間が不審な様子を見せたとかも一切無い。
プロデューサーも、顔を合わせた283プロの少女達も至っていつもと同じ。
その筈だったのに気が付いた時にはもう、体の主導権を奪われていた。
何がどうしてそのようになったのか、前後の記憶はあやふや。
千雪が意識を取り戻したタイミングは最初の定時放送が流れる少し前、シロがルブランを襲撃した辺り。
切っ掛けと呼べるものが何か正確には不明だが、確かあの時は地図をチェックしたんだったかとエボルトは思い出す。
追加された複数の施設の中には千雪とも縁の深い283プロの名が記されており、もしやそれが原因なのだろうか。
だとしたら随分軽い理由である。
とはいえその時は意識こそ目覚めたものの、明確にエボルトが千雪の存在に気付いたのはもう少し後。
アーマージャックを始末しようとした時だ。
千雪自身の意思で無くとも、自分の体で参加者を殺害しそうになり動揺が一際大きく鳴ったあの瞬間にエボルトは千雪の意識が覚醒していると分かった。
(私から話せるのはこれくらいですけど…)
説明を聞き終わりエボルトは一言も発さない。
役に立つ情報が得られず落胆しているか、そうだとしても千雪には本当にこれが話せる全て。
いつもと変わらない日常を過ごし、何の前触れも無しに突然体を奪われた。
短く纏めるとこれだけ。
「…なァ千雪」
しかしエボルトには、そう単純な話とは思えなかったらしい。
「今の話、自分で言ってておかしいとは思わなかったのか?」
(え…?いえ、特には……。何が言いたいんですか?)
「一つだけ引っ掛かってるんだけどな?どうしてお前は、自分がボンドルド達に攫われた時の記憶が無いんだ?」
(それは……)
聞き返され言葉に詰まる。
何でと聞かれても覚えていないから答えようが無い。
口を噤んだ千雪へ言い聞かせる為に、或いは自分で言って考えを纏める為にか一つの仮説を語り始めた。
-
まず大前提としてボンドルド達がバトルロワイアルの正式な参加者として登録したのは、精神側の者達のみである。
仮の肉体を動かし自分以外の者を殺して優勝を目指すのは、名簿に記載された精神側の参加者しか認められていない。
言ってしまえば肉体の持ち主の意識は殺し合いにおいて邪魔な存在。
ではそのような邪魔な意識はどうすれば良いか。
一番手っ取り早いのは、準備段階の時点で肉体側の意識を消す事だろう。
余計な真似を防ぐために予め始末しておく。
最も効率的であり、仮にエボルトが主催者側にいてもそうする。
と、このように主催者達は最初から肉体側の意識を必要としていない。
精神側の参加者が殺し合いに連れて来られた時や、肉体を入れ替えられた時の記憶を覚えていないのは、余計な情報を与えない為と考えれば納得がいく。
だが肉体側の意識まで覚えていないのは何故だ?
主催者達の情報を知られるにしても、正式な参加者と違い肉体だけ奪って殺すとしか見ていない連中である。
わざわざ精神側の参加者と同じく記憶を消した上で殺すというのは、念を入れての行動にしても余計な手間ではないか。
そこでエボルトが立てた仮説。
今現在自分と会話をしている千雪は、元から千雪の肉体に宿っていた精神ではない。
殺し合いの最中に新しく生まれた桑山千雪という精神である。
エボルトに体を奪われていると言っても、肉体の構造は殺し合いの前と同じ。
脳が無事であるなら、新たに千雪の人格が生み出される可能性も否定はできない。
主催者に関する記憶を覚えていないのも当然だ。
何せその記憶を持っているのは、今ここに存在する千雪では無いのだから。
肉体の精神を消したのに後になって新しく生まれるなど、主催者にとって想定外の事態というのも納得がいった。
「とまぁ、俺が思い付いたのはこんなとこだな。これだと残念ながらお前の元々の精神はとっくに消されちまってるがね」
偶然にも斉木楠雄が柊ナナに語った三つの仮説、内の一つと同じ内容をそんな言葉で締めくくる。
あっさりと告げられた仮説に、当たり前だが冷静ではいられない。
(なん、ですかそれ……そんなの…そんなのって……!)
自分の体がちゃんと動かせたら、きっと真っ青な顔になった。
それくらいに動揺し声も震えを抑えられない。
ここにいる自分は実は後から生まれていて、本物の桑山千雪は既に死んでいる。
なら今の自分は何なんだ、覚えている記憶は全て消された方の精神が体験したものに過ぎないと言うのか。
自分という存在が曖昧に感じられてならない。
それに肉体側の精神が殺されているというのも到底受け入れ難い。
だってそれは千雪のみならず他の参加者も、甘奈や真乃もこの世にはいないと言っているようなものじゃないか。
それらしい理由を付けた所で、理解を拒み納得を拒否する内容だ。
-
「まぁ落ち着けよ。あくまでそういう可能性もあるってこった」
(……っ)
人の心を掻き乱しておいてどの口が言うのか。
反射的に返そうとするも言葉が実際に出はしない。
分かっているからだ、この男に正論をぶつけても意味は無い。
エボルトという男は余りにも異常過ぎる、体の主導権を奪われ今に至るまでにそう理解しているから。
アイドルをやっていればファンからの羨望や好意の目を強く感じるのは多々ある。
だが肯定的な目もあれば、同じくらい否定的な目もあるのが世の常。
同業者からの嫉妬や、アンチと呼ばれる者からの悪意を向けられる事も少なくはない。
表面上は気遣いを見せても邪な感情が見え隠れする者、素っ気無い態度を取りつつこちらを心配してくれる者。
良くも悪くも注目を集めてしまうのがアイドルという職業。
自分で選んだ道に後悔は無くとも、この世界にいて自然と感情の察知へ敏感になった。
では千雪がエボルトの言葉や態度から感じ取ったのは何か。
軽口で弄び愉悦に浸る悪意?
或いは他人への気遣いが抜け落ちた無神経?
どちらも違う。
千雪がエボルトから感じ取ったものは「無」である。
言葉だけ聞けば人間らしいのに、そこに宿る感情は何も無い。
飄々とした言葉を、まるで台本を読み演技しているかに感じられる。
いや、実際にはもっと無機質だ。
千雪も仕事でドラマの出演経験があるから分かるが、役者だって演技をする時には自分の感情を震わせて役をこなす。
エボルトにはそういったものが一切存在しない、まるで機械から音声が流れているかのよう。
この男は生きている、生きて言葉を交わしている、なのに生きているという熱を微塵も持ち合わせていない。
故に千雪はエボルトに戦慄を抱く。
自分の体を乗っ取った存在の得体の知れなさに、じわじわと侵食されるかの如き恐怖を抱くのだ。
-
「俺が言っておいて何だが、本当にそうだって決まった訳じゃあねぇぜ?」
嘘は言っていない。
エボルト自身も今のはあくまで仮説の一つして語っただけ。
殺し合い開始当初から考えていた、千雪の肉体にはブラッド族の能力を利用される形で憑依している可能性も捨てきれない。
千雪の体でブラッド族の能力を使える事実からも、どちらかと言えばそっちの方が可能性は高いとは思う。
が、それだって断定出来る程に明確な根拠は見つけられていない。
結局のところ、何が正しいのかはボンドルド達主催者にしか現段階では知り様が無かった。
「だからお前が心配する連中もまだ死んだと決まってはいねぇ。実際どうなってるかはともかくな」
(…余計な一言を付け加えないでください)
一方的にこちらを動揺させておいて、本当かどうかは分からないとは。
言ってやりたい山程の文句を飲み込み、苦々しく一言だけ返す。
甘奈と真乃がまだ無事でいる可能性を信じたいが、どうしたって悪い想像も思い浮かべてしまう。
本当に、どうして自分達が巻き込まれたのだろうか。
恨みを買うような真似をしていないアイドルを巻き込んでボンドルド達は何がしたいのか。
皆目見当も付かない。
「ああ、それに関しちゃ少しは思い付くぜ?」
(……他人の思考を勝手に読まないで欲しいんですが)
「おっと、そいつは悪かったな」
明らかに悪いとは思っていない返事もそこそこに、再び仮説の説明に入った。
「ボンドルドは殺し合いに勝ち抜けば新しい未来を切り開く鍵を手に入れられる、お前が起きる前の放送でアイツはそう言ったよ」
(人が殺されるような場所で、新しい未来も何も無いと思いますけど……)
「疑問は最もだが重要なのはそこじゃねぇ。その鍵ってのは、本当に俺達全員が手に入れられるものだと思うか?」
これまた言葉に詰まる質問だ。
鍵と言われても具体的にどんなものなか分かない。
だが疑問を含んだ言葉から、エボルトはボンドルドの言う鍵を参加者が手に入れるかは怪しいと思っているのだろう。
-
「ボンドルドは鍵を手に入れる資格は参加者一人一人が持ってると言った。つまりは俺達全員平等に優勝の可能性があるって話かもしれねぇが、そうとは限らないかもな」
(嘘を吐かれたって言いたいんですか?)
「いや?資格自体は持ってるんだろうよ。ただ奴さん方が望んでいる鍵を手に入れる参加者ってのは、最初(ハナ)から絞られてるんじゃねぇかって話だ」
参加者全員に優勝の可能性はあると仄めかした。
しかし実際には限られた者のみが勝ち残れる、と言うよりはボンドルド達の望み通りの結末になるよう仕込まれている。
(それって…出来レース、みたいな感じですか…?)
「大雑把に言っちまえばそうだな。参加者の中には連中にとっての『本命』がいて、他はそいつの引き立て役か、それか『本命』程じゃねえが丁度良いサンプルか何かだろうよ」
参加している側は自分達にもチャンスがあると思い込み、実際には最初から優勝者は決まっている。
大多数の人間にネビュラガスを注入したが、計画の要と見ているのは二人だけ。
ビルドとしての力を順調に強化する戦兎と、胎児だった頃からエボルトの遺伝子を持つ万丈のみ。
エボルトにとっての本命があの二人であるように、ボンドルド達にもそういった者が参加者に紛れている筈。
千雪にも覚えがある話だ。
アプリコットのオーディションで、運営側が甘奈を選ぶと最初から決定していた時のように。
一時期アルストロメリアの間で険悪とまではいかずとも、気まずい空気が流れたのは覚えている。
「で、本命の可能性が今のところ一番高いのが……柊ナナだ」
直接の面識は無い、ミチルから信頼できる相手として聞かされた程度。
しかし精神と肉体の両方が主催者と関係しているのは、現在得ている情報だけでもナナ一人しかいない。
エボルトの仮説が正しいなら、これまた酷い話だ。
ナナの精神と斉木の身体を使った実験の巻き添えを食らったようなものではないか。
ボンドルド達の被害者という点ではナナと斉木も確実にその枠に入るが。
「俺の仮説が合ってるにしろ違うにしろ、柊ナナと接触して損はねぇ」
主催者に関する情報を得られる可能性は高く、会っておきたい所と改めて方針の一つに付け加える。
ミチルの名前を出せば多少はスムーズに情報を引き出せるだろう。
まさかナナが既に戦兎と接触しており、自分の抹殺を決めているとはエボルトにも知る由が無かった。
「取り敢えず聞きたい事は大体聞けたんで、相棒の所に戻るとしますかね。ああ、話し相手が欲しいってんならもうちょいお喋りでも続けるか?」
(…結構です)
「冷たいねぇ」
自分では愛しのプロデューサーの代わりにはなれないらしい。
けらけらと形だけの笑みを作りながら、蓮の眠る事務室へと向かった。
-
○○○
これは夢だとすぐに分かった。
同じような体験を数時間前にもしているから。
きっとこれも自分の視点ではない。
あの時と同じ、仮の肉体となった探偵の見ている景色。
左翔太郎の過去の記憶を再び見ているのだろう。
『あの子を……あの子を頼んだぜ…』
目の前に男が倒れている。
白いスーツを赤く染め、命の灯りが今にも消え掛かっている男が。
男の手がこちらへと伸び、ポスンと頭に何かを被せられた。
それは帽子だ。
スーツと同じ色で、切れ目の入った帽子が何故か宝物のように感じる。
知らない男なのに、彼が帽子を託してくれたのが嬉しくて。
でもそれ以上に自分がこの帽子を被るのが重く、どうしようもなく悲しい。
『……よしてくれ…俺に帽子は早い…!』
こんな形で託されたくなかった。
男が生きて、この先も成長をその目で見続けてくれて。
いつか本当に認められた時に、帽子をかぶせて欲しい。
自分が体験したのではないのに、そう強く思わずにはいられない。
『……似合う男になれ』
まるでこちらの不安を察したような言葉。
それっきり男は一言も発さない、指先一本も動かない。
命の終わりを目の当たりにするのは初めてでないのに、知らない相手なのに。
胸が締め付けられる。
自分の中から大切なものが欠け落ちた、そんな喪失感が襲って来た。
『おやっさあああああああああああああああん!!!』
涙が止まらない。
喉が枯れるくらいに叫んでも尚、この身を苛む悲しみは消えそうも無かった。
-
◆
「――っ!!」
目を覚ますとやけに寒く感じた。
空気が冷たいと言うのだろうか、でもこの感じは妙に懐かしさがあるような。
不思議な感覚を疑問に思う前に、あれからどうなったのかを考える。
エボルトとゲンガーと共に白い仮面ライダーと戦い、光に包まれてから記憶が無い。
二人は無事なのか、承太郎達は今も戦っているのか。
目を覚ましたなら急いで彼らの無事を確認しなくては。
逸る気持ちに逆らわず体を起こし、ふと鏡を見た。
「なっ…」
驚きの声を思わず出してしまったのは仕方ないだろうと、誰に対してか分からない言い訳を浮かべた。
いやしかし、これは本当に驚いて当然だ。
何せ鏡に映っているのは、正真正銘自分の顔なのだから。
翔太郎さんではない、雨宮蓮の顔がぽかんと口を開けこちらを見つめている。
眼鏡こそ見当たらないが、あれは間違いなく自分の顔。
一体何がどうなっているのか分からない。
まさか自分は白い仮面ライダーとの戦いで死んでしまい、ここはあの世だから元の体に戻ったのか?
それともあの殺し合いは全て夢の中の出来事だったとでも言うのか?
「いいや、お前はまだ生きている。そして残念ながらあれは夢などではない」
答えをくれたのは自分ではない、聞き覚えのある声。
そちらへ振り向くと、まず最初に目に飛び込んだのは鉄格子。
高校生には縁の無いだろうソレも、自分にとっては馴染み深い。
鉄格子を挟んだ先にいる「彼ら」を見て、ようやく自分がどこにいるのか分かった。
「間抜け面を晒して主を待たせるな囚人!」
「少しは自分の立場を自覚してください」
片や激昂し、片や淡々と自分を責めるのは双子の看守。
髪型、帽子、眼帯の位置こそ違えど顔は瓜二つの少女。
そして彼女達の更に奥へは、長い鼻を持った老人の姿。
-
間違いない、ここはベルベットルームだ。
殺し合いが始まってからは一度も来れなかったが、今になってまた訪れられるとは。
「お前が驚くのも無理はない。我らがお前に干渉するのを、あの者達は強く制限していたのだからな」
やはりと言うべきか、ベルベットルームへ来れなかったのもボンドルドの仕業だったようだ。
色々と謎の多いここの住人達にも何らかの細工をするとは、改めて主催者は得体が知れない。
それでも彼らが無事なのを知れたのは良かったと思う。
→【無事でほっとした】
【生きてるならもっと早く言え】
【暫くここで寝かせて】
「……ふん、お前が心配なんて百年早い」
「あなたに心配される程、私達は軟ではありませんよ?囚人」
片方は何故か不機嫌そうにそっぽを向き、もう片方は少しだけ笑いながらそう言った。
友好的とは言えないが、自分の知っている通りの彼女達の反応に逆に安心する。
「我らが安易に干渉出来ぬよう策を弄したのは事実だが、我らの存在が消えた訳ではない。とはいえ制限自体は未だ継続している。これまでのようにお前の支援はまず不可能だろう」
支援が出来ない。
思わず双子を見ると苛立ちと憂いを含んだ声で、自分達の主の言葉を肯定した。
「主が仰った通りです。記録した囚人名簿からのペルソナ召喚が不可能になっています。原因については現在調査中ですが…」
「同じく、処刑道具もどういう訳か機能しない。全くあいつら…!我らにふざけた真似を…!!」
怪盗団として活動する際、ベルベットルームからの支援は度々助けになった。
パレスを攻略し、パレスの主を撃破し、時にはメメントスを探索する。
彼女達の協力でペルソナの力を強化したお陰で、ピンチを潜り抜けた場面も少なくない。
しかし殺し合いではそれらを受ける事は不可能。
巻き込まれた当初から分かってはいたが、これまでよりも厳しい戦いになるようだ。
-
「確かにこれは予期せぬ事態だが、お前の更生はまだ続いている。現にお前は既に新たな絆を手に入れたようだ」
共犯者と嵐を呼ぶ園児。
この地で得た絆はそのまま自分の力になった。
新たに得た二つのペルソナの存在は、ワイルドの能力が健在である証拠。
戦う為の力なら、今も変わらず宿っている。
弱い自分に、理不尽を押し付ける世界へ反逆する意思は変わっていない。
それなのに自分はまた守れなかった。
ミチルが殺されるのを防げず、やったのは殺害者を怒りのままに袋叩きにして命を奪った事のみ。
悪党を改心させる怪盗団でも、風の都を守る正義のヒーローでもない。
自分勝手に暴力を振るう悪人と同じではないのか。
こんな自分にまだ出来る事は……
【ない】
→【ある】
【分からない】
…………ある。
殺し合いはまだ終わっていない。
なのに戦う力が、誰かを守れる力がある自分が全てを投げ出すなど許されない。
ペルソナ使いになった忘れられない運命の日。
アルセーヌの問いかけに抗うと答え、仮面を引き剥がした自分自身の選択を誰が裏切るものか。
何より、仲間達だって皆生きている。
自分が支えになると決めた少年、しんのすけはミチルのお陰で生き延び、今もどこかで戦っている筈だ。
アーマージャックと戦った時もそう。
ミチルの勇気が自分達の助けになってくれた。
完全に吹っ切れてはいない。
でも言い訳を重ねて戦いから目を逸らすのは。
今を生きている者達を見ない振りするのは違う。
-
「ミチル……」
助けてやれなくて済まない。
だけどしんのすけを逃がしてくれた事は絶対に無駄にはしない。
遅くなってしまったけど、もう届かないかもしれないけど言わせて欲しい。
「しんのすけを守ってくれて、ありがとう…」
―――我は汝……汝は我……
―――汝、ここに新たなる契りを得たり
―――契りは即ち、 囚われを破らんとする反逆の翼なり
―――我、「信念」のペルソナの生誕に祝福の風を得たり
―――自由へと至る、更なる力とならん……
|信念のペルソナ「ホウオウ」を獲得しました|
-
「どうやらまた一歩、更生を進めたようだな」
言われて頷く。
自分の内にまた一つ、新たな力が宿ったのを感じた。
犬飼ミチルという少女を表すのにこれ以上ないくらい相応しいアルカナ。
彼女とはもう二度と会えない、育んだ絆までは失われていない。
自分の勝手な想像かもしれないけど、ミチルが背中を押してくれたから新たなペルソナを得られたように思う。
ステータスを確認すると、攻撃以外に回復スキルも兼ね備えている。
それもまたミチルの優しさが表れているようで、彼女らしい力だ。
「…っ」
散って逝った仲間へ思いを馳せていると、急に視界が安定しなくなった。
この感覚には覚えがある。
現実世界へと戻る時間が近付いている合図だ。
「そろそろ時間か…。次はここに来れるとは限らん。だが忘れるな、お前の更生はまだ終わっていない。囚われである己の運命を変えたくば、足掻く他ない」
彼なりの激励だろうか。
ベルベットルームから再び殺し合いの舞台へ戻る自分に、そんな言葉が向けられる。
そうだ、まだ何も終わっていないなら戦うしかない。
戦って、馬鹿げた殺し合いの幕を下ろすしかないんだ。
今一度決意を固め、目覚めの瞬間を静かに受け入れようとする。
「……■■の分際で我を阻むとは…」
その寸前、ふと聞こえた長鼻の主の言葉。
聞き違いだろうか、自分が知る彼とは思えない苛立ちが含まれていた気がしたのは。
-
「どうやらまた一歩、更生を進めたようだな」
言われて頷く。
自分の内にまた一つ、新たな力が宿ったのを感じた。
犬飼ミチルという少女を表すのにこれ以上ないくらい相応しいアルカナ。
彼女とはもう二度と会えない、育んだ絆までは失われていない。
自分の勝手な想像かもしれないけど、ミチルが背中を押してくれたから新たなペルソナを得られたように思う。
ステータスを確認すると、攻撃以外に回復スキルも兼ね備えている。
それもまたミチルの優しさが表れているようで、彼女らしい力だ。
「…っ」
散って逝った仲間へ思いを馳せていると、急に視界が安定しなくなった。
この感覚には覚えがある。
現実世界へと戻る時間が近付いている合図だ。
「そろそろ時間か…。次はここに来れるとは限らん。だが忘れるな、お前の更生はまだ終わっていない。囚われである己の運命を変えたくば、足掻く他ない」
彼なりの激励だろうか。
ベルベットルームから再び殺し合いの舞台へ戻る自分に、そんな言葉が向けられる。
そうだ、まだ何も終わっていないなら戦うしかない。
戦って、馬鹿げた殺し合いの幕を下ろすしかないんだ。
今一度決意を固め、目覚めの瞬間を静かに受け入れようとする。
「……■■の分際で我を阻むとは…」
その寸前、ふと聞こえた長鼻の主の言葉。
聞き違いだろうか、自分が知る彼とは思えない苛立ちが含まれていた気がしたのは。
-
◆
「よっ、起きたか?」
目を覚ますと至近距離で顔を覗き込まれていた。
吐息が当たる程に近い。
長い睫毛も、薄桃色の唇も、シミの一つも見当たらない白い肌もよく見える。
「…………!!!!??!!」
言葉になっていない叫びを上げ後退ろうとし、落ちる感覚がしたのは直後である。
どすんと尻から床に落ち、痛みがじーんと浸透。
思わず腰のあたりを擦りながらよろよろ立ち上がると、何が面白いのか共犯者がけらけら笑っていた。
「その青い反応はまだ抜けねぇなァ。いい加減慣れて欲しいもんだ」
肩を竦めて言うが、そっちこそいい加減女の人の体になっている自覚を持って欲しい。
恨めし気に見ても涼しい顔で受け流される。
まぁ分かってはいたけど素直に文句を聞き入れる奴ではない。
自分がいる場所を見回すと、見覚えの無い部屋だった。
エボルトがここまで運んでくれたのだろうか。
「白いのに二人揃って吹っ飛ばされてな、お前は気を失ってたから起きるのを待ってたのさ。流石に気絶したまま放置も出来ないからな」
どうやらまた眠っている間、エボルトの世話になったらしい。
素直に礼を告げるとひらひらと手を振りながら、「相棒なんだから当然だろ?」と返された。
胡散臭い仕草だが口には出さず、代わりにあの場で戦っていた皆はどうなったかを聞く。
返って来たのは分からないの一言。
同じ場所へ吹き飛ばされた自分以外はどうなったのか不明。
ならば一刻も早くゲンガー達と合流しなくてはならない。
体はまだダルいけど、少しの間だけでも寝ていたお陰か動けない程の疲れでも無い。
それに今の自分にはミチルとの絆で得た力もある。
重傷を負っている仲間がいれば、この力で助けられる筈だ。
こうしてはいられないと外へ出ようとすると、エボルトから傘を手渡された。
-
「ずぶ濡れになりたいんならいらねぇだろうがな」
自分の意識がベルベットルームを訪れている間、既に準備は済ませていたのか。
もう一度礼を言うと肩を竦められた。
そのまま揃って部屋を出て、文具が散乱しているスペースを抜け外へと向かう。
雨はまだ止んでいない。
傘をさし仲間達との合流へと出発する時、何気なく共犯者へ問い掛ける。
「寝ている間に何か起きたりしたか?」
聞かれた当人は特に顔色も変えず、さらりと答えた。
「いや?なーんにも無かったよ」
【D-6とD-7の境界 街/午後】
【雨宮蓮@ペルソナ5】
[身体]:左翔太郎@仮面ライダーW
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、SP消費(大)、体力消耗(中)、怒りと悲しみ、ぶつけ所の無い悔しさ、メタモンを殺した事への複雑な感情
[装備]:煙幕@ペルソナ5、T2ジョーカーメモリ+ロストドライバー@仮面ライダーW、大人用の傘
[道具]:基本支給品×3、ダブルドライバー@仮面ライダーW、ハードボイルダー@仮面ライダーW、、スパイダーショック@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜2(煉獄の分、刀剣類はなし)、T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、新八のメガネ@銀魂、両津勘吉の肉体、ジューダスのメモ
[思考・状況]基本方針:主催を打倒し、この催しを終わらせる。
1:ゲンガー達と合流に向かう。
2:仲間を集めたい。
3:エボルトは信用した訳ではないが、共闘を受け入れる。
4:今は別行動だが、しんのすけの力になってやりたい。今どこにいるんだ?
5:体の持ち主に対して少し申し訳なさを感じている。元の体に戻れたら無茶をした事を謝りたい。
6:逃げた怪物(絵美理)やシロを鬼にした男(耀哉)を警戒。
7:ディケイド(JUDO)はまだ倒せていない気がする…。
8:新たなペルソナと仮面ライダー。この力で今度こそ巻き込まれた人を守りたい。
9:推定殺害人数というのは気になるが、ミチルは無害だと思う
[備考]
※参戦時期については少なくとも心の怪盗団を結成し、既に何人か改心させた後です。フタバパレスまでは攻略済み。
※スキルカード@ペルソナ5を使用した事で、アルセーヌがラクンダを習得しました。
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。
※翔太郎の記憶から仮面ライダーダブル、仮面ライダージョーカーの知識を得ました。
※エボルトとのコープ発生により「道化師」のペルソナ「マガツイザナギ」を獲得しました。燃費は劣悪です。
※しんのすけとのコープ発生により「太陽」のペルソナ「ケツアルカトル」を獲得しました。
※ミチルとのコープ発生により「信念」のペルソナ「ホウオウ」を獲得しました。スキルは以下の通りです。
・フレイラ
・ディアラマ
・リカーム(死亡した参加者の蘇生は不可能)
・マハフレイラ
※ベルベットルームを訪れましたが、再び行けるかは不明です。また悪魔合体や囚人名簿などの利用は一切不可能となっています。
-
【エボルト@仮面ライダービルド】
[身体]:桑山千雪@アイドルマスター シャイニーカラーズ
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、千雪の意識が復活
[装備]:トランスチームガン+コブラロストフルボトル+ロケットフルボトル@仮面ライダービルド、エターナルソード@テイルズオブファンタジア、大人用の傘、???????
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品0〜2(シロの分)、累の母の首輪、アーマージャックの首輪、煉獄の死体、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル
[思考・状況]
基本方針:主催者の持つ力を奪い、完全復活を果たす。
1:■■からの連絡を待つ。
2:ゲンガー達と合流に向かう。
3:蓮や承太郎を戦力として利用。
4:首輪を外す為に戦兎を探す。会えたら首輪を渡してやる。
5:有益な情報を持つ参加者と接触する。戦力になる者は引き入れたい。
6:自身の状態に疑問。
7:出来れば煉獄の首輪も欲しい。どうしようかねぇ。
8:ほとんど期待はしていないが、エボルドライバーがあったら取り戻す。
9:柊ナナにも接触しておきたい。
10:今の所殺し合いに乗る気は無いが、他に手段が無いなら優勝狙いに切り替える。
11:推定殺害人数が何かは分からないが…まあ多分ミチルはシロだろうな(シャレじゃねえぜ?)
12:ジューダスの作戦には協力せず、主催者の持つ時空に干渉する力はできれば排除しておきたい。
13:千雪を利用すりゃ主催者をおびき寄せれるんじゃねぇか?
[備考]
※参戦時期は33話以前のどこか。
※他者の顔を変える、エネルギー波の放射などの能力は使えますが、他者への憑依は不可能となっています。
またブラッドスタークに変身できるだけのハザードレベルはありますが、エボルドライバーを使っての変身はできません。
※自身の状態を、精神だけを千雪の身体に移されたのではなく、千雪の身体にブラッド族の能力で憑依させられたまま固定されていると考えています。
また理由については主催者のミスか、何か目的があってのものと推測しています。
エボルトの考えが正しいか否かは後続の書き手にお任せします。
※ブラッドスタークに変身時は変声機能(若しくは自前の能力)により声を変えるかもしれません。(CV:芝崎典子→CV:金尾哲夫)
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。
※主催者は最初から柊ナナが「未来を切り開く鍵」を手に入れられるよう仕組んだと推測しています。
(蓮君には言わないんですか…?)
(今はまだ、な)
-
◆
時は蓮が目を覚ます数分前に遡る。
「戻ったぜ…っと、まだ寝てるか」
事務室へ戻ったエボルトだったが蓮は意識を落としたまま。
もう少し余裕を持って千雪と話しても問題は無かったかもしれない。
適当な椅子に腰を下ろし天井を見つめる。
考えなければならない事は山ほどあるのだ、座って体を休めている間にも頭は動かしておくに限る。
(千雪の精神が消される気配は相変わらず無しと…。となりゃあ主催者が腰を上げる何かを引き起こせるチャンスはまだあるか)
先程も考えたが、主催者が体の意識を消しに来るとはつまり向こうから参加者に接触するということ。
問題は主催者を動かす為の具体的な方法。
身体側の参加者が精神側の参加者に取って代わるなど、過度の干渉が起こるのをボンドルド達は歓迎していない。
となると、シンプルながら効果を期待できそうな方法が一つある。
肉体の主導権を千雪本人に返す。
エボルト自身は一度意識を引っ込めて、千雪が自由に元の体を動かせるようにする。
アーマージャックを始末した直後、エボルトは千雪が自分の口で会話が可能な状態にした。
ということはエボルトの意思一つで更に千雪を解放してやれる。
そうなればボンドルド達には宜しくない状況の完成だ。
精神側の参加者を差し置いて、不要と見なした身体側の意識が平然と行動しているのだから。
試しに蓮が眠っている今、千雪に体の主導権を一時的に返却しようかと考え、
-
「……やめとくか」
却下との判断を下した。
何せ自分はまだ首輪を解除していない。
そのような状況で意図的に主催者との接触を図った結果、肉体のみならず精神も不要として首輪を爆破される可能性も十分考えられる。
仮に実行するにしても、もう少し検討する必要があるだろう。
加えて千雪へ肉体を本当に明け渡せるかどうかも、今となっては正直分からない。
主催者は身体側の精神の復活を良しとしない。
それなら、その気になれば千雪を自由に動かせる自分の能力を放置しておくだろうか。
ひょっとしたら自分が気付いていないだけで、千雪に体の主導権を返せないような制限を課せられているんじゃないか。
実際に試さない事には確信を持てないが、否定出来るだけの材料も持ち合わせていない。
何にしても、今すぐに行動を起こすのは控えておく。
「いずれは勝負に出なきゃならねぇかもしれんが、今はもうちょい慎重に行かせてもらうぜ」
焦って腹の括り時を見誤れば全てがおじゃんだ。
慎重になり過ぎてチャンスを逃すのも以ての外。
とにかく柔軟かつ冷静に考え、ここぞという場面での最適解を弾き出す。
元の地球での計画も同じだ。
最上が開発したエニグマなど想定外の事態もあったが、どうにか乗り切って来た。
思考停止だけは避けねばなるまい。
一度頭をリセットしようと水を取り出そうとする。
残念ながらルブランのコーヒーは無く、作れる者は未だ夢の中。
苦みは強いが酸味とコクは癖になる、喫茶店のマスターをやっていた自分からしても文句の付けようがない上手さ。
あれをもう一度味わえる機会は果たして今後あるのやら。
仕方なしに味気ない水分補給を行うべく、デイパックの口に手を突っ込み、
「…………」
手に何かが当たった。
水の入ったペットボトルではない。
コンビニで売っている弁当の容器ではない。
地図や名簿などの紙でもない。
デイパックに入っている物のどれにも当て嵌まらないソレを掴み、ゆっくりと手を引き抜く。
-
外に出した右手が握っているのはエボルトが初めて見る物、ではない。
むしろ地球に来てからは毎日目にしているし、常に使用している。
長方形の薄い、掌に乗っかる程度の大きさの板。
スマートフォンである。
現代人にはほぼ必要不可欠の電子機器、どこにいても使える他者との通信手段。
そんな日常のツールが自身の手元にある事実が、エボルトには不可解でならない。
何故ならエボルトのデイパックにスマートフォンは入っていなかった。
後から手に入れたシロのデイパックも同様である。
しかし現実としてスマートフォンは確かに、エボルトのデイパックの中から出て来た。
見落としたつもりは無い。
それまで無かった道具が突然デイパック内に出現する現象、それはバトルロワイアルの参加者なら既に一度体験している。
名簿とコンパスをデイパックに転送した、主催者の技術。
「……」
起動させると早速気付いた。
SNSにメッセージが一件届いている。
戸惑っていても時間の無駄だ、一切の躊躇なしで確認の為に開く。
『届いてるか?』
画面に表示されたのはその一言だけ。
届いているとはスマートフォンがデイパックの中に届いたことか。
このメッセージを見ているかの確認か。
それとも両方か。
『ああ、届いてるよ。一応聞いておくが、まさか送り主を間違えたなんて言わないよな?』
スラスラと文字を打ち込み送信。
10年も暮らしていれば地球産の電子機器だって余裕で使いこなせる。
時間を置かずに返事が返って来た。
-
『そんなヘマはしない。エボルトだろ?私はお前に頼みたいことがあるからスマホを送った』
『使い走りに選んで頂き光栄だな。だが何故30人は残ってるだろう参加者の中で俺なんだ?』
当然の疑問をぶつける。
まさかとは思うがランダムに選んだのでは無い筈だ。
生き残っている中でエボルトを選んだのには、相応の理由があるに違いない。
『私だって本当は他に頼れるならそっちに頼みたかった。けど大っぴらに頼むとボンドルド達に私が参加者と接触したってバレるだろ。お前は秘密裏に動いてくれそうだし、一応殺し合いには乗ってない』
返信を一文字も見逃さず読み、思考を高速で動かす。
頼れるならそっちに頼みたかったという文面、それにエボルトの方針を把握しているような内容。
ボンドルドの名前を出し、奴に自分の行動がバレるのを恐れている。
つまりこの人物は参加者達の動向を把握可能な立場、主催者側の人間。
何らかの理由でボンドルドの意に反する何かを行おうと、独自にエボルトに連絡を取った。
『色々と知っているようだが、こっちはお前の事情を何も知らないんだがな。ボンドルドに逆らう理由はなんだ?贔屓してた奴が脱落してヤケクソにでもなったか?』
あえて神経を逆撫でする内容で返信を行う。
冷静沈着な奴ならともかく、そうでないなら…
『そうじゃない!!!私だって本当は協力なんてしたくなかった!!!!殺し合いだって知ってたら、それにあいつまで巻き込まれてるって分かってたら誰が手を貸すか!!!』
口で直接言えない怒りを文章でぶつけているのだろう。
わざわざ「!」マークを複数付けているのがその証拠。
相手がどんな体でどんな怒り顔をしているか、文章だけでは想像も付かない。
しかし読み取れる情報ならばある。
この人物は主催者側にいると言っても、殺し合いには全く乗り気ではない。
ボンドルド達が殺し合いを起こすと知らないまま協力させられ、気付いた時には引き返せなくなった。
更に「あいつまで巻き込まれていたら」という部分、親しい者が参加しているのを後から知ったのだろうか。
-
何もかもがこの人物には想定外。
このまま最後までボンドルドに協力する気にはなれず、反抗する道を選びその第一段階としてエボルトに連絡を取った。
動機は何であれ主催側の人間とのパイプを得られたのは間違いない。
『そいつは悪かったよ。お詫びと言っちゃあ何だが、出来る限り協力はしてやるさ。ただこっちの質問にも色々と答えてもらうぜ?』
主催者側にいるなら、有している情報の量も相応の筈。
聞かない理由は無い。
『私の知ってる範囲の事は答えるけど今はあんまり余裕が無い。だから次の連絡を待て』
返答は少しばかり肩透かしを食らうもの。
すぐにでも情報を開示してはくれないということか。
焦らされて良い気分はしない。
『協力を漕ぎつけといてこっちの聞きたい事には答えないってか?ちょいとセコいんじゃねぇのか?』
『しょうがないだろ、私だって危ない立場でお前に連絡してるんだ。とにかく次に連絡したらちゃんと見ろよ。それから、一緒にいるあいつの助けになってくれ』
あいつが誰を指しているのか。
名前は出さずともエボルトと今一緒にいる参加者は一人だけ。
ソファーの上で目を閉じた青年にチラリと目をやる。
却って謎が増えた気がしてならない、それでも今後使えそうな手札(カード)を入手できた。
向こうの詳細な状況は知る由も無いが、いつボンドルド達にバレてもおかしくはないリスクを背負っている。
ここでしつこく食い下がって相手から更に余裕を奪っては、折角の情報源を失ってしまう。
一先ずは相手の言う通り次の連絡を待つ。
その前に一つだけ質問があった。
『なら最後に教えてくれ。お前さんのことは何で呼べば良い?』
『私のことは……――』
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○
メッセージでのやり取りを終え、スマートフォンを仕舞う。
あの人物に関する情報を他者に明かすつもりは今のところ皆無。
大っぴらに蓮や他の参加者に情報を伝えて、あの人物の裏切り行為がボンドルド達にもバレては一大事だ。
別に心配はしていないが貴重な情報源を失うのは痛い。
それに万が一を考えれば、主催者側とのパイプというアドバンテージを独占しておくのも悪い手ではない。
(さて…どうするかねぇ……)
やるべきことは多い。
ゲンガーや承太郎、黎斗との合流。
自分達より街で先に戦っていた連中とも情報交換が必要。
しんのすけが行方不明なら探す必要があり、特に蓮は絶対に捜索に行くだろう。
ホイミンを探しに行ったいろはとジューダスの動向も気になる。
未だどこにいるのか分からない戦兎や、殺し合いで重要な役目を背負わされていると推測するナナとも会っておきたい。
それといい加減煉獄を始めとして、死体から首輪を入手したいところだ。
首輪解除のサンプルは一つでも多い方が良いし、モノモノマシーンで装備を増やす為にも首輪は欲しい。
今後もディケイドや櫻木真乃の体の参加者が変身したライダーを相手にするなら、戦力増加の機会を見逃せない。
とはいえ蓮は死者の首を刎ねるのを良しとするような性格でないのが厄介だ。
承太郎にしたって新八の首輪が欲しいと言っても、素直に承諾はしないだろう。
今後の方針の多さに反して動かせる体はアイドルの体一つ。
全く骨が折れる所の話ではない。
何にしても、主催者側からのコンタクトはバトルロワイアルをボンドルド達も予期せぬ方へと転がす起爆剤だ。
ポケットに仕舞ったスマートフォンをチラと見やり、薄ら笑いを浮かべ呟く。
「精々仲良くやろうぜ?『ナビ』」
その名前が雨宮蓮に、怪盗団のリーダーにとってどんな意味を齎すか。
今はまだ、誰も知らない。
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【D-6とD-7の境界 街/午後】
【エボルト@仮面ライダービルド】
[身体]:桑山千雪@アイドルマスター シャイニーカラーズ
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、千雪の意識が復活
[装備]:トランスチームガン+コブラロストフルボトル+ロケットフルボトル@仮面ライダービルド、エターナルソード@テイルズオブファンタジア、スマートフォン@オリジナル、大人用の傘
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品0〜2(シロの分)、累の母の首輪、アーマージャックの首輪、煉獄の死体、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル
[思考・状況]
基本方針:主催者の持つ力を奪い、完全復活を果たす。
1:ナビからの連絡を待つ。
2:ゲンガー達と合流に向かう。
3:蓮や承太郎を戦力として利用。
4:首輪を外す為に戦兎を探す。会えたら首輪を渡してやる。
5:有益な情報を持つ参加者と接触する。戦力になる者は引き入れたい。
6:自身の状態に疑問。
7:出来れば煉獄の首輪も欲しい。どうしようかねぇ。
8:ほとんど期待はしていないが、エボルドライバーがあったら取り戻す。
9:柊ナナにも接触しておきたい。
10:今の所殺し合いに乗る気は無いが、他に手段が無いなら優勝狙いに切り替える。
11:推定殺害人数が何かは分からないが…まあ多分ミチルはシロだろうな(シャレじゃねえぜ?)
12:ジューダスの作戦には協力せず、主催者の持つ時空に干渉する力はできれば排除しておきたい。
13:千雪を利用すりゃ主催者をおびき寄せれるんじゃねぇか?
[備考]
※参戦時期は33話以前のどこか。
※他者の顔を変える、エネルギー波の放射などの能力は使えますが、他者への憑依は不可能となっています。
またブラッドスタークに変身できるだけのハザードレベルはありますが、エボルドライバーを使っての変身はできません。
※自身の状態を、精神だけを千雪の身体に移されたのではなく、千雪の身体にブラッド族の能力で憑依させられたまま固定されていると考えています。
また理由については主催者のミスか、何か目的があってのものと推測しています。
エボルトの考えが正しいか否かは後続の書き手にお任せします。
※ブラッドスタークに変身時は変声機能(若しくは自前の能力)により声を変えるかもしれません。(CV:芝崎典子→CV:金尾哲夫)
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。
※主催者は最初から柊ナナが「未来を切り開く鍵」を手に入れられるよう仕組んだと推測しています。
※制限で千雪に身体の主導権を明け渡せなくなっている可能性を考えています。
【スマートフォン@オリジナル】
主催者側の『ナビ』がエボルトのデイパックに転送した携帯電話。
外見は普通のスマートフォンと変わらない。
通話機能などがどうなっているかは現在不明。
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投下終了です
>>497で二重投稿をしてしまいすみません
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ギニューを予約します
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投下します
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「これはもう使えんか…」
ボソリと呟かれた独り言。
ギニューが見つめるのは己の手元。
これまでずっと使っていた日輪刀の成れの果て。
炎を模した鍔の先に、本来存在するはずの刃は半分の長さ程度しかない。
周囲に目をやれば、鈍く光る欠片がそこかしこに散らばっているのが確認出来た。
こうなった原因はつい今しがたの戦闘。
直前まで死闘を繰り広げ、肉体を奪った女が撃った銃による爆発。
ボディーチェンジを決行するまでずっと手にしていたのだ。
肉体の爆発に巻き込まれ壊れたのだろう。
一応まだ刀身が半分程残っており、刃物として使えない事も無い。
投擲用の使い捨て武器として取って置けば良いかもしれない。
そう判断し折れた日輪刀を絵美理と名乗った女のデイパックに仕舞う。
武器の損失は残念だが、運の悪さがこのまま続く訳でもなかった。
日輪刀と違いデイパックに入れておいたのが幸いしたらしく、バギブソンは無事。
所々に傷こそ付いているものの、試しにエンジンを掛けたら問題無く動く。
移動手段を失わずに済んだのは有難い、心なしか日輪刀よりも慎重に仕舞った。
残る散乱した荷物は生姜焼き定食の米とみそ汁、それにみかづき荘で手に入れたプリンアラモード。
前者は一目で無理だと分かる。
幾らラップを掛けているとはいっても、地面に引っ繰り返れば中身が零れて当然だ。
白米は教誨堂内の床に、みそ汁に至っては外の地面を湿らせ雨に洗い流される始末。
生姜焼きと違い食欲を刺激する奇妙な感覚も起きず、拾おうとも思わない。
プリンアラモードの方は容器に入っていて奇跡的に蓋も外れなかったからまだマシ。
吹っ飛ばされた際に中身がシェイクし見栄えは最悪と化したが。
それでも食えるなら良いかとこちらは回収する。
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「後はこれだな」
ギニューが見下ろすのは自身の手で真っ二つにした雲。
偶然にも因縁のある孫悟空が使っていた筋斗雲。
どういう原理かは知る由も無いが絵美理はこの雲に乗って空中を移動していた。
トビウオを失ったギニューとしては、バギブソン以外に空を飛べる道具を持っておきたい気持ちがある。
それを考えると筋斗雲を斬ったのは失敗だったと思わなくもないが、今更な話だ。
直らなければ諦めよう、駄目で元々だと両断された雲をくっつけてみる。
半ば予想していた通り元通りにはならず切れた状態のまま。
残念ながらもう筋斗雲は使えない。
レッドリボン軍にバズーカで撃たれても修復された時のように、本来ならば物理攻撃で筋斗雲は破壊されない。
だがバトルロワイアルにおいてはそういった特性は主催者の手で無効化されている。
心の清らかな者以外でも乗れる反面、一度破壊されれば使用不可能。
主催者が筋斗雲にそのような細工をしたとは露知らず、ギニューは落胆のため息を吐く。
少々残念な結果に終わったがバギブソンが無事なだけ良しとする。
荷物の回収が終わったなら次は衣服を手に入れておきたい。
身体のプロフィールの確認もこんな雨風に当たってよりかは、暖を取れる屋内の方が望ましい。
デイパックを担ぎ直し足早に刑務所内へと入って行った。
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歓喜に打ち震えるレベルの大事ではなくとも、ギニューの幸運はまだ続く。
網走監獄内の一室にて、ほっと一息ついた彼が身に纏うは刑務官の制服。
囚人服での妥協も考えたが無事に見つかり早速着替えた。
暖を取るだけなら囚人服でも問題無いと言えど、そこは気分の問題。
独房に押し込められる連中の粗末な服よりは、刑務官用の制服の方が僅かながらモチベーションにも影響しないでもない。
肌寒さを凌いだギニューは木製の椅子に腰を下ろし、今後の戦いに向けての準備に移る。
今最も優先して行わねばならないのは、新たな体の情報を頭に叩き込むこと。
どういった能力を持っているかは先程の戦闘である程度察しは付いたが、プロフィールを読み具体的に知っておいて損はないだろう。
取り出した用紙にざっと目を通したところ、大体はギニューの予想通りの内容。
胸のスローターを引くと体の持ち主、デンジはチェンソーの悪魔に姿を変える。
直球なネーミングだなと思いつつ読み進め、四肢と頭部から生やしたチェンソーやチェーンを伸ばし攻撃が可能。
デンジに限らず全ての悪魔の共通点として血液接種で傷を再生できると知れた。
他にはデンジ本人の経歴も記載されていたがそこに興味は無く、強いて言えば彼と契約を交わした悪魔が一体化している点だが参加者への干渉は不可能らしい。
また炭治郎の時のように余計な真似をされないか不安はあるものの、取り敢えずは記載内容を信じてみる。
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端から端まで全て読み終え、デンジの持つ能力の詳細は知れた。
「……これだけか?」
が、ギニューにはどうも腑に落ちない。
チェンソーを生やす。それはこの目で直接見たから分かる。
首を斬られて尚も復活する異様なタフネス。悪魔の持つ高い生命力の恩恵と考えれば納得できなくもない。
しかしチェンソーの悪魔が見せた力は他にもあった筈だ。
クワガタムシの大顎と肢を生やし、昆虫を思わせる怪人に変身したのは鮮明に覚えている。
なのにプロフィールには、昆虫怪人への変身に関して一文も載っていないではないか。
幾ら何でもアレをチェンソー扱いは無理がある。
デンジはチェンソーの悪魔以外にも変身可能、或いはチェンソーの悪魔の派生能力で昆虫怪人になれるといった旨の記述があっておかしくはないだろうに。
記載漏れという主催者側のミス、そう考えられなくもないが幾ら何でもそこまで初歩的な失敗を犯すものだろうか。
加えてプロフィールに載っていなければ不自然な情報はまだある。
体を入れ替えた直後に襲った空腹感。
単に戦闘を終え体がエネルギーの補給を訴えているとかではない、地面に落ちた生姜焼きを食らう奇怪な行動。
デンジの肉体にある何らかのデメリットではと考えたが、そういった空腹感に関しても記載は無し。
こうも立て続けに記載漏れが起きるのは流石におかしい。
「…まさか、後天的に得た力なのか?」
昆虫怪人への変身も謎の空腹も、デンジの体には元々無かった特徴。
殺し合いの中で何らかの方法を用い手に入れた能力。
そう考えるとプロフィールに載っていないのも納得はいく。
だがそれだと結局昆虫怪人と空腹の具体的な詳細は分からずじまいである。
支給品の効果なのか、他の参加者の能力によるものなのかすら不明。
前者ならばデイパック内に手掛かりが残されているかもと漁ってみたが、それらしい物は見つからなかった。
解決できない疑問にスッキリしない後味の悪さが残るも、分からない以上はどうしようもない。
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モヤモヤしつつも切り替え、次いで支給品の確認に移る。
先程炭治郎の体を吹き飛ばした銃。
強力だが残る弾の数はたったの二発だ、ここぞと言う場面の為に温存しておくのがベストだろう。
新しい弾を装填しベルトに差すと、一本の杖を手に取る。
説明書曰く、この杖を振ると欲しいと思った物が出てくる、ドラゴンボールのインスタント版とでも言うべき効果。
と言ってもそう都合良く事が運ぶ訳は無く、出て来た物には杖を振った当人が望まない効果があるとのこと。
何より一番のデメリットとして、杖を守る強迫観念めいた意思に突き動かされる怪物と化してしまう。
余計な思考に支配されたモンスターになるなど、ギニューとてお断りだ。
いらぬ考えのせいで優勝が遠のく、それは炭治郎の意識のせいで殺しを封じられていた時と同じ。
折角余計な精神が消え去ったのにまた繰り返しては堪ったものじゃあない。
杖を使うのは本当に後が無くなった時のみに留めておくべき。
(まぁ、そのような機会が無いよう立ち回るのが一番だがな)
杖をデイパックの奥底に仕舞い直し、代わりに別の物を掴んだ。
今は亡き剣客、鵜堂刃衛に支給された日本刀の虹である。
鞘から引き抜き刀身を眺めると、おもむろに立ち上がり胸のスローターに手を掛ける。
低い稼働音と共に頭部と両手からチェンソーが生えるが、此度は両手の得物は不要。
チェンソーを引っ込め虹を構え、勢いを付けて水平に振るう。
炭治郎の体で度々繰り出していた水の呼吸の基本となる型だ。
尤も、今やったのはチェンソーの悪魔の身体能力を行使しただけの真似事。
全集中の呼吸による身体機能の強化も行われていない、それっぽい動きをしたに過ぎない。
「やはり無理か…いや、何となくコツは掴めている気がするが……」
ギニューがこれまで呼吸法を使いこなせたのは炭治郎に染みついた、体の記憶とでもいうものに身を任せていたから。
であれば当然炭治郎以外の、鬼殺隊の隊士以外の体になれば思うように呼吸法は引き出せない。
とはいえ数時間だけだが頻繁に水の呼吸やヒノカミ神楽を用いて戦った事実は消えない。
あと少しの切っ掛けさえあれば炭治郎の体で無くとも呼吸法が使える気がする、とギニュー本人は考える。
僅かな時間炭治郎の体を動かしただけで鬼殺隊の操身術取得に近付く辺り、如何にバトルセンスが高いかが分かるものだ。
されど今すぐにまた使えはせず、チェンソーの悪魔の力があるなら使えずともそう大きな問題にはならない。
チェンソーを出現させられる以上虹は不必要かもしれないが、刃物を使う機会は何かと多い。
念の為にとこちらもベルトに差す。
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粗方装備の確認を終えると中途半端な量だけ残っていた輸血パックに口を付ける。
チェンソーを生やす特性上、変身の度に血液が失われ貧血気味になるのは少々困りもの。
少しでも体力を回復させておくべく血液を飲み干した。
どうせあと二つ残っているし、何だったら戦闘中に敵を斬って血を奪う手だってある。
「どうせ口に入れるなら、こういった物の方が良いがな」
みかづき荘で手に入れたプリンアラモードの蓋を開けながら独り言ちる。
クリームもフルーツもぐちゃぐちゃになり見栄えは最悪、しかし味には問題無い。
なら構わないとスプーンで口に運び、あっという間に完食。
「……」
好物の甘い菓子を食べ終えたというのに、ギニューが浮かべるのは渋い表情。
今の糖分接種で改めて思った、この体は何かがおかしい。
プリンアラモードの味に何か問題があったのではない。
にも関わらずギニューはこう思ったのだ、酷く味気ないと。
好物を食べてこんな感想を抱いたのは初めてだ。
チェンソーの悪魔は血液接種で傷を癒すが、何も普通の食事を受け付けない体質とはプロフィールには無かった筈。
だというのにこの味気無さは、物足りなさは一体なんだ。
「デンジ、と言ったか。こいつの体は…」
なるべく早くに捨てた方が良いかもしれない。
今後長く動かし続けるには、どうにも得体が知れず気味が悪い。
もしかして絵美理がトチ狂った言動ばかり繰り返していたのも、この体に何らかの悪影響を受けたからでは。
何て考えても仕方ない事を早々に頭から追い出し、デイパックから新たな物を取り出す。
それは名簿。
参加者全員に配られたのとは違う、他者を殺害した者のみに配布されたボーナス支給品。
本来ならな結城リトを殺したギニューにも貰う権利はあったが、名簿が転送された時点でデイパックが手元に無く見たくても見れなかったのだ。
つくづく不要な真似をしてしまったという苦い後悔も、ようやっと手に入れた。
中身を確認し、目当ての名前を発見した瞬間気分が一気に高揚する。
「やはり貴様の体もあったか、孫悟空…!」
ナメック星で戦ったサイヤ人にして、ギニューがカエルの体とチェンジする原因になった男。
あの時は悟空の体にチェンジしたは良いものの、パワーを上手く引き出せなかった。
それでもあの男がどれだけ強いかは、実際に戦った自分が一番知っている。
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ベジータの体が無いのは残念だが無いものは仕方ない。
第二候補とはいえ悟空の体が参加している事は喜ぶべきだろう。
「野原しんのすけ。貴様がどんな奴かは知らんが、オレが行くまで勝手に死ぬなよ?孫悟空の体を手に入れたその時は、オレがひと思いに始末してやる」
ボディーチェンジが再使用可能になるまで、残り約一時間。
仮にすぐしんのすけと遭遇しても体を入れ替えられないなら意味はない。
ふと、もしかしたらしんのすけの居場所を知れるかもしれない方法を思い付いた。
自分の今の立場はジョーカー、主催者ともある程度は接触が可能。
ボンドルド達ならば参加者全員の居場所くらいは把握してもおかしくない。
「おい!ボンドルド!空助でも良い!お前達に聞きたいことがある!」
誰もいない空間に向けて話しかける。
返って来たのは沈黙のみ、暫く待ってみても主催者側の人間は姿を見せない。
しんのすけ捜索に関しては自分で何とかしろと言うつもりなのか。
「フン、ケチくさい連中だ…」
こちらからの質問にあやふやな答えしか返さなかった連中だ、こうなる予感はあった。
しんのすけの居場所の手掛かりが得られないなら、動き回って探すしかない。
もう少し休んだらいい加減フリーザの宇宙船へ向かい、それからしんのすけを見付けて体を入れ替える。
無論、デンジの体でも殺せる奴を見付けたら殺しておくのも忘れない。
焦りは禁物。
既に自分は炭治郎の精神に思考を誘導される大失態を犯した。
主催者の介入が無ければどうなっていたか、今考えてもゾッとする。
あのようなミスを繰り返しては優勝など夢のまた夢、フリーザの復活も夢物語のまま。
そんな結末には断じてさせない。
フリーザ軍が再び銀河を支配できるかどうか、全ては自分に掛かっているのだから。
【B-1 網走監獄/午後】
【ギニュー@ドラゴンボール】
[身体]:デンジ@チェンソーマン
[状態]:肉体的疲労(中)、精神的疲労(大)、貧血(ある程度回復)、イライラ(小)、溶原性細胞感染、体質の変化、クワガタアマゾンの特徴の発現、空腹感(微小)、姉畑への怒りと屈辱(暴走しない程度にはキープ)、ボディチェンジ使用不可(残り約1時間)
[装備]:圧裂弾(1/1、予備弾×2)@仮面ライダーアマゾンズ、虹@クロノ・トリガー、網走監獄の刑務官の制服@ゴールデンカムイ
[道具]:基本支給品、輸血パック×2@現実、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、杖@なんか小さくてかわいいやつ、竈門炭治郎の日輪刀(刀身が半ば程で折れている)@鬼滅の刃、バギブソン@仮面ライダークウガ、ランダム支給品0〜1(童磨の分・確認済み)
[思考・状況]
基本方針:ジョーカーの役割を果たしつつ、優勝し、主催を出し抜き制裁を下して、フリーザを完全に復活させる。
1:もう少し休んだら宇宙船に向かう。
2:デンジの体はどうにも気味が悪い…。早々に別の体にチェンジしたい。
3:孫悟空の体を奪う。オレが行くまで死ぬなよしんのすけ。
4:ヒノカミ神楽とかはもう少しコツを掴めば使えそうな気がする。
5:変態天使(姉畑)は次に会ったら必ず殺す。但し奴の殺害のみに拘る気は無い。
6:炎を操る女(杉元)、エネルギー波を放つ女(いろは)、二刀流の女(ジューダス)にも警戒しておく。
7:ここにはロクでもない女しかいないのかと思っていたが、さっきの絵美理とかいう頭のおかしいうるさい女と比べたら、他は全然マシなやつらだったかもしれん。
8:さっきの奴(絵美理)が気にしていたヒイラギにも少し警戒。
[備考]
※参戦時期はナメック星編終了後。
※ボディチェンジによりデンジの体に入れ替わりました。
※全集中・水の呼吸、ヒノカミ神楽は切っ掛けがあればまた使えるかもしれませんが、実際に可能かどうかは後続の書き手にお任せします。透き通る世界が見れるかも同様です。
※主催側のジョーカーとしての参戦になりました。但し、主催側の情報は何も受け取っていません。
※ボディチェンジは普通に使用が可能ですが、主催によって一度使用すると二時間発動できない制限をかけました。
※デンジの身体の参戦時期は、少なくとも第一部終了以降とします。
※オリジナル態の血液を摂取した為、溶原性細胞に感染しました。
※クワガタアマゾンの特徴が発現してきています。チェンソーの悪魔への変身時にもクワガタアマゾンの特徴が混じった状態になることがあるものとします。
※肉の摂取でも、ある程度は血の代わりになるよう体質が変化してきているものとします。
※溶原性細胞によるアマゾンの特徴として、特定の部位への執着があるかどうかは後続の書き手にお任せします。
※筋斗雲@ドラゴンボールは二つにくっつけても再使用は不可能でした。
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投下終了です
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大首領JUDOで予約します。
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投下します。
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JUDOは考える。
もし、自分がこの殺し合いで優勝した後、これと同じ催しを開いた時、どのようなことをしようかと。
そうする際の目的はすでに思い付いている。
殺し合いの優勝者の肉体を、自分の新たな”器”にしようかということを。
本来、そのための”器”を用意する計画は別に元からある。
人間をJUDOの元の体と全く同じに改造したサイボーグ『ZX』、それが本来のJUDOの器だ。
JUDOは、そのZXと人格を交換することで魂の牢獄からの脱出・復活を計画していた。
しかしJUDOの精神は今、牢獄ではなくこの殺し合いの中にある。
ZXとの入れ替わり計画の必要性が1つ無くなったのだ。
ならば、ZXとは別に新たな器候補を用意するのも良いかもしれないと、JUDOは思った。
今JUDOの器として機能している門矢士のままでいることも選択肢の1つだ。
どうも仮面ライダーディケイドの力は、この肉体で扱ってこそ真の力を発揮する、そんな感覚が存在する。
だが、これよりもJUDOにふさわしい器が、他にあるかもしれない。
そんな条件を満たせそうなものとして、JUDOが開く場合のこの形式の殺し合いの優勝者のものという考えが浮かんでくる。
中の精神が何者であろうと殺し合いに優勝できる身体であれば、それはあらゆる世界で最も強き肉体と言えるかもしれない。
もしかしたら、今いるこの殺し合いの主催者達も、JUDOと似たようなことを目論んでいる可能性も思い浮かぶ。
その場合は、主催者達は優勝者に報酬を与える気が無い可能性も高くなる。
もしそうだった場合は、どうにか力付くで奴らの力や立場を奪うことを試みよう。
まだ全然決定事項にするつもりは無いが、そんなことを、JUDOは窓越しの雨を見ながら考えていた。
◆
「ふむ、これは…」
食事が終わった後、JUDOは葛飾署内で何気なしに地図を広げて眺めてみた。
そこで、新たに1つ表示されているものがあることに気付いた。
変化のあった場所はG-3、そこの森の中に地下通路があることが地図に新たに記されていた。
地下通路は、先の放送において新要素であるモノモノマシーンが置いてある場所として発表された施設だ。
この地下通路に対し、JUDOは興味を抱く。
その場所は、他のモノモノマシーンがある場所である網走監獄や、もう片方の地下通路の入り口よりもここから近い位置にあった。
放送を聞いたばかりの時は距離故に行くことを考えていなかったが、それを改めることになりそうだ。
新たなアイテムは入手できるに越したことはない。
それに、JUDOが所有しているディケイドライバーはどうも、何らかのアイテムによりまだ拡張できる可能性もあるようだった。
モノモノマシーンは、それを入手するチャンスでもあった。
新たな地下通路の入り口が地図に記されていることは、その場所に他の参加者の誰かがたどり着いたことも意味するが、それは大きな問題ではない。
その参加者がその場所から離れているかそれとも動いているかは分からないが、どちらにせよターゲットの一人であることには変わらない。
(この地下通路に向かうのも良いかもしれん。……だが、風都タワーはどうするか)
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ここでJUDOに少し迷いが出る。
JUDOは元々、休憩後は風都タワーに行き、前に仕留め損なった者達やそれらと入れ違いに来るかもしれない者達を探して戦うつもりだった。
しかしここで、タワーの方には向かわず、森の地下通路の方に行った方が良いのではという考えが浮かんできてしまった。
元からの考えでは風都タワーの用事が終わった後は西か東かの方面で行動することを考えていた。
なお、2つの地下通路口の位置関係上、JUDOが森の方から地下通路に入ればそこからは果的に東方面に移動することにはなる。
とにかく、ついさっきまではここから南の方の森に行くという選択肢はなかったわけだ。
けれども、考えてみるとその森方面で行くべきなのではという思いの方が出てきてしまう。
どうせ闘争をするのなら、装備はより潤沢な方が楽しめるかもしれない。
自分以外にも新たな地下通路口の存在に気付いた者達がそちらの方に向かい、その者達との闘争が楽しめるかもしれない。
早めに行かないと、D-8にあったらしいもののように、モノモノマシーンのある場所が禁止エリアに指定されて使えなくなるかもしれない。
風都タワーの方には絶対に今も誰かがいるとは限らないこともあり、すぐにども森の地下通路に行くべきなのではという考えの方にだんだんと傾いてきていた。
けれども元からの考えが風都タワー方面に行くことだったために、少し悩ましい気持ちが出てきてしまっていた。
(……いや、ここは逆に考えてみるか?)
ここで、発想を逆転させることを思い付く。
風都タワーに行くか行かないかで考えるのは一旦止めた。
いっそのこと、地下通路での用事が終わった後に、風都タワーに行けば良いのではという考えが出てきた。
その方が、良いのではという考えが思い浮かんでいた。
(ならば、そうするか)
少し考えた後、JUDOは最終的に南の森の地下通路の方に先に向かうことを決めた。
もしかしたらそっちに行っている間に風都タワーの方が禁止エリア指定される可能性だってあるが、その時はその時だ。
そうなった時に後から考えれば良い。
「では…そろそろ動くか」
窓の外を見てみれば、街に広がっていた火の勢いが雨により収まってきていた。
完全に鎮火しているわけではないが、街中を歩く分には十分なほど火は小さくなってきているようだった。
動くことを決めたからには、これ以上ここで立ち止まっている暇はない。
JUDOは新たな戦いの予感に気を引き締めて、レインコートを羽織り、葛飾署から外に出て歩き始めた。
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【E-4 葛飾署/午後】
【大首領JUDO@仮面ライダーSPIRITS】
[身体]門矢士@仮面ライダーディケイド
[状態]負傷(小)
[装備]ディケイドライバー+ライドブッカー+アタックライド@仮面ライダーディケイド、レインコート@現実
[道具]基本支給品×5、賢者の石@ドラゴンクエストシリーズ、警棒@現実、アクションストーン@クレヨンしんちゃん、トビウオ@ONE PIECE、タイムふろしき(残り使用回数:1回)@ドラえもん、精神と身体の組み合わせ名簿×2@オリジナル
[思考・状況]
基本方針:優勝を目指す。
1:闘争を楽しむ。
2:ここから南の森の地下通路の方に行き、モノモノマシーンを探す。
3:2の後、風都タワーに向かい誰かいれば闘争を楽しむ。
4:風都タワーでの用事が終わったら、西か東に向かう。
5:改めて人間どもは『敵』として殺す。
5:屈辱と侮辱をした痣の男(ギニュー)は絶対に絶対に絶対に絶対に殺す。
7:宿儺とは次に出会ったら、力が戻った・戻ってないどちらにせよ殺しあう。
8:疲れが出た場合は癪だが、自制し、撤退を選択する。
9:優勝後は我もこの催しを開いてみるか。そして、その優勝者の肉体を我の新たな器の候補とするのも一興かもしれん。
[備考]
※参戦時期は、第1部終了時点。
※現在クウガ〜響鬼のカードが使用可能です。
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投下終了です。
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桐生戦兎、杉元佐一、我妻善逸、大崎甜花、神楽を予約します
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檀黎斗を予約します。
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投下します。
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黎斗は雨に打たれながら街中を移動している。
無惨を秘密裏に始末した後、蓮達の元へ合流しようと向かっている。
その最中に黎斗は頭を回していた。
(全く、手間がかかるようなことばかりだ。)
二回目の放送前に風都タワーでの戦いから立て続けに他の参加者と遭遇してはいるものの碌に情報交換が出来ていなかった。
本来ならJUDOを退けた後に知っていることを全員で共有はずだった。
しかし、ホイミンが新八を殺し、殆どの人が動揺したことで情報共有どころではなくなった。
組み合わせ名簿も蓮達が持っていたら見せてもらう予定だった。
黎斗だけでなく、ついでに言うといろはもジューダスも組み合わせ名簿を把握していない。
更に放送後に蓮達の仲間の命が掛かっていて、うかうかしている現状ではなく、内心では渋々、蓮達と助けに向かうことになってしまった。
情報は重要な武器、この辺を押さえていないと優勝は遠のいてしまう。
蓮達と合流して、本当なら風都タワーで得るはずの情報の分を得ないといけない。
(だが、収穫はないわけではない。)
この戦いで少なくとも二人死亡したのはこの目で見ており、無惨もこの手で始末した。
少なくとも三人脱落したのは確かだ。
ディケイドウォッチと同じ暴走の危険性のあるカブトウォッチも誰に気づかれずにどさくさに紛れて回収することに成功した。
いずれモノモノマシーンを使うための首輪も回収できた。
(厄介な問題が多すぎる。)
物事は良いことばかりではない。
何としても排除しなければいけない奴らがいる。
ジューダスとディケイド(JUDO)、青い着物の少女(両面宿儺)の三人だ。
後者二人に関しては風都タワーでディケイドと戦った時から考えていたことだ。
(障害が増えるとか冗談じゃない。)
JUDOはエボルト、ジューダスを含めた三人がかりでも勝てないほど並の強さではないのを思い知らされた。
ダブルの猛攻を食らっても二本足で立っているほどの奴だ。
それを見せられて要注意しないわけがない。
最悪なのはそんな奴がもう一人いることだ。
バットショットでディケイドと一緒に写っている青い着物の少女(宿儺)だ。
その少女については何の情報もない。
だが、この画像を見る限りでは怯えもなく、傲慢で不敵な笑みをしている時点であのディケイドと匹敵する対等の強さだと嫌でも想像できてしまった。
化け物レベルがもう一人いるとなると不愉快で頭が痛い。
その少女について、もしかしたら、もう蓮達が戦って、何か知っているかもしれなかったが、ゴダゴダで情報収集を疎かになった。
何にせよその少女もディケイドと同じくらい要注意に付け加えておく。
この二人は他の参加者に二つのウォッチで暴走させても勝てるか怪しい。
楽に殺せないことは理解していたが、此処までとは。
バットショットで写した写真が意外過ぎる場面でも役に立っていた。
危険度でいえば明らかに強さではジューダスよりディケイド(JUDO)と少女(宿儺)のほうが上だ。
その二人と同じく排除しなければならないのはジューダスだ。
奴は初めて遭遇してからこちらを警戒し続けていた。
おまけに殺し合いをなかったことにすると計画を立てる始末。
今はホイミン捜索で別行動を取っているお陰で自分は秘密裏に動けている。
出来れば禁止エリアで死亡するか他の危険人物が始末してくれれば有り難いが、物事簡単に思うように行きそうにないのが厳しい所だ。
-
後は、今は排除対象ではないが、気になる奴はエボルトだ。
ゲームには乗っておらず、風都タワーの戦いや東の街での戦いでは助けられたり、頼りにはなる。
しかし、人のことを言える立場ではないが、どうも胡散臭いような気がする。
自分の見た限り、怪しい行動は取っていないが、何故か信用しきれない部分がある。
勿論、自分みたいに善良な大人を演じているかもしれないが、今の所は牙をむいてくる意志はなさそうなので一応、警戒する程度。
不気味な奴なので警戒されてしまうことにならないよう気を付ける。
(合流後、組み合わせ名簿を見せて貰おう。)
流石に、CRのメンバーの体がないと思うが、念のため確認しないと。
誰か一人でもあったら厄介この上ない、特に宝生永夢の体が使われていることはあり得なくもない。
エグゼイドの力は自分がこの身をもって知っている。
あったらその時はその時だ。
(天津亥のライダーの変身道具はあるのか?)
前から思っていることだが、本来なら天津が使用するザイアサウザンドライバーとプログライズキーという道具が寄こされずにベルデのデッキが支給された。
逆に考えてみると他の参加者に支給されている可能性がある。
今後のことも思うと探して、取り戻す必要がある。
でも、此処までくると流石に期待しておらず、諦めつつある。
ある場合は善良な大人を演じている内に試運転をして、使いこなさないといけない。
一回目の放送以降から危険人物との連戦からベルデのデッキに慣れてきている。
サウザーの変身道具がなくてもベルデのデッキでやりきるのを割り切っている。
今更文句を言っても仕方がない。
黎斗は色々考えている内に最初に乱戦になったほうへ向かっていた。
△
「まさかこんなものが置かれていたとは」
もう少しで到着する最中に路地裏に何か物体があると感じて、紫色の剣を見つけた。
リオンの死体からバラゾニウムという剣を手に入れたが、ジューダスによって不本意ながら謙譲する羽目になった。
だが、こんな所で代わりとなる剣を見つけた。
何で路地裏にあるのか知らないが、黎斗としては有難かった。
よくよく見るとこの剣は恐らく、仮面ライダーに変身する装備の可能性が高い。
しかし、どうやって変身するのか使い方が分からずにいた。
何か変身可能な条件でもあるのかもしれない。
何れにせよ、条件を満たせたのならベルデ同様に慣れておく必要がある。
条件を満たせずともただの剣として使用する。
△
紫の剣ことサソードヤイバーはサソードに変身するには条件がある。
サソードゼクターに資格者として認めて貰えば可能である。
それはカブトゼクターも同様だ。
メタモンがサソードに変身出来たのは、本来の資格者の体が神代剣だからだ。
そのおかげでメタモンは変身することができた。
だが、メタモンが死亡したことでサソードゼクターは自身に相応しい新たな資格者を求めて彷徨っている。
-
しかし、追い打ちをかけるように宿儺が使った天逆鉾の効力により故障してしまった。
問題は術式がないはずのマスクドライダーシステムに故障が引き起こしたことだ。
そもそも、仮面ライダーの変身ツールと術式は別物である。
仮面ライダーの変身ツールは機械など作動して、変身できる物で当然ながら術式みたいな性質はない。
術式は生まれながらに体に刻まれており、呪力をエネルギーにして発動させることができる術。
クロックアップは呪術における術式に似た性質だ。
対処されても無理はない。
問題は何故、天逆鉾の効力で術式が何もないマスクドライダーシステムを故障に追い込んでしまったか?
その原因は両面宿儺が使っている体の関織子の精神復活したことで、感染するような促しと呪力による化学反応を起こした。
化学反応が起きたことで、本来、引き起こす事態がなかった呪力が内部のタキオン粒子に入り込んでしまった。
その際、宿儺との接触による織子の精神復活の感染の影響が収まらずに神代剣の精神も復活してしまった。
メタモンもダグバとグレーテと同様、肉体の精神を復活させる能力はなく、肉体の神代剣もそれは言えることだ。
主催陣営はメタモンの話題に出ていなかったが、しっかりと問題視していたことを付け加えておく。
そして、主催陣営の介入により、織子の精神が消滅したことで、化学反応が消えて、天逆鉾の効力で仮面ライダーの変身ツールの故障はもう二度と起きなくなった。
これは宿儺も預かり知らぬことである。
あくまで故障による変身が出来ないだけでサソードゼクターは「破壊」された訳ではない。
サソードゼクターは故障による変身が出来ないにも関わらず資格者を探している。
まるで奇跡で修繕できるのを待っているかのように。
仮に奇跡が起きて、修復できたとしても黎斗が資格者に選ばれるか話は別になるだろう。
△
(また一人ゲームオーバーになったか。)
サソードヤイバーを回収後、一軒の民家になにかあるのを察し、来てみたら家の瓦礫に圧し潰された白いライダーと戦っていた金髪の少年の遺体を見つけた。
この少年については蓮達の仲間らしいが、深く関わっておらず詳細は不明。
何故、戦っていたのに民家にいるのか分からないが、逃げ遅れたのだろう。
また一人減ったのならどうでもよかった。
優勝へのカウントダウンは今の所は順調だ。
この少年の荷物を回収したいが、全部瓦礫に埋もれていて回収は困難になった。
(雨宮蓮達の元へ戻らないとな。)
いつまで経っても戻らないと怪しまれてしまう事態は避けたい。
雨が降っている状況故、彼らはどこかの建物に入っているだろう。
リーゼント男と神の名を騙った男の荷物と首輪は恐らく、蓮達か危険人物に回収してしまっただろうし、断念するしかない。
無惨を追う前にどさくさにアナザーカブトウォッチを回収出来たので、これだけは良しとする。
早急に合流して、風都タワーで出来なかった分の情報を手に入れる。
黎斗は彼らがいるかもしれない近くの建物を捜し始めた。
-
【D-6 街/午後】
【檀黎斗@仮面ライダーエグゼイド】
[身体]:天津亥@仮面ライダーゼロワン
[状態]:ダメージ(大)、疲労(極大)、胴体に打撲
[装備]:ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、バットショット@仮面ライダーW、着火剛焦@戦国BASARA4
[道具]:基本支給品×2、アナザーディケイドウォッチ@仮面ライダージオウ、アナザーカブトウォッチ@仮面ライダージオウ、召喚石『ドグー』@グランブルファンタジー、サソードヤイバー&サソードゼクター@仮面ライダーカブト(天逆鉾の効力により変身不可)、無惨の首輪、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:優勝し、「真の」仮面ライダークロニクルを開発する。
1;何処かの建物にいる蓮達の元へ戻る。
2:人数が減るまで待つ。それまでは善良な人間を演じておく。
3:ジューダスに苛立ち。機を見てどうにかしたいが、別行動になってしまったな。
4:ディケイド(JUDO)、青い着物の少女(宿儺)は要注意しておく。エボルトも少し警戒。
5:痣の少年(ギニュー)に怒り。
6:余裕があれば聖都大学附属病院も調べたい...が、微妙な位置が禁止エリアになったな。
7:諦めつつあるが、一応、ザイアサウザンドライバーを探してみる。
8:優勝したらボンドルド達に制裁を下す。
[備考]
※参戦時期は、パラドに殺された後
※バットショットには「リオンの死体、対峙するJUDOと宿儺」の画像が保存されています。
※バイオグリーザがミーティの肉体と、体内にあったいのちのたまを捕食しました。何らかの影響があるかどうかは後続の書き手に任せます。
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投下終了です。
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投下します
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雨は止まない。
戦場に零れた血と涙を全て洗い流しても、一向に止む気配はない。
水滴が地面に叩きつけられ弾ける音が絶えず響く。
吹きすさぶ風は肌を冷やし、参加者の体温を容赦なく奪い去る。
悪天候の中を突っ切るは一台の自動車。
ハンドルを握った青年、桐生戦兎が考え込むのは病院に残して来た仲間達。
自分達が街に行っている間、危険人物に襲撃されていないだろうか。
何も問題が起きなければそれに越したことはないが、いつどこでなにが起きてもおかしくないのが殺し合いだ。
撃退したにしろ脱出したにしろ、三人とも無事であってくれと願う他無い。
(…ん?ちょっと待てよ?)
仲間の安否を思う戦兎の胸中に、ふと生まれる疑問。
病院を出発する前、もしナナ達だけでは対処し切れない危険人物が襲ってきた際にどうするかを話し合ったのは覚えている。
そうなった場合は脹相が二人を抱えて飛んで逃げ、戦兎達との合流を目指す。
しかし危険人物の襲撃が無くとも、病院からの移動を迫られる理由が一つあるではないか。
禁止エリアである。
聖都大学附属病院があるのはD-2とD-3の丁度境目の位置。
この内D-2は二回目の定時放送で新たな禁止エリアに指定された。
病院全体が丸々禁止エリア内にある訳でないが、放送前に比べれば動ける範囲は限られるだろう。
行動範囲が制限された場所に留まり続ければ、本当に危険人物が襲来した際に不利な状態での戦闘ないし逃走を余儀なくされる。
燃堂はともかくナナと脹相がこの点を全く考慮しないとは考えにくい。
となるとまだ禁止エリアが機能しない時間帯、放送の直後に病院を発った可能性は高い。
(本当に移動したとして、問題は行き先か……)
「そろそろ着きそうだな」
隣で発せられた声に、思考に耽っていた戦兎も意識を引き戻される。
杉元の言った通り進行方向上に見えるのは白亜の建造物。
甜花以外は既に訪れた為、見覚えのある施設へ戻って来たのだ。
死闘と呼ぶに相応しく死んでしまってもおかしくは無かった、というか杉元に至っては本当に一回死んだDIOとの戦い。
最上の結果とは言えずとも生きてまた合流場所へ戻れたのには、大なり小なり安堵があった。
-
「あそこで、ナナちゃん達が待ってるんだ……」
後部座席から病院を見つめる甜花だが、緊張が声に滲み出ているのは気のせいではあるまい。
殺し合いに乗っていない仲間達との再会は嬉しい。
けれどDIOに洗脳され散々迷惑をかけたのを思えば、罪悪感と後ろめたさで心が重くなる。
だからといって今更逃げるつもりも無い。
自分のやったことに向き合うと決めた以上、ナナと燃堂にもちゃんと謝らなくては。
「……」
甜花の隣にいる神楽もまた表情に元気が見当たらない。
自分達は当初、胡蝶しのぶの救出を目的にして街へ向かった。
そのしのぶが一緒でない以上、当然ナナ達からそれを聞かれるだろう。
悲鳴嶼がいない今、何があったかを知るのは神楽一人。
道中、こちらに気を遣って戦兎達からしのぶの件を聞かれなかったもののずっとそのままとはいかない。
神楽とて永遠に隠し通す気は無いし、それは悲鳴嶼としのぶへの筋が通らないと分かっている。
ただそれでも、悲鳴嶼から悪くないと言われても、己の罪を告白せねばならないのに重苦しさを抱くのは致し方無い事だ。
各々考えている内に宣伝カーは病院前に到着。
自動車をデイパックに仕舞い、すっかり見慣れた病院内へ足を踏み入れた。
無事合流場所に帰って来た訳だが、仲間達が顔を見せる気配は無い。
暫く待ち、名前を呼んでみても誰も出て来ない。
沈黙に包まれたロビーがいやにこちらの不安を煽り、甜花の心配が顔に現れる。
未だ眠り続ける善逸を抱える腕にも自然と力が入っていく。
「も、もしかして、何かあったのかな……?」
「いや、それにしちゃ綺麗過ぎだ」
「俺もそう思う。放送前に出発した時と何も変わってないのは不自然だしな」
ロビーを油断なく見回しながらも、襲われた可能性は低いと考えるのは二人の男。
杉元と戦兎、共に戦闘経験豊富な彼らの目には、ナナ達が病院でアクシデントに見舞われたとするのは不自然に思えた。
とはいえ警戒を完全に解くには気が早い、それぞれ歩兵銃とガンモードのドリルクラッシャーを構えておく。
仮にこちらへ害を為す者が飛び出して来たなら、引き金を引くのに躊躇はない。
-
(襲われて脱出した可能性は低い。ってことはやっぱり…)
禁止エリアに指定された為、今後の安全を考えて病院を出た。
そうなると戦兎達が戻って来た時に居場所を伝えられるよう、メモか何かを残しているはず。
但し簡単に目に付く場所には置いていないだろう。
戦兎達や善良な参加者ならともかく、殺し合いに賛同する者へ知られる危険性もあるのだ。
堂々と自分達の居場所を記しては、襲いに来てくださいと言っているのと同じ。
ではどこに置いたか、ナナの視点に立って考える。
禁止エリアから外れた部屋、戦兎達ならば気付けるだろう場所。
条件に当て嵌まり、可能性が高いところに心当たりがあった。
「あいつらがどこに行ったのか、手掛かりが残してある部屋が分かった。ちょっと行って来る」
「なら俺も一緒に行くぜ桐生。コソコソ隠れてる奴がいないとも限らねぇ」
襲撃者の可能性はほぼ無いと言っても、万が一というものがある。
DIOに負わされた傷が未だ重く残る身では、如何に戦兎だろうと連戦は厳しい。
同行を申し出た杉元も万全とは言い難いが、不老不死の肉体故にある程度傷も回復済み。
戦兎一人で行かせるよりはまだ安全。
同じく疲弊の大きい三人はロビーに残し、もしもの時は急いで病院から離れるようにと伝える。
「そんじゃ見て来る。多分すぐ戻って来れるけど、そっちも気を付けてくれ」
「う、うん……。あ、あの…!ちゃんと、戻って来てね……?」
ほんの少し離れるだけ。
分かっていても甜花の不安は消えない。
最初にPK学園を訪れた時、一人で来訪者の対応に向かう戦兎の背を見送った。
思えば正気を保ったままで戦兎と話したのはあれが最後。
そこからは貨物船に連れ去られ、大切な全てを狂わされたのだ。
だからだろうか、一時でも戦兎が離れて行くのが堪らなく心配なのは。
また何か悪いことが起こってしまって、折角助けてもらえたのも無に帰すのではと、自らの想像で心を恐怖させるのは。
大丈夫だと言ってロビー奥の廊下へ進む男達を見送り、二人の少女と一匹の獣が残された。
-
「……」
「……」
沈黙。
彼女達の間に会話は無く、甜花の腕の中で小さな寝息が音を立てるのみ。
チラ、と隣に立つ女を横目で見る。
PK学園にいた時はそれどころではなく余裕も無かったが、綺麗な人だなと思う。
眩しいオレンジの髪、大胆に谷間を曝け出した胸、それを下品と感じさせないプロポーション。
千雪や夏葉にも負けず劣らずの、魅力的な年上の女性。
尤も精神は体の持ち主とは別人。
神楽と、そう呼ばれていたこの人物について甜花はほとんど知らない。
分かるのは殺し合いに乗っておらず、先の戦いで大事な人を亡くした事くらいか。
(何を話せば良いんだろう……)
こちらを全く見ない彼女から発せられる、非常に重苦しい雰囲気。
甜花を拒絶する意図は無くとも、気軽に声をかけるのは憚れた。
下手な慰めは却って相手を傷付け、無意味に怒らせるだけ。
それならこのまま無言を貫いた方がマシではないだろうか。
何より甜花は洗脳されていたとはいえ、立場的にはDIOの味方だった。
神楽が死を嘆いていた者を殺した男と一緒にいた少女、事情があったとはいえ良くは映らないと思う。
そう考えると益々罪悪感が募り出す。
貨物船に連れ去られた時、もっと必死に抵抗してれば洗脳されずに済んだのではないか。
ナナや燃堂、善逸が阻止しなかったら自分は本当に戦兎を殺してしまっていた。
現実にそうならなかったと言っても、一歩間違えれば取り返しの付かない事態と化したのは本当だ。
それに洗脳されていた時の自分はDIOからの質問に、馬鹿正直に全部話したのも今考えると後悔しかない。
戦兎達の情報は元より、甘奈を始めとする283プロのアイドルの名まで出す始末。
本当に、自分は一体何をしていたんだろう。
今更悔やんだ所で仕方ないと言っても、思い浮かぶのは皆への申し訳なさと自分自身への怒り。
「ピカ…ピ〜カ〜…?(あれ…ここ病院…?)」
会話は無く鬱々とした空気を壊すような声。
前足で寝惚け眼を擦り、ぼんやり辺りを見回すと自分の居場所がすぐに分かった。
数時間前に出発した施設に戻って来たらしい。
-
「ピカ……」
ぱちりと、現状を理解し意識も寝惚け半分から脱却。
病院にいるということは、自分達は撤退に成功したのだろう。
残念ながら全員無事にとはならなかったが。
悲鳴嶼行冥はいない、自分を庇った鬼殺隊の仲間は戻って来れなかった。
彼が息絶える瞬間はこの目でハッキリと見た、あれは何かの間違いなどと現実逃避は出来ない。
残酷な現実から目を逸らすにはもう、人間の死を味わい過ぎてしまっている。
どれだけ仲間が殺されても歩き続けねばならない、歩みを止めれば鬼は殺せない。
悲しみはある、悔しさはある、怒りだってある。
その全てを火にくべる薪に変えて進まねばならない、鬼殺隊とはそういう世界に生きる者なのだから。
それでもまた一人、自分の前から誰かがいなくなった事実は。
仲間の死とはいつだって、刃のように容赦なくこちらの心へ痛みを与える。
「あ、えっと…お、おはよう……」
「ピカ?」
控えめな声に見上げれば、こちらを覗き込む顔。
PK学園でDIOと一緒にいた女の子だ。
確か戦兎が心配していた、甜花と言う名前の少女。
洗脳が解かれてからは一緒に戦ったが、自己紹介などをしている暇は無かった。
正気な状態で話すのはこれが初めて。
と、そこで自分が甜花に抱きしめられているとようやく気付く。
ぎこちない笑みを浮かべるのもそこそこに、甜花は申し訳なさそうな顔を作る。
小さな獣と目を合わし、不思議がる反応に構わず頭を下げた。
「あの…さっきは、ごめんなさい……。いっぱい傷つけようとしちゃって……」
PK学園で斬月に変身し、善逸を殺そうとしたのは記憶に新しい。
奇跡的にか或いは互いの実力差故か、一撃も掠らずには済んだ。
だからといってそれでチャラになりはせず、申し訳ないことをしたと思う。
「ピ、ピカ。ピカピ〜カ〜」
謝罪された善逸はと言うと、少し慌てたように首を横に振る。
確かに何度も斬られたり撃たれたりしたし、攻撃を受けている間は恐くてしょうがなかった。
けれど一発も命中しなかったのだから、そう長々と引き摺る気は無い。
何より甜花がこちらを殺そうとしたのは、DIOに洗脳されたから。
責められるべきは原因を作ったDIOであって、被害者である甜花に文句をぶつけるのはお門違い。
その点は善逸も理解しており、大丈夫だと身振り手振りて伝える。
-
「……うん。あの、本当に、ご、ごめんなさい…。あ、あと、ありがとう……」
言葉は分からないが、何を伝えたいかは何となく分かった。
自分がやったことを今一度噛み締めて謝罪を、それに感謝を口にする。
「そ、それと、あの……悪いのは甜花だけど、でも…なーちゃんの体にえっちなことは、もうしないでね……?」
「ピガッ!?」
邪な目的があってっではなく、偶然とは分かっている。
そもそも先に襲い掛かった自分が悪いのは十分承知。
それでもやはり妹の体、それも尻を触られるのは抵抗があった。
姉畑のような身勝手な行動では無いので、そう強く咎めはしなかったが。
「ピ、ピカー…ピカピ〜」
一方の善逸も不可抗力とはいえ甜花を大いに怒らせた瞬間を思い出し、あからさまに目を泳がせる。
だがそれも束の間、ライドウェア越しの柔らかさがまだ前足に残っている気がして、ついだらしなく顔を緩めてしまった。
「鼻の下伸びてんぞオイ」
呆れた声色の指摘は、それまで黙っていた神楽から。
生真面目を体現した悲鳴嶼の仲間にしては随分、俗物的な性格のようだ。
「とりあえずタマを潰しといた方が良いと思うアル」
「ピカ!?(え゛!?)」
「えぇ…!?そ、そこまでしなくても……」
まさかのバイオレンスな提案に、揃って顔を引き攣らせた。
善逸に至っては姉畑を前にした時とは別の意味での下半身の危機。
全身を青くして突然変異を思わせる見た目と化すも神楽は平然と続ける。
「男なんて基本はぶら下げたタマで物事を考える生き物って姉御が言ってたネ。おらっ、お前も隠したマスターボールを見せてみろヨ」
「ピガアアアアアアア!?(ひぎいいいい!?引っ張らないでえええええ!!)」
「ひゃっ…!そ、そんなとこ引っ張っちゃ、ダメだよ……」
雨音に負けじとロビーに響き渡る汚い高音は、戦兎達が戻って来るまで続いた。
-
○
「宇宙船…?」
「ああ。どうやら放送が始まってすぐそこに向かったみたいだ」
そう言って戦兎が見せるのはナナが書き残したメモ。
これを見つけたのはまだ悲鳴嶼達が病院に来る前、ナナが斉木楠雄との接触を果たした部屋だ。
戦兎達なら気付けて、尚且つ他の者には簡単に見つからない場所。
条件に当て嵌まるとしてナナが選んだ置き場所で、無事にメモを発見。
記された内容は戦兎が予想した通り、病院の一部が禁止エリア指定されたので、安全性を考慮し移動する旨。
新しい合流場所には北西に存在するフリーザの宇宙船。
余り距離が離れておらず、何より主催者の一人、ハワードの肉体と関係があるだろう施設である。
有益な情報を手に入れられる可能性もあると踏んで宇宙船に向かったのだろう。
(まぁそんな簡単に大事な情報は見つからないだろうけどな)
体のみとはいえ主催者に繋がる重要な記録を、会場の一施設に保管してあるとは考え辛い。
情報は全て抹消されているか、恐らくは知られた所で何の問題にならないものしか残されていない。
しかし距離の近さと念の為に調べて損は無いとの考えだ。
移動先に宇宙船を選んだ理由は十分理解出来る
何にしてもナナ達の移動先は分かった。
安堵する甜花達を尻目に杉元は今後の動きを尋ねる。
「で、こっからどうする?俺らもすぐ柊達を追うか?」
「…いや、合流が遅れるけど一旦病院で休むべきだと思う」
DIOとの戦闘で負った傷は未だ深く刻まれており、全員体力の消耗も激しい。
宇宙船に向かう道中でトラブルが起きないとも言い切れない以上、少しでも万全の状態に近付けておいた方が良い。
加えて降り続ける雨も問題だ。
サッポロビールの宣伝カーは移動の足としては問題無くとも、雨風を凌ぐ効果は期待出来ない。
現代で販売されている自動車と違い、瓶型のボディを被せただけの宣伝カーには窓ガラスが無いのだ。
おまけに車体の後ろには遮る物が見当たらず、後方確認には打ってつけだが今の天候では困りもの。
病院への移動中にも車内は雨で濡れ、全員口には出さなかったが寒く感じた。
特に神楽は肌を大きく露出した格好の為、無意識にか冷えた両腕を擦っている。
よってここは病院で暖を取り体力を回復させるべきとの判断を下す。
一部が禁止エリアに指定された施設で不安はあるものの、他の施設へ移動し時間を消費するよりは聖都大学附属病院に留まる方がマシだ。
それに放送前ならともかく、放送で一部が禁止エリアに指定された施設へ進んで行きたがる者はそういない。
病院が襲撃される可能性は高くない筈。
-
何より病院に来るだろう神楽の仲間、広瀬康一の存在も無視できない。
ナナのメモに康一の名が出ていなかった為、三人が病院を発つまでの間にも康一は来ていないらしい。
方針不明の巨大な虫の追跡に苦戦しているのか、何か別のアクシデントに見舞われたか。
前向きに考えるなら雨のせいで遅れているだけで、どうにか病院に向かってる最中かもしれない。
いずれにしろもう少し待ってみて無事病院に到着するなら良し、もし来なければ様子を見に行く事も検討する。
その場合はナナ達と合流する組と康一を迎えに行く組で、二手に分ける必要があるが。
「とりあえずこんな感じで動こうと思うけど、皆はどうだ?」
「う、うん。大丈夫……」
「ピカ…ピカチュウ……(しのぶさんが心配だけど…もしかしたら自力で来るかもしれないか……)」
「…私もそれで良いアル」
康一の安否は気になるし、こっちから探しに行きたいとも思う。
彼だけでなくゲンガーも心配だ。
同行者二人だけでなくカイジまで死に、今どんな状態になってるのか見当も付かない。
放送で名前が呼ばれなかったからといって、絶対的な安全が保障されるとは限らないのだから。
だが戦兎の言う通り、すぐに動けるほど体力的に余裕はない。
このような状態で一緒に来てくれと言うのは流石に抵抗がある。
自分一人で探しに行くにしても疲弊したまま向かった所で、もし向こうで戦闘が起きたら却って足手纏いになるだけ。
何より勝手な単独行動を取った末にしのぶを殺した件を考えると、神楽と言えどもここは大人しく皆と共にいるべきと自制心が働き出すのだ。
不安は尽きないが康一とゲンガーを信じて休む事にする。
「それなら全員手当てした方が良いだろ。場所が場所だ、道具にゃ困らねぇ」
杉元も皆と同じく休憩に異論はない。
アシリパと共に極寒の北海道を駆け抜けた男だ。
要所要所での体力回復の重要性はこの中で一番に理解している。
休むと決めたら休む、但しその間にもやれる事は全て手を付け次の戦いに備えるのが吉。
何せDIOを始めとして障害は多い、この先も激戦が予想される以上事前の準備に手は抜けない。
まずは最初にやるべきは傷の手当て。
杉元自身は妹紅の体の恩恵で放って置いても治るが他の者は違う。
-
「悪いな杉元。手間かけさせちまって…」
傷の処置に最も長けている相手に任せるのは間違っていない。
されど杉元一人に負担が圧し掛かるのには申し訳なさを抱く。
当の杉元は気にした風も無くからからと笑って、「謝んなよ」と返し包帯や消毒液を取りに行こうと背を向け、
(いや、わざわざ探しに行かなくてもいいか?)
思い直しデイパックを見やる。
確か悲鳴嶼としのぶは一回目の放送が始まる少し前まで病院にいた。
ならその間、治療に必要な道具を入手しそれぞれのデイパックに入れた可能性は高い。
実際、最初に戦兎の手当てをした際、幾つかの道具が持ち出された形跡があった。
それが悲鳴嶼達の手によるものだとしたら、回収したデイパックに残されているのではないか。
一々取りに行かなくてもデイパックから出した方が手っ取り早い。
悲鳴嶼のデイパックを降ろして、特に躊躇もせず中を開く。
そこに予期せぬものが入っているとも知らずに。
「……」
デイパックの中からこちらを覗くソレを前に、杉元は表情を消す。
いや、厳密には覗くという表現は間違いだ。
何故なら彼女の瞳は閉じられ、杉元の姿を映しはしないのだから。
こういう状態になったモノを見るのは初めてではない。
むしろ感覚が麻痺する程に見過ぎているくらいだ。
大きな動揺はない、されど疑問は生まれる。
何故、悲鳴嶼のデイパックに少女の死体が入っているのか。
街に行く前の情報交換で悲鳴嶼が語った内容に、少女の死体を確保したとは一言も無かった。
首輪が装着されたままなら、脹相が首輪を回収した相手とも違う。
実は死体に性的興奮を抱く性癖の持ち主で、不審がられない為に隠していた?
その可能性も無くは無いが、悲鳴嶼は仲間思いで生真面目な人間という印象が強い。
刺青囚人達のようなアクの強さとは無縁な気がする。
-
では何故死体を回収したのか、そもそもいつ死体を仕舞ったのか。
脹相と会った時でないなら考えられるタイミングは一つのみ。
恐らく、少女の正体と何が起きたかを悲鳴嶼以外に知っている人物も一人しかいない。
「杉元?」
「悪い桐生、今は俺に話させてくれ。…神楽」
「な、なにアルかいきなり…」
デイパックの中を覗いたと思えば明らかに雰囲気が一変。
困惑する戦兎には悪いが彼への説明は後に回させてもらう、用がある別の仲間だ。
急に名前を呼ばれた彼女も困惑を隠せない様子。
疑問の浮かぶ表情は次に放たれた言葉で凍り付く事になる。
「青い帽子を被って、髪の毛の先がこう…巻いてる女の子と会ったか?」
「え……」
心臓がいやに大きく跳ねた。
一瞬呼吸が止まり、ひゅっという音が耳に残る。
杉元から告げられた特徴、それとぴったり一致する人物を神楽は知っている。
知らない筈が無いのだ。
横では甜花も神楽と同じような顔。
腕に抱いた善逸が首を傾げるのにも気付かず、サァッと冷汗が垂れた。
甜花はともかく神楽の反応は予想通り。
どうして知ってるんだとか聞かれる前に答えを見せる。
ロビーの椅子に横たわる少女。
純白を通り越し死人の如き青白い肌は、彼女から魂が抜け落ちた証拠。
瞼と口は閉じられたまま、未来永劫開かれはしない。
それでも少女が浮かべる表情に苦痛の色は見当たらない。
心の底からの安堵を顔に出した理由を知るのは少女と、少女に生かされ、今はもう同じ場所へと旅立った男だけ。
「この子は……」
「悲鳴嶼の鞄に入ってた」
短く告げられた杉元の言葉はより混乱を齎し、しかし戦兎の頭脳は即座に正体へ行き着く。
悲鳴嶼が心配していた行方知れずの仲間。
PK学園で合流した時の悲鳴嶼と神楽の妙な態度。
自分達と別れて再び会うまでに何かが起きた。
答えは自ずと導き出される。
-
「もしかして、胡蝶しのぶなのか…?」
「ピカ……?(え……?)」
戦兎が何を言ったのか、善逸にはすぐに理解できない。
だって今口にしたのは探している仲間の名前で。
手遅れになってる可能性もあったけど、どうにかDIOの所から逃げれた筈の人で。
なのに戦兎は、死んでいる女の子を見て彼女の名前を出した。
それじゃあつまり、結局彼女は助からなかったんじゃあないか。
自分はまたしても遅すぎたってことじゃあないか。
「ピカ……ピカチュウ……(なんだよそれ……何でだよ……)」
煉獄が死んだ。
悲鳴嶼が死んだ。
しのぶも、善逸と再会する事無く死んでしまった。
彼らは元々死人、鬼との戦いで既にこの世を去った筈の亡霊。
だから帰るべき場所へ帰っただけと、そんな薄情に割り切れない。
ただ悔しかった。
もし自分が別の行動を取れていたら、もっとちゃんとやれていたら。
彼らがこの地で命を落とさず、元いた所へ帰れたかもしれない。
彼らの帰還を皆が喜んでくれる、そんなもしもの光景は二度と現実にならない。
それが悔しくて、悲しくて、双眸から絶えず雫が伝い落ちていく。
大声は出さない、しのぶの傍へ寄り添い小さな体を震わせる背中に、誰もかける言葉が見つからなかった。
「……神楽」
名前を呼ばれ顔を向ける。
自分を見つめる戦兎の目に、責める意思は宿っていない。
ああしかし、何を言いたいかは分かった。
「分かってるネ…。全部、話すアル」
いずれ自分の口から伝えねばならない、罪の告白。
今がその時なのだろう。
-
○
神楽の話が終わり、病院内には数度目となる沈黙が訪れた。
定時放送の直後、一人離れた神楽と追いかけた悲鳴嶼。
終ぞ善逸と再び会えなかったしのぶの間に何が起きたのか。
全容を知った一同は、何を発すべきか即座には浮かばない。
数分か、或いは数十秒か。
ゆっくりと、しかしハッキリ聞こえるように問い掛けるのは戦兎だ。
彼の言葉を皮切りに沈黙は再び去って行く。
「悲鳴嶼は、何て言ってたんだ?」
「…私に謝ってたネ。自分がもっとちゃんとしてればって。……んなわけねーダロ。私が、馬鹿やったせいヨ…」
最も怒り狂い、復讐に走っても不思議の無い男は神楽を許した。
そればかりか悪いのは自分の方だと言って頭まで下げたのである。
確かに状況を聞けば、悪意があってしのぶを殺したのではない。
新八を含めて四人の仲間の死を一辺に知らされ、それでも冷静さを保てと言うのは流石に酷というもの。
けれど、神楽がしのぶを手に掛けたのは紛れも無い事実。
そう簡単に自分を許せはせず、だから償いとして悲鳴嶼が生きて帰れるように尽力するつもりだった。
結果は先の戦いの通り、すぐ傍にいながらDIOに殺されるのを防げなかったが。
「あ、あの…!神楽、さんは、悪くないよ……」
乾いた声で己を責める神楽に、異を唱える者。
先程からずっと顔色の悪い甜花に視線が集まる。
注目されているのに思わずビクリと震えるも、意を決したように口を開いた。
「悪いのは……甜花、だよ……」
「は…?何言ってるネ?お前はあの時いなかったアル」
「ち、違う、の…!甜花、本当はしのぶさんと…会った事があるから……」
どういうことだと目で訴えられ、甜花はたどたどしく説明する。
-
まだDIOの洗脳下にあった時、PK学園を訪れた参加者がいた。
しのぶとデビハム、二人との間にいざこざがあり戦闘に発展したのはハッキリ覚えている。
姉畑の乱入で二人が逃げた後も学園での一騒動後、再びしのぶ達と遭遇。
デビハムは自分達の目の前で壮絶な最期を遂げ、しのぶは姉畑に連れられ姿を消した。
きっとそれから間もなく、神楽が語った通りの出来事が起きてしまったのだろう。
「甜花が襲ったりしなかったら、しのぶさんはちゃんと病院に戻ってたはずで……。で、でも…甜花のせいで、そうならなくて……。だか、ら、しのぶさんが、し、死んじゃったのは…甜花の……せい……」
「…馬鹿も休み休み言えアル。お前は全然悪くないダロ」
「え……」
罪悪感で泣きそうになる甜花に返って来たのは、呆れを大いに含んだ否定。
ポカンとして顔を上げると、何を言ってるんだと言いたげな目の神楽が自分を見ている。
「悪いのはお前じゃ無くて、あのDIOだかイボだか言う野郎じゃねーカ。女をコマしてやりたい放題なんざ少年ジャンプ追放ヨ、ヤンマガにでも行ってるがヨロシ」
「え?えっと……で、でも……」
「でもも何も無いアル。どう考えたってお前を洗脳してたイボのが悪いネ」
尚も自分を責め兼ねない甜花にピシャリと言い放つ。
甜花がしのぶと既に会っていたのは驚きだが、その件で責めるつもりは神楽に全く無い。
粗方の事情は察していたがやはり悪いのはDIOではないか。
しのぶが死んだのだって実際に手を掛けたのは自分であり、甜花の罪を問うのはおかしいだろう。
「ピ、ピカ!(あ、あの!)」
また一人、声を張り上げ会話に入り込む者が現れた。
涙の痕が残る顔で、善逸は自身の思いを皆に告げる。
「ピカ…ピカチュウ!ピカピ!(俺も、二人は悪くないと思う。しのぶさんの事は悲しいし悔しいけど、でも、二人を責めるのは何か違うっていうか…。うまく言えないけど、あんまり気に病まないで欲しい!)」
善逸もまた、事情を知って神楽を責める気にはなれなかった。
悪意を持ってしのぶを殺したのなら怒りを見せただろうけれど、現実にはまるで違う。
しのぶ殺害を強く後悔し今も自分を責める彼女をこの目で見ては、怒れる筈が無い。
甜花にしたってそうだ。
悪いのは彼女を洗脳したDIO、もっと言えば殺し合いを始めたボンドルド達だろうに。
-
人語を話せないのがもどかしい。
しかし善逸の必死な身振り手振りで何を伝えたいかは察してもらえたらしい。
「……うん。あの、ありがとう……」
「…でも私は……」
神楽はまだ納得した様子が無い。
そんな彼女へ、黙って様子を見ていた戦兎が話しかける。
「やっぱり、すぐには自分を許せないか?」
「当たり前ヨ。そんなん簡単に納得できる訳無いアル…」
「そうか……。まぁ、気持ちは分かる」
「気休めなんて――」
いらない、言葉は急に途切れ最後まで続かない。
自分を見る戦兎の顔が真剣そのものだったから。
「…俺も、前に人を殺したことがあるんだ」
「えっ……」
衝撃の告白だった。
神楽も、甜花も、善逸も目を見開き戦兎を見る。
ただ一人、杉元だけは意外そうにしながらも余計な口は挟まず黙って続きを促す。
皆の視線を集めながら戦兎は静かに語り出す、過去に犯した大きな過ちを。
それはまだ三都がパンドラボックスを巡り戦争をしていた頃。
今でこそ頼れる仲間だが、当時は北都の仮面ライダーとして戦兎達とは敵対関係にあった猿渡一海、それに彼の舎弟である北都三羽ガラスとの戦い。
終わりの見えない戦争を一刻も早く終わらせるべく、スクラッシュドライバーを手にした万丈が北都へ侵攻しようとした時だ。
防衛ならまだしも侵略には猛反対の戦兎は万丈を止めるべく、彼と一海達との戦闘に乱入。
しかし当時のビルドではスクラッシュドライバーの変身者達や、スマッシュの強化態であるハザードスマッシュには歯が立たずに苦戦。
焦る戦兎は禁断のアイテム、ハザードトリガーに手を出してしまう。
それがどんな結果を齎すかも知らずに。
-
ハザードトリガーとは万能強化剤により使用者の戦闘力を爆発的に高める、ビルドの拡張システム。
使用すればハザードレベルを大幅に上昇させる反面、大きなリスクも存在する。
戦闘が長引けば脳が強化剤の刺激に耐え切れず理性を失う。
そうなれば最早変身者の意思は関係無い、敵味方の区別なく目に映る全てを破壊する殺戮マシーンと化すのだ。
ビルドとして戦い慣れていた戦兎とて、ハザードトリガーのデメリットからは逃れられない。
暴走状態となったビルドは万丈を叩きのめし変身解除に追い込んだ。
悲劇はここからだ、尚も暴走の止まらないビルドの次の標的は北都三羽ガラス。
内の一人、青羽へと必殺の蹴りを叩き込み、直後どうにか万丈が制止に入った事でようやく暴走は治まった。
既に手遅れだったが。
「あの時は戦えないどころか飯もロクに食えなくてさ…。色んな人に迷惑かけちまった」
「……それから、どうなったアルか?」
青羽を殺した精神的なショックは余りにも強く、戦兎はビルドとしての戦いを放棄。
万丈が一人で戦いに行くのを見ても、再起の兆しは微塵も存在せず。
更には罪悪感で青羽の幻を見て取り乱す程に追い詰められていた。
だが殺し合いでの戦兎からはそういった様子は見られない。
打倒主催者を強く決意し、DIO達にも果敢と戦いを挑む、正義のヒーローを体現した姿。
一体どうやって立ち直れたのか。
「死にたいぐらい痛くて、苦しくても、戦うしかなかったんだ…」
記憶を奪われ、創られた偽りのヒーローだったとしても。
守るものがあるから、信じた正義の為に戦う。
自分達を欺き裏切った男に言った言葉を、その男からそっくりそのまま返されたのだ。
どれだけ逃げたくても、自分の信じた正義だけは裏切れず戦兎は再びビルドドライバーに手を伸ばした。
何より戦兎は一人では無い。
戦兎を消滅させてハザードフォームの暴走を止めるよう懇願されても、断固として拒否した美空。
再び暴走した戦兎を、スクラッシュドライバーを使いこなし決死の思いで止めた万丈。
仲間の存在が、まだ残っているものがあるから戦兎は仮面ライダービルドである事をやめなかった。
新世界を創り青羽を含めた多くの人の死が無かったことになった今でも、犯した罪を忘れた日は一度も無い。
-
「神楽、胡蝶の事を吹っ切るのは相当難しいと思う。けど自分にまだ残ってるものがあるんだったら、それを投げ出して後悔する羽目にはならないで欲しい。…俺も何かが違えば、そうなってたかもしれないからさ」
尤も再起の切っ掛けを作ったのがそもそもの元凶である男なのには、今でも苦い思いが抑えられない。
「……」
自分にまだ残っているもの。
銀時と新八が死んで、カイジ達が死んで、悲鳴嶼が死んで銀時の肉体も失われた。
取り零し続ける自分にまだ残っているもの、戦う理由はあるのか。
そんなの、沢山あるじゃあないか。
この地で出会った仲間、広瀬康一とゲンガーはまだ生きている。
殺し合いの打破を共に志した彼らを存在を無視し、自暴自棄になどどうしてなれようか。
自分の体だってそうだ。
オレンジ髪の航海士を本人の元に戻さなければ、ロビンに一生顔向けできない。
死んでしまった彼女へしてやれる事は残されていなくても、彼女の仲間を助けるチャンスはまだ失われていない。
何よりも、自分が帰らなければ誰が銀時達の死を伝えられると言うのか。
万屋銀ちゃんに一匹残された定春はどうなる?
もう二度と帰って来ないのに、いつかひょっこり戻って来ると有り得ない希望を妙に持たせるのか?
銀時の盟友であるロン毛は事情を察するかもしれないけど、それでも死んだとはっきり伝えるべきでは?
『こんな僕らの力でも必要としてくれている人がいる』
『僕らにも守れるものが今ある』
『いつだって、何かを守るために僕らは強くなってきた』
『きっと僕らは、また一つ強くなれる』
思い出すのは嘗て新八が言ってくれた言葉。
最初の放送の後で冷静さを失った自分を落ち着かせてくれた、忘れられない大切な記憶。
ああそうだ、戦兎の言う通りじゃないか。
自分は確かに多くを失った、だけどまだゼロではない。
罪悪感と喪失感は容赦なく心を痛め付け、今だって痛くて泣きそうだ。
だけどまだ残っているものがある、守りたいと思える人がいる。
戦う為の、拳を振るう理由が自分にはある。
-
「そうアルな……私はまた忘れてたみたいネ……」
つくづく情けない己に苦笑いが浮かぶも、そこに自暴自棄の色は無い。
完全に吹っ切れたかと言えばそんな訳はなく、きっとこの先も蝕まれる痛みと付き合わねばならないのだろう。
だがそれは戦いを止める理由にはならない、止めるつもりもない。
「ごめん、もう大丈夫アル」
明るい、とまではいかないが幾分光を取り戻した瞳。
神楽の様子に場の空気も和らぐ。
「あー…ちょっといいか?」
少々遠慮がちにその空気へ割って入る声。
バツが悪そうに頭を掻きながらも、重要な話なのか瞳は真剣味を帯びている。
後回しにするよりは今のうちに言うべきと判断したのか、杉元が話し始めた。
「水を差すようで悪いけどよ、早目にはっきりさせときてぇ。…胡蝶はどうするつもりだ?」
「どうするって……そりゃここに置きっぱなしには…」
そうじゃねぇと戦兎に返し、自分の首を指でトントンと叩く。
杉元が何を言いたいのかが瞬時に分かり、思わず顔が強張った。
「おい杉元、それは…」
反論の言葉が口を突いて出るも、現実的な思考が待ったを掛けた。
首輪なら脹相が既に入手しており、合流時に譲って貰えば良い。
しかし首輪を多く手に入れるのは決して悪い考えとは言えない。
首輪の解除には首輪のサンプルを解析し、どういった構造になっているかを知る必要がある。
当然、サンプルとなる首輪は多い方がより成功の確率を高められるだろう。
もし一つ目の解析に失敗しても、もう一つあれば問題無い。
仮に首輪一つで解析に成功した場合であっても使い道は残されている。
モノモノマシーン、首輪の投入と引き換えに何らかの道具を提供する主催者が設置した機械。
殺し合い促進の為に置かれた装置を使うのは余り気分が良いものではない。
だがDIOやエボルトが健在であり、未だ全容の分からない主催者との戦いも控えている状況だ。
戦闘の助けとなる武器や道具を入手する機会を、一時の感情のみで捨て去れば後々困るのは自分達の方ではないのか。
-
新たな首輪を手に入れるメリットは大きい。
但ししのぶの首を斬り落とすという、避けては通れない作業を行う大前提の上でだが。
「ピカピ……」
善逸が小さな体を震わせ、動揺を露わにするのは無理もない。
幾ら首輪が必要だとはいえ、仲間の死体を更に傷付ける真似をするのだから。
正確にはしのぶ本人の体ではないものの、どうやったって抵抗は大きい。
善逸の様子に戦兎の中では、しのぶの首輪は手に入れるべきではない方へ傾く。
彼女の仲間の前でこんな話をするだけでも酷だろうに。
やはりしのぶの首輪は必要ない、既に脹相が手に入れたものだけで十分。
杉元にそう返そうとし、
「ピカ…ピカチュウ(分かった……)」
重々しく、されど肯定するように善逸が頷いた。
「良いのか…?首輪を手に入れるには胡蝶の……」
「ピカピー、ピッピカチュウ。ピカ…(正直滅茶苦茶嫌だけど、でも必要な事だって俺も分かるし…。それに多分、しのぶさん本人もそれで良いって言うと思うから…)」
鬼との戦いとは、無惨との戦いとは犠牲無しで終わらせられる優しいものでは決してなかった。
煉獄が上弦の参に殺されたように。
無惨との決戦で柱を含めた多くの隊士が命を落としたように。
彼らの死を悲しむのは誰も否定しない、しかし死者に足を取られるのは良しとされない。
折れた刀を手放し、遺された刃を拾い上げ突き立てるのを死者は憤慨するだろうか。
否、逝ってしまった自分達でも役立てれるならと喜びを見せるだろう。
しのぶもきっと同じだ。
生きる仲間の為に首輪が必要と知れば、仮の体となった少女へ申し訳ないとは思うだろうけれど。
感傷で拒否するより、生きている者達の為に首輪を手に入れる選択を望むはず。
-
「ピカァ…ピカ……(俺に気とかは遣わなくて大丈夫…だから……)」
何と言っているのかは分からないが、伝えたい事は分かった。
最もしのぶの首を斬るのを拒否するだろう少年がそう言うのであれば、神楽も甜花も口出しできない。
戦兎もまた暫しの沈黙を挟み、ややあって承諾する。
「……分かった。じゃあ少し、席を外して来る」
しのぶの死体を抱き上げ、善逸達に背を向ける。
流石に皆の見ている前で首を斬る訳にはいかない。
どこか別の部屋で首輪を手に入れる、そしてその役目は誰に言われるまでも無く戦兎が引き受けた。
死体の破壊に抵抗が微塵も無いと言えば嘘になる。
しかし首輪のサンプルを手に入れねばならない以上、遅かれ早かれこうなると分かっていた。
決して進んでやりたいものではない、だが他の者に押し付けるつもりも無い。
やけに重く感じる足を一歩一歩進める背が、廊下の奥へと消えて行き、
「いや、それは俺がやる」
いつの間にか横に並んだ少女が、戦兎の歩みを止めた。
「杉元…?」
「最初に首輪の話を持ち出したのは俺だ。なら俺がやるのが筋ってもんだろ。それにまぁ、俺のが慣れてるしな」
何でもない風に言う杉元に一瞬言葉が詰まる。
杉元が明治時代の元軍人だとは聞いた。
PK学園での戦闘でDIOを撃ち殺した事から、殺しに躊躇を抱かない男だとも察しは付く。
戦兎の世界で起こったパンドラボックスが絡んだ戦争とは違う、超常の存在が介入しない教科書に載っている戦争を経験した男だ。
だから「慣れている」との言葉にも納得はいく。
-
だからといって、じゃあやってくれと気軽には任せられない。
手を汚す役目だけを押し付け自分は首輪だけを手に入れるというのは、流石にどうなのか。
自分がやるから大丈夫だと返答を口にしかけ、
「桐生」
名前を呼ばれ、再び口を噤む。
こちらを射抜く真紅の瞳から目を逸らせない。
威圧されてはいない、怒気や殺気など以ての外。
ただ話を聞かねばならないと思わせる力強さが、戦兎の瞳を捉えて離さない。
「お前は、やらない方がいい」
「――――」
杉元は知っている。
いや、最初に会った時から分かっていたのかもしれない。
桐生戦兎は善人で、信用できて、殺し合いを肯定する馬鹿な真似はしない男。
ただ根本的な部分で自分とは違うのだろうと。
自分のみならず、金塊の争奪戦に関わった大半の人間と違う。
人を殺す、杉元ならば即座に実行に移せるソレへ戦兎はきっと躊躇する。
さっきの話を聞いて確信に変わった。
人を殺した事実を重く受け止める戦兎を、甘いだの何だのと吐き捨てる気は毛頭ない。
だって、その反応こそが正しい在り方だろうから。
異端なのは日露戦争が終わって尚も、銃声と怒号が犇めくあの地へ心を置き去りにした自分の方だから。
なればこそ、今から戦兎がしようとしているのはきっと、彼がするべきではない。
誰よりもその役目を果たすのに相応しいのは、人の死に慣れ過ぎた自分だ。
死体を破壊するのだって、刺青人皮を剥いで来た自分で十分だろう。
多くは語らない。
けれど短い言葉にどれだけの重みが込められているのか。
こちらを見上げる白髪の少女、見下ろす位置にありながら戦兎は不思議と対等に視線をぶつける男の姿を一瞬幻視した。
-
○
「悪い、押し付けちまって……」
「だから謝んなくていいって。こっちは気にしてねぇんだからよ」
よく謝る奴だとつい呆れ笑いが浮かぶ。
気にしていないのは本当だ、だからそっちも引き摺らなくて良いのに。
現在彼らがいるのは一階ロビーから離れた場所に位置する部屋。
入院患者の遺体を一時的に保管する霊安室である。
しのぶをこの部屋に運び、杉元が彼女の首を斬り落とし首輪を回収。
ベッドに寝かせられた遺体に黙祷を捧げ、目的は果たした。
なのだが戦兎は自分がする筈だった首を斬る作業を杉元にやらせたのに、申し訳なさを抱いているらしい。
こうまで気を遣われるというか、謝る奴は自分の周りではほとんどいないので何処か新鮮な気分。
というか若干の居心地の悪さを感じる。
良くも悪くも自分の周りは切り替えが早い連中が多い。
このままずっと引き摺られるのも困るので、一つ提案を口にする。
「代わりにって言うのも変な話だが、こいつを貰っても良いか?」
「それをか?…まぁ別に良いけど」
戦兎からの承諾も得たソレを腰に差す。
元々は戦兎にのデイパックにあった三つ目の支給品。
しのぶの首を斬るのにも使った刀は、杉元が知る男が振るっていた名刀。
これを譲ってくれと言ったのにそう深い理由は無い。
歩兵銃もコルト・パイソンも弾の数には限りがあり、炎の弾幕とて霊力の消費を考えれば無制限には放てない。
武器がもう一つあって損は無いし、刃物を使う機会は何かと多いと考えてのこと。
前々から持ち歩いている三十年式銃剣でないのは残念だが、そこは仕方ない。
「これでもまだ気にしてるってんなら、首輪を外してくれりゃそれで良いさ」
「…ああ。そっちは任せてくれ」
自身の首を指さす杉元へ力強く頷き返す。
何はともあれ首輪は手に入った、ならここからは実際に外せるか否かの問題。
主催者に握られた命を解放し、連中との戦いに備える為にも首輪解除は必須だ。
ならここからは頭を切り替えねばと、霊安室を出てロビーに戻る。
帰って来た二人を見ても、あれこれ追及する者はいなかった。
ただ無言で視線を寄越す善逸に一度頷き、向こうも言葉無く首を縦に振った。
-
「後回しになっちまったが、まずは全員の手当てが先だ」
悲鳴嶼のデイパックからはしのぶの死体以外に、予想通り傷の処置に必要な道具一式が見つかった。
提案に反対する者はいない。
と言っても異性のいる前で肌を曝け出すのは双方にとって流石に気まずい。
よって一人ずつ別の部屋に移動し手当てを受ける事となった。
「よろしくお願い、します……」
「おう」
診察室で制服の上を脱いだ甜花にテキパキと処置を施す。
肌を晒け出した少女を前にしても、杉元から邪な感情は一切感じられない。
真面目な顔で包帯を巻き、精神は男でも体は女なのもあって、妹の下着姿を見られる抵抗感はある程度薄れていた。
「あ、あの、杉元、さん……」
「ん?どうした?」
外見は自分と近い年頃の少女でも佇まいや口調から恐らく大人の男性と判断。
恐る恐るさん付けで話しかけると、特に不審には思われず反応してくれた。
「えっと、ありがとうございます……」
「…?手当てしてることか?」
「そ、それもだけど、あの、甜花のこと助けに来てくれて……」
思えばこの少女とまともに会話をするのはこれが初めてだ。
最初にPK学園を訪れた時から互いの存在は把握していたものの、呑気に会話をしてられる状況では無かった。
甜花が正気に戻ってからも姉畑の乱入やDIOの復活やらで、双方自己紹介の余裕も皆無。
これまで杉元から見た甜花という少女は思考をおかしくされ、DIOに心酔していた時が大半。
病院に戻って来てからようやっと素の彼女を見れた気がする。
「礼なら俺より桐生に言ってやれ。お前をずっと心配してて、助けるのに一番張り切ってたしな」
「え、あ、そ、そうなんだ……」
離れている間も気に掛けて貰えたのは純粋に嬉しい。
そこまで自分の事を考えてくれていたと聞くと、少々照れくさくもある。
恥ずかし気に目をあっちこっち泳がせる甜花の処置を終え、次の仕事に取り掛かった。
-
やがて全員の手当てが済むと一行は再びロビーにて顔を突き合わせる。
甜花から話したいことがあると言われ、こうして腰を落ち着け聞く体勢に入った。
その前に戦兎以外の面子とは改めて自己紹介もしておく。
DIOに操られなければ彼らとももっと早くから親交を深め合えたのだろうけど、言った所で今更な話だ。
甜花が話すのはDIOの元にいた時に何があったか。
もしかしたら戦兎達にとって必要となる情報があるかもしれないし、何より甜花自身が伝えておかねばならない事実がある。
自分の犯した間違いを語るのは楽ではないが、意を決して一つずつ説明していく。
ナナの運転する車で戦兎達が学園から逃げた後。
一回目の定時放送が終わり少し経ってから、PK学園にやって来たしのぶとデビハムの二人と戦闘になった。
先程話した時よりも細かく説明する。
自分はメロンを被った仮面ライダーに変身し、貨物船と共にデビハムを相手取った。
「甜花がデビハムと…」
「う、うん。あのベルトで、色々変身できたから……」
思ったよりも戦極ドライバーを使いこなしているらしい甜花に、戦兎は複雑な心境だ。
彼女が変身する必要がないよう守ろうとしたのだが、結局は戦いへと引き摺り込んでしまった。
先の戦いで決意の言葉を聞いた為、もう戦うなと水を差すつもりは無いが。
複雑ではあれどそれ以上話の腰を折らずに続きを聞く。
戦闘はDIOがエターナルに変身し猛威を振るい優勢に持ち込み、貨物船が二人にトドメを刺そうとしたのだと言う。
その直後だ。
別の意味でDIO以上の危険人物、姉畑支遁が乱入したのは。
-
「いきなりあの人が出て来て……それで、貨物船、さんを……甜花にも…う、うぅ……」
「あー…無理しなくていいぞ大崎。何があったかは大体分かる」
色んな意味でショッキングな光景を思い出してか、目尻に涙を浮かべガタガタ震える。
嫌悪と恐怖がこれでもかと顔に現れた甜花へ杉元が助け船を出す。
反応だけで姉畑が何をしたのか察しが付く。
杉元同様に姉畑の異常性を知っている善逸もまた、顔を青くし縮こまっていた。
「先生のことだ、大方あのデカい猿とウコチャヌプコロしたんだろ。無理に話さなくていい」
「グスッ、うん……え?ウコチャ……え?」
「んなヤベー奴だったアルか、あのネオアームストロングジェットアームストロング大猿王銃(キングコングガン)は」
「その長ったらしい名称は何なんだよ…」
姉畑に関して詳細に語るのは甜花の精神衛生上良くないので次に移る。
しのぶ達が撤退した後、残された姉畑はDIOと二人きりで話をし、そこで具体的に何が起きたかは甜花も知らない。
ただ次に見た時にはもう象の下半身を持つ怪物へ変貌しており、貨物船を捕まえ逃走。
何をされたのか怒り心頭のDIOと共に貨物船を追いかけ、再びしのぶとデビハムに遭遇。
今度はもう一人、氷を操る青髪の少女の姿もあった。
「ヴァニラ・アイス…それがあの女の子の名前なのか?」
「う、うん。部下だってDIOさ…あの人は言ってたよ……」
「承太郎って奴はまだ分からねぇが、もう一人はこれでハッキリしたな」
空条承太郎とヴァニラ・アイス。
最初に会った時DIOが口にした二名の内、後者の正体は判明した。
DIOの部下、つまり自分達にとっても相容れない敵。
ヴァニラとはPK学園で交戦経験のある杉元からも皆に説明をしておく。
校舎内で戦った時に見せた能力についてだ。
曰く、髑髏のような口に自らを飲み込ませ姿を消し、壁や床を削り取る謎の攻撃。
姿が見えない間は気配が完全に消失しており、五感を総動員しての回避は非常に困難。
但し向こうも敵の姿は見えておらず、片っ端から攻撃するしかない。
敵の撃破を確認する為に髑髏から顔を出した瞬間のみ、攻撃を当てられる。
弱点があっても強力無比な能力の持ち主だ。
加えて戦兎達を凍らせた力も使う危険な相手がDIOの部下。
DIOの脅威がより一層高まったのを嫌でも感じ取った。
-
甜花の話に戻る。
しのぶがどうやってDIOの元から逃げたのか。
そしてデビハムと貨物船の最期、どちらも戦兎達には意外な内容だ。
DIOかしのぶに殺されたと考えていたデビハムは自害を選び、おまけにしのぶと姉畑を逃がしたのも彼。
行動の真意も本人が死んでしまった以上、問い質すのは不可能。
二回目の定時放送が流れた後はPK学園に戻り、そこからは全員が知っている通り。
ただDIOは次の目的地として街から南東に位置する地下通路に向かうつもりだったとのこと。
何故地下通路を選んだのかは安易に予想が付く。
新たに導入された殺し合いを促進させる設置物、モノモノマシーンを利用する為だろう。
禁止エリアに阻まれ遠回りを余儀なくされる網走監獄よりは、地下通路の方がスムーズに行ける。
デビハムと貨物船に加え、悲鳴嶼と姉畑、更には鳥束の首輪も回収されたに違いない。
貨物船を殺し使用権を得ているのもあって、DIOは計6回もモノモノマシーンが使用可能。
ただでさえ厄介な相手が今以上に戦力を強化するのは全員にとって悩みの種に他ならない。
阻止したい気持ちは山々だがナナ達をほったらかしにも出来ない。
悔しいが今は体力の回復と仲間達との合流を優先、戦力を整えてから改めて対策を考えるべきだ。
これでDIOと共にいた際の動向は全て話し終えた。
しかし甜花にはまだ言わねばならない事が残っている。
むしろこれから話すのが本題と言っても良い。
「あのね…最初の放送で空助って人が言ってた、誰がどの体になってるか分かる名簿を見たの…」
精神と肉体の組み合わせ名簿。
参加者を殺した者のみが手に入れられるボーナス支給品は、貨物船が入手したらしい。
戦兎と杉元は直接現場を見ていないが、貨物船は教室で鳥束を殺害している。
手に入った名簿を主であるDIOに献上し、甜花も一応確認の為にと名簿を見た。
そうして知ったのは甘奈以外にも知っている人物が巻き込まれているという、決して望まない事実。
「千雪さんと、真乃ちゃんの名前があって……」
真乃の体に入った精神の名に甜花は聞き覚えが無い。
ダグバなる人物は戦兎達にも初耳で、残念ながら詳細な情報は得られなかった。
せめて殺し合いに否定的な人物であると願うばかりだ。
問題は前者、千雪の体に入っている参加者の方。
-
「甜花…それは間違いないのか?」
「う、うん……。その、戦兎さんが前に教えてくれたエボルトって人、じゃなくて、宇宙人が千雪さんの…体に入ってる、みたい……」
思いもよらぬ情報に言葉を失くし頭を抱える。
「最っ悪だ」と普段の口癖を言える余裕は無く、ため息すら出せない。
エボルトが戦いとは無縁の一般人の肉体に入っている可能性を、微塵も考慮していなかったと言えば嘘になる。
しかしだ、よりにもよって甜花と同じ事務所の、所属するユニットも同じで縁の深いアイドルがエボルトに与えられた体。
最悪どころの話ではない。
組み合わせを考えた主催者へふざけるなと怒鳴り付けてやりたい気分だった。
「そんなにヤバいアルか?その厨二くせー名前の天人は」
「…ああ。俺が知る限りじゃ間違いなく最悪の相手だ」
「や、やっぱり……千雪さんの体で殺し合いに……!」
直接会っていなくとも、戦兎の反応を見ればどれだけ危険な存在かが分かる。
そんな男が千雪の体を使って参加者を殺して回っているかもしれない。
想像するだけで気絶しそうなくらいにショッキングな光景だ。
どうしてあんなに優しい、自分と甘奈が本当の姉のように慕っている人の体をそんな風に扱うのか。
不安と怒りと悲しみで意識せずとも顔が歪む。
「いや……エボルトが殺し合いに乗っているとは限らないと思う」
意外な所から否定意見が飛ぶ。
発したのは戦兎、エボルトの危険性を最も知る男にも関わらずエボルトは殺し合いに乗っていないと言う。
知っているからこそと言うべきか。
「アイツがロクでもねぇのは本当だ。けど、自分の状態を軽く見て考え無しに動くような馬鹿でもない」
エボルトという男は非常に狡猾である。
10年以上も地球に潜伏し、嘘を真実を交えて信頼を作り、自らの立場をのらりくらりと替え、己の望む方向へと人間達を掌で転がす。
ジーニアスフォームの力で感情を植え付けてしまってからは計画に遊びを入れる傾向が多く見られたものの、用意周到さと臨機応変に対応するアドリブ力の高さは健在。
何よりあの男は必要とあれば敵である戦兎達に手を貸す柔軟性も持ち合わせている。
最上やキルバスが起こした事件の時が分かり易い例だ。
そのような男が石動惣一よりも非力な女の体にされた現状で、馬鹿正直に優勝を目指すだろうか?
可能性は低い。
エボルトの立ち回りの上手さを考えれば戦兎や殺し合いに反抗する者を利用し脱出を目論むか、仮に優勝するにしてももっと慎重に動く筈。
むしろ今のエボルトは千雪を最悪の状態で人質に取っているようなもの。
素直に殺し合いに乗るよりも、迂闊に千雪の体へ手出し出来ない現状を有効活用する方へ舵を切るだろう。
例えば自分の首輪解除を戦兎に要求したりだとか。
-
「まぁそういう奴だから、確実に殺し合いに乗ってるとは言い切れねぇ」
「つっても警戒するに越した事はない相手だろ?悪知恵が働く分、下手に暴れられるより面倒な野郎だな」
渋い表情で言う杉元に戦兎も同意する。
体が千雪である以上、戦って倒すという方法でどうにかなる相手では無い。
敵対者には容赦ない杉元と言えども、甜花の前でいざとなれば自分が殺すなどとは口にできなかった。
体を取り戻すのは殺し合い当初から考えていたがエボルトの情報を得て、より重要性が増した。
いずれ向こうから接触を図りに来るだろうが好都合。
殺し合いに乗っていないかもしれないとはいえ、千雪の体でおかしな真似に出ない保障も無い。
監視の為にもエボルトをなるべく早く発見したいところだ。
「甜花、エボルトの事は俺に任せてくれ。アイツに好き勝手馬鹿な真似はさせたりしない」
「…うん、分かった。戦兎さんのこと、信じてるから……」
DIOの言葉に安心を得た時とは違う。
偽りの愛情ではない、本心から戦兎を信じられる。
不安が消えたわけではなく、だけど甜花は知っているから。
桐生戦兎は優しくて、誰かの為に戦える本当のヒーローのような人だと。
「なぁ大崎、その名簿って今も持ってたりするか?」
組み合わせ名簿があれば誰の体が参加しているかが一発で分かる。
アシリパや白石の体が巻き込まれているのを危惧する杉元としては、甜花の手元に名簿があるなら見せて欲しいと頼み込む。
戦兎や善逸も同様だ、仲間の体が無事か否かは確認しておきたい。
「あ、その…甜花は持ってなくて……他の人の名前も、ちゃんと覚えてない……」
名簿はDIOが所持したまま、記載されていた名前も全てをはっきりとは覚えていない。
見れないのは残念だが甜花を責める真似は誰もせず、別の機会に見ればいいと話は落ち着いた。
「誰の体が巻き込まれてるかはゲンガーに聞けば良いネ」
「どうしてだ?そいつが放送で言ってた名簿を持ってるからか?」
「違うアル。ゲンガーが見せてくれた名簿は他の奴とは違ってたヨロシ」
神楽曰く離れの島で出会った仲間に支給されたのは精神側ではなく、身体側の参加者の名前が記載された名簿とのこと。
特殊な名簿を見せてもらい康一は仗助の、ロビンはチョッパーの、ハルトマンはバルクホルンの体の存在を把握出来た。
精神との組み合わせは分からなくとも、体が巻き込まれてるかどうかは知る事が可能。
但し神楽がゲンガーと別れたのはここからずっと西側のエリア。
場所を考えると合流はまだ先になる。
-
伝えたい内容はこれで全てだ。
話が終わり方の力を抜いたからだろう、どっと疲れが甜花を襲う。
思わず椅子に深く腰を沈めた時、くぅと可愛らしい音がお腹から聞こえた。
「あ……。あ、あの、こ、これは…その…」
「何あざとい反応してんだオメーは。ニセコイどころかエセコイじゃねーカ。マガジンのラブコメにでも帰れコノヤロー」
「ピカピ〜…(何でそんなに厳しいのこの人…)」
空腹を訴える音を鳴らしてしまい、羞恥で顔が真っ赤に染まる。
微笑ましい姿の甜花へ神楽が向ける態度は何故か辛辣だった。
それはともかく殺し合いが始まってから入浴や睡眠は取ったが食事はまだなのだ。
腹が減るのはごく自然ななことだろう。
「まぁ話も一段落着いたし、何か食べて休んで良い頃合いかもな」
「それなら丁度……いや何でもねぇ!なにも無かった!」
「急にどうした…?」
デイパックを開きかけ、慌てて取り繕う杉元に訝し気な目を向ける。
話す気は無いのか目を逸らし何でもないと言い張るのには、困惑するしかない。
とはいえ杉元がそんな反応をするのは無理もない話だ。
悲鳴嶼のデイパックに入っていた鍋。
それを温め直して食べようという提案は、鍋の正体に思い直し無かった事にしたのである。
以前白石や尾形、谷垣にキロランケと五人で食べたラッコ鍋。
あれの香りに中てられてしまい色々と、本当に色々あった。
正直あの時に起きた事は永遠に忘れてしまいたい。
神楽に疑いの目を向けられた悲鳴嶼と脹相がどことなく余所余所しい態度だったのにも納得がいく。
きっと彼らはラッコ鍋を食べ、嘗ての自分達と同じ目に遭ったに違いない。
果たして二人が未遂で終わったのか、はたまたイクとこまでイってしまったのは本人達の名誉の為にも気にしないでおこう。
とにかくラッコ鍋の恐ろしさを知っているが故に、ここにいる面子に食べさせられはしない。
善逸はまだしも、女である甜花と神楽、女の体の自分がいて心身共に男なのは戦兎一人。
もしもあの時と同じ事が起きてしまえば、流石に気まずいとかでは済まない事態に発展しかねない。
ラッコ鍋のせいで殺し合いに反抗する陣営が崩壊などとなっては目も当てられない。
かと言って捨てる気にもなれない、ラッコ鍋という料理自体には何の罪も無いのだから。
デイパックの奥深くに封印しておくのが吉だろう。
「い、いや、あれだな!折角なら体があったまるもんとか食いたいよな!」
「それなら、丁度良いのがある…かも……」
誤魔化す為に言った温かい食事。
それに当て嵌まるものを甜花は見付けていた。
-
○
甜花に案内され移動したのは食堂スペース。
戦兎が傷の手当てを受けている間、何か使える物が無いかと神楽・善逸と共に付近の部屋を探索したとのこと。
善逸を抱えながら甜花は食堂を訪れており、ここでちょっとした発見があったのだ。
「ここにいっぱい入ってて……」
戸棚を開けると中にはカップラーメンがギッチリと詰まっている。
病院の食堂に健康食とは言い難いインスタントの食品。
ミスマッチな組み合わせだが、殺し合いの施設に一々常識を求めるのも無意味。
温かい食事が取れるなら不満は無く、水を入れたやかんをガス台で沸騰させる。
現代日本出身の戦兎と甜花、天人の襲来で文化が異様に発展した江戸に住まう神楽からしたらごく当たり前の技術。
大正・明治の日本に生きる杉元と善逸は興味津々の様子だ。
「大したもんだな未来」
「ピカー……」
コップに注いだ水道水を飲みながら呟く杉元の横では、ガス台の火を善逸がぼんやり眺める。
湯が沸騰し独自の音を鳴らすと、蓋を半分ほど開けたカップ麺に熱湯を注ぐ。
塩味と味噌味だが、パッケージに記されたのは甜花には見覚えの無いメーカーだった。
4分経過し蓋を開けると各々箸を付ける。
「ん…!美味い…!」
最初はどんな食べ物か分からなかった杉元も、麺類と分かれば試しに啜ってみる。
感想は口にした通り。
蕎麦やうどんとはまた違った食感の麺と、濃い味ながら食欲を刺激するスープ。
雨で冷えた体が瞬く間に火照り、温かいどころか熱くなるも箸を動かす手が止まらない。
-
「ピカ!」
「おお、悪い悪い。火傷しないようにしろよ」
膝に乗せた善逸のことをつい忘れてしまっていた。
軽く息を吹きかけ麺を冷ましてやり食べさせてやる。
ちゅるちゅる啜ると顔が綻んだ辺り、味には文句なしの様子。
スープを口に付けた際に悲鳴が上がったのはご愁傷さまだ。
舌を火傷したらしい善逸に水を飲ませる。
「ごっそさんアル。もう一個もらうネ」
「そんなに食って大丈夫なのか?」
「大丈夫ヨ。こいつは胸だけじゃなく腹にも脂肪やった方がバランス良いネ。女はドラム缶みたいになってからが本番アル。カロリー制限なんてクソ食らえヨ」
「体の持ち主本人が聞いたらキレるだろそれ…」
あっという間に完食し、謎の理論で二つ目のカップ麺にお湯を注ぐ。
フリーダムな神楽ををオレンジ髪の女本人が見たら何と言うやら。
落ち込んで食欲が全く無いよりはマシではある。
「ふふっ……」
小さな笑い声に横を見やると、戦兎の視線に気付いた甜花が途端に慌て出した。
「ご、ごめんなさい…!」
「いや別に怒ってないぞ?」
「あ、うん……」
怒ってないと言われ安心したのか、恥ずかし気に目を泳がせながら理由を口にする。
-
「あの、ね…まだ大変なことになってて、みんなもたくさん痛い思いをしたって分かってるけど、でも…また戦兎さんと一緒にいれて…みんなとご飯食べてるのが何だか嬉しくて……そ、それで……」
「良いことじゃねぇか」
最後の方は照れくさくなったのか小声になった甜花を肯定する声。
善逸にスープを飲ませながらあっけらかんと言ったのは杉元。
金塊争奪戦は刺青囚人や金塊を狙う他の一派、時には大自然の猛威との目まぐるしい戦いの連続。
しかしいつだって食事の時は殺伐とした空気を忘れ、北海道の恵みの味を堪能したものだ。
殺し合いでもそれは変わらない。
今が異常事態であるのは十分承知、DIOや主催者が未だ健在なのを忘れたつもりはない。
されど飯を食う時は食材への感謝も込めて、味を楽しみ残さず食べる。
「ヒンナヒンナ」
残ったスープを飲み干し何時もの言葉を言う。
神楽の真似では無いけれどまだ腹には余裕がある。
「今度はこっちの…オソマ味(味噌味)でも食ってみるか」
「よく分かんねぇけどその言い方やめとけ」
何となく下品なものを感じたのか戦兎が冷静にツッコむ。
二人のやり取りを見て、甜花はもう一度クスリと笑みを零した。
○
食事を終え、最初に食堂を出たのは神楽と善逸。
戦兎から霊安室の場所を聞き、もう少ししたらしのぶに会いに行くつもりのようだ。
元々の仲間と、故意で無くとも殺した本人。
二人の頼みを断る理由も無く、霊安室が何処にあるかを教えた戦兎は食堂を出る背を見送った。
「俺も見張りに戻る。何かあったら知らせる」
「良いのか?今度は俺が代わっても…」
「別に大丈夫だ。気を張ってる方が逆に落ち着く。それにお前らは色々積もる話もあるだろ」
元軍人故かこういう役割の方が性に合っている。
何より二人きりで話したいことだってあるだろう。
一度戦場に放たれれば鬼神の如き戦いぶりを発揮するが、同時にオトメな一面も持ち合わせるのが杉元という男。
少女世界を愛読してるだけあって気の遣い方も上手かった。
-
ひらひらと手を振り杉元も出て行き、食堂には戦兎と甜花が残される。
二人で話したい事があるのは本当のようで、口火を切ったのは甜花だ。
「戦兎さん…!えっと、お話したいことがあるんだけど…良い、かな……?」
「ん、ああ。どうした?」
どこか緊張している様にも見える甜花を急かさず、彼女のペースで話すのを待つ。
やがて彼女の中で纏まったのか、深呼吸して口を開く。
「戦兎さん…助けてくれて、ありがとうございます……」
「いや、元はと言えば俺がDIOを止められなかったからで……」
「も、もし…!あの人のところにずっといたら、甜花はどうなってたか分からなくて…なーちゃんの体で酷いことを、もっといっぱいしてたかもしれなくて……」
もしもまだDIOに洗脳されていたら、きっとあの男に命じられるまま誰かを傷付けたのは間違いない。
本当に人を殺してしまい、取り返しの付かない事態になった可能性だって十分にある。
有り得たかもしれない光景を思うと、助けられた今でも恐くて堪らない。
でもそうはならなかった。
甜花を決して見捨てようとはせず、諦めずに戦った人がいたから。
「だから、もう一回ちゃんと言わせて…?たくさん酷いこと言ったり、傷付けたりしてて…本当にごめんなさい……!甜花のこと助けてくれて、また約束してくれて、ありがとう……」
「…ああ、どういたしまして」
くしゃっと笑って返した戦兎に甜花も安心を覚える。
最初に会った時と変わらない、彼を信じてみようと思えた笑み。
きっと本当に嬉しそうなその顔を見たからだろう。
もう一つの言いたかった事を迷わず口に出来たのは。
「戦兎さん、あの…さっきみんなに話してくれたこと、なんだけど……」
「ああ…」
どれを指すかは察しが付く。
旧世界で犯した罪、青羽を殺した件だと。
-
「恐くなったか?」
「えっ?ち、違うよ…!びっくりしちゃったのは本当だけど、でも…!恐いなんて思ってない、よ……!」
戦兎が過去に人を殺した事がある。
衝撃の告白を受けて驚きこそしたが、彼を恐怖し拒絶するなんてとんでもない。
話している時の戦兎は苦しそうで、自分の罪を心から悔いているように見えた。
悪い人なら、残酷な人なら本心からあんな顔はできない。
「戦兎さんが甜花や、みんなのことを守ってくれるのは嬉しくて、でも…戦兎さんにだって助けてくれる人は、やっぱり必要だから……」
昔よりも自分に自信を持てるようになった。
プロデューサーが同行せずとも、一人で仕事に挑戦するようになった。
甜花だけではきっとそんな風に変われなかった、甘奈と千雪がフォローしてくれて、プロデューサーが支えてくれたから。
自分一人では踏み出せなかった舞台へと、皆のお陰で立つ事が出来た。
戦兎も同じだ。
誰かを守るために奔走するヒーローも、一人ぼっちではヒーローじゃいられない。
万丈龍我、石動美空。
彼の話に出て来た人達が、彼を絶対に見捨てなかった仲間がいたから。
桐生戦兎は今でも仮面ライダービルドなんだ。
「甜花は、まだまだ頼りなくて、ダメダメな所もいっぱいだけど…」
ナナのように、明るく振舞いながらも冷静に物事を考えられる判断力はない。
杉元のように、DIOとも正面切って堂々と戦える程に強くはない。
「それでも、戦兎さんの力になりたいって気持ちは、変わらないから…。戦兎さんの、くしゃって笑った顔…甜花も好きだから……あ!す、好きっていうのは、変な意味じゃなくて…!」
慌てて弁明する甜花に笑みが零れる。
笑うなんて酷いよと口を尖らせるも、そこに本気の怒りは無く。
悪い悪いと返されれば、ちょっぴりむくれてしまうけど。
だけどやっぱり、こうして彼のくしゃっとした笑みを見れるのが、心の底から嬉しかった。
-
○
「何か違う気がするんだよなぁ…」
食堂を後にして間もない頃、誰に向けるでもない疑問が口を突いて出る。
腰に差した日本刀は戦兎から譲渡された得物。
これの何が違うかと言うと、まずは刀の持ち主が誰かを説明せねばなるまい。
土方歳三。
新選組の副長を務めた、日本で知らぬ者はほとんどいないだろう人物。
歴史的にもメジャーな男と杉元は面識がある。
何せ土方もまた金塊争奪戦に参戦した一人。
同胞の永倉新八、刺青囚人の牛山辰馬らと共に時に杉元達とは別で刺青人皮を収集する老剣士。
土方の魂そのものと言っても過言ではない愛刀、和泉守兼定こそ杉元が現在腰に差した刀。
なのだが、何故か杉元はこの刀に違和感を覚える。
具体的にどこがどうとは説明出来ない。
ただ直感的に、これは自分の知る土方の刀とは違う気がするのだ。
「俺の知ってる土方とは別の奴が使ってた、とか?」
戦兎から説明された並行世界の話を思い出す。
ひょっとするとその別の世界出身の、杉元とは関係の無い土方が使っていた刀ではないだろうか。
どっちにしても今は自分の武器として使わせてもらうのに変わりは無いが。
「……」
鞘から引き抜き刀身を眺める。
女の、まだ二十歳にもなっていない少女の首を落とした刃。
今になって後悔だの罪悪感だのを抱きはしない。
必要なことだった、それだけの話だ。
-
しかし戦兎にその役目をさせなかったのは、自分が言い出しっぺだからという単純な理由では無いのかもしれない。
人を殺すことに人間らしい罪悪感を抱く彼と、相棒であるアイヌの少女を重ねたからか。
心から信頼できる相手だと思う。
最も死なせたくない人間だと、心の底から思う。
だからこそ、自分と同じ側には来て欲しくない。
人を殺すのが当たり前の世界に浸かって欲しく無かった。
北の大地を駆け、動物を狩って美味い料理を食べ、アイヌの女の子として平穏に暮らす。
それだけで良い筈だ。
彼女を戦士として仕込んだウィルクが許せなかった。
戦って守るという選択肢に追い込んだキロランケを認められなかった。
何よりも、彼女を人殺しに堕とそうと目論んだ尾形を殺したい程に憎んだ。
戦兎も、甜花も、善逸も、神楽も。
自分とは違う、たとえ人を殺してしまっても人間らしさを失わない者達。
戻れる道を失った自分とは、違う。
アイヌの少女の成長を間近で見た脱獄王はこの地におらず。
少女が共に地獄に落ちる覚悟を見せた狙撃手との戦いは、まだずっと先の話。
本当の意味で相棒と共に踏み出した未来も、杉元は知らない。
言い表せぬ心のつっかえを感じ、されど己の役割は見失わない。
意識するのは手にした武器。
牙を突き立てるは数多の敵。
盾となるは死なせたくない仲間達。
殺すべき相手は見誤らない、抱いた殺意に揺るぎはない。
故郷で干し柿を齧った青年はもういない。
ここにいるのは不死身の杉元なのだから。
-
【D-3 聖都大学附属病院/夕方】
【桐生戦兎@仮面ライダービルド】
[身体]:佐藤太郎@仮面ライダービルド
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大・処置済み)、全身打撲(処置済み)、ジーニアスフォームに1時間変身不能
[装備]:ネオディケイドライバー@仮面ライダージオウ、ドリルクラッシャー@仮面ライダービルド
[道具]:基本支給品、サッポロビールの宣伝販売車@ゴールデンカムイ、しのぶの首輪
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを打破する。
1:暫く休んだらフリーザの宇宙船に向かう。
2:甜花を今度こそ守る。一緒に戦うなら無茶しないようにしとかねぇと。
3:広瀬康一が病院に来なければ、様子を見に行く為に別れて動くべきかもしれない。
4:斉木楠雄が柊の中にいたのか?何故だ?何か有用な情報を得られればいいのだが…
5:佐藤太郎の意識は少なくとも俺の中には存在しないということか?
6:他に殺し合いに乗ってない参加者がいるかもしれない。探してみよう。
7:首輪も外さないとな。となると工具がいるか。
8:エボルトの動向には要警戒。桑山千雪の体でおかしな真似はさせない。
9:柊に僅かな疑念。できれば両親の死についてもう少し詳しいことが聞きたい。
10:柊から目を離すべきでは無いと思うが…今はどうにもできないか。
[備考]
※本来の体ではないためビルドドライバーでは変身することができません。
※平成ジェネレーションズFINALの記憶があるため、仮面ライダーエグゼイド・ゴースト・鎧武・フォーゼ・オーズを知っています。
※ライドブッカーには各ライダーの基本フォームのライダーカードとビルドジーニアスフォームのカードが入っています。
※令和ライダーのカードは少なくともゼロワンは入っています。他のカードは後続の書き手にお任せします。
※参戦時期は少なくとも本編終了後の新世界からです。『仮面ライダークローズ』の出来事は経験しています。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※ジーニアスフォームに変身後は5分経過で強制的に通常のビルドへ戻ります。また2時間経過しなければ再変身不可能となります。
【杉元佐一@ゴールデンカムイ】
[身体]:藤原妹紅@東方project
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、霊力消費(中)、再生中、一回死亡
[装備]:神経断裂弾装填済みコルト・パイソン6インチ(6/6)@仮面ライダークウガ、三十年式歩兵銃(3/5)@ゴールデンカムイ、和泉守兼定@Fateシリーズ
[道具]:基本支給品×5、神経断裂弾×27@仮面ライダークウガ、ラッコ鍋(調理済み・少量消費)@ゴールデンカムイ、ライズホッパー@仮面ライダーゼロワン、鉄の爪@ドラゴンクエストIV、青いポーション×1@オーバーロード、黄チュチュゼリー×1@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド、ランダム支給品×0〜1(確認済)
[思考・状況]
基本方針:なんにしろ主催者をシメて帰りたい。身体は……持ち主に悪いが最悪諦める。
1:病院で見張りをする。
2:あのカエル(鳥束)、死んだのか…。
3:俺やアシリパさんの身体ないよな? ないと言ってくれ。
4:なんで先生いるの!? 死んじまったか……。
5:不死身だとしても死ぬ前提の動きはしない(なお無茶はする模様)。
6:DIOとヴァニラ・アイスには要警戒。一応空条承太郎も。
7:精神と肉体の組み合わせ名簿が欲しい。
8:何で網走監獄があんだよ…。
9:この入れ物は便利だから持って帰ろっかな。
10:本当に生き返ったのかよ!?蓬莱人すげえッ!
11:ラッコ鍋は見なかった事にしよう…。
[備考]
※参戦時期は流氷で尾形が撃たれてから病院へ連れて行く間です。
※二回までは死亡から復活できますが、三回目の死亡で復活は出来ません。
※パゼストバイフェニックス、および再生せず魂のみ維持することは制限で使用不可です。
死亡後長くとも五分で強制的に復活されますが、復活の場所は一エリア程度までは移動可能。
※飛翔は短時間なら可能です
※鳳翼天翔、ウー、フジヤマヴォルケイノに類似した攻撃を覚えました
※鳥束とギニュー(名前は知らない)の体が入れ替わったと考えています。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。また自分が戦兎達よりも過去の時代から来たと知りました。
-
【我妻善逸@鬼滅の刃】
[身体]:ピカチュウ@ポケットモンスターシリーズ
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大・処置済み)、精神的疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:殺し合いは止めたいけど、この体でどうすればいいんだ
1:もう少ししたら霊安室に行く
2:お姉さん(杉元)達と行動
3:しのぶさんも岩柱のおっさんも、また死んじゃったんだな……
4:煉獄さんも鳥束も死んじゃったのか……
5:無惨を警戒。何でアイツまで生き返ってんだよ!?
6:……かみなりの石?何かよく分からない言葉が思い浮かぶ…
[備考]
※参戦時期は鬼舞辻無惨を倒した後に、竈門家に向かっている途中の頃です。
※現在判明している使える技は「かみなり」「でんこうせっか」「10まんボルト」の3つです。
※他に使える技は後の書き手におまかせします。
※鳥束とギニュー(名前は知らない)の体が入れ替わったと考えています
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。また自分が戦兎達よりも過去の、杉元よりも未来の時代から来たと知りました。
※肉体のピカチュウは、ポケットモンスターピカチュウバージョンのピカチュウでした。
【大崎甜花@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[身体]:大崎甘奈@アイドルマスターシャイニーカラーズ
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大・処置済み)、服や体にいくつかの切り傷(処置済み)、戦兎やナナ達への罪悪感、決意
[装備]:戦極ドライバー+メロンロックシード+メロンエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、PK学園の女生徒用制服@斉木楠雄のΨ難
[道具]:基本支給品、デビ太郎のぬいぐるみクッション@アイドルマスターシャイニーカラーズ、甘奈の衣服と下着
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない
1:戦兎さんの…力になりたい……。
2:皆に酷いことしちゃった……甜花…だめだめ……。
3:ナナちゃんと燃堂さんにも……謝らなきゃ……。
4:なーちゃん達…大丈夫かな……。
5:千雪さんと、真乃ちゃんのこと…戦兎ならきっと……。
[備考]
※自分のランダム支給品が仮面ライダーに変身するものだと知りました。
※参戦時期は後続の書き手にお任せします。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※ホレダンの花の花粉@ToLOVEるダークネスによりDIOへの激しい愛情を抱いていましたが、ビルドジーニアスの能力で正気に戻りました。
-
【神楽@銀魂】
[身体]:ナミ@ONE PIECE
[状態]:ダメージ(大・処置済み)、疲労(大)、膝に擦り傷(処置済み)、銀時と新八の死による深い悲しみと動揺、精神的疲労(極大)、悲鳴嶼としのぶへの罪悪感(大)、脹相に対し不信感(小)
[装備]:魔法の天候棒@ONE PIECE、仮面ライダーブレイズファンタステックライオン変身セット@仮面ライダーセイバー
[道具]:基本支給品、スペクター激昂戦記ワンダーライドブック@仮面ライダーセイバー
[思考・状況]基本方針:殺し合いなんてぶっ壊してみせるネ
1:やっぱりまだ死ぬわけにはいかなアルな…
2:新八…皆…
3:康一とゲンガーはやっぱり心配ヨ…
4:メタモンの野郎…今度会ったらただじゃおかないネ
5:あの虫(グレーテ)は……
6:DIOが仮面ライダーとかどうとか言ってたみたいだけど…何か色々話しそびれたネ
7:私の身体、無事でいて欲しいけど…ロビンちゃんの話を聞く限り駄目そうアルな
8:銀ちゃんを殺した奴は絶対に許さないネ
9:さっきの記憶は何なんアルか……
[備考]
※時系列は将軍暗殺編直前です。
※ナミの身体の参戦時期は新世界編以降のものとします。
※【モナド@大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL】は消えました。カメラが破壊・消滅したとしても元に戻ることはありません。
※仮面ライダーブレイズへの変身資格を受け継ぎました。
※放送の内容は後半部分をほとんど聞き逃しましたが、アルフォンスから教えてもらいました。
※アルフォンスからダグバの放送が起きた事を聞きました。
※ナミの肉体の影響で『突風(ガスト)ソード』を使えるようになりました。今後他の技も使えるかもしれません。
【兄弟ラーメン@仮面ライダーカブト】
地獄兄弟の矢車想と影山瞬が作中で食べていたカップ麺。
兄貴塩と弟味噌の二種類がある。
仮面ライダージオウにも登場、その時は極兄貴塩と極弟味噌だった。
【和泉守兼定@Fateシリーズ】
新選組の鬼の副長、幕末のバーサーカー土方歳三の愛刀。
会津兼定11代目の作。
-
投下終了です
-
両面宿儺を予約します。
-
投下します。
-
宿儺は村内を探索していた。
自分が誘導して、殺したグレーテの首輪を探し回っていた。
巨人によって、近くにぶっ飛ばされたと考え、周りを隅々まで調べたが見つかることはなかった。
巨人の攻撃で首輪が誘爆したのだろうと結論を出した。
しかし、周辺の探索も無駄ではなかった。
グレーテの首輪を探し回っている最中に覚える価値のない青い服の男の頭部を再び見つけた。
ダグバがいる放送室に向かっている際、この死体は相手の攻撃から自分の身を守る縦として利用価値があると考え、回収していた。
宿儺はこの死体の首輪を回収し忘れていたのを思い出した。
あの時は力を取り戻すべく早急にダグバの元に行ってしまい、首輪の回収を怠って、失念していた。
更に織子に縛られた不愉快に覆われたことで完全に忘れ去った。
織子のせいで肝心なことを忘却したのは腹が立って仕方なかった。
宿儺はこの男の首輪を回収し、頭部をボールのように投げ飛ばした。
ほんのちょっとだけストレスを発散した。
青い服の男の首輪を回収後、公衆電話のほうへ向かっていた。
多大なストレスを抱えている今、早く新しい場所でスタートしたくて、うずうずしている。
やっとこの村からおさらばできる。
宿儺は主催者のほうの殺し合いが始まってから二回目の放送まで下らない茶番に付き合わされたと思っている。
ダグバを笑顔にさせた後、織子との縛りを利用して、織子が他の参加者に笑顔にさせて力を取り戻す計画だった。
だが、村に来てから一歩も動いておらず、ダグバが他の参加者をおびき出す作戦も村にやってきたのは康一、グレーテ、メタモンの三人しか来なかった。
何も進展がなかったとしかいいようがない。
他にも聞いた奴もいるかもしれないが、来なかった者は所詮、臆病な連中だろう。
二回目の放送後、主催陣営の勝手な介入により、計画が破綻させた連中に壮大な怒りがあるが、同時に織子の体を捨てて、伏黒の体を手に入れるまでの間、呪力が使えない体でも構わないと開き直っている。
最終的に伏黒恵の体さえ手に入れればそれでよかった。
こんなことになるならメタモンを自分の指を無理矢理飲み込ませて、メタモンが使っている体を自身の新しい体にするべきだった。
今更、言っても遅いが。
幸運なことが二つある。
織子が笑顔にしたのはグレーテのみだったこと。
もう一つはダグバの放送を聞いても、村に来なかった臆病者どもがいたかもしれなかったお陰で織子が笑顔した参加者が増えることなく、今から支障をきたすことがないことだ。
全員、鏖殺の方針を戻した以上、他の参加者を殺せない事態はもうない。
そう考えている間に公衆電話の所まで来ていた。
不愉快な思いしかないこの村とはようやく、さよならだ。
公衆電話の中に入った宿儺は受話器をかけた。
別にもしもしを言わなくてもいいだろう、それを言わせる行為は自分のプライドが許さない。
電話をかけるだけで稼動できるのは確実だ。
「どうした?」
30秒も待っているが、稼動する様子は全くない。
巨人がこの公衆電話を壊したり、故障させるようなことは明らかにない。
-
宿儺は気づいてしまった、恐らく、二回目の放送後に他の参加者に使われた可能性があることを。
これに関しても不愉快だ。
この場所を離れられると思ったが、ただのぬか喜びだったことに。
このシステムを用意した主催陣営にまたしてもストレスが溜まるだけだった。
他の参加者の都合など関係ない。
何処まで主催者は自分を虚仮にし続ければ気が済むんだ。
主催陣営への多大な怒りは二回目の放送以降から織子を消されてから溜まりまくり、最悪のタイミングで公衆電話がここで使えないのはマイナス要素で不快でしかない。
推測だが、次の再稼動までの時間は三回目の放送以降だろう。
色々とストレスを抱え、たくさんの不愉快さで限界突破をとっくの昔に超えているというのに。
連中が用意したこのシステムはもう二度と使用しない。
三回目の放送まで待つのは面倒だ。
同時に今度こそこの村から一瞬でおさらば出来るもう一つの方法を思いついた。
「待てよ、この玩具があったか」
それはケロボールである。
色々な機能があるけど、実は一部制限がかけられているが、少なくとも電撃と洗脳電波は問題なく使用することができる。
村から離れる方法が瞬間移動という機能だ。
公衆電話と似た性質であるが、それと違って完全にランダムに転送されるだけ。
但し、ケロボールの瞬間移動も一度飛ばされたら、制限で六時間の間は使えない。
宿儺は公衆電話の代わりにこの玩具の機能で使う方向に決めた。
この玩具の瞬間移動は制限に引っ掛かっており、ここ一番に使う予定で温存するはずだったので公衆電話を使うことに舵を切っていたが、こうなればこれを使用したほうが手っ取り早かった。
首輪の探索後、公衆電話に行かず早急にケロボール使えば無駄な時間を費やさずに済んでいた。
(さて、転移先がどこになるか)
気を取り直して今度こそ村から離れられると同時に、飛ばされる場所がランダムな以上、状況によってはいい方向と悪い方向の五分五分だ。
自分の相応しい肉体のある場所なのを願いながらケロボールの瞬間移動のスイッチを押し、一瞬で消えていった。
△
宿儺が瞬間移動した場所はテーブルがいくつか置かれてある酒場みたいな雰囲気だ。
どこかの建物の中だと推測する。
リスタートする場所が雨に濡れないのは上出来だ。
窓の外を除くと街中であった。
西か東のどちらかの街に転移をしたと考えた。
この建物の中や近くに誰もいないのは残念だが、街なら人が集まっているし、自分が求める新しい肉体も見つけるのも時間がかからないかもしれない。
出発する前に一つ考察するべきことがある。
織子の精神がなくなったことに関してだ。
主催者への収まらない怒りから頭を回せなかったが、新しい場所でリスタート出来ることもあって、多少は冷えている。
宿儺は椅子に腰かけた。
(あの小娘、何かあるのか?)
-
思い浮かぶのは主催について何か知っている情報を持っている。
実は力を完全に取り戻してから織子に主催者について洗いざらい吐かせる予定だった。
いくら宿儺といえども流石に情報を疎かにしない。
特に主催者の誰かが伏黒の体を使われている可能性も考慮しており、それも織子から聞くつもりだった。
力を取り戻す前に勝手に介入されたことで結局、何もかも聞けず仕舞いで終わった。
想定外の事態になるなら織子の精神を復活させた直後に知っていることを吐かせるべきだったと思った。
秘密を知っている可能性は否だ。
重大な情報を握っているなら織子の精神を復活させた直後に消しに来るだろう。
そうでなければ二回目の放送まで放置する意味がない。
仮に織子から情報を引き出そうとしても役に立つ話はないと見ていい。
まだ仮説はある。
織子の存在が殺し合いそのものを破綻させかねない予想外の事態が起きた。
それが何なのか宿儺は想像できなかった。
プロフィールによるとただの若おかみで霊界通信力がある以外は一般人に過ぎず他に特殊能力はない。
なのに不都合と見なされ織子は消された。
織子がいることで自分の知らない何かが起こったのは確かだ。
宿儺と接触した参加者を見る限り、何も異変はない。
いや、異変は人知れず静かに始まっていたかもしれない。
織子を観察したが、異常が起きた様子はなく、小娘自身もそれを自覚していない。
結論だが、本人も無自覚に異常があり、主催者も気づいていなかったイレギュラーだと。
それなら織子の体を入念にチェックせずに殺し合いの場に放り投げたことになる。
主催者の管理がお粗末になっていると言っているようなものだ。
「下らん」
どっちにしろ織子は主催者に消されたのだ。
宿儺も知らない異常事態がもう起きることはない。
本人もいないし、自分にとっては関係ないし、全部どうでもいい。
そもそも管理を怠り、こんな体にさせた主催陣営に腹が立って仕方ない。
今までのイラつきは最終的に連中にぶつけるのははなっから決定事項。
次から次へと不愉快さを起き続け、自分を虚仮にし、嘲笑い続けた主催陣営には只では殺さない。
肉片も残さずに跡形もなく消してやる。
織子も不愉快だが、一つだけ役に立つ方法がある。
自分に相応しい体を乗り移った今までの礼として織子の体を完全に殻になった状態で首輪の回収を忘れないことだ。
自分の目的を果たすために首輪のサンプルという最初で最後に役に立つだろう。
(さて、問題は誰の体にするか。)
新たな体に入る候補は現時点ではメタモンだ。
此処まで全然、参加者に会えてないというものあるが。
康一の証言と改めてメタモンのプロフィールを確認したが、ワームという化け物に変身出来るらしく、他者に擬態できる能力もあるらしい。
サソードという仮面ライダーに変身するのはこの目で見ている。
サソードはおろかワームの状態でもクロックアップも使えるらしく、擬態能力もそれなりに使えるが制限で直接殺害した奴しか変身出来ないのが難点だ。
制限を除けば康一の体とは違って暴走の危険性もない。
現在は乗り移るべき候補だ。
天逆鉾の効力でサソードを変身不可にしてしまったのは痛い損害だ。
だが、宿儺はカブトに変身できるからそれ程問題はない。
今度は先に奴に遭ったら今度こそ自分の指を飲ませる。
-
出来れば川を自力で走れるくらいの参加者がいれば最有力候補だが、この街にいるか不明でそもそも参加しているか怪しい。
何れにせよどの相応しい体か見極めないと始まらないが。
(面倒だが、精神が復活した奴も殺す。)
放送で肉体側の精神が何人か復活して接触までしたのを聞かされた。
もし、主催者に消されていない者がいたら、面倒だ。
そいつがいたら魂ごと消す。
当然ながら、もう、虎杖や織子の時みたいに檻としての機能を働かせないよう精神を復活させるようなことも生かすことも絶対にしない。
バトルロワイアルに登録されている参加者も同様だ。
受肉したら普通は助からないが、死滅せずに抗ってくる場合は完全に自分が主導権を握るためにも伏黒の時と同じやり方で心が折れる出来事が起こるか、それか切っ掛けを宿儺自身が作るしかないだろう。
伏黒恵の体を手に入れるまでの間だけ新しい体で一時的にやりきる自信はある。
(あやつは例外といきたいが・・・)
ゲーム開始から最初に遭遇した参加者で自分と対等に渡り合えるだろう仮面ライダーに変身する奴。
あの五条悟と同じく強者と認めている。
次、会えばやり合うと決まっているが、場合によってはそいつの器に乗り移らざるを得ない。
可能ならJUDOと再度会う前に新しい器を見つけるのが優先だ。
「いい加減、行くか」
考察や今後の新しい器の候補をまとめ終えた宿儺は重い腰を上げた。
そろそろ動いて流れを変えないとな。
自分が制限で動けずにいる間に殺し合いも中盤に入ってしまっている。
だらだらしていたら人数も更に減ってしまう。
村に来なかったであろう奴と同類な臆病な弱者は逃げ隠れるだけで十分だが、自分は全然、満足しない。
壮大なストレスを抱えている今は発散させたい。
そのためには手始めにこの街にいる参加者を鏖殺する。
溜めまくった鬱憤をこの場所で晴らしてやる。
同時に宿儺だけのアドバンテージがある。
ゲームに抗う者達は自分のことを知っている人がいないことだ。
康一を洗脳させ、あの虫(グレーテ)を始末し、その康一は巨人となって暴走して、どこかに行った。
適当にくたばって他の参加者と最低でも相打ちになれば手間がかからなくて済むが。
とは言ってもあの下奴(脹相)がいるが、自分の情報を流しても今の体だけでなく、流石に手の内を知っている奴は誰もいないのは確実だ。
後者に関して、そこを利用しない手はない。
新しい器のことばかり考えていたが、勿論、織子の体で殺せる時は殺すのを忘れない。
宿儺は建物を出ると上の看板に『食酒亭』と大きく書かれてあった。
地図を確認し、自分は東の街に瞬間移動したのだと把握した。
C-5の村から距離が少し、変わらない気がするが、街から再スタート出来るならそれでいい。
「ここから先は俺の鏖殺だ。」
宿儺は宣言する。
今までの退屈な茶番は終わった。
全て解放された呪いの王は皆殺しするべく本格的に動き出す。
時刻は既に四時を過ぎていた。
怒りの踊り、嘲笑の踊り、そして、殺戮の踊りが開演する。
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【E-6 食酒亭前/夕方】
【両面宿儺@呪術廻戦】
[身体]:関織子@若おかみは小学生(映画版)
[状態]:満腹、ボンドルド含む主催陣営への怒り(超特大)
[装備]:カブトゼクター&ライダーベルト@仮面ライダーカブト、特級呪具『天逆鉾』@呪術廻戦
[道具]:基本支給品×3(メタモン×2)、魔法の箒@東方project、桃白白@ドラゴンボール(リンク@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド)の死体、ケロボール@ケロロ軍曹(瞬間移動は6時間使用不可)、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、撮ったものが消えるカメラ(残り使用回数:1回)@なんか小さくてかわいいやつ、魔神の斧@ドラゴンクエストシリーズ、エレン・イェーガーのプロフィール、桃白白の首輪
[思考・状況]基本方針:主催もろとも全員、鏖殺
1:織子の肉体を捨て、別の肉体に乗り移ることを検討する。候補は下奴(メタモン)、可能なら川を走れる奴
2:手始めに東の街にいる連中を鏖殺。
3:JUDOと次会ったら力が戻った・戻ってないどちらにせよ殺し合う
4:脹相……あの下奴か。どうでもいい。
5:下奴(康一)はどうでもいい。あやつの肉体はどうもきな臭い。勝手にどこへでも行って暴れて最後にくたばればいい。
6:コイツ(天逆鉾)の未確認の効果を試したい。(首輪など)
7:(もはや“めんど”の域を超えている)
[備考]
※渋谷事変終了直後から参戦です。
※能力が大幅に制限されているのと、疲労が激しくなります。
※参加者の笑顔に繋がる行動をとると、能力の制限が解除していきます。
※脹相がいるのを知りましたが、特に関心はありません。
※関織子の精神を下手に封じ込めると呪力が使えなくなるかもしれないと推察しています。
※関織子の精神が消滅しました。呪力の現状と解放条件は消失前から引き継がれるものとします。
※デイパックに桃白白@ドラゴンボール(身体:リンク@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド)の死体が詰められています。
※天逆鉾の効果で仮面ライダーへの変身ツールに故障を与えられることを確認できました。
※参加者の肉体に呪霊やそれに類する存在がいる可能性を考えています。またその場合、首輪に肉体の力を弱める術式が編まれていると推測しています。
※C-5の村にアルフォンスがいたことには気づいていません。
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投下を終了します。
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野原しんのすけ、柊ナナ、燃堂力、脹相、ギニューを予約します
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投下します
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前回までのあらすじ
「あ、筋肉質だからムキムキ呼びなんですね」
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「分かりました」
考え込んで数分か、或いは数十秒か。
顔を上げたナナに全員の視線が集まる。
回復ポッドの使い道は決まった、問題は誰に使うかだ。
その答えをはっきりと口にする。
「しんのすけ君の傷を治しましょう」
喜び笑みを浮かべる胴着の男。
僅かに片眉を上げ、視線で問い掛ける女。
相変わらず何を考えてるか分からない顔で、「お?」と口にする少女。
三者三様の反応を見せる中でナナが頷き返したのは二番目に向けて。
脹相の言いたいことはナナも分かる。
回復ポッドを使えるのは一度だけ、後から合流する仲間の為に温存しなくても良いのか。
それに関してはナナも十分考えたつもりだ。
胡蝶しのぶの救出に向かったメンバーの中で最も必要となる人材、戦兎が重傷を負っていたら。
既に回復ポッドを使ってしまったせいで、戦兎は助からない。
非常に頭の痛い事態に発展する可能性は捨てきれない。
しかしギニューが宇宙船へやって来る可能性も考えられるのなら、流石に話は別。
病院からここまでに通ったルートは禁止エリアとして機能している。
しのぶの救出が成功だろうと失敗だろうと、戦兎達は遠回りで宇宙船に向かうしかない。
戦兎達が到着する前にギニューと戦闘になるかもしれないならば、戦力として当てに出来るのはしんのすけと脹相の二人だけ。
もし彼らが敗北してしまったら、燃堂は元より斉木の超能力もロクに使えないナナでは勝ち目はゼロ。
-
確かに戦兎の為に回復ポッドを温存したい考えはある。
だがまずはナナ自身が生き延びる事が最も重要だ。
こちらの生存率を上げる為にも、しんのすけを万全の状態まで回復させるのは悪い手ではないだろう。
更にはもしギニューに勝ったとしてもだ、戦闘の巻き添えで回復ポッドが破壊されたなどとなっては目も当てられない。
いつギニューが宇宙船に来るのか分からない以上、決断と行動は迅速にである。
「そうか。まぁお前が決めたのなら俺からは特に言わん」
「ありがとうございます。じゃあしんのすけ君、こっちに来てください」
「ブ・ラジャー!」
「……」
ブはいらないだろ、というか何で幼稚園児の癖してブラジャーとか知ってるんだ。
色々とツッコミたい気持ちを抑え、回復ポッドを操作する。
未知の機械だがご丁寧に操作方法も記してあり、これなら動かすのにも困らない。
呼吸器を装着させ起動させると、ポッド内が青色の液体で満たされた。
興味津々に視線を動かしていたしんのすけも徐々に瞼を閉じ、後は回復を待つのみ。
「お?何だムキムキのやつ。風呂入るのに服脱がねえのか?バカだな」
「こんなお風呂がある訳ないでしょう」
ナナと脹相、揃って視線に呆れを宿す。
燃堂にだけはバカと言われたくないが、普段のしんのすけもおバカな部分は多々あるのでどっこいどっこいである。
ともかく回復ポッドは起動させた。
しんのすけが完治するまでどれくらい掛かるかは不明だが、待っている間にナナ達もギニューとの戦闘に備えねばならない。
三人とも目立った傷は無く疲労もほぼ無し。
ただ脹相にとっては殺し合いにおける初の戦闘。
バルクホルンの体でどこまで戦えるかは分からない。
痣の少年がギニューだとすれば、敵は杉元と互角に渡り合えるくらいには強い。
尤も今も痣の少年の体でいるとは限らず、更に言うと少年が本当にギニューかどうかも確証は無いが。
何にしても戦闘に発展する可能性を考え、各々身を引き締めた。
-
◆◆◆
余計な真似をされた。
網走監獄を出発したギニューが思うのは、悪天候への苛立ち。
ボンドルド達が意図的に引き起こしたのかどうか定かではない。
だが雨が降れば視界は必然的に悪くなり、二輪車の運転にも神経を使う。
網走監獄で見つけた外套を着込んでいるとはいえ、幾らか身体は冷える。
良いか悪いかで言えば後者ばかりが目立ち、さっさと目的地に着かないものかとストレスが溜まる一方。
「む…」
仏頂面でハンドルを握りどれくらいの時間が経過したか。
真っ直ぐ南下し続け、前方に甲羅のようなシルエットを発見。
スピードを上げ近付くとよりはっきりと姿が見えた。
(間違いない、あれは我がフリーザ軍の船…!)
惑星侵略の際にはギニュー自身も乗り込んだ宇宙船だ。
見間違える筈も無い。
カエルの体にされてからはもう二度と乗れないと悲観しかけた事もあったが、こうして実物を見ると込み上げるものがある。
主催者が用意した一施設というのは不満だが。
(足を運ぶだけの価値があれば良いがな…)
ちょっとした感動もそこそこに、現実的な思考へと切り替える。
地図に載っているのは即ち、ギニューより先に別の参加者が宇宙船を訪れたということ。
となればもし戦闘服や光線銃などの装備が保管されていても、とっくに持って行かれたかもしれない。
葛飾署の時と同じく、シケた収穫しか得られない可能性は十分にあり得る。
最悪スカウターの一つだけでも良いから、骨折り損にはならないで欲しいものだ。
バギブソンを停車させ、開いたままのハッチから中へ入ろうとする。
-
「……」
ピタリと、足を止め睨み付けるは明かりが漏れる宇宙船。
姿は見えない、されど視覚のみに頼らずとも察知は可能だ。
宇宙船内に何者かの気配がある。
炭治郎の体を失い嗅覚による探知は不可能となったが、研ぎ澄まされたギニュー自身の感覚は健在。
こそこそ鼠のように隠れた輩を探し出すくらいは容易い。
フリーザ軍の船に土足で乗り込む不届き者。
突入してチェンソーの餌食にしてやろうかと考えるも、その必要は無くなった。
奥から一人の参加者が姿を現わす。
地球人の女だ。
ギニューにとっては初対面となる相手はしかし、見覚えのある物を手にしている。
拳銃、脆弱な地球人が使う玩具。
殺し合いにおいてはギニューに支給され、最初の放送前に手放したソレが今、目の前の女の手に握られているではないか。
「そこで止まれ。先にこっちの質問に答えてもらう」
何故ギニューが使っていた拳銃を女が持っているのか。
銃を手放したあの時の戦いの場に、全員が去った後で訪れ拾ったから。
ただそれだけの単純な理由と考えられなくもない。
或いはもう一つの理由、銃を拾った別の参加者から譲渡された。
ではその参加者とは一体誰か。
長々と考える必要も無い、該当するのは一人しかいない。
最初の放送前に一戦交えた炎使いの少女。
彼女から拳銃を譲渡されたとすれば、当然自分の情報も伝えれているだろう。
今の自分は炭治郎の体ではない、しかし炎使いの少女の見ている前で体を入れ替えた。
ケロロの体に入った鳥束とかいう奴から話を聞けば、ボディーチェンジの絡繰りに気付いたとしても不思議は無い。
-
とまぁ、あれこれ考えたが結局のところ自分がやる事は変わらない。
殺し合いが始まった時から、他の参加者をどうするかなんて一つだけだ。
「お前はギニューと言う名を知って――」
――ウ゛ウ゛ン!!!!!
「先手必勝あるのみよ!!」
スターターを引くや否や飛び掛かる。
仮にも拳銃を構えた相手に対し、無手のまま襲うとは無謀以外の何者にも非ず。
腰に差した刀や銃には手を付けず、一体全体何のつもりかと目を疑う光景。
だがしかし、真に目を疑うのはここからだ。
見よ、両腕を裂きながら生やした刃を、人の面影を完全に排した異形の頭部を。
肉を求める野獣の唸り声にも似た、低く不穏な稼働音。
チェンソーの悪魔。
中身が変わろうと、纏う血と暴力の気配に衰え無し。
「チッ…!」
飛び散る鮮血は見当たらない、地面を歪に彩る臓物も零れない。
四肢を、乳房を、顔を。
柔肉を斬り裂かれ泣き叫ぶ哀れな子羊はいない。
チェンソーの悪魔が同族殺しのデビルハンターならば、こちらもまた異形を殲滅する者。
ネウロイを幾度も征した魔女の肉体を操る呪霊。
一方的に狩られる獲物と高を括れば、手痛い反撃を喰らうこと間違いなし。
-
舌打ち交じりに突撃を躱し、脹相は改めて拳銃を構える。
敵は杉元が交戦した痣の少年では無い、だがギニューが体を入れ替える能力の持ち主なら同じ肉体のままとは限らない。
故にまずは正体を確かめようとしたものの、質問を言い切る前に攻撃を受けた。
対話もロクに行わない相手なら、こっちも遠慮はいらない。
「どこでオレの名を聞いたかは知らんが、我らの船にずかずかと入り込んだ愚行を後悔させてくれるわ!」
「…そうか。一々確認する手間が省けたな」
内容からして敵はやはりギニューであるらしい。
それなら脹相としても、当初の目的を果たすだけだ。
叩きのめしてフリーザの情報を吐かせる。
引き金を引き弾を発射、まずは四肢へとダメージを与え動きを鈍らせる算段。
赤血操術とは違い細かな応用が利かないが文句は言えない。
肉を抉る弾丸は耳障りな音を立てて地面を転がる。
両腕のチェンソーを豪快且つ正確に振るい防御、強化された身体能力に物を言わせて突進。
下半身は元の肉体の時と変化は見られないが、悪魔への変身により基本的な身体能力も爆発的に増加。
あっという間に距離を詰めるも、ギニューの接近をむざむざ許すつもりはない。
後方へと跳びながらトリガーを続けて発射、乾いた発砲音が雨に負けじと響き渡った。
「豆鉄砲でオレを殺せると思うな!」
強がりでも無ければこけおどしでもない。
真実、銃を幾ら撃ったとてギニューを殺すどころか傷一つ付けられない。
両腕と、時には頭部の刃を用いて全弾防がれる。
銃一丁で簡単に倒せる相手だとは最初から思っていない。
動揺を見せずに回避しながら連射、それもカチリという音で強制的に止まった。
弾切れと理解すれば素早く次弾を装填。
予備のマガジンを叩き込んだ傍から襲い来るチェンソー、低い稼働音が耳障りだ。
再度後方へと退きながら、戦法を変えるべきかと思案。
ちまちま銃を撃ったところで弾の無駄、それならここからは自身の得意なスタイルで行かせてもらう。
一旦大きく距離を取り、無手で構えを取る。
肉体が光を帯び、頭部には獣の耳が、薄い布で覆われた臀部には尾が生えた。
固有魔法を使った証だ。
呪力を流し込むのと同じ感覚で使用し無事成功、ぶっつけ本番でも上手くいくものである。
細腕ながら成人男性を凌駕する怪力を宿し、今度はこちらからチェンソーの悪魔へと突撃。
-
自分からチェンソーの間合いへ飛び込んで来た標的を嗤うかのように迫る刃。
頭部目掛けて振るわれた右腕、走る勢いは緩めずに屈んで回避。
続けて腹部を抉らんとする左腕、こちらも紙一重ながら避ける。
懐に潜り込み隙だらけの胴体目掛けて放つ鉄拳。
両腕のチェンソーは破壊力こそ高いとはいえ、これ程に接近を許せばその長さ故に不利となる。
このまま打撃を食らわせダウンへと持ち込む。
目論み通りにすべく放たれた拳、だがしかし即座に防御へと翳す。
腕へ伝わる鈍痛は、チェンソーの悪魔が叩き込んだ右拳によるもの。
「…引っ込めれるのか」
「見ての通りな」
チェンソーを引っ込め脹相同様に無手となる。
右が防がれたなら反対だと、顔面へ拳を打つ。
敵が女だろうと手を抜く理由にはならない。
何よりギニューは殺し合いにて女に散々手を焼かされた。
それを思えば今更女だからと油断するのは愚の骨頂。
容赦無しに打撃を放てば、敵もまた無駄を削ぎ落した動きで以て対処。
ほうと僅かな感心を乗せた声は、拳同士のぶつかる音に掻き消される。
怪力の固有魔法を使ったバルクホルンの肉体で繰り出す打撃。
その一撃一撃の重さたるや、チェンソーの悪魔となったギニューでさえ顔を顰める程。
しかし脹相もまた己の攻撃を捌き、合間を縫って打撃を放つギニューに自然と顔が険しくなる。
急所へ拳を放てば、手刀を手首に叩き込まれ狙いを逸らす。
攻撃が外れたと、こちらに理解させる気も無い勢いで襲い来る敵の拳。
命中した際の影響が大きいものから優先して対処。
腕で防ぎ、相手の腕を叩いて受け流し、体を捻って避ける。
小さな隙を逃さず反撃に移れば、敵もまた同じように対処の繰り返し。
豪雨へ晒される中行われる攻防で互いにはっきりと確信を抱く。
敵は肉体の能力によるごり押しでは無い、非常に高いレベルで戦闘技術を身に着けていると。
「地球人にしては良く鍛えたと褒めてやろう!」
「お前の称賛など何も響かん」
どれだけ褒められたとて、自分はこの力で何が出来たというのか。
守ると誓った弟を、虎杖を知らぬ内に殺された挙句殺し合いに参加させられた。
兄失格の失態に広がる苦い思いへ蓋をし、腹部へ蹴りを放つ。
-
「だがまだまだ甘いっ!」
足を自由に動かせるのは脹相だけではない。
片足を振るい蹴りを防ぎ、脹相の体勢を崩し隙を作らせる。
殴られるかと警戒する脹相だが、ギニューはただ右手を突き付けるのみ。
何のつもりかと訝し気に思う余裕は、再び鳴り響いた稼働音に奪い去られた。
「っ!!」
チェンソーを引っ込められるということは、出すことだって自由自在。
完全回避にはもう間に合わない。
多少の傷は覚悟し、致命傷だけは頑として避けるべく動く。
全身を捩じりながら退避、肩の肉が引き裂かれるもこの程度で済んで良かったと考えるべきだ。
もう少しズレていたら首を引き千切られたのだから。
安堵感に身を委ねている場合ではない。
再度両腕にチェンソーを出現させたギニューが斬り掛かる。
もう一度懐に飛び込もうにも、敵もそれを警戒してか脹相とは一定の距離を保つ。
リーチならばチェンソーの悪魔が上、ある程度離れても問題は無い。
先の拳同士の応酬と違い、チェンソーを前にしては脹相に出来るのは回避だけ。
素手で受け流そうものなら、自ら斬り落としてくださいと腕を差し出すのと同じ。
「貰った!」
掠めた刃が血を散らし、脹相自身の顔に付着。
目に入りそうになり思わず瞑り掛けた瞬間は、ギニューが待ち望んだ絶好のチャンス。
頭部のチェンソーを振り下ろし脳天を真っ二つに。
これでまた一歩、優勝へと近付いた。
「いいや、簡単にはくれてやらん」
「何ィ!?」
頭皮を裂き、頭蓋骨を粉砕し、脳みそを原型を留めぬ程に破壊する。
頭部のチェンソーから伝わる感触はそれの筈。
なのに何故だ、現実に感じるのは人体を切り裂くのとは全くの別の感触。
硬いナニカに阻まれ、キリキリと鳥肌が立つような金属音が鳴るばかり。
-
ギニューのチェンソーを防ぎ、脹相の命を繋いだ物の正体。
今もチェンソーに斬られる事無く脹相が頭上に掲げるのは、青色のアタッシュケースだった。
「な、なんだそのガラクタは!?」
まさかこんなヘンテコな鞄なんぞで防がれるとは夢にも思わず、つい聞き返してしまう。
だが脹相が取り出したのはただの鞄などではない。
バトルロワイアルで脹相に支給された武器の一つ、アタッシュショットガンだ。
アタッシュウェポンはアタッシュケース状態から展開・変形し、それぞれ武器の形へとなる。
しかし変形前のアタッシュケース状態であっても、使用者を守る盾として機能するのだ。
ASシールドと呼ばれる外装は厚さ一センチ程度でありながら、超圧縮複合装甲により非常に高い防御力を誇る。
主に対マギアを想定して製造された以上、既存のシールドとは比べ物にならない耐久性を持つ。
チェンソーの悪魔の攻撃であっても真正面からの防御が可能。
反動の大きさ故に実戦でどうなるか分からなかったが、単純な防御手段としてなら十分使い物になる。
怪力に物を言わせてチェンソーを押し返し、今度は逆にギニューが体勢を崩され隙を作った。
そして高度な耐久性を持つ盾は、打撃武器としても効果を発揮する。
「チィッ…!」
アタッシュケースを力いっぱい叩きつけられ、両腕が痺れた。
チェンソーを交差させ防御こそ間に合ったものの、刃が凹んだと錯覚し兼ねん威力。
ただでさえ怪力の固有魔法を発動しているのに、硬度に優れた物を加える。
生身の腕で防ごうものならお釈迦になっていただろう。
続けて振るわれるアタッシュケースをチェンソーで防ぐ度に、ガンガンと喧しい音が鼓膜を痛め付ける。
さっさと切り裂き破壊すれば話は早いが、それが出来ればこうも苛立ってはいない。
絶えずチェンソーとぶつかり合って尚も多少の擦れが刻まれるだけで、一向に壊れやしない。
-
片方のチェンソーを振り下ろすとアタッシュケースを掲げて防ぐ。
狙い通りだ、向こうが一つを防いでも手数はギニューが上。
反対のチェンソーで足を狙う。
機動力を奪えば敵は地を這う死にかけの虫けらと変わらない。
大胆にも剥き出しとなった素足を二本纏めて斬り落とさんと迫るチェンソー。
ギニューがそう来ることくらい脹相にも予想は付いた。
アタッシュケースを掲げた体勢のまま前方へと突進、金属同士が擦れ合う音が一層大きくなる。
背後で空振りとなったチェンソーには見向きもしない。
相手が斬り落とす筈だった足を真っ直ぐに伸ばし、靴底がギニューの腹部を叩く。
「がっ…!」
口から漏れる呻き声。
ギニューではなく脹相からなのは、彼の腹部へ逆に突き刺さった足が理由だ。
両脚が使えるのはこちらも同じ、だから脹相よりも一手早く蹴りを放っただけのこと。
よろけた所へ続けて放つは回し蹴り。
アタッシュケースの防御こそ間に合うも、威力自体は殺せず吹き飛ばされる。
追撃を仕掛けるべく両腕を唸らせ、
「どりゃああああああああああああっ!!!!!」
ギニューに拳が叩き込まれた。
-
◆◆◆
(…お?)
目を覚まして真っ先に感じたのは、体の状態が明らかに変わっていること。
巨大な虫との遭遇に始まり、下水道での戦いまでで負った傷の数々。
常人より遥かに頑丈なサイヤ人の肉体と言えども、短時間での完全回復は叶わず。
残留し続ける痛みに時折顔を顰めたのは、しんのすけの記憶にも新しい。
それらが綺麗さっぱり消え失せ、体を蝕む疲労感すら皆無。
使用中は無防備になるデメリットを差し引いてもお釣りが来る恩恵を身に受けた。
サイヤ人の持つ生命力の高さもプラスに働き、ナナ達が考えていたよりも早く回復が完了。
ポッドを出ると寝起きのように伸びをする。
傷と疲労の両方が抜け落ちたからだろう、まるで羽のように体が軽い。
まして今のしんのすけは悟空の体に慣れてきている状態。
コンディションで言えば殺し合い開始当初よりもずっと上だ。
「ん〜、何だか体がまろやかですな〜」
それを言うなら軽やかだろと訂正する者は周りにいない。
ポッドに入った時には三人ともメディカルルームにいた筈だが、はてと不思議に思う。
「…はっ!もしかしてコーヒー牛乳が来たのかもしれないゾ」
燃堂が言っていた牛乳だか言う危険人物。
自分が寝ている間に、そいつと戦っているのかもしれないと急ぎ部屋を出る。
宇宙船で目を覚ました直後ならまだしも、今ならば十分に戦えるのだ。
新しく出会った仲間を守りたいし、何よりミチルの友達がピンチならじっとしていられない。
船内のあっちこっちを走り回り、やがて辿り着いたのは出入りする為のハッチ付近。
見覚えのある姿を二つ発見、安堵しながら近付くと向こうも自分に気付いた。
「しんのすけ君!?もう大丈夫なんですか?」
「だいじょぶだいじょぶ〜」
予想以上に早く目が覚めたしんのすけには、ナナも本心から驚く。
サイヤ人とやらの生態は悟空のプロフィールで大まかに知ったとはいえ、ここまで復帰が早いとは思わなかった。
回復ポッドの効果がそれだけ凄いのか、或いは悟空の体が特別なのか。
どちらにしても回復が済んだのならば問題ない。
最悪の場合はしんのすけ抜きでギニューに対処しなくてはとも考えていたが、杞憂で済んだらしい。
-
「あれ?脹相おねえさんは?あと牛乳も」
「お?何言ってんだよムキムキ」
「……しんのすけ君、牛乳じゃなくてギニューですよ。というか燃堂さんが最初に言ったんでしょ」
何で先に言い間違えておいてその反応なんだと呆れつつ、ハッチの外を指さす。
少し前から繰り広げられる脹相とギニューの戦い。
事前の打ち合わせ通り正面切って相手取るのは脹相に任せ、ナナと燃堂は宇宙船内で待機に徹している。
(杉元から聞いた外見とは違うが…ボディーチェンジとやらをやったのか?)
杉元が戦った痣の少年が本当にギニューであり、宇宙船に来る前にあのチェンソー頭の怪物と体を入れ替えた。
それが事実ならばかなり厄介な能力だろう。
こっちがどれだけギニューを痛め付け瀕死に追い込んだとしても、別の体と入れ替わってしまえば無問題。
ギニューは好きなだけ強い体を手に入れ、反対に敵は弱い体や大きな傷を一方的に押し付けられてしまうのだから。
今のところはボディーチェンジを使う様子は見られない。
わざわざ体を入れ替えずとも勝てる相手と見ているか、もしかしたらそうホイホイとは使えない制限でもあるのか。
(何にしても、今はまだ私が割って入れる状況ではないな)
脹相とギニューの戦闘はとてもじゃないが常人が介入できるレベルではない。
チェンソーの怪物に変化し猛威を振るうギニューは当然として、渡り合う脹相も明らかにクラスメイトの能力者など目では無い程の怪物だ。
加勢に入れるのはそれこそ戦兎や杉元のような、同等の力を持つ者のみ。
斉木の超能力が使えないナナと、正真正銘の無能力者の燃堂が出て行った所で却って脹相の邪魔になるのは明らか。
よって自分と燃堂はこのまま待機状態を維持、加勢に行くのは回復を終えたもう一人に任せるのがベスト。
「なぁ相棒の弟。いつまでこうしりゃいいんだ?」
「だから最初に言ったじゃないですか。戦うのは脹相さんと――」
しんのすけ君に任せる。
続けて口にしようとしたナナの真横で、暴風が吹いた。
吹き飛ばされそうになったメガネを抑え、思わず横を見るも既に誰もいない。
一体何がと視線を戦場に戻せば、瞳に映るは答え合わせの光景。
砲丸と化した勢いで飛び出し、ギニューを殴り飛ばしたしんのすけの姿があった。
-
○
「がぁっ…!?」
素手で殴られたと理解するには僅かながら時間を要した。
胴体より伝わる痛み、叩き込まれた鉄球の如き硬さ。
直前に放たれた脹相の蹴りの比ではなく、何事だと顔を上げるも既に遅い。
生意気にも一撃を食らわせた輩はギニューの視界に映らない。
何処へ行ったと憤慨するよりも早く、背後へとチェンソーを振るう。
迫る猛烈な敵意、肌を刺す感覚に体が自然と反応を見せた。
手応えは、なし。
ブオオンと稼働音が空しく響き、次いで脇腹を襲う衝撃が来た。
再度殴り飛ばされる。
否、ギニュー自ら地を蹴り後方へと大きく後退。
鈍痛はあれど直撃は避けた甲斐もあり、初撃よりは遥かにマシ。
距離を取る中でギニューは見た、乱入者の正体を。
求めて止まぬサイヤ人の肉体を。
「貴様は…!?」
返答代わりに突き出される拳。
元よりまともな対話など期待していない、横へ跳んで回避。
避けられた事実は敵にとって火に油を注ぐのと同じ。
憤怒の形相で睨み付け、多大なる怒りを乗せた拳を振るう。
「こんのおおおおおおおおおっ!!!」
仲間の驚きも今だけはしんのすけの耳に入らない。
ナナに促され外の様子を見てみると、いたのは仲間と一体の異形。
後者が誰かは知っている、決して忘れる筈が無い。
バトルロワイアルで最初に出会った仲間を、炎の如き生き様を体現した男を殺した怪物。
煉獄を殺したあの怪物が、またしても自分の目の前に現れた。
映し出される現実はしんのすけの怒りを呼び覚まし、戦場へと押し出した。
周囲と己自身を鼓舞する煉獄の炎とは違う、ただ一つの感情のままに暴れ狂う爆炎として。
-
守る為では無く、怒りで突き動かされる拳。
家族を手に掛けようとした鬼狩りの長を殴り飛ばした時と同じ。
但し何もかも全てがあの時の再現ではない。
爆発的な加速を以て放つ拳は、素手でありながらナイフや銃弾を鼻で笑う程の威力を秘める。
「…成程、やはり大した力だ」
数多の強敵へと振るわれた鉄拳を前にし、ギニューに焦りは無い。
迫る圧倒的な力の塊を見つめ、ぽつりと独り言ちる余裕さえあるではないか。
確かに、言葉に出した通り大した力だと認めよう。
一度はナメック星で自分を追い詰めた男の体だ。
殺し合いだろうとその強さは健在、肉体そのものが最大の武器と言っても良い。
「だが、素人丸出しだバカめ!」
「あがっ!?」
蝶のように舞い、蜂のように刺す。
ギニューの動きを表現するならその言葉が最も合う。
怒れるしんのすけの攻撃を軽やかに躱し、されど放つ一撃は鋭い。
チェンソーを引っ込め反対にしんのすけの胴体へと拳を捻じ込む。
腹部から全身へと伝わる痛み、目を見開き動きを止めたなら最早ギニューの一方的なステージだ。
「どんな奴がその体に入っているかは知らんが」
「うわぁっ!?」
左拳が顎を打ち脳を揺さぶる。
安定しない視界、絶叫マシンから降りた直後にも似た気持ち悪さ。
それもすぐに消え失せた、脇腹へ蹴りを受け新たな痛みを感じて。
「貴様のような素人なんぞが!」
「ぎぐっ…!」
頬への打撃に再度視界が狂わされた。
反撃しなくては、いやまずは避けなくては。
敵の攻撃にどう対処すべき、早急に決断しなければいけないのに決められない。
判断の遅さはそのまま自身の不利へと繋がり、相手の猛攻を許す結果となる。
-
「使いこなせるかアホめ!!」
「うぐぁっ!!」
殴打の嵐を叩き込まれ、地面を転がる頃には苦し気な呻き声しか出せない。
返り討ちにしてやったしんのすけを見下ろし、ギニューはしまったと自分の失態を悔やむ。
いきなり出て来て殴り飛ばされ、ついつい袋叩きにしてしまったがこいつは孫悟空の体を持っている。
組み合わせ名簿に載っていた野原しんのすけとは、こいつの事らしい。
まさか宇宙船にいたとは予想外だがギニューからしたら都合が良い。
わざわざ会場中を当ても無く探す必要も無く、こうしてボディーチェンジの標的が見付かったのだ。
その自分が新しく手に入れる予定の体を余計に痛め付けたのは失敗だが。
しんのすけは確かに悟空の体に慣れて来た。
元の体で習得したぷにぷに拳を用いて、アーマージャックなどの危険な参加者とも戦えた。それは間違いない。
しかし戦闘技術という点において、ギニューはしんのすけの上をいく強者だ。
サイヤ人と悪魔、常人以上の身体能力という条件が同じなら後は体を操る精神の技の高さで勝負は決まる。
数々の大冒険や摩訶不思議な騒動を経験し、子供ながらに超人的な能力を持っていようと本来は幼稚園児。
鍛え抜いた技能と実戦で磨き上げたセンスの両方を併せ持ち、フリーザからも高く評価されるギニューには純粋な力の差で及ばなかった。
(まぁいい。このオレの為に孫悟空の体を持って来た事には感謝してやる)
感謝とは程遠い嘲笑を浮かべ、右腕からチェンソーを生やす。
しんのすけを切り刻む為では無い、標的は自分自身だ。
一呼吸置き自らにチェンソーを突き刺した。
「ぐっ…!!」
内側からかき混ぜられる激痛。
有利にする為とはいえそう何度もは味わいたくない痛みだ。
どうせ殺し合いではこれが最初で最後になるだろうが。
さぁ準備は整った。
自分は今から殺し合いを有利に進められる体を手に入れる。
反対にしんのすけには今しがた内臓をミンチにしてやった悪魔の体をくれてやる。
心配しなくても痛みは長く続かない、悟空の体の試運転がてら自分が殺すのだから。
「短い付き合いだったがさらばだデンジよ!」
大きく両手を広げ、その言葉を口にし――
-
○
「え……?」
間の抜けた声を発したのは自分、それは分かる。
分からないのは目の前で何が起きたか。
煉獄の仇である怪物へ殴り掛かり、反対にボコボコにされた。
そこまでは覚えている。
悔しさと痛みに歯をキツく食い縛り、自分を見下ろす怪物を睨み付けようと顔を上げた。
けれど、そこにはしんのすけが考えていたのとはまるで違う光景が広がっている。
日本の足で立つ怪物、両腕と頭部のチェンソーが不気味に振動し、聞く者を威圧。
だが最も注目すべきは、
「――――――」
針に似た歯が生え揃った口、その下顎部分が吹き飛ばされ、夥しい量の血を滝のように流していることだろう。
「――――!!!!!!!!!!!??????!!!!??!!!!」
言葉にならない、というよりは言葉を発せない。
気が狂ったとしか思えない動きで動揺と痛みを表すチェンソーの悪魔を、しんのすけは訳が分からず見上げる。
煉獄を殺された怒りは未だ健在、しかし次から次へと変化する状況により齎された困惑で頭が冷えた。
どうしていきなり口が無くなったのか、この怪物がやったのではないなら誰がやったのか。
よろよろと立ち上がって振り返ると、張本人が肩で息をしている。
「〜〜〜〜っ!!何だこの、ふざけた銃は…!」
しんのすけより先にギニューを相手取った男、脹相だ。
額に脂汗を滲ませ悪態をぶつけるのは、両手に持った青い銃。
アタッシュケース状態から変形させたアタッシュショットガンである。
-
乱入したしんのすけが叩きのめされ、トドメを刺すと思いきやギニューは何故か自分自身を突き刺した。
意味不明の行動に理解が追い付かず困惑するも、ギニューが持つ能力を思い出せば自ずと答えは弾き出される。
ボディーチェンジ、他者との肉体入れ替え。
自分が今入っている体を相手の体と交換する、つまりそれまで負っていた傷は全て相手に押し付けられる。
それなら入れ替えの直前に自らを痛め付けるのも納得だ。
敵はしんのすけの持つ体を手に入れるつもりと分かれば、黙って指を咥えて見ている訳にはいかない。
チマチマ銃を撃ったところで止まる保障は無い、ならばより強力な一撃で阻止するのみ。
手にしたアタッシュケースを変形させ撃った弾はギニューの下顎を吹き飛ばし、見事成功。
と、大手を振って喜ぶ以上に支給された武器へ苦々しい思いが勝った。
怪力の固有魔法を使って尚も、桁違いの反動で吹き飛びかけたのだ。
魔法を使わず撃っていたら、両腕の骨が粉砕されたのは確実。
仮面ライダーバルカンがパンチングコングのプログライズキーを使い、ようやく使いこなせたレベルの銃。
強力なのは間違いないが気軽には使えないと、身を以て理解した。
だが今はアタッシュショットガンへの愚痴より、ギニューをどうにかするのが先。
様子を見るにしんのすけは悟空の体のまま。
またいつ懲りずに体を入れ替えようとするか分からない以上、余計な抵抗をされる前に大人しくさせる必要がある。
「!!!!!!!!!」
尤も現状は実質ボディーチェンジを使用不能にされたに等しい。
ギニューが他者と肉体を入れ替える為には、「ボディーチェンジ」と言葉に出さなければ発動しない。
制限されているとはいえ基本的には不死の悪魔の肉体の為か、下顎を吹き飛ばされても死んではいない。
しかし言葉を発せずボディーチェンジを封じられては死んだも同然だ。
(こ、この女ふざけた真似を…!!いや今はどうだっていい!急ぎ治さねば…!)
脹相への怒りは一旦置いて、傷を回復しなければどうにもならない。
折角悟空の体を見付けられても、ボディーチェンジ出来なければ無意味。
悪魔は血を摂取すれば傷を治せる。
網走監獄で飲みかけの輸血パックを飲み干し、傷が治ったのはこの目でしかと見た。
とにかく喋れるようにしなくてはと、焦り自身のデイパックに手を伸ばす。
-
「伸びろ!如意棒!」
ドンとあらぬ方向から襲う衝撃。
狙われたのはデイパック、輸血パックを取り出す筈が手から消え失せた。
口を開けたデイパックは地面へと落とされ、中身があっちこっちに散らばる。
弾かれたように振り返れば、しんのすけとも脹相とも違う別の参加者の姿。
メガネを掛けた少年が棒をこちらへ向けており、今のはこの少年の仕業と察した。
(…!!この…ガキ…!!)
とんだ邪魔をと怒るも、殺すのは後だ。
どうせ悟空の体を手に入れれば赤子の手を捻るより容易く始末できる。
少年から視線を外し散らばった支給品に目をやる。
輸血パックは、あった。
少し離れた位置へ落ちた二つのパウチ、幸い破損は内容で地面を赤く汚してはいない。
獲物を捉えた獣のように飛び掛かった。
が、ギニューの目論見は悉く潰える。
手を伸ばしかけた寸前で輸血パックが地面諸共弾けた。
飛び散る赤い液体を呆然と見つめ、手を伸ばしたまま固まるギニューの後方。
やったのは顔を顰めアタッシュショットガンを構える脹相だ。
ギニューがまた何か余計な事をしでかす前にと撃ったが、この反動には慣れそうも無い。
怪力の固有魔法を使い、最初の時よりもどっしりと構えた上で引き金を引いた。
にも拘わらず反動で体が浮きかけたのだ。
ギニューには当たらなかったがこれで良い。
一時的とはいえ敵は動きを止め隙を晒した、このチャンスを見逃す手はない。
-
「やれ柊!」
「任せてください!」
デイパックを手放させた仲間へ指示を送り、間髪入れずにナナが飛び出した。
両手を振り被り冷気の嵐を放つ。
ギニューが気付いた時には最早手遅れ。
全身を凍り付かせ、チェンソーの悪魔は身動きを完全に封じられた。
「上手くいったか…」
氷像と化したギニューを油断なく睨みながらも、作戦の成功に安堵の声を漏らす。
自分がギニューの隙を作り、ナナがフリーズロッドで凍らせる。
シンプルな内容だが相手が手強かった為に少々骨が折れた。
「大丈夫ですか?しんのすけ君」
「う、うん。…カチコチになってるゾ」
「お?何だ、終わったのか?」
凍り付いたギニューを燃堂が軽く小突くも動き出す様子は無い。
事前にナナから説明を聞いていたが、確かに効果は本物のようだ。
どうも呪物とも違うらしい杖の正体がきにならないでもないがそれは後回し。
フリーズロッドの効果は強力だが永久的には続かない。
今の内にもっと拘束しておくべきだろう。
「柊、後はこいつを――」
言い終えるより先に動いた。
燃堂の首根っこを引っ掴み、ナナとしんのすけを押し飛ばして。
直後、猛烈な熱と共に氷が弾け飛んだ。
-
(何だと…!?)
早過ぎる。
フリーズロッドの凍結能力は確かに長続きするものではない。
それにしたってナナから聞いていた効果時間より、明らかに早い。
距離を取る中で、チェンソーの悪魔が再び姿を現わす。
先程までとは違う、より異形らしい部位を生やして。
「虫、か…?」
頭部より生えた角、というよりは顎。
腹部からも昆虫の肢に似たナニカが服を破って出現し、触手のように揺らめいている。
まるでクワガタムシの特徴が内側から生えたようだ。
数時間前、元々デンジの肉体を与えられた絵美理が変異した姿。
溶原性細胞の感染者に起こるアマゾン化。
クワガタアマゾンにチェンソーの悪魔のまま変化したのである。
「あの姿は…?」
「ま、また虫さんだゾ…」
チェンソーの怪物とはどこか違う異形にナナも眉を顰める。
一方で虫を思わせる特徴にしんのすけの顔は強張りを抑えられない。
彼にとって虫とは東側の街で遭遇した謎の巨大な虫を思い起こさせるもの。
チェンソーの怪物に虫、煉獄が死んだ瞬間がリピートされどうにも嫌な予感がしてしまう。
(なんだ、これは……)
困惑するのはしんのすけ達だけではない。
クワガタアマゾンへと変貌したギニュー自身もまた、己に起きた変化へ理解が追い付かない。
プロフィールには記載されていなかった、チェンソーの悪魔とは明らかに別の能力。
絵美理が後天的に得た何らかの力と予想していたソレに、自分も変身した。
と言ってもチェンソーの悪魔のように意識して変身したのではない。
凍らせれている間にも意識はあり、どうにかしなくてはと強い焦りを覚えた時だ。
肉体の内側が激しい熱を帯び、気が付いたら氷を溶かして顎と肢を生やし、この奇怪な見た目になったのは。
一体どんな力なのか正体は分からずとも、凍結を強引に解除出来たなら問題はない。
-
そのように楽観視出来れば、どれ程楽なことだったろう。
(何なんだこれはああああああああああ!!??!)
変化が起きたのは外見だけでは無い。
ギニューの内面、精神にも明らかな異常が発生している。
内側より湧き出る衝動、本能とも言うべきものが強く訴えかけるのだ。
肉を喰いたい、タンパク質が必要、空腹を凌げ。
人の肉を喰わせろ。
溶原性細胞に発症した事で起こる食人衝動。
網走監獄で食べたプリンアラモードなどでは満足できない。
人の肉を、あの生姜焼きの味をもう一度堪能したいと己の中で何かが叫ぶ。
他所の惑星の住民を殺し、その肉を喰らう奴はフリーザ軍にもいた。
だが狂ったように人肉を求める思考では無かった筈だ。
一体あの女は何の力を手にしたんだと、既にいない殺人鬼への苛立ちが募る。
何よりもギニューを混乱させ、苦しめるのは
(肉などどうでもいい!オレはフリーザ様を…!フリーザ様、を……フリーザ様の…)
フリーザの肉が食べたい。
湧き出る衝動にギニューの頭はおかしくなりそうだった。
こんな事を考えるなど有り得ない、断じてあってはならない。
偉大なる宇宙の帝王への不敬どころでは済まされない、反逆行為にも等しいふざけた考え。
(うぐぐぐぐぐ…どうなっているんだこれは…!?)
溶原性細胞の感染者が発症した時、アマゾン化と共に複数の特徴が現れる。
内の一つが現在ギニューを苦しめる、「自分と親しい存在を真っ先に捕食したがる衝動」。
ギニューにとって親しい存在と言えば全滅した特戦隊の四人と、主であるフリーザ。
放送でハワードの精神が入っているとはいえフリーザの肉体を見たからだろう。
あの御方を食べたい、フリーザ様の肉を噛み千切って我が物にしたい。
平時のギニューならば絶対に抱かない欲に、腹の虫を鳴らしたのは。
-
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
顎を震わせギニューは駆け出す。
これは良くない、こんなのはフリーザに忠誠を誓った自分では無い。
一刻も早くどうにかしなくては、自分は本当に狂ってしまう。
絵美理のようにトチ狂った言動を繰り返し、フリーザの為でなく自分が腹を満たす為に殺して回るケダモノ。
それでは駄目だ、主催者を出し抜きフリーザを完全復活させる目的は永遠に叶わない。
だが一体どうすればと視線を乱雑に動かし、一点を見つめる。
「!!!」
あった、どうにかなるかもしれないものが。
使った所で確実に解決する保障はない。
しかも使えば確実にリスクが襲い掛かる。
仮にギニューがもっと冷静ならば躊躇しただろうが、半ば錯乱した今の彼にそれを求めるのは酷。
一か八か、これしかないと手を伸ばす。
「おい待て!」
またしても邪魔をしようとする連中へ、腹部の肢を突き出す。
ナナが使った如意棒のように伸び、先端の爪で切り裂くつもりだ。
回避するもギニューへの妨害は間に合わない。
地面に落ちた杖を拾い、叩きつける勢いで振るった。
「!!!!!」
声は出せない、ただ胸中で必死に望みの物を寄越せと願う。
杖は、応えた。
-
「……???」
カランと、虚空から現れたモノ。
濡れた地面に転がり、今も振り続ける雨に晒される、ギニューが望んだナニカ。
柄と鍔、長く伸びたソレは、
「刀…?」
呟いたのは誰か。
どこからか現れたのは刀。
何故、杖を振った結果出て来たのが刀なのか。
ギニューの願いを杖は正しく受け取らなかったのか。
いいや違う、杖は確かにギニューの願いを叶えた。
湧き出る衝動を抑え、ボディーチェンジを可能とする。
今の状況を変えられる物を求めたギニューへ、望み通りの物を寄越したのである。
「…!!」
杖を放り投げ刀を手に取る。
武器として構えるのではない、これの使い道はそんな事ではない。
チェンソーを出現させ刀身を力任せに両断。
柄のある方を放り、先端部分が残った刀身を血が出るのも構わず強く握り締め、
飲み込んだ。
咀嚼はできない、自ら喉の奥へと突っ込み腹の底へと落とす。
「は…?」
傍から見ていた脹相達には訳が分からないだろう。
刀が出て来たのもそうだが、それを喰らったのだから。
状況への理解が追い付かない者達と、奇行としか呼べぬ行動へ走った異形。
彼ら全員を地面に落ちた折れた刀、そこに浮かび上がる「目」が見つめていた。
-
○
「――――」
変化が起こる。
欠けた部位が正しき姿を取り戻す。
肉が蠢き骨が再構築され、人では有り得ぬ現象は彼の体が悪魔である証。
「――――っはぁ…!戻ったか…!」
戻った。
金属のような皮膚も、針に似た歯の一本一本までもが完全に数分前と同じ。
発する事の叶わなかった言葉を口にし、改めて回復を理解。
撃たれて吹き飛んだチェンソーの悪魔の下顎は、綺麗さっぱり元通り。
悪魔を知る者がいれば、珍しくも無い光景と顔色一つ変えないだろう。
血液とは悪魔にとってのガソリンであり、どんな薬よりも効果がある回復アイテム。
血さえ摂取すればあらゆる重症もあっという間に治る。
それこそ肉体部位の欠損でさえも、血を飲めば無問題。
とはいえギニューがやったのは血液接種とは程遠い行為。
刀を飲み込んだ、それで下顎が元に戻った。
悪魔の特性とは当て嵌まらない、だというのに何故再生が可能となったのか。
まず現在ギニューの肉体となっているデンジは、チェンソーの悪魔以外にも人間ではない存在と化している。
クワガタアマゾン、溶原性細胞の感染によりアマゾン化が起きてしまった。
これにより血だけでなく、人肉でも傷の再生がある程度可能という変異を引き起こした。
しかしギニューが食べたのは刀、人肉以前にそもそも食べ物ですらない。
但しそれは、杖が出したのが普通の日本刀だったらの話。
-
杖の力で現れた刀、銘は虚哭神去。
十二鬼月の頂点に君臨する上弦の壱、黒死牟の刀である。
黒死牟が振るう虚哭神去は鬼殺隊の日輪刀と、決定的に違う点が一つ。
この刀は黒死牟自身の能力で生み出した、つまり鬼の血肉で作られている。
形こそ日本刀に変化していようと、刀身を走る血管と浮かび上がった目がその名残。
元が血肉であるのなら、チェンソーの悪魔とクワガタアマゾンの特性を併せ持つ肉体にとっては十分糧となる代物だ。
ギニューは虚哭神去の正確な正体は知らずとも、刀を見た瞬間に空腹が強まったのを感じた。
故に賭けに出る思いで刀を飲み込み、結果は再生した下顎が物語り説明するまでも無い。
杖はギニューの願いを叶えた。
それで終わるのなら、単に願いを叶えてくれるラッキーアイテムなら。
ギニューも絵美理ももっと早くに杖を使い、欲しい物を手にした筈だ。
「ぬぐっ!?」
そうしなかった理由が、杖が抱える重大なデメリットが襲い来る。
アマゾンになった時とはまた別の熱が、体の内側より発生。
皮膚がドス黒く変色、アマゾンの特徴で浮かんだ青黒い血管よりも尚色濃い。
変化が起きたのは体色のみではない、体全体が異様に膨れ上がった。
四肢は元より胴体すらも大きさを増し、着ていた看守用の制服が張り裂ける。
「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
雄叫びを上げるは完全なる変化を遂げた怪物。
黒光りする皮膚を持ち、巨大化したチェンソーを唸らせる。
腹部の肢も獲物を待ちわびるかのように揺れ、先端の爪も心なしか鋭さを増したように見える程。
杖で願いを叶えた者は、杖を守る異形と化す。
嘗て杖を使った小さな生き物達と同じ運命を、ギニューもまた辿ったのだ。
-
◆
なにがどうしてこうなったのかを、誰も説明できない。
杖を振るって刀を出し、それを食べたら巨大な怪物になった。
ギニューに起きた変化を見たまま告げればこうだ。
巨大化した理由を知りたくとも、懇切丁寧に教えてくれるとは思っていない。
第一今となっては理由云々を深く考えている余裕は無い。
敵が巨大になった、つまりシンプルに脅威が増した。
その一点さえ理解出来れば、焦りはそのまま言葉になって飛び出す。
「柊!」
「っ!はい!」
燃堂を押し付けるようにナナへ預け、ナナもまた燃堂の腕を引いて走り出す。
ポカンとした顔でギニューを見上げる燃堂へ、一々説明などしていられない。
等身大のサイズの時でさえ脹相達に任せるしかなかったのだ。
こんな規格外のサイズになった相手に出来ることなどあるとは思えない。
離れていろと言いたいのだろう脹相へ反論する気もなく、燃堂を無理矢理に引っ張って少しでもギニューから遠ざかる。
逃げる二人を見送らずに脹相は構え、遅れてしんのすけも我に返った。
巨大ロボットや大怪獣などとの戦いも経験してきたしんのすけだが、やはり見上げる程の敵の出現には驚きを隠せない。
ヒエール・ジョコマンとの戦いで操縦したカンタムロボもなければ、ミライマンの力も借りられない。
孫悟空の力で打ち倒す他ないだろう。
(…あの杖か?)
ギニューが巨大化する前、奇妙な杖を振るった。
もしかすれば杖をこちらで振るか、破壊さえすれば元の大きさに戻るかもしれない。
確証は無いが試す価値はある。
ギニューの近くに転がる杖を確保すべく駆け出す。
-
「それに触るなあああああああああああ!!!」
杖を振るった者は杖の破壊を強く拒否する。
脹相目掛けて頭上よりクワガタアマゾンの肢が襲来。
このまま杖へと突き進んでは叩き潰される末路以外ない。
進行方向を変更、真横へ跳躍し直後に地面へ爪が突き刺さった。
「しんのすけファイアー!」
己自身に喝を入れしんのすけもまた動き出した。
敵の接近に気付いたギニューは、もう一本の肢を振るう。
対処方法は殺し合いでしんのすけを幾度も救ったぷにぷに拳の奥義。
やっつやっぱり柔軟弾丸で跳ね回り肢を回避。
「おわわわわ…!?」
続けて振り下ろされたチェンソーもどうにか躱す。
しかし巨大になった分当然ながら射程距離も元のサイズの倍。
大きく跳ねて刃の直撃こそ避けたは良いものの、杖からも離されてしまった。
そう簡単には近付かせてももらえない。
「がが…がああああああああああああ!!!!」
杖の副作用で巨大化したギニューだが、この状況を喜ぶ気には全くなれない。
口は治ったからボディーチェンジも使える。
巨体を利用すれば参加者を一掃できる。
そういった自身に有利な事情を噛み締める余裕がギニューには全く無いのだ。
傷は治った、だがアマゾンの持つ食人衝動自体は未だ健在。
加えて杖を守らなければという、副作用によって植え付けられた余計な思考まで生まれる始末。
ついでとばかりに、ギニューの視線は先程から脹相をやけに追っている。
厳密に言えば脹相の肉体となった、バルクホルンの胸をだ。
溶原性細胞に発症したアマゾンは特定の部位へ執着を見せる。
ギニューにも同様の症状が表れており、彼の場合は胸。
それも女性の胸だ。
走り回る度に服の上から揺れ動く乳房に食らい付き、噛み千切り、味わいたい。
本来のギニューならば有り得ない執着心は、肉体であるデンジの少年らしい健全な欲をアマゾン化により歪められた影響か。
-
「オレは…杖…フリーザ様…肉を……」
嘗て杖を使い怪物と化した者は杖を折った方が良い考えとは反対に、杖を折らないでという気持ちも生まれた。
その際「心が二つある」と称したがギニューの場合はより深刻だ。
元から持つフリーザへの忠誠、アマゾン化による食人衝動、フリーザの肉に加え女の豊満な胸を喰いたい執着心、そして杖を守らねばという使命感。
忠誠心以外の余計な思考が混ざり、正常な判断力を奪われる。
「肉を…女の…杖…胸…フリーザ様……オレは…!」
心が二つどころではない。
マーブル模様のようにかき混ぜられた思考は、ギニューを暴走へと導くのに十分過ぎた。
「オレはニクーザ様の胸の杖を守るんだあああああああああああああっ!!!!!」
両腕のチェンソーを足元に突き刺す。
そこにしんのすけ達はいない。
ただ単に雨を大量に含んだ砂浜を傷付け、一体なんの意味があるのだろうか。
暴走する余り敵の居場所も分からなくなったのか?
否、たとえ暴走していようとも、杖を守る強迫観念にも似た意思は生きている。
突き刺さったチェンソーが回転し、泥をそこら中に撒き散らす。
変化はすぐに起きた。
両腕のチェンソーを突き刺した位置から根が張り出したではないか。
ギニュー自身が大木と化したかのように、彼を中心にして根の侵食が広がっていく。
「これは…」
巨大になっただけでなく、これまた新たな手に出た。
元の大きさの時には使わなかった攻撃に、脹相の警戒も強まる。
根はやがて脹相の足元にも到達。
ここから何をする気なのかと言う疑問は、地面から響いた稼働音で解消。
飛び退いた直後に足元から刃が突き出される。
回転するソレは正しくチェンソーの刃。
だがギニューの両腕と頭部に生えたものとは違う。
刃全体へ走り脈動する血管に、ギョロギョロと蠢く複数の目玉。
ギニューが喰らったあの不気味な日本刀と同じ特徴が、チェンソーにあるではないか。
-
鬼喰いの剣士。
長き歴史の中でそう呼ばれた者が鬼殺隊にいた。
彼らは人でありながら鬼を喰らい、一時的に鬼と同じ怪力や再生能力を駆使する特異体質。
数百年を生きた上弦の壱をして、実物を見たのはたった二人だけという非常に稀な存在だ。
ギニューも、肉体であるデンジも鬼喰いの剣士ではない。
しかし殺し合いにおいて、悪魔のアマゾン化という異なる世界の異形が混ざり合う事態が起きた。
血を糧とする悪魔、人肉を糧とするアマゾン。
他者の血肉を己の燃料として取り込む異形の力が一つに宿り、そこへ加えて取り込んだのは上弦の鬼の一部。
であるならば、予期せぬ突然変異染みた現象が起きる筈は無いと、どうして否定できようか。
鬼喰いの剣士はただ鬼を喰らって怪力や治癒力を高めるだけではない。
喰らった鬼が鬼舞辻無惨に近ければ近い程、より強大な力を行使できる。
つまり力を着けた鬼と同じく、血鬼術すら人の身でありながら使う事が可能。
悪魔、アマゾン、そして鬼。
三つの人喰いの異形の力をギニューは我が物としているのだった。
「しんのすけ!足元にも気を付けろ!」
「わ、分かったゾ!」
しんのすけに注意を促しつつも回避へ集中。
次から次へと足元からチェンソーが生え、付近一帯には稼働音が鳴り止まない。
足を斬られ機動力を奪われては、回避もままならずあっという間にミンチ確定だ。
地面の振動と近付く稼働音を頼りに飛び跳ね回る。
避けるだけでなく攻撃にも移りたいが、果たしてあの巨体相手に有効打を与えられるのかは自信がない。
的が大きくなれば当て易いとはいえ、流石に限度がある。
素手や拳銃のみならず、アタッシュショットガンですらここまでの大きさでは大したダメージにならないだろう。
本当に厄介な事になったと舌打ちが零れた。
-
「イロハオエ〜♪」
海藻のように捕えどころのない動きはぷにぷに拳の奥義が一。
ひとつひとより和毛和布を使い、そこから更にフラダンスにも似た動きへと発展。
傍目には気の抜けるような動作にしか映らないが、チェンソーを回避しているのだから大したもの。
尤もしんのすけが浮かべる表情に余裕は無い。
如何せん手数はギニューのが圧倒的に上。
回復ポッドのお陰で万全の状態にまで治ったから良かったものの、負傷を引き摺ったまま戦いに臨んでいたらきっとこうはならなかった。
悟空の体を持つしんのすけと言えども、限界が訪れていただろう光景は現実のものと化した筈。
避けるだけでは一向に埒が明かない。
ギニューの巨大化がいつまで続くか分からない以上、無駄に体力を消費するのは得策に非ず。
危険は承知で勝負に出る。
そう決断した脹相は一旦距離を取り、ストライカーユニットを装着。
地面から襲い来るチェンソーも、空中というフィールドまでは届かない。
(俺が惹き付ければ、しんのすけが杖を取りに行ける筈だ…!)
囮役は敵の注意を惹き付ける役目上、必然的に最も危険に晒される。
しかし悪戯に時間と体力を無駄にするよりは、リスクがあろうと勝てる選択をするべきだ。
二回目となるストライカーユニットも体が覚えているお陰か、苦も無く飛行が可能。
真正面のギニューへ突撃。
腕を振り被るのが見えたならうかうかしていられない、回避行動へと移る。
直撃はしなくとも暴風が叩きつけられたような余波が遅い、必死に耐えねば紙屑のように吹き飛ばされそうだ。
反対の腕が攻撃動作に移るのを待たずに直進。
顔の真横を通過し、耳元で蚊が飛んでいるかのような不快感をギニューは味わう。
耳らしき器官は見当たらないが反応は有りだ、後頭部付近へと回り込んだ脹相に意識が向かう。
振り返ると頭部のチェンソーが迫り真下へと回避。
「そうだ、こっちを見ろ」
狙い通りギニューはしんのすけから意識を外し、先に脹相を仕留めに来た。
地面に突き刺したチェンソーも引っこ抜き、これでしんのすけも動き易くなった筈。
後は杖を拾えるまでこっちで動き回り、しんのすけのほうへ気付かせないようにするだけ。
文字にすれば単純でも実際にやる脹相は命懸けだ。
胴体付近を飛び回ると足を振り上げた、蹴り落とす気だろう。
一撃でも食らえばまともな死体は残らない、後方へと退く。
余波が襲うも蹴りが当たっていないなら上等。
上昇しようとし、ゾクリと背筋を冷たいものが走った。
蹴りは避けた、だから問題ない筈。
違うただの蹴りじゃない、伸ばしたままの脚を突き破って巨大な刃が迫り来る。
-
「――っ!!!」
両腕のチェンソーを引っ込められるのは知っていた。
だが足からもチェンソーを生やせるとは思わず、焦りは急上昇。
スピードを一気に引き上げ、全身に負担が圧し掛かる。
体中が悲鳴を上げるも、チェンソーの直撃を受けるのに比べたら屁でも無い。
回避には成功、今の無茶な動きだけで大分体力を持って行かれた。
更に最悪な事に、脹相には一撃避けるだけでも命懸けでもギニューには関係ない。
避け終えたばかりの脹相へと迫る腕のチェンソー。
回転数を上げる刃を前に休む間もなく回避に移ろうとし、しかし思考とは裏腹に動きが追い付かない。
無茶をしたツケだ、痛む体は次の行動へ動くのを遅らせた。
時間にすればほんの数秒でも、余りに致命的と言う他無い。
最早回避は間に合わない、今から動いた所で精々腕一本くらいはチェンソーから逃れられる程度。
残された選択肢は黙って死を受け入れる、ではなく防御。
ウィッチには空を飛び、固有魔法以外にも使える力が残されている。
アタッシュショットガンを地面に放り両手を翳す。
魔法力が生み出すは身を守る魔力のシールド。
平時でも使えるがストライカーユニットを履いたウィッチは、より強力な盾を作れる。
叩きつけられるチェンソー、回転する刃に魔力が削り取られる錯覚を覚えた。
バルクホロンの体には掠り傷一つ付かない、刃はシールドを壊せなかった。
「くぉ――」
防いだのはあくまで生身の体への直撃のみ。
チェンソーを叩きつけられた衝撃自体は強化されたシールドだろうと防ぎ切れない。
バッターに打たれたボールの如く殴り飛ばされた。
勢いが強過ぎるが為に空中で持ち直せず、ロクに身動きも取れない。
いつまでこの状態なんだと焦り、直後に背中から叩きつけられる。
背後にあるのはフリーザの宇宙船だ。
金属製の機体に激突した痛みで一瞬呼吸が止まり、目がチカチカと火花が散る。
地面に落ちた時には受け身も取れず、うつ伏せに倒れ小さく身動ぎするばかり。
-
「脹相おねえさん!」
攻撃された仲間を無視し、杖を取りに行く。
合理的な思考は最初から頭には無く、足を止めて振り返った。
どんな状況だろうと友や仲間を蔑ろにしない。
しんのすけの美点だがこの場においては悪手だ。
杖に近付こうとする不届き者の存在をギニューが再び察知、両腕を地面に突き刺す。
「ツエーザ様の胸に触れるな肉があああああああああああ!!!」
正気を失った言葉と共にチェンソーを生やす。
足元から響く稼働音に慌てて回避へ移るが一手遅い。
脚の肉が削がれ胴着が赤く染まる。
皮を裂かれただけだ、骨には到達しておらず移動に支障は無い。
何よりこの程度の痛みに構っていては、今度こそ本当に真っ二つ。
入れ替える筈の悟空の体ですら躊躇なく斬る様子から、ギニューからは冷静さが抜け落ちているらしい。
相手の事情を知る由の無いしんのすけはチェンソーを避け続ける。
これまで同様、悟空の身体能力とぷにぷに拳を組み合わせた動きは効果を発揮。
最初の一撃以降は当たっていないが、避けてばかりでは状況は変わらない。
脹相が心配でもチェンソーが邪魔で近づけず、焦りと悔しさに汗が滲む。
そんなしんのすけの後方で、脹相の元に近付く人影があった。
「おい!大丈夫かよちょーそー!」
「…何でこっちに来た」
これまでのバカを絵に描いた能天気な表情とは打って変わり、真剣な顔つきで声を掛ける少女。
燃堂に思わず脹相は呆れを抱く。
幾らバカでも巨大な怪物が暴れ回っていれば、危機感を抱くだろうに。
安全圏まで逃げれば良いものを、何故わざわざ戻って来たのか。
いや、理由は単純。
こいつはバカだが下衆ではない、人間として当たり前の善性を持っているから。
宇宙船内でしんのすけを論した時、困惑を抱きつつもただのバカではないと察せられた。
肩を貸されどうにか立ち上がりふと顔を上げると、ナナが駆け寄って来るのが見える。
メガネの位置がずれ焦りを顔に出している様子から、何があったかは安易に察しが付く。
きっと制止も聞かずに自分の元へ走り出した燃堂を慌てて追いかけて来たに違いない。
つくづく燃堂に振り回される奴だと、緊迫した場には不釣り合いな呆れ笑いが浮かぶ。
-
「燃堂さん…!あなたは本当に…勝手に動いて…!」
「お?何だ相棒の弟。お前相棒よりも体力ねぇのか?」
「…っ!また来るぞ!」
チェンソーを起点に侵食する根は脹相達の元へと近付く。
間近に迫った脅威を目撃しては、ナナも文句を言っている場合では無いと即座に切り替えた。
燃堂への文句など生きていれば幾らでも言う機会がある。
反対の肩を脹相に貸して一先ず宇宙船内に避難。
数秒遅れて三人が立っていた場所へ生えるチェンソー、もう少し遅れていたらを考えれば背筋が寒くなる。
ハッチを通じて中に入り奥へと進む三人。
その間にもチェンソーは次々に地面から顔を出し、機体表面を削り取った。
フリーザ軍の技術力で生み出された船故か、今のところ大破を免れてはいた。
だがいつまで持ちこたえられるかは不明、現にハッチ付近は耐え切れずに斬られ断面が火花を散らす。
せめて迎撃システムでも使えれば別だが操縦はおろか、レーザー砲の一つも動かない。
公平さを保つために大半のシステムをオミットしたのだろうけれど、この状況では余計な真似をと主催者に恨みを言いたくなる。
言っても状況は微塵も好転しない為、無駄に怒って体力を使う気は無いが。
「お?何だここ、めちゃくちゃ床が揺れてんぞ?」
「燃堂さんそっちじゃありません!じっとしてないで早く!」
「奥に行け…!ここも限界だ…!」
如何にフリーザ軍の宇宙船と言えども、一方的に攻撃を受け続けては破壊されるのも時間の問題。
不自然に揺れ動く床に首を傾げる燃堂を引き摺り、直後船内へチェンソーの刃が出現。
真下から絶えず削られとうとうチェンソーの侵入を許してしまった。
脹相の言う通り同じ箇所に留まるのは自殺行為以外の何者でもない。
まだある程度は耐えられるエリアへ向かうも、それだって直に限界を迎える。
そうやって場所を変え移動続けたとて、最終的には逃げ場無しとなるのは明白。
今から外へ逃げ出したってあっという間にチェンソーの餌食だ。
仲間との合流場所に選んだ宇宙船は、今やナナ達にとって巨大な鉄の棺桶も同然。
自軍の船を破壊する蛮行も、暴走したギニューにはまともな判断が不可能。
敵自ら攻撃を止めてくれる展開には期待するだけ無駄。
残された道は二つ、このまま宇宙船諸共運命を共にするか。
或いは、ただ一人戦う少年がその運命を変えるか、だ。
-
○
「み、みんな…!」
チラと見えた背後の状況。
宇宙船に逃げ込んだ仲間がピンチを迎えているのは、しんのすけにも分かった。
敵は自分だけでなく宇宙船にも攻撃を行い、このままではナナ達が殺されてしまう。
どうにかしなくてはと自分を奮い立たせ、キッとギニューを睨み付ける。
怒りの籠った眼光にも怯まずチェンソーを生やす。
止まる気が無いなら力づくで止めてみせるしかない。
足元のチェンソーを躱し、ギニュー目掛けて力強く一歩踏み出した。
「ここのつここから戦意尻失!」
丸出しにした尻を突き出し、左右へ動きながらギニューへ接近。
非常にふざけた見た目だがぷにぷに拳の奥義の中では、最も機動力に優れた技だ。
過剰な正義で道を誤った姉弟子と激突した時にも負けぬ勢いで、チェンソーを避けつつ距離を詰める。
一歩間違えれば尻ごと真っ二つにされ兼ねない。
躊躇を抱いて動きを止めればその間違いが現実となる。
故に勢いを維持したまま、恐れを抱かずにただ敵の元へとひたすら進む。
「ムネーザ様の杖を食わせろおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
しんのすけがどれだけ足掻こうとギニューには関係無い。
猪口才な虫けらの無駄な抵抗など、何の身も為さない。
地面から引き抜いた片腕を振り下ろす。
ケツだけ星人と同じ動きを活かした機動力で、頭上から襲うチェンソーをどうにか躱す。
しかし地面に叩きつけられた衝撃はしんのすけにも迫り、戦意尻失の構えを保っていられない。
吹き飛ばされて地面に叩きつけられる。
苦し気に呻きうつ伏せのまま顔を上げる姿は、元の大きさのギニューに叩きのめされた時と同じ。
違うのはあの時のように助けは期待出来ないことか。
-
「う…ぐ……」
悔し気に顔が歪む。
少しずつだけど戦えるようになり、自分も悪者を倒せると思った。
だが現実にはこの様だ。
仲間を殺した怪物がまた別の仲間を殺そうとしている。
絶対に止めたいのに、自分の力は届かない。
「まだ、だゾ…」
でも、それが何だと言うのだ。
敵が強い、まるで歯が立たない。
そんなものは諦める理由にならない、もう無理だと投げ出す理由にはならない。
仲間を見捨てて逃げ出す理由になど、絶対にならないし認めるものか。
しんのすけなりに考える。
傷は治って疲れも消えた、なのにどうして自分はチェンソーの怪物に返り討ちにあったのだろうか。
煉獄を殺した怪物への怒りを拳に乗せた、でも届いたのは最初の一撃だけ。
どうしてだろうか、怒って戦うのでは駄目なのだろうか。
煉獄を殺された事への怒りをぶつけるのは間違っているのか。
…違うそうじゃない。
大切な人を傷付けられたり、奪われたりしたら怒って当たり前。
だけどそれだけじゃないだろう。
「……」
思い出す、この地で家族を奪われた瞬間を。
アーマージャックとの戦いの時、自分はどうして戦おうと思った?
シロが殺され、一度は全てを投げ出しそうになったのに。
それでも戦う事を決意したのはどうして?
家族を奪ったアーマージャックが許せなかったから?
確かにそれも入っているかもしれない、でも決定的な理由とは違う。
あの時、たった一人で戦う仲間がいたからだ。
自分と、ミチルと、シロを守るために。
圧倒的な力を持つアーマージャックへ立ち向かう蓮を守りたかったから。
自分の支えになると約束してくれた蓮を、今度は自分もおたすけしたかったからだ。
-
「みんなは…」
この地で出会った多くの人は、しんのすけを守ろうとしてくれた。
一番初めに出会った彼、煉獄がそうだったように。
煉獄は何故刀を抜き、チェンソーの怪物と戦ったのか。
悪者をやっつけるヒーローだからか?
それだけじゃない、悪い奴をやっつける以上に、色んな人を守りたかったからなんだ。
悪者のせいで酷い目に遭ったり、泣いたりする人がもう出ない為に煉獄は戦った。
「オラも…」
思い出せ。
皆の背中を、あの人の背中を。
誰かを守るために戦った、強くてかっこいい人達の背中を。
そうだ、この戦いの時だってしんのすけは守られた。
あんなに強いチェンソーの怪物と戦いながら、脹相はしんのすけの方にも気を遣ってくれただろう。
殴り飛ばされた脹相を、燃堂とナナが守ろうと戻って来てくれた。
そして三人は今間違いなく、しんのすけのおたすけを必要としている。
「オラも……」
思い出せ。
あの人が遺してくれた言葉を。
胸を張って強く生きるとは何だ?
怒りに身を任せて我武者羅に殴り掛かる。
そんなものが強く生きるのか?
違うだろう、そうじゃないだろう、答えは既に知っている。
困っている人をおたすけして、泣いている誰かをおまもりする。
アーマージャックに立ち向かった蓮を、下水道からしんのすけだけでもと逃がしたミチルを。
しんのすけを守るために、最後まで刀を手放さなかった煉獄を。
本当に強くてかっこいい、胸を張って生きる人たちを、しんのすけは知っているのだ。
-
「オラも…みんなみたいに…」
『心を燃やせ……』
力が漲る
「煉獄のお兄さんみたいに…」
『命を燃やせ……!』
炎が宿る
「みんなをおまもりするんだ!!」
『誰も死なせない!!』
さぁ叫べ
「界王拳!!!!!」
血よりも色濃く、太陽よりも鮮烈に。
戦場を真っ赤な輝きが照らし出す。
気の解放による戦闘力の上昇。
されど此度は鬼狩りの長相手の時以上に激しく、しかし一層洗練されている。
あの時はただ湧き上がる怒りを拳に乗せただけだった。
今は違う、怒り以上に「守る」という意思を固めて己が闘気を解放。
確固とした意志を自身の力に変え、一つの技として昇華。
それこそが界王拳。
体中の気をコントロールし戦闘力を爆発的に強化する、北の界王から授けられた技。
-
「しんのすけ、ファイアー!!!」
張り上げる叫びは自身への鼓舞。
恐れを知らない戦士の様で、ただ真っ直ぐに突き進む。
行く手を阻むは無数のチェンソー。
肉を裂き骨を断つ凶刃を、真っ向から粉砕。
殴り、蹴り、四肢を駆使した打撃が炸裂。
最大の武器と化した悟空の体を以てすれば、チェンソー数百本だろうと恐れるに足りない。
悪魔をも八つ裂きにする刃が次々と砕け散り、しんのすけの進んだ後には破片が続く。
「離れろおおおおおおおおおっ!!!」
「とうっ!」
家屋をも一撃で崩壊させるだろうギニューの蹴りが炸裂。
規格外のサイズの脅威にもしんのすけは動じず跳躍。
伸ばされた足の上に着地。
向こうからそこへ来たのは好都合、仕留めるべく脚からチェンソーを生やす。
「むっつむやみに手揉民民!」
「ぬおおおお!?」
だがしんのすけとて避けたままで終わらせる気はない。
チェンソーに両断されるより早く、まるで虫のように動きながらわきわきと脚を解した。
するとどうしたことか、脚の力が抜けギニューがよろめいたではないか。
しんのすけの攻撃は脚だけでなく、腰や果てには股間部分まで揉み解す。
マッサージ師顔負けの指使いで揉み解し脱力させる、ぷにぷに拳六つ目の奥義だ。
快楽ともこそばゆさとも違う奇怪な感覚に、ギニューは堪らず尻もちを付く。
「すき焼きー!」
体勢を崩した敵を見据えて跳躍。
恐らくは隙ありと言いたいのだろうが、そこはご愛嬌。
とはいえしんのすけが言った通り隙を晒したのは間違いない。
大幅に強化された身体能力により、一跳びで上半身へと到達。
黒光りする異様な肌に接近し、次なる技を放った。
-
「ななつなんだか吸盤接吻!」
「ふおおおおおん!?」
ぷにぷに拳七つ目の奥義は、口をタコのように尖らせ吸い付く技。
本物の吸盤以上の吸着力があり、大人数人掛かりでも引き離すのは不可能な程。
しんのすけが吸い付いたのはギニューの上半身、より正確に言うと乳首の部分。
敏感な箇所への刺激に悶える様は、耳に息を吹きかけられた風間トオルを思わせる恍惚としたもの。
「まじぃ〜…」
「ぬ、ぐ、おのれえええええええええ!!」
自分でやった事ながら、男の体に吸い付くのは気色悪い。
げんなりするしんのすけを見下ろし、暴走状態であるが屈辱を与えられたとは何となく分かったのか。
癇癪を起した子供のように暴れ回りしんのすけを振り落とす。
如何に吸着力に優れたぷにぷに拳の奥義でも、これ程の大きさの相手に揺さぶられればひとたまりも無い。
唇が離れ地面へと真っ逆様。
「まだまだーっ!」
叩きつけられる寸前でやっつやっぱり柔軟弾丸を使用。
反動を利用し一気に上昇、着地した先はギニューの肩。
小生意気にも自身の体に足を乗せた輩を振り落とすべく、ギニューの巨大な手が迫る。
しかし遅い、しんのすけは既に次の攻撃へと移っていた。
「よっつよろしく糞転下肢!」
「ぐぼぉっ!?」
逆立ちした状態から繰り出された蹴りが、ギニューの頬へと炸裂。
鉄の頭部が凹みかねない威力だ。
サイズ差など関係なしにダメージを与えられる力が、界王拳を発動したしんのすけにはある。
蹴りを叩き込まれた巨体から離れ、一気に距離を取る。
逃走の為では無い、これまで以上の力を籠めた一撃で以て勝負をつける為だ。
今の自分が、悟空が使える中で最も強力な技と言えばアレしかない。
-
「か…め…は…め…」
構えを取り、気を最大限に溜めるはアーマージャックを下した亀仙流の奥義。
あの時と違い蓮やミチルのサポートは無い。
自分一人でギニューを倒し、ナナ達を守らなければならない。
世界を何度も救った5歳児と言えども、プレッシャーに押し潰されても不思議はないだろう。
(大丈夫だゾ…!)
それでも、しんのすけの心に不安は微塵も無い。
自分が生きてここにいて戦えるのは、沢山の仲間が助けてくれた。
皆がおたすけしてくれたから、その事実がしんのすけに無限の勇気をくれる。
何より自分は一人じゃない。
お話はできないし、この先会えるかどうかも分からないけれど。
自分に体と、皆を守る力を貸してくれるヒーローが。
孫悟空がいるのだから、恐くなんてなかった。
「波ーーーーーっ!!!!!」
守るべき者達には希望を、立ち塞がる悪には敗北を。
正しき心を力に変えて、邪悪を呑み込む閃光を放つ
眩い蒼は雨を消し飛ばしチェンソーの悪魔を強く照らす。
-
「オレはフリーザ様をおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオおおおおっ!!!」
譲れぬ想いで戦いに臨むのは悪もまた同じ。
アマゾンの本能、杖を守る強迫観念。
迫り来る強大で強靭な願いを前に、この瞬間だけは忠誠心が前面に出る。
両腕のチェンソーが慟哭のように音を立て、閃光を切り裂く。
まだ終われない、終わってたまるかと突き進む。
「オラが…皆をおまもりするんだああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
「―――――っっっっっ!!!!!!!!!!」
ああしかし、想いの力と言うのなら。
しんのすけにだって譲れぬものがある。
守らねばならない命がある、勝たねばならない理由がある。
今も心へ火を灯し続ける、益荒男と交わした約束がある。
溢れ出る赤き光は、さながら悪を浄化する炎が如し。
輝きを以て邪悪なる野望を潰えるがように、閃光がギニューを包み込んだ。
体が焼ける、刃が砕ける。
「おのれええええええええええええええええっ!!!」
怨嗟の叫びすらも飲み込まれ、悪魔は光の中へと消え去った。
-
◆
「どうなった…?」
「分かりません…外に出てみないと…」
あれだけ執拗に宇宙船を狙った攻撃も止まり、外からの轟音ももう聞こえない。
戦いは終わったのだろうか。
終わったとしてどのような結末を迎えたのか。
しんのすけが勝った、それなら何も問題は無いがもしそうじゃなかったら。
最悪の可能性が現実のものになれば、いよいよ自分達もお終いだ。
いずれにせよこの目で確かめる以外に選択肢はない。
「お?ムキムキと一緒に牛乳をぶちのめすんだな!」
能天気な発言にツッコミを入れる気力もない。
慎重に歩を進め外に出る。
半壊した宇宙船を背に目を凝らせば、倒れ込み荒い息を吐く男が一人。
「お?おーい!大丈夫かムキムキー!」
「……お?だいじょぶ…じゃなくてヘトヘトだゾ…」
疲労困憊ながらどうにか手を上げ反応する。
胴着が汚れるのも厭わず泥の真上に体を横たえる、しんのすけの姿がそこにあった。
界王拳は戦闘能力を爆発的に上昇させる反面、体力も大幅に消費する諸刃の剣。
戦闘力が倍になればなる程、如何に悟空とて命の危機に陥り兼ねないリスクが存在する。
しんのすけも同様に界王拳を使った反動で、多大な体力消耗に蝕まれた。
回復ポッドで疲労とおさらばする前に逆戻りだ。
-
尤も体力を消費しただけの甲斐はあった。
「倒したんでしょうか…?」
思わず息を呑み、ナナは転がる巨体を見やる。
チェンソーの悪魔は先程までの猛威を振るったとは思えぬ有様。
全身の半分以上が消し飛ばされ、チェンソーの稼働音はおろか呻き声すら聞こえない。
焼け爛れた痕が雨で濡れ、何とも言えぬ痛々しさを抱かせる。
打ち上げられた鯨の死骸よりもずっと不気味だ。
何にしても、最悪の事態だけは回避出来たと見て良いだろう。
簡単に死んでやる気がないとはいえ、一時は本当に全滅も覚悟しそうになったくらいだ。
傷は少なくないが生きているならそれでいい。
取り敢えずしんのすけを宇宙船内に運び、散らばった支給品も回収しようと考え、
「……っ」
猛烈な悪寒が脹相を襲った。
何故だ、あの怪物は既に死んだ。
まさか別の襲撃者が現れるとでも言うのか。
(…違う!奴はまだ……)
死んでいない。
ピクリとも動かず、声を上げようともしない。
だが脹相は気付いた。
鉄の頭部、チェンソーも砕け散り見るも無残な姿と化しながらも。
怪物はしんのすけを見ている。
死に体となりながらも未だ勝負を捨てていない。
どうする。
今からしんのすけに叫んでも、倒れた彼が反応できる可能性は低い。
銃で撃つか?死にかけとはいえこんなちっぽけな拳銃が効くのか?
こうやって考えている時間すら惜しい。
焦りがあっという間にピークに達し、
-
「――――」
脹相の瞳に、知らない光景が映し出された。
無数の閃光が放たれる。
視界全てを覆い尽くす、血のような赤。
反応が追い付かず、気が付けば傍らの少女が餌食となった。
『ハルトマン!!』
思わず叫ぶ。
知らない女の名を。
自分は知らない、だが自分の体は知っている女の名を。
同室の友人にもお構いなしで散らかし、ロクに反省もしない。
目敏くチョコレートを持っていると見つけ、軍人らしからぬ悪戯に成功した子供のような笑みを浮かべる彼女。
だけど嫌いにはなれない。
そんな彼女が落ちていく。
声は届かない。
彼女の姿はどこにも見えない。
そんな記憶にない光景を、何故このタイミングで見るのか。
状況は全く違うのに。
あとほんの少しの距離にいるしんのすけが、何故落ちる『彼女』と重なるのか。
一体自分に、何をしろと言うのか。
死んで欲しいとは思っていない。
だが自分が死にたいとも思っていない。
やらねばならない事が残っている。
討たねばならない男が生きている。
果たさなくてはならない弟の復讐を、道半ばで閉ざされる訳には――
「……」
弟なら、こんな時どうするだろうか。
悠仁だったら、うだうだ悩み続けるだろうか。
(…そうだな)
考えるまでもない。
あの優しい弟が、何もしないで突っ立ったままな筈が無い。
あれこれ理由を重ねるより先に、動き出すに決まっている。
なら、兄である自分がやるべき行動は一つしか無いだろう。
「俺は、悠仁のお兄ちゃんとして恥じない生き方を貫く」
脹相は兄である事を絶対に投げ出さない。
「ボディーチェーーーーーーンジ!!!!!」
そして彼は躊躇なくしんのすけの前に飛び出た。
-
○
上手くいくはずだった。
なのに何故こうなったのだろうか。
界王拳で強化された上でのかめはめ波を身に受けて尚、ギニューは生きていた。
悟空の能力に大幅な制限が課せられていたこと。
巨大化した故に全身を消し飛ばされるまではいかなかったこと。
悪魔とアマゾンという、人間を超える生命力の肉体のお陰で辛うじて命を繋いだこと。
複数の幸運に救われ、ギニューはまだ脱落者に名を連ねずに済んだ。
尤もそれも時間の問題。
息はあるが死の危機から脱せた訳ではない。
制限の対象とはいえ不死の悪魔と、高い再生能力を持つアマゾン。
異形の能力を以てしても、悟空の力をモロに叩きつけられては限度がある。
放って置けば数分と経たずに死ぬと、薄れる意識の中で確信を抱いた。
だがまだ終わっていない、諦めるにはまだチャンスが残っている。
瀕死にまで追い込まれたからだろう。
杖を守るだの肉を食べたいだのという雑音はほとんど聞こえなくなり、ハッキリした意識はただ一つ。
フリーザの為に優勝する、ギニュー本来の強靭な決意。
僅かだが、本当に僅かとしか言えない残り滓程度だが余力はあるのだ。
自分も死ぬ一歩手前だが、敵もまた身動きが取れないくらいには疲弊している。
今しかない、このチャンスを逃せば何もかもが手遅れになってしまう。
どれだけ激痛に苛まれようと、何も為せずに終わるのに比べれば苦痛でも何でもない。
最後に勝つのは自分だと、勝利を捧げるのはフリーザにだと己に喝を入れ。
今度こそ、目的の体を手に入れる。
-
その筈だったというのに
「な、き、貴様…!!ふざけた真似をしおって!!!」
具足とも違う機械を履いた足で地団太を踏む。
背中から感じるキツい痛みも今この瞬間だけは怒りに塗り潰される。
ほんの数秒前まで自分が入っていた化け物を睨み、ギニューは怒りの声を上げた。
美人と呼ぶに相応しいバルクホルンの顔を憤怒に染めて。
「お、お姉さんお顔が恐いゾ…。もしかしてかーちゃんみたいにお便秘?」
体が入れ替わったと気付いていないしんのすけからしたら意味が分からない。
倒した筈の怪物が何かを叫び、いきなり自分の前に飛び出た仲間が怒りを露わに喚き出したのだ。
恐る恐る宥めようと声を掛けるも、当の相手には憎々し気に睨み返される。
(あと一歩のところで…!!)
どれだけ悔やんでも今更結果は変えられない。
脹相とボディーチェンジをしてしまった以上、二時間経たなければ体の入れ替えは不可能。
目の前に悟空の体があるというのに、手に入れられないとは何と歯痒いことか。
ボディーチェンジが使用不能とあっては最早ギニューにやれる事は無い。
「ならばせめて、貴様らだけでも仕留めてやる!」
「っ!?」
言うや否や拳銃を取り出し、突き付ける相手はナナ。
いずれ手に入れる悟空の体はともかく、他の連中なら始末しても問題はない。
ロクに収穫なしで終わるのも癪だ、殺せる奴は殺しておくに限る。
標的に選ばれたと気付くもナナは動けない。
彼女もまたギニューが撃破されたと思い、僅かながら気を抜いてしまったのがここに来て響く。
脹相が飛び出し、チェンソーの怪物が発した光が治まったかと思えば、その脹相が自分に銃を向けた。
目まぐるしく変わる状況は孤島の学級でのいざこざとは違う、本物の戦場ならではの緊迫感。
常人に比べれば早く危険を察知したものの行動に移すには遅い。
弾が発射された後で対処可能な能力も無く、必然的に弾丸は肉を抉り血を滴らせる。
-
「…っ。大丈夫か?相棒の弟」
但しナナではなく、自ら盾となった燃堂のだ。
元々超人的な身体能力を有している為、別人の体になっても野性的な直感は健在なのか。
ただ相棒と呼ぶ友と同じ顔の人物を守る意思に突き動かされるまま、ナナの身代わりで銃弾を己が身に受けた。
「ね、燃堂さんなにを…!?」
「相棒の弟ってことは俺っちにとっても弟みたいなもんだからな。放って置けるわけねえ」
何でもない事のように告げるその顔は、燃堂らしからぬ真剣味に満ちていて。
殺し合いで最も付き合いの長いナナも言葉に詰まった。
運が良いと言うべきか、撃たれた箇所は左肩。
血の滲んだ衣服は痛々しくとも致命傷では無い。
「チィッ!」
邪魔が入り一発で仕留められず苛立つギニュー。
自分から盾になったなら、望み通り燃堂を先に撃ち殺す。
隙だらけの背中へ銃口を向け、引き金に力を籠める。
{くっ…!」
ギニューはまだ諦めていないと、自身を庇う男越しにナナも気付く。
このままでは結局死ぬ、自分も燃堂も殺される。
あの世へと誘う声が大きくなり、死神に腕を引っ掴まれたとふざけた錯覚を抱いた。
避けようのない終わりを前に、何かを考えるでもなく咄嗟に右手を翳し、
ギニューの持つ銃があらぬ方へと吹き飛ばされた。
-
「なにぃっ!?」
「えっ」
声の大きさに違いはあれど、両者共通で含まれるのは困惑。
傍目には敵自ら銃を放り投げたように見えたナナも、勝手に自分の手から拳銃がすっぽ抜けたギニューも、揃って目を白黒させる。
隙を見せた連中を殺すチャンスを、捨てる真似を誰が行うものか。
拳銃が独りでに動き出すのも有り得ない。
では誰の仕業だと深く考えるまでも無い、掌を翳したメガネの小僧だ。
隠し玉を持っていたのかと歯軋りし、ここでようやく気付く。
(待て、確かあの小僧…ヒイラギとこの体の女に呼ばれていなかったか…!?)
柊ナナとは絵美理が殺意を露わにしていた名前ではないか。
思い出すだけで頭痛がしてくる狂人とナナに、どのような因縁があるかは知らない。
だが絵美理のような殺しに何の躊躇も持たない女に執着されるくらいだ、相応の力は有していると考えるのが自然。
もしや絵美理はナナが隠し持つ特殊な力で痛い目に遭い、報復の機会を狙っていたのかもしれない。
いずれにしても取るに足らないと思った相手は牙を隠し持っていた。
「こ、こらーおねえさん!ナナちゃん達は悪者じゃないゾ…!」
状況に置いて行かれたしんのすけも、流石に見ていられず立ち上がる。
仲間が突然このような暴挙に出た理由は分からないが、許せるものではない。
(おのれ…!また面倒な状況に……!)
どうにも上手くいかず、忌々しさでおかしくなりそうだ。
未知数の力を持つナナと、悟空の体を操るしんのすけ。
ギニューから見たら戦闘面では素人なれど、怪物と化した自分をああも追い詰めた事実は無視できない。
少なくとも、悟空のパワーを引き出すのには成功している。
消耗は軽く無いがそれを言ったら自分だって万全とは程遠い。
ボディーチェンジ可能になるまでの二時間、ここで粘り続けるのは現実的に非ず。
こうなってはもう、選択肢は限られてくる。
-
「これで終わったと思うな地球人ども!」
吐き捨てると即座に背を向け駆け出す。
後ろから聞こえてくる声は全て無視し、撤退に集中。
そこいらに散らばった支給品を回収する手間すら惜しい。
ただせめてこれらだけはと、巨大化した際に落とした虹と圧裂弾は拾い上げる。
ストライカーユニットを履いたままなのは幸いだ。
地から全身を浮かせあっという間に上昇、しんのすけ達には目もくれずに離れて行く。
(ええい!何なのだこの様は!?)
厄介なデンジの体を捨てられた。
加えてダメージの大きさを考えれば脹相はまず助からない。
また一人参加者が減ったのは、悪い結果では無い。
が、両手を上げて喜ぶほどの大成果を挙げたかと言えば、残念ながら首を横に振らざるを得ない。
絵美理の時と同じだ。
生き延びたというのにどうもスッキリしない、却ってストレスが溜まる結果。
おまけに当初の目的であった宇宙船の調査すら果たせていない。
とはいえ生き延びたのは事実。
悟空の体の在処も突き止めた、ならチャンスはまだそこら中に転がっている。
ならば今は耐え、次に備えるのだ。
フリーザ復活のための戦いはまだ終わってなどいないのだから。
「野原しんのすけ!次こそは孫悟空の体を手に入れてやる!その時を覚悟しておけ!!」
【C-1 上空/夕方】
【ギニュー@ドラゴンボール】
[身体]:ゲルトルート・バルクホルン@ストライクウィッチーズシリーズ
[状態]:肉体的疲労(極大)、精神的疲労(大)、腹部に打撲、背中にダメージ(極大)、魔力消費(大)、イライラ(大)、姉畑への怒りと屈辱(暴走しない程度にはキープ)、ボディチェンジ使用不可(残り約2時間)、飛行中
[装備]:フラックウルフFw190D-6@ストライクウィッチーズシリーズ、圧裂弾(1/1、予備弾×1)@仮面ライダーアマゾンズ、虹@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、竈門炭治郎の斧@鬼滅の刃、零余子の首輪
[思考・状況]
基本方針:ジョーカーの役割を果たしつつ、優勝し、主催を出し抜き制裁を下して、フリーザを完全に復活させる。
1:今は退く、このままでは済まさんぞ!。
2:デンジの体は捨てられたが…この女の体はどこまで使える?
3:孫悟空の体を奪う。オレが手に入れるまで死ぬなよしんのすけ。
4:ヒノカミ神楽とかはもう少しコツを掴めば使えそうな気がする。
5:変態天使(姉畑)は次に会ったら必ず殺す。但し奴の殺害のみに拘る気は無い。
6:炎を操る女(杉元)、エネルギー波を放つ女(いろは)、二刀流の女(ジューダス)にも警戒しておく。
7:ここにはロクでもない女しかいないのかと思っていたが、さっきの絵美理とかいう頭のおかしいうるさい女と比べたら、他は全然マシなやつらだったかもしれん。
8:さっきの奴(絵美理)が気にしていたヒイラギにも警戒。何らかの力を隠し持っているのか?
[備考]
※参戦時期はナメック星編終了後。
※ボディチェンジによりバルクホルンの体に入れ替わりました。
※全集中・水の呼吸、ヒノカミ神楽は切っ掛けがあればまた使えるかもしれませんが、実際に可能かどうかは後続の書き手にお任せします。透き通る世界が見れるかも同様です。
※主催側のジョーカーとしての参戦になりました。但し、主催側の情報は何も受け取っていません。
※ボディチェンジは普通に使用が可能ですが、主催によって一度使用すると二時間発動できない制限をかけました。
※杖@なんかかわいてくて小さいやつを使いました。
-
○○○
終わりを実感する。
痛みに苛まれる筈の体で、微塵も苦痛を感じない。
呼吸一つすらやっとの思いだろうに、不思議と心地良い。
敷き詰めた羽毛の上に横たわり、静寂の海に沈むような安堵感。
これが終焉へと誘われる感覚ならば、少々意外だ。
自分はもっと苦しんだ果てに、救いなど皆無の中で終わるとばかり思っていたのに。
呪い呪われとはとは正反対の、安らぎに満ちた感覚。
弟達もまた、終わる瞬間は自分と同じだったのだろうか。
苦痛、悲観、絶望。
それらとは正反対に、安らいだ感覚をほんの少しでも味わえたのだろうか。
…我ながら勝手なことだ。
本当ならば俺が守らなければいけなかったのに。
兄として、もっとしてやれる事があっただろうに。
しかし多分、あの時黙って見ていたら。
しんのすけを助けようとしなければ、俺はきっと悠仁に一生顔向け出来なかったと思う。
未練はある、やり残した事もある。
ボンドルドと、奴に手を貸しただろう加茂憲倫を殺せなかったのは無念だ。
悠仁の仇が今ものうのうと息をしているのは許し難い。
-
だけど、悠仁は復讐を果たすより、子供を守った方がきっと喜ぶ。
だからこれで良いんだろう。
少しだけ心が軽くなり、ふと視界の隅におかしな奴が現れた。
犬…で良いのか?
呪術師の式神にしては、何とも子供の落書きのような見た目のソイツ。
頭から生やしたチェンソーは、嫌でも今の体を意識させられる。
珍妙な見た目の犬と目が合い、向こうはすっと顔を伏せた。
…………そうか。
そういうことか。
こいつの正体は知らない、けれど何を考えてるかは分かる。
やるせなさと、悲しみを瞳に宿し、俯く姿を見れば。
何がそこまでこの犬を傷付けたのか、察するのは難しくない。
深く考えなくても、当たり前のことだ。
「……悪いな」
家族を失うのは誰だって辛いに決まっているのだから。
【脹相@呪術廻戦(身体:デンジ@チェンソーマン) 死亡】
-
◆
完全に沈黙したチェンソーの悪魔。
それが何を意味するのか、「誰が」死んだのかを正確に理解するのはただ一人。
形容し難い感情を籠めたため息は雨に消され、同行者たちには聞き取れなかった。
「脹相おねえさん…どうしちゃったの…?」
「ちょーそーの奴どこ行ったんだ?…いてて…」
逃げた方が脹相だと思っている少年二人にも、説明の必要がある。
果たしておバカな5歳児と、それ以上のバカに理解させられるのか。
何とも頭の痛くなる役目だが、自分がやるしかないのは非常に気が重い。
「…お二人とも、一旦宇宙船の中に戻りましょう。このまま外にいたら風邪を引きますし、それに手当てもした方が良いです」
半壊の憂き目に遭ったが雨風を凌ぐ役目は十分果たせる。
撃たれた燃堂と殴られたしんのすけの怪我も処置した方が良いだろう。
回復ポッドもう使えないが、病院で集めた物資がナナのデイパックには入っている。
断る理由も無く、脹相への釈然としない思いをそれぞれ抱きながら言われた通り宇宙船に戻った。
「……」
二人の背を見送り、ナナは振り返り様右手を翳す。
するとどうしたことか、地面に落ちた拳銃がすっぽりとナナの手に収まったのだ。
見えない何かに引っ張られたような奇怪な動きを見せ、己の手元にやって来た銃を見つめる表情は酷く重苦しい。
「やはりか……」
疑う余地はない。
一度目は自分でも訳が分からずギニューの手から銃を吹き飛ばした。
二度目は意識して行い、自分の手元に銃を引き寄せた。
不可思議極まりない現象の正体が何なのか、既に答えは出ている。
-
念動力。
直接手を触れずに人や物体を動かす、超能力の一種。
自身の肉体、斉木楠雄が使える無数の能力の一つ。
それをナナが使えるようになった。
手持ちのカードが一つ増え、今後は戦力として利用可能。
そう単純な話だったらどんなに良かったことか。
病院で斉木も言っていたが、現在起きているのは彼にとってもイレギュラーな事態。
他人に長時間体を明け渡したのもこれが初めてであり、予期せぬ現象が起きても不思議はない。
殺し合い開始当初は使えなかった超能力が、病院での接触を原因として多少使える可能性もある。
斉木の仮説は正しかったと証明するように、ナナは念動力をギニュー相手に使ってみせた。
「……」
放送の後、三人で病院を発つ直前の会話を思い出す。
脹相も言っていたが、どうも斉木に関係するものだけ出来過ぎている。
殺し合いが始まってすぐ斉木の友人である燃堂に遭遇し、しかも場所は斉木と馴染みのあるラーメン屋。
近くには母校のPK学園があり、斉木の知人である鳥束もPK学園からそう遠くない場所がスタート地点。
サイコメトリーが斉木本人には効果を発揮したのも合わせ、どうにも作為的な何かを感じずにはいられない。
燃堂との出会いがそもそもの切っ掛けとなり、斉木の精神は復活した。
ということは斉木との接触だけでなく、燃堂の存在が超能力を徐々に使える何らかの影響を与えているのだろうか。
実際、燃堂が撃たれた直後に念動力を発動したのを考えると、そういう推測も有り得ないとは言い切れない
まさかとは思うが名前繋がりでとかの、非常に阿保らしい理由では無いはず。
それも燃堂らしいと言えばらしいが。
燃堂の死が切っ掛けで斉木が世界を滅びした並行世界が存在したと言うくらいだ。
自分が思っている以上に、燃堂は重要な人間だとでも言うのか。
「……」
疑問と同じ、或いはより大きくナナの胸中を占めるのは恐怖。
超能力が使えるようになった、それはつまり人類の敵へ一歩近づいた事を意味する。
無論、こんな風に考えている時点で精神は紛れも無い無能力者の柊ナナ。
能力者とは違う、両親を奪った人類の敵と同じになどなってはいない。
-
しかしこの先どうなるかは分からない。
斉木の能力が一つ、また一つと使えるようになれば、その度に心も能力者へ変貌し、最終的には心身ともに完全な人類の敵の誕生。
悪夢のような光景が絶対に起きないと、どうして言い切れようか。
燃堂力の存在がナナを超能力者へと近付かせる、燃堂が死ねば悪夢は現実にならない。
(馬鹿なことを…)
頭を振って血迷ったとしか言いようのない考えを消し去る。
燃堂を死なせるべきではないと斉木も言っていただろうに。
一時の焦りで燃堂を殺した結果、取り返しの付かない事態に発展したら悔やんでも悔やみきれない。
大体本当に燃堂の影響で力を使えたかどうかも確証は無いのだ、真実と決めつけ選択を誤るなんて自分らしくもない。
仮説に振り回されるより、目先の問題を優先する方がよっぽど建設的だ。
散らばった支給品を回収してから、さっさと宇宙船に戻るに限る。
余計な事は考えないように切り替える。
全てはただの想像に過ぎない、証拠もないのに信じたってどうしようもない。
どこか目を逸らすように自分へ言い聞かせる。
「……クソッ」
それでも、超能力を使えるようになったのは。
他者の体と言えど人類の敵に近付いたという現実は、やけに苦しかった。
【C-1/夕方】
【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[身体]:孫悟空@ドラゴンボール
[状態]:体力消耗(極大)、ダメージ(中)、決意、深い悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ぴょんぴょんワープくん@ToLOVEるダークネス(2時間使用不可)、ランダム支給品0〜1、シロの首輪
[思考・状況]
基本方針:悪者をやっつける。
1:宇宙船に戻る。脹相おねえさんはどうしちゃったの…?
2:おじさん(産屋敷)とちゃんとおはなししたい。
3:逃げずに戦う。
4:困っている人がいたらおたすけしたい。
5:ミチルちゃん達の無事を祈る。
6:オラの身体が悪者に使われなければいいが・・・・
7:煉獄のお兄さんのお友達に会えたらその死を伝える。
[備考]
※殺し合いについてある程度理解しました。
※身体に慣れていないため力は普通の一般人ぐらいしか出せません、慣れれば技が出せるかもです。(もし出せるとしたら威力は物を破壊できるくらい、そして消耗が激しいです)
※自分が孫悟空の身体に慣れてきていることにまだ気づいていません。コンクリートを破壊できる程度には慣れました。痛みの反動も徐々に緩和しているようです。
※名簿を確認しました。
※界王拳を使用しましたが消耗がかなり激しいようです。気のコントロールにより慣れれば改善されるかもしれません
※悟空の記憶を見た影響で、かめはめ波を使用しました。
※ギニューと脹相の体が入れ替わった事に気付いていません。
-
【柊ナナ@無能なナナ】
[身体]:斉木楠雄@斉木楠雄のΨ難
[状態]:精神的疲労(中)、自分への不安
[装備]:フリーズロッド@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド、松平の拳銃@銀魂
[道具]:基本支給品、ライナー・ブラウンの銃@進撃の巨人、ランダム支給品0〜1(確認済み)、病院内で手に入れた道具多数
[思考・状況]
基本方針:まずは脱出方法を探す。他の脱出方法が見つからなければ優勝狙い
1:フリーザの宇宙船で戦兎達を待ちつつ、しんのすけ達の手当てをする。
2:脹相の死と体が入れ替わっただろうことを説明しなくてはならないか…
3:「かめ」とは何だ…?後に続く言葉はあるのか?何か重要なものなのか?
4:「かめ」は「仮面ライダー」なのか?ならば、主催陣営の誰かが変身するということなのか?
5:斉木楠雄の精神復活は想定内だったのか?だとしたら何のために?
6:変身による女体化を試すべきかどうか…
7:犬飼ミチルとは可能なら合流しておく。能力には期待出来そうだ
8:首輪の解除方法を探しておきたい。今の所は桐生戦兎に期待
9:能力者がいたならば殺害する。並行世界の人物であろうと関係ない
10:エボルトを警戒。万が一自分の世界に来られては一大事なので殺しておきたいが、面倒な事になったな
11:可能であれば主催者が持つ並行世界へ移動する手段もどうにかしたい
12:何故小野寺キョウヤの体が主催者側にある?斉木空助は何がしたい?
13:斉木楠雄は確実に殺害する。たとえ本当に悪意が無かったとしても、もし能力の暴発でもして自分の世界に来られたらと思うと安心できない。
14:13のためなら、それこそ、自分の命と引き換えにしてでも…
[備考]
※原作5話終了直後辺りからの参戦とします。
※斉木楠雄が殺し合いの主催にいる可能性を疑っています。
※超能力は基本的には使用できませんが、「斉木楠雄」との接触の影響、もしくは適応の影響で念動力が使用可能になりました。他にも使えるかもしれません。
※サイコメトリーが斉木楠雄の肉体に発動しましたが、今後は作動しません。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※貨物船の精神、又は肉体のどちらかが能力者だと考えています。
※小野寺キョウヤが主催に協力している可能性を疑っています。
※主催側に、自分の身体とは別の並行世界の斉木楠雄がいる可能性を伝えられました。今のところは半信半疑です。
※主催側にいる斉木楠雄がマインドコントロールを使った可能性を疑っています。自分がやったかどうかについては、否定されたため可能性としての優先順位は一応低くしています。
※並行世界の同一人物の概念を知りました
※主催陣営が参加者の思考までをも監視している可能性を考えています。
※「かめ」=仮面ライダーだと仮説した場合、主催陣営の誰かがビルド、斬月、エターナルのいずれかのライダーに変身するのではないかと考えています。
【燃堂力@斉木楠雄のΨ難】
[身体]:堀裕子@アイドルマスターシンデレラガールズ
[状態]:後頭部に腫れ、左肩に銃創、鳥束の死に喪失感
[装備]:如意棒@ドラゴンボール
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:お?
1:お?
[備考]
※殺し合いについてよく分かっていないようです。ただ何となく異常な場であるとは理解したようです。
※柊ナナを斉木楠雄の弟だと思っているようです。
※自分の体を使っている人物は堀裕子だと思っているようです。
※桐生戦兎とビルドに変身した後の姿を、それぞれ別人だと思っているようです。
※斬月に変身した甜花も、同じく別人だと思っているようです。
※斉木空助を斉木楠雄の兄とは別人だと思っているようです。
※斉木楠雄が病院の近くにいると思っていましたがそのことを忘れています。
※ギニューと脹相の体が入れ替わった事に気付いていません。
※宇宙船の近くに基本支給品、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、杖@なんか小さくてかわいいやつ、竈門炭治郎の日輪刀(刀身が半ば程で折れている)@鬼滅の刃、バギブソン@仮面ライダークウガ、アタッシュショットガン@仮面ライダーゼロワン、ランダム支給品0〜1(童磨の分・確認済み)が落ちています。
※回復ポッドはしんのすけが使用した為、今後はもう使えません。
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投下終了です
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age
-
意味なくageんな。誰も喜んでないことくらい理解しろ
-
両面宿儺、魔王、柊ナナ、燃堂力、野原しんのすけで予約します。
-
予約を延長しておきます。
-
投下します。
-
時刻はおよそ夕方近く、
魔王は、E-6の北方に居た。
前回の戦いが終わった後、魔王は次にどこへ向かうか少し悩んだ。
もう少し街中に留まって更なる首輪入手を狙うか、それとも先にモノモノマシーンの方に行って現在所持している首輪分だけ使ってしまうか。
しかしやがて、F-7にある地下通路の出入りに向かおうと考えた。
魔王の位置をから近いモノモノマシーンは地下通路の方だと思われる。
しかし、それもいつまで利用できるかどうかは分からない。
魔王が前に使ったカジノのモノモノマシーンは禁止エリア指定と共に利用不可となった。
他の二つの方も、いつ使えなくなるかどうか分からない。
だから、もう先に向かってしまおうという考えが出てきた。
所持している首輪は二つだけだが、そもそもの話としてモノモノマシーンの方には他にも誰か向かう可能性がある。
地図の仕組みのことを考えると、地下通路には既に誰かが来ているはずなのだ。
そいつが、モノモノマシーンを発見・利用したかどうかは分からない。
戦力はどちらにせよ不明、ならば、覚悟を決めて行ってみた方が良い結果が出る可能性だってある。
それに先ほどの戦いのように、また複数人を同時に相手にすることがあるかもしれないと考えると、早い内に装備を増やすべきかもしれないとも思う。
しかし今は、先ほどの戦いにより疲労が多大に蓄積している状態でもあった。
魔王は先ほど戦った者達から離れるよう少し南方向へ移動し、E-6の方にたどり着いた。
そこで適当な建物内に入り、そこを休憩所として疲労回復に努めた。
それがおよそ、4時近くまでの出来事だ。
もちろん、そこに自分の敵対者が来ないかどうかも警戒しながらだ。
やがて魔王は休め終えたと判断し、地下通路の方に行こうとした。
しかし、すぐに街の外に出たわけではなかった。
現在外は雨が降っている、だから念のため雨具を用意しようとした。
これもまた、近くの適当な建物内から傘を1本勝手に持っていって使うことにした。
だから魔王は、この時間帯にE-6エリアの街の北辺りにいた。
そしてそれにより、同じくこの時間に先ほどこのエリアに出現したばかりの者と遭遇してしまうことも、十分にあり得ることだった。
◆
いざ地下通路の方に行こうと思ったその時、魔王はルーラという呪文のことを思い出した。
この呪文は、一度行った場所ならばどこにでも行けるようになる魔法だ。
これを使って、ここよりも地下通路に近いF-8の方にワープすることを試みることを考えた。
消費する魔力量もどちらかと言えば少なめだ。
ルーラを使えれば、F-7にある地下通路に行くための時間も歩いて行くより短縮できるだろう。
しかし、この呪文の欠点として天井のある場所では使えないというものがある。
そのため、準備が出来たと判断した魔王は屋外に出た。
だが、魔王はここですぐにルーラを使うことにはならなかった。
いざルーラを試みようと思ったその時、雨の降る街の中に魔王は道の奥に小さな人影を見つけた。
この殺し合いにおいて、獲物と呼ぶべき存在だ。
だからルーラを使うことは一旦中断することにした。
それは、幼い少女のようだった。
しかし、それが醸し出す雰囲気はその外見に全く似つかわしくなかった。
少女もまた魔王の存在に気がつく様子を見せる。
同時に、彼女からより邪悪で冷酷な黒い気配が湧き出てくる。
「頭が高いぞ、そこの下郎」
少女が威圧感を放つ。
けれども魔王は、一歩も引き下がらない、気圧されもしない。
魔王は元々、自分より遥かに高い力を持つであろうラヴォスを倒すことを目論んでいた。
今更、例え気配だけは絶大でもただの少女の姿をした者相手に気を吞まれるわけにもいかない。
-
「ふん、まあいい。来るなら来い。少し遊んでやろう」
少女は尊大な態度を崩さずに、挑発的な発言をする。
相手を見つけた魔王が今、ここで殺し合うことを考えていると見通していた。
先ほどの戦いによるダメージは消えたわけではなく、魔力も少々心もとないが、今の魔王は戦えないわけでもなかった。
それに先ほどとは違い、相手は完全に一人のようであった。
まあ何にせよ、魔王としてもここで逃げるつもりはない。
地下通路の方に行くのは遅れるが、新たな首輪を入手するチャンスが来たとも言える。
優勝のためには、ここで引くわけにはいかないだろう。
魔王はまず、先ほどの戦いでも使用したリュウガのデッキを持って前に構える。
同時に、彼のピサロとしての身体の腰に変身ベルト、Vバックルが現れる。
「ほう、貴様もか」
「…何?」
少女もまた、自分の腰に銀色のベルトを巻く。
そして彼女の右手には、赤いカブト虫のようなものが握られていた。
「変身」
「……変身」
『HENSHIN』
2人は同時にそれぞれ手に持っているものを腰のベルト中央にはめ込む。
それにより、二人の姿が変化する。
魔王が変ずるは黒き龍の仮面ライダー、リュウガ。
そして少女…関織子の姿をした呪い、両面宿儺が変じるは銀の鎧に身を包んだ蛹のような仮面ライダー、カブト・マスクドフォーム。
なお、身体の関係でその身長は小学生くらいの小さなものになっているが。
それぞれ本来ならば縁のない同じ字(あざな)を冠する戦士が2人、雨に打たれながら対峙した。
どちらとも、精神・身体ともに本来の変身者と一致しないままにここでぶつかり合うことが確定した。
◇
宿儺は街の探索のためにまず、北方向に向かって歩いていた。
そうした結果、途中で魔王に遭遇した。
宿儺は、今遭遇した相手を自分の新たな器の候補にすることを考え始めていた。
相手の肉体は織子とは違いちゃんと筋力もありそうな大人の男…ということだけではなさそうだった。
どうも、人間のものではないようだと感じた。
呪力とはまた別な力を持っていると、感じた気がした。
何にせよ、織子の肉体よりは明らかに強いだろう。
ここで殺さず、自分が使ってやっても良い可能性は考えられた。
本当に乗っ取っても問題の無い肉体かどうかは、気絶でもさせた後でプロフィールを奪って確認してから判断すれば良いだろう。
現状、周りに他の誰かの気配は無い。
相手の力量を測るのに、邪魔が入る可能性は低いだろう。
ただ、相手…魔王はどうも宿儺の威圧をものともしていないようだった。
これでは、身体を乗っ取ろうとしても精神力で抵抗される可能性も一応考えられる。
だから、この戦いで必要なのはただ相手を動けなくすることだけではない。
心も、折らなければならなさそうだった。
「来い。先手を取らせてやる」
宿儺は人差し指を立てながら前に出し、クイクイッと内側に2回折って魔王に挑発的なサインを送る。
「……」
魔王はリュウガの姿のまま、手に持った破壊の剣を構える。
そしてそのまま、魔王は破壊の剣をその場で大きく横一閃に振るう。
それにより、不可視の刃…しんくう波がその剣から発生した。
しんくう波は真っ直ぐと、宿儺のいる方へと飛んで行く。
しかし現状の環境において、そのしんくう波は完全な不可視になるわけではない。
しんくう波は、その実体の無い刃の中に生じる真空部分に向かって周囲のものが吸い込まれる。
それは、この場に降る雨もまたそうだった。
その様子が見えることにより、不可視のはずの刃は可視となっていた。
「フンッ」
宿儺はその場から跳び上がり、しんくう波を避けた。
更には、その後宿儺がここで着地することはなかった。
宿儺が取り出したるは、魔法の箒。
宿儺はそれに乗り、そのまま空中に留まった。
「ほら、こっちだ」
宿儺は空中で箒に股がりながら、挑発的な振る舞いを続ける。
それに対し魔王は、冷静に次の手に移る。
-
腰のベルトに手を伸ばし、そこからカードを一枚取り出す。
そしてそのカードを、左腕のブラックドラグバイザーに差し込んだ。
『ADVENT』
そんな音声が流れると同時に、近くにあった建物の窓ガラス、厳密に言えばそこに反射して写っていた鏡像の中から一体の黒い龍が飛び出てきた。
「ほう、こいつは…」
鏡像から出てきた龍…ドラグブラッカーを見て宿儺は興味を持つ反応を見せる。
宿儺がドラグブラッカーを見て思い出すのは、呪術的な式神の存在。
今出てきたものは、どれ程の力量を持つのか多少は気になったためだ。
もっとも、伏黒恵が持つ十種影法術の魔虚羅よりは遥かに劣るが。
『GUOOOOO!!』
「おっと」
ドラグブラッカーが牙の生えた口を広げながら突進してくる。
それを宿儺は箒に乗ったまま避ける。
避けた先で、ドラグブラッカーはそこに偶々あった建物のコンクリートの外壁を勢い余って噛み砕く。
「ハッ!」
そして、魔王はこの光景を黙って見たままではない。
魔王は上向きに剣を振り、再び宿儺に向かってしんくう波を飛ばす。
「おっとっと」
間一髪で、宿儺はそれもまた避ける。
けれども宿儺は、余裕そうな態度を崩さない。
「どうした?その程度か?ほら、頑張れ頑張れ」
宿儺はまだ煽り続ける。
「行け」
「GAAAAA!」
宿儺の煽りに反応は見せず、魔王はドラグブラッカーに攻撃を指示する。
ドラグブラッカーはその長い体躯をしならせ、宿儺にぶつけようとする。
「よっ、はっ。ハハハ、こっちだこっち」
しかし、なかなか当たらない。
魔法の箒で小回りをきかせながら、紙一重で避けていく。
空中で、そんな追いかけっこが繰り広げられていた。
だが、これを見ているだけの魔王ではない。
「マヒャド」
魔王はなけなしの魔力を使い、呪文を唱えた。
「おっ!?」
魔王は、マヒャドの呪文を上空に向かって唱えた。
それによって発生する冷気も、当然そこに向かう。
その冷気は、空の雨もまとめて凍らせていく。
「GAAAAAA!」
冷気は、宿儺の近くのドラグブラッカーも巻き込む。
けれども、それによるダメージはある程度軽減されていた。
ドラグブラッカー自身が口から発せられることのできる黒い炎、ドラグブレスの6000℃の熱量がその身体を暖めることによってだ。
そして宿儺にはそのまま、マヒャドによる冷気が周囲に蔓延する。
それによって周囲全方向において、大小様座な氷の塊が発生する。
その内下からのものはマヒャドによる吹雪の風に押されて、上からのは重力に従い落ちて、それぞれ宿儺に襲いかかってくる。
「ちっ!」
宿儺は舌打ちしながらも氷の塊に対抗する。
宿儺自身が持つ斬撃の術式『解』、これを上に向けて放つ。
宿儺が術式を使うのはこの殺し合いが始まって最初に岩を砕くのに試して以来、久しぶりのことだ。
その威力は、その時よりは上がっているようだった。
前に、グレーテを一度『笑顔』の状態にしたからだろう。
しかし、この『解』は宿儺の納得がいく程の威力には到達してなかった。
織子の肉体でいる以上、威力を上げるには誰かを『笑顔』にしなくてはならない。
だが、織子の人格がいなくなったため宿儺にはそれはできないし、やるつもりはない。
やはり、別の誰かの肉体に乗り移るべきだという考えが宿儺の中でより強まる。
閑話休題。
宿儺の『解』は確かに上の方の氷塊を砕く。
宿儺はそれによってできた穴と言える部分を通り抜ける。
宿儺を挟んでいた上と下の氷塊がぶつかり合い、互いに破壊し合う。
砕かれ、粒状になった氷は、そのまま重力に従い雨と共に落下していく。
その下には当然、先ほどマヒャドを放ったばかりの魔王がいる。
このまま突っ立っていては、(ダメージにはならないだろうが)落ちてくる氷の粒に打たれるだけだ。
けれども、そのようなことにはならなかった。
-
「ハッ!」
魔王はその場で跳躍した。
これは、ピサロの特技の一つのムーンサルトだ。
勢いよく跳び上がった魔王は上にあった氷粒の層を通り抜け、宿儺の方に向かっていった。
元から40mの跳躍力を持つリュウガの性能により、宿儺のいる方へと十分に届く。
「解」
目の前に迫ってくる魔王に対し、宿儺は術式による攻撃を仕掛けようとする。
『GUARD VENT』
「何?」
しかし魔王も、対策を用意していた。
跳躍する前にあらかじめガードベント用のカードをブラックドラグバイザーにほとんど差し込んだ状態にし、宿儺へと届く直前にこれを完全に押し込んでカードの効果を発動させた。
これにより魔王の腕にリュウガの盾、ドラグシールドが現れる。
この盾により、不完全な『解』は防がれた。
そして、攻撃を防がれたことにより宿儺に隙ができる。
魔王は、手に持った破壊の剣を宿儺に向けて振るった。
「ぐっ…!こいつ…!」
マスクドフォームの鎧に守られ、その中にいる宿儺には直接的なダメージは通らない。
しかしながら、ヒヒイロカネで出来たその鎧でも、大きな傷がそこに付いた。
それだけでなく、破壊の剣による斬撃の範囲は宿儺の下の方にまで及んでいた。
それにより、宿儺が股がっていた魔法の箒にも攻撃は届いた。
魔法の箒は、柄のほとんどを切断された。
これにより、魔法の箒はそこに宿っていた飛行能力を急速に失っていく。
宿儺と魔王は、共に上空から雨と共に地上に向けて落下していった。
魔王はこのまま、着地と同時に追撃を行うつもりだった。
だが、宿儺はそれを防ぐための行動をとる。
落ち始めると同時に、腰のカブトゼクターの角を動かしていた。
『CAST OFF』
「!?」
カブトが持つ機能の一つ、キャストオフ。
それによりカブト・マスクドフォームの鎧が後少しで着地というところで、勢いよく弾け飛んだ。
「ぐっ…!」
魔王に、宿儺を中心に弾けたマスクドフォームのパーツが襲いかかる。
パーツが勢いよくぶつかって来て、それにより後ろ方向に押し出される。
盾とリュウガの装甲越しだったこともありダメージは少なかった。
だが、これにより宿儺との距離が再び引き離された。
『CHANGE BEETLE』
着地した頃には、カブトの羽化は完了していた。
赤い角は持ち上がり、青の複眼が2つに別れて光り輝いた。
仮面ライダーカブト・ライダーフォームがそこに立っていた。
「本気で来い。そろそろ遊びを終わらせてやろう」
◇
「ルカナン」
魔王は呪文を唱えた。
本気で来いという挑発に乗ったつもりは無いが、一先ずとして相手の防御力を下げることを試みた。
先ほどの攻撃の時は自身の攻撃が鎧の中身まで届かなかった。
相手は何故だか装甲を外し元から防御力を落とした状態のようだったが、駄目押しと言わんばかりにこの行動をとった。
『ヒュッ』
「……何?」
魔王が呪文を唱えた直後、宿儺はいつの間にか取り出していた短刀を目の前の空間に向かって一閃した。
その瞬間、魔王は何故だか自分が今唱えた呪文が失敗したという感覚があった。
少ない魔力をただ無駄に使っただけに終わったということだ。
-
「一応言っておくが、もはや俺にお前の術は効かん。そう思っておけ」
宿儺が今使用したのは天逆鉾、その効果は呪術による術式の強制解除だ。
本来なら呪力による術式を解除するものではあるが、ここにおいては魔力を使う呪文の効果も打ち消せていた。
もう織子がいないため感染のような現象は起きていない。
だが呪文というものが元々、魔力という呪力と同じく現代人類の常識の埒外な力をエネルギーとして使う術であるため、呪術の術式と似通ったものとも考えられる。
そもそもの話として、"呪"文と呼ばれている。
天逆鉾の呪力も、呪文と術式を同じようなものとして捉えて捕らえることができたのだろう。
現実に科学的な理論のあるタキオン粒子やそれを利用したライダーシステムよりもよっぽど近く、反応しやすいものと考えられる。
むしろ、天逆鉾の使い方としては今回のようなものの方が正確かもしれない。
閑話休題。
偶然か必然か、はったりなのか真実なのか、どちらにしても呪文の効果がない可能性が出てきたからには魔王はもうここでこれ以上魔力を使うわけにはいかない。
「面倒だ。俺を殺したいんだろう?さっさとお前にできる最大の攻撃をするんだな」
宿儺は、今度はそんなことを言ってきた。
「ほらどうした?やってみせろ。魅せてみろ」
宿儺は腕と赤い胸部を広げて、ここに当ててみせろと言わんばかりな挑発をする。
「……良いだろう」
少し考える素振りを見せた後、魔王は腰のデッキからカードを一枚取り出した。
もっとも、魔王にとっては今やろうとしていることは、自分の最大の攻撃であると決まったわけではない。
これは今から初めてやることだ。
けれども、いわゆる『必殺技』と呼ばれる程度には強力な攻撃らしい。
そこまで挑発してくるのならば試しにここで使ってみるかという気になってきた。
早く終わらせたいのはこちらも同じだ。
これで決着がつくのならばそれにこしたことはない。
何らかの罠があるのかもしれないが、その時はその時で強引に押し通すしかない。
「ふん、そうこなくてはな」
魔王がカードを取り出す様子を見た宿儺も新たな行動を取る。
宿儺もまた、腰のカブトゼクターの方に再び手を伸ばした。
『FINAL VENT』
『1・2・3 RIDER KICK』
魔王はカードをブラックドラグバイザーに差し込む。
宿儺はカブトゼクターに付いた3つのボタンを押し、その後にまた角を動かして向きを一旦変え、また戻した。
それぞれの、仮面ライダーとしての必殺技の準備が完了した。
ドラグブラッカーが口の中に黒い炎を灯しながら、魔王の背後に回る。
宿儺の右足には、大量のタキオン粒子が収束する。
「ハアッ!」
魔王のリュウガはゆっくりと宙に浮き、そこで跳び蹴りの姿勢になり、同時にドラグブラッカーが勢いよく黒い炎を噴射した。
魔王はその炎に飲み込まれ、それに押されながら、超スピードで弾丸のように迫っていった。
「フンッ!」
同時に、宿儺はその場で勢いよく回し蹴りを放つ。
2つのライダーキックは、衝突した。
「グッ…!」
「ヌウウ…!」
黒い炎と青い稲妻がぶつかり合う。
2人を中心として衝撃波が発生する。
ほんの短い間の出来事なのに、まるで何時間も経ったかのように錯覚していた。
けれどもやがて、この2つのキックによる鍔迫り合いも終わりを迎える。
◇
『ドンッ!』
「ムッ!」
競り勝ったのは、魔王の方だった。
宿儺は魔王のキックに押され、後方へと吹っ飛んでいった。
そもそもの話として、本来のカブトのライダーキックの威力が19tなのに対し、リュウガのファイナルベント…ドラゴンライダーキックはAPが7000AP=350tとされており桁違いである。
それに加え、織子とピサロの体格差のこともある。
ここで押し勝つのが魔王の方であるのは当然の結果だったかもしれない。
-
なお、これによる宿儺の変身の解除は起きていない。
まだカブトの姿のままだ。
それに、地面の方に転がり込んだというわけでもない。
宿儺は膝を曲げて少し屈んだ状態で、アスファルトの地面の上を後ろ向きに滑りながら着地する形になった。
お互いが使用した必殺技の威力は文字通り桁違いだったが、宿儺は(出力が低くても)自らの呪力による身体強化をしていたようだった。
それだけでなくむしろ、宿儺はこれで敵わないと見るや否や、自分から後ろに跳んで衝撃をある程度緩和していたようだっ。
それらのことにより何とか大ダメージを防げていたようだった。
対する魔王は、その場で静かに着地する。
そのまま顔を上げ、真っ直ぐ宿儺の方を見据える。
今回、相手も似たような攻撃を放ってきたため、結果的にはほとんど相殺されてしまった。
けれどもこの戦いで押しているのは自分の方だと、魔王は認識し始めてきた。
『ファイナル』ベントと銘打っておきながら、決まり手にすることはできなかったが、このままでも十分勝てる可能性があると感じてきていた。
魔王は再び破壊の剣を握りしめ、歩きながら宿儺の方へと近付いていった。
「くっ……クククッ。ヒヒッ。ケヒヒヒッ」
そんな折りに、宿儺は突如嗤い始めた。
「…?…何がおかしい?」
宿儺の様子に魔王は異様なものを感じる。
今追い詰めているのは自分であるはずなのに、まるで状況が逆だとでも言わんばかりな薄気味の悪い嗤い方であった。
「やってくれたな。『そいつ』は、強いな。だが、それももう終わりだ」
『CLOCK UP』
魔王が相手を奇妙だと感じたその瞬間、宿儺は腰のベルトの横部分にあったスイッチを押した。
その次の瞬間、電子音声が鳴り響いたと思ったら、『何か』が超高速で魔王の隣を素通りしていった。
その『何か』は、雨粒が落下するよりも先にぶつかって弾き飛ばすほど速い動きをしていた。
『何か』は、先ほどまで魔王の目の前にいた存在だ。
何か…宿儺は、魔王の視界から一瞬で消え去っていた。
そしてそいつがどこに行ったのか、相手が消えたことを認識した瞬間に予測がついた。
魔王は後ろを振り向いた。
その時の彼の顔には、驚愕の表情が写し出されているのがよく見えた。
魔王の顔を隠していたはずのリュウガの仮面は、そこから消失していた。
仮面ライダーへの変身が、解除されていた。
◆
振り向いた先には、カブトの姿をした宿儺がいた。
その手の中には、これ見よがしに黒い何かの欠片が握られていた
もう片方の手には先ほども使用していた呪具、天逆鉾があった。
宿儺は魔王の足下を指差した。
そこには、割れてバラバラになった黒い何かがあった。
それは、リュウガのデッキだったものだ。
魔王はこの一瞬で、装着していたリュウガのデッキを宿儺に破壊されていた。
「貴様…!」
現状を把握した魔王は、当然このような怒りを顕にした反応を見せる。
破壊の剣を握りしめ、振りかぶりながら魔王は宿儺の方へと向かおうとした。
『ポイ』
「!?」
次の瞬間、宿儺は手に持っていた天逆鉾を横方向に遠くへ投げた。
こちらから物を奪っておきながら、自分の武器を急に捨てるというのは理解できない行動だった。
魔王は更なる揺さぶりをかけられ、動きを鈍らされた。
その間に、宿儺はカブトの姿のまま胸の前で手で「掌印」を結んでいた。
――領域展開 伏魔御廚子
宿儺の背後に、 禍々しい外観をした社のようなものが現れる。
同時に、魔王の体中が切り裂かれ、鮮血が噴き出した。
-
◆
クロックアップを発動した瞬間、宿儺の目には雨粒が止まっているように見えた。
けれどもそれは、実際に止まっているわけではない。
まるで止まっているかのように見えるほど落下スピードがとても遅くなっていた。
そんな『自分だけが速くなる』時間の世界に、宿儺は入門していた。
それが、クロックアップの力であった。
けれども、ここにおいてはその力を使えるのはほんの数秒だけだ。
その数秒の間に、宿儺は直ぐ様自分の目的を果たした。
宿儺はクロックアップの発動中に、相手のベルトに嵌まっていたリュウガのデッキを天逆鉾で破壊した。
なおこれにおいて、天逆鉾の効果は全く関係ない。
ただ物理的に叩いて砕く形になった。
ついでにこの時、デッキの破片を運良くキャッチすることもできた。
相手の変身した姿はクロックアップを除けば基本性能が今使っているカブトよりも高そうだったが、奪う選択は取らなかった。
と言うのも、ここにおけるクロックアップの効果時間が短いため、奪える程の余裕が無いと判断した。
だから一先ずは取り敢えず相手の戦力・装甲を剥ぎ取ることを優先し、破壊した。
そして次の段階として、宿儺は領域展開を使用した。
その前に天逆鉾を投げ捨てたのは、もしこれを領域内に内在させた場合、術式の強制解除の効果が起こる可能性を考えたためだ。
もしかしたらそれにより、領域が勝手に閉じられる可能性も考えられた。
まあ、本当にそんなことが起こるかどうかは実際に試してみないと分からない。
けれども可能性が思い浮かんだ以上、一旦手離すべきだと判断した。
宿儺の領域展開は、普段使うよりもかなり狭い範囲・低い威力で行われた。
単純に呪力の出力が落ちているから必然的にそのようになった。
しかし、この場においてはその方が都合が良かった。
呪術における領域展開は、領域内に引きずり込んだ者に領域使用者の術式を必中させる効果がある。
そして宿儺の領域展開「伏魔御廚子」は、範囲内にいるモノに「解」と「捌」の二種類の斬撃を必中させ、浴びせ続ける。
「解」は呪力の無いモノに通じる通常の斬撃、「捌」は呪力を持つモノの呪力差・強度に応じて一太刀で対象を卸す斬撃だ。
ただし、先述した通りこの場においてはそれらの斬撃は正常には働かなかった。
どちらの斬撃も相手の体を切り裂きはするが、何時もよりも浅かった。
傷は骨までにはてんで届いていなかった。
けれども、肉は表面近くまでは切り裂いていた。
致命傷にはならずとも、大ダメージと言えるくらいには傷付けることができていた。
◇
宿儺は伏魔御廚子を数秒ほど展開し、解除した。
その数秒で魔王は全身を斬られた。
顔、腕、胴、脚、身体中の至るところに斬り傷ができ、そこから血が流れていた。
腕や脚については、一部の筋肉が深く断裂させられていた。
それが意味するのは、それは体中に力が入らなくなるということだ。
魔王はまともに立つことが難しくなり、宿儺の目の前で膝を着かされた。
けれども破壊の剣を杖代わりに何とか体を支え、倒れ込むことは防いだ。
しかし結局のところ、このダメージにより体をまともに機能させることが難しくなっていた。
宿儺としては、これだけのダメージを与えることは問題ではなかった。
乗っ取った後で、反転術式で治せば良いものと考えていた。
もしそういった手段が使えなさそうな身体であれば、ここは諦めて止めを刺そうと考えていた。
◆
「フン」
「ガハッ…!」
宿儺は魔王に向けて上段回し蹴りを放つ。
その蹴りは魔王の頸もとの辺りに当たる。
今度は魔王の方が後方に吹っ飛ばされ、濡れたアスファルトの上に転がり込まされる。
「ケヒヒッ。どうだ?こんな小童にボロ雑巾にされてどんな気分だ?」
相手が体を満足に動かせないと見ると、宿儺はカブトゼクターをベルトから外して変身を解除した。
これはあえて変身を解除することで、子供の織子の姿で相手を煽れるようにするためだ。
より、相手に屈辱を与えやすくするために。
-
「それにしても情けないなぁ貴様は。そんないかにも強者然とした肉体で、こんないかにも弱者な小童の目の前で地に這いつくばらされて」
宿儺は魔王を更に煽り続ける。
ここで重要なのは、相手によら無力感を味合わせることだ。
「こうなった理由はただ一つ、貴様が弱かったからだ。身の程をわきまえるべきだったな、痴れ者が」
「貴様はもはや俎板の上の魚……いや、それ以下だな」
「無様だなぁ。お前がどんなくだらない願いを持っているかは知らんが、もうそれも成し遂げられないというわけだ」
宿儺は嘲笑を交えながら、あえて相手がより怒りの感情を抱くようなことを喋る。
その上で捩じ伏せることに、意味がある。
「……ベホマ」
宿儺の言葉を浴びながらも、魔王はうつむきながら呪文を唱えた。
それは、回復のための呪文だ。
そのために必要な魔力の残量は、ギリギリもギリギリだった。
これで、魔王の魔力は完全に空になった。
現状では呪文はもう使えない。
しかし、こうでもしなければ身体を動かすことはできない。
何より、知りもしないのに自分が覚悟して殺し合いに乗ることを決めた切実な願いを否定されて、何も憤りを感じないわけがなかった。
姉を侮辱されたも同然のように、感じていた。
魔王の傷は確かに塞がった。
しかし、失った血や蓄積した疲労はそのままだ。
魔王は困憊した体を震わせながらも、踏ん張りながら何とか立ち上がる。
そして再び、破壊の剣を握りしめて宿儺と対峙する。
「ほう、そんな術まで使えるか」
魔王がベホマで傷を癒したことに宿儺は感心を示す。
反転術式以外でも傷を治せるなら、肉体の有用さはますます上がる。
自分でやる手間がはぶけたとも言える。
ここで身体を乗っ取る方向に気持ちは更に傾く。
「ほら、来るなら来い。どうせ無駄だろうがな」
宿儺は突如、ベルトからカブトゼクターを外し変身を解除した。
宿儺は織子の姿のまま、生身を晒して挑発した。
これでも、問題は無いと判断していた。
そうするだけの策が、宿儺にはあった。
宿儺は新たなアイテムを一つ準備していた。
それの名は「撮ったものが消えるカメラ」、名前の通り被写体をこの世から消去する効果のあるカメラだ。
このカメラに本当にそんな力があるかどうかについては、宿儺はあると判断していた。
呪力に近い"何か"をこのカメラが帯びていることを感じていた。
これはかつて、メタモンから奪ったものだ。
なお、これは最大3回しか使えないらしくしかも残り使用可能回数は分からない。
メタモンがこれまでこれを使用したかどうか不明だからだ。
だがメタモンがこれを捨ててないことから、少なくとも1回は使えると宿儺はみていた。
宿儺はこれを使い、魔王の持つ剣を消そうと考えていた。
それも、自分に向かって攻撃しようとしてきたその瞬間に。
そうした直後に、腰に巻いたライダーベルトに再びカブトゼクターをセットして変身し、丸腰になった相手を攻めようと考えていた。
最後の武器を奪うことで、もう抵抗の手段は無いと感じさせて心を完全に挫かせようと目論んでいた。
使える武器ならば他にもある、宿儺が破壊の剣を消去するという判断をとるのに躊躇いはなかった。
相手はもう立ち上がるのもやっとな程フラフラだ。
おそらく傷は治せても流した血や疲労とダメージは無くせず、更にはこれまでの戦いによるそれらの蓄積もあるのだろうと宿儺は推測する。
事実、その通りだった。
ならば、おそらくは体力的な限界により次の攻撃が最後になるかもしれない。
それを完全に無効化してしまえば、精神的にもより消耗させることができるだろう。
それも当たる直前に起こせば、相手が抱く最後の希望を打ち砕けるかもしれない。
流石に罠の可能性には相手も気付くだろうが、この現状ではなりふり構わずにはいられないだろう。
一か八かの、最後のチャンスとして仕掛けてくるだろう。
それすらも完全に封じ、より徹底的に追撃を加えて無力感を感じさせてこそ、相手の心をより抓み取れる。
-
そして宿儺の思う通り、魔王は破壊の剣を両手で持ちながら上に構えて突っ込んできた。
魔王はその剣を、宿儺の頭上に向けて振り下ろそうとした。
(消えろ)
宿儺は魔王が剣を振り下ろし始めたその直後に、カメラを素早く自分の顔の前に持ってきた。
そしてそのまま、カメラのスイッチを押してシャッターを切ろうとした。
◆
『モキッッ』
◆
消えたのは、カメラの方だった。
-
◇◇◇
「えっ!?何してるんだぞナナく…おねえさん!」
「いや、だってこれ明らかに危ないものみたいですし…」
「おー…何やってんだおめえらー…」
C-1の宇宙船の中、柊ナナと野原しんのすけが燃堂力を寝かせて挟んだ状態で話していた。
ナナの両手には、折られた杖が握られていた。
それは、先ほどの戦いの中でギニューが振ったモノだった。
先ほどの戦いの中では本当に色んなことがあり、ナナの心労はかなりのものになった。
しかしそれでも、現状できることはやらなければならない。
手始めとして先ほどの戦いの相手が置いていく形になった支給品を拾った。
その近くにあった戦いの相手…と精神を入れ替えられたと思われる脹相が一瞬だけ入っていた怪物の骸については、放置する形になった。
こんな怪物然としたもの、触るだけでも怪我してしまいそうだし、何より巨大化しているせいで動かすことも出来なさそうだった。
その後、ナナは燃堂に肩を貸しながらしんのすけを連れて宇宙船の中に戻った。
まずは、燃堂の治療から始めようとした。
二人ともかなり消耗しているのは確かだが、優先すべきは肩を銃で撃ち抜かれている燃堂の方だ。
漫画だと肩を撃たれても軽傷みたいな描写が稀にあるが、現実は重傷だ。
そこにある骨は折れるし、出血多量にもなる。
治療が疎かであると、命の危機にも関わる。
ましてや、本来よりも体格の小さな少女になっているから尚更だろう。
ナナは本格的な医者という訳ではないが、ある程度ならばそういったことも考えれば分かる。
一先ずは、燃堂を適当な場所で寝かせて安静にさせる。
その後、病院から持ってきた道具でできる限りの応急処置はしておいた。
ただ、これだけで十分なものとは言えない。
銃創とはそれほどの重傷なのだ。
それに、もし完治させることができたとしたらそれが一番面倒が無くなると言える。
ただ、それが出来そうな宇宙船内の回復ポッドはもう使用済みだ。
そのために何か使えるものが無いかとナナは先ほど回収したギニューが持っていた支給品の中身を確認した。
だが、その中で明らかに問題のあるアイテムがあった。
先ほどの戦いにおいて、敵が振るった杖は元々地面の上から拾い上げていた。
それの説明書を、相手が置いていったデイパックの中からナナは見つけた。
そこに書いてあった内容が、問題だった。
この杖は何と、これを振った者が望む物を何でも一つ出せるという代物だった。
ただし、その代償として使用者は巨大な怪物に変貌してしまうらしい。
その上、杖に操られるように杖のことを守ろうとするようになるらしい。
前の戦いの時、敵が急に巨大化した原因はどう考えてもこの杖であった。
さらに言うと、この杖で出した物は必ずしも使用者が望む効果を持つとは限らないらしい。
何と言うか正直な気持ちメリットとデメリットが釣り合って無いように感じた。
これで燃堂やしんのすけを回復させるためのアイテムを出そうとは思わなかった。
杖を使ってアイテムを出し、怪物化する前にすぐにアイテムを使いその直後に杖を折るということを思いつかなかったわけではない。
しかし、使った後に怪物化するまでの正確な時間は分からない。
前回の戦いの際に相手が杖を使ってから巨大化するまでの時間を測ってはいないし、急にそんなことはできなかった。
さらに言えば、必ずしも望む効果のあるモノが出るわけではないらしいため、もしこれで新たなアイテムを出したとしてもそれを使う訳にもいかない。
何か変な効果を持つモノが出てきて余計に困らされることになる可能性もあるんじゃないかと思ってしまう。
そして、もしこの杖を放っておいた結果燃堂やしんのすけがうっかり使ってしまう可能性も考えてしまった。
この精神幼稚園児共(片方は実際は高校生)が危機感無しに触って、下手に杖の効果を出してしまうなんてことを考えると困るどころの話じゃない。
たとえ彼らの手の届かない場所に仕舞っておくとしても、この殺し合いでは何がきっかけとなって望まない人物の手に渡るか分からない。
-
この杖を残しておく理由はどう考えても無かった。
説明書を読み終わった、ナナは速攻で杖を折った。
こうすれば、杖を無力化できるらしかったからだ。
そして、杖を折った後に周囲で何か良くないことが起きている様子は無かった。
ただ、何の相談も無くいきなりへし折ったために、二人を少し驚かせてしまったようだった。
もう一つ言うと、宇宙船外に残されていた死体が、杖の効果が切れたことにより元の大きさに縮小していた。
ただ、そのことは今は船内にいるナナ達には認識できなかった。
「とりあえず…今は手当てを進めましょう」
杖を折った後、ナナは二人をたしなめながら治療行為を再開した。
折った杖は、本当にこれで効果が無くなったかどうかまだ分からないためナナは一先ずとして自分のデイパックに仕舞い他人の手が届かないようにした。
そして、他に何か治療手段が無いか拾ったデイパックの中を再び探り始めた。
こうして、ナナは元からやっていた二人の手当てと他の協力者達が来るまでの待機を続けることになった。
杖を折ったことについての意識は、もう小さくなっていた。
今の自分の行動が、どれほど大きな影響を与えたのかも知らずに。
【C-1 フリーザの宇宙船内/夕方】
【柊ナナ@無能なナナ】
[身体]:斉木楠雄@斉木楠雄のΨ難
[状態]:精神的疲労(中)、自分への不安
[装備]:フリーズロッド@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品×2、ライナー・ブラウンの銃@進撃の巨人、ランダム支給品0〜1(確認済み)、病院内で手に入れた道具多数、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、杖(破壊済み)@なんか小さくてかわいいやつ、竈門炭治郎の日輪刀(刀身が半ば程で折れている)@鬼滅の刃、バギブソン@仮面ライダークウガ、アタッシュショットガン@仮面ライダーゼロワン、松平の拳銃@銀魂、ランダム支給品0〜1(童磨の分・未確認)
[思考・状況]
基本方針:まずは脱出方法を探す。他の脱出方法が見つからなければ優勝狙い
1:フリーザの宇宙船で戦兎達を待ちつつ、しんのすけ達の手当てをする。燃堂の方が重傷のためそちらを優先。
2:脹相の死と体が入れ替わっただろうことを説明しなくてはならないか…
3:「かめ」とは何だ…?後に続く言葉はあるのか?何か重要なものなのか?
4:「かめ」は「仮面ライダー」なのか?ならば、主催陣営の誰かが変身するということなのか?
5:斉木楠雄の精神復活は想定内だったのか?だとしたら何のために?
6:変身による女体化を試すべきかどうか…
7:犬飼ミチルとは可能なら合流しておく。能力には期待出来そうだ
8:首輪の解除方法を探しておきたい。今の所は桐生戦兎に期待
9:能力者がいたならば殺害する。並行世界の人物であろうと関係ない
10:エボルトを警戒。万が一自分の世界に来られては一大事なので殺しておきたいが、面倒な事になったな
11:可能であれば主催者が持つ並行世界へ移動する手段もどうにかしたい
12:何故小野寺キョウヤの体が主催者側にある?斉木空助は何がしたい?
13:斉木楠雄は確実に殺害する。たとえ本当に悪意が無かったとしても、もし能力の暴発でもして自分の世界に来られたらと思うと安心できない。
14:13のためなら、それこそ、自分の命と引き換えにしてでも…
[備考]
※原作5話終了直後辺りからの参戦とします。
※斉木楠雄が殺し合いの主催にいる可能性を疑っています。
※超能力は基本的には使用できませんが、「斉木楠雄」との接触の影響、もしくは適応の影響で念動力が使用可能になりました。他にも使えるかもしれません。
※サイコメトリーが斉木楠雄の肉体に発動しましたが、今後は作動しません。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※貨物船の精神、又は肉体のどちらかが能力者だと考えています。
※小野寺キョウヤが主催に協力している可能性を疑っています。
※主催側に、自分の身体とは別の並行世界の斉木楠雄がいる可能性を伝えられました。今のところは半信半疑です。
※主催側にいる斉木楠雄がマインドコントロールを使った可能性を疑っています。自分がやったかどうかについては、否定されたため可能性としての優先順位は一応低くしています。
※並行世界の同一人物の概念を知りました
※主催陣営が参加者の思考までをも監視している可能性を考えています。
※「かめ」=仮面ライダーだと仮説した場合、主催陣営の誰かがビルド、斬月、エターナルのいずれかのライダーに変身するのではないかと考えています。
-
【燃堂力@斉木楠雄のΨ難】
[身体]:堀裕子@アイドルマスターシンデレラガールズ
[状態]:後頭部に腫れ、左肩に銃創、体力消耗中、応急処置の途中、鳥束の死に喪失感
[装備]:如意棒@ドラゴンボール
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:お?
1:お?
[備考]
※殺し合いについてよく分かっていないようです。ただ何となく異常な場であるとは理解したようです。
※柊ナナを斉木楠雄の弟だと思っているようです。
※自分の体を使っている人物は堀裕子だと思っているようです。
※桐生戦兎とビルドに変身した後の姿を、それぞれ別人だと思っているようです。
※斬月に変身した甜花も、同じく別人だと思っているようです。
※斉木空助を斉木楠雄の兄とは別人だと思っているようです。
※斉木楠雄が病院の近くにいると思っていましたがそのことを忘れています。
※ギニューと脹相の体が入れ替わった事に気付いていません。
【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[身体]:孫悟空@ドラゴンボール
[状態]:体力消耗(極大)、ダメージ(中)、決意、深い悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ぴょんぴょんワープくん@ToLOVEるダークネス(1時間使用不可)、ランダム支給品0〜1、シロの首輪
[思考・状況]
基本方針:悪者をやっつける。
1:脹相おねえさんはどうしちゃったの…?
2:おじさん(産屋敷)とちゃんとおはなししたい。
3:逃げずに戦う。
4:困っている人がいたらおたすけしたい。
5:ミチルちゃん達の無事を祈る。
6:オラの身体が悪者に使われなければいいが・・・・
7:煉獄のお兄さんのお友達に会えたらその死を伝える。
[備考]
※殺し合いについてある程度理解しました。
※身体に慣れていないため力は普通の一般人ぐらいしか出せません、慣れれば技が出せるかもです。(もし出せるとしたら威力は物を破壊できるくらい、そして消耗が激しいです)
※自分が孫悟空の身体に慣れてきていることにまだ気づいていません。コンクリートを破壊できる程度には慣れました。痛みの反動も徐々に緩和しているようです。
※名簿を確認しました。
※界王拳を使用しましたが消耗がかなり激しいようです。気のコントロールにより慣れれば改善されるかもしれません
※悟空の記憶を見た影響で、かめはめ波を使用しました。
※ギニューと脹相の体が入れ替わった事に気付いていません。
※「杖@なんか小さくてかわいいやつ」が破壊されました。これにより、巨大化していたデンジ(身体)の死体は元の大きさに戻りました。また、この杖によって出された物品は全て消滅しました。
-
◆◆
「…?」
その時、自分の身に何が起こったのか、宿儺は正確に認識することができなかった。
剣を撮ったものが消えるカメラの力で消去しようとしたその瞬間、シャッターを切る前にカメラの方が半透明になりながら消滅した。
それにより、勢いよく振り下ろされた剣はまずカメラを持っていた右手の上半分を斬り落とした。
その後、宿儺の織子としての肉体の頭部に刃が突き刺さった。
ついでに言うと、実はこの時、剣を振り下ろした魔王はピサロの特技である「まじん斬り」を発動していた。
それにより、織子の肉体相手には過剰だったが、威力と速度が増していた。
頭部から入っていったその刃は、そのまま顔、首、胸、腰、股下までを一直線に切り開いて行った。
その過程に存在していた首輪や、腰のライダーベルトも一緒に切断してしまっていた。
関織子の文字通り小さな小学生の肉体は、正中線上に左右に真っ二つに切り分けられてしまっていた。
『ボン』
「ぐっ…」
切られて破壊されたことにより、首輪が爆発した。
その爆発により、切り分けられた後の左右の首部分が更に破壊・分離される。
魔王にもその爆発によって生じた破片が一部当たり、体も少し爆風に押された。
爆発で首が焼き切れたことにより、右頭部、左頭部、首から下右半身、首から下左半身の4つ(と右手の上半分)に別れた肉体がアスファルトの地面の上に落ちる。
切断面からは、大量の血液が流れ出て、臓物がこぼれ出ていた。
落ちた後、それらが動くことはなかった。
『首輪が爆発したら死亡する』、そのルールはどんな参加者であっても例外ではない。
それがたとえ、最強の呪いの王だとしても。
宿儺がカメラを使おうとしたその瞬間、遠く離れた場所にいる柊ナナが杖を折った。
その杖こそが、宿儺の持つカメラを出現させたものだった。
杖が折られれば、杖が出した物品は全て消滅する。
撮ったものが消えるカメラも、例外ではなかった。
それがたとえ、それぞれが最初に支給された相手が違っていたとしても。
それにより、破壊の剣を撮る直前にカメラが消えた。
こんなことは、偶然を超えた奇跡としか言いようがないかもしれない。
宿儺にもこの事態は全く予測が出来なかった。
そのため、自らに振り下ろされる剣を止めることが出来なかった。
反転術式で斬られたところから治すこともできなかった。
呪術において重要な箇所である脳から斬られたこともそうだし、何より首輪も斬られたためでもあった。
もはや、彼の殺し合いからの退場は確定したものとなっていた。
両面宿儺の意識は、もうこの殺し合いの舞台に存在していなかった。
だがこうなったのは、奇跡だけではないということも考えられる。
そもそも、宿儺が使おうとしたカメラは元々メタモンが持っていた。
宿儺はC-5の村でメタモンからカメラを含めた道具を奪い、アナザーカブトウォッチを使ってメタモンを暴走させた。
そのメタモンは、C-5の村の南の草原でアルフォンスと争い、その結果そこに絵美理を呼び寄せた。
絵美理がそこでの戦いに絡んだ結果、彼女は西側に飛ばされた。
そんな絵美理こそが、撮ったものが消えるカメラを出した杖を持っていた。
そこから様々な出来事が起き、杖の持ち主は絵美理からギニューに、そして最終的にそれを折る判断のとれる柊ナナの手に渡った。
全ては繋がっている。
つまりは、宿儺がメタモンに呪いをかけたからこそ、このタイミングでカメラが消えたとも考えられるかもしれない。
-
◆◆
「…?」
その時、自分の身に何が起こったのか、宿儺は正確に認識することができなかった。
剣を撮ったものが消えるカメラの力で消去しようとしたその瞬間、シャッターを切る前にカメラの方が半透明になりながら消滅した。
それにより、勢いよく振り下ろされた剣はまずカメラを持っていた右手の上半分を斬り落とした。
その後、宿儺の織子としての肉体の頭部に刃が突き刺さった。
ついでに言うと、実はこの時、剣を振り下ろした魔王はピサロの特技である「まじん斬り」を発動していた。
それにより、織子の肉体相手には過剰だったが、威力と速度が増していた。
頭部から入っていったその刃は、そのまま顔、首、胸、腰、股下までを一直線に切り開いて行った。
その過程に存在していた首輪や、腰のライダーベルトも一緒に切断してしまっていた。
関織子の文字通り小さな小学生の肉体は、正中線上に左右に真っ二つに切り分けられてしまっていた。
『ボン』
「ぐっ…」
切られて破壊されたことにより、首輪が爆発した。
その爆発により、切り分けられた後の左右の首部分が更に破壊・分離される。
魔王にもその爆発によって生じた破片が一部当たり、体も少し爆風に押された。
爆発で首が焼き切れたことにより、右頭部、左頭部、首から下右半身、首から下左半身の4つ(と右手の上半分)に別れた肉体がアスファルトの地面の上に落ちる。
切断面からは、大量の血液が流れ出て、臓物がこぼれ出ていた。
落ちた後、それらが動くことはなかった。
『首輪が爆発したら死亡する』、そのルールはどんな参加者であっても例外ではない。
それがたとえ、最強の呪いの王だとしても。
宿儺がカメラを使おうとしたその瞬間、遠く離れた場所にいる柊ナナが杖を折った。
その杖こそが、宿儺の持つカメラを出現させたものだった。
杖が折られれば、杖が出した物品は全て消滅する。
撮ったものが消えるカメラも、例外ではなかった。
それがたとえ、それぞれが最初に支給された相手が違っていたとしても。
それにより、破壊の剣を撮る直前にカメラが消えた。
こんなことは、偶然を超えた奇跡としか言いようがないかもしれない。
宿儺にもこの事態は全く予測が出来なかった。
そのため、自らに振り下ろされる剣を止めることが出来なかった。
反転術式で斬られたところから治すこともできなかった。
呪術において重要な箇所である脳から斬られたこともそうだし、何より首輪も斬られたためでもあった。
もはや、彼の殺し合いからの退場は確定したものとなっていた。
両面宿儺の意識は、もうこの殺し合いの舞台に存在していなかった。
だがこうなったのは、奇跡だけではないということも考えられる。
そもそも、宿儺が使おうとしたカメラは元々メタモンが持っていた。
宿儺はC-5の村でメタモンからカメラを含めた道具を奪い、アナザーカブトウォッチを使ってメタモンを暴走させた。
そのメタモンは、C-5の村の南の草原でアルフォンスと争い、その結果そこに絵美理を呼び寄せた。
絵美理がそこでの戦いに絡んだ結果、彼女は西側に飛ばされた。
そんな絵美理こそが、撮ったものが消えるカメラを出した杖を持っていた。
そこから様々な出来事が起き、杖の持ち主は絵美理からギニューに、そして最終的にそれを折る判断のとれる柊ナナの手に渡った。
全ては繋がっている。
つまりは、宿儺がメタモンに呪いをかけたからこそ、このタイミングでカメラが消えたとも考えられるかもしれない。
-
呪いは廻る。
そしていつか、自分の元に還って来る。
それはたとえ、両面宿儺でも例外ではなかった。
それにより彼は、自分の計画を一瞬で無駄にされた。
渋谷事変終了時点での指15本分の宿儺は、ここで祓われた。
残された織子の肉体の指も、呪物に変わっていることもなかった。
捨てるつもりだった若おかみの肉体のまま、自分に何が起きたのかも分からないままにあっけなく滅びる。
それも、彼がこの舞台に来る前によくやっていた、肉体を一瞬の内に切断されるという形で。
それが、ここにおける邪知暴虐の呪いの王の末路だった。
【両面宿儺@呪術廻戦(身体:関織子@若おかみは小学生!(映画版)) 死亡】
◆
宿儺を真っ二つにした後、魔王は黙ってそこに落ちた残骸を眺めていた。
彼自身としても、現状を不可解と感じていた。
まさかこんなあっさりと、相手を殺してしまう結果になるとは思っていなかったからだ。
相手は確実に何かを企んでいた。
そうでなければ、あえて変身解除して生身を晒した理由が見つからない。
自分が剣を振り下ろした瞬間、相手が間に素早く何かを手に持って割り込ませていたことには気づいていた。
本来は、その"何か"でこちらの攻撃をどうにかすることは出来たのだろう。
だが、相手も予測していなかった何らかのアクシデントにより、それの力を発揮できずに自分の攻撃をまともに受けてしまったのだろう。
自分でも中々納得し難いことであるが、現状はそう考える他なかった。
まあ、もし相手が生身を曝け出さなかったとしても、魔王は同じような攻撃を試みただろう。
まじん斬りは、「会心の一撃」と同等の威力の攻撃を放つ。
その会心の一撃は、相手の守備力を無視した一撃をぶつけることができる。
つまり、もし相手がカブトに変身したままだったとしても、その装甲を切り裂くことができたかもしれない。
それは、破壊の剣の破壊力とピサロの肉体の力のことを考えると夢物語ではないかもしれない。
そして相手の企みが失敗したことを考えると、相手が変身していたかどうかはこの結果に関わることではなかったのだろう。
もし何か違いがあるとすれば、腰のベルトに装着していた赤いカブト虫型の物体も斬っていたかどうかについてだろう。
『パキ』
「む、これは…」
魔王が困惑しながらも考えをまとめようとしていた最中、首にかけていたアクセサリー…テュケーのチャームが壊れ、外れた。
実は、先ほどの宿儺の領域展開に巻き込まれた際に、これは既に傷ついていた。
それが今、完全に壊れてしまっていた。
まるで今、これがもたらしていた"幸運"が丁度切れたかのように。
それこそ、先ほどの出来事はこれが最後の力を振り絞って、役割を果たしたことによるものであったかのように。
-
「さて、どうするか…」
結果的に今回は生き延びた魔王であったが、現状はあまり望んだ結果とは言えない。
勢い余って、相手を殺すだけでなく首輪も一緒に破壊してしまった。
相手が巻いていた変身ベルトも一緒に破壊しているため、これも使うことはできない。
自身を強化していたアイテムだった、テュケーのチャームとリュウガのデッキは破壊されてしまった。
残存していた魔力も全て使い切ってしまった。
これではルーラも使えない。
体力も再び大きく消耗してしまった。
傷は塞いだが血も多く流してしまった。
はっきり言ってしまって、今の魔王は戦える状態にない。
もしこれまで遭遇したことのある者達と戦っても、生き延びることは難しいかもしれない。
すぐにできることと言えば、今の相手が持っていた支給品を回収することだけだろう。
魔王は現状に大いに悩まされながら、雨に打たれながらその場に立ち尽くしていた。
【E-6 街/夕方】
【魔王@クロノ・トリガー】
[身体]:ピサロ@ドラゴンクエストIV
[状態]:疲労(特大)、魔力残量無し、ダメージ(大)、貧血気味
[装備]:破壊の剣@ドラゴンクエストシリーズ、
[道具]:基本支給品×2、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、電動ボート@ジョジョの奇妙な冒険、物干し竿@Fate/stay night、吉良の首輪、アドバーグの首輪
[思考・状況]基本方針:優勝し、姉を取り戻す
1:一先ず相手の支給品を回収する。さっきは何が起きた?
2:次はどうするか…。
3:ルーラでF-8の方に移動しようと考えていたが、現状では不可能だ
4:強面の男(承太郎)は次に会えば殺す。
5:剣を渡した相手(ホイミン)と半裸の巨漢(志々雄)も、遭遇したら殺す。
6:ギニューという者は精神を入れ替える術を持っている可能性が高いため警戒する。
7:悲鳴嶼行冥や他に似たような気質(殺しても止まらない)を持ちそうな者達と戦う際は、例え致命傷を与えても油断するべきではないだろう。
8:モノモノマシーンを使う為に、可能な限り首輪も手に入れる。
9:魔王城があるかもしれない。(現状の探す優先度は低い)
[備考]
※参戦時期は魔王城での、クロノたちとの戦いの直後。
※ピサロの体は、進化の秘法を使う前の姿(派生作品でいう「魔剣士ピサロ」)。です
※回復呪文は通常よりも消費される魔力が多くなっています。
※ギニューと鳥束の精神が入れ替わった可能性を考えています。
※「撮ったものが消えるカメラ@なんか小さくてかわいいやつ」は消滅しました。
※「ライダーベルト@仮面ライダーカブト」、「テュケーのチャーム@ペルソナ5」、「リュウガのデッキ@仮面ライダー龍騎」、「魔法の箒@東方project」は破壊されました。
※両面宿儺の首輪は破壊され、爆発してしまいました。
※周囲に、「基本支給品×3、リンク@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド(身体)の死体、ケロボール@ケロロ軍曹(瞬間移動は5時間使用不可)、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、魔神の斧@ドラゴンクエストシリーズ、エレン・イェーガーのプロフィール、桃白白の首輪」が入ったデイパックと、「特級呪具『天逆鉾』@呪術廻戦」が落ちています。
-
◆
最後にもう少し、ここにあったモノ達のことについて説明しておきたい。
まずはリュウガのデッキに付属していた契約ミラーモンスター、ドラグブラッカーについてだ。
このモンスターは、デッキが破壊された時点で契約が切れて野良になっていた。
しかし、ここで魔王に対して襲いかかってくるなんてことはなかった。
何故なら既に、この場からいなくなっているからだ。
契約が切れた時点で、ドラグブラッカーは既にE-6から去ろうとしていた。
そのようにしたのは、自分が先ほどまで付き従っていた魔王の方が殺されそうだと感じたからだ。
そして、魔王が殺された後に宿儺に挑んだとしても、返り討ちにされそうだと感じたからだ。
宿儺から漏れ出る威圧感に当てられ、そのような感じになっていた。
もし二人の間に乱入したとしても、その結果は変わらないだろうと判断していた。
だから、宿儺が殺された時点ではドラグブラッカーはもう近くにはいなかった。
野良のミラーモンスターに戻った彼?は、鏡の世界に戻り自由に飛び回っていた。
そして本能のままに、自分が喰らうべき獲物を探し始めていた。
◇
そして、カブトゼクターについても似たようなことが言えた。
適合していた相手である宿儺はいなくなった。
その上、ライダーベルトも破壊された。
それに、カブトゼクターとしては魔王を自身の適合者として選んではいなかった。
ならば、この場に留まる理由はない。
カブトゼクターにはジョウントと呼ばれる空間を寸断するワープ移動機能が搭載されている。
それを使い、魔王が呆けていた隙にこの場所から離脱していた。
彼?の使命は、自身の適合者を探すこと。
それを求めて、何処かの空を飛び回っていた。
果たして彼の目にかなう者はいるのか、
そもそも彼を扱うために必要なライダーベルトは他にこの世界にまだ他にあるのか、
それらについては、まだしばらくは不明だろう。
【ドラグブラッカー@仮面ライダー龍騎、カブトゼクター@仮面ライダーカブトについての備考】
※ドラグブラッカーはE-6かもしくはその近辺のエリアのミラーワールド内を移動しています。具体的な位置や、どこに向かっているか等については後続の書き手にお任せします。
※カブトゼクターもまた本ロワ会場内のどこかを飛び回っています。こちらについても具体的な位置や、どこに向かっているか等については後続の書き手にお任せします。
-
投下終了です。
タイトルは「北へ」とします。
-
雨宮蓮、エボルト、空条承太郎、檀黎斗、遠坂凛、キャメロット城、バリー・ザ・チョッパー、環いろは、ジューダス、ホイミン、アルフォンス・エルリック、広瀬康一、ン・ダグバ・ゼバを予約し先に延長もしておきます
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投下します
-
◆
――僕らはいつでも叫んでる
◆
雨粒が屋根を叩き、アスファルトで弾ける音が絶えず響く。
あれだけの緊張感と死の臭いを放っていた市街地は、一時の平穏を取り戻した。
異界の魔王も、悪意の化身も、怒れる悪鬼もここにはいない。
問答無用で他者を害する輩は姿を消しており、残ったのは言葉で意思を交わせる人々。
武器を突き付け合う必要が一旦は無くなったがしかし、気を抜くには些か早計。
先程の連中は武力行使以外に対処法の無く、今は言葉で戦闘回避が可能な者。
絶対の安全を保障された訳ではない。
言葉一つ、対応一つ間違えれば即座に殺し合いへ発展。
そんな事態も有り得ないとは言い切れず、凛が気を引き締め直すのは至極当然の事であった。
「で、まず最初にはっきりさせておきたいんだけど」
片手で数えられる年の幼子とは思えぬ、ある種の貫禄すら宿った声。
齢十七の身でありながら、一介の女子高生ではまず持ち得ない胆力。
幼き頃より魔術の世界へ身を置いた彼女は、そう簡単に弱みを見せない。
集まる視線も何のその、臆する事無く己が言葉をぶつける。
「キャメロットは無事なんでしょうね?」
問い掛けるはこの地で最初に出会った少女。
最優のサーヴァントの肉体を得た、意思を宿し人の形を取った城。
仮初とはいえ主従関係を結んだ彼女は今、出会った頃と同じ顔でありながら別の精神(なかみ)へと入れ替わっている。
こちらを値踏みする瞳へ騎士道精神は欠片も見当たらない。
僅かでも怯み、付け入る隙をむざむざ与えてやるものか。
太眉を吊り上げ真っ向から視線を返す。
-
「へぇ…」
吊り上げた口の端と、感心を含んだ短い呟き。
舐めてかかられるのを良しとしない程度の意地はあると見た。
微塵も迫力を感じない眼光に薄ら笑いを浮かべる。
「消えちゃあいない。ただちょいと眠ってるだけだ」
「そう……」
予想していた最悪の事態にはなっていない。
相手が嘘を言っている可能性もあるが、あれもこれもと疑いを重ねては埒が明かないだろう。
一先ずキャメロットの意識は健在として話を続ける。
「それで…あんたはキャメロットじゃない、のよね?」
「何回この流れやらせんだよ。俺はグリードだ。鋼のチビの弟に会ったんなら、俺の事も聞いてるんじゃねえのか?」
三度目の訂正と自己紹介には、流石に少々辟易した態度。
呆れ顔で後頭部を掻く仕草、美少女と呼ぶに相応しいセイバーの体ではミスマッチだ。
どちらかと言うと、凛の知るランサーに近い。
品行方正を絵に描いたイメージの強いキャメロットが、短時間で不良少女さながらの正確に激変する方が現実的ではない。
アルフォンスから危険性を説明され、バリーから事の詳細を教えられ、そして本人から名乗られた。
ならば事実として受け入れる他無い。
目の前にいるのはホムンクルス。
解き放たれた強欲は城娘の意識に代わって、表舞台へと姿を現した。
(頭痛いわ…)
そうなってもおかしくはないとアルフォンスから言われたのを加味しても、実際に起きてしまえば愚痴の一つでも零したくなるのが人間の性。
あーだのうーだの呻きそうになるのをぐっと堪える。
起きてしまったのは仕方ない。
仕方ないで済ませて良い物では無いが、引き摺った所で解決するならそりゃ盛大にうだうだ言ってやる。
そんなみっともない真似をする気は当然無し。
-
(落ち着きなさいっての私。話が通じる奴ならまだやり様はあるでしょうに)
グリードに関してはアルフォンスからメモを貰っていたのが幸いした。
危険人物なのは間違いないが、誰彼構わずいきなり殺しにいくとは断言できない。
ダブリスで出会った時のグリードなら、部下想いの面も有り交渉の余地は有り。
お父様と呼ばれる創造主の配下となった時でも、殺し合いという状況故に話しくらいは可能な筈。
共通しているのは、名前の通りの強欲さ。
多数の参加者を巻き込み、願いを叶える餌をぶら下げた殺し合い。
グリードが反応しない筈がない。
だがついさっきの戦闘では凛達へ牙を剥く様子は無く、むしろ銀髪の剣士相手に協力したのは記憶に新しい。
バリーからもすぐに自分達を襲う気はないらしいと聞いた。
つまりこちらの対応次第で敵にもなるし、信頼し合える仲間とまではいかなくとも協力関係は結べる。
錬金術師の基本理念、等価交換。
グリードが凛達と敵対しなくて良い理由を差し出さねば、交渉のテーブルを蹴り飛ばされて終わりだ。
「少し良いか?」
5歳児とは思えない苦労人の顔を作る凛へ、頭上から割って入った男の声。
グリードとのやり取りに口を挟まずにいたが、何時までも見物しているつもりは無い。
強面の少年、承太郎が横槍は承知で会話を切り出す。
「そっちに事情があるのは分かるが、俺の方ものんびりはしてられねぇ。長引くようなら俺は仲間を探しに行くぜ」
ミチルが殺され、残る四人の生存も未だ確認出来ていない。
凛とグリードの間に宜しくない問題があるのは察せられると言っても、それに長々と付き合ってはいられない。
承太郎とてグリードを完全に信用したつもりはないが、彼の目から見ても即座にこちらを襲うとは考えにくい。
魔王相手に共闘したからこそ分かる、グリードが自分達を見る目は排除対象へ向けるのとは違う。
己にとって利を齎すか否か、吟味の真っ最中。
その点については凛も理解しており、だからこそ如何に言葉を交わすか頭を働かせているのだろう。
もし街に来たのが承太郎だけなら交渉の場に同席し、相手が妙な真似に出た時は拳で返答する役目を請け負ったかもしれない。
-
どうしたものかとまたもや凛は悩む。
仲間というのは恐らく、白黒の鎧の参加者と戦っていた者達だ。
ゲンガーを含んだ彼らがどうなったのかは凛にも分からない。
魔王との戦闘に意識を割き、気が付いたら向こうの姿は一人も見当たらなくなったのだから。
満身創痍以外の言葉が見当たらない有様の彼に、グリードとの話が終わるまで待ってと言っても聞き入れないのは間違いない。
ジャガイモ頭をこねくり回していると、肩を突かれ振り返る。
「乾燥トマトみてぇな顔してるとこ悪いけどよ、んな悩む必要も無いんじゃねぇか?ほれ」
クイ、と顎で示した方には雨に濡れた道路。
ずっと奥に見える人の輪郭が、徐々にこちらへ近付いて来るではないか。
ビニール傘を揺らし水溜まりを跳ね駆け寄る二人に、承太郎は見覚えがある。
「無事だったか承太郎…!」
仲間の無事に安堵する帽子の青年。
傷は決して少なくない、だが生存を確認出来たのは素直に嬉しい。
ホッとする蓮を尻目に軽薄な笑みの女が横に並ぶ。
街へ移動した内の二人は向こうから来た。
残る一人と放送前から街に残ったもう一人の姿は無い。
「お互い生きてて何より、と言いたいが…ゲンガーと黎斗はまだ迷子みたいだな」
集まった全員の顔を見渡しつつ肩を竦める。
相も変らぬ胡散臭い仕草のエボルトに、ヒューッと口笛を吹くのはグリード。
アメストリス人では無いが見た目は文句なしの美女。
横では「斬り応えのありそうなねーちゃんだな」と、殺人鬼らしい価値観でバリーが感心する。
軟派と何やら危う気な男二人に、凛が白い目を向けた。
「承太郎、ゲンガー達はまだ来てないのか?」
「ああ。俺はてっきりお前らと一緒だと思ったが…」
「幽体離脱だったか、あの力を使うのにどこへ隠れたんだろうなァ」
レンタロウの能力を使用中は本体が無防備と化す。
既に殺し合いで何度も幽体となったゲンガーもそこには十分注意しており、簡単には見つからない場所で能力を使った筈だ。
離れた場所にいる為、合流に時間が掛かっているだけかもしれない。
楽観的に考えたいがこういう時に限って嫌な予感は当たるもの。
やはりこちらから探しに行った方が良いのでは、思いがそちらへ傾く。
-
「いや、ゲンガー君ならもう見付けた」
探索を止めたのは行方不明中の片方の声。
白い衣服を濡らし暗い顔で合流を果たした仲間に、蓮は喜び以上に不安を抱く。
黎斗もまた無傷とはいかなくとも五体満足。
風都タワーで出会った善良な大人の彼が口にした、ゲンガーを見付けたとの報告。
普通なら嬉しい筈の言葉が、今は毒のように蓮の心へ痛みを与える。
「檀さん…?ゲンガーはどこに……」
ゲンガーが見付かったのなら、どうして一緒にいないのか。
周辺に金髪の少年は影も形も見当たらない。
もしかして傷を負い、能力を使った場所から身動きが取れないのかもしれない。
だったら急いでゲンガーの元へ向かわなくては。
(今なら、助けられる力がある…!)
仲間との絆が齎したペルソナ。
回復スキルを備える新たな力で今度こそ助けてみせる。
煉獄、シロ、新八、ミチル。
死にゆく彼らを黙って見送るしか出来なかった後悔は、もう真っ平なのだから。
「檀さん!ゲンガーの居場所を教えてくれたら、すぐに治しに――」
「雨宮君」
言葉が出ない。
自分の名前を呼ばれ、こうも息苦しく感じたのは初めてだ。
黎斗が何を言うつもりなのか、分かりたくないのに分かってしまう。
そうだ、本当はもう分かっている。
あんな暗い顔をして出て来られたら、誰だって察しは付く。
受け入れ難い事実だろうと、受け入れて戦わねばならない。
理解しているのに、心は言わないでくれと耳を塞ぐ。
どんなに拒否したって、意味は無かった。
「ここに来る途中で倒壊した家屋があった。彼は……そこで下敷きになっていたよ…」
雨の勢いが強まった気がした。
いっそ自分も流されて、消えてしまえばいいのに。
そうやって自暴自棄になれば多分、楽になれるのだろうけど。
「…………」
逃げる選択だけは、許されない。
分かっているからこそ、余計に息が止まりそうだった。
-
◆◆◆
精巧に作られたレプリカと分かっても、簡単には割り切れない。
ルブランの二階で蓮は思う。
壁に開けられた穴からは容赦なく雨が侵入し、床を変色させる。
家主が知ったら雷が落ちるでは済まないだろう。
本当に追い出されてもおかしくはない。
あくまで殺し合いの為に作られた場所であっても、自分が住まわせてもらっている屋根裏部屋だ。
激怒する惣治郎をつい幻視するのも仕方がない。
本来のルブランと違うのは壁の大穴以外にもう一つ。
ソファーに横たわる少年の死体。
殺された仲間、助けられなかった少女。
犬飼ミチルの魂は跡形も無く消え、残されたのは東方仗助の抜け殻。
土砂降りの中で野晒しにはしておけず、自分はどんな顔で運んだだろうか。
本当ならゲンガーだってそのままにはしたくなかった。
だが黎斗の話では瓦礫に押し潰された死体は引っ張り出すのも困難らしく、諦めるしかないとのこと。
せめてミチルだけでもと運び今に至る。
「ミチル…」
返事は返って来ない、来る筈がないのに。
彼女へ伝えたい言葉はもう言った、ベルベットルームでの決意に嘘偽りはない。
ミチルとの絆は失われていない、ミチルが逃がしたしんのすけだって今もどこかで戦っている。
それなら蓮が止まる訳にはいかない。
もういない仲間へ力強い頷きを向け、背を向ける。
静寂だけが残った屋根裏から降り、下で蓮を出迎えたのは複数人の視線。
やはりおかしな気分だ。
本来だったらマスターや常連客がいて、休日には怪盗団の皆が集まる憩いの場。
そこで今から殺し合いで出会った者達との話が始まるとは。
-
「すまない、待たせた」
「良いわよ別に。こっちも考えを纏める時間が欲しかったし」
あっけらかんと答えたのはルブラン内で最も幼い体の少年。
蓮が気に掛ける仲間、しんのすけの肉体で腕を組む様は背伸びした子供にしか見えない。
口に出さない感想に気付いた様子も無く、パンと両手を鳴らす。
全員集まったなら、次にやるのは各々情報の開示だ。
バリーとグリード以外の知らない参加者が4人。
自分が気を失い、二回目の放送が過ぎてから一体何が起きたのか。
ゲンガーの仲間らしい彼らは何を知っているのか。
情報交換とグリードとの対話、天秤に掛け傾きく方はどちらか考えた凛だったが長く悩む必要は無かった。
当のグリード本人が蓮達にこう告げたのだ、「知ってる事を教えろ」と。
よりにもよってゲンガーの死に空気が重苦しくなったタイミングでその発言には、バリーですらぎょっとした程。
とはいえグリードからしたらゲンガーの死は多少の反応こそあっても、悲しむだとかは無い。
仮に部下として迎えていたらまた違った反応だったろうが、そうならなかったのが現実だ。
主催者の持つ全てを手に入れる、グリードの方針に揺らぎはない。
同時にどんな方法であれ一筋縄でいかない事もまた、十分理解している。
先の戦闘が良い例だ。
二人掛かりでも仕留め切れないばかりか、最強の盾を弱体化させられる始末。
誰彼構わず喧嘩を売り、力押しで望む全てを奪える程甘い戦場に非ず。
なればこそ情報は貴重な武器となる。
現在生き残っている奴の戦力、何人で徒党を組んでいる。
知れば知った分今後の動きに選択肢が増え、逆に知らないままでいれば己の首を絞めるだけ。
だから今は情報の入手を優先した。
幸い、蓮からの反発らしい反発もなく情報交換には承諾。
ゲンガーの死を雑に扱うとも取れる言葉へ、思う所が無い訳ではない。
だが死者の存在を引き摺り続けるより、生きている自分達がやらねばならない事の方が多々あるのも事実。
感情的な反論を口にする前に、どうするのが正しいか答えを導き出す。
それが出来たのは怪盗団のリーダーを務めているからか。
-
「じゃ、始めましょうか」
蓮がカウンター席に腰を下ろしたのを見計らう。
凛の一声を合図に改めて自己紹介から始まり、次いでこれまでの経緯を互いに話す。
ゲンガーから既に聞いた部分は省略してもらい、主に風都タワーと街に戻って来てからの戦闘。
村でアルフォンス達と出会って以降は収穫の無かった自分達と違い、ほとんど戦闘続きだったらしい。
「成程なぁ…」
腕を組み面白気に笑みを零すグリード。
スタンド、ペルソナ、仮面ライダー、サーヴァント。
どれもこれも自分の知識には存在しないものばかり。
錬金術とは明らかに違う力、もしかするとお父様ですら知り得ない存在。
それらを一か所に集め、支配者気取りでこちらを見下ろすボンドルドとかいう奴と協力者達。
益々以て主催者の持つ全てを手に入れたくなった。
「あいつが白黒の中身だったのね…」
ディケイド、銀髪の剣士、白い弓兵。
いずれもここまで生き凝るだけの力を持った厄介な連中だ。
特に白い弓兵はゲンガーが話してくれた通り、別の強力な姿に変身が可能。
凛も遠目に見た白黒の鎧、あれこそがハルトマンなる参加者を殺害した仮面ライダー。
恐らくゲンガーを死に追いやったのも白い弓兵で間違いない。
建造物を倒壊させられる威力の攻撃、先の戦闘でそれが可能なのはあの弓兵くらいのもの。
肉体は可愛らしい少女であっても、中身は邪悪そのものとしか言いようがなかった。
「……」
ゲンガーを殺した相手は分かったが、凛の表情に大きな変化は見られない。
ストレートに悲しみを顔に出す蓮と同じにはならない。
けれど、短い時間とはいえ言葉を交わし行動を共にして。
自分の傷を治す為に支給品を使ってくれた者の死に、何一つ感じない少女では無かった。
馬鹿正直に内面を口にする気は全く無いが。
-
「遠坂、そのアルフォンスって奴が風都タワーに向かったのは間違いないのか?」
「…えっ?ええそうよ。村で別れてからそこに行った筈、なんだけど…」
「だが俺らはそいつとすれ違ってもいない。時間を考えりゃ放送前には到着してもおかしくない筈だぜ?」
頭の痛い問題がまた一つ増え、つい渋面を作る。
蓮達は風都タワーでディケイドと戦い、定時放送が流れるまで留まった。
その間、アルフォンスが現れはせず道中で姿を見かけてもいない。
一体どこに行ったのか、その答えはバリーとグリードが持っている。
何でもアルフォンスは放送があった村の近くで怪物化し暴れ回ったのだという。
尤もこの証言はメタモンから聞いた為、信憑性には欠ける部分もあるだろう。
メタモンは自分はいきなり襲われた被害者と振舞っていたが、実際にはメタモンの方から仕掛け戦闘に発展、その最中アマゾンなる怪物へ変わり暴走した。
こう考えた方がしっくりくる。
どっちにしてもアルフォンスが危惧した通りの事態になったのに変わりはない。
今どこで何をしているのか、アマゾンの暴走は治まったのか継続中なのか。
制御不能の野獣と化したならば討つしかなく、覚悟しているとはいえ出来ればそうはなって欲しくないものだ。
心配なのはアルフォンスだけでなく、しんのすけもである。
地下水路に潜った筈が何と行方不明になったのだから。
放送の時点で生きているのだとしても、まだ無事だとは限らない。
下水道で何が起きたのかを具体的に話せるミチルはおらず、手掛かりも無い以上無事を祈る以外にやれる事は無かった。
有益な情報は手に入ったものの、問題が更に増えたのは気のせいではあるまい。
朗報として、危険人物であるメタモンと産屋敷(無惨)は既に討ち取られた。
後者は生きていたら苛立ちの一つはぶつけたかったが、死んだならまぁそれはそれで問題無い。
「ああそういや、一応これも見といた方が良いだろ」
思い出したようにエボルトがデイッパクに手を突っ込む。
アーマージャック殺害のボーナスで支給された組み合わせ名簿だ。
蓮と承太郎はともかく、他のメンバーはまだ確認していない。
風都タワーを出発する時はゴタついてたのもあり、見る機会の無かった黎斗には願ったり叶ったり。
四人で額を突き合わせ視線を落とす。
-
(CRの者達もパラドもいないか…)
「弟はいるのに兄貴の方は体にも無しと。イマイチ分からねぇ人選だな」
「ナミ…?あー、確かこの体の仲間だったか?」
「岡田以蔵って…あの岡田以蔵?まさかこいつも英霊ってんじゃないでしょうね…」
知っている名前はない、或いはあっても方針に影響を及ぼす程ではない。
取り敢えず懸念事項はそれぞれ解消された。
話が一段落すると、傷の処置をした方が良いのではと誰かが言い出す。
断りを入れて回収したデイパックを開き、中身を確認。
見付かったのは回復効果があると説明書に記載された、四本の缶ジュース。
元はポケモン用で人間が飲んでも効き目があるかは不明。
毒ではない為飲んでみても損は無いとプルタブを開ける。
「……甘いな」
飲み干したのは風都タワーから街へ来た4人。
ホムンクルスの再生能力があるグリード、この場で唯一無傷のバリーには無用の支給品。
体に痛みはあっても死ぬレベルではないからと、凛も飲むのを先に断った。
5歳児の体の自分より、正面切って危険人物と戦える蓮達の回復を優先すべきだろう。
正論だがしんのすけの体が傷付いたままなのを蓮は無視できない。
手に入れたばかりのペルソナを使い、凛の傷を治す。
さておきミックスジュースの実際の効果はどうなのかと言えば、一気飲みした甲斐はあった。
体の痛みがある程度引き、傷も大部分は消失。
完全に回復とまではいかないがこれだけでも十分だ。
次に取り出したのはミックスジュース同様、元々は耀哉の支給品。
二つ放送前の時点における参加者の位置を示した地図。
但し肉体側の写真のみが表示されている上に、情報も古く現在地を割り出すには役に余り使えそうもない。
せめて名前が分かれば、組み合わせ名簿と照らし合わせられるのだが。
-
(成程ねぇ、戦兎はそっちに居たと…)
西側の街へ続く道路上にある複数の画像。
そこに一人、エボルトのよく知る顔を見付けた。
自分が創ったヒーローと瓜二つなのも当然だ、元はこの佐藤太郎の顔なのだから。
10時間以上経過したというのに、一向に戦兎と会えないのも納得がいく。
自分がいる東側とは反対の場所をうろついていれば、会える訳がない。
「でだ。ここいらで提案しときたい事がある」
地図を仕舞った直後、共犯者の言葉に蓮は視線で続きを促す。
言動の端々に信用し切れないものを秘めているが、こういった場面では意外と真面目に話を進めるのがエボルトだ。
真剣に耳を傾ける姿勢を作り、向こうもまどろっこしいのは抜きに本題へと移る。
エボルトが話すのは首輪をどうするかについて。
回収し終えたのはともかく、未だ死体に填めたままのを放置するのは正直行って愚行。
煉獄を始めとして、いい加減首を落とし手に入れる旨を伝えるべく口を開く。
異変が起きたのは正にその瞬間だった。
「…?こいつは……」
首輪云々の話を引っ込め、代わりに出たのは訝し気な言葉。
急なエボルトの反応を疑問に思う者はいない。
ルブラン内にいる全員が同じく眉を顰め、警戒を露わにし始める。
「地震…じゃないわよね…」
「足音、なのか?」
雨音に混じり何かが聞こえて来る。
最初は虫の吐息のように小さく、次第に大きさを増しハッキリと異変を知らせるように。
聞き間違いではない、これは明らかに豪雨とは別の音。
正体不明の音は、まるで不安を煽るのが目的と言わんばかりの不気味さ。
-
「おいこれ…マズいんじゃねえか?」
うんざりしたバリーの言葉に全員が同意した。
音は確実にルブランへ近付いている。
このまま店内で身を縮こまらせたとしても、ロクな結末にならないのは確か。
いっそ先に外へ出て正体を見極め、早急に対処へ移った方が良い。
危険は承知だが殺し合いに巻き込まれた時点で、傷付かずに切り抜けられるとは誰も思っていない。
「ったく休憩もさせてくれないのかねぇ…」
エボルトのボヤきを聞き流し急ぎ外に飛び出す。
たちまち衣服が濡れるのも気にしてはいられない。
一体全体、何が街へ現れたのかと身構える一同。
「っ!?見つけました!あそこ!雨宮さん達です!」
「遠坂さん達も…!あれ?産屋敷さんはどこに…」
「話し込むのは後にしろ!追い付いて来たぞ!!」
「わ、も、もう来るよ…!」
すると聞こえて来たのは奇妙な音とは違う、複数人の会話。
そのどれもが聞き覚えのある声だ。
空を飛び、地を駆けやって来たのは別行動中の仲間達。
双剣使いの天使、白い魔法少女、青い装甲の錬金術師。
そして、逃げたホイミスライム。
「ホイミン!?皆も…」
姿を眩ませたホイミンと一緒にいる、それだけなら喜ばしい。
問題は何故彼らはああも焦っているのか、何故未だに奇妙な音は鳴り止まないのか。
疑問をぶつける必要は無い、『答え』が自ら姿を現した。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!』
-
◆
『ホイミン君についてですか?』
時は風都タワーを出発した時にまで遡る。
それなりに慣れて来た天使の翼と、まだ不慣れな飛行魔法。
ホイミン捜索を買って出たジューダスといろはが揃って空を移動中、二人以外の男の声が風に消えて流された。
ジューダスにとって家族以上に付き合いの長いソーディアン、シャルティエは使い手からの質問につい聞き返す。
「そうだ。僕もいろはも、ホイミンという奴についてはほとんど知らない。だがお前はそこそこの間一緒にいたんだろう?」
移動の面で捜索役には打って付けの二人だが、いざホイミンを発見しても説得が上手くいくとは限らない。
放送前から行動を共にした承太郎や、新八を殺されて尚もホイミンを信じようとした蓮ならまだしも。
ジューダスといろはがホイミンの事で知っているのは極僅か。
承太郎達の仲間だった筈が、何故か新八を殺した。
風都タワーに到着した時には既に攻撃を受け倒れており、会話をする余裕も皆無。
新八の回復を自ら買って出たかと思いきや、彼を殺し錯乱状態で逃亡。
ホイミンの人物像がイマイチ掴み切れない。
これでは何と言葉を向けるべきか、思い付くのに苦労する。
『僕の知ってる限りだと本当に良い子ですよ?』
シャルティエが見て来たホイミンは悪意など微塵も持ち合わせない優しい子供。
承太郎が傷を負っているのに放って置けず、積極的に治そうとする。
街でディケイドと遭遇すれば、勇気を振り絞って戦いに参戦。
風都タワーでの時だって失敗に終わったが、仲間の為に大事な役目を果たそうとした。
実は殺し合いに乗っていて、これまでのは全て承太郎達を欺く演技だとは考えにくい。
『だから分からないんですよ。どうしてホイミン君が新八君を…』
もし本当にこれまでの優しさが偽りなら大した役者だ。
しかし新八殺害後のホイミンは傍から見ても動揺し、自分のやった事だというのに受け入れられない様子。
新八を手に掛け後悔していると言うのなら、そもそもどうして殺したのかが謎。
まさか生かすよりも殺して楽にしてやりたいなど、異常者染みた考えの持ち主でもあるまいに。
-
「もしかして…体の方に原因があるんでしょうか?」
ホイミン自身には問題無い。
ただ与えられた体、エボルト曰く人間では無い女の方に何かしらの原因がある。
ギニューとの二度目の戦闘時、いろはは夢で高町なのはの記憶を見た。
自分と全く関りの無い人の記憶が頭に流れ込むなんて、普通だったら有り得ない。
しかし他者の肉体に精神を閉じ込められるという特異な状況故に、そういった異常が現れるのだとしたら。
ホイミンもまた、いろはとは違う形で肉体の影響を受けた可能性は否定できない。
「それが事実なら、体の女は相当ろくでもない奴という事になる」
『人は見かけによらないですからねぇ。人じゃないですけど』
外見だけなら抜群のプロポーションを持つ美女でも、性根は腐り切った悪女。
精神がホイミンだから心優しい女性に感じる辺り、中身次第で大きく違って来る。
それを言ったらジューダスの精神が入った少女とて、今はクールに見えるが本来は全く違う性格なもかもしれない。
「じゃあやっぱり、ホイミンさんは新八さんを殺すつもりなんて全然無かったのに…」
『体のせいでこうなってしまった。だったら悪いのは、そもそもの原因を作ったボンドルドじゃないですか!』
「あいつ本人がそう受け止められるかは分からんがな…」
体を入れ替えた主催者が悪い。
自分の精神に悪影響を与えた身体の持ち主が悪い。
だから新八の件で罪の意識を感じる必要は無い。
どれだけ周りが口をそろえて言ったとて、本人が簡単に割り切れるかは別問題だ。
気に病まないでいられる性根なら、ショックを受けて逃げはしないのだから。
そうこうしている内にE-5、目的地付近へ到着。
事前にシャルティエが晶術を使い、出現させた目印にもたれ掛かる人影。
間違いない、ジューダスが予想した通りホイミンはこの場所に来ていた。
だが発見を素直に喜べはしない。
虚ろな目でピクリとも動こうとしない様子から、恐らく罪の意識で自暴自棄になったのだと見て取れる。
直に禁止エリアと化す場所に留まり、死ぬことにしたのだろう。
-
「……」
目の前に降り立った少女達を視界に入れて尚、ホイミンの瞳に輝きは戻らない。
むしろ自分を殺す為にわざわざ追いかけて来たのかと思う程だ。
当然かと自嘲の笑みが浮かぶ。
あれだけ皆で必死になって正気に戻した新八を、傷を治すと嘯きながら殺した。
自分へ向けられた彼らの目が忘れられない。
きっと目を覚ました承太郎も怒り狂い、叶うならば自分の手で新八の仇を取りたかった筈。
(もういいや……)
その承太郎は来ていないようだけど、代わりに来た彼らがホイミンに制裁を下すのは間違いない。
ひょっとすると、手を下す価値も無い奴と見放したから承太郎は来なかったのだろうか。
どっちにしても殺してくれるなら誰だって良い。
人を襲って傷付ける悪い魔物は、早々に消えた方が皆の為だ。
『ホイミン君!無事で良かった…さぁ、承太郎君達の元へ帰ろう』
だというのに、信じられない事を言われた。
饒舌な剣は一体何を口にした?
何故自分の無事を素直に喜ぶ?殺す前に死なれたら困るからか?
それに帰る?
「無理だよシャルティエさん…だってボクは新八君を…こ、殺しちゃって…承太郎さんだってボクを怨んで…」
『怨むなんてとんでもない!むしろ君を心配して、ボロボロだっていうのに一人で探しに行こうとしたくらいだよ』
「えっ…?」
ホイミンから見た承太郎は熱い正義感を秘めつつ、普段は面に出さない冷静沈着な少年。
だから仲間である新八を殺した自分を絶対に許さないと思っていた。
しかしシャルティエの言葉を信じるなら、承太郎は冷静さをかなぐり捨ててまで自分を探そうとしたのだという。
憎悪に突き動かされてでは無い、純粋に仲間を想って。
-
「承太郎さんが……でも……」
俄かには信じ難い、だがシャルティエはお調子者の面はあれど嘘を並べ立てる剣にあらず。
本当に承太郎が自分をまだ仲間として見てくれた。
自分に喜ぶ資格など無い、そう言い聞かせようとしても心が揺らぐのが分かる。
『それに蓮君だって同じさ。君は仲間を放送で呼ばれて大人しく腐るような奴じゃない。そうホイミン君を信じてたよ』
蓮と新八は相棒同士の肉体を持ち、ディケイド相手に戦い抜いたのはこの目で見た。
彼だってホイミンを憎んで当然なのに、そんな風に言ったとは。
放送で死者の名前を聞き、本当にこれで良いのかと自らへ問い掛けたのは否定できない。
エルドルやハルトマンが命を落としたなら、しんのすけ達も危機に陥っている可能性が高い。
放って置くのは正しいと言えるのかと、己の善性に疑問を投げ付けられたのだから。
「ホイミンさん。わたしも知らない人の体になって、自分が自分じゃ無くなるような気がして……凄く恐かったんです」
大切な記憶が塗り替えられ、環いろはが消えてしまう。
抱いた恐怖は本物で、持ち直せた今でも思い出せばゾッとする。
もし自分の体となったなのはが悪人だったら、ホイミンのように仲間を手に掛けてしまった可能性だってあるのだ。
「ホイミンさんの気持ちを全部理解出来る、って言ったら傲慢ですけど…。でも、見捨てたくないって気持ちに嘘はありません。だから、一緒に皆の所へ戻りましょう」
ジューダスの言葉が、自分の中で大切な人達を思い出させてくれた。
恐怖を乗り切る勇気を与えて貰った。
同じ恐怖を抱くホイミンを、今度は自分が支えてあげたい。
「ボクは……」
-
――ホイミンくん
「ッ!」
シャルティエといろはの言葉を受け入れても良いんじゃないか。
自分にも戻れる場所があるなら、許されるなら戻っても良いのでは。
僅かに傾きかけ、そんなのは許さないとばかりに恨みを籠めた声が届く。
この世にいる筈がない、ただの幻聴に過ぎない。
だが思考に走るノイズは消える事無く、暗い声でホイミンを責め立てる。
(やっぱりだめだ……ボクは死んだ方が……)
「おい」
黙りこくったホイミンにしびれを切らしたのか、ジューダスが一歩前に出る。
友好的なシャルティエといろはは反対に、ホイミンへ向ける眼光は鋭い。
真紅の瞳に射抜かれ、まるで刑の執行を待つ罪人の面持ちと化す。
「お前が何を考えていたか察しは付く。大方、この場所に留まり続け死を待っていたんだろう?」
否定はしない。
ジューダスの言葉に間違いは無い。
沈黙を肯定と捉え、変わらぬ鋭利な瞳をぶつける。
「お前がどうしても死を選ぶと言うのなら…好きにしろ。暑苦しい説得をする気はない」
「ジューダスさん!?」
『ちょ、坊ちゃん!過激発言は今に始まったことじゃありませんけど、時と場合によりますよ!?』
ホイミンの自死を肯定するとしか思えない突き放した内容。
傍らのいろはとシャルティエが困惑するも、ジューダスの表情に変化はない。
抗議の声も意に介さない様子に、ホイミンは項垂れる。
-
(やっぱり死んだ方が良いんだ……)
――そうだよ。僕を殺した癖に生きようとするなんて、そんなの卑怯じゃないか
承太郎達が特別なだけで、普通は仲間を殺した奴を受け入れようとはしない。
いつ他の者へ牙を剥くかも分からない魔物を、わざわざ説得する方が馬鹿げている。
ネガティブな感情を後押しするように走るノイズへ、もう一々反応する気力も薄れた。
心配してくれる皆には申し訳ないけど、やはり自分は助けてもらえる価値のある奴じゃあない。
こんなことならライアンと出会わず、古井戸の底で腐り果てれば良かった気さえする。
「だが、今すぐに死ぬのは待て。お前には承太郎達以上に会わなければならない奴がいる」
再び罪の意識に沈んだホイミンが引き戻された。
ジューダスが一体何を言っているのか、まるで理解が及ばない。
自分の知っている者は全員殺し合いには不参加。
承太郎達以外に会うべき相手など、急に言われてもさっぱりだ。
まさかピサロの体になった人物とは言わないだろう。
「新八の仲間の…神楽という女。お前はそいつに何も伝えず、勝手に納得して死ぬつもりか?」
「えっ!?」
これもまた予めシャルティエから聞いた話。
新八には銀時以外にもう一人、万屋の仲間が連れて来られている。
生前の新八が話したのはシャルティエも覚えており、ここに来るまでの道中に主へ伝えたのだ。
思わぬ名前が飛び出てホイミンも困惑を隠せない。
神楽の名前は自分も新八から聞いた。
話の中のみだけど、きっと新八にとっては銀時と同じくらい大切な存在。
そんな彼らの絆を自分が引き裂いたと知ったら、神楽だって憎悪を抱く筈だ。
「神楽がお前を恨むのか、或いは別の反応を返すのかは僕にも分からない。ただ新八を殺したお前がここで勝手に死んだら、怒りをぶつける機会も向こうは失う。卑怯だとは思わないのか?」
「それ、は……」
知らない内に新八が殺され、殺した者も勝手に命を絶った。
神楽の側に立てば到底納得できる訳が無い。
ホイミン自身がこれで良いと死を選んでも、神楽からしたら堪ったものじゃないだろう。
言葉に詰まるホイミンへ畳みかけるようにジューダスは続ける
-
「僕の言葉に少しでも思う事があるなら今すぐに死ぬのは待て。神楽と会い、仮に彼女がお前を許して尚も死にたいのならもう止めはしない。だが一人で勝手に納得するのは止めろ」
心が揺らぐ。
禁止エリアに留まり一人寂しく、人殺しにはお似合いの末路を迎える気だったのに。
自分を責める気持ちは変わらない、死んだ方が皆の為だと思ったままだ。
けど今すぐ死んで、新八の仲間を余計に苦しめるのなら。
神楽から断罪の選択すらも奪い去るくらいなら、己の死を先延ばしにした方が良いのではないか。
新八の命を奪った自分がやらねばならない事は、ここで死ぬ以外に残っているのでは?
「でも…もしまた……」
「舐めるな、僕も他の奴らもそう簡単に殺されてやるつもりはない」
自分がまた仲間を殺してしまうかもしれない。
残る懸念もバッサリ切り捨てられ、今度こそ何も言えなくなった。
頭の中で言われた全てがグルグルと渦巻く。
「…………わ、分かった。神楽ちゃんって子に会いに行くよ」
戸惑いがちな声色に覇気は感じられない。
だが禁止エリアに残って死ぬつもりでは無くなった。
今はそれだけでも上出来だ、もう少しだけ生きる意志が芽生えたのだから。
「話が纏まったならさっさとここを離れるぞ。余り時間が無い」
『あっ、でも僕は大丈夫ですよね?剣だし』
軽口を叩く相棒を小突き、翼を広げる。
それに倣いいろはも飛行魔法を発動、ホイミンに手を差し出した。
「行きましょう、ホイミンさん」
「う、うん…」
おっかなびっくり差し出した手を躊躇なく掴まれ、三人揃って浮上。
自分の手を握るいろはに緊張した様子は見られない。
その気になれば手を溶かせる魔物が相手だというのに。
ライアンと同じように優しい人間。
本当だったらいろはとの出会いも素直に喜べた筈、なのに今は彼女からの信頼が痛かった。
-
速度を上げ空を駆ける。
顔に当たる風は冷たさを増し、降りしきる雨がそれぞれの衣服を濡らす。
ひたすら真っ直ぐに進み続けてどれくらいが経ったか。
目印に建てた岩がはるか遠くへ置き去られ見えなくなり、次第にジューダスが速度を緩める。
翼を畳んで降り立ち、遅れていろは達も着地。
西には街、東には風都タワーが遠目に見える場所だ。
「もう大丈夫なんでしょうか?」
「ああ。今こうして僕たちが生きていられるのが証拠だ」
時計を確認すると、既に禁止エリアが機能する時刻。
もし脱出に失敗したなら、頭と胴体が泣き別れ三人共死亡。
ホイミンの説得も無意味に終わった、そんな呆気なさ過ぎる末路は回避成功と言って良い。
当初の目的は無事に済んだ。
後は街へ向かい蓮達との合流を目指す。
放送前に別れたという仲間とは無事に再会できたのか。
ディケイドや耳飾りの少年のような、殺し合いの賛同者と戦闘になっている可能性も十分ある。
向こうで何が起きたのかは実際にこの目で確かめる他ない。
『それじゃあ早速街に向かいまっ!?』
言葉を途切れさせたシャルティエを訝しく思う者はいない。
全員が異変を察知した、というより視界に飛び込んだ。
北の方角から何かが近付いて来る。
姿はハッキリ見えるのに、存在を理解するのにたっぷり数秒の時間を要した。
いろはも、ジューダスも、ホイミンも人ならざる存在は前々から知っている。
だが前触れも無く姿を見せたソレに、一切驚くなとは流石に無理な話。
「そこの人達!いきなりごめん!早くそこから逃げて!!!」
少年の声でようやくもう一人がいるのに気が付く。
青い鎧らしきものを纏い、全力疾走する何者か。
蓮達が変身した仮面ライダーなる戦士の一種、と呑気に考えてる状況では無い。
『ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』
咆哮が空気を引き裂く。
踏みしめる度に大地が悲鳴を上げる。
地上の蟻を潰すべく、巨人の脅威が間近に迫りつつあった。
-
◆
いつだって憎悪が彼を突き動かした。
忘れもしない、巨人の脅威を人類が思い出したあの日。
愛すべき家族を目の前で喰われた絶望。
彼をこの世に産み落とし、惜しみない愛情を注いでくれた母。
優しく抱きしめてくれた体が噛み千切られ、腹の底へと落とされる光景。
臓腑を焼き潰し、心臓が引き裂かれんばかりの憎悪。
それこそが始まり、エレン・イェーガーという少年の起源(オリジン)。
増悪は連鎖する。
家族の絆と同様に容易く断ち切れはしない。
グリシャ・イェーガーのマーレへの憎悪に始まり、息子であるエレンの巨人への憎悪。
やがて世界をも敵に回すエレンの怒りは今、誰にとっても望まぬ形で継承された。
広瀬康一という、壁の中とも外とも一切関わりの無い少年へ。
マーレの民も、巨人もここにはいない。
真に拳をを叩きつける対象が存在しないまま、ただ憎しみだけが残った。
誰を滅ぼせば良いのかも分からず力を振るう。
自由を求めた少年は、呪いに縛られこの地の誰よりも不自由と化し尚も止まらない。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』
拳を振り下ろす。
滅ぼすべき巨人を叩きのめした一撃が狙うのは、異形であれど同じ巨人に非ず。
アマゾンネオ、アマゾンでありながら同族を狩る狩人(ハンター)。
生まれながらに罪の烙印を押された少年の体で、若き錬金術師が疾走する。
「ッ!!」
両手を合わせ、飛び退きながら地面へと置く。
真理を見た人柱候補のみが可能とする、自身を錬成陣に置き換えた錬金術の行使。
地面が盛り上がる様は、まるで冬眠から目覚めた大蛇のよう。
土と草花で作られた複数本のロープが腕に巻き付き動きを封じる。
とはいえ巨人を相手取るには余りに頼りない、5秒と持たずに引き千切れられ拳が地面へ到達。
土煙が視界を覆い、衝撃波だけで吹き飛ばされそうだ。
-
「スラストファング!」
巨人を阻むのは錬金術のみではない。
真空の刃が伸ばしかけた腕を切り裂き、地面に血を零す。
等身大の相手ならば十分なダメージとなるも、巨人相手には効果が薄い。
「チェーンバインド!」
切り傷の付いた腕を絡めとる鎖。
こちらもまた人間大のサイズならばともかく、上腕二頭筋部分を縛るのが限界。
しかし一部分でも己を拘束する存在を疎ましく感じたのか、苛立たし気に腕を振るう。
意識がこちらから外れた今がチャンス。
巨人に背を向け走り出す。
「ごめん!余裕が無いから手短に言うね!僕はアルフォンスであっちは康一さん、どっちも殺し合いには乗ってない!」
『その割には滅茶苦茶追いかけられてるように見えたよ!?』
「康一さんは僕が見付けた時にはもうああなってたんだ!何とか元に戻したいんだけど…」
続きを濁らせたということは、アルフォンスにも康一を元に戻す方法が分からないらしい。
彼が知らないなら当然こっちも知らない。
モンスターや魔女の相手に慣れているが、康一が姿を変えた存在を見たのは今が初。
ラブボムの力で巨人が悪人でないとは分かる、しかし暴走状態の相手にそれが分かったとて意味はない。
情報らしい情報が無くては、対抗策も即座に思い付かなかった。
「康一……それってゲンガー君が話してた人?」
「知ってるのホイミンさん?」
「あ、うん。街にいた時ゲンガー君がそんな名前を出してたような…」
何でも承太郎とは未来で出会う筈のスタンド使いらしい。
彼は神楽と共に病院へ向かったと聞いたが、道中何かトラブルでもあったのか。
新八の仲間の安否が気にはなるも、差し迫った問題の解決が先。
もしかするとゲンガーなら康一について何か情報を持っているかもしれない。
100%の確信は持てない、だが可能性があるなら賭けるしかない。
「ならこのまま街に向かうぞ!」
元々目指す予定だった街へ行き、ゲンガーから情報を聞き出す。
仮にゲンガーが見付からなければ、蓮達と合流して巨人をどうにかするまでだ。
少なくともこのまま四人で相手取るよりは、戦力を増やした方がマシにはなる。
反対する者も現れず彼らは街へと向かう。
錬金術や晶術、魔法を使い巨人を足止めしギリギリのところで死を躱す。
一難去ってまた一難とは正にこのこと、愚痴を口に出す手間すら惜しかった。
-
◆◆◆
「おいおい今度は何だってんだよ……」
二階建ての民家を超える怪物の出現に、バリーは勘弁してくれとでも言いた気だ。
げんなりと肩を落とし疲れ切った姿のどこにも、殺し合いに乗り気だった頃の面影は見当たらない。
ミチルが産屋敷(無惨)を引き連れて来たように、今度もまた厄ネタを運んで来たのか。
ジト目で三人の少女を見るも向こうはこっちに目もくれない。
「つーか今の声、お前アルフォンスか?アマゾンだかアンパンだか言うのになったんじゃねぇのか?」
「その、色々あって……」
「あり過ぎよ幾ら何でも!」
自分達と別れてから何があったのかを問い詰めたいが、それをしてる場合でもない。
次から次へと目まぐるしく変わる状況へ、さしもの凛も頭を掻きむしりたくなる。
他の者も皆呆気に取られる中、時間が惜しいとばかりにジューダスが声を荒げた。
「ゲンガーはいるか!?康一について情報がいる!」
目下最大の脅威の情報を持つだろう者。
ゲンガーから康一が何故姿を変えたのか、元に戻る方法はあるかを聞ければこちらも対策を練れる。
巨人攻略の鍵を持つ彼の名を呼ぶも反応は無い。
この期に及んで名乗り出るのに躊躇しているでもあるまいに。
もしやと、嫌な予感が脳裏をよぎった。
「残念だがゲンガーならもういない。話を聞きたくても二度と無理だぜ」
望まぬ答えをエボルトから齎される。
言い方からしてゲンガーはもうこの世から旅立った後。
康一に関して遺書か何かに書いている、そのような都合の良過ぎる展開は無いだろう。
つまり巨人の正確な情報無しでどうにかするしかなくなった。
全く、悪い冗談だと思いたい。
-
『ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
だが切り替える以外に選択肢は残されていない。
増えた獲物を見下ろし巨人の憎悪は加速。
叩き潰さんと拳が振り下ろされた。
たかが素手の一発と侮れるものか。
このサイズ差では一発で致命傷ないし、即死したって不思議はない。
「スタープラチナ・ザ・ワールド!」
豪雨と巨人の咆哮が耳をつんざく空間が、一瞬にして静まり返る。
世界の打ち鳴らす鼓動を止め、吐息の一つも許さない。
完全なる静寂を生み出したのは最強のスタンド使い。
ホイミンを無事に連れて来てくれた礼、口振りからしてこの巨人が康一なのかという疑問。
それらをすっ飛ばしてでも、襲い来る死の塊への対処が最優先。
これ程の大質量を相手にするのは、DIOにロードローラーで圧し潰されそうになった時以来か。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!」
彫像にも似たポーズで静止した巨人の拳を殴りつける。
一発一発はさしものスタープラチナと言えど、有効打を与えるにはパワー不足。
ならば数に物を言わせて殴る。
一切の抵抗を許さない承太郎だけの世界でなら、巨人相手だろうと問題無し。
2秒経過し時は動き出す。
百と数十発分の殴打が一気に襲い、あらぬ方向へと跳ね上がる巨人の腕。
地面に赤い染みを作る筈の一撃は付近の建物に当たり、瓦礫が散らばるに終わった。
「エアプレッシャー!」
すかさず攻撃を繋げるのはジューダス。
晶術を唱え巨人の足元に重力の足場を発生。
ボロキレのように粉砕する威力もほんの少しの足止めにしかならない。
しかしこれで良い、動きを止めれば他の者も行動に移れる。
-
「「変身!」」
「蒸血」
『JOKER!』
――MIST MATCH――
――COBRA…C・COBRA…FIRE――
変身を終え武器を構える。
巨人から人間へ戻す情報は手に入れられずとも、こちらの戦力を一堂に集めるのはご覧の通りだ。
ジューダスに続き攻撃を仕掛けるべく各々動きを見せるが、巨人が黙って的になろう筈も無く。
重力波を脱した巨人は伸ばした脚で小賢しい虫を薙ぎ払う。
人間以上の体を持つなら、当然攻撃範囲も馬鹿に出来ない広さ。
空気が唸り、膝が建造物へめり込んでも止まらない。
「避けろ!!」
叫んだのが誰かを気にする者はおらず、ただ声を拾うより早く巨人から距離を取った。
倒壊した建造物が地面へ瓦礫の雨を降り注ぐ。
跳ね上がった腕が当たった時以上の被害だ。
元はどんな形で建っていたか判別不能な家々の残骸。
道路の真ん中に積み立てられ生み出された歪な壁が、抗う者達を分断する。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、何とかね……」
細かい破片を払い除け、立ち上がったベルデは無事と見て良い。
直ぐ近くでは承太郎がホイミンに肩を貸し、俯きながら立ち上がるのが見えた。
承太郎からの信頼を裏切る真似をして、合わせる顔が無いのだろう。
きちんと話し合って解決に、と行くには状況が許してくれない。
「雨宮達は向こう側か?」
「そのようだね。ただ今の私や環さんなら、これくらいの壁もどうにか越えられるだろう」
飛行魔法やベルデの脚力ならば壁を越えて仲間と合流可能だ。
巨人相手には一人でも戦力は多い方が良い。
足止めを甘んじて受け入れる必要は無い、急ぎ蓮達の元へ行かなくては。
承太郎とホイミンの手を取り、共に壁の向こうへ行かんとする。
-
『ARK ONE』
「変身」
『SINGURISE』
悪夢を告げる音が聞こえた。
凍り付く四人、彼らを捕らえて逃がしはしないプレッシャー。
心臓を、脳を、体中を。
命を見えない手に鷲掴みにされ、掌で転がされる嫌悪感。
おかしな話だ、まだ何一つ危害を加えられていないというのに。
巨人の拳とは違う形で、明確な死をイメージさせる怪物が現れる。
『破壊 破滅 絶望 滅亡せよ』
『CONCLUSION ONE』
赤い稲妻が豪雨を打ち消す。
おぞましき暗黒が形を作る。
穢れを知らぬ無垢な天使の如き、純白色の装甲。
されどコレを前にして、一体誰が天の遣いと思えようか。
人の尺度では到底理解の及ばない、絶対悪の象徴。
グロンギの王、ダグバ。
悪意の鎧を身に纏い、新たなる闘争へと参戦。
「何だかまた面白いことになってるね」
283プロダクションを出発し、どこへ向かうか考えていた時だ。
通りがかった街で巨大な人影を見付けたのは。
当初は西側のエリアに行ってみようかとも考えたが、目撃した存在によりその選択は無し。
街でまたもや大規模な殺し合いが起こっていると確信して、魔法のじゅうたんを降りた。
放送前に現れた土偶とは違う形であり、両者の関係は不明。
もし土偶と同じように消えてしまっていたら残念ではあるものの、街には他にも参加者がいる。
キャメロットは勿論、蓮とエボルトとの再戦も面白そうだ。
何にしても自分が笑顔になれればそれで構わない。
-
そうして期待に心を弾ませた先で見つけたのが、承太郎達四人。
初めて見る二人と、見覚えのある二人。
後者は自分が蓮達の相手をしている間、別の参加者と戦っていたのを覚えている。
よって直接戦うのはこれが初めてだ。
巨大な人影とどっちを優先するか悩み、ややあって目先の獲物との殺し合いを選択。
4対1というのもあり初手でアークワンに変身したが、期待外れで無い事を願う。
「あなたは…?」
「用心した方が良い環さん。彼女がゲンガー君を殺した仮面ライダーだ」
ベルデからの警告に息を呑む。
声から察するに、装甲の下は10代の少女。
だというのに怖気の走るプレッシャー、まるでアナザーディケイドと対峙した時のよう。
レイジングハートを握る手が汗ばみ、嫌でも緊張で顔が強張る。
弱気なままでは駄目だと自分に言い聞かせても、本当に勝てるのか不安がよぎった。
「やれやれだぜ…」
ポケットに手を突っ込んだ承太郎も、一筋の汗を垂らす。
今に始まった事では無いが此度の殺し合い、やはりDIOに匹敵する怪物ばかりである。
さっさと蓮達との合流に急ぎたいものの、睨み合う真っ最中の敵が許してはくれないだろう。
どうしてよりにもよってこういうタイミングで現れるのか。
文句を言っても始まらない、拳を叩き込み力づくで大人しくさせるしかあるまい。
「じゃあ、始めようか」
弾む少女の声が告げるは、血で血を洗うゲゲルの開始。
巨人とグロンギ、憎悪と悪意が背中合わせで猛威を振るう闘争が幕を開ける。
-
◆
巨大な敵との戦闘は今に始まったものではない。
大型のシャドウを相手にするのなんてザラだし、パレスの主はそれ以上のサイズ。
だが慣れている=平然とした態度を取れるかは別の話であって。
醜悪な欲を駄々洩れにし、オタカラの確保を阻んだ大人達とは違う。
この世の全てを滅ぼしたくてたまらないような、憎悪のままに暴れる巨人相手では蓮と言えども冷や汗が仮面の下を伝う。
「アルセーヌ!」
怯んで勝てる相手なら幾らでも弱音を吐いてやる。
しかしそのような弱腰を続ければ、待ち受けるは敗北以外に無く。
自分の命だけで無い、仲間までもがゴミのように散らされるだろう。
であれば恐れは仮面の裏に隠し、弱気な自分を押し退け奮い立つしかない。
呼び出すは反逆の証、理不尽へ抗う為の力。
シルクハットの頭部をもつペルソナのスキルを発動。
パレス内で待ち構えるシャドウを斬り伏せたスラッシュが炸裂。
弱々しい悲鳴を上げて、哀れ敵は霧のように儚く消滅。
と華々しいステージが許される相手でない事は百も承知。
その証拠に見よ、敵は悲鳴どころかほんのちょっぴりの反応すらしないではないか。
「何食ったらそんなデカくなるんだ?スロウスが可愛く見えるぜ!」
軽口を叩くのは余裕の表れか。
或いは敵の力量を理解出来ぬ素人が故か。
どちらも否だ、敵が柔でないと理解の上で普段の態度を決して崩さない。
強欲の罪を司る人造生命体が駆ける。
芸術の域に達する細く白い指が黒ずみ、最強の盾へと変化。
同じく最強を冠する矛にも引けは取らない自慢の武器を、巨人へ突き立てんとする。
「ハッ!どこ狙ってんだよ!」
振り下ろされる拳を前にしても笑みは崩れず。
具足を履いた両脚に力が籠り跳躍、手の甲へと飛び移る。
腕や足をチマチマ攻撃した所で大した効果は期待出来ない。
故に大きさ関係無く共通の脆いだろう箇所、顔面狙いで片を付けるまでだ。
丁度良い道ならある、振り落とされる前に腕を駆け上がり目的地まで一直線。
小生意気にも己の腕を土足で走り回る小娘を、誰が放置してやるものか。
上下に大きく腕を揺らし、堪らずグリードも立ってはいられない。
右手を腕に突き刺し落下を防ぐも、反対の手で直接摘まみに来た。
紙屑より簡単に潰されても再生可能とはいえ、余計に命を消費しないに限る。
-
――RIFLE MODE――
幸い逃げ出す為の時間なら稼げた。
地上からの援護射撃、三点バーストの高熱硬化弾が巨人の指を狙い撃つ。
グリードを捕らえようとした指から血が零れ、爪が割れる。
これが人間ならば泣き叫ぶか、訓練された兵士でも脂汗の一つは流すだろうに。
巨人の顔に変化は無し。
剥き出しの歯を打ち鳴らして、ドス黒い感情を宿す瞳で地上の虫けらを睨み付けた。
意識が逸れたチャンスを見逃さずグリードは脱出、地面へ華麗に難なく着地。
「よう、助かったぜねーちゃん。そのゴツいもんで顔が隠れてんのが勿体ねぇくらいに良い女だな」
『そりゃどうも。機会があったらこいつを直接口説いてやれ』
胸部装甲を指でコツコツと叩き、ブラッドスタークも軽口で返答。
装甲越しとはいえデリケートな部分へのタッチに、脳内で体の持ち主の抗議が響く。
「お喋りしてる余裕があると思うのか?」
呆れを吐き捨て空を駆けるは、漆黒を纏う天使。
双剣を手にジューダスが接近を試みる。
空中移動が可能なのは巨人には無い、ジューダスの強みだ。
狙うはグリード同様に顔の部分。
「双連撃!」
シャルティエとパラゾニウム、長さは違えど切れ味は互いに引けを取らない。
隙を許さぬ四連撃が走り、巨人の顔へ赤い線が描かれた。
しかしやはりと言うべきか、痛みへの反応はまるで見受けられない。
滴る血には見向きもせずに拳を振り上げる。
アッパーカットの動きで真下より迫る拳、如何にラブボムで強化された体と言えども無事では済まない一撃だ。
翼を大きく扇いで後退、数秒前までの位置を腕が通過し暴風が発生。
空中で踏み止まり吹き飛ばされないよう耐える。
風が止んだ傍から突き出される拳が視界いっぱいに映り込む。
一息つく間も与えぬ敵へ舌打ち一つを零し、回避へと集中。
-
「で、どういうことなのか説明して頂戴」
「う、うん…」
巨人から離れ過ぎず、同時に退避するだけの時間は稼げる位置。
腕を組み不機嫌さを隠そうともしない5歳児へ、アルフォンスは申し訳なさそうに頷く。
体の大きさは自分の方が上なのに、やけに向こうがおっかなく見えて仕方ない。
まるでウィンリィに怒られた時みたいだなぁと、一瞬呑気に考えつつ手短に説明。
「巨人になれる能力…何かもう何でも有りじゃないのよ…」
乾いた声の呟きは、件の巨人が発した方向に掻き消された。
現実逃避するには脅威の存在感が大き過ぎる。
放送前はゲンガーと会うまで収穫ゼロだったというのに、目が覚めてからは大騒動の連続。
何でこう極端なんだとの文句はさておき、戦闘の様子を観察する。
(そういやアイツ、首輪が無いわね)
人間よりもずっと太い首には、参加者の命を握る枷が存在しない。
巨大化した際に壊れて外れたのだろうか。
いいやそれは有り得ない。
ボンドルド達だって巨人化能力を把握した上で、康一を参加させた筈だ。
なら巨大化と同時に首輪が破壊されるくらい、分かっていて当たり前。
では何故巨人には首輪が存在しないのか、考えられる中で最も可能性が高いもの。
恐らく巨人の体内に康一の本体が埋まっており、首輪は変わらずそっちに装着されたまま。
つまりもし巨人を殺すなら体内のどこかに埋まった、康一本体を潰せば良い。
尤もアルフォンス曰く、康一は元々殺し合いには乗っておらず何らかのアクシデントで暴走しているだけ。
だから巨人化さえ解除出来れば暴走も止まる。
殺さずに事を納められるなら凛だって文句は無いが、そう簡単な話じゃない。
(そもそもどこに本体があるのかも分かんないのよねぇ…)
心臓や脳と言った急所だろうか。
可能性は低く無いが絶対の自信を持ってそうだとは言えず、全く別の部位とも考えられる。
助けられるのなら助けたいし、アルフォンスの考えを全面的に否定はしない。
ただ確実な方法が見付からず手をこまねいて全滅するようなら、そうなる前に決断するしかないだろう。
-
「そのコーイチだかってのもヤベェけどよ、キャメ子の嬢ちゃんの方はどうすんだ?」
「うん……」
考え込む凛を余所に問い掛ける、バリーの疲れたような声。
村で再会した時よりも意気消沈しているのは気のせいだろうか。
珍妙な名前で呼ばれた彼女は現在、巨人相手に一歩も引かず立ち回っている最中。
獰猛な笑みは数時間前に出会った際の、騎士のような佇まいからは程遠い。
黒ずんだ両手を武器にし、巨人の剛腕を紙一重で避ける姿から連想されるのは一人。
危惧した事態が現実のものとなってしまった。
「今は一旦置いておきましょ。私達をすぐに殺す気が無いなら取り敢えずそれで十分よ」
「キャメロットさんの意識は…?」
「無事みたいよ。アイツの言葉を信じるなら、だけど」
凛達が視線を向けた先で、グリードは跳躍し近くの民家の屋根に避難。
地面を砕く巨人の拳を見下ろし、馬鹿力がと苦笑い。
魔王相手にも真正面から戦えたが流石にこの相手は別。
サイズがサイズだ、真っ向から殴り合おうものなら地面の染みと化す以外の展開が思い浮かばなかった。
「月閃光!」
再度腕を振り上げるのを待たず、ジューダスが仕掛ける。
双剣が描く三日月状の斬撃、頬が裂け返り血を浴びるのも構わず追撃。
より深く刃が突き刺さるのを巨人は良しとしない。
鬱陶し気に頭部を揺らし、発生した余波のみでジューダスを吹き飛ばす。
「スラストファング!」
されるがままはジューダスも御免だ。
強制的に引き離されながらも晶術を唱える。
真空の刃が喉を切り裂き、人間ならばこれだけで勝負は着く。
残念ながら10メートルを越える巨体には、中級の晶術も有効打にはならなかった。
攻撃を当てれば傷が付き、血が流れる。
そこだけは人間と一緒だが、知ったのは良いニュースだけではない。
何度攻撃し出血させても、ほんのちっぽけな悲鳴すらも上げないのだ。
-
(痛覚が無い…それか極端に薄いのか?)
人間と近い輪郭をしながらも、性質は人間と根本的に違う。
痛みに鈍いだけでなく、傷の自然治癒速度も人間以上。
先程ブラッドスタークに狙撃された指、痛々しい傷跡が確かにあった筈。
それがどうだ、傷なんて最初から無かったかのようにきれいさっぱり消えている。
ダメージを与えても怯まず、傷は放って置いても短時間で再生。
これではチマチマ攻撃を続けたって、自分達の体力が無駄になるだけ。
巨人の方も生物である以上、持久力には限界があると思いたい。
今の所は疲弊した様子もまるで見られないが。
「ペルソナ!」
アルセーヌのスキルが発動し、細長い針が肩に突き刺さる。
敵一体を睡眠状態にする効果が発揮されれば、この戦いもすぐに終わりだ。
が、巨人はチラと肩に視線を寄越したのみで健在。
憎悪を宿した瞳は両方とも見開かれ、睡魔に襲われた様子は小指の先火度も見られない。
大きな期待はしていなかったが失敗だ。
「ペルソナッ!!」
効かなかったなら別の手を使えば良い。
スクンダとラクンダを放ち、敏捷力と耐久力をそれぞれ低下させる。
巨体故に与えられるダメージは微々たるもの。
少しでも自分達に有利な状況を作り、攻撃の有効性を高めた。
――ELECTRIC STEAM!――
バルブを操作し銃弾に特殊効果を付与。
電撃を帯びた高熱硬化弾が三発連続で脚部へ命中。
スマッシュや仮面ライダー相手には効果抜群でも、巨人相手には今一つ。
-
「ホウオウ!」
一人で足りなくとも他の者がいれば話は違って来る。
新たな仮面は、心優しい能力者の少女との絆の証
古代中国の伝説に登場する美しき鳥の王が君臨。
「ペルソナ!」
主の意思のままに、紫水晶の如く輝く翼を広げ力を解放。
高熱硬化弾を受けた箇所へ焼け付く熱が走る。
フレイラ。敵一体に核熱属性のダメージを与える攻撃スキルだ。
決して弱いとは言えないが強力とも言えない威力。
このスキルだけではそうだったろう。
『!!!??!!』
巨人が膝を付く。
これまで大地を踏みしめ怒りを糧に進撃した怪物が、片膝を付いた。
今しがた攻撃を受けた箇所から猛烈な痺れが遅い、立つ事もままならない。
核熱属性の攻撃は感電や凍結、炎上など特定の状態異常となった敵を攻撃した時、高威力の追い打ちを可能とする。
スキルの属性同士の相性は怪盗団としての活動で熟知しているのだ。
――COBRA!STEAM SHOT!COBRA!――
「プリズムフラッシャ!」
感電状態は一斉攻撃に持って来いのチャンス。
しかし長時間続くとは限らず、ましてあくまで足一本を一時的に痺れさせたに過ぎない。
であるなら余裕ぶってモタついていれば、自ら攻撃の機械を捨てるに等しい。
そういった愚行へ出るような素人はここに一人もいないが。
フルボトルをスロットへ装填、成分を付与したエネルギー弾を発射。
遅れは取らぬと晶術を発動、七色の剣が雨を切り裂き降り注ぐ。
二方向よりの同時攻撃に対し巨人は防御を選択。
武器などもたない無手である、だが巨体故に肉体こそが最大の矛であり盾。
両腕をシールド代わりにして攻撃に備える。
-
大蛇が喰らい付き、宝剣が突き刺さる。
ラクンダで耐久力を削ぎ落されたのも加わり、威力は低くない。
両腕で防ごうとも無事では済まない有様と化す。
「なっ…」
それが何と言うことか。
煙が晴れ現れた巨人に今の攻撃が堪えた様子は微塵も見当たらない。
多少の焦げ目と切り傷の付いた両腕の防御を解き、再び構え直す。
数秒後にはその傷すら塞がり、二本足で立ち上がる。
感電状態おも脱し、再びの脅威として君臨する。
巨人体となったエレンの強みは巨体を活かした怪力のみではない。
ロッド・レイスが所持した薬の摂取により手に入れた、硬質化も立派な武器の一つ。
鎧の巨人の能力により皮膚を硬質化させ、防御や攻撃に用いる。
ラクンダで多少脆くはなっていても、完全無効化までには至らず。
硬質化させた両腕により、最小限のダメージで耐え凌いだ。
「俺の猿真似なんざぁ、デケェ図体の割りにみみっちい野郎だな!」
皮膚の硬質化を使う者は巨人だけではない。
強欲のホムンクルスとして、最強の盾を持つグリードも同じ。
だからこそ相手が使えばどれだけ面倒かも分かる。
屋根から屋根へと飛び移り、巨人の肩へ着地。
五指を頬に突き刺そうと伸ばすも、上体を大きく揺らし振り落とされた。
馬鹿デカい癖に反応も良い、つくづく厄介な相手と再認識し奥歯を噛み締める。
-
子供が蟻を踏み潰すように、巨人も人間を同様の方法で殺す。
神の鉄槌を思わせる勢いで足を降ろし仕留める。
己が気付かぬ内に踏み付けた、哀れな一匹の虫と同じ末路を与えてやるのだ。
「駄目だ康一さん!」
凛に事情を話し終えたアルフォンスが、ここに来て戦線に加わる。
掌同士を叩き地面へ当て、錬金術を行使。
ダブリスでの一件で真理の扉を見て以来、すっかり慣れた兄と同じ錬成方法。
錬成陣を一から書く手間が省け、攻撃に移るまでの隙は大きく減少出来るのは利点だ。
アスファルトに錬成エネルギーが流し込まれ、アルフォンスの望む形へ再構築される。
『ッ!!!??!』
狙ったのは巨人の足元、踏み潰さんと上げたのとは反対の方。
アスファルトに立った足底の地面が盛り上がり、巨大な円筒が出現。
真下から直接足底を押し返され体勢を保っていられない。
バランス感覚の維持に苦労するかのように全身がグラ付き、転倒を許す羽目となった。
仰向けで倒れる巨人から目を離さないまま、再度錬金術を使う。
背中が地面へ触れる瞬間、再構築されたアスファルトが拘束具となり巨人に絡み付く。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』
が、何と巨人は倒れるより早く地に手をを叩き付け反動で跳ぶ。
獲物を見失った拘束具は空気を捕らえるに終わった。
「ぐううう…!」
宙に跳ぶ程の勢いで叩きつけられた地面は当然粉砕。
衝撃波と共にアスファルトの破片が一斉に襲う。
装甲を纏っている者はまだマシだ。
全身への硬化が間に合わなかったグリードや、双剣を翳すのが手一杯のジューダスは被害を防ぎ切れない。
破片が衣服を切り裂き素肌から血が垂れる。
-
「っ!?マズい…!あっちは……!!」
跳躍した巨人の狙いにアマゾンネオが一早く気付いた。
拳を振り下ろすべく睨み付けるのは、自分達では無い。
先程まで話しをしていた二人、凛とバリーだ。
慌てて逃げようとするも一度目を付けられた以上、逃がしてはくれない。
『ゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』
急降下からの一撃。
落下の勢いに乗せて放つ、シンプルながら強力無比な攻撃方法。
ただでさえ驚異的なサイズの巨人が繰り出す以上、喰らえば即死は免れない。
家屋に身を潜めようと無駄だ。
その程度、巨人を止めるには余りにも頼りなかった。
「冗談じゃねェぞチクショウ!!こうなりゃどうにでもなれってんだ!!!」
地面を彩る赤い汚れと化し、今度こそあの世へおさらば。
数秒後に訪れる末路を黙って受け入れる程、バリーは諦めの良い男ではない。
殺し合いに呼んでおきながらマトモに殺しはさせてもらえず、挙句の果てには合成獣(キメラ)がペットに思えるような化け物に殺される。
納得がいかない所の話では無い、自由人気質なバリーだって堪忍袋の緒が切れそうだ。
誰が素直に殺されてやるものか。
マスコットのような見た目が一転、違う形へと変化する。
直後、視界は雨雲よりも尚暗い影に覆われた。
巨人の拳が地面に到達、地上のちっぽけな命二つを巻き込んで破壊の跡を生み出す。
死は確定、死体が生物の形を保っているかも怪しい。
拳をどかした巨人の目には、さっきまで人間だったものが見え――ない。
そこに広がるのは破壊された地面と、巻き添えを食らった建造物の瓦礫だけだ。
死体はどこにもない、そればかりか血の一滴すら無いのはどういう事なのか。
答えはすぐに聞こえて来た。
-
「うおおおおおおお!?高過ぎだろこれ!?」
「ちょっと!あんまり揺らさないでよ!落ちる!落ちるから!」
ジャガイモ頭の少年を抱え跳び上がった毛むくじゃらの生物。
だが姿形はこれまでと一変。
太い両腕を持つ雪男に似た珍獣はおらず、スラリと伸びた手足のスマートな体型。
獣の下肢と体毛こそ変わらないものの、角が消え明らかにトナカイとは違う前足(両手)。
より人に近いこの姿は飛力強化(ジャンピングポイント)。
トニートニー・チョッパーによる七段変形の一つ。
跳躍力を強化した形態となり、間一髪の所で巨人から逃げおおせたのだった。
(上手く行くかは賭けだったが、やってみるもんだなぁおい)
チョッパーが多数の形態へ変形可能だとはプロフィールで把握済み。
しかしバリー自身はそれぞれの形態全てに慣れてはおらず、変形した所で上手く動けるかは自信が無い。
産屋敷(無惨)と対峙した時にも、使いこなせるか微妙な柔力強化(カンフーポイント)にはならなかったように。
切羽詰まった状況故に今回は賭けに出て、結果はどうにか成功と言って良い。
「バリー!そのまま遠坂さんを連れて離れて!」
「ん?おう」
地上からの頼みを断る理由も無いので、言われた通り離れる。
わざわざ凛まで助ける義理は無い、だがここで見捨ててアルフォンスを含めた殺し合いに反対の連中を敵に回す方がマズい。
小脇に抱えて屋根の上を跳びながら、すたこらさっさと逃げて行く。
当然巨人は見逃さない、バリーが乗った屋根のある家へ拳を叩き込む。
倒壊に巻き込まれる前に急ぎ次の屋根へと移動。
それを読んでいたと言わんばかりに、巨人の手が頭上より襲来。
「バリー急いで!」
「これでも全速力だクソッタレ!」
悲鳴を上げる両足を更に酷使して全力疾走。
無駄な抵抗を終わらせるべく振り下ろした巨人の腕を、別の巨大な手が掴む。
つい兄と似たセンスの錬成を行った苦笑いは後回しだ。
またもや邪魔をされ、巨人の標的がアマゾンネオへと移る。
反対の拳を放ち錬成された手を粉砕、自由を取り戻した腕で青い装甲の少年を襲う。
-
それを止めるは高熱硬化弾と光弾。
地上からはブラッドスタークがトランスチームライフルを、上空からはジューダスがデルタレイを放つ。
「ペルソナ!」
更に攻撃は続く。
巨人の胴体に幾つも刻まれる斬傷は、マガツイザナギのスキルによるもの。
手数は多かれど全てが巨人にとっては悪足掻きに過ぎず。
握る拳に植え付けられた怒りを籠めて振り下ろせば、各々距離を取って回避。
小賢しい連中へ巨人の怒りは増すばかり。
『AMAZONE SLASH』
「ごめん康一さん!ちょっと痛いかも!」
ドライバーを操作しブレードにエネルギーを付与。
強化された斬撃で狙うは足の腱。
アマゾンネオの腕力を用いて斬ったなら、少しの間だけでも止められる筈。
巨人に気付かれそうになれば、こちらの意図を察したグリードが動く。
腕を駆け上がる金髪の少女へ意識を割かれ、アマゾンネオを視界から外した。
凛から聞かされていたが、やはり今はこちらと共闘してくれる。
元の世界ではリンの体を奪われてるのもあり、油断はできない。
ただ少なくとも今は味方として見ても多分大丈夫だろう。
ブレードが巨人の足に食い込み、
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!』
それ以上刃を走らさせる事は出来なかった。
両脚をバネにし巨人がまたもや跳躍。
ブレードを突き刺したままのアマゾンネオを道連れに、地上を高く見下ろす。
重力に従い巨人は落下、ブレードがすっぽ抜けたアマゾンネオもあらぬ方向へと落ちて行く。
未だ死を逃れ続ける虫けらどもへ、鉄槌を下す時だ。
-
『グゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』
両の拳による乱打が放たれる。
落下の勢いを付けただけでは無い。
硬質化で一撃一撃の威力を最大限に高めた上での、殴打の嵐。
鎧の巨人が持つ硬質化は一点に集中する事で、硬度は更に上がる。
巨人化したライナー・ブラウンの顔面を叩き割った拳が、豪雨を思わせる苛烈さで蓮達を襲った。
「ッ!!!!!」
巨人が跳躍した時既に全員回避行動へと移ったのは言うまでもない。
それすらも無駄とばかりに衝撃で市街地は揺れ、余波が更なる破壊を齎す。
やがて拳の雨が止み、巨人が見下ろす先に人影は見当たらなかった。
「のわああああ!?」
「え、ちょ、きゃああああ!?」
比較的離れた位置にいた者も巻き込まれる。
衝撃波に建造物は揺さぶられ、ただでさえ雨で濡れた屋根の上は不安定さに拍車が掛かった。
バランスを取ろうにも失敗し滑り落ちても仕方ないだろう。
『!!!!!』
「あっ、やべ」
振り返った巨人とバッチリ目が合う。
どっと流れる冷汗が雨で洗い落ちるのを待たず、巨人は疾走。
巨人は意外にも肉体の密度が薄い、その為巨体とは裏腹に俊敏な動きが可能な存在だ。
立体起動装置を使い巨人討伐に慣れた戦士でも、時には呆気なく死に至る理由の一つ。
タイミングの悪い事にステータス低下のスキルも切れ、元の動きを取り戻す。
よって多少の距離が離れている程度、すぐに詰められ殺されるだけだ。
-
落下の痛みで初動が遅れたのが痛い。
四足歩行になって凛を乗せ逃げる、駄目だ間に合わない。
なら凛に構わず自分だけ逃げれば?
そっちの方が生き残れる可能性は高い。
巨人が凛を踏み潰すので多少なりとも時間を稼げれば、チョッパーの脚力で死に物狂いで逃げれば。
どうにか逃げられるんじゃあないか。
巨人はすぐにこちらへやって来る。
自分でも不思議だが、目に映る光景がやけにゆっくりに見えた。
絶体絶命だというのに落ち着いて考えられるのは、死が初めてではないからだろうか。
何にせよやる事は決まった。
飛力強化から逃げる為の形態に変形し――
「さっさと逃げろ凛!」
背後の少女へ叫んだ。
(……は?)
自分が一体何を言ったのか、理解が追い付かない。
自分が一体何をしようとしているのか、さっぱり分からない。
地に二本の足を付き、巨大化した上に複雑な形状と化した角を巨人へ突き付ける。
角強化(ホーンポイント)。チョッパーが変形する中でもとっておきの形態。
ランブルボール無しの変形では最も強力な姿。
何故こんな姿になってるのか、何故巨人から逃げようとせず対峙してるのか。
どうして、ガキ一人の為に命を張るなんて、殺人鬼では有り得ない行動に出てしまったのか。
ふと、脳裏に浮かんだのは放送前の出来事。
無害だと思ってたキメラもどきが豹変し暴れ回った、全部が狂い始めたあの時だ。
(あー……そういうことかよチクショウ…)
逃げようと思えば一人で逃げられた。
なのにどういう訳か最後までその選択はせず、産屋敷(無惨)にキャメロットを盾にされて慌てて止めたりと、気遣う真似にまで出た。
そして現在、仲間を大切に想い決して見捨てない。
万病薬になろうと日々奮闘する麦わらの一味の医師、そいつの肉体による影響が出たと言うならば。
最後の最後で、とんだ外れの体を宛がわれたとげんなりするのも無理はなかった。
-
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』
「そんなに叫ばなくても、しょうがねぇから相手しやるっての…」
思い返せば何ともまぁ締まらない最期になってしまうものだ。
もう一度殺しが出来るとワクワクしていた頃の自分が、世間知らずの田舎者のように感じる。
せめてもう少しマトモな体、この際ただの人間でも良いから極悪非道な犯罪者とかならこんな行動には出なかっただろう。
どれだけ主催者に文句を付けたところで、もう自分の末路は決まった。
哀愁漂うため息を吐こうにも、雨と巨人の声が五月蠅くて掻き消される。
(ま、もしかしたらまた生き返れるかもな)
二度あることは何とやら。
運が良いのか悪いのかはともかく、もう一度生き返って殺し合いをさせられる可能性は否定できない。
あるかも分からない次のチャンスに期待しないで、あの世で暇を潰すとしよう。
「バリー!」
(すぐには死ぬなよ。俺が庇ったのがバカみてぇだからな)
怪物と怪物、巨人とトナカイ。
勝敗の行方は分かり切っていた。
如何に強力であっても、チョッパーの能力を十全に使いこなせないバリー。
洗脳下とはいえ、憎悪に突き動かされ存分に猛威を振るう巨人。
都合の良い奇跡は起きない、至極当然の決着。
拮抗は一瞬。
真正面から突っ込んだ角と、破れかぶれで振るった剣が砕け散る。
顔面のみならず上半身諸共粉砕されて、残った両足が空しく倒れる。
こうして三度目の生を与えられた殺人鬼の物語は終わった。
自分自身の手で望まぬ幕を下ろされた前回と、どちらがマシかは殺人鬼本人にしか分からない。
-
◆
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!」
先手必勝、対話は不要。
必要なのはこれまでも幾度も邪悪をブチのめした自慢の拳。
星を名に冠した最強のスタンドが放つラッシュが狙う、DIOとはまた別の支配者(アーク)。
油断なし、手加減抜き、慢心は論外。
元より戦闘へ敵に付け入る隙を持ち込まないのが承太郎と言う男。
とはいえ承太郎でなくとも、此度の相手を前に気を抜ける輩はまずいない。
「4対1だが卑怯とは思わないでくれ」
自分で口にしておきながら呆れを抱く。
複数人で掛かっても勝てるイメージが思い付かないのに、卑怯も何も無いだろう。
などの愚痴は胸に仕舞い、ベルデも承太郎に続き剣を振るう。
片手にはクリスマス用の蝋燭、片手にはメカニックな剣。
得物を増やした程度で勝てるとは微塵も思わない、だが手数は多い方が良い。
スタープラチナが数あるスタンドの中でも、屈指の高性能を誇るのは言うまでもない。
そこに加えて超人的な身体能力を持つベルデも加わる。
並のスタンド使いやミラーモンスターが相手では、過剰戦力となる。
だがどうだ、過剰どころか容易くあしらわれるのが現状ではないか。
男二人の猛攻へ汗の一つも掻かずに捌く。
一般人の域を出ないアイドルの体だけでは不可能以前に、冗談にもならない。
可能とするは悪意の伝道師が生み出した負の遺産、究極の闇をもたらす王の精神。
それらが創りし怪物こそ、仮面ライダーアークワンである。
-
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」
拳の勢いは一切緩めない。
傍らのベルデも剣を振るう手を決して止めない。
後方から連続して発射される桜色の光弾、いろはの放つショートバスターだ。
こちらもマシンガンを思わせる勢いで放たれ続ける。
銃弾と違って装填の必要が無く、消費される魔力も少ない為ガス欠には滅多にならない。
その全てがアークワンには届かない、傷の一つも付けられない。
右手でスタープラチナのラシュをいなし、左手でベルデの双剣を捌く。
装甲へ命中するいろはの光弾には無反応。
お世辞にもダメージがあるとは、誰が見ても口に出来なかった。
残る一人も指を咥えて見ているだけではない。
罪悪感と、時折走るノイズに苛まれるのは変わらず。
されど自分が手に掛けた少年の仲間に遭い、断罪されるまでは死ぬ訳にいかなかった。
(そこだ…!)
暗殺系の職業としてキャラメイクされた肉体。
まだ稼働時間が僅かに残るアンチバリア。
二つの効果で姿と気配を隠し、ホイミンは敵の背後を取る。
アークワンが気付いた様子は無い、ここぞとばかりにスライム状へ戻した腕を伸ばす。
「ぐっ…!?」
「えっ」
苦悶の声はアークワンに変身した少女のものではない。
スタープラチナの腕に溶解液が掛かり、本体にも焼ける痛みが襲った承太郎の声だ。
-
新八の時のような包み込む程ではないのが幸いだ。
だが痛みを感じたのに変わりは無い。
一瞬、スタープラチナのラッシュの勢いが衰えた。
常人では知覚不可能な隙をもアークワンの機能は正確に捉え、腹部に蹴りが叩き込まれる。
「がっ…!?」
内臓を複数潰された、そう思いかねない痛みに血を吐く。
今度こそスタープラチナの攻撃も止まり、片腕を自由に。
ベルデの双剣は捌いたまま、空いた手を背後へと翳す。
掌に装着された照射口へ、アークドライバーワンからエネルギーが流れ込む。
自分の手で仲間を攻撃し固まる女に、視線を寄越さずスパイトネガを発射。
「うわああああああああああああ!?」
黒く煽情的な衣装を、よりドス黒い光で覆い隠す。
物理攻撃には耐性を持つスライムの体は、絶対防御を約束しない。
スパイトネガが肉体を蝕み、耐え難い激痛がホイミンを襲う。
ディケイド龍騎に炎を浴びせられた時とはまた違う、理解不能の苦痛だ。
「アクセルシューター!」
仲間の絶叫がいろはの焦りを加速させ、何とかせねばと別の手を模索。
ショートバスターでは効き目が薄い、ダメージが無くとも攻撃を中止させられれば。
選択したのはギニュー相手にも使った魔法。
魔力弾を操作しアークワンの顔付近を飛び回らせる。
「邪魔だな…」
なのは程の精密な操作は出来なくとも成果は有り。
顔周辺を羽虫のようにうろちょろし、蛍よりも眩しい光を放つ。
流石に鬱陶しく感じたらしく、スパイトネガの放射をホイミンから魔力弾に変更。
呆気なく掻き消され、同時にホイミンへの攻撃も一旦は止まる。
同時に承太郎へ回復魔法を発動。
痛みが引き戦線復帰が可能となった。
-
「助かった。ホイミンの方も頼む」
「分かりました!」
ホイミンに駆け寄るいろはの姿はアークワンにも確認出来た。
照射口をそちらに向けようとし、ふと片手で捌く感覚が消え失せる。
緑の騎士が後退しているのが見えた。
慣れない双剣を振り回しても大して効果は無いと理解。
ベルデもまた別の手に出るべく、デッキからカードを取り出す。
『HOLD VENT』
バイオグリーザの目を模した巨大ヨーヨー、バイオワンダーを装着。
ワイヤーをしならせ鋼鉄の塊が飛来。
生身で受ければミンチ確定の衝撃を、アークワンは無手で防ぐ。
あらぬ方向へと弾かれたヨーヨーを手元に戻す間に、再度スタープラチナが拳を放った。
「おっと」
さっきまでみたいに真正面から相手をしてやっても構わない。
が、折角アークワンに変身してるのだから色々と楽しみたいのが本音。
能力の多彩さにはダグバも子供のように胸を躍らせる。
「こっちこっち」
膝部の機能により引力を操作、浮遊し承太郎達を見下ろす。
両掌の照射口から閃光を発射。
此度はスパイトネガではなく多次元プリンター機能のレーザーだ。
青い拳銃型変身ツール、ショットライザーを二丁装備。
地上目掛けて乱射する。
-
「ぐぅっ…!」
スタープラチナの精密性とスピードならば、銃弾を掴むのも容易い。
対ヒューマギア用の徹甲弾だろうと、一発残らず叩き落とせる。
しかし引き金を引くのはアークワンだ。
億単位の高スペックな演算能力を駆使、どの位置にどのタイミングで撃てば防がれないかを瞬時に弾き出す。
姿と気配を消したホイミンの不意打ちに対処したのも、この演算能力があってこそ。
結果、徹甲弾はスタープラチナへ面白い様に命中。
回復したばかりの承太郎の全身からも血が噴き出る。
ベルデにも徹甲弾が雨あられと降り注ぐ。
再度ヨーヨーを放とうものなら、その隙に蜂の巣にされてしまう。
故にバイオワンダーを盾代わりにして、どうにかデッキの破壊だけは阻止。
痛みと屈辱に顔が歪み、仮面越しにも怒りが発せられた。
「スタープラチナ・ザ・ワールド…!」
しかし驚異的な演算能力のアークワンと言えど、時を止められれば為す術がない。
宙に浮かぶ大量の徹甲弾を薙ぎ払い、スタープラチナがアークワンの元に到達。
入門を許された時間内で叩きのめすべくラッシュを放つ。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!」
時が止まっている最中だというのに、アークワンの装甲は非常に強固。
数時間前に戦った偽りの破壊者といい勝負だ。
されど今この時だけは敵の反撃に警戒の必要も無く、一方的な攻撃が可能。
「うわっ…!?」
気が付いたら目の前に真下で撃たれていた筈の拳闘士がいて。
どうしてと思う前に装甲部へ衝撃が走り、殴り飛ばされた。
流石に驚きを隠せず、地面へと真っ逆様。
尤も、叩きつけられる前に引力操作で浮遊。
二本足で綺麗に着地した所へ、すかさずベルデとスタープラチナが接近。
-
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」
ショットライザーを投げ捨て再び無手に。
片腕ずつで二方向からの攻撃に対処。
ベルデの武器が違う以外は最初の光景の焼き直し。
ワイヤーをしならせヨーヨーをぶつけ、弾かれては手元に戻してまたぶつける。
同じ動きを繰り返す中で、ベルデは自身に起きた変化に確信を抱く。
最初に双剣を振るっていた時から感じた、体が軽くなっていると。
動きにキレが増すだけでない、徹甲弾を撃たれた時も以前よりダメージに耐えられている気がしたのだ。
天津の肉体ではなく、ベルデのスペックが上昇したと言うべきか。
理由については心当たりがあるも、今はそれを悠長に考えている場合ではない。
何より能力が強化されたベルデであっても、苦戦したままなのだから。
「チェーンバインド!」
悪しき魔人を縛り付けるは、光り輝く魔力の鎖。
リトの体だったユーノ・スクライアが得意とする拘束魔法。
なのはもまた習得しており、その体であるいろはにもこうして使えた。
アークワン相手にどこまで拘束が続くかは不明、しかしほんの少しでも動きを止めれば上等だ。
こちらの攻撃を防ぐ手が止まり、承太郎達が一気に畳みかける。
拘束一つ、どうという事もない。
スパイトネガを放射し力任せに鎖を破壊。
両手はそのまま地面に向けて、スパイトネガを流し続ける。
乾いた道路へ水が広がるように、承太郎とベルデの足元にまで赤黒いエネルギーが伝導。
じっとしていればロクな目に合わないのは確実だろう。
鼠の外套とカードデッキ、それぞれ強化された身体能力で跳び退く。
「僕も似たようなのが出来るよ」
背後の動きに演算能力が次の動きを変身者へ伝える。
再度チェーンバインドを使う気だったようだが、一手早いのはアークワン。
片手を翳し空中浮遊にも使った機能を、今度はいろはとホイミンに使用。
アークワン自身の移動や強化だけでなく、他者の拘束にも利用可能だ。
途端に身動きの取れなくなった二人を引き寄せ、残りの二人へと叩き付けた。
-
「きゃっ…!」
投げ飛ばされた仲間を受け止め、承太郎達の動きが止まった。
それで良い、アークワンの狙い通り。
いろは達を捕らえた時、先に動きを見せたのは承太郎の方。
また先程の奇妙なナニカを繰り出すのだと察知、最適な対処法は実に簡単。
攻撃される前にいろは達をぶつけ、攻撃そのものの発動を止めれば良い。
時を止める能力も、そもそも能力自体を使われなければ脅威にはならない。
多次元プリンターによりアタッシュウェポンを精製。
紫色の可変型武器、アタッシュアローを構える。
滅亡迅雷.netの滅びが愛用した弓型の武器は、ソニックアローに使い慣れた今なら手に馴染む。
「っ…!」
「うぅ…!」
各々迎撃に打って出るも、アークワンにはスローモーションにしか見えない。
腕を、膝を、狙った位置を正確にエネルギー矢が貫く。
出血は無く傷口から焼け焦げた臭いが漂う。
アタッシュアローを投げ捨てると、またもや新たな武器を手にした。
但し今度は精製したアタッシュウェポンではない、ダグバが手に入れた支給品である。
(もう一回あれを見たいなぁ)
ミニ八卦炉を片手に思い浮かべるのは、数時間前に撃った砲撃。
スパイトネガをエネルギー源として放ったアレは非常にスカッとする。
今度も蓮とエボルトのように同等の威力で反撃するのか、それとも全員殺されるだけか。
どちらだろうと自分は笑顔になれる、だったら実行に移すのに躊躇はいらない。
『悪意』
『恐怖』
『憤怒』
『憎悪』
『絶望』
ミニ八卦炉にスパイトネガを充填。
邪悪な輝きがより鮮烈な光を発し、生物を本能で恐怖させる威圧感が漂う。
ともすれば八卦炉自体を破壊しかねないエネルギーだ。
これを思いっきり発射した際の快感と来たら癖になる。
-
「っ、させない…!」
満面の笑みで悪意の砲撃を放たんとするアークワンへ、真っ先に立ち塞がったのは白い魔導師。
レイジングハートを構え先端の宝石を突き付けた。
魔力とも違うおぞましい光が一点に集中する光景、これは確実に大技が放たれる。
手にした武器へ魔力を籠める、魔法少女がマギアを使う予兆にソックリだ。
しかしこれは、いろはの知るどの魔法少女よりも、どの魔女やウワサよりもずっと強大で残酷な力。
こんなものをマトモに受けて無事でいられる筈がない。
だからこっちも持ち得る最大火力の魔法をぶつけるしかないだろう。
ギニュー相手に撃ったディバインバスター。
あれも強力であるのに疑いはないとはいえ、今必要なのは更に上の威力。
なのはが使える魔法に、一つだけあった。
使うのは初めてだがやるしかない。
レイジングハートの先端へ魔力を集中。
生み出すは桜色の翼と魔法陣。
自身がマギアを使う時よりも、もっと多くの魔力を集める。
煌めく星が力を齎す。
邪悪を打ち砕く正義を、仲間を守る意思を。
(結城さん…!)
喪失の痛みをも糧にし、立ち向かう勇気をこの一撃に籠めて。
「スターライト…ブレイカアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
『PERFECT CONCLUSION』
『LEARNING FIVE』
二つの光があった。
秘める性質は真逆、希望と絶望、救いと悪夢、善意と悪意。
たった一つの共通点は、一切合切の抵抗をも許しはしない「力」だ。
「う…うううう……!!!」
「あははははははは!!!」
光を放つ少女達が浮かべる顔もまた対照的だ。
片や苦悶に歪み、片や心からの笑いが止まらない。
-
なのはが持つ最大級の魔法を使って尚、アークワンは拮抗している。
レイジングハートがまだなのはが時空管理局に入る前、魔法少女になりたての頃のタイプなのを考慮しても。
スターライトブレイカーの破壊力は、間違いなく一級品。
引けを取らないばかりか、押し負ける可能性も否定できないスパイトネガには改めて戦慄が隠せない。
アークワンもまた、己の砲撃を押し返さんと輝きを増す魔法に歓喜していた。
楽しい、自分は今心から笑えている。
だからもっともっと、笑顔にしてもらわないと。
「もっとだよ…もっと僕を笑顔にしてよ…!」
無尽蔵の悪意が垂れ流され、スパイトネガの力と化す。
悪意の膨大であればある程に使用者をより強化する、正にグロンギの王の為にあるとでも言うような能力。
砲撃の勢いが増し、桜色の閃光を呑み込み全てを無に帰さんとする。
「環…!」
だがこれは、いろはとアークワンだけの戦いでは無い。
いろはにはアークワンの力の源、悪意はない。
しかしアークワンが持たない存在、仲間がいる。
一人で強大な悪に立ち向かい、歯を食い縛って堪えている姿を見せられては大人しくなど出来るものか。
スタープラチナを出現させ、隣ではベルデもカードを選択。
内面はどうあれ、ここはいろはに加勢すべきとの判断を下す。
「負けない…!絶対に…!!」
仲間の存在が、いろはを独りぼっちにしないでくれる人々が諦めない理由となる。
自分を守ってくれた、自分が守れなかった少年。
彼に助けられたこの命で、今度こそ守ってみせる。
優しさを踏み躙り笑う悪意がいるのなら、自分を守ってくれた善意で打ち砕く。
誰かの希望となる魔法少女に相応しい勇姿。
きっと善意を抱く誰もが、いろはの勝利を願うだろう光景。
だからこそ、悪意の糧に相応しい。
-
「あれ?」
パシャンと、何かが顔に当たった。
これは言いたい何だろう、水ではない。
だって何だかヌルヌルしていて、料理で使うサラダ油みたいだ。
勝つか負けるか一歩も引けない死闘の真っ只中にしては、我ながら随分呑気だなと思う。
だけど本当に分からない、自分の顔に何が当たったのか。
というかそもそも、誰がこんなことを――
「ひゅえ…?」
変だ、声がちゃんと出ない。
口を開けると、頬に当たる空気が普段よりも冷たく感じてヒリヒリする。
何かおかしい、妙に熱くなってきた。
熱くて熱くて熱くて、ビチャリと何かが零れ落ちる。
「えっ、ひゅっ、ひゅいっ、ひぃあああああああああああああああああああああああ!!!??!」
熱い、痛い、熱い、痛い、熱い、痛い、熱い。
二文字が交互に頭を支配し、叫ばずにはいられない。
また地面に落ちたソレが、溶けた自分の頬と気付けたのかどうか。
意味が分からない、痛い事しか分からない。
自分の顔がどうなっているかも考えたくなくて半狂乱となり、
見えた。
見えてしまった。
「ほいひぃんひゃん……?」
吐き気を催す、醜悪な笑みで笑う仲間を。
-
それが終わりの合図だった。
希望の光が悪意に塗り潰される。
ただでさえ勢いを増す砲撃を相手に、致命的という他ない隙。
勝敗は決した。
仲間を守る為の戦いは、その仲間の手で敗北へと誘われる。
「ぁ……」
桜色の光はもう見えない。
不屈の心に亀裂生まれ、後はもう砕け散るだけ。
絶望が喰らい尽くす。
悪意に蹂躙され、魂の一欠けらまで陵辱される。
次第に痛みすらも曖昧になる中でいろはは己の終わりを理解した。
(結城さん……)
真っ先に思ったのは、自分を守り命を落とした少年。
結局自分がやったのは何だったのだろう。
彼に守られておきながら、その命をこうして失おうとするなんて。
申し訳なさと情けなさで泣きたくなる。
(でも…きっとジューダスさん達が…)
今も戦っているだろう剣士。
彼の言うように殺し合いを無かったことにすれば。
悲劇の始まりを世界から消してしまえば、悲しみは生まれなくなる。
この地での出会い全てが存在しなくなるのは、本当に良いのかと思う気持ちもある。
だけど殺し合いさえ起きなければ、リトは今も家族の下で平穏にいられた筈。
ホイミンだって望まぬ殺しに手を染める事は無かった。
だから、そっちの方が良いんだ。
-
(そうだ…そしたら全部元に――――)
思考の片隅に、小さなノイズが走る。
唐突に浮かんだ、いや、本当は心の奥底で抱き続けた疑問。
確かにジューダスの言う策なら、殺し合いでの死を無かったことに出来る。
しかし必ずしも成功するとは限らない。
ジューダスや殺し合いに反対する者達が志半ばで倒れ、計画そのものが頓挫したら。
もしかすると、ジューダスの推測がまるっきり外れている可能性とて否定できない。
そうなったら殺し合いでの死は覆らない。
(あ……)
つまりリトは結局死んだまま。
彼だけでなく、他の善人も悪人も殺し合いでの死から永久に逃れられない。
当然それは、いろはもだ。
(やだ……)
考えたくはなかった可能性が、心へ最後の傷を刻む。
そんな事にはならないと否定したいのに、どうしたって最悪の結果にばかり行き付く。
(やだ…やだ……)
みかづき荘には二度と戻れない。
灯花とねむとは二度と会えない。
最愛の妹の存在は、永遠に人々の記憶から失われたまま。
環ういは二度と助けられない。
(やだよ…うい…うい……!やだよぉ……!)
零した涙は誰にも見えない。
漏らした嗚咽は誰にも聞こえない。
焼き潰された欠片が一つ。
魔法少女を支えた不屈の魂、その残骸。
それが唯一、少女が生きて抗った証だった。
-
○
タイミングが悪過ぎたと、そう言う他ないだろう。
承太郎も、いろはも、黎斗も、警戒はした筈。
またもや暴走し仲間を手に掛けるなら、今度は絶対に阻止する。
これ以上手を汚させない為にも、死んではやらない。
自分にまで毒牙を剥くなど誰が許すものか。
仲間の為と自分の為、理由は違えど一定の注意は払うつもりだった。
しかし余りにも、余りにも最悪のタイミングだ。
よりにもよって対峙する真っ最中の相手は、意識全てを掻っ攫う強敵。
他を気にする余裕を見せればロクな反応も許されず、次に発表される死亡者へ追加される。
ダグバという敵は強大過ぎた。
アークワンの驚異的な悪意を前にし、全力でぶつからねば全滅必至の状況。
誰もが注意を外してしまった、それをどうして責められようか。
アークワンの砲撃に真っ向から立ち向かういろはは、ホイミンも己が目でしかと見た。
ピサロのような恐ろしい敵に一歩も引かず、歯を食い縛って戦う勇姿。
悪を倒す為、何より仲間を守るために決して諦めない。
その仲間にはホイミンも入っている。
新八を殺した自分の事まで守ろうとする彼女に、感情を激しく揺さぶられた。
彼女のような強くて優しい人間にこそ憧れ、自分もホイミスライムから人になりたいと願い、
同時に、そんな善の心を持つ少ならきっと、
守る対象に裏切られ優しさを踏み躙られたら、さぞ絶望した顔になるんだろうなと思った。
思ってしまった時にはもう遅い。
承太郎達に倣いいろはを援護しようと伸ばした腕は、彼女の顔を獲物に選んだ。
溶解液を浴びせられたいろはがどうなったかは言うまでもない。
全てが手遅れになった後、誰もがすぐには動けなかった。
起こった事を説明すれば、ホイミンが裏切りいろはが負けたの短い言葉で済む。
とはいえ、現実の光景を即座に理解し受け入れられるかは違う。
「がぁっ…!?」
「承太郎く――ぐっ!?」
何より、敵は律儀に待ってはくれない。
砲撃が止み視界が晴れ、残った者の始末に掛かる。
拳がスタープラチナの胴体を貫き、血を吐き倒れる本体から視線を外し蹴りを叩き込む。
足底が叩くは緑色の装甲。
スパイトネガで威力は強化済みだ、紙切れのように吹き飛ぶベルデを見送らず後の一人を見下ろした。
-
「え…あ……え……?」
自分が何をしたのか。
目の前の光景が現実を教えるも受け入れたくない。
腕に残る頬を叩いた感触が、犯した罪から目を逸らさてくれない。
「え、え?え…え?」
恐る恐る自分の顔に手を当てる。
そんな馬鹿なと否定の気持ちを強くし、だけど感じる手触りで理解せざるを得ない。
自分は今どんな顔をしている。
二度も仲間を手に掛け、一体どのような表情を浮かべてるのか。
「な…んで…え、あ、あ…ぼ、ぼく……なん……」
細めた目と、上向きの頬と、
何よりも、裂けたみたいに開かれた口。
最早現実逃避は許されない。
重ねた言い訳には誰も耳を貸さない。
ホイミンはいろはの死に、笑っているのだ。
「あっ、ひっ、な、ぼく、なんで、ぎゅえっ!?」
疑問も衝撃も長くは続かない。
おぞましい笑みを元に戻す必要も無くなった。
顔面を鷲掴みにする、スーツと装甲で爪まで隠した手。
掌に搭載された照射口に睨み付けられ、赤黒い光が瞳を焼く。
恐い筈なのに不思議と綺麗にも見え、それが自分を終わらせる役目を持つのだと分かった。
-
「あがああああああああああああああああああああああああ!!?!」
悪意の波動に包まれる。
一度食らったスパイトネガの放射を、今度は零距離で味合わされ絶叫が止まらない。
煽情的な衣装が襤褸切れと化し、その下の肌が剥がれ落ちる。
玉のように白い肌も、男を惑わす艶めかしい裸体も消え去った。
あるのは汚らしい色の粘液。
仮の形すら保てなくなり、ソリュシャン本来の姿を暴かれる。
「はは…あははは……」
体が崩壊する悪夢さながらの痛みを受けて、ホイミンはただ笑う。
そうだ、これで良いんだ。
だって自分は仲間を殺した悪い魔物。
人間から忌み嫌われ討伐されて当然の、醜い化け物じゃあないか。
そんな奴が生きているのはおかしいだろう、ここで殺されて当然だ。
「ひひ…ひひひひ……ひあははは……」
何もおかしくはない、何も間違ってはいない。
悪い魔物が罰を受けるように殺される、ただそれだけのこと。
子供達を攫ったピサロの手下がライアンに退治されたのと一緒だ。
きっとここにライアンがいても、自分を斬り殺すに違いない。
「あははははははははははははは…!!ひゃは…はははははははははははは…………」
これで良い。
新八を殺した奴は生きてちゃいけない。
いろはを殺した奴は死ななくちゃ駄目だ。
これが正しい、そうに決まっている。
だから
「ごめんね……」
今更謝ったって、全部遅いんだ。
-
○
手を離し地面に落ちたものを眺める。
人の形どころか、マトモな生物かも疑わしい塊。
自分達グロンギとも違う種族か何かだろうか。
そういえば、この女は腕をスライムのように変化させ伸ばしていたのを思い出す。
村から移動する途中で走る巨大な虫もいたのだし、案外そういうリントじゃ無い参加者は多いのかもしれない。
と、あれこれ考えても既にホイミンから興味は失せた。
奇妙な生き物だろうと死んだ以上はどうだっていい。
二人死んで残りも二人。
カメレオンみたいな鎧の方はまだ生きてるかもしれないが、もう一人は死んでもおかしくない。
ホイミンには最早目もくれず、目当ての標的へと視線を移す。
「へぇ…」
意外なことに、死んだものと予想した相手はまだ生きていた。
何時の間に立ち上がったのか、両足をしかと地に着ける少年は惨い有様だ。
腹部から夥しい量の血を垂れ流し、立てるのが不思議なくらい。
痛みに泣き喚く気力すら奪われるだろう重症なのに、アークワンを睨む目は力強いまま。
どれ程体が死に近づこうとも、戦意だけは失わない。
思わず感心を抱くアークワンを前に、己の状態を理解出来ない承太郎ではない。
自分には傷を治す魔法や、ルソナのスキルといった能力は存在せず。
巨人と戦闘中だろう蓮達が加勢に来る気配も無い。
敵が今になって見逃してくれる、そんな夢物語に逃避するつもりも当然無し。
出血は止まらず立っているだけでも意識が消えそうだ。
率直に言って、現状は詰みとしか言いようがなかった。
-
「ぐ…承太郎君、その傷では……」
最後まで言えずに言葉を噤む声。
ベルデに言われなくとも分かり切っている。
そもそも、こうして立ち上れただけでも奇跡に近い。
だが刻一刻と近付く最後を実感しても尚、承太郎が選んだのは戦う道。
敵の顔面へスタープラチナの拳を叩き込んでやらねば、死んでも死に切れない。
仲間が殺された、仲間の凶行を止められなかった。
銀時に託されておきながらこの体たらく、あの世で詰られても文句は言えまい。
燃堂に体を返してやる事も不可能となり、どれだけ詫びの言葉を口にしたって足りないくらいだ
それでもまだ終われない。
敵と、自分への怒りをスタンドに宿して最後まで抗う。
こればかりは譲れなかった。
「檀、アンタだけでも雨宮達のとこに行け。それぐらいの隙なら作れる」
「承太郎君、それは……」
「悪いがもうくっちゃべってる余裕もねぇ。俺は野郎と――」
ケリを着ける。
最後まで言い切らず、黎斗の方には見向きもしない。
残された時間は本当に僅か。
なら黎斗には悪いが、口論を続けてはいられなかった。
アークワンは黙って様子を見るだけ。
余裕綽々な顔面に拳を叩き込んで、仮面を割るくらいはしてやる。
最後の戦いに挑むべく、血を垂らした口で己がスタンドの名を呼ぶ。
尤も、それは承太郎の望まぬ形で行われるが。
「そういうことなら精々私の為に役立ってくれ」
『ディケイドォ…』
痛みが来た。
首に何かが当たったと感じ、そこからはまともな思考も許されない。
異物が体内を侵食、肉体が別のモノへと変貌させられる。
スタンド使い同士の戦闘で受けたのとは違う、未知の痛みに目を見開き振り返った。
-
「テメーは…!?」
苦悶の声を相手は聞き届けたのだろうか。
承太郎が見たのは緑の騎士がガラスの破片の中に消える後ろ姿。
自身のデイパックを引っ手繰られたのすら、もう考える余裕が無い。
肉体の変化も止まらない。
四肢は太く、胴体は分厚い外皮に覆われる。
バーコードに似た不気味な模様が全身に浮かび、その顔は燃堂力のとは似ても似つかない。
「――――ッ!!!!」
散った仲間。
託した男。
残された者達。
倒すべき宿敵。
笑う緑色の騎士。
浮かぶ全てが渦に飲み込まれ消えていく。
怒りも、無念も、抗う精神も。
承太郎という少年に残るそれらもまた泥の底に沈み、二度と浮上する事はない。
たった一つ、何もかもを破壊せんとする衝動だけを残して。
強大な悪を隠れ蓑に、ホイミスライムは二度目の凶行に及んだ。
目を眩ませ、意識を奪う怪物を利用したのはもう一人。
神の頭脳を持つゲームマスターもまた、己の悪意を別の悪意で隠した。
気付いた時にはもう遅い。
悪意の牙は突き立てられた後なのだから。
-
○
支配者と破壊者、アークワンとアナザーディケイド。
生み出された経緯は異なる、されど秘める力の強大さは同じ。
偽りの破壊者への変身を終え間髪入れず、アナザーディケイドは衝動のままに走った。
全てを壊す、自身を突き動かす唯一の本能。
善人悪人関係無しだ、目に入る全てが破壊の対象。
グロンギの王であっても、例外ではない。
「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
鼓膜が破れかねない咆哮を上げる様は、どう見ても正気では無い。
クールな態度の裏に熱き正義を秘めたジョースターの血統の面影がどこにあるという。
もし承太郎が自分の意思でアナザーウォッチを使ったら、また別の結果になっただろう。
破壊衝動に抗い、自らの精神で制御する可能性だってあった。
だが彼の意思を無視し強行された変身で、破壊衝動を抑えられる筈がない。
まして態度に出さないだけで、仲間を二人も失ったばかりの少年が動揺しないと何故言い切れようか。
新八の時と違い最初から暴走した破壊者の拳がアークワンを狙い打つ。
「良いよ、面白いね君」
アナザーディケイドの放つプレッシャーに心が滾り、一層の期待を抱く。
これだけの威圧感を放てる相手は初めてだ。
小細工無しに殴り掛かるなら自分もそれに応えてやろう。
突き出された拳同士が激突、同等の威力故か互いに弾かれ合う。
瞬間、仮面の下で浮かべた笑みは深みを増す。
悪意の象徴へと姿を変えた自分相手に戦った者は少なくない。
だが互角に渡り合えた時間は決して多くはなく、大体がスパイトネガで強化した途端に置いて行かれた者ばかり。
もしかすると、今自分これまで以上に笑顔になれるのかもしれない。
「ガァアアアアアアアアアアッ!!!」
型も何も無い滅茶苦茶な殴打。
スタープラチナが誇る強さと頼もしさは毛先たりとも宿らない、純粋なまでの暴力の嵐。
しかし侮るなかれ、幼児の癇癪と変わらぬならば風都タワーで死闘など起こらなかった。
常磐ソウゴがオーマジオウになる必要もなかった。
-
「あはははははは!」
拳には拳で返す。
アークワンが打撃を繰り出し敵の一撃一撃を相殺。
無論防ぐだけではつまらない、アナザーディケイドへとこちらからも拳を叩きつけた。
両者の拳同士がぶつかり合い、時に互いへと届かせる。
装甲と外皮、生半可なダメージは通さない絶対防御。
アークワンの拳がアナザーディケイドの胴体にめり込んだ。
悲鳴を漏らしながら反撃すれば、アークワンの装甲越しに衝撃がスーツの下を襲う。
スパイトネガを始めとして、アークワンは攻撃性能が非常に高水準なのは言うまでもない。
同様に防御性能もまた、他の仮面ライダーの追随を許さない。
流体金属で形成されたパワードスーツは勿論、アークワンにはもう一つ防御力を高める機能が搭載されている。
太腿部のエネルギー障壁発生装置により装甲表面にバリアを展開。
物理的な攻撃を反発力により退ける事が可能。
アークワンに変身した或人が滅相手にあえて攻撃を受け反撃する戦法も、この防御性能の高さがあってこそ。
「あははははははははは!!」
「アアアアアアアアアアアアアアッ!!」
それらの機能を以てしても、アナザーディケイドに殴られるたびに痛みが襲い来る。
アークワンですら完全に殺し切れない威力だ、殴打を受け続けた先に待ち受けるのは死。
それこそを望んでいるとばかりに、破壊者の猛攻は止まる気配が無い。
止まる気配が無いのはアークワンも同じだ。
何度殴っても敵は倒れない、スパイトネガで威力を高め打てばめり込みくぐもった声は聞こえる。
だから効いてはいるのだろうけれど、一向に限界を迎える様子は見られなかった。
-
拳が互いの胸を叩き、揃って後退る。
装甲を突き破って生身の体諸共貫く勢い。
外皮は意味を為さずに、心臓まで届かされそうなパワー。
殴られた箇所から訴える痛みは軽くない、だが退きはしない。
これ程までに楽しい殺し合いを止める理由が、アークワンには無く。
破壊の衝動が消えない以上は、アナザーディケイドが止まる事は絶対にない。
再び拳が互いに傷を付け、血を吐き出させる。
歓喜の笑顔とそうではない感情。
正史において、五代雄介と繰り広げた最終決戦とはまた違う凄惨な拳の応酬がそこにはあった。
「アアアアアアアアッ!!!」
アナザーディケイドが右頬を叩けば、アークワンは左頬を打つ。
視界は絶叫マシーンを降りた後よりも酷くぐらつき、吐き気が込み上げる。
脳を鷲掴みにされ揺さぶられた気分だ。
よろめきながら再度後退り、同時に片手を翳す。
ドライバー部分から腕へとエネルギーを流し込む。
善意の力で無ければ、民を守護する正しき王の力でもない。
滅びを与える悪意と破壊の波動を発射、負のエネルギーが拮抗を見せる。
核が輝きを増した分だけ威力は増し、打ち消せない余波が両者を痛め付けた。
「っ…!!」
「ガァッ…!!」
揃って吹き飛ばされ距離が開く。
濡れた地面へ背を付け、天を睨みその身に祝福の雨を受ける。
火照る身体を冷やし一息つくにはまだ早い。
敵はまだ生きている。
まだまだ遊べて笑顔になれる。
生きているのは許せない、破壊しなくてはならない。
-
「グゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ…!!!」
アナザーディケイドの腰部分、世界の破壊者のドライバーに似た装飾が発光。
溢れ出たエネルギーは今しがたのように直接ぶつけるのではない。
より強力な一撃で破壊を完了させるのだ。
カード型のエネルギー体が作り出され、決着へ導く道となる。
『PERFECT CONCLUSION』
『LEARNING END』
アークワンが放つのもまた最大の一撃。
指輪の魔法使いを仕留め、絶対的な絶望を見せ付けた力を今一度叩き込む。
アークローダーを押し込む回数は10。
人類が犯した大罪を並べ立てる。
悪意こそがアークワンの力の源、滅ぶべき人類の存在がアークワンを強くするのだ。
睨み合うのは一瞬、跳躍し跳び蹴りを放つ。
威力は共に最上級、どちらが滅んでもおかしくはない。
足底同士が激突、互いに今の位置からは押し込ませないし押し込めず拮抗。
されど、長くは続かなかった。
「グ…オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
火花が散り勢いが弱まる。
破壊者の肉体が崩壊を始める様は、死が彼を引き摺り落とさんとするかの地獄。
変身後の力がどれだけ高くとも、変身前はそうもいかない。
アナザーウォッチを埋め込まれた時点で既に、承太郎は満身創痍の状態。
殺し合いから退場するのも時間の問題だった。
消える寸前の灯をアナザーウォッチの力でほんの少しだけ、先延ばしたに過ぎず。
疲弊と傷を負いながらも、未だ死には程遠いダグバを相手に勝てるか否か。
口に出すまでもない答えが現実のものとして、二人だけの戦場に広がっている。
此処に正義はない。
最後の時まで抗う誇りの意思は穢され、暴力に支配された殺し合いが行われただけ。
承太郎の魂はきっと、アナザーウォッチを埋め込まれた瞬間もうこの世にはなかったのだろう。
「ッ!!!!!!!!!!!!」
「楽しかったよ、バイバイ」
破壊者の見る景色は黒に染まる。
悪意に彩られた光景に、ほんの少し付け足すとすれば。
破壊の衝動が仲間に向けられる事無く、滅びを与えられた。
それが唯一の救いなのかもしれない。
-
こうして悪意に蹂躙された者達の舞台は幕を閉じた。
されど物語はまだ終わらない。
憎悪の巨人と抗う戦士達、その続きを見るとしよう。
-
◆
「バリー…!」
呼んでも答える相手はもういない。
失われた頭部では出会った当初の軽い言葉も、起きてからの哀愁漂う台詞も話せない。
バリー・ザ・チョッパーは凛の目の前で死んだ。
殺人鬼としての本性を、とうとう一度も露わにする機会を得られずに。
バリーが実は死刑判決を受ける程の凶悪犯罪者だったと、凛は知らない。
この先アルフォンスが話さなければ、恐らく永遠に知る時は来ない。
確かなのはバリーは凛を守って死んだこと。
彼に逃げろと言われその最期を目撃し、状況を呑み込めない一般人ではない。
思う所は勿論ある。
助けるだけ助けておいて、礼も借りの一つも返させてくれないなんて。
だけど今はそういった感傷も全部後回しだ。
バリーが足止めできたのは極僅かな間だけで、巨人の脅威は変わらずある。
踵を返し全速力で駆け出す。
『■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!』
子供一人だろうと見逃してはくれないらしい。
真後ろから方向に肌が泡立ち、しんのすけの小さな体が吹き飛ばされそうだ。
校庭で初めてサーヴァント同士の戦闘を見た時以上の、死が迫りくる緊張感には凛も焦らずにはいられない。
(ヤバい追い付かれる…!!)
同年代の幼稚園児に比べれば非常に高い身体能力も、相手がこれでは逃げ切れない。
支給品を使ってどうにかするか、バリーから受け取ったトランプはあと一枚残ってる。
役立たずで裏切り気質のブタはともかく、後の二人なら何とかなるかも。
いや、流石に巨人相手ではどこまでやれるのか分からない。
というか元々自分に支給された武器はどうなったんだ。
産屋敷に襲われて奪われた、ならその産屋敷を仕留めた黎斗がドグーを持ってるのか。
こんな事ならルブランにいる間にさっさと返して貰えば良かった。
あれこれ考えが浮かんでは消える頭目掛けて、拳が振り下ろされ――
-
◆◆◆
「ぐっ……」
見えたのは鉛色の雲に隠された空、ではなく。
見覚えの無い天井と、パラパラ舞う欠片。
鈍い痛みを噛み殺し蓮は体を起こす。
巨人が地上目掛けて拳を構えた時点で、蓮達全員が動き出した。
あのサイズの敵が勢いを付けて落ちて来る。
迎撃と防御の選択は有り得ない、自ら死を選ぶようなものだ。
四方八方へ駆け出し範囲外へと避難。
全員が支給品や個々の能力により、只人以上の身体能力を我が物としている。
それでも巨人の殴打で放たれる衝撃波には完璧な対処が追い付かず、砲弾かという勢いで吹き飛ばされた。
民家の一つに叩きつけられ、そのまま壁を粉砕し不法侵入。
カートゥーンアニメのような目に遭い五体満足なのは、ジョーカーに変身していた恩恵だろう。
「そっちは無事か…」
外れたドライバーとメモリを拾い再変身、外に出た時声が掛かった。
黒の衣服が所々破れ、生々しい傷跡が見え隠れする少女。
蓮と違い身を守る装甲を持たない為に、受けたダメージはずっと多い。
仲間の負傷にこれまでは何も出来なかった、今は違う。
「ペルソナ!」
ホウオウのスキルを使いジューダスを回復。
ディアラマの効果で出血が止まり、傷も大部分が塞がる。
完治まではいかずもう一度スキルを使おうとしたら、これで十分だと止められた。
戦闘に支障が出ないなら問題無いのだと言う。
『良いんですか坊ちゃん。乙女のお肌をもっと大切にしてあげなくて』
「気色の悪い言い方はやめろ。とにかく礼を言う」
どういたしましてとの返答もそこそこに急ぎ巨人の所へ戻る。
吹き飛ばされた他の皆も心配ではあるものの、特にマズいのは凛とバリーだ。
嫌な予感に背をけ飛ばされ急行、見付けたのは下半身だけの珍獣と逃げる幼児。
また間に合わなかった、湧き上がる無力感に苛まれる自分を叱咤する。
後悔云々よりも危機を迎えた凛の救出のが最優先だ。
-
発見した時点でジューダスは翼を展開、巨人の元へと飛行。
「マガツイザナギ!」
速さはあるが間に合うかどうかは賭け。
ジューダスを対象にスキルを使いつつ、ジョーカーも取り零してなるものかと己を奮い立たせる。
首元を突き刺す悪寒が巨人に攻撃対象の選択を逸らせる。
構えた拳はそのままに、上半身だけで振り返り見た。
己が身を弾丸と化し、こちらを貫かんと迫る天使を。
突っ込んで来る敵を嘲笑いはしない。
生きる全てが、今の巨人には滅ぼすべき怨敵でしかなかった。
「幻影刃!」
神速の突きに合わせるように拳を突き出す。
加速の勢いを乗せたとはいえ、真っ向勝負ならジューダスの分が悪い。
シャルティエの切っ先と拳が激突。
肉を貫いた手応えは無く、後方へと押し戻される。
「くっ…!」
襟を掴まれ強引に引っ張られている気分だ。
翼に力を籠め強引に踏み止まる。
ダメージは与えられずとも、凛の殺害阻止には成功。
『オオオオオオオオッ!!??!』
体勢がよろめきたたらを踏む。
威力も強度も巨人の方が遥かに上。
まして硬質化させた拳ならば、吹き飛ばすどころか肉片の雨を降らせる。
そうならずに済んだのはジョーカーのスキルの恩恵。
ヒートライザをジューダスに使いステータスを上昇、巨人の拳ともぶつかり合える力を手に入れた。
-
『JOKER!MAXIMAM DRIVE!』
「ライダーキック!」
そのジョーカーも一歩遅れて到着。
マキシマムスロットにメモリを叩き込み跳躍、切り札の記憶が身体機能を最大限に高める。
右肩目掛けて跳び蹴りを叩き込む。
剥がれ落ちる肉片と、またもやよろめく巨体。
傷自体は時間を置かずに治癒されるだろう、しかし狙いはそこじゃない。
巨人の足止めは十分だ。
「凛!」
「ごめん助かった!」
敵意を自分達へ引き付けたなら、凛が離れる隙が出来る。
走り出す小さな背中を見送る余裕は無い。
凛の後ろ姿を塞ぐように、巨人が体勢を立て直し咆哮。
最初の標的は、蹴り付けた反動を利用し屋根に着地したジョーカーだ。
目障りな害虫を叩き潰すべく平手が頭上より襲来。
足首のアンクレットがジョーカーの脚力を強化、脱兎の如く駆ける。
崩壊する家屋を背に別の建造物の屋根へと飛び移った。
「ネガティブゲイト!」
双剣を翳しジューダスが晶術を発動。
巨人の背後へ魔空間が出現。
見えない力に絡み付かれ、巨人をその場に縛り付けた。
続けて唱えるのもまた闇属性の晶術。
魔空間が収縮、巨人を脱出不可能の牢獄へ閉じ込めるべく引き摺り込む。
-
ネガティブゲイトも、今放ったイービルスフィアも闇属性。
パラゾニウムの効果で両方共に通常時以上の力を発揮した。
だが足りない、巨人を捕らえ決着へ持って行くにはまだまだ力不足。
腰を捻り上半身を大きく回して、強引に拘束を脱する。
「これでも無理か…」
元から大きな期待はしていなかったが、現実に見せられると表情に翳りが増す。
自由を取り戻し巨人はじゅーだすへ飛び掛かる。
サイズがサイズだ、等身大の相手以上に十分な距離を取らねば圧し潰されてしまう。
目の前を蘭子の身長の数倍はある指が通過、発生する余波だけで吹き飛びかねない。
翼の扱いには慣れてきているのが幸いし、どうにか体勢を維持。
反対の腕を伸ばされかけた時、地上からの銃撃が起こった。
トランスチームライフルを連射するブラッドスタークだ。
向こうもまた装甲を纏っていたお陰で、戦闘続行が可能な程度にはダメージを防げたのだろう。
豆鉄砲を撃つ目障りな赤を睨み付ける。
敵意が今度は自分に移った、そう察したブラッドスタークも行動を開始。
棒立ちで撃っているだけでは、どうぞ殺してくださいと言っているのと一緒。
地上を駆けるブラッドスタークを巨人が追跡、動きは速いが未だ攻撃範囲内からの脱出は出来ていない。
全身を赤い影状に変化させ回避、飛来した拳はまたも地面を砕くのみだ。
――ICE STEAM!――
実体化と同時に得物を構える。
バルブを操作し高熱硬化弾に追加効果を付与。
スコープ越しに狙うは地面に拳をめり込ませた巨人、これだけ大きな的を外す素人ではない。
『蓮!さっきの鳥を使え!』
「っ!ペルソナ!」
冷気を纏った銃弾が次々に拳部分へ命中し、あっという間に凍り付かせる。
間髪入れずにジョーカーがホウオウで追撃。
共犯者の言葉に従い、放つスキルはマハフレイラ。
フレイラよりも広範囲に核熱属性のダメージを与える効果が、此度も抜群の成果を叩き出す。
核熱属性のスキルは感電以外に凍結状態の敵に対しても、高い威力を発揮するのだ。
めり込ませた地面諸共右拳が氷に覆われ、再度身動きが封じられた。
少しの間だけでも隙は隙、三人が一気に畳みかける。
-
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』
歴戦の戦士たちの連携すらも巨人は上回る。
アスファルトへ蜘蛛の巣のように亀裂が生まれ、右腕を振り上げた。
凍結し拳と一体化した地面の一部を引き剥がしたせいで、道路には大きな窪みが出来る。
右腕を大きく振り回す様は子どもの仕草に似ているが、被害の規模は桁違い。
巨大な風車と化した右腕で起こす突風に、堪らず脚が地面から浮きかけた。
風の発生が巨人の目的ではない。
激しく揺さぶられ続けた結果、右手の氷が砕けすっぽ抜けた地面の一部が飛来。
「粉塵裂破衝!」
――COBRA!STEAM SHOT!COBRA!――
発生させた土煙に双剣で火花を灯し爆発。
フルボトルの成分を付与しコブラ型のエネルギー弾を発射。
高火力の攻撃で対処に回り、地面の一部は空中で霧散。
雨と共に地面へ細かな欠片が落ち、こちらへの被害はゼロとなる。
その代わりに、巨人はまたしても無傷で自由の身へと戻ったが。
『にしても、大きさの割に反応良過ぎじゃないですか?』
ボヤくシャルティエに全員が同意する。
巨体に見合わぬ俊敏な動き。
理性を感じないにも関わらず、ただ暴れ回るだけでなくあの手この手でこちらを殺しに来る。
単に巨大で暴れるだけでは無いのが非常に厄介だ。
広瀬康一の巨人化による暴走はこれが初めてではない。
殺し合いが始まった直後、まだボンドルドによる最初の放送よりも前。
ロビンと出会った康一が巨人化を試した際、制御出来ずに暴走した。
だがあの時と違い、今の康一はケロボールによる洗脳を受け、理解出来ない憎悪に支配された状態。
康一自身の理性は無く制御が効かなくとも、脳内で響く「滅ぼせ」に体が自然と従っている。
溢れ出る憎悪、見境なしに暴れる暴走状態、そしてシンプルながら効果的な命令。
これら三つが合致した結果が今の康一だ。
康一の精神による制御は行えず、だが目に付く命を滅ぼす為に最適な動きを実行する。
暴走状態でありながら硬質化や機敏な動きも可能、カイジ達が遭遇した時とは比べ物にならない脅威と化したのである。
-
「文句を言ったところで始まらないだろう」
敵の力は禁止エリアを脱出した直後から今に至るまでで、嫌と言う程分かった。
もし巨人の情報を知っていただろうゲンガーがいたら、もう少しマトモな対策を取れたかもしれない。
いない者を頼っても仕方ない為、わざわざ口に出す気は無いが。
現状、自分達が取れているのは決定打にならない攻撃を続けるのみ。
これで相手の体力が切れて元に戻れば万々歳。
と言いたい所だが、先にこっちがガス欠になっては目も当てられない。
『奴さん、休憩時間はくれないみたいだぜ?』
言うや否や跳び退きながらトランスチームライフルを撃つ。
ブラッドスタークに言われるまでも無い、拳を振り被る巨人を前に突っ立ったままという選択肢は皆無。
空中や民家の屋根に避難し躱す。
ペルソナのスキルと晶術が狙うもやはり効いた様子はない。
鬱陶しい連中への苛立ちをぶつけるように、巨人の剛腕が振るわれ、
無数の黒いハリガネが飛来した。
『―――――――ッ!!!!!!!!!!!』
槍のように真っ直ぐ突き刺さんと伸びるものもあれば、蛇に似た動きでくねるものもある。
一本一本が異なる動きを見せ巨人へ群がった。
まるで花の蜜を求める虫、或いは餌に食いつく獣か。
雨を払い除け、瓦礫を粉砕したハリガネはどこから生えているのか。
答えはすぐに判明。
倒壊した家屋をぶち破り現れた、青い怪物からだ。
-
◆
時は数分前に遡る。
巨人が放つ拳の連打で全員が吹き飛ばされた時だ。
受け身も取れず民家に頭から突っ込み、うつ伏せで倒れる少年がいた。
「う……あ……」
青い装甲で全身を覆った少年、アルフォンス。
生身だったら重症か、死んでもおかしくは無かった。
蓮やエボルト同様、予め変身しておいた事で即死に至るダメージは無い。
それなら痛みを押し殺して立ち上がり、他の者と共に戦いを続けるべき。
なのに出来ない、倒れたまま呻き声を発するだけで立ち上がれない。
吐き出した血の上に顔が倒れ、仮面が汚れた事に気付く様子すら無かった。
確かにアマゾンネオの装甲はアルフォンスの命を救った。
しかし即座の戦線復帰を果たすのが簡単ではない、そんな問題が一つ。
アルフォンスは痛みや疲労に慣れていない。
鋼の錬金術師の弟して、元の体を取り戻す度を続け戦いには慣れている。
だが殺し合いに巻き込まれる前のアルフォンスの体は、血も肉も無い魂だけの鎧。
痛覚が無い故に痛みへ泣き叫ぶ事はない、疲労が無い故に何時間だって動き続けられる。
人体錬成に失敗したあの日、兄の手で鎧に魂を定着され早数年。
嘗てあった人間の感覚へ完全に慣れるには、余りに時間が足りなかった。
「が…あ……!」
強化した身体能力であっても疲れは感じる。
村で遭遇した巨人との鬼ごっこと街での戦闘、蓄積した疲労は重しと化す。
装甲越しで全身を蝕む痛み、エドワードや皆はこんな痛みを味わいながらも立ち上がったのか。
それなら自分もと己へ喝を入れようにも、激痛は容赦なく思考を鈍らせる。
ここまで痛いのは修行で島に放り込まれた日々以来か、それとも自分の体を対価で持って行かれた時かもしれない。
余計な事まで考えそうになり、意識がおかしくなるのが自分でも分かった。
まだ戦える、立って戦わなくては。
どれだけ強く思っても痛みと疲労は消えてはくれず、体も言う事を聞かない。
数年ぶりの痛みは致命傷でなくとも、一つの予感を強くイメージさせる。
生物ならば誰しも最後に待ち受ける死を。
それが最悪の事態を引き起こす。
体が強く訴えかける。
生きろ、まだ死にたくない、生き続けたい。
誰もが望む己の生、誰からも死を望まれた少年の体が死を回避すべく抗い出す。
「だ…めだ…!」
死を望む気は無くとも、それだけは駄目だ。
アルフォンスの抵抗虚しく、生を欲する本能が目を覚ます。
獣を封じる檻は砕け、千の翼を広げた異形が産声を上げた。
錬金術師の意識は暗黒の底へ落ち、もう一体の怪物が解き放たれる。
-
◆
アマゾンネオ、オリジナル体。
ドライバーを用いたのではない、千翼本来のアマゾンとしての姿。
放送前、アナザーカブトとチェンソーの悪魔を相手に三つ巴を繰り広げた怪物が再び現れた。
目的はただ一つ、生きる。
アルフォンスの意識が封じられた今、オリジナル体が従うのは己の本能ただ一つ。
生きる為に敵を殺す。
今の今まで共闘した者達も、どうにか止めようとした巨人も等しく敵だ。
自身の生存を脅かす存在をオリジナル体は決して認めない。
嘗て自らが手に掛けた4Cの隊員達と同じ末路へ叩き込むべく、無数の触手が飛来する。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』
最も目立つ巨体を持つせいか、真っ先に狙われたのは巨人。
全身にハリガネのような触手が突き刺さり、体を赤色に染め上げる。
人体だろうと紙切れ同然に引き裂き貫く触手に襲われ、だが怯むどころか平然と反撃に出る。
突き刺さったままの触手を掴み、自らの元へと引き寄せた。
全身が宙に浮きオリジナル体はされるがままだ。
アマゾンと化し重量が増しても巨人の力には敵わない。
触手を掴んだままで地面に叩き付け、そこでようやく手を離した。
6本の腕を地に付け耐える、アマゾンの生命力はちょっとやそっとじゃ失われない。
オリジナル体の背中から更に触手が伸び、腕を貫き切り裂く。
痛覚の薄い巨人相手にはそれでも隙を作れはしない、伸ばした触手を引き千切られた。
血が撒き散らされ、オリジナル体は獣染みた悲鳴を上げる。
その間にも拳は迫り、康一の精神でまた一つ屍を生み出す気だ。
背後に大きく跳び回避、飛び散る地面の地面の破片を多腕を振るって落とす。
傷こそ痛むがオリジナル体は他のアマゾン以上に再生が早い。
失われた分の触手が徐々に元の形を取り戻していく。
-
巨人とオリジナル体。
互いを敵と見ている怪物二匹にとっては、他の存在もまた殺す対象に他ならない。
『で、今度はこっちか!節操無い男は嫌われるぜ!』
四方八方から襲い来る触手を撃ち落とす。
軽口を叩きながらも、ブラッドスタークの動きに無駄はない。
「ちっ…!」
巨人の瞳が空を舞う黒を捉えた。
来る攻撃に備えジューダスは双剣を構え直す。
「アルセーヌ!」
地上でオリジナル体に狙われたのはジョーカーもである。
アルセーヌが長い腕を振るい、ナイフ以上に鋭い爪で防ぐ。
時にはスラッシュを使い纏めて弾くも、如何せん手数は向こうが上。
(ミチル、使わせてくれ)
今は亡き仲間のデイパックに残された短刀を振るい、ペルソナだけでなくジョーカー自身も触手を防ぐ。
怪盗団としてシャドウと戦う際に、使い慣れたサイズの武器だ。
流石にスチームブレードのような特殊効果は無いが、切れ味は確か。
パレスでの経験を発揮し、殺到する触手に対処する。
「ぐあっ…!」
ただ多いだけならどうにか防ぎ切れただろう。
しかし触手は一本一本がオリジナル体の意のままに動く。
刃や爪が当たる寸前でカーブを描いたようにくねり、攻撃の空振りを誘う。
そうして生まれた隙に、ジョーカー本体を狙うのだ。
-
『随分お利口じゃねぇか。手のかからない子供で羨ましい限りだよ』
ブレード部分で触手を弾き、時には銃でオリジナル体を狙い撃つ。
だが引き金を引こうとすれば触手はトランスチームライフルの銃身に絡み付き、狙いを強引に外す。
銃一丁ではこちらも手が足りない。
『ならジューダスの真似事といこうかね』
エターナルソードで触手を斬り、銃を自分の手元へ戻す。
強度と切れ味の高さは既に把握している優秀な武器だ。
自分へ迫る触手はエターナルソードで防ぎ、トランスチームライフルでジョーカーに近付く触手を撃ち落とす。
短く礼を口にしジョーカーもペルソナをチェンジ。
広範囲への攻撃で纏めて消し飛ばした方が手っ取り早い。
「ペルソナ!」
マガツイザナギが長得物を振り回し、木っ端微塵に切り裂き回る。
脅威を察知し触手を離すも斬り落とされ、地面を汚す血が雨で洗い流された。
――ELECTRIC STEAM!――
纏わり付く触手が無くなり、これでようやっと反撃に移れるというもの。
電気を帯びた高熱硬化弾がオリジナル体に命中。
痺れさせ動きを止める、ブラッドスタークの予想を裏切りオリジナル体は急接近。
6本腕の猛打をエターナルソードで受け流し後退。
入れ替わりにジョーカーが参戦、格闘術と短剣を駆使して渡り合う。
相棒が前に出るなら援護を務めるまで、再度蠢く触手をトランスチームライフルで撃ち落とす。
『次から次へと仕事が舞い込んで嬉しいねぇ!アイドル冥利に尽きるってやつだ!』
なァ千雪と軽口を叩けば、そんな場合じゃないでしょうと頭の中で返された。
-
ジョーカーとブラッドスタークがオリジナル体を相手取る。
という事は当然、巨人とはジューダス一人で戦わねばならない。
空中を縦横無尽に飛び回り、技や晶術を繰り出す。
一撃だろうとまともに受けれはしない緊張感に、冷や汗が額に浮かぶ。
されど、動きのキレが吹き飛ばされるより増しているのもまた事実。
(蓮の力の効果か…)
体が軽く、風都タワーでの戦闘以上の力を発揮出来る。
ヒートライザの効力を実感し、改めて胸中で蓮に礼を言う。
もっと早くに使わなかった理由にも察しは付く。
強力な術とはえして要求される対価も大きい。
連発すればあっというまに燃料切れとなる、だから使い時を考えていたのだろう。
とはいえ、効果が永続的でない事もまた重々承知。
加えて能力が強化されても、巨人の脅威はまるで下がってはくれない。
これまで同様、手を抜ける場面は一瞬たりとも存在しない。
急加速して巨人の頭上を飛び背後を取った。
敵は振り返り様に腕を伸ばしての薙ぎ払い、急降下して回避。
ストーンザッパーを唱え石斧が命中、分かっているが反応は薄い。
「スティングレイブ!」
地面から生えた石の槍が足底へ突き刺さる。
これで機動力を少しでも落とせるかと期待するが無意味。
むしろ小癪な抵抗を続けたせいで、余計に攻撃の勢いが強まった気がしてならない。
怪物の蹂躙劇へ変化を見せる戦場。
だが人類の反撃を認めないと、一体誰が言ったのか。
新たな風を運ぶ最後の一人が、とうとう舞台へ姿を現す。
-
○○○
何も見えない。
何も聞こえない。
何も感じない。
こうなったのは自分が世界に拒絶されからだろうか。
それとも、自分の方が拒絶したから?
分からない、何が正解なのか全く分からない。
或いは、分かっていて気付かない振りをしているのかもしれなかった。
守るべきものを守れず、剣を振るう手も失って。
王の体で大失態を犯した現実は決して覆せない。
急に、何の前触れも無く意識が浮上する。
声が聞こえる。
何かが見える。
自らの意思とは関係なしに、目覚めへと導かれる。
「ここは……」
到底現実のものとは思えない光景があった。
前後左右上下、自分以外の全てを埋め尽くす顔、顔、顔。
啜り泣き、恨み言を垂れ流し、壊れ切った笑いを叫ぶ。
質の悪い夢魔の術中に落ちたと、そう思っても仕方のない悪夢のような空間。
(もしかして本当に夢ですか?)
自分が最後に覚えているのは、市街地での戦闘。
あれも巨大な土偶に歪な形の豹など、荒唐無稽な夢の如き絵面だった。
しかし紛れも無い現実、夢である筈がない。
兜を相手にする城娘本来の戦場ではなくとも、騎士の本懐を果たすべき場所。
間違ってもこのような、狂気を絵に描いたような場面は無かったろうに。
-
「いえ、この声は……」
悪夢の世界へ足を引き摺り込まれたと思い、違うと気付く。
先程から延々と響き止まる事の無い怨嗟の声。
これらには聞き覚えがあった。
「まさかここは、賢者の石の…?」
嘆き、憎悪、諦観、絶望。
人生に訪れる最悪を味わい、負の感情を口に出す声。
耳に入れるだけで神経が磨り減るこれらと同じものを、山間部での戦闘で聞いた筈だ。
確かそう、賢者の石を呑み込んだ時に。
『やっと起きたかよ寝坊助の嬢ちゃん』
「なっ!?」
目の前に顔があった。
他のものよりも大きく、この空間内で最も存在感を醸し出す顔だ。
困惑が蔦となり絡み付いた脳が急速に事態を把握。
聞き覚えのある声、奇怪な空間、そこに住まう謎の存在。
説明を受けた内容が脳内を駆け巡り、正体へと辿り着く。
「ホムンクルスのグリード、ですか…?」
『おうよ。やっと訂正しなくてもいいみてぇだな』
賢者の石に宿る、七つの大罪になぞらえた人造生命体。
もしかしたらとアルフォンスから説明は受け、不安を抱きつつも警戒してはいた。
悪い予感は現実のものとなり、こうしてグリードは目覚めたらしい。
ということは、自分がこの空間にいる理由も見えて来る。
-
「あなたは私、いえ、王の体を我が物として…」
『そうだ、と言いたいところなんだが。そいつは嬢ちゃん次第だな』
「…?どういうことですか?」
問答無用で体を乗っ取られたと経過したが、グリードの反応はどうも違う。
大まかながらに説明されたのは、自分の意識が眠っている間の出来事。
殺し合いに乗った者達との戦闘と顛末。
体を勝手に使われたが、結果的に自分に代わってリン達を守ったという事になる。
尤も全員無事とはいかず、ゲンガーは命を落としたらしい。
それについてグリードに責任転換する気は微塵もない。
いるべき時にいなかった自分の責任だ、また一つ自らの不甲斐なさに傷口が広がった。
「そう、なのですか…」
『先に言っとくが礼欲しさにやったんじゃねえぜ、キャメコの嬢ちゃん』
「あ、あの!それは私の名前では…いえ私の事を指しているのは間違いないですけど、しかし!」
バリーが付けた珍妙なあだ名が定着しているらしい。
それはともかく、グリードの本題はここからだ。
『悪いが俺はこの体を手放す気は無い。だがこのまま一方的に使い続けるのもちょいと納得がいかねぇ』
「ではどうすると?」
『難しい話じゃあねぇ、取引と行こうぜ。結果的にだが俺はお前の連れのガキを守った、その分の対価を寄越せって話だ』
等価交換、錬金術の世界での大原則。
何かを得る為に同等の何かを差し出す。
「……」
グリードからの要求に黙り込む。
話を聞くに石化して失われた右腕は元通りとのこと。
アルフォンスの説明にもあった、ホムンクルスの持つ再生能力。
賢者の石の命を消費した事は、既に自分も白い弓兵との戦闘で魔力の代用品に使った為あれこれ文句を付けはしない。
腕は治った、つまりまた剣を振るえる。
となると後は自分の心の問題、意思と言う名の剣が折れたままか否か。
「聞かせてください。王の体を使い、あなたは何を為さんとするつもりですか?」
『決まってんだろ?全部手に入れるんだよ!金も!女も!地位も!名誉も!それに、ボンドルドだかってのが持つ力も!』
さも楽し気に恥じる素振りも見せず、声高々と己の欲を叫ぶ。
自らの在り方に微塵も疑いを抱きはしない、むしろ強欲である事の何が悪いと言わんばかりだ。
これは確かに、名前の通り底なしの欲望の持ち主だ。
-
――『おいおい聞いたかライダー?この騎士王を名乗る小娘はよりにもよって、故国に身命を捧げたのだとさ!』
――『無欲な王など飾り物にも劣るわい!』
「……っ」
思考を掠める何者かの姿と声。
一度見た覚えのある赤髭の巨漢と、初めて見る黄金を纏った男。
アーサー王の物語には存在しない彼らは、王が聖杯を求めた戦での記憶か。
今の一瞬だけで詳しい関係性は把握できない。
ただ友好的なものでないんだろうとは察せられる。
「……」
グリードに何を差し出すのか、そもそも自分はどうしたいのか。
凛が傷付くのを防げず、産屋敷(無惨)翻弄され剣を失う始末。
もしグリードが目覚めていなければ、彼らは今も生きているか分からなかった。
こんな様で城娘を、騎士を名乗れるのか。
(いえ……それをやればきっと…)
剣を置くのは簡単だろう。
だが思い出せ、自分はどうして城娘になった。
架空の存在の自分が何故戦う力を手に出来たのか。
騎士道物語を、偉大なる王と円卓の騎士の物語を愛する人々がいたから。
自分はその時代の人々に望まれ描き出された、王と騎士の理想像。
彼らが望んでくれたから、剣でいられる。
滅多な事では現実に顕現出来ない。
だが此度は王の体を与えられ、騎士の本懐を遂げられる。
滅多にあっては困る機会であれど、その例外が起きたのに意気消沈し戦意を捨て去るとは何事か。
アーサー/アルトリア由来の生真面目な性格が、未熟な己を内心で責める。
-
「……グリード。凛さん達を守ってくれたのには感謝しています。しかし、王の体をこのまま差し出す事は出来ません」
『ほう?なら礼一つで済ませようってことか?』
口調は揶揄うようだが声に若干の険しさが宿る。
フェアでない取引で場を済まそうと言うのなら、引き下がるつもりはない。
緊張が漂い出す空気を感じ、だが話はまだ終わっていない。
向こうが望む答えかどうかは分からない、だが自分の中で導き出した答えがある。
自分がどんな存在なのか、何を思って剣を手にしたのか。
「いいえ。私は…あなたの物語も守ってみせます」
『……は?』
彼はきっと、善人ではないのだろう。
一つボタンが掛け違えば、会話の余地もなく武器を交える関係になったのかもしれない。
だけど、白い弓兵のように信念も決意もなく暴威を振るう悪とはまた違う。
強欲を声高々に叫んだ姿は凶悪なれど、自らの在り方を疑わないその姿勢自体は否定しない。
それに黙って乗っ取れば良いのにわざわざ交渉を仕掛ける辺り、妙な所で義理を忘れないようだ。
「あなたが凛さん達を犠牲にして欲を満たし、王の御身で罪なき者の屍を築き上げる気ならば、我が身を犠牲にしてでもその欲望を挫かせてもらいます」
ですが、と続ける。
「あなたが我らと共に行くのならば、ボンドルド達を打ち倒した上で欲を満たすと言うのなら、あなたが紡ぐ強欲の物語も私に守らせてください」
もし王の体を強引に奪い取り、凛達を殺す気なら阻止してみせる。
だがそれ以外の道を選ぶのなら、グリードの物語を否定する気は無い。
倒すべき敵と見定め、彼の物語を終わらせはしない。
いずれ誰しもカムランの地が訪れ、物語は終わりを告げる。
その終わりは他者が悪意で押し付けるべきものではない。
凛やバリー、ゲンガーだけでなく、守らなければと決めた者達。
その中に彼も加えたっていい。
強欲なんて程では無いけど、少しだけ欲張りだろうか。
-
『……クッ、ハハハハハハハッ!あのガキだけじゃなく俺も守ってくださるってか?正気か?』
「伊達や酔狂で口にしたのではありません」
真剣に話したのにどうして笑われるのか。
ムッとしても目の前の顔はゲラゲラ笑ってばかり。
体があったら腹を抱えて転げ回っている事だろう。
不満気な様子を見せてもグリードからは笑いが止まらない。
自分をも利用し、世界の王になると啖呵を切った皇子とはまた違う。
手が届く範囲のガキどもだけでは飽き足らず、強欲すらも守る対象に入れるとは。
何とも傲慢で、恐れ知らずで、そして欲深い。
『面白ぇ女だなお前は!欲しくなっちまったよ!』
「なっ…!お、おかしなことを言わないでください!」
『あー笑った笑った。あいつの体に入った時以来か?まぁとにかくだ、言ったからには途中で折れてガッカリさせるなよ?』
当たり前だと言い返そうとし、視界が薄れて行く。
意識がもう一度封じ込められるのか?
違う、これは覚醒に向かっているのだと分かる。
もう一度戦場へ戻る時が来たのだ。
(王よ…もう少しだけ私に力を……)
『ああ言い忘れてた。今向こうじゃ親父殿でも作らないような化け物が暴れてるからよ、急いだほうが良いぜ』
「はい!?」
早く言ってくださいという抗議は宙に消え、騎士が再降を果たす。
-
◆
『ッ!!??!』
風が吹いた。
黒衣の天使を狙う憎悪の鉄槌が、あらぬ方へと弾かれた。
標的たる天使は何もしていない。
というか彼女(彼)自身も、少しばかり困惑している様子が見受けられる。
巨人は己が一撃に横槍を入れた小癪な者を、天使は己への脅威を遠ざけた救いの主を見やる。
四つの瞳を向けられたのは騎士の少女。
青い生地のスカートは所々が破け、されどその佇まいを見れば誰もが平伏間違いなし。
数多の逸話が生み出した城娘、キャメロット城。
騎士王の肉体共々戦場への復帰を果たした。
(これはまたとんでもない…)
弓兵や歪な猛獣、そして相容れずとも信念を掲げた騎士。
相対したどの敵よりも遥かに巨大で、戦慄せざるを得ない。
かのサイクロプスやタイタン等、神話上の名高い怪物の名がよぎる。
自分が眠りこけている間に、事態はとんでもない方へ動いたらしい。
起きたばかりの復帰戦に、改めて全霊を以て挑む。
とはいえ構えた得物は逆刃刀。
不殺の信念を籠めた刀も、かの人斬り抜刀斎ならばまだしもキャメロットとは相性が悪い。
これまで使っていた剣が無い以上は、得意とする刀剣類の形を取る逆刃刀を使うしかなかった。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』
一人増えた所で巨人には関係無い。
先程は妨害された鉄槌をその身で味合わせてやる。
硬質化した拳の一撃だ、サーヴァントと言えども無事でいられる保障はない。
華奢な少女の肉体からは予想も付かない脚力を発揮、その場を大きく跳び退いた。
賢者の石に加え凛との契約、少なくとも殺し合いに巻き込まれた当初に比べればずっと体が軽い。
躱した先のキャメロット目掛け反対の拳を叩きつける。
真下へ振り下ろされた腕に刻まれる複数の赤い湾曲線、真空の刃が飛ばされた証拠。
止められずとも少しでも動きを鈍らせれば上出来だ。
-
跳躍し拳を避け、伸ばされた腕へ着地し駆け上がる。
地面から顔近くまでの道を向こうが作ってくれたなら、利用しない手はない。
肩に飛び乗り巨大な顔面目掛けて肩を振るう。
敵を斬った感触は無く、殴りつけた手応え。
やはりこれは刀というより、鈍器として扱った方が良いのかもしれない。
(効き目は薄い、いえほとんどありませんね)
セイバーの腕力なら逆刃刀でも頭部を叩き潰せそうではある。
が、ここまで大きさが違うと流石に無理。
振り落とされる前に自ら飛び降り屋根に両足を降ろす。
どうにも攻めあぐねる敵だ。
「崩龍斬光剣!」
瞬間移動を伴った連撃。
双剣を巧みに操り、敵の反応を許さず刃を通す。
最後に首を狙った斬撃を放ち、硬いナニカに弾かれた。
硬質化させた拳を防御に回した、目の前で構えた巨大な手がそう伝えてくる。
(どうするよ?俺に代わるか?)
「いえ、もう少し待ってください」
瞳は巨人を睨み付けたまま、脳内に響く強欲からの提案に断りを入れる。
恐らくだが巨人相手にはグリードの防御力より、セイバーの機動力の方が必要。
しかしそれでもまだ一手足りない。
無い物ねだりと思われそうだが、あと一つ戦況を変えられる何かが欲しかった。
-
怪物は巨人だけでない。
大きさこそ比べるまでは無くとも脅威であるのは同じ。
無数の触手を伸ばし、時には自らの六腕で敵の殲滅を図る異形。
オリジナル体が望むのは己の生存、それを脅かす他生命の排除。
断固として受け入れず抵抗に打って出るは怪盗と星狩り、共犯関係を結んだ戦士達。
「ペルソナ!」
アルセーヌが放つ蹴りを複数の腕を交差させ防御。
僅かに後ろへ押し出しよろけた所へ走る刃。
短刀とアルセーヌの両腕による三刀流が触手を切り払い、道を作る。
腕を防御に向かわせはしない、ジョーカーの拳が胴体を叩き呻かせた。
「ぐぅっ…!」
一方的にやられてばかりのオリジナル体じゃあない。
触手がジョーカーの両腕に絡み付き縛り上げる。
変身していても引き千切られそうな痛みだ、もし生身だったらは想像もしたくない。
アルセーヌを呼び出し引き剥がそうとするが、そちらへも触手が殺到し対処に手間取った。
『遊びたいんなら俺も混ぜてくれよ!』
高熱硬化弾がバラ撒かれ触手が地面に落ちる。
両腕の自由を取り戻したジョーカー、スラッシュでオリジナル体を怯ませ後退。
追いかけて来た触手相手にはペルソナをチェンジ、ケツアルカトルのマハガルーラで吹き飛ばす。
ブラッドスタークも影状に変化し地面を這い回り回避、実体化と同時にエターナルソードで触手を斬り落とした。
だがどれだけ斬っても再生するのだからキリがない。
-
『動けなくすればもうちょい楽なんだがなァ…』
オリジナル体に電撃を付与した銃弾を何発当てても効果が無かった。
アマゾン細胞が成長した個体と違い、溶原性細胞が原因で変化したアマゾンは電撃やガスに耐性を持つ。
故にスチームブレードの電撃を浴びせたとて無駄だ。
単純な物理攻撃には呻く辺り、何でもかんでも無効化しないのは幸い。
だったらやり様は幾らでもある。
時間を掛けられる場面でも無いのだ、ここいらで勝負に出る。
「ペルソナ!」
再度アルセーヌにチェンジし夢見針を放つ。
胸に突き刺さった細い針の物理的な威力はほとんど無く、確率で敵を睡眠状態に陥らせる。
巨人に追いかけられたのに始まって、ジョーカー達との戦闘で更に疲労の蓄積したオリジナル体には効果ありだ。
意識を夢の世界へ引き摺り込む睡魔に襲われ、オリジナル体の動きが大いに鈍り出した。
ここが決め所だ、エターナルソードを地面に突き刺し開いた手を翳す。
「っ!エボルト!殺すのは…」
『心配すんな、死なない程度には加減してやるよ』
ブラッド族の持つエネルギーを破壊の力へ変換し放つ。
宙を揺蕩う触手を巻き込み、鮮血の光に覆い隠されたオリジナル体の悲鳴が響く。
それすらも赤い輝きの中に消え、腕が6本とも力無く垂れた。
夢見針の効果で意識が落ちかけたのだ、JUDO相手に放った時より手早く片が付く。
「っ……、……」
エネルギー波の放射が止まり、青い異形は力無く崩れ落ちた。
倒れた肉体に変化が現れる。
-
『やっぱりこいつだったって訳か』
青い皮膚と六つの腕、無数の触手を生やした生物はもういない。
ジョーカー達の前に転がるのは黒髪の少年。
初めて見る顔、だが正体は二人とも分かる。
腰に装着した見覚えのあるドライバーを着けていた人物、青い装甲の仮面ライダーらしき戦士。
アルフォンス・エルリックで間違いない。
「どうしてアルフォンスが…」
『凛が言ってたアマゾンだかってのの暴走が起こったんだろうよ。タイミングとしちゃ最悪だがな』
ルブランの情報交換で聞いた内容を思い出す。
メタモンと交戦した触手を操る怪物、変身前の特徴からしてそれはアルフォンスだと凛やバリーも確信していた。
アルフォンス自身は殺し合いに乗っていない、しかし体は制御不能の危険性を秘めていると。
吹き飛ばされた際のダメージが引き金になったのか。
明確な理由は分からないが、どうにか殺さずに止める事は出来た。
体に負った傷痕は痛々しくとも、上下する胸が気絶しただけと教えてくれる。
『ま、こいつについては後で良いだろ。今はどっかに隠しといてやれ』
肯定し少年を抱えて離れた場所へ避難させに行く。
ジョーカーを最後まで見送らず、ブラッドスタークは次の戦場へ移動。
終わる気配の無い激務にうんざりするが、終わらせたいなら戦う以外に無いのが困ったものである。
首を回して軽く解す。
いつのまにやら復帰したグリードをバイザー越しに眺め、違和感に気付いた。
『あんな戦い方する奴だったかねぇ?』
硬化させた両手を獣のように振り回し、戦闘中も挑発的な笑みを崩さない。
しかし今は刀を構え、様になった動きで戦場を駆ける。
戦闘スタイルがまるで違う、何と言うか身体の外見に相応しい。
理由は後で本人から聞けば良い。
傍から見ても分かる事と言えば、どうにも武器を使い切れていないくらいか。
-
『さて、と。お仕事再開ってなァ!』
スチームジェネレーターにより一時的に全機能を上昇。
蒸気を噴射しながら駆け出し、胸部装甲が発光。
エネルギー体の大蛇が巨人の足を巻き取り転倒、前のめりに倒れるも両手を突き出し支える。
両腕に力を籠めて全身が跳ね上がり、睨み付けた先で炎が迸った。
大蛇が吐き出す炎に炙られ肌が焼け焦げる。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』
焼け付く痛みも何のその。
首を落とす大太刀のように脚を横薙ぎに振るう。
頭部を潰され大蛇は喪失。
エネルギー体を何匹消されたとてブラッドスタークにはノーダメージ。
『使え!』
その隙にやれる事はやれたのだから。
エターナルソードをキャメロットに投げ渡す。
手放すのは惜しいが今は巨人をどうにかする方が先、上等な得物を渡してやる。
「!?感謝します!」
突然の譲渡に驚くより、歓喜の念が先に来る。
手にした武器は間違いなく名剣どころかそれ以上。
掴んだ瞬間に剣が秘め得る力が伝わった。
これ程の武器は人の鍛冶師が打っただけではない、もっと大きな存在の手が加わっているのではないか。
(ですが今は…!)
エターナルソードを風が覆い隠し、不可視の剣へと変える。
巨人の強大さは健在、なのに勝利は自分達の方へと傾いた気がしてならない。
-
そして、最後のピースが揃う。
『CYCLONE!』
響くガイアウィスパー、メモリを構える帽子の青年。
アルフォンスを運んだ蓮は何を思ったか変身を解除。
無論生身のままで突っ込むつもりは無い。
ただ今は直感的に、使うべきは切り札ではなくもう一本の記憶だと思ったのだ。
(新八…フィリップさん…一緒に戦ってくれ!)
「変身!」
『CYCLONE!』
解放されるは疾風の記憶。
風都を守る二人で一人の探偵、ダブルの右側が操りし力。
名は仮面ライダーサイクロン。
嘗て禅空寺一族の事件の際に一度だけ変身した、フィリップ単独の仮面ライダーだ。
全身緑一色のボディに、マフラーが垂れ落ちる。
「粉塵裂破衝!」
土煙を発生させ双剣で火花を付ける。
爆発が巨人の皮膚を焼く、だがこれすらも次の技への布石に過ぎない。
火炎にジューダスの両腕に纏わり付き、双剣に更なる力を齎す。
「浄破滅焼闇!」
悪しきを焼き潰し地獄に落とす火炎の刃。
双剣から発する高温が周囲の雨をも蒸発させる。
交差させた双剣を掲げ振り下ろし、生み出される暗黒の斬撃。
ヒートライザの効果で上乗せした威力の秘奥義に、巨人の左腕が消し飛ばされた。
-
――ROCKET!STEAM ATTACK!ROCKET!――
『こいつもおまけだ!遠慮しないで貰っとけ!』
ロケットフルボトルを装填し、トランスチームライフルのトリガーを引く。
更にブラッドスタークは左手に重火器を構え発射。
9つの砲口からとトランスチームライフル、計10発のロケット弾が着弾。
大火力には再生もすぐには追い付かず、焼け落ちた箇所が痛々しく晒された。
しかしまだだ、まだ巨人は倒れない。
だがそれはこちらも同じ。
切り札のコードネームを持つ怪盗と、騎士王の居城たる城娘が最後の一手を掛ける。
「マガツイザナギ!」
道化師のアルカナが示す、禍の名を冠された魔人。
発動するのはヒートライザだ。
キャメロットのステータスを上昇させ、勝利への布石を打つ。
更に自分自身を対象にしてコンセイトレイトを使用。
力が高まるのを実感する。
「あなたにも感謝を!」
こんな状況でも律儀に礼を告げる彼女に少々驚く。
エボルトと似たような口調だったというのに、見た目通りの生真面目な少女のよう。
脱線しかけた思考を戦場の空気へ連れ戻し、ペルソナをチェンジ。
ワイルドの特権は殺し合いだろうと健在。
決着を付けるペルソナを呼び出す。
「ケツアルカトル!」
嵐を呼ぶ園児との絆が生んだ力。
翼を揺らし巨人を威圧する様は恐れ知らずで実に頼もしい。
全ての準備は整った、後は勝利を掴みに行くのみ。
-
『ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』
なれど勝利を譲らないのは巨人だって変わらない。
いや、今の彼にあるのは憎悪のままに何もかもを滅ぼすことだけ。
杜王町を守る正義も、全ての巨人を滅ぼす執念もない。
正しいか否かは関係が無い、折れぬ意思を持たぬ時点で勝利は手に出来ない。
『CYCLONE!MAXIMAM DRIVE!』
スロットに装填したサイクロンメモリが、秘めたエネルギーを解放。
風を自在に操る固有の能力により、サイクロンの周囲に渦が巻き起こる。
横に立つキャメロットもまた不可視の剣を構え、今の自分にある最大の力を解き放つ。
その名を彼女は知らない、自分が見た王と騎士達の物語には存在しない記憶。
だけど自然と口が開く、まるでこれが正しいかのように。
「風王鉄槌(ストライク・エア)!!!」
「ペルソナァッ!!!」
風が吹く。
騎士王の、太陽のアルカナのペルソナの、切り札の記憶の。
三つの風は一つになり、最早誰にも止める事は出来ない。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!』
轟く声は怨嗟か、或いは彼自身にも分かる何かか。
勝敗は決した、巨人の暴威を風はこれ以上認めない。
浮かび上がる巨体は彼自身にもどうにもならず、遥か彼方へと姿を消す。
伸ばした手の先、拳を解き開いて何を掴もうとしたのか。
知る者はどこにもいなかった。
-
◆
失敗したかもしれない。
自身が起こした惨劇の跡を眺め、ダグバは肩を落とす。
アナザーディケイドとの殺し合いでは笑顔になれた、それはいい。
殺した三人はどれもまともな死体が残っておらず、首輪も自分が破壊してしまった。
これではモノモノマシーンとやらは使えないじゃないか。
参加者の殺害には巻き込まれてすぐ成功したので、一回だけは使えるが。
だとしても少々惜しい結果だ。
アークワンの力を使うのは楽しいが、威力が高過ぎるのも困りものである。
手に入らなかったと言えばデイパックもか。
三人の内二人のは自分が消し飛ばし、もう一つは逃げた男が持ち去った。
使えそうな道具は勿論、組み合わせ名簿が入っていたかもしれないのに。
辺りを見回しても肉塊が転がっているだけで、支給品の類は見当たらない。
少々不満気味な結果に頬を膨らますと、更に追い打ちが掛かる。
白黒の装甲が跡形も無く消失、真乃の姿を雨風激しい屋外に晒す。
「あっ、終わっちゃった」
楽しい時間はあっという間。
アークワンの変身制限時間が過ぎ、次の機械は二時間経ってから。
仕方ないと割り切ってはいるものの、不満な気持ちはどうやったって無くならない。
遊ぶ手段が一つじゃないだけマシではあるか。
アークドライバーワンを仕舞い、代わりにゲネシスドライバーを装着。
すっかり慣れた手つきでロックシードを装填し変身を終える。
「変身」
『ロックオン!ソーダ!メロンエナジーアームズ!』
斬月・真になったは良いとして、次はどうするかを考える。
当初見かけた巨大な人影の方に今からでも向かおうか。
面白そうだが、アークワンの力抜きで勝てるのかは疑問だ。
斬月・真も決して弱い訳ではない、だがアークワンの機能が勝っているのは否定できない。
再変身可能までの二時間を呑気に待っても、その頃には全部終わって誰もいない、なんて事になったら時間の無駄。
-
「違う所に行ってみようかな」
283プロに戻ってまた休むのも一つの手。
しかし東側の街一帯をウロウロしてばかりで、別のエリアの探索に興味が傾いてるのも事実。
キャメロット達との再戦も勿論やりたい。
ただ消耗が大きい今の状態で向かって笑顔になれるのか、そもそも巨大な人影と遭遇したかもしれない彼女達が今も生きてるのかすら不明。
生きているならまた遊べる機会はある。
ならいっそ、どうなっているか分からないエリアに行ってみても良いのかもしれない。
取り敢えず今は少しでも体力を回復させるのが先決だ。
エリクシールは貴重なので、今はまだ飲まずに温存しておこう。
斬月・真に変身しているのもあり、雨風の寒さも防げる。
己に笑みを齎す闘争を求め、ダグバは死体達に背を向け飛び去って行く。
「ふむ、凄まじいな…」
殺戮者が去り、訪れる筈の沈黙は一人の男に破られた。
ベルデに変身した黎斗である。
承太郎にアナザーウォッチを埋め込みすぐ、ミラーワールドを経由し逃走。
死を覚悟して戦うなど、暑苦しい行為に出る気は最初から無い。
自分だけでも逃がそうとしたのに内心で「当然だろう」と思いつつ、そこでふと思い付いた。
どうせ死ぬなら少しでも勝率を上げて共倒れさせた方が良いのではと。
もし承太郎が万全のままならアナザーディケイドに変身させる気は起きなかった。
ダグバを無事に倒せたとしても、次の標的に選ばれるのは自分。
その前に逃げても蓮達がアナザーウォッチを発見し、新八の時同様暴走を止められたらそれもマズい。
アナザーウォッチを隠し持っているのはおろか、承太郎を暴走させたのが明るみに出る。
これまで被り続けた善人の仮面は意味を為さない。
自分を警戒しているジューダス辺りはここぞとばかりに、排除へ乗り出すだろう。
蓮達を敵に回すのはまだ避けたい所だ。
-
その点、先程の戦闘は都合が良かった。
承太郎は以て数分の命、ダグバを倒せてもまず助からない。
自分が襲われる心配も蓮達と遭遇する懸念も無し。
残念ながらダグバは倒せなかったようだが、収穫ゼロでなかったのは幸いか。
ミラーワールドを経由し一旦離れた後、バットショットを飛ばし様子を確認に行かせた。
決着がつきそうなら教えるよう指示を出し、戻って来たバットショットを回収し様子を見に戻る。
その際、クリアーベントで自分とバイオグリーザを透明化。
輪郭でバレないようなるべく雨の当たらない場所を進み、戻って遠目に様子を窺えば承太郎は死んだ後。
ダグバが気付く前に、瓦礫の陰に隠れたアナザーウォッチをバイオグリーザが舌を伸ばして回収し今に至る。
(強力故に課せられた制限か。ゲームバランスを丸っ切り無視する気はないようだな)
変身が解除された際のダグバの様子から、恐らくアークワンには長時間の変身不可能となる制限があると睨む。
あれだけの力を自由に使い放題では流石に不公平だ。
そのくらいは主催者も調整を行っているらしい。
もう一つベルトを所持している為油断は出来ないが、少なくとも片方は気軽に使えないと分かれば今はそれで良い。
首輪を手に入れられないのは残念だと独り言ち、
「…?何だ?」
奇妙な音が鼓膜を突いた。
耳鳴りにも似ているがもっと大きい。
金属同士を擦る音か、鳥の鳴き声と思えなくも無い。
正体不明の金切り音に周囲を警戒。
剣を構え襲撃に備えると、近くのガラスが波打つのを見た。
「なにっ!?」
ガラスから飛び出した黒い物体が襲い掛かる。
この目で正体をハッキリ見るのは後だ、地面を転がり回避。
立ち上がった黎斗の目が捉えたのは、蛇のように長い体。
但し全体像は見えず、ガラスの中へ戻って行くのを見送るだけだ。
-
「おのれ…!」
鏡の中を行き来する怪物など該当するのは一種類のみ。
自身が従える巨大カメレオンと同じ、ミラーモンスターで間違いない。
まさか他にもデッキを持った参加者が潜んでおり、モンスターをけしかけたのか。
五感を研ぎ澄まし気配を探るも、それらしい存在は見付からない。
代わりに再度ガラスが波打ち、ミラーモンスターが出現。
蛇ではなく黒い龍だ。
龍の正体はドラグブラッカー。
仮面ライダーリュウガの契約モンスターであり、殺し合いでもデッキの所持者に従っていた。
しかしリュウガのデッキは両面宿儺の手で破壊、その時点で契約が切れたドラグブラッカーは野良モンスターに逆戻り。
デッキを支給された魔王に従う義理も無く、餌を求めてミラーワールドを彷徨う中でベルデを発見。
相手は契約したライダーのようだが、宿儺程の威圧感は感じない。
魔王の元では一度も餌を食らえず空腹だった為、良い機会と襲撃したのだった。
残念ながらドラグブラッカーの自由は長続きしないが。
「モンスター風情がゲームマスターの私に逆らうなど、身の程を知れ!」
大口を開けたまま、ドラグブラッカーが黎斗の元へ一直線に向かう。
否、ドラグブラッカーの意思に関係無く吸い寄せられているのだ。
黎斗がデッキから引き抜いたカードへ、まるで見えない手に捕らえられたように。
他のカードと違い何も描かれていない。
これはミラーモンスターとの契約に必須なコントラクトのカード。
黎斗に支給された三つ目の支給品はこれまでずっと、使う機会が無かった。
ライダーバトルで重宝するカードも、ミラーモンスターがいなければ宝の持ち腐れ。
念の為に取って置いたのがようやく役に立つ時が来た。
-
「さぁ、ゲームマスターの前にひれ伏すが良い!」
抵抗虚しくドラグブラッカーは強制的に契約を結ばれ、再び使役される身と化す。
コントラクトのカードはドラグブラッカーのアドベントカードに変化。
デッキを確認すると、本来リュウガが持っていたカードが新たに追加されている。
「この私のゲームクリアの為に役立ててやろう。光栄に思うことだな」
思わぬ戦力強化にほくそ笑み、アドベントカードを仕舞う。
ドラグブラッカーがいなくなり、聞こえてくるのは雨と遠くの方で響く巨人の咆哮のみ。
どうやらデッキの所有者はおらず、どこかで契約が切れたモンスターがここに来たのだと判断を下す。
残ったのは死体だけ、黎斗の役に立ちそうなものは一つもない。
(環いろはの死は少々惜しかったか…)
お人好しで自分を信じ切った魔法少女。
扱いやすい為に今後も利用してやろうとは思ったが、彼女の残機はゼロ。
コンティニュー不可のゲームでいろはの顔を見る機会と言ったら、次の放送の死亡者発表が最後だろう。
死んだのがジューダスだったら殺す手間が省け清々しただけに、多少は惜しく思う。
いろはが死ぬ原因を作ったホイミンもまたゲームオーバーとなったのは良い。
蓮や承太郎はまだ仲間として受け入れる気だったようだが、こっちにしたら冗談ではない。
厄ネタを背負い続けるのは御免だ。
「君の願いは叶わないが悪く思わないでくれ。ゲームマスター復活の礎になれるのだから、安いものだろう?」
いろははジューダスの作戦に賛成していた。
だがそんなものは認められない、神の才能を持つ自分の消滅が正しい歴史など許されない。
悪びれもせず死体すら残らなかった少女へ微笑み背を向ける。
-
◆◆◆
風が止んだ。
戦士達の背中を支えた優しい風はもうどこにもない。
残ったのは相も変らぬ豪雨と共に、熱を奪い去る無慈悲な冷風。
ただ今だけはこの冷たさが心地良かった。
変身を解除した蓮に倣い、エボルトも生身へ戻る。
取り敢えずは終わったと判断し、それぞれ重苦しいため息を吐いた。
巨人の問題が完全に片付いたのではない、一時的に自分達から危機を遠ざけたに過ぎない。
もし他の場所で犠牲者が出たらと思うと不安は尽きないが、今はどうにもできないのが現実だ。
「何か吹き飛んでったみたいだけど…終わったの……?」
とことこ近寄って来る小さな影。
戦場から離れ様子を見守っていた凛だ。
あれだけ暴れ回った巨人が紙風船みたいに飛んで行き、警戒しつつ戻ってみれば疲れ切ったオーラが漂う空間へ遭遇。
先程までの殺伐とした空気は霧散し、どうやら本当に大丈夫らしい。
一安心、と行く前に確かめなければならない事が一つ。
「キャメロット…よね?」
「はい、遅くなって申し訳ありません」
礼儀正しい口調で謝罪を口にされた。
自分の知るセイバーと、というかその体に入った騎士の少女の態度。
男くさい雰囲気は見られず、まさかグリードが揶揄ってるのではと一瞬疑う。
が、よくよく見ても纏う空気はキャメロット以外に有り得ない。
彼女の意識自体は消えていないとグリードは言った。
それなら目が覚めて表に出ても何ら不思議はない。
-
「じゃあグリードは…?」
「ああ、俺ならちゃんとここにいるぜ?」
聞いた直後に変わるものだからぎょっとする。
可憐なセイバーとは思えない獰猛な笑みに、俺様な口調。
これは間違いない、強欲のホムンクルスだ。
「ちょ、アンタまだいたの!?」
「酷ぇなおい、んな簡単に消えるかよ。ビビらなくてもキャメコとは仲良くしてやるよ。それよr―――…っふぅ!勝手に出て来ないでください!それから!あなたには色々言いたい事がありますから!」
自分を押し退け表に出て来た男への文句を言う。
顔を赤らめながらも丁寧口調は抜けていない、これはキャメロットだなと凛も分かる。
この様子では一応二人の間で話は付いたと見て良いのだろうか。
無論、自分にも詳しく聞かせて貰うが。
そう考える凛を余所に、キャメロットは羞恥と怒りで耳まで赤い。
引き裂かれ無残になったスカートはグリードの仕業か。
よりにもよって王の体で不埒を働いたとは許せない。
「まぁとにかく、無事で良かったわキャメロット」
「…あ、はい。凛さんもご無事で何よりです。ところで…ゲンガーさんとバリーさんはどちらに?」
来るとは分かっていた質問が飛ぶ。
彼らがどうなったかは「死んだ」の一言で済む。
だが表向きはどうあれ、何の感傷も抱かず平然としていられるかと言うと違う。
魔術師ではある、しかし魔術師らしくない部分も多々あるのが凛なのだから。
「話の途中で悪いけどよ、アルフォンスの事はどうするんだ?」
ため息交じりにエボルトが口にした仲間の名前。
わざわざアルフォンスの話を切り出すとは、理由は一つしか無いだろう。
アマゾンとやらが暴走したのか。
顔を強張らせる凛とキャメロットが何か言うより早く、別の所から声が掛かる。
「悪いが僕はいろは達の方を見に行く」
ぶっきらぼうに言い切り翼を広げるジューダス。
ラブボムの効果で巨人との戦闘中もずっと、街にエボルト達とは別の悪の魂の存在を感知していた。
そちらが気掛かりとはいえ巨人相手で手一杯だった為、結局今の今まで放置せざるを得ず。
ようやくそちらの様子を見に行けるようになったのだ。
向こうには承太郎もいるとはいえ、どう転ぶか分からないホイミンと信用に欠ける黎斗も一緒。
最悪の事態になる前に駆け付けるべきだろう。
-
尤も、既に手遅れだが。
「雨宮君!皆も無事か!?」
雨に濡れるのも構わず駆け寄る男。
息を切らして走るのは、45歳の肉体を酷使しているが故か。
蓮達一団の元へ現れた白い服の男、黎斗は仲間の無事を喜ぶ顔を作る。
大人として未成年を心配するのは当然、そんな態度の裏で隠れ蓑に使える連中が残っているのにほくそ笑む。
ついでに、ジューダスが未だ生存中なのには不満顔を裏で作った。
「檀さん!……承太郎達は一緒じゃないんですか?」
仲間が生きて戻って来られた喜びも束の間、他の三人が何処にもいないのに気が付く。
てっきり同じ場所に分断されたと思ったが違うのか。
蓮の質問に黎斗は顔を伏せる。
それだけで、承太郎達に何が起きたのか答えを言っているようなものだ。
心臓が跳ね上がる。
まさかという問いが出かかり、そんな筈はないと慌てて否定。
きっと怪我を負って身動きが取れなくなってるだけだ。
黎斗に案内してもらえれば、無事な三人とすぐに会える。
だから、違うと言ってくれ。
「ゲンガー君を殺した白黒の仮面ライダーが現れて……承太郎君も環さんも、ホイミン君も……」
どうなったかを、直接口に出す必要は無かった。
承太郎が死んだ。クールなようでいてその実誰よりも仲間を気に掛けた男が。
いろはが死んだ。会ったばかりの自分達に協力し、共に新八を助けてくれた少女が。
ホイミンが死んだ。ディケイドとの戦いでは勇気を出して、新八を殺したけど望んでやったのではないと信じた彼が。
仲間達は三人共もういない。
ベルベットルームで抱いた決意、諦めないと意気込んだ自分がやけに遠くに感じられる。
-
「お前だけは見逃されたのか?」
「…奴の気まぐれに救われたらしくてね。私自身生きてるのが不思議なくらいさ」
疑われる事くらいは黎斗も承知の上。
だから自分が見た情報にほんの少しの嘘を交え、悲しみの仮面は脱がずに話す。
白黒の仮面ライダーはどうやら時間制限があるようで、黎斗を殺す前に変身が解除された。
変身者の少女は殺し合いをゲーム感覚で楽しんでいる節があり、仲間を殺された黎斗が怒りで自分を殺しに来るのを期待しあえて見逃した。
メロンの装甲を纏うベルトも持っていたが、前述の気まぐれと自身の疲弊を考え撤退を選んだと思う。
「……そうか」
ジューダスは黎斗が明確な悪だと出会った時から知る唯一の参加者。
警戒して当然の男と一緒にいた三人が死に、黎斗だけが生き残った。
もっと疑ってかかるべきだろうし、実際黎斗の証言を鵜呑みにする気は無い。
ただ今この時だけは、深く問い詰められはしない。
彼もまた死んだ者達に何も思わない訳ではないのだから。
承太郎は、坂田銀時とやらの仲間を救えずに散った。
ホイミンは、神楽に会い裁きを委ねるまでも無く逝った。
そして――
(いろはも死んだのか……)
大切な者達の忘却を恐れ、自分の言葉で再起してみせた少女。
彼女ももういない事実がチクリと胸を刺す。
カイル達の影響でマリアン以外にも、忘れたくない存在を胸に刻み付けた今のジューダスには、
それが妙に痛く感じられた。
-
○
仲間の死を悔やむ仮面の裏で、自身のゲームクリアだけを黎斗は考える。
だがそんな彼にも一つだけ気付いていない事があった。
ベルデのスペックが急に強化された理由。
黎斗はそれを、バイオグリーザが無惨を捕食したからと考えている。
ただの人間以上の力を持つ獣を食らった、それが影響したのだと。
厳密に言うと無惨ではなく、腹の中にあったいのちのたまを捕食したのが原因だ。
神崎士郎が開発したカードデッキは、ミラーモンスターとの契約があってこそライダーとしての本領を発揮する。
契約モンスターに由来したカードを使える以外にも、モンスターが多くの餌を捕食すればその分力を増し、契約したライダーも強化されるのである。
つまりミラーモンスターが捕食により受けた影響は、契約者のライダーにも表れる。
いのちのたまは攻撃の威力を倍にする効果を持つ。
その影響がバイオグリーザとベルデに、スペックの上昇という形となった。
しかし体力が削られるデメリットも持ち、これは捕食した本人だからかバイオグリーザのみが受ける羽目となったのだ。
いのちのたまのデメリットを受けたバイオグリーザは無惨を捕食したばかりにも関わらず、空腹に苛まれている。
先の戦闘では三人もの参加者がダグバに殺され、一人も食えなかった。
それがバイオグリーザには酷く不満だ。
折角のご馳走を他者に奪われたばかりか、契約者の黎斗は何もしてくれない。
ドラグブラッカーを瀕死に追い込み自分に喰わせたのならまだしも、契約したのだって納得がいかない。
自分はこんなに腹が減っているのに、もしや次の餌はドラグブラッカーにやるつもりではあるまいか。
バイオグリーザの中で黎斗に対する不満が高まっていく。
今はまだ契約に従い、黎斗の命令通りに動いてやる。
だがこの先も餌をくれない状態が続くならば、遠くない内に限界は訪れるだろう。
空腹で苛立ったベノスネーカー達に襲われた浅倉威のように、モンスターが契約者を襲わない絶対の安全は存在しない。
ミラーワールドからバイオグリーザはじっと見つめる。
自分の契約者を、最も近い場所にいる餌を。
-
◆◆◆
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』
再生を終えた体で巨人は立ち上がる。
街からは遠ざけられたが関係無い、止まる理由にはならない。
滅ぼせと頭の中で繰り返される声に従って歩き出す。
とはいえ街での戦いが無駄だった訳ではない。
巨人の体力も限界に近く、現に蓮達相手に暴れ回った時より動きは鈍くなっている。
このまま積極的に動き回ったとて、巨人化が解除されるのは時間の問題。
だがそれは広瀬康一にとって何の救いにもならない。
巨人から元に戻っても、洗脳まで解かれるかは不明。
そもそもいつになったら解除されるかも定かではない。
もし暴走と洗脳の両方から解放され、康一の意識を取り戻したとしても。
新たな火種は植え付けられた。
オリジナル体の触手を引き千切り、傷口から体液が入り込んだ時既に手遅れなのだ。
広瀬康一は人類の敵となる運命を決定付けられた。
呪いはまだ終わらない。
元凶である呪いの王は消えた、しかし残した呪いを冥府に引き連れはしなかった。
呪いは廻り続ける。
本当に終わりが来るかなんて、誰にも分からない。
【バリー・ザ・チョッパー@鋼の錬金術師(身体:トニートニー・チョッパー) 死亡】
【環いろは@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(身体:魔法少女リリカルなのはStrikerS) 死亡】
【ホイミン@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち(身体:ソリュシャン・イプシロン@オーバーロード) 死亡】
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険(身体:燃堂力@斉木楠雄のΨ難) 死亡】
-
【D-6 市街地/夕方】
【雨宮蓮@ペルソナ5】
[身体]:左翔太郎@仮面ライダーW
[状態]:ダメージ(大)、疲労(極大)、SP残量ゼロ、体力消耗(大)、怒りと悲しみ(極大)、ぶつけ所の無い悔しさ、メタモンを殺した事への複雑な感情
[装備]:煙幕@ペルソナ5、T2ジョーカーメモリ+T2サイクロンメモリ+ロストドライバー@仮面ライダーW、三十年式銃剣@ゴールデンカムイ
[道具]:基本支給品×7、ダブルドライバー@仮面ライダーW、ハードボイルダー@仮面ライダーW、、スパイダーショック@仮面ライダーW、新八のメガネ@銀魂、ラーの鏡@ドラゴンクエストシリーズ、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、マシンディケイダー@仮面ライダーディケイド、2つ前の放送時点の参加者配置図(身体)@オリジナル)、ランダム支給品0〜2(煉獄の分、刀剣類はなし)、耀哉の首輪、両津勘吉の肉体、ジューダスのメモ、大人用の傘
[思考・状況]基本方針:主催を打倒し、この催しを終わらせる。
1:皆……。
2:仲間を集めたい。
3:エボルトは信用した訳ではないが、共闘を受け入れる。
4:今は別行動だが、しんのすけの力になってやりたい。今どこにいるんだ?
5:体の持ち主に対して少し申し訳なさを感じている。元の体に戻れたら無茶をした事を謝りたい。
6:逃げた怪物(絵美理)やシロを鬼にした男(耀哉)を警戒。
7:ディケイド(JUDO)はまだ倒せていない気がする…。
8:新たなペルソナと仮面ライダー。この力で今度こそ巻き込まれた人を守りたい。
9:推定殺害人数というのは気になるが、ミチルは無害だと思う
[備考]
※参戦時期については少なくとも心の怪盗団を結成し、既に何人か改心させた後です。フタバパレスまでは攻略済み。
※スキルカード@ペルソナ5を使用した事で、アルセーヌがラクンダを習得しました。
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。
※翔太郎の記憶から仮面ライダーダブル、仮面ライダージョーカーの知識を得ました。
※エボルトとのコープ発生により「道化師」のペルソナ「マガツイザナギ」を獲得しました。燃費は劣悪です。
※しんのすけとのコープ発生により「太陽」のペルソナ「ケツアルカトル」を獲得しました。
※ミチルとのコープ発生により「信念」のペルソナ「ホウオウ」を獲得しました。スキルは以下の通りです。
-
【エボルト@仮面ライダービルド】
[身体]:桑山千雪@アイドルマスター シャイニーカラーズ
[状態]:ダメージ(大)、疲労(極大)、千雪の意識が復活
[装備]:トランスチームガン+コブラロストフルボトル+ロケットフルボトル@仮面ライダービルド、スマートフォン@オリジナル
[道具]:基本支給品×2、フリーガーハマー(0/9、ミサイル×18)@ストライクウィッチーズシリーズ、ランダム支給品0〜1(シロの分)、累の母の首輪、アーマージャックの首輪、煉獄の死体、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、大人用の傘
[思考・状況]基本方針:主催者の持つ力を奪い、完全復活を果たす。
1:さぁて、どうしたものかねぇ…。
2:ナビからの連絡を待つ。
3:蓮達を戦力として利用。
4:首輪を外す為に戦兎を探す。会えたら首輪を渡してやる。西側にいるのか?戦兎ォ。
5:有益な情報を持つ参加者と接触する。戦力になる者は引き入れたい。
6:自身の状態に疑問。
7:出来れば煉獄の首輪も欲しい。言いそびれちまったな。
8:ほとんど期待はしていないが、エボルドライバーがあったら取り戻す。
9:柊ナナにも接触しておきたい。
10:今の所殺し合いに乗る気は無いが、他に手段が無いなら優勝狙いに切り替える。
11:推定殺害人数が何かは分からないが…まあ多分ミチルはシロだろうな(シャレじゃねえぜ?)
12:ジューダスの作戦には協力せず、主催者の持つ時空に干渉する力はできれば排除しておきたい。
13:千雪を利用すりゃ主催者をおびき寄せれるんじゃねぇか?
[備考]
※参戦時期は33話以前のどこか。
※他者の顔を変える、エネルギー波の放射などの能力は使えますが、他者への憑依は不可能となっています。
またブラッドスタークに変身できるだけのハザードレベルはありますが、エボルドライバーを使っての変身はできません。
※自身の状態を、精神だけを千雪の身体に移されたのではなく、千雪の身体にブラッド族の能力で憑依させられたまま固定されていると考えています。
また理由については主催者のミスか、何か目的があってのものと推測しています。
エボルトの考えが正しいか否かは後続の書き手にお任せします。
※ブラッドスタークに変身時は変声機能(若しくは自前の能力)により声を変えるかもしれません。(CV:芝崎典子→CV:金尾哲夫)
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。
※主催者は最初から柊ナナが「未来を切り開く鍵」を手に入れられるよう仕組んだと推測しています。
※制限で千雪に身体の主導権を明け渡せなくなっている可能性を考えています。
【檀黎斗@仮面ライダーエグゼイド】
[身体]:天津亥@仮面ライダーゼロワン
[状態]:ダメージ(極大)、疲労(極大)、胴体に打撲
[装備]:ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、バットショット@仮面ライダーW、着火剛焦@戦国BASARA4
[道具]:基本支給品×4、アナザーディケイドウォッチ@仮面ライダージオウ、アナザーカブトウォッチ@仮面ライダージオウ、召喚石『ドグー』@グランブルファンタジー、サソードヤイバー&サソードゼクター@仮面ライダーカブト(天逆鉾の効力により変身不可)、MP40(予備弾倉×2)@ストライクウィッチーズシリーズ、銀時のスクーター@銀魂、フィリップの肉体、童磨の首輪、無惨の首輪
[思考・状況]基本方針:優勝し、「真の」仮面ライダークロニクルを開発する。
1:人数が減るまで待つ。それまでは善良な人間を演じておく。
2:ジューダスに苛立ち。機を見てどうにかしたい。
3:ディケイド(JUDO)、青い着物の少女(宿儺)は要注意しておく。エボルトも少し警戒。
4:痣の少年(ギニュー)に怒り。
5:余裕があれば聖都大学附属病院も調べたい…が、微妙な位置が禁止エリアになったな。
6:諦めつつあるが、一応、ザイアサウザンドライバーを探してみる。
7:優勝したらボンドルド達に制裁を下す。
[備考]
※参戦時期は、パラドに殺された後
※バットショットには「リオンの死体、対峙するJUDOと宿儺」の画像が保存されています。
※バイオグリーザがミーティの肉体と、体内にあったいのちのたまを捕食しました。その影響でベルデのスペックが上昇しましたが、バイオグリーザの空腹が大きくなっています。
※ドラグブラッカーと契約しました。今後はリュウガのカードが使用可能になります。
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【遠坂凛@Fate/stay night】
[身体]:野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん
[状態]:疲労(大)、精神的ショック(大)
[装備]:スゲーナ・スゴイデスのトランプ×1@クレヨンしんちゃん
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:他の参加者の様子を伺いながら行動する。
1:考えないとならない事がまた増えたわ…。
2:無事だったのねキャメロット、グリードとはどうしようかしら。
3:サーヴァントシステムに干渉しているかもしれないし第三魔法って、頭が痛いわ。
4:私の身体に関しては、放送ではっきり言われてもうなんか吹っ切れた。
5:身体の持ち主(野原しんのすけ)を探したい。あと一歩まで来てるのよ。
6:アイツ(ダグバ)倒せてないってどんだけ丈夫なの。っていうかもっとヤバくなれるってなんなのよ。
7:アルフォンス、ちょっとマズいことになってない?
8:施設とかキョウヤ関係者とか、やること増えてきたわね……
9:ゲンガーとバリーのこともキャメロットに教えないと駄目よね…。
10:ある程度戦力をそろえて、安全と判断できるなら向かうC-5へ向かいたかったけど……想定外の展開か。
[備考]
※参戦時期は少なくとも士郎と同盟を組んだ後。セイバーの真名をまだ知らない時期です。
※野原しんのすけのことについてだいたい理解しました。
※ガンド撃ちや鉱石魔術は使えませんが八極拳は使えるかもしれません。
※御城プロジェクト:Reの世界観について知りました。
※地図の後出しに関して『主催もすべて把握できてないから後出ししてる』と考えてます。
※城プロ、鋼の錬金術師、ポケダンのある程度の世界観を把握しました
※ゲンガーと情報交換してます。
-
【キャメロット城(グリード)@御城プロジェクト:Re(鋼の錬金術師)】
[身体]:アルトリア・ペンドラゴン@Fateシリーズ
[状態]:グリードとの肉体共有、マスターによるステータス低下、疲労(大)、スカート部分が破れてる、精神疲労(大・キャメロットの精神)、複雑な心境(キャメロットの精神)、ワクワク(グリードの精神)
[装備]:エターナルソード@テイルズオブファンタジア
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(確認済み、剣以外)、逆刃刀@るろうに剣心、グリードのメモ+バリーの注意書きメモ
[思考・状況]基本方針:一人でも多くの物語を守り抜く。
1:ゲンガーさんはやはり……
2:凛さんを守る。
3:アーサー王はなぜそうまでして聖杯を……
4:バリーさんと彼の言う鎧の剣士、それと産屋敷に警戒。バリーさんはどこに…?
5:グリードの物語も守ります。ですが、もし敵に回るなら……
6:リオン・マグナス……その名は忘れません。
7:何ですかこの格好!
[グリードの思考・状況]基本方針:この世の全てが欲しい! ボンドルドの願いも!
1:欲しいものを全て手に入れる。けどどういう手順で行くかねぇ。
2:取り敢えずキャメコに力を貸してやる。もし期待外れなら……
3:親父がいねえなら自由を満喫するぜ!
[備考]
※参戦時期はアイギスコラボ(異界門と英傑の戦士)終了後です。
このため城プロにおける主人公となる殿たちとの面識はありません。
※服装はドレス(鎧なし、FGOで言う第一。本家で言うセイバールート終盤)です
※湖の乙女の加護は問題なく機能します。
約束された勝利の剣は当然できません。
※『風王結界』『風王鉄槌』ができるようになりました。
スキル『竜の炉心』も自由意志で使えるようになってます。
『輝ける路』についてはまだ完全には扱えません。
(これらはキャメロットの精神の状態でのみ)
※賢者の石@鋼の錬金術師を取り込んだため、相当数の魂食いに近しい魔力供給を受けています。
※Fate/stay nightの世界観および聖杯戦争について知りました。
※Fate、鋼の錬金術師、ポケダンのある程度の世界観を把握しました。
※グリードのメモ+バリーの注意書きメモにはグリードの簡潔な人物像、
『バリーはちょっと問題がある人だから気をつけて。多分キャメロットさんが無事なら乗らないと思う。
後産屋敷さんはまともに喋れてないのもあるから、殆ど人物像が分からないのも少し気をつけておいて。』
の一文が添えられてます。
※グリードに身体を乗っ取られましたが現在は彼女に返しています。
※グリードが表に出た時スキル、宝具がキャメロット同様に機能するかは別です。
湖の乙女の加護は問題なく発動します。
※グリードの記憶は少なくとも二代目(所謂グリリン)であり、
少なくとも記憶を取り戻す前のグリードです。
※グリードが表に出た時はホムンクルス由来の最強の盾が使えます。
最強の盾がどう制限されてるかは後続の書き手にお任せします。
※キャメロット城の名前をキャメコと勘違いしてます。
※一度石化された後腕が砕けたので右腕の袖が二の腕までになってます。
※ゲンガーと情報交換してます。
-
【ジューダス@テイルズオブデスティニー2】
[身体]:神崎蘭子@アイドルマスター シンデレラガールズ
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、天使化
[装備]:シャルティエ@テイルズオブデスティニー、パラゾニウム@グランブルーファンタジー
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本方針:主催陣営から時渡りの手段を奪い、殺し合い開催前の時間にて首謀者を倒す。
1:いろはが死んだのか……
2:黎斗を警戒。何を考えている?
3:エボルトも悪の魂の持ち主のようだが…。
4:痣の少年(ギニュー)は次に会えば斬る。
5:巨人(康一)はあれでどうにかなったとは思えない。
[備考]
※参戦時期は旅を終えて消えた後。
※天使の翼の高度は地面から約2メートルです。
※天使化により、意識を集中させることで現在地と周囲八方向くらいまでの範囲にいる悪しき力や魂を感知できるようになりました。
※蘭子の肉体はグランブルーファンタジーとのコラボイベントを経験済みのようです。
【アルフォンス・エルリック@鋼の錬金術師】
[身体]:千翼@仮面ライダーアマゾンズ
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大)、空腹感、自分自身への不安、目の前で死者が出て助けられなかったことに対する悲しみ、気絶中
[装備]:ネオアマゾンズレジスター@仮面ライダーアマゾンズ、ネオアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1、グレーテ・ザムザの首輪
[思考・状況]基本方針:元の体には戻りたいが、殺し合うつもりはない。
0:……
1:巨人(推定康一さん)をどうすれば止められるんだろう…。
2:また、助けられなかった…
3:遠坂さんに頼まれた地図上の施設を巡る。空腹には十分気を付けないと。
4:ミーティ(無惨)に入った精神の持ち主と、元々のミーティを元の身体に戻してあげたい。精神が殺し合いに乗っている可能性も考慮し、一応警戒しておく。
5:殺し合いに乗っていない人がいたら協力したい。
6:バリーは多分大丈夫だろうけど、警戒はしておく。
7:もしこの空腹に耐えられなくなったら…
8:千翼はやっぱりアマゾンなの…?
9:一応ミーティの肉体も調べたいけど、少し待った方がいいかも。
10:機械に強い人を探す。
[備考]
※参戦時期は少なくともジェルソ、ザンパノ(体をキメラにされた軍人さん)が仲間になって以降です。
※ミーティを合成獣だと思っています。
※千翼はアマゾンではないのかとほぼ確信を抱いています。
※支給された身体の持ち主のプロフィールにはアマゾンの詳しい生態、千翼の正体に関する情報は書かれていません。
※千翼同様、通常の食事を取ろうとすると激しい拒否感が現れるようです。
※無惨の名を「産屋敷耀哉」と思っています。
※首輪に錬金術を使おうとすると無効化されるようです。
※ダグバの放送を聞き取りました。(遠坂経由で)
※Fate/stay nightの世界観および聖杯戦争について知りました。
※千翼の記憶を断片的に見ました。
※アマゾンネオ及びオリジナル態に変身しました。
※久しぶりの生身の肉体の為、痛みや疲れが普通よりも大きく感じられるようです。
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【D-6 市街地(蓮達から離れた場所)/夕方】
【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
[身体]:櫻木真乃@アイドルマスターシャイニーカラーズ
[状態]:ダメージ(極大)、消耗(極大)、苛立ち(大分緩和)、櫻木真乃の精神復活及び汚染、アークワンに2時間変身不能、斬月・真に変身中。
[装備]:ゲネシスドライバー+メロンエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、ミニ八卦炉@東方project、魔法のじゅうたん@ドラゴンクエストシリーズ、水色のジャージ@アイドルマスターシャイニーカラーズ
[道具]:基本支給品×2、アークドライバーワン+アークワンプログライズキー@仮面ライダーゼロワン、エリクシール(半分消費)@テイルズオブデスティニー、真乃の衣服
[思考・状況]基本方針:ゲゲルを楽しむ
1:どうしようかな
2:見失った二人(キャメロット、凛)やさっきの二人(蓮、エボルト)と再戦する。巨人(康一)に殺されてないといいけど
3:あの青い着物姿のリント(宿儺)とはもう戦いたくない
4:クウガの体があるなら戦うのも悪くない
5:アークワンにはまた変身したいなぁ
6:??????????
[備考]
※48話の最終決戦直前から参戦です。
※櫻木真乃の精神が復活したことにはまだ気づいていません。
【?????/夕方】
【広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:エレン・イェーガー@進撃の巨人
[状態]:疲労(極大)、吉良吉影の死に対する複雑な感情、背中に複数の打撲痕及びそれによる痛み(おそらくもう引いている)、両面宿儺に対する戦慄、巨人化・暴走中、ケロボールの洗脳電波により洗脳中、謎の憎悪、溶原性細胞感染
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、タケコプター@ドラえもん、精神と身体の組み合わせ名簿@チェンジロワ
[思考・状況]基本方針:こんな殺し合い認めない
1:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!
2:両面宿儺を強く警戒。でも下手に逆らって織子ちゃんに危害を加えられたら…
3:神楽さん……無事を祈っています。
4:まさか吉良吉影が死ぬなんて…しかも女の子の身体で…
5:仮面ライダーの力が無くなった分も、スタンドの力で戦う
6:いざとなったら巨人化する必要があるかもしれない。
7:メタモンにまた会ったら絶対に倒さなくては!
8:メタモンが僕らの味方に化けて近づいてくる可能性も考えておかなきゃ
9:皆とどうか無事に合流出来ますように…そして承太郎さん、早く貴方とも合流したいです!
10:DIOも警戒しなくちゃいけない…ジョースター家の人間の肉体を使ってるなんて
11:この身体凄く動きやすいです…!背も高いし!
12:仗助君の身体を使ってる犬飼ミチルちゃん…良い人だと良いんだけど…
13:吉良吉影を殺せるほどの力を持つ者に警戒
14:ミカサ…アルミン…誰の名前だろう…
15:エルディア人…巨人…世界…敵…
[備考]
※時系列は第4部完結後です。故にスタンドエコーズはAct1、2、3、全て自由に切り替え出来ます。
※巨人化は現在制御は出来ません。参加者に進撃の巨人に関する人物も身体もない以上制御する方法は分かりません。ただしもし精神力が高まったら…?その代わり制御したら3分しか変化していられません。そう首輪に仕込まれている。
※戦力の都合で超硬質ブレード@進撃の巨人は開司に譲りました
※仮面ライダーブレイズへの変身資格は神楽に譲りました。
※放送の内容は後半部分をほとんど聞き逃しています。具体的には組み合わせ名簿の入手条件についての話から先を聞き逃しています。
※元の身体の精神である関織子が活動をできることを知りましたが、現在はその状態にないことを知りません。
※アナザーウィッチカブトは宿儺に無理やり奪われました。
※現在巨人化能力を制御できずに暴走中です。体力の限界が来れば止まる可能性はあるものとします。それが具体的にいつ頃になるかは後続の書き手にお任せします。
※ケロボールによる洗脳も、時間経過により解ける可能性はあるものとします。具体的に何時解けるかは後続の書き手にお任せします。
※エレンの肉体の参戦時期は、初めて海にたどり着いた頃のものとします。
※オリジナル体の体液が傷口から入り込んだ為、溶原性細胞に感染しました。
※康一がどこまで吹き飛ばされたかは後続の書き手に任せます。
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[全体備考]
※D-6の市街地で建造物の倒壊が起こりました。純喫茶ルブラン@ペルソナ5が無事かどうかは後続の書き手に任せます。
※以下の支給品が破壊されました。
・七宝のナイフ@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド
・レイジングハート@魔法少女リリカルなのは、いろはのデイパック(基本支給品(リトの分)、仮面ライダークロニクルガシャット@仮面ライダーエグゼイド、エッチな下着@ドラゴンクエストシリーズ、ニューナンブM60(5/5)@現実、鎖鎌@こちら葛飾区亀有公園前派出所)
・アンチバリア発生装置@ケロロ軍曹、ホイミンのデイパック(基本支給品、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル)
・ネズミの速さの外套(クローク・オブ・ラットスピード)@オーバーロード
【三十年式銃剣@ゴールデンカムイ】
杉元佐一が愛用する銃剣。
歩兵銃に取り付け武器としての用途だけでなく調理用に研いであり、いつでもチタタプができる。
【フリーガーハマー@ストライクウィッチーズシリーズ】
サーニャ・V・リトヴャクのメイン武装であるバズーカ砲。
ミサイルを9蓮発射可能。
【コントラクトのカード@仮面ライダー龍騎】
カードデッキを手にした者が持つモンスターとの契約用のカード。
ミラーモンスターと契約すると固有のアドベントのカードに変化する。
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投下終了です
あとすみません、>>760のキャメロットの台詞の「ゲンガーさんとバリーさんはどちらに?」のゲンガーの部分は消し忘れていました
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DIO、ヴァニラ・アイス、大首領JUDO、志々雄真実を予約します
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完結が見えてきたから頑張ってほしい
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延長します
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投下します
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夢を見た。
『君はディオ・ブランドーだね?』
『そういう君はジョナサン・ジョースター』
全ての始まり。
纏わり付く因縁が産声を上げた、いつかの記憶。
嘗ては夢にも思わなかっただろう。
この如何にも温室育ちの甘ったれたガキが、己を最も追い詰める宿敵と化すなど。
今見ているのは数百年前の光景。
爪の先程の名誉も持たないクズが遺した遺産を受け取り、後に青春を過ごす屋敷へ初めてを訪れた時。
されどこれは自分の記憶では無い。
文字通り、「今の体の持ち主」が歩んだ人生の1ページ。
『俺は人間をやめるぞ!ジョジョーーーーッ!!』
そして、自分にとって真の始まりとも言える瞬間。
場面が変わり映し出されるのは、やはり自分の知るあの男の記憶。
そこに驚きは無い、真新しさも無ければ意外性も無い。
愛だの、勇気だの、人間賛歌だのと何の役にも立たない戯言を平然と口にする。
あの男らしい、陳腐な脚本の三文芝居を見せられている気分だった。
だが口先だけの間抜けと、そう切り捨てる事も出来ない。
『信念さえあれば、人間に不可能は無い!』
ああ、認めざるを得ないだろう。
奴の爆発力は自分の予想を上回った。
屍生人になるだけと嘲笑った自分を打ち破り、世界を支配する野望に終止符を打つ寸前までいった。
下らないハッタリでも夢見がちな理想でも無く、不可能を可能にしてみせた。
それを最後に記憶は見えなくなる。
今でもはっきりと思い出せる、燃え盛る船内はどれだけ待っても映し出されない。
忌々しい炎の牢獄は終ぞ出現せず、視界は瞬く間に黒へ染まった。
望んで見たいとも思わない。
――『幸せに…エリナ……』
しかしふと、微笑んだまま事切れた奴の姿に、あの時の自分はどんな顔をしていただろうかという。
そんなつまらない疑問を一つ思い浮かべた。
-
◆
「……」
音も無く瞼を開けたDIOが真っ先に拾った音は、未だ止まない豪雨。
窓ガラスが喧しいくらいに叩かれ、時計の針が刻む音は掻き消される。
天候の悪さは気温の低下にも直結し、肌を撫でる室内の空気もいやに冷たい。
ぼんやりと視線を彷徨わせながら考えるのは、今しがたの夢。
別段強く思う事は何も無い。
DIOにとっては終わった過去の光景に過ぎず、ジョナサンの視点で見せられたとてだから何だという話だ。
夢では見る事の無かった記憶の続き、宿敵の最期こそ見れなかったものの別段思い出したい訳でも無かった。
あの船でジョナサンに向けた言葉に偽りがあった訳ではない。
だが現実にはジョナサンは死に、DIOが生き延びた。
であるのなら、死者の記憶に足を取られるのは正に「無駄」の一言に尽きる。
とはいえ、一つだけ思う所があるとすれば。
自分を腕の中に捕らえたジョナサンへの焦りがあったにしても、下らない命乞いをしたと今更ながらに感じたくらいか。
たとえエリナをダシにしようと、あのような甘言に心を揺さぶられる男ではないと知っていただろうに。
デイパックから水を取り出し飲む。
喉奥へと流れ込む冷水がちょっぴり残った眠気を排除、意識は完全に夢の世界から現実へと帰還を果たす。
戦兎達との戦闘を終え、一足先に学園内の校長室へ戻り十数分後。
回収した首輪と支給品を部下から受け取り、暫しの休息に入った。
思えば最初に遭遇した杉元に始まって、少なくない数の闘争を繰り広げたものだ。
蓄積した疲労は如何に波紋戦士の体と言えども無視出来ず、回復の為にと睡眠を訴えたのだろう。
椅子に深く腰掛け、気が付いたら眠りに落ちていたのだった。
片腕を天井へ掲げる。
丸太の如き剛腕には傷一つ見当たらない。
そう、傷がどこにも無いのだ。
不死身を名乗る小娘に炙られ際の火傷、それが綺麗さっぱり消え去っている。
最初から火傷なんて負っていないとでも言うように。
-
「フッ…やはりこのDIOにこそ相応しい力ということか。エターナル」
人の限界という檻から肉体を解放した、永遠の記憶。
エターナルメモリの影響は健在。
不死となったジョナサンの肉体は死へ誘う負傷を決して認めず、黙っているだけで傷が徐々に塞がりつつある。
自らが手繰り寄せた運命のガイアメモリ、その秘めたる力に改めて機嫌を良くした。
だが上機嫌も束の間、笑みは曇り苛立たし気な表情へと一変。
不死身の肉体と聞いて思い出すのはやはりと言うべきか、憎たらしい一人の参加者。
杉元佐一。
自分とは三度交戦し、そのいずれも小賢しい真似をして逃げおおせた小娘。
名前からして本来の性別は男かもしれないが、そこは別にどでもよかった。
肉体の持つ能力が原因なのか、杉元が心臓を潰されたにも関わらず復活したのは記憶に新しい。
最初の遭遇時は多少のストレス程度で済んだものの、こう何度も楯突かれては流石に不快感も大きい。
苛立ちを向ける相手は杉元以外に、戦兎や善逸もだ。
PK学園での遭遇時から悉くこちらの手を煩わせ、しかも未だに死を逃れているとは。
「全く……ジョースターといいスギモト達といい、目障りにも程がある」
連中は殺し合いを打破する善側の参加者。
となれば、優勝が目的のDIOとは遠くない内に再びぶつかる時が来る。
小蝿のように鬱陶しい因縁を清算するのに丁度良い機会だ。
甜花を取り戻し浮かれているのだろうが、精々儚い幸せを噛み締めていればいい。
とはいえ油断ならない力を持っているのも確か。
吸血鬼の体を失い、ザ・ワールドが時を止められなくなったのを加味しても、捻り潰すには中々骨が折れる。
事実、もしジョナサンの肉体に変化が表れていなければ、先程の戦闘は自分の死で幕を閉じたのだから。
癪ではあるがその点は認めるしかないだろう。
ここはいずれ来る再戦に備え、モノモノマシーンで使える手札(カード)を増やしておくのが吉。
主催者からの施しを受けるようでちと気に入らないが、利用しない手は無い。
ついでに、そろそろ本格的に承太郎を探すべきか。
時を止める力を取り戻し、改めてジョースターの血統を消し去るのだ。
-
「……いや、或いは奴に会わずとも…」
ザ・ワールドが時を止められるようになったのは、首から下を乗っ取ったジョナサンの肉体がDIOに馴染んで来たから。
一方殺し合いでのDIOの肉体は馴染む以前、精神以外は完全なジョナサンのもの。
DIOの側面が薄れた事で、ザ・ワールドは時を止める力を失った。
しかしだ、スタンドとはスタンド使い本人の精神状態と密接な関りを持つ。
闘争心の薄い人間にとっては自らを蝕む毒と化す反面、より高みを目指す意思により能力の成長に目覚めるケースも存在する。
嘗てエンヤ婆にも言われた、出来て当然と思う精神力が重要であると。
身も蓋も無い言い方をしてしまえば、「自分ならばやれる」という一種の思い込みがスタンドの成長を促す。
試す価値はある。
確実に時を止められる保障は無く、もし止められても一体どれだけの時間を停止させられるかも不明。
なれど、永遠をも支配下に置いた自分が時を再び支配できない道理もない。
「どちらにしても承太郎を探す必要はあるか」
仮に承太郎と会わずに時を止められるようになったとして、それが見逃す理由にはならない。
むしろそうなったなら、ザ・ワールドとエターナルの力を存分に味合わせた上で始末してやるのも一興。
しぶとく生き残っているようであれば、このDIOの手で完全なる終わりをくれてやる。
因縁のある男達へ思考を割くのもそこそこに、デイパックから食料を取り出す。
DIOが殺し合いで口にしたのは水だけ。
体力自慢のジョナサンの体と言えど、そろそろ腹に何か入れておいた方が良いとの判断だ。
蓋を開けスパゲッティを口に運ぶ。
トマトの酸味が引き立つミートソースの味に、さしたる反応はない。
(そういえば…)
食事で思い出すのは放送前の出来事。
今は亡き変態動物愛好家の姉畑が巻き起こした忌々しい騒動。
杉元に関する情報を吐かせようと拷問の最中、小細工を弄した挙句に象の化け物へ変貌を遂げたのは嫌でも覚えている。
確か姉畑は不気味な模様の果実を口にした直後、奇怪な姿に変わったのではなかったか。
あの時は一刻も早く姉畑を殺す事で気を回す余裕が無かったが、果実は齧りかけのまま放置してある筈。
ヴァニラに命じて一応回収させようかと考え、すぐにやめた。
力を得られるのだとしても、姉畑と同じような気色悪い姿になるなど生理的嫌悪が強い。
大体自分には既にスタンドとエターナルメモリがあり、わざわざあの果実に頼る必要も皆無。
後々学園を訪れた別の参加者が見つける可能性を考えない訳ではない。
とは言っても雨風が激しい中で野晒しにされた、しかも食いかけの果実を進んで口にしたがる者が果たしているのだろうか。
とにかく果実を手に入れる気にはなれない。
屈辱は晴らせたが、これ以上姉畑についてあれこれ思い出すと飯が不味くなるので早々に打ち切った。
食事を黙々と済ませた丁度そのタイミングで、雨に混じり扉をノックする音がした。
-
◆◆◆
鉛色の空が雨を吐き出し、市街地を余すところなく濡らす光景をヴァニラはじっと見つめる。
回収品をDIOに献上した後、出発までの時間を見張りに充てていた。
侵入者の気配に目を光らせながらも、内心は未だ己の失態が後を引いたまま。
度重なるDIOへの背信行為、よりにもよって絶対の主を疑問視してしまうとは自分の事ながら許し難い。
「……っ」
あれは単なる気の迷いだとか、そうやって必死に誤魔化しても無意味。
自分はハッキリと思ってしまったのだ。
DIOという男は案外大した存在ではないんじゃあないか、世界を支配するなど大法螺を吹いたに過ぎないのでは。
有り得ない、有り得て良い筈がない主への疑い。
何かの間違いだと否定したくとも、自分で思った内容なのだから忘れられない。
「くっ…私は……!」
決して揺るがぬDIOへの忠義に揺らぎが生じた。
受け入れがたい事実に思わず頭を振り、ふいに己の肩を見やる。
ファー付きの青い衣装の下にキツく巻かれた包帯。
肩だけではない、体中のあちこちに包帯やら湿布がある。
杉元との戦闘で負った傷の処置に、保健室から諸々の品を拝借して使った。
最初にPK学園を訪れた戦兎に始まり、甜花が貨物船の手当てを行ったのに続いて三度目の利用者だ。
銃創も全身の殴打痕も、本来ならば医療従事者の手でしかるべき処置を受けねば危険。
だがヴァニラの肉体は一般人の少女ではなく、立神あおいが変身したプリキュアの一人。
常人を遥かに超える打たれ強さは精神が変わろうとも健在。
変身を解除すれば流石にマズいだろうが、わざわざ元の姿に戻る理由も無い為キュアジェラートのままでいた。
「ふん、DIO様の手で生まれ変わった体ならこんな傷…」
吸血鬼の肉体であれば今頃は再生が済んでいるだろうに。
一々傷の手当てなど必要も無い。
使える能力があっても、やはり元の体とは比べるまでも無いと吐き捨て、
-
「…………待て。もしや、この体の影響なのか?」
雷に打たれたように、ヴァニラの中である考えが浮かび上がった。
自分がDIOのカリスマに疑問を抱き、背信同然の思考になった理由。
根本的な原因は宇宙船でフリーザの画像を見てしまったから。
そう思っていたが、もしかすると他に原因があるんじゃあないか。
別人の体に、立神あおいという小娘の体になったせいで己の精神に本来ならば有り得ない考えを抱かせたのでは?
放送でハワードが話した内容を思い出す。
あの時は体だけとはいえフリーザが現れ動揺したが、確かこんな事を言っていた筈。
身体側の人物の精神が発生し、接触した参加者が数名確認出来たと。
ヴァニラ自身には今の所そういった現象は起きていない。
しかし主催者が放送で伝えるくらいなのだから、身体側の精神が目を覚ましたのは事実と見て良い。
そういった不可思議な現象が発生するならば、自分も身体側からの何らかの影響を知らない間に受けたかもしれない。
例えば、本来の自分では考えもしないことをふいに思ってしまったりだとか。
プロフィールを見るにあおいは善側の人間。
悪の救世主であるDIOとも、部下である自分とも根本的に相容れない。
そのような小娘の肉体のせいでDIOへの忠誠心を狂わされたとしたら?
「そうか…そういうことか……ふざけるな小便たれのクソガキがっ!!私にDIO様へ唾を吐かせる真似をさせおってぇ…!!!ゴキブリの糞にも等しい下らん正義感で、DIO様の道を阻むなど許してはおけん…!!」
仮の肉体へ向けてあらん限りの罵倒を繰り返す。
それなりに使える体だと一定の評価は下していたが前言撤回。
ジョースターと同じつまらない正義感で己の邪魔をしくさった、全く忌々しい小娘だ。
叶うならば今すぐにでも全身を引き裂いてやりたい、だがまだその時ではない。
腹立たしいがあおいの体を失えば、今の自分も無事では済まない。
承太郎やPK学園に現れた一行と言ったDIOの敵が未だ健在な中で、感情任せに自ら命を絶つのは愚行にも程がある。
元の体を取り戻すまではあおいの体と付き合うしかない。
全てが済んだら、必ずや暗黒空間に送り髪の毛一本も残さず消し去ってやらねば気は済みそうもなかった。
-
と、怒りを燃やすヴァニラだがその推測が必ずしも正しいとは限らない。
確かに、参加者の中には肉体の影響を強く受けた者が複数人存在する。
だがヴァニラもその中に含まれるかどうかは別。
あおいの体の影響とは無関係に、ヴァニラの忠誠へ亀裂が生まれたと言い切れない理由も無い。
しかしヴァニラ自身はそれを認める訳にはいかない。
己の背信を認めてしまえば、ヴァニラ・アイスの世界は今度こそ完全に崩壊してしまう。
だから、あおいの体から影響を受けたのが原因という逃げ道を手放す事は出来なかった。
「…む、そろそろ時間か」
憤怒一色の顔色で罵りの言葉を吐き続け、少々息切れする。
何と無しに顔を上げ、壁に設置された時計の時刻に気付いた。
いつの間にか、DIOが言っていた出発時刻までもう間もなくといったところ。
主を待たせるなど以ての外、怒りを引っ込めきびきびした動きで校長室へ向かう。
ドアをノックし入室許可を得ると、中へ入り跪く。
「DIO様、こちらを…」
予め確保しておいた雨具を渡す。
用具倉庫にはご丁寧にビッグサイズのレインコートも完備してあった。
平均的な日本人男性を優に超えるジョナサンの体であっても、これなら十分雨風を凌げる。
素早く身に纏うDIOに倣い、ヴァニラも自分用のレインコートを着終えて準備完了。
首輪や支給品は全て回収しており、現段階でこれ以上学園にいる理由は無い。
「付いて来い」
「はっ」
最初の6時間の間に訪れてから今に至るまで、それなりの時間留まった施設を出る。
果たして再びここに戻る時はあるのだろうか。
一つ浮かんだ些細な疑問を切り捨て、DIOは部下と共にPK学園を後にした。
-
◆◆◆
葛飾署を出発してからの道中にこれといったトラブルも無く。
気が付くと目的地まで残り少し距離に差し掛かる。
余計な手間を掛けずに目当ての場所まで来れて、運が良いと言うべきか。
他の参加者と遭遇し戦闘になったとしても、JUDO自身は別に構わなかったが。
闘争の果てに勝利すれば、ディケイドの能力がまた一つ解放される。
他にも支給品や首輪等の戦利品が手に入るのを考えると、戦いはむしろ望む所。
虫の一匹とすら現れないのには些か肩透かしを食らったものの、出会わなかったのならそれはそれで仕方ない。
舗装された道を外れて、どれくらい経ったか。
ジョースター邸なる施設を見付けはしたが立ち寄る気はない。
焼け落ちた屋敷は見るも無残な有様。
元の頃にはあっただろう貴族の住まいらしさは微塵も見当たらなかった。
もし使える道具があっても、火事で燃えてしまった可能性が高い。
時間を掛けて探索した末、結局何も収穫がありませんでしたでは時間をドブに捨てるも同然。
さっさと本来の目的地である地下通路に行った方が良い。
雨で濡れた草花を踏みしめ、一言も発さずに進む。
周囲の木々は所々が焼け焦げているのが見て取れた。
と言っても豪雨の影響も有り既に大半は鎮火したようだが。
「あれか…」
移動を続け、その内景色に変化が現れた。
草木が密集したエリアに存在する人工物。
近年では携帯電話の普及により年々数を減らしつつある、公衆電話がぽつんと置かれている。
更に周囲を注意深く見渡せば、公衆電話近くの地面にぽっかり空いた一つの穴。
自然に出来たにしてはいやに綺麗な形だ、恐らくあそこが地下通路への出入り口。
地下に入る穴はともかく、公衆電話を設置した意味が分からない。
首を傾げながら近付き、
-
「……っ」
足を止め身構える。
右手にはガンマンの早撃ちを思わせる速度で抜き取ったカード。
即座に変身出来るよう警戒し、黒炭化した木々を睨む。
JUDO自身が持つ感覚か、或いは門矢士の肉体による恩恵か。
察知したのは何者かの気配。
素人では無い、これ程に近付くまで全く存在を気取らせなかった。
間違いなく相当の手練れ。
「やっと来やがったか。待ちくたびれたぜ」
JUDOが睨み付ける先でヌッと現れたのは一人の男。
敵意の視線も何のその、不敵な態度で堂々と己が身を見せ付ける。
赤胴色に焼けた肌を惜しげも無く晒した巨漢。
腰に巻いた布と顔の装飾以外は何も身に着けていない、現代社会には明らかにミスマッチな格好だ。
衣服の概念を知らぬ原始人、そう嗤える輩が果たしているのかどうか。
鍛え上げた、という言葉すら生温い筋骨隆々の鎧が如き肉体。
人の域では到底辿り着けないだろう程に満ち溢れる生命力の、何たる力強さ。
常人であれば本能で屈服せざるを得ない、圧倒的な存在感の男であった。
「ほう…」
敵意に混じり幾分かの興味を視線に宿す。
外見こそ人に近しいが、家畜と呼び蔑むそれらとは明らかに別物。
改造人間とも違う、別種の進化を果たした生命体と言った所か。
隠れ潜んでいたのから察するに、モノモノマシーン目当てでやって来た参加者を待ち伏せていた。
自らの狩場とする戦法自体は否定しない。
だがどちらが狩られる立場かを勘違いしているようなら、力で以て教えてやる必要がある。
-
「わざわざ我にその命を刈り取られる用意をしていたとはな。殊勝なことよ」
「言ってくれるじゃねぇか」
挑発を鼻で笑い、志々雄真実はゴキリと首を回す。
燃えカスの臭いが漂う森で待ち構えること数時間。
苛立ちが限界に達するのも時間の問題となった時、ようやっと新しい参加者が現れたのだ。
しかも随分と威勢のいいことを言ってくれる。
見たところ鍛え抜いた戦士の体付きでは無いが、力の差が理解出来ない馬鹿でも無いだろう。
妖術らしきものを使った強面の男のように、何らかの戦闘手段を有しているのか。
なんにせよ、溜まりに溜まった鬱憤を晴らせるのなら構わない。
「テメェこそ俺の為に首輪を運んで来るなんざ、気が利いてるぜ」
「フン、減らず口を…」
手にした剣の切っ先を突き付けるのは、参加者が命を握られた証。
挑発を返されたとてみっともなく癇癪を起こしはしない。
参加者が油断ならない力を持ち、屈辱を味合わされた事実は痛感している。
故に自らの「敵」として確実に殺すのみ。
「変身」
『KAMEN RIDE DECADE!』
複数のプレートが顔面に突き刺さり、特殊な形状の仮面と化す。
マゼンタ色の装甲を纏い、世界の破壊者への変身が完了。
ソードモードのライドブッカーを構えれば、対する志々雄も笑みを深める。
「ほぉ…大した絡繰りだが、まさか見掛け倒しってんじゃねぇよな?」
「己の体で試してみるといい」
先に動いたのはディケイド、ライドブッカー片手に真正面から突撃。
プロトタイプにも引けを取らない身体能力にものを言わせて斬りかかる。
只人相手ならばこの程度の単純な動作でさえ脅威と化す。
-
「そうかい。なら言葉通りに、テメェの玩具がどれ程のもんか試してやるよ」
ディヴァインメタル製の剣を阻むは、機械仕掛けの大剣。
数多のドーパントを撃破した重厚な刃、ディケイドの武器だろと破壊は困難。
押し込むべく両腕に力を籠めるも、敵は巨像の如くびくともしない。
踏ん張り続けても隙を見せるだけと理解した直後、レンズが捉えるは志々雄の右足。
一般人の八倍の視細胞を持つ視覚機能により、攻撃の予兆を瞬時に察知。
跳躍し蹴りを躱す、空気の振動だけで異様な高さの威力と分かった。
片足を振るっただけだと言うのに、まるで大木を振り回されたように感じる。
「フンッ!」
避けて終わりで済ましはしない。
頭上を取ったなら次の攻撃に移るチャンス。
頭部へとライドブッカーを振り下ろす。
どれだけ屈強な肉体と上等な得物があろうと、頭部の脆さは変えられない。
頭蓋骨を叩き割り脳へ届かせるべく迫る刃、されど敵の狙いは志々雄にも安易に予測可能だ。
「すっトロいぜ」
大振りながら十分過ぎる速さも兼ね備えた斬撃。
振り上げたエンジンブレードがライドブッカーとかち合う。
互いの腕に走る痺れ、受けた衝撃の勢いはディケイドが大きい。
意図せず志々雄から距離を離されるが、空中で体勢を整え着地。
『ATTACK RIDE BLAST!』
距離を取らされたのはむしろ好都合。
ライドブッカーをガンモードに変え、続けてカードをドライバーに叩き込む。
トリガーを引くと銃口が複数に増えたと錯覚させる勢いで、エネルギー弾が殺到。
強化された射撃能力を前に、志々雄は鼻で笑い対処に動く。
-
「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、ってやつか?」
回避では無く真っ向から捻じ伏せる。
疾走と同時に右腕を振り回し、得物を巧みに操り斬り落とす。
筋肉の鎧を掠めすらさせず、エネルギー弾は一発残らず霧散。
如何に超人的な身体能力と剣の腕を持つ志々雄とて、本来ならば銃火器の掃射を剣一本で凌ぎ切るのは不可能に近い。
回避に専念するか、遮蔽物に身を隠し隙を窺うのがセオリー。
此度は与えられた肉体と得物の両方がそれを可能にした。
とはいえ対処されるのをディケイドも予測しなかった訳ではない。
距離を詰められ刃を叩きつけられるのを待たずに再度跳躍。
戦法を変えるべく新たなカードを取り出す。
『KAMEN RIDE KUUGA!』
『FORM RIDE DRAGON!』
古代のリントの戦士、クウガへと変身。
基本形態であるマイティフォームから、更に別の姿へ。
敏捷性を高めたスマートな青の装甲を纏う、ドラゴンフォームへと変わる。
棒型の専用武器、ドラゴンロッドを装備しこちらから接近。
より軽やかな動きを可能とした形態だ、繰り出す攻撃のスピードはディケイドより上。
-
「あん?どんな仕掛けだ?」
姿形が丸っきり変わった事への疑問を口にしながらも、志々雄の動きには無駄が無い。
急所を狙って突き出されるドラゴンロッドを防ぎ、時には最小限の動作で躱す。
強化された敏捷性に翻弄されるどころか、平然と渡り合っているではないか。
十数度目の突きを防ぐと、こちらから押し返しクウガの体勢を崩しに掛かった。
「チッ…」
スピード強化の代償としてパワーと耐久力を削ったのが裏目に出る。
踏ん張りも効かず脚をもつれさせながら後退。
立て直しまでの僅かな隙すら見逃してはくれず、エンジンブレードが首目掛けて突き出された。
首輪に当たれば言わずもがな、薄くなった強化皮膚部分でも耐えられるかは微妙な所。
直撃は確実に避けるべき。
ドラゴンロッドでエンジンブレードを受け流す。
流れる水の如き動きこそドラゴンフォームの持ち味、しなやかな棒捌きで攻撃がいなされる。
「ちょこまかするだけが芸か?」
されど、速さならば志々雄も全く劣らない。
素でドラゴンフォームと渡り合う速さを有し、加えて純粋なパワーも非常に高い。
受け流し続けるには限界が近く、クウガの両腕に負担が圧し掛かる。
変わらぬ対処を続けたとしても勝機は無いだろう。
ドラゴンロッドを振るいつつ、次に切る手札を考える。
敏捷性を強化しても、志々雄が相手では単純なパワー不足。
クウガの別形態、タイタインフォームを使えば今度はスピードが足りず一方的に攻撃を受けるだけ。
暫しの思案後、使う力を選択し実行に移す。
-
ドラゴンロッドを翳し防御の構えを取る。
当然勢いは殺せず後方に吹き飛ばされるも狙い通り。
激突寸前で背後の木を蹴り上げ着地、手には投げ捨てたドラゴンロッドの代わりに一枚のカード。
敵が基本能力の高さで上を行くというなら、こちらは手数で勝負に出る。
『KAMEN RIDE BLADE!』
白銀の装甲と剣を模した頭部の仮面。
風都タワーでの戦闘を経て手に入れた、或いは取り戻した力。
仮面ライダーブレイドに変身完了。
『ATTACK RIDE SLASH!』
カード効果を付与させるのはブレイド専用の剣、ブレイラウザー。
封印したアンデットの力でブレイラウザーの切断力を強化。
剣に力が宿ったのを握る手から感じ取り、試し斬りとばかりに振るう。
「ちったぁマシな剣になったじゃねぇか」
武器の性能が数段上がったと察したのは志々雄も同じ。
エンジンブレードで受け止めると、刀身越しに腕へ掛かる力が増すのが分かった。
だからといって危機感を抱いているかと言えば、そんな事は全く無い。
余裕を失わぬ笑みでエンジンブレードを操り、ブレイドとの剣戟を繰り広げる。
豪雨の音をも掻き消し兼ねない金属音が響き合い、志々雄の笑みはより深まった。
血で血を洗い刃を交わす死闘の場、平和ボケした国なんぞよりもよっぽど自分の性に合う。
-
志々雄とは反対に仮面の下のJUDOの表情は険しい。
ブレイドは剣を振るうのに適した機能のライダー、それは痣の少年との戦闘時から分かっていた。
そのブレイドですら志々雄には未だ一撃も届かせられない。
相手の笑みから察するに、余裕はまだまだ残している。
だが剣を振り回すだけがブレイドの能力ではない。
ブレイラウザーを翳しつつ後退、ライドブッカーから望みのカードを取り出した。
『ATTACK RIDE THUNDER!』
ブレイラウザーに電撃が迸り、志々雄目掛けて発射。
切っ先を向けられた時より志々雄は既に回避へと移行。
巨体からは想像も付かない軽やかさで跳躍。
背後にあった木へ命中、ただでさえ火事で焼かれたというのにこれで完全な炭と化す。
雨で全身が濡れた体へ電気をまともに食らっては、如何に柱の男であっても無傷では済まない。
安堵する暇もなく、ブレイドが次のカードを叩き込む。
『ATTACK RIDE MAGNET!』
電子音声が告げた直後、志々雄の腕が引き寄せられる。
正確に言えば手に持った得物が。
元はバッファローアンデットの能力である磁力操作により、エンジンブレードがブレイドの元へと飛来。
当然自ら武器を手放す真似はせず、掴んだままの志々雄も地から足が浮く。
本人の意思とは無関係に敵へ急接近する志々雄を、ブレイドも大人しく迎えてやるつもりは無し。
『ATTACK RIDE BEAT!』
ディケイドライバーが読み込むは、ラウズカードの効果を内包した内の一枚。
ライオンアンデットの能力によりパンチの速度と破壊力を強化。
自ら飛び込んで来る標的を仕留める拳を構え、ブレイドは見た。
この状況でも尚、己こそが捕食者であると信じて疑わぬ男の笑みを。
「構えがなってねぇな。拳ってのはこう使うんだよ!」
磁力操作で引き寄せられる勢いすらも利用した一撃。
拳同士が激突し、両者共に弾かれ合う。
無様に地面を転がるのは互いにプライドが許さない。
二本足でどっしりと踏み止まる。
-
「けったいなもん着込んでる割には生温いな。どっかの馬鹿の方がまだ効いたぜ」
ブレイドの手甲と殴り合ったにも関わらず涼しい顔。
ハッタリの類でないことは、対峙中のブレイドにも分かる。
生身で放ったとは到底思えない、鉄塊の如き強度だった。
もしパンチ力を強化していなかったら、破壊はされずとも痺れで暫くは拳を握れなくなったに違いない。
一方で志々雄の拳にも幾らかの傷は見られたが、既に再生が始まっている。
精神はともかく、思った通り体は人間では無かったようだ。
(やはり侮れんな)
肉体が持つ力もさることながら、それを操る本人の技術もまた相当な脅威。
特に剣術はJUDOから見ても、最早達人というレベルを超えた強さ。
機械仕掛けの大剣をまるで自分の手足のように振るう巧さは、相当な数の人を斬らねば身に付かない。
正史における仮面ライダーZXとの決戦で指摘された、JUDOは多彩な能力こそ優れていても技や精神面では未熟であると。
本郷猛や一文字隼人といった戦士達が激戦の中で習得した技術、それがJUDOには無い。
敵が持つ力の程は分かった、かと言って動揺は見せない。
そも、最初に剣を交えたリオン・マグナスや、直後に出会った両面宿儺の時点で参加者は侮れない存在だと理解出来た筈。
自らの敵として認めるに至った風都タワーでの戦闘を思えば、想定以上の力の持ち主がごろごろ現れても不思議はない。
むしろ一々戦慄してみっともなく慌てふためいた、痣の少年との一件の方がどうかしていた。
されどあの屈辱もまた、ある意味必要な経験だったと受け入れる。
敗北をも糧にし勝利を手に入れてこそ、リベンジになるのだから。
渇きを満たす相手として不足無し。
戦意を滾らせるJUDOの意思へ呼応するかのように、ライドブッカーからカードが飛び出す。
「む…」
描かれたのは新たなる戦士の姿。
また一つ力を手に入れた、理解したなら使用に躊躇は無くドライバーに叩き込んだ。
-
◆◆◆
「ふぅむ……」
興味深気に見上げるDIOの後ろで、ヴァニラも訝し気な視線を向ける。
現在彼らがいるのは砂浜沿いのエリア。
地図で言えばG-2の南西にて、奇妙な物体を発見したのだった。
PK学園を出発し、これといったトラブルにも出くわさず黙々と移動。
雨の中を駆けたというのに息は上がらず、汗の一つも掻いていない。
波紋戦士とプリキュアの体なら、数エリア分の移動だろうと体力には余裕があった。
このまま森林地帯に進もうとした時、ふと視界の端に捉えたのは建造物と思しきナニカ。
一回目の定時放送前には気付かなかったが、G-2にも施設が設置されているらしい。
あの時は火事が広まる前に森から離れるのを優先、加えて貨物船という奇妙な参加者との出会いもあってのんびり周囲を探索する考えには行き付かなかったのである。
しかし今なら森林火災の危険も消え失せ、落ち着いて調べる事が可能。
寄ってみて損はないと判断し、こうして訪れたのである。
「アイス、お前はどう見る」
「…恐らくは海賊船の類、ではないかと」
少々自信無さ気な返答。
正直DIOからしても部下がそのような言い方をする気持ちは分かる。
ヴァニラが言った通り、彼らの目の前にあるのは一隻の船。
メインマストにドクロマークがでかでかと描かれており、誰が見たって海賊船をイメージするだろう特徴。
一方で船主には歴史上の名高い船のような女神像や、海賊らしい髑髏モチーフの飾りは存在せず。
巨大なライオン、それもDIOから見ればどこか気の抜けるような顔が取り付けられていた。
略奪と侵略こそを人生とする海の荒くれ者の船には、余りにも不釣り合い。
もっと言うとマストのドクロマークが麦わら帽子を被っている意味も分からない。
「……まぁいい」
船の持ち主の趣味嗜好はどうでもいい。
重要なのはこのDIOの役に立つ物があるのかどうかだ。
船には良い思い出が無いが、それだけで探索を取りやめる気もない。
地図を見てもこのエリアには施設名が記されていなかったように、訪れたのは自分達が最初。
なら先客に物色された後という事も無いだろう。
部下を引き連れ早速船内へ入り込んだ。
-
外観からある程度予想は付いたがこの船、内部も中々に広い。
船員達の生活スペースは勿論のこと、医療室や図書室に大浴場まで完備。
野蛮な男連中の集まりという海賊のイメージとは随分違う。
本当に海賊船なのかと疑問に思いつつ、二人は舵輪の前に辿り着いた。
と言っても肝心の舵輪は取り外されており、これでは船も操縦不可能。
あくまで一施設として置いただけで、参加者が自由に動かすのは認められていない。
これを動かして会場から逃げる、というのも無理。
DIOにそんな気は無いが。
「ふむ?これは…」
外された舵輪などよりも興味を引く物があった。
船内の設備とは明らかに違う、金属製の箱と画面。
下の部分に取り付けられた投入口は、形状からして思い付くのは一つ。
自分の首を軽く撫でながら、試しに画面に触れてみる。
反応は有りだ、画面上に文字が表示された。
『ソルジャードッグシステム。必要な個数分の首輪を入れてタッチしてください』
『シロモクバ1号:ウェイバー ×1』
『ミニメリー2号:蒸気機関外輪船 ×2』
『シャークサブマージ3号:偵察潜水艇 ×2』
『クロサイFR-U4号:大型バイク ×3』
『ブラキオタンク5号:戦車(フランキー将軍の操作マニュアル付き) ×4』
文字に触れてみても無反応。
顎に手を当てこれの使い道を考える。
読み取れる情報としては、首輪と引き換えに移動手段を寄越す装置だろうか。
ネーミングセンスはともかくとして、どんな乗り物なのかもご丁寧に書かれている。
唯一、ウェイバーというのだけは初耳だが。
ついでにフランキー将軍とかいうのも何なのか不明。
首輪との交換で道具を提供するのは、放送で伝えられたモノモノマシーンがある。
あっちは首輪一つか参加者一人の殺害で利用できる反面、何が入手出来るかはランダム。
大してこれは物によっては複数の首輪が必要であれど、手に入るアイテムの情報は先に知れる。
移動用の足が手に入るのは悪くない。
だがモノモノマシーンを使い一発で手に入る可能性を考えれば、ここで首輪を消費するのは惜しい気がしないでもない。
戦車の火力に多少思う所はあれど、すぐに使おうという気にはなれなかった。
(保留が妥当か)
今後の首輪の入手具合によってまた考えも変わるだろう。
一先ず使用は保留にして、当初の目的地へ向かう。
トレーニングルームにあったダンベルや、キッチンの刃物は武器に使えるだろうが持って行く気は皆無。
エターナルメモリに二振りの刀、何より自慢のスタンドに比べれば遥かに劣るそれらに手を付けようとは思わない。
医務室の医療品も同様だ、不死と化したジョナサンの肉体に人間と同じ処置は不要。
ここでやる事はもうない。
荒れ狂う天候の下に再び身を晒し、焼け焦げた木々の檻の中へと走り出した。
-
◆◆◆
『KAMEN RIDE KABUTO!』
解放されたライダーの記憶がJUDOを新たな姿へ変える。
赤い装甲と青いレンズ。
昆虫をモチーフにしただろう角、全体的にスマートなデザイン。
仮面ライダーカブト。
バトルロワイアルにて呪いの王が変身した戦士が、此度は世界の破壊者の力として君臨。
「おいおい、どんだけ変われるんだそりゃ?」
札らしき物を腰の絡繰りに入れ、丸っきり別の装甲を次から次へと纏う。
明治時代どころか、現代日本でもオーバーテクノロジーな産物には志々雄も呆れを抱く。
言動の軽さとは裏腹に、剣を振るう手は苛烈なままだ。
姿が変わろうと斬って殺せるなら何も問題はない。
装甲諸共粉砕せんと迫り、得物を振り被った。
『ATTACK RIDE CLOCK UP!』
だが一手早いのはカブト。
姿を変えた時点で不思議とこのライダーが有する能力を理解。
士の体になった影響かどうかは一旦置いて、取るべき行動を即座に選択。
無駄のない動きでカードをドライバーに装填すると、志々雄の目の前でカブトが消えた。
いや、完全に消失したのではなくそう錯覚しかねない速さで動き出したのだ。
刃が当たる直前、志々雄の瞳は一瞬だが赤い影が動くのを捉えたのだから。
-
「がっ…」
避けられたと認識した時にはもう、胴体を衝撃と痛みが襲う。
硬い物体が叩きつけられる感触、殴打を受けたのだと理解。
柱の男の巨体が宙に浮く様が、高速の世界に入り込んだカブトには驚く程スローに見える。
志々雄だけではない、振り続ける雫の一つ一つがその場に固定されたかのようだ。
目を凝らせば徐々に降下してはいるものの、地面に落ちて弾けるまでが異様に遅い。
雨粒の檻に閉じ込められた空間で、志々雄の体が地に伏せるのを待たず背後を取った。
それすら、現実の志々雄には微かな残像にしか映らない。
背後へ腕を振るう咄嗟の動きも蟻の歩みに等しく、どうしたって間に合いはしない。
再び襲い来る衝撃、背中を蹴飛ばされたと分かった時には手遅れだ。
吹き飛んで行く志々雄を、加速の世界から弾き出された戦士が見送る。
ワーム、マスクドライダーシステム、そしてアナザーカブト。
そういった存在と同様に、ディケイドが変身したカブトもまたクロックアップは発動可能。
だが本来よりも短い時間しか発動が許されない制限も同じ。
それでも脅威であるのに変わりはない。
間抜けなポーズで飛んで行った敵へ追撃を仕掛けようとし、
「よっ…とぉ!」
その敵が反対に自分の方へ急接近して来た。
やったのは至って単純。
吹き飛ばされる最中、近場の木を掴み片腕の力だけで全身を押し出す。
言うだけなら簡単でも実行に移す為に要求される能力は、まずただの人間には不可能。
こちらの反応が許されない攻撃は志々雄にも覚えがあった。
一回目の放送前に戦った強面の男、そいつが従える背後霊らしき存在に殴り飛ばされた時だ。
と言っても殴り飛ばされたとはあくまで感覚から判断したに過ぎず、実際に攻撃を受けた瞬間を認識出来てはいない。
ただ気が付いたら全身に痛みが走り、遥か後方へと体が引っ張られたのである。
カブトの場合はあの男と違い、異様なまでの速さを発揮したのだが反応出来ない点では同じ。
覚えのある攻撃故に驚きは少ない為、為す術なく殴り飛ばされた前回と違い体は立て直しへと動いた。
戦闘続行が不可能になるレベルの痛みは皆無、だったらこの程度の傷は捨て置いて構わない。
生きたまま全身を焼かれた地獄に比べたら、虫に刺されたようなものだ。
-
迫り来る志々雄を前にし、カブトに焦りはない。
自らが「敵」と認めた連中ならば、こちらの思いもよらぬ動きに出たって何の不思議もない。
焦り、慄き、屈辱に身を震わせ無駄に付け入る隙を誰が与えるものか。
むしろそちらから近付いて来るなら好都合、自ら首を差し出すのと同じである。
カブトがカードを取り出す一方で、志々雄も高威力の技を繰り出す準備に入った。
赤いメモリが内包するは、闘争本能を掻き立てる熱き記憶。
志々雄にとって炎とは自らを苦しめた悪夢、ではない。
過去の痛みなど一つの経験としてとっくに踏み越え、己の力へ変えた灼熱が刃に宿る。
『HEART!MAXIMAM DRIVE!』
『FAINAL ATTACK RIDE KA・KA・KA KABUTO!』
横薙ぎで振るわれた刃が乗せる炎。
接近の勢いもあって周辺を丸ごと切り裂き、焼き潰さんする威力だ。
対するは波動下させたタキオン粒子を一点集中し放つ回し蹴り。
数多のワームを撃破した本来のカブトと同様の技は、柱の男であろうと直撃は非常に危険。
足諸共全身を両断せんと刃が押し込まれ、反対に刃共々粉砕するべく蹴りの重みが増す。
ガイアメモリとタキオン粒子、二つのエネルギーが喰らい合うもやがて拮抗には限界が訪れる。
互いの力に耐え切れなくなりエネルギーが霧散、両者揃ってたたらを踏み数歩後退。
「しゃぁっ!」
そのまま距離が開くのを良しとせず踏み込むは志々雄。
焼けた草花を踏み潰し、エンジンブレードを両手持ちに変え振り下ろす。
装甲があろうと関係無い、そう言わんばかりの気迫を伴った一撃だ。
『FORM RIDE KABUTO MASKED!』
一手遅れてカブトもカードを装填。
ディケイドライバーが読み込んだ時には既に、剣は装甲へと叩きつけられた。
金属へ当たった手応え、このまま粉砕せんと力を籠める。
「あぁ?」
だが刃はそれ以上進みはしなかった。
キリキリと不快な音を響かせるだけで、ほんのちょっぴりの亀裂すら入らないではないか。
と、ここで志々雄もカブトの姿が変化しているのに気付く。
先程までのスマートな外見と違い、重厚な装甲を着込んでいた。
-
マスクドフォーム、防御性能と肉弾戦に優れたマスクドライダーシステムの第一形態。
ディケイドの場合はゼクターの操作では無く、カードを使ってフォームチェンジを行う。
俊敏性を犠牲に強化装甲を纏っただけあり、防御力は先程よりも上。
志々雄の剣を強引に止め、己が両腕を跳ね上げる。
「この距離で防げるか?」
腹部へゼロ距離で当てる二つの銃口。
ガンモードのライドブッカーと、同じくガンモードのカブトクナイガン。
発射寸前のエネルギー弾により熱を帯びる銃口、しかし志々雄は退かず更に両腕へ重みを掛けた。
筋肉が盛り上がりヒヒイロカネの装甲が軋み出し、同時に引き金が引かれる。
血飛沫のように大きく散らされる火花は、カブトの装甲から。
火事の跡とはまた違う肉が焦げる臭いは、志々雄の腹部から。
両者痛み分けとなりまたもや互いに後退。
痛みはある、されど装甲の恩恵でカブトは死を免れて、志々雄に至っては既に再生が始まっている。
戦闘はまだ続行可能、何より敵が生きているのに自分だけみっともなく死ぬのはプライドが許さない。
得物を構え直し、次の手を弾き出そうと脳が働きを見せ、
『――――っ!!!』
共にあらぬ方へと視線をぶつけた。
眼前の敵から意識を逸らすのは自殺行為。
互いに理解して尚もそうせざるを得なかった。
無視など出来ない、警戒を向ける他無い存在がそこにいると分かったが故に。
「おっと、邪魔をしてしまったかな?」
震え上がるどころか、視線だけで殺せるだろう敵意を向けられた当人は、
至って涼しい顔で戦場に現れた。
-
○
ジョースター邸へと向かう道中、聞こえて来たのは争い合う音。
丁度地下通路の出入り口付近にて絶えず響くそれに、急遽予定を変更。
近付いてみれば案の定、己が得物で鎬を削る参加者が二人。
ほんの数秒前まで互いに向け合っていた敵意が、今は自分に叩きつけられている。
されどDIOに慌てる様子は見られず、余裕の笑みさえ浮かべているではないか。
乾いた音がした。
雨に掻き消されそうな音の正体はDIOの拍手。
パチパチパチパチ。
一定のリズムで奏でられるソレに賛辞や感動は微塵も宿っておらず。
見世物を揶揄するかのような、挑発的な意図をJUDOも志々雄も感じ取った。
「それなりに悪くないものを見させてもらったよ。流石にここまで生き残っただけの事はある。ああ、私達は気にせず続きをやると良い」
傲慢さがこれでもかと籠められた言動に、はいそうですかと頷く者はいない。
言い終わるのを待たずに接近する影。
赤銅色の巨漢が振り被る剣を前にして尚、DIOが表情を変える事は無かった。
刃が捉えたのは不遜な乱入者の首、ではなく。
交差させた両腕に纏う氷塊。
青い衣装の少女が睨み付けるは主へ牙を剥く不届き者。
DIOへ向けられる敵意を狂信者、ヴァニラ・アイスが見過ごす筈がない。
「やれやれ、躾がなっていない野良犬だな」
「はっ、くっちゃべってるだけなんざつまらねぇだろ?折角だ、テメェらも交ざってけよ」
歯を剥き出し好戦的に笑う志々雄へ、肩を竦めるDIOとは反対にヴァニラの殺意が急上昇。
主に剣を向けたばかりか、何たるふざけた口の利き方か。
最早ヴァニラの中で相手を生かす選択肢は塵も残さず消え去った。
二度とふざけた戯言を発せぬよう息の根を止める。
「DIO様に剣を向けた愚行、貴様の死で償え狂犬が!」
「そう言うテメェは忠犬でも気取ってんのか?」
焼け付く怒りもさらりと受け流し、相手を変えて戦闘を再開。
氷のブロックによる殴打の嵐も何のその。
相も変らぬ剣捌きで、掠りもさせずに防ぐ。
-
殺気を撒き散らし離れるヴァニラたちを見送り、ゆっくり振り返るとマゼンタ色の装甲が見えた。
初めて見る姿、しかし腰に装着したバックルはDIOにも見覚えがある。
色こそ違うものの、戦兎が使っていたものと酷似した形状。
スタンドに同じタイプがあるように、仮面ライダーへの変身ツールにも同様の機械があるのかもしれない。
「あの男に同調するのは癪気に喰わんが…水を差して無事で済むとは思うまいな?」
「血の気の多さは結構だが、楯突く相手を間違えない事だ」
刀身を掌で撫で戦意をありありと見せつけるディケイドに、DIOもまた嘲笑を返す。
こうも小生意気な態度を取られたなら、相応の報いというやつを受けさせてやらねばなるまい。
ロストドライバーを装着すると、仮面の下で相手の気配が変わったのを察する。
見せ付けるようにエターナルメモリを掲げ、ガイアウィスパーが高らかに名乗りを上げた。
『ETERNAL!』
「変身」
『ETERNAL!』
波紋戦士のマッシブな肉体を覆い隠す真珠色の装甲。
ローブを靡かせ威圧感を更に増したDIO、対するJUDOも真っ向から睨み返す。
少々予想外に事態にはなったがやる事は変わらない。
むしろこのプレッシャーを思えば、相手にとって不足は無し。
帝王と大首領。
幕末の亡霊と狂信者。
正義無き、悪と悪による闘争の幕開けだ。
-
◆
ライドブッカーで先手を仕掛けるディケイド。
既にカブトへの変身は解除され、現在の姿は基本形態であるマゼンタ色の戦士。
別のライダーヘ変身する気はまだ無い。
クセの無く安定したフォーム故に最も動き易い。
まずはディケイドのままで様子見だ、手に馴染みつつある剣で斬りかかる。
(やはり装備も同じか)
見知った武器が迫り、改めて自分の知る仮面ライダーと同タイプであると察する。
であるなら対処法も変わらず、エターナルエッジを掌で一回転させ翳す。
初撃程度は難なく防ぐだろうとは、ディケイドにも予測出来たこと。
狙いを変えて再度剣を振るえば、再びコンバットナイフで弾き返された。
急所を的確に狙った剣だが、敵がナイフを振るう動きには無駄がない。
闇雲に剣を振り回した所で却って攻撃のチャンスを与えるだけだ。
エターナルの防御を崩しに行く。
『ATTACK RIDE SLASH!』
ライドブッカーに次元エネルギーを付与。
未知の鉱石で構成された刀身は、本来刃こぼれ等の破損とは無縁の強度を持つ。
そこへカードの効果で更に切れ味と手数を強化。
一振りの度に複数の斬撃が発生し、生半可な防御など容易く打ち破る。
ライダー世界の怪人達へ幾度も有効的なダメージを与えた破壊者の剣。
だがディケイドの一方的なステージが許される場でない事は、JUDO自身も理解の内だ。
「ノロいノロい。芋剣士の鈍ら刀でこのDIOに歯向かおうなど、愚かとしか言いようがないな」
強化されたライドブッカーすらもエターナルには児戯同然。
ほんのちょっぴり素早くなった所で、さしたる脅威にはなり得ない。
首を、胴体を、四肢を。
各部を襲う鬱陶しい刀身を弾き、合間を縫ってこちらから刃を突き出す。
ただのナイフと侮るなかれ、エターナル専用の武器だけあって性能はライドブッカーにも全く劣らない。
究極の姿となったダブルすら切り裂いた凶悪さは、変身者が変わろうと健在。
ディヴァインオレ製の装甲に切っ先がヒット、殺し切れない痛みが襲う。
思わず漏れかけた呻き声を抑え、ライドブッカーを防御に回す。
-
「ぬぅ…!」
されど防ぎ切れず突きが次々と命中。
痛みを噛み殺しながらディケイドはどこか違和感を覚えた。
自分の攻撃をこうも簡単に打ち破るのは相応の強さを持つから。
それだけが理由では無い気もする。
何と言えば良いのか、まるでこちらの剣への対処に慣れているかのような動きに見えたのだ。
JUDOの推測は間違っていない。
ディケイドが使う武器、ライドブッカーとの打ち合いをDIOは戦兎相手に飽きるくらいに経験済み。
間合いの取り方や隙の出来る瞬間は手に取るように分かる。
戦兎が変身した中で最も警戒を向けるビルドジーニアスならまだしも、通常形態のディケイドならば恐れるに足りず。
まして現在のエターナルは肉体や支給品によりスペック以上の能力を発揮可能なのだ。
真実を知る術は無い、確かな事はこのままでは一方的に攻められ敗北へ叩き落とされるだろう一点。
だったら戦法を変えるまで、ディケイドというライダーの本領を発揮させてもらう。
首輪などの致命的な箇所を狙った切っ先だけはどうにか防ぎつつ後退。
ブックモードに戻したライドブッカーよりカードを取り出す。
描かれているのは黄金の肉体と真紅の瞳を持つ戦士。
『KAMEN RIDE AGITO!』
マゼンタ色の装甲は光り輝く強化外骨格に早変わり。
仮面ライダーアギト、その基本形態であるグランドフォーム。
格闘を主体とした安定性のあるフォームだが、エターナルの手数を相手にするには少々力が足りない。
スピード重視の形態で対抗しようと、更にカードを読み込ませる。
-
『FORM RIDE AGITO STORM!』
装甲部分が青に染まり、左側のショルダーアーマーも形状が変化。
風の力を宿したアギトの派生形態、ストームフォーム。
バトルロワイアルで変身するのはこれが二度目だ。
(姿を変える機能も奴が使っていたものと同じか。予想はしていたがな)
ディケイドの姿が変わった光景に驚きは無い。
そういう能力の仮面ライダーだとはとっくに知っている。
ただ今目の前にいるのは、戦兎との戦闘では見なかったライダー。
果たしてどのような力を秘めているのか。
疑問への答えは言葉ではなく体に直接教えてやろうと、アギトが攻撃に打って出た。
変化したのは外見のみならず、扱う得物も同様である。
強化外骨格と同じカラーリングの薙刀、ストームハルバードが出現。
豪快ながら鈍重とは程遠い動きで回転させ、黄金の刃で斬り付けた。
再度エターナルエッジで対処に出るも、わざわざ姿を変えた意味はあったと理解。
ライドブッカーを振り回していた時以上にスピードが強化されている。
「ザ・ワールド!」
だからどうしたという話だが。
エターナルだけがこちらの全てと思ってもらっては困る、最強のスタンドの力を味合わせてやろう。
「貴様その力は…」
「無駄ァッ!」
アギトの呟きを掻き消し拳を放つ。
燃え盛る両腕から放たれるラッシュの勢いたるや、数百発が一度に襲い掛かって来ると錯覚を抱きかねないレベルだ。
ショルダーアーマーが風の力を増幅させ、ストームハルバードに伝達。
回転速度を一段階引き上げ黄金の刃が拳激突。
されど、有利なのは依然としてエターナルと彼が操りしスタンド。
スピードを強化したばかりだというのに、早くも引き離された。
-
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!」
速さもさることながら一撃の重さも桁違い。
エターナルメモリのエネルギーを流し込んだ強化により、元のステータス以上に凶悪な力を有するのが現在のザ・ワールドである。
対するストームフォームのアギトはスピードこそ優れていても、パワーや耐久面は通常時より低い。
おまけにスタンドだけでなく、スタンド使い本体も攻撃に参加しているのが厄介だ。
パワー、スピード、手数の全てで敵に上を行かれては流石に為す術も無い。
対抗する手段は一つ、こちらも上記の三つを強化する姿になるしかない。
ストームハルバードより暴風を発生、ラッシュに掻き消されるも僅かな隙は作れた。
『FORM RIDE AGITO TRINITY!』
変身するのはアギトの進化形態、トリニティフォーム。
左腕はそのままに、胸部は元の状態へ戻り、右腕は炎の如き真紅に染まる。
ストームフォームのスピード、フレイムフォームのパワー、そしてグランドフォームの安定性。
これら三つの特性を最大限に発揮可能な形態だ。
更なる進化を遂げた残り二つの姿程ではないが、現在のディケイドが使えるアギトの力では最上位。
左手の薙刀だけではない、右手に長剣を出現させる。
「ほう…」
ほんのちょっぴりだけだが感心した声はエターナルから。
二つの得物を巧みに操り、こちらの猛攻を凌いでいる。
成程、因縁のあるヒーローと同じくそれぞれの姿を見事に使いこなしているらしい。
だがそれでも有利なのは自分であると確信する。
攻撃を多々防ぎ漏らした先程までとは違い、どうにか防いでいるのは明らか。
しかしそれだけだ、刃の一つもこちらへ届かせれてはいない。
-
アギトにも自身の不利は理解出来た。
強化態のアギトの力を以てしても、エターナルという壁は非常に高く分厚い。
ちまちま武器を振るうより、ここらで大技に出るべきか。
右のショルダーアーマーが炎の力を増幅、フレイムセイバーに伝達させ敵へと放射。
豪雨の下では幾らかの出力低下は避けられないが、至近距離なら幾分かマシ。
と言ってもエターナルには無問題、翳したローブが炎を完全に無効化。
これで良い、目的はカードを装填する隙を作ること。
『FAINAL ATTACK RIDE A・A・A AGITO!』
武器を両方共投げ捨て跳躍。
展開された頭部のクロスホーンは、所謂必殺技を放つ為の合図。
大地、風、炎。
三つのフォームが宿す力を右足に集中して放つ跳び蹴り。
シンプルながら破壊力はグランドフォームの倍。
本来の変身者、津上翔一でさえ威力の高さ故に記憶の再喪失という代償に襲われたのだ。
あくまでアギトの能力を再現したディケイドならば、流石にそうはならないが。
『ETERNAL!MAXIMAM DRIVE!』
とはいえ大技の予兆はエターナルにも察せられた。
迎え撃つべくスロットにメモリを装填。
エターナルエッジに蒼炎を纏わせ、解放する時を静かに待つ。
真下のエターナルへ向けて蹴りを放ち、地上からも蒼い斬撃が振るわれた。
アンノウンやドーパントを一撃で下して来た力同士の衝突。
勝負を制したのはアギト、斬撃が生み出す爆発の中を突っ切りエターナルに急接近。
-
「見事、と言ってやりたいが…やはりこのDIOには遠く及ばないのが現実よ!」
マキシマムドライブは通用しなかった?
否、斬撃こそ掻き消されはしても勢いの低下は免れていない。
何よりこちらの攻撃はまだ続いている。
エターナルの真正面に立つは黄金の拳闘士、両手の刀にはメモリの装填時に流し込んだエネルギーが付与されたままだ。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」
大海賊時代に振るわれた名刀を、ザ・ワールドを駆使しての連続突き。
放った直後ならまだしも勢いの削がれた技で突破は困難。
蹴りを押し返されたばかりか切っ先が全身を襲い、強化外骨格のみでは耐え切れない痛みに襲われた。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!!」
時雨の一突きが胸部を狙い打ち、大きく吹き飛んで行く。
最も強度な部分だったのはアギトにとって幸いだろう。
痛みは軽くないが致命傷は避けつつ、地面に叩きつけられ仰向けの姿勢でアギトからディケイドに戻る。
敵は強い、身を以て思い知らされた。
屈辱は勿論ある、だが激昂すれば痣の少年との苦い記憶の焼き直しだ。
一度深呼吸をしライドブッカーに手を伸ばす。
今の攻防はこちらの負け、なればそれをも糧にしてやる。
『KAMEN RIDE DEN-O!』
立ち上がり変身する、手に入れたばかりの力で。
黒のボディースーツの上から纏う装甲。
中央部分のレールを伝い仮面が頭部へと到達、まるで桃を割ったように展開。
変身者の気性を表してか、仮面も装甲も真っ赤。
仮面ライダー電王・ソードフォーム。
特異点の青年、野上良太郎が時の改変を目論むイマジンと戦った戦士。
そして、彼の一番の相棒と共に戦う際の姿である。
-
『FAINAL ATTACK RIDE DE・DE・DE DEN-O!』
敵の反応は待たずにカードを叩き込み、電王専用の武器へエネルギーを構える。
四つのパーツを連結させた剣、デンガッシャーの刀身部分が本体から切り離された。
柄を振り落とすと連動し刀身も同じ動きを見せる。
斬りかかる標的は勿論エターナル。
「チィッ…!」
咄嗟にエターナルエッジを翳すが威力は馬鹿に出来ない。
装甲を刃が走り散らされる火花、痛みという不快な感触がじわりと生まれた。
電王の技は一撃で終わらない、振り回した柄と同じ動きの刀身が再度襲い来る。
敵が調子に乗るのをエターナルは断じて認めない。
デイパックから取り出すは新たな武器。
PK学園で回収した海楼石の鎖をザ・ワールドに持たせ、縦横無尽に振り回す。
対能力者用に加工した鉱石は耐久性・耐熱性共に桁外れで破壊は困難。
切れ味を増したデンガッシャーとの打ち合いも可能だった。
四方八方から飛来する刀身を、鞭のようにしならせた鎖をぶつけ相殺。
必殺のエネルギーも永久には続かない、数度目の打ち合いで刀身は元の位置に戻った。
既に次の手札は切ってある、電王の力を更に解放。
『FORM RIDE DEN-O ROD!』
各部を覆う装甲と仮面の形状が変化。
青のアーマーはどこか亀の甲羅を思わせる。
電王・ロッドフォームへ変身し、デンガッシャーも剣から棍型へ変形させ振るう。
先端から糸状のエネルギー波を射出し、海楼石の鎖の鎖に巻き付ける。
引っ張り上げるも感嘆には手放されない、しかし体勢を崩す事は出来た。
接近し突きを繰り出すが、眼前に立ち塞がるはスタンド使い本体。
リーチで劣る分は速さで補いエターナルエッジ突き出す。
これを電王は辛くも防御して後退。
-
『FAINAL ATTACK RIDE DE・DE・DE DEN-O!』
イマジンの持つフリーエネルギーがデンガッシャーに流れ込む。
銛のように投擲された棍が真っ直ぐに飛来。
威力を高めたようだが自分には届かないと嘲笑し、エターナルはスタンドを操り棍を叩き落とす。
「なにっ!?」
が、その判断は誤りだ。
デンガッシャーを殴った瞬間に先端が突き刺さり、甲羅状のエネルギーが展開。
拳を突き出した体勢のまま拘束された。
影響はエターナルにもフィードバックされ身動きが取れない。
ここまでが電王の狙い通り、後はデンガッシャー以上に破壊力を強化させた蹴りを叩き込んでフィニッシュだ。
「生っちょろいカスの力でこのDIOを封じるなど、片腹痛いぞ貴様っ!!」
尚もタダではやられないのがエターナル…DIOという男。
流し込まれたエターナルのエネルギーが一層燃え盛り、ザ・ワールドの能力が急上昇。
オーラを発したかの姿と化し拘束を力任せに打ち破った。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!!」
敵自ら突っ込んでくるのなら、真っ向から捻じ伏せるのみ。
ラッシュが電王の全身に叩き込まれる、だが電王の蹴りもエターナルへ届いた。
胸板を蹴られ仮面の下で呻く、一方殴り飛ばされた電王はどうにか着地。
懲りずに構え直す不届き者の仮面を叩き割り、敗北へ突き落すべくエターナルが動き、
「貴様のスタンド…スタープラチナとやらよりも中々梃子摺らさせてくれる」
「なんだと?」
何気なく放たれた言葉に動きを止めざるを得ない。
今こいつは何と言った?
スタンドと、確かに自分の傍に立つ拳闘士を指してそう口にした。
それだけじゃあない、もっと無視できない言葉が飛び出たのを聞き逃してはいいない。
生意気にも星を名に冠したスタンドを操る者は、DIOの知る限り一人だけ。
ということはまさか、この男は承太郎と会っているのか。
疑問を直接ぶつけようとしたその時、両者を阻むように何かが投げ落とされた。
-
◆◆◆
「そらそらどうしたぁ!」
威勢の良さがそのまま剣の勢いに変わりヴァニラを攻め立てる。
片手剣ながら20kgという驚異の重量を持つ剣が、まるで小枝のように振り回されるのは冗談としか思えない光景。
現実の脅威と化すだけの力があるのだ、志々雄に与えられた体には。
おまけに闇雲に振るうのではない、粗野な口調とは裏腹に剣筋の何たる鋭いこと。
たった一撃貰えば即座に急所を切り裂かれ、致命的と言う他無い傷が刻まれるだろう。
戦闘が始まり数分が過ぎたが、その短い間で志々雄の技量の高さは嫌でも理解した。
率直に言って、このままでは確実にこちらが負ける。
「おのれ…っ!」
憎々し気な呟きは志々雄の怒声を前に儚く霧散。
胴体を真っ二つにせんと横薙ぎの刃が迫り、氷のブロックを翳し防ぐ。
幾度も剣を防いだ代償だ、両手に纏わせた氷が砕け散った。
舌打ち交じりにクリームエネルギーを再度放出、両手に氷を纏うや否や襲来する剣。
対処が追い付かなかず受けた傷がそこかしこに刻み付けられ、青い衣装が痛々しい赤に染まっている。
剣を使う相手との戦闘は初めてではない。
放送前に遭遇した天使のようなガキに、尖った帽子の娘。
もっと言うと、ポルナレフのシルバー・チャリオッツだってレイピアを使うスタンドだ。
だが純粋な技量にパワーとスピードを兼ね備えた化け物は、間違いなく志々雄が初。
氷のブロックで防御こそしてはいる、しかし余りの力強さに腕がへし折れそうだ。
本当に腕を使い物にされなくなるのも時間の問題。
馬鹿正直に殴り掛かっても勝てない。
理解したならより確実に葬れる方法を取れば良いだけの話だ。
幸いDIOからは大分距離を取っており、巻き込む心配も無い。
-
「クリーム!」
髑髏のような顔面のスタンドを呼び出す。
突如現れた異形を警戒してか志々雄が一旦距離を取った。
慌てた所でもう遅い、クリームの全身共々己が身を口の中に隠す。
「何だそりゃ?」
化け物が現れたと思いきや、そいつに喰われて消え失せた。
敵が何をしたいのか分からず訝し気に視線をやる。
直後、志々雄の背筋を走る悪寒。
同じようなものは生前に駆けた斬り合いの場で、数え切れぬ程感じた。
言うなれば嫌な予感とも言うべきものに、志々雄は逆らわず素直に従う。
名前も知らない他人の勘ならまだしも、自らの発する直感を信じずに何を信じるという。
何より、こういった殺し合いでの勘というやつは案外馬鹿にできない。
ガ オ ン ッ !
自分の判断は間違っていないとすぐに分かった。
飛び退いた志々雄は見た、今の今まで立っていた地面が削り取られるのを。
被害に遭ったのは地面だけではない。
焦げた草花を彩る赤は、志々雄の左肩から垂れるもの。
「こいつは…」
肩の痛みなぞ放って置いても治る。
優先して思考を割かねばならないのは敵の攻撃の正体。
傷痕を見やる、斬られたのでも撃たれたのでも、まして燃やされたのでもない。
抉られたと言うのが正しいかもしれない。
「チッ…」
突っ立ったまま考え込んでは馬鹿を見る。
消える気配の無い悪寒に急かされ疾走、背を向け走るのは非常に気に喰わないが今はこうするしかないだろう。
焼かれ黒く染まって尚も立つ木々の間を駆け抜ければ、追跡されていると見なくても分かった。
チラと振り返ると思った通り、自分の肩を喰らったのと同じ破壊が起きている。
-
ガ オ ン ッ !
ガ オ ン ッ !
ガ オ ン ッ !
ガ オ ン ッ !
木々や地面を削り取り、少しずつ自分の方へと牙を近付かせる。
奇怪極まりない現象に襲われながらも、志々雄の表情は冷静そのもの。
命の危機など最早日常茶飯事と言っても良い生き方をして来た、焦るだけ時間の無駄だ。
(…臭いも無けりゃ気配もねぇか)
鼻孔を刺激するのは焼けた木々と雨のにおいだけ。
攻撃の瞬間に必ず生まれる殺気すら全く感じられない。
存在自体をこの世から消失させた、だが死んだのでない事は今も削り取られる光景が物語っている。
前触れ無く破壊される木や地面を睨みつつ距離を取る。
移動の最中も常に頭を働かせ、攻撃の正体を見極めんと五感全てを研ぎ澄ます。
敵が使う技や所持する武器の性能を正確に見抜く観察眼。
これもまた志々雄を強者たらしめる一つの能力だ。
次から次へと音も無く刻みつけられる破壊痕を見据え、やがて一つの疑問が浮かぶ。
(何で俺をまだ仕留められてない?)
敵が存在する痕跡全てを消し、正体不明の削り取る攻撃を行っているのは言うまでもない。
だからこそ違和感を感じる。
気配を完全に殺せるのならば自分に気取られることなく接近して、より正確に頭部を削り取るのだって可能だろうに。
当てずっぽうというか、攻撃に無駄が多いように感じられてならない。
-
膨らむ疑問は正体へ辿り着く最大のヒント。
志々雄が答えを導き出すのに、そう時間は掛からなかった。
「ハッ、そういうことかよ」
見えていないのだ。
だから手当たり次第に削り続けるしかない。
となれば、本当に殺せたかどうかを確かめる為に向こうから顔を出す時が必ず来る。
事は志々雄の推測通りのものとなった。
十数度目の破壊の直後、宙へ姿を見せる髑髏。
開いた口からは先程消えた青髪の少女が顔を覗かせ、眼下の様子を確認。
敵はまだ健在、再び暗黒空間に潜み攻撃の再開だ。
が、クリームが猛威を振るう機会は永遠に無い。
ほんの一瞬、されど隙は隙。
志々雄真実という剣鬼を前に、僅かな反撃の機会を与えてしまったのが勝敗を分けた。
「……?」
チクリと、頬に小さな痛みが走った。
小針で突かれたのにも似た痛みに眉を顰めながら、暗黒空間への入り口を閉じる。
「ぬ…があああああああああああああっ!?」
しかし出来ない。
突如ヴァニラを襲った激痛がスタンドの操作を強制的に止めてしまった。
何かに突かれた箇所が猛烈に痛い、いや熱い。
多少の痛みなど無視できるがこれは如何にヴァニラと言えども、捨て置くには強烈過ぎる。
-
「こ、れは…!?」
視線を落とすと見えた、頬に突き刺さる赤い糸が。
糸の正体は血管。
人差し指を突き出し、先端の爪をパカリと開けて血管を伸ばしたのは志々雄だ。
望み通りの結果に歯を剥き出して笑みを零す。
柱の男が超常的な身体能力と生命力を持つのは言うまでもないが、とりわけ優秀な者は流法という独自の技法を使う。
カーズが光、ワムウが風の流法を用いるように、エシディシが操るのは炎の流法。
摂氏500℃にまで加熱した血液を、血管針を利用し敵に流し込む。
多くの波紋戦士を苦しめた灼熱が、此度はスタンド使いを標的に襲い掛かった。
杉元に殴られ火傷を負った時とはまた別種の熱さ。
内側からグツグツに溶かされる悪夢に気が狂いそうになるのを堪え、急ぎクリームを動かす。
「がああああ…!クリーム…!私を」
「遅ぇんだよ馬鹿が!」
怒声は目と鼻の先から。
何故ここまでの接近を許してしまったのか。
失態への罵倒を口に出す余裕すら奪われ、煌めく刃がヴァニラの視線を奪う。
次いで飛び散る鮮やかな赤と、焼け付く新たな痛み。
「ぐ、おおおおおおおおおお!!!」
エンジンブレードの餌食となったクリームの右腕が落ち、霞のように消えて無くなる。
スタンドが受けた傷は本体も避けられない。
片腕を失い血が滝のように流れ、絶叫と共に暗黒空間から這い出た。
-
「おのれ…ゴミカスがぁ…!!」
腕を失っても戦意までは失くしていない。
とはいえキュアジェラートの体だろうとこの出血だ、放置するのは悪手。
クリームエネルギーを放出し断面部分を凍結、咄嗟の止血を済ませる。
治療だけがクリームエネルギーの使い道じゃあない、キャンディロッドを取り出し叩きつける勢いで振るった。
クリームエネルギーが生み出した巨大な氷塊を殴りつける。
破片を飛ばし、命中した相手を氷漬けにするキュアジェラートの得意技だ。
ノワール一味との戦いで活躍した力も、柱の男の肉体相手には力不足。
五指の爪が開き血液を発射、沸騰する血の弾丸で氷を片っ端から溶かす。
豪雨が振る中ではエシディシの能力も威力低下は免れない。
その分は連射し数にものを言わせて押し切った。
加えてこれまでと違い、片腕のみとなったヴァニラが氷を飛ばす勢いも落ちている。
結果氷の破片は志々雄に届く前に全て溶かされ、地面を濡らす事すら無く蒸発。
「まだだ…DIO様に楯突く貴様らを始末するまで終われん…!」
「でぃお様、ねぇ…」
断面部分を覆い隠す氷は数を増し、元の腕以上のサイズと化す。
即席で作った氷の剣だ、クリームエネルギーを下にしてるだけあって切れ味は抜群。
血走った目で鼻息荒く睨み付けるヴァニラへ、志々雄は値踏みするかの視線で返す。
顎を擦り、嘲笑交じりで口を開いた。
「そいつはテメェの本心と違うだろ?」
ドクリと心臓が跳ね上がる。
聞く価値の無い戯言、耳に入れるのも無駄な妄言。
そうやって切り捨てれば良いものを、何故か出来ない。
自分の両耳を斬り落としてでも志々雄の声を無視して、さっさと殺すべきだ。
己の内側が叫ぶ、なのに体は動揺に蝕まれたまま。
「テメェは使われる側の人間だ。それは自分でも分かってるんだろうよ」
志々雄は人間の本質と言うべき部分を見抜く力にも長けている。
でなければ曲者揃いの十本刀を纏め上げるなど不可能。
上に立つ、支配者だからこその慧眼がヴァニラの内面を暴き出す。
-
「だが今のテメェはあのでぃおとかって奴にこう思った筈だ。尻尾を振る相手を間違えた、ってな。ククッ、飼い犬失格も良いところだぜ」
「―――――――――――――――――――――――」
音がした。
亀裂が入り、自分の中で取り返しのつかない破壊が起きる音が。
「一つ教えといてやるよ」
もうこれ以上は聞くな。
聞いたところで何だと言うのだ。
こいつが言ってるのは全て見当違いの、戯言ですら無いゴミと同じ内容。
自分は主へ疑いを抱いてなどいない、忠誠心は微塵も揺らいでいない。
いや違う、背信行為と呼んでも差し支えない事を考えはした。
だがそれは自分の意思では無くて、体の小娘が原因だ。
あれは自分の考えと違う、本当ならあんなものは爪のカス程も考え付く筈がない。
そうだ違うあれは自分じゃない自分が考えているのはいつだって主の絶対の勝利であの御方は自分を救ってくださり
そんな御方でもここでは首輪を填められ一介の駒に落とされたそれに気味の悪い化け物にしてやられた挙句に一度敗北
違うそうじゃないだが本当のことでも違ういや本当違う事実違う何が違うだから違うこいつも違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
「尽くす相手を見誤った犬の末路は惨めなもんだぜ。その飼い主共々な」
-
「ダマレェエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
最早自分が何を考えているのかもヴァニラには分からない。
ただ聞こえる全てを否定しようと、自らの世界を侵す目の前の男を消し去らんと動く。
あるのはDIOをコケにされた怒りでは無い、己のアイデンティティが破壊される事への恐怖。
忠義とはかけ離れた衝動に身を走らせる。
「ごふぅ…!?」
されど届かない、届く訳がない。
確固たる信念の宿らない錆び付いた精神が、志々雄を打ち倒す現実は断じて実現しない。
エンジンブレードを突き刺し、血を吐く青の少女を見下ろす。
飼い犬というやつも種類は千差万別。
方治のように絶対的な忠誠を持つ者もいれば、あくまで利害関係のみで繋がる奴もいる。
金で雇われただけだったり、或いは虎視眈々と飼い主の座を狙う奴だって決して少なくはないだろう。
志々雄から見たヴァニラはそのどれとも違う。
口では主の為だ何だとほざきながら、心の底で生じた亀裂に向き合えていない。
そのような中途半端も良いところな精神では、磨いた牙も腐り落ちるのが当然。
身の程を弁えない馬鹿な犬へ引導を渡す時だ。
『HEART!MAXIMAM DRIVE!』
「それなりには楽しめたぜ。あばよ」
纏う炎は断罪の証。
腑抜けた牙で、この志々雄真実を喰らおうとした駄犬を焼き尽くす業火。
街を泣かせる悪党を斬った剣は、今や亡霊の手で血を啜る魔剣と化した。
風の都を守護する熱き魂は、弱肉強食の下、弱き犬どもを灰燼に帰す獄炎となった。
刀身から発生する炎がヴァニラを焼き、骨の一欠片までもを塵へと変える。
伝説のパティシエ、プリキュアの肉体だろうと関係無い。
-
「あ…が……わた、し…は……」
喉すらも焼き潰され、声がまともに出ない。
失った右手と、炭と化しつつある左手を伸ばしても何も掴めない。
嗤う剣士の顔も炎で見えなくなり、壊れたように目をあっちこっちに泳がせる。
求めるのはただ一人の主。
悪の救世主である金色の魔王を探し、やがて見えた。
炎の中においても失わぬ輝きと存在感。
善を凍り付かせ慄かせる、悪のカリスマ。
そうだ、やはり自分にとっての絶対はあの御方だけ。
眩い輝きに細めた目、そこに安堵を宿しそのお姿を焼き付けようと――
見た
白い肌を持つ異形を
あの御方とは似ても似つかない、宇宙の帝王を
そしてヴァニラ・アイスの世界は呆気なく壊れた
「―――――ッアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
叫ぶ声に主の名は入っていない。
悪の救世主と崇めた男の名を呼びもせず、全ては灰に帰る。
それでも一つだけ救いがあるとするなら。
当の主に背信を悟られる前に死ねたことだろうか。
【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険(身体:立神あおい@キラキラ☆プリキュアアラモード) 死亡】
-
◆
「興に乗り過ぎちまったか」
剣を引き抜き、自らの失態に舌を打つ。
燃やされたのは少女の体だけでなく、背負っていた支給品袋もだ。
おまけに至近距離で炎を浴びた影響か、首輪も原型を留めていない。
役に立つ道具や、枷を外すのに必要となるかもしれない首輪入手の機会を捨ててしまった。
焼き殺した事に後悔は微塵もない、しかし少々迂闊だったと後頭部を掻く。
何せ十数時間ぶりの殺し合いだ。
高揚感を抑えろというもの中々に酷な要求である。
しかも長時間の戦闘というのも志々雄には久方ぶりの体験。
全身を焼かれ発汗機能が死滅してから、15分という時間のみが許された元の肉体。
それが今や連戦をこなし、体力的にはまだまだ余裕があると来た。
ついつい気を昂らせても無理はあるまい。
「まぁ、無いもんは仕方ねぇ」
生きていれば道具も首輪も手に入る機会は訪れる。
それにこうして一人始末したなら、一回は「ものものましーん」が使用可能になっただろう。
何より戦いはまだ続いているのだ。
少し離れた場所からでも闘気をひしひしと感じる、向こうも派手にやっているらしい。
自分を差し置いて盛り上がるとは水臭い。
元は少女だった塊を引っ掴んで、悠々と来た道を戻った。
◆◆◆
投げ捨てられた部下の死体を目にしても、DIOが大きな反応を見せる事は無い。
仮面の下で目を細め、下手人たる巨漢を睨み付けた。
剣を肩に担いだ男から罪悪感と言ったものは皆無。
出会った時と何一つ変わらない笑みで二人のライダーを見回し、ふと呆れたように言う。
「にしてもこいつの出した髑髏にあの野郎のすたあぷらちな、でもってテメェも似たようなもんを使うと来た。妖術の類が流行ってんのか?」
再度出て来た承太郎のスタンドの名前。
JUDOだけでなくこの巨漢もどこかで承太郎と遭遇し、恐らく交戦したのか。
思わぬ所で知った情報と、ヴァニラが殺された事実がDIOの頭を冷やす。
「……」
部下の死に怒りは然程ない。
こちらの駒が一つ減ったのは残念であるが、長々と後を引くものかと聞かれればそれも違う。
むしろここに来て初めて、志々雄の方へマトモに意識を向ける気になった。
負傷があれど、クリームとプリキュアの力を持つヴァニラを仕留めた男。
様子を見るに余裕も残しており、相当な手練れと見て間違いなし。
JUDOも含めて、戦闘になっても勝つ自信はあるしここから三つ巴に発展しても、最後に立つのは自分だと確信を抱いている。
だが余計に体力を消費するよりも利口な方法があるんじゃあないか。
-
「あ?何のつもりだそりゃ?」
訝し気な志々雄の言葉に、JUDOも無言で同意する。
今の今まで殺し合っていた白い仮面ライダー、そいつが何を思ったのか得物を下げた。
傍に立たせたザ・ワールドを解除するおまけ付きで。
戦意の無さをアピールするかの行動に、真意が読めず眉間に皺が寄る。
「このまま雌雄を決するのも悪くはないが、ほんのちょっぴり先延ばしにしても問題はあるまい」
「おいおい、まさか臆病風に吹かれたってんじゃねぇだろうな?」
「つまらん挑発は貴様自身を滅ぼすぞ?」
鼻で笑う志々雄をジロリと睨み、一拍置いて続ける。
「聞くまでも無いだろうが、貴様らも私と同じく殺し合いでの勝利を目的にしているのだろう?であるならば、一時的にでも協力は可能だと思わないか?」
「協力だと…?」
「勘違いされる前に言っておくが、仲良しこよしで共に戦おうと言っているのではない。他に生き残っている目障りな連中を殲滅し終えるまでの停戦と、互いが持つ情報の開示。悪い提案では無いと思うがな」
DIOからの提案に二人は沈黙を返す。
馬鹿げた話と絶句しているのでは無い。
どちらも闘争を求める戦闘狂の気は大いにあるが、決して無鉄砲な馬鹿に非ず。
DIOの話す内容に一定の価値を感じているのは否定しない。
特に志々雄は最初の定時放送以降、JUDOに遭遇するまで誰とも会えていない。
他の参加者に関する情報面では後れを取っており、各地に散らばった連中の戦力を知れるというのは確かに悪い話じゃあない。
黙り込んだ二人の答えをDIOもまた黙して待つ。
提案を呑むならそれで良し。
知った事かと戦闘の継続を望む考え無しでも、別に構いはしない。
話をする価値もない馬鹿にはとっとと脱落してもらうだけ。
承太郎に関する情報を聞き出せないのは勿体ないが、自力で探しても問題は無い。
DIO、JUDO、志々雄。
三人の支配者は暫しの休戦に入り、鉛の雲の下で静かに睨み合う。
如何なる答えを出すか、それはまだ先の話。
だが遠くない内に殺し合いは次の段階へと移るだろう。
バトルロワイアル開始よりもうじき18時間が経過する。
三回目の定時放送まで残り――
-
【G-3 森 地下通路②付近/夕方】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:ジョナサン・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)、火に対する忌避感、再生中、エターナルに変身中
[装備]:ロストドライバー+T2エターナルメモリ@仮面ライダーW、秋水@ONE PIECE、時雨@ONE PIECE、アトラスアンクル@ペルソナ5、レインコート
[道具]:基本支給品、ジークの脊髄液入りのワイン@進撃の巨人、海楼石の鎖@ONE PIECE、逸れる指輪(ディフレクション・リング)@オーバーロード、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル×2、プロフィール(クリムヴェール、ピカチュウ、天使の悪魔)、首輪(デビハム、貨物船、姉畑、悲鳴嶼、鳥束)
[思考・状況]基本方針:勝利して支配する
1:目の前の二人(JUDO、志々雄)が協力するか否かの答えを待つ。
2:スギモトは本当に不死身だったと言うのか?
3:戦兎、スギモト、善逸は次に会えば必ず殺す。甜花とオレンジ髪の女(神楽)も殺す。
4:元の身体はともかく、石仮面で人間はやめておきたい。
5:承太郎と会えば時を止められるだろう。装備を整えたら探しに行く
6:ジョースターの肉体を持つ参加者に警戒。東方仗助の肉体を持つ犬飼ミチルか?
7:エボルト、柊ナナに興味。
8:エターナルは想像以上に使えるな。
9:少女(しのぶ)は…次に会う事があったら話をすれば良いか。
10:ギニューの能力が本当に肉体を入れ替えるのなら要警戒。
11:承太郎に会わずとも時を止められるか…?試す価値はある。
12:サニー号のソルジャードッグシステムは一旦保留。
13:もしこの場所でも天国に到達できるなら……。
[備考]
※参戦時期は承太郎との戦いでハイになる前。
※ザ・ワールドは出せますが時間停止は出来ません。
ただし、スタンドの影響でジョナサンの『ザ・パッション』が使える か も。
※肉体、及び服装はディオ戦の時のジョナサンです。
※スタンドは他人にも可視可能で、スタンド以外の干渉も受けます。
※ジョナサンの肉体なので波紋は使えますが、肝心の呼吸法を理解していません。
が、身体が覚えてるのでもしかしたら簡単なものぐらいならできるかもしれません。
※肉体の波長は近くなければ何処かにいる程度にしか認識できません。
※貨物船の能力を分身だと考えています。
※T2エターナルメモリに適合しました。変身後の姿はブルーフレアになります。
※ザ・ワールドにエターナルのエネルギーを流し続けた事で疑似的な不死になりました。今後も何らかの影響が現れるかは不明です。
※主催者が世界と時間を自由に行き来出来ると考えています。
※杉元佐一の肉体が文字通り不死身のものである可能性を考えています。
【大首領JUDO@仮面ライダーSPIRITS】
[身体]門矢士@仮面ライダーディケイド
[状態]疲労(大)、ダメージ(大)、ディケイドに変身中
[装備]ディケイドライバー+ライドブッカー+アタックライド@仮面ライダーディケイド、レインコート@現実
[道具]基本支給品×5、賢者の石@ドラゴンクエストシリーズ、警棒@現実、アクションストーン@クレヨンしんちゃん、トビウオ@ONE PIECE、タイムふろしき(残り使用回数:1回)@ドラえもん、精神と身体の組み合わせ名簿×2@オリジナル
[思考・状況]
基本方針:優勝を目指す。
1:DIOの提案に…
2:闘争を楽しむ。
3:南の森の地下通路でモノモノマシーンを探す。
4:3の後、風都タワーに向かい誰かいれば闘争を楽しむ。
5:風都タワーでの用事が終わったら、西か東に向かう。
6:改めて人間どもは『敵』として殺す。
7:屈辱と侮辱をした痣の男(ギニュー)は絶対に絶対に絶対に絶対に殺す。
8:宿儺とは次に出会ったら、力が戻った・戻ってないどちらにせよ殺しあう。
9:疲れが出た場合は癪だが、自制し、撤退を選択する。
10:優勝後は我もこの催しを開いてみるか。そして、その優勝者の肉体を我の新たな器の候補とするのも一興かもしれん。
[備考]
※参戦時期は、第1部終了時点。
※現在クウガ〜電王のカードが使用可能です。
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【志々雄真実@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-】
[身体]:エシディシ@ジョジョの奇妙な冒険
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、左肩負傷、再生中、諸々のストレス(ある程度解消)
[装備]:エンジンブレード+ヒートメモリ@仮面ライダーW、アルフォンスの鎧@鋼の錬金術師
[道具]:基本支給品、炎刀「銃」@刀語
[思考・状況]基本方針:弱肉強食の摂理に従い、参加者も主催者も皆殺し
1:DIOの提案に…
2:首輪を外せそうな奴は生かしておく
3:戦った連中(承太郎、魔王)を積極的に探す気は無い。生きてりゃその内会えんだろ
4:とりあえず地下通路の瓦礫をどけて強者を待ち伏せる
5:未知の技術や異能に強い興味
6:日中、緊急時の移動には鎧を着る。窮屈だがな
7:一人殺したってことは、"ものものましーん"が使えるんだよな?
8:だが、自分の首輪を外すためには、残しておくための首輪の予備も必要になるか?
[備考]
※参戦時期は地獄で方治と再会した後。
『施設紹介』
【サウザンド・サニー号@ONE PIECE】
麦わらの一味の二代目海賊船。名付け親はガレーラカンパニー社長ののアイスバーグ。
絶対的な強度を持つと言われる宝樹アダムで作られており、船体はかなり頑丈。
G-2の南西、砂浜付近に設置。
舵輪が外されており操縦は不可能。
代わりに首輪の投入機が組み込まれており、投入した数に応じてソルジャードッグシステムの各ドッグが解放される。
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投下終了です
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申し訳ありません、リアルで体調を崩していたため、連絡が遅れました。
現在、生存している参加者全員が夕方の時間帯を突破したことを確認しました。
そのため、第三回定期放送に入ろうと思います。
今回も私の方で放送のSSを書こうと思います。
もし、まだ動かせそうな箇所を動かしたい方がいらしたら、一週間後の11/21日(火)の23:59までは予約することを可能としておきます。
その間は私の方から放送を投下することはありません。
なお、今回の場合ですと、私のリアルの都合や、内容をこれまでよりも少し長くすることを考えているため、これまでより執筆に時間がかかる可能性があります。
そのため第三回放送の投下は、一先ず、一週間後〜二週間後の間を目標としておきます。
もし、それよりも時間がかかり遅れそうならば、二週間後の11/28(火)までに連絡しようと考えています。
また、放送後は本ロワの進行の仕方について、以下のようにすることも検討中です。
・施設の追加の打ち止め。
・主催陣営キャラの追加は企画主のみ可能とする。
少々お時間をとらせる形になりますが、どうかご了承願います。
今後とも、よろしくお願いいたします。
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専用したらばの仮投下スレにおいて、参加者向けの放送を仮投下してきました。
そちらの方にも書きましたが、これはまだ内容に修正・変更等の可能性があります。
本投下については、一緒に主催陣営の幕間も投下したいと考え中のため、それが完成するまでもうしばしお待ちください。
もし遅れそうな場合は、以前連絡したように、11/28(火)までには連絡するつもりです。
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申し訳ありません、第三回放送についてですが、本日中の投下は間に合わないと判断しました。
投下までの期限を、もう一週間後の12/5(火)までの延長をさせてもらいたいと考えております。
なお、もしこの日までにも投下できないようであれば、先に仮投下していた参加者向けの部分のみを本投下し、予約を解禁することを検討中であります。
時間がかかってしまっていることを、重ね重ねお詫び申し上げます。
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これより、第三回放送を投下します。
先に言っておきますと、これまで一緒に投下すると話していた幕間は、明日までに全てを完成させることは難しいと判断しております。
そこで、幕間は切りの良いところまでを前半部分として、今日ここで投下しようと思います。
他、予約解禁や幕間後半の投下等については、投下終了後にお話しします。
それでは、投下を始めます。
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◆
黒い雲が空を覆い尽くしてから5時間。
太陽の光も届いてない暗い空に、ようやく変化が訪れる。
それまで大量に降っていた雨が、一瞬で急にピタリと止まる。
同時に、雲が動き、島の上空から離れていく。
それにより、空の様子が島から見えるようになる。
しかし、そこにはもう陽は無い。
太陽は既に、西の地平線の彼方にほとんど沈んでいた。
そこから日光が届く時間も、瞬く間に過ぎるだろう。
けれども、空は確かに晴れた。
雲の無いその空は、星もいくつか見え始めていた。
月も、1日経った分だけ満ちた状態で現れていた。
やがて、空の様子に変化が現れる。
6時間前、12時間前と同じく、島の中央付近の上空に、ホログラム映像が現れる。
もちろん、島中にあるテレビ等の画面にも、同じ映像が流れ始める。
そこに映し出されたのは、これまた前回・前々回とは違う人物の顔だ。
現れたのは、一人の少女だった。
この人物の容姿は、紫色の髪に、大きめな眼鏡をかけているのが特徴的だ。
また、頭には右側にアンテナの付いたヘルメットを被っている。
『よ、よぉー…。初めましてだな、みんな』
『第三回定期放送の時間だぞー…』
映像の少女は引きつった笑顔を浮かべながら話し始めた。
『私の名前は…佐倉双葉。身体の方は…ルッカという』
『えっと…まあ、私のことは置いておいて、とりあえず…死亡者を発表する』
佐倉双葉と名乗る人物がそう言うと、これまでと同じように画面が切り替わり、死亡者の精神側と身体側の顔写真を順に映す映像が流れ始める。
『姉畑支遁…その身体の名はクリムヴェール』
『犬飼ミチル…その身体の名は東方仗助』
『ヴァニラ・アイス…その身体の名は立神あおい』
『産屋敷耀哉…その身体の名は鬼舞辻無惨』
『絵美理…その身体の名は竈門炭治郎』
『鬼舞辻無惨…その身体の名はミーティ』
『空条承太郎…その身体の名は燃堂力』
『グレーテ・ザムザ…その身体の名はスカラベキング』
『ゲンガー…その身体の名は鶴見川レンタロウ』
『胡蝶しのぶ…その身体の名はアリーナ』
『環いろは…その身体の名は高町なのは』
『脹相…その身体の名はデンジ』
『バリー・ザ・チョッパー…その身体の名はトニートニー・チョッパー』
『悲鳴嶼行冥…その身体の名は坂田銀時』
『ホイミン…その身体の名はソリュシャン・イプシロン』
『メタモン…その身体の名は神代剣』
『両面宿儺…その身体の名は関織子』
『以上、17人が今回の6時間での死亡者だ』
『残り人数は、22人だ』
『…………うん、ちょっと……はりきりすぎじゃない…か?』
発表が終わったことで、映像が再び切り替わる。
『……うん、それじゃあ次は、禁止エリアを発表する』
『今回禁止エリアとなるのは、【D-3】、【D-6】、【G-5】の3ヵ所だ』
『今から2時間後、午後8時に、これらのエリアに入れば首輪が爆発するようになる』
『今、これらのエリアの中、もしくはその近くにいる者達は、すぐにでも移動を開始することを推奨する』
『……………こんなことでは、死なないでほしい』
『…それから、今禁止エリアと発表した【G-5】についてだが…実は、ここの地下にある通路の中に、前の放送で話していたモノモノマシーンがあった』
『そしてこのモノモノマシーンは、禁止エリアが有効になる前…この放送後すぐに利用不可能になることが決定した』
『何でも…今の参加者達の位置関係的に、ここに誘導しても殺し合いの進行はあまり良くならないと判断されたかららしい』
『……わ、私が決定したんじゃないから、私に文句は言うなよ…』
『あと…分かる人には分かることを、伝える』
『………今は、【G-3】と【C-5】にある電話ボックスは、繋がっている』
『けども、使えるまではあとだいたい1時間くらいかかるらしい』
『あとそれから、地図上に記されるべき「施設」は、この6時間で全部発見された…らしい』
『まあ…気になるなら、地図を確かめて、行ってみればいいのかな…』
-
◆
『それじゃあ、私から話すことはこれで全部かな…』
『…雨も上がったみたいだし、みんなの今後が良いものになることを祈るよ』
『それじゃあ、元気でね…』
そう言って佐倉双葉は、話を打ち切って放送を終えようとする。
ところが、映像はここで消えなかった。
話はまだ、終わっていなかった。
『…………ん?え?は?何?』
突然、佐倉双葉の様子に異変が起きる。
彼女の表情は、何かに驚いている感じになる。
視線の先も、映像を撮しているであろうカメラの方から、その奥にあるものへと変わったようだった。
何か、想定外の出来事があったようだ。
『え?これを読めって?』
佐倉双葉は、撮影カメラの奥の方に手を伸ばし、そこにいるであろう者から紙を一枚受け取ったようだった。
その紙は、折りたたまれた状態にあった。
彼女はそれを開き、中身を確かめた。
『…………………………はあぁ!!?』
内容を見た彼女は、驚愕の表情を見せる。
その後、少しの間沈黙し、ゴクリと息を飲んだ。
『………えっと、突然だが、我々主催陣営の「ボス」からの伝言が届いた』
『なんでも…今回の放送で参加者の人数が半分以下になったから、これまで生き残ってきた者達への褒美として、情報をほんの少しだけ与える、とのことらしい』
『そ、それじゃあ………伝言を読もう』
佐倉双葉は声を少し振るわせながらそんなことを話す。
そして、少量の冷や汗をかきながら、紙に書かれた内容を読み上げた。
◇
『私は、「亀」である』
『…………そして、今の私は、「カメラ」でもある』
◇
『………えっと、はい!伝言はこれで以上!これで今度こそおしまい!それじゃあさよなら!』
紙の内容を読み終えた後、佐倉双葉は慌ただしい様子を見せながらそう言って話を打ち切った。
その後、空中の画面は消え、後には暗い静寂な夜が残されていた。
【天気について】
※島中に降っていた大雨が止みました。
※雨雲も消え、空は晴れました。
※これまで火事になっていた箇所については、全て鎮火しました。
-
◆◇◆
「あの…これは一体、どういうことですか?」
「見ての通りですよ、オリコ」
ボンドルドに連れられて、現在は紫髪の男子高校生の姿になっている小学生の若女将、関織子は目の前に広がっている光景を見て、呆然としていた。
「ん?」「キャー!」「………」「やーだー!」「うえぇ…」
この場所を一言で表すなら、そこは託児所だった。
たくさんの数の、幼児程に見える小さな子供達が、一つの広い部屋の中に集められていた。
子供達は数十人はおり、一目では数えきれない。
その子供の群れの中には、ボンドルドと同じく黒ずくめに仮面を被った大人達が何人か紛れている。
彼らは、この子供達の世話をしているようだった。
子供達の外見は、千差万別だ。
何か、不良の学ランっぽい見た目の服装の子、蝶みたいな着物姿の女の子、赤いチャイナ服の女の子、鋼の鎧に身を包んでいる子…
皆、本当にバラバラで、個性的な子達ばかりだった。
と言うか、よく見てみれば、そもそも人間ではないように見える子達もいる。
白い子犬、悪魔みたいな羽の生えたハムスター、青いクラゲみたいなモンスター、全身紫で短い手足の生えたよく分からない生物…
これらもまた、それぞれ子供扱いができそうな程小さなサイズだった。
この子供達が一体どういう集まりなのか、織子にはてんで想像がつかなかった。
「あの、あたしにここで何を…?」
「もちろん、彼らの世話を手伝ってもらいたいのです」
やはりと言うべきか、確かにそれしか思い付かないと言うべきか、そんな回答が返ってきた。
「あの、研究?…の方はどうするのですか?」
「それについてもまた後で行う予定です。しかし、まだ準備しなければならないこともありまして…」
「卿、少しいいですか」
「……失礼、少々お待ちください」
織子への説明の途中で、別の人物がボンドルドに話しかけてきた。
その人物も、ボンドルドと同じような格好と、仮面を付けている。
ボンドルドと新たな仮面の人物は、織子から少し離れて、背を見せながら二人だけでこそこそと何かを話し始める。
それから少し経った後、ボンドルドは戻ってきた。
「すいません、少し緊急の用事ができました。私はここから離れます。しばらくはこの部屋にいてください。ここで何をすればいいかについては、この部屋の中にいる者達から聞いてください」
「え、あの、ちょっと…」
そう言ってボンドルドは、そそくさと新たに来た仮面の人物と共に織子の側から離れていった。
織子の呼び掛けは無視され、彼女はその場でポツンと取り残された。
―――去っていくボンドルドの後ろ姿を見ていたら、仮面の後ろ下の隙間から、ピンク色の長髪がちらりとはみ出しているのが見えた。
(一体、どういうことなんだろう…)
ボンドルドは織子に話した。
今の彼女の肉体は、本来の織子よりも霊界通信力(に似た力)をより安定して使えると。
彼の研究が上手くいけば、友達のユーレイ達と別れなくてすむかもしれないと。
だけど、そのための研究より先に自分より幼そうな子供達のお世話の手伝いをさせられるとは思ってなかった。
説明も中途半端なところで終わってしまった感じがする。
けれども一先ずは、先に部屋中にいる仮面の大人達の手伝いを頼まれた。
とりあえずとして、織子は部屋の中に足を踏み入れようとする。
『………声を出すな。振り向くな。少し待て』
「!?」
部屋に入ろうとしたその瞬間、織子は背後から男の声を聞いた。
それは、ボンドルドのものとは違っていた。
その声は、自身の耳元のすぐ近くでかけられたようだった。
しかし奇妙なことに、声の主の息遣いが聞こえてくるような様子はない。
突然のことでそんな声に驚くと同時に、つい言われた通りに立ち止まってしまう。
-
『………驚かせてすまない。どこかでのタイミングで一人で「S.K.」の部屋に行け。このことは誰にも話すな。私に言えるのはここまでだ』
声は、直前までのものと違い急に穏やかになった。
そこまで聞いて、織子は振り向き、背後にいるはずの声の主を確認しようとする。
「……?」
けれども、そこには誰もいなかった。
見渡してみても、この場から誰かが離れていくような姿も見えない。
たが、幻聴や気のせいだとは思えないくらい、先の声ははっきり聞こえた。
(…もしかして、ユーレイ?)
考えられる可能性はそれだけだった。
ユーレイならば、ちょっと声をかけてすぐ消えるくらいのことはできるだろう。
だがユーレイだとしても、行動は不可解だ。
こちらに姿を見せず、言いたいことだけを言って去っていくなど、何をしたいのか分からなくなる。
ただ、何か考えられるとすれば、自分以外には存在を察知されたくないからなのか…
「おい、どうした?そんなところで突っ立って」
「えっ、あっ、はい!」
自身に起きた不可解な現象について考え込んで、沈黙してしまっていたところを織子は前から声をかけられた。
そこにいたのは、ボンドルドが紹介していた、子供達の世話係の仮面の人物の一人だ。
「すいません!今行きます!」
織子はそう言って子供達がいる部屋の中に今度こそ入っていく。
先ほど聞いた、ユーレイ(仮)の声のことは、彼に言われた通り、話さないでおく。
本当は、こういうことを相談しないのはあまり良くないかもとは感じている。
姿も見せない相手の言うことを簡単に聞くのは、問題があるかもしれない。
「S.K.」の部屋が何のことを言っているのかも分からない。
それでも、直感では、このことは話さない方が良いような気がした。
最初は驚いてしまったが、思い返してみればあの声はどこか切羽詰まったような雰囲気もあった気がする。
ユーレイ(仮)にとっては、こんなことをする程のことなのかもしれない。
まあ流石に、不親切なところがあることに思うことがないわけではない。
ウリ坊たちとも比較してしまう気持ちもある。
でも色々と不可解なことはあれど、何か事情があるのかもしれない。
それに、子供達が一体どこから来たものなのか、そういったボンドルドからの頼まれごとにも不可解なことは多い。
正直なところ、自分は状況にあまりついていけてないと言えるだろう。
一先ずは、幼児達の世話を手伝いながら、今後どうしていくかを考えようと織子は思った。
◆
廊下の上を、カンカンと足音を大きく鳴らしながら一人の女が早歩きで進んでいる。
紫髪とアンテナ付きヘルメット、そして顔にかけられた眼鏡、これはルッカという少女の姿の特徴。
そして、その身体を動かしている意思は、佐倉双葉という少女のもの。
彼女は片手に一枚の紙を握りしめながら、険しい表情をしながら急ぎ早に歩いていた。
これは、第三回定期放送が終わった直後の出来事だった。
佐倉双葉はやがて、一つの部屋の前で立ち止まる。
その部屋の扉には、「S.K.」と書かれた看板も付けられていた。
双葉は、その扉を『バン!』と勢いよく開け、中に入る。
「やあ、お疲れ様」
部屋の主が、彼女を出迎える。
彼は、椅子に座った状態でそこにいた。
白髪の頭の上にアンテナのような装置を付けた人物、前々から出ていた主催陣営の一人、小野寺キョウヤの身体となっている斉木空助だ。
「S.K.」は、彼のイニシャルのことだった。
「……お前、一体どういうつもりだ?」
扉を静かに閉めながら、双葉が聞く。
同時に、片手に持った紙を開いて空助に向かって突きつける。
「ここに書いてあることは本当か?お前が、私を今回の放送係に推薦したって」
「ああ、その通りだよ。ついでに、話がしたいからここに来るようにとも書いてあっただろ?」
-
双葉が持つ紙は、先ほどの放送の終わり際に渡されたものだ。
そこには、印刷で記された「ボスからの伝言」とされている文の下の隙間に、ペンか何かで書かれたらしき小さな文章がある。
「そこそこ苦労したんだよ?君にだけメッセージが伝わるよう、そいつに書き込むタイミングとか測るのは。渡すのはボンドルドの祈手の役割だったしね」
「…どんなタイミングで、どうやって書き込んだんだ?」
「まあ単純に、これを運んでいた祈手から、こっそり内容を見せてくれと言って渡してもらい、その隙に書き込んだ形かな。最初から、折りたたまれた状態だったからできたことだけどね」
「…書いてる途中でバレなかったのか?」
「そこは、どうやったかは秘密にしておきたいね。まあ、どうにか上手くやったとだけ思って欲しいかな」
色々と謎なところはあるが、紙に追加で書かれた内容は確かに斉木空助が意図的に伝えようとしたもののようだった。
「……さっきは、これのせいで驚きの声を出してしまった。これで怪しまれたらどうするつもり…?」
「そこの心配はいらないんじゃない?多分、「ボスの正体」を知ったことによる反応だと思われるよ」
「………」
先ほどの放送の際は、このメッセージのせいで驚かされてしまった。
そのせいでボンドルド等他の奴らに怪しまれるのではという心配もあった。
けれども、双葉がこれまで確かに「ボス」についての情報を知らなかったのも事実だ。
だから、心配はないと空助は説明してくる。
「で、何のために僕がこんなことをしたかについてだよね。そりゃあもちろん、君がこの陣営を裏切ろうとしているのに気付いているからだよ」
「……………何のこと」
「隠さなくてもいいよ。この部屋で喋っても、他の奴らには聞こえないからさ」
双葉は確かに、裏切り行為を犯している。
殺し合いの参加者の1人、エボルトが入手したスマホ、それを通じて繋がった「ナビ」と名乗る人物、
それが、彼女だ。
「それにその紙にも書いていたでしょ?どうして僕が誰にも話さずに君にメッセージを送ったのか」
その理由についても、確かに紙に書いてあった。
でなければ、こんなところに一人で来ない。
けれどもそれは、簡単には信じられないことでもあった。
「僕も裏切ろうとしているんだよ。この陣営のことを」
その答えを、斉木空助はさも当然なことのように言った。
◇
「なんで…?あんた、殺し合いにはけっこう乗り気に見えてたけど」
「そんなわけないじゃん。怪しまれないための演技だよ」
まだ怪しんでいるような感じを出す双葉に対し、空助はそう答える。
「それに、この殺し合いはバトロワとしても正直つまらないと感じてるからね。カブトムシの相撲の方がよっぽど面白いと思うよ」
余計な一言も付け加える。
「じゃあ、宿儺をこっちに転送させずに舞台の上に置いたままにしたのは?殺し合いを円滑に進めてくれそうな強力な駒とか言ってたらしいけど?」
「それは、宿儺を呼んだら下手したらこっち側に大きな被害が出るかもしれないのと、あっちに置いたままにした方が早く倒される可能性が考えられたからね。実際、そうなったし」
「……でも、巨人が出てきて余計に酷いことになっていないか?」
「そこまでは流石に予測できなかったかな。まあでも、何とかするしかないよ」
「ギニューにモノモノマシーンの場所を教えたのは?」
「そっちの方に向かってた絵美理を倒させるためだね。あのままだとギニューが勝てない可能性が高いと思った。いざとなったらボディチェンジを使うのは変わらないだろうけど、ある程度物資を与えた方が真正面から戦うことを選んで、消耗してくれるだろうと考えたためだね」
「……自分の弟の意識が復活していたらしいのに、それを封じるように言った理由は?」
「ああ、それについては先に前提として話しておかなきゃいけないことがあるから、他の話の後でね」
「………」
これらの言葉が、どこまで本当なのか双葉には判断がつかない。
どれも軽薄そうに話すせいで、そう感じてしまう。
後から考えた言い訳もあるんじゃないかとも、想ってしまう。
「まあ、後付けがあるのは否定しないけどね」
何か、心を読まれたような感じもした。
次に、直前にあったことについての質問をぶつける。
「……何故、私に放送を担当させた?」
「君をここに呼んで、話の本題に早く入るためだね」
「………そもそも、どうやって私のことを…」
「それは単純に僕が君の動きを少し怪しく感じたっての…こいつのおかげもあるよ」
-
斉木空助が何故自分の裏切りを察知できたのかを疑問に思う。
そのことを言葉として口に出すと、空助は近くの机の上にあるものを指さした。
そこにあったのは、一台のノートパソコンであった。
それも、けっこう古そうな型のもののように見えた。
「さて……ねえ、君は今ここにいるのかな?『ポルナレフ』」
空助はそのノートパソコンに対し、話しかけた。
誰かの名前も、読んでいた。
すると、奇妙な現象が起きた。
『カタ』『カタ』『カタッ』
「えっ!?」
ノートパソコンのキーボードが、ひとりでに押され始めたのだ。
それに対応するように、PCの画面に文字が書き込まれていく。
『ああ。私は今、ここにいる』
「よかった、これで話が早くなるよ」
空助はそのPCに表示された文章と会話を始めた。
「ちょ、ちょっと待って。今、一体何が…」
「『幽霊』だよ。目に見えない幽霊がこのPCを操作したんだ」
「はあ!?」
これまた、にわかには信じられない話が出てきた。
「まあようするにだね、すり抜けることで様々な場所に行ける幽霊が、君が隠れてやっていたことを見ていて僕に教えてくれたんだよ」
「何それ…。それにこれ、動いているのはまさかポルターガイストってことか…?」
「まあ、そんなところかな」
『すまなかったな。勝手にこのようなことをして』
説明されても、気持ち的には中々受け入れられない。
そんな双葉に応じるように、PCのキーボードはまた勝手に動いて、彼女に向けたメッセージを表示する。
そして更にまた、PC画面に新たな文章が打ち込まれていく。
『先ほどもクウスケが名前を呼んでいたが、改めて自己紹介する。私の名前はジャン=ピエール・ポルナレフ。幽霊だ』
幽霊は…ポルナレフは、そう名乗った。
2人には姿は見えてないが、彼は確かにそこにいた。
2人の声も、ちゃんと聞こえているようだった。
「………一先ずは、幽霊は、いることにしておいてやる。けどもそれなら、お前は一体どこの誰なんだ?」
とりあえずは、話を進めるため、幽霊の存在は一旦受け入れたことにする。
そうだとしても、急に出てきた幽霊の正体については、疑問が出る。
『私のことについてよりもまず、話しておきたいことがある。佐倉双葉、君はこの殺し合いのことについてどう認識している?』
「………私は最初、『世界を超えて突如として精神が入れ替わった者達を、元に戻すための研究をしている』と説明された」
それが、佐倉双葉の当初の認識だった。
自分達が今いる陣営も、被害者だと説明された。
入れ替わりの原因等は、不明だとされていた。
そしてその原因は今も、彼女は分かっていない。
「けども、他の奴らの態度が何か怪しいと感じ、独自に調査を始めた。怪しいと思ったのは、そこに座っている男(空助)も含めてな」
ただ元に戻す研究をしているだけにしては、奇妙に感じることは多かった。
特に、ボンドルドに関しては彼の直属の部下たちも皆仮面姿で、色々と怪しいと感じる行動をよく見かけた。
「そして今から数時間前、意を決して問い詰めてみれば、本当に驚かされた。殺し合いを運営しているってことを、何も変哲もないようなことに答えられたからな…!」
そんな風に回答し、現状を教えたのは、ボンドルドだった。
このことに対し、双葉がどれほど抗議しようとも、さも当然のことのように「これは必要なこと」みたいな風に言われた。
更にはそんなことがあった上で、ボンドルドは本来の仕事をこれまた当然のことのように続けさせようとした。
「まあ、そんなんだから、君を今回の放送係にするのもよしとしたんだろうね」
「うるさい」
『それで今の君は、精神の入れ替わりや、元に戻す研究をしていると言っていたことについてどのように考えている?』
「……嘘、じゃないのか?」
殺し合いなんて仕掛ける奴らが、本当に自分達が元に戻るための行動をしているとは思えない。
入れ替わりも、こちら側にいる奴らの仕業なんじゃないかと思ってきている。
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『それじゃあ先ほどの放送で、自分たちのボスの正体が「亀」だの「カメラ」だの言わされたことについてはどう感じている?』
「………それは、本当に分からない。そもそも、ボンドルドがいわゆるボス…じゃなかったのか?違うのか?それともまさかあいつの正体が実は亀…?いや、どうなんだ…?」
ボンドルド自身がそう言っていたわけではないが、認識としてはそんな感じになっていた。
全体としてこちら側の人物達を取り締まっていたのも、彼が行っていたような印象を持っていた。
ただ、今の聞かれ方的に、先の放送で自分が言わされたことに何か意味があるような感じがあった。
『君たちの「ボス」の正体は、私の正体の話にも繋がる。だからまずは、そのことについて話させてもらう』
『まず第一に、君が言わされたことは真実だ』
『殺し合いの今のボス…黒幕と呼べる存在は、確かに「亀」だ』
『そいつの名は「ココ・ジャンボ」』
『彼は今、「MIDEN F-Mk2」というカメラに精神を移されている』
【追加主催陣営】
佐倉双葉@ペルソナ5(身体:ルッカ@クロノ・トリガー)
ボンドルドの祈手達@メイドインアビス
【その他登場人物】
ジャン=ピエール・ポルナレフ(幽霊)@ジョジョの奇妙な冒険
【黒幕】
ココ・ジャンボ@ジョジョの奇妙な冒険(身体:ミデン@映画 HUGっと!プリキュア♡ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ)
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これにて、今回の投下は終了です。
幕間の後半については、今週中の投下を目指しますが、もしそれも難しそうになれば、また1週間後に連絡します。
予約解禁については、明日12/05(火)の23:00からとします。
なお、一先ずは、私から幕間の後半が投下されるまでは主催陣営サイドにいるキャラは動かせないものとします。
また、ロワの進行の仕方について、今後どうするかについてを以下に記します。
【今後のロワの進行の仕方についての連絡】
・今後、施設の自由追加はできないものとします。
・主催陣営の追加は企画主以外は基本的にはできないものとします。
・予約期限を3週間に変更します。延長する場合は1週間のままとします。
色々と私のわがままが含まれている部分もあり申し訳ありませんが、どうかご了承願います。
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投下お疲れ様です
雨宮蓮、エボルト、檀黎斗、ジューダス、遠坂凛、キャメロット城、アルフォンス・エルリックを予約します
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誠に申し訳ありません。
今回も、本日中の投下は難しいと判断いたしました。
次回の連絡は、次の日曜日までには行いたいと思います。
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投下します
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一先ず場所を変えようと、最初に提案したのは誰だったか。
声の主をハッキリとは覚えておらず、ただ力無く頷いたのは蓮自身にも分かった。
豪雨を凌ぐ為に、アルフォンスを運んだ民家へと生き残った者達を誘導。
聞こえて来たのは数時間前から変わらぬ土砂降りの音と、時折発する息遣い。
移動中、誰一人として口を開かずまるで葬列のような重い空気が一同の間に漂う。
そう遠く離れていない筈の民家に着くまでが異様に長く感じられた。
巨人の魔の手から運良く逃れた一軒家へ足を踏み入れる。
それなりに値段の張っただろうソファーへ横たわる少年を見て、安堵の雰囲気を発したのは二人の少女。
と言っても片方は幼い男児の体なのだが。
生存していた事と、取り敢えず今は暴走が治まった事。
二つの理由が安堵のため息を吐かせるも、完全に気を抜ける状況でもない。
あくまで「今は」大人しくなっただけに過ぎず、アルフォンス本人が危惧した事態が起きてしまったのは変えられない事実なのだから。
「聞きそびれたんだけど、アルフォンスはやっぱり…」
「そっちの考えてる通りだ。アマゾンだかってのになって、はしゃぎ出したのさ」
隠す理由も無いので率直に告げると、案の定曇り顔で頭を抱えた。
こうなる事を予期しなかった訳ではない。
しかし実際に起きたのを一切動揺せず受け止められないのは、魔術師だろうと関係無い人間の性だ。
「ですが、手遅れになったのではない筈です。現に今のアルフォンスさんから良くないものは感じません」
アルフォンスがもしもの時は自分の始末を頼み、凛はそれに頷いた。
村でのやり取りは記憶に新しいが、打つ手なしと断じるにはまだ早い。
眠りに落ちたアルフォンスからは彼自身が説明した、アマゾンなる危険な存在の気配は皆無。
殺さずに事を納めた蓮達へ感謝しつつ、キャメロットはアルフォンス殺害へ反対の声を上げる。
完全に理性を失い殺す以外の手が無くなったならともかく、その段階には未だ届いておらず。
だったら今は決断を下す時ではない。
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「分かってるわよ。街に来た時も我を忘れてみたいな事にはなってなかったし」
平時はどうにか制御可能、だが切っ掛けがあれば暴走を抑え切れないといった所か。
余計なリスクを背負い込む前に、早急に殺しておくべき。
冷酷だが合理的である判断を即座に下せない己の甘さを自覚しつつ、無意識に寄っていた眉間の皺を指で解す。
諦める真似はするなと言った手前、アルフォンスが抗い続けているのを無下にするのも本心ではない。
手っ取り早い解決方法は元の体を取り戻し、アマゾンの肉体を捨て去る。
(それが簡単に出来れば苦労しないわよ…)
自分に至っては戻れる体自体が失われている始末。
と、我が事ながら無理やりにでも笑うしかない現実に酷く重いため息が零れた。
「ガキの体でする顔じゃあねぇだろ。老け込んで見えるぜ?」
「うっさい」
こっちの事情を知ってか知らずか、軽口を叩く女をジト目を向ける。
残念ながらジャガイモ頭の5歳児では迫力皆無。
尤も仮に強面の大男から威圧されようと、相手が飄々とした態度を変える事はない。
同性の凛から見ても美人と言える女は肩を竦め、胡散臭さを隠そうともしなかった。
「ん…ここは…」
タイミングが良いのか悪いのか。
凛とエボルトの会話に割り込む形で、意識を落としたままの少年が目を覚ます。
重い瞼を無理矢理こじ開け、見覚えの無い天井に首を傾げる。
意識が徐々にハッキリするに伴い、人の気配も明確に感じられた。
取り敢えず起き上がろうとするも体中が悲鳴を上げ、痛みに短く悲鳴が出る。
「痛っ…」
「あ、無理はしないで下さい。そのままでも大丈夫ですから」
「…キャメロットさん?グリードじゃなくて…?」
無理やり体を起こそうとする自分を止め、気を遣ってくれる少女に疑問はより深まった。
獰猛な笑みを浮かべ、巨人相手に大立ち回りを繰り広げた姿からは程遠い態度。
数時間前に村で会った時と同じ、キャメロット本人にしか見えない。
「その辺りの説明もいるか…」
「遠坂さん?……そうだ、康一さんは…それに僕はあの時…」
「落ち着きなさい。ちゃんと教えるから」
嘆息しそうになるのをどうにか抑え、アルフォンスにこれまでの経緯を簡潔に伝える。
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「そう…なんだ……」
決して良いとは言えない内容に気持ちも顔色も沈んでしまう。
巨人をどうにか遠ざけ無事生き延びたのは喜ばしい。
しかし根本的な解決ではなく、康一は未だ正気を失ったまま。
加えて犠牲者ゼロとはいかなかったらしい。
分断された承太郎達は巨人とは別の危険な参加者と交戦、結果三人もの命が失われたと言う。
もし自分がアマゾンの暴走を防げていれば、もっと早くに巨人をどうにかできたんじゃないか。
そうしたら承太郎達の救援に駆け付けられたのでは。
悔やんだ所で結局はたらればの話だ。
分かってはいる、けれど簡単に割り切れやしない。
「ごめん…康一さんを止めなきゃいけなかったのに、僕は…」
「自分を責めなくていい。アルフォンスが望んでやった訳じゃないんだろう?」
故意にアマゾンへ姿を変え襲い掛かったならともかく、あれはアルフォンスにとっても決して望まぬ事態だった。
攻撃こそされはしても、アルフォンスの手による犠牲者はゼロ。
なら責め立てる気はさらさらない。
蓮の言葉に表立って反論する者は現れず、気遣いに感謝する反面申し訳なさも強くなる。
簡単に持ち直せるほど図太くはなれないが、凛の説明には他にも考えねばならないものがあった。
(バリーが遠坂さんを…)
室内に珍獣の姿が見えなかった為、薄々予感はしていた。
やはりと言うべきか、バリーは巨人との戦闘で命を落としたとのこと。
巨大な虫に続き、これで康一が手を掛けたのは二人目。
勿論康一の意思による殺害でないとは、アルフォンスを含めたこの場の全員が分かっている。
ただまたしても康一の暴走で被害が出るのを防げなかった、その事実を噛み締めると胸が酷く痛む。
たとえそれが余り良い関係とは言い難い殺人鬼であってもだ。
とはいえ、生前のバリーが最後に取った行動は正直意外としか言えない。
説明通りならば、凛を逃がす為に巨人へ立ち向かい命を散らしたのだという。
何ともバリーらしからぬ最期。
ひょっとすると予想以上にキャメロットへホークアイ中尉の面影を重ねていたのだろうか。
キャメロットへの義理立てか何かで、凛の為に命を張ったのかもしれない。
バリーが何を思って動いたか真相を確かめる術は無く、少しでも時間を稼いだお陰で凛が生き延びられた結果だけが残った。
-
「バリーさんが……」
驚きと後悔を含んだ言葉を呟き、キャメロットの表情にも影が差す。
彼女もまたバリーの姿だけ見えない事から察してはいたが、こうしてハッキリ死を告げられると無反応ではいられない。
アルフォンスから警戒を呼び掛けられたとは言っても、明確に牙を剥かない限りは守るべき仲間の一人だった。
自分の意識が無力感に沈んでいる間、ゲンガーに続きバリーの命まで零れ落ちてしまったらしい。
決意新たに戦場へと復帰を果たしたものの、守れなかった現実は容赦せずに刃を突き立てて来る。
と、感傷に浸り掛けるも知った事かと声が頭の中に響く。
「え?ええ、構いませんが…でも余りアルフォンスさんを困らせるこt――悪いがお説教は御免だぜっ、と」
訝し気に誰かと会話する素振りを見せたかと思えば、急に粗野な口調へ早変わり。
事情を知らない者は一人芝居の類かと眉を顰めるだろう光景を、その通りに受け取る者はここにいない。
「グリード…」
「よう、久し振り…でもねえか。お互いとんだ目に遭っちまったな」
言葉とは裏腹に声色は現状に対する嘆きは皆無。
むしろ期待と好奇心が隠し切れていない。
やはり自分の推測通り、キャメロットが飲み干した賢者の石には強欲のホムンクルスが宿っていたらしい。
既に最強の盾を駆使し戦う場面を目撃したとはいえ、改めて相対すると緊張で身が引き締まる思いだ。
「やっぱりキャメロットさんの体にいるんだね…」
「おうよ。こいつと言いあの皇子のガキといい、俺はつくづく王様ってのに縁があるらしくてな」
皇子のガキが誰を指して言ってるのか、分からない筈がない。
ということはここにいるのはダブリスで会ったグリードではない。
中央(セントラル)の地下でリンの体を乗っ取った方のグリードだ。
前のグリードと今のグリード、どちらも危険なのは同じでもアルフォンスの心情的には前者が幾らかマシと言った所。
彼を慕うキメラ達をこの目で見て、言葉を交わし、彼らの怒りに触れたからこそそう思えるのだ。
残念ながらキャメロットの(正確に言うとアルトリアの)体を手に入れたのは後者であるが。
-
しかし最悪の状況と断じるには早計。
キャメロットが無理やり体を奪われたのでないと、今見たばかりのやり取りが伝えて来た。
意識を表に出す許可をわざわざ取る辺り、双方何らかの形で話は付いたのか。
「そっちのジャガイモ坊主にも言ったが、キャメコとは仲良くしてやる。こんな面白ぇ女滅多に見ないぜ」
「…えっと」
少々予想外の反応で言葉に詰まる。
一体何を話したのか、随分と上機嫌な様子。
チラと凛に視線を向けると、少々呆れた顔を作りつつも小さく頷かれた。
凛から見てもキャメロットが従わされている印象は見られず、グリードへの警戒は続けるが一先ずは良しとする。
アルフォンスもまた警戒を解く気はないが、今は凛の意向に従う。
「グリード、この殺し合いにお父様が関係してるってことは…」
「ねぇな。親父がやるにしちゃ幾ら何でも杜撰過ぎだ。というか俺が言わなくても分かってたんだろ?」
「うん、一応確認しておきたくて」
フラスコの中の小人、お父様、ヴァン・ホーエンハイムと同じ顔の男。
脳裏に浮かべたホムンクルスの創造主が関係している可能性は、グリードから見てもほぼゼロで間違いない。
貴重な人柱候補のアルフォンスを巻き込み、グリードに何の説明も無くリンの体から引き離した。
殺し合い開始当初から察しは付いた事だ、今回の事件はホムンクルス達にとっても予期せぬ事態だと。
改めてお父様すら出し抜いたボンドルド達へ戦慄を抱かざるを得ない。
「あ?何だもう交代か?怒るなよ、口説き文句なら幾らでも聞いてやるが説教は…分かった分かった。ほらよ――どうしてあなたはこう…!はっ、し、失礼しました…」
男くさい仕草が一変、顔を赤らめぷりぷり怒る至って少女らしい様子を見せる。
もっと悪い状況も考えていただけに、どこか気の抜ける光景にアルフォンスは思わず困り笑い。
同じ感想なのか凛も先程からずっと呆れ顔のままだった。
-
「グリードの事は一旦置いといて、こっちも質問良い?私達と別れてから何があったかを具体的に知りたいんだけど」
先程は非常事態の為、康一の情報を簡潔に教えてもらうだけだった。
一次的に危機が去った今ならより詳しい話を聞けるだけの余裕がある。
アルフォンスの口から語られたのは別行動を取った直後。
オレンジ髪の女、神楽との遭遇から村で巨人と化した康一に襲われるまで。
そして、踏み潰された一匹の哀れな虫の最期。
「ごめん遠坂さん、頼まれてた調査は…」
「…まぁそっちはもういいわよ。多分タワーに着いたら着いたで、調べるどころじゃなかったでしょうし」
仮にアルフォンスが当初の予定通り風都タワーに向かった場合、タイミング的にもディケイドとの戦闘に巻き込まれた可能性が高い。
どの道落ち着いて調査は難しかっただろう。
凛達の方もゲンガーと会うまでロクな収穫を得られず、4時間近く無駄にしたので文句を言える立場でもなかった。
「馬鹿デカい虫っていやあれか?しんのすけが言ってたのと同じ奴」
「多分間違いないと思う」
巨人に殺された虫と直接の接触は無いが、しんのすけの話で存在を知っていたのは蓮とエボルト。
聞いた話では煉獄が死ぬ原因を作った危険な参加者といった印象。
しかし確かに、アルフォンスの言うように意思疎通困難な体に変えられ錯乱していたと考えれば、しんのすけ達を襲った理由にも納得がいく。
いずれにしても彼女は理不尽を超えた理不尽の果てに、呆気なく命を落とした。
「…おい、お喋りはそこまでにしておけ」
会話中の一同へ釘を刺し、ジューダスが一点を睨み付ける。
リビングに設置された大型テレビの画面に異変が起きたのだ。
電源は落とされ黒一色の画面に突如映し出される砂嵐。
ふと気が付くと、いつの間にやら窓の向こうは静けさを取り戻しているではないか。
あれ程の悪天候が一瞬で過ぎ去り、まるで蛇口を閉めたように水滴一粒落ちて来ない。
鉛色の雲は役目を終えたとばかりに撤収を始め、変わってチラホラ星が姿を現す。
空の色が完全に変わる頃にはより鮮明に輝きを増すだろう。
天気の変化を合図にして、テレビ画面に流れる映像も切り替わった。
蓮達がいる民家のみならず、島中の電子機器の画面に同じ人物が映し出される。
当然、会場中央へ浮かび上がった巨大スクリーンにもだ。
何が起きたかを理解出来ない者は最早ただの一人も存在しない。
主催者による定時放送。
即ち、殺し合いを次の段階へ移行させるステップである。
-
○
「は……?」
放送が終わり真っ先に聞こえたのは、やけに間の抜けた声。
自分が漏らしたのだと蓮が気付くのにたっぷり数十秒を要した。
死亡者と禁止エリアの発表。
その他の連絡事項。
これまでの定時放送でも伝えられた内容を、今になって理解不能となった訳じゃあない。
いや、今回ばかりは意味の分からない伝言があったが、かといってここまで呆然とする程のものとも違う。
主催陣営のボスとかいう奴の情報、前回以上の脱落者。
本来だったら意識を割くべき話すら、今の蓮には頭をすり抜けるばかり。
蓮の思考の大半を占めるのは、画面の向こうで引き攣った笑みを浮かべていた一人の少女。
「双葉……?」
容姿に見覚えは無い、しかし名前を知らないのは有り得ない。
佐倉双葉。
たどたどしい口調だが確かに、ヘルメットを被った少女はそう名乗った。
偶然同姓同名なだけという都合の良い逃げ道を探す気は無い。
自分が巻き込まれている以上、怪盗団の仲間にも何らかの被害が及んでいないと何故言い切れるのか。
とはいえまさか主催者側、ボンドルドや斉木空助達と同じ陣営にいるのは全くの予想外。
参加者に登録されたのではない、殺し合いを運営する連中の協力者として双葉は蓮に存在を知らしめた。
「どうやら訳ありみたいだな」
困惑が渦を巻き思考を飲み込む前に、現実へ引き戻される。
振り向き視界に飛び込んだのは、目を細めた共犯者の顔。
エボルトだけではない、リビング内の者達皆が説明を求める顔を蓮に向けていた。
集中する瞳に怯みかけるも、当然かと思い直す。
自分でも分かりやすいとしか言えないくらいに、動揺を露わにしたのだ。
何かあると考えない方がおかしい。
-
「その様子じゃ、あの双葉ってお嬢ちゃんは相棒と浅からぬ関係ってとこか?」
「ああ、双葉は――」
→【大事な仲間だ】
【優秀なハッカーだ】
【…マスコット枠?】
メジエドからの挑戦状を皮切りに起きた、夏休み中の事件。
惣治郎の義理の娘であり、怪盗団に自ら改心を依頼したのが双葉だ。
母親の死に関する認知の歪みがパレスを生み出し、紆余曲折を経て彼女は真実を思い出した。
過去と向き合い、仮面を引き剥がした事でペルソナ使いに覚醒。
パレスを閉じてからも正式に怪盗団のメンバーとして迎え入れた。その筈だったが。
「どういう訳かボンドルドの一味に加わってる、と」
「念の為聞いておきたいんだけど、前から殺し合いと関係するような怪しい素振りとかは…」
「それはない。双葉はそんな奴じゃない」
凛からの質問へ明確にNoを返す。
メジエドの一件で知り合ってから今に至るまで双葉と関わって来たが、絶対に殺し合いを賛同するような人間では無い。
口ではぶっきらぼうな態度を取っていながら、その実誰よりも惣治郎を慕っている。
怪盗団への感謝を口にし、力になると宣言した言葉の力強さは忘れていない。
だからこそ何故双葉がボンドルド達と同じ側にいるのかが分からなかった。
「でしょうね。私から見てもあの子、かなりびくびくしてたし」
放送での双葉は明らかに動揺を隠し切れていなかった。
単に人見知りする性格だからではないだろう。
本人が望まない形で殺し合いに関わり、しかも立場的にはボンドルド達の仲間として参加者に名乗らねばならない。
心を乱すなと言う方が難しい。
何より、言動の端々に殺し合いへの忌避感があったのが蓮には分かる。
-
(成程ねぇ。あのお嬢ちゃんがナビの正体って訳か)
エボルトに接触を図って来た主催者側の内通者。
メッセージでのやり取りから、向こうが蓮と前々からの知り合いだとは察せられた。
蓮からの情報と照らし合わせれば、佐倉双葉こそがナビだと気付くのに時間は掛からない。
こちらと連絡を取って数時間後の放送で顔出しを行った。
偶然か、それともこっちとの接触がバレるなどのトラブルが原因か。
折角手に入れた主催側とのパイプだ、無駄にならない事を願いたいものだ。
「まぁあっち側にいる理由なんざ、それこそ無理やり協力させられただの幾らでも思い付くがな」
何らかの脅しを受けた、殺し合いだと知らされず騙された。
或いは近しい誰か…惣治郎や怪盗団の仲間が人質にされてしまった。
そういった手段を用いて双葉に殺し合いの運営の一端をやらせている。
でなければボンドルドに手を貸すなど有り得ない。
(だとしても何で双葉を……)
天才的なハッカーの腕を利用するつもりなのか。
ペルソナ能力の悪用を目論んでいるのか。
若しや、双葉の母親が進めていた研究が狙いか?
どんな理由だろうと、双葉が望まぬ協力を強要されているのは確か。
主催者への怒りと殺し合い打破の決意。
蓮の中で再点火された二つの炎が一層勢いを増す。
わざわざ殺し合いの運営に協力させるくらいだ、直ぐに用済みと見なし始末はしない筈。
だがいつまでものんびり構えていられる程の余裕も無い。
急いで双葉を救出したい所だが、現状はボンドルド達の居場所の特定はおろか、首輪の解除すら出来ていない。
歯痒いが一つ一つ慎重に、尚且つ迅速に事を進めるしかないだろう。
取り乱しそうになる内心をどうにか抑える。
パレスへの侵入の時と同じだ、迫るタイムリミットに焦り無謀な行動に出れば自分達の破滅を招くのみ。
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「雨宮君の仲間は心配だが、私達もどう動くかを決めた方が良い」
「ええ。やってくれたわねアイツら…」
眉を顰めながら凛が地図を取り出し、今しがた得られた情報と照らし合わせる。
厄介な事に現在地であるD-6がピンポイントで、禁止エリアに指定されてしまった。
猶予は2時間、それまでにエリアを出なければ首輪が爆発。
双葉が言ったように、早急な移動が自分達には推奨されるのだ。
(ただここが気になるのよね…)
D-6にある二つの施設の内の一つ。
エレン・イェーガーの家の調査がまだ済んでいない。
本格的に調べる前に思わぬアクシデントが発生し、その後も騒動続きで後回しとなっていた。
原因を作った獣に文句を言ってやりたかったが当人は既にあの世へ行った後。
「産屋敷さん、じゃなくて鬼舞辻無惨…」
今は亡き奇怪な生物の体に入っていた人物の死へ、アルフォンスが表情を曇らせる。
自分が最初に出会った彼は実は殺し合いに乗っており、凛達が襲われた。
そんな産屋敷改め無惨も黎斗に始末され、事の真意を問い質す機会はもうない。
危険な参加者を凛達に引き受けさせてしまった申し訳なさ、そのような男であっても死んだことは喜べず苦い味が口の中を占める。
それにミーティの体を元に戻す事も叶わなくなった。
黎斗を責めるのは簡単だが、彼だって無惨から仲間を守るために手を汚したのだ。
その場にいなかった自分に好き勝手言う資格はない事くらい分かっている。
「あの男が死んだのか…」
名前を騙られた男、産屋敷耀哉の死に何とも言えない顔を作るのは蓮だ。
シロを鬼に変えた張本人、しかし悪党と断定も出来なかった。
風都タワーに向かう前の情報交換の場で、しんのすけがもう一度会いたがっていたのは覚えている。
再会は叶ったのか、会えたとして何を話したのか、そもそも自分達と別れてから何があったのか。
ミチルがいない以上、しんのすけ本人から聞く以外に確かめる術はない。
幸い放送でしんのすけの名は呼ばれなかった。
殺し合いに乗った者とは遭遇せずに済んだ、或いは善良な参加者と出会えたのかもしれない。
-
「結城君を殺した少年ももういない…環さんの事を思えば手放しでは喜べないが」
「……」
リトを殺した耳飾りの少年もまた脱落。
表向きは憂いを見せる年長者の顔をしながら、内心ではつまらなそうに舌を打つ。
自分の手で借りを返したかったのが本音だ。
それも向こうが勝手に死んでは納得がいかない、だが死んだ以上は仕方がない。
脱落したなら所詮はその程度の三流プレイヤーというだけのこと。
ゲームマスターが何時までも敗北者に思考を割くのは無意味。
黎斗の中で痣の少年の体だった者への怒りは急速に冷めていく。
「そういや、まだこいつは見て無かっただろ」
思い出したようにエボルトが取り出したのは、精神と身体の組み合わせ名簿。
風都タワーを急いで発ったジューダス、先の巨人戦まで意識が眠りに落ちていたキャメロット。
両名の確認がまだ済んでいなかったので、この機会にと名簿を見せる。
カイル達もいなければ、城娘の名も見当たらない。
自分達の知り合いが体を巻き込まれている懸念事項は無事解消された。
(キャメロットは特殊な出自故に、他の城娘程交友関係は多く無いが)
「こいつは…」
だが不可解な箇所が一点、ジューダスの目に留まる。
名簿に記された体の名前は竈門炭治郎。
先程放送で名前を発表された死者の内の一人。そこはいい。
奇妙なのは精神側の名前。
放送では炭治郎の体に入っていたのは絵美理なる少女だった。
それが何故か、名簿の組み合わせは鳥束霊太という全くの別人の名前ではないか。
「シャル、この鳥束という奴の体が誰だったか覚えているか?」
『ええ!?そんないきなり…あの時は坊ちゃん、いやここにいる坊ちゃんじゃない方の坊ちゃんの名前に気を取られてましたし………えーと……あ、確かケロロとか言ってたような』
ケロロというのはケロロ軍曹の事だろう。
名簿にも名前は載っているが精神側は鳥束とは別の参加者の名だ。
更におかしな事に、放送で炭治郎の体に入っていたらしい絵美理もまた名簿では別の体になっている。
もっと言えば絵美理の体のデンジという名前は、放送だと脹相なる男の体と発表されたばかり。
何が何やら混乱しかけるが答えはそう時間を置かずに導き出された。
-
「そういうことか」
『坊ちゃん?一人で納得しないで僕にも教えてくれません?』
「今の僕らに起きたのと、同じ現象を起こせる奴が参加者にいる。それだけの話だ」
別人の肉体と精神を入れ替える能力の持ち主が参加している。
組み合わせが放送と違う名前は、体を入れ替えられた被害者とでも言うべき者達なのだろう。
他者の体で殺し合わされる今の状況だからこそ、すぐに気付けた。
ついでに肉体を入れ替える能力者が誰なのかも見当は付く。
名簿と放送で組み合わせが違う者達の中で唯一生存中の参加者、ギニューだ。
ギニューについては情報を共有しておくべきと判断し、全員に説明。
やはり各々表情に険しさが増したのが見て取れた。
体を入れ替える能力の厄介さに加え、ジューダスの考えが正しければリトを殺した参加者はまだ生きている。
先程鎮火したばかりの怒りが再び燃え上がり、借りを返せるチャンスに黎斗は殺意の混じった笑みを密かに浮かべた。
「ギニューってのに気を付けなきゃならねえのはよ〜く分かった。この体を奪われたら、大事な大事なファンの連中にも申し訳ないからなァ」
心にもない事を口にしているのは誰の目にも明らか。
体の持ち主が一生浮かべる事は無いだろう軽薄の笑みは崩さず、されどおふざけは早々に打ち切り。
声色に真面目なものを乗せ、エボルトは今後の動きを伝える。
「俺としちゃ西側に移動したいと思ってる」
「理由は?」
聞き返されるのも想定の内のようで、特に慌てず地図を広げた。
ついでに蓮から支給品を一つ借り、そちらも広げ全員が視線を落とすのを見計らい説明に入った。
-
今回の放送でエボルト達がいる街と地下通路の一部、聖都大学附属病院の三つが禁止エリアに指定された。
主催者がどういった意図で禁止エリアを選んだのか凡その察しは付く。
当たり前だが主催者は参加者の現在地を特定可能な立場の者達である。
D-6に殺し合いからの脱出を目的とする一団が留まっているのも、当然把握済み。
まずD-6を禁止エリアに指定した理由は、その一団を追い出し別の場所へと誘導する為。
D-3についても同様の理由だ。
参加者が集まりやすく拠点に利用可能な病院に長々と留まるのを良しとせず、D-2と3の両方を禁止エリアに変え強制的に移動させるのが目的。
「こいつは大分前の現在地だが、この連中が病院に集まったのはほぼ確定だろうよ」
エボルトが指さすのは蓮から借りた、二つ前の放送時点での参加者の現在地を記した地図。
病院近くには5名の画像があり、彼らが聖都大学附属病院を無視したとは考えにくい。
画像の者達は全員放送で名前を呼ばれていない。
となると、D-3の禁止エリア外だった病院内へ留まり続けた可能性は十分考えられる。
残念ながら出て行く羽目になってしまったが。
最後にG-5、地下通路の一部は双葉が口にしたように殺し合いの進行に良い影響を与えないから。
地下通路内にあったモノモノマシーンが使え無くなれば、残りは網走監獄に設置された一台だけ。
戦力強化を図りたい者達はこぞってもう一台の方を目指すだろう。
「ボンドルド達は残る参加者を監獄周辺に集めようとしてるってこと?」
「施設が無い北東の森よりは残ったモノモノマシーンの方が、向かう価値はあるだろ?」
「そうやって網走監獄の方に行くと…病院を出た者達とかち合う可能性が高いな」
「日付が変わるまでの6時間で殺し合いを終わらせる気なのでしょうか…?」
残った者達を一堂に集めて一気に優勝者を出そうという魂胆か。
もしそうなら網走監獄周辺はとんだ激戦地と化すのは間違いない。
その前に、病院にいる者達と合流しておくべきというのがエボルトの考えだ。
単純に協力可能な数が増えれば、その分やれることも多くなる。
ディケイドや白黒の仮面ライダーへの対抗は勿論、首輪を解除可能な人材がいるかもしれない。
ひょっとするとミチルの友人である柊ナナがいたり、しんのすけが彼らに保護されているといった可能性とて否定はできない。
危険な参加者との遭遇の確率も増加する一方で、メリットは決して低くない。
-
「この連中が実は殺し合いに乗っていて、一時的に手を組んでいる可能性はないのか?」
「絶対ないとは言い切れねぇが、もしそうなら一人で病院まで行った神楽って女が無事じゃ済まないだろ?」
アルフォンスが出会った女の名前には蓮とエボルトも聞き覚えがあった。
風都タワーへの出発前、ゲンガーが信用できる仲間として挙げた内の一人。
神楽がアルフォンスとの遭遇後どうなったかは不明。
だが死亡者の中に含まれなかった為、無事病院へ到着したと見て良い筈。
仮に病院付近の5人が全員殺し合いに乗っていて徒党を組んでいる場合、神楽は危険人物が陣取る魔城へ単独で足を踏み入れたことになる。
多勢に無勢、袋叩きに遭って惨たらしい末路を迎えても不思議は無い。
実際には神楽が脱落したとの情報は無く、殺し合いに反抗する者達と合流出来たと考える方が自然だ。
せめて地図の内容が現在地を示すものだったら、もっと正確な情報を把握できたのだが。
そこまでの利便性は残念ながらない。
とはいえ神楽が西側の一団と共にいるのであれば、益々合流する価値は大きい。
ゲンガーが脱落した以上、巨人についての情報を持つのは彼女ただ一人。
康一の暴走を止めるには神楽の協力が必要となる。
「こんな感じだ。反論があるなら聞いとくぜ?」
「別に反対はしないわよ。ただ、私の方でも調べておきたい場所があるわ」
言って凛が指差したのは二ヶ所。
エレン・イェーガーの家と風都タワー。
そもそも一回目の定時放送後の凛の主な目的は、協力者を集めることと各施設の調査。
無惨が暴れたせいで当初の予定は大幅に狂ったものの、前者は上手くいっている。
しかし施設の調査については全くと言って良い程進展がない。
放送の内容を信じるなら目ぼしい施設は全て発見された。
個人宅まで施設に登録されている為、遠坂家や衛宮邸、ひょっとすればアインツベルン城などが設置される可能性も考えたがそうはならなかったらしい。
聖堂教会等自分と関係のある施設は無く少々肩透かしは食らうも、無いならそれでもいい。
施設に関する凛の考察はルブランでの情報交換の際、全員に伝えてあった。
あの場にいなかったジューダスにはメモを見せ、さてどうするかを考える。
エレン・イェーガーは康一の肉体となった少年だ。
今でこそ巨人化し暴走中であっても、本来康一は殺し合いに反対の善良な参加者。
凛の考察通り、主催者側の誰かが殺し合い打破の有利になる情報を託すのに適した人物である。
更に風都タワーは左翔太郎とフィリップに深く関係する、風の都のシンボル。
二人で一人の探偵の肉体を得た蓮と新八もまた、殺し合いを良しとしない善側の者。
彼らが風都タワーを探索するのを見越して、何かを隠したと十分考えられる。
-
無論、自身の考えが絶対に正しいとは凛も言えない。
あくまで状況から推測したに過ぎず、とんだ的外れな考察かもしれないのだから。
ただ現状では否定できる材料も無い為、こればかりは実際に調べて確かめる他ない。
「時間に余裕は無いが寄り道しないのもちょいと勿体ねぇか」
毛先を弄りながらエボルトも考え込む。
凛の考察はこっちから見ても筋が通っており、悪くない内容だ。
調べて何も見つからなければ無駄骨、反対に見つかった場合の収穫は大きい。
現状、主催者を始末する方針で行動中のエボルトとしても自分達が有利になる手札(カード)が手に入るのは大歓迎。
なれど全員で施設を一つ一つ調べながら西を目指すのは、時間の浪費に繋がる。
「散けて動くしかないだろこりゃ」
「そうなるわよねぇ…」
安全面を考慮するなら7人で固まって行動するべき。
しかし効率を重視するなら別れて動いた方が良い。
当然リスクは大きい。
複数人掛かりでも苦戦するような怪物がゴロゴロいる中で、戦力を分散するのだから。
だが既に半数以上が脱落した今、余り悠長に事を構えてもいられない。
危険は十分承知の上で別行動を選択する。
エレンの家を調べるのは凛とキャメロット。
一度訪れた為大体の内装は把握しており、然程時間は掛からない。
というか禁止エリアに設置された施設なので、のんびりしてもいられないが。
風都タワーを調べるのは黎斗とジューダス。
翔太郎の体を持つ蓮が行くべきかとも思ったが、自分が行こうとジューダスが名乗りを上げた。
飛行能力があるジューダスなら一々橋を渡らずとも、川の上を移動可能。
バイクで行き来するよりも時間の節約になる。
この中で最も付き合いの長い黎斗が同行する事に決まった。
-
そして最後、神楽達と合流するのは残る三人だ。
「本当に良いの…?」
困惑を隠さずにアルフォンスは問い掛ける。
暴走の危険性を孕む自分は単独行動を取った方が最善。
既に二度もアマゾンの本能を抑えられなかった事実を鑑みれば、誰だってそう思うだろうに。
そんなアルフォンスに蓮は自分達と共に行こうと言ったのだ。
「俺達なら大丈夫だ」
「ま、相棒のお人好しは今に始まったことじゃねぇからな」
片や力強く頷き、もう片方はやれやれと肩を竦めた。
何の考えも無しにアルフォンスの同行を決めたつもりはない。
オリジナル態とは一度戦っており、もしまたアルフォンスが暴走しても手の内を把握している自分達なら彼を止められる。
むしろ一人で行動させ取り返しのつかない事態を引き起こすよりは、暴走を止められる者が共にいた方が被害の拡大を防げるだろう。
何より、相応の理由があろうと一人でい続けるのは堪えるものだ。
前科者のレッテルを貼られ、学校中から奇異の視線で見られた蓮にはそれがよく分かる。
偏見を抱かず友人として接してくれた竜司がいなかったら、一体どうなっていたか。
「…うん。ありがとう二人とも」
体の危険性を知りつつこうして受け入れて貰えた。
申し訳ないと思う反面、やはり嬉しさも感じる。
凛に言われたように諦めるつもりだけは最後まで捨てない。
元の体を取り戻す旅の時だってそうだ。
非情な現実に心が悲鳴を上げた瞬間は一度や二度で無く、それでも自分達は前に進み続けた。
エルリック兄弟の支えとなった人々のように、この地でも志を共にする仲間は確かに存在する。
彼らへ感謝し、同時にふと思った。
(千翼にも…)
彼らのような者がいてくれたら、何かが変わったんじゃないだろうかと。
―――我は汝……汝は我……
―――汝、ここに新たなる契りを得たり
―――契りは即ち、 囚われを破らんとする反逆の翼なり
―――我、「塔」のペルソナの生誕に祝福の風を得たり
―――自由へと至る、更なる力とならん……
|塔のペルソナ「セト」を獲得しました|
-
(今のは…)
慣れ親しんだ感覚に自分のペルソナを確認すると、思った通り新たな仮面が追加されている。
塔のアルカナは正位置において、災害や破壊など凶を意味する不吉なカード。
アマゾンの肉体であるアルフォンスの事を考えると、笑い飛ばせない。
何にしてもまた一つ絆を結んだ事に変わりはない。
「そうだ。これは蓮さんに渡しておくね」
蓮がセトのステータスを確認中、思い出したようにアルフォンスはデイパックの口を開く。
差し出された物体につい首を傾げる。
猫を模した容器をどうして自分に手渡すのか、相手の意図が分からない。
何となくモルガナを思い出すデザインだが多分関係無い。
「チョコレートが入ってるみたいなんだけど、双葉さんの手作りらしいんだ」
「双葉の?」
つい聞き返し猫の容器を凝視する。
チョコと一緒に付属した説明書も渡されると、アルフォンスの言った通り双葉が作ったバレンタインのチョコと記されていた。
一体いつの間に作ったのか、ついこの間夏休みが終わったばかりでバレンタインはまだ先だろうに。
というか誰に渡すつもりなのだろう。
疑問は尽きないが説明書に書かれた内容通りなら、今の蓮には何よりも有難いアイテム。
勝手に双葉が作ったチョコを食べるのに抵抗は勿論ある。
惣治郎か、若しかすると他の誰かにあげるつもりで作ったのを自分が口にしては双葉だって怒って当然だ。
申し訳ないと思いつつ、それでも必要な為内心で頭を下げチョコに齧りつく。
自分の中で失われていた力、ペルソナのスキル行使に必須であるSPが回復されるのを実感。
ホウオウを召喚し全員の傷を癒す。
「話も一段落着いた所で、そろそろハッキリさせておこうぜ」
回復が済むや否や話を切り出し、エボルトが自分の首を指で叩く。
ここまで何やかんやと話す機会を逃し続けたが、いい加減に決めておきたい。
デイパックに入れたままの死体から首輪を手に入れる事を。
-
「待ってくれエボルト、それは…」
「言いたいことは分かるが、もうそんな呑気に構えてられる状況じゃないだろ」
反論しかけるも正論で返され口を噤む。
首輪解除のサンプルは言わずもがな。
もし首輪を外しサンプルが必要無くなったら、モノモノマシーンに使えば良い。
今後も必要となる首輪をここで入手するのは何も間違っていない。
仲間の首を斬り落とす前提を無視すればの話だが。
しかしだ、エボルトの言う通り自分達の状況はハッキリ言って悪い。
市街地での戦闘で6人もの仲間が脱落。
未だディケイドや白黒の仮面ライダー、銀髪の剣士などの強敵は健在。
感情任せにごねていられる程、余裕を持てる時間はとっくに過ぎ去った。
「……」
他の者も大きく反対の声を上げる様子は見られない。
魔術師としての合理的な判断を下せる凛や、汚れ仕事が今に始まった事でないジューダスはエボルトの意見に異論はない。
アルフォンスとキャメロットも心情としては蓮寄り、しかし今必要とされる行動が何なのかも理解している。
善人の仮面を被り蓮を心配する素振りの裏で、その実黎斗も首輪入手には賛成だ。
ゲームマスターの為に脱落者は首輪を献上するのが当然とでも言いたげに、不遜な態度を内心で取る。
「…………分かった」
暫しの沈黙を挟み、躊躇を抱きながらも肯定。
蓮とて完全に自分の中で納得が付いた訳ではない。
抵抗感は依然としてあれど、感情論で声を荒げても状況が好転しないことくらい分かっていた。
故に死者たちへ胸中で謝罪し、首輪の入手を受け入れたのだ。
それぞれのデイパックから死体を出し、別室で首を斬り落とす。
剣を持つキャメロットとジューダスが仕事を終え、四名の死体にシーツを被せた。
本当なら埋葬した方が良いのだろうけれど、生憎時間も余り無い為これが精一杯だ。
-
「お前は僕、いや、リオンと会っていたのか」
リビングに戻る時、ジューダスが投げかけた言葉にキャメロットは頷く。
リオン・マグナスとは殺し合いが始まった直後に交戦。
決着は付かず再戦の機会も失われたが、よもやそのリオンは目の前にいるジューダスの過去の姿らしい。
正確にはキャメロットが出会ったリオンでなくとも、こういった形で剣では無く言葉を交わせるとは思わなかった。
「一度剣を交えただけですが…彼が譲れぬ願いを抱いていたのは間違いありません」
時に剣は言葉以上に相手を知る材料となる。
リオンは罪なき人々を殺める事になろうと容赦なく刃を振り下ろしただろう。
しかしそれは彼が血を好み、他者の悲鳴を糧とする悪鬼外道の類だからではない。
百の罵倒を受け、千の恨みを買われようとも決して譲れぬ願いがある。
万の血を流す以上に大切な何かがあったのだと、キャメロットは確信している。
相容れぬ敵な事を否定はしない。
だが城娘の業を、騎士王の肉体を共有する魔人の強欲を否定しないように。
リオンの信念だけは否定しないし、させるつもりもない。
それだけにリオンを討ったのが正し心の持ち主とは真逆の、ディケイドという邪悪であるのは残念でならない。
「……そうか」
分かっていたがリオンは殺し合いに乗っていた。
今更驚きはしないし、むしろそうだろうなと納得さえしている。
何を思って乗ったのか、キャメロットが言う譲れぬ願いとは何か。
分からない筈がない。
リオン・マグナスにとって何を捨て置いても、自分自身さえ犠牲にしてでも守りたいのは一人だけだ。
会話は途切れ、二人は無言で皆の元へと戻る。
リオンの…過去の自分が抱えたものを懇切丁寧に教える気はジューダスに無く。
根掘り葉掘り詮索する気もキャメロットに無い。
沈黙に居心地の悪さは覚えず、リビングまでの短い時間、互いに一人の騎士へと思いを馳せた。
-
回収した旨を伝え、念の為にと全員がそれぞれ首輪を手にしておく。
「すみません、この剣なのですが…」
エターナルソードを持ちながら言い淀む。
キャメロットが何を言いたいかは即座に察しが付いた。
「お前さんが持っとけ。あの珍妙な刀よりはそっちのが使い易いだろ?」
「うっ…はい。正直に言いますと、その通りでして…」
逆刃刀でも戦えないことはない。
が、使い勝手の良さはやはりきちんと斬れる剣の方が上。
名剣どころか、凛から見ても確実に宝具級のエターナルソードは武器として文句の付けようがない。
このまま譲ってもらえると有難いのがキャメロットの本音だった。
エターナルソードを手放すのはエボルトとしても惜しい。
高性能な剣なことのみならず、時を超える力が秘められている。
ジューダスの作戦が成功し、主催者の力を奪い取る目論見がご破算になっては堪ったもんじゃない。
出来れば自分の手元に確保したままの方が都合は良い。
一方で剣を手にしたキャメロットの強さはハッキリと確認出来た。
蓮との連携込みでも、あれだけ猛威を振るった巨人を吹き飛ばす程。
承太郎やいろは等の人材を失った今、わざわざ剣を取り上げて更に戦力を不安定にさせるのは悪手。
それに厳重な封印が施されているのか、エターナルソードが時空に干渉する力を今すぐ発揮できるのでもない。
ならキャメロットの手に渡ったままでも、取り敢えずは問題無しとの判断だった。
「でしたら代わりに、というのも変ですけど…こちらをどうぞ」
「プレゼントか?事務所も通さず勝手に受け取って良いもんかねぇ」
軽口へ何を言ってるんだという顔をしながら、デイパックに手を突っ込む。
自分が使える武器らしい武器は一応刀の形状の逆刃刀のみ。
残りは奥底に眠らせたまま今に至る。
取り出されたソレを目にし、エボルトはフッと軽薄な笑みを消した。
-
「あなたが使っていた不思議な容器と似ていますし、そちらの役に立てれば良いのですが」
キャメロットには見覚えが無く、同封した説明書の内容も知らない単語ばかりでピンと来ず。
ただ先程の戦闘でエボルトが使っていたアイテムと似た形状の為、何らかの関係があるのではと思い差し出したのだ。
白い掌に乗せられたソレを真顔で見下ろすこと数秒。
「確かにこいつは俺のだ。ここで見つかるとはようやく運が向いて来たかもなァ」
ヘラリと薄笑いを浮かべ懐に仕舞う。
互いに必要な道具は手に入れられた、結果だけ見れば等価交換は成立。
エボルトの内心は別としてだが。
「礼を言うよ遠坂さん。代わりに風都タワーの調査は任せてくれ」
「ええ、よろしくお願いするわ」
支給品に関するやり取りはこちらでも行われていた。
黎斗のデイパックには凛の支給品であるドグーが入れられたまま。
ドグーを持っているか尋ねられ、持っていないと嘘を吐く手もあった。
それをやらなかったのは、凛にデイパックの中身をチェックさせるよう迫られるのを避ける為。
嘘がバレるだけでなく、アナザーディケイドウォッチを隠し持っているのまで暴かれてはマズい。
だから正直に無惨が持っていたのを回収した旨を伝えると、嬉しいことにそのまま持っていて構わないと言われた。
これから黎斗達が向かう風都タワーは、ディケイドとの戦闘が繰り広げられた場所。
再びディケイドと遭遇するかもしれない以上、対抗手段は多くても困らない。
仮に凛が武器の一つも所持していなければ流石に返却を求めたが、こちらにはキャメロットが同行する。
加えてバリーから受け取ったトランプもまだ一枚残っており、危険な参加者と遭遇しても戦える状態だ。
第一に自分が生き延びるのを優先する、しかしこっちと別れてから死なれても寝覚めは悪い。
尤も凛の善意も黎斗にとっては、自分に都合の良い展開としてほくそ笑むものでしかない。
「それならこれを持って行ってくれ」
傍らで二人のやり取りを聞いていた蓮がデイパックを凛に差し出す。
今は亡き炎柱の支給品だ。
「助かるけどいいの?後になってやっぱり返せって言われても聞けないわよ?」
→【大丈夫だ】
【やっぱり返して】
【お礼はデートでよろしく】
こちらにはガイアメモリと複数のペルソナがあり、手数は足りている。
場所を考えれば、凛達も銀髪の剣士に遭遇するかもしれない。
承太郎とグリードでも倒し切れなかった強敵を相手にする以上、手札は可能な限り持って行った方が良い。
「そっ、なら遠慮なく受け取らせてもらうわ。ありがとね雨宮君。…あと、しんのすけを見付けたら頼むわよ」
あっさりした態度を取りながら、内心では体の持ち主を気に掛けている。
勿論拒否する理由はどこにも無い。
これで出発の為の準備は粗方済んだ。
今度こそ取り零さない為に、守り抜く為に。
反逆の意思を今一度固め直す。
-
◆◆◆
「悪いわねキャメロット。まだ付き合わせちゃって」
「謝らないで下さい。この身は既に凛さんを守ると誓ったのですから」
むしろ途中で投げ出しては、我が王の居城としてあるまじき醜態。
真面目に語る姿は最初に会った時のキャメロットと同じ、生真面目な騎士。
改めて彼女の帰還に安堵を抱く。
現在二人はキャメロットの運転するバイクで移動中。
ミチルのデイパックから見付けたマシンディケイダーを譲り受けたのだ。
世界の破壊者が駆るモンスターマシンを乗りこなすのは、騎士王の肉体による恩恵。
セイバークラスで召喚されたサーヴァントは騎乗スキルを得る。
キャメロットの体のアルトリアもその例に漏れず、嘗て冬木で行われた聖杯戦争においてもバイクを運転する機会があった。
シートに跨りハンドルを握った途端、運転できると確信を抱き実際問題無く行えている。
エレンの家の調査が終わり次第早急に禁止エリアを出る必要がある為、移動手段の存在は有難い。
(でもやっぱり気にしてるわよね)
運転中の背中を眺め、キャメロットの心中を思い少々申し訳なく感じる。
きっと彼女は白黒の仮面ライダー討伐に行きたかった筈。
ハルトマン、ゲンガー、いろは、ホイミン、承太郎。
5人もの参加者を殺したライダーとは一度、山間部で戦っている。
もしあの時に仕留めていれば、ここまで被害が拡大する事は無かったかもしれない。
黎斗から説明を受けた時、彼女の後悔は凛にもひしひしと伝わった。
複数のライダーへ変身する少女はとっくに戦場から離れており、今どこにいるかは不明。
幸いと言っていいのか、白黒の仮面ライダーには短時間しか変身出来ない。
更に相手もまた決して軽くない負傷を抱えている為、暫くは表立って動けないだろうとは黎斗の弁だ。
「…はい?え、あの、待ってください、今変わったら危ないですしそもそもあなたは運転…あっ、ちょっとそんな無理やr――こんな面白ぇもんに俺抜きで乗るなんざ無しだぜキャメコ」
戸惑う声がしたと思ったら案の定、城娘の意識は引っ込み強欲が顔を出す。
楽し気にハンドルを動かす辺り、バイクに興味を持って無理やり交代したのだろう。
アルフォンスやバリーがいた世界の主な移動手段と言えば、自動車か機関車。
後は田舎に行けば馬車が通っているくらい。
バイク、それも大ショッカーの技術の産物なら自分の手で動かしてみたくなるもの。
-
「悪くねぇなこいつは!」
「ちょっ、ちょっと!後ろに私も乗ってるんだから気を付けてよ!」
放って置けば振り落とされかねないトップスピードを出しそうなので、その前に釘を刺す。
先程よりも強くしがみ付き、考えるのはゲンガーが見せたメモ。
木曾という少女が生前に書き残した推理によれば、ボンドルドは参加者の優勝を目的にしていない。
簡単な道で無くとも首輪を解除し主催者に接触するまでが、向こうの想定内。
証拠はなくあくまで木曾の推測に過ぎない、だが否定出来る根拠も凛には無い。
参加者の反抗を封じる為の首輪すら、実は解除されたとて痛手ではない。
だとするとどこまでがボンドルドの思惑通りなのか。
施設を調べ有用な何かを見付けても、それすらボンドルドの掌で踊っているに過ぎないのか。
若しかするとジューダスの言う作戦だって、ボンドルド達には何の問題もないのでは。
リオン・マグナスがジューダスと共に参加している以上、歴史修正という策をジューダスが思い付くくらいは主催者達だって予測可能。
歴史改変については色々と言いたい事はあるが、「そういう世界も存在する」とどうにか飲み込むとして。
どこまでが主催者の想定の内なのだろうか。
全てを疑い続けてはキリがない、しかし未だ全容も目的もハッキリしない主催者相手の疑念は募るばかり。
(あいつらのボスの伝言も意味が分からなかったし…何かの隠語?そのまんまの意味?あー!どうせならもっと具体的に教えなさいよ!)
私は亀、今の私はカメラ。
正直言ってチンプンカンプンだし、凛を含めた全員が困惑した。
イントネーションからして「かめ」は動物の「亀」なのだろう。
参加者の中には野原家のペットであるシロや、デビハムとかいうハムスターもいたくらいだ。
亀が参加していてもまぁ分からんでもないとはいえ、主催者達を纏め上げる黒幕とも言うべき者の正体が亀だとは流石に想像し辛い。
今の私との言い方からして、恐らく参加者や他の主催者と同じくボスも体は入れ替わっている。
が、カメラとはどういうことなのかこれまたサッパリ不明。
一応精神側の参加者で貨物船がいたので、無機物の肉体となったとは考えられなくもない。
そもそも何故貨物船が参加しているのかと言う至極真っ当な疑問は、深掘りすると却って混乱しそうなので考えないようにしておく。
まだグリードが現れる前、収穫ゼロで疲れ切っていた頃とは別の理由で頭が痛い。
尤もこうしてあれこれ悩めるのも、命があってこそ。
支給品を使い傷を癒した者がいた。
我が身を犠牲に逃げる時間を稼いだ者がいた。
生かしてくれた者達の魂が行き付く先は分からない。
涙を流し死を嘆く程深い関係でもないけれど、それでも、
「お礼くらい言わせてくれても良いじゃない…」
虫のように小さな声は誰に拾われるでもなく、冷たい街の中へと溶けて消えた。
-
【D-6 市街地/夜】
【遠坂凛@Fate/stay night】
[身体]:野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん
[状態]:疲労(大)、精神的ショック(大)、乗車中
[装備]:スゲーナ・スゴイデスのトランプ×1@クレヨンしんちゃん
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品0〜2(煉獄の分、刀剣類はなし)、煉獄の首輪
[思考・状況]基本方針:他の参加者の様子を伺いながら行動する。
1:エレン・イェーガーの家を調べる。あんまりのんびりしてられないわね。
2:キャメロットと行動、グリードはどうしようかしら。
3:サーヴァントシステムに干渉しているかもしれないし第三魔法って、頭が痛いわ。
4:私の身体に関しては、放送ではっきり言われてもうなんか吹っ切れた。
5:身体の持ち主(野原しんのすけ)を探したい。どこに行ったのよ…。
6:アイツ(ダグバ)倒せてないってどんだけ丈夫なの。っていうかもっとヤバくなれるってなんなのよ。
7:アルフォンス、ちょっとマズいことになってない?
8:施設とかキョウヤ関係者とか、やること増えてきたわね……
9:亀?カメラ?どういうことなのよ
10:ある程度戦力を揃えて、安全と判断できるなら向かうC-5へ向かいたかったけど……もうそれどころじゃないわ…
[備考]
※参戦時期は少なくとも士郎と同盟を組んだ後。セイバーの真名をまだ知らない時期です。
※野原しんのすけのことについてだいたい理解しました。
※ガンド撃ちや鉱石魔術は使えませんが八極拳は使えるかもしれません。
※御城プロジェクト:Reの世界観について知りました。
※地図の後出しに関して『主催もすべて把握できてないから後出ししてる』と考えてます。
※城プロ、鋼の錬金術師、ポケダンのある程度の世界観を把握しました
※ゲンガーと情報交換してます。
-
【キャメロット城(グリード)@御城プロジェクト:Re(鋼の錬金術師)】
[身体]:アルトリア・ペンドラゴン@Fateシリーズ
[状態]:グリードとの肉体共有、マスターによるステータス低下、疲労(大)、スカート部分が破れてる、精神疲労(大・キャメロットの精神)、複雑な心境(キャメロットの精神)、ワクワク(グリードの精神)、運転中(グリードの精神)
[装備]:エターナルソード@テイルズオブファンタジア、マシンディケイダー@仮面ライダーディケイド
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み、剣以外)、逆刃刀@るろうに剣心、グリードのメモ+バリーの注意書きメモ、銀時の首輪
[思考・状況]基本方針:一人でも多くの物語を守り抜く。
1:エレン・イェーガーの家の調査に向かう。
2:凛さんを守る。
3:アーサー王はなぜそうまでして聖杯を……
4:白い弓兵、ディケイド、銀髪の剣士を警戒。これ以上あの弓兵の被害が広まる前に……
5:グリードの物語も守ります。ですが、もし敵に回るなら……
6:リオン・マグナス……その名は忘れません。
7:何ですかこの格好!
8:エターナルソード、使わせてもらいます。
[グリードの思考・状況]基本方針:この世の全てが欲しい! ボンドルドの願いも!
1:欲しいものを全て手に入れる。けどどういう手順で行くかねぇ。
2:取り敢えずキャメコに力を貸してやる。もし期待外れなら……
3:親父がいねえなら自由を満喫するぜ!
4:このヘンテコな乗り物は悪くねぇな。
[備考]
※参戦時期はアイギスコラボ(異界門と英傑の戦士)終了後です。
このため城プロにおける主人公となる殿たちとの面識はありません。
※服装はドレス(鎧なし、FGOで言う第一。本家で言うセイバールート終盤)です
※湖の乙女の加護は問題なく機能します。
約束された勝利の剣は当然できません。
※『風王結界』『風王鉄槌』ができるようになりました。
スキル『竜の炉心』も自由意志で使えるようになってます。
『輝ける路』についてはまだ完全には扱えません。
(これらはキャメロットの精神の状態でのみ)
※賢者の石@鋼の錬金術師を取り込んだため、相当数の魂食いに近しい魔力供給を受けています。
※Fate/stay nightの世界観および聖杯戦争について知りました。
※Fate、鋼の錬金術師、ポケダンのある程度の世界観を把握しました。
※グリードのメモ+バリーの注意書きメモにはグリードの簡潔な人物像、
『バリーはちょっと問題がある人だから気をつけて。多分キャメロットさんが無事なら乗らないと思う。
後産屋敷さんはまともに喋れてないのもあるから、殆ど人物像が分からないのも少し気をつけておいて。』
の一文が添えられてます。
※グリードに身体を乗っ取られましたが現在は彼女に返しています。
※グリードが表に出た時スキル、宝具がキャメロット同様に機能するかは別です。
湖の乙女の加護は問題なく発動します。
※グリードの記憶は少なくとも二代目(所謂グリリン)であり、
少なくとも記憶を取り戻す前のグリードです。
※グリードが表に出た時はホムンクルス由来の最強の盾が使えます。
最強の盾がどう制限されてるかは後続の書き手にお任せします。
※キャメロット城の名前をキャメコと勘違いしてます。
※一度石化された後腕が砕けたので右腕の袖が二の腕までになってます。
※ゲンガーと情報交換してます。
-
◆◆◆
「それではジューダス君、移動は任せるよ」
「ああ」
にこやかに告げた黎斗へ無愛想に腕を差し出す。
反感を取られかねない態度も、神崎蘭子の肉体でやればクールな美少女そのもの。
体の持ち主本人の性格とは全く違うのは今更な話だ。
ジューダスと二人きりの状況は非常に都合が良い。
一向に自分への警戒を解かない不届き者を秘密裏に始末する機会が巡って来た。
ゲームマスターの消滅を正しい歴史扱いするふざけた作戦を防ぐ為にも、確実に消しておかねば。
後で蓮達にジューダスの所在を尋ねられたら、ディケイドに殺されたとでも言えば良い。
(運は確実に私の方へと傾いている。…当然か。神の才能を持つこの私こそが生き延びるべきなのだからなァ!!)
厄介な相手と警戒していた和服の少女…両面宿儺も知らぬ所でゲームオーバー。
聖都大学附属病院の調査が不可能になったのは残念であるも、そこはもう仕方ないと割り切る。
立て続けに起こる都合の良い展開に笑いが込み上げるも、面には出さない。
(坊ちゃん、大丈夫なんですか?)
小声で尋ねるソーディアンへ、視線で問題無いと返す。
黎斗はジューダスを始末できる機会と思っているが、ジューダスからしても黎斗と二人になれる状況は望む所。
表面上は紳士的に振舞うも、天使化による悪の魂の感知は誤魔化せない。
檀黎斗は明確な悪、されどジューダスの前で尻尾は出していない。
素の態度や欲深さを大っぴらに見せているエボルトやグリードと違い、表面上は友好的に振舞う態度が余計にこちらの警戒心を煽ぐ。
だが二人きりなら黎斗も取り繕う必要は無い。
この機会に黎斗の真意を見極め、悪人であれど協力可能と判断出来たならそれで問題無い。
但しそうでなければ、相応の対応を取るまで。
(本当に気を付けてくださいね?)
(言われるまでもない。僕がしぶといことはお前も知ってるだろう)
どうにも不安な態度を拭えない理由は、シャルティエもまた死んだ者達へ思う所が多々あるが故だ。
風都タワーでは新八が、ついさっきの戦闘では承太郎とホイミンが死んだ。
これでシャルティエと行動を共にした男達は全滅。
天地戦争の頃から死はいつだって身近にあった、かといって何も感じない冷血漢になったつもりもない。
いつも以上にソーディアンマスターを気に掛けるのは、きっと承太郎達の死が影を落としているから。
-
シャルティエに言われずとも、簡単に死んでやる気はない。
自分の消滅は受け入れる、但しそれはボンドルド達を斬り正しい歴史に修正されてからだ。
まずは黎斗が本当にこの先も肩を並べて戦える男か否か、ハッキリとさせねばなるまい。
もし自分達に害を為す本性を隠しているなら、いろは達の死に関りがあるのなら。
(その時は覚悟しておけ)
裏切り者を名にした剣士は静かに刃を研ぐ。
神の才能を持つゲームマスターは野望の火を燃やし続ける。
地上から離れ風の都のシンボルへ飛んで行く二人の男。
そんな彼らを、反転した世界で腹を空かせた獣がじっと見つめていた。
【D-6 空中/夜】
【檀黎斗@仮面ライダーエグゼイド】
[身体]:天津亥@仮面ライダーゼロワン
[状態]:ダメージ(中)、疲労(極大)、胴体に打撲
[装備]:ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、バットショット@仮面ライダーW、着火剛焦@戦国BASARA4
[道具]:基本支給品×4、アナザーディケイドウォッチ@仮面ライダージオウ、アナザーカブトウォッチ@仮面ライダージオウ、召喚石『ドグー』@グランブルファンタジー、サソードヤイバー&サソードゼクター@仮面ライダーカブト(天逆鉾の効力により変身不可)、MP40(予備弾倉×2)@ストライクウィッチーズシリーズ、童磨の首輪、無惨の首輪
[思考・状況]基本方針:優勝し、「真の」仮面ライダークロニクルを開発する。
1:風都タワーに向かい隙を見てジューダスを始末する。
2:人数が減るまで待つ。それまでは善良な人間を演じておく。
3:ディケイド(JUDO)は要注意しておく。エボルトも少し警戒。
4:ギニューに怒り。借りは必ず返す。
5:余裕があれば聖都大学附属病院も調べたかったが…諦めるしかないか。
6:諦めつつあるが、一応、ザイアサウザンドライバーを探してみる。
7:優勝したらボンドルド達に制裁を下す。
[備考]
※参戦時期は、パラドに殺された後
※バットショットには「リオンの死体、対峙するJUDOと宿儺」の画像が保存されています。
※バイオグリーザがミーティの肉体と、体内にあったいのちのたまを捕食しました。その影響でベルデのスペックが上昇しましたが、バイオグリーザの空腹が大きくなっています。
※ドラグブラッカーと契約しました。今後はリュウガのカードが使用可能になります。
【ジューダス@テイルズオブデスティニー2】
[身体]:神崎蘭子@アイドルマスター シンデレラガールズ
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(中)、天使化、飛行中
[装備]:シャルティエ@テイルズオブデスティニー、パラゾニウム@グランブルーファンタジー
[道具]:基本支給品、新八の首輪
[思考・状況]
基本方針:主催陣営から時渡りの手段を奪い、殺し合い開催前の時間にて首謀者を倒す。
1:風都タワーに向かい調査する。この機会に黎斗の真意を見極める。
2:いろはが死んだのか……
3:エボルトやグリードもも悪の魂の持ち主のようだが…。
4:ギニューは次に会えば斬る。
5:巨人(康一)はあれでどうにかなったとは思えない。
[備考]
※参戦時期は旅を終えて消えた後。
※天使の翼の高度は地面から約2メートルです。
※天使化により、意識を集中させることで現在地と周囲八方向くらいまでの範囲にいる悪しき力や魂を感知できるようになりました。
※蘭子の肉体はグランブルーファンタジーとのコラボイベントを経験済みのようです。
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◆◆◆
二組が施設へ向けて出発し、蓮達も街を発つ。
これまで同様ハードボイルダーを蓮が運転、後ろにエボルトが乗る。
隣を並走するのはアルフォンス、銀の一文字が入ったスクーターを緊張の面持ちで走らせていた。
バイクの運転経験が無いアルフォンスが動かせるのも、肉体の影響。
TEAM Xの頃よりバイクの運転はお手の物、後にネオジャングレイダーを駆った千翼の体だから可能な芸当だ。
(さて、後は無事に到着すれば言うことなしなんだがねぇ)
運転に集中する少年を横目で見やり、エボルトは一人思考を働かせる。
アルフォンスを抱え込むリスクは当然だが大きい。
いつ、どんなタイミングで再び暴走するか分からない爆弾を背負い込むのだ。
それでも蓮の方針に大きく反対しなかったのは、連れて回るうえでのメリットがあるから。
初めて見るライダーシステム以上に、エボルトが注目したのは錬金術。
アルフォンスを戦兎と引き合わせ首輪の解析が進んだら、何かの形で錬金術が役に立つかもしれない。
錬金術のみでの首輪解除は不可能でも、戦兎の頭脳と合わせれば話はまた変わって来る。
戦う力があり、頭の回転も速く、善良な面の強い少年。
暴走の危険さえなかったら利用するのに申し分ない人材だった。
(にしても、向こうは随分仲良くやってるみたいだな。万丈が知ったら嫉妬するぜ?戦兎ォ)
ジューダスは西側の一団が殺し合いに乗った連中が徒党を組んだ可能性を指摘した。
その際可能性は低いと言ったが本当は違う。
可能性が低いどころか、絶対にあり得ないと断言してやってもいい。
理由はシンプル、一団の中に戦兎がいるから。
桐生戦兎という男を創造し、ある意味では最大の理解者のエボルトだからこそ確信をもって言える。
戦兎が殺し合いに乗る事はないと。
(首輪だけじゃなく…“コレ”についても確かめとかねぇとな)
視線を落とした先には体の持ち主の豊満な胸。
懐に納めた一つの支給品は、ついさっきキャメロットから譲渡された物。
エボルトと何か関係があるとの考えは正しい。
確かにコレはエボルトと戦兎がいた世界から持ち出され、参加者のデイパックで眠り続けていた。
コレの存在にエボルトは疑問を抱く。
もしコレが石動総一の記憶から抽出したフルボトルなら、問題視しなかった。
実験で偶然生まれたロストフルボトルでも、戦兎が開発したビルドの強化用ボトルでも同じ。
だがそもそもコレは、地球で生み出されたフルボトルではない。
-
コレの正体はエボルボトル。
エボルトが仮面ライダーエボルへの変身に使う特別なアイテム。
百歩譲って、エボルトが元々所持するエボルボトルであればまだ良かった。
しかしキャメロットに支給されたボトルは、エボルトも知らない物だ。
仮面ライダーエボルを象徴する赤に、黄金のカラーリング。
ドラゴンを模したパーツのボトルをエボルトは見たことがない。
どこでこんなボトルが生み出されたのか。
思い当たる可能性は一つ、蓮と共に見たジューダスのメモがヒントになった。
リオン・マグナスとジューダス、過去と未来の同一人物が参加している。
主催者達が時空に干渉する力を持つからこそ、異なる時間軸同士の者を同時に呼び出してのけた。
ということはだ、ジューダスとリオン以外にも根柢の世界は同じだが別の時間軸から連れて来られた者がいてもおかしくはない。
参加者のみならず、支給品も時間軸がバラバラに集められたと考えられないだろうか。
つまりコレはエボルトの知らない、未来の時間軸に存在したエボルボトル。
その未来においてボトルを創ったのがエボルト自身ならまだいい。
だがもしも別の何者かが創り出したとすれば。
エボルボトルに干渉可能な力を持ち、ドラゴンに関係する奴など一人だけだ。
(そっちじゃ随分はしゃいでくれてるようだな。なァ?万丈)
エボルトの遺伝子を持つ万丈ならば、エボルボトルを創り出すのも不可能ではない。
どのような状況でこのボトルを創ったのか。
未来で自分の計画はどうなったのか。
何より、戦兎は一体いつの時間軸から参加しているのか。
ボトル一つが切っ掛けで確かめねばならない事が一気に増えた。
戦兎の大まかな居場所を知れたのは僥倖だ、虱潰しに会場中を探し回るのは時間も人手も足りない。
-
西側に行けばようやっとの再会を果たせるだろう。
自分は元より、体の女にとってもだ。
(良かったじゃねぇか千雪。お前の大好きなアイドル仲間も西にいる。五体満足かはともかく、な)
(…余計な一言を付け加えないでください)
何故無駄にこちらの不安を煽るのだろうか。
息を吐く様に神経を逆撫でするのが得意な男だとつくづく思う。
ぶつけてやりたい文句は両手足の指じゃ足りないくらい。
言ったところで無意味だとも理解しているので、千雪は苦々しく一言だけを絞り出した。
とはいえエボルトの言葉全ては否定できない。
(甜花ちゃん…)
アルストロメリアのメンバーで、大切な女の子。
普段はふにゃりとした可愛らしい面が強いけど、いざという時はお姉ちゃんらしさを発揮する大崎姉妹の姉。
戦兎とだけでなく、甜花も同じ顔をした他者の体へと精神を閉じ込められた。
12時間前の現在地を記した地図にあったのは、見間違える筈も無い甘奈の画像。
エボルトに体の自由を奪われたまま接触する事に不安はある。
真乃の体で暴れ回る危険人物の問題だって、解決策は未だ不明。
だけど、甜花に直接会って無事を確かめたい気持ちに嘘は吐けない。
甜花と共にいたらしい猿の画像は、二回目の定時放送の際死亡者の中に見つけた。
どうして貨物船が参加していたのかはともかく、甜花の近くでも殺される者が現れたのは事実。
恐ろしい目に遭っていないだろうか、エボルトの言葉に同意はしたくないが酷い怪我だってしているかもしれない。
考えれば考える程甜花が心配で堪らなくなる。
(何にせよ、お互い感動の再会といこうじゃねぇか)
星狩りの思惑と偶像の焦燥を乗せ、マシンは西を目指す。
待ち受けるは彼らの望む再会の時か、或いは新たな闘争か。
-
【D-6 市街地 出入り口付近/夜】
【雨宮蓮@ペルソナ5】
[身体]:左翔太郎@仮面ライダーW
[状態]:ダメージ(中)、疲労(極大)、SP消費(中)、体力消耗(大)、怒りと悲しみ(極大)、ぶつけ所の無い悔しさ、メタモンを殺した事への複雑な感情、運転中
[装備]:煙幕@ペルソナ5、T2ジョーカーメモリ+T2サイクロンメモリ+ロストドライバー@仮面ライダーW、三十年式銃剣@ゴールデンカムイ、ハードボイルダー@仮面ライダーW
[道具]:基本支給品×6、ダブルドライバー@仮面ライダーW、スパイダーショック@仮面ライダーW、新八のメガネ@銀魂、ラーの鏡@ドラゴンクエストシリーズ、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、2つ前の放送時点の参加者配置図(身体)@オリジナル)、耀哉の首輪、ジューダスのメモ、大人用の傘
[思考・状況]基本方針:主催を打倒し、この催しを終わらせる。
1:西側のエリアに向かい、協力出来る一団と合流する。
2:仲間を集めたい。
3:エボルトは信用した訳ではないが、共闘を受け入れる。
4:今は別行動だが、しんのすけの力になってやりたい。今どこにいるんだ?
5:どうして双葉がボンドルド達の所にいるんだ?助け出さないと。
6:体の持ち主に対して少し申し訳なさを感じている。元の体に戻れたら無茶をした事を謝りたい。
7:ディケイド(JUDO)はまだ倒せていない気がする…。
8:新たなペルソナと仮面ライダー。この力で今度こそ巻き込まれた人を守りたい。
9:推定殺害人数というのは気になるが、ミチルは無害だと思う
[備考]
※参戦時期については少なくとも心の怪盗団を結成し、既に何人か改心させた後です。フタバパレスまでは攻略済み。
※スキルカード@ペルソナ5を使用した事で、アルセーヌがラクンダを習得しました。
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。
※翔太郎の記憶から仮面ライダーダブル、仮面ライダージョーカーの知識を得ました。
※ベルベットルームを訪れましたが、再び行けるかは不明です。また悪魔合体や囚人名簿などの利用は一切不可能となっています。
※エボルトとのコープ発生により「道化師」のペルソナ「マガツイザナギ」を獲得しました。燃費は劣悪です。
※しんのすけとのコープ発生により「太陽」のペルソナ「ケツアルカトル」を獲得しました。
※ミチルとのコープ発生により「信念」のペルソナ「ホウオウ」を獲得しました。
※アルフォンスとのコープ発生により「塔」のペルソナ「セト」を獲得しました。スキルは以下の通りです。
・ワンショットキル
・アギダイン
・マハスクカジャ
・火炎ガードキル
-
【エボルト@仮面ライダービルド】
[身体]:桑山千雪@アイドルマスター シャイニーカラーズ
[状態]:ダメージ(中)、疲労(極大)、千雪の意識が復活、乗車中
[装備]:トランスチームガン+コブラロストフルボトル+ロケットフルボトル@仮面ライダービルド、グレートドラゴンエボルボトル@仮面ライダービルド、スマートフォン@オリジナル
[道具]:基本支給品×2、フリーガーハマー(9/9、ミサイル×9)@ストライクウィッチーズシリーズ、ランダム支給品0〜1(シロの分)、累の母の首輪、アーマージャックの首輪、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、大人用の傘
[思考・状況]基本方針:主催者の持つ力を奪い、完全復活を果たす。
1:西側のエリアに向かう。ようやく会えそうだな戦兎ォ?
2:ナビからの連絡を待つ。トラブルでもあったのかね。
3:蓮達を戦力として利用。
4:首輪を外す為に戦兎を探す。会えたら首輪を渡してやる。
5:有益な情報を持つ参加者と接触する。戦力になる者は引き入れたい。
6:自身の状態に疑問。
7:このエボルボトルは何だ?俺の知らない未来からのプレゼント、ってやつか?
8:ほとんど期待はしていないが、エボルドライバーがあったら取り戻す。
9:柊ナナにも接触しておきたい。
10:今の所殺し合いに乗る気は無いが、他に手段が無いなら優勝狙いに切り替える。
11:推定殺害人数が何かは分からないが…まあ多分ミチルはシロだろうな(シャレじゃねえぜ?)
12:ジューダスの作戦には協力せず、主催者の持つ時空に干渉する力はできれば排除しておきたい。
13:千雪を利用すりゃ主催者をおびき寄せれるんじゃねぇか?
[備考]
※参戦時期は33話以前のどこか。
※他者の顔を変える、エネルギー波の放射などの能力は使えますが、他者への憑依は不可能となっています。
またブラッドスタークに変身できるだけのハザードレベルはありますが、エボルドライバーを使っての変身はできません。
※自身の状態を、精神だけを千雪の身体に移されたのではなく、千雪の身体にブラッド族の能力で憑依させられたまま固定されていると考えています。
また理由については主催者のミスか、何か目的があってのものと推測しています。
エボルトの考えが正しいか否かは後続の書き手にお任せします。
※ブラッドスタークに変身時は変声機能(若しくは自前の能力)により声を変えるかもしれません。(CV:芝崎典子→CV:金尾哲夫)
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。
※主催者は最初から柊ナナが「未来を切り開く鍵」を手に入れられるよう仕組んだと推測しています。
※制限で千雪に身体の主導権を明け渡せなくなっている可能性を考えています。
※自分と戦兎がそれぞれ別の時間軸から参加していると考えています。
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【アルフォンス・エルリック@鋼の錬金術師】
[身体]:千翼@仮面ライダーアマゾンズ
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(中)、空腹感、自分自身への不安、目の前で死者が出て助けられなかったことに対する悲しみ、運転中
[装備]:ネオアマゾンズレジスター@仮面ライダーアマゾンズ、ネオアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ、銀時のスクーター@銀魂
[道具]:基本支給品、グレーテ・ザムザの首輪
[思考・状況]基本方針:元の体には戻りたいが、殺し合うつもりはない。
1:西側のエリアに行き神楽さん達と合流する。
2:暴走を抑える方法も考えないと…。
3:グリードは一先ず大丈夫、かな?
4:産屋敷さん、じゃなくて無惨って人は殺し合いに乗ってたんだ…。ミーティの体、元に戻してあげられなかった…
5:殺し合いに乗っていない人がいたら協力したい。
6:もしこの空腹に耐えられなくなったら…
7:千翼はやっぱりアマゾンだったのか…
8:機械に強い人を探す。
[備考]
※参戦時期は少なくともジェルソ、ザンパノ(体をキメラにされた軍人さん)が仲間になって以降です。
※ミーティを合成獣だと思っています。
※千翼はアマゾンではないのかとほぼ確信を抱いています。
※支給された身体の持ち主のプロフィールにはアマゾンの詳しい生態、千翼の正体に関する情報は書かれていません。
※千翼同様、通常の食事を取ろうとすると激しい拒否感が現れるようです。
※無惨の名を「産屋敷耀哉」と思っています。
※首輪に錬金術を使おうとすると無効化されるようです。
※ダグバの放送を聞き取りました。(遠坂経由で)
※Fate/stay nightの世界観および聖杯戦争について知りました。
※千翼の記憶を断片的に見ました。
※アマゾンネオ及びオリジナル態に変身しました。
※久しぶりの生身の肉体の為、痛みや疲れが普通よりも大きく感じられるようです。
【双葉の本命チョコ@ペルソナ5】
双葉と恋人関係になった状態で、バレンタインの夜を一緒に過ごすと選択すると貰えるチョコ。
女性キャラクターの本命チョコ共通の効果として、味方一体のSPを全回復する。
【グレートドラゴンエボルボトル@仮面ライダービルド】
未知の成分が秘められたエボルボトルの一種。
変身不能に陥った万丈龍我がエボルトからドラゴンエボルボトルを奪い、強い闘志により変質したもの。
ビルドドライバー、グレートクローズドラゴンと組み合わせる事で仮面ライダーグレートクローズに変身可能。
またフルボトル同様、トランスチームガンやネビュラスチームガンに装填するとエネルギー弾を発射する。
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投下終了です
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投下乙です
3つに分かれた対主催チーム…特に社長と二人っきりになったジューダスはどうなるだろうか
それと一つ気になったのですが、しんのすけの居場所について、作中で特に触れられず状態表でも場所分からないような反応になってましたが、更新された地図にしんのすけが飛ばされた位置も表記されてるはずではないでしょうか
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ご指摘ありがとうございます
避難所のスレに修正箇所を投下したので、お手数をおかけしますが確認をお願い致します
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長らくお待たせいたしました。
以前からお話していた幕間の後半を投下します。
なお、今回の話はこれまで以上に独自解釈要素やオリジナル要素が強いため、閲覧の際はご注意願います。
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仮面を着けた黒ずくめの人物が、廊下の上を歩いている。
その人物…ボンドルドは、もう一人、似たような仮面を着けた人物を伴っていた。
彼らは、ある部屋を目指して歩いていた。
やがて、その部屋に繋がる扉が見えてきた。
彼らがそこに近付こうとしたその時、先に扉が開き、中から一人出てきた。
「……ボンドルドか」
「おや、ハワード。あなたもいたのですか」
部屋の中には先客がいた。
宇宙人フリーザの姿でいる人物、第二回定期放送を担当したハワード・クリフォードだ。
ハワードは、ボンドルド達のいる方へと向かって歩いて来る。
そしてそのまま、横を通り過ぎようとする。
彼の表情には、どうも不機嫌の色が見えた気がした。
「私の方の話は終わった。これで失礼する」
「おや、一体どのような話を?」
「……ギニューの誘導についてだ。次は、私がやるように頼まれた」
ボンドルドからの問いかけに、ハワードは無愛想な表情ながらも答える。
「やはり、よりボディ・チェンジを使おうとするようになる場所…ギニューがピンチになりやすい方へ向かわせてほしいと言われましたか?なるべく多く使ってもらいたいですからね」
「……ああ。それを察知されないようにともな」
「これも言われたと思いますが、孫悟空の身体の方にはなるべく遠ざけてくださいね。彼はもう、あの身体を使ったことはありますから。そうなると、『差異』もあまりよく得られないでしょう」
「………分かっている」
「………何か、先ほどからどうも不機嫌ですね。贔屓にしていたメタモンがいなくなったからですか?だからと言って、誘導場所決めに私怨は持ち込まないでください」
「分かっておるわ!」
ボンドルドの言葉に対し、ハワードは声を荒げる。
そしてそのまま、先ほどよりもさらに怒りを抱いたような状態でその場から歩き去っていった。
◇
離れていくハワードを尻目に、ボンドルド達は扉の方に向かい、そこを開けて部屋の中へと入っていく。
部屋の奥に進み、彼らはやがてその部屋にいた「怪物」と対峙する。
そいつの姿を一言で表せれば、巨大な白いてるてる坊主のような怪物といったところだ。
それこそが、かつて「プリキュアの世界」に出現した存在「ミデン」だった。
しかしそのミデンは、本来のものとは違う部分が一箇所あった。
額部分に「矢じり」のようなものが付いていた。
その「矢」は、額に「融合」しているようだった。
「言われた通り連れてきましたよ、『ボス』。一体、何をするつもりなのでしょうか」
『いやさ、オラちょっと試してみてえこと思い付いてよぉ〜』
ボンドルドに対し怪物が言葉を返す。
その際、彼の体色には変化が起きていた。
-
「試したいこと、ですか」
『以前、柊ナナ君が「かめ」=「仮面ライダー」みたいな考察をしていただろう?まあ、それは1000%全くの的外れなことだったが』
「………なるほど。つまり今回はそれを、ある程度実現させてみようということですか」
『グレート!そーゆーことっスね』
ボンドルドは怪物と会話を重ねる。
話をしている間、怪物の体色はコロコロと何度も変化していた。
口調も、そうなる度に変わっているようであった。
ボンドルドはそれに対し、特に気にする様子はなかった。
『そして、そのための器にはこやつを使う』
怪物がそう言うと、部屋の奥の方から一人の幼児がフワフワと浮かせられた状態で現れた。
この子供は男の子のようであった。
この子は、今はすやすやと眠っていた。
『こいつを、貴様の眷属にすることを許してやろう』
「なるほど、そのためにですか。では、まずはこちらにどうぞ」
ボンドルドは納得した様子を見せた後、自分の後について来ていたもう一人の仮面の人物を前の方に出す。
「一先ず、これらは預かりますね」
ボンドルドはその前に出した人物から仮面を外した。
―――現れたその人物の顔は、野原ひろしという男のものであった。
次に、彼が着ていた黒い衣装も脱がせ始めた。
脱がせ終わった後、ボンドルド自身は服と仮面を持ってその場から少しだけ離れる形をとる。
『では、始めるぞ。ヌウッ!!』
怪物は口から青白い光線を発し、それを野原ひろしの顔をした人物にぶつけた。
「………………え?………どこ、ここ」
光が晴れた後、そこには一人の幼い男の子がいた。
これは、浮かせられていた男の子とは別の人物だ。
……というか、先ほどまでいた野原ひろしの顔をした男が、幼児化されたものだった。
それもまた、野原ひろしという男の幼少期の姿をしていた。
男の子は、自分がどんな状況にいるのかを分かっていないかのようだった。
「とーちゃん!かーちゃん!どこ……イ゛ッ、ヴッ」
男の子はだんだんと不安そうな顔になり、今にでも泣き叫びそうな様子になってきたが、それはすぐに中断された。
背後にいたボンドルドが、どこからともなく取り出した注射器をその男の子の首筋辺りに突き刺し、中の薬品を注入した。
注射器で刺された男の子はすぐに目を閉じ、そのまま倒れて眠り始めた。
『ほいたら、次はこっちじゃな』
男の子が眠らされたのを気にとめず、怪物は次の行動をとる。
怪物が力むような動作を見せると、そいつの目の前にまるでステンドグラスのような物体が現れる。
それは現れたと同時に砕け、その破片が先ほどから浮かせられながら眠らされていた方の男の子の方に向かって飛んでいった。
破片は、不思議なことに男の子の服や身体を傷つけずに、その体内に入っていった。
すると、その男の子の身体が一瞬だけ光った。
そのすぐ後、明らかな変化が起きていた。
今度は、先ほどの野原ひろしの時とは逆だった。
浮かせられていた男の子は、大人の男性に急成長させられていた。
―――その顔……身体は、葛城忍という男のものであった。
現れた葛城忍の身体の男はムクリと起き上がり、立ち上がる。
そして無言のまま、ボンドルドのいる方へと歩いていく。
「どうぞ、こちらを」
ボンドルドは抱えていた仮面と黒の衣装をその男に手渡した。
葛城忍の身体の男は、その衣装を何の疑問も抱いていないかのように身に付け始める。
そして最後に仮面を被り、最初にボンドルドと共に行動をしていた人物と完全に同じ姿となった。
衣装を変え終わったその男は、ボンドルドの側に寄る。
-
『それと、こいつも渡しておこうか』
怪物はどこからともなくアイテムを取り出した。
それは、「ビルドドライバー」と呼ばれるものだった。
それに差して使うための、「ラビットフルボトル」「タンクフルボトル」も一緒だ。
『それをどう使うかはあなたに任せるわ。でもどうせなら、世界レベルの活躍も見せられたら良いと思うわね』
「善処します」
ビルドドライバーを始めとしたアイテム群が、宙に浮きながらボンドルド達の下へと向かってくる。
それらを片手で受け取ったボンドルドは、すぐにそれを自分の側に控えた男の方に渡した。
『よし!これでまた、新たな『差異』を得られるかもしれないわね』
「ええ、それを期待しておきましょう」
『…そういえば、そろそろ夜だな。夕飯の時間も近いし、これを言っておこうか』
『夜は焼肉っしょ!』
「……監視等のために、食事は基本各自で時間のある時にです。そういったことをやっている暇はないかと」
『あはは、ごめーん☆言ってみたかっただけだよっ☆』
「それでは、これで失礼しますね。さあ、新しいお友達を皆さんにご紹介しましょうか」
ボンドルド達は怪物に背を向け、部屋の中から出ていった。
幼少期の野原ひろしも腕の中に抱えたまま一緒に連れていった。
後には、怪物一人(?)だけが部屋の中にポツンと取り残された。
『……ゲロゲロリ。そろそろこの光景も見られているかもでありますな』
『そうしたらきっと……フヒュヒッ』
怪物が何か呟いた後、そいつはまるで霞のようにその場から消え失せた。
-
◇◆◇◆◇
シルバー・チャリオッツ・レクイエムと呼ばれたスタンドが存在する。
これは、ジャン=ピエール・ポルナレフが、「スタンド使いを生み出す矢」を守りたいが故の一心を持って、自身のスタンドにその矢を突き刺したことで誕生したスタンドだ。
それによって新たに発現した能力は、広範囲内において近くにいる者同士の精神を入れ替えること。
そして、その状態になった者の肉体を、時間経過により『別のモノ』に段々と変貌させていくこと。
矢を確実に守りたいというポルナレフの精神性が反映され、このような能力になってしまった。
しかも、ポルナレフはこの能力を制御できず、暴走させてしまった。
それにより、ポルナレフ自身も能力の対象内に入ってしまった。
その際、ポルナレフと精神が入れ替わったのが、ココ・ジャンボという亀だった。
ただ、この件については一つ、不可解な点が存在する。
それは、入れ替わりが起きた直後に、ポルナレフの肉体は死亡状態になったことだ。
ポルナレフの肉体が死体になったことは、ナランチャ・ギルガによって確認されている。
こうなった場合、死体となった肉体に入れられた精神は、それもやがてすぐに死亡状態となるはずだ。
実際、そうなった例は存在する(ブチャラティ(死体)と入れ替わったドッピオ)。
しかし、しばらくしてチャリオッツレクイエムの能力が消滅した後、ココ・ジャンボの精神は本来の肉体に戻ってきた。
彼のスタンド能力「ミスター・プレジデント」が発動していたこと、ポルナレフの精神(幽霊)もそれの中に取り込まれたことがその証明となるだろう。
ココ・ジャンボが何故死体と入れ替わったなのに、その魂があの世に飛んでいかなかったのか。
その原因かもしれないこととして考えられるとすれば、彼のスタンドのことが可能性の一つとして考えられる。
彼のスタンド「ミスター・プレジデント」…その能力は、自身の中に特殊な空間を作り出すこと。
彼の甲羅にはめられた鍵の宝石に触れると、そこに吸い込まれるような形で中に入る。
ちなみに、この能力は鍵ありきというものではない。
鍵が必要な形となっているのは、ココ・ジャンボがかつてそうして初めて能力を発揮するように訓練されたためだ。
そして、このスタンド能力が作り出す空間は、本当ならあの世に飛んでいくはずの幽霊までもこの世に留めてしまう程、凄まじい「引力」を持つ。
そして次に要となるのは、死体と精神が入れ替わっても直ぐに魂があの世に飛んでいく訳ではないことだ。
先述したドッピオも、ブチャラティの死体の中で少しの間だけならば動いて喋ることはできていた。
まあこの場合は、ブチャラティの肉体に僅かに残っていたゴールド・エクスペリエンスの生命エネルギーの影響もありそうな気もするが。
とにかく、以上のことからココ・ジャンボが無事だったことについて、可能性は一応考察はできる。
例えば、ポルナレフと入れ替わった瞬間、ミスター・プレジデントのスタンド空間が本体であるココ・ジャンボ自身の魂を引き寄せ、この世に留まらせた可能性だ。
死体の中でも動ける僅かな時間で、スタンド空間がその場で構築された結果、それから発せられる「引力」が飛んでいくはずの魂をその場に留めたんじゃないかという考え方だ。
※なお、この考察は筆者が一から構築したものではなく、インターネット上において参考にした記事が存在します。
参考引用元:アニヲタwiki
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けれども、どんな方法であろうとココ・ジャンボがこの世に留まってしまったのは、問題のあることであった。
本来なら、死体と入れ替わった時点で死ぬはずだったのだ。
けれども彼は、死体の中でも強引に生の世界にしがみついた。
そして、レクイエムの能力解除により本来の肉体の中に戻っていった。
それは、世界の理に反することだった。
これにより、彼の魂の性質に変化が起きた。
「死」の魂に、彼は近くなった。
そしてそのまま本来の生きている肉体に戻った。
それにより、「生と死が曖昧な存在」に彼はなってしまった。
言い方を変えれば、彼の命の中に「プログラムのバグ」が残ってしまったようなものだ。
だが、それだけならすぐには何か支障が起きることはなかった。
何の変哲もないかのように、本来の肉体で活動を続けていた。
ジョルノ・ジョバーナを始めとした周りの者達も、異常を察知せずに扱った。
彼らの戦いが終わった後、先述したようにポルナレフの幽霊はミスター・プレジデントの空間の中に入り込んでしまった。
そして、戦いの中で使われた「あるもの」も、ポルナレフの提案でその空間の中に仕舞われることになった。
それは、ここにおいては最初に述べた、ポルナレフが持っていた『スタンド使いを生み出す矢』だった。
戦いにおいては、シルバー・チャリオッツ・レクイエムが消滅した後、ジョルノのゴールド・エクスペリエンスをレクイエム化させるために使われた。
その能力により、彼らの敵であった「ディアボロ」を倒した。
戦いが終わった後、「矢」は必要の無くなるもののはずだった。
けれども、去ってしまった者達から受け継いだものとして、「先」に進めなくてはいけないものとして、「矢」は破壊せずにとっておくことになった。
ポルナレフも、それが生き残った者の役目だとして同感した。
だから安全な管理場所として、自分のいる亀のスタンド空間の中に保管させた。
◇
それから、およそ10年の時が流れた。
その時、事件が起きた。
それも人類全て…いや、宇宙中の生き物全てに影響を及ぼしたものだった。
生物を除く、宇宙全ての時間が加速し始めた。
そんな現象を起こした犯人の名はエンリコ・プッチ。
現象を引き起こす能力に付けられた名はメイド・イン・ヘブン。
彼は、宇宙の時間を一巡させることにより、『天国』を作ろうとした。
その彼が望む天国に、全ての生き物を連れていこうとした。
この加速する宇宙の中…「ジョジョの奇妙な冒険の世界」には、ココ・ジャンボも存在していた。
しかし彼は…少なくともこの時空においては、宇宙の一巡にはついていくことができなかった。
それは、彼の「生と死」が曖昧になっていたからだ。
メイド・イン・ヘブンが生み出す天国には、死者は行けない。
だがココ・ジャンボは、死者とも生者とも言えない状態になっていた。
時の加速する世界において、死体は朽ちて失われていく。
しかし、生と死が中途半端な状態にあるココ・ジャンボの肉体は、「有」と「無」どちらにもな状態になっていく。
それは、彼の魂も同じだ。
だから彼はプッチの天国に行けなかった。
「生」と「死」、どちらもの性質を持っていたために、どちらの世界にも引き寄せられた。
どちらでもありながら、どちらでもないが故に、どちらの世界にも行くことができなかった。
これもまた、世界の理から、外れた現象だった。
だから、また新たな「異常事態(バグ)」が引き起こされた。
彼に、「新たな世界」が待っていた。
◆
宇宙の一巡の特異点、そこに宇宙の時間がたどり着いた時、ココ・ジャンボは「その世界」に放り出された。
生と死、どちらにも引っ張られることにより発生した凄まじきエネルギーが、その世界とココ・ジャンボを繋げた。
そうして彼は、「生」でも「死」でもない世界に、落ちてしまった。
そこは、誰も来れないはずの世界だった。
「生と死の境目」「次元の狭間」「宇宙の外」「どこでもない場所」…そこの呼び方は様々あるだろう。
光も闇も、重力も時間も、安心も恐怖も、何も無い。
『無の世界』だ。
そして、この世界に来れたのは彼の魂に連なるスタンド、そしてそれが作る空間内に保存されたものも同じだった。
ポルナレフの幽霊も、そこに入れられていた家財道具等も。
そして、あの「矢」も。
ココ・ジャンボが持っていたものの中には来れなかったものもある。
それは彼の甲羅に嵌めてあった「鍵」だ。
それはあくまで、スタンド発動のためのトリガーとして使われていただけであり、肉体の一部というわけではなかった。
生き物としての一部分ではなかったために、時の加速により朽ち果てる「物体」の一つとなってしまった。
このことが意味すること、それはこの時点においてはミスター・プレジデントのスタンド空間の中にいるモノは、そこから出ることができなくなったということだ。
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ポルナレフはそこで、何もできなかった。
スタンド空間の中にしがみついていたが故に、メイド・イン・ヘブンの加速で宇宙が一度終わる際に、消えずに済んだ。
けれども、出入口となる「鍵」が消えてしまったために、その空間から出ることもできなかった。
外の様子も確認できず、周囲に何があるのか、どこにいるのかも把握することはできなかった。
それは幽霊の彼にとっても、とても思い悩むことであった。
しかしやがて、「異変」が起きた。
それは果たして「無」に落ちてから1日、1か月、1年…いや、もしかしたら1時間どころか1瞬後の出来事だったかもしれない。
時間の概念の無いその世界においては、その「異変」が起きるまでにどれくらいあったのかは重要なことにならないだろう。
そこで起きた「異変」とは、「矢」のことについてだ。
「矢」が、勝手に動き出したのだ。
ポルナレフはそれに全く触れようともしなかったのにだ。
「矢」は、それがあった空間の床の中に、めり込んでいった。
「矢」が床の中に入り込もうとしているのにポルナレフが気付いた時にはもう遅かった。
何が起きているのかも考える前に、慌てて手を伸ばそうとした。
だが、その手が届く前に「矢」は完全に空間の床の中に入り込んでしまった。
◇
「矢」が勝手に動くという現象には、前例が存在する。
一巡前の1999年、日本のM県S市杜王町において、吉良吉影という男の手の平から「矢」が侵入した。
「矢」を持っていた彼の父親の幽霊が何かしたわけではない。
これが起きた時、吉良吉影は心のそこから絶望していた。
「矢」はまるで、それを助けるためかのように突き刺さった。
その結果、吉良吉影は新たな能力を手にした。
それは、世界の「時」に干渉できる程の、強力な能力だった。
「矢」そのもの自体に意思があるかどうか、それは不明であった。
けれども、ある程度はそういったものがあっても不思議ではないかもしれない。
そもそも「矢」は、宇宙から落ちて来た隕石を加工して作られ、更には未知の「ウイルス」を内包しているのではとも言われていた。
そして「ウイルス」は感染しながらも生き残った者に「新しい生命能力」を与えるという説もあった。
もしかしたら、この「ウイルス」が、自身によって生命を「進化」させることを目的とした意思を持っていた可能性も考えられるのではないだろうか。
……果たしてそれが、本当に「ウイルス」と言えるものなのかは疑問に感じる点もある。
しかしそうだとしても、そこに「善」や「悪」の概念はおそらく無い。
「矢」が動く時は、素質のある者に力を与える時。
素質さえあれば、相手が何者であろうと関係ないのだろう。
◇
床の中に入り込んだ「矢」もまた、先述の件と同じようなものだった。
「矢」は、ココ・ジャンボに「力」を与えるためにひとりでに動き出した。
スタンド空間の床から侵入した「矢」は、そのままスタンド能力の源と言えるモノ…ココ・ジャンボの本体に干渉を始めた。
それは、「矢」とココ・ジャンボの「融合」と言えるものだった。
「ミスター・プレジデント」にはスタンド像と呼べるものはない。
おそらくは、これは本体そのものと元から融合しているタイプのスタンドだと考えられる。
そして「矢」にはスタンドと融合したという例が存在する。
ゴールド・エクスペリエンス(GE)というスタンドにレクイエムの力を与えた際、「矢」はスタンドの額部分に吸い付く形で融合した。
「矢」はGEの胸に刺されたのに、それが落ちた後にGEの手首から侵入し、レクイエム化させた。
これもまた、「矢」が勝手に動いた例だろう。
つまりここで起きた現象は、ミスター・プレジデントの「レクイエム化」と言えるだろう。
ミスター・プレジデントをレクイエム化させるために、「矢」は床の中に侵入した。
彼の能力「ミスター・プレジデント」も、「矢」により「進化」した。
名付けるなら、「ミスター・プレジデント・レクイエム」と呼ぶべきだろうか。
この能力に最初に起きた変化、それは作り出せる空間の拡張だ。
GE・レクイエムも、本来の能力である生命エネルギーの注入を飛ばす形で遠距離でも可能になっていた。
それと同じように、ココ・ジャンボは自身の中に作り出せる空間をより広くできるようになった。
そしてさらに、新たな能力にも目覚めることになる。
シルバー・チャリオッツが精神を入れ替える能力に、ゴールド・エクスペリエンスが真実に到達できなくさせる能力に目覚めたように。
それらの能力は、それぞれ彼らのピンチを打破するための能力であった。
ここにおいてミスター・プレジデントが獲得した能力も、同じように現状の問題を解決するためのものが発現した。
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それは、『世界を超越する』能力だった。
「別の時間軸」「並行世界」「異世界」さらには「死後の世界」…そういった場所へと自由に行けるようになる能力だ。
それにより、ココ・ジャンボは「無の世界」からの脱出は可能なものとなった。
―――けれども、その能力は無限に使えるものではなかった。
―――詳しくは、また後でだ。
◆
しかも、「矢」はただ力を与えたわけではなかったようだった。
スタンドが本体に融合しているため、そこと融合した「矢」はココ・ジャンボ本体にも大きな影響を与えてしまう。
だから、ココ・ジャンボはその精神も「矢」の影響をもろに受けた。
その結果、ココ・ジャンボの精神の中にある目的が生まれた。
それは、あらゆる生命を「進化」させるというものだ。
「矢」が持っていた本能のようなものが、ココ・ジャンボの精神と融合してしまった。
ココ・ジャンボ自身は、知性と言えるものが無かった。
他の動物系のスタンド使い達と違い、自我を大きく出すことがなかった。
自分が何者であるのかを、彼は自覚できてなかった。
だからこそ、融合してきた「矢」の本能と呼べそうなものが、彼の意思の中の空白を埋めてしまった。
それによりココ・ジャンボは、「無の世界」から脱出しても、本来の世界に帰ろうとしなかった。
本来いた世界は宇宙が一巡して無くなっているだとか、そういった問題も関係無くにだ。
「矢」の影響は受けたが、その精神は完全に「矢」そのものになったわけではない。
「生命の進化」が目的とはなったが、そのために最適な方法は知らなかった。
けれども、「進化」の方法についてはやがて結論が出た。
これに関しては、世界を巡ることは関係無しにだった。
そのヒントは、シルバー・チャリオッツ・レクイエムにあった。
シルバー・チャリオッツ・レクイエムで精神が入れ替わった者の肉体は、やがて「別の生命」のものへと変化していく。
それを彼は、「生命の進化」と認識してしまった。
そんな風に、植え付けられてしまった。
このことは、当時のレクイエムで入れ替わった際に知覚できていた。
死体の中にいた時、たまたま近くに寄ってきた蝿か何かが、変わっていたのを目撃した。
そして元に戻った後、自分の近くの人間達もそんなことがあったという話をしていた。
そもそも、その「生物の変化」もまた、「矢」の力の影響によるもの。
「矢」がそもそもこの現象を、「進化」としていたのかもしれない。
だからココ・ジャンボは、この現象を自分も起こすことを目標としてしまった。
当時は知性の無かった彼だが、今になってようやくそれの意味を理解し始めた。
尤も、それは歪んで、誤った形とも言えそうであった。
◇
次に必要になったのは、精神入れ替えのための手段だ。
シルバー・チャリオッツ・レクイエムは、手に入れられない。
そもそもそいつも暴走状態にあって制御は叶わず、入手する方法も無かった。
それにやがて、ある要因によりそのレクイエムはすぐに消滅する運命にもあった。
だから、何か別の手段も必要だった。
それを探すために、様々な世界を巡った。
その際に、自分の中にいるポルナレフの声は聞こえなかった。
やがて、「プリキュアの世界」で出会ってしまった。
MIDEN F-Mk2、そのカメラを見つけてしまった。
そしてそいつに、『取り憑いた』。
実は、ココ・ジャンボの肉体はとても不安定な状態にあった。
「無の世界」に引き込まれた際に、肉体は「有る」のか「無い」のか、どちらとも言えなくなる状態にあった。
魂は存在できていてスタンド能力は維持できていたが、肉体に関してはどんな世界においても「存在強度が著しく低い」と言えるようなことになっていた。
そんな折に出会ったMIDEN F-Mk2、実はこいつは、まだ「自我」が芽生えていない状態にあった。
けれども、それが芽生える直前の状態にあった。
ココ・ジャンボがそれに近づいた時、「こいつを乗っ取れる」ということを何故か予感できた。
そして遂に、彼は自分の肉体を維持することが難しくなってきた。
肉体が完全に失われそうになったその時、彼は「取り憑く」ことを試みた。
それはかつて、シルバー・チャリオッツ・レクイエムで魂を引きずり出されたディアボロがグイード・ミスタの肉体に取り憑いたのと似たようなもの。
そしてジョルノ・ジョバーナがナランチャの肉体から魂の無い空っぽの自分の肉体へと移動できたのと近しいところにある現象であった。
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結果、試みは成功した。
ココ・ジャンボの精神は、確かにMIDEN F-Mk2の中に移動した。
本来生じるはずだったミデンの意識を、塗り潰したかのような形になった。
彼と融合していた「矢」やスタンド能力、そして更にスタンド空間の中にいたポルナレフ達も一緒についてきた。
この試みは、彼の想定以上の結果を出した。
MIDEN F-Mk2…これが未練によって変じるはずだった怪物「ミデン」、その姿と能力をココ・ジャンボは手に入れた。
ビームを当てた相手から記憶・人格と能力を奪って幼児化させる力、そして奪った記憶を元に様々なモノを作る力を。
しかもそれらの能力は、本来ミデンが持つはずだったものよりも「強化」されていた。
それは「矢」の力の影響だった。
「矢」はココ・ジャンボだけでなくミデンとも「融合」したと言える状態となっていた。
これにより本来のミデンはできなかった・やらなかったことも可能となった。
それは、奪った記憶と人格を「与える」能力だ。
これは、この時のココ・ジャンボの目的のために応用できるものだった。
複数の相手から記憶と人格を奪い幼児化させた後、それぞれの相手に別の者の記憶と人格を与える。
奪った記憶等はステンドグラスのような物体になるので、それを与える形でだ。
そうすると幼児化した肉体は本来の年齢に戻るが、記憶と人格…つまり「精神」と言えるものは、与えた別人のものになる。
目的としていた「精神の入れ替え」が疑似的にできるようになった。
◇
それからもまた、ココ・ジャンボは世界を巡り続けた。
その過程で様々な世界の住民達から、ミデンの力で記憶・人格・能力を奪いながら。
幼児化させた肉体も、スタンド空間の中に幽閉する形で攫いながら。
何度も、様々なところへ襲撃を繰り返すにつれ、彼の力はどんどん増していった。
ミデンの力は、そういうものだった。
そうしてある程度集められた後、彼は何故か世界を巡ることができなくなっていた。
そうなるまでにかかった体感時間は、およそ1か月程だった。
その原因はこの時点では不明だった。
そうして最後に辿り着いていた場所で、彼は様々な者同士の入れ替えを実行した。
しかし、いくら待っても望んでいた現象は起きなかった。
だから、研究が始まった。
自分が入れ替えを行った者達の一部に、手伝わせた。
必要そうな知識・技術を持ちそれを活用できる者が他にいれば、後からそれらを解放したりして新たな協力者を追加したりもした。
研究の果て、実験も兼ねた殺し合い計画が最適だという結論が出た。
そうなった理由としてはまず、実はあるエネルギーの存在が発覚したことがある。
そのエネルギーは「差異エネルギー」と呼ばれていた。
差異エネルギー…その出展は「斉木楠雄のΨ難」のノベライズ版第二弾。
それは、世界を観測する上位存在の認識のズレ、「違和感」から発生するエネルギー。
上位存在(ようは読者)から「何かこれちょっと違くない?」みたいなことを思われると、その瞬間に発生し、彼らがこちら側の世界を観測するために使う指先を伝って送られる、と言われている。
このエネルギーは、世界線を曖昧にし、別の世界同士を融合させる程のエネルギーであるとも言われている。
その差異エネルギーを、精神入れ替え状態にある者達を観測させることで得られるのではという研究成果が出た。
本来は違う精神と肉体を組み合わせることで、それらの間に明確な「差異」発生するということを、上位存在に観測させようという話だ。
そして更に、殺し合いならば、本来ならそんなことをしないような者達も巻き込むことで、より「差異」を発生させることができるのではという話にもなった。
このような話が出てきたのは、これまでに巡り、観測された異世界の中に、そういったエネルギー目的の殺し合いも存在していたからだ。
差異エネルギーでも、同じようなことができるのではということだ。
そして、世界を歪ませる差異エネルギーを使えば、生命も歪ませて別の存在に「変化(チェンジ)」させることもできるのではという説が立てられた。
それに、上手いことデータをとることができれば、今後は殺し合いをしなくとも生命変化現象をいつでも引き起こすことができるようになるかもしれない。
そのために、殺し合いが企画された。
-
――実は、この物語においては、『世界を巡る』能力にも差異エネルギーが関連していることになってしまっていた。
その能力の発動のために、そのエネルギーが使われていた。
ココ・ジャンボは元々、差異エネルギーを持っていた。
かつて、ポルナレフの死体と入れ替わったのに生きていたという事実が、それを観測した上位世界から違和感のエネルギーとして供給されていた。
そして、彼が得た新たな能力の真髄も、このエネルギーを利用することにあった。
けれどもそのエネルギーは使い果たしてしまった。
だから、世界を移動するためのエネルギー補充もまた殺し合いの目的の一つとなった。
◆
そして更に研究を重ねた後、差異エネルギーの収集・利用するための方法をある程度できるだけ考案し、殺し合い計画を実現するための行動に出た。
次に、殺し合いの舞台を用意した。
適当なある世界の海の上に、ミデンの能力を応用して島を作り、その上にこれまで奪ってきた記憶を元に再現した様々な施設等を配置した。
協力者達のアドバイスを元に、ゲーム性を上げられそうなものもいくつか用意して。
そして最後に、参加者を用意した。
これもまた、適当な組み合わせでそれぞれ別人同士の組み合わせになるよう奪った記憶等を与えた。
その際、与える記憶の中に、自分が奪ったという部分は切り取る。
これは、一部の主催陣営の者達にも同じ処置が施された。
また、精神と身体を組み合わせるにあたり、それぞれに微妙な共通点があるようにもした。
これは本来は全くの別人であるからこそ、微妙な共通点が絶妙な「差異」が発生するかもしれないという仮説からであった。
もっとも、これに当てはまらない例も一応あるが。
そうやって準備が少しずつ整えられ、この殺し合いは始まった。
◇◆◇◆◇
『このようにして、ボス…ココ・ジャンボはこの殺し合いの黒幕になったわけだ』
「………………………………………………………………………………………」
佐倉双葉は絶句していた。
彼女が見たパソコン画面に映し出された文章は、違うところはだいぶ多いが、数行前までに書かれた読み手向けへのものと大体は同じだった。
そして真実は、あまりにも予想できることの範囲外すぎた。
まず、一匹の亀が本当に黒幕だったらしいことから全くついていけていないし、そいつがとんでも能力を手に入れてしまったことや、それの精神が入り込んだカメラのせいで更にチートなことになったらしいことも全然飲み込めていない。
本当の目的も全く理解のできないものだ。
そもそも話の中だと、亀よりはそれに融合した「矢」の方が何か黒幕っぽく感じる。
そしてそれを実現するための手段として、何か急に謎のエネルギーの概念の話が出てきた。
そのエネルギーとやらの出どころも、簡単には信じられないものだ。
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「……………何だよ、それ。何だよそれ。何だよそれ!!…つまり、全部あんたのせい……ってことか?」
『ああ、その通りだ』
正直パニック気味になっている頭では、こんな言葉しか搾り出せなかった。
それに対し、ポルナレフの幽霊は肯定の返答を画面に表示する。
けれどもパソコン越しでは、彼が抱いている罪悪感・責任感の大きさ・強さは全ては伝えられない。
「…………なあ、今の話の感じだと、この殺し合いは、もしかして本当は最後の1人になるまで殺し合わなくていい…どころか、本当は殺しをやる必要もないんじゃないか?」
「まあ、理論上はその通りだね」
「それじゃあ、なんで…」
「その方が効率が良いから、それだけだね」
何とか、こんがらがっている頭でも内容に関する疑問点を出してみる。
この殺し合いで集められているらしいエネルギーは、別に誰かが誰かを殺すことによって発生するものではないようだった。
だからそもそも殺し合いの形にする必要は無いのではとは思い、口に出した。
これに対して口を挟んできたのは斉木空助だ。
その言葉は、確かに殺しの必要は無いことを肯定しているが、主催陣営全体としてはその方法がベストだとしていることを表す。
「そもそも、もし殺し合いじゃなかったとしても、最終目的のことを考えると相容れないことには変わらないからね」
「……なあ、その目的の『生命が別のものに』変わるってのは…一体どういうものなんだ?」
『…それは言わば、これまでとてつもなく長い時間…現代の地球のものなら、45億年をかけて創られてきた生命の歴史の否定だ』
『その姿は、「化け物」と呼んでも差し支えないだろう』
『「別のもの」に変われば、そこにあった本来の「心」と「体」も置き換わって、無くなってしまうだろう』
「………それってつまり、黒幕の計画が成功すれば、何人殺し合いで生き残っていても全員『終わり』ってことか?」
双葉は大いに恐怖を感じる。
もし殺し合いが手段じゃなかったとしても、その目的の前では全員が『死ぬ』ことも同然なように思える。
しかも、自分達主催陣営とされている者達も入れ替えの状態にしているってことは、こっちも『別のもの』への変換対象にされているということだろう。
「じゃあ何で、ボンドルド達はこの殺し合いに協力している?そもそも、あいつらは本当の目的を知っているのか?」
そういった点についても疑問を感じる。
体も心も無くなってしまうなら、それに協力しようとする奴なんて簡単には考えられない。
「知っているよ」
「それじゃあ、それも何でだ?」
「彼らが協力している理由は、体が変わることには興味があること。そして、「心」は変えずにそのままにする方法を研究するためだ」
「……そのためかよ」
共感は全くできないが、ギリギリ納得できる部分はある。
先ほどの話によれば、黒幕であるココ・ジャンボは「別のもの」への変化を生命の進化として認識してしまっているらしい。
ボンドルド達も、同じような考え方なのかもしれない。
そこまでのことが実現可能かどうかはともかくとして、彼らともやはり相容れないということだろうか。
心がそのままでも、体が化け物にされるのはゴメンだ。
「というか、それなら元に戻すための研究をしているとか言っていたのは何だったんだ」
「『「体」と「心」が変わってしまった後に、「心」だけは』元に戻せるようにするため、みたいな意味で言っていたんだろうね」
そんな行間、絶対に読めない。
「……その、理論上、「別のもの」へと変えるために必要な差異エネルギー?とやらは、あとどれくらいで溜まるんだ?」
「正確なところは今は分からないけど、まだ余裕はあるだろうね。でも、制限時間とされていた三日よりは短くなる可能性はある。今回していされた禁止エリアのことを考えると…半日ぐらいまで短くなる可能性も考えられる」
「半日…」
その時間は、確かに短い。
確実に大丈夫なそれだけの間で、全てを解決することはできるのだろうか。
それにさっきの放送では、明らかに残りの参加者を特定の場所に集めようとする感じに禁止エリアが指定された。
これがそもそも、殺し合いの加速で早くエネルギーを溜めるためのものだったのだろう。
「…でも、殺し合いだと、「別のもの」に変えるはずの生命も失われないか?それは黒幕的に問題ないのか?」
「それはまあ、「必要な犠牲」的な考え方をしているからだね。それに、「並行世界の同一人物」がいるから問題ない、みたいな考え方もしているみたいだね。並行世界は無限に存在していて、その中には基本の世界と全く変わらないものも存在する。失われた命の分は、そいつらを変えてあげよう…という考え方だ」
これもまた、考え方としては全く共感のできないものだった。
並行世界が無限に存在しているから犠牲があっても大丈夫だなんて、そんな考えも、認められるわけがなかった。
◆
-
「……そういえば、今更気になったんだが、何故幽霊のポルナレフはここにいることが出来ているんだ?その、さっきから言ってたスタンドというものにしがみついてないとあの世に飛んで行ってしまうとか言ってなかったか?」
ふと感じた疑問点についても指摘してみる。
先ほどの話の中では、ポルナレフがスタンド空間の外に出たという話は無かった。
『そもそも、君はここがどこなのか分かっているのか?』
「…………え?それって………まさか!」
パソコン画面を通じた指摘で、双葉は少し思案した後あることを察する。
確かに彼女はそもそも、自分達のいるこの主催陣営本部の正確な場所を知らなかった。
この建物のすぐ外を、見たことがなかった。
そしてここには、自由に動ける状態のポルナレフがいる。
そのことから考えられる可能性が、一つあった。
『この主催陣営本部は、拡張されたミスター・プレジデントのスタンド空間の中に作られている』
『我々はずっと、黒幕の腹の中にいたも同然だったというわけだ』
また、とんでもない事実が一つ判明した。
「さらに言うとだね、このことは僕が弟の意識を封じるように言ったことにも繋がるんだ」
「え?」
「今のココ・ジャンボはカメラになっている…そして、その内部に作られたスタンド空間の中こそがこの本部」
「僕の弟…斉木楠雄の意識が予知夢で見たものは『かめ』…これが意味することは、『カメラ』…つまり、黒幕の姿そのものだったわけだ」
「そして楠雄の予知夢は、『楠雄が何もしなかった時』に現実のものとなる」
「つまり、楠雄が楠雄として行動できないようになれば、柊ナナは必ずこの主催陣営本部を発見することになる」
「予知夢で見たということは、いずれ未来で視界の中に入れるということでもあるからね」
「えっと…それじゃあ、本当にここが黒幕の中だとして、その黒幕そのものであるカメラが今どこにあるのかは分かっているのか?」
正直なところ、また荒唐無稽な話が出てきて、それを飲み込めていない。
けれども何とか気力を振り絞って、精一杯出せるだけの疑問点をぶつける。
『いや、残念ながらそれは私にもまだ分かっていない。知っているのはおそらく、ココ・ジャンボだけだろう。今は彼と、彼に許可されたものだけが出入りを自由に出来るようになっている』
けれども、望んでいた答えは得られなかった。
『それにおそらく、彼は自分の場所を移動できる。今現在の場所が分かってもどうにもできないだろう』
「そんな…」
『けれども、殺し合いが行われている世界にあることは確かだろう』
「だからいつか、柊ナナがこの場所を発見する…その未来をどうにかして確定させるしかないね。まあ、今はこの件について考えるのは後回しでもいいと思うよ」
今すぐは、この主催陣営本部の場所を割り出すことはできない。
参加者達の力を直接的に借りることも、すぐには不可能だ。
早い内にどうにかすることができないのは思うところがあるが、今は確かにこの件については悩むだけ徒労になろう。
「そうそう、そういえばエボルトには、しばらくは連絡を控えてほしい」
「え?」
「今回話したこと…特に『矢』のことや『差異エネルギー』については絶対に教えないでほしいんだ」
突然、空助の口調が双葉に対し責めるようなものに変わった。
同時に、これまでの軽薄な感じとは打って変わって、かなり真剣さを感じられる口調にもなっていた。
「正直言って…よりにもよってあんな奴に接触するとは思ってなかったよ。君、あいつがどんな奴が分かってる?色んな星を滅ぼしてきた極悪宇宙人だよ?」
「い、いや、でも……殺し合いには乗ってないみたいだし…」
「それとこれとは話が別だ。もしあいつが殺し合いの真実のことを知ったら、それを利用しようとするかもしれない。そうなったら、君の本来の世界だって被害を受ける可能性もある」
「………」
圧をかけるような言い方に、反骨心が少し出てしまう。
でも確かに、双葉はエボルトがそもそもどんな奴だったのかをあまりよく知らずに繋がった。
ただ、エボルトの近くに「アイツ」がいたから、その助けになるようにと思って行動に移した。
「君からしてみればこちらの言うこともどこまでが本当かは分からないだろうし、こんな言い方をされるのはムカつくかもしれない。けれども、僕としてはこの状況を何とかしたいということはガチで考えている。だから、こういったお願いごともどうか聞いて欲しい」
「…………じゃあ、エボルトとの連絡はこれからどうしろって言うの?」
エボルトと繋がることに間違いがあったと言ってくるならば、そう言う方からどうすればいいのか教えてもらいたい気持ちが出てくる。
-
「そうだね…本当なら一回一回検閲したいところだけど、時間が無いからそれは難しいだろう」
「とりあえずとして、僕やポルナレフのことも絶対に教えないで欲しい。もしもの時のために、存在は隠しておきたい」
「教えられるこっち側の情報についても…一先ずは君が今回の話を知る以前のことに限定してほしい」
「他に何なら教えても大丈夫そうかについては、もう少し精査してからにしたい」
「まあようするに、エボルトはもしもの場合は『敵』になる可能性があることをもっと意識しておいて欲しいんだ」
「あとはまあ、今後のエボルトの行動を見て瞬間瞬間に状況判断しながら考えよう」
◇
「あと、今後のためにこいつを渡しておこう」
斉木空助はそう言うと、あるものを取り出して双葉に渡してきた。
「…ヘルメット?」
そいつは、今双葉が被っているルッカのヘルメットと全く同じ見た目のものだった。
「そいつにはこっちとの無線での通信機能と…テレパシー遮断機能を付けた。これは、僕の頭に付けているものと同じだね。今被っているものを、これと交換してほしい」
「……ん?テレパシー?それって…心を読んだり、逆に何も言わずとも心の中のことを伝えたりする能力のことか?」
「実は今のココ・ジャンボはそういったことも出来るようになっているんだ。まあでも、仕組みは普通のテレパシーとは違う。そんなことができるのは、参加者や僕たち全員と魂が今もまだ繋がっていることの応用だね。効かないのは幽霊のポルナレフくらいだね。『身体側の意識』とされていたものを封じれるのも、それの応用で…」
「ちょっと待って!!?」
またまたサラリと言われたことに、双葉は動揺する。
血の気が引いて、ゾッとするような感覚があった。
「えっ、何、全員繋がってて、それで心を読まれて、つまり私のこともバレ…というかそもそもエボルトからバレ…えぇっ!!?」
双葉はまたパニック気味になる。
心を読まれるということは、自分が裏切っていることも黒幕のココ・ジャンボにバレている可能性もあるということだ。
それに魂が繋がっているだなんて、そんな事実も簡単には認められない。
「確かに、バレている可能性はある。今はまだ大丈夫でも、何らかのきっかけでエボルトが読まれてバレる可能性もある。でも今はまだ、何もしてこない。なら、バレている可能性も考慮しながら行動するしかないさ」
「いや、でも、繋がっているから読まれるんなら、こんなもので封じられるのか!?それにもしできたとしても、読めなくなったのなら結局バレないか!?」
「そこは対策済みだよ。代わりの思念が送られるようにしたからね。原作の僕には無い技術だけど」
空助は問題はないみたいな言い方をする。
でも、双葉にはこれもまたそう簡単には受け入れられないことではある。
「まだまだ受け入れられないことはあるだろうし、これも怪しく思われるかもしれないけど、念のため貰っておいて欲しい。これもまた、殺し合いを何とかするために必要になるかもしれないから」
『私からも、頼む』
「うぅ…」
双葉は渋い顔をしながら、ヘルメットを受け取る。
そしてまだ抵抗感を見せながらも、元から被っていたものを外し、受け取ったものに被り直した。
『こっちからの音は聞こえる?』
空助がいつの間にか持っていたミニマイクに声をかける。
それと同時に、被っているヘルメットの右側のヘッドホン部分から音声が聞こえる。
『……聞こえている』
双葉もヘルメットに付いていたマイクに声をかける。
その声もまた、部屋の中にあったミニスピーカーから流れた。
「よし、これで離れていても話はしやすくなったね」
無線での通信機能のチェックは終わった。
これで、これまでよりも互いに連絡はしやすくなった。
双葉の方はまだ、不安そうではあるが。
-
◆
「それじゃあ、今回の話はここまでにしようか。流石にここまで長引くと、怪しまれるかもしれないからね」
空助がそう話を切り出した。
確かに話は長く、そろそろ他の奴らが双葉が他の所にいないことに疑問を抱き始める頃合いかもしれない。
「………正直、今回の話をどこまで信じて良いのか、私はまだ決めあぐねている」
双葉の混乱はまだ解けていない。
はっきり言って、話の構造が複雑過ぎる。
色々と衝撃的な内容が多すぎた。
本当ならもっと他にも色々と考えをまとめるべきなのだろう。
でもなんかもう、げっそりとした気分だ。
考え事をするのが億劫になってきている感じがする。
もっと落ち着いてから、今後の方針を決めたいと思ってきている。
後からまた、他の疑問点が出てくるかもしれない。
「今はまだそれでいいよ。焦って何か失敗するのも何だしね。また何か聞きたいことがあったら、無線通信でも何でもで伝えてね。もちろん、なるべくバレないようにね」
『一先ずは、我々の話を聞いてくれただけでも感謝する』
「うん…」
もうちゃんとした返事をする元気もない。
双葉は覇気の無い状態で今いる部屋の中から出ていこうとする。
「あっ、一応特に大したことはなかったみたいには振舞っておいてよ。そんなところからも怪しまれたらアレだしね」
「分かってるから…」
そう最後に返事をして、双葉は空助の部屋から出て自分の持ち場に戻っていった。
「さて…それじゃあ次は、織子ちゃんの方を待とうか。ちゃんと言ってあるよね?」
『ああ、問題ない』
「じゃあ、今後も色々と頼むよ」
『任せてくれ』
その文字列を最後に、パソコンのキーボードも画面動かなくなる。
幽霊も、部屋の外に出たようだった。
「さてと。後は、こいつをどうにか…」
空助は部屋にある机の引き出しを開け、中にあるものを確認する。
そこには、小さくてファンシーな意匠をしたライトがあった。
◆
【ボンドルドの祈手について】
※ボンドルドの祈手達もまた、身体側は別のキャラになっていますが、そのほとんどは現状は不明としておきます。
※祈手の1人の身体が「野原ひろし@クレヨンしんちゃん」から「葛城忍@仮面ライダービルド」に変更されました。
-
今回の投下は、これで終了とします。
先日投下された話の修正の件については確認済みです。収録の際に修正を行いたいと思います。
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投下乙です
ココ・ジャンボ…なんかとんでもないことになってる
あの亀がまさかこれほど複雑怪奇な運命を辿ることになろうとは…
これいったいどういう決着が着くんだ…分からねえ
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DIO、大首領JUDO、志々雄真実で予約します。
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予約を延長しておきます。
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この怪物の中に肉体本人の精神が混じっているようだがミーティも入ってるのかな?入ってるならボンドルドに反応しそうだが
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投下します。
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『空条承太郎…その身体の名は燃堂力』
これを聞いた時、口角が上がらなかったと言えばそれは嘘になる。
南西の森エリアにおいて、DIOによって一時停戦の提案が出された直後、第三回放送が始まった。
そんな提案が出されたばかりなこともあり、放送の間、そこにいた三人はその場で黙って放送に耳を傾けていた。
けれども彼らの間にある空気は、すさまじい殺気に満ち溢れていた。
休戦の提案があったからと言って、それまでに行われていた殺し合いがなかったことになるわけではない。
ピリピリとした、一触即発な殺伐とした空気感が形成されていた。
それでも三人共放送の重要性も分かっていたため、その間は静かにしていた。
DIOとJUDOは、それぞれエターナルとディケイドへの変身も解除しないままであった。
やがて流れ始めた放送の内容において、DIOは注目しないわけにはいかなかった。
(フ、フフッ。フフフ…ッ。そうか…そうか!承太郎が死んだか…ッ!)
DIOは心の中で高笑いを上げた。
空条承太郎…それは、DIOにとって運命の最大の障害物であったジョースター家の末裔。
彼にとって、ジョースターとは運命という道に散らかり捨てられた犬の糞のようなもの。
それが知らずの内に掃除されたというのならば、無意識にでも笑みがどうしても浮かんでしまう。
歌でも一つ歌いたいような良い気分だ。
もっとも、この状況でそんなことをする訳にはいかないが。
(……だが、これでザ・ワールドの能力の真価を引き出すのは、完全に自力で行わなければならなくなったか)
受かれた気分になってきていたが、そのことを思い出し少し冷静さを取り戻す。
この殺し合いに来る直前辺りで、承太郎のスタープラチナは自分のザ・ワールドの能力を知り、影響されたことで、時間停止ができるようになった。
それと同じようなことをやるのは、これで不可能となった。
ザ・ワールドの時間停止能力を復活させるのは、DIO自身でどうにかしなくてはならなくなった。
そのためにはやはり、エンヤ婆が言っていたように、できると思い込むことが重要であろう。
けれどもそれは、承太郎に影響されるよりも手間がかかりそうだ。
(…そういえば、ジョースターの肉体の繋がりもいつの間にか感じられなくなっていたな。やはり、東方仗助の肉体の者も死んだためか?)
何故かジョースター家に関わりがあるんじゃあないかと感じていた東方仗助の肉体も死亡状態にあることを知った。
ジョースターの血を引く肉体同士は、何故だかその存在を感じ取れる。
その感覚も、確かにいつの間にか無くなっていた。
であれば、東方仗助の肉体は本当にジョースター家のものだったのかもしれない。
まあ、DIOからしてみれば、もしかしたら他の死亡者の誰かの肉体の方がそうだった可能性もまだ考えられるが。
◆
(それと…まさか、わざわざ用意していたモノモノマシーンを封じるとはな。言っていた通り、誘導だけが目的だったという訳か?気に食わんな)
今回の放送で指定された禁止エリアによって、本来自分がここに来た目的の一つであったモノモノマシーンが、もう使えなくなったことが知らされた。
そうなった理由については、誘導する必要が無くなったとのことだ。
つまり、今この場にいる者達が出会った時点で、主催陣営にとってモノモノマシーンは価値が無くなったということだ。
モノモノマシーンは新たなアイテムを得られるとの話だったが、主催達は本当はそんなものを渡すつもりは初めからなかったのだろう。
思い通りにさせられているような感じで、この点に関してはかなり不愉快であった。
(……だが、考えようによっては都合が良くなったと言えるか?)
-
DIOは今、ここにいる三人で停戦することを提案した。
けれども、三人ともここに来た当初の目的はモノモノマシーンだった。
そしてそのモノモノマシーンは、一本道の地下通路内に存在していた。
もし二人がDIOの提案を受け入れたとしても、モノモノマシーンが使用可能なままだったら、三人とも同じ方向を目指す可能性が高い。
三人一緒に仲良く歩くことになったのでは、提案の意味が一部無くなる。
他の場所にいるであろう、都合の悪い者達を殲滅するまでという約束で動こうというのに、三人固まっていてはそれが出来るのかとなってくる。
そういった者達がモノモノマシーのある方向に集まって来る可能性は、マシーンの使用条件のことを考えると低いかもしれない。
それに、動ける範囲の限られた地下通路の中で三人でいれば、いつ誰が唐突に裏切ってくるか分からない。
それこそ、モノモノマシーンを使おうとする隙を狙ってくる可能性も考えられる。
そんなことを全員思い付けるとすれば、いざマシーンの下にたどり着いた時に余計な心理戦が始まるかもしれない。
そんなことをしている内に、やはり殺し合いに反抗する者達が集まり、結託し、余計に都合の悪いことになるかもしれない。
だがここで地下通路の方に入る理由が無くなれば、ここにいる三人はバラバラに動くことになる。
DIOからしてみれば、他二人の目が無い方が都合良く動きやすい。
サニー号のこと等、そこにあるモノのことを隠し通せれば、より有利にこの殺し合いの舞台の上を動きやすくなる。
それに今のDIOは、たとえ一人になったとしても他参加者を全て殲滅できる自信がある。
二人への提案は、云わば自分の手間を減らしたいがためだけだ。
それを実現するためという視点からでは、今回モノモノマシーンが使用不可になったのは都合が良いと言えなくもないかもしれない。
今回、DIOが気にした点としてはこれで以上だろう。
他には、放送ではこの近くにある電話ボックスがC-5の村に繋がっているみたいな話もあった。
それについては、視界の内に件の電話ボックスらしきものが、地下通路の入り口の近くにあるため、後で調べるか近くの者が知ってれば話させるかすれば良いだろう。
放送でも、分かる者には分かる話と言っていた。
◇
『私は、「亀」である』
『…………そして、今の私は、「カメラ」でもある』
(………カメ?)
(亀?)
「亀……?」
放送の最後の方で伝えられたことに、ここにいた三人皆が反応を見せた。
放送は、終わりそうになったと思ったら、何故か急に予定外の話が付け足された感じになった。
そこで語られたあまりにもの内容に、三人とも呆気にとられた。
黒幕からの伝言とされたもの、それは黒幕自身の正体についてだった。
それが「亀」で、しかも今は「カメラ」等、三人にとってもまるで意味が分からない。
しかも、一応ここまで生き残ってきた褒美の情報のはずなのに、こんな訳の分からない所で止まり、放送は終わってしまった。
「………おい、今のことに………心当たりはあるか?」
「………カメバズーカ………いや、絶対に違う」
「………宇水の盾…………いや、何でもねえ」
三人とも混乱し、それぞれ自分でもよく分からないままに口走る。
記憶にある亀に関連するものを引っ張り出すが、当然それらは全て無関係だ。
(亀……亀…?そいつは、知性を持っている…ということか?それはつまり…スタンド使いの可能性もあるのか?)
放送で伝えられたことが真実だと仮定すると、DIOの中ではそんな可能性が思い浮かぶ。
スタンド使いになった動物は、通常のものよりも知能が高くなることがある。
それこそ、人間に匹敵するくらいのものだってある。
ならば、殺し合いを企画できるだけの知力を獲得できることだってあるかもしれない。
今はカメラだという発言は…参加者や他の主催と同じく身体側を別のものに変更しているということだろうか。
カメラという非生物が肉体側なのは、普通に考えればおかしいことだが、この殺し合いには既に非生物の貨物船が精神側として参加者にされていた。
それならば、非生物でも身体側となれるポテンシャルはあるだろう。
もしかしたら、その身体側のカメラとやらも、貨物船と同じくスタンド使いだったのかもしれない。
身体側に選んだのも、そのカメラが持つ能力目当てだったのかもしれない。
………ナチュラルにこんな可能性を考えてしまう辺り、あの貨物船の存在にある程度毒されてしまっているのかもしれないとも考えてしまう。
(…だが、もしそれが真実ならば、許しがたいことだ。このDIOを差し置いて、畜生ごときがスタンド使いとして上に立とうなど…!)
――この殺し合いに巻き込まれている時点で、DIOも、他の者達も、主催陣営に一度敗れているようなのものである。
―ここに来るまでの記憶が無い分、なおさらだ。
-
亀のスタンド使いの存在に、DIOに心当たりは全く無い。
それは、この殺し合いがDIOのために行われている可能性を低めることも意味していた。
殺し合いの黒幕が本当に亀だとして、尚且つそれがスタンド使いであるとしたら、DIOにとっては腹立たしさを感じることにもなる。
どんな能力かは分からないが、吸血鬼どころか人間以下の亀ごときがこのDIOを出し抜いて殺し合いの参加者にするなど、受け入れられないことであった。
せめて神だとかそういったものを名乗るくらいなら、その座から引きずり下ろして自分が代わって座ってやるくらいの気概を出そうと思えたかもしれない。
だが実際には亀を名乗るなど、こちらのことを大きく嘗めているのかと言いたくなるようなことであった。
DIOの中には、主催陣営に対し少し怒る感情もまた、確かに出現してきていた。
◆
放送で言われたように、先ほどまで降っていた大雨が止む。
そのタイミングで、DIOはもう一度話し始める。
「…………さて、改めて聞こうか。私の提案に、乗るかどうかを」
放送のせいで調子を大きく狂わされた感じがあったが、DIOは改めて他の二人に問う。
指定された禁止エリアだったりで状況は大きく変わったが、まだこの提案は生かせるものと判断していた。
「……てめえはさっき、情報の開示とか言っていたが、てめえが欲しい情報はもう無くなっちまったんじゃねえか?空条承太郎って奴は、死んだみてえだが?」
「………ふん。まあ、その点に関してはそうであろうな」
DIOの提案は、志々雄がスタープラチナの名を出した直後にあった。
そのことやDIOが出すザ・ワールドのこともあり、志々雄はDIOが求めている情報の中に承太郎のことも含まれていることを察していた。
「そうかい。なら、一旦話を変えるか。さっきの放送で言っていた電話ぼっくす…『公衆電話』について、てめえらがまだ知らねえだろうことを教えてやる」
志々雄は、少し離れた場所に向けて指差す。
そこにあるのは、放送でも言われた通りな、公衆電話ボックスだ。
「少し調べれば分かることだが…アレは、遠く離れた場所に一瞬で移動できるものだ。行き先は、まあさっきの放送で言われた通りだろうな」
志々雄は、自分が先にここにたどり着いた時に確認した公衆電話の機能を簡単に説明する。
「で、アレはどうやら前に使われたことがあったから、俺は使えず待っていたわけだが…これで何時使えるようになるか分かった。そして、次に問題となるのは…てめえらもアレを使いたいと思うかどうかって点だ」
「……なるほど。アレを使った方が、網走監獄の方に早く行けるかもしれないという訳か…」
「アレは一応、一度使ったら十分以内なら他の奴も使えるが…果たしててめえらは、それをやすやすと通すのか?」
志々雄が問題として提起したのは、もし仮に休戦する場合、公衆電話の扱いをどうするかについてだ。
放送前にDIOが懸念していた、地下通路のモノモノマシーンがあったらここにいる全員がそちらの方に向かう可能性問題が、再発するようなものだ。
モノモノマシーンの方へ向かうことを考えると、やはり全員が公衆電話で瞬間移動(ワープ)することを望む可能性が出てくる。
ワープ先であるC-5に一時間後、一瞬で行けることを考えると、順当に移動するよりも早くB-1の網走監獄に到着できると考えられる。
今回でDの1、2だけでなくD-3が禁止エリア指定されたことや、地形的な問題から、そんな風になっていた。
しかも、基本的に使うのは一人ずつなことを考えると、先にワープした者が後からワープした者をワープ直後に攻撃する可能性も考えられる。
いわゆる、着地狩りというものだ。
DIOは地下通路のモノモノマシーンが使用不可になったことについて、都合が良いかもしれないと一度考えたが、それは誤りだったかもしれない。
むしろ、片方が封鎖されないで、それぞれどちらかを目指す形となった方が良かったかもしれない。
まあ、このことについてはDIOには一応、多少の解決となる情報を持っていた。
「ふむ、それならばこちらからも一つ先に教えておこう。地図を見れば分かることだが、G-2の方にサニー号という施設が追加されている。これは船であり、中には我々参加者でも動かすことができる特殊な小舟が用意されている。私が確認した。提案を飲む場合、私はそちらの方に向かおうか」
サニー号のことは元々隠したいと思っていたが、こうなっては仕方がない。
ここでこの情報を出した方が、バラけて動けて都合が良いと判断した。
「ちなみにだが、そこで小舟を使うには条件がある。首輪を多く用意することだ。果たして貴様らは、それだけの首輪を持っているのか?」
「……なるほど、使えるのは自分だけだと、言いてえ訳か」
-
志々雄はDIOの言葉に一定の理解を得た姿勢を見せる。
どこまでが本当のことかは彼視点では分からないが、一応はこれで休戦する場合の今後の動きが予測出来てくる。
サニー号とやらの中にある小舟がどれ程のものかは知らないが、ようはそれで海を渡り、F-1の川から島の中に入り、川を伝って近道すると言いたいのだろう。
◇
「また少し話しを変えるが、てめえの案に乗るために必要な情報はまだあるだろう。そっちが言う目障りな奴ら、そいつらの場所だ」
志々雄はまだ答えを出さずに、更なる情報を求めてくる。
「ちなみに俺の方からそういったことは何も言えねえ。放送二回分…十二時間はずっと誰とも会えずじまいだったからなあ。会った奴の中でまだ生きている奴は一人いるが…もうどこにいったかなんて全く分からねえさ」
「……そんな口の利き方で聞き出せると思っているのか?」
志々雄のこの言葉に嘘は無い。
けどもDIOからしてみれば、志々雄が自分だけ情報を出し渋ろうとしているようにも聞こえる。
「ちなみにそいつは長髪の男で、斧と剣が混ざったみてえな武器を使い、氷や飛ぶ斬撃みてえな妙な術を使う。こっちが先に言ったんだから、そっちも言えよな?」
志々雄は自分が知る唯一の相手…魔王についての情報を先んじて与える。
そうすることで、案の同意前にDIO達からも戦力についての情報を吐き出させようという魂胆だ。
その魂胆は、実際上手くいっているようだった。
「……我からは僅かに、言えることがある」
ここで、これまでほとんど静かにしていたJUDOが口を開く。
「おそらく…この島の中央か、東の方の街で…おそらく4人程度が固まって動いている。1人は羽を生やした剣士の女…残る3人は、我や貴様のように『仮面ライダー』への変身能力を有している。1人は銃使い、1人は武器を複製する力を持つ。…最後の1人は、貴様と同じベルトを巻いていた」
「何だと?」
その言葉にDIOは反応を示す。
他の仮面ライダー程度、今のDIOにとっては大したものとは思っていないが、自分と同じベルトを使っていると聞いたら話は少しだけ変わる。
それはつまり、可能性としてはごく僅かなものではあるが、自分に近い力を持っているかもしれないからだ。
なお、JUDOが話した3人の内1人は厳密には仮面ライダーではないかもしれないこと、JUDOは一応それに気付いていること。
それは、わざわざ話すことではなかった。
「そのベルトをした者は、どんな姿になっていた?」
「それを聞きたければ、貴様も話すことだ。特に、他に仮面ライダーがいたかどうかをな」
「……チッ。…おそらくは、ここから北の山の方で……5人が固まって動いてる。…まあ、厳密には1人は1匹か。電気を発する鼠に、再生能力を持つ女……残る3人は、仮面ライダーだ。…青い剣士が1人、刀と盾を持つ者が1人。…最後の1人は、貴様のベルトをピンクに染めたようなものを使っていた」
「…………そうか。なら、こちらも言っておこう。貴様が知りたがっている仮面ライダーは、黒かった。戦闘方法は、徒手空拳だ」
「そうか…黒か」
DIOとJUDOは睨み合いながら、お互いに持つ情報を引き出させる。
DIOとしては対等な交渉をさせられているようで不満なところもあったが、これにより少しの懸念事項も解消された。
本当に黒いライダーであるならば、少なくとも自分と同じくエターナルを使っている可能性は無くなる。
こちらの情報を話すだけの価値はあっただろう。
せっかく同じベルトを使っていた奴がいたことを教えたのに、何故か反応が少し薄めなのも気になるが、そこまで問題として捉えることではないだろう。
◇
「……で、ここまでのことを踏まえた上で、結局どうするつもりか?私の提案に乗ろうと思えてきたか?」
ある程度の情報が整理されたために。DIOは改めて問う。
これまでの話により、お互いにあるだろう心配事項はある程度までは解消されたと言えるだろう。
予めの情報もかなりサービスした。
けれども、DIOが望んだような答えは返ってこなかった。
「そうだな……はっきり言ってしまえば、俺としちゃあ『どっちでもいい』だ」
そう答えるのは、志々雄真実だ。
「確かにてめえの言う通り、どうせなら余計な奴らが居なくなってからの方が良いかもしれねえが…結局最終的にはお前らとも戦うことには変わりねえ。むしろ、そんな奴らと戦い、疲弊した所をてめえが狙ってくることも考えられる。だが、今後どうなるかについては結局のところ動いてみなくちゃ分からねえ。ここでお前らと戦うか、戦わないか、どっちを選んでも最終結果は変わらねえと思うぜ。どうせこの世は弱肉強食、生き残るのは『強い奴』なんだからな」
-
志々雄は持論を交えながら語る。
その言葉には、前からと同じく挑発的な要素も混じっていた。
「…生き残るのは強者だという点には同意する。だが、よくもまあそんな中途半端で煮え切らない答えが出せたな。前にも、つまらん挑発は貴様自身を滅ぼすと言ったはずだが?」
「はっ。つまり何だ?てめえはここで殺り合っても自分だけが生き残れる自信があるってわけか?」
「……お望みとあらば見せてやろうか?」
「さあな。てめえの好きにしたらいいさ。自分の提案を無碍にしたいんならな」
志々雄は挑発的な態度を止めない。
けれども、この言葉に対してDIOの方から手を出すわけにはいかない。
こんな挑発に乗って攻撃を仕掛けたら、どこか精神的な敗北感が微かに残るかもしれない。
「で、さっきから妙に静かな感じがするが…そっちの方はどうなんだい?そこの縞々仮面」
苛つき始めているDIOを尻目に、志々雄は話をJUDOに振る。
先ほどの放送が終わってから、JUDOは確かに口数が何故だか少なくなっている感じがあった。
他参加者の位置情報の話になった時は喋っていたが、それも「仮面ライダー」以外のことについては反応が薄かった感じもあった。
これまでの交渉はほとんどDIOと志々雄だけで行われていた。
JUDOが何を考えているか、二人には分かりにくくなっている感じがあった。
「…………そうだな。確かに、余分な者共を削ぎ落としてから決着をつけるというのは、理にかなった提案だろう」
口を開いたJUDOは、DIOの案に肯定的な言葉を発する。
「………だがそれは、3人も必要なことであろうか」
◆
「…何を言いたい」
「言葉通りだ。貴様の提案通りにするとしても、3人もいる必要はないだろう。つまり、1人は消えるべきだ」
JUDOは、DIOの言う通り他の都合が悪い者達を排除するまで休戦するのは構わないが、それは2人だけで十分という意味の発言をした。
それは、3人の内1人はもうここで死んでもらいたいという意味でもあった。
「だが、今ここで3人の内誰かが死ぬまで戦えば、今後戦うための力を失う可能性もある」
JUDOは自分が今言ったことの問題点も自覚していた。
「だからここは、消す者を予め決めておくべきだ」
「――――消えるのは、貴様だ」
JUDOは指を差す。
それが指し示していたのは、DIOだった。
◇
「……なるほど。つまり、2人がかりでこいつを殺ろうって言いてえわけか」
志々雄はJUDOの言葉に納得の色を見せる。
「確かに3人残っていたら、最後の方で漁夫の利を狙う奴が出るかもしれねえからな。特に、そんな提案をしてきた奴なんかな」
志々雄はDIOを見ながら皮肉交じりな言葉を発する。
それは、JUDOの新たな案に乗りかけていることを意味していた。
「…我の考えに、貴様にとってももう少し利があることを教えてやる」
JUDOは志々雄を見ながら話し始める。
自らのデイパックの中に手を入れ、1つのアイテムを取り出す。
それは、棒の取り付けられた宝石のようなものだった。
「この『賢者の石』は、使用者本人と、一定範囲内の使用者が味方と認識している者を回復する。一度使ったらしばらくは使えんがな。我に協力するなら、貴様にもこれを使ってやる」
今の志々雄は確かにダメージを負っている。
時間を置けば自然回復するものではあるが、今すぐ治せるのはそれでも悪くない。
すぐに治るのであれば、この場で改めて戦う道も非現実的なものから離れていく。
「……まさかとは思うが、本当にその愚かな案に乗るつもりじゃあなかろうな…!」
DIOが志々雄に向かって声をかける。
その声には、大きく怒気が含まれているようだった。
「そもそもだ。何故に貴様はそのような愚か極まりない選択をとる?………今すぐ謝るなら、許してやらんこともないが?」
「………貴様のような人間如きが、そんな自分の方が上だと思っているかのような態度をしているのが気に食わん。…理由はそれだけで十分だろう」
「……人間だと……?」
DIOは威圧的な言葉に臆する様子なく、JUDOは煽り返す。
…けれども少し、返答までに妙な間もあった。
何か無理矢理、理由付けを考えていたかのようであった。
けれどもDIOはそんなことよりも、自分を人間呼ばわりしたことの方に気を立てた。
その言葉の方が、彼の神経を逆撫でしていた。
-
「…………良いのか?他にもまだ知らせてない情報はあるぞ?」
DIOはより激しくなりそうな怒りを無理矢理にでも抑え込み、冷静さを装いながら今度は言い聞かせるかのように話す。
実際、まだ隠している情報はある。
DIOがこれまで会った中でまだ情報を話していない者が2人いる。
1人は承太郎が身体を使っていた燃堂力。
そして、身体側の身内が主催陣営におり、何か特殊なものがあると思われる柊ナナ。
この2人に関してはPK学園の方に戻ってこなかったため、現在地の予測は正確性を少し欠く。
おそらくは最初に逃げ延びた場所に待機し、今頃桐生戦兎達と再合流している可能性は高いと思われるが、確実にそうだとは言えない。
言わなかったのはそれだけでなく、柊ナナの方に少し興味があり、他の者に先に殺されるのはなるべく避けたい気持ちもあったためだ。
他にもまだ、隠していることはある。
「そんなこと…これまで言ったことも含めて、どこまでが本当かは互いに分からねえだろ」
ここで、自分たちが知る他参加者の情報を話すとしても、全て真実である必要は無い。
全員が共に行動できない方に話が進んでしまっている以上なおさらだ。
むしろある程度情報を隠した方が、他の者らの殺害に苦労し、都合の良い感じに消耗してくれる可能性も考えられる。
そういったことは、全員思いつけている。
ここでの情報は、そこまで大きく鵜呑みにはできない。
ある程度までは信頼できないかもしれないことを意識するべき。
そのことも、全員分かっている。
「それにまあ、情報はもう十分だろうからな」
「その言葉…我に乗ると見ても良いのか?」
先ほどからの志々雄の態度を見て、JUDOもそんな風に判断する。
けれどもはっきりそうだとは言ってないため、一応の確認をとる。
「ああ、いいぜ。やってやろうじゃねえか」
そして志々雄は、JUDOに対し肯定の言葉を返した。
最初に遭遇した時は殺し合った相手であるが、それを一旦置いておいて協力する道を選んだようだ。
当初はDIOが提案したものが、望んでいなかった形で実現してしまったようだった。
「………ハァ。まさか、君たちがここまでの大馬鹿者だとは思わなかったよ」
DIOはわざとらしくため息をつき、大きく呆れたような反応を見せる。
「よかろう。貴様らがどれほど愚かな選択をしたのか、この行いがどれほど無駄なことなのか、頂点に立つべきは誰なのか…その身に味合わせてやろう!」
◆◆◆
開戦の合図となるのは、DIOが迎え撃つことを決めて発した言葉だけではない。
JUDOは手に持った棒付きの賢者の石を振った。
同時に、確かにその石の効果が発揮された。
JUDOと志々雄が負っていた傷が、回復された。
特に志々雄は、完治と言ってもいいレベルまでに傷が癒された。
クリームによって削り取られていた左肩も、そんな事実が無かったかのように元に戻っていた。
そのことを確認できた志々雄が、真っ先に動く。
片手に持ったエンジンブレードを大きく振り上げる。
そしてDIOの方へと向かって行き、振り下ろそうとする。
「ザ・ワールドッ!」
それを受け止めるのは、DIOのスタンドのザ・ワールドだ。
両手に持った2本の刀を交差させてエンジンブレードにぶつける。
20kgの重量と柱の男の肉体を持って振り下ろされたエンジンブレードだが、2本の刀の方もザ・ワールドのパワーが乗せられることで弾き返す。
その隙に、今度はJUDOが動く。
手に持ったライドブッカーをガンモードにし、DIOの方目掛けてトリガーを引く。
「チッ、無駄なことを…!」
この攻撃による効果は実際薄い。
発射されたエネルギー弾は、胴体部分へは届いてもエターナルの装甲に阻まれて大きなダメージにならない。
顔部分へ届きそうになったものも、DIOが咄嗟に持ってきたエターナルエッジと腕に防がれる。
とは言っても、これは何かしらのダメージを期待してでの攻撃ではない。
自分の方に注意を向けさせるための、牽制の目的があった。
結果、DIOはJUDOの方を、ザ・ワールドは志々雄の方を相手する形になっていく。
ザ・ワールドが志々雄の攻撃を捌きながら、本体であるDIO自身はJUDOの方へと向かって行く形になっていく。
本体とスタンド、どちらも同時に動かしながらそれぞれ違う戦闘方法で別々の相手と戦うのは精神的な負担も増える。
だからと言って、DIOはそもそも自分がそんなこと程度のことを気後れするような者だと思っていない。
『無駄無駄無駄無駄ッ!!』
ザ・ワールドが両手に刀を持ったまま突きのラッシュを志々雄に向かって行う。
数十分前、JUDOに向かってやったものと同じだ。
「シャアアッ!」
『ガンッ!』『キンッ!』
-
志々雄はそれに対しエンジンブレードを振り回して弾いて捌く。
1対1の状態ならまだしも、2人相手でスタンドを本体と別の相手と戦わせていては普段よりも操作するための集中力はやはり落ちる。
ザ・ワールドが持つ精密性も、いつもよりは僅かに低い。
そして何より、刀剣類を扱った戦闘は志々雄の方がよく慣れている。
相手の刀の切っ先がどこに向かっているか、これを避けたり弾いたりするにはどうすればいいか、それが志々雄には分かる。
元々有していたものと、ここに来てからの承太郎やディケイドカブトを相手にした戦闘経験により、素早いラッシュもある程度見切れていた。
これにより、JUDOを相手にした時と違い二刀流によるラッシュは志々雄に対し有効な攻撃を当てることは難しくなっていた。
スタンドにラッシュを行わせながら、DIO自身はJUDOの下へと駆けていく。
走りながらDIOはエターナルメモリをロストドライバーから抜き取り、それを手に持ったエターナルエッジのスロットの方に差し込む。
『ETERNAL MAXIMUM DRIVE』
『バチッ』
「ッ!?」
その瞬間、志々雄の持ち物に異変が起こる。
エンジンブレードに差しっぱなしだったヒートメモリ、それから一瞬電気のようなものが走ったように見えた。
これにより志々雄の意識は、そっちの方に一瞬引っ張られた。
『無駄無駄ァッ!』
「ぐあっ…!」
そうしてできた一瞬の隙により、志々雄の体にザ・ワールドが持つ刀が複数回突き刺さる。
柱の男の肉体ではこれは致命的な傷とはならない。
けれども勢いよく突かれたことにより、志々雄は後方へと押し出される。
「くっ…!」
志々雄は咄嗟に後ろ向きに跳んでザ・ワールドから距離を離す。
そしてザ・ワールドが再び近づいてくる前に、エンジンブレードからヒートメモリを一旦抜き取り、それのボタンを押してみる。
(何だ?急に壊れたのか?)
ボタンを押してみても、何も反応がなかった。
本来鳴るはずのガイアウィスパーは、うんともすんとも言わなかった。
これは、エターナルメモリが持つ本来の能力の一つだった。
T1のガイアメモリの機能を永久的に停止させる、それがエターナルのマキシマムドライブの効果だ。
これは、エターナルメモリが破壊されない限りは解除されないものだ。
本来ならその効果は風都全域程の広範囲に及ぶものだ。
けれどもこの場においては、近い場所にあるものにしか効果がないようだった。
なお、このことはDIOが意識してやったことではない。
JUDOへの攻撃のために発動したものが偶発的に作用した。
そして、DIOがJUDOの攻撃の方に一瞬意識を集中したために、ザ・ワールドの動きも少し鈍った。
それにより、志々雄はこの瞬間にヒートメモリの動作確認ができた。
ここで発動されたマキシマムドライブでは、メモリのエネルギーが青い炎となってエターナルエッジを包み込む。
そしてDIOはエターナルエッジを一閃、青い炎が斬撃と共にJUDOの方へと飛んでいく。
これは数十分前に発動した、結果的にディケイドアギトの必殺技とのパワー比べとなったものと同じ技だ。
「フンッ!」
これをJUDOは、単純な跳躍で回避。
マキシマムドライブの発動の前に、跳ぶ準備はできていた。
JUDOが跳んだ後、青い炎はその下の方に着弾して爆発を起こす。
「フン、確かに回復しているようだな」
そう言いながらDIOはエターナルメモリをエッジの中から出してドライバーの方に戻す。
苛つきを感じながらも相手の現状をDIOは把握する。
先ほどの戦いではかなりのダメージを与えたはずだが、そんなことがなかったかのような動きをしていた。
賢者の石は、JUDOが受けたダメージも確かに回復させていた。
「よそ見すんなよ!」
DIOがまだ空中にいる状態のJUDOに目線を向けている間に、志々雄が体勢を整え直して動く。
エンジンブレードを再び構える。
そんな状態になった志々雄の前に、再びザ・ワールドのスタンド像が立ちふさがる。
(こいつ、何故平気そうにしている?刺した手応えは確かにあったはずだが…)
ザ・ワールドの目越しに、志々雄に刀を何度も突き刺したことは確認していた。
普通の生物なら死ぬか、そうでなくとも重傷になるほどのものだ。
けれども、志々雄がそれをあまり気に留めずに立っていることに疑問を感じてしまう。
(こいつ、もしや吸血鬼か?)
-
この点についてはそんな可能性を考えてしまう。
少し刃物で刺して体に小さな穴を開けた程度で動ける存在は、それくらいしかDIOは知らない。
かつてのDIO…ディオ・ブランドーも、吸血鬼になった後は銃弾を何発か撃ち込まれても動けていた。
それと、同じようなものだと感じた。
自分と同じくエターナルメモリを使っている可能性は、エターナルの姿になってないから考えない。
DIOが志々雄の肉体について一瞬考察した頃、JUDOは最初の位置から少し後ろの方の地上に降り立つ。
同時に、滞空していた間にライドブッカーから取り出していたカードをディケイドライバーに差し込んだ。
『KAMEN RIDE RYUKI』
JUDOが選んだのは、龍騎へのカメンライドだ。
ディケイド龍騎となったJUDOは、続けざまに別のカードをディケイドライバーに挿入する。
『ATTACK RIDE ADVENT』
その音声が流れた後に、近くにできていた水溜まりから赤い龍…ドラグレッダーが現れる。
――ディケイド龍騎のドラグレッダーは、数時間前の戦いで破壊されたこともあった。
けれども、このドラグレッダーは本物のミラーモンスターのドラグレッダーというわけではない。
だから、こうして再び出現させることもできていた。
JUDOがそうしてディケイド龍騎として戦う準備をしている間にも、志々雄とザ・ワールドの小競り合いも続いている。
JUDOがカードの用意をしていた時、再びエンジンブレードと2本の刀のぶつかり合いがあった。
そこでの数秒の間に、刃同士の何度かの打ち合いがあった。
そこでもまた、一つの異常が起きてしまった。
『バキッ』
(ムッ…!?)
ザ・ワールドが持っていた刀が、1本折れてしまった。
折れたのは、時雨の方だ。
時雨は、先端から全体のおよそ三分の一の長さの分だけ折れてしまっていた。
こうなってしまったのは、様々な要因が重なったためだ。
まず単純に、これまでの戦いで酷使されたこと、
ザ・ワールドの強い力で振り回されていたことで、刀身に負荷がかかっていたことが挙げられる。
特に負担となったのは、突きのラッシュでの衝撃によるものだった。
そして、志々雄の肉体に突き刺したのも要因の一つだった。
今の志々雄の身体…柱の男のエシディシは500度もの高温の血液が流れている。
一回一回の突き刺しは一瞬でも、その血液に触れたことにより刀には急激に熱が加えられた。
かつて、エシディシの血液が金属性のマスクにかかった時、そのマスクは脆くなった。
触れた時間は短いため程度はマスクの時より低いが、それと同じようなことが、突き刺された刀にも起こった。
それに、先ほどまで降っていた雨により、ある程度までは冷えた状態からでもあった。
それによるヒートショックの影響も、少なからずあった。
そして最後に、今の打ち合いで20kgのエンジンブレードと柱の男の膂力が合わさった衝撃が脆くなってきていた刀に何度か伝わった。
それが止めとなり、遂に時雨が折れた。
なお、もう1本の刀の秋水の方は、元々が頑丈さを誇る品だったこともありここでは折れなかった。
そちらの方に関してはまだ大丈夫そうであった。
時雨は、名刀であることは確からしいが、それ以上の特徴の情報が無いためにここで折れることとなってしまった。
刀が1本折れたことにより、ザ・ワールドの動きにズレが生じる。
「シャアッ!!」
「ぐっ…!」
その隙を逃す志々雄ではない。
刀が折れたと同時に、左胸部分が一瞬空いた。
そこに、エンジンブレードの刃が届いた。
ザ・ワールドの左胸から腹の辺りまでを、斜めに斬りつけた。
とは言っても、そこまで深い傷を作れたわけではない。
表面からおよそ数センチの深さ…致命的なダメージにはなっていない。
それでも、刃がスタンドの像の中に入っていったのは確かなようだった。
それにより、本体のDIOにもフィードバックが起きる。
ザ・ワールドと同じ箇所を、斬られた感覚がDIOの上を走った。
JUDOがドラグレッダーの召喚を完了したのも、それと同じタイミングだった。
「やれ」
『GYAOOOO!』
ドラグレッダーが口の中から火球を飛ばす。
その火球は、DIOの方へと向かっていく。
「! 無駄ァッ!!」
エンジンブレードによるダメージを受けながらも、DIOはその火球を認識する。
そして火球が自身の下へと着弾しそうになった瞬間、背中にあったローブマントを翻す。
火球は、そのマントに包み込まれると、かき消された。
このマント…エターナルローブには、あらゆる熱や冷気、電撃や打撃等を無効化する能力が備わっている。
その能力により、ドラグレッダーの火球を打ち消した。
-
「行け」
『GUOOOOO!!』
JUDOが指示を出すと、ドラグレッダーは今度はDIOの方に向かって突進して行く。
口を開き、DIOに対して噛み付こうとしているようだった。
「ちょっと頭数を増やした程度でこのDIOに対抗できると思うな!」
DIOはそう叫ぶと、彼もまた跳躍した。
そのまま前方に向かって跳び、ドラグレッダーの頭の上へと跳び乗った。
「あっ、てめ、待ちやがれ!」
同時に、ここまで志々雄と打ち合いをしていたザ・ワールドのスタンド像が離れてDIOの方へと戻っていった。
DIOに伴って空中に移動していくザ・ワールドを、志々雄は追いきれなかった。
『GAAAAAA!!』
DIOはドラグレッダーの頭の上に股がる。
ドラグレッダーは頭を振ってDIOを落とそうとする。
それち対しDIOは片手でドラグレッダーの角を掴み、落とされないように耐えていた。
「こんなちょいとばかしデカいだけの赤い蛇でどうにかできると思っていたのかァ〜?なあァーッ!」
『GIIIIIA!!』
DIOはもう片方の手に持ったエターナルエッジを振りかざし、それを勢いよくドラグレッダーの頭頂部に突き刺した。
同時に、ザ・ワールドが折れた時雨を投げ捨て、秋水を両手で握りしめて、股がったDIOより後ろのドラグレッダーの胴体部分に刀を叩きつけた。
頭を刺されたドラグレッダーは悲鳴のようなものを発声する。
そして胴体の方は、ザ・ワールドのパワーで秋水を打ち込まれたことにより、切断されてしまった。
真っ二つにされたドラグレッダーは、そのまま落下していく。
DIOは落下途中のドラグレッダーの上から飛び降り、先に地面へと着地する。
落下したドラグレッダーの残骸は、まるで溶けるような形で消滅した。
DIOが着地した後、志々雄とJUDOは横並びの形で、DIOに対峙するように移動する。
DIOもまた、2人がいる方に向き直る。
「…重ね重ね言っておこう。貴様らがどんな手を尽くそうとも、このDIOの前では全てが無駄だということをな!」
DIOは自分の体が2人に見やすくなるように胸を前に押し出すよう少し反る姿勢で力強く立つ。
ガイアメモリを使った仮面ライダーは肉体が直接変化するタイプであるため、エターナルの装甲の上からでも傷が見えていた。
するとどうだろう、DIOの体に付けられていた傷に変化が生じる。
傷は、まるで何事もなかったように塞がっていった。
「何だ?てめえも俺と同じだったのか?」
志々雄がそんな疑問を呈する。
彼の肉体もまた、先ほどの戦いで刀で開けられた体中の傷穴が再生・塞がり始めていた。
「…さあ、どうだろうな?」
DIOは志々雄に対し、微笑を浮かべながら返答する。
(こいつ、こちらのことを吸血鬼だと認識したか?だとすれば、その認識はいずれ足を引っ張るだろう)
内心では、DIOは志々雄の態度にそんな風な判断をとっていた。
こちらのことを吸血鬼だと思ったのならば、相手は自分を殺す手段を日光が確実なものだと考えるだろう。
しかし、今の時間帯ではもう日がほとんど沈んでおり、日光もこちら側には届いてない。
ならば、相手は次の手段として頭部…脳の完全破壊を殺害のための手段として考えるかもしれない。
けれども、今の自分ならばそれでも死には至らないだろうと、DIOは認識していた。
DIOは内心、ほくそ笑んでいた。
そんなやり取りをしている2人をさほど気に留めていないかのように、JUDOは新たなカードを取り出していた。
それは、今の攻防をきっかけに新たに解放されたカードだった。
今のJUDOが持つ中では、最後のカードでもあった。
JUDOはそのカードをディケイドライバーの中に差し込んだ。
『KAMEN RIDE KIVA』
◆◆◆
-
仮面ライダーキバ…それは、ファンガイアと呼ばれる種族の王のために作られた、キバの鎧を身に纏った者の姿の別名。
そのキバと同じ姿・力を持つ、ディケイドキバへとJUDOは変身した。
更に言うと、変身はこれで終わりではなかった。
JUDOはまた別のカードをもう一枚取り出し、ディケイドライバーに差し込んだ。
『FORM RIDE KIVA GARURU』
ディケイドキバは、赤い鎧と黄の複眼のキバから、どちらも青く染まったキバの姿へと変化した。
特に、腕は左腕だけが青く染まっているのも特徴的だ。
これは本来のキバがガルルセイバーという剣を手にすると変身できる、ウルフェン族のガルルの力の影響を受けたガルルフォームと呼ばれる姿だ。
それと同じ姿になったディケイドキバも、変化と同時にガルルセイバーを出現させて手にしていた。
ディケイドキバ・ガルルフォームとなったJUDOは、右手でガルルセイバーを斜め下向きに構えながら、まずはゆっくりと二、三歩踏み出す。
そこまで行ってから、体を前傾させながらDIOの下へと駆け出した。
「今のを見てもまだ理解せぬか。どれだけ攻撃しようとも、このDIOには全て無駄なのだよ!!」
そんなDIOの言葉を無視しているかのように、JUDOは無言でガルルセイバーを振り上げ、斬りかかろうとする。
『キンッ』
振り下ろされたガルルセイバーをエターナルエッジが受け止める。
剣とナイフによる、鍔迫り合いの形となる。
鍔迫り合いにおいては、DIOの方が押しているようになっていた。
元々、エターナルのパンチ力は7t、それに対しキバ・ガルルフォームのパンチ力は5t。
互いの腕力もこれらの数値から考えるとエターナルの方がおそらく高い。
キバの方は厳密にはディケイドが変身しているものだが、おそらくはスペックは元のものと同じだろう。
それに今のDIOはエターナルだけでなく、アトラスアンクルを装備していることにより筋力が上がっているためにそうなっていた。
「フン、言葉の意味も理解できぬ程の馬鹿になり下がったようだな。もしくは、敵わないと理解しているのに後戻りはできないから、やけにでもなったか?」
「………」
DIOは挑発的な言葉をかける。
けれども、JUDOはそれに対しても何の反応も示さない。
鍔迫り合いの中で、ザ・ワールドのスタンド像も再び動き始める。
時雨を失ったために、今度は先ほどと同じように秋水を両手で握りしめる形で装備する。
そんな状態になった瞬間、志々雄がエンジンブレードを持ってザ・ワールドの方に斬りかかって来る。
『ガンッ』
ザ・ワールドも、自分に向かってきた刃を切り払う。
「へっ、やっぱこの形になるか!」
少し前と同じく、JUDOとDIO、志々雄とザ・ワールドの戦いになっていく。
志々雄の方の前との違いは、ザ・ワールドの持つ刀が1本になっていること。
だからと言って、ザ・ワールドの方が前よりもかなり不利になったわけではない。
スピードを生かして刀2本を持ってのラッシュといった戦い方はできなくなった。
けれども、ザ・ワールド自身のパワーは健在だ。
志々雄相手に、刀剣での打ち合いを継続することは可能だ。
ただしここにおいて、DIOはザ・ワールドに志々雄の方を積極的に攻めさせないようにすることを考えていた。
志々雄もまた、再生能力を持っているためだ。
仕留めるためには、先にJUDOの方を片付けてからが良いと判断していた。
JUDOは能力は多彩だが、今のところは自分のことをどうにかできる力は無いだろうと推察している。
ライダーとしての単純なパワー面においても、エターナルとアトラスアンクルを合わせている自分の方が上回れていると判断していた。
ならば、ザ・ワールドの方には志々雄を足止めさせ、自分はゴリ押しな形になってでもJUDOを仕留める。
DIOは、そんな風に考えていた。
『ダンッ』
鍔迫り合いで押され気味だったJUDOが、前を向いたまま後方へと跳ぶ。
離れていくJUDOにエターナルエッジの刃はギリギリ届かず、DIOは一瞬大きく前のめりな姿勢をとらされる。
DIOから少し距離をとったJUDOは、続けて腰を低く落とし片手が地面に着くような構えをとる。
その状態から、JUDOは横向きに素早く動き始める。
そのまま横回りで、DIOの方へと再び近づいて行く。
-
『キンッ』
「ムッ…!」
JUDOは素早い動きでDIOに近づき、ガルルセイバーでの斬りつけを試みる。
しかしそれは、エターナルローブによってすぐに防がれる。
そうなった直後に、JUDOは更に再びDIOから離れる。
そうして先の攻撃でDIOに注目させたものと、また別の方向へと素早く移動し、死角からの攻撃をDIOに試みる。
「無駄ァ!」
それもまた防がれたのならば、更に素早く動いてDIOの死角に周り、そこからの攻撃を試みる。
キバ・ガルルフォームはスピードに特化したフォーム。
その最高速度は、力を解放したキバ本来の姿であるエンペラーフォームも上回ると言われている。
さらに言えば、ガルルフォームの全速力はエターナルをも実は超えている。
このスピードを利用したヒット&アウェイ戦法で、攻撃を届かせることを試みていた。
「グアッ…」
何度かの繰り返しの末、遂にガルルセイバーによる攻撃がDIOに届く。
ローブマントに阻まれることなく、刃が相手の体を突いた。
攻撃が当たった部分で火花が散り、相手は一瞬怯んだ姿勢をとる。
そうなった隙に、JUDOは再びDIOから距離をとる。
ガルルセイバーを、剣先が上向きになるように立てる。
そして、剣の鍔にもなっている狼の顔がDIOの方に向くようにする。
『ワオォォォォォ!!』
「グオッ…!?」
剣の鍔の狼が鳴いた。
狼の開いた口から、音波が発せられた。
これはガルルセイバーが持つ機能の一つ、ハウリングショットである。
その音波を真正面から浴びたDIOは、さらに怯まされる。
相手が更に怯んだその隙、JUDOがとった行動は、新たなカードを取り出すことだった。
JUDOは取り出したカードをディケイドライバーに差し込む。
『FORM RIDE KIVA DOGGA』
JUDOの姿は、青いキバから紫のキバへと変わっていく。
両腕共に手甲が現れ、肩・胸部・腹部も共に堅牢な印象を与える装甲が現れたのも特徴的だ。
ガルルセイバーは消え、代わりに巨大な紫の拳のような形をしたハンマー…ドッガハンマーが出現する。
JUDOは、ディケイドキバ・ドッガフォームへと変化した。
JUDOはドッガハンマーを地面に擦り付けて引き摺りながら、DIOの方へと近付く。
そしてそのハンマーを、勢いよく振り回した。
「クッ…!」
DIOは僅かに怯みが残っていたために、反応が少し遅れた。
咄嗟に放ったキックとハンマーがぶつかり合う。
その結果、DIOの方が後方に押し出され、飛ばされる。
すぐに着地したものの、よろけて何歩か後退りしてしまいJUDOとの距離は更に離れる。
元々重いドッガハンマーと、DIOが体勢を整えきれていなかったこと、そして今のDIO自身のキックの威力による反動でこのような結果となってしまった。
『FINAL ATACK RIDE KI KI KI KIVA』
距離が空いた隙に、JUDOは次の行動に移っていた。
キバの必殺技用のカード…ファイナルアタックライドのカードを取り出し、それをディケイドライバーに差し込んでいた。
「チッ!」
『ETERNAL MAXIMUM DRIVE』
それを見たDIOも次の行動に移る。
DIOもまた、必殺技を発動することを選んだ。
エターナルメモリを再びエターナルエッジに差し込む。
-
先の戦いで、今のファイナルアタックライドという音声が強力な一撃を起こす前触れだということは把握している。
エターナルのマキシマムドライブと同じだ。
ならば、対抗するにはこれがベストであろう。
アトラスアンクルで強化されている分、打ち合いになっても力で勝つのはこちらであるとDIOは考える。
ごり押し・力押しできるタイミングはここがベストだろう。
JUDOの方は、ドッガハンマーの持ち手部分を下にして地面に突くように立てる。
ハンマーの裏にあるハンドルを引きし、拳型だったハンマーの手の平を開かせる。
その手の平には目玉が…ドッガハンマーのトゥルーアイと呼ばれるものが存在している。
そのトゥルーアイから、その目が見つめる相手を麻痺させるための電撃のようなものが走る。
「フンッ!」
それに対しDIOは、エターナルローブで体を隠す。
ローブマントの効果により、トゥルーアイの視線の効果が無効化される。
ついさっきの、ガルルセイバーの咆哮のことは学習している。
今回も、それと同じようなものがある可能性を踏んでこの行動をとった。
おかげで、ドッガハンマーによる麻痺は防げた。
JUDOはこれを黄にする様子なく、ドッガハンマーのエネルギーを溜めていく。
ハンマーに込められたエネルギーが、もっと大きな拳型の雷のエネルギーとしてJUDOの頭上に現れる。
JUDOがハンマーを持ち直し横に構えると、その拳型のエネルギーもハンマーに併せて動く。
「フン、それも無駄なこととなるだろう」
DIOの方は、左足にエターナルメモリのエネルギーが集まっている。
「ハアッ!!」
DIOは跳び上がり、オーソドックスなライダーキックの姿勢でJUDOの方に向かって行く。
JUDOはハンマーを振り回し、巨大な拳をDIOにぶつけようとする。
その次の瞬間のことであった。
『ダン』『ダン』
「ぐっ…!?」
JUDOの背中にいくつかの衝撃が走った。
その衝撃により、JUDOは両手で握っていたハンマーから手を離す。
ハンマーから出ていたエネルギーも、かき消える。
「死ねィッ!!」
これにより、青い炎を纏ったエターナルのキックは何にも遮られることなく、飛んできた。
「グアアアァァァッ!!」
エターナルのキックは、ディケイドキバ・ドッガフォームの胸部にまともに命中した。
JUDOはそのキックにより、後方へと勢いよく吹っ飛ばされる。
――その過程で、吹き飛ぶJUDOを避ける者も存在した。
飛ばされた後のJUDOは、何度か地面をバウンドした後に爆発を起こす。
爆炎が晴れた後、そこには変身していたディケイドとしての姿は無い。
変身解除された、門矢士としての姿をしたJUDOが口から血を流し、目も閉ざされた状態で倒れていた。
「――ハッ。これで二人になったな」
そう、吹き飛ばされたJUDOを避けた者が呟く。
そいつの手の中には、銃が一丁握られていた。
――そいつは、JUDOと協力してDIOと戦っていたはずの、志々雄真実だった。
志々雄は、JUDOを裏切った。
◆◆◇
-
「…………どういうつもりだ?……初めから、こうするつもりだったのか?それとも、私の力を見てどちらに付くのが正しいのかを理解したのか?」
JUDOをキックで吹き飛ばした後、DIOは少し間を置いた後に志々雄に問いかけた。
その表情は、機嫌が良いとも悪いとも言えなさそうな、 真顔に近いものだった。
ついでに、エターナルメモリをエッジからロストドライバーの中に戻した。
エターナルの変身はまだ解かない。
相手のことはまだ警戒するべきだ。
先ほどの戦いにおいて、志々雄はザ・ワールドと戦っていた。
その戦いは、ほとんどお互いの足止めだった。
しかしやがて、志々雄が突然後方へと逃げるように動き出した。
しかも、JUDOの真後ろの方に行こうとしていた。
それはだいたい、JUDOがドッガフォームでの必殺技の準備をし始めたタイミングだった。
JUDOと戦っていた間もDIOはそのことを把握していた。
何のための行動なのか、その瞬間は理解できなかった。
けれども、JUDOの方が必殺技を発動しようとしていたため、離れていく相手に意識はあまり割けなかった。
対処はまた後からのことになろうとしていた。
しかし、そこで起こした志々雄の行動により、DIOも自らの動きを止めざるを得なくなった。
志々雄は、隠し持っていた武器…『炎刀・銃』でJUDOの背中を撃った。
それにより、JUDOは発動しようとしていた必殺技ができなくなった。
そしてDIOの必殺技の対処もできなくなり、技をもろに食らった。
DIOからしてみれば、予想外のことではあったがかなり腹立たしく感じていた者を始末できたことは喜ばしく思う。
けれども、自分の力だけで排除できなかったことにはちょっぴり思うところもなくはなかった。
それに、この状況を作り出した相手も、元々はこちらのことをかなり挑発等していた不愉快な者だった。
簡単には、喜ばしいことだとは感じられなかった。
相手がどんなつもりでいるのかを、問いただす必要があった。
「そういったもんじゃねえさ。俺があいつに同意したのは、停戦するのは二人までで十分という意見だけだ。俺以外に残す奴も、どっちでも良かった。たまたま、あいつの方が楽に始末できそうになったからこうしたまでだ」
「それによ…信じれば裏切られる。それもまたこの世の真理だ。隙を見せてしまった、あいつが悪いのさ」
志々雄の主張は、DIOのことは関係ないといったものだった。
とりあえずJUDOと共闘していたが、JUDOの方が先に死にそうだったら、JUDO案をDIOとやることになっても別にまあよかったというだけだ。
そして、どうせなら戦いは早く楽に終わらせられればそれが良い。
ここでJUDOを裏切ればそれを実現できる。
そんな状況になったと、その瞬間判断したからこうしただけだった。
遠距離武器の炎刀・銃という、状況に適した手段も偶々存在していたからこうなったまでだ。
これを語る志々雄は、どこか達観しているかのような様子だった。
「フン、調子が良いものだな」
DIOは鼻を鳴らしながら皮肉なことを言う。
「何とでも言えば良いさ。で、どうする?俺と殺り合うか?」
「……………興が冷めた。……結局、貴様が最初の案に乗るというのなら、それで良い。だが、これ以上情報はもうやらんぞ」
「俺もまあ別に良いさ。もう十分もらっている。この後は、あの公衆電話を使って一人で行って来よう」
「………もう、好きにしろ」
「てめえに言われなくともな」
DIOは も志々雄も、お互いに武器はもう下げている。
DIOとしては志々雄に対しまだ腹立たしさは感じているが、これ以上の戦闘は本当に無駄な行為であることを分かっている。
何というか、志々雄に一人勝ちされてしまったみたいな気分が出来てしまっている。
精神的にも、無駄な疲労をしてしまった。
だがそれでも、ここはもう戦闘行為を中止しないといけない。
既に、ここから行動するとしたらお互い別に動くことになる感じの話はこんな事態になる前にやっている。
次に会う時は、お互いに邪魔者をほとんど始末できた頃だろう。
その時こそ、今度こそこいつを自分の手で殺してやろう。
DIOは、そんなことも考え始めていた。
「奴が持っていた荷物は私が貰おう。文句は無いな」
「あー、そうだな。そっちも好きにやれよ」
DIOが言うのは、JUDOの持ち物のことだ。
JUDOが持っていたであろう支給品は、仕留めた自分の取り分であるとDIOは主張する。
そのことに、志々雄も文句を言う様子は無い。
DIOは、JUDOの持ち物の回収に向かおうとした。
それまで志々雄に向けていた目線を、自分が蹴り飛ばしたJUDOの方に向けた。
-
「……は?」
DIOは、信じられないものを見た。
「―――さっきぶりだな」
JUDOが、まだ生きていた、
まるで何事もなかったかのように、立ち上がっていた。
◆◆◆
JUDOの体は、本当に何もなかったかのように、真っ直ぐと立ち上がっていた。
DIOが与えたはずの傷も、口から流していた血も、綺麗に消えているように見えた。
「……マジか」
JUDOの状態に志々雄も気付く。
彼も、静かに驚きの声を出してしまっていた。
DIOは復活したJUDOの様子を見て、あることに気付く。
JUDOの片手に、何か風呂敷のようなものが握られていた。
その風呂敷には、時計と思われるイラストがいくつもある柄をしていた。
その柄から、あるものをDIOは連想する。
そしてJUDOの状態から、連想したことがどんな事実に繋がるのか、考えが浮かぶ。
「…まさか、時間の巻き戻しか?」
「正解だ」
DIOは思い浮かんだことを口に出す。
それに対し、JUDOが肯定の返事をした。
JUDOが使ったものは、タイムふろしき。
DIOのエターナルによって蹴り飛ばされた後、JUDOは確かに致命的なダメージを負った。
けれども、実は意識はまだ微かながら残っていた。
自分が倒れた後、DIOと志々雄が会話を始めた隙に、痛む体でも力を振り絞り、こっそりとタイムふろしきを自分にかけた。
DIOが志々雄の行動に対し、困惑していた面もかろうじてあったため、JUDOの方への注目が少し薄れたためにこの行動を成功させることはできた。
けれどもこれは、JUDOにとってもギリギリの試みだった。
おそらく、耐久力の高いキバ・ドッガフォームになっていなければ、上手くいかずに絶命していただろう。
「………で、結局どうするつもりだ?この状況、おそらくこいつはもう貴様に協力しない。貴様が言っていた、消えるべき一人は貴様自身になりそうなことには変わりなさそうだが?」
DIOはJUDOに対し煽るように声をかける。
志々雄が裏切った以上、この場で孤立してしまったのはJUDOの方だと考えるのが自然だ。
もしここで志々雄がやっぱりDIOの方を排除しようと言い始めたら、手の平返しのやり過ぎでもはや信用はどちらからも失うだろう。
もっとも、DIOからしてみても、今から戦うとしても途中で更なる裏切りが発生する可能性は否定できないものではあるが。
「…フッ」
「?」
しかし、JUDOには何か焦った様子等は見受けられない。
何故か、目線をやや下向きにして目元に陰を落とし、薄ら気味悪い笑みを浮かべている。
JUDOは次に、ゆっくりと志々雄の方を向いて話し始める。
「これから、貴様は手を出すな」
「…何だと?」
「貴様はただ、我ら『仮面ライダー』のどちらが生き残るか待っていれば良い。それならば、貴様はこれ以上消耗せずにすむだろう」
JUDOからの言葉は、志々雄にとってもかなり予想外のものであった。
確かに、他の二人が自分に関係なく勝手に決着を付けるのならば、今後の進行のことを考えると都合は良い。
けれども、そんな提案が最初は共闘を申し込んできた相手から出るとは思わなかった。
しかも自分が裏切ったばかりなのに、矛先をこっちに向けようとしないのも不可解だった。
これが嘘で、後から戦いの最中にこちらを油断させてその隙に攻撃しようと考えているのかとも思ったが、そんなことでこっちがやられるようなタマじゃないことはあっちも分かっているだろう。
ならばこそ、ますます起き上がったJUDOの言動は不可解であった。
「………貴様、たった一人でもこのDIOに勝てるとでも言いたいのか?」
「その通りだ」
-
何故かJUDOは、謎に自信に満ち溢れているようだった。
何故そんな態度をとれるのか、DIOには全く分からない。
途中で裏切られはしたが、二人がかりですぐに出来なかったことをどうして可能だと思っているのか。
復活した方法もバレている以上、同じ手も二度は使えない。
まるでもう、あの風呂敷は必要無いとも言っているかのようでもあった。
「………そんじゃあその言葉に甘えて、俺は様子見させてもらおうか」
志々雄がそう言って、後ろ歩きで数歩下がる。
これから始まる戦いの邪魔にならないように。
JUDOの様子が更におかしくなったとは志々雄も感じている。
違和感を解消するためにも、この判断をとった。
DIOもこのことに対し何も言わない。
離れた真っ正面にいる相手、JUDOは、こうなれば一人で殺したいという思いが出てきている。
自分を腹立たせた罪、悩ませた罪、そういったもの等を精算させるためにもそうしたいと考え始めている。
「始めよう」
JUDOはDIOを真っ直ぐと見据えながら語りかける。
そして、ライドブッカーの中から一枚のカードを勢いよく取り出し、構える。
「変身」
『KAMEN RIDE DECADE』
JUDOはディケイドドライバーにカードを差し込み、再び仮面ライダーディケイドとしての姿に変身する。
その変身音は、以前までのものと変わらない。
けれども、その変身後の姿には、小さな変化が存在していた。
この時現れたディケイドの形相は、悪魔のようだった。
目の形が、そんな印象を与えるように端の方が変化していた。
そして額にあったアイコン…シグナルポインターは、前のものは黄色であったが、紫色に変色していた。
それは、『ディケイド激情態』と呼ばれるものの姿であった。
「さあ来い。全てを破壊してやろう」
◆◆◆
『絵美理…その身体の名は竈門炭治郎』
『両面宿儺…その身体の名は関織子』
これらを聞いた時、JUDOの中で何かが変わり始めたのだろうか。
それとも、兆候は前からあったのだろうか。
何にせよ、放送で話された死亡者の情報は、JUDOに大きく影響を与えた。
これらの情報を聞いた・見た時、JUDOは自分の精神がまるでどこか深い所に落ちていくような感覚があった。
まず、宿儺の死を知って感じたこと、それは大きな失望だ。
雰囲気からして、元は強大な力を持っていた存在であっただろうに、自分と再会したら今度こそ力の限り殺し合うと約束していたのに、自分の預かり知らぬところで死んでしまった。
せっかく放送2回分は耐えていたであろうに、その死の情報はあっさりと知らされた。
そして次に、一度自分を追い詰めた相手…竈門炭治郎の肉体の者についてだ。
絶対に、絶対に、絶対に自分の手で殺すと決めていたのに、そいつも全く把握しない内に死んでしまった。
放送では精神側として発表されたのが自分も持っている組み合わせ名簿の情報と食い違っていることには気付いていない。
元からあまりよく確認していなかったこともあるし、何より衝撃が大きくて気付けるような精神状態になれない。
JUDOは、『怒り』を大きく感じていた。
その対象は、自分自身も含まれていた。
こんなところであっさり死ぬ相手…しかも正体は若い女だったらしい者にJUDOは一度敗北した。
あの時感じた大きな屈辱が、再び沸々とJUDOの中で湧き上がってきた。
宿儺に対しても、似たようなことを感じてきた。
確かに宿儺は最低でも12時間は生き残っていたらしい。
けれども、死んでしまってはそれも意味は無い。
今さら思い返してみれば、最初に会った時は雰囲気に騙されていたような気もしてきた。
あんな女児の肉体でまともに生き残れるはずがなかった。
奴自身は今の肉体でも元の力を取り戻すことができるはずみたいなことを言っていたが、それも上手くいかなかったのだろう。
なんと、期待外れなことだろうか。
宿儺を倒した者が強かった可能性も考えられるが、宿儺自身がJUDOの期待に応えられなかったことには変わりない。
放送については他にも、最後の方で話された『ボス』についても感情を揺さぶられた。
ただの動物である「亀」がこの殺し合いの主催陣営のボス…黒幕だなんて、受け入れられない、認められない。
誰だってそうだろうが、揺さぶられたことには変わりない。
混乱のあまりデストロン怪人の一体の名前も思わず口走ってしまった。
人間どころか、亀ごときが自分の精神を捕らえた・もしくはそのための主導をしただなんてことは信じられない。
しかも、今はカメラなどと宣うのも本当に意味不明なことだ。
今はカメラだからと言って、それが何だと言うのだ。
これらのとこもまた、JUDOの精神をよりぐちゃぐちゃにかき混ぜられた暗黒の中に放り込まれたような感覚に陥らせる。
-
怒り、失望、悔恨、混乱、困惑、様々な感情がJUDOの胸中に渡来し、渦巻いていた。
それは、JUDOにとって未知の感覚だった。
屈辱を大きく感じたことは数時間前にあれど、色々な感情がごちゃ混ぜになったのは初めてと言えた。
自分が本当は何をどうしたい・感じたいのか、それが『分からない』と言えるような感覚だ。
目の奥が、黒く染まっていくような感じがあった。
やがて、ある一つの言葉がJUDOの中で大きくなってきた。
その言葉が出てきた理由は、自分自身でも分からなかった。
その言葉とは、『破壊』だ。
◇
『破壊』
この2文字が「激情」を感じると共に何故か脳裏に浮かんでくる。
それと同時に、何か「力」と「衝動」が自分の内側から涌き出ようとしているような感覚も現れてきていた。
それは、本来の大首領JUDOの力とは別のもののような気がした。
他に考えてしまうことは、『仮面ライダー』のこともそうだった。
自分が思い浮かべる『破壊』の2文字から発せられる力と衝動の向く先は、何故か仮面ライダーである気がした。
そして段々と、こう感じるようにもなってきた。
自分が今感じているモノが、一体「何」なのかを知りたいと。
そのために必要なものが何なのか、はっきりとは分からなかった。
けれども、まず自分が持つカードの力を全て取り戻さなければならなさそうだと、そんな感覚もあった。
そしてそのためにやるべきことは、闘争だということも何となく感じた。
そんな折に、DIOから改めて提案に乗るかどうかの問いかけがあった。
しばらくは何気なく話を合わせていた。
この時も何故か、仮面ライダーのことを特に気にしてしまうような感覚があった。
しかし、やがてある思い付きがJUDOの中に出てきた。
その思い付きを、JUDOは口に出してしまった。
それこそが、DIOの提案からDIOだけを排除するというものだった。
だがこれは、DIOの排除が主目的というつもりではなかった。
本当の目的は、自分が感じた『力』をどうにかして引き出すことにあった。
DIOの排除は、そのために必要な闘争を起こすための建前の側面があった。
志々雄を共闘に誘ったのも、単純にそれっぽい理屈を並べるためだけだった。
実際に倒せるかどうかはこの時点ではそこまで重要視してなかった。
裏切られる可能性も、初めから考えていた。
だから、実際に裏切られた時にすぐにタイムふろしきを自分に使うことができた。
本当なら、急にこんな試みを行うことは非効率で、不合理なことだろう。
以前の敗北したことを考えると、こんなことは止すべきだろう。
けれども、JUDOの中に生まれた感情は、これを可能なことだと訴えていた。
自分でもとても奇妙なことだと感じながら、JUDOは考えたことを実行に移してしまった。
そうして起こった戦いの中で、JUDOの持つカードは確かに全て力が解放された。
これでまず第一段階が完了した。
最後に解放された仮面ライダーの力…キバの力も、試しに使ってみた。
志々雄の裏切りがあったのもその時だった。
それによりJUDOは通常だったら致命的な大ダメージを受けた。
その時、JUDOは自分が感じていた『力』、それが『何』なのかを掴んだ。
エターナルのマキシマムドライブを受けたことで、生死の境を一瞬彷徨ったこと、
そして、自分が裏切られたことを理解したこと、
これまでの中で最大の「死」への『恐怖』『絶望』と、「裏切り」による『怒り』等。
これらの要因が、JUDOにより強い『激情』を与えた。
そこで、ようやく理解した気がした。
自分が感じていたものがいったい何なのか、
ディケイドの力は一体何のためにあるのか。
その力を使いこなすために、一体何をすれば良いのか。
その核心を、掴んだような気がした。
これはもしかしたら、生死の境を彷徨ったことにより、肉体が生存のために最も適した方法を教えようとしたのかもしれない。
自分らしくもない、これまでの戦いで学んだことを捨てるような不合理極まりない行動をしてしまっていると感じていたが、これは決して無駄なことじゃなかった。
むしろ、無意識ながらも最終的にこうなることを予感していたのかもしれない。
そして、JUDOの中にある『決意』と『覚悟』が生まれる。
この世界の全てを、『破壊』すると。
-
◆
ディケイド激情態への覚醒条件、それは実は確定したものはなく、不明とも言えるのが現状だ。
しかし少しだけ存在する情報としては、「覚悟」を決めることが必要なことではないかとも言われている。
ディケイドを「世界の破壊者」として排除することを望む仮面ライダー達を、「完膚なきまでに叩き潰す」こと、その覚悟をだ。
JUDOの精神の状態も、同じようなものに近付いてきていた。
そしてもう一つ、「激情態」と言われるくらいなのだから、名付けられている通り「激情」も必要な要素の一つなのかもしれない。
少なくとも、この殺し合いの世界では、そうであった。
更に何より、時間経過によりJUDOと門矢士の肉体が馴染んできていたこともあった。
門矢士こそが、ディケイドそのもの。
これまでの戦いにより、その中に眠っていた力を自覚してきていた。
門矢士の肉体でなければ、例えディケイドライバーを持っていたとしてもこの力は引き出されなかった。
だから、JUDOはここでその力を引き出してしまった。
そんな風に、なってしまった。
◇◆
「………それで?ちょいとばかし顔付きが変わった程度、何だと言うのだ?」
JUDOに対峙するDIOは、相手の外見の変化に気付く。
けれども現状としては、顔が少し変わったようにしか見えない。
DIOはまだ、余裕そうな態度を崩さずに相対する。
対するJUDOは、無言でカードを一枚取り出す。
そしてそれを、ディケイドライバーに差し込んだ。
『ATACK RIDE CLOCK UP』
「! 無駄ァ!」
瞬間、DIOは認知できた。
相手が、超高速でこちら側に迫ってくるところを。
カードを差し込んだ後のJUDOは、ライドブッカーをソードモードにして構えた。
そして、超スピードでDIOの下へと一瞬で距離を詰めた。
ライドブッカーの刃はDIOの腰にあるベルト、ロストドライバーを狙っていた。
その刃を、DIOはザ・ワールドに持たせた秋水で受け止めようとする。
ザ・ワールドが持つ動体視力とスピードならば、それも可能のはずだった。
(ムッ…!)
ただ、そう簡単には防げなかった。
ライドブッカーと秋水の刃がぶつかり合う。
すると、ライドブッカーの刃が秋水の刀身の峰の上を火花を出しながら走っていく。
その刃はやがて刀の鍔の部分まで到達し、その鍔を斬り抜けた。
鍔を通り過ぎた後、刃は刀の柄を握っていたザ・ワールドの手にまでも到達しそうになる。
(チッ!)
ここでDIOはザ・ワールドに秋水の刀身を上に持ち上げさせ、ライドブッカーの刃を払いのけようとする。
これにより、確かにJUDOの剣の軌道は変えられた。
しかし、勢いまでは殺しきれなかった。
秋水の上から軌道の外れたライドブッカーは、刃の先端がザ・ワールドの右手首の甲側の方に切り入る。
『バキッ』
刃が骨まで達した音!
ライドブッカーの刃は、ザ・ワールドの右手首付近の甲・背の側から斜めに斬った。
そのダメージのフィードバックがDIOにも来る。
これによってDIOの腕に現れた傷の深さは、奥の骨にまで達した。
軌道がズレていたおかげでここで腕を切り落とされることはなかった。
けれども、かなり大きな傷害は与えられてしまっていた。
人の前腕には骨が2本…橈骨と尺骨というものがある。
その内、尺骨の方が深く傷つけられた。
骨の断面の半分に至る程まで、切り裂かれていた。
そんな大傷を付けた後、JUDOは超スピードでDIOの横を駆け抜け、通り過ぎていった。
この時点におけるDIOの後方の離れた場所で、JUDOは止まった。
「……フン。確かに少しはやるようになったみたいだな」
DIOは腕を斬られた痛みに不快感を感じながらも、まだ余裕を持った感じでJUDOを評する。
今の一瞬の攻防で、相手のスペックが前より上がっているらしいことはDIOも感じ取れた。
それでもまだ、自分の方が力は上だとDIOは判断していた。
何やら超スピードで動くことまでできるらしいが、ザ・ワールドで見切ることができるならば問題はないと考えていた。
(……?あいつ、何で今のはあの赤いのにはならなかった?)
戦いの様子を見ていた志々雄は、違和感に気付く。
今JUDOが使ったアタックライド、クロックアップは、本来は仮面ライダーカブトの姿にならなければ使えないものだ。
志々雄は、最初にJUDOと会って戦っていた時にそれを見ている。
けれども今は、カブトにならずにクロックアップを使っていた。
何か、妙な胸騒ぎを志々雄は感じ始めていた。
-
「だが、忘れたのか?どれだけ攻撃しようとも、このDIOには全て『無駄』だということを」
DIOは傷付けられた腕を見せつけるようなポーズをとる。
前と同じく、傷が塞がるところをしっかりと見せるためだ。
DIOが前に出した右腕からは、深い傷から血が多量に流れてきている。
DIOは、こんな傷はすぐに治ると思っていた。
承太郎も死んだ以上、運命はこのDIOの下に都合の良いように転がり込んできていると感じていた。
今もきっと、周りがどうなろうとも自分の勝利に揺るぎはないと思っていた。
「………?」
しかし、いくらまてどもDIOの腕の傷が治ることはなかった。
ただ、腕から血が流れ続けるだけだった。
動脈を傷つけられたのか、出血も激しめな感じだった。
JUDOも律儀に、DIOがそのことに気付けるまで待っていたようだった。
◇
ディケイドの力は、破壊の力。
その力は、あらゆる世界の理(ルール)を貫く。
たとえ、本来は不死の存在であろうとも、ディケイドはそんなこと関係無しに殺害することもできてしまう。
実際、「ブレイドの世界」に存在するアンデッドという不死生物を爆殺したことだってある。
そして今、ディケイドの本来の姿と言われることもある激情態になったことで、その力がより顕著に引き出されていた。
だから、DIOに不治の傷を付けられるようになった。
たとえ永遠の記憶のエネルギーがあろうと関係ない。
ザ・ワールドに流れ込んだエターナルメモリのエネルギーが死を否定するのならば、ディケイド激情態の力はその死の否定を否定する。
JUDOは、DIOを殺せる存在となっていた。
少なくともこの殺し合いの舞台の上においては、DIOが注意するべきはジョースターに連なる者達だけではなかった。
けれども、本当のディケイドのことを知らないDIOにそれは酷な話だろう。
それでもやはり、この舞台においては、JUDOこそがDIOの「天敵」だった。
何故ならディケイドは、『世界の破壊者』なのだから。
◆
『ATTACK RIDE BLAST』
DIOが自分の傷が治らないことを自覚したタイミングを見計らって、JUDOが次の攻撃をしかける。
ディケイドライバーに一枚のアタックライドのカードを入れ、それによる技を発動させる。
ライドブッカーをガンモードにすると、それが虚像を伴う形で分身する。
それらの銃口から、いくつものエネルギー弾が発射されDIOの方へと向かう。
「! 無駄…ガアッ!?」
DIOは咄嗟にエターナルローブを翻して弾を防ごうとする。
ザ・ワールドの方は損壊があること、それが治らない理由が分からなかったため咄嗟に防ぐためには使えなかった。
しかし、ローブの方で防ぐことは、できなかった。
あらゆる攻撃を無効化するはずのエターナルローブを、ディケイドが撃った弾は貫通した。
弾はローブ裏のエターナルに変身したDIO本体に命中する。
アタックライドカードを用いた威力高めの攻撃であるため、これによるダメージ・痛みも大きかった。
こうなったのはやはりディケイドの破壊の力があることもそうだ。
破壊の力の前では、攻撃無効化能力も逆に無効化されてしまう。
だが更に言うと、ディケイド激情態はそもそも、「仮面ライダー」に対して有利になる特性があるかもしれない。
「仮面ライダー」に対する、特攻を持っている可能性があるということだ。
たった一人で、一部を除き、2010年までに存在していた全ての仮面ライダーを倒した実績をディケイド激情態は持つ。
その中には、スペックだけならディケイド激情態よりも上の仮面ライダーも含まれている。
実際にそうだという資料が存在するわけではないが、ディケイド激情態はあらゆる仮面ライダーの究極を超えた存在であると言えるかもしれない。
ようは、ディケイド激情態は仮面ライダー全般の天敵と言えるかもしれない。
そういった面でも、相手はDIOにとっての天敵かもしれない。
『ATTACK RIDE KOTAEWA KIITE NAI』
「お前、倒すけどいいよね?答えは聞いてない」
-
JUDOは新たなカードをディケイドライバーに差し込んだ。
それは本来、アタックライドカードでありながら電王・ガンフォームへのフォームライドを行うカードであった。
なお、そのガンフォームの決め台詞とポーズを意味も無く強制的に再現させられるという謎の欠陥機能もあるカードだった。
しかしここにおいて、電王・ガンフォームへのフォームライドは起こらなかった。
決め台詞とポーズの再現は行われた。
そして、JUDOの手元には電王・ガンフォームの武装、デンガッシャー・ガンモードが出現する。
JUDOは決め台詞とポーズから続けてデンガッシャー・ガンモードをライドブッカー・ガンモードと一緒に二丁拳銃の状態で乱射する。
「クソッ!!」
DIOは自身に与えられた予想外のダメージ・激痛…そして相手からの挑発的な台詞に大きな不快感を感じる。
だけどもそれをどうにか耐えて、今度はザ・ワールドを使って放たれた弾の嵐を防ごうとする。
「グッ…」
ザ・ワールドはラッシュを行い、それでエネルギー弾の嵐を散らすことはできた。
けれども、弾丸の一発一発がザ・ワールドの拳に当たる度に、それらが当たった部分に痛みを感じる。
ディケイド激情態の力は、「仮面ライダー」の属性を持つものに対し有利に働くと思われる。
DIOの精神のヴィジョンであり、エターナルメモリのエネルギーが流れているザ・ワールドにも、見た目が変わらなくとも属性が転写されていると思われる。
だから、ここで相手の弾を散らすだけでもちょっとしたダメージが出てしまうのかもしれない。
ついでに、ディケイド激情態が持つ能力の主たる部分について解説しておく。
先ほどからも行っていたように、他の仮面ライダーの姿にならなくとも、それらの能力を使うことができる。
カメンライドのカードを挿入するという手間を省くことができるのだ。
またこれにより、ディケイド激情態は様々な仮面ライダーの能力を連続で、組み合わせて使用することが可能となるのだ。
これはカメンライドという過程を挟まなければならない通常のディケイドには不可能なことだった。
◇
「いつまでも調子に乗ってるんじゃあないぞこの極東のイエローモンキーがッ!!」
まだ取るに足らない相手だと思っていた者が、たった一人でDIOを追い詰め始めている。
以前自分が圧倒していた相手、桐生戦兎と同じ形のベルトで変身しているために、なおさらそう感じていた。
そんな事実を認めるわけにはいかず、DIOは声を荒げ始める。
ここに来てからの前の戦いでも確かに、普通の肉体だったら致命傷を負わせられるくらいに追い詰められたことはある。
しかしその時は運命がDIOに微笑み、今もこうして生きていられる。
けれども目の前にいる相手は、DIOに治らない傷を負わせることができる。
更には相手の攻撃は、何故か通常よりもよく効いてしまうようであった。
相性は確かに、相手の方に分があるようだった。
倒したはずの相手が、とてつもない力をつけて蘇る。
それは、以前のPK学園の戦いでDIO自身に起こったことだった。
それが今、DIOが倒したはずの相手に起こっていた。
自分だけの特権だと思っていたものを、使われたように感じた。
自分の運命が、他人に突き飛ばされて転がり落ちそうになっていると感じて来た。
自分が今までそれをやっていたことを、棚に上げて。
「ザ・ワールドッ!!」
DIOはザ・ワールドに秋水を勢いよく投擲させる。
慣れない刀を使った戦い方をしていたせいで、今の自分は傷を負った。
そのように考えて刀を一旦投擲武器として使わせる。
『ATTACK RIDE METAL』
JUDOはデンガッシャー・ガンモードを捨て、カードを一枚取り出す。
捨てたデンガッシャーは幻のように消滅する。
JUDOが選んだのは仮面ライダーブレイドのラウズカード、トリロバイトメタルの力を持つアタックライドカードだ。
鋼鉄化した体が、飛んできた秋水の刃を弾く。
弾かれた秋水は、元の勢いがかなり速かったこともありどこか遠くに飛んでいく。
なおその効果は永続するわけではないため、秋水を弾いた後は元のディケイド激情態に戻っていく。
「無駄 無駄 無駄 無駄 無駄」
それに合わせて、ザ・ワールドが拳のラッシュを浴びせようとしてくる。
JUDOとDIOの間の距離はおよそ10m程、ザ・ワールドの射程距離ギリギリだ。
でも、ザ・ワールドの拳を届かせることは可能な距離だ。
下手に武器を持っているよりも、握り拳によるラッシュが最も素早く、効果的に攻撃ができるとの判断の下で仕掛けて来た。
-
『ATTACK RIDE CLOCK UP』
けれども相手のラッシュが始まる前にJUDOも次の行動を起こす。
ディケイド激情態でもクロックアップは短時間しか維持できないし、連続では使えない。
だが、連続でなければそれで良い、使うためのクールタイムは既に終わっている。
クロックアップで加速したディケイド激情態もまた、ザ・ワールドの拳に合わせてパンチのラッシュを行う。
くしくも、かつて承太郎相手に行ったラッシュの速さ比べと同じような構図になっていた。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!!」
クロックアップ中の短い時間、JUDOはザ・ワールドのラッシュのスピードに迫っていた。
ディケイド激情態の拳が、ザ・ワールドの大きな拳の中央と正確に打ち合っていた。
「無駄無…グアッ!!?」
そのラッシュのスピード・パワー比べは、結果としてDIOの敗北という形となる。
一瞬の内に何度も打ち合った末に、ディケイド激情態の拳はザ・ワールドの拳にヒビを入れた。
そこにも更に拳が撃ち込まれ、ザ・ワールドの拳は砕かれる。
こうなったのは、元々右腕を大きく傷つけられていたことも要因の一つだろう。
砕かれた順番も、右、左の順だった。
拳が砕かれたフィードバックももちろん起こる。
DIOは両手共に、手の甲の上半分程が弾け飛ぶ。
それに伴い、人差し指・中指・薬指も千切れ飛んだ。
片方の手に持っていたエターナルエッジも、落としてしまう。
「バ、バカな…ッ!ザ・ワールドがラッシュの打ち合いに敗れるなど…!」
ザ・ワールドのスタンド像の性能に自信を持っていたDIOは信じられないといった様子で狼狽える。
相手が超スピードで動く力を持っていること、相手の攻撃が自分に効きやすくなっていることは分かっていた。
それでも、ここまでのことが出来るほどまでとは思ってなかった。
だが…何よりDIOがこのような行動をとってしまったのは、冷静さを失ってきていたこともあるだろう。
不死を否定され、痛みを感じさせられ、挑発も受け、大きな屈辱を感じていた。
それにより、元々の自分が自信を持っていたことで相手をねじ伏せたくなっていたのだ。
それにクロックアップは元々、ただ超スピードに加速するだけの能力ではない。
クロックアップの発動中、周囲の風景はとてもゆっくり動いているように見える。
自分だけの時間を加速するような能力なのだ。
高速で動いていたザ・ワールドまでは、流石にゆっくりと動いていたように見えたわけではない。
それでも、ある程度ディケイド激情態の目で追うことが可能となるまでにはなっていた。
だから、ザ・ワールドのスピードだけでなく精密性にも対応することができていた。
『ATTACK RIDE SLASH』
『ATTACK RIDE MACH』
JUDOは続けて2枚のカードを連続でディケイドライバーに挿入する。
ライドブッカー・ソードモードの刃の威力を上げ、分身させるためのスラッシュのカード。
もう1枚はメタルと同じく仮面ライダーブレイドのラウズカード、マッハジャガーの力を持つカードだ。
そのマッハの能力により、ディケイド激情態は再び加速する。
その速度は流石にクロックアップよりは劣るが、ここにおいてはそれでも十分だった。
移動速度の上がったディケイド激情態は、DIOが狼狽えたことにより動きの鈍ったザ・ワールドの脇をすり抜ける。
光り輝くライドブッカーの刃を振りかぶる。
「待ッ…!」
気付いた時、DIOにはこれを真正面から完全に止める手はなかった。
ザ・ワールドは10m離れた場所にいる。
自分の手は砕けていて、刃を止めるための道具を持てない。
DIOの言葉も聞かず、JUDOはエネルギーを纏った刃で縦方向に振り下ろした。
◇◆
「グッ…!」
ライドブッカーの刃が振り下ろされた後、DIOは何歩か後退る。
彼の体には、確かに刃による傷はつけられた。
けれどもそれは、致命的なものにはならなかった。
手は確かに出なかったが、足は出せた。
咄嗟に左足でキックを放つことはできた。
けれども、その攻撃が当たったわけではない。
キックが飛んでくることに気付いたJUDOは、刃を振り下ろしながらも1歩下がってキックを避ける。
結果、DIOにはライドブッカーの刃はキックが放たれなかった場合よりも浅めに届いた。
しかしこれは、DIOにとって望んでいたように被害を軽減できたわけではない。
深い傷にならなかっただけで、確かに刃はDIOの肉を切り裂いた。
顔から胸にかけて、赤色の線が体の上を走っていた。
それにより一瞬精神力にブレが生じ、ザ・ワールドのスタンド像が消えてしまった。
-
それよりも、もっと大きな問題が発生していた。
今ここにいるDIOの顔は、エターナルのものではなかった。
最初に彼にと配られた、ジョナサン・ジョースターの顔に戻っていた。
仮面ライダーへの変身を解除されていた。
その理由は単純だった。
勢いよく振り下ろされたライドブッカーの刃は、DIOの腰に巻き付けられていたロストドライバーには届いた。
そうして、ロストドライバーとそこに差し込まれていたエターナルメモリは破壊された。
DIOが被っていたエターナルの仮面は、今ここで完全に剝がされた。
「ア…グ………アア゛…ッ」
DIOは体を震わせ、よろめきながら更に数歩後退る。
その顔色はとても悪かった。
「まただ…この…吐き気と頭痛は……何故だ…何故このDIOがまた、こんな…!」
DIOは焦点の合っていない目で戯言を呟く。
多量の出血とダメージ、そして精神的なショックによりまともな状態にはいられなくなっているようだった。
対するJUDOは、ライドブッカーをガンモードに変えゆっくりと銃口をDIOに向ける。
その銃の標準を、相手の眉間へと合わせる。
引き金に指をかけ、弾丸で止めを刺そうとする。
「!……………WRYAAAAA(ウリイアアアアア)!!」
「ムッ…!」
相手がやろうとしていることを認識した途端、DIOは叫んだ。
同時に、右腕を勢いよく振ってそこから流れる血を相手にぶつける。
JUDOは、血で目潰しをされた。
「『世界(ザ・ワールド)』オオオオオオオオォォォォッ!!!」
目潰しをした直後に、DIOはそう叫んだ。
JUDOは仮面に付着した血液をすぐに拭い取り、即ライドブッカーで発砲する。
しかし、その弾が当たることはなかった。
「……何?」
JUDOの目の前からDIOはきれいさっぱりと消えていた。
発砲されたライドブッカーの弾は何もない空間を飛んで行った。
◇◆◆
(今のは…まさか、あいつと同じ…?)
先ほどまでのあれやこれやを見ていた志々雄が思考する。
DIOがさっきからザ・ワールドと…承太郎が自分を吹っ飛ばす前に叫んでいたものと同じ言葉を叫んでいたことには気づいていた。
承太郎の時は、自分は気がついたらほんの一瞬の内に多量の拳を打ち込まれた。
それは、素早く何回も打たれた、なんてものじゃ決してなかった。
まるで、無数の拳が1秒の誤差も無く、全くの同時に打たれたような感覚だった。
それを実現可能にした能力の正体は流石に分からない。
けれどもDIOは、これまでの戦いではそれを使ってはいないようだった。
しかし今DIOがザ・ワールドと叫んだ瞬間、DIOは消えた。
何が起こったのかは分からないが、今感じているこの得体の知れなさは、承太郎が「スタープラチナ・ザ・ワールド」と叫んだ後と同じようなものだと、何故かそんな気がした。
「…あっちか」
少しの間止まっていたJUDOが呟き、首を動かして視線を別の方に向ける。
呟きを聞いた志々雄も、同じ方向に視線を動かしてみる。
-
「……なるほどな。だが、どうやっていつの間にあんな…?」
実際に見てみたことでJUDOの言ったことを理解する。
燃え焦げた黒い木々に阻まれて見えにくいが、DIOが背を向けてここから離れようとしている様子が見て取れた。
「ん?今、何か…」
一度、瞬きをしてみたら、その一瞬でDIOが更に遠くに離れたように見えた。
それは、瞬きをするくらいの短い時間では到達できない距離のように感じ取れた。
「我は追う。貴様は好きにしろ。………だが次に会えば、その時は闘争だ」
考え事を始めかけていた志々雄に対しJUDOが声をかける。
その言葉の裏にあるのは、ここで一旦別れることを望むというものだった。
裏切ったこっちのことはすぐにでも殺したいだろうに、それを抑えてJUDOが最初に提案したような状態にしようと言っているようだった。
「そうかい。じゃあその言葉にも甘えて……って、おい」
志々雄が返事をしようとした時、JUDOは既にここから離れようとしていた。
ついでに、もう使えないであろう破壊したメモリとロストドライバーも拾って持ち去っていた。
もう言葉はいらない、再会できれば殺し合おう。
このことだけ通じ合っていればそれで十分といった感じであった。
(……ったく。それは別に良いんだが、厄介な奴になっちまったみてえだな…)
志々雄は思い返す。
先ほどの戦いにおいて、再生能力を持っていたはずの相手に、JUDOは再生不可能な傷を付けた。
それはどうも、一度死の淵から復活した後に目覚めた能力のようだった。
もしかしたら、その能力に目覚めるためにわざと自分が裏切って攻撃してくるように仕向けたのではないか…何て考えも浮かんでしまう。
あの不治の傷を負わせる能力について、志々雄はこうも考えてしまう。
それは、今の自分の柱の男の肉体にも有効なのじゃないかということだ。
この肉体を殺せるのは日光だけだと思っていたが、ここで新たな手段が生まれてしまった。
(けどまあ、だからと言って臆する理由にゃならねえな)
そもそも元々の志々雄は柱の男のように傷が即再生するような存在ではない。
例え全身を丸焦げにされても生きていたとしても、志々雄真実はあくまで人間だった。
JUDO相手に戦う時はこの肉体の再生能力のことを忘れて戦えばいいだけの話だ。
(あいつはまあ…もう駄目だな)
志々雄は既にDIOはこの後JUDOに殺されると認識している。
あれだけ自信たっぷりで堂々としていたのに、あんな醜態を晒してしまえばもう終わりだ。
万が一この後JUDOから逃げ切れたとしても、長くは無いだろう。
自分が殺したヴァニラ・アイスが動揺してしまったみたいに、あいつは本来そういったものの器じゃなかった。
それが無理に、自分の心の弱い部分を認めようとせず、常に強く見せようとしてしまったためにああなった。
ヴァニラは、それに運悪く…DIOにとっては運良く、騙されてくれていたのだろう。
それがどうやら、綻びかけていたからヴァニラはああなってしまったのだろう。
もし、先ほどの戦いでJUDOが蘇らず、自分とDIOで休戦することになったとしても、DIOはこの殺し合いを最後まで残ることは出来ないだろうなと志々雄は考える。
むしろそう感じていたからこそ、自分はJUDOを裏切ってでもDIOを残そうとしたのかもしれないとも志々雄は思う。
その結果が、より強い相手を生み出すことに繋がったと言えるかもしれない。
(ならば、もっと強くなって、あいつを超えなくちゃな)
JUDOは、自分を超えて強くなったと言えるかもしれない。
ならば自分も、もっと強くならなければJUDOには勝てない。
そう考えた時、志々雄の口元に微かな笑みが浮かぶ。
自分にまだ、伸びしろがあったという風に感じていた。
もっと強くなれるかもしれないことを、楽しみに感じる気持ちが出てきていた。
もし再会する前にJUDOが死ぬようなことがあれば、そいつを殺した奴を殺せばいい。
そうすることで、自分はもっと高みを目指せると感じてきていた。
◇
-
『HEAT』
(……直ったみてえだな)
何気なしに、持っていたヒートメモリの動作確認も行ってみる。
先ほどの戦いでは、DIOがエターナルメモリを使った瞬間に壊れた。
そのメモリに原因がある可能性は、志々雄の中でも僅かに浮かんでいた。
エターナルメモリが破壊された今、もしかしたら直っているかもしれないとも思い、試しに確認してみた。
思っていた通り、ヒートメモリはもう直っていた。
もしDIOの方が残っていたらメモリは動かないままだったかもしれないが、まあその時はその時でどうにか戦おうとは思っていた。
けどもまあ、こうして直った以上そういった考えは杞憂に終わった。
(さて…後もう少し待つべきか?)
志々雄の次の行動方針、それは公衆電話でC-5の村にワープすることだ。
その方が、前に話した通りモノモノマシーンのある網走監獄のより近くに行けるからだ。
元々はここで待ち伏せしていたが、やはり地下通路のモノモノマシーンが封じられた以上自分が使ってしまった方が早い。
DIOが話していたサニー号の方は、首輪を持っていないから自分は使えないため行く必要性が無い。
そして公衆電話は一度入ったら10分は繋がったままだが、これを他の奴…特にJUDOがその間に通る可能性は低い。
自分が使った後、10分経過するまでに戻って来れるかは分からないし、何よりあの言い草からしてそもそも戻って来るつもりもないだろう。
つまりはここからが、志々雄の新たなスタートになるのだ。
公衆電話で移動した後にどんな奴らに会うことになるだろうか。
そういったことに少し楽しみな気持ちがあることを感じながら、志々雄は公衆電話が使用可能になる残り数分を待ち始めた。
【G-3 森 地下通路②付近/夜】
【志々雄真実@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-】
[身体]:エシディシ@ジョジョの奇妙な冒険
[状態]:疲労(中)、体に無数の刺し傷(再生中)、諸々のストレス(ある程度解消)
[装備]:エンジンブレード+ヒートメモリ@仮面ライダーW
[道具]:基本支給品、炎刀「銃」@刀語、アルフォンスの鎧@鋼の錬金術師
[思考・状況]基本方針:弱肉強食の摂理に従い、参加者も主催者も皆殺し
1:公衆電話が使えるようになったらそれですぐに移動する。
2:首輪を外せそうな奴は生かしておく
3:戦った連中(魔王、JUDO)を積極的に探す気は無い。生きてりゃその内会えんだろ
4:再びあいつ(JUDO)と戦う時が来たら、自分の身体が再生能力を持っていることは忘れる
5:未知の技術や異能に強い興味
6:日中、緊急時の移動には鎧を着る。窮屈だがな
7:一人殺したってことは、"ものものましーん"が使えるんだよな?
8:だが、自分の首輪を外すためには、残しておくための首輪の予備も必要になるか?
9:あいつ(DIO)は…もうダメだな
[備考]
※参戦時期は地獄で方治と再会した後。
※JUDOが再生能力を封じて傷を付ける能力に目覚めたと認識しています。
※DIOはもう死んだものだと認識しています。
※G-3のどこかに、三分の一程折れた「時雨@ONE PIECE」と、鍔が一部欠けた状態の「秋水@ONE PIECE」が落ちています。
-
「あの場所へ!あの場所へ!…………行きさえすればッ」
黒焦げて葉を失った木々の間を、DIOはジョナサンの顔で必死に駆け抜ける。
いくつか倒れた木も踏みつけ、灰や炭を巻き上げ、それを浴びることになっても気にせずに走り続ける。
その過程で、DIOの姿は何度か消えて少し先を進んだ場所に突然出現するなんてことを繰り返していた。
DIOは、時間を止めながら移動していた。
止められる時間は、本来のものと同じく約5秒程だった。
本来失われていた能力が、復活していた。
JUDOにしてやられ、命の危機を感じた時、この能力が土壇場で復活した。
もしかしたら…一応時間に干渉する能力の一種である、クロックアップが近くで使われたことによる影響も…僅かにあるかもしれない。
別にそんなことはないかもしれない。
とにかく、DIOは時間停止能力も使いながら目的の場所へと急いでいた。
――本当なら、この能力が復活した時点で、それを活かした攻撃をJUDOに仕掛けるという手もあった。
けれども、再生能力を失ったことで出た焦燥感が、DIOにこのような行動をとらせてしまっていた。
肉体の本来の持ち主であるジョナサン・ジョースターであれば、大量出血と両手を砕かれた状態でも、反撃する意思を持てたかもしれない。
そうでなくとも、せめて波紋を使えるよう練習するなどしておけば、痛みを和らげて精神的余裕を少しは維持できたかもしれない。
しかしDIOは、精神的ショックにより、こちらの道の方を選んでしまった。
肉体が再生しないという不安を、心の中から取り除くことを優先しようとしてしまった。
◆
DIOの目指す先、それは地図において「ジョースター邸」と記された場所だ。
DIOは確かに、この場所へと到達した。
だがそこには、ジョースター邸と呼べるようなものは存在してなかった。
ジョースター邸は、火事により焼け崩れてしまっていた。
しかしそれでも、DIOはこのジョースター邸跡地の中に突っ込んでいった。
この中にあるはずの、目的のものを探すために。
「どこかに…どこかにあるはずなんだ!石仮面が!」
DIOの希望、それはジョースター邸の中にあるはずの石仮面で吸血鬼化することだった。
吸血鬼の再生力で、自分に付けられた傷を治すという考えだった。
「どこだ…どこにあるッ!」
DIOは必死の形相で、ザ・ワールドや自分本体の足で瓦礫を砕き蹴り飛ばしたりする。
それでどかすことが出来なさそうな瓦礫は、砕けた腕で激痛を感じながらどうにかしてどかそうとする。
以前…DIOがDIOになる前のディオ・ブランドーだった頃、本物のジョースター邸は火事で焼失したことがある。
その時の石仮面は、瓦礫の下でも無事な状態であり、ワンチェンという中国人が掘り返して取り出そうとした。
その時はディオ・ブランドーも近くに埋まっていた。
DIOは、その時の記憶を頼りにまずはその場所を探ってみる。
「クソッ!ここじゃないのか!」
しかしいくらその場所を掘り返してみても、石仮面は見つからなかった。
その前の火事の時に石仮面が元々あった場所は、実はジョースター邸の窓際の外の方だった。
そうなったのは、ディオが石仮面を被った直後に警官隊に発砲され、外まで吹っ飛ばされたからだ。
石仮面が元々はどこにあったのか、DIOは次にその記憶を探る。
そうして次に目指すのは、当時の自分がこの屋敷に初めて来た時に石仮面があった場所。
あの時、ジョナサン・ジョースターに自分が泣くまで殴られ続けた屈辱の記憶のある場所。
ジョースター邸の、広大な玄関ホールだ。
石仮面は、最初はそこの壁に飾られていた。
「ハア…ハア……どこだッ!」
焦る気持ちは体力の消耗を激しくさせる。
息を切らしながらも、DIOは石仮面を探し続ける。
僅かな記憶を頼りに、石仮面があったはずの場所を掘り返し続ける。
「………あ……………アア………ッ!」
DIOはやがてあるものを見つける。
しかしそれを見つけた時、DIOの表情は絶望の色に染まる。
DIOが見つけたのは、砕けた石仮面だった。
-
かつての石仮面が火事の後に無事だったのは、運が良かったことと、外に出されていたこともあったのだろう。
下が柔らかい土であったために、瓦礫が落ちてきてもそこに埋まる形で無事だった。
けれども今回石仮面があったのは、初期位置であった玄関ホールの壁だ。
その下にあるのは、硬い床だ。
石仮面はそこに落ちた後、上から降ってきた瓦礫に押しつぶされて砕けてしまっていた。
もはや、ここにおけるDIOの希望は残っていなかった。
◆
「ここにいたか」
このタイミングで、JUDOがDIOに追いついてきた。
灰の降り積もった火事後の森の中では、DIOの通った跡も残っていた。
それにより、JUDOはジョースター邸に辿り着くことができた。
(………まだだ。まだ活路はあるはずだ!運命は常に、このDIOに味方してきたではないか!)
DIOはそう自分に言い聞かせてまだ絶望しまいと奮い立つ。
(そうだ…ザ・ワールドの時間停止能力は復活しているんだ。この無敵の能力があれば、このDIOの勝利に揺るぎはないはずだ!)
相手がこれからどんな攻撃を仕掛けてこようとも、時間が止まっている間ならこちらの好き放題にできる。
ザ・ワールドを近づかせて腰のベルトを外すことができれば、相手を無力化することができる。
……本当ならそれを最初に能力が復活した直後にできればよかったのだが、ここまで来てしまえばそれを言うのは後の祭りだ。
『FINAL ATTACK RIDE DE DE DE DECADE』
JUDOはカードをディケイドライバーに差し込む。
選択したのは、ディケイドとしての基本の必殺技・ファイナルアタックライドのカードだ。
ディケイドライバーから音声が流れると同時に、JUDOとDIOの間に黄色のカードの像がいくつも出現する。
この像は、JUDOからDIOに向かって発生していった。
「フンッ」
JUDOはその場で跳び上がり、空中でライダーキックの姿勢をとる。
カードの像もそれに合わせてJUDOからDIOまでの導線となるように動いて並ぶ。
「ハアアアアアアアァァァーッ!!」
そしてその姿勢のまま、カードの像を貫きながらDIOに迫っていった。
これぞディケイドの必殺技、ディメンションキックであった。
「(……今だ!)世界(ザ・ワールド)!!」
JUDOがカードの像を潜り抜けていく途中で、DIOは時間を止めた。
1秒経過。
DIOは横方向に移動してディメンションキックのカードが作る道筋から遠く外れる。
2秒経過。
前方向に移動して、ザ・ワールドの射程距離内にJUDOが入れるようにする。
(残り3秒!ここで片を付けるッ!行け!ザ・ワール…)
-
(……………………………………………ハ?)
その時、DIOの思考が止まった。
しかしそれは、時の止まった世界をJUDOが動いたとか、そんなわけではない。
JUDOの下へと行こうとしたザ・ワールドの動きを、止めたものが存在した。
そんな風に、見えてしまった。
それはDIOにとって、信じられないものであった。
紫色の茨のようなものが、ザ・ワールドの像に巻き付いているのが見えた。
茨は、ザ・ワールドの首や肩回り等に絡みついた。
これはDIOの、ジョナサン・ジョースターとしての肉体から発生しているように見えた。
この茨に、DIOは見覚えがあった。
かつて、ジョースター一行を「念写」するために、DIO自身が使った茨だ。
その時のDIOの、首から下のジョナサン・ジョースターの肉体から発現していたスタンド「ハーミットパープル」もしくは「ザ・パッション」。
それが今、自分の肉体から出現してザ・ワールドを止めようとしているかのように見えた。
「……!しま、早く奴を…!」
気付いた時には、もう遅かった。
突然出現したように見えたジョナサンの肉体のスタンドは、本来はザ・ワールドを引き止めるだけのスタンドパワーを持っていない。
しかしここにおいては、現れたように見えたという事実が重要だった。
これにより、DIOの思考が2秒止まった。
最後の1秒でザ・ワールドをJUDOの方へと向かわせようとする。
しかし、向かわせている途中で、時間停止の限界が来た。
ザ・ワールドが到着する頃には既に、JUDOはカードの道筋にそって進んでいた。
(いや、まだだ!奴の技は外れる!戦いはまだ終わってな…)
もう既に自分は移動しているから、相手の必殺技は当たらない。
そう思ったまま、DIOは後ろを振り返る。
そして再び、DIOの思考が止められる。
また、信じられないものを見てしまった。
自分が離れたはずの黄色のカード像の群が、再び自分の方へと並んでいた。
このカード像の群は、DIOが動いた分だけ曲がりくねった道筋を作っていた。
JUDOはその曲がった道筋に沿って、カードの像を通過し続けていた。
◇
ディケイド激情態のディメンションキックとディメンションブラストには、追尾機能が存在する。
これは、通常のディケイドのファイナルアタックライドにはないものだ。
例え空の彼方に行こうとも、一度狙われたら、逃れられる術はない。
◇
-
「………WWRYYYYYYYAAAAAAAAAA(ウウリイイイイイイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア)!!!!」
ここでDIOにできる最後のこと、それはザ・ワールドを急いで引き戻してJUDOのキックにぶつけることだけだった。
迫りくるディメンションキックが、DIOに届くまさに直前で、ザ・ワールドのキックとぶつかり合う。
ザ・ワールドの左足の脛、それも丁度膝のすぐ下の辺りとディケイド激情態の足裏がぶつかり合う。
それはまさに、本来の「ジョジョの奇妙な冒険の世界」において、DIOが最後に空条承太郎のスタープラチナの拳と打ち合った場所であった。
『ビシ!』『ビシ!』『ビシ!』
「!!あっ…」
そしてここでザ・ワールドのスタンド像が辿る運命も、本来の世界のものと一致する。
ザ・ワールドの左足にヒビが入り、そのまま砕かれて行く。
本来の世界と違う点は、これを砕いているモノの方にはヒビが入らなかったことだろう。
そしてここから起きることも、本来の世界のDIOとは少し違ってくる。
ザ・ワールドの左足が砕かれたことにより、DIOの左足もそのフィードバックで砕け、膝から下が分かれて失われる。
そして、ディメンションキックはまだ止まらない。
ザ・ワールドの左足を砕き抜け、そのままDIO本体の方へとキックが向かって行く。
DIOは咄嗟に両腕を動かして手の平でこれを止めようとする。
けれども、砕けた両手でまともにそんなことが出来るわけがない。
両手が無事だったとしても、結局は不可能なこと、「無駄」なことに終わっただろう。
『ドン!!』
ディメンションキックは、DIOの胸に突き刺さった。
DIOは、勢いよく後方へと吹っ飛ばされた。
DIOが最期に思い浮かべるのは、こうなる直前に自分を妨害した紫の茨についてだ。
あの茨が本当にスタンド像だったのか、それは不明瞭なことだ。
もしかしたら本当はそんなものは出ていなく、見たものは幻覚だったのかもしれない。
けれども確かに、DIOはそれを見たことにより思考が鈍り、JUDOへの攻撃が失敗した。
それにより今こうして、DIOは今度こそ致命的な攻撃を受けてしまった。
これはまるで、その茨のスタンド像を出せる肉体…ジョナサン・ジョースターの意思がDIOを…ディオ・ブランドーを止めようとしたかのようだった。
そのように、感じてしまった。
「―――――ジョジョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!」
DIOが断末魔に絶叫したのは、かつてディオ・ブランドーだった頃の『友』の愛称だった。
吹き飛ばされたDIOは、やがて屋敷内の瓦礫の山の中に突っ込む。
そこでDIOの体は、あるものに貫かれる。
それは、ジョースター家の守護神『慈愛の女神像』だった。
火事の影響で屋敷が崩れた際、瓦礫の落下に巻き込まれて女神像は倒れ、傾いていた。
それが偶然にも、DIOが吹き飛ばされた先で先端を向けた状態で存在した。
ディオ・ブランドーがかつて吸血鬼となった直後、まだ波紋も知らない頃のジョナサンに最初の敗北を喫した時にもこの女神像に貫かれた。
角度は大きく違うが、その光景が再現されているかのようであった。
しかしDIOは、もうそのことを認識することは出来なくなっていた。
こうして、120年生きた邪悪の化身は今度こそ自分の運命の半身の肉体と共に滅びた。
永遠だと思っていたものは、破壊の化身によってあっという間に破壊された。
周りのモノを利用するだけ利用してばかりだった彼の人生は、こうして運命の始まりの地が再現された場所で終わりを告げた。
それが、ここにおける彼の運命の結末だった。
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険(身体:ジョナサン・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険) 死亡】
-
◆
ディメンションキックを放った後、JUDOはディケイド激情態の姿のまま慈愛の女神像に貫かれたDIO…ジョナサン・ジョースターの肉体の死体に近づく。
そしてライドブッカーをソードモードにし、これで死体の首を横から切り落とす。
切り落とした首から、首輪を外して回収した。
次に、死体の背中側を見て相手が持っていたデイパックの状態を確認する。
…DIOが持っていたデイパックは、女神像に貫かれた際の衝撃で大きく破れていた。
それにより、中にあった品々は辺りに散乱していた。
JUDOはそれらを一つずつ拾って自分のデイパックの方に仕舞う。
なお、DIOのデイパック内にあったジークの脊髄液入りのワインは、デイパックから出て床に落ちた際に割れてしまっていた。
そのためこれに関しては、JUDOは回収しなかった。
DIOの足首に装着されていたアトラスアンクルは、回収しなかった。
これは一応切断された方の足に着いていたが、足首に着いているため外れた状態にない。
ここではただの装飾品だと思って、取ることはなかった。
また、精神と身体の組み合わせ名簿についても、既に持っているため拾わなかった。
DIOのデイパック内にあったであろう品物をある程度回収した後、JUDOはまた別の何かを探すような動作を始めた。
「…カードが無い」
JUDOが探していたのは、エターナルのライダーカードだった。
ディケイド激情態には、倒した仮面ライダーの力をカード化して自分の力にする能力もあった。
JUDOは感覚で、そんな力もあることを何となく感じていた。
けれどもここにおいて、エターナルのカードは出現していなかった。
どうやら、この殺し合いにおいては激情態までは良くてもその能力に対しては制限の対象になっているようだった。
ベルトを破壊した時にカードが現れなかったため、もしかしたら変身者の殺害も行わないといけないからかとも思ったが、そういうわけではないようだった。
そのことに対し、JUDOには少し不快感もあるようだった。
念のため持ってきた、破壊済みのエターナルメモリとロストドライバーにも変化はない。
これらはもう使えないためその辺に放り投げ捨てた。
「……まあいい。次は奴らだ」
JUDOはそう呟くと変身を解き、自分が持っていたデイパックからトビウオを取り出す。
そしてこれに乗って、火事によって崩れ去ったジョースター邸の天井から飛んで出て行った。
大雨が止んだため、この移動法も安全に行えた。
JUDOの行き先…それは前から考えていた通り、風都タワーの方に戻ることだ。
地下通路のモノモノマシーンが封鎖されたため、もはやこの方面のエリアでの用事は無い。
それよりも、前から考えていた通り風都タワーに行った方が前に戦った者達が戻ってきていて闘争ができる可能性が高い。
風都タワーに誰も来なければ、その時は網走監獄方面に向かえばいいだろう。
そこならば他の者達も集まって来る可能性は高いし、先ほどの戦闘前の話でも元からそっち方面に誰かがいる可能性は提唱されていた。
特に、DIOが話していた色違いの同じベルトを使う者、それについて気になる気持ちも多大にあった。
……ただ、今のJUDOは思考には、前のJUDOと違う点があった。
それは、破壊衝動だった。
特に、「仮面ライダー」に対して大きくその衝動が向いている感じがあった。
これは、ディケイド激情態に覚醒したことによる代償と言えそうなものであった。
『世界の破壊者』としての運命を受け入れたために、あらゆることに対し破壊を望む心が生まれていた。
殺し合いの基本的な方針についても、ただ優勝するだけでなく、この世界の全てを破壊することを望む気持ちが出始めていた。
本来が仮面ライダーの世界の破壊者であるため、その気持ちが仮面ライダーに対し特に強めに出ていた。
これらの事に対し、JUDOに自覚的なものは薄い。
力の影響で生まれたこの意思を、自分のものだと認識してしまっていた。
これは、先ほどの戦いで一度死の淵に立ったことも少なからず影響していた。
風都タワーに向かうのも、そこで戦った仮面ライダー達、その生き残りを特に破壊したいという気持ちもあったからだ。
他に話しに聞いた仮面ライダー達のことも、最終的には自分が破壊することを望んできていた。
破壊の化身と化した大首領は、内に激情を秘めたまま、飛び立っていった。
-
【G-4 ジョースター邸付近 空中/夜】
【大首領JUDO@仮面ライダーSPIRITS】
[身体]門矢士@仮面ライダーディケイド
[状態]疲労(大)、激情態、破壊衝動
[装備]ディケイドライバー+ライドブッカー+アタックライド@仮面ライダーディケイド、トビウオ@ONE PIECE
[道具]基本支給品×5、賢者の石@ドラゴンクエストシリーズ、警棒@現実、アクションストーン@クレヨンしんちゃん、精神と身体の組み合わせ名簿×2@オリジナル、レインコート@現実、海楼石の鎖@ONE PIECE、逸れる指輪(ディフレクション・リング)@オーバーロードプロフィール(クリムヴェール、ピカチュウ、天使の悪魔)、首輪(デビハムくん、貨物船、姉畑支遁、悲鳴嶼行冥、鳥束零太、DIO)
[思考・状況]
基本方針:優勝を目指す。そしてこの世界の全てを破壊する。
1:闘争を楽しむ。そして破壊する。
2:仮面ライダーは優先的に破壊する。
3:風都タワーに向かい誰かいれば闘争を楽しむ。そして破壊する。
4:風都タワーでの用事が終わったら、網走監獄方面に向かう。
5:先ほどの者(志々雄)は、もし再会するようなことがあったらその時破壊する。
6:我と同じベルトを使う仮面ライダー…何者だ。そいつもいずれ破壊する。
7:改めて人間どもは『敵』として破壊する。
8:疲れが出た場合は癪だが、自制し、撤退を選択する。
9:優勝後は我もこの催しを開いてみるか。そして、その優勝者の肉体を我の新たな器の候補とするのも一興かもしれん。
[備考]
※参戦時期は、第1部終了時点。
※現在クウガ〜キバのカードが使用可能です。
※ディケイド激情態に変身できるようになりました。
※破壊の力に目覚めました。本来は不死身である存在や、特殊な条件を満たせないと倒せない相手でも、問答無用で殺害することが可能であると思われます。
※ディケイド激情態の、倒した仮面ライダーをカード化する能力は制限で使えないものとします。
※「アトラスアンクル@ペルソナ5」は、ジョナサン・ジョースター(身体)の死体に付けられたままです。
※「ロストドライバー+T2エターナルメモリ@仮面ライダーW」は破壊されました。
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投下終了です。
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すいません、大首領JUDOの現在地について修正します。
正しくは、F-4となります。
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大首領JUDOの状態表内にある賢者の石について、次回放送まで使用不可であるということを追記しておきました。
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投下お疲れ様です
雨宮蓮、エボルト、アルフォンス・エルリック、ン・ダグバ・ゼバを予約します
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すみません、大首領JUDOの状態表について、再び追記したことを報告します。
備考欄に念のため、「※ディケイド激情態が劇中で使っていた、ギガント等の平成一期サブライダーの武装のアタックライドカードは、ここにおいては無いものとします。」と記しておきました。
-
投下します
-
◆
――戦う宿命ひとつだけの道標(こたえ)
◆
放送が始まった。
蛇口をキツく閉じたように雨が止み、バトルロワイアルが次のステージへ移り変わる。
禁止エリアの発表や会場に仕掛けられたギミックの説明。
これらを無視するとは即ち、自らの首を絞めるも同じ。
常人とはかけ離れた精神の持ち主だろうと、放送の重要性を理解出来ない無能に非ず。
数時間前に壮絶な最期を遂げた川越市の殺人鬼でも、流石に耳を傾けたくらいだ。
グロンギの王もまた移動を暫し中断し、内容を聞き逃すまいと会場中央に映し出された少女を見上げる。
「……死んじゃったんだ」
ポツリと、誰に向けるでもなく呟いた言葉。
あっという間に寒風に溶けて消えたソレに、多少なりとも驚きが含まれると知るのはダグバ本人のみ。
両面宿儺と呼ばれた存在の死を嘆き悲しむ気は皆無。
いなくなって嬉しいか否かと問われたら、特に迷わず前者を選ぶ相手。
ただ相応の実力者であったのもまた事実。
どうせこの先も腹立たしい笑みを浮かべ、のらりくらり死をやり過ごすとばかり思っていた。
よもやこうして他者の口から業務的に脱落を知らされると、何とも現実味が薄い。
誰に殺されたのか、どうやって死んだのか。
単純に実力の差で敗北したか、或いは予期せぬアクシデントに見舞われたか。
首を傾げて考え込むも、ほんの数秒でどうでもいいかとあっさり放棄。
ゲゲルを楽しんでいれば宿儺の殺害者ともいずれ会えるに違いない。
その時自分が笑顔になれば別に良い。
-
双葉と名乗った少女が動揺を露わに『ボス』の伝言を口にし、ややあって会場は静けさを取り戻す。
亀やカメラと言われても何のことやらサッパリだ。
まさかガメゴが今回のゲゲルの黒幕と言うことでもないだろう。
仮にグロンギの同胞が関わっているなら、バルバの方がまだ可能性は高い。
本当にいるかどうかは知らないが。
「まぁいいや」
バルバがいようがいまいがゲゲルを楽しむ方針に変わりはない。
新たに指定された禁止エリアはついさっき闘争を繰り広げた街を含むD-6。
元々西に行こうと考えていたが、これで否応なしに向かわざるを得なくなった。
当然ダグバ以外の参加者も早々に街を出た筈。
となると、やはりこのまま予定通り西へ行った方が良い。
移動中の蓮やエボルト、キャメロットと遭遇する可能性は十分に考えられる。
仮に彼らと会えなくても西側で新しい相手を見付けるのも悪くない。
そうと決まれば行動開始だ。
まずは斬月・真の変身を解き、残った分のエリクシールを飲み干す。
道中他の参加者とぶつかるかもしれないのを思えば、少しでも万全の状態に近付けておきたい。
完全回復せずとも幾らか痛みが引き、戦闘に支障が出ない程度には元通り。
これでアークワンも仕えれば文句なしだが、そちらはまだ時間を置かねばならない。
簡単には無くなりそうもない不満を感じつつ、魔法のじゅうたんを再発進。
雨の匂いが未だ濃く残る草原を走り、どれくらいが経ったか。
前方に人影を発見、しかも目当ての参加者と来た。
まるでお気に入りの玩具を見付けた子供のように喜び、移動中のじゅうたんの上に立つ。
少しでもバランスを崩せば地面へ投げ落とされるにも関わらず、恐怖とは無縁の顔でロックシードを起動。
同胞を幾度も撃破した戦士と同じ言葉を口にする。
「変身」
『ロックオン!ソーダ!メロンエナジーアームズ!』
クラックからメロンが降下、装甲へ変化し斬月・真への変身が完了。
真紅の弓で狙いを付け、一切の躊躇なしに矢が放たれた。
-
◆◆◆
何とも奇妙な感覚だと、ハンドルを握りアルフォンスはふと思う。
二つの車輪で動く乗り物でも自転車と違う、バイクなる未知の道具。
蓮や凛からすれば大通りに出れば当然のように見かけるが、アルフォンスの生まれた世界には存在しなかった物だ。
だというのにどうだ、多少の危なっかしさこそあれど事故を起こさず走り続けているではないか。
当然ながらアルフォンスはバイクの運転技術など持ち合わせていない。
にも関わらずこうして問題無くバイクを動かしているのは、肉体の影響と理解しても何とも言えない感覚を覚える。
(冷たい、なぁ…)
顔に当たる風は容赦なく体温を奪い去る。
けれど嫌に感じないのは、暖かさとは無縁の鎧の体では味わえない体験だからか。
というか鎧のままだったらバイクを乗り回すのだって、多分無理だったろう。
もしも、今が殺し合いじゃなく、他人の体じゃ無く元の体なら。
純粋に未知の体験へ心を弾ませられたのか。
兄がバイクに錬金術で悪趣味な改造をしようとするのを止めたりして。
ウィンリィを後ろに乗せてあげなよ、なんて言ったら慌てるかもしれない。
此処にはいない家族と幼馴染の顔を思い浮かべ、
(あっ、ここって…)
見覚えのある場所に来たと気付く。
草原は荒れに荒れており、ただならぬ事態が起きたのは明白。
遠くの方に薄っすら見える古き家屋が立ち並ぶ村。
しかし家々が破壊された悲惨さは、到底日本の原風景と感慨に浸れる光景ではない。
何があったかをアルフォンスは知っているが、根本的な原因までは不明。
確かなことは一つ、自分は遅過ぎた。
もっと早くに村へ到着していたらと後悔したってどうにもならない。
起きてしまった現実を無かった事に出来ない、そんなのはエルリック兄弟が一番理解しているのだから。
それでも心が沈むのだけは抑えようが無く表情に影が差し始め、
-
「っ!?」
目の前で火花が散った。
草花が弾け飛び、土埃が舞う。
咄嗟にブレーキを掛け転倒を防いだのも肉体の影響が為せる恩恵か。
アルフォンスと並走していたハードボイルダーも同様。
突然の襲撃にバイクを急停車、ハンドルから手を放し周囲を警戒する。
「折角のツーリングが台無しだぜこりゃ。空気くらい読んで欲しいもんだ」
軽口を叩きつつもエボルトの視線は険しい。
右手には既にトランスチームガンが握られており、必要とあらば発砲に躊躇は無し。
蓮もまたジョーカーメモリを取り出し、闘争への備えは済んでいた。
誰がどこからとの疑問は時間を置かずに解決される。
東側の街がある方から徐々に近づくシルエット。
白い鎧に身を包んだ弓兵を知らない者はここにいない。
「もしかして遠坂さん達が戦ったって言ってた…」
「そんでもって、承太郎達を殺したのもアイツらしいな」
「…っ」
奥歯が噛み締められ、メモリを握る手にも力が籠る。
三人の仲間を殺した凶悪な仮面ライダー。
しかも敵はゲンガーが命を落とす原因にもなっているのだ。
強敵と対峙する緊張感、仲間を奪われた怒り。
火炎の如く内側から熱を帯びる感情が、戦場の空気を一層研ぎ澄ませた。
-
燃え滾る敵意もダグバからすれば、自分を笑顔にさせる一要素でしかない。
嘗てジャラジを惨殺したクウガと一緒だ。
激しく怒り、より苛烈に戦ってくれる方がこっちも楽しくなるというもの。
魔法のじゅうたんを降りて、今宵のターゲット達を見据える。
知ってる二人と知らない一人、残念ながら再選を望む参加者全員はいない。
「あの金髪の女の子はいないんだね」
「キャメロットを指名したかったのか?お目当ての奴が不在ってんなら、大人しく引き下がってもらいたいんだがなァ」
「なんで?あの娘がいなくても君達が僕を笑顔にしてくれるんでしょ?」
本気で不思議がるダグバへこりゃ駄目だと早々に話を打ち切る。
言動から薄々察してはいたが、相手はどうやら殺し合いそのものに快楽を見出すタイプ。
厄介な輩に目を付けられてしまったと諦め、力尽くでどうにかする以外にない。
面倒だと言わんばかりの仕草でボトルを取り出す。
ジョーカーメモリを掲げる蓮は言わずもがな、アルフォンスもドライバーを装着。
進んで戦いたとは全く思わないものの、他に方法が無い場面で尻込みする気も無い。
三人がそれぞれ変身を行うのを、ダグバは妨害に動かず待つ。
カメラアイ越しから残酷な期待が向けられ、望み通りに姿を変えた。
「変身!」
「蒸血」
「アマゾン!」
『JOKER!』
――MIST MATCH――
――COBRA…C・COBRA…FIRE――
『NEO』
電子音声が告げるは異なる世界の戦士たちの名。
本来であれば決して交じり合う事のないライダーが並び立つ。
仮面ライダージョーカー、ブラッドスターク、アマゾンネオ。
風の都の切り札、三都を跨ぎ暗躍する蛇、同族殺しの狩人。
異質な組み合わせの三体を前に、得物を構えるは黄金の果実を奪い合った鎧武者。
戦闘開始の合図は不要、殺意と敵意が交差した時既にゲゲルは始まっている。
-
「セト!」
敵が動き出すのを律儀に待ってやる義理は無い。
新たに手に入れた仮面の名を呼ぶ。
ジョーカーの意思に従い出現するは、闇が龍の形を取った怪物。
エジプト神話の悪神は若き錬金術師との絆の証。
長い首を振り、威圧するかのようにセトが一咆え。
ジョーカー達の全身が光に包まれるのは一瞬のこと。
何をやったと懇切丁寧に教えてやる馬鹿はここにいない。
アンクレットが脚力を極限まで高め、斬月・真の懐へと急接近を可能にする。
「へぇ…」
前に一戦交えた時以上の速さへ感心しながらも、体は迎撃へ動く。
こうも近付かれては呑気に弦を引く余裕は無い。
だが斬月・真の武器、ソニックアローは近接戦においても優秀な性能を誇る。
向こうから刃の間合いへ入り込んだのはむしろ好都合。
生き血を求める妖刀の如く、アークリムがジョーカーを斬り付ける。
しかし手応えはない、刃の餌食となったのは空気のみ。
躱されたと状況を理解するより早く、左腕を翳し防御の構えを取った。
腕部のプレートに走る衝撃。
それも一つや二つではなく、三つ四つと連続して拳が叩き込まれる。
一撃の威力は、斬月・真の装甲の前には痒いとすら感じない程に脆弱。
されど数にものを言わせれば徐々に防ぐ腕にも痛みが来る。
一方的な殴打を中断させるべく、斬月・真が蹴りを放った。
脚部に装着された黄金の装甲は変身者の身を守るだけでなく、攻撃力強化の役割を果たす。
がら空きの胴体目掛けて繰り出された打撃も、切り裂いたのは空気だけだ。
-
視覚センサーが真横から迫る黒い影を捉える。
ソニックアローを横薙ぎに振るうも、ジョーカーは咄嗟に屈んで回避。
視界が一段低くなった所へ今度は膝蹴りが襲う。
仮面を叩き割らんとする攻撃もまた、無駄を削ぎ落とした動作で躱す。
二度に渡る攻撃回避への称賛代わりか、振り下ろされたソニックアローが首を狙う。
『二人だけで盛り上がるなんざツレないねぇ』
割り込む形で蹴りがアークリムへと命中。
横合いからの一撃は軌道をズラす役目を見事に果たし、またもや刃は獲物から引き離された。
攻撃は空振り体勢も崩れた斬月・真はブラッドスタークにとって絶好の的。
トランスチームガンから高熱硬化弾が発射され、戦場に銃声が木霊する。
とはいえ自分が隙を晒したとは斬月・真も自覚している。
敵が好機を見逃す素人でないとは分かり切ったこと、動揺せずに対処へ動く。
生身ならばまだしも、アーマードライダーの機能を以てすれば殺到する銃弾も恐れるに足りない。
ゲネシスドライバーで変身したアーマードライダーの性能は戦極ドライバーの数倍。
敵の銃火器を一発残らず斬り落とす芸当とて不可能ではない。
現代社会で広く知られている拳銃は勿論、無双セイバーやアーマードライダーの龍玄のブドウアームズなど、同じく戦極凌馬が開発したアームズウェポンとて同じ。
開発者が違うトランスチームガンであっても、街での戦闘のように難なく防げる。
「痛っ…」
それがどうしたことか、数時間前とは明らかに違う光景があった。
防ぎ漏らした高熱硬化弾が装甲に命中、各部から火花が散らされる。
斬月・真の機能に問題は無く、ダグバのコンディションとて万全ではないがここまでのミスを犯す程でも無い。
にも関わらず被弾を許す原因は、ブラッドスタークの射撃精度が上がっているからだ。
殺し合いの前から使い慣れた武器と言えど、短時間でこうも能力がアップするのは些か奇妙な現象。
銃撃を受ける真っ最中の斬月・真に、理由をのんびり考える余裕は無いが。
-
ダメージは蓄積しても、斬月・真は未だ戦闘不能レベルの重症には至っていない。
装甲とライドウェアの高性能さを実感しつつ、ロックシードを装填。
殺し合いで痛みを与えられるのも楽しくはあれど、そろそろ反撃に移らねばつまらない。
『メロンエナジースカッシュ!』
アークリムにエネルギーが充填され、緑の巨大な刃へと変化。
ロックシードに手を付けた時点で、ブラッドスタークは大技が来ると察し銃撃を中断。
豪快に振るわれたエネルギー刃はアーマードライダー黒影や通常のスマッシュなら、軽く撫でただけでも致命傷は免れない。
地面を転がり初撃は回避、続けて振り下ろされた刃は起き上がるや否や跳躍し難を逃れた。
安堵するには早い、アークリムに纏わせたエネルギーは健在なのだから。
『メロンを被る意味は分からねぇが、悪くない性能だな。内海の奴にでもプレゼントしてやろうかね』
三撃目が襲い来る気配を前にしてもブラッドスタークに焦りは見当たらない。
余裕綽々の態度を崩すべくエネルギー刃が振るわれ、視界を緑色に染める。
『CLAW LOADING』
だがそれだけだ。
エネルギー刃はブラッドスタークを掠めもしない。
射出されたワイヤーフックがソニックアローを絡め取り、引っ張られたことで狙いは大きく外された。
『BLADE LOADING』
エネルギーが霧散したのを見計らい、アマゾンネオはドライバーを操作。
右腕の武器を剣に変え接近戦を試みれば、望む所と斬月・真も迎え撃つ。
対アマゾンと対インベス・アーマードライダーを想定した武器だけあって、互いに打ち合い可能な強度を持つ。
-
「君も僕を笑顔にしてくれるんだね」
「もうちょっと趣味を考え直した方が良いと思うよ!」
執拗に首を狙い牙を剥くソニックアローを、右腕のブレードで対処。
武器をあらぬ方向へと弾かれた斬月・真にすかさず追撃を仕掛けるも、大きく跳び退かれた。
アマゾンネオブレードはリーチに優れた武装だ、よって十分な距離を取らねばならない。
これまで至近距離で振るっていたが、ようやっとソニックアロー本来の攻撃方法を選択。
弦を引き絞り、レーザーポインダーがアマゾンネオの急所へ照準を合わせる。
弓など原始的な武器に過ぎぬと侮るなかれ、一撃の威力は既存の銃を遥かに凌駕するのだ。
アマゾンネオの装甲だろうと効果的なダメージは十分与えられる。
「アルセーヌ!」
尤もあくまで命中すればの話。
仲間が狙われたならばカバーするのが他の者の役目。
シルクハットの怪人が長い腕を振り下ろし、飛び散る火花が斬月・真の視界を照らす。
スラッシュの命中に続き、ジョーカーとアルセーヌによる回し蹴りが炸裂。
防御の構えを取るも同時攻撃の勢いを殺すには足りない。
蹴り飛ばされたたらを踏む。
『JOKER!MAXIMAM DRIVE!』
攻撃の手を緩めはしない。
ジョーカーメモリをスロットに装填、切り札の記憶が必殺のエネルギーを齎す。
マキシマムドライブの効果で、アンクレットが力を通常時以上に増幅集中させる。
真紅のレンズが標的をしかと見据え、断罪の一撃を下すべく跳躍。
『メロンエナジースカッシュ!』
高威力の技が発動可能なのはジョーカー一人に限った訳ではない。
再度ソニックアローにロックシードを装填、先程はアークリムに纏わせたエネルギーを今度は矢の強化に使用。
頭上目掛けて矢を射れば、エネルギー体のメロンが出現。
四方八方へとエネルギー矢を撒き散らす。
-
――STEAM BREAK!COBRA!――
降り注ぐ矢の嵐に右往左往する哀れな子羊はここにいない。
コブラ型のエネルギー弾が矢を粉砕。
加えて地面が隆起したかと思えば、剣山へ錬成され次々に矢を貫く。
仲間達の心強い援護を受けたジョーカーが怯む事は無い。
足底が網目柄の装甲を叩き、ドーパントをメモリブレイクへ導いたダメージが容赦なく痛め付けた。
「っ…!」
先程以上の勢いで蹴り飛ばされ、浮いた全身が地面へ落下。
叩きつけられた際の衝撃は小さくない。
ダメージを最小限に抑えようと斬月・真の機能が働きかけるが、ゲネシスドライバーが外れてはそれも無意味に終わる。
純白のライドウェアもメロンの装甲も煙のように消失、現れたのは水色のジャージ姿の少女。
クリーム色の髪を土が汚し、小石が白い肌を切り赤の一本線を生み出す。
痛みに顔を顰める姿にもどこか可愛らしさが宿り、これもまた肉体の持ち主が持つ魅力だろう。
放送前に街で起こった戦いに比べ、ジョーカー達が斬月・真を圧倒したのは何故か。
まず第一の理由は戦闘開始直後に蓮が使ったスキル。
セトが発動したスキルの名はマハスクカジャ、命中率と回避率を上げる効果を持つ。
ヒートライザと違いステータス全体強化では無いものの、マハスクカジャは一度の発動で味方全員が恩恵を受けられる。
ジョーカーの瞬発力やブラッドスタークの射撃精度が急上昇した絡繰りがこのスキルだ。
加えて蓮とエボルトは既に斬月・真の手の内を把握している。
一度遭遇したシャドウを二度目以降は的確に弱点を突き撃破して来た蓮。
ベストマッチフォームやラビットタンクスパークリングフォームのビルドを、二戦目からは常に圧倒して来たエボルト。
同じ敵と戦うなら相応の対処法を取れるくらいには、戦闘にも慣れていた。
-
更に今回はアルフォンスが共にいる点も大きい。
生身の体だった頃の修行に加え、賢者の石を求める旅で培った経験。
嘗ては手も足も出なかったスカー相手に勝利を奪うなど、蓮達とも肩を並べる実力の持ち主。
エドワードと共に窮地を脱して来たのもあって、連携した際にも的確な動きへ即座に出れる。
如何に斬月・真が高性能なアーマードライダーと言えども、一方的な殺戮が可能なステージではない。
ノーダメージでダグバを変身解除に追い込んだは良いが、蓮もエボルトも全く安心出来なかった。
知っているからだ、目の前で倒れる少女が真に恐ろしさを発揮するのは白い弓兵ではないと。
悪意の化身と言っても過言ではない怪物への変身を残している。
直接姿を見ていないアルフォンスも事前の情報交換から、相当危険な相手と認識。
ダグバがもう一つの姿になる前に、蓮達が決着を付けようと急いだのを察するのに時間は掛からなかった。
『ま、黎斗の言った通りほいほい使える訳じゃないってのはこっちにしちゃ都合が良いけどな』
別行動中の男の言葉に嘘は無かったようで、今回も最初から白黒のライダーにはならなかった。
流石に主催陣営としてもゲームバランスには気を遣ったらしい。
尤もこれでは仮に殺し合いでエボルドライバーを取り戻しても、同じく時間制限や何やらを細工されているかもしれない。
ともかく厄介なライダーに変身する前に片が付くなら、それに越したことはない。
ダグバが新たな手に出るのを見守るつもりはない。
痛む箇所を擦る少女の姿をした邪悪へブラッドスタークが一歩近付き、
「…!?う、あああ……!!」
少年の悲鳴を聴覚センサーが拾った。
-
○
斬月・真の変身が解かれ、姿を見せた少女にアルフォンスが真っ先に抱いたのは驚愕。
これまでの情報交換で凛達が警戒する白い弓兵は、10代の少女の肉体だとは知っていた。
それでもやはり実際に見てみると、無反応ではいられない。
ウィンリィよりも少し年上、血生臭い世界とは無縁にしか思えなかった。
但しあくまでも肉体はだ。
中身は有無を言わせずキャメロット達を襲い、蓮の仲間を殺した凶悪な精神の持ち主。
そんな相手が、衣服が切れて僅かに血の滲んだ箇所を擦るのを視界に入れ、
考えないようにしていた空腹が、猛烈な衝動と共に湧き上がった。
「っ!?」
腹の虫が耳障りなくらいに鳴り響く。
それだけならまだマシだ。
体が熱い、正常な思考全てを焼き払い消し炭に変えられてしまう。
一度そうなれば何が残るのか、今更分からない筈がない。
「ぐっ…あっ、がっ…!」
内側で獣が暴れている。
檻を噛み砕き、鎖を引き千切り、自由にしろと幾度も叫ぶ獣が。
訴えかける声に悪意はない、嘘はない、悦楽のまま他者を傷付ける意図は存在しない。
あるのはたった一つの切な願い。
生きる。
ただそれだけを望みに獣が檻を壊しに掛かる。
-
「アルフォンス…!?」
自分を心配する蓮の声に、大丈夫だと返せやしない。
マズい、このままではまたマズいことが起きてしまう。
離れてくれとか、自分を身動き取れなくしてくれだとか、言わなきゃならない事が沢山あるのに。
「ア゛…ガ……ア゛ア゛……!!!」
血が沸騰しそうなくらいに熱い。
口の中が涎で溢れて、言葉らしい言葉が何も出て来ない。
「れ…さ……にげ……!」
辛うじて残った理性すらも捻じ伏せ、本能が支配権を手にする。
生きる。
生きる。
生きる。
生きたいから喰らう。
生きたいから殺す。
生きたいから、生きる。
――生きる。
「―――――ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
-
○
「アルフォンス…!ぐぁっ…!」
装甲が砕け無数の触手が蠢く。
針金に似た触手は王の意のままに動く兵隊であり、獲物を仕留める魔槍であり、
生を求め藻掻く少年を誘う千の翼であった。
生きる、生きたいという願いの前には全てが等しく敵。
自らの生を脅かす障害。
たとえそれが絆を結んだ怪盗であっても、断じて例外にはなり得ない。
鞭のようにしならせた触手が胴を叩き、堪らずジョーカーからは苦悶の声が漏れる。
だが今のアルフォンスには、オリジナル態には関係無い。
悲鳴の主が片手で数えられる年齢の子供だろうと、自力で立つことすらままならない老人だろうと同じ。
殺す。喰らう。生きる。それだけが全てな故に。
「くっ…!マガツイザナギ!」
装甲が剥がれ落ちる度に触手の数も増え、ジョーカーの脳で鳴らされる警鐘が一層喧しくなる。
何故アルフォンスが再びアマゾンの暴走を起こしてしまったのか。
巨人に吹き飛ばされた時と違い、大きなダメージは受けていないのに。
膨らむ疑問へ無理やり蓋をしペルソナをチェンジ。
禍を名にする魔人が長得物で触手を薙ぎ払う間、ジョーカー自身も銃剣を装備。
考え込むのは後回し、オリジナル態に集中せねば待ち受ける末路は言うまでもない。
オリジナル態の出現はブラッドスタークにもすぐに分かった。
姿を見たとか唸り声を聞いたとかよりもっと分かり易く。
真紅の装甲越しに肌を突き刺す殺気へ、嫌でも何が起きたか理解したのだから。
-
『おいおい堪え性が無いにも程があるんじゃねぇのか!?』
暴走の危険性は承知の上で同行へ反対しなかった。
だが幾ら何でもここまで早くに同じ事態が起きるとは予想外。
ついさっきまでダメージらしいダメージもなく平然と突っ立っていた筈が、どうしてこうなるのやら。
呆れを口にしながら、スチームブレードで触手を斬り払う。
敵味方の判別を付けないオリジナル態の目には、ブラッドスタークも障害の一つとしか映っていない。
ジョーカーもブラッドスタークもオリジナル態の対処に意識を割かれた。
しかしこの状況を見て誰が二人を責められようか。
殺到する触手に貫かれるのを防ぐのは、例え彼らではなくとも至極当然の行動。
だが、決して目を離すべきでない存在がここにいるのもまた事実。
アルフォンスの暴走は残る一人にとっても予想だにしない事態。
なれど、ジョーカー達にとっては最悪でも彼には状況が自分に味方をしてくれたとしか思えなかった。
そして必然的に、悪意が歓喜の産声を上げる。
『ARK ONE』
「変身」
『SINGURISE』
悪が蹂躙する時間が再び来た。
最高の遊び道具を手に、グロンギの王は立つ。
人々を魅了する天使の笑みで、絶望の鎧を身に纏いながら。
-
『破壊 破滅 絶望 滅亡せよ』
『CONCLUSION ONE』
告げる、支配者の降臨を。
純白の装甲を走る十字のラインと、剥き出しの左目が残酷な輝きを発する。
仮面ライダーアークワン。
殺戮を楽しみ、絶望を享受し、滅亡を齎す魔王。
生まれ落ちた世界は違えども、グロンギの王の為に用意された鎧と言われれば否定はできない。
心の底からの充足感と、ある種の安らぎを実感しダグバは満足気に微笑む。
『結局こうなるって訳か。神様ってのはとことん俺が嫌いらしいなァ…』
わざとらしく肩を落とすエボルトだが、これでも相応に危機感は感じているつもりだ。
チラと背後を見れば案の定、ジョーカーはオリジナル態の相手で手一杯。
キャメロットやジューダスと言った面子は別行動中で、都合良く駆け付けるなんて展開が起きる筈も無く。
しんのすけがお助けに現れる気配はおろか、戦兎だって当然来やしない。
つまりエボルト一人でアークワンをどうにかするしかなかった。
盛大にため息を吐き、見るからに上機嫌となった相手へ言葉を投げ付ける。
『おめかし出来て何よりだよ。ボンドルドの奴は随分気前良くプレゼントしてくれたらしいな』
「うん、凄いでしょこれ」
『嬉しいついでに、ここいらで見逃してくれりゃあ有難いんだがなァ?』
「え?嫌だけど」
全く期待せずに言ってみれば、返って来たのは分かり切った答え。
そりゃそうだろうなと、面白くもなさそうに独り言ちる。
-
考えてみれば殺し合いに参加させられてから、どうも貧乏くじばかり引かされている気がしてならない。
陵辱目的で暴れる異星人、体を制御出来ず怪物を増やす鬼、次から次へと姿を変えるライダー、極め付けはアイドルの体で存分に遊び回る白黒。
一日も経っていないのにこうもアクの強い連中ばかりにぶつかるとは、殺し合い当初は思ってもみなかった。
元の地球の時から苦労する事は色々あったが、密度で言えば殺し合いも引けを取らない。
共通しているのは一つ。
地球で計画を進めた時も、バトルロワイアルも、下手を踏めばサクッと死ぬ。
散々滅ぼして来た星々の住人達と同じ末路に、自分自身も陥らない保障は無い。
『全くしょうがねぇな……』
天を仰ぐ姿は悲哀を誘わずにはいられないと、何も知らない者は言うだろう。
尤も、それが表面上に過ぎないと彼を知る者は分かっている。
他ならぬエボルトの手で創造(ビルド)された天才物理学者も。
肉体を奪われた偶像の女もだ。
エボルドライバーは葛城巧に奪われたまま行方知れず。
パンドラボックスも手元には無い。
残っているのは仮の姿であるブラッドスタークと、戦闘には役立てられないアイドルの体。
本来の彼と比べたら、大幅な弱体化を余儀なくされたと言っても過言ではない。
『そんじゃあ、まぁ――』
だが忘れるなかれ。
男はエボルト、ブラッド族として生まれ落ちた破壊者。
広大な宇宙の生命を幾つも消し去り、繁栄を誇った火星をも絶対的な滅びの渦へ突き落した怪物。
断じて地球の親愛なる友ではない、種族の垣根を超えて愛を捧げ合う関係になりはしない。
どれだけ人間らしい言葉を重ね、感情に興味を抱こうと、本質は決して人間とは相容れない。
-
『ちょいとばかし本気でいくか』
グロンギの王と同じ、人類を脅かす絶対悪である。
光が、あった。
目を焼き潰す程の、真っ赤な光が。
一日の役目を終えた太陽に変わり顔を出した月の輝きすら、掻き消さんばかりの赤。
なれども、一体誰がその光に安堵を抱けるという。
希望を持てるというのだろう。
「ふぅん……」
期待に満ちた声はまるで幼い子供のよう。
サンタクロースの到着を待ちわびる幼児にも似た無邪気さで、アークワンも黒を纏う。
己の悪意を糧に底なしの強さを齎す、ダグバに相応しい力。
スパイトネガの脅威は相も変わらず健在。
「頑張って僕を笑顔にしてね?」
『お前の方こそ、死んで俺を笑顔にしてもらいたいね』
王が笑い、怪物が嗤う。
究極の闇をもたらす者。
星狩りの一族。
数多の絶望を引き起こした悪と悪によるゲゲルが今、幕を開けた。
-
◆
奏でられるは悪意と破壊の協奏曲(コンチェルト)。
何人たりとも邪魔立ては許されない、絶対悪による一夜限りのフェスティバル。
ステージを彩るは赤と黒、鮮血と闇。
今宵の主役二名の間に腹の探り合いは最早不要。
先に踏み込んだのは誰だ、仕掛けたのはどっちだ。
ただでさえ荒れた大地へ更なる傷が生み付けられて、草花は儚い生に終わりを告げる。
接近の勢いのみで地面を削り取った両者の視界に、自らが齎した破壊の痕跡は映し出されない。
彼らが見据えるは眼前の敵のみ。
「あははっ!」
アークワンが放つのは飾り気のないストレートパンチ。
だが侮るなかれ、威力と速さは同胞たるグロンギを以てしても戦慄を抱かざるを得ない。
再起を果たしたウィッチを絶望に叩き落とし、最強のスタンド使いをも下した拳だ。
人の形を取りながら、単純な打撃すら生物を殺し切るのに過剰な威力の兵器。
それこそが仮面ライダーアークワン。
新生アークに選ばれし者のみが行使可能な悪意の鎧。
最初の一撃に対処不可能な脆き生命は、王の眼前に立つ資格なし。
『こっちは全然面白くないぜ、っと!』
その点において、怪物は見事に合格点を叩き出したと言えるだろう。
真紅のオーラを両腕に纏わせ、アークワンの拳を真っ向から弾く。
装甲をガラス細工のように砕き、肉体はミンチへ早変わり。
雑兵であれば逃れられない末路を跳ね退け、反対に手刀を突き出す。
鋭利な指先のクローとて、アークワンの装甲の前には鈍ら同然。
自ら指をへし折りに行ったも同じだ。
-
しかしアークワンは大人しく受けるのを悪手と判断。
鮮血色に輝く今のブラッドスタークの攻撃は、数時間前の戦闘時より危険度が上昇している。
アークワンに搭載された機能以上に、ダグバ本人の直感が強く告げて来た。
他ならぬ自身の第六感なら信頼に値する、逆らわずに防御を選択。
腕部を翳し装甲部分を爪が走った。
金属を引っ掻く不快な音と共に腕へ重みが掛かる。
片手のクローは防がれた、だったらもう片方で切り裂けばいい。
ブラッドスタークの左腕が動きを見せるが、片手が開いたままなのはアークワンも同様。
先程とは反対に拳が手刀を弾くと、胴体を遮る腕を退ける。
がら空きの腹部へ伸びる純白の腕を阻むは、真下からの衝撃。
膝蹴りが命中しアークワンの右腕が跳ね上がった。
今度は自分の番とばかりにブラッドスタークの蹴りが放たれる。
足底が叩くのは胴体部分ではなく白いガントレット部分、ガッチリと足を掴んで離さない。
『握手以外のお触りは厳禁だって知らないのか?』
このまま握り潰されるのは御免だ、反対の足を地面から離しアークワンの胸板を蹴り付ける。
如何にブラッドスタークと言えどただのキック程度、アークワンには何ら脅威になり得ない。
数時間前ならばそうだったろうが今回は違う。
ダメージこそ軽微なれど、襲い来る衝撃は無視できない。
思わず足から手を離し数歩後退、すかさず手刀が真っ直ぐに急所を狙う。
とはいえ、この程度で勝機を見出せる相手で無いとはブラッドスタークも理解の上。
軽く身を捩って手刀を躱し、返礼とばかりに蹴りが飛ぶ。
自らの脚部を魔槍へ変えた脅威を前に、敵が取る手もこちらと同じもの。
目を焼く輝きが両脚から発せられたかと思えば、鞭の如くしなやかに振るわれた。
互いの脚を叩きつけ合い、双方威力の高さ故に揃って後方へと押し返される。
図らずも距離を取り、仕切り直しの形となった。
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「今度はこれで遊ぼっか」
アークワンが手を翳し、両掌の照射口が武器を精製。
度々披露して来た能力も、此度は少々違う形で使われた。
地面に突き刺さる無数のアタッシュカリバーは、まるで正史における二人のアークの対決時のよう。
大盤振る舞いで精製し終えた内の二本を引き抜き、挑発的に切っ先を向ける。
「好きなの使って良いよ」
『そりゃどうも。嬉しくって涙が出そうだ』
言うや否やアタッシュカリバーを一本掴み疾走。
反対の手には元々の装備、スチームブレードが握られ二刀流となる。
異なる世界で生み出された剣が赤く輝き、アークワンもまた悪意のエネルギーを刀身に纏わせた。
第二ステージを告げる審判は不在、代わりに双剣が派手に打ち鳴らされる。
アタッシュカリバー同士が斬り結び、刀身部分が死闘の音色を響かせ合う。
装甲車とて一刀両断可能な切れ味と強度も、得物が同じなら有利不利もない。
なれば一石を投じるは毒蛇の牙。
スチームブレードはリーチが短い分、至近距離での取り回しは長剣よりも優秀だ。
脇腹を走らせる急速加熱された刃、だが毒牙の餌食となる者は皆無。
強固な外装部分を咄嗟の盾に使い防御成功、押し返しブラッドスタークの体勢をよろめかせる。
『やっぱり簡単にはいかねぇなァ!』
無防備な瞬間に迫り来る殺意を笑い飛ばし、瞬時に迎撃へ移行。
双剣を駆使しての斬り上げを、同じく双剣を交差し防御。
構えを解くのとほぼ同時に背後へ剣を翳せば、刀身を震わせる衝撃。
二撃目で終わりじゃあない、アークワンの演算能力が次に来る攻撃位置を予測。
天を突き刺すように頭上へアタッシュカリバーを掲げた。
見上げる必要も無い、金属同士の衝突音を聴覚センサーが拾い続けて四撃目も予測完了。
再び真正面から赤い閃光が急接近、二方向からの斬撃を弾き返す。
連続攻撃を凌ぎ自分の番だと斬りかかるが、ブラッドスタークに待つ気は無く後退し距離を取った。
-
『崩龍斬光剣、だったか?ぶっつけ本番にしちゃ良い線行ったと思ったんだがな』
アタッシュカリバーを肩に担ぎ軽薄な口調でボヤく。
今の動きはジューダスが使う技の一つを模倣したもの。
ブラッドスタークの情報収集装置に記録されたのは、何もディケイドやアークワンといった敵対者だけではない。
殺し合いでの戦闘データを保存したということはつまり、これまでにブラッドスタークが見た参加者の情報が集められている。
蓮を始め、共闘相手の動きもしっかりブレード状の装置に記録済みだ。
ジューダスの剣技を模倣できたのもそれらのデータと、エボルト自身の技能があってこそ。
尤もジューダスが放った時より技の完成度は低い、所謂劣化版でしかないが。
呑気に軽口を叩ける休憩時間は長続きしない。
アークワンの望みは自分が笑顔になれる殺し合いであって、和気藹々としたお喋りの場では無いのだから。
引力操作機能を使い、突き刺さったアタッシュカリバーを浮上。
その数計十本、アークワンの意のままに宙で踊り出す。
手に持ち振るう必要が無くなった分、リーチは伸び縦横無尽な動きも可能。
弾丸のように正面から襲う二本を防いだ傍から、真横よりの殺意を察知。
全身を赤い影状に変え地面を這うも、その行動すらアークワンは予測を終えている。
「何て言うんだっけ。今のリントの間でこういう遊びがあったよね」
ブラッドスタークの実体化と同時に全方位からアタッシュカリバーが殺到。
樽に突っ込まれた海賊の下っ端の気分を嫌でも味わう。
残念なことにこれはゲームではなく、痛みと死が付き纏う現実である。
哀れ全身串刺しの歪なオブジェ完成まで残り僅か。
-
――RIFLE MODE――
数秒の猶予はブラッドスタークからすれば、釣りがくる程に十分な時間。
トランスチームライフルを振り回しながら連射。
自棄っぱちにも見える動作、されど狙いは正確無比。
三点バーストの高熱硬化弾が一本残らず剣を撃ち落とす。
手前に転がるアタッシュカリバーを蹴り上げキャッチ、アークワン目掛け投擲。
「次はこれで遊びたいの?」
ライトグリーンが走る剣は悪意の鎧へ切っ先すら届かない。
いつの間にやら手には青い拳銃、ショットライザーが精製されていた。
アタッシュカリバーを撃ち落とした銃を宙へ放る。
不要になったから捨てたのではない、もっと楽しい使い方を思い付いたから。
照射口からビームを放ち、9丁のショットライザーを作り出す。
引力操作を行い、最初に精製した分も含めて銃口全てがブラッドスタークを睨み付ける。
『多けりゃ良いってもんじゃないぜおい!』
軽口は銃声の中に虚しく消えた。
対ヒューマギア用の50口径徹甲弾を数にものを言わせて掃射。
トランスチームシステム製の装甲と言えども、流石に耐え切るのには限界がある。
ならば被弾しなければいい、撃ち殺される前に全て撃ち落とせばいい。
現実を見れていない戯言をブラッドスタークは実行に移す。
徹甲弾が貫くは真っ赤な残光のみ、時折命中を確信するもブレードに斬り落とされる。
次のチャンスは与えられない、高熱硬化弾が銃身を気千切り火花を散らして落下。
-
『銃の腕は俺の方が上らしいな!』
アークワンの脅威はショットライザーの数だけでない。
演算能力を用いた悪夢の如き精密な射撃。
スタープラチナを操る承太郎ですら被弾を許した銃撃に、並の対処法は効果が無い。
生憎ブラッドスタークにはアークワンのような演算機能は搭載されていなかった。
故に取った戦法は培った経験則と、記録済のデータをフルに活用しての先読み。
敵がこちらの動きを、未来予知と錯覚する程の精密さで読むのは分かっている。
であるなら一歩二歩では足りない、十数歩先まで読まねば詰みだ。
スチームジェネレーターを使い全機能を一時的に強化。
排熱口から噴射された蒸気が苛烈な闘争の空気を、よりヒートアップさせる。
強化グローブが徹甲弾を叩き落とし、反対にショットライザーがまた一つ地面へ落ちた。
後頭部へ叩きつけられる殺意にも焦る事無く動く、頭部を軽く捻り回避し後ろを見ないまま撃ち落とす。
最後の一丁が煙を吹いたのを見送らず、全身を赤い影状に変化。
頭上をエネルギー矢が通過し、切り裂かれた空気が悲鳴を上げる。
実体化してからの動きを組み立て影解除、間髪入れずにフルボトルをスロットに叩き込む。
思った通りだ、正面には武器を構えるアークワンの姿。
アタッシュアローを投げ捨て、スパイトネガで強化済みのアタッシュショットガンが睨んでいた。
――ROCKET!STEAM ATTACK!ROCKET!――
横へ大きく跳びながら引き金を引く。
馬鹿正直に突っ立って照準を合わせていたら、どうぞ当ててくださいと言っているようなもの。
悪意のエネルギーを付与された散弾が地面を削り取る。
直撃こそ避けはしたが数発は貰ってしまう。
火花を散らすもみっともなく倒れず、受け身を取った。
-
アークワンと違って、ブラッドスタークはロクに狙いも付けずにトリガーを引く。
当然ロケット弾はあらぬ方へと飛んで行くが、何も問題はない。
意思が存在するかのようにアークワンへと方向転換し、周囲を旋回。
煙がとぐろを巻きアークワンの視界を覆い隠すと、頭上から真っ逆様に落下。
自動追尾機能を付与された為に、一々狙いを付ける必要がないのはロケットフルボトルの持つ強みだ。
無論、アークワンを倒すには至らない。
スパイトネガを照射口へ流し込み、悪意の波動を放射。
目障りな煙諸共ロケット弾を消し飛ばし、五体満足でブラッドスタークに己が姿を見せ付けた。
分かり切っていた結果とはいえ実際に見せられると、何度目か数えたくも無いため息が自然と吐き出される。
ついでに呟きかけた愚痴の二言三言は、唸り迫る刃を前に霧散。
再度精製し振るわれたアタッシュカリバーを、ブレード部分が防御し鍔競り合う。
「面白いね、君。前に戦った時よりも楽しいよ」
ダグバにしてみれば、どうしてそんな疲れたような態度を取るのかまるで理解不能。
街での戦闘時は斬月・真はまだしも、アークワン相手にはどうにか食らいついているといった印象を受けた。
ジョーカーとの連携で自分を楽しませてくれたけど、究極の闇には程遠い。
現にスパイトネガで強化した途端、あっという間に戦力差が覆されたのだから。
なのに今はどうだ、アークワンになった自分と互角に渡り合っているではないか。
偽りの破壊者と拳の応酬を繰り広げた時のように、楽しさで心が滾って仕方ない。
本気を出すとか言っていたけど、もっと早くにこれくらいのやる気になってもらいたかったものだ。
エボルトがアークワンと互角の戦闘を行えたのには、当然理由がある。
確かに、エボルトは弱者では無い。
使い慣れたブラッドスタークへの変身が可能なのは勿論のこと。
幾つもの星を滅ぼし経験を積み、地球に来てからの戦いで更に戦闘技能へ磨きを掛けた。
尤もそれだけでは、ダグバが変身したアークワンという壁は余りにも巨大。
エボルドライバーも無い現状では、死に物狂いで食らいつくのが関の山。
-
しかしエボルトにはブラッドスターク以外にもう一つ手札(カード)が存在する。
それは殺し合いでも度々使ったブラッド族の能力。
ディケイドやオリジナル態相手に放ったエネルギー波は攻撃のみならず、エボルト自身を強化する役目を持つ。
パンドラボックス奪還の為に、西都へ乗り込んだ戦兎達と戦った時と同じ。
ブラッドスタークを使い慣れてるとは言ってもハザードレベルが上昇しない機能上、スペックで他のライダーに後れを取るのは避けられない。
だが現実にエボルトはスペックで勝るスクラッシュドライバーを用いたライダー達や、強化形態のビルドへ打ち勝って来た。
クローズマグマに進化を遂げた万丈の猛攻を受けて尚、変身解除にならないだけの異様な耐久性も発揮してみせた程。
ブラッドスタークだけでは足りない部分を補うのに、十分過ぎる力はアークワン相手にも有効だと此度の戦闘で証明された。
万丈達のハザードレベルを上げる時とは違い、命を奪わないよう自らに枷を施す必要も無く排除一択のみ。
『お褒めに預かり光栄だ。生憎こっちは銃弾以外に何もプレゼント出来ないけどな』
声色から喜びは当たり前だが欠片も見当たらない。
アークワンとも渡り合えたからといって、エボルトに余裕があるかと言えば違う。
ダグバはもっと早くに本気を出して欲しいと思ったが、そう簡単にはいかない事情がある。
本気を出さないのではなく、ほいほい出せなかったと言うのが正しい。
殺し合いでエボルトに与えられた肉体は、十年も憑依し馴染んだ宇宙飛行士ではない。
仮面ライダーに変身可能な戦兎でなければ、エボルトの遺伝子を持つ万丈でもない。
ネビュラガスを注入されておらず、戦闘経験など当然皆無の一般人。
そんな体にアークワンと互角に戦えるレベルのエネルギーを流し込むのは、ハッキリ言って諸刃の剣に等しい。
僅か数分の戦闘で体力が湯水の如く削り取られ、態度に出さないだけで尋常じゃない消耗に襲われている。
ブラッド族のエネルギーによる強化は殺し合いでこれが二度目。
産屋敷との戦闘時にも行ったが、強化の度合いは前回以上で必然的に疲労も倍だ。
「でもまだ足りないかな。だから、もっと僕を笑顔にしてよ」
膠着状態はアークワンの好みでは無い。
足底がブラッドスタークの腹部にヒット、蹴り飛ばされ距離を取らされた。
尤も蹴りの予兆は感じ取っており、当たる直前自ら後方へと身を投げダメージを軽減。
受け身を取った時にはもう、アークワンは必要な工程を終えた後。
-
『悪意』
『恐怖』
『憤怒』
『憎悪』
『絶望』
アークローダーを押し込みエネルギーを増幅。
充填されたミニ八卦炉心が赤い電気を迸らせ、解き放つ瞬間を待ち侘びる。
香霖堂の店主が予想もしないだろうこの砲撃は、アークワンが持つ力の中でも特に気に入っている一つ。
超自然発火能力で焼き尽くすのとはまた違う、圧倒的な火力で消し飛ばすのは実に爽快だ。
決死の抵抗を見せたものの、髪の毛一本残さずこの世を去った白い魔法少女を思い返し笑う。
あの時みたいに撃ち合った末殺すのも、それはそれは楽しくて心が躍る。
(楽しいなぁ)
当初はおかしなゲゲルに巻き込まれたと思ったが、蓋を開けてみれば楽しさいっぱいの連続だ。
クウガとのゲゲルとはまた違うワクワクに溢れている。
金髪の剣士に手痛い反撃を受けた。
初めてアークワンに変身し、魔法使いを絶望に叩き込んだ。
ミニ八卦炉でスカッとする砲撃を放った。
偽りの破壊者と血を吐きながら殴り合った。
全てが自分を笑顔にしてくれて、また一つ自分は笑顔になれる。
(本当に楽しい…)
心の底から楽しいと、素直に思う。
赤い蛇と殺し合い、その果てに彼も殺す。
いや、彼では無く彼女か。
年下か同年代のアイドルが多い中で、年上のあの人。
ユニットは違うけど皆のお姉さんみたいで、慕われるのもよく分かる。
大人の女の人だからか、プロデューサーと並ぶと様になっていて。
それが時折羨ましいなと思うこともある。
そんなあの人を自分の手で――
-
「え?」
おかしい。
今自分は何か不自然なことを考えなかったか。
殺し合っている真っ最中の相手を殺す。
それは良い、何も変じゃあない。
楽しく殺し合って笑顔になれたから、アークワンの力で殺せばもっと笑顔になれる。
別におかしくなんてないじゃないか。
何より、あの人を殺したのを他の皆が知ったらどうなるか。
たとえば、彼女と同じユニットの二人。
もういないと、自分がこの手で殺したと言ったらどんな顔をするのだろう。
あの娘達はどんな風に――
「え?……あれ?」
何かがおかしい。
殺すことに疑問は持たない、だけどこんな理由をどうして付け加えている?
あの人とは誰だ?赤い装甲の変身者か?
尚更変じゃないか、だって自分は相手の精神はおろか、肉体の名前すら知らない。
いや知っている。
知らない筈なのに知っている。
自分はさっきから何を考えているのだろう?
何故こんなことを考えてしまっているんだ?
いいやそもそも、
これは、本当に自分の考えなのか?
「――――――あ」
-
◆
ダグバとエボルト。
両者に共通している点は複数あれど、この状況で最も注視すべきは二つ。
第一に、肉体の持ち主が同じ世界に住まう人間。
イルミネーションスターズの櫻木真乃。
アルストロメリアの桑山千雪。
283プロダクション所属のアイドル達。
満天の星空のように輝くステージで人々を魅了し熱狂させる、命の奪い合いとはかけ離れた彼女達がグロンギの王と星狩りの怪物に用意された器。
第二に、肉体側の意識が復活している。
一回目の定時放送後、それぞれ別のエリアで起きた戦闘が切っ掛けとなり本来は起こり得ない事態が現実のものになった。
但し、今現在に至るまで彼女達の意識へ主催者が何らかの干渉を試みた形跡は皆無。
竈門炭治郎や関織子のように殺し合いの進行へ支障を来すでも、不確定要素が強い訳でも無い。
その為主催者からも現状は放置しても問題無しと見なされたのだろう。
対処を施された二名と違い、彼女達の意識は未だ健在。
二人の間に違いがあるとすれば、肉体の意識の存在を把握しているか否か。
アーマージャック殺害後、千雪の存在に気付いたエボルトはこれまで幾度も言葉を交わしている。
一方ダグバは時折違和感を感じることはあれど、真乃の存在を明確に認識出来てはいない。
そもそも、自分の体になっている少女の意識が復活した可能性を考えてもいなかった。
ダグバが殺戮を繰り返す度に訴えかけた悲痛な懇願は、全て膨大な悪意に阻まれ届かない。
優勝か脱落か、或いは黒幕である矢に選ばれた一匹のスタンド使いの思惑通りになるか。
結末が如何様であれ、ダグバが真乃の意識に気付く事は終ぞ無かっただろう。
-
アークワンへの変身が行われなければ。
ハルトマン殺害の時に始まり、アークワンプログライズキーの影響で真乃の精神は悪意に汚染されて来た。
そこへ更なる悪影響を齎したのは、アークワンに搭載されたある一つの機能。
額部分の赤い結晶、アークシグナルワンは一種の制御装置の役割を果たす。
と言ってもゼロワンのように変身者の安全を保障するものとは全く別物。
アークシグナルワンとは、変身者が抱く悪意以外の感情を鎮静化させ、アークワンの能力を最大限に引き出す事を目的に作られた。
つまり善意による悩みや葛藤を不要と見なし排除、常に悪意のみを前面に押し出した状態となる。
復讐に囚われているとはいえ、或人が不破諫達の言葉に耳を貸さず猛威を振るったのもアークシグナルワンの影響を受けた為と推察される。
元々無邪気な悪意を隠す気も無く振舞っていたダグバには無用の機能。
しかし真乃にとっては違う。
放送前に街で蓮達と戦った際、一瞬だけとはいえ千雪の体を持つエボルトを殺す事に暗い喜びを覚えた。
そこから承太郎達相手に三度目の変身、そして今回で四度目の変身を行ったらどうなるか。
アークシグナルワンは真っ当な倫理観や殺人への強い拒否感を削ぎ落とし、アークワンプログライズキーによる汚染はより進行。
結果どうなったかは、現在のダグバに起きた現象が答えだ。
千雪の肉体を持つエボルトの殺害へ、強く同調してしまった。
ダグバと同じく、楽しそうだと賛同した。
それこそがダグバへ大きな違和感を抱かせるとは知らずに。
エボルト/千雪を殺せば楽しいと感じる心は同じ、けれど理由が異なる。
なまじ同調したことで、真乃の存在へ気付く切っ掛けになったのは皮肉と言う他ないだろう。
ここに来てようやく、己の精神へもたれ掛かるもう一人の存在を知った。
「君……誰……?」
王は偶像は初めて言葉を交わす。
決して相容れない笑顔の価値観を持つ両者の邂逅。
-
――DRAGON!STEAM SHOT!DRAGON!――
それは王を敗北へ誘う破滅の序章。
蛇は獲物を仕留める瞬間を決して見逃さない。
王の意識は偶像に移り変わった。
まるで星々に引き寄せられる、数多の愚衆のように。
輝きに近付き過ぎた者とは、えして己の失敗を悔いる間もなく燃え散る。
此度もそう。
王を喰らうは巨大な赤龍。
突き立てられた牙は悪意の鎧を食い破り、敗残兵の如く膝を付かせた。
アークワンの手を離れ、ミニ八卦炉が彼方へと落下。
使い手を失ったマジックアイテムは脅威にならず、溜め込んだ悪意もあえなく霧散。
「っ゛…!あ……!」
武器の損失など最早アークワンの頭には無い。
不意を打たれたのを考慮して尚も、想定上のダメージだ。
柔らかな少女の体を激痛が蝕み、仮面の下で血を垂らす。
仮にブラッドスタークがフルボトルのエネルギー弾を撃っていたらこうはならなかった。
多少の衝撃こそあれど、高性能なアークワンの装甲には無意味。
だが今しがたトランスチームライフルに装填されたのはエボルボトル。
葛城忍や桐生戦兎ですら正体を割り出せなかった、未知のエネルギーを内包した星狩りの兵器。
エボルドライバーが地球産のライダーシステムを凌駕するように、エボルボトルもまたフルボトルやロストボトルとは比べ物にならないエネルギーを秘めている。
まして使われたのは、正史において万丈龍我が己の闘志を糧に進化させたグレートドラゴンエボルボトルだ。
よりにもよって宿敵である地球外生命体の助けとなったのは、笑い話にもならない。
-
攻撃の正体が何であれ、アークワンに大打撃を与えたのは変わらない事実。
勝利への追い風が吹いたのを確信し決着を付けに行く。
ただでさえ体力に余裕が無いのだ、無駄に長引かせる理由はどこにもない。
「っ!!ははは…!」
『チッ…』
発光する照射口が見えボトルの再装填を中断。
スパイトネガが地面に流し込まれ、剥き出しの土としぶとく生き延びた草花が黒く染まる。
黙っていれば自分の足元まで到達されるのは確実。
飛び退き安全圏まで移動、アークワンに与える死が数歩遠ざけられた。
「あはははははは…!!!」
『悪意』
『恐怖』
『憤怒』
『憎悪』
『絶望』
震える両足で立ち上がり、悪意を幾つも並べ立てる。
体が痛い、息が上がる、数時間前の殴り合いの時と良い勝負だ。
その全てが楽しくてたまらない。
痛みに蝕まれ、追い詰められ、死が近付きつつある恐怖。
それらを実感すればする程笑顔が溢れ出す。
-
『闘争』
『殺意』
『破滅』
『絶滅』
『滅亡』
並び立つ者のいないンの階級。
上り詰めた究極の闇をもたらす者の座に不満は無い。
けれど、きっとどこかで耐え難い渇きを感じていた。
満たされぬ空虚さを秘め続けていたのだと、今になって思う。
『PERFECT CONCLUSION』
なればこそ、今この瞬間は本当に楽しい。
本来の肉体ではないのを考慮しても、これ程に命の危機を感じるのが。
干乾びた器を潤す、死闘という名の美酒が注ぎ込まれる。
大人しく倒れてなどいられない。
だって敵はまだ生きている、自分もまだ生きているのだから。
腹を空かせた童子のように、もっともっとと際限なく己の笑みを求め続ける。
怖気が走る程に醜悪で、息を呑むまでに純粋。
矛盾を孕んだ王の願いをぶつけられ、蛇は手にした銃を下ろす。
諦めからではない、真に闘争へ終止符を打つ者の存在を感じ取ったが故。
「ペルソナ!」
-
◆
時を少し遡る。
二体の悪がぶつかり合う一方で、怪盗もまた闘争に身を投じた。
視界いっぱいに広がる触手、触手、触手。
獲物を貫き引き摺り込む矛であり、脅威を寄せ付けない盾。
攻防一体の凶悪極まる線の翼こそオリジナル態最大の武器。
一本一本に殺意を宿し、嵐の如く降り注ぐ。
「マガツイザナギ!」
なれど対する少年もまた、捕食を待つだけの無力な餌に非ず。
内に巣食う弱さの仮面を剥がし、反逆の意思へ覚醒したペルソナ使い。
無限の可能性を秘めた、或いは囚われの象徴たるワイルドの能力は健在。
この地で新たに結んだ絆の一つ、道化師のアルカナが力を示す。
「ペルソナ!」
両手で豪快に長得物を振り回し、片っ端から触手を蹴散らす。
名前の通り木っ端微塵に切り刻まれ、死にかけのミミズのように地面へ落ちて行く。
体液と残骸に彩られた地面を駆け抜け、オリジナル態へと接近。
自らに迫る黒い怪人を確かな脅威と認識、切断を免れた触手で迎撃。
頭上から串刺しにせんと襲い来る二本を、銃剣で弾く。
元より使い慣れたリーチの刃物だ、パレス内で培われたナイフ捌きは衰えていない。
次いで二方向から突き出された触手にも銃剣で対処。
だが先程と違い刀身にぶつかる寸前で軌道を変え、銃剣をすり抜けジョーカーへ迫る。
-
「アルセーヌ!」
最初に手にしたペルソナであり、己の分身たる怪人。
爪が触手を防いだ傍から、今度は六つの腕で殴打を仕掛けて来た。
腕力は見掛け倒しでは無い、人間一人殴り殺すのは余りに容易い。
「ぐっ…!」
両腕を交差し防御の構えを取った直後、鈍い痛みが連続して発生。
装着されたブレスが腕力を強化しているとはいえ、オリジナル態とて人間以上の能力を有する。
何時までも耐え切れるものではなく、ここに触手まで加わればどうなるかは火を見るよりも明らか。
「ケツアルカトル!」
絆を結んだ園児同様、嵐を巻き起こす蛇神を召喚。
ガルダインが叩きつけられ、疾風に切り裂かれながらオリジナル態は後退。
アマゾン故の重量で吹き飛ばされこそしなかったものの、ジョーカーとは距離が開く。
だが多少遠ざけられたとて無問題、触手を伸ばし仕留めれば良いだけだ。
「ペルソナ!」
街でも手を焼かされたオリジナル態の手数の多さはやはり厄介。
ペルソナを変え、ジョーカー自身の能力を駆使しても対処が間に合わない。
共犯者の援護も期待できない状況で、取るべき手を惜しんではいられなかった。
再度マガツイザナギにチェンジ、ヒートライザでステータスを強化。
SPをごっそり消費した甲斐も有り、触手を捌く動きのキレが数段増す。
-
ナイフで弾き、時には腕で防御。
耐久力も上昇した事で触手が当たってもダメージを抑え、傷付かずに済んでいる。
ヒートライザの効果が発揮される内に手を打たねばなるまい。
「アルセーヌ!」
召喚したペルソナと共に放つ回し蹴り。
ディケイドや斬月・真相手にも使った技は、ステータス強化の恩恵で勢いも上。
六腕に防がれ胴体への打撃こそ届かなくとも、後退し隙を作らされた。
狙い所はここしかない。
「奪え!」
頂戴するのは命に非ず、理性を捻じ伏せ暴れ狂う獣の本能。
夢見針が突き刺さりオリジナル態を睡魔が襲う。
途端に動きが鈍り始め、揺蕩う触手の群れも力無くバタバタと落ちて行った。
巨人との戦闘で蓄積された疲労が色濃く残る相手には効果覿面。
かくいうジョーカーも体力は回復し切っていない為、余裕があった訳ではないが。
小さな呻き声すら徐々に聞こえなくなるオリジナル態に、一先ず何とかなったと判断。
一つが片付けばもう一つの方もどうにかしなくては。
猛威を振るい続ける怪人を引き受けた共犯者の元へ、逸る気持ちを隠さずに駆け付ける。
-
◆◆◆
マズいものが来る。
アークワンから放たれる殺意と、ドライバー部分に収束されるスパイトネガ。
細胞全てが刺激され、呼吸が止まりかねないプレッシャーに取るべき手をすぐさま弾き出す。
生半可な抵抗を重ねた所で無駄、持ち得る全てで対抗せねば終わりは免れない。
「マガツイザナギ!」
長得物を地面に突き刺し力を溜め込む。
ヒートライザを使った時とはまた別の、己の内へ薪をくべ闘志を燃え上がらせる感覚。
チャージ。コンセントレイト同様次に使うスキルの威力を倍以上に引き上げる。
銃に弾丸を装填する、敵を仕留める準備段階と言うべきスキルだ。
アークワンはどれだけ念を押したとて足りないくらいの強敵なのだから。
『LEARNING END』
着火した導火線がやがては爆発するように。
溜め込まれた悪意が解き放たれる。
十段回のアークローダーにて放つ最大威力の蹴り技。
蒼穹を暗黒に染め、黄金の精神を闇に閉ざした支配者(アーク)による処刑。
宿す意思は、かの人工知能やヒューマギアが掲げた人類滅亡とは違う。
されど人間に、生ける全ての命を脅かす悪に変わりは無く。
また一つ、希望が潰える地獄を創り上げるべく王の判決が下された。
-
忘れるなかれ。
希望は永遠に続かず、希望の後に新たな絶望がやって来る事は誰に否定できない。
「セト!」
だが絶望もまた永遠には続かない。
悪意が闊歩し蹂躙する悪夢を終わらせる、善意の使者が現れないと何故言い切れよう。
復讐者に堕ちた青年が、悪意を振り切り夢を取り戻したように。
2000の技を持つ青年が、命を奪う耐え難い痛みとの戦いの果て、皆の笑顔を守り抜いたように。
「ペルソナァッ!!!」
暴虐の魔獣を滅ぼす銀の弾丸の如き、悪意に終焉を齎す一撃。
善意が悪意を貫き、撃ち落とした。
何処までも広がる空を追い出され、地虫のように這う様は敗北者の三文字以外に有り得ない。
悪意の鎧は消失し、横たわるは少女の殻に閉じ込められた王。
「っ…!……!!」
言葉らしい言葉も出ず、呼吸すらも猛烈な痛みに変わる。
生きてこそいるがそれだけだ、戦闘が可能だとは誰も口に出来まい。
-
ワンショットキル。現在の蓮が使える最大威力のスキル。
チャージ使用による強化だけではない。
エボルトに負わされた傷と、これまでの戦闘で蓄積した疲労。
刈り取った命と終わった筈の闘争へ少しずつ足を取られ、此度の敗北へと繋がった。
「……っふぅ!」
勝利を理解したジョーカーもどっと息を吐く。
疲労が抜けぬままに戦闘を行い、度重なるスキルの行使。
更には強敵と真っ向からぶつかり合う緊張感。
心身共に負担は軽くなく、何も考えず地面へ身を投げ出したい衝動に駆られた。
「――――――ッ!!!!!!!!」
疲れで鈍り出す思考を強制的に引き締めさせる咆哮。
緩め掛けた気は再び警戒を取り戻し、弾かれたように振り返る。
いや、見なくとも分かったはずだ。
臓腑を震わせ戦慄を抱く、同時にどこか物悲しさも感じずにはいられないこの声。
誰が発しているのか、一々考えるまでも無い。
「アルフォンス!?」
名前に反応した訳では無いだろうけれど、叫び声が一層大きくなった。
六つの拳を固く握り、牙を何度も打ち鳴らし、触手が天を高く突き上げる。
意識を眠りに落とされた筈の獣は、完全な覚醒を果たし存在を知らしめた。
-
アルフォンスがオリジナル態に姿を変えたのはこれが初めてではない。
チェンソーの悪魔とアナザーカブトを相手に繰り広げられた、三つ巴の戦闘。
暴走し巨人と化した康一を止める為の戦い。
それぞれの闘争の場においてダメージを受け、アマゾンの本能が生を強く訴えかけた。
疲労や痛みに慣れていないのもあって抵抗虚しく、二度も暴走を許してしまったのである。
しかし今回起きた暴走と比べるとおかしな話ではないだろうか。
斬月・真との戦闘で、アルフォンスは攻撃を一度も受けていない。
死へ警鐘を鳴らすトリガーとなる事態は起きてないにも関わらず、三度目となる暴走が引き起こされた。
死の回避と生への渇望以外にオリジナル態への変身を促す原因は何か。
答えは簡単、空腹だ。
村付近での戦闘、巨人との命懸けの追いかけっこ、そして街での騒動。
数時間の間に行われたこれらはアルフォンスの体力を消費させ、空腹をより深刻化させるのに何役も買った。
更に千翼が生まれながらに持つ食人衝動もまた、今回の原因の一つ。
遅かれ早かれ起きただろう事態が、生身の真乃を目にしたタイミングで発生してしまった。
垂れ落ちる血の匂いが空腹を刺激し、アマゾンの本能を呼び覚ましたのだ。
眠り針の効果で夢の世界に閉じ込められた意識も、アークワンの変身が解除され重傷のダグバが生身を晒した事で急激に覚醒。
風に運ばれ鼻孔へ届いた血の匂いが、再び目にした生きたタンパク質が、獣を檻から解き放った。
オリジナル態に悪意はない。
宿るのは生きたいという生物ならばありふれた、ごく当たり前の願い。
生きる為に喰らう。
生きる為に殺す。
ただそれだけのことでしかない。
-
「アルフォンス…!なっ……」
夢見針は確かに効いた筈なのに、どうして目を覚ましたのか。
疑問への答えを呑気に探す暇はない。
オリジナル態が暴れ出す前にもう一度大人しくさせなくては。
決断は迅速でも、体が動き出すのに若干のタイムラグが生じる。
疲労が足を引っ張り、結果オリジナル態に後れを取った。
触手が両脚に巻き付き拘束、持ち上げられ体が地面から離れて行く。
幸い両手は自由なまま。
銃剣で拘束を脱しようと腕を振るうも、オリジナル態が気付かぬ訳がなかった。
「ぐぅっ!?」
離れた筈の地面が次の瞬間には視界一面に広がる。
頭から叩きつけられ、蜃気楼のように見える光景がボヤけ出す。
脳を鷲掴みにし揺さぶったのではと思ってしまうくらいに、視界が安定しない。
余計な抵抗を力技で封じ触手を引き戻せば、ジョーカーを待ち受けるのは六腕による手洗い歓迎。
「がっ、ぐぁっ…!」
視界が戻り掛けた直後から襲い来る殴打の嵐。
ペルソナを召喚する余裕も与えられず、宙吊りのままサンドバッグにされた。
今度は拳で地面に叩きつけ、弾みでロストドライバーがメモリ共々外れ生身を晒す。
蓮はぐったりと倒れたまま動かない。
SPや体力の消費が大きいスキルを使い、元々余裕が無かった所へ追い打ちを掛けられたのだ。
意識を手放したとて無理もない。
オリジナル態にとっては己の生を脅かす障害が沈黙し、生きる為の栄養源と化した。
開きっ放しの腹の中を満たせる存在を、無視する理由がどこにあるのか。
打ち鳴らされた牙の間から涎が滴り落ちる。
-
――ICE STEAM!――
怪盗団の仲間は不在、だが共犯者はいる。
結んだ関係を断ち切るつもりは今の所無し、ならば蓮の危機を見過ごしはしない。
バルブを回して効果を付与した特殊弾を発射、六腕と蓮に伸ばされた触手が凍り付く。
『ピンチの場面で助け合ってこその相棒、ってな』
邪魔な触手を撃ち落としながら蓮を抱えて後退。
凍結を解かれたオリジナル態が見たのは、己の食事を邪魔した赤い装甲の怪人。
同じく自由を取り戻した触手を向かわせるも、避けられた挙句に銃で狙い撃たれた。
大人一人を抱えたままだというのに、ブラッドスタークの動きは軽快そのもの。
(さて、どうしたもんかね)
触手へ対処しながら思考を冷静に働かせる。
余裕ぶった態度を取っているが体力的にも戦闘が長引くのは避けたい所。
自分一人ならともかく、蓮を守りながらでは少々骨が折れる。
せめて後もう一人、使える参加者が欲しかった。
別行動中の協力者達が現れる気配は変わらずなし。
蓮も目を覚まさない。
ああつまり、
非情に都合が良い状況が出来上がってるという訳だ。
-
跳躍して触手を回避。
降り立った先の足元には仰向けに倒れた少女。
苦し気な顔でこちらを見上げ、バイザー越しに視線がかち合う。
(やっぱりそういう奴だよなぁ?)
言葉は無い、傷の痛みに話すのも億劫なのだろう。
しかし少女の目は未だ死んでおらず、貪欲な輝きがあった。
まだだと、まだ戦いたい、殺し合いたい。
もっと笑顔になりたいと、そう告げている。
何ともまぁ底なしの欲の持ち主だ。
野心に憑りつかれた三都の政府関係者や、難波重工とは違う。
人の枠に収める事が間違いの狂気を真っ向から受け止め、微塵の恐怖も抱かず笑う。
戦いたい?暴れ足りない?結構なことだ。
『なら願いを叶えてやるよ』
――DEVIL STEAM!――
銃口から噴射されたガスが少女を包み込む。
願いを叶える、その言葉に嘘はない。
だが男は心優しい魔法使いでも、陽気なランプの魔人でもない。
ほんの僅かに使い道の残ったちっぽけな命へ、最後の役目を与えてやっただけ。
-
自分の体が変貌していく感覚へ、何かを思うこともできない。
恐怖、怒り、抱いて当然の感情は標的の排除という命令に上書き。
煙が晴れた時、そこにうら若きアイドルの姿はどこにも無かった。
氷山を思わせる肩部に氷柱が生えた胴体。
クラゲのような触手を垂らした異形の名はアイススマッシュ。
人間にネビュラガスを注入する事で生まれる怪人の一種。
本来スマッシュを生み出すには、実験施設でネビュラガスを注入する工程が必要不可欠。
しかしブラッドスタークやナイトローグの装備には共通して、ネビュラガスの散布機能が搭載済み。
これにより実験を経ずスマッシュの量産が可能なのだ。
スマッシュ化した人間は基本的に意思疎通不可能であるも、自身をスマッシュに変えた相手には従う。
ブラッドスタークの命令を受けオリジナル態へ突撃、異様に突出した爪を突き刺す。
アークワン程の高スペックは無くとも、ただの人間では太刀打ち不可能な力だ。
尤もそれはオリジナル態も同じ。
難なく爪を掴み肉体への到達を阻み、反対に複数の腕で殴り付ける。
アイススマッシュがもう片方の爪を振るうも効果なし、拳を叩きつけられ怯む。
無意味に時間を掛ける趣味はオリジナル態にない。
触手を操作し紙切れ同然に引き裂こうとするも、急に触手のコントロール不能となった。
見れば、アイススマッシュへ向かわせた触手が凍結状態に陥っているではないか。
先程と同じ現象だがブラッドスタークは何もしていない。
-
スマッシュは人間以上の身体能力と耐久性の他、個体毎に固有の能力を発揮可能。
飛行能力や分身など、フルボトルの成分元となっただけあって種類は多岐に渡る。
アイススマッシュは名前と見た目の通り、氷を操る力の持ち主。
体内器官が氷を生み出し、氷柱状の矢に変え撃ち出した。
命中した対象を凍結させる矢。
厄介ではある、しかし対処不可能かと言えばそれは否。
オリジナル態を殺すにはまだ足りない、凍結を免れた触手が無数に動き出す。
そちらも同じく凍らせるだけと氷柱を発射。
片っ端から凍らせようと連射するが当たらない。
触手は全てオリジナル態の意のままに動き、対象を確実に殲滅する役目を持つ。
目を見張る軌道を描きながら氷柱を躱し、アイススマッシュへ突き刺さる。
既存の生物には当てはまらない奇怪な叫び声にも心動かされず、自らの元へ触手を引き寄せた。
六腕が顔面や四肢を万力のように締め付け、触手と共に全身を引き裂くべく力を籠める。
『お勤めご苦労さん。初仕事にしちゃあ悪く無かったぜ』
理性無きオリジナル態の背を駆け巡る悪寒。
野生動物に近い本能が警鐘を鳴らし、死が近付きつつあると急かす。
強き者が弱き者を食らう、されど食らった者が食われる者へとなる事も多々あるのが戦場。
いつだって蛇は毒牙を研ぎ、機会の訪れを待ち続けているのだから。
『CIAO♪』
気付いた時には手遅れ。
視界が赤く染め上げられる。
血をぶち撒けたかの真紅が異形達を閉じ込める。
神経を逆撫でする声も彼らの元には届かず、鮮血の渦へ溶けて消えた。
-
◆
少女が一人横たわっている。
クリーム色の柔らかな髪が夜風にそよぎ、一つまた一つと顔を覗かせる星々に照らされる。
自然が生み出したステージ上で、少女が立つ様子は一向に見られない。
ここは彼/彼女が輝ける舞台に非ず。
終焉を迎える箱庭の一マス。
ダグバの体から粒子が放出される。
ネビュラガスを注入された者に終わりの時が訪れた証拠だ。
たとえスマッシュから元に戻っても、全員が無事でいられる訳ではない。
小倉香澄のように元々虚弱な体の持ち主なら、ネビュラガスを注入した時点で死に至る。
蓮達との戦闘で重傷を負ったダグバもその例に漏れず、スマッシュにされた時既にその命は消滅が確定した。
「……」
刻一刻と迫る死を前にしてもダグバは笑う。
作り笑いではない、本当に楽しくて嬉しかったと言わんばかりに微笑む。
アークワンという最高の玩具で遊べた。
圧倒的な力を行使し胸が弾む光景を幾つも作った。
グロンギの頂点に立つ自分でさえ、命のっ気が迫る瞬間があった。
互いに痛みと死をぶつけ合い、同じ力を持つ者同士でしか見れない世界を見れた。
これを喜ばずにどうするという。
――……
真乃もまた笑みを浮かべる。
あれだけ自分の心を蝕んだ悪意は今やどこにも感じられない。
死へ近付いてようやく消え去ったのは、流石に遅過ぎると思うけど。
それでも、安堵と諦観の抱き静かに微笑む。
きっと、これで良かったのだろう。
生きていれば、自分の体を動かす彼はもっと多くの人を傷付ける。
今より沢山の人が悲しみ、怒り、死んでいく。
子供の頃から憧れたアイドルが笑顔を届けるのとは違う。
彼の作り出す世界で笑顔になれるのは、彼一人だけ。
-
だからこれで良い、これが正しい。
これ以上、誰かが命を落とす前に。
これ以上、誰かの笑顔が奪われる前に。
自分が自分で無くなり、彼と同じ笑顔を消し去る存在になる前に。
ここで終わった方が、きっと誰にとっても良いことなんだと思う。
ああ、だけど。
未練というやつはどうしたって顔を出す。
自分と同じ究極の闇をもたらす者となったクウガと、ゲゲルをやりたかった。
そうしてまた一つ、笑顔になりたかった。
帰りたい場所がある。
内気な自分を変えたくて飛び込んだ世界は、想像の何倍も輝いていて。
失敗続きのレッスンから始まった、胸を張ってお互いが大好きだと言える、真乃達三人の居場所。
どこまでも羽ばたきたいと思えたイルミネーションスターズに。
だからやっぱり
「まだ、死にたくないな」
一字一句同じ言葉を口にして、ここに二人の物語は終わりを迎える。
現代に蘇った古代種族の王は永遠の眠りにつき。
色鮮やかに輝く星々の一つは、誰にも知られず舞台を降りた。
最後の時まで彼/彼女を象徴する笑みを、決して失わないまま。
【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ(身体:櫻木真乃@アイドルマスター シャイニーカラーズ) 死亡】
-
◆
生体反応は完全に消失。
死体は髪の毛一本、服の切れ端すら残さず、あるのは首輪が一つだけ。
視覚センサーで周囲を警戒しても、動体反応はゼロ。
本当に終わったと分かり、ようやっとブラッドスタークの変身を解除。
気怠さをこれでもかと籠めたため息を吐き、首輪と支給品を回収。
やることを終え、地面へ大の字に横たわる。
アイドルの体でやるには余りにだらしない仕草だが、エボルトを咎める他の参加者は皆無。
隣に転がしたままの共犯者は未だ気絶中だ。
スマッシュに変えたダグバを使ってオリジナル態の気を引き、隙を見て纏めて攻撃。
ダグバが落としたミニ八卦炉の砲撃は大した威力だった。
これなら自分のエネルギーを流し込んで使う、エターナルソードの代わりの媒介に丁度良い。
ただ砲撃の餌食となったのはアイススマッシュ一体のみ。
オリジナル態の方は発射を察知し即座に逃走を選び、あっという間に視界から消え去った。
理性がないとはいえ生きるという本能に従うのがオリジナル態だ。
危機察知能力は高く、単に暴れ回るだけのスマシュとは違うらしい。
「プラマイゼロってとこか」
面倒な参加者が死に、そいつが使っていた道具も手に入った。
それは良いがアルフォンスは暴走したまま行方を眩ませている。
首輪解除に役立つかもしれないと踏んで同行を反対しなかったが、迂闊な判断だったと今更ながらに思う。
暴走の頻度が街に居た時より悪化しており、これでは戦兎の元へ連れて行ってもいらぬ火種になるのではないか。
先の砲撃はこれでも意識を奪う程度で済ませるくらいには加減した。
蓮からスパイダーショックを借りて拘束、処遇をどうするかは追々考えるつもりだったが結果はこれだ。
一つ良い事があれば面倒ごとも同じ分やって来る。
何時になったら気を抜けるのやらと呆れを口にし、
-
「……で、そろそろ元気出せよ。千雪」
(…っ!!)
己の中から怒りを向けられた。
お世辞にも機嫌が良いとは言えない体の持ち主へ、エボルトは大袈裟に肩を竦める。
それが却って、千雪の神経を逆撫ですると分かった上でやっているのだろう。
(どうして、ですか…どうしてあなたは…!)
「どうしてどうしてと言われてもねぇ?仕方なかったってやつだろ?」
(っ!あなたなら真乃ちゃんを、殺さないでどうにかする事だって……!)
「買い被ってくれてありがとよ。だが良いのか?愛しのプロデューサー以外の男に目移りするなんざ、尻軽と思われるぞ?」
(ふざけないで!あなたは…!)
この期に及んで軽薄な態度を引っ込めようともしないエボルトへ、抑え切れずに声を荒げる。
千雪を知る者がいたらさぞ驚くだろう。
ここまで怒気を露わにする、彼女は余程のことでもない限り見れない。
同じ事務所に所属するアイドルの少女を怪人に変貌させ、トドメを刺すというその余程の事態が起きたのだが。
「殺さないで済まして、それで?」
怒りのままに続けようとした言葉は、淡々としたエボルトの声色で押し留められた。
ダグバをスマッシュに変えず、尚且つ殺さずに捕え、蓮を庇ったままオリジナル態を大人しくさせる。
難易度は上がるが出来ない訳ではない。
問題は、それをやって何の意味があるのかということ。
-
「まさか、忘れちまったとは言わねぇよな?体は人気のアイドルだろうと中身は別物。そいつをわざわざ生け捕りにして、それでめでたく解決だと本気で思ってるのか?」
(っ……)
反論の言葉が出ず、吐息が漏れた。
千雪の様子を気の毒だと思うこともなく、やはり温度を感じさせない声で続ける。
「大体アイツは相棒から恨みを買い過ぎてる。お前だって知ってるだろ?それとも、体の女がかわいそうだから水に流してやれなんて言う気か?」
(そ、れは……)
エボルトにしてみれば、ダグバを生かす意味は全く無かった。
もしダグバが優勝し願いを叶える為や、一刻も早く帰還する為に殺し合いに乗ったなら。
交渉次第で難波重工のように利害関係で繋がることも出来ただろう。
だが現実にダグバは優勝と言う結果ではなく、参加者と殺し合う過程に価値を見出す者。
まともな話の通じる手合いではない。
仮にダグバが気まぐれを起こし、共にボンドルド達を始末するのに協力すると言い出したとしてもだ。
千雪に言った通り、ダグバは殺し合いで他者からのヘイトを集め過ぎている。
確認出来るだけでも5人、蓮は仲間を殺された。
お人好しであれど判断力は悪くない蓮でも、流石に仲間の命を奪った奴と一時的に手を組むと言われれば納得などできないだろう。
蓮だけではない。
交戦経験からダグバを危険視するキャメロットや、同行者であったいろはを殺されたジューダス。
彼らとて納得しかねるに違いない。
-
ダグバを生かすメリットと言えば、真乃と元々知り合いだった千雪や大崎甜花からエボルトへの印象を多少マシに出来る程度。
リスクとリターンがまるで釣り合っていない。
ディケイドや暴走中の康一は生きており、主催者との直接対決も控えている現状で抱え込むには厄介にも程がある。
そのような相手にまで手を差し伸べるような博愛主義者ではない。
真乃を気の毒に思う参加者はそれなりにいるだろうが、エボルトがやったのは果たして責められる内容なのか。
複数人の善良な参加者を殺した危険な者を利用し、トドメを刺した。
打算とはいえ蓮を守り、アルフォンスの暴走はそもそもエボルトの責任ではない。
感情論を抜きにすれば別に間違った行動ではなかった。
「ま、そういうこった。怒り足りないなら原因を作った連中を恨むんだな」
話はこれで終わりとばかりに立ち上がる。
唇を噛み俯く女の姿がありありと浮かぶも、所詮は些事だ。
それより今の戦闘を見て、他の殺し合いに乗った者がやって来る方に警戒すべき。
気絶中の蓮は元より、エボルトも消耗が大きい。
面倒な輩とぶつかる前に移動し、さっさと戦兎に合流するに限る。
ダグバのデイパックを漁り魔法のじゅうたんを取り出す。
これなら蓮を寝かせたまま移動できるし、余計な体力を使わずに済む。
「とんだ寄り道になっちまったが、そろそろ行くとしますかね」
道を阻むものは現れず、西を目指して飛んで行く。
あっという間に橋へ到達すれば、最早戦場には何も残らない。
王と偶像が生きた証も、何一つとして。
-
○○○
『千翼…お前を殺しに来た』
赤い獣が笑う。
『千ィ翼ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』
緑の獣が怒る。
『千翼ォ!逃げろぉ!!』
少年が自分を逃がそうとする。
『やがて、星が降る……星が降る……頃……』
そして少女が、あの娘が、
イユ、が――――
「―――――ッ!!!!!!!!!」
記憶の中の人々が、幾つもの痛みが浮かんでは消えて。
本能という濁流に流され、木っ端微塵に散らばる。
獣は咆える。生きる邪魔をするなと。
獣は咆える。生きる為に喰わせろと。
獣は哭く。誰か自分を止めてくれとでも言うように。
そんな獣を憐れむように、慈しむように。
星は静かに見下ろしていた。
-
【C-4と5の境界 橋/夜】
【雨宮蓮@ペルソナ5】
[身体]:左翔太郎@仮面ライダーW
[状態]:ダメージ(大)、疲労(絶大)、SP消費(大)、体力消耗(特大)、怒りと悲しみ(極大)、ぶつけ所の無い悔しさ、メタモンを殺した事への複雑な感情、じゅうたんに乗って移動中、気絶中
[装備]:煙幕@ペルソナ5、T2ジョーカーメモリ+T2サイクロンメモリ+ロストドライバー@仮面ライダーW、三十年式銃剣@ゴールデンカムイ
[道具]:基本支給品×6、ハードボイルダー@仮面ライダーWダブルドライバー@仮面ライダーW、スパイダーショック@仮面ライダーW、新八のメガネ@銀魂、ラーの鏡@ドラゴンクエストシリーズ、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、2つ前の放送時点の参加者配置図(身体)@オリジナル、耀哉の首輪、ジューダスのメモ、大人用の傘
[思考・状況]基本方針:主催を打倒し、この催しを終わらせる。
0:……
1:西側のエリアに向かい、しんのすけや協力出来る一団やと合流する。
2:仲間を集めたい。
3:エボルトは信用した訳ではないが、共闘を受け入れる。
4:今は別行動だが、しんのすけの力になってやりたい。フリーザの宇宙船にいるみたいだ。
5:どうして双葉がボンドルド達の所にいるんだ?助け出さないと。
6:体の持ち主に対して少し申し訳なさを感じている。元の体に戻れたら無茶をした事を謝りたい。
7:ディケイド(JUDO)はまだ倒せていない気がする…。
8:新たなペルソナと仮面ライダー。この力で今度こそ巻き込まれた人を守りたい。
9:推定殺害人数というのは気になるが、ミチルは無害だと思う。
[備考]
※参戦時期については少なくとも心の怪盗団を結成し、既に何人か改心させた後です。フタバパレスまでは攻略済み。
※スキルカード@ペルソナ5を使用した事で、アルセーヌがラクンダを習得しました。
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。
※翔太郎の記憶から仮面ライダーダブル、仮面ライダージョーカーの知識を得ました。
※ベルベットルームを訪れましたが、再び行けるかは不明です。また悪魔合体や囚人名簿などの利用は一切不可能となっています。
※エボルトとのコープ発生により「道化師」のペルソナ「マガツイザナギ」を獲得しました。燃費は劣悪です。
※しんのすけとのコープ発生により「太陽」のペルソナ「ケツアルカトル」を獲得しました。
※ミチルとのコープ発生により「信念」のペルソナ「ホウオウ」を獲得しました。
※アルフォンスとのコープ発生により「塔」のペルソナ「セト」を獲得しました。
-
【エボルト@仮面ライダービルド】
[身体]:桑山千雪@アイドルマスター シャイニーカラーズ
[状態]:ダメージ(大)、疲労(絶大)、千雪の意識が復活、じゅうたんに乗って移動中
[装備]:トランスチームガン+コブラロストフルボトル+ロケットフルボトル@仮面ライダービルド、グレートドラゴンエボルボトル@仮面ライダービルド、魔法のじゅうたん@ドラゴンクエストシリーズ、スマートフォン@オリジナル
[道具]:基本支給品×4、フリーガーハマー(9/9、ミサイル×9)@ストライクウィッチーズシリーズ、ゲネシスドライバー+メロンエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、アークドライバーワン+アークワンプログライズキー@仮面ライダーゼロワン、ミニ八卦炉@東方project、ランダム支給品0〜1(シロの分)、累の母の首輪、アーマージャックの首輪、ダグバの首輪、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、大人用の傘
[思考・状況]基本方針:主催者の持つ力を奪い、完全復活を果たす。
1:西側のエリアに向かう。ようやく会えそうだな戦兎ォ?
2:ナビからの連絡を待つ。トラブルでもあったのかね。
3:蓮達を戦力として利用。アルフォンスの奴は…どうしたもんかねぇ。
4:首輪を外す為に戦兎を探す。会えたら首輪を渡してやる。
5:有益な情報を持つ参加者と接触する。戦力になる者は引き入れたい。
6:自身の状態に疑問。
7:このエボルボトルは何だ?俺の知らない未来からのプレゼント、ってやつか?
8:ほとんど期待はしていないが、エボルドライバーがあったら取り戻す。
9:柊ナナにも接触しておきたい。
10:今の所殺し合いに乗る気は無いが、他に手段が無いなら優勝狙いに切り替える。
11:推定殺害人数が何かは分からないが…まあ多分ミチルはシロだろうな(シャレじゃねえぜ?)
12:ジューダスの作戦には協力せず、主催者の持つ時空に干渉する力はできれば排除しておきたい。
13:千雪を利用すりゃ主催者をおびき寄せれるんじゃねぇか?
[備考]
※参戦時期は33話以前のどこか。
※他者の顔を変える、エネルギー波の放射などの能力は使えますが、他者への憑依は不可能となっています。
またブラッドスタークに変身できるだけのハザードレベルはありますが、エボルドライバーを使っての変身はできません。
※自身の状態を、精神だけを千雪の身体に移されたのではなく、千雪の身体にブラッド族の能力で憑依させられたまま固定されていると考えています。
また理由については主催者のミスか、何か目的があってのものと推測しています。
エボルトの考えが正しいか否かは後続の書き手にお任せします。
※ブラッドスタークに変身時は変声機能(若しくは自前の能力)により声を変えるかもしれません。(CV:芝崎典子→CV:金尾哲夫)
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。
※主催者は最初から柊ナナが「未来を切り開く鍵」を手に入れられるよう仕組んだと推測しています。
※制限で千雪に身体の主導権を明け渡せなくなっている可能性を考えています。
※自分と戦兎がそれぞれ別の時間軸から参加していると考えています。
-
【C-5/夜】
【アルフォンス・エルリック@鋼の錬金術師】
[身体]:千翼@仮面ライダーアマゾンズ
[状態]:疲労(絶大)、空腹感(極大)、食人衝動(大)、自分自身への不安、目の前で死者が出て助けられなかったことに対する悲しみ、暴走中
[装備]:ネオアマゾンズレジスター@仮面ライダーアマゾンズ、ネオアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品、銀時のスクーター@銀魂、グレーテ・ザムザの首輪
[思考・状況]基本方針:元の体には戻りたいが、殺し合うつもりはない。
0:生きる
1:西側のエリアに行き神楽さん達と合流する。
2:暴走を抑える方法も考えないと…。
3:グリードは一先ず大丈夫、かな?
4:産屋敷さん、じゃなくて無惨って人は殺し合いに乗ってたんだ…。ミーティの体、元に戻してあげられなかった…
5:殺し合いに乗っていない人がいたら協力したい。
6:もしこの空腹に耐えられなくなったら…
7:千翼はやっぱりアマゾンだったのか…
8:機械に強い人を探す。
[備考]
※参戦時期は少なくともジェルソ、ザンパノ(体をキメラにされた軍人さん)が仲間になって以降です。
※ミーティを合成獣だと思っています。
※千翼はアマゾンではないのかとほぼ確信を抱いています。
※支給された身体の持ち主のプロフィールにはアマゾンの詳しい生態、千翼の正体に関する情報は書かれていません。
※千翼同様、通常の食事を取ろうとすると激しい拒否感が現れるようです。
※無惨の名を「産屋敷耀哉」と思っていました。
※首輪に錬金術を使おうとすると無効化されるようです。
※ダグバの放送を聞き取りました。(遠坂経由で)
※Fate/stay nightの世界観および聖杯戦争について知りました。
※千翼の記憶を断片的に見ました。
※アマゾンネオ及びオリジナル態に変身しました。
※久しぶりの生身の肉体の為、痛みや疲れが普通よりも大きく感じられるようです。
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投下終了です
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桐生戦兎、杉元佐一、我妻善逸、大崎甜花、神楽、広瀬康一を予約します
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更新早くてうれしい(≧∇≦)b
完結が見えてきたので頑張ってほしいナ(*´ω`*)
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投下します
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声がする。
滅ぼせ、全てを滅ぼせ、目に映る何もかもを滅ぼせ。
滅び尽くすまで決して止まるな。
声の主が誰なのか、何故滅ぼさねばならないのか。
至極当然の疑問は露程も生まれず、彼は前に進み続ける。
明確な目的地など決めていない。
そもそも今の彼はそのように思考を働かせること自体が不可能。
繰り返される声に逆らわず、何より己の内から泉のように湧き出る憎悪が彼を突き動かす。
誰を、何を憎んでいるのか彼は分かっていない。
果たしてそれが、本当に自分自身の憎悪なのかすら判断が付かなかった。
それでも彼は決して歩みを止めない。
破壊と憎悪だけが今の彼にとっての全て。
垂らした呪いに蝕まれた精神は、最早黄金とは程遠い腐臭を放つ呪物と成り果てた。
守るのではなく壊す、救うのではなく殺す。
正義を歩む光り輝く道は最早どこにも存在しない。
屍を転がし、夥しい血で彩られた冥府魔道。
一歩、また一歩と歩を進めれば足元が沈んで行く。
二度と戻れない泥の底へ自ら落ちつつあると気付きもせず、やがて彼は辿り着いた。
聳え立つ白亜の宮殿。
命と心、両方を救うドクター達の戦場。
侵してはならない聖域を前に、憎悪が沸き立ち声が濁流の如く流れ込む。
――滅ぼす。
――全部、駆逐してやる。
-
◆
横たわった少女を前に、善逸は言葉に表せぬ奇妙な感覚を覚えた。
正面玄関から見えない位置、ずっと奥へ設置された霊安室。
簡素な作りの寝台に身を横たえた赤毛の少女。
死体を見るのには慣れている。
鬼の被害に遭った中には、原型を留めず食い散らかされた犠牲者だって珍しくなかった。
シーツを捲り顔の部分のみを覗かせた彼女こそ、善逸が再会を望んだ仲間の器。
元々色白の肌は今や完全に色を失い、結んだ口から沈黙が破られることは永遠にない。
どれだけ彼女の顔を見つめたとて、決して視線を返しはしてくれない。
瞼が閉じられる前、彼女の瞳は最後に何を映し出したのだろうか。
思い浮かべるはやはりもういない男の顔。
寡黙で涙脆い、無念の最期をこの目でしかと見た仲間。
前の死とこの場での死、どちらがマシかは分からない。
「ピカ……」
少女の肉体は腐りゆくだけの肉袋。
本来あるべき少女自身の魂はおろか、胡蝶しのぶの意識は欠片も残っていない。
蝶の髪飾りを付け微笑むあの人がここにいた、そう己の目で実感できるものはやはりどこにもなくて。
以前蝶屋敷で世話になった頃の記憶が浮かんでは消え、名前も知らない赤毛の少女の顔が変えられない現実として今を映す。
結局自分はもう一度言葉を交わすことも、顔を見ることすら出来なかったのだと分かり。
涙を流さずとも改めて悲しみに胸を突き刺された。
「……」
覚めない眠りについた少女を見下ろす神楽に言葉は無い。
普段の彼女らしからぬ重苦しい空気。
目の前に横たわるのは神楽が犯した罪の証。
彼女が仲間と共に生還を果たす、有り得た未来を自身が粉々に打ち砕いた。
忘れられないし忘れるつもりもないけれど、こうしてしのぶを前に悲しみに暮れる善逸の存在を感じ取れば、罪悪感に息が止まる思いだ。
(でも…私はまだ死ねないアル。恨み言なら私がババアになって、最後に卵かけご飯食べて死んでから思いっきりぶつけるヨロシ)
生きてるのが辛くとも、生きて帰らなければならない理由があるから。
糖尿病持ちの天パ、ツッコミ属性のメガネ、ずっと変わらないと思っていた神楽の居場所。
彼らの死を伝えねばならない人々がいる、だから自分は生きる事を投げ出せない。
亡き人へ想いを馳せる、ある意味では恵まれた時間。
それも長くは続かない。
感傷に浸り続けるのを認めぬとばかりに鳴り響く、新たな章の幕開け。
ハッと顔を上げ部屋を飛び出した一人と一匹は見た、天高くに姿を現した少女を。
-
◆◆◆
死者を悼む者がいれば、現状打破への一歩を踏み出そうとする者もいる。
食堂での語らいを終えた戦兎と甜花は病院内を探索していた。
目的は首輪解除に使う工具の入手。
これまではナナと斉木の接触や悲鳴嶼達の来訪などが立て続けに起きたが、今ならば探索の時間的余裕も幾らかある。
探すのは自分がやるから甜花は休んでいて良いと伝えたところ、手伝いたいと言われた。
無理をして欲しいとは全く思わないが、好意を無下にする気もない。
やる気を出す彼女へ水を差すのも却って悪いと考え承諾。
用務員のロッカールーム等を訪れ数十分、ようやく目当ての物が見付かった。
「せ、戦兎さ〜ん……!」
どこか苦しそうな声に駆け寄ると、納得の光景があった。
金属製の箱を両手で持つ彼女はふらつき、今にも転倒しそうだ。
余程重いのか、必死に運ぼうとしている割にほんのちょっぴりずつしか進んでいない。
よいしょ、よいしょと口に出すのは微笑ましいと言えるのかもしれないが、本人からしたら笑えないだろう。
ふらつく甜花へ咄嗟に手が伸び支える。
「おっと。大丈夫か?甜花」
「あっ、う、うん……。あっちで見付けたんだけど、凄く重くて……あう、ごめんなさい……」
彼女が運んで来たケースを開けてみれば、成程これは重いだろうなと納得。
箱いっぱいにギッチリ詰まった工具一式が金属特有のにおいを発し、鼻孔を突く。
多少の錆こそ見られるも、使う分には問題無い。
ざっと取り出しても首輪を解体するのに必要な物は揃っており、あれがないこれがないと頭を抱える事態にはならない筈。
「謝らなくて良いし、むしろ見つけてくれて大助かりだ」
「そ、そうかな……?にへへ……甜花、お手柄……」
しゅんと肩を落とした姿はどこへやら。
褒められた嬉しさはストレートに表情へ出すらしく、たちまち破顔。
大崎姉妹の妹の庇護欲を刺激する独自の雰囲気は、体がその妹になっても健在。
工具箱を受け取り、戦兎自身のデイパックに仕舞う。
サイズに関係無く収納可能で、しかも重さは一切変わらない性能はこういう場面で役に立つ。
改めてどんな仕組みか調べたい欲求が生まれるが、それは殺し合いを止め生きて帰ってからだ。
まずは自分達の命を縛る枷を取り外すのが優先。
-
と意気込んだは良いものの、着手するのはまだ先。
二人の耳にもハッキリ届いたのだ。
忌々しいチャイム音、定時放送を告げる合図が。
「こ、これって……」
強張った顔で震える甜花の横で、戦兎も表情に険しさが生まれる。
これより伝えられるのは全て必要な情報だ、耳を塞ぐ愚行に出る気は皆無。
しかしどうやったって緊張は抑えられない。
『よ、よぉー…。初めましてだな、みんな』
引き攣り笑いを浮かべた少女のしどろもどろな挨拶。
斉木空助、ハワード・クリフォードに続く新たな主催者側の協力者登場に始まり伝達事項が語られる。
最後は少女にとっても予想外だったのか、動揺を露わに放送を終わらせた。
「……」
「……」
室内には先程までのほのぼのとした空気は霧散し、痛い沈黙が流れる。
佐倉双葉なる少女の話した内容はどれも、少なからず衝撃を与えるものばかり。
甜花からしたら何から考えて行けば良いのかすら難しく、頭の中がしっちゃかめっちゃか。
チラリと横目で戦兎を見ると、真剣な顔付きで考え込む姿が映り込んだ。
話しかけたら迷惑かな、そう思い彼の名を口に出すのに躊躇が生じる。
尤もそこまで悩む必要もない。
考えを整理し終えたのか、声色にも真剣さを宿した声が掛けられた。
「一旦全員で集まって話し合った方が良いな。俺は神楽達を呼びに行くから、甜花は杉元の方を頼む」
「わ、分かった……!」
アイドルの仕事をしていれば、現場でスタッフから次々指示が飛ぶのは日常茶飯事。
頷き、すたたっと言われた通りに動き出す。
見張り役を引き受けた仲間の元へ向かう甜花の背を見送り、戦兎も霊安室へと足を速めるのだった。
-
◆◆◆
絶えず地面を濡らし、雨粒が弾ける音を響かせた雨は止んだ。
ガラス一枚隔てた外から聞こえるのは、時折吹き付ける風のみ。
間もなく夕日も消え、殺し合い開始直後と同じ闇が訪れる。
昼夜問わず常に気を張る医療スタッフは影も形もおらず、いるのは病院で身を休めた5人の参加者。
ロビーにて顔を突き合わせる彼らは皆、喜びや楽しさとは正反対の顔。
それぞれ聞いた場所は違えど、全員放送はしかと確認済みだ。
病院へ戻って来た時よりも、纏わりつく空気へ重圧が増すのも無理はない。
「先に俺から良いか?」
痛い沈黙を真っ先に破ったのは白髪の少女。
蓬莱人の肉体を得た兵士、杉元は5人の中で最も死を身近に感じて来た男だ。
仲間の脱落を悼む気持ちはあれど、延々それを引き摺りはしない。
冷静に放送の内容を受け止め、今後必要となる情報を読み解いていく。
「放送が正しいなら脹相は死んじまったってことだけどよ、ありゃおかしいだろ」
「ああ、体が全然違う奴だった」
別行動を取った仲間の一人は先の6時間で命を落としてしまった。
今になって死亡者発表に嘘を交えるとは考えられず、脹相の死は紛れもない事実だろう。
奇妙なのは放送で表示された脹相の肉体について。
デンジなるガラの悪い少年が殺し合いで脹相に与えられた体。
知らない者にとっては気にもしないだろうが、甜花を除いた病院内のメンバーはハッキリとした疑問を抱く。
脹相の体は501部隊所属のウィッチ、ゲルトルート・バルクホルンだ。
病院を出発する前の顔合わせで確認しており間違いない。
だというのに放送で全く別人の体が映し出された理由は、然程時間を置かずに導き出される。
-
「杉元。最初に善逸と会った時、体を入れ替えたかもしれない奴がいたって言ったよな?」
「ん?おう。変わった耳飾り付けた奴で、ただそいつもさっきの放送で呼ばれて…あ、そういうことか」
一番最初に二足歩行のカエルことケロロ軍曹の体に入っていた参加者。
その何者かが姉畑にウコチャヌプコロされた直後、今は亡き鳥束と体を入れ替えた。
放送で名前を知ったが竈門炭治郎の体となったそいつは、杉元達の知らない所で今度はデンジの体を手に入れたのだろう。
となると、元々デンジの体だったのはやはり放送で脱落者に名を連ねた絵美理という少女と考えられる。
デンジの体になったそいつとナナ達が宇宙船で遭遇。
どうにか撃退できたものの脹相が犠牲となり、バルクホルンの体も奪われてしまった。
ややこしいが体の入れ替えが可能な力の持ち主がいる前提があれば、大まかな経緯は推測できる。
「つまり…あいつはまだ生きてるってことか」
杉元をして強敵だと認識せざるを得ない戦闘技術の持ち主は、未だ死を逃れている。
生存者の数が減り禁止エリアの影響で移動範囲が狭まった以上、再戦の可能性は決して低くない。
若しかすれば、アシリパや白石の体に入れ替えられることだって有り得なくはない。
と言っても現在に至るまで放送でアシリパ達の名が放送で呼ばれていない為、実際には巻き込まれてないのではとも薄々感じ始めている。
ただ確証は持てないので、組み合わせ名簿の確認は変わらず今後の方針に付け加えたまま。
アシリパ達が無事ならその場合、知り合いは本当に姉畑のみが参加という余りに不可解な疑問が残されるのだが。
姉畑で思い出すのは主催者側のボスなる者からの伝言。
亀で、今はカメラ。
何のこっちゃとしか言いようのない内容だが、参加者を煙に巻く戯言と切り捨てられない。
動物が参加者に登録されたのを知っている故に、殺し合いの黒幕もまた動物の可能性は無いと言い切れない。
ちなみに亀という単語からそれぞれタートルフルボトル、竜宮城での騒動、灯織が考えた話を連想したが全て無関係である。
カメラに精神が入っているかもしれないのも、貨物船という存在を知っていれば理解出来なくも無かった。
改めて考えても貨物船に自我が宿る意味が全く分からないが。
もし姉畑が生きていたらどんな反応をしたのだろうかと、非常にどうでもいいことつい考えそうになる。
-
死して尚も混乱を引き起こす男の存在を頭から追いやり、朗報と言うべき情報に思考を切り替える。
戦兎達にとって目下最大の脅威であるDIO、その部下のヴァニラ・アイスも放送も先の6時間を生き延びられなかった。
地下通路のモノモノマシーンへ向かってから、同じくモノモノマシーン目当ての参加者と衝突。
結果殺されたのかもしれない。
殺害者の正体は不明だが、これでDIOの戦力が削がれたのは悪い情報ではないだろう。
尤も殺害者が殺し合いに乗っているならば、脅威がいつこちらに向かって来るか分からないのが悩みの種。
こちらの与り知らぬ所でDIOも部下と同じく脱落、とは流石に期待し過ぎか。
またDIOとの詳細な関係性は不明だが空条承太郎も死亡。
こちらは神楽曰く、康一から信頼できる男と伝えられたらしい。
終ぞ会えなかった少年に与えられた体はなんと燃堂だった。
本当に高校生かと疑いたくなる凶悪な面構えが、まさかバカとしか言いようのない燃堂の元の体とは驚きである。
殺し合いをまるで正確に理解していない彼と言えども、自分の体が失われたと知れば流石に平気ではいられない筈。
もしそれすら理解出来なければ、同行しているナナが説明に苦心するのは予想に難くない。
そのナナに関してもクラスメイトの犬飼ミチルが死亡しており、精神的に余裕があるかは不明だが。
(千雪さんと、真乃ちゃんは大丈夫みたい……)
自分の知るアイドル達の無事へ、甜花は内心胸を撫で下ろす。
放送の度に彼女達が名前を呼ばれる可能性に怯えて来たが、今度も大丈夫だった。
千雪が無事というのは即ち、戦兎が強く警戒するエボルトの生存に繋がる為決して気は抜けない。
それでも親しい者達の体が失われていない事実には、やはり安堵が勝る。
真乃の体になったダグバがどんな人物かは分からないけど、殺し合いに乗っていない人であって欲しいと願うばかりだ。
親しい者の生存を知る一方で、喪失を嘆く者もまた現れる。
「ピカー…ピカピ……(無惨が死んだけど…でも……)」
全ての悲劇の元凶、鬼殺隊の宿敵であろうと殺し合いでは絶対の存在に非ず。
証明するかのように無惨も死亡。
動物とも違う奇怪な生物の体になっていたことへの驚きはあれど、これ以上犠牲者が生まれないのを考えれば喜ばしい。
残念ながら知ったのが良い情報だけとは限らない。
鬼殺隊の長であった耀哉もまた、無惨と同じ6時間の間に死んでしまった。
しかも与えられ体がよりにもよって、怨敵である無惨なのは最悪の組み合わせと言う他ない。
自分でさえ衝撃を受けているのだから、耀哉を強く慕っていた柱達にとっては到底受け入れ難いだろう。
彼らがこの事実を知らず二度目の死を迎えたのは、果たして幸運だったのか否か。
善逸には答えが出せなかった。
-
更に悪い情報として、肉体だけだが炭治郎の脱落も発表された。
体を失い、精神はどうなっているか今も不明。
ひょっとすれば二回目の放送で言われた肉体側の精神の復活に、炭治郎が当て嵌まった可能性とて有り得る。
確たる証拠は無いけれど、完全否定だって出来ない。
もしそうなら、炭治郎は本当に善逸の知らない所で死んでしまったことになる。
無惨との決戦を生き延びた仲間であり友である少年が、こんな訳の分からない場所で命を落としたなど信じたくない。
仮に自分が生還出来ても禰豆子や伊之助、カナヲに一体何と説明すれば良いのか。
皆が揃って悲痛な顔をする光景を嫌でも考えてしまい、どうしようもなく心が沈む。
「ゲンガー……」
善逸同様、神楽の表情にも影が差す。
離れの島で出会った仲間はまた一人、無情にも再会叶わず去って行った。
これで残ったのは自分と康一の二人だけ、出会った頃の騒がしさが遠い過去に感じられてならない。
誰に、どのような形で殺されたのかは知る由も無い。
真実が何にせよ、ゲンガーと言葉を交わす機会は二度と訪れない。
決意を貫き、殺し合いに乗った者達へのイジワルとジャマモノをやり遂げたのか。
カイジが別行動を取る原因を作ったメタモンの死亡も喜ぶ気になれず、言いようのない寂しさが胸を突き刺す。
また神楽と直接の面識は無いが、康一の友である東方仗助の体の持ち主も死亡とのこと。
これをゲンガーや承太郎の死へ追い打ちを掛ける内容に、康一への心配は募るばかり。
加えて、ロビンの仲間のチョッパーの体も脱落者に加わっていた。
せめて彼女の仲間の体は元に戻してやりたかったものの、チョッパーに関しては不可能となったのも神楽の精神をより曇らせる。
沈痛な面持ちの二人と一匹へ安易に声を掛けるのは憚られる。
しかし時間による解決へ期待する余裕は残されていない。
2時間後にはD-3も禁止エリアとして機能し、聖都大学附属病院は完全に出入り不可能。
猶予はまだあり、少し急げば十分間に合うがのんびりしてもいられない。
悲痛な空気に横槍を入れると承知の上で、戦兎は地図を取り出し広げる。
-
「予定通り柊達との合流に行こうと思う。急がねえと俺達だけじゃなく、アイツらの方も危険だ」
自分達がいるD-3、参加者が大勢集まるだろうD-6の街、そしてモノモノマシーンが設置されたG-5。
新たな禁止エリアから、主催者が参加者の誘導を行おうとしているのは察せる。
恐らくは北西に設置された網走監獄周辺へ一同に集めるつもりだろう。
そうなれば網走監獄の丁度真下のエリアにいるナナ達が、集まった参加者と接触する可能性は高い。
打倒主催者を掲げる者ならともかく、DIOのような危険人物とぶつかっては最悪の展開となってしまう。
戦闘が可能な脹相がいない現状、ナナと燃堂の二人だけではどうぞ殺してくださいと言っているようなもの。
手遅れになる前に合流を急ぐべきだ。
「……ごめん、私はやっぱり康一を探しに行きたいネ」
そこへ異を唱えるのは神楽。
ナナ達の元へ急いだ方が良いのは分かる。
だが病院での合流を約束した仲間は未だ姿を見せず、不安は募るばかり。
康一が追いかけていた巨大な虫…グレーテの死は放送で確認出来た。
彼女はアルフォンスの言ったように錯乱しているだけだったのか、或いは明確な意思で殺し合いに乗ったのか。
今となってはもう分からない。
ハッキリしているのはグレーテが死に、康一は彼女を追ったまま6時間以上経っても病院に現れないこと。
村で何かあったんじゃないか、アルフォンスから聞いた危険人物に襲われたのでは。
負傷し、身動きが取れずにいる可能性だって否定できない。
「お前らは先に行ってるがヨロシ。私も康一を見付けたら急いで追いかけるアル」
「…分かった。ならバイクを渡すからそれを使ってくれ」
迷いのない瞳で言われ、僅かな沈黙を挟み戦兎も承諾。
放送が終わっても病院に康一が来ない場合に、捜索へ行くのは戦兎も考えた。
本当ならば戦力を分散せず、5人で康一を探した方が安全だろう。
しかしそうなると今度はナナ達が危険に晒される。
危険は承知で二手に分かれる、それしかない。
-
「ピカ!(お、俺も一緒に行く!)」
片手(前足)を上げ、黄色い獣が同行を名乗り出た。
神楽が仲間を心配するのは見ていてよく分かったし、そこを否定する気はない。
ただ、一人だけで探しに行くのを黙って見送れない。
仲間を次々に失う痛みは、鬼との戦いと殺し合いでの喪失から善逸にも痛いくらいに理解出来る。
だからこそ残った仲間の為に無茶をしでかさないか心配だ。
それに、罪悪感という形であれど自分と共にしのぶを悼んだ縁もある。
DIOのような危険人物との遭遇を考えれば恐くて堪らないが、神楽を放って置けない。
少女と少年の決意を嘲笑うように異変が起きたのは直後だ。
「ピカ…?」
最初に気付いたのは善逸。
ピカチュウの長い耳を揺らし、不審な音の接近を聞き取った。
次いで起こるは建物の振動。
病院全体が揺れている。
最初は極僅か、徐々に揺れが大きさを増しロビー備え付けのパンフレットが落下。
まるでこちらの不安を煽るのが目的と言わんばかりに、振動は激しさを増す。
「じ、地震……?」
「違う。こいつは……足音か?」
揺れは一定の間隔で発生しており、自然災害とは違う。
一つの可能性に思い至った杉元だが、自分の言葉ながら俄かには信じ難い。
ヒグマを始め凶暴な野生動物との遭遇は多々あれど、ここまでの振動を移動だけで起こす存在は見た事がない。
一体全体何が近付いているのか、何が始まろうとしているのか。
膨らむ疑問へ長々考える必要はない。
ガラス窓を挟んだ外へ視線を移せば、向こうから答えが歩いてやって来たのだから。
-
「は……?」
間の抜けた声を発したのは誰だったか。
互いがどんな顔でソレを見ていたか。
少なくとも、この時の彼らにそんなものを気にする余裕はゼロ。
全員の意識を掻っ攫い、暫し思考をフリーズさせる存在がいた。
巨人、である。
10メートルを超える人型の物体を表すのに、他の言葉は思い付かない。
剥き出しの歯を打ち鳴らし近付く光景は、怪獣映画の世界に迷い込んだかの荒唐無稽さ。
病院に留まり続ける間にも、危険な参加者から襲撃を受ける可能性は頭に置いていた。
だが幾ら何でも、ここまで規格外の存在の出現は予想外。
「康一…!?」
凍り付いた意識を引き戻したのは、唯一巨人の正体を知る少女の声。
彼女もまた予期せぬ事態に反応が遅れたが、他の者より復帰は早い。
自然と神楽に視線が集まる。
「おいまさか、探しに行きたがってた仲間ってあいつか…?」
「そうアル…。でもなんで…銀ちゃんみたいにいちご牛乳が切れて禁断症状が出たアルか?」
「ピカ!ピガアアアアア!!(っていうかこっちに来てるって!どうすんの!?どうすんのこれ!?)」
「で、でも神楽さんの仲間なら……襲ったりとかはしないんじゃ……」
困惑する一同を巨人の瞳が捉える。
見下ろす視線に宿るものは、友好的とは程遠い。
早急な対処を脳が激しく訴え、全身の細胞が痛いくらいに刺激される感覚。
死闘を経験した者達ならば知らない筈がない、極大の殺気が叩き付けられた。
「おい来たぞ!」
「っ!変身!」
『KAMEN RIDE BUILD!』
『鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イェーイ!』
敵対者からの殺気とは即ち、導火線への点火と同じ。
何故、どうしてと頭で考えるより先に体が動く。
回避を促しつつ、杉元自身も全身をバネに変える勢いで跳び退いた。
右手には善逸を抱え、左手では未だ困惑から覚めぬ神楽を引っ張って。
信頼する仲間に襲われるショックから、直ぐには切り替えられなかったのだろう。
-
「きゃっ……!」
「文句は後で聞くから我慢してくれ!」
ディケイドライバーにカードを叩き込み、ビルドに変身するや否や戦兎も動き出す。
巨人が発する殺気に身が竦んだ甜花を抱え病院を飛び出る。
ラビットフルボトルの成分で強化された脚力を最大限に行使、迫りつつある死から少しでも遠ざからなければ揃って御陀仏だ。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!』
あれだけの殺気を叩きつけておきながら何もしない、などと肩透かしな筈も無く。
足を後方へ振り上げ、ボールを蹴り付けるような気安さで巨人の足が猛接近。
ガラスが砕け散り床は粉砕、四方八方へ吹き飛んだ椅子が更なる破壊を齎す。
たった一撃でロビー内は見るも無残な惨状に変貌。
単なる移動でさえ命をゴミのように刈り取れるのだ。
明確な殺意で以て対象の殲滅に動けば、齎される破壊の規模は想像するのも恐ろしい。
しかし巨人の望んだ光景は実現されていない。
ここにいるのは怯え逃げ惑うだけの弱者に非ず、紙一重ながら全員病院を脱出した。
「こ、康一…なんで……」
「頭の中がこんがらがってるだろうけど教えてくれ。どうやったら止められる?」
動揺を露わにわなわなと震える神楽へ、時間が惜しいとばかりに問い掛ける。
康一が巨人となり自分達を襲った理由を考えるより、大人しくさせる方が先だ。
先程神楽は巨人を見て康一と言った、なら康一が巨人になれる事を知っていたと見て間違いない。
現状打破の情報を握る神楽に、知っている情報を話してもらう必要がある。
「えっと…確か……」
混乱から覚めぬ頭で必死に記憶の糸を手繰り寄せる。
康一は巨人になる能力を制御出来ていなかった筈。
だから最初ロビンと会った時、暴れ回る彼を止めるのに協力してくれと頼まれた。
だというのに康一は再び巨人の姿になった挙句、案の定理性を失っている。
一体村で何が起きたのか。
制御不可能と分かっていながら巨人にならざるを得ない程、危機的状況に陥ったのか。
自分がグレーテへの対処を誤らなければ康一が村に近付く必要も無く、このような事態にならなかったんじゃあないか。
ごちゃごちゃし始める脳内を必死に探り、離れの島での情報交換を思い出す。
互いに持つ能力や支給品、体の情報も教え合い巨人についての情報も聞いただろう。
そうだ、確かあの巨人は――
-
「うなじ…うなじって言ってたネ!そこに康一が埋まってるから、引き摺り出せば元に戻る筈ヨ!」
弱点は分かったが無邪気に喜んでもいられない。
標的が全員健在なのを知り、巨人からの敵意が一層膨れ上がる。
簡単に止まってはくれないだろうプレッシャー。
DIOとの戦いの時とはまた違う緊張感が一同を包み込む。
「へ、変身……!」
『ロックオン!ソイヤッ!』
『メロンアームズ!天・下・御・免!』
放って置けば自らを支える芯まで蝕む恐怖。
己を支配下に置く感情を振り払うように、ロックシードを勢いよく装填。
アーマードライダー斬月に変身し、甜花は戦兎の隣に立つ。
顔は仮面で見えない、それでも決して顔色が良いのでないくらい察せられる。
「甜花……」
「だ、大丈夫……!恐い、けど……でも、戦兎さん達と頑張るって、決めたから……!」
声に震えは隠せない、しかし確固とした意思が宿っているのも確か。
躊躇は一瞬、共闘を受け入れ強く頷き返す。
決意に水を差すのを憚れるだけではない。
どこかに隠れていろと言っても相手のサイズがサイズだ。
病院内に身を潜め、結果巨人の攻撃で倒壊が起きる可能性も十分ある。
ならば彼女の近くでフォローに動いた方が良い。
『■■■■■オオ■■■■■■オオオ■■■■■■オ■■■■■■■■!!!!!』
お喋りはもう終わりだ。
放送が過ぎ、次なる舞台への準備は整えられた。
三人の支配者が雌雄を決する場。
善意と悪意が交差する因縁のステージ。
そして此度もまた一つ、新たな闘争の幕が上がる。
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