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決闘バトルロイヤル part3
さあ、ゲームを始めよう――
※前スレ
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1655738773/
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予約延長します
投下します
万丈龍我との戦いを終えたパラダイスキングは
しばらくダンデライナーで移動を続けた後、草原で停止して休息を取った。。
変身を解除し、デイパックから水の入ったペットボトルを取り出すと
喉を潤して一息付いた所で、上空から巨大映像が浮かび上がった。
「おーおー、随分とまぁ面白ぇ奴じゃねえか」
主催者である檀黎斗の振る舞いを見たパラダイスキングの第一印象は面白い男だった。
これだけ壮大な殺し合いを企てるような奴だ。
まともな人間じゃこんな狂った行動は出来ねえ。
よっぽどイかれた人間に決まっている。
それに反乱者を屠った力も魅力的だ。
これだけの力があれば再び王に、いやそれ以上の存在にだってなれるだろう。
「欲しい!欲しいぜその力!必ず手に入れて見せるぜッ!!」
王様は欲張りで、気まぐれで、残酷で、退屈している。
パラダイスキングは檀黎斗の持つ力を欲した。
かつてアクション仮面のカリスマ性を己が物にしようとした時のように。
「ぬぉ!?あのガキも参加してるのか!」
檀黎斗の言葉通りに参加者名簿に目を通すと
そこには『野原しんのすけ』の名前があった。
己の王国を破壊され、手下の猿共を失い。敗北させられた忌々しいガキだ。
「丁度いいぜぇ。もし見つけたら、その時は……ぶっ殺してやる」
アクション仮面の名が見つからなかったのは心残りだが
いない奴の事なんか考えても仕方ない。
今はこのゲームで勝ち残る事だけを考えて行動するだけだ。
「うぇっうぇっうぇっうぇっうぇっうぇっうぇっうぇっうぇっ」
その時、まるでゾンビのような不気味な唸り声が周囲から響き渡った。
全身が白い怪物がパラダイスキングを囲むように姿を現した。
ヤゴ型ミラーモンスター、シアゴーストはパラダイスキングを捕食するべくゆっくりと向かってくる。
「ふん、雑魚がいくら群れたところで俺には勝てねぇぞ?」
シアゴーストの数は十体以上いるが、パラダイスキングにとっては脅威でも何でもなかった。
「さあ来い!全員まとめてぶっ潰してやるぜええええ!!!」
そう言いながらパラダイスキングは戦極ドライバーとバナナロックシードを取り出し
『バナナ!』
「変身」
『ロックオン!ソイヤッ!』
『バナナアームズ!ナイト・オブ・スピアー!』
腰に装着した戦極ドライバーにバナナロックシードを装填すると
パラダイスキングの体は仮面ライダーブラックバロンの姿へと変化した。
「オラァ!」
「うぇぇ……」
ブラックバロンは専用武器であるバナスピアーを構え、周囲のシアゴースト達を薙ぎ払う。
体術に優れたパラダイスキングの軽快な動きを生かした攻撃にシアゴースト達は翻弄されるままである。
「オラオラどうしたぁ?もっとかかってこいやぁ!」
「ぐげぇ……」
そしてシアゴースト達の反撃を受ける前に、素早く次の獲物へと襲い掛かった。
「これで終わりだ!」
『バナナスパーキング!』
「うぇぇ……」
ブラックバロンはバナスピアーにエネルギーを注ぎ込み、地面に突き刺した。
すると地面からバナナ型のエネルギーが槍のように次々と出現して行き。
全てのシアゴースト達を串刺しにして撃破した。
「ふん、骨の無い連中だ。それよりも……」
ブラックバロンの視線は草原の中にある茂みの方へと向けられた。
「さっさと出てきな!そこにいるのは分かっているんだぜ!」
茂みの中でこちらの様子を伺ってる存在がいるのは戦闘の途中から気付いていた。
いつまでも出てこない様なら敵と見なして始末するだけだ。
するとがさごそと草が擦れる音を鳴らしながらようやく姿を現した。
「覗いててごめんなさいです〜。怪物達が怖くて隠れてたのです〜」
出てきたのはまだ3歳の幼い少年、フグ田タラオだった。
♦
「なんなのですか?自分を神呼ばわりするなんて頭のおかしな人です〜」
ボーちゃんを殺害したタラオは森から抜け出した所で
巨大モニターが出現し、神を自称する狂人の映像が流れた。
それを見終わるとタラオは開示された情報をチェックしながら移動する。
「それにしてもあのお兄ちゃんはお馬鹿ですね〜。
何の策も無しに挑んだって勝ち目が無いのは3歳のボクでも分かるですよ〜」
黎斗に戦いを挑み、命を落とした葛葉紘汰の姿を思い出してゲラゲラと笑っていた。
タラオからして見れば、葛葉紘汰はただ無意味に死んだ愚かな男としか映らなかった。
「さてさて、そんな事よりルールの確認が重要なのですぅ。とっても賢いボクは色々考えなくちゃならないのですよ」
他者より優位に立つには知識を得る事が必要不可欠。
ゲームに勝つには単純な暴力以上に、頭脳が重要になる。
タブレットを弄っていたタイミングで、激しい戦闘音がそう遠くない場所で鳴り響いた。
「誰かが戦ってるみたいですね。ちょっと様子を見に行くです〜」
音の鳴った方角へ走り出し、茂みに隠れながら状況を確認すると
そこには仮面ライダーブラックバロンが複数のシアゴーストを相手に戦う姿が見えた。
数は多勢に無勢なれど、戦局は圧倒的にライダーの方が上だった。
「あれも『仮面ライダー』ですかね〜。とっても強いですぅ」
『バナナスパーキング!』
ブラックバロンの必殺技によって多数いたシアゴーストはあっという間に全滅した。
するとブラックバロンはタラオのいる方向へ視線を向けて
「さっさと出てきな!そこにいるのは分かっているんだぜ!」
「覗いててごめんなさいです〜。怪物達が怖くて隠れてたのです〜」
ブラックバロンの一喝によって姿を現すタラオ。
そうして隠れていたタラオは発見される事となった。
♦
「なんだぁ。ちびっこいガキじゃねえか」
随分とまぁ、幼い子供を参加させた物だとブラックバロンが考えた所で
幼子と言えば野原しんのすけの存在を思い出し
他にも近しい歳の少年達が参加してもおかしくないと考え直す。
「それにしてもすごかったです!」
「あ?何がだ?」
「さっきの戦いです!あんなにいた怪物達をあっさり倒すなんてびっくりなのです〜」
「ふん、あの程度なら楽勝よ」
(ここは煽てまくって味方に付けるのが吉なのです〜♪)
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『ゴマすり作戦』
タラオはひたすら相手を褒め続けることによって好感度を稼いで手を組む作戦に出た。
それはある程度、歳を取った人間だとおべっかだの腰巾着だの不快感を与え警戒されるリスクがあるが
自分の幼さを自覚しているタラオは、そんな警戒心を作らず、純粋に憧れの感情を持っていると誤認させている。
波平からの寵愛を一心に受け、甘やかされ続けるのにも一重のタラオの小細工が効いているのだ。
「すごいです〜憧れちゃうです〜。どうしてそんなに強いのですか?」
「それはなぁ……俺が王様だからだ!」
「王様、ですかぁ?」
「おうよ!俺はパラダイスキングと言ってな。とっても偉くて、とっても強いナイスガイな王様なんだぜぇ!」
「か……かっこいいですーーー!!ボク、王様を見たのは初めてなのですぅ〜」
「そうだろぉ!お前みたいな奴は見る機会が少ないだろうな!貴重な体験になったなぁ!」
「とっても嬉しいです〜。王様とお話出来るなんて皆に自慢出来ます〜」
「おう、もっと敬え。そして崇め奉れ」
「はいです〜」
タラオは褒めて褒めて褒めまくった。
そしてそろそろ本題へと入る事にした。
「あ、あの……パラダイスキング様、お願いがあるんですけど……」
タラオがもじもじしながら上目遣いでブラックバロンを見つめる。
「何だ?言ってみろ」
「僕をパラダイスキング様の家来にしてほしいんです」
「ほう、俺の家来にか」
「はいです。強くてかっこいい王様と一緒にいたいのです」
「そうか、それ程までに俺の事を慕っているのか!」
「はいなのです〜」
(しめしめ、可愛らしい僕の上目遣い姿にメロメロなのですぅ〜。他人を利用するなんて楽勝なのですぅ〜♪)
……とタラオが内心でほくそ笑んでいたその時。
「ううう……」
上空からうめき声をあげながら迫りくる一体の青いトンボ型ミラーモンスターがいた。
ミラーモンスターの名はレイドラグーン。
シアゴーストが進化したミラーモンスターであり、飛行能力を有している。
「襲ってくるですぅ!」
「たかが一匹でぇ!」
上空からのレイドラグーンの奇襲もブラックバロンは冷静に対応し
鎌のような鋭い鉤爪が届く前に、バナスピアーの突きによって迎撃する。
「うぅ……」
ブラックバロンを捕食するのは難しいと本能で察したレイドラグーンは一旦距離を取り
近くにいる別の生物を捕食対象に選んだ。
「え?」
つまりレイドラグーンはタラオを捕食対象に選んだのである。
「なんで僕が狙われるですかぁー!!」
タラオは必死に走ってレイドラグーンの追跡から逃れようとする。
だが3歳のタラオの脚力では飛行するレイドラグーンから逃げ切れる事は不可能。
捕まるのも時間の問題であった。
「パラダイスキング様ぁ〜!助けてくださいですぅ〜!」
「てめえで何とかしな」
助けを求めるタラオにブラックバロンは冷たく突き放した。
「え?そんな……何故ですかぁ!!」
「ガキのお守なんざごめんだぜ。俺の家来になりたければ役に立つ所を証明するんだなぁ!」
「うわーん!!酷いですぅ〜!!」
忠実なのは良いが、こんな幼いガキでは部下として使い物にならないとブラックバロンは冷酷に判断を下していた。
それでも野原しんのすけだったら思いがけない行動を起こして、この窮地を脱するかもしれない。
これは、このガキにもそんな光る物を備わっているかのテストである。
この程度のモンスターにやられるようならそれまで。
支給品だけは頂いて立ち去るのみだ。
「ひぎゃん!!」
レイドラグーンの爪がタラオの後頭部を掠めた。
タラオが後頭部に手を当て確認すると触った手に血が付いていた。
傷は浅いが皮膚が切れて血が滲んでいた。
「よくもやってくれたですねぇ……」
こんな愛くるしくて可愛い姿をしたボクに傷を付けるなんて、跡が残ったらどうするんですか?どう責任を取るんですか?
何の知性も無いような野蛮なモンスター風情が、賢くて優秀な良い子であるボクに逆らって良いと思ってるんですか?
ボクの命はそこらの人間とは価値が違うのです。
それを失うのは磯野家、いや世界の損失に繋がるのです。
だからボクが生き残るためなら何をしても許されるんですよ。
【ブドウ!】
タラオの手には戦極ドライバーとブドウロックシードが握られていた。
「おい!それは……!」
「変身ですぅ〜!」
【ロックオン!ハイィー!】
【ブドウアームズ!龍・砲!ハッハッハッ!】
戦極ドライバーを装着し、タラオの姿が仮面ライダー龍玄へと変化した。
これは本来、ボーちゃんが持っていた支給品である。
最初はただの玩具と疑っていたタラオであったが
葛葉紘汰が変身していたライダーにそっくりな道具だったのを確認して
説明書通りに変身可能だと理解していた。
ブラックバロンはタラオがそんな力を持っていたのは想定外な事態であり
変身した姿を見て驚きが隠せないでいた。
「うう……」
「鈍いですよ♪」
上空から襲いかかるレイドラグーンに龍玄は右横へ転がって回避する。
「狙い撃ちですぅ〜」
攻撃を回避した事でレイドラグーンの背後を取った形になった龍玄はブドウ龍砲を構えて
トリガーを引き、放たれた弾丸がレイドラグーンの背中に次々と着弾し
飛行の維持が出来なくなり、地面へと落下した。
「殺るです♪」
【ブドウスカッシュ!】
戦極ドライバーのカッティングブレードを1回操作して発動。
エネルギー弾が放たれた後、龍型の弾がレイドラグーンを撃ち抜き爆散した。
「すっきりです♪」
「ほぉ……やるじゃねえか」
「えへへ、褒められちゃったですぅ〜」
ブラックバロンは素直にタラオの実力を認めた。
仮面ライダーの力を有しており、使いこなしているなら部下として価値があると判断した。
「中々面白えガキだ。お前の名は?」
「フグ田タラオです」
「タラオか、お前を家来として認める。しっかり働けよ」
「はいです!パラダイスキング様のお役に立てるように頑張るです!」
(本当は切り札としてこの力をもっと隠しておきたかったですが、協力を得られたので結果オーライですぅ)
変身を解除した二人は主従の証となる硬い握手を結んだ。
こうして邪悪なライダーのコンビが誕生した。
再び王に返り咲くために力を求めて優勝を目指す元王様と
己以外の全てを見下し、自分が特別な存在だと信じて疑わない傲慢な幼子。
一筋縄ではいかないコンビの出現はこの島で更に混迷を深める事になるだろう。
【F-4/一日目/深夜】
【パラダイスキング@クレヨンしんちゃん】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)
[装備]:量産型戦極ドライバー+バナナロックシード(ナンバー無し)@仮面ライダー鎧武、タンポポロックシード@仮面ライダー鎧武
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:優勝する。
1:もっと強い武器を手に入れる。
2:タラオを家来として利用する
3:万丈の奴は次に会う時があったら殺す。
4:主催者(檀黎斗)の持つ力が欲しい!
[備考]
※参戦時期は『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル』終了後。
【フグ田タラオ@サザエさん二次創作】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:量産型戦極ドライバー+ブドウロックシード(ナンバー無し)@仮面ライダー鎧武
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜5(確認済み)
[思考・状況]
基本:生き残るべきは僕なのですぅ♪
1:どんな手を使ってでも生き残るですぅ♪
2:僕は何も悪くないですぅ♪
3:パラダイスキングを利用して賢く生き残るですぅ♪
[備考]
※性格が二次創作出典なので原作よりもクズな性格になっています。
※ボーちゃんの死体は川に流されました。
どこまで流されたかは後続の書き手に任せます。
【量産型戦極ドライバー@仮面ライダー鎧武】
フグ田タラオに支給。
仮面ライダー鎧武における変身ベルト。
ロックシードと合わせて使うことで変身可能。
【ブドウロックシード@仮面ライダー鎧武】
フグ田タラオに支給。
エナジーロックシードの一種。
戦極ドライバーに装填し、使用することでバロンアームズへと変身可能となる。
上記の量産型戦極ドライバーと合わせて一つの支給品として扱われる。
投下終了です
七海やちよ、万丈龍我、虐待おじさんを予約します。
投下します
マサツグ様が刃王剣十聖刃を構え、ニノンもまたデイパックから緑色の剣を取り出す。
風双剣翠風――仮面ライダー剣斬へ変身するためのツールであると同時に武器としても使える聖剣だ。
みかげを魔物から助けた際もこの聖剣を武器として扱い、倒している。ニノンは武器を用いた戦闘を得意としており、徒手空拳で魔物を倒すのは難しい。
もっともこの聖剣が仮面ライダーという戦士に変身する機能があるというのは、魔物を倒した後に知ったことなのだが。あの時はとにかく魔物を倒すことを優先して、ロクに説明書も読んでいなかった。
そしてマサツグ様とニノンは奇しくも似たような――というより同じ世界の聖剣を支給されていた。
スタート地点の近さ、支給品の類似点。
まるで最初から二人はこうして戦う運命が定められていたかのように。
全て神の掌の上で転がされているかのように――。
だがそんなこと二人には知ったことじゃない。特にニノンはこの状況でそんな悠長なことは考えていられない。
「ふん。お前も聖剣使いか?」
マサツグ様は支給品の説明書を読んでおり、刃王剣十聖刃が聖剣だということを知っている。
変身能力なども把握済みだが――未だ使っていないのは、慢心ゆえか。
「――ッ!」
ニノンが返事をするより先に、マサツグ様が容赦なく聖剣を振るう。ニノンはこれを己が聖剣で防ぐが、冷や汗が垂れる。
回答なんて元から期待してない。わざわざ聞く気もない。
ニノンを襲う前に軽く目を通した名簿に記載されていた、直見真嗣とマサツグ様――。
並行世界の自分もまたこの殺し合いに参加していることが、ほぼ確定したと判断しても良いだろう。
なんとも気持ち悪いことだ。
ハーレム要員のエリンがやけに馴れ馴れしいツンデレ気取りになっていたように、並行世界の自分もまた気持ち悪い存在なのだろう。
考えるだけで寒気がする。本当に気持ち悪い話だ。
だから一刻も早く並行世界の自分を見つけ出し、この手で殺す。ナオミ・マサツグはこの世に一人で良い。
(……?思ったより威力が低いデスね)
マサツグ様が刃王剣十聖刃を振り、ニノンが風双剣翠風でそれを防ぐ。そんなやり取りが幾度か続いた。一瞬でも気を抜けば殺されかねない、命のやり取り。
だからニノンは決して気を抜かないし、マサツグ様の相手に集中しているが――なんというか、思ったよりは強くないというのが率直な感想だった。
マサツグ様の攻撃はニノンでも難なく対処出来るし、実際いまのところ傷一つ付けられていない。
それどころかマサツグ様の剣の動きはよく見ればそれほど大したことがない。同じギルドのモニカの方が技術ならよっぽど上だろう。
――これはマサツグ様の「守る」スキルが発動されていないことが原因なのだが、ニノンはそんな情報を知るわけもない。
ナオミ・マサツグは大切なもの。守りたいものを守る時に強い力を発揮する。
そしてマサツグ様は己を守る際に力を発揮する。
だが今は暫くマサツグ様が一方的に攻めるのみの状況が続き、彼はニノンを虫けら程度にしか思っていない。これでは守るスキルが発動されないのも必然だ。
(これなら……いけそうデス!)
聖剣を振るわれるのは、これで何度目だろう。
ニノンは風双剣翠風を握る腕に力を込め、刃王剣十聖刃の刀身へぶつけることで軌道を逸らす。
当然マサツグ様の胴体はがら空きになり、そこへ風双剣翠風の峰を叩き込もうとする。
「峰打ちデース!」
ニノンは魔物こそ退治するが――目の前にいるこの不気味な男は、これでも人間だ。
だから殺さず、とりあえず思いっきり腹を殴って気絶させる。生き残るために戦う覚悟は出来ているが、だからといって人間を殺す覚悟までは出来ていない。
この時点で殺し合いのプレイヤーとしてはあまりにも甘すぎるが――それだけならまだ良い。
それ以上にニノンは運が悪かった。
「――がっ!?」
――ニノンの腹に、刃王剣十聖刃が突き刺さる。
不意打ちのように切られたせいで、急所を避けるのがやっとだ。それが出来ただけでもニノンは褒められても良いだろう。
「ど……どういうことデスか……?」
ニノンの目は現実を捉えていた。
だがニノンの頭は理解が追いつかない。
何故なら彼女はたしかにマサツグ様の聖剣の軌道を逸らし、反撃に出たはずなのだ。
それなのにいきなり刃王剣十聖刃がマサツグ様を守るかのようにその手を離れ、ニノンの腹に突き刺さった。
理解不能。
ただ一つわかることは、自分はおそらく助からないであろうこと。
急所こそ避けたが、血が止まらない。目の前の男は応急処置すらも許してくれないだろう。
ぐらり――。
ニノンの身体がよろけ、無様にも倒れる。
(ショーグン、モニカさん……)
二人の姿が脳裏を過る。
ここで死ねば自分はもう二度とショーグンやモニカと――ヴァイスフリューゲルのみんなと会えない。
(せめてスモーク玉があれば良かったのデスが……)
アクダイカンから逃げる際に使用した忍法・スモーク玉。忍法なんて名付けているが要するにただの煙玉で、当然ながら道具を主催者に没収されている今では使えない。
(ミカゲさんは大丈夫でしょうか……?)
ふとこの殺し合いで出会った少女を思い出す。
我が道を往く団員ばかりのヴァイスフリューゲルとは程遠い、普通に拘る存在を。
致命的に相性が悪いと言わざるを得ないが――それでもやっぱり彼女と別れてしまった後悔はある。
戦う力を持つプレイヤーならともかく、彼女は明らかに無力だ。単独行動に出るなんてあまりにも危ない。
だがもしもみかげがこの場に居たら、きっと真っ先に殺されていただろう。そういう意味では、みかげがどこかへ行ってくれたのは好都合かもしれない。
(ショーグンみたいな人に会ってるといいデスが……)
あんな別れ方をしてしまったのだ、色々と思うことはあるし何より心配だ。
だが今は――――。
「やれやれ。足元を掬われたのはお前だったようだな」
力なく倒れ伏したニノンをマサツグ様は見下す。
これぞマサツグ様。紛うことなきハーレム王であり、チート能力を手にした者。
ちなみに刃王剣十聖刃は今再び、マサツグ様の手にある。ニノンを一突きした後、自動的に戻ってきたのだ。まるでマサツグ様を守るかのように。
「まだ、デス……っ!」
ニノンはなんとか立ち上がるとバックステップして、マサツグ様との距離を取る。
身体が重い。少し動いただけなのに、激痛が走る。
それでもニノンは目の前の巨悪に負ける気はない。
「あなたみたいなヤツをノサバラセるわけにはいかないデス!」
「……で?羽虫のお前に何が出来るというのだ?」
羽虫。
マサツグ様にとってニノンなんて本当にその程度の存在でしかない。
圧倒的なまでの力の差だ。こんな時に考えるのもおかしなことだが、アクダイカンを倒した時のことを思い出す。
あの時は白翼の絆で強敵を打ち破ったが――今は一人だけ。そしてアユミも、この世にはもう居ない。
「ワタシにはまだ切り札があります……!――変身!!」
そしてニノンは風双剣翠風によって忍者のようにも見える緑の剣士――仮面ライダー剣斬に変身した。
「第二ラウンジの始まりデス!」
「ふん。小賢しい羽虫が」
卍
神を自称するゲームマスターはテストプレイの終了を告げると、次々と真のルール説明や残酷な映像を流し始めた。
テスト――僕にとっては大嫌いな言葉だ。まさか無自覚のうちに『テスト』を受けさせられてたなんて思わなかったけど……今はそれどころじゃない。
「貴様は人の命をなんだと思っているのだ……っ!」
女の子が殺された光景を見せ付けられて、モニカちゃんの表情がどんどん険しくなる。
その時のモニカちゃんの姿は本当に軍人みたいで。拳を握りしめて顔を顰めるその表情は、戦士という言葉がピッタリ似合うな……なんて思った。
そんなことを考えていたら、いつの間にか男の人が駆け付けて、特殊なベルトで変身した。
ゲームマスターの言葉を信じるなら、彼の名前は葛葉紘汰。仮面ライダー鎧武。たぶん仮面ライダーっていうのは、ああやって変身して戦う人のことだ。
変身――。
僕もゆきさんに出会って、女装を始めて――変身した。
ゆきさんが居なければ僕は勉強に抑圧された、つまらない人生を送っていたはずだ。
現実を壊すことすら出来ず、夢を見ることも出来なかった。
なによりゆきさんは、僕にとって――――。
そんなことを呑気に考えていた時。
『ぐぅわぁあああ!!』
――仮面ライダー鎧武の絶叫に目を見張る。
え?
今、何が起こったんだ……?
僕は正直、紘汰さんが乱入した後は少し楽観的に放送を見ていた。
あそこまで辿り着けるということは、きっとすごく強いに違いない。僕みたいなガリ勉野郎よりも頭だっていいと思う。
それに仮面ライダー鎧武はヒーローに見えた。
紘汰さんなら、ゲームマスターの野望を止められる気がした。
それなのに紘汰さんはいつの間にか大怪我を負って、仮面ライダーじゃなくなっていた。
一定のダメージを受けたら強制的に変身を解除される?
もしそうなら、鎧武はいつ攻撃を受けた?
昔は勉強だけが取り柄だった僕だけど……今の状況を理解出来ない。
……でも紘汰さんが何か攻撃を受けたことだけはわかる。
『君をリプログラミングして普通の人間に戻した。さあ、神の前に跪くがいい!』
『ふざ、けんな!力なんて無くても、変身出来なくても―――俺は最後まで戦う!!』
こんな状況なのに紘汰さんは諦めようとしなかった。
諦めの悪さは僕も多少は自信がある。……ゆきさんのことをずっと諦められないから。
でも紘汰さんの諦めの悪さは――僕とは明らかに違うものだ。
『それが俺たち―――仮面ライダーだからだ!』
ガリ勉野郎だった僕にはあまり理解出来ないけど――仮面ライダーという言葉に誇りを感じる。
あの人は何があってもきっと絶対に諦めない。女装が家族バレして、家族会議で女装を諦めかけた僕とは全然違う。
「コウタ……!」
険しかったモニカちゃんの表情が、勇ましいものに変わる。
紘汰さんの言動に影響を受けたのか?
僕も何も思わないわけじゃないけど――そんなカッコいい表情は出来ない。
『戒斗……みんな……。俺の代わりにこいつを、檀黎斗を……止めてくれ……』
こうして紘汰さんは――僕たちが見ている放送の中で死んだ。
檀黎斗。それがゲームマスターの名前だろうけど、紘汰さんでも勝てないのにどうやって――――。
「うむ。――コウタ、貴公の意志は私に届いたぞ!」
うじうじ悩んでる弱気の僕とは正反対に、モニカちゃんはやる気を出してた。
すごい……。あんなに強い人が殺されたのに、それでもモニカちゃんは立ち向かおうとしてるのか……。
僕はゆきさんや椎名さんと仲良くなって『変身』したはずなのに――。
紘汰さんやモニカちゃんみたいにあのゲームマスターと戦おうなんて思えない。
これじゃまるでガリ勉野郎の頃と変わらない……。
勉強に抑圧された次は、圧倒的な強さにひれ伏すしかないのか……?
「あの自称神は私が倒す。
……だがマナブ、貴公は自分が生き残ることを優先してくれ。一般人を危険に巻き込むのは、軍人として不本意だ」
モニカちゃんは勇ましくて、優しかった。
軍人。初対面の時は微塵も信じてなかったけど、彼女の称号に真実味が増してゆく。
正義感が強いだけじゃ説明出来ない何かが、今のモニカちゃんにはある。
多分モニカちゃんは本当に軍人なんだ。戦争をするためじゃなくて、みんなを守るための優しい軍人なのかな……。
『葛葉紘汰はルール違反だが―――残念ながら彼には首輪がないから爆発することが出来なかった。
彼女の名前はアユミ。ルール違反を行った葛葉紘汰の代わりに―――今から彼女を削除する』
それでも檀黎斗は執拗にプレイヤーへ嫌がらせを仕掛けてくる。
アユミ――その名前を聞いた瞬間、嫌な予感がした。
ゆきさんとユキちゃんみたいに名前が同じだけならいいけど……。
「そ、そんな……。アユミ……!」
――現実はそんなに甘くなかった。
モニカちゃんの反応でわかる。モニターに映し出された女の子は――モニカちゃんの仲間のアユミちゃんだ。
「何故だ!?どうしてアユミを殺そうとする!!」
その時のモニカちゃんは怒りと悲しみをごちゃごちゃにしたような――そんな表情をしてた。
そしてそんなモニカちゃんを嘲笑うかのように――アユミちゃんの首輪が音を鳴らす。
やばい……これはきっと命のカウントダウンだ。
アユミちゃんもその意味を理解してるみたいで、急いで首輪を外そうとする。――当然、外れない。
『たすけてくだ―――』
ここに来て何度目かの人の死。それもモニカちゃんの仲間が殺された。
それなのに僕はもう……こんなこと考えたらダメだけど、死体を見るのに少し慣れてしまった。
……それでも怖い。
僕もいつかああなるんだろうか。
今は殺された女の子や紘汰さんやアユミちゃんのことを悲しまなきゃダメなはずなのに……それ以上に自分の死が怖い。
ダメだ。
モニカちゃんに何か声を掛けなきゃダメなのに――――。
「アユミ……」
無理だった。
僕はモニカちゃんのことを全然知らないし、元々はただのガリ勉だから……誰かを慰めるなんて難しい。
呆然とした表情でアユミちゃんの名前を呟くモニカちゃんを眺めるだけ。
それだけしか今の僕には出来ない。
『そして今から一つ運試しのゲームをする。私がこのボタンを押した瞬間―――君たち本戦出場者のうち何人かがランダムでゲームオーバーになるゲームだ』
「――――え?」
この人は今、なんて言った?
ランダムで人が死ぬ?
そんな――僕はまだゆきさんに再会してないのに。フェラチオどころか、キスすらしてもらってないのに。
ゆきさんはいつも可愛い。
ちんこ舐めた椎名さんを見て、興奮した表情すら可愛かった。
同じおちんちんがついてる男性とは思えないほど可愛くて、僕を救ってくれた女装男子。
フェラチオさせてくださいって頼んだら、興奮して勃起する姿も。
顔に似合わず大きいおちんちんも。女の子みたいな喘ぎ声を出すところも。頼めばフェラチオしてくれそうなところも。
――ゆきさんは全部が可愛い。
そんな僕の想いなんて無視してゲームマスターはボタンを押した。
もしもゆきさんがこのゲームに参加してたら――この瞬間に殺された可能性もある。
僕は急いで名簿を確認した。
現実的に考えたら、ボタン一つで死ぬなんてそんなことあるわけ……と思っていたかもしれない。
でもあんなにも死体を見せ付けらて、あのゲームマスターなら本当にボタン一つで人を殺せると知った。倫理観なんてこの人にはない。
「どこまで……」
――ずっと悲しんでいたモニカちゃんが呟いた。
アユミちゃんが死んでも、モニカちゃんはまだ放送を見ている。聞いている。
「どこまで人の命を弄べば気が済むのだ!何故こんなことをして、人々の人生をめちゃくちゃにするのだ……!!」
モニカちゃん……。
今のモニカちゃんの表情は、優しい軍人のモニカちゃんとはかけ離れたものだった。
「お前さえいなければ、みんな幸せな日々を送れたはずだ!そんな力があるのに、何故こんなことに利用した……!」
幸せな日々……。
たしかに僕は家族にも女装を認められて、幸せな日々が始まるはずだった。
こんなところに連れてこられなければゆきさんと幸せになれた可能性だって……。
「私の質問に答えろ!本当に神なら答えてみせろ、クロト!!」
モニターに向かって叫ぶモニカちゃんの質問に答える人は誰もいない。モニカちゃんの叫び声だけが虚しく響いた……。
そして放送が終わった。モニカちゃんは暫く俯いた後――――。
「……すまない、マナブ。私としたことが、取り乱してしまったな」
「僕は大丈夫だよ。……ゆきさんが無事ならいいけど……」
ユキ。
その名前が名簿に記載されてるのを見た瞬間、背筋が凍った。
ゆきさんが呼ばれてる可能性は考えてたけど……ボタンの一件があるから怖い……。
でも放送が終わった後に冷静に名簿を見返すと、僕の名前はフルネームで書いてあった。
僕以外にもそういう人が大多数で……中には野獣先輩とか変な名前の人もいるけど、とりあえず『ユキ』がゆきさんだとは限らない。
フルネームで記載されてる可能性が浮上したし、モニカちゃんの知り合いのユキちゃんの可能性もある。……モニカちゃんの近くに名前が書いてあるから、その可能性が高そうだな……。
あ……。この件はいつかモニカちゃんに伝えるべきだと思うけど、今はやめておく。今これを教えてもモニカちゃんを刺激するだけかもしれない。
「安心してくれ。マナブも、マナブの知り合いの『ユキ』も私が責任をもって守る」
モニカちゃんはへこたれない。
僕とゆきさんのどっちも守ると宣言するその姿は、軍人そのものだ。……でもやっぱりアユミちゃんの件を引きずってるのか、少し寂しそうでも、悔しそうでもあった。
それにこんなのまるで――。
「モニカちゃんは僕を頼らないの……?」
一人で抱え込もうとしてるモニカちゃんを見てると、ついそんなことを口にしていた。
僕には女装と勉強くらいしか特技がない。ガリ勉だったからゲームなんてあまりしてこなかったし、当たり前だけど戦闘技術だってない。
人を殺す?そんなことは、もちろんダメに決まってる。
でもそんな僕にも今は力がある。戦うための立派な武器が支給されたんだ。
「さっきも言ったが、私は軍人だ。一般人を危険に巻き込みたくはない」
軍人。
もしかしてその言葉はモニカちゃんの誇りであると同時に――呪いなのかもしれない。
――昔の僕は勉強に抑圧されて、テストで満点を取り続けるだけの人生だった。
モニカちゃんは僕と違って自分の意志でそういう生き方を選んでると思うけど……。
「一人で抱え込むのは……ダメだよ……」
僕はモニカちゃんや紘汰さんみたいに強くない。……ゲームマスターと戦うのも怖い。
それでも――――。
こんな女の子だけに色々と背負わせて、自分だけ逃げるのもダメだと思った。
モニカちゃんの後ろを歩いてるだけだとゆきさんに合わせる顔もない……。
それに自分だけで抱え込む辛さは僕もよく知ってる。
勉強に抑圧された僕は女装男子のゆきさんや椎名さんに頼って、メスに変身出来た。
家族に女装やメスイキをバレた時は終わりだと思ったけど、父さんが僕を救ってくれた。
だから僕は一人で抱え込む辛さも、誰かを頼る大切さも――誰かに救われることの喜びも知ってる。
僕はゆきさんに執着してるけど――それは最後に見たゆきさんの姿が少し寂しそうだったことも大きい。
だから一人で抱え込んで、少し寂しそうな顔でがんばろうとするモニカちゃんを見てると心苦しくなった。
まだ出会ったばかりだし、ゲームマスターや誰かと戦うことは怖いけど。
それでも――――。
「僕も……モニカちゃんと一緒に戦いたい……」
ゲームマスターが怖い。
死ぬのも怖い。
放送で何回も死体を見てきた。僕はああなりたくない。ゆきさんもああなってほしくない。
そして今はモニカちゃんも……ああなってほしくない。
「そうか……。貴公の気持ちは嬉しいが……」
モニカちゃんが僕から視線を逸らす。迷ってるのかな……。
「私はもう誰にも死んでほしく――」
「ふざけるな!友を信じられないお前は甘い!!」
?????
何かいきなり青色の服を着たスタイルのいい男性が乱入して、モニカちゃんの頬を思いっきり叩いた……?
意味がわからない……。モニカちゃんも目を見開いて呆気に取られてる。
とりあえず僕は緋々色金を――――。
「二人のやり取りを隠れて観察していたが……。モニカ、お前は友の想いを――決意を無駄にするのか?」
男の人はそれ以上は何も手を出さずに、モニカちゃんに問い掛けた。……もしかして悪い人じゃないのか……?
さっきの一撃は意味不明で理解出来ないけど、モニカちゃんに対する視線は真剣で熱意が籠ってる。よくわからないけど、悪い人じゃないのかもしれない。
「友の想い、か……」
モニカちゃんが空を見上げて、何かを懐かしむように呟いた。
一瞬だけ表情が柔らかになる。嬉しそうに微笑んで――――また顔を引き締める。
「マナブの想いは私も嬉しい。名前も知らない貴公の言い分もわかる。マナブとはきっと良い友になれる気がするからな。
……だが友をもう二度と失いたくないと思うのは、悪いことなのか?」
アユミちゃんを失ったモニカちゃんの言葉だから重い。
僕もゆきさんが急に居なくなった時はショックだった。だからモニカちゃんの気持ちはわかる。
ゆきさんはまだ生きてる可能性があるし、また会えると信じてる。……でもアユミちゃんは死んだ。もう二度と蘇らない。
「……もう二度と友や仲間を失いたくないのだ。だから私が居る限り、誰も殺させやしない!」
卐
さっきの放送で何度も死を見てきた。
私は軍人だが……死にゆく人々に対して何も出来なかった。
コウタから勇気を貰ったが、その後にアユミが殺されて――。もうこれ以上、目の前で誰にも死んでほしくない。
そんなふうに考えることは、何か間違っているのだろうか?
「モニカ。お前の友や仲間はそんなにも軟なのか?」
軟、だと……?
いきなり乱入してきた男の衝撃的な言葉に怒りが湧いてくる。
私の仲間は――ヴァイスフリューゲル ランドソル支部の団員は軟なんかではない。
色々と難があることは否定出来ないが――私たちの白翼を何も知らない第三者に汚されたくない。
「そんなことは誰も言っていない。貴公に私の仲間を――ヴァイスフリューゲル ランドソル支部を侮辱される筋合いはないぞ」
だから私は思いきり謎の男を睨み付ける。
彼女達は勇気ある者だ。アクダイカンと戦えば命を落とす可能性もあるというのに……私の離脱指示を拒否して共に戦ってくれた。
そんな大切な仲間を、見ず知らずの男に侮辱されたくはない。
『一人で抱え込むのは……ダメだよ……』
マナブの言葉は……アクダイカンにヴァイスフリューゲルのみんなで立ち向かった時のことを思い出して、嬉しかった。
『僕も……モニカちゃんと一緒に戦いたい……』
クロトから与えられた数々の恐怖に打ち勝ち、私と共に戦う。……そんなことを言われたら、嬉しいに決まっているではないか。
だが……だからこそマナブにはアユミのように死んでほしくはないのだ。
もしもアユミが理不尽に殺されていなければ、マナブの手を取ったかもしれない。オーエド町でもそうやって彼女達と共に戦った。
『あ、あの、たしかに私たちはヴァイスフリューゲルではありませんが、ヴァイスフリューゲル ランドソル支部の一員です。
そして、ヴァイスフリューゲル ランドソル支部の……私たちのリーダーは、困っている人を見捨てたりしないはずです。
――だったら私たち団員は、リーダーについていきます』
――ふと、アユミの言葉が脳裏に蘇った。
アユミ……其方とはもう会えなくなってしまった。だが私はリーダーとして、其方や他の人々の命を弄んだクロトを討伐しよう。
それが其方に対して出来るせめてもの手向けだ……。
そして友も仲間も、他の一般人も――全て私が守り抜く。それこそが私の使命だ!
「――私は友を、仲間を信じている!だからこそ誰も失いたくないのだ……!!」
「そうか。……だがお前のその言動は本当に仲間を――友を信じていると言えるのか?」
「どういうことだ?貴公は何が言いたい……?」
この男は――本当によくわからない存在だ。
だが彼の瞳から確たる信念のようなものを感じる。この男は間違いなく、こちら側の人間なのだろう。
「大切なものを失う辛さは、俺も知ってる。だが――それは友の想いを汲まない理由にはならない」
友の想い。
マナブの想い――。
『一人で抱え込むのは……ダメだよ……』
『僕も……モニカちゃんと一緒に戦いたい……』
その気持ちは嬉しいが、だが私は……。
『良かったねモニカさん、この人が
何もしてなかったら……ボクが今日手に入れた化粧品で、モニカさんにオモシロ化粧をするところだったよ』
ユキ――。
『ク、クウカは、さっき買ったこの縄でモニカさんを縛る寸前でした……』
クウカ――。
『モニカさん、トーゴク名物の苦いジュース、アオジールを一気飲みしてもらっていいデスか?
……もちろん、お代わりもあるデスよ♪』
ニノン――。
『私は巻いてもらっているこの包帯で、
モニカさんの腕をキュッてするところでした♪』
アユミ――。
『こ、こんなことクウカが言うのもあれなのですが……その……クウカたち……』
『仲間じゃないか』
そして――――。
「……私だって本当はマナブと共にクロトを撃退したい。マナブの意志を汲み取りたい」
白翼の絆を胸にアクダイカンと戦った、あの時のように。
だが――いざアユミが殺される姿を見たら、やはり友の。仲間の身を案じてしまったのだ。
――怖かったのだ、友を失うのが。
嫌なのだ。人々を守れず、目の前で命を散らさせてしまうのが。
私は――軍人なのだ。仲間や友を。人々を守れず、何が軍人だというのだ。
「モニカちゃん……」
私を心配するように見つめるマナブの視線が痛い。……こんな情けない私ですまない、マナブ。
だが、それでも其方やヴァイスフリューゲルの団員には――――。
「――まだ、デス!まだワタシは負けてまセン!!」
迷える私の耳に、仲間の声が聞こえた。
これまで幾度となく聞いた声。
私が守るべき大切な友――――。
「この叫び声は――――ニノンか!」
声が聞こえた瞬間、体が自然と動いていた。
この場にいる誰よりも早く、声が聞こえた方へ駆け出す。
声の感じからして、彼女は何かと戦っているのだろう。……そしておそらく追い詰められている。
だが今ならまだ間に合う。間に合うはずだ。
――違う。間に合え、間に合わせるのだ……!
これ以上――仲間を失わないためにも。
卍
――ニノンとマサツグ様の戦闘は、勝負にすらならなかった。
仮面ライダー剣斬とニノン自体の相性は良い方だ。もしも相手がマサツグ様じゃなく、普通の強さの敵ならばいい勝負が出来たことだろう。
だが今回は相手が悪過ぎた。
変身したニノンを見てマサツグ様も変身。クロスセイバーと剣斬は同一世界の仮面ライダーであり、前者は仮面ライダーセイバーの最強フォーム――要するにその世界で最も強いであろう仮面ライダーだ。
クロスセイバーは制限もある上にマサツグ様とはあまり相性が良いとは言い難く――本来の使い手である神山飛羽真が変身した時ほどの強さは発揮出来ない。
そもそもセイバーの世界で剣士達は聖剣にそれぞれの想いを乗せて戦っている。だがマサツグ様にはそれが無く、相性的には最悪だ。
創造性という点でもマサツグ様は大した創造性なんて持ち合わせていない。
このような要因によりクロスセイバーは何ら能力を使えない状態にあるが――それでもスペックの差は圧倒的。
なによりニノンは戦闘が本格的に始まる前にマサツグ様のチートスキルで不意打ちを受けている。当然、その傷が響かないわけがない。
ゆえにマサツグ様の勝利は必然であり、圧倒的な力のみでマサツグ様はニノンを追い詰めてゆく。もはや約束された勝利といっても過言ではないだろう。
――正直、並の人間ならば精神がとっくにへし折れていそうな戦況だ。
この状況に対する打開策は――残念ながら特に思い浮かばない。
それでも未だに立ち上がり、マサツグ様を倒そうとするのはニノンが心優しい少女だからだ。
「――まだ、デス!まだワタシは負けてまセン!!」
「ふん。往生際の悪い羽虫だな」
「みんなが笑顔でいられる泰平の世を築くために――ワタシは諦めないデス!」
ニノンは本当に優しい少女だ。
本当はみかげのことも笑顔にしたかったが――何も出来なかった。彼女の気持ちに寄り添えず、それどころか彼女を怒らせてしまい、結果的に離れ離れになってしまった。
それでもみかげにマサツグ様の魔の手が伸びないように、戦うことなら出来る。……今のニノンにはそれしか出来ない。
みかげの心を救うのは、目の前の男をなんとかした後だ。なんとも出来ないような圧倒的に不利な状況だが――それでもニノンの闘志は未だに衰えていない。
心優しい少女はその身に痛ましいほどの傷を負い、それでもなお泰平の世を目指して邁進する。
ニノンの瞳は未だに光を失わず、前を見ている。
マサツグ様は往生際の悪い羽虫に若干の苛立ちを感じ、それが僅かに顔に表れている。
両者共に仮面に隠れてその表情は見えないのだが――――。
「笑顔だと?笑わせるな、薄っぺらい偽善者が」
「偽善者じゃありまセン。ワタシは事件を解決するだけじゃなくて、人の心も救えるような――そんな優しい家来になりたいだけデス!」
仮面越しでもその表情は容易に想像出来る。
マサツグ様はニノンのことを心底気持ち悪い羽虫だと思った。
二人の在り方は正反対だ。だからマサツグ様にはニノンが気持ち悪くて仕方がない。
理解不能なことをペラペラと喋る薄っぺらい偽善者だ。どうせこいつもロクなやつじゃないくせに――。
何が泰平の世だ。何が笑顔だ。
お前のような偽善者は、己が無力さを徹底的に叩き込む必要がある。
――マサツグ様はニノンという羽虫が気に入らない。
薄っぺらい正義感も、これだけ絶望的な状況なのに諦めようとしないその姿も。
こいつはいったい、なんなんだ。
何が笑顔だ。クラスメイトのミヤモトやトリタの嫌がらせで笑い者にされたことならあるが、アレは最悪だった。
あのゴミ虫共を蹂躙した時は、あまりにも面白すぎて笑えたが……。
――その時、不思議なことが起こった。
(――――ッ!?
どういうことデスか!?いきなり技術が上がりまシタ……!)
マサツグ様が負の感情を募らせれば募らせる程に剣技が冴え渡り、ニノンを苛烈に攻める。
――と言えば聞こえは良いが、唐突にマサツグ様の技量が上がり、素人とは思えないような身のこなしになった。
まるでいきなり誰かに力を与えられたかのように、剣の技術が上がった。
これはマサツグ様の逸話に由来した隠し能力(チートスキル)だ。
マサツグ様は本来なら大した技術もないはずなのにいじめっ子だったミヤモトから聖剣を奪った時、剣技の腕が唐突に上がった。
そこに目をつけ、面白がった檀黎斗はマサツグ様という歪な存在を創り出す際に条件付きで隠し能力として与えたのだ。
――ある世界には心意というシステムが存在する。キリトやPoHの世界だ。
その名の通り、心の在り方や意志で様々な事象を引き起こすシステムである。わかりやすく言えば、想いの力というやつだ。
仮面ライダーセイバーの世界の剣士達はそれぞれの想いを剣に乗せ、だからこそマサツグ様はクロスセイバーという仮面ライダーを使いこなせない。
だがそれは仮面ライダーセイバーの世界の剣士達が善良な剣士達が多かったことが大きな原因だ。要するに信念だとか、そういうものがマサツグ様にはないのである。
だが心意システムは強い負の感情でも使用出来る。強烈な想いがあれば、そこに正も負も関係ない。
――もっともそれによって陰我も蓄積されるのだが、マサツグ様は知る由もない。陰我という言葉自体、彼の存在していたはずの世界には無いのだから。
そしてマサツグ様は心意システムに似た方法でチートスキルを授けられた。
強い感情が引き起こされた時――彼は剣の技術が上がる。
――この隠し能力はパッシブスキルだが、その代わり聖剣が必要だ。スキル名を付けるならば『聖剣の担い手』だろうか。
そして今――ニノンを追い詰め、窮地に追いやったはずなのに、彼女の態度を見て負の感情がどんどんと加速することでこのスキルが解放されるに至った。
もっともこれは説明書などで個別の説明もされていない、本当に隠された能力だ。その存在はマサツグ様すら知らない。
だがご都合主義的にいきなり自分の剣技の腕が上がったことに違和感を覚えることもなく、むしろ天が自分に微笑んだのだとマサツグ様は考えた。
「おいゴミ虫。薄っぺらい正義を掲げてるくせに恥ずかしくないのか。っていうか見てる俺が恥ずかしくなってくるな」
彼の言うゴミ虫――それは当然、ニノンのことを指す。
元から自分の勝利は確信していたし、負ける気は微塵もない。
だが聖剣を上手く使いこなせなかった上に相手が思いのほかしぶとくなかなか仕留めきれなかったこと、なによりニノンの言動はマサツグ様の心に憎悪の火を灯していた。
しかしご都合主義的な力にマサツグ様は満足し、多少は余裕が出てきた。ゆえに相手を見下し、煽る。ムカつく相手だから罵る。
――この気質は元々のマサツグも同じだった。別世界のナオミ・マサツグと姿形は同じだが、その中身は全くの別物だ。
別世界のマサツグはひねくれ者だが、善性もある。なによりここまで歪んでいない。
だがマサツグ様は、はっきり言えば元々かなり性格が悪い人物だ。
クラスメイトから受けたイジメなども原因なのだろうが、それにしてもクラスメイト達に対する言動の数々は性格が悪いとしか言いようがない。
孤児達も性格が大きく異なり、別世界の孤児たちは初対面の相手に向かって蛆虫だのなんだの罵詈雑言を投げ掛けることはないだろう。
「薄っぺらい正義を掲げても、力が無ければ何も出来ない。――お前に厳然な実力差というものを教えてやろう」
――何者にも負けない圧倒的な力。
それは昔のマサツグ様にはなくて、今のマサツグ様にはあるもの。
直見真嗣という男を増長させ、その精神性に多大な影響を与えたのもソレだ。
まるで物語の主人公を褒めちぎるために存在するような孤児達の存在も大きいが、なによりの元凶は力である。
昔は弱かったから、ただのいじめられっ子だった。
死にたいと思ったことだって何度もある。――弱い奴はトリタやミヤモトのようないじめっ子にしつこく嫌がらせされる運命なのだから。
だが力を持ったマサツグはいじめっ子だった奴らを徹底的に見下し、ボロボロになった姿を見て笑った。化け物だのゴミだの罵り、まるでいじめっ子のようだ。
力が無ければ何も出来ない。
逆を言えば、力があれば成し遂げられることも多い。
想いだの信念だの正義だの――そんなものだけでは何も出来ないのだ。
それを証明するかのように、マサツグ様が圧倒的な力と剣技でニノンに猛攻を仕掛けると――ニノンは為す術なく敗れ、変身が解除される。
仮面ライダーの装甲で肉体の欠損は免れたが、それでもダメージは大きい。全身ボロボロで、身体中が傷まみれだ。
「くくく……ははは!情けないなあ、お前。これが正義の味方(笑)の姿か?」
無様に倒れた少女をクロスセイバーが見下す。
仮面に隠れて表情こそ見えないが――嘲笑する声は仮面に隠されることなく、自然とマサツグの口から漏れていた。なんとも呆気ない幕引きだ。
「……まだ、デス!」
ニノンがよろめきながらも、必死に立ち上がろうとする。――その瞳の灯火は未だ消えることなく、その意志を糧に彼女は前を向く。
まだみかげの心を救えていない。……それにもうあの時のような精神状態にはならないと思いたいが、自分達のリーダーであるモニカがまた一人で抱え込まないかも心配だ。
「ワタシはヴァイスフリューゲルの団員で、ショーグンの家来――ニノンデス!まだ諦めまセン……!!」
マサツグはあえてそれを止めることはなく笑っていた。流石にトリタの時ほどではないが、笑いをこらえきれない。
あまりにも面白過ぎるから、立ち上がろうとするニノンを蹴飛ばしてやった。
「ぐぇ……!」
ゴミ虫の呻き声が心地好い。
必死に立ち上がろうとしていた少女は、たった一撃の蹴りで体勢を崩されてまた1からやり直しだ。無様で滑稽で、笑うしかない。
「まだ……ワタシは……」
『何なの!? あんたまで私を悪者扱いしたいわけ!?』
――負けられない。
マサツグを倒して、みかげを探さなければいけない。誤解をといて、いつか彼女の心を救いたいから。
モニカがまた自分一人で突っ走ろうとしてるなら、止めなければならない。あの小さな軍人は過去に自分だけで背追い込もうとしたことがあるから。
アユミの死で色々と責任を感じてしまわないかも不安だ。
「こんなところで……負けられまセン……」
「ははは!本当に惨めだなぁ、お前」
ニノンを嘲笑い、腹を蹴り上げる。
ただでさえ甚大なダメージを受けているニノンの意識が飛びそうになるが――気力だけでなんとか繋ぎ止めた。
肉体的にはかなり限界に近く、気を抜けばすぐにでも気絶してしまいそうだ。それでも諦めず、立ち上がろうとしては蹴り飛ばされる。
それを何度も繰り返した。
何度も、何度も。
脳裏にはみかげやヴァイスフリューゲルの仲間たち――そしてショーグンの姿を思い出して。
「ふう。いい加減に飽きてきたな。そろそろ死ね」
だがそんなループも唐突に終わりが訪れる。
マサツグはあえて聖剣を使わず、嬲り続けて遊んだが――いい加減に飽きてきた。
仮面に隠れたマサツグの顔は誰にも見えない。だがその瞳は冷めきったもので、本当に彼がこの茶番に飽きたのだと物語っている。
クロスセイバーが無慈悲に刃王剣十聖刃を振り下ろす。
ニノンにこれを防ぐ術はない。風双剣翠風は変身解除された際に手放してしまっている。損傷も酷く、再変身は難しいだろう。
デイパックとも多少距離があり、新たな武装をすぐに取り出せるような状態でもない。
これまで気力を振り絞り戦おうとしてきた流石のニノンも、この瞬間だけは心底死ぬのが怖くて――ついギュッと目を瞑ってしまう。
死を恐れるのは、生き物として当然のことだ。
「――させるかっ!」
そして生き物は群れを作り――それを人は絆と呼ぶ。
集いし絆はいつしか眩い光となり、どんな絶望の未来すら照らし出す。
「私の仲間は誰にも殺させやしない!」
――クロスセイバーが振るった聖剣は、一人の少女の手にした剣によって受け止められていた。小さい体の癖にいっちょ前に軍服を着ている、謎の少女だ。
マサツグがマスクの下で忌々しげに舌打ちする。こんなにも弱そうな少女に自分の攻撃を止められるとは思っていなかった。
だが当然、スペックではクロスセイバーに変身中のマサツグの方が圧倒的に上だ。
力任せに何度も聖剣を振るえば、自然と勝てることだろう。
マサツグが次なる一撃を加えようとした――その瞬間、軍服少女がニノンの服の袖を掴み、後ろへ飛び退く。
必然的にニノンは引っ張られ、戦場から僅かに距離を開けた。
軍服少女は初撃を受け止めた時、クロスセイバーのパワーを思い知った。こちらには手負いのニノンも存在し、彼女を守りながらこの強者と戦うのは困難だと判断。
ならばまず迷わず選ぶべきはニノンを戦場から退避させること。少女の第一優先は仲間を守ることなのだから。
「モニカさん……。助かりまシタ……」
「大丈夫――ではなさそうだな」
大丈夫か?と聞くまでもない。
ニノンは見るからに満身創痍で非常に危うい状態だ。――軍服少女の心の中で仮面の男に対する怒りが湧き上がる。
だが今はニノンの治療が優先だ。こんな場所でどうにか出来る者がいるのかわからないが――とにかく、このまま戦闘続行というわけにはいかない。
軍服少女――モニカは仲間を守るために撤退を考える。
だがそんな簡単に撤退させてくれそうにないことも、薄々感じていた。
ニノンをこれほど追い詰めた相手だ。そう簡単に逃してくれるはずがない。
「馬鹿め。俺から逃げられると思ってるのか?」
「やはり撤退は不可能か……」
予想通り、クロスセイバーはすぐに距離を縮めて襲いかかってきた。剣を構え、刃王剣十聖刃を受け止める。
仮面ライダーと生身の人間だ。スペックが違いすぎる。いくらモニカが軍人とはいえ、この戦場から撤退することは困難を極めるだろう。
モニカは自分の握っている聖剣――戦雷の聖剣(スルーズ・ワルキューレ)を一瞥した。
相手のパワーは凄まじいが、こちらの聖剣もその名に恥じぬ頑丈さだ。余程のことがない限り、折れる心配はないだろう。
それに――。
「……其方たちなら来るだろうと思っていたぞ」
深海マコトと土部學が少しだけ遅れて、やってきた。
二人を置いて自分だけで駆け出したモニカだが――二人なら来るだろうと思っていた。こんな危険に巻き込みたくはないが、必ず来るだろうと信じていた。
マコトと土部は傷だらけのニノンとそれを庇うように剣を構えるモニカ、そしてクロスセイバーを見て大まかにだが状況を把握した。
特に土部はモニカから仲間の話を聞いている。マコトの方もクロスセイバーから感じるただならぬ邪悪な気配――そしてモニカの覚悟を宿した瞳を見て、ニノンがモニカの友だと察した。
「モニカ。俺にもお前の友を守らせてくれ」
『アーイ!』
「やっぱりこうして見ると怖いけど……僕も戦う」
『バッチリミロー!バッチリミロー!』
土部が緋々色金を構える。
まだ情熱が滾っているわけではないが――モニカを失いたくない。ゆきと再会したいという想いは即ち、力となる。
「――変身!」
『カイガン!スペクター!レディゴー!覚悟!ド・キ・ド・キ・ゴースト!』
そしてマコトが仮面ライダースペクターへと変身を遂げる。
まるで青い鬼のように二本の角が生えた仮面ライダー。しかしその蒼は、青空のようでもある。
「本当は巻き込みたくなかったが……こうなったら仕方ない」
ここは戦場だ。
おそらくだがそれを承知で二人はやってきた。自分についてきた。
一度覚悟を決めた者の意志を止めることは難しい。言葉では説得出来ず、眼前には未知の敵。こうなればもう――共に戦うしかない。
「マナブ、名も知らぬ貴公――」
「俺の名前は深海マコトだ」
「ま、マコト!我らが勝利を掴むために――共に戦い抜くぞ!」
集いし星が、新たな絆を紡ぎ出す。
アユミは失ってしまった。一度消えた命は、もう二度と戻らない。
だがこれ以上仲間を失わないために戦うことなら出来る。それにあの世のアユミは、きっとモニカがみんなのために戦うと信じているだろう。
「……フンッ。羽虫が何匹増えようが、結果は同じだ」
ニノンを守るように立ちはだかる三人を見たマサツグが忌々しげに吐き捨てる。
さっさとニノンを殺したいところだが、気持ち悪い存在が増えた。薄っぺらい正義感に駆られた愚かな奴らが。
「モニカさん、マナブさん、マコトさん……ありがとうデス!」
そしてニノンも――完全に気力を取り戻した。
みんなが――モニカが頑張ってるのに、自分だけ何もしないなんてつもりはない。
「またうるさくなったか。死に損ないの羽虫が」
「ノー。羽虫じゃありまセン!ワタシはヴァイスフリューゲル ランドソル支部のニノンなのデス!!
モニカさん――絆の力を見せてやりマショ〜!」
ニノンは言うだけ言うと、デイパックに向かって走り出す。
当然マサツグ様はそれを追って殺したいとも考えるが――その前にスペクターが殴り掛かった。
しかしマサツグ様の「守る」スキルが発動し、ニノンが使っていた風双剣翠風が勝手に動くとスペクターを襲う。
だが流石は歴戦の仮面ライダー――不意打ちのようなこの攻撃に多少動揺こそしたが、難なく叩き落とした。
それと同時にモニカがクロスセイバーに斬り掛かる。
ほぼ同タイミングでマコトに対処したせいか自己防衛の守るスキルは発動せず、仕方なく己が聖剣で防ぐ。
――と、少し遅れて切り込んできた土部の剣がクロスセイバーに直撃。だが未だ渇望――想いの力が足りず、大したダメージは負わせられない。
「ちっ!」
イラついたマサツグが土部を蹴飛ばす。――モニカがクロスセイバーの腹を蹴り、後退することでなんとか蹴飛ばされた土部を受け止める。ダメージは最小限で済んだが、土部の体を痛みが襲う。
(戦うって、こんなに痛いのか……!)
怖い。
出来れば戦いたくなんてなかった。
それでも――――戦うしかないから。
「マナブ、大丈夫か?」
「うん。……痛いけど、大丈夫だよ」
心配してくれたモニカに痩せ我慢。
本当は怖い。でも――ゆきがもしこの殺し合いに巻き込まれていたら、いずれ彼を守るために戦う必要はあった。
何故なら土部はゆきのことが、好きだから。
――そしてニノンが帰還した。左腕に特徴的なブレスレットのようなツールを装着して。
『Standy……』
片手に握った眼魂(アイコン)を装着して、そのブレスレットへ嵌める。
『Yes Sir!loading……』
「――変身、デス!」
『テンガン!ネクロム!メガウルオウド!』
ニノンは友情の戦士――仮面ライダーネクロムに変身を遂げた。
モニカ、土部――そして仮面ライダースペクターと仮面ライダーネクロムが並び立つ。
――中身こそアランではないが、ネクロムの存在はマコトの心を更に鼓舞させた。
「――命燃やして、みなさんを守るデス!」
命、燃やす。
それはタケルがよく口にしていた言葉であり、マスクの下でマコトは笑みを浮かべていた。
まだモニカのこともニノンのこともあまり知らないが――。
「良い友だな、モニカ」
「うむ。ニノンは我がヴァイスフリューゲル ランドソル支部の自慢の団員で――私の友だ!」
いつしかモニカの心も多少は晴れやかになっていた。
友や人々を守るために――彼女は戦う。
アユミは死んでしまったが――それでも白き翼は墜落しない。
「調子に乗るなよ。お前みたいな死にかけのゴミが雑魚共と群れて何をどうするってんだ」
その光景にマサツグ様は更なる怒りを募らせる。
――本当に気に食わない奴らだ。
そして第三ラウンドが、開始する――――。
【一日目/黎明/D-1】
【マサツグ様@コピペ】
[状態]:健康、疲労(小)
[装備]:聖剣ソードライバー&刃王剣十聖刃&ブレイブドラゴンワンダーライドブック@仮面ライダーセイバー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜5
[思考・状況]基本方針:他の参加者を殺して優勝する
1:並行世界の自分は殺す
2:まずは目の前の邪魔な女と愉快な仲間たちを片付ける。イラつき度的にはゴミ虫(ニノン)が最優先だが……
[備考]
※ミヤモトやトリタ戦など主にコピペになっている部分が元となって生み出された歪な存在です。
※「守る」スキルは制限により弱体化しています
※聖剣を手にしている時、感情次第では剣の技術が強化されます。
※クロスセイバーの制限については後続の書き手にお任せしますが、複数人で掛かれば勝てる見込みがある程度には制限されています。
現段階の制限は以下の通り
・クロスセイバーの固有能力は基本的に使用不可。ただし条件付きで一部解禁される可能性はあります
【ニノン・ジュベール@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:ダメージ(極大)、疲労(大)、仮面ライダーネクロムに変身中
[装備]:メガウルオウダー&ネクロムゴーストアイコン@仮面ライダーゴースト
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1
[思考]
基本:ハ・デスとかいう見るからにワルモノ倒して、さっさと脱出するデース!
1:モニカさん達と一緒に眼の前のヘンなやつさっさと倒して、みかげサンを探したいデース
2:ショーグンやユキ、クウカは無事なのでしょうカ?
[備考]
※参戦時期は少なくとも第一部終了後
【深海マコト@仮面ライダーゴースト】
[状態]:健康
[装備]:ゴーストドライバー&スペクターゴースト眼魂@仮面ライダーゴースト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:ゲームマスター達は俺が倒す!!
1:モニカや學やモニカの友と一緒に目の前の男を倒す!
2:あの男は仮面ライダーなのか……?
[備考]
※参戦時期はゴースト RE:BIRTH 仮面ライダースペクター終了後
※シンスペクターゴーストアイコンを自分の意思で出すことは制限により不可能です。他の参加者に個別に支給されているか、何らかの条件によって出すことが可能になるかもしれません
【土部學@女装男子のつくりかたシリーズ】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:緋々色金@Dies irae
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:モニカちゃんに一人で背負い込ませたくない。怖いけど一緒に戦う
1:モニカちゃん達と一緒に目の前の人と戦う
2:ゆきさんは本名で参加させられた可能性もある……?
[備考]
※参戦時期は女装男子のまなびかた終了後
【モニカ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:健康、ちょい満足
[装備]:戦雷の聖剣@Dies irae
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:決闘を終わらせる
1: みんなと共に目の前の男を倒す
2:目の前の男を倒した後、早急にニノンの治療がしたいな……
3:私はもう誰も失いたくない……
4:アユミ……私たちの勇姿、見ていてくれ……
[備考]
※ 風双剣翠風&猿飛忍者伝ワンダーライドブックが落ちています。変身にはもう使えないくらい損傷が激しいです
『支給品紹介』
【戦雷の聖剣@Dies irae】
モニカに支給。元聖槍十三騎士団黒円卓第五位、ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼンが所持する聖遺物。
誰でも扱えるように細工されているが、創造に至るにはやはり相応の渇望が必要とされる。
バランスブレイカーにならないように様々な調整が施されている
投下終了です
延長します。
間に合わないので破棄します。長期間の拘束申し訳ありません。
投下します
遊星と別れ、草木が程よく雪を被った段丘を歩く蛇王院と明石。
船も港もあれば海だと考えるのは自然だが北上してみれば雪原があり、
地図と照らし合わせると海だと思ってた場所は実は湖だったオチが待っていた。
深夜帯と言うのもあって、まさか気付かないで会話してたとは思いもしなかったが。
「船があると思ってたがバリバリの陸地だったな。」
「……みたいですね。」
北上する深夜帯の段丘は段差の都合、
死角と言うものも多くなりがちで警戒は当然だ。
と言うより、下の方や上の方にいくらか隠れていることはわかっている。
元より経験豊富な二人には気づくことは難しいことではなかった。
「いるのに襲ってきませんね。」
「邪魔してこねえならいいさ。」
蛇王院の気迫が原因だろうか。
放送を聞いたり名簿を見てからと言う者、気を張っている。
下手に近づこうものなら怪我じゃすまないと警告するように。
だから近づかない。余裕があれば襲おうと言う腹積もりではあるようだが、
そんなこすい手が通用するような相手ではないことは明石にもわかる。
「そ、それにしても一見普通の人のようですが、
とんでもないのを敵にしちゃってるんですね……私達。」
気まずい空気に負けて先を歩く彼へ声をかける。
彼女の身近な場所には高速建造とか加速することはあれど、
ポーズ、もとい時を止めるなど艦娘の世界には存在しない。
なので『いつの間にか襲撃した人がやられていた』と言う、
大多数の人物と同じような反応をすることになる。
「神がこんな俗物的な遊びするかよ。
力におぼれた人間なんぞいくらでもいたしな。」
B能力を得た特体生による世紀末な世界。
スカルサーペントは多くの学生が集っていた。
キュウシュウだけではなくPGGと言った遠方の地からも、
戦いに疲れてしまった、特体生に被害を受けた難民は多く存在する。
なので別段珍しくはない。あそこまで調子よくのたまう奴は初めて見たが。
「ふむふむ……もしかして、そういった人が参加してるんですか?」
「あ? なんでそんなことを聞く。」
「さっきから物凄く気を張ってるので。正直、怖いです。」
「ん、そうか。だったら悪かった。
俺の名簿のところ見ておきゃわかる。悲報だぜ?」
蛇王院で悲報と言わしめる相手。
どういうことかと思うとタブレットを投げ渡された。
彼の名前のすぐ隣に座するのはホーリーフレイムの番長、ジャンヌの名前。
遊星との情報の齟齬を確認するため簡単な情報交換をしたことで名前は知っている。
遊星の名前の近くには知り合いとなる人物としてジャックがいたことを考えると、
関係者でない可能性の方が低いことは察せられた。
「あいつなら『神を冒涜したな!』とか言って、殺し合いには反抗するだろうな。
つっても、その過程でアイツが毛嫌いする日本人はこの場で皆殺しにされちまうが。」
日本人に迫害され続けてきた憎悪は、
例えどんな状況であっても変えようとはしない。
世界を揺るがす状況であろうとも、そこに関係はなく。
有益、同胞。そう言ったものであろうとも一切関係なし。
異端と認識した相手は一切の躊躇なく殺せる冷血な聖女。
虐殺を聖戦と称してる気を違えた奴だから始末に負えない。
少なくとも、彼からすればそう言った認識しか持てなかった。
スカルサーペントから寝返った奴ですら始末しているのだから。
「あの女は絶対曲げない。抱く価値はねえが、
同時にあいつは強いのは認めざるを得ない。」
忘れてなどいない。
ホーリーフレイムに決戦を挑んだときのことを。
奇襲を読まれ、多くの船が燃やされたあの絶望的状況を。
ジャンヌに勝てたのも、その最中に神威から学聖ボタンを貰ったからできただけ。
ボタンで変質した腕の触手はそのままではあるとしても、
ボタンなしでは以前ほどの強さは発揮できないだろう。
「蛇王院さんでも難敵ですか……かなりまずくないですか?」
ジャンヌがそのような強さを持っているということは、
他の参加者もそれぐらいの高水準な参加者の可能性は高い。
デュエルが軸となる遊星は確実にこの戦いで強い人物になると考えれば、
艦娘の自分がヒエラルキーに於いて一番下なのではないかと思えてきた。
「だが諦めるってことはしねえ。テメエもそうだろう?」
隣で不敵な笑みを浮かべる姿は、
同じ海に生きる存在ではあり一応は無法者だが、
外見も相まって頼もしさすら感じられる。
「勿論ですよ! 私だって───」
「そうだな。あの神を冒涜する日本人も私の裁くべき相手だ。」
明石の言葉を遮るような、澄んだ声が聞こえた。
別に先程の発言は明石に対して言ったものではない。
だから彼はその言葉を正面を向いたまま返したのだ。
前方十メートルほど先。上の丘から見下ろす女性が一人。
物語に出てきそうな女騎士の恰好は、朝日が昇る最中ならば絵画だろうか。
だが今は違う。この人だ、間違いない。初対面の明石ですら察せられる。
これはやばい。相手をするなら死力を尽くして戦うべき相手なのだと。
「名前を見てまさかと思ったが……貴様、何故生きてる?」
「ハッ、こっちの台詞を言うんじゃねえよ亡霊が。」
互いにその首を取った相手のはず。
互いに疑問を抱くが、直ぐにそれは飲み込んだ。
『冥界の神を名乗る輩もいるのであれば、死者の蘇生もできるのだろう』と。
互いに別々のルートから招かれたことは、少なくともこの場で解決はしない。
否。解決する必要がない。解決させたところで何一つ意味はないのだから。
「どちらでも構わんか。もう一度斬ればいい。」
「だろうな。」
「だがその前に、そこの少女。日本人か?」
視線を向けられ、軽く後ずさりする。
美人と呼べる端麗な姿は見惚れてもいいはずが、
冷たい殺気に身体が無意識に逃げを選ぼうとしていた。
「こいつは艦娘っつー、まあ精霊みてえなもんだから日本人の定義にはならねえよ。」
「アバウトすぎます!」
ざっくりしすぎた解説に思わず状況を考えずに突っ込む。
精霊は精霊で別にいるような気はしてるので、艦娘は違う。
まあでも艦娘とはなんぞ、と尋ねられても彼女自身も答えられない。
人間かどうかと言われると怪しいし、日本人かどうかと言われても怪しい。
「日本人でないのであれば特別に問おう。
私と共に日本人と言う汚れた血を浄化するか、
それともそこの男と共にこの場で散るか、選ぶといい。」
二択と言う名の一択だ。
蛇王院を裏切って味方しろ、しないなら死ね。
余りに無茶苦茶な要求に思わず唖然としてしまう。
「ほら、こういう奴だ。お前の守る日本も、こいつが行ったら日本人は皆殺しだ。」
二人とは別の日本だから関係はないのだろう。
彼女としては提督の下へ帰る、それだけの話だ。
言い換えれば、それがどちらの下であっても余り変わらない。
寧ろ実力だけで言えばジャンヌの方が上かもしれないこともある。
また、大淀や提督と言った人物がいないので日本人が皆殺しでも、
自分が住んでいる日本人と言う名の犠牲者は少ないだろうとも。
「……そっちも譲れないものがあるのは分かるし、
納得できないのも十分にわかることだと思う。でも、
私にとっては別の世界であっても護国を守る艦娘だから。
その日本人を守るって言うのも、此処で私のするべきことなんで!」
日本を守るため日本人を皆殺しを許せと。
別世界の日本人であろうともそんなの許せるか。
と言うより、許した上で元の世界へ戻れるわけがないだろう。
日本人見殺しにした艦娘が日本を守るなど、ちゃんちゃらおかしな話だ。
ヘヴィプレッシャーを構えると言う少々シュールな光景ではあるが、
明石の眼差しは蛇王院にも負けず劣らずの決意がこもっている。
「そうか、ならば此処で死ぬがいい。」
飛び降りて着地と同時。
距離があったはずの三者の距離はすぐに詰められた。
明石の首根っこを掴みながら後退することでダメージはない。
一瞬にして大破を通り越して轟沈待ったなしの一撃に汗が噴き出す。
「なんかわからねえが、間合いに入らない方がよさそうだな!」
蛇王院の腕から触手が数本伸ばされる。
学聖ボタンで変質したのは腕だけではない。
人を絡め取るには容易の触手だって飛ばせる。
弾丸の如き動きと彼女にとって知らない機敏な一撃。
不意打ちには十分すぎるほどに足りえるも、彼女が腕を振るえば風圧と共に容易く切断される。
「何!?」
知らない力を得ているのは何も彼だけではない。
騎士王の聖剣を賢者の石の魔力によるバックアップを持ち、
風王結界(インビジブル・エア)を維持している都合彼女の握る聖剣は見えなくなっている。
元より特体生と言うのは異能とは密接な世界に生きてきた身だ。
賢者の石で魔力を操ることも、番長を務めた実力から難しいことではない。
「見えない剣と言ったところか。」
姿は見えなくとも、
彼女の手の構え方からわかる。
それが剣に近しい形状であることも。
長さは判断しがたいが、まあ撃ち合えばそのうちわかるだろう。
「日本人で異形の力とは、どこまでも冒涜の道を行くのだな。」
自軍の聖歌隊であろうとも異形の翼が生えれば異端とする。
であれば、日本人でそのようなのであれば当然侮蔑するほかなし。
「誰のせいだ、誰の!!」
そもてめえが切り落とした右腕のせいでこうなったんだろうが。
とか思いながら砲撃のような音を出す踏み込みと共に肉薄。
異形の右腕と言うが、見た目は海賊をイメージするとなれば、
もっぱら出てくるであろうフックそのままの形になっている。
首を刈り取る一撃は豪風と共に行われるがバックステップで難なく避けられる。
後退した瞬間返しに横薙ぎの斬撃を即座に後方へとジャンプで此方も無傷。
着地を狙おうとジャンヌが走り出すも、
「いっけえええええ!!」
少しばかり横へと移動していたた明石が握るマイク、
帝具ヘヴィプレッシャーに声を注ぐことで放たれる超音波。
力いっぱい叫んだ彼女の正面へと放たれる衝撃波が襲う。
常人が直撃すればこの音波一つでも全身の骨が砕ける程の一撃。
さしものジャンヌでも剣では防御できるものではないため回避を優先。
横へ転がり着地の隙を埋めておく。
「脳を直接シェイクしてくるたぁ、随分やべえじゃねえか!」
基本的な攻撃範囲は直線状ではあるが、超音波であることには変わりはない。
敵味方問わず飛んできた音には、彼とて片方の耳を塞ぐことになる。
なお、周囲にいたNPCもこの音を聞いたことで逃げを選んでいたが、
最早彼らにとってはさして関係のない話ではあった。
「戦闘はあまり得意じゃないんだけど……!」
艤装はなし、しかも陸上での戦いと圧倒的なまでに不利だ。
帝具との相性は瞳を輝かせたからか悪いわけではないと言えども、
消費エネルギーも多いから要所要所で決めていかなければならない。
「……優先順位はそちらか。」
防御不可の攻撃の方が厄介だ。
当然其方を潰していくのはセオリーで、
明石に狙いを付けてと走り出すが、
「させるかよぉ!!」
右手のフックがパカリと開いて地上へと砲撃を放つ。
これも学聖ボタンを得た際に変質した腕による恩恵であり、威力も相応に高い。
並の戦車の比じゃない一撃であるためジャンヌは距離を取ることを最優先。
同時に距離のあったはずの明石は威力の強さに軽く吹き飛ばされる。
「大丈夫か!」
「大丈夫です! 軽く打っただけなので!」
「無理して救援できねえ範囲に行くなよ!」
「それはそうと、蛇王院さん! これ良かったら使ってください!」
明石はデイバックから日本刀を手にしてそれを投げ渡す。
腕を切り落とされる前からも剣自体は何度も使ってはいたが、
太刀と呼べる程々の長さの業物は、蛇王院としては初めて握るものだ。
「おう、悪いな!」
左手に日本刀を握り締め蛇王院が突進する。
剣とは形状は違うので勝手は大分変わるものだが、
そも番長ともなれば単純に振るうだけで暴力的な強さを持つ。
避けた先へ木を揺らすを通り越して細い木が耐え切れず圧し折れる。
雪に直撃すれば積もっていたはずの雪が吹き飛んでいく風圧。
折れた木の悲鳴など戦いの場に於いて聞くもの非ず。
避けたジャンヌが両手でエクスカリバーを構え縦に斬撃を振るう。
横へ転がることで難なく回避するも、先程彼がいた場所を斬撃で地面が抉られていく。
転がりながらすかさず切り上げたところ互いに相殺して、その衝撃で周囲を軽く揺らす。
互いの実力は拮抗───否、ジャンヌが割と優勢で地面を削りながら後退させられていた。
確かに蛇王院が持っていたそれはその世界で折れず錆びないとされる性能を誇る代物でも、
相手は英霊が持っていた神造兵装とされる代物。西洋剣と日本刀では重さも違う。
(スティグマっつーのを装備してもやっぱ埋められねえか!)
事前に目には見えないが装備品を装備しており、
ある程度肉体に対して強化はしてこそはいるものの、
やはり基本的には格上の相手であることに変わりはなかった。
(だったらどうだってんだよぉ!!)
持ってる物の長さや太さで決まるようならば、
最初から勝負は決まっている。どのようにして補うか、
スカルサーペントは常にそのような選択に迫られ続けた。
海賊の無法者だからと支援されずうまいことやりくりをしながら、
多くの難民を迎え入れていたのだから、その手の事は長けている。
(まあその辺については部下の美汐に任せてたりはしていたのだが。)
すぐに肉薄して両腕の得物を以って、斬撃の猛襲を繰り返す。
(以前戦った時よりも素早いな。)
冷静な顔で一撃一撃を丁寧に防ぎながら、
合間を縫っては聖剣の斬撃を狙うも感づいて回避される。
どれだけ優れた番長であってもこれほどまでの実力者は基本稀だ。
ナイトメアアイズのカミラでも、PGGの銀城でもこうはいかない。
(いやいや!? これって本当人間の戦いなの!?)
明石は二人の戦いに驚きが隠せない。
援護しようにも蛇王院が近すぎては満足にできず、
程よく距離が開いた瞬間の隙を埋めるための支援しかできない。
と言うより、この二人の戦いは艦娘の観点から見ても次元が違う。
艦娘だって十分な艤装がなければできないレベルの戦いを、
二人は武器やら特異体質はあれどそれ以上に起こしている。
艦娘ではないので分からないが、もし二人が艦娘だったら、
並の深海棲艦なら生身でも勝ててしまうのではないかと思える程に。
剣が、刀が、砲撃が、風が、触手が、斬撃が。
どの攻撃であろうとも常識を超えた一撃となる。
地面が、草木が、雪が、岩が次々と飛んでは地形が変化していく。
このまま続いてしまえば段丘が丘や平地になってしまいかねないような。
仕方がないと言えば、その通りだ。
特体生が持つB能力とはそれほどまでに常軌を逸している。
誰が言ったか『戦車ってただ装甲が硬いだけの車じゃねえか』と言ってのけた。
事実それを言った男は、戦車を相手に生身で立ち回って勝利してたりもしており、
二人はその男に負けず劣らずの実力を有していたのだから、これぐらいは当然だ。
流石にそんな戦闘能力、一個人が持つ能力としてはかなり規格外ともあって、
ポセイドンなどの最上位程ではないにしても相応の制限はされている。
だがそれでも、陸上の艦娘の入る余地など此処にはありはしない。
これがスカルサーペント番長、蛇王院空也。
これがホーリーフレイム番長、ジャンヌ。
キュウシュウの勢力で長らく争い続けてきた者達。
どちらかが生きた道に於いても日本を統一することとなる、
狼牙軍団が立ち向かった最後の組織のリーダーとなる力だ。
しかしこの戦いも長くは続かず拮抗は崩れる。
ジャンヌの一閃が蛇王院の胸に真一文字を刻む。
いかに彼と言えども軽傷と呼ぶには無理のある痛手の一撃を。
元々組織としても、番長としての実力もホーリーフレイムの方が上だ。
そも、神威の介入がなければスカルサーペントには勝ち目のなかった戦いなのだから、
御刀にスティグマがあろうとも、神造兵装と賢者の石の前ではどうしても見劣りしてしまう。
スティグマの強固な防御強化と回避強化により、致命傷を免れただけましだ。
「蛇王院さんッ!!」
そこから明石が下した判断からの行動はとても早い。
超音波を前に回避を優先とするジャンヌだが、今度は別だった。
「奥の手いっけぇ!!」
前方ではなく周囲へ轟く超音波について、防御は間に合わなかった。
ヘヴィプレッシャーの奥の手『ナスティボイス』は範囲は通常以上に無差別なもの。
しかもこの音波をまともに浴びれば、暫くまともな動きができなくなるほどだ。
「グッ……」
耳を塞ぐではなく回避を優先したことで、
もろに受けて身動きが取れなくなって剣を杖代わりに膝をつくジャンヌ。
だがこれは無差別攻撃である。当然蛇王院もまともに立てなくなってしまう。
(あ、だめだ。滅茶苦茶カロリー使ったかも……)
今こそとどめがさせると思ったが、
想像以上の消耗したことで眩暈を起こす。
元々ヘヴィプレッシャーは多大なカロリーを使う帝具。
元の使用者のコスミナは何人もの男を続けて相手できるだけの性欲旺盛で、
明石もまた艦娘であり工廠を担う為、体力については相応の自信がある。
ただ、それでも短時間で連発することができる余裕については余りなかった。
これ以上の攻撃はできず、タイミングの都合彼が握っていた薄緑は段丘の下へ落ちた。
近くに短時間で回収できるルートはなく、蛇王院も同時に動けなくなっている。
明石の残っている支給品に武器はなし。彼の方は未確認だがあれば使ってる筈。
艦娘であり連合艦隊旗艦を務めることの多い工作艦だからこの手の危機的状況の中、
思考を巡らせてそこから下す判断は凄まじく早かった。
「お、おいおいどうすんだ!?」
艦娘だけあって筋力は常人とはかけ離れており、
大の大人を軽々と肩に担ぎながら全力で走り出す。
「逃げます!」
全力疾走でジャンヌから逃げる。
此処で確実な勝利が望めない、
或いは賭けに出るには相手が悪すぎる。
武器を捨てることになるのは勿体ないが、
元々なくても蛇王院は十分に戦えるし明石としても無用の長物。
捨てることにさして後ろ髪を引かれることはない。
「莫迦! この程度の速度で逃げれるわけが……」
確かにナスティボイスのせいで身体は動けないが、
長時間動けなくなる、と言うわけではないだろう。
明石の走る速度は消耗してる人の割には十分早いが、
このまま彼女が復帰して追いつかれないという保障はない。
「逃げれますよ! だって───」
暫く逃げ続けて先に待っていたもの。
それは───広大な紺の世界。そう、湖だ。
船が遠くない場所に設置されている場所であり、
当然ながら艦娘にとっての一番のホームフィールドである水上。
(武装の偽装は持ってかれたけど。
水上の移動はできるのは確認済み。だからこのまま……)
目論見は水上へ逃げることだ。
流石に長時間の水上移動は一方的に有利になるので、
恐らくできないとは思われるが逃げる分なら問題ないはず。
幸い遠くない場所に孤島もあり、移動時間は足りると予測していた。
「! 明石! ジャンプか飛び込め!」
あと少し走れば水上を前に、
蛇王院の警告が何を意味するかは察し、
ビーチフラッグのラストスパートのように前方へ飛び込む。
その刹那、彼女のふくらはぎへと刻まれた二つの傷。
あのままでいたら両足切断は余裕だっただろう一撃を、
辛うじてしのぐことができた。
「グッ、足を切断するはずが……」
ジャンヌが強引に体を動かしながら追跡していたのだ。
とは言え完全な本調子ではなく、まだ視界も余り定まっていない。
「俺がだんだん動けるようになったから、
恐らくとは思ってたがそうはいかねえか……おい、動けるか?」
「航行には問題はないです。走るのはちょっと無理かも……すみません。」
あと少しで逃げ切れたのに。
蛇王院が担いでは着地が難しいし、
着地した瞬間斬撃で魚の餌行きは確実。
だから時間を稼がなければならないが、当然ない。
「いや、上出来だろ。だったらプランドロールの船長命令だ、テメエだけでも生き残れ!」
つまり見捨てろと言うこと。
薄緑があっても有利でなかったのに、
此処で一対一になればまず勝ち目がない。
分かっている。だが此処からの判断も早かった。
「……分かりました。工作艦明石、撤退します!!」
連合艦隊で大破した艦娘を帰投させることはざらだ。
でなければその艦娘は轟沈すらありうる可能性も出てくる。
だから即座に逃げを徹する。痛みに耐えながらありったけ走り出す。
逃がす隙を与えたくはなかったものの、蛇王院が近距離で砲撃を放つ。
距離が近すぎて巻き添えになる攻撃をするとは思わなかったのもあって回避を選んでしまう。
その間に明石は強引に水上へと飛び込み、水上へと立って移動を始めていた。
狙おうとすればすかさず妨害されるし向こうも警戒するはず。
今すぐ撃墜については最早不可能だと。
「今度は逃がせたらしいな。」
思い返すのはスカルサーペントとの戦い。
その時の彼の周りには無数の同胞の亡骸に加え、
彼の愛した女たちも横たわっていた状態となっていた。
「今度は? 何を言ってやがる。
テメエをぶっ飛ばしてそのまま逃げ切ってやるさ!
そして俺達は殺し合いを脱する。テメエと違って、日本人を含めてな!!」
負けるから彼女を逃がした?
そんなわけがない。そんな後ろ向きな考えをするか。
彼は常に前を進む。そのまっすぐさはあの斬真狼牙と同じだ。
死ぬための戦いなど一切しない。あるのは勝って生き残る、
航海する船の如く。常に前へと進み続けるだけ。
「なら、潔く去れ。二度と蘇らぬように。」
地面へと剣を振り降ろし斬撃が飛ぶ。
風王鉄槌(ストライク・エア)とは違った形での、
本来のジャンヌが用いた身の丈以上の斬撃はより精度が増す。
既に明石は射線からいないので避けるには問題ないのが救いか。
回避と共に砲撃をぶちかまし、
ジャンプする形で回避と共に頭部を叩き割らんとする一撃。
横へ転がりながら回避し、土埃で阻まった中で触手を動かす。
視界を狭めようとも許されryことはなく容易く斬り払われ、
そのついでと言わんばかりに今度は横向きに斬撃が飛ぶ。
先のジャンヌ同様にジャンプして回避し、後方の岩壁がバターのようにスライスされる。
(分かっていたがやっぱ強ぇ。だがまずいな……止血しねえと身が持たねえ。)
余り変わらない人間離れな動きをしてるように見えるが、かなり無理をしている状態だ。
これ以上過剰な動きをして血液の流れを、基出血し続ければ命の危機すらありうる。
やばいと思いながらも残りの一手ではどうにもならないと思っていると、
ジャンヌの動きが止まる───否。止められたというべきだろうか。
「……泡?」
彼女の周囲を覆っている多数の泡。
その為先程から斬撃が防いで彼に到達することはなかった。
一体何事かと思えば、
「どっちも初対面だから判断はつかねえが、
そっちの女が俺にとっての敵ってことでいいんだな!」
そこに駆けつけたのは、孤高なる鮫───神代凌牙だった。
(喧嘩を売ってるメンバーだなこりゃ。)
遊馬にカイトにベクター。
綺麗に関係のあるメンバーが揃っているこの状況。
カイトについてはさして問題はないだろうと言えるが、
あのお人好しだから不安になる遊馬に、明らかに不安なベクター。
この見事にツッコミどころある知り合いに頭を悩ませる。
どちらにせよ最初の懸念通り遊馬を優先として動いていたが、
支給品はデュエルディスクだけにされたことで早速出鼻をくじかれた。
バイクでもあればと思ったが、そう都合よくはいかないらしい。
移動手段の為エアロ・シャークを出そうかとも考えていたが、
スカイダイビングデュエルの経験はあるので対処はそう難しいものでもないとしても、
何処から攻撃が飛んでくるか分かったもんじゃないのに、安易な空の移動は危険だ。
(スカイダイビングデュエルとはなんぞやと言うことに突っ込んではいけない。実際にあった)
なので一度自分のホームフィールドにしやすいであろう水辺を目指してみれば、
二人が戦っているところに出くわすことになった。
「こっちは人探しで暇してねえから速攻で行くぜ!
俺は魔法カード『スプリット・ディフェンダー』発動!
とりあえずそこのアンタを、聞こえは悪いが奪わせてもらうぜ!」
スプリット・ディフェンダーは相手の場にモンスターが二体以上存在し、
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、守備力が高い方のコントロールを得る。
味方と認識してはいるが100%ではないので、蛇王院もこのカードの対象にすることはできた。
守備力の定義については、蛇王院のスティグマのお陰で微量ながら上回っているから成立する。
これにより距離の開いていた彼を強引に自身の近くへ引き寄せる、デュエルではできない手段を用いていく。
デュエルの経験と、デュエルを武器として戦った経験からくるカード効果の判断能力は、とてつもなく高い。
(永続罠『バブル・ブリンガー』でレベル4以上のモンスターは直接攻撃できない。
だがどこまでこのデュエルで発揮されるか分からねえ以上、対策はしっかりしておくべきだ。)
あのデモンストレーションからデュエルに関して、
何かしら思い入れや思惑があるのだろうがいくらデュエルでも、
相手が自身を瞬殺できるだけのスピードを持ち合わせていては別だ。
先の二人の戦いを見ていたのもあり、あらかじめカードをセットしたのが功を奏した。
できればモンスターを揃えたかったが、その前に蛇王院が死にかねないのもあって乱入を選んだが。
「俺はモンスターを裏側守備表示でセット───」
その予想は的中していた。
モンスターをセットした瞬間に即座に切り伏せられてしまう。
バブル・ブリンガーはあくまで『プレイヤーに対する直接攻撃ができない』だけで、
モンスターに対しての攻撃は可能であるため、攻撃をする気であった以上必然だ。
「早いが、織り込み済みだ!
『シャクトパス』がバトルで破壊されたことで効果発動!
破壊したてめえ自身に装備し、攻撃力は0になってもらうぜ!」
タコの頭部に当たる部分がサメと化した蛸が、
彼女に抱き着くように動きを鈍らせる。
「グッ、貴様……!」
剣を振るいながら振り払おうとするが、
思うように攻撃ができず攻めあぐねる。
「おい坊主! 今は撤退を優先しろ!」
「何言ってる。今あいつは攻撃力がゼロ、
だったら今こそ攻めるべき時に決まって───」
「さっきの泡、テメエのだろ! ねえことに気づけ!」
先ほどから彼女が振るう剣で砂埃がまき散らされており、
視界が悪くなっていてあまり見えていなかったが彼の言う通り、
バブル・ブリンガーがいつの間にかなくなっており、
自身が置いていたはずの魔法・罠ゾーンからも消えている。
「な、風圧で見えなかったがやられたのか!?」
デュエルが現実とある程度リンクするのがこの舞台の基本ルール。
だったら、参加者の行動が逆にデュエルに影響を与えることも無きにしも非ず。
エクスカリバーが纏う風王結界(インビジブル・エア)とは即ち『風』属性だ。
風と言うのはデュエルモンスターズに於いてはハーピィなどを筆頭とした風属性もだが、
ハーピィの羽根箒、サイクロンと言った魔法・罠を破壊することに長けたカードも風に纏わるものが多い。
バブル・ブリンガーがないのも、恐らく彼女の攻撃行動がサイクロンか何かのように作用した。
と言う風に解釈することも十分に可能だ。
「アイツもいつまでとりついてるか分からねえ!
デュエルってのには俺は疎いが、アイツを甘く見てると命はねえぞ!」
甘く見ていたたわけではないが、
シャクトパスと言えば最初にカイトとの交戦でも使った記憶がある。
あの時もフォトンモンスターにより容易に回避されてしまった記憶があり、
後のことを考えると余計に嫌な思いでしか残っていなかった。
「チッ、仕方ねえ! だったらこうするしかねえな!
魔法カードを発動したターン、『ビッグ・ジョーズ』を手札から特殊召喚する!」
手札で今すぐエクシーズ召喚できるとは言えない手札。
攻めが彼の言う通り難しいのであれば、逃げを優先するしかない。
彼にとっては馴染みのある、正統派な鮫を召喚する。
「逃げを優先するんだろ、乗りな!」
「おう!」
ビッグ・ジョーズの背へとジャンプしながら凌牙が手を伸ばす。
敵ではないと思しき相手であることも分かり即座に飛び移り、その背の鰭を掴む。
掴むと同時にビッグ・ジョーズは水上へと飛び出してそのまま水上を移動して離れる。
「ッ……おのれぇ!!」
そして彼の推察通りと言うべきか、
彼女に纏わりついていたシャクトパスは剣の一振りで破壊される。
考えてみれば当然だ。普通の人間が何の手段もなしに魔法・罠を一方的に受けたりでは、
支給品を没収されたということを差し引いたとしても、余りにも破格の代物になってしまう。
既に水上に逃げたと言えども相手はあのジャンヌ。斬撃を飛ばして撃沈させることは難しくはない。
「んなもん分かってんだよぉ!!」
なので既に対策済みだった。
シャクトパスに気を取られていた隙を見て蛇王院が砲撃を放つ。
ジャンプをされたことで攻撃は成立しなかったが、その頃には既に距離が開きすぎている。
追撃は不可能と判断して、その場を離れることを選ぶしかなかった。
「奇襲には警戒していたが、ああいったものもあるのだな。」
あれがデュエルというものか。
先行1キルだなんだのをいきなり見せられたところで、
デュエルモンスターズに詳しくな彼女には理解できないが、
今の光景を見れば没収をされたことについても納得がいく。
使用者の理解が深ければ矛にも盾にも足りうる力。
今後あれを警戒することは、十分に値する代物だと。
「アプリはある。調べておくのもいいかもしれないな。」
踵を返し、荒れたエリアを去るジャンヌ。
イリヤとの戦いで油断を捨て、凌牙との戦いでデュエルを学んだ。
聖女の聖戦に対する行動力は、今後はより苛烈なものになるだろう。
【一日目/深夜/D-4】
【ジャンヌ@大番長 -Big Bang Age-】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、魔力消費(中)(魔力回復中)
[装備]:約束された勝利の剣@Fate/Grand Order賢者の石@仮面ライダーウィザード
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1
[思考・状況]基本方針:檀黎斗と言う日本人を浄化しハ・デスを名乗る悪魔を打ち取る。
1:穢れた日本人は浄化する。主催も当然だ。
2:同胞(自分たちと同じ外国人)は率先して保護の方針。
3:先の金髪の女、何者だ……?
4:あの男(蛇王院)、何故生きていたのか。もう一度殺すだけだが。
5:デュエルか。使うのはともかく理解しておく必要はあるやもしれぬ。
[備考]
※参戦時期は久那妓ルート、スカルサーペント壊滅後。
※エクスカリバーの扱い方に慣れたことで風王結界が使用でき、
風王鉄槌とは別の、風による斬撃を行えます(所謂原作の攻撃モーション)。
風の攻撃は消耗も賢者の石で賄ってるので見た目よりは消耗しません。
またこの攻撃はデュエルモンスターズを相手すれば、
魔法・罠を破壊することも難しくはありません。
「デュエルは分かっていたが、勝手がわからず逃げになっちまったか……」
デュエルの関係なしに戦闘はあると予想しても、
デュエルの関係なしに相手が魔法・罠を破壊してくるとは思わなかった。
今後あのような物理的に殴りかかってくる相手と戦う際は、考えて立ち回る必要があるかもしれない。
ブラック・レイ・ランサーの効果無効がそれらを防ぐ可能性もある。試す価値は十分にあるだろう。
「ま、お陰で俺は死ぬことはなかったと思えば御の字だ……礼を言うぜ。」
「何言ってんだ。まだ助かったとは限らねえだろうが。」
汗は掻いてるし、多少息切れも起こしている。
決して浅い傷と呼ぶには無理のある状態なのだろう。
危機を脱したと言っても、彼の怪我の問題はまだ残っていた。
早急に手当てをしなければ、六時間経たず死ぬ可能性もある。
(俺のデッキを渡したとしてもダークナイトじゃ、あまりにも手間がかかりすぎる。)
彼のデッキの回復手段の筆頭と言えば、
バリアン七皇としてのエースモンスターのダークナイトがある。
だがデュエルを理解してないと思しき彼に渡しても手間がかかりすぎてしまう。
特にこのカードを出すのに最適なカードを、任意のタイミングで引ける彼ではないのだから、
試そうにも博打要素はより強くなる。
「そっちの支給品に何かあるか?」
「いや、ねえな。病院とか集落がどっかにあれば応急処置もできるが、都合よくはねえさ。
とりあえず他の参加者に当たる方が生存率は上がりそうだから、その方向で頼む。」
病院がこの舞台にはあったりするものの、
此処よりはるか東の話。あると知ったところで遠すぎる話だ。
「俺は人探しをしたいんだが……まあ、
乗り掛かった舟だ。見捨てるのも目覚めが悪ぃし治療優先だ。」
「海賊を乗せて乗り掛かった舟か。粋なことを言ってくれるじゃねえか。礼を言うぜ。」
海に纏わる者達は鮫に乗って進んでいく。
───彼の探していた人物二名から、余計に離れるように。
【一日目/深夜/D-4 水上】
【蛇王院空也@大番長 -Big Bang Age-】
[状態]:胸に真一文字の傷(割と重傷、)、疲労(大)
[装備]:ティアドロップ@Caligula2、
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(薄緑ほど使えないかつ回復系ではない)
[思考・状況]基本方針:普段どれだけキレても殺しはしないが、てめらは別だ。
1:うちの傘下や同じ考えの奴がいるならなるべく優先する。
2:九時間後に指定されたエリアの一つに向かい、再度作戦会議。
3:明石、いい女なんだが残念だな。
4:ジャンヌとは必ず決着をつけてやる。
5:今はこいつ(神代凌牙)と一緒に動く。明石が無事だといいんだがな。
[備考]
※参戦時期は扇奈ルート、狼牙に敗北後。
※異形の腕はそのままです。そのためゲーム上の攻撃で使ってる砲撃も可能です。
細い触手を切られてもダメージはありません。
※遊星、明石と情報交換しました。
【神代凌牙@遊☆戯☆王ZEXAL】
[状態]:健康、ビッグ・ジョーズ召喚中
[装備]:デュエルディスクとデッキ(神代凌牙)@遊☆戯☆王ZEXAL
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:遊馬の導いた希望の未来のために主催者を倒す
1:遊馬を探す
2:カイトは協力を頼んでおく。ベクターは……会ってから判断。
3:魔法を破壊出来る上にあの攻撃力……あの女(ジャンヌ)厄介だな。
4:こいつ(蛇王院)の怪我を何とかしないとやばい。
[備考]
※参戦時期は最終回後。
(D-4からは抜けたのかな。)
明石は川の勢いに乗りつつ、D-4から離れる。
西へ移動して流れに乗りつつ、別のエリアで地上へと戻る算段だ。
彼女ならばジャンプ一つで川ぐらいは飛び越えられることは分かる。
だからD-3に来たからと言って、油断せずに移動を続けておく。
蛇王院については、生きてるとは願いたいが余り前向きにはなれない。
生身で海上の戦艦に匹敵するような出鱈目な力を発揮してきた相手に、
戦闘力が貧弱極まりない工作艦で、前向きに考えろと言う方が普通に無理な話だ。
戦場では轟沈も決しておかしな話ではないし、そういう意味でも後ろ向きではある。
(生きてるか死んでるかを問わず、自分にできることをしないと!)
戦闘ではなく修理や工廠での武器の改修に運営の店番と、
他の艦娘ではできない役割を持っているのもまた工作艦の特徴。
適材適所。意地汚く生き残るのが役目であるならば、全力で挑め。
戦場に出ることは少ない明石もまた、自分の役割に準ずる。
【一日目/深夜/D-3 水上】
【明石@艦隊これくしょん】
[状態]:ケッコンカッコカリによる強化(耐久や幸運以外意味なし)、両足に傷(走るのに苦労する程度に負傷)、疲労(大)
[装備]:指輪@艦隊これくしょん、大地鳴動『ヘヴィプレッシャー』@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]基本方針:ハ・デスを倒して生きて提督の下(元の世界の方)へ帰る。
1:蛇王院さん……無事だといいんですが。
2:九時間ほど散策して、指定の場所に遊星さんと合流。
3:帝具、ちょっと調べたくなってしまいますねー。
4:首輪を解除できるだけの装備を整えないと。
5:特体生って艦娘余裕で超えてるじゃないですかやだー!
6:このまま水上移動して、どこへ向かおう。
7:ジャンヌには最大限警戒。あれがゴロゴロいたら艦娘ですらかませなりますよ!
[備考]
※改装後、ケッコンカッコカリ済み、所謂ジュウコンなし、轟沈経験ありの鎮守府の明石です。
※艤装はありませんが、水上スキーそのものは可能です。
時間制限については特に設けてませんが長時間は無理かなと。
※指輪は没収されていませんが、偽装がないため耐久以外ほぼ意味がありません。
※蛇王院、遊星と情報交換しました。
※D-4の段丘に薄緑@刀使ノ巫女が落ちてます。
D-4の段丘の地形がかなり荒れてます。
D-4か近くのエリアに隠れ港+護送船@テイルズオブアライズがあります
【ティアドロップ@Caligula2】
蛇王院空也に支給。作中のショップで購入可能なスティグマ(装備品)。
装備品とは言うが見た目に変化はなく、魂の残滓(宝箱)を開けた(本ロワの場合触れた)人物に装備される。
装備されると残滓が消滅し、装備されると基本的に外せない。事故防止のため簡素なケースに収納されてる。
(厳密にはどう外すか分からない為。参加者である風祭小鳩であればわかるかもしれない)
この装備は防衛本能に分類し、防御と回避に大きな補正が入る(回避はゲーム上の防衛本能最高値)。
装備した人物が死亡した場合、再び魂の残滓となって再利用が可能。
その際魂の残滓は装備した人物の遺体のそばに発生する形で外れる。
魂の残滓の形状は黄と黒が混ざった塊のようなのもの(Caligula2における宝箱のビジュアル)。
【薄緑@刀使ノ巫女】
蛇王院空也に支給。作中における獅童真希の手にする御刀。膝丸ともよばれる。
珠鋼という特殊な金属で出来た日本刀で折れず錆びない。
※刀使ノ巫女世界での話なので何かしらで折れるかも
原作でも加州清光が元の名前の逸話通りに折れてる
蛇王院は刀使ではないので刀使の能力は使えない為、
物凄く頑丈な武器と言った扱い。サイズは史実通り80cmの太刀。
以上で投下終了ですがその前に一つ
「うるさくてキングなやつたちとなんか名前がなくてファラオなやつたち」ではイリヤ達が「F-5」で、
ジャンヌの現在位置の「D-4」とは時間帯がイリヤたちと同じなのに大きく離れてることについて説明を
「命の灯火」ではジャンヌが「雪原から落ちてる」と言う描写があることから場所は雪原、
つまり北西のエリアではないと話の辻褄が合わせられず、候補作を優先したほうがいいと判断して、
状態表での最終的な現在位置をD-4と言うことにさせていただきました。
この辺の辻褄につきましては、企画主に軽く相談したため後に回答が出ると思いますので、
此方からは余り言及しないことにさせていただきます
拙作「プランドロール・シップヤード」は明確に海と言う描写をしてなかった(と言うより忘れてた)のと、
遊星の現在位置でも特別おかしいレベルの距離でもない為、問題ないのではないかと判断しての投下になります
高をくくってるかのような理由付けは強引と言うことは、ほぼ事実ですすみません(上述の通り、執筆当時は海想定でしたし)
ただ「そう言われればそうかもしれない」においても指定のエリアについては説明がなかったので、
話の辻褄自体は(偶然にもまだ)合います。納得されるかどうかについては、
こればかりは読者と企画主任せになりますが……
遊星の移動距離を考えると船があるのはD-4の湖ではなく、
他はE-6 E-7 D-7しか選択肢がないためジャンヌとの交戦は距離的に困難で、
双方が短時間で出会うには支給品を消費しないとまず不可能であると判断してるため、
此方の方で問題ありましたら素直に破棄させていただきます(短期で修正はできない為)
と言うわけで改めて投下終了とします
懸念点は上述のとおりですが、他の問題がありましたらお願いします
拙作「天命の聖剣」なのですが、
Fateをやっておいて何故か風王結界などの能力が、
エクスカリバーがあればできるという勘違いで書いてました
別ロワでちゃんとそのことについて書いていたくせに、
やらかすものではないだろと言われたら全くその通りです
本当に申し訳ありませんでした
本ロワがいかにゲーム的な世界観を模してると鑑みても、
此方に関して使える理由付けは不可能ではあります
一方でその点を除くと別に剣が風で覆われてなくとも、
話の顛末に重大な影響を与えてるわけではない為、
・風王結界を筆頭に風に関係する部分は軒並み削除
ただ斬撃の飛び道具自体は原作からできるので、
あまり違いのない展開にはなるとは思います
・場所のガバを起こしていたのも発覚したため、
基本的な場所もD-4ではなくC-4での戦闘に変更
この部分だけ修正させていただきたいと思います
飛び道具の斬撃の種類を変える必要があるので、
無論サイクロンのような具体的な理由付けができないので、
単純なスペックによる破壊と強引になってしまうのはあれですが
これらの修正でいいかについては、
企画主の◆QUsdteUiKY氏の判断にお任せします
(今すぐ修正版を投下してもいいのかもしれませんが現在別の判断待ちや、
そも話の展開自体に無理があると言われた場合修正版の必要もありませんので)
企画主の◆QUsdteUiKYに多大なご迷惑をおかけすることになり申し訳ありません
夫を忘れるほど無我夢中で舌を絡める接吻性交
ux.getuploader.com/juy00316/
企画主です
>>43 で◆EPyDv9DKJs氏がご説明してくださった通り「うるさくてキングなやつたちとなんか名前がなくてファラオなやつたち」で遊戯たちの位置に無理があることが最近発覚しまして、◆wJPkWOa93Q氏がいらっしゃいましたら現在位置だけを修正していただけたら…と思います
ただずっと気付けなかったこちらに非がありますので、もしも◆wJPkWOa93Q氏からお返事がない。もしくは修正したくないという場合はこちらでどうやってエリアを大幅に移動したかの補完話を書き、ご対応させていただきます
ほんとに今更で申し訳ないのですが、お返事いただけると嬉しいです。よろしくお願いします
>>44
自分はこの修正で大丈夫だと思います
風属性関係はとても面白い発想だと思いましたが、単純なスペックでも問題ないかと
それとこれは個人的な意見ですが、このロワには
・マサツグ様や淫夢勢のように主催の手で在り方を歪められた存在
・特定の条件がなければ使えない仮面ライダーの変身道具がゲーム向けに誰でも扱えるパワーアップアイテムのように細工されている
などあくまでゲームとして様々な改造がされています
自分はセイバーの出るFateはUBW、HF、Zeroは見ているのですが風王結界の扱いについてそこまで問題視はしていません
そもそも候補作の支給品紹介に
「風王結界」及び「真名開放・約束された勝利の剣」は使用可能だが、その場合保有者の魔力を急激に使用する。
と書いてあります。この候補作を採用した段階では特に異議もなく、他の支給品のことを考えると「エクスカリバーを持っていたらセイバーの宝具が全て使える」くらいでもいいと思っています
ただ自分はそこまでFateに詳しくないですし、正直FGOは全然わからないのであまり強くは言えませんが、支給品の扱いについてはそれくらいゆるくてもいいような気がします
今回の風属性関係の話は非常に面白い解釈ですし、そこまで問題視する理由も正直あまりわかりません
特に本来の使い手であるセイバー自体は別にこのロワには出ていないので…修正するか否かは◆EPyDv9DKJs氏にお任せしますが、とにかく企画主としては今回の件はあまり問題視していません
>>46
>>47
迅速な判断と返事について、
まずはありがとうございます。
ただ、この話を一切の修正なしでそのまま通す……と言うのは、なしの方向で行きたいです。
勿論、本ロワがネットミームの存在やら、ライダーの変身の制限などについては緩くなっており、
原作100%、完全に同一のものである必要はないのでしょう(現に主催も原作と違う顛末を辿ってる)し、
舞台の都合「本来の性能から外れた武器ができた」「主催が弄ったことで本来できないものがバグで行使可能」
と言う風に解釈して残すのも(今後の展開次第で)十分にあると言うことについては理解はしているつもりです。
ですが、風王結界等については前述のとおり自分は一度別のロワで風王結界に関する話を一度書いてしまってます。
その為、現時点の『天命の聖剣』での展開が『自分の書いた作品に納得ができていない』状態になっております。
自分自身がこの展開について(書いておきながら)許せない形である為、一切の手を加えない方針はなしにしたいです。
(ついでに言うとエクスカリバーの説明に納得してないの、多分一番はこうしてリレーを書いた自分自身なので)
とは言え、◆QUsdteUiKY氏の拙作の発想に対する感想を考えると既存の修正案では気が引けます。
なので、自分で訂正内容を一度提示しておいてこれを言うのはかなり気が引けることですし、
少しご都合展開になってしまうので少々悩ましくもあるのですが展開をほぼそのままにして、
かつジャンヌのランダム支給品を【風の主霊石@テイルズオブアライズ】にする形を考えています。
【風の主霊石@テイルズオブアライズ】
ジャンヌに支給。マスターコアについては水の主霊石参照。
原作に於いては領将アウメドラが用いており、風属性の力が行使可能。
ゲーム上ではアウメドラの戦闘以外での使用の描写がないので、使うとどうなるかは書き手任せ。
テイルズでは雷が風属性になることもあるが、これで使えるのは基本的に風に関するものだけ。
此方を支給して風属性をジャンヌ自身に付与することで、
風王結界等を疑似的に行使している、と言う形にしようかなと。
魔法・罠を破壊する理由付けについても納得ができるのではないかと思います。
短期間で何度も支給品(厳密には施設)でしか出てない作品の支給品を出す上で、
かつ今回ばかりは話の都合の為に用意されたものであると言うのは否めませんが、
自分が納得できる展開で、かつ◆QUsdteUiKY氏の考えにある程度沿った展開、
と言う考えとしてこの展開を考えているのですがどうでしょうか?
それと、修正した作品の投下はほぼ間違い探しをする程度の差分にしかならないので、
確認を煩わせるのもあれなので、修正案は投下するべきなのかとも少し考えております
「うるさくてキングなやつたちとなんか名前がなくてファラオなやつたち」を書きました◆wJPkWOa93Qです。
現在地についての修正については全然OKです。候補話での描写も見落としたのは私ですし。
脳死でパッと考えましたが、C-4とかで良いですかね?
いっぱい触って!お潮吹くまでイキたいの!
www.axfc.net/u/4058069
>>48
>>47 については個人的な意見なのでそこまで気にしないでください。正直Fateについてはあまり詳しくなく、支給品の説明を考慮しての考えなので。何度も言いますが、正直Fateはそこまで詳しくない上にFGOはやっていないので
修正内容については氏にお任せしたいと思います。風属性関係はとても面白い発想ではありますが、無理に取り入れる必要もないので、氏の納得出来る形で修正していただければと思います
自分の感想を考慮して修正案を考えて下さり、ありがとうございます
>>49
ご返答ありがとうございます
C-4で大丈夫だと思います
「うるさくてキングなやつたちとなんか名前がなくてファラオなやつたち」本編
【第一回放送までのSS】
【0〜50】
wikiにあるこちらの位置情報をC-4に修正しました。
「天命の聖剣」の修正版の投下になります
本当に細かいレベルではあるので修正箇所がない
>>33 >>37 >>39 >>41 は割愛とします
明石の言葉を遮るような、澄んだ声が聞こえた。
別に先程の発言は明石に対して言ったものではない。
だから彼はその言葉を正面を向いたまま返したのだ。
前方十メートルほど先。上の丘から見下ろす女性が一人。
物語に出てきそうな女騎士の恰好は、朝日が昇る最中ならば絵画だろうか。
煌めく聖剣を手にしている光景は、それはもう救世主と呼ぶに相応しき姿だ。
だが今は違う。この人だ、間違いない。初対面の明石ですら察せられる。
これはやばい。相手をするなら死力を尽くして戦うべき相手なのだと。
「名前を見てまさかと思ったが……貴様、何故生きてる?」
「ハッ、こっちの台詞を言うんじゃねえよ亡霊が。」
互いにその首を取った相手のはず。
互いに疑問を抱くが、直ぐにそれは飲み込んだ。
『冥界の神を名乗る輩もいるのであれば、死者の蘇生もできるのだろう』と。
互いに別々のルートから招かれたことは、少なくともこの場で解決はしない。
否。解決する必要がない。解決させたところで何一つ意味はないのだから。
「どちらでも構わんか。もう一度斬ればいい。」
「だろうな。」
「だがその前に、そこの少女。日本人か?」
視線を向けられ、軽く後ずさりする。
美人と呼べる端麗な姿は見惚れてもいいはずが、
冷たい殺気に身体が無意識に逃げを選ぼうとしていた。
「こいつは艦娘っつー、まあ精霊みてえなもんだから日本人の定義にはならねえよ。」
「アバウトすぎます!」
ざっくりしすぎた解説に思わず状況を考えずに突っ込む。
精霊は精霊で別にいるような気はしてるので、艦娘は違う。
まあでも艦娘とはなんぞ、と尋ねられても彼女自身も答えられない。
人間かどうかと言われると怪しいし、日本人かどうかと言われても怪しい。
「日本人でないのであれば特別に問おう。
私と共に日本人と言う汚れた血を浄化するか、
それともそこの男と共にこの場で散るか、選ぶといい。」
二択と言う名の一択だ。
蛇王院を裏切って味方しろ、しないなら死ね。
余りに無茶苦茶な要求に思わず唖然としてしまう。
「ほら、こういう奴だ。お前の守る日本も、こいつが行ったら日本人は皆殺しだ。」
二人とは別の日本だから関係はないのだろう。
彼女としては提督の下へ帰る、それだけの話だ。
言い換えれば、それがどちらの下であっても余り変わらない。
寧ろ実力だけで言えばジャンヌの方が上かもしれないこともある。
また、大淀や提督と言った人物がいないので日本人が皆殺しでも、
自分が住んでいる日本人と言う名の犠牲者は少ないだろうとも。
「……そっちも譲れないものがあるのは分かるし、
納得できないのも十分にわかることだと思う。でも、
私にとっては別の世界であっても護国を守る艦娘だから。
その日本人を守るって言うのも、此処で私のするべきことなんで!」
日本を守るため日本人を皆殺しを許せと。
別世界の日本人であろうともそんなの許せるか。
と言うより、許した上で元の世界へ戻れるわけがないだろう。
日本人見殺しにした艦娘が日本を守るなど、ちゃんちゃらおかしな話だ。
ヘヴィプレッシャーを構えると言う少々シュールな光景ではあるが、
明石の眼差しは蛇王院にも負けず劣らずの決意がこもっている。
「そうか、ならば此処で死ぬがいい。」
飛び降りて着地と同時。
距離があったはずの三者の距離はすぐに詰められた。
聖剣の横薙ぎの一撃は明石の首根っこを掴みながら後退することでダメージはない。
回避こそすれども暴風を起こす攻撃は直撃を許してはならないと警鐘を鳴らす。
喰らえば一瞬にして大破を通り越して、轟沈待ったなしの一撃に汗が噴き出す。
「ッ、間合いに入らない方がよさそうだな!」
蛇王院の腕から触手が数本伸ばされる。
学聖ボタンで変質したのは腕だけではない。
人を絡め取るには容易の触手だって飛ばせる。
弾丸の如き動きと彼女にとって知らない機敏な一撃。
不意打ちには十分すぎるほどに足りえるも、彼女が腕を振るえば風圧と共に容易く切断される。
(あいつ、持ってる剣もだが前と違うみてーだ。)
知らない力を得ているのは何も彼だけではない。
騎士王の聖剣を賢者の石の魔力によるバックアップを持ち、
更に三つ目の支給品となる、領将(スルド)の証となる風の主霊石(マスターコア)は、
この地に存在する水の主霊石同様に力を与え、風の力を獲得していた。
元より特体生と言うのは異能とは密接な世界に生きてきた身だ。
賢者の石で魔力を操ることも、番長を務めた実力から難しいことではない。
得物も上等、別途の力もそうとう優秀なのだろう。
これは自分を打ち負かした斬真狼牙を凌駕しうる。
「この腕がなかったら、まあ一方的だっただろうな。」
「日本人で異形の力とは、どこまでも冒涜の道を行くか。」
自軍の聖歌隊であろうとも異形の翼が生えれば異端とする。
であれば、日本人でそのようなのであれば当然侮蔑するほかなし。
「誰のせいだ、誰の!!」
そもてめえが切り落とした右腕のせいでこうなったんだろうが。
とか思いながら砲撃のような音を出す踏み込みと共に肉薄。
異形の右腕と言うが、見た目は海賊をイメージするとなれば、
もっぱら出てくるであろうフックそのままの形になっている。
首を刈り取る一撃は豪風と共に行われるがバックステップで難なく避けられる。
後退した瞬間返しに横薙ぎの斬撃を即座に後方へとジャンプで此方も無傷。
着地を狙おうとジャンヌが走り出すも、
「いっけえええええ!!」
少しばかり横へと移動していたた明石が握るマイク、
帝具ヘヴィプレッシャーに声を注ぐことで放たれる超音波。
力いっぱい叫んだ彼女の正面へと放たれる衝撃波が襲う。
常人が直撃すればこの音波一つでも全身の骨が砕ける程の一撃。
さしものジャンヌでも剣では防御できるものではないため回避を優先。
横へ転がり着地の隙を埋めておく。
「脳を直接シェイクしてくるたぁ、随分やべえじゃねえか!」
基本的な攻撃範囲は直線状ではあるが、超音波であることには変わりはない。
敵味方問わず飛んできた音には、彼とて片方の耳を塞ぐことになる。
なお、周囲にいたNPCもこの音を聞いたことで逃げを選んでいたが、
最早彼らにとってはさして関係のない話ではあった。
「戦闘はあまり得意じゃないんだけど……!」
艤装はなし、しかも陸上での戦いと圧倒的なまでに不利だ。
帝具との相性は瞳を輝かせたからか悪いわけではないと言えども、
消費エネルギーも多いから要所要所で決めていかなければならない。
「……優先順位はそちらか。」
防御不可の攻撃の方が厄介だ。
当然其方を潰していくのはセオリーで、
明石に狙いを付けてと走り出すが、
「させるかよぉ!!」
右手のフックがパカリと開いて地上へと砲撃を放つ。
これも学聖ボタンを得た際に変質した腕による恩恵であり、威力も相応に高い。
並の戦車の比じゃない一撃であるためジャンヌは距離を取ることを最優先。
同時に距離のあったはずの明石は威力の強さに軽く吹き飛ばされる。
「大丈夫か!」
「大丈夫です! 軽く打っただけなので!」
「無理して救援できねえ範囲に行くなよ!」
「それはそうと、蛇王院さん! これ良かったら使ってください!」
明石はデイバックから日本刀を手にしてそれを投げ渡す。
腕を切り落とされる前からも剣自体は何度も使ってはいたが、
太刀と呼べる程々の長さの業物は、蛇王院としては初めて握るものだ。
「おう、悪いな!」
左手に日本刀を握り締め蛇王院が突進する。
剣とは形状は違うので勝手は大分変わるものだが、
そも番長ともなれば単純に振るうだけで暴力的な強さを持つ。
避けた先へ木を揺らすを通り越して細い木が耐え切れず圧し折れる。
雪に直撃すれば積もっていたはずの雪が吹き飛んでいく風圧。
折れた木の悲鳴など戦いの場に於いて聞くもの非ず。
避けたジャンヌが両手でエクスカリバーを構え縦に斬撃を振るう。
横へ転がることで難なく回避するも、先程彼がいた場所を斬撃で地面が抉られていく。
転がりながらすかさず切り上げたところ互いに相殺して、その衝撃で周囲を軽く揺らす。
互いの実力は拮抗───否、ジャンヌが割と優勢で地面を削りながら後退させられていた。
確かに蛇王院が持っていたそれはその世界で折れず錆びないとされる性能を誇る代物でも、
相手は英霊が持っていた神造兵装とされる代物。西洋剣と日本刀では重さも違う。
(スティグマっつーのを装備してもやっぱ埋められねえか!)
事前に目には見えないが装備品を装備しており、
ある程度肉体に対して強化はしてこそはいるものの、
やはり基本的には格上の相手であることに変わりはなかった。
(だったらどうだってんだよぉ!!)
持ってる物の長さや太さで決まるようならば、
最初から勝負は決まっている。どのようにして補うか、
スカルサーペントは常にそのような選択に迫られ続けた。
海賊の無法者だからと支援されずうまいことやりくりをしながら、
多くの難民を迎え入れていたのだから、その手の事は長けている。
(まあその辺については部下の美汐に任せてたりはしていたのだが。)
すぐに肉薄して両腕の得物を以って、斬撃の猛襲を繰り返す。
確かにナスティボイスのせいで身体は動けないが、
長時間動けなくなる、と言うわけではないだろう。
明石の走る速度は消耗してる人の割には十分早いが、
このまま彼女が復帰して追いつかれないという保障はない。
「逃げれますよ! だって───」
暫く逃げ続けて先に待っていたもの。
それは───広大な紺の世界。そう、湖だ。
船が遠くない場所に設置されている場所であり、
当然ながら艦娘にとっての一番のホームフィールドである水上。
(武装の偽装は持ってかれたけど。
水上の移動はできるのは確認済み。だからこのまま……)
目論見は水上へ逃げることだ。
流石に長時間の水上移動は一方的に有利になるので、
恐らくできないとは思われるが逃げる分なら問題ないはず。
幸い遠くない場所に孤島もあり、移動時間は足りると予測していた。
「! 明石! ジャンプか飛び込め!」
あと少し走れば水上を前に、
蛇王院の警告が何を意味するかは察し、
ビーチフラッグのラストスパートのように前方へ飛び込む。
その刹那、彼女のふくらはぎへと刻まれた二つの傷。
あのままでいたら両足切断は余裕だっただろう一撃を、
辛うじてしのぐことができた。
「グッ、足を切断するはずが……」
ジャンヌが強引に体を動かしながら追跡していたのだ。
とは言え完全な本調子ではなく、まだ視界も余り定まっていない。
「俺がだんだん動けるようになったから、
恐らくとは思ってたがそうはいかねえか……おい、動けるか?」
「航行には問題はないです。走るのはちょっと無理かも……すみません。」
あと少しで逃げ切れたのに。
蛇王院が担いでは着地が難しいし、
着地した瞬間斬撃で魚の餌行きは確実。
だから時間を稼がなければならないが、当然ない。
「いや、上出来だろ。だったらプランドロールの船長命令だ、テメエだけでも生き残れ!」
つまり見捨てろと言うこと。
薄緑があっても有利でなかったのに、
此処で一対一になればまず勝ち目がない。
分かっている。だが此処からの判断も早かった。
「……分かりました。工作艦明石、撤退します!!」
連合艦隊で大破した艦娘を帰投させることはざらだ。
でなければその艦娘は轟沈すらありうる可能性も出てくる。
だから即座に逃げを徹する。痛みに耐えながらありったけ走り出す。
逃がす隙を与えたくはなかったものの、蛇王院が近距離で砲撃を放つ。
距離が近すぎて巻き添えになる攻撃をするとは思わなかったのもあって回避を選んでしまう。
その間に明石は強引に水上へと飛び込み、水上へと立って移動を始めていた。
狙おうとすればすかさず妨害されるし向こうも警戒するはず。
今すぐ撃墜については最早不可能だと。
「今度は逃がせたらしいな。」
思い返すのはスカルサーペントとの戦い。
その時の彼の周りには無数の同胞の亡骸に加え、
彼の愛した女たちも横たわっていた状態となっていた。
「今度は? 何を言ってやがる。
テメエをぶっ飛ばしてそのまま逃げ切ってやるさ!
そして俺達は殺し合いを脱する。テメエと違って、日本人を含めてな!!」
負けるから彼女を逃がした?
そんなわけがない。そんな後ろ向きな考えをするか。
彼は常に前を進む。そのまっすぐさはあの斬真狼牙と同じだ。
死ぬための戦いなど一切しない。あるのは勝って生き残る、
航海する船の如く。常に前へと進み続けるだけ。
「なら、潔く去れ。二度と蘇らぬように。」
地面へと剣を振り降ろし斬撃が飛ぶ。
本来のジャンヌが用いた身の丈以上の斬撃は、
風の主霊石により威力や精度が増した状態となる。
既に明石は射線からいないので避けるには問題ないのが救いか。
回避と共に砲撃をぶちかまし、
ジャンプする形で回避と共に頭部を叩き割らんとする一撃。
横へ転がりながら回避し、土埃で阻まった中で触手を動かす。
視界を狭めようとも許されることはなく容易く斬り払われ、
そのついでと言わんばかりに今度は横向きに斬撃が飛ぶ。
先のジャンヌ同様にジャンプして回避し、後方の岩壁がバターのようにスライスされる。
(分かっていたがやっぱ強ぇ。だがまずいな……止血しねえと身が持たねえ。)
デュエルが現実とある程度リンクするのがこの舞台の基本ルール。
だったら、参加者の行動が逆にデュエルに影響を与えることも無きにしも非ず。
ジャンヌが装備している風の主霊石は文字通りの『風』属性を有している。
風と言うのはデュエルモンスターズに於いてはハーピィなどを筆頭とした風属性もだが、
ハーピィの羽根箒、サイクロンと言った魔法・罠を破壊することに長けたカードも風に纏わるものが多い。
バブル・ブリンガーがないのも、恐らく彼女の攻撃行動がサイクロンか何かのように作用した。
と言う風に解釈することも十分に可能だ。
「アイツもいつまでとりついてるか分からねえ!
デュエルってのには俺は疎いが、アイツを甘く見てると命はねえぞ!」
甘く見ていたたわけではないが、
シャクトパスと言えば最初にカイトとの交戦でも使った記憶がある。
あの時もフォトンモンスターにより容易に回避されてしまった記憶があり、
後のことを考えると余計に嫌な思いでしか残っていなかった。
「チッ、仕方ねえ! だったらこうするしかねえな!
魔法カードを発動したターン、『ビッグ・ジョーズ』を手札から特殊召喚する!」
手札で今すぐエクシーズ召喚できるとは言えない手札。
攻めが彼の言う通り難しいのであれば、逃げを優先するしかない。
彼にとっては馴染みのある、正統派な鮫を召喚する。
「逃げを優先するんだろ、乗りな!」
「おう!」
ビッグ・ジョーズの背へとジャンプしながら凌牙が手を伸ばす。
敵ではないと思しき相手であることも分かり即座に飛び移り、その背の鰭を掴む。
掴むと同時にビッグ・ジョーズは水上へと飛び出してそのまま水上を移動して離れる。
「ッ……おのれぇ!!」
そして彼の推察通りと言うべきか、
彼女に纏わりついていたシャクトパスは剣の一振りで破壊される。
考えてみれば当然だ。普通の人間が何の手段もなしに魔法・罠を一方的に受けたりでは、
支給品を没収されたということを差し引いたとしても、余りにも破格の代物になってしまう。
既に水上に逃げたと言えども相手はあのジャンヌ。斬撃を飛ばして撃沈させることは難しくはない。
「んなもん分かってんだよぉ!!」
なので既に対策済みだった。
シャクトパスに気を取られていた隙を見て蛇王院が砲撃を放つ。
ジャンプをされたことで攻撃は成立しなかったが、その頃には既に距離が開きすぎている。
追撃は不可能と判断して、その場を離れることを選ぶしかなかった。
「奇襲には警戒していたが、ああいったものもあるのだな。」
あれがデュエルというものか。
先行1キルだなんだのをいきなり見せられたところで、
デュエルモンスターズに詳しくな彼女には理解できないが、
今の光景を見れば没収をされたことについても納得がいく。
使用者の理解が深ければ矛にも盾にも足りうる力。
今後あれを警戒することは、十分に値する代物だと。
「アプリはある。調べておくのもいいかもしれないな。」
踵を返し、荒れたエリアを去るジャンヌ。
イリヤとの戦いで油断を捨て、凌牙との戦いでデュエルを学んだ。
聖女の聖戦に対する行動力は、今後はより苛烈なものになるだろう。
【一日目/深夜/D-4】
【ジャンヌ@大番長 -Big Bang Age-】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、魔力消費(中)(魔力回復中)
[装備]:約束された勝利の剣@Fate/Grand Order賢者の石@仮面ライダーウィザード、風の主霊石@テイルズオブアライズ
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]基本方針:檀黎斗と言う日本人を浄化しハ・デスを名乗る悪魔を打ち取る。
1:穢れた日本人は浄化する。主催も当然だ。
2:同胞(自分たちと同じ外国人)は率先して保護の方針。
3:先の金髪の女、何者だ……?
4:あの男(蛇王院)、何故生きていたのか。もう一度殺すだけだが。
5:デュエルか。使うのはともかく理解しておく必要はあるやもしれぬ。
[備考]
※参戦時期は久那妓ルート、スカルサーペント壊滅後。
※風の主霊石で風属性の力を獲得しています。
風の攻撃は消耗も賢者の石で賄ってるので見た目よりは消耗しません。
またこの攻撃はデュエルモンスターズを相手すれのであれば、
魔法・罠を破壊することも難しくはありません。
「デュエルは分かっていたが、勝手がわからず逃げになっちまったか……」
【一日目/深夜/D-3 水上】
【明石@艦隊これくしょん】
[状態]:ケッコンカッコカリによる強化(耐久や幸運以外意味なし)、両足に傷(走るのに苦労する程度に負傷)、疲労(大)
[装備]:指輪@艦隊これくしょん、大地鳴動『ヘヴィプレッシャー』@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]基本方針:ハ・デスを倒して生きて提督の下(元の世界の方)へ帰る。
1:蛇王院さん……無事だといいんですが。
2:九時間ほど散策して、指定の場所に遊星さんと合流。
3:帝具、ちょっと調べたくなってしまいますねー。
4:首輪を解除できるだけの装備を整えないと。
5:特体生って艦娘余裕で超えてるじゃないですかやだー!
6:このまま水上移動して、どこへ向かおう。
7:ジャンヌには最大限警戒。あれがゴロゴロいたら艦娘ですらかませなりますよ!
[備考]
※改装後、ケッコンカッコカリ済み、所謂ジュウコンなし、轟沈経験ありの鎮守府の明石です。
※艤装はありませんが、水上スキーそのものは可能です。
時間制限については特に設けてませんが長時間は無理かなと。
※指輪は没収されていませんが、偽装がないため耐久以外ほぼ意味がありません。
※蛇王院、遊星と情報交換しました。
※D-4の段丘に薄緑@刀使ノ巫女が落ちてます。
D-4の段丘の地形がかなり荒れてます。
D-4か近くのエリアに隠れ港+護送船@テイルズオブアライズがあります
【ティアドロップ@Caligula2】
蛇王院空也に支給。作中のショップで購入可能なスティグマ(装備品)。
装備品とは言うが見た目に変化はなく、魂の残滓(宝箱)を開けた(本ロワの場合触れた)人物に装備される。
装備されると残滓が消滅し、装備されると基本的に外せない。事故防止のため簡素なケースに収納されてる。
(厳密にはどう外すか分からない為。参加者である風祭小鳩であればわかるかもしれない)
この装備は防衛本能に分類し、防御と回避に大きな補正が入る(回避はゲーム上の防衛本能最高値)。
装備した人物が死亡した場合、再び魂の残滓となって再利用が可能。
その際魂の残滓は装備した人物の遺体のそばに発生する形で外れる。
魂の残滓の形状は黄と黒が混ざった塊のようなのもの(Caligula2における宝箱のビジュアル)。
【薄緑@刀使ノ巫女】
蛇王院空也に支給。作中における獅童真希の手にする御刀。膝丸ともよばれる。
珠鋼という特殊な金属で出来た日本刀で折れず錆びない。
※刀使ノ巫女世界での話なので何かしらで折れるかも
原作でも加州清光が元の名前の逸話通りに折れてる
蛇王院は刀使ではないので刀使の能力は使えない為、
物凄く頑丈な武器と言った扱い。サイズは史実通り80cmの太刀。
【風の主霊石@テイルズオブアライズ】
ジャンヌに支給。マスターコアについては水の主霊石参照。
原作に於いては領将アウメドラが用いており、風属性の力が行使可能。
ゲーム上ではアウメドラの戦闘以外での使用の描写がないので、使うとどうなるかは書き手任せ。
テイルズでは雷が風属性になることもあるが、これで使えるのは基本的に風に関するものだけ。
以上で修正箇所の投下終了です
>>52
修正ありがとうございます!
>>59
修正お疲れ様です
この内容で問題ないと思います
「天命の聖剣」での明石以外の3人の現在位置ですがD-4ではなくC-4でした
何度もすみません
原作版の海馬瀬人を予約します
投下します
平行世界の自分と別れた海馬(原)は暫く驚愕していたが、放送が始まると前には思考を切り替えた。
彼はアテムという存在に固執し、やがて冥界へ辿り着くはずの男である。
アテムとは未来へのロードを全速前進で突き進んできた海馬瀬人が、それでも過去に囚われてしまう程の存在なのだ。
過去は一筋の足跡であり、過ぎ去った過去など何の意味も持たない――以前海馬はそんな言葉を口にしたことがある。
だから平行世界の海馬(ア)はもう一人の自分に不快感を覚えた。
そしてだからこそ武藤遊戯がアテムに勝利したという事実を平行世界の自分に聞いた海馬(原)は驚愕し、放心状態になったのだ。
しかしいつまでもそんな言葉に心を囚われる海馬じゃない。
あのアテムが遊戯に負けるなどとは思えない。それも三体の神を同時に相手してなど――到底、信じることが出来ないような情報。
――だが情報源は平行世界の自分。海馬瀬人だ。
情報源がもう一人の自分じゃなければくだらん戯言だと切り捨てただろうが、自分がそんなくだらぬ嘘をつくことはない。
言葉を交わした時間こそ短いが、アレは間違いなく平行世界の自分自身だと確信した。
ならば彼の言葉に嘘は混じっていないのだろう。信じ難いことだが、彼の世界では本当に遊戯がアテムを倒したという可能性が高い。
誤解や勘違いでアテムが遊戯に負けたと思い込んでいる可能性も否定は出来ないが――なんならその方が海馬としては納得出来るのだが。
しかし自分を信じている彼だからこそ、平行世界の自分がそんな誤解や勘違いに惑わされる姿を想像することもまた難しい。
――ならばその答えはデュエルの中で見つけるしかない。
(――遊戯。平行世界の貴様が本当にアテムを倒したのならば、俺にその強さを示してみせるがいい)
平行世界の自分の言葉の真偽を確認するために導き出された手段はシンプル極まりないものだ。
遊戯がアテムを倒すほどの決闘者だというのならばこのゲームで彼を見つけ出し、その実力を見極めるまでのこと。
たとえ平行世界の自分の言葉であっても彼の突き進むロードを遮ることは出来ない。
放送が始まる頃には海馬の心は元に戻っていた。
マジック&ウィザーズのモンスターや磯野――そして遂に姿を現した神を名乗るゲームマスターの放送を冷静に見届ける。
「こんな悪趣味極まりないゲームを開発した身で神を名乗るか、ゲームマスターよ。くだらぬことを考える神がいたものだ」
放送を見た後の第一声がソレだった。
檀黎斗という男に対する評価が彼の中で決まった瞬間でもある。
ちなみに海馬自身も過去にDEATH-Tという死のアトラクションを作り、理不尽にも遊戯達に参加させるということもしたのだが――そこら辺の過去を気にする性格でもない。
ブルーアイズのために所有者を自殺に追い込んだりもしたが、マインドクラッシュされて以降はこういった類のクズを許せない性格になっている。
色々とツッコミどころがあるかもしれないが、過去などに囚われず未来へのロードを突き進む。それが海馬瀬人という男である。
そんな海馬でもアテムという過ぎ去った過去だけには固執してしまっているのだが――それもまた仕方のないことだろう。アテムとは海馬にとって強い宿命で結び付けられた相手なのだから。
アテムとの闘いに終わりはないと――そう思っていたのだから。
そしてなにより遊戯が覚悟を示し、アテムに勝利した闘いの儀――それを見届けられなかったことが平行世界の海馬との最も大きな違いだろう。
さて。それはともかく、海馬は放送を見終えた。
これがデスゲームだというのは想定の範囲内――というかとっくに理解していたことだ。今更驚くほどでもない。
自分やアテムをくだらぬゲームのテストプレイに参加させたことには若干の苛立ちを覚えるが、まあ良いだろう。
ゲームマスターは究極のゲームだのとほざいているが、これについては微塵も賛同する気にもならない。
しかしルールを用意し、バランス調整までしていることから檀黎斗がゲームに対して多少なりとも真摯に向き合おうとしていることもわかる。
死ぬとしても単純な殺し合いではなくゲームで死ね――ということだろう。
海馬も過去にオレを殺すならカードで殺せだのと口にしてきた。それほどまでにカードゲームに対する想いが強い決闘者だ。
だから殺し合いではなくゲームで死ねという檀黎斗の思想自体には一定の理解を示す。
ルールを整備して、バランス調整をするということは彼が本気で殺し合いではなくデスゲームを望んでいる証だ。
だがそれでも海馬は悪趣味極まりないくだらぬゲームだと断言した。
それには当然、様々な理由が存在するのだが――なにより彼が気に食わないのは闘うための牙も、意志も持たない子供の命が残酷にも散らされたことだ。
ゲームとは互いに闘う意志があってこそ成り立つもの。だがモニターに映し出された子供は強引に参加させられ、闘うことを強制されたようにしか見えない。
そして無力な子供はこの理不尽に抗うことも出来ず、命を散らした。これはもはやゲームなどではなく、一方的な惨殺だ。
――過去にDEATH-Tを行った海馬が言えたことじゃないかもしれないが、檀黎斗という人間は腐り切っている。
葛葉紘汰のように闘うための牙を持ち、己が意志でゲームマスターと決闘するならばまだ良い。
だが理不尽にプレイヤーとして選ばれ、命を散らした子供も居る。そもそも海馬自身も自ら望んでゲームに参加したわけじゃなく、いつの間にか巻き込まれていたのだ。
これをゲームだのと言い切るには無理があるし、闘う意志のない者まで参加させる理由もわからない。
しかもあんな子供まで――神を自称するクズの手によって未来を奪われた。
あの見た目からして、モクバと同じくらいの年頃だろうか。
いつか海馬ランドへ遊びに来たかもしれない。もしくは既に海馬ランドに遊びに来たことがあるかもしれない未来ある子供が理不尽にも命を落とした。
その他、首輪を爆破させられて死亡したアユミという少女。
運試しのゲームという理不尽極まりない方法で殺されたプレイヤー達。
そのどれもが神を名乗るにはなんとも愚かで、外道過ぎる行為だ。
こんな男を神などと認めるつもりはない。……このような愚行をしていなくとも、海馬は彼を神とは認めなかっただろうが。
そしてなによりこんなものをゲームと認めるつもりもない。ゲームはゲームでも、とんでもないクソゲーだ。
これをゲーム、決闘だなどと烏滸がましいにも程がある。
「首を洗って待っているがいい、檀黎斗よ。貴様がこのくだらぬゲームにオレを参加させたこと、存分に後悔させてやろう!」
平行世界の遊戯は三体の神を相手にし、遊戯に勝利した。
ならば海馬がこの程度の神を粉砕出来ぬ道理などない。当然、遊戯もまた同じだ。
名簿に遊戯の名が記されていることは確認済み。アテムの名がないということは、彼らが別離する前の状態で参加させたか。或いは別離後でも支給品として遊戯にアテムが眠る千年パズルでも渡したのか。
どちらにせよ、武藤遊戯は参加している。
凡骨こと城之内も参加しているようだが――本田が呼び出されていた時点で、彼らが参加しているのも必然的か。
そして海馬は城之内を凡骨と呼んでいるが――マリク戦で彼の勇姿を見届け、決闘者だと認めた。
もちろん城之内本人にそんな言葉をくれてやる気はないが、彼もまた誇り高き決闘者。遊戯共々、このくだらぬゲームを終わらせようと凡骨なりに精一杯に足掻くだろう。
(他にオレの知っている決闘者の名は無いが――このゲームは明らかに決闘を重要な要素として組み込んでいる。別の世界から未知の決闘者がやってきている可能性も高いだろう……)
バクラやマリクの名は記されていないが、他の世界から様々な強豪決闘者が招かれている可能性は大いにある。
ゲームを粉砕しようと抗う者もいれば、他人を殺してでも願いを叶えようとする輩もいるかもしれない。グールズのような腐りきった連中が招かれている可能性もある。
前者は好きに抗うが良いが――後者を発見した場合、自らの手で粉砕する。
第一目標はゲームマスターの撃破だ。だがその道中にグールズのようなクズや殺人者――DEATH-Tにあった殺人の館(マーダーズマンション)に住まうチョップマンのようなマーダーが存在した場合も当然、叩き潰すのみ。
無論、あの子供を殺した金髪の男もこの手で粉砕してみせる所存だ。
あの殺し方を見るに彼は決闘者ではないようだが、関係ない。海馬にはカードの剣があり、その腕には絶対的な自信がある。
信頼するブルーアイズをデッキの中から抜き取るという愚策を警戒して念のためにデッキを確認したが、どうやら健在のようだ。
しかし皮肉な話だが、このゲームの参加者がマジック&ウィザーズのモンスターをあれほど造作もなく破壊するほどフィジカルに優れた存在が居ることを確認出来たのは大きいだろう。相手がフィジカル面に優れている可能性を考慮して立ち回ることもまたこの決闘では重要らしい。
そしてあの少女のように力もなく、何らかの理由で殺人者(マーダー)に成り下がったわけでもないプレイヤーが居た場合――
(もしもあの子供のようなプレイヤーに遭遇した時は……状況が状況だ。保護することも検討してやろう)
そういうことは遊戯やアテム、城之内などに任せたいが――自分が突き放した結果、理不尽に命を散らされるというのも気分が良いものではない。
もちろん人は選ぶ。マーダーでなくとも生き残るために他人を利用しようとする小賢しい輩は論外だ。
過去を振り切ることが出来ず、アテムに固執する海馬瀬人は神を自称する男を粉砕せんと行動を開始する。
アテムと決着をつけるのは、全てが終わった後だ。
平行世界の武藤遊戯が三体の神を相手にアテムと闘い、勝利したというのなら――自分は手始めにこの自称神を倒してやろう。
そして器の遊戯が本当にそれほど強いのならば、このゲームでその実力を示してみせるが良い。
なんともくだらぬゲームで檀黎斗のことは心から軽蔑するが――もう一人の自分が語っていた器の遊戯と実力というものには興味がある。
(――オレの期待を裏切るなよ、遊戯!)
【一日目/深夜/G-2】
【海馬瀬人@遊☆戯☆王】
[状態]:健康
[装備]:海馬瀬人のデッキ&新型デュエルディスク@遊☆戯☆王THE DARK SIDE OF DIMENSIONS
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:この決闘を粉砕したのち、アテムと決着をつける
1:檀黎斗と闘うための方法を模索する。あの自称神はこのオレが粉砕してくれるわ!
2:首輪を解除したい
3:アテム及び共に存在しているであろう遊戯を探す。そうそう死ぬとも思えないが、お友達が死んで心に隙が生まれれば万が一があるかもしれない 。器の遊戯の実力にも興味がある。当然凡骨は放置だ
4:残酷にも殺された少女(条河麻耶)のように闘う意志も牙も持たぬ参加者と遭遇した場合、保護も検討してやろう。
[備考]
※参戦時期は本編終了後からTHE DARK SIDE OF DIMENSIONS開始前のどこか
投下終了です
鬼舞辻無惨を予約します。
投下します。
不快、苛立ち、嫌悪、憤怒。
言葉では到底言い表せぬ負の感情が綯い交ぜとなった顔で、無惨は宙を睨み上げている。
数十分前、地下空間から地上へと出た無惨は急ぎ行動に移った。
時間は有限、今こうしている間にも珠世に打たれた薬に肉体が蝕まれている。
鬼にしてやった恩を忘れ、産屋敷なんぞに協力した憎たらしい売女。
罵りの言葉は無数に浮かぶが口に出しても状況は一つとして好転せず。
放って置けば老化は取り返しの付かない所まで進行し、待ち受けるのは末期の患者の如き弱々しく惨めな最期。
人間という脆弱な殻を脱ぎ捨て、完璧な肉体を手に入れた自分がそのような末路を迎えるなど認めない。
故に一刻も早く手に入れねばならない、時を止める力を。
月が昇る今の時間帯は、余計な制限も無く動き回れる絶好の機会。
一時撤退を選んだとはいえ、あの金髪の男はまだそう遠くへは行っていない筈。
ならば急ぎ追い、その道程で誰が来ようと殺して進む。
力の差も理解出来ない愚図に掛ける情けは皆無、むしろ自分に余計な手を煩わせた罪を噛み締め死ねば良い。
生存欲求を脚力に乗せ駆け出し、数分と経たない内に出鼻を挫かれる羽目となった。
突如空中に浮かび上がった男の姿。
巨大モニターを通じた主催陣営の放送、無惨の知識には無い数百年以上先の技術。
未来の科学を目の当たりにしても無惨に動揺は無く、されど何も感じないという事にはならない。
檀黎斗。
冥界の魔王や、どこからともなく乱入した鎧武者にそう呼ばれた男。
どうやら話を聞くに黎斗こそが殺し合いの元凶らしい。
顰めっ面で見上げる無惨の内心は激しく荒れ狂い、下手をすれば憤死しかねない程。
あの男の一挙一動が癪に障る。
口から吐き出す糞のような言葉が鼓膜を刺激する度に、自分の耳を引き千切りたい衝動に駆られる。
何らかの力を手にし付け上がった屑が神を自称し、不愉快極まりない。
我こそが絶対だと信じて疑わない態度、ふざけているのか。
何の権利があってこちらに命令している。身の程を知る知能すら無い塵が。
黎斗が何を考え無惨を参加させたのかは容易く見当が付く。
この地にいるかもしれない鬼狩りどもや、その他大勢の人間を殺す狩人としての役目。
殺し合いと言う名の遊戯を効率良く進める手頃な駒。
怒りで顔に赤みが増す。
無惨は他者を殺すのに一切の躊躇を抱かない男だが、不要な殺しを積極的に行う性質でもない。
殺すのは絶望的に低い沸点により癇癪を引き起こした時か、食事や口封じなど必要に迫れた時のみだ。
平時においても見境なしに殺して回るような快楽殺人者では無いのである。
無惨からしたら無駄な労力を割いてまで有象無象を手に掛けねばならない状況へ追いやった黎斗に、怒りを抱くのは当然のこと。
そんなもの鬼狩りの連中でも呼んで、異常者同士勝手にやっていれば良いだろうに。
それ以前に黎斗ら主催者は無惨へ首輪を着けた、殺し合えと命令をした。
無惨は己を縛る存在を決して認めない。
余程の理由でも無い限り、無惨の中で黎斗達を生かす選択は存在しない。
だが怒りに身を任せる事が余りに多い無惨でも、それのみに囚われる愚は犯さなかった。
上空に浮かぶ主催者達のやり取りから重要と思わしき情報を見極める。
特に注視したのは銀の鎧武者が返り討ちに遭った光景。
黒い鎧らしきものを纏った黎斗に斬り掛かったかと思えば、瞬きの間に地へ伏していたのだ。
黎斗の攻撃を受けたのだとしても、肝心の攻撃を加えた瞬間が確認できない。
まるでその部分だけ綺麗さっぱり削られたかのよう。
この奇怪な現象の正体に、無惨は心当たりが一つある。
つい先ほど自分も味わった未知の能力、時間停止。
黎斗が攻撃した瞬間が確認できないのは当たり前だ、時を止めた世界を認識出来るのは止めた本人だけなのだろう。
となれば納得はいく。
金髪の男のような能力の持ち主ですら一参加者へと落とし込めるのか。
答えは主催者も同じ能力を持っているから、それだけだ。
尤も金髪の男と黎斗では時を止める方法そのものが恐らく違う。
金髪の男は傍らに出現させた人形の力で、男自身の能力で時を止める。
一方黎斗は銀の鎧武者を返り討ちにする直前、奇妙な腰巻きに触れていた。
つまり黎斗本人の能力ではなく、あの腰巻きに時を止める仕掛けが施されている可能性が高い。
違いはあれど時を止める力の持ち主二人の存在を確認できた訳だが、今優先するのは金髪の男の方。
何らかの術により大々的に存在を知らしめているとはいえ、黎斗の現在地は不明。
更に全く持って忌々しい限りだが、仮に今すぐ黎斗達の居場所が判明しても首輪がある以上即座には殺せない。
無惨が鬼であると知って尚も首輪を装着したのなら、無惨の生命力であろうと死に追いやる仕掛けが施されていると考えるのが自然。
何より今の無惨は薬の効果で生命力が衰退の一途を辿っている。
このままでは、太陽の光以外で死ぬのも有り得ないでは済まされない。
主催者への怒りを宿しつつも、自らの生還の為に必要となる情報を一つでも読み取ろうと視線は外さない。
そんな姿勢は、一瞬で崩される事となった。
『最後に敵キャラを紹介しよう』
鬼舞辻無惨は他の鬼を凌駕する驚異的な力を持つ。
本来辿る筈だった正史において、鬼殺隊が勝利を収められたのは珠世としのぶが共同で開発した薬があってこそ。
それが無ければ柱複数人、痣が発現した隊士複数掛かりであっても全滅という末路を迎えていた可能性は大いにある。
十二鬼月最強の戦力である黒死牟ですら、無惨には及ばない。
『このゲームは基本的に対人戦でNPCは出来る限りプレイヤーの命を奪わないように調整してあるが―――』
そんな無惨でも長きに渡り生にしがみついた中で、一度だけ圧倒的な恐怖を味わった事があった。
ただの一撃を入れる事も叶わず、そればかりか逃走に集中するしか無かった相手。
決して忘れはさせぬとばかりに付けられた傷痕は、今でも覆い隠した肉の奥で焼けるような痛みを訴えている。
だがその男は数百年前に死に、この世のどこにも存在しない。
鬼の無惨をして化け物と戦慄させる存在も、寿命と言う人間の限界からは逃れられなかった。
だからもう二度と、あの時の恐怖を味わう事は無い。
その筈だというのに。
『彼だけは別だ』
「――――――――」
数百年振りに蝕む、焦燥と恐怖。
札のような耳飾りが特徴的な男を見た今この時だけ、黎斗への怒りも忘れる衝撃に襲われた。
心臓が悲鳴にも似た鼓動を響かせ、細胞全てが異様に張り詰める。
黎斗が何か言っていたが耳に入らない。
ゲームに反抗的な参加者の戦意を煽り、とある二人へ揺さぶりを掛ける為に紹介した少女の存在すら意識の外だ。
磯野と呼ばれた男の喧しい宣言と同時に映像が消え、会場には静寂が戻る。
「――――っ!!!!!」
轟音。
アスファルトが砕け散り、地面に大きな破壊痕が生まれた。
衝動のままに腕を振るった無惨から余裕は完全に消え失せている。
直接目の前に現れたのではない、されど数百年前に直接対峙したからこそ分かる。
アレは本物、この身に消えぬ恐怖(いたみ)を刻み付けた化け物本人であると。
ふざけるなふざけるなふざけるな。
何故貴様はこの期に及んで私の前に現れる。
何故大人しく地の底で腐り果てない。
化け物が、貴様が存在するだけで世の理が狂う。
常に全身を移動し続ける脳が今後どうすべきかを模索し続ける。
あの化け物と同じ地にいながら、生き延びる為の方法を。
だが考えれば考える程、出て来る答えは自分の詰みを突き付けられるばかり。
まずこの手で始末するという選択肢は真っ先に外す。
肉体に問題の無い時でさえ抵抗すら許されずに斬られたのだ、薬の効果で弱体化を余儀なくされた今の自分では目も当てられない結果となるに違いない。
仮に薬を打たれてなかったとしても、向こうは分裂による逃走を間違いなく警戒している。
同じ手を二度も食らうような馬鹿なら、こうも焦ってなどいない。
潜伏し寿命で事切れるのを待ち続ける、これも不可能。
無惨がいるのは元いた日本ではなく、黎斗が用意した閉鎖空間。
数歩歩けば遭遇する程の狭さとは言わないが、数十年も隠れ続けられる場所でもない。
何よりそのような動きを主催者達が容認するとも思えない。
さっきの態度からして黎斗は殺し合いを一種の遊戯と捉えているように見受けられた。
であれば、他者ととの戦闘に発展せず隠れてやり過ごす真似は、盛り上がりに欠けるとして歓迎しないはず。
期待外れとして首輪を遠隔で爆破されるか、潜伏場所をあの男に伝えられる可能性は非常に高い。
何故自分の命が異常者の都合で左右されなければならない。
怒りなど異様に低い沸点のせいで数えきれないくらいに抱いて来たが、これ程までに屈辱と不快感を味わったのは初めてに思えた。
歯が全て砕けんばかりに噛み締め、されど諦観にだけは至らない。
考え続ける、どうすれば生きられるかを。
僅かな可能性を手繰り寄せ、ちっぽけな情報を組み立てていく。
「…………やはり、あの男の力が必要不可欠となるか」
出した結論は放送前と同じ、金髪の男を喰らい時を止める力を我が物とする。
耳飾りの男と同じ切羽詰まった問題として、無惨の肉体は現在進行形で急速に衰えているのだ。
例え数日間あの男との遭遇を免れても、解毒が完了しなければ寿命で消滅は避けられない。
加えて時を止める力さえ手に入れば、あの男を殺す事も現実味を帯びて来るだろう。
アレが無惨にすら反応を許さない速さで剣を振ろうと、時間そのものを止められては無意味。
尤も、それで確実に仕留められるとは無惨も絶対の自信を持って言える訳ではない。
時を止める間すら無く殺される、あの男相手ならそうなっても不思議は無いのだから。
もう一つ、微々たるものだが無惨にとって有利な事実があった。
耳飾りの男は姿こそ数百年前と同じ、しかし行動まであの頃とそっくりそのままではない。
聞き慣れない言葉を並べていたが分かる、あの男は黎斗の傀儡と化している。
つまり鬼狩りとして人間どもの命を守る為にではなく、無差別に牙を剥く剣鬼として存在する。
と言う事は、あの男は無惨のみならず全参加者にとっての敵であるのだ。
ならばあの男が無惨の元へ辿り着く前に、他の参加者達が足止め役となる。
当然有象無象が束になった所でアレを相手に勝利を奪えるとは思っていないが、それでも幾分かの時間稼ぎにはなるだろう。
その他の邪魔となる者は鬼狩りも含めて全て薙ぎ払う。
今後の方針を纏め終えるとすぐに金髪の男の追跡を再開する。
今は一分一秒が惜しい。
時を止める力を手に入れ、このふざけた茶番を生き延びた後は檀黎斗を殺す。
愚かにも自分に向けて神を名乗り屈辱を味合わせた罪、あの男自身の命で代償を支払わせねば気は済まなかった。
鬼舞辻無惨は己の生を投げ出さない。
その為に、何を犠牲にしようとも。
【F-3 市街地/一日目/深夜】
【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[状態]:健康、主催者への不快感(極大)、恐怖と焦燥感(大)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]基本方針:誰であろうと殺す。
1:金髪の男(DIO、名前は知らない)を喰い殺し、時を止める力を手に入れる。
2:1が完了するまで耳飾りの剣士(縁壱)との接触は絶対に避ける。何時まで私に付き纏う気だ貴様は。
3:全てが終わったら檀黎斗を殺す。二度と私の前に姿を見せるな異常者が。
[備考]
※無限城決戦終盤からの参戦(寿命残り数日)。分裂不可。再生能力は今のところ健在。
投下終了です。
野原しんのすけ(大人)、ルナを予約します。
宮川尊徳、ユキを予約します
投下します
世にも奇妙なことが連続して起こり、人々の凄惨な死が垂れ流される放送を尊徳達は眺めていた。
NPCを撃破した彼らだが、画面越しに存在する忌々しい男には何も出来ない。指の一本も触れられずただただ惨劇を眺めるしかない。
「なんて悪趣味な奴らだ……!」
悪趣味極まりない放送に尊徳が顔を顰めた。
あの磯野やハデスとかいう男は様子を見る限り、付き従っているだけかもしれないが――檀黎斗は間違いなく自分の意思でこの残酷なゲームを開いているのだろう。
それは誰が見ても明らかであり、尊徳は怒りを募らせるが――今の彼に出来ることは何もない。
ユキも今は鏡ではなくモニターを注視。真剣な瞳で放送を見ている。
「あいつ……人の命をなんだと思ってるのさ……」
そして影山も尊徳の言葉に同意するように、そう呟いた。
あのゲームマスターは神を称しているが、彼はそんな自称神よりも気高き天の道を往き、総てを司る男を知っている。
きっと彼や自分の兄貴分、矢車がここに居たらなんとかしてくれるだろう、と――どこか他人頼みなことを思いつつ、自身も光を掴むために戦わねばならないと理解している。
(兄貴……。俺、今度こそ光を掴めるのかな……)
初っ端からこんな放送を見せられて不安にならないと言えば、嘘になる。
影山は勇敢に戦った青年――葛葉紘汰と同じく仮面ライダーだ。彼の世界ではマスクドライダーシステムと呼ばれているが、その本質は変わらない。
だが影山は紘汰ほど勇気があるわけでも、ヒーロー気質でもない。世界を救った始まりの男でも、天の道を往き、総てを司る男でも、神に代わって剣を振るう男でもない。
影山瞬とはどこまでも人間臭い男だ。
正義の味方の燃えカスこそあるが過去の栄光に執着するあまりプライドを捨てきれず、情けない姿を晒したこともある。
そんな影山だが決して正義感がないわけじゃない。小悪党的なことをしていた時期こそあり、その頃は悪人のようなこともしてきた。
だが少なくともパンチホッパーとなって以降はそういう悪い面はなりを潜め、人間臭くも悪党ではない――むしろ彼は兄貴と共に光を掴もうとすら考えるようになった。
だから自業自得とはいえネイティブと化してしまった時――彼は死を望んだ。
どこまでも人間臭くて、情けなくて、みっともなくて――それでも燃えカスのような正義感や光を求める気持ちは捨てきれず。
化け物になるよりも人間のまま死ぬことを望んだ男――それが影山瞬である。
そんな影山が再びこうして人の身で蘇ったことは奇跡と呼ぶしかない。
ゲームマスターである檀黎斗の気まぐれだろうが、それでも人の身で生きていることを影山はありがたいとすら感じる。
もちろん殺し合いなんて反対だし、今度こそ光を掴むために黒幕達は倒すつもりだ。自分だけならともかく、天道総司なら不可能すら可能にするだろう。
そして兄貴である矢車が居たら――彼とならば影山はどこまでも戦える……!
「アユミ――!」
影山が戦う意思を固めてる間にも放送は進み、ナルシスト男の娘――ユキの悲痛な声が響き渡る。
彼の仲間であるアユミが首輪の爆発によりその命を散らした。
あまりにも呆気なく、いとも容易く命が潰える瞬間に尊徳は息を呑んだ。この中で戦場に最も慣れていないのが彼だ。
条河麻耶や葛葉紘汰とは違い、抵抗すら許されぬ一方的で理不尽な死。これほど恐ろしいものはない。
しかもユキの仲間ということは、彼女もまた何らかの戦う力を持っていたに違いない。それなのにこんなにもあっさりと、一瞬で……。
影山やユキは有能だが、それでもゲームマスターを倒すことは困難極まりないないだろう。
そんなこと、とっくにわかっていた。だがこうも一方的で理不尽な死を何度も見せ付けられて。ルール違反すらしていない。本田と違い、警告すらされていないのにいきなり少女が殺されて。
これほど理不尽な死もなかなか無いだろう。
警告を無視して殺された本田ヒロトの死がまだマシにすら思える。
それに乱入者の葛葉紘汰は、あそこに辿り着いてる時点でかなりハイレベルなプレイヤーだ。だというのにああもあっさり殺された時点で、このゲームの難易度を痛感せざるを得ない。
更に恐るべき理不尽を黎斗は突き付けてくる。
『そして今から一つ運試しのゲームをする。私がこのボタンを押した瞬間―――君たち本戦出場者のうち何人かがランダムでゲームオーバーになるゲームだ』
普段から朝霧海斗という理不尽を絵に書いた様な存在と過ごして、傍若無人な彼に振り回されてきた尊。
しかしそんな海斗が全然可愛く思えるほどの理不尽を黎斗は強いる。
ピ、ピ、ピ――――。
「なにっ!?この音は……!」
最も聞きたくなかった不快な音が、自分の近くから聞こえる。
その瞬間、尊とユキは誰かに強く押された。直後に乱雑に誰かのデイパックを投げ捨てられる。
「兄貴……」
その誰か――影山が悲しそうに呆然と立ち尽くし、呟く。不快なノイズは彼の首輪から発せられていた。
「俺、結局また光を掴めなかった……」
影山にはやり残したことも、後悔も山ほどある。
まだまだ生きたかった。兄貴や新しい仲間達と一緒に光を求めたかった。
でも――もうダメみたいだ。
黎斗が運試しをすると言って、この首輪が音を発した。それがどういう意味かわからないほど、影山は馬鹿じゃない。
だから近くにいた尊徳とユキを突き飛ばした。彼らを爆発に巻き込んでしまう可能性を危惧しての行動だ
影山は決して善人と言えるような人間ではないが――これから共に戦おうとした仲間を巻き込むほど、腐ってもいない。
次に自分のデイパックを尊徳へ投げた。もしかしたらホッパーゼクターが彼らに力を貸してくれるかもしれない。
色々と未練はあるが、せめて今は自分に出来る精一杯のことをする。ネイティブ化してしまった際、光を諦めて死を望んだあの時のように……。
「……どうせ俺はここで死ぬ。だから尊徳――ホッパーゼクターはお前に託してやる」
生きることは諦めた。これはもう、どう足掻いても詰みだ。
だから――――みっともなくとも良い。生きてるうちに尊徳に言いたいことがある。
ほんとは兄貴に言いたいけど、この場には居ないから。
「尊徳、ユキ……。俺の仇を取ってくれ……!」
ボン☆
――突然聞こえたそれは、影山瞬の生命の終わりを告げるノイズだった。
「……ふざけるな。どうして僕が見ず知らずの貴様の仇を取らなければならないんだ」
呆気に取られていた尊徳がようやく、絞り出すように声を発する。
その言葉は影山の頼みを拒否したようでもあるが――その心はそうじゃない。
尊徳はデイパックのホッパーゼクターを静かに眺める。
『……どうせ俺はここで死ぬ。だから尊徳――ホッパーゼクターはお前に託してやる』
(――まったく、何が託してやるだ。
海斗のように上から目線であんなことを言って、その挙句に仇をとってくれだと?
――ふん。ふざけるのも大概にしろ。僕は初対面の相手の願望を聞いてやるほど、お人好しじゃない)
影山に対して毒づくが――だがあの時、彼が自分達を突き飛ばしていなければどうなっていたかわからない。もしかしたら巻き添えで殺されていたかもしれない。
だから尊徳は毒づきながらも、影山の立派な行動を否定は出来ない。その在り方はボディーガードの尊徳にとって、感心すらするものだ。
「――まあ仕方ない。不本意だがその願い、僕が叶えてやろう。僕とユキであのイカれたゲームマスター達を倒してやる」
どの道、ゲームマスターを倒さなければゲームを脱出するのは難しい。ならばいつか戦わなければならない運命だ。
――尊徳は影山の最期の行動に敬意を払い、ユキと共に戦う覚悟を決める。
「しょうがないなぁ、ボクも一緒に戦ってあげるよ。それなりにギルドのメンバーのことも気に入ってたし……アユミの仇も取らなきゃね」
ヴァイスフリューゲルのメンバー、アユミの死。それはユキにとってずっしりと重くのしかかる、悲しい現実だ。
されども下を向いてばかりでいる彼じゃない。いや――もしかしたら暫くずっと俯いていた未来も有り得たかもしれない。
だが影山の命を賭した行動や尊徳の覚悟は、ユキの心情に多少なりとも影響を与えた
「ああ。あの子の仇も必ず取ってやろう」
アユミの仇――尊徳はその重い言葉を受け取り、彼なりに気遣ってやる。
友人が死んだら悲しいのは当然だし、この状況で立ち直れたユキの心の強さには目を見張るものがある。
ユキはアユミの仇を取るといった。復讐心に駆られるだとか、そういう類のものではない。
悲惨にも命を散らしたアユミの雪辱を晴らすべく、仇をとる。ならばその行為を否定する意味もなし。
要するに尊徳やユキの方針は当初と変わらず、ゲームマスターを倒すことだ。
「……でもボクは真正面から前線で戦うタイプじゃないから前衛はキミに任せるよ。ボクが傷付いたら、それすなち全人類にとって損失だからね♪」
「ばんなそかな!?」
――わかりきってたことだが、改めてユキのナルシストっぷりを痛感する尊徳であった。
まあユキが平常心に戻っただけ進歩したと考えるべきなのだろう、きっと。
【一日目/深夜/C-8】
【宮川尊徳@暁の護衛 トリニティ】
[状態]:健康
[装備]: ホッパーゼクター&ZECTバックル@仮面ライダーカブト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜5
[思考・状況]基本方針:僕たちがゲームマスターを倒す!
1:ユキと一緒に影山とアユミの仇を取る
2:このベルトで僕も変身出来るのか……?
3:まさかとは思うが、海斗のやつも参加してないだろうな……
[備考]
※色々ありすぎてまだ名簿を確認してません
【ユキ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]基本方針:ボクの美しさをクロトやハ・デスにも知らしめてあげる
1:タカノリくんはボクが応援してあげるよ ♪
2:モニカさんは大丈夫かな?
3:アユミ……
[備考]
※色々ありすぎてまだ名簿を確認してません
投下終了です
延長します
閃刀姫-レイ、門矢士、死亡確定キャラですが紅渡。それと継国縁壱を予約します
投下します
紅渡。
門矢士を語るとしたら、彼の存在は欠かせないだろう。
仮面ライダーディケイドに旅をするように伝え、最終的には彼の旅を終わらせようとした男。それが士の知る紅渡――仮面ライダーキバだ。
それなのに士がこの渡をあの紅渡と並行世界、或いは別の時間軸からやってきたと察した理由。それは彼の表情が切羽詰まったものだったから。そしてその瞳には『人々を守りたい』という想いが込められているようで。
そしてなにより――ディケイドに対する態度だ。もしもあの紅渡なら、もっと違う反応をしていただろう。
だから士は彼が自分の知るあの紅渡ではないと思い、同行を許可した。
その後三人は改めて情報を交換。
そこでこの紅渡が並行世界の彼であることに確信を持った。どう考えてもこの紅渡があの紅渡のようになるとは思えない。
門矢士にはあの紅渡がどんなことを考えて、何のために行動していたのかはわからない。きっと彼なりに信念をもって動いてたのだろう。だがそれでもわからないことわからない。
ひとつわかる事は、自分と共に旅をすることになった渡は彼のようにならないだろう――ということだ。
そして放送が始まると、三人はそれに注目した。
仮面ライダー鎧武――葛葉紘汰。
門矢士は自分が知っている男の散り様をしっかりと心に焼き付ける。
仮面ライダー鎧武の力を知っているからこそ、檀黎斗の強さと恐ろしさも理解出来た。
デュエルに適応出来ず、神によって殺された少女。戦場ではよくあることだが、閃刀姫であるレイを含めた三人の心が痛む。
あの場に三人が居たらあの少女を守れたかもしれない。彼らは各々の戦場を生き抜き、技術や力――そして心の火を培ってきた存在だ。
それでも場所が違うし、当然ワープすることも出来ない。少女を助ける術は何も無かった。
当然、その後に続くアユミの死も堪えた。
まるで見せしめのような死に方だ。あまりにも理不尽な光景にレイは怒りを覚え、拳を固く。そして歯を強く食いしばる。
今すぐにでも黎斗を倒してやりたいが、軽率な判断は戦場だと命取りになる。それを熟知しているからこそ、心は熱くとも頭は冷静を保とうとしている。
そして――紅渡の首輪からは、聞きたくもない雑音が鳴り響いた。
不幸にも音を大事にしていた渡の首輪から――だ。
〇
耳を劈くように突然鳴り響いた雑音に、拳をにぎりしめる力が自然と強くなる。
どうして彼が――紅渡までこんな悪ふざけの遊戯で理不尽に命を散らさなければならないんでしょうか?
人間の自由のためにこの世界を――決闘を終わらせると決意して。旅の仲間として渡を迎え入れた矢先にこの仕打ち。まるで私たちを苦しめるために、そういう筋書きを用意されていたようにすら感じる。
檀黎斗というあの男――神を自称する通り、人々を盤面の駒としか見ていないような。道化としか考えていないようなその性格の悪さは、確かに神という存在に近いのかもしれない。
「そんな……」
そして渡は――私たちの中で誰よりも動揺していた。いきなり死刑宣告を言い渡された本人なのだから、それが当然の反応だと思う。
私や士が彼に掛けられる言葉は何も無い。
『きっと大丈夫ですよ』なんて――そんな思ってもない嘘をついても気休めにすらならないことを知っているから。
ピ、ピ、ピ――――。
不快な雑音は鳴り止まない。
まるで渡の心臓に刃物を突き付けて、脅しているかのように。
もはやモニターの放送を見てる暇もない。渡をどうにかしたい――けど、刀で下手に首輪に衝撃を与えることはリスクがある。引っ張って外れるような代物でもないはず。
――そうこうしてるうちに時間は過ぎ去る。
だというのに何故か首輪が爆発されることはなかった。
『さて、紅渡。君にはこの敵キャラの性能を確認する、モルモットになってもらう』
――代わりに機械の音なんかよりも、よっぽど醜悪なノイズが渡の首輪から発せられた。
声の主は、間違えるはずもない――檀黎斗。
「モルモット?いったい何のことを――」
それは渡が檀黎斗に向かって言葉を返している途中のこと――。
『彼の相手をしてもらいたいということだ。紅渡、門矢士、閃刀姫レイ――君たち優秀な戦士には相応しい敵だろう』
――極大の殺気が肌を刺激する。
それはサムライ。一本の刀を携えて――彼は私たちの前に姿を現した。
「――参る」
全身から嫌というほど汗が溢れ出る。
これはダメだ。まともに戦って勝算がある相手じゃない。早急に撤退するしかない。
――本能が警鐘を鳴らす。人間離れした極大の殺気を放つこの化け物とは戦うな――と。
それでも私は――私たちは逃げるわけにはいかない。
頬を叩いて、今にもすくみそうな足を立ち直らせる。きっと目の前の敵は全員が生きて逃げられるような敵じゃない。
『ちなみに彼を倒せた場合、紅渡のゲームオーバーを取り消してやる。せいぜい戦うが良い!ハハハハハ!』
――まったく。そんなことを言われたら、余計に引くに引けなくなる。
だから私は剣を構えて。
士と渡もそれぞれの仮面ライダーに変身して。
――一方的な決闘が始まった。
〇
継国縁壱。
運営側が直々に用意した敵キャラは、当然ながら化け物だ。
大量の敵キャラならともかく、黎斗はゲーム進行を円滑に行え、尚且つボスクラスの存在になり得る侍を選んだのだから当然だ。
全参加者の中でもトップクラスの実力を誇る鬼舞辻無惨でも縁壱を前には敗北するしかない。それほどまでに圧倒的で、人の身であることが不思議なくらいには常識外の強さを持つ男。それが継国縁壱なのだ。
門矢士、紅渡、閃刀姫レイ――彼らは強い。制限でフルパワーを発揮出来ないとはいえ、並のNPCや平凡的な強さの敵ならば為す術なく撃破されるだろう。
――だが縁壱だけは別だ。
結論から言おう。
彼らは防戦一方――それもかなり不利な状況であった。
もしもコンプリートフォームやエンペラーフォーム、カガリに強化変身出来る状態だったらある程度は拮抗した勝負が出来たかもしれない。
だがそれは所詮、もしもの話。現実として彼らは徐々に追い詰められている。
そして渡は――――。
「ぐはっ……」
縁壱の攻撃を受けた仮面ライダーキバが膝を着く。
胴体に強烈な一撃を叩き込まれた。キバの鎧の上からでも、そのダメージは甚大だ。
縁壱が手にしているのは、たかだか日輪刀――仮面ライダーや閃刀姫の装備に比べたらそれほど凄くもない武器だ。
だが使い手があまりにも強すぎた。最強クラスの敵が使えば、どんな武器だって途轍もない凶器となる。
キバの変身は解除され、生身の体をさらけ出す。
ファンガイアと人間のハーフといえども、生身で。それも縁壱という圧倒的強者の相手をするのは無理がある。
「「渡……!」」
生身の渡を守るように、ディケイドとレイは連携。なんとか渡はその命を散らすことなく、戦場に健在。
そして――――。
「まだだ……」
紅渡は諦めない。
相手はどうしようもないくらいに強いが――それでもまだ、諦められない理由が渡にはあるから。
『――渡、人に流れる音楽を守れ……。その為に戦え』
自分の父、音也と最初で最後の仕事――彼が散る間際に共闘した時の言葉は脳裏に強く刻まれている。
その言葉が――祈りが、渡を無限に強くする。
「まだ……僕も戦える……」
腹部に受けた傷がズキズキと痛む。
再び立ち上がるだけで傷に響いて、激痛が襲う。
今の渡は致命傷を負っている状態だ。本来なら病院で治療するべきだが――残念ながら彼にそんな時間は残されていない。
眼前の敵を倒せば、渡はゲームオーバーを免れる。逆に言えば彼を倒さなければ、その末路は――――死だ。
それが神の判決。そしてこのゲームで神の宣告は絶対であるだろう。
だから渡には戦うしか道がない。
それにこんな危険人物を放っておいたら、士とレイの旅もここで終わる。
まだ交流は全然出来ていない。はっきり言って赤の他人同然だが――それでも守れる音楽があるのなら、それを守る。この二人が悪人でないことは短時間だが会話してわかった。
今もこうして、渡を守るように二人は戦ってくれている。
幸い致命傷はないようで、まだ戦闘開始からそれほど経っているわけじゃないから傷も浅い。
だがそれは短時間で渡に致命傷を負わせたということでもあり、縁壱の化け物っぷりを痛感する。
――それでも紅渡は逃げない。
いつだって前を向いて――なんてそんなポジティブな性格でもないけれど。
それでも今はキバって走り出して、立ち向かいたいから――――。
「――変身」
二度目の変身。
すぐに走り出し、再び前線へ復活する。
されどもそれだけで状況が好転するはずもなく――。
そして黎斗による工作も大きく、縁壱は執拗に渡を狙い続ける。
今の縁壱には渡が鬼舞辻無惨か、或いは上弦クラスの鬼のような凶悪極まりない存在に見えるのだろう。
だが皮肉にも今、縁壱がしていることは鬼狩りではなく人狩りで――渡達には縁壱こそが化け物に見える。
彼を倒さなければ――神の判決は覆らない。
それに彼を放置したら、どんどん被害者が増え続けることだろう。渡はまだ名簿を確認出来ていないが、名護さんや太牙が巻き込まれている可能性もあるのだ。もしかしたら、正夫も――。
なによりこんなゲームを開ける黎斗を放置するわけにはいかない。
せっかく色々と上手くいったのだ。ネオファンガイアの脅威だって、皆で乗り越えた。
それなのに様々な世界を知るあのゲームマスターが渡の世界のことを認知してしまった。こうして決闘に巻き込まれたのが何よりの証拠だ。
だから戦う。
何度も地面を転がった。鎧の上から日輪刀を叩き付けられ、自分の命が尽きる寸前だということも肌で感じる
「大丈夫ですか、渡!」
「はい。僕は――まだ戦えます」
心配して声を掛けてきたレイに対して覚悟を秘めた瞳でそう返す。
仮面に隠れて表情こそ見えないが――それがどれほの覚悟を秘めているのか。そんなこと閃刀姫たるレイには声や今の彼の在り方で理解出来る。
そして彼が死を覚悟しているであろうことも――。
この三人の中で渡だけが瀕死だ。
他の二人はまだ余裕こそあるが、それでも疲労感は拭えない。一瞬でも気を抜けば、その先は死だろう。
渡ばかりに攻撃が集中しているせいで、そんな奇妙な状況が作り上げられている。
(もう一人の僕が何を考えていたのかは、わからない。もしかしたら僕も彼のようになっていた可能性もある――)
並行世界の紅渡については士から話を聞いた。
彼が何を思って行動したのかはわからないけど――もしかしたら人に流れる音楽を守るために、自分なりの方法で行動していたのかもしれない。
だがそんなもの所詮は憶測の域を出ない。なにせ情報源である士すら答えを知らないのだから。
だがそんな並行世界の自分、今の渡には関係ない。
今は自分に出来ることをやるだけだ。
人に流れる音楽を――美しきものを守るだけだ。
「僕の世界や巻き込まれた人達の音楽を守るために。檀黎斗――あなたを逃すわけにはいかない」
そんなことを口にしながらも、それでも何度も鉄の鉛を叩き付けられて。キバの鎧のおかげで切断こそされていないが、立っているのがようやくという状況。
体がふらつき、再び膝をつきそうになる。気合いを抜いた瞬間、意識を手放してしまいそうだ。
『――渡、諦めるな……』
音也の声が脳を過ぎる。
終わらない音色(メロディ)が時を超え、いま聴こえる。
姿は見えなくても、ちゃんと心で感じている。
『お前の中には、俺がいる。俺たちはひとつだ』
だから今――運命の鎖を解き放とう。
溢れ出す感情が、この身体を突き破り――。
指先まで伝わる、制御不能な程の熱情。
そして首輪爆破や自分だけ狙われてる、危険な状況だとしても、もはや戸惑いはなく。そんな戸惑いは心の火――心火でとっくに焼き払われていて。
(……うん。行こう、父さん!)
そんな最大限まで膨れ上がった想いが――。人に流れる音楽を守りたいという祈りが――奇跡を呼ぶ。
「渡のフォームが変わった……だと……?」
黄金のキバの鎧を纏った渡を見て、士が唖然とする。
仮面ライダーキバ エンペラーフォーム――それは間違いなく、キバの最強フォームだ。
だが変身には専用のツール――タツロットが必要なはず。
だが士とて一度死んだのに復活したという経験を以前に体験してる身。
一緒だけ呆気に取られたが、すぐに表情を引き締める。――この奇跡は、自分達にとって悪いものではない。
きっと――渡の気持ちが奇跡を起こしたのだ。そうとしか考えられない不思議な奇跡を、士やレイは目撃している。
――実際は心意システムというものが作用して、尚且つ黎斗が首輪の制限効果を緩めたことによりなし得た奇跡。――心の力だ。
そんなことも関係なしとばかりに襲いかかってきた縁壱の一撃をザンバットソードで受け止める。
「ここは僕がなんとかします。二人は先に進んでください!」
「でもそんなことをしたら、渡が――――」
「僕のことはいいです。檀黎斗を倒して僕の愛する世界を――僕の世界や巻き込まれた人達の音楽を守ってください」
心配してくれたレイへ精一杯の強い言葉を返す。
渡としては彼女が見せてくれたその優しさは嫌いじゃない。むしろ嬉しく思う。
だが今は――この時ばかりは譲れない。
それに正直、三人がかりでも勝てるかどうかは未知数。ザンバットで受け止めた一撃は相変わらず鋭く強かで、更にそこから何発も剣戟が続いた。なんとか防ぐことは出来たが、こんな攻防があと何回続くか……。
それならば自分が足止め役を買い、他の二人を逃がした方が良いだろう。
先程まではまともに足止め出来るかすら怪しかったが――今ならば多少は時間を稼げる。
それに今は難しくても――いつかこの侍すらも倒せる方法が見つかるかもしれない。
なにより真の敵は檀黎斗だ。この『敵キャラ』も厄介だが、そもそもゲームマスターに辿り着かなければ終わらない。
そしておそらくだが――門矢士という存在は檀黎斗を打破するのに重要となる可能性が高いと渡は考えている。
――そうこう考えてるうちにも縁壱は次々と技を繰り出し、キバが防ぐ。彼らのやり取りの内容すらも正常に聞き取れぬままに哀れな道化は人類のために剣を振るい続ける。
「わかった。こいつの相手は渡……お前に任せる」
「ありがとうございます、士さん」
男二人がらやり取りを終えると、レイも仕方なく撤退を選んだ。
この後、渡がどうなるかなんてだいたいの想像はつく。それでも彼の意志を尊重してやるのが――戦士としての流儀だ。
そして渡と士が最後にやり取りをする際、キバのカードが創造された。どこからともなく、無からカードが生み出された。
カードの創造や書き換え――それはデュエルが行われてる一部の世界では稀に起こる現象だ。
黎斗はそこに着目して仮面ライダーディケイドが他の仮面ライダーの能力を使うためのカード――ライダーカードをカードの創造という方法で取り戻させることにした。
この世界では檀黎斗が神であり、ルールだ。心意といい、他の世界の技術を再現させるのも難しくない。
門矢士は他の仮面ライダーと仲良くなる度に――心を通わせる度にカードを創造する。もちろん『取り戻させる』だけなので元々持っていないカードは無理なのだが。
キバのカードを一瞥した士は、レイと共に戦場を去る。
全ては紅渡の覚悟を無駄にしないために――。
○
仮面ライダーキバ エンペラーフォームVS 継国縁壱。
今後暫くは訪れることはないであろう、最強クラスの戦力のぶつかり合い。
心意で渡がエンペラーフォームに変身出来たことは、黎斗にとってラッキーだった。
もしも変身出来たら――と思い目をかけてやったのだが、まさか本当にそこへ至るとは。
だが制限の一切を掛けていない縁壱とは違い、緩めてはいるものの渡には未だ制限が掛けられている。
強さの制限――それはゲームとして当然なことだが、敵キャラだけ何らバランス調整が行われないというのも理不尽なものだ。
しかも今回は敵キャラの試運転。つまりテストプレイに近いから渡に少しだけ贔屓に過ぎず、本来ならこうもすぐにエンペラーフォームになれるはずもない。
その世界の『主人公』に相当する仮面ライダー――例えば『キバの世界』の仮面ライダーキバなどの最強フォームは戦力として非常に高い。いくら心意とはいえ、こんな序盤からそう簡単に変身されても困るのだ。
当然、主人公に比肩するタイプの仮面ライダーも同じだ。深海マコトのシンスペクターなどがそれに当てはまる。
それでも最強フォームが自分の用意した敵キャラとどの程度やり合えるかというのは、気になるものだ。終盤になればやがて心意システムや支給品として没収された道具を取り戻すなりして、最強フォームへ至るプレイヤーが出てくる可能性は高い。それは黎斗としても悪いことではないし、むしろゲームは更に面白いことになるだろう。
だから今回は『首輪による制限がある状態での心意による最強フォーム』という状況下でプレイヤーと敵キャラをぶつけ、試運転してみた。
結果は流石、継国縁壱といったところか。
制限の有無という差は大きいが、それにしてもほぼノーダメージでエンペラーフォームを撃破したことは賞賛に値する。
エンペラームーンブレイクすらもループするように日の呼吸を繰り出すことで拮抗し、遂に競り勝った。流石、神が直々に用意した敵キャラというだけはある。
変身解除された渡の首――首輪は縁壱の刃すら通さないが、首輪がない僅かな隙間を狙うことで斬首に成功した。
(士さん、レイさん――後は頼みました……)
渡が斬首される瞬間に願ったのは、逃した二人が自分の世界や巻き込まれた人々に流れる音楽を守ってくれること。
そして最期に見たのは――――。
『よくやった、渡。流石は俺の息子だ』
暖かい父の微笑みで。
紅音也は死人だが――それでも渡には、ハッキリと見えていた。
(父さん――――)
だから渡は死ぬ寸前――何故か笑っていた。
その表情は縁壱にもしっかりと見えていて。鬼が死の寸前に微笑むという不可解な行動に、僅かな違和感を覚えた。
――もっともそんな展開すら、神である黎斗の想定通り。
もしもこの『違和感』が積み重なり、やがて敵キャラからプレイヤーとなった場合――その参加を認めよう。もちろんプレイヤーとして諸々の制限はするつもりだが。
檀黎斗は神であり、継国縁壱は所詮道化だ。
道化が神に反逆の意志を見せてきたとしても、容易に叩き潰せる。
それに極悪人ではなく継国縁壱という英雄を敵キャラに選んだのは、先がどうなるかわからないという意味でゲームを盛り上げるため。
大々的に敵キャラと発表された彼が真実に気付き、ゲームを止める側になったとしても――それを信じるプレイヤーばかりだろうか?
真実に気付くことなく敵キャラとしてゲームオーバーになるのも良し。敵キャラとは本来、そういうものだ。この程度の敵を倒せないプレイヤー達では神に挑む挑戦権すらない。
【紅渡@仮面ライダーキバ 死亡】
【一日目/深夜/F-7】
【閃刀姫-レイ@遊戯王OCG】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)
[装備]:閃刀姫-レイの剣@遊戯王OCG
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:士に協力してこの世界を破壊しちゃいますか
1:士と旅をする
2:渡の意志は引き継ぎました。人々の音楽は私が守ります
[備考]
※参戦時期は閃刀起動-リンケージ(ロゼ死亡)以降。
※名簿を確認出来てません
※遊戯王カードについての知識はありません
※カガリやシズクなどにフォームチェンジするには遊戯王OCGのカードが必要です。閃刀姫デッキとして支給されたカードではフォームチェンジ出来ません。
※閃刀起動-リンケージのカードを発動することでオッドアイになり、秘められた力を発揮出来ます
【門矢士@平成仮面ライダーシリーズ】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)
[装備]:ネオディケイドライバー&ディケイドのライダーカード@平成仮面ライダーシリーズ、ファイナルアタックライドのカード&各種アタックライドのカード@平成仮面ライダーシリーズ、ライドブッカー@平成仮面ライダーシリーズ 、仮面ライダーキバのライダーカード@平成仮面ライダーシリーズ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:この世界を破壊する
1:レイと旅をする
2:どうせ海東の奴もいるんだろうな
3:檀黎斗を倒して渡の世界も俺が守ってやる
[備考]
※参戦時期はRIDER TIME 仮面ライダージオウVSディケイドで死亡後
※名簿を確認出来てません
※各世界の主役仮面ライダーかその関係者と心を通わせることで、その世界の主人公の仮面ライダーのカードを創造してカメンライド(変身)できるようになります
【継国縁壱@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(中)
[装備]:継国縁壱の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:鬼狩り
1:鬼である(と縁壱には見えている)紅渡(名前未把握)が死ぬ寸前、柔らかな笑みを浮かべたことに違和感
[備考]
※首輪による制限が行われていません
※キバットは意思持ち支給品ですが檀黎斗により言語能力を失ってます。この後破壊されたか、何らかの行動を起こしてるのかは後続の書き手にお任せします
投下終了です
陽夏木ミカン、クレヨン、DIO、天城カイトで予約します
テスト
投下します
大変な事になった。
口から漏れたのはゲーム開始直後と同じ台詞。
タブレットを持つのとは反対の手で頭を掻く青年、野原しんのすけは眉間に皺を寄せる。
視線の先には、ゲームへ参加させられた者達の名がズラリと並ぶ画面。
これを生きて見れると言う事は即ち、しんのすけが本選への参加を認められた事実に他ならない。
運が良いのか檀黎斗の放送が始まるまでに危険人物との遭遇は避けられた。
悪趣味を通り越して残酷趣味としか言いようのない運試しゲームにも生き残り、まずは当初抱いた危惧が本当か否かを確認すべく名簿アプリを起動。
民家、と言うよりは廃屋と言った方が正しいだろうカビと埃まみれの一軒家に身を隠し、画面にズラリと並んだ名前を見やる。
結論から言うと最も心配していた金有タミコの名前は無かった。
愛する女が殺し合いに不参加なのは間違いなく朗報。
更に過去の、より正確に言うならば5歳の頃のしんのすけも不参加と見て良いだろう。
名簿に記載された「野原しんのすけ」は一つだけ、つまり今こうして名簿を見ている自分の事を指す。
もし過去と現在のしんのすけがそれぞれ参加している場合、名簿にあった「保登心愛」のように二つ名前が記載されているのではないか。
というのがしんのすけの考えだった。
「保登心愛」がどういった人物なのかは知らないが、タミコが5歳の自分とかすかべ防衛隊を未来の世界に連れて来たように、違う時間からそれぞれ参加させられているのかもしれない。
若しくは違う世界、所謂パラレルワールドから二人の「保登心愛」が参加している可能性もまた否定はできない。
嘗て野原一家はは元々住んでいた「アクション仮面がテレビの中のヒーローとして存在する世界」から、「アクション仮面が現実のヒーローとして存在する世界」へ迷い込んだ事がある。
これらの経験から「保登心愛」の名が二つ載っている理由へある程度の推測を建てられた。
とはいえしんのすけにとっては顔も知らない人物より、優先しなくてはならない者達がいるのだが。
「ネネちゃんとボーちゃんもいるのか……」
かすかべ防衛隊のメンバーでもあり、幼稚園時代からの大切な友人達。
名簿上でも本名ではなくボーちゃんな事に関してのツッコミは置いておいて、これまたしんのすけに新たな問題が付きつけられる。
二人は一体何時の時代から参加しているのかと。
大人であっても動揺するような事態だ、子どもの頃の二人ではより危険が大きいに決まっている。
体力や状況の把握力は当然大人の方が上。
だからなるべく大人の時の方が、自分が合流するまでに二人が無事でいられる確率が高いだろう。
それにボーちゃんの場合、自分と同年代の頃ならば博士と呼ぶに相応しい能力で首輪を解除出来るかもしれない。
尤も損得勘定抜きに急いで探したいのは嘘では無いし、そもそも殺し合いなんぞに参加している事自体を全く歓迎していないが。
そこまで考え、思わず苦い想いとなる。
数々の大冒険を経験して来たかすかべ防衛隊なら大丈夫、と5歳の頃の自分なら胸を張って言えただろう。
だが大人となった今のしんのすけは、そこまでお気楽には考えられない。
心根こそ昔と変わらなくとも、何もかも昔と同じにはいかなかったのが現実である。
隕石の衝突という大災害が原因で起きた深刻な日本の電量不足。
金有電機の支配下で豪勢な生活を享受する人々と、春日部市で極貧生活を強いられるその他多数の国民。
荒廃した未来の日本での生活は、しんのすけと言えど何時までも能天気でいられるものではなかった。
「……なーんて、ウジウジしてるのはオラらしくないな」
幼少時代のふっくらしたものとは違う、引き締まり精悍になった頬を軽く叩く。
野原しんのすけの長所とは他人に媚びず、周りの不安を吹き飛ばすマイペースさ。
それを見失ってはネネやボーちゃんと再会した時余計な心配を抱かせてしまうし、しんのすけ好みのおねえさん達だって笑顔にはなれない。
切り替える為にもナイーブになりかけた思考をリセット。
と、名簿上にある三人目の知っている名に視線をやり、うへーと言わんばかりに舌を出した。
パラダイスキング。
シロテナガザルを使って大人達を誘拐した自称王様の怪人物。
アクション仮面と共に事件を解決した時の事は、大人になった今でも大切な記憶として覚えている。
あの男の事だ、きっと嬉々として殺し合いに乗るに違いない。
加えてパラダイスキングの王国を崩壊させたしんのすけが参加していると知り、復讐の機会を虎視眈々と狙っている筈だ。
「どうせ追っかけられるなら、美人のおねえさん達にして欲しいもんだぜ」
半分本気交じりの冗談を口にしつつタブレットを仕舞い、デイパックから別の物を取り出す。
自分の身を、何より助けを求める人々を守る為の武器として握るのはカードケースのようにも見える小箱。
説明書で使い方は確認済み。
一般人ならふざけていると思うだろう支給品の力も、しんのすけはストンと受け入れられる。
ミライマンと共に挑んだ怪獣退治で、野原一家は似たような力を手にし戦った。
何よりしんのすけはこういったアイテムを使って「変身」する戦士を二名程知っているのだ。
罅の入ったガラス窓に小箱を翳すと、腰には銀のベルトが装着される。
不謹慎だがこういった現象に高揚感を覚えてしまうのは、やはり男の性故か。
彼にとって一番のヒーローは今も昔もアクション仮面だが、それはそれというもの。
小箱を勢い良くベルト中央のバックルに装填した。
「変身!」
掛け声と共にしんのすけの全身は黒い装甲に覆われた。
所々に白いラインが入り、額に刻まれるはアルファベットのV。
姿こそ嘗てしんのすけが出会った者達と違うものの、仮面ライダーと呼ばれる戦士の特徴は兼ね備えた姿だ。
尤も正確にはコレは仮面ライダーではない。
変身に使用した道具こそ、ゲームにおいて万丈龍我に支給されたカードデッキと酷似している。
元々カードデッキはライダーバトルを仕組んだ神崎士郎によって開発されたものだが、しんのすけに支給されたデッキに限っては製作者が違う。
しんのすけが変身した戦士の名はオルタナティブ・ゼロ。
香川英行という男が神崎士郎の研究を参考に生み出した疑似的なライダー。
故にミラーモンスターと契約し力を行使する点は同じでも、ライダーバトルの正式な参加者ではない。
「おぉ!いや〜懐かしいな〜こういうの!まぁでもオラ的にはしん王のデザインのが好みだけど」
カードデッキを使う「龍騎の世界」の事情を知らないしんのすけにしてみれば、これもまた仮面ライダーなのだろうと考えるのも無理はない。
重要なのは身体能力が大幅に強化され、仲間の捜索やいざ襲われた時の対処に役立つこと。
デイパックを担ぎ廃屋から意気揚々と出る。
まずはどこから探そうかと思案しながら歩き出そうとし、
「ねえ」
不意に聞こえた声に反応すると、
「あなた個人を怨んではいないんだけど」
頭上から巨大な光が迫り、
「死んで」
一瞬でしんのすけを呑み込んだ。
○
失敗したかもしれない。
黒い鎧を着たような参加者が跡形もなく消え去った後で、ルナは反省する。
高威力の魔法で一気に片を付ける戦法。
ゲーム開始直後、丸眼鏡の青年との戦闘中に受けた不意打ちを真似してみた。
相手に抵抗を許す事無く仕留められたのは成功、相手の持っていた支給品まで消してしまったのは失敗だ。
乱入者が放った炎は自分の知る魔法でもなく、丸眼鏡の青年のとも違うようだった。
となると自分達のとはまた別の力の使い手が参加している、或いは支給品の効果なのかもしれない。
現に放送で金髪の男に殺された少女は、カードを使ってモンスターを召喚していたのは確か。
自分が使う召喚魔法とは別の方法で魔物を使役する道具、ということなのだろう。
丸眼鏡の青年や強力な炎を放った者のような一筋縄ではいかない連中がゴロゴロいるなら、今後は支給品を始めとして使えるモノは全て使うべきかもしれない。
初っ端から失敗してしまったが。
やってしまったものはしょうがない、次は気を付ければ良い。
溜息を一つだけ零し踵を返す。
放送に思う所が皆無では無いが、方針を変える程の何かも無かった。
名簿を確認しても知っている名が一つも無かったのは、果たして良い事だったのか自分でも判断し切れない。
丸眼鏡の青年に言った通り。
復讐を成し遂げる、その為に優勝する。
それを願う相手が魔王だろうと神様だろうと、どっちだって構わない。
きっと丸眼鏡の青年もそうすると、同じ復讐に生きる者として何となく分かった。
彼の復讐相手がゲームに参加しているのか、その場合彼はどうなるのか少しばかり気にはなるが。
「神様、か……」
尊大な態度と、エキセントリックな言動をしていた自称神。
アレが本物の神様なのか、神を名乗るただの人間なのかは分からないしさして興味も無い。
だけど
「嫌いよ」
村を焼かれた時に何もしてくれず
「嫌い」
殺された皆を生き返らせてもくれず
「大嫌い」
コローソと二人で森を駆け回ったあの頃のままでいさせてくれなかった神様なんて、死んでしまえばいいのに。
◆◆◆
「いやぁ〜、間一髪だった…」
ルナが立ち去った事で、そこにあるのは崩壊した廃屋だけ。
その筈がどこからか呑気な声がしたかと思えば、地面に散らばるガラスの破片から黒い鎧が姿を現わした。
声の主は勿論、オルタナティブ・ゼロに変身したしんのすけ。
五体満足であり、傷の一つも負った様子は見当たらない。
当然だ、ルナが放った魔力の塊はしんのすけに掠りもしていなかったのだから。
オルタナティブ・ゼロは神崎士郎が開発したカードデッキと基本的なシステムは同じ。
龍騎達と同じようにミラーワールドへ入る事も可能となっている。
魔法が直撃する正にその時、しんのすけは咄嗟にガラス窓からミラーワールドへ避難し難を逃れた。
とはいえ「龍騎の世界」出身の仮面ライダーの能力にも制限が施されていたのだろう。
ミラーワールドへ侵入してからそう間を置かずに、首輪が警告音を発し始めたのだ。
疑似ライダーのオルタナティブ・ゼロは正規のライダーよりミラーワールドにいられる時間が少ないとはいえ、流石にここまでではない。
基本的に参加者の中でミラーワールドへの侵入が可能なのはカードデッキを支給された者と、ライダー世界の法則を無視出来る門矢士のみ。
これもまたある程度の公平さを考えゲームバランスを調整した結果である。
「さて、ヒヤヒヤしたけど助かった所で、今の娘を追いますか」
ざっと見回しても姿は見えないが、まだ遠くへは行っていないと睨む。
ならば、変身した今の自分なら十分間に合う筈だ。
少女を追いかける理由は、殺し合いに乗っているだろう危険人物を止める為というのは勿論ある。
だけどそれだけではない。
ほんの一瞬だけど、ミラーワールドからしんのすけは確かに見た。
立ち去ろうとする少女の顔に影があるのを。
それを見てしまっては無視など出来ない、放っては置けない。
檀黎斗の放送で殺された者達、怯える少女や力尽きるヒーローを見ている事しか出来なかった不甲斐ない自分を仮面で隠し、しんのすけは行く。
「困ってる女の子一人おたすけできないような奴じゃあ、タミコに引っ叩かれちまうからな」
昔と同じくらい無邪気で、無鉄砲で、おバカなままではいられない。
それでも変わらない、変えてしまってはいけないものがある。
困ってる人をおたすけする。
いつだって、どの時代であっても宿り続けるそれこそが、野原しんのすけの原動力だ。
【C-2/一日目/深夜】
【野原しんのすけ(大人)@クレヨンしんちゃん】
[状態]:健康、オルタナティブ・ゼロに変身中
[装備]:オルタナティブ・ゼロのデッキ@仮面ライダー龍騎
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]:
基本行動方針:困っている人をおたすけする
1:攻撃してきた女の子(ルナ)を追う
2:協力してくれる人と並行してネネちゃんとボーちゃんを探す
3:パラダイスキングを警戒
[備考]
※参戦時期は「映画 超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁」本編終了後
※少なくとも「オラの花嫁」より前の映画の出来事は経験しています
【ルナ@コローソの唄】
[状態]:火傷(小)、ダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1〜3
[思考]
基本:優勝して、人間たちに復讐する
1:先程の炎の攻撃は支給品を使ったのかもしれない
2:丸眼鏡の男(のび太)が今後どうなるか少しだけ気になる
3:コローソはいないか……
[備考]
【オルタナティブ・ゼロのデッキ@仮面ライダー龍騎】
香川英行が神崎士郎の研究資料とタイガのデッキを参考に開発した。
量産型のオルタナティブとスペックに違いは無いが、細部のデザインが異なる。
蟋蟀の人型モンスター、サイコローグと契約している。
投下終了です
飛電或人、万丈龍我で予約します。
予約延長します
投下します
多少心に余裕が持てたことで会話をしつつ、砂漠と荒野のエリアを歩くミカンとクレヨン。
『TOWER』と呼ばれる仮想世界に招かれた、AIを搭載されたアンドロイド『HANOI』.
クレヨンのいた世界はそれが普通であり、すぐに別の世界の住人だと言うことは気づいた。
随分とSFチックな世界観だと感じたが、それを言ったら魔法少女も似たようなもの。
さして気にすることはなく、元々クレヨンが人に対してフランクに接するのもあり、
打ち解けること自体については余り時間はかからなかった。
『せんとう ほせい あるみたい』
「戦闘補正?」
HANOIはアンドロイドと時代が進んだ存在なものの言ってしまうとそれだけ。
普通に戦うとしても殴る、蹴ると言った人間とそう変わらない攻撃手段だけになる。
ただTOWERの仮想世界に於いては人間を殺してストレス発散させるため、
普段以上に動いたり戦えたりできる戦闘補正を与えられ様々な攻撃手段が取れる。
無からナイフを生み出すと言った仮想世界だからこその方法も使うことができた。
無論MPを消費するので意味なく使うことはできないが。
「ちょっと待ってクレヨン。もしそれなら、
此処ってTOWERって呼ばれる仮想世界ってことにならない?」
戦闘補正が残ってると言うことは、
仮想世界の中で殺し合いが行われてないと話が成立しない。
勿論主催は次元を超越していることから仮想世界と現実のリンクもできるかもしれないが。
もしそっちであれば、途方もない存在を相手にしてるのでかなりの難敵となる。
「TOWERにこういう場所とかはなかった?」
『ない』
TOWERはビルや病院と言った所謂人の手による建物が殆どになる。
こういった自然のエリアもある場所にいけばあるものの、
複数のエリアが一つにまとまってる場所は存在していない。
「そうよねぇ……」
もしTOWERであったりすれば、
何かしらの事態の進展に繋がるかもしれないと思うも、
同時に重要そうな情報を持つ人物が参加者になるとも思えない。
(まあ、仮に知っても私だけじゃ扱えないかもしれないけれど。)
魔法少女としてこの舞台が仮想世界なら、脱出の手段を自力で考えるのは難しい。
首輪を何とかするだけでなく、仮想世界からの脱出の必要すらあるのでは、
まぞくであっても魔法少女であろうとも、難儀することは想像できる。
どうしたものかと思考を巡らせていると、檀黎斗による放送が始まった。
仮面ライダー、デュエルモンスターズ。
二人にとってその存在はいずれも縁遠いもので、
また葛葉が変身したのはオレンジではなく極アームズ。
なので別の意味で反応するところも余りなく。
一番反応があったとするならば、これだろうか。
『そして今から一つ運試しのゲームをする。私がこのボタンを押した瞬間―――君たち本戦出場者のうち何人かがランダムでゲームオーバーになるゲームだ』
黎斗の傍若無人は留まることを知らない。
生き残った参加者であっても理不尽を強いらせる。
問題はランダムであること。今のミカンの精神は危うい状態だ。
自分以外に災厄、となればクレヨンに降りかかる可能性だってあるから。
その不安の影響で呪いとなる風が吹き荒ぶ。
「ッ、危ない!」
呪いは元々ささやかな困難とは言うが、どうみてもささやかではないこともある。
桃はその呪いを受けたことで、砂漠を横断する羽目になったことすらあるのだから。
魔法少女として困難かは定かではないにしても、どちらにせよ呪いはきつめのものもある。
今のはそちら側だ。下手をすれば人が吹き飛んでしまいかねないレベルのもの。
咄嗟にミカンがクレヨンの手を掴んだから浮いただけで大事には至らなかったが、
掴んでなければ空高く舞い上がっていた可能性は想像するに難くない。
追加の死者も映像で出たが知らない人物で、傍に見えた人も知り合いの恰好ではなかった。
無関係な人間と言えど理不尽に殺された。ホッとした、などとは思うつもりはない。
『ミカン だいじょうぶ?』
「え、ええ、大丈夫よ。大分落ち着いたから。」
嘘でも何でもない本心ではある。
というより、落ち着かないと呪いが発動してしまう。
だから落ち着くことが彼女にとって最優先事項だ。
「クレヨンの知り合いはいたのかしら?」
『みた かんさつかん みんな いなかった』
嬉しいやら寂しいやら、複雑そうな顔文字と共に首を横へ振る。
殺し合いだからいてほしくないと思う気持ちもある一方で、
一人だけと言うのはどこか孤独を感じないというわけではない。
特にこういう不測の事態を監察官、コーラルは何度も対処をしてきた。
『でも いない よかった!』
監察官がいてくれたら心強くもあるが、
居ないならそれでよかった。彼も戦闘はこなせるが、
だからと言って無敵ではない。単純な戦闘技能であれば、
補正が唯一ない軍事用HANOIの方が高いだろうことも。
何より今のように、主催者の気分次第で殺されていたかもしれない。
そういう意味ではいなかったことの方がいいと思うし、
そのことにミカンも同じ考えなのでその笑顔に納得できる。
『ミカン しりあい いない?』
「ごめんなさい。呪いもあるから確認できないの。」
名簿は見れない。もし見て、知る名前があったら。
シャミ子がいたら? 桃がいたら? クラスメイトがいたら?
どれだけそれらを覚悟したとしても、動揺することは間違いなかった。
付き合いの長い呪いも、先のようにどのような悲劇を招くか分からない。
だからできる限り平静を保って、まず呪いを発動しないことを優先とした。
これはただ後回しにしてるだけではあるが、彼女の招かれた時期が時期だ、
発動を避けることを優先してしまうことがあっても無理からぬことだろう。
「でも、どっちにしたって私のやることは変わらないわ。」
皆がいるかいないかは分からないままだが、
どちらにしても人を探す必要があることは変わらない。
まずは持ち前の視力を活かして人を探すべく辺りを見渡す。
狙撃が得意だけあってある程度離れていても視認できる。
雨も風もなくなったので視界は十分に良好ではあるが、
「ってデカッ!?」
最早それらがあったところで問題などなかった。
距離は離れてるとしても、明らかに目立つものがあるから。
光を放つ巨大なドラゴンが無から出現すれば、夜ではどうあっても目立つ。
魔法少女の視力どころか、クレヨンにもそれが認識できるほどだ。
『おおきい ドラゴン?』
「……敵かは分からないけど、参加者がいるみたいね。」
突然として姿を現す。
先のデモンストレーションの映像にあった光景だ。
デュエルモンスターズによる、使い魔を呼び出すこの舞台の機能の一つ。
あれを使えば無から大型の怪物を出すことだってそう難しいことではない。
ただミカンの使い魔、ミカエルと比べるとこの距離で視認できる程の巨大さとは相当だ。
「行きましょう。戦ってる可能性は十分にあるはずよ。」
『うい!』
敵か味方か分からない中、二人は走り出す。
ただ、クレヨンが補正込みでも足並みを揃えられないので、
ペースを落とした状態になるが。
◇ ◇ ◇
九十九遊馬にとって他の三人は信用できる仲間だ。
ベクターは癖があるので確実とは言い切れないが、
彼はそもそも信じ抜くかっとビングが根底にある。
だから不安要素であったとしても、それでも信じようとするものだ。
神代凌牙にとって他の三人は変わらない評価になる。
遊馬はお人好しで殺し合いには向いておらず、カイトは一番当てにできる人材で、
ベクターは……まあ、此処に来る直前のことでは手伝う気はあったの一先ずで問題ないとした。
ベクターにとってほかの三人は最早語るまでもない。
幾度となくバリアンとして三勇士と相対し続けてきた相手で、
実力も此処における印象も変わらない。ひねくれてはいるものの、
相手をよく見ていたからこそあの手この手の手段を画策していた。
最終的に、いずれも全員この殺し合いに抗うだろうと言う考えがある。
(難しい状況だな。)
しかし。天城カイトだけは例外だった。
いずれも敵対こそしたが最終的には仲間や受け入れた間柄。
だが唯一、死んでいるカイトだけが嘗ての関係のままになる。
ベクターは変わらず狡猾で趣味の悪いバリアンの一人であり、
凌牙は三勇士ではなく、バリアン七皇リーダーとしての敵対関係。
彼にとって信用に値する参加者は、遊馬ただ一人だけになっていた。
そして此処はデュエリスト以外もいるとのこと。
M・HERO(マスクド・ヒーロー)や昆虫装機(インゼクター)に似た姿に変身したり、
水精鱗(マーメイル)のような姿をしながら生身で戦うことのできる存在。
デッキを支給された人物から他の支給品を没収したということから、
優位な側であるのは伝わったので改めてカードを調べておく。
自分が使っていたフォトンとギャラクシーが混合されたデッキであることは変わらない。
エクシーズモンスターの内容が変わっているところぐらいか。
(没収した以上、戦闘以外の役割をこなせるということだ。)
それだけデッキを、ひいてはデュエルモンスターズによるバランス崩壊を警戒してるようだ。
試しに白いコート、デュエルモードへとフォトンチェンジしてからデッキをセットしなおし、
シャッフルが行われてデッキからカードを引く。
「フォトン・サーベルタイガーを通常召喚。」
カードをデュエルディスクに置けば、
眼前に姿を現すのは淡い青い光を放つ虎。
触れてみれば質量はある。その背に身を乗せることもできる。
フォトン、即ち光である都合夜は目立つことを除けば搭乗は可能だ。
「走れるか?」
問題は移動できるかどうかの話だ。
試しにカイトが背中に乗った後に命じると、サーベルタイガーが走り出す。
体力を消費することなく、スピードも無理には出さないので安全に動ける移動手段となる。
元々オービタル7を移動手段としていたカイトにとっても虎に乗るのは初めてだが、
同時にそれを経験しているので、少し慣れさえすればスピードも出せるだろう。
デュエルだけでなく移動手段としても可能と言うことは判明した。
これを応用すれば索敵を筆頭に、様々な恩恵にあやかれるものだ。
(こういう時は通常モンスターの方が向いてると思うが……)
役割についてはテキストにそのカードのフレーバーテキスト、
つまりできることがある程度明確に示されてる通常モンスターの方が有利だ。
しかしフォトンもギャラクシーも属するモンスターは殆どが効果モンスターになり、
モンスター効果の内容を解釈し、そういうのを手探りで探っていくしかない。
(ちゃっかりサーベルタイガーの召喚成功時の同名カードのサーチ効果を行使しつつ)
地上の砂地を光子の虎が走るという、端から見れば何処か幻想的な光景だ。
(遊馬は俺と違って殺しに忌避するが、
どちらかと言えば先にベクターを倒しておくべきか。)
不殺を貫くだろう遊馬ではあるとしても、やはりベクターが懸念となるだろう。
狡猾で卑劣。己の目的の為なら斜め上の努力も惜しまない典型的な悪党の部類。
此処でも何をするか分かったものではない。既に暗躍してる可能性だってある。
遊馬があの世界での最後の希望だ。元より死んだ身である以上、邪魔する敵の排除は必須。
遊馬ができないであろう障害となる敵を蹴散らす。それが自分の役割の一つだ。
元々弟の為とは言え、人の魂をハントする形でナンバーズを奪ってきたろくでなし。
地獄行きは覚悟してるが、地獄へ行くのであれば敵となる存在も道連れだ。
バリアンもだが、それら以外となる今回の主催や殺し合いに乗る敵も含む。
(いや、その前にあの二人を探すべきか。)
名前は一人として分からないが、開幕死亡した数人の参加者。
いずれも知った間柄の相手ではないし、既に死んだ身ではある。
しかし、だ。多くの参加者は知り合いかどうかを危惧したことや、
斬首された死体を見たいとは思わない忌避感から気付いてないが、
カイトはある理由で紅渡か条河麻耶を探す必要があった。
(誰かは知らないが、手伝ってもらうぞ。)
そう、首輪のサンプル確保。
特に紅渡に起きた扱いの経緯を知らない彼は、
気まぐれで死亡したはずなのに遺体に首輪は残っていることへの疑問。
遺体の端に紹介された特殊なNPCらしき人物の服が見えたのもあり、
首輪の爆破の前に殺されたという可能性もあると言えばあるが、何方にせよサンプルは必須。
それにこの舞台をゲームのように扱う場合、首輪を消費するコンテンツを出す可能性もある。
今はまだ開示されてないし、そもそれをやると言う展開がないのかもしれない。
しかしそれがあると思った人物は首輪を手にするだろうし、
脱出を阻むため処分している人物だっている可能性は十分にある
先に確保しておけばそうなった際も有利に動くことができる。
「!」
道を塞ぐように前方に車が飛来し、足を止めさせる。
当たればトマトのように中身をぶちまけながら潰れていただろう。
車とは言ったが、単なる自動車と言うよりもそれは装甲車に近しい。
加えて走るように飛んできたではなく投げ飛ばされた状態だ。
車の向きは上下反転し、タイヤの方が空を仰いでいる。
(これは、モンスターか?)
降りてから遠巻きに観察する。
モンスターなのか支給品なのか。どちらか判断するのが難しい。
もっと生物的な機械、サイバー・ドラゴンとかならまだいいのだが。
こうも現代の技術に近いものだと判断するのが難しいが、問題は別である。
NPCがこんな器用な方法で走行を妨害するとは思えない。
あの特殊なNPCとなる着物の男かと思ったがそうでもなく。
「会場に散らばる類かと思ったが、その怪物……ええと、
デュエルモンスターズだったか。君が使役しているのか。」
車が飛んできた方角から、その車の上へ着地し、
続けてカイトの前へ降り立つ男───DIOだ。
様々な敵と邂逅してきたカイトではあるものの、
初めて感じる気味の悪さから警戒して即座に距離を取る。
「そう警戒しないでほしい。
このモンスターを投げ飛ばしたのは、
単なる敵だったからしただけのことだ。
飛んだ先に君がいたことは悪いと思っている。
ああ、名乗るのが遅れたか……私はDIOだ。」
例えるならば、鈴だろうか。
人によっては鈴とは心を落ち着かせる効果がある。
このDIOの言葉はそれだ。鈴のような耳障りのいい安心感が、
しかし視覚的にみるとどうしてもそれを受け入れられないギャップ。
どちらもあると言う気味の悪さが混在した状態でいるから警戒していた。
もう少し過去のDIOであれば、
ミステリアスと思えて流してしまえるだろう。
花京院やポルナレフを誘っていたときのようなら、
魅力的な人物に見えても決しておかしくはない。
ただ、今のDIOはジョセフの血を吸った、所謂ハイなDIOだ。
更に無惨と言う魅力的な存在の登場に加え、時を止め神を自称する男の登場。
高揚、憤慨、様々なものが入り混じった果てに今のDIOがある。
マイナスとなるものを持ちながらもカイトに交戦する気がないのは、
敵と確信が持てないと言うのはあれども、その荘厳さは失われてないが故に。
「……天城カイトだ。今、どうやってそれを投げ飛ばした?」
「私が人間ではない、と言えば信じるか?」
試しに装甲車についているガトリングガンを掴む。
人の腕以上に太いそれを針金のようにぐにゃりと曲げ、
常人の腕力ではないことが伺える。
「人外には縁がある。それで慣れている。」
気味は悪いが意思疎通は可能。
引っかかるところはあるものの、
それで殴りかかって敵じゃなかったときの弁明は難しい。
特にあれだけの力を持ちながら問答無用の攻撃はなかった。
信用できるか曖昧としても情報を得ることはしておきたくある。
「ほう……先程の冷静な反応に状況の飲み込みもできている。
殺し合いを終わらせる人材としては、優秀であるらしいな。」
「世辞に興味はない。何が言いたい。」
「いや何。この情報を君なら友好的に使えると思ってな。
名簿上には空条承太郎と言う男がいただろう? 頼ることを勧める。
私のよく知る人物だ。この場でも立ち向かう者として活動しているだろう。」
「……だったらベクターと神代凌牙。
この二人には気を付けておけ。後者は分からないが、
前者は確実に厄介な存在だ。味方にしても敵にしてもだ。」
信じるべきか悩ましい相手に、
遊馬の情報を渡すのは好ましくない。
なので渡せるのはバリアンの連中だけだ。
特にベクターは御せない。どうなったかは知らないが、
あれはドン・サウザンドすらも裏切って動くに決まっている。
誰にも扱うことができない劇薬でしかない。
「ふむ……気をつけておくとしよう。」
「用が済んだなら、俺は行く。」
顎に手を当て何か考え事をしているようだが、
今は時間が惜しい。渡の方は映像の端にちらりと見えた特殊なNPCもいる。
奴の移動経路も把握しておかないと、鉢合わせの可能性もある。
あれは主催のお抱え。出会ってはいけないタイプの存在だろう。
「最後に一つ聞こう。」
警戒は緩めることなく、
サーベルタイガーの上へと乗ろうとしたその時。
DIOから尋ねられ、まだあるのかと思いつつも振り返る。
「まだ何かあるのか?」
「───九十九遊馬の話をしない理由はなんだ?」
「!?」
相手からありえない名前を紡がれサーベルタイガーから即座に降りて距離を取る。
遊馬の交流関係をすべて把握できているわけではないとしても、
相手はデュエルモンスターズを知らないような物言いでいた。
少なくとも別の世界、デュエルモンスターズすらないところの住人。
だったら遊馬と出会うはずがないし、名簿の法則で判断するのも難しい。
名簿は同じ世界の出身である、と言うのは遊馬の関係者から十分に伺える。
野獣先輩から肉体派おじゃるまでのような名前の独特さからグループは絞れるが、
遊馬の前の名前は牛尾だ。ピンポイントに遊馬の名前を出せるとは思えない。
他にあるとするならば既に三人のうち誰かと出会ってるという方法だけ。
「ふむ、どうやら知り合いが他にいないと言うのは嘘らしいな。
もう一度聞こうか。九十九遊馬は君の知り合いなのだろう?」
「何故知っている?」
「質問に質問を返すんじゃあない。
レコードを聴き終えればアルバムにしまうように、物事には順序がある。
答えてもらおうか。君は何故、同じ世界で知り合いの名前を伝えないのかを。」
DIOの名簿は少しばかり特殊だった。
本来であれば通常の名簿は区切りがないものだが、
彼のは同じ世界から参加してるのかが分かる、特殊な名簿だ。
だからDIOにとっては彼がカイトと名乗った時点で、
遊馬、凌牙、ベクターと同じ世界の人間であることは確定している。
カイトはデュエルモンスターズのカードのみだった都合、
そういう支給品がある可能性について気づいていない。
(誰と出会った? 最初に出会った時、
俺を見てカイトかどうかを尋ねなかった。
だとしたら外見も教えるだろうベクターは───)
考えている間に僅かに見える赤い染み。
無惨との戦いで微かに血がついた返り血だ。
普通ならば誰か交戦した相手がいたという認識になるだけだが、
今の状況でそのような情報を提示されると嫌な予感が過る。
(まさか、遊馬……?)
遊馬だったらあり得る。
相手を信じる都合ストレートに情報を提供し、
それでいて大事なところが抜けてたりしてもおかしくない。
神代凌牙であってもちゃんと容姿は伝えるはずだ。
勘違いであると言えば勘違いだ。
ただDIOと言う会話するたびに耳障りのいい言葉や、
心が安らぐ気持ち悪さと言うゆっくりと精神が乱れてきた中で、
生存の最優先である損j材の遊馬が危険な状況に逢ってる可能性。
いや、まさかこの男が───などと言うことも考えてしまう。
「恐怖しているのか? それは申し訳がないな。
私は何も、君を責めているわけじゃあないんだ。
不安に思わせたのであれば───」
「それ以上喋るなッ!」
更に距離を取りながらカードをドローする。
全身が凍り付くかのような恐怖と言う感情。
どんなモンスターカードよりも怪物たらしめる感覚。
胃液が逆流しそうな不快な感覚をなんとか堪えた。
この男は危険だ。ベクター同様にどちらであろうと厄介な存在だと。
精神が乱れたり隙を見せるだけで『喜び』の感情が芽生えそうになる。
委ねてしまうことでの喜びや安心感を振り払う。
「敵と交戦していた痕跡がありながら、
一度も口にしないお前を信用する理由はない。」
「ふむ……懐柔してみたかったのだが、
やはり少しハイになりすぎてしまっていたようだ。
デュエルモンスターズの力とやら、このDIOに見せてもらおうか!」
DIOの背後から黄金の化身、ザ・ワールドが飛び出す。
敵と認識して襲い掛かるサーベルタイガーを顔面から叩き潰し破壊。
モンスター破壊の余波でカイトは軽く吹き飛ばされるが即座に立て直す。
デュエルではこの程度の衝撃など、よくあることだ。
「ほう、今反射的に飛びのいてダメージを抑えたな?
冷静だ。デュエリストと言うものは、カード遊びの都合身体能力は下とみていたが。」
「分かってはいたが、モンスターを一撃か……『トレード・イン』発動!」
手札のレベル8のモンスターを墓地へ送りカードを2枚ドローする手札交換カード。
本来ならば説明をするところだが、相手はそのような暇を与えてはこないし、
そもそも説明してまで相手に情報を与える理由もない。
「ふん、ポーカーのように手札を変えたところで、
貴様に守る存在はいない! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!」
デュエリストは確かに強い。
慣れ親しんだかどうかは別として、
数十枚のカードを使役できれば三つの支給品以上に有利だ。
しかしこの舞台における城之内のような護衛は必ず必要になる。
デュエルと違ってターンの概念がない以上、相手は待つことはないから。
通常召喚権やドローの制約はある意味その点のバランスを保ついい制限になるか。
とは言え、だからと言って一人で戦う場合でも不利とは限らない。
「!」
何故なら生身で戦闘してくると言うことはデュエルを知らない。
即ち、デュエルモンスターズに対する理解が浅いということになる。
特にDIOは妙なところで用心深いと言うところが特徴的でもある。
無論、それはジョースターの血統を侮ってはいけない昔からの教訓だが。
ただ今回は別だ。太陽のような眩い光を放つフォトンモンスターと言うのは、
太陽の光や波紋と言ったダメージにはならないとしても夜の帝王としては慣れないし、
反射的に警戒してしまうもの。太陽のスタンドも部下にいたのでより警戒したくもなる。
金と紫の重厚的な装備を纏った光の戦士が突如眼前に出現し、思わず距離を取ってしまう。
(『フォトン・エンペラー』の効果がなければ危なかったか。)
フォトン・エンペラーはフィールド以外から墓地へ送られた際に、
自身をそのまま守備表示で墓地から復活させることができるカード。
トレード・インのコストにしたことでトリガーとなって蘇生された。
とは言え守備表示。攻撃に転じるにはこのカードだけでは足りない。
「二体目のフォトン・サーベルタイガーを通常召喚!
更に装備魔法『銀河零式(ギャラクシー・ゼロ)』を発動し、
墓地に存在するフォトン・サーベルタイガーを特殊召喚!」
魔法陣のようなものが展開され、
その中からサーベルタイガーが再び戻る。
これでカイトにとって必要だった条件はクリアした。
フォトン・サーベルタイガーにはデメリットの影響で、
同名カードが存在しない場合攻撃力が800ほど下がってしまう。
逆に言えば、同名カードが存在すれば元の攻撃力2000に戻る。
「攻撃力2000となった二体のフォトン・サーベルタイガーをリリース!」
「む!」
デュエルモンスターズの理解は浅いとしても、
あの先行ワンキルのデモンストレーションで僅かな理解がある。
個々の力が弱いモンスターであっても大型のモンスターに化けると言う可能性。
カイトの手には赤黒い十字架、或いは剣のようなものが握られる。
「闇に輝く銀河よ、希望の光になりて我が僕に宿れ───」
「ザ・ワールド!!」
それを投げ飛ばす猶予など与えることなく世界の時計の針は静止する。
モンスターも人も静止した、DIOのみが許される時の止まった世界。
よもや承太郎以外にも時を止める存在がいたことには驚いたが、
神を名乗るだけの実力を持っていると多少の畏敬の念はあったりもする。
(無論、時を止める存在はこのDIO一人で十分なので彼も殺すつもりだが)
空へと向けて十字架を投げ飛ばさんとするカイトも動くことはない。
結局この程度だ。モンスターを使役すると言うのは、スタンド使いと同じ。
本体をぶちのめされれば、いかに強力な力があろうと仕留められるのだから。
ほんのちょっぴり警戒したが、実際に確かめてその程度の存在なのだと理解した。
サービスタイムは終わり。ザ・ワールドと共に接近しその腹をぶち抜けばそれで終わる。
───しかし、とどめはさせなかった。見逃してはならない要因があった。
「!?」
即座にスタンドと共に距離を取る。
あってはならない。三度もあってはならないと。
一度目は許そう。
彼にとっては因縁の血統とも言うべき存在で、
似ているのだから同じように持っていようとも、おかしいとも思わない。
二度目も許そう。
このDIOをあの戦いの中で引きずり込んだ手腕。
自称神を名乗るだけの実力があって当然である
時を支配する神とでもいうべき相手ならば納得だ。
乗り越えるべき存在(無惨)を認識したことにより、
多少の怒りが抑えられてると言うところもあるか。
しかし、三度目はない。この短時間で早々出会ってたまるか。
因縁、上位存在。そう言ったものならまだ十分に理解できるが、
奴には長年の因縁もなければ神の座に居座るような存在でもない。
ちょっとした会話で動揺し、大局も見極められない取るに足らぬ人間だ。
実力もたかがカード遊びしているだけのちっぽけな小僧が、
時の止まった世界を認識しているかのように視線を動かすなど。
(こ、こいつまでこの世界を認識しているだとッ!?)
一度は隙を突かれ承太郎に風穴をあけられた身。
脱兎のごとく反射的に距離を取ってしまった。
自分だけの世界を一人、二人と増えてさらに三人目。
いかに世界が違うとしても許せるものではない。
(あのアストラルのような存在、オービタルのような力を持っているのか。)
カイトはナンバーズハンターの時代において、
オービタル7の力を使って痕跡を残さぬように立ち回っていた。
その手段は『ナンバーズの所持者以外の時間の進みを一万分の一に減らす』と言う、
つまり『時間を止めた』状態にしてデュエルで勝利して魂を奪う形を用いている。
なので時間停止の世界に経験があるお陰か、それともオービタル7の機能のように、
『ナンバーズ所持者に対しての時間停止が無効になるルール』でも設けられているのか。
彼はオービタルなしのままでも、時の止まった世界を認識できていた。
(だがまずい……ほぼ認識できているだけだ。満足に動けない。)
確かに時間停止に関して経験はあれども、あくまでオービタル7の力ありきのもの。
彼なくしてはカイトも行動できないので、時止めを覚えたばかりの承太郎以上に動けない。
動けないことにももう気付くだろうし、静止した状態で殺しにかかってくるのは当然の事。
幸い、その対策の条件は整ってると言うのが救いだろうか。
時は動き出し、十字架を空へと回転しながら舞う。
空高く舞い上がった瞬間、光を放ちながら現す光子の竜。
「光の化身、ここに降臨! 現れろ!
銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)!」
ジョナサン・ジョースターの肉体を持つDIOは、
身長はほぼ2メートル近くの外人らしい大柄な体格を持つ。
そんな彼ですら見上げる程の巨体を持つ、紺色と水色を基調とする二足の竜。
水色の翼を広げ、名前の通り銀河の瞳を持った竜は咆哮を轟かせる。
カイトの魂のカードでありエースモンスター、銀河眼の光子竜。
攻撃力2000以上のモンスターを二体リリースすることで特殊召喚する、
生け贄召喚、或いはアドバンス召喚と似て非なる召喚条件を持つモンスター。
だからサーベルタイガーを二体並べなければその条件を満たせない。
「更に! 俺はレベル8のフォトン・エンペラーと銀河眼でオーバーレイ!」
同じレベルでなければ基本成立しない召喚方法、エクシーズ召喚。
カイトの宣言と同時に二体のモンスターは黄色く輝く光の玉となり、
目の前の大地に現れたねじれた穴へと吸い込まれていく。
「フン! 時を止めずとも、
このDIOはすべての生物をぶっちぎりで超越している!!」
当然その隙をザ・ワールドが襲い掛かる。
時を止めるにはまだ時間がかかるので、そのまま殴りに行く。
一発一発が脳天をスイカ割りのように容易く頭を砕く一撃。
しかもスピードは弾丸を掴めるスター・プラチナに匹敵する。
いかにデュエリストゆえのフィジカルを以てしてもこれと殴り合いなどご法度。
攻撃手段を理解していたお陰で距離は取るも、すぐさま距離を詰められる。
「モンスターを裏側守備表示でセット!」
迫りくるザ・ワールドを最後のサーベルタイガーを召喚して防ぐ。
DIOの攻撃は苛烈で、まだ次のドローすら行ってない程にターンが進んでない。
ただ、フォトン・エンペラーを場に出たターンは通常召喚権が増える効果を持つ。
そのおかげで辛うじて壁モンスターを防ぐに至れたが、全身が軽く悲鳴を上げる。
(クッ、ダメージが大きいな……!)
スタンドを行使とは言えデュエルモンスターズを介さずモンスターと戦っていた。
並の攻撃力ではないことは分かっていたが、想像以上のダメージになっている。
最初のダメージでライフを大きく削られたとみていいだろう。
「エクシーズ召喚! 現れろNo.(ナンバーズ)107!」
オーバーハンドレッド・ナンバーズ。
バリアン七皇が持つドン・サウザンドの呪いのカード。
人で扱えるものではない、或いはリスクが大きいかもしれない。
でも使えるという確信はある。それはカイトがフォトンを使っているから。
元々フォトンは父、Dr.フェイカーがバリアンの力により開発されたカード。
それが自分に支給されたのであれば、呪いだろうと扱えるという確信が。
「呪いのカードであろうとも、
最強のドラゴン使いたるお前の力を貸してもらうぞ、ミザエル!
来い! 銀河眼の時空竜(ギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン)!」
渦の中から姿を現すのは巨大な赤黒い四角錐。
宝石のような心を惹かれる形ではあったが、
四角錐は形を広げ、光子竜のような近しい姿へと変わっていく。
先の銀河眼と違い、機械のドラゴンのようにも見受けられるフォルム。
赤と黒で構成された、ヌメロン・ドラゴンの鍵を担う一枚のカード。
「ほう、それが貴様の主力か。」
「厳密には違うが、説明は必要ないな!
バトル! 時空竜でダイレクトアタック!」
両腕を赤熱化させてから放たれる無数の炎のリング。
次々と迫るリングを華麗にDIOは回避を続け、リングは地面を抉っていく。
炎でありながらその威力はとてつもないものだとよくわかる。
「銀河眼と言ったか。その巨大さからほんのちょっぴり驚かされたが、
単純な攻撃手段! 先の戦士のような特殊な効果も持ち合わせていない!
このDIOを仕留めるに足りうるような存在ではないことを露呈したなぁッ!」
回避の最中に距離を取るカイトへ再び肉薄。
もう次はない。停止した世界も承太郎と違い動きはより鈍い。
ならば射程内に入れば時を止め、今度こそ腹に風穴を空けさせる。
「チィ!」
だがそれを妨害させるようにどこかから飛来するナイフで邪魔をされてしまう。
飛んできたそれを二本はキャッチして投げ返し、残る一本をザ・ワールドが蹴り飛ばす。
(新手か。)
返されたナイフをそのままキャッチし、
両手にナイフを構えながらクレヨンが戦場へと降り立つ。
普段笑顔であることが多いクレヨンらしからぬ、怒気が込められた表情で。
(此処なら十分に狙えるかしら。)
カイトとDIOが交戦している最中、
ミカンとクレヨンはある程度距離を詰めた物陰にて待機していた。
本来ならキロ単位は離れていてもミカンの射撃は狙えるが、
魔力や霊脈を辿って対象を把握した上で狙撃するタイプのもの。
この砂漠と荒野の入り混じるエリアにはそれらしいものがないので、
必然的に射撃に関する精度は本人の腕前と、狙撃する環境のみと言うことになる。
とは言え射撃の腕自体が悪いわけではないので、ある程度近いならば十分に狙える距離だ。
「近すぎると当てられないし、此処が限界ね。
気は進まないけど、サポートはお願いできる?」
『できる!』
魔法少女なら寧ろ自分が前に出るべきなのだろうが、
ミカンは近すぎるとあがり症のせいで逆に当てられなくなってしまう。
だからどうしてもそのまま救援に駆け付ける、ということができない。
かといって狙いを定める間に決着をつけられる可能性もある。
戦闘補正のお陰で戦闘できるのである程度打ち合わせもしてたが、
不安と言うものは拭いきれない。
「大柄な方だから間違えないでね?」
どちらが敵なのかは完全な判断はできない。
ただ、外見上の問題で判断した大雑把なものではあると言えばある。
シャミ子と同じまぞくのような、しかし魔族に近しくも感じる威圧感。
あの街とは別の、野放しにできない魔族に近しい存在だ。
『うい!』
笑顔と共にクレヨンは勢いよく跳躍。
曲芸用HANOIに戦闘補正と合わせ、
軽やかな身のこなしで二人の方へと接近していく。
(けっとう ダメ!)
そして今に至る。
怒ってると言わんばかりの表情と動作だが、
当然声が出ない以上その言葉も思いも届かない。
それを素人のやる芸を見たときのような冷めきった目で返された。
特に何か言葉を交わすこともなく、クレヨンは再びナイフを投げる。
首を傾けるだけで躱されるが、更に懐に潜り込みながら箱を生み出す。
人に魅せるための技術でも身のこなしはDIO相手でも見劣りはしない。
手に持った箱から顔にナイフが突き刺さったピエロが飛び出す。
所謂びっくり箱の類だ。
「ヌゥ!」
たかがびっくり箱と油断していたが、勢いは別物。
HANOIがエネミーである人間を殺す為の攻撃だ。
人間を破壊するに至る一撃なら下手な武器よりも強い。
腕でガードしなければただでは済まなかっただろう一撃。
続けてクレヨンはナイフを両手に構えながらDIOへ肉薄。
これもまた技術、と言うよりはAIの賜物か。巧みなナイフ捌きについては、
避けれてはいるが反撃に出る暇すらない程に苛烈な動きで攻め立てる。
「ザ・ワールド。」
無論、生身だけでの話だ。
時を止められればそれらは何の意味もなさない。
時間が惜しく、両腕を破壊するように拳を叩き込みそれで素通りする。
HANOIは用途の都合で割と頑丈である必要があるため、
右腕は破壊しそこねたりするが、それを確認することもしない。
ただ『妙に硬いな』程度の感想だけでカイトの方へ向かおうとするが、
(射程外か。)
先ほどクレヨンの攻撃を遊び感覚で距離を取りすぎた。
今から接近してもすんでのところでカードで妨害される。
どうしたものかと一瞬だけ悩ませたが視界の隅に捉えた、
クレヨンが背にしていた方角から飛来している一本の矢。
位置的にDIOを狙ったものだとは十分に予想できる。
(大方あの女の味方だろうな……ならばそうするか。)
この時の止まった世界では無理としても、
時期にカイトの腹をぶち抜けばそれで終わる。
だがそれで勝負をつけるだけでは困るものだ。
今必要なのは支給品ではなくDIOの為に動く人手でもある。
最初カイトとのやりとりで承太郎を味方と言ったのは、
万が一逃げられれば『承太郎を味方と言った奴は敵』と意識させられる。
嘘の情報を吹き込むよりも承太郎に疑心暗鬼で面倒なことをさせる方がいい。
発信源としてカイトを生かしておこうとも思ったが、時の止まった世界に入り込んだ。
この時点でもう彼を生かすわけにはいかない。時の止まった世界にいるべきなのはこのDIO一人だけ。
「ザ・ワールド対抗のためかと思ったが、
止まった世界では貴様も無力と言うことだな。」
光速を超えるタキオンの名を冠してるのだから、
止まった時の中も動けるものだと思っていたがそうではないらしい。
矢を掴み、それをカイトの方へと投げ飛ばす。
時は動き出し、全ての事柄に決着がつく。
(え───)
「ガ、グッ───ッ!?」
「───えっ?」
三人全員、静止した世界を見たカイトも今の事態を飲み込めなかった。
気がつけばクレヨンは腕を破壊されながら吹き飛ばされ、
ミカンはDIOを狙ったはずの矢が、二人から見ればカイトを狙うように曲がり、
静止した世界を見たカイトは肩に突き刺さるは予想したが、尋常ではない激痛に声にならぬ悲鳴を上げる。
単なる矢の痛みだけではない。彼女が使う矢は使い魔のミカエルを矢尻にしたもの。
そのミカエルの原型は『モウドクフキヤガエル』と呼ばれる強力な毒性を持つ蛙だ。
ミカンですら直接触れることをしない、触れるだけで死ぬとされる生物が矢じりになって、
人体に入ればどうなるかは決まっている。
「え、待って!? な、なんで……!?」
ミカンは冷静に撃ったつもりだ。呪いは発動してない筈。
仮に失敗としても外れるだけ。離れていたはずのカイトに曲がって当たるはずなんてない。
変身卍句と言う超高速な術はあれど、時を止めて壁にされたを理解するには、
今の彼女の精神からは一つだろうと判断できるものではなかった。
「毒矢か。ならばこいつは捨て置いてもいいだろう。」
肩に刺さった程度で明らかに苦しみ方が尋常ではない。
察したこちで、道端に転がる浮浪者を見るようにカイトを適当に捨て置く。
じきに死ぬ相手にとどめを刺す手間は必要なく、一気に跳躍。
離れていたミカンが隠れていた岩の上へと降り立つ。
「君が矢の使い手か。」
迎撃しないと。
戦闘経験豊富な彼女の身体は一応動く。
でもその手は震える。自分の指示で人を傷つけ、
自分の行動によって人を殺したという二つの事実。
ついでに言えば、近すぎては逆にあてられないあがり症もあった。
「助かったよ。君が彼を攻撃しなければ私は倒れていた。」
静止した世界を見れる人物を減らせたからか、
幾分か以前のDIOらしさを取り戻せたような状態だ。
無論ミカンは彼を援護するつもりなどないしそれも分かっている。
「ゲロを吐きそうなぐらい怖がらなくても大丈夫だ。
別に何も、君に危害を加えるつもりは全くないのだよ。」
予想していた通りだ。
威圧する眼差しをしながらも、
赤子に言い聞かせるような心地のいい言葉。
関わってはだめだ。そういう人物なのだと。
安心感を覚えそうになる。依存したくなるような甘さ。
戦闘経験は豊富な彼女でも、呪いを危惧した上に更に誤射による慚愧。
それらも合わさって普段ならば十分な対応ができるはずが今はそれができない。
震えが止まらない。戦わなければならないのに、クロスボウの照準が定まらない。
「恐れることはない。私は君を……」
空を舞う時空竜の音が言葉を遮った。
『ああ、なんだいたのか』程度の感想だ。
持ち主が死亡してもまだ残るのかと軽く眺める。
主なき傀儡とは哀れなものだと遠巻きに眺めていると、
「タキオン、ドラゴンで攻撃ッ!!」
「!?」
だが急に時空竜が動きを変えた。
しかも、此処では既にあり得ない声と共にだ。
飛んでくる炎のリングを互いに離れるように回避する。
岩が破壊されたのを見終えて、離れた後同時に互いに声の方を見やる。
負傷してはいる。肩からじんわりと白い服を赤く染めていく。
まともに立てないからか、クレヨンが片腕で彼を抱えている。
でも、彼は生きている。死んだと二人は確信を持っていたはずなのに。
「嘘でしょ!?」
DIO以上にミカンは驚きを隠せない。
モウドクフキヤガエルの毒『バトラコトキシン』は極めて強力なもので、
0.1mgで人間の致死量とされる程の代物で心臓発作を起こし死に至る。
それを受けたし、毒が通用しているのもあの様子から確かだったはず。
ではなぜ、彼は立ち上がることができるのか。
(まだ、だ。間に合う。今、なら……)
DIOに捨て置かれた後のことだ。
嘗て敵に毒を受けた際はデュエリストの本能で免疫系を活性化させ解毒すると言う、
それはもう読んで字の如く無茶苦茶な手段で解毒したことはあると言えばあるが、
今回ばかりはどうやったってそれで解決できる範囲を超えている代物だ。
あちらは幻覚作用を起こすタイプのものだが、此方のは普通に猛毒になる。
そういった理由で毒の進みは多少遅いかもしれないが 死は秒読み。
カードの宣言すら辛いものだが、まだ一つだけ希望があった。
「時空竜の効果、発動……」
時空竜の周囲に漂う光の珠が消失する。
エクシーズ召喚の素材となったモンスターはそのモンスターオーバーレイ・ユニットになり、
それを消費することで、エクシーズモンスターは効果を発動することができる特性を持つ。
カイトがやりたかったこと、それは───
「時空竜の効果を発動したターン、
時空竜以外の全てのモンスター効果を無効にし、
フィールドのモンスターのステータスを元の数値に戻す。
無効か、元に戻るでこうなったかは俺にも判断はできないが、
どうやら毒を一時的に無力化することに成功したらしい。」
これが時空竜のモンスター効果『タキオン・トランスミグレイション』。
過去へと遡り自分にとって有利な未来を選択する、時に干渉するモンスター。
魔法少女の使い魔と言う所謂モンスター効果に類する判断か、
彼は一時的に無効にしたことで毒を受けても死ぬことなく活動ができている。
問題はどの程度持つのかではあるが、
今はそんなことを考えている余裕はない。
毒がいつ戻るか分からない中できる行動をするのみ。
「行くぞ時空竜! 殲滅のタキオン・スパイラル!」
さらにこの効果を適用した場合、時空竜は更に攻撃する権利を得られる。
これがバリアン七皇の持つオーバーハンドレッド・ナンバーズの一体の力。
ブレスのような攻撃は文字通りの殲滅に等しい暴威の一撃。
「フン! 所詮そのドラゴンもこのDIOの敵ではない! 時よ止まれ! ザ・ワールド!!」
この舞台で何度目かもう忘れた時を止める力。
その世界の前ではいくら足掻こうと『無駄』なのだ。
後は時が止まるのを待つだけ。
「?」
止まらない。ブレス攻撃を回避しながら荒野を駆けずり回る。
動いている。カイトも、クレヨンも、ミカンも、攻撃で吹き飛ぶ砂も。
何もかもがDIOの世界を受け入れず、万物流転が如くただ時も流れていく。
(時が、止まらぬ!?)
既に五秒以上は経過しているはず。
なのに時は止まらない。苛烈な攻撃は延々と続く。
「ザ・ワールド!!」
スタンドは出せる。移動にも使える。攻撃もできる。でも時は止まらない。
一体何がどうなっているのかと思ったが、すぐに察しは付いた。
『時空竜の効果を発動したターン、
時空竜以外の全てのモンスター効果を無効にする。』
(まさか、まさか……!!)
モンスター効果を無効にする。
参加者に対しては特殊能力の一部が封じられてしまうのかと。
(コイツ、ザ・ワールドそのものを封じるか!!)
漸く意味を理解した。
これで此方の時間停止を対策するつもりだと。
時の止まった世界への入門ばかりか、こともあろうに時間を奪う。
時が止まっているのに時間を奪うとはおかしな表現ではあるが、
とにかく時を止める能力が一時的か、あるいは永続的に失った事実。
(加えて、いくらなんでも攻撃が長すぎる!!)
カイトは説明してないが、時空竜がこの効果を使った場合、
バトルフェイズ中に発動したカードの数×1000が攻撃力に加算される。
当然カードは使用されてはないので、此処は事実上『相手の行動』が加算されていく。
主な行動はザ・ワールドの行使、クレヨンへの一撃、カイトへ矢を向けた辺りだろうか。
更にこの効果を使用した時空竜の連続攻撃も合わせ、速度も威力も二倍になる。
(時を止めれない今、奴を仕留めるには容易ではない……だが!
天城カイト、貴様も承太郎同様に殺し合いを打破せんとする考え!
道にへばりつく牛のクソのようなもの考えに囚われて、貴様は死ぬのだからな!)
スタンドの蹴りで大きく距離を取る。
距離を取った先に転がっている戦車のガトリングを二つに、
ポッキンアイスのようにベキッと圧し折ってそれを投げる。
一つはミカンの方で、弾丸のように飛ぶそれは当然当たれば即死だ。
「時空竜!」
カイトは当然それに対応する。
しかし圧し折った分はもう一個。
時空竜が彼女を守るのを確認した瞬間、
残った欠片をカイトの方へとぶん投げる。
スタンドと本体の二つの身体を持ち、吸血鬼で膂力あるDIOだからできる芸当。
此方も無論当たれば当然済まないが、時空竜は大きい分小回りが利かない。
抱えるクレヨンもあの負傷では、今から攻撃で防ぐも避けも間に合うはずがない。
「クリフォトンの効果発動!」
───まあ、間に合ってしまうのだが。
小さな栗のような青緑の生物が眼前に現れ、その攻撃を弾くように何処かへと飛ばした。
多大なライフコストと共に捨てることで、ダメージをそのターン全て0にできる手札で発動するカード。
何処までもデュエルは厄介、という感想しか出てこないような結果だ。
「チィ!」
とどめはさせなかったが、
相手もかなりの消耗を要するらしい。
しかし支給品の力を借りればまだ間に合う。
そう思ってデイバックへ手を伸ばそうとするも、
それすらも妨害する一撃が、矢が迫り戦車の影へ身を隠す。
(あの小娘……!)
後一歩で肉の芽を植え付けられるほどの精神状態だったが、
落ち着いたのか定かではないが正確にDIOを狙っていた。
まだまだ暴れ足りないと言わんばかりの竜を含めて四対一。
時を止められないのも合わさりDIOは別の参加者を探すべく逃げを選ぶ。
手に入れるのは時を止める能力の復活の手段、或いは肉の芽を植え付けれる駒、
それと日光の下でも歩ける手段……仮面ライダーを探すため。
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(小)、苛立ち(大)、精神的動揺、時間停止不可
[装備]:特殊名簿@オリジナル
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]基本方針:「神」を追い落とし、すべてを手に入れる「王」となる。
1:東洋人(鬼舞辻無惨、名前は知らない)の弱点を見つけ出し、ボディを奪う。
2:次から次へとこのDIOの静止時間に入り込むか。同じ能力を持つものは必ず仕留める。
3:ザ・ワールドの効果を戻さなければならぬ。
4:肉の芽を植え付けられればいいのだが。
5:日光対策に仮面ライダーとやらを探す。
6:承太郎はあえて味方と言い張る。取るに足らぬ人間は混乱させておく。
[備考]
※承太郎との最終決戦最終盤からの参戦。
※時間停止の時間は少なくとも5秒未満です。
具体的な時間は後続にお任せします。
※銀河眼の時空竜の効果で効果を無効にされ時止めができません。
何かしらの手段で無効効果がなくなるか、遅くとも第一放送後に戻ります。
肉の芽も無効かは不明です。
「グッ……!!」
肩の傷を抑えながら膝をつくカイト。
毒は今こそ無効と言えどもダメージは受けている上に、
クリフォトンはライフを大幅に消費して発動するカードでもある。
ダメージも合わせれば決して休みなしの移動ができるわけでもない。
出来ればあの男を仕留めたかったが、それは叶わなずじまいだ。
「クレヨン、それに貴方も大丈夫!?」
HANOIは種類にもよるが、
曲芸用だけあって肉体は十分頑丈ではある。
だからと言って破壊力A相当のスタンドの攻撃、
左腕はまだある程度形を保ってるとは言え破壊されている。
『かいわ たいへん』
デイバックを下敷きにスケッチブックを置いて、
片手で急いで書きなぐって会話を成立させる。
戦うどころか基本的な活動すら困難であり、
声を失ったあの時のような感覚を感じさせる。
それが感情なのか、ただの信号と捉えられるか。
少なくとも今の彼女には判断できないことだ。
「俺はまだ無事だ……いつ戻るかは分からない以上、楽観視はできないが。」
(やっぱり……)
呪いは人をどこまでも貶める。
しかも自分以外へと仕向けて行く。
カイトの考えのお陰で辛うじて生き延びたが、
だからと言ってそれで帳消しになどできるわけがない。
人を殺していたかもしれない可能性に震えが止まらなかった。
今になって呪いの事を気にして二人を見やるが、何も起きない。
(もしかして、私も?)
モンスター効果を無効にする効果。
それは時空竜以外の『モンスター全て』に適応される。
当然味方してくれたミカンとクレヨンもこれの影響を受ける対象だ。
だから今は一時的に毒と同じで呪いも発動しないということか。
(これについても考えたいけど、今は一先ず彼を助けないと。)
世界を運よく撃退はできた。
しかしダメージ、欠損、不安。
様々な不穏を抱えたまま三人は場所を移しながら時は流れていく。
世界の正位置の暗示となる『攻略』を示す可能性。
戦力、技術両方を兼ね備えこそしている三人なら攻略の目処はあるだろうが、
世界の逆位置の暗示の『低迷』へと誘われる可能性もある。
ウガルムの呪いがこのまま何も起こらない場合戻るのは、
少なくとも吉田清子や小倉しおんが死亡したという不意打ちを受けるその瞬間。
同時にカイトの毒が戻るのもまた、その瞬間になる。
自分の呪いが人を殺すことになると勘違いする、
その地獄絵図の可能性だって十分にあるのだから。
【天城カイト@遊☆戯☆王ZEXAL】
[状態]:ダメージ(特大)、肩に傷、モウドクフキヤガエルの毒(無効)
[装備]:デュエルディスクとデッキ(天城カイト)@遊☆戯☆王ZEXAL、No.107 銀河眼の時空竜@遊☆戯☆王ZEXAL
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:首輪を外しこの戦いを終わらせる。
1:首輪を外すための方法を探る。そのためにサンプルとして二人(渡とマヤ)の遺体を探す。
2:ナッシュ警戒、ベクターとあの男(DIO)は要警戒。
3:遊馬ではできないだろう敵の排除。ベクターを優先とする。
4:空条承太郎、安易に信用するべき相手ではなさそうだな。
5:遊馬、無事か?
6:二人は味方……だろうか。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※既存のエクストラデッキの銀河眼エクシーズモンスターは全てありません。
※現状の右腕ではカードを手にすることもできません。
※銀河眼の時空竜の効果で毒を一時的に無効にしています。
何かしらの手段で無効効果がなくなった瞬間、
或いは第一放送時までに解毒されなければ効果が切れて死亡します。
なお、デュエリストの本能で免疫系を活性化させて毒を無効にはできません。
※時の止まった世界を認識できます。
ただし殆ど動けません。何度も時間停止が起きれば動けるかも?
【陽夏木ミカン@まちカドまぞく】
[状態]:精神疲労(大)、精神的動揺、魔法少女モード、呪い&ミカエルの毒無効
[装備]:クロスボウ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]基本方針:誰も殺さず、元の世界に帰る
1:ひとまず落ち着くのよ、私。
2:もしかしてこの決闘企画も、私の呪いのせいで始まったのかしら。
3:彼(カイト)を一先ず休ませないと。
4:名簿は……まだ見れないわ。
5:クレヨンと一緒に行動する。
6:ひょっとして、此処は仮想世界?
7:この人(カイト)の毒を何とかしないと。
8:呪いがない……?
[備考]
※参戦時期は、原作49話(アニメでは2丁目11話)で呪いが発動し、
シャミ子・桃と別れた後、かつ再会する前からです。
※名簿は見ていません。
※クレヨンとの会話からこの舞台が仮想世界TOWERの可能性を考えています。
※銀河眼の時空竜の効果でモウドクフキヤガエルの毒とウガルムの呪いが無効になってます。
何かしらの手段で無効効果がなくなった瞬間、或いは第一放送時に戻ります。
【クレヨン@TOWER of HANOI】
[状態]:左腕粉砕(修復は困難)、右腕損壊(使用自体可能)、ダメージ(大)、MP消費(小)
[装備]:
[道具]:基本支給品(紙とピンク色のクレヨン含む)、ランダム支給品×1〜3、壊れた左腕の残骸
[思考・状況]基本方針:ミカンをㅤニコニコㅤえがおにㅤしたい!
1:けっとうㅤイヤ!
2:ここ タワー?
3:うで どうしよう。
[備考]
※参戦時期は後続書き手さんにお任せします。
※コーラルとの親密度はB以下です。
※戦闘補正があるため戦闘能力はTOWER世界と同等です。
ナイフ等のTOWERでの技で使う武器や道具を任意で生成できます。
ただし出せる技の範疇の武器のみで、生成する際にMPを消費します。
作成できるナイフの種類はクレヨンが所持しているナイフに変更されます。
ない場合は原作の『ペーパーナイフ』がデフォルトになります(攻撃力微増)
※銀河眼の時空竜の効果でティアドロップ、ラッキーカードが使えません。
何かしらの手段で無効効果がなくなった瞬間、或いは六時間後に戻ります。
※G-4に仰向けに破壊されたガトリングバギー@遊戯王OCGがいます。
G-4で光子竜、時空竜が召喚され、もしかしたら見てる人がいるかもしれません
時空竜の攻撃でG-4はかなりあれています。
【特殊名簿@オリジナル】
DIOに支給。通常の名簿と違い名簿に区切りがあり、
メタ的に言えば参戦キャラがどの世界の出身かが分かる名簿。
遊戯王(原作)と遊戯王(アニメ)もちゃんと分けられている。
人物関係までは書かれてないが、同じ世界から同時に参加してれば、
大抵は知り合いであるため一応情報戦に使うことができる。
【ガトリングバギー@遊戯王OCG】
星4 地属性 機械族 攻1600 守1500
重機関銃装備の装甲車。どんな荒れ地も平気で走る事ができる。
バギーなのに装甲車と言う謎は突っ込んではいけない。
以上で投下終了です
モンスター効果無効の解釈ですが、
スタンドも魔法少女も全部無効だと強すぎるかなと思って、
こういう形にしましたがこの解釈で問題ありましたら破棄でお願いします
場所は砂漠ではなく荒野でした、失礼
申し訳ございません、予約延長します
保登心愛、櫻井戒を予約します
投下します
――檀黎斗。
この殺し合いを開いた主催者は神を自称する人間だった。
不思議な力の数々は――大して気にならない。当然警戒はしているが……今はそれどころじゃない。
「マヤちゃん……!嘘だよね……?」
今、僕が最も優先すべきこと。それはココアちゃんのメンタルケアだ。
檀黎斗は――おそらくだが人を人として見ていない。まるで玩具で遊ぶかのように様々な人の命を奪い、その末路を映し出していた。
あまり良い趣味とは言えない。悪趣味極まりない男に苛立ちを覚えないと言えば、嘘になる。
だが幸か不幸か、僕はこういう輩はもう見慣れている。――姿形や性格こそ違うが、悪辣な輩という意味では聖餐杯と同じだ。
だがココアちゃんは違う。
普通の日常を謳歌していたからこそ、こういう事態には弱い。
それにココアちゃんの友達が――あの犠牲者の中に含まれている。ココアちゃんの反応を見るに、そう考えて間違いなさそうだ。
なによりチノちゃん以外の友達の名前は放送が始まるまでの間に聞いていた。マヤちゃんの存在も僕は知っている。
ココアちゃんが露骨に取り乱したタイミングはカード使いの女の子が殺された後。つまりあの子がマヤちゃんということになる。
あの光景は日常を過ごしていた女の子には堪える。ただでさえそういう映像なのに、友達が殺されたとなれば取り乱すのも無理ない。
僕だってベアトリスや螢をあんなふうに殺されたら――自分がどうなるか、わからない。
名簿に霧咲さんを含めた三人の名前がなかったのは、本当に運が良かった。
それに安堵した反面、ココアちゃんの友達が何人も巻き込まれたことに対して同情と、強烈な違和感を覚える。
ココアちゃん達はただの女の子だ。
ベアトリスや霧咲さんならまだ納得が出来た。参加していないに越したことはないが、彼女達が参加させられている可能性は考慮していた。
だが無力な女の子を何人も集めて何を企んでいる……?
この殺し合いや檀黎斗については謎が多い。
考えれば考える程に、わからなくなる。
でも――これだけはココアちゃんに言わなければならない。
「ココアちゃん。あの映像はきっと嘘じゃないよ」
ココアちゃんにとって厳しい現実を叩き付ける。
それはどうしようもなく心苦しいことだし、ココアちゃんを悲しませる結果になることは目に見えていた。
それでも「実は生きてる可能性がある」なんて都合の良い嘘を僕は吐けない。――辛いことになるだろうけど、殺し合いで生き抜くためにも。そしてチノちゃんを守る気概があるのなら、ココアちゃんには現実を受け止めてもらわなければならない。
都合の良い言葉を並べること自体は簡単だ。
でもココアちゃんに生きて欲しいからこそ、厳しい現実を受け止めてもらう。
「嘘の映像を流しても檀黎斗にメリットはない。むしろ参加者――プレイヤー達から嘘つきのゲームマスターだと思われて願いを叶えたいプレイヤーを含めた全ての参加者からの信用が下がるだけだ」
檀黎斗の素性はあまり知らない。
それでもこれくらいのことは考えられる。バレやすい嘘をついても彼に何のメリットもないはずだ。
「もしもマヤちゃんが殺されてなければ。あの映像が嘘なら、マヤちゃん本人やマヤちゃんと出会った人たちには嘘だとわかる。そんなことをあのゲームマスターがするとは思えないな」
「そんな……。じゃあマヤちゃんは……」
ココアちゃんの表情が更に暗くなる。
まるで太陽が沈んでしまったかのように――ココアちゃんの明るい陽気な性格がなりを潜める。
……大切な人を殺されたココアちゃんの気持ちは痛いほどわかる。
僕は誰かに殺されたわけじゃなくて、この手を血に染めてしまったけど……その気持ちはすごくわかる。
それでも――大切な妹を守りたいなら、進むしかない。
チノちゃんを守る。自分も戦うというのはココアちゃんが言い始めたことだ。
僕は彼女がここで折れるなら、それで良いとも思う。無理してココアちゃんが戦う必要はない。
でもココアちゃんにはチノちゃんが居る。ココアちゃんが生き延びるためにも、殺し合いという現実は知ってほしい。
「……あの映像は嘘じゃない。つまりそういうことだよ、ココアちゃん」
〇
条河麻耶の死。
それはココアにとって耐え切れないほど、辛いものだった。
戒から現実を突き付けられると、その瞳から大粒の涙を流して泣きじゃくる。
――保登心愛は心優しい少女だ。
妹のように可愛がっていた友達のマヤが死んで、心の底から悲しい。
殺し合い。それはココアにとってこれ以上なく残酷なもので、挙句の果てにマヤ以外にも何人もの友達が巻き込まれている。
これはマヤの死という現実を突きつけられた後に戒から聞いたことだが――チノ、リゼ、メグの三人。そしてどういうわけか、保登心愛の名前が2つもある。まるでドッペルゲンガーだ。
(チノちゃん……。私はどうしたらいいのかな……)
マヤが死ぬなんて有り得ないと思っていた。
それが起こってしまって、他の友達の死も「有り得るかも」しれないと思うようになってしまった。
それに何故か自分の名前が二つもある謎。なにがなんだかわからない。
(私は――本物のココアだよね?)
空を見上げると、私が私を見つめてる。
あなたは偽物だよって言いたそうに、見つめてる。
名簿は自分でも確認した。ほんとに保登心愛って二つも書いてあった。
野獣先輩やマサツグ様っていう変な名前もいっぱいあったけど、今はそれより私の大切な友達やもう一人の私に目がいく。
(チノちゃん……私は……)
こんなに弱気になっちゃって、お姉ちゃん失格だよ。
ううん……そもそも私が本物のココアじゃないかもしれない。
それでもチノちゃんのことは大切な妹だと思ってるし、リゼちゃんやメグちゃんも大切な友達。
それなのに――どうして私は私だと思えないのかな。
自分が偽物だって。ドッペルゲンガーだって思うだけで怖いよ
『私が本物のココアだよっ!』
もう一人の私が私を見つめて、そんなことまで言ってきた。
やっぱり私は偽物なのかな……。
チノちゃんのことだって本物の私が……。
「戒さん。本物の私をよろしくね」
私は偽物。
だからチノちゃんのことは本物の私に任せた方がいいよね。
どっちが本物なのかわからないけど……ずっと私が私を見つめてくる。怖いよ……。
「?」
それでも戒さんは、呆気に取られたような顔になって。
「本物も偽物もない。君は君だよ、ココアちゃん」
そんな優しい言葉をくれて。
「じゃあ、どうして私の名前が二つもあるの!?」
「……それは僕にもわからない。でも君のチノちゃんに対する想いは本物だと思うよ」
「私の想い……?」
私の想い。
チノちゃんに対する想い。
――――うん。
私はたしかにチノちゃんのことが大好きだよ。
大切な妹で、誰よりもなによりも大切で――。
でも……だからといって私が本物というわけじゃ……。
『そうだよ。私が本物だから――』
『ごちゃごちゃうるさいです……!』
もう一人の私を、チノちゃんが強引に退かした。
え?あれ?ど、どういうことなのかな……!?
『ココアさん。本当にお姉ちゃんなら――こんな幻影なんかに負けないでください!』
――幻影?
私が見てたのは、ただの幻だったのかな?
気付いた時にはいつの間にか、もう一人の私もチノちゃんも消えていた。
『そうだよ、ココア。こんなとこでへこたれるなんて、ココアらしくないじゃん!』
最期にマヤちゃんが見えて、そんなことを言ったような気がする。
これはただの幻で――私が見ただけの、都合の良い夢かもしれないけど。
「……うん。チノちゃんやみんなへの想いがある限り、私は私だよね!」
そうだ。
私は保登心愛。ココアなんだ。
たとえ私が二人居たとしても――この想いは、偽物なんかじゃないよ……!
そしてマヤちゃん――守れなくて、ごめんね。
でもみんなのことは絶対に守るから。マヤちゃんの――私たちの大切な友達はみんな私が守るから!
「――お姉ちゃんに、任せなさい!!」
〇
――一度沈んだ太陽は、こうして再び昇る。
たとえ自分が本物だろうが、偽物だろうが関係ない。
チノや大切な友達を守るという想い。かけがえのない日常を大切にするその在り方こそが、保登心愛なのだから。
だからこれからもう一人のココアに会っても、偽物や本物なんて関係なく接するだろう。
保登心愛は香風智乃が大好きだ。この姉妹愛は誰にも止められない。
輝きを取り戻した太陽に照らされて、櫻井戒は僅かに頬を緩めた。
【一日目/深夜/E-5】
【保登心愛@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康
[装備]: ココア専用ソード@きららファンタジア
[道具]:基本支給品、あんこ@ご注文はうさぎですか?、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:チノちゃんや戒さんと一緒にバトルロワイヤルを終わらせるよ!
1:戒さんと一緒にチノちゃんやみんなを探す
2:もう迷わない。私は私――ココアだよ!
[備考]
※名簿を確認しました。もう一人『保登心愛』がいることを確認しました
【櫻井戒@Dies irae Verfaulen segen】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]基本方針:ココアちゃんを守る
1:チノちゃんやココアちゃんの友達を探す
2:ココアちゃんを鍛える…?
[備考]
※終了後から参戦。
※聖遺物を本人支給されてない代わりに見知らぬ場所で聖遺物が破壊されても死にません。また攻撃も普通に通用します。これらの説明は戒に支給された説明書に記載されています
※ 名簿を確認しました。もう一人『保登心愛』がいることを確認しました
投下終了です
本当に申し訳ございません、予約した後に急な仕事が増え続けた結果、延長までしましたが、執筆がどうしても間に合わなかったです。
という訳でこんな直前ですが、予約破棄します。長時間の拘束すみませんでした。
所で企画主さんに質問なのですが、何日程期間を空けたら再予約は可能でしょうか?教えて頂けますでしょうか?
>>130
再予約は一度投下したことがある方なら3日程度の期間を開ければ可能だと考えています
よろしくお願いします
桐生戦兎、エボルトを予約します。
改めて、飛電或人、万丈龍我で予約します
かなり短いちょっとした話になると思いますが天々座理世、橘朔也で予約します
投下します
「そこまでだ、リゼ。少し休憩をしよう」
――私が熱心に特訓してると橘さんから休憩の宣告を受けた。
戦士に休息はつきものだ。ただひたすらに特訓するより、たまには休むのも悪くないかもな。
私はバッティングマシンのスイッチを切ると、変身を解除して今回の特訓でかいた汗を拭った。
「リゼ、君の成長には目を見張るものがある。特に途中から盾を利用してボールを受け止めることを自主的に判断したことは大きな進歩だ」
「せっかく盾があるんだから、使わないともったないと思っただけさ。何もすごいことじゃないだろ?」
まあ――ほんとは橘さんに褒められて少し嬉しい。でも私は当然のことをしたまでだ。
盾があるっていうことは、それを有効活用しないともったいない。だから私は途中から盾でボールを受け止めて、槍で刺す訓練に切り替えた。
最初は槍が上手く当たらなかったり、かすったりしたけど……ようやく多少は当たるようになってきたところだ。
射撃ならもうちょっと上手く出来るんだろうけど、どうにも槍はなかなか慣れない。
でもコツは掴めてきたから、後はボールの動きをしっかり見て、盾に直撃して跳ね返ったボールを精密に打ち抜けるようになるだけだ!
せっかくだから、出来れば数字のど真ん中を貫けるようになりたいな……。
「いや。戦闘に慣れてない一般人としては十分にすごいことだ」
「そんなに褒められると、何か照れるな……」
仮面ライダーとして戦ってきた橘さんにここまでべた褒めされると、ちょっと恥ずかしい。
……で、でもそれで慢心する私じゃないぞっ!私にはみんなを守る使命があるからな!!
そのためにはもっと強くならなくちゃならない。これくらいで満足しちゃダメだ!
……それにしてもみんなを守るっていう意味では槍以外に盾まで付いてるのはありがたいかもしれない。というより、みんなを守るって決意したから変身で盾まで出てきたのか?
よくわからないけど、守ることを第一目標にしてる私にとって盾はピッタリだ。これでマヤみたいな犠牲は防げる。
ココアも、チノも、メグも。みんな私が守るんだ!
(……そういえばシャロや千夜は居ないんだな)
不謹慎なことだけど、私たちが居てあの二人が居ないことに少しだけ違和感がある。もしかして私が名前を見落としてるのか?
そう思って名簿をじっくり見たけど、やっぱり二人の名前はなかった。
ラビットハウスとチマメ隊だけが巻き込まれたというわけか……。
「……ん?」
「どうした?リゼ」
「いや……私の友達の『ココア』が二人も名簿に載ってる気がして……。見間違いじゃないよな……?」
「……ああ。そこについては俺も気になっていたところだ」
どうやら本当に見間違いじゃなかったみたいで、橘さんも困惑気味の表情だ。
保登心愛。私にとって大切な友達だ。
でもココアは二人もいない。この世に私が知ってるココアはただ一人のはずだ。
「とりあえず飲み物でも飲んで、落ち着こう。ちょうど自販機があったから買ってきた」
橘さん……その、なんていうか。
飲み物を渡してくれるのは嬉しいけど……。
「金は気にするな。ここの自販機は無料らしい」
「いや……お金がどうこうというよりさ。どうしてこのタイミングでココアなんだ!?」
橘さんが私に渡してくれたのは、森永のホットココアだった。
ココアの話をしてる時にココアを渡してくるって……狙ってるのか!?
いや、でも買ったのはココアの話が出る前か……。
それにしても……橘さんもココアの名前が2つあって悩んでたんだよな?もしかして橘さん、天然なのか?
「ホットココアには心を落ち着かせる効果がある。特訓に夢中になるのも良いことだが、君は少し落ち着いた方がいい」
……あ、これ天然だな。
まあせっかくの心遣いにとやかく言うほど、私は野暮な女じゃないつもりだ。
「そうだな。ありがとう、橘さん」
橘さんから受け取ったホットココアを開けて、ひとくち飲む。
暖かいな……。誰かさんを思い出す風味だ。
ココアは本当に明るくて暖かいヤツで……あいつが来てから、チノとの距離もどんどん縮まったんだっけ。
本当に愉快なヤツで、一緒に居るだけでこっちまで楽しくなってきて。
……こうして思い出してると、ちょっと懐かしく思えてくるな。
まあただココアはチノと同じくらい放っておけないヤツだから……この殺し合いでもかなり心配だ。
色々と愉快で呑気な面もあるから、ある意味チノより心配かもな。ちゃんと危機感を持ってくれてるといいんだけど……。
その点、チノは危機感を持って行動してそうだから安心だな。
ただ……これはメグもだけど、マヤのあんな姿を見て落ち込んでるだろうから早く私かココアが励ましてやらないとな。そういう意味ではココアと同じくらいチノやメグも心配だ。
それにしても――私やチノやメグと違って、どうしてココアだけが二つも名前があるんだ?
他にも気になる点はある。
野獣先輩やらMNRやらマサツグ様やら……やたらと変な名前が多い事だ。コードネームか何かか?
MNRはともかく、野獣先輩や肉体派おじゃる丸はふざけすぎだろっ!
キリトみたいに苗字がないやつもいる。この違いはなんなんだろう。
「橘さん。この名簿、謎だらけだな」
「ああ。実在するか怪しい人物の名前や同姓同名の人物……色々と謎が多い名簿だ」
やっぱり橘さんもそう思ってたのか。
まあこんなにも変な名前が多ければ当たり前なのか?
それにしても――やっぱり二人も居るココアが気になるな
同姓同名の別人の可能性もあるけど……変身といい、世界の違いといい、この殺し合いはなんでもアリだから両方ココアの可能性もある。
(うーん……)
仮にどっちも私が知ってるココアだとする。
もしそうなら、意外と色々大丈夫なんじゃないか?
ココアとココアが出会っても大した事件は起こらないかもしれないし……それこそもしかしたら、パン作りのパーティーでも始めるんじゃないか?
パンパカパンのパンのパーティー、なんて――いや流石にそれはないか。
でもココアが二人居ても、どっちかが悪さをするとか、片方の存在を消そうとするとかは考えられないんだよな。
だってほら……ココアはココアだし。あいつが悪さをするわけがないじゃないか。二人いるから片方を消すなんて以ての外で、ココアならきっと楽しくやってるさ。
……と思いたいところだけど、これは殺し合いだ。
万が一のことも考えて、どっちかのココアに会ったら色々と聞きたいな。まあ流石に片方を消すとか言わないだろうけどさ……もしかしたら何か悩んでるかもしれないし。
あいつはいつも私たちを笑顔にしてくれるけど、それでも何も悩まないわけじゃない。
ココアにだって悩みはあるさ。だからそれを受け止めてやるのも、今回の私の役割だ。
「ココアが二人いるのは不気味かもしれないけど――ココアならきっと大丈夫だ」
「君はそのココアという子をそれだけ信じてるのか」
「そうだなー……。信じてるっていうのもあるし、ココアは二人居て悩むことはあっても、悪さはしないはずだ」
「どういうことだ?何か理由でもあるのか?」
理由だって?
そんなものは決まってる。
「ココアは私たちを――みんなを笑顔にしてくれるヤツだから、かな」
橘さんは私の回答に一瞬だけ面を食らって――その後、すぐに微笑んだ。
「なるほどな。信じられる友が居るのは良いことだ」
そう語る橘さんの顔は、どこか寂しそうで……。
「俺はもう大切な友と会うことは出来ないが――リゼの話を聞いて、改めて君やその友達を守りたいと思った」
そっか……。
橘さんはもう、大切な人と会えないんだよな……。
「俺は組織も愛する者も信じられる仲間も失った――が、君の信じる友達のために全力でサポートしよう」
橘さんはココアを飲み干して立ち上がる。
それにつられて、私も一気にココアを飲み干した。……ほんとに誰かさんを思い出すくらい暖かくて、優しい味だ。
「行くぞ、リゼ。訓練の続きだ!」
「了解だ!待ってろよ、ココア。私は必ず強くなるからなっ!」
今の私じゃきっとみんなを守れない。
だからもっと強くなって、みんなを守るんだ。
この飲み干したホットココアに誓って、私は特訓を再開した。
まあでもやっぱり――このホットココアも美味しいけど、ココアやチノが淹れてくれるココアの方が美味しいかな。
【F-2(バッティングセンター内)/一日目/深夜】
【天々座理世@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康
[装備]:リゼ専用スピアー@きららファンタジア
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]基本方針:橘さんと一緒に黒幕を倒してみんなを助ける!
1:橘さんに特訓してもらって、みんなを守れる仮面ライダーになる。まずは基礎訓練だ!
2:ココアとチノとメグは私が守るんだ!
3:マヤを殺した金髪の男は間違いなく危険人物だ。いつか私が倒してマヤの仇を取ってやる
4:二人いるココアについては両方を信じる!
[備考]
※「ナイト」の戦い方を理解し始めました
【橘朔也@仮面ライダー剣】
[状態]:健康
[装備]:ギャレンバックル@仮面ライダー剣
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]基本方針:剣崎の分まで人々を助ける。ゲームマスターも倒す
1:リゼやその友達は必ず俺が守る
2:リゼに戦い方を教える。
3:決闘者の意味すら知らない参加者まで集められてるのは、どういうことだ?
4:葛葉紘汰......。君の名前は忘れない
[備考]
最終回後からの参戦
投下終了です
投下します。
「な・る・ほ・ど・ねぇ〜〜〜〜〜」
わざとらしく間延びした言い方。
横目で見やるとタブレット片手に、これ見よがしに頷く仕草をする男。
外見は同じでも中身が違えばこうもストレスの元になるのか。
仕方がないとはいえ、胃痛の原因とピッタリくっついて行動しなくてはならない事にため息が出る。
ちなみに何度目のため息かは10を超えた所で数えるのをやめた。
どうせこの先も何かあれば意識せずとも出してしまう。
「何が?」
極めて簡潔に問い掛ければ、待ってましたとばかりに笑みを向けられた。
構ってちゃんかよ。内心で零した悪態を察しているのかいないのか。
前者だとしてもさして気にはしないのがエボルトという男だ。
「いやな?あのふんぞり返った神様が言ってたデュエルのルールってのをちょいと見てみたんだよ」
先程の大々的に行われた放送で説明された、デュエルのルールを記したアプリの追加。
神の恵みと豪語したのは嘘ではなかったらしく、実際戦兎も放送が終わり名簿を確認した後で内容を確認はしようとはした。
直後に何者かが戦闘を行っているだろう音が聞こえ、詳しくは見ていなかったが。
そのルールブックアプリを戦兎の代わりにという意図ではないかもしれないが、とにかく見たエボルトは言う。
「で、率直にこう思ったんだよ。このデュエルモンスターズってのを支給する意味はあるのか?ってな」
「…どういう意味だ?」
「百聞は一見に如かずってやつさ。とにかくお前も読んでみりゃ分かるさ」
自分の口から答えを言うのを躱し、そっちの目で確かめてみろ。
何とも勿体ぶった返しに呆れを抱くも、一々言い返したって時間の無駄。
デイパックからタブレットを取り出して早速アプリを起動。
渋い表情がディスプレイの光に照らされ、ルールを読み進めて行くと眉間の皺も深くなっていく。
やがて読み終わった戦兎はタブレットを仕舞い、真っ先に感じた事を口にした。
「単に俺がカードゲームに興味が無いからかもしれねえけど、素人には優しくねえルールだな」
「だろ?」
互いのプレイヤーは40枚以上のカードで構築されたデッキを用意。
モンスターを召喚し相手のライフポイントを先にゼロにした方が勝者。
デュエルモンスターズのルールを大雑把に言えばこう。
しかし使えるカードはモンスター以外に魔法や罠が存在する。
更にモンスターの召喚というのもただ単に手札から場に出すのみではない。
それぞれ決められた条件をクリアして初めてフィールドに出す事が可能な特殊召喚。
カードの効果を駆使し時には大胆な攻勢に、時には守りに徹し、時には搦め手を駆使する。
こういったカードゲームの類にはさして興味のない戦兎からしても、よく考えられたと感心を抱くものだ。
その反面、口に出した通り全く知らない人間が一から手を出すには少しばかり敷居が高いと思わなくもない。
強そうなカードのみを投入するだけでなく、一枚一枚の効果を把握し勝利に繋げられる戦略をデッキ構築の段階で踏まねばならず、望んだカードが手元に無ければ手持ちのカードだけで切り抜ける判断力。
初心者にとっては召喚方法をそれぞれ覚えるだけでも苦労しそうなものである。
エボルトが何故「支給する意味はあるのか」という疑問を抱いたか、戦兎にも分かった。
放送で行われたデモンストレーションを信じるなら、少なくとも会場内においてはデュエルで参加者を殺せる仕組みになっている。
カードから召喚したモンスターを操る事が可能な立派な武器。
だが実際に使いこなせるかどうかは別。
仮にデッキを手にしたのが決闘者と呼ばれる、殺し合い以前からデュエルモンスターズを熟知している者ならともかく。
檀黎斗のゲームで初めてデュエルモンスターズの存在を知った者が、デッキを最大限に活用できるかは正直怪しい。
いつ、どんなタイミングで危険人物に襲われるかも分からない状況でルールを正確に覚えられるのは、流石に無茶ではないか。
分かり易い例が条河麻耶だ。
初手でポセイドンという最上級の能力を持つ参加者に遭遇した不運もあるが、デッキを使いこなすには余りにも時間が足りなかった。
仮にデッキを支給されたのが不動遊星本人ならば、また違った結果になっただろう。
戦兎達からはマヤに支給されたのが誰のデッキかは知る由も無い。
しかし闇雲にモンスターを召喚するだけなのは映像からでも分かり、デュエルの初心者なのは察せられた。
「あの神様はデュエルを推してるみたいだが、殺し合わせたいんなら他にやり様があるんじゃねぇのか?」
強力な反面、使いこなすには相応の時間と頭の回転が必要なカード。
それよりならば拉致した参加者全員にネビュラガスを注入し、ライダーシステムやスマッシュボトルでも支給した方が効率が良いのではないか。
どうにもちぐはぐな黎斗の考えにエボルトは首を傾げる。
「…デュエルを推したのは別の奴って線も考えられるじゃないか?」
「うん?」
「檀黎斗は元々ゲームにデュエルを組み込む予定は無かった。後になって別の誰かからデュエルの存在を教えられた。そういう可能性もある」
疑問への正解とまではいかずとも、仮説ならば立てられる。
戦兎からの返答に成程と納得した仕草で頷いた。
放送を見る限りこの主催者の中心は檀黎斗のようだが、運営全てをあの男一人で担っているのでは無いだろう。
ハ・デス、磯野、葛葉紘汰を殺した鎧の男。
もしかしたら放送で姿を見せていないだけで、もっと多くの協力者がいるか可能性は十分に考えられる。
単独か複数かは不明だがその協力者が黎斗にデュエルの有用性を説き、承諾した結果が今回のゲームに繋がった。
そのように考えれば納得のいく部分はある。
やちよと別れた後に話した事だが、黎斗にとってもデュエルは未知数な部分が多い。
もし最初から黎斗が殺し合いにデュエルを組み込む事を考えていたならば、テストプレイを行わずとも準備段階で必要な調整を施していた筈。
そうじゃないという事は、後になって急遽デュエルモンスターズをゲームの一要素としての追加を決断したかもしれない。
となると、今度は新たな疑問が一つ生まれる。
「お前の推測通りだとしたらだ、何でその別の誰かさんはそこまでデュエルに拘るんだ?」
エボルトの疑問は尤もだ。
デュエルモンスターズとは恐らく檀黎斗が手を加えなければ、他者の命を奪う武器ではなく普通のカードゲームのはず。
それをどうして殺し合いに関わらせたのか。
単純にゲームの進行を促したいのであれば他に手段は幾らでもあるだろうに。
「そこまでは流石に分かんねぇよ。決闘者って参加者を探して聞いてみるしかない」
「ま、ひょっとしたらパンドラボックスみたいに星を滅ぼすレベルの厄ネタかもしれねぇしな」
「カードゲームがか?」
「カードゲームがだ」
突拍子も無い考えに呆れた眼差しを向ける。
幾ら何でも飛躍し過ぎだろう。多分。
「とりあえずデュエルに関しちゃ決闘者に任せるとしてだ、こっちもどうにかしなきゃならんだろうよ」
言いながらコツコツと指で叩くのは檀黎斗に命を握られた証。
「お前の能力の高さを疑うつもりはないが、コイツも一筋縄じゃあいかないだろうよ。なにせ…」
言葉を区切るとエボルトが肉体を変化させる。
石動惣一の姿が崩れ、赤いスライムのような流動体へ。
それが5秒と経たない内に新たな人型へと変わった。
支給された写真に写っていた人物であり、七海やちよの探し人である環いろはの姿へと。
「見ての通りだ。人の形じゃ無くなっても、首輪はピッタリ嵌ったまま」
「ああ、お前の能力も当然対策済みって事だろ」
これだけ大掛かりなゲームの運営をしている。
参加者の力を正確に把握しておくくらいは当然やっているだろう。
十分予測出来た事だけに、さして落胆も驚愕も無い。
エボルトに言われるまでもなく、決闘者との接触と並行して首輪の解除も進めるつもりだ。
やちよとの合流まではまだ時間がある。
それまでに何か有用な情報を手に入れたり、信頼できる参加者と出会えるのを期待し二人は進む。
「なァ、思ったんだけどよ。この嬢ちゃんの見た目の方が相手の警戒を解き易くなるんじゃねぇか?」
「中身がお前なら胡散臭さは変わんねぇよ。マスターの姿に戻っとけ」
【E-2/一日目/黎明】
【桐生戦兎@仮面ライダービルド】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)
[装備]:ビルドドライバー+フルボトル(ラビット、タンク)@仮面ライダービルド、ドリルクラッシャー@仮面ライダービルド
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1(確認済み、フルボトルは無い)
[思考・状況]
基本方針:檀黎斗を倒し殺し合いを終わらせる。
1:西方面を探索。6時間後にE-4で七海と合流する。
2:監視も兼ねてエボルトと共闘する。信用した訳じゃねぇからな
3:首輪を解除する為に工具を探す。
4:万丈達やエグゼイドを探す。エグゼイドは檀黎斗を知っているのかもしれない。
5:環いろはをこっちでも探してみる。
6:デュエリストにも接触しておきたい。
[備考]
※参戦時期は『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』以降。
【エボルト@仮面ライダービルド】
[状態]:健康、環いろはに擬態中
[装備]:トランスチームガン+コブラロストフルボトル@仮面ライダービルド
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:生存優先。あわよくば未知の技術や檀黎斗の持つ力を手に入れる。
1:西方面を探索。6時間後にE-4でやちよと合流する。
2:戦兎と共闘しつつどこまで足掻くのか楽しむ。仲良くやろうぜ?
3:エボルドライバーを取り戻す。元は内海の?知らねぇなァ。
4:正攻法じゃあ檀黎斗を倒すのは難しいか。
5:やちよの声はどうにも苦手。まぁ次に会えたら仲良くしてやるさ。
[備考]
※参戦時期は『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』で地球を去った後。
※環いろはの姿を写真で確認した為、いろはに擬態可能となりました。
投下終了です。
百雲龍之介、花家大我で予約します
本当にごめんなさい、再延期します
この一週間以内に必ず投稿します。
リゼ、橘さんを予約に追加します
投下します
花家大我はドクターだ。
医者。それは人の命に密接に関わる職業であり、当然ながら大我は命の尊さをよく理解している。
なにもそれは彼が医者だから――というわけではない。
友人である牧治郎を自分のせいで失った。
患者である百瀬小姫を救うことが出来ず、その命を散らせてしまった。
――それらは全て檀黎斗によるものだ。
檀黎斗が花家大我という人間を利用することを企み――結果として二人も死人が出た。
牧は復活させることが出来たが、小姫はもう――。
このように花家大我と檀黎斗は非常に強い因縁で結ばれている。
というよりも彼の世界の仮面ライダーは大半の者が檀黎斗の被害者だと言っても差し支えないだろう。
鏡飛彩は大切な彼女を失ったし、九条貴利矢に至ってはゲーム病のせいで友人を失い、挙句の果てに貴利矢本人も檀黎斗に殺されている。
檀黎斗はゲームクリエイターやゲーム会社の社長という肩書きから想像出来ないほど、あまりにも常識から逸脱した理不尽極まりない悪事を働いてきた。
しかし本人に悪気は一切ない――というのがまた厄介なところだ。
彼は神を自称しているが、たしかに才能だけならば神業染みている。ゲーム業界に革命を起こし、一つの時代を切り開いたのだから。
しかしその所業は悪魔そのものだ。平気で他人を巻き込み、その命を踏み躙ってきた。ゲーム感覚で弄んできた。
本人が死亡後にバグスターとなり、大量のライフで何度も死んできた――という時点でもその狂人具合いがよくわかるだろう。
コンテニューさえ出来れば、死をも恐れない。果たしてそれが、正常な倫理観を持った人間の在り方だと言えるだろうか?
だからはっきり言って、花家大我は檀黎斗に対してあまり良い印象はない。
利害の一致で共闘したことはあるが、そういう事情がなければ彼を復活させたこと自体が許せないだろう。
実際、ポッピーピポパポが檀黎斗を復活させた時、真っ先に怒ったのが大我だ。
「ふざけるな……!」
そして今も、花家大我は檀黎斗に対してイラついていた。
いくつもの命がゲームマスターを名乗る檀黎斗によって失われた。まるでゲームでもしているかのように。
それを黙って見過ごせるほど、大我は冷たい人間じゃない。むしろぶっきらぼうに振る舞ってこそいるが、根は優しい医者だ。
命の尊さを知っているからこそ。人々の命を守りたいからこそ、あの放送で行われた惨劇に声を荒らげる。
本当ならば大人として。仮面ライダーとして。医者として――あの放送を冷静に観察して、もぐもに色々と教えなければならなかったのだろう。
だがそんなことが出来るほど、大我は器用じゃなかった。
仮面ライダー鎧武はまだ良い。何故なら彼は戦いの末に死んだのだから、仕方の無いことだとまだ割り切れる。
だが戦いに無縁な少女を巻き込み、金髪の男に惨殺させたこと。
鎧武の連帯責任として代わりに首輪を爆破された少女。
ランダムでプレイヤーの命を奪うという、理不尽極まりない命を踏み躙る行為。
どれも到底、許せるものじゃない。
「えと……」
――そんな時、もぐもの怯えるような声が聞こえた。
それはきっと……あの放送もあるが、今の自分自身の態度が原因だろう。
「悪い。取り乱しすぎた……」
花家大我は心優しい医者だ。
今でこそひねくれた言動になっているが、元々は普通の優しいドクターだった。
そして今も医者としての精神性は当然あるわけで。患者――という言葉は適していないのかもしれないが、自分が救うと決めた相手を無意味に怯えさせても事態は好転しない。むしろ悪化させる可能性すらあると理解している。
大我は軽く謝罪すると、もぐもの次の言葉を待った。
カウンセリング――というわけでもないが、患者が何か言おうとしたのだ。今は出来る限り落ち着いて、次の言葉を待つ。
「あの子の付けてたやつ……ぼくと同じ『デュエルディスク』ですよね」
「そうだな。たしかにあいつはお前と同じモノを付けていた」
もぐもと同じデュエルディスクを装着した少女が金髪の男に蹂躙された瞬間を思い出す。
決して忘れもしない映像だ。
「……どうしてあの子はコンボや魔法、罠カードを使わなかったんですか?」
「その使い方もわからなかったんだろ。ゲンム――檀黎斗が言っていた『彼女のようになりたくなければ』っていうのはそういうことだ」
(あ――。ぼくだけじゃそこまでわかんなかったけど、やっぱりあの子はルールをわかってなかったのかな……)
もぐもにとってマヤのプレイングには幾つか疑問点があった。
カードゲームの弱小モンスターとは、何らかの効果を秘めていることが多い。初期のカードなど例外もあるが、スピードウォーリアーの洗練されたデザインは初期のカードゲーム特有のソレとは大幅に違っている。
スピードウォーリアーが弱小モンスターではなく、金髪の男がよほど強かったという可能性もあるが、それにしても魔法・罠くらいは発動するタイミングがあったはずだ。
本来のルールならば自分ターンのバトルフェイズ中に発動出来るのは速攻魔法や既に前ターンから伏せてある罠カードなどだが、この決闘ではそこら辺のルールも曖昧になっていることだろう。そうじゃなければリアルファイトが得意な相手に決闘者が色々と不利になりかねない。
それに今の時代、弱小モンスター以外でも何らかの効果を持ってたりするものだ。バニラモンスターを採用するデッキなど限られている。実際、もぐものウィッチクラフトだってほとんどが効果モンスターだった。
もしもバニラモンスターを採用するとしたら、よほど強力なモンスターか充実したサポートが受けられるモンスターだろう。
だがスピードウォリアーはそれほど強そうには見えず、魔法・罠によるサポートもなかった。
(ぼくの予想が正しければ……デッキもたぶん『紙束』じゃないと思うし……)
これはもぐもの憶測だが、おそらくマヤに支給されたデッキはいわゆる紙束デッキなんかじゃないと思っている。
自分のウィッチクラフトはしっかりと組まれていた。特定のプレイヤーにのみ紙束デッキを支給する――なんてことはないだろう。
もしかしたらその道のプロとかには弱いデッキを渡している可能性もあるが、マヤはどう見ても初心者。デュエルファンタジーガチ勢のもぐもだから、よくわかる。
(それとも見せしめみたいに殺すためにわざと弱いデッキを支給したのかな……?)
嫌なことを考えてしまい、思わず顔を顰める。
デッキの詳細を知らないもぐもには、そういう可能性も浮上してくる。
実際は不動遊星という決闘者の中でも指折りの実力者が使っていたデッキなのだが、そんなこともぐもにはわからない。
「お前みたいな一般人が色々と考えても無駄だ。余計なことは考えるな」
「でも大我さんは何も思わないの?初心者にいきなりこんなものを渡すなんて……」
「そこを含めてゲーム――とでも考えたんだろ」
「……大我さんはこれをゲームだと思ってるの……?」
「バカ言うな、こんなふざけたゲームがあってたまるか。だがあいつなら――檀黎斗なら本当にこれをゲームって考えてるだろうな」
――檀黎斗。
その男をよく知っているからこそ、大我は彼が本当にゲーム感覚で殺し合いを開いたのだとわかった。
始まりにして、全ての元凶。
彼さえいなければ――そう思わずには居られないような極悪人。
いや――その倫理観の無さは悪人というより、狂人という言葉が正しいだろうか。
もっとも――九条貴利矢の憶測が正しいのならば「そうならざるを得なかった男」でもあるのだが、貴利矢ほど黎斗の理解者でもない大我にはそこまで知ることは出来ない。
「……そういえばさっき言ってたゲンムってなんですか?大我さんは檀黎斗のことを知ってるんですか??」
「ああ。俺は過去にあいつから滅茶苦茶な仕打ちを受けた。……今もこうして理不尽な目に遭ってるけどな」
こうして大我はもぐもに自分の過去や檀黎斗の情報を聞かせた。
危険に巻き込む気はない。だが万が一のために檀黎斗がどれだけヤバい人種なのかは、伝えておくべきだ。
花家大我は――自分が生きてこのゲームから脱せられない可能性も考えているのだから。
もちろん自分の命も無駄にする気はないが、もぐもには付き合っている大切な彼氏が居るらしい。
それを聞いた時に脳裏を過ったのは、鏡飛彩だ。
彼は大我が百瀬小姫――つまり飛彩の彼女を救えなかったから、恋人を失うことになった。
大我も失いたくない患者が出来たし、何も失うものがないとはもう言わないが――それでも、あんな悲劇は二度と起こしたくない。
それに檀黎斗を知っている可能性がある人物は、名簿を見る限り自分以外にエグゼイド――宝生永夢ただ1人だ。なるべく情報を広めるに越したことはない。
もっともこういうことは大我よりも永夢の方が得意な分野なのだろうが……。
「とにかく今のお前は俺の患者だ。患者が余計なことを考えるな」
花家大我は不器用にも一人で背負う。
また同じ悲劇を繰り返さないためにも。
𓃺
本当に大我さんだけに任せて大丈夫なのかな……。
ぼくは大我さんを信じてる。きっと大我さんは優しい人だと思うから。
でも……本当にそれだけで大丈夫なのかな?
大我さんはぼくを患者だから守るって言ってくれた。それは嬉しいけど、ぼくだけ何もしない理由にはならないよなあ……。
今のぼくにはデュエルディスクとウィッチクラフトのデッキがある。だから少しくらい戦えると思うんだけど……。
「大我さんはぼくがデュエルすることには反対なんですか?」
「当然だ。患者を危険に巻き込むドクターがどこにいる」
やっぱりそうなるかあ……。
ぼくは大我さんみたいに仮面ライダーとして戦ってきたわけじゃない。
というより――戦ったことなんて一度もない。
でもこのままだと大我さんに全て背負わせてるみたいだし――ぼく自身、ずっと最初の一歩が踏み出せない気がした。
カーン!
……???
「何か音が聞こえませんでしたか?」
「ああ。あのバッティングセンターから、何か聞こえたな」
どうしてこんな場所にバッティングセンターがあるの?
あれ?しかも何か槍と盾を持ってる??
「やったぞ、橘さん!これが特訓の成果だ!!」
「よくやった、リゼ。やはり君は飲み込みが早いな」
女の子と男の人が楽しそうに話してる。
特訓なの?あれが……??
んー……。よくわかんないけど、特訓ならぼくも参加してみるべきかな?
早く哲くんやみんなの居る場所に――Questionに帰りたいし。
こういう時、哲くんが居たら――――。
「なんだ、あそこが気になるのか」
気付いた時には大我さんも一緒にバッティングセンターの特訓を眺めてた。
「うん。ちょっと気になります」
「……じゃ、行くか。危険な輩じゃねえみたいだしな」
大我さんはズカズカとバッティングセンターに入っていった。つられてぼくもバッティングセンターに入る。
やっぱり大我さん、優しいなあ……。
𓃺
ガチャリ。
バッティングセンターに誰か入ってきた音が聞こえる。
「――誰だっ!?」
いつもならそんなに警戒しないけど、今回は場所が場所だ。
もしかしたら誰かを殺そうとしてるヤツが来る可能性もある。
私は咄嗟に盾と槍を構えて、橘さんもいつでも変身出来る状態に身構えて――。
「は、はじめまして……」
「なかなか手荒い歓迎だな」
――――女の子と白髪混じりの男の人が居た。
「止せ、リゼ。彼らに戦う意思はないようだ」
……そう言ってる橘さんもさっきまで警戒してたよな?
とりあえず私は槍を下ろして、戦意がないことを証明した。
「私はリゼ。普通の女子高生だ」
「どこの世界にそんな野蛮なもん持ってる普通の女子高生がいるんだよ」
「こっ、これは訓練のために……」
「何の訓練だよ、それ」
「それは俺が説明しよう。バッティングマシンから発射されたボールに書かれた数字を読む、動体視力の訓練だ。今はまた別の訓練をしているがな」
「そんな意味不明なことで動体視力が鍛えられるかよ」
いきなりやってきた男が橘さんの訓練に文句をつけてきた。
橘さんは私のことを考えて鍛えてくれたのに、どうしてそんなに否定するんだ!?
「おい、まさか文句を言いにここまで来たのか?」
もしそうなら、流石にムカつくな。
私たちは娯楽でこんなことをしてるわけじゃないんだ。
「えっと、そういうわけじゃなくて……」
女の子の方が口を開く。
この子は普通に常識がありそうだ。少なくとももう片方みたいに減らず口は叩かないだろうな。
「まずは大我さんが酷いことを言ってごめんなさい」
ぺこり。
女の子が頭を下げてきた。……何か、悪いことをした気がするな。
「気にしないでくれ。私も頭に血が上りすぎた」
「動体視力の鍛え方が素人にわからないのは当然だ。俺も気を悪くしてないから、安心してくれ」
たしかに橘さんの言う通りかもしれないな。
素人には一流の橘さんの鍛え方がわからないのも、仕方ないことだ。
「ありがとうございます」
「別に感謝されるようなことはしてないよ。それで、どうしたんだ?」
ごめんなさいとありがとうが言えるなんて、気持ちのいい子だ。もう片方があんなのだったからしみじみそう思う。
「あのっ……。ぼくも特訓したいです!」
おー、いい心掛けじゃないか!
やっぱりわかる人にはわかるんだな!
「……君にもリゼのように何か戦う理由があるのか?」
私が喜んで歓迎しようとした直前――橘さんが真剣な顔で女の子に覚悟を問い詰めた。
戦う理由。たしかにそれがないなら、鍛えず守ってやるのが一番だからな……。
「ぼくには帰りたい場所があります。大我さんが守ってくれるって言ったけど……ぼくも日常に帰るための一歩を踏み出したいです!」
「おい、本気か?お前もゲンムの――檀黎斗のヤバさはわかっただろ!?」
「うん。でも自分の身は自分で守れってデュエルディスクをくれたのは大我さんです」
「それは自衛のためだ。それにあの映像を見たらわかるだろ、同じデュエルディスクを使って殺されてたじゃねえかっ!」
――なるほど。
どうやらこの男の人――女の子は大我さんって呼んでるから、私もそう呼ぶか。
大我さんはこの子に無理して戦ってほしくないらしい。……まあ、あんなもの(デュエルディスク)を付けてたら心配にもなるよな。私も正直、マヤのことを思い出して心配だ。
でも――帰りたい場所があって、そのために頑張りたいという気持ちもわかる。
「その腕に巻いてるやつ、デュエルディスクって言うんだな。マヤはきっと何もわからない時にいきなり強いヤツに襲われてああなったんだと思う」
――私がもっと早く強くなってれば、あんな攻撃はこの盾で守ってやれたはずなのに……!
悔しいけど……間に合わなかった。だからマヤは殺された。
でも、この女の子は違う。周りに私や橘さん、大我さんがいる。
「カードで戦うっていうことは後衛だろ?私たち前衛が頑張れば、この子が戦っても守れるはずだ」
私はこの子の意志を尊重してやりたい。
「……そういえば名前はなんて言うんだ?私はさっきも言ったけど、リゼ。天々座理世だ」
「もぐも。……百雲龍之介です」
百雲龍之介?
あれ?それって明らかに女子の名前じゃないよな……?
「偽名か?」
「えっと……」
もぐもが顔を背ける。私、何か悪いことしたかな……?
「もぐも。まさか君は男なのか?」
橘さんがそう聞くと、更にもぐもの表情が暗くなった。どういうことだ……?
「そいつは男でも女でもねえよ。Xジェンダーってやつだな」
男でも女でもない???
Xジェンダー???
いったいどういうことなんだ……!?
「えっと、ぼくは……」
⚨
「へぇ、そういう人もいるんだなぁ……」
「なるほど。君がそういう事情なら、俺もそういうふうに扱おう」
「……うん。驚かないの?」
ぼくが素直に打ち明けると、リゼちゃんと橘さんは意外とあっさり受け入れてくれた。
晴登くんの時と同じだ。ちゃんと話したら、わかってもらえた。
「そうだな〜。私はちょっと驚いたけどさ、それでも――もぐもは、もぐもだろ?」
「うん。そうだよ」
「それならそれで、いいんじゃないか?私もなんていうか――たまに別人みたいな格好をしたことあるし。もぐもがそう言うなら、私はもぐもの意志を尊重するぞ」
リゼちゃん……優しいなあ……。
晴登くんや大我さんの時も思ったけど――意外と世界はそこまで厳しくない。
哲くんのおかげで一歩踏み出してみたら、それから世界が180度変わって見えて――――。
だから今回もリゼちゃんや橘さんに勇気を持って打ち明けてみたら、受け入れてもらえた。
「よし、もぐものこともわかったし。恋人や友達のことも聞いたから――一緒に特訓でいいよな、橘さん」
「ああ。だが特訓は厳しいぞ、もぐも。大丈夫か?」
「はい!」
それからしばらく特訓をしていくうちに、リゼちゃんとは普通にタメ口で話せるくらい仲良くなれた。
――友達が増えたよ、哲くん。
ちなみにぼくの特訓はカードのドロー速度を少しでも早くすること。
ボールが飛んでくるよりも早く、ドローして――そしてカードを使う。それがぼくの第一目標かな
そして大我さんはなんだかんだでぼくの特訓を見守ってくれてる。「患者だからそばから離れるな」とは言われたけど、戦うことは許可してくれた。
「私はココアやチノ、メグを守るために!」
「ぼくは哲くん達――みんなの元に帰るために」
「がんばるぞ、もぐも!」
「うんっ!一緒にがんばろうね、リゼちゃん」
【F-2(バッティングセンター内)/一日目/黎明】
【天々座理世@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康
[装備]:リゼ専用スピアー@きららファンタジア
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]基本方針:橘さんと一緒に黒幕を倒してみんなを助ける!
1:もぐもと一緒に橘さんに特訓してもらって、みんなを守れる仮面ライダーになる。
2:ココアとチノとメグともぐもは私が守るんだ! も
3:マヤを殺した金髪の男は間違いなく危険人物だ。いつか私が倒してマヤの仇を取ってやる
4:二人いるココアについては両方を信じる!
[備考]
※「ナイト」の戦い方を理解し始めました
【橘朔也@仮面ライダー剣】
[状態]:健康
[装備]:ギャレンバックル@仮面ライダー剣
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]基本方針:剣崎の分まで人々を助ける。ゲームマスターも倒す
1:リゼやその友達、及びもぐもは必ず俺が守る
2:リゼともぐもに戦い方を教える。
3:決闘者の意味すら知らない参加者まで集められてるのは、どういうことだ?
4:葛葉紘汰......。君の名前は忘れない
[備考]
最終回後からの参戦
【百雲龍之介@不可解なぼくのすべてを】
[状態]:健康、花家大我の白衣を着用
[装備]: デュエルディスクとデッキ(ウィッチクラフト)@遊戯王OCG
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:大我さんと一緒に生きて帰る
1:リゼちゃんと一緒に鍛える!
2:大我さんの優しさを信じるっ!
3:上手くデッキを回せるかな?
[備考]
※遊戯王OCGのルールとウィッチクラフトの回し方をだいたい把握しました
【花家大我@仮面ライダーエグゼイド】
[状態]:健康
[装備]: ゲーマードライバー&バンバンシューティングガシャット@仮面ライダーエグゼイド
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:このゲームは俺がクリアする
1:もぐもは俺の患者だ。レベル2で殲滅出来るようなNPC如きに負けるようなやつじゃ一人でこの決闘を生き抜けねぇだろ(翻訳:もぐもは俺が守る)
2:ゲンムの情報は出来る限り広めてやる
3:無数に存在する世界ってのはどうやら嘘じゃなさそうだな
[備考]
※参戦時期は仮面ライダーエグゼイド トリロジー アナザー・エンディング終了後
※遊戯王OCGのルールを多少把握しました
投下終了です
虐待おじさん、肉体派おじゃる丸予約します
何とか出来ました!!投下します!!
(許せねぇぞ…!!あの大馬鹿野郎…!!)
万丈は今、マグマのように迸る怒りに震えていた
万丈はあの爆弾頭野郎が何処にいったのか分からなかった…とりあえず自分の第六感を信じてアイツが向かった方向に歩く事にした。要は当てずっぽうの適当である。(偶然にも結構近い所にパラダイスキングはいるのだが…)
そしてまず放送が始まった瞬間に驚愕した
当然である、あの神を名乗っていた男は万丈が知っていた男だったのだから
檀黎斗神、最上魁星が起こした事件を起こした際に対抗策となるガシャットを永夢達に渡していたのははっきり覚えている。
バカバカ言われっぱなしの万丈でも覚えているのかよと思うかもしれない。
だがそれも仕方がないだろう。それほど印象に残る振舞いをしていたのだから
あの振る舞いを見て万丈は自分の事を棚に上げてバカなのかと思っていた。
だが今になってその考えを改めざるおえなかった
『馬鹿』から『どうしようもない大馬鹿野郎』であるという認識に
永夢の仲間だったはずの男がこんな殺し合いを開いたのか
そこまで考える事が苦手な万丈はあのエボルトと同じように永夢達を裏切ったという考えになった。
(…ぜってぇ許さねェ)
万丈が怒りに震えているのは殺し合いを起こしたからだけではない
仮面ライダー鎧武、最上の野望を阻止する為に共に戦った仮面ライダーの一人、戦兎から足止めの為に助けてもらった事は聞いていた。
彼はこの殺し合いでも止める為に大馬鹿野郎に勇敢に挑んでいたが…返り討ちになってしまった。
どのような原理でそうなったのか万丈には分からなかった。だがそれでも彼…葛葉紘汰が死んでしまったという現実は許せなかったのだ。
それだけじゃない、あの男は次々と命が消えていくのを見せられた、アユミというおさげの少女の絶望した顔は全く知らなかった人ではあったが忘れられそうになかった
「檀黎斗…!!テメェのゲーム!!完全にぶっ壊してやるよ!!そしてテメェを本気でぶん殴ってやるっ!!」
不屈の意志を秘めながらこの殺し合いの破壊と…檀黎斗とその部下を倒す事を誓い…強く拳を握り締めた
万丈はまず名簿を見て今後の方針を決める事にした。誰がいるのかの把握がまず必要なのは流石に分かったからだ。
(戦兎…!!カズミン…!!幻さん…!!全員いるのかよ…!!)
旧世界を救った仮面ライダーは自分を含めて四人、その全員がいる事をまず把握した。
(…負ける気がしねぇ!!)
俺達四人が揃えば…こんな殺し合いすぐぶっ壊せるはずだ、そう思った瞬間
(…エボルトもいるのかよ!?)
…そう簡単に上手くいくとは限らないという事を認識せざるおえなかった
エボルトとはつい最近新たに表れたエボルトの兄で破滅思考をもつキルバスを倒す為に協力したばかりだ。
だが勿論万丈は全く信用するつもりはない。あの時はたまたまもっと強い敵が現れたから共闘したに過ぎない。あの時ももし体力が残っていたら黙って地球から去るのを見ているだけで終わらせるつもりなんてなかった。
何度も翻弄され続けた事は絶対に忘れられない。警戒は緩めない事に決めた
他にも知っている人がいないかも探したが、知っていたのは宝条永夢だけだった。
(アイツには助けてもらった恩もあるし、大馬鹿野郎についても詳しく知っているかもしれねぇ、早く合流した方が良いな)
仲間四人との合流を当面の目標にして、道中に誰かがいたらそいつと接触、殺し合いに乗っていない奴だったら話を聞く、危険な奴だったらぶん殴る。
それから、もう一つ、接触する時は積極的に第六感を頼る事にした。
…分かりやすく言うと話しかける前に自分の勘を頼るという事だ。あの爆弾頭野郎(パラダイスキング)との接触の時、何も考えずに話した結果危うく生身で一撃くらいかけた。警戒しながら動く必要性の高さを実感したのだ。
ではどこへ向かうのか?それはもう決まっている。
向こうで見える川の近くで何かでかい音が聞こえた。
戦いが始まっているのかもしれない、そう考えた万丈に迷いはない。
何故なら彼は既に知っているからだ、『仮面ライダー』がどのような戦士なのかを
多くの人のLOVE&PEACEを守る
自称てぇんさい学者で、ベストマッチな相棒と同じ想いを秘めながら少しでも人を助ける為に動く
こうしてしばらく走り続けた時、なんかすごいでかいドラゴンを見つけた。
万丈は正直何方へ向かうかは迷った、大きな音がした方か、ドラゴンの方か
迷った結果、今何かが起きている可能性が高いのはドラゴンの方だと思いそちらへ向かう事に決めた。(後で川にも向かうが)
そうした先で出会った青年の瞳は
漆黒の殺意を秘めていた
…モニターに写った映像を見て或人が抱いた物、それは怒りだった
理不尽に弄ばれながら奪われていく命を見せつけられる
今の或人は復習に囚われているのは事実だ、だがそれでも根っこは揺るがない
半年以上の間ゼロワンとして人間とヒューマギアの心からの笑顔を守るために戦い続けたゼンイは消えている訳では無い
その為、あの神を名乗る邪悪な奴に対する怒りが湧くのも当然であった
そしてその怒りは奇跡が偶然か、或人のアークを和らげることが出来たのだ…これがもし悪意を増幅させるアークワンにさっきまで変身していたならこうはいかなかっただろう。
或人は迷い始める、この殺し合いはただ目の前の障害を排斥しながら乗り切ってさっさと帰還するつもりであった。勿論他の罪なき参加者の命は最初から狙うつもりは無いが
或人は多くの人達をあんな残酷な死に方をしないように守るべきではないか
そういう従来の或人の考えに至ろうとしていたのである。
…だが忘れてはならない、そう簡単にゼンイの仮面ライダーに戻れるのならば
そもそもアークワンに変身できるようになるわけがないということを
或人は残酷な映像が流されているのを見てつい目を背ける為に名簿を見る事にしたのだ
その瞬間
滅の名前を見た瞬間、目を見開き
或人の心は再びアークに染まった
或人はまず全ての行動方針を滅を倒してから決めることにした。
それ以外は余計な事だと考え、考え無いことにした。
名簿に名前があった天津垓についてもだ
正直そこまで仲間になってから日も浅い為に考慮するに値しなかったのである。不破や刃等だったら違かったかもしれない
恐らく今の或人にはどんな声も聞こえないだろう
復讐に取り憑かれながらも或人はさっき話を聞いた子の近くからこの場にはいない事を聞いていた為に離れるように歩き続けた
皮肉にも目標である滅とは入れ違っていた事に気づかずに
そんな或人が橋を渡ってしばらく歩いた後に或人を見つけて大きい声で話しかけてきたのが万丈龍我だった。
「オイ、そこにいるお前、少し話良いか?」
最大限の警戒をしながら話しかける
第六感…もとい、万丈の鋭い勘で分かる…この男は殺気に満ちている。
既に臨戦態勢であるかのように、ベルトを装着している事からも分かるようにいつでも戦う気満々って奴だ…!!
もしかするとこの場にいる誰かにその殺気を向ける可能性がある以上ほっておくわけにはいかない
しかも装着しているベルトは俺達がずっと使ってきたビルドドライバー…!!悪用するつもりなら取り返さなくちゃな
…だが、万丈の第六感ともいえる勘の良さはまた別の事も告げていた。
この男と俺はどこか似ている、と
「…何だよ」
正直無視するつもりだった。滅を殺しに行くのに他の人との交流は必要ない
…だが、それでも滅が何処にいるのかを知る事は出来るかも知れないと思い、話だけは聞く事にした。
「俺のプロテインの貴公子、万丈龍我、今は仮面ライダー龍騎だ」
「…飛電或人だ」
殺し合いの場でこの自己紹介は不似合いだ。でも相手の様子を見る為に少しふざけてみたが…表情を何一つ変えないのを見て、万丈はより警戒を強める
「最初に聞くぞ、お前は殺し合いに乗って…いねェよな?」
いざという時はベルトを出す為に鏡が近くにある事を確認しながら…返事を待った
どう応えるべきか、或人は少し考えた。
多くの人達を殺すつもりなんてない、そもそも大切な人が死ぬ事の辛さは今自分が嫌でも身に染みている。
でもイズの仇であるアイツだけは許せない、アイツだけは確実に『倒す』…いいや、『殺す』
そういう意味では優勝するつもりはないとはいえ俺も殺し合いには乗っているのかもしれない
かいって「アンタには関係ないだろ」って言ったら絶対止めてくる。この人はそういう目をしている。
だから
「…俺が狙っているのは滅だけだ」
そう答えた。
「滅…?この名簿に載っている奴か?」
名乗った名前である飛電或人の近くにあったのが滅であった。
「そうだよ」
「…どういう奴なんだよ?その男は」
或人は滅がどういう奴なのか、今まで何をしていたのかを話した
万丈はその話を聞いて、確かに滅は危険な奴ではないかとは思った。
ヒューマギアという人にそっくりなロボットである事
そして人類を滅亡させる為にヒューマギアの存在や仮面ライダーの力を悪用し、それを止めようとした或人と幾度も戦った事、それでも自分は全てのヒューマギアに笑って欲しかった為に手を伸ばしたが拒絶され…挙句の果てに自分の大切な秘書で、パートナーであったイズという大切なヒューマギアを殺した事
万丈はこれらの事を知って認識を改めた、この男は危険な奴ではないと
しかしそれでも万丈は表情を少しも変えようとしない或人に対して完全に気を許すことは出来なかった。
「…だから俺はあいつを倒さなくちゃいけないんだ、アイツの居場所を知っているなら教えてくれ」
そう言ってくる或人に対して万丈は
「知らねェ、会った事もねェな」
正直に答えた
「そうか、もし会ったら気を付けてくれ」
そう言って或人は万丈が元々いた場所と別の場所に向かう事を考えながら別れようとした
…そうして去ろうとした瞬間であった
「…待てよ、最後に聞きて―事がある」
万丈に背後から声をかけられたのは
「…何だ、もうこれ以上アンタと話す事はない」
「お前さっきの大きな音聞こえなかったのかよ?何か起きたって事分かってるはずだろ?…行かないのか?」
万丈はその答えによってこのまま或人を見過ごすかを決める事にしていた
「…大きな音?」
「…まさか聞こえていなかったのかよ!?」
そう、敵キャラ…継国縁壱が紹介されていたのは最後であった。その時には名簿に滅がいる事を把握し、憎悪に染められていた或人には無惨の出した大きな破壊の音が聞こえていなかったのだ
万丈は嘘をついているようには思えなかったので…別の質問をする事にした
「だったら別の質問だ、俺達の今殺し合いに巻き込まれているよな?」
「…そうだな」
「でも巻き込まれているのは俺達みたいな力を持っている人だけじゃねぇ…笑顔の為に戦ってきたんだったらこの質問の意味、わかるよな?」
或人は嫌な予感がした…今まで戦ってきたからこそ察してしまう、ベルトを着けて歩いていた事を今更になって後悔し始めていた。例え人工衛星でなくても予測出来てしまう。この後に続く質問を
「お前…もし何も力を持っていねぇ人に会った時も…その復讐を優先するつもりかよ!?」
予想通りであった
飛電或人は言っている
そんなわけない、多くの人の心からの笑顔を守る為に戦う、それが例え変身できなくても『仮面ライダーゼロワン』だ、と
だが或人のアークはこう囁いている
他の参加者なんかどうでもいい、滅を殺す為の邪魔でしかない、無視してしまえ、と
この声を無視できるような状態の或人ならばそもそもアークワンになる訳がないのだ
或人のゼンイとアークがせめぎ合う。表情はそれを表すかのように苦痛を示していた。
嘘を付けばいいのかもしれない、だが或人のゼンイは嘘をつく事を否定していた。というのも、元々或人は自分がゼロワンである事を自分から不破に打ち明けた事が示すように、正直な人物である。その為に嘘をつく事は思いつかなかったのだ。
この様子も万丈はしっかり見ていた…或人がどういう男なのかを知る為に
そして…苦し紛れに出た答えは
「アンタには関係ないだろ…!!」
言った後に後悔する。この答えだとさっき止めてくるだろうと推測していたはずなのにそう答えてしまった。
或人は慌てて逃げるように、走り離れ始めた。
その瞬間
目の前に飛んできたのは烈火の様に燃える剣
剣は持ち主の意志を反映するかのように、或人の前に立ち塞がった。
「…そうかよ、だったこのままお前を通す訳にはいかねェ!!」
そして投げた持ち主は…言うまでもない、あの筋肉バカであった。
万丈はコイツと自分が似ていると思った理由が分かった…そう、『仮面ライダー』になる前の自分に似ていたのだ。
あの時の自分は自分の事しか考えていなかった、何で仮面ライダーが戦うのかも分からずに我武者羅に戦っていただけだった。
そのせいで辛い思いがした女性がいたのも最近だったな…それを思い返しながら改めて追いついた或人に向かい合う
今のこの男は大切な人の仇を討つ事しか考えてない事が万丈にはわかった。でもこの短い邂逅の中で根っこからの悪党じゃねぇ事はよく分かった。
この男には自分と同じような後悔はして欲しくなかった、『あの時に手を伸ばしていたら救えた命があったかもしれない』という後悔は
でも会話の中で、ただの会話じゃ止まらないという事はよーく分かった。それくらい敵討ちに捉われているという事は
(だったら気合入れて目を覚ませるしかねェだろ!!)
万丈は或人の前にカードデッキを鏡に映しながら立ち塞がる
「変身!!」
幾つもの鏡像が重なり、現れたのは、ミラーワールドの戦いを止める為に戦う仮面ライダー、龍騎である
「ほっといて欲しかったのに…!!」
歯を食いしばりながら龍騎をにらみつける
余計な体力と時間の消費はしたくなかったが、立ち塞がるのならば…退けるしかない
或人が取り出したのは黒い二つのフルボトルと赤い装置だ
『ハザードオン!』
『タンク!』『タンク!』
『ガタガタゴットン!ズッタンズタン!ガタガタゴットン!ズッタンズタン!』
『Are you ready?』
「変身」
『アンコントロールスイッチ!ブラックハザード!』
『ヤベーイ!』
現れたのは今の或人の心理を反映したかのような真っ黒い容姿をした仮面ライダー、メタルビルドである
万丈は仮面の中で驚いた、全く知らないボトルを使っている事も、そしててぇんさい学者が良く使っていたあのハザードトリガーも使われている事も
あれで変身すると特殊なフルボトルを使わない限り、正気を失ってしまい、心のない戦争兵器になってしまう事はよく知っている。警戒する必要があるかもしれないと万丈は考え、戦闘態勢を構えた。
殴りかかる龍騎、迎え撃つメタルビルド、こうしてライダー同士の戦いが今、始まる。
「おらああっ!!」
今、龍騎は格闘か故の怒涛のジャブで殴り続けている、メタルビルドからの攻めを許さないかのように、圧倒してきている。
龍騎のライダーシステムはカードを使わなければ正直特殊な能力を持っているわけではない
故に変身者の技能が物を言いやすい、その為に、何も考えずに身体機能を生かした攻撃をメインにしていく事にしたのだ。
(コイツっ…!!)
これに対しメタルビルドは…対応しきれていない、受け止めてはいるが、それでも時々攻撃が当たってしまっている。
これはそもそも或人の変身してきた仮面ライダーがゼロワンであったことも関係している。
そもそもゼロワンは主にケリをメインにしたピーキーな性能をした仮面ライダーだ。
故に殴り合いというのは今まであまりしてきてはいない或人には都合が悪いのだ。
その為、浦賀のように相手の攻撃を流すような戦法は取れず、押され続けているのだ。
このままではやられっぱなしだ、どうにか拳を受け止め、支給された武器を取り出す事でたい
「お前、多くのヒューマギアの笑顔に戦ってきたって言ったよな!?」
こうしようとする前に、問いかけてきた。だが龍騎は応えるのを持っていなかった、答えは分かっているからだ。
だからこそ続けて再び問う
「だったら人間の笑顔の為にも戦ってきたんだよな!?」
否定…出来ない、それが或人の戦ってきた理由そのものであったからだ
今更だが滅がどれほど邪悪であるのかを説明する為に自分の過去を詳しく話してしまった事を…後悔していた。そうでなければ過去と今の自分を比較されなかったはずだからだ。
そもそもここまで説得される事になる事を考えていなかったのは失敗だったのかもしれない
もしくは…もしかしたら無意識のうちに求めてしまっていたのかもしれない
自分の滅に対する本音を打ち明ける事が出来る人を
「お前はそんな自分を自分で裏切っている事に罪悪感を感じねぇのかよ!?」
あの時、あのモニターに写っていた無惨な殺戮を見た時に沸いた義憤の怒りは嘘なんかじゃない
それは本当だ
でも
「…うるさいんだよ!!」
身を焦がすような滅に対する憎悪も決して嘘なんかじゃない
メタルビルドは拳を力強く受け止め動けなくした瞬間に渾身の右足での渾身の前蹴りで蹴り飛ばす。
「くっ…!!」
素早い前蹴りで吹き飛ばされた龍騎は転がりながら体勢を整える
龍騎は感じていた、今の所ジョブでの圧倒しかダメージを与える事が出来ていないのも分かっていた。
殴ったこそ分かる、相手の変身しているビルドの装甲の硬さが手ごたえを感じる事が出来ていない理由であると
だからそろそろ別の殴り方に切り替えるべきか、それとも武器を使った攻撃にするべきか考えていた時であった
その結果、距離をとる事になった、となると相手は恐らく武器を取り出してくるはずだ
そして予想通り武器を取り出してきた、だが予想外であったのはその出した武器が、自分が知っている武器であった事である。
それはフルボトルバスター、戦兎がハザードトリガーを上手く使いこなす時に開発した武器である。
ならばこちらは
『SWORD VENT』
ドラグセイバーを召喚し対抗する事にした
ぶつかりあう剣が奏でる二重奏はどこまでも激しかった。
双方剣は元々ビートクローザー、アタッシュカリバー、プログライズホッパーブレードで使い続けた経験もある。
故にそれぞれの剣術は互角、勝負を決めるのは剣のリーチだと言えるだろう
だとすると不利なのは大きさに劣る龍騎だ。だがドラグセイバーの軽さはスピードでの圧倒を可能にしていた。
大きく振りかぶってくる剣を何度も剣をぶつける事で弾くのを繰り返す。
その結果、逆に押し返す立場になりながら鍔迫り合いの姿勢になる…!!
「今までのお前から逃げてるんじゃねぇぞ!!」
「アンタに俺の何が分かるってるんだ!!」
「分かるに決まってるだろ!!…俺も大切な恋人を失ったことあるからな!!」
「…!!」
「悪い奴等に強制的に怪人にされちまって…その時俺は何も力を持ってなかった、だから仲間に任せて、ずっと見ているしかなかった、そして体が弱かったから怪人になった時点で死ぬことが決まっていて…そしてそのまま消えていく彼女に対して…俺は何もできなかったんだ」
龍騎は鍔迫り合いながら冷静に自分の過去を話していく
「だから最初はその元凶が許さなくて戦ってた!!多くの力がねぇ人の事なんて気に留めてなかった!!…でもなぁ!!」
変身できなくても武器を手に人々の為に戦う永夢を見た、目の前の人をどんな立場になろうとも手を伸ばし続けてる映司を見た、自分のダチを全員護ると言った弦太朗を見た。
全員誰かに感謝される訳でもないのに命を懸けて戦う馬鹿ばっかりだった。
でも今の万丈は断言できる。もし彼らに会えなかったら今の俺はいなかった、と
「あいつらを見たから…会ったから…愛と平和の為に『仮面ライダー」の力を使うと決めたんだ…ソレが『仮面ライダークローズ』だと分かったんだよ!!(今は龍騎だけどな)」
そう言って龍騎は鍔迫り合いを制し、フルボトルバスターを弾き飛ばす。
龍騎は鍔迫り合いの間感じていた、話すたびに力が弱くなっていたのを
自分の言葉は届いている、そう確信した龍騎は改めて言葉をかける…!!
「お前の復讐したい気持ちはさっき言ったように、俺もスゲェ分かる!!でもそれは多くの力がない人達を無視してまでしたい物なのかよ!?」
メタルビルドは動きが
「そのイズというヒューマギアが本当に望んでいる事なのかよ!?」
…止まっていく
「…黙れ」
「あん?」
ボソボソと何か言っているのを聞こえた、その瞬間
「黙れェェェェェェッ!!!」
「うおッ!?」
大きく激しく剣を振り始めた!!
龍騎は察した。メタルビルドの考えが揺らいでいる事を、だからこれ以上迷いたくなくて、俺の言葉を聞きたくなくて本気で黙らせに来た、と
(…言いたい事は言った、後は戦いで俺の気合を伝えてやる!!)
龍騎はメタルビルドの刃を何度も振られていくのを避けながら見続けていく
怒りで散漫になっている剣術など長年戦ってきた龍騎にとって見切るのは簡単であり
(ここだ!!)
両肘と片膝で刃を挟み込み
『STRIKEVENT』
動きが止まったメタルビルドに右手に宿ったドラグクローから炎を放つ!!
「グッ…!!」
「オラァ!!」
「ガハッ!!」
炎で怯んだメタルビルドに更にフックを叩きこむ、ジャブよりも効果のあるパンチは見事に響いたようだった。
吹き飛んだメタルビルドは体勢を整え、フルボトルバスターをキャノンモードに変えて
『タンク!』
『フルボトルブレイク!』
メタルの性質を纏った光弾を放つ
龍騎は慌ててドラグセイバーで弾いたつもり…だったが
確かに弾く事自体は成功した。だが何とドラグセイバーは光弾に持ってかれたのである
そしてそれは近くにあった茶色い建物にぶつかり…何と溶けたメタルへと変わり、すぐに硬化してしまった
それは今の龍騎には武器がない事を意味していた。この機会を見逃さないように連続で撃ち続けてくる
龍騎は必死に避け続ける、さっきのドラグセイバーが示していたように、あれが当たるとメタルに包み込まれて身動きが封じられてしまう。そうなるとメタルビルドはすぐこの場を去るだろう
そうなる結果を望むわけにはいかない、連続の射撃を避けれる物は必ず避けて、避けきれないものはドラグクローの炎で爆発させて止める。
こうして距離を縮めていく、だがそれに対してメタルビルドが何もしない訳がない
『タンク!』『タンク!』『ジャストマッチでーす!』
…目前まで迫った瞬間、超デカいメタルの弾を出してきた
「やべぇ!!」
『GUARDVENT』
これに対しまずドラグシールドを盾になるように投げとばし空中でせき止めた後に炎を全力で出す。が、爆発の勢いが凄まじく、盛大に吹き飛ばされる
そしてその先に
『ガタガタゴットン! ズッタンズタン! ガタガタゴットン! ズッタンズタン!』
『Ready Go!!ハザードアタック!!』
「ぐああっ!!」
履帯状のエネルギーが正確にぶつかりダメージを与える
こうして距離を再び取られた、だがメタルビルドは更に追い打ちをかける
「あれは…!?メタルの斬撃かよ!!」
ブレードモードへ変形させ、メタルに覆われた斬撃を繰り返し飛ばす、奇しくもかつてのメタルクラスタホッパーの時の技と同じように
それだけではない、メタルビルドはメタルによって刀身を長く伸ばして遠くから直接斬ろうともしてくる
何とか反射神経を駆使して避け続けている、が、これを繰り返していたら絶対にアイツには近づけない
相手が暴走してくれたら近寄れるかもしれないがもうここまで長く正気である以上、暴走はしないと考えるべきだ、となると長期戦は不利になるだけだと確信した
一か八かだが、龍騎は使い慣れていない剣を使う事を決めた。
その名前は火炎剣烈火
炎の剣士、セイバーに変身する為の剣である。
この剣は持ち主の考えを反映して動く事もあり、とある暴走した未来からの仮面ライダーの攻撃を持ち主の考えを反映して止める事があった。先程或人を止めたのはこの効果を生かしたものである
この剣にもドライバーがついていた、だが肝心のライドブックがない為、変身する事は出来ないのである。
あの神の嫌がらせだろうか、それとも変身する為の物がこの舞台にあるからかもしれない
だがとなるとこの剣に意味はないのか?
…実を言うと、本が無くても必殺技は使う事は可能なのだ。
その為のホルダーはベルトにはもう装填済み
『読後一閃!!』
「おらぁ!!」
その瞬間、県は烈火の如く燃え、メタルの斬撃を切り伏せる…!!
「うおおおおお!!」
そのまま一気に肉薄…!!これに対しメタルビルドはリーチを優先していたが、威力を優先し、刀身を短くし、太さを上げる
そして二つの剣は先程と同じように鍔迫り合う…!!
「ウオラァァァァ!!」
「ぐぅぅぅぅぅううう!!」
力強くぶつかり合う剣、互いの想いを載せて一歩も引かない様子を見せる
勝ったのは
メタルビルドをアークから『救いたい』という想いで火炎剣を光らせる事が出来た
龍騎だった
「ぐああっ!!」
フルボトルバスターのメタルをそのまま焼き切り落とし、そのまま二回連続で斬りダメージを与える!!
…吹き飛んだメタルビルドは
『マックスハザードオン!オーバーフロー!……ヤベーイ!』
『ガタガタゴットン! ズッタンズタン! ガタガタゴットン! ズッタンズタン!』
…起死回生の必殺技を試みる
こうなると勿論龍騎も
『FINALVENT』
応じざるおえない
『Ready Go!!』
音声に応じるかのように、二人は同時にジャンプし
『ハザードフィニッシュ!!』
二つの蹴りがぶつかった
勝ったのは
図星だった
龍我さんの言っている事は
自分のどす黒い復讐の想いは…正しいって決めつけるのはいけないという事がよく分からされた。
でもそんなの認めたくなかった
それでも復讐をしたかった、アイツに
その思いを揺るがすあの人の声はもう聞きたくなかった。
だから振りきって攻撃し続けたのに力強く反攻してきて
逆に追い詰められて、必殺のライダーキックに賭ける事にした
でもその時に気が付いた
全然『跳べなかった』って
いつものキックの時より全然跳べていなかったっと
ここでゼロワンライジングホッパーとメタルビルドのキック力とジャンプ力を比べてみよう
ライジングホッパー
■キック力:49.0t
■ジャンプ力:60.1m(ひと跳び)
メタルビルド
■キック力:55.3t
■ジャンプ力:63.3m(ひと跳び)
他の形態ならともかく、少なくとも基本形態のライジングホッパーよりはメタルビルドのスペックは上なのである。だから今までより『全然跳べなかった』なんてありえないはずなのである。
とある無惨に声が似ている怪人はこういう言葉を残してる
『バ〜カ、どっちが強いかじゃねえ。戦いってのはなぁ、ノリのいい方が勝つんだよ!!』
多くの仮面ライダーは大体ノリに乗って勝ってきたと言っても過言ではない
事実シャイニングホッパーで負けたサウザーにゼロワンの変身資格を取り戻してノリに乗った時はライジングホッパーで圧倒していたり
圧倒的スペックを持つ仮面ライダーストリウスとの戦いでは最後の戦いの場面でブレイズとエスパーダはそれぞれタテガミ氷獣戦記とゴールデンアランジーナにならず基本形態でオールマイティセイバーと共に戦うが、足手まといにならず三人で物語の結末を決めている。
このようにスペックなんて割とひっくり返されやすいのだ
その為、龍騎の言葉を聞いて動揺を必死に隠しながら戦っているメタルビルドが『跳べる』道理なんてなく
そしてそんなライダーキックがノリに乗っているメタルビルドより全ての面でスペックが劣っている龍騎のライダーキックだとしても勝てるわけなかったのである
「ハァ…!!ハァ…!!つっかれたぁ…!!」
変身解除した万丈は倒れている或人が息をしている事を確認して息を吐く。
…五分後、或人は目が覚めて…開口一番こう言った。
「ごめん、万丈さん、俺、復讐の事しか頭になかった…」
「…分かればいいんだよ、何とか体張ったかいはあったな…後さん付けはやめろ、言われ慣れてねぇんだよ、万丈でいい」
改めて軽くとある建物の前で情報交換をする事にした。
「天津って奴そんな悪いことしてきたのかよ…本当に反省してんのか?」
「多分反省はしていると思う、行動は尊大なままだろうけど」
「尊大な奴か…でも本当に殺し合いに乗ってねぇなら接触はしなくちゃな…」
「そっちのメンバーではエボルト以外全員信用出来るって考えていいんだよな?」
「ああ、全員仮面ライダー…のはずだ、俺やお前みたいに全く違うライダーへの変身システムを使っている可能性もあるけどな」
こうして二人はG-5に歩いて辿り着いていた。
そして…薄々感じていた事がある。
「或人…お前まだ復讐は諦めてねぇだろ?」
苦虫を嚙み潰したような顔をしているのを見て図星だったな、としたり顔を見せた。
復讐に捉われないようにはなった、だが復讐自体はやっぱり諦める事は出来なかった。
その為に誰かを守らないとはもう言わない、だがそれでもやはり集団で行動して共に殺し合いを潰す…とは決めたくはなかったのである、それよりは滅を…倒したいという想いの方がまだ強い。
要は完全にアークからとらわれないようになったわけではなかったのである。
そこで万丈は別行動を提案した。
俺はドラゴンがいた方を行く、お前は滅を探す為に東の方に行ったらどうだ?と
集合する場所は次の放送を合図にF-5で合流しようぜ、と
「滅は俺としても倒した方が良いんじゃねぇかと俺も思う、復讐自体は否定しねぇ、ただ、誰かをその為に守ろうとしないのが嫌だったんだよ」
「…ありがとう万丈」
そして互いの支給品を確認した所…万丈は驚いたのである。
「クローズドラゴン!!お前が持ってたのかよ!!」
「…そういえば戦闘に使える武器以外碌に支給品確認していなかったからな、気づかなかった」
万丈が仮面ライダークローズに変身する為に必要なペットともいえる存在である…しかもガトリングフルボトルまで装填してある。
「…アンタに返すよ、それ、元々アンタのなんだろ」
「ありがとよ!!じゃあ俺は…」
バックをまさぐると…出てきたのは
「…こんなもんしかねぇな」
出てきたのはアナザーウォッチ…しかも或人が見た事がある物であった。
そう、アナザーゼロワンに変身するアナザーウォッチだ。
因縁深い物が今近くにある事に運命を感じていると…万丈は説明書を見て驚いていた。
「或人、これ、『ライダーに相応しい資格を持つものがこれを使うと、本当の仮面ライダーに変身できるアイテムに変わる』らしいぜ」
或人は驚いた、もしかするとこれを使えば、ゼロワンの力を取り戻せるかもしれないという事が分かったのだ
「…コイツはお前にやる」
「良いの?俺はまだ復讐を諦めている訳じゃないんだけど…」
「俺は信じる事に決めた!!お前と肩を並べてこの殺し合いをぶっ潰すことが出来る、ってな、それに多分メタルビルドは慣れてねぇだろ?だからこれを使ってゼロワンの力をさっさと取り戻しやがれ!!」
「…分かった」
そう言って万丈と或人は分かれ道で別れ、或人は草原の方へ、龍我は砂漠の方へさらに奥へ向かっていった。
或人は万丈と別れながら良い出会いだったかもしれないと思い返していた。
彼に会わなかったら俺はまだ真っ黒なままだったかもしれない
まだ復讐は諦めていないし、ダジャレを言う余裕もないけど、せめて会った人から話は聞いて行こうかとは思った。
そう思い足を大きく動かそうとした瞬間
託したはずのクローズドラゴンが何故か目の前に飛んできた
「え!?」
「おーい!!」
何と万丈が追ってきたのだ!!
「やっぱりそのクローズドラゴンはお前に預けておこうと思ってな」
万丈は向こうに行く或人を見て思ったのだ。まだアークが抜けきっていない或人を本当に一人にしていいのか、と
そんな時、相談相手としてうってつけの奴がいたと思い
クローズドラゴンを託すことに決めたのだ。ただ、何も貰わないのは或人も嫌だろうからフルボトルだけは貰うことにした
「コイツは可愛いけどうるさい奴だからな、お前もコイツを仲良くしていれば少しは気が晴れるんじゃねぇかって思ってな」
「…確かにうるさいな」
サンバじみた鳴き声を出しながら仲良くしようアピールをしているクローズドラゴンは確かに癒しになるかもしれないと思った。自分が前に発案したアイちゃんを思い出したのもあるだろう
「その代わり次会った時はビルドドライバーとハザードトリガーもまとめて返してもらうからなっ!!」
「…そうなるように努力してみる」
自信なさそうだがその目はさっきのような黒ではなく、少しだけだが希望の光も見え始めていた
こうして二人の仮面ライダーはまた分かれた。
1人はまだ信念と復讐との狭間で迷っていて、もう一人はまっすぐ己の仮面ライダーを信じて戦おうとしている
果たしてカレらの仮面ライダーはどのような顛末を迎えるだろうか
【飛電或人@仮面ライダーゼロワン】
[状態]:少々の疲れ、迷い、ダメージ(中)
[装備]:ビルドドライバー+メタルタンクタンクフルボトル+ハザードトリガー@仮面ライダービルド
[道具]:基本支給品一式、アナザーゼロワンライドウォッチ@仮面ライダージオウ×ゼロワン、令和・ザ・ファーストジェネレーション、フルボトルバスター@仮面ライダービルド、クローズドラゴン@仮面ライダービルド
[思考・状況]
基本方針:とりあえず滅をはか…倒す…
1:滅がここにいるなら必ず倒す…つもりだ、だから人は守るけどその後はすぐ離れたいな
2:垓さんか…まぁ頑張ってくれてるといいな
3:とりあえずあった人からは話を聞いていこうかな
4:万丈の仲間に会えたら礼と情報交換をしなくちゃな
5:エボルトに警戒
6:主催の人達は許さない、けど滅よりは優先度は…まだ低いな
7:不味いな、今の俺中途半端だ…でも誰かを守ろうと思えたことを考えると良かった…のか?
[備考]
※参戦時期は43話開始直後。
万丈はそんな或人を見送った後に…改めてメタルの液体が付着している。茶色い建物を見る。
nascita…自分が戦兎達仲間と共にすごしたよく知る大切なカフェである。
本当はここでゆっくり話したかったが、まずはあのドラゴンがいた場所を見てからだ、その後に探ってみる事にしたのだ。
そう決めて万丈はすぐ行動を再開する事にした。
正直身体はかなり痛い、2度も戦ってきた事の傷は簡単には治らない
それでも彼は進む、例えどんなに馬鹿と言われたとしても自分の『仮面ライダー』を信じて
【万丈龍我@仮面ライダービルド】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)
[装備]:龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎
[道具]:基本支給品一式、火炎剣烈火&聖剣ソードライバー@仮面ライダーセイバー、ガトリングフルボトル@仮面ライダービルド
[思考・状況]
基本方針:主催の奴ら全員倒して殺し合いを潰す。
1:あの破壊音も気になったけどそれより目の前で起きている事を優先した方がいいな!!
2:遊戯って奴が心配。
3:檀黎斗はもう絶対に許さねぇ
4:或人、信じてるからな…
5:戦兎、玄さん、カズミン、絶対生きてろよ、永夢もな
6:エボルト、滅を警戒、特にエボルトは一度共闘したからって信用出来るわけねぇ
7:爆発頭野郎(パラダイスキング)は次に会ったら絶対に倒す。
8:他にも仮面ライダーがいるのか知りてぇな
9:俺のフルボトル(ドラゴンフルボトル)はどこいったんだ?出来たら知りてぇな
[備考]
※参戦時期は『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』以降。
という訳で投下終了です、長期間キャラを予約し続けてしまいすみませんでした。
所で質問です。これからそれぞれの支給品の詳細を載せるのですが、実を言うとアナザーゼロワンライドウォッチは黎斗の大きなアレンジが加わっているものであります。ですが、この大きなアレンジに関して、私は二次創作や他のパロロワを交えて黎斗も少しでながら説明すると面白いのではないかと考えました。
ですが、正直長文はただ尺を取るだけになる可能性もあるのでは、短くまとめてどんなものなのかだけを書いた方が良いのか等を考えました。
私は以前、こういう時に主催の方に質問をして指示を聞かないで突っ走った結果、とても後悔する結果になりました。この時の事は深く傷として残っています。
なので、QUsdteUiKY様の返答によってどう書くのかを決めようと思います。それによっては一文で済ませようも思います。
後、場所と時間の記載を忘れていました。以下の通りです
【G-4 /一日目/黎明(喫茶nascitaの近く)】⟵黎明のかなり早い時間での出来事です
では失礼します。
ごめんなさい、上の文を訂正します。
私は以前、こういう時に主催の方に質問をして指示を聞かないで突っ走った結果、
→私は以前、こういう時に主催の方に質問をしないで勝手に突っ走った結果、
黎斗も少しでながら説明すると面白いのではないかと考えました。
→黎斗も少しまじえて
黎斗も少しでながら説明すると面白いのではないかと考えました。
→黎斗も少しまじえて説明(勿論このロワの根本には決して踏み込みません)すると面白いのではないかと考えました。です
再び打ち間違いすみませんでした
そしてタイトルも忘れてました。タイトルは「Ark vs Love&PEACE」です
宝生永夢、千代田桃、ポセイドン、野獣先輩で予約します
申し訳ございません、よく考えるとアナザーゼロワンライドウォッチについての執筆が出来るまで、他の書き手の皆さんがそれぞれの支給品を把握出来なくなる事を気づかなかったです。なので今から載せておきます。
支給品紹介
火炎剣烈火&聖剣ソードライバー@仮面ライダーセイバー
ワンダーライドブックを装填し、聖剣を引く事で仮面ライダーセイバーに変身できる、今作では、通常のライドブックでの変身は、ブレイブドラゴンがなければ変身する事はさできない。また、ドラゴニックナイト、プリミティブドラゴン、エレメンタルドラゴン、アルティメットバハムート以外の大型ライドブックでも変身は出来ない
本作では所持者の意志を反映して、自在に動かす事が可能です(仮面ライダー ビヨンドジェネレーションでの描写からの発展です。)
アナザーゼロワンライドウォッチ@仮面ライダージオウ×ゼロワン、令和・ザ・ファーストジェネレーション+決闘ロワ
起動して身体に埋め込む事で埋め込まれた人物をアナザーゼロワンという怪物に変化させる。このロワでの特別な設定として、『善意に満ち溢れた状態+ゼロワンへの変身の適正者が使用した場合、リアライジングホッパー+飛電ゼロワンドライバー、普通の善意+適正者の場合ライジングホッパー+飛電ゼロワンドライバーに変化するが、非適性者or普通の悪意所持者の場合そのまま変化、悪意に満ち溢れた人が変身した場合アナザーリアライジングホッパー…つまり姿は変わらないが超強化されて変身することになる』となっている
許可を貰えたら、このオリジナル設定がどのような経緯でそうなったのかを描きたいと考えています。
フルボトルバスター@仮面ライダービルド
桐生戦兎がフルフルラビットタンクフルボトルと共に開発した武器、特に原作からの変更はありません
クローズドラゴン+ガトリングフルボトル@仮面ライダービルド
ドラゴン型自立ロボット、今作ではガトリングフルボトルが装填されたまま或人に支給された、ガトリングフルボトルは万丈がもらい、クローズドラゴンは或人について行くことになった。制限もされてはいない
また、これに伴って、天津垓に支給されている、滅亡迅雷フォースライザー&プログライズホルダー@仮面ライダーゼロワンのライジングホッパーを通常のプログライズキー(後の書き手にお任せします)に変更してよろしいでしょうか?今の所ロワに大きく関わっていない事から変更が可能なのでは?と思いました。無理ならば別の所持品に変更します。
よろしくお願いいたします。
投下乙です
質問へのご返答が遅れてしまい、申し訳ありません
アナザーゼロワンライドウォッチの件、了解しました。オリジナル設定に至った経緯をぜひ描いてほしいと思います
ありがとうございます。では書かせて頂きます。
状態表の後に追記してください
…さて、このアナザーゼロワンウォッチ、普通のアナザーウォッチではない
万丈は詳しく見ていなかったが、説明書の裏には善意に満ち溢れた状態+ゼロワンへの変身の適正者が使用した場合、リアライジングホッパー+飛電ゼロワンドライバー、普通の善意+適正者の場合ライジングホッパー+飛電ゼロワンドライバーに変化するが、非適性者or普通の悪意所持者の場合そのまま変化、悪意に満ち溢れた人が変身した場合アナザーリアライジングホッパー…つまり姿は変わらないが超強化されて変身することになる…という詳細が描かれている。
こんなオリジナル設定もりもりのウォッチ、どうやって作ったのか?そしてどんなきっかけで出来たのか?
…始まりは、神…檀黎斗がこの殺し合いゲームを開催する時から始まっていた
殺し合いには本来殺し合いに乗っていない人も暴走させる事で疑似的に殺し合いに乗らせることが出来る為のアイテムも必要だと考えていた…ゲームにはそのような刺激も盛り上げる為には必要不可欠だと知っていたのだ。
そこに暴走させられる人の気持ちを考えるような男であればそもそもこんな殺し合いを開かないだろう
さっそくそのようなアイテムを探すがまずは自分がいる世界を観測して調べる事にした。
だが精々タドルファンタジーやドラゴナイトハンターぐらいしかなかった
これでは誰でも暴走は出来ない、次は自分がいる他の世界を観測したのだ
…その結果、最高の物を見つけた
その名前はアナザーウォッチ、変身者は仮面ライダーにそっくりだが邪悪な容姿をしており、変身者の大半は暴走している。変身方法は身体に埋め込むだけである。
彼はこれを使う事にした。
そしてどのウォッチを使うか、まずは自分の開発したライダーエグゼイドのアナザーであるアナザーエグゼイドが真っ先に思い浮かんだが、神である自分が設計したライダーデザインとゲームキャラを侮辱したアナザーライダーなど許せない
もう一つ許せないのはアナザーオーズだ、平行世界の自分を神より格下たる王に変貌させるライダーなど存在自体してはいけない
となると…次は予選も含めた参加者の世界のライダーのアナザーライダーを出す事だ。
アギト、龍騎、リュウガ、ブレイド、キバ、ディケイド、ディエンド、フォーゼ、鎧武、ドライブ、ゴースト、ビルド、ジオウ&ジオウⅡ、1号
どれもアナザーライダーとして理想的だ。ディケイド、ジオウ、リュウガ、1号の強さは素晴らしいものであるし、ドライブ、カブトも殺し合いでは厄介なアナザーであるだろう、アギトなんて多数の人物を暴走することが出来るかもしれない(…もしかしたら他の参加者にもこれらのウォッチは紛れているのかもしれない)
だがこれらの中で一番惹かれたアナザーライダーはゼロワンだ
何故だ?そこまで強いアナザーライダーではないだろうと多くの人達は思ったはずである
それでも選んだのは、参加者であり、ゼロワンの変身者である飛電或人がいたからだ
殺し合いに相応しいタイミングで彼を呼び寄せたが、そんなアークに堕ちている或人に悪のゼロワンは相応しいだろうという邪悪な考えを導き出したのだ。
彼の場合はアナザーゼロワンをすぐにゼロワンの力に戻しちゃうのでは?とも一瞬考えたがアナザーシノビの例がある。彼は仮面ライダーシノビの変身者であったが、ライダーになる因子が足りなかったせいかアナザーシノビに変貌してしまった。ならば今の或人ならばそう簡単に変わりはしないはずだ。
それで普通に簡単に或人に行き渡ってもつまらないので他の参加者に配布していたらそれで終わりのはず…だが
彼をゼロワンの世界で見た物を思い出した
それはアーク同士の彼等、この世界に呼んだ二人が殺し合いに巻き込まれなかった場合の世界を見ていた時
彼は見たのだ
リアライジングホッパーの神速かつ柔軟、そして華麗な動きを
何故か黎斗は魅入られていてしまっていたのだ
かつて同じような動きをしていたような気がする…というよりすごく親近感を感じる動きをしていたのだ
そんな動きをこの殺し合いで全く見れないのは神的に不満があった
だから決めたのだ、これをゼロワンの力に戻るようにする事が出来るようにしたい、と
だがそんな事、出来るのだろうか?アナザーウォッチの機能など黎斗には管轄外である。
そこで、彼はアナザーウォッチがある世界…ジオウの世界をまず観測したがそのような現象はなかった
…ならば二次創作の世界を観測してみたらどうだろうか?と考えた神は二次世界にその為の方法を見る事にしたのだ
…こういう殺し合いに、二次創作を持ち出すのは普通ナンセンスだと思う人は多いはずだ
パロロワとはもしあんな作品やこんな作品の人物が殺し合いに参加したらどうなるんだ?と思う人が参加させる物語を作ってそれが集まる事で出来るものだ。
そしてそれは一時創作がメインになるのが普通だ。二次創作は多くの人が自由にやれるのでそんな人物が殺し合いに巻き込まれたところで無限に設定は生やせる、その時点でその殺し合いの貴重度は下がると考えても過言ではない、故に一時創作が優先されるのは当然であるはずだ。実際、ニコニコロワイヤル、辺獄ロワイヤル等キャラの性格を改変したロワ、或いは改変されたキャラが参加したロワもないわけではないが数は少ないのだ。
だがこのロワでは問題はない、当然である。磯野タラオ、マサツグ様、真夏の夜の淫夢勢
キャラが多く改変された二次創作由来のキャラがいるのだ。そのような作品に二次要素を持ち出す事に躊躇を感じる必要はないのだ。
こうして二次創作を見て行く中で、彼は…見つける事が出来た。そのような現象が起きた世界を
その名前は『仮面ライダージオウIF―アナザーサブライダー―』
様々なアナザーライダーが多く現れて、サブライダーアーマーも豊富にある世界だ。
そしてその現象を起こしたのは常盤ソウゴとその忠臣であるウォズだ。
『ジオウ……』
「何か……行ける気がする!」
「未来の切り拓き方は、既に我が魔王が標してくれている!」
『ウォォズ』
その世界でのOver Quartzerとの戦いでそれぞれジオウとウォズへの変身手段を失った二人が自らの歴史を流し込む事でアナザーウォッチから正しいライドウォッチへと変化させる事が出来たのだ
神はこの様子を見てまず、この世界のアナザーゼロワンライドウォッチを取ろうとしたが観測することは出来なかった、あの世界ではアナザーバルカン、バルキリー、滅。迅がゼロワンと同系統のライダーのアナザーはあったが、ゼロワンはなかったのである。
仕方がないのであの世界のブランクウォッチを拝借し、それにアナザーゼロワンの力を流し込むことに決めたのだ。勿論この世界でも同じ現象は起こせる可能性はあったが、実際にアナザーウォッチが進化することが出来た世界のウォッチの方が可能性は高い為にそちらを選ぶことにしたのだ
こうして流し込む準備を決めた所で…少し手が止まった。
このままでは一方的に参加者に利益をもたらすだけだ。デメリットを増やす為に何か措置が出来ないか?
そう考え、アナザージオウの例を思い出す、アナザージオウの変身者加古川飛龍は常盤ソウゴに対する怨みだけでアナザージオウⅡへ進化させていた。
だがこれは変身者由来だ。誰でもデメリットが増えるわけではない。
となると誰でもデメリットを増やす為にはどうすればいいのか
神は再び二次創作を検索し始めた。
そして…見つけた
その世界の名前は『NEXT TIME 仮面ライダーヒリュウ、ファースト』
その世界に現れたタイムジャッカーフィーニスは歴代のアナザーライダーの怨みをブランクウォッチにため込むことでブランクウォッチ自体も進化させることが出来ると分かった。
そこで彼が恨みの代わりに使う事を決めたのはゼロワンの世界のアークのデータであった。
アーク…悪意を別の力に変えることが出来るのは既にゲンム無双が証明している。
つまり今回のアナザーゼロワンライドウォッチは
if世界のブランクウォッチにアークを流し込み、そしてそれにアナザーゼロワンの力を保存させる。
こうして下手するとアナザーリアライジングホッパーとも呼べる強さを持ってしまうハイリスクでもあるが、もしかしたらリアライジングホッパーにもなれるハイリターンなアナザーウォッチが完成したのだ。そのウォッチの淵は黒くは染まっておらず、赤黒く染まっていた。
こうして完成したウォッチは更に思わぬ効果をもたらしている事も黎斗は把握している。
それは、アークの力の影響かは分からないが、例え本当の変身者である飛電或人であってもこのアナザーウォッチは暴走しやすくなるという効果だ。勿論心の在り方次第で制御は出来るが、下手するとメタルクラスタホッパーの再来になるだろう。
正しく神がこの殺し合いを刺激的に面白くする為に作られた最高傑作と言えるアナザーゼロワンライドウォッチ、この殺し合いにもたらすのは災厄か?それとも神の恵みか?それは最高神でもまだ分からない。
以上でアナザーゼロワンライドウォッチの説明は終了です。
後は細かい修正はスレの中でしていきます。
因みにタイトルは修正できないようなので、私が執筆した『受け継がれるクロスファイアと黄金の精神』のタイトルを『受け継がれるクロス・オブ・ファイアと黄金の精神』に修正して頂けると嬉しいです。
後すみません、『その時点でその殺し合いの貴重度は下がると言っても過言では無い』という文章は『その時点でその殺し合いに原作のキャラが参加しているという事実は多くの人に受け入れられにくくなるだろう、それでも面白ければ受け入れられるかもしれないが』という文が正しいです。間違えました。
そしてタイトルと一文の文章を祝井様の執筆した
『NEXTTIME 仮面ライダーヒリュウ、ファースト、転、ヘンシン2013』
とK/K様が執筆した。
『仮面ライダージオウIFーアナザーサブライダー Over Quartzer その8』
と
『仮面ライダージオウIFーアナザーサブライダー Over Quartzer その13』
から抜粋しました。参考にしていただけると幸いです
【重要なお知らせ】
…本当に申し訳ございません。
私が投稿したアナザーゼロワンライドウォッチの説明の反応を見た際に、不安に思い、二次創作について調べた結果、二次的著作権という物がある事を初めて知りました。
私はまた繰り返し過ちを犯してしまいました。
なので
『こうして二次創作を見て行く中で〜選ぶことにしたのだ』の文を
こうして様々な創作を見ていく中で、彼は仮面ライダージオウとその忠臣である仮面ライダーウォズが変身手段を失った時に、力を注ぐ事でアナザーウォッチを正しいライドウォッチに正す事が出来た世界があるのを知り、その世界のブランクウォッチにアナザーゼロワンの力を移す事に決めた。
『神は再び二次創作を〜出来ると分かった』という文を
神は再び二次創作を…探る前にふと考えた。恨みの感情でアナザーウォッチが進化するのはもしかするとブランクウォッチの段階でも同じように進化させることが出来るのではないか?試してみる価値はあるな、と考えたのだ
そしてif世界は→見つけた世界
という文に修正をお願いします。
本当に無知ゆえに間違えてしまい、すみませんでした。
ごめんなさい、更に追記です。
実際、ニコニコロワイヤル、辺獄ロワイヤル等のキャラの性格を改変したロワ、或いは改変されたキャラが参加したロワもないわけではないが数は少ないのだ。という文も「実際キャラの性格を改変したロワ、或いは改変されたキャラが参加したロワもないわけではないが数は少ないのだ。」に変更します。
そして最悪この追記文章は破棄でも仕方がないと思いました。自分は本当に余計な事をしてしまったかもしれないと後悔しています。
本当に申し訳ございませんでした。
どうでもいいから毒吐きの自演擁護やめろよ。決闘でもお払い箱になるぞ。
>>188
まずはオリジナル設定に至った経緯を描いてくださり、ありがとうございます
ただ二次創作作品を持ち出すことはあまり良くない行為でして、淫夢やマサツグ様も「ミーム汚染」であり明確な二次創作作品ではありません
なので今回の追記部分は非常に申し訳ありませんが、破棄という処置を取らせていただきます
氏の仮面ライダーに対する想いは同じ仮面ライダーのファンとしてもリスペクトしていますし、そこまで強く責めるつもりはないのでまた機会があれば投下してくださると嬉しいです
今回は申し訳ありません
投下します
「…こんなところにあったのか」
散乱していたデイバッグの一つに入っていたそのガシャットを、永夢は自身のデイバッグに入れた。
その近くには、2人の遺体が整列して並べられていた。
吉田清子と鹿目まどか。犠牲になった者の支給品を一瞥した後、永夢は「…ごめんなさい、使わせてもらいます」と手を合わせ黙祷をささげた。
「怪我は大丈夫ですか、桃さん?」
「……心配しないで」
先程の惨劇から、どれくらいの時間が経過しただろうか。
永夢は惨劇の目撃者、千代田桃と同行することに決めた。
◇
「僕は、黎斗さんがもう蘇らないように、消さないといけない。」
先刻、永夢は、空虚な笑顔で桃にこう告げていた。
「……あなたは、あの男の事を知ってるの?」
永夢の表情は変わらない。
「はい。僕は、あの人のことを.....誤解していました。だから、僕が消さなきゃいけないんです」
「……だったら、なんで私達が狙われたの!シャミ子やわたしだけじゃなく、何で良ちゃんや清子さんまで、こんな.....!私たちは、あなた達に何かしたかな!?」
「……何もしてません」
永夢は、虚無の表情でそう答えた。
「あの人は、無差別にウイルスをまき散らすように、人を巻き込み、殺し合いを行っているんだと、思います」
「……っ!」
「あなた達は、何も悪くありません。……悪いのは、僕です。」
そう言って、永夢は白衣を脱ぎ、桃に向かっていく。
「……何を、する気?」
「……僕は、あの人を止める機会が何度でもあったはずなのに、止めなかった」
そして、Tシャツの上に着ている白衣を破き、一片の布切れにした。
「あなたの大事な人を守る、協力をさせてください。僕は、あの人との決着を着けないといけない。…そして、その腕の傷を、止血させてください」
お願いします、と永夢は丁寧に頭を下げた。
◇
桃は、永夢の作った即席の包帯を左腕に巻いていた。
「消毒など、できればよかったのですが……すみません。」
「気にしないで。それより……これから、どうするの?」
永夢の謝罪を桃は適当に受け流し、今後の方針を問う。
「……先程お話しした通り、僕の目標は平行世界移動装置、エニグマです。そしてその装置を制御できるのは、僕が知る限りでは仮面ライダービルドだけです」
永夢は、桃の傷の処置をしている間に簡易的に自身の持つ情報を話した。
檀黎斗は自分達の世界の人物であること、並行世界を移動する装置の存在、この殺し合いに呼ばれている自身の関係者。
そして……自身と同行していた、百武照の事を。
「僕もあの男に受けたダメージがありますし....別れても、生き残る確率は少ないと思います。...だから、シャミ子さんと、良さん、照さんとビルドが見つかるまで、一緒に行動しませんか?」
「....分かった。でも、いざという時、わたしはシャミ子と良ちゃんの命を最優先にして動くから」
桃は、覚悟を決めた瞳でこう言い放った。
「...構いません。多分、何かしら細工はされてると思いますが、エニグマさえ見つかれば、...首輪さえ解除すれば、理論上はこの殺し合いからの脱出は可能です」
それと、と永夢は付け加え、
「僕が知る限りでこのゲームを攻略できる方法は、主に三つです」
1.ハイパームテキガシャットを見つけ、殺し合いに乗った敵をすべて倒し、黎斗の元に辿り着く。
2.マイティクリエイターVRXガシャットを見つけ、殺し合いの出口を作る。....これは、ここが仮想現実の世界だった場合のみ有効です。
3.上記の物がどうしても手に入らなかった場合は....ブランクガシャットさえあれば、僕のゲーマーMの力でこのゲームを攻略できるガシャットを新たに創ります。これは、黎斗さんに制限がかけられていなければ、の話ですが。
「……それは、データのないガシャットさえあれば自由にガシャットのデータをプログラムできるってこと?」
「はい。ただ、僕にはブランクガシャットそのものを作る能力はありません。手に入れるか....新たに、創るかです」
「創る....それで、『ビルド』を探しているってこと?」
「そうです。ガシャットの精製が無理でも、ゲーマドライバーさえ直せば、僕はレベル99に変身できますから」
当面の方針は決まった。
シャミ子と良子の保護を最優先にしつつ、永夢達はゲーマドライバーの修理とブランクガシャットの精製のために、仮面ライダービルドを探す。
「では、行きましょう、桃さん。...彼女らとは、少しお別れです。」
そう言って、永夢は移動する準備をする。
それに反応するように、桃は、デイバッグとともに並べられた2人の遺体を見つめた。
「....清子さん...まどかちゃん。」
桃は、瞼を開けることのない二人に語りかけた。
清子さん。
シャミ子と良ちゃんは、絶対に私が守って見せる、だから、安らかに、休んでください。
まどかちゃん。
....さっきは本当に、助けてくれてありがとう。...あなたを助けられなかった事を、私は一生悔やみ続ける。
だけど、あなたを守れなかった分だけ、私は私の守りたい人を救けてみせる。...だから、安心して眠って。
そう呟いて、桃は見開いた二人の瞼を掌で閉じさせた。
そして、静かに黙祷を捧げた。――もう二度と、自分の目の前で犠牲者が出ないように祈りながら。
「……」
「遅くなっちゃったね、永夢さん。行こ?」
桃は、吹っ切れたような、覚悟を抱いた顔をしていた。
永夢は、自身の持っているガシャットの片面、ノックアウトファイターのパッケージを見た。
――二人を火葬して、埋葬することも出来た。だけど、僕はそのことを言わなかった。
それは、狼煙が見つかることもあったけど、それだけじゃなかった。
ゲームを攻略して、ここに戻ってくる。そう、僕は決意していたからだ。
そして、全てが終わったら、この人達の遺体を、元の世界に戻してあげたかった。
永夢は、桃に応じようとした。
「――はい、行きましょう、桃さ―――!」
「貴様等に....先があると思うか?雑魚(カス)が」
永夢達の進む方向とは反対方向。
突如、怒っているような、男の声が乱入した。
「....っ!」
「―――ッ、変身!」
「PERFECT PUZZLE!!」
永夢も桃も、目の前の男について問う事をしなかった。
空気が振動するかのような怒気と、血濡れの槍。
その男が持つ槍には、脳症のようなどろっとした血だまりがこびり付いていた。
数瞬、その男...神、ポセイドンが駆ける。
この神は、駆ける前に二人の蓄積されたダメージ量を一瞥していた。
結果、外傷が比較的少ない、永夢の方を狙い....。
「whats the next sta-――」
「がっ、ぁ」
「......え?」
無事、フレッシュピーチに変身を完了した桃の前に、大量の血飛沫が飛び散った。
その一閃は、音を置き去りにし、標的の内臓を露出させ、焼けるような痛みが、後から付いてきた。
永夢は、変身を行うより前に....ポセイドンの槍、トライデントの串刺しになった。
「永夢、さん?」
あまりの力量差故に、目の前に起こった光景を、桃は信じられず呆然としていた。
「雑魚が」
勝負は決した。トライデントに付着しているそれに、興味はもう無かった。
「……フン」
ポセイドンは、瞬時に1mは突き刺さっている永夢の腹部から、切り裂こうとした。
....が、永夢の腹部を、両断することが出来ない。
「.....?」
「がっ、うっ」
「Dual up! Perfect Puzzle!!」
永夢の肉体が、遅れて変身――身体の強化プロセスを進めていたからだ。
ガシャットのGGハイパーモジュールから、ようやくゲームのデータが実体化される。
「.....まだ、ゲームは....終わって、ない.....。」
永夢は、意地でもポセイドンの槍にしがみ付く気でいた。
だが、次の瞬間には、パラドクスの右脇腹がブチュ、という音を立てて破裂した。
「フッ、雑魚が」
永夢の身体の残りの部分が吹き飛ばされ、次は、桃の方へと、着実に狙いを定める。
「...ぁ、ぁ....!」
「雑魚が。……お前の方は、よく弁えているようだな」
桃は、確信していた。
先程の、片桐と名乗っていた怪人とは桁違いの戦闘能力を。
この男に、私がどう足掻いても勝てる訳がないと。
「……死ね。その死を持って、神に道を譲れ」
「…………ぅ、」
ただ、桃は、恐怖しながら。処刑を待つのみであった。
◇
「....ぅ.......。」
右脇腹が、ない。僕はもう助からないだろう。
僕は、自分が、まだ息をしていること。
目を開けていられることが、生きていることが奇跡だと感じた。
そして、まだ息が続いていることに、感謝した。
僕のライダーゲージは.....変身が間に合って、1だけ、残っていた。
少しだけで、いい。動いてくれ、僕の身体。
◇
こんなにも無慈悲に、永夢さんは死んでしまった。
――そして、次は、私の番だった。
「死ね。雑魚が」
目の前の男の、音すらも超越した閃光が飛んでくる。
ごめんね、シャミ子。わたしは、もう貴方とは会えないみたい。
でも、やっぱり―――
「悔しい、な」
トライデントの一閃の衝撃で、千代田桃の上半身は破裂する。
はずだった。
「――?」
いつまで経っても、その時は訪れない。
「......が、ぁ」
桃は目を開ける。
ポセイドンの槍は、桃とは見当違いな方角に空を切り、槍の持ち主は、吐血した。
「........裏ワザ、だ」
そこには、左脇腹に風穴が空き、臓器を露出させたパラドクスがいた。
「永夢さーーー」
桃は、永夢が生きていたことに驚愕し、そして――永夢が腸を露出させ、もう生命が助からないであろうことに絶望した。
だが、尚も仮面ライダーパラドクスは立ち続ける。
そして―――余りにポセイドンの槍が速すぎたため、ラグが起きたかのように遅れてアナウンスが流れた。
『挑発!』
『逆転!』
―――パラドクスが使ったアイテムは「逆転」「挑発」。
ゲーマドライバーを使う仮面ライダー達が展開するゲームエリアでは、『エナジーアイテムを使えるのはゲームエリア内にいる者のみ』と考えるのが当然だ。
だが、永夢達が戦った記憶において、檀黎斗によってそのようなルールが明記されたことは一度もない。
目も掠れ、瀕死の永夢の取った行動はただ一つ。
『パズルの配置を操作し、『逆転』エナジーアイテムのオブジェクトに、『挑発』エナジーアイテムを使用した』。ただそれだけだった。
結果――「挑発」のエナジーアイテムの効果によってポセイドンの拳は空を切り、獲得した「逆転」のエナジーアイテムによって、瀕死の永夢とポセイドンの『体力』(ライダーゲージ)が逆転したのだった。
「……桃さん、こっちに、来てください」
パラドクスに変身した、永夢のの足取りが、崩れ落ちる。
「……永夢さん!」
永夢が助かるか、助からないかなんて、今の桃にとってはどうでもよかった。
桃は、もう、後悔したくは――目の前で人を喪いたくはなかった。
だから――永夢を抱えてでも、この場を離脱しようとした。
――大丈夫。ダークネスピーチの力をフルに使えば、永夢さんを抱えてこの場から逃げ出せるはず。――
だが、パラドクスは破かれたスーツからデイバッグを取り出し――瀕死の力で桃の所に投げた。
デイバッグが宙を舞い、桃の足元に落ちた。
「これを持って、逃げてください」
永夢から告げられた言葉は、別れだった。
そして、桃に、永夢が最後に選択したエナジーアイテムが届けられた。
「君の、運命は、僕が変えるから」
『透明化!』
「―――え?」
三番目に選んだエナジーアイテムの名はーー『透明化』。
永夢は、桃にこの場を離脱するよう託したのだった。
「ごめんなさい、桃さん――照さん、を、黎斗さんを、お願いします」
ひびが入り、壊れたパラドクスの仮面から、それでも、永夢の顔は笑っていた。
「え、嘘、永夢、さ」
「早く、逃げて!」
「....そこ.....か、雑魚が」
感じたことが無いにも等しい、ポセイドンの身体を引き裂くような激痛。
ポセイドンは尚も、トライデントを握り気配がする場所へ投擲しようとする。
「.......させない」
永夢の失血も、致死量を超えていた。
「逆転」のエナジーアイテムの効果は、あくまで双方の「体力(ライダーゲージ)」のみ。
謂わば、永夢は麻薬以上の何かを打ち、無理やり身体機能を「回復」させているに過ぎなかった。
勿論、外傷を、この風穴を治す術は、ない。
「お前の運命は....ここまでだ」
永夢は、痙攣し、震える手でガシャットをギアホルダーに入れた。
「この、人間如きが....!」
激情を露にしながらも、ポセイドンは桃への投擲を諦め、構える姿勢を見せた。
それは、神を冠する彼自身が初めて体験した「窮地」であった。
「KIME WAZA! PERFECT CRITICAL COMBO!!」
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
永夢は、叫びながらポセイドンにライダーキックを放とうと駆け抜けた。
「SLASH」
だが。何者かの刃が永夢の胸に突き刺さった。
「お前、生きすぎィ!じゃけん、さっさと逝きましょうね〜」
「がっ」
永夢は直後に何が起こったのか、わからないような顔をしていた。
そして、最後の気力で振り返り、その目に見たものは――
「ブレ.....イド......」
宝生永夢が最期に見たものは、見覚えのある昆虫の貌をした銀の仮面だった。
その身を生贄に捧げ、王手直前だったドクターの生命は、以前助けられた剣の名をを持つ戦士によって、今度こそ葬られた。
【宝生永夢@仮面ライダーエグゼイド 死亡】
◇
「お ま た せ ブレイドって言うんすね〜この仮面ライダーの名前」
満悦そうな笑みを浮かべて、ブレイドーー野獣先輩は宝生永夢だった死体の胸部からブレイラウザーを引き抜いた。
◇
「(この状況....どうすっかな〜俺もな。)」
数刻前まで、野獣先輩は部活の先輩の言葉を流用しながら、事態を静観していた。
先輩は、ポセイドンより一足遅れて街へ着き――永夢と桃、ポセイドンとの闘いに出くわした。
その結果、彼がとった行動は――静観、そして、可能ならば漁夫の利を得ることだった。
そして、結果野獣先輩に訪れたのは行幸――仮に永夢達が成すすべなく全滅していたら、次に襲われるのは近くにいた野獣先輩だっただろう。
だからこそ、野獣先輩はこのタイミングーーポセイドンが最も弱った時期を見計らい、動いた。
最後に配られた支給品を使い、神(ポセイドン)を自分の奴隷にするために。
◇
「何を、する気だ……?雑魚、が」
「これ、試しておきたいんすよね〜」
野獣先輩の持っていたカードは《洗脳-ブレインコントロール》。デッキとは別に支給されていた。
先程の戦闘の一部始終を見ていた野獣先輩だったが、仮にポセイドンが健康な状態でこのカードを使ってもカード発動の詠唱までに殺されるだけだと判断していた。
「....この....っ」
「あ、抵抗するんすか?いいよ、来いよ!」
洗脳。その言葉が意味するものをポセイドンは理解し、屈辱と怒りに任せ、トライデントを振り被る。
対する野獣先輩も、ラウズカードを読み込んだ。
「MACH」
「(加速)行きますよ〜行く行く....ヌッ!」
野獣先輩はラウズカードの力で加速し、瀕死のポセイドンの槍より先に、懐に潜り込んだ。
「SUNDER」
「BEAT」
「胸に(殴打)かけて胸に.....ホラホラホラホラホラホラァ!」
「ぐ、あっ...!」
電撃を纏ったラッシュによって、ポセイドンは頭部をボコボコにパンチを喰らっていく。
海神凌辱にも等しい甚振りによって、ポセイドンはついに倒れ、昏倒した。
「魔法カード発動しますよ〜やっぱり僕は...王道を行く、洗脳(ブレインコントロール)ですかね(意味不明)」
いよいよ大詰めだ。力尽き果てた海神に対し、野獣先輩は魔法カードを発動させた。
果たしてその効果は参加者にも使用できるのか、NPCのモンスターのみなのか。効果が無ければブレイラウザーのコンボで切り裂くまでだ。
「(暴れんなよ....暴れんなよ......(畏怖))」
先程の悪役ムーブとは打って変わってクッソ情けない心の声とともに、野獣と化した青年は魔法カードを発動させた。
【B-5(南側住宅街)/一日目/黎明】
【野獣先輩@真夏の夜の淫夢】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)
[装備]:滅の日本刀@仮面ライダーゼロワン、ブレイバックル@仮面ライダーブレイド
[道具]:基本支給品一式×2、デュエルディスク+デッキ@???、ガシャットギアデュアル@仮面ライダーエグゼイド
[思考・状況]
基本方針:勝ち残り遠野を生き返らせる。
1:じゃけん洗脳使いましょうね〜。
2:白コートの剣士(鋼牙)や厄介そうな参加者は悪評を流して同士討ちを狙う。
3:仮面ライダーブレイドの名を利用する。
4:後でデッキの力も試しておきたい。
5:遠野を殺した奴は絶対に許さない。
※バトル淫夢みたいな戦闘力があります。
※ポセイドンに対して<<洗脳ーブレインコントロール>>を使用しました。影響は後続の書き手にお任せします。
【洗脳ーブレインコントロール@遊戯王OCG】
野獣先輩に支給。
モンスター一体のコントロールを得る効果。
本ロワにて参加者やNPCなどに使用できるかは現時点では不明。
【ポセイドン@終末のワルキューレ】
[状態]:内臓にダメージ、疲労(極大)、打撲(超軽微)
[装備]:トライデント@終末のワルキューレ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]基本方針:???????????????????
1:雑魚.....が.......
2:一刻も早く雑魚(カス(参加者))共を殺し、殺し合いに優勝して雑魚(ハ・デスと黎斗)の元へたどり着く。
[備考]
※参戦時期は本編登場前。
※通常の兵器でもポセイドンにダメージは与えられます。
※野獣先輩によって<<洗脳ーブレインコントロール>>を使用されました。影響は後続の書き手にお任せします。
※B-5エリアの公園・出口に続く住宅街に片桐章馬・鹿目まどか・吉田清子の遺体・支給品、宝生永夢の遺体が転がっています。
◇
「はぁっ、はっ……!」
透明化の効果が切れ、尚も桃は逃げ続けていた。
体力を逆転させられ、瀕死になっても尚自分を殺そうとしてきたあの男が、ただ、ひたすらに恐ろしかった。
「.....シャミ子、.....逃げなきゃ、二人で.....早くっ....!!」
先刻までの、永夢の惨たらしい最期の光景がフラッシュバックする。
――シャミ子がいてほしかった。この殺し合いに呼ばれているシャミ子に、支えてほしかった。
もう、この殺し合いに立ち向かおうとすら思わなかった。あんな化け物染みた連中がいる中で、殺し合いを打破できるとは、到底思えなかった。
やがて、魔法少女体でも息が上がり、変身が解除され、それでも桃の身体は恐怖に震えていた。
しゃがみ込んだ手元には、宝生永夢が最期に託した、デイバッグがあった。
『ごめんなさい、桃さん――照さん、を、黎斗さんを、お願いします』
「永夢さん....私には、もう」
桃は震える手でデイバッグを開ける。
そこには、破損したゲーマドライバーと、マイティアクションXガシャット、そして....
◇
『そういえば、まどかちゃんの支給品は何だったの?』
『あ、それがよくわかんないんですけど........』
『説明だと、ゲーマドライバー?って機械に差し込めば、桃さんみたいに、ここに.....ついてる人形の「エグゼイド」っていうのに、変身できる、みたいなんです』
◇
「―――まどかちゃん」
鹿目まどかの支給品だった、『マキシマムマイティXガシャット』が、永夢のデイバッグの中に入っていた。
【B-4/一日目/黎明】
【千代田桃@まちカドまぞく】
[状態]:左手に裂傷(処置済み)、内臓損傷(中)、額と腹に幾つか殴られた痕、まどかを守れなかった、永夢を見殺しにした悔しさ、ポセイドンへの恐怖
[装備]:ハートフルピーチモーフィングステッキ@まちカドまぞく、マイティアクションXガシャット、ゲーマドライバー(破損)@仮面ライダーエグゼイド、ガシャコンブレイカー@仮面ライダーエグゼイド
[道具]:基本支給品x2、マキシマムマイティXガシャット@仮面ライダーエグゼイド
[思考・状況]基本方針:私が守りたい街角の人達を最優先で探す。その後……
1:まどかちゃん、永夢さん......。
2:シャミ子、良ちゃんとの合流を最優先。....もし、清子さんのことを聞かれたら.....
[備考]
※参戦時期は2度目の闇堕ち(アニメ2期8話、原作45丁目)以降です
※ゲーマドライバーは片桐によって基盤が出て大きな傷が付いているぐらいに傷つけられており、修復しない限りドライバーを使っての変身はできません。
【マキシマムマイティXガシャット@仮面ライダーエグゼイド】
鹿目まどかに支給。
ゲーマドライバーに差し込んで使用することにより仮面ライダーエグゼイドLv99 マキシマムゲーマーに変身が可能。
また、ガシャコンキースラッシャーに差し込んで使用することでもガシャットの能力であるリプログラミングを使用できる。
通常、変身アイテムはベルトとともに支給されるが、アップグレードアイテムであるという点、リプログラミングの力そのものが脅威であると認識している黎斗のゲームバランス調整により、意図的にゲーマドライバーとガシャコンキースラッシャーを付属させていない。
投下終了です
予約延長します
>>190
本当にすみませんでした。
私は自分の知っている二次創作を自慢したいと無意識に思ってしまい、ここまで二次創作に関して直接言いすぎたのかもしれません。
破棄で大丈夫です。改めて、迷惑かけてしまい本当にすみませんでした。
もし自分が知っているキャラが近くに集まったら出来る限り描いていきます。ありがとうございました
野原しんのすけ(大人)、ルナを予約します
投下します
島の中央寄りに位置する広大な湖。
直見真嗣達との一戦より離れた虐待おじさんは腰を下ろし、澄み渡る湖畔の景色を眺める。
背後に立ち並ぶ閑散とした街、正面に広がる凪いだ湖面。
煩わしい騒音とは全くの無縁。静かに一人、物思いに耽るには絶好の環境だ。
「こんな状況じゃなきゃ…一緒に遊びかったな、ひで」
魔王が用意した舞台ともなれば、如何に些細な場所であっても趣向を凝らすのか。
単なる殺し合いの一ステージでありながら眼を奪われるほど美しい自然。
もし争いとは無縁であったなら、二人楽しくレイクレジャーでも堪能出来たのだろうか。
殺したい程に愛している。歪みながらも、歪みない。
そんな矛盾を孕んだ愛を注ぐ少年とのもしもを寂しげに夢想する。
穏やかな日差しの元、ボートを漕ぐおじさんとひで。
ひでにしつこくせがまれ、いざ乗ってみたは良いもののお互い初体験。
オールの漕ぎ方は余りにも覚束なく粗末。しかしどれだけ不格好でも、そのぎこちなさが心地よい。
誰にも邪魔されない、二人だけの時間を共有する。一瞬一瞬が尊く満ち足りたものだから。
緩やかに流れていく風景を堪能しながら、やがて湖の中央まで辿り着く。
360度、月明りによって美しく光り輝く湖面。息を呑む神秘的な光景。
それらを特等席から独占し、二人は達成感に酔いしれるのだ。
と、どうでもいい前置きはこの辺にして。本番はここから。
浮かれて油断しまくったひでを渾身の蹴りでボートから叩き落す。
困惑や混乱などお構いなし。始まるのは溺死スレスレの苛烈な窒息プレイ。
沈めては引っ張り上げ、上げては沈める。生かさず殺さず、ひたすらに嬲り続ける。
水面から無様に顔を出し、パクパクと苦しみ喘ぐ姿は餌を待つ鯉にも似て。
人間の尊厳などかなぐり捨てた生への足掻きは、何よりも輝いて見える。
神秘的と称した月光など陳腐なものと思える位には、愛おしい表情だ。
「いいねぇ…おじさん、やっぱりお前の悶絶顔が一番大好きだ」
無限に湧き上がる虐待プラン。思い浮かべるだけで股座がいきり立つ。
やはり素晴らしい。頭の中ではあるが、改めて実感するひでの魅力。
次から次へとイマジネーションを掻き立たせる最上級の被虐者。
過熱した妄想はついに危険な領域へと突入…する前に、溜息一つ。
「…一度きりなんて寂しいよな」
どれだけ妄想を膨らませようともあの子はもういない。
当然だ。自分が殺してしまったのだから。内から溢れ出る感情のままに。
最高の熱狂を味わえた虐殺も幾分か過ぎ去れば、喪失感に変わる。
死したひでの体温の様に冷えていく心。積み重なった虚しさは今なお癒えるものではない。
だが殺した事が間違いだったとは思わない。自分達は何よりも幸福だった。
此処は殺し合いだ。参加者の数も不明で、無事五体満足で出会える可能性も皆無。
何処ぞ馬の骨に盗られてしまうかもしれない。預かり知らぬ場所で死別の可能性もある。
考え得る限り最悪の状況下。それでも――運命の巡り合わせなるものは実在した。
友人、家族、恋人、仲間。多くの参加者が親しき者と出会えぬまま散って逝ったにも関わらず。
二人は奇跡の再開を果たした。そして誰に邪魔される事無く、最大級の愛情表現――虐殺を完遂出来た。
これ以上の幸せが果たしてあるだろうか、いやない(反語)
今この地に居る者の中で、一番幸福な自負がおじさんにはある。
この人おかしい…(小声)、そう人は思うだろうか。
虐待おじさんは可愛い男の子を虐待・調教するのが溜まらなく好きである。
かわいらしい少年が悶絶する姿を想像するだけで、興奮が抑えきれない。
加えてこの決闘に来てからは虐待は虐殺へと、最悪のランクアップを果たしてしまった。
人様に大手を振れない異常性癖。嫌悪されるべき犯罪行為。それは言い逃れ出来ない事実。
しかし断言する。彼には嫌悪や侮蔑から来る加虐心は一切ない。
行為全てに愛がある。愛ゆえのSM、愛ゆえの拷問、愛ゆえの凌辱。そして愛ゆえの虐殺。
例え傍から見れば歪で悍ましい怪物のような内容であっても、一つの、純粋な愛のカタチ。
(今は地獄で待っていてくれ。あれが最後だなんて、お前も嫌だろ?)
究極の愛し方を理解して、それを我慢せねばならない。そんな不条理は間違っている。
死があるから全身全霊で愛せない。死があるから哀しみが生まれる。
ならば、ひでを不死者してみせよう。愛に肉体の違いなど関係ない。
自分らしさを殺して生きるのが道理と言うなら。
例え神が定めた摂理に逆らおうと修羅に堕ちようと願いを叶える。
必ず連れ戻す。
膨れ上がった哀しみも虚しさも全て、あの子との幸福に変えられると信じて。
だから地獄の獄卒達の拷問責めで今は我慢して欲しい。
蘇った時にはあらゆる虐待が霞む程の最高の虐殺でお祝いをしようじゃないか。
おじさんは今は亡き最愛へと誓う――勝手にひでを地獄に堕としながら。
『プレイヤー諸君―――君たちに朗報がある』
そんな歪曲した黙考を中断させたのは尊大なる神の一声。
一々仰々しく煩い映像によって静謐な湖の雰囲気が台無しだ。
風情の無さにまた息を零しつつ、おじさんは放送に耳を傾けた。
◇◇◇
優勝目的な以上、主催の戦力や思惑には大した興味は無い。
ゲームの主催者が冥界の魔王から神様に変わろうと元が元なため今更だ。
ひでをゾンビとして復活出来る力があるか。その保証だけ確認出来ればそれで良かった。
平行世界の観測やカードゲームのモンスターの実体化と、目や耳を疑いたくなる技術力。
妨害を図った鎧武者を瞬殺し、一目で別格と分かる金髪男や侍を一参加者に置いておけるだけの実力。
成程確かにゲームマスターの保有する力は凄まじい。死者蘇生があってもおかしくないと思える程には
ただ恐怖の鞭は充分堪能したが、奇跡の飴をもっと味わいたかった。
万能の確信に至るには一歩足りない。必要なのは確実に願いを叶えられる視覚的根拠。
殺害された参加者の一人でもその場で蘇生されたら話は早かったのだが、ままならないものだ。
「全く、困ったもんじゃい…」
先程まで映像が投影されていた天を見上げたままぼやく。
放送への不満。それもあるがぼやきの矛先はその一点のみではない。
ルール説明と同時に次いで程度の感覚で実行された鬼畜の所業。
意外に思うかも知れないが、虐待おじさんはその神の蛮行に対し心を痛めていた。
最初の戦闘に乱入してきた子と言い、人質や映像内で惨殺された子と言い。
皆、ひでと同じ小学生か、中学生。年端もいかない少女ばかり。
おじさんは子どもが大好きな聖人おじさんである。
性的食指が働くのは男児だが、女児もまた良識の範囲内で好ましい存在。
ひでのゾンビ化の為とは言え、闘いとは無縁の女の子まで殺すのは、正直言って気が滅入る。
つい昨日まで平穏な生活を過ごしていた子らが死の恐怖に泣き叫ぶ姿など見たくない。
運営も趣味が悪い。見るのは男の子の可愛らしい悶絶顔だけで十分だろうに。
そう例えば、運ゲーと称して追加の見せしめで殺された中性的な美青年たち。
参加者が彼らの様な加虐心をそそる子ばかりなら、少しは気が楽になったものを。
「でも…決めちまったからなぁ。皆殺し」
もしひでがいなければ違う道もあった。だが既に進むべき道は決定済み。
これから行うのは愛する者に捧げる愛なき虐殺。単なる殺人に情など要らない。
参加者の人格も性癖の琴線も関係なく、一切合切斬り捨ててみせよう。
開幕宣言も終わり、本格的に殺し合いは始まった。感傷に浸る時間はもう終わりだ。
最早長居は無用と立ち上がる―――と突如、轟音が鳴り響いた。
出所は近い。
突然の衝撃に怯えるかの様に辺り一帯が微かに震える。
同時に雪崩れの如く拡散する強烈な殺気。
探るまでも無く振り向けば直ぐ其処に答えがあった。
豹柄ブリーフ一丁におかっぱ頭。ひょうきんなスタイルをした筋骨隆々の偉丈夫。
何より際立ったのは異質な見た目にそぐわない、他人を睨み殺すかのような憤怒の形相。
殺伐とした雰囲気を発するガチムチ男に、おじさんは新たな闘いの予感を抱いた。
◇◇◇
「なんというかこう、馬鹿馬鹿しくて笑っちゃうんすよね」
転移して直ぐに始まった、真の黒幕、檀黎斗によるオープニング映像。
目に収めたその全てを、悲しき怪物と化した男、肉体派おじゃる丸は一笑に付した。
参加者達へ想いを託し散って逝った勇敢な鎧武者。
神の気まぐれによって、無情にも見せしめに選ばれ惨殺された犠牲者達。
手足を鎖に繋がれ、これから巻き起こる惨劇をただ黙って見届ける事しか出来ない少女。
心底どうでもいい。
寧ろ正義の味方気取りや憎悪の対象が惨めに死んで清々する。
ネットの闇も知らずのうのうと笑って過ごして来たノンケ。
自分を画面越しに良い見世物だとせせら笑っていたホモガキ。
憎しみに支配された肉おじゃの視界に映る人間は、この二種類しか存在していない。
ホモガキ共に精神レ○プされ、永遠に等しい苦しみを味わっていた時、
何もしてくれなかった連中に正義があるなど断じて認めない。
それに比べたら自称神、檀黎斗の方が幾らか気分は良い。
何せ奴は平等だ。取り繕いもせず、堂々と、それが至極当然と言わんばかりに。
ホモビ男優から女子供、他の神やヒーローに至るまで、その全てを等しく見下している。
平和だの愛だの信頼だの。聞こえのいい綺麗事をヘラヘラほざきながら
内心では自分を差別し嘲ってるノンケ連中より何百倍もマシと言うもの。
その上、非願成就のチャンスまで与えてくれるのだから、正に神だと信奉すらしたくなってしまう。
とは言えその神がやってる事は、人を素材に作った玩具で遊ぶスケールDKSGなごっこ遊び。BB劇場だ。
ネットから現実へ。活動場が変わっただけで、才能と労力の無駄遣いばかりする淫夢投稿者と大差ない。
黎斗への信奉心も直ぐに失せた。やはりこの世に神などいない。
『いるとしてもそれはただ一人。
最高神にして唯一神、GOだけある。KRT is not GOD. GO is GOD.』
いや、ギャラをピンハネして恐喝までするゲスなチャラ男が神な訳ないだろ。目を覚ませ。
GO is not GOD. GO is DUST.
「やっぱり気色悪いっすね、コレ」
突拍子も無く降って湧いたクッッッッソ寒い思考に青筋が走る。
この会場に降り立った時から度々、意思に関係なく差し込まれる感覚がある。
此処に来てから会得した常軌を逸した身体能力。
それがネットミームより獲得した力なのは本人も把握済みだ。
忌み名やホモガキから受けた所業以外は殆ど忘却したとしても。
これが元より兼ね備えていた力だとは思わない。肉おじゃは何の変哲もない一般人だったのだから。
この殺し合いを黎斗の作ったBB劇場と捉えるなら、参加者には皆割り振られた役がある。
役割に沿った能力もまた役者には必要不可欠。
与えられたのはバトル淫夢さながらの規格外な戦闘力。何がしてほしいかなど察しが付く。
TDNの一般人ではつまらないので肉体派らしく力で存分に暴れてほしい。
求められている事はこんな所か。
無償で手に入ったなら神の恵みと泣いて喜んだだろうが、残念ながらそうはいかない。
相応の力には総じて相応の代償が付いて回るのは世の常なのだから。
ネットに存在する膨大な素材や解釈。それらから様々な概念を抽出し、様々な能力を獲得する。
野獣先輩ならばBBの数だけ強くなり、肉おじゃは肉体派に恥じぬ剛力無双の力を得た。
想像力による無限の可能性。これがネットミームの正の側面。
しかし正があるならば必然的に負の側面も存在する。
ミーム汚染によって力の恩恵を授かると同時に起こるのは変貌だ。
ネットの集合的無意識よりこうあるもの、こうあるべきとした歪んだ認知の内容を強制される。
例えそれが、本人の意思に反する悍ましい内容であっても。絶対に。
最たる例を挙げるならば、言動。
肉体派おじゃる丸と言えば、語尾に「〜っす」が付く後輩口調。
淫夢厨からすると何の違和感もないが、実際日常生活や独り言でも独特な語尾で喋るのは違和感がある。
そもそもホモビ出演時に最低限の敬語として使用しただけであり、後輩口調は彼のデフォルトではない。
加えて、気を抜けば不意に口から飛び出す特徴的な笑い方に型に嵌った台詞。
ホモビ内の台詞やホモガキの下らないコメントを定型文化した淫夢厨特有の語録、通称淫夢語録だ。
淫夢実況やBB劇場で淫夢ファミリーを登場させる時は、そのキャラの語録を使わせるのが主流。
なのだが肉おじゃの発掘動画は一本のみ。故に語録化出来る台詞も少ない。
そんな場合であっても、淫夢厨は意地でも少ない語録でやり切ろうとする為、強引な表現が多くなる。
括弧で感情を保管したり、一言のみでごり押したりと彼ら投稿者は悪戦苦闘の日々を送っている。
何故自分達が勝手に決めたルールに勝手に苦しめられてるのか、私には理解に苦しむね(KN)
閑話休題。
現実の肉おじゃが行っている後輩口調に強引な台詞回し。これこそが力の代償の症例。
その口癖、口調が肉おじゃにとって自然であるとミームに定義されてしまった。
肉おじゃは憎むべき淫夢厨によって面白可笑しく作られた偶像通り生き続ける。
前者はまだ良いが後者は最悪だ。「いや僕もうOOESNRですね」のゴリ押しより大分マシではあるものの。
「クキキキキ…」だの「笑っちゃうんすよね」だのが頻出しまくるボキャ貧っぷり。
人間として、明らかな不自然さを感じ取っても本人には変えられない。
神の望みを叶え、自身の修正を願わぬ限り一生、このまま。
もし肉おじゃがミームが実体化した存在ならば特に問題は無かった。
どれだけ捻じ曲がろうと、誇張されようと、彼らにとっては生まれた時からの当たり前。
しかし現実から連れてこられ、ミームで魔改造された彼には一般人として生活していた記憶が存在する。
それが『肉体派おじゃる丸』になってしまった男にとって如何ほどの絶望か、想像に出来るだろうか。
なまじ常人としての記憶が残っている為に己の変質具合は際立ってしまい。
歪さを自覚出来てしまうが故に耐えがたい精神的苦痛が生じる。
ミームに縛られ続ける限り、忌まわしき淫夢からは絶対に逃れられないと嫌でも理解させられるのだ。
傍から見れば滑稽に映る状態でも当人にとっては生き地獄に等しい。
気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い―――!
ホモガキにおじゃる丸とコケにされた髪型など二度とするか。
撮影でキメて行く程お気に入りだったのに、今では最も嫌悪するヘアスタイルだ。
誰が好き好んで寒空の下、ヒョウ柄ブリーフ一丁で居たがる。
ボディビルダーは四六時中ほぼ全裸でいるのが常識とでも馬鹿げた勘違いしているのか。
言動、思考、口癖、髪型、服装、そして名前。
全て誰かが勝手に設定し、勝手に固定した紛い物。
意思や個性を切り取って、身勝手に継ぎ接いだ存在など人間ではない。
見た目は人であっても、それは人の形をした素材だ。人形だ。玩具だ。怪物だ
仮にも同じ人に対して、何故人権も倫理もガン無視した所業を行えるのか。
誠に遺憾ではあるが、問いただす必要はない。
淫夢厨や自称神達の動機の説明など簡単にできてしまうから。
『なんか面白そうだから』
これだけ。たったこれだけで片が付く。
被害者側からすれば憤死ものの動機。それでも紛れもない真実だ。
己の悦楽の為ならば如何なる偏った労力も惜しまない。
見ず知らずの他人に対し、残酷にも冷酷にも平気でなれる。
それが人間だ。肉おじゃが戻りたいと切に願う、普通の人間の性。
「…今は我慢っすね。ちょっと耐えればそれで終わり。今までに比べれば短いもんっすよ。」
想像だけで吐き気の込み上げる出自だろうと、頼みの綱なのは事実。
バトル淫夢屈指のパワーとタフネスがあって尚、優勝のハードルは高い。
一般筋肉男のままでは、女顔の黒剣士相手に敢え無く返り討ちだった。
素材ではなく人に戻りたいのなら、怪物になる事も受容しなくてはならない。
『肉体派おじゃる丸』が『■■■■』らしくある為にも、肉おじゃは勝利しなくてはならないのだ。
変えようがない現状に苦悶するより、優先すべきは敵の数の把握。
そう考え名簿を見ようとタブレットを起動した所で、微かに喋り声が聞こえた。
声質は男。何処か聞き覚えがあったが、一先ずそれは頭の片隅に置き思考を巡らせる。
声の主は十中八九参加者。映像を見終えてその内容を咀嚼している頃か。
肉おじゃにとっては極めて無価値だったが、大部分にとってはそうではない。
黎斗への反抗を志す者には貴重な情報源であり、常人には弱った心を更に乱される殺戮劇。
情報の嵐とも呼べる放送直後、警戒していても隙も生まれやすい。労せず敵を葬れるチャンスだ。
ただ自分と同種、完全に乗った側の可能性もある。その場合は完全な無駄骨。
即座に強襲は実行せず、先ずは建物の影からこっそり相手の様子を伺うべきだろう。
パワー系に有るまじき小賢しい考えを胸に、肉おじゃはそっと顔を出し。
そんな思考は次の瞬間、忽ち霧散した。
くたびれたYシャツにスラックス。何処にでもいる細身のサラリーマン風の恰好。
有体に言えば普通。しかしその姿に肉おじゃは動揺を抑えきれず、衝撃の余り瞠目した。
現代社会にそぐわない腰に差した日本刀。そのミスマッチさがやけに似合った風格漂う佇まい。
それは淫夢を知る者にとって、絶対に見間違うはずの無い後ろ姿。
ふと視線が落ちる。画面には既に開いていた参加者名簿。
確認の必要もなく親切に名簿の上段に列挙された忌まわしき名達。
『野獣先輩/遠野/MNR/虐待おじさん/ひで』
「―――――――――ッ!!!!!」
思考を忘れる。言葉を忘れる。理性を忘れる。
気持ちばかりの怪物のストッパーが脆く弾け飛ぶ。
陥没した地面に沈む砕けたタブレットが、留め具を失った感情の噴火を知らせた。
◆◆◆
圧巻。
初見の感想はその一言に尽きる。
ガチムチと真逆の趣向を持つショタコンおじさん。そんな彼も男の肉体美には一瞬見惚れた。
おじさんが属するACCEED三銃士の仲間、KBTITことタクヤさん。
彼はサーフ系ボディービルダーを自称しており、名乗るだけあって名に恥じぬ立派な上半身をしている。
ただ上しか鍛えないから上半身に比べて、下半身が哀れ。な程貧弱過ぎるのだが其処はご愛嬌。
そんなタクヤのチキンレッグとは比較にならない、ズンと大地に根を張った丸太の様な下半身。
上下均衡の取れた絵に書いた様な立派な肢体。目を惹かれるのも無理はないと言える。
だがその強烈なインパクトすら消し去る男から充満する濃密な殺気。
純粋なマーダー、戦闘狂の類だとしてもこれは明らかに異常。
不倶戴天の敵と相対したかのような並々ならぬ負の感情。
何故見ず知らずの相手に此処までの敵意を注げるのか。違和感を覚えるが、思考を深める暇はない。
それよりも速く、極太の右拳がおじさんの顔面へと迫っていた。
「…!チッ…!」
咄嗟に身を捩り、砲撃じみた剛拳を回避するおじさん。
超速の拳は真空を生み、凄まじい風圧が肌にビリビリと伝わる。
直撃すれば敢え無く即死。そう確信させるには十分過ぎる一撃。
だが圧倒的パワーを前に屈して逃げに回るなどと。おじさんはそんな玉無しおじさんではなかった。
「YO!!」
避けた姿勢からすかさず蹴りを上から下へ三連打。
体勢の不安定さをものともしないキレの良いしなやかな蹴撃。
脛、鳩尾、顎。急所をほぼ同時に叩きあげ、速やかな対象の沈黙を図るが、
―――硬い…!
人体とはとても思えない、鋼鉄の鎧を纏っているかのような硬質な感触。
逆に自分の足が反動で軋み、悲鳴を上げている。
悲痛な叫びに従い、まだ脳内の構想にあった追撃は断念し後退。
直治るが痺れの癒えきらない脚。耐久面に難があるのは貧弱おじさんの辛い所さんだ。
その痛手に見合った成果があったかと言えば残念ながら無い。
衝撃で多少悶えたものの意識は刈り取れず、寧ろ一層敵意を強めながら此方を睨みつけていた。
「クキキキキ…まさか、こんなとこで会えると思ってなくて笑っちゃうんすよね。」
微々たる痛みなど些事と忘れ、男は笑う。笑いと呼べるのは台詞だけだったが。
その他全てが憎悪に置換され尽くしたかの如き筆舌に尽くし難い表情。
有象無象のノンケ達の股間を縮み上がらせるまでの迫力が、彼の狂笑にはあった。
「…君、名前なんて言うの?おじさん…なんかやったかな?」
向けられる重圧に物怖じせず、おじさんは問いかける。
目の前の相手とはまったく初対面。ここまでの憎しみを持たれる動機が思いつかない。
どうせ理由がなくとも、数秒経たずに殺し合う間柄とは言え。
理不尽な殺意。その謎の答え位、聞いておきたいと思うのは当然の帰結。
「は?(威圧)…知らないんすか?俺のこと」
その誰?と言わんばかりの対応が、巨漢――肉体派おじゃる丸の逆鱗に触れた。
野獣先輩を筆頭に迫真空手部、ACCEED三銃士。
淫夢におけるメイン俳優陣―――俗にいう一軍と呼ばれる連中は悉く罪深き存在だ。
一軍のコンテンツ力が淫夢文化の風化を妨げ、更なる玩具をとホモガキ共の新たな素材(ホモビ男優)発掘に繋がった。
肉おじゃにとって虐待おじさんは自分と同じ淫夢厨の被害者ではない。
二軍三軍、その他大勢の風評被害。幾多の犠牲を産み続けた全ての元凶の一人なのだ。
にも拘らず、おじさんは被害者の中ではそこそこ知名度のある自分すら知らないなどとほざく。
そんな戯言は、復讐に燃える彼が許せる範囲をぶっちぎりで超えていた。
二人の間に起きた認識の齟齬。この原因は二人のややこしい出自にある。
虐待おじさんと肉体派おじゃる丸。何方も力の起源は同じミームだが、在り方に関しては全くの別物。
だが肉おじゃは現実の実在人物をベースにネットミームによる魔改造を施したのに対して。
おじさんは記憶や能力、肉体そのものに至るまで、全てを一からミームで構築・具現化した存在だ。
簡潔に言ってしまえば肉おじゃは三次元、おじさんは二次元。文字通り次元が違う。
ほんへやBB劇場などインターネット内で観測しうる範囲の情報、それがおじさんの全て。
おじさんの記憶に残された人物はひでを除けば、ACCEED三銃士の平野店長やKBTIT。
『虐待おじさん』の存在に切っても切れない間柄に位置する者のみ。
BB劇場内で共演頻度低い肉おじゃは『虐待おじさん』を構成するにあたっては不必要な存在。
野獣先輩であったなら多少既視感を覚えたかも知れないが、肉おじゃレベルではそれすら抱けない。
ましてや画面外で繰り広げられるホモビ男優達の悲劇や苦しみなど、絶対に知りえるはずもない。
「とことん救いがたいっすね。償ってもらっていっすか?」
だがそんな事情など知ったことではない。
もし察したとして、埋めるつもりもないし改めた所で大差ない。
どんな理由があろうとこの結末に行きつく事に変わりはないのだから。
「アンタの…惨たらしい死で―――!!」
一軍は大罪人。
最早TDN死では生温い。ホモビ出演の逃れられぬ業(カルマ)を背負い、
一生みんなのおもちゃとして嘲笑されながら生きていくのが相応しい末路。
淫夢から解放された暁には、一視聴者として高みの見物するつもりがそうはいかなくなった。
ネットの海で永遠に苦しめられぬと言うのなら、せめてこの手で地獄に落とす。
僕を死刑にしてくださいと泣いて懇願する位悔いていたならば、多少の情状酌量の余地はあった。
その時は即死で済ませてやったが、まさかここまで自分の罪に無自覚だったとは。
有罪だ。ホモガキのオモチャ以上の苦痛と絶望を味合わせて殺す以外に、その大罪償わせる術無し――!
狂撃が再び迫り来る。
数秒経たず拳が到達せんとする中、おじさんはふぅと小さく息を吐いた。
「何かしたって聞いてんのに答えないってのはおかしいだろそれよぉ…なぁ…?」
何故男が更にキレたのか、一体両者との間にどんな関係性があるのか。
自分の事、相手の事。どれ一つとしてハッキリとした詳細は見えてこない。
だがこれだけは分かる。
本人自身、頭ではまるで理解出来ていないが、己の身体を根底を支える『何か』が教えてくれた。
此れは買わねばならない喧嘩だ。
格下(二軍)が格上(一軍)に挑む事がどういう事か、身をもって教えてやらねばならない。
鞘に片手を添えながら、ぽつりと、静かに、彼は呟いた。
「悪い子だね、お前」
その言葉を最後に。
「………は?」
おじさんは肉おじゃの視界から完全に消失した。
◇◇◇
「な、なんすかこれ」
感情のぶつけ先を失い、間の抜けた声が漏れる。
ピタリと動きを止め、キョロキョロと視線を右往左往するも敵影確認できず。
まさか逃げたのか。自分が優男二人から撤退した様に。
瞬間移動でも透明化でも、この世界ならば何だって出来てしまうのだから。
だがおかしい。何の予兆が無かった。
能力にせよ支給品にせよ、使ったなら何らかのアクションがあって然るべき。
有り得ない。見逃すはずがない。見逃してなるものか。
淫夢の、憎き男の挙動であるならば、絶対に―――!
―――本当に、何も映らなかった?
いや、正確には一つだけあった。
仮にあったんだとしても、何でもないだろうと。
そう思い込んでしまうほどには、刹那の出来事。
それでも怪物と化した男の、強化された動体視力は微かに捉えていた。
空を奔る、銀の閃光を―――
「いいねぇ…。やっぱ竹刀よりこっちの方が、おじさんの事興奮させてくれるね。」
背後から響く感慨深げに呟く声。
それを聞いた途端、ゾクリ、と言い知れぬ恐怖が一気に襲い掛かった。
滲む脂汗、逸る鼓動、粟立つ肌。
強靭な筋肉で出来た身体が、みるみる矮小化していく錯覚さえ覚える。
(未熟です…何ビビってるんすか俺…!)
其処まで考えて、はっとなった。
自分は一体、何を考えている。
奴等への憎しみと怒りを忘れたか。総身に纏った筋肉は飾りか。
震えるな、恐れるな、殺せ、殺せ、殺せ―――!
心を覆わんとする動揺を払うべく、己を厳しく叱咤した。
霧散しかけた殺意が蘇り、筋肉が大きく膨張する。
そのまま相手を屠るべく裏拳を放とうと、振り返り―――。
「ガッ……!」
――――――直後、鮮血が舞った。
右胸から左脇腹にかけて伸びる真っ赤な斜線。
凄腕の黒の剣士相手ですら掠り傷だった肉体に初めて、明確な綻びが生じた。
何があった。傷口を抑え、混乱の色を隠せないままに怨敵を視界へ。
その手にはいつの間にか解き放たれた、鈍色に煌めく日本刀。
血の一滴も垂れない綺麗な刀身。それは内包物で汚れるより速く、この身に刃を振るった証。
男が繰り出した神速の居合は、肉体に刃が突き立てられた事実を一時忘れさせた。
「悪い子にやる事は一つだ。分かる?」
徐に得物を握る手と反対の腕を突き出し、屠るべき敵を指差す。
ODKZMS似の柔和な笑みが似合う気さくなおじさんはもう何処にもない。
幾百幾千の戦場(バトル淫夢)を潜り抜けて来た、歴戦の兵。
「――――お仕置きである。覚悟はいいか?」
―――剣聖。
真に迫る拳を極めた武神。最強の武に比肩する怪物が、其処には居た。
「ク、クキキキキ…」
この出会いは僥倖と考えていた。
過去の抹消に仇の抹殺。同時に叶える機会をくれるなんて、なんと神は寛大なのかと。
それが大きな間違いだったと思い知る事も知らずに。
これが一軍。醜くも膨大な寵愛を受けてきた者達の実力。
淫夢厨から刀を握らせれば下北沢一、否、淫夢一の剣聖おじさん。
大衆より与えられた称号そのままを再現した存在。目の前にいる男はそんな化け物だ。
ミームにより会得した力は素材不足な二軍の比ではない。
思わず苦笑が漏れる。復讐鬼であっても一軍筆頭との実力差を前に怯まざる負えなかったか
しかし――
「(傷は)ちっちゃいっすよね。なら、大したことはないっす」
傷は臓腑には達してない。動作は正常。痛みは軽微。
剣聖を以てしても易々と断ち切れない堅牢な肉壁。我ながら流石の防御力だ。
戦闘には一切支障なし。ならば、問題なんて何処にもない。
「――――上等っすよ。(かかって)来いすか?」
仮にどれだけ甚大であっても激情が身体を突き動かす。
怪物と謗られようと、玩具と扱われようと、全身から迸るその感情は紛れもなく本物。
例え負の感情であっても、『肉体派おじゃる丸』の中に残った唯一の人間らしい心。
憎悪、殺意、そして闘志。命尽きるまで、それらは決して萎える事を知らない。
「いいよその顔。本気にさせちゃったねぇ…俺のことね。」
いいよこいよ、と闘いの意思を示す勇ましいファイティングポーズ。
『剣聖』としての側面が前面に押し出された今の戦闘狂おじさんにとってそれは。
少年虐待と同等に己を高ぶらせてくれる最高のスパイス。
ひでへの愛を忘れた訳ではない。だが今は、今だけはこの闘いに興じるとしよう。
おじさんは口元に獰猛な笑みを浮かべ、高らかに吼えた。
「じゃあオラオラ来いよオラァ!!」
号砲代わりのけたたましい怒声。
瞬間、爆発。何方ともなく駆け出し――決闘が始まる。
自分らしくが自分らしく生きる為に、隠すべき本能を全力で開放する為に。
怪物達の仁義なき闘いの火蓋が、今切られた。
【一日目/深夜/D-4】
【虐待おじさん@真夏の夜の淫夢】
[状態]:健康
[装備]:日本刀@現実
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜4
[思考・状況]基本方針:優勝してひでを何度も蘇るゾンビとして蘇生して虐殺しまくる
1:ひでのために全員容赦なく殺してやるよオラァ!
2:目の前の男(肉体派おじゃる丸)を虐殺する
[備考]
【肉体派おじゃる丸@真夏の夜の淫夢】
[状態]:疲労(中)、右胸から左脇腹までの切創、淫夢ファミリーへの憎悪(極大)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ゴッド・ハンド・クラッシャー@遊戯王OCG、ランダム支給品1
[思考・状況]基本方針:優勝して淫夢の歴史から自分の存在を抹消する
1:虐待おじさんを殺す
2:淫夢ファミリーだけは絶対にこの手で殺す。特に野獣先輩、野獣死すべし
3:黒の剣士とI♥人類の男は次に出会ったら絶対殺してやるっすからね……
4:遊戯王カードはこの決闘で大事すね……
[備考]
※遊戯王カードの存在を知っていますが決闘者じゃないのでルールなどは詳しくありません
※本来の名前を思い出せません
投下終了です
今週中に投下は厳しいので先に予約延長します
投下します
「とりあえず休もうかな…」
先程黒い鎧を着た参加者を消してからしばらく歩き、森の中に入ったルナは休憩することにした
「…そういえば、小さい頃こういう森でコローソと駆け回ったっけ…」
皮肉にも自分が休憩すると決めた場所は森だった、そして思い出すのは小さい頃にコローソと共に駆け回った日々…あの頃は本当に良かったなとルナは思った
「でもまさかあんなことになるなんて…幸せなんてあっという間に終わるものなのね…」
村は燃やされ、私が好きだった家族は皆殺された…
そして何より一番ショックを受けたのは…コローソが『人間側』にいるということ
「コローソなら分かってくれると思ってたのに…何で…?あんなことされて悔しくないの…?悲しくないの…?人間が憎くないの…?」
ルナには分からなかった…どうして人間に味方するのか…
「…今さら考えたってしょうがないか…」
ここにコローソはいない、今は優勝して人間達に復讐する、それだけを考えよう、この殺し合いの中では最初に戦った丸眼鏡の青年のような強者が何人もいるかもしれない、ましてや人間ではない化け物なんかもいる可能性だって、余計な事を考えていては優勝したくてもできなくなってしまう…そんなことを考えていた時だった
「お、こんな所にいたのか」
「!!」
急に声を掛けられてルナは身構える、そしてその声の主を見るとルナは目を見開いた
「な、何であなたが……?」
それは先程自分が確かに消した筈の黒い鎧を着た参加者が立っていた、何故生きているのか、ルナには分からなかった
◆◆◆
「にしても真夜中っていうのもあって不気味だな〜、ネネちゃんとボーちゃん、無事ならいいんだが…」
ルナを追いかけていたしんのすけはそう呟いた、二人が大人ならまだ安全かもしれないがひょっとしたら子供の時の二人の可能性だって全然ある、しんのすけは心配で仕方なかった
「ってあれ?あの娘どこ行ったんだ…?」
そんな心配をしているとしんのすけはルナを見失ってしまっていた
「あちゃ〜、困ったな…どうするか…」
どうしたものかとしんのすけは頭を悩ませた、おっちょこちょいな所は子供の時と変わっていなかった
「うーん、こっちかな?」
するとしんのすけは己の勘を頼って進み始めた、普通の人なら諦める人が大半だろうがしんのすけは、特に女になると放っておけない性格だ、ルナの表情に影があるのを見たしんのすけはここで諦めることなどできなかった、だからしんのすけは進むことを決めた、だがしんのすけは小さい時から異様に勘が鋭く運も良かった、そのため森の中に入りしばらく歩くと…
(お!いた!)
なんとルナがいたのだ、我ながら勘の良さには惚れ惚れすると自画自賛していたしんのすけだがこんなことしてる場合じゃないとルナに話しかけた、そしてしんのすけはまるで今見つけたような口調で話し掛けた
「お、こんな所にいたのか」
「!!」
◆◆◆
そして現在に至る、驚きを隠せないルナにしんのすけは返す
「あぁ〜、まぁちょっとしたトリックで避けたんだよ、君の攻撃をね」
「…へぇ〜、また変わった人間ね」
鎧を着ていたためどんな人間かは分からなかったが声質から男だと分かった
「ねぇ君、ちょっと質問なんだけど、何で殺し合いに乗ったの?」
「それを聞いてどうするの?理由によれば殺させてくれるの?」
「さぁ〜、それはどうでしょうな〜」
(この鎧の人間はどうも舐めた態度をとってくる、私をバカにしているに違いない…)
そう思ったルナは俯いて口を開いた
「そうね…人間が憎いから復讐する…ただそれだけよ!!」
「うお!?」
理由を話すと同時にルナはしんのすけに近づき殴りかかった
そんなしんのすけはお得意の反射神経の良さで躱すことができた
「いきなり殴りかかるなんて卑怯じゃないか」
「なに言ってるのよ?殺し合いの場に卑怯も何もないでしょう?」
そしてルナは次に拳の連打をしんのすけにくらわせた、さすがに避けれないと思ったしんのすけは防御にまわった
(くっ…一つ一つの打撃が重い…!これは母さんのげんこつより遥かに重いな…)
「だいぶ辛そうね?大人しく私に殺されてよ!」
「それは……ごめんだな!」
そう言うとしんのすけは彼女の両手首を掴んだ
「君の過去に何があったかオラには分からないけど…だからって殺し合いに乗ったらダメだ!」
「うるさい!何も知らないくせに!私は人間達に村を燃やされた挙げ句家族まで殺されたのよ!?だから私は人間達全員に復讐するの!」
「…確かにそれは凄く辛いかもしれない…自分の大切な場所を…大切な家族を殺されて…でも…だからって関係ない人を傷つけるのは違う!」
「!?」
しんのすけの最後に放たれた言葉にルナは戸惑った…
『だからといって、関係ない人まで傷つけるのか!』
そう、それはコローソからも放たれた言葉…この時、ルナはしんのすけとコローソが重なって見えていた
「悪いけど…少し距離をとらせてもらうよ!!」
「きゃっ…!」
そしてしんのすけは距離をとるためルナを軽く投げ飛ばした…それも彼女を傷つけないように…
「確かに人間の中には欲深い奴もいれば根っから悪い奴もいる…ましてや私利私欲のために他の人の大切なものを奪ったりする奴もね…オラも今まで何人もあってきた…でも…中には良い人間だっている!悪い人間がいるように、良い人間だっているんだ!」
「そんなの信じられる訳ないじゃない…あなたは奪われた経験がないらしいわね…だからそんなことが言えるのよ…いざ自分が大切なものを奪われた時のこと考えたことある?」
「あぁ、確かに君の言うとおりオラは奪われたことがないから分からないし、奪われた時は凄く悲しむと思う…」
「なら私の気持ちも分かるでしょ!?なのに何故邪魔するのよ!!」
ルナは涙目になりながらしんのすけに向かって叫ぶ、するとしんのすけが口を開いた
「一つ質問させてもらう…君、家族の他に大切な人はいたかい…?」
「……えぇ、いたわよ…彼…コローソは本当に純粋で良い人だった…小さい時からずっと私と仲良くしてくれて彼と一緒にいる時間は本当に楽しかった…」
そう語る彼女の表情が少しながら笑顔になっていたのをしんのすけは見逃さなかった…しかし次の瞬間ルナは握り拳に力を入れ表情を暗くし震えた
「でも…村を燃やされたっていうのに…家族を殺されたっていうのに…コローソは『人間側』いた…彼なら理解してくれるって思ってたのに…分かってくれると思ってたのに…」
そう弱々しく呟く彼女の目から涙が溢れていた…しんのすけはそんな彼女を見て心が痛かった…彼女の過去については何も分からない…だが何故彼女がこんなに辛い想いをしないといけないのか…涙を流す彼女を見て申し訳ないと思いながらも大人として、男として、一人の人間として心を鬼にし言葉を発した
「君…人間達に復讐したいって言ってたよね…?」
「えぇそうよ!人間なんて皆……死んじゃえばいいのよ!!」
「じゃあ、君が言ってたコローソっていう人も殺すのかい?」
「…えっ…?」
唐突にしんのすけから放たれた言葉にルナは度肝を抜かれた…人間達に復讐する…それはつまり人間達を殺すということ、自分は勿論そのつもりで動いていた…そして人間側についたコローソとは対立したことはあった…だがその先のことは考えたくなくいつも振り払っていた…だがしんのすけに言われて初めて頭に中にはっきりと出てきてしまった
『コローソを殺す』ということを…
「厳しい事を言うが君が言うコローソっていう人は人間側についたんだろう?」
「………」
「だったら人間を皆殺すんだったらそのコローソっていう人も殺すのかい?」
「……さい」
「君は小さい時から一緒にいてくれた人をも手にかけるのかい?」
「…うるさい」
「君は…ずっと好きだった大切な人をも手にかけてでも、人間に復讐したいのかい?」
「うるさいうるさいうるさーーい!!!!!」
しんのすけからの言葉に耐えられなくなったルナはしんのすけに向けて魔法を放った
(やばっ…!少し精神的にやり過ぎたか…!)
「あなたなんかに…何も知らないあなたなんかにそんなこと言われる筋合いないのよー!!!」
「ぐあっ…!」
この言葉で彼女が戦意喪失してくれればいいと考えたしんのすけだが、現実はそう上手くいかず逆にルナに刺激を与えてしまった
ルナが放つ無数の魔法は周りの木をも破壊しながらしんのすけに向かってくる、しんのすけは何とか避け続けるがあまりにも魔法の数が多く全て防ぐことは叶わず何発か食らってしまつまた、咄嗟にしんのすけは巨大な岩影に隠れた
「かなりヤバいな…何とかしたいが…彼女を傷つけるのもな…」
しんのすけは彼女を止めたいと思っていた、殺し合いに乗ったものに優しくする必要はない、女だろうと根っからの悪だったらしんのすけだって躊躇なく戦っただろう…だが彼女の話を聞く限り元々は善人だった、しかしとある悲劇をきっかけに道を踏み間違えてしまっただけなのだ…だからこそしんのすけは一つの方法を考えた
(気絶させるしかないか…)
正直うまくいくかどうかは今の状況では分からない、尚更近づくのすら困難だ…だが支給品には可能性のある、それが「薬品型空気ピストル」…事前に説明書も読んでおり「バン」と言うと圧縮空気の弾を発射することができる、おまけに威力も改造されているらしくどんな者でも一発当てれば気絶させることができるという…しかしメリットがあればデメリットもある
(確か発射できる回数は5回までか…)
そう、これには回数が決められており5回までと決まっていた、この薬品型空気ピストルはこれからも何かあった時に使えるため極力一発で当てたいとしんのすけは考えた…しかし…
「いつまで隠れてるつもりなの!!」
「うおっ!?」
彼女が先程よりも強力な魔法を放ち岩を一気に破壊した、しんのすけは何とか岩影から飛び移るが爆発した風圧で吹き飛ばされ転がった
「いてて…変身してるのにこの威力…君の魔法とんでもないね…」
しんのすけも過去に魔法を使う敵と戦ったことがある、その敵達に匹敵する、もしくはそれ以上の魔法を彼女は扱っていた、今魔法を放たれたら避けることはできないピンチな状況に陥ってしまった、しかし彼女は魔法を撃たずにしんのすけを冷徹な目で見ながら口を開いた
「あなたばっかり質問してくるから私からも一つ質問させてもらうわ…何で攻撃してこないのよ…」
そう、レナは最初不意打ちで攻撃したり魔法を使って攻撃したりと完全にしんのすけを殺す気でいた…しかししんのすけはやり返して来なかった…ルナからしたら何故攻撃してこないのか分からなかった、ましてやこちらを舐めているんじゃないかと思っていた
「何で攻撃してこないかって?それはオラが女には手を出さない性格してるからだよ」
「…あなたって本当にバカな人間ね、情けか同情してるつもりか知らないけどほとんど知らない相手に優しくしてどうするのよ?その優しさが命取りになることだってあるのよ?そもそもその優しさが見せかけだっていう可能性もね…」
「…別にオラは情けや同情、ましてや優しさでやってるわけじゃないぞ?オラが女には手を出さない性格をしている、ただそれだけだよ」
「……本当に意味分かんない…」
「さっきも言ったけど人間には色んな人がいる、オラみたいな変わり者がいれば君が言う悪い人間だっている、そして良い人間も勿論いる…君が信じなくてもそれが現実だ」
「……」
そしてこれ以上相手にするのはまずいと思ったしんのすけが今度は仕掛ける
「悪いけど長く相手してる程余裕はないから一気に決めさせてもらうよ!」
「!!……ってどこに行ってるのよ?」
「逃げるが勝ちって言うだろう!」
しかししんのすけはまだ残っている木々を利用しながら逃走を計った、無論それをルナは逃がすはずもない
「あっはっはっはっ!あなたって本当に馬鹿ね、私が見逃す訳ないでしょ!!」
そしてルナはしんのすけを追いかける
(…今だ!!)
しかしそれがしんのすけの狙いだった、しんのすけは空気ピストルを装備し…言い放った…!
「バンッ!!!」
「!?」
そして空気ピストルから放たれた空気弾は真っ直ぐルナの方まで向かっていき命中!
……しなかった……
「ま、マジか……!?」
「何を狙っていたかと思えば…そんな小細工を隠してたなんてね…」
狙いは良かったものの微かに外れてしまった…しんのすけは幼い頃から猫型ロボットと共にいる眼鏡の少年と同じくらい様々な敵と戦い超人的な力を見せてきた、しかしピストルや銃等の扱いに至っては眼鏡の少年とは比べ物にならないぐらい全く経験がなかった…
「これで終わりにしてあげる…せいぜい自分の力の無さを悔やむのね…」
そう言うとルナは魔力を溜め始めた…
「くっ…!!」
どんどん魔法の大きさがでかくなっていきしんのすけは絶対絶命のピンチに陥った…そして…
「これで…最後よ!!!」
「!!!」
ルナは最大まで溜めた魔法をしんのすけに向かって放った…
◆◆◆
「ふぅ……」
ルナが一つ溜め息を吐き降り立つと周りはほとんど何もなくなっていた…それもそのはず、ルナは自分が出せる最大の魔力を使ってしんのすけを消し飛ばしたのだから…
そして今度こそ始末できた悟ったルナはまた再び歩き始めた…
【野原しんのすけ(大人)@クレヨンしんちゃん 死亡…】
…
……
………
…バンッ
「!?」
突然ルナの後頭部に微かな衝撃を感じた
(な…に……?いし……き……が……)
そしてだんだん意識が途切れていきルナが最後に見たのは…黒い鎧を着た参加者…そして…
「が……ら………す……………」
その参加者の足元に転がっていたガラスの破片…そして、ルナの意識は闇に消えた…
◆◆◆
「はぁ…はぁ…間一髪だったぜ…」
そう口にしたのは黒い鎧を着た参加者…しんのすけだった…彼は殺されたと思っていた…しかし、彼は先程襲撃された時に一度使った手を再び使用した
それがガラスを使ったミラーワールドへの移動…先程バラバラのガラスを念のためと思って持ち運んでいて良かったとしんのすけは思った…だがしんのすけも決して安全だった訳じゃない、ミラーワールドにいた時間が先程よりも長く首輪の警告音が早まる中ギリギリでミラーワールドから抜け出したのだ
「正直セコい手だけど…あっちは何回も殺す気で襲ってきたにも関わらずオラは気絶させる意外何もしてないし…許してくれよ?」
正直しんのすけは我ながらセコい手を使ってしまったなと思った、元々しんのすけはあまりセコい手を使うことを望む性格でもない、しかし時と場合によってはこうするしかなかったとしんのすけは自分でそう考えた
「さてと…放っておくこともできないし、連れていきますかな」
そしてしんのすけはルナを背負っていくことにした、正直これからどうするかは考えていなかった、ましてや彼女が目を覚ました時再び襲ってくる可能性だって十分にありえる、しかし元々ルナを追いかけたのも彼女を放っておけなかったからだ
「にしてもあの時一発外したのはでかかったな…後3発か…」
不意を突いた手段もありまさか避けられるとは思ってもいなかったしんのすけは下手に使ってしまった自分を悔やんだ
「今度よねさんに銃とかピストルの扱い方でも習おうかな………いや、やっぱりあの人はやめておこう…」
銃を扱える人を思い浮かべたしんのすけだが幼い頃にその人の銃の腕前を見たときの期待外れだったのを思いだし即座に振り払った
「タミコ…これは思ったよりも帰るのが遅くなりそうだ…」
そしてしんのすけは次に自分の婚約相手を思い浮かべた、ここは殺し合いの場…そう簡単には帰れないことをしんのすけは悟った
「でも待っていてくれ…必ずお前の元に帰るからな…」
だがしんのすけは最後まで諦めない男だ…必ず元の世界に帰ることを決意した
そしてルナを背負いしんのすけは他に協力してくれる参加者を探すため歩き始めた…
【B-2とC-2の境目 森/一日目/黎明】
【野原しんのすけ(大人)@クレヨンしんちゃん】
[状態]:ダメージ(中)、オルタナティブ・ゼロに変身中、ルナを背負っている
[装備]:オルタナティブ・ゼロのデッキ@仮面ライダー龍騎、薬品型空気ピストル@ドラえもん(残り3発)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]:
基本行動方針:困っている人をおたすけする
1:この子(ルナ)を連れていくけどどうするか……
2:協力してくれる人と並行してネネちゃんとボーちゃんを探す
3:パラダイスキングを警戒
[備考]
※参戦時期は「映画 超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁」本編終了後
※少なくとも「オラの花嫁」より前の映画の出来事は経験しています
※支給品は全部確認しています(後一つが何かは後の書き手にお任せします)
【ルナ@コローソの唄】
[状態]:火傷(小)、ダメージ(小)、疲労(大)、気絶、しんのすけに負ぶられている
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1〜3
[思考]
基本:優勝して、人間たちに復讐する
1:……
2:先程の炎の攻撃は支給品を使ったのかもしれない
3:丸眼鏡の男(のび太)が今後どうなるか少しだけ気になる
4:元の世界に戻った時、私はコローソも手に掛ける……?
[備考]
※気絶がどれぐらい続くかは後の書き手にお任せします
【支給品紹介】
【薬品型空気ピストル@ドラえもん】
野原しんのすけに支給。
指に垂らすことで空気ピストルを指先から放つことが出来るようになる。弾が命中した相手は気絶してしまう。
また本ロワでは改造されておりどんな相手でも一発当てれば気絶させることができる。
【備考】
※ルナの魔法によりB-2とC-2の森が所々破壊されています
投下終了します
後記載し忘れましたがタイトルは「執念と怨念、そして人間性」です
MNR、百武照で予約します
予約を延長します
投下します
注意
このSSには極度の残虐・性的描写が含まれています。
それらの表現が苦手な方、当該予約キャラ・原作に思い入れのある方などは読む事を控えていただくとともにご承知おきください。
たまたまちゃん――本田珠輝さんへ。
ここに連れてこられたことを、私は後悔していないの。
私は、元々生きてたくなんか、なかったんだから。
別に殺し合いに巻き込まれても、同じことだと思った。
前にあなたは私に手を差し伸べてくれて、一緒に過ごそうとしてくれた。
そのことがすごく、嬉しかった。嬉しかったと同時に――あなたを巻き込んだことが辛かった。
そんな日々の中でふと思ったんだ、わたしは、もう後戻りできない所まで進んじゃえばいいんじゃないかって。
だから、わたしが人を殺しても――どんな目に遭っても、それはわたしの自業自得だから。
◇
C-5。街へと続く道を、融合体が進んでいた。
『照。さっき書いていた手紙は、どうするつもりだ?』
「……」
照に融合したエトワリアの魔王が囁く。
その声を、照は黙って聞いていた。
『お前が優勝すれば、全員お前のことを忘れていくというのに。――脱落した場合の遺言のつもりか?』
「……放っといてよ」
照は、そんな魔王の声を一蹴しようとし……
「お姉さん、何ぶつぶつ言ってんの?」
全身白づくめの服装をした少年が近づいてきた。
その様子を、照は冷ややかに見つめていた。
「……あなたには関係ないよ。だって、これから死んじゃうんだから」
照は魔法の光弾を発動させようと、白づくめの少年――MNRに向けて腕を伸ばす。
「ふーん、そっか。じゃ、死んでよ」
だが、光弾を発射する前にMNRの手元が光り―――照の居た場所が、爆発した。
「!?が、っ、熱いっ……!」
焼かれながら、照は驚く。MNRが自身に対して攻撃の方法を持たないと思っていたからだ。
「つまんないんだよね。女は、たぶんすぐ壊れちゃうだろうし」
そして、爆炎が消え失せ……黒い照の衣装が、露になった。
「大丈夫か、照?」
「けほっ、少し焦げちゃったけど……大丈夫!」
炎から守るように、百武照のコートに伸びている猫の腕が球体上にガードしていた。
「……へえ、頑丈だね」
MNRは少し、めんどくさそうな顔を浮かべた。
「あなたこそ、いきなり攻撃してくる、ってことは――殺してもいい人なんだね」
照はにっこりと笑い、腕をかざした。
「お願いだから――死んでっ!」
細い掌から、今度は自分の番だと言わんばかりに魔法によるビームを撃つ。
「わっ」
MNRはそれを棒立ちのまま受け止め、ビームはMNRの胴を貫いたかのように見えた。
続いて、衝撃による爆発。粉塵が辺りに広がる。
「……呆気なかったね、案外――」
だが、MNRの居た場所から、妙な音が聞こえ始めた。
それは、何かの歌のようだった。
「……?」
煙が晴れ、傷一つないMNRの姿が明らかになる。
MNRの周りには、先程の光線を防御したらしき紋様を描いた魔法陣があった。
「変身。」
「チェンジ、ナウ」
先程のMNRが起こした爆発は何なんだよ(困惑)と考える読者もいただろう。
答えは、彼が起こした爆発は――照と同じく、「魔法」によるものだった。
MNRは、支給されたベルトから白い魔法使い――仮面ライダーワイズマンへと変貌した。
「魔法陣……魔法使いか。我々の世界とは別の」
照の中の魔王が喋る。
「……鬱陶しいなぁっ!」
一筋縄ではいかない。照はそう察し、飛行能力でMNRとの間合いを詰める。
だが、振りかざした蹠球はMNRの手にあった笛、ハーメルケインで受け止められる。
「甘いよ」
そう言って、魔法使い同士の鍔迫り合いは白い魔法使いの回し蹴りによって制された。
「がっ……っ」
胴部分にキックが当たり、照は蹴りの重みで後ろに吹き飛ばされた。
「不味いかもしれんな、照。此奴、戦い慣れしてるぞ」
膝をつき、照の口からエトワリアの魔王がフォローを入れる。
実際、仮にも戦闘の知識が無い普通の女子高生と六人の少年を殺害した精神犯罪者が戦うとすれば、敏捷性、攻撃性と共に経験豊富なMNRが有利なのは間違いなかった。
「……黙ってて!」
照は一筋縄ではいかないどころか、戦いという行動に自分が押し負けていることに焦りを見せる。
苦虫を嚙み潰したような顔が、魔王の人格によって変化した。
「だが……照、我々の方は、浮遊が出来て、魔法も使える。この意味が分かるな?」
「どういうこと……っ?」
直後、照の脳内に魔王によるイメージが直接送り込まれる。
それは、過去に魔王がエトワリアで引き起こした「水害」のイメージだった。
「……ぶつぶつとうるさいけど、君も、同じなのかな」
MNRは、魔王と照の会話を見つめ、膝をついた照の方へ悠々と足取りを進めた。
「なかなか殺せないの、面倒臭いね。」
そう言って、MNRはもう一度エクスプロージョンを発動させた。
「っ……!」
「今だ、照よ!」
照の前方に生成された爆炎から、上から煙が突き抜けるようにして照は浮遊を始めた。
「……へぇ、君は飛べるんだ。降りてきてよ、じゃないと殺せないじゃないか」
「だめ。私はここから動かなくても、あなたを殺せるから。」
「へぇ……どうやって?」
マスクの中から、MNRはにやけたような笑みを浮かべ、魔法を発動させる。
『チェイン、ナウ』
浮遊した照の傍に魔法陣が出現し、そこから伸びた鎖が照に巻き付く。
「ぐ、がっ……!」
先刻、MNRに殺された遠野は抵抗しなかった訳ではない。この魔法により拘束されて、抵抗出来なかったのだ。
「首ごと折れば、その防御力も関係ないよね」
鎖が照の四肢と首に巻き付かれていき、その華奢な首元をへし折ろうとした。
「……それは、無理、だね、よく、足元を見て?」
だが、尚も照は秘策があるかのように余裕の表情でいた。
「……?」
足元からチャプ、という音がした。
よく見ると、辺り一面は白い魔法使いの足元から脛に至るまで、水面が生成されていた。
照は巨大な魔法陣から大量の水を四面に、立方体状に召喚させていた。
「だから、何?何かする前に、折っちゃえば…っ」
途端、MNRの足元がまるで地震が起きたかのように垂直に震える。
水がクッションになるため大したことは無いが、当然、白い魔法使いは魔法を発動する前に成すすべなく転ぶ。
魔法による拘束が、緩む。
「あなたの足元は、私が支配したものと同じ。もう、貴方は動けない」
準備は完了した。照は大詰めと言わんばかりに、自身の「とっておき」を発動させた。
「ぐ…っ」
魔法陣が縦に向きを変え、水を纏った無数の手が、MNRへ向かっていく。
仮面を纏い、桁外れの防御力を持つ相手にどう対抗するか。照の出した答えはこうだった。
「そのマスクごと、呼吸できなくさせちゃえばいいんだ――広く浅く、ちょっとだけ深くっ!」
「……ごぼ……っ」
動けない。痛いよ。おとうさん。
濁流に身動きが取れず、上下左右が、反転する。
照は考えた。幾ら敵の魔法が協力でも、この水中から逃れる魔法は存在しないと。
照の中の闇を体現したかの如く、水は濁っていた。
――これで、終わり。最後に照はMNRごと濁流を、地面に叩きつけた。
水流が叩きつけられ、小雨が降り、その中心には...何も無かった。
「……どこ、行ったのかな」
あの水流からどうやって脱出できたのか、それとも途中で何処かに吹き飛ばされたか。
照は辺りを見渡し――魔王が先に、その気配に気付いた。
「照、不味い!避け――」
「えっ」
「テレポート、ナウ」
「わ、がっ」
照の頭上にテレポートしたワイズマンが、急降下する。
ハーメルケインの槍が、照の衣服の中のSNS部のゲームCDごと、貫いた。
「痛った……」
自身の衣装が、変身する前の恰好に戻っていた。
そして、照の目の前に映ったのは……無残にも串刺しにされた、SNS部のゲームCDだった。
「え、嘘、魔王さ……」
「惜しかったね、さっきは」
その前方には、ひび割れたCDが刺さったハーメルケインを持ち、ずぶ濡れになり変身を解除したMNRが、隠すことなく満悦の笑みを浮かべた。
「……返してっ!」
照はひび割れたCDに手を伸ばす。が――容赦なく、MNRは照の腹部に蹴りを放った。
「ぎゃ……っ」
「返すわけないじゃん」
そして、ハーメルケインに手を伸ばし、SNS部のCDを粉々に砕いた。
百武照の必殺技の弱点は、「濁った水による攻撃のため、攻撃し終わるまで標的の姿が見えなくなること」だった。
そして敗因は、MNRの支給品に、「テレポートウィザードリング」が含まれていたこと。
謂わば、照はあの行動を取った時点で、敗北は確定していたという事だった。
MNRは照に、死刑宣告のようにエクスプロージョンウィザードリングを見せびらかす。
「じゃあ、死のう「――じゃ、さっさと」
「?」
「――じゃ、さっさと殺してよ」
笑顔で死を懇う照の姿が、そこにはあった。
その姿に、MNRはどうしようもない苛立ちを覚えた。
「――なんで?」
「私ね、この世に産まれてきたくなかったんだ。――だから、早く殺してよ」
勝敗は付いた。殺すのは簡単だ。だが――まだだ。
本能で悟った、この女は、早々に殺してはいけない。
さもなくば――死は、その女にとって救済になってしまう。
それが、どことなく許せなかった。
「チェイン、ナウ」
「きゃ!?」
鎖が巻き付けられ、照の躰は近くにあった大岩に四肢を広げられて拘束される。
「そうだね、でもまだかな。」
「何を...する気かな?」
照は、恐ろしい物を見るかのように、MNRを見つめた。
「君の苦しむ顔が、観たくなったから」
照は、直感で理解した。この少年は――自分を殺してくれるには、恐ろしい代価を払わねばならないことを。
「これ、どうすると思う?」
MNRは笑顔でハーメルケインを拾い、照に問う。
「……」
照は何も答えず、ただ虚ろな目をしていた。
だが――MNRの持っていた笛が照の身体をまさぐり、"そこ"にそれがあてがわれた瞬間、表情は恐怖に歪んだ。
「.....嘘、やめてよ!そこにそんなもの、挿入るわけがない、から......!!!!!」
「そうかなぁ。試してみないと分かんないよ?」
着ていたズボンの上から強制的に開かされた照の股に、それは容赦なく、捻じ込まれる。
「ぃやあああああああああああああ、あああああああああああ.........!!!!!」
「見たーいー、見たーいー、お姉さんが壊れるところ、見たーいー」
グチュ、と四肢を拘束され、衣服を破り、その処女ごと、百武照の膣内が蹂躙された。
照は、膣から腸に至るまでを――ハーメルケインで、壊されたのだ。
容赦なく、MNRは愉しそうに雑な大振りを、グチュ、グチャとピストン運動を続けた。
「ぁああああああああああ!痛い!!痛いぃい!!」
一振りごとに、照は大切な部分がぐちゃぐちゃに潰されていくことを実感していた。
「もう、赤ちゃんを産めないね...♪」
MNRは、玩具を壊しているかのような、まるでトンボの羽を潰しているかのように、楽しんでいた。
照はこう感じた。間違いない。この男は、私が死ぬまでそれを続ける。
"――もし、私が「死ぬより酷い目に遭ったら」、その時は、私を殺してくれる?"
照は、宝生永夢との約束を思い出し、叫んだ。
「永夢せんせい!!助けて、助けてぇぇええ!!!」
「――ダメだよ、助けなんて呼んじゃ」
直後、下半身が引き裂かれるような激痛とともにむぐっと口を塞がれた。
照が自らの口に咥えこんだのは――自分の、膣だった。
「ほらほら、もっと苦しんでよ」
「..っ..っ..!!!!!!!!」
MNRは、これで大詰めだと言わんばかりに、照の口腔内にそれを、押し込もうとする。
百武照の眼が天に上がり、泡を吹き、心臓がはち切れそうに高鳴り、事切れる直前に悟った。
わたしが生まれたこと。
ここまで生きていたこと。
すべて、全て―――す、べて、まちがいだったんだね。
◇
C-5、街に続く道の傍に、大岩の上に転がった全裸の遺体があった。
その首部には両目をくり抜かれ、無造作に卵管と卵巣が詰め込まれていた。
乳房には勃起させた部分を固定しようとしたのか、焼け付いた焦げ跡があり、切り裂かれた下腹部からだらしなく、股を開げていた。
切り裂かれた股部分から――まるでプラモデルのように、少女の膣内だけが消失していた。
【百武照@ステラのまほう 死亡】
◇
「楽しかったな〜♪」
MNRは、まるで音楽プレイヤーを持ち歩くように膣――百武照の、膣を持ち歩いていた。
だが――その膣を見てるとふと、「わたしね、この世に産まれてきたくなかったんだ」という照の言葉が頭をよぎり、自らの父親の顔がフラッシュバックする
「うっ……っ、痛いよ、痛いよ、おとうさんっ…………」
この痛みとともに、自分の存在についてふと、思い浮かんだ。
おとうさん。僕も、産まれてくるべきじゃなかったのかな?
頭を抱えながら、MNRの足は、D-5、街の入口へと踏み入ろうとしていた。
【D-5/一日目/黎明】
【MNR@真夏の夜の淫夢】
[状態]:健康、照に煽られたことへの不安感
[装備]:白い魔法使い(ワイズ)ドライバー&ハーメルケイン&エクスプロージョンウィザードリング@仮面ライダーウィザード、バインドウィザードリング@仮面ライダーウィザード、テレポートウィザードリング
アテムが用意したナイフ@遊☆戯☆王
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品×1〜3、遠野のペニス、百武照の膣
[思考・状況]
基本方針:僕は、生まれてくるべきじゃなかったのかな?
1:良さげな男を探す。
[備考]
※参戦時期はfatherless本編前(病院へ移送される前)です。
※前話で使用していたアテムが用意したナイフ@遊☆戯☆王は、遠野の支給品です
◇
でも、あなたと過ごした時間までが――すべて、生きてたくなかったわけじゃない。
わたしは、あなたとの日常を過ごすうちに、本当に、救われたんだ。
わたしがどんな目に遭っても、あなたは、前に向かって未来を、進んでくれると信じてるから。
だから、言っちゃうね。
本田珠輝ちゃん、あなたを愛してるよ。
ごめんね。―――みんなのテルさん、百武照より。
※C-5に、百武照の遺体とデイバッグ、基本支給品が転がっています
※放置された百武照に支給されたタブレットのメモ帳アプリの中に、本田珠輝に向けられた手紙が書かれています
投下を終了します
>>232 のMNRの状態表に、以下を追加します
※テレポートウィザードリングは、制限によって一度使用すると指輪が灰色になり数時間は使用できません。
桜ノ宮苺香、吉田優子、風祭小鳩で予約します
投下します
「コワーイ、コワーイ」
「ま、まだ追ってきます〜!」
「逃げましょう!とにかく逃げましょう!」
ピンクのウェイトレスを着た目付きの悪い少女、桜ノ宮苺香と
殆ど裸な痴女同然の格好をしたまぞくの少女、シャミ子は
息を切らしながらも必死に走っていた。
追いかけてくるのは、心を無くしたバフォメットと呼ばれる妙なまぞくである。
NPCとして用意された怪人の割にはコミカル過ぎるデザインであるが
これでもハッキリとした殺意を持って襲ってきており、捕まったらタダでは済まない。
「ハァ、ハァ……私、もう……あっ」
「苺香さーん!!」
体力が限界に来た苺香はふらつき、転倒する。
心を無くしたバフォメットは倒れた苺香へゆっくりと近づく。
「コワーイコワーイ」
「苺香さんから離れてください!……離れろーッ!!」
苺香の前に立ったシャミ子は涙目で、心を無くしたバフォメットに向かって、もがー!!と威嚇する。
「シャミ子さん!私を置いて逃げてください!」
「嫌です!苺香さんを見捨てて逃げるなんて絶対嫌です!」
本当は怖くて仕方がない。
それでも苺香さんを犠牲にして一人で逃げたくない。
そんな事をして生き延びても桃やミカンさんやお母さんや良やしおんちゃんに顔向けできない!
「コワーイコワーイ」
心を無くしたバフォメットは手に持ったスコップを高く持ち上げ
苺香を庇うように抱きしめているシャミ子に向かって振り下ろそうとしたその時だった。
「ああぁぁッ!!いってぇぇぇぇなぁぁあああっっ!!!クソがぁぁぁああああああ!!!」
「コワーイ?」
苺香やシャミ子、心を無くしたバフォメットの近くで
空からドスンと一人の男が降ってきて砂埃を巻き上げた。
男は頭を抑えながら、周りの目を気にすること無く大声でキレ散らかしている。
「あれは……」
「な、なんですかーー!?」
「コワーイ……」
予想だにしない出来事に二人と一匹は、突如現れた男に警戒を強める。
「ちっ……優しく下ろしやがれってんだ。クソがよぉ……」
「コワーイ、コワーイ」
「なんだこいつはぁ!?おい、やんのかコラッ!!」
脱出装置を使い、この場所へと降りた(落ちた?)小鳩は、目の前にいる心を無くしたバフォメットへとガンを飛ばす。
心を無くしたバフォメットは敵意を察して、標的を二人から小鳩へと変更した。
「テメエなんかに構ってる暇はねえんだよ!!死んどけオラァァッ!!!」
「コワーイ!」
カタルシスエフェクトを発現した小鳩は勢いよくモーニングスターを振り回し
心を無くしたバフォメットへと豪快に叩きつけた。
強烈な一撃を受けた心を無くしたバフォメットは打ちのめされて倒れ伏した。
「ふん!ザマァ見ろや!」
「あ、あの……」
「ん?……んん!?」
小鳩は驚愕した。
目の前には痴女と呼んで差し支えないようなスケベな格好をした美少女がいたからだ。
トランジスタグラマーと呼ばれる低身長ながらも豊満な体付きをしており。
まるでファンタジーRPGに出てくるビキニアーマーのような露出の高い格好なのも相まって
胸元がこれでもかと強調されており、少女の動きに合わせてゆさゆさと揺れ動いている。
「助けて頂いてありがとうございます!」
「あ、ああ……!いいってことよ。これぐらいならお安い御用さ……」
普段なら女性に対して、もっと軽快に話しかけている小鳩だったが
リドゥ内でも見たことないようなドスケベな姿の少女に小鳩は動揺しまくっていた。
しかもお辞儀をする姿が完全にだっちゅーのと同じポーズであり
元々丸見えだった胸元が更に強調されて、シャミ子の谷間がこれでもかと小鳩の瞳に映し出されていた。
それを無意識の内にやっているのだから紛れもなく、これは悪いまぞくである。
「ありがとうございます、おかげで助かりました」
もう一人の少女も一見すると地味めなウェイトレスだが、スカート丈がかなり短く。
ハイソックスとスカートの間から見える絶対領域の太ももがかなり扇情的である。
しかも二人とも息を切らしており、汗が流れ、顔が紅潮し、色っぽさを見せている。
(ヤベーぜ……二人ともエロ過ぎんだろ……ってそんなこと考えてる場合じゃねえ!!)
煩悩で溢れた思考を振り払い、自分の成すべき事を考える。
小鳩にはやるべきことがある。
ここで足踏みをしている訳にはいかない。
「なぁアンタら、探してる奴がいるんだが―――」
情報が欲しい小鳩はシャミ子と苺香から簡潔な情報交換と自己紹介を行うことにした。
小鳩は捜し人である不動遊星に一応、真月零の名も出すが両名とも二人には知らぬ名であった。
逆にシャミ子の親しい人物である5人の参加者の名を尋ねられたが誰一人、小鳩とは出会った事の無い人物であり。
お互い、必要な情報を得ることは叶わなかった。
「そうですか……」
捜し人が直接的な面識を持たない他人である小鳩はともかく。
大切な友人や家族達が巻き込まれているシャミ子は不安や焦りの表情を見せていた。
「……会えます!シャミ子さんの友人や家族達と絶対に会えます!」
「苺香さん……?」
「だから諦めないでください!」
「ありがとうございます……苺香さん……」
シャミ子の悲しげな姿に居ても立っても居られなくなった苺香は
彼女の手を両手で優しく握りしめて精一杯に励ましていた。
そんな苺香の優しさにシャミ子は思わず目から涙が溢れ出していた。
「……ここで出会ったのも何かの縁だし、せっかくだから俺も協力して捜すわ」
「小鳩さん!?でも小鳩さんも捜してる人達がいるんじゃ……」
「今は行く宛も無いし、複数で動いたほうが危険も減るからな」
カタルシスエフェクトによる力を持っている自分はともかく
二人の少女には戦う術が無い、殺し合いに乗った強者に襲われるとひとたまりも無いだろう。
彼女達の護衛も兼ねて行動を共にしようと小鳩は考えた。
正義の味方を気取る訳では無い。
ただこのまま放っておいて、後々死なれでもしたら目覚めが悪くなる。
それにカードさえあれば、女子供でも支援役になることだって出来る。
自分としてもメリットが無い訳じゃない……それに。
(何と言っても、一人でいるよりもこんなカワイコちゃん達と一緒にいた方が気分がいいからな♪)
状況が状況なので終始シリアスモードだが
美少女達と行動を共にしたいと考えるのが小鳩としての本能であった。
「じゃあ、早速別の場所に」
「コワーイ……」
「あっ?」
三人が話し合ってる間、意識が回復した心を無くしたバフォメットが起き上がっていた。
完全に油断していた小鳩はカタルシスエフェクトを急いで発現させるも
シャミ子達に向かって接近する心を無くしたバフォメットへの対応が出遅れた。
「コワーイ、コワーイ」
「に、逃げましょう!」
「ちっ、間に合わねえ!」
心を無くしたバフォメットがシャミ子達に襲いかかろうとした次の瞬間――。
「コワーイ!」
どこからともなく飛んできた薔薇が心を無くしたバフォメットの側で爆発を起こして吹き飛ばした。
「全く……可憐な少女達を傷つけようとするなんて、無粋なNPCですねぇ」
「あ、貴方は……?」
「コワーイ……」
二人を救ったのは白いスーツを着た中年の太った男だった。
彼が薔薇を投げつけて心を無くしたバフォメットを吹き飛ばしたのだ。
目の前に現れた男の存在に心を無くしたバフォメットは恐れをなしてどこかへと逃げていった。
「ボクは君たちのような美しい女性達を救うのが使命なのさ」
「う、美しいだなんて……」
「なんか、照れちゃいます……」
突如現れた男に容姿を褒められた二人は顔を真っ赤にして照れていた。
「それより、おっさん……なんでテメエは首輪が付いていないんだよ!」
小鳩の指摘により二人も気づく。
白スーツの男には首輪が付けられていなかった。
「それはボクが参加者ではなく、NPCの役割を与えられているからです……培養!」
懐から取り出したガシャコンバグヴァイザーのボタンを押すと
男は人間の姿から怪人態、ラヴリカバグスターへと変化した。
変わったのは見た目だけでなく、声もやたらイケボになっている。
「きゃっ!」
「変身したー!!なんかすごいイケボです!!」
「ハッハッハ!!ボクの名はラヴリカ、安心したまえ。ボクは女性達を傷つけるつもりはないさ、ただし君は別だけどね」
「つまり……テメエは俺の敵ってことだなぁ!!オラァ!!」
モーニングスターがラヴリカの体に直撃する。
すると『MISS』と表示され、ラヴリカには全くダメージを受けている様子は無い。
「そんな攻撃はボクには効かないよ」
「ほざくんじゃねえ!!」
MISS MISS MISS
モーニングスターを振り回して何度もラヴリカに当てるもMISSを繰り返すばかりで一向にダメージが入らない。
ラヴリカは通常の物理攻撃によるダメージを無効化する能力を持っているのだ。
「やれやれ……そんな大振りな攻撃をして、もし彼女達に当たったらどうするつもりだい?」
「ちっ!当てねえように攻撃してるじゃねえか!」
「これだから粗暴な男は……さぁ、出ておいでボクのラヴリーガールズ達!」
「キャピキャピ、キャピキャピ」
「キャピキャピ、キャピキャピ」
ラヴリカの掛け声と共にメイド服を着た6体の女怪人が姿を表す。
「なんだこいつらは?」
「ラヴリーガールズ達!彼女達が戦いに巻き込まれないように守ってあげるんだ」
「キャピキャピ、キャピキャピ」
「え?ちょっと?」
「は、離してくださーい!」
ラヴリーガールズ達はシャミ子と苺香を連れて戦闘から距離を取った場所へと連れて行く。
「何が目的だテメエはよぉ!!」
「ボクはこの島に連れてこられた女性達を少しでも長く生かすために保護しているのだよ」
「だったらテメエもあの神気取りと戦えばいいじゃねえか!」
「それが出来るならとっくにしているさ。ボクの体はゲームの進行の阻害をさせないようにプログラミングされているのさ」
「そうか。てめえはあいつらの犬としていいように使われてるって訳かよ」
「なんとでも言うがいいさ。ボクはボクの出来る範囲で彼女達を守るだけさ」
NPCの役割を与えられたラヴリカはゲームを破壊する行動を取ることは出来ない。
だが襲うプレイヤーの対象は自分の意志で決めることが可能であり。
男性プレイヤーを積極的に狙う代わりに、女性プレイヤーを保護する行動を取ることは許されていた。
「クソが!!なんで死なねえんだよ!!」
「暴力じゃボクは倒せないよ。ときめきクライシスは自分を魅力的にアピールし、異性からの好感度を上げて、ハートを射止めるゲーム。
例え、この身がいくら弄くられようと……女性達を愛するボクの想いは永遠に不滅なのさ!」
「キャー! ラブリカサマー!」
「ステキー! ダイテー!」
プログラミングを受けてようと女性達だけは守ろうとするラヴリカの信念に
ラヴリーガールズ達は心をときめかせ、ハートを大量に放出。
それがラヴリカの肉体へと飛んでいき、ステータスを強化させた。
「さぁ、食らいたまえ!」
「ぐ、ぐわぁああああああ!!!!」
ラヴリカの両手からハート型のエネルギーの塊が撃ち出され、小鳩に直撃した。
ラヴリーガールズ達からのバフを受けた事で威力は増幅しており、一撃で小鳩に大ダメージを与えた。
「小鳩さん!」
「お願いします……小鳩さんを傷つけないでください……」
「ああ、悲しまないでおくれ。彼の代わりにボクが君たちを守ってあげるからさ」
悲しむ苺香達の姿を見て、慰めようと声をかけるラヴリカ、すると。
「……近づかないでくれませんか?」
「え?い、今なんて?」
可憐で優しそうな少女とは思えないようなドギツイ発言がラヴリカの耳に入ってきた。
聞き間違いか何かだとラヴリカは思い直して聞き直すが。
「耳が遠いんですか?視界に映らないでください」
「うぐぉぉおおっっ!?」
異性からの好感度を上げて強化されるラヴリカの特性上。
逆に異性からの非難にはダメージを受けてしまうのだ。
「貴方、もしかして自分がカッコイイとでも思っているんですか?笑わせますね」
「ごはぁっ!!」
「姿が変わると声が別人過ぎてアンバランスで不気味です」
「ぐへぇっ!!」
「男の癖にやたらまつ毛長いし、色もピンクだし、女みたいで気色悪いです」
「うっぎゃあああああああ!!!!」
「苺香さん!それ以上はいくらなんでも可哀想過ぎます!」
まるで汚物でも見るような蔑んだ表情で毒を吐く苺香の言葉が
ラヴリカのハートへ次々と突き刺さり、グロッキー状態になっていた。
「うぐぐぐっ……」
「おい、あんた……さっき自分をアピールして異性からの好感度を上げてハートを射止めるって言ったよなぁ?」
「そうさ。君も高感度を上げてみたらどうだい?まぁ、君みたいな乱暴でガラの悪いダサ眼鏡くんには一生かかっても敵わないだろうけどねぇ!!」
「……確かに、目の前にはこんな美少女達がいるんだ。本来ならこの戦いとか関係無しに口説いてデートにでも誘うのが男としての礼儀だろうさ」
「ほう〜、君も少しはわかっているじゃあないか」
「だがな……今はそんなことしてる場合じゃねえんだよ!!
俺を逃がすために体を張って死んだ男がいる!そいつのおかげで俺は今生きている!
託された俺はそいつの代わりに神気取りの主催者共をぶっ潰すと決めた!!
それを半端で投げ出して女とよろしくやるなんざ真似、男として恥ずかしくて出来るわけねえだろうが!!
青春の謳歌はこのクソッタレなゲームをぶっ壊してから堪能させてもらうぜ!!」
それが小鳩の本心。
託された使命を終わらせるまでは愛と青春はお預けだ。
彼女たちをナンパやデートに誘うのはそれからでいい。
その本音を聞いた彼女たちは……。
トゥンク
「キャー! コバトパイセンステキー!」
「ポッポセンパイダイテー! チョーワイルドー!」
「ええっ?ちょ、ちょっと君たちぃ!?」
小鳩の決意の言葉にラヴリーガールズ達はときめき、小鳩のステータスを増幅させる。
「小鳩さん、とってもかっこいいです!」
「私も主催者を懲らしめるの手伝います!」
「ねぇ!あんな乱暴なダサ眼鏡のどこがいいんだい?」
苺香やシャミ子からの好感度も爆上げしたことで更に小鳩にバフが入る。
「なんだこりゃ、めちゃめちゃ力が溢れてくるじゃねえかぁ、これならテメエをぶっ飛ばせそうだぜ!」
「ま、まぁ、ここは一度、冷静になって話し合いでも」
「死んどけェ!!!!!!オラァァァァァアアアアアアッッッ!!!!!!!」
かつて無いほどの力の高ぶりを感じた小鳩は
持てる全ての力を使い、勢いよく振り回したモーニングスターで
狼狽えるラヴリカに向かって容赦なく叩き込んだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!必ず最後に愛は勝つぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」
異性からのバフ効果によってダメージが通るようになった攻撃によって。
まるでホームランを打った時のボールのような勢いで空高く打ち上げられたラヴリカは
キランと夜空の星となって消えていった。
それに伴いラヴリーガールズ達も消失し、付近からNPCの気配が無くなった。
「へへへ……ザマァ見ろ、キザ野郎が……」
「小鳩さん、酷い怪我……すぐに手当を!」
「とりあえず脱ぎましょう!」
ラヴリカの攻撃の影響で小鳩の体は全身至る所から出血を起こしている大怪我を負っていた。
制服もボロボロになっており、見るも痛々しい姿である。
「大丈夫だ。こんなの大したこと――――」
「こ、小鳩さーん!!」
「急いで治療しましょう!!」
会話の途中でバタン!と小鳩は倒れた。
ポセイドンとの戦いからのラヴリカとの連戦で小鳩の肉体は限界を超えており
無理に動こうとする彼はまるで強制シャットダウンしたかのように気を失った。
頑張れシャミ子!迅速な手当てで新たな仲間を助けるんだ!
【一日目/黎明/G-6】
【風祭小鳩@Caligula2】
[状態]:気絶、ハ・デスに対する怒り(特大・ただある程度落ち着いた)、いたるところに裂傷&出血、精神疲労(中)
[装備]:カタルシスエフェクト、身軽の羽根DX@大番長
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:黎斗とハ・デスぶっ潰す。主人公から降ろしたツケ払いやがれ。
1:知り合いいないってんなら自由にやるか。
2:真月って奴は、まあ敵じゃないんだろな。知り合いいたら言っとくか。
3:牛尾のおっさんの知り合いに会ったらどう説明すりゃいいんだろうな。
4:此処、もしかしてリドゥ?
5:流石にこの羽根は俺には合わねえって……まあ仕方ねえけど。
6:やってやろうじゃねえか、神殺し!
7:不動遊星とデッキを探す。B-6近くのどっかにあんのか?
8:シャミ子や苺香と共に行動するぜ。
9:シャミ子の知り合いも一緒に探すとするか。
[備考]
※参戦時期はエピメテウスの塔攻略中、
かつ個人エピソード完全クリア済みです。
※部長の性別は採用された場合、かつ後続の方に一任します。
※カタルシスエフェクトは問題なく発動します
※①黎斗はそれを利用して殺し合いの舞台を作ってるのではないか。
②黎斗がゲーマーであることを示唆する言い回しがいくつかあった。
③元を辿ればバーチャドールは電子ボーカルソフトから誕生。
これらからこの舞台をリドゥの延長線上にあるのではないかと思ってます。
※デュエルモンスターズのルールについてはざっくりと把握してます。
可愛いモンスターにはそれなりに目を付けてます。多分閃刀姫も知ってるかも。
※牛尾との情報交換で5ds+遊戯達の情報を得ました。
※身軽の羽根DX@大番長で回避率、基スピードが強化されてます。
※名前は分かりませんがあの男がポセイドンだと察してます。
【桜ノ宮苺香@ブレンド・S】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品一式ㅤ桜ノ宮苺香専用ㅤクリスタル@きららファンタジア、ハーブティー@かぐや様は告らせたいㅤ天才たちの恋愛頭脳戦、光の護封剣(ゴールドシリーズ)@遊戯王OCG
[思考・状況]
基本方針:殺し合いに乗らず、みんなで協力して生還する
1:またこの目つきのせいで怖がらせてしまいました……
2:一刻も早く小鳩さんを治療します!
3:一緒に小鳩さんやシャミ子さんの知り合いを捜します。
[備考]
※参戦時期はお任せします。
【吉田優子@まちカドまぞく】
[状態]:健康、危機管理フォーム
[装備]:
[道具]:基本支給品一式ㅤランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:みんなが仲良くなりますように
1:バフォメット!? バフォメットナンデ!? しかもなんか速い!?
2:桃やミカンさんだけじゃなくて、なんでお母さんと良まで……
3:一刻も早く小鳩さんを治療しましょう!
4:小鳩さんの知り合いと皆を捜します!
[備考]
※参戦時期は夏休み(アニメ2期7話、原作43丁目)以降です。
※ラヴリカバグスターはどこかへ飛んでいきました。
『NPC紹介』
【ラヴリカバグスター】
ときめきクライシスのデータから誕生したバグスター。
通常の物理攻撃によるダメージを無効化する能力を持ち。
ラヴリーガールズの好感度を上げて獲得したエネルギーで、相手にダメージを与える事ができる。
女性から非難を受けるとダメージが入る性質を持っている。
性格上、女性に危害を加えることは行わずに男性参加者だけを狙う。
【ラヴリーガールズ】
ラヴリカが召喚するバクスター。
彼女たち自身に攻撃能力は持たず、ときめいた相手にバフをかける能力を持つ。
またラヴリーガールズ達が消滅すればラヴリカに通常の物理攻撃が通るようになる。
投下終了です
冴島鋼牙、柊ねむを予約します。
投下します
DIOとの交戦を終えて、今の状況にミカンは思う。この状況はかなりまずいと。
毒が無効になってることだけが不幸中の幸いだと思っていたのだが、
カイトの考えではいつまでも無効になるとはあまり思っていなかった。
バリアンの力を持つ時空竜の効果は、間違いなくこの舞台でも強力無比だ。
敵味方問わない欠点はあれど、力を封じるのは多くの場面で有効打になる。
現に時を止めると言う規格外の能力や猛毒を無力化することに成功した。
だが、効果が永続的なのが罷り通れば、大半の戦闘を一方的に有利になってしまう。
ある程度ゲームバランスを考慮するかのような発言をしている主催者のことだ、
殺し合いに乗るはずのない人物に、そんな高性能なものを渡すとも思えない。
(戦闘破壊耐性、対象耐性、効果破壊耐性。
どれだけ強固な耐性を築こうとも、必ず突破できる手段がある。)
デュエルモンスターズを経験したカイトだからこその考えだ。
万能なカードと言えども、必ず限界や弱点と言うものは見えてくる。
(そう……よね。)
効果が切れるまでの間に、何かしらの手段で無毒化しなければ彼は死ぬことになる。
不謹慎だが少しだけ彼女は嬉しく思えた。昔からずっと悩み続けた呪いを気にせず、
落ち込んだり喜んだり、自分の感情を遠慮なく素直にさらけ出せる今の状況が。
でもそれはシンデレラのようなもの。解ければ現実に戻る一夜限りの魔法。
魔法が解けるまでに何とかしなければ、カイトは死ぬ上に呪いも再発する。
そうなればクレヨンさえどうなるか分かったものではない。
加えてそのクレヨンも深刻だ。
此処はTOWER、即ち電脳空間が舞台と言う説はあるものの、
もしそうでなかった場合、彼女の腕は曲芸用HANOIとして致命的だ。
アンドロイドなので治せる可能性はある。だがそれは殺し合いが終わってから。
HANOIの構造や仕様、修理費などミカンからすれば皆目見当もつかない。
長時間放置がアウトなのか、修理費はとんでもなく高いのか。
下手をすれば、クレヨンは元の世界へ戻っても廃棄処分、
なんてことだってあり得てしまう可能性に軽く戦慄する。
自分の判断の結果が、二人に災厄を招いてしまったこと。
呪いがあったら、どれだけのことが起きていたのか想像したくない。
特に。自分だけが傷ついていないと言うのが凄く腹立たしく思えてしまう。
魔法少女と言う存在でありながら、守れたのはDIOの妨害ができたぐらいで。
「今が時間が惜しい。万が一解毒できなかった場合に備えて、
俺が持っている限りの情報をお前たちに預けておきたい。
諦めるつもりはないが、どの道知り合いの共有は必要だからな。」
カイトは既に死んだ身だ。死ぬこと自体に恐れはない。
だから自分の命以上に、今の状況の好転の為の行動を優先する。
仮にも一瞬死にかけたはずなのに立って歩けることに二人は驚く。
彼の精神力が、或いはデュエリストとはそういうものなのか。
最悪を回避するため移動しながら情報を得ておくのは大事だ。
荒野と砂漠の入り混じるエリアを会話しながら、三人は横並びに歩いていた。
「そうね、今なら呪いもないから言えるうちに言っておくべきよね……ッ。」
時間をかけて名簿の確認はできたものの、想像通りの結果だ。
自分を合わせて六人。こんなものを不意打ちで見せられたら、
あの時クレヨンに呪いが降りかかっていたのは間違いない。
檀黎斗に対して怒りすらこみ上げてきそうだ。
『ふたりとも あれ!』
クレヨンが慌てて二人の肩を叩き、
空を指しながらスケッチブックに殴り書きをしていく。
指した方角の空に、赤い翼竜のようなものが空を舞っている。
此処はモンスターや怪人がそこら中にいるものの、
真っすぐ三人の方角へと進んでいることだけは伺えた。
カイトはデュエルディスクを展開させてカードを引き、
「フォトン・スラッシャーを特殊召喚!」
大振りの剣を握る、光子の剣士が召喚され、ミカンも隣に並ぶ。
ただ相手の様子が違うことに気付き、迎撃するのは止めた。
翼竜は確かに近づいてくるが、攻撃と言うよりは着地場所を探すような仕草。
そして翼竜とは言うが、その姿は完全な機械で変形しそうな姿をしている。
機械の上には一人の男が立っており、そこから降り立つ。
「俺と同じ、デュエリストのようだな。」
降りてきたのは、戦いの儀を見届けた方の海馬瀬人だ。
◇ ◇ ◇
「ふざけるなぁ!」
海馬の憤りは、もう一人の海馬よりも大きいものになる。
此方はもう一人の海馬と違ってDEARH-Tと言う過去が存在しておらず、
アメルダのような戦争孤児を見てきたのと、父となる海場剛三郎の手により、
自身の作ったシステムを軍事利用されそうになったのもあり、よりその手のことを嫌悪する。
(アメルダの件は冤罪だが、嘗ては軍事企業だったのでそういう恨みは買ってそうではある)
特に許せないのは、黎斗がこの舞台をゲームと称してゲームマスターとしているからだ。
同じゲームクリエイターとしてその技術、才能。そう言ったものは認めざるを得ない。
その才能でやることが命掛けのゲームと言うところについては二番どころか三番煎じで、
ビッグ5の仕掛けたDMクエスト、海馬乃亜の電脳空間と既に三度目の経験でもある。
ビッグ5ならまだしも、電脳空間で少年の乃亜と同じようでは程度が知れてしまう。
加えてゲームとは、プレイヤーに理解できるようにクリエイター側が設計するべきことだ。
ルールを理解する時間も与えずに一方的な虐殺など、ゲームとしてはあるまじきことである。
同業者としては、この男の行為のあらゆるところが認めることはできなかった。
「首を洗って待っているがいい、檀黎斗よ。
貴様がこの下らぬゲームにオレを参加させたこと、必ず後悔させてやる!」
別の海馬と殆ど同じ文言を彼方の空へと向けて放つ。
だが、もう一人の自分と違いこの海馬は遊戯に執着することはない。
故に出会いたい相手は誰もいない。凡骨こと城之内も勝手にやっているだろう。
優先順位があるのであれば、殺し合いを乗った相手か殺し合いすらままならぬ子供を優先だ。
前者ならば粉砕するのみ、後者であれば保護することも検討することにしている。
「Y-ドラゴン・ヘッドを召喚!」
なので早急に探せるように、引いたカードで移動できるモンスターを召喚する。
バトルシティ以降から何かと世話になる、ユニオンモンスターの一体だ。
その背へ飛び乗って仁王立ちしながら、機械仕掛けの龍を空へと飛ばす。
いかにジェットや様々な運転技術を誇る海馬瀬人と言えども乗るのはモンスター。
アクションデュエルと言った経験がない彼にとって初めての経験ではあるので、
乗るのに時間は必要ではあるものの、慣れさえすれば振り落とされることはなかった。
乗るのに時間をかけたお陰で、
安定して飛べるころにはカイトが召喚した時空竜の姿を目撃。
特にあてもなく移動していたので、急遽こちらへと経路を変更して今に至る。
「ゲームには乗ってないようだな。」
三人の様子を見てすぐに推察する。
この負傷に人数。殺し合いに乗った参加者同士の集い、
と呼ぶにはこの短時間では短すぎるので可能性は低く、
かつこれだけの負傷をしていてはステルスをしてる可能性も皆無。
片方は腕を欠損、片方も少なからず疲労が見えている状況だ。
既に戦力として見劣りする状況で、殺し合いに乗ってるが積極的ではない、
所謂ステルスを続ける理由は少ない。早急に始末して支給品を得て、
それを戦力とすればデュエルディスクの存在もあわせて問題ないはずだ。
(私?)
海馬はミカンを軽く一瞥する。
一番ステルスの候補となりうるのは負傷の少ない人物。
だがミカンはフォトン・スラッシャーと並んで得物を構えた状態。
ステルスらしからぬ行動は、此処にいる面々が敵ではないと言う証拠になる。
まあ、この舞台には下手をすれば負ける状況に追い込まれたとしても、
友情ごっこを演じ続けたベクターと言う男がいたりもするのだが。
カイトの知らないところであった出来事だ。故に知る由もない。
「ああ。俺達は乗るつもりはない。だがお前はどうだ。」
どちらかと言えば乗ってないとカイトは判断してるが、
最初に出会ったのがDIOという厄介な男だったのも相まって、
少しばかり人に対する疑念と言うものが深くなってることは否めない。
「デュエリストならばデュエルで証明する、
と言いたいところだが此処では時間が惜しい。」
「ああ、そうだな。俺も時間がない。」
「だったら、何か解毒できるものはないかしら?」
「俺のデッキにはそういうものはない。」
海馬のデッキは毒を無力化できるものになりうるカードはない。
寧ろ彼は毒、ウイルスを使って相手を壊滅させることも手段の一つとする。
そんな彼にそういうカードを求めるのはお門違いといったところだ。
もう一人の海馬とはさらに別の海馬であったのなら、
ワクチンを使ったので治せていたかもしれないが。
(メタ的に言えば遊戯王Rである)
無論、デッキがある以上支給品は没収済み。
彼のデッキにないのであれば、それで終わりだ。
都合よく解毒できるものは用意されていない。
「だが試す価値はありか。」
そう言いながら海馬はデッキからカードを丸ごと抜き取り、
中から一枚のカードをカイトへと投げ渡す。
「効果があるかは分からんが試しておけ。
仮に解毒は無理でも、披露した体には通用するだろう。」
渡されたカードを一瞥しながら、
カイトは魔法カードを一枚セットする。
「……速攻魔法『非常食』を発動。」
他の魔法、罠カードをコストにすることで、
自分のライフを回復させる魔法カード。
発動と同時に彼の全身を緑色の光に覆われる。
「多少は痛みは引いたところを見るに、回復はできるようだ。
毒がなくなっているかどうかは判断できないがさっきよりは動ける。助かった。」
「この程度で信用など得るつもりはないが、
話し合いに応じるぐらいの狩りにはなるだろう。」
敵対することはなさそうなのもあり、
非常食を返却した後情報を共有することに四人。
と言っても海馬はこの舞台に二人存在するのでややこしく、
説明については通常の情報交換以上に時間を食うものになるが。
なお見分け方はデュエルディスクが違うとのことなので、
そこで判断するのが一番手っ取り早いことも伝えられる。
「DIOに承太郎か。」
『ディオ つよい!』
「承太郎は名前が挙げられただけで、
どういう人物かは私達にもわからないわ。
私も又聞きだから判断もできないし。」
「奴が仮面を被っていたときの発言だ。信用できるとは言えない。」
「ならば出会って確認するだけだ。
俺の戦いのロードを邪魔立てするならば、
どのみち神であろうとも叩き潰すことに変わらん。
たとえ承太郎が敵であろうと、DIO(神)であろうともな。」
「私達はこのまま島の中央へ向かうわ。
もしかしたらシャミ子や他の参加者も、
砂漠や雪原を嫌って集まる可能性もあるから。」
E-4には街と思しき場所もある。
カイトのモンスターも利用していけば、
そのあたりを中心に参加者もより探しやすい。
「ならば敵を倒すついでだ。
解毒できる参加者に当たった時、合流するように言っておこう。」
「ごめんなさい。私のせいで色々面倒かけることになって。」
「勘違いするな。貴様らは集団を形成できる。
敵と戦うのに無力な参加者がいては足手纏いだ。
預けられる場所があると言うのであれば、それに越したことはない。」
ドライな発言かと一瞬思ったものの、
要するに信用できる三人に戦えない参加者を此方に寄越すと言う意味になる。
呪の再発があるのでいいとは言えないが、海馬の言う通り危険なのは事実だ。
『おにいさん いいひと?』
「あの言い方は絶対誤解を招きそうだけどね。」
意味を噛み砕いた二人は顔を合わせながらそんなことを話した
◇ ◇ ◇
三人と別れた後、
夜空を駆け抜けながら海馬は思う。
黎斗は一体何の目的で殺し合いをするのか。
その答えが得られれば、無駄な戦いも減らせる。
まず最初に思ったのは予選。
予選と言う概念や予選でもデュエルがあったことから、
この殺し合いに参加させられた参加者は名簿の人数以上だろう。
ではなぜその予選をする必要があったのか。
最初に黎斗は海馬たちをテストプレイヤーと言ってゲームの完成を宣言した。
つまりこの舞台、もといゲームを完成させることが目的になると言うこと。
だがそれは完成の宣言の通り、もう既に完了しており続ける意味はない。
加えて、既に自身の命を握られてる中、美遊と言う少女を人質にする理由も謎だ。
誰かを焚きつける? だとすれば参加者として最初から用意すればいいだけの話。
彼女が死亡するなり危険な目に合えば、知り合いは身を挺して戦ったりするはずだ。
態々特別ゲストのような扱いをする理由にはならないだろう。
(ダーツのような生け贄が目的か?)
秘密結社ドーマの首魁となる男、ダーツ。
彼はオレイカルコスの神を復活させて世界を滅ぼす為、
ドーマの三銃士を筆頭に多くの人の魂、もとい生贄を集めた。
予選を落ちたとされる存在にも、そう言った役割があるのだと推測できる。
次に問題となるのが、今度は残ったプレイヤーに殺し合いをさせる理由だ。
生け贄が欲しいのであればすぐにでも首輪を爆破させるなどで殺せばいい。
待つ理由があるならば二つ程簡単な仮説を立てた。
一つは此処で一度戦いを挟むことでのデータ収集。
一つはこの舞台に何かが起きるのを待っているための二種類。
ただ前者となると、一般人のような立ち回りをした麻耶がいることは疑問だ。
デュエルディスクはあったが、扱いきれなければ映像のとおり瞬殺される。
戦いの中で得られるデータとして余りにもお粗末だと言わざるを得ない。
予選に何人いたかは定かではないが、そういう戦いも恐らくあったはずだ。
今更彼女のような犠牲者を求める意味はなく、後者の方が可能性としてありうる。
(奴は何かが起きるのを待っているのか?)
デュエルモンスターズで例えるならば、神の召喚条件を整える。
それまでの間をどう戦うか、生け贄はどういう手段を使って揃えるか。
この舞台で何かが出来上がったときが、奴にとっての真の目的の成就。
殺し合いをすることがそれの完成に近づく要因となりえるなら、
今の状態を維持すると言うのも頷けるところではあるか。
ただ、今の状況では判断材料はとても少なく仮説程度だ。
カイトたち三人との情報を組み合わせたれば何かの手がかりに繋がるかもしれないが、
光の一族、闇の一族、HANOI、TOWER、バリアン……組み立てるにしては、
どれも余り海馬の考える材料と結びつかず、新しい仮説に辿り着くぐらいだ。
(後はカイトの言うアストラル世界か。)
ランクアップした魂だけが行ける世界、アストラル世界。
遊馬と違いカイトはアストラル世界に行ったわけではないので、
情報源としては乏しいので、仮説とするにしても根拠は薄くなる。
ただ、黎斗がこの殺し合いで魂のランクを上げることで、
アストラル世界へ到達すると言った目的を考えてると言う可能性はないとも言いきれない。
単に殺すのではなく、殺し合いを経由することで生き残った者は魂がランクを上げ、
その魂を最終的に黎斗へと集約させることで、黎斗自身の魂のランクを上げると言う、
昔の海馬であったのなら非科学的だと一蹴するであろうトンチキな仮説だ。
予選も、その中で強い魂になるであろうと思ったのを優先してるかもしれない。
この場合でもやはり麻耶と美遊のような存在がノイズなことは変わらないが。
(とんだ非科学的なものだな。)
ただ、もう一人の海馬と違い戦いの儀を筆頭に様々なものを見た。
アトランティスに関する出来事やデュエルモンスターズの精霊を。
だからあちらよりはそういうものに対する抵抗は薄れている方だ。
薄れているからこそ、数年後宇宙の波動とかのたまうことになったりもするが。
魔法少女と言うデュエルモンスターズから飛び出してきたかのような、
想像を超えた存在もまたいることは少なからず理解はできたことだ。
自分らしからぬ柔軟な考えと共に、行動していくのがベストだと。
決闘の舞台となる夜空を、赤き機械竜が駆け抜けていた。
【一日目/黎明/G-4】
【海馬瀬人@遊☆戯☆王デュエルモンスターズ】
[状態]:健康、平行世界の自分に不快感、Y-ドラゴンヘッドの背中の上に立ってる
[装備]:海馬瀬人のデッキ&デュエルディスク@遊☆戯☆王デュエルモンスターズ、Y-ドラゴンヘッド
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:この決闘を粉砕する。
1:敵を探す。
2:首輪を解除したい。
3:アテム、平行世界の自分は放置。当然凡骨は放置だ。
4:奴らの目的を知るためには情報が必要だ。
5:敵でないと判断した人物にE-4周辺にいるカイトの解毒、或いは合流を要請しておく。
6:承太郎とDIOを警戒。だが承太郎についてはこの目で確かめてから。
[備考]
※参戦時期は本編終了後。
※ミカン、クレヨン、カイトと情報交換をしてます。
※主催の目的の仮説として
①典型的な蟲毒や生け贄が必要か
②この殺し合いで何かが顕現するのを待っているのか
③この殺し合いで集めた魂でランクアップを目指すのか
以上の二つを考えています。
【天城カイト@遊☆戯☆王ZEXAL】
[状態]:ダメージ(特大・非常食で少し回復)、肩に傷、モウドクフキヤガエルの毒(無効)
[装備]:デュエルディスクとデッキ(天城カイト)@遊☆戯☆王ZEXAL、No.107 銀河眼の時空竜@遊☆戯☆王ZEXAL
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:首輪を外しこの戦いを終わらせる。
1:首輪を外すための方法を探る。そのためにサンプルとして二人(渡とマヤ)の遺体を探す。
2:ナッシュ警戒、ベクターとあの男(DIO)は要警戒。
3:遊馬ではできないだろう敵の排除。ベクターを優先とする。
4:空条承太郎、安易に信用するべき相手ではなさそうだな。
5:遊馬、お前は無事か?
6:E-4辺りで参加者を探す。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※既存のエクストラデッキの銀河眼エクシーズモンスターは全てありません。
※現状の右腕ではカードを手にすることもできません。
※銀河眼の時空竜の効果で毒を一時的に無効にしています。
何かしらの手段で無効効果がなくなった瞬間、
或いは第一放送時までに解毒されなければ効果が切れて死亡します。
なお、デュエリストの本能で免疫系を活性化させて毒を無効にはできません。
※時の止まった世界を認識できます。
但し殆ど動けません。何度も時間停止が起きれば動けるかも?
※ミカン、クレヨン、海馬(アニメ版)と情報交換してます。
【陽夏木ミカン@まちカドまぞく】
[状態]:精神疲労(大)、精神的動揺、魔法少女モード、呪い&ミカエルの毒無効
[装備]:クロスボウ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜3(解毒系のものはなし)
[思考・状況]基本方針:誰も殺さず、元の世界に帰る
1:ひとまず落ち着くのよ、私。
2:もしかしてこの決闘企画も、私の呪いのせいで始まったのかしら。
3:彼(カイト)を一先ず休ませないと。
4:名簿は……まだ見れないわ。
5:クレヨンと一緒に行動する。
6:ひょっとして、此処は仮想世界?
7:この人(カイト)の毒を何とかしないと。
8:呪いがないのはいいことだけど……
9:E-4を中心に人を探す。
[備考]
※参戦時期は、原作49話(アニメでは2丁目11話)で呪いが発動し、
シャミ子・桃と別れた後、かつ再会する前からです。
※名簿は見ていません。
※クレヨンとの会話からこの舞台が仮想世界TOWERの可能性を考えています。
※銀河眼の時空竜の効果でモウドクフキヤガエルの毒とウガルルの呪いが無効になってます。
何かしらの手段で無効効果がなくなった瞬間、或いは第一放送時に戻ります。
※カイト、クレヨン、海馬(アニメ版)と情報交換してます。
DIOの時を止める能力も把握してます。
【クレヨン@TOWER of HANOI】
[状態]:左腕粉砕(修復は困難)、右腕損壊(使用自体可能)、ダメージ(大)、MP消費(小)
[装備]:
[道具]:基本支給品(紙とピンク色のクレヨン含む)、ランダム支給品×1〜3(解毒系のものはなし)、壊れた左腕の残骸
[思考・状況]基本方針:ミカンをㅤニコニコㅤえがおにㅤしたい!
1:けっとうㅤイヤ!
2:ここ タワー?
3:うで どうしよう
4:おはなし むずかしい!
[備考]
※参戦時期は後続書き手さんにお任せします。
※コーラルとの親密度はB以下です。
※戦闘補正があるため戦闘能力はTOWER世界と同等です。
ナイフ等のTOWERでの技で使う武器や道具を任意で生成できます。
ただし出せる技の範疇の武器のみで、生成する際にMPを消費します。
作成できるナイフの種類はクレヨンが所持しているナイフに変更されます。
ない場合は原作の『ペーパーナイフ』がデフォルトになります(攻撃力微増)
※銀河眼の時空竜の効果でティアドロップ、ラッキーカードが使えません。
何かしらの手段で無効効果がなくなった瞬間、或いは六時間後に戻ります。
※カイト、ミカン、海馬(アニメ版)と情報交換してます。
DIOの時を止める能力も把握してます。
※G-4に仰向けに破壊されたガトリングバギー@遊戯王OCGがいます。
G-4で光子竜、時空竜が召喚され、もしかしたら見てる人がいるかもしれません
時空竜の攻撃でG-4はかなり荒れています。
G-4に海馬(アニメ版)を乗せたY-ドラゴン・ヘッドが飛んでます
以上で投下終了です
後今更ながら拙作『ⅩⅩⅠ THE WORLD』でですが、
場所の表記(状態表のところに場所は表記されてましたが)表記し損ねてました
完全に今更な話ですみません(ついでにウガルルの名前の誤表記)
投下します。
「ハッピーエンドが嫌いなのかって?」
「まさか。終わり方の好き嫌いに拘るのは創作者としてナンセンスだよ」
「良い結末であれ悪い結末であれ、そこに至る過程をしっかりと組み立てているからこそ、物語は成り立つんだ」
「だから終わり方が気に食わないというだけで、物語を全て否定するような真似はしないで欲しい」
「うん?それで結局ハッピーエンドは嫌いなのか教えて欲しい?」
「今言ったばかりだけど、別に物語の結末に拘りは無いんだ。ハッピーでもバッドでも、納得のいく過程なら文句は付けないよ」
「ただそうだね……僕はハッピーエンドが嫌いとかじゃなくて」
「ハッピーエンドを信じられなくなったんだ」
◆
冴島鋼牙。
ねむを助けた白コートの剣士はそう名乗った。
第一印象は何とも無愛想な男。
幼い少女と接するのなら笑顔を作り優しい口調で話かけても良いと思うも、鋼牙にそれはない。
とはいえねむ自身、他人の愛想をとやかく言える程社交的な性格でも無いのだが。
しかし愛想が無いからと言って悪人という訳でもない。
この世のものとは思えない汚さの男に殺されかけた所を、鋼牙に助けられたのは紛れも無い事実。
なら礼を伝えるのが筋というものだろう。
「助けてくれてありがとう、もう少しで殺される所だったよ」
「礼を言うのは俺の方だ。お前が隙を作ったおかげで鎧を召喚できた」
鎧。
それは黄金の狼の事か。
あれを目にした瞬間の衝撃は到底忘れられそうにない。
「助けられておいてこんな事を言うのも何だけど、お兄さんは何者なんだい?剣術を齧ってるだけでの人間でないのは僕にも分かるよ」
抱いて当然の疑問をぶつける。
生身でありながら超人的な身体能力と剣の腕を持ち、謎の鎧を纏う。
魔法少女ではない、未知の力を持った男。
彼は自分が利用するに値する存在となり得るか、彼は自分の害になる存在なのか。
まずは鋼牙の正体を知り、それから対応を決めねばなるまい。
「……」
一方の鋼牙は質問を受け、暫し黙り込む。
柊ねむと名乗ったこの少女、見た目の年齢とは不釣り合いに落ち着いている。
この年頃の子供であれば、もっとパニックになるのが一般的ではないだろうか。
だがねむは取り乱す様子もなく、いやに冷静だ。
修行中の魔戒法師であるならこのような態度でも分からなくもないが、魔戒騎士の鋼牙を見て素性を尋ねた事からも違う。
元々そういう物怖じしない性格なのか、或いはただの子供とは違う何かを秘めているのか。
念の為に気にかけておいた方が良いのかもしれない。
「どうかしたのかな?話し辛いことだったかい?」
「いや……」
何時まで経っても返答が無い事へねむが首を傾げる。
魔戒騎士の素性をそう簡単に明かすべきではないとは重々承知だ。
しかし今は緊急事態。
檀黎斗達を倒し殺し合いを終わらせるまでねむを守る気でいるのなら、話しておくべきだろう。
そう決定し鋼牙は説明を始める。
魔界の住人ホラーと、人知れず闇を狩る魔戒騎士の長きに渡る戦いを。
「……何だか物語のような話だね」
「だが事実だ」
「うん、それは勿論分かっているよ。さっきのお兄さんの戦う姿を見たら、疑う気にはなれない」
驚いていると言うには何とも薄い反応。
これでもねむなりに色々と衝撃だったのは本当である。
魔戒騎士とホラー。
そのどちらも魔法少女とは関係のない、超常の存在。
インキュベーターですら魔戒騎士の存在には一度も触れていなかった。
必要無いから話さなかった、というよりはアレですら魔戒騎士やホラーに関しては知らなかったのか。
(まぁキュゥべえの事は置いておくとして、だ)
脳裏に浮かんだ白い獣への疑念は後回しにし、会話を続ける。
ゲームには鋼牙以外にももう一人魔戒騎士が参加しており、実力も人間性も信頼の置ける友らしい。
流れでねむも知り合いの情報を明かす。
と言っても馬鹿正直に全てを話したりはせず、魔法少女に関する内容は伏せてある。
話が終わると早速移動をしようという事になった。
鋼牙には逃げた汚らしい男から仮面ライダーの変身道具を取り返す、一般人を探し守る、ねむを友人と再会させるなどやるべき事が数多くある。
加えて、先程の戦闘を聞きつけた良からぬ輩がやって来ないとも限らず長居は危険。
ねむとしてもこの場に留まり続ける理由は無いので、移動には賛成だった。
都合良くねむがデイパックから出した車があり、わざわざ徒歩で移動するよりもずっと良い。
こういった車の運転は倉橋ゴンザに任せていたが、鋼牙自身が運転出来ないわけではない。
運転席には鋼牙が、助手席にはねむが乗り込んだ。
逃げた男を追うか、それとも別の場所を探索し他の参加者を探すか。
行き先候補は複数あれど、選べるのは一つのみ。
「……少し良いかな?鋼牙お兄さん」
エンジンをかける前にポツリと呟かれた言葉。
隣を見ると、ねむがじっとこちらを見上げている。
まだ何か言っておきたい事があったのか。
無言で次の言葉を待つ。
「さっき言った僕の知り合いで、環いろはという人がいただろう?」
「ああ。その子がどうかしたか?」
「あの人は……優しい人なんだ。僕たちにいつも優しくしてくれたよ。でも、自分の事はあんまり優しく出来ない人でもある」
だから、と一度区切り僅かな震えを声に乗せて伝える。
「もしいろはお姉さんを見付けたら、その時は……助けになってあげて欲しいんだ」
「分かった」
間髪入れずに返され、思わず目を見開く。
だが鋼牙には当たり前の事である。
少女が助けを求めた、自分の大事な人に手を差し伸べて欲しいと頼んだ。
ならば、断る理由がどこにあると言うのか。
「お前も、お前の大切な者も、俺が守ると約束する」
何故なら彼は守りし者。
苦難に立たされようと、その信念を見失わない魔戒騎士なのだから。
○
とりあえずは駒の確保に成功と言って良いだろう。
助手席の窓から外を眺め、ぼんやりした顔でねむは考える。
冴島鋼牙という男は善人だ。それでいてベテラン魔法少女にも匹敵する程に強い。
これなら荒事を担当する人材としての役目も期待できる。
当面は彼と共に行動しながら灯花との合流を目指す。
灯花が余計な事を言って鋼牙が不信感を抱かないだろうかという懸念はあるが、そこは自分がフォローすれば良い。
(それにいざとなったらお兄さんは切り捨てさせてもらう。悪く思わないでくれ)
善人であっても最終的に自分の障害となると判断した時は、迷わずその行動に移せる。
ねむにとっての一番は主催者の力を奪いいろはを救うこと。
罪悪感が微塵も無いとまでは言わないが、いろはと他の参加者の命を天秤に掛けたら圧倒的に重いのは前者。
灯花も同じ判断を下すのは間違いない。
とはいえ今はまだゲームも序盤。
すぐに鋼牙を切り捨てるような事態にはならない筈だ。
ならその時まで表向きは友好的にしていれば良い。
だけど
「……」
いろはを守ると約束した鋼牙の姿が思い出される。
口だけなら何とでも言える。
しかし不思議とあの時の鋼牙からは、疑いや捻くれた思いなど吹き飛ばすような力強さを感じた。
黄金騎士を見た時にも抱いた奇妙な感覚と似ている。
まるで本当に、鋼牙ならば自分達の希望になってくれるかもしれない。
そんな期待が浮かびかける。
(――っ!馬鹿馬鹿しい……)
またもや思考がおかしな方へと行った己へ悪態を吐く。
今更あるかどうかも分からないものに縋りついてどうなるというのだ。
自分達はハッピーエンドを信じ、そして失敗した。
同じ轍は踏めない。踏んでたまるものか。
馬鹿な事は考えるなと自分に言い聞かせ、窓の外の闇を睨み付けた。
男の信念と少女の葛藤を乗せ、鉄の箱は走る。
彼らの行く先に待ち受けるのは何か、それを語るはまた次回。
【C-6(北部)/一日目/黎明】
【冴島鋼牙@牙狼-GARO-シリーズ】
[状態]:疲労(小)、運転中
[装備]:冴島鋼牙の魔戒剣@牙狼-GARO-、魔導火のライター@牙狼-GARO-、黒塗りの高級車@真夏の夜の淫夢
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜4、首輪(星合翔李)
[思考・状況]基本方針:守りし者として人々を守る。この決闘も終わらせる。
1:ねむを守り、彼女の友人を探す。
2:逃げた男(野獣先輩)から必ず仮面ライダーの力を取り戻す。
3:首輪の解析が出来そうな参加者を探し、この首輪を託す。
4:零との合流を目指す。
5:葛葉紘汰、あの男の事は忘れない。
6:あの黒い騎士(葉霧)は何者だ…?
7:ねむに僅かな疑念。気に掛けておくべきか。
[備考]
※参戦時期は牙狼-GARO- 〜MAKAISENKI〜終了後
【柊ねむ@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:健康、いろはの存在へ動揺、黄金騎士への複雑な感情、乗車中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、フリーザの小型ポッド@ドラゴンボール、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:手段を問わずに主催者の力を奪って魔法少女を救済する。
1:鋼牙お兄さんと行動。荒事に関しては彼に書かせよう。
2:魔法少女への変身はなるべく控える。
3:灯花とも合流しておきたい。
4:七海やちよと深月フェリシアは邪魔になるなら排除。みふゆにも容赦はしない。
5:もしいろはお姉さんと会ったら僕は……。
6:希望…馬鹿馬鹿しいよ……。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※どこへ走らせているかは後続の書き手に任せます。
投下終了です。
七海やちよ、パラダイスキング、フグ田タラオを予約します。
桜ノ宮苺香、吉田優子、風祭小鳩で予約します。
投下します
⠀バフォメット系まぞくに次いで、よくわからないキザ怪人。2体のNPCに襲われ(うち1体はシャミ子と苺香は攻撃対象外だが)、退治できたは良いものの彼らと戦った張本人、小鳩は疲労を重ねて倒れてしまった。
⠀一難去ってまた一難……と言うほど大それた状況ではないが、自分達を助けてくれた恩人が怪我を負い気絶している状況、どうにか治療したいもののこの殺し合いの場、救急用具が簡単に見つかるわけもなく2人はあたふたと慌てていた。
「い、いいい一旦落ち着いてっ小鳩さんの容態をっ!はっ、ま、まさか…………死――」
「しゃ、シャミ子さん落ち着いて……!脈はありますし、多分気絶しているんだと思います。傷の手当てをして、どこか落ち着いて眠ってもらう場所まで小鳩さんを運べれば……」
⠀もっとも、2人の慌て具合に差はあるものの。
⠀苺香は改めて小鳩の身体に付けられた痛々しい怪我を確認する。苺香達の過ごす日常生活においてまず見ることのない『敵からの攻撃によってつけられた』怪我。傷口を水で流してガーゼで抑える、程度の知識しかない以上大量の傷を十分な道具もない今全て対処することは難しい。
⠀けれども苺香は思い出した、ここにはここにしかない道具がある。自分に配られていたものはクリスタルにカードにハーブティーと治療の役には立たなさそうのものばかりだったが、横で慌てているシャミ子にはもしかしたら役立つ道具が配られているかもしれない。
「シャミ子さんっ、私はちょっとですが小鳩さんの怪我の処置ができるかもなので、シャミ子さんは配られている支給品を確認していただけませんか?」
「はっ、そういえば見てませんでした。ありがとうございます!何か使えそうなアイテムがあれば使います!」
⠀そう言うと、シャミ子はデイパックを開き中身を確認し始める。
⠀苺香は配られていたミネラルウォーターをを傷口へと流し、服の袖を力を込め引き千切り、目視で一番深刻そうな傷口へと押さえつけた。スティーレが用意してくれた服を傷つけるのは抵抗感があったが、小鳩への心配がそれを遥かに上回った。
「なっ、なんですかこれっ!?」
⠀突如、シャミ子が驚愕の声を上げる。苺香が彼女の方を向くと、その手には禍々しい――
「フォーク?」
⠀そう、フォークが握られていた。
⠀三叉の長い武器と言うとトライデントが一般的であろうが、今そこにあるものは確かに先が尖った黒色のデカいフォークだった。
「あっ、なんか紙ついてました。説明書?説明書です!」
「読みましょう!」
⠀苺香の声に続き、シャミ子は紙に目を通していく。
⠀フォークの名は『魔王のぶき』と言い、闇系要素が好きなシャミ子の目を光らせた。その後本人の意思によって変身が可能、並行世界の力を引き出す等シャミ子の趣味に刺さるワードが飛び出し続け「うおお〜」という声が漏れていた。
「なんか変身?出来るみたいです!そうりょの力も手に入るみたいなので、取り敢えずっやってみまーす!」
「へ、変身……?」
「変身!」
⠀困惑する苺香をよそに、舞い上がったシャミ子は武器を天へ掲げる。
⠀刹那。
「きゃっ!?」
⠀シャミ子の周りを黒い光が包む。風が辺りに吹きさらし、苺香もシャミ子の身にただならない事が起こっている事を理解させられる。
「シャミ子さんっ!大丈夫ですか…………え?」
⠀シャミ子の身を案じ手を伸ばした直後、光は止み影が浮かんでくる。
⠀現れたシャミ子の姿は、先程までの姿とは大きく離れたものになっていた。
⠀服装は危機管理フォームとは打って変わり、黒基調のドレスへ。耳は人間のそれではなくなり、ファンタジー的に尖った耳へ。深いワインレッドの瞳は血の様に紅く。頭上には、冠も被せられていた。
「しゃ……シャミ子、さん?」
⠀困惑の声を上げる苺香。
⠀デカフォークの見た目ながら、『魔王のぶき』という名に一切の偽りなし。シャミ子は今、『魔王シャドウミストレス』へと変貌を遂げた。
⠀魔王シャドウミストレスとは、異世界――エトワリア、即ちきららファンタジアの世界にて生まれた魔王。オーダーという禁呪により、聖典世界(まちカドまぞくの世界)から異世界(きららファンタジアの世界)へと強制的に召喚されたシャミ子は一度、世直しを企む組織、『リアリスト』の手によって桃達との絆を断ち切られた挙句、絶望のクリエを注ぎ込まれ魔王として変えられてしまった。性格も捻じ曲げられ、へっぽこさは残されながらも世界の破滅を望む最低最悪の魔王へと改造されてしまった。
⠀そんな魔王がこの殺し合いの場にて再臨――
「うわ!なんか凄いことなってます!力が湧いてくる……!」
⠀することはなかった。
⠀そもそもシャミ子に配布された『魔王のぶき』は魔王シャドウミストレスの武器を真似ただけの紛い物、エトワリアのそうりょ達なら誰でも扱える、禍々しい見た目とはあまり一致しない回復用の杖という扱いである。エトワリアのシャミ子が使ったとて当然魔王へ変身してしまう事はない。
⠀だがただギャップ性のある杖を配布したとて面白味は無い。ならば、とゲームマスターは考え保登心愛や百武照達に配られたもの同様、配布された本人にしか本来の力を発揮できない『専用ぶき』として魔王のぶきを改造した。
⠀今のシャミ子は、その改造ぶきによって『魔王シャドウミストレス』と『そうりょ 吉田優子』の力を同時に与えられたのだ。
「え、えっと……大丈夫ですか?シャミ子さんっ」
「大丈夫どころかパワーアップしてます!はっ、そうです!回復魔法的なのが使えるはずなので小鳩さんもちょちょいと治療しちゃいます!」
⠀そう言うとシャミ子は杖を横たわっている小鳩へと向け、叫んだ。
「ふんぬらばー!!なんか怪我とか良くなってくださーい!」
⠀いつかの桃との特訓で得た、魔力の放出の仕方の感覚を思い出しながらひたすら小鳩が回復するよう願う。
⠀2、3秒経てば小鳩の身体は若干の光に包まれ、たちまち傷が塞がっていく。
「き、傷が……!」
「……!やりました!成功です!」
⠀傷がひとりでに治っていく現象。まぞくや魔法少女が身近な存在の世界に住むシャミ子にとってはすごい魔法が使えた!程度の認識だが、苺香にとっては信じられない現象。
⠀だがその現象、そして今のシャミ子の姿に苺香はデジャヴを感じていた。自らの支給品の一つのクリスタル、それに触れた感覚と、シャミ子から伝わる感覚が似ていたのだ。
⠀もしやと思い、苺香はデイパックからクリスタルを取り出す。そして――
「……変身?」
⠀困惑ながらも声を出した。するとこれまでと同様、クリスタルは苺香を並行世界――きららファンタジアの世界の姿へと変える。
「す、すごい……!」
「わっ、苺香さんも変身アイテム配られていたんですね!」
⠀シャミ子の言った通り、全身に力が湧き上がってくる感覚を実感する。衣装もスティーレの制服からもこもことした装飾が特徴の白い服へと変わる。
「これなら、小鳩さんも守れますね!」
「そうですねっ、シャミ子さんのお友達も守ってみせます!」
⠀人を守れる力を手に入れた2人は、共にその意思を交わし合った。
◇◇◇
「まさか私が人を楽々担げる様になるなんて……!」
⠀未だ気絶状態の小鳩を、シャミ子はおんぶの体勢で担ぐ。ぶきによって強化された身体は小鳩の身体をも簡単に持ち上げた。
⠀尚、シャミ子は味方の状態異常、つまり気絶をも解除出来るスキルを持ち合わせていたが無理に起こすのは彼女達には気が引けるものだった。ならばベッドでもある場所でしばらくぐっすりと眠っていて欲しい。
⠀緑が多い地図、その中にも妙に情報量の多い場所はいくつかある。そこならば何か建物があるであろうと考え、2人は目的地をここから一番近いE-5へと設定した。
「じゃあ、行きましょう!」
「はい!」
⠀シャミ子は小鳩を、苺香は3人分の荷物を持ちながら歩を進め始める。
⠀頑張れシャミ子!苺香さんと共に、新たな力を使いこなそう!
⠀
【一日目/黎明/G-6】
【風祭小鳩@Caligula2】
[状態]:気絶、ハ・デスに対する怒り(特大・ただある程度落ち着いた)、いたるところに裂傷&出血(回復中、既に殆ど回復済み)、精神疲労(中) 、シャミ子に担がれている
[装備]:カタルシスエフェクト、身軽の羽根DX@大番長
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:黎斗とハ・デスぶっ潰す。主人公から降ろしたツケ払いやがれ。
1:……(気絶中)
2:知り合いいないってんなら自由にやるか。
3:真月って奴は、まあ敵じゃないんだろな。知り合いいたら言っとくか。
4:牛尾のおっさんの知り合いに会ったらどう説明すりゃいいんだろうな。
5:此処、もしかしてリドゥ?
6:流石にこの羽根は俺には合わねえって……まあ仕方ねえけど。
7:やってやろうじゃねえか、神殺し!
8:不動遊星とデッキを探す。B-6近くのどっかにあんのか?
9:シャミ子や苺香と共に行動するぜ。
10:シャミ子の知り合いも一緒に探すとするか。
[備考]
※参戦時期はエピメテウスの塔攻略中、
かつ個人エピソード完全クリア済みです。
※部長の性別は採用された場合、かつ後続の方に一任します。
※カタルシスエフェクトは問題なく発動します
※①黎斗はそれを利用して殺し合いの舞台を作ってるのではないか。
②黎斗がゲーマーであることを示唆する言い回しがいくつかあった。
③元を辿ればバーチャドールは電子ボーカルソフトから誕生。
これらからこの舞台をリドゥの延長線上にあるのではないかと思ってます。
※デュエルモンスターズのルールについてはざっくりと把握してます。
可愛いモンスターにはそれなりに目を付けてます。多分閃刀姫も知ってるかも。
※牛尾との情報交換で5ds+遊戯達の情報を得ました。
※身軽の羽根DX@大番長で回避率、基スピードが強化されてます。
※名前は分かりませんがあの男がポセイドンだと察してます。
【桜ノ宮苺香@ブレンド・S】
[状態]:健康
[装備]: 桜ノ宮苺香専用ㅤクリスタル@きららファンタジア
[道具]:基本支給品一式、ハーブティー@かぐや様は告らせたいㅤ天才たちの恋愛頭脳戦、光の護封剣(ゴールドシリーズ)@遊戯王OCG
[思考・状況]
基本方針:殺し合いに乗らず、みんなで協力して生還する
1:シャミ子さんと小鳩さんと一緒に休めるところまで……
2:私も戦える……のですか?
3:一緒に小鳩さんやシャミ子さんの知り合いを捜します。
[備考]
※参戦時期はお任せします。
【吉田優子@まちカドまぞく】
[状態]:健康、小鳩を担いでいる
[装備]: 魔王のぶき@きららファンタジア
[道具]:基本支給品一式ㅤランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本方針:みんなが仲良くなりますように
1:小鳩さんに休んでもらいましょう、ありがとうございます!
2:桃やミカンさんだけじゃなくて、なんでお母さんと良まで……
3:なんか強くなりました!まぞくは進化した!
4:小鳩さんの知り合いと皆を捜します!
[備考]
※参戦時期は夏休み(アニメ2期7話、原作43丁目)以降です。
※魔王シャドウミストレスに変身していますが、特殊な出来事が無い限り精神に異常をきたすことはありません。
※2人の目的地はE-5です。
【魔王のぶき@きららファンタジア】
吉田優子に支給。吉田優子本人の意思で並行世界の力を解放した姿に変身可能であり、身体能力の向上、固有魔法が扱える等の恩恵を受けることができる。
変身中はきららファンタジアの『魔王シャドウミストレス』の姿へと変わる。主催からの改造により『魔王シャドウミストレス』の力と、『そうりょ 吉田優子』の力を同時に扱える様になっている。
投下終了です
延長します
テスト
投下します。
ゲームと称した殺し合いにおいてやちよが何より優先するのは、いろはと無事に再会すること。
何も他を疎かにするという気は無い。
フェリシアとみふゆをマギウスの翼から連れ戻す、里見灯花と柊ねむを止める、何より檀黎斗や主催者をどうにかする必要だってある。
それでもやはり一番に考えてしまうのは、いろはの無事を直接会って確かめたい。
やちよの中で環いろはという存在はそれくらいに大きなものとなっている。
出会って間もない頃はなし崩し的に行動を共にするだけだった。
それが少しずつ変わっていったのは口寄せ神社のウワサでの一件からだろう。
ウワサが作り出した偽物であっても、親友を殺し急速に濁ったやちよのソウルジェムを浄化する為にグリーフシードを差し出した。
いろはだって本物の妹と会えずソウルジェムに穢れが溜まっていたのに、他者を優先し自分を二の次にする姿。
危なっかしいと、放っては置けないと思った。
より決定的となったのは記憶ミュージアムでの出来事。
みふゆがみかづき荘を訪れた事で自分の願いによる悲劇を思い出し、あえていろは達へ突き放した態度を取った。
挙句に鶴乃達がマギウスの翼に去った状況で一方的にチーム解散を告げたのだ。
失望され、嫌悪されてもおかしくないような行動。
やちよ自身はそれで良いと思った。
自分勝手なやちよに落胆し離れて行けば、仲間である事をやめればいろは達は死なずに済む。
孤独感と罪悪感に蓋をし、仮面を被り続けた。
誤算だったのはいろはがそう簡単に諦めるような少女では無かったこと。
関係無い、迷惑だと何度冷たくあしらっても知った事かとばかりにしがみついて来る。
余りの頑固さにとうとうやちよの方が根負けし、感情のままに自分の願いが仲間を殺すと教えた。
願いに皆を巻き込むと考えていながら、ずっと黙っていた自分を責めて今度こそ突き放せば良い。
それでいろは達が死を免れるなら安いもの。
だというのに尚もいろはは離れずたった一人でやちよを取り込んだウワサを撃退、そればかりかやちよの抱える恐怖を真っ向から否定してみせた。
いろはのおかげでどれだけ救われたか、やちよ自身にも言葉では到底表し切れない。
それ程の存在が目の前で奈落の底へと消えた絶望感は計り知れず、生きていると知った喜びも言葉では表せない。
神の用意した悪辣な遊戯の場であろうと、いろはが居るのならば足取りに力強さが宿る。
街灯一つ無い道を足早に進んで行く。
戦兎達との合流時刻まではまだ余裕があり、その間に自分がいろはを見付けるか、そうでなくとも戦兎達の方でいろはを保護していればそれはそれで構わない。
「いろは……」
名前を呼んでも彼女は姿を見せてはくれない。
やちよさんと名前を呼び返してはくれない。
会いたい気持ちは際限なく膨れ上がり、自然と歩く速さも上がり出す。
放って置けば夜道にも関わらず駆け出してしまいそうなやちよを止めたのは、不意に感じた人の気配。
(っ、誰か来る?)
いろはへの想いで焼けるような熱を帯びた頭は急速に冷え、接近する者をどうするかに思考が切り替わる。
現状、やちよが出会った参加者と言えば先程別れた戦兎とエボルトの二名。
片方は非常に胡散臭く信用出来ないものの、殺し合い自体には否定的。
だがこの先出会う者全員が戦兎達のように殺し合いへ否を唱えるかと言えばそんな訳は無く、他者を積極的に殺害する者も存在する筈。
今まさに近付いている者は一体どんなスタンスで動いているのか。
確かめるには直に会ってみる以外に方法は無い。
グリーフシードが無い状態での戦闘は望ましくないと言えども、危険人物を放置するのもまた望む所では無し。
並大抵の相手ならば余裕をもって倒せるだけの力はあると自負している。
「……」
それでもしかし、万が一の場合を考えておくのは無駄に非ず。
デイパックの口を開き、中からこちらを覗くソレへ一つ指示を出しておいた。
○
「ようねえちゃん、夜道を女一人で行くなんざちょいと不用心じゃねぇか?」
やちよの前に姿を見せたのは長身の男。
ディスコフロアにでもいそうな派手な衣装と、何より目を引く巨大なアフロヘアー。
奇抜な格好の男の登場には、やちよも流石に面食らう。
「折角だから俺がエスコートしてやろうか?女の扱いには自信があるんだぜ?」
「…結構よ。それより聞きたい事があるんだけど」
軽薄な笑み、初対面の相手に向けるとは思えない言葉。
何より、全身を舐め回すようなじっとりした視線。
モデルをやっているくらいだ、自慢するつもりは無いが容姿とスタイルが優れている事は自覚している。
純粋な憧れのみではなく、『そういった意味』が込められた目を向けられる事も珍しくは無い。
男が自分に向ける目は間違いなく後者。
この時点でやちよの男に対する印象がどんなものかは言うまでもない。
相手の明確なスタンスは不明なれど、少なくとも戦兎のような信じても良いと思わせる男でないのは確か。
ハッキリ言って殺し合い関係なしに関わりたい人間ではない。
が、こんな男でも自分の望む情報を持っていないとは言い切れないのが困りものである。
「女の子を探してるんだけど、会ってないかしら?」
名前は出さずに問い掛ける。
いろはの事を知らせてしまい、彼女に余計な被害が出たら堪ったものではない。
「いや?残念ながら俺が会った女はねえちゃんが初だ」
「そう。邪魔したわね」
会場で女に会ったのはやちよが初めて。
ならいろはだけでなく、フェリシア達の事も知らない。
それが知れたらもう用は無い。
早々に立ち去り、他の場所でいろはがいないかを探すだけ。
足早に男の横を通りぎようとし、
「おいおい、そんなツレない態度はやめようや」
肩に手を置かれた。
服の上からでも感じるゴツゴツとした男の手。
ただ置いただけではない、なぞるようにして指が蠢く。
やちよの目が嫌悪感で鋭さを増し、されど男に怯む様子は見当たらない。
むしろ面白そうに口の端を吊り上げている。
「…私これでも忙しいのよ。邪魔しないで欲しいのだけれど」
「おうおう、気が強い女ってのは良いもんだ。だがなぁ…いつまでもそんな態度が続けられるような場所じゃねぇだろここは。俺に任せりゃ守ってやっても良いぜ?」
「必要無いわ、あなたの助けなんて…。いい加減に」
離して、放たれる筈の言葉は口内で霧散。
やちよの左腕が跳ね上がり、指輪の形をしたソウルジェムが輝く。
魔力で形成された槍を掴むや否や、防御の構えを取った。
衝撃が、来る。
柄からやちよの細腕へと伝わる振動。
睨みつけた先には拳を突き出した男の姿があった。
「おっ、良い反応だな。それよりどっから出したんだ?その槍」
軽い口調に反して鋭い一撃だった。
防御が間に合わなければ、今頃は胃液を吐き散らしていたのは想像に難くない。
やちよの目がより一層の険しさを増す。
馴れ馴れしくチャラけた男から、暴力性を秘めた危険人物へと警戒度をアップ。
「…どういうつもりかしら?」
「俺様の助けが必要無いなんてほざくからよ、テストしてやったのさ。言うだけの力があるかどうかをな」
さも当然のように言われるが、納得できる理由ではない。
魔法少女であるから、もっと言えば相手への警戒を怠らず対処が間に合うだけの実力を持っていたからこそ無傷で済んだ。
これがもし戦う術を持たない一般人だったなら、男の拳の餌食になっていただろう。
下手をすれば、いろはが男の手で傷付けられる事態だって起こり得る。
やちよの中で男を放置するという選択肢が自然と消えて行き、敵意を膨れ上がらせた。
叩きつけられる怒りに肌がピリピリ痛み、男は上等だと言わんばかりに笑う。
「その気になったみたいだな?良いぜぇ、女の誘いを無視する気なんざ無いからよ」
取り出したバックルを腹部に当て、ベルトが巻き付いた。
右手には黄色くて甘い果実、バナナが描かれた錠前。
自身に支給された武器の性能が如何程かはとっくに実証済み。
『バナナ!』
「変身」
『ロックオン!ソイヤッ!』
『バナナアームズ!ナイト・オブ・スピアー!』
高らかに響かせるは王が戦闘装束を纏った証。
黒地のライドウェアが全身を覆い、クラックより出現したバナナが落ちて来て展開、装甲へと変形。
騎士の鎧にも似た姿の戦士へと己が身を変え、やちよを睨み付ける。
アーマードライダーブラックバロン。
ネオ・バロンのチームリーダー、シュラが変身したライダーが此度は楽園の王の力として顕現を果たした。
「その姿は…」
見覚えは無い、しかし正体は察しが付く。
放送で殺された男が装着していたのと同じバックル、何より戦兎から聞かされた戦士の存在。
敵は仮面ライダーであると理解するのにそう時間は掛からなかった。
常人では太刀打ち不可能な力を振るうと言うのなら、こっちも遠慮は無しだ。
ソウルジェムから光が迸り、やちよも姿を変える。
ボディーラインを浮かび上がらせる衣装を纏い、胸部と肩に白銀の装甲、後頭部にはケープが出現。
魔法少女へ変身し、デイパックを放り投げると槍を構える。
「ほう?俺の変身とは違うみたいだな。益々興味が湧いたぜ、ねえちゃんよぉ」
「生憎だけど、あなたに興味を持たれたも不愉快なだけよ」
軽口には辛辣な言葉で返し、それ以上は言葉を交わす気も無い。
ハルバードを思わせる形状の槍が振るわれ、ブラックバロンもまた専用武器のバナスピアーで迎え撃った。
奇しくも武器は両名共に長得物。
リーチの差はほとんどなく、勝敗を分けるは使い手の技量と肉体スペック。
槍とバナスピアーの穂先がぶつかり金属音が発生。
互いの鼓膜を震わせる音はたった一度で終わる事なく、二度三度と連続し起こる。
間違っても得物を手放す愚行を犯さぬよう、両手に籠められた力は強い。
「オラオラァ!」
ブラックバロンはバロン同様にパワー重視のアーマードライダーだ。
剛力を駆使したバナスピアーは一撃一撃が重い。
穂先部分による突きのみならず、パルプシャフトと呼ばれる先端部分を叩き付ければ強力な打撃攻撃に化す。
生半可な防御は無意味、真っ向からの粉砕を可能とする威力。
「っ…!」
だが迎え撃つのは神浜市でもトップクラスの実力を持つ魔法少女。
振るわれ、突き出されたバナスピアーを槍で弾き返す。
すかさずブラックバロンを狙う穂先、伝わる手応えは人体を貫いたソレとは別物。
「なんだぁ?蚊にでも刺されたのかと思ったぜ」
胸部装甲に阻まれそれ以上は突き進めない。
見掛け倒しではなく相応の堅牢さを誇るのがアーマードライダーの装甲だ。
ましてブラックバロンの胴体を保護するのは、通常の装甲の上から補強用フレームを追加しより強度を上げたもの。
そう簡単に破壊させてくれるような、軟な代物にあらず。
この部分を攻撃しても決定打にはならないと理解し、やちよは次の手に出る。
「見え見えなんだよ!」
やちよが狙ったのは装甲に覆われていない腹部。
ライドウェアもまた高い耐久性を有してはいれど、装甲部に比べたら幾分脆い。
自身の攻撃がより通りやすい箇所を狙うのは戦闘の基本。
しかしそこを狙われるだろうことはブラックバロンにも安易に予想が付いた。
振り下ろしたバナスピアーにより防がれ、そればかりか槍がへし折れたではないか。
使い物にならない武器へ拘るのは悪手、すぐに手放し新たな槍を生成。
敵は悠長に待ってはくれない、やちよが構え直す前に首を狙った一撃が迫る。
一直線に突き進み、柔らかな肉を貫いた感触は伝わってこない。
狙いを外すような凡ミスをしでかしたつもりはない、ならば答えは一つ。
「チッ!」
舌打ちと同時に右腕を背後へと振るう。
ガキンと音がし、振り返った時にはもうやちよの姿は見当たらない。
どこへ行ったと頭で考えるより先に、防御の構えを取った。
野生の暴力に晒された中で研ぎ澄まされた感覚はここでも健在。
襲い来る殺気へ体が反応し、真横からの攻撃への対処に成功。
防いだ程度で満足はしない、ちょこまか避けられる前に仕留めてやる気だ。
手首に装着されたブラックバロンの腕力強化装置によりパワーを解放。
押し返されたやちよは足をもつれさせ隙を晒してしまう。
「もらったぜ!」
今度こそ、そう繰り出されるも結果はまたもや失敗。
不安定な体勢にも関わらずやちよは回避してみせた。
まるで地面を滑るかの如き動きにブラックバロンは目を剥く。
目を凝らすと、やちよの足元には水が纏わりついているのが見える。
固有魔法以外にもやちよは複数の派生魔法を習得している。
内の一つが水属性の魔法。
脚部に纏わせる事で敏捷力を強化、通常時よりも余裕を持っての回避を可能としたのだ。
忌々しい固有魔法に頼らずとも、やちよが取れる手は多い。
「はぁっ!」
一度距離を取り、敵が接近する前に急加速して槍を突き出す。
今度は一手遅れて防御も迎撃も間に合わない。
ライドウェアで覆われた腹部へ衝撃が襲い掛かり、ブラックバロンは吹き飛ばされる。
そのまま地面を転がると思いきや、どうにか受け身を取り立ち上がった。
無様に倒れるなど王としてのプライドが許さない。
即座に武器を構えるが、またしてもやちよの姿を見失った。
(どこにいきやがっ――)
「上か!?」
見上げたブラックバロンのカメラアイがやちよの姿を捉える。
月を背にした彼女は瑠璃色の長髪と白い肌を一層際立たせ、地上を見下ろしていた。
背後に魔力を放出、手に持つのと同じ槍を生成。
その数計十本、全てがブラックバロンへと照準を合わせている。
魔力が続く限り生成可能な武器の数に限界は無い。
自分の手で振るう以外にこういった戦法も可能なのだ。
号令のように振り下ろされる右手、展開された槍が一斉に射出された。
『バナナオーレ!』
やちよを目にした時点でブラックバロンの行動は早い。
カッティングブレードを二回操作、ロックシードからバナスピアーへとエネルギーが充填。
両手で持ったバナスピアーには、巨大なバナナ状のエネルギーが生み出された。
本来のバロンとは違い紫色ではあるが、威力は変わらず強力。
「うオラァッ!!」
力任せに薙ぎ払い、槍は一本残らず消滅。
しかし大振りな攻撃の直後というのはどうあっても隙が生まれる。
「ふっ…!」
ブラックバロンが気付いた時には既に、やちよは眼前へ降り立っていた。
視界に靡く瑠璃色が入り込むや否やバナスピアーを振るう。
刀身フレームへ伝わる衝撃、防いだと理解した次の傍から連続して突きが放たれる。
やちよが手にした得物は僅か一本、なのにブラックバロンには数十本の刃で同時に突かれている錯覚を覚えた。
それ程までに速い。
アーマードライダーのカメラアイを視覚センサーを以てしても、腕を引き再度伸ばす動きが完全には捉え切れない。
ゲーム開始直後に万丈龍我と戦い、手強い輩も参加しているのは理解していたつもりだ。
だが万丈に続きやちよといった自分よりも遥かに若い、ガキと言っても良い連中がこうも強いのには流石に舌を巻く。
神浜市では最も長く魔法少女を続けている者、それがやちよだ。
7年間という歳月で経験を積み、驕る事無く己を鍛え上げた結果としてやちよはベテラン魔法少女と呼ばれるまでになった。
魔女退治に恐怖し、魔法少女になんてならなければと後悔の涙で頬を濡らした少女はもういない。
安名メルの死を切っ掛けにチームがバラバラになってからも、たった一人で魔女を退けられる力を有する。
その強さはバトルロワイアルであろうと変わらずに存在した。
「…成程なぁ。ガキと思って舐めてかかりゃどうなるか、こいつは反省しなきゃならねぇってことか」
呟かれたのは己を戒める内容。
傲慢で自信家な王には相応しくない、されど彼は一度「ガキ」というのを甘く見て痛い目に遭わされている。
敗北の記憶は苦く、しかしそれすらも糧としなくては這い上がれない。
(この男…!)
攻撃のスピードに衰えは無く、文字通りの目にも止まらぬ速さで突きを放っている。
だがやちよの浮かべる表情は険しい。
先程から繰り出している突きが一つも当たらない。
バナスピアーで防御され、そればかりか向こうも突きを放って来たではないか。
自身と同等の速さで攻撃を行い食らい付いているのだ。
仮面ライダーらしき姿に変身しているのを加味しても、やちよと真正面から渡り合えるのは恐るべき事実。
支給品の力に頼りごり押しで攻めているのではない、変身者本人も相当な実力が無ければ不可能。
最初に防いだ拳の鋭さから予想は出来た事だが、目の前の男は単なるチンピラなどではない。
軽薄なナンパ男のような言動からは想像もできない程に戦い慣れているのは確か。
元より戦闘に油断を持ち込む性質で無いとはいえ、気を抜ける相手では無いと再認識。
警戒度を更に引き上げ攻撃に勢いを増す。
「どうしたどうした!もっと楽しませろやねえちゃんよぉ!!」
仮面の下でパラダイスキングが浮かべるのは狂気の笑み。
お遊びでも無ければ、ルールに則ったスポーツでもない。
負ければたった一つの命が失われる正真正銘の殺し合いに高揚を抑えられない。
バナスピアーが自身の体へ到達するのは何としても阻止せねばならず、やちよは集中力を高める。
魔法少女は一般人よりも打たれ強さはあれど、アーマードライダー程に耐久力には優れていない。
敵は装甲やライドウェアである程度凌げる、反対に自分は一撃食らうだけで一気に戦いが厳しいものと化す。
ソウルジェムが無事なら死は免れると言っても、余計な傷は作らないに限る。
そう考えるだけなら楽に済むが、いざ実行へ移すとなると神経が張り詰めていく。
(面倒なのに当たっちゃったわね…)
嘗て、まだ楽園の王が何者にもなれない只人だった頃。
自由な生活を求めて彼が辿り着いたのはテナガザルが支配する無人島。
楽園へ無謀にも足を踏み入れた不届き者への洗礼は、圧倒的な野生の暴力。
銃火器も無い、誰かに助けを求める事すら出来ない人間一人へ過剰とも言える地獄。
人一人の力など野生動物の群れを前にしては無に等しい。
その筈だった。
だが彼は生き延びた。
全身を引き裂かれ、噛みつかれ、幾度も嬲られた。
それでも彼が選んだのは逃げるでも屈するでもなく、抗う道。
野生の暴力を上回る暴力で島中のテナガザルを屈服させ、無人島の新たなる支配者として君臨した。
伊達や酔狂で王を名乗っているのではない。
力による支配を実現させたからこそ、男はパラダイスキングへとなったのだ。
テナガザルとの死闘で得た力とアーマードライダーへの変身。
何よりももう一度王として全てを手に入れんとするハングリー精神。
これら三つがが合わさり、パラダイスキングはやちよ相手でも渡り合えていた。
「シィッ!」
互いの得物の穂先が衝突した直後、ブラックバロンが右脚を蹴り上げる。
狙いは真上に位置するやちよの細腕、へし折れるどころか引き千切られるだろう威力。
爪先に当たったモノが砕け散る、但しソレはやちよの腕ではなく使い手を失った槍。
魔力がある限り槍の補充が幾らでも可能なのだ、手放すのに躊躇はいらない。
一度後方へと退避、新たな槍を生成し終えるのと接近したブラックバロンが得物を振り下ろしたのはほぼ同時。
両腕が跳ね上がりバナスピアーを防御、刀身フレームと刃が擦れ合いキリキリと音がした。
「なぁおい、強い王様にはそれに相応しい女がいるべきだとは思わねぇか?」
「…?何を言ってるの?」
槍へ掛かる力は依然として重いまま、唐突な問い掛けに困惑を隠せない。
眉を顰めるやちよに気分を害した風もなく、ブラックバロンは楽し気に言う。
「強いし顔も良い。胸がちょいと貧しいのは残念だがそれくらいは我慢してやる。だからよ、俺様の女になれ」
「……は?」
「新しい王国を築いたら第一婦人として迎えてやる。どうだ?魅力的な提案だろ?」
何を言っているのだろうかこの男は。
こちらをおちょくりたいのか?
口説き文句にしたって、そこいらのチンピラの方がまだマトモな事を言うだろうに。
呆気に取られ、沸々と湧き上がるのは圧倒的な不快感。
返事は当然ノーだ。
「…お断りよ。馬鹿にするのも大概にして欲しいわね」
「ほぅ……。あぁ所で知ってるか?王様ってのは強欲じゃなきゃいけねぇ。欲しいと決めたらどんな手を使ってでもモノにするんだ」
やちよを押し込む力が一段上がる。
このまま鍔迫り合いを続けても埒が明かない、地を蹴り背後へと跳ぶ。
前のめりになりかけるも転倒せず、やちよを追うようにしてブラックバロンが疾走。
体勢を立て直す暇も与えぬとバナスピアーを振り下ろした。
対するやちよも槍を振り上げ迎え撃つ。
両者得物を叩きつけ合い、ビリビリとした衝撃が両手へと伝わった。
「提案を蹴るって言うんなら、お前を屈服させて俺の女にすりゃ良いだけだ!」
「下衆の発想もここまで来ると感心するわ」
○
(何をやってるんですかねあのおバカさん達は〜)
木々の陰に隠れ様子を窺うタラオの顔には、隠す気も無い侮蔑が浮かんでいた。
幾度となく槍をぶつけ合う両者も、タラオからしたら単なる脳筋としか映らない。
晴れてパラダイスキングの家来として認められ、移動を開始し少し経った後。
人の気配を感じ取ったパラダイスキングはタラオに身を隠すよう命じ、自分一人で参加者と接触すると言い出した。
馬鹿正直に最初からタラオを引き連れておくより、相手に自分は一人だけと思わせておいた方が何かと都合が良いとのこと。
タラオとしても表面上は従う振りをしている為、特に反論もせず言われた通り隠れていた。
(あのおじさんも王様を自称するなら、ちゃっちゃとやっつけてく〜ださ〜い)
戦闘に遊びでも持ち込んでいるのか、一向にパラダイスキングは相手の女を仕留められない。
まるで宿題を後回しにして遊びに行き、後々困り果てるカツオのような考え無しだ。
いい年して王様なんて言うくらいだから、きっと頭も小学生並だと嘲笑う。
(しょうがないですね〜)
使い物にならなくなったら切り捨てるが、暫くはパラダイスキングを利用すると決めた。
だったらここいらでアシストをしてやろう。
勝利に貢献し点数を稼いでおけば今後あの男を扱いやすくなる。
極めて利己的な考えで、タラオは戦場に飛び出した。
○
「わ〜、凄いです〜」
突如として聞こえて来たのは子供の声。
緊迫した殺し合いの場には不釣り合いな能天気さ。
目を見開いたやちよが見つめる先には、きゃっきゃっとはしゃぎ回る少年がいた。
「なっ…!?」
「あ…?」
驚愕と訝し気な声は少年の明るい声に掻き消される。
まるでヒーローショーを見に来たような様子。
年齢は恐らく一桁だろう、これ程までに幼い子供までもが参加させられているとは。
予想だにしなかった光景に動揺するが、そんな場合では無いと強引に思考を切り替えた。
様子からして少年は殺し合いを全く理解していない。
今はとにかく自分達から遠ざけねば巻き添えを食らうかもしれないと考え、
「余所見すんなよ!」
「くっ…!」
少年に気を取られたのが仇となった
咄嗟の防御こそ間に合ったものの、バナスピアーを叩きつけられ吹き飛ばされる。
やちよの視線が少年から外れた瞬間、ブラックバロンは彼女へ追撃せず少年と目を合わせた。
パチンと片目を閉じてアイコンタクト、右手を手刀の形にして自分の手に当てる。
少年からのメッセージだ、伝えたい内容を察したブラックバロンは少年へ近付くと小さな体を持ち上げた。
やちよが気付いた時にはもう遅い、少年にバナスピアーを突きつけ叫ぶ。
「おっとそこまでだ!この状況、言わなくても分かるだろ?」
「うわ〜〜〜ん!!助けてくださ〜い!」
少年に駆け寄ろうとしたやちよは動きを止めざるを得ない。
ブラックバロンの言葉の通り、見れば分かるこの状況。
人質を取られてしまった。
こうなる可能性を何故予期しておかなかったのか。
魔女退治の時も同じだ、結界内に偶然一般人が迷い込む事だってある。
殺し合いでも他参加者との戦闘中、別の参加者が巻き込まれたっておかしくは無いだろうに。
己の迂闊さを恨んでも後の祭りだ。
「その子を…」
「離しなさいってか?ならまずはその変身を解けよ」
予想通りの答えが返って来た。
人質を取った相手からの要求として、武装解除は珍しい事ではない。
ブラックバロンを睨みつけたまま、無言で魔法少女の変身を解く。
青い衣装から私服へと戻り、三日月の形をしたソウルジェムも指輪へと変化した。
「おっと、その指輪もこっちに寄越せ。俺のベルトとは違うようだが、それを使って変身したんだろ?」
「……」
沈黙は肯定しているも同然。
指輪が魔法少女への変身に必要不可欠なのは本当だが、これは単なる道具ではない。
魔法少女の命そのもの、手放すなど以ての外。
幾ら何でもはい分かりましたと簡単に呑める要求ではなく、やちよもすぐには反応できない。
「おーい、あんまり待たせんなよー?」
「うわ〜〜〜ん!!恐いです〜〜〜!!」
「……っ」
それもブラックバロンが穂先で少年の喉を軽く突くまでだ。
少年の泣き声がより大きくなり、やちよの焦りを加速させる。
指輪を外し暫しの躊躇を見せるも、ブラックバロンは仮面越しの目でさっさとやれと急かす。
やちよが睨み付ける視線に鋭さが増すが、きっと仮面の下は涼しい顔をしているのだろう。
顔を歪めながら指輪を地面に放ると二人の間、丁度真ん中の辺りに落ちた。
「良かったなガキ、話の分かる優しいねえちゃんでよ」
「いい加減その子を離して欲しいのだけれど」
「そう急かすなよ」
意外にも素直に少年を地面に降ろした。
妙にあっさりと解放し、何か違和感を感じる。
その答えはすぐさま理解する事となった。
「さてそんじゃあ…指輪を回収して来いタラオ。向こうに転がってる支給品もな」
「はいです〜♪」
ブッラクバロンの指示に笑顔で頷く少年…タラオ。
先程までの恐怖に涙を流していたのはどこへ消えたのやら、上機嫌で指輪を拾い上げた。
表情を強張らせるやちよへチラと視線を寄越す。
無邪気と言えば聞こえは良いだろうが、やちよには酷く憎たらしい笑みにしか見えない。
「綺麗な指輪ですね〜♪」
「……そう、グルだったのね」
「ま、そういうこった。ガキに甘いのは結構だが、もうちっと疑いを持つべきだったな」
指輪を家来に回収させ、軽い足取りでブラックバロンはやちよに近付く。
ソウルジェムが手元にない以上、やちよに抗う術は無い。
意識を失う程の距離が離れてはいないとはいえ、今の状況では大した慰めにならないだろう。
殺意の籠ったやちよからの視線を意に介さず、バナスピアーを服に引っ掛ける。
間違ってもやちよ自身に傷をつけないよう加減し、そのまま振り下ろした。
「くっ…」
スカートまで切り裂かれ服の下が露わになる。
淡いブルーの下着に包まれた真っ白い素肌。
スレンダーながら魅力的な、異性のみならず同性をも魅了するだろう体。
これだけでも健全な男なら生唾を飲み込む光景だが、ブラックバロンは満足していない。
軽くバナスピアーを振るい、最後の要である下着までもを切り裂いた。
慎ましくも女性らしい膨らみと薄桃色の突起、ショーツの下に隠された秘部が男の前に晒される。
「良いねぇ」
「……最低ね」
人気モデル、七海やちよのトップシークレットを目の当たりにし口笛を吹く。
一方のやちよは堪ったものではなく、羞恥と怒りに顔を赤く染める。
剥き出しの肌は熱を帯び、夜風に当たった程度では簡単に冷えてくれない。
(全くあのおねえちゃんはおバカさんですね〜)
二人を余所にタラオは指輪を眺めながら、やちよのデイパックへ近付く。
自分の可愛さを最大限に利用した人質作戦は大成功だ。
あっさりと騙されたやちよを口には出さず小馬鹿にする様子からは、罪悪感など微塵も感じられない。
パラダイスキングも言ったばかりではないか、もっと疑いを持つべきだったと。
騙されるような馬鹿が悪い、自分は何も悪くない。
自らの行いを正当化する様は下衆と呼ぶに相応しいものだ。
(それにしてもここには頭の悪い大人しかいないんですかね〜?おバカさん達ばっかり相手にしてると疲れちゃうです〜)
神を自称する主催者、考え無しに挑んで殺された鎧武者、いい年して王様を名乗るアフロ男、そしてあっさり騙された女。
どいつもこいつも呆れるほどの馬鹿ばかり。
参加者が皆こんな連中なら、やはり生き残るべきは自分しかいない。
他の馬鹿どもは自分という失われる事があってはならない人間の為に犠牲になるのだ。
価値の無い馬鹿の命をフグ田タラオの為に捧げるのだから、むしろ自分に感謝して欲しいものである。
齢3歳にして歴史上の暴君もたまげる程の傲慢さ。
邪悪な性根は檀黎斗からもゲームの盛り上げに最適と見なされたのだろう。
見る者の神経を逆撫でする笑みのまま、やちよのデイパックに手を拾おうとする。
それを見ているやちよは一度ため息をついた。
諦めだろうか、自らへの呆れだろうか。
どちらにしても今更手を引っ込めてやる気はブラックバロンに無い。
自分へ伸ばされる手を見つめ、
「保険を掛けておいて正解だったわ」
パチンとやちよが指を鳴らした直後、彼女のデイパックから何かが飛び出した。
「ひぎゃんっ!?」
完全な不意打ちを食らったタラオが吹き飛び、地面を転がる。
予期せぬ事態が起きたと察知し、ブラックバロンもやちよへ伸ばした手を引っ込め振り返った。
その時にはもう黒々とした物体が迫りつつあり、このままでは激突は確実。
と言ってもそこはテナガザルとの死闘に勝利した男。
弾かれるように飛び退き回避、だがそれはやちよから意識を外した事になる。
この機を逃してたまるかとやちよは駆け出す。
衣服が裂かれ肌を晒しているのも、今この瞬間だけは気にしていられない。
吹き飛ばされた際にタラオの手から落ちたソウルジェムを拾い、急ぎ魔法少女へ変身。
再度青の衣装を纏い槍を手にしたやちよを、立ち上がったブラックバロンが睨む。
「は…?」
が、思わず間の抜けた声が漏れた。
無理も無いだろう、やちよの隣に立つナニカ。
タラオへ体当たりをかまし、自分も同じく吹き飛ばそうとしたモノ。
その正体が余りにも予想外過ぎたのだから。
十字架が描かれた巨大な箱。
死者を納め墓地に埋葬する用途のソレは、棺桶。
そう、棺桶だ。
何故か目玉が浮かび上がり、複数本の手足が生えている以外は普通の棺桶である。
「よくもやってくれたですねぇ…!!」
困惑するブラックバロンの意識を引き戻したのは、家来の怒りに満ちた声。
顔を打ったのか鼻血を垂らしながらも、両目はドス黒い色に染まっている。
浮かべる怒りは先のミラーモンスターへ向けた時の比ではない。
世界で最も失われてはならない人間である自分に鼻血を流させた。
それがどれだけ罪深いか理解していないのか。
視線だけで殺せるならとっくにやちよの命を奪っているだろう程に、苛烈な形相だった。
「おバカなメスブタ如きがこのボクに傷を付けるなんて、絶対に許されないですよ!大人しく男に媚びだけ売ってれば良いのに、そんな事も分からないアバズレはここで死ねで〜す!」
3歳児のレパートリーとは思えない罵しりの言葉を吐きながら、戦極ドライバーを装着。
ポケットから取り出したロックシードを叩き込む。
『ブドウ!』
「変身ですぅ〜!」
『ロックオン!ハイィー!』
『ブドウアームズ!龍・砲!ハッハッハッ!』
緑色のライドウェアを纏い、クッラクから出現した巨大なブドウを頭から被る。
果実を展開し装甲に変化させるのは全アーマードライダー共通だ。
騎士の甲冑に似たブラックバロンとは違う、中華風の鎧を着込んだような戦士。
アーマードライダー龍玄への変身が完了。
専用のアームズウェポン、ブドウ龍砲を持つ右手が跳ね上がり怒りに身を任せトリガーを引いた。
「っ!」
地を蹴り銃弾を躱す。
蜂の巣にならずに済み安堵する余裕も無く、黄色い槍が迫り来る。
対処はこれまでと何ら変わらない。
槍を振るって弾き返し、間髪入れずに突き刺せばバナスピアーで防御される。
互いに長得物をぶつけ合い火花が散る、両者共に一撃たりとも貰いはしない。
これまでと違うのはブラックバロンに加勢する者が現れた事だろう。
ブドウ龍砲から発射された銃弾がやちよへ殺到、身を捩り躱すがそちらにばかり意識を割く訳にもいかない。
気を逸らせば一瞬でバナスピアーの餌食だ。
回避し終えると同時に槍を数本生成し、至近距離からブラックバロン目掛け射出。
舌打ち交じりにはたき落とされ、その間も龍玄による援護射撃は続いていた。
(随分使い慣れてるわね…)
タラオが子供ながらに救いようのない下衆なのは分かったが、それにしたって仮面ライダーの力を使いこなしているのは驚きだ。
実力が伴わない者が援護に回っても、却って実力者の足を引っ張るだけ。
しかし龍玄はやちよへ的確な射撃を行い、間違ってもブラックバロンに誤射するようなヘマは一度もしていない。
目の前で起きているのは現実でありながら、俄かには信じ難い光景だ。
アーマードライダーは超人的な戦闘能力を変身者に齎す、通常の兵器とは一線を画すシステムである。
当然専用のアームズウェポンもまた、既存の科学技術では再現困難な性能を誇る。
龍玄が使うハンドガンタイプのアームズウェポン、ブドウ龍砲もその例に漏れない。
照準補助ユニットが射撃精度を最大限に高め、ターゲットの位置や角度を正確に計算。
グリップ部分に搭載された機能が射撃時のブレを最小限に抑える。
それらに加えて龍玄が備え持つ分析センサーにより、射撃速度と照準の自動補正も行われているのだ。
アーマードライダーとアームズウェポン、それぞれの機能を発揮すれば正確な射撃も容易い。
それ程までに高機能なアーマードライダーの力を以てしても、やちよにはただの一発も銃弾が当たらない。
ブドウ龍砲は秒間100発もの高速連射が可能。
だというのにどれだけ銃弾をバラ撒こうとやちよは全て躱し、或いは槍で弾き落とす。
苛立ち更にブドウ龍砲を連射しても結果は同じだ。
龍玄が中〜遠距離にて高い性能を発揮するアーマードライダーなのは本当であり、タラオが3歳児ながら使いこなしているのはシアゴーストを撃破した事からも明らかだろう。
とはいえ武器の性能だけでは埋められない、経験の差というものがここに来て響いている。
12歳でキュゥべえと契約し、現在に至るまで培ってきた魔法少女としての戦闘技能と踏んで来た場数。
NPCのミラーモンスターにはない強みを持つ参加者が相手では、如何にタラオがアーマードライダーに変身していても分が悪過ぎた。
憎々し気に仮面の下で歯軋りをする。
タラオとは反対にやちよはあくまで冷静さを保った表情で、ブラックバロンとの攻防を繰り返す。
とはいえ神経は張り詰めており、龍玄の銃弾を決して甘く見てはいない。
変身者が実戦経験不足ではあるものの、アーマードライダーとしての機能の高さには疑う余地が無い。
万が一胸元のソウルジェムに被弾してしまったら洒落にならない。
それでもやはり未だ一発も受けていないのは、流石の実力と言うべきか。
「うわぁっ!?」
ブドウ龍砲を連射していた龍玄が素っ頓狂な悲鳴を上げ飛び退く。
僅かに遅れて頭部のあった場所を拳が横切った。
振り返った龍玄のカメラアイが捉えたのは、生意気にも自分を撥ねた棺桶。
シュッシュッと拳を突き出しファイティングポーズを取っている。
龍玄の後頭部には龍尾環というセンサー機能が搭載されている。
これは生物の気の流れを読み取る事が可能であり、視覚では捉えられない背後からの攻撃も察知出来るのだ。
棺桶の拳を躱せたのもこの龍尾環のおかげ。
尤も今のタラオの頭にあるのは龍玄の能力への感心ではない。
「気味の悪い棺桶なんかがボクを殴ろうとするなんて生意気です〜!」
人間ですら無い化け物が磯野家の将来を担う優秀な子を殺そうとするなど、あってたまるものか。
脳みその無い棺桶だから、自分に暴力を振るうのが如何に愚かしいかも理解出来ていないのだろう。
自分はカツオのような親不孝者の不良息子とは違う。
殴りたいのならカツオみたいな磯野家の恥を好きなだけサンドバッグにしていろ。
仮にも同じ屋根の下で暮らす家族をこき下ろし、ブドウ龍砲を棺桶に向けた。
「死ぬです!」
6連装式の銃口が火を吹く。
瞬きの間にバラバラにしてしまう弾幕に襲われても棺桶は慌てない。
デイパックから飛び出した時と同じく地に手足を付け、這うように移動。
巨体に見合わぬ俊敏さに、龍玄の方が翻弄される。
時折銃弾が掠めるも棺桶は早さを維持したまま。
再度タラオへ距離を詰めると勢い良く立ち上がる。
そっちから近付いて来たなら好都合、ブドウ龍砲が棺桶に浮かび上がった眼を睨みつけた。
が、トリガーが引かれる寸前で龍玄の腹部へ走る痛み。
複数ある足の一本で放たれたヤクザキックをモロに受けたからだ。
「ひぎゃっ!?」
装甲を纏った龍玄の体重は100kgを超える。
にも関わらず足が地面から浮く勢いで蹴り飛ばされた。
ゴロゴロと地面を転がり、屈辱に歯軋りしながら立ち上がったのはブラックバロンの近く。
偶然か意図してここまで蹴り飛ばしたのかはともかく、やちよには好都合。
敵が一ヶ所に固まったなら、纏めて片付けるのみ。
後方へと跳びながら槍を複数本射出。
追いかけようと足を動かしかけたブラックバロンを牽制した。
「はぁぁ…!!」
槍を突き立て魔力を集中する。
魔法少女の大技(マギア)を叩き込む準備に入った。
敵は手強く、それでいて見下げ果てた性根の連中。
容赦してやる理由は無い、全力の技をぶつけるのに何の躊躇も無い。
パラダイスキングは勿論のこと、タラオに対しても里見灯花を知っているだけに子供だからと言って甘く見はしなかった。
やちよを取り囲むようにして10本の槍が生成。
一本一本に籠められた魔力は、これまで射出していた際の倍以上。
更には突き立てた槍にも祈りを込めるように目を閉じ、魔力を注ぎ込む。
目を見開き槍を一回転、生成された得物が全てブラックバロン達に照準を合わせる。
「チッ、めんどくせぇのが来るな…」
やちよから溢れ出す力の奔流に、ブラックバロンも正しく脅威を認識。
スーツで覆った肌が総毛立つ感覚は、放送前に万丈と一戦交えた時にも感じた。
赤いドラゴンのブレスと共に放たれた蹴り技。
現在相対している敵は仮面ライダーではないが、高威力の技を使う気でいるのは察せられる。
ならば棒立ちで食らってやるなど真っ平御免。
相応の対処を行うまで。
「合わせろガキ!」
『バナナオーレ!』
「わ、分かったです!」
『ブドウスカッシュ!』
やちよの放つ戦意に龍玄も危機感を覚え頷く。
それぞれカッティングブレードを操作、ロックシードからアームズウェポンへとエネルギーが流れ込む。
二人が武器を構えると同時にやちよも槍を投擲し、展開していた全てを射出。
威力と速度の両方がこれまでよりも格段に上。
しかしそれはアーマードライダー達も同じ事だ。
連射したエネルギー弾が撃ち落とし、巨大な紫のバナナ状エネルギーが粉砕する。
焦りはしたが被弾せず凌いだ。そう安心するにはまだ早い。
「私の槍で、貫くから!!」
投擲したのとは別の槍がやちよの手元にある。
しかもそこに籠められた魔力は間違いなく射出したものより莫大。
ブラックバロン達目掛けて、爆発的な加速を以て突撃。
まるでやちよ自身が弾丸と化したかの如き、最速の一撃だ。
「クソがぁっ!!」
エネルギーはまだアームズウェポンに残留している。
ブラックバロンがバナスピアーを振るう横では、龍玄もまたブドウ龍砲のトリガーに指を掛けた。
「舐めるなですぅ!メスブタ!」
銃口から発射されたのは今までのような銃弾ではない。
巨大なドラゴンの形をしたエネルギー弾だ。
無謀にも突撃して来る女を食らうべく牙を剥き出しにした。
アーマードライダー二体が放つ必殺の威力を秘めた攻撃。
それらを前にしてやちよに恐れは微塵も存在しない。
「もう誰にも…奪わせない!」
己が顎で喰い殺さんとするドラゴン。
焼き潰し肉片すらも消し去ろうとするバナナ状エネルギー。
殺意の塊二つへ真っ向から勝負を挑み、ただ前へ前へと突き進む。
邪悪なる意思ではやちよを止められない、自分を絶望から救った桜色の輝きにもう一度会うまで止まる事はない。
想いの強さを形にしたかの如き槍に貫かれ、ドラゴンと紫のバナナが消し飛ぶ。
驚愕する暇すら与えられず、ブラックバロンの装甲に穂先が到達。
龍玄を巻き込みながら大きく吹き飛ばされた。
「うおおおおお!?」
「ひぎゅえええええええ!?」
貫通までは防いだのは流石アーマードライダーの装甲と言うべきだろう。
尤も受けたダメージは決して軽くは無く、地面に叩きつけられ呻き声を上げる。
これでまだ変身解除まではいっていないのだから、奇跡と言う他ない。
「ふ、ふ、ふざけるなです……こんな事は絶対に許されないですよ……」
全身が痛みを訴え、立ち上がるだけでも体の各所が悲鳴を上げる。
アーマードライダーに変身しているおかげでダメージを軽減出来ていると言っても、タラオはまだ3歳の幼児。
普通であれば激痛に泣き叫び殺し合いどころではない。
だがタラオの脳内を占めるのは体の痛みではなく、自分に傷を負わせたやちよへの圧倒的な怒り。
常日頃から祖父母を始めとして周囲に甘やかされているタラオからしたら、自分が傷付けられたこの状況が夢だと疑いたくなる。
残念ながらこれは紛れも無い現実であり、目の前に居る女はフグ田タラオに暴力を振るうという地獄で千度切り刻まれ万度その身を焼かれても許されざる大罪を犯した。
許さない、億に一つもこの女を許すなどあってはならない。
3歳児らしからぬ思考能力の持ち主であるタラオなら、一旦退いて体力の回復に努めるべきと考えるかもしれない。
但しそれはタラオがもっと落ち着いていられたらの場合。
やちよへの大き過ぎる怒りは冷静さを奪い、感情に身を任せた行動を促す。
己の怒りに後押しされるままタラオはデイパックに手を突っ込み、取り出した物を投げ付けた。
「なっ、おい!」
隣にいるパラダイスキングの声すらタラオを止めるだけの力は無かった。
勝手な真似をした家来への怒りは瞬く間に驚愕へと変わる。
タラオが投げたのは緑色のキューブ。
まさか爆弾なのかと嘗ての戦いでダイナマイトを使用したパラダイスキングは焦るが、すぐに違うと分かった。
何せタラオが投げ付けたのは爆弾などよりももっと危険な支給品。
パラダイスキングにはキューブの正体が分からなかったが、やちよは違う。
何故アレがここにあるのか、アレを使う魔法少女は不参加の筈。
いや考えるのは後回し、今はキューブをどうにかしなくてはと動き出そうとするが一歩遅い。
「出て来てく〜ださ〜い!」
聖人だろうと殺意を抱かせるような非常に鬱陶しい口調。
それを気にする者はこの場にはおらず、キューブの中から出現した存在に意識を奪われている。
見上げる程の巨体は生物とは程遠い、振り子時計に酷似したフォルム。
割れたガラス板を両手で抱え、振り子の重心には上下逆の真っ赤な唇。
怖気の走る魔力を発するこの正体は魔女。
希望を抱き願いを叶えた魔法少女の成れの果て、振子の魔女だ。
「ついでにこれも使ってあげますから、感謝するですよ〜」
魔女を出現させただけでは飽き足らず、タラオはもう一つの支給品も使う。
右手に掲げたのは何かのイラストが描かれたカード。
デュエルモンスターズの魔法カードだと知るのは同封された説明書を読んでいたタラオのみ。
カードから発せられた光が振子の魔女に当たると、おぞましいプレッシャーが更に引き上げられた。
間違いなく余計な事をされたとわかり、やちよの眉間に皺が寄る。
戦闘の再開を告げるように奇声が鳴り響き、それぞれが弾かれたように動いた。
「はぁっ!」
先手必勝で槍を振り被ったのはやちよ。
この魔女とは一度戦った事がある。
倒したのは鶴乃とフェリシアだが、攻撃パターンは把握済みだ。
振子の魔女が以前と同じままならば、やちよの攻撃も通っただろう。
此度は違う、タラオが使ったカードの効果がより大きな力を与えた。
ガラス板で槍による突きを防御、やちよが次の手に出るのを待たず両手を突き出す。
反応速度が明らかに上がっていると、ガラス板による攻撃で吹き飛ばされながら理解。
空中で体勢を整え着地、地面に爪先が着いた時点で赤いナニカが殺到した。
赤いモノの正体は無数の毛糸。
縛り上げ、身動きを封じ、息絶えるまで締め続ける。
そのような意図で放たれるも槍を振り回し斬り落とす。
されど襲い来る毛糸の数に限界は皆無、やちよ一人の手では対処が間に合わなくなり槍が絡めとられた。
掴んだままの手を引き寄せ千切ろうとしたがビクともせず、手放し新たな槍を生成し装備。
「ぐっ…!」
「あのガキ、俺様の許可なく勝手な真似に出たが…ま、今はお前が先だぜぇ!」
振子の魔女へもう一度攻撃する筈だったが、接近したブラックバロンと鍔競り合う。
そうだ、魔女が出現したからといってそれまで交戦していた相手が消える訳じゃない。
腹部を蹴り上げんと伸ばされた足を避け、反対に槍を突き出すも跳躍して躱された。
追いかけようとし、すぐさまブラックバロンと同じように後方へ跳んでの回避へと移った。
「ちょこまか鬱陶しいですね〜。おねえちゃんはネズミさんですか〜?」
嘲笑の言葉と共にやちよへ放たれたのは銃弾。
ブドウ龍砲を連射する龍玄だ。
振子の魔女が狙うのはあくまでやちよのみ。
主催者の手で細工でもされているのか、支給された参加者に従うようだった。
多対一の戦闘はこれが初めてではなくとも、不利な状況に立たされたのは事実。
龍玄の相手を引き受けてくれていた棺桶は赤い毛糸が邪魔をし、やちよの方へ気を回す余裕は無さそうである。
となると必然的にやちよ一人でアーマードライダーと魔女の三体を相手取らなくてはならない。
『バナナスパーキング!』
カッティングブレードを三度操作し、バナスピアーを地面に刺す。
何かマズいものが来ると察したやちよが再び飛び退くと、地面からはバナナ状のエネルギーが突き出た。
あと少し回避が遅れていたら直撃は免れなかっただろう。
ブラックバロンの攻撃は今の一撃のみではない。
やちよを追撃するように二つ目、三つ目と次々にバナナ状のエネルギーが地面から襲い掛かる。
地を駆け、或いは跳躍し躱す彼女を狙う者はブラックバロン一人では無かった。
『ブドウスパーキング!』
響いた電子音声がやちよへ新たな攻撃の合図だと知らせる。
ブドウの粒に似たエネルギーが龍玄を中心に発生。
やがてそれはドラゴンの形状へと集束、やちよを喰らい殺すべく突撃。
回避と同時に槍を龍玄目掛けて射出、向こうも地面を転がり何とか避けた。
ブラックバロンと龍玄の攻撃を躱し続けたやちよへ、今度は振子の魔女が仕掛けた。
龍玄が放ったドラゴンを跳躍し避けた為、現在やちよは地面から足を離したまま。
そこへ迫るは赤い毛糸。
やちよの視界全てを覆い隠す程の毛糸が殺到、身動きが取れなくなるばかりかそのまま圧殺されてもおかしくはない。
豪快に槍を振り回し、生成した槍を連射して片っ端から毛糸を切り裂く。
視界が晴れたやちよが真っ先に目にしたのは、目前へと迫った振子の重心。
大回転させた振子が直撃すれば無事では済まない。
体中の筋肉が痛むのを無視して躱すも、風圧だけで吹き飛ばされ地面を転がった。
『バナナスカッシュ!』
『ブドウスカッシュ!』
聞こえた二つの電子音声に思わず歯軋りをする。
よりにもよってこのタイミングとは、意地の悪い連中だ。
躱そうにも無理な体勢で動いたせいかズキリと痛みが走り、次の動きが遅れる。
マギアで迎え撃つ時間も無い。
「…っ!!!」
だが何もしない選択肢など有り得ない。
僅かな時間の許す限り槍を生成し、アーマードライダー達へと一斉に射出。
ブラックバロンと龍玄がいるのはやちよの頭上。
アームズウェポンではなく自らの右脚にエネルギーを集中させての飛び蹴りを放ったのだ。
加速した二人を止めるのは安易ではないが、槍を受けある程度は勢いも落ちる。
「ふぅ…!」
足元に水魔法を使い敏捷力を強化。
ブラックバロン達の蹴りが叩き込まれるのを紙一重で躱すが安心は出来ない。
現にガラス板がやちよを叩き潰さんと頭上から振り下ろされた。
巨大故に攻撃範囲も広く、躱し切るのは至難の業。
それでも加速した移動を止めずにいたおかげか掠りもしなかった。
されど命中はしなくとも、ガラス板叩きつけた際の余波までは避けられない。
「っあ…!」
暴風が叩きつけられたような感触に足がもつれ体勢が崩れる。
急ぎ立ち上がらねばという焦りも空しく、やちよの腹部へ蹴りが叩き込まれた。
「がっ……」
血の混じった胃液を吐き散らし蹲る。
槍を支えに立ち上がろうとするが、それも無意味に終わった。
銃声が響き槍を弾き飛ばされ、倒れ伏してしまう。
「おねえちゃんみたいなゴミはそうやってゴキブリさんみたいに這ってるのがお似合いです〜♪」
上機嫌の声がやちよへと降り注ぐ。
自分を攻撃した女へ蹴りを放ち、銃弾を撃ち込んでやったのだ。
ようやくストレスを解消出来たが自分の受けた屈辱はこんな程度では済まされない。
仮面の下では笑みを作りながらも、ドス黒い炎を両目に宿していた。
「おいおい、こいつに用があるのは俺様の方だ。ガキにはまだ早ぇよ」
放って置いたら好き放題しそうな家来を制止し我先にと前へ出るのはブラックバロン。
少々予定とは違う形となったが、結果が良ければ問題は無い。
タラオには色々言ってやりたい事があるが後回しだ。
「お前はあのデカい化け物と一緒に棺桶を壊して来い。良いな?」
伝えると向こうはあからさまに不満を抱いたのが仮面の上からでも分かった。
二度も同じことを言う気は無い。
それより足元で倒れ伏し、スリットから白く細い脚を覗かせる女を自分のモノにする方が重要である。
「――っ!!」
下劣極まりない欲にまみれた視線、やちよの全身を嫌悪感が駆け巡った。
このまま凌辱され、玩具にされ、都合の良い道具にされる。
冗談じゃない、そんな末路を誰が認めるものか。
死んでたまるか、汚されてたまるか、諦めてたまるか。
まだ自分は何も――
《そうね、このままじゃ良くないわね》
声が、聞こえた。
○○○
《好きでもない男に大切なモノを奪われて、性根の腐った子供に玩具にされて》
《もしかしたら殺されるかもしれない》
《でも仕方のない事だわ。私にとっては当然の末路だもの》
《私の願いがかなえとメルを殺した。いろはまで私の願いの巻き添えになった》
《皆を殺した私には相応しい罰だと思わない?》
そうだ。
私が生き残りたいと願ってしまったから。
だからかなえもメルも、私の願いの犠牲になった。
いろはだってそう。
あんな態度を取った私を見限らなかった、私の心を救ってくれた。
なのに、なのに私は何てことをしてしまったの。
奈落の底へ落ちていくいろはの手を掴めず、いろはを助けられず。
私はいろはに貰ってばかり、いろはから奪ってばかり。
《今更になって気付いたの?本当に救えないわね》
《私なんかが生きてたら、今度こそいろはが死んじゃうわよ》
いろはが死ぬ。
私のせいで。
そんなのは駄目だ、そんなのは耐えられない。
だったら、私は――
――『やちよさん!』
光が、私の中に淡い桜色の光が灯る。
そして思い出す。
私を暗闇から救い出したあの女の子を。
私の手を握り締め、どんな慰めよりも力強い約束をしてくれた事を。
七海やちよがずっと求めていたものをくれた、環いろはを。
死ねない。
やっぱりまだ死ねない、死ぬ訳にはいかない。
もう一度いろはに会うまで、誰が死んでやるものか。
《そう、じゃあどうするのかしら?》
そんなの決まってるじゃない。
私の邪魔をする奴らは。
いろはを傷付けるような連中はみんな
「殺してやる」
黒い雫が一滴、落ちる。
◆
「な、なんだぁっ!?」
目の前で起きている事に理解が追い付かない。
ブラックバロンの叫びに籠められたのは、困惑以外の何ものでもなかった。
事態の変化に付いていけないのは龍玄も同じ。
異様な気配に振り向けば、ブラックバロン同様に素っ頓狂な声を出すのを抑えられない。
二人が見つめる先、倒れ伏した瑠璃色の髪の女が立っている。
だが果たして今の彼女を、つい数秒前までの彼女と同じに扱って良いのだろうか。
本来人間には二本しかない腕が増え、計四本をだらりとぶら下げている。
腕の先には五本指の生え揃った手は存在せず、代わりに巨大な切符鋏。
左足は最早原型を留めず長大化、尻尾にも似たソレが先端で揺らすのは淡い光を放つカンテラ。
頭に被った黒い幅広の帽子はこれまで無かったもの。
垂らされたベールから覗く表情は、業火の如き怒りに満ちている。
環いろはという太陽を求め、立ち塞がる全てを滅さんとする穢れに染まった三日月。
モギリのドッペル。
旅立つ少女達を見送る事しか出来なかった、七海やちよの後悔と絶望の象徴。
ベール越しのやちよの瞳と、ブラックバロンのカメラアイがかち合う。
瞬間、ライドウェアの下の肌が泡立った。
テナガザルとの支配権を懸けた闘争で幾度となく味わった、命の危機を知らせる感覚。
『バナナスパーキング!』
飛び退きながらカッティングブレードを操作。
降り立つや否や地面にバナスピアーを突き立てると、やちよの足元からバナナ状のエネルギーが突き出る。
人間以上の生命力と、既存の生物を超えた強度の外骨格を持つインベスをも死に追いやる威力。
魔法少女が相手であっても十分な脅威となる。
それが当たらない、当たらないなら脅威にはなり得ない。
攻撃の回避自体はこれまでもやっていたが、此度は速度が異様と言っても良いレベルに上がっていた。
四本の腕と一本の足を使った獣のようにも見える方法で移動、五肢に掛かる余りの力に地面が削られていく。
バナナ状のエネルギーが掠りもせず、あっという間にブラックバロンの目と鼻の先まで到達した。
バナスピアーを振るう腕も、今のやちよには余りにも遅い。
二対四本の切符鋏による殴打が炸裂、装甲が砕けたと錯覚する程の衝撃。
悲鳴すらも出せずブラックバロンは殴り飛ばされた。
やちよと互角に渡り合ったアーマードライダーを呆気なく撃破。
次の標的を視界に入れようとし、銃声が木霊した。
「うわああああ〜!死ねです化け物〜!!」
焦燥を隠しもせずにトリガーを引き続ける姿からは、完全に余裕が消え去っていた。
散々大人達を舐めて見下していたタラオも理解したのだ。
今のやちよは非常にマズい存在になったと。
最早嬲るだとかお返ししてやるだとかはどうだって良い、一刻も早く殺さなくては。
『ブドウスカッシュ!』
カッティングブレードを操作し銃弾を強化。
威力と連射性をより高めたブドウ龍砲のエネルギー弾は、やはりと言うべきか命中せず。
ならばドラゴン状のエネルギーを叩き込もうとし、やちよの姿が視界から消えた。
何処へ行ったと探し回る必要は無い、龍尾環が背後からの襲撃を察知――
するよりも早く、龍玄が胴体を掴まれた。
恐るべき事にアーマードライダーの機能をも、モギリのドッペルは上回ったのだ。
切符鋏による拘束から逃れようと龍玄は藻掻くもビクともせず。
なら至近距離で撃ち殺してやろうと照準を合わせるが、それもまた無意味。
掴んだままの龍玄を地面に叩きつけた。
背中から来る痛みと衝撃が、右手のブドウ龍砲を手放してしまうという最悪のミスを招く。
(し、しまったです…!)
ここでようやくタラオは自分の失敗を悟る。
自分の方針はどんな手を使ってでも生き延びること、意地を張って殺しに拘る必要は無い。
やちよが姿を変えた時、若しくはブラックバロンが殴り飛ばされた時点で逃げていれば良かったのだ。
焦りと恐怖から銃を連射してしまい、逃亡の機会を自ら潰してしまった。
後悔しても最早遅い。
「た、助けてくだっ、ぎゃああああああああああ!!!??!いだ、いだいでずぅ〜〜〜〜!!!」
命乞いなど届きはしない。
頭部を、胴体を、四肢を切符鋏が挟み力を込める。
粉砕か捩じ切るか、どちらにしてもマトモな死に方は許されないだろう。
龍玄の装甲とライドウェアが即死を防いでおり、それが却ってタラオへ苦痛を与えていた。
「っ!!チッ!」
タラオへの惨たらしい死は訪れない。
切符鋏から龍玄を解放したやちよが大きく跳躍、赤い毛糸をやり過ごした。
タラオにとって幸運だったのは事前に振子の魔女を出していたこと。
自分が支給された参加者へは従う意思でもあるのか、タラオの危機を見ない振りはしない。
赤い毛糸が触手のようにうねりやちよを絡め取ろうとする。
何度斬り落とされても魔女本体を始末しない限りキリが無かった。
「今がチャンスってな!」
やちよの意識は僅かな間だが振子の魔女へ釘付けになった。
であれば、他の者達にとっては見逃せないチャンス。
どうにか復帰したブラックバロンがタンポポロックシードを起動。
ダンデライナーへ飛び乗り急発進、ダメージの大きさ故か変身が解除されたタラオの首根っこを掴み拾う。
やちよが気付くもブラックバロンはお構いなしだ。
ダンデライナーはスピードを落とさずに急上昇。
地上の連中が何かをする前に戦場から飛び去って行った。
「あばよねえちゃん!次に会う時まで生きてたら、そん時は改めて俺の女にしてやるよ!」
「なっ…!待ちなさい!っ、この…!」
やちよの怒声には耳も貸さず、残していったのは変わらず腹立たしい捨て台詞だけ。
静止の声が空しく響き、すぐさま振子の魔女の奇声に掻き消される。
ブラックバロンが逃げるまでの足止め、あわよくばこのままやちよを排除するつもりか。
目障りな巨体を見上げるやちよの瞳に黒い殺意が宿った。
深海のように色濃い長髪が、怒りで揺らぐ。
「邪魔よ!!!」
五肢を地面に叩き付けその反動で跳ぶ。
振子の魔女すらも見下ろす位置まで移動すると、カンテラを激しく揺らした。
そして起こるはやちよを中心に出現する大量の水。
これまで使っていた水の魔法とは比べ物にならない激流が、振子の魔女をあっという間に飲み込む。
赤い毛糸を飛ばし、振子を大きく回転させ、ガラス板を狂ったように振るう。
決死の抵抗は無意味。
振り子時計に酷似した体は激流に耐え切れず砕け散り、へし折れた振子の重心が地面に落ちた。
歪む真っ赤な唇が伝えたいのは苦痛か、それとも別の何かか。
いずれにしろ、正しく他者へ伝わる機会は訪れない。
罪人を裁く刃の如く振り下ろされた切符鋏が、堕ちた魂を粉砕した。
「逃がさない…!」
魔女が上げる断末魔の叫びなどどうだっていい。
戦いを引き起こした男とその手下を逃してしまった。
《すぐに追って殺さないとね?》
聞こえた声には頷かずとも、その通りだと同意。
あの男が今度はいろはに目を付け、唾棄すべき欲望の餌食にするかもしれない。
加えていろははお人好しな性格だ。
中身が下衆でも見た目が幼い子供なら騙される可能性は大いにある。
あんな奴らがいろはを手に掛ける、そんな事態になどさせてなるものか。
(いろはを殺そうとする奴らは許せない…一人も生かしてはおかない…!)
胸の奥底で燃え上がる黒い炎。
いろはを傷付ける者、いろはを奪おうとする者、何よりいろはを守れなかった弱い自分。
やちよ自身をも壊しかねない怒りが心を支配する。
《ならどうすればいいのか分かってるでしょう?》
そうだ、全員殺せばいい。
逃げた二人組も、ゲームに賛同した連中も、マギウスの魔法少女達も。
自分を裏切ったみふゆとフェリシアだって生かしては――
「――――っ!?」
冷水を浴びせられたように、急速にやちよの思考は冷静さを取り戻した。
いつの間にか顔を覆っていた白い仮面が砕け、ドッペルも解除。
嵐が過ぎ去った後の戦場にて、自分が今考えた内容を追い出すようにして頭を振るう。
みふゆ達がマギウスの翼の一員になったとしても、殺すなど有り得ない。
自分がやるのは彼女達を手に掛けるのではなく、連れ戻す事だろうに。
(今のはドッペルのせい…?)
調整屋を訪れた時、みたまが言っていたのを思い出す。
ドッペルには強い依存性と副作用があると。
荒んでいるとはいえ、普段のやちよならばしない酷く殺意に満ち溢れた思考。
これもまたドッペルを使った影響なのだろうか。
やちよ自身は魔法少女を運命から解放するというマギウスの言葉を信じていない。
確かにドッペルは魔女化を防ぐ、しかし欠陥が無い訳でもない。
使い続けるのは良い事とは思えず、さりとてこの先の戦いを考えれば使わなければ切り抜けられないかもしれない。
「……」
ふと視界の端にチラリと入り込んだ何か、近付き拾ってみると見慣れた物。
グリーフシード、魔女を倒した証拠であり魔法少女には必要不可欠。
結果的には良かったと言えるのかもしれない。
ドッペルを使った事で穢れは取り除かれ、グリーフシードも手に入った。
ゲームに賛同した連中を逃がした事を考えれば、素直に喜べない部分もあるが。
あの二人の姿はとっくに見えなくなった。
追跡しようにも振子の魔女に妨害されたせいで、どっちへ行ったのか分からない。
後ろ髪を引かれる思いだが、ここは当初の予定通り東方面を調べに行く。
それと新しい服が手に入るまでは、魔法少女に変身したままにしておこう。
幾ら何でも全裸の数歩手前のような格好で動き回る程、自分の見た目に無頓着にはなれなかった。
まずは放ったデイパックを回収しようとした時、ちょいちょいと肩を突かれた。
振り返るとやちよに支給された棺桶が立っている。
どうやら振子の魔女へ放った激流に巻き込まれる前に退避していたらしい。
「さっきはありがとう、おかげで助かったわ」
合図をしたらデイパックから出て来るよう指示を出していた為、危機を一つ脱せた。
最初に支給品の確認をした時は使い魔の類と思い身構えたものだ。
移動するのでデイパックに戻そうとし、そこで棺桶はやちよの予想外の行動をした。
タラオを撥ねた時のように手足を地に付け、親指で自身の背中(便宜上背中という事にしておく)を指したではないか。
「えっと……もしかして乗れって言いたいの?」
言葉の代わりに親指を立てて返される。
思いもよらぬ提案に顔が引き攣った。
手足の生えた棺桶に乗って移動する女、他人から見たらいらない警戒をされる事間違いなし。
ただ一方で移動手段があるの事自体はそう悪くは無い。
余計な体力の消費を抑えられ、徒歩よりも迅速な移動が可能。
その移動手段の見た目が棺桶という一点が大きな問題ではあるのだが。
メリットとデメリットを天秤に掛け、暫し悩んだ後に結局乗る事にした。
早く動けばその分いろはを見付けられる確率も高くなると自分に言い聞かせ、棺桶に乗る。
「じゃあ、お願いしても良いかしら?」
やちよの言葉に応える様に棺桶は走り出す。
その背にちょこんと正座しながら、やちよは何とも言えない思いで冷たい夜風に目を細めた。
【E-4/一日目/黎明】
【七海やちよ@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、精神疲労、魔法少女に変身中、棺桶に乗って移動中
[装備]:環いろはの写真@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)、アーカードの棺桶@HELLSING
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード×1@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)、ランダム支給品×0〜2(確認済み、グリーフシードは無い)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。
1:東方面を探索。6時間後にE-4で桐生さん達と合流する。
2:いろはに会いたい。
3:マギウスの魔法少女達を警戒。一応フェリシアも。
4:さっきの二人組(パラダイスキング、タラオ)にも警戒しておく。
5:桐生さんはともかくエボルトは信用できない。
6:ドッペルの使用は控えた方が良いとは思うけど…。
7:代わりの服を見付けるまでは変身を解けないわね…。
[備考]
※参戦時期はセカンドシーズン2話で黒江と遭遇する前。
◆◆◆
「ったく、勝手な真似ばっかりしやがって」
「ごめんなさいです…」
ダンデライナーを運転しながら、パラダイスキングは家来の愚行を咎めた。
王の腰にしがみつき、叱責を受けたタラオは落ち込んだ様子を見せる。
あくまで表面上は反省した風に見せているだけで、内心はパラダイスキングへ唾を吐きかける思いだ。
自称王様の痛い輩如きが、一体何の権限があって自分に説教をしているのか。
ガミガミ叱られるのなどカツオの役目だろうに。
「ふん…まぁいい。少しは寛大な所も見せてやらなきゃ、王様は務まらなねぇからな」
一度くらいは家来のミスを許してやる。
しかし次も自分の許可なく勝手な真似に出るようなら、最早手下としての価値は無い。
とにかく今はどこか休める場所を探すのが先決だ。
傷を癒した後に動き出し、次にやちよと出会う時があれば今度こそ屈服させ自分の女にする。
やちよの強さは先程の戦闘で十分身に染みた。
(あんだけ強い女をモノにした瞬間ってのは、さぞかし気持ちいんだろうなぁ)
一度欲しいと思ったものはそう簡単に諦めないのが王様だ。
この程度で諦めると思ったら大間違いである。
(許さないですよあの女…!)
邪悪に笑う王の背後で、タラオが思うのもまた同じ女。
自分をここまで痛めつけたあの女は絶対に許さない。
この礼はたっぷりしてやらねば、到底怒りが治まりそうも無かった。
どこまでも自分勝手な思いを抱く主従を乗せ、ダンデライナーが夜空を駆ける。
次に彼らが混乱を引き起こすのは、果たして何処か。
【E-4(上空)/一日目/黎明】
【パラダイスキング@クレヨンしんちゃん】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)
[装備]:量産型戦極ドライバー+バナナロックシード(ナンバー無し)@仮面ライダー鎧武、タンポポロックシード@仮面ライダー鎧武
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:優勝する。
1:もっと強い武器を手に入れる。
2:タラオを家来として利用する。が、次もまた勝手な真似をしたらタダじゃおかない。
3:万丈の奴は次に会う時があったら殺す。
4:青い髪の女(やちよ)は次に会えば屈服させ自分の女にする。
5:主催者(檀黎斗)の持つ力が欲しい!
[備考]
※参戦時期は『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル』終了後。
【フグ田タラオ@サザエさん二次創作】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、屈辱と怒り(大)
[装備]:量産型戦極ドライバー+ブドウロックシード(ナンバー無し)@仮面ライダー鎧武
[道具]:基本支給品一式、巨大化(3時間使用不可)@遊戯王OCG、ランダム支給品1〜3(確認済み、ボーちゃんの分)
[思考・状況]
基本:生き残るべきは僕なのですぅ♪
1:どんな手を使ってでも生き残るですぅ♪
2:僕は何も悪くないですぅ♪
3:パラダイスキングを利用して賢く生き残るですぅ♪
4:あの女(やちよ)は絶対に許さないです…!!
[備考]
※性格が二次創作出典なので原作よりもクズな性格になっています。
※ボーちゃんの死体は川に流されました。
どこまで流されたかは後続の書き手に任せます。
【アーカードの棺桶@HELLSING】
アーカード専用の棺。本人曰く「最後の領地」。
拘束制御術式第零号解放時には棺桶が開き死者の河が出て来る。
本編の数十年前を描いた外伝にも登場。
複数の手足を生やし少女形態のアーカードを乗せ疾走、吸血鬼をしばき倒す、タバコを吸ったりもした。
【グリーフシード@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
魔女を倒した際に得られる。
魔力の消費によるソウルジェムの穢れを吸って移し替えることが可能。
【振子の魔女@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
電波塔のウワサ結界内にマギウスのアリナ・グレイが隠していた魔女。
巨大な振子時計のような見た目をしており、手に持ったガラス板や赤い毛糸で攻撃をする。
本ロワにおいてはアリナが使うキューブ型の結界に閉じ込められた形で参加者に支給された。
【巨大化@遊戯王OCG】
装備魔法
(1):自分のLPが相手より少ない場合、
装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力の倍になる。
自分のLPが相手より多い場合、
装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力の半分になる。
原作及びアニメ版では海馬瀬人が使用した魔法カード。
本ロワにおいてはデュエルディスクにセットしなくても発動可能、一度使用すれば3時間経過しなければ再使用不可能。
またデュエルモンスターズのモンスターのみだけではなく、参加者自身や他の支給された生物、NPCも効果の指定として選べる。
投下終了です。
投下します
バトルロワイアルと言う名の決闘が始まり早数時間。
多かれ少なかれ参加者は別の参加者との交戦をすることも増え始めた。
例えば神に蹂躙される者達、例えば戦士と共に並ぶことを決意した少女達、
例えば同じ願いを抱く者同士による譲れない戦い、例えば運営の刺客からの敗走。
様々な戦いが行われる中、それらとは埒外な戦いに明け暮れる者達もいる。
「遊星、今そっちへ送る。」
仮面ライダーウィザードへと変身した達也は、
赤い機械の戦士を遊星が立つ方角へと蹴り飛ばす。
倒れたところへホカクカードを翳せば、難なくカード化に成功する。
「これで四十枚、デッキは組めるようにはなったな。」
「いや、デュエルの説明で出たダーク・ダイブ・ボンバーのように、
通常のデッキとは別の、エクストラデッキ入れる必要があるカードも混ざっている。
さっきカードにしたこのカードもシンクロモンスターで、厳密にはまだ足りない。」
変身を解除して軽く一息つく達也。
あれからナイトサイファーで移動を続けては、
途中で見かけたモンスターを見つけてカードにし続けると言う、
殺し合いとは別のゲームをしているかのような作業を二人はしていた。
これには理由があって、少なくとも二人にとっての殺し合いの基準が高い故に。
仮面ライダーや槍の男(ポセイドン)と、映像の戦いが基準になるのは当然の帰結。
遊星はいかに生身で戦えても、仮面ライダーのような超人的な戦いをするには、
デュエルモンスターズの力を借りなければ流石にどうすることもできない。
それではジャックや牛尾、遊戯達を探す前に力尽きてしまう可能性は高く、
達也の足を引っ張ることにも繋がるのでこうなるのは仕方ないことだ。
足を引っ張らない為、今はカードを集めることに時間をかけている。
「となると基本のデッキは三十七枚か。
デッキはルールを見るに四十枚が前提ではあるようだが、
此処ではデッキ枚数が多少足りなかったとしても問題はないらしいな。」
遊星もカードを集めるためにカードを用いて戦ってみたが、
そのうち何枚かは遊星も知っているカードが存在していた。
リアルファイトとデュエルモンスターズの効果や攻撃力が、
どのような形で発揮するかを十全に理解することはできずとも、
戦う分には問題がない様子だった。
「さっきのモンスターは頑丈だったが、
カードの性能がそれに見合うといいがどうだ?」
仮面ライダーウィザードの変身の一式があって助かったと達也は思う。
本来使えていた魔法が制限された都合、純粋な体術だけが頼みの綱だ。
いくら武術も優れてると言えども魔法がないのでは人間の範疇は越えられない。
殴り続ければ皮膚は裂けるし、蹴り続ければ足を痛めることだってありうる。
このような形で制限をかけて、それでいて戦う手段を用意する檀黎斗は何がしたいのか。
疑問は尽きないものの、今はこの指輪の魔法使いの力に頼るのが一番の解決の道だ。
「俺達が集めたカードの中だと、頼みの綱の一枚かもしれない。」
カード採集とゲームのようではあるものの、
遊星も知らない優秀なカードも何枚か見受けられた。
場合によっては自分のデッキに組み込みたいと思える代物もある。
今カードにしたそれも、どこか親近感を感じずにはいられないカードだ。
「とはいえ、これだけあれば問題ないはずだ。」
十枚や二十枚であれば戦闘中に尽きる恐れもある。
ライブラリアウト、即ちデッキ切れはデュエルの敗北。
それがどのような結果を齎すかは判断がつかないので、
ある程度枚数に余裕を持っておくことが重要でもあった。
「時間はかかったが動くべきだ。
それで、何処へ向かうか司波の意見を聞きたい。」
「デッキの捜索だが、大まかなエリアは絞ってある。」
「分かるのか?」
「映像で判断できる部分からの推測程度になる。」
ポセイドンと麻耶の戦いは少なくとも緑がそれなりにある場所だ。
北西の雪原、南の荒野と砂漠、当然海だけの場所も除外される。
遊星のC-4からの移動ルートも合わせそれなりに減るものの、
それでもこの舞台は緑が島の大半を占めている形であり、該当する場所は多い。
加えてエリア全域を走ったわけでもないので見落としてる可能性だってある。
いっそ誰かに拾ってもらった方が早い気すらしてくる気の遠くなる目的だ。
誰かに回収されたものを延々と探し続ける、無駄な可能性もあることだから。
「完全な特定は不可能な以上、他の参加者との接触、
これらを踏まえた上での移動エリアを決めることにしたい。
遊星達の仲間である蛇王院と明石がC-4の辺りと考えると、
俺達が集合までに捜索する範囲は、今の位置通りEの辺りを重点的しよう。
海や川と言った場所があれば逃げ道が制限される以上、一般人は余り選ばない筈だ。
そのことを考えると逃げ道が多いD-3からD-6、E-3からE-6へ向かうだろう。」
参加者が誰かに保護されている形であったとしても、
一般人を戦場から避難させる場合を考えると選択肢が多い場所は人が集まるはず。
特にE-4、E-5、E-6と施設と思しき場所も多いので休む目的なら十分ありうる。
人との接触がデッキの捜索に繋がる。勿論、敵も狙う可能性も高く敵の排除としても有効だ。
(達也もデュエリストなら、より頼もしいかもしれないな。)
遊星も対戦相手の立ち回りやデッキの構成を理解した上で、
それでいて自分のデッキのプレイングのルートを確立できるが、
達也もまたそういう考える能力に関しては特に長けている方だ。
恐らく、ルールとデッキの回し方を覚えれば彼でも自分のデッキは扱えるだろうと。
死ぬつもりはないが、万が一彼にデッキを託すことになっても戦えると半ば確信していた。
「分かった。なら───」
移動ルートは決めたものの、それをする暇はなくなった。
ゾクリと、背筋が凍り付くような殺気が二人を襲ってきたからだ。
精霊の眼(エレメンタル・サイト)があれば達也が先制で気づけただろうが、
魔法が制限されてるため、イデアへとアクセスする能力も当然失われている。
焦るような反応で遊星は振り向き、達也も冷静な面持ちで振り返る。
デュエルモンスターズにも複数の狼男(ワーウルフ)が存在する。
ジェネティック、漆黒の戦士、遊星も見たことがあるTG(テックジーナス)にも。
亜種としてライカン・スロープ(狼と合成された人間)と言うモンスターもいたりする。
ジェネティック・ワーウルフはレベル4通常モンスターで最も高い攻撃力を持つものの、
あれと比べるのは酷な話だ。凄まじい手負いの様子ではあるはずなのに、
一切隠さぬその闘争心は、二人が警戒するには十分すぎる存在だった。
承太郎たち三人との戦いの場から離れるように、大尉は軽く移動を続けていた。
あのまま病院の付近にいては追撃される可能性もあって休むことは難しい。
なのである程度南下したものの、其方でも結局新手の参加者の存在を感知する。
休むつもりであったので放置しようとしてはいたところではあったのだが、
気付かれたのであれば話は別とばかりに二人の前に姿を見せ、黒手袋をはめて構える。
不意打ちはしない。彼は人の言葉を発さないので心情については殆どが謎だ。
最後の大隊全体の方針を見るに、ただの自殺願望と言ってしまえば済むかもしれない。
ただ、彼の場合はそうであるとして、そこにフェアであるように戦いを始める主義だ。
此処でもそのスタンスは変わらない。生前の戦いで相手に銀歯を渡したように、
病院での戦いも不意打ちができただろうに、音を出して存在を示したのだから。
変わることはない。戦いにおいてはある程度公平さを望んでいる。
強者故の余裕か、満足して死を望む願望か。それすらも謎だ。
『ドライバーオン!』
もっとも───変身と言った暇までも与えるほど慈悲があるわけでもないのだが。
(早い!)
達也も遊星も、武術の構えをするように戦いに対する備えはできていた。
張り詰めた戦場でシュールな電子音を鳴り響かせながらベルトを呼び出し、
シャッフルされたカードの中からカードをドローすると言った独自の準備を。
けれど、メインフェイズ1も、変身と一言を発する暇すらそこにはなかった。
距離があったはずなのに瞬きの間に既に肉薄されており、回し蹴りが飛ぶ。
対象は遊星。デュエルモンスターズについての知識は大尉は最初の説明だけだ。
あれで理解できるわけもないし、当然アプリのことだって目を通すつもりはない。
選んだ理由はさしてない。強いてあげるならばデュエリストは目新しいからか。
しかし、そんなデュエリストの本体は彼の期待に応えられるものではない。
咄嗟に遊星は蹴りの方向へと飛んで威力を減らすも、それでも出鱈目な一撃だ。
吸血鬼の膂力で投げたミサイルを蹴り飛ばし、木々を生身で蹴って圧し折る。
それだけの力を扱える文字通りの化物の一撃を、たったそれだけで軽減しきるには程遠い。
大尉自身のダメージが甚大であるため、本来の威力からかけ離れたのは不幸中の幸いで、
普通に受ければワンターンキル待ったなしの即死急の攻撃は、
あばらの骨を何本もバラバラに砕きながら遊星を吹き飛ばす。
『シャバドビ タッチ ヘンシン! シャバドビ タッチ ヘンシン!』
「変身。」
焦る様子はない、と言うよりは手術の影響で出せないと言うべきか。
仲間が重傷に陥ったとしても、冷静に達也は指輪をベルトのハンドオーサーへと翳す
青い魔法陣が水飛沫と共に、達也の身体を頭上から通り抜け、姿を変えていく。
『ウォーター プリーズ スイスイ! スイスイ!』
黒いロングコートに青い宝石のような仮面に、
青と黒の色合いで構成された指輪の魔法使い、
仮面ライダーウィザード、ウォータースタイルへと変身する。
変身と同時に頭部へと迫る踵落とし。
両手をクロスさせながら防ぐと、重い衝撃と鈍痛が襲い掛かる。
変身してこれだけの重みのある攻撃を受けたのはNPCとの交戦で一度もない。
どれだけ今相対している存在が化物であるかを実力で物語るかのようだ。
テロリストとはわけが違う怪物を前に、意趣返しのように回し蹴りを行う。
踵落としの反動で回転しながら回避し、後方へと着地。
振り返りながら互いの回し蹴りがぶつかり合う。
(重い上に素早い。ドイツ軍らしい恰好に偽りはないようだ。)
向こうが満身創痍と言えども達也が僅か程度に押し負ける。
互いの蹴りの威力が収まると、ジャッカルの銃口が牙を剝く。
仮面ライダーの装甲を貫けずともダメージに足りうるそれは、
被弾させれば怯ませるには十分すぎる代物だ。
一発は姿勢を戻しながら回避。続けざまの二発目も銃の向きを見れば回避は可能。
首を傾けると同時に放たれた弾丸は轟音で耳元を駆け抜け、鼓膜を軽く揺らす。
仮面ライダーと言う立場になれたとしても、一発の重さはそこいらの弾丸の比ではない。
インフェニティスタイルならまだしもウォータースタイルでは最悪装甲を貫くだろう。
回避と同時にデイバックから取り出した銃剣、ウィザーソードガンを構えるも、
武器を取り出したところに三発目が叩き込まれそうになる。
「『星見獣ガリス』の効果発動!」
予想外な声に大尉は追撃を中断。
振り向けば先程骨を砕いた感触があったはずの男は、
赤いプロテクターと盾を装備した謎のモンスターの横に立っている。
ダメージらしいダメージは見受けられず、カードを墓地へ送れば、
紅色と黒紫をベースとした、翼の生えた獣が眼前へと召喚される。
続けざまに頭上からレーザーのようなものを放ち、回避を優先せざるを得なかった。
「遊星、大丈夫なのか。」
一度距離を取り安否の確認のため遊星の傍へと着地する達也。
モンスターと横並びしては、彼もモンスターと受け取れそうな光景だ。
M・HERO(マスクド・ヒーロー)と言うライダーの親戚のようなのもいるので、
違和感と言うものは余りないのかもしれない。
「ああ、このカードのお陰で命拾いした。」
遊星の隣に立つプロテクターの戦士はBK(バーニングナックラー)ベイル。
戦闘ダメージを受けた際に手札から場に出し、ダメージを回復できるモンスター。
受けたダメージはそのまま帳消しするように回復するので、必然的に無傷に戻っている。
とは言え、崖に落ちたり破片が突き刺さってもなお生還した彼と言えども流石に激痛で、
痛みによって少し身動きが取れなかったのはあって復帰は遅れたが。
先程の星見獣ガリスはデッキの一番上をめくり、それがモンスターだったら、
墓地へ送ってモンスターのレベルに応じたダメージを与えて場に出すカード。
今の遊星のデッキはモンスターカードだけで構成される都合100%当てられる。
捨てたモンスターのレベルが低かったからか、ダメージには足りえなかったか。
「手筈通り俺が先行する。支援を頼む。」
銃撃で水の弾丸を放つことで牽制しながらの肉薄。
いろはやシグルドの矢と比べれば見劣りするそれだが、
今のダメージを受けすぎた状態では見劣りしていても数になれば別だ。
なお、その状態で回し蹴り一つで威力を水鉄砲並に抑える時点でもおかしな話だが。
バシャバシャと水が降りかかりながら、残り一発入ってるマガジンを捨て予備を装填する。
この状況で玉切れになることは敗北に直結しかねない故に。
(何かの型にはまった武術、と言うわけではないらしい。
しかし、だからと言って単なる力任せと言うわけでもない。
能力の高さもあるが、実戦において身についた戦闘技術だろうか。)
師匠となる九重八雲からも称賛される体術を持つ達也から見ても、
最早兵器と言っても差し支えのないその身体能力は危険なものだ。
服の汚れから相当な戦いをしてきたのが幸いとすら思えてしまう。
でなければ、最初の一撃で遊星は即死していた可能性すらある。
迫る達也へと弾丸のように突進しながらミドルキックが飛来。
『ディフェーンド!』
来る寸前に右手の指輪をハンドオーサーへと翳すと、
魔法陣が眼前に出現し、水の壁が互いの間に挟むように出現。
水の壁である以上防御には向かないものの、水に阻まれたことで勢いは落ちた。
サイドステップで躱し、ウィザーソードガンを剣として横薙ぎに振るう。
斬撃が入る寸前に身体が霧散することで空を裂き、直ぐに霧から距離を取る。
(霧散霧消(ミスト・ディスパージョン)? いや、
魔法力は感じられないのを見るに仮面ライダーのような能力の類と見ていいか。)
物質が霧状になる、それは達也も用いる霧散霧消に類似し、
彼の世界では殺傷性ランク『A』で、軍事機密とされる程の分解魔法。
自分自身が凶悪性を理解しているため、類似した可能性のあるそれを警戒するのは自然なこと。
そうでないとしても、霧状になったそれを周囲に漂わせた状態では何が起こるか予想できない。
霧散した大尉だったものは集合し、体長三メートルはあろう霧状の狼へと姿を変える。
「───ッ!!」
ある意味唯一と言うべきだろうか。
言葉を全く発さない彼が発する、獣としての咆哮。
狼と表現はしたが、霧が形どったからそうなっただけのもの。
咆哮を轟かせながら口元を物質化させ、竜の如く空中を飛び交い達也を噛み砕かんと迫る。
咄嗟に距離を取っていなければ、腕は持っていかれていた可能性は否めない。
バックステップで距離を取りながら唯一物質化される口元を狙っての銃撃。
弾丸を上回る速度で攻撃を悉く躱していき、次第に距離を詰めていく。
「シグナル・ウォリアー!!」
牙が迫る瞬間、先程達也と遊星がカードにした赤い装甲の戦士が割って入る、
と言うより最早自分から身代わりになるかのようにその牙の餌食に───ならない。
その牙をもってすれば機械でも四肢を砕くなど容易にできただろうにそれは叶わず。
人型に戻りながら蹴り飛ばして大地を転がるが、それでもなお破壊されない。
(何とか間に合ったか。)
その光景を見て遊星は一先ず安堵の息を吐く。
シグナル・ウォリアーは自身とフィールド魔法にシグナルカウンターを一つ乗せる効果持つ。
フィールド魔法は存在しないので、必然的に自身にだけ乗せることができるカードなのだが、
このシグナルカウンターが存在する限りこのカードは戦闘、効果で破壊することができない、
つまり強靭な耐性を獲得することを目的としたものだ。
手札に戻す、除外、墓地へ送る。
デュエルモンスターズであれば対処する手段はいくらでもある。
しかし、カードを用いずにそれらを殺し合いで行うと言うのは極めて困難だろう。
大尉は確かに強いものの、格闘も銃もいずれも相手を破壊する行為へとつながるのが基本だ。
もし、DIOの腹心であるヴァニラ・アイスのクリームのように空間を消し去るとかであれば、
破壊ではなく除外と認識されてそう言うことも起こりうるが、大尉の基本は格闘能力。
カードプールに乏しい遊星にとって、場持ちがいい頼みの綱とも言えるモンスターになる。
達也が戦ってる間に召喚したシンクロモンスターは、その手間に見合うだけのモンスターだ。
(だがダメージは受けるはず。司波の援護を徹底するべきだ。)
デュエルモンスターズのルールが基本的に適用されるならば、
戦闘破壊できずとも超過分のダメージは受けるのが基本になる。
ただでさえ相手の攻撃は蹴り一つで最悪1ターンキルを成立させる怪物。
数の利があるからと言って、油断ができる相手ではない。
(シグナル・ウォリアーのシグナルカウンターを十個取り除けば、
フィールドのカードを破壊……もとい攻撃表示にせずとも攻撃できるが、
カウンターの乗るタイミングが遅い以上、あまり期待はできないな。)
カウンターの乗るタイミングはお互いのスタンバイフェイズだが、
スタンバイフェイズのタイミングなど判断できるわけがないし、
そもそも十個乗ると言うことは残り九ターン要求されてしまう。
あれ程の相手に悠長に九ターンの時間も待つのは達也の身が持たない。
自分のターンが回ってきたのでドローするものの、有効打は限られる。
今の遊星のデッキは普段から使っている拾ったカードから組んだデッキではなく、
どちらかと言えば刑務所で様々な囚人から貰った寄せ集めのデッキに近しい。
前者ならば拾ったとしても個々のシナジーはある程度考えたものになるが、
後者の場合はありあわせのものだ。シナジーと言ったものは殆ど度外視されている。
「スター・ボーイを召喚!」
だから普段のような戦術を組み立てることはできず、
単なる通常召喚一つでしか行動ができないのも珍しくない。
触手を足にした、ぎらついた表情の真っ赤なヒトデが遊星の前に立つ。
(再認識するつもりはなかったが、やはり強敵になるな。)
なりたての仮面ライダーの変身と寄せ集めのデッキとは言え、
ホカクカードでカードにするまで少々難儀していたモンスターだ。
あれを破壊できずとも一撃で吹き飛ばしているのだから実力は伺える。
霧状になられるのも厄介ではあるが、生身もまた別格の強敵。
迫る貫手を払いのけ、掌底を叩き込んで軽く吹き飛ばす。
吹き飛んで倒れるところに続けざまに水の弾丸を連射。
横へ転がる形で弾丸は大地へ染み込むものの、一発は頬を掠めた。
微々たるものではあるが、その微々たるものが大尉に疑問を抱かせる。
今のは単に回避が遅れた、と言う可能性もないとは言い切れないものの、
先程よりも弾速が速くなっていると言うことについては話が別だ。
弾丸は空気抵抗で速度は変わるものだが、先の弾丸と状況は余り変わらない。
にも拘わらず上がっているのに加え、達也の攻撃の威力、スピードは全般的に上がっている。
決して劇的なレベルではないので優劣が覆る程ではないとしても、
その小さな違和感はどこか拭えなかった。
(どうやら、俺もモンスターとして扱われるらしい。)
フラッシュ・キャストの都合、達也は記憶力が凄まじく良い。
なので当然、遊星が持っているカードすべてのテキストは把握している。
把握してるだけで専門用語の全てを理解しているものではないのだが、
モンスターの姿を見ればそれがどういう効果を持ってるかは覚えていた。
遊星が召喚したスター・ボーイはフィールドの水属性の攻撃力を上げる効果を持つ。
水属性となれば、今のウィザードはウォータースタイルであるため達也にも恩恵はある。
モンスターが人に適用されるかどうか、と言う疑問ははあったがこれは適用するらしい。
参加者もプレイヤーでありモンスターとしての扱いであるのならば、
多くの戦術を組み立てていくことができるはずだ。
(だが状況が好転してはいない。遊星のモンスターの援護は必須だ。)
打撃を繰り出しては防ぐ、接近戦の応酬。
仮面ライダーであっても当たればダメージは免れないそれを、
仮面の下でもクールに、表情を変えることなく丁寧に捌いていく。
しかし突如、達也から離れたと同時に遊星の方へと走り出す。
(此方に気付かれたか!)
シグナル・ウォリアーは積極的に防御させながら、
スター・ボーイを存在を知らせないように放置している。
カードを知らない大尉にとってそれで何かあるかは判断はできない。
もしかしたら今から何かをする、と言う判断だって存在している。
どちらにせよ優先順位を変えてきたし、遊星も油断はしてない。
「手札の『レッド・ミラー』の効果発動!」
手札から捨てられた赤い鏡が大尉の攻撃を防ぎつつ、
更に墓地に存在する炎属性の悪魔族を手札に戻す効果も持つ。
遊星が今まで使ったカードには該当する属性と種族は存在しない。
「更に、レッド・ミラーの効果で『ファイヤークラッカー』を手札に加え、
そのままファイヤークラッカーを手札から捨てることで効果を発動する!」
しかしあった。
彼がフィールドに出したモンスターに悪魔族はなく、
炎属性もシグナル・ウォリアー召喚の際、素材にしたチューナーが炎属性なだけ。
両方なくては効果の対象にできないが、彼の墓地にはそのカードが存在していた。
それはガリスの効果で、そのまま墓地へ送られたモンスター。それが今回の回収対象だ。
青肌の悪魔が野球ボールは上回るだろう巨大な癇癪玉を投げつけながら消滅していく。
ファイヤークラッカーは手札のこのカードを捨てることで相手にダメージを与える。
数値で言えば1000。4000でデュエルする都合四分の一を持っていくそれは、
レッド・ミラーを蹴った反動で距離を取る大尉でも僅かに遅れて爆発に巻き込まれる。
焼け焦げるコートを脱ぎ捨て、鍛え抜かれた褐色の肌を晒す。
背後から迫る達也の斬撃を回避と同時に、近くの小石を飛ばす。
ただの小石も人狼が投げれば威力はあると言えども、万全な状態での話。
三対一、しかも三人とも仮面ライダーで場数も踏んだ相手との戦いで受けた傷は深い。
再生も明らかに遅く、それが回復する前に連戦と言う状況でコンディションは最悪。
怯みこそはしても大ダメージに繋がるようなものには程遠い。
『ディフェーンド!』
だからと言って甘く見るつもりはなく、
ディフェンドリングをハンドオーサーに翳し、
水の壁と魔法陣の防御を以て威力を落とす。
───はずだった。
「ッ───」
小石は水の防御を貫き、魔法陣も貫通し、
ウィザードのスーツを貫通し、達也の肩の肉を抉り、
背中のスーツごと突き抜けると言うあり得ない威力を披露した。
本当にただの小石だ。殴れば人を殺せるとかそういうレベルのものではなく、
投石として使えば強いが、そんなものでこの装甲を貫くなど普通はありえない。
まだジャッカルで撃った銃撃が貫通するとかであれば、話は別だと言えるだろう。
ゲネシスドライバーを使ったシグルドや、アーマーの強度も相当なサウザーと比べると、
通常フォームとそう変わらないウィザードのウォータースタイルでは見劣りはしよう。
だからと言って、水に高速でぶつかればコンクリートを超える程の頑丈さへと昇華する。
水の抵抗によって弾速は急激に落ちてしまい、下手をすれば水の中で弾丸が砕ける。
けれど貫通はありえた。ありえるに至らせたのは、大尉の持っていたそれが原因だ。
いや、持ってると言うよりは『身に着けている』と言うのが正しいだろうか。
そも。大尉の手袋は本来白いはずである。
しかしこの戦いで構えた際の手袋は『黒』だ。
身に着けていたものとは別の手袋を彼は付けていた。
確かに斬撃を防ぐなど防刃性能を垣間見えたものの、
本来の性能はそんな防御面ではない。圧倒的なまでの殺傷力だ。
これは人の手によって作られたものではない。
神を倒すために作られた、戦乙女(ワルキューレ)が宿りし神器だから。
フレックと言う戦乙女がある世界にいた。
かの戦乙女は人類の存続をかけた神VS人類最終戦争(ラグナロク)において、
人類の存続を提示したブリュンヒルデの、即ち人類側へとついたとされる。
しかし、彼女と手を組むことになった男は、人類の中でも名高い悪の存在。
ブリュンヒルデでさえ『私が人類で一番キライなクソ中のクソのゲボカス野郎』と蔑む程に。
当然、そのような男と戦うことなど断固拒否したフレックではあったが、
神器強制(ヴェルンド)により彼女は今、大尉が装備している手袋へとなり果てた。
神器となったフレックの名(ルーン)は『武器をガチャつかせる者』を持つ。
故に、この手袋で手にしたものは『全てが神器となって性能が向上する』こととなる。
ただの小石が壁を穿ち、時計の文字盤は半神半人のヘラクレスの腕を切り落とせてしまう。
最初、弾丸を回避する際鼓膜を揺らす轟音がしていたが『神器のジャッカルの弾丸』の産物。
誰も壮絶な戦い故気付いてないが、此処から離れた場所には避けたジャッカルの弾丸が、
たった弾丸二発とは思えぬほどのクレーターができあがっている光景がそこにはあった。
当たらなかったから気付くことはなく、見ただけではこの手袋に仕掛けがあるなどとは、
いくら優れた頭脳を持っている達也であろうと辿り着くには流石に材料が足りなさすぎる。
スター・ボーイと同じでお互い様と言える。見えない力によって戦況が左右される点は。
とにもかくにも、人類に味方した神の力の一端は人狼の、人類の敵として立ちはだかる。
「司波!」
怯んだところへと続けてジャッカルの弾丸を放つ。
すぐさま割って入るシグナル・ウォリアーの防御によって回避はしたが、
衝撃自体は免れず達也を巻き込みながら地面を転がっていき、
再び赤黒い瞳の視線は遊星を捉える。
「工作列車シグナル・レッドの効果発動!」
銃口を向けられた瞬間に、文字通りの橙色をした工作列車が互いの間に登場する。
相手の攻撃宣言時に手札から特殊召喚でき、強制的に自身とバトルさせるカード。
更にこのバトルではシグナル・レッドは破壊されない効果もあるため、
いかに神器により強化を受けたジャッカルであったとしても貫通は不可能。
着弾時に弾丸一発の音ではない轟音が響くが、それでも破壊は免れる。
『キャモナ・スラッシュ・シェイクハンズ!』
弾丸を受け肉体的に悲鳴は上がるものの、
戦況は一刻を争う。休む暇などどこにもない。
肉体に無知を打ちながらも達也は攻撃を仕掛ける。
『ウォーター! スラッシュストライク!』
水の斬撃を放つも音で何かしていたのはバレバレであり、
先程脱ぎ捨てたコートを回収し振るえば、当然これもまた神器。
何の変哲もないコートでも仮面ライダーの必殺技を防ぐ代物と化す。
遊星を狙わんとシグナル・レッドの上に乗ると、
達也も跳躍一つで追いつきながらの斬撃が迫ったので回避を優先。
再び古流体術を用いた格闘戦へと持ち込む。
(ファイヤークラッカーの効果でドローはできない。
残る手札二枚でできる手段は、これしかないのか。)
普段ならば様々なカードをバトンを繋ぐように、
長い展開のルートを脳内で思い浮かべて形にすることができる。
今となっては、できるのはその場しのぎのような一手か二手ぐらいだ。
ないものねだりする暇など何処にもなく次の一手へと繋げていく。
「手札からセイクリッド・アクベスを召喚し、墓地のジェット・シンクロンの効果発動!」
蛇王院にも見せたモンスターを出しつつ、
名前の通りジェットエンジンを搭載した、小型の機械のようなモンスターを墓地から蘇生する。
シグナル・ウォリアーの素材にしたチューナー、ジェット・シンクロンには、
手札を一枚捨てることによって墓地から特殊召喚が可能なモンスターだ。
本来ならば今までの消費とファイヤークラッカーのデメリットから、
コストとなる手札がないところだがジェット・シンクロンのもう一つの効果、
シンクロ素材で墓地へ送られたら『シンクロン』モンスターをサーチする効果もある。
二人が戦っている間に、ちゃっかりとサーチしていたシンクロンが今回のコストになった。
「レベル4セイクリッド・アクベス、レベル1ジェット・シンクロンをチューニング!」
二体のモンスターが小さな星となって緑の輪を描く。
たかが一回の特殊召喚だが、一刻を争う中だともどかしく感じてしまう。
現にワンインチの距離で列車の上で繰り広げられている攻防は苛烈で、
最早生身の人間である遊星が乱入してどうこうできるような状況ではない。
「集いし力が、この空を駆ける戦士となる!
光射す道となれ! シンクロ召喚! 加速せよ、ジェット・ウォリアー!」
まばゆい光の中から現れるのは、
ある意味名前の通りと言うべきだろうか。
ジェットがついた翼でもあり両肩でもある姿は、
さながら機械が変形して人型になったかのような姿だ。
なお、機械族ではなく戦士族である。
「ジェット・ウォリアーの効果発動!」
彼の代わりに戦いに割って入るのはこのモンスターだ。
思わぬスピードに不意を突かれたことで鳩尾に剛腕が叩き込まれ、
そのままアッパーの要領で空高く吹き飛ばしていく。
ジェット・ウォリアーはシンクロ召喚に成功したことで、
相手の場のカードを一枚手札に戻すと言う効果を発動した。
手札の概念はないからか、高所へと飛ばすだけに留まったようだ。
だが、あれだけの身体能力を持つ相手にこの程度では焼け石に水とは思う。
事実、生前からして飛行艇から飛び降りても無傷で着地できる大尉にとって、
この程度の高所からの落下はダメージにすら足りえないだろう。
(だが俺の手札はゼロ、モンスターは四体いるが……)
シグナル・レッドもジェット・ウォリアーも場に出た後は何の効果もない。
シグナル・ウォリアーはカウンターは溜まってはいるものの現状では余り使えず、
スター・ボーイで達也は強化されるが、炎属性の攻撃力を下げる効果が足を引っ張る。
ジェット・ウォリアーも攻撃力は高くはないが、炎属性で下がる為戦力として厳しい。
墓地のカードも発動できるカードはあるものの、今の状況を打開することはできない。
「遊星。着地の寸前を狙う。シグナル・ウォリアーのカウンターは、
遊星が行った通常召喚の回数から恐らく四のはずだ。四つカウンターを取り除けば、
相手にダメージを与えることができる効果がある。俺達ができる現状の最高火力は、
今から総攻撃で仕掛けて倒す以外ないだろう。」
「カウンターの数を数えていたのか。」
「記憶力はいい方だ。」
戦いながら計算や思考はデュエリストとしては当然だが、
明確にルールを理解してるわけではないのに戦いながらそれも把握している。
魔法が制限されていなければどれだけの強かったのだろうのかと関心したくなるが、
今はそんなことをやってる場合ではなく気持ちを切り替えていく。
「失敗すれば死か。」
「さっきからアイツの攻撃をうまいこと庇ってもらったのを見るに、
シグナル・ウォリアーは移動速度が速いらしい。だから最悪の場合、
振り切れるかは別として、倒しきれなかったときに逃げる手段としてほしい。
負けるつもりはないにせよ、相手の存在を知らせず全滅は避けなければならない。」
それは彼をおいて逃げろと言うこと。
ブルーノのように助けられなかった命はあるし、
だからこそ仲間との絆を大切にする遊星にとって、
その言葉を受け入れたくはなかった。
「……分かった。」
けれど全滅することこそが最悪だ。
遊星の扱いに対しての特殊な状況は、
推測であっても今後何かの力になる可能性はある。
その情報を誰に託すでもなく死ぬことは許されない。
可能ならば、これで倒せることを願いながら賭けに出る。
『チョーイイネ! サイコー!!』
ハンドオーサーを操作して、
右手に対応するようにした後リングを翳す。
騒がしい音と共に魔法陣が展開され力を溜める。
(デュエルモンスターズと違って攻撃力が上回っていても、
攻撃事態は成立する。なら、俺は可能性を僅かに上げる為攻める!)
達也には助けられっぱなしだ。
彼がいなければ既に軽く数回は死んでいる。
ZONEとの戦いも何度も綱渡りだった中勝ち取った勝利。
あれとは別ベクトルで、命懸けにして些細なミスが死を招く。
絶対にミスは許されない。
「シグナル・ウォリアーの効果を発動!
シグナルカウンターを四つ取り除くことで相手にダメージを与え、
更にバトルだ! ジェット・ウォリアーでダイレクトアタック!」
シグナル・ウォリアーが両手から電流のようなものを発し空へと放つ。
空高く飛んでいく大尉へと直撃し、ダメージになってることを祈ると共に、
ジェット・ウォリアーが背中から名の通りジェットを噴き出しながら飛翔。
更に達也もロンダートでシグナル・レッドの上を走りながら跳躍。
二体のモンスターと達也による決死の総攻撃。
重力に従い落下していく中、
達也が大尉を追い越してからの急降下。
ウォータースタイルらしい水を纏ったライダーキック。
更に下から拳を叩き込まんと、ジェット・ウォリアーが駆け上がってくる。
空中における挟み撃ち。二体のモンスターによって一体を倒すと言うのは、
さながらユニオン・アタックや挟み撃ちとも言えるかもしれない。
しかしそれだけの覚悟でもこの人狼には届かない。
迫るジェット・ウォリアーの右ストレートを身を翻して躱し、
更にその右腕を掴みながら蹴り飛ばし、腕を強引に引きちぎる。
引きちぎった腕を手に、頭上に迫ってきていた達也の蹴りとぶつけあう。
無論、今の手袋で掴んでる以上この残骸の腕もまた神器扱いだ。
ガラクタとも言えるものだろうと、キックストライクを防ぐだけの守備力を誇る。
残骸で防がれただけだと言うのに、逆に足にひびが入るような感覚が襲う。
(押し切れない……か。)
すぐさまウィザーソードガンの銃撃で目潰しにかかる。
優先順位を其方へと変えたことで腕を捨てて本人の腕でガード。
隙を突いて達也は左足の方で回し蹴りを叩き込んで大地へと叩きつける。
激突する寸前に腕をネックスプリングの要領で着地し軽減されてしまう。
「遊星。足にひびを入れられた。今の状況では劣勢だが……」
再びシグナル・レッドを足場として着地しながら、
傍にいた遊星へと声をかけるが彼の表情は険しい。
脂汗も頬を伝っており、息も荒げている状態だ。
「司波……すまない。さっき受けたダメージで余り動けそうにない。」
ジェット・ウォリアーの戦闘ダメージはしっかりとフィードバックされている。
ブルーノと何日も徹夜していた時と比べるまでもない疲労感は走ることは困難だ。
先の指示通りの逃げを手段とするには、厳しいことが達也にも伝わった。
「逃げる役割は司波、お前に託すことになる。」
今ならデュエルディスクを丸ごと託し、彼を逃がす手段を確立できるはずだ。
さっきとは逆転し、自分が殿となる状況はどことなくほっとしてしまう遊星。
彼は過去の経験から自己犠牲が強い。強いを通り越すレベルのものになっている。
故に、誰かを犠牲にしたくないと言う意味合いでは少しばかり安堵していた。
「いや、まだ攻略の糸口はあるかもしれない。」
「あるのか?」
支給品はお互い全て判明済み。
総動員で当たった結果がこの有様だ。
遊星の手札はゼロ。ドローは時期できるとしても、
手札一枚で打開できるだけのカードはないと。
普段は諦めない遊星であっても出せるカードがなくては、
逆転のルートを導き出すことはできない。
「あれをどう受け取るかは向こうの相手次第だ。」
「向こう? 何を───」
疑問に答えるように甲高い音が響く。
手袋とぶつかり合いながら火花を散らすのは、一振りの刀。
「おにーさんもとっても強そうだね。」
折神親衛隊、燕結芽だ。
◇ ◇ ◇
デェムシュとの交戦後、
城之内と結芽は一旦休憩をとっていた。
連続して敵と出会うのは危険と言うのもあるが、
デッキのカードがいくらか性能が変わってるものがあるので、
テキスト確認を戦闘中にするのも問題として、その確認も兼ねてだ。
「んー、やっぱりにっかり青江がないとダメだ。」
結芽もその間に改めて刀使としての力を試していた。
本来自分を選んだ御刀であるにっかり青江の時よりも落ちたままだ。
できるだけでもありがたいが、今の状態では第二段階の迅移も望めないだろう。
常人と比べればはるかに強いが超人と比べればはるかに弱い。
先の戦いも合わせ、その中途半端な強さではこの先も辛いはずだ。
「よし、デッキの確認終わり! 問題なし!」
羽蛾のような不利になるものをデッキに仕込まれてはない。
寧ろ使い勝手のいいカードなものも多くなっていて助かっている。
「けど、アイツどうやって倒すかだよなぁ。」
御刀が本来のものでないため刀使としては劣化した状態で、
城之内のバックアップもギャンブル要素がある為十全な発揮は運任せだ。
現状のままではデェムシュと再戦しようと、勝つのは厳しいと言わざるを得ない。
言うなれば、あれは海馬のブルーアイズ。小細工は確かにあったかもしれないが、
純粋なパワーだけでもかなりのものであることは十分に伺える。
「クソ〜〜〜癪だが海馬に任せるしかねえか?」
真紅眼の黒竜剣で強化した彼女の攻撃が通ると言うことは、
純粋な攻撃力の高い攻撃ならば十分に通用するはずだ。
となれば、そういう純粋なパワーと言えば海馬が適任だろう。
通常モンスターで最も高い攻撃力を持つブルーアイズに加え、
城之内自身は見たことないが神のカードだって所有している。
安定した攻撃力を持つ海馬の方が難なく倒せる可能性は高いが、
あいつに頼ると言うのはとても納得できないことではある。
死人が出てる上に磯野が関わってるこの状況で気が進まないとか、
そんなことを言わないだろうと言う確信はあるだけましか。
「海馬って人は強いの?」
「認めたくはねえけど強いな。」
腹立たしいが海馬とは一回だけとは言え、殆ど一方的にやられた。
海馬が負けたり追い込まれる対戦相手も心を読むペガサスだったり、
デュエルの腕は天才的な遊戯と、相手も相応の強さやせこい手段を持つから。
悔しいし、認めたくないし、癪に障るが、その実力は紛れもなく本物ではある。
「っと。」
会話の最中、咄嗟に結芽が数歩下がる。
下がると先程彼女がいた場所の近くに弾丸が飛来。
外れた位置とは言え、弾痕から無傷では済まない一撃だ。
「な、なんだ!?」
「ん-、あれかも。」
弾痕の向きからかなり高所だと察し、
空を見上げれば確かに何かがあることだけは伺えた。
ただ二人の肉眼では距離があるのでよくは見えなかったが。
「なんか見えるな。」
「じゃあ私が行ってくるね!」
「え、おい!」
此方への攻撃か、それとも別の目的か。
なんにせよ興味がある結芽は迅移で加速。
速度は全力でないとしても第一段階の迅移は通常の2.5倍。
常人ではとても追いつけず、あっという間に置いていかれてしまう。
一足先についた彼女は最初に品定めをしたが、答えは即座に決まった。
「咄嗟に選んじゃったけど、やっぱおにーさんだよね!」
三人を一瞥して誰が厄介かは分かった。
いずれも初対面ではあるが気配で分かってしまう。
確実にあれは敵だと一発で認識できるだけの殺気。
デェムシュ同様にまたしても強いと認識し、笑みを浮かべる。
生前に此処へ来ていれば、どれだけ堪能していたのだろうかと。
次から次へと人に害をなす荒魂を余裕で超える怪物ばかり。
まだ見ぬ世界とはこのことかと言わんばかりに強敵揃いだ。
一度満足した後に、どうしてこう後ろ髪を引くかのように出会うのか。
少しばかり不満は混じりながらも、迅移と共に肉薄し逆袈裟斬りを見舞う。
身を引くことで空振りになったところを貫手が顔面に迫るところを振り下ろしと相殺。
三段突きによる反撃はいずれも手でガードして防ぐと、かなり無茶苦茶な動きで凌がれる。
デェムシュとは違った対応の仕方に少し驚かされながらも攻めの姿勢を崩そうとはしない。
「やっと追いついた……ってなんじゃありゃ!?」
加速する斬撃を腕でぶつけ合う光景。
先程よりもずっと人の姿をした相手にそれが発生しており、
いくらM&Wでも人型のモンスターを数々見てきた城之内でも、
此処まで無茶苦茶なことができるのが参加者でいると言うのが驚きだ。
或いは、モンスター同様に種族で見れば人外なのかもしれないとも思うが。
「彼女の仲間か。先ほどは済まないことをした。
余裕がなくてこういう形でしか知らせることができなかったんだ。」
達也は先程空中で銃撃を放っていたが、
あれは避けられることも想定で放っていた。
空中で視認したことで彼らに存在を示す為に、
一番手っ取り早い形の手段をとってることを選んだ。
「あ、さっきの攻撃お前だったのか。
なんかやべえみたいだし仕方ねえが、
ってなんか遊戯みてーなすげー髪型の奴いるな。」
「遊戯さんを知って……いや、
今は話してる余裕はないか。
すまないが、力を貸してもらえると助かる。」
「おう! 見た感じ滅茶苦茶やばそうだしな!」
遊戯を知っていて敵意を感じられないことで、
グールズのような連中ではないらしいことを察する。
特に今は一刻を争う状況である以上、言葉を交わす暇は惜しい。
すぐにデュエルディスクからカードを手に戦場へと参戦する。
「二人とも、少しいいか?」
「ん?」
「司波?」
「少し頼みたいことがある───」
(さっきと違って今度の相手は斬れるんだけど、この人もやっぱり強い!)
足払いをするように横薙ぎするも最小限の跳躍で躱す。
ジャンプと同時に来る回し蹴りをしゃがみ頭上を死の一撃が通り抜ける。
しゃがんだ後再び逆袈裟斬りを見舞うが、またしても手袋で防がれた。
防ぐ必要がないから無視していたデェムシュとは違う。
今度はしっかりと些細なものも防ぎながら反撃を仕掛けてくる。
恐ろしいのが、一応は八幡力で膂力を上げていると言うのに、
手袋を貫くどころか互角の攻防ができているのは一体何なのか。
不思議に思いながら飛来する右ストレートを顔を逸らして回避。
攻守が逆転し、蹴りと拳のラッシュを回避に専念して動きを見ていく。
(……)
少しばかり羨ましく思えてしまう。
ボロボロなのに動きにキレが衰えてる気がしないその姿に。
不治の病を患い寝たきり生活で無為に、孤独に過ごした日々。
それと比べれば、相手の身体はなんと頑丈な身体なのだろうか。
まず生身で刀使と戦えてる時点で相当なものであるし、
周囲の戦いの形跡からかなりの手練れであるのもわかる。
「っと!」
風を裂くようなキレのある蹴り上げ。
細かい動きでの回避は困難と判断しバックステップで大きく距離を取る。
続けざまにジャッカルの銃口が狙いを定めており、
銃撃に備えて金剛身で弾丸を弾くことを優先。
「結芽! 駄目だ!!」
「え?」
城之内の警告が飛び、一瞬だけ疑念を持つももう遅い。
対アンデルセン、もとい人間対策と言う目的のジャッカルではあるが、
そもそもそのアンデルセンはあのアーカードに近しい化物に近づいていた存在。
そんな存在を倒すために用意した特注の銃と弾丸が全て神器と化している。
当然、そんな銃撃を劣化した金剛身で防ぐことはできず、弾は余裕で貫通。
写シの都合ダメージは大幅に軽減されるが衝撃自体は消せず、大きく吹き飛ぶ。
「イッツ───!!」
「クソッ遅かったか!」
「城之内、援護を頼む。」
「ああ分かってるさ! ロケット戦士、バトルだ!!」
追撃させないように達也が戦線に復帰。
足の骨にひびが入ってるのは事実ではあるが、
人間は存外頑丈で、ひびが入っていても走ることは可能だ。
無論長時間そのようなことを再生できない今の達也の身体では、
続けられるものではないものの、そんなことを言ってる場合ではない。
達也が走ってる横を緑と黒のチェック柄を基調としたロケットが先行していく。
迫るロケットを裏拳で薙ぎ払いながら再び達也との蹴りが交差。
「……」
大尉は言葉を発しないが違和感に気付く。
先程よりも向こうの力が押してきていると。
二度目ともなれば原因となりうるものはすぐに察した。
今しがた弾いたモンスター、ロケット戦士が何かしたのだと。
ロケット戦士の効果は、攻撃する時は無敵モードと呼ばれる形態に変形し、
この状態での戦闘では城之内はダメージを受けず、更に戦闘した相手のステータスを下げる。
大尉の強さを鑑みるとそれは微弱なものかもしれないが、微弱でもありがたいことだ。
「頼むぜサイコ・ショッカー! 電脳(サイバー)エナジーショック!」
城之内の傍には暗視スコープとガスマスクを足したような、
不気味な装備をした人型のモンスターの手から放たれる光の球。
達也が躱して大尉へと向かうが、これもまた蹴り上げられる形で弾かれる。
通常召喚は一ターンに一回ではあるので、それはロケット戦士に使っているが、
遊星のシグナル・レッドも状況の都合か自軍のモンスターとして扱われていた。
なので、それを生贄にデェムシュの時にも使ったスター・プラスターを発動。
ダイスの出目は3の目を出した結果、合計レベルが6となるモンスター、
横にいる人造人間サイコ・ショッカーを特殊召喚して今に至っている。
先のデュエルで外して痛い目を見ていたのにも発動しているのは、
ギャンブルカードを多数採用している城之内だからこそだろうか。
「イタタタ……何あの銃。ちょっとずるくない?」
仕事は荒魂の都合物騒でも銃弾を受けないので理解は浅いが、
流石に十数メートルは転がされる弾丸なんてものはないだろう。
そんな威力のものは最早銃ではなく、大砲とかのレベルだ。
一体どんなことをしたらそうなるのかと思いながら再度写シを張り肉薄。
迫る横薙ぎの一撃を左手で防ぎ、達也からのウィザーソードガンによる斬撃。
すんでの所で右腕を引いて回避するもほんの僅かだけ間に合わず、
此処でようやく大尉に腕の薄皮一枚とは言え傷をつけることに成功する。
傷を受けると同時に、跳躍で後退する形で距離を取る。
腕の一撃は軽微なもので、戦闘中に治るレベルのものだ。
問題は受けた個所。腕は腕でも前腕に寄っており、
振り返ればロケット戦士の攻撃も腕で弾いたのではなく、
腕で弾かなければならない程度に目線辺りに飛来していた。
(あの様子、気付かれたか。)
言葉を一切交わさないが右腕を一瞥する姿。
僅かな動作で目論見がバレたことに気付く達也。
結芽が一人で戦ってる間、達也は二人にある提案をしていた。
『可能なら腕を狙ってほしい。
できるなら切り落とす要領で頼む。』
『何か分かったのか?』
『恐らくだが、あの男は手で握ったものを強化している。
彼女、燕結芽だったか。彼女の獲物の刃が通らないのも合わせ、
手袋があの男の強化を施している可能性はかなり高いとみていいはずだ。』
気付いたのは先程の空中での攻防。
大尉の膂力は仮面ライダーの強化を含めても多少不利な程度。
そう判断したが、ジェット・ウォリアーによる腕の迎撃は、
いくら腕を挟んでいたにしても、威力に違いがありすぎる。
肉弾戦における攻防でも捨て置けないダメージは負ってなく、
負ったのは小石と腕と、いずれも相手が握っていたものによるダメージのみ。
頑丈な手袋とも相まって、恐らく原因がそこにあるのだと何となく察していた。
『城之内、なるべく打点が高い風にモンスターの攻撃の指示はできるか?』
『流石にそこまで細かくはできるかわかんねえけど、
都合上打点が高くなるモンスターなら今手札にあるぜ。』
『遊星は動けるか?』
『いや、この手札じゃできることはなさそうだ。』
「そうか……なら変わらずシグナル・ウォリアーで守備を頼む。
何度攻撃を受けても破壊されないのを見るに、恐らく相手は倒せない筈だ。」
いずれの攻撃も意図的なものだ。
相手は訓練された人物であることから、
目論見がバレるのはそう時間はかからないとは思っていた。
一撃を叩き込んだだけで、そこまで把握されるとは思わなかったが。
「君、いきなりですまないが相手の手袋……腕を斬り落とすことを優先してほしい。」
バレているならば隠す必要はない。
そのまま彼女にも情報を共有しておく。
「うん、いいよ。」
「……二つ返事で引き受けるのか。」
距離を取った隙を突いて、横に並んで言葉を交わす。
特に一切の理由も語らずに頼むも、あっさりと認めてきた。
さして驚きはしない。強い情動が彼には起きないのもあるが、
幼い姿であれだけ刀を振るえるなら、実戦の経験があるのは目に見えている。
彼もまた幼い頃から過酷な訓練や実戦経験があるので、似たものだとは察した。
「まあ、人とか相手もザラだったし?」
見た目や何かでどうこうできないわけがない。
と言うより、生前も刀使相手に遠慮なく武器を振るった。
今更な話である。
話を終えると二人は距離を詰めていく。
斬撃も古武術も二対一でありながらなおも次々と防ぐも、
ロケット戦士やサイコ・ショカーによる援護で反撃を許さない。
大尉への一撃を決めることはできないが、攻勢にならないだけで状況は進展している。
数の差は歴然。遊星のモンスターが二体、城之内のモンスターが二体、更に結芽と達也。
全て込みで八対一と言う、圧倒的なまでの人海戦術による数の暴力による攻め。
いくら大尉と言えども、この数をいつまでも相手にしては勝ち目は薄い。
故に、大尉は最後の手段に出る。
ある意味これは、遊星の存在が原因とも言える。
デュエルをするにはカードをデュエルディスクに置いて使う。
最初の放送ではそのように扱われてたのもあって放置していたが、
レッド・ミラーやファイヤークラッカーは手札から見せた時点で効果を発揮した。
必ずしも専用の機材がないとしても、カードの機能はちゃんと発動できるのだと。
理解した今、再び全員から逃げるように跳躍し、最後の支給品のカードを空へと翳す。
言葉による宣言がいるのかどうかが怪しかったものの、翳した瞬間それは発動する。
いや、発動ではない。これは召喚だ。
大尉の眼前に、一体のモンスターが召喚される。
ケンタウロスのような下半身は獣の如き黒き四肢を持ち、
上半身は馬上槍のような赤黒い槍と、青い盾を手にした金色の髪の獣戦士。
百獣の王が如き荘厳な姿と共に現れるのは、神に仕えし従属神の一体。
名を───『神獣王バルバロス』と呼ぶ。
「あれは、バルバロスか?」
「デュエルディスクなしでもモンスターって召喚できるのか。」
バルバロスは本来ならばレベル8のモンスターではありつつも、
攻撃力をダウンさせることを引き換えにリリースなしで召喚が可能なモンスター。
正規の手順やデュエルを通じての召喚ではないのでステータスが下がるのが基本だが、
このバルバロスはゴールドシリーズのカード。一切関係なく十全な性能を発揮する。
また、彼はこれを翳した。即ち『手で握った』と言うことはだ。
「うお!?」
当然これも神器となり、変質した。
光り輝く姿に全員が目をくらませる。
光が収束すると、基本的な姿は全く変わってない。
盾と槍は装飾や色合いが増えて多少派手になったぐらいのもの。
一見するとそれだけだが、雑な言い方をすると『カード違う』のだ。
神器となったことで変質したカードの名は『獣神王バルバロス』。
『神獣』ではなく『獣神』だ。文字が入れ替わっただけではないか、
そう思われるがカード名が異なるということは効果も当然変わる。
新たなモンスターを警戒するのは至極当然なことだ。
しかし、その予想を凌駕する暴威を持つ。
「な───」
状況の変化に、遊星は目を張る。
馬上槍を横薙ぎに振るうと言う奇抜な行動。
だが勢いは尋常ではなく、最早暴風を通り越した斬撃だ。
咄嗟にディフェンドで防ぐ達也とシグナル・ウォリアーが壁になった遊星は無事だが、
スター・ボーイ、サイコ・ショッカー、ロケット戦士のモンスターは一瞬にして破壊。
結芽も巻き添えで上半身と下半身が分断された状態でまたしても吹き飛ばされた。
写シによって死ぬことはないものの、とてつもない力において一瞬にして戦況が変わる。
獣神王バルバロスは『全てのモンスターに攻撃する』効果を持つ。
更に攻撃力は3000。数値で言えばあのブルーアイズと同じものだ。
全てを蹂躙していくその姿は、まさに獣神王と呼ぶに相応しいだろう。
(まずい。)
一瞬にして数の利と言う最大の強みは失った。
城之内は二体のモンスターが攻撃表示の都合ダメージが大きい。
遊星の近くにはいるが痛みのせいで軽く悶えて倒れている。
二人がディフェンドや写シで防いだと言っても衝撃は消せない。
今フリーで動けるのは自分だけであり、手札に残してたカードを使う。
打開はともかく壁にはなるため手札を使おうとするも、それすらも許されない。
銃声が戦場に鳴り響く。
先程はあくまでバルバロスの攻撃。大尉本人は今自由に動けていた。
ジャッカルの銃弾は、そのまま手札ごと遊星の手の甲を貫通していく。
シグナル・ウォリアーが壁になったことで頭は狙われなかったのが不幸中の幸いか。
神器化したジャッカルの威力は、単なる銃弾の威力ではないのは結芽の時と同じ。
一発で腕を圧し折るだけの衝撃も襲われ、遊星の左腕は折れた上で身体ごと吹き飛ぶ。
「ガッ、グアアアアアアアアアア!!」
デュエル以外でも拷問を受けたりと、結構な痛みには慣れてはいるとは言え、
撃たれて腕も折れる状況は滅多にない。痛みに悶え悲鳴が轟く中も戦いは続く。
「ッ、まだ!!」
短時間で連続使用した写シはよくて二度まで。
つまり、此処からは死を覚悟して戦うことになる。
そうと分かっても結芽は即座に起き上がり、肉薄して兜割りを叩き込む。
何度目か忘れた手袋で防がれ、一撃で死が見える反撃を丁寧に躱していく。
逃げることは可能だ。最悪一人、この場合城之内を抱えるぐらいはできる。
だが人一人抱えてあのモンスターと使用者相手に逃げ切れるとは思わない。
前回も運よく逃げられただけだ。追われてたら逃げ切れなかった可能性も十分にある。
(と言うより、なんかむかつく!)
何より、面倒だからではなく負けそうだから逃げる、
と言うのはとても癪に障ることでそれが許せない。
ある意味彼女も、海馬に負けず劣らずプライドが高いと言うことだ。
(彼女の援護をしたいが……それは難しいな。)
ケンタウロスのような人の上半身……と呼ぶには少し獣の要素が強いが、
とにかく人型に近い上半身と馬の下半身と言う体格の都合、旋回は難しい。
故に股下をスライディングでくぐり抜け、背後に回り込んで斬撃を叩き込む。
背後では盾のガードは間に合うことなく、脚に深手を負わせるも動きは止まらない。
ただカードが変わったのではなく神器となった以上頑丈さも多少変化している。
そのまま空中でジャンプして旋回しながら槍を振るい、首を逸らす形で躱す。
(もうこの手は使えないな。)
今のジャンプしながら旋回、
先程の彼の行動を理解したぞと言わんばかりの動きだ。
同じようなことを次もやれば、即座に踏み潰されるだろう。
次の一手をどうするか、短い時間で様々な可能性を構築していく。
(勝てない、のか?)
一方、銃弾を受けて腕も折れると言う壮絶な痛みの中、遊星は敗北を悟る。
遊星の今用いるデッキの欠点。いくらでも理由はあげられるものではあるが、
何よりの問題点は単純なもの───攻撃力が致命的に足りてないことだ。
まだ力を覚えたばかりの相手、戦うことはないが一例として理世とかだろうか。
そう言った手合いの相手であれば、たとえそうだったとしても苦戦はしないだろう。
しかし、大尉を筆頭に生身で仮面ライダーにも対抗できる存在となるとかなり危うい。
先程から壁の役割をこなすシグナル・ウォリアーも確かに決して弱くはない。
しかし攻撃力は2400。城之内のレッドアイズやサイコ・ショッカーと同じ数値。
これはレベル5や6でも散見されている上級モンスターと殆ど変わらない。
元のバルバロスは遊星の時代にも存在するカード。なので、攻撃力も予想はついていた。
だが遊星が取得したカードに、素の攻撃力が3000を超えたモンスターはいない。
無論、単なる数値だけで図れないしカード効果で破壊すればいいが、
どうしても火力不足に陥りがちだし、破壊できる可能性のあるカードも引けなかった。
考えれば当たり前の話だ。NPCは参加者を移動させたり戦わせるなどして目立ち、
その後他の参加者との遭遇を狙うもの。言うなれば盛り上げ役であるが主催の刺客ではない。
確かに戦える小鳩がラヴリカ相手に瀕死になったりもするようなたたかいはすでに起きてるが、
これは特性を理解すると対処は容易く、女性に対しては手厚く保護すると言う、
ラヴリカ自身における特殊な方針を持っているので立場が冷害に近しいものだ。
そう言った例外を除けば、一個体で戦闘をこなせるレベルの参加者でも倒せない存在は、
現時点では意図的な存在である縁壱以外に存在しないだろう。
(予選にブルーアイズがいたりもしたが、テストプレイ故か)
最後の大隊の人狼、吸血鬼の用いた銃、
従属神が変質した獣神王、人類の手で神殺しを成し遂げた神器。
此処までの理不尽があろうかと言うぐらいの、殺意の敵陣だ。
四人からすれば、これらがそうであるかどうかとは分からない。
しかし分からずとも理解できる。それがどれほどの強さなのかを。
人狼は傷だらけの状態でありながらもこの人数を相手に尚立ち回った。
戦況を容易く覆す、戦乙女と殺人鬼によって錬成された神器が全ての元凶だ。
神器と化した吸血鬼の銃は人を砲弾の如く吹き飛ばす威力を誇る。
従属神は神器の手により変質し、神王の如き全体攻撃を有することとなった。
全てを理解せずともこの布陣を打開できるだけの可能性は、ない。
倒れる遊星へと結芽への攻撃の合間に大尉が銃口を向ける。
「させる、かよぉ!!」
『スパイダー! 回ります!』
狙いを定める前に大尉の顔面に顔を覆うサイズのデフォルメされた蜘蛛が飛びつく。
城之内が発動したカード『ルーレット・スパイダー』による妨害で視界は塞がれ、
更に名前の通りルーレットの如く回転されたことで狙いが完全に定まらない。
九死に一生を得るも、正直なところこれを彼は余り使いたくはなかった。
ルーレット・スパイダーは確かに場の一番高い攻撃力のモンスターに飛びつき、
自軍、他のモンスターとプレイヤーの中からランダムに一体を攻撃させるカード。
神器を装備している都合か、ステータスが一番高いと断定されて彼に飛びついた。
しかし、この状況で言えば大尉は攻撃対象から外れてしまうので決定打にはならない。
ランダムなので敵であるバルバロスと破壊できないシグナル・ウォリアーを除くと、
自分達に当たる可能性は四人、つまり三分の二は外れであると言うこと。
賭けには強いとは自負していても、他人の命をベットしている状態だ。
他人を巻き添えにする賭けなんてのは、あの飲んだくれの父親と変わらない。
何よりの問題として、発動条件に『自分のライフを半分にする』があることだ。
ただでさえライフは大きく削られてるのでデメリットは軽いと言えども、
瀕死の所をさらにライフを半分にしている。疲労のあまり眩暈すらしていた。
けれど闇のデュエルで激痛を味わい、一度は死んだ(と思い込んでる)身だ。
闇のデュエルと比べたらこの程度で折れるつもりはない。
視界が塞がってる中でも音や気配、嗅覚を以って結芽と拳を交える大尉。
流石に視界が塞がってパフォーマンスが落ち、ダメージは受けているが反撃は正確だ。
当たれば致命傷ともあって、彼女とて慎重に立ち回らざるを得ないのもあるだろう。
バルバロスを撃つ危険もあったので、一度銃を捨てたのは救いではあるものの、
事実上結芽を攻撃対象にしたと言う判断か、ルーレット・スパイダーは消えてしまう。
即座に交戦を中断し、武器を回収して今度こそ遊星へとどめを刺さんとする。
「まだ俺は戦えるぜ! 切り込み隊長を召喚し、更に蒼炎の剣士も特殊召喚だ!」
両手に剣を構える剣士と共に、青く光る剣を手に構える青の戦士も召喚される。
切り込み隊長は通常召喚成功時、レベル4以下のモンスターを特殊召喚する効果を持つ。
それで追加でモンスターを展開するも、どちらも攻撃力は相手に遠く及ぶものではない。
守備表示からもそれが伺えるが、彼の狙いは別にある。それは───
「……!」
バルバロスの槍が隊長目掛けて振るわれ、
大尉のジャッカルも狙いが自然と隊長へと向けて放っていた。
切り込み隊長にはもう一つ『他のモンスターを攻撃させない効果』を持つ。
事実上の攻撃誘導。当然隊長は破壊されてしまうが予期せぬ事態は大きな隙となる。
「よそ見はだめだよ!」
『ウォーター! スラッシュストライク!』
一瞬の隙を突いた二人の一撃。
事態を飲み込んで回避を優先する大尉だが完全な回避は不可能。
袈裟斬りに振るわれた結芽の御刀は大尉の左目を切り裂く。
達也の方も水の斬撃がバルバロスの左腕を斬り落とし盾を減らす。
此処で戦闘破壊されてもいいものだが、まだ折れることを知らない。
痛みすらないかの如く容赦なく無数の刺突が遅い距離を取りつつ、
攻撃の直線状へ入らないよう右へ回り込むように飛ぶことで射程外へと逃げる。
───だが。ジャッカルの銃口が向けられてることに気付くも銃弾は既に放たれた。
ずっと警戒はしていた。当たることが絶対に許されないそれを。
だから戦いながらも余裕があればずっと大尉の挙動を見ていた。
攻撃の強風で視界が広げられず、更に空中にいるところを狙っている。
回避不可能の一撃。これを狙ってやったのだと痛みの中達也は察した。
油断はしていなかった。ただ、相手もまた戦いの才をを持っていただけだ。
「達也!? おい、冗談だろ!?」
DEATH-Tを筆頭に危険な連中と命懸けの戦いをしてきたし、
やむなしとは言え城之内だって人を殺したことはあるが、
仲間の死と言うものとは直面しなかったことで動揺が走る。
「おにーさん! モンスター!!」
結芽に言われたことで意識をバルバロスへ見やる。
達也が飛んで行ったことで優先順位が変更された。
咄嗟に蒼炎の剣士を間に挟むことで吹き飛ぶだけで済まされる。
「悪い、助かった! 蒼炎の剣士の効果発動!!」
モンスターの壊滅、遊星の戦闘不能、達也も戦闘不能。
次々とドミノ倒しのように劣勢になっていく中必死に足掻く。
少しだけ時間が遡り、
達也たちが死に物狂いで戦っている中。
(達也達も戦っている……)
激痛に苛まれた状態で、遊星は体を起こそうとする。
だが上手く起き上がれない。痛みもあって仕方ないのだが。
戦わなければと痛みを堪え、寝たままでもと風穴の開いた手でカードを引く。
(燃える藻……このタイミングで、引くのか。)
燃える藻は墓地へ送られたら『相手を回復する』モンスターカード。
特定のカードと組み合わせればメリットになるが、そのままではただのデメリットだけ。
元々あり合わせでデッキを組まざるを得ないと言うのはあったにしても運がない。
これでは、最早召喚をしない方が邪魔にならないとすらなるものだ。
(何か、ないか……!)
墓地、手札、フィールド、除外、デッキ、エクストラデッキ。
ありとあらゆる場所から可能性を見出そうとするが、
無慈悲なことに、拾ったカードではどうにもならなかった。
それでも諦めない。確かに遊星は何度か絶望を前に諦めたこともある。
時にパラドックス、時にZONEの時と意外と折れそうになったことは多い。
一見クールで完璧なようで意外と年相応の未熟さと言うのもあるのが遊星でもある。
ただ、ZONEとの戦いで夢か幻かは定かではないが、彼は父と約束した。
『目が覚めたよ、父さん。
俺は仲間のところに戻らなきゃいけない。
最後まで、諦めずに戦わなきゃいけないんだ。』
『それでこそ私の息子だ。
未来を信じ、強く生きろ、遊星。
お前にしてやれるのは、これが最後だ。」
(自分が進む未来を、諦めない……そう、決めたはずだ!)
どんなことがあっても最後まで諦めないで戦う。
ZONEの時だけの考えなんかにするつもりはない。
今もその志は変わらない。遊星の名前由来は、
粒子と粒子を結びつけるのが遊星粒子からきている。
人の心を導き、人の心を繋ぐ。その先に新たな境地が見えてくると。
諦めないその感情に応えるように、エクストラデッキが光り輝く。
(これは……)
無からカードを創造すると言うこと自体は、遊星にも経験はあるにはある。
ただそれは特殊な事例によって至っただけで簡単に作ることはない。
無論奇跡でも何でもない。いや、ある意味では奇跡なのかもしれないが。
心意(リンカーネイト)システム。意志の強さ、イマジネーション。
そういったものが起こすSAOにおける極意であり、
この殺し合いで檀黎斗がマスクデータとして用意したシステム。
(このカードは、初めて見る……)
紅渡のエンペラーフォームが起きたように心の力が形となりうる。
元々デュエリストは自分のデッキやカードに強い想いを寄せ、デッキも応えるもの。
引きたいカードを宣言通り引く遊戯、残留思念からオベリスクを引き寄せる海馬、
状況に応じたカードを創造する遊馬、その地に眠るナンバーズを呼び起こすカイト。
他にも参加者とはならなかった様々なデュエリストも時に無からカードを手にしている。
無論、黎斗がある程度お膳立てした渡と違ってお手軽な強さを得ることはできなかった。
一見すると手元にカードが増えるのは、出せば戦況を変えることもできるかもしれない。
ただ遊星の場合はカード。使うのであれば、デュエルを通じて出すしかない手間がある。
ある意味その手間を考慮し条件が緩いのか、自分を犠牲にすることを厭わぬ彼の精神からか。
この短時間でSAOにおける極意へと辿り着くことができたのかもしれない。
(───見つけた。)
暇がないので召喚条件だけを一瞥し、
このカードを出すまでのルートをすぐに算出する。
敵に塩を送ることになるが、悠長なことは言えない。
「俺は、墓地のチューナーモンスター、
レボリューション・シンクロンの効果発動……!」
流れる血や痛みを無視しながら上半身を起こし、
折れた腕を右手で支えつつ、強引に動かして墓地からカードを取り出す。
ジェット・シンクロンの効果で手札に加えたが、同時に蘇生のコストで捨てたカード。
デュエル中に一度、デッキの一番上を墓地へ送り自身をレベル1扱いで復活する。
ドライバーのような武器を左手に装備した、竜を模した小さい機械が召喚された。
どこか仲間の一人が使っているドラゴンによく似た名前と姿だ。
まるで自分にレボリューション、革命を起こせと言わんばかりの。
無論起こすつもりだ。この絶望を、希望の光で革命を。
「更に、燃える喪を召喚!」
次に現れるのはモンスターと呼ぶべきだろうか。
燃える樹木と言う、確かに奇怪な姿はモンスターかもしれないが。
このカードを出し渋っていたが、このカードがなければならない。
「レベル3燃える藻にレベル1レボリューション・シンクロンをチューニング!
集いし音色が、新たな可能性へと導く! 光さす道となれ! シンクロ召喚!
振動せよ! シンクロチューナー、波動竜フォノン・ドラゴン!」
新たに場に現れたのは。金色の装飾を装備した紺色の竜だ。
金色の装飾には様々な色の装飾が輝き、多様な色を展開する。
「フォノン・ドラゴンと燃える藻の効果発動!」
フォノン・ドラゴンはシンクロ召喚成功時、
レベルを1から3までの任意のレベルに変更することができる。
その効果でレベルを3に変更させ、召喚の準備は整う。
「皆! カードのデメリットで奴のライフが回復した! 気をつけろ!」
「!」
しかし燃える藻によるライフ回復の恩恵がある。
傷が癒えた状況と新たなモンスターは少なからず関係があると。
傷が癒えたとなれば、そうまでしてやらなければならないことがある。
デメリットを差し引いてもしなければならない行為など逆転の一手だ。
ならば何が何でも止めなければならず、ジャッカルの銃口を遊星に変更。
引き金は引かれ、弾丸が轟音と共に遊星を狙う。
「墓地のタスケルトンの効果発動!」
引き金が引かれる寸前にカードを宣言すると、
突如黒い豚が全身を膨らませるように姿を現し、
着ぐるみを脱ぐように自身の骨を飛ばして相殺する。
タスケルトンもまた墓地に存在する際デュエル中一度だけ発動し、
次の攻撃を無効にすることができる効果を持つカード。
先ほど銃弾を受け遊星の手を貫通する形で何処かへと消えたカードだが、
ロットンとのデュエルでも、似たような形でカードに風穴を開けられた。
あの時はソリッドビジョンの演出だったが、まさかと墓地を確認したらあった。
この舞台ではジャンヌの風の力を得た結果魔法・罠を破壊する力を得られたように、
参加者の行動の内容次第でデュエルモンスターズの効果を自身に付与することができる。
手札破壊は多種多様だが、ピンポイント・シュートや首領(ドン)・ザルーグのように、
銃に纏わる手札破壊も少なからず存在するのでそのように作用したのだと推察した。
「俺はレベル7シグナル・ウォリアーに、
レベル3となったシンクロチューナー、波動竜フォノン・ドラゴンをチューニング!!」
攻撃を防ぎながら遊星はシンクロ召喚を行う。
今まで達也を守り続けてきたカードがついにフィールドから離れる。
再び星が輪を描き、そのまばゆい光の中から一体のモンスターが飛び出す。
「集いし縁が、新たな星の絆の力を呼び起こす! 光さす道となれ!!」
遊星の背後に、巨大なゴーレムと例えるのが正しいだろうか。
金と白の装甲を纏い、背中には人工衛星の太陽光パネルが翼のように生える。
遊星たちを超える、レッドアイズとそう変わらない巨躯は荘厳さを併せ持つ。
彼自身にとっても初めて見るモンスターだ。けれど、とても馴染み深いものに感じた。
サテライトの英雄である遊星が手に入れた心意の形は、サテライトの戦士。
「これが皆が繋げた力───希望の戦士、サテライト・ウォリアー!!」
サイズからして別格のモンスターだ。
当然大尉も優先順位を変更して遊星を狙う。
近くの結芽を蹴り飛ばし、ジャッカルで狙いを定めつつ迫る。
咄嗟に金剛身でガードしたとはいえ、蹴り飛ばされてはサポートできない。
「させねえつってんだろうがぁ!!」
大尉の前に装備や服装が赤い、蒼炎の剣士に類似したモンスターが立ちはだかる。
蒼炎の剣士が破壊されたその効果で、炎の剣士を城之内は特殊召喚していた。
だが、バルバロスの一撃があっさりとその妨害を阻止してくる。
「サテライト・ウォリアーの───」
城之内の手札は尽きた。
できることは生身で妨害することだが、
これだけの怪物を相手に身体がそもついていけない。
狙いを遊星に定め、今度こそその命を奪わんとする。
『ウォーター! スラッシュストライク!』
三度目のスラッシュストライク。
ダメージにより殆ど動けない達也にとっての最後の一撃。
仮面の奥では既に血反吐を吐いているがそんな姿は微塵も感じさせない。
横薙ぎに飛来する水の斬撃を回避を優先するべく大尉はジャンプし、遊星へ狙って放つ。
弾丸は遊星へと目指し、その命を刈り取る───はずだった。
遊星には当たった。衝撃で吹き飛び、血もまき散らしている。
だが、受けたのは左肩。頭部から狙いが外れてしまっていた。
「効果、発動オオオオオッ!!!」
痛みを堪え、吹き飛びながら遊星は宣言する。
何故外れたか。考えてみれば当たり前な話だ。
神器と化したアーカードの銃。反動があって当然だろう。
人狼故に人間では扱えないであろう反動をものともしなかったが、
空中を飛びながら撃った弾丸は神器の強化で反動の凄まじさもあって、
狙いが逸れたとしても決しておかしくないことだろう。
普段使い慣れていたモーゼル銃であれば当てた可能性はあるが、
神器で強化され『すぎた』結果による産物は予想外の展開を呼ぶ。
サテライト・ウォリアーはシンクロ召喚成功時、
墓地のシンクロン、ウォリアー、スターダストと名のつくシンクロモンスターの数だけ、
相手フィールドのカードを破壊することができる、召喚条件に見合った能力を持つ。
墓地にはシグナル・ウォリアーとジェット・ウォリアーの二体が存在するので、
二枚破壊することができるが、
「俺が選ぶのは、お前のモンスターとデイバックだ!!」
遊星が選んだのはジャッカルや手袋ではなく、バルバロスとデイバック。
サテライト・ウォリアーの上の二枚羽から光が放ち、二つの存在を消し飛ばす。
理由はある。ジャッカルはあれだけの威力を発揮しておいて壊れる様子がない
破壊するのは困難であると察したのと、別の目的もあり確実に破壊できるのを優先とした。
だがそれでいい。破壊したと言う『結果』が必要なのだ。
「更にサテライト・ウォリアーの効果!
『この効果で破壊したカード一枚につき攻撃力を1000ポイントアップ』する!」
これが狙いだ。確実に攻撃力を上げるための条件が欲しかった。
今のサテライト・ウォリアーは上昇値も合わせ、攻撃力は4500.
数値だけで言えばオベリスクの巨神兵を超える攻撃力を持つ。
「バトルだ! サテライト・ウォリアーでダイレクトアタック!」
地に転がりながら、顔だけは上げて最後の一撃を見届ける。
遊星のエース、ジャンク・ウォリアーのような右ストレートの一撃。
巨躯も相まって、オベリスクのゴッドハンド・クラッシャーを彷彿とさせる。
豪速でせまるそれに弾丸を叩き込む前にその拳が叩き込まれる。
最早全身をプレス機で叩き潰すとでもいうべきだろうか。
E-6一帯を地ならしが起きる一撃を叩き込み、
最大の一撃を決めた。
「グッ……」
ただ一体、サテライト・ウォリアーだけが立ち尽くす戦場。
遊星は何とか上半身だけは起こして、辺りの仲間を見渡す。
息を切らしている城之内、刀を杖代わりに立とうとする結芽。
そして───胸元に風穴を空けた達也が変身を解除し、ゆっくり歩く。
どうみても致命傷だ。スーツの中で血がたまっていたからだろうか、
広がるように血で染まっており、緑や白の制服とは無縁の色合いをしていた。
再生の魔法は使えない。普段は絶対に殺せるわけがないような男でも、
この舞台では平等に命を落とすと言う、嫌な権利を獲得してしまった。
魔法がなくとも鍛えた体のお陰で辛うじて今を繋いでいるが、もう手遅れだ。
「すまない司波……俺が、もう少し頼りになれたら。」
「いや、殆ど綱渡りだ。俺の判断ミスもある。
ところで遊星。そのカードは持ってなかったはずだが。」
「これは……」
デッキが光って手に入れた、
そうとしか言えない現象について軽く伝える。
「この殺し合いにおけるシステムかもしれない……が、
これだけの劣勢になって発揮する……余り当てにはできないか。」
「だが、このシステムを知っている人がいるかもしれない。
今後に繋がるヒントになってくれるといい……が───」
遊星も殆ど限界を迎えている。
肩の骨も衝撃で酷い有様であり、
現状ではデュエルすることはほぼ不可能な傷。
気を失うな、と言う方が無理であり意識を失う。
「城之内。何か回復できる……カード、はないか?
遊星は俺よりは軽いとは、言え命に係わる可能性はある。」
「遊星もだが、お前の方がやべえだろうが。」
「いや、もう目も霞んできている。血が抜けすぎている。
傷をふさいだところで、血液が足りない以上、俺は───」
「達也!」
同じように達也も倒れる。
今までがよく動けたようなもの。
とうに限界を超えた魔法使いは、静かに目を閉じていく。
(深雪……すまない。)
大切な存在であり、最愛の妹。
彼女の下へ戻れないことを悔やみながら命の灯が刻一刻と消えていく。
事態が一刻も争う事態に城之内も急いでデッキからカードを取り出す。
「クソ、俺の回復カードっていや、この二枚だけかよ……!」
デッキから選んだカードは体力増強剤スーパーZとハイパーフレッシュの二枚。
前者は元が4000回復するが、後者は今のライフを2倍にする効果になる。
つまり、元が少ない二人に使ったところで効果は殆どないに等しい。
それにデュエルを通じず使うので、効果はより薄まるだろう。
「結芽! お前まだ支給品あったよな! それで助けられないか!」
「うん、分かった……見てみる!」
息を切らしながらしゃがみ込み、デイバックを漁る結芽。
彼女を一瞥したあと、とりあえずスーパーZを使い希望通り遊星を優先する。
達也の支給品も発言から打開できないことは確定(既に三つとも使っている)し、
残っているのは彼女の持っている最後の支給品だけだ。
一先ず飲ませて(気絶中に飲ませて大丈夫かわからないが)おいて、
多少レベルとは言え傷が癒えたのが確認できて少しだけ安堵の粋を吐く。
「これって同じカード連発すりゃできるとか……ねえか。」
ノーコストで無限に回復できてはゲームにならない。
普通に制約や何やらあるのだろうとは察した。
「後は結芽次第───か……」
城之内は気づいた。
まだあの男が生きていることに。
骨はぐちゃぐちゃ、全身から血を出し血だまりを作った。
だというのに、まだ生きている。人狼はまだゲームを、戦いを続ける。
神に匹敵する攻撃力の一撃を受けても尚、辛うじて大尉は生きていた。
元々銀を心臓に打ち込まなければ死なない身体は制限されてるが、生命力は凄まじい。
また、フレックの手袋は神器。サテライト・ウォリアーを以てしても破壊は困難だ。
挟まったことで申し訳程度にはダメージを抑えたものの、殆ど死にかけだ。
このままでは仮に生き延びたとしても、再生が追いつくまえに死ぬ。
───だとしても大尉は歩みを止めない。
まだ抗う。この四人の誰かが持っている支給品を奪い傷を癒す。
その可能性があるならば、抗おう。最期の死に場所を求めるために。
流れる多量の血液を手袋へと塗りたくり、それを全力で振るう。
触れたものは何であろうと神器である以上、血液も神器と化した。
ただの水滴ではなく、最早弾丸に等しい液体が結芽へと襲い掛かる。
支給品による賭けをする都合、確実に持ってると断言された結芽を狙う。
結芽も攻撃の前に気づくが、写シなしで戦い、金剛身で大尉の蹴りは防いだと言っても、
元々大尉の蹴りは吸血鬼となったセラスが投げたミサイルをは蹴り飛ばす威力だ。
傷を負っていようと、そんなものを劣化した金剛身でダメージを軽減にも限度はある。
彼女もまともに動ける状態ではなく、立ち上がることもほとんどできない。
御刀と腕で急所だけ外すようにガードすることだけが今の最善だった。
「……あれ?」
痛みは来ない。
恐る恐る目を開けてみると、
目の前には城之内が庇うように立っている。
「大、丈夫か……!」
「おにーさん!? 何やってるの!?」
膝をつく城之内に同様せざるを得なかった。
背中の傷を見やれば至るところから出血している。
「写シってーのが、使えねーみてえだったから咄嗟に……」
「だからって庇わなくても───」
確かに写シはできなかったし、
咄嗟の事でモンスターが召喚できなかったのはいい。
しかし、だからと言って自分より弱いのに飛び出すのはおかしいだろう。
デュエリストは生身では強くない。彼自身だって理解しているはずだ。
「妹を、思い出しちまったんだよ……ッ。」
「え?」
結芽と同じように、城之内の妹も病を患っていた
年も離れているし、性格は全く似てなければ命と目の病では別物。
だが、病気と無縁になったことで元気にはしゃいでる姿は、
目が治って元気でいる妹の姿とどことなく重ねてしまう。
だからなのだろう。咄嗟に庇うような行動をしたのは。
「まあ、俺の勝手な理由だから気にすんなってことだ……後は、頼んだぜ……!」
マリクのラーによって受けた痛み程ではないにせよ、
尋常じゃない痛みに全身が悲鳴を上げるが止まれない。
まだ相手のライフは残っている。ならばデュエルは続くのが道理。
あの時は力尽きて、恐らく敗北したのだろう。だから今度はしっかり勝て。
そう自分に言い聞かせ、以前は果たせなかった勝利の為カードを置く。
モンスターかどうかは分からない。だが、今出来るのはそれぐらいだ。
デッキの一番上にあったカードはモンスターであり、それが召喚される。
腕に刃を装備した黒の鎧に覆われた戦士。鉄の騎士ギア・フリード。
意志に応えるように、その刃を以って大尉へと一突きを見舞う。
デェムシュのような骨格を持っていなければ、躱す体力も最早ない。
嵐が過ぎ去ったように、静かにその一撃は叩き込まれて大尉は今度こそ倒れる。
最期まで、人が解する言葉を発することはしない。
ただ人狼は笑う。子供のような、安らいだ笑顔と共に。
ただ人狼は鳴く。亡き同胞を呼ぶためか、或いは存在を示すためか。
ただ人狼は散る。たった数時間において苛烈な戦いを何度も終えて。
人狼は旅立つ。ゲームか現実か、定かではないこの殺し合いの舞台にて、
ただ一人、戦場で勝ち逃げのように霧となって彼方へと消えていく。
そこに残るのは夥しい量の血痕と、人狼を縛り付けていた首輪と神器だけ。
【大尉@HELLSING 死亡】
「なんとか、勝てたみたいだよ。城之内のおにーさん。」
消えていった相手の姿に、ホッと一息つく結芽。
並の荒魂とは比較にならないそれに勝つことができた。
これが真希が言ってた協力し合うことかと理解する。
群れるのは好きではないものの、今回もまた別だ。
一人ではどうにもならない。外見上は人相手であったとしても。
流石に二連続で一人では絶対に勝てないと痛感すれば、否が応でも理解はできた。
そのきっかけは事実上、ついていくと言う選択肢を与えた城之内にある。
改めて礼を言うべきかと顔を向け、気付く。
「……おにーさん?」
その瞳は光を失っていた。
勝利を見届けた後と同時に、彼のライフも尽きている。
果たせなかった勝利を手に、城之内は今度こそ冥府魔道の道を歩みだす。
二人の兄を犠牲に、勝利を掴み生き残った二人。
問題は山のように積まれており、遊星も瀕死の状況。
果たしてこれは勝利なのかと疑問すら浮かべたくなる惨状だった。
【司波達也@魔法科高校の劣等生(アニメ版) 死亡】
【城之内克也@遊☆戯☆王 死す】
【E-6/一日目/黎明】
【不動遊星@遊戯王5d’s】
[状態]:ダメージ(特大)、左腕骨折、左手銃創、気絶、左肩粉砕骨折
[装備]:ホカクカード×30枚@スーパーペーパーマリオ、何かしらのモンスターカード×40(メイン337、エクストラ3)@遊戯王OCG、オベリスク・フォースのデュエルディスク@遊戯王ARC-V、ナイトサイファー@グランブルーファンタジー、サテライト・ウォリアー
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:ハ・デスと檀黎斗の野望を止める、俺達の手で。
1:あの子(結芽)と話しをしておきたい。
2:蛇王院と協力する。第一放送終了後指定の場所(有事に備えて三か所のどれか)に集まる。
3:ジャック、牛尾、遊戯さんを探す。
4:デッキを作る。カードは今拾った。平行して自身のデッキも探す
5:海馬コーポレーション……どういうことだ?
6:主催者は一枚岩ではないかもしれない……?
7:司波……すまない。
8:カードが生成されるシステムを知っておきたい。
9:……
[備考]
※参戦時期はジャック戦(4戦目)終了後(原作で言う最終回)。
※何のモンスターをホカクカードによってカード化したかは後続にお任せしますが、
モンスターカード、或いは罠モンスター等効果でモンスターカード扱いになれるカードのみが対象です。
現時点で判明してるのはセイクリッド・アクベス、BKベイル、星見獣ガリス、ジェット・シンクロン、シグナル・ウォリアー、スター・ボーイ、レッド・ミラー、ファイヤークラッカー、工作列車シグナルレッド、ジェット・ウォリアー、レボリューション・シンクロン、燃える藻、タスケルトン、波動竜フォノン・ドラゴンのメイン11、エクストラ3(サテライト・ウォリアー込みで4)です。
サテライト・ウォリアーは心意によって作成されてるので除外されます。
※デッキの代わりにホカクカードが割り当てられています。
※蛇王院、明石、達也と情報交換しました。
【燕結芽@刀使ノ巫女(漫画版)】
[状態]:疲労(特大)、ちょっと楽しい
[装備]:九字兼定@刀使ノ巫女
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み)
[思考・状況]基本方針:生きて帰る。
1 :体の調子がいいお礼に、しばらくは城之内のおにーさんに付き合う、はずだったんだけど。
2 :カードで人は戦えるんだ。不思議。
3 :強い人とは戦いたいけど、面倒なのはやだ。
4 :群れるのは嫌いだけど、今はちょっとだけ別かも。楽しい。
5 :あんな面倒なの(デェムシュ)は今は戦いたくない。
6 :紫様の流派、楽しい! 見様見真似だけど!
7 :カイトって人とおにーさんの知り合いを探す。
8 :あの人(ポセイドン)も強いのかな。
9 :遊星って人の傷を何とかしないと。
10:おにーさん……?
[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※九字兼定でも写シなどは使えますが、能力は本来の御刀より劣化します
※万病薬@ドラえもん の効果で病気が治りました。また飲んだ分は没収されてません。
荒魂がどうなっているかは現時点では不明。後続にお任せします。
※強者との戦い、一人で戦うことの執着が少し薄れています。
※遊戯王の世界の情報を得てます。
※時間が経たないと写シは使えません。
※大尉の死体、大尉のデイバックは消滅しています。
E-6に大尉の首輪、フレックの手袋@終末のワルキューレ、城之内の死体、
城之内のデッキとデュエルディスク(ヘルモスの爪入り)、司波達也の死体、
ウィザードライバー、ドライバーオンウィザードリング、ウォーターウィザードリング、
キックストライクウィザードリング、ディフェンドウィザードリングがあります。
【ウィザーソードガン@仮面ライダーウィザード】
司波達也に支給。仮面ライダーウィザードの白兵戦の主な武器。
銃弾は変身したスタイルに合わせて変わるので水や炎など様々なものがある。
剣は魔力で自動的に修繕されるので刃こぼれは何も問題ない。
【フレックの手袋@終末のワルキューレ】
大尉に支給。原作においてジャック・ザ・リッパーが使用した、
戦乙女(ワルキューレ)十三姉妹、十一女フレックが神器錬成(ヴェルンド)した手袋。
もっとも、ジャックの場合は神器『強制』ではあったのだが詳しいことは割愛。
フレックの名(ルーン)は『武器をガチャつかせる者』が秘められており、
ナイフも銃も傘も小石も文字盤も、手にしたものすべてが神器となり強化される。
ただし手袋自身は武器にならない。手袋ではなく、手袋を染めた血は神器となる。
フレックの意思があるかどうかは定かではない。
【神獣王バルバロス(ゴールドシリーズ)@遊戯王OCG】
大尉に支給。ゴールドシリーズについては他のカード参照。
テキストは以下の通り。
効果モンスター
星8/地属性/獣戦士族/攻3000/守1200
①:このカードはリリースなしで通常召喚できる。
②:このカードの①の方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。
③:このカードはモンスター3体をリリースして召喚する事もできる。
④:このカードがこのカードの③の方法で召喚に成功した場合に発動する。
相手フィールドのカードを全て破壊する。
ゴールドシリーズではある為打点は3000だが、流石にそのままでは④の効果は使えない。
また、フレックの手袋を経由した結果『獣神王バルバロス』に変質している。
フレックの手袋で変質した故の産物でもあり、
戦闘破壊に少し耐性があるなど本来の性能に更に何かが加わっていたかもしれない。
余談だがリアルでは神獣王はゴールドレアが存在するが獣神王バルバロスにはない。
【サテライト・ウォリアー@遊戯王OCG】
厳密には支給品ではなく遊星が心意で生み出したモンスター。
シンクロ・効果モンスター
星10/闇属性/戦士族/攻2500/守2000
チューナー+チューナー以外のSモンスター1体以上
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードがS召喚に成功した場合、
自分の墓地のSモンスターの数まで相手フィールドのカードを対象として発動できる。
そのカードを破壊し、このカードの攻撃力は破壊した数×1000アップする。
②:S召喚したこのカードが破壊された場合に発動できる。
自分の墓地からレベル8以下の「ウォリアー」、「シンクロン」、
「スターダスト」Sモンスターを3体まで選んで特殊召喚する(同名カードは1枚まで)。
以上で投下終了です
色々遊戯王関連で複雑になって独自の解釈でカードを使ってますが、
問題がありましたらお願いします
あ、タイトル途中から集いし絆になってますが
全部集いし願いでした、すみません
重ねてすみません
3パート目は細かいようですが集いし絆 リミットオーバー・ドライブでした
千代田桃、七海やちよ、MNR、デェムシュを予約します
再三すみません
状態表(?)にこれ忘れてました
※E-6でサテライト・ウォリアーの攻撃で周囲に地ならしが起きてるかもしれません
後ほんっとしつこくてすみませんが
集いし願い リミットオーバー・ドライブでした……
前半部分を投下します
光と闇、魔法少女とまぞくが古来より争い合う世界。
檀黎斗に目を付けられてしまったが為に、プレイヤーとして集められた6人。
住まう世界は同じなれど、ゲームにおける彼女達の動向は見事にバラバラ。
最も運が良いのは言うまでも無くシャミ子こと吉田優子だろう。
NPCとのゴタゴタこそあったものの、出会った参加者はゲームに否定的な二人のみ。
各地で発生しているような戦闘にも巻き込まれず、取り巻くのは血生臭い舞台に似つかわしくない彼女の愛する街角での日常の延長。
遠くない内に定時放送で現実を叩きつけられるとしても、今はまだその時ではない。
本人の精神状態を無視するならば、陽夏木ミカンも運が良いと言えるかもしれない。
DIOとの戦闘で自身の攻撃が味方を傷付ける最悪の事態こそ引き起こしたが、件の天城カイトもゲーム開始当初より同行したクレヨンも無事。
カイトの解毒が済んでおらず、放送により呪いが再発すれば何が起こるか不明と油断ならない状況であれど、現時点では強い精神的動揺は抑えられている。
客観的に見れば不運であり、当の本人はそう思わないのは吉田良子。
初手でキャスター・リンボという劇薬に引き合わされた彼女はしかし、己の運の無さを嘆く正常さが失われている。
善を善、悪を悪と正しく判断する思考は最早残っておらず、姉が最も望まない方法で彼女を救わんとする傀儡と成り果てた。
吉田清子と小倉しおんに関してはどうだろうか。
名簿にこそ登録されているとはいえ、檀黎斗が行った最初の放送を待たずして脱落したゲームの犠牲者。
二児の母として家庭を支える包容力と、倫理観に問題があれど度々シャミ子達の力となった知識がこの地で活かされる機会は訪れない。
生き延びたせいで地獄を味わう前に逃げ延びられた、そう考えられる者もいないとは限らなかった。
今回語られるのは最後の一人、千代田桃を巡るお話。
これを再起への序章と捉えるか否か、判断は見る者全てに委ねよう。
◆
頼れる明かりは月光のみ。
草花が生い茂る舗装なんてされていない道をただ進む。
どれだけ目を凝らしても先は見えず、引き摺り込まれるような暗闇が口を開けている。
まるで今の自分の内面がそっくりそのまま現実の光景になったみたいだと、不意に桃は思う。
今この状況でそんな風に考える自分が何だかおかしくて、苦笑いを受かべた。
だが出来上がったのは不自然に引き攣った、酷くヘタクソな笑みとは呼べぬ不気味な表情。
シャミ子が見たらそういうのを笑顔とは言わないと、元気いっぱいに言われそうな気がする。
小さい体でぷんすかするシャミ子を思い浮かべたからか、今度は少しだけ本物の笑みを浮かべかけ、すぐに顔色が変わっていく。
「シャミ子…シャミ子に会わなきゃ……」
行き先なんてまともに決めておらず、シャミ子が島のどこにいるのか知る由も無い。
だけど歩き続けていればいずれは会える筈、叶うならば今すぐにでもシャミ子と会いたい。
でなければ、自分の心は本当に壊れてしまう。
襲われている人を助け、殺し合いを仕組んだ者達を倒す。
ここは多魔市でないけれど、魔法少女として自分に出来る事を放り投げるつもりは皆無。
ゲーム開始直後は予想もしなかっただろう。
まさかたった数時間で心を砕かれ、戦意を奪い取られ、抗う意思を失うなどとは。
勝てる訳がない。
自分に絶大なトラウマを植え付けた金髪の偉丈夫。
直接相対したからこそ、圧倒的な力を見せつけられたからこそ理解してしまう。
あれには勝てない、運良くミカンと再会し連携したとて勝率は1%にも満たない。
文字通り次元が違う。
そんな男を相手に永夢はたった一人で戦いを挑んだ。
エナジーアイテムを駆使した戦法で相手に予期せぬダメージを与えたとはいえ、勝利を掴めるかは怪しい。
なのに逃げずに戦闘続行を選んだのは、桃だけでも逃がす為。
仮面ライダーである前にドクターとして、桃の命を救う道を選んだのだ。
「っ……」
くしゃりと顔が歪む。
永夢の献身で生かされ、そして後を託された。
ゲーマドライバーとガシャットを渡された意味を理解できない桃ではない。
彼が言っていたではないか、ゲームを攻略するにはエグゼイドの力が必要不可欠。
そしてエグゼイドへ再変身する為には、仮面ライダービルドこと桐生戦兎の協力がいると。
つまり永夢は自分に代わってこのゲームを終わらせてくれと桃に託したのだ。
出会って僅かな時間しか共有していない少女を助ける為に命を懸けた、そんな相手の最後の願いを無下にする程恩知らずになったつもりはない。
いざとなったらシャミ子達を優先するとは言ったものの、こうまでされて何も思わない冷めた心の持ち主ではないのだから。
「永夢さん……私は…もう……」
それでも、桃は永夢の意思を継ぐ気にはどうしてもなれなかった。
殺し合いには金髪の偉丈夫と並ぶような化け物がもっといるかもしれない。
何よりそのような連中ですら参加者に過ぎないならば、ゲームマスターである黎斗はどれ程の強さなのか。
そんな奴らを相手に勝てるなどと楽観的には到底なれる筈もなく、万が一戦わねばならないと思うと全身が震え出す。
もし黎斗が気まぐれでシャミ子達と共に多魔市へ帰してやると提案してきたら、残った参加者を見捨てる事になると理解して尚も即座に頷いてしまうに違いない。
永夢と、まどかが残したゲーム攻略の鍵をも手放して。
「ごめんなさい……」
守れなかった少女の虚ろな瞳は、今も焼き付いて離れない。
まどかが片桐に自らその身を差し出していなかったら、桃はあのまま殺されていた
彼女を守れなかった無念をバネに、せめてシャミ子達は守り抜くと誓ったのにこのザマか。
罪悪感と情けなさで歯が砕けんばかりに噛み締められる。
それでも前を向いて戦おうという気は微塵も起きず、桃を突き動かすのはシャミ子に会いたいという一心のみ。
こんな腑抜けた姿を見たらシャミ子は失望し、自分を見限るのだろうか。
義姉とは大違いの臆病者と罵られるだろうか。
(違う…シャミ子はそんな事しない…)
駆け出しまぞくなのを考慮してもぽんこつで、魔法少女の自分がハラハラするくらいに色々危なっかしくて。
出会って数ヶ月の自分を強く惹き付ける、優しい宿敵の女の子だ。
シャミ子の笑顔を見たい、シャミ子の声を聞きたい、シャミ子に支えて欲しい。
シャミ子と一緒に、彼女が笑っていられる小さな街角に帰りたい。
切実な願いを抱き桃はひたすらに進む。
守れなかった後悔と生かされた事実に背を向けて、託された想いから逃げるように進み続ける。
もしシャミ子と無事再会できたとしても、そこから一体どうするかという問題を今は考えないようにして。
その内舗装された道路が見え、このまま道なりに行けば街に着くと気付いた。
ひょっとするとそこにシャミ子がいるかもしれない。
根拠など無い考えに従って、道路の上を歩いて行く。
やがて橋に差し掛かると足早に駆け出す。
月の光が反射する川には見向きもしない、視線を向けるのは前方だけだ。
「シャミ子…シャミ子…どこ…?」
街へ続く道を往く間ずっと呟かれる探し人の名前。
本当にこの先へシャミ子がいるかどうかも分からないのに、早く自分の前に現れてくれと懇願する。
真っ直ぐ、ただ真っ直ぐに歩き続け、
ソレを見付けた。
「え…?」
道路のすぐ近くに転がる大岩、その上にナニカが横たわっている。
遠目で見た時、ピクリとも動かないからボロ布でも掛けられているのではと思った。
近付くにつれて徐々に輪郭がハッキリし、背中を冷たいものが落ちる。
おかしい、ほんの数秒前まで頭の中はシャミ子の事でいっぱいだったのに。
今は何かを考えようとすると妙に頭が痛くなり、視界から得られる情報を拒否したくてたまらない。
一歩近付く、ソレが裸なのが分かった。
数時間前に見た彼女はちゃんと服を着ていたのに。
一歩近付く、ソレの目玉が繰り抜かれ本来その位置にある筈の無い器官が詰め込まれていた。
数時間前に見た彼女の乾き切った、寂しさを感じずにはいられない瞳は消え失せている。
立ち止まる、こんなに近くに居ても彼女は無言を貫いたまま。
「エムせんせい」と、もういないあの人の名前を呼ぶ声は聞こえない。
人間の尊厳を徹底的に踏みにじられた、百式照という名の肉のオブジェがそこにはあった。
「―――っ!!あっ…やっ……な、なに、こ……げほっ!?おぇぇ……」
堪らず蹲り胃の中身をぶち撒ける。
吐瀉物のツンとした臭いが立ち込め、視界が滲み出す。
理解などできない、したくない。
ほんの数時間前まで五体満足でいた人が、こんな風になるなんて。
余りの惨たらしさに脳が理解を拒もうとするも、目に飛び込んで来るのは逃れようのない現実。
「はっ…はっ…うぁ……」
吐き出せるものが一つも無くなったのか、口から漏れるのは苦し気な声。
支給された水で口を濯ぐ選択も頭には浮かばない。
「なんで……」
蹲ったまま絞り出すように口にしたのは、果たして誰に向けての言葉か。
桃自身にも判断が付かないまま、感情が決壊した。
「なん、で…なんで…!?どうして私達が、こんな目に遭うのかなぁ…!?ねえ!?私もシャミ子も…良ちゃんと清子さんも…!まどかちゃんやこの人だって…!」
理不尽への疑問を叫んでも答えは返って来ない。
いや、答えなら既に永夢の口から聞いたではないか。
無差別に巻き込んだ、それだけ。
桃達に恨みがあるとかそういうありふれた理由は存在せず、ウイルスが人へ無差別に感染するように、黎斗が自分達を参加させた事に特別な意味は無い。
到底納得出来なくても、理由としては結局それが全て。
そして桃へ降り掛かる理不尽はまだ続いている。
「なーんだ、また女か」
落胆を隠さない声色に桃が顔を上げると、白い服の少年が立っていた。
動揺していたとはいえここまで接近を許すとは、我ながら迂闊と悔やむももう遅い。
無理やり涙を拭い立ち上がり、現れた少年と対峙する。
相手は照の惨殺死体を前にしたにも関わらず、まるで気にした様子が無い。
それに今、彼が口にした内容も聞き過ごせないものだ。
「あなたが……この人を殺したの?」
「ああそれ?うん、そうだよ」
「っ!何で…!」
あっさりと、まるでホモビデオの自己紹介で24歳にも関わらず学生と答えたステロイドハゲのようにさらりと答えた。
少女を殺した、それもただ殺すだけでなく徹底的に苦痛を与え玩具にしたうえで。
自らの残虐な行いへ何の疑問も抱いていない態度へ、怒気を露わに聞き返す。
しかし少年は桃の怒りなどどこ吹く風といった様子。
「そのお姉さんがウザかったのが悪いんだよ。殺されそうになってもスカした態度取って。あ、でも流石にコレを取った時は五月蠅いくらいに泣いちゃってたけどね」
「っ!?」
言いながら少年が見せつけたのは、右手に持った肉塊。
本来ならば外気に晒される事はない、まして人体から離れるなどあってはならない。
10代の少女の膣をプラプラと揺らす少年…MNRの蛮行に桃は気を失いそうだった。
人間全てが善人とは思っておらず、悪人がいる事くらい理解している。
多魔市の人々のように優しくて懐の広い人ばかりではない、救い難い悪い人間が世の中には溢れているのだ。
だが今目の前にいるのは本当に人間なのか、心を失くしたモンスターとでも言った方がまだ納得がいく。
那由多誰何とは別ベクトルで自らの行いに何の疑問も持っていないらしい。
この世界には理解できない考えを持つ人もいる。
放送に狼狽えたまどかへ向けた言葉が、今になって自分に返って来た。
「ま、もう死んでるしどうでもいいや」
至って冷めた様子で膣をデイパックに仕舞う。
MNRからしたら照は悲鳴を上げて自分を楽しませたが、彼女の言葉を思い出すと頭が痛くなる。
父親に植え付けられたトラウマ、生まれ落ちた事が間違いだったのかと繰り返す自問自答。
こんな事は考えたくないのに、照の言葉がどうしても頭をよぎってしまう。
死んだ後も自分を苛つかせる女だとストレスが溜まるも、ふと彼女の死体はまだ有効活用できるのではと考えた。
自分でやっておいて何だが、照の死体は相当目立つ。
善人は勿論のこと、悪人であってもここまで弄ばれた死体を見付けたら無視はできない。
新しい獲物を引っ掛けるのに使えると判断したMNRは来た道を戻り、死体の傍に隠れ様子を窺っていたのだ。
「めんどくさいからさ、変に抵抗しないでよ」
見事に獲物が引っ掛かりはしたが、またもや女だったのは非常に残念。
ただこれはこれでレイプはしなくとも、さっきのように解体して遊べば良いかと思い直す。
照と同じく膣を切り離しコレクションするのも悪くはない。
性行為を行うのは男にのみだが、女相手でも楽しむ方法はある。
お前ノンケかよぉ!?(失望)とお怒りの兄貴たちもいるだろうが、まま、そう焦んないでよ(神のお言葉)。
あくまで切り刻むだけでレイプはしないから、多少はね?
「ふざけないで…!!」
分かりましたと大人しくMNRの玩具になる気はない。
殺し合いを打破する気力は失われているが、黙って自分の死を受け入れる程に全てを諦めたつもりもない。
もう一度シャミ子に会うまで誰が死んでやるものか。
何よりこのような狂人がもしシャミ子と遭遇してしまったら、想像するだけでも恐ろしい。
照と同じ、それ以上の苦痛を与えられた絶望の中でシャミ子が死ぬ。
そんな事にはさせてたまるかとステッキを構え、一秒と掛らずにフレッシュピーチへの変身を完了させた。
「めんどくさいって言ってるのになぁ…」
照と言い桃と言い、どうして女という生き物はこうも手間ばかり掛けさせるのか。
だから女には犯す価値もない。
手頃な玩具にするならまだしも、こんな連中の性器に自分のペニスを突っ込むなど汚らわしくて怖気が走る。
煩わし気に頭を掻きながら左手に指輪を填め、専用のウィザードライバーを起動。
向こうがその気ならこっちも変身して叩きのめすまで。
『シャバドゥビタッチヘンシン!シャバドゥビタッチヘンシン!』
「変身」
『チェンジ・ナウ』
ドライバー中央部の手形に指輪を翳すと魔法陣が展開。
全身を覆う法衣、羽織ったケープ、被ったフードまでもが白尽くめ。
仮面ライダーワイズマン、操真晴人達からは白い魔法使いとも呼ばれた存在。
娘の蘇生を目的として数多の絶望を生み出すサバトを目論んだ、とある父親のもう一つの姿。
それも黎斗主催のゲームにおいてはあくまで参加者の一支給品に過ぎず、此度は指輪の魔法使いとは本来無関係の凶悪なホモの手に渡った。
「仮面ライダー…?でも、永夢さんとは違う…」
「知ってたんだ。別にいいけど」
外見も、使った道具も、何より変身者の性根も永夢とは違う。
共通するのは仮面ライダーという超人的な力を得た戦士であるということ。
一緒に戦う心強い仲間になれたかもしれない青年の力が、今は危険人物の振るう暴力として自分へ牙を剥こうとしている。
自然と表情が強張る桃へ、面倒事はさっさと終わらせるべくワイズマンが襲い掛かった。
MNRの目的はただ桃を殺すだけではない。
照にしたのと同じく苦痛を与え、性器を解体し殺す。
故に最初の一撃で急所を狙い仕留めるのではなく、死なない程度に痛めつけ拘束する算段だ。
とはいえ相手は仮面ライダーとは違うものの、変身したという事は相応に力も強化されているはず。
だったら面倒とはいえ気を抜き過ぎるのは禁物。
先の戦闘とて瞬間移動の魔法を使わねば、敗北していたのは自分の方だったのだから。
「じゃあ、死のうか(せっかち)」
まだ殺す気はないのに矛盾した台詞を放つのは、淫夢ファミリーならではのガバガバさ故だろう(適当)。
言動はガバガバのスカスカでも繰り出す攻撃は脅威そのもの。
笛型の剣、ワイズマン専用装備のハーメルケインを振り下ろす。
強度も切れ味もウィザードの装備に引けを取らない程強力。
発想が明後日の方向に向かっているシャミ子が使うナントカの杖と比べ、分かり易いくらいの武器だ。
装飾の美しさのみだけでなく、十全の殺意が籠った刃が桃の柔肌を切り裂くべく襲い来る。
「ふぅっ…!」
ワイズマンが接近し武器を振るう速度は並外れているが、ただの人間以上の力を持つのは桃も同じ。
通常時でさえ高い身体能力をフレッシュピーチへの変身で更に強化している。
自分を狙う黄金色の刃をしっかりと目で捉えた上で回避に移行。
ハーメルケインは桃の真横の地面を切り裂くに終わった。
地面目掛けて武器を振り下ろしたままの体勢で、ワイズマンの全身がほんの僅かに硬直。
次の動作へ移させる桃ではなく、頭部目掛けて蹴りを放つ。
「危ないなぁ…」
仮面に覆われているとはいえ、直撃すれば脳を揺さぶられるだろう一撃。
どこぞの悶絶少年専属調教師と違い、甘んじて受け入れるような性癖をMNRは持ち合わせていない。
ハーメルケインを顔の真横に翳した直後、腕へと伝わる鈍い振動。
生半可な武器なら防御に回した所で無意味、破壊され蹴りが到達するのを防げはしない。
そうはならずに無事防御を成功、これだけでも武器の性能が如何に高いかが分かる。
今更関心を抱きはせずハーメルケインで相手を押し返そうとし、ふと腕に掛かった力が消えたのに気付く。
あのままでは体勢を崩され今度はこっちが隙を見せてしまう。
即座に判断した桃は足を引っ込め、ワイズマンの背後へと回った。
「そんなの無駄だってば」
「っ、みたいだね…!」
背後から殴りかかろうと拳を振り被るも、攻撃は中断するしかない。
桃へ視線を寄越さないまま、すぐ真後ろへとハーメルケインを突き出した。
ギラリと輝く刀身が狙うは桃の腹部。
嘗て付けられた古傷が残る場所へ、また一つ痛々しい痕が刻まれてしまう。
脚へと力を込め後方へと跳ぶ。
ヒュンと空気が切り裂かれる音を鼓膜が拾い、そこでようやくワイズマンは背後へと向き直る。
少し離れた位置に立つ桃の体へ自分が付けた外傷は、掠り傷すら存在しない。
余計な手間を掛けさせられ苛立ち、ハーメルケインを握る手に力が籠る。
身勝手な怒りを向けられた所で桃には大人しく体と命を差し出すつもりは微塵も無し。
こちらの番とばかりに両足へ力を集中、一気に加速し急接近。
「はぁっ!」
弾丸を思わせる勢いで拳を真っ直ぐに突き出す。
再度ハーメルケインを翳し防ぐが、両腕に伝わる振動は先程よりもずっと上。
強く柄を握っていなければ耐え切れず、武器を取り落としていたかもしれない。
続けて反対の手で握り拳を作り、ワイズマンの腹部へと叩き込む。
これもまた防御、但しハーメルケインではなく曲げた膝を腹部の前へ持って行ってだ。
魔法衣に覆われた四肢の耐久力は生身の人間とは段違い。
小枝のようにへし折れただろう末路は、変身していた為に回避された。
それでも、少なからず痺れにも似た痛みが走るのまでは防げない。
日常生活から筋トレを趣味にしているのもあって、桃は武闘派の魔法少女である。
シャミ子曰くやわらかぬるい華奢な腕からは想像もつかないようなパワーを持つ。
加えて先の犠牲者である照は異能こそ強力であれど、元々は普通の人間。
対して桃は魔法少女としての経験詰んでおり、命懸けの戦いにも勝利を収めてきた。
たとえ相手が仮面ライダーであっても、桃の力は十分通用するのだ。
更に現在の彼女はまどかのように保護した一般人や、永夢のような共闘相手もいない一人。
言い換えれば、同行者へ気を回す必要が無く眼前の敵へ集中できるということ。
片桐相手に翻弄され、ポセイドン相手には慄くしか出来なかったが、ここに来て桃の本領が発揮されていた。
突き出す拳は岩石だろう砕き、繰り出す蹴りは大木をも引き裂く。
威力もさることながら、速度も最早人間が出せる限界をとっくに超えている。
相手によっては為す術なく一方的に殴打を叩き込まれ、地面に倒れ伏すのは確実。
「なんで大人しくしてくれないのかな?」
ボソリと呟いた声に籠められたのは苛立ちのみで、桃の猛攻への焦りは皆無。
事実、ワイズマンは桃の打撃を一つ残らず防ぎ、或いは躱していた。
ワイズマンこと白い魔法使いは元々、インフィニティスタイルの仮面ライダーウィザードと互角以上に渡り合う性能を誇る。
おまけに変身者であるMNRもまた淫夢ファミリーの宿命か、若しくは恩恵なのか。
TDNホモビ出典のキャラクターではありえない、超人的な身体能力を付与されているのだ。
「はぁ〜〜〜〜(クソデカため息)」
面倒くさくて堪らず、ワイズマンは桃の蹴りを防いだと同時に背後へ大きく跳ぶ。
ハーメルケインへ掛かった力にあえて逆らわない事で、十分な距離を取った。
無論、このまま棒立ちしていればすぐに接近されるのは分かり切っている。
だから今度はハーメルケインを振るうのではない、別の手に出るまで。
武器を振るうだけがワイズマンの全てでは無い。
元の世界では晴人達へ、ゲームでは照へも使用した魔法を放つべくドライバーへ指輪を翳す。
しかしワイズマンが距離を取ったのは、桃にとってもある意味好都合。
桃が使う戦法とて素手での殴り合いのみではない。
変身に使ったのとは別の可愛らしい装飾のステッキを装備。
必殺の魔力を集中させる。
『エクスプロージョン・ナウ』
「フレッシュピーチハートシャワー!」
展開された魔法陣を中心に爆発が発生。
ハートフルピーチモーフィングステッキより放たれた桃色の閃光と激突する。
高威力の技はどちらも打ち勝てずに相殺、巻き起こった爆風が両者の視界を遮った。
(っ!?どこに……)
煙が目に入ったせいで痛みを感じ、咄嗟に閉じようとするも悪手だ。
現に煙を切り裂き迫る黄金色を認識すると、目の痛みも無視して躱す。
生身ならば不利となる視界の悪さも、頭部をマスクで覆い隠したワイズマンには無関係らしい。
僅かに掠めた腕から赤い雫が数滴地面に落ちる。
光の一族と契約した魔法少女にとって、出血は魔力の減少に繋がってしまう。
まして桃は既に片桐との戦闘で少なくない傷を負わされたのだ。
常人よりも傷の回復は遥かに速いと言えど、余計な傷は負わないに限る。
敵の武器は刃物。
こちらに血を流させるのに適した得物を使うなら、こっちも攻撃方法を変えるべきか。
桃本来の装備とは違うものを手にするべく、デイパックから取り出した。
(永夢さん、使わせてもらうよ)
装備したのはエグゼイドが使用する可変型の武器、ガシャコンブレイカー。
打撃をメインとしたハンマーモードと、斬撃をメインにするソードモードの二形態の内桃が選択したのは後者。
ゲームのコントローラーに付いているようなボタンをタッチし、ソードモードへ変形。
エグゼイドの頭部保護パーツを思わせる刃が出現。
永夢から託された想いを無視する癖に、遺した武器だけは平然と使うのか。
自責の念に今だけは蓋をして、ワイズマンのハーメルケインを迎え撃つ。
「しつこいなぁ…!」
「それはこっちの台詞…!」
黄金色の刃と派手なピンク色の刃がぶつかる。
剣を手にした事で先程までは行えなかった、ハーメルケインとの打ち合いが可能となった。
敵が武器を振るうなら、こちらはそれ以上の勢いで振るうだけだ。
(この剣…思ったよりも使い易い…?)
闇堕ちした時には刀を振るっていたのもあってか、刀剣類の扱いが苦手という訳ではない。
しかし今使っているのは持ち主であるエグゼイドと同様、中々に奇抜な見た目の武器だ。
自分に使いこなせるかどうかを懸念していたが、どうやら杞憂で済むかもしれないと思い直す。
ガシャコンブレイカーは攻撃スピードを重視しており、その為グリップ部分は軽量設計になっている。
おまけに使用者の能力に応じてシステムデータを更新し、武器性能をより向上させる機能も搭載済み。
思った以上に軽く、それでいて使い易い剣。
これならばいけると剣を振るう速度を一段階引き上げた。
「はぁぁ…!!」
「うっ…」
桃の気迫が押しったのか、ワイズマンの肩へ刃が走る。
散らされる火花とHITのエフェクトがダメージを伝え、ハーメルケインを持つ力も弱まった。
またとないチャンス、一気に倒すにはここだとガシャコンブレイカーで追撃を仕掛ける。
だが今の自分が隙を晒し、敵がそこを確実に突いて来るのはワイズマン自身にも察しが付く。
癇癪を起した子供かと思うかのように腕を滅茶苦茶に振り回す。
狙いもまともに付けないハーメルケインの攻撃だが、一瞬とはいえ桃の勢いを削ぐ目的は果たせたのなら上出来。
すかさず魔法を発動しようと指輪を翳す。
が、ドライバーに指輪を近づけたまさにその瞬間、手首をがっちりと掴まれた。
爆発を起こす魔法を使った際、ワイズマンが指輪をドライバーに翳したのを桃は見逃してはいない。
敵が魔法を使うには指輪をベルトの手形部分に翳すという工程が必要だと、先程の動作で気付いたのだ。
「離してよ…!」
「分かった」
万力のように手首を締め付けられ、変身しても不快感が募る。
離せといいながら振り払おうとすれば、どういう訳かあっさりと承諾。
何のつもりだと言う疑問は即座に解消された。
魔力をコントロールし腕力をより強化した桃はなんと、ワイズマンを掴んだまま持ち上げたのだ。
突然の事に慌てるワイズマンの望み通り、思いっ切り投げ飛ばす形で手を放した。
「うわ、ぁっ!?」
飛んで行くワイズマンを黙って見送らず、桃はより強烈な一撃を叩きまんとする。
取り出したのはガシャコンブレイカーと同じく、永夢が遺した支給品。
マイティアクションXのガシャットだ。
ゲーマドライバーが破損している為にエグゼイドへは変身出来なくとも、ガシャットは無傷のまま。
ならばエグゼイドになれなくとも使い道はある。
ガシャコンブレイカーのスロットにガシャットを装填しトリガーを押す。
『ガシャット!』
『キメワザ!』
『MIGHTY!CRITICAL FINISH!』
ブレード部分にエネルギーが集束され、桃がワイズマン目掛けて跳躍。
ガシャコンブレイカーを構えた体勢のままで高速回転する。
突進して来る桃にワイズマンとて何の抵抗もしないなど真っ平御免。
空中という不安定な場でありながらもどうにか指輪を翳し魔法を発動した。
『チェイン・ナウ』
魔力で編まれた鎖が桃に絡みつき、回転を強制的に止めようとする。
だがガシャコンブレイカーのエネルギーのみならず、自身の魔力を上乗せし強引に鎖を引き千切り突破。
勢いこそ落ちたもののワイズマンの元へは到達。
マイティアクションXのエネルギーを纏わせた刃を叩きつける。
対するワイズマンもまた、桃が拘束された際の僅かな猶予でどうにかハーメルケインを構え直せた。
「ぐぅぅ…!」
ワイズマンの全身を狙った連続斬り。
一撃、二撃、三撃、そして四撃と防いだのはそれだけワイズマンというライダーが高性能だからか。
しかし残る最後の攻撃だけは防御が間に合わず、胴体から大量の火花が散った。
地面へと叩きつけられ呻き声を上げる。
バグスター相手にはこれだけでも十分な威力であっても、ワイズマンを撃破ないし変身解除へ追い込むには足りない。
しぶとい相手に表情を険しくする桃だが、敵も同様に仮面の下で顔を歪めた。
「痛い…痛いよ……」
「あの子はもっと痛かったはずだよ」
吐き捨てながらも油断はせずにワイズマンを睨む。
今の攻撃でそれなりにダメージは与えられたように思う。
とはいえ自分もまた万全の状態とは言えず、公園での戦闘による傷と疲労は残っている。
今の流れに乗ったまま一気に攻め込み決着を着けるか。
一度深呼吸をした桃がワイズマンへと強く踏み込み――
その寸前で、二人の間に何かが降って来た。
「なっ…」
「えぇ…(困惑)」
桃にもMNRにとっても予期せぬ事態。
舗装された道路が陥没する程の勢いで振って来るとは、一体全体何なのか。
というかもし生物であれば、生きているかも怪しい。
両者完全に気を取られ、今この時だけは互いへの敵意も薄れている。
困惑と警戒が戦場の空気を塗り替える中、少女と少年が見つめる先で、とうとうソレが姿を現わす。
「猿どモがぁ……よクもこノ俺をォオオオオオおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」
怒れる真紅の騎士が、新たな混乱を齎すべく参戦を果たした。
前半投下終了です
後半はもうしばらくお待ちください
直見真嗣、クウカを予約します
残りを投下します
◆
憤怒、激昂、忿怒。
ありきたりな表現を並べ立てても尚足りない、それ程までにデェムシュは荒れ狂っていた。
三度、デェムシュがゲームにて参加者と遭遇し戦闘を行った回数。
その全てで土を付けられ、しかもただの一人として殺せていない。
拳闘士の人形を操る少年と、黄金のアーマードライダーに似た戦士に殴り飛ばされた。
奇妙な札遊びで小細工を弄する小僧に妨害され、減らず口を叩く小娘の剣士に斬られた。
極め付けは三度目の戦闘、六眼の化け物と桃色の矢を射る小娘だ。
男の方は腑抜けた伽藍洞の剣しか振るえず、小娘に至っては氷柱に貫かれ無様に倒れ伏す始末。
ようやっと猿に相応しい末路を拝めると思いきや、死に損ないの小娘が巨大な怪鳥を出現させてから雲行きが怪しくなった。
散々怪鳥に邪魔をされた挙句、またしても己が身に斬撃を受け吹き飛ばされ、今に至る。
病院前での戦闘で自ら撤退を選んだ屈辱は、三度目も見下した相手に傷を刻まれたという屈辱で上塗りされた。
飛翔した沈黙のドッペルに乗った黒死牟の剣、進化体のオーバーロードであっても負傷した肉体には堪える攻撃。
防ぎ切れない斬撃に蹂躙されながら遥か彼方へと吹き飛ばされた挙句、受け身も取れずに地面へ激突。
まともに体力も回復せず連戦を行ったツケだろう、体中が無数の鉛を括りつけたように重い。
加えて、全身に刻み付けられた傷も無視できないレベルになっている。
近接最強を誇るスタンドのラッシュ、ハザードレベルを急上昇させた格闘主体のライダーの拳、刀使の剣術を以てして振るわれた黒龍の刃、上弦の壱が繰り出す月の呼吸。
アーマードライダー以上の耐久性を誇るデェムシュの外骨格も、立て続けにこれらをモロに受けては耐え切るのにも限界があった。
デェムシュが取るべき最善の手は、戦闘を避け体力の回復に専念すること。
怒りも屈辱も一時だけでも飲み込み、己の生存を優先すべきである。
「ゥ゛オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
だが今のデェムシュには正論を受け入れるだけの余裕はない。
あるのは散々自分をコケにした連中への、未だ自分に殺されずにいる猿どもへの怒り。
渦巻く憎悪は嘗て進化体になる原因を作ったとも言える人間、駆紋戒斗へ向けたソレにも匹敵する程。
余りにも大き過ぎる怒りはデェムシュから冷静さを根こそぎ奪い、代わりに破壊衝動を植え付けた。
視界にチラつく生命全てを破壊し尽くさねば気が治まらない。
元より自分以外の参加者を全員殺す気でいたが、方針はここに来てより顕著なものと化す。
「消え去レ猿どモガぁっ!!!」
両肩の突起が放電し、二人の人間目掛けて雷が降り注ぐ。
急に現れた怪物へ呆気に取られていた桃とMNRも、尋常ならざる怒気をぶつけられ意識を引き戻した。
相手の正体は不明だが分かるは一つ、こいつは自分にとっての敵であるのは間違いない。
棒立ちのままでいるのは自殺濃いに等しい。
どちらも弾かれるように飛び退き、立っていた場所へ閃光が走る。
焼け焦げた地面を目の当たりにし肝を冷やす暇すら与えられず、赤い騎士が襲い掛かって来た。
標的として選ばれたのはMNRが変身したワイズマン。
アーマードライダーと似た存在なのもあってか、敵意が桃よりもこちらへ若干傾いた結果だ。
「何なの今度は…」
困惑から覚めて間を置かずに乱入者への対処。
思い通りにいかない展開にMNRのストレスは増すばかり。
相手が好みの男ならばまだしも、襲って来た者はどこをどう見ても人間ではない。
これでは楽しむも何も無く、率直に言って桃以上に目障りだった。
MNRがどれだけ苛立ちを募らせようと、デェムシュの振るった剣は止まらない。
いい加減愛剣へ血を寄越せとでも言わんばかりに、シュイムの刀身が迫る。
半歩下がって回避、胸部に僅か数ミリ届かず空振り。
ハーメルケインを手元で回転させ、こちらの番だと突き出した。
「っ!!」
狙ったのは首元に装着された機械。
どんな化け物だろうと参加者である以上、首輪が爆発すれば死は免れない。
ワイズマンの行動はデェムシュの怒りへガソリンを追加し、余計に激しく燃やすも同じ。
自分をここまで吹き飛ばした異形、黒死牟が狙ったのも首輪だった故に嫌でも屈辱的な光景を思い出してしまう。
「うわっ!?」
素っ頓狂な声は両手へ急激な痺れが走ったせい。
首輪を狙ったハーメルケインをシュイムで弾き返され、衝撃が容赦なく伝わった。
バットで銅鑼を力いっぱい叩いたような感触。
見た目に違わず重い、それでいて大剣には不釣り合いな速さ。
まともに打ち合うのは悪手であると理解する前に、次から次へと刀身が叩きつけられる。
「ぐ…うぅ…!」
変身し上昇した動体視力と反射神経を総動員して、四方八方から迫るシュイムを防ぐ。
しかし一撃防ぐだけでも両手に負荷が掛かり、体力が削り取られる。
どうにか斬られるのを防いだと思った次の瞬間には、また別の方から剣を振るわれるのだ。
防いでいるだけでも息が切れる猛攻、耐え切れず武器を取り落とせばどうなるかは想像に難くない。
その内シュイムを完全には防ぎ切れず肩や脚を刃が撫で、痛みがワイズマンから集中力を奪っていく。
「貴様モだ小娘!!」
シュイムを片手持ちに変え、反対の掌をワイズマンとは別方向へ向ける。
デェムシュが狙うのは正面に居るワイズマン一人ではない。
さっきまでワイズマンと戦闘を行っていた桃もまた抹殺の対象。
燃やし尽くすべく掌から火球を発射。
敵が自分に手を向けた時点で何かされると察した桃、雷の時同様に飛び退いて回避。
避けたと安堵するには気が早過ぎる。
デェムシュの放つ火球は軌道を自由に操れるのだから。
自分を追尾する火球を逃げ回っているだけでは埒が明かないと対処法を変更。
ガシャコンブレイカーを振るって霧散させるとほぼ同時に悲鳴が聞こえた。
見るとワイズマンの周囲を赤い霧らしきものが動き回り、霧と接触する度に火花が散っている。
肉体を霧状に変化させ、一方的な攻撃を可能としたデェムシュに翻弄されるばかり。
何度目かの突撃で吹き飛ばされたワイズマンは偶然か意図したのか、桃の傍へ転がった。
(こっちに来る…!)
赤い霧は桃の頭上でデェムシュへと実体化。
真下目掛けてシュイムを振り落とし、鮮やかな桃色の頭髪を真っ赤に染めるつもりだ。
ガシャコンブレイカーを両手で構え来る衝撃に備える。
案の定上から衝撃が来た、金属同士を叩きつけた音で鼓膜にキリキリした痛みが発生するも無視。
というよりその程度の痛みに構っていられる余裕が無い。
武器を取り落とさないようにどっしりと構え、魔力をコントロールし両腕の筋力をより上昇させた。
それ程の対策をしたというのに、桁外れの重さで息が止まりかけたのだ。
「貧弱な力で耐エラレるト思ウナ猿め!」
「人間と、お猿さん…の、区別も付かないのかなっ、あなたは…!」
歯を食い縛り重みを掛けて来るシュイムを押し返そうと、両腕へ更に力を集中。
ほんの少しだけ刃の位置をズラした瞬間に、鍔迫り合いから逃れる。
動いた先では桃を塞ぐようにしてシュイムが妨害。
このまま動けば顔面がスライスされるのは確実、強引に体勢を変えて躱した。
無理な動きに筋肉が悲鳴を上げるのを押し殺し、ガシャコンブレイカーのボタンをタッチ。
ソードモードへの変形にはAボタンを使用したが、今押したのはBボタンの方だ。
見た目に変化は起きないがそれは当然、Bボタンは変形の為に使うのではない。
トリガーを引きながらガシャコンブレイカーを振るう。
難なくシュイムで防ぎデェムシュへは到達しない、その筈だったがデェムシュの肉体へはHITのエフェクトと共に斬撃が走ったではないか。
攻撃の命中を確信した桃は続けてBボタンを連打、トリガーを引きガシャコンブレイカーで斬り掛かる。
するとまたしてもシュイムで防いだ筈が、HITのエフェクトが発生した。
Bボタンは押した回数に応じてガシャコンブレイカーに連続攻撃の効果を付与する。
この機能を使って一度の防御では防げない数の攻撃を行った。
だがデェムシュへ攻撃を命中させた桃が浮かべる表情は険しさを増している。
確かに連続攻撃は当たった、されど敵へのダメージには全くなっていない。
「猿如きの脆イ剣ナド恐れルに足リヌ!」
バグスター相手には有効な武器も、オーバーロードを相手取るには力不足。
絶対的な事実を証明するかの如く咆えるデェムシュからは、今の斬撃が堪えた様子は毛先程も感じられなかった。
桃へ叩きつけるのは怒声だけでなく、殺意を存分に籠めたシュイムもだ。
ワイズマンのハーメルケイン相手に行っていた武器同士の打ち合いを取る訳にはいかない。
さっきの一撃を防いで十分に理解した、この相手と真っ向から剣をぶつけ合っては自分の腕がお釈迦になるのが先であると。
現役時代よりも筋力に磨きが掛かっている桃でさえ、デェムシュの膂力には戦慄を覚える。
よって取るべき選択は回避一択、身を屈めた桃の頭上を剣が通り過ぎた。
姿勢を低くしたままで斬り上げるが防御される。
ガシャコンブレイカー諸共桃の体を両断しかねない力で押さえ込まれ、横っ飛びに回避。
地面へシュイムが深い傷を付けたのを視界に入れ、瞬きの間にシュイムは桃の首を狙い急接近。
両腕を跳ね上げガシャコンブレイカーを翳す、首を落とされずに済んだものの不安定な体勢での防御では吹き飛ばされるのまでは防げない。
「――っの!!」
地面への激突を待たずして桃を仕留めるつもりだろう。
霧状化して桃の所へ一瞬で追いつき、実体化と同じタイミングでシュイムを振るった。
視界に赤いナニカが見えたその時点で桃は着地に気を遣う選択肢を捨てる。
地面に叩きつけられるより、赤い騎士の攻撃を許す方が格段にマズい。
体勢は不安定なまま、されど動かなければ間違いなく敵の刃の餌食となる。
反射的に片手でガシャコンブレイカーを振り回したおかげで、シュイムの一撃到達は阻む事が出来た。
尤も良い事ばかりとは言えず、ガシャコンブレイカーがあらぬ方向へ弾き飛ばされてしまう。
右腕がジンジンと痛むも構ってはいられず、落下する前に左拳を地面へ叩きつける。
自慢の筋力で殴った反動により桃は別方向へと飛んで行く。
丁度ガシャコンブレイカーが落ちた地点へ着地するとすかさず拾い上げ、上体を大きく捻った。
「ちょこマカ動き回ルシカ脳の無イ猿が…!」
「そっちこそ猿以外に言葉が思い付かないの?」
頬スレスレを突き進んだシュイムに背筋を冷たくしつつ、表情には出さず辛辣に返す。
あからさまに人間を見下す言動、僅かな時間で幾度も自分に冷汗を流させる力。
人とまぞくがゆるい関係を保つ多魔市には100%相容れない怪物だ。
こんな奴がもしシャミ子達と遭遇したらどうなるか、起こり得る最悪の事態に心臓が凍り付きそうになった。
相手の戦慄などデェムシュには知った事では無く、相も変らぬ怒りが暴風の如く吹き荒れている。
ワイズマンも桃も剣を振るってはいるが、デェムシュから見ればお遊戯も良いところだ。
最年少ながら折神家親衛隊に席を置く結芽、百年以上に渡り十二鬼月の頂点に君臨した黒死牟。
少なくとも剣術という点ならば、自分に傷を付けた忌々しい猿どもの方が桃達よりも遥かに上だった。
力任せに武器を振るうしか能の無い輩など、本当だったらとっくに原型を留めぬくらいに切り刻んでやっていた筈だというのに。
現実には未だ仕留められていないという事実がデェムシュのプライドを刺激する。
怒りで体を動かしてはいても、連戦よる影響は間違いなく蓄積しているのだ。
故にデェムシュ自身の意思とは裏腹に力も速さも鈍り、人間達を死へ追いやる刃はあと一歩の所で躱され続ける。
疲弊して尚もこれだけの強さを発揮するだけでも、相当ではあるが。
『チェイン・ナウ』
「ヌぅッ!?」
「うっ!?」
睨み合う両者が再度ぶつかり合うのは時間の問題。
そこへ割って入ったのはワイズマンの魔法。
魔力で構成された鎖が巻き付き、モモとデェムシュは動きを封じられる。
「なんで僕にめんどくさいことばっかりさせるのかな?」
ダメージから復帰したワイズマンは桃達の意識が自分から外れたこの機に拘束魔法を発動。
強制的に身動きを止め、纏めて蹴散らそうと別の指輪を取り出す。
余計な手間を掛けさせられた事もあり、既に桃を拷問して殺す考えは消え失せていた。
好みの男ならばともかく所詮は女、性欲解消の捌け口には使えない。
爆発魔法で消し飛ばすべくドライバーへ手を伸ばす。
「こレデ俺を封じ込メタツもりか!」
人間如きが自らを縛り付けるなどデェムシュは認めない。
肉体を赤い霧状に変化させ拘束から脱する。
変化はそれだけに留まらない、霧状のまま回転し赤い竜巻を発生。
未だ拘束されたままの桃と、魔法の発動直前だったワイズマンを吹き飛ばした。
それぞれから上がる悲鳴を猿には似合いの声と聞きながら、実体化しシュイムを構え直す。
「猿がツマラん小細工を重ねたとコロデ無駄ダ!」
「……猿?猿ってどういう意味?僕が猿みたいだってこと?僕のことバカにしてるの?…僕がバカ?僕はバカなの?バカじゃない!僕はバカじゃない!!」
デェムシュの嘲笑が異様に響いたのか、ブツブツと呟きながらワイズマンは立ち上がる。
先程までの苛立った様子よりも更に余裕を失くした声色で否定の言葉を叫んだ。
レイプしようとした相手が頑なに服を脱がなかっただけで、バカにされていると勘違いするくらいにはMNRは思い込みが激しい。
ホモ特有の短気だってハッキリ分かんだね。
自らの言葉だけでは否定が足りないとでも感じたのか、直接的な手に出た。
『イエス!キックストライク!エクステンド!』
「あああああああああああああああああああああ!!僕はバカじゃないんだああああああああああっ!!!」
起動させたドライバーに指輪を翳し、最大威力の技で自分を嘲笑した相手を消し去る気だ。
右足に魔力を集束させながら駆け出すと、デェムシュを標的に跳び蹴りを放つ。
黄金色の魔法陣が展開し破壊力を最大限に高め、魔力の光がデェムシュを照らす。
「グォオオオオオオオッ!?」
ワイズマンの靴底が胴体に叩き込まれデェムシュは苦悶の声を叫ぶ。
インフィニティスタイルのウィザードと同等の威力の技を受けてしまえば、オーバーロードであっても無事では済まない。
しかしデェムシュは二本足をどっしりと地に着け意地で耐える。
もうこれ以上人間相手に分様を晒して堪るかと、己のプライドに懸けて押し返さんとした。
が、それでもやはりここまでに負った傷に足を引っ張られるのは避けられない。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!?!」
足が地面から離れてしまえば、そこからはあっという間だ。
大きく蹴り飛ばされ数回地面をバウンドしても終わりでは無い。
ワイズマンの足底から魔力が流れ込んだ魔力が暴れ回り、デェムシュの肉体を破壊へ導かんとする。
待ち受ける末路は沢芽市のアーマードライダー達に葬られたインベスと同じ、塵一つ残す事のない爆散。
そのような最期は認められるかという抵抗も空しく、強靭な外骨格に亀裂が走るのが止まらない。
「はぁ…はぁ…どうだ…僕をバカにするからだ……」
肩で息をしながらも勝ち誇るワイズマンは、デェムシュから視線を外しもう一人の方へ近寄る。
あの様子では放って置いても死ぬのは時間の問題。
それなら気を回さなくても問題無いと判断し、もう一度拘束の魔法を使う。
『チェイン・ナウ』
「うぁ…!?」
「逃げて良いなんて誰も言ってないよ?」
魔力をコントロールし腕力で鎖を破壊する試みは、より強固に巻き付いた鎖に封じられた。
歯噛みする桃を見下ろしハーメルケインを突き付ける。
首筋から胸へゆっくり下ろしていき、下腹部へ到達。
ピンクのスカートとその下のショーツに隠された部分へ狙いを定め、穂先で焦らすようになぞり回す。
「あのお姉さんと同じにしてあげるよ。おっぱいも抉ってあげるから、もう赤ちゃん作れなくなっちゃうね」
「こ、の…!」
羞恥と嫌悪に顔を赤くしながら睨みつけても効果はない。
さっきは嬲るのを止めにしたのに結局するのか(困惑)とお思いの兄貴達もいるだろう。
精神的にちょっと余裕が出て来たから考え直すのもま、多少はね?(二度目)。
照と同じ、地獄をたっぷり味合わせた上で殺す。
その為にまずは邪魔な衣服を引き裂こうと、フレッシュピーチの衣装に穂先を引っ掛け――
「ヌゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」
真っ赤な光が彼らの視界を覆い尽くした。
◆
猿と見下す人間に首輪を填められ、一方的に命令された。
そればかりか殴り飛ばされ、斬り裂かれ、死の淵に追いやられた。
ヘルヘイムの侵略を生き延び長き時間が経ったが、これ程までに屈辱を味わったのはデェムシュも初めて。
余りに巨大すぎる怒りを抱いたが為か、一周回って自身の現状をどこか冷静に見ている。
死ぬ。このまま何もしなければ、いや何かをしたとしても間違いなく死ぬ。
現に今だって肉体の崩壊へ必死に抗い、自分の体内で暴れ狂う魔力を鎮めようとしている真っ最中。
なのに肉体は消滅への道を順調に下り続け、外骨格に生まれた亀裂も数を増すばかり。
刻一刻と死のタイムリミットが迫る中、ふと思い出したのは進化体になった瞬間の記憶。
噛み付くだけで取るに足らない猿と見なしたアーマードライダー・バロン、駆紋戒斗。
それがゲネシスドライバーを手に入れ、新たな姿になったバロンへ土を付けられた。
自分自身を壊しかねない怒りと屈辱に苛まれながら、手にしたのは自分達の力の源。
フェムシンムを今の肉体へと変えた、ヘルヘイムの果実。
アレをひたすらに食らい、貪り、そうしてデェムシュは更なる進化を果たした。
人間達にとっては化け物に代わる悪夢の果実でも、オーバーロードにとっては糧。
ならば今生き延びる方法はたった一つ、あの時と同じ事をする。
より強い自分となり死を乗り越えるのだ。
神を騙る人間から与えられた最後の道具を取り出し、躊躇なく噛み砕いた。
果実とは違う感触だろうと構うものか。
咀嚼し飲み込むと瞬く間にデェムシュの内へとエネルギーが行き渡る。
圧倒的な熱さ、ともすればそれまで己を痛めつけていた魔力にも匹敵する程。
耐え切れず死に至らしかねない力を、デェムシュは己の意思一つで捻じ伏せる。
死を恐れているのではない、無様に敗北したままで終わるのが許せないのだと。
内側から食い破らんとするエネルギーを、己が支配下に置く。
極アームズの力を手にした葛葉紘汰に敗北、正史での結末はそう。
だが運命の悪戯か、真紅のオーバーロードは神の支配する盤上にて新たな進化を果たした。
○
「漲ル…力が漲るゾォオオオオオッ!!!」
血よりも濃い赤い光が晴れた後、桃とワイズマンの前にソレが堂々と姿を現わす。
四肢はより太くはち切れんばかりに盛り上がり、全身を覆う外骨格は更に分厚く頑強な形へと変化している。
ワイズマンの蹴りで生まれた亀裂はおろか、幾つも刻み付けられた傷すらどこにも見当たらない。
黄色から爛々と輝く真紅に変わった瞳で呆気に取られる人間達を睥睨した。
「う、うわ――」
慌てて我に返りハーメルケインを構え、ワイズマンが桃の視界から消えたのはその直後だ。
何が起きたのか理解が追い付かない桃。
答えを明かせば至極単純、ワイズマンの反応できないレベルの速度で迫りシュイムを叩きつけた。
ロクに防御も取れないまま斬り飛ばされたワイズマンを、赤い霧状に変化し追跡。
あっという間に追い抜き、実体化し再度シュイムを叩きつければまた別方向へと吹き飛んで行く。
「ノロイ!のろ過ギルわ!」
シュイムを持った右手は天に掲げ、左手はワイズマンへ向ける。
主霊石から力を引き出し大量の氷柱を展開。
制御を考えていない為デェムシュ自身も凍り付くが、今となっては些細なこと。
少しばかり体を揺らすだけで氷が剥がれ落ちるのだから、まるで問題にならない。
号令の如くシュイムを振り下ろし氷柱を一斉に発射。
同じタイミングで左手から火球を連射した。
「う…うわ…うわあああああああああ!!!」
『エクスプロージョン・ナウ』
半狂乱でワイズマンも魔法を使う。
高火力且つ広範囲を巻き込める爆発魔法の指輪をドライバーに翳し、掌を向けた。
魔法陣が展開され薙ぎ払うように右腕を動かせば、氷柱も火球も爆発に飲み込まれていく。
凌ぎ切ったと、そう安堵した己の迂闊さを呪う暇すらない。
デェムシュが生み出した氷柱は正面のみならず、ワイズマンの頭上と背後からも無数に展開、射出されたのだ。
右手をやったらめったらに振り回して近付く氷柱を片っ端から排除。
ようやく氷柱の脅威が去ったと思いきや、悪夢はまだ続いていた。
「え、な、そ、そんな…」
氷の欠片と爆風が晴れ、ワイズマンが目にしたのは四方八方から襲い来る火球。
デェムシュ本来の能力である火球は主霊石で生み出した氷柱よりも、細かい遠隔操作が可能なのだ。
テレポートの指輪は制限によりまだ使えない、こうなったらもう一度爆発を起こそうとするがそれも不可能。
主霊石の力は氷柱を生み出す以外にもあり、デェムシュは地面を凍らせ真っ直ぐワイズマンの元へと到達。
足元から冷気に侵食され胸から下を凍結されてしまう。
ハーメルケインで砕こうにも手にした腕ごと凍っている。
変身した身体能力を駆使すれば強引に氷を砕き、凍結から抜け出せるが僅かなりとも身動きを封じられたのは事実。
悠長に氷を砕くまで待ってやるような相手では無く、ワイズマンへ火球が一斉に着弾した。
「あああああ…!熱い熱い!熱いよぉ…!」
回避は勿論、防御すらも取れない無防備な身が焼かれる。
魔法衣やマントに耐火性の効果もあるのか火達磨にはならないが、ダメージゼロで凌げる程甘い攻撃でもない。
火球をぶつけられた事で氷も溶け、動きを取ろ戻せはした。
尤も苦痛を訴え倒れ込むワイズマンには何の慰めにもならないが。
「熱い…熱いよ……」
照を嬲っていた時とは別人のように弱々しい態度を見せる。
6人の少年を殺害し彼らの死体と性交した鬼畜であるMNRは攻めこそ強いものの、受けに回ると一転して弱くなるようだ。
どっかのデカ乳首マゾ筋肉とは違うらしい。
SってことはMってことなんじゃないかな?(矛盾)。
「ふン!やハり所詮は猿カ」
頭上から掛けられた侮蔑を隠そうともしない言葉。
ビクリと震えながら見上げると、案の定デェムシュが見下ろしている。
猛烈な危機感に急かされハーメルケインを手に立ち上がろうと動くも遅い。
逆手持ちにしたシュイムが突き立てられた。
「うげっ!?ぎゃっ!あがっ!ごげぇっ!」
変身している為刃は貫通しないが、MNRにとってそれは救いでは無い。
半端に耐えられているせいで即死出来ず、却って苦痛が長続きするだけ。
シュイムを突き立てる度に散らされる火花は、正に血の代わりだろう。
常人ならば聞くに堪えない悲鳴が絶えず上がってもデェムシュはお構いなしだ。
鬱憤を晴らすが如く様で散々に傷め付ける。
「散レいッ!」
「うばぁっ!?」
地面諸共掬い上げるようにしてシュイムで斬り上げる。
体を宙へ浮かばせたワイズマンからは火花が散り、夜明け前の暗闇を照らす。
デェムシュが立っている地点から大きく離れた位置へ落下。
変身が解除され傷だらけの少年の姿が露わになった。
「あ…あ……」
ワイズマンへ変身していても全てのダメージは防げなかったのだろう。
白いシャツには所々に赤い染みが付着している。
小さな呻き声を口の端から血と共に垂れ流す。
これでもまだ息があるのは、淫夢ファミリーであるが故か。
生きているだけで到底無事とは言い難いが。
「ふハハハははッ!!気分ガ良イ!こレコソが俺ノ新タな力だ!!」
高揚感を抑え切れずにデェムシュは高笑う。
何故彼が急速にこれ程までの力を得るに至ったのか。
デェムシュが喰らった三つ目の支給品の正体、それは彼らオーバーロードや敵対するアーマードライダーに縁の深いアイテムである。
偶然にもデェムシュと同じ真紅色をしたクリアパーツの錠前。
沢芽市の人間ならば大多数が即座に正体へ行き付くだろうソレはロックシード。
アーマードライダー達がドライバーと共に変身に用いる必要不可欠のツール。
しかもこれは次世代型の変身ベルトであるゲネシスドライバーに装填する、エナジーロックシードだ。
戦極ドライバーを使うアーマードライダー達よりも高スペックの能力を有する。
とはいえアーマードライダーへの変身にはドライバーも必要であり、ロックシード単体では変身不可能。
仮にドライバーがあったとしても、素でアーマードライダーを超える能力を有するデェムシュには不要でしかない。
ここで重要なのは、ロックシードとは戦極ドライバーを装着した人間がヘルヘイムの果実を採取する事で変異させた物。
つまり形は変わろうと元々ヘルヘイムの果実である為、実の内包するエネルギーは変わらないという事になる。
何よりも、デェムシュが喰らったロックシードの名はドラゴンフルーツエナジーロックシード。
嘗て、メガヘクスにより再現された戦極凌馬がアーマードライダーデュークの強化形態に変身した際に使ったのと同名のロックシードだ。
しかしデェムシュに支給されたのはまだ戦極凌馬が生存していた頃、彼自らの手で開発したプロトタイプの方。
戒斗と瓜二つの青年、シャプールを巡って起きた事件の際に、彼の命を狙う執事のアルフレッドへゲネシスドライバーと共に渡された。
アーマードライダータイラントへ変身し戒斗と死闘を繰り広げたが、アルフレッド自身にも予想外の事態が発生。
何とプロトタイプ故にロックシードが暴走し、彼はオーバーロードインベスに変貌してしまったのだ。
人間からオーバーロードへ至ったのは紘汰や戒斗と同じであっても、アルフレッドは自我を完全に消失し暴れ回る獣と変わらない。
最終的には禁断のリンゴロックシードを使った戒斗に撃破されたのだが、詳細は割愛する。
人間が変身に使用するには危険過ぎるロックシードでも、デェムシュには好都合。
ヘルヘイムの果実を食しインベスと化した者は、角居裕也や初瀬亮二など複数人存在した。
だがたとえ自我を失った状態だとしても一気にオーバーロードクラスへと変えた事から、ドラゴンフルーツエナジーロックシードがどれだけ強力なエネルギーを内包しているかが分かるだろう。
元が人間のアルフレッドはともかく、デェムシュにとって肉体の変貌による暴走とは既に乗り越えた試練。
ならば恐れるに足りず、自らの糧とし見事に進化を果たしたのだ。
「……っ!」
そういった詳しい事情を何一つ知らない桃が分かるのは、ただでさえ厄介な相手が危険度を一層増したという一点。
力を増す前の時点で既に苦戦していたのなら、もうこうなっては勝ち目を見出すのは不可能に近い。
相応の力があったワイズマンを一方的に叩きのめす姿へ戦慄を覚え、ポセイドン相手にも抱いた恐怖心がぶり返す。
焦る心のままに魔力で身体能力を上げ、巻き付いた鎖を粉砕。
ガシャコンブレイカーを拾い上げ、途端に己の内から声が聞こえる。
また逃げるのか、あんな連中を放って逃げ出すのかと。
そんな事を言っても無理だと言い聞かせるも、僅かながら硬直してしまう。
その僅かな時でさえ、この場では命とりになる。
「あぁっ!うっ!うぁっ…!」
赤い霧状となったデェムシュが桃の周囲を旋回する。
こちらの攻撃は当たらないのに、向こうは一方的に傷め付けるのが可能。
霧と接触する度に骨が軋む痛みが襲い、片桐との戦闘で負った傷に響く。
血反吐を吐きながら仰向けに倒れ、立ち上がろうとしても無意味でしかない。
「ああああああああああああっ!!!」
腹部に乗せられたデェムシュの太い脚が、無駄な足掻きすらも封じる。
上から掛かる重みに体が悲鳴を上げ、耐え切れずに絶叫が口から飛び出した。
ぐりぐりと足を動かされれば、内臓が磨り潰されるような錯覚に陥る。
口からは血を、目からは涙を流す少女を見下ろすデェムシュは愉快でたまらないとばかりに笑う。
「ハハハハハハハ!そウだ!こレゾ猿に相応シイ姿よ!」
無様で、みっともなく泣き喚き、惨めに死に絶える。
それこそ人間のあるべき姿、小癪な抵抗などは認めぬと右腕にシュイムを突き刺す。
「う゛あ゛っ!?」
痛みで反射的にガシャコンブレイカーを手放した。
それだけでは物足りないのかシュイムを持つ手を軽く動かすと傷口が抉られ、悲鳴はより大きなものとなる。
足をバタつかせるのを鬱陶しく感じ、今度は左脚へ突き刺す。
刺して終わりではなく、腹を踏みつけたまま屈むと掛かる重さが増し苦しさに意識が遠のきかけた。
だがデェムシュは気絶を許したつもりは無い。
脚に刺さったままのシュイムを動かし、傷口を掻き回す。
「っ゛!?ぎっ、や゛、あ゛あああああっ!!」
普段は人前で大きな声を出さないのに、こうやって叫んでいる。
今の自分へ苦笑いする余裕がある筈も無く、少しでも激痛を誤魔化そうと声を張り上げるも大して効果は無い。
これまで複数人の猿に傷を負わされた事への憂さ晴らし。
その対象へ運悪く選ばれた桃は、ピンク色の衣装を己の血で赤く染めていく。
「はーっ…はーっ……」
叫び過ぎ枯れた喉で深呼吸をする。
見上げれば真紅の瞳が自分を射抜き、嬲るのに飽きたのか剣を振り被る騎士の姿があった。
金髪の偉丈夫を前にした時と同じ諦めが、再び桃の心を侵食する。
死ぬ、もう逃げられない。
でもこのままいつまでも苦痛を与えられるよりならば、一思いに殺された方がマシなのではないか。
そんな風に死を受け入れる一方で、まだ死にたくないと拒否を露わにする自分もいた。
シャミ子に会えていない、良子やミカン、小倉だってどこかで生きているなら死ぬ訳にはいかない。
でも生きてどうするのだろうか。
真紅の騎士や金髪の偉丈夫のような怪物がごろごろいる殺し合いの打破なんて、最初から不可能。
だったらシャミ子と無事に会えても、そこから生きて帰れるのは無理なんじゃないのか。
諦めと抵抗、二つの相反する感情が渦巻くもデェムシュには無関係。
猿の死体を生み出すべく愛剣を振り下ろす。
赤く染まった刀身が迫るのがやけにゆっくりに見える。
激痛によるものとは違う理由で涙が零れ落ちた。
誰よりも優しいまぞくの少女に、二度と会えない。
彼女が笑っていられる、小さな街角にはもう帰れない。
千代田桃の抱いた願いが、力によって踏み潰される。
誰にとっても悲劇であり、神にとっては喜劇である。
ゲームにおいては特筆すべき事の無い、ありふれた末路。
それを否定するのは、デェムシュへ放たれた無数の槍。
「なニっ!?」
一本や二本どころではない数が殺意をギラつかせ殺到する。
常人ならば抵抗は無意味、歪な針の山が一つ完成するだけだ。
が、予期せぬ攻撃に面食らったものの復帰もまた一瞬。
シュイムを豪快に振り回し一本残らず斬り落とす。
広範囲の攻撃など既に見飽きていた。
「おノレ!まタ別ノ猿か!?」
ようやく一人殺せるというタイミングで邪魔をするとは。
何故どいつもこいつも苛立たせる真似をするのか。
解消されつつあったストレスが、乱入者のせいでまたしても増加。
一体全体今度はどいつが割って入ったのかと、憤慨するデェムシュは見た。
「ヌッ!?」
青い衣装を纏った女が槍を片手に迫り来るのを。
手足を生やし疾走する棺桶に乗っているのは何の冗談か。
アーマードライダー達が乗る玩具(ロックビークル)では無いようだが、そこはどうでもいい。
「目障りナ猿メ!」
馬鹿正直に突っ込んで来る女目掛け、主霊石の力で生み出した氷柱を射出。
標的にされた女…やちよは慌てずに同じ数だけ槍を展開し同じく射出、氷柱を破壊した。
氷の欠片が猛吹雪のように視界を塞ぐ中を、棺桶に乗ったまま突っ切る。
手に持った槍を回転させ力技で視界を遮るものを振り払う。
鮮明となった敵の姿を見据え飛び降り、足元に魔法で水流を発生。
加速した勢いを殺さずに槍を突き出すが、これをデェムシュは羽虫の如き鬱陶しさと言わんばかりに弾く。
今の攻防のみで相手の膂力の異常とも言える高さを理解、真正面からの打ち合いは避けるべきとの判断を下す。
視線はデェムシュを捉えたまま、片手で地面に横たわる少女を抱える。
やちよへの対処に気を取られたのだろう、踏みつけていた足はどかされていた。
首を狙った刃は水流で加速させ回避、それでも鼻の僅か数ミリ先を通過したのには肝を冷やしたが。
「来て!」
元々の主である吸血鬼では無いが、支給された人物に従うよう細工でもされているのか。
やちよの声に応じ走り寄って来た棺桶の背に、桃を乗せる。
されるがままで困惑している様子の彼女は後回しだ、気を抜けばやちよと言えども一瞬で殺されかねない。
「はぁぁあああああああっ!!」
祈りを捧げるのにも似た動作で魔力を籠め、一気に解き放つ。
放たれるは魔法少女の大技、楽園の王と彼に付き従う悪童と一戦交えた際に放ったマギア。
「逃がさない!」
魔力により生成されたのは複数本の槍。
一本一本に十分な魔力を籠め破壊力を高められている。
やちよが手に持つ槍を投擲すると、後を追うように射出。
先端が狙いを付けるのは全て真紅のオーバーロード。
数こそ先程よりも少ないとはいえ、威力は間違いなくこちらの方が上だ。
「ソレがドウしたァッ!!!」
自分を貫き殺さんとする槍を前にしても、デェムシュに逃げるつもりは無い。
マントを翻し構えたシュイムへ宿らせるのは、真っ向から迎え撃つ意思ただ一つ。
進化体以上の巨漢と化した外見からは予想も付かない速さで剣を振るう。
威力も強度も高めた槍、それを上回るパワーで片っ端からへし折った。
一本すらもデェムシュの体へ掠りもせずに防がれたが、やちよの攻撃はまだ終わっていない。
「やぁっ!!!」
投擲したのとは別に生成した槍を構え、デェムシュへ一直線に突撃。
アーマードライダー二人の抵抗を真正面から打ち破った、最速の一撃だ。
爆発的な加速でアスファルトが捲れ上がる。
だが此度の敵はアーマードライダー以上に危険なオーバーロードインベス。
やちよが放つ渾身の槍すらも小癪な悪足掻きに過ぎない。
「鬱陶シいワァっ!」
どれだけ速かろうが関係無い。
両手で構えたシュイムを振り下ろし、槍諸共やちよを斬り裂くだけだ。
槍とシュイムが激突するも拮抗は長く続かない。
穂先が砕け散り、柄が断たれ、刃が自身の肉体へ到達する前に手放し頭を下げる。
水魔法を使い再度敏捷力を強化、体勢を低くした状態から地面を転がり距離を取った。
逃がしはしないと突き出されるシュイム、だがその切っ先から伝わる手応えは柔肉を貫いたのとは別物。
「行って!」
棺桶に飛び乗りやちよは撤退を命令する。
串刺しにされるどころか五体満足な彼女の手には、何時の間にやら派手なピンク色の剣が。
地面を転がりデェムシュから離れる時、桃が落としたガシャコンブレイカーを拾っていたのだ。
シュイムが突き出された際にはガシャコンブレイカーのハンマー部分を叩き付けた。
超高圧の衝撃波を放ちバグスターウイルスを分解・無効化する機能も、デェムシュの愛剣の破壊には至らない。
そればかりかシュイムの勢いに押し負け吹き飛ばされたが、やちよには好都合。
空中で受け身を取り、丁度落下地点で待機していた棺桶の上に着地して事なきを得たのである。
やちよから命令を受けた棺桶は全速力で駆け出す。
その速さたるや自動車や野生動物にも引けは取らない。
「逃ガサん!」
体を霧に変化させ追跡しようとするデェムシュだが、それは叶わない。
頭上から大量の槍が降り注ぎ、周囲の地面が破壊されていく。
デェムシュ本人には全て斬り捨てられ、一本も命中していない。
これで倒せるとはやちよも思っていない、地面の破壊でデェムシュの視界を一時でも塞ぎ、足を止めさせれば上出来なのだから。
「マタか猿どモめ…!」
視界が晴れた時には既に走る棺桶はどこにも見当たらない。
やちよの目論見は見事成功し、城之内と結芽の時と同じく逃走を許す始末。
忌々し気な声はもう、やちよ達には届かなかった。
◆◆◆
背後を見ても追って来ないと分かり、やちよは緊張を解く。
パラダイスキング達との戦闘後、いろはの捜索を続けている最中に殺されかかっている少女を発見。
介入し救出したのだが、剣を振り被っていた騎士を遠目に見ただけでも悪寒が走った。
アレは魔女やウワサの比では無いくらいに危険、経験豊富な魔法少女複数人でも苦戦は免れない。
下手をすれば全滅も有り得る怪物だと、場数を踏んで来たからこその直感が告げたのである。
優先すべきは少女を連れての迅速な撤退。
最初からそう決め行動に移したものの、いざ直接アレとぶつかった時にはヒヤヒヤしたものだ。
顔には出さなかったが緊張の汗が衣装の下を滴り落ちた。
今は逃げ切れたとはいえ、同じ島にいる以上はこの先再び遭遇する可能性もゼロとは言い切れない。
頭の痛い問題が一つ増えたが、今は取り敢えず少女を助けられた事を喜ぶべきだろう。
いろはのように優しくなれないと思ってはいるが、見殺しにする程落ちぶれたつもりもない。
「あら…?」
やけに静かだなとふと疑問に思ったが、少女を見て納得する。
横たわった彼女の双眸は閉じられ、やちよの顔も変わる周囲の景色も目に映しはしない。
心身共に限界を迎え意識を手放したのだろう。
顔色はお世辞にも良いとは言えず、真紅の騎士に痛め付けられた思われる箇所からの出血が痛々しい。
「仕方ないか…」
少し考え込み、ややあってやちよは自身のデイパックから支給品を取り出す。
参加者共通の飲み水とは違う、色鮮やかな液体が入った瓶。
棺桶に少し速度を落とすよう頼むと、瓶の蓋を開けむせないように飲ませてやる。
こくりこくりと喉が鳴り、全て飲ませ終えると濡れた薄桃色の唇を指で拭う。
すると不思議な事に、じわじわとだが少女の傷が塞がり始めた。
同封された説明書によれば、飲むと少しずつ体力が回復されるジュースらしい。
ゲームの世界のアイテムのような代物だが、黎斗にしてみれば殺し合いもゲームなのだからこういった道具を用意したのだろうか。
貴重な回復手段を使ってしまったが、ここで出し渋って少女が手遅れになるよりはマシだ。
逃げたは良いもののこれから何処へ行くかを考えねばなるまい。
少女を休ませられる場所を目指し、目を覚ますのを待つか。
時間を考えれば東方面の探索を打ち切って、戦兎達との合流地点に行くべきかもしれない。
「シャミ子……」
「……」
眠りに落ちた魔法少女は夢を見ているのか、弱々しい声色で探し人の名を呟く。
切な想いで零れ落ちた声を拾ったもう一人の魔法少女は、沈黙を貫きただ前を見据えていた。
【D-5 市街地/一日目/早朝】
【七海やちよ@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、魔力消費(小)、精神疲労(小)、魔法少女に変身中、棺桶に乗って移動中
[装備]:環いろはの写真@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)、アーカードの棺桶@HELLSING、ガシャコンブレイカー@仮面ライダーエグゼイド
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード×1@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)、ランダム支給品×0〜1(確認済み、グリーフシードは無い)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。
1:少女(桃)を休ませる場所に行くか、桐生さん達との合流地点に行くか…。
2:いろはに会いたい。
3:マギウスの魔法少女達を警戒。一応フェリシアも。
4:さっきの二人組(パラダイスキング、タラオ)にも警戒しておく。
5:桐生さんはともかくエボルトは信用できない。
6:ドッペルの使用は控えた方が良いとは思うけど…。
7:代わりの服を見付けるまでは変身を解けないわね…。
[備考]
※参戦時期はセカンドシーズン2話で黒江と遭遇する前。
【千代田桃@まちカドまぞく】
[状態]:疲労(大)、精神疲労(大)、全身にダメージ(中)、左手に裂傷(処置済み)、内臓損傷(大)、額と腹に幾つか殴られた痕、右腕と左脚に深い刺し傷、まどかを守れなかった・永夢を見殺しにした悔しさ、ポセイドンやデェムシュへの恐怖、気絶中、棺桶に乗って移動中、ミックスジュースの効果でじわじわと回復中
[装備]:ハートフルピーチモーフィングステッキ@まちカドまぞく、
[道具]:基本支給品x2、ゲーマドライバー(破損)+マイティアクションXガシャット+マキシマムマイティXガシャット@仮面ライダーエグゼイド
[思考・状況]基本方針:私が守りたい街角の人達を最優先で探す。その後……
0:……。
1:まどかちゃん、永夢さん......。
2:シャミ子、良ちゃんとの合流を最優先。....もし、清子さんのことを聞かれたら.....
[備考]
※参戦時期は2度目の闇堕ち(アニメ2期8話、原作45丁目)以降です
※ゲーマドライバーは片桐によって基盤が出て大きな傷が付いているぐらいに傷つけられており、修復しない限りドライバーを使っての変身はできません。
◆◆◆
百式照の死体が放置された大岩から少し離れた場所。
もぞもぞと芋虫のように蠢く者が一人。
傷の痛みに呻きながら地面を這い、出来るだけ遠くへ逃げようとする少年。
「お父さん……お父さんやめて……」
MNRはここにいない父への恐怖に苛まれていた。
自分の心を壊した、実の父親からの性的虐待。
照の言葉が幼き日のトラウマを蘇らせ、極めつけはデェムシュによって与えられた痛み。
最早MNRの頭からは好みの男との性交など抜け落ちている。
望むのはたった一つ、自分を脅かす者、自分に苦痛を与える者、自分を殺そうとする全てからの逃走。
この島に彼の父親は存在しない。
彼を凌辱し、弄び、生まれた意味を否定する血の繋がった男は何処にもいないのだ。
しかし過去の恐怖に蝕まれるMNRには、自分へ害を為す参加者全てが父親に見えていた。
「フん、ソこニイタか」
それは真紅のオーバーロードであっても同じ。
「ひっ…オトーサン…オトーサンいやだ……」
血のような色をした巨体の威圧感に、変身する気力すら湧かない。
恐怖で蹲る姿は虐待を受ける悶絶少年にも似ていた。
ガタガタと震えながら頻りに父の名を口にするMNRを、デェムシュは真紅の瞳に侮蔑を宿し見下ろす。
抵抗する猿も苛立ちの対象だが、このように心が壊れた脆弱な猿へは嘲笑するどころか呆れの方が先に来る。
アーマードライダーのような装備を持っているが、精神面では雑魚も良い所か。
所詮は猿と下に見るのは変わらないものの、結芽やいろはのような小娘の方が遥かにマシな気さえする程だ。
下等な猿らしいと言えば猿らしい無様さを目の当たりにしたからか、やちよと桃に逃げられた怒りも多少は治まり頭が冷えた。
冷静さを取り戻したデェムシュはここでふと、殺す以外の選択肢を考える。
猿に負けるくらいならばと主霊石やロックシードを使った事に今更後悔は抱かないし、それこそ惨めに敗北するよりかは使えるものは全て使うべき。
その対象は参加者にそれぞれ支給された道具のみならず、参加者自身も加えてはどうだろうか。
無論、人間と協力し参加者を殲滅するという事ではない。
フェムシンムの同胞から共闘を持ちかけられたのなら考えない事も無いが、猿如きがオーバーロードと肩を並べるなど烏滸がましいにも程がある。
協力ではなく利用、猿の命を道具として使ってやると言った方が正しい。
それに思い浮かべるのはゲームに参加させられてからの戦い。
一度目はアーマードライダーらしき男へ追撃を仕掛けるタイミングで、人形を操る少年に邪魔をされた。
二度目は生意気な小娘の後ろで小僧が小細工を弄し、自分の身へ刃が届かされた。
三度目は怪鳥を従える小娘が悉く妨害と援護に動き、六眼の剣士が繰り出す斬撃で吹き飛ばされた。
いずれの戦闘も二対一、片方が目障りな真似ばかりをしたせいで余計な傷を負う羽目になったのではないか。
であるならこちらも道具として猿を一人使う手は、そう悪いものではないのかもしれない。
単独行動を好む自分にとって同行者など不要でしかないが、道具として従えるのなら別だ。
となるとまずは少年を話が聞ける状態にせねばなるまい。
その為の方法は至ってシンプル。
恐怖に怯えているのなら、更なる恐怖と痛みで無理やりに意識を引き戻せばいい。
蹲ったままのMNRはデェムシュが手を伸ばした事に気付かず、次の瞬間激痛に叫んだ。
「ぎゃああああああああああああああああああああっ!!!??!」
顔の横を両手で抑えのたうち回る。
掌の隙間からは赤い雫が涙のように零れ落ちた。
本来そこにある筈の器官、音を聞き取る大事な部位が消失している。
「俺ノ話も聞けヌヨウなラ、コレはいらンだロウ?」
引き千切ったMNRの左耳を放り投げ、胸倉を掴んで引き寄せる。
目と鼻の先の距離で真紅の瞳に射抜かれると、悲鳴も引っ込み歯がカチカチ打ち鳴らされた。
「良く聞ケ猿よ!こノ俺に使ワレるか、それトモ今すぐココデ死ぬカ!貴様が選ブのはナンダ!?」
「あ、ぼ、僕は…オトーサンやめて……」
「さッサト答えロ猿ガ!!」
間近で凄まれMNRの恐怖は頂点に達した。
記憶の中の父へのトラウマに逃げ幼児退行しようにも、叩きつけられるプレッシャーが現実逃避を許しはしない。
服従か死か。
デェムシュが望む答えは二つに一つ。
それ以外は求めておらず、仮に口にしたらもう片方の耳も引き千切られそうである。
痛みと恐怖がMNRから抵抗という選択肢を完全に消し去り、とうとう彼の精神は屈する事を選んだ。
「い、言うこと聞くよ……だからもうやめて……」
言い終わるや否や解放され尻もちを付く。
殺されずに済んだと素直に喜べるような精神状態ではない。
痛いのは嫌だ、このままデェムシュと一緒にいてはもっと痛い目に遭わされる。
けれど逃げ出す勇気も無い。
「オトーサン……僕は……」
「黙ッテ歩け」
ブツブツ呟くMNRを一睨みで黙らせ、デェムシュは今後の動きを考える。
道具を手に入れ、自分は新たな進化を果たした。
だがこれまでに負った傷こそ消え去ったが、蓄積した疲労は健在。
癪ではあるがいい加減に休む必要がある。
ある程度疲れを癒したら、今度こそ猿どもを一人残らず滅ぼしに動くのだ。
デェムシュは執念深い。
受けた屈辱は決して忘れず、相手を己の手で殺すまで彼の怒りが完全に消え去る事は無い。
心壊れた殺人鬼を従え、真紅の騎士は一時の休息に入る。
無数の人間達の屍を積み重ねるその時を、今か今かと待ち侘びながら。
【C-5とD-5の境界/一日目/早朝】
【デェムシュ@仮面ライダー鎧武】
[状態]:疲労(絶大)、怒りと屈辱(多少緩和)、高揚感
[装備]:両手剣シュイム@仮面ライダー鎧武、水の主霊石@テイルズオブアライズ
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:ハ・デスも参加者も皆殺し。
1:今は体力の回復に努める。
2:自分をコケにした猿ども(承太郎、一海、城之内、結芽、いろは、黒死牟)は必ず殺す。
3:逃げた小娘(やちよ、桃)もいずれ殺す。が、3の連中より優先度は低い。
4:猿共に負けるぐらいならば主霊石を使っていく。
5:この猿(MNR)は道具として従える。
[備考]
※参戦時期は進化体になって以降〜死亡前。
※水の主霊石を手にしたため水、氷の攻撃が可能になりました。
制御はうまくできてない為自分が巻き添えになる可能性はあります。
代わりに制御と言うブレーキがないため、強めの力を放つことができます。
なお、彼が凍ってもダメージはありません。
※ドラゴンフルーツエナジーロックシードを食べ進化した為、オーバーロードの能力が強化されました。
【MNR@真夏の夜の淫夢】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)、左耳欠損、照に煽られたことへの不安感、デェムシュへの恐怖
[装備]:白い魔法使い(ワイズ)ドライバー&ハーメルケイン&エクスプロージョンウィザードリング@仮面ライダーウィザード、バインドウィザードリング@仮面ライダーウィザード、テレポートウィザードリング
アテムが用意したナイフ@遊☆戯☆王
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品×1〜3、遠野のペニス、百武照の膣
[思考・状況]
基本方針:僕は、生まれてくるべきじゃなかったのかな?
1:赤い怪物(デェムシュ)の言う通りにする。
[備考]
※参戦時期はfatherless本編前(病院へ移送される前)です。
※前話で使用していたアテムが用意したナイフ@遊☆戯☆王は、遠野の支給品です。
※テレポートウィザードリングは、制限によって一度使用すると指輪が灰色になり数時間は使用できません。
【スタミナジュース@スーパーペーパーマリオ】
すみぢるとはちみつの組み合わせで作れる料理。
HPをじわじわ回復させる効果がある。
【ドラゴンフルーツエナジーロックシード(プロトタイプ)@仮面ライダー鎧武】
Vシネマ「鎧武外伝 仮面ライダーバロン」に登場したロックシード。
ゲネシスドライバーに装填する事で、アーマードライダータイラントに変身が可能。
但しプロトタイプな為暴走の危険性を秘めており、タイラントに変身したアルフレッドは戒斗との二度目の戦闘中、オーバーロードインベスへ変貌してしまった。
投下終了です
予約延長します
投下します
本当はさびしかった、君に会うまでは。
ひとりでいる方が気楽なんだって、嘘ついてた。
☆
ナオミ・マサツグ。
異世界に転移するまで、彼は孤独な人生を歩んできた。
学校ではミヤモト達にいじめられた。ミヤモトは弱い相手を見つけて嫌がらせをする、性格の悪い男だ。マサツグは彼のせいで何度か死にたい思いすらしてきた。
そして親にも愛されず、見捨てられた。……その過去が今のマサツグを形作り、反面教師ともなっているのがなんとも皮肉だが。
そんな彼は転移しても才能無しと判断されて、孤児院を任されたわけだが――まさかその結果、家族というものを知ることになるとは思わなかった。
運命とは皮肉なもので、もしも彼に誰から見てもわかる特殊な才能があれば――マサツグはきっと孤独なままだったろう。どれだけ褒め讃えられても、英雄視されても――孤独な心は埋まるものじゃない。事実として、孤児を失った後に聖剣に選ばれた時も彼女達を守れなかったことが原因で一度手放している。
空っぽの心を満たせるもの。それは純粋な愛であり、絆だ。
愛とは何も恋愛的な意味だけじゃない。家族に向けられるソレも、立派な愛である。
それは今までのマサツグに最も欠けていたもの。普通の家庭環境ならば誰もが当然に享受出来るが、そうじゃなければ決して手に入ることのないもの。――それが家族愛。
実際、マサツグは親に対して複雑な感情を抱いている。それが孤児達を大切にする理由にも繋がってるのは皮肉なものだが……彼女達には自分のような思いをしてほしくないという考えが強い。
それは弱さを知っているから。辛い過去を味わってるから得られた、優しさでもある。
彼が孤児達から好かれているのも、みんなそういう優しさを感じ取っているからだ。
孤児達は皆、様々な理由でここへ来た。……シーは色々と特殊な存在なのでともかく、リュシアやエリンなんかはそれぞれ辛い過去を背負っている。
痛みを知る者が集い、身を寄せあい――そうして孤児院で生活をしてきた。
彼らは紛れもない家族だ。血の繋がりこそないが、その在り方は家族そのものである。
――だから結論として、ナオミ・マサツグはリュシア達のことが大好きだ。
決して口には出さないが……だからもしも殺し合いに呼ばれていなかったら、後に処刑を乞うリュシアを意地でも止めようとする。
その方が楽だとわかっているのに――全員を助け出すという個人的な感情を優先した。
孤児達を失えば、何かが決定的に終わってしまう気がしたから――。
そんなマサツグだから――メグの気持ちがわからないわけじゃない。
もしも孤児達が見せしめにされていたら……自分も迷走していた可能性がある。そこは否定出来ない。
『チマメ隊は永遠だから……。この絆は誰にも裂かせないよー!』
絆。
過去のマサツグなら「そんな曖昧な言葉など知るか」と一蹴していただろうが――孤児や友と絆を育んだ今の彼には、彼女の気持ちが痛いほどわかってしまう。
孤児達を里親に出してから――静かで気楽な生活を送っていた。そこに居て当たり前の擬似家族を失った時に改めて思い知る、彼女達の存在の大きさ。
諸々の負担が減ったはずなのに――味気ない生活に虚しさすら感じていた。
それでもシルビィとアルノンが居たから、心を保つことは出来たが――以前なら地形を変えるほどの攻撃も随分と威力が落ちた。マサツグのスキルは心次第で強さが変わる。このデスゲームの参加者、キリトやpohの世界に存在し檀黎斗が取り入れた心意システムのようなものだ。
「ふっ……。まさか俺がこんなことで感傷に浸るとはな」
我ながら自分らしくないな――とマサツグは思う。
相手はまだ出会ったばかりの少女だ。リュシア達とは違い、思い入れなんて微塵もない。
ならばここは捨て置けば良い。助ける必要なんてないだろう。
……そう理解出来ているのに、どうしてだろうか。
理解は出来るが、納得が出来ない。ただの感情論になってしまうが――このままメグを放置したくはない。
ナオミ・マサツグは実は自分をあまり理解出来ていない。というよりもひねくれ者な彼は、あまり自分に素直になれない。
いつも孤児を守る為に行動しているから、本当は彼女達を愛しているのに。そんな自分をあまりわかっていない。
だがそれでも、いつも行動するのがマサツグという男だ。――きっと大切な存在というものを、心の底では認めているのだろう。
「マサツグさん……」
クウカが心配そうな表情でマサツグを見つめる。
彼女はドMという拗らせた性癖こそあるが、善人か悪人かで言えば間違いなく前者だ。
自分が仲間を殺された状況でも――メグやマサツグを気遣うくらいの優しい心を持っている。
それはモニカという小さなリーダーの影響もあるかもしれないし、ヴァイスフリューゲルとして活動したから得たものかもしれない。
もちろん根っからの善人ではあるのだが、人助けをしていく積み重ねで……こういう心が養われたというのもあるだろう。
それはクウカだけに限らない。ヴァイスフリューゲルの面々はみんな特徴的な個性を持っているが、それでも仲間を気遣う『優しさ』というものを心の内に秘めている。
一見、まとまりのない寄せ集めに見えて実はしっかりと絆で結ばれている――それもまたヴァイスフリューゲルの特徴だ。
「そんな表情をしてどうした?俺の顔にゴミでも付いているのか?」
「そ、そうじゃないです。クウカはマサツグさんが心配で……」
「心配、か……」
ふっ――とマサツグは笑う。
まさか自分が守ろうとしている少女に、心配されるとは。我ながら情けない有り様だと思った。
だが――何故だろうか。不思議と嫌な感じはしない。……むしろマサツグ自身は自覚していないが、少し口元が緩んでいる程だ。
「まだ知り合って間もないというのに、俺なんかの心配をするとは……お人好しだな」
俺なんか――。
そんな言葉が出て来たのは、マサツグが自分自身を卑下しているからに他ならない。
孤児を里親に出した時もそうだが、彼は何かと自分を過小評価する傾向にある。
リュシア達に無償の愛を与えていたのは間違いなくマサツグであり、彼は立派に親代わりをしていたというのに――それでも自分なんかよりも他の者からしっかりと親の愛を受けた方が良いと思った。孤児達はマサツグの愛を受け取り、成長したのに――彼はそんなことにも気付けなかった。
それは家庭環境の歪みであったり、ミヤモト達から受けたイジメであったり――様々な原因が屈折した精神を作り上げたからだろう。周りに否定されてばかりの人生では、自尊心などというものは育たない。
普通ならば親が愛を与え、それによって自信や自尊心も成長するものだが――マサツグはそんな当たり前の『愛情』すらも享受出来なかったのだから。
「あぅ……。知り合って間もないと言われたら、たしかにその通りなのですが……」
クウカは少しだけ言葉に詰まる。
彼女は別に弁が立つ方でもないし、どちらかと言えば気が弱い方だ。
モニカやユキ、ニノンならばもっと違う反応を示したかもしれないが……クウカは彼女達ほど強いわけじゃない。
だが――それでも、クウカにも引けない場面というものが。曲げたくない意志というものはあって。
「そ、それでもクウカは――マサツグさんが好きです。大切な仲間だと思ってます……」
ここでちゃんと伝えなければ、きっと後悔すると思ったから。
別に自分がマサツグをどうこう出来ると思うほど、クウカに自信があるわけじゃない。こんなことを言っても無駄かもしれない。
それでも『俺なんか』なんて自虐するマサツグに、正直な気持ちを伝えたかった。大切な仲間だと思っていることを教えたかった。
「そうか。……俺は何かお前に『仲間』と呼ばれることをしたのだろうか?」
仲間。
そんなふうに呼ばれるようなことをした記憶はマサツグには無い。
たしかにクウカのことを保護したが――メグは闇堕ちさせてしまうし、彼の行動はお世辞にも褒められたものではないだろう。
別に仲間と呼ばれることに対して何か負の感情があるわけじゃないが――そんな言葉、今の自分には相応しくないとマサツグは思った。
普段ならその言葉を素直に受け取らず、何か言い返したり否定していたかもしれないが――マサツグも人間。感情の生き物だ。
今の状況が精神的に苦しいということもあり、つい口から素直な疑問が零れてしまった。
様々な情緒を感じさせる、マサツグの瞳を真正面から受け止めて――クウカは一瞬、言葉を失いそうになった。そこに秘められた感情が、あまりにも深そうだったから。
(……つ、伝えなきゃ!)
それでもクウカは、引き下がらない。――このまま疑問に答えなければ、マサツグが悪い方向へ行ってしまう予感がしたから。
なによりクウカは感謝しているのだ。マサツグと出会えず、一人で居たらどうなっていたかわからないから。
……孤独の状態で仲間の死を知るのと、そうじゃないのでは色々と違ってくる。孤独は人を狂わせてしまう。人は独りでは、生きられない。
マサツグは本人こそ自覚していないが――クウカという少女をしっかりと守っていた。
そしてクウカもまた――マサツグの心を守りたいと思ったから。
「ク……クウカは……」
マサツグの瞳が、真っ直ぐとクウカを見据える。
まるで彼女の本質を試すかのように、次の言葉を待っている。
別にクウカを疑ってるわけじゃない。……ただ単純に彼女が何を伝えようとしているのか気になっただけで。
何故ならクウカはきっとそこまで気の強い女じゃないとマサツグは考えている。そんな少女が緊張しながらも、疑問に答えようとしているのだ。
……異世界へ来る前のマサツグならそれほど興味を示さなかっただろうが、やはり孤児達と触れ合ってから色々と変化したのだろう。
守るべき者も、絆も、愛さえない灰色の世界はいつしか虹色に彩られていた。
――もしもマサツグが孤児院で彼女達と交流する以前の状態で連れてこられたのなら、きっとクウカなんて放置したし、メグのことも大して気にしなかった。……心を乱されることもなく、自分だけが生き残る手段でも考えていた可能性が高い。
環境が人を変える、とはよく言ったもので。
ナオミ・マサツグという男は異世界召喚で大切なモノを得たことで、今までにない感情を知り――それが結果的に彼の強さとなった。
守るスキルは何かを守る際に真価を発揮する。それ即ち、心の力。
孤児院を経営することでリュシア達と絆が芽生え、家族のようになり――だからこそ彼はここまで強くなった。
才能がないと認定されたことで孤児院を任された結果、こんな想いを手に入れたというのは皮肉なものだが――別にマサツグとしては地位や名誉に興味がないし、なにより孤児と出会えたことを悪くないと思っている。
そしてクウカに仲間などと呼ばれたことも――正直に言えば、悪くない気分だ。
まだ出会って数時間。それも大して何かあったわけじゃないマサツグを素直に仲間だと言ったのは、クウカの人柄の良さゆえだろうか。
なんとなくそんな気もするのだが――それにしてもクウカを保護して以降のマサツグは不審者から守ったこと以外はロクに活躍していない。子供のような言動の男も殺され、メグは目の前で攫われ――それでもなお仲間だというのなら。
ならばクウカの口からその理由を聞きたい。……仲間呼ばわりされること自体は悪くないが、それでも不甲斐ない自分にそんな評価を下されたのが納得のいかないところではある。
「クウカは……マサツグさんと出会ってなければ、どうなっていたかわかりません……」
「……どういうことだ?」
マサツグからしたら、自分は何も助けていない。
クウカにとってはマサツグの存在が支えになったのだが――そんなことを察することが出来ないのがこの男だ。悪く言えば卑屈で、自分の価値をあまり理解していない。
……もっとも孤児達と交流するまでの環境があまりにも酷かったので、仕方ないのだが。
「えっと……最初の男の人に撲殺されてた可能性がありますぅ……」
竹刀でマサツグ達を襲った剣聖こと、虐待おじさん。クウカのみならば彼に嬲り殺されてた可能性は高い。
守りにこそ優れているが、攻めはそこまで得意じゃないのだ。ドMだけに。
「それは俺も同じだな。クウカが居なければ、真正面からあの猛攻を受けていた可能性もある」
「はい。だ、だからその……クウカ達は力を合わせて戦いました」
クウカがタンク役をして、マサツグが攻める。実に理にかなった役割分担だ。
マサツグとしては無意識的ではあったがこれは立派な協力であり、二人で戦ったということになる。
「ふ……。それで俺を仲間と呼んだのが」
ここまで説明されたら、マサツグでもわかる。たしかに共闘を果たした以上、仲間意識を持たれるのもおかしくない。
こんな自分に仲間意識など――という気持ちもあるが、本気で家族ごっこをしていたリュシア達の前例がある。クウカの気持ちも否定は出来ない。
「そ、そういうことですぅ。それにひとりぼっちだったら……クウカはどんな迷走をしていたかわかりません……」
クウカはヴァイスフリューゲルの大切な一翼を失った。
彼女のために殺し合いを肯定する――なんてことはしないだろうが、それでも何らかの形で迷走していたかもしれない。
これまでモニカ達が支えてくれたように、今回はマサツグという新たな仲間が彼女を支えてくれたのだ。
(一人きりの迷走……)
クウカのその言葉は、マサツグにも同じことが言えた。
もしもこの場で誰にも遭遇せず、敵対者と出会っていたら――自分はどうなっていただろうか?
もっと言うなら、異世界召喚されて偉大な力を得ていた場合――莫大な富と名誉を得られたとしても、果たしてその時マサツグはどうなっていただろうか?
マサツグはリュシア達『家族』が――ルーナ孤児院ファミリーが居たからこそ、これほどまでに成長した。
誰かと繋がるということの大切さは――口にこそしないが、理解している。何故ならその想いこそが無限の力を呼び覚ますのだから。
「やれやれ……。殺し合いの最中に仲間が出来るとは思わなかったが……」
今、自分達は殺し合いに巻き込まれている。
それはどうしようもない事実だし、これから次々と失う羽目になるかもしれない。
「ふ、不謹慎だったでしょうか?」
だが――そんな状況でもこの時ばかりは自然とマサツグの口も緩んで。
「ふ……。わかった。じゃあ俺たち仲間で、さっき攫われたメグも助けるとするか」
その道はきっと、困難を極めるかもしれない。
もしかしたらもう間に合わないかもしれない。
それでも――――。
優しい孤児院(おうこく)で培った精神は、マサツグの心を後押しした。
「は……はい!」
クウカもつられて、にこやかに笑った。
『俺たちルーナ孤児院ファミリーで、家を守るとするか』
――懐かしいな。
三人の孤児と共に家を守った時のことを、ふと思い出す。
それほど大きな月日も経ってないだろうに、随分と懐かしい。……あいつらは今も元気にしているだろうか?
夜空を眺める。
あいつらを失った時と同じ、静かな空間――。
「綺麗な夜空ですぅ〜っ!」
……とはいかなくて。
またしても俺の生活にはやかましい存在が加わった。
まったく――変態性癖のドM野郎とは、シーと引けを取らんキャラの濃さだ。
だがこういうのも――悪くない。静かで味気がない毎日より、ずっと良い。
『チマメ隊は永遠だから……。この絆は誰にも裂かせないよー!』
メグ、お前は――――。
『寂しい気持ちでいっぱいになっちゃいそうでしたけど……ご主人様が来てくれたおかげでそんな気持ちどこかに消えちゃいました!』
家を守る決戦前夜――あの時のリュシアの言葉を思い返す。
『ご主人様はすごいです。傍にいるだけで勇気をくれます』
――果たして俺は、リュシア達のようにメグのことも救えるのだろうか?
リュシアは故郷の両親を失ったが、マサツグと交流したことで多少は助けてやることが出来た。
だが――必ずしもメグまでもがそういくとは限らない。あのベルトに、同行者……どちらも油断ならない存在だ。
だがいつまでも迷っても、仕方ない。
ならばナオミ・マサツグは迷える子供を救うための道を選ぼう。
「行くぞ、クウカ」
「わ、わかりました!」
「ルーナ孤児院ファミリー出撃だ」
「ヴァイスフリューゲル ランドソル支部、出発ですぅ〜!」
「「……」」
「……ふっ。まさかチーム名が被るとはな」
「ご、ごめんなさい……!こうなったら、クウカはどんなお仕置でも……ぐふふ……」
「いきなり気持ち悪い顔をするな。とりあえず今後は『ルーナフリューゲル』とでも名付けるか」
☆
誰も同じじゃない。
それこそが生きてる意味だから。時として出した音が、不協和音でも。
だから諦めない。信じ抜ける強さで――。
辿り着ける世界の果てで君と見る景色が真実なんだ
【D-4/一日目/黎明】
【直見真嗣@異世界で孤児院を開いたけど、なぜか誰一人巣立とうとしない件(漫画版)】
[状態]:健康、疲労(小)
[装備]:竈門炭治郎の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]基本方針:ラスボスを倒す。殺し合いを脱出するには、これしか手段がないようだな
1:エリン、クウカ、メグとその友人を守る。
2:メグを連れ去った仮面の戦士を見つけ出し、メグを取り戻す
3:もう失うことは御免だな
[備考]
「守る」スキルは想いの力で変動しますが、制限によりバランスブレイカーになるような化け物染みた力は発揮出来ません
参戦時期はリュシア達が里親に行ってから。アルノンとも面識があります
【クウカ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:ダメージ(小)、魔力消費(小)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]基本方針:こ、困ってる人を助けます……
1:ク、クウカはメグちゃんを取り戻したいのです……
2:モニカさん達と合流したいです
3:クウカ、マサツグさんのことが気になりますが……今はそれどころじゃないですね
[備考]
頑丈です。各種スキルも使えますが魔力を消費します。魔力は時間経過で回復していきます
投下終了です
環いろは、黒死牟、空条承太郎、天津垓を予約します
投下します
人を見た目で判断するなとはよく言ったものだが、天津の観点からしたらそれは当て嵌まらない。
ビジネスの世界において、仕事ができる人間は身だしなみにも気を遣う。
見た目に無頓着でも実はとんでもなく優秀、そういった輩はフィクションの世界だけ。
服装を整え清潔感を大事にしない人間が与えられた仕事をこなせるものか。
少し前までは人格面で大いに問題があれど、ZAIAエンタープライズの日本支部代表を務めただけの能力は本物。
ビジネスマンが相手から信用を得るには、見た目の第一印象も重要であると天津は自負する。
尤も見た目云々が当て嵌まらないのが今の状況。
ゲームと称された、悪趣味を通り越して残酷非道な催し。
殺し合いにおいては外見のみで相手のスタンスを決めつけられない。
空条承太郎が良い例だ。
彼は外見こそガラの悪い不良といった風貌だが、その実熱い正義感を内に秘めた信頼の置ける少年。
美醜感覚でこいつは安全、あいつは危険と判断するのはナンセンス。
言葉を交わし、相手の本質を見極めねばならない。
現在、天津の目の前には二人の参加者がいる。
片方は少女。
桜色の髪を結び、どこかの学校指定制服を着た彼女は地に足を着けていない。
同行者であるもう一人に抱き上げられ縮こまっていた。
何故そのうような状態かを考えるより早く、天津の意識を掻っ攫うのはもう一人の存在。
時代錯誤な着物を身に纏った男はしかし、服装などよりもっと目を引く特徴があった。
顔、である。
額と顎に焼き付いた、火炎にも似た痣。
何よりも人間では有り得ぬ、三対六つの眼。
未だ日が昇らぬ夜闇の中であっても鮮明に浮かび上がる、おぞましい鮮血の色。
「何者ですか?」
見た目のみで判断すべきでないと理解してはいるものの、全身の強張りは抑えられない。
レイダーとは違う異形を前に、天津の内から湧き出るは本能的な恐怖。
人類滅亡を掲げたアークと対峙した時にも似た、根本的に人ならざる存在を目にしたが故の反応。
体を苛む痛みは健在、疲労は容赦なく体力を削り取る。
されど戦意までは奪わせない。
己を共に戦う仲間と受け入れてくれた少年が傍にいる。
彼の命を守れるのが自分しかいないなら、サウザーの力の使い道はただ一つ。
必要とあれば即座にプログライズキーを叩き込む準備は出来ていた。
「待ってください!」
一触即発の空気を壊す声。
警戒されている、そちらがその気ならば容赦はしない。
殺伐とした相手の視線を受け止めた上で、こちらに戦闘の意思は無いと伝えるべくいろはは動く。
自分は元より、共にいる彼もまた誰彼見境なく傷付ける意図は無い。
白い衣服の男とて、警戒こそしてはいてもいきなり攻撃はしてこなかった。
ならば言葉で警戒を解く余地は十分にある、戦闘で互いを傷付け合う必要はないのである。
粉砕された床の上に足を着け、天津の鋭い視線に真っ向から向き合う。
「わたし達に殺し合いをする気はありません。だから…!?」
ぐらりと崩れる体勢。
体中が異様に重く、両脚もふらふらと力が入らない。
引き摺られたかのように体が倒れ込む。
戦闘を、それも一筋縄ではいかない強敵との激戦を終えたばかりの身。
傷は全て塞がってはいても、短時間で霧散する程度の疲労には非ず。
だからここまで他者の手で運ばれたというのに。
床との距離が急速に近付く。
あわや横転し強打、数秒後に訪れるだろう未来。
「あっ……」
痛みが降り掛かる未来は変えられた。
ぽすりと、倒れ込んだ先に床の硬さは皆無。
伸ばされた腕の中に抱き止められ、見上げれば彼と目が合う。
『壱』『上弦』の瞳がいろはを射抜く、またしても彼に助けられたと瞬時に理解。
「あ、ありがとうございます。まだふらふらしちゃって…」
「……」
「でも、もう大丈夫ですから」
何をしているのかと、視線だけで呆れを伝える。
数時間程度の付き合いだがそれでも分かった事が一つ。
「お前が……それを口に出す時は……大概万全とは言い難い……」
「そ、そんなことはない、と思いますよ…?」
短い時間ですっかり見慣れてしまった、困ったような笑い顔。
図星を突かれた部分もあると自覚しているのか、恥ずかし気に目が泳ぐ。
黒死牟の記憶に刻まれたどの笑みとも違うソレに、何かを思うより早く男の声が鼓膜へ届いた。
「んんっ…。良ろしいですか?」
わざとらしく咳払いし二人の意識を強引に向けさせる。
放って置いたら長々と会話を続けそうで、流石に控えてもらいたい。
ハッと慌てる少女とは対照的に、男は変わらぬ仏頂面。
纏う人外故の威圧感も健在。
しかし最初に姿を捉えた時よりは、幾分近寄りがたい雰囲気は霧散したようにも感じられる。
少女の影響だとすると、見方も大分変ってくるというもの。
「確認させてもらいたい。先ほど言った殺し合いをする気は無いとの発言。それは君と隣の彼、共通だと受け散って構わないかな?」
「は、はい。あの黎斗っていう人の言う通りにする気はありません」
迷い無く言い切るいろはだが黒死牟は無言。
勝手にこちらの方針を決めるなと思いつつ、まともな方針一つ決められていないのは紛れも無い事実。
屠り合いに賛同はしていないが、理由に正義感やら暑苦しいものは含まれない。
ただどうするばいいか分からないから。
主の為に殺すには無気力で、弟と会ったところで何をすべきかの答えを出せない。
馬鹿正直に己の胸中を口には出さず沈黙を貫く。
「…成程」
いろははともかく、黒死牟はまだ信用し切れない部分がある。
だが少なくとも軍服の男のような敵意は感じず、いろはへ悪意を向ける様子も今のところ見られない。
一先ずは様子見で良いと判断を下し、サウザンドライバーを仕舞う。
「申し訳ないが自己紹介は後回しにさせてもらう。今は彼の治療が先決だ」
本来ならば腰を落ち着け情報交換を行いたいところである。
が、重症の承太郎を放置してそれは出来ない。
気を失っただけで息はあっても、適切な処置を施さなければ状態は悪化するのみ。
幸い自分達がいるのは病院、必要な道具には困らない。
「あっ!それならわたしが…」
傷だらけで倒れる承太郎にいろはも気付いたのだろう。
顔色を変えて黒死牟の腕の中から抜け出し、よたよたと近付く。
デイパックに救急箱でも入っているのかという天津の予想は、次の瞬間覆された。
「なっ…」
赤いチェックのスカートも黒のハイソックスも瞬く間に消失。
素肌へぴったりと貼りつくシースルー、グローブと編み上げサイハイブーツ。
何より特徴的な純白のフードを被り、いろはにとっての『変身』が完了。
天津の知る仮面ライダーの変身とは明らかに別物。
呆気に取られる彼を尻目に膝を付き、承太郎へと両手を向ける。
淡い光に照らされる中、全身に刻まれた傷が見る見るうちに塞がっていくではないか。
「これは……」
ライダーシステムとは違う、天津の知識には存在しない未知の能力。
このような力を行使する少女は何者なのか。
承太郎が見せた奇妙な人形を操る力と関係はあるのか。
檀黎斗は一体どれだけ、自分の知らない力の持ち主を参加させたのか。
尽きぬ疑問を解消したい欲求に駆られはすれど、承太郎の回復を喜ぼうとし、
「そこまでにしておけ……」
治療行為へ待ったを掛ける声が一つ。
「黒死牟さん…?」
中断を命じる彼へ振り向き、つい魔法の発動も止める。
どうして急に止めたのだろう。
幾らか治ったと言っても傷はまだ複数残っているのに。
こういう時こそ回復魔法を使える自分の出番ではないのか。
困惑と疑問が混じり合ったいろはの視線、傍では天津もまた訝し気な顔を作る。
「お前が誰を治療しようと勝手だが……己の状態も見極めずに力を行使し……自らの首を絞める醜態を晒す気か……?」
淡々と告げられた内容に、天津もいろはの様子へやっと気付いた。
フードの下、頬には汗が流れ息が上がっているようにも見える。
そうだ、深く考えずとも分かる事ではないか。
病院内で顔を合わせた時点で、いろはは同行者に抱きかかえられるくらいには疲弊していただろう。
体力消耗が激しいままで能力を使い、ただでさえ疲れ切った身に追い打ちが掛かるのは当前だ。
「で、でもまだ大丈夫ですし…!」
「問題無いと口にするなら……力の核の穢れにも……少しは気を払え……」
指摘に胸元を見ると、煌めく真紅に若干の濁り。
魔力を消費した証、ソウルジェムに穢れが溜まった。
黒死牟は魔法少女の詳細な情報を知らない、しかし曲がりなりにもいろはの戦闘をすぐ隣で見たのだ。
原理は不明なれどいろはが何らかの力を行使する度に、胸元の宝石が黒く染まる。
そう気付くのに時間は掛からない。
ソウルジェムの穢れには注意すること。
やちよにも口を酸っぱくして言われており、バツの悪さを感じる。
傍から見ていた天津も、無制限に使える力では無いと察した。
「詳しい事情は分からないが無理をするは必要ない。君まで倒れてしまったら元も子もないだろう?」
「それは…その…」
「承太郎君も大分顔色は良くなったんだ。後はこちらで手当てして寝かせておこう」
「…すみません」
完治まではいかないが天津の言う通り、先程よりも顔色は悪くない。
二人の大人から正論を言われては、いろはも引き下がるしかない。
頷き一歩下がると、天津が承太郎の肩に腕を回して運んで行く。
手頃な病室のベッドに寝かせ、そこで包帯を巻くなど処置を行う。
変身を解き後に続こうとしまたもやふらついたいろはだが、目の位置がふっと変わる。
三度目となるこの目線と自分の体勢。
見上げた先の六眼はいろはへ視線を落とさず、進行方向に目をやるのみ。
「あ、あの!えっと…」
大丈夫だと口にするには流石に疲れが大きい。
ふらつきながら亀の歩みで進むより、彼に運ばれた方が手っ取り早い。
分かってはいるのだが抱っこされるのは三回目だ。
今更ながら異性にこうも密着されている体勢に、何となく動揺してしまう。
それを伝えた所で、黙っていろと言わんばかりに睨まれるのだろうけれど。
「ありがとうございます」
だけどこれは伝えておきたい。
こうして運んでくれることも、自分の無茶を諫めてくれたことも。
礼を口にしたら一瞬、本当に一瞬だけ動きを止めた。
けれどそんなのは気のせいだったんじゃないかという程に、あっという間に再び彼は歩き出す。
じっと六眼を見つめても、今何を考えているかまでは分からなかった。
○
一仕事終え軽く体を解す。
美容には相当気を遣っており、永遠の24歳を自称するだけの若々しい外見。
しかし実年齢45歳ともなれば体力的にも色々と辛さが目立つ時期。
年は取りたくないものだとの愚痴は内心のみに留めておく。
清潔なシーツが敷かれたベッドが四つある部屋。
元は入院患者用の病室にて承太郎の手当てを終え、天津は一息ついた。
いろはのお陰で当初予想していたよりも、処置する箇所は大幅に減ったのは有難い。
後はこのまま安静にさせ、目覚めるのを待つだけ。
何にしても仲間が死の危機を回避できたのは嬉しい事だ。
振り返り、別のベッドに腰掛ける少女へ礼を告げる。
「環君のお陰で大分良くなったよ、ありがとう」
「い、いえそんな!」
頭を下げられ慌てた様子を見せる。
もう少し素直に受け取っても良いとは思うが、その謙虚さは人として悪いものではない。
チラと、入口付近に佇む男へ視線をズラす。
幽鬼を思わせる不気味さで壁に寄り掛かる黒死牟は、案の定沈黙を貫いたまま。
どう接するべきかは天津にも判断し兼ねる相手。
「あの、天津さん達に何があったか聞いてもいいですか?」
承太郎の手当てを優先した為、まだ軽く自己紹介しかしていない。
いろは達が病院内に入る前に戦闘があったとは、外からの様子で知っている。
だが具体的にどのような相手と戦ったかは不明。
一段落着いたこのタイミングなら聞いても問題はない筈だ。
天津としても聞きたい事はあったので、情報交換に反対はしない。
「そうだな…まずは彼らとの出会いから説明しておこう」
黎斗が大々的に存在をアピールし、複数の死者を出した放送の後。
承太郎と一海に出会い、互いに殺し合いの打破を目的にしていると確認。
直後に起こったNPCの怪人との戦闘、各個撃破した三人はここ聖都大学附属病院にて合流。
情報交換を行う中、襲撃して来た参加者との死闘を繰り広げた。
襲撃者は名乗らず、というより一言も発さ無かったので名前は分からない。
しかし天津が言う男の特徴にはいろはと黒死牟も覚えがある。
ゲーム開始直後にいろはを襲った軍服の参加者だ。
「あの男の人がここにも…」
「奴を仕留めたのか…?お前達が……」
「いや、残念ながら確実に倒したとは言い切れない。それに、一人が犠牲となった」
二体のライダーと共に軍服の男を蹴り飛ばしたのは天津。
必殺の威力を籠めた蹴りこそ命中したが、男の異様な生命力を考えればまだ生きていても不思議はない。
黒死牟は軍服の男との一度交戦しているが、あの程度は男の本領には程遠かったということか。
斬り落とした左腕も完治していたらしく、鬼にも引けを取らない再生能力も持つ。
そのような化け物を三人掛かりな上に死者を出したとはいえ、撃退にまで追い込むとは。
肉体の完成度は鬼狩りに及ばずとも、柱並の力を発揮できる道具や能力を保持しているらしい。
一方でいろはは一海という男性が殺されたのに悔やむ。
もう少し早くに病院へ到着していたら、その人を死なせずに済んだかもしれないのに。
所詮はたらればの話、言った所で無意味と理解しても気持ちは沈んでしまう。
「後は病院に君達が現れて、知っての通りだ。今度はそちらの経緯を聞いても?」
「あ、はい。えっと、実はわたしも天津さん達が戦った男の人に襲われて…」
黎斗の放送が始まる前、本田なる少年が殺された惨劇の直後。
いろはもまた軍服の男に襲われ、あわや呆気なく命を散らすとなった絶体絶命のタイミングで黒死牟が介入。
放送後も行動を共にし病院に到着した時、二人も天津達同様に殺し合いの賛同者と戦った。
真紅の騎士を思わせる怪人。
直接の面識はない天津にも怪人の特徴は知っている。
承太郎と一海が放送前に戦った相手だ。
「ふむ…その怪人を君達が倒したと?」
「屍を己が目で見るまで……断定する気はない……」
真紅の騎士を遥か彼方へ斬り飛ばしたのは黒死牟だが、本人はあれで仕留められたとは思っていない。
アレは人間とは違う、自分の剣であっても切り裂くのに少々梃子摺るくらいには硬い。
自分の目で死体を見るか、確実に頸を落とすまでは生きていると考えるべきだろう。
戦闘を終えた後どうなったかは言うまでもない。
ここまでの経緯はどちらも知れた。
或人と滅、やちよ達魔法少女といった仲間の情報が無かったのは残念であるが。
「もう少し聞きたいことはあるが…承太郎君が起きてからで良いだろう」
傷を治したいろはの力、明らかに人間ではない黒死牟の正体。
そして承太郎が出現させた拳闘士のような人形。
それらに関しても説明は欲しいし、いろは達にもこちらの持つ黎斗の情報を明かしておきたい。
とはいえ承太郎は眠りに落ちたまま、先の戦闘での消耗を考えれば無理やり起こすよりは自然に起きるのを待つ方が良い。
加えていろはも疲労が大きい、なら承太郎が目覚めてから改めて話し合おう。
「君達も今は休むといい。私はロビーに残した荷物を回収してから、もう少し病院内を調べておく」
「はい、ありがとうございます」
礼儀正しいいろはに対して、もう片方は無言のままに視線を寄越すだけ。
少し前の自分なら嫌味の二つや三つはぶつけただろうなと苦笑いし、天津は病室を後にした。
「ふぅ…」
廊下を歩く足音が遠ざかり、いろははため息を吐く。
話をしている最中は顔に出さないよう気を付けたが、正直横になりたいくらいには疲れている。
休んで良いと気を遣ってもらい申し訳ない半面、有難くもあった。
(ドッペルを出したからかな…)
神浜市で無いのに、更に言うとエンブリオ・イヴはもう存在しないのに。
ドッペルが使えた理由は不明。
奇妙なのはドッペルの制御が一時的に出来なくなった事もだ。
水名神社の時や、いろはが望む世界を創りやちよと黒江を巻き込んだ時のように、ドッペルの暴走を許してしまった。
黎斗に細工でもされたのだろうか。
もっと深く考える必要があるのだろうけれど、今は頭がしゃんと働かない。
いろはの様子を察したのか否か、黒死牟も背を向け入口の取っ手を掴む。
「黒死牟さん?」
名前を呼んでも反応は無い。
素っ気無い態度は会ったばかりのやちよを思い起こす。
慣れていると言えば慣れているが、寂しいなと思わないでもない。
「あの、何処に…?」
行き先を尋ねる声に不安が宿る。
まさか、という嫌な予感がチクリと針のように刺す。
黒死牟は振り向かない。
背を向けたまま、長髪を僅かに揺らしボソリと言う。
「部屋一つに……群れる必要も無かろう……私は外を見張る……人の体は脆い……使い物になるようにしておけ……」
淡々とした、熱の籠らない言葉の羅列。
思いやりとか優しさとか、そういうのとは無縁。
「…はい!それじゃあお言葉に甘えて……」
それでもいろはには十分だった。
だって彼は、ここにいると言ってくれたから。
病院を出て一人でどこかに行くとは言わなかったから。
だからいろはには、それだけで嬉しかった。
扉が閉まり病室に残ったのは眠る少年と、今正に眠りに就こうとする少女。
靴を脱いでベッドに横になった途端に襲い来る睡魔の誘惑。
抵抗せず素直に誘いに乗り、夢の世界へと足を踏み入れる。
(皆は大丈夫かな……)
やちよ達は今どこで何をしているのだろうか。
殺し合いを止めようとして、無茶し過ぎてないといいのだけれど。
なんて自分が言って良い台詞じゃ無いが。
灯花とねむは、あの時と同じ事を繰り返するつもりではないだろうか。
魔法少女を、いろはを救う為にと自分達だけで全ての罪を被る気でいるなら、止めなくてはいけない。
いろは自身も、ういだって決して望んではいないのだから。
(うい…約束破ってばっかりのダメなお姉ちゃんでごめんね…でも…今度は絶対…灯花ちゃんとねむちゃんを……)
音もなく瞼が閉じる。
聞こえてくるのはもう、小さな寝息だけだった。
○
病院に留まると決めたのに特別深い理由はない。
日の出がそう遠くない時間にほっつき歩き、万が一手遅れになっては笑い話にもならない。
ならこのまま日の当たらない屋内で身を潜めた方がマシと、そう思っただけのこと。
屠り合いに積極的でなくとも、自ら死を選ぶつもりは無し。
鬼の体質を考えたが故の、極めて当たり前の理由。
ただそれだけ。
他に理由などない、あるはずもない。
だからそう
――『黒死牟さんが一人でいなくなったら嫌ですし……』
あの娘の言葉など理由に入っていない。
環いろはの存在が自身の方針に影響を与えたなど、有り得ない。
病室から離れ、小奇麗な廊下を一人歩く。
大正時代ではお目にかかれない設備と内装も、黒死牟の興味・関心を引きはしない。
耳に残って木霊し続ける少女の声。
背を向けたままでも、いろはが先程どんな顔をしていたかは声色で分かった。
何が嬉しい。
何に安堵している。
何故お前は、そんな風に笑う。
何故、何故、何故。
馬鹿の一つ覚えのように繰り返される疑問。
そのような己の在り方もまた、理解とは程遠い位置にある。
アレは頭がおかしい娘である。
口から出るのは全て狂人の戯言に過ぎない。
やること為すこと、まともに考える必要は無い。
そう結論付ければ楽だ。
気狂いの餓鬼だからと思考を止めれば済む話だ。
なのに自分はそれをやらない。
主の為に剣を振るわず。
弟との再会には思考を割かず。
だというのにいろはの行動一つ、言動一つの度に何故と問いかけをぶつける。
小娘一人に思考を重ね続ける。
これは何だ、この有様は一体何だ。
まるで、まるでこれでは、
環いろはという娘を、理解したがっているようではないか。
「……」
低い唸り声が漏れ出す。
これが今の己だと言うのか。
人を捨て、侍の姿も捨て、その果てが小娘一人に振り回される腑抜けた軟弱者なのか。
己が酷く憎たらしい、余りの情けなさに悪態一つ出て来ない。
何よりこれでもまだ屠り合いに乗る気が微塵も起きなかった。
死者の蘇生すらも可能なら、願いを叶えると豪語するのは分かる。
強者との死合を経て勝ち残り、何者にも負けない力を得る。
考えてみれば悪い話では無いだろう。
相手が軍服の男や真紅の魔剣士のような者達ならば、相手にとって不足なし。
しかし勝ち残ったとして、願いを叶えてくれるのはあの男。
自らを神と名乗る不遜な人間。
勝利して力を得るとは即ち、あの男からの施しを受けるということ。
縁壱を傀儡へと変えた黎斗から、神の恵みと称して力を与えられるのに他ならない。
「……っ」
無意識の内に奥歯が噛み締められる。
湧き出したのは猛烈な不快感。
臓腑の底から煮え滾る怒り。
力を得る為に躊躇など自分には無かった筈だ。
鬼狩りに加わったのとて、高潔な精神が故の使命感ではない。
弟の持つ力を我が物にしたかったが為、どこまで行っても我欲を満たす為である。
己には時間が無いと知った時に現れた無惨は救世主に思えた。
組織を裏切り、当主の首を見返りに提供したのを恥にすら思わなかった。
何もかもが今更。
だが黎斗から力を与えられるのは、弟を傀儡にした男に首を垂れるのだけはどうしても受け入れられない。
そもそもの現実的な話として、自分が勝ち残れるのも土台無理な話だ。
たとえ傀儡と化していようと縁壱に勝機を見出せるとは思えない。
今の自分ならば勝てるなどという自惚れが、どうして抱けようか。
たかが柱三人と鬼喰い一人に討たれるような男が勝利を手にするなど、馬鹿馬鹿しいにも程がある。
それで勝てる程度の相手なら、縁壱がそんな力しか持たないなら。
継国巌勝は黒死牟にならなかっただろう。
「何の意味がある……」
嘗て、無限城にて塵と化した己は問い掛けた。
自分の生まれた意味を。
弟への問い掛けを、此度は誰に向けてか分からず問う。
自分がここにいる意味を、蘇生させた理由を。
何を期待して現世に引き戻した、何を為すと思って再び刀を握らせた。
答える者は現れず、己自身で答えを出すなど以ての外。
疑問だけは死体に群がる蛆のように湧いて出る癖に、解答には未だ一つも至らない。
存在理由は分からない、自分がすべき事も分からない。
だけど確かな事があるとすれば、彼は一人の少女を助けた。
数多の血を浴び命を喰らった鬼は、魔法少女の命を救った。
それだけは神であっても覆せない事実だった。
【D-6(島・聖都大学付属病院)/一日目/早朝】
【環いろは@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:疲労(極大)、魔力消費(小)、睡眠中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。
0:…。
1:黒死牟さんを放って置けない、助けになりたい。
2:やちよさん達を探す。
3:もし灯花ちゃんとねむちゃんがまた間違いを起こすのなら、絶対に止める。
4:軍服の男(大尉)、真紅の騎士(デェムシュ)を警戒。
5:どうしてドッペルが使えたんだろう?
[備考]
※参戦時期はファイナルシーズン終了後。
※ドッペルは使用可能なようです。
【黒死牟@鬼滅の刃】
[状態]:精神的疲労、縁壱への形容し難い感情、黎斗への怒り、いろはへの…?
[装備]:虚哭神去@鬼滅の刃、木彫りの笛@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2
【思考・状況】
基本方針:分からない。
1:この娘は本当に何なのだろうか……。
2:もし縁壱と会ったら……?
3:無惨様もおられるようだが……。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※無惨の呪いが切れていると考えています。
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(中・処置済み)、全身に斬傷(処置済み)、気絶
[装備]:スクラッシュドライバー+ロボットスクラッシュゼリー@仮面ライダービルド
[道具]:基本支給品一式、クリボー@遊戯王デュエルモンスターズ(アニメ版)、オレンジロックシード@仮面ライダー鎧武
[思考・状況]
基本方針:打倒主催者。どんなに敵が強くても必ず倒す
0:…
1:天津と行動。天津の過去に自分から言うべき事は特にない。
2:しばらくはこの病院に留まるべきか…それとも一海の仲間を探すべきか?
3:DIOを警戒、どうやって蘇ったのか、それとも時を超えてきたのかも知らないが必ず倒す。
4:仮面ライダーの力…大切にしなくちゃいけねぇようだ
5:悪党がもし仮面ライダーの力を悪用するならば変身前に時間停止で奪い返す
6:軍服の男(大尉)はあれで倒せたのか…?
7:この遊戯王カード、大して強くはないのか?
[備考]
※参戦時期は第三部終了後。
◆◆◆
運が良いと言うべきだろうか。
病院内を一人歩く天津はふと思う。
軍服の男の襲撃はあったものの、直後に出会ったのは黎斗に反抗する者達。
加えていろはのお陰で承太郎の傷もマシになった。
自分一人での連戦も可能性として考えていただけに、現実の光景とならなかったのは運が良かったと言うのもあながち間違ってはいない。
「いや、どうなのだろうな…」
新たな協力者との出会いは歓迎するも、大手を振って喜ぶ気にはなれない。
もういない仲間、猿渡一海の死を思えば。
過ごした時間は非常に短い、しかし一海は天津の罪を知っても仲間として受け入れてくれた男だ。
人間もヒューマギアも利用か廃棄の二択でしか考えなかった頃には不要と断じた、今では何よりも得難いもの。
信頼の置ける仲間を失う痛みの治し方を天津は知らない。
今でも時たま考える。
どうして不破諫や滅亡迅雷.netのヒューマギア達が死に、自分は生きているのだろうと。
別に己の人生を悲観し自死を選びたくなったとかじゃない。
生きて償う道を投げ出したくなった訳でもない。
ただふとした時に頭をよぎるのだ。
夢を追いかけ奮闘する不破や、悪意の監視者として新たなスタートを切った滅達。
この先の未来にも必要だった彼らが死に、数多の悲劇を生み出した元凶の自分が生きている理由は何なのかを。
明確な答えは未だに出せない。
これから先に出せるかも不明なまま。
けれどもし、自分が生きてここにいる事に意味があるとすれば、それはきっと
「この馬鹿げたゲームを終わらせる為、か」
死者は帰って来ない。
生還しても自分いた世界で不破達とは二度と会えない。
ただそれでも、黎斗を倒し巻き込まれた人々の命を守れるのなら。
最後まで仮面ライダーだった不破や一海に報いる道だと、そう確信した。
「……む、いかんな」
考え事をしながら歩いていたせいだろう。
調べるつもりのルートを外れ、奥の方へと辿り着いてしまった。
院内は電灯で照らされているも、天津がいる通路は酷く薄暗い。
来た道を戻り、そろそろ自分の怪我の処置もしておきたい。
長居は無用と引き返そうとし、
おかしなものが目に入った。
薄暗い廊下よりも更に暗い、細い通路。
灯りが少ないこの場所では見落としかねない、奇妙な造り。
眉を顰め通路を進むと、奥にはポツンとエレベーターの扉。
何かおかしい。
スタッフ専用のエレベーターとて、こうも分かりにくい場所に設置するだろうか。
まるで一般の目からは遠ざけるような構造。
ボタンを押し中に入って分かったが、このエレベーターは地下にしかいけない。
何かある、むしろ何かなければ湿地の方が不自然だろう。
扉が閉まり、ほんの僅かな振動が天津の足元から伝わる。
やがて目的地へ到着、エレベーターを降り慎重に進む。
「ここは……」
扉の先にあったのは明るい空間。
床も壁も清潔感溢れる白。
部屋の中央に置かれたテーブルと椅子にこそ不審点は無い。
だがそれらを囲うように設置された複数の機材は、ここが単なる地下倉庫の類で無い事を知らせて来る。
モニターに表示された二文字のアルファベット、「CR」が何を意味するのか天津は知らない。
奇妙な空間で最も異彩を放つ存在があった。
ソレがどういったものかは天津とて知っている。
というか日本国民のほぼ全員が知っているだろう存在。
おかしいのは、ソレが病院の地下深くにあること。
ゴテゴテと彩られた箱状の物体。
硬貨を投入すれば誰でも遊べるゲームの筐体があった。
間違ってもこの場所はゲームセンターでなければ、ショッピングモールのゲームコーナーでもない。
設置場所を完全に間違えたとしか思えないソレに恐る恐る近付く。
見た感じ不審な点は見当たらなかった。
病院の地下に置いてある時点で十分と言っていい程不自然だが。
(奴は何を考えている…?)
ゲーム制作に異常な情熱を注ぐ余り、ミスマッチな設置を行ったのか
首を傾げ、何となしに適当なボタンを押してみた。
硬貨も入れずに押したとて反応はない。
その筈だった。
『おっはよー永夢〜!今朝は随分早いけど、やっぱりこの前遅刻して飛彩に絞られたのが効いて…って誰あなた!?』
「なっ……」
何と言えば良いのだろうか。
カラフルな衣装を纏い、スカートには音符が縫い付けてある。
ボブカットの髪の毛はいろはのよりも濃いピンク色。
安直な喩えだがゲーム内のキャラクターがそのまま現実に現れた。
そう表現するのがしっくり来る女が、画面に映っている。
「君は…」
『ちょ、何でここにいるの!?CRは部外者立ち入り禁止だよ!?灰馬ったらしっかりしてよもぉ〜!!』
一挙一動が随分とオーバーリアクションだ。
キャピキャピした甲高い声で、ここにはいない誰かへの不満を口にしている。
どうやら向こうにとっても天津の存在は驚きの対象らしい。
だが困惑してるのはこっちも同じだ。
この場所は一体何で、彼女は誰なのかを一から説明してもらいたい。
「とうとうこの場所を見付ける者が現れたようだなァ…」
天津の困惑はより大きな驚愕に塗り潰された。
聞き覚えのある声がした。
傲慢不遜をこれでもかと表した声色。
自らの絶対性を微塵も疑っていないこの腹立たしい声に該当する者は一人しかいない。
「檀黎斗…!」
ゲームマスターにして神。
檀黎斗が放送の時と変わらぬ姿で天津の前に現れたのだ。
耳にはヒューマギアモジュールが存在しない。
やはり目の前にいるのは自分が知るヒューマギアの黎斗とは別の黎斗なのか。
天津の疑問を余所に黎斗は尊大な口調で続ける。
「まずはおめでとうと言ってやろう。CRを発見し、彼女と接触したプレイヤーは君が最初だ」
口振りからして黎斗はこの場所について当然知っているようだ。
ゲームの筐体の中にいる彼女についても同様に。
『ちょっと黎斗!どういうこと?永夢たちはどこ?何をする気なの!?』
当の彼女もまた黎斗とは顔見知りなのが反応から窺える。
但しこの状況に関しては予想外らしく、これ見よがしに狼狽しているが。
訳が分からないと表情に浮かべるのも束の間、キッと黎斗を睨みつけた。
画面越しなせいで若干迫力には欠けているものの、黎斗の悪行への怒りは本物。
『どういうつもりか知らないけど、調子に乗るならこっちも――って、あ、あれ?』
威勢の良さはどこへやら、あっという間に困惑へと逆戻り。
服の中を漁る彼女は徐々に青褪め、事情を知らない天津にもアクシデントが発生したと分かった。
『な、無い…ドライバーとガシャットがどこにも…!っていうか何で外に出られないの〜!?』
「ヴェーハッハッハッハッハッ!ポッピーピポパポォ!残念だが君は正規のプレイヤーではない!よって必要以上に出しゃばれないよう設定させてもらった。君にはお助けキャラとしての役割を果たしてもらおう」
勝ち誇りこれまた非常に五月蠅く笑う。
傍から見るとコントのようなやり取りだが、単なるコメディアンならどれだけマシなことか。
「お助けキャラ…?つまり彼女は我々参加者のサポートをする為にいると言うのか?」
「察しが良いな。その通り。既に説明はしたがゲームのクリア条件は優勝のみではない。ゲームマスターである私を見事倒してもクリア達成となる。となればゲームへ反抗する者にもそれなりの救済措置は必要ということだ」
成程と内心で納得する。
二人のやり取りを見ても、このポッピーなる存在が黎斗と前々からの知り合いなのは確か。
殺し合いを始めた元凶に関する情報を持つならば、打倒主催者を目的とする自分達への助けになる。
尤もポッピー本人はそもそもこれが殺し合いであると全く知らない様子。
「…今ここで貴様を倒す方が手っ取り早いと思うが?」
「無理だな」
言うや否や近くの椅子に黎斗が手を置く。
すると手は椅子をすり抜けた。
「ホログラムか」
「その通り。これはあくまで映像に過ぎない。神との直接対決が許されるのは首輪を解除し、私の元へと辿り着いたプレイヤーのみ。そのどちらも達成していない分際で私に挑もうなど身の程を知れィッ!!」
半ば予想していたが本人の口から断言されると中々に苛立たしい。
悔しを表情に滲ませる天津へ気を良くしたのか、黎斗は勝ち誇ったように告げる。
「ポッピーから得た情報は上にいる連中とも共有しておくことだ。基本を疎かにしたプレイヤー程、呆気なく足元を掬われる」
ジョースターの血統にして最強のスタンド使い。
神浜市の戦いの中心となった魔法少女。
正史から外れた道を往き、本来では有り得ぬ行動に出た上弦の鬼。
三人共、本選のプレイヤーに相応しい人材だ。
今後もゲームを盛り上げるのに期待している。
「ではこれにて失礼しよう。この私と直接対峙したくば、今以上に励むことだ!ハハハハハハッ!!!」
最後まで余裕たっぷりの態度を崩さず、神は姿を消した。
後に残るはより一層の戦意を燃やす男。そして
『なにがどういうことなの〜!?ピプペポパニックだよ〜〜〜〜〜〜!!!!??!』
画面の中から絶叫するバグスターだけだった。
【D-6(島・聖都大学付属病院地下・電脳救命センター)/一日目/早朝】
【天津垓@仮面ライダーゼロワン】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)
[装備]:ザイアサウザンドライバー&アウェイキングアルシノゼツメライズキー&アメイジングコーカサスプログライズキー@仮面ライダーゼロワン
[道具]:基本支給品×2、滅亡迅雷フォースライザー&プログライズキーホルダー×8@仮面ライダーゼロワン、ゲネシスドライバー(破損)+チェリーエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、みーたんの抱き枕(破損)@仮面ライダービルド、パンドラパネル@仮面ライダービルド)、ランダム支給品0〜1、一海の首輪
[思考・状況]基本方針:檀黎斗とその部下を倒し、罪を償う
1:ポッピーから詳しい話を聞く
2:檀黎斗に挑む為の方法とこの殺し合いについて承太郎君や協力可能な参加者と共に考える
3:承太郎君が起きたら環君達も交えて持っている情報、力も詳しく知っておきたい。私の知らない何かは多いようだ
4:出来る限り多くの人を病院に連れて来て治療したい、後、この病院について知っている参加者と話したい
5:飛電或人、滅と合流したい。もしアークに捉われていた時にこの場に来ていたのならば必ず止める
6:これ等のプログライズキーに映っている仮面ライダー達は誰なんだ?知っている人に会えたらいいが…
7:猿渡一海の仲間達を探し彼の最期を伝える
[備考]
※参戦時期は仮面ライダーゲンムズ スマートブレインと1000%のクライシス終了後
『NPC紹介』
【ポッピーピポパポ@仮面ライダーエグゼイド】
ドレミファビートから誕生した良性のバグスターでCRの協力者。
表向きには衛生省のエージェント兼CRの看護師、仮野明日那として振舞っている。
バグスターとしての高い戦闘能力の他、バグルドライバーⅡとときめきクライシスガシャットを用いて仮面ライダーポッピーに変身が可能。
※ドレミファビートの筐体から出られないよう細工されています。今後出られるかどうかは不明です。
※バグルドライバーⅡとときめきクライシスガシャットは主催者に没収されています。
※少なくとも本編31話までの記憶はあります。それ以降(Vシネマや小説版も含め)の事件を知っているかは後続の書き手に任せます。
※彼女が殺し合いの為に造り出された個体なのか、エグゼイド本編のポッピー本人かは現在不明です。
投下終了です
冴島鋼牙、柊ねむ、氷室幻徳、梓みふゆ、野獣先輩、ポセイドンを予約します
投下します
「こりゃえげつねえなぁ。」
死体を眺めながらベクターがそう呟いた。
顔面を貫かれ、中身をぶちまけた死体は中々に凄惨な光景となる。
知人が見ても、顔で判断するのは困難を極めるものは間違いない。
デュエルは勿論、黄金の果実を巡る戦いでこういう光景は見たことがなく、
まだ身近な方であるLが死体に対して軽い検察を行うことにしていた。
「被害者は牛尾哲……セキュリティの人ですね。
恰好とカードを見るに、恐らく我々の世界で言う警察関係者かと。
ただ、制服の様子からサイバー警察とも違うと見ていいでしょう。
白バイ隊員とか、そういう類の仕事をしている格好には見えますが。」
「男の様子から犯人の特定とかはできるか?」
その辺は彼が手にした手帳や、
多少の観察さえすれば判断は難しくないことだ。
この程度で世界一の名探偵の考えを当てにする気はない。
必要なのはフーダニット(誰がやったのか)である。
「一応の目星はあります。恐らく、我々はすでに見ています。」
「おいおい。俺の言ってた眼鏡が犯人とでも言うつもりか?」
アレは口は悪いのは事実だとしても、
殺し合いに乗るとかの類ではないだろう。
あれだけキレて人に当たっているのであれば、
ベクターだって出会った際にもっと交戦していたはず。
それがないのであれば、警察機構の人間と殺し合う理由がないはずだ。
よほど警察に恨みがあるとかなら別だが。
「いいえ、違います。顔面を見てください。」
Lに言われて二人は顔を見やる。
見るに堪えない光景と言うのは別に気にしないが、
やはり見てもベクターには今一つ答えに辿り着けない
「……奴か。」
三者が共通して『見ている参加者』ということで、戒斗は答えに辿り着く。
小鳩は二人が知らないので、三者が共通で見ていたものがあるならあの映像だ。
犠牲者として配信された二人の少女と二人の男性の中の一人、条河麻耶となる。
顔面を貫かれた死体であるなら、必然的に槍や棒状の物であることが推測できた。
であれば、槍を使う人物の男(ポセイドン)であると考えるのは自然だ。
「あー、そゆこと。」
「擁護ではないが奴とは限らん。確信はあるのか?」
「彼の顔の傷ですよ。
顔面の側頭部に二つ、裂傷があるのが分かるかと。
通常の槍ではなく、銛やトライデントと言った三叉の槍であり、
かつこの傷跡から察するに中央の槍以外は湾曲した形状でしょう。
となれば、我々が見せられた映像にいた槍の男が犯人の可能性が高いかと。」
殆ど弱い少女がルールを理解できず、結果蹂躙されるだけの短い時間。
短い映像の中から僅かに把握できる部分を可能な限り武器していく。
些細なものが後に繋がるのは、キラの事件に限ったことではない。
「同じ類の凶器の可能性はねえのか?」
「同じ武器を持ち、同じように殺し合いに意欲的。
可能性はゼロではないですが。確率は低いでしょう。
顔面を破壊できるだけの膂力を持つ人ともなれば更に減ります。
この攻撃力、恐らく戒斗さんの言うオーバーロードのような常人を超えてるでしょう。
子供でも人一人を槍の一振りだけで上半身と下半身を分断するあの男なら可能かと。
もっとも、私はその『万が一』を追求し続けてきた人間なわけですが。」
「探偵様は言う事が違うなぁ。この程度の返しは余裕なようで。」
返されると分かっていたので、にやけた面と共に肩を竦める。
皮肉とかではない。殺し合いに乗らないでよかったものだと思っただけだ。
「それより真月さん。近くにあったデッキですがどうですか? 使えそうですか?」
「いや、俺の世界じゃ使われてねえ召喚方法で余り使いこなせねえな。」
アプリでルールを確認した後、両手を上げる。
近くに転がっていたデュエルディスクとデッキ。
使いこなせれば更なる戦力として見込めたものの、
ベクターの世界においてシンクロ召喚の概念は存在しない。
一応遊馬達がシンクロを知ることもあったが、少なくとも彼の与り知らぬ別の世界線だ。
今更ルールを覚えなければならないのと、覚えたところで慣れるのには手間がかかる。
エクシーズ召喚は同じレベルのモンスターを横に並べるだけでよかったが、
此方はレベルを足し算の形で合わせなければならないのですぐには扱えない。
一応、単なるモンスターを出す為として使うのであれば悪くはないし、
牛尾のデッキはシンクロ一辺倒ではなくモンタージュ・ドラゴンと言ったエースもいる。
最悪シンクロ抜きでも戦えるので、意識せずとも戦えるだけ大分ましだ。
「分かりました。では二人とも、辺りを散策するのを手伝ってください。」
「探す理由は何だ?」
「此処にデュエルディスクが放置されているからです。」
デュエルディスクは主催が態々支給品を没収するぐらいに破格の支給品。
殺し合いを有利に進めたいなら、使わずとも他者に渡らせないようにしておくべきだ。
なのに此処に放置されている。地面の跡から、これを拾うと言う行為すらしていない。
この支給品の存在など、はなから存在しないかのように扱われていた。
「相手はこれが誰かの手に渡ろうと勝てる、
そう確信していてかなりの自信家みたいですね。
周囲の戦闘の跡から牛尾哲はそれなりに戦えていたようなので、
ただの自信家と呼ぶには、余りにも理不尽な強さをしているかと。」
周囲には血痕はあるが、下手人のゲソコン(足跡)とは逆方向に向いている。
ダメージを受けたので、傷を癒すために踵を返したとはあまり思えない。
此処には牛尾を含めて二人以上いて、其方の血痕と受け取る方が納得できる。
恐らく彼は殿を務めたとみていい。血痕が遠くまで続いてることから、死ぬまで全力で。
Lとて状況証拠で全てを確定はしないものの、命懸けで戦っていたことだけはわかる。
「一体何が関係してんだ?」
「此処にデュエルディスクが放置されているのであれば、
槍の人物が映像の金髪の彼と一緒と仮定すれば、映像の方の死体も放置されているでしょう。
既にデッキはありますが、種類があることでデッキの強化には繋がるはずです。」
「なるほどな。んで、手段は? こんだけ広いと三人で探すのしんどくねえか?」
いかに三人いるとしてもローラー作戦をやるには一つのエリアは広すぎる。
オーバーロードやアーマードライダーはあるだろうが、それを差し引いてもだ。
「真月さん。今こそ一番頑張る時間です。」
いや俺の支給品は知ってるだろ顔を向けられても困るぞ。
なんて思ったが、Lの視線の先は彼ではなく牛尾のデュエルディスク。
何を意味するのか理解し、眉間に皺を寄せる。
「……俺メインかよ!!」
渋々了解しながらカードを引いて、
デュエルディスクにありったけモンスターを召喚していく。
セキュリティのモンスターを総動員させて周囲を散策させる。
無論、それだけでは時間が勿体ないのでLも戒斗も変身して作業に当たる。
アーマードライダーは勿論、オーバーロードのスペックがあれば効率は比にならない。
それでも広いため時間はかかったが、ベクターのモンスターに呼ばれ三者は再び集う。
上半身と下半身が分断され、恐怖の色に染まった表情でその命を絶たれた彼女の遺体。
此方もLの考えの通り、デュエルディスクとデッキは放置されたままになっている。
「こちらのデッキはどうですか。」
「……こっちのデッキはさらに複雑になってやがるぞ。」
一部のカードを見て先程以上にしかめっ面になる。
遊星のデッキは大型のシンクロモンスターに特化させたデッキだ。
メインデッキは非常に複雑な物として構築されており、
シンクロモンスターも多彩にあるせいで最適解が非常に分かりにくい。
遊馬で言う『とりあえずホープを出して戦術を組む』とは全く別のスタンス。
ベクターがいた世界においては基本主力のエースモンスターを軸に戦っていく。
バリアン七皇も、多くのデュエリストが基本的にはそのスタンスになっている。
例外があるなら状況に応じて様々なエクシーズモンスターを使うナッシュ辺りだ。
適当にモンスターを召喚しても勝つことに関しては牛尾のデッキ以上に難しいだろう。
レベルを合わせるのはエクシーズ召喚でも慣れたものだとしても、
足し算を常に気を遣いながら召喚するモンスターの最適解を選択する。
仮面ライダーや帰宅部等、カードを使わずとも戦える存在がいる中で、
これができるのはかなりの熟練度か、使用するカードに対する理解が必要だ。
「つかこれ、一ターンに何回特殊召喚してエースにつなげんだ?
ジャンク・シンクロンでボルト・ヘッジホッグを、いやこいつ自前で復活するのか……」
「どうやらこいつが持っていたデッキは不動遊星と言う男のものらしいな。
名簿にある名前だ。今もそいつが生きてるのか、或いは殺し合いに乗っていないのか。
現状の材料では推理のしようはないが、奴がデュエリストであることだけは分かったな。」
「いえ。一応、先程の彼と知り合いの可能性はありますよ。」
分かるのかと戒斗が少しばかり反応する。
別に侮っていたわけではないし、バカにしたわけでもない。
ただ現状では材料が少なすぎると言う、少しごちっただけのものだ。
「シンクロモンスターは真月さんの世界には存在していない。
ですが、先程の牛尾哲のデッキにもシンクロモンスターがありました。
となれば『デュエルモンスターズがある』、『シンクロモンスターが存在する』、
二人がその世界の出身の可能性はあります。名簿では私や戒斗さんのように知人が隣にあり、
二人の名前は名簿で極めて近い位置にあるので、間の人物……ジャックを探してみましょう。
彼もシンクロモンスターを持っているとなれば、ほぼ間違いなくこの仮説は正しいものとなります。」
それだけの材料でよくまあそこまで考えることで。
ベクターは感心しつつも同時に少し呆れ気味に思う。
目的のものを終えて次の場所へと向かい二人が歩き出すが、
戒斗は一人立ち止まって、麻耶の上半身の方を一瞥する。
「誰かは知らん。逆に俺の事も知らんだろう。
だが、最後まであの男に屈せず立ち向かったお前は強かった。」
Lではなく先にお前に出会っていれば、
もしかしたら共に戦う可能性も何処かであったのかもしれない。
そんな風に思いながら、上半身を下半身のある場所へと戻し、
瞳を閉じさせてから二人の後を追った。
西へ向かえば、これまた地獄絵図と言ったところだ。
整列された状態で横たわっている吉田清子と鹿目まどかの遺体と、
内臓が飛び出した宝生永夢、原形を留めていない片桐章馬の遺体の四人だ。
何があったのか色々思うところはあるが、
「で、探偵様のご見解は?」
もう三連続で死体を、しかも今度は四人と大所帯だ。
今度もだろうなとLを見やり、答えを聞くのを待っていた。
短時間で終わるものではなく、ある程度調べる時間が必要になる。
遺体の状態や周囲を散策した後、一通りの確認を終えてから答えを出す。
「まず最初に、女性の二人は丁寧に寝かせていることから、
此処には殺し合いに乗っていなかった参加者もいたでしょうね。
二人の女性の遺体には首に残っている手の痕から、死因は素手の絞殺による窒息です。
一人(清子)は手首や首の痕から、糸か何かを使って吊るされていたようですね。
此方の木にも糸のような跡があったので、恐らく木に吊るされていたのかと。」
「そんな普通の殺人事件みたいな展開あるのかよ。」
仮面ライダーみたいな類で武器が糸なら分かるが、
そも仮面ライダーならば素のスペックからして素手で殺せるだろう。
態々使う理由を見出すなら、慣れるために必要なぐらいだ。
とは言え、それでも死体を吊るすことで試す必要はないし、
寧ろ糸を使うならもっと便利な使い方がいくらでもあるだろう。
吊るすなんてめんどくさい奴だなと、人のことを言えないベクターがごちる。
「二人の遺体はどちらも首に手形があります。
一方で血痕が様々な場所に落ちていることから、
首を絞めて殺す以外の手段を取れたはずですが、その手段を選んだ。
となると……恐らくですが犯人の趣味でしょうね、その辺については。」
「おーこわ。拘りが強いとろくなことにならねえぞ。
まあ残ってる死体から、そいつが死んだ可能性もあってもう手遅れかもしれねえが。」
思い返すのはサルガッソでの遊馬との戦いだ。
間抜けな転校生を演じ、バリアン警察なんてものまでやった後に、
盛大に暴露して裏切って、デッキも手札も空にして精神もライフ全てを追い詰めた。
本来ならば更に絶望させるため陰湿な罠を用意してとどめをさすつもりだったが、
自分のターンにモンスターの効果でデッキをあらかじめ破壊しておけば、
返しのターンでカードを書き換えると言う無茶苦茶な手段で負けはしなかった。
(当人曰く『本来の姿にした』そうだが、長い間積み重ねたものが無駄になったのは忘れない。)
デュエルの勝敗で決まるあの時と違って、
此処は殺し合いと言う完全に無法の地だ。
拘ったままやらかすなんて真似はするべきではない。
当然、ベクターも流石にそれをやる暇はないと判断している。
尚、服装は意図的なものかの判断がつかないので追及はしなかった。
此処には様々な世界が交わっていて、少なくとも六つの世界を彼等は認識している。
これだけ世界が混ざっていれば、これが標準的な格好の世界だとしても別におかしくないし、
彼女が最初に身に着けていた割烹着が近くに見つからない以上はそう判断するしかなかった。
ただ、みだりに肌を晒すものなのはいかがなものかと思うところがあり、
戒斗が近くの建物にあった布を被せておいた。
「犯人が抵抗を受けたことでできた傷もありえねえか?」
「ええ。所詮仮説ですし、はっきり言ってこれを考えるのは時間の無駄です。」
「無駄なのにするのかよ。」
「一応はいります。とりあえずシリアルキラーがいた、
その事実だけ受け止めていただければ次の遺体に移れます。」
「残りの二人は……一人は仮面ライダーだな。」
「判断が早いですが、私も同じ考えです。」
遺体の出血は内臓が出てるのもあり相当なものではあるが、
腰回りだけ血がせき止められていたような跡がある。
形状は違うだろうが、仮面ライダーのベルトの可能性は高い。
死亡した後、第三者によってベルトを奪われたか託したのか。
信じられないものを見た表情からは、前者寄りの可能性が高いだろう。
「最後の一人(片桐)は地面を這った血痕もあることですから、
瀕死になった様子でしたが、殺すとしてはかなり過剰ですね。
彼が人間ではなく再生するような超人であるならばわかりますが、
それでも状態の酷さを見るに、相当恨まれて殺されたとみていいでしょう。
先程の女性二人を殺害した人物であり、それを私怨で殺した可能性が高いです。」
手も原形をとどめてないので、
現状では犯人と確定することはできなかった。
もっとも、確定したところで既に死んでいる。
元の世界であれば誰かを突き止めるのも仕事の一つだが、
此処ではそれがどれだけ意味をなさないかは分かっている。
同じ世界の人間は恐らくキラだけだ。異なる世界の死者を特定しても、
何の意味もないのだから。
「で、その乗ってない奴は何処に?」
「分かりません。」
「おいおい……」
「私は全知全能の神ではありません。
先程の宝生永夢がそうだった可能性もありますし、
他に宝生永夢の同行者がいて逃がした可能性もあります。
一応、分かることとしては槍の人物は此方にも来たようですね。」
宝夢の傷もまた牛尾同様の傷が見受けられる。
誰が来たかについては最早語る必要もないだろう。
「ですが、おかしいことが一つあります。」
「何がだ?」
「宝生永夢の背中からも攻撃を受けているんですよ。」
「協力者がいたんじゃねえのか?」
「いや、ないな。こいつが槍の男は自信家と言っていた。
支給品に目もくれないほどのプライドと自信のある奴ならば、
誰かと共謀して罠にはめると言った卑劣な手段をとるとは思えん。」
自分が持っている力に対して絶対的な自信を持ち、
自分の行動に迷いと言うものが感じられない行動。
同じくプライドの高い戒斗だからこそ理解できる。
だからこれは第三勢力がいて、漁夫の利をされた可能性があると。
「だが少なくとも自信家になるぐらいの強さだろ?
そうなったら、漁夫の利を狙うなら槍の方を倒すんじゃねえのか?」
「もしかしたら、何か予期せぬ事態や第三勢力は勝算があったのかと。」
態々一度バランス調整をするような主催だ。
この舞台をゲームのように例える主催の考えから言い換えれば、
裏技のようなものが何かしらあったのかもしれない。
たとえどうしようもないレベルの強者だとしても、
ジャイアントキリングができる環境にしている可能性があると。
「ミザエルみたいな融通の利かねえ奴は何処にでもいるってことだな。」
漁夫の利については俺は結構好きだけどな、
なんて言おうとしたが戒斗に睨まれていた気がしたのでやめておく。
味方についていようと余り調子に乗っていた戦極も殴っていたので、
此処での判断は懸命だと言えよう。
「私も結構幼稚なのでその辺は分かります。」
「俺が拘りはあるがプライドはお前ら程ねえってのが分かった。」
「なんにせよ、余り状況はよくないでしょうね。
想像以上に死者と殺し合いに乗った参加者が多いです。
主催が用意したNPCの存在と、既に配信された死者の光景、
それらとこのペースを考えると……そうですね。六時間で三十人前後は確実に落ちるかと。」
Lの出した答えに二人は眉を顰める。
百十二の命の二、三割がたった六時間で消し飛ぶ。
ペースが尋常ではないし、生きた何割かは乗った人物だ。
そうなれば、事態はさらに深刻となっていくだろう。
「我々の敵はデュエルで倒すのが困難な相手も含まれてるので、
早く真月さんでも扱えるデッキを探しておくのが賢明でしょう。」
「おい、今の言い方棘なかったか?
と言うか、聞き流しちまったが仏さんの名前なんで知ってんだよ。」
「棘はありません。名前については職員証がありましたので。」
ほらこの通りと、永夢の職員証を遺体の中から取り出す。
もし職員証が貴利矢のであれば牛尾のセキュリティのように、
電脳救命センターと聞き覚えがない職員証が出ることになった。
ただ、小児科と表記されている職員証ではさして考察する必要もない。
なので言う医者であることは必要はないものとして伝えてない。
「とりあえず探す人が増えたので、よしとしましょう。」
「……今度は誰だ?」
「花家大我です。名簿上では宝条永夢と戒斗さんの間ですが、
戒斗さんは見覚えはないようなので、別の世界の参加者なのでしょう。
宝条永夢と貴方の間にいる花家大我は、極めて高い確率で彼の知り合いになります。」
「一人だけ参加って線はねえのか?」
「名簿は知り合いになると固まる傾向があるのは伝えたかと。
例えば、上の方にある吉田優子と吉田清子の間であれば、
吉田を含めた参加者が三人いるので同じ世界の人間でしょう。
流石に材料が少ないので、陽夏木ミカンや肉体派おじゃる丸まで同じ世界かは判断できませんが。」
「で、味方か?」
「会ってみないことには。ですが宝生永夢は乗った参加者ではないでしょう。」
永夢は麻耶と違い恐怖と言うより絶望したような表情になる。
殺し合いと言う舞台でするならば誰かに裏切られたとかだろう。
乗った参加者が裏切られることはあったとしても、絶望はしない筈だ。
怒りとか、寧ろそういった感情の方が出てくるものだ。
「まあ仮に彼が乗ってない人物だったとして、
花家大我が乗ってない人物と確定はできませんが。
ただ、彼の仲間と言うのであれば信用はできるでしょう。」
「……」
「どうしたベクター。」
「いや、名簿の並びで多少分かるならちょいとな。
Lみてーにこっちは頭がよくはねえから信憑性は低いが、
遊星や牛尾はデュエルモンスターズを使うが同じ世界ではない。
するってーと……武藤遊戯もデュエルモンスターズをやってる可能性はねえか?」
「どういうことだ?」
「ああ、そっちは知らねえのか。
デュエルモンスターズをやるとき掛け声が『デュエル』なんだよ。」
こればかりはたとえLだとしても気付くのは少しだけ難しいことだった。
アプリで操作していればデュエルと言うワードが確かにあったものの、
あれは殺し合いの比喩表現とされたものと認識してしまっていたのと、
それを気にする必要が今までなかったのが原因でもあった。
「なるほど。」
Lもすぐに意味を理解する。
思い返すのは最初の説明の時だ。
最初の本田が殺されたあの場において、
殺し合いについて磯野はデュエルと表現していた。
本田も『何がデュエルだ磯野!』と見知った間柄とも言える対応。
となれば、彼の友人である遊戯もそれに関する人物の可能性は高いし、
普通にデュエルと言う言葉が日常茶飯事であった世界にいたのだろう。
加えて、遊星達と名簿が近い人物はデュエルモンスターズに関係するなら、
ベクター達同様、遊星の近くに遊戯と言う名前も関係してる可能性がある。
「となれば、二人の海馬に挟まってる人達も同じ世界の人間でしょう。
後は該当する人物が何処にいるか、どのような人物であるか。
こればかりは流石に推理では不可能です。誰かに会わなければ始まりません。
ただ、武藤遊戯は友人の為に優勝を狙う可能性があることについては留意しましょう。」
「ふん。仲間の死を乗り越えないようなら、この俺が倒すまでだ。」
「人類皆戒斗さんのような性格はできませんよ。
話し合いが通じるようであれば、手は出さないように。」
「にしても、名前が分かるだけでこうも芋づる式に関係者が分かるもんなのか?」
今回明確に名前が分かったのは牛尾と永夢と遊星の三名だけだ。
うち二人は死人で、うち一人は支給品でしか把握できていない。
そのはずが、同じ世界の関係者であったり他の敵がいたりと、
分かることが大分増えてることが伺える。
「地道な調査や追跡を行い続けて辿り着く。
私が今まで何度も経験し続けてきたことです。
とは言え、キラの時と違って手段は簡単なもので、
確証を持てるほどの結果は殆ど得られてもいませんが。」
「情報があるだけでも大分戦況は変わってくる。
確定してない情報で疑心暗鬼に踊らされることもないだろう。
場合によってはこの挙げられた連中の知り合いを装うこともできる。
騙すのは俺の主義ではないが、無駄な戦いを割けるLの方針ならそれも視野のはずだ。」
「よくお分かりで。出会い次第知り合いを装います。」
幼い頃から一緒に居続けた間柄だったとしても、
個人個人の人間関係を全てを把握することはまず不可能だ。
さも知り合いのように振る舞えば情報や信用を勝ち取れる。
とは言え、後でボロが出て信用は落ちる可能性があるので、
早い段階でカミングアウトはしておくものだが。
「此処まで出会えてないのを見るに、
参加者は西か南に多くいるのかもしれません。どちらへ向かってみますか?」
「そうだな───」
次に出会うのも死体でなければいいのだが。
なんてことを思いながら次の目的地を考える。
生きている人物と出会うことは未だ叶わなない。
出会う先にいるのはいずれも黙する死者。されど死人に口あり。
【B-5 公園/1日目/黎明】
【駆紋戒斗@仮面ライダー鎧武】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(確認済み)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを力で叩き潰す。
1:殺し合いに乗っている参加者は潰す。
2:首輪を外せる参加者を見つける。
3:L、ベクターと共に行動する。
4:槍の男は要警戒。
5:大我、遊星、ジャック、遊戯、海馬かその知人、或いは会った参加者と接触。必要なら知り合いを装う。
[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※クラックを開き、インベスを呼び出すことは禁止されています。
※Lの考察については半信半疑です。
【L@DEATH NOTE】
[状態]:健康
[装備]:量産型戦極ドライバー@仮面ライダー鎧武、バナナロックシード@仮面ライダー鎧武、真中あおの杖@きららファンタジア
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2(確認済み、武器の類はなし)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める
1:駆紋戒斗、ベクターと共に行動する。
2:他の参加者を探し、情報交換をする。
3:無暗に犠牲を強いるつもりはないが、綺麗な手段だけで終わらせられるとも思ってない。
4:槍の男には要警戒。
5:大我、遊星、ジャック、遊戯、海馬かその知人、或いは会った参加者と接触。必要なら知り合いを装う。
[備考]
※参戦時期は死亡後です
※この殺し合いにドン・サウザンドが関係してる説を考えてます。
(関係してるだけで関与してない可能性も高く、現時点では推測程度)
※永夢と大我、遊星と牛尾とジャック、遊戯と海馬(両方)と城之内と御伽が知己であると考えてます
遊星達と遊戯達が同一の世界かどうかまでは確定できていません。
【真月零(ベクター)@遊戯王ZEXAL】
[状態]:ちょっとセンチな気分
[装備]:ショット・オブ・ザ・スター@グランブルーファンタジー、九十九遊馬のデュエルディスク@遊戯王ZEXAL、No.39希望皇ホープ@遊戯王ZEXAL、牛尾デュエルディスクとデッキ@遊戯王5D’s、不動遊星のデュエルディスクとデッキ@遊戯王5D’s
[道具]:基本支給品一式×3(牛尾、麻耶、自分)
[思考・状況]基本方針:主催にとって良からぬことを始めようじゃねえか。
1:遊馬にデュエルディスクを返すが、デッキはどこだよ。
2:ナッシュや遊馬がいることだし少しだけ協力は考えてやる。ナッシュは……いややっぱやめとくか?
3:帰宅部ねぇ。ま、いたら声はかけるか。
4:Lに駆紋、アウトローで構成されてるねぇ。ま、俺らしく外道な手段でやってやるさ。
5:ドン・サウザンドの復活ねぇ……どうだか。
6:槍の男には要警戒。
7:大我、遊星、ジャック、遊戯、海馬かその知人、或いは会った参加者と接触。必要なら知り合いを装う。
8:エクシーズ召喚できるデッキをくれ。と言うかなんだよシンクロって。
[備考]
※参戦時期はドン・サウザンドに吸収による消滅後。
※ドン・サウザンドの力、及びバリアン態等の行使は現状できません。
力が残っていて、バリアンスフィアキューブがあれば別かも。
※Lの考察については半信半疑です。
※B-6にエリア牛尾哲の死体、条河麻耶の死体があります
以上で投下終了です
職員証辺りは没収されてないと判断して描写してますが、
NGだったり考察の部分で矛盾がありましたら指摘お願いします
それと拙作の「集いし願い」における遊星についてですが、
原作では左腕にデュエルディスクだったので完全に間違えてました
なので、遊星の左手や左肩の負傷を全て左ではなく右に修正をお願いできますか?
同時に状態表も以下の内容に修正したいのですが
[状態]:ダメージ(特大)、右腕骨折、右手銃創、気絶、右肩粉砕骨折
細かいことなのでスレで言う必要もないと思っていたのですが、
現在WIKIは自分に編集権限がない都合、自力で修正ができないためお願いします
投下します
助手席の窓から見える景色が急に止まった。
流れるように変化し続けていたというのに、今はさして注目する点の無い公園を映すばかり。
どうして運転を止めたのだろうか。
疑問を視線で訴えるねむだが、わざわざ言葉を返されずとも理由は分かった。
運転手である鋼牙がガラス窓越しに見つめるのは、地面に横たわる参加者。
綺麗に並べられたそれらは身動ぎ一つ、瞬き一つしない。
降りて確かめても良いか。
今度は逆にねむの方が鋼牙からの視線で問い掛けられる。
チラと横たわる二人に目をやり、首を縦に振った。
了解を得て車を降りる鋼牙に倣い、ねむも助手席のドアを開ける。
デイパックから浮遊ポッドを出して乗り移り、鋼牙と並んで目的の二人へ近付く。
地面に寝かせられているのはどちらも女だった。
片や成人した女性、片や10代半ば程の少女。
多少の乱れこそあるものの制服を着用している少女と違い、女性は裸。
何故かメイクまで施されている理由までは分からない。
「……」
死体を見下ろす鋼牙の目は自然と険しさを増す。
殺し合いと謳うからには犠牲者が出るのは当たり前。
現に鋼牙はゲームが始まってすぐ、止むを得ない事情とはいえ一人を斬った。
だがこうして死した参加者を見せつけられると、もう少し早くに駆け付けられればという悔しさが湧き上がる。
何より、この二人はホラーに襲われた事による殺され方ではない。
人間の悪意によって命を奪われている。
魔戒騎士の使命はホラーを斬り、人間を守ること。
ではその守る対象が牙を剥いて来たらどうするのか。
古来より多くの魔戒騎士や魔戒法師に突きつけられる問題であり、時にはそれが原因で道を踏み外した騎士も存在したと聞く。
殺し合いにおいてはより重くその問題が圧し掛かるだろう。
(彼女は確か…)
鋼牙の隣ではねむが首を傾げる。
桃色の髪をした少女をどこかで見たような気がし、ややあって思い出す。
確かキレーション・フェントホープでいろは達と行動を共にしていた魔法少女だ。
神浜聖女のウワサと一体化した巴マミを元に戻したのも彼女だったか。
ということは、マミと同じく見滝原を活動拠点とする魔法少女の一人。
(神浜市出身ではなくても、いろはお姉さんと関わった人間が集められているのかな?)
いろはの交友関係全てを把握してはいないので、ひょっとすると自分が知らないだけで他にも魔法少女が参加しているのかもしれない。
予選段階で落とされた可能性もあるのだが。
ともかくこの少女に関しては正直死んでくれて助かったと思う。
恐らくはマギウスの翼へ警戒するようやちよ辺りから伝えられていただろうし、生きて参加者にねむ達の悪評を触れて回られるのは困る。
早々に脱落した彼女には気の毒だが、ねむとしては都合が良い。
表情には内心の利己的な思いを表さず眠たげな顔で見下ろし続け、一つ奇妙な点に気が付いた。
(ソウルジェムが無い?)
桃色の髪の少女の近くには、魔法少女の魂がどこにも見当たらない。
死んだということはソウルジェムが破壊された筈だ。
なのに欠片の一つすら落ちていない。
首には強く絞めた痕が残っており、魔法少女の事を知らない人間が見たら死因は絞殺だと断定する。
しかしねむは有り得ないと反論する。
気絶くらいならばまだしも、ソウルジェムが破壊されないならどれだけ首を絞めた所で魔法少女は死なない。
もしや彼女を襲った犯人がソウルジェムを持ち去り、パスが切れて抜け殻となっただけなのか。
それを見つけた別の参加者が死んでいると勘違いして、女性の隣に寝かせたのか。
どちらにしても少女からしたら災難である。
「あれは…」
ソウルジェムの行方に疑問を抱くねむは、すぐ隣からの声に反応。
目の前の死体とは別の方を見やる鋼牙の視線を追い掛ける。
少女達から少し離れた位置に、もう一体横たわる何者かがいるではないか。
そちらへ近付く鋼牙に倣い、ねむも一旦思考を打ち切って後に続く。
今度は男だった。
綺麗に並べられた少女達とは違い、無造作に投げ捨てられたという表現がしっくりくる青年。
死体の損壊具合もこちらの方が酷い。
衣服は乾いた血でドス黒く染まり、破れた箇所から顔を覗かせるのはピンクの肉塊。
より暴力性が強く惨たらしい死体。
一体自分達が来るまでに何が起きたのか、どのような人物が殺戮を繰り広げたのか疑問は尽きない。
恐ろしい事に死体はもう一体転がっているのだ。
先の三体と違ってこちらは人の形すら維持していない。
顔も胴体もバラバラ、辛うじて男性とは分かるも生前の顔は判別不可能。
「何があったんだろうね…」
立て続けに見つかる惨劇の痕跡に、さしものねむも少々困惑気味。
だがこの状況は丁度良いチャンスでもある。
死体がこれだけあるなら、首輪を回収するまたとない機会。
抜け目なく容赦もない灯花なら既に首輪を入手しているだろうけど、念の為こっちでも手に入れておいて損は無い。
問題は横にいる青年がそれを良しとするかどうか。
さて何と言おうかと考えつつ鋼牙の方を向くと、既に踵を返し車へ戻ろうとしていた。
鋼牙としてはこのまま死体を野晒しのまま放置するより、埋葬なりをしたいとは思う。
一方でこのような凄惨な光景を生み出す危険人物がうろついているなら、迅速に行動し動かねばならない。
友である零ならば心配はいらないが、ねむの心配するいろは達が危険に晒されてもおかしくはない。
なので既に亡き彼らには申し訳ないが、今は生きている者の安全を優先させてもらう。
首輪にしたって一つ入手しているので、彼らを斬首する気も無かった。
思い通りとはいかずねむは小さくため息を零す。
まぁこれくらいは別に許容範囲内だ、どうせ生きていれば首輪を手に入れる機会など幾らでも見つかる。
小さな体が助手席に腰を下ろしたのを確認し、高級車を再発進。
公園には物言わぬ死体だけが残された。
そうならなかった話ではあるが。
もし鋼牙達がもう少し移動を遅らせていたら。
死体の埋葬や首輪の回収で公園に留まっていたら、後からやって来た三人組と遭遇しただろう。
打倒主催者を目的とするL達と行動をともにするか、別行動を取ったとしても情報交換を行い縁を作れた筈だ。
最初に言った通り、これはそうならなかった話。
よって、これより先に起きる展開には世界最高の探偵も、元バリアン七皇の決闘者も、黄金の果実を求めた強者たらんとする青年も参戦しない。
公園を後にし、どれくらい経過しただろうか。
ねむがぼんやり窓の外を眺めていると、またもや景色に変化が現れた。
それも今度は停止など生易しい類では無い、急なスピンで絶叫マシーンに乗っているような衝撃が来たのだ。
脳みそをシェイクされ視界が安定しない。
メガネを元の位置に直しつつ、一体何のつもりと抗議の口を開こうとし、
運転席を飛び出した鋼牙が抜刀するのが見えた。
「え……」
呆けた声はねむが事態をまだ理解していない証拠。
視界を通して得られた情報により、徐々に緊急事態であると脳が訴える。
何処より現れた金髪の偉丈夫が突き出した槍を、鋼牙が魔戒剣で防ぐ。
深く考えるまでもない、殺し合いが始まっただけだ。
◆◆◆
「お待たせ!アイスティーしかなかったけど良いかな?」
「……」
「そんなに怒らないでくれよな〜頼むよ〜(懇願)」
「……」
お馴染みの語録を何度口にしても相手の反応は同じ。
これには「駄目みたいですね(諦め)」とため息を吐くしかない。
青のスーツと白銀の装甲を纏った騎士、仮面ライダーブレイドこと国民的ホモビ男優の野獣先輩は頭を抱える。
宝生永夢を殺害後、支給品のカードをポセイドンを対象に発動。
参加者にも効果があるかは賭けだったが結果は成功と言って良い。
だが支配下に置いたは良いものの、依然として気を抜けない状態だ。
こちらへ襲い掛かりはせず、付いて来いと命令すればその通り黙って後に続く。
しかし忠実な手駒が手に入ったと素直に喜ぶ気にはなれない。
「この辺にぃ、美味いラーメン屋の屋台、来てるらしいっすよ」
「……」
「クゥーン…(子犬)」
相変わらずな反応に子犬の如き声で悲しみを見せても無駄。
むしろ余計に殺意が大きくなったではないか。
気色悪いからね、しょうがないね。
何せポセイドンは常に殺意の籠った瞳で野獣先輩を睨み続けるのだ。
洗脳-ブレインコントロール-はある程度効いているが、完全な支配には至っていない。
今もポセイドンの自我は抵抗の真っ最中。
目の前の人間(ゴミクズ)に従えという声が絶えず脳内に訴えかけている。
平時であれば洗脳効果も意思一つで捻じ伏せるだろう、ある種の完成された強靭な神の精神。
されど消耗の大きさ故か幾らかの効力発揮を許す始末。
内の一つとして、ポセイドン自身の殺意とは裏腹に体は野獣先輩殺害に動かない。
(どうすっかな〜俺もな〜)
もしポセイドンの洗脳に失敗したら即座に殺すつもりだった。
結果は一応成功したので連れ歩いてはいるも、ストレートに殺気をぶつけられては心臓に悪い。
永続的な下僕が手に入ったならともかく、これでは時限爆弾を抱えているのと一緒。
変身を解除しないのも万が一洗脳が切れた時を警戒しての理由だ。
それなら相手がこちらを殺さない内に始末した方が良いのではと考え、けど折角洗脳した男をあっさり手放すのも惜しい気がする(もったいない精神を大事にする人間の鑑)。
ポセイドンの運用方法に悩んでいると、ブレイドの聴覚センサーが音を拾った。
「ん?」
ホモ特有の鋭敏さで耳聡く反応する。
聞こえたのは自動車を走らせる音。
方向は自分達からそう離れていない。
新しい参加者が訪れたのを察し、こ↑こ↓で天啓のように一つの考えが舞い降りた。
(あっ、そうだ(閃き)。こいつぶつけて使い捨てればいいじゃんアゼルバイジャン)
ポセイドンをこの先も連れ歩くのに不安なら、いっそこのタイミングで参加者にぶつけしまえばいい。
首尾よく敵を殺せても良し、相打ちとなっても良し、返り討ちに遭ったとしても敵を消耗させれば問題無し。
どう転んでも自分に損は無い。
我ながら良いアイディアだとしたり顔を浮かべる。
そのゲスさたるや大地を名にしておきながら清らかさとは程遠い日本ペイントの社員に負けず劣らずであった。
ポセイドンの使い道は決まった。
後は命令してやるだけ。
「まずうちさぁ、参加者いるんだけど…殺ってかない?」
「……」
「は?(威圧)」
何と言うことだろうか、命令してもポセイドンは動かず野獣先輩を睨むばかり。
反抗的な態度に思わずカチンと来るも、これはポセイドンがどっかの大先輩と同じ池沼だからとかではない。
野獣先輩が「○○を殺しに行け」のような具体的な命令を出さず、後輩を日焼けに誘うノリで語録を使ったが故だ。
口を開けば淫夢語録しか話さないこのお喋りうんちはそれに気付かないで、苛立ちを露わに続ける。
「近くに別の奴が来たからとっとと殺しに行って、どうぞ(催促)」
今度は具体的に言ったのが効いたらしく、踵を返し言われた通りの方へと駆け出した。
「じゃけん追いかけましょうね〜」
命令に従ったポセイドンを満足気に見ながら野獣先輩も後を追う。
頭の中では既に自分の一人勝ちを確信して。
◆◆◆
迫り来る猛烈な殺気。
襲撃者の姿を目で捉えるより前に、鋼牙は魔戒剣を引き抜き迎え撃った。
頭で敵が近付いて来たから動こうと決めたのではない。
殺気をぶつけられたと同時に肉体が反射的に動いたのだ。
魔戒剣を持つ右手の痺れで、ようやっと襲われた事実に理解が追い付く。
「お兄さ「下がっていろ!!!」」
ねむの方を見ずに叫び返す。
両の瞳で捉えた敵の姿、今しがた防いだばかりの一撃。
これだけで鋼牙の敵に対する警戒は最大限に引き上げられた。
守ると決めた少女へ気を遣っていられる余裕は、槍を手にした金髪の偉丈夫相手に抱けない。
意識を逸らせば待ち受けるのは絶対の死。
だからねむには離れているよう一言伝えるので精一杯。
声色から鋼牙の余裕の無さをねむも察する。
彼女とて素性を隠してはいるものの魔法少女、呆けたまま動かない愚行は晒さず言われた通りに離れた。
(何だこの男は…!?)
襲撃者と対峙する鋼牙は冷汗を抑えられない。
鳥肌が立つ美しさを持つ金髪の偉丈夫を、鋼牙は人間とは見れない。
男の存在自体は放送で条河麻耶なる少女が殺された映像により把握している。
だがこうして実物を目にすれば否応なしに分かってしまう。
コレはバラゴや布道シグマと言った闇に堕ちた魔戒騎士にも匹敵する怪物。
気を引き締めるだけでは到底足りない、嘗ての強敵を前にしたのと同じ心構えで挑まねば勝ちは望めない。
「っ!!」
それ以上の思考は許されない、次撃が放たれる。
やった事を説明すれば単純明快、手にした得物を突き出した。
長得物を操る戦士ならばやって当然の攻撃方法。
一撃の速さと威力が常識では有り得ない程に高いというおまけ付きだが。
心臓を狙ったトライデントの突き、肉を貫いた手応えは無く金属に弾かれた感触。
二度目の攻撃もまた魔戒剣での防御に成功。
防がれた苛立ち、防げた喜び。
両者共に無駄な思考を脳内から完全に排除、三撃目へと移行する。
(そこかっ!)
敵が攻撃を繰り出してから動くのでは余りにも遅い。
防御も回避も行う暇なく、血のこびり付いた穂先は鋼牙の命を奪い去るだろう。
故に頼れるは研ぎ澄まされた己の動体視力と直感。
僅かな筋肉の動きを見極め、次にどこを狙って攻撃が来るかを予測し防ぐ。
「オオオオオッ!!!」
首を狙ったトライデントを弾く。
続けて腹部、こちらは最小限の動きで身を捩り回避。
動作が大振りであればある程、次の行動に甚大な支障が生まれる。
この男相手に隙を晒すのは自ら首を差し出すのと同じ。
躱した傍から襲って来るトライデントを防ぐのは、動作の無駄を全て削ぎ落さねば不可能。
敵は片手のみで槍を突き出す、だというのに信じられない重さだ。
両手で魔戒剣の柄をしっかり握り締めないと弾き落とされてしまう。
一時的だろうと武器を手放しては確実に死へと一直線。
律儀に武器を拾いに行くのを待ってくれる相手では無い。
打ち合う度に両手を襲う痺れも歯を食い縛って耐える。
ソウルメタル製の武器で無ければ最初の一撃でとっくに破壊されていた。
顔、首、胴体、両脚。
全身各所をくまなく狙い貫くトライデントは、今だ鋼牙の肉を引き裂くに至っていない。
戦闘が始まってから互いに打ち合った数は二十に届くと言ったところ。
数時間前に戦った、仮面ライダーを穢す男との打ち合いよりも遥かに少ない。
それでも一撃一撃への対処にて全神経を張りつめねばならず、短時間ながら鋼牙の負担は馬鹿にならなかった。
鋼牙は知る由も無いが金髪の偉丈夫を、ポセイドンを知る者からすれば。
天界の神々からすれば有り得ない光景と目を疑うだろう。
神器を手にしてもいない人間がポセイドンとの戦いを成立させる。
その事実に誰もが驚愕を覚えるに違いない。
ゲームにおけるポセイドンの動向は一方的な殺戮だった。
不動遊星のデッキから召喚されるモンスターをマヤ諸共蹴散らし。
上級モンスターの召喚に成功した牛尾の戦術を嘲笑うかのように瞬殺。
宝生永夢をエグゼイドへの変身すら待たず一撃で沈め。
直接手を下すまでもなく、魔法少女の千代田桃から戦意を奪い去った。
大海の暴君の呼び名に相応しい、絶対的な強さの神。
ゲームバランスを崩壊させかねない男へ鋼牙がこうも渡り合えるのにも当然理由がある。
魔戒騎士である鋼牙は生身であってもホラーと渡り合える、超人的な身体能力を有する。
エグゼイドや魔法少女への変身という工程が必要な永夢や桃と違い、ポセイドンの初撃へ対処してみせた事からも分かるだろう。
加えて培ってきた戦闘経験と、今も尚修練により鍛え続ける肉体。
幼少時からホラーとの戦いの渦中に身を置き得た能力は殺し合いだろうと失われない。
何よりの理由は現在のポセイドンの状態。
エナジーアイテムを駆使した永夢の戦法が原因で、本来ならば受ける筈の無かった甚大な体力消耗に蝕まれているのだ。
如何にポセイドンと言えども、万全とは程遠い疲弊した身に追い込まれては動作の一つ一つに陰りが生じる。
その為人間相手に未だ殺せていない、彼からしたら到底納得いかない光景を作り出す羽目となった。
逆に言うと、そこまで消耗していなければ鋼牙であっても戦いを成立させられない。
歴代最強の魔戒騎士、黄金騎士・牙狼の称号を手にする男だろうと敗北してもおかしくはない。
それ程までにポセイドンは強い。
自称でもなければ比喩表現でも無い、正真正銘の神と人間の間には絶望的な力の差があった。
とはいえ現実の光景として繰り広げられるのは神の槍を凌ぎ切る人間。
鋼牙とて伊達や酔狂で牙狼を名乗るのではなく、相応の実力を我が物としているのは確か。
鍛えに鍛えた剣術は神の名のもとに葬る一撃を決して通さない。
されど鋼牙は間違っても自分が有利だとは思えなかった。
このまま生身で対処を続けた所で、先に限界を迎えるのは確実に自分。
今の状態ではどうやったって勝利は手に出来ない。
戦況を変えるには鎧の召喚が必須。
非常に厳しいことに敵は鎧召喚を行う隙を全く与えてはくれない。
(隙が作れない…!)
距離を取ろうにも絶え間なく突き出される穂先が許しはしない。
常に剣を振るい身を捩る以外の動作が叶わず、時間と体力だけが失われていく。
鎧召喚の隙を作るのに苦労したのは、白銀の騎士との戦闘時と同じ。
あの時はねむのアシストで無事に鎧を纏ったが、ポセイドン相手に通用するとは思えない。
第一この戦闘にねむを巻き込むこと自体が反対。
相棒が指に填められていれば魔導火を吐き、敵の気を逸らすのに一役買っただろうけれど彼は不在。
鋼牙単独でどうにかするしかなく、現実問題として妙案は何も浮かばず。
無数の突きへの対処以外へ思考を割き集中力を乱せば死ぬだけだ。
ポセイドンの相手だけでもいっぱいいっぱいな現状。
不幸なことに事態はより悪化の一途を辿る。
「お ま た せ」
聞き覚えのあるクッソ汚らしい声。
よりにもよってこのタイミングで現れた男に、鋼牙は意識を向ける暇がない。
視界の端に映った白銀、誰なのかは知っている。
「また君達か壊れるなぁ…(呆れ)」
やれやれとでも言わんばかりに肩を竦める、白銀の騎士。
装甲の下はうんこの擬人化とでも言うべき汚さ。
ポセイドンに少し遅れる形で、野獣先輩が戦場にエントリーを果たした。
野獣先輩に二人掛かりで鋼牙を殺すつもりはない。
見ただけでもポセイドンの相手で手一杯と分かる。
ならわざわざ自分が加勢しなくても問題無し。
ポセイドンが返り討ちに遭ったとて、相手も相応に消耗しているだろう。
トドメを刺すのは容易い。
それより今の内にもう一人の方をパパパッて殺って、終わりっとする。
(やっぱり狙いは僕か…!)
赤いレンズに睨まれねむは内心で舌打ちを零す。
三度目の遭遇に向こうは呆れていたが、こっちだってまたこいつかよと言いたい。
御伽に庇われ鋼牙に助けられ、今度ばかりは都合の良い展開には期待出来そうも無かった。
鋼牙はこちらに気を回す余裕がない、こうなればねむが自分でなんとかするしかない。
(やるしかないか…)
魔法少女の力はなるべく使いたくないと、この状況では言ってられない。
力を隠していたと後で鋼牙に不審がられるかもしれなが、使わなければ殺されてしまう。
そもそも鋼牙が金髪の偉丈夫相手に生き残れるかも相当不安だ。
「暴れんなよ…暴れんな…」
小癪な抵抗や逃走される前に速攻で仕留める。
生身でさえネットでホモガキに付与された超人的な身体能力を有するのだ。
ブレイドへの変身も合わさり、メスガキ一匹殺すくらい淫夢くんを殺すのと大差ない。
接近しブレイラウザーを振り被るゲスいホモを前に、ねむは腹を括ってソウルジェムを光らせ、
「ファッ!?」
何処からか飛来して来た刃がブレイドを切り裂いた。
クッソ間抜けな悲鳴を上げ地面を転がるブレイドへ、追い打ちをかけるように銃弾が殺到。
蜂の巣不可避な弾幕に襲われるも、野獣先輩は淫夢王の名を欲しいままにする猛者。
立ち上がり両手の得物を振り回す。
ブレイラウザーと滅の刀、双剣により弾は全て斬り落とされた。
(随分と都合が良い…)
何が起きたかを冷静に受け止めつつ、ついついねむは呆れる。
危機を迎えた少女の前に間一髪のタイッミングで助けが登場。
創作ではお馴染みの展開が連続で起きるとは。
小説ならばワンパターンと批判されるだろうけれど、これは紛れも無い現実。
魔法少女へ変身せずに済み、自分もとりあえず命の危機は多少遠ざかった。
だというのにねむは手放しで喜べず、むしろ頭を抱えたくなる。
ブレイドで銃を撃ったのは髑髏を思わせる装甲の戦士。
それは別に良い。
白銀の騎士や放送で殺された青年、果ては檀黎斗のようにベルトを使って姿を変えたと察せる。
問題はもう一人の方。
ブレイドを弾き飛ばした武器を手元に戻し、警戒の目で自分を睨む彼女をよく知っている。
重いため息を我慢して口を開いた。
「久しぶり、と言う程でもないね。みふゆ」
「…ええ、また顔を合わせられるとは思っていませんでしたよ。ねむ」
梓みふゆ。
マギウスの翼の白羽にして、組織を裏切った魔法少女。
魔法少女の運命に悲観しドッペルに縋りついていたが、元々は七海やちよと同じ善性の強い人間だ。
一般人にまでウワサの被害が出たのに罪悪感を溜め続け、由比鶴乃の一件でとうとう爆発したのだろう。
正直あれに関してはねむも後ろめたさがあるので、灯花程あっけらかんとは振る舞えなかった。
「梓、その女の子が…?」
「先程説明した柊ねむです。氷室さんにとってのエボルトのような存在と思って頂ければ」
「自己紹介くらい自分で出来るけど、もう説明は済んでるようだね」
「あなた達の事を律儀に黙っていると思いますか?ワタシが」
剣呑に返されそうだろうなと納得する。
こちらを裏切る前ならばまだしも、今のみふゆが素直にマギウスに従う訳が無い。
あなた「達」との言い方からしてねむだけでなく、灯花への警戒も呼び掛けているのだろう。
予想できた事とはいえ、全く面倒な真似をしてくれる。
一方で魔法少女達の様子を見る幻徳は驚きを隠せない。
事前にみふゆから説明を受けていたが、こうして本人を見ると正真正銘小学生の女の子だ。
最悪の宿敵であるエボルト並に危険とは、外見だけでは到底思えなかった。
しかしみふゆがこうも警戒する相手だ、気を抜くべきではないだろう。
驚いているのはみふゆも同じだ。
まさかこんなに早くマギウスの片割れと再会するとは思わなかった。
キャルと別れてから仲間やゲームに反抗する参加者を探すこと数時間。
やっと見つけた相手は因縁深い魔法少女、しかも今正に殺され掛かっている場面。
警戒はしているし鶴乃にやった事や、イヴを起動させドッペルの暴走を招いた件にも思う所は多々ある。
それでも、無条件で死んで欲しいとまではいかず咄嗟に助けた。
色々と問い詰めたい話はあるが、後回しにするしかない。
「ふざけんな!(迫真)いきなり出て来て頭に来ますよ!今すぐ犬の真似して詫び入れんだよ、おうあくしろよ(せっかち)」
双剣を振り回し怒り心頭といった様子を見せつけるステハゲ。
またしてもメスガキ殺害を邪魔された挙句、自分に攻撃まで加えたのだ。
メスガキ共々容赦はしない。
「詳しい事情は後で聞くが、アイツは敵で良いんだな?」
「そうだね、ゲームに乗っているのは間違いないよ」
ねむの返答に頷き、幻徳は銃を構える。
訳ありとはいえ幼い少女を殺そうとした輩を放っては置けない。
しかも相手は初めて見るが仮面ライダーに変身し、その力を純粋な殺しの手段に使っているではないか。
戦兎や万丈のように真っ当な怒りを抱ける奴ではないと自覚はしている。
だが全く不快に思うなと言うのも無理な話だ。
「それで、君はどうする気だい?」
幻徳が戦闘を開始した一方でねむはもう一人に問い掛ける。
警戒の目を解かない彼女は暫しの沈黙を挟み、静かな口調で答えを返した。
「氷室さんと同じですよ。ゲームに乗った参加者を止めます」
「そうか。まぁ予想通りだね。それなら向こうで戦っているお兄さんの方へ加勢してくれないかい?不利なのは君も分かる筈だ」
「彼は…」
「心配しなくても乗っていないよ。七海やちよと同じタイプかもね」
何故そこで自分の親友の名を出すのかと疑問に感じるも、理由はすぐに分かった。
つまり真っ当な倫理観と使命感を持つ人間と言いたいらしい。
心折れてマギウスに縋りついた自分とは違う、そういう男と言いたいのか。
眉間に皺が寄るが、信用できる相手だと分かれば今は良しとする。
ゲームを止める方針が共通しているなら、加勢に入るのとて問題はない。
「あなたは戦わないんですか?」
「グリーフシードが手元に無いんだ、気軽に魔法は使えないよ。それに、僕の事情は君も知っているだろう?」
事情、何を指すのかは知っている。
ねむの固有魔法は具現。
灯花、ういと同じようにキュゥべえから奪った力の一つ。
具現の魔法を使い魔法少女救済の計画に必要なウワサを生み出したのはねむだ。
但し具現の魔法は無制限に使える訳ではない。
新たなウワサを創造する度にねむ自身の命を削り、死期を狭めるのである。
神浜中にウワサを生み出してからは死期の近さ故か、灯花やアリナと違ってほとんど人前に姿を見せなかった。
黎斗が用意した舞台でどこまで具現が使えるかは不明だが、叶う事なら滅多な時以外は使いたくない。
みふゆにも言いたい事は分かる。
こちらだけに戦わせるのへ少々思う所はあるが、グダグダと文句をぶつけられる場面でもない。
「分かりました、でも終わったら色々と話がありますからね?」
眠たげな顔へ釘を刺し、白コートの剣士へと加勢に向かう。
近付けば近づく程、呼吸が止まりかねない重圧が増すのが分かった。
尋常ならざるプレッシャーを放つのは金髪の男。
放送で少女を惨殺した張本人だ。
「はぁっ!」
両手に持った得物を投擲。
巨大なチャクラムはみふゆ専用の武器だ。
高速回転し迫る刃にポセイドンは目も向けない。
鋼牙へトライデントを突き刺すほんのついでで腕を振るう。
たったそれだけでチャクラムはみふゆの方へと弾き返された。
自分の武器で殺される、なんて末路は当然ながらお断り。
柄を掴み構え直す。
「っ…」
右手を襲う痺れと鈍い痛み。
自分が渾身の力で投擲したのより、向こうが軽く弾き返した方が勢いは上。
今の短い攻防のみで敵の強大さが嫌でも分かった。
何より、自分達が到着するまでに一人で金髪の男を相手取った剣士もまた凄まじい。
人間性のみならず、持ち得る力もやちよと同じ強者らしい。
「助太刀します」
それ程の強者であっても此度の敵は苦戦必至。
どこまで自分の力が通用するかは不明なれど、全力を以て戦うのみ。
剣士へ短く告げチャクラムを振り被る。
自己紹介など生きていれば後で幾らでも可能だ。
「助かる」
鋼牙もまた短い言葉で会話を終える。
ねむとの関係やら聞きたい事は山程あっても、それらは全て生き延びてから。
殺し合いをする気は無い、今はそれだけ分かれば十分。
共闘を受け入れ、魔戒騎士と魔法少女が神に挑む。
「……」
みふゆの参戦にポセイドンは無言を貫く。
何も思わない、思う必要がない。
虫が一匹飛んで来たのに一体何を思えと言うのか。
冷えた心で苛烈なまでに攻め立てる。
魔戒剣とチャクラム、二方向からの斬撃を防ぐはトライデント一本。
得物一つなど不利にはならない、ポセイドン自身の技量で覆せるのだから。
圧倒的な手数の多さを防ぐは、極限まで鍛え上げた魔戒騎士の剣術。
目で追うのではない、名刀の如く研ぎ澄まされた直感を頼りに防ぐ。
次は何処からでは遅いのだ、次の次の次のそもまた次の更に次まで読まねばあっという間に死体が一つ出来上がる。
トライデントを防ぎ切るのは鋼牙のみに非ず。
武器の巨大さに見合わぬ速さで、チャクラムが振るわれる。
しなやかで華麗な動きはバレリーナのよう。
魔力減退が起きていても、みふゆもやちよと同じくベテランと呼ぶに相応しい魔法少女。
全盛期よりも劣る力は経験と技量でカバーし、ポセイドンと渡り合う。
軽やかな一挙一動とは裏腹に、浮かぶ貌は険しかった。
(いけませんね…)
傍目には二人ともポセイドンの猛攻を耐えていると見えるだろう。
実際に戦っているみふゆには違うと分かる。
時折防ぎ切れない攻撃を鋼牙が防ぎ、それでどうにか自分の首は繋がっているのだ。
当たり前だが、みふゆへのカバーを行う分鋼牙の負担は増す。
加勢に現れておいてこの様では、却って鋼牙を不利にしてしまう。
ここは戦法を変える必要があるかと、一旦後方へ下がった。
単独ならば下がろうとした瞬間に串刺し死体と化すだろうけれど、鋼牙がそこを防いでくれた。
内心で感謝しつつチャクラムを投擲、狙いはこちらへ見向きもしないポセイドン。
案の定チャクラムはあっさり弾かれる。
しかもトライデントの猛攻に限界を迎えたのか、刃が砕け散った。
武器の破壊は戦力低下に直結、これで一つ鋼牙達が敗北へ近付く。
残酷な現実を否定するように飛来するは巨大なチャクラム。
破壊されたばかりの刃がポセイドンを襲う。
それも一つではない、複数のチャクラムがだ。
チャクラム自体は魔力を消費し補充が可能。
だが今起こっているのは単純な武器の複製ではない。
何故チャクラムが複数一気に投擲されたか、答えはポセイドンの目の前に広がる光景が示していた。
チャクラムを投擲したのは十数人に増えたみふゆ。
これがみふゆの使う固有魔法、幻覚の力だ。
分身と共に放たれたチャクラムは、そこいらの魔女ならば細切れ確定の数の暴力。
尤も神が相手では脅威にはならない。
トライデントを豪快に振り回しチャクラムを弾き返す。
投擲した際以上の勢いで返されたチャクラムに切り裂かれ、分身はあえなく霧散。
無事なのは紙一重で刃を躱しどうにか掴んだ本体のみ。
今のだけで倒せるとは毛頭思っていない。
魔力を消費し分身を生み出す。
先程の倍以上の分身がチャクラムを投擲、或いは直接斬り掛かる。
数をどれだけ増やそうと無意味、そう告げるかのようにポセイドンは全てを薙ぎ払う。
視界を覆い尽くす程の分身を向かわせようと、掠り傷すら付けられない。
「っ!!」
そうだ、攻撃自体は効いていない。
しかしほんの僅かでもポセイドンの気を逸らす事には成功した。
みふゆの分身に視界を遮られたそのタイミングこそ、鋼牙が動く唯一のチャンス。
これを見逃す愚行は犯さない。
掲げた魔戒剣が円を描き、真下の騎士を眩い光が照らす。
暗黒を斬る守りし者が再び顕現する時が来た。
「あれは…!?」
「……」
黄金の狼にみふゆが息を呑み、ポセイドンは変わらぬ無表情。
しかし一瞬、誰にも気付かせぬ程の一瞬だけ、眉を顰めた。
――99.9――
黄金騎士・牙狼、神を斬るべくここに参戦。
鎧装着と同時に変化した武器、牙狼剣を構える。
豪奢な見た目のみではない、破壊力も増したのは先にブレイドとの戦いからも明らか。
此度の戦闘ではもう一つ変化を見せた。
ジッポライター型の魔導具を取り出し着火。
ホラー探知や指令書を見る際に使う補助具は、戦闘においても絶大な効果を発揮する。
炎が鎧を覆い尽くし、牙狼剣をも燃え上がらせる。
自滅などではない、修練を積んだ魔戒騎士のみが使える切り札の一つ。
烈火炎装、魔導火を纏い能力を強化する技だ。
「はぁっ!!」
魔導火は一般人にとっては猛毒でも、魔戒騎士には信頼の置ける武器。
急接近し炎を纏った牙狼剣を振り下ろす。
姿形が代わろうと所詮は人間の放つ刃に過ぎない。
これまで同様トライデントで弾き返し、逆にポセイドンが押された。
思わず見開く目、右手の不快な痺れは現実のもの。
「はああああっ!」
続けて振るわれた牙狼剣を、防御では無く回避。
神の肉体には届かず血の一滴も無い。
代わりにハラハラと数本の髪の毛が落ちる。
金の頭髪を踏み付け牙狼は剣を振るい続けた。
鎧を纏った上で大剣を振るっているとは到底信じられない速さ。
ブレイドを相手にした時以上の速さの牙狼剣を、ポセイドンは防ぎ、時には躱す。
先程までとは逆だ、鋼牙が攻めてポセイドンが防ぐ。
同じなのは一撃の対処の度に得物を持つポセイドンの手に負担が襲い来る事もか。
一度だけでは大した影響はない、だが徐々に大きさを増す痺れは非常に鬱陶しい。
目障りなのは黄金の狼だけじゃない。
ポセイドンの真横から、背後から、頭上から投擲されるチャクラム。
分身と共に妨害へと動くみふゆはポセイドンにダメージこそ与えていない。
だが万全の状態ならばまだしも、多大に疲弊させられた現状では少しずつだが体力を削らされてしまう。
平時であれば歯牙にもかけないブレイドの殴打で呻いたように、今はみふゆのチャクラムであってもダメージを受けるかもしれない。
故に防ぎ、さっさと殺したくてもそれを邪魔するのが牙狼だ。
ポセイドンを相手にして食らい付く両者に、今だ余裕は微塵もない。
烈火炎装をしても倒すには至っていないのだ。
改めて敵の強大さを認識、剣を振るう速度を限界を超える勢いで上げる。
こうしている間にも鎧の制限時間は減るばかり、悠長にはしていられない。
これ程の猛攻を前にしても傷一つ負わない神へ、みふゆも戦慄を隠せない。
幻徳から聞いたエボルトと言い、一体どれだけとんでもない連中が参加しているのだろうか。
『SKULL! MAXIMAM DRIVE!』
戦闘の流れを変える音が響いたのは、直後だった。
◆◆◆
「先輩こいつ弾丸(タマ)とか撃ちましたよ、やっぱ(遠距離戦)好きなんすねぇ」
挑発のつもりか、単に頭がおかしいのか。
誰に向けてか分からない言葉を無視して引き金を引く。
銃声が響きスカルマグナムは火を吹いた。
破壊光弾は人間以上の耐久力を持つドーパントにすら効果的なダメージを与える事が可能。
であれば相手が同じ仮面ライダーであっても体力を削り取れる。
命中するかは別の話と言うまでも無いが。
「もっとちゃんと狙ってホラホラホラホラ」
双剣が切り裂くは日の当たらぬ夜の空気だけでない。
破壊光弾がブレイドに与えたダメージはゼロ。
全発防がれ霧散。
刀で銃弾を斬り落とす、どれだけ剣の達人だろうとTDN人間には不可能。
只人には無理でも仮面ライダーならば余りに容易く可能となる。
兵器としても、ヒーローとしても仮面ライダーの力を身を以て知る幻徳には今更驚く光景でもない。
武器の連射性能のみならず、スカルのスペックを用いればより正確無比な射撃を行える。
何せスカルの視覚器官は後年に開発されたダブルの倍。
ゲームでの変身者である幻徳自身もトランスチームガンやネビュラスチームガンなど、拳銃タイプの武器は使い慣れている。
初めて触るスカルマグナムだろうと、扱いに支障はない。
それでも尚銃撃を防ぐとは、単にブレイドのスペックが優れているだけが理由では無いだろう。
銃弾を弾くなど数多の戦場(バトル淫夢)ではありふれた光景。
BB先輩シリーズという名の強化(呪い)を付与された野獣先輩を、銃一丁で止めるなど土台無理な話だ。
「じゃけん早く死にましょうね〜」
「お断りだ」
吐き捨て引き金を引き続けるも当たらない。
時には目にも止まらぬラッシュを放ち、時には重火器を撃ち、時には現代アートと化す。
一部クッソ使えないBBもあるが、中でも剣を使うBBは特に豊富。
剣聖の異名を欲しいがままにする虐待おじさんには届かずとも、常人には決して届かない領域の剣術を我が物にする。
双剣を巧みに操り破壊光弾を防ぎながら、ブレイドは距離を詰める。
ちまちま防御を続けても勝ちは望めないのなら、近付き斬るという基本戦法に移るまで。
スカルマグナムの連射などなんのその、瞬く間に剣の間合いへ入った。
振り下ろすは滅の刀、ヒューマギアをも破壊可能な強度の名刀。
骸骨を模した装甲の強度が如何程かは不明なれど、無傷は有り得ないと確信。
「オォン!」
クッソ不快な高音の喘ぎ声は手応えありの喜びを表したが為。
ではなく、攻撃失敗の悔しさから。
振り下ろした刀は、流れるようにスカルが取り出した武器に阻まれた。
左手には軍刀、右手にはスカルマグナム。
銃と剣をそれぞれ構えた、ナイトローグ時代からの戦い慣れたスタイル。
刀を防いだ軍刀はそのままに銃を撃つ。
互いに片方の手は塞がった状態、しかしもう片方が空いているのも同じ。
ブレイラウザーで斬り落とし、後方へと大きく跳ぶ。
今度はスカルが攻め込む番だ。
銃を撃ちっ放しにして接近を試みるも、一手早いのはブレイド。
敵がもう一つ武器を出したのには少しだけ苛立った。
だがそれだけだ、刀一本で勝敗を覆せると思っているなら大間違い。
ブレイドの力は闇雲に剣を振るうだけではない。
真価を発揮するべくブレイラウザーのカードホルダーを展開。
引き抜いた一枚をカードに読み込ませた。
『TACKLE』
「行きますよーイクイク」
突進力を強化するボアアンデットのカード。
スカル目掛けて肩を突き出しタックルを仕掛ける。
破壊光弾を真っ向から受けても止まらない勢いだ。
ショルダーアーマーがスカルの胴体に叩きつけられ、くぐもった声と共に吹き飛ばされる。
『THUNDER』
続けてリードし得た能力はディアーアンデットのもの。
電撃属性をブレイラウザーに付加し、切っ先から青い電気を放った。
立ち上がる暇も無く地面を転がり避けるスカル、直撃は回避するも幾らかの被弾を許してしまう。
装甲から火花が散り、その間にもブレイドはカードを読み込む。
『SLASH』
「邪剣・【夜】、逝きましょうね」
勝手に名付けたブレイラウザーは切れ味が強化済みだ。
電撃を浴びた時以上に火花を散らし、スカルは膝を付いた。
呻き声すら聞こえないが、僅かに身動ぎしているので息はまだある。
と言っても見ての通り時間の問題。
自分の勝利は決まったも同然とブレイドは機嫌を良くする。
「気持ちいいか〜KMR〜?」
ここにはいない空手部の後輩の名を口にしながら、ブレイラウザーをゆっくりと振り被った。
双剣で滅多切りにしてやるのも悪くないが、あえて焦らすようにして恐怖を煽ってやろうと笑う。
仮にも最初は打倒主催者を決意したとは思えぬ、変態マゾ筋肉奴隷のキメションカクテル並にクッソ汚い笑みだ。
仮面越しからでも汚さが鮮明に伝わって来そうである。
『SKULL!MAXIMAM DRIVE!』
「ヌッ!?」
ゲスいホモの汚い笑みを崩すのは無慈悲な電子音声。
まだ動けたのかと右手を振り下ろせば、オリハルコン製の刃がスカルの肩に命中。
このまま切り裂こうとし、ガッチリと刀身を掴まれた。
「この距離ならお前でも無理だろ」
慌ててもう片方の武器を振るうも時既に遅し。
スカルマグナムはとっくにブレイドの装甲へと添えられている。
引き金を引いてやれば破壊光弾が次から次へと命中し、大量の火花がスカルの仮面を照らす。
マキシマムドライブで放つ以上、威力はこれまでの比ではない。
ドーパントが相手ならメモリブレイクは確実、そればかりかメモリ使用者を死に至らしめん程だ。
「逝き過ぎィ!逝く逝く…ンアーッ! (≧Д≦)」
休む暇も無く襲い来る痛みに堪らず絶叫。
耳が腐る野獣の咆哮を発し、とうとう変身は解除された。
オリハルコンの装甲は消え失せ、曝け出されたのは見るからに臭くて汚そうな男。
地面へ大の字になり喘ぐ様はホモセックス後の余韻にも似ていた。
実際は痛くて動けないだけである。
(痛みは無いが…流石に無傷って訳でもないか)
立ち上がると足がふらつく、しかし痛みはない。
スカルメモリの効果は骨格強化による超人的な身体能力の付与だけではない。
仮面ライダースカルに変身中は体温と痛覚が失われ、死体と同じ状態と化す。
ブレイドの攻撃を受けても痛みを感じないが故に反撃へと出れた。
あくまで痛みが無いだけでダメージ自体は健在、変身解除後の苦痛を考えると少々憂鬱だ。
「アーイキソイキソ…」
取り敢えず一人は戦闘不能に追い込んだ。
もう一人は未だ健在、こっちからでも只者では無いのがハッキリと分かる。
力を取り戻したエボルトを前にしたのと同じ緊張感、そのような男を相手にみふゆと白コートの剣士は必死に食らい付いている。
倒した汚い男をこのままにするのは不安なれど、今すぐには動けない筈。
念の為にこいつが使っていたバックルは回収しておく。
絶対安全とは言えないがみふゆ達への加勢が優先。
スカルメモリをスロットに叩き込み駆け出した。
○
胸部装甲が光を発し、エネルギーが形を作る。
等身大程もある巨大な髑髏。
パープルに輝き歯を打ち鳴らすエネルギー体はスカルの意のままに動く。
スカルが跳躍すれば髑髏も浮遊、必殺の準備は整った。
「大義の為の、犠牲となれ…!!」
地上のポセイドン目掛けて髑髏を蹴り付ける。
嘗て、スカルの本来の変身者が、道を誤った友を下したマキシマムドライブ。
喰らい殺さんと頭上より来る髑髏に、やはりと言うべきかポセイドンはチラリともくれてやらない。
トライデントが無数の突きを放ち髑髏はあえなく霧散。
防御のみでゆるしてはやらない、神を見下すその不敬は死を以て償わせる。
「させません!」
仲間への攻撃を指を咥えて見ている者はいない。
魔力集中は大技(マギア)を放つ予兆。
ポセイドンの足元に魔法陣が出現、次の瞬間には奈落の底へと突き落とす。
まだ終わりではない、四方八方から襲い来るチャクラムをトライデントを振り回して防ぐ。
鼓膜が破れん程の音を響かせ、トライデントとチャクラムが幾度も激突。
攻撃が止むと現れるは五体満足の神。
スカルとみふゆの効果力の技も効果が無い。
『SKULL!MAXIMAM DRIVE!』
だったら何度でも放つまでだ。
スカルマグナムにメモリを装填、威力を高めた破壊光弾を連続で撃つ。
別方向からは十数体のみふゆが斬り掛かった。
片や分身を使い数に物を言わせ、片や連射性能を活かし弾幕を張る。
それら全てを槍一本で捻じ伏せるのがポセイドン。
数の差など関係無い。
絶対的な大海の覇者を前に、小魚が群れを成して何になるのか。
分身を切り刻む、破壊光弾を切り捨てる。
ただの一つも届かない。
だがそれでいい、スカルもみふゆも自分達の役目を自覚している。
届かせるのは自分達ではない、道を作る事こそが為すべき役目なのだから。
大一番を任された男が動く。
燃え盛る魔導火は津波に呑まれようとも決して消えない。
刀身を輝かせる牙狼剣は折れず、砕けず、暗黒を切り裂く。
黄金騎士・牙狼が駆ける。
闇を照らす黄金の矢と化し、一直線に神の元へと斬り掛かる。
己へ牙を剥く金色を、ポセイドンも見ていた。
視線を寄越さず虫(にんげん)を踏み潰す神が、しかと両目で牙狼を見たのだ。
最早逃げる術は無い、神が目を付けた以上逃げられるのは断じて不可能。
自ら蜘蛛の巣へと向かって来る蝶の如き愚者を、慈悲の宿らぬ一撃で以て沈めるのみ。
「……!」
それを許さぬ者達がいる。
激しさを増すスカルと魔法少女の妨害に僅か、本当に僅かながら牙狼へ向けた意識が逸れた。
若き小児科医が齎した神攻略の傷痕はこの期に及んでも健在。
絶大な消耗が足枷となり、人間の足掻きは遂に神を捉えた。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
トライデントが牙狼剣を弾き返せ、ない。
刃が奔る、彫刻のように美しき神の肉体へ傷を付ける。
人間如きが決して触れてはならぬ禁忌、知った事かと牙狼剣が押し込まれた。
斜めに描かれた赤い一本線。
刃が胴体を放れた直後、噴き出た赤い雨が地面へと降り注ぐ。
ようやく一撃入った。
しかし勝利には未だ程遠い、安堵感は抱けず勝利の余韻など以ての外。
流れは自分達の方へと来ている、ならばこのまま攻め続ける他ない。
牙狼剣が、チャクラムが、スカルマグナムが。
三者三様の得物が神を死へ追い込まんとし、
瞬間、ポセイドンの中で何かがキレた。
◆
野獣先輩がポセイドンの洗脳に成功したのは綱渡りも良い所だ。
永夢の手で大幅に消耗させられていなかったら、もしカードの効果発動に成功しても即座に洗脳を打ち破られていただろう。
これは何も洗脳-ブレインコントロール-が脆弱な効果しか発揮しないのではない。
ポセイドンという男の精神が、強靭を通り越し異常と言えるレベルで完成されているからである。
完全無欠な神には仲間も謀も不要。
同じ神々からすら恐れられる程に、ブレる事の無い在り方。
たとえ制限により力を削がれようと、決して揺るがぬ精神。
だからこそ消耗した身で洗脳効果のカードを使われて尚も、完全な支配には至らなかった。
そして現在、目を見開いたポセイドンは何を感じたのか。
人間達の持つ強さへの驚愕か?
自身の消耗を加味しても、一太刀入れた黄金騎士と、食らい付いたその仲間への称賛か?
佐々木小次郎相手には終ぞ抱かなかった、人間を好敵手と認めるというのか?
そんな訳が無い。
もし仮にポセイドンが鋼牙達を強者として認めるようなら、正史にて勝利を掴み取った小次郎へもっと違う言葉を向けただろう。
ポセイドンが抱いたのは、怒りだ。
人間が神の肉体へ傷を付け汚した怒り。
神に勝てるなどと思い上がった連中への怒り。
そのような愚か極まる振る舞いをここまで許してしまった、自分への怒り。
ポセイドンは笑う。
口の両端を大きく吊り上げ、怖気の走る残虐な笑みを浮かべる。
表情とは裏腹に喜びは微塵も無い。
抱く感情を懇切丁寧に説明してやるつもりもない。
ただ一言告げる。
神に勝てると驕りを抱いた人間どもへ、最早洗脳効果などあっさり塗り潰す程の怒りを籠めて。
「雑魚(カス)が」
◆
ポセイドンへ続けて剣が振るわれはしなかった。
二太刀目のチャンスを自ら捨て、後方へと飛び退いた牙狼を誰が責められるというのか。
神と対峙する三人だけではない。
離れた場所で様子を見守るねむも、倒れて呻く野獣先輩も。
その場にいる誰もがハッキリと感じた。
金髪の偉丈夫が纏う空気が、明らかに変化したのを。
外見は変わらない。
しかしこれは、このプレッシャーは何だ。
立っているだけで心臓が握り潰されると錯覚する、このおぞましい気配は一体何だと言うのだ。
「っ!!」
復帰が最も早かったのは幻徳だ。
彼は知っている、人間の足掻きを蹂躙する化け物を。
星を喰らう地球外生命体の脅威を、近くで見続けて来た。
規格外の化け物の相手は今に始まった事ではないのだ、それなら一々戦慄するだけ時間の無駄。
右腕を跳ね上げスカルマグナムを撃つ。
「――――」
が、気が付いたら倒れていた。
体へすさまじい衝撃が襲って来た気がするが、どうにも曖昧なのは何故だろうか。
遅れて自分が生身に戻っていると気付く。
目を横にやればスカルメモリが落ちており、妙に思いながら手を伸ばし、
「――っ!?がっ……」
強烈な痛みが来た。
指一本動かし、呼吸するだけでも全身が悲鳴を上げる。
変身中に受けたダメージが生身になり響いているのだとしても、異常としか言えない痛み。
何をされてこうなったかを説明すれば、一言で足りる内容。
ポセイドンに攻撃された。
スカルの視覚センサーでも視認不可能な速度でだが。
トリガーを引く動作すら許されずに、幻徳は変身解除へ追い込まれた。
痛ましい仲間の姿に残る者達も各々動きに出る。
「氷室さ――」
ポセイドンがそれを見逃すかどうかは別。
咄嗟に駆け寄ろうとしたみふゆの腹部をトライデントが抉る。
腹を刺された理解する暇すら無い、軽く腕を振るえば血と臓物がビチャビチャと撒き散らされた。
「貴様っ!!」
泡のような血を吐き出し倒れたみふゆを心底冷え切った目で見下ろす神へ、怒れる黄金騎士が迫る。
仲間がやられるのまで動けなかった自分への怒りも乗せた牙狼剣を前に、ポセイドンは慌てない。
否、慌てる必要がどこにある。
振り向き見据える瞳に牙狼を映し、相手の憤怒を波のように受け流した。
――怒れる波濤(アムヒトリテ)
全身を大袈裟に動かすのは無駄。
片腕だけで事足りる。
トライデントが放つ無数の突き、一度に数百の穂先が襲い掛かると錯覚する速さ。
牙狼剣を以て防ぎ、受け流し、時折掠るも鎧を着こんでいる為に問題は無い。
第一トライデントを用いた攻撃はこの戦闘でとうに見慣れている。
「ぐっ…!」
にも関わらず対処がまるで追い付かない。
防ぎ漏らした穂先が鎧の下の肉体を痛め付ける。
手を抜いたつもりは無い、ただポセイドンの攻撃の勢いがこれまで以上に激し過ぎるのだ。
片手で槍を突き出すという単純な動作でありながら、悪夢のような速度と威力。
牙狼の鎧の恩恵で致命傷こそ防いではいても、無視できない痛みに集中力が切れそうになる。
ポセイドンがどう変わったかを説明するのは実に単純。
少しばかり本気を出した、それだけだ。
更に鋼牙を窮地へと追い詰めるのは、鎧の召喚時間。
99.9秒が過ぎる前に鎧を解除しなければ待ち受ける末路は一つ。
心滅獣身、嘗てバラゴへの怒りと焦りで道を踏み外した苦い過去の再現。
解除方法を知る零が近くにいない状況で心を闇に呑まれれば、敵味方関係なしに暴れる魔獣が生まれてしまう。
共闘した者も、守ると誓った少女すら理性を失い喰らい殺す怪物だ。
そのような悲劇を起こす訳にはいかない、だが鎧を解除し生身で対抗できる相手でもない。
刻一刻と迫るタイムリミットには鋼牙と言えども焦りを抱かずにはいられなかった。
そして焦りは防御の遅れと言う形で鋼牙に降りかかる。
防げもせず、受け流すにも遅過ぎた。
一撃入ればそこから先はもう、流れは完全にポセイドンのもの。
たった数秒の内に百へ届く突きが牙狼へ叩き込まれた。
「ぐああああああああっ!!」
重厚な鎧を纏った騎士が紙吹雪よりも呆気なく吹き飛ぶ。
叩きつけられ小さく呻くが鋼牙には本当に時間が無い。
時間切れまで残り2秒を切り、歯を食い縛ってどうにか鎧を解除。
白コート姿へ戻った途端、体の至る所が激痛に泣き叫んだ。
鎧を纏っていてもこれ程のダメージ、生身ならば確実に死んでいただろう。
つまり今こうして生身のままでいては非常にマズい。
再召喚すべく魔戒剣を頭上に掲げ、
「ノロマめ」
既にポセイドンは鋼牙を仕留めに掛かっていた。
突き出されるトライデント、ほとんど反射的に魔戒剣を防御へ翳したのは見事と言う他無い。
ソウルメタルの刃に狙いを逸らされ、心臓の位置から外れる。
しかし足りない、神の一撃を防ぐのにそれだけでは駄目だ。
三本の穂先が肉を抉り、鋼牙に深い傷を与えた。
白いコートは瞬く間に鋼牙自身の血で染められ、とうとう彼ですら地に伏してしまった。
急速に意識を薄れさせ、それでも魔戒剣は手放さないのは魔戒騎士のプライド故か。
立派だと褒め称える者はいない、いるのは見下し殺す神だけだ。
「やべぇよやべぇよ…」
耳障りな声が鼓膜へと届いた。
神の耳を腐らせるこの不愉快極まりない声は、ポセイドンが最も殺意を抱く相手。
今この時に限っては主催者以上に殺してやりたい男。
睨みつけた先には、生まれたての小鹿のように脚を震わせるクッソ汚いホモビ男優。
神の眼光に射抜かれ、クッソ情けない程に震え上がる。
さしずめ蛇に睨まれた蛙、ピンキーに捕食寸前の淫夢くんといった所か。
本当についさっき自分がボコボコにパンチを食らわしてやった男と同じなのか。
体力はロクに回復していないだろうに、感じる威圧感は先程の比では無い。
シュワちゃんから強力なパワーを貰ったウルトラマンタクヤなど、比べる事すら烏滸がましい。
このような化け物の相手などしていられない、ブレイバックルは取られたが武器ならまだある。
永夢が使っていたガシャットギアデュアルを取り出し、パラドクスに変身すればいい。
強化された身体能力で逃げようと急ぎガシャットを起動させる。
この時野獣先輩は失念していた。
生前の永夢がガシャットギアデュアルで変身を実行しようとした際、どうなったのかを。
「ファッ!?」
変身するまでの間すらポセイドン相手には致命的な隙となる。
トライデントが振るわれ、最早抵抗は無意味。
なのに間一髪で滅の刀を翳し防御した。
BB先輩シリーズとはホモガキが無駄に丁寧に動作を切り抜き生まれた素材だが、細かい動作の一つ一つ全てを再現しているとは限らない。
素材によっては動作が幾つか抜けているものも珍しくはない。
此度はそれが有利に働いた。
刀を持った腕を跳ね上げると言う一つ分の動作をすっ飛ばし、迫るトライデントへ刀を翳し防御が間に合ったのである。
「イキスギィイイイイイイイイイイッ!!!」
かといって無事で済んではいないが。
淫夢最強と名高いかの武神にも匹敵する腕力で得物を振るったのだ。
吹き飛ばされた野獣先輩へ追撃を仕掛け確実に殺す。
「待て…!」
無謀にも神を制止する声、侮蔑をこれでもかと籠めた瞳で声のした方を見る。
魔戒剣を杖代わりにし、ポセイドンを睨み付ける鋼牙。
死にかけの身でありながら戦意は一切失われていない。
呼吸は荒く、額に汗が浮かんでも、立ち上がらんと両足へ力を入れる。
戦いを決して諦めない戦士、他の神々ならば好敵手と認めたのかもしれないがポセイドンは違う。
「雑魚(カス)が。大人しく死んでいろ」
神が与えた死を受け入れず、余計な抵抗を重ねこちらの手を煩わせる。
害虫や雑草と呼ぶに相応しい見苦しさ。
さっさと踏み潰すに限る。
どうせ全員殺すのならば、多少順番が変わったとて結末に変化はない。
くたばりぞこないの分際で睨み付ける両目を貫き、一気に脳も串刺しだ。
網から逃れた瀕死の小魚を刺すように、トライデントを振り被った。
「なに…?」
またしても人間の命を刈り取る瞬間は訪れない。
ポセイドンを阻むように突如舞い散る無数の紙片。
よく見れば本のページだ。
一枚一枚に魔力が宿ったページが紙吹雪のように戦場のそこかしこを舞う。
トライデントの餌食になった連中は、こんな攻撃をして来なかった。
であれば誰がやったかの答えは明白。
この場にいる人間どもの中で、最も取るに足らない下らない小蝿。
小細工をした張本人を睨み付けると、眠たげな表情を逆に向けられた。
尤も額に汗を浮かべている辺り、彼女と言えども神相手には緊張を隠せない様子。
アカデミックドレスに角帽。
メガネを外したこの姿こそねむの魔法少女衣装。
里見灯花、アリナ・グレイと並び羽の魔法少女を率いる三人のマギウスの一人。
幼い身でありながら並の魔法少女を凌駕するねむだが、ポセイドンを前にしては体中を戦慄が駆け巡る。
怯えた所で加減する相手で無いとは承知済みだ。
速攻で決める。
「盛大に暴れて堪能しておいで…」
ねむの固有武装は分厚い本だ。
開かれたページが輝きを発し、無数の異形を出現させる。
百鬼夜行もかくやという人ならざる者の群れ。
これらはウワサ、ねむが創造しストックしたウワサを一斉に呼び出すマギア。
隙に暴れろ、その言葉を待ってましたとばかりにウワサ達はポセイドンに殺到。
自らの巨体をぶつけ、或いは周囲で渦を作り魔力の竜巻を巻き起こす。
「雑魚(カス)の操り人形どもが」
だがそれが何だという。
魔法少女数人掛かりでも苦戦するウワサも混じっている。
だから何だと言う話だ。
所詮は人に創られた家畜ですらないミジンコ。
百や千、万匹の数を揃えようと神の足元すら拝めない。
貫かれ、引き千切られ、悲鳴すら許されずに蹂躙される末路以外にあるものか。
「分かってはいたけど…」
これ程までに化け物とは。
この男に比べたら魔女など可愛い愛玩動物も同然ではないか。
ウワサを全て消され、トライデントが次の狙うのはねむ本人。
女子供だろうと見逃す理由にはならない。
「っの…!」
後方から飛来する物体を察知、視線は前方に向けたまま払い除ける。
金属同士がぶつかり合った音にも関心は示さない。
標的であるねむを睨む視線の先に、見覚えのある女が複数出現。
揃いも揃って黙って死ぬ事すら出来ないゴミクズども。
何度目になるか分からない人間への侮蔑を勢いに乗せ、トライデントが女どもを粉砕。
分身が何体やられようと、みふゆへダメージはやって来ない。
腹部を赤く染めながらねむへと駆け寄る。
ソウルジェムが無事ならまだ動ける、気絶しそうな痛みは歯を砕けん程に噛み締め耐えるのだ。
「ねむ!」
「…!了解したよ」
差し出された掌に意図を察知。
小さな手をみふゆと重ね、自身の魔力を分け与える。
魔法少女同士が使えるコネクトだ。
一回り巨大化したチャクラムを手にみふゆが突撃。
見上げる程の魔女だろうと一撃で沈める刃を叩き込むも、ポセイドンには児戯も同然。
トライデントで弾き返した直後、チャクラムが砕け散る。
否、無数のページへと変化しポセイドンを覆い隠した。
完全に姿が見えなくなる程のページが群がり、ポセイドンを切り刻む。
魔力の許す限り攻撃を続け、後には肉を失い骨だけと化した死体が完成。
相手がポセイドンでなければ、そうなっただろう。
「……」
縦横無尽に振るわれたトライデントにページが吹き飛ばされた。
現れたポセイドンに今のが堪えた様子は皆無。
細かい切り傷こそ刻まれてはいるものの、戦闘続行に支障は全く無い。
愚かを通り越し憐れにすら思える虫けらの些細な悪足掻き。
しかし神の肉体に傷を付けた代償は、ちっぽけな命で支払う以外に認めない。
「悪い夢だと思いたいね…」
「残念ですがこれは現実ですよ、気持ちは分かりますけど」
「檀黎斗の頭にはゲームバランスという言葉が欠けているんじゃないのかい」
「自称神様に公平さを期待するだけ無駄でしょう」
軽口を叩き合う声色もお互い乾いている。
そういえば灯花やうい、いろは以外とこんな風に気安く話すのは滅多に無かったな。
緊迫した状況とは不釣り合いの呑気な思考に、ついつい苦笑いが浮かぶ。
(何をしているんだろうね、僕は…)
温存しておきたかった魔法少女の力を結局使ってしまった。
見ているだけで震えが走る金髪の男相手では、魔法少女になったとて敵わないと見て分かるだろうに。
そもそも戦闘に加わった選択こそが間違いだ。
自分の目的は主催者の力を奪って魔法少女を救済すること。
だったら自身の生存を優先し逃げて、灯花と合流してから改めて金髪の男への対策を考える方がずっと合理的だ。
なのに現実はこの有様、いろはと灯花以外の参加者なら見捨てるのに抵抗はない筈なのに。
(……恨むよ、お兄さん)
彼が、自分の心を揺さぶった黄金の狼が、守ると約束してくれた青年が。
冴島鋼牙が殺され掛かった光景を見てしまったせいで、気付けばソウルジェムを光らせた。
助けてもらったのは事実、使える駒だと思ったのも本当。
でもそれだけで自分の命をも危険に晒す必要がどこにあるというのか。
ねむからしたら全く持って馬鹿馬鹿しい妄想としか思えないが、黄金騎士という希望がここで潰えるのに我慢ならなかった。
そんな有り得ない理由が自分の中にあるとでも?
この期に及んで下らない事へ考えがいく自分がおかしくて仕方ない。
「…ねむ」
意識を引き戻したのは、自分を呼ぶ声。
二文字の名前を口に出したみふゆを見上げると、何を考えているかを即座に察した。
ああこの顔は見覚えがある。
幸せが詰まった病室で、魔法少女の契約を決意した時。
記憶を取り戻した灯花が自分と共に、ういとの約束を果たそうとした時。
大好きなあの人を生かす為に、三人でアリナを止めようとした時と一緒。
覚悟を決めた顔だ。
「…言いたい事は分かるよ。その役目を君が引き受けてくれるなら僕も文句はない」
「なら話は早いですね。…氷室さん」
ねむにデイパックを渡し、声を掛けるのはこの地で最初に出会った男。
償いの為に二度目の生を使おうと決めた、自分と似たものを感じた彼。
共有した時間は短くて、けれどどうしても伝えておきたい。
彼と話せるのはこれが最後だろうから。
「梓…?何を……」
「後はお願いします。氷室さんならきっと、償いの為だけじゃなくて、本当のヒーローとして誰かを救えるはずですから」
彼と出会えたから、彼と言葉を交わしたから、もう一度戦う気になれた。
もう少しだけ頑張ってみようと、そう思う事が出来た。
地球を滅ぼすエイリアンを倒すとか、魔法少女を全て救うだとか大きなものではない。
ちっぽけかもしれないけれど、幻徳は確かにみふゆの助けとなったのだ。
「あなたに助けられたワタシが言うんですから、ね?」
「梓…!!」
そう言い見せた微笑みが、幻徳が見たみふゆの最後の顔。
さぁ別れの挨拶は済んだ。
多くの間違いを犯したこの命で、もう一度皆を助けてみせよう。
魂が黒く染まる。
絶望の色、魔法少女を終わりへと誘う穢れ。
しかし生まれ落ちるは魔女に非ず。
舌は布に、両手は紐に。
上半身を幾重にも巻いたカーテンで、しなやかながら豊満さを併せ持った肢体を覆い隠す。
顔すら隠したその形は、悲惨な現実から目を知らす為か。
生業のドッペル。
奪われ続け、失い続け、魔法少女の運命に悲観した梓みふゆにとっての救い。
舌を変化させた生業のドッペルは放つ言葉を持たない。
言わなくたって、彼女が何をするつもりか理解出来ない者はここにおらず。
両腕を揺らし出現させるは、白いペンキで描いたような歪な鳥。
死肉を啄むハゲワシの如くどう猛さでポセイドンに殺到。
トライデントで片っ端から蹴散らすも、如何せん数が尋常でないくらいに多い。
傷の一つも刻めはしないが足止めという役目は果たせた。
「梓っ!?」
駆け寄ろうとした幻徳を阻む無数のページ。
この期に及んでねむが牙を剥いたのでない事は、幻徳の視界に映る汚い男の存在が証明している。
「調子こいてんじゃねぇぞメスガキの癖にオォン!?」
怒り心頭の最悪うんこ、野獣先輩だ。
どうにか復帰したらしく、半分に折れた刀を振り回しねむを憤怒の形相で睨む。
だがすぐにしたり顔へと早変わり。
殺害こそ失敗したが目的の物は手に入れた。
「それは俺の…!?」
「何のこったよ(すっとぼけ)」
野獣先輩が手に持つデイパックは幻徳のもの。
ポセイドンの攻撃を受け変身解除された際に吹き飛んだのを回収したらしい。
中を漁り奪われた変身ツール、ブレイバックルを取り戻す。
「変身!(迫真)」
『TURN UP』
再度ブレイドへの変身を終えると、急いで目当てのカードを引き抜く。
自分にふざけた真似をした汚物を殺したくても、無数の鳥が邪魔で反応が遅れる。
結果、忌々しい限りだがポセイドンはブレイドの行動を許す羽目となった。
『MACH』
「逃げるが勝ちってハッキリ分かんだね」
ジャガーアンデットの能力を己に付与し、高速移動を可能に。
脇目も振らずに一目散に駆け出す様は、鋼牙との戦闘時と同様。
背中にぶつけられる殺気立った視線も無視して、野獣先輩は戦場を後にした。
あの汚い男がまたしても生き延びたのは腹立たしいが、今は自分達の身を優先するべき。
生業のドッペルとていつまで持つかは分からないのだ。
「僕たちも逃げよう。お兄さんを運んでくれると助かる」
「だが梓は…」
「まごついているのをみふゆが望んでいないことくらい分かるだろう?」
淡々と正論を返されれば何も言えない。
急ぎ動かねば、本当に手遅れになるだろう。
自分がモタついてるせいで彼女の決意に泥を塗る事へ繋がる。
ならば幻徳自身も決断せねばなるまい。
激痛に苛まれる体を酷使して鋼牙に肩を貸す。
自分も酷いが彼は更に重傷だ。
「お前達だけで行け…残るなら俺も…」
「梓が…っ!どんな想いで決めたと思っている…!!」
血を吐く想いで紡がれた言葉は、鋼牙を黙らせるのに十分だった。
鋼牙とて分かっている、みふゆが望むのは自分達が無事に逃げ延びること。
だからここで鋼牙まで残るのは彼女の決意に唾を吐くに等しい。
そう理解はしても、納得など出来るものか。
本当ならば自分が引き受けねばならない役目を、守るべき者に背負わせた。
魔戒騎士にあるまじき大失態、苦い敗北の味に歯軋りをする。
「飛ばすぞ!掴まってろ!」
放置してあった黒塗りの高級車に鋼牙を押し込む勢いで乗せ、エンジンを掛ける。
後部座席には既にねむが乗り込んでいた。
バックミラーに映る生業のドッペルに、後ろ髪を引かれる思いが湧き上がるも振り切らねばならない。
アクセルを踏み猛スピードで発進、彼女の姿はあっという間に見えなくなる。
「雑魚(カス)どもが…」
まんまと逃げおおせた連中への苛立ちを吐き捨てる。
口やかましい眼鏡のガキや、桃色髪の小娘などに続きまたもや逃走を許す始末。
羽虫のように鬱陶しく飛び回ったと思えば、みっともなくひぃひぃ逃げ出す。
目障りなことこの上ない。
だがまずは目の前のゴミを片付けるのが先だ。
白い鳥の群れを蹴散らし、続けて頭上から迫る殺意を察知。
ポセイドン目掛けて落とされるチャクラム、見飽きた攻撃だがこれまでとは大きく違う点が一つ。
大型の魔女に匹敵する巨大さだ、人間大の相手など押し潰されてマトモな死体も残らない。
相手の持ち得る最大威力の攻撃を、ポセイドンは鼻で笑いすらしない。
無感動に見上げる神を地面諸共切り裂き叩き潰す。
仕留めて――いない。
それどころか当たってすらいない。
生業のドッペルの遥か頭上、一跳びで地上の獲物を大きく見下ろす位置へと移動した。
大した威力だと感心は抱かない、惜しかったなと慰めてやりもしない。
姿を変えた、手数を増やした、威力を増した。
だからなんだ、無意味な光景に一体全体何を感じろと言う。
人間(カス)ですらない化け物(ダニ)が神を倒せる道理など、天地の果てにすら存在しない。
――荒海に降る神雷(キオネ・テュロ・デーメテール)
雷雨が降り注ぐ。
祝福と恵みの雨にも似た輝きが生業のドッペルを包み込み、やがて何も見えなくなった。
◆◆◆
遥か後方より轟音が鳴り響く。
誰が何をして、結果どうなったかは考えるまでも無い。
自分が取るべき行動は一つ、スピードを上げ少しでもあの場から遠ざかる。
それが正解だと理解しており、感情任せに引き返す愚行に出るつもりはない。
第一戻ったところで既に手遅れだろう。
(俺は何をしている…!)
理解しても納得はできない。
あの場に残るべきは自分だったのではないのか。
無様に倒れていないでもっと早くに立ち上がり決断していたら、逃げ延びたのはみふゆの方だった筈だ。
自分も彼女も本来ならば死人。
だが彼女はまだ19歳で、本当だったら未来がある人間だろうに。
大義の為の犠牲では無い、己の不甲斐なさでみふゆを犠牲にしたのが幻徳には許せなかった。
――『これ以上仲間の死体を持って帰るぐらいなら!悪魔に魂を売ったってかまわない』
数時間前に出会った少女の言葉が思い起こされる。
もし自分にもっと力があれば。
金髪の男やエボルトをも倒せるだけの力があれば、仲間も父親も死なずに済んだのだろうか。
力が欲しい、強くなりたいとどうしようもなく願う。
前の席の重苦しさをひしひしと感じながら、ねむも一人考える。
戦場へ置いて来た魔法少女のことを。
逃げる時、みふゆはねむにだけ言葉を残した。
舌を変化させた生業のドッペルは言葉を発せないが、魔法少女同士のテレバシーなら可能。
ねむだけに聞こえる声でこう告げたのだ、「どうか、灯花と共に皆と協力して欲しい」と。
マギウスが相容れないと分かった上で、やちよやいろはとの協力を望んだ。
(すまないみふゆ、それは無理だ)
自分も、そして灯花も最優先するのはいろはだ。
もし先程の場にいろはがいて、鋼牙達を犠牲にすれば助かるというなら迷わずそうしただろう。
都合都合でやちよ達と共闘する場面が無いとは言い切れない。
しかし最終的にはいろはを救う為に、必要とあらばそれ以外の全てを切り捨てるのに躊躇は無かった。
みふゆの願いは叶えられない。
彼女の想いを裏切る事に、後ろめたさを抱いたからだろうか。
もう届かないと分かっても、謝罪の言葉を内心で向けたのは。
みふゆについて考えねばならないのがもう一つ。
何故彼女はドッペルが使えたのか。
魔法少女がドッペルを使うにはエンブリオ・イヴの存在が必要不可欠。
穢れを回収したイヴが被膜を展開した領域内、つまり神浜市のみで発動可能なのがドッペル・システム。
本来ならばワルプルギスの夜をイヴに喰らわせて、被膜範囲を拡大するのがねむと灯花の計画だった。
しかし、いろはの決死の説得を受けた直後に起きたアリナの暴挙。
あろうことかイヴと一体化した挙句、全人類魔法少女化計画という狂気の世界を創り出そうとしたのだ。
アリナを止める為にねむは灯花と共にドッペルを出現させ相打ちに持ち込んだ。
ゲーム以前の記憶でねむが最後に覚えているのはそこまでで、以降どうなったかは知らない。
自分達の特攻でアリナを倒せたのか、若しくは倒し切れなかったのか。
だがいろはとやちよ、フェリシアも参加している事から自分達が倒せなかったとしても、きっといろは達が片を付けたとは察せられる。
ということはつまりイヴは融合したアリナ諸共消滅したのだろう。
だからこそ分からない。
イヴが倒され被膜も崩壊したにも関わらず、何故未だにドッペルが使えるのかが。
檀黎斗は死んだ魔法少女も蘇生可能な力を有している。
マギウスですら理解の及ばない何らかの方法でドッペルを使えるようにした、その可能性もなくはない。
或いは、もう一つの可能性。
黎斗は死者の蘇生が可能、それは何も参加者のみを生き返らせた訳ではない。
主催者側にいる連中もまた、黎斗の手で蘇生させられた存在なのかもしれない。
ならば、『彼女』が黎斗の元にいないとは言い切れなかった。
(君もいるのかい?うい……)
各々の苦い思いを乗せて車が走る。
余談であるがねむは撤退の際に一つの支給品を手に入れていた。
ガシャットギアデュアル、野獣先輩の手から零れ落ちたパラドクスへの変身ツール。
具体的な使い方は知らないが残しておく理由も無い為、自分の手で確保したのである。
片桐章馬に始まり現在はねむの手に渡ったガシャット。
今後みふゆの願った通り皆と協力で使われるのか、それともあくまで己の為に使われるのか。
或いは力を欲する悪党(ローグ)だった男の手に渡るのか。
語る機会はまだ先の話だ。
【A-4/一日目/早朝】
【氷室幻徳@仮面ライダービルド】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(極大)、無力感と力への渇望(大)、運転中
[装備]:ロストドライバー+スカルメモリ@仮面ライダーW、軍刀@ゴールデンカムイ、黒塗りの高級車@真夏の夜の淫夢
[道具]:
[思考・状況]
基本方針:黎斗たちを倒して殺し合いを止める。
1:今は金髪の男(ポセイドン)から逃げる。
2:梓…すまない……。
3:エルフの少女(コッコロ)とユウキを知る者にキャルの伝言を伝える。
4:エボルト、里見灯花、柊ねむ、カイザーインサイトを警戒。柊をどうするか…。
5:俺にもっと力があればこうならなかったのか…?
[備考]
※参戦時期はTV版で死亡後。
【冴島鋼牙@牙狼-GARO-シリーズ】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大)、胸部から出血中、自分への強い怒り、乗車中
[装備]:冴島鋼牙の魔戒剣@牙狼-GARO-、魔導火のライター@牙狼-GARO-、
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜4、首輪(星合翔李)
[思考・状況]
基本方針:守りし者として人々を守る。この決闘も終わらせる。
1:ねむを守り、彼女の友人を探す。
2:逃げた男(野獣先輩)から必ず仮面ライダーの力を取り戻す。
3:首輪の解析が出来そうな参加者を探し、この首輪を託す。
4:零との合流を目指す。
5:葛葉紘汰、あの男の事は忘れない。
6:あの黒い騎士(葉霧)は何者だ…?
7:ねむに僅かな疑念。さっきの力は何だ?
[備考]
※参戦時期は牙狼-GARO- 〜MAKAISENKI〜終了後
【柊ねむ@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:健康、魔力消費(中)、いろはの存在へ動揺、黄金騎士への複雑な感情、乗車中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、フリーザの小型ポッド@ドラゴンボール、ガシャットギアデュアル@仮面ライダーエグゼイド、ランダム支給品×0〜3
[思考・状況]
基本方針:手段を問わずに主催者の力を奪って魔法少女を救済する。
1:今は逃げるしかない。みふゆの頼みは……。
2:鋼牙お兄さんと行動。荒事に関しては彼に任せよう。
3:魔法少女への変身はなるべく控える。つもりだったけど…。
4:灯花とも合流しておきたい。
5:七海やちよと深月フェリシアは邪魔になるなら排除。
6:もしいろはお姉さんと会ったら僕は……。
7:希望…馬鹿馬鹿しいよ……。
8:ドッペルが使えたのは何故だろう?
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※どの方向へ車を走らせているかは後続の書き手に任せます。
◆◆◆
地面が大きく削り取られた戦場跡に一人佇む神。
これでまた一人参加者を始末した。
されどポセイドンには喜びも達成感もない。
当たり前だ、虫を踏み潰してそこに大きな感動がある筈がない。
人間どもの殲滅など取るに足らない些事に過ぎない。
しかしどうだ、悉く逃げられ、いらぬ消耗を背負わされ、一時は支配下に置かれる始末。
人間が神を梃子摺らせる、無視できない事実を理解して尚もポセイドンは不変。
彼は人間を認めない、ただ少しばかりに思考に変化は表れた。
「驕りが過ぎる…」
神を騙る主催者共はもとより、参加者共も相当につけ上がっているらしい。
人の分際で神に勝てるなどと血迷い、阿保のように牙を剥くのが何よりの証拠。
のぼせ上った雑魚(カス)の過ちは死を以て償わせねばならない。
それを果たすのは神を自称する人間ではない。
正真正銘の神であるこの自分だけだ。
神は再び解き放たれた。
全ての命を無に帰すまで、彼が止まる事は絶対にない。
【A-4/一日目/早朝】
【ポセイドン@終末のワルキューレ】
[状態]:内臓にダメージ、疲労(絶大)、打撲(超軽微)、胴体に裂傷(中)、全身に切り傷(超軽微)
[装備]:トライデント@終末のワルキューレ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]基本方針:偽りの神共とのぼせ上った人間共を殺す。
1:一刻も早く雑魚(カス(参加者))共を殺し、殺し合いに優勝して雑魚(ハ・デスと黎斗)の元へたどり着く。
2:あの不敬極まる汚物(野獣先輩)は必ず殺す。
[備考]
※参戦時期は本編登場前。
※通常の兵器でもポセイドンにダメージは与えられます。
※野獣先輩によって<<洗脳ーブレインコントロール>>を使用されましたが、自力で解除しました。
◆◆◆
「ぬわあああああああああああん疲れたもおおおおおおおおおおおおん」
こいついっつも疲れてんな。
お馴染みのツッコミを口に出したい読者兄貴達の気持ちは最もだが、まま、そう焦んないでよ(神のお言葉)。
ライダーバトルでクッソ情けない敗北を晒した挙句に、本物の神から攻撃を受けたのだ。
さしもの野獣先輩と言えども今回ばかりは本当に疲れている。
皆もっと労わって差し上げろ(慈悲)。
「痛いですね、これは痛い…」
当初の予定ではポセイドンが白コートの剣士を殺し、その後で自分がポセイドンを始末するつもりだった。
そう上手く事は運ばず、剣士もメガネのメスガキも結局殺せていない。
おまけにポセイドンまでもっと危険な雰囲気となり、洗脳を脱け出してしまったではないか。
何やら自分の妨害に出たどこぞのメスはくたばったようなので、それだけは良しとする。
他に収穫があると言えば、手に入れた支給品の数々。
公園で死体の傍に置かれていたのを見逃す手は無く、全て回収しておいた。
ついでに骸骨頭の仮面ライダーが持っていたデイパックもだ。
刀は折られ、白衣を着た青年から奪った道具を落としたのは残念ではあるものの、ブレイバックルを取り戻せたなら後を引く程悔やみはしない。
氷室とか何とか呼ばれてた奴のデイパックを開き、中身を確認する。
「ん?」
参加者共通の支給品以外に一つ、見覚えの無い物があった。
取り出しマジマジ見ている内に、野獣先輩の顔がより汚いものと化す。
後輩の体にロックオンした時のような、さながら野獣の眼光とも言うべきおぞましさ。
「良いねぇ〜Foo〜↑」
上機嫌で眺めるソレはきっと、正しき心の持ち主が手にしたならきっとゲームを止める心強い戦力となっただろう。
残念ながらブレイバックル共々手に渡ったのは、優勝以外に目もくれない邪悪なホモ。
果たして野獣先輩がこの力を手にしたのは偶然なのか、それとも神の思し召しなのか。
全ては神のみぞ知るが、神であるポセイドンはこんなおはぎうんこの事なんて知ったこっちゃないので知っているのはGOしかいない。
GO is GOD
【A-4/一日目/早朝】
【野獣先輩@真夏の夜の淫夢】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大)
[装備]:ブレイバックル+ラウズアブゾーバー@仮面ライダーブレイド
[道具]:基本支給品一式×5、デュエルディスク+デッキ@???、ホームランバット@大乱闘スマッシュブラザーズシリーズ、緑へものスタンガン@おちこぼれフルーツタルト、風間大介のギターケース@仮面ライダーカブト、ランダム支給品×0〜5
[思考・状況]
基本方針:勝ち残り遠野を生き返らせる。
1:殺りますねぇ!(尚も衰えぬ殺意)
2:白コートの剣士(鋼牙)や厄介そうな参加者は悪評を流して同士討ちを狙う。
3:仮面ライダーブレイドの名を利用する。
4:後でデッキの力も試しておきたい。
5:遠野を殺した奴は絶対に許さない。
[備考]
※バトル淫夢みたいな戦闘力があります。
※滅の日本刀@仮面ライダーゼロワンは破壊されました。
※どの方向へ逃げたかは後続の書き手に任せます。
【軍刀@ゴールデンカムイ】
近接戦闘で用いられる軍人の刀。
作中では主に第七師団の鯉登音之進が使用。
【ラウズアブゾーバー@仮面ライダーブレイド】
烏丸所長が開発したブレイド・ギャレン専用の強化メカ。
本体中央にQのカードをセットし、JかKのカードをリード部分に読み込ませる事でカードに応じた強化フォームに変身する。
これはブレイド用として剣崎一真に渡された方であり、♠のJ・Q・Kのカード三枚とのセットで支給。
本ロワ独自の制限としてジャックフォームは10分、キングフォームは5分で強制的に変身解除。
再変身はそれぞれ2時間経過しなければ不可能。
○○○
微睡から目を覚ます。
ガタンゴトンと奏でられる汽車の音が耳には心地良かった。
窓の外には満天の星空。
見ているだけで胸の高鳴りを抑えられない。
ずっと昔、まだ何も知らない女の子だった頃へ戻ったかのよう。
二度と味わえないと思っていた気持ちに心が満たされ、ふとそんな場合で無いと我に返る。
まだやることが残っている。
まだ戦わなければいけない理由がある。
戻らなきゃ。
そう呟いて席を立ち、
「無理だよ、みふゆ」
懐かしい声がした。
いつの間にか、目の前の席に座る彼女。
頬杖を突き窓の外を眺める少女と、笑みを浮かべてじっとこちらを見つめる少女。
二人をワタシは知っている、知らない筈がない。
「ここに来たって事は、言わなくても分かるだろ」
ストンと、不思議なくらい自然に言葉の意味を受け取れた。
ああそうか。
彼女達にこうしてまた会えたのは、つまりそういうことなんだろう。
彼らが無事に逃げられたどうか心配ではある。
もう一度くらいは親友の顔を見たかったと、未練だってある。
でも後悔は無い。
自分があの場に残った選択を、間違いだったとは思わない。
「かっこよかったぞ、みふゆさん!」
ワタシの肩にポンと手を置き、元気よく言う少女。
かっこよかった、か。
結局、こんなに早くここへ戻ってきてしまったけれど。
大切な仲間で後輩の彼女にそう言ってもらえたなら、胸を張って良いのかもしれない。
残して来た皆はどうなるのだろうか。
自分よりも強い人達ばかりでも、やっぱり心配する気持ちはある。
――大丈夫ですよ、七海先輩達を信じましょう。
ワタシを見つめる笑みはそう言っているようで、コクリと頷き返す。
信じる。
以前の自分には出来なかったこと、彼女が傷付くと分かって離れて行ったワタシには。
けれど今なら、もう一度信じられる。
出会った人たちを、大好きな親友を。
「やっちゃん……」
約束破ってごめんなさい。
もう一度会いたかった。
ポンポン浮かぶ言葉は、今本当に言いたいことではない。
ワタシが彼女に伝えたいのは、きっとこれだ。
「頑張って」
窓から見えた三日月は、ワタシ達を見守ってくれるような優しい色をしていた。
【梓みふゆ@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版) 死亡】
投下終了です
里見灯花、キャスターリンボ(式神)、飛電或人を予約します
投下します
復讐を果たす。
ゲーム開始当初から、否、ゲームに巻き込まれる前より或人が何を捨て置いても優先するもの。
誰かが傷付いている、泣いている、助けを求めている。
その全てを知った事かと振り払い、忌々しい男の元へと辿り着く。
だがその通りに動くには、飛電或人という青年は善意を完全には捨てられなかった。
当然だ。
容易く切り替えられる程度の善意しか持たないならば、ゼロワンに変身する筈がない。
日は顔を見せず、月が淡く照らす心許ない夜の道。
恐れを知らぬ戦士の足取りで或人は進む。
指針となるは一体の人造生命体。
父であれと願われ生み出されたヒューマギア。
或人の希望を奪い去った許し難き男、滅。
考える、滅がこの地で何を為さんとしているかを。
答えは即座に弾き出された。
人類滅亡、かの人工知能が乗り移ったが如き人間社会への宣戦布告。
聖戦と信じてやまぬ大虐殺を引き起こすのだろう。
罪の無い人々ならず、障害と見なせば善良なヒューマギアすらも手に掛ける悪の所業。
『彼女』を破壊された絶望の瞬間を思えば、滅がそういった行動に出ても不思議は無い。
「……っ」
痛いくらいに噛み締められる奥歯。
滅に生まれた感情を信じたイズがあの日どうなったか。
火花を散らし、人工皮膚が剥がれ落ちた彼女の最後の笑みが今尚焼き付き離れない。
これまでずっと傍にいてくれた、この先も傍にいてくれる筈だった。
或人が疑いも無く信じた未来は、自らを突き動かす原動力諸共壊された。
イズはもういない、追い求めた夢は自ら捨てた、残されたのは憎悪。
それだけが或人の生きる理由。
ゲームが始まったばかりの頃はそうだったろう。
怒りで自らを追い込む或人の頭を冷やしたのは、キーキーという鳴き声。
パタパタ飛び回る小さなドラゴン。
心配しているのか、或いは落ち着けよとでも言いたいのか。
どっちにしても気を遣わせてしまったようだ。
機械の体を持った小さな仲間に。
「分かってる、大丈夫だよ」
クローズドラゴンへ、今は共に行動していない持ち主へ向けて言う。
復讐をやめるつもりはない。
ただ復讐のみに囚われ、他から目を背けるつもりもない。
少なくとも助けを求める声を無視して、見殺しにする真似には出来そうも無かった。
万丈龍我、彼との出会いで心に溜まった燻りをある程度解消し、幾分余裕が生まれたのである。
滅を倒すのを諦めたつもりは無く、他の参加者と必要以上に慣れ合う気もない。
しかし自分の力を必要としているなら、ゼロワンドライバーが無くともその者の為に戦う。
それが現在の或人の方針。
無理をして言ったのではない言葉を信用したのか、嬉しそうに鳴き声を上げる。
万丈が言っていた通りの喧しさ、されど不快感は無い。
こんな自分を心配してくれているのに、どこか嬉しさを感じるからか。
考えてみればイズを失ってからの自分を心配する者は多い。
不破や唯阿は勿論のこと、副添ら社員にも迷惑をかけてしまった。
迅だって、滅がイズを破壊したのにはショックだったろう。
復讐しか頭になかった時には彼らの様子に気を回せず、むしろ煩わしいとさえ思っていた。
ここにはいない仲間達へ申し訳なさを抱き、
「もし、宜しいですかな?」
ゾワリと。
一声で体温を奪われた気がした。
何か害を加えられたのではない。
体に走る痛みは万丈との戦闘によるもの以外ない。
ならばこれは一体何なのだろうか。
心臓を鷲積みにされた痛み、背筋を百足が這いずり回る怖気。
現実には起こっていないそれらを、男の声を聞いただけで錯覚してしまった。
「何やら急ぎの用があるとお見受け致しまするが、暫し足を止め耳を傾けて頂きたい」
振り返り、ソレをしかと己が両目で見る。
男である。
長身で、整った顔立ちで、奇抜な衣装を身に纏った、そんな男が一人。
今が殺し合いでなかったとしても、目を引く容姿の男へ或人が思ったのは一つ。
――コレは何だ?
誰だとか、何故そんな恰好をとかよりも真っ先に疑問に思ったのだ。
男が一体どういう存在なのかを。
目の前に立ち、口を動かし言葉を発するのは紛れも無い人間の姿。
だというのに或人はコレを人間に分類すべきか大いに悩む。
「そう身構えずとも心配は無用。ただ少々、拙僧との“お喋り”に付き合って下されば、と」
人間がこれ程におぞましい気配を放てるのか。
人間がこれ程までに他者を戦慄させられるのか。
コレと似た存在を或人は一つ知っている。
支配者(アーク)の名を冠した人工知能。
警戒と恐怖が電流のように駆け巡り、最早男の言葉を耳に入れるだけの木偶人形と化した時、
「あなた相手に警戒するなって言う方が無理じゃないかにゃー?」
耳へ届くはまた別の声。
男の言葉がまるで粘液のようにへばりつくなら、こちらは綿毛が纏わりつくかのこそばゆさ。
ひょこりと男の後ろから顔を出す少女。
男が平均的な日本人を凌駕する長身なのを考慮しても、少女の体躯はやけに小さい。
海馬コーポレーション製のデイパックより、赤くてピカピカのランドセルの方が似合う。
それ程に幼い少女だった。
「このお兄さんの扁桃体が興奮して、一次的情動反応を引き起こしちゃってるのは明らかだよー?もうちょっと自分の怪しさを自覚した方が良いんじゃないの?」
「ンン、これは手厳しい。当世では悪い男に惹かれる婦人方も多いと小耳に挟みましたが、灯花殿にはまだ早かったご様子」
「あなたの場合は惹かれるじゃなく引かれるって言う方が正しいと思うよー」
笑みを崩さぬ男とは対照的に、少女が浮かべる表情は冷たい。
声色に含まれるのは大きな呆れ、それに嫌悪と警戒。
或人をも戦慄させた男と皮肉交じりに言葉を交わすとは、この少女は何者なのか。
理解が追い付かない。
奇妙な組み合わせの二人組が自分そっちのけで会話する光景。
反応に困り固まるしかできない或人へ、ため息交じりに少女が視線を寄越す。
男に向けたのとは違う見た目に相応しい、しかしどこか冷たいものを感じずにはいられない笑みで話しかけた。
「知ってることぜーんぶ、わたくしに教えて欲しいにゃー」
○
「飛電インテリジェンス?悪いけど、中小企業を一々覚えてあげる程物好きじゃないんだよねー」
「ちゅうしょ…いやいや滅茶苦茶大手だって!」」
数分後、三人の間で行われたのは然程大きなことでもない。
互いに交戦の意思の無い参加者ならばやるだろう、情報交換。
それぞれ名前を明かし、どんな参加者と出会ったか、誰を探してるかを教え合う。
リンボと名乗った男を強く警戒してはいても、戦闘を仕掛ける様子はない。
なら話をするくらいは或人としても問題なかった。
何故か首輪を填めていないのに関しても、ここにいるリンボは分身のようなものであり本体は別行動中と説明。
或人が特に求める情報、滅に関してはどちらも知らないとのこと。
出会った参加者と言えばリンボの本体と行動中の二人だけ。
当たり前だが馬鹿正直に自分達の行いを明かす真似はしない。
女児が着せ替え人形をドレスアップするように、吉田良子を自分好みへ捻じ曲げた。
極めて利己的に使えないと判断し、桜田ネネをモンスターの餌にした。
復讐の道を選んだ或人であっても知れば敵対は確実。
真実を知る術の無いが故、警戒以上に何もしない。
「ところで、社長さんが会ったのはその二人だけなの?」
「ああ、万丈と…そういやあの子の名前聞いてなかったな…」
「ふーん……」
ついさっき遭遇し、或人の目を覚まさせる目的で戦闘を仕掛けた青年。
万丈以外で或人が出会ったのは金髪の少女だけ。
巨大なハンマーを振り回しNPCを蹴散らしていた少女について、或人はほとんど何も知らない。
殺し合いに乗っていない、滅とも会っていない。
それだけ聞き早々に離れたのを今になって後悔する。
せめて名前を聞いていれば、少女の仲間に何処であったかを伝えられたというのに。
失敗を悔やむ或人を尻目に、灯花はつまらなそうに目を細める。
特徴を聞くに金髪の少女は深月フェリシアで間違いない。
自分の知る参加者の一人だが、いろはやねむと違い敵と見ている相手。
精々他の面倒な参加者を道連れにして、やちよとみふゆ共々さっさと死んでくれた方が都合が良い。
大人しく魔法少女救済に手を貸す、なんて展開には期待しない。
灯花にとって幸運な事に、フェリシアが或人と遭遇したのはゲーム開始直後。
黎斗が大々的に放送を行う前、まだ参加者名簿が確定していなかった頃だ。
もし名簿を確認した後で或人と会っていたら、危険人物として灯花とねむの情報を教えていただろう。
リンボだけでも警戒の対象なのに、そこへ加えてフェリシアから警戒を促された少女までいる。
そうなっては情報交換どころか、戦闘に発展した可能性とてあるのだ。
争いにならずに済んだのを良しと見るか、危険人物の情報を知る機会が無かったのを悪いと見るか。
灯花の正体を知らない或人には判断を付けられなかった。
滅の情報が無いなら何時までも足を止める理由は無い。
「暫し待たれよ或人殿」
そこへ待ったをかけるは怪僧の一声。
互いに話すべきは全て口にした筈。
何故いざ再出発のタイミングで止めるのか、訝し気な瞳も何のそので続ける。
「時間は取らせませぬ。一つだけ確認しておきたい事があります故」
「まぁいいけど…」
「感謝いたします。ええ、ええ、気難しく考える必要はない、認か否かの実に実に単純極まる質問なので!」
いいから早く言えよと或人のみならず、傍らの灯花も視線で呆れを伝える。
急かす空気を察し、これは失敬と上辺の謝罪を先に一言。
次いで本題が口から飛び出た。
「率直にお尋ねしますが、或人殿は先の話に出て来た滅なる者を大層憎んでおられるのでは?」
「…っ!」
強張る表情、言葉に出さなくとも態度が正解だと言っている。
万丈の時よりは落ち着いて滅の事を聞いたつもりだったが、あの男への憎悪を完全には抑え切れず見抜かれたらしい。
尤も或人が滅へ恨みを抱いているだろうとはリンボだけでなく、灯花にも察しが付いた。
魔法少女の中には個人的な復讐や、逆恨みでキュゥべえと契約を交わした者も少なくはない。
そういった羽と滅の情報を求める或人はやけにそっくりだった。
だからといって所詮は他人の事情。
或人が誰を恨もうと自分の邪魔にならないなら、別に口出しする気は無い。
不運な事に、灯花と違いリンボにはちょっかいを掛ける格好の相手と認識されたようだが。
「反応を見るに図星のようですな。拙僧これでも人を見る目には自信がありまして」
その人を見る目のせいでデリケートな部分を土足で踏み荒らされた挙句、泥を撒き散らされたのが灯花だ。
負の感情を溜め込んだ真顔で睨み付けるも、気付いてないのか効果なし。
気付いたとしてものらりくらりと躱されるのがオチだろうけれど。
「…だったら何だよ」
つい喧嘩腰で聞き返す。
まさかとは思うが復讐はやめろとでも論すつもりか。
もしそうなら話を打ち切って、早々に彼らとは離れた方が良い。
身構える或人に対し、リンボはあくまで柔らかな物腰を崩さない。
「勘違い為されるな。復讐、大いに結構!無粋にもそれを阻もうなどとは微塵も考えておりませぬ。ただ一つ、若人へ僭越ながら助言を贈りたいのです」
「助言…?」
またもや或人を困惑させる内容。
復讐の邪魔をされないのは良いとして、まさかアドバイスをするとは。
迷える信者を導く牧師のように、ゆったりとした口調で言う。
「滅への復讐、それ以外は捨てなされ」
或人の心を掻き乱す悪意を。
「は……?」
理解するのに十数秒の時間を要した。
自分は今何を言われたのか。
目の前の男は今何を言ったのか。
まるで水に溶けるように、リンボの言葉が或人の心(なか)へ浸透する。
復讐以外は捨ててしまえ。
つまりそれは、
「襲われてる人がいても無視しろって言いたいのか…?」
「平たく言うとそうですな」
あっさり肯定され顔が引き攣る。
万丈から言われた事の正反対をやれと、リンボはそう言っているのだ。
自身の中のアークに囁かれた、他の連中なんぞどうでもいい、復讐を優先しろと。
まさかそれと同じ内容を他者から言われるとは思わなかった。
「そんなの…!」
もしゲームに巻き込まれた直後や万丈と出会う前なら、また違った反応を見せただろう。
しかし或人は既に万丈との戦いを通じ、本来持つ善意をある程度だが取り戻した状態。
故にリンボの助言へ声を荒げる。
復讐を言い訳に救いが必要な人達を見捨てるなど、万丈が突きつけたように間違っている。
復讐の為に誰かを守る道を捨てるつもりはない。
己の善意のままに反論を返す。
「まぁまぁ落ち着きなされ。憤るのは拙僧の話を全て聞いてからでも、遅くはないでしょう」
或人の怒りを真正面から向けられても、涼しい顔で受け流す。
暖簾に腕押し、真面目に怒るだけ馬鹿を見るとでも言いたげな態度。
話を聞くも何も、他者を見捨てる正当な理由なんてあるものか。
至極当然の怒りを露わにする青年へ向け、怪僧は次の言葉を言い放つ。
「滅が別の者に討ち取られても或人殿は納得できると?」
「えっ」
動きが止まる。
熱を一瞬で奪い取られ、怒りの感情は瞬く間に霧散。
冷水を浴びせられたというよりは、蛇が絡み付いたと言った方がしっくり来る。
噛み付き流し込んだ毒が、あっという間に激情を塗り替えた。
「聞けばその滅なる絡繰人形、屍を積み上げ血の河を築く正に此度の遊戯へうってつけの人材。黎斗なる自称神が目を付けるのもよく分かる。ですが、それは何も滅のみに限った話ではありますまい」
黎斗が開催したゲームは殺し合い。
人類滅亡を掲げ、人間を殺すのに一切の躊躇を持たない滅は本選のプレイヤーにこの上なく相応しい。
だが人殺しを積極的に行う参加者は別に滅しかいない訳ではない。
例えば放送で少女を惨殺した金髪の男、例えば万丈が警戒を呼び掛けていたエボルト。
他にも或人が知らないだけで、残虐性と相応の力を持った輩がゴロゴロいても不思議は無い。
加えて言うなら、戦う為の力を持つのは殺し合いに反抗する参加者だって同じ。
既に或人が遭遇した金髪の少女や万丈が良い例だ。
そういった参加者の存在を考えれば、リンボが何を言いたいかも自ずと見えてくる。
確かに滅はそう簡単に殺される程軟では無い。
がしかし、或人が復讐を果たすまで絶対に生き延びている保障も無いのだ。
忘れてはならない、或人達が巻き込まれたのは殺し合いだ。
殺し合いを良しとしない善良な参加者を襲い、討ち取られるかもしれない。
或いは別の殺し合いに乗った参加者と戦闘に発展し、あえなく破壊される可能性もある。
事情を知らない参加者からしたら、或人の復讐の為に滅を生かしておこうなどとは考えないだろう。
「それは……」
滅が他の参加者を殺そうとするとは考えた。
けれどその逆、滅が他の参加者に殺される可能性を失念していた。
今この瞬間にも復讐すべき男が或人の与り知らぬ所で殺されている、そんな展開は有り得ないとどうして言い切れようか。
「救いを求める者達を放っては置けない。ええ、確かに人間として正しき行いと言えるでしょう。ですが、善行を為す事が恨み辛みを晴らす機会の喪失に繋がるとしたら…果たしてそれは或人殿の望む所と言えますかな?」
言葉に詰まる。
他の巻き込まれた参加者がどうでもいい、と言うつもりはない。
放送で少女達や自分の知らない仮面ライダーが殺された際に抱いた義憤は、偽りなんかじゃない。
あのような悲劇がこの先も起こるのなら黙っていられない。
しかし復讐の妨げになるのなら、流石に思う所は多々ある。
「とはいえ、仮にそうなっても参加者の皆々様にとっては喜ばしいことでしょうなぁ。自分達を害する絡繰人形が消えたとあれば、拾われる命も少なくはないでしょう」
但しそれは或人の個人的感情を無視すれば、という大前提が付くが。
滅が自分以外の者の手で破壊され、納得できるか否か。
出来る訳が無い。
万丈との邂逅を経た後でも滅への憎悪は健在、この手でイズの仇を取らねば気は済まない。
そうでなければ何の為に自分の夢を捨てたのか、アズの誘いに乗りアークの力を手にしたのか。
復讐という選択を自ら諦めるのではない、どこの誰とも知れぬ輩の手で奪われる。
そのような結果、断じて認められるか。
「ねー社長さん」
ここまで口を挟まなかった少女の声。
渋い顔で俯く或人をフォローする為か、それとも更に追い詰める為か。
少女とは思えぬほどに冷め切った瞳で灯花は言う。
「社長さんが誰を恨もうが興味無いけどー。知らない人達を一々助けるのに労力を費やすくらいなら、本当は大して恨んだりしてないんじゃないのー?」
「っ!そんなことない…!俺は滅を…」
「だったら」
年上の青年の激昂もどうでも良さげに受け流す。
恨みが本物なら、殺さずにはいられないくらい憎んでいるのなら。
答えは一つしか無いだろうに。
さながら出来の悪い生徒へするように、ため息交じりで教えてやった。
「そんなどーでもいい人達なんか無視して、早く殺しに行った方が良いんじゃないかにゃー?どっちつかずなままじゃ、全部無駄になっちゃうよ?」
○
月が淡く照らす道をとぼとぼ歩く青年。
鉄球を括り付けた罪人の如き鈍足で、或人は一歩一歩進む。
リンボ達とは同行せず、ゲーム開始当初と同じ単独行動。
怪し過ぎる怪僧を放置していいものかと悩みはしたが、結局は別れて今に至る。
滅を見付けるのを優先したかったから、リンボと一緒にいた灯花が心配無用と言ったから。
理由は色々あるが、一番はこれ以上一緒にいて自分の心を掻き乱されたくなかったからだろう。
「……」
別行動を取っても、二人に言われた内容が冷静さを渦のように絡め取る。
怪しい連中の言葉など無視しろと言い聞かせ、その通りに出来れば苦労はしない。
リンボの言葉は果たして間違いだと言えるのだろうか。
自分が破壊するまでに、滅が生きているとは限らない。
一刻も早く滅の元へ辿り着かねばならない自分に、道中見ず知らずの者達を助けている余裕はハッキリ言ってないのだ。
無論、力を持たない参加者が死のうとどうでもいいと言うつもりはない。
しかしそういった者達を助けるのにかまけた結果、復讐の機会を失うかもしれないとあっては話は別だ。
「……」
よくよく考えてみれば、何も自分が助けなくても良いのではないだろうか。
殺し合いに乗っておらず、尚且つ他者を助けられる力の持ち主が自分一人しかいないとかならともかく。
万丈や彼の仲間である桐生戦兎達など、善良な仮面ライダーは複数いる。
それなら何も或人が手を差し伸べずとも、そういった役目は万丈達に任せても良いのでは?
言い訳染みた考えを浮かべた瞬間、耳元でキーと鳴き声がした。
「うわっ!?脅かすなって…」
鼓膜が痛む。
耳を抑えて抗議するも、知った事かとばかりにクローズドラゴンは鳴き声を上げる。
数十分前なら苦笑いで済ませた姿も、今では何となく後ろめたさを感じずにはいられない。
まるで本来の持ち主に自分の身勝手な考えを見透かされた気分だ。
「……本当に大丈夫だってば」
こちらの葛藤を見抜いてか、尚も鳴き止まない。
万丈本人に責められている気がして落ち着かず、首根っこを掴んで黙らせる。
抵抗するクローズドラゴンをデイパックに押し込み、やっと静かになった。
が、静寂が戻った所で胸中のざわめきは健在。
むしろ気を紛らわす鳴き声が無くなったせいか、余計に思考はこんがらがるばかり。
頭の中ではリンボと灯花の言葉が繰り返され、負けじと万丈から喝を入れられた光景がリピートされる。
――『もし何も力を持っていねぇ人に会った時も…その復讐を優先するつもりかよ!?』
――『お前はそんな自分を自分で裏切っている事に罪悪感を感じねぇのかよ!?』
――『多くの力がない人達を無視してまでしたい物なのかよ!?』
「じゃあどうしろって言うんだ…」
復讐が叶わなかったなら、仕方ないで切り替えろとでも言うのか。
滅をこの手で破壊出来なくとも、他の人達を守れたなら良かったで済ませろと言うのか。
イズを奪われた絶望は、そんな簡単に割り切れる程軽いものじゃあない。
自分の間違いに向き合わされた熱く力強い言葉。
今ではどこか冷めた思いを抱いている。
そんな自分が堪らなく嫌だった。
【G-5 川沿い付近/一日目/黎明】
【飛電或人@仮面ライダーゼロワン】
[状態]:迷い(大)、ダメージ(中)
[装備]:ビルドドライバー+メタルタンクタンクフルボトル+ハザードトリガー@仮面ライダービルド
[道具]:基本支給品一式、アナザーゼロワンライドウォッチ@仮面ライダージオウ×ゼロワン、令和・ザ・ファーストジェネレーション、フルボトルバスター@仮面ライダービルド、クローズドラゴン@仮面ライダービルド
[思考・状況]
基本方針:とりあえず滅をはか…倒す…
1:滅がここにいるなら必ず倒す…つもりだ。でももし他の参加者に倒されたら……?
2:垓さんか…まぁ頑張ってくれてるといいな
3:とりあえずあった人からは話を聞いていこうかな
4:万丈の仲間に会えたら礼と情報交換をしなくちゃな
5:エボルトに警戒
6:主催の人達は許さない、けど滅よりは優先度は…まだ低いな
7:他の人達を助けて、それで間に合わなくなるなら……
[備考]
※参戦時期は43話開始直後。
◆◆◆
復讐に燃えていた青年は自らの過ちを突き付けられた。
結果、憎悪の感情は燻ったままなれど本来持つ善意を幾分か取り戻した。
必要以上に慣れ合わなくとも、救いを求める人々の元へ駆け付け、縁を繋いで行く。
そうすれば復讐を完遂した後も、各地で築いた絆が彼を一人にはさせない。
一度は悪意に呑まれた青年は仲間のお陰で徐々に己自身を取り戻し、もう一度ヒーローとして再起を果たす。
万人受けする王道のストーリー。
だが待って欲しい、それは本当に面白いと言えるのだろうか?
否、断じて否と唱えるのがキャスターリンボ。
憎悪という極上の食材を、つまらない調理法で三流の料理に仕上げる。
何と勿体ないことか。
なのでリンボ好みのスパイスをさっと振り掛け、彼の復讐心を突き出してやった。
檀黎斗が提示したゲームのクリア条件は優勝と主催者撃破の二つ。
この内後者を目的とする者達にとっては、或人が善意で悪意を乗り越えるのは歓迎すべきものだろう。
しかし、必ずしもそのようになる必要はない。
優勝か主催者撃破、そこに至るまでの過程はああしろこうしろと細かいルール明記はされていない。
となれば、リンボが或人にちょっかいを出し打倒主催者を目指す者達の妨害を行うのはルール違反に非ず。
むしろこれもまたゲームを盛り上げる要素として、黎斗からは喜ばれるだろう。
ポセイドンやデェムシュ、鬼舞辻無惨など強力無比な暴力のみではない。
こういった悪辣な策を用いる悪プレイヤーもゲームの魅力を引き立てるのに必要不可欠なのだから。
人間というのは面白いもので、一度道を踏み外せばあっという間。
もし或人がこの先己の復讐を優先し、他者を見捨てたらどうなるか。
最初は罪悪感に蝕まれるだろうが、二度三度と続けば抵抗も薄れる。
「自分には今更誰かを助ける資格も無い、既に見捨てている自分はもう復讐の道を突き進むしかない」。
そんな言い訳を重ねて、引き返せる道を自ら潰す。
何せ引き返してやり直すよりも、落ちるところまで落ちる方が楽だ。
仮に或人がそれでも参加者を見捨てられず助け続け、結局滅が別の誰かに倒されたなら。
復讐の機会を永遠に失った或人はやり場のない感情をどこへぶつけるのか。
「こんな奴らに構っていたせいで復讐出来なかった」と、自らが助けた者達へ逆恨みを抱く。
どう転んでも傑作と言える光景の出来上がり。
そうなっては最早或人は善意を信じて戦うヒーローではない。
悪意を糧とする醜悪な存在、仮面ライダーゼロワンと対極に位置する新たなアークが生まれる。
「それにしても少々意外でしたな。灯花殿はあの若造の為す事に無関心のはず」
「べっつにー。仮にも社長さんの癖してまごまごしてるのがみっともないって思っただけ」
灯花からすれば或人が今後どうなるかなど興味無い。
ただ復讐を優先するのか、見ず知らずの連中を守りたいのか。
どっちつかずな姿勢を見苦しく思ったのは事実。
だから辛辣な言葉を投げかけたが、あれはきっと灯花自身に言い聞かせる内容でもあったのだろう。
参加者名簿を見た時に湧き上がった、捨てなければいけない未練。
魔法少女の救済よりも、ねむと二人でいろはの傍にいるという選択肢。
捨てたと思ったが未だ心の奥底で燻っていたらしい。
いろはの望むだろう選択を、灯花はダメだと否定する。
たとえいろはの切な願いを裏切るのだとしても、自分とねむがやらねばならないのは魔法少女の救済。
未練を抱え中途半端なままでは、魔法少女は救われない。
(そうだ、わたくしはお姉さまを……)
魔法少女の運命から解放する。
沢山の愛をくれたあの人の為なら、どれだけ罪を被ろうが構うものか。
自分とねむにとって、いろははそれくらいに大切な――
唐突に。
あのお菓子が食べたいとか、近所の雑貨屋に行こうかなとか。
そんな日常で抱くような気安さで、ふと思い浮かんだ。
もし、殺し合いの中でねむが死んでしまったらどうなるのかを。
ねむだって自分と同じマギウスの一人、下手を踏むような真似は滅多にしない筈。
だがこの地にはリンボを始めとして得体の知れない連中がゴロゴロいる。
如何にねむとて、絶対の安全が保障された訳ではない。
ういはもういない、そしてねむもいなくなり灯花だけが残ったら。
その時は、いろはからの愛は灯花のみに向けられる事になる。
魔法少女になる前、入院時代からいろはは自分達三人を等しく大切にしてくれた。
疑問や不満を抱いた事は一度も無い。
贔屓や蔑ろを絶対にしないいろはだからこそ、自分達はあの人を大好きになったのだから。
だが思う、いろはからの想いを自分だけが独占出来るとしたら?
何時だったか作ってくれた豆腐ハンバーグのお弁当、あれを自分の為だけに作ってくれるとしたら?
病とは無縁の体で神浜市を歩く、それも四人では無くいろはとの二人きりで。
想像した光景に、ゾクリと言い知れぬ感覚を味わう。
ういでも、ねむでも、まして七海やちよでもない。
自分だけがいろはを独り占めする。
背徳的な喜びがじわじわと湧き上がり――
「……っ!」
我に返り頭を振る。
一体自分は何を考えているのか。
確かにねむが無事でいられる保障は無いが、だからといって死んで欲しいなど思っていない。
大体自分の目的は魔法少女の救済、いろはを救うことだろうに。
灯花自身の幸福を叶えるのが目的ではない。
「ンン――」
震える小さな体を見下ろし、リンボはニタニタと笑うばかり。
灯花も或人も、順調に自分の零した毒が効いている様子。
たかが一滴、されど毒は毒。
放って置けば全身を蝕み、やがてはリンボの望む光景が現実のものとなる。
キャスター・リンボ、蘆屋道満。
如何なる世界、如何なる時間、如何なる戦場においても。
秘めたる悪意に翳り無し。
【G-5 川沿い付近/一日目/黎明】
【里見灯花@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:あり得ない思考に対する動揺(小)、リンボ(式神)による暗示の影響(小)
[装備]:デュエルディスク+素良のデッキ@遊戯王ARC-V
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品×1〜3、ネネの首輪
[思考・状況]
基本方針:ハ・デスの力を奪い、魔法少女の救済を果たす。
1:使える人材は生かしておく。
2:首輪を外す。取り敢えずどこかで調べたい。
3:出来ることならねむと合流。
4:深月フェリシア、七海やちよ、梓みふゆに関しては、邪魔をしてくるなら容赦しない。
5:私は、いろはお姉さま、を――?
6:この陰陽師(リンボ)、信用はできないは実力はあるから今のところは保留
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※首輪が爆発した時、ソウルジェムも同時に破壊されると考えています。
※リンボによる暗示の影響で、リンボに危害を加えることは不可能となっております。
【キャスター・リンボ(式神)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康(本体より弱体化)
[装備]:
[道具]:小倉しおんの支給品袋及び支給品一式、小倉しおんのランダム支給品1〜3
[思考]
基本:ただ、己の衝動と欲望の赴くままに
1:里見灯花に付き従う。何時彼女が爆発するか楽しみですぞ、ンンンンン―――。
2:飛電或人が次に会った時どうなっているか、いやはや期待が高まりますなぁ。
[備考]
『式神について』
※最大召喚数は1名
※他参加者から5メートル以上離れた場合自動的に消滅。
※性能は本体より著しく弱体化。
※自動消滅または撃破された場合、式神再召喚まで6時間のインターバルが必要。
※本体が撃破された場合、式神も同じく消滅する。
※式神が得た情報は本体に共有される。
投下終了です
ゲリラ投下します
衛宮士郎が悪しき一歩を踏み出す。
眼前の少女を葬る為に。この決闘に優勝し願いを叶える為に。
可能ならこの子の妹も救いたいと思いつつ、一番重いものの捨てる気はない。
だから同類を殺そうとする。
その直後だった。
『プレイヤー諸君―――君たちに朗報がある』
神を名乗るゲームマスター、檀黎斗の姿が空中に現れ、放送が始まったのは。
突如現れた真なる主催に、思わず動きを止める二人。
放送を無視して攻撃を仕掛けることは可能だが、殺し合いは目の前の相手を倒せば終わるものではない。
むしろこれは始まりだ。
ならば、まだ始まったばかりで重要な情報源を聞き逃すわけにはいかない。
お互いそう考えたからこそ、二人は身じろぎ一つすることなく放送を聞いていたのだ。
『彼女の名前は美遊。私達が人質として捕えた少女だが―――君たちがラスボスであるこの私を倒した場合、解放してやってもいい』
そして放送は終わる。
どちらも考えること、確認することはあるが、まさか敵を目の前にしてそれを行うことはできない。
ならばまずは倒してから、と思いエクスカリバーを構え直す風。
しかし、一方の士郎は構えるどころか投影で出したシンケンマルを消し、地面にドカッと座り込んだかと思うと、風に向けてこう声を掛けた。
「一時休戦しないか」
「……どういうつもり?」
さっきまで殺しあうつもりだった男から来た突然の言葉に、思わず訝し気になる風。
しかし士郎は嫌な顔一つすることなく、淡々と意図を説明し始めた。
「そんな難しい話じゃないさ。
お前も見ただろ。さっきの放送に出てきた、モンスターを召喚する女の子を殺した金髪の奴」
「……あの強そうな人が何よ。強そうだからって一緒に戦おうって話?」
「そうだ」
一番ないだろうと思っていた選択肢を無拍子で肯定され、思わず呆気にとられる風。
だが士郎は気にもかけず話を続ける。
「別に根拠なく強いって思ってるわけじゃないぞ。
例えばこのゲームの主催者が紹介していた敵キャラ、あの継国縁壱についてはどう思う?」
「……いきなり言われても、まあ侍って感じ?
あ、でも主催者が用意したボスって奴でしょ。じゃあ弱かったら拍子抜け、みたいに思われちゃアレだし、まあ強いんじゃない?」
「俺もそう思う。
それでいて、あの金髪の男も立場的には似たようなもんだと思う。
殺し合いに乗っていることをあそこまで明確に示しても、あいつはそう簡単にやられたりしないと判断したからああやって放送したんだと思う」
「思ってばっかりね」
「……言うなよ。しょうがないだろ、俺は金髪の男の事も主催者の事も知らないんだから」
「ごめんなさい。とにかく、あの二人を殺すまでは休戦、ってこと?」
「いや、どうせならある程度参加者が減るまででいいんじゃないか? 別に殺し合いに乗っているのはあの二人だけじゃないだろうし。
他にも強い奴はいないとは言い切れないだろ」
なんだか、戦う空気じゃなくなってきた気がする。
そう感じた風だが、同時に士郎の言い分に理があるとも思った。
なので彼女もエクスカリバーを消し、士郎と同じように地面に座った。
「いいわ。強そうな参加者をある程度倒すまで休戦ね。
でもひとまずだから」
「分かってるよ」
こうして一時休戦は成立した。
そんな二人がまずしたことは、自己紹介である。
休戦し、話すこともある以上名前を知らないというのはあまりにもお互いやりづらかった。
その次は名簿の確認である。
特に風は、守り助けようとしている妹や仲間がいないかこの段階になって初めて不安になった。
もっとも、その心配は杞憂であったが。
「……良かった」
「その様子だと、お前が助けようとしている妹はいないみたいだな。犬吠埼」
「ええ、おかげさまで。そっちは?」
「……ああ、名簿に俺の知っている名前はなかったよ」
風の問いに返答してから、士郎はそういえばとばかりに捕捉する。
「いや、すまん。ポセイドンは知っている名前だな」
「何それ」
「ギリシャ神話の海の神様だな」
「ふーん、物知りなのね。私はそういうのあんまり分かんないし。
……まさか本当に神様も参加していたりする?」
「そりゃいくらなんでも……いやでもこの決闘、滅茶苦茶だしもしかしたら……」
風の提示する可能性を、己の知識に当てはめて否定しようとする士郎。
しかし、現在行われている殺し合いが途轍もなく埒外なことを考えれば、あながち否定できない気がした彼は言い淀んでしまった。
本物の神。もしそんなものが同じ殺し合いに参加していて、なおかつ敵だったら、と考えるとあまりに恐ろしい。
それがどれだけの存在なのか、曲がりなりにも魔術世界に身を置く彼は風以上には理解しているのだから。
とはいえ、今はそれが事実なのか確かめる術はない。
なのでこれからどうするか話し合おうとした矢先、空がふと月や星の瞬きとは違う光が現れた。
二人が空に見上げるとそこには――
「ロケットが飛んでる……!?」
「なんでさ」
あまりにもトンチキな光景に思わず素で呆ける二人。
このロケットは同じエリアで壮絶な戦いの末逃げることを選んだ閃刀姫と魔戒騎士、それから平凡な少女が乗り込んでいるのだが、そんな事実を彼らは知らない。
「……どうする? あのロケット追いかけてみる?」
「いや、逆に発射地点に行ってみてもいいかもしれない」
「……どういうこと?」
士郎の提案を疑問視する風。
それを受けて彼は、なんか説明してばっかりだな、と思いながらも大人しく説明を始めた。
「恐らくだけど、あのロケットに乗っている奴は逃げたんだと思う。
殺し合いに乗っている奴に襲われたのか、あるいは逆に襲い掛かったけど返り討ちに逃げたのかまでは分からないけどな」
「後者だとすればダサいことこの上ないわね……
でもそっか、そっちにもいるかもしれないのか」
「まあどっちであっても俺らが知らない奴なのは間違いないし、どっちでもいいんだろうけどな。
犬吠埼はどうだ?」
「どっちでもいいってなると逆に困るわね……うーん、じゃあ――」
風は士郎の問いを受けて、それほど考えず返答する風。
それを聞いた彼の行動は早い。
「じゃあそっち行くか」
「え、いいの!?」
士郎のあんまりな即決に驚く風。
確かに判断材料がない以上、ほぼ勘でしか決めようがないのは間違いない。
だからと言ってこんなにあっさり決められると、流石に驚いてしまう。
とはいえ決まってしまった以上、風も逆らう理由も決めてもない。
こうして、二人は歩き始めた。各々の大切なものを救うための、その一歩を。
◆
(悪いな、犬吠埼)
目的に向かう間、士郎は内心で風に謝罪をする。
なぜなら、彼は風に嘘をついているからだ。
とはいっても、彼が語った内容に嘘はない。
士郎の知人は名簿に乗っておらず、休戦の意図も本音だ。
だが当初に比べて彼の行動の意図が変わる理由がある。
(美遊。待っててくれ)
美遊。
最初の放送で黎斗が人質として紹介した少女は、士郎が救おうとしている妹だ。
その少女がこの殺し合いに関わっている以上、彼の目的はシフトした。
(俺は誰にも、お前に願いを叶えさせたりしない)
士郎の妹、美遊にはある能力がある。
それは願望器としての力。
生まれついての聖杯であり、人の願いを無差別に叶える力がある。
しかしその代償として、彼女は願いを叶える度に魂をすり減らしていかなければならない。
つまり――
(この殺し合いの優勝賞品は、美遊だ)
黎斗の願いを叶えるというのは、美遊を使って行使するのだろう、と士郎は結論付けた。
そして彼はそれを認めたくないから、ただの少女として生きて欲しいから殺し合いに乗ったのだ。
士郎の願いはどうあっても変わらない。
ただ、やり方は変わる。
(そうはさせるか。だったら俺は、優勝を狙う奴を皆殺しにする)
それはとても単純な結論。誰にも願わせなければ大切な人を救えるのなら、願おうとする者を排除すればいいだけの話。
その為なら、どんなことでもする。
殺し合いに乗った少女とだって、手を組む。
【C-3/一日目/深夜】
【衛宮士郎@Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ3rei!!】
[状態]:健康(?)英霊エミヤが侵食
[装備]:シンケンマル@侍戦隊シンケンジャー、双ディスク@侍戦隊シンケンジャー、共通ディスク@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:妹を救う。その為に優勝を狙う奴は皆殺しにする
1:ロケットの行く先に向かうか、それとも発射地点に向かうか――
2:強そうな参加者をある程度排除するまで、しばらくは二人で一緒に行動する。
3:もし可能なら、風の妹も救いたかった。
[備考]
※参戦時期はイリヤたちがエインズワースの工房に潜入した後です。
※ロケットの行く先(ロゼ、零、チノがいる方向)か発射地点(のび太がいる方向)のどっちに向かうかは次の書き手様にお任せします
【犬吠埼風@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康、左眼の視力が散華、夢幻召喚による変身中
[装備]:サーヴァントカード セイバー@Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ3rei!!
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:妹や仲間の未来を取り戻す為に優勝する。
1:ロケットの行く先に向かうか、それとも発射地点に向かうか――
2:強そうな参加者をある程度倒すまで、しばらくは二人で一緒に行動する。
3:私は絶対に……
[備考]
※参戦時期は諸々の真相を知って自棄になっていた時期です。
※英霊召喚やカードそのものの制限に関しては、後の書き手様にお任せします。
※ロケットの行く先(ロゼ、零、チノがいる方向)か発射地点(のび太がいる方向)のどっちに向かうかは次の書き手様にお任せします
投下終了です
吉田優子、桜ノ宮苺香、風祭小鳩、保登心愛、櫻井戒、閃刀姫-レイ、門矢士、継国縁壱、キャスター・リンボ、吉田良子、最上啓示を予約し先に延長もしておきます
投下します
仮面ライダーキバ。
嘗て士が通りすがった世界で、幼きファンガイアの王と絆を深め手にした力。
失われたキバのカードを取り戻せたのはこれが二度目。
以前と違うのは、それを喜べる状況ではないこと。
キバのカードは紅渡の死と引き換えに、士の元へ現れたようなものだ。
共にいた時間は前に会ったワタルよりもずっと短い。
だがその短い時間の中でも、士と渡の間に確かな信頼関係が築かれたのも事実。
本当だったら、この先も背中を預け合い戦う筈だった仲間。
渡をこうも早く失ってしまったのは士と言えども、悲しみを抱かずにはいられない。
されど喪失の痛みをストレートに顔へ出さないのは、彼が元来捻くれ屋な性質だからか。
それとも、10を超えるライダー世界の旅で精神的に落ち着きを見せたからか。
両方正解だが一番の理由は違う。
渡はどう足掻いても死ぬ己に絶望し、自暴自棄で侍の相手を一人引き受けたのではない。
出会った仲間達を死なせたくないから、彼らならゲームを終わらせられるから。
門矢士はきっと檀黎斗攻略の鍵になる戦士だからと、そう信じたのだ。
悲しみはある、しかし後を託されたのに何時までも悲観はしていられない。
ならば士がやるべきは今までの戦いと変わらない。
檀黎斗のゲームを破壊する。
渡やまだ見ぬ多くの者の音楽を、身勝手な遊戯で失わせるものか。
(ぶっ壊すのは得意、だからな)
ふんぞり返っているだろう神へ皮肉気な笑みを、心優しきファンガイアの王へは力強い笑みを。
キングオブバンパイアが描かれたカードを見つめ、改めて殺し合いという世界の破壊を誓う。
「渡のカードですか…?」
士の手元を覗き込む少女。
同じく渡と出会い、彼に生かされ、後を託された閃刀姫。
レイが浮かべるのは憂いを帯びた表情。
士と違って仲間の死による悲しみは直球で顔に出すらしい。
「ああ、ディケイドってのはこういう形で他のライダーの力を手に入れるらしいからな。俺も詳しい原理は知らんが」
「自分の力なんですから、そこはもっとちゃんと知っておきましょうよ」
何でもないようにさらりと言うが、それで良いのかとレイは呆れる。
もしここに渡がいたら、困ったように視線を泳がせたのか。
或いは自分達の様子を微笑ましく見守ったのかもしれない。
現実には叶わぬ光景だ。
侍の相手を一人で引き受けた渡がどうなったかなど、レイも士も分からない筈がなかった。
嫌なものだとため息を零す。
身近な者の死は渡が初めてではない。
年頃の少女なら当たり前のように享受する青春を犠牲にし、兵士として戦場に投入される。
閃刀姫とはそういう存在なのだから。
敵が死んだ、味方が死んだ、無関係の一般人が死んだ。
死者の出ない戦争などありえない、閃刀姫として常に最前線で剣を振るい続けたレイは嫌と言う程知っている。
それでも誰かが死ぬというのはいつまでたっても慣れやしない。
腑抜けたことをと自国や列強国の者達は吐き捨てるかもしれないけど、レイは慣れなくて良いと思う。
慣れてしまえば、きっと自分は敵国の彼女の手を引き逃げようとは思わなかった。
腕の中で息絶えた彼女を前にしても、涙の一滴すら流さない。
今だってそう。
出会ってほんの数時間かそこらの自分達の為に命を懸けた青年。
彼の覚悟に何も感じない、機械同然の冷血な者にはなるなんて真っ平御免。
だからレイは死を慣れたいとは思わない。
慣れてしまえばそれはあの子が大好きと言ってくれた自分ではない。
渡が助けたいと思ってくれた自分ではないのだから。
「士」
名前を呼ぶと、傍らの彼はチラと視線を寄越す。
出会った当初から変わらない、自信家だけど不思議と嫌いにはなれない目。
「壊しましょう、このふざけた世界を全部」
「当たり前だ。何たって世界の破壊者とそのお供がいるんだからな」
「お供ってなんですかお供って!普通そこは相棒とかそんな感じじゃないんですか!」
ぷりぷり怒るレイを適当にあしらい、タブレット端末を取り出す。
放送直後の戦闘ですっかり忘れていたが、参加者名簿が見れる筈。
信頼できる仲間、警戒すべき敵、その両方。
そういった者達もいるかいないかを手っ取り早く確認出来る。
異論はないのかレイも怒りを引っ込め、自分のタブレット端末を起動。
アプリを開き画面に並んだ名前にざっと目を通す。
「え…」
知っている者は、いた。
知り合いが巻き込まれた不安、警戒すべき相手もいる事への危惧。
名前が目に飛び込み、レイが抱いたのはそのどちらでもない。
何故その名が記載されているのか。
あり得る筈の無い人物の参加に、呆然と彼女の名を口にする。
「ロゼ……?」
少なくとも参加者の中で、レイ以上に知っている者はいないだろう閃姫刀。
あの日間に合わなかった、取り零したどんな宝よりも得難い唯一無二の少女。
取り戻す為なら自分の命すらも惜しくない、それ程に大切に想っていたロゼが、参加者として登録されている。
偶然同じ名前などではない。
レイ同様、ご丁寧に閃刀姫と記されている以上、自分の知るロゼ以外には有り得なかった。
「どうして……」
死んだ筈のロゼの名がある。
それ自体は士と同じように蘇生させられたからだろう。
しかし何故、何故よりにもよって殺し合いでなのか。
仮に自分が列強国を潰した直後、ロゼが生き返ったのなら涙を流して喜ぶに決まってる。
けれど殺し合いの為にロゼを生き返らせたというなら、喜び以上に怒りが強い。
ゲームの為にロゼの命を弄ぶ、ハッキリ言ってやってる事は列強国と変わらない。
「…っ」
タブレット端末を握る手に力が籠る。
列強国もゲームの主催者も、どうしてロゼを放って置いてくれない。
何故あの子が普通の女の子として幸せになるのを良しとしない。
元よりゲームを止めるつもりであったが、その意思はより確固たるものへ変わった。
列強国を潰した時と同じだ。
士に宣言した通り、黎斗の始めたゲームを徹底的に破壊してやる。
「訳アリみたいだな」
仇を見るかのような顔付きとなったレイに、何かあったと察するのは安易。
憤怒を顔に出したのを少しだけ反省、士に軽く事情を話す。
大切な女の子が蘇生させられ、参加者として巻き込まれたと。
ロゼとの出会いから別れに至るまでの経緯は流石に長すぎるので、大幅に省略して。
「大体分かった。が、そんな単純な話でもないだろう」
「どういうことです?」
主催者の手でロゼが蘇生させられた、それ以外に何があるのか。
二度も死から蘇ったとさっき説明したのは士の方だろうに。
「死んだ筈のロゼって奴の名前が名簿に載ってる理由、考えられる可能性は三つある」
「主催者が生き返らせた以外にもあるんですか?」
「ああ、まずそれが一つ目だな」
人差し指を立てて言う士に首を傾げる。
単に生き返ったで済む話ではないらしい。
「二つ目、参加してるロゼは死ぬより前の時間のロゼ。お前から見れば過去のロゼってことだ」
「過去の…?それは…あれですか?所謂タイムマシン的な…」
「ま、信じられない気持ちも分かるがな。ただライダーの中には一つの時間に留まらない奴もいる」
デンライナーやタイムマジーンなど、過去と未来を行き来するマシンを所有する仮面ライダー。
主催者が彼らの存在を把握し、尚且つ時間移動の能力を我が物としている可能性は十分考えられる。
ゲームに参加しているロゼはまだ生きていた頃の時間から連れ去られた。
だからここにいるのは、再びジークのコアとして利用される未来を知らないロゼなのかもしれない。
「そして三つ目、そもそも参加してるのはお前が知るロゼじゃない。別の世界出身のロゼかもしれない」
光写真館を拠点とし旅を続けた経験から、士はパラレルワールドというものには馴染み深い。
例えば仮面ライダーブレイド。
士が通りすがった世界でブレイドに変身したのは剣立カズマという青年。
彼は最初こそ出世欲に憑りつかれていたが、士がチーフを務めた社員食堂での経験を経て人々を守る仮面ライダーに再起を果たした。
しかしカズマとは反対に士を世界の破壊者として敵視し、排除を目論んだ剣崎一真も仮面ライダーブレイドだ。
世界の数だけ同じ名前や容姿、或いは似た名前や経歴を持つ者が存在する。
それは何も仮面ライダーと関係者に限った話ではない。
参加者のロゼは名前こそレイの知る閃刀姫でも、他はレイの全く知らない人物なのかもしれないと士は言うのだ。
「実際のところどれが正解かは知らないが、どうする?いざ再会してもそれがお前の知るロゼじゃなかったら」
別世界のロゼなら、レイという閃刀姫自体を知らないかもしれない。
過去から連れて来られてるとしても、もし列強国の閃刀姫だった頃であればマズい。
争いとは無縁の幸福な時間を過ごしたのではない、そんなロゼだったら。
「決まってるじゃないですか。たとえ私の知るロゼじゃなくても、あの子を守りたい想いに変わりはありませんよ」
列強国の閃刀姫で手強い敵。
だけどそれだけではない少女なのをレイは知っている。
ジークのコアとして利用され、民間人を殺したのに強い罪悪感を抱いていた。
頑固だけど心根では優しさを失わない、身も心も列強国の兵士になってはいなかったから。
そんなロゼだから助けたいと思った、手を引いて共に生きたいと思った、
参加者のロゼが自分の知らないロゼでも、根っこの部分は同じだと信じたい。
だからもし列強国に帰還する為だ何だと道を誤ろうとする気なら、力づくで止めるまで。
反対に自分の知るロゼだったらその時は、思いっきり抱きしめてあげたい。
迷いも誤魔化しも無い返答に、ふっと軽く笑う。
どうやら余計な心配だったらしい。
「うじうじ悩むようなら尻でも蹴り上げなきゃならなかったが、必要なかったな」
「言っておきますけど、それセクハラですからね?間違ってもロゼにそんないやらしいこと言わないでください」
肯定代わりに肩を竦める士をジト目で睨む。
本当に分かってるのかと言いたげな視線をスルーし、士がデイパックから出したのは二輪車。
ドライバー同様、持ち主に支給された専用マシンへ跨る。
「とりあえずロゼと並行して協力できそうな奴を探すぞ。ノーヘルだが文句は言うなよ」
「はい、運転はお任せします」
後ろに跨ったレイの腕が自分の腰に回されたのを確認し、マシンディケイダーを発進させる。
火照った肌を冷やす夜風にレイが目を細める一方で、士には疑問があった。
名簿を確認した時からどうにもおかしいと感じ、運転中も答えは出ない。
まず不審に思ったのはどう考えても本名ではない名前が複数あったことだろう。
これに関しては改造人間の類と考えれば一応納得はいく。
仮面ライダー1号を生み出したショッカーの時代から、怪人の名前は何かと見たまんまのが多い。
野獣先輩だの肉体派おじゃる丸も、怪人の一種なら謎のネーミングも分からんでもない。
虐待おじさんに関しては怪人というよりただの不審者だし、マサツグ様など何故様を付ける意味があるかは知らないが。
疑問点がこれしかないなら士だっていつまでも頭を悩ませなかった。
(何で俺しかいない?)
名簿に載っていた名前で知っているのは、既に出会ったレイと渡を除けば一つ。
地下帝国バダンとの戦いの際に出会った青年、駆紋戒斗のみ。
旅の仲間である小野寺ユウスケや光夏実、何かと関りの多い常磐ソウゴと仲間達。
名簿を見る前に参加しているだろうと予想した者達は一人もいない。
ユウスケ達だけではない。
殺し合いと言うからには他者の殺害へ積極的な者も複数参加しているのが自然。
だというのにスウォルツや加古川飛流、大ショッカーの幹部すらどこにも名前は無かった。
もっと言うと、志葉丈瑠やキャプテン・マーベラスなど仮面ライダーではないが士と縁のある戦士達も不参加。
何故黎斗は彼らを参加させず、ディケイドやジオウの関係者として士だけを参加者に登録したのだろうか。
可能性として一つ、思い浮かぶものがある。
最初の放送で黎斗は士達を、予選を通過したプレイヤーと言ったのは記憶に新しい。
つまり中には予選で落ちた者、参加者名簿に登録されなかったプレイヤーも存在する。
健全なスポーツ大会なら予選敗退者は無念のままに帰るか、観客として試合を楽しむ側になるだろう。
しかし黎斗が始めたのは殺し合い、本選への参加を認めなかった者達を大人しく生きて帰すとは想像できない。
ユウスケ達が参加していないのは、最初から選ばれなかったのではなく予選で落とされたからでは?
予選を突破できなかった者達は用済みとして始末されているなら。
士の仲間達は既に殺されてしまったとしたら。
下手をすればコソ泥らしく殺し合いに侵入すると楽観的に考えていた海東ですら、既にこの世にはいないとも否定し切れなかった。
「……」
死んだと断言できる根拠はない。
同じく否定出来るだけの証拠もない。
それでも、最悪の可能性は士の胸中に影を落とす。
悪い考えを振り払い、後ろに乗せた少女へ動揺を気取られないよう。
マシンディケイダーの速さを一段階上げた。
◆◆◆
「誰もいないねぇ」
「うん…」
肩を落として言うココアに戒は短く返すしかない。
二人のスタート地点であるE-5の市街地エリア。
街と言うからには他の参加者が現れる可能性が高く、ひょっとしたらチノ達が訪れるかもしれない。
そう考え暫くはここに留まり、隅々まで探索してはみたものの収穫はゼロ。
心なしか表情の変わらないあんこですら、やれやれとでも言いたげな雰囲気を発していた。
「ごめんココアちゃん、無駄に時間を取らせたみたいだ…」
「謝らなくても大丈夫!チノちゃん達はここにいないってことが分かっただけでも良かったもん!」
気を遣っている、のではなく本心の笑顔で言う。
そう分かっても時間が有限なのは本当のこと。
やはり申し訳ないと戒は内心で己を責める。
らしくない判断ミスをした。
もっと早くに街へ留まるのに見切りを付け、別のエリアの探索へと出発するべきだったろうに。
今のココアはただでさえ放送で一人友人を失っている。
なら余計にチノ達との合流を急ぎたい筈だ。
戦闘技能のみならず知略面でも優秀な櫻井戒にはあるまじき失敗。
それを犯したのは、現状が立ち塞がる敵の殲滅という単純なものではない。
吹けば飛び散り折れば砕ける、一人の少女を守らねばならないプレッシャー故か。
安全面を考えれば街に留まるのも悪くは無い手だ。
しかしチノ達が無事でいる保障が全く無いなら、積極的に動き探索範囲を広げねばなるまい。
同時に戒とココアも危険渦巻く他エリアへ自ら飛び込まねばならず、必然的に戦闘へ発展の可能性は爆発的に上昇する。
そのような血生臭い場面からココアを少しでも引き離したくて、無意識の内に判断を誤ったのか。
馬鹿なことをと戒は己を責める。
持ち直したとはいえ、マヤの一件がココアにとって大きな傷となったのは明らかだろうに。
慎重と消極的を履き違え、事態を手遅れにしココアを更に苦しめたらどうする気だ。
戦闘の危険があるなら、そういう時こそ自分が力を振るう場面ではないのか。
一度自罰的になると止まらず、己への罵倒ばかりが胸中を占める。
だが今回はそれも長く続かない。
渋い顔は引き締まり、傍らのココアに警戒を促した。
「ココアちゃん、誰かが近くにいるみたいだ」
「えっ!?そ、そうなの?もしかしてチノちゃん達かな?」
「それは分からない。用心しておいて」
襲われても即座に対処出来るよう剣を取り出す。
戒の様子にココアも強張る手で、自分専用ソードを掴む。
戦える力があるとは言っても、実際はNPCすら相手にしていない。
初の戦闘になるかもしれず、緊張で汗がタラリと落ちる。
やがて警戒する二人の前に、数人の参加者が姿を現わした。
「あっ!苺香さん誰かいます!おーい!」
「ま、待ってくださいシャミ子さん…!もしかしたら危ない人達かも…」
「はう!?そ、そうでした!わ、私に任せてください!まぞくのニューパワーでよいやさー!と相手してみせますよ!」
「きゃあああああ!?シャミ子さん!小鳩さんを落としちゃってますよ!?」
「へっ?…あー!ご、ごめんなさい!あ、あれ?何か白目剥いて……」
姦しいやら何やら、二人と一匹しかいなかった街が途端に騒がしくなる。
緊張感皆無、真面目に身構える方が馬鹿らしくなる光景。
「何だか楽しそうな人たちだね!」
「はは…そうだね…」
木組みの街での日常を思わせるドタバタに、ココアも笑顔を隠せない。
戒もまた、これは大丈夫だろうと苦笑いするしかなかった。
○
「んあ……?痛ぇ……」
目が覚めると見えたのは知らない天井。
リドゥ内の自宅でなければ、帰宅部の部室にしてある車両でもない。
上体を起こし辺りを確認、畳の敷いた一室のようだ。
民家、というよりは部屋の狭さからしてアパートだろう。
「あー……何でこうなってんだ?」
小鳩が最後に覚えているのは、やたらと鼻につく台詞を連発した怪人との戦闘。
散々好き放題やってくれた礼をたっぷり籠めて殴り飛ばしてやった。
そこから先は記憶が曖昧だ。
意識が朦朧とする中で聞こえたのは自分を心配する美少女たちの声。
もしや彼女達がここまで運び、布団を敷いて寝かせてくれたのか。
女子に看病してもらったのは嬉しい半面、手間を掛けさせたのは男として不甲斐ない。
(つーかあのキザ野郎にボコられたにしちゃ、あんまり痛くねぇな)
ラヴリカの攻撃で決して軽くない傷を負った筈だが、どういう訳か痛みがある程度引いている。
というか思っていたよりも傷は少ない。
単に手当てしただけでは短時間でここまで治らない。
ささらや二胡のカタルシスエフェクトのように、回復能力をあの二人は持っていたのだろうか。
何故か後頭部に鈍痛がある理由までは分からないが。
「…って、シャミちゃんとマイマイはどこに――」
部屋まで運んでくれただろう二人の姿は見えない。
まさかとは思うが自分を置いて出発した?
そのような薄情な連中では無い筈だ、女子を見る目にはこれでも自信がある。
もしや自分が呑気にグースカ寝ている間、何か厄介事に巻き込まれたのでは。
嫌な予感に急かされ、いても経ってもいられず毛布を蹴飛ばして立ち上がろうとし、
「失礼しまー…あ!目が覚めたんだね!」
開いた襖に動きが止まる。
正確に言うと襖を開けて部屋に入って来た少女に、動きを止めざるを得なかった。
「良かったぁ…。シャミ子ちゃん達も心配してたんだよ?」
「お、おお!心配かけちまってごめんね?ところで君は?」
ほわほわした雰囲気の見知らぬ美少女。
異性との新たな出会いに疲れや警戒は何処へやら。
楯節学園随一の女好きの顔を見せる。
「ココアさーん?どうかしたんで…小鳩さん!」
何を騒いでいるのかと顔を覗かせたのは、小鳩も見覚えのある角の少女。
後ろからはこれまた既に知っている少女が続いた。
何故かウエイトレスの制服ではなく、もこもこした装飾の服だが。
「良かったです…目を覚ましてくれて…」
胸を撫で下ろす苺香の隣ではシャミ子も安堵に顔を綻ばせる。
服装は小鳩が見たドスケベコスチューム(危機管理フォーム)と違うも、これはこれで悪くない。
眼福だとしっかり目に焼き付けておく。
(何だよこの美味し過ぎる状況…!来ちまったのか?とうとう俺の時代が来ちまったのか!?)
狭い一室に自分を心配してくれる美少女が三人。
カビ臭く感じた年季の入った部屋が、あっという間に花園へ変わってしまったようだ。
殺し合いに巻き込まれている上に、元いたリドゥではリグレット達の拠点攻略という帰宅部最後の戦いの真っ最中。
それらを忘れたつもりでは無い。
しかし現実で青春時代を失った男として、ハーレムのような光景にはテンションが爆上がりするというもの。
逸る気持ちをどうにか落ち着け、スマイルと共に口を開く。
「皆心配してくれてありがとな!そっちも無事で良かったよ、可愛い子の肌に傷が付いたら後悔してもしk「目が覚めたのかい?」」
女子のハートを射止める台詞は強制中断。
物静かながら男らしさも感じるハスキーボイス。
声の主へ真っ先に反応したのはまだ小鳩が名前を聞いていない少女。
「戒さん!うん、もうすっかり元気みたい!」
「それなら良かった。優子ちゃん、部屋を使わせてくれてありがとう」
「いえいえ!これくらいは当然ですよ!…私の家があったのにはびっくらこきましたけど」
「あはは…。あ、小鳩さんも起きましたし、今お茶を淹れて来ますね」
「苺香ちゃんもありがとう。でも、疲れてるなら無理しなくても大丈夫だよ?」
「だ、大丈夫です!」
現れたのは長身で顔も良い、俗に言うイケメンな青年。
少女達の意識をあっという間に掻っ攫い、小鳩そっちのけでキャイキャイ盛り上がっている様子。
まるで少女漫画や乙女ゲームのキャラクターがそのまんま、現実に飛び出して来たかのような男。
暫し固まった小鳩はようやっと現実を理解、率直な思いが口を突いて出た。
「ざっけんなよクソがあああああああああああ!!!全然俺の時代来てねえよ!むしろ通り過ぎちまってるわこんなん!」
「ひゃあ!?ど、どうしたの…?」
頭を抱えて絶叫する。
何が悲しくて他の男が美少女に囲まれてる光景を、指を咥えて眺めなきゃならない。
青年がハーレム作品の主人公なら自分は差し詰めサブキャラ。
しょうもない嫉妬を燃やす三枚目の友人ポジと言った所だ。
「誰が友人ポジだ!こちとらテメェとお友だちになった覚えなんぞねえぞゴラァ!」
「え?えっと…ごめん」
「どうしちゃったの…?はっ!もしかしてシャミ子ちゃんが落とした時に頭を打っちゃったから…」
「わー!ココアさんしーっ!」
「あ、あの皆さん落ち着いて…」
理不尽に怒鳴られ、訳が分からないが取り敢えず謝る青年。
後ろでは何やら都合の悪い事を口走られたのか、慌て出す角の少女。
一気に騒がしくなり収拾がつかなくなりかけた時、
(小鳩さんと戒さんが喧嘩になってる…止めたいのに良い言葉が何も思い浮かばない…私は……)
「本当にどうしようもないですね…」
ボソリと、低く吐き捨てるような声色。
蔑むように黒く淀んだ瞳。
主にスティーレの客と店長を歓喜させる苺香の天然ドSムーブ。
これは自らの不甲斐なさを責めた発言だが周りにはそう受け取られなかった。
「ぐふっ」
自分に向けての罵倒と勘違いした小鳩は一撃で轟沈。
ドSを喜ぶ性癖は無かったようで、ストレートな言葉に彼のハートはヒビが入る。
仰向けに倒れそのまま動かなくなった。
「苺香さん…私よりもまぞくっぽいです…!」
「はぅっ!ご、ごめんなさい!やっぱりこの目のせいで……」
○
ショックを受けた小鳩と落ち込む苺香を宥め数分後。
二人がどうにか復活し、ここで初めて戒とココアが小鳩に自己紹介。
アパートの一室で寝かせるまでの経緯を話す。
街を訪れたシャミ子達とは互いに敵意が無い事を確認。
ラヴリカと名乗ったNPCを撃退するも、重症により倒れた小鳩をどこかで休ませようと手頃な場所に全員で向かった。
その場所と言うのがここ、シャミ子達吉田家が住まうばんだ荘。
一体何がどうして多魔市にある我が家が殺し合いの会場に建っているのか。
生還できても帰る家が無くなっているという、洒落にならない事態になるのでは。
このままでは家なきまぞくになってしまうと頭を抱えるシャミ子を、戒は冷静に落ち着かせる。
恐らくだが主催者がゲームの為に再現しただけに過ぎない、本物のばんだ荘は元の場所にある筈。
なので心配はいらないとの説明を取り敢えず信じ、今は小鳩の方が優先と布団を敷き寝かせた。
幸いシャミ子のお陰で傷はほぼ治っており、後は目が覚めるのを待つだけ。
「そうかぁ…道理でキザ野郎が付けやがった傷が見当たらねぇわけだ。サンキュ二人とも」
「小鳩さんには助けてもらいましたし、これくらいはどーんと来いですよ!」
得意気に胸を張ると双丘がぶるんと揺れ動く。
大胆にも谷間を出した格好を目の保養とばかりに眺め、カップに口を付ける。
足りない分のカップは吉田家の台所から借り、苺香が全員分淹れてくれたハーブティーだ。
香りも良く、優しい口当たりは熱くなっていた頭を落ち着かせる。
「シャロちゃんが淹れてくれたのと同じくらい美味しい!」
「うん、ありがとうね苺香ちゃん」
「は、はい。喜んでもらえて何よりです」
スティーレでアルバイトに勤めている為、基本的な淹れ方くらいは分かる。
まさか殺し合いにおいて自分の経験が役立つとは思わなかった。
戦いは小鳩に、傷の治療はシャミ子に任せ何も出来ないと思っていたけど、こういった形で喜んで貰えたなら自分も嬉しくなる。
一息つき、小鳩も交え改めて互いの情報を整理した。
シャミ子とココアは家族や友人が巻き込まれており、彼女達を見付けたい。
遭遇した参加者はそれぞれ今アパート内にいる5人だけ。
但し、小鳩だけはシャミ子達の前に現れる前、別の参加者と会っている。
「つってもココアちゃんの友達じゃねぇぞ。一応名前教えてもらっても良いか?」
「うん。えっと…」
チノ、リゼ、メグ。
巻き込まれた三人の名を告げ、最後にもう一人。
明るい雰囲気は鳴りを潜め、もういない少女の名を口にする。
「マヤちゃん…条河麻耶ちゃんも大事な友達で…でも……」
「ココアちゃん、言い辛いなら…」
「だ、大丈夫…!あのね、黎斗っておじさんの放送で…こ、殺された女の子、なの…」
檀黎斗の放送で死亡した少女は二人。
首輪を爆破された少女はアユミという名前の為違う。
ということはもう一人の方、金髪の男に殺される映像を流された少女。
まさか彼女がココアの友人だったとは。
衝撃の事実にシャミ子と苺香も掛ける言葉が見付からず、揃って悲痛な顔となる。
よりにもよって友達の惨殺場面を、まるで見世物のように扱われたのだ。
彼女がどれだけショックを受けたか。
「そっか…。あークソ!やっぱあのクソパツ金気に入らねぇ!」
小鳩も苛立たし気に頭を掻き、マヤを殺した男への怒りを吐き捨てる。
自分が絶対的強者だと信じて疑わない、こちらを虫けらかそれ以下にしか思っていないスカした態度。
思い出しただけでも、あの顔にモーニングスターを叩き込んでやりたい衝動に駆られる。
命中しても全く効果が無いのが分かっているだけに、余計腹立たしい。
「君はあの男と会っているのかい?」
口振りと態度からして、戒は小鳩が金髪の男を知っているのではと気付いた。
少女三人も驚きを隠せない様子。
そういえば小鳩は探し人の名は口にしたけれど、シャミ子達の前に降って来る前に何があったかは話していない。
「そうなの…?小鳩さんはマヤちゃんを、殺したあの人と…?」
「…まぁ、な」
隠す理由も無い、というか小鳩は基本的に隠し事を好まない。
茉莉絵を殺すか否かを決める時、現実での彼女がどうなっているかを真っ先に伝えたのは小鳩だ。
都合の悪い事実だろうと、誤魔化し隠し嘘を吐くのは気に入らないしフェアじゃない。
ココアにあの憎たらしい神様…ポセイドンの件を伝えるのは少しばかり気が重いが、隠すつもりは無い。
放送の直後に何があったかを全員に説明した。
「…それ程の力を持っているのか」
「ああ。牛尾のおっさんが時間稼ぎしてくれなかったら、俺もあっこでゲームオーバー確定だったぜ」
「だから私達の目の前に降って来たんですね…」
自ら神を名乗るのも納得がいく出鱈目な強さ。
もし牛尾が時間を稼いでくれなかったら、まず助からなかったろうと今でも思う。
そして思い出せば出す程、ポセイドンはやはり気に入らない。
マヤも牛尾もモブを蹴散らすように殺した神を名乗る化け物。
今すぐ攻略法は見つからなくても、大逆転を決めぶっ殺してやると改めて決意を固める。
「そうか……」
説明を聞き終えた戒は、自分の顔が険しくなっていると分かった。
話を聞いただけでもポセイドンは相当な強さだ。
更に言えばポセイドンすら一参加者でしかなく、主催者達は一体どれ程の力を持つのだろうか。
(今の僕でどこまでやれる…?)
黒円卓の聖槍が奪われており、挙句の果てには聖遺物を破壊されずとも死に至るよう肉体へ細工済み。
本当にそんな真似が可能なのか俄かには信じ難いが、それを言ったら自分が櫻井戒として参加していること自体が有り得ない。
主催者にはエイヴィヒカイトをも知り尽くした者がいるとでも言うのか。
まさか本当に聖餐杯が黎斗に協力しているとでも?
尤もその場合、黒円卓の関係者が自分一人である理由が謎。
殺し合いを円滑に進めたいならベイくらいは参加させそうなものだが。
「ココアさん、大丈夫ですか…?」
「うん……」
主催者に関してや自分の状態も気になるが、一旦後回し。
今気に掛けるべきはココアだろう。
心配する苺香へ返す言葉にも元気がない。
マヤを殺したポセイドンへの怒りは勿論ある。
ポセイドンからチノ達を守りたい気持ちだってそう。
けれど小鳩の話を聞いただけでも、ココアではどう足掻いたって太刀打ち出来ない強さだと分かった。
(私じゃ無理なのかな…)
最初に戒と出会った時、戦いは自分に任せてほしいと言われたのを思い出す。
あの時は戒一人が大変な思いをするのが嫌で、それにチノのお姉ちゃんとして戦う道を諦めたくなかった。
しかしポセイドンのような強者が相手では、自分にやれる事は無いのではないか。
大人しく戦い慣れているらしい戒に任せる方が、現実的で正しい。
抱いた決意に綻びが生じ、ネガティブな考えばかりが脳内を占めてしまう。
「ん…?」
俯いたココアの膝の上に、ポスンと柔らかな重み。
黒い無表情のうさぎがスリスリと身を寄せるのが見えた。
「あんこ?」
恥ずかしがり屋な甘兎庵の看板うさぎが自分から飛びつくなんて珍しい。
しかもこんな風に懐いてくれるとは、普段の置物のような大人しさとは正反対。
シャミ子と苺香に撫でられた時も動じなかったのに、どうしてだろう。
不思議に思うも、あっと理由が分かった気がした。
「もしかして、励ましてくれてる?」
返事は無い、ただ相変わらず身を寄せるだけ。
それでもココアにはあんこが肯定したように感じる。
まるでデイパックの中からあんこを見付けた時のように、不思議と気持ちが和らぐ。
アニマルセラピー第二弾だね、そう呟きあんこを撫でてあげた。
あんこのお陰か後ろ向きな考えも徐々に薄れ、これでは駄目だと自分に喝を入れる。
「戒さん!」
突然大きな声で名前を呼ばれ、少々驚く。
こちらを見つめるココアの目は真剣そのもの。
なら聞かないという選択肢はどこにも存在しない。
目を合わせ、頷き続きを促す。
「小鳩さんの話を聞いて思ったんだ。そんなに強い人に私じゃ勝てないかもって。戒さんの言う通り私は戦うべきじゃないのかもって…」
ココアが得意なパン作りなんて、この場では何の役に立つかも分からない。
戒の言う通り戦いは彼に任せ、自分は守られてるだけの方が良いのかもしれない。
数時間前の発言を撤回する内容。
ここまでなら誰もがそう受け取るだろうけど、戒には違うと分かった。
ココアの目はあの時と同じ、もしかするとそれ以上の決意が宿っている。
何よりこの数時間で戒は知ったのだ、ココアはそう簡単に折れる少女ではないと。
「でも!私やっぱり諦めたくないから、だから戒さん!私に戦い方を教えてください!チノちゃん達を守れるように、戒さんと一緒に頑張れるくらい強くなりたいの!」
勢い良く頭を下げ、部屋には沈黙が広がる。
懇願された戒はもとより、シャミ子達も口を挟む場面では無いと空気を読む。
ココアの言葉を真正面から受け止め、戒は静かに考え込む。
本音を言うなら、やはりココアには争いの世界へ足を踏み入れて欲しくない。
螢のように自分達の側へは関わらず、平穏な日常を生きて欲しい。
決意に水を差すと理解しても、頼みを断るのが正しいのかもしれない。
(だとすれば、僕がこれからやるのは間違っているのだろうか…)
だけど、戒はもうココアという少女の原動力を知ってしまった。
妹を守りたい想いは、戒自身が痛い程分かる。
マヤが死に、名簿にもう一人自分の名前がある事に不安を抱き、それでも再起してみせた。
自分とは違う日常に住まう者ながら、心の強さを間近で見て来た戒にはもう、ココアの頼みを突っ撥ねる真似は出来そうも無い。
「分かったよ、ココアちゃん。色々至らないかもしれないけどよろしくね」
「!!うん!よろしくお願いします!戒師匠!」
心の底から嬉しそうな姿に、思わずこちらも顔が綻ぶ。
ベアトリスのように良い師匠になれるかは分からないが、してあげられる事は全部するつもりだ。
元々ココアが戦うと決めた時から、可能な限り鍛えた方が良いと考えていたのだから。
「あ、あの!私も鍛えてもらって良いですか!?」
と、ここまで様子を見守っていた面々も話に加わる。
少々食い気味に頭を下げるのは苺香だ。
クリスタルの効果で戦う為の力を手に入れたものの、すぐに使いこなせる訳ではない。
家族やスティーレの従業員は参加していないが、シャミ子やココアの友人達を守りたい思いならある。
便乗する形となってしまい少し恥ずかしいけれど、強くなりたい気持ちはココアと一緒だ。
「それなら皆で一緒に強くなりましょう!まぞくにだって王道の修行パートは欠かせません!」
「おいおい、それなら俺を忘れてもらっちゃあ困るわな。手取り足取り丁寧に教えるぜ?」
拳を固め興奮した様子で乗り出すシャミ子に、修行という名の女子との触れ合いを見逃さない小鳩。
暗い空気を吹き飛ばす賑やかさにココアも嬉しくなる。
きっと戒も笑ってくれてるんだろうなと思い隣を見ると、
剣を振るう彼が見えた。
「えっ」
何が起きたのだろうか。
ココアが気が付いた時には状況が一変しており、思考が追い付かない。
目の前に戒がいる。
最初に会った時よりもずっとムスッとしている、恐い顔。
手にはキラキラ綺麗な剣。
どうしてそれを振るっているんだろう。
疑問はすぐに解消された。
戒の目の前にもう一人、知らない男の人がいるから。
刀を持ち、ピアスとも違う変な札を耳から下げた、まるで侍のような人。
足元にはガラスが沢山散らばってる。
ああそっか、窓から入って来たんだ。
納得と同時にようやく理解が追い付き、
「――っ!!!」
戒と侍が揃って外に飛び出すのを、黙って見送るしか出来なかった。
○
もし自分がココア達と共にいなければ。
襲撃者へ即座に対処出来る人間がこの場にいなかったら。
きっと数秒と経たずに、アパートの一室は凄惨な殺害現場と化しただろう。
IFの光景に戒は悪寒が走るのを抑えられない。
「お前は…」
「……」
問い掛けに侍は沈黙を返すのみ。
向こうがどうかは知らないが、戒はこの男を知っている。
いや、戒のみならず全ての参加者が男の正体を把握しているだろう。
継国縁壱、檀黎斗直々に紹介された敵キャラクター。
主催撃破と優勝、異なる方針のプレイヤーにとって共通の避けては通れぬ難関。
マヤを殺したポセイドン同様、存在を大々的に知らされた以上は当然警戒の度合いも増す。
全プレイヤーから敵意を向けられても跳ね返せるほどの力が無ければ、ただ単に不利にするだけだ。
とはいえ縁壱の実力の程は今しがたの襲撃で十分に分かった。
ほんの僅かにでも反応が遅れれば、ココア達と揃って輪切りにされただろう速さ。
対峙しているだけで嫌な汗が止まらないプレッシャー。
成程、これは間違いなく強い。
場合によっては撤退も視野に入れるべきだろうがしかし、簡単に逃がしてはくれない。
聖遺物が失われている以上、創造は不可能。
尤もココア達が近くにいる状況でアレを使う訳にはいかない。
なれば櫻井戒として鍛え上げた戦闘技術で打ち勝つ他ない。
幸い武器には恵まれている。
眩い刀身に蝙蝠が噛み付いた剣、聖槍無き今戒に与えられた唯一の武器。
名はザンバットソード、ファンガイアの王の為に作られた魔皇剣。
ずっしりとした重み、これより他者の命を奪うと考えれば余計に重さを感じる。
今更退く気は無い、退けば相手は自分のみならず守るべき少女達まで殺すのだろうから。
先手必勝、真正面から斬り掛かる。
元々ファンガイア専用の為に作られた剣だ、人間が扱える重量に非ず。
されど此度の使い手は櫻井戒。
黒円卓所属、人外の如き能力を我が物とした青年。
ザンバットソードも己の手足を動かすと同じ感覚で振るう。
極限まで研磨された刀身の餌食となるは、異界の侍の首か。
威力のみならず、速度も人外の領域へ足を踏み入れている。
だというのに当たらない、着物の端にすら掠めない。
攻撃の空振りを脳が完全に理解する前に、戒の両腕が跳ね上がった。
翳した剣へ走る衝撃、金属音が鼓膜を震わせる頃には次の動作へ移行。
ザンバットソードを突き出し、手応え無しと分かるや否や跳躍。
日輪刀の切っ先が切り裂くは衣服、皮一枚すらまだ無事。
だが動き続けねば刃が肉を抉るのも時間の問題。
心臓へと突き進む刃を弾く。
両腕共々跳ね上げられた日輪刀。
がら空きの胴体へ剣を走らせるチャンス。
尤も己の隙は己自身が一番理解している。
ザンバットソードが振るわれた時にはもう、流れるように縁壱は回避を選択。
短距離ながら瞬間移動もかくやと言う速度。
真横から戒の頸を狙う。
「死んどけオラァアアアアアアアアアッ!!」
怒声をそのまま威力に変えた一撃。
襲い来るモーニングスターに攻撃を中断。
難なく躱されはしたが、戒が斬首される末路は無事回避に成功。
喜ぶ暇は無いが。
縁壱へ迫る刃、正し戒の剣では無い。
二方向からの攻撃、片方は剣だがもう片方は巨大なフォーク。
挟み撃ちにも動じず、そればかりかどちらにも視線を寄越しすらせず躱す。
直後に殺到するは光弾。
命中する寸前で勝手に爆発、違う、目視不可能な速度で斬り落とされた。
顔色は変えず無言のままに現状を受け入れる。
斬るべき鬼が増えたと。
蝙蝠が噛み付いた剣を持つ鬼だけではない。
少女の姿をした鬼が三体、少年の鬼が一体。
計五体。問題無い、ただこれまで通りに斬るだけだ。
「ココアちゃん…皆も…」
「私達も一緒に頑張るよ!戒さん!」
力強い言葉に、彼女ならそうするかと納得を抱く。
縁壱が現れすぐには動けなかったが、そのままじっとしているつもりはない。
戒だけが傷付き苦しい思いをしない為に、ココアは戦いへ加わった。
「こちとらまだ機嫌悪ぃんだ。ストレス発散させやがれぇ!」
女の子のみに戦わせ高みの見物は小鳩の趣味じゃない。
威勢よくモーニングスターを叩き付け、シャミ子と苺香も続く。
初の実戦でまだ訓練もしていないが、どちらも戦いを押し付けるのには抵抗がある。
皆で一緒に勝つ気概は十分だ。
「……」
焦りも無ければ嘲りも皆無。
人形の如き無表情なれど、繰り出す剣に容赦は無し。
何でもないようにモーニングスターを避け、小鳩を襲う紅蓮の刃。
シャミ子が突き出す巨大フォークも空振り、あわや心臓一突きの末路。
それを防ぐはザンバットソード、割って入った戒が仲間から脅威を遠ざける。
クリスタルより苺香が光弾を発射。
縁壱と言えども、肉体の強度は人間の域を出ない。
肉を削がれ骨を砕かれる弾幕にも冷汗一つ掻かず対処。
邪魔な埃を掃うかのように霧散、ついでとばかりにココアの剣も回避。
頭上から迫るモーニングスターも当然の如く当たらない。
視線は最も強烈な一撃を繰り出す青年に固定、ザンバットソードを受け流し逆に斬り込む。
「っ!」
受けた被害は皮一枚。
数滴の血で済み安堵するのはコンマ一秒のこと。
次こそはと頸を狙う日輪刀を防ぎ、押し返し体勢を崩しに掛かる。
だが遅い、両腕に力を籠める前にヒラリと木の葉を思わせる軽やかさで避けられた。
「んのチョンマゲ野郎!」
苛立ちをたっぷりと籠めた一撃。
帰宅部の中でも特に破壊力に秀でた小鳩のカタルシスエフェクト。
おまけに装備した支給品の恩恵で、リドゥにいた頃よりも身軽になのだ。
ビジュアル面に目を瞑れば文句なしの効果。
デジヘッド程度なら一人でも蹴散らせる程の戦闘力を今の小鳩は持つ。
にも関わらず、涼しい顔で平然と避けるこの侍は何なのだろうか。
楽士でさえ間近に棘付きの鉄球が迫れば、流石に顔色を変えたというのに。
(あのクソ神ふざけんなよ!キノピオでクッパでも倒せってのかクソが!!!)
ポセイドンといい目の前の侍といい、参加させていいレベルの強さではない。
ラスボスとか裏ボスとか、最早そういう次元じゃないだろう。
違法改造したバグキャラを相手にしてる気分だ。
殺し合いをゲームと称するなら、当然縁壱にも何らかの攻略法がある筈。
というか無ければクソゲーどころか単なるガラクタも同然。
少なくとも数の差によるごり押しだけでは勝利は拾えない。
それが分かっても現状はとにかく攻撃を続けるしか無く、気を逸らせばコンティニュー不可の終わりへ一直線。
腹の立つ事に敵は小鳩のみならず、ココアとシャミ子の攻撃にも一切目を向けない。
ただ気付けば避けられていて、刀を持つ手が動いたかと思えば戒と斬り結んでいる。
苺香の光弾も未だ一発も当たっていない。
無双ゲーの雑魚キャラ程度にしか見られていないようで、それがまたストレスを溜める原因だった。
(……あ?何だこれ?)
いい加減苛立ちも限界に達するかとなった時、妙な感覚を覚えた。
爪の間に小石が挟まったような、大きくは無いが妙に気になる違和感。
今は呑気に考え事をしている場合ではない。
そんなのは小鳩とて十分承知、しかし気になるのだからしょうがない。
一体なんだと視線を動かし頭を働かせると、正体が徐々に判明し出す。
多対一という状況、帰宅部と楽士の戦闘の時と大体同じ。
だが決定的に違うものが存在する。
「あっ…」
ようやく気付き、当たり前かと即座に納得。
自分一人でうんうん頷いてる余裕は無い。
「シャミちゃんマイマイココアちゃん!全員一旦下がれ!」
唐突に叫ばれてもココア達には意味が分からない。
今正に命懸けの戦いの真っ最中、それがどうしてさがる理由が生まれるのか。
彼女らの困惑も今はじれったく、急かすように怒声を上げる。
「いいから一旦下がれ!俺ら全員サクラエビの足手纏いだ!このままじゃどうやったって勝てねぇんだよ!」
戒に付けた渾名はゴン太と命名した帰宅部の仲間とどっちがマシかはさておき。
多対一という見慣れた状況でも、帰宅部の時と決定的に違う点が一つ。
連携が全く出来ていない。
もしここにいるのが桃やミカンと言った経験豊富な魔法少女や、専用装備を手にした別の世界線のココア達ならともかく。
争いとは一切関りの無い世界に生きたココアと苺香、まぞくとはいえ直接的な戦闘は不得意のシャミ子。
戦闘自体も縁壱相手が初めてな以上、戒への的確のサポートなどまず不可能。
強化された身体能力による力任せでは却って味方を不利にしてしまう。
(考えてみりゃそうだわな)
リドゥ内とてデジヘッドやマリオヘッドを倒し、経験を積み楽士に勝てるレベルにまで鍛えたのだ。
単にカタルシスエフェクトが使えるだけでは、きっとどこかで全員くたばっているのがオチ。
せめて戒から鍛えてもらい、最低限力を使いこなしていれば少しはこちらの旗色が良くなったかもしれない。
空気を読めよと侍に悪態を吐きたかった。
「う、うん…!」
有無を言わせぬ怒声に、戸惑いながらも言われた通りに退く。
苛立ちで怒られたのではない、小鳩の言葉には説得力があると感じたのだろう。
実際、我武者羅に武器を振るうだけで精一杯なのだから。
小鳩の言葉は正しいと証明する光景が繰り広げられる。
戒の動きのキレが数段増した。
これまではココア達へのフォローを行っていたが、最早その必要も無い。
言い方は悪いが足手纏いが消えた以上、縁壱のみへ集中出来るのだ。
――壱の型 円舞
それだけで勝てる相手で無いとは分かっている。
真円を描く一閃。
文字にすれば単純なれど、異様な速さは凡百の剣士程度では決して出せない。
回避が一手遅れる。
赤く染まる胴体、両断はされていない。
ならば問題無し、死んでいないなら十分。
脳へ届く傷の痛みは無視、考えるべきは敵へ剣を届かせるその一つのみ。
聖遺物は無い、それでも尚破格の強さを持つのが戒だ。
意識を研ぎ澄ます、古今東西あらゆる名刀をも凌駕する程に。
日輪刀が肩を切り裂く、どうでもいい。
そんな些事には構っていられない。
ザンバットソードを振るう。
振るわれたと認識出来たのは相対する侍ただ一人。
速さが増す、雷が剣へ形を変えたが如き異常な攻撃。
真正面から受け止める、その選択肢は真っ先に外した。
得物の強度が違い過ぎるのだ。
如何に刀鍛冶が悪鬼を斬り、使い手自身を守ってくれと願いを籠めた日輪刀だろうと。
結局は人が人の為に作られた武器。
人を超越した種族の頂点に君臨する王に相応しき魔剣。
それこそがザンバットソード。
まして戒の膂力は縁壱以上、まともに打ち合えばへし折れるのがどちらかは言うまでもない。
故に躱し、受け流す。
合間を縫って反撃に移るのがセオリー、だがその隙が見当たらない。
下手に攻撃に移れば最後、何百という死した鬼狩りと同じ末路を迎えるのみ。
継国縁壱を知っている者が見れば、有り得ぬ光景と腰を抜かすだろう。
彼の兄は勿論、鬼の始祖ですらまともな戦闘へ持ち込む事態が不可能だった。
そのような怪物よりも怪物らしい男と渡り合っている。
あまつさえ、防戦一方を作り出すとは。
確かに、聖遺物が無いなら弱体化していると言わざるを得ないだろう。
しかしそれでも、櫻井戒は強い。
参加者では間違いなく上位に名を連ねる強者。
揺るがぬ事実としてそう存在する。
斬る、斬る、斬る。
一撃たりとも加減はせず、容赦はせず。
付け入る隙を見せれば瞬く間に天秤が傾く。
有利に持ち込んでも戒に縁壱を甘く見る気は毛頭ない。
警戒は常に最大限に、確実に命を奪い取るまで一瞬たりとも気は緩められない相手だ。
このまま攻め続ければ戒の勝ち。
殺気に限界が来るのは防戦一方の侍の方。
誰もがそう思うだろう。
では、今起こっているこれは何なのか。
百に届くかといった一撃を縁壱が避けた。
それは別に良い、避けるしか出来ないならより苛烈に攻めれば良いだけ。
現実には違う。
ここに来て縁壱は攻撃に移った。
――弐の型 碧羅の天
隙を見せたつもりは全く無い。
剣を振るう動きを緩めるなど以ての外。
だというのに縁壱は戒へ刀を振るってみせたではないか。
縦方向に描く円、頭頂部から股まで真っ二つにせんと迫る刀。
剣を引くのは間に合わない、大振りな動作はそれだけで死に繋がる。
身を捩り直撃は回避、血が噴き出るも致命傷ではない。
向こうもこの程度の傷で喜ぶ性質に非ず。
頸を斬らねば鬼は死なぬ、故に死ぬまで刀を振るう。
攻守逆転はなるものかと、再度戒の攻撃。
先程と同じ、速さと威力のみならず手数にも優れた刃の嵐。
悪夢のような猛攻を行いながらも、戒の頬には冷汗が流れる。
縁壱の動きが明らかに違う。
躱し受け流す動作の一つ一つがより洗練されているのだ。
攻め続けるは自分の方、その筈なのにこちらが追い詰められている気がしてならない。
(この男は…!)
信じられない、だが信じる他無い。
こちらの動きを覚え、とうに慣れた攻撃として容易く対処しているというのか。
初見ならばいざ知らず、見知った動きは恐れるに足らず。
隙は作らぬとの気概で繰り出した猛攻も、縁壱には隙だらけにしか見えない。
――壱の型 円舞
何故これ程までに接近を許してしまったのか。
何故縫える隙を見せじと振るった剣を、容易く見切られてしまったのか。
疑問を彼方へ追いやり防御。
円を描いた紅が、鮮やかな赤を飛び散らせる。
地面を汚す血は顔から滴るもの、切り裂かれたのは左目だ。
失明。
人間ならば二つあって当然の部位の片方が永久に失われた。
歴戦の兵だろうと一切の動揺を抱かぬのは難しい。
戒もまた両目の内片方の光の喪失に嘆きを露わにするのか?
違う、戒が思ったのは惨めったらしい泣き言では無い。
(まだだ、まだ戦える)
目玉一つが何だと言う。
剣を握る腕はある、地に立ち動く足はある、敵を見据える瞳はまだ一つ残っている。
戦いを続けるのに、一体何の問題があるのだ。
それなら目の一つくらい構うものか。
戦わねばならない、勝たねばならない。
負ければ奪われるのは自分の命だけではない。
太陽のような少女がいた。
こんな状況でも能天気なくらいに明るくて、どうして殺し合いに巻き込まれたのか分からないくらい優しい少女が。
傷付き、迷い、それでも諦めに打ち勝とうとする、力になりたいと思った少女が。
だから、負けてはやれない。
「戒さん…!」
悲痛な声で彼の名を呼ぶも、こちらに気を回す余裕は無いのだろう。
剣を振るい、血を流す戒に自分は何も出来ない。
それが堪らなく嫌で、何とかしたいと思っても具体的にどうすれば良いかココアには分からなかった。
既に戒と縁壱の戦闘は自分達が介入できる範疇を超えている。
剣を構えて突撃した所で、待っているのは何が起きたか分からず細切れだ。
「な、なにか、私達に出来ることはないんですか…!?」
特定の誰かに向けて言ったのではない。
悔しさを滲ませた問いはシャミ子自身に向けたものかもしれない。
普段のぽんこつな運動神経とは比べ物にならない、これぞ正にまぞくと言うに相応しい力を得た。
なのに結局はどうだ、何も出来ずに指を咥えて見ているしかできない。
これではラヴリカと遭遇した時と同じじゃないか。
あの時は小鳩に、今は戒に任せっきり。
自分への苛立ちは無限に湧く癖に、都合よく真なるまぞくパワーに目覚めたりはしない。
このままじっと立ち尽くしかないのか。
「クソが…!」
小鳩もまた何も出来ない己へ悪態を吐く。
縁壱の強さはハッキリ言ってこれまで倒して来た楽士を遥かに超える。
あれに単独で勝てる者など、直接の相対は無いがリドゥの支配者であるリグレットか、パツ金野郎ことポセイドンくらいだろう。
倒したいという気持ちは勿論あるが、気持ちだけで勝てるならこうもストレスを溜めていない。
ぶっちょやチビと呼ぶ帰宅部のメンバーなら妙案が浮かぶかもしれない。
が、いない人間を頼ってどうするというのだ。
焦りからか思い浮かぶのは、何の役にも立たない考えばかり。
結局ここでも自分はモブのままだとでも言うのか。
遂にはそんな考えたくない事まで頭をよぎる始末。
「…待ってください。もしかしたら…!」
悲観的なムードを壊す者がいた。
苺香だ、何かに気付きデイパックを漁り出す。
他の者も急にどうしたのかと見つめるが、説明は少しばかり後にさせてもらう。
自分の記憶が正しければ、絶望的な状況を引っ繰り返せる道具が支給されていた筈。
「ありました!」
苺香が取り出したのは一枚のカード。
ゲームが始まって直ぐ中身を確認し、この支給品の存在も把握した。
しかし同封した説明書によると、余りにも現実離れした内容だった為深く考えず仕舞いっ放しだったのだ。
今となってはクリスタルの効果が本物のように、カードの効果も真実であると願いたい。
というかそうでなければとんだ詐欺である。
「これってカード?」
「はい!えっと、ここに書いてある通りになるみたいで…」
「ええっと、どれどれ…
苺香が見せたのはデュエルモンスターズの魔法カード。
武藤遊戯(アテム)のデッキにも投入されている、光の護封剣。
発動すれば一定の間のみ、あらゆる攻撃を一切受け付けないバリアを展開する、というのが効果らしい。
内容に嘘偽りが無いなら相当心強い支給品だ。
これを使えば戒のピンチを救う事だって出来る筈。
「これなら戒さんも…!」
「多分、効果はモノホンだと思って良いだろうな」
ゲームにおいてデュエルモンスターズはただの紙ではない。
牛尾がモンスターを召喚する場面を実際に見た小鳩には、光の護封剣も本物だろうと確信する。
第一小鳩自身、既に緊急脱出装置という罠カードを使い九死に一生を得たのだ。
流石に支給品の説明に嘘を交える程、ゲーマーとして見下げ果ててはいないだろう。
今回に限っては黎斗のゲーム開発者としてのプライドを信じるしかない。
「それじゃあ…苺香さん!」
「はい!任せてください!」
ようやく見えた希望に興奮するシャミ子に促され、カードを掲げる。
ご丁寧に使い方は説明書に記載されており、そう難しい工程は必要ない。
クリスタルで戦う力を得たけど、正直役には立てなかった。
でもこのカードを使えば戒の助けになれる。
大役を任された緊張からか、心臓がドラムのように音を鳴らす。
初めてスティーレで接客をした時とどっちが上かな。
なんてちょっぴり呑気な考えを抱くも、しっかりしないとと我に返った。
大丈夫だ、もうこれ以上戒が傷付いたりしない。
シャミ子達と、皆と一緒に生きて何とかなるんだ。
「光の護封剣を――」
「ンンンン!それはいけませぬなぁ」
○
「あれ?」
何かおかしい。
おかしいとは分かるけど具体的にどこがどうとはすぐに説明できない。
最初に変だなと感じたのは、赤だ。
赤い水のようなものが目に映った事だろう。
雨はこんな色をしていない、ペンキが降って来たわけでもない。
何とも不思議な光景。
次におかしいと思ったのは、右手がやけに軽いこと。
何と言えば良いのだろうか、とにかく右手がいつもより軽い。
持っていた物がフッと無くなったような、そういう感じ。
それでも変だ、だって自分が持っていたのはカード一枚。
箸より軽いカードが無くなっただけで、こうも違和感を感じるのはおかしい。
というかカードの効果はちゃんと発動したのか?
まさか一番大事な場面でカードをうっかり落としたのでは。
青くなった顔で自分の右手を見やり、
そこに右手は無かった。
手首から先が消えていて、噴水みたいに赤い血が噴き出ていた。
「あ――ああああああああああああああああああああっ!!!??!」
現実に理解が追い付き、遅れて襲う焼けるような激痛。
人体欠損、平穏な世界に生きる10代の少女には余りに酷な所業。
「ふむふむ、単なる札遊びは望まずとも組み込まぬ手は無いと…。ええ、ええ!異論はありませぬ。然らばこちらで有効に使って差し上げましょうぞ!」
悲劇を引き起こした男はただ、苺香が落としたカードを拾いいそいそと仕舞う。
うら若き少女の悲鳴も心を震わせるには至らない。
爽やかな朝を彩る小鳥の囀りを楽しむかのように、上機嫌で悲鳴を耳に入れる様の何たる邪悪な事か。
青年の決意。
少年少女の奮闘。
それら全てを嘲笑うは、ただ思うがままに悪を為す怪僧。
キャスター・リンボ、暫し遅れてここに参戦。
「いやはや、皆々様の手に汗握る闘争と、かくも美しき友情。それらを特等席で鑑賞させて頂いた事、まずは感謝申し上げまする」
優雅に頭を下げる。
本当に感謝しているかどうかなど、考えるまでも無い。
「で・す・が、ですがですがですがぁそれは頂けない。此度は屍山血河舞い散る殺し合い。間違っても退屈極まる芝居では無い事を、努々お忘れなく」
善が勝ち悪は滅びる。
万人受けを狙った使い古された物語なら、こうはならなかっただろう。
邪魔は入らず苺香は光の護封剣を発動。
ココア達が望んで止まない、お約束通りの展開が来るだけ。
だがこの地は殺し合い。
乱入上等、茶々入れ大歓迎の殺戮遊戯。
脚本を強制的に変更、主演は舞台から蹴り飛ばし、我こそはと新たな筋書き通りに事を進めても一切の問題は無い。
台無しにする事に掛けては、参加者の中でリンボの右に出る者はそういない。
「それではまず…ンン、出番を終えた役者には退場して貰いましょう」
○○○
右手が痛い。
溢れ出す血は火傷しそうなくらい熱くて。
自分の血なのに無くなって欲しいと思うくらい。
涙が出る。
痛いのも勿論だけど、同じくらい悲しいから。
恐いから。
右手が無いなら、もうこれまでみたいにお茶を淹れられない。
パフェやケーキだって運べない。
私を受け入れてくれたあの場所には、もういられない。
ずっとコンプレックスだった目付きの悪さ。
何とかしたかったけど、でもどうにもならなくて。
撫でてあげようとした子犬にも怯えられ、逃げられるのが当たり前だった。
だけど、あの日、あの人との出会いが変えてくれた。
スティーレで皆さんと出会い、本当にあの場所と皆が大好きだと言えるようになった。
大変な事が全然無い訳ではないけど、そんな苦労ですら大切な思い出だって胸を張って言える。
だから、もう戻れない事が悲しくて――
『そんなことはありまセン!』
えっ?
今の声は……
『私たちが苺香さんを拒絶するなんて、そんなこと絶対にあり得ません!スティーレはいつだって、苺香さんを受け入れマス!』
て、店長さん…。
それによく見たら…皆さんまでいつのまに…。
私…私……。
良いんでしょうか…もう手が無くなって…これまでみたいな接客が出来ないのに…。
皆さんの足を引っ張ってしまうだけなのに……。
なのに…!店長さんがそう言ってくれて、皆さんが私を見捨てないでくれたのが…嬉しいって思って…!
迷惑かけちゃうって分かってるのに…なのに私…!
……あれ?
店長さん、何だかお顔が変ですよ?
真っ黒になってる気が…。
皆さんも真っ黒に…?
もしかして今日のスティーレは日焼けデーですか?
ど、どうしましょう!私全然焼けてないのに…!
あ、あれ?
皆さんどうしてそんなに真っ黒で…。
顔が全然見えないくらいに黒いなんて……こ、こんなのおかしい……
そっか。
おかしいのは私の方、ですね。
◆
「え……」
理解がまるで追い付かない。
多魔市でのまぞくと魔法少女の騒動を経験しているシャミ子にも、瞳に映るのは異次元の光景としか思えなかった。
いきなり現れた男の人が苺香の右手を斬り落とした。
何やらお札のような物を持っているけど、そこは重要じゃない。
痛みに泣き叫んだ苺香は、もう動かない。
進化したまぞくパワーなら治せたかもしれないのに、自分は銅像みたいに固まったまま。
本当なら、今からでも苺香に駆け寄るべきかもしれない。
或いはやけに背の高い男へ攻撃するのが正しいのかもしれない。
なのに動けない。
だって、だって苺香を殺したのは――。
「もう、リンボさん一人で先行き過ぎ。良だってお姉に早く会いたかったのに…」
「申し訳ありませぬ。乗り遅れては些か格好も付かないもので。して、如何ですかな?得物の具合は」
「んー、悪く無い感じかな?参謀たるもの、武器の一つくらいは持っておかないと!」
心臓を突き刺した刀を引き抜き、リンボと呼ばれた男と言葉を交わす者。
視界に入れるだけで怖気の走るリンボとは余りに不釣り合いな少女。
彼女をシャミ子は知っている。
知っているけど有り得ない、アレが彼女な訳がない。
そうだ、そんなことある筈がない。
だって自分の知るあの子は、自慢したくなるくらい優しい女の子で。
ちょっと姉への期待が大き過ぎる気がしないでもないけど、でもそれくらい慕ってくれるのが嬉しい。
「りょ……う……?」
大切な妹が人を殺すなど、そんなのは嘘だ。
「――――!!!っのクソ野郎がああああああああああああああああああっ!!!」
リンボの登場により凍り付いた時間がようやく動き出す。
我先にと飛び出したのは小鳩、血が滲む程に鎖を握り締める。
復帰早々有無を言わせず攻撃を仕掛けられたのは、帰宅部として経験を積んだ恩恵か。
それを小鳩に言ったとしても、何の慰めにもならないだろうが。
乱入して来た胡散臭さ全開の男は誰だとか、一緒にいる少女はシャミ子とどんな関係だとか。
そんな疑問はどうだっていい。
こいつらは苺香を殺した。
天然ドSの気配はあったけど、何の罪も犯していない女の子を平然と手に掛けたのだ。
小鳩にはそれだけで十分な理由となる。
デジヘッドにしてやったのと同じだ、カタルシスエフェクトを豪快に叩き付け骨まで砕いてやる。
「がっ!?」
感じたのは癪に障る笑みを潰してやった手応えではない。
腹部を襲う鈍痛、内臓がプレスされと錯覚せん程の猛烈な痛み。
小鳩の意思とは無関係に体が宙へ浮く。
ワイヤーで引っ張られるように地面が離れて行き、すぐに地面が迫り来る。
「あっ…」
背中へ来た痛み。
叩きつけられ最早一文字の呻き声すら出せない。
吐き出した血は夜明け前の時間帯だというのに、やけに鮮明な色に見える。
倒れ伏した小鳩を見下ろす、殴りつけてやりたいくらいに腹立たしい笑み。
「これでも拙僧鍛えております故に。やはり男子たるもの、喧嘩の一つや二つはこなせねば恰好は付きますまい?」
拳一発で宙へと浮かし、蹴り一撃で叩きつける。
術者として超が三つでも足りないリンボだが、純粋な身体能力すらも人のソレとは比べる事態が間違い。
わざわざ魔力を消費するまでもない相手だ。
埃でも払うように両手を打ち合わせる。
「ちく…しょ……」
霞んでいく視界にふざけるなと内心で吠える。
女の子を殺されて、別の少女達までピンチだというのに。
自分は情けなく気を失うなど、認めてたまるか。
どれだけ威勢よく抵抗を試みても、体は既に限界。
悪態すら零せず小鳩の意識は闇に落ちた。
「あ…あ…こ、小鳩さんか離れて…!」
ようやく動けるようになったココアを誰が責められよう。
磯野に首輪を爆破された本田、マヤを含め放送で殺された者達。
彼ら以上に近い、目の前で人が死んだ。
それもついさっきまで普通に話をし、お茶を飲み、共に戦った相手がとなればむしろ正気に戻るだけでも大したものだろう。
苺香のみならず小鳩まで殺そうとしている。
見過ごすわけにはいかないと剣を構えるも、全身が震え顔は蒼白。
恐怖を振り払うには目の前で起きた惨劇の刺激は強過ぎる。
「や…やあああああ!」
自分が殺される恐怖より仲間が殺される恐怖が勝ったのか。
或いは半ば正気を失いかけての行動かもしれない。
恐れを誤魔化す叫びを上げ、破れかぶれとしか取れない有様で突撃。
標的はリンボか良子か、ココア自身にも判断が付かないまま斬り掛かった。
「あぐっ…!」
憐れとも感じる一撃を受け入れてやる物好きは不在。
横合いからの衝撃に地面を転がる。
お腹が凄く痛い。
時折繰り出される過激なツッコミとは違う、純粋な暴力。
冷酷無比な蹴りを放ったのはリンボでも良子でも無い。
「あ、遅いですよ最上さん!」
「主役は遅れて登場する、よもや使い古された謳い文句が最上殿の好みでしたかな?」
「……」
好き勝手言う道具二名には一々文句を言う気にもなれない。
大層面倒そうに二人を睨みつけながら、ココアへと近付く。
憑依した浅桐美乃莉はただの女子高生だが、最上級の悪霊である最上が動かせば立派な凶器と化す。
正史において、報酬につられた霊能者どもを叩きのめしたのと同じだ。
少女の命一つ、蟻を潰すくらいに容易く奪える。
だがココアの死を望まない者が一人、いや一匹。
黒い小さな体躯が最上の前に立ち塞がった。
「あんこ…!?」
恥ずかしがり屋なうさぎが自分から飛び出し、ココアを守ろうとしている。
こんな状況じゃなかったら、凄いねと沢山褒めてあげたい。
千夜にもあんこの武勇伝を語ってあげたい。
「だ、だめ…!逃げて…!」
でもそんな幸せに満ちた光景は。
木組みの街での大好きな日常への逃避は許されない。
殺し合いに巻き込まれて不安になった自分の支えになってくれた、日常を思い出させる友達。
失いたくない願いを叫ぶもあんこは不動。
じっと最上を睨み付ける。
「……」
自分の事より他者を、心から大切な人を助けようとする。
最上にとっても他人事ではない。
母を助ける為に真っ当な霊能力者の仕事では無い、悪事にだって手を出した。
その行動までも否定する気は無い。
「だからなんだ」
が、それとこれとは別。
否定はしない、だが見逃してやるようなら自分は悪霊になどなっていない。
己の目指す世直しはたかが獣一匹に阻まれるような、薄っぺらい決意ではない。
手刀を叩き込まれたあんこが吹き飛ばされる。
地面に落ちた先で、その目は変わらず最上を睨み付けたまま。
有り得ぬ方向に首を曲げたまま、二度と動かなくなって。
「あん、こ…あ…やだ…やだああああああああ!!!」
悲痛な悲しみの叫びも最上はどこ吹く風。
さっさと片を付けるに限る。
「待ってください最上さん。殺すなら私にやらせてください」
「急に何だ。…ああ、その妖刀の効力を試すのか」
「はい!あっちの人だけじゃなく、もう一人くらい良いかなって」
良子の頼みを断る理由もない。
さっさとやれと言えば、頷き刀を手にココアへ迫る。
あんこが死んだショックで、自分を殺そうとする少女にもココアは気付いていない。
苺香同様すぐに始末されて終わり。
「やめてください!!」
良子を制止するのは、彼女が求めてやまない家族。
ようやく話しかけてくれた事へ遅いよと文句を言いつつ、喜びはやはり隠せない。
他の誰を犠牲にしても生き残らせたい大好きな姉。
ただ案の定、自分のやる事には反対らしい。
「お姉久しぶり…でもないか。いっつも一緒にいるもんね」
「良…なんでこんなこと…そ、そんな危ないの捨てて…!じゃ、じゃなくてなんで苺香さんを…!」
言いたいことは山程あるのに伝えようとすれば内容が纏まらない。
どうして苺香を殺したのか、どうして人を殺して平然としてるのか。
問い詰めたい、そもそも自分は怒るべきなのかどうすればいいのかすら分からない。
考え付く言葉を片っ端から口に出す姉を、良子は愛くるしい小動物を愛でる瞳で見つめる。
「大丈夫だよお姉。お姉は反対するかもしれないけど、これからは良がお姉を守ってあげる。ちゃんと生きて帰れるから心配しないで」
「守るって…なにを言って……」
ヒュッと喉が鳴り、言葉がちゃんと出て来てくれない。
守ってあげる、生きて帰れる。
妹が口にしたのは血みどろの内容なんかじゃなく、姉を想う一途な感情。
ありがとうと礼を口に出来やしない。
だってそうだろう。
シャミ子を守るために殺した、シャミ子を生きて帰す為に殺した。
シャミ子が大切だから、苺香を殺した。
それはつまり
「私のせい……?」
「お話の途中失礼致します。姉妹の再会、積もる話はまた後で」
フッと急速に意識が薄れる。
いつのまにやら傍らに立つリンボがシャミ子の額に指を当てたと、気付いたのは彼の同行者二名。
眠りに落ちたまぞくを抱え、一仕事終えたとばかりに首を回す。
「とまぁ、姉妹水入らずの話は次の機会で宜しいですかな良子殿?」
「リンボさんの頼みならしょうがないなぁ」
「用が済んだならさっさと行くぞ」
冷めた瞳で急かす最上へ、せっかちは損ですぞと返す。
早くしろと睨まれたのでわざとらしく肩を竦めた。
その前にもう一つ、やる事が残っている。
「では良子殿、彼女を――」
促された良子が近付く相手はココア。
ようやっと自分へ殺意を向ける相手に気付くも、出来るのは震え上がるだけだ。
恐い、どうしようもなく恐い。
リンボも、最上も、何より自分より幼いのに人を殺して顔色一つ変えない良子が。
立ち上がって逃げねば、剣を振って抵抗せねば殺される。
分かっているのに体は動いてくれない。
カチカチと打ち鳴らされる歯の間から、か細い声を出すので精一杯だった。
「ごめんね、チノちゃん……」
その全てを戒も聞いていた。
近くで起こった惨劇の全部を把握しても尚、助けられない。
「―――っ!!!」
焦りと怒りを刃に乗せ、怒涛の勢いで以て攻め立てる。
されど届かない。
追い抜いたと思った端から追いつかれ、直ぐに上を行かれる。
継国縁壱、神々の寵愛を受けた人であって人を超えた男。
そんな化け物染みた人間を相手に、戒はココア達を助けに行けなかった。
苺香の悲鳴を聞いた時、どれだけ急ぎ駆け付けたかったか。
小鳩が倒れ伏し、ココアが悲しみに叫んだのにどれだけ己の不甲斐なさを呪ったか。
許せない。リンボ達も、縁壱も、屑どころかとんだ無能な自分自身も。
「オオオオオオオオオオオオオッ!!!」
叫ぶ、叫んだ所で意味は無い。
受け流され、躱され、また一つ傷が刻まれる。
このままではココアまで殺される。
邪魔をするなと振るわれた剣に宿るは怒りと、どうしようもない焦り。
如何に凄腕の戦士だろうと、動揺を乗せた武器は恐れの対象には入らない。
日輪刀が走る。
ザンバットソードをすり抜けて、紅蓮の刃は肉を斬り骨を断つ。
斬り飛ばされるは左腕。
痛みに声を上げる事すら時間の無駄、口だけで袖を縛り上げる。
咄嗟の止血は済んだ、剣を握る右手は無事。
だけど間に合わない。
ココアを襲う刃へは、どうしようもなく間に合わない。
彼女を救えるものはどこにも――
『FAINAL ATTACK RIDE DE・DE・DE DECADE!』
「何奴!?」
巨大なカード型エネルギーを通り抜け、リンボを狙い撃つ光線。
焼き潰され灰も残らぬ閃光を前に、リンボも黙ってやられはせず。
呪符を用いて結界を展開、髪の毛一本焦がされない。
しかし被害ゼロではない。
光線を防ぐも煙で奪われる視界、この程度晴らすのは一瞬。
だがリンボが何をするまでも無く煙は晴れた。
夜闇を切り裂く閃光の如き、閃刀姫の手によって。
「はぁっ!」
「きゃっ…!」
防御こそ間に合うも斬り飛ばされ、ココアからは距離を離された。
追撃を仕掛けるべく接近を試みるも、最上がそれを阻む。
杭打機を思わせる勢いの拳を回避、反対に剣を振るえばバックステップで躱された。
体勢を整え睨み付ければ、ココアと小鳩を庇うように立つ二人の戦士。
「遅かった、ですね…」
「言うな。まずはこいつらをどうにかするぞ。…あっちの侍もな」
ヒーローは遅れてやって来る。
昔からお馴染みのフレーズも、二人にとっては良い感情を抱けやしない。
もっと早くに到着していれば助けられた命があっただろうに。
悔しさに唇を噛み、だが諦め投げ出すには倒すべき巨悪が未だ多く健在。
ディケイドに変身した士、愛剣を構え直すレイ。
万全には程遠いが戦意は十分過ぎる程にある。
『KAMEN RIDE KIVA!』
『FORM RIDE KIVA GARURU FORM!』
託されたライダーカードを叩き込み、カメンライドするはキバ。
更にもう一枚カードを装填、キバの鎧が蒼に染まる。
ウルフェン族の力を借りた魔獣形態は自己治癒力がある。
縁壱との戦闘で受けた傷を癒しつつ、斬り掛かる標的はリンボ。
「ンン!いきなり現れ主役気取りとは、躾が必要ですかな?」
「お前みたいな悪役面に主役が務まるか。さっさと俺に代われ」
魔獣剣、ガルルセイバーを手に動き回る様は本物の狼のよう。
これをリンボ、ジュフを取り出し迎え撃つ。
「見ず知らずの連中の為に、わざわざご苦労だな」
「挑発なら無駄ですよ!」
剣術と体術で渡り合う閃刀姫と悪霊。
リーチの差がある分有利なのはレイ。
外道に容赦は無用と仕留めに掛かるも、敵は最上だけではない。
あらぬ方向より襲い来る光弾、最上への追撃を止め斬り落とす。
さっき斬り飛ばした少女の仕業かと振り返り、予想とは全く違う人物がいた。
「なっ!?」
白いモコモコした装飾の衣装を纏った少女。
レイ達が到着した時には既にこの世にはいない筈の人物が、二本足で立ちクリスタルを構えているのは何の冗談だ。
敵の驚愕に興味の無い最上が拳を放つ。
何故死者が動いているかを詳しく考える前に、間近に迫った敵への対処が先だ。
戦いはこのまま乱戦へともつれ込む。
「という展開はまたいずれ。此度はこれにて御免!」
投げ放った呪符が上空に展開。
真下の者どもへと降り注ぐ赤黒い雷。
ガルルフォームの俊敏性を活かし躱すも如何せん範囲が広い。
同じくレイも回避に集中せざるを得ず、最上達はあっという間に距離を取った。
「では皆々様方、縁があればまたお会いしましょうぞ」
「っ!待ちなさい」
士達が怯んでいる間に撤退の準備は済んだ。
リンボ達が乗り込んだのは、摩訶不思議な空飛ぶ絨毯。
制止の声を嘲笑うようにリンボ達を乗せ、絨毯は遥か彼方へ飛び去って行く。
乗り込んだのはこの場を掻き乱した三人だけではない。
気を失ったまぞくの少女と、死人人形と化した少女もである。
「好き勝手やってこれか…!」
リンボ達の逃走を悔やむも、追いかけている余裕は無い。
まだ生きている者達と、因縁のある侍をどうにかしなくては。
渡を含めた三人掛かりで歯が立たなかった相手に、再戦を挑んだ所で勝ちは望めない。
そんな事は分かっているが、今も一人で戦っている青年を無視出来るものか。
覚悟を決めカードを取り出す士に倣い、レイも愛剣を強く握り締める。
「…頼みがある」
意外にも士達の決意へ水を差したのは、今尚縁壱と斬り結ぶ青年。
視線は正面から決して逸らさず、背を向けたまま言う。
士達の返答を待たずに、この場での最適解を。
「ココアちゃん達を連れて逃げてくれ」
「え…?」
戒が何を言ってるのか。
分からない、分かりたくなくてココアは呆然とする。
自分と小鳩を連れて逃げて欲しい。
そう頼んだ、じゃあ戒はどうするのだろう。
難しく考えなくても分かることだ。
自分達全員では逃げられない。
誰かが残って足止めしなくては、追いかけて来た侍に皆殺されてしまう。
一人の犠牲で残りを生かす、その役目は自分がやる。
戒が言ってるのはそういう事だ。
「だめ…そんなの、だめだよ…!」
理解するのと納得するのは別。
何をどんなに説明されたって、ココアは絶対に納得なんかしたくない。
「戒さんも一緒に逃げようよ!」
「……」
「チノちゃん達に戒さんのこと紹介したいよ!戒さんの妹さんにだって、会ってみたいよ…!」
「……」
「帰ったらラビットハウスに来て、それでコーヒーを淹れてあげて……!」
「……」
「強くしてくれるって!約束したのに…!破るなんて…酷いよ…!」
「ごめんね…」
くしゃりと顔が歪む。
こんなこと言いたいんじゃない、責めたいんじゃない。
酷いこと言ってごめんなさい、何回だって謝る。
だからあなたも一緒に行こう。
言いたかった言葉は結局口を出ず、ひょいと担がれた。
「…行くぞ」
「…分かってます!」
小鳩とココアをそれぞれ持ち上げ、戦場に背を向ける。
納得できないのは士とレイも同じだ。
意地を張って残っても待ち受ける末路は全滅、そんなの分からない筈が無い。
二人の少年少女の命は自分達に託された、なら早急に逃げるしかない。
分かっていても、戒を犠牲にした事実に変わりは無い。
渡の覚悟を、戒の覚悟を無駄には出来ない。
故にこの選択は間違いではないと、何度言い聞かせても。
湧き上がる無力感は互いの心を蝕み、自分自身を殴りつけてやりたい衝動に駆られた。
仮面ライダーと閃刀姫、超人的な身体能力を発揮すれば人を抱えたままでも逃走は可能。
後悔も怒りも悲しみも、今だけは振り切って走り出す。
「戒さああああああああああああああああん!!!!!」
最後に背中へ掛けられたのは、約束を守れなかった少女の泣き声。
悪いことをしたと思う、謝りたくてしょうがない。
それが叶わないのは戒自身が一番よく理解している。
己の役目は感傷に浸るのでも、罪悪感に苛まれ棒立ちになるのでもない。
継国縁壱を斬ることだけだ。
全身に刻まれた傷は少なくない。
止血したとはいえ、片腕の喪失は無視出来ない。
それがどうした、だってまだ自分は生きている。
剣を振るえるなら上出来ではないか。
「―――っあああああああああああああああああ!!!」
剣を振るう。
日輪刀が迫る、避けない。
日輪刀が迫る、防がない。
日輪刀が迫る、攻撃以外はもう考えるな。
突き進め。
前に前に前に。
己の刃を届かせる事だけに集中しろ。
防がれる、もっと速く。
躱される、もっと速く。
もっともっともっとだ。
思い出せ、彼女の剣はこんなに遅く無かっただろう。
誰よりも知るあの速さを思い出せ。
脳裏に焼き付く閃光を。
思い出せ思い出せ思い出せ!
戦場を照らしたあの光を!
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
そして、遂に届く。
鮮血が降り注ぐ、魔皇剣が太陽へと傷を付ける。
鬼の始祖にすら不可能だった、絶対的な日輪へ届かせたのだ。
だが忘れるなかれ。
想いの強さが作用するのは戒一人に非ず。
自身に剣を届かせた存在を前に、縁壱は何を思ったか。
強者への称賛ではない。
参加者全てを鬼としか認識できない侍は、ただこう感じた。
これ程の力を持つ鬼は、絶対に滅ぼさねばならぬ。
継国縁壱は鬼に壊される悲しみを知っている。
継国縁壱は鬼に奪われる怒りを知っている。
継国縁壱は残された者の痛みを知っている。
ならば、ならば膝を付きはしない。
鬼を前に為せねばならぬはいつだって一つ。
――参の型 烈日紅鏡
頸を斬る、それだけだ。
(ああ……)
終わりを悟る。
不思議と痛みはない、子守唄を囁かれるように眠くて仕方ない。
今の終わりとあの時の終わり、どちらが良いのかは分からなかった。
(僕は…何かを為せたのだろうか…)
考えてみれば申し訳なさばかりだ。
約束を守れず、守るべき者も取り零す始末。
カインになった本来の末路を思えば今更だけど、結局妹を置き去りにしてしまった。
自分のような屑らしい末路と自嘲するには、やはり皆に申し訳が無い。
(ココアちゃん…どうか無事に……)
本当だったら、彼女が生きてチノ達と会えるまで一緒にいたかった。
約束を守り、彼女を鍛えたかった。
きっとココアは傷ついているだろう。
けれど、勝手な願いなのは十分承知だが立ち直って欲しいと思う。
自分が見た彼女の強さは、太陽のような前向きさはきっと多くの人と、ココア自身にも必要だから。
後悔ばかりで、傷付けてばかりの屑だけど。
こんな自分でも少しは上手くやれたなら。
決して叶わないし、願ってはいけないことなのは分かっている。
それでも
(もう一度君に……)
愛した光への変わらぬ想いを最後に、兄だった男は目を閉じた。
◆◆◆
「最上殿、もうちょっと詰めてくだされ。このままでは拙僧振り落とされてしまいます」
「……」
そんなデカい図体しているからだろうと思いつつ、スペースを開けてやる。
胡散臭いことこの上ない笑みで礼を言うリンボに、何度目か分からないため息を吐いた。
そもそもの話、最上は先程の戦場へ介入するのに乗り気では無かった。
良子の支給品を使い、離れた位置から街の様子をモニターで見たのが始まりだ。
主催者から紹介された敵キャラクターの侍が猛威を振るう場面。
最上が下した判断は静観一択。
縁壱を利用するにしても排除するにしても、あの強さを考えれば相応の準備は必須。
考え無しに突っ込み馬鹿を見るのは御免だ。
それに縁壱と戦っていた連中は善性の強い者ばかり、最上のやる事とは相容れない可能性が高い。
だったら邪魔になるだろう連中を勝手に排除してくれるのを黙って見ていれば良い。
全員が殺され縁壱が去ってから街へ行き、支給品を回収した方が合理的。
という意見とは真逆を突き進むのがリンボ。
おまけに姉がいると知った良子まで乗り気になり、あれよあれよと乱入。
先の戦いで見せたリンボの力の一端、世直しに利用する力として考えれば文句は無い。
術を使う当人がいらん遊びに走る部分へ目を瞑ればだが。
チラと絨毯に乗った他の連中を見る。
眠りに落ちた姉を膝に乗せ、幸せそうに頭を撫でる良子。
物言わぬ死人と化し、今や良子の意思のままに動く傀儡と化した苺香。
憐れに思う、だがそれ以上は何も無い。
罪悪感を抱くには最早遅い、母を奪われた怒りは最上を引き返せない所まで追いやった。
(引き返すつもりも無いがな)
各々の思惑を乗せ絨毯は飛ぶ。
一行が向かう先へ更なる災厄を齎しに。
◆
朝が来る。
勝者も敗者も等しく迎える一日の始まり。
降り注ぐのは祝福の光か。
はたまた、新たな混沌の産声か。
【櫻井戒@Dies irae Verfaulen segen 死亡】
【桜ノ宮苺香@ブレンド・S 死亡】
【一日目/早朝/E-5】
【閃刀姫-レイ@遊戯王OCG】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)、ココアを担いでる
[装備]:閃刀姫-レイの剣@遊戯王OCG
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:士に協力してこの世界を破壊しちゃいますか
1:士と旅をする
2:渡の意志は引き継ぎました。人々の音楽は私が守ります
3:ロゼに会いたい。たとえ自分の知るロゼじゃなくても、守ってみせます
[備考]
※参戦時期は閃刀起動-リンケージ(ロゼ死亡)以降。
※名簿を確認出来てません
※遊戯王カードについての知識はありません
※カガリやシズクなどにフォームチェンジするには遊戯王OCGのカードが必要です。閃刀姫デッキとして支給されたカードではフォームチェンジ出来ません。
※閃刀起動-リンケージのカードを発動することでオッドアイになり、秘められた力を発揮出来ます
【門矢士@平成仮面ライダーシリーズ】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)、ディケイドに変身中、小鳩を担いでる
[装備]:ネオディケイドライバー&ディケイドのライダーカード@平成仮面ライダーシリーズ、ファイナルアタックライドのカード&各種アタックライドのカード@平成仮面ライダーシリーズ、ライドブッカー@平成仮面ライダーシリーズ 、仮面ライダーキバのライダーカード@平成仮面ライダーシリーズ
[道具]:基本支給品、マシンディケイダー@平成仮面ライダーシリーズ
[思考・状況]基本方針:この世界を破壊する
1:レイと旅をする
2:どうせ海東の奴もいるんだろうな
3:檀黎斗を倒して渡の世界も俺が守ってやる
4:ユウスケ達がここにいないのは……
[備考]
※参戦時期はRIDER TIME 仮面ライダージオウVSディケイドで死亡後
※名簿を確認出来てません
※各世界の主役仮面ライダーかその関係者と心を通わせることで、その世界の主人公の仮面ライダーのカードを創造してカメンライド(変身)できるようになります
【保登心愛@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(大)、腹部に打撲、深い悲しみ、リンボ達への恐怖(大)、レイに担がれてる
[装備]: ココア専用ソード@きららファンタジア
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:チノちゃんや戒さんと一緒にバトルロワイヤルを終わらせるよ!
1:戒さん……
2:苺香ちゃんとあんこも死んじゃった……
3:もう迷わない。私は私――ココアだよ!
[備考]
※名簿を確認しました。もう一人『保登心愛』がいることを確認しました
【風祭小鳩@Caligula2】
[状態]:疲労(極大)、内臓にダメージ(大)、背中に痛み、ハ・デスに対する怒り(特大・ただある程度落ち着いた)、精神疲労(中) 、気絶、士に担がれてる
[装備]:身軽の羽根DX@大番長
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:黎斗とハ・デスぶっ潰す。主人公から降ろしたツケ払いやがれ。
1:……(気絶中)
2:知り合いいないってんなら自由にやるか。
3:真月って奴は、まあ敵じゃないんだろな。知り合いいたら言っとくか。
4:牛尾のおっさんの知り合いに会ったらどう説明すりゃいいんだろうな。
5:此処、もしかしてリドゥ?
6:流石にこの羽根は俺には合わねえって……まあ仕方ねえけど。
7:やってやろうじゃねえか、神殺し!
8:不動遊星とデッキを探す。B-6近くのどっかにあんのか?
9:シャミちゃん達と共に行動するぜ。
10:シャミちゃんとココアちゃんの知り合いも一緒に探すとするか。
[備考]
※参戦時期はエピメテウスの塔攻略中、
かつ個人エピソード完全クリア済みです。
※部長の性別は採用された場合、かつ後続の方に一任します。
※カタルシスエフェクトは問題なく発動します
※①黎斗はそれを利用して殺し合いの舞台を作ってるのではないか。
②黎斗がゲーマーであることを示唆する言い回しがいくつかあった。
③元を辿ればバーチャドールは電子ボーカルソフトから誕生。
これらからこの舞台をリドゥの延長線上にあるのではないかと思ってます。
※デュエルモンスターズのルールについてはざっくりと把握してます。
可愛いモンスターにはそれなりに目を付けてます。多分閃刀姫も知ってるかも。
※牛尾との情報交換で5ds+遊戯達の情報を得ました。
※身軽の羽根DX@大番長で回避率、基スピードが強化されてます。
※名前は分かりませんがあの男がポセイドンだと察してます。
※どこへ逃げたかは後続の書き手に任せます。
【一日目/早朝/E-5(上空)】
【キャスター・リンボ@Fate/Grand order】
[状態]:疲労(小)、魔力消費(中)、上機嫌、空飛ぶじゅうたんで移動中
[装備]:空飛ぶじゅうたん@ドラえもん
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1、RUM-バリアンズ・フォース@遊戯王ZEXALシリーズ、光の護封剣(ゴールドシリーズ)@、遊戯王OCG小倉しおんの首輪
[思考]
基本:ただ、己の衝動と欲望の赴くままに
1:最上啓示、悪霊の集合体であろうかの御方の行く末、見届けて差し上げましょう
2:吉田良子、どう利用してやりましょうか……ンンンンン
3:里見灯花、まあそちらは式神の方に任せておきましょう
4:吉田優子、さてさて如何ようにするか悩みますなぁ
[備考]
※参戦時期は地獄界曼荼羅、退場後
【吉田良子@まちカドまぞく】
[状態]:疑似英霊剣豪化?、疲労(小)、空飛ぶじゅうたんで移動中
[装備]:死者行軍八房@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式、スパイセット@ドラえもん、ランダム支給品0〜1
[思考]
基本:姉とこのひと(リンボ)のためにみんなころす
1:お姉は見つかった。お母さんや桃さん、ミカンさんも探したい。その後は――?
2:灯花ちゃん、ちゃんとねむちゃんやいろはちゃんと会えるといいね
[備考]
※リンボの術式とバリアンズ・フォースの影響で、擬似的な英霊剣豪の様なものとなっております。
英霊剣豪特有の不死性は存在しませんが、バリアンズ・フォースの影響もあって身体能力その他が強化されております。もしかしたら魔術等を使用できるかも知れません。
【最上啓示@モブサイコ100】
[状態]:疲労(小)、空飛ぶじゅうたんで移動中
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:世界の『世直し』を為す。
1:リンボはいい具合に手綱を握って利用する。裏切るなら殺す。
2:あの娘(良子)は哀れであるが、別にどうでもいい。
3:里見灯花、同じくあの女も哀れだだ。
[備考]
※参戦時期はモブ達と出会う前。
※ボディは浅桐美乃莉のものです。ボディの入れ替えは不可能となっております。
【吉田優子@まちカドまぞく】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)、気絶、空飛ぶじゅうたんで移動中
[装備]:魔王のぶき@きららファンタジア
[道具]:基本支給品一式ㅤランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本方針:みんなが仲良くなりますように
0:……
1:良が苺香さんを…どうして……
2:桃やミカンさんだけじゃなくて、なんでお母さんと良まで……
3:なんか強くなりました!まぞくは進化した!
4:小鳩さんの知り合いと皆を捜します!
[備考]
※参戦時期は夏休み(アニメ2期7話、原作43丁目)以降です。
※魔王シャドウミストレスに変身していますが、特殊な出来事が無い限り精神に異常をきたすことはありません。
【桜ノ宮苺香@ブレンド・S】
[状態]:骸人形、、右手首欠損、空飛ぶじゅうたんで移動中
[装備]:桜ノ宮苺香専用ㅤクリスタル@きららファンタジア
[道具]:基本支給品一式、ハーブティー@かぐや様は告らせたいㅤ天才たちの恋愛頭脳戦
[思考・状況]
基本方針:……
[備考]
※良子に八房で刺殺された為、骸人形になりました。
※どこへ向かうかは後続の書き手に任せます。
【一日目/早朝/E-5 市街地】
【継国縁壱@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(大)、胸部に裂傷(中)
[装備]:継国縁壱の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:鬼狩り
1:鬼である(と縁壱には見えている)紅渡(名前未把握)が死ぬ寸前、柔らかな笑みを浮かべたことに違和感
[備考]
※首輪による制限が行われていません
あんこ@ご注文はうさぎですか?は死亡しました。
櫻井戒の死体の傍にザンバットソード@仮面ライダーキバ、デイパック(基本支給品、ランダム支給品×0〜2)が落ちています。
【マシンディケイダー@平成仮面ライダーシリーズ】
仮面ライダーディケイドの専用マシン。
その実態は万能次元移送機であり、陸・海・空を駆け抜け、宇宙空間へも飛び出すことができる。
ゲームにおいてこれらの機能がどの程度制限されているかは不明。
ライダーカードを使用すれば他のライダーの専用マシンに変える事も可能。
【ザンバットソード@仮面ライダーキバ】
ファンガイアの王のために創られた魔皇剣。
ライフエナジーを過剰に吸い取る性質上、剣自体に認められなければ暴走する。
が、支給されたのは渡の時代で幻影怪物ザンバットバットが仲介役を果たした状態。
主催者の細工も加わり、紅渡以外でも使えるようにされた。
ウェイクアップフエッスルも付属しているが、キバの鎧を纏った者以外には無意味。
【空飛ぶじゅうたん@ドラえもん】
大長編「のび太のドラビアンナイト」に登場。
ドラえもんのひみつ道具ではなく、シンドバッドが第7の航海で助けた時間旅行者から贈られた魔法の絨毯を模した未来の道具。
作中では5人乗った際に定量オーバーらしいが普通に飛んでいる。
【スパイセット@ドラえもん】
22世紀の偵察用ひみつ道具。
人間の顔に片目と片耳が付いており、頭上のツノを押すと指示に従い目と耳が分離。
離れた場所の映像と音声が顔型のモニターに映し出される。
【死者行軍八房@アカメが斬る!】
イェーガーズのクロメが使用する日本刀型の帝具。
斬り殺した相手を骸人形にして操ることができる。
骸人形は生前と変わらない能力を持つ。
制限により操れる骸人形は最大2体までとなるよう、調整を施されている。
投下終了です
間に合うかわかりませんが、やる気を出す意味も込めて、ニノン・ジュベール、マサツグ様、土部學、モニカ、深海マコトで予約します
延長もしておきます
矛盾点などが見つかったので予約破棄します。申し訳ありません
奈津恵、コッコロを予約します
ジャック、うさぎ、冥王、ジャンヌ予約します
投下します
「……問うのも莫迦らしくなってくるな。」
日本人を守ると抜かした相手は乱入者によって逃げられ、
因縁の敵にも最終的には乱入者によって逃げられた。
追跡しようにも地図を見れば水路は枝分かれし続けており、
場合によっては目視できる小島に逃げている可能性だってある。
なので追跡をやめて辺りを散策してみれば、余りに奇妙な面子だ。
一人は人間なのでまだ問うべきかもしれないが、他は別である。
いや、うさぎについても正直なところ別に問題ないとしていた。
狼牙軍団には確かに変なのも多いとは聞いた。噂なので真偽は不明だが、
ネコを筆頭に動物も連れているとのことで、まあ別に参加者にいてもおかしな話ではない。
あれに日本人かどうかを問いかけるのは流石に莫迦らしく感じてしまう。あれは別だろう。
問題は深淵の冥王だ。あれはどう見ても魔界孔から出てきた異形の怪物の類ではないか。
元々ジャンヌ、ひいてはホーリーフレイムが日本人を忌み嫌うのは、
魔界孔の原因が外国人にあると言われて迫害され続けてきた果てにある。
無論、魔界孔もまた日本を穢れさせた原因そのものであり許しはしない。
「問おう。お前達は異形といるようだが、己の意志で従っているのか?」
だが、一応は確認しておくべき事柄だとして問いはかけておく。
穢れた存在と一緒の時点で処刑が妥当ではあるのだが、ジャンヌは早計と考えた。
此処は神なき地。あの高笑いする男を断じて神とは認めるつもりはない。
神を騙る狂人に歪められたこの地において、そのような行動は早計なのだと。
だから明石にも温情をかけた。結果は徒労に終わってしまっているが。
「フン、愚問だな! 愚問と言うほかあるまい!
俺はこいつに従うつもりも、あの神を名乗る男に従うつもりもない。
このジャック・アトラスが信じる道、それを俺は走り抜けるだけだ!
そしてこちらからも問わせてもらおう。イリヤと司について心当たりはあるな。」
「会ったようだな。」
会った上でそのような話を聞く。
話を聞いている時点で彼は彼女達と敵対していないのだろう。
しかし、彼の世界が同じ世界かどうかはまた別の可能性がある。
イリヤ達は自分をホーリーフレイムとも、ジャンヌとも認識していなかった。
近年まではキュウシュウで競り合ってたので組織としてはかなり小さいものの、
狼牙軍団と言う多くの地を統一してきた相手が残る敵となり交戦目前ではあった。
日本中にその名を轟かせてもおかしくないことだ。それを知らないとは思えない。
『ほら、こういう奴だ。お前の守る日本も、こいつが行ったら日本人は皆殺しだ。』
蛇王院の言っていたあの言葉から察するに、
異なる世界から呼ばれたと言うのが自然なのだろう。
ならば合点がいく。デュエルモンスターズが常識的な扱いで、
この会場の様々な参加者に支給されたり制限されている代物が、
彼女の耳に届かないような代物だとは余り思えない。
なので即座に交渉決裂とはせずに話を続ける。
「又聞きでしかないが、貴様は日本人を相当嫌悪しているらしいな。
肩入れするつもりはないが、司はただの小娘にすぎないように見えたが?」
あれはどこにでもいるような人間にしか見えない。
ネオ童実野シティほど裕福でもなければ、かといってサテライトほどの貧困もなく。
平穏な場所で生きてきた、ごく普通の人に何故そこまで刃を向けるのか。
言葉通り司に特別肩入れはしていない。あくまで純粋な疑問だ。
或いは、司が何か本性を隠している可能性もありうるので尋ねた。
「───差別や迫害。さも当然のように私たちを追いやった穢れた存在。それが日本人だ。」
ジャンヌは語る。自分達が元の世界における立場を。
魔界孔が発生した際、外国人は異端視されてきたことを。
紛れもない冤罪からの扱いだ。放火、暴行、殺人は当たり前だ。
彼女達が拠点としていたナガサキでは特にその被害が多く見られる。
ただ魔界孔の怪物が、伝承の西洋の怪物に似ていた……それだけの類似点。
それだけで人を追いやる。募った怒りはそのような連中を許す要素などないと。
恐怖は理性を駆逐する。そんな一言で片づけられるものではない禍根がそこにある。
「差別……か。わからなくはないな。」
「ほう?」
思わぬジャックの反応に少しだけ眉が動く。
ゼロ・リバースによるサテライトとネオ童実野シティの隔絶。
格差は凄まじいもので、勉学や食事も満足に行き届いてないぐらいに。
クロウを筆頭に拾ったカードのテキストで文字を勉強したことだってあるし、
一つのカップラーメンを三人で食う時だってあるぐらいに貧富の差は激しかった。
逞しく生きてこそはいたが、サテライト側の人間の方はきっと不満も多かっただろう。
互いを繋ぐダイダロスブリッジが建設されてからは差別は減ってきてはいるとしても、
全てが丸く収まるほど人間は簡単ではない……まあ、ジャックの出身がバレた瞬間、
サテライト出身の遊星に敗北した勢いもあるだろうがファンが掌返ししたのを思い返すと、
簡単ではないのもそうなのか、甚だ疑問ではあるが……その辺は面倒なので気にしないでおいた。
お世辞にもあの街の民度がいいとは言えないのは、チーム太陽の時も似たようなものだ。
散々バーンダメージと言う地味な戦い方に対して罵詈雑言を投げかけたかと思えば、
誰も召喚したことのないモンスターを召喚が見れるとなれば掌を返していたわけで。
結局のところ、あの民度については根本的には余り変わってないのかもしれない。
元々街の発展に至った海馬コーポレーションも尖った企業ではあるので、
ある意味その性質を持っているかもしれないが。
「俺達サテライト以上の迫害を受けたのであれば、
そのような考えに至るのは当然と言ってもいいだろうな。」
寧ろ、ラリーを人質にしてスターダスト・ドラゴンを奪って、
遊星が普通に理解していて許していたのが異常とも言い切れることだ。
人の命をただ異邦の民であるだけで殺そうとする輩からの迫害を受け続けて、
相手を憎まずにいると言う方が難しい。寧ろできる奴は基本的に聖人や菩薩だ。
「フゥン。」
(まずい、非常にまずい!!)
この男の単純さから『貴様のやり方などただの殺戮者に過ぎん!』と、
一蹴すると思ってみれば、まさかの理解するのに冥王は慌て始める。
闇を全て支配する程の力があった彼とて、それは降格処分される前の話。
今では、そんな面影は何処かへと消えてしまった現状では貧弱な存在だ。
支給品もない。このままでは最早頼みの綱は隣のうさぎしかいない。
「ハァ?」
(駄目だ、何言ってるか分からんわ……こ奴。)
一方でその頼みの綱は何を言ってるのかさっぱり理解できない、
と言うよりも、ジャックがさも平然と会話してるのが余りに謎すぎる。
視線を向ければ人を煽るような一言二言で終わってしまうのだから。
これは司も理解してなかった様子なので、少なくとも彼に限った話ではない。
「いけませんアトラス様! 奴は……」
「今はこの女と話をしている! それを阻むのならば、
例え殺し合いに懐疑的な貴様であっても容赦はせんぞ!」
「ヒィ!」
割り込もうとしたが物凄い圧と共に一喝され、
思わず尻もちをつく冥王にうさぎはポンと肩を置く。
「ウラッ。」
せめて伝わる言葉でしゃべってくれ。
お前は味方しているのかはっきりしてほしいと思わずにはいられない。
「分かっているのならば話は早い。私と共に日本人を───」
「だが、俺には根強いファンがいると同時に憎まれる立場だ。」
先のラリーを使っての行為もあってか、
ラリー達にはかなり嫌われてたりもすることも多い。
また、ジャックはその不遜な態度はどうしても敵を作りがちであり、
と言うより人の金で高級コーヒーを飲んだくれるこの男の人柄も大概である。
「……何の話をしている?」
「貴様が異端とした相手にも、恐らく善人がいたのではないのか?
異端と一括りしたのであれば、それはその時の日本人と同じだけだ。
貴様は個人を見ようとしていない! 聖戦だ浄化だと耳障りの良い御託を並べ、
己の行為を正当化するならば、貴様のやり方は嘗ての日本人同様、ただの殺戮者に過ぎん!」
これが埋めようがないことなのは彼も分かっている。
きっとそれはZONE達のように譲れないものであることも。
仲間を殺され続けて自分達はしてはならないなど納得しようがない。
それでも彼は否定しよう。彼の言う日本人を殺すと言うのはつまり、
遊星や遊戯達も手に掛けると同義。彼女のいる世界の日本人ならまだしも、
彼女の言う特体生でも、魔界孔とも無縁な人間達までも関係ない日本人も含む。
恐怖で理性を失った日本人と何ら変わらない。それはただの思考停止でしかない。
サテライト出身と言うだけで、マーカーがついてるだけで非難される嘗ての社会と同じ。
猶更受け入れてはならない。改めて相容れない存在だと理解できたことで、
デュエルディスクから剣となるカードを引く。
「……容易に同胞を同じように堕落させるか。」
改めて、日本人とは恐ろしいものだ。
瞳を閉じて溜め息をついて、再度開くと同時にジャンヌは動き出す。
冥王もうさぎもその疾風迅雷の動きには全く反応できなかったし、
ジャックもまた後手に回るため反応自体は遅れてはいたものの、
「フン、甘いな!」
即座に召喚された音叉と尖端が丸い叩き棒を持つ小さい悪魔が、ジャンヌの攻撃を防ぐ。
防ぐと同時に吹き荒ぶ豪風。ウサギと冥王はその勢いに吹き飛ばされ、
ジャックも軽く後退をさせられるほどに凄まじい風圧が周囲に巻き起こった。
これだけの攻撃を、小さなモンスターが防ぐことにジャンヌも僅かに反応する。
(モンスター効果は再現されているようだな。)
ジャックが召喚したモンスター、
ダーク・リゾネーターは一ターンに一度だけバトルで破壊されない。
どれだけ攻撃力の差があろうとも、その耐性があれば十分に受けきれる。
しかしジャンヌの猛攻を考えれば、動かずにいる猶予は非常に短い。
「俺のターン! ボーン・デーモンを通常召喚!」
ドローと同時に続けざまにほぼ全身が骨だけで構成されている、
異形の怪物がカタカタと音をならしながら召喚される。
(後はレッド・デーモンズにつなげるだけだが……)
レッド・デーモンズのレベルは8。
今のモンスターの合計は7ではあるが、
ボーン・デーモンにはレベルを変化させる効果を持つ。
問題はダーク・リゾネーターで攻撃を防いだことで、行動を変えるだろうと。
「今更、モンスターを相手する理由などないだろう。」
予想はしていたが、対応速度は異次元のレベルに達する。
ジャンプしてモンスターの壁を通り越し、瞬く間に剣の間合いへ持ち込む。
デュエリストの一番の欠点。それは自由意志で動くモンスターがほぼいないこと。
遊戯のブラック・マジシャンのような魂のカードならば当人の意志で動くだろうが、
それがないのでは、敵の攻撃の間合いに入ってる場合の対応は極めて困難になる。
牛尾には小鳩、遊星には達也、城之内には結芽と前衛たる存在がいてこそ安全に戦えた。
いずれも出会った参加者は強敵であり、ポセイドンは別としてジャンヌもそれらに引けを取らない。
普段のうさぎなら前衛だったしれないが、彼の武器はデュエルディスクなので同じ役割になる。
冥王はモンスターではあるので少なくとも常人よりは強いが、前衛の戦力には足りえない。
「フッ、そう来ると読んでいたぞ。」
けれども、これについて想定内の範囲だ。
この舞台には数々のデュエリストが参加している。
その中でモンスターとの交戦を予選時点で経験したのはジャックだけだ。
予選が終わった後もモンスター同士の戦いを経験しているのもまた遊星だけで、
故に彼だけが、従来のデュエルとは違う厳格なルールが存在しないものを深く理解している。
だからいわばメインフェイズだろうと、バトルフェイズにしか使えないカードが発動できることも。
ルール無用で相手ターン中とも言える中ダーク・リゾネーターを出して防いだのも、同じことだ。
(そも、相手の先攻でダイレクトアタックをしてる時点でルール無用なのは似たようなものだが)
何よりモンスターを破壊できなかったとなれば、次も破壊がうまくいかない疑心暗鬼はあるはずだ。
相手はデュエルモンスターズをよくは知らない。先入観があればなおのこと本体を狙ってくると。
故に『発動していた』。鐘を鳴らしながら現れた、小型の振り子のモンスターを召喚しながら。
キングのデュエルとは、常に相手の一歩や二歩先に行くものだ。
「バトルフェーダーの効果だ!」
相手が直接攻撃してきた瞬間、
手札のこのカードを特殊召喚してバトルフェイズを強制終了させる。
強引にエクスカリバーを振るう動きを止められ、思わぬ事態にジャンヌが距離を取る。
当然、そう予想していた以上その隙を見逃すようなジャックではない。
「ボーン・デーモンの効果でデッキから悪魔族のチューナーモンスター、
クリムゾン・リゾネーターを墓地へ送りボーン・デーモンのレベルを一つ上げる!
レベル5となったボーン・デーモンに、レベル3のダーク・リゾネーターをチューニング!」
攻撃を防いだ間を利用しシンクロ召喚を行う。
デモンストレーションで見た光景の召喚方法だ。
ジャンヌにはルールの理解は浅くとも強力な力であることは伺える。
なので再度踏み込むがジャックは先んじて攻撃を予想し、後方へとジャンプして近くの崖の上に立つ。
遊星のフィジカルが人間離れしてるせいで忘れがちだが、ジャックも素のスペックは常人としては高い。
アウトローな組織のアジトへ単身突入し、そこにいた連中数十人をリアルファイトで殴り倒してるぐらいだ。
サテライト育ちであり、チームサティスファクションで様々な経験を経たジャックだからこそでもある。
先にそうするのを読めていたからこそ対応はできた、と言うのも一応あるにはあるが。
相手の動きを常に読まなければ、此処では敗北ではなく死が待っているのだから。
「王者の鼓動、今ここに列をなす! 天地鳴動の力を見るがいい!
シンクロ召喚! 現れろ! 我が魂、レッド・デーモンズ・ドラゴン!」
光の中から現出するは赤と黒で構成された一体のモンスター。
竜の名を冠するが、体格はどちらかと言えばドラゴニュートのような人型に近しいフォルム。
悪魔の名を冠するドラゴンだけあって、頭部には捻じれた三本の角がよく目立つ。
ジャックたちを超える巨躯に違わぬ赤黒い翼を広げながら、赤き悪魔の竜は咆哮を轟かせる。
咆哮だけでも常人なら竦むような、ビリビリとした感覚が他の三人を襲う。
「魂と言うだけあって力はあるらしいな。だが、私がその程度で臆すると思うか?」
聖剣の剣先と鉄仮面の如き冷徹な眼差しをジャック達へと向ける。
高低差も相まって聖女と悪魔を従える王者の、一枚の絵画のような構図になっていた。
「ならばその実力を見せてみることだな、バトル!
レッド・デーモンズの攻撃! アブソリュート・パワーフォース!」
この舞台でも数多の強力なモンスターを蹴散らした竜の拳。
モンスターを余裕で掻い潜るジャンヌと言えども、無視できない速度だ。
エクスカリバーを横薙ぎに振るい、レッド・デーモンズの攻撃とぶつけ合い相殺させる。
一人の人間と竜の相殺は並のものではなく、周囲には衝撃が広がっていく。
ジャックも腕で風を防がなければ視界が遮られるぐらいに。
(正面からの攻撃でレッド・デーモンズの攻撃を防ぐのか!
奴の装備してる剣、あれはイリヤ曰くエクスカリバーと聞くが、
よもやあのエクスカリバーと同等の強力な装備魔法の類だとでもいうのか!)
遊戯が使ったカードにもエクスカリバーがあったりするので、
ジャックの言うエクスカリバーとは基本的にそちらの記憶がある。
其方は戦闘ダメージを半減させる代わりに装備モンスターの攻撃力が二倍になるので、
それだけの代物であると言うのは、強ち間違いではないのかもしれない。
仮にもシグナーのドラゴン、ナスカに封印された邪神と戦った竜の一体。
その上で攻撃力はシグナーのドラゴンの中で最も高いとされる3000。
生身の人間が対応するなど、驚嘆するほかないだろう。
「アトラス様、まずいですよ!」
「元冥王、言わずとも分かっている! 紅蓮魔竜の壺を発動!」
レッド・デーモンズが存在する場合に、
カードを二枚ドローする効果で手札を補充していく。
このカードの発動だけでも何度も拳と聖剣の衝突が起きている。
実力伯仲、と言いたいところだがレッド・デーモンズの肉片が頬を掠る。
恐らく僅かな差ではあるだろうが、ジャンヌの方が上回っていると見ていい。
下手をすれば先にやられかねない状況では、手数はあるに越したことはない。
(幸いスタンディングデュエル用ではあるが、
ライディングデュエルなしでは此処まで厄介とは。)
遊星とジャックと牛尾の世界では、
Dホイールと言う乗り物に乗ってデュエルするライディングデュエル、
遊戯達同様に立ったままデュエルするスタンディングデュエルの二種類が存在する。
ただライディングデュエルが主流で、そのルールでは通常の魔法カードが使用には大きなリスクを持つ。
故にその状況下でも使える専用の魔法カードか、それとは関係なく使える罠カードを積極的に使う。
ジャックも同様だ。魔法と違って罠カードは原則的にセットしてから発動を待つタイムラグがある。
この刹那の間の判断を求められる舞台において、一ターンと言うのは余りにも長い刹那の時間だ。
仮に無理矢理今すぐ発動しても恐らく効果が薄いものか、発動しないと判断して無闇には使えない。
「埒があかん! レッド・デーモンズ! クリムゾン・ヘル・フレア!」
幸い二人はこの余波を受けないよう後方にいる。
今なら範囲攻撃も問題ないと判断し、レッド・デーモンズは炎のブレスを放つ。
寒々とした雪原は草原に、草原は瞬時に焦土に変えていく灼熱の業火が辺りに広がっていく。
「私を火炙りにするには足りないな。」
しかし、これも主霊石で風を駆使し驚異的な速度で動き、攻撃はまともに成立していない。
本当に同じ人間なのかと疑わしくなってしまうほどに、人間離れした身体能力を披露していく。
迫る炎を背にジャックへと文字通り疾風の如く雪原だった場所を駆け抜けて三度迫る。
まだ罠は発動できない。レッド・デーモンズに指示しようにも間に合わない。
できることは、それを避けるため先んじて回避行動以外にできる手段はなかった。
「ウラララララララララ。」
あくまで彼一人の話ならばの話。此処には彼を味方する仲間はいる。
突如として敷かれたレールを道としながら、巨大な青い列車が二人の間を割り込む。
列車の上部は白と赤を基調とした戦闘機のような形状で、一般的な列車とはかけ離れている。
まさにロケットの如く推参したそれを前に、即座に踏み込むのを中断して縦に斬撃を見舞う。
車体に傷跡こそできているが、破壊に至るにはかなり時間がかかるダメージの具合だ。
(攻撃力が5000だと!?)
乱入したモンスターのステータスに思わず目を見開くジャック。
素のステータスが5000のモンスターと言うのは滅多にいない。
結果的なステータスが大幅に高まったモンスターは数多く存在するが、
テキストに書かれたステータスだけで5000はハラルドのオーディン、
アポリアのマシニクル、ZONEのセフィロン等、名だたる強敵のエースを超えた存在だ。
(破壊は困難。ならば───)
そこからの判断は素早く、
即座にジャンプして上空から攻めにかかる。
当然、複数を相手にする以上簡単にはいかない。
即座にレッド・デーモンズの拳を受けそうになり、足から風を放ち空中で旋回して回避。
主霊石から風の力を行使し続けたことにより剣以外からも放出ができるようになった。
本来ならば空中と言う身動きの取れない場面で旋回し、その回転の勢いのままに斬撃で拳を斬り落とす。
(破壊こそまだされてないが時間の問題か。まずはあの風の能力を削ぎ落すのが先決!)
バトル・フェーダーが突如破壊される。
レッド・デーモンズは攻撃宣言をしていない自分モンスターを破壊するデメリットを持つ。
確かにデメリットではあるが、同時にそのタイミングはエンドフェイズであると言うこと。
うさぎの支援のお陰で時間は稼げたことにより相手ターン、即ち伏せたカードは全て使用可能。
反撃の狼煙を上げるべく、カードを使用していく。
「罠発動! スカーレッド・コクーン───」
「させん。」
レッド・デーモンズと戦いながらも、
しっかりとジャンヌはジャックの方にも警戒を怠らなかった。
風の斬撃を飛ばし、当人は横へ飛ぶことでギリギリ回避するが、
当たろうと当たるまいと、その点については彼女には関係なかった。
(スカーレッド・コクーンが破壊されているだと!?)
凌牙の時同様、風属性の力を得たことで魔法・罠を破壊する力を獲得。
スカーレッド・コクーンはドラゴン族シンクロモンスターに装備することで、
相手モンスターとのバトルの際に、全ての効果を無効にすることができるカード。
本来ならば、罠カードを発動の際にカードを破壊しても基本効果を止めることはできない。
しかし装備する工程が必要なカードや永続罠は、その条件に当てはまらないカードになる。
破壊こそ確かに彼女は意図していたが、それが最適解な行為であるのはただの偶然ではあった、
しかし容易に魔法・罠を破壊できるとなれば、悠長にカードを出し惜しみしてる暇はない。
「ならば次のプランだ! 罠発動! バスター・モード!
レッド・デーモンズをリリースすることで、モードチェンジさせる!」
時期に破壊される可能性も危惧し、ジャックは別の手段に移行する。
レッド・デーモンズが炎のような形へと分解され、別の姿へと変えていく。
翼は黒く、より猛々しく変質し、筋骨隆々の身体には真紅の鎧を纏った攻撃的な姿になる。
「灼熱の鎧を身に纏い、王者此処に降臨!
出でよ! レッド・デーモンズ・ドラゴン/(スラッシュ)バスター!」
「……別の姿へと変えたか。」
「先ほど前と同じと思うな!
再び迎え撃てレッド・デーモンズ!
エクストリーム・クリムゾン・フォース!」
巨腕に熱を纏った掌底。
受けるのはまずいと判断しその場から離れるも、
掌底を叩き込んだ瞬間周囲へ爆風が広がっていく。
/バスターは攻撃時に他のモンスターを全て破壊する攻撃的能力を持つ。
スカルサーペントに爆弾のエキスパートがいたのは記憶にあるが、
そんなものは比にならない威力で直撃を回避すれども、
ジャンヌも少なからずダメージを負っていた。
(退くのも策の内、か。)
此処には参謀のジョドーも、バイラルを筆頭とした騎士たちもいない。
支給品も全てが一級品と言っても過言ではないが、体力には限界がある。
日本人に虐げられてきたことで退く、基耐えることについての理解もある。
少なくとも向こうには召喚したモンスターが自壊してるうさぎ達がある為、
其方へ攻撃を向ければジャックは絶対に其方を守ることを選ぶだろう。
その隙に逃げること自体は、さほど難しいことではない。
なお、うさぎが先程召喚したモンスターこと爆走特急ロケット・アローには、
維持コストとして手札を五枚も捨てなければ自爆するデメリットがある。
デュエリストとしては新参者の類のうさぎではあるが手札の重要度は理解してる方だ。
手札の重みを知っている現状、維持するつもりがないので自壊させただけである。
自壊することを知らない為、冥王がうさぎの肩を掴んで思いっきり揺らしていたが。
適当に攻撃を仕掛け、そのまま逃げに徹する。現状はそれが最も得策だと。
けれど、此処はデュエルと言う名のバトルロワイアルの舞台───
「かめはめ波ッ!!」
うさぎが乱入できるように、他もまた乱入することが可能なのだ。
そこにペナルティなどなく、純粋な暴力がレッド・デーモンズの胴体を貫いた。
一旦投下終了です
「Battle Royal Mode-Joining 超戦士カオスソルジャー」
続きはもうしばらくお待ちください(それと追加でのび太予約します)
延長します
中編、投下します
謎の光が胴体を突き抜け、爆発する/バスター。
余波により吹き飛ばされるジャックとジャンヌ。
ジャックはまだ辛うじて残っていた草原を転がり、
ジャンヌは身を翻しながら着地し敵の姿を見やる。
「ジャイアン程ではなかったな……いや、俺が強くなりすぎちまったのか?」
四人とも、そのミスマッチした姿に言葉を失う。
中学生程度の体躯のはずなのに、ボディビルダーばりに鍛えられた筋肉。
人の姿をしているはずなのに、冥王以上に人ならざる存在に見えてしまう。
超人類へと至った野比のび太が、この戦場へと乱入してきた。
のび太は零の追跡はすることなく、一先ず休息と共に雪原の脱出を試みた。
短パンである以上寒さは逃れられないので必要以上の体力は消耗してしまうから。
木から木へと跳躍しながら移動を続けていると、ジャンヌとのジャックの戦いを目撃。
あれがデュエルモンスターズ。今後も戦っていくであろうその存在は今後気を付けるべき対象。
此処は消耗を覚悟してでも、試すべきと判断したのび太は手に気を溜めて放ってはみたものの、
スーパーのびー太になる前とは言え、ドラミは超人類となった彼の攻撃をいとも容易く防いだ。
では今のはなんだ? かめはめ波一発で容易く吹き飛ぶのでは、程度が知れると言うもの。
(実際はドラえもんでもタケコプター(物理)で回避を優先する程の威力なので、相当だが)
「レッド・デーモンズ……!?」
ジャンヌだったらまだ受け入れた。
彼女の強さはレッド・デーモンズを上回っていると。
そう認識していたのに、今度のは筋骨隆々は別として子供だ。
龍亜や龍可と余りと屋内ぐらいの年頃の子供が、一撃で吹き飛ばした。
あんな子供に己の魂を倒されるなど受け入れたくなどなかったのもある。
と言うより、ありえない。バスター・モードで特殊召喚したモンスターは、
そのターンカードの効果への耐性と戦闘では破壊されない付与してるはず。
つまり、その耐性すらも相手は貫いて破壊へと至らせたと言う事だ。
これが無法の強さを持つ、超人類かつスーパーのびー太の力になる。
「所詮お遊びだな。俺の敵ではない。」
「まだだ……/バスターの効果発動! このカードが破壊された時、
墓地に存在するレッド・デーモンズを特殊召喚する!」
「ふん、その程度のモンスターに一体何ができると?」
煙の中からフィールドに復活するレッド・デーモンズ。
だがこればかりはジャックも彼に同意をせざるを得なかった。
攻撃力3500の上に、攻撃時に他のモンスターを全て吹き飛ばす/バスター。
それが不意打ちでも倒されたのに、派生前のではそれを相手に満足に戦えない。
だから攻撃表示ではなく守備表示となり、青色を帯びた状態で守勢に入っていた。
「仕方あるまい……罠カード発動! デモンズ・ゴーレム!
攻撃力2000以上の相手モンスター一体、次の俺のエンドフェイズまでに除外する!」
「何ィ!? それは!?」
のび太の姿がワープするように姿を消した。
相手はレッド・デーモンズを相手にできたのならば、
確実に3000以上はあると踏んで発動してみたがうまくいった。
だが問題は此処からだ。
「時間がないから単刀直入に言うぞ! 貴様も手を貸せ!
今の除外は一時的なものだ。遠からず奴が戻ってくれば、全滅は確実だ!」
今やあれを前に互いが敵対してる場合ではない。
倒せなければ、あの暴力を擬人化した少年は次々と参加者を屠るだろう。
だが悔しいことにジャックの手札は時期に来るドローを含めても二枚と余裕はない。
しかも残る一枚も現状は役に立てるとは言えないカード。不安材料が多すぎる。
「何故、貴様らに手を貸さねばならん?」
だと言うのにジャンヌは鉄仮面のまま断った。
身の安全を保障する? なら今逃げればいいだけのことだ。
何人か殺して支給品を強奪、残った一人に身代わりになって貰って逃げればいい。
この中で最も移動速度に優れてるのは間違いなく自分なのだから。
態々敵と認識した相手と共闘する理由には足りえない。
「貴様、あくまで日本人以外は保護対象なのだろう。
決して殺し合いに乗ってるわけではないことは分かる。
ならば猶のこと奴を倒すのが道理ではないのか? 第一、誰を身代わりにする?
何より、身代わりを拒否し抵抗しなければその身代わりの案は成立などしないぞ。」
「……」
否定はしきれない。
身代わりになってくれる役割を応じるか?
私怨による報復として、あえて放置する可能性だってありうる。
ジャンヌも支給品がいかに強いとしても、全てにおいて無敵ではない。
「あれは間違いなく俺達どころか、
全参加者から見てもトップクラスと見ていい。
あの映像に出た槍の男と同格の可能性も恐らくあるはずだ。
貴様が苦戦したレッド・デーモンズを難なく粉砕した奴が強くなれば、
いかに貴様が強くとも、相手取るのに限界があるのは目に見えているだろう!
それまでの間に日本人と言う限定された人物を殺害に時間をかけていては、
誰であろうと殺す奴では、支給品の集まる速度は同じになどなりはしないぞ!」
あれは今まで出会った誰よりも強い存在。
ジャンヌだろうと分かる。あれはあの群雄割拠だった日本には誰もいない。
あれならば蛇王院も狼牙も敵にすらなりえない。無論、それと敵対するジャンヌも。
単独で勝てる見込みはないと言うことについては、正直否定しきれなかった。
「では、貴様にはあるとでもいうのか。傑物を倒すプランが。」
「今はまだ引けていないが、まだチャンスはある!
或いはうさぎのデッキならば、可能性はかなり高いと見ていいはずだ!」
先程は助けられたのとジャンヌとの戦いもあってスルーしたが、
ロケットアローは攻撃力が5000もあったモンスターでもある。
考えればまだデッキの内容を聞いていないのもあり、軽く話を聞く。
「プルル。」
「……なんだその召喚方法は!?」
話を伺えば、聞いたことのない召喚方法に驚きつつも
時間がないためうさぎが盤面を展開しながら説明をしていく。
(なお、ジャンヌと冥王はうさぎの言葉を理解できなかった模様)
それに合わせながらジャックは作戦を練っていき───
◆ ◆ ◆
「あの、アトラス様? 私がデッキを使って大丈夫なんですか?」
結果、デュエルディスクはうさぎではなく冥王に渡っていた。
単なるフィジカルだけで言えば、恐らくモンスターである冥王の方が上なのだろう。
もっとも、今はハ・デスの嫌がらせ含めてヘタレているせいで全く役に立たない。
うさぎは少なからず冷静に立ち回れているが、一方で体格については覆せない。
デュエルディスクは基本人間用だ。子供なら別だが更に体躯が低いと話が変わってくる。
確かにうさぎは元の世界では身の丈を超える武器を駆使するなどの能力は高いが、
それらは両手で持つこと前提。片腕かつ振り回すのではなくカードを置く戦いを、
サイズの合わない武器を装備しながら移動しつつ戦うとなれば、流石厳しいものがあった。
出会って間もない頃、モンスターに囲まれていた時は装備こそしていたものの、
あくまでそれは動く必要が薄い場面だったから、何も問題なかった状態でもある。
特に想像以上に戦闘はシビアだ。モンスター一体を隔てた間に物理的な死が待っている可能性。
走りながらデュエルしたり、スラム街のような場所であるサテライト育ちのジャックだからこそ、
デュエルディスク片手にしながらも問題なく動き回ることができていたのも顕著だ。
だから、まだそういう動きをすることがまだ現実的ではない以上冥王に渡して任せることにした。
ついでにうさぎには武器はないものの、前衛でおとり役を担ってもらうのも頼んでいる。
「盤面はうさぎが即席で用意した。後は指示通りに動け。
俺が可能な限りサポートするが、最悪自分の力でなんとかしろ。」
「そんな無茶な!?」
「何を言っている! 貴様の背後のモンスターは、
レッド・デーモンズの攻撃力の二倍は有しているぞ!」
そう呟きながら冥王の背後に座するのは巨大な戦車。
いや、戦車と言うよりは移動要塞のようにも感じてしまう。
多数の副砲と、余りにも巨大な主砲が夜の月明かりにて光り輝く。
それはエクシーズモンスター、超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ。
攻撃力4000のステータスに加え、エクシーズ素材を消費することで攻撃力を2000上昇させる。
攻撃力は現在6000。純粋な攻撃力で言えば、この舞台で遊星が召喚したサテライト・ウォリアーさえ超えた存在だ。
エクシーズ召喚と言うジャックの知らない召喚方法ではあったが、
うさぎはルールも目を通してかなり場慣れしたようにモンスターを揃えてこれを召喚した。
何を考えてるか分からないが頭脳自体はちいかわ、ハチワレを抜きにしても群を抜いている。
彼の策略なしではどうにもならなかった場面は多くあり、それ故にカードへの適正も比較的高い。
だからこの短い時間でしっかりと手札からカードを展開して、準備も万端にしていた。
もう一つの利点はこのデッキこと、神月アンナのデッキが分かりやすいのもあった。
マヤが扱えなかったのは、ルールを把握してない頃にポセイドンに出くわしただけではない。
シンクロ召喚とはチューナーと、チューナー以外のモンスターのレベルを合わせることで、
条件を満たしているシンクロモンスターを召喚しなければならない手順があったからだ。
特に遊星のデッキは複雑で、シンクロモンスターに慣れてなければとても扱えないだろう。
事実、カードを扱ったことのあるベクターでさえお手上げとなるぐらいに複雑な構成をしていた。
一方で、アンナのデッキことエクシーズ召喚とは、同じレベルを並べれば該当のモンスターが出せる。
元々ランク10を出すデッキに特化してるのもあり、導線が非常に分かりやすいものとなっていた。
だからうさぎが短時間で使いこなせる所以でもある。レベル10を揃えてエクシーズして殴るだけだ。
ジャガーノート・リーベはそのランク10に重ねてエクシーズ召喚できるモンスターであるので、
特殊なカードを用いらずとも、高い攻撃力で戦うことができるのはこのデッキの頼もしい所か。
即戦力として非常に優秀なデッキだと感じずにはいられない。
「作戦と呼べるものではないが確認はしておくぞ。
時間がない以上一度しか言わん。まず俺のレッド・デーモンズ、ジャンヌ、うさぎ。
三者が囮となってターンを稼ぐ。そして次のターン貴様はジャガーノート・リーベの効果で、
更に攻撃力を上げた後に伏せたリミッター解除を使え。そうすれば攻撃力は二倍の16000となるはずだ。
それと俺はエクシーズについては詳しくないが、テキストを見るに素材にした重機貨列車デリックレーンは、
素材として消費されることで破壊効果が発動する妨害を構えている。全ての一手はお前に託されているぞ。」
「は、はい。えっと私のターンに音が鳴ればドローして、その後リーベの効果を使って……」
「まるで烏合の衆だな。」
超巨大な戦車による一撃必殺。
これで勝てなければまずデュエルモンスターズで勝つのが絶望的だが、
よりにもよってこの中で一番頼りない男に全てを託すことになる。
しかも彼女にとっては、魔界孔の住人のような存在で嫌悪感は増す。
「烏合の衆も、いずれは絆と言うものが生まれるものだ。
俺は一時は孤高であったが、いつのまにかチームの一人となっていた。
貴様が考えを改めるつもりはないのは分かっている。奴を倒せば再び敵同士。
だがそれはそれとして、貴様を信じて付き従ってる者達との絆を忘れないことだな。」
「神の執行代行者となる私がバイラル達と絆、か……」
ジャックの言葉に感銘を受けることはない。
所詮は日本人を庇う異端なる存在。いずれは浄化の対象だ。
しかし、だからと言ってジョドー、バイラル、アイレーン、エクレール。
他にも今も日本人を同じように憎み続ける信者達を想う気持ちがあるかどうかで言えば、ある、
「配置につけ! そろそろ戻ってきてもおかしくないぞ!」
ジャガーノート・リーベを最後尾に。
ジャックと冥王がその前に立って構え、
前線をレッド・デーモンズ、ジャンヌ、うさぎ。
三者もまた構えると程なくして、次元の穴が開かれる。
再び幼い体躯には似合わぬ筋骨隆々の少年が次元の中から飛び出し、着地。
地面にクレーターを作りながら現れる姿は、超人類と言う他ないだろう。
「レッド・デーモンズ! 向かえ撃て───」
ジャンヌの聖剣とレッド・デーモンズの拳が先行する。
うさぎは武器がないので主に攪乱目的のため回り込む形で移動をはじめ、
「フハハハ! いま確か攻撃と言ったな?」
してやったり、とでも言いたげにのび太が笑った。
ただでさえ格上の相手がそのような行為。
全員が何かがあると読むのは難しいことではなく、
「まさか!! ジャンヌ! うさぎ! 伏せろッ!!」
唯一その意味を察したジャックだけが静止の言葉を投げる。
攻撃をトリガーとするもの。この数を相手に優位に立つ。
となれば、真っ先に想像できたのは一つだけ。あのカードだと。
だがその言葉に反応できるだけの行動がちゃんと取れるのはジャンヌのみ。
「底知れぬ絶望の淵へ沈め!!」
のび太の翳したカードがジャンヌとレッド・デーモンズの攻撃を防ぐ。
同時にバリアから放たれた光がジャンヌ達を襲い始めた。
(やはりこれは、聖なるバリア-ミラーフォース!!)
聖なるバリア-ミラーフォース。
攻撃表示のモンスターを纏めて破壊する結構有名なカードで、
ジャックもセキュリティの詰めデュエルによって苦しめられたものだ。
(当人的にはと言う意味であり、実際のデュエル内容は間抜けなものだが)
のび太は確かに除外と言う形で一時的にこの舞台からの隔離はあった。
だがその間何もできないわけではない。改めて異空間で支給品の確認もしていた。
『冷静さを失うと、状況はどんどん悪い方向へ行ってしまうよ。』
『目先の事に囚われるな、大局を見ろ。』
皮肉にもドラミとスネ夫の言ったことを実行していた。
此処には前みたいにラーメンマンの助けは期待できない。
一人でやり遂げる。ぼくだけの力で、あいつらに勝たないと。
そのための武器は既に確認を終えた。
冥王は咄嗟にしゃがんだことで一番無傷にやり過ごしている。
辛うじてジャンヌはエクスカリバーのお陰でミラーフォースの一撃は弾きつつも回避に成功。
しかし他が問題だ。レッド・デーモンズ・ドラゴンは上半身と下半身が分断されて、破壊。
うさぎは左の耳が綺麗に切断されてしまいダウン、ジャガーノート・リーベも消し飛んだ。
作戦は、始まる前から失敗に終わってしまっていた。
「フンッ。」
唯一無傷でやり過ごせたジャンヌだけが今もなお攻めに入る。
「ホアタァ!」
零の時とは違いチョキで挟めるだけの実力ではない。
故にホーリー・ナックルを装備した拳で弾いていく。
互いに英霊の関する武具だけあって性能は一級品だ。
「ダダダダダダダダダダダダダダダ!!」
次から次へと移動しながら続くジャンヌとのび太による斬撃と打撃の応酬。
レッド・デーモンズを相手にできたジャンヌですらも防戦一方にさせられた。
攻撃は入らず、武器の耐久力に物を言わせて防ぐのでほぼ手一杯な状態だ。
とは言え防ぐので手一杯と言う事は、ダメージは抑えられている意味でもある。
「フフフフ。『このまま凌げば背後の奴らが何とかする』、
と考えているな。それは甘い考えだ、甘い甘い!
何故なら……ここらでとどめの、とっておきのダメ押しというやつを出すからだ!」
このままでは埒が明かないと判断したことで出す最後の支給品。
ロケット程ではないにしても、デイバックから出てきたそれは───巨大なハンマー。
高身長なジャックの身の丈も超えているであろうハンマーだが、問題はその姿にある。
それは、生物の如き鼓動をするそれは果たして道具なのか、武器なのか。
同時に、身を焼きかねないような熱が雪原だった場所に広がっていく。
否、これらはそんなものに非ず。
これを形容するならば、これ以外にあるまい。
神器と。
「ホオオオオオッ!!」
焼けるような熱に耐えながらのび太がそのハンマーを振るう。
超人類と化したのび太であり、スーパーのびー太である彼だからこそ扱える。
常人ならばその熱源を隣にしていては、重量も合わさりとても使えたものではない。
「グッ、ヌウウウウウウウ!!」
終始鉄仮面だったジャンヌが初めて表情を変えて、らしくない声を上げた。
のび太が振るったそれは焼けるような熱さと共に凄まじい打撃を与えてきたからだ。
神造兵装であるエクスカリバーなくしては、とても耐えきれないとも受け取れるほどの一撃。
雷槌(ミョルニル)。それはトールと呼ばれる神が使用していた神器。
頭部となる部分はオリハルコンを溶解させるだけの熱を帯びてた、強力無比なる神器。
神に挑む人類を選出したブリュンヒルデを以てしてクソチートと称賛(罵倒?)するそれは、
人が扱える代物ではない為、流石にある程度熱は制限こそされてはいるし、
超人類とのび太の力をもってしてもこの熱は適応できるだけの身体ではない。
元々が神の使う神器。使えばのび太もまたこの熱気の消耗は免れないが、
エクスカリバーを相手に互角に打ち合えるだけの存在などそうはない。
(私が、負けるだと……神は、あのような愚人に味方するとでも言うのか?)
信心深いジャンヌだからこそ分かる。分かってしまう。
あの神器はだめだ。聖剣を持っていたとしても勝てないと理解してしまった。
素直に撤退……否、逃げたところであの神器までもあっては勝ち目など万に一つないと。
ジャンヌは何も優勝を目指してはいない。あくまで日本人と日本人を守る者と異端のみが粛清対象だ。
いずれは守るべき対象を背に戦わねばならない。それを背にあれを相手にできるとでもいうのか。
ルシェルドを知らぬジャンヌでは神の武器を前にしては、次第に精神が折れつつあった。
「永続罠、デモンズ・チェーンを発動!!」
のび太の周囲を飛び交う鎖が彼に巻き付く。
デモンズ・ゴーレムには追加効果として、
レッド・デーモンズかその名がテキストに記されたシンクロモンスターが存在する場合、
手札・デッキからデモンズ・チェーンをセットすることができる。
デモンズ・チェーンは攻撃と効果を封じることができるカード。
これならば時間を稼げると思ってジャンヌの劣勢を支援するも、
「温いわぁ!!」
縛り付ける鎖を物理的に破壊していく。
物理的な妨害もあってか、妨害にはなっても無力化には程遠い結果に終わる。
(あれ、これもう詰んでるのでは?)
ジャックは抗っているし、
うさぎもは立ち上がっているが、冥王はこの状況を真っ先に先に無理だと悟った。
二人の戦いが次元を超えている。いや、ジャンヌですらのび太の次元に到達できてない。
此処からどう逆転すればいいのか。カードの効果はジャックに教えられたので多少は分かった。
しかしリミッター解除をするためのジャガーノート・リーベはもう存在しない。
残る手札二枚もテキストを軽く見たところで完全な理解はできなかった。
これならとんずらこいた方がまだ自分の生存率は上がるのではないか。
伏せてあるもう一枚のカードは強制脱出装置。これで逃げることは一人でも可能だ。
今なら誰も注目していない。今更逃げたって移動先で『仕方ない』と同情されるはずだ。
勝てるわけがないではないか。こんな、ハ・デスとずっとやりあってきた彼にも分かる。
ハ・デスだろうと手に負えない。とある悪魔から手に入れたヘイト・バスターで自爆すればあいつは死ぬか、
と問われたらまずNOと答えるしかない。逃げるなら今しかないなと溜め息を吐く。
(ん?)
溜め息を吐くと、何か溜息が青白い。
此処はもう雪原ではなくなってるので白くなるのもおかしいし、そもなんか青かった。
(ああ、そういえばハ・デスからちょいと奪ってたな。)
ハ・デスとやったりやられたりやり返しあってた頃の事だ。
爆弾で相打ちしたが、向こうがアンデットとなって蘇ってこっちも蘇って、
魂を持っていかれそうになるわ、逆に魂を持って行けそうになったりと戦いを繰り広げた。
そんな中、ソウルドレインとメンタルドレインの連打によって優位に立ったあの時。
あの時の力が身体に僅かにだが残っていたらしく、それが形となって漏れ出たようだ。
一応は冥界の魔王だ。同じような力を持っていた身の都合、
残滓となって残っていてもおかしくはない。
(冥王結界波か……あんなもの、今更あって何になると言うのだ。)
冥王結界波。それは互いに蘇った戦いで放った技。
決まれば相手の力を弱まらせることができる。
しかし全力の場合だ。ハ・デスのソウルとメンタルをドレインして、
一発放つのが限界だったものだ。これを放ったところで僅かな時間しか稼げない。
しかも放った後の結果を彼は知らない。ハ・デスは倒せたのか、倒せてないのか。
こんなものを使わずに逃げればいい。さっさと逃げて───
『灼熱の鎧を身に纏い、王者此処に降臨!
出でよ! レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター!』
(逃げて、どうすると言うんだ?)
ジャックは元キングらしいが、
それでも今も尚、孤高の王者の如く気高くあろうとしていた。
では今の自分はなんなんだ。勝てないから逃げると言うのか?
(だったら……ワシは? ハ・デスに自爆特攻したのは何故だ?)
そんなもの、最初から決まっていた。
自分を降格処分させた奴への報復。その為なら命すら惜しくない。
もっとも、死して尚も互いに戦う因縁の敵との戦いになるとは思わなかったが、
その戦いも未だ続いていたし、そもそもハ・デス相手に負けるつもりもなかった。
弱小な元キングが足掻いてる中元冥王たる自分が足掻かず逃げると言うのは───
何処か、腹立たしく思えてならない。
(あれはハ・デスより上だ。間違いなく。)
首輪の制限があろうともあれはハ・デスを超えている。
知らん間に主催の時は強くなったようには見えたのは事実だが、
それを差し引いてもあれは強い。なら、あれに立ち向かったのならば。
ハ・デスや檀も恐れることなどなき、最強の精神へと至れるのではないだろか。
(此処はワシの───分水嶺だ、試練だ、転換点だ!
デュエル? カード? 知らん! ワシは深淵の冥王───)
否。ワシなんてものはやめろ。
嘗てのように。前任者としてインタビューを受けたように。
「俺は! 人ではない! モンスターであり、
俺様こそ深淵の冥王! 冥界の王者にある!
喰らえ小童がぁ! これが冥王結界波だッッ!!!」
残滓となっていたそれにありったけ力を込めて右手から放つ。
突然の一撃に誰もが予想しておらずのび太だけが超反応で対応する。
ジャンヌを雷槌で聖剣越しに吹き飛ばし、空へと軽々と投げた後、
「かめはめ波ッ!!」
両手を合わせ、両手を腰まで下ろして/バスターを葬った一撃を放つ。
「元冥王!」
あんなものを受ければ、間違いなく即死は確実。
運が悪くて致命傷は避けられない光線がぶつかり合───
「フハハハ、無駄だ!」
わなかった。いや、ぶつかる寸前に気を消し飛ばしながら突き進んでいく。
冥王結界波はカードとしても存在している。これはモンスターの放つ攻撃だし、
残滓とも言える力なので厳密には全てがテキスト通りの効果とまではいかないが、
『この効果の発動に対して、相手はモンスター効果を発動できない』と言うものがある。
今のカウンターはのび太自身の対応、モンスター効果の解釈と言ってもいいだろう。
だからかめはめ波を前にしても突き進むことができる。単純な力の勝負ではない。
極めて特殊な状況における相性差が、この奇跡のような展開を成立させていた。
「何ィ!?」
そのまま突き抜け、本体へと被弾。
だが痛みも何もない。何をされたのか分からず、
再びかめはめ波を狙うも放つことはできなくなっている。
「……やるじゃない。」
にっこりと、鬼神のような形相ではない笑みを浮かべ、
轟音と共に落ちてきた神器を拾い上げる。
冥王結界波は相手の力を一時的に無力化できる効果はあるが、
あくまで効果だけ。素のステータスが超人類となっているのび太には、
いくらドーピングと言う外的要因の強化だとしても既に身体の一部のようなもの。
デュエルモンスターズ風に言えば、元々の攻撃力が凄まじく高いと言う事に変わらない。
「ジャック! 奴は一時的に弱体化している!
俺様が王としての格を見せて、貴様は何時まで伏せるつもりだ!」
突然の行動に豹変した言動。
これは本当にあの元冥王なのか。
一人称も変わり、まるで別人のようだ。
だが不思議と納得がいく。これならば王者足りえる器であると。
あのヘタレとしていた奴が突如として器を見せた。
ならば、次は自分の番だ。
「……よもや貴様に言われるとはな。だが元より俺は諦めるつもりなどない!
墓地のスカーレッド・コクーンの効果を発動! 三度舞い戻れ、レッド・デーモンズ!!」
ジャンヌに破壊されたスカーレッド・コクーンにはもう一つの効果がある。
相手エンドフェイズ時に墓地からこのカードを除外し、
墓地のレッド・デーモンズを復活させる効果。
ジャックの魂は不屈とでも言わんばかりに蘇る。
(しかし、そうは言うがどうする?
どのような手ならば、俺は奴を相手にできる?)
啖呵は切ったもののカードは裏切らない。いい意味でも悪い意味でも。
いくら諦めないとしても、カードのテキストが書き変わっているわけではないのだから。
セットされたカード二枚はどちらも逆転には足りえない……いや。本来ならば逆転はできるはずだった。
セットカードの一枚は永続罠の強化蘇生。墓地のレベル4以下のモンスターを蘇生することができる。
これでボーン・デーモンの効果で墓地に送ったクリムゾン・リゾネーターを特殊召喚し、
クリムゾン・リゾネーターの効果を発動すれば二体のリゾネーターモンスターをデッキから呼べる。
そうすればチューナーが二体用意でき、彼の最大のエースとなるスカーレッド・ノヴァ・ドラゴンが出せた。
(……あればの話だ。)
───あくまで、それは今までの話。
彼は以前スカーレッド・ノヴァ・ドラゴンと言うモンスターを手にしている。
本来は地縛神だったそれを彼の魂、バーニング・ソウルが変質させたものに近い。
赤き竜の力あってこそだ。赤き竜は元の世界で皆と別れる際に消えて、痣も消滅した。
それは派生先の一体であるセイヴァー・デモン・ドラゴンもまた同じことになる。
シグナーの痣があれば呼べたかもしれないが、痣なき今の彼の手では救世も真紅も呼べない。
彼にとって今の最高火力は基本/バスターの3500。それ以上を超えることはなければ、
同時に、マスクデータとなる心意システムとの相性が余り良くないのにも影響していた。
心意システムは意志の強さから発生するもの。
心に刻んだ武器になると言う事は、言うなればそれは心象の具現化である。
ソウルジェムを有する魔法少女、小鳩が所有するカタルシスエフェクト。
これらは心意システムに近しいもので、当人の願いや当人の精神が武器となる。
それも相まってか、これらの人物はたとえ窮地に陥っても発現が見受けられなかった。
魔法少女については、ドッペルを所持してるが故の影響が否定はできないところもあるが。
或いは専用ぶきも、Lがあおの杖を十全な発揮ができないことから近しいものなのかもしれない。
ではジャックはどうか。バーニング・ソウルはある意味、心象の具現化を済ませてると言ってもいい。
遊星がサテライト・ウォリアーを具現化できたのは、クリアマインドにはライディングデュエルが必須。
しかもデッキも別の人物の手となれば、渡のように多少の温情が与えられていたのかもしれない。
また、心意はこの舞台では主にであって確定しているわけではないのだが、
絶望的な状況に陥ることで漸く発生するかしないかが多いシステムでもある。
四対一で戦いながら瀕死になった遊星、主催から送り出された刺客によって退場した渡。
それだけの窮地に陥って強い意志を持ち、ようやく『人によって起きるもの』ではあるので、
確かに暴力を具現化したかのような存在を前にこそしているが、
死にかけてるわけではない今の彼には起きることはない。
どこかの黒き竜に齎される、可能性はゼロ───
(否!)
だが、ジャックは諦めようとはしない。
レッド・デーモンズは仲間の力を集約させることの多い、
遊星のエースであるスターダスト・ドラゴンとは逆の道を、
個を貫いて己を高めていく、ジャックと同様の進化を遂げていく。
何もそれは、レッド・デーモンズ・ドラゴンだけに限った話ではない。
異なる世界線のジャック・アトラスもまた個を追求した竜と共にある。
成り上がった王者のジャックには、暴君の悪魔が。
己の力のみを信じたジャックには、災厄の悪魔が。
チームの絆を持ったジャックには、真紅の悪魔が。
ジャックの隣には、どの世界でも赤き悪魔が王者の如く、個を高めた先へと進化し続けた。
ならば、紅蓮の悪魔の名を冠する竜の進化が赤き竜なくして止まるものではないと。
救世(セイヴァー)でも、紅蓮(スカーレッド)でもない、枝分かれした可能性を。
バーニング・ソウルを持つ者は、赤き竜の力を得て奇跡を起こすと言われた。
けれど、此処にいるジャック・アトラスは赤き竜の力なくして奇跡を起こす。
「赤き竜がなくとも、俺は俺を! レッド・デーモンズの可能性を掴み取る!
俺のターン! 行くぞレッド・デーモンズ! まだ見ぬ進化の軌跡を辿るぞ!!
永続罠、強化蘇生発動! 墓地のクリムゾン・リゾネーターを特殊召喚し、効果発動!」
ダーク・リゾネーターと類似した姿に加え音叉と棒を持ち、
レッド・デーモンズ同様の角を持つ、悪魔のモンスターが墓地から復活する。
「このカード以外のモンスターがドラゴン族、闇属性シンクロモンスター、
それが一体のみの場合に発動できる! 現れろ! チェーン・リゾネーター! ミラー・リゾネーター!」
此処に三体のリゾネーターが揃った。
赤き竜の力をなき彼にレベル12は遥か彼方にある。
ならば一歩一歩高みを目指そう。何故高みを目指すか?
そんなものは決まっている。今も昔もこの一言で済むだろう。
キングだからだ!!
「恐らく今の俺では、最上には辿り着けんのだろうな。
ならばその後押しだ! レベル8以上のシンクロモンスターが存在することで、
俺はこのカードを……速攻魔法バーニング・ソウルを発動!」
痣はなくとも魂に刻み込まれている。
その燃え上がるような魂の鼓動を。
以上で「Battle Royal Mode-Joining 王魂調和」投下終了です
後編についてはもうしばらくお待ちください
後編投下します
「墓地のデモンズ・チェーンを手札に加え、更に今この場でシンクロ召喚を行う!
レベル8、レッド・デーモンズ・ドラゴンにレベル1、チェーン・リゾネーター、
さらにレベル1、ミラー・リゾネーターを───ダブルチューニング!!」
元来、シンクロモンスターには基本的にだがチューナーを一体のみ使用する。
だがジャックが出そうとするモンスターは二体を要求……否、それも分からない。
何故なら、ジャックのデッキにレベル10のシンクロモンスターなど存在しないし、
ダブルチューニングできるモンスターはスカーレッド・ノヴァ以外所持していなかった。
否。存在する。今までずっと共にあり続けてきたレッド・デーモンズが、
赤き竜の力なくしては進化の軌跡を辿り着けないなどと思うつもりはない。
「王者と悪魔、今ここに交わる。赤き竜の魂に触れ、天地創造の雄たけびをあげよ!」
レッド・デーモンズ・ドラゴンは新たな姿へと変えていく。
荒々しい炎のような模様が映り、黒き角は真紅の角へと変貌。
その姿は、暴君───否。実力で成り上がった僭主とも呼ぶべき姿。
「シンクロ召喚! 現れろ!
これが俺とレッド・デーモンズの可能性!
レッド・デーモン・ドラゴン・タイラントッ!!!」
無からの創造に至った渡や遊星とは違う。
レッド・デーモンズと言う受け皿、本人たちの強い向上心、
そして奇しくも自分の魂と同じ名前のカード。これらによってようやく成立する。
異なる世界にて存在していたレッド・デーモンズ・ドラゴンの亜種をその手に呼び寄せた。
「ジャンヌ、うさぎ、冥王! 後ろへ下がれ!
レッド・デーモン・ドラゴン・タイラントのモンスター効果発動!
このカードはメインフェイズに一度、フィールド上の全てのカードを破壊する!!」
モンスターも、魔法も、罠も。
表も裏も関係ない。自分以外の全てを消し飛ばす。
それがシティのトップへのし上がった孤高の王者にして、
自分とは異なるジャック・アトラスのエースモンスターの力。
手に炎が収束していく。/バスター同様ではあるが今度は攻撃ではなく効果。
その力は段違いのものであり、のび太とて受ければ無傷とはいかないものだ。
「させるかぁ!!」
当然それをさせるつもりはない。
雷槌をトマホークの要領で投げ飛ばす。
ジャンヌですら受けれぬそれをジャックでも、
ましてや/バスターと同じ攻撃力のレッド・デーモンズでは守ることなどできない。
「イィイィィヤハッッ。」
その前にうさぎはジャックの方へ戻らず、
寧ろその逆でのび太の方へダッシュして眼鏡を奪い取る。
毛細血管すら見えかねない視力を得ていたのび太ではあるが、
それでも眼鏡を外すことはしなかった以上、眼鏡は必要なものだ。
視界がぶれて、遠くにいるジャックを捉えることができなくなる。
「貴様ァッ!!」
「な、うさぎ!? 貴様何をしている!」
効果の宣言はしてしまった。
もうタイラントの効果は止まらない。
だというのにうさぎはのび太の周囲を軽快に動いては、
のび太の絶命するであろう一撃を華麗に避けていく。
しかしあの位置では巻き添えになってしまう上に、
此方のカードでは足りず、当然ジャンヌも助ける義理はない。
効果の巻き添えになる可能性の高い役割を請け負うなど万に一つもなく。
(いや、待て。あるのか? 奴の方に。)
うさぎは無策で突っ込むような奴ではない。
強かに物事を進めていき、打開策をしっかりと築いていく。
となれば、うさぎが何か考えがあるはずだ。誰にあるのか。
「元……いや、冥王! 俺が合図を送った瞬間に伏せているカードをうさぎに使え!」
唯一うさぎが全ての盤面を把握できているのは、
自身の手によって盤面を形成している冥王のフィールドのみだ。
となれば、託されているのは奴なのだと。
「元……いや、冥王! 俺が合図を送った瞬間に伏せているカードをうさぎに使え!」
唯一うさぎが全ての盤面を把握できているのは、
自身の手によって盤面を形成している冥王のフィールドのみだ。
となれば、託されているのは奴なのだと。
「リミッター解除ではない紫色の奴だな……あい分かった。」
うさぎが用意した策には関係ない罠、強制脱出装置。
これは別に、この盤面を想定して伏せたのものではない。
でなければ耳を切断されるなんて顛末を迎えるはずがなく。
のび太に使う予定はなかった。使ってもすぐ戻ってきそうだから。
あくまでこれは有事の際の保険だ。もしも全滅の危機が訪れた際に、
最悪誰か一人でも戦場から逃がすか、或五は救援を求めるように仕込んだもの。
或いは勝ち残った後、ジャンヌからの不意打ちや追い込みから逃げるための一手。
平然としてるように見せかけ、盤面を見据えて他の一手を一人だけ用意しておいた。
冥王が自分本位な奴で逃げの一手をするのではないか、その可能性は否定しきれない。
こればかりは運による部分が大きく、少しばかり賭けにはなっていたが。
結果的に一皮剝けた冥王は逃げではなく突き進む道を選んでいた。
「アタァ!」
「ヤハァ。」
優先順位を変更し、雷槌を置いてうさぎの方を優先するのび太。
地面にクレーターを作る一撃をジャンプし、その腕に着地。
そのまま滑るように走っては後方へと回り込み、振り向きざまのラリアットも、
風圧だけで木を圧し折りそうなそれを寝転がることで姿勢を低くして避ける。
しゃがんだり転がって避けるのではなく、寝転んで避けると言う奇抜な動きだ。
(こいつ、ジャイアン達と違って速度があるわけではないが動きが読めん!)
視界のぶれもあるがうさぎの動きが読めない奇行のせいで、
絶対的に埋められない差を僅かにだが埋めることに成功していた。
のび太は超人類となったが、戦いに対する経験と言うものはそこまでない。
その辺の経験は討伐の仕事と言った仕事で修羅場をくぐってきたうさぎに軍配がある。
「今だ冥王!」
「分かっている! 罠発動、強制脱出装置! 戻ってくるがいい!」
準備万端だ。
雷槌を置いた今が好機と判断し、指示を促す。
寝転がっていたうさぎは浮上し、ジャック達の方へと戻っていく。
小鳩が使ったそれと同様ではあるがデュエルディスクが冥王の手にあるからか、
うさぎが戻った場所は冥王の頭上の上に垂直に、今も寝転がった状態で戻ってきた。
「ウラ。」
「今こそ喰らえ! アブソリュート・パワー・インフェルノ!!」
地面に掌底を叩きつけ、大地を砕きながら斬撃のような炎が地を走る。
飛ぶ一瞬を逃さず眼鏡だけは取り戻し、雷槌を手にしようとするももう遅い。
既に目の前には炎が迫っており、回避することは間に合わない。
「ぬおおおおおッッ!!」
広がる爆炎。
凄まじい熱気が周囲のまだ僅かに残っていた雪を溶かしながら広がっていく。
此処が雪原のエリアの一部であったと、果たして誰が証明できるのだろうか。
そう言わんばかりにこの場所が寒地である材料は辺り一帯から消えていく。
……だが。
「どうした? この程度か?」
のび太はなおも立っていた。
確かに回避することは間に合わない。
だが急所をガードすること自体は間に合った。
左腕一本があらぬ方向へ曲がって黒焦げになってるが、
あれでは絶命と呼ぶには、まず程遠い状態だ。
「な……タイラントの効果を以てしても、片腕一本の犠牲だと!?」
自分達にとって新たな道を獲得したのは事実。
しかし、それとは裏腹に容赦ない現実は待ち受けている。
元より怪獣じみた身体だったのだから、耐久力も出鱈目だ。
これでもまだ大分弱体化している方なのが恐ろしい。
「待て、あのハンマーは何処だ?」
雷槌が何処にもない。
あれだけ目立つもので、エクスカリバーと打ち合えたそれが、
モンスターの効果で消し飛ぶとはとても思えなかったそれは、
「ハァ?」
「えっ。」
冥王の頭上へと降ってきていた。
既に彼から降りたうさぎが影に気付き冥王を蹴り飛ばし、
両者ともに圧殺だけは回避するが熱さは尋常ではない。
ジャックとジャンヌ含めすぐにその場から離れざるを得ない中、
「お遊びはもうせんぞ……すぐに終わらせてやる……」
のび太が一気に肉薄し、うさぎの眼前にいた。
先程虚仮にされたことでこのような目に遭った以上、
彼にとっては一番許せない相手になっているのはうさぎだ。
「アタァ!」
ストレートな正拳突きを横へ飛ぶことで回避。
来ると分かっている攻撃を避けること自体は難しくない。
だが、今度は別だ。先ほどは眼鏡を奪ったお陰で命中精度が悪かったが、
眼鏡がある状態で続けざまの第二打を回避することはできない。
「オラァ!!」
第二打となる蹴りがうさぎの顔面へと叩き込まれる。
大分消耗していたお陰で原型こそまだ留まってはいたが、
近くの壁に叩きつけられ、クレーターを作ると同時に血をまき散らす。
多量の出血。まず助かる見込みのない量であり、即死であったと判断するに難しくない。
「うさぎぃ───ッ!!」
いた時間は長いものではない。
だが何故か奴の言葉が理解できる。
当人ですらあの言語を理解できているのかを理解できていない。
けれど。言葉が理解できる程度には通じ合ったものだと思っており、
このような場で喪うべきではない仲間の一人だと思っていた。
「次は貴様だ。」
逃げられたり虚仮にされたりと色々いいとこがなかったが、
やっと一人始末して溜飲を下げつつ、残る三者へと向き合う。
「グヌヌ……おのれ!!」
元々うさぎを狙っての結果起きたことなのだが、
冥王からすれば助けたり庇ってくれた側に等しいものだ。
冥王としての風格を取り戻したと言うのに助けられた。
借りを返そうにも、その当人はもう即死してしまっている。
完全な冥王として復活を遂げない限り、返せない借りを作ったことに対する憤慨もある。
「……」
ジャンヌは冷静に状況を見ている。
あれだけの負傷をしていても神器は使えるなら、まだ厳しいだろう。
何より此処で全力で戦えば後に控えるジャックとの戦いにも響く。
どの程度力を出し惜しみするべきかと考えを巡らせていく。
「貴様……許さんぞ!!」
冥王とは別の怒りを募らせるジャック。
自分の不甲斐なさとのび太に対する怒り。
その両方が合わさった怒りだ。
「許さん……だと? 何寝言を言ってやがる。
俺の怒りはこんなもんじゃあねえ……まだ怒り足りねえぜッ!!」
寝取った上にパパを殺したスネ夫、そんな奴に寝取られたしずか、
自分を虐めたジャイアン、自分を操りエゴで人類を滅ぼそうとしたドラえもん達。
そいつらに対する自分の怒りと比べれば、お前の怒りなど程度が知れている。
憎悪が、殺意が、怒りが。今ののび太にとっての原動力だ。
「む?」
使い物にならなくなった左腕に突如変化が訪れた。
左手はドラえもんが所持していた空気砲のような形に変質し、
さながらサイコガンとでも言うべき形となっていく。
心意とは、何も逆境に抗う意思だけとは限らない。
憎悪、殺意怒り。そういった負の感情によっても発現することがある。
この舞台にいるPohも元の世界ではそれらによって発現させたのだから、
何もこれはのび太が特別ではない。このシステムは平等にして不平等なもので、
超人類であっても神でも関係ない。誰にでも発現する可能性を秘めているのだから。
「何かは分からんが、今度こそ仕留めてくれる!」
力が漲ってきた。使い物にならなかった左腕が動く。
空気砲を放つが、それは最早かめはめ波に等しい。
黄金の光線が再びレッド・デーモンズへと襲い掛かるが、
「奴の飛び道具がモンスター効果の類だと言うのならば! 墓地の罠カード、大いなる魂を発動する!
このカードはレベル10以上でドラゴン族かつ闇属性シンクロモンスターが自分フィールドに存在し、
相手がモンスター効果を発動した時、墓地のこのカードを除外することで、その効果を無効にする!」
「何ィ、それは!?」
予想外な妨害にのび太が反応する。
そんなカード、今まで一度も使われていなかった。
一度も使われてないカードは、一体どこから出て来たのか。
除外されていた間? 否。戻ってきた際に見た盤面は殆ど変わっていなかった。
セットカードは増えていたが、それらがいつ墓地へ送られたのか思考を巡らせ、
(……まさか! まさかッ!!)
気づけた。
一回だけあった。
自分が見ていた状況の中で、
ジャックが自分の罠を捨てられるタイミングを。
『レッド・デーモン・ドラゴン・タイラントの効果発動!
このカードはメインフェイズに一度、フィールドの全てのカードを破壊する!!』
そう、あの時。
自分のカードを巻き添えにする効果により、
あえて墓地へ送ったカード。それが今のカードなのだと。
「大いなる魂の更なる効果!
自分フィールド上のシンクロモンスター一体の攻撃力を、
次のターンのエンドフェイズまで2000ポイントアップする!
レッド・デーモンズよ! 怒りを、俺達の魂を奴にぶつけるぞ!!
レッド・デーモンズの攻撃! これが俺の、俺達の獄熱のクリムゾンヘルタイド!!」
炎のブレスの攻撃は/バスターとは比にならない威力を持つ。
一筋縄ではいかないとバク転して距離を取りながら、両手を構える。
「フン。力比べか……面白いッ! かめはめ波ッ!!」
再びかめはめ波を放ち、互いの攻撃がぶつかり合う。
負傷と、左腕は空気砲であるため今までのようにはいかないのはあるのに加え、
相手の力は大分パワーアップしているものの、空気砲の威力が加算し力は拮抗している。
別に雷槌がなくとも、最初からのび太の戦闘能力はこの舞台でもはるか上に位置する者。
ガンダムの攻撃を生身で受けたとしても軽い負傷で済ませられるその耐久力を筆頭に、
全てを合わせればポセイドンに匹敵するぐらいの出鱈目な存在なのだから。
ジャンヌと冥王は最早、この戦いに対して参戦の余地がない。
と言うより、双方は互いに互いを警戒せざるを得ない状況でもあるからだ。
ジャックが勝ったと判断すれば、即座にジャンヌが斬りかかるのは目に見えており、
冥王はそれを危惧して、加勢しようにも無闇にカードを消費するわけにはいかない。
ある意味それはうさぎのように、先の盤面を見据えた行動を真似たかのようだ。
加えてカードテキストの把握も必要でもあるため、より気を回す余裕などなく。
逆にジャンヌはのび太が勝った際でも漁夫の利を考慮する必要がある。
この力の拮抗。相手は大分消耗しているに違いないのだから狙うチャンスだ。
だから彼女は射線から離れてはいたが逃げてはいない。
「くっくっく……さあ終わりだ。終わりにしてやる!!」
「終わらせぬ! 此処で終わらせてなるものか!
貴様の怒りなど、このジャック・アトラスのバーニング・ソウルが吹き飛ばす!」
そうは言うが、差が縮まってるとは言えない。
向こうも同じように心意システムによって強化されている。
互いの力が拮抗してると言えども、僅かにのび太の方が上だ。
「ジャック! 今頭にきているとかぬかしていたなッ!」
次第に炎の勢いをかめはめ波が押していく。
その状況に狂気じみた笑みを浮かべながら高笑いを始める。
「フハハハハハ、ハハハハハハハハハハ!! おまえの怒りなど、そんなものッッ!!!」
全てを失った自分と一人に対する怒り。
どちらが上かなど決まっている。自分の方が上だと。
怒りと言う燃料を叩き込みながら、更に威力が増す。
(デモンズ・チェーン……果たして使えるのか?)
念の為妨害用にデモンズ・チェーンを回収こそしているが、
本来の性能ですらも僅かな足止めにしかならなかったそれだ。
今即座に発動したところで、低下した性能では妨害にすらならないだろう。
手札はそれだけ。フィールドのカードはタイラントにより消し飛んでいる。
墓地で発動できるカードはこの状況を打開できるものはない。
しかし、忘れてないだろうか。
此処はデュエルと言う名のバトルロワイアルの舞台。
次々と乱入したように、乱入するものがいると言う事を。
のび太の左目に、眼鏡を貫いて弾丸がそのまま抉る。
近くに死体として叩きつけられたうさぎのような、
紅い花を咲かせるかのように血が噴き出す。
◆ ◆ ◆
「どうやら交戦中らしいな。」
ジャンヌとジャックが戦っていたその時。
離れた位置にある森林からスコープ越しに戦闘を尾形は眺めていた。
レッド・デーモンズのサイズはどうあっても目立つので視界に入るのは自然だ。
事実、森林が高所ともあって遊馬にもモンスター自体は視認できる程に。
「だったら、急いで向かわねえと!」
「向かってどうする。相手は西洋剣を振るっている。
しかも俺の知る剣術に長けた奴ですら、まず追いつかないものだ。」
あれは鯉登や土方でさえ敵に足りえない。
なるほど、これがこの舞台での基準かと理解する。
モンスターを理解した後は参加者の水準を理解してそれらを鑑みるに、
自分達はかなり下の立場にいると見るべきと判断できる状態だ。
此処に杉元がいたとしても、素の強さでは下になると理解できた。
特に、村雨の説明を遊馬は未だ読んでないのでなおの事。
尾形はそれの説明は読んではいるが伝えるつもりはない。
伝えれば遊馬のことだ。使用をより躊躇ってしまうだろうから。
寧ろこれでいい。傷をつければ一撃で死ぬ代物を知らず振り回す可能性がある以上は。
「お前が乱入したところで、できることは何もないだろうな。」
「けど!」
「あるなら俺の護衛だ。タイミングを見て三人組を援護する。
しっかりとその『刀』とモンスターを使って俺を守ってくれよ、遊馬。」
早い段階でペアではなく徒党を組んでいる。
他にも互いが守るような戦い方をしてたりすることから、
乗った参加者ではないことは会話が聞こえずとも理解できた。
だから其方の方の救援として、髪をかき上げた後ヴリスラグナを構えている。
「ああ、分かってる。」
村雨をカガリに持たせ、元の剣も合わせ二刀流にしつつ周囲を警戒する。
レイは基本的に一刀流で戦うが、そも様々な武器や形態を駆使して戦う。
なので二刀流も、完全とまではいかずとも扱えなくはないだろう。
ある意味尾形の理想だ。自由意志で動くわけではないモンスターに村雨を持たせる。
時が来れば善性を掲げる彼も、結局自分達と同じ存在にできるのだと。
守るために人を殺す。そこに故意か事故はどうでもいい。寧ろ知らずに使えば、
かっとビングとやらも届かない闇へと堕ちていくかもしれないのだから。
離れた位置と森林地帯で身を隠してるのと戦闘の激しさ。
隠密に徹底してるのも相まって二人の存在は気づかれてない。
ジャンヌにいつ弾丸を叩き込むべきかを思案していたが、
「ど、どうしたんだ?」
「……予定が変わった。逃げるぞ。」
スコープ越しに見た尾形でも、
怖気が走って一度スコープから目を離す。
のび太の乱入で状況は変わった。いや、悪化した。
ジャンヌを遥かに凌駕している本物の化け物の乱入。
下手をすれば此方に一瞬で気づき接近しかねない存在だ。
化け物じみた強さと体躯を誇る牛山だってそこまで無茶苦茶ではない。
視界に入れることすら躊躇いそうになる気迫を持った相手なのは、
多くの敵をスナイプしてきた中で、尾形としては初めての経験だった。
「お前の言うような、殺し合いに乗らない人間は限られるらしいな。」
見た内容を、再度見た内容を伝える。
次々と平然と戦う存在はいる。
遊馬の綺麗事なんてそんなものだと。
力のある奴だろうと、結局は殺し合いに乗る。
ノブレス・オブリージュ……強いものには責務があると言う言葉。
けれど。此処にはそんな責務とは無縁の、己の欲望の為に戦う者達ばかり。
「だとしても、俺は諦めねえ! 確かに殺し合いを始めちまった奴はいる!
槍の男だって、平然とした顔で俺と同じぐらいの子を殺していた! そいつらにだって、
きっと引けない事情があるのは分かってる! それでも……それでも俺は殺し合う気はねえ!」
ナッシュのような、誰かの為に戦ってるのかもしれない。
ドン・サウザンドのように、ただの悪意で戦ってるのかもしれない。
どちらにせよ相容れない存在。それだとしても彼は折れないハートを持つ。
此処に来る前に『自分の限界を決めるなんて自分らしくない!』と、
今まで数々のデュエルを見届けてきた小鳥に言われたことだ。
「……ребенок(ガキが)。」
「え、な、なんだって?」
「いや、別に。もう少しだけ様子は見るが、期待はするなよ。」
やはり似ている。似ているからこそ否定したくなる。
同じ声で、同じように性善説を説いてくる、この世間知らずのガキを。
だから此方にとっても危険だと分かっても、再びスコープで戦いを見続ける。
「尾形? 大丈夫か?」
援護すると言ってからも、一度も引き金を引いていない。
戦場は少なくとも苛烈さを増しているのは、遠くからでも十分に分かる。
此方にまで音や衝撃が伝わってるのだから当然と言えば当然だ。
調子が悪いのではないかと心配になっていた。
「騒ぐな。狙撃手と言うのは、基本一発勝負だ。二度目はない。」
敵に気付かれたら逃げられるか逆に狙われる。
だから二発目と言うのは早々に期待できるものではない。
加えて人間の範疇を出ない尾形からすれば、相手は無茶苦茶な事ばかりをしてくれる。
一発で仕留められるかも怪しく、その上動きについていけるわけがない。
お陰でその一発でさえ狙いが定まらないのは当然の帰結だ。
(……今が狙い時か。)
そうして時間をじっくりとかけると、
ついにタイミングを見つけて引き金を引く。
のび太の動きが完全に固定されたその瞬間を。
人体の急所。どれだけ人間が鍛え上げようとも、
眼球は絶対に鍛えることはできない急所となる部位。
鍛えられない部位には後頭部や喉も含まれてはいるが、
生身で剣やモンスターを相手するあの身体能力から察するに、
熊の頭部を余裕で超えるだろう頑強さはあると判断しての眼球だ。
冗談交じりだが、瞼で銃弾を挟んで防ぐ可能性も僅かにあった。
だからこそ。目を見開いているその瞬間に弾丸を叩き込んだ。
(銃声!? この俺に銃撃、だと!?)
目を潰されても超人類は健在。
そのタフさでかめはめ波は続けていたが、
負傷したことと気を逸らしたことで勢いが大きく弱まる。
「今だレッド・デーモンズ! この獄炎を奴に刻み込めッ!!!」
間近でぶつけ合ってるせいで銃声が聞こえておらず、
何が起きたか分からないジャックはその勢いに乗る。
熱い魂と言う燃料を入れられたかのように、
レッド・デーモンズのブレスもまた勢いを増す。
「しまっ……」
弱まった勢いを取り戻さんと放ち続けるが、限界だった。
元より最初からルナとの戦いに加えてラーの攻撃を受け、
続けて零達との交戦、一度は犠牲にした片腕、神器の使用。
いかに心意によって強化されたとしても、これだけの消耗をしてきた。
無視できないダメージが積み重なり、やがて炎はそのままのび太を飲み込む。
明日と言う名の星を掴むことなく、嘗ては少年だったものは全てを焼き尽くされた。
まるでジャイアンを仕留めた時の応報のように、塵一つすらこの世に遺すことなく。
灰すらも残らぬ獄炎が、全てを焼き尽くす。
そこには、ガントレットだけが残る。
ガントレットは元々英霊マルタのものだ。
英霊の武具は英霊のような神秘のある物でなければ傷はつかない、
と言うのはこの場では低下してると言っても、シグナ―のドラゴンもまた神秘の塊。
十分に攻撃は通っており、今も使い物になるかは怪しい黒ずんだ色をしていた。
防具であるガントレットを捨ててまで逃げるとは考えにくい。
勝利を確信と同時に、後方に待機していたジャンヌが斬りかかる。
「ふん。やることがなかったからテキストを覚えてみれば、存外戦えるな。」
遊星が自身を守ったように、
冥王もまた工作列車シグナル・レッドで割って入る。
強制的に攻撃を誘導させる効果と破壊耐性による妨害。
テキスト確認と言う猶予を与えてしまったのは失態だが、
かめはめ波の巻き添えにされないために離れたのでやむを得ないことだ。
「ジャンヌ。貴様には共闘の借りがある以上免じたいところだが、
貴様が遊星や遊戯、イリアに司を狙う考えならば、俺は女とて容赦はせんぞ。」
その隙にジャックと冥王が横並びに立ち、
レッド・デーモンズもまた振り向き咆哮を轟かせる。
「私も同じだ。一時の共闘の借り?
対等でもないのにそんなものありはしない。」
約束とは対等な立場で初めて成立するものであり、
穢れた地の日本人とは対等のつもりはないのだから。
故に。共闘の提案を受け入れたことに借りや義理などない。
「だが分が悪いのは事実だ。此処は退くとしよう。」
タイラントの攻撃力の上昇は次のターンのエンドフェイズまで。
ジャックはそう説明したことで、まだのび太を葬った火力である可能性は高い。
一対一ならばまず勝てなかったであろう存在に、無策で戦う気はない。
「フン。逃がすと思うのか?」
「逃げれるとも。いや、お前は逃がさざるを得ない状態にする。」
言葉と同時に、ジャンヌは動き出す。
逃げるつもりだとは分かっていたが、その場所にジャックは眉を顰めた。
向かうのは森林地帯。参加者がいるか分からない場所に炎は極めてまずいし、
此方のモンスターが巨大すぎて狭い森での交戦はできたものではないのもある。
加えてかめはめ波を間近でぶつけ合ってた都合殆ど音が聞こえてなかった彼に、
銃声が聞こえた森へ逃げるだろうことが気づけなかったのも要因の一つになる。
「ジャック! 奴は狙撃手を狙いに行ったぞ!」
「何? 他にも参加者がいたと言うのか!?」
◆ ◆ ◆
「例の西洋剣の女だ。気を付けろ。」
予想通りの展開になったと内心尾形は思う。
確かに片方は仕留めた。しかしもう片方は別だ。
和解したのか一時休戦なのか明確な判断がつかない中、
無闇に狙えば今後此方の立場が危うくなりかねない。
なのでジャンヌを狙わなかったのはあるが、想像を絶する速度だ。
のび太をみて撤退を最初に判断したのは、こうなるのを予見したから。
なので結果を見てみると、その判断もあながち間違いではなかった。
カガリが二人の前に立ち、二振りの刃を構える。
「問おう。お前達は日本人か?」
「え? 俺は九十九遊馬! ハートランドシティ育ちだ!」
「ハートランドシティ……? 日本人のような名前だが、違うのか?」
「? ハートランドシティは、ハートランドシティじゃねえのか?」
実のところ、ハートランドシティが日本にあるとは作中で一言も言及されていない。
遊星達のネオ童実野シティも技術こそ発展してはいるが、元が日本の童実野町なので日本人だ。
名前の傾向は日本人寄りではあるが、だからと言ってそれで遊馬が日本人かと問われると別になる。
ついでにまだ知らないが遊馬はドン・サウザンドの戦いの時に別れたアストラルの分身でもあるので、
仮に日本だとしても彼自身が日本人かと言われると正直怪しいところだ。
「日本がない世界もある、と言ったところか。
ならば私が守護するべき対象だが……貴様は日本人だな?」
「尾形百之助。生まれも育ちも日本だが───」
言葉と同時に迫る斬撃。
来ると分かっていたこととカガリの妨害により、
頬に赤い筋が浮かび上がるだけに留まる。
「なるほど、差別主義者か。」
別段珍しいものではない。
アシリパ達アイヌ人に対する過酷な差別があったことは、
尾形の生まれる前後から既に存在していたことでもある。
「日本人は殺すだけだ。」
(さて、どうしたものか。)
実のところ、尾形は詰んでいる。
狙撃の為森林が混ざった山岳地帯にいるため、
ジャック達のモンスターは巨大すぎて逆に探せないし、
同時に彼等がこの場に駆けつけることは困難になるだろう。
「やめろぉ!!」
相対するカガリの前に遊馬が立ちはだかる。
旗手でもない存在が、戦場で武器を持たずに。
銃も刀も手にしてない少年が一番前に立つ。
「アンタが日本人って奴に、
どんな恨みがあるかは分からねえ!
けど、尾形は俺の仲間だ! だから見逃してやってくれ!」
「……揃いも揃って、何故皆して日本人を庇うのか。
そいつが、まともな奴に見えるとでも言うのか?」
そいつは平然と人を殺せる目をしている。
何を考えてるのか分からない。迫害してきた日本人と同じような、穢れた瞳。
だから先程から殺気のようなものが隠しきれず、
尾形に攻撃を感付かれてしまったわけだが。
「尾形は軍人だから、そりゃそういうことだってしてきてる!
だからって、何も日本人なんて一括りに言わなくたって……」
「その話は既に聞いた。」
デュエルでの対話がない遊馬と、過酷な日本で生き延びたジャンヌ。
軍人である尾形以上に価値観の違いは、どうあがいても通じるものではない。
既に同じ話をジャックにされたのもあって聞くだけ無駄だと分かったことで、
聖剣は容赦なく襲いかかり、二振りの得物をクロスさせながらカガリが割って防ぐ。
彼女が二人に身の危険が迫れば防衛するよう指示したお陰で、運よく遊馬は生存することに成功。
しかし相手は番長。レイの手に渡ったならまだ別だが、
正規の手順で召喚もされてなければ素の攻撃力も1500と低い。
いかに一斬必殺の村雨を持ったところで当たらなければ意味がなく。
のび太と比べるまでもない存在で、容易く防がれてしまう。
「弱いな。」
念の為警戒して軽く剣戟を続けたがこの程度。
特に何の感慨もなく、横薙ぎの一撃で上半身と下半身を分断。
首輪もなければ消滅したのでNPCか支給品の類なのもあり、
さして何かを思うことなく銃を構える尾形へと迫る。
「させ───」
通りすぎたジャンヌを妨害するよう村雨を遊馬は握るが、
握ると同時に心臓を掴まれたような感覚に動きを止める。
帝具には相性がある。アカメのような割り切った殺し屋なら十全に扱えるが、
何処までも不殺を貫こうとする善良な遊馬で、相性がいいかどうかと言われたら最悪だ。
相性が悪いと刀を握ったりするだけで拒絶反応を起こしたり、最悪死に至る可能性だってある。
一瞬の間にも事態は進展しており、横に構えたヴリスラグナは盾として機能せず、両断される。
神器を見たせいで精神が乱れたままで、主霊石を使った風の斬撃で即座に尾形を両断できたものを、
それをしなかった結果剣の間合いは把握できていたことで尾形が後退することで、
袈裟斬りにはされるが辛うじて致命傷だけは回避する。
「……るかぁ!!」
それでもなお村雨を手放さなかった。
まだ希望はある。少しでも時間を稼いで、尾形が援護した人物が合流。
僅かな可能性があれば、それをつかみ取る。
「愚かだな。邪な武器を使えば勝てるとでも言うのか。」
素人、しかも拒絶反応を起こして疲弊した相手の一撃など、素人以下。
振るおうとしたその瞬間、ジャンヌは軽い動作で容易く避ける。
更にその行き場のない刃は尾形へと誤って振るわれた。
剣技に関して素人であり、その上無理矢理帝具を使ってる状態だ。
とてもブレーキなんてものはできる状態ではなく、
ジャンヌがつけた傷をなぞるように更に刻む結果になる。
返り血が遊馬へと飛び散り、そのまま尾形の方へ倒れ込む。
「ッ!? すまねえ、尾形───」
倒れ込んだところへとジャンヌの聖剣が振るわれ、
「お邪魔しまうま……なんだったか!!」
乱入は未だ続き、
ジャンヌに襲い掛かる仮面の戦士。
迫る蹴りを振るおうとした聖剣で防ぎながら、距離を取る。
「悪い、助かった!! 尾形、大丈夫か!?」
「……『傷は』止血すれば大丈夫だろうな。」
「救いのヒーロー見参……って言うのは、不謹慎だな。」
ゼロ・オルタナティブに変身した野原しんのすけだ。
負傷してる尾形とそれを心配する遊馬を一瞥しながら、胸の奥が痛く感じる。
ヒーローとはいわば原因療法ではなく対症療法。即ち、後手に回ること。
正義の味方は遅れてくるとは言うが逆だ。悪が出てこないとヒーローは出てこない。
どうあがいても、何かがあってからやってくるのがヒーローの役割になってしまう。
こうして子供に涙を流させておいて救いのヒーローとは、とても言えないだろう。
そう言えるのは、それこそ強い者に味方するぶりぶりざえもんぐらいだ。
此処に来たのだって移動中偶然戦いの余波に気付いて駆けつけて、
ジャックから話を伺ってルナを二人に預けて一人急いだのだから。
それがなければ、出会うことすらなかったのかもしれない。
(仮面ライダーと言う奴か。しかも脇にいるのはあのジャックのモンスター。)
しんのすけの隣には時計を背負ったダーク・リゾネーターと似たモンスター、
クロック・リゾネーターが浮いており、音叉を使って周囲に音を鳴らし始める。
大方ジャックと合流して、事情を聞いて駆け付けた側なのだろう。
となれば彼も異端だ。日本人であってもなくても変わらない。
「潮時だな。」
音を鳴らしたと言う事は時期に此処にレッド・デーモンズが来る。
逃げるなら今の内であり、森を利用しながらジャンヌは走り出す。
逃げるついでに攻撃するかと身構えるが、別方向なので命に別状はない。
だがあくまで命だけ。他は別にあった。
(目当てはこっちじゃなく、置かれた支給品か!)
狙撃でブレが生じてはならない。
なので尾形は荷物を一度降ろしていたが、それが仇となってしまう。
あくまで二人を守ることが目的なのもあった為に気づけず、
森を利用して逃げる彼女を追撃することはできなかった。
「尾形! 大丈夫かよ尾形!!」
それ以上に、離れられない理由は二人の状態ある。
遊馬が作った傷は決して浅くはないが、最早関係ない。
村雨に傷をつけられれば呪毒が回り、やがて死に至る。
対処法は心臓に呪毒が到達する前に該当部位を切除することだが、
肩から腰にかけての袈裟斬りではそんなものはまず不可能だろう。
特に村雨がとんでもない業物であると理解してない遊馬には猶更。
だと言うのに。尾形は笑みを浮かべている。
死ぬ前の走馬灯を見てる幻覚での笑みかとしんのすけは思ったが違う。
何だろう。タミコや女性が浮かべる笑顔のそれとは別の、
不気味なものに見えてならない。
「───助けてくれよ、遊馬。」
遊馬にしか聞こえない程度の、か細い声で呟く。
それはとてもらしくない言葉だとは本人としても思ってはいる。
こんなのを杉元が聞けば即座にぶっ殺している。間違いなく、無言で。
これは、尾形の知り合いが誰もいないからこそ成立できるこの場限りの手段。
尾形は自分の命にさほど執着はない。ないからこそアシリパの父、ウイルクを殺した。
そうすることでアシリパは自分に対して殺しの理由を、清い人間はいないと言う証明に繋がる。
最悪、自分の命すら使ってでもそうやってアシリパのことを否定したがったの。
勿論アシリパと違ってこれは理由はない、原因はただのフレンドリーファイア。
けれど、殺しの理由を与えると言うのは、何も彼の仲間を殺す以外にもある。
今こうして自分の手で殺した実感を深く与えさせることで、
彼に殺し合いを乗らせるべく助けを乞うように。
「俺は、死にたくない。」
自分のせいで死なせてしまったことを受け止めさせる。
遊馬に殺しの理由を与えて精神を折る算段だったが逆転し、
遊馬の精神を折ることで殺しの動機を与える方向へと向けた。
予定とは違ってるし大分お粗末な考えではあるのだが、
死にゆく今できるのは精々それぐらいなので仕方ない部分はある。
尾形にもう一つ運がいいことがあるとするなら、
遊馬が凌牙とデュエルしていた時期だったのも大きい。
凌牙に勝っていれば事象を書き換えるヌメロン・コードを完全に手にし、
それを使うことで尾形の死をなかったことにできるかもしれない、
なんて考えをして結局はそのまま不殺を貫いたかもしれないのだから。
と言っても、アストラル世界もバリアン世界もない完全な別世界に、
ヌメロン・コードの影響が起きるのかは疑問ではあるが。
(これが限界だな。生き返るかについては怪しいところだが……別にどうでもいい。)
近くで叫ぶ遊馬と違って、
尾形の精神はとても穏やかなものだ。
遊馬がどうなるかを見届けられないのが残念。
後はアシリパ。あるとすればそれぐらいだろう。
あくまで、それは表向きの彼にとっての話。深淵にあるものは違う。
自分が欠けた人間ではなく、ただ自分の意志で欠けたルートを選んだだけ。
弟の勇作を殺してからずっと抱いていた、抱くことになってしまった罪悪感。
祝福された自分を否定しなければならないと言う、その事実からの逃避。
この事実に気付くことがないまま死ぬのは、果たして幸か不幸か。
罪悪感を自覚して死を選んだ場合も、幸か不幸か分からない。
分かる人など誰もいない。杉元も、アシリパも、当然遊馬も誰一人として。
全て、その黒い瞳ような深淵の奥底に眠ったまま、尾形百之助の生に幕を引く。
『兄様。』
だからなのだろうか、或いは遊馬の声を聴き続けたからか。
遊馬のような少年の声ではない。今の精神と同じように穏やかな声が聞こえた気がした。
───いや、気がしただけだ。それは幻覚でも何でもない。
その言葉に返事をするわけでもなく、瞳は何も映さなくなる。
「なあ! 助けてもらってばかりで悪いとは思う。
けど、尾形の傷をなんとかしてやってくれないか!?」
藁にも縋る思いでしんのすけへと泣き縋る。
尾形の方にあったのかもしれないがジャンヌに奪われた。
残っているのは今この場に居合わせる彼だけで、
その期待に応えたかったがそういう支給品はない。
「……現実を突き付けたくないが……その人は、もう息をしてない。」
加えて、完全な手遅れだ。
遊馬が背を向けるころには呪毒は心臓に到達していた。
この雪原で白い息を出すことなく、身体は動かない。
それが何を意味するかなど、最早語るまでもなく。
「尾形……? 尾形ッ!!」
真相を知っていればとんだ茶番だと鼻で笑うだろう。
こうなることを見越して尾形が黙っていた結果なのだから。
嘗てのベクターなら、真相を知っても知らなくとも抱腹絶倒で下卑た顔をする。
けれどそれを知らない以上は、彼等にとってはこの悲劇によって幕を下ろす。
涙を流しながら、張り上げた声を出す遊馬を前にしんのすけは何もできない。
又兵衛やぶりぶりざえもんのような辛い別れの経験こそ彼には多々あるが、
誤って手に掛けてしまったことはないのだから、当然と言えば当然ではある。
仲間を見捨てないかっとビングもおたすけも、失った命ばかりは取り戻せない。
(時計、か。)
ジャックのモンスターが音を出してるに、時期に迎えが来るだろう。
時計を背負っている悪魔は、偶然なのは分かってるが何かの暗喩かと邪推してしまう。
時間はないとでも言いたいのか、それともおたすけできなかった自分達への皮肉か。
(うん、やめだやめ。予選が終わった時にオラらしくないって言ったばかりだろ。)
邪念を振り飛ばすように首を振る。
この状況でポジティブに行くのは不謹慎ではあるが、
だからと言ってマイナス方面に振り切りすぎるのもよくない。
寧ろ、こういう時にこそ落ち込む彼をおたすけする必要がある。
ヒーローが駆け付けたのならば、できる限りのことをするべきだ。
【うさぎ@なんか小さくてかわいいやつ 死亡】
【野比のび太@超人類 死亡】
【尾形百之助@ゴールデンカムイ 死亡】
【一日目/黎明/C-2】
【ジャック・アトラス@遊戯王5D’s】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(中)
[装備]:ジャックのデュエルディスクとデッキ@遊戯王5D’s
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:キングはこのオレだッ!!
1:主催よ、貴様が神だというのなら、悪魔と交わりし王者たるこのオレこそが真のゴッド・キングだッッ!!
2:殺し合いに反抗するための仲間も探す。武藤遊戯の仲間と白鳥の友達も探す。
3:いずれ、武藤遊戯には改めてデュエルを挑みたい。
4:ジャンヌを警戒。何だあの強さは!?
5:レッド・デーモンズよ! まだ高みを目指すと言うのならば、共に行くぞ!
6:元冥王め……今や名実ともに冥王だな。
7:うさぎ……
8:しんのすけとやらに話しを聞く。
[備考]
※参戦時期は本編終了以降(ただし数年後の未来のジャックではない)です。
※心意システムで生成できるカードはレッド・デーモンズ(或いはレッド・デーモン)関係のみで、
かつ必ずシンクロ素材にレッド・デーモンズ・ドラゴンを素材としたものでなければ起発生しません。
必要なものが指定されてる代わりに、心意の条件は他の参加者よりも緩い条件になってます。
現在生成されたのは以下の通り
レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント@遊戯王ARC-V
※シグナーの痣がないため現時点では赤き竜の由来カード、
スカーレッド・ノヴァとセイヴァー・デモンは出せません。
【深淵の冥王@遊戯王OCG】
[状態]:疲労(小)、冥王の覚悟
[装備]:神月アンナのデュエルディスクとデッキ@遊戯王ZEXAL
[道具]:うさぎのデイバック(基本支給品のみ)
[思考・状況]基本方針:ハ・デスに復讐。冥王は一人、この俺様でいッ!!
1:俺様こそ冥王だ! 断じてハ・デスなどではない!
2:だがそれはそれとしてまともな武器が欲しい。デュエルディスクはやりづらい。
3:主催との因縁が薄れる? 知らん! ハ・デスを倒す。それだけよ! それだけが原動力よ!!
4:うさぎめ……先に逝きよって!
[備考]
※いやがらせで一切の支給品なしです。
※冥王結界波の残滓を使い切ったため、現状の手段では冥王結界波は使えません。
何らかの手段でソウルドレイン、メンタルドレイン等ができれば再度使用可能かもしれません。
※ジャックやうさぎ達に感化され、嘗ての冥王の風格を取り戻しました。
かといって根本的な強化はされていません。別に攻撃力が上がってもなければ、
何か技を習得と化したわけでもありません。仮にあってもカード風に言えば100程度。
【ルナ@コローソの唄】
[状態]:火傷(小)、ダメージ(小)、疲労(大)、気絶
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1〜3
[思考]基本方針:優勝して、人間たちに復讐する。
1:……
2:先程の炎の攻撃は支給品を使ったのかもしれない
3:丸眼鏡の男(のび太)が今後どうなるか少しだけ気になる
4:元の世界に戻った時、私はコローソも手に掛ける……?
[備考]
※気絶がどれぐらい続くかは後の書き手にお任せします。
【九十九遊馬@遊戯王ZEXAL】
[状態]:ダメージ(大)、精神疲労(極大)、返り血
[装備]:閃刀姫-カガリ(現在召喚不可能)@遊戯王OCG(カードはホルダーにある)
[道具]:基本支給品、454カスールカスタムオートマチック@HELLSING
[思考・状況]:基本方針:絶対に乗らない。それがかっとビングだ!
1:尾形と一緒にかっとビングを決めたのに、俺は……!!
2:あれ、アストラルいなくねえか?
3:シャークにカイト、それと不安だけどベクターも探す。
4:シャークがいそうだから海とか水のある所を調べる。
5:空飛んでた奴(零)を追いたい。
[備考]
※参戦時期は少なくともナッシュ戦の途中です。
どの程度の段階で中断されたかまでは後続にお任せします。
※アストラルはいません。
※カガリは一定のダメージを受ければ消滅しますが、
時間が経てば再度召喚は可能です(どの程度かは後続にお任せします)。
レイの手に渡った場合は装備を換装できる一種の変身アイテムになります。
ロゼにも使えるかは後続の書き手にお任せします。
※支給品の説明を読んでいません。
※村雨との相性が非常に悪いです。
無理に使用したため身体に負担が大きくかかってます。
【野原しんのすけ(大人)@クレヨンしんちゃん】
[状態]:ダメージ(中)、オルタナティブ・ゼロに変身中、複雑な感情
[装備]:オルタナティブ・ゼロのデッキ@仮面ライダー龍騎、薬品型空気ピストル@ドラえもん(残り3発)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み、治療系の類ではない)
[思考・状況]基本方針:困っている人をおたすけする
1:あの子(ルナ)をどうするか……
2:協力してくれる人と並行してネネちゃんとボーちゃんを探す。
3:パラダイスキングを警戒。
4:ヒーローってこういうところあるんだよなぁ……
[備考]
※参戦時期は「映画 超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁」本編終了後。
※少なくとも「オラの花嫁」より前の映画の出来事は経験しています。
【ジャンヌ@大番長 -Big Bang Age-】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、魔力消費(大)(魔力回復中)、精神疲労(大)
[装備]:約束された勝利の剣@Fate/Grand Order、賢者の石@仮面ライダーウィザード、風の主霊石@テイルズオブアライズ
[道具]:基本支給品一式、尾形百之助のデイバック(基本支給品、ランダム支給品×0〜2)
[思考・状況]基本方針:檀黎斗と言う日本人を浄化しハ・デスを名乗る悪魔を打ち取る。
1:穢れた日本人は浄化する。主催も当然だ。
2:同胞(自分たちと同じ外国人)は率先して保護の方針。
3:先の金髪の女(エアトス)、何者だ……?
4:あの男(蛇王院)、何故生きていたのか。もう一度殺すだけだが。
5:デュエルか。使うのはともかく理解しておく必要はあるやもしれぬ。
6:今は退く……少し落ち着くべきだ。
7:次から次へと、何故穢れた者を守りたがる。
[備考]
※参戦時期は久那妓ルート、スカルサーペント壊滅後。
※風の主霊石で風属性の力を獲得しています。
風の攻撃は消耗も賢者の石で賄ってるので見た目よりは消耗しません。
またこの攻撃はデュエルモンスターズを相手するのであれば、
魔法・罠を破壊することができるようになってます。
※以下のものがC-2に落ちてます。
右腕用ホーリー・ナックル@Fate/Grand Orderは黒ずんでますが使えるかは後続の書き手にお任せします
左手用は空気砲@超人類に変質の際に融合したため消滅してます。
雷槌(ミョルニル)@終末のワルキューレ
一斬必殺『村雨』@アカメが斬る!
両断されたヴリスラグナ@グランブルーファンタジー
【聖なるバリア-ミラーフォース(ゴールドシリーズ)@遊戯王OCG】
のび太に支給。ゴールドシリーズについては既存のものを参照。
遊戯王における代表的な罠カード。攻撃宣言時に発動し、攻撃表示のモンスター全てを破壊する効果を持つ。
デュエリスト以外は攻撃態勢に入ってる参加者全員が対象となる。破壊=死亡ではないが当たり所次第では死ぬ。
【雷槌(ミョルニル)@終末のワルキューレ】
のび太に支給。神VS人類(ラグナロク)における一回戦で呂布奉先と戦ったトールの神器。
鉄の手袋(ヤールングレイブル)と併せ、ブリュンヒルデでも神武器(クソチート)と称する神器。
頭はオリハルコンすら溶解する程の熱を発するものの、本ロワではある程度は抑えられている。
だが焼けるほどの熱源が身近にある為、使用者と言えども熱による消耗は基本的に免れない。
人の身で神が使用することを前提とした神器を扱う時点で、相応のリスクはあると言う事でもある。
ヨルムンガルドを葬った覚醒雷槌(ゲイルロズトールハンマー)は流石に人では早々できない。
当然滅茶苦茶重いので常人に扱えない。
【神月アンナのデュエルディスクとデッキ@遊戯王ZEXAL】
うさぎに支給されていたデッキ。神月アンナの列車をモチーフとしたデッキ。
レベル10を並べてエクシーズ召喚し、豪快な効果やステータスを以て敵を薙ぎ払う。
列車モンスターは自動的にレールを目の前に作りながら出現するので場所は基本問わない。
デュエルディスクは(今まで具体的な描写がないため)アンナと同じもの。
【レッド・デーモン・ドラゴン・タイラント@遊戯王ARC-V】
ジャックの心意システムで発現したシンクロモンスター。
アニメ版効果の為、OCGにおける召喚制限や①、②ともに同名の発動制限はない。
シンクロ・効果モンスター
星10/闇属性/ドラゴン族/攻3500/守3000
チューナー2体+チューナー以外のモンスター1体以上
①:自分メインフェイズ1に発動できる。
このカード以外のフィールドのカードを全て破壊する。
このターン、このカード以外の自分のモンスターは攻撃できない。
②:バトルフェイズに魔法・罠カードが発動した時に発動できる。
その発動を無効にして破壊し、このカードの攻撃力を500アップする。
【空気砲@超人類】
のび太の心意システムで発現したもの。
ドラえもんが使っていたひみつ道具の空気砲に似ているが、
のび太の状態の結果サイコガンのように一体化したものになっている。
尚、空気砲とは言うが超人類出典の為発射されるのはどう見てもビーム。
なぜ数あるひみつ道具の中からこれが心意になったかは定かではない。
ドラえもん達に対する怒りだからこそ、あえての空気砲なのかもしれない。
以上で「Battle Royal Mode-Joining ぶつかり合う魂」
投下終了です
心意システムの考え方や冥王結界波など、
割とやりたい放題してるのでダメでしたら破棄します
投下します
――泣き方を忘れた正しさなんていやだ
◆
「ごちそうまでした〜」
大満足で食事を終えると、笑顔でお皿が下げられる。
ふかふかのパンに顔を綻ばせ、特製ソースたっぷりのパスタを堪能し、食後のコーヒーでほっと一息。
今日はラビットハウスのパン祭り。
好評だった前回の影響でリピーター客も増えたのだろうか。
店内は大賑わいで、誰もが幸せそうな顔。
かくいうメグも食後の余韻冷めやらぬ表情でいるのだが。
「大成功だね!パパパンパンパンパン祭り!名前もパワーアップさせた甲斐があったよ!」
「パが一個増えただけだろ。まぁでも、前の時よりお客さんはいっぱい来てるよな」
「ラビットハウスがこんな大盛況…夢でも見てるんでしょうか…?」
「ゆ、夢!?じゃ、じゃあまさか、パパパンパンパンパン祭りの成功は嘘…?」
二人揃って青褪めるココアとチノへ、呆れた様子のリゼ。
ラビットハウスの店員三名の、いつも通りのやり取り。
「リゼ先輩の手作りパスタ美味しかったぁ。毎日食べたいけど今月もピンチ…」
「甘兎庵でも何かやってみようかしら…。シャロちゃん、ああ〜んあんあんあんこ祭りなんてどう?」
「うぇっ!?な、名前はもうちょっと変えなさいよ!」
近くのテーブルではこれまたよく知る顔の二人が談笑中。
顔を真っ赤にするシャロをにこにこと受け流す千夜、幼馴染同士のやり取りは二人を知る者にとって見慣れた光景。
「……?」
いつもと何も変わらない、木組みの街での日常。
恐いことや悲しいこととは無縁の、仲良く微笑ましいやり取り。
でもどうしてだろうか、何かが足りない気がする。
メグの世界を彩る大切な色が一つ、欠けてしまった気がしてならない。
「なんだろう、これ…」
何かがおかしい。
今日はチノから貰ったパン祭りのチラシを片手に、ラビットハウスを訪れた。
席に着いて、運ばれて来たパンを沢山食べて、美味しいと口にしたらココアが喜んで。
「…え?どうして、私だけなのかな?」
チラシを貰った時も、ラビットハウスに来るまでも、パンを食べる時も。
全部メグ一人だ。
いつも一緒にいるあの子の姿がどこにもない。
前回のパン祭りで隣に座り、美味しいねと言葉を交わした友達が見当たらない。
どうして、マヤがいないのだろうか。
「ねえチノちゃん、マヤちゃんはどこにいるのかな?」
自分一人で考えても分からないなら、友達に聞いてみる。
きっと冷静に答えを返してくれて、それを聞いた自分は安堵で胸を撫で下ろす。
メグの予想とは裏腹に、質問されたチノは不思議そうに口を開いた。
「マヤさん…?メグさんのお知り合いの方ですか?」
「えっ?」
何を言われたのか、理解するのに数秒を要した。
「も、もう。チノちゃん意地悪言っちゃだめだよ〜」
ココアの影響か最近は少しばかり悪戯心が芽生えたとはいえ少々酷い。
大切な友達を他人のように言うチノへ、困り顔で抗議。
きっとごめんなさいと謝り、マヤがどこにいるのか教えてくれる筈だ。
だがメグの考えを裏切るように、チノは依然として首を傾げたまま。
どうしてそんな反応をするのか分からず困惑するメグへ、更に追い打ちが掛かる。
「どうしたの二人とも?」
「あ、ココアさん。その…メグさんのお知り合いのマヤさんという方が…」
「お知り合いじゃ無くて、私とチノちゃんの友達だよ〜!」
「わ、私もですか?誰かと勘違いしてるとかじゃ…」
「違うよ〜!チノちゃんとマヤちゃんと私、三人揃ってチマメ隊!他の人と間違えたりなんてしないよ!」
変わらずマヤを他人のように言うチノへ、流石にメグも怒ったように言う。
今日のチノはどうしてこうも意地悪なのだろうか。
折角のパン祭りなのに悲しくなるメグを尻目に、ココアとリゼまでもが信じられないことを言う。
「わわ!?お、落ち着いてメグちゃん!私もマヤちゃんっていう子は知らないけど…もしかして私がこの街に来る前に住んでた子、とか?」
「いや、私の知る限りそのマヤって奴がチノと一緒にいた所は見た事が無い。うーん…チノも知らないんだよな?」
「は、はい。思い出そうとしてるんですけど、やっぱり会った記憶が無いです」
三人とも難しい顔をしているのがメグには到底理解出来ない。
ココアとリゼだって、マヤの事はよく知っているだろうに。
「皆どうしたの?」
「メグちゃんが何か怒ってるみたいだったけど…」
と、不穏な空気を心配したのか千夜とシャロが様子を見に来た。
「あ、千夜さん!シャロさん!二人はマヤちゃんがどこに行ったのか知ってるかな!?」
縋るような想いでマヤの行方を問う。
いや、この際どこに行ったかが分からなくとも、二人がマヤをまるで他人のように扱わなければそれで良い。
「マヤちゃん?初めて聞く名前ね…千夜は知ってる?」
「さぁ…私も誰のことかは分からないわ」
目の前が真っ暗になった気分だ。
顔を見合わせ、まるでマヤを今初めて知ったかのように言う。
そんな訳がないだろう、知らない筈が無いだろう。
一体全体皆どうしてしまったのか。
ショックで黙り込んだメグなどお構いなしで会話は進む。
「うーん……あ、もしかしてワイルドギースに新しく出来たガールフレンドかしら?」
「え゛?ままままぁあいつも男の子だし?そ、そりゃあガールフレンドの、い、一匹くらいは、つ、作るわよね」
「シャロちゃんがお留守の間、ガールフレンドをこっそり家に招いて…」
「いやあああああああ!!!最近ハーブが前にも増して食べられてる理由はそれじゃないのよー!!」
「あ!チノちゃんが羨ましそうな顔してる!ワイルドギースのカノジョさんに会いたいんだ!」
「べ、別に羨ましそうな顔なんてしてない…だぜ」
「何か久々に聞いたなその口調」
最早マヤの行方など忘れたと言わんばかりに、盛り上がる一同。
メグには見慣れた日常の一部も、今この時ばかりはおぞましいとしか思えない。
どうして大切な友達をいないものみたいに扱えるのだろう。
どうしてあれだけ優しかった皆が、マヤに酷いことをするのだろう。
「っ!」
大好きな皆の姿がどうしようもなく醜悪に見えて仕方ない。
チノ達に背を向けラビットハウスを飛び出す。
後ろから誰かの声が聞こえた気もするが、耳を傾けたくなどなかった。
「酷いよ…!みんな…!マヤちゃんは…マヤちゃんは……!」
「私がどうかしたのかー?」
はっと顔を上げる。
気が付くとそこは人気のない路地裏。
明かりの差し込まない道の真ん中に、彼女はいた。
にっかり笑い八重歯を覗かせる、メグが求めて止まない彼女が。
「マヤちゃん…?」
「どうしたんだメグ?何か顔色悪くない?」
「マヤちゃん…!」
「おわっ!?」
堪らず抱きつくと素っ頓狂な声が聞こえた。
ちょっぴり罪悪感はあるけど、強く強く抱きしめる。
驚いたように見つめる顔も、鼻孔をくすぐる匂いも全部マヤのもの。
怒りと悲しみはどこへやら、今はただ安堵で涙が溢れるばかり。
「よ、良かった…マヤちゃんどこにもいなくて…チノちゃん達も、マヤちゃんのこと知らない人みたいに言って…」
「えぇっ!?そ、そんなこと言うなんて酷いじゃんか…」
「う、うん。でも、マヤちゃんを見たら、皆ちゃんとごめんなさいって言うと思うから、だから一緒に戻ろ?」
「あー……それは無理かも」
申し訳なさそうに言うマヤへどうしてと尋ねる。
もしかして皆が意地悪したから、会いたくないのだろうか。
確かにメグもチノ達の態度にはショックを受けたし、気持ちは分かる。
しかしどうやら理由はそれではないらしく、苦笑いと共に否定された。
「だって私――
もう死んでるから」
ドロリと、赤く染まった腹部から何かが零れ落ちる。
色鮮やかな肉塊がビチャビチャ音を立て地面を汚す。
赤い、白い、黒い、それにピンク。
本来人体の外側に出るなどあってはならないソレら。
鉄と、形容し難いモノをかき混ぜた臭いが立ち込め、メグへ猛烈な嫌悪感を齎す。
「ひっ…!?」
後退り口元を抑える。
吐瀉物と悲鳴が這い出そうになるのを必死にこらえるも、マヤはお構いなしだ。
ついさっきまでの笑みを消し、彼女らしからぬ能面染みた顔で近付く。
「何で逃げるんだよ」
声もまた、普段のマヤを知る者からすれば信じられない程に低い。
そこに込められた感情がどんなものか、言葉を向けられた当人であるメグには嫌でも分かる。
これは、自分を責めているのだと。
「メグはいいよな、守ってくれる人たちに会えてさ」
近付く、後退る。
「私はあんなに恐い思いをして、一人ぼっちで戦ったのに」
近付く、後退る。
「ほら見てみなよ。槍でズバーッってやられた傷、すんごい痛かった」
近付く、後退る。
「誰も助けてくれないで殺されて…。しかも死んだ瞬間を見世物みたいにされて。私が何したって言うんだよ」
近付く、後退る。
「チマメ隊の友情は永遠だって思ってたのに…チノもメグも来てくれなかった」
近付く、後退る。
「私…もっと生きたいよ。これからもチマメ隊でいたい。メグと同じ高校に行って、ごきげんようって挨拶したかった」
近付く、背中が壁に当たった。
「なぁメグ」
もう逃げられない。
「私のこと、何で生き返らせてくれないの?」
.
◆
「ん…んん……?」
異様に重く感じる瞼をこじ開け、最初に見えたのは知らない天井。
後頭部のふかふかな感触は敷かれた枕。
上体をゆっくりと起こし視線を動かすと、メグは自分がベッドの上にいるのに気付いた。
派手さは無いが大層金を掛けたと分かる大きなベッドだ。
辺りを見回すとそこは見知らぬ部屋。
調度品の数々はベッド同様、庶民がおいそれと手を出せる代物ではないように見える。
寝室を淡く照らす枕元のランプでさえ、どれだけの金額か予想できない。
ざっくりと言ってしまえば、見知らぬ金持ちの寝室でメグは目を覚ました。
「えっと…ここどこなんだろう…?」
初めて見る部屋、何故自分はこんな場所にいるのか至極当然の疑問が浮かぶ。
目を覚ます前、最後に覚えている記憶を掘り起こす。
しかし思い出そうとする直前で、ふと自分の手の違和感に気付く。
何かが右手に触れている、というよりは何かを持っている。
薄く平べったい紙のようなもの。
右手を持ち上げ顔の前に持って来ると、すぐに正体が分かった。
「カード?」
魔法陣、とでも言えば良いのだろうか。
或いは紋章にも似たイラストが描かれた一枚のカード。
カードの名前と思われる部分も、イラストの下のテキストにも、書かれているのは解読不能の文字。
自分の支給品にこのようなカードは無かった筈。
眠っている間に持っていた見覚えの無いカード、常人ならば君の悪さを覚え手放すだろう。
「……」
だがメグは不思議とそんな気になれない。
むしろ謎のカードに魅せられてしまったかのように、じっと描かれた紋章を見つめる。
何故だろうか、このカードを見ていると悪い気分にはならない。
まるで自分の心の中のつっかえが無くなるような、迷いが吹っ切れる感覚を覚えるのだ。
瞬きを忘れたかの有様でカードに視線を固定し続け、
「失礼しま――目を覚まされたのですね」
ハッと意識が引き戻された。
扉が開かれたことにも気付かないくらいに、カードへ意識を奪われていたらしい。
声のした方を慌てて向くと、一人の少女を瞳が捉えた。
中学生にしては幼い印象のチマメ隊よりも、更に小柄な体躯。
木組みの街ではまず見ない、民族衣装のような服を纏った少女はメグからしたら初対面。
こちらへ近付く度にショートヘアが揺れ、ピンと尖った耳が見え隠れする。
「起き抜けで喉が渇いているはずです。お紅茶をお持ちしましたので、まずは喉を潤してください」
「え、あ、う、うん。ありがとう…?」
こちらが質問する前にティーカップを差し出され出鼻を挫かれた。
何が何だか混乱するも流されるように受け取り、礼が口を突いて出る。
名も知らぬ少女にじっと視線をぶつけられ、とりあえず口を付けないのは失礼と理解。
茶葉の甘みと柑橘の酸味が喉を通り抜け、無意識の内にほぅっと息を吐く。
「美味しい…」
「喜んで頂けたのなら何よりです。けれど、ふむ……」
紅茶への感想に笑みを浮かべるのも一瞬のこと。
不思議そうな表情を作り尋ねる。
「実はわたくしが紅茶に毒を混ぜていた、とは考えなかったのでしょうか?」
口に運ぼうとした体勢のまま凍り付く。
いきなり何を言い出すのだろうか。
いや、そもそも自分達がいるのは殺し合いの会場。
初対面の相手が親切にしてくれるのには、何か裏があると考えてもおかしくはない。
メグがこの地で出会った捻くれ者の少年なら、「不用心過ぎる」と呆れるだろう。
カタカタ震え出すメグとは対照的に、少女は至って何でもない事のように告げる。
「いえ、例えばの話ですので本当に入れたりはしていませんが」
「え…も、もー!びっくりしちゃったよ〜…」
安堵したのも束の間、脅かされて思わず抗議する。
といっても怒りや不快感をぶつけるのとは程遠い、可愛らしい文句だが。
少女からしたらメグが余りに無警戒だった為つい脅かす様な事を口にした。
その点については言い返さず、素直に謝る。
「ところで、マサツグさん達はどこにいるの?」
すっかり少女のペースに流されてしまったが、先程から気になっている事を聞いてみる。
殺し合いで出会った二人の男女、マサツグとクウカの姿が見当たらない。
若しかして自分を寝室に運び、彼らは別の部屋で休んでいるのだろうか。
この少女とは自分が眠っている間に遭遇し、マサツグ達の仲間になったのかもしれない。
「御二方はここにおりません」
楽観的なメグの予想は、少女の淡々とした言葉に打ち消される。
「あの方達とは引き離させて頂きました。この屋敷にいるのはわたくしとメグさまの二人だけでございます」
「えっ?」
何を言っているのだろうか。
マサツグとクウカから引き離した?
言っている意味が分からず脳内が疑問で埋め尽くされ、そこでようやっと意識を失う直前の光景を思い出す。
優勝しマヤの死を無かった事にしようとディープスペクターに変身した自分。
それを止めたのは、マサツグとクウカの言葉。
二人の言葉は反論の余地がまるで見当たらない、どこまでもメグに現実を突き付ける内容。
マヤが死んだ根本的な原因を作った連中が素直に願いを叶えてくれるかはかなり怪しい。
第一、仮にマヤを生き返らせたとしてマヤ本人が望んでいない。
力無く項垂れ変身解除したメグの前に現れたのは、緑の装甲を纏った参加者。
「…も、もしかしてあの緑の虫さんみたいな人が…?」
「手荒な真似をして申し訳ございません。ですがわたくしはメグさまに危害を加えるつもりはないのです。ただ…大事なお話がありまして」
益々以てメグは訳が分からない。
自分を誘拐したなら少女は殺し合いに乗っているのではないのか。
だがそれならわざわざベッドに寝かせたり、紅茶を用意する意味はない。
眠っている間に殺せば良いだけだろうに、何か危害を加えられたとも思えない。
けれど話をしたいだけなら、どうしてマサツグ達から引き離したのかが謎である。
二人きりで話したいにしてもきちんと説明すれば、マサツグ達だって少しの間席を外すくらいはしてくれるだろうに。
「お話って…どんなお話なのかな?えっと……」
「これは失礼致しました。わたくしはコッコロと申します」
「う、うん。よろしくねコッコロちゃん。…あれ?そういえば私コッコロちゃんに名前教えてたっけ?」
「いえ、失礼は承知で先程のメグさま達のやり取りをこっそり覗かせてもらいました」
深々と頭を下げる姿は幼いながらもどこか気品に満ちている。
自分よりも年下、多分小学生くらいだろうに随分と礼儀正しい。
凄い子だなぁと拉致された身であるにも関わらず、どこか呑気に考えてしまう。
顔を上げるとコッコロは早速本題に入る。
「わたくしとメグさまは協力出来るのではと思うのです」
「協力?一緒に恐いゲームを止めようってことかな?」
でもそれならマサツグとクウカだって協力してくれるだろうに。
コッコロの意図が読めずピンと来ないメグへ、首を横に振る。
「その逆です。私とメグさま、どちらかが優勝する為に暫く手を組みませんか?」
「えぇっ!?」
たった数分の間でコッコロには驚かされっ放しだが、これが一番だろう。
思いもよらない提案に顔が引き攣るのが自分でも分かった。
成程、確かにこのような話をマサツグ達のいる前でペラペラ口にする訳にはいかない。
強引な手で二人きりの状況を作り上げたのも納得がいく。
尤も承諾するかはまた別の話。
もう少しタイミングがズレていたら、例えばディープスペクターに変身した直後ならともかく、今のメグはそう易々と首を縦には振れない。
向こうもその点は想定済みらしく、メグの反論を待たずに続ける。
「お亡くなりになられたご友人を生き返らせたい、失ってしまった居場所を取り戻したい。それがメグさまの望みと存じております」
「そ、それは……で、でも!マヤちゃんは、そんなことしても喜んだりは…」
「メグさま自身はご友人の死に納得しておられるのですか?」
「っ!ち、違うよ…!でも……」
優勝して生き返らせてもマヤは喜ばない。
でもマヤの死に納得がいくかと言われたら、できる筈がない。
考えが纏まらず言葉に詰まる。
「……ふむ。少し、わたくしの話をしましょう」
口籠るメグへ向けてコッコロは明かす。
ゲームに巻き込まれる前、自分に何が起きたかを。
「わたくしにも大切な居場所がありました」
同じ屋根の下で一緒にご飯を食べ、共に広い世界を冒険する。
エルフの里での寒々とした孤独を埋め、これ以上ないくらいの充足感と幸福を得た。
二人の少女と、主と呼び慕う少年。
そこに自分もいて、美食殿の一員として日々を過ごす。
この先も当たり前のように続くと信じていた日常は、唐突に終わりを告げた。
切っ掛けはそう、自身が使役する精霊に起きた異変。
これまでずっと戦いの助けとなった精霊の力を行使できなくなった。
代わりに現れたのはコッコロにも招待が分からない黒い精霊。
謎の精霊は前々から使役していた精霊以上の力を発揮する、非常に強力な魔力を秘めていた。
問題は魔力が強過ぎる余り、コッコロにも制御が効かなくなったこと。
そのせいで仲間を危険に晒してしまったのは、今思い出しても後悔が募る。
とはいえペコリーヌもキャルもコッコロ責めようとはせず、むしろ守ってくれた事への感謝を告げられたのだ。
だからこそ、その後に起きた事件はコッコロを深く傷付けた。
始まりはペコリーヌとキャルが何故かコッコロの存在をうっかり忘れてしまい、次第にランドソルに住まう人々からコッコロの記憶だけが抜け落ちていった。
彼女に託宣を与えるアメス曰く、異常の原因は黒い精霊であり、悪い事に黒い精霊の力は徐々に増してきているとのこと。
ただ美食殿の三人と共にいれば彼らとの記憶だけはどうにか繋ぎ止めておける。
急いで解決すればどうにかなるというアメスからの言葉を、コッコロは受け入れなかった。
ただでさえ制御出来なかった黒い精霊の力が増しているなら、今度こそ取り返しの付かない事態になるかもしれない。
自分のせいで主達が傷付くくらいならと、美食殿と別れ一人旅立った。
「だけど……わたくしの居場所は美食殿だけなのです。主さま達と二度と会えないなんて、耐えられない…」
仲間であり友達であり、家族のように深いつながりのある彼らを傷付けたくない気持ちに嘘は無い。
だが別れを選んだ事を本当に心の底から納得しているかと言えば違う。
寂しくない訳が無い、主達の元へ帰りたいと全く思わないなんて有り得ない。
幸福とは一度味わってしまえば、誰しもが喪失を強く恐怖する。
コッコロとて同じだ。
自分のせいで美食殿の皆を傷付けてしまう恐れと同じくらい、孤独になるのは恐い。
どれだけ必死に蓋をし、平気な顔をしようとも独りぼっちという現実はコッコロを強く苦しめた。
故に、増幅する心の闇の誘惑には抗えず、本来の彼女ならば絶対にしない選択へと走らせたのである。
「少々長くなりましたが、要はわたくしはどんな手を使ってでも主さま達の元へ戻りたいのです。たとえこれからする事が主さま達が決して望まないものだとしても、わたくしには帰りたい場所があるのです」
「……」
「勝ち残れるのはただ一人のみ、険しい道のりなのは間違いないでしょう。だから最後までとはいきませんが、せめて厄介な参加者の方々が減るまでは協力するのも一つの手であると考えております」
一旦言葉を区切り、真紅の瞳がメグを射抜く。
有無を言わせぬ力強さにたじろぐも、コッコロはお構いなしだ。
「メグさまもまた取り戻したい日常が、帰りたい居場所があるのなら、わたくしの提案はそう悪いものではない筈ですが」
「私、は……」
コッコロが言っているのは間違っていると、強く否定はできない。
取り戻したい日常ならばある。
これまで通りチマメ隊の三人で仲良く日々を過ごし、ココア達とも笑い合える日常が。
チマメ隊がもう一度三人揃うにはゲームに優勝し、マヤを生き返らせてもらうしかない。
だからといって即座に優勝を決意するのは、メグの中の良心が許してはくれなかった。
尤もそれは、メグがマサツグ達と共から連れ攫われる前の話。
(忘れる……それって、あの夢の皆みたいに…?)
コッコロの話で特に印象に残ったのは、彼女の存在を皆が忘れてしまったこと。
昨日まで普通に接していた相手から、まるで初対面のように扱われる。
それはまるで、メグが屋敷で目を覚ます前に見た夢と似ているではないか。
コッコロからの提案を断り、マサツグ達と協力してゲームマスターをやっつけて、チノ達と共に元居た街へ帰る。
そうしてまたこれまで通り日常を過ごす、マヤが欠けてしまった日常を。
残りの中学校生活も、リゼやシャロと同じ高校に入学してからも、マヤのいない毎日を生きる。
そのような日々の中で皆はどうなるのだろうか。
初めは、きっと悲しくて前みたいに笑えないだろう。
でもそれが一ヶ月、二ヶ月、半年、一年、数年と続いたら?
次第にマヤがいない悲しさよりも、季節ごとのイベントでの楽しさや、将来への忙しさが大きくる。
それで徐々にマヤの事も頭から抜け落ち、忘れてしまうんじゃないのか?
自分達の日常にはマヤだって必要な筈なのに、いなくても良いと思われるのでは?
無論、チノ達がそんな薄情な人間だとは思っていない。
だが悪夢で見た光景が頭から焼き付いて離れない。
夢でマヤから言われた言葉が楔のように胸へ突き刺さったまま、離れてはくれない。
『メグはいいよな、守ってくれる人たちに会えてさ』
そうだ、マサツグとクウカに会えたのは本当に運が良かったんだ。
殺し合いに乗って無くて、メグが間違いを犯そうとしても見捨てず説得してくれた。
素直じゃない男の子と、ちょっぴりいやらしい雰囲気の女の子。
彼らのような人にマヤは会えなかった。
『私はあんなに恐い思いをして、一人ぼっちで戦ったのに』
大きな槍を振り回す、綺麗だけどとても恐い男の人。
そんな相手に襲われてマヤがどれ程恐怖を抱いたか、メグには想像も付かない。
『ほら見てみなよ。槍でズバーッってやられた傷、すんごい痛かった』
いつも一緒にいるマヤのお腹がばっくり裂かれて、バケツの水を撒き散らしたみたいに中身が散らばった。
いつも八重歯を覗かせて楽しそうに笑うマヤが、見たことのない顔を貼り付けたまま動かなくなった。
『誰も助けてくれないで殺されて…。しかも死んだ瞬間を見世物みたいにされて。私が何したって言うんだよ』
何もしてない。
マヤはちょっぴりお転婆だけど、絶対に悪い女の子なんかじゃない。
なにも悪い事をしてないのに、どうして殺されなければならなかったんだろう。
『チマメ隊の友情は永遠だって思ってたのに…チノもメグも来てくれなかった』
助けられるなら助けたかった。
なんて、今更何を言ってもマヤからしたら言い訳に過ぎない。
何も出来なかった、殺される瞬間を黙って見ているしか出来なかった。
チマメ隊の絆を、裏切ったも同然だ。
『私…もっと生きたいよ。これからもチマメ隊でいたい。メグと同じ高校に行って、ごきげんようって挨拶したかった』
メグだって同じだ。
これからもマヤとチノとずっと一緒にいたかった。
自分はマヤと同じ高校に行って、チノはココアと同じ高校に行くから会える時間は前より減ってしまうけど。
でもそれくらいじゃチマメ隊の友情は変わらないんだって、自信満々に言いたかった。
『なぁメグ』
ああそうだ。
答えは最初から決まっている。
『私のこと、何で生き返らせてくれないの?』
「……うん、ごめんねマヤちゃん。私たちは三人揃ってチマメ隊なのに、そんなのおかしいよね」
前に進めたような気がした。
己を縛り上げる鎖が砕け散ったような解放感だ。
思考に淀みは無く、瞳に迷いは浮かんでいない。
それでもほんの僅かに残った、自分の決意を咎める声。
理性、或いは残骸の如き善意か。
どう表現すべきか迷うソレが叫ぶ、マヤは喜ばない、チノ達も悲しむ。
反論する気は無いしその通りだと思う。
(だったら…恐い記憶は全部消してもらえば良いんじゃないかな?)
優勝し、マヤを含めたゲームの死者を生き返らせる。
その際黎斗にこう頼めば良い。
「参加者全員からゲームに関する記憶を全て消去した上で生き返らせて欲しい」と。
これなら何も問題は無い、だって皆殺し合いがあったこと自体を知らないのだから。
マヤは自分が殺されたなんて夢にも思わない、チノ達だって恐くて悲しい記憶は最初から頭に存在しない。
誰もが殺し合いなど知らず、もう一度あの日常へ帰れる。
大切な友達を忘れるのは許せないけど、嫌な事を忘れるのなら良い筈だ。
「私…その為に頑張るよ…!だからコッコロちゃん!途中までだけど、お手伝いしてもらっても良いかな?」
「勿論です。わたくしの方も途中までですが、メグさまにお手伝いをお願いしても宜しいでしょうか?」
白く小さな手を取り合い、力強く頷き合う。
傍から見れば微笑ましく、その実痛ましく、何よりおぞましい同盟はここに成った。
○
上手くいった。
オレイカルコスの結界をデイパックに仕舞い、コッコロは内心でメグと手を結べたのに安堵する。
マサツグ達とのいざこざを覗き見した時、メグはマヤを生き返らせて自分の日常を取り戻したがっているのは分かった。
同時に優勝を目指すにはまだまだ迷いが強いらしい。
一度は仮面ライダーなる姿に変身したというのに、マサツグ達の言葉を受けて戦意を喪失した様子からも明白。
これでは攫って協力を持ち掛けても、自分の手を取るかは正直微妙なところ。
ならばと寝ているメグの手にオレイカルコス結界のカードを持たせ、作戦は見事成功。
眠ったままの相手にも効果があるかは賭けになったが上手くいったなら問題無し。
メグには所持した者の身を守る効果があり、万が一自分が目を離している間に危害を加えられたら困るなどの適当な理由をでっち上げ、カードは返してもらった。
(主さま…コッコロは本当に悪い子になってしまいました……)
メグを誘導させ自分の望み通りの展開に持っていたのも。
美食殿に帰る為に、これより先どんな非道にも手を染めると決意したのも。
何より、キャルを殺さねばならないことも。
キャルに怨みなどない、死んで欲しいとは思わない。
美食殿の大切な仲間をこの手に掛けるなんて、天地が引っ繰り返っても本来ならば有り得ない。
第一コッコロが美食殿の仲間と離れようとを決意したのは、黒い精霊を制御出来ずに皆を傷付けてしまう事を恐れたから。
だというのにキャルを己の意思で殺そうとするのは、ハッキリ言って矛盾した想いだ。
生きて帰る方法は何も優勝しかないという訳ではない。
ゲームマスターである黎斗を倒してもゲームはクリアされる。
コッコロの最大の望みはもう一度美食殿の皆の元へ帰ること、つまり優勝に拘らずともいいのである。
むしろキャルが参加しているのを考えれば、共に黎斗を倒し二人でランドソルで待つペコリーヌ達の元へ帰る方がずっと良い。
名簿に記載された名がキャルだけであれば、或いは美食殿全員が参加していればその選択を選んだだろう。
キャル以外にもう一人、決して無視できない名前さえ見つけなければ。
カイザーインサイト。
その名を見た時、頭の中が一瞬真っ白になった。
ペコリーヌから名前と王女の立場を奪い、キャルを洗脳し道具のように使い捨てようとし、主であるユウキが記憶を失う原因となった諸悪の根源。
ランドソルの王宮に君臨し大混乱を巻き起こした宿敵までもが参加している。
仮にカイザーインサイトが主催者側にいるのならまだ分からんでもない。
黎斗と共に悪趣味なゲームを始めたというなら、そうするだろうなと納得はあった。
が、悪い事実としてカイザーインサイトは参加者側。
美食殿やラビリンス、ユウキが絆を育んだ少女達というランドソルの総力戦、そしてユウキが取り戻したプリンセスナイトの力。
多くの協力と積み重ねを経てようやく倒せた覇瞳皇帝すら、黎斗からしたら一プレイヤーでしかない。
カイザーインサイト以上の力を持つだろう黎斗を倒す、それは余りにも無謀に思えた。
平時のコッコロであれ、或いはコッコロもう少し後の時間軸から招かれていれば、戦慄こそすれど主催者に抗う道は捨てなかった筈だ。
しかし今のコッコロは心の奥底に隠した孤独感を、一枚のカードにより炙り出され、増幅された状態。
だから考えてしまった、勝ち目のない戦いに挑んで死んでしまい、主達の元へは戻れなくなる最悪の未来を。
そんなものは駄目だ、美食殿の一員にあるまじき醜態を晒すよりも帰れない方がよっぽど耐えられない。
主催者に抗うのではなく、言う通りにして帰る道を選んだのにそう時間は掛からなかった。
(キャルさま……申し訳ありません……)
嘗て洗脳されたキャルを救う為に、彼女の精神の中へと入った時の事はよく覚えている。
あの時キャルに向けた言葉に嘘なんて一つもない。
ペコリーヌやユウキと同じ気持ち、コッコロだってキャルの事が大好きだ。
また四人で食卓を囲みたいと願ったのは紛れも無い本心。
(それでも……わたくしは主さま達の元へ帰りたいのです…。だから、少しだけお眠りになっていてください…)
優勝すれば願いを叶えて貰える。
殺し合いの途中でキャルが死んでしまっても、最後には生き返ってまた自分をコロ助と呼んでくれる。
言うなれば、ユウキとペコリーヌの所へ戻る前にほんのちょっぴりだけ眠っていてもらう。
酷い言い訳だと分かっている、自分自身さえ完全には納得できていない。
あれだけ必死に助けようとしたキャルを、今度は反対に殺す。
自己嫌悪と罪悪感で頭がどうにかなりそうだ。
なのに止めるつもりはない。
だってそれしかないから、帰るには他に方法がないから、全部終わったらまた一緒にいれるから。
だからせめて、余計な苦痛を与えずに少しの間眠っていてくれと願う。
美食殿とチマメ隊。
それぞれの大切な居場所を取り戻すための戦い。
第三者が見れば醜悪と映るだろう。
育んだ絆や友情へ、取り戻したいと願う居場所を自ら踏み躙り唾を吐くに等しい行為。
されど二人にその自覚は無い。
増幅した心の闇は己の行いへの迷いを薄れさせ、これで良い、これしかないと現実逃避にも似た肯定を促す。
知らぬ者が見れば目を覆う、彼女達にとっての聖戦が始まる。
【一日目/黎明/E-4 市街地 冴島邸】
【奈津恵@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:オレイカルコスの結界による心の闇の増幅、
[装備]:メグ専用ロッド@きららファンタジア、ゴーストドライバー&ディープスペクターゴースト眼魂@仮面ライダーゴースト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:優勝しゲームに関する記憶を全部消した上でマヤちゃん達を生き返らせる。
1:チマメ隊の絆は永遠、だから私が取り戻すよ〜!。
2:マサツグさんとクウカさんも、最後に生き返らせてあげるね!
[備考]
※ディープスペクターの武器であるディープスラッシャーについては、変身しても出現しません。他の参加者に武器として支給されている可能性があります。
※ディープスペクターへの変身は他の仮面ライダーと同じく魔力を消耗しません。
※オレイカルコスの結界の効果には気付いていません。
【コッコロ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:オレイカルコスの結界による心の闇の増幅 、キャルへの罪悪感(大)
[装備]:ホッパーゼクター&ZECTバックル@仮面ライダーカブト
[道具]:基本支給品一式、オレイカルコスの結界@遊戯王デュエルモンスターズ(アニメ版)、盗人の煙玉@遊戯王OCG(4時間使用不可)
[思考]
基本:主様たちの所へ戻る、たとえどんな手段を使ってでも
1:コッコロは、悪い子になってしまいました
2:キャル様……それでもわたくしは…………
3:カイザーインサイトを要警戒
[備考]
※参戦時期は『絆、つないで。こころ、結んで』前編3話、騎士くんに別れを告げて出ていった後
『施設紹介』
【冴島邸@牙狼 -GARO-】
冴島鋼牙の自宅である屋敷。
居間には美月カオルが描いた絵が飾られており、地下には修練場もある。
倉橋ゴンザが運転するリムジンももしかしたらあるかもしれない。
投下終了です
環いろは、黒死牟、空条承太郎、天津垓、キャル、不動遊星、燕結芽、ポッピーピポパポ(NPC)を予約し延長もしておきます
前半投下します
――はじまらないからはじめた それだけ
おにーさんと、どんな声色で口に出したのか結芽自身にも分からない。
震えてはいないと思う、けれどこれまでと違って温度を感じさせない声。
反応は無い、地面に横たわった彼は視線の一つも寄越さなかった。
赤く染まった衣服を見れば、彼が無事かどうかなんて一目瞭然。
どんなに神業的な腕を持つ名医だろうと首を横に振るしか出来ない有様。
無理だ、手遅れであると誰もが口を揃え同じ言葉を言うだろう。
鬼でも、人狼でも、吸血鬼でも、まして神様でもない。
城之内克也は人間だ、斬られて血を流し過ぎれば死ぬ。
太陽神に焼き潰されて尚死を回避した彼であっても、二度目の奇跡は起こらない。
決闘都市(バトルシティ)の終幕後に行われる筈だった親友との決闘(デュエル)に挑む機会も永遠に失われた。
城之内は死んだ、決して覆せないゲームオーバーを迎えたのだ。
「……」
物言わぬ少年を見つめたまま、己の胸へ手を当てる。
トクントクンと一定のリズムを奏でる心臓、結芽が確かに生きてる証。
傷など負っていない筈なのにどうしてだろうか。
針で刺したような痛みが走るのは。
何か一つ大事なものが欠け落ちて、気持ちの悪い軽さを感じるのは。
城之内は一言も発さない。
事切れた彼の顔に浮かぶのは、苦痛の中で死した者とは思えない笑み。
何かをやり遂げた達成感、これで良かったんだと言わんばかりの安堵感。
後悔を微塵も面には出さない、穏やかとさえ言っても良い、そんな顔。
ああと思い出す。
自分もきっと、彼と同じ顔をしていたのだと。
微かな灯が消えるように命が終わる瞬間、悔いを残さぬ満足気な笑みで目を閉じた。
己の最期に今更後悔は無い。
折神家親衛隊の最年少でありながら、最も時間が無かったのが結芽だ。
与えられたノロの力とて根本的な治療にはならず、ほんの僅かな先延ばしに過ぎない。
だから残された時間を閃光のように駆け抜けた。
例え瞬きの間に無くなる儚い光だとしても、記憶に焼き付く鮮烈な輝きでありたかったから。
生き急いだ果てに実現した衛藤可奈美との斬り合いは、今でも胸を張って楽しかったと言える。
幼いながら先に旅立つ側だった少女は、現在逆の立場となった。
自分を看取った相良学長と同じ、残された側へと。
死後の学長や親衛隊の三人がどうなったかを知る術はない。
でももし、彼女達も今の自分と同じ気持ちになっているのだとしたら。
「これが…ううん、これも悲しいってことだよね」
両親に見放されたと思った時とはまた別の理由。
あの時のような引き裂かれるのとは違うけど、感じる痛みは本物。
共有した時間は短い、親衛隊のような心地の良くて好きな場所とも違う。
だけどこの痛みが嘘ではないのなら、自分はきっと城之内の死を悲しいと思っているのだろう。
膝を折り、変わらぬ笑みの彼へと視線が近付く。
助けて欲しいと頼んだ覚えは無い、いざとなったら自分を守れと言った覚えも無い。
むしろカードを使う間は無防備な彼を守る気でいた。
それでも城之内が庇わなければ、死んでいたのは自分の方だったかもしれない。
咄嗟に急所は避けようとしたけど、どこまで死から逃れられたかは分からないものだ。
だったら、伝えるべきは一つだけ。
「ありがとう、城之内のおにーさん」
涙は流れない、戦意を喪失する程の衝撃でもない。
一生引き摺るなど以ての外。
それでも、生きている内に礼を言えなかったのは何となく心残りだった。
「ふぅ……」
胸に渦巻く少量のしこりを追い払う為の深呼吸。
らしくもなく感傷に身を浸らせるには、状況は依然として優しくないまま。
敵は倒した、桁外れの能力と反則染みた武装で猛威を振るった人狼は髪の毛一本残さずに消滅。
代償としてこちらの被害も甚大だ。
城之内は勿論、指輪の魔法使いの力で前線に立った達也もまた死亡。
戦いの一番の功労者である遊星は生きてはいるものの、決して無事とは言えまい。
全身に負った傷もそうだが右腕は特に酷い、目を覆いたくなる重症。
一度のドローすら不可能なダメージは決闘者として致命的。
生前の城之内が使ったカードのお陰で多少マシになったとはいえ、放置すれば彼らの後を追うだけ。
五体満足で意識もハッキリしている結芽が何とかする他ない。
病を完全に克服した身なれど、蓄積した連戦の疲労は刀使と言えども容赦なく体力を削り取る。
休ませろと訴える脳からの命令も五月蠅いの一言で黙らせ、まずは中断した支給品の確認を行う。
最優先は遊星の治療だ。
デュエルモンスターズのライフ回復カードや、結芽自身が恩恵を受けた万病薬などの類が支給されているのを期待し取り出す。
「何これ、虫?」
手にしたのはコルクで蓋をした瓶。
中には蛍にも似た輝きで飛び回る不可思議な生物が閉じ込められている。
というか、まるで光そのものが生き物を思わせる動きをしているではないか。
もしや外れの支給品を寄越されたかと眉を顰めつつ、同封した説明書に目を通す。
読み終えた彼女は躊躇なくコルクを外し、遊星目掛けて口を向ける。
光る物体が遊星の周りを飛び回り、やがて消える頃には変化が現れた。
「おおー、ほんとに治ってる」
全身に刻み付けられた痛ましい傷跡が幾分か消え去ったのだ。
最もダメージの大きい右腕もへし折れあらぬ方向に曲がった状態から元通り。
流石に完全回復とまではいかずとも、死の危機は一先ず回避したと言って良いだろう。
一回きりの貴重な回復手段だが、この状況で使用に躊躇する程人でなしになったつもりは無い。
何より、まだ名前も知らないけど彼が召喚したモンスターがいなければ多分自分達は全滅の末路を辿った。
城之内からサポートを受けた時に理解した、弱者が群れるのとは違う共に戦うということ。
であれば共闘した相手が死にかかっているのを助けるのも、きっと真希から言われた周りの事を考えるのに繋がる。
遊星の無事を確認したなら次は散らばった支給品の回収。
城之内のデッキや達也が変身したベルトなど、結芽にとっては不要でも放置する理由はない。
返事が無いとは承知の上で二人に断りを告げ、デュエルディスクとベルト、ウィザードリングを外し自身のデイパックに仕舞う。
回収するのは敵の置き土産とも言うべき支給品も同様。
参加者共通の首輪ともう一つ、黒い手袋。
しげしげと眺め、おもむろに手袋を身に着け白い手を覆い隠す。
戦闘中に達也から腕を狙うよう頼まれ、塗りたくった血が城之内の命を奪ったのは記憶に新しい。
説明書を読まなくても手袋に特殊な仕掛けが施されていると察するのに時間は掛からなかった。
手袋を着けた手で九字兼定を引き抜くと、即座に変化が現れる。
かの殺人鬼や先の大尉がやったのと同じく、フレックの手袋の力で神器へと変わったのだ。
元々は特殊な力を秘めた御刀だが、秘めた力で言えば神器化した九字兼定は正に別格。
これ程の優秀な武器は間違いなく今後の戦いにおいて心強い味方となるのは間違いない。
苦戦し面倒な相手と認識しているデェムシュ相手にだって、有利に立ち回れる筈。
「……なーんかズルっぽくていや」
だが神器を手にした結芽の顔に喜びは微塵も無い。
そればかりか不満がありありと浮かび上がっている始末。
確かに、フレックの手袋は強力な武器だ。
そこは結芽も理解しているが、実際に使いたいかは別の話。
自ら鍛え編み出した技でもなく、城之内のようにサポートを受け手にした武器でもない。
言うなれば反則、自分の力でも仲間の協力とも違う。
元々結芽は他の親衛隊のメンバーと違い、荒魂の力を使うのに強い抵抗感を抱いた少女だ。
彼女からしたら刀使の術や自らの剣術ではなく神器と化した御刀に頼るのは、正直言って抵抗感が大きい。
寿々花の御刀を勝手に変化するのも何だか悪い気がする。
不満顔のまま手袋を外しデイパックに放り込む。
にっかり青江が手元に無く今後取り戻せるかも不明以上、若しかしたら使わざるを得ない場面が来るかもしれない。
本当に使うかどうかは状況と結芽本人次第だが。
それはそれとして別の危険人物に拾われても厄介なので、回収はしておく。
この場でやれる事は粗方済んだ。
用は無いうえに派手な戦闘が起きた場に長居するのも宜しくは無い。
疲れた体に鞭を打って移動をするべき、しかしどこへ向かうべきだろうか。
地図を取り出そうと再びデイパックに手を突っ込み、頭上に影が差した。
月明かりに照らされていた筈だが急に雲が出たのかと見上げ、
「えっ?……うぇっ!?」
素っ頓狂な声を出すのも致し方ない。
怪獣がいた。
月光を遮ったのは雲では無く怪獣の巨体だったのだ。
地響きと共に降り立ち、鮮烈な光を発するスカイブルーの瞳が結芽を射抜く。
真紅とくすんだ黄金の皮膚を持ち、太い四肢で攻撃されれば一溜りも無い。
瞳と同じ色の鉱石が突起のように背中から生え、周囲を青く照らす。
「そんなのあり…?」
巨大な異形ならば荒魂で見慣れているが、如何にもザ・怪獣と言った存在には結芽も少々困惑気味。
デュエルモンスターズのモンスターだとしても近くに召喚した者は見当たらない。
まさかこれがNPCとかいう奴か。
強者との死闘自体は別に問題無いとはいえ今は些か状況が悪い。
にっかり青江無しにこのサイズの敵と戦うのは不利。
遊星や城之内が召喚したモンスターなら対抗可能だろうけれど、二人がどうなっているかは言うまでもない。
何より結芽自身、体力的にも限界だ。
(むぅ……使いたくないんだけどなぁ…)
場合によってはフレックの手袋の使用も視野に入れ、遊星を連れての逃走に専念するべきか。
四の五の言ってる場合で無いとは分かるも、使いたくないものは使いたくない。
気を失った遊星を背後に庇いながら構える結芽だが、想像した展開には発展しなかった。
『ちょ、ストップストップ!別に殺そうとして降りたんじゃないわよ!』
威圧感ある見た目とはミスマッチな、慌てる姿。
怪獣が光に包まれたかと思えば、見上げる巨体はあっという間に消失。
代わりにいたのは結芽よりも背の高い、されど平均的なサイズの少女。
何故か頭部には猫耳が生え、臀部に付いた尻尾がスカートの下から顔を覗かせ揺れていた。
コスプレ、と言うには本物の動物の部位にしか見えない。
少女の動きに合わせてピョコピョコ動くのも、作り物にしては手が込み過ぎだ。
怪獣の姿に変わったのは手に持った奇妙な機械を使ったのだろうか。
仮面ライダーなる存在以外にも、ああいう道具があるらしい。
「んー…ま、いっか。何か人間じゃないのも普通に参加してるっぽいし」
「いきなり失礼ね…獣人差別とか今時流行んないわよ」
あっけらかんとした口調でさり気なく失礼な事を言われた。
顔を顰めるも相手には効果が無し。
同じチビッ子でもコロ助と呼んでいる仲間と比べ、生意気な印象がある。
この年頃ならむしろその方が普通かもしれないが。
「とりあえず敵じゃないんだよね?」
「そうよ。この辺りだけいやに荒れてるのが飛んでても分かったから、ちょっと気になって降りてみたってわけ」
猫耳の少女、キャルの言葉に嘘は無い。
A-5を出発し、南下した先にあるらしいメダルガッシャーを目指して早数時間が経過。
トライキングの飛行能力のお陰で、どうにか定時放送が始まる前に目的地に到着できそうと安堵した時だ。
丁度手前のエリア、E-6の異変に気付いたのは。
草木が消し飛び真っ平らになった地面という、異様な光景。
キャル自身もA-5で八つ当たり気味に大暴れし、エリアの一部を崩壊させたから分かる。
これ程に地形を変えられるのはそれこそ自分と同じ怪獣。
或いは、陛下と呼び従っていた「彼」の魔法くらいのもの。
もしやコッコロやヴァイスフリューゲルの面々がカイザーインサイトと遭遇し、戦闘とも呼べぬ蹂躙が起きたのではないか。
起こり得る最悪の展開に焦り、湧き上がる恐怖も仲間の無事を確認せねばとどうにか抑え様子を見に立ち寄ったのだ。
「コロ助達はいないようけど…あたしが来たのは遅かったみたいね……」
コッコロ達が巻き込まれていないらしいのは喜ばしい。
しかし倒れたまま動かない少年達を見たら、素直には喜べない。
彼らの死に何の責任も無いけれど、既に手遅れだったというのにはどこか後ろめたさを覚える。
「別におねーさんが気に病む必要ないんじゃない?」
「そりゃ…まぁ分かってるけどさ…」
結芽としても別にキャルを責める気は一切ない。
どうしてもっと早くに来てくれなかったとか何とか、そんな見苦しい八つ当たりをするのは真っ平御免。
怪獣に変身できるキャルが先程の戦闘に参加していればまた別の結果になったろうけど、結局はたらればに過ぎず言った所で無意味。
大尉との戦闘を行った当事者の結芽が気にしなくて良いと言っている。
それなら、いつまでも気まずい態度ばかり取るのはどうなんだと思い直し切り替えた。
コッコロ達やみふゆと幻徳の仲間の行方も聞きたいし、何が起きたかの具体的な説明も欲しい。
と言っても派手な戦闘が起きたばかりの場所で呑気に立ち話する訳にもいかず、場所を変えた方が良いだろう。
「取り敢えず近くに病院があるっぽいからそこで話さない?そっちの…蟹みたいな頭のやつもそのままにはしない方が良いでしょ」
ペコリーヌがいたら蟹という言葉に反応し涎を垂らすに違いない。
この場にはいない仲間の能天気な姿を想像し、つい呆れ笑いが浮かぶ。
今はそんな緩い状況で無いので直ぐに顔を引き締め直した。
詳細地図アプリで確認したところ、運が良いことにここから北東へ行ったエリアに病院がある。
メダルガッシャーからは遠ざかってしまうが、病院自体そこまで離れてはいないしこれくらいの寄り道なら許容範囲内だ。
加えて病院に友好的な参加者がいて怪獣メダルを持っていたら、譲ってもらえるかもしれない。
それにまぁ、消耗が大きい結芽達を放って置くのも後味が悪い。
素直でなくとも手助けするつもりなのは、お人好しな三人の仲間の影響か。
「じゃあお願いするね、えーっと…猫のおねーさん?」
「って、そういやまだ名前言ってなかったか。キャルよ」
結芽としてもキャルの提案は有難かった。
疲労がピークに達している今の自分では、如何に常人以上の身体能力があれど男を抱えての移動は中々にキツい。
一方キャルが怪獣に変身すれば二人くらい余裕で運べる。
敵と勘違いされ慌てて誤解を解いたり、名前も知らない参加者の死に後ろめたそうな顔をする様子から殺し合いにも乗っていないと見ていい。
それならむしろ断る理由を探す方が大変だ。
病院には悪い思い出の方が多いが、それを理由に拒否するつもりはない。
「あっ、でもその前にちょっと待って」
断りを入れ城之内と達也の死体に近付く。
死んでしまった彼らにしてやれる事と言ったら、精々埋葬してやるくらい。
だが長々とエリアに留まる気はない。
丁度今から病院に向かうのは好都合、霊安室くらいはある筈だ。
弱いから死んだと切り捨てる気になれないのは、協力して戦う楽しさを知ったからで。
死者の片方がそれを教えてくれた少年だからか。
自分でもイマイチよく分からないモヤモヤと、チクリとする痛みに内心で戸惑いながらもデイパックの口を開ける。
大きさに関係無く収納できるのは支給品に限った話ではない。
二人の死体を仕舞い終え、この場でやれる事は本当に全部済んだ。
「お待たせ。ここに置きっ放しにするのもなんかやだから」
「…ん。もう良いなら変身するからちょっと離れてなさい」
言われた通りに距離を取るのを確認し、ゼットライザーへメダルを装填する。
目的地はすぐ上のエリアな為、使うメダルは二枚で良いだろう。
「グリムフュージョン!」
<ゴルザ!メルバ!>
「チェンジ・モンスターフォーム!」
<ゴルバー!>
ゲームが始まって直ぐに変身した合体怪獣、ゴルバーへと変身。
とある世界ではウルトラマントリガーに撃破された怪獣も、ゲームにおいてはキャルに与えられた力の一つ。
「おおー、本当に怪獣になった」
カードからモンスターを召喚するのとはまた違う、参加者自身が巨大なモンスターへ姿を変える。
刀使と荒魂が存在する世界に生まれ、殺し合いで散々超常的な光景を目の当たりにした結芽も驚きを隠せない。
掌に遊星共々乗せられいざ出発だ。
「わぁ…」
怪獣の掌に乗ってお空の散歩。
まるで絵本の中の出来事を実際に味わうなんて、短い時間の中では想像もしなかった。
殺し合いという緊迫した状況なのは十分承知してるけど、どこか胸が弾むのは自分でも仕方ないと思う。
親衛隊の皆が知ったら何て言うのだろうか。
ちゃんと生きて帰れたら教えてあげようかなと考えるその顔は、自慢したくてうずうずしているような、年相応にあどけないものだった。
○
目的地が見えて来るまでにそう長くは掛からなかった。
一エリアは決して狭くは無いが、ゴルバーの機動力ならば人力での移動よりもずっと早い。
地面に降ろして貰うと、キャルも再び元の姿に戻る。
「とうちゃーっく。…あれ?何かこの辺も荒れてない?」
アスファルトはあちこち破壊され、焼け焦げた跡もチラホラ。
自然にこういった傷は付かない、十中八九戦闘の余波によるもの。
当たり前と言えば当たり前の光景。
ここが殺し合いの会場なら真に安全な場所など存在しない。
まして治療目的で病院を訪れる者は殺し合いに反対の者と乗った者、方針に関係無く多い。
既に病院で戦闘が起きたとしても、なんら不思議は無かった。
「もしかしてこっちに来たの失敗だった…?」
戦闘はとっくに終わったようだが、危険人物が勝利し病院内に陣取っている可能性も有り得る。
絶対そうだとは言い切れなくともやはり不安だ。
これならば結芽達を連れ、当初の目的地であるメダルガッシャーに行った方が良かったか。
医療器具が設置されているかは知らないが一応屋内。
少なくとも遊星を寝かせられるスペースくらいは確保できたろうに。
「んー、今更言ってもしょうがなくない?」
「分かってるけど…ああもう、行くしかないわよね…」
結芽に言われずとも、キャルとて今更あっちに行けばと悔やんだって仕方ないとは理解している。
本当に危険人物が陣取っているかは分からず、反対に友好的な参加者がいる可能性もあるのだ。
ひょっとするとコッコロやヴァイスフリューゲルのメンバーが中で休んでいるかもしれない。
誰が病院内にいるにせよ、まごまごし続けては時間の無駄。
頭を振って弱気な自分を追い払い、病院へと進む。
未だ気を失ったままの遊星を左右から支え、一歩一歩近付く。
設置されたライトに照らされる白亜の宮殿は、入り口付近の窓ガラスが砕け散っているのが分かった。
中と外を遮る物を失くし、吹き抜けとなった入り口からロビーの明かりが漏れるのが見える。
いざとなればゼットライザーにメダルを叩き込む準備は出来ており、御刀抜くのに躊躇は皆無。
破片が散乱する入り口へ足を踏み入れようとし、
「「――――っ!!!」」
重圧が二人へと襲い掛かった。
肉体へ直接危害は加えられていない。
彼女達がやった事と言えば、ただ病院の中に入ろうとしただけ。
だがその判断は些か軽率であったかもしれないと、つい数分前の考えを改め兼ねないプレッシャー。
待ち構えるように、或いはこれ以上の侵入を阻む為か。
二人の前にソレが姿を見せる。
院内に設置された淡い光が照らす異形の貌。
纏う空気はさながら抜き身の刃、近付くことすら憚れる存在感。
おおよそ人の命を助けるドクター達の戦場には似つかわしくない者。
腰に下げた得物はさながら死の淵を彷徨う半亡者の魂を刈り取る鎌で、振るう当人は冥界の遣いか。
知らぬ者は腰を抜かし、命だけはと慈悲を乞うだろう怪物。
上弦の鬼、黒死牟が来訪者たちを見据えた。
前半投下終了です。残りはもう暫くお待ちください
中編投下します
◆
ごくりと、生唾を飲み込む音がキャルにはやけに大きく聞こえた。
それ程に緊張を隠せない。
全身から噴き出した汗が衣服を濡らす不快な感触。
ヒリつく空気に喉が渇き、飲み物が欲しいと一瞬場違いなことを考えてしまう。
(な、なによコイツ…こんなヤバそうなのが病院にいたの…?っていうか、めちゃくちゃ顔恐い……)
人間でない種族くらいランドソルにも存在する。
獣人や魔族、エルフなど珍しくもない。
人語を話す乙女なリャマとか、プリンが大好物の幽霊とか、巨乳好きのスケベなドクロ親父とか。
個性的な面々が住まう、それがランドソルだ。
しかし今目の前にいるのはそういったコミカルな住人とは明らかに違う。
人に近い形をしながらも、決定的に人では有り得ないおぞましい気配。
隠し切る事の出来ない濃密な血の臭い。
纏う空気の重苦しさは、大型の魔物と遭遇した時でさえ滅多に味わえるものではない。
そうだ、これは殺し合いだ。
しかもあのカイザーインサイトでさえ参加者側に登録される魔境。
であるならば、息を呑むような怪物がゴロゴロいても何ら不思議ではない。
分かり切った事実とはいえ改めて、自分達が巻き込まれた状況に戦慄を抱く。
(やっぱり、このおにーさんも強い…)
互いに剣を抜いてはいない、今はまだ睨み合っているのみ。
されど、細胞の一つ一つを突き刺すようなプレッシャーに確信する。
目の前にいるのは紛れも無い強者、真紅の騎士や軍服の男にも引けを取らない怪物。
刀使でも荒魂でもない、結芽の知らぬ世界の妖剣士。
残り少ない時間の中を閃光のように駆け抜けた、元の世界では出会わなかった男達。
自分の最期に文句を付ける気はないが、全くどうして次から次へと不満を抱かざるを得ない相手とばかり遭遇するのか。
「キャルおねーさん、おにーさんのことお願い」
「えっ?ちょ、ちょっと…」
遊星をキャルに預け、返事も待たずに男と対峙。
数では気絶した遊星を抜いても、2対1でこちらが有利。
だが男が持つだろう実力を考えれば、数の差など大した問題にはならない。
キャルは怪獣に変身可能だが、ノータイムで姿を変えるのは不可能。
ウルトラゼットライザーにメダルを装填する工程が必要不可欠。
その僅かな準備段階でさえ、男相手には致命的な隙と化す。
「じゃあ結芽が何とかしてあげる!」
遊星を連れて一旦下がるくらいの時間は稼げるつもりだ。
万全には程遠くとも、病院に着くまでの移動時間で多少は体力も回復済み。
その後で怪獣になり病院から逃げるか、男を倒すかは戦況次第。
勝てそうもないから逃げるというのは正直腹が立つが。
先手必勝、抜き放った九字兼定が狙うは男の頸。
病院の明かりを反射する刀身が血で染まるのに数秒と掛りはしない。
写シにより身体を霊体へと変質、引き上げられた身体能力持っての突撃。
常人では靡く長髪の先すら目視不可能な一撃なれど、斬った手応えは無し。
「……」
「うわっ、刀の趣味わるーい」
結芽の動きと同様に、男が抜刀した瞬間もまた常人では決して捉えられない。
腰に下げたまま、柄に手を掛けてすらいなかったのに。
一体いつ抜き放ち、襲い来る一撃を防いだのか。
必要な動作を数段階すっ飛ばしたとしか思えない、恐るべき反応速度。
されど防がれた結芽本人に驚きは皆無、この程度はやってのけるだろうと分かっていた。
なれば一々驚愕に意識を裂くのは無駄以外の何者でもない。
ギョロリと刀身にへばり付いた無数の眼に睨まれ、煽るように軽口を返してやる。
挑むは燕結芽、得物は九字兼定。
迎え撃つは黒死牟、得物は虚哭神去。
片や人を守護する剣士なれど、鬼狩りに非ず刀使である。
片や人に害を為す異形なれど、荒魂に非ず鬼である。
生まれ落ちた世界は違えども、相容れぬ立場の両者が語る手段は剣を置いて他にない。
(硬いっ…!)
結芽が斬り掛かり黒死牟が防いだ。
どちらも膠着状態を維持する気はなく、先に押し込まんと動いたのは結芽の方。
だが敵は不動、翳した体勢からほんの数ミリすら体勢を崩せない。
手にした得物はデェムシュの大剣よりも細い。
だというのに折れず砕けず、使い手自身も微動だにしない。
人ならざる存在故かやはり膂力も異様な高さ、押し込む筈が反対に押し返される。
後方へとよろけた瞬間を狙う異形の刀。
敵の膂力を考えればこのまま防いだとて吹き飛ばされるだけ。
八幡力で腕力を強化、両手で構えた御刀が黒死牟の攻撃を阻む。
写シを使用中は死ぬ心配がないと言っても、余計な傷は負わないに限る。
長々とした鍔迫り合いは向こうも望まないようで、御刀に圧し掛かる重みがふっと消失。
次いで迫り来る真横からの殺気。
目で追っていては対処が間に合わない、肌を刺すような痛みへ刀を振り上げた。
ほぼ直感に任せた動きにミスは無く、弾かれ合う刃と刃。
一方的な攻撃を許すのは結芽の趣味じゃない、こっちも攻めに移らせてもらう。
「今度は結芽の番だよ!」
飛び退き一旦距離を取る。
敵の接近を待たずにこちらから再度距離を詰め攻撃。
単に駆け寄るのでは足りない、迅移を使った上での突きを繰り出す。
最初に斬り掛かった時以上の速度を以て急所を狙う。
使うのが本来他者の御刀な為、発揮可能な速さの劣化は避けられない。
それでも易々と対処は不可能な最速の一撃に、肉を貫いた感触は皆無。
皮一枚にすら届かぬ事実を噛み締める暇は与えられず、防御の構えを取った。
「あっぶな…!」
防御の成功を理解すると同時に刀を振るえば、向こうも己が得物で迎撃。
響き渡るは夜の静寂を掻き消す、苛烈な死合の音色。
飛び散る火花が夜明け前の戦場を照らし出す。
刀と刀の打ち合い。
互いに得物は同じだというのに、結芽は大岩を叩きつけられている気分だ。
八幡力で強化した腕力であっても両手の力を僅かに抜かせば、弾き飛ばされるだろう威力。
馬鹿正直にぶつけ合ってはこちらの疲労が余計に溜まるのが先か。
判断してからの行動は迅速、姿勢を低くし横薙ぎの剣を回避し脇腹を掻っ捌かんと振るう。
(っ!?速い…!)
着物の端にすら掠めさせず、黒死牟の姿が消失。
否、結芽が攻撃に移ろうと動きかけた時点で敵は次の動作を実行したのだ。
視界を頼りにしては間に合わない、五感全てを活用しなくては。
長髪を揺らす不吉な寒風、敵の位置は上と察知し斬り上げを繰り出す。
結芽の判断は正解だ、跳躍し頭上から振り落とされた虚哭神去と激突。
幼い体へ刃が触れる事は防げても、攻撃自体の勢いまでは殺せない。
あらぬ方向へと吹き飛ばされる結芽へ、瞬く間に黒死牟は距離を詰める。
が、尋常ならざる速さを持つのは結芽も同じ。
迅移を使い刀の届く範囲から逃れ、仕切り直しだ。
「無一郎より幼く……疲弊した身で……よくぞここまで動けるものだ……」
「おにーさん喋れたんだね」
淡々と吐き出された言葉は称賛か、黒死牟からしたら単に事実を羅列しただけかもしれない。
大尉が一言も喋らなかったので今回も同じかと思ったが、普通に言葉は発せられるようだ。
薄く笑い軽口を叩き、内心で敵の強さを噛み締める。
(分かってたけど強いなぁ…)
八幡力でも押し返せない力も十分危険だが、速さも相当脅威だ。
デェムシュの時はそもそも迅移を使っても外骨格を貫けなかった。
だが黒死牟は迅移を使われても同等の速さで避け、あっさりと反撃を行う。
強いとは分かっていた、分かっていたけど実際に剣を交えればやはり感じるものは違って来る。
(うーん、どうしよ…やっぱり楽しくてワクワクして来た)
気絶した青年がいて、彼を連れてキャルが下がるまでの時間稼ぎのつもりで。
自分自身、体力に余裕は無く今も息が上がっている。
だというのに心は沸き立ち、体中が高揚感に包まれてしまう。
体力の回復を訴える脳からの正論すら、もっと戦いたい欲求に押し潰されそうだ。
デェムシュと斬り合い、大尉と命を削り合い、そして黒死牟との殺し合い。
満足し終わりを迎えた筈の自分へ、どうして彼らはこうもその強さを見せつけて来るのか。
それに何より、やっぱり刀を使う者同士の戦いは心を滾らせる。
次はどんな動きで来る?どんな技を見せてくれる?自分だって相手を斬り勝ちたい。
ああ本当に困った、疲れてあまり動けない筈の体を強引にでも動かす燃料が流し込まれてしまう。
額から汗を垂らしながらも、瞳が期待に満ちるのを結芽自身にも抑えが効かない。
困ったなぁと本当に困っているのか分からない顔で呟いた。
(でも、何か勿体ないな)
黒死牟の強さは斬り合いを通じて理解したが、同じく分かった事がある。
彼は自分の剣に何も宿らせてはいない。
デェムシュのように己をも壊し兼ねない憤怒はない。
大尉のようにどこまでも闘争を求める貪欲さはない。
可奈美のように真剣勝負を心から楽しむな心意気など微塵も有りはしない。
こんなにも強いのに、黒死牟は空っぽなまま刀を振るっているに過ぎず。
それだけがどうにもつまらなかった。
と、呑気に思考を割く休憩時間は十秒と経たずに終わりを告げる。
先に動きを見せたのは黒死牟だ。
刀を鞘に納めた。
交戦の意思は無いと言うのだろうか、それとも降参のつもりか。
どちらでもない、その証拠に黒死牟の纏う気配が一段と濃さを増したのだから。
何をするつもりかは、刀使の世界に身を置いた結芽に分からない筈が無い。
居合術、刀を鞘から抜き放つ動作で敵を斬る。
しかしこのプレッシャーを直に浴びれば、単なる居合の類でない事もまた明白。
(技が来る…!!)
刀を振るうだけではない、より高威力の技へと昇華させた一撃が今まさに放たれんとしているのだ。
ゾクゾクしつつも対処法を即座に弾き出さねばならない。
迎え撃つのか、防ぐのか、躱すのか。
どれにするかと悩む時間すら余りに惜しい。
敵はこちらとある程度距離が離れており、今の位置で抜刀しても空振り確実。
当てるならば抜刀の直前で接近し、刀の間合いに自分を閉じ込めるつもりだろう。
故に動き出す予兆を見極める。
空気の揺れ、発する音、極僅かな動きすら見落とせば対処は不可能だ。
地獄の釜の如く、黒死牟の血液が煮え滾り力を齎す。
羨望と嫉妬に突き動かされるまま、執念で我が物とした呼吸法。
鬼を斬り人を守れとの願いを踏み躙る、魔刃の脅威が放たれる。
――月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮
両手の指と同じ数だけの歩数が必要な距離。
それが瞬間移動かと疑わざるを得ない速度で詰められ、刀が振り抜かれる。
上半身と下半身を綺麗に分断する末路はお断りだ。
黒死牟の抜刀とほぼ同時に結芽も動き出す。
既に打ち合いを経て虚哭神去の長さは把握し、攻撃範囲外且つ即座に反撃へ移れる距離を弾き出した。
迅移による回避は成功、切っ先は制服の端スレスレを虚しく通過するだけ。
ではこれは、頭頂部から足の先までを駆け巡る猛烈な悪寒の正体は何だという。
(あっ、これ駄目だ)
刀の届く範囲からは逃れられたと、そう思い込んだのは大間違いだった。
より濃密な気配と化す死の予感。
肉体の内側から蝕む病魔とは違う、刃を以て命を斬り捨てる純粋なまでの暴力。
写シを張っている以上は両断されようと死にはしない。
分かっているのに明確な死を連想させる禍々しい刃が襲う。
回避は最早無理と判断、金剛身で肉体を硬質化させる。
短時間しか効果が無い故に発動のタイミングはシビアだが、使うべき瞬間を結芽は見誤らない。
鉄同士を叩きつける騒音が互いの鼓膜を痛めた。
「っ、のぉっ!」
胴体のみならず四肢や首をも斬撃の餌食と化す。
金剛身による防御は間に合ったが、振るわれた刀の勢いはこれまで以上。
突風で吹き飛ばされる花弁のように、結芽の両足が地面から離れる。
宙で体勢を整え着地に備える、そんな余裕を持たせてくれる鬼はいない。
地を蹴り結芽の眼前へと到達、向こうからの言葉を待たずに腕を振り上げた。
――月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月
両腕が落ち、股から頭頂部までが真っ二つと化し落ちる。
病院前のアスファルトを汚す血と臓物は見当たらない。
写シによるダメージの肩代わりは、上弦の鬼と言えども破れはせず。
解除され元の肉体に戻り、着地を待たずに再び写シを発動。
短時間での連続使用にただでさえ削られていた体力が、ごっそり持って行かれた。
「――っ!!あはっ…!」
悲鳴を上げる肉体を歓喜の笑みで黙らせる。
疲れた?限界?知るか、今とっても楽しいんだから邪魔しないで。
ああでも駄目だ、今は自分が楽しければ良いだけの戦いじゃないんだから。
(分かってる…分かってるんだけどっ…!)
溶け落ちる寸前の蝋燭だった自分の命。
未来がない筈の肉体はまだ見ぬ世界へ飛び込む資格を得て、心をどうしようもなく燃え上がらせる強者と斬り合える。
外も内も火傷しそうな熱を帯び、歓喜で頬が紅潮し、両目は苛烈な光を帯びる。
「ほんっとに…強いなぁっ…!」
自分とは正反対の冷え切った顔で、振るう刀が捌かれ躱される。
強い相手なのは楽しいがこうも当たらないのはそろそろムカつくものだ。
ほぼ確実に当てられて、戦いを有利に動かすには黒い手袋の力を使えば話は早い。
だがそれは非常に気に入らない、可奈美との戦いの際に荒魂が勝手に出て来た時にも似た不快感がある。
ああ、ああ、だけど、遊星とキャルの存在がそんな拘りにほんの小さな罅を――
「っと!あっはぁ…♪つまんなそうな顔してる癖に、遠慮しないんだねおにーさん!」
八幡力で強引に弾き逆に突きを放つも案の定空振り。
腹が立つくらいに当たらないとは、まるでどこから攻撃が来るかが予め分かっているかのよう。
人間ではないが故の高い動体視力を駆使した回避。
だから自分の攻撃はずっと避けられているのだろうと納得しかけ、
(……?何だろ。何か……違う気がする…?)
上手く説明できないが、そうじゃない気がしてならない。
この男は自分の動きを見ている、それで攻撃を避けている。
本当にそれだけか?
人じゃ無いから動体視力も人以上。それはあるだろう。
目が六つあるからそれで普通の人よりも、相手の動きを捉えられる。それももしかしたらあるのかもしれない。
敵は自分を見ている、自分の動きを見ている、だがもっと他に何かを見ているのではないか。
未来予知にも似た先読みは本当に動きだけを見て可能なのか?
相手の目に自分は見えている、相手は一体どんな景色を見ている。
頭が冷える、鼓動が落ち着く。
戦いに興味を失くしたのではない、遊星達のことがどうでもよくなったんじゃあない。
敵が見る世界の正体を見極めたくなった。
デェムシュのように体を霧に変え火球を放つ、怪物特有の能力はいらない。
大尉のように手にした物全てを神器に変え蹂躙する、道具で後付けした力はいらない。
自分の強さにずっと自信を持って来た。
強くて凄い自分を、誰よりも強い可奈美の記憶に焼き付けたかった。
しかしふと思う。
病から解放され、タイムリミットとは無縁の体になれたのなら。
生前の体では叶わなかったけど、今はもっと強くなれるんじゃあないか。
――『結芽ちゃんの太刀筋…もっと見たいからっ!』
強くなって、もう一度彼女と戦いたい。
満足した筈なのに、そんな我儘を一つ考えてしまった自分が何だか可笑しくて笑みを零す。
だから、敵が見ている世界の正体を見極める。
ソレが人をやめて手に入れた力でも、道具に頼った力でも無く。
彼自身が修練の果てに会得した力ならば、自分もきっとそこへ辿り着ける筈。
肉体の全ての機能を用いろ。
においを嗅ぎ取り、気配を察知し、動きを見据え、音を聞き、唇に触れる空気の違いすらも感じ取れ。
体の部位一つ一つ、全てが自分を勝利に導く武器となる。
刀だけではなく体すらも武器ならば、余すことなく正確に認識しなくては話にならない。
病魔の巣食う体で随分無茶をさせて、これからも一緒に戦う自分の体を。
鬼が刀を振るう。
月が血を求め、肉を喰らいに降り注ぐ。
――月の呼吸 参ノ型 厭忌月・銷り
死が、刃へと形を変えて襲い来る。
半円を描いた巨大な斬撃が、無数の三日月を引き連れ現れた。
数多の鬼狩りを無念のままに黄泉の国へと落とした、凶月を前に、
「――――え?」
結芽の世界が変わった。
全てが遅い、空気の流れすらも亀の歩みよりもひたすらに緩やか。
時間にすれば一秒にすら達しないほんの一瞬の世界で、結芽は動いた。
四肢が、頬が、幼い体に刀傷が刻まれる。
全てが致命傷には程遠い、間近に迫った斬撃へたったこれっぽちのダメージ。
技を放った侍の肉体が僅かな間、透けて見えた。
鼓動を繰り返し、煮え滾る血液を送り込む心臓を。
鋼鉄の弦の如き鍛え抜き、束ねられた筋繊維を見て、得られた情報に何故と疑問を抱くのも後回しにし回避行動へと直行。
筋肉の動きから次に来る斬撃の位置を割り出し、結果写シを剥がされる程のダメージは受けていない。
(今のって…)
尤も結芽本人は予期せぬ現象に理解が追い付かず、硬直したまま。
見間違いと言い切るのは簡単だが、自分は確かに奇妙な世界を見た。
全てが有り得ない程にゆっくりで、皮膚に覆われた体の下が晒されたのを。
透き通る世界。
嘗て、上弦の参が追い求め終ぞ足を踏み入れる事すら叶わなかった至高の領域。
武を極限まで鍛えた者だけが到達できる境地。
他者の身体の中をその名の通り透き通るように感じ取り、骨格や筋肉、内臓の働きさえも手に取るように分かる。
より高みへと位置する者は身体内部の動きから攻撃の先読みをも可能とする、正に武を極めた者にのみ許された高等の力。
黒死牟自身も修練の果てに到達した領域へ、ほんの僅かな、使いこなすには程遠い片鱗とはいえ結芽も至った。
燕結芽という少女は、天才だ。
幼くして御刀に認められ、たった一人で複数人の刀使を薙ぎ倒す才能の持ち主。
親衛隊で唯一荒魂の力を使わずに、最強の座へ君臨した。
そんな結芽に唯一足りなかったのは時間。
刹那に光り輝き煌きを焼き付けた彼女に与えられたのは、終わった筈の物語の延長戦。
神が用意した舞台にて結芽と対峙したのは、本来決して相まみえる事がない異形の戦士たち。
進化を果たしたオーバーロードインベス、闘争の果ての死を求める人狼、そして上弦の壱。
本来の御刀が手元に無く本領を発揮できない不利な状態であっても、この地での死闘は一つ上の段階へと押し上げる糧として結芽の中に根付いたのだ。
とはいえ、今しがた起きた現象を結芽が正確に理解しているかと言えば違う。
突然何の説明も無しに、一瞬だけだが見える世界が変化し混乱しない方が少数。
つまり今の彼女はゲームにおいて珍しい事に、隙だらけとなっている。
「あ、やっば…!」
己の迂闊さに気付き我に返った時には手遅れ。
視界いっぱいに刀を振り被る侍が映り込む。
見下ろす六眼に勝利への喜びも達成感も表さず、無感動に斬り付ける。
写シは張ったままだが避けられない一撃を受けては確実に剥がれてしまう。
来る衝撃に全身を強張らせ、
「…………あれ?」
斬られていない。
振り下ろされた筈の刀は首に添えられたまま、それ以上動かされる気配も無い様子。
ギョロリと刀身の眼と視線が合い、思わず嫌そうな声を漏らす。
それを聞き届けたのか定かではないが刀が離れ、鞘に納めるのが見えた。
鍔が奏でる心地良い金の音、一拍置き首を傾げ尋ねる。
「なんで?今斬れたのに」
情けをかけるような性質ではないだろう。
女や子供に手を上げたくはない、というのもない。
写シを張った霊体なのを考慮しても散々斬られたのに、何故今更武器を納めたのか理解不能だ。
「屠り合いを……是とするならば……その通りにした……」
「えっ?えーっと……」
言葉の意味を噛み砕き、理解に繋げる。
もう少しきちんと説明して欲しく、微妙に言葉が足りない。
ただ分からない訳でもないので、やがて導き出された答えを口にした。
「もしかして…おにーさん殺し合いには乗ってない?」
「……」
「結芽の早とちり……だったりする?」
「…………」
沈黙は肯定も同然。
何とも締まらない結末へ呆れるかのように、二人の間を風が吹き抜ける。
戦闘開始から1分と36秒が経過。
短時間の中で行われた苛烈な斬り合いの幕切れだった。
◆
「はぁ!!!!??!」
「おねーさん声大きいよ。耳がキンキンしちゃうんだけど」
「大声も出すに決まってんでしょ…!」
人差し指を両耳に突っ込み、あからさまに五月蠅いんだけどアピールをする。
小生意気な少女らしい仕草もキャルには余計な刺激を与えるだけだ。
結芽の意思を汲み取り遊星をある程度離れた場所まで運んだ後、大急ぎで戻って来たキャルが見たのは予想外の光景。
どこか気まずそうな空気が漂う中で突っ立ている男と少女。
離れた位置からでも激しい戦闘音が聞こえ、その内ピタリと何も聞こえなくなった
てっきり血で血を洗う凄惨な場と化し、結芽が危機に陥っていると考えたのだがとんだ肩透かしを食らった気分だ。
「ごめんね〜。恐い顔して睨んで来るからつい、やっちゃった♪」
「あたしの心配返しなさいよぉ!」
申し訳なさと気まずさとで頬を掻きながらも、にっかりと笑って謝罪を口にする。
キャルからしたら結芽が殺される最悪の展開も考えただけに、非常に納得がいかない。
死者が出ず、ゲームに乗っていない者同士で取り返しの付かない事態にならなかっただけマシではあるが。
(うーん…少しは我慢するつもりだったんだけどなぁ)
とんだ勘違いをやらかしてしまった自分に、言い表せない感情を向ける。
もしここにいる自分が可奈美との戦いを経験していなかったら、それこそ城之内に言った別世界の自分とかだったら。
多分黒死牟を見た瞬間、余計な事は考えずに斬り掛かっていたと思う。
でも今こうして生き返ったのは、そうならなかった結芽。
強者へ興味があると言っても事態が事態だし自重くらいはする。
なのにさっきは黒死牟と言葉を交わすより早く、放たれるプレッシャーに反応し斬り掛かった。
(もしかして結芽、焦ってた?)
城之内が死んでそう時間を置かずに黒死牟と遭遇し、また協力して戦った相手が死ぬと思ったのか。
繰り返しは御免だと、冷静に考えるより先に刀を抜いたのか。
らしくない、というよりは自分がそういう行動に出るとは想像もしていなかった。
城之内の存在が協力して戦うのも楽しい、こういうのも悪くないと思わせてくれた。
でも彼が自分に遺したのは楽しいだけじゃない、痛くてあんまり気持ちが良くないもの。
自分を置いてずっと遠くへ逝ってしまう、悲しみもだ。
強い人と戦う、皆と協力する。
楽しいそれらとは違う、出来れば味わいたくない痛み。
自分を変な行動に走らせた原因がこの痛みなら、やっぱり良いものではないんだろう。
「というかあんたもあんたよ…。誤解ならもっと早くに言いなさいよ!何か普通に斬り合ってたし!」
「……」
「うっ…、な、なによ、ベ、別におかしいことは言ってない、じゃないのよ…」
「おねーさん恐いの?」
勝ち気な口調で黒死牟に文句を言うも、六眼を向けられ語気が弱まる。
殺し合いに乗っていないにしても見た目の恐さは変わらない。
怪獣に変身するのに等身大の相手は恐いのか。
青褪めるキャルを何とも不思議そうに見つめ、ふと思い出したように黒死牟へ問い掛けた。
「それにしてはおにーさん、結芽のこと結構本気で斬ってなかったっけ?」
「実体を持たぬお前を斬ったとて……死にはしないだろう……」
「へぇ、写シの仕組みに気付いてたんだ」
透き通る世界が最初に捉えた結芽の肉体は、童女ながらも剣士として作り上げた肉体。
だが全身から光を放った直後、肉体内の器官が消え抜け殻にも等しく見えた。
まるで数時間前に斬り飛ばした騎士、デェムシュが全身を気体に変えた時のように。
故に生身へ戻らない限りは斬っても恐らく死には至らないと判断。
躊躇せずに刀を結芽へ届かせたのである。
「……」
ある意味では、勘違いから起きた戦闘は都合が良かった。
屠り合いが始まり早数時間、未だに方針を決められない腑抜けな自分。
主への忠義を尽くさず、弟をどうするかも分からず思考を停滞させる無様な己。
そして、考える必要は無い筈なのに、脳裏へ根を張り離れない桜色の少女。
絡み付くそれらに思考を割くよりは刀を振るっている方がまだ良い。
しかし結芽との斬り合いを思い返せば返す程、デェムシュに言われた言葉が蘇る。
伽藍洞の、人形の剣。
その通りだ。
無限城で柱達を相手取った時のように、よくぞ鍛え上げたと感心し昂る事も無く。
淡々と、大きな理由も抱かず剣を振るう己は確かに、空っぽなのだろう。
無惨の配下として為すべき事を為さない。
嫉妬と憎悪を燃やし縁壱を斬ろうにも、傀儡と化した弟へ何を感じているのか自分でも判断が付かない。
流されるままに剣を振るう自分が、明確な感情を宿し斬り殺さんとしたのはあの時だけ。
―『だって……この笛…黒死牟さんの…大事なものみたいだったから……』
自分に付いて回る娘が、気が狂ったとしか思えない行動に出た時。
それまで特別熱を抱かなかったというのに、嘲笑するデェムシュがやけに目障りだった。
殺して黙らせようと決めたくらいには苛立ったが、具体的な理由までは分かっていない。
(あの娘は…………)
「そろそろ良いか?」
またもや余計な事を考えそうになり、丁度良いタイミングで中断される。
聞こえた声に軽く視線をくれてやると、特徴的な髪型の少年がいた。
こちらへ近付いて来る気配には当然気付いていたが、敵意は感じないので別に仕掛ける理由もない。
「あれ、何時の間に起きたの?えーっと、蟹のおにーさん?」
「言い争うような声が聞こえて、目を覚ましたら知らない場所にいたんだ」
冷静に努めてはいるが気付かない内に変化した状況には、若干の戸惑いが見られた。
気絶から意識を取り戻した青年、遊星は改めてこの場にいる面々を見回す。
城之内から結芽と呼ばれていた少女。
名前は知らず顔も今初めて見た、人間にはない特徴を持つ男と少女。
「戦士族と獣戦士族のモンスター、か?」
「おにーさんまだ寝惚けてない?」
冷静に言われ頭を振る。
彼女の言う通り現実への覚醒が少しばかり出来ていない。
軍服の男と戦ったエリアではない、見知らぬ病院らしき建物の近く。
いる仲間といない仲間、何者なのか分からない者達。
重傷を負った筈が元の形を取り戻した己の右腕。
意識を落としている間に何が起きたのか、一つずつ確認の必要がある。
真っ先に聞きたいのは、姿が見当たらない少年の行方。
「君は結芽、で良かったか?名乗る余裕も無かったが、俺は不動遊星だ」
「遊星おにーさん、だね。結芽の名前は…あ、城之内のおにーさんが言ってたから分かるか」
「ああ。その城之内は、どこにいるんだ?」
そう聞かれるとは分かっていた。
死んだと、簡潔に伝えれば済む話。
けれど少しだけ言葉に詰まり、言おうとした内容が出て来ない。
遊星が訝し気な顔をする前に口を開き、何があったかを説明する。
どんな顔をしてるかは自分でも判断が付かないけど、笑顔とは程遠いことくらいは鏡を見なくても分かった。
「そう、か……。達也と、城之内も……」
姿が見えない理由に、そうだろうという予感はあった。
だが信じたくはない、先の戦いで共闘しただけの間柄でも、共に強敵へと抗った仲間なのだから。
それのやはりというか、達也も助からなかったらしい。
自分が気絶する直前の彼は、医者でない自分から見ても助かる見込みはほぼゼロ。
意識を失いすぐ力尽きたのだという。
「っ……」
結芽が治してくれた右手の拳を握り締める。
あの状況で遊星に出来た事は無い。
仮に気絶しなかったとしても、ドローすら不可能な傷を負った体では、死にかけとはいえ猛威を振るった軍服の男を止めるなど不可能。
誰が聞いても遊星が責任を感じる必要は無いと言うだろうし、結芽からも責められる言葉は一つも向けられなかった。
理解してはいるが意識を失くしている間に仲間の命が奪われたのは、どうにもやるせない。
喪失の悲しみを遊星は既に味わっている。
凄腕の腕を持つメカニックであり、人懐こい性格だった友。
敵対し本気の決闘(デュエル)の果てに、想いを吐露したチーム5D'sの仲間。
希望の未来を託し彼がブラックホールへと姿を消した時の、今でも思い出す慟哭する自分。
同じように涙は流れない。
けれど無力感と悲しみは遊星自身にも止められず、毒のように蝕む。
「あの…ちょっといい?」
安易に声を掛けるのは憚れる空気と察しながらも、意を決し話しかけるのはキャルだ。
仲間の死にショックを受けている所で話を切り出すのは正直気まずい。
様子を見て黙っているべきなのかもしれないが、ずっと入り口の前で立ち尽くしている訳にもいかない。
「あんたの邪魔をするつもりはないけど、そろそろ中に入った方が良いんじゃない?遊星、だっけ。あんたまだ結構ボロボロだし、それに…」
何か言いたげに視線を投げかけるキャルをこちらも見ると、小さく悲鳴を上げられた。
自分の容姿の醜悪さは自覚しているので、今更そういった反応があっても別に何とも思わない。
ただキャルだけでなく残りの二人の目も自分へ向いてると分かり、彼らが自分にも説明を求めているとは黒死牟にも察せられた。
「……」
いろはは眠りに落ち、承太郎なる少年も目を覚まさない。
それならもう一人、天津と名乗った男に説明役を放り投げるか。
鬼である自分を除けば病院にいる参加者で最年長。
病室での情報交換も滞りなく進めており、キャル達からしても黒死牟が話すよりも遥かにマシだろう。
「付いて来い……」
短く告げ踵を返せば背後からの反応は三者三様。
「ああ」と同じく短い返事をし後に続く青年。
「流石に疲れちゃったなー」と呑気に言う声に、「もう、世話が焼けるんだから…」と文句を口にしつつもおぶってやる気配。
誤解から始まった戦闘を終え、奇妙な一団はようやく病院内へと足を踏み入れた。
中編投下終了です。続きはもう暫くお待ちください
残りを投下します
◆
電脳救命センター、またの名をCR。
主にゲーム病患者の特別治療を目的として、聖都大学附属病院の地下深くに設けられたエリア。
仮面ライダークロニクルを巡る一連の事件が終息してからは主に、ゲーム病により消滅した患者たちを復元させる方法の確立を最重要課題として、ドクター達が日々勤しんでいる。
とはいえそれはあくまで「本来の」CRにおける話。
現在この場所に設置されたのは殺し合いの為に用意されたレプリカ。
ゲーム病患者は当然のこと、一般の患者や医療スタッフすら影も形も見当たらない。
だがレプリカと言っても、用意したのはゲーム開発に一切の妥協を許さない檀黎斗。
名前は同じで外見だけを似せて作り、中は単なるハリボテ。
マップを未完成のまま販売するクソゲーの如き愚行は、ゲームマスターとしてあるまじき行い。
であるならば当然の如く聖都大学附属病院の完全再現を完了させている。
一般病棟のみならず、CRも設備どころかホワイトボード用のペンやマグネットという事務用品に至るまで全てが本物のCRと同じ。
そんなゲーム開発者の拘りを見せる地下空間に、一人の参加者の姿があった。
天津垓。ZAIAエンタープライズの元日本支部代表にして、現在は自らが設立した新会社の代表取締役。
正史においてはCRのドクター達と何の関わりも無く、ましてCRに足を踏み入れるなど有り得ない。
肩書きは一般市民から程遠くとも立場的には部外者。
必然的にエレベーターを利用し降り立ったこの場所が一体何なのか、天津には知る由も無い。
分かる事と言えばここは因縁ある主催者、檀黎斗と関係があるらしい。
具体的にこのCRなる場所と黎斗の関係など諸々を知る方法は目の前に存在する。
『うぅ〜頭がピヨピヨしてきた…』
ゴテゴテした筐体の中にいる、黎斗からはポッピーと呼ばれた不思議な女性。
つい先程「ピプペポパニック」と叫んだように、現在進行形でパニック状態なのは見ての通り。
彼女と黎斗の会話から察するに、どうもポッピーは黎斗を前々から知っている。
ヒューマギアの黎斗と一悶着あった自分以上に黎斗とは近しい。
わざわざ黎斗自らお助けキャラと明言したのだ、ロクな情報を持っていないとはならない筈。
自力で混乱から回復するのを悠長に待ってはいられない。
少々強引だが話を聞かせてもらう。
「失礼、色々と理解が追い付いていないのは承知ですが宜しいですか?確か…ポッピーピポパポ?」
『へっ…?あ、あーごめんなさい!えぇっと、あなたは……』
「申し遅れました、私は天津垓。永遠の24さ…今これはどうでもいいか」
『…?まぁいいや。それより!あなたはどうしてここにいるの?というか、もしかしてクロトの知り合い?』
質問するつもりが逆に聞かれてしまった。
どうもポッピーの方にも疑問は多い。
というか今何が起きているのかを把握出来てはいない様子。
殺し合いと言う名のゲームに巻き込まれた大前提を理解しているかも怪しい。
本題に入る前に、まずはそれらの説明が必要だろう。
「聞きたい事は多々あるでしょうが、まずは我々の置かれた状況を説明させてくれませんか?」
『状況…?クロトがまた何かタイヘンなことを始めちゃったの?』
「ええ……」
また、と口にしている辺り黎斗がゲームと称してロクでもない騒動を引き起こすのは今に始まった事では無いらしい。
以前から振り回されているだろう相手へ内心で同情しつつ、状況を簡潔に伝える。
神を自称する黎斗と、彼が始めた悪趣味極まりないゲーム。
既に複数人の犠牲者が生まれた催しを打破する為に自分は動いている。
説明を聞き終えた彼女は明るい色の髪とは正反対に、青褪めた顔で頭を抱えた。
『クロト……ほんとに何してるの…!?』
黎斗の命に対する価値観は、常人のソレとは大きく乖離したもの。
彼なりに自分の生み出した命への想いはあれど、決して褒められた人間性ではない。
前々から分かっていた事実を加味しても、天津から聞かされた所業には動揺が抑えられなかった。
百人以上もの人々を殺し合いへ強制的に参加させ、しかも既に死者が出てしまっている。
その中には身動きを取れずに殺された女の子までおり、幾ら何でもゲームで片付けられる訳がない。
「……」
ショックを受け項垂れるポッピーを、天津は冷静に観察する。
画面越しだが演技をしている様子は見られない。
彼女の悲しみや怒りは見せかけでは無く本物、一先ずはそう判断しても問題はない。
ポッピーはお助けキャラではなく、黎斗が自分達の妨害を目的としたNPC。
天津の中で僅かにあった懸念も杞憂で済んだと言って良い。
疑いを向けた事へ内心で謝罪し話を続ける。
またもや混乱状態に陥りかけているところ悪いとは思うも、必要な情報は山積み。
酷だが話を中断されては困るのだから。
「直ぐに受け入れられないのは私も分かっています。ですが…」
『……うん。クロトを止めなくちゃ、だよね』
俯いていた顔を上げ、断固とした決意を告げる。
自分が知らない間に黎斗が残酷なゲームを始めたのは確かに衝撃だ。
何も知らなかった能天気な自身への怒り、罪に手を染めたけど自分にとっては生みの親でもある黎斗への複雑な想い。
永遠に失われる命を出してしまった悔しさ。
だけどポッピーとてCRの一員。
患者の命を守り、心身の傷を癒し、彼らが再び自分の人生を歩める手助けを使命とする者。
人間では無くとも、命の尊さはドクター達にも負けないくらいに理解しているつもりだ。
バグスターであるが医療現場に携わるナースとして、切り替えなくてはならない。
失われた命を蔑ろにする気はない、だがまだ生きている者達からこれ以上命を奪われるのを許してはいけない。
『いつもみたいに外には出れないけど、でも私に出来ることがあったら何でも言って』
「…分かりました。あの男を止める為に、我々に力を貸して頂きたい」
『うん!よろしくね、ガイ!あ!それと敬語は使んなくても良いよ!』
参加者ではなくとも志を共にする仲間が増えた。
心強さを覚えながら早速本題に入る。
ポッピーの知る黎斗の情報だ。
『んっと…長くなると思うよ?』
「構わない。まず敵の詳細を深く知らなければ、対抗策も編み出せないだろう」
○
『――それで、マイティノベルXもエムがクリアして。とりあえず事件解決!ってなったと思ったんだけど…」
「その矢先に今回の殺し合い、という訳か」
長くなる、その言葉に嘘は無かった。
ポッピーが語ったのは非常に濃い内容。
あの黎斗の話なのだから相応の情報量だと覚悟はしていたが、流石に予想以上の濃厚さ
天津の知らない、正真正銘の人間だった頃の黎斗。
幻夢コーポレーションのCEOとしてCRに協力し、裏での暗躍と終焉。
そして復活、以後はCRに協力しつつ父の野望を打ち壊す。
が、当然大人しくしている男ではなく、脱獄した彼がCRに仕掛けた新たなゲーム。
CRと黎斗の物語を〆たのは、宝生永夢がドクターになってから7年後に起きた事件。
差出人不明のガシャットを起動し始まった新たなゲームと、案の定黒幕だった黎斗との戦い。
どうも永夢自身の生い立ちが深く関係した事件らしいが、勝手に言い触らすのを嫌ったのかどのような過去かはポッピーも言わなかった。
天津としてもそこを詮索するつもりは無いので構わないが。
「しぶといにも程があるな…」
死んだと思ったら生き返り、消滅したと思ったらまた復活。
元よりあの男に倫理観など毛先程も期待していなかったが、こうも執念深いとは。
改めて黎斗に散々振り回されたCRのドクター達には同情するしかない。
ついでにあの子にしてこの父ありと言うのか、檀正宗もとんだ大事件を起こしている。
親子喧嘩のとばっちりを受けた程度でそこまで詳しく知らなかったが、ある意味では黎斗の父親らしい男だ。
天津自身も過去の行いを振り返れば、他人をとやかく言えないが。
『私からは説明できるのはこれで全部だけど、ガイの役に立ったかな?』
「勿論、奴に関して十分過ぎる程に知れた。私の持つ情報だけでは不十分だったろう」
天津が持つ情報はほんの一部に過ぎなかった。
膨大であれど有益なポッピーの話へ満足気に頷く。
後は手に入れた情報を今一度整理し、主催者打破への手掛かりとなるものを厳選。
考え込む姿勢を作る天津へ、画面越しにポッピーが身を乗り出す。
『そういえば、ガイもクロトと前に会ったことがあるの?』
「ああ。尤も、君の知る檀黎斗と同じとは断言出来ないが」
こうして教えてもらった以上、こちらも質問の答えを返すのがフェアというもの。
情報開示に抵抗も無く、承太郎と一海にしたのと同じ話を伝える。
聞き終えたポッピーの顔は見るからに困惑、いやドン引きと言ってもいい。
「ほんっとに何してんのクロト…何かダンマサムネまでいるし…っていうかガイもガイだよ!その、ヒューマギアだっけ?クロトのロボットなんか作ったら絶対タイヘンな事になるじゃん!」
「それに関しては言い訳のしようもないな」
本人でさえ他者に従わない、媚びない、諂わない。
傲岸不遜の四文字に手足が生えたような人物で、質の悪いことにそういった態度も納得の才能の持ち主。
それが檀黎斗という男。
たとえ本人ではないヒューマギアだろうと、あの黎斗が他者の命令を素直に聞く筈がない。
黎斗への理解を天津にそこまで求めるのも酷かもしれないが、ヒューマギア黎斗の件に関しては天津の迂闊さも無いとは言い切れなかった。
『あれ?それじゃあ殺し合いを始めたのはヒューマギアのクロトってこと?』
ポッピーの疑問へ首を横に振って返す。
ゲームが始まった直後は天津も黒幕はヒューマギアの黎斗と疑いはした。
しかし放送で姿を見せ、ついさっきホログラムで目の前に現れた黎斗にはヒューマギアモジュールが存在しない。
「私としては、君が説明した黎斗Ⅱとやらの方が可能性は高いと思う」
マイティノベルXを永夢に送り付け事件を引き起こした黒幕。
九条貴利矢との決戦に敗北し消滅した黎斗が、事前にバックアップを取って置いた為に生まれた新たな黎斗。
最終的にはマイティノベルXは永夢の手でクリアされ、黎斗Ⅱも消滅。
と幕引きを迎えたものの、予め用意した何らかの方法を用いて復活を果たしたと考えられなくも無い。
今回殺し合いを開催したのは例によってまた復活した黎斗、言うなれば黎斗Ⅲではないか。
『う〜〜〜〜〜〜ん……』
天津の立てた仮説にポッピーが納得した様子は無い。
主催者の黎斗が黎斗Ⅲである可能性を頭ごなしに否定はしないが、何か違和感を感じる。
具体的にどこがどうと説明するには、少々言葉が纏まらないのが困ったものだ。
「…ふむ。主催者の檀黎斗の正体は一旦置いておくとして、情報を仲間とも共有するべきだな」
『そういえばさっきクロトが上にいる連中とかなんとか言ってたような…?』
主催者に関する詳細な情報を自分一人で独占するつもりはない。
承太郎達とも共有し、彼らからも意見を聞けば別の視点からの発見があるかもしれない。
加えて彼らの持つ奇妙な能力の詳細などもそろそろ把握しておきたいところ。
とにもかくにも一度地上へ戻ろうと、ドレミファビートの筐体に背を向けた。
「少し待っていてくれ。彼らにも君の事を紹介したい」
『うん!でもガイも怪我してるんだし、あんまり無理しないでね!』
指摘されると改めて傷に意識が向き、遅れて痛みがやって来た。
支給品の回収や病院内の探索を優先し、自分の手当ては後回しにしたが放置して良いものではない。
殺し合いの前から傷だらけにされるのは非常に不本意ながら慣れている。
しかし今後の戦いを考えれば適切な処置は必須。
エレベーターのランプを見上げながら、まずは言われた通り自分の傷をどうにかしようとぼんやり思う。
薄暗い空間を抜け来た道を戻り、近くの診察室で包帯や消毒液、ガーゼなどを拝借。
決して少なくない金を掛けた衣服を脱ぎ、傷を負った箇所に処置を施す。
医療用のヒューマギアがいればもっと手際よく行えたが、贅沢は言ってられない。
それとも、殺し合いなんぞにヒューマギアを投入されなかった事実を喜ぶべきか。
少し前の自分だったら有り得ないだろう、ヒューマギアの身を案ずるとは。
つい苦笑いしながら上着を着直し診察室を後にした。
一面に清掃が行き届いた床を革靴で進む度に、コツコツと乾いた足音が響く。
なまじ広い空間だけに人気の無さが際立ち、いやに大きく聞こえる。
やがて音は止んだ、天津が目的地へ着いた証拠だ。
病室のドアをそっと開き中を覗くと、入院患者用のベッドへそれぞれ横たわる人影が二つ。
逞しい胸を上下させる少年、小さな寝息を立てる少女。
戦闘の疲れが未だ残る二人は未だ夢の中。
眠りに落ちた承太郎といろははともかく、本来いるべきもう一人の姿が見当たらない。
(彼はどこに行った?)
ドアを閉め件の人物の行く先に首を傾げる。
自分と同じく病院内の何処かか、まさか一人で勝手に出立した?
探しに行くべきかと悩み、響く足音と視界の端に映った姿にその必要はないと思い直す。
どこに行っていたのかを聞こうとして気付いた、彼一人ではないことに。
「あれは…向こうにいるのがあんたが会わせようとした相手か?」
「今度は普通に話ができる奴よね…?」
「キャルおねーさんビクビクし過ぎじゃない?。耳がぺたーんってなってるよ」
「し、仕方ないでしょ!だって、こ、こいつ…その…顔恐いし……」
「……」
先頭を歩く異形の剣士の後ろに続く三人の参加者。
特徴的な髪型の青年、何故か猫耳を生やした少女と、彼女に背負われ垂れ下がった耳をつつく少女
謎の一団を仏頂面で引き連れる彼に、少々困惑しつつも全員こちらへの敵意は無いと判断。
傷の治療か何かで訪れた青年たちを黒死牟がここまで案内したと言った所か。
協力可能な者達ならば、邪険に扱うつもりはない。
対応を考えている内に四人が目の前まで来た。
「ふむ…彼が中へ招き入れたという事は、君達は殺し合いを良しとしない者と判断して良いか?」
「ああ、檀黎斗達の言い成りになる気は無い」
質問へ真っ先に答えたのは青年。
初対面ながら怯まず天津と視線を合わせ、口に出したのは短いながらも確固とした意志。
嘗ての天津ならば嘲笑い、だが今は好ましさと眩さを覚える熱さ。
残る二人を見やると考えは青年と同じらしく、特にたじろぐ様子も無い。
「右に同じー。おねーさんもそうでしょ?」
「じゃなかったらあんたをおんぶなんかしてないわよ。っていうか、ちょっ!耳くすぐったいんだけど!」
感触が気に入ったのかそれとも単に珍しいからか。
猫耳を執拗に触られ抗議するが、聞く耳持たずで引っ張られる。
「振り落とすわよ!」と目を吊り上げ言ったら、「えーやだー」と適当な返事。
良く言えばほのぼのとした、悪く言えば緊張感のない光景。
仲が良いのは結構だが話の続きだ、中断されても困る。
「結芽、今は…」
「はーい」
長々と茶化す場面でも無いと分かってはいるようで、青年に窘められれば直ぐに耳から手を離した。
彼に視線で礼を伝え、まだ名前を聞いていなかったと気付く。
ポッピーの時と言い自己紹介という基本を忘れがちな己への呆れは内心で留め、まずは自分から名乗る。
「自己紹介が遅れたが、私は天津垓。君達同様、檀黎斗を倒しこの悪趣味なゲームを終わらせるつもりだ」
「こっちも名乗るのが遅れた。俺は――」
名を口にしかけた所で、遮るような音を全員が聞き取った。
発生源は彼らのすぐ近く、丁度天津が様子を見たばかりの病室。
ドアが開き、薄暗い室内から現れたのは日本人離れした体格の少年。
学帽の下から覗く鋭い眼光はそれだけで周囲を怯ませる。
但し、少年の人となりを知っている者は別だ。
「起きたのか承太郎君、怪我の具合は?」
「……ちと痛むが、死ぬ程じゃあねえ。天津、こいつはどういう状況だ?」
承太郎が最後に記憶しているのは、共に軍服の男と戦った仲間の最期。
首輪だけを残し一海が消滅した直後意識を手放し、目が覚めたらベッドの上にいた。
別のベッドでは見知らぬ少女が毛布に包まり、話し声が聞こえたので出てみたらこの状況。
天津はともかく、他の連中とは全員初対面。
見た限り天津は青年と会話の最中だったようで、どうも出るタイミングが悪かったか。
「ん…んん……?」
一度中断されれば話の続きはどうにも上手くいかない。
物音と人の声に反応したのか、夢の世界から現実へと意識を引き摺り出される者が一人。
寝惚け眼を擦りながら体を起こし、ぼんやり開いたままの出入り口の方を見やる。
知っている人と知らない人、向こうも気付いたようで自然と視線が集まった。
「……え、あっ、お、おはようございます…!」
寝起きを大勢に見られ羞恥で意識が急速に覚醒。
慌ててベッドから離れ病室の外に出るいろは、これで病院内にいる参加者全員が顔を合わせる事となった。
「環君も起きたのか。…済まない、病室の前で少し騒がしくしたな」
「い、いえ!大分休めましたし、大丈夫です」
配慮が足りなかったかと自らの失敗に渋い顔を作る天津だが、いろはには問題無い。
今口にした通りある程度は睡眠を取り、疲労も幾らか抜けている。
少なくとも病院前での戦闘を終わらせた直後よりはマシだ。
「環…?」
ポツリと、天津の言葉に反応を見せる者がいた。
猫の特徴を持つ少女、キャルだ。
天津が言ったのはキャルにも聞き覚えがある名前。
ランドソルの商業ギルド、メルクリウス財団に所属する獣人のタマキ。ではない。
殺し合いの前ではなく、巻き込まれてから聞いた名前の中に同じものがあったのを思い出す。
「もしかしてあんた、幻徳とみふゆが言ってた環いろはって奴?」
「みふゆさんを知ってるの!?」
思わぬ名前にいろはも驚きを隠せない。
殺し合いには乗っていないだろう魔法少女で、やちよの親友。
みふゆから自分の名を聞いたということは、彼女と既に接触したのか。
初めて得られた自分以外の魔法少女の情報に食いつく。
一方のキャルもいろはの反応から、幻徳達から聞いた協力可能な人物で間違いないと確信。
「幻徳?そいつは確か一海の言ってた仲間か?」
キャルが出した名前を知っているのはいろはだけではない。
今は亡き仲間、猿渡一海が信頼できる人物として挙げた内の一人だ。
予想だにしなかった情報の入手には、面には出さないだけで承太郎も驚いている。
「ふむ……」
些か混乱の予兆を見せ始めた場に、天津は考え込む。
軽い自己紹介を済まし、具体的に互いの持つ情報を明かすのは承太郎達が目覚め落ち着いてから。
そのつもりであったが今や病室前の廊下へ一堂に会し、いろはや一海の仲間の情報が齎された。
予定は狂ったが逆に丁度良い機会にも取れる。
「良いだろうか?全員私の話に耳を傾けて欲しい」
実年齢とは逆に若々しく、同時に全員の意識を向けさせる声色。
各々聞く姿勢となったのを確認、満足げに頷き続ける。
「私も君達もそれぞれ聞きたい事が多々ある。そこで、腰を落ち着けて話し合う場を設けたい。場所はこれから案内する地下施設が望ましい」
「わざわざ地下まで行く理由は何だ?」
承太郎が訝し気に尋ねるのも無理はない。
座って話をするだけなら適当な病室や食堂スペースなど、探せば幾らでもある。
そういった部屋を無視して地下を選ぶ理由が分からなかった。
「詳細は降りてから話すが…檀黎斗に関する情報を持つ人物が地下で待っているからだ」
「なに?」
全員にとって驚愕の内容だろう。
ゲームを開催した元凶である男の情報は、殺し合いに反抗する者達には必要不可欠な武器。
それを知る者と天津が接触しており、しかも件の何者かは自分達のすぐ近くで待機中。
「この際だから先に言っておくと私自身、檀黎斗とは因縁がある。今ここにいる中では承太郎しか知らないが。だが地下にいる『彼女』は私以上に檀黎斗を知る者だ。そこで互いに必要な情報を交換し、同じく檀黎斗に関しても共有しておくのは手間が省けるだろう?」
集まった者同士の情報交換と黎斗に関する情報の共有。
二つを纏めて行うには、確かに良い機会と言えるのかもしれない。
反対する理由は見当たらない、探す必要も無い。
納得してもらえたのなら善は急げだ、彼らをCRという名の地下空間まで案内する。
医療スタッフや入院患者が目撃すれば目を疑うのは確実な、個性的過ぎる一団がそこにはあった。
◆◆◆
『おっかえりー!ってなんかめっちゃ増えてない!?』
エレベーターを降り、ぞろぞろと入室する面々。
天津の口振りから病院内に彼の仲間がいるとは知っていたが、ここまで多いとはポッピーにも予想外。
よく重量オーバーにならなかったものだ。
しかも猫耳と尻尾を付けた少女や、どう見ても人間ではない男までいる。
外見だけでもアクの強い面子には軽く頭がピヨりかけた。
「ポッピー、大勢で押しかけて済まない。もう一ついきなりで申し訳ないが、ここを使わせてもらっても?」
『あ、うん。それは全然良いけど。皆にはクロトの話はもうしたの?』
「いやまだだ。これから説明するので、君には補足を頼みたい」
ポッピーから聞いた全てをもう一度話すよりは、必要な部分を厳選しつつ要所要所でポッピーに補完してもらう。
ある程度は時間の節約にもなり、話もスムーズに進む。
会議の進行にはZAIAエンタープライズの元社員だけあって手慣れている。
特に断る理由の無いポッピーからも任せてと心強い言葉を貰えた。
「病院の地下にゲーム…?それにあの人は…」
「へー、なんか秘密基地みたい」
妹達のお見舞いや孤独な入院の日々など、病院と縁のある二人も興味深気に部屋を見回す。
年相応の仕草を見せる少女達を尻目に、天津はポッピーと説明の段取りを決めた。
後は腰を下ろしてお互いに話すだけ。
その旨を伝えると各自目に付いた椅子を持って来て座る。
中央のテーブルや四方のデスクに設置された椅子で人数分は確保可能だ。
唯一、黒死牟だけは一歩引いた位置で立ったまま壁に寄り掛かる。
病室で天津と話をした時と同じ体勢。
他の者が腰を下ろすのを無感情に眺め、話が始まるのを待つ。
「あの、黒死牟さんもこっちにどうぞ」
が、それより先に話しかける者がいた。
桜色の髪を揺らす彼女の元には二人分の椅子。
自分一人だけ立ったままなのに気を遣ったのかつもりなのか。
頼んでもいないし、余計な世話でしかない。
必要無いと視線を向けるも、眉尻を下げ困ったような顔を返される。
「……」
直接口に出そうとし、やめた。
十五かそこらの娘相手に、こんな些事で意地を張るのも馬鹿らし過ぎる。
檀黎斗に関する話の開始を無駄に長引かせるのはこちらの望む所ではない。
それに分かっていた筈だ、この少女が不必要なまでに自分へ構おうとするのは。
用意された椅子へ無言で座る。
礼も言わない冷めた態度であるが、座ってくれただけで満足なのか笑みを浮かべるいろはを視界の端に捉えた。
ついでに珍しいものを見付けたような顔をするキャルと結芽もだ。
「では始めるとしよう。まず各々の自己紹介と病院に来るまでの経緯を話してもらいたい。檀黎斗の話を一刻も早く始めて欲しい気持ちは理解しているが、こちらは少々長くなる。だから申し訳ないが一番最後にさせてもらう」
『私の自己紹介もその時にするね!』
最初は言い出しっぺの自分からと、一人目を買って出たのは天津。
自分の名前と元の世界での職業などの簡単なプロフィールに始まり、仮面ライダーサウザーという自身の変身する戦力を説明。
最後に聖都大学附属病院へ来るまでの経緯を話す。
分かり易く尚且つ言葉不足にならない程度には詳細な部分へ補足を入れた。
続けて天津と最も長く行動を共にした承太郎が、それから承太郎達の言う軍服の男と決着をつけた遊星と結芽、二人を病院まで運んだキャル、といった順で話が進む。
「…すまない。我々が奴を仕留めていれば……」
「謝らないでくれ。あんた達があの男をあそこまで消耗させなかったら、多分俺達は全滅していた」
遊星達が大尉相手に勝利できたのは、敵が満身創痍にまで追い詰められていた部分も大きい。
そうでなければ最初に蹴りを喰らった時点で肉片と化したに違いない。
加えて自分達と違い、万全の大尉と戦い犠牲者を出しながらも撃退した天津達をどうして責められようか。
彼らに怒りをぶつけるのはお門違いも良い所だ。
(しかし…不動君の言う支給品を使われていたら、私達もどうなっていたか分からんな…)
病院での戦闘では使わなかった、黒い手袋やデュエルモンスターズのカード。
絶大な強さを持つ化け物がもしそれらを、自分達相手に使用していたら。
もしもの可能性に背筋が寒くなる。
「結芽ちゃんも灯花ちゃん達と同じなんだ…」
元の世界では死んだ筈が、蘇生させられ参加者に登録された者。
結芽もそういった経緯の一人だと知り、いろはから驚きの声が上がる。
「あと城之内のおにーさんも生き返ったって言ってたよ。遊星おにーさんが言ってたカードゲームのせいとかなんとか」
「こいつの話聞いた後だと否定できないわね……」
遊星を見ながら呟くキャルにその場の全員が内心同意した。
デュエルモンスターズを殺し合いで初めて知った者からすると、何故黎斗がそこまでデュエルに拘るのか謎だった。
だが遊星の話を聞けば納得もいく。
冗談や誇張表現でなく本当に世界の危機を迎えるレベルの大事件が起きたとなれば、黎斗が興味を持たない筈が無い。
元は悪魔族のモンスターカードであるハ・デス、主催者に利用されているだろう海馬コーポレーション。
主催者とデュエルモンスターズの関係もある程度は把握出来た。
だとしてもカードゲームがそこまでの影響力を持ち、本当に日本かと疑いたくなるネオ童実野シティに関しては理解するのに少々時間を要したが。
「あーでも…あいつらがエルフのこと知らなかったっぽいのもそういうことね」
幻徳達にコッコロのことを尋ねた際、エルフと聞き困惑した様子だったのを思い出す。
あの時は焦りと苛立ちでつい八つ当たり気味にキツイ口調となったが、今では彼らの反応の理由も分かる。
並行世界、情報交換の中で知ったその概念。
アストライア大陸がそもそも存在しない世界の生まれなら、自分の方がおかしな事を言っていると思われたろう。
尤も、「現実側」のキャルは別だが。
「えっと、キャルちゃんはみふゆさんと会ったんだよね?」
いろはからの質問に首を縦に振る。
会ったと言っても、参加している者で誰が協力可能・危険かを教え合った程度。
場所は会場の北側であるA-5エリア。
怪獣に変身可能なアイテムを持つキャルだからこそ最速で移動できたのであって、人力ではもっと時間が掛かる距離だ。
遭遇から既に5時間近くが経過しており、向こうはとっくには移動しているに違いない。
すぐに合流不可能なのは残念だが、知っている者の動向を知れただけでも運が良いだろう。
加えて施設の詳細が分かるアプリが支給品の一つとしてインストールされているらしく、確認を天津が頼めば見せるくらいならと許可を貰えた。
「じゃあ次はわたし、ですね」
おずおずと手を上げ次に話し始めたのはいろはだ。
魔法少女、キュゥべえと呼ばれる存在との契約で魂を肉体から引き離された者達。
願いの代償として、いずれ訪れる絶望の運命を決定付けられた悲劇の象徴。
だがいろは曰く願いを叶える力自体は本物のようで、実際妹の病気も本当に治ったのだという。
どんな願いも叶う、主催者が提示したゲームの優勝賞品と同じ。
単に参加者をその気にさせる為で偶然か、それともキュゥべえが主催者と関係しているのか。
主催者側の全容がまだ不明な以上、推測は出来ても明確な答えは出せない。
「実はわたしも遊星さん達が戦った男の人に襲われたんです」
ゲーム開始直後にいろはを殺そうとしたのは、話の中で何度目の登場になるか分からない軍服の男。
開始早々ゲームオーバーの危機に陥った所を黒死牟に助けられ、放送後は病院へ移動。
するとこれまた情報交換で何度も登場した真紅の騎士と交戦。
最終的には黒死牟と共に撃退し、後は天津が言った通りである。
「へぇ〜!あのおにーさん達とも戦ってたんだ」
軍服の男とは本格的な戦闘になる前に撤退したようだが、真紅の騎士を斬り飛ばしたのには結芽も興味津々だ。
誤解から一度剣を合わせた娘に視線をぶつけられ、残る一人は鬱陶し気に六眼を細める。
否、結芽だけでなく全員が自分を見ていると気付いた。
いろはの説明が済み、檀黎斗に関する情報は一番最後であるなら、自分が口を開かねば話は停滞したまま。
屠り合いでの動きはいろはの語った内容で十分とはいえ、連中が何を聞きたいかは馬鹿でも察しが付く。
人間ではない化け物の正体。
「……」
今更、既にいろはには話した以上、口を噤むのは今更でしかない。
ならば己の正体くらいは良いかと胸中に抱えた投げやりさは決して面に出さず、唇から言葉が這い出る。
淡々と、自分の事でありながら至極どうでもよさそうに。
鬼、人の限界と寿命から解放された完璧に近い肉体、人間の肉を喰らい血を啜り糧とする化け物。
千年を生きる始祖に縋りつき、有難き血と首を垂れ、短き生からの脱却に歓喜し、何一つ手に入らなかった末路までもを話す気は無い。
この期に及んで己の恥部を曝け出すのには抵抗を抱く己を、何と無様かと吐き捨てるは内に留め一同の顔を見回す。
困惑、警戒、恐怖。
予想できたことだ、大小差は有れど友好的なモノが含まれないのは共通して見て取れた。
驚きは無い、むしろ当たり前だろうとしか思わない。
人を喰うのだ、人を殺すのだ、人にとっては害以外になり得ないから鬼なのだ。
荒魂や吸血鬼、魔女となにが違う。恐れられ、嫌悪されて当然の醜悪な化け物だろうに。
「……っ」
だからおかしいのは、化け物が皆に恐怖されていると知って。
まるで我が事のように悲しみの面を作る、鬼を助けると宣った娘の方だ。
そうではないだろう、お前が見ているのは何も可笑しくない、正しき人の姿に他ならない。
あれが正常な反応だ。
取り繕うのでも、恐怖を押し隠すのでも、媚び諂って誤魔化すのでもない。
本気の怒りを向け、袖を引き、あなたの命が危ないと心配する方が間違っている。
異常なのはお前の方だと、それ以外に何を言えば良い、何を思えと言うのか。
物言わぬガラクタにも似た有様で沈黙する間に、いろはがバッと立ち上がる。
「あ、あの!」
椅子が床を擦る音がし、全員がいろはを見やる。
視線を集め緊張に身が強張るも、怯まず真っ向から見つめ返す。
「皆が黒死牟さんのことで驚いたり、少し…恐くなるのは、仕方ないのかもしれません…」
最初に会った時から人間じゃあないんだろうなとは分かった。
鬼だと聞かされた時、驚いたのも嘘じゃない。
魔女やウワサとはまた違う、底冷えする殺気を向けられ恐怖を感じたのも本当だ。
多分、もっと違う出会いをしていたら、他の皆と同じように病院で初めて彼を知ったら。
自分も警戒したんだろうとは思う。
「けど、わたしは黒死牟さんに助けてもらいました。足手纏いのわたしを無視することだって出来たのに、でも、そうしなかった」
彼の過去に何があったかは聞かされてはいない。
ただ、良い行いをして来なかったんだろうとは薄々察せられる。
人を喰らう異形であるからだけではない、直に黒死牟から殺意を向けられたからこそ分かる。
おどろおどろしく、余りにも正しき怒りとはかけ離れた、呼吸すら止まりかねない感覚。
それでも、決して分かり合えない滅ぼすべき悪とは、どうしても思えなかった。
同じ痣を持つ男の存在を知った彼がどんな顔をしていたかを、すぐ隣にいたいろはは知っているから。
大事な何かを理不尽に奪われて、苦しそうにも見えた。
独りぼっちで出口のない場所に突き落とされた、迷子のようにも見えた。
真紅の騎士と戦い、笛を落とした瞬間の表情に彼自身は気付いているのだろうか。
まるで、行かないでと懇願する子供にも似た焦燥を浮かべたのは、きっと気のせいじゃない。
許されない事をしたとしても、彼が助けてくれた事実と、彼が抱える傷までは否定したくない。
「だから、黒死牟さんのこと、信じてくれませんか…?」
「…………」
傍らの鬼は一言も発さない。
形容し難い何かを見る目をいろはに向けたまま、自身の発する息遣いすらどこか遠くに聞こえる。
何がしたい、何を考えている、何なのだこいつは。
己が助かりたいが為に、保身で鬼へ首を垂れる人間は知っている。
だが鬼を受け入れてくれと同じ人間に頭を下げる奇人は、この娘以外に知らない。
「一つだけ聞かせな」
静寂を真っ先に破ったのは力強く、有無を言わせない声。
顔を上げたいろはを射抜く承太郎の眼光。
敵意は無くとも威圧感を隠さない瞳に、ぎゅっと唇を噛んで真っ向から受け止める。
暫しの睨み合いが続き、先に視線を外したのは承太郎の方だ。
いろはから隣の鬼へ移し静かな口調で問い掛ける。
「あんたが人じゃ無いってのは一旦置いとく。昔何をやったのかも興味はねぇ。ただ殺し合いに乗る気がないのかどうか、環に言わせるんじゃなくあんたの言葉で聞かせろ」
「……」
両者の間に流れるのは、まるで互いに得物を突き付け合っていると錯覚せん程に張り詰めた空気。
ややあって、誤魔化すつもりも無い答えを返す。
「あの男の戯言に従うなど……虫唾が走る……」
虚偽を混ぜてはいない。
何らかの力があるのは事実だろう、死者の蘇生すらも可能ならば願いを叶えるというのも否定はし切れない。
しかし理解しても受け入れられないものはある。
弟を傀儡に変えたあの男に首を垂れる、そのような自分を想像しただけで猛烈な吐き気に襲われるのだ。
「…そうか。あんたが俺の敵に回らない限りは、特に言うこともねぇ」
眉間に皺をよせ吐き捨てられた内容に、無愛想に告げた。
承太郎には本当にそれ以上言うことは無いようで、部屋全体を覆った息苦しさが嘘のように霧散。
随分あっさりとしているだけに、却って黒死牟の方が困惑するというもの。
「いーんじゃないのー?あ、でももしおにーさんが敵になったらさっきの続きができるかも」
「ほんとに反省してんのかしらこいつ…。ま、まぁ別に何かされたとかじゃないし、頭まで下げられたら文句言うつもりもないけど…」
「ああ。襲って来たあの男と違って敵意は俺も感じなかった。なら信じてみて良いと思う」
「……」
承太郎へ続くように口々に言う彼らへ、黒死牟は沈黙する他ない。
本当の意味で鬼の脅威を知らない、鬼殺隊の人間でないにしても。
ここまで容易く事が治まる光景を前に、己の目が腐り落ちたのかと疑いすら抱きかけた。
「ありがとうございます…!!」
人間の小娘に庇われ、忌々しき最期を更なる恥で上塗りする始末。
自身への嫌悪と、娘への煩わしさが立ち込める。
何がそこまで嬉しいのか、先とは違う理由で頭を下げるいろはに、しかしぶつけるべき言葉は口を出ず。
嘆息するかのような音を微かに漏らし、微笑みこちらを見つめる顔から視線を逸らした。
各々の話が一段落着いた所で天津から本題とも言うべき情報が語られる。
「ではそろそろ、全員が知りたがっている話を始めよう。ポッピー、君も構わないか?」
『もっちろん!皆でクロトを止められように、私も張り切っちゃうよ!』
◆◆◆
デイパックから取り出したミネラルウォーターで喉を潤す。
先程話したのは病室で承太郎と一海に伝えた情報の倍。
必要と思われる箇所に絞りはしたが、多いことに変わりはない。
自分でも気付かない内に余程喉が渇いていたのか、ゴクリゴクリと音を大きく鳴らした。
『う〜〜〜〜〜〜〜〜ん……』
「随分悩んでいるようだが、何か気になることでも?」
水を仕舞い画面の向こうで唸るバグスターに尋ねる。
現在、情報交換を終えCRにはポッピー以外に天津ともう一人がいるだけ。
他は地上階に戻ったが、天津はまだ話があった為残ったのだ。
というのも、最初に黎斗に関する話を聞いた時も同じように考え込む様子を見せていた。
黎斗を良く知る彼女だからこそ、引っ掛かるものがあるのかもしれない。
『……うん、やっぱり変だ』
やがて自分の中で考えが纏まったようで、納得したように顔を上げる。
『あのさガイ。ガイは殺し合いを始めたのがクロトⅢじゃないかって言ったよね?』
「確かに言ったが…その様子では君は違うと?」
檀黎斗と浅からぬ関係を持つが故の確信を持って頷く。
ポッピーは黎斗が行った放送を直接目にしておらず、天津から聞いたに過ぎない。
しかし実際に見ていなくとも、放送での黎斗の言動や態度、何より殺し合いを始めたことそのものに違和感を感じた。
曰く、自らを神と称し傲慢さを隠しもせず鎧武なる仮面ライダーや、少女を殺した。
死者が出たのには勿論心を痛めたが、今重要なのは黎斗が神を名乗ったこと。
これが既にポッピーの知る黎斗とは矛盾している。
確かに以前までの黎斗なら、脱獄しゾンビクロニクルを仕掛けた頃ならば神を名乗るのも分かる。
だがそれは過去の話。
黎斗は九条貴利矢との戦いで敗北し、彼との語らいを経て檀黎斗神ではなく、神の才能を持つ人間の檀黎斗に戻ったのだから。
尤もこれは「オリジナル」の黎斗のならだ。
マイティノベルXを仕掛け本物の黎斗復活を目論んだ黎斗Ⅱは、以前までの彼と同じく自ら神を名乗る驕りはそのまま。
だから主催者側に居るのが黎斗Ⅲだとしても、一見違和感は無い。
但しそう思うのは、マイティノベルX事件に関わらなかった者達だけだ。
ノベルゲーマーに変身したエグゼイドに敗れた黎斗Ⅱへ、永夢は一つの約束をした。
再生医療が確立し黎斗を復活させたら、死ぬまで黎斗の心療を続ける、永遠に黎斗の作るゲームを攻略すると。
ポッピー自身が現場を直接見たのではない、後から永夢に聞いた話。
しかし永夢が語った消滅間際の黎斗Ⅱは傲慢さは鳴りを潜め、純粋に心からの笑みを見せたのだと言う。
黎斗Ⅱは神を名乗り本物と同じ危険性を秘めていたが、やはり本質はゲームクリエイターなのだ。
自らの才能を発揮し開発したゲームにチャレンジする永夢は打ち負かし甲斐のあるライバルにして、自身のゲームを愛し続けるファン。
ある意味では最も黎斗にとって、なくてはならない人間。
だからこそ殺し合いというゲームには違和感がある。
参加者として永夢を登録させつつも、永夢が挑む為に開発したとは思えない。
ゲームマスターとプレイヤーの対決を純粋に楽しむのとは違う。
何より黎斗は常人とかけ離れた価値観の持ち主であれど、彼なりに命というものへ向き合っていた。
少なくとも娯楽感覚で無意味に命を奪うことはしない。
バグスターウイルスの研究を進めたのも、ゲームに生命概念を見出し、たった一つしか生命が無い現実の世界観に見切りを付けたから。
ドクター達とは真逆の、しかし確固たる意志の元に根付いた価値観。
なのに主催者の黎斗は聞いた限り、本当にただの極悪人にしか思えない
『だからクロトⅢの仕業っていうのは、何か違う気がするの』
「どっちにしろイカレてるとしか思えねえが、野郎はお前の知ってる檀黎斗とは別の檀黎斗ってことじゃねえのか?」
話に入って来たのは天津同様地下に残った承太郎だ。
「別の、ということは私が知るのともポッピーが知るのとも違う檀黎斗だと?」
「さてな、俺はお前ら程野郎を知らねえ。ただ真っ先に思い付く可能性なら、病室であんたが言ってた並行世界の檀黎斗って線だろうよ」
並行世界。
ポッピーが語った黎斗とは別の世界で生まれ、異なる人生を歩んだ。
或いは途中まではポッピーの知る黎斗と同じでも、ある場面から分岐した道を進み傲慢な神として君臨し続けたのか。
(だとすれば、あの檀黎斗を彼らが止められなかった世界、とでも?)
CRが黎斗に敗北した、決定的に選択肢を間違えてしまった世界。
本当にそんな世界があるのだとすれば、さしずめ神である事を捨てられなくなった黎斗と言うべきか。
「……いずれにしても、宝生永夢の協力があれば檀黎斗を倒せるかもしれないか」
黎斗が変身したゲンムに搭載されたポーズ機能は、元々仮面ライダークロノスと同じ時間停止能力。
であればハイパームテキガシャットを使ったエグゼイドはゲームエリアに干渉し、敵の能力を無効化させる事が出来る。
現状、真っ向から黎斗を倒せるだろう方法。
もう一つ、仮定の話だがゲーム会場がVR空間だという場合でも攻略法はある。
遊星が軍服の男との戦闘で無から新たなカードを生み出した現象。
仕組みは彼自身にも上手く説明できなかったが、殺し合いの場が現実では無く仮想空間、要はゲームの世界だと考えればそういったシステムが搭載されていると考えられなくも無い。
ジョニー・マキシマが引き起こした事件の際、VR空間に閉じ込められた経験のある為、ポッピーもここが仮想現実ではないかとの疑いを抱いた。
仮説が正しいならば同じく永夢頼りとなるものの、マイティクリエイターVRXガシャットを使ったエグゼイドなら主催者打倒や会場からの脱出も恐らく可能。
餅は餅屋との言葉通り、ガシャットを使うライダーにはガシャットを使うライダーをぶつけるのが手っ取り早い
「そのガシャットってのが本当にあればの話だがな」
『うっ…やっぱり都合良く永夢が最初から持ってる、とかは無いよねぇ〜…』
「…ふむ。檀黎斗は殺し合いを一つのゲームとして捉えていると考えれば或いは……」
本当にガシャットが会場内に存在するなら、どこにあるのか見当が全く付かない訳でもない。
倫理観や真っ当な怒りは置いておき、黎斗は殺し合いをゲームと扱っている。
所謂「ゲームでよくある展開」に当て嵌めれば、主催者にも対抗可能なガシャットは当然入手難易度も相当に高い。
たとえば、殺し合いに乗っており尚且つトップクラスの力を持つ危険人物の支給品にある、だとか。
高レベルの敵を倒しレアアイテムをドロップするのはゲームでも珍しくは無い。
相応の実力と広く存在が知れ渡っている、条件に該当するのは二人。
放送で少女を殺す場面を映し出された金髪の男と、敵キャラとして紹介された侍。
参加者全員に存在を把握されるという通常であれば不利な状態になったのも、大勢に狙われようと余裕で返り討ちに出来る実力があるからと睨む。
「仮に連中がガシャットを持っていなくても危険な輩は放置できまい。いずれあの二人とは戦いになるだろう」
「宝生永夢ともう一人の花家ってのも早めに見つける必要もあるか」
『そうだよね…エムとタイガなら大丈夫だと思うけど、でも……』
参加させられた二人のドクターはきっと殺し合いを止める為に動いている、そこは疑う余地がない。
けど彼らもまた、放送で人々が惨たらしく殺される光景を見た筈だ。
人の命を救う使命を抱えるドクターが、命を奪われる場面を見ているしか出来ない。
怒りや焦りから無茶をしていないだろうか。
ただのお助けキャラなんかじゃなくて、筐体から出られれば天津達と共に戦い、永夢と大我に会いに行けるのに。
画面越しに見つめるしか出来ない事実が歯痒くて仕方なかった。
『エム…タイガ…大丈夫、だよね……?』
宝生永夢は殺し合いにおける希望となる。
仮面ライダーエグゼイドならば、此度のゲームも無事にクリアし事件を終息へ導ける。
永夢の戦いを近くで見て、自身も永夢によって救われた、バグスターであっても受け入れてもらったポッピーだから強く信じられる。
なればこそ、現実は彼らに深く突き刺さる絶望として襲い掛かるだろう。
宝生永夢は既にゲームオーバーとなり、二度とポッピーの前に姿を見せはしない。
エグゼイドの力を託されたのは、芯をへし折られた魔法少女。
心構えすら許されずに現実を叩きつけられるその時が一歩一歩、確実に近付いていた。
○
扉を閉め来た道を戻る途中、もう一度振り返る。
霊安室のプレートが掛けられた部屋で眠る少年達に別れを告げたばかりだが、喪失感を簡単には振り払えない。
チーム5D'sの皆やネオ童実野シティの仲間よりもずっと短い、しかし彼らが命懸けで戦ったお陰で自分は今も生きていられる。
もっと時間を共有出来たらという都合の良いIFは存在せず、言葉を交わす機会は失われた。
生き残った自分が死んでしまった彼らにしてやれることは何だ。
霊安室に閉じこもり、延々と謝罪を繰り返すのは違う。
「二人が繋いでくれた命を無駄にはしない。檀黎斗は、俺達が止める」
ブルーノやアポリアが希望を繋ぎ、未来を託してくれた時と同じだ。
達也も城之内も、必要な犠牲だったなどとは思わない。
だが自分が戦わなければ彼らの死は本当に無意味と化す。
彼らに生かされた命で殺し合いを終わらせる。
きっとそれが生き残った自分達がやるべきことだと、二人の友へ遊星は誓う。
霊安室を後にした足で遊星が向かったのは病院内の食堂。
何も空腹を満たす為に訪れたのではなく、腰を下ろせる場所ならどこでも良かっただけ。
全身に負った傷はCR内に保管してあった救急セットを借り、既に処置を終えた。
右腕も多少の痛みこそ残っているが、動かす分には問題無い。
改めて咄嗟の回復を行った城之内と支給品を使ってくれた結芽に感謝しつつ、デイパックの口を開く。
傷の手当てが済んだなら、次にやるのはこれから起こり得る戦いへの備え。
取り出したのは城之内のデッキだ。
決闘者の魂にして相棒とも呼べる、自らが構築したデッキ。
使用者が死んでいるとは言っても勝手に見るのは、同じ決闘者として何の抵抗もないとはいかず。
城之内と共に眠らせるか、彼の友である武藤遊戯に渡すのが本当なら正しいのだろう。
しかし本来のデッキが手元にない遊星からしたら、使える手札を一枚でも多く確保するのも間違いとは言えない。
ホカクカードを使ったデッキには投入されていない、魔法や罠を組み込めるチャンスでもある。
自分のデッキがすぐに見つかる保障も無く、悩んだ末に城之内のカードを借りる事を決めたのだ。
「済まない城之内、少しの間俺に力を貸してくれ」
届かないと承知の上で断りを入れ、食堂にてデッキの確認作業を行う。
大尉との戦闘中に召喚したモンスターから察していたが、やはりシンクロやチューナーは投入されていない。
全盛期の遊戯と同じ時代の決闘者なら、シンクロモンスターを使う筈も無いが。
城之内のデッキは戦士族を主体としており、魔法や罠にはギャンブル系のカードが少なくない。
運を味方に付け大逆転を狙う、ハイリスクハイリターンな戦法を好んでいたらしい。
ホカクカードで作ったデッキとの相性を確認、戦術を組み立てながら投入するカードを慎重に吟味し、
「それって城之内のおにーさんが使ってたやつ?」
ひょこりと顔を覗かせる者がいた。
こうも接近されるまで気付かなかったのは、それだけ集中していたからか。
それとも彼女が手練れだからか。
「結芽?」
「やっほ。こっちに来ちゃった」
邪気の無い笑みで手を振り、向かい側の席に腰掛ける。
てっきり女同士というのもあって、いろはやキャルの方に行くと思っていた。
「皆色々お話し中みたいで、黒死牟おにーさんも話しかける前にいなくなって暇なんだもん」
風船のように頬を膨らませ不満を言う、年相応の子供らしい姿。
遊星の仲間である双子とほとんど変わらない年齢ながら、軍服の男相手に真っ向からぶつかり合う強さを持つ。
彼女もまた、共に戦った仲間であり遊星が生き残れた恩人の一人でもあった。
ゲーム開始当初から行動を共にしていた城之内は死亡し、これからどうするのだろうか。
今後の行動を尋ねると、少し考え込む素振りを見せた末に話す。
「それなんだけどさ〜、遊星おにーさんに付いて行こうかなって」
「俺にか?」
「だって城之内のおにーさんと一緒で、カードを使ってる間は隙だらけになるでしょ?なら結芽が守ってあげた方が良いじゃん」
否定はしない。
大尉との戦闘中も達也が前線に立っていたからこそある程度落ち着いてカードを使えた。
もし遊星一人なら優れたフィジカルを有していようと、カードをセットするより先に殴り殺されていたのは想像に難くない。
加えて今後もホカクカードを使いNPCをカード化させるなら、効率的にも協力者がいて損は無し。
達也が使っていたウィザードの変身ツールが残っている為、遊星自身が変身して戦いながらカードを使う手段もあるにはある。
だがやはり、同行者が前に出て戦ってくれる方が集中してカードを使えるのも事実。
結芽の動向は有難い申し出だった。
「それに、今は協力して戦った方が良いみたいだし」
癪だがにっかり青江が無い自分一人で生き延びられる程、甘い場所でないことは十分に理解した。
デュエルモンスターズによるサポートが助けとなったのも事実。
それに、協力して戦うのが楽しいと感じているのも否定はしない。
共に同じ強敵へ挑み生き残った縁だ、遊星に付いて行くのも悪くないと思う。
「分かった。これからよろしく頼む」
「オッケー。あ、でもすぐには出発しないんだっけ?」
ルールブックの内容によると、もうじき6時間ごとの定時放送が始まる。
蛇王院達との合流時刻まで多少の猶予も有り、病院を出発するのは放送後だ。
それまでは休みつつ、デッキの確認を行う。
(そういえばこのカードは…)
城之内のデッキを調べる傍ら、デイパックより一枚のカードを取り出す。
ホカクカードで手に入れたのではない。
CRでの情報交換を終えた後に、承太郎から手渡された彼の支給品。
クリボー、効果付きの低級モンスター。
自分が持っているよりは遊星の方が何かの役に立てるだろうと譲渡されたが、遊星にとってクリボーはただのモンスターカードではない。
パラドックスとのデュエルで遊戯か使っていたのは覚えている。
別に遊戯以外誰もクリボーを持っていない訳ではなくとも、遊星がクリボーから真っ先に連想するのは遊戯だ。
このクリボーは遊戯のデッキから抜き取られたカードではないか、そういった疑いを抱く。
(だとすると、遊戯さんも自分のデッキを今は持っていないのか?)
自分と同じく遊戯もデッキを没収され、別の参加者に支給品で配られた可能性は考えられる。
しかしその理由までは分からない。
城之内のように自分のデッキを支給された者もいれば、他者の手に渡った自分達のような者もいる。
何故自分と遊戯にはそういった真似をしたのか、ふと思い出すのは達也から伝えられた考察。
主催者は一枚岩ではなく、遊星に死んで欲しいと思っている一派が存在するかもしれない。
自分と遊戯のデッキを本人の手には渡らないようにした者、思い付くのは一人。
(まさかパラドックスが?いや、だがあいつは……)
遊星と遊戯にそれぞれ因縁を持つ敵は複数あれど、両者共通で関わりのある敵対者と言えばパラドックスしかいない。
だがパラドックスの目的はデュエルモンスターズの生みの親であるペガサスを抹殺し、未来世界の崩壊を防ぐ事だった筈。
黎斗の悪趣味なゲームに加担する意味があるのかは大いに疑問だ。
それにパラドックスとデュエルした者が参加させられるなら、十代だけいないのも不自然。
何より、パラドックスとてゾーンと同じ破滅の未来を変える意思の元に戦った男。
やり方を間違えただけで、根底にあったのは崩壊した世界を救いたいという願い。
個人的願望も混じっているが、ゲーム感覚で人の死を楽しむ男に手を貸すとは思いたくなかった。
作業する遊星を眺めながら結芽も考える。
最初に城之内と会った時、何気なくハ・デスが持っているだろう死者を生き返らせる方法を奪い取れば良いのではと提案した。
実際それを聞いた城之内はやる気になり、本田を生き返らせると決意を固めたのは覚えている。
ほんの数時間前なのに、遠い昔のように感じられるのは不思議だ。
とにかくそれを手に入れられれば、城之内の事も蘇生が可能となるだろう。
死を強く嘆く程思い入れが強い訳ではない。ただ、
(結局生きてる内にお礼言えなかったの、なーんかモヤモヤするし…)
城之内との共闘が切っ掛けで協力する楽しさを知り、彼が庇ったお陰で今も五体満足で生きてる。
なのに向こうは一人で納得して死んだ。
生前の自分だって満足して死んだのに、別の相手に似たような事をされるとどうもおかしな気分になる。
だからもし、本当に死者を生き返らせる方法が存在するなら手に入れようかなと方針に一つ付け加えた。
思うなら簡単でも辿り着くのは並大抵の難しさに非ず。
主催者との直接対決の前に命を落としても不思議は無い。
これからの戦いを考えれば、やはりにっかり青江を取り戻したい。
心情的にも黒い手袋は本当に後が無くなった時でさえ、使おうとするか自分でも分からないのだから。
もう一つ、使えるようにしなければならない力。
黒死牟との斬り合いで僅かに足を踏み入れた奇妙な世界。
あの時は困惑故に起きた現象へ理解が追い付かなかったけど、落ち着いた今なら分かる。
きっとあれこそ黒死牟が見ている世界。
彼を強者たらしめる一つの到達点、自分にはなくて向こうにはある力。
ほんの一瞬だけの自分と違って、恐らく黒死牟は常時あの世界を見る事が出来る。
(あれを使いこなせるようになれば、結芽はもっと強くなれる…)
終わりまでを決められた僅かな人生故に、もっと上を目指せなかった生前とは違う。
病が完治し異界の強者との戦いを経て、新しい欲望に火が灯された。
自分は今より強くなって、同じように今も強くなっているだろう可奈美と戦ってみたいという願いに。
力の詳細は黒死牟本人に聞くのが手っ取り早いけど、素直に教えてくれる姿は想像できない。
どうせ感覚は何となく覚えているのだし、自力で到達したとて問題無いが。
彼と一緒にいたらしいいろはに聞いて来てもらえるよう頼もうかと、冗談交じりに考え、
(願いが叶う、かぁ…)
聞いた話をふいに思い出す。
どんな願いでも叶えるキュゥべえとの契約で、いろはは魔法少女になった。
平穏な日常を捨ててでも叶えたかったのは、最愛の妹の病気を治すこと。
いろはが何を願ったかは他人の事情だ。
彼女が考えた上で納得し契約したのであれば、結芽が口出しするのもおかしな話だろう。
それでも思う、思ってしまう。
もし願いを叶える都合の良い存在が現れたら。
或いは代償があると知りながらも、願望器にてが届くとしたら。
自分の両親も、娘の為に病気の治療を願ってくれたのだろうかと。
「……ばっかみたい」
どうしようもない想像へ小さな罵倒を吐き捨てる。
「もしも」をどれだけ考えたって、今更でしかないのだから。
◆◆◆
「あんたって、何でそんなにあいつを気にしてんの?」
遠慮も何もない直球の問い。
二人だけの病室で互いにベッドへ腰掛け、ぶつけられた内容にいろはは目をぱちくり瞬かせるしかない。
聞きたい事を聞き終え早急に出発しようとしたキャルへ待ったを掛けたのは天津だ。
もうじき主催者による放送がある、落ち着ける場所でそれを聞いてからでも遅くは無い。
正論に渋々頷き、待っている間何を思ったのかいろはと二人で話がしたいと誘ったのである。
質問を投げかけたキャルの表情は、眉を寄せ溶けない謎に挑む探偵を思わせる。
あいつ、と言われて該当する人物は一人。
もし違ってたら恥ずかしいなと考えながらも、件の彼の名前を出す。
「黒死牟さんのこと?」
「他に誰がいるのよ」
違ってはいなかった。
ああ良かったとの安堵はほんの少しの間だけ、シャボン玉のように疑問がプカプカ浮かんでくる。
どうして急にそんな質問をしたのか、キャルの意図が読めない。
「別にあいつと元々仲間だったって訳でも無いんでしょ?なのに気を遣ったり庇ったり、あいつの世話焼いてる理由が分かんないわ」
「うーん……」
理由。
助けになりたいや力になりたいから、では多分キャルは納得しない。
そのように伝えても、だからその理由はなにと聞き返されると思う。
誤魔化してるとかじゃなくて、本心から助けたいとは思っているのだが。
少し間を置いて、頭の中でどう言うかを組み立てる。
元々仲間じゃない、それはそう。
みかづき荘の仲間ではないし、神浜の魔法少女達でもない。
会ってからまだ一日も経っていない彼をどうしたいのか。
「わたしね、ちょっと前に悲しくて苦しい事がいっぺんに起こったんだ。本当はそういう風にならない為に頑張ったつもりだったけど、でも上手くいかなかった」
「……」
「会いたかった女の子に会えたけど、一緒にはいられなくなってて。自分が正しいって思うやり方で助けようとして、そのせいであの子を追い詰めて……」
シーツを握る力がいつの間にか強くなっているのに気付いた。
今話しているのはとっくに終わってしまった話でしかない。
覆しようのない失敗だけど、しょうがないで済ませられるのともまた違う。
付けられた喪失という名の傷は消えることなく存在し続け、年月が経とうとも忘れさせずに痛みを与える。
苦しめたかったわけじゃない。
追い詰めるたかったわけでもない。
絶望させるなんて、微塵も考えていなかった。
どれだけ言葉を並べても事実は変えられない、いろはのせいで黒江は魔女になり、残ったのはグリーフシード一つだけ。
「でも、皆がわたしを支えてくれた。一人で抱えるには重過ぎるって一緒に持ってくれたんだ。…大事な人がいなくなって、今もぽっかり抜け落ちたままだけど、もうこれ以上無くならないように埋めてくれたの」
たった一人で重いものを何もかも抱えてしまえば、動けなくてずっと苦しいから。
欠けて零れ落ちたままでいれば、倒れてしまい本当に全部無くしてしまうから。
助けられなかった絶望を、みかづき荘の皆が分けて欲しいと言ったように。
取り零した喪失感を、やちよ達が塞いでくれたように。
彼を押し潰すものを少しでも自分が引き受けて、苦しみを和らげたい。
彼の胸の穴を一つでも塞いで、欠けてなんかないよと伝えたい。
「そう思ったから、じゃ変かな?」
困ったような笑みは、いろはを知る者なら見慣れた表情。
嫌いだった愛想笑いとは違う、彼女にとっての自然な顔。
言葉の無いまま暫し見つめたっぷり数十秒。
視線を外し、天井を見上げるキャルはここにはいない誰かを見ているかのようだった。
「あいつはさ、多分あんたのことウザいって思ってるし普通にイラついてるわよ」
「……うん」
でも、そう一拍置いて続けた言葉は心なしか柔らかいものに聞こえた。
「あんたの言葉に何にも感じてないってことじゃないしさ。変なとこ拗らせてめんどくさい奴にはいっそ、ウザったいくらいにぶつかるのが丁度良いんじゃない?」
何となく見覚えのある光景だと思ったのは、CRでのやり取りの時。
一から十まで何もかもそっくりではない。
ただ本当に何となく、ちょっと昔の自分と喧しいお姫様を思い出した。
嫌いだった。
いつもいつも笑顔を振りまくのが。
こちらが何度嫌な顔をしても、知った事かと距離を詰めて来るのが。
王女の立場を奪われ絶望して当然なのに、笑顔を絶やさない強さが。
ペコリーヌという少女が、大嫌いだった。
なのに心の底から拒絶は出来なかった。
魔獣の制御が上手くいかず彼女を殺してしまいそうになった時、去来したのは恐怖。
なるべく生きて捕えろとの陛下からの命令を達成できないからではなく。
ペコリーヌが死ぬかもしれない事と、それを知ったペコリーヌに向けられるだろう失望。
それが堪らないくらい恐ろしかったのは嫌でも覚えている。
頭を抱えるくらいに一々構ってきて、ただの一度も口先だけの優しさを見せず。
本気でこっちの心配をするバカみたいなお人好しだから。
世話好きのエルフやそいつの主共々、自分を助けるのを諦めなかった連中だから。
自分の方も嫌いだと誤魔化し続けていられない、大好きになるしかなかった。
あの六眼の鬼とでは当然抱え込むナニカも違うだろうけれど。
放って置かない奴が一人でもいれば、少しくらいは自分を縛り付ける余計な鎖を外せるかもしれない。
「でもあれよ!ほら、あんまりにも度が過ぎてしつこいとめっちゃくちゃにキレるだろうし…。あたしのアドバイスがどこまで役に立つかどうかも分かんないから…」
「ううん、そんなことないよ。ありがとうキャルちゃん」
ツンケンした言葉だったり態度を見せても、隠し切れない優しさが見え隠れする。
どこかレナと似ているキャルへ礼を告げると、照れ隠しでもするようにそっぽを向かれた。
「ベ、別にお礼とかいいし。ってかむしろ、あたしの方がお礼言うべきじゃないのよ」
「あっ、それ……」
キャルが取り出したのは手のひらに収まるサイズの円形型の物体。
情報交換の後で手に入れた一枚の怪獣メダル。
ウルトラゼットライザーでの更なる戦力強化を行いたいキャルが何より望むアイテム。
このメダルを元々支給されたのはいろはだった。
メダル単体では意味が無く、自分が持っていても仕方ないので譲渡しても問題はない。
なのだがどうにもいろははこのメダルに不吉な予感を抱かざるを得ない。
本当に渡して良いものかと渋る様子を見せたがどうしても必要と詰め寄られ結局折れた為、こうしてキャルの手元へと渡ったのである。
「何だろうそのメダル…ちょっぴり恐い感じがするような…」
「ビビり過ぎじゃないの?結芽もあんたもお子ちゃまなんだから」
「むっ…キャルちゃんだってわたしとあんまり年変わらないのに…」
唇を尖らせるいろはへ勝ち誇った顔を見せながらも、内心ではキャルもメダルの力に嫌なナニカを感じていた。
これは他の怪獣メダルとは明らかに違う。
いろはが不安に思うのも当然だ、キャル自身だって嫌な予感を捨てきれない。
しかし強大な力を秘めているのは疑いようもない。
コッコロを、ユウキが紡いだ絆を守れる。
カイザーインサイトや主催者達を倒せるのなら、どんな力だって使って見せる。
幻徳に向けた言葉を撤回するつもりは無い、たとえ悪魔に魂を売ってでもこれ以上死なせたくない奴らがいるのだから。
(その為にあんたの力も使わせてもらうわよ……ベリアル)
◆◆◆
人でありながら神に等しい力を持つ人間。
黒死牟の知る限り、それは血を分けた双子の弟ただ一人。
しかしその認識は訂正せねばなるまい。
もう一人、人として生まれながら人の身には有り余る力を持つ男を付け加える必要がある。
檀黎斗。
屠り合いを仕組んだ元凶であり、忌々しき神を騙る狂人。
だが天津の話を聞いた今となっては、自らが神であると疑いも無く言い切る自信も分からんでもない。
縁壱が神々の寵愛を受け武力を得たのなら、黎斗に授けられたのは頭脳。
自らの命を操作し人の体という狭き器を捨て去った。
何よりも驚くべきは、時すらも操る力を生み出したこと。
白銀の鎧武者を透き通る世界を以てしても見破れぬ速度で返り討ちにした絡繰りの正体、それは時間そのものへの干渉。
成程、強き者を通り越し最早異常と呼ぶに相応しい存在だ。
神の持つ力の正体は知れた、それが途方も無く強大であるとも理解出来ぬ自分では無い。
されどあの男への不快感は未だ衰えず、油を注ぎ続けるかの如く燃え上がっている。
脳が理解を拒み、しかし受け入れる他なかった光景を思い出す。
傍らの巨悪へ一切の反応を示さず、意思を削ぎ落された弟を。
勝ち誇った笑みで、傀儡を自慢げに見せつけた神を。
何故、何故あのような男が縁壱を――
「……っ」
握り締めた果実を砕くように、忌まわしい光景を脳内から消す。
頭を冷やす為にも、理解の及ばぬ己の感情から目を逸らす為にも見える行為。
どちらかが、或いは両方とも正しいかは黒死牟自身も答えを出さず、別の情報へと思考を割く。
今更言うまでも無いが鬼は太陽の光を浴びれば消滅する。
逆に言うと日の遮断さえ可能ならば、日中だろうと屋外でも行動出来るのだ。
地下深くで知った情報の一つに、打ってつけの方法があった。
「仮面らいだあ」なる戦士。
絡繰り仕掛けの腰巻きを用いて全身に装甲を纏う者の総称。
檀黎斗や鎧武者だけではなく、天津や死した仲間の遺品を持つ承太郎もまた「仮面らいだあ」になれるとのこと。
ならば黒死牟もそういった腰巻きを手に入れ装甲を纏えば、日中だろうと陰に隠れる必要はない。
夜明けが近いが故に病院へ留まると決めたが、「仮面らいだあ」になればさっさと出て行って――
(…出て行き…そこから一体……どうすると言う……?)
問い掛けへの答えを出せない己自身に、最早ため息を出す気力すら薄れた。
ふと顔を上げれば遠くの方に光が見える。
月の出る幕は終わりと追いやり、今日と言う日を告げる光が顔を出し始めているのだ。
日輪、追いつかんと手を伸ばした者達を焼き尽くす、輝かしい絶望。
何故お前だけがという嫉妬、何故自分は届かないという憎悪、そして奥底へ変わらず根付いた、自分もああなりたいという羨望。
幼少時より抱き続けたそれらが弟へ向ける全てだった。
では今は?今の自分は弟へ何を想う?何を感じれば良い?
強さだけは焼き付く記憶と何一つ変わらない、しかし泥を被り、腐臭を放ち、錆びた輝きの太陽。
無辜の民を、力無き女や子供、逃げ惑う老人すらも雑草を刈り取るが容易さで斬り捨てる弟と会った時、自分は一体どうすれば良いのか。
「私は……」
答えは出ない、何をすれば良いのかも分からない。
進む道も、引き返す道も墨をぶちまけたのにも似た黒に染まり、行くべき場所がどこにも見えない。
帳を降ろした牢獄さながらの暗闇に唯一、視界の端をほんのちっぽけな桜色が掠める。
それが誰なのか分かるからこそ、余計に黒死牟は己を理解出来なかった。
【D-6(島・聖都大学付属病院)/一日目/早朝】
【環いろは@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:疲労(大)、魔力消費(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。
1:黒死牟さんを放って置けない、助けになりたい。
2:やちよさん達を探す。
3:もし灯花ちゃんとねむちゃんがまた間違いを起こすのなら、絶対に止める。
4:真紅の騎士(デェムシュ)を警戒。
5:どうしてドッペルが使えたんだろう?
6:みふゆさんの居場所は分かったけど、今から行っても遅いよね…。
7:キャルちゃんに渡したメダル、本当に良かったのかな…?
[備考]
※参戦時期はファイナルシーズン終了後。
※ドッペルは使用可能なようです。
【黒死牟@鬼滅の刃】
[状態]:精神的疲労、縁壱への形容し難い感情、黎斗への怒り、いろはへの…?
[装備]:虚哭神去@鬼滅の刃、木彫りの笛@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2
【思考・状況】
基本方針:分からない。
1:この娘は本当に何なのだろうか……。
2:もし縁壱と会ったら……?
3:無惨様もおられるようだが……。
4:日を避ける道具を手に入れるか…だが手に入れてどうする……。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※無惨の呪いが切れていると考えています。
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中・処置済み)、全身に斬傷(処置済み)
[装備]:スクラッシュドライバー+ロボットスクラッシュゼリー@仮面ライダービルド
[道具]:基本支給品一式、オレンジロックシード@仮面ライダー鎧武
[思考・状況]
基本方針:打倒主催者。どんなに敵が強くても必ず倒す
1:天津と行動。天津の過去に自分から言うべき事は特にない。
2:しばらくはこの病院に留まるべきか…それとも一海の仲間を探すべきか?
3:DIOを警戒、どうやって蘇ったのか、それとも時を超えてきたのかも知らないが必ず倒す。
4:仮面ライダーの力…大切にしなくちゃいけねぇようだ。
5:悪党がもし仮面ライダーの力を悪用するならば変身前に時間停止で奪い返す
6:黒死牟に関してもゲームに乗る気が無いならそれで良い。
7:あのカードは不動が持ってた方が上手く使えるだろ。
[備考]
※参戦時期は第三部終了後。
【天津垓@仮面ライダーゼロワン】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大・処置済み)
[装備]:ザイアサウザンドライバー&アウェイキングアルシノゼツメライズキー&アメイジングコーカサスプログライズキー@仮面ライダーゼロワン
[道具]:基本支給品×2、滅亡迅雷フォースライザー&プログライズキーホルダー×8@仮面ライダーゼロワン、ゲネシスドライバー(破損)+チェリーエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、みーたんの抱き枕(破損)@仮面ライダービルド、パンドラパネル@仮面ライダービルド)、ランダム支給品0〜1、一海の首輪
[思考・状況]基本方針:檀黎斗とその部下を倒し、罪を償う
1:聖都大学附属病院を拠点にし、今後の方針を考える。
2:檀黎斗攻略の鍵となる宝生永夢とは早めに合流しておきたい。彼の仲間である花家大我とも。
3:ポッピーから聞いたガシャットを見付ける。本当にあれば良いのだがな…。
4:出来る限り多くの人を病院に連れて来て治療したい。
5:飛電或人、滅と合流したい。もしアークに捉われていた時にこの場に来ていたのならば必ず止める
6:これ等のプログライズキーに映っている仮面ライダー達は誰なんだ?知っている人に会えたらいいが…
7:猿渡一海の仲間達を探し彼の最期を伝える。氷室幻徳とは随分離れているか…。
[備考]
※参戦時期は仮面ライダーゲンムズ スマートブレインと1000%のクライシス終了後
※ハイパームテキガシャットなど主催者撃破・会場からの脱出を安易にする強力なガシャットは、ゲームに乗っており尚且つ上位の力を持つ参加者の支給品にあると考えています。(現在の有力候補はポセイドンと縁壱)
※殺し合いの会場が仮想現実の可能性を考えています。
【不動遊星@遊戯王5d’s】
[状態]:ダメージ(大・処置済み)、右腕に痛み(処置済み・動かす分には問題無し)
[装備]:ホカクカード×30枚@スーパーペーパーマリオ、何かしらのモンスターカード×40(メイン37、エクストラ3)@遊戯王OCG、オベリスク・フォースのデュエルディスク@遊戯王ARC-V、サテライト・ウォリアー@遊戯王OCG
[道具]:基本支給品、城之内のデッキとデュエルディスク(ヘルモスの爪入り)@遊☆戯☆王、クリボー@遊戯王デュエルモンスターズ(アニメ版)、ナイトサイファー@グランブルーファンタジー、ウィザードライバー+ドライバーオンウィザードリング+ウォーターウィザードリング+キックストライクウィザードリング+ディフェンドウィザードリング@仮面ライダーウィザード
[思考・状況]基本方針:ハ・デスと檀黎斗の野望を止める、俺達の手で。
1:放送まで病院で休む。城之内のデッキを確認し、投入出来るカードがあれば使わせてもらう。
2:蛇王院と協力する。第一放送終了後指定の場所(有事に備えて三か所のどれか)に集まる。
3:ジャック、牛尾、遊戯さんを探す。
4:デッキを作る。カードは今拾った。平行して自身のデッキも探す
5:海馬コーポレーション……どういうことだ?
6:主催者は一枚岩ではないかもしれない……?
7:司波……城之内……。
8:カードが生成されるシステムを知っておきたい。
9:俺だけでなく遊戯さんもデッキを支給されていないのか?
[備考]
※参戦時期はジャック戦(4戦目)終了後(原作で言う最終回)。
※何のモンスターをホカクカードによってカード化したかは後続にお任せしますが、
モンスターカード、或いは罠モンスター等効果でモンスターカード扱いになれるカードのみが対象です。
現時点で判明してるのはセイクリッド・アクベス、BKベイル、星見獣ガリス、ジェット・シンクロン、シグナル・ウォリアー、スター・ボーイ、レッド・ミラー、ファイヤークラッカー、工作列車シグナルレッド、ジェット・ウォリアー、レボリューション・シンクロン、燃える藻、タスケルトン、波動竜フォノン・ドラゴンのメイン11、エクストラ3(サテライト・ウォリアー込みで4)です。
サテライト・ウォリアーは心意によって作成されてるので除外されます。
※デッキの代わりにホカクカードが割り当てられています。
※蛇王院、明石、達也、病院にいる参加者と情報交換しました。
【燕結芽@刀使ノ巫女(漫画版)】
[状態]:疲労(特大)、ちょっと楽しい、自分でもよく分からない喪失感
[装備]:九字兼定@刀使ノ巫女
[道具]:基本支給品、フレックの手袋@終末のワルキューレ、大尉の首輪
[思考・状況]基本方針:生きて帰る。
1:遊星おにーさんに付き合う。多分これで良いんだよね?
2:カードで人は戦えるんだ。不思議。
3:強い人とは戦いたいけど、面倒なのはやだ。
4:群れるのは嫌いだけど、今はちょっとだけ別かも。楽しい。
5:あんな面倒なの(デェムシュ)は今は戦いたくない。
6:紫様の流派、楽しい! 見様見真似だけど!
7:カイトって人とおにーさんの知り合いを探す。
8:あの人(ポセイドン)も強いのかな。
9:黒死牟おにーさんが使ってた力、頑張れば結芽も使えるかな?
10:にっかり青江を見付けないと厳しいかなぁ…。
11:黒い手袋はズルみたいでいや、使いたくない。
12:主催者を倒せばおにーさんを生き返らせられる…?
[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※九字兼定でも写シなどは使えますが、能力は本来の御刀より劣化します
※万病薬@ドラえもん の効果で病気が治りました。また飲んだ分は没収されてません。
荒魂がどうなっているかは現時点では不明。後続にお任せします。
※強者との戦い、一人で戦うことの執着が少し薄れています。
※遊戯王の世界の情報を得てます。
※透き通る世界に一瞬だけ至りました。より感覚に慣れていけば習得まで到達するかもしれません。
【キャル@プリンセスコネクト!Re:DIVE】
[状態]:健康
[装備]:ウルトラゼットライザー+ウルトラアクセスカード@ウルトラマンZ、怪獣メダル(ゴルザ、メルバ、超コッヴ)@ウルトラマンZ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1、詳細地図アプリ@ロワオリジナル、怪獣メダル(ガンQ、レイキュバス)@ウルトラマンZ、ウルトラマンベリアルメダル@ウルトラマンZ、NPCモンスターの残骸×??
[思考・状況]
基本方針:クロトや覇瞳皇帝からコッコロたちを守るために更なる力を求める。
1:今は病院に留まり、放送が終わったらメダルガッシャ―を目指す。
2:途中誰かに出会ったら、覇瞳皇帝に関して警告し、コロ助への伝言を頼む。
3:エボルト、里見灯花、柊ねむ、カイザーインサイトを警戒。
4:こんな力、強さじゃないってわかってる。けどこれで守れるものがあるなら……。
5:ヤバいってのは十分承知。でもあたしに力を貸しなさい、ベリアル。
[備考]
※ウルトラゼットライザーは、アクセスカード、
ファイブキングを構成する怪獣のメダル5枚で一個の支給品扱いです。
※ウルトラアクセスカードは、一番最初に支給された参加者の物のみ支給されています。
※ウルトラゼットライザーは変身の際に、
インナースペース(安全圏)にいる時間が短くなる様に、
怪獣の力が本来のスケールで出せない調整されています。
恐らく、ウルトラマンに変身する際も、同様であると考えられます。
※回収したNPCの残骸の詳細は、後の書き手様にお任せします。
※霊安室に城之内克也の死体と司波達也の死体があります。
※ポッピーピポパポはマイティノベルXまでの記憶を持っています。
【妖精のビン@大乱闘スマッシュブラザーズシリーズ】
蓄積ダメージが100%の時に限り、100%分回復するアイテム。
元々の出典はゼルダの伝説である。
【ウルトラマンベリアルメダル@ウルトラマンZ】
悪のウルトラ戦士、ウルトラマンベリアルの力を宿したメダル。
セレブロによって製造された為、ウルトラメダルではなく怪獣メダル扱い。
ベリアルの息子である朝倉リクを拉致し、彼の遺伝子を使って完成させた。
他の怪獣メダルと組み合わせる事で、ベリアル融合獣へ変身可能。
本ロワにおいてはウルトラマンジード及びウルトラマンZに登場した組み合わせ以外でも、融合獣へは変身可能。
独自の制限としてベリアル融合獣は3分で強制的に変身解除、2時間経過しなければベリアルメダルは使用不可。
◆
…………ん?ああ何だ、気付いたのね。
何してるのかって?見て分かるでしょ。あの子達の様子を見てたのよ。
時には誰かを守る為、また別の場所では身勝手な欲望を満たす為。
その全部をあたしは見ていたの。
まぁ、ちょっとかっこつけて言ってみたけど本当にただ見てただけなのよ。
どれだけ惨たらしく殺されても、あたしはそれを黙って見てるだけ。
叫んだって声なんか聞こえやしない。
アイツの夢に現れて色々補足してた時よりも、ずっと、ずっと……無力だわ。
え?アイツが誰かって?
んー…説明しようと思ったんだけど、長くなるしやめるわ。
それに運が良いのか悪いのか、アイツはあの場にいないしね。
あたしやあんたと同じ、殺し合いには関わらない。
今こうやってあんたと話してるのだって、言うなればおまけよおまけ。
本筋には一切関係ありません、ってやつ。
それよりコッコロたんよ!コッコロたん!
あぁ…よりにもよってどうしてその時期から…
メグちゃんまでその気になっちゃってるし、目を覚ましてコッコロたん!
今すぐあの子の前に現れて、そんなことしちゃだめって言って抱きしめてあげたい…
ほんっとに腹立つわねあの神様気取り…!コッコロたんにあんな気色悪いカードなんか渡してんじゃないっての!
っていうかそもそもコッコロたんを巻き込むな!
ふぅ…ふぅ…ごめんなさい、ちょっと興奮しちゃったわ…。
なによ?言いたいことでもあるの?
……参加者について何か言いたいことはあるかですって?
そりゃ勿論あるわよ、コッコロたんを…!……分かってるわよ。
そうね…あえて言うならあの場に明確な主人公は一人もいないってとこかしら。
勿論、それぞれの世界じゃあ騒動の中心、所謂主人公的な立場にいた奴だって大勢参加してるでしょうね。
でも殺し合いじゃあそれは通用しない。
主人公らしい素質、因縁、絆。
そういった世界に愛された証っていうのを、あそこでは皆奪われリセットされてる。
だから一見中心人物的な立ち位置に見えても、目を離した隙に殺されたって不思議は無い。
それこそ顔も名前も記されない一般人、あんた風に言えばモブキャラみたいに。
けど、だからこそどうなるか予想が全く付かないのよ。
だってそうでしょ?もし主人公が決まっていたら、そいつを中心に物語が進むって皆最初から分かってる。
でもあの場所はそうじゃない。
誰もが主人公では無い、逆に言うと誰しもが主人公らしい立場になれる可能性がある。
それが善人か悪人かどうかも関係なしに。
多分あの神様気取りでさえ、どう転がるかなんて分かってないんでしょうね。
アイツの場合はそれも含めて楽しいんでしょうけど。
……そろそろ限界みたいね。
あんたもいい加減元の現実に戻る時間よ。
なにあたしの名前?
いやよ、教えないわ。
どうせ起きたら全部忘れてるもの、それなら教えるだけ無駄でしょ?
ちょ、何でそんなに食い下がるのよ…。
分かった分かった!ならもし次もまたここに来れたら、その時は考えてあげる。
ほんとはやったらめったら来て欲しく無いんだけど。
それじゃ精々、良い現実を。
投下終了です
滅、鬼舞辻無惨を予約します
投下します
駆ける、駆ける、駆ける。
自らが刻んだ破壊の跡に背を向けて。
看板、街路樹、街灯、自動販売機。
道の先に存在する全てが目障りとでも言わんばかりに、片っ端から薙ぎ払って進む。
大正の日本国という、己の記憶で最も新しい時代には存在し得ない街並みすら心底どうでもいい。
無惨には時間が無い。
足を動かし続けている今この瞬間も老化は進行中。
彼の生き汚なさを体現した分裂は最早使用不可能、太陽以外では滅ぼせぬ肉体が人のソレと変わらぬ脆き有様と化すのも時間の問題。
鬼狩り百人を束ねようとも届かぬ超越者が、地に落ち這い蹲る末路を無惨は断じて認めない。
解毒へ全意識を集中させるには余りにも最悪の状況。
故に残された唯一の希望、時間停止を可能とする男を喰らう。
何に置いても優先するべきは自身の生存、なれば他は最早糸くず程の小さき関心を寄せるのすら時間の無駄。
男が通り過ぎたと思しき道を駆け、映る景色にも変化が訪れた頃。
真正面で蠢く黒を無惨の瞳が捉えた。
闇を人の形に切り取ったものの正体は男。
夜に溶け込む黒を纏い、眩い金の髪を揺らす青年が姿を見せたのは運悪く無惨の進路上。
猛牛の前に躍り出た馬鹿者、暴走機関車を塞がんとする命知らず。
青年からしたら理不尽極まりない喩えを当て嵌めるしかない状況だ。
無惨は足を止めない、そも、有象無象の為に歩みを止める義理がどこにあるというのか。
宙を舞う埃を掃うかのように、何を思うでも無く腕を振るう。
吹き飛び視界から消え失せるのを見送らず、進行方向のみに目を向け走る。
「…なに?」
違和感が無惨の動きを封じた。
払い除けた腕より伝わったのは骨が砕け内臓が弾ける、染み付いた感触に非ず。
人体が持ち得ぬ硬さ、岩石でも殴りつけたと錯覚せん感触。
身の丈程以上の巨岩だろうと粉砕するのが無惨の膂力。
それがどうしたことか、破壊した手応え自体がまるで無い。
時を止める男、忌々しい自称神、そして絶対的な耳飾りの剣士(トラウマ)。
以上の三人のみが占める脳内へ初めて、転がる石ころ以下の「その他」が無惨の意識を引き付けた。
『Are You Ready?』
「変身」
『COBRA…COBRA…EVOL COBRA!』
『フッハッハッハッハッハ!』
眩む視界と鼓膜をつんざく喧しさ。
再度青年を捉えた時既に、相手は必要なフェーズを完了させている。
出現した複数本のパイプがアーマーを生成、天球儀に似た光が晴れ現れる怪物。
仮面ライダーエボル、星を狩る兵器の姿がそこにあった。
(この男は……)
変身を終えた滅は仮面の下で眉を顰める。
余程腕に自信があるのか、それともただの考え無しか。
慎重さとは程遠い猪突猛進な男と遭遇し、何を話すまでもなく吹き飛ばされた。
ダメージは最小限に抑えられたが。
ただの人間ならば何が起きたかを理解せず、死んだ事すら認識出来ずに定時放送の死亡者に名を連ねる末路と化しただろう。
しかし滅はヒューマギア、搭載された機能は人間では到底察知不可能な物体すら見逃さない。
まして一般社会に普及されたモデルと違い、滅亡迅雷.netのリーダー格である為危険接近への対処もずば抜けて高い。
尤も、ヒューマギアの視覚センサーであっても腕が僅かにブレたと辛うじて分かる程度であり、コンマ数秒でも防御が遅れればスクラップとなったのも事実。
先の戦闘で手に入れたオーソライズバスターの外装が、優秀な盾として機能し事なきを得た。
よりにもよって憎き相手が使う武器の恩恵により命を拾ったのは不服であるも、今は単なる些事。
流れるようにエボルの装甲を纏い、有無を言わさず殺しに来た野蛮な相手を睨む。
人間ではないがヒューマギアでもない。
少々扱いに悩むも出会い頭に攻撃を受けたのを考えれば、生かしておく理由は自ずと消滅。
人間を殺すだけならまだしも、ヒューマギアにまで手を掛けるのであれば話は別。
ここで排除しておくに限る。
頭部をかち割らんとオーソライズバスター片手に突撃。
接近を阻むべくナニカが振るわれる。
ヒューマギアの機能を凌駕する視覚センサーが、今度はハッキリと攻撃の正体を捉えた。
異様に伸びた両腕と、地球上のどの生物とも一致しないカギ爪。
速度・威力共に生身の生物が発揮可能な限界を易々と超えているのは悪い冗談だとしか思えない。
そのグロテスクな肉の鞭を二度防いで尚も、こちらの得物は軋み一つ上げない。
衛星ゼアと飛電の技術力の高さは憎たらしいが認める他無かった。
一方で防がれた無惨はと言うと、額へ芋虫のように太い血管を浮かび上がらせる。
機嫌が良いか悪いかなど馬鹿でも分かるだろう。
何故大人しく死なない、何故黙って自分前から去り道を開けない。
どちらか片方を選べば良いだけの話だろうに、何をトチ狂ったのか自分に攻撃を仕掛けて来るとは。
頭がおかしいのか?まだ獣の方が物分かりが良いとさえ思えてくる。
先に手を出したのは自分の方など、正論が通用する男ではなく。
ただでさえ時間が限られている中で余計な手間を掛けさせる異常者への苛立ちにより、複数の脳が激しい熱を帯びた。
両者の間に言葉は不要。
互いの死以外に何一つ望むものはなく、地を蹴る音が開戦の合図となる。
二方向から触手の飛来を察知、アックスモードのオーソライズバスターで弾く。
対マギアや仮面ライダーを想定し製造されただけあって、強度も切れ味も一般社会に普及されている斧とは別物。
相応の重量もエボルのパワーならば、片手で操るのも容易い。
触手を弾き返され自ら両腕を広げた格好と化し、後はすかさず懐へと潜り込むだけ。
リーチの短さを補えるだけの速度で接近。
だが届かせられはしない。
真紅のマスクに搭載された視覚センサーが、再度飛来する触手を察知。
オーソライズバスターで防いだ、と思った次の瞬間にはまたもや触手が襲う。
爪を砕く勢いで得物を振るい、ほぼ同時に迫るもう片方の触手を斬り落とす。
手応えはあった、しかし触手は両方とも傷一つない。
刃が腕を走った時点で既に再生が始まり、血の一滴すらも滴り落ちずに完治したのだ。
両腕を変化させた触手はリーチが長い分、攻撃を空振りした際の隙も大きい。
そんなセオリーに従った考えを鼻で笑うように、隙などまるで見当たらないではないか。
振るっているのは二本だけの筈が、余りの速さに数十本もの触手が一斉に襲い掛かって来るようだ。
この時点で最早並のマギアやレイダーを大きく引き離す力。
冷静に対処を続けながらも警戒を一段階引き上げる。
(目障りな害虫が…)
相手に脅威を抱かせた無惨本人に、勝ち誇るだとかそういった感情は無い。
あるのは圧倒的な苛立ち。
黙って死を受け入れようとはせず、抵抗を続けるエボルが不愉快で仕方ない。
今もそうだ、触手を手にした斧で弾き、或いは腕の装甲で防ぐ。
本来ならば敵がどれだけ重厚な甲冑を着込んでいようと無意味、腕諸共粉砕する筈が現実には僅かな罅すら付けられない。
あの斧もそうだ、無惨の触手とまともに打ち合いを続ければ日輪刀だろうと飴細工同様の脆さだと言うのに。
無惨の知識には存在しない地球外製の装甲と、遥か未来の特殊合金。
これらが鬼の始祖の猛威を耐え凌ぐ役目を見事に果たしていた。
何より、装甲を纏っている為に血が体内に侵入する事もない。
無惨が取っているのは攻撃の際に自分の血を混ぜ、傷口から侵入させ相手の肉体を崩壊させる戦法。
鬼殺隊を苦しめた猛毒も装甲に防がれては無意味。
尤も仮に血を流し込んだとしても、機械の滅が相手ではそもそも効果が無いのだが。
接近を阻む両腕を防いでるだけでは埒が明かない。
思案しながらも得物を振るう手は休めず、頭上から振り落とされた触手を斬り飛ばす。
が、ふいにエボルの体勢が崩れた。
己の意思とは関係無く前のめりに倒れかけ、触手を迎え撃つ手も空振り。
咄嗟に反対の腕を翳し装甲で防御、衝撃を最小限に押し留めダメージを無効化する。
(何をされた?)
自分の意思で無いのなら敵が何かを仕掛けたと考えるのが自然。
スキャンセンサーが即座に原因を弾き出す。
敵が全身各所に生やした口。
100kgを超えるエボルすらも体勢を維持できない程の吸引だ。
的確な防御や回避に動こうと僅かにでも体勢を崩されれば、あっという間に触手の餌食と化す。
幸いエボルの装甲ならば叩き込まれてもダメージを最小限でやり過ごせる。
だからといって延々と受けてはいずれ限界が訪れるだろう。
故にこちらもそろそろ別の手に出るべきか。
「っ?」
左手を跳ね上げた直後、無惨の動きが硬直した。
両腕を振り上げたポーズのまま、磔にでもされたように動かない。
腕部よりエネルギーを放ち拘束。
数時間前に魔法少女相手にも使った能力は、此度も効果あり。
動きを封じ込めたまま腕を手繰り寄せ、見えない何かに引っ張られるかのように無惨の両足が地面から離れる。
後は範囲内に入った所をオーソライズバスターで仕留めるのみ。
無惨の両目が血走り脳が沸騰する。
一体何の権限があって自分に触れている、誰が触れて良いと言った。
己を縛るものを何一つ認めない男からしたら、数百切り刻んでも足りない屈辱。
この程度で勝ったと勘違いしている下郎の驕りを正さねばなるまい。
エボルの装甲から連続して火花が散る。
触手は振るわれていない、無惨の持ち得る武器は両腕のみに非ず。
先程吸引した口が今度は反対に空気の塊を吐き出し、全弾エボルに命中。
人間ならば風穴を開けられる威力も、エボル相手では命を刈り取れない。
しかし予期せぬ攻撃に拘束が緩んだのならば上出来。
自由を取り戻し腕を振るうも、敵もすぐさま立て直す。
後退しつつオーソライズバスターをガンモードに変形、幾度も引き金を引いた。
エネルギー弾が触手と胴体を焼き潰す。
太陽とは違う熱さと激痛、再生は問題無く行われるも未知の痛みに不快感が更に湧き上がる。
「いつまで私を不快にさせれば気が済む?」
腕だけでは足りないのなら、手数を増やし始末する。
背中から管のような触手を射出。
両腕と合わせて倍の数に増やした異形の鞭がエボル目掛けて飛来。
オーソライズバスターを連射し片っ端から撃ち落とし対処。
しかし数が数だ、とてもじゃないが追い付かない。
一本一本の速度と威力は言わずもがな、おまけに撃っても即座に再生される。
後退しながらの射撃もそろそろ限界だ。
再生を終えたばかりの数本がエボルへと叩き込まれた。
だが当たらない。
触手は虚しく空気を切り裂き、真紅と黄金の装甲には掠らせもしない。
尤も一度の回避程度で攻撃は止まず、避けた先のエボルへ触手が殺到。
生身ならばミンチ確実の脅威もやはり命中せず、無惨のストレスは余計に増大の一途を辿った。
無惨を拘束したエネルギーを今度は両脚から己に流し込み、高速移動を可能とする。
これもまたエボルに搭載された機能の一つ。
赤い残像を残しながら無惨を翻弄するかのように動きを止めない。
移動中もオーソライズバスターを絶えず撃ち続け、被弾と再生が絶えず繰り返された。
確かに速い、速いがそれは何もエボルだけに限った話では無い。
無惨もまたここで攻撃の速度を一段階引き上げる。
触手一本一本の動きにキレが増し、徐々にエボルのスピードへと追い付き迫った。
オーソライズバスターをアックスモードに戻し防ぐも弾き飛ばされ、無手となったエボルをここぞとばかりに触手が襲う。
両腕を跳ね上げエネルギーを放射、全ての触手諸共無惨の動きを封じた。
黙ってやられる無惨ではない、全身の口が吸引を始めエボルの拘束から強引に脱出。
エボルがつんのめった隙を見逃さず両腕を振るう。
脇腹への衝撃に初めて敵が呻き声を漏らし、間を置かずに二撃目が命中。
が、何とエボルは左腕からのエネルギー放射によりもう片方の攻撃を阻止。
宙で動きを止められた腕を掴むや否や一気に手繰り寄せる。
背中の触手を向かわせるも、右腕でエネルギーを放射され止められた。
射程距離内へ引き摺り込まれた無惨へ叩き込まれる衝撃。
胴体が引き千切られんばかりの蹴りを受けて吹き飛ばされる。
「つけ上がるな鉄屑が…!」
蹴りが命中した瞬間にエネルギーによる拘束は解除された。
であれば、最早隙とも呼べぬそのタイミングに無惨は動く。
自由を取り戻した触手をエボルに巻き付ければ、吹き飛んで行く自分を追うかのように向こうも両足が地面を離れる。
藻掻き力尽くで突破しようなどお見通し。
触手を引き千切れられるより早く、腕を頭上から叩きつけてやる。
地面が陥没する程の衝撃で地に伏せるエボルを視界に納め、無惨は華麗に着地。
みっともなく地に叩きつけられるなど御免だ。
「いらぬ手間を掛けさせ――」
最後まで言わせはしないと、無惨の顔面を狙う飛来物。
腕を振るい弾いたソレは、見えない何かに引っ張られるようにエボルの手元へ収まる。
先程弾き飛ばしたオーソライズバスターを、エネルギーの放射で遠隔操作したのだ。
キャッチと同時に全身を跳ね上げ無惨へと急接近。
既に両脚からエネルギーを自身に流し込んで敏捷力を強化済み。
無惨の言葉には最初から興味が無い故に、一々聴覚センサーを傾けるのは無駄と判断。
「…ああ、無駄だろうが一応聞いておく。飛電或人と会ったか?」
「口を閉じろ、私に騒音を聞かせるな鉄屑が」
キャッチボールにもならない会話を終え、互いの得物で喰らい合う。
無惨の戦法は変わらない、両腕と背中の触手を滅茶苦茶に振り回す。
手の付けられない悪童が駄々をこねているようにも見える、型も何も無い力任せ。
しかしそれを行うのが鬼舞辻無惨であるというだけで、脅威の度合いは爆発的に跳ね上がる。
鬼狩りと違い呼吸法を習得していない、配下である上弦の壱や参と違い武を極める精神性でもない。
何せそのようなものを無惨は必要としない。
純粋な身体能力、それだけで血の滲む修練の成果や磨き上げた技を全て無に帰すのだから。
柱複数人や上弦の鬼でさえ寄せ付けない暴威を単独で相手取る。
少なくとも無惨を知る者には信じられない光景としか映らないだろう。
反対に、滅びが変身したライダーを知る者ならば驚く程でも無い。
赤い残像を残しながら回避し、斧を自らの手の如く軽々と振り回す。
パワーとスピード、共に無惨へ全く引けを取らない。
仮面ライダーエボル、地球外生命体のエボルトが使う惑星破壊の兵器。
星狩りの本領を発揮する拡張ツールは無く、変身者も最もスペックを引き出せるエボルト本人ではない。
それらのハンデがあろうと地球産のライダーシステムを凌駕する性能は、鬼の始祖と渡り合う戦況を齎した。
加えて現在の変身者である滅も、幾度となく人間達との闘争を繰り広げたヒューマギア。
脳内に蓄積された戦闘データは殺し合いだろうと変わらず滅の力になる。
触手が地面を削り取り、オーソライズバスターが木々を薙ぎ倒す。
移動するだけで余波は容赦なくエリアを破壊する。
蹂躙される地形には互いに目もくれず、思考を働かせるのは敵を仕留める一点だけ。
エネルギーの拘束を察知した無惨が一手早く吸引、周囲の地面諸共引き寄せられる。
これをエボル、ガンモードに変えたオーソライズバスターを連射し対処。
複数の口を焼き潰され、再生の完了を待たずに再度アックスモードへ変形し頸を落とさんと駆けた。
やはりと言うべきか届かない。
背中の管が四方八方から襲い掛かり足止めを余儀なくされた。
赤い光を発しエボルが背後を取るも、目を向けないままに触手を放つ。
簡単には殺せない現実を噛み締める時間すらも惜しい、目に付いたものから斬り落とす。
斬られ、再生、また斬られ、また再生。
繰り返しの度に無惨の苛立ちは堪る一方であり、不快感はとっくに絶頂へと達している。
今行われている戦闘の全てが無意味。
余計に体力を消費させられ、ただでさえ貴重な時間をドブに捨てる始末。
本来ならばこの程度で疲労など有り得ぬ筈が、再生するに連れ少量ながら体力が疲弊しているのが嫌でも分かった。
死んで尚も自分の足を引っ張る忌々しい女狐と、薬を打ち込んだ女への呪詛が溢れ出す。
そもそも何故こんな無駄でしかない戦闘を行っているのか。
向こうが狂犬のようにこちらへ食って掛かり邪魔をしたからに他ならない。
殺し合いがしたければそれこそ耳飾りの剣士相手に幾らでも足止めの役目を果たせば良いものを、何故自分の方へ噛み付くのか理解に苦しむ。
「もういい、もう貴様の相手は飽きた」
茶番に興じる理由は無い。
狂犬染みた鉄屑如きに構ってやる義理も無い。
大体律儀に相手をしてやった自分の方がどうかしていた。
こんな児戯を続けている間にも、時を止める男は更に遠ざかってしまう。
貴重な時間を浪費させた虫けらは早々に踏み潰し、本来の目的を優先しなくては。
温度を無くした顔でエボルを見据え、一気に仕留めに掛かる。
『Ready Go!』
勝負を決めに動いたのはエボルも同様。
ドライバーに付けられたレバーを勢いよく回し、エネルギーを充填。
エヴォリューションチャージャーから流し込まれたエネルギーは、この戦闘中に使用した量の倍。
右足を軸に地面へ星座盤が展開し、収束する事で必殺の威力をエボルに齎す。
『EVOLTEC FINISH!』
地球の仮面ライダー達を捻じ伏せ、ゲームでは魔法少女の命を奪ったエボルの技。
此度の標的は鬼の始祖。
全身を加速させ勢いを付ける事でより確実に仕留めるべく威力を増す。
「っ!!!」
胴体へ叩き込まれ、内臓深くまで足底が捩じり込む。
数百年前に刻み付けられた刃とはまた別の熱さ。
あの時程の戦慄は感じない。
しかし未知の激痛に蝕まれる不快な感触に、血管数本がはち切れそうな怒りを覚える。
「がっ…!?」
ダメージに苛まれるのは無惨のみならず滅も同じ。
無惨の腿から生えた複数本の触手が装甲越しにヒューマギアのボディを痛め付けた。
これまで無惨は両腕と背中からの触手しか使わなかった為、肉体から生やせるのは他に無いと先入観があったのかもしれない。
結果、不意打ち気味に至近距離で放たれた触手は全て命中。
如何に優れた耐久性を持つエボルの装甲であっても、この距離で一本残らず喰らえば流石にダメージは殺し切れなかった。
『CIAO!』
両者を嘲笑うかのタイミングで電子音声が鳴り響く。
別方向へとそれぞれ吹き飛ばされ、後に残ったのは破壊の痕跡のみ。
人ならざる者達の闘争は、痛み分けという互いにとって苦い結果で幕を閉じた。
◆◆◆
背中から地面に叩きつけられる。
人間ならば即死は免れないだろうが変身中尚且つ、ヒューマギアだからか死なずに済んだ。
衝撃でドライバーが外れ、強制的に変身が解除された滅は起き上がらず横たわったまま。
地上を見下ろす月を睨みながら、今しがたの戦闘へ思考を巡らせる。
「流石に無傷とはいかないか…」
ここまで吹き飛ばされる原因となった攻撃、あれは中々に堪えた。
変身していなかったらスクラップの末路は確実だったろう。
破壊は免れたが残念ながら無傷でやり過ごせず、損傷個所からは青い冷却液が血のように流れている。
行動不能になるレベルの傷では無いのは幸いだ。
立ち上がりドライバーとボトルを拾う。
あの男が死んだかどうかは分からない、もし生きているなら次こそ仕留める。
出会い頭に攻撃を仕掛けた凶暴性を思えば、同胞のヒューマギアに被害が出るのは避けられない。
アレは人間では無かった。
先天的な生物なのか、後天的にああいった怪物が生み出されたのか。
後者ならば度し難い。
人間が原因でああいった新たな悪意の種を生み出されるのなら、やはり人類は滅ぶべきだ。
――じゃああの女の子は?家族を守ろうとしたあの子も死ぬべきだったのか?
「……」
聴覚センサーに異常はない。
なら今聞こえた声は何なのか、機械の自分が幻聴を聞くなど有り得ないのに。
余計な事を考える前に移動を開始する。
それはまるで、都合の悪いものから目を逸らす人間のような姿だった。
【E-4とF-4の境界/一日目/黎明】
【滅@仮面ライダーゼロワン】
[状態]:ダメージ(中)、激しい怒り
[装備]:エボルドライバー(複製)+エボルボトル(コブラ、ライダーシステム)@仮面ライダービルド、オーソライズバスター@仮面ライダーゼロワン
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品×0〜4
[思考・状況]
基本方針:人類滅亡。迷いは無い。
1:飛電或人は自分が殺す。
2:天津垓を含めた参加者の殲滅。
3:絶滅ドライバーとアズから与えられたプログライズキーを取り戻す。
4:触手を操る男(無惨)は次に会えば殺す。
[備考]
※参戦時期は43話終了後。
◆◆◆
理解出来ない。
自らに降りかかった全てが理解の範疇外。
何故どいつもこいつも自分邪魔をするのか。
何故誰も彼もが自分が生きようとするのを良しとしないのか。
異常者に常識を求めた所で無意味と分かっているも、それで簡単に怒りが治まれば苦労はしない。
半身を消し飛ばされる程の攻撃は既に完治したが、ストレスは溜まり続けるばかり。
「――――っ!!!!!」
苛立ちに突き動かされるまま腕を振るったとて、付き纏う問題は何も解決しない。
地面が破壊され、小石がパラパラと虚しく落ちる。
ふと、何と無しに振り返りソレに気付いた。
激情に支配された無惨とは正反対に穏やかな流れの川。
月の光が反射する美しさに目を奪われるような男ではない。
無惨が見つけたのはそういった幻想的な輝きを台無しにするモノ。
岩場に引っ掛かったソレへ触手を伸ばし、自身の足元へと引き寄せる。
無造作に地面へ転がしたのは、人間の子供。
片手の指で数えられる程度に幼い。
流されている間に付いたらしい傷が複数見られるも、致命傷となったのは頭部のものだと見る。
鬼殺隊の者達ならば義憤に燃え、主催者打倒の決意を一層高めるだろう。
無惨からしたら名前も知らない餓鬼が死んだからといって、そこに抱く感情は無い。
むしろ子供だろうと巻き込む異常者の遊戯には、それこそ同じ異常者の鬼狩りの方が相応しいとすら思う程だ。
支給品は殺害者が奪ったのか、近くに鞄は見当たらない。
誰が殺したのかにも興味は無く、この子供が誰なのかもどうだっていい。
しかし一つ、有用となるものはあった。
「首輪、か…」
無惨のみならず全参加者の命を握る証。
これを爆破されどこぞの小娘が殺された映像はしかと記憶している。
頭部を吹き飛ばされた程度では無惨は当然、変化したての鬼ですら殺せない。
当然それは主催者も把握している筈、にも関わらず首輪を装着したのは鬼であろうと殺せる仕掛けが施されているからか。
時を止めるなどを始めとする、檀黎斗の技術力を目の当たりにすれば否定は出来ない。
「ふん……」
喉元過ぎれば何とやら。
短時間で一生分でも足りない屈辱と、二度と味わうまいと思っていた恐怖に苛まれ、破裂しそうな怒りを感じた所へ首輪という現実的な問題を突き付けられた。
黎斗達への怒りも耳飾りの剣士への恐れも健在、されどゲーム開始当初は幾分落ち着きを見せ冷静に考える。
優先事項は見誤らない、だが生き延びる為には他にも思考を割かねばならない事が多い。
内の一つが首輪だ、今後を考えれば手に入れておいて損はない。
毛先程の罪悪感も感じず死体の頭部を引き千切り首輪を回収する。
より惨たらしい有様と化した死体には目もくれず、デイパックから取り出したのはタブレット。
参加者共通のデバイスも、知識が大正時代で止まっている男に使い方が分かる筈が無い。
しかし無惨は絶望的な癇癪持ちであっても、頭の回転は非常に速い。
生きる為に必要な知識を身に着ける等、自分の為には努力を欠かさない男でもある。
少し操作してみれば、どういった道具なのかはおおよそ理解し苦も無く名簿アプリを起動させた。
大半の参加者はとっくに済ませた名簿の確認をようやっと無惨も行う。
運が良いと言うべきなのか。
竈門炭治郎を始めとして鬼狩りはただの一人も参加していない。
あの異常者共を無視し自分を巻き込んだのは業腹だが。
鬼狩りはいないが知っている名はあった。
黒死牟。上弦の壱の座に君臨した配下の鬼。
無惨の記憶が正しければ黒死牟は猗窩座や童磨と同じく、無限城で鬼狩りに討ち取られた筈。
こうして名簿に記載されているということは、黎斗の手で蘇生したのか。
消滅した鬼の復活は無惨でさえ不可能、つくづく異常としか言いようのない力を持っているらしい。
黒死牟の参加を知ったが同じく不可解な事にも気付く。
殺し合いが始まってから今に至るまで、黒死牟の存在を把握できない。
現在位置も分からず思考すら読み取れない。
もしやと思い念話を飛ばしてみても返答は無し。
意図的に無視しているのではない、そもそも念話自体が不可能なのだろう。
導き出される答えは一つ、無惨が配下に植え付けた呪いが無効化されている。
黒死牟が一度死んだせいで呪いが切れたのか、黎斗が蘇生の際に余計な真似をしたのか、或いは珠世に打ちこまれた薬が原因か。
いずれにしても不満を抱かざるを得ない。
(まぁいい。黒死牟がどう動くかなど考えるまでも無い)
邪魔な参加者を排除しつつ無惨との合流に動いているだろう。
柱の殲滅を果たせなかった生前を恥じ、より一層主の為に尽くす。
自分に従う鬼として当然の事だ。
「場合によっては奴の首輪が必要になるかもしれん」
首輪は参加者全員に装着されている。
しかし外見は同じでも内部の作りはそれぞれ違う可能性があると無惨は睨む。
人間を殺すには単なる爆薬のみで十分、しかし鬼を殺すには再生能力を無効化する何らかの仕掛けが必須。
よって自分と黒死牟の首輪は人間の参加者とは違う仕組みとなっている。
それならば、人間の首輪を何個集め調べたても意味は無い。
当然自分の首輪を不用意に弄繰り回すなど以ての外。
この場で唯一の配下を失うのを惜しいと思わないでもないが、自らの生存とは比べるまでも無い。
とにかくまずは時を止める男を喰らい、自らの急激な老化を阻止しなくては。
タブレットを仕舞い無惨は再び追跡を開始する。
全ては自分が生き延びる為。
人であった頃より何一つとして変わらない、それだけが無惨を動かす原動力だった。
【G-3 川辺付近/一日目/黎明】
【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(中)、主催者への不快感(極大)、恐怖と焦燥感(大)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3、ボーちゃんの首輪
[思考・状況]基本方針:誰であろうと殺す。
1:金髪の男(DIO、名前は知らない)を喰い殺し、時を止める力を手に入れる。
2:1が完了するまで耳飾りの剣士(縁壱)との接触は絶対に避ける。何時まで私に付き纏う気だ貴様は。
3:全てが終わったら檀黎斗を殺す。二度と私の前に姿を見せるな異常者が。
4:黒死牟は放って置いても私との合流を目指すだろう。奴の首輪が必要かもしれん。
[備考]
※無限城決戦終盤からの参戦(寿命残り数日)。分裂不可。再生能力は今のところ健在。
※配下の鬼への呪いは無効化されています。
投下終了です
投下します
このバトル・ロワイアルは過酷な世界だ。
単なる人と人による殺し合いだけではない。
大海原の神は全てを飲み込むかのように沈めていく。
ナチスの残党の人狼は己の最期を飾るために奔走する。
番長たる聖騎士は変わることなく浄化の為人を剪定していく。
超人類が、アギトが、ヒューマギアが、鬼狩りが、ミーム汚染の産物が、
戦国乱世の如く、各地にて戦いを繰り広げては、やがて人が消えていく。
何も成せない魔法少女がいた。
後の事を頼まれた少女を無惨に殺され、
ただ純然たる暴に敗北して打ちひしがれている。
逃げることしかできない少女達がいた。
相手は主催の差し向けた刺客。加えて悪辣な陰陽師一行の乱入。
集いこそした者達はただ仲間を犠牲に生きながらえることしかできない。
最悪の置き土産を仲間から受け取った少年がいた。
事実を知ればただの茶番。しかしその事実を語る者は誰もいない。
折れないハートを折る為の、死して尚纏わりつく呪いを与えられて。
自分が守る側だと思った相手に守られた刀使がいた。
守ってくれとは頼んでない。けれど彼はそれでも動いた。
患った病に苦しむ姿が、妹と重なると言うその程度の理由で。
既に多くの命が散り、多くの人達に傷痕を残していく戦い。
百を超える参加者たちが、このありふれた六時間でどれだけ散ったのか。
時代はさながら戦国の中、ただ一つだけ平穏な場所が存在していた。
「今のは8だな!」
「いや、3だだ。近い数字ではある以上、
基礎訓練になるって言うのが完全に否定はできねえな。」
「あ、ホントだ……ってその位置から見えるのか!?」
「彼は仮面ライダーのようだからな。こればかりは実戦経験の差がある。」
「ドロー!」
此処、バッティングセンターだけは至って平和であった。
厳密には平和なわけではない。あくまで此処は神を名乗る男による舞台の一部。
未だ逃れてなおぢない。首輪と言う現実を教えてくれるものはすぐそこにある。
彼等は別に楽観視などしているわけではない。百雲もリゼもできる限り訓練を続け、
足手纏いにならないぐらいの成長が今必要だから此処に留まって鍛えている。
(ココアやチノ達は大丈夫なのかな。)
だからと言って、リゼは心愛達の安否が気にならないかで言えば嘘になる。
リゼは運が良かっただけで、殺された麻耶のような可能性だって否定できない。
こうして専用ぶきなるものもあるが、それが他の皆にもあるのかどうかも分からない。
かといってそれを気にして焦って動いてしまえば、それこそ主催の思うつぼだ。
庇わせることを想定して、あえて出会いやすいように配置していた可能性もあるが。
専用ぶきから逆にこうやって訓練して時間を食わせるのが目的もあるのでは、
なんて思ったりと不安は表にこそ出してはいないものの、募っていくばかりだ。
(何より、私は戦いすら起きてない。)
特にこの数時間、敵らしい敵にリゼは出会ってすらいないのだ。
百雲はゴブリン突撃部隊に襲われたので戦いの意味を知っている。
橘や大我は元より戦いに身を置く仮面ライダーをしていたわけだ。
なのでただ一人だけ戦いとは、命掛けとは何か縁遠いものに見えてしまう。
麻耶が殺されたのは目撃したが、言ってしまえばそれだけなのだ。
張り付くような殺意や敵意。そういうのとまったく出会ってない。
基礎訓練も大事だが、実戦も大事なのではと思い始めた時。
平穏なこの場所にも事件は舞い込んでくる。
「な!?」
ボールの番号を見ようと集中していたところ、
遠くない位置からの爆音と、間もなく飛んできたボールに対して、
場外から飛来してきた何かがぶつかることでリゼの方へとボールと共に転がる生物。
「あ、さっきの……」
緑色の肌に簡易的な防具と武装をした異形の生物。
百雲を襲っていたゴブリン突撃部隊と同じようで、
あれは集団でいたことからそれなりの数はいることが分かる。
だが問題なのは、先の音から続いて派手な轟音が止まらないことだ。
参加者がいるのか、それともあの侍のようなNPCがいるのか。
何にせよ、危険な存在である可能性があることは否めない。
「俺達が確認してくる、てめえらは此処で待ってろ!」
この手の状況に慣れている大我達が即座に動く。
橘も即座に動こうとするが二人の方へと振り向き、
「建物の破壊が目的だった場合には備えておくんだ。
戦闘に参加しろとは言わないが、警戒は怠るな。
まずいと思ったら此方の事は考えずに逃げてもいい。
身の安全を最優先する……これを忘れるな。」
そう言ってから大我の後を追う。
見解としてはどちらも正しいことではある。
どちらの選択をとっても間違いとは言いきれない。
ただ、残された二人は顔を合わせると橘の方に従い、外に出られる場所に移動しておく。
先のゴブリンは死体で飛んできたから問題はなかったものの。次もどうかは別だ。
そうなると余計な心配をかけることになるので、そういう意味でも様子を見に行く。
NPCが大群でいるとかであれば、今度は戦えるかどうかの確認も必要故に。
この先の戦いで思いあがらない為にも、今一度自分達がどうなってるかを知りたくもある。
そして、外で何があったのかと言うと。
「最初からこうするべきだったな。」
アテムの戦いを見届けていない方の海馬は冷めた目で周りを見やる。
周囲のモンスターが種族も属性も関係なしに泡を吹いて倒れており、
何が起きているか端から見ては異様な光景とも言えるだろう。
その正体は彼の背後を飛ぶ、三日月の翼を三つ持つ青紫の龍。
パンデミック・ドラゴン。ライフを対価にモンスターの攻撃力を下げる効果を持つ。
名前の通りウイルスのように相手を弱らせる、ウイルスコンボを使う海馬らしいカードだ。
攻撃力も2500とそれなりに高いのもあいまって、雑魚は攻撃力を下げる効果で無力化。
残っている奴は当人の攻撃力で消し飛ばせば、大概の事はなんとかなってしまう。
先ほどまではブルーアイズの火力にものを言わせて周囲を蹂躙していたのだが、
この程度で済むのであれば、先程のは過剰火力であったことがよくわかった。
単純な攻撃力ではない。モンスターの特性もまたこの世界では勝手が変わってくる。
この辺はもう一人と違い、ビッグ5のバーチャルゲームを経験してないが故と言うべきか。
少しばかりこの戦いには手探りでカードの扱いと言うのを試しているのもあり、
時間の経過の割には余り動けていなかった。
(此処だけNPCがやたら多い理由はおおよその予想が付くな。)
このエリアにだけ妙にNPCが集まってきていることが、
もう一人の海馬同様空をモンスターに乗って徘徊して気付くことができた。
ゲームに例えられた舞台。となれば、ゲーム的な理由が存在する可能性は高い。
ゲームにおける敵が多い場所とは何があるのか。
殺し合いのバトルロワイアルのゲームをジャンルとするなら、
簡単に起こりうるものがあるとするとして、いくつか心当たりはある。
他にも選択肢はあるにはあったが、後で考察していくことにして三つを考えていく。
①何かしらのイベントの為に用意されていたNPC。
②何か重要なものがこのエリアにあるから配置されたNPC。
③参加者が動かなさすぎているから向かわせたNPC。
①については多くのゲーム全般に存在するもの。
特定のタイミングにドロップ率アップや、大量にゲットするチャンス。
レイドバトルと言った集団戦闘を想定して用意した、と言う可能性。
ただこれはないと判断した。理由は単純で、殺し合いに乗るなら集団の形成が難しい。
複数人を想定してるイベント。殺し合いを盛り上げるのはどちらか? 確実に乗った側だ。
乗った側がただただ損をするだけだ。物の数にならないとでも言うかのような、
絶対的な力を持っているとかであれば話は別かもしれないが格差は必ずある。
ゲームで実装してもやりこんだ人とやりこんでない人でどうしても差が出るが、
此処では寧ろ運営としては、太客となる存在なのは乗った側の人物になる。
それを乗ってない側の方が得をしやすい状態になってしまうのは好ましくない。
奴もクリエイターの端くれならば、面白みのないイベントなどやらないだろう。
②についてはRPGにおいてはありふれた要素になる。
別にゲームに限らない。行ってほしくない場所ほど厳重にするのはありがちだ。
開けられたくない金庫を頑丈にした結果、何かがあると分かってしまうような。
加えて檀黎斗はそも首輪を解除して立ち向かって来いとでも言いたげな宣言している。
最初から首輪と言う生殺与奪の権利を握ってる以上、美遊と言う人質は最初から必要ない。
つまり、元より首輪の解除、ならびに殺し合いの脱出は想定済みとしているのならば、
ゲーム感覚で言えばボスを倒す、希少なアイテムを揃える、そういったものが挙げられる。
ただ、これの場合も確率が低い。約100人ぐらいで構成されている殺し合いで、
広大な舞台を探索しきるのはまず不可能だ。乗った参加者がいれば捜索も更にままならない。
よほど誰もが行くであろう場所、と言う目印のようなものでもなければならないだろう。
例えば、檀黎斗に縁の深い場所となるものが存在するとか、そう言うのでもない限りは。
実際に、彼に縁の深い場所には縁のあるNPCがいたわけだったりするが。
③はFPS、格闘ゲームなどの対人戦を前提とするゲームの停滞の阻止。
知り合いがいたとしても積極的にそいつを探すとは限らない。
もう一人の海馬は遊戯に執着はないのが最たる例である。
まあ、海馬の場合は積極的に動くのでさして問題にはならないが。
やむを得ず動かないのであれば、動かざるを得ない状況へと追い込むためのもの。
禁止エリアと言うFPSにありがちな対策は確かにあるが、それだけでは不足と感じたのだと推測する。
例えば『この周囲のエリアに脅威となる参加者がいなくなってしまった』と言った類だ。
いなくなってしまえば、エリアを一つ移動してもまた安全圏に居座り続けるだけになる。
それはゲームとしては面白くない。ゲームと言う部分に強いこだわりを持つのであれば、
つまらなくなる部分や不公平な部分は潰していくに限る。
ゲームクリエイターとしては当然の行為だ。
なので海馬は妙にNPCが多いこの街へと降りることを選んだ。
NPCの強さは海馬からすれば所詮は有象無象、或いは馬の骨程度のもの。
さしたる苦労もすることなく簡単に決着がついた。
「やはりいたか。」
他の考察を考えようかと思ったいたところ、
推測は当たって騒ぎを聞いて駆け付けた二人が、
近くのバッティングセンターから飛び出す。
さして傷を負ってないところを見るに交戦はほとんどしてないのだと分かるものの、
ベルトは様になっている以上仮面ライダーとしての経験はあるらしいことは伺えた。
「おい、てめえはどっちだ。」
大我が注目するのはコートにつけられた装飾。
KCのロゴ。これはデイバックにもつけられているロゴと一致する。
加えて相手は一人でいるのもあって、警戒に値するだけの存在だった。
特に百雲と違い彼もまたデュエルディスクが様になっていることから熟練者だと察せられる。
裏ボスとしてあの男が用意していたところで、なんらおかしくないのだと。
「フゥン。俺は殺し合いなど欠片も興味はない。
俺は人のロゴをこうして勝手に使って使用権も払わず、
クリエイターの風上にも置けぬ輩と宿命のライバルに用があるだけだ。」
敵意がないことを示す為、パンデミック・ドラゴンを消しカードをデッキに戻す。
先ほどの暴威の一端を見ていたのもあり、その気になれば遠慮なく暴れられるはず。
態々後手に回るような真似をするようにカードを戻したのもあって、敵意はないと判断する。
「どうやら敵ではないようだな。此処で話すのもあれだ。中で話そう。」
死屍累々の場所で話すと言うのもアレなので、
五人はバッティングセンターの中へ戻り話し合う。
互いに得た情報は決して無益とは言い難いものだ。
この戦いの鍵となりうる存在である仮面ライダーとデュエルモンスターズ。
しかも主催となる男や部下が知り合いなので得られたものは決して悪くない。
(なおこの海馬の方ではデュエルモンスターズではなくマジック&ウィザーズだが)
とは言え、それ以外参加者に出会えてないことから進展してないのは問題だが。
もう一人の海馬の存在もまた、心愛の存在に信憑性を持たせてくれる。
「仕方ないとは言え時間を費やしすぎたな。俺たちも流石に動くべきだ。」
改めて情報戦において出遅れてることを実感する大我。
百雲のデッキもそういうモンスターはいないため、移動手段が乏しい。
なので徒歩で移動することもあいまってどうしても時間を食っていた。
事実、この数時間で出会ったのは動いてないリゼ達と誰とも出会えてない海馬のみ。
仮面ライダーの力を使えば容易でも、百雲がついてこれない。
これについては橘も同じであり、基礎訓練も相まって動かずにいたツケでもある。
訓練自体は大事だが、これ以上の時間はロスするのは余り良くない。
「俺はモンスターで移動するが、貴様らは……」
「あ、あの海馬さん。」
少し及び腰になりながら百雲が手を上げる。
大我と少し似ているが鋭い目つきで圧が強いところは、
厳格な父と重なる部分があって何処か苦手な雰囲気があった。
友人の琴音が男性に対して嫌悪感を抱いていたのは、
そういうところもあったのかなとも頭の隅で考えつつ。
「時間を使うのでダメだと思うんですが、
ぼくと一度だけデュエルしてもらえませんか?」
デッキの回し方は十分わかった。
2種類の効果を同時に扱えないウィッチクラフトデッキ。
覚えることに時間はかかったが立ち回りはおおよそではあるが理解している。
だがデュエルを実践で試すなら、デュエリストと相手するのが一番だ。
自分のデッキは熟練者から見てちゃんと扱えているのかを。
「あ、殺し合いとかそう言うのじゃなくて、純粋なカードでの対決で……」
勘違いされそうだったので、
慌てふためきながら誤解を解こうとする。
デモンストレーションでは単純なデュエルとかの場合だと、
ダメージがないと言うのが証明されている。無傷で実戦を行えるのは、
デュエルモンスターズ同士のぶつかり合いにおける一つの強みだ。
「初心者か。経験は詰むに越したことはあるまい。
いいだろう。だが俺は相手が誰であろうと容赦はせんぞ。」
「そうしないと、実力も分からないから……お願いします。」
曲がりなりにも最強のデュエリストを倒すべく研鑽してきた男だ。
実力は高く、だからこそ自分がどの程度理解できているかが大事になる。
念のためもしダメージがないのは嘘なのかを試す為適当なモンスターで殴り、
ダメージがないままライフをゼロにできたことを確認してからデュエルを始める。
ただし、海馬のモンスターのサイズの都合窮屈なので外に出てからのデュエルだが。
「行くぞ、デュエル!」
「え? えっと……デュエル!」
初めてデュエルディスクが稼働し、形を変えていく。
まるで逆手持ちに握る刃物のようなそれではあるが、
此処においてはある意味刃物よりも優れた武器かもしれない。
「先行は貴様にくれてやる。」
「え、じゃあ、行きます。手札から魔法カードウィッチクラフト・クリエイションを発動。
デッキからウィッチクラフトモンスター、シュミッタを手札に加えてそのままを通常召喚。」
ウィッチクラフト。
それは魔女たちによる工芸をテーマとしたデッキ。
絵や陶器、宝石と言った工芸を専門の分野に精通した魔女たちバイストリートに集う。
ハンマーと呼ぶべきか怪しい謎の武器を持った、赤髪の少女が登場する。
「シュミッタの①の効果! 手札の魔法カードのウィッチクラフト・バイストリートと、
シュミッタ自身を墓地へ送ることでデッキからウィッチクラフトモンスター、
ウィッチクラフトマスター・ヴェールを守備表示で特殊召喚!」
入れ替わるようにして登場するのは、気だるげにあくびをする青髪の少女。
クリスタルのような鉱物でできた椅子へと座り、余裕の表情を浮かべる。
「更に墓地のシュミッタの②の効果で自身を除外することで、
デッキからウィッチクラフトカードであるウィッチクラフト・サボタージュを墓地に。
ターンエンドと同時に墓地の2枚の効果を発動! バイストリートは②の効果、
サボタージュは①の効果を使用してない場合に発動できる効果があって、
バイストリートはフィールドに表で置いて、サボタージュはそのまま手札に加える。」
「私はカードゲームに特別詳しくないが、
結果的に手札がないのにこえは結構いいんじゃないのか?」
大富豪やUNOと言ったオーソドックスなカードゲームでも、
手札が多いとそれだけやれることが増えて逆転の目が多くなりやすい。
或いは強い札を維持したまま勝利することができる道筋を作りやすい。
デュエルモンスターズに浅くとも、その辺りの理解はリゼにも十分ある。
「大富豪等の要領であれば確かに有利だが、
大富豪で手札が割れているのは同時に痛くもあるな。」
「だがカードゲームになれてる動きだ。
手札がある程度露呈するとしても、この盤面が欲しかったんだろうな。」
元々デュエルファンタジーと言うアプリにおいて、
即死コンボを繰り出すぐらいのガチ勢ではあった身。
デュエリスト以上ではないにしても、常人よりはよっぽどとっつきやすい部類だ。
「俺のターン、ドロー……フゥン。
最初のデュエルではあるが、このデッキは存分に戦いたいようだな。」
「え。」
引いたカードを目にしながら海馬は笑みを浮かべる。
やはりこのデッキはそうでなければな、とでも言わんばかりに。
「俺は手札の青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)を見せることで、
手札のこのカードを特殊召喚する! いでよ! 青眼の亜白龍(ブルーアイズ・オルタナティブ・ホワイト・ドラゴン)!!」
空に舞い降りるはその名の通りと言うべき青き眼を持ち、
白銀のボディを持った荘厳にして強大なドラゴンの姿。
何かの回路のような線が浮かび上がっており、ドラゴンではあるものの独特の姿をする。
「な、手札消費なしでいきなり3000だって!?」
ヴェールが守備力2800で、
色々手間をかけて出したことを考えれば、
ただ手札を見せる程度で攻撃力3000をポンと出してくる。
いきなり遠慮のない動きだと言うのがよくわかる。
(けど、まだ大丈夫。)
百雲が表で置いたバイストリートには、
ウィッチクラフトモンスターに1ターンに1度破壊されなくする効果を持つ。
攻撃力で勝っていても破壊できなければ意味はなく、加えてヴェールの効果もある。
戦闘で突破するのは容易ではないのが分かる。
「オルタナティブの効果発動! 相手モンスターを一体を対象に破壊する!」
「なら、バイストリートの効果適用!
ウィッチクラフトモンスターは1ターンに1度破壊されない!」
「ならば二発目だ! 手札から魔法カード滅びの爆裂疾風弾(バースト・ストリーム)を発動する!
フィールドに青眼の白龍が存在する場合に発動可能で、相手フィールドの全てのモンスターを破壊する!」
オルタナティブの口から立て続けに放たれるブレス。
一度目こそ耐え凌いだものの、二度目は容易くモンスターが消滅する。
「待て待て! そのカードはオルタナティブであって、
えっとブルーアイズ……なんとかじゃなかっただろ!?」
「喚くな小娘。オルタナティブにはフィールドか墓地、
どちらかに存在する限りは『青眼の白龍』として扱う効果を持つ。
テキスト上はオルタナティブだが、場にいる限りは青眼の白龍と言う名前になる。」
「あ、ああ。そういうことか……」
「だがあのカード、使うと青眼の白龍は攻撃できなくなるらしいな。」
「分かるのか?」
「これからデュエリストの敵もいるだろうからな。
どういうゲームかを覚えておくことは攻略に必須だ。
無策で突っ込むよりは無駄なく覚えておくに限る。」
デュエルのルールを理解するべく、
大我はアプリでカードを確認しつつ状況を理解する。
だが問題なのは攻撃できないことそのものではない。
オルタナティブは元より破壊効果を使うと攻撃宣言ができなくなる。
デメリットにデメリットを合わせることで損失を減らしてる立ち回りだ。
「中々強かな奴もいるようだな。
だが無論デメリットも対策済みだ。
俺はデッキから青眼の白龍を墓地へ送ることで、
手札からロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの独裁者を特殊召喚する!」
骨のような鎧とマントを着こなし、
ブルーアイズの頭部に類似した法螺貝のような笛を持った、
人型のモンスターが続けざまに召喚される。
「更に俺は手札の強靭!無敵!最強!を墓地へ送ることで、
ドラゴンの独裁者の効果を発動! 墓地に存在する青眼の白龍を特殊召喚する!」
オルタナティブから回路のような線を取り除いた、白き龍が横に並ぶ。
海馬にとっては三千年も前からも続く、長い付き合いのカードにしてエースモンスター。
彼の背後を舞うだけでそのドラゴンは様になってると言ってもいいだろう。
「ま、まずいんじゃないのか?」
「だが青眼の白龍が攻撃できなくなるなら、
あれも同じ名前のカードである以上攻撃はできないはずだ。」
「フゥン、その程度で止まるならば凡百のデュエリストにすぎん
俺は二体の青眼の白龍をリリースし、このモンスターを特殊召喚する!
現れろ、青眼の双爆裂龍(ブルーアイズ・ツイン・バースト・ドラゴン)!!」
二体の龍が渦のように混ざり合ったかと思えば、
その渦から姿を見せたのは、首が二つになったブルーアイズだ。
美しさを損なうことなく、しかしどこか猛々しさを感じさせる姿になる。
「更に魔法カード死者蘇生により、墓地からブルーアイズを復活させる。」
「しかし攻撃はできないはず。何故此処あのモンスターを……」
「俺のフィールドに青眼の白龍が召喚されたことにより、
墓地に存在する罠カード強靭!無敵!最強!の効果を発動する!
このカードをフィールドにセットし、発動後ゲームから除外する。」
「な、なんだかまずくないか?」
相手は攻撃できないデメリットをうまく回避し、
更に捨てたカードすら計算に入れてデッキを回している。
素人であるリゼでも流石に相手のプレイングが優れてるのが分かってしまう。
「まずいに決まってんだろ。あのカード、
使えばブルーアイズが他のカードを受け付けなくなる上に、
戦闘でも破壊できずブルーアイズの名前がついてりゃいいからツインバーストも対象だ。」
「ちょ、ちょっと待て! するともぐもは……」
「次のターンがきてもあのドラゴンを突破することはできない、か。」
ただでさえ高い攻撃力を持っているのに、破壊してどかすことすらできない。
海馬が遠慮していないのがよくわかる瞬間だ。
「バトルだ! 独裁者とツイン・バーストで貴様にダイレクトアタック!」
笛からの超音波と、双首の龍のブレス。
攻撃のソリッドビジョンのリアルさに、
思わず百雲は屈みながら避けようと思ってしまう。
無論二重の意味で意味はなく、怪我はなければライフは減るだけだ。
(これが、本物のデュエリスト……)
ライフ8000で始まったデュエルのはずだが、
今のダメージは4200。既にライフを半分以上削られたことになる。
ライフがあれば多少のダメージは気にせずに済むが、相手の攻撃力を見るに、
相当な攻撃力を持っているパワータイプのデッキであることは間違いない。
下手なダメージでも致命傷になりかねない。慎重に立ち回る必要があると。
「俺はカードを一枚場にセットし、ターンエンド。」
「もぐも! まずはモンスターの数を減らそう!
あの独裁者はどうやら攻撃力が低いみたいだし───」
「いや、それはどうだろうな。」
「え?」
「どうやらドラゴンの独裁者は、
フィールドにブルーアイズがいる場合攻撃対象を自分で選べるそうだ。」
いつの間にか橘もアプリを開いており、
カードの効果を確認しながら互いのデュエルの盤面を理解していく。
カードこそ集める仕事ではあったのだが、カードゲームとは縁は余りない。
なのでどういう意味かを細かく理解してるわけではないにしても、
攻撃を誘導すると考えれば戦いにおいて厄介な効果と言えるだろう。
特に遠距離攻撃のギャレンからすればそれだけでやりづらくなる。
「さっきセットした強靭無敵だっけ、
あれはお互いなんだろ? 罠の効果を受けないんじゃないのか?」
「あれはブルーアイズに効果を与えてるわけじゃない、といったところだろうな。」
高い攻撃力。付与される耐性。戦闘もままならない。
デュエルモンスターズに対する見解が浅い三人では、
この盤面を覆せる攻略法は見つからないままだ。
(どうやって、どのカードだったら突破が……!?)
どうすれば攻略できるのか。
焦って手札のカードを見ながらあの盤面の突破の仕方を考える。
何度もテキストを見たりアプリで確認していても不安は拭えない。
仁王立ちで構える男が、とても強大で恐怖の象徴にすら見えてしまう。
(あれ、ダメ……?)
圧倒されそうだった。
まだライフがあると言うのに手札だって十分ある。
考えればきっと逆転できる。決闘者は多くは考えるだろう。
けれど百雲は初めてだ。今この盤面を前に、勝てる気がしないと。
これが熟練の人間と、初心者による決定的な差なのかと折れそうになる。
「デュエルの腕はセンスはあるようだが、此処では通用せんぞ。」
「え……?」
「貴様が見るべきなのが敵ではなく手札の時点で分かる。
もしこれが戦いならば、貴様が視野を阻めてる間にも敵は待たん。
あの三人が傷ついている中でも、貴様はテキストに集中するつもりか?」
その言葉に返すことはできない。
これがデュエルだから。死ぬことはないから。
そんな風に楽観的に捉えたままデュエルしていた。
もし今の二十秒程度の時間で戦局が変わってしまったら、
後は泥沼だ。延々と足を引っ張り続ける未来しか想像できない。
「実戦であればどうなっていたかを想像するがいい。
貴様はそのデッキを扱えてるのかもしれないが、未だ借り物だ。
借り物の力で己の魂を偽ろうとも、貴様自身は何も変わりはしない。
この程度で折れるようならば、貴様は戦場に立たないことだな。
カードと言う武器を手に、まやかしの自信に思い上がれば死が待っているぞ。」
「お、おい。がんばろうとしてるもぐもにその言い方はないだろ!」
「この程度で折れるような奴が本番で戦えると励ますつもりか貴様はッ!!」
覇者の一喝のような剣幕に、リゼも口をつぐんでしまう。
橘も大我も、海馬の言ってることは刺こそあるが事実ではある。
一刻を争う中で心の余裕がないのであれば、戦うべきではないと。
此処は遊びではなく、命懸けの場所なのだから。
「フン! 戦う理由や信念ならどんな弱小な奴にも存在する!
此処であればそこの二人にも、当然貴様ら二人にもある話だ。
重用なのはあるかどうかではない。それに押し潰されるか、守り抜けるかだけだ。
貴様らにはそれがあるのか、今一度、貴様ら自身に問いかけてみることだな。」
海馬は別に百雲を気遣うつもりは欠片もない。
M&Wは小さい子供でも全米チャンピオンにも勝てるカードゲームだ。
此処では無力な一般人が怪物も倒しうることができる可能性を秘めた最高峰の武器。
それを扱うだけの覚悟や信念もないならば、端から戦うべきではないのだと。
信念すらないのでは、王国においてこき下ろした城之内以下でしかないのだから。
(信念……)
改めて百雲は考える。
あくまで百雲の世界は一般的な世界だ。
カードゲームで命懸けの戦いなんかしない。
仮面ライダーと言うヒーローも存在しない。
リゼ達と同じで、どこにでもあるありふれた日常の人間。
だから信念と呼べるものはなく、あるとするならばある種のわがまま。
男としても、男の娘としても、しかし女扱いも違うとして嫌がったのを思い出す。
これは我がままであって信念でも何でもない。これを信念などとのたまったら、
海馬からは『貴様など瓦礫の中にでも埋まっていろ』とでも一蹴されるだろう。
確かに琴音を助けたいと願ったように。自分を否定しなかった人達を守りたい。
そういう信念はあるかもしれないが、それだけでは足りえないだろう。
それだけで戦ってこの有様では、薄っぺらいものと言われてしまいそうで。
(でも、魂なら……)
このデッキは主催によって支給され、
大我から譲ってもらった借り物であり、
少し調子づいていたのは何処かにあったのかもしれない。
カードの効果は変わらない。特殊な力でもなければ成しえないことだ。
だから自分の芯となる魂のデッキであれば、カードなどテキストを見る必要はない。
(信じてなかったのは、ぼくなのかな。)
魂とは、ある意味そういうことなのかもしれない。
テキストを見ると言うと分かりにくいが言い換えれば、
自分が手足を動かす際に手足を見ることをしていると言う事だ。
自分と共に戦うそれを、信じてないからそんなことをしているのか。
ならこのデッキを手足のように。このデッキを己の魂のデッキとしなければ。
男と呼ぶにも、女と呼ぶにも言い難い狭間を揺蕩う。
学ランでいるのが嫌だ。黒いランドセルなのが嫌だ。
違和感でしかなかったその感情は、敵のような認識へと至り、
喉仏ができた際は錯乱して喉を抉り取ろうとする程に暴走した過去。
その結果、家庭事情が色々と歪んでしまうことになってしまっている。
そんな複雑であってもその魂を貫き通せ。海馬はその事情を知らないが、
ある意味では百雲にとっての激励としては的確な物とも言えた。
(ぼくがぼくでいられたのは、人に信じて貰えたから。)
このデュエルを見守っている三人を見やる。
最初に寄り添ってくれた琴音、クエスチョンの皆、恋人である哲。
他にも、別に自分の性別に対して何か思ったりすることのない此処で出会った人たち。
性別について気にせずいてくれるのも、それはある意味では性別を信じてくれてると言う事。
(だったら、ぼくだってこのデッキを信じないと。)
この信念を、この想いと共にデッキを動かす。
カードゲームは基本、誰かと向き合って行うものだ。
対戦相手を、相手のフィールドを見ないで戦うものではない。
前を見て敵と向き合う。それがデュエルの基本とも言える。
「……ぼくのターン、ドロー!」
「立ち上がるか。ならば見せて見ろ!
借り物ではない、貴様自身のデュエルで俺に刃を向けろ!」
「はい! 魔法カードウィッチクラフト・サボタージュの効果発動!
墓地に存在するウィッチクラフトモンスターのヴェールを特殊召喚して、
魔法カードウィッチクラフト・コンフュージョンを発動! このカードは、
ウィッチクラフトを含む素材を手札・フィールドから墓地へ送り融合召喚を行う!
手札のウィッチクラフト・ハイネと、フィールドのヴェールを素材として融合!
融合召喚に必要な素材は、魔法使い族モンスターとのウィッチクラフトモンスター。
融合召喚! これがこのデッキのエース、ウィッチクラフト・バイスマスター!」
渦の中から現れるのは『融合』モンスターとは言うが、
ブルーアイズのように混ざってると言うのとは違うものだった。
眼鏡をかけた緑の服の女性と、紫のドレスが特徴的な女性、
そして黒い服に身を包む妙齢の女性が精悍な顔つきで現れる。
ジェニー、エーデル、ハイネ。三者のウィッチクラフトが三位一体となり、
何処かへ行方をくらましたマスターであるヴェールに代わって、
ハイネが一時的な代理管理人(バイスマスター)を務める姿でもある。
「それが貴様のエースか。だが攻撃力はブルーアイズに届かんぞ?」
攻撃力は2700。確かに高い攻撃力ではあるが、
3000のブルーアイズにはわずかに届かない。
デュエルモンスターズにおいて攻撃力は1でも上回れば基本負けることはない。
(大丈夫、ジェニーの効果は一番分かってる!)
低レベルにもちゃんとモンスター効果がある。
麻耶の戦いを見たことで、特にそのことを重視していた。
だからレベル1のジェニーについては理解が他のよりも深い。
このカードは、言うなればルールのすり抜けができるのだと。
「魔法カード成金ゴブリン発動! 相手のライフを1000回復させる代わりに、
デッキから1枚ドローする効果にチェーンする形でバイスマスターの効果を───」
「そうはさせんぞ! セットされた強靭!無敵!最強!を発動!
ブルーアイズモンスターであるツインバーストを対象に発動し、
このターンツインバーストは戦闘で破壊されず、他のカード効果を受けず、
戦闘を行った場合そのモンスターを破壊するが、バイストリートがある以上無意味であり、
更にツインバーストは元々戦闘で破壊できず、戦闘を行って相手モンスターを破壊できなかった場合、
そのモンスターを除外する効果があるがな。だが貴様の目論見は分かっている。そううまく行かせん。」
「ん、今何があったんだ?」
百雲の目論見が全く理解できず、
一人納得する海馬に三者は首をかしげる。
「えっと、バイスマスターは魔法使いか魔法カードの効果を発動したら、
それにチェーン……パズルゲームの連鎖みたいなものって言えばいいのかな。
することで効果が発動できるんだけど、今発動できなかったのを考えると、
間に挟まれちゃうと効果が発動できないんだと思う。」
「うん? 私にはさっぱり分からんぞ。」
「多分だが、変身しようとした俺からベルトを奪えば、変身が行えない。
バイスマスターはその変身に当たる部分が効果で、そこを妨害されたのか?」
「橘さんのその例え方ならわかる、かな……?」
別の例え方であれば、
その意味はなんとなく分かると言えば分かる。
大富豪ではローカルルールに8切りと似たようなものだと。
「なら次は魔法カードおろかな埋葬発動!
デッキからモンスターカードを墓地へ送る効果だけど、その効果にチェーンして……」
「させるか! 永続罠真の光を発動! 効果は発動できるが今は効果を使わないでおこう。」
「やはりうまいな彼は。熟知してる動きだ。」
真の光にはブルーアイズのサポート効果があるが、
効果を今すぐ使わないのは、バイスマスターの発動を妨害用に残しておくためだ。
無駄のないプレイングセンスは、一朝一夕で身につかないものだと伺える。
(ヴェールをチェーンすれば行けるけど、
ムキになって使うのが目的かも……使うのはやめよう。)
「次はどうするつもりだ?」
「おろかな埋葬の効果処理でデッキかウィッチクラフト・ジェニーを墓地へ送り、
そのままジェニーの②の効果! 墓地のこのカードとウィッチクラフト魔法カードを除外して、
ジェニーはその効果を得る! サボタージュを除外したのでジェニーの効果はサボタージュの効果、
ウィッチクラフトを墓地から特殊召喚する効果になって、ぼくはもう一度ヴェールを守備表示で特殊召喚する!」
「フゥン、なるほどな。まさか抜け道を使ってくるか。」
「抜け道?」
「ウィッチクラフトのカードは全部が1ターンに1度、
①か②の効果どっちかしか使えねえ。だから二度目の効果は使えない筈だ。」
「え、でも今サボタージュの効果をもう一回使ってただろ?」
「そこが抜け道だ。今のはジェニーのモンスター効果によってコピーしているものだ。
つまりウィッチ・クラフトジェニーがサボタージュの効果を内蔵したと言う事になる。
サボタージュの発動制限は存在するが、ジェニーの効果となってる今それは関係ない。
よって今のは、サボタージュの効果を発動ではなく、ジェニーの効果でヴェールを復活させている。」
「え、ん? ちょっとまて。さっぱり理解が追いつかない。」
「要するにあれはカード名が違うってことだろ。
SNSとかで別アカウントを使って懸賞に当たるとかと同じだ。」
「ふ、複雑なんだなこのカードゲーム。」
分かるような、分からないような。
説明を別の喩えであってもなんだか引っかかる。
麻耶のデッキもそういう感じで複雑なデッキだったから、
あの時は対抗しようがなかったのではと思えてくる。
初心者に渡して使いこなすには相当の訓練が必要だと察した。
「そしてこれにチェーンして今度こそ!」
「当然させん! 真の光の効果を発動し、手札と墓地に同名カードが存在しない、
青眼の白龍のカード名が記された魔法か罠である、究極融合(アルティメット・フュージョン)をデッキからセットする!」
「クッ、悉く発動が決まらないな。」
「裏を返せばあの男はそれだけあのカードを警戒してると言う事だ。
あのカードを妨害し続けないと、海馬は不利になるってことになるだろうな。」
(多分、こうして手間取らせるのが目的なんだよね。)
ヴェールには手札の魔法カードを見せることで、
見せた枚数×1000ポイント攻守を加算する効果を持つ。
攻撃力を容易に5000や6000にはね上げることができれば、
いかに耐性を与えられたブルーアイズでも殴り抜けられる恐れがある。
モンスターが強大でも、ライフを0にすることができれば勝利なのだから。
だから此方の手札その効果を爆発的に使われない程度に消耗させられている。
「ならヴェールの効果発動!
手札の魔法カード、ウィッチクラフト・スクロールを墓地へ送って、
フィールドのモンスターを全て無効にするけど、チェーンするカードは……」
「……ないな。」
「よし! ならバイスマスターの効果発動!」
やっと攻めに転じられる。
戦いの場であることは弁えなければならないものの、
自分のペースになると分かると少しだけ嬉しくなってしまう。
「魔法使いか魔法カードの効果が発動した場合、
それにチェーンすることで三つの効果の内一つを適用できる。
三つの効果の内『墓地のウィッチクラフト魔法カードを一枚手札に加える』効果を適用して、
墓地からコンフュージョンを回収してバトル! バイスマスターでドラゴンの独裁者に攻撃!
効果が無効になってるから独裁者の効果は使えないまま、ヴェールの効果を発動!
手札の魔法カードであるコンフュージョンを見せて、攻撃力を3700にアップさせる!」
三者の三位一体となった魔術が、
独裁者を消し飛ばしその余波が海馬を襲う。
その差は2500。成金ゴブリンで回復したのもあり、
海馬のダメージと比べると少ないが大きく前進できたと言ってもいいだろう。
「エンドフェイズに入って、墓地のスクロールの効果発動!
スクロールもバイストリートと同じで②の効果を使ってない場合フィールドに表で置くけど
それにチェーンしてバイスマスターの効果で『デッキからレベル6以下のウィッチクラフトモンスターを特殊召喚する効果』で、
ウィッチクラフト・ポトリーを守備表示で特殊召喚して、更に墓地のクリエイションの回収効果を発動して、
それにチェーンしてバイスマスターの効果で『フィールドのカードを1枚破壊する』効果を適用して、真の光を破壊する!」
「……な、なにがなんだかさっぱりだ。」
物凄く長い詠唱をしているかのような、
数式の方がまだ理解できる範疇の言葉が百雲から飛び交う。
カードゲームに精通した人間だからこそスムーズに説明できているが、
そんなもの他人から見たところで分かりはしない。
「慣れないゲームはそんなもんだろ。」
「俺は真なる光の強制効果により、
表でフィールドから離れたことで俺のフィールドのモンスターを全て破壊する。
ただし、耐性を得ているツインバーストを破壊することはない……フゥン。
冷静にカードを見ているな。それが貴様の実力と言ったところか。」
「でも、まだ勝てたわけではないです。」
「その通りだ。この瞬間手札のブルーアイズ・ジェット・ドラゴンの効果発動!
俺の場か墓地に青眼の白龍が存在し、フィールドのカードが破壊された瞬間に発動し、
このカード手札、墓地から特殊召喚する!」
今度はブルーアイズを文字通りジェット機にしたような、
独特なフォルムをした機械のようなドラゴンが空を舞う。
次から次へと攻撃力3000が飛び交うのは圧巻と言うほかない。
「俺のターン、ドロー!
言っておくがジェット・ドラゴンが場にいる限り、
俺の他のカードは貴様の破壊効果を一切受けない。」
「バイスマスターの破壊効果では破壊できないってわけか。
だがヴェールの効果がある上、バイストリートの耐性もある。」
「その上戦闘すればヴェールで返り討ちにあうってことだよな?」
素人では突破困難に見えてくるが、
それすらも容易に突破してくるのではないか。
なんてことをリゼでも想像してしまう。
「俺は魔法カード強欲な壺を発動し、デッキからカードを二枚ドローする。」
(手札の増強。ツインバーストは戦闘すると、
破壊できなかったモンスターを除外してくる。
だからヴェールで止めるなら攻撃宣言の時が……)
「俺は手札から魔法カードクロス・ソウルを発動!
互いのプレイヤーは互いのモンスターを使って生け贄召喚を行うことができる!
貴様の手札に上級モンスターがいれば、そいつを俺のモンスターを生贄にできるが……」
(あ……しまった!)
本来ならばクロス・ソウルは相手も利用できる。
場合によっては多大なリスクを伴うカードではあるのだが、そこは問題ない。
手札のカードは殆どが墓地から回収したものと、ヴェールの効果で見せている。
全てが魔法カード。つまり。そのリスクを受けることがないと分かっていて発動していた。
絶対にモンスターがいないと分かっているからこそできる行為だ。
「けど、その前にボトリーの①の効果!
シュミッタと同じコストと効果だけど、スクロールの効果を適用するよ!
バイストリートと同じで、スクロールを捨てる魔法の肩代わりにする形で発動!
更にこれにチェーンして、バイスマスターの効果を……」
「させんぞ! セットされた究極融合を発動!
手札、フィールド、墓地から融合素材となるモンスターをデッキに戻し、
ブルーアイズを素材とする融合モンスターを融合召喚することができる!」
(ヴェールの効果を使えばバイスマスターの妨害ができるけど、
ヴェールの効果は1ターンに1度。此処で使ったら妨害の手段を失ってしまう。
此処は使わないのが大事……だと思いたいなぁ。)
「ないならチェーンの逆順処理だ。俺は究極融合の効果により、
墓地のブルーアイズ二枚、そして同じカード名のオルタナティブをデッキに戻し、融合召喚!
貴様に見せてやろう。神にも匹敵する、史上最強にして華麗なる殺戮兵器!
降臨せよ! 青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメット・ドラゴン)!!」
顕現するのはツインバーストを超える三つ首のドラゴン。
ツインバーストの美しさとは別に、猛々しさを特化させたかのような、
勇ましいドラゴンがこのエリアに咆哮と共に君臨する。
「こ、攻撃力4500!?」
さっきまで攻撃力3000だ2800だで戦ってたのに、
素で4500と言うのはリゼからは出鱈目に見えてしまう。
姿も凶暴なドラゴンと思うと、威圧感が別格だ。
「……次にポトリーの効果で、ヴェールを守備表示で特殊召喚するよ。」
「最後に俺はクロス・ソウルの効果により、
ヴェールとバイスマスターを生贄に、手札から三体目のブルーアイズを生け贄召喚する!」
ジェット、ブルーアイズ、アルティメット。
数々の高打点のモンスターが揃っている海馬の盤面。
合計の攻撃力は10500。普通ならライフが一瞬で消し飛ぶ。
「ヴェールの効果を使えば俺のフィールドのモンスターはすべて無効。
ツインバーストの除外も、ジェットのバウンス効果いずれも無効されるか。
そして戦闘で破壊しようにもバイストリートと自身の攻守の上昇の三段構え。
貴様の手札は全て魔法。守備力4800ともなればアルティメットでも倒せんな。」
「じゃあ、このターンは凌げるんだな───」
海馬がそう言うってことは、このターンは大丈夫。
「だが貴様に次のターンはない。」
そう思っていたが、
その程度で負けるようならばアテムを追い求めてなどいない。
勝利宣言とも言うべき宣誓に、リゼと百雲の表情が凍り付く。
「俺は手札から魔法カードアルティメット・バーストを発動!
俺の場に存在するアルティメットはこのターン三回攻撃を行うことができる!」
「どういうことだ? それだけではこの盤面は突破できない筈だ。」
「まだだ。アルティメット・バーストには更にもう一つの効果がある。
それはそのアルティメットが戦闘を行う間、相手は全てのカードを発動を封じる!」
「!?」
魔法も、罠も、モンスター効果全てが封殺される。
それではバトルの時しか使えないヴェールは攻守を上げられない。
しかもあれは魔法で付与したもの。アルティメットは効果を持たないモンスター。
ヴェールの効果を使ったとしても、三回連続攻撃は覆すことはできない。
「バトルフェイズに入る前だ。ヴェールの効果を使うなら今の内だ。」
分かっている。ヴェールの効果と言っても、
使えるのはモンスターを無効にする効果だけであって、
戦闘を行う時にしか②の効果は使用することはできない。
「……ヴェールの効果発動!
手札のクリエイションをコストに、
相手フィールドのモンスター全ての効果を無効にする!」
「バトルだ! アルティメットの攻撃! アルティメット・バースト!」
三つ首の龍から放たれる光のブレス。
全てを蹴散らす、文字通り強靭にして無敵であり最強の攻撃。
「ッ、バイストリートの効果で1ターンに1度バトルで破壊されない!」
この効果は発動ではなく適用。
発動を封じられてる中でも耐性はついている。
結末は分かっている。だとしても、足掻くことを放棄してはいけない。
これを実践と捉えたならば、時間を稼ぐことは決して無駄ではないのだから。
もし時間を稼げば、本当の戦いならその間に大我やリゼが駆け付ける可能性もある。
「アルティメットの攻撃! アルティメット・バースト!」
あくまでそういう場合であり、
今回については本当に一時しのぎの無意味な行為だ。
光に飲み込まれたヴェールは再び消滅し、百雲を守る手段は何もなくなる。
「これで終わりだ。アルティメットの攻撃、アルティメット・バーストッ!!」
最後は百雲を飲み込んでいく。
ツインバーストの時とは違って、
更に強大な力を前にしても百雲は前を向いたままで、
光りに飲み込まれながらライフを尽きさせた。
「腕はいいようだが、まだ甘いな。」
デュエルが終わった後は、
五人はオープンカフェで支給された食事をとる。
よくあるコンビニ弁当の類だが、食えるだけありがたいものだ。
今後も食えるとは限らないので食えるだけに食っておくべきではあるが、
海馬と大我は三人と離れた場所でそれぞれ一人で食べていた。
「貴様はテキストの勘違いをしている。」
「え、間違ってるようには……」
「バイスマスターのテキストをよく見ることだな。」
バイスマスターは魔法使いか魔法カードにチェーンすることで発動できるが、
此処に『自分』とは書かれてない。つまり、相手の魔法使いや魔法カードもトリガーだ。
つまりクロス・ソウルにチェーンしても、究極融合にチェーンしてもいいと言う事だった。
此処が一番のプレイングミス。使っていれば戦局は大分変わっていたかもしれないのだから。
とは言え、想像してみても選択肢を見誤って負けてそうなイメージがあって軽く唸る。
「此処には異なる世界もある。普段ならば非科学的だといいたいところだが、
魔法と言ったものを使う輩のいる可能性もある。それを利用すれば戦局は有利になるだろう。」
「……はい!」
少女のような可愛らしい顔つきなのは変わらない。
それでも、何かが成長したかのような顔つきになっている。
「えっと、褒められてるんだよなあれ。」
「多分な。アイツは素直に言わないタイプだってのは分かる。」
(君も大概だと思うが。)
出会った際の二人のやりとりを見るに、
彼も不器用な人間であることなのは想像に難くない。
現に、二人揃って三人とは別々の席で食事している辺りが似ている。
「だが、焚きつけておいて貴様に死なれては俺の沽券に関わる。
貴様がそのデッキを十割とはいかずとも、八割は使いこなせるだけの腕になるまで鍛えてやる。」
「え。」
自分の腕は把握した。後はデッキを信じ抜くだけ。
概ね分かったものの、まさかの二回戦。
百雲当人も引きつった表情になる。
「食べ終えたら次のデュエルだ。
今度は俺のライフを半分削ることだな。」
「え、えええええ!?」
「なあ、あれほっとくのか?」
「あれぐらいは慣れねえと、今後きついだろ。」
それはごもっともではあるが。
困惑する百雲をよそに時間は過ぎていく。
海馬と言う、教えを乞うには余りにも頼もしい存在なのは間違いなく、
今よりもずっと強くなれるのはある意味保障される時間になるだろう。
放送か、或いは予期せぬ襲撃者か。平穏な時間は遠からず終わりを迎える。
【F-2/一日目/早朝】
【海馬瀬人@遊☆戯☆王】
[状態]:健康
[装備]:海馬瀬人のデッキ&新型デュエルディスク@遊☆戯☆王THE DARK SIDE OF DIMENSIONS
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:この決闘を粉砕したのち、アテムと決着をつける
1:檀黎斗と闘うための方法を模索する。あの自称神はこのオレが粉砕してくれるわ!
2:首輪を解除したい
3:アテム及び共に存在しているであろう遊戯を探す。
そうそう死ぬとも思えないが、お友達が死んで心に隙が生まれれば万が一があるかもしれない。
器の遊戯の実力にも興味がある。当然凡骨は放置だ
4:残酷にも殺された少女(条河麻耶)のように闘う意志も牙も持たぬ参加者と遭遇した場合、保護も検討してやろう。
5:百雲を鍛えてやる。貴様を焚きつけて死なせるのは俺の沽券に関わる。
[備考]
※参戦時期は本編終了後から映画本編開始前のどこか。
【天々座理世@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康
[装備]:リゼ専用スピアー@きららファンタジア
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]基本方針:橘さんと一緒に黒幕を倒してみんなを助ける!
1:もぐもと一緒に橘さんに特訓してもらって、みんなを守れる仮面ライダーになる。
2:ココアとチノとメグともぐもは私が守るんだ! も
3:マヤを殺した金髪の男は間違いなく危険人物だ。いつか私が倒してマヤの仇を取ってやる
4:二人いるココアについては両方を信じる!
5:私も押し潰されないようにしないとな。
[備考]
※「ナイト」の戦い方を理解し始めました
【橘朔也@仮面ライダー剣】
[状態]:健康
[装備]:ギャレンバックル@仮面ライダー剣
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]基本方針:剣崎の分まで人々を助ける。ゲームマスターも倒す
1:リゼやその友達、及びもぐもは必ず俺が守る
2:リゼともぐもに戦い方を教える。
3:決闘者の意味すら知らない参加者まで集められてるのは、どういうことだ?
4:葛葉紘汰……君の名前は忘れない
[備考]
※参戦時期は最終回後。
※遊戯王OCGのルールを多少把握しました
【百雲龍之介@不可解なぼくのすべてを】
[状態]:健康、花家大我の白衣を着用
[装備]: デュエルディスクとデッキ(ウィッチクラフト)@遊戯王OCG
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:大我さんと一緒に生きて帰る
1:海馬さんに鍛えてもらう。
2:大我さんの優しさを信じるっ!
3:このデッキを、魂のデッキって言えるように。
[備考]
※参戦時期は少なくとも十四話以降かつ二十三話までのどこか
※遊戯王OCGのルールとウィッチクラフトの回し方をだいたい把握しました。
海馬とのデュエルで、さらに成長するかもしれません。
※先行ドローをしてませんが、別にドローしてもいいことに気付いてません。
(ZEXALまでなので先行ドローがOK)
多分時期に気付きます。
【花家大我@仮面ライダーエグゼイド】
[状態]:健康
[装備]: ゲーマードライバー&バンバンシューティングガシャット@仮面ライダーエグゼイド
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:このゲームは俺がクリアする
1:もぐもは俺の患者だ。レベル2で倒せるようなNPCに負けるようなやつじゃ、
一人でこの決闘を生き抜けねぇだろ(翻訳:もぐもは俺が守る)
2:ゲンムの情報は出来る限り広めてやる。
3:無数に存在する世界ってのはどうやら嘘じゃなさそうだな。
4:基礎訓練、マジかよ。
5:あんまり戦わせるべきじゃねえが、患者の意見を尊重するのも医者か。
[備考]
※参戦時期は仮面ライダーエグゼイド トリロジー アナザー・エンディング終了後
※遊戯王OCGのルールを多少把握しました
投下終了です
虐待おじさん、肉体派おじゃる丸 予約します
投下します
虐待おじさんの剣戟が肉体派おじゃる丸を一方的に責め立てる。
まるでDBの免許書を奪い、TDNに命令するTNOKの様に。
(さて、考えないとまずいっすよね)
その中で肉体派おじゃる丸は眼前の敵、虐待おじさんに対処しつつも思考する。
目の前の相手への殺意は決して翳りを見せることはないが、だからといってがむしゃらでどうにかしようようとはしない。
なにせ、まず地力で負けている。
これは一軍と二軍の差である。
ミームで構成された虐待おじさんと本人にミームを埋め込まれた肉体派おじゃる丸という差はあるが、どちらもミームの量と質が重要なことに変わりはない。
ならば素材量が違う。作られたBBの数が違う。
一本しか発掘動画のない肉体派おじゃる丸と、数十本のAVに出ている虐待おじさんの差は深い。
素材が多ければ、切り抜きの量も増えるのが必然。
その物量が、この決闘では力の差として現れる。
次に、リーチで負けている。
虐待おじさんは刀。肉体派おじゃる丸は徒手空拳。
当たり前だが、刀の方がリーチは長い。
最後に、これは肉体派おじゃる丸の推測だが、おそらく支給品の数でも負けている。
彼のランダム支給品は三つなものの、一つは現在使用できず一つは使い捨てであり消滅した。最後に残ったのは一つだけだ。
対する虐待おじさんは刀を持っているが、それ以外は今の所見せていない。
単純に考えれば、最低でも二つ隠し玉があると考えるのが妥当だ。他の参加者を殺して支給品を奪っているのなら、それ以上かもしれない。
もしかしたら逆に、彼に支給されたものはあの日本刀だけで後は何も持っていないかもしれないが、そんな可能性を真面目に考えるのは、最早MUR並の池沼という他ないだろう。
(わら、笑いそうになるんすよ)
しかしここで肉体派おじゃる丸はある可能性に気付き、笑みを堪える。
さっきの気づきを確かめる為、彼は虐待おじさんの攻撃を今一度見る。そして確信に至った。
ヒュウウゥゥゥン
虐待おじさんの剣筋が空を切る。
それだけで風切り音が響き、地面に斬撃の跡を僅かながらにも残し、圧倒的な力を見せつける。
「動くと当たらないだろぉ!?」
「(動く敵に当てられないなんて)未熟です」
そう、空を切る。
敵である肉体派おじゃる丸の身体を斬ることはできていない。
彼は虐待おじさんの剣戟を躱し始めていた。
その事実に虐待おじさんは憤り、肉体派おじゃる丸は煽る。
「そっちから仕掛けてきたのに逃げてばかりってのはおかしいだろそれよぉ!」
「クキキキキ……」
煽りに対して更なる怒りに飲まれつつも返す言葉で煽り返してみる虐待おじさんだが、それが苦し紛れなのは明らか。
憎き相手がそんな振る舞いを見せている事実に、肉体派おじゃる丸は思わず笑ってしまう。
さて、なぜ急に虐待おじさんの攻撃が肉体派おじゃる丸に当たらなくなったかについて説明しよう。
ここで絡んでくるのは、ミームで構成された虐待おじさんと本人にミームを埋め込まれた肉体派おじゃる丸という差である。
まず前提として、当たり前だがTDNホモビ男優が戦闘技能など持つわけがない。
もしかしたら格闘技を習得している男優はいるかもしれないが、それでもこんな人外じみた戦いはできないと断言していいだろう。
ならば何が彼らの戦闘技能の根幹かというと、BB素材である。
本編中の何気ない動作の切り抜き、あるいは切り貼りでホモガキに捏造された動作こそが彼らの戦闘技能。故に弱点がある。
それは、動きが同じこと。
BB素材はあくまで素材。MMDのような自在な動きができるわけではない。
虐待おじさんのBB素材は一軍だけあって多い方ではあるが、限りはある。
更に接近戦となれば、更にパターンが減る。
それらを何度も見ていれば、今の肉体派おじゃる丸に見切ることはできなくはない。
「こうすか?」
「あぁ痛ぇっ!?」
そして肉体派おじゃる丸は一瞬の隙を狙い、カウンターとして虐待おじさんに正拳突きを与えた。
彼は攻撃を受けた勢いで数メートル程吹き飛ばされたのち、地面を転がる。
「結構でも疲れますねこれ(小声)」
吹き飛ばされた虐待おじさんには目もくれず、思わず言葉がこぼれる肉体派おじゃる丸。
いくら攻撃の軌道が分かっても、当たれば大ダメージ必須の攻撃は精神的に彼を追い詰め、体力を奪う。
一方、虐待おじさんは地面を転がった後に即座に立ち上がり、再び肉体派おじゃる丸に攻撃を仕掛ける。
「(まだ攻撃が見切られていることが分からないなんて)笑っちゃうんすよね」
そんな虐待おじさんを嘲笑する肉体派おじゃる丸。
確かに剣を躱すのに体力は使うが、カウンターのタイミングは掴んだ。
もう一度同じ様に殴り飛ばしてやる、と構えるが――
ドゴォ!!
虐待おじさんが放った攻撃は剣ではなく、蹴りだった。
これもまた彼の強み。剣戟のみならず、彼は多彩な攻撃手段を持つ。
元々ほんへにおいてひでを虐待する際も、虐待おじさんは竹刀のみならず鞭や蝋を使う。
それが拡大解釈され、彼のBBには日本刀のみならず二挺拳銃や格闘を扱っているものがあるのだ。
故に蹴りを剣戟と同じレベルで放つことも出来る。
一方、蹴り飛ばされた肉体派おじゃる丸は、さっき自分が虐待おじさんを殴り飛ばした時以上の勢いで吹き飛ばされ、地面を勢いよく転がった。
すぐに立ち上がった虐待おじさんと違い、殴り飛ばされ苦悶の表情を浮かべる肉おじゃ。
これが一軍と二軍の差。ミームがもたらしたものの差が残酷に現れる。
このまま何も起きなければ、どんな過程であれ最終的には虐待おじさんが肉体派おじゃる丸を殺し、力の差を知らしめることだろう。
だが忘れるな。ここで繰り広げられているのはBB先輩劇場でもバトル淫夢でもない。
故にそれらではまず起こらないであろうことが起こることもある。
例えば――
緑色の肉体を持った竜が前触れもなく現れることも、あり得る。
参加者の中で言うなら武藤遊戯とアニメ版海馬瀬人ならこの竜を知っているだろう。
竜の名前は異次元竜―トワイライトゾーンドラゴン。
異次元を移動することで本来なら戦闘と魔法罠カードで破壊されないカードだったが、この決闘では異次元を自在に飛び回り、たまに会場に現れるモンスターと化していた。
「オオッ!?(高音) まさかこんな奴出てくるなんて思わねぇだろうなぁ?」
「そうですね(笑)」
あまりにも突然現れた竜に対し驚き、思わず誰に問うてるのかすら分からない言葉を漏らす虐待おじさんと、なぜか同意してしまう肉体派おじゃる丸。
一方、戸惑われている方の竜はそんな二人に構わうことなく、虹色の光線を虐待おじさんに向けて発射する。
竜が虐待おじさんを攻撃対象に選んだことに深い理由はない。現れた際、竜の正面にいた相手がそうだっただけだ。
「チッ!!」
光線を躱すために舌打ちをしながら咄嗟に跳び上がる虐待おじさん。
その直後竜は再び異次元に移動し姿を消すが、代わりに別の物が彼の視界に入る。
「クキキキキ……」
それは同じ様に跳び上がった肉体派おじゃる丸の姿。
咄嗟に跳び上がった虐待おじさんと違い、彼は明確な意志で跳躍した。
おまけに某ビルダーと違い下半身も鍛え上げられている彼ならば、先に跳び上がった虐待おじさんに追いつくことは決して不可能ではない。
「こいつはどうすか?」
追いついた肉体派おじゃる丸は、両手を組んでまるでハンマーの様に両手を振り上げてから、それを虐待おじさんに向けて振り下ろす。
この時、肉体派おじゃる丸の両手はグレーに染まっていた。
これは彼のBB素材である『おじゃる丸ダブルハンマーBB』だ。
元々は彼が上着を脱ぐときの動きを切り抜いたものだが、それがまるでハンマーを振り下ろすような絵面となっているBBだ。
元動画の使用例でもハンマーとして使われていなかったが、ハンマーと銘打たれて作られたんだからそう使っていいと思う上等だろ。
ズガァアアン!!
地面にひびが入る程の勢いで叩き落される虐待おじさん。
だがここまま呻いていては追撃が来るのは火を見るよりも明らかなので、彼は即座に後ろに向けて飛ぶことで肉体派おじゃる丸から距離を取る。
後に着地した肉体派おじゃる丸は追撃できないことに思わず苛立つ。
しかし――
パキッ
「なんすかこれ?」
何かが割れた音が聞こえ、肉体派おじゃる丸は思わず足元を見る。
そこには、何かの調味料が入った一つの小瓶が彼に踏まれ割れている姿があった。
すると小鬢の中身が割れたせいでこぼれ、更に風に乗って飛んでいく。
一体何なんすか、と彼が疑問に思うより先に
ズザザザザザッ
という音と共に数十体の様々なNPCが一斉に、二人を囲うように姿を現した。
なぜこんなことが起こったのか。それを説明するには、まずさっき割れた小瓶の中身について説明しなければならない。
小瓶の中身は『味のもとのもと』という、22世紀のひみつ道具であり、元々はひでに支給されさっきまでは虐待おじさんのデイパックに入っていたものだ。。
調味料型の道具で、これをかけたものは元がどんな不味いものでも美味しい味と香りになるという代物だ。
それが風で辺りに漂うことで香りが広がり、元々二人の戦いとトワイライトゾーンドラゴンの攻撃の轟音でNPCが多少なりとも集まっていたこともあり、これで誘い出されたので一気に現れたのだ。
突如現れた大量のNPCを見て刀を構える虐待おじさん。
「笑っちゃうんすよね」
一方の肉体派おじゃる丸は笑いながらデイパックに手を入れ、最後の支給品である遊戯王カードを空に掲げ発動する。
すると虐待おじさんの体に紫を基調とした、まるで悪魔の顔のような鎧が装着された。
直後、二人を囲っていたNPCが一斉に襲い掛かる。
「クキキキキ……」
肉体派おじゃる丸を無視し、虐待おじさんのみを。
「あれ……これあいつのせいかなこれ……?(名推理) クソガキが……」
虐待おじさんはこの状況を目の前の肉体派おじゃる丸のせいだと考えたが、それは正解である。
彼がさっき着せられた鎧は、攻撃誘導アーマー。肉体派おじゃる丸に支給された最後の支給品であり、遊戯王カードである。
この鎧を着せられたものは一定時間周りの攻撃を誘導され、向けられてしまうのだ。
それをNPCが数十体以上いる状況で着せられた以上、虐待おじさんは一人でNPCの群れに対処しなければならない。
「そう来るんだったらやる、やろうやろうやろうかこれ! これな! やるねこれ!!」
虐待おじさんは自身を奮起させるために叫びをあげる。
彼の目に絶望はない。ここでNPCをどうにかして、肉体派おじゃる丸も殺すという強い気持ちがある。
もし彼が並の強さなら、ただの負け惜しみで終わっただろう。
しかしここにいるのは、ヤメチクリウム合金で構成されていたはずのひでを竹刀で虐待した挙句、イキスギィた末に殺してしまうほどの暴の持ち主。
「じゃあオラオラ来いよオラァ!!!!」
虐待おじさんの叫びと共に繰り出される一閃が弾圧される民の首を取る。
彼の蹴りがショッカー戦闘員を吹き飛ばし、その奥にいたマスカレイド・ドーパントの群れを巻き込んでなぎ倒す。
彼の剣の連撃が有翼幻獣キマイラの身体をバラバラにする。
そんな光景が数分続いたのち、最後に残ったのは虐待おじさんと一匹のNPCだけとなる。
普通なら絶望の状況であっても、彼からすればこの程度の描写で事足りる程度のことでしかない。
これが淫夢最強の剣士の強さ。ひでを虐殺できてしまう圧倒的な力の持ち主である証明。
しかし、そんな彼が最期の一匹を前に攻撃を止めているのには理由がある。
まず彼の持つ日本刀が折れてしまっているということ。
これが邪剣『夜』や淫夢之一太刀ならば話は変わったかもしれないが、彼が使っていたのはなんの変哲もない日本刀。
ここまでの激戦に耐えられるものではなかった。
次に、虐待おじさんの目の前にいるNPCが理由だ。
目の前にいるNPCは緑色の髪をした少年である。彼の名前はガスタの希望カムイ。遊戯王には珍しい、ショタのモンスターである。
そして虐待おじさんの好みはショタである。
最愛はひでではあるが、ひで以外を性的な目で見ないわけでは無い。
だがひでを殺してしまった罪悪感からか、優勝するのに必要ないNPCであるショタを殺すことに、強い抵抗を覚えてしまったのだ。
「馬鹿なんすか?」
しかし、そんなこと肉体派おじゃる丸には関係ない。彼からすれば無意味に隙だらけであるだけだ。
NPCの群れにやられてしまうならそれはそれでいいと思ったが、やはりトドメは自分の手で刺したい。
そう考えた彼は虐待おじさんに向けて突貫し、拳を振るう。
咄嗟に防ごうとする虐待おじさんだが、ここまでの戦いで大きく疲労していたため、防ぐのに一手遅れてしまった。
「ホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラ」
「ウ゛ゥ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!! ウ゛ゥ゛ゥ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!」
肉体派おじゃる丸の拳のラッシュが虐待おじさんを容赦なく打ち付ける。
幾度も。幾度も。
これが俺の怒りなのだと、いっそ理不尽なまでに何度も拳を振るう。
「ホラァ!!」
そしてトドメとして一発殴り飛ばし、虐待おじさんは再び地面を転がる。
「ウ゛ァ゛ァ゛…(慟哭)」
転がり呻く虐待おじさんの慟哭がむなしく響く。
それは自身のダメージではなく、彼の背中に伝わる妙に柔らかい感触。
そう、彼の背にはさっきの攻撃の巻き添えで潰されたカムイがあった。
好みのショタが己のせいで死亡し、彼は慟哭していたのだ。
だが何度も言うように、肉体派おじゃる丸は一切関与しない。
インタビュアーに触られたりフェラされるのを潜在的に嫌がるそぶりを見せた彼に、ショタコンの気など一切ない。
彼はただ、倒れ伏す虐待おじさんに最後の一撃を振るう。
「ひで、俺もお前と同じところに――」
虐待おじさんが最期に残すのは、最愛の少年に対する謝罪。
彼の愛の果ての凶行は、愛など何一つない憎しみの拳によって終わりを迎えた。
【虐待おじさん@真夏の夜の淫夢 死亡】
【残り82人】
「ハァ……ハァ……結構、なんてもんじゃないっすね、この疲れは……」
虐待おじさんを殺害した肉体派おじゃる丸は、達成感もそこそこに疲労の為膝をつく。
勝つには勝った。
だが環境に助けられ、支給品に助けられ、そして運に助けられた上でやっとの勝利。
喜びは確かにあるが、それ以上に彼は危機感を覚えた。
「(このままじゃ優勝できない可能性が)濃いすか?」
一人殺すのにこんなに消耗していては、優勝など夢のまた夢だろう。
野獣先輩だけは絶対に殺すが、それ以外に関してはむやみやたら殺しにかかるのは賢くないかもしれない。
決闘に抗う相手と組める気はしないが、優勝狙いの他参加者と組むことを視野に入れ始めていた。
「まあまずは逃げるんすけどね」
それはそれとして、肉体派おじゃる丸は疲労を押してここから逃げることにした。
さっきみたくNPCに囲まれれば、狙われるのは今度は自分。
そうなる前に逃げるべきだと思考し、彼は虐待おじさんのデイパックを奪い移動を始めるのだった。
【一日目/黎明/D-4】
【肉体派おじゃる丸@真夏の夜の淫夢】
[状態]:疲労(大)、右胸から左脇腹までの切創、淫夢ファミリーへの憎悪(極大)、虐待おじさんを殺せた喜び
[装備]:
[道具]:基本支給品(タブレット破壊)、ゴッド・ハンド・クラッシャー@遊戯王OCG(発動不可)、攻撃誘導アーマー@遊戯王OCG(発動不可)、虐待おじさんのデイパック(基本支給品、ランダム支給品0〜3)
[思考・状況]基本方針:優勝して淫夢の歴史から自分の存在を抹消する
1:とにかくここから離れる
2:淫夢ファミリーだけは絶対にこの手で殺す。特に野獣先輩、野獣死すべし
3:黒の剣士とI♥人類の男は次に出会ったら絶対殺してやるっすからね……
4:遊戯王カードはこの決闘で大事すね……
5:できれば他の優勝狙いの参加者と組みたいすね
[備考]
※遊戯王カードの存在を知っていますが決闘者じゃないのでルールなどは詳しくありません
※本来の名前を思い出せません
※D-4に轟音が響き渡りました。
※虐待おじさんの死体がD-4に放置されています。
※日本刀@現実 は破壊されました。
※味のもとのもと@ドラえもん がD-4に散らばり、美味しそうな香りが漂っています。
『ランダム支給品紹介』
【味のもとのもと@ドラえもん】
ひでに支給。
調味料型のひみつ道具。これを振りかけるとどんな不味いものでも美味しく食べられるうえ、香りも食欲をそそるものとなる。
その為、うっかり人や無機物にかけると大変なことになる。
【攻撃誘導アーマー@遊戯王OCG】
肉体派おじゃる丸に支給。
罠カード。自分もしくは相手の攻撃宣言時に、以下の効果から1つを選んで発動できる。
●その攻撃モンスターを破壊する。
●その攻撃モンスター以外の自分または相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。攻撃対象をそのモンスターに移し替えてダメージ計算を行う。
(以上、遊戯王OCGカードデータベースより)
本ロワでは参加者もしくはNPCを選択し発動すると、アーマーが選択されたものに装着され、周りの参加者、NPCの攻撃が誘導される。
装着された当人の攻撃に関しては、銃などの遠距離攻撃は自身に誘導されるが、剣や拳などの近距離攻撃は自身に誘導されることはない。
アーマーは一定時間経つか、装着されたものが死亡すると消滅する。
このカードは一度使用すると6時間経つまで再び使用することはできない。
『NPC紹介』
【異次元竜―トワイライトゾーンドラゴン@遊戯王OCG】
光属性、レベル5、ドラゴン族。攻撃力1200/守備力1500
このカードは対象を指定しない魔法・罠カードの効果では破壊されない。また、攻撃力1900以下のモンスターとの戦闘では破壊されない。
(以上、遊戯王OCGカードデータベースより)
本ロワでは決闘会場ではない異次元を飛び回っているが、たまに会場に現れ視界に映った相手に攻撃を仕掛け、また異次元へと戻る行為を繰り返す。
会場に現れる際、場所に規則性はない。
【ガスタの希望カムイ@遊戯王OCG】
風属性、レベル2、サイキック族。攻撃力200/守備力1000
リバース:デッキから「ガスタ」と名のついたチューナー1体を特殊召喚する。
(以上、遊戯王OCGカードデータベースより)
本ロワではただの弱いモンスター。可愛いショタ。
もしかしたら「ガスタ」と名のついたチューナーモンスターを呼び出すこともある、かもしれない。
投下終了です
閃刀姫-レイ、門矢士、保登心愛、風祭小鳩、七海やちよ、千代田桃、奈津恵、コッコロ、パラダイスキング、フグ田タラオ、滅を予約し延長もしておきます
投下します
西南の果ての孤島。
孤島とは言うが、本島へは泳げばすぐに届く距離だ。
正装された道を歩きながら得た情報を纏める月。
(此処にいるのは竜崎……Lだけ、か。)
幸か不幸か、知り合いがいたことに対し複雑な表情だ。
それは別に知り合いや仲間がいたからに対する反応ではない。
此処でLを始末できると思うべきか、そうではないかの方だ。
今元の世界で月とLの扱いはどうなってるか定かではない。
その状況で自分だけが生きて戻れば対策本部に不信感を煽りかねない。
ではLと協力して脱出を目指す……それもまた容易ではないことだろう。
Lはほぼ状況を問わず自分をキラと疑う。何をしてもキラかどうかを。
此処での下手な行動はキラの正体がバレてしまう問題に繋がる。
親睦を深めるテニスでも、カフェでのやりとりでもだ。
此処でも何かにつけてキラだと疑ってくるのだろう。
それでもやるしかない。世界一の名探偵の知恵は、
きっとこの舞台でも十二分に活躍してる筈だから。
(デスノートもなかった。誰の手に渡ってる?
善良な者であれば良いが……あれは危険すぎる。)
顔と名前が分かれば簡単に人を殺せる。
場合によっては最強の殺人兵器となってしまう。
Lを見るに本名でないものはいくらかいたものの、多くは本名だ。
善良な参加者は嘘を吐く理由がない以上基本は名乗り合うものになる。
厄介なのがこれを隠し持つ参加者がいた場合の対応が困る。
敵としても危険であり、味方だとしても回収が困難だ。
可能な限り早く見つけ、手元に置いておきたくあった。
(どう回収するかは相手次第で考えるべきだな。
それにしても神を名乗るとは……ふざけた男だ。)
相手は単なる頭脳だけでは到達しえない神の所業を行っている。
もっとも、その振る舞いはとても神とは思えないものではあるし、
新世界の神となると豪語した月にとって檀黎斗は悪として変わらない。
(だが、同じ仮面ライダーで勝てると言うのか?)
彼にも戦える武器が、
仮面ライダーの変身道具の一式はある。
最初は玩具か何かかと思ったがその実力を見た今や、
その力が偽物ではないと言うことは分かっている。
問題は運動神経がいいと言っても、あくまで人間の範疇。
モンスターだ仮面ライダーだと言った者達との経験はない。
どこまで通用するか分からない最中、声を掛けられた。
「いやぁ、とんだ見世物だったぜ! 僅か数分で四人!
映ってないだけでもっと増えると思うと笑えるなぁ!
え? お前もそうは思わねえか?」
哀悼の意などなく、
ただヘラヘラと笑みを浮かべるポンチョの男。
Pohはほんの少しばかりだが最初は冷めていた。
名簿にはキリトだけでアスナはいない。檀の奴は分かってないとは思いつつも、
人を殺すよう扇動する才能は自分並だと拍手を送りたくなっていた。
あれだけ煽れば自衛の為だろうと人を殺すことができる奴を産む。
同じ殺人者の誕生に冷めた心は逆に高鳴っている。
「何をふざけたことを言っているんだ!? あれだけ人が……」
「今更いい子ぶらなくてもいいんだぜ、同類さんよぉ。
テメエも俺と同じ人を殺してる奴だってのは分かってんだよ。」
(同類? しかも僕が殺人をしてると知ってる……こいつ、まさかノート所持者か!?
いや、周囲にリュークやレムはいない。いれば記憶を保持してる僕にも見えるはずだ。)
自分が殺人者だとわかる手段などありはしない。
デスノートと言う特殊なアイテムでもない限りは。
相手はそういう類のものをもってるのかと推察しているが、
残念ながら同族故の感性であって頭脳を張り巡らせる意味はなかった。
自分が殺人者だとわかる手段などありはしない。
デスノートと言う特殊なアイテムでもない限りは。
相手はそういう類のものをもってるのかと推察しているが、
残念ながら同族故の感性であって頭脳を張り巡らせる意味はなかった。
「何が同類だ、見世物だ。僕はあれを見て歓喜の声を上げはしない!
自称する神も、それを見世物とする貴様も同じ、悪だ!」
「ほぉー。ではその悪人様に正義の味方はどうするってんだ?」
「此処ではこうするらしいな……変身。」
操作方法に書かれてていたとおりに、
左手の中指にはめた緑の指輪をベルトのハンドオーサーに翳す。
『シャバドゥビタッチヘンシン シャバドゥビタッチヘンシン』
『チェンジ ナウ』
軽快な音楽とは裏腹に何処か暗い音声と共に、
月は緑の肩の角や左腕のかぎ爪が目立つ、
原石のような同じく緑のフェイス部分が特徴的な姿へと変貌を遂げる。
これが月に与えられた仮面ライダー、仮面ライダーメイジの一つの姿だ。
(実際は仮面ライダーメイジについては複数あるのだが詳しいことは割愛)
「お、いいもん持ってるじゃねえか。
こいつぁ前菜として楽しめそうだ!」
エリュシデータを握りしめ、歓喜の表情でPohは肉薄。
これを左手のスクラッチネイルによって受け止めるが、鈍い痛みが響く。
耐久値が高いエリュシデータは剣だが鈍器としても十分に凶器となりうる。
月はそれを押し返さず、あえて受け流す。
「うおっと!」
地面に刃を突き刺し、隙を晒す。
得物の違いも相まってやりづらくもあり、
頭脳に長けた月だからこそ即時判断できた。
隙だらけのPohへと蹴りを叩き込む。
軽く転がっていくものの即座に受け身を取り再度肉薄。
『テレポート ナウ』
肉薄する相手に指輪を変え、文字通りテレポートで移動。
狙いは背後かと振り向くが周囲にその姿は見当たららない。
(上か!)
上から飛来する左ストレートをエリュシデータで防ぐ。
笑ってこそいるものの仮面ライダーの力は相当なものだと先の蹴りで理解した。
直撃はなるべく避けなければならないものだと押し返すとともに、
徒手空拳と剣技がぶつかり合う。
徒手空拳と剣技のぶつかり合いだが、
当然ながら技術ではPohの方が上回る。
理由は単純で殺しの技術と喧嘩の技術では話が別だからだ。
運動神経もよく、Lと割りと遠慮なく殴り合いをしていたと言っても、
数千の死者を出したSAOで、何人もの参加者をPKしたPohの技術。
加えてスクラッチネイルが基本武器と答えてるような左腕も問題となる。
攻撃の基本となる行動がどうあっても読まれてしまっているからだ。
どうやっても埋められない差が存在しており、次第に剣一本で押されていく。
テレポートを混ぜた戦術も組み込んでダメージを与えても、
それもまた何度もやれば読まれ始めてしまい対応されていく。
これがラフィン・コフィンのリーダー、Pohの実力だ。
(こいつ、慣れている! 剣道とかじゃなくて、
本当の剣技……目の前に悪がいるのに裁けないのかッ!!)
月が一番許せないのはある意味そこだった。
これは殺し慣れている。つまり彼にとって唾棄すべき悪。
だと言うのにこの有様だ。仕方ないと言えば仕方ないかもしれない。
相手はデスゲームの中PKを続けてきた連中のリーダーであり、
彼は能力こそ秀でても肉体的には人間と相違ないのだから。
(クソッ、こうなったらやってやる!)
戦いの最中に指輪を変え、ベルトのハンドオーサーへと翳す。
『ホーリー ナウ』
聖なる力を宿した光波で大ダメージを与える、
メイジの中でも最も優れた大技とも言えるリングも支給されていた。
不意を突かれたこともあり距離を取るも、ホーリーはそれ以上の速度で迫る。
当たれば大ダメージは免れない。だが横へ移動することも間に合いそうにない。
……しかしだ。
「そうはいかねえ! シフトチェンジ!」
「な!?」
シフトチェンジ。
カードの効果の対象や攻撃対象を自分で任意に入れ替えるカード。
これにより近場にいたNPCと入れ替えることで致命傷を回避したのだ。
僅かに遅れて少しダメージを受けたものの、元の威力が相当な威力を持つ。
生身で受ければ最悪ミンチになりかねない可能性を秘めた切り札たる一撃を、
この程度で済ませられたのはかなり便利な物とも言えるだろう。
特にいいのは、これを使えばキリトに仲間を斬らせることもできる。
楽しみで仕方ない。殺しを覚えた男に仲間殺しを覚えさせたらどうなるか。
六時間に一回しか使えないのがもどかしく思えるカードだ。
そう悦に浸りたくなるようなことを考えるが、時間の猶予は残されていない。
早急に勝負をつけるべく地面を蹴り上げ、一気に間合いへと持ち込む。
ホーリーの攻撃に勝利を確信していたこととなれない戦闘による不意を突かれ、
エリュシデータで袈裟斬りにすると、火花を飛ばし月が転がって倒れる。
一応それなりの手加減をしており、字面では致命傷に見えるものの比較的軽傷だ。
仮面ライダーになっていたお陰でマシなダメージにまで抑えることはできた。
しかし普段受けない傷を前にすぐに立ち上がることはできず、変身も解除される。
「クソッ、僕は死ぬのか……こんな場所で……!!」
悪を裁けず。Lにも勝つこともなく。
ただのありふれた敗者として終わりを迎える。
そんなのは嫌だ。意地汚く生き残ろうと立ち上がろうとするが、
「おっと待ちな。」
ドサリとその背にPohが座り込む。
月の苦い声が聞こえるがそんなことはお構いなしだ。
「此処で殺してやっても良いが……同類のよしみだ。
特別に役割を与えやる代わりに生かしておいてやるよ、」
同類と言う言葉に腹立たしいが、
生かしてくれるのであれば儲けものではある。
ホッとなどしない。悪人からの施しなのだから。
「ま、ただとは言わねえけどな!」
ザシュりと、月の手の甲にエリュシデータを地面ごと串刺しにする。
「グ、アアアアアッ!?」
痛みの余り悶絶しそうになるが、
動くだけ痛みが増すと分かるとやがて大人しくなる。
「安心しろ死にはしねえよ。止血でもしておけばの話だがな。
で、本題だがテメエにはキリトって野郎に俺を追って来いって伝えな。
テメエの大事な大事なエリュシデータが、赤く錆びちまう前にってなぁ!
それがテメエの役割だ。分かったか?」
苦虫を嚙み潰したような顔で月はそれを受け入れる。
受け入れなければ死だけが待っているのだから仕方ないが、
彼は新世界の神などではない。ただの人殺しであり、
この舞台においてもただの参加者の一人にすぎなかった。
だからこそ、白の魔法使いにとってサバトの人柱たるメイジを与えられたのかもしれない。
『貴様など、新世界の神ではないのだからなぁ! ハッハッハァ!!』とあの男が嘲笑うかのように。
「じゃあな同類。生きてたらまた会おうぜ。」
「いい加減に、しろ。僕がお前同類だと……?」
「そうだ、同類だ。自分の欲求や目的の為に人を殺した!
それも一人や二人じゃねえ、大量に! 理由までは分からねえが、
俺からすればてめえは大量殺人鬼と同じ顔をしてんだよ、分かるか?」
『しかしお前のやっていることは、悪だ!!』
Lとの対決の始まり。
偽のLがつぶやいた言葉。
偽物だとしてもあれはLの本心なのだろう。
『これで正しいこれが正しいと!!
これが法治国家の撮るべき正しい姿勢です。』
NHNのニュースで警察の対応に声を上げたニュースキャスター。
他にも数多くのキラに対する否定的な意見を聞いてきた。
そんな彼らの言葉は月には届くことなく、犯罪者を始末し続けてきた。
安易な行動で偽のLを始末したが、調子に乗ってたに近いので例外とする。
「僕が、悪のはずがないだろうッ!!」
自分が正義だと信じて疑うことはない。
悪に怯える弱いものを救う、世界の人間の希望。
それが正義であり、キラと言う存在なのだから。
けれど、この男の言葉にはなぜか届きそうになってしまう。
催眠術だとかではない。同じ者同士と言う相手の言い分のせいか。
だから否定する。そんなことがあっていいはずがないと。
「自己の正当化か。サルは大変だな……」
此処まで行くと今までアジア人に対する憎悪も薄れちまうな。
先程以上に興ざめとした表情で剣を抜いてその場を去る。
伝言役は増やした。後はお楽しみの殺しの時間だ。
「イッツ、ショータイム!」
【G-2 孤島/深夜/1日目】
【PoH@ソードアート・オンライン】
[状態]:ダメージ(小)、気分スッキリ
[装備]:エリシュデータ@ソードアート・オンライン、シフトチェンジ(現在使用不可)@遊戯王OCG
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]基本方針:この決闘を楽しむ。
1:アジア人(月)は今後どうなるやら。楽しみだ。
2:キリトをこの剣で殺す。
3:アジア人は優先的に殺すか扇動していく。
[備考]
※参戦時期はラフィン・コフィン討伐戦より後です。
Pohが去った後、月は何とか立ち上がった。
シャツを破って簡易的な包帯にして手を止血する。
自分が同類だと否定したかった。だと言うのに否定することなく蹂躙された。
許しがたい屈辱を受けたものの、得られた情報も決して悪くはない。
キリト。その男は味方になってくれる人物の可能性は高い。
先の言葉は一先ず置いて、他の参加者を探し始める。
(僕は正義だ、悪のはずが……)
彼もPohも結局は人殺し、同じ穴の貉。
気付くことなどなく新世界の神になろうとした男は立ち上がる。
さて、月の考えだが。
キラと知っているLとの戦いにおいて、
既に大きな不利をこうむってることを知るのはまだ先の話だ。
【夜神月@DEATH NOTE(漫画版)】
[状態]:ダメージ(中)、怒り(特大)、手に傷(止血済み)
[装備]:メイジのベルト&メイジウィザードリング(緑)@仮面ライダーウィザード、テレポートリング@仮面ライダーウィザード、ホーリーリング@仮面ライダーウィザード】
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:必ずやハ・デスと檀黎斗に神罰を与え、新世界の神に返り咲く。
1:リュークが居ないという事は、僕はノート所有者じゃなくなってるのか?
2:僕が悪、だと……僕は正義のはずだ!
3:あの男(Poh)は必ず始末する。だが追うべきか?
4:デスノートを探す。
5:キリトと言う人物を探す。伝言は伝える?
6:Lと協力して脱出を図るべきか?
[備考]
※参戦時期は少なくとも海砂と出会った後で、Lが死ぬよりも前です。
【メイジのベルト&メイジウィザードリング(緑)@仮面ライダーウィザード】
月に支給。仮面ライダーメイジへと変身することが可能なベルトとリング
緑は変身者が山本昌宏のものだが、メイジにおいて違いは色以外は特にない。
【テレポートリング@仮面ライダーウィザード】
月に支給。文字通りテレポートが可能なリング。
長距離移動は制限されている。
【ホーリーリング@仮面ライダーウィザード】
月に支給。聖なる力を宿した光波で大ダメージを与えるリング。
【シフトチェンジ@遊戯王OCG】
Pohに支給。OCGのため効果は以下の通り
自分フィールド上のモンスター1体が
相手の魔法・罠カードの効果の対象になった時、
または相手モンスターの攻撃対象になった時に発動できる。
その対象を、自分フィールド上の正しい対象となる他のモンスター1体に移し替える。
本ロワでは作中のように入れ替わりが主な使い方となる。
使用後6時間は使用できなくなる。
以上で投下終了です
投下します
振り返らずに駆け出してから、どれくらい経った頃だろうか。
担いだ少女から必死の訴えが聞こえなくなったのは。
二人の剣士に背を向けた当初は絶えずレイの耳に声が届いた。
止まって、降ろして、戒さんも一緒に連れて行こう。
繰り返し懇願された内容にただの一度も頷かず。
前だけを見て足を動かし続け今に至る。
その間、何一つとして思わなかった訳ではない。
本当にこのまま逃げて良いのかと、自問自答しなかったと言えば嘘になる。
けれどそれをやって、少女の願いを承諾した所で待ち受ける結末は何だ。
勝機を見出せない敵へ無策のまま、後先考えない感情任せに来た道を戻って意味はあるのか。
ある筈がない。
地面に並べられる首が四つ増えるだけだ。
だから戻らなかった。
少女の願いを聞き入れるとは即ち、櫻井戒の頼みへ唾を吐き捨てるに等しい愚行。
何の為に彼がたった一人で戦場に残ったのか。
恐るべき剣術を我が物とする魔人、継国縁壱の相手を引き受けたのか。
彼の想いを汲み取ったなら、最早引き返す道は決して選べない。
きっと、少女も分かってはいるのだろう。
戒の望みは自分達だけでも生き延びる事に他ならないと。
到底納得など出来ず涙ながらに訴え続けたけど、でも。
戻ってしまったらその時こそ戒を本当に苦しめて、悲しませてしまう。
だって彼は本当に優しい人だったから。
出会ったばかりの少女を気遣い、大変な役目は全部一人で背負い込もうとするような。
自分が傷付くのは平気な癖に、少女が傷付き悲しめば同じように悲しむ。
そういう人だから、保登心愛は戒一人に押し付けず一緒に頑張りたいと思ったのだ。
「戒さん……」
先程までとは打って変わって、弱々しくすすり泣く声。
鼻を啜り、嗚咽を漏らす悲しみの音色をレイは耳障りだとは思わない。
(情けないですね…)
代わりに胸中を占めるのは不甲斐ない己への苛立ち。
自称神の悪趣味極まりないゲームを徹底的に破壊する。
抱いた決意に偽りは無く、今更になって撤回する気は微塵も無い。
だがどれだけご立派な方針を掲げようと、実際に為せなければ単なる口先だけの腑抜けに過ぎない。
ゲームに巻き込まれてから、自分に一体何が出来ただろうか。
強敵へ掠り傷一つ付けられず、仲間を犠牲に逃げてばかり。
助けられた筈の命を取り零した挙句、攫われるのを防げない始末。
仕方がない、ああするしかなかったと言い訳を重ねるのは簡単。
しかしレイ自身がそうやって逃げ道を作るのを認められない。
もっと割り切れる様なら楽だろうけど、それが出来ないのがレイという少女。
故にこそもう一人の閃刀姫に心を開かせたのだが、今の彼女にはさして慰めにもならなかった。
列強国と渡り合った閃刀姫も、この場では無力でしかないのか。
無意識の内に唇を噛み、痛みでふと我に返る。
(っと、いけないいけない。こんなネガティブ一直線思考なんて私らしくありませんよ)
落ち込みが度を過ぎ負のスパイラルへ発展。
そうなる前に頭を振って、己を責める言葉を強引に追い出す。
絶対に落ち込むなとまで自分に言い聞かせはしない。
渡と戒の死で心へ影を落とし、無力感に苛まれているのも本当。
しかし延々と悔やみ続けていれば、確実に取り返しのつかない失敗へと繋がる。
完全に切り替える、とまではいかずともある程度は自力で持ち直さねばなるまい。
「止まれ」
レイの内心を知ってか知らずか、低く短い制止の声は隣から。
仮面の下に隠した顔には、彼もまた無力感を貼り付けているのだろうか。
ストレートに自分の感情を出しはしない捻くれ屋気質であっても、内には信頼の置けるものを秘めているのがレイから見た門矢士だ。
緑のレンズが睨み付ける先、接近する影が確認出来る。
愛刀を握る手に力が籠り、担いだ少女から震える気配があった。
同じく士もライドブッカーに手を掛ける。
もう片方の腕で運ばれている少年は未だ眠りから覚めないまま。
取るべき手を複数浮かべ、警戒は解かず相手の出方を待つ。
やがて向こうの姿がハッキリ視認出来ると、強張った顔が引き攣る。
「…最近の女ってのはああいうのに乗るのが流行りなのか?」
「そんな訳ないでしょう。女の子を何だと思ってるんですか士は」
呆れを口にしつつも、士の反応は理解出来る。
何せこちらへやって来たのは棺桶に乗った女だ。
死者の埋葬に用いる箱に手足が生え、自動車顔負けの速度で急接近されたのである。
一体全体どこのホラー映画だと言いたくなるような光景に、緊張感が無くなり掛た所で棺桶は停止。
青い衣装の女が士達と睨み合う。
「質問に答えてもらうわよ。あなた達は――」
「恰好付けても棺桶に乗ってたら笑える絵面だな」
「ちょっと士!駄目ですよそういうのを口にしたら」
横からの注意を聞き流し、改めて見てもシュールだなと士は思う。
自身のカメラが手元にあったら取り敢えず一枚取っていたかもしれない。
目の前にいるのがいるのだけに、どうも自分の思考まで少々おかしな方へ行きそうだ。
「んんっ!…真面目な話だから茶々は入れないでもらえる?」
「あっ、すみません…。ほら士もちゃんと聞かないと…ってそっちの子は…?」
心なしか不機嫌になった相手の背後にもう一人いると気が付く。
横たわり時折苦し気な声を漏らす、桃色の髪の少女。
お世辞にも状態が良いとは言えない様子がこちらにも見て取れる。
向こうも視線がレイに担がれたココアと、士に担がれた少年へと移った。
「怪我人を連れ回すのが趣味、って訳じゃないよな?」
「その質問はそっくりあなたに返すわ」
返答次第ではと瞳に鋭さが増すも、マゼンタ色の彼は平然と受け流す。
自分がいなかったらややこしくなってただろうと、レイは思わず呆れ顔。
とはいえこの場での無意味な戦闘は自分達も、きっと相手も望んでいない。
「はいストップストップ!怪我してる人がいるんだからお互い冷静になりましょう。私達はこのふざけたゲームには乗っていません。あなたも同じなら、一旦場所を変えて腰を落ち着けませんか?」
話が脱線する前に自分達のスタンスを素直に明かす。
どちらも負傷者がいるのを考慮しての提案に、相手の女は暫し黙り込む。
チラと、僅かに振り返った瞳に少女への心配が宿るのをレイは見逃さない。
仮に少女を痛めつけたのが青い女本人で、士が言ったように下衆な目的で少女を連れ回しているなら当然斬るつもりだ。
が、今の反応だけでも女がそういった悪辣な類で無いとは察せられる。
「……分かったわ。こっちも彼女をどこかで休ませてあげたかったし」
ややあって承諾、一先ず自己紹介やらは別の場所で。
思った通り彼女もゲームには否定的。
余計な戦闘に発展せずに済み安堵の笑みを零し、本格的な話の為にこのまま突っ立ってはいられない。
中断していた移動を各々再開。
ドタドタと疾走する棺桶が視界の端に映り込み、何なんでしょうねこれと至極当然の疑問を浮かべるレイだった。
◆◆◆
冴島邸。
参加者の一人、冴島鋼牙の自宅を忠実に再現した施設。
市街地エリアへと到着し手頃な施設を探すこと数分、見付けた屋敷へと足を踏み入れた。
「先客がいたようだな」
二人分のカップがキッチンの流しに置かれているのを士が発見。
食器類は綺麗に戸棚へ収納されている中で、カップ二つが自然に外へ出はしない。
友好的か危険人物か、どちらにしても今すぐ確かめる術は無し。
士達の訪問に対しリアクションは起きず、何部屋か周ってみても人どころか虫一匹の気配すら皆無。
既に屋敷を出て行ったと判断し、気絶中の少年少女をベッドに寝かせる。
残る四名は一階の居間にて腰を下ろした。
十数人は座れるだろう長テーブルは、庶民階級の身分の家にはまず存在しない代物。
どこの金持ちの所有物だか知らないが、殺し合いなんぞで勝手に我が家を設置されたのは同情してやらんこともない。
顔も知らない家の持ち主に尊大な言葉を内心で向けつつ、士は居間に飾った絵を見る。
(悪くない、が……)
良い絵だとは思う。
だがこれも結局は自称神が忠実に再現したに過ぎず、作者本来の想いだとかは微塵も宿っていない。
この場に鋼牙がいたらより厳しい目を絵に向けただろう。
御月カオルという女を誰よりも知っている鋼牙だからこそ、彼女の作品を嘲笑するに等しい行為を許しはしない。
「そろそろ良いかしら?」
全員が座り落ち着いたのを見計らい、七海やちよが切り出す。
互いに敵意が無いのを確認出来たとはいえ、まだ名前すら名乗っていない状態だ。
それぞれ情報の開示を求めると、異論は無いとの返答。
簡単な自己紹介に始まり、これまでの経緯を話す。
「いろはには会っていないのね…」
やちよが最も求める情報は残念ながら得られなかった。
東方面の捜索を打ち切り、戦兎達との合流場所に向かうと決めたのが数十分前。
街なら桃色の少女を休ませられる場所も見付けられる。
そう思い移動の最中で士達と遭遇したのだった。
仮にやちよがもう少し東方面の捜索を粘り、聖都大学附属病院に辿り着いていたら。
願いは叶い、無事にいろはと再会できたのだがこればかりは本人も知る由が無い。
「そちらも厄介な手合いとぶつかったみたいですね」
「協力可能なライダーがいるのは朗報だがな」
やちよから齎された情報に神妙な顔でレイが考え込む。
アフロヘアーの男と幼児の二人組、殺し合いに乗った危険な男達。
どちらも果物を被る奇抜な方法で仮面ライダーに変身する。
変身方法や使った道具の見た目から、すぐに仮面ライダー鎧武の世界のベルトだと士は気付いた。
前者はともかく、後者は恐らく5歳にも満たない程に幼いのだという。
まさかそんな子供までもが他者の殺害に積極的な輩だとは予想外。
やちよ曰くアフロ男に無理やり従わされている様子も見られず、むしろ年齢とは不釣り合いに頭も回るとのこと。
ある意味、こうしてやちよから事前に詳細を教えられたのは幸運だ。
何も知らなければ幼児なのもあって、油断をし兼ねない。
件の二人組も勿論警戒するが、より深刻なのはその後に遭遇した方。
屈強な肉体を持つ、真紅の騎士に似た怪物。
やちよが見付けた時には桃色の少女が殺される寸前であり、相当に嬲られたのか体のそこかしこに傷を負っていた。
真紅の騎士は間違いなく、先の二人組以上に危険。
負けるつもりが無くともあのまま戦っていれば、やちよ一人では骨が折れる敵だ。
一方で、殺し合いに否定的な者の存在を知れたのは朗報。
仮面ライダービルドこと桐生戦兎、浅からぬ因縁を持つ地球外生命体のエボルト。
後者はともかく前者は信用できる相手であり、合流の約束を取り付けている。
「そっちの話に出て来た連中も一筋縄じゃいかないみたいね」
ゲームに乗った者と戦闘になったのはレイと士も同じ。
しかも聞く限り、危険度は参加者の中でも間違いなく上位に食い込む。
耳飾りの剣士…継国縁壱。
檀黎斗直々に敵キャラクターとして紹介されたあの男の実力は桁違い。
三人掛かりで手も足も出ず、一度目は紅渡が、二度目は櫻井戒が足止めを引き受けどうに生き延びられた。
「それで、あの三人組なんですが…」
奇怪な出で立ちの大男と、行動を共にする少女達。
片やレイとも渡り合う体術を有し、片や動きは素人なれど子供らしからぬ異様な身体能力を持つ。
と言っても三人組との間に起きた事で士達が話せる内容はほとんどない。
少なくとも先程の戦場において、彼らはほとんど部外者。
到着した時には既に一人が殺された後、交戦して間もなく向こうから撤退を選んだ。
気を失った少女を連れ去るという全く嬉しくないおまけ付きで。
どういった経緯で一ヶ所に集い、縁壱と戦う事態になったのか。
殺された少女や攫われた少女の詳細なども含めて、具体的な説明が可能な人物は二人。
内の一人は未だ目を覚まさず、必然的にもう一人へとやちよの視線が向かう。
「……」
しかし見られているのに気付いた様子も無く、ココアは俯き口を閉ざしたまま。
三人から少し離れた席に座り、会話に加わらずずっとこの状態が続いている。
か細い声で自分の名を告げて以降、何も口に出してはいない。
普段のココアを知る者がいたら何事かと心配するのは確実、それ程までに今の彼女は気落ちしていた。
(流石に無理には聞けないわ…)
情報を強引に聞き出せば余計にココアの傷口は広がるばかり。
必要とあらば尋問も辞さないが、マギウスの翼の関係者でも無い相手にそんな真似をするつもりはない。
いろはだったらもっとココアの心に寄り添えたのだろうけれど、やちよにはそっとしておく選択肢しか取れなかった。
記憶ミュージアムの一件以降、自分自身の事にさえ余裕を持てない今のやちよでは。
取り敢えずお互いに話せる事は話し終えた。
「レイさん、ちょっといいかしら」
「はい?」
神妙な、というよりは気まずい顔で耳打ちをされ首を傾げる。
急に小声で話し出す理由が分からない、大きな声では言えない内容なのか。
チラチラと気にするように士を見るやちよへ、異性がいる前では話し辛いのだと察する。
士の方も分かったらしく、やれやれと言いたげな顔で一旦部屋を出た。
「ごめんなさい、門矢さんにも気を遣わせちゃって…」
「士なら大丈夫ですよ、皮肉屋ぶってるだけですから。それでどうしたんですか?」
「ええ、その……」
謝罪もそこそこに、やはり気まずい顔のまま口を開く。
何でもアフロ男との戦闘時、服を引き裂かれ代わりの着る物を探しているとのこと。
今は魔法少女に変身したままだが、流石にずっとこの状態ではいられない。
屋敷内には男物の服しか見当たらず、サイズも違う為着れなかった。
だからもし服を持っていたら譲って欲しい。
「成程…事情は分かりました」
頷くレイは先程までとは打って変わって怒り顔。
同じ女として、やちよを唾棄すべき欲の捌け口に使おうとしたアフロ男への嫌悪を隠せない。
士や渡のように、背中を預けられる仲間とは大違いだ。
ともかくそういうことなら、やちよの頼みを断る理由も無い。
丁度自分の支給品の中に渡せる物が一つある。
デイパックから中身を取り出そうとし、
「――――ッ!!!」
真紅の光が視界を覆い尽くした。
○
大金を掛けた調度品に彩られ、尚且つ成金趣味の下品さを感じさせない内装。
冴島邸の居間とは見る者へそんな感想を抱かせる空間だった。
それがどうだ、ほんの数秒前までの光景とは一変。
室内で竜巻でも発生したかのような惨状が広がっている。
テーブルや椅子は吹き飛び、壁は破壊され、一際目を引く絵画すら見るも無残な有様。
「……」
破壊を齎した張本人は一欠片の罪悪感も抱かず、無感情に居間を見下ろす。
散らばったガラスを踏み付け、室内を睨むは黄金と真紅の装甲を纏う怪人。
仮面ライダーエボル。
星狩りの兵器の力を行使するヒューマギア、滅である。
滅が仮面ライダーエボルについて知っている事は、決して多いとは言えない。
元々の変身ツール、フォースライザーとプログライズキーは手元に無く。
アズから与えられた力も存在しない。
故にそれらの代用品としてこれまで使ったに過ぎず、全機能を把握している訳ではない。
だからエボルドライバーの本来の持ち主と違い、戦闘面以外でも役に立つシステムが搭載されているのに気付くまで時間が掛かった。
エボルの頭部から伸びた角のようにも見える箇所。
これはスキャンセンサーの役割を持つ。
自身の破壊活動の妨げとなる生命体や戦闘マシンを速やかに見付ける、参加者の発見に強く貢献する機能があるのだ。
元は惑星規模で位置情報の探索が可能であれど、ゲームにおいては大幅なスペックダウンを余儀なくされている。
精々が一エリア程度、エボルト本人が知ったら呆れるのは間違いなしの低機能。
しかし滅にとってはこれだけでも十分役に立つ。
エリア内に複数の生命反応を感知、特に人が集まる冴島邸を狙いに定めた。
胸部のリアクターがエボルボトルの成分を破壊の力に変換、抵抗の隙すら与えずエネルギー波を放射。
有象無象が集まった程度なら片は付いただろう。
だが此度の相手はその類に含まれないと、スキャンセンサーが瞬時に情報を送り込む。
「ご挨拶だな、ノックの仕方も忘れちまったのか?」
皮肉をぶつけられ振り返ると、そこには五体満足の標的が四名。
ディケイドに変身した士を筆頭に、レイとやちよもそれぞれ武器を構える。
唯一、ココアだけは混乱から覚めないままレイに抱えられていた。
エボルの機能がハイスペックであるのは、最早細かく語るまでもない。
しかし士達とてこれまでの人生を遊んで過ごして来た者に非ず。
列強国との戦争で、常に死と隣り合わせの日常を過ごしたレイは勿論。
数多くのライダー世界を旅し、果てに待ち受けたライダー大戦においても多くの仮面ライダーを屠った士。
12歳でキュゥべえと契約し経験を積み、他の地区以上に凶暴な神浜の魔女すらも退ける実力のやちよ。
滅の敵意を感じ取り、行動に移るまでは迅速の一言に尽きる。
唯一反応に付いていけなかったココアを運び脱出。
常人を遥かに超える、正に超人的な身体能力を駆使して生を掴み取った。
「ココアは隠れていてください」
「え、でも…」
何か言おうとして口を噤む。
自分の方を見ないままでいるレイの顔に浮かぶのは、強敵を前にした緊張。
暫し視線を泳がすもややあって言われた通りにする。
「二人とも気を付けて。簡単に倒せる相手じゃなさそうです」
「…分かってるわ」
警告されずとも油断する気は微塵も無い。
睨み合っているだけでこのプレッシャーなのだから。
今に始まったことでないとはいえ、黎斗が始めたゲームの参加者は化け物揃い。
魔女やウワサがマシに感じる日が来るとは思いもしなかった。
士もまた、気を抜ける相手では無いと判断し気を引き締め直す。
ライダーの力の大半を失った今のディケイドで、果たしてどこまでやれるか。
戦士達の緊張を嗤うでもなく、エボルは黙して殺意を滾らせる。
人類滅亡。
アークの意思のままにではない、己自身で下した決断に従い滅ぼす。
相容れぬ両者の間で火花が散り、炸裂。
遊戯を盛り上げる闘争の幕開け。
神が望む光景がまた一つ繰り広げられる。
◆
「せやぁっ!」
真っ先に動きを見せたのはレイ。
愛用の刀剣型デバイスを振り被り、一撃で以て勝負を決める心構えで突撃。
敵は有無を言わさずこちらを全滅に追いやろうとした邪悪。
ならば対話の余地無し、斬るのに躊躇はいらない。
「フン…」
一刀両断の下に決着は簡単に付かない。
装甲を叩き割った手応えは無し、斬られ痛みに呻く声も聞こえず。
ライトグリーンのラインが走った斧に阻まれ、レイの剣は命を刈り取るには至らなかった。
『ATTACK RIDE BLAST!』
先手必勝の四文字は残念ながら実現に至らず。
されど嘆きを露わにする結果でも無い、予想は十分に付いたこと。
背後からの電子音声が次の動きを即座に決断させ、エボルの反撃を待たずに跳躍。
自身の得物に掛かる重さが消失した途端、視覚機能が拾うは無数の光弾。
銃口と緑のレンズ、両方で睨み付けるディケイドだ。
チマチマ引き金を引き続けた所で、恐らくエボル相手にさしたる効果は望めない。
連射性能を高めたライドブッカーのエネルギー弾が狙い撃つ。
血飛沫の如く火花を散らし後退、或いはダメージに耐え切れず爆散。
対峙中の敵が並の怪人程度ならそうなっただろうが、生憎エボルはその枠に収まらない。
エネルギー弾が当たる直前に、赤い残光を残して消失。
次にディケイドが姿を捉えた時にはもう、目と鼻の先で己が振り下ろされた。
「っ!」
ライドブッカーをソードモードへ変形、瞬時の判断で防御の構えを取る。
刀身が震えディケイドの両腕にも痺れが来た。
未知の鉱石、ディヴァインオレで構成された刀身は破壊困難な強度を持つ。
そこいらの武器なら今の一撃で砂糖菓子のように砕け散ったのは、想像に難くない。
ディケイドへの追撃を止めるのは心強い仲間達。
二方向から迫る敵意への対処に移行。
オーソライズバスターがレイの剣を防ぎ、左手でやちよの槍を掴む。
魔法少女の武器だろうと関係無い。
ほんのちょっぴり力を入れ穂先を粉砕、破片が呆気なく地面に散らばる。
だが武器の損失程度やちよには無問題。
使い物にならなくなった槍を捨て、魔力と引き換えに新しく槍を精製し構え直す。
剣が振るわれ、槍が突き出され、エネルギー弾が撃ち込まれる。
三人が狙う対象はたった一人。
しかしこの戦いを見て、ただの袋叩きと言える者はまずいない。
剣と槍は片手ずつで捌かれ、エネルギー弾に至っては命中してもノーダメージ。
地球外の物質を加工し作り上げた装甲には、ディケイドも自身の武器も些か頼りなさを覚える。
『FAINAL ATTACK RIDE DE・DE・DE DECADE!』
「退いてろ!火傷するぞ!」
警告が放たれレイとやちよは素直に従う。
これまでのエネルギー弾と違い、今から撃つのは仲間を巻き込みかねない威力と範囲だ。
ディケイドライバーが情報をスキャンし力を解放。
エボルへの道を作るようにカード型のエネルギーが展開、発射された銃弾が潜り抜け光線に変化。
怪人複数体をも巻き込む光が喰らい殺さんとするのは当然エボル。
カメラアイを焼き潰す閃光を前にして尚、エボルに動揺は無かった。
高威力の技が来ることなど、十分想定の範囲内。
こちらはディケイド以上の力で真っ向から捻じ伏せてやるまで。
『Ready Go!』
『EVOLTEC FINISH!』
エボルボトルの成分を破壊エネルギーに変換。
ドライバーのレバー部分を回す度により活性化し、正に必殺の威力を変身者に付与する。
右腕部分にエネルギーが収束、迫り来る光線へ真っ過ぐに拳を突き出した。
只のパンチと侮るなかれ、数多の惑星を滅ぼしたライダーの放つ技だ。
閃光を打ち消しても止まらない、腕に纏った真紅のオーラは健在。
マゼンタ色の装甲を粉砕し、世界の破壊者を逆に破壊する拳が襲い来る。
「はぁあああああ…!!」
ディケイド単独の戦闘ならば絶体絶命の危機を迎えただろう。
なれど仲間の存在がディケイドを死から遠ざける。
飛び退いてからやちよも黙って指を咥えていた訳ではない。
精製した槍に魔力を集中、大技(マギア)発動の準備に入った。
手に持つ1本と周囲に展開した10本、全てに魔力を注ぎ込み威力を最大限に強化。
槍自体が壊れかねない限界まで充填し投擲。
後に続く様に展開された槍も射出、エボルを串刺しにせんと飛来する。
「チッ…」
これでもまだエボルの装甲には傷一つ付かない。
ダメージゼロ、しかし威力を高めた槍の一斉掃射を防御も無しに受けたのだ。
体勢が僅かながらに崩れ、ディケイドへの狙いにブレが生じる。
となればこのチャンスを逃す手はない。
胸部を掠める拳に冷汗を掻きつつ、エボルの攻撃をどうにかやり過ごす。
致命傷でないなら上出来、距離を取るのに成功。
そしてやちよの攻撃はまだ終わっていない。
一斉展開からの射出すら前座に過ぎない、ここからが本命。
既に手元には新たな槍が精製済み、当然魔力を存分に注ぎ込んだ。
弾丸に変化した思わせる、爆発的な加速で突撃。
だがエボルの反応速度もまた、地球産のライダーシステムを凌駕する性能。
急接近するやちよを正確に捉え、エネルギーが残留中の拳で迎え撃つ。
赤と青、破壊エネルギーと魔力が衝突し互いの視界を鮮やかな光が焼く。
「ぐっ…」
余波が両者を痛め付け、先に後退へ動いたのはやちよの方。
一般人よりは打たれ強い魔法少女と言えども、仮面ライダーの装甲程の耐久力は無い。
体の傷だけならまだしも、ソウルジェムにまで被害が及べば手遅れ。
このまま鎬を削るのはリスクが高過ぎる。
尤も今回に限ってはエボルもまた即座の追撃には出れなかった。
ディケイドの放った光線は打ち破ったが、ある程度の勢いを殺されたのは事実。
ネオディケイドライバーにアップデートされた現在のディケイドは、全体的な能力が格段に上昇している。
よってエボルの技も威力を削ぎ落とせた。
でなければやちよのマギアであろうと、ロクな拮抗も許さず叩きのめしただろう。
槍は己の拳で破壊してみせた、されど装甲下の体へ僅かながらダメージが走る。
損傷個所を知らせる音声が電子頭脳内で響き、意識をそちらへ持って行かれた。
時間にすれば5秒にも満たなくとも、致命的と言って良い隙が生まれる。
仲間達が作ったチャンスを無駄にはできない。
エボル目掛けて疾走、風を切り裂きレイの愛剣が唸りを上げた。
各部の装甲を斬ったとてノーダメージ。
ならば狙うは腹部の機械、エボルドライバー。
士がディケイドライバーを用いたように、仮面ライダーとは総じてベルトが力の源。
そこを破壊されれば当然変身も解除される。
生身に戻しさえすればこっちのものだ。
刃がエボルドライバーを叩き割る正に寸前で、ピタリと動きが止まった。
「こ、これは…!?」
レイの意思で攻撃を止めたのではない。
動揺を態度に表す姿からも、彼女にとって予想外の事態だとは誰の目にも明らか。
意識は健在、なのに指一本自由に動かせない。
原因はエボルの腕部から放たれたエネルギー波による拘束。
鬼の始祖すら身動きを封じられた絶大な効果は、当然の如く閃刀姫にも有効。
剣でベルトを破壊する為には距離を詰めねばならず、その状態で動けなくなればどうなるか。
考えるまでも無い、至近距離でレイの瞳に移る斧が答えだ。
『KAMEN RIDE KIVA!』
『FORM RIDE KIVA GARURU FORM!』
レイがエボルの隙を見逃さなかったように、彼女の仲間はレイの危機を見過ごさない。
カードを2枚叩き込み、ディケイドは仮面ライダーキバへと変身。
更にガルルフォームへチェンジ、出現した剣で斬りかかる。
敏捷性ならエンペラーフォームをも超える形態だ、急接近しオーソライズバスターを弾く。
意識が逸れレイの拘束も解除、追撃はさせじと続けてキバが右腕を振るう。
オーソライズバスターは衛星ゼアの技術力の結晶なれど、キバの剣も負けてはいない。
ウルフェン族のガルルが姿を変えたガルルセイバーは、これまで幾度となく紅渡を助けた魔剣なのだから。
「余計な抵抗を…」
「するに決まってるだろ。簡単に死ねない理由があるんだよ」
斧と剣が打ち合い、赤と青の残光が衝突を繰り返す。
ガルルフォームはキバが変身する中で最もスピードに優れたフォーム。
しかし並外れた速さなら、エボルも決して引けを取らない。
レイの拘束に使ったエネルギーを自身の脚部に流し強化。
スピード面はほぼ互角、されどパワー面ではエボルが勝り防戦一方となるのはキバ。
斧がキバの手から得物を叩き落とし、無防備な胴体へ刃を走らせた。
が、頭上から降り注ぐ槍の雨が決め手の一撃を放たせはしない。
「チィッ…!」
妨害されまたもやキバは遠ざかる。
目障りな真似をした方を先に仕留めるか、やちよを睨みオーソライズバスターを変形。
ガンモードで狙いを付けるもトリガーは引かれない。
真横から迫る刀身をカメラアイの端が捉え、直後視界がぐらつく。
ダメージこそ期待できないとはいえ、顔面部への衝撃は集中力を割くのに持って来いだ。
『FAINAL ATTACK RIDE KI・KI・KI KIVA!』
二人が隙を作れば三人目がそこを狙う。
カードを装填しガルルの持つ魔皇力を解放。
キバ本人はフエッスルという道具が必須であれど、ディケイドはカードの効果で再現が可能。
魔皇力により切れ味が増したガルルセイバーを咥え跳躍、四肢を総動員した動きは狼そのもの。
急降下し勢いを乗せ、黄金色の刃がエボルを切り裂いた。
「ッ…!!」
オーソライズバスターの防御こそ間に合ったものの、数多のファンガイアを撃破して来た技だ。
威力は馬鹿にならず次の動作へ移るまでにタイムラグが生じる。
なればとキバが次なる一手を繰り出す。
ガルルフォームからキバの鎧を纏った基本形態へ戻り、右手には新たなカード。
当然エボルも黙って見ているつもりはない。
高威力の技で迎撃すべくエボルドライバーへ手を伸ばす。
レバー部分を掴もうとし、手が弾かれた。
「貴様…!」
「苦情は受け付けませんのであしからず!」
相手の怒気などなんのその。
腕を狙い剣で弾いたレイは怒りを受け流し、悪戯っ子のように舌を出して笑う。
妨害はこれ一つで済みはしない。
突如発生した水がエボルに絡み付き、拘束具の役目を果たす。
水魔法を応用し、同じくキバのアシストを行ったやちよだ。
長々と動きを封じる効果など最初から期待していない、少しでも時間を稼げれば良い。
『FAINAL ATTACK RIDE KI・KI・KI KIVA!』
右足部分の拘束具、ヘルズゲートが解き放たれる。
三つの魔皇石から順に魔皇力が流し込まれ増幅。
蝙蝠の翼を思わせる部分が羽ばたき、キバは遥か上空へと飛翔。
同じく蝙蝠を象った瞳が標的を捉え離さない。
高空からの蹴りは、さながら罪人へ下す王の裁きか。
「がぁっ…!」
叩き込まれた足底から魔皇力が流し込まれ、装甲の下のマシンボディを痛め付ける。
エボルの装甲は既存の科学では解明不可能な物質、だがファンガイアの魔皇力とて人間の理解が及ばないパワーを秘めている。
地面に背中を付け、周囲一帯に刻まれる巨大なキバの紋章。
王の判決を言い渡されたファンガイアと同じ光景、唯一違うのは死という末路は回避したこと。
中々に効いたが破壊までは至らない。
数時間前に無惨との戦闘で負った損傷箇所へ響く威力。
エボルに変身していた為最小限の傷で抑えられはしたものの、もし生身だったら大破は確実。
個々の力は恐らくエボルに及ばない、しかし連携という強みを活かし追い詰めてみせた。
侮れば今度こそ本当に破壊されるだけ。
だったら何人集まったとて届かない力で滅ぼすのみ。
『DRAGON!RIDER SYSTEM!EVOLUTION!』
『Are You Ready?』
「変身」
『DRAGON…DRAGON…EVOL DRAGON!』
『フッハッハッハッハッハ!』
パイプオルガンに似た音声が鳴り響き、生成装置が展開。
光が晴れた時には全ての工程が完了し堂々と姿を現す。
細部にも幾つか違いが見られるが、何よりも変化したのは頭部。
青い仮面が装着されたエボルの顔は、万丈龍我が変身する仮面ライダークローズと瓜二つ。
仮面ライダーエボル・ドラゴンフォーム。
ドラゴンエボルボトルとの組み合わせにより、変身が可能なエボルのフェーズ2。
滅に支給されたエボルボトルは2本だけではなかったのだ。
「…士、士。何だかもっとマズいことになったと思うのは私の気のせいですよね?」
「そうなら良かったけどな」
軽口を叩く声も強張り緊張を隠し切れない。
エボルの放つプレッシャーが数段階引き上げられた。
余計なお喋りをこれ以上続ける余裕は無いと言わんばかりに肉薄、キバの鎧を拳が打つ。
「ぐっ…!」
接近されるのは予想通り、故にタイミングが危ういながらもライドブッカーによる防御は間に合った。
尤も無事かどうかは別の話。
剣を構えた体勢のまま殴り飛ばされ、受け身も取れずに地面を転がる。
ライドブッカーに損壊は見られずとも、へし折られたと錯覚を抱きかねない一撃だ。
「させません!」
キバへの変身が解除され、再度ディケイドへ戻る。
余計な小細工には出させまいと追い打ちを掛けるエボルへ、レイとやちよが斬り込む。
速さもさることながら武器の狙いも正確無比。
エボルドライバー目掛け突き出す切っ先、それが容易く躱され反対に拳が顔面へと飛ぶ。
「女の子の顔を殴るとか正気とは思えませんよ!」
「口より手を動かしなさい…!」
全身の筋肉を総動員し、集中力を決して切らさず拳を避け時には受け流す。
可能にしたのは二人が高い実力を持つ戦士が故。
とはいえ空気の振動だけで肌が切り裂かれる威力の打撃には、歴戦の少女達と言えども神経が削られる。
『ATTACK RIDE SLASH!』
立て直したディケイドが再び参戦。
次元エネルギーを纏い、切れ味を強化したライドブッカーを豪快に振るう。
一振りで複数の斬撃が放たれ、手数で攻めるもエボル相手には余りにも無意味な抵抗。
拳が的確に斬撃を打ち消し、一撃の重さにディケイドの方が怯みかけた。
感じ取ったプレッシャーは気のせいなどでは無かった。
事実、姿を変えてから敵は明確に強さを増しているのだから。
ドラゴンフォームのエボルは全体的な能力の上昇に加え、格闘戦に特化したパワー重視の形態だ。
ディケイドに変身中の士でさえ、たったの一撃すら食らうのを絶対に避けるべきと警戒を抱く。
生身のレイとやちよでは、冗談抜きに紙切れ同然に裂かれるに違いない。
腰を引き千切らんと回し蹴りが放たれ、獲物に選ばれたやちよは水魔法を行使。
足元に纏わせ敏捷性を強化、爪先が衣装を破るだけで済ませる。
安堵する暇は無い、続けて襲い来るは蒼炎を纏った拳。
ドラゴンフォームのエボルだけが使用可能な機能を用いて、魔法少女を焼き殺す。
拳だけではない、全身の装甲が発熱し余りの高温に足元の水が蒸発。
力任せに水魔法を打ち破られ、再使用の間もなく拳が襲って来た。
「やちよ!」
二振りの剣が振り下ろされ、エボルの腕を強引に押し留める。
長続きはしない拘束だ、モタモタせずにやちよは大きく後退。
蒼炎に武器諸共焼かれる前に、レイとディケイドもまた距離を取った。
並んで立つ三人の顔からは欠片も余裕が見当たらない。
「……そうか。お前がやちよか」
意外にもエボルは即座の追撃に出ず、意味あり気に呟くのみ。
何故自分の名前に反応を示すのか、理由へ気付くのに時間は掛からなかった。
「あなたは…誰から私の名前を聞いたのかしら?」
敵は冴島邸を訪れる前に自分を知る者と会っている。
背筋を冷たいものが落ち、心臓の音がやけに五月蠅い。
誰と会った、会ったとしてその者はどうなった。
考えられる最悪の予想に恐怖が湧き出す。
「名前は知らん。ただ…お前やいろはという人間を守ると言った子供を殺した。それだけだ」
ヒュッと自分の喉が嫌な音を立てる。
誰を指して言っているのか、憎たらしいまでに自分の冷静な部分が答えを弾き出す。
子供で、いろはとやちよを守ると言う者など、参加者の中で一人しかいない。
「フェリ、シアが……?」
死んだ。
やちよの知らない場所で、目の前の男に殺された。
信じられない、信じたくない。
自分の心を弄ぶ嘘だったらどんなに良かったか。
だけどそんな都合の良い可能性を否定するのも、やはりやちよ自身の冷静さ。
相手は嘘を並べる様子がない、ただ事実としてフェリシアの死を告げているだけ。
「あ……」
手のかかる子だった。
家事の手伝いは面倒くさがるし、鶴乃と揃って大騒ぎするのだって一度や二度じゃない。
でも一緒にいて悪い気分にはならなかった。
ご飯を作ればいつも美味い美味いと嬉しそうに食べ、お礼を言ってくれて。
それに、お風呂上りに髪を乾かしてあげるのだってすっかり日課になって。
だけどもう、それらは全て過去の光景。
この先、やちよの人生にフェリシアが関わる事は二度とない。
かなえやメルと同じ、また一人やちよの前から去って行った。
土砂降りの中、突き放した態度のやちよへ複雑な顔を向け背を向けたのが最後。
マギウスの翼から連れ戻せもせず、喪失という現実だけが残る。
《ほら、やっぱりね》
声が聞こえる。
誰よりもやちよを責める、忌々しいあの声が。
《また一人あなたのせいで死んじゃったわ》
《かわいそうなフェリシア。あなたなんかの仲間になったばっかりに》
《きっといろはもこう思うわよ。あなたの仲間になんてならなければ良かったって》
「――――っ!!!」
黙れと口にしたい、何も言うなと叫びたい。
なのに言い返そうとすれば肝心の言葉は出て来てくれず、自分の心(なか)へ気持ちが悪い程に浸透する。
また自分のせいで仲間が死んだ、フェリシアまでも自分の願いの犠牲にしてしまった。
胸の奥底から蝕まれ、息が酷く苦しい。
胸元の三日月に穢れが溜まるのすら、今のやちよには気を回す余裕が無い。
「ぐぁっ…!」
「きゃっ…!」
そしてこの場は絶望に沈み込んでいられる程、生易しくはなかった。
やちよの意識を引き戻したのは、共に戦う二人の呻き声。
エネルギー波で身動きを封じたディケイドをレイにぶつけ、揃って地面を転がるのに見向きもしない。
青い仮面と目が合い、何かを思うより早く大量の槍を精製。
心がどれだけ苛まれても、体は戦場の空気へいち早く反応を見せる。
射出するも片っ端から叩き落とされ効果は無し。
そうこうしている内にエボルが迫りつつあり、殴り殺されるのは確実だ。
槍一本を翳した所で敵の拳は防げない。
だから幾重にも束ね、魔力を重ね掛けして即席の盾を生み出す。
『Ready Go!』
『EVOLTEC FINISH!』
「っう…!」
ここまでやってようやく辛うじて防げるレベルだ。
飾り気のないストレートパンチの一発で砕け散った上に、衝撃だけで吹き飛ばされたが。
頭から叩きつけられるのを防ぐべく宙でどうにか体勢を変え、ふらつきながら着地。
レイ達から大分離れた位置だと分かり急いで戻ろうとし、
「よう、元気そうだなベイビー」
聞きたくない声が聞こえた。
◆
己の幸運にパラダイスキングは笑いを抑えられない。
ダンデライナーで飛行中、何やら派手にドンパチやらかす連中を発見。
家来を引き連れ慎重に様子を見に行くと、知ってる女が一人に知らない連中が三人。
どうやら女は三人内の二人と協力し、残る一人と戦闘の真っ最中らしい。
それは良い、そういう状況だって有り得るだろう。
問題は三人が戦っている相手が、パラダイスキングから見てもヤバいと言わざるを得ない化け物なこと。
自分の戦極ドライバーと同じように、仮面ライダーへの変身アイテムを支給されたとは分かる。
ただ有する能力はどう考えてもブラックバロンより遥かに上。
何故王様の自分にああいう道具を寄越さないのかとボヤキつつ、戦況に変化が訪れ行動に出るのを決断。
(あんな化け物と直接ぶつかるのは御免だが、今ならいけるかもしれねぇ)
自分のモノにする予定の女の危機に颯爽と駆け付ける。
悪くは無いが、無策で恰好付けて出て行き殺されるなど真っ平御免。
それより、女が他の三人から引き離された今の状況の方が都合は良い。
仲間らしき二人はヤバい仮面ライダーの相手で手一杯、この隙に女を動けなくさせる。
後はこっちに被害が出る前に撤退、安全な場所で「お楽しみ」と洒落込む。
「王様直々に迎えに来てやったぜベイビーちゃん。有難く思えよ」
「ボクも一緒ですよ〜♪」
槍を肩に担いだパラダイスキングの後ろから顔を出すのは、吐き気を催す邪悪な幼児。
どちらもアーマードライダーの変身は予め済ましてあった。
よりにもよってどうしてこのタイミングで出て来るのか。
仮面の下のニヤケ顔が嫌でも浮かび上がり、猛烈な不快感が湧き出す。
「一生会いたくなかったわ」
「おうおう、気の強さは相変わらずで嬉しいぜ。そっちのが俺好みだからなぁ」
威勢が良い程屈服させた時の快感は激しいものと化す。
やはりこの女は是が非でも、自分の妃にしてやりたいところだ。
とはいえ油断ならない力を持っているのも否定は出来ない。
数時間前の戦闘では自分達が優勢に進めた筈が、反撃を許し逃げる羽目になった。
加えて時間を掛け過ぎれば、向こうで暴れている化け物にこっちまで襲われる。
だったら自分もここいらで、切り札というやつを使わせてもらう。
『スイカ!』
「もういっちょ変身、ってな!」
『ロックオン!ソイヤッ!』
起動させるのは三つ目の支給品。
バナナ、タンポポに続く新たなロックシードをドライバーに装填。
上空にクラックが開かれ、真下の変身者へ落ちて来るのは巨大なスイカ。
ブラックバロンの変身時に現れたバナナ以上に大きい。
ともすればパラダイスキング自身をも粉砕し兼ねない、規格外のサイズだ。
『スイカアームズ!大玉ビッグバン!』
だがこれで問題無い。
落ちて来たスイカの上部から顔を出し、同時に電子音声が変身完了を伝える。
傍から見るとスイカに顔以外の全部が埋まったシュールな姿。
何とも言えない光景にやちよも困惑し、タラオに至っては「このおじさんの脳みそはサクランボの種より小さいんですかね?」と呆れる始末。
「面白いのはこっからだぜ」
『ヨロイモード!』
スイカ内部で戦極ドライバーを操作。
アーマードライダーの変身時と同じように果実が展開、ブラックバロンの全身を覆う鎧と化す。
右手にはこれまたカットしたスイカを思わせる形状の巨大槍。
鎧武やバロンといった沢芽市のアーマードライダーが纏ったスイカアームズ、その本領を発揮する形態だ。
「わー!大きくてかっこいいです〜♪」
「だろ?もっと褒めても良いぜぇ?こいつがどんだけ強いか、今からたっぷり見せてやるからよ!」
「っ!!」
アームズウェポンを振り下ろされた先で、やちよは我に返り跳躍。
スイカバーにも見えるおかしな武器だが破壊力は抜群。
地面が粉砕され、冴島邸の庭が削り取られた。
倉橋ゴンザが見たら卒倒間違いなしの悲惨な光景だが、家主を気遣う場合ではない。
「逃げんなよ!」
ブラックバロンの脚部が唸り、杭打機かと言わんばかりの勢いで放つ蹴り。
強化されたスイカアームズのキック力の前には、戦車の装甲すら障子紙同然。
魔法少女と言えども直撃すればミンチは確実。
水魔法を使い急加速、回避しながら槍を射出し続ける。
槍は一本残らず命中するも、ブラックバロンは微塵も怯まない。
そもそも避ける素振りすらしなかった。
当たった所で痛くも痒くもないのだから、回避の必要などある訳がない。
見た目に違わず、耐久力とパワーは非常に厄介。
加えて巨体には似合わない俊敏な動きも可能。
ユグドラシルコーポレーション所属の人間ですら滅多には手に入らない、高ランクのロックシード。
次世代型のゲネシスドライバーにも劣らない性能を誇るのがスイカアームズだ。
槍を射出しながら接近、ブラックバロンの頭部目掛けて手元の得物を突き出す。
顔面部分にもスイカアームズの装飾が確認出来るが、少なくとも他の部位よりは脆い筈。
丁度目に当たる部分を貫かんと迫る穂先、しかしスイカアームズは反応速度も侮れない。
アームズウェポンの一振りで槍が砕け散り、次いで狙うはやちよ本人。
柄だけとなり使い物にならない武器へ執着する理由はない。
放り捨てて後退、空振ったアームズウェポンが生み出す空気の揺れが長髪を靡かせる。
「ちょこまか鬱陶しいですね〜。じっとしてく〜ださ〜い」
ブラックバロンの槍を避ければもう一人が銃を撃つ。
龍玄の性能を活かしての精密な射撃は、やちよと言えども捨て置けない。
槍を精製し回転、エネルギー弾を叩き落とした傍から再度スイカの巨体が接近。
「おらぁっ!」
横薙ぎの単純な一振りも大きさが大きさだ。
暴風が巻き起こり、命中せずとも枯れ葉のように吹き飛ばされそうになる。
水魔法でバランスを取り踏ん張るも、休む間もなくアームズウェポンが頭上より襲来。
足元の水で加速し回避すれば、続け様にエネルギー弾が来た。
アーマードライダーの猛攻に歯噛みすらも惜しいと、やちよは必死に打開策を練る。
◆◆◆
戦況の悪さはレイ達も同じ。
コブラフォームの時でさえ三人掛かりでどうにか食らい付いたというのに。
一人減ればその分負担は増大、おまけに現在のエボルはフェーズ2により能力が更に強化された状態。
やちよを追いかけたくても、そんな余裕を与えてくれない。
左右同時に剣を振り攻め込むも、片腕ずつで難なく捌かれる。
装甲部分で刀身を阻み、時には拳や手刀を繰り出す。
数度の打ち合いでディケイドとレイ、両名共に武器をまともにぶつけ合うのは悪手と理解。
傷一つ付かない堅牢さもさることながら、パワーが桁違い過ぎるのだ。
「がっ…」
力強いのみならず、スピードと精密性も兼ね備えている。
ライドブッカーの防御をすり抜け、拳が胴体を叩く。
ディケイドの装甲にはあらゆる衝撃を緩衝し、決定的なダメージを防ぐ機能がある。
だが今受けたのは、本当に機能しているのかと疑わざる得ない痛みだ。
拳一発で軽く眩暈に襲われた、連続して受ければ本気で殴り殺されてしまう。
どうにか動こうとするもエボルを前にしては余りに襲い。
「させません!」
両手が白ばむ程に柄を握り、伸ばしかけたエボルの腕へ剣を叩き込む。
優秀な閃刀姫であろうと渾身の力で得物を振るわねば、敵をほんの数ミリ動かすことすら不可能。
傷は与えられずとも狙いは逸らせた、自身が拳の餌食となる前に範囲外へ退く。
強引な体勢のまま歯を食い縛りディケイドが離脱。
無理に動かした全身の悲鳴を黙殺し、すかさずカードを叩き込む。
『FAINAL ATTACK RIDE DE・DE・DE DECADE!』
ディケイドとエボルを繋ぐかのように、カード状の道が創り出される。
一枚一枚を潜り抜ける度にライドブッカーの刀身へエネルギーが収束。
邪悪を討つ光剣を片手に疾走する破壊者を、エボルは脅威と感じやしない。
分かっているからだ、この攻撃も自分には届かないと。
レバーを高速回転しこちらも破壊者のエネルギーを纏う。
『Ready Go!』
『EVOLTEC FINISH!』
装甲全体が急速に過熱を始め、やがて右腕に収束される。
蒼炎が揺らめき、周囲の空気が乾き出す。
最後の一枚を通過したディケイド、その手の剣が迫るのをエボルは無感動に見つめ動かない。
先手は敵に奪われた、しかしそれでも己の有利は変わりなし。
「ぐぁああああああっ!!」
『CIAO!』
威力を限界まで強化したライドブッカーが弾かれる。
まるで目障りな羽虫を払い除けるに等しい動作で、大技が無駄に終わった。
ディケイドが凍り付く暇すら無い、胸部へと叩き込まれる蒼炎の一撃。
大量に飛び散る火花がエボルの仮面を照らし、悲鳴が聴覚センサーを刺激する。
殴り飛ばされ受け身もまともに取れず、ディケイドは地面を転がるしか出来ない。
「ぐ……」
ディケイドライバーが外れ生身のまま地に横たわる。
口の端からは血が流れ、声らしい声と言ったら小さな呻きだけ。
「士!っ…あっ…!」
血相を変えて駆け寄ろうとするが、それすらも叶わない。
突如全身が硬直し指一本動かせなくなる。
剣だけは握ったままだが振るうことが無理なら無意味。
「こん…のぉ……!」
身を捩る動作も出来ず、体のコントロールが奪われた。
エネルギー波による拘束をされては閃刀姫も無力。
己の意思とは無関係にエボルの元へ引き寄せられ、何をされるかはすぐ分かった。
反対の手に持った斧、あれで頭をかち割る気だろう。
(私は…まだ…!)
死ねない、死ぬ訳にはいかない。
殺し合いを破壊し終えていない、大切な少女とまだ会えていない。
どれだけ死を拒否したくても、エボルから与えられるのは無慈悲な終焉の刃。
人類滅亡を掲げるヒューマギアには、他者を生かす選択肢など存在する筈もなかった。
(士…渡…ロゼ……私は……!)
精一杯の抵抗で睨み付けるも効果は無し。
思った通り、躊躇なく斧が振り下ろされる。
いつかの優しさに溢れた記憶の中、ロゼが綺麗と言ってくれた髪が真っ赤に汚され――
「だめぇえええええええええええ!!!」
◆
光が見えた。
血の色とは別の赤を纏った彼女は酷く不格好に、だけど誰よりも必死に剣を振るう。
無駄な足掻きと大半が言うのだろう。
事実、彼女の剣がエボルを倒す光景は決して現実にはあり得ない。
斧を持った片腕に当たっただけ。
傷は付いていないし武器を落としてもいない。
しかし一瞬、本当に一瞬でも意識を奪ったのなら。
「っあああああああああああああああああああ!!!!!」
拘束が僅かにでも緩んだのであれば、閃刀姫が大人しくしている筈がないのだ。
腹の底から声を張り上げ、エネルギー波を打ち破る。
小指の先まで完全に自由を取りした。
拘束を脱したと脳が理解を終えるより早く、体は自然と動き出す。
現状は依然として最悪の一言に尽きる。
動かなければ逃れたばかりの死に追い付かれ、今度こそあの世へ一直線。
自分は元より、傍らの少女もまた死神の鎌が首に添えられたまま。
腕を引っ掴んで、痛みが走るくらいに足へ力を籠める。
駆け出すのと背後で動きがあったのはほとんど同じタイミング。
髪の毛数本が斬られた程度の被害で済み、距離を稼ぐとようやく少女の顔を見た。
「大丈夫ですかココア!?」
「う、うん…なんとか……」
ぎこちなく頷く彼女に目立った負傷は見当たらない。
安堵のため息もそこそこに、無茶を諫める言葉が口を付いて出た。
「助かりましたけど…でも一歩間違えればあなたは――」
「わ、私は…!」
レイが何を言うつもりかは分かる。
でもその先を口に出す前に遮り、顔を上げ思いのままに叫ぶ。
「もう嫌だから…もう、誰かが死んじゃうのが嫌なの…!
マヤちゃんが殺されて…苺香ちゃんも殺されて…あんこも殺されて…戒さんも……みんな…みんな死んだらだめなんだよ……
マヤちゃんはリゼちゃん達の高校に通って、ごきげんようってメグちゃんと一緒にこれから言う筈だったの…苺香ちゃんはシャロちゃんにも負けないくらい、美味しいお茶を淹れる凄い女の子で…あんこは普段すっごく大人しいのに私を守ってくれて、千夜ちゃんにも褒めてもらえる筈で…
戒さんは…優しいのに、どこか苦しそうな人で、妹さんだってきっと戒さんが帰るのを待ってたんだよ…?なのにみんな…」
皆もういない。
帰りを待つ人が沢山いた筈なのに、三人はもう大切な居場所へ帰れなくなった。
「それが……私はそれが嫌!そんなの絶対に認めたくないよ…!私だって、チノちゃん達とラビットハウスに帰れなかったらって思うと、凄く恐いよ……
だから嫌なの…!そんな風に死んじゃうのが…帰れなくなって皆が恐い思いをするのが…!」
「…くだらん」
涙ながらに吐露した言葉の数々を、たった一言で切り捨てる。
青い仮面の下で滅の顔は恐ろしいまでに冷え切っていた。
「お前が誰を守り生かそうと、待っているのはお前達自身の破滅だけだ」
滅は知っている。
善意と悪意は紙一重。
どれだけ他者への優しさに満ち溢れた人間だろうと、些細な切っ掛け一つで醜悪な罪人へ変貌する。
人類の持つ悪意とはそれだけ根深い。
善意のままに他者を生かしたとて、生かされた側に新たな悪意が芽吹かないとどうして言い切れる。
そうやって善意を振りかざした末に、悪意へ飲み込まれないと誰が保障すると言うのだ。
「お前のやったことに意味などない」
人間が存在する限り、悪意の連鎖は永遠に止まらない。
必死こいて守るだ救うだと繰り返したとて、待ち受けるのは悪意による破滅の幕開け。
結局、人類は滅ぼす以外に有り得ないのだ。
人類滅亡の果てにこそ、真にヒューマギアの安寧がやって来る。
だからココアの言葉も想いも、為すこと全てが無意味と断じた。
「違うな」
なればこそ、滅を否定する者もまた現れる。
人間の悪意への執着とも言うべきソレと真っ向からぶつかり合えるのは、人間の善意を信じられる者だけだから。
口から零れる血を拭いながら、己に異を唱えた男を睨み付ける。
殺気を向けられたにも関わらず、男は平然と見つめ返して来た。
瞳に宿る強靭さ、決して曲げられない意思とも言うべきもの。
見ているだけでデータバンクにノイズが走り、無意識の内に表情が険しさを増す。
「こいつは自分にとって大切な連中を失った。周りが思う以上に心へ傷を負った筈だ。
そのまま戦えなくなったって責められやしない。
だがな、それでもこいつは戦うことを選んだ。殺されてもおかしくないってのに、歯を食い縛ってお前に立ち向かった。
だからレイも無事でいられたんだ」
歴戦の戦士である士やレイでも戦慄するエボルへ立ち向かう。
言葉にすれば簡単でも、実際に動ける者が果たしてどれ程いるのか。
ましてココアは元々争いとは無縁の少女。
目の前で人が殺される恐怖だけでない、自分の命が奪われる恐怖は計り知れない。
「俺達は皆誰かに託されてる。自分が助からないと分かっても、諦めなかった奴らからだ。
ある男がこいつを助けたように、今度はこいつが俺達の助けになった。
そうやって繋いでいった先にあるのは破滅なんかじゃない、希望って言うんだよ」
「……」
顔が歪むのを抑えられない。
この男が口に出す言葉一つ一つが、どうしてか憎たらしい人間の存在を思い起こさせる。
どれだけ傷付いても善意を信じ、人とヒューマギアの懸け橋になろうとしたアイツを。
「貴様は…一体何者だ?」
吐き捨てた問い掛けに士は動じない。
むしろ、それを待っていたとばかりに不敵な笑みを浮かべ告げる。
「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ!変身!」
『KAMEN RIDE DECADE!』
ディケイドライバーが発する電子音声は、威風堂々と名乗りを上げたかのよう。
突き刺さったプレートが仮面を作り、マゼンタ色の装甲を纏う。
世界の破壊者が再び降臨を果たす。
「全く…一人で恰好付けないで下さい」
「ならお前も名乗ってみたらどうだ?通りすがりの面白剣士ってやつか」
「絶対馬鹿にしてますよねそれ!?そこはこう…美少女剣士とか」
「自分で言うなよ」
死闘へ臨むには随分と緊張感に欠けた空気。
されど彼らにはこれが丁度良い。
変に固くなるより普段の自分達らしさを隠さない方が、ずっと性に合う。
そしてもう一人、覚悟を決めた少女が剣を構える。
「私も…私も一緒に戦う!」
士の言葉が滅にとって怒りを引き起こしたのとは反対に、ココアにとっては勇気をくれた。
今でも戒達の死は完全に吹っ切れてなんかいない。
気を抜けば挫けそうだ、人目も憚らず大泣きだってするだろう。
だけど、瞼に焼き付くあの人の姿がもう一度戦う意思を心に宿す。
あんなにも強い侍相手に一歩も引かず、最後まで戦い続けた彼を。
命懸けでココア達を守ろうと諦めなかった彼のように。
「私も優しくて、強くて、凄いお兄ちゃんだった戒さんに負けないように!チノちゃん達を守れるお姉ちゃんになりたいから!」
叫ぶ決意は全員に届いた。
世界の破壊者と閃刀姫にも。
人類滅亡に執念を燃やすヒューマギアにも。
そして、この存在にもだ。
突如ココアの頭上に出現した赤い物体。
空気を切り裂き、喧しいくらいに飛び回るソレは――
「カブトムシ…?」
外見は呟いた通り、赤いカブトムシそのもの。
但し自然界に住まう昆虫とは違い、機械のボディを持ち後部からは青い炎を噴射している。
これは一体何なのだろうか。
会場に解き放たれたNPCの一種かと困惑する少女二名。
唯一正体を知る士は納得がいったとばかりに笑みを深め、ココアに取るべき行為を促す。
「支給品にベルトがある筈だ。そいつにこのピョンピョン虫を填め込んどけ」
「へっ?えっと…」
言われるがままデイパックを漁り、銀色のベルトを取り出す。
どうしてこのベルトを自分が持っていると彼には分かったのか、不思議でならない。
説明書も無く、何に使うか分からなかったので仕舞ったままだったのだが。
「っ…」
ベルトと何かしらの機械、これら二つで察しが付くのは敵も同様。
余計な真似はさせじとエボルが迫り、妨害に二人の戦士も動き出す。
「退け…!」
「断る。少しは空気を読め」
仲間達に長々とエボルの足止めをさせる訳にはいかない。
グズグズしていればした分、レイと士が危うくなる。
疑問は尽きないがのんびり考えるのは後回しだ、慌ててベルトを巻き付けカブトムシをキャッチ。
不思議なことにあれだけ元気に飛び回っていたのが、ココアに掴まれた途端借りて来た猫よりも大人しくなった。
「えっーと…私も士さんみたいに…へ、変身!」
『HENSHIN』
「喋った!?」
ココアのリアクションを無視し、「カブトゼクター」が資格者に力を与える。
専用ソードの効果で纏った衣装の上から、更に装甲が覆い隠す。
眩い銀は特殊金属ヒヒイロカネ製の強固なアーマー。
ブルーのコンパウンドアイが装着、姿形を完全に一変させた。
仮面ライダーカブト・マスクドフォーム。
地球外生命体ワームに対抗すべく開発された、マスクドライダーシステムの第一号。
太陽の神の異名を持つ戦士である。
マスクドライダーシステムとは誰でも変身が可能ではない。
ゼクターと呼ばれる、自立型昆虫メカに選ばれた者だけがライダーへの変身資格を得る。
ココアはとある世界でカブトの資格者だった男と同じような、唯我独尊を地で行く万能超人とは違う。
しかし天の道を征き総てを司る男や、嘗て士が通りすがった世界で出会った男が、どれだけの苦難や孤独に苛まれようと妹を守り抜いたように。
血の繋がりはなくとも、大切な妹を守る姉であらんとする少女の覚悟を聞き届けたのなら。
カブトの資格者に選ばれたのは何らおかしなことではない。
「なっ、なにこれー!?何か凄いゴツゴツしてる!?」
専用ソードを使った時以上の「変身」に、脳内は軽くパニック状態だ。
とはいえ無事にカブトへ変身は完了し、エボルから距離を取ったディケイドが傍らに降り立つ。
ライドブッカーから飛び出たカードを見れば、白紙部分へ赤い戦士の姿が浮かび上がっている。
渡と違い元々の変身者でなくとも、ディケイドの力を取り戻すルールが適用されるらしい。
檀黎斗により細工された影響なら納得のいかない部分はあるが、ココアの決意に水を差してまで文句を言うつもりはない。
流れを変えるべく、新たなカードに手を伸ばす。
◆◆◆
「おらおらどうした!動きが鈍くなってんぞおい!」
荒げる声はそのまま攻撃の激しさに直結。
鋼鉄の四肢と巨大槍を縦横無尽に振り回し、ブラックバロンは戦意を更に昂らせる。
強大な力の行使とはいつだって人間の心を膨張させるものだ。
誰よりも欲深い楽園の王ならばなおのこと。
「跳ね回ってバッタさんの物真似ですか〜?お姉ちゃんみたいなゴミにはゴキブリさんの方がお似合いです〜♪」
王とは別の理由で家来もまた上機嫌。
散々舐めた真似をした女が追い詰められ、苦悶に顔を歪ませている。
だがまだ足りない、お返しはもっとたっぷりしてやらねば気が済まない。
腹立たしい挑発に一々構ってはいられない。
意識を割くべきは絶えず襲い来る殴打と光弾の嵐。
躱し、捌き、また躱しての繰り返し。
細かい傷こそ作ってはいるが行動不能レベルの傷はゼロ、ソウルジェムへの被害も同様だ。
「疲れちまったかぁ?前に戦った時より弱く見えるぜ」
射出された槍を薙ぎ払い、脚部の機関が猛回転。
跳躍からの踵落としを繰り出し、粉砕された地面が視界を覆い隠す。
やちよも得物を振るい土煙を払い除けるも既に手遅れ。
「あっ…!」
強化腕甲が装着された手にガッチリと体を掴まれる。
握力は通常時の数倍、やちよの華奢な体など魚の小骨よりも脆く砕く。
尤もブラックバロンの目的は殺害に非ず、あくまで無力化。
と言っても殺さないだけで、危害を加えないのではない。
「っぁ…!!」
地面に叩きつけられやちよの意識が飛び掛ける。
魔法少女が常人より打たれ強いとはいえ、痛みは人間と同じように感じるのだ。
唇を噛み、薄れる意識を強引に復帰。
槍を支えに立ち上がるべく、痛む全身に力を入れる。
「抵抗しちゃだめですよ〜」
「うあっ…!」
背中に重みが発生し、強制的にうつ伏せの体勢を取らされた。
立とうとすれば更に圧し掛かる力が増し、骨が軋む感覚を味わう。
呼吸一つ行うだけでも全身が悲鳴を上げる中、どうにか首だけを動かす。
案の定、自分を踏み付ける龍玄の姿が見えた。
憎たらし気に睨み付けてやると気に障ったのか、踵で執拗に痛め付けられる。
「っう゛、あああああああ…!!」
「蛆虫のメスブタの分際でボクを睨むなんて生意気ですぅ〜。身の程を知ってく〜ださ〜い♪」
足元の女が出す苦悶の声を聞き、龍玄は実に爽快な気分だった。
世界の宝である自分を傷付けた罰はこんな程度じゃ済まさない。
フグ田タラオとは比べるまでも無い劣等種の分際で、自分をコケにした罪は重い。
このままたっぷりと礼をしてやりたい所だが、待ったを掛けるのは彼を従える王。
自分の女に迎え入れる相手だ、度の過ぎる手出しは御法度である。
「おいおい、遊ぶのはその辺にしてズラかるぞ。この姉ちゃんへの“躾け”は俺がきっちりやるからよ」
命令に内心で毒を吐きつつも、面と向かって逆らいはしない。
従順な振りをしていれば、ある程度はこっちの思うがままにコントロール可能な男だ。
表向きは家来を演じてやる。
「さーて、そんじゃ別の場所でお楽しみといくか。タラオ、テメェにも褒美を考えてやらなきゃな」
「わーい!ご褒美嬉しいですぅ〜♪」
身勝手な言葉で盛り上がるブラックバロン達に、やちよは悔しさでどうにかなりそうだった。
動きが鈍い、前より弱く見える。
嘲りの言葉を否定できないのはやちよ自身が嫌という程理解していた。
ここまでで蓄積された疲労や負傷だけが原因ではない。
最も大きな要因は、滅の口から語られた少女の死。
フェリシアが殺されたという覆せない事実が精神を蝕み、ブラックバロンとの戦闘で不調が生まれた。
滅への怒りは当然ある、だけどそれ以上に抱くのは悲しみと後悔。
どうしてあの時、みふゆの招待を受けた彼女達を止めなかったんだろう。
どうしてもっと早くに、自分の願いと向き合えなかったのだろう。
マギウスの翼の一員となって尚も、フェリシアは自分やいろは達を守ろうと戦ったらしい。
自分はドッペルの影響とは言え、一瞬だけでも彼女に殺意を向けてしまったのに。
(フェリシア…ごめんなさい……)
突き放した態度を取ったことを謝る機会は失われた。
いろはと共にみかづき荘へ帰り、鶴乃とさなを連れ戻しても、以前までの日常は二度と戻らない。
項垂れた彼女を捕えようとアーマードライダー達が手を伸ばす。
陵辱され、徹底的に汚され、最後は堕とされる。
待ち受けるのは数多の魔法少女達と何一つ変わらない、絶望的な末路。
そんな光景を認めないとばかりに、鉄球が龍玄に叩き込まれた。
「ひぎゃんっ!?」
思いもよらぬ攻撃に吹き飛ばされ、防御はおろか受け身すら行えない。
頭から地面に激突、やちよを嘲笑った口から出るのは情けない悲鳴に早変わり。
「おいこらコスプレ野郎ども」
戦場へ新たに響くのは、不機嫌さを隠そうともしない粗野な声。
だがブラックバロンにも、顔を上げたやちよにも理解出来る。
声の主が現れた事で、流れが変わりつつあると。
楽園の王が魔法少女を陵辱する、悪が微笑むステージは塗り替えられた。
「寝起きで機嫌が悪いって時によぉ…胸糞悪いモン見せてんじゃねえぞゴラァアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
至極当然の怒りと、八つ当たりと、その他諸々を籠めたモーニングスターが豪快に振るわれる。
細かい事情は抜きにして、風祭小鳩は女の危機に黙っている腑抜けにはなれない男だった。
「いきなり出て来て咆えるじゃねえかクソガキ!王様の邪魔をしやがったってことはよ…死刑にされても文句は言えねえよな!?」
「王様だ〜?痛い妄想してんじゃねえぞオッサン!テメェが王様なら、こちとら超絶イケメン主人公様だクソ野郎が!」
モーニングスターを大槍で弾き、お返しとばかりに拳を振り下ろす。
カタルシスエフェクトが発動中でも即死は免れない威力だ、舌打ちを零し回避。
身軽の羽の恩恵により、そこそこの範囲の攻撃だろうと躱すのは難しくない。
呆気に取られるやちよを尻目に、怒声と衝突音が木霊する。
「あの…大丈夫?」
「っ!?あなたは……」
背後からの声に振り向くと、やはりそこには見慣れた者達。
アーカードの棺桶を降り、千代田桃はフレッシュピーチの姿でペコリと頭を下げた。
滅の襲撃時、別室で眠ったままの小鳩と桃も轟音で目を覚ました。
起きたら知らない部屋にいただけでなく、横にはこれまた知らない参加者。
当然の如く互いに混乱し、小鳩でさえ目の前に美少女がいるというのに普段の押しの強さはどこへやら。
状況確認の為にまずは名乗ろうとする時間さえ二人には無かった。
何と扉を蹴破り、手足が生えた棺桶が登場。
予想外の珍生物の出現に揃ってパニックになるも、棺桶は有無を言わさず二人を乗せて屋敷を飛び出したのだ。
これはやちよが万が一の時は桃達を連れて逃げるよう、事前に指示を出しておいた為である。
ともかく屋敷を脱出後間もなくして視界に飛び込んだのは、やちよがアーマードライダー達に嬲られる光景。
桃からすれば自分を真紅の騎士から助けてくれた女性がピンチに陥り、小鳩にとっては名も知らぬ美女の危機。
急遽進行方向を変え、乱入を果たし今に至る。
「そう、だったの…」
桃から簡単に経緯を説明され、思わず小鳩の方を見る。
ブラックバロンに鉄球を叩きつけるが、スイカアームズの耐久力には効果が薄い。
更に敵はもう一人、怒り心頭でトリガーを引く龍玄もだ。
「絶対に許さないですよ…!カツオお兄ちゃんと同じクズの不良は死ねで〜す!」
「な〜にがですぅだ!気持ち悪い語尾付けてんじゃねえよ!あざといキャラ付けが許されんのは美少女限定だっつーの!テメェが言ってもキッショイだけだわ!」
「!?よ、よくもほざきやがったですねぇ…!カスのチンピラの分際でぇ…!!」
雨あられと発射される光弾を、粗暴な口調とは裏腹に軽やかな動作で避ける。
見た目のミスマッチさはともかく、身軽の羽は小鳩の助けになっていた。
だが、合間を縫って大槍を突き出すブラックバロンが非常に厄介。
破壊力に優れた小鳩のカタルシスエフェクトでも決定打にならない。
このままではジリ貧になるのが目に見えている。
(なら私も――)
一緒に戦わなければ。
状況を正確に読み取れてはいないが、鎧の二人組は恐らくゲームに乗った危険人物。
倒すのに躊躇はいらない相手だろうに、意思に反して体が動かない。
踏み出す一歩が異様なまでに重い、突き出す為の拳が全くと言っていい程上がらない。
全身に重しを括りつけられたって走り出す自信はあるというのに。
「…っ」
脳裏におぞましい光景がリピートされる。
内臓をぶち撒けられた青年と、冷めた瞳で見下ろす神。
幾度となく振り下ろされる大剣と、さも楽しそうに笑う騎士。
忘れたくとも忘れられない恐怖が再び、鎖となって桃の心を縛り付けた。
「なん、で……」
鎧の二人組は金髪の偉丈夫でも、真紅の騎士でもない。
手強いだろうけれど、あの怪物達のような強さは持たない筈。
だったら戦える、魔法少女としてやるべき事をやれる。
なのに動けない。
戦場の空気を濃く感じれば感じる程に体は震え、冷や汗が止まらない。
耳を劈く怒声すらやけに遠くに聞こえた。
「あなた、魔法少女よね?」
放って置けば意識さえも投げ出しそうな桃を引き留めたのは、傍らで立ち上がったやちよの存在。
傷の痛みに顔を顰めながらの問い掛けに、戸惑いつつ首を縦に振る。
真紅の騎士に嬲られる場面を見付けた時から、ソウルジェムは桃の魔力を感知していた。
やちよが把握する魔力パターンとは違うが、それが確認出来れば今は問題無い。
困惑する彼女に向けて掌を差し出す。
「コネクトをお願い」
「え?なに?眷属の誘いだったら私にはシャミ子が……」
「何の話をしてるのよ」
どうも妙な勘違いをされたらしく、つい頭を抱えそうになる。
自分の常識に当て嵌めてしまったものの、相手はコネクトを知らない魔法少女だった。
時間があれば、正史で鹿目まどか達にやったようにコネクトの説明を行えたが。
生憎そんな呑気な真似に出ていられる状況に非ず。
細かい説明も惜しいとばかりに声を荒げる。
「魔力を私に送り込んで!」
「いや急に…」
唐突な要求に面食らうも、時間が無いのは桃にも分かる。
大槍が掠め小鳩が体勢を崩された。
絶好のチャンスに邪悪な笑みを仮面の下で浮かべ、龍玄が引き金に指を掛ける。
「早く!」
「〜〜〜〜っ!!」
こうなればなるようになれだ。
掌を合わせ魔力を流し込む。
間違っても自分が消えないよう、量はちゃんと考えて。
流れ込んだ桃の魔力を自身の魔力と合わせ、精製済みの装備に付与。
一回り大きくなっただけで終わらず、更なる変化を見せる。
所々の装飾とピンクのカラーはやちよの槍には無かったもの。
まるで、ハートフルピーチモーフィングステッキと融合したような見た目と化した。
随分ファンシーな趣味だなとの感想は内心に留めて置き、槍を構えありったけの魔力を籠める。
桃色の光が穂先に収束、眩い輝きの光刃を創り上げた。
二人の魔法少女による力の結晶を叩き込む相手は、今更説明するまでも無い。
向こうが気付いた時にはもう遅い、こっちはとっくに投擲の体勢に移った。
「ありゃヤベェ…!」
「はひーっ!な、なんですぅかアレは!?」
魔法と一切縁の無い男でも、宿る力の大きさを理解出来ない素人ではない。
焦りを抱くのは家来も同じだ、あんなものをマトモに受けてはアーマードライダーでもどうなるか。
自称王様が死のうがどうだっていいが、自分まで巻き込まれるなど冗談ではない。
表向きの主に背を向け早急に逃げ出そうとする。
「だ〜れが逃げて良いつったよ!」
「ぎゃひいっ!?」
顔面を揺さぶられる衝撃が逃走の失敗を伝えて来る。
小癪にも一人だけ助かろうとした悪童を殴り飛ばして、小鳩も急ぎ離脱。
巻き添えの心配が無くなり、やちよの手から魔槍が放たれた。
「クソがぁっ!!!」
『大玉モード!』
ヨロイモードの機動力では逃れられない。
悪態を叫び戦極ドライバーを操作、最初と同じ巨大スイカから顔を出した形態に戻った。
シュールな外見だがヨロイモード以上の耐久力を誇る。
「ぬがああああああああああ!?」
しかし魔槍の脅威を退けるには至らない。
七海やちよと千代田桃。
神浜市と多魔市、異なる世界で上位の実力を持つ魔法少女の力が合わさったのだ。
スイカアームズの装甲を以てしても防げないダメージが襲い、痺れる痛みが全身を駆け巡る。
緑の大玉が浮かび上がり、絶叫と共に彼方へと吹き飛ばされた。
「うわ〜ん!なんでボクまで〜!!」
小鳩に殴り飛ばされた先が、運悪くブラックバロンの後方だった龍玄を巻き添えにして。
夜明け前の空を彩るには随分汚い星だ。
これで一件落着と気を抜くには残念ながらまだ早い。
精神的にも体力的にも疲労は大きく、ふらつく体に鞭打って支える。
戦いはまだ継続中、急いでそちらへ向かわねばならない。
「っと、大丈夫かよ姐さん。ピンクちゃんも怪我してないか?」
「…それ私のことなの?」
名乗っていないから当たり前だが、それにしたってあんまりなネーミングセンスだ。
もしかするとシャミ子といい勝負かもしれない。
「気遣いは有難いけど、まだ向こうで…戦ってる人たちがいるの。私もそっちに行かないと」
桃の呆れに内心同意するもお喋りは後回しだ。
煙草を吹かしている棺桶に指示を出し、背中に乗り込む。
自分の最後の支給品、それならきっと士達の助けになる筈だから。
◆◆◆
『FAINAL FORM RIDE KA・KA・KA KABUTO!』
新たに手に入れた、否、取り戻したカードをドライバーに叩き込む。
ディケイドが使うカードの種類は大きく分けて三つ。
異なる世界の仮面ライダーへ変身する、ライダー固有の能力や武装を使う。
そして今ドライバーに読み込ませたのは、ディケイド単独では意味の無いカード。
士が絆を結び、共に戦うライダーがいて初めて効果を発揮する。
嘗て、加速の世界に閉じ込められた一人の兄と共闘した時のように。
変身者は違えど、信頼し合える戦士の背中に手を置く。
「ちょっとくすぐったいぞ」
「ふえっ!?な、なにするの…!?」
素っ頓狂な声を無視し扉をこじ開けるように腕を動かす。
困惑を置き去りにして、瞬く間にカブトの姿が変化した。
『なっ、なっ、なにこれ!?なにこれー!?私までカブトムシになっちゃった!?』
「つ、士!?本当に大丈夫なんですか!?」
そこにさっきまでのカブトはいない。
二足歩行どころか人の形ですら無い物体が浮かんでいる。
赤いボディに角、バーニアを吹かす様は変身に使ったカブトゼクターそのもの。
カードの効果で変形する光景はディケイドには見慣れたものでも、初見や変形させられた当人にとっては衝撃が大きい。
その場でグルグル回りパニックを露わにするカブト、ディケイドの肩を揺さぶり思わず問い詰めるレイ。
少女二人のしっちゃかめっちゃかな様子を引き締めさせたのは、身の竦む電子音声。
『Ready Go!』
蒼炎を拳に纏わせ、変身者が抱く憎悪を宿したかの如く激しさを見せる。
敵がどんな手を使おうと関係無い。
エボルが望むのは人類滅亡、ただそれだけなのだから。
「こっちも決めるぞ」
『FAINAL ATTACK RIDE KA・KA・KA KABUTO!』
生半可な力ではエボルに届かない。
個々の力をバラバラにぶつけてはエボルを倒せない。
だが向こうにはなくて自分達にはある、仲間の存在が勝敗を分ける決め手となる。
ディケイドライバーに解放されたカードのエネルギーが、二人のライダーに力を宿す。
「背中に失礼します、ココア」
勝ちを取りに行く気十分なのはライダー達だけではない。
ゼクターと化したカブトの背に乗り、レイも愛剣を構える。
仲間が共に戦ってくれるというのならば、カブトが断る理由は無かった。
『うん!一緒に行こう!』
仲間達の存在に胸が熱くなり、祝福の風が吹いたのは気のせいか。
いや、暖かくも力強い風が巻き起こる。
不思議と驚きは無い、まるで自分達の勝利を後押しするような心強さを感じる。
カブトの角とレイの剣に収束され、敵を討つ瞬間を今か今かと待ち侘びていた。
「これは…もしかしてココアが?」
『えへへ…ココアお姉ちゃんのとっておきってやつだね!』
専用ソードを使った変身を行い、そこから更にカブトへ変身。
この影響でココアはカブトの固有能力のみならず、専用ソードを使った技も発動が可能。
本来は剣に纏わせる暴風を、此度は少し違った形で自分達の力に変えた。
『EVOLTEC FINISH!』
「ココア!私達も!」
『うん!』
蒼炎の鉄拳と風の双刃。
破壊と希望、どちらも一歩たりとも引きはしない。
であれば激突は必至。
エネルギー波を脚部に流し込みエボルは急加速、対するカブトもディケイドのカード効果とココアの技で突進。
「ぐっ…!」
「こ、の…!」
勝負は拮抗。
ビルド達を幾度となく叩きのめした拳、邪悪なワームに一切の抵抗を許さなかった合体技。
どちらも敵を一撃で屠ることが叶わず、それ以上先に進めない。
「たかが…この程度で…!!」
勝負の天秤が傾き始める。
発熱強化装置によりエボルの装甲が融解寸前まで加熱。
蒼炎はこれまで以上に燃え上がり、拳の威力も一気に引き上げられた。
変身者の感情が昂った時、この装置は最大限の効果を齎す。
機械でありながらシンギュラリティに目覚めた滅だからこそ叶った結果だ。
『う…うぅ…!』
気合だったらこっちも負けてはいない、だが現実はどこまでも残酷だ。
カブトの風は徐々に勢いが弱まり、押し返すのも難しくなる。
歯を食い縛り剣を突き出すレイもまた、焼き潰されそうな熱に眩暈がしそうだった。
「っ!」
故にここでディケイドが動き出す。
本来カブトとの合体技は突進し吹き飛ばされた標的に、挟み撃ちの形で蹴りを叩き込み倒す。
しかしいつまでも悠長にタイミングを待ってなどいられない。
カードの効果でディケイドのキック力も強化済みだ。
とはいえエボル相手に100%の勝利を奪えるかと聞かれれば、腹立たしいが素直には頷けない。
されど負ける気が無いのはココアとレイだけでなく、士だって同じ。
跳躍し、人類滅亡の獄炎を燃え上がらせるヒューマギアを見据え、
「門矢さん!」
最後の希望が到着した。
複数の手足をせわしなくバタつかせ疾走する、不死の王の寝床。
背には楽園の王達との戦闘を終えた三人が窮屈そうに乗り込んでいる。
「使って!」
魔法少女が投げ渡すは、逆転の切り札となる一枚。
自分一人では使うことが出来なかった、だが今ならば真価を発揮可能。
勝負を任されたと来れば、受け取らない選択肢はどこにもありはしない。
敵が人類すべてを焼き尽くす炎なら、こっちが燃やすのは心の火。
繋がれた希望は今確かに、世界の破壊者に託された。
「せやああああああああああああっ!!!」
「っ!!!??!がっ……」
蒼炎が掻き消される。
堅牢な星狩りの装甲を叩き、最奥の悪意に囚われた心を貫く。
幾度も辛酸を舐めさせられたエボルへ、遂に破壊者の一撃が届いた。
団結の力。
やちよに支給された最後の支給品はデュエルモンスターズのカード。
装備モンスターの攻撃力・守備力を自分フィールドのモンスターの数だけアップさせる魔法。
殺し合いにおける自分フィールド上のモンスターとは、装備者の仲間のことを指す。
OCGで言うなら攻撃力を4000も強化させたのだ。
どれだけ強固な意志を宿そうと、人類滅亡を目的に猛威を振るう滅はたった一人。
対してそれぞれ抱える事情に違いは有れど、殺し合いを認めないという志は同じ。
「が…ああああああああああああああああっ!!!!!」
善意の強さを見誤り、悪意は打ち砕かれる。
世界の破壊者、閃刀姫、そして太陽の少女。
悪しき炎は完全に消失し、正しき怒りの暴風に飲み込まれた。
地面を転がり地に伏せる有様は、これまでディケイド達を苦戦させたとは思えない。
敗北の二文字がどうしたって浮かび上がり、エボルの思考を掻き乱す。
だがまだ倒れる訳にはいかない、こんなところで破壊されてはダメだ。
悲鳴が止まらないマシンボディを酷使して、両腕を跳ね上げた。
「ぐ…おおおおおおおおおおおっ!!!」
エネルギー波を狙いも付けずに放射。
地面を削り取り、周囲一帯が血の赤に彩られる。
舞い上がる土埃と真紅の光に視界を潰され、誰もが止まらざるを得ない。
動けたのはライダーの視覚機能を持つディケイドとカブト。
とはいえ阻止するには一手遅れを取った。
自身の脚部にエネルギーを纏わせるエボルの方が早い。
視界が晴れた時、確認出来たのは6人の参加者と棺桶が一つ。
最早そこに、青い仮面の戦士は影も形も見当たらない。
「逃げられた、か…」
誰に向けたでもない士の呟きも、冷たい風に持って行かれて。
それが善意と悪意の死闘に幕を下ろす役目を果たした。
◆
「ぐっ…!」
冴島邸から遠く離れた場所で滅は変身を解く。
外気に晒された体は惨たらしいの一言に尽きる。
損傷個所は一つや二つ程度じゃ済まない、体内からは至急修復が必要との警告が鳴り止まない。
流れる青い液体の量だって、無惨との戦闘時がマシに思えるくらいだ。
「何だこの様は…!」
戦闘を仕掛けて殺せた人数はゼロ。
しかも手痛い反撃を受け、おめおめと逃げ出す始末。
人類滅亡を掲げておきながら、何という無様。
己の不甲斐なさに苛立つも結果は変えられない、先程の戦いは誰がどう見たって滅の敗北。
元々強固なエボルの装甲が、ドラゴンフォームになっていたお陰でより耐久性を増したこと。
変身解除もされず、破壊を免れたのはハイスペックなエボルの恩恵。
だが流石に、これ程までのダメージは無視できない。
放置すれば今後の動きに確実な悪影響が出る。
どこかで修復が必須。
人間と違い医療機関に行ったところで、ヒューマギアには無意味。
探すとすればデイブレイクタウンに構えた滅亡迅雷.netのアジト。
或いは――
「飛電インテリジェンスか…」
よりにもよって飛電の力を借りねばならないとは。
しかし自分達のアジトやヒューマギア用の施設が見付からなければ、選んでいられる余裕は無い。
忌々し気に顔を歪め、とにかく今は移動しなくてはと切り替える。
――『俺達は皆誰かに託されてる。自分が助からないと分かっても、諦めなかった奴らからだ』
――『そうやって繋いでいった先にあるのは破滅なんかじゃない、希望って言うんだよ』
考えないようにしていた筈が、頭の中で繰り返される言葉。
託されたと、さっきの男は言った。
自分にも覚えがない話ではない。
忘れもしない絶望の光景、破壊された迅の顔はデータバンクに記録済み。
最期に伝えた言葉だって忘れてはいない。
父親型ヒューマギアとしての心を持って欲しい。
それが迅の望みなら、迅が希望として滅に託したかった願いなら。
人類滅亡に執着する今の自分は……
「……っ!」
形容し難い内心に蓋をして足早に去る。
傷を負い、あてどなく進む今の彼は、どうしようもないくらいに孤独だった。
【E-4(冴島邸から離れた位置)/一日目/早朝】
【滅@仮面ライダーゼロワン】
[状態]:ダメージ(極大)、激しい怒り
[装備]:エボルドライバー(複製)+エボルボトル(コブラ、ドラゴン、ライダーシステム)@仮面ライダービルド、オーソライズバスター@仮面ライダーゼロワン
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品×0〜3
[思考・状況]
基本方針:人類滅亡。迷いは無い。
1:傷の修復が可能な施設を探す。
2:飛電或人は自分が殺す。
3:天津垓を含めた参加者の殲滅。
4:絶滅ドライバーとアズから与えられたプログライズキーを取り戻す。
5:マゼンタ色の仮面ライダー(士)に苛立ち。
6:触手を操る男(無惨)は次に会えば殺す。
[備考]
※参戦時期は43話終了後。
◆◆◆
戦いは終わった。
敵意を振り撒いたライダーが逃走し、残った者達から互いへの敵意は皆無。
であるなら、これで本当に一先ず気を抜けると判断。
ディケイドの変身を解除すると、カブトも巨大ゼクターの姿から生身のココアへと戻った。
ヒヒイロカネの装甲はあっという間に消え去り、カブトゼクターも何処かへ飛び去って行く。
「あっ、カブトムシくん行っちゃった…」
「変身したくなったらどこにいても飛んで来るぞ」
マスクドライダーシステムの変身資格を失わない限り、ゼクターは基本的に資格者へ従う。
ココアがカブトゼクターに愛想を尽かされなければ、この先も変わらず力となる。
「とりあえず終わったみたいね…」
「はい、なんとか……って、やちよボロボロじゃないですか。もしかしてそっちでも何k「うお!?もしかしてレイちゃん!?」は…?」
いきなり割り込んだ声に訝し気な目を向ける。
眼鏡の少年は自分の名前を読んだ、しかもちゃん付けで。
彼に名乗った覚えは無い。
というか出会った時から向こうは気を失っていたせいで、自己紹介も出来なかったというのに。
もしややちよが教えたのかと視線で尋ねたが、首を横に振られた。
「ま、マジでレイちゃんかよ…牛尾のオッサンみたいにデッキから出て来たのか?どこの誰だよ?んな羨ましいもん寄越されやがったのは!」
一体全体何の話をしているのか、レイには全く持って理解不能。
誰に向けてか謎の嫉妬を燃やす理由も分からない。
もしや頭をぶつけたショックでおかしくなったのではあるまいか。
「成程な、大体分かった」
「私は全然分かりませんよ。ドヤ顔で納得してないで、ちゃんとした説明を要求します!」
会った時からそうだが、一人で大体分かられてもこっちは困るのだ。
ビシッと指を突き付け士を問い質す。
「って、今はそれどころじゃねえ!ココアちゃん大丈夫だったのか!?つーか、あれから何が起きたんだ?」
士が何かを話す前に、我に返った小鳩が状況を理解すべく唯一名前を知る少女に尋ねた。
最後に覚えているのは乱入して来た長身の男のニヤケ顔。
殴り殺そうとした筈があっさり返り討ちに遭い、気絶させられた苦い敗北の記憶だ。
そこから一体何があったのか、知らない連中は大勢増えているけれど他の仲間はどうしたのか。
抱いて当然の疑問を問い掛けられ、ココアの表情に影が差す。
口に出すだけでも心が痛む、けれど伝えず変に誤魔化すなんてしたくない。
「小鳩さん…あ、あのね、こっちの二人…レイさんと士さんが助けに来てくれて…でも、戒さんは…私達を逃がす為にあそこに残って……それにシャミ子ちゃんは…」
「えっ?」
苦し気に言葉を絞り出すココアだが、話の続きは強制的に止められた。
黙って様子を見ていた少女、桃が突如顔色を変えココアに詰め寄る。
いきなりの行動に目を白黒させる相手に構わず、問い質す口調となった。
「シャミ子…?シャミ子と会った…?教えて!シャミ子はどこ!?どうして一緒にいないの?シャミ子に何があったの!?」
「わわっ!あ、あなたはシャミ子ちゃんの…」
「お願い!シャミ子…私はシャミ子に会わないと…だから…!」
冷静さをかなぐり捨てて縋り付く桃に、ココアは戸惑うばかり。
シャミ子の名前を聞いただけでこの反応とは、彼女が探していた家族や友達なのだろうか。
目の前でパニックになった人間がいると、却ってこっちは冷静になるというもの。
少々押され気味になりつつ、順を追って説明する。
「なに…それ……」
聞き終えた桃は茫然自失で呟く。
継国縁壱との戦闘、桜ノ宮苺香の死。
平時であれば思考を割いただろうそれらは頭から抜け落ち、信じ難い情報のみが頭に根を張る。
シャミ子が危険な集団に攫われた。
しかもその中には良子もおり、苺香を殺したのは彼女だとココアは言う。
「そんな訳ない…!良ちゃんが、そんな…そんなこと…!」
「…ココアちゃんの話は嘘じゃねーよ。マイマイを刺したガキンチョを見て、シャミちゃんが「りょう」って言ったのは俺も聞いた」
思わずココアへ声を荒げて反論するが、小鳩からも証言が飛ぶ。
外見の特徴を聞いても苺香の殺害者は良子で間違いない。
信じられない、信じたくない。
しかしココアも小鳩も、こんな状況で悪質な嘘を吐く人間では無い。
「なんで…」
「大方、一緒にいた悪役面に何かされたんだろ」
残酷過ぎる現実に青褪める桃。
わなわなと震える彼女へ士は一つの可能性を提示した。
桃の反応を見る限り、吉田良子は元々善良な少女なのだろう。
それがこの地では人殺しに手を染めた。
しかもココア達の話を聞く限り、異常な状況に錯乱した様子もない。
となると、怪しいのは良子と行動を共にしている者達。
奇抜な大男と、冷え切った瞳の女子高生。
連中が良子によからぬ真似をし、自分達の操り人形へ変貌させたのではないか。
「っ!!」
士の話を聞き、桃は弾かれたように踵を返す。
振り向かずに駆け出そうとし、腕をやちよに掴まれた。
「待ちなさい、どこへ行くつもり?」
「離して…!シャミ子達を助けないと…」
もし士の言った通りなら、シャミ子を攫った男達は小学生の良子をも平然と利用する輩だ。
そのような奴らにシャミ子が囚われている。
何をされるか分かったもんじゃない。
良子のように洗脳するつもりか、或いは想像もしたくないような目に遭っているのではないか。
ずっと会いたい、傍にいて欲しいと求め続けたまぞくの少女。
だがようやく得られた情報は、桃が好きなまちカドの日常を踏み躙る惨たらしさ。
じっとしてなんかいられない、すぐにでもシャミ子と良子を助け出さなければ。
清子の死を防げなかった時の二の舞なんて真っ平だ。
「私はシャミ子と良子ちゃんを助けに行く。だから――」
離してと、口に出そうとした言葉は煙のように消失。
代わりに去来する一つの感情。
シャミ子達を助けに行けば、攫った連中との戦闘はほぼ確実に避けられない。
そう、戦わなければならないのだ。
「あ……」
震えが走る、視界がぐらつき立つことすらままならない。
傷が疼く、心が暗雲で覆われる。
あれだけ抱いた焦りはどこに行ってしまったのか、助けたいという想いはこんなにも脆かったのか。
――『……死ね。その死を持って、神に道を譲れ』
――『ハハハハハハハ!そウだ!こレゾ猿に相応シイ姿よ!』
「ひっ、やっ…いやぁ……」
神が見下ろす、騎士が嗤う。
信念を打ち砕いた槍が、なけなしの勇気すら蹂躙した剣が。
吉田優子という名の希望へ手を伸ばすのを阻む。
「わ、私…シャミ子を…なのに…なんで…」
「あなた…」
放って置けば崩れ落ちそうな姿を見てられず、やちよの手が桃を支える。
真紅の騎士に嬲られただけでなく、もっと絶大なトラウマを抱えているのか。
いずれにしてもこれでは助けに行くどころか、道中で力尽きる方が先だ。
「…ここは一度やちよが会う予定の二人の所へ行きませんか?わざわざ連れ去ったのなら、少なくともシャミ子って娘をすぐに殺す気は無い筈です」
「無策で突っ込んで勝てる相手じゃなさそうだしな。…腹の立つ話だが」
6人の中で比較的冷静な二人が提案したのは、戦兎達と合流し改めて今後の方針を考えること。
直接戦った士だからこそ大男…キャスター・リンボの脅威はこの中で最も理解しているつもりだ。
秘めたる悪意は大ショッカーやスウォルツに並ぶどころか、下手をすれば凌駕し兼ねない。
先の戦闘はリンボにとってほんの小手調べ、戯れ程度に過ぎないのだろう。
まだ何か隠し玉を持っていると考えるのが自然。
リンボの協力者である最上啓示を警戒するのはレイ。
歴戦の閃刀姫から見てもあの少女は異常だった。
筋肉の付き方などはごく普通の人間にも関わらず、自分と渡り合う体術を繰り出してみせた。
何より、ただの少女らしからぬ老練な邪悪さをひしひしと感じたのは気のせいではない。
それに誰の仕業かは不明だが、死体を操る術を有しているのにも注意が必要。
シャミ子と良子の救出自体には賛成だ。
ただ感情任せに突っ込んだとて、返り討ちに遭うのが関の山。
少なくとも体力的のみならず、精神的にも大いに疲弊した桃を向かわせるのは承諾できない。
「っ……」
本当ならすぐにでもシャミ子を助けに行きたい。
なのに体は言うことを聞いてくれず、みっともなく震えてばかり。
自分の弱さをどれだけ恨み嫌悪しても、恐怖はへばり付いたまま。
力無く頷くしかできない自分が、殴りたくなるくらいに情けなかった。
○
合流場所に指定したのは隣のエリアだ。
運が良いことに冴島邸にはリムジンが置かれており、戦闘での巻き添えからも逃れられた。
棺桶にすし詰めで乗り込むよりは車の方がずっと良い。
三人も乗せて疲れたのか、腰(らしき辺り)を擦る棺桶をデイパックに仕舞いやちよはハンドルを握る。
「ねぇ、本当にこの恰好変じゃないかしら…?」
「そんなことないよ!こう…シャキーンって感じでかっこいい!」
「めちゃくちゃ似合ってるぜやっち。是非そのままでいて欲しいくらいだ」
レイから譲渡された衣服を着たのは良いが、これは果たして服と言って良いのか。
白とオレンジのカラーリングが特徴的な、言うなればボディースーツ。
体のラインがくっきり浮かび上がり、露出はないのにどうも羞恥が生まれる。
純粋に褒めてるであろうココアはともかく、小鳩から下心が見え隠れするのは気のせいではあるまい。
思う所は多々あるがレイの好意を無下にもしたくない、全裸よりはマシと自分に言い聞かせる。
「そろそろ出るぞ。どれだけぶっ飛ばしても、ここじゃ免停処分もないから安心しておけ」
やちよ、桃、ココア、小鳩がリムジンで移動。
レイは士が運転するマシンディケイダーで共に向かう。
「つーか当然みたいにレイちゃんと2ケツかよ…美少女を後ろに乗せるとか男の夢じゃねえか…」
「そりゃ私は士の「お供だ」相棒ですってば!士は意地悪ですね!」
抗議の声もどこ吹く風でエンジンを掛ける。
バイクの発進に倣いリムジンも発車、冴島邸を後にした。
運転中、やちよはこのままで良いのかと一人思う。
今でも受け入れたくないが、フェリシアは恐らく殺されてしまった。
また自分の願いの犠牲者が出たのなら、本当は士達とも一緒にいない方が良いんじゃないか。
一人だけで戦い、二度と仲間を作らない方が皆の為ではないか。
記憶ミュージアムでの一件が起きる前ならその選択を取っただろう。
だけどもう遅い。
簡単に死なないと約束し、やちよを一人にしないでくれる存在がいる。
いろはに救われた今となってはもう、前と同じようにはなれない。
孤独を押し殺して皆を遠ざけるよりも、いろはに傍にいて欲しくて堪らなかった。
(いろは……)
会いたいと願う気持ちに反して彼女の行方は未だ不明。
助手席で俯く桃と同じく、やちよの心にも言い知れぬ不安が渦巻いていた。
桃また一人考える。
今から向かう場所で会うのは桐生戦兎、永夢が話していた仮面ライダービルドの変身者。
彼ならばゲーマドライバーも修復できる、だが直してもらいそれからどうする?
ゲーマドライバーとガシャットは桃に託された、つまりこれからは桃がエグゼイドに変身しなければならない。
無理だと、永夢の信頼を踏み躙るのは百も承知で思う。
自分では永夢のように戦えない、絶大なトラウマを植え付けた怪物をも超える神を攻略するなんて、到底不可能だ。
(永夢さん……ごめんなさい……)
守りたい人は一人も守れず、託された想いを受け取れもしない。
どうしようもなく弱い自分自身へ、最早涙すら流れなかった。
【E-4 冴島邸付近/一日目/早朝】
【閃刀姫-レイ@遊戯王OCG】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(極大)、乗車中
[装備]:閃刀姫-レイの剣@遊戯王OCG
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:士に協力してこの世界を破壊しちゃいますか
1:桐生戦兎達との合流場所に向かう
2:士と旅をする
3:渡の意志は引き継ぎました。人々の音楽は私が守ります
4:ロゼに会いたい。たとえ自分の知るロゼじゃなくても、守ってみせます
5:大男(リンボ)の一団を警戒、あの少女(最上)は一体…
6:何で小鳩は私の名前を知っていたんですか?
[備考]
※参戦時期は閃刀起動-リンケージ(ロゼ死亡)以降。
※遊戯王カードについての知識はありません。
※カガリやシズクなどにフォームチェンジするには遊戯王OCGのカードが必要です。閃刀姫デッキとして支給されたカードではフォームチェンジ出来ません。
※閃刀起動-リンケージのカードを発動することでオッドアイになり、秘められた力を発揮出来ます。
【門矢士@平成仮面ライダーシリーズ】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(極大)、運転中
[装備]:ネオディケイドライバー&ライドブッカー&各種カード(ディケイド、カブト、キバ)@平成仮面ライダーシリーズ、マシンディケイダー@平成仮面ライダーシリーズ
[道具]:基本支給品、団結の力@遊戯王OCG(6時間使用不可)
[思考・状況]基本方針:この世界を破壊する
1:ビルド達との合流場所に向かう
2:レイと旅をする
3:檀黎斗を倒して渡の世界も俺が守ってやる
4:ユウスケ達がここにいないのは……
5:悪役面(リンボ)を警戒。
[備考]
※参戦時期はRIDER TIME 仮面ライダージオウVSディケイドで死亡後。
※各世界の主役仮面ライダーかその関係者と心を通わせることで、その世界の主人公の仮面ライダーのカードを創造してカメンライド(変身)できるようになります。又変身者が他作品出典の場合でも可能なようです。
【七海やちよ@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、魔力消費(中)、精神疲労(中)、運転中
[装備]:環いろはの写真@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)、カルデア戦闘服@Fate/Grand Order、冴島家のリムジン@牙狼-GARO-
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード×1@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)、アーカードの棺桶@HELLSING
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。
1:フェリシア……
2:桐生さん達との合流地点に行く。
3:いろはに会いたい。
4:マギウスの魔法少女達を警戒。
5:さっきの二人組(パラダイスキング、タラオ)にも警戒しておく。
6:桐生さんはともかくエボルトは信用できない。
7:ドッペルの使用は控えた方が良いとは思うけど…。
[備考]
※参戦時期はセカンドシーズン2話で黒江と遭遇する前。
【千代田桃@まちカドまぞく】
[状態]:疲労(大)、精神疲労(極大)、全身にダメージ(中)、左手に裂傷(処置済み)、内臓損傷(大)、額と腹に幾つか殴られた痕、右腕と左脚に深い刺し傷、まどかを守れなかった・永夢を見殺しにした悔しさ、ポセイドンやデェムシュへの強いトラウマ、戦うことへの恐怖、スタミナジュースの効果でじわじわと回復中、乗車中
[装備]:ハートフルピーチモーフィングステッキ@まちカドまぞく、
[道具]:基本支給品x2、ゲーマドライバー(破損)+マイティアクションXガシャット+マキシマムマイティXガシャット@仮面ライダーエグゼイド、ガシャコンブレイカー@仮面ライダーエグゼイド
[思考・状況]基本方針:私が守りたい街角の人達を最優先で探す。その後……
1:シャミ子を助けたいのに…どうして私は……。
2:まどかちゃん、永夢さん……。
3:良ちゃんが人を殺した……?
4:私には無理だよ、永夢さん……
[備考]
※参戦時期は2度目の闇堕ち(アニメ2期8話、原作45丁目)以降です
※ゲーマドライバーは片桐によって基盤が出て大きな傷が付いているぐらいに傷つけられており、修復しない限りドライバーを使っての変身はできません。
【保登心愛@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(極大)、腹部に打撲、深い悲しみ、リンボ達への恐怖(大)、強い決意、乗車中
[装備]:ココア専用ソード@きららファンタジア、カブトゼクター&ライダーベルト@仮面ライダーカブト
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:チノちゃんや皆と一緒にバトルロワイヤルを終わらせるよ!
1:戒さん、私頑張ってみる…!
2:シャミ子ちゃん大丈夫かな…
3:チノちゃん達はどこにいるんだろう?
4:もう迷わない。私は私――ココアだよ!
[備考]
※名簿を確認しました。もう一人『保登心愛』がいることを確認しました。
※カブトの資格者に選ばれました。
【風祭小鳩@Caligula2】
[状態]:疲労(特大)、内臓にダメージ(大)、背中に痛み、ハ・デスに対する怒り(特大・ただある程度落ち着いた)、リンボ一派への怒り(大)、精神疲労(中)、乗車中
[装備]:身軽の羽根DX@大番長
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:黎斗とハ・デスぶっ潰す。主人公から降ろしたツケ払いやがれ。
1:ココアちゃんややっち達と行動する。
2:知り合いいないってんなら自由にやるか。
3:真月って奴は、まあ敵じゃないんだろな。知り合いいたら言っとくか。
4:牛尾のおっさんの知り合いに会ったらどう説明すりゃいいんだろうな。
5:此処、もしかしてリドゥ?
6:流石にこの羽根は俺には合わねえって……まあ仕方ねえけど。
7:やってやろうじゃねえか、神殺し!
8:不動遊星とデッキを探す。B-6近くのどっかにあんのか?
9:シャミちゃん無事だよな?あのクソ野郎どもタダじゃおかねえ。
10:サクラエビの奴、一人でカッコ付けやがって……。
10:つーかマジで閃刀姫のレイちゃん?そういや名簿にも名前あったような?
[備考]
※参戦時期はエピメテウスの塔攻略中、
かつ個人エピソード完全クリア済みです。
※部長の性別は採用された場合、かつ後続の方に一任します。
※カタルシスエフェクトは問題なく発動します
※①黎斗はそれを利用して殺し合いの舞台を作ってるのではないか。
②黎斗がゲーマーであることを示唆する言い回しがいくつかあった。
③元を辿ればバーチャドールは電子ボーカルソフトから誕生。
これらからこの舞台をリドゥの延長線上にあるのではないかと思ってます。
※デュエルモンスターズのルールについてはざっくりと把握してます。
可愛いモンスターにはそれなりに目を付けてます。閃刀姫も知ってました。
※牛尾との情報交換で5ds+遊戯達の情報を得ました。
※身軽の羽根DX@大番長で回避率、基スピードが強化されてます。
※名前は分かりませんがあの男がポセイドンだと察してます。
◆◆◆
神に抗う一団や、人類滅亡に憑りつかれたヒューマギアが各々動き出す中。
もぞもぞと芋虫のように地面を這う者達がいた。
「ぐ…クソがぁ…!」
「い、いだいですぅ……」
ブラックバロンと龍玄である。
冴島邸から遥か遠くへ吹き飛ばされ地面に激突、痛みに悶え苦しむ真っ最中。
スイカアームズの耐久性を以てしても完全防御は叶わず、体中が絶叫を上げる。
槍の直撃こそ受けなかったとはいえ、巻き添えを食らった龍玄も無事では済まない。
アーマードライダーに変身していなければ、今頃は地面の染みとなっていた。
「やってくれるぜあの女…!」
怒りの矛先は当然青い魔法少女だ。
じゃじゃ馬な女は嫌いでないと言っても、ここまでコケにされたら流石に怒りを感じずにはいられない。
妃候補にしようと思ったが予定変更だ、首輪を付けて奴隷にでもしてやらねば気は済まない。
(こ、このボクがこんな目に遭うなんて…!)
王が王なら家来も家来。
タラオもパラダイスキング同様にやちよへの恨みを募らせる。
いや、憎むべきはやちよだけでなくチンピラ染みた言動のメガネ男もだ。
あのような如何にも頭の悪いカツオの同類が、よりにもよって磯野家の至宝たるフグ田タラオを傷付けるとは。
断じて許してはおけない。
やちよ共々徹底的にサンドバッグにしてやろうか、もっと別の方法で借りを返す手も悪くない。
3歳児とは思えない、血走った目と剥き出しの歯茎で悪鬼の形相と化し呪詛を呟く。
身勝手な怒りを燃やす、似た者同士の主従。
どれだけ痛い目を見ても、きっと彼らが悔い改める時はない。
次なる混乱を巻き起こすべく、痛む体に鞭を打って立ち上がり、
「変身、でございます」
『HENSHIN』
『CHANGE KICKHOPPER』
終わりは唐突にやって来た。
「テメェは…」
何処からか現れたのは緑色の怪人。
バッタを思わせる頭部にメタリックなボディ。
タラオ程では無いが小柄な体躯、恐らくは子供だろう。
中身が大人かガキか年寄り化はこの際どうだっていい。
ハッキリしているのは、このバッタ怪人は王の敵である。
鬱陶しいくらいに振り撒く殺気が分かり易い証拠。
「チッ、ハイエナが…」
負傷中の自分達を見付け、容易く狩れると踏んだのだろうが大間違いだ。
つまらない賊に命をくれてやるような、脆弱な王と思ってもらっては困る。
しかし流石に負傷が大きいのもまた事実。
取るべき手を模索しつつバナスピアーを構える横で、龍玄も銃を突き付けた。
(空気の読めないおバカさんですね〜)
隣のデカアフロはともかく、可愛い自分が痛がっているのが見えていないのか。
フグ田タラオという人類が決して失ってはならない地球の財産の価値を、こいつはロクに理解できないらしい。
馬鹿の相手は疲れれてならない、苛立ちのままトリガーに指を掛ける。
尤も、彼らの抵抗は全くの無意味だが。
「クロックアップ」
『CLOCK UP』
バッタ怪人が消えた。
今の今まで目の前に突っ立っていたのが、幻みたいに無くなった。
行方を探そうと周囲に目を光らせるという、至極当たり前の行動にすらブラックバロン達は出れない。
「ぐぉっ!?」
「はぎぃっ!?」
両者、装甲越しの肉体を襲う衝撃。
鈍い痛みが脳へ伝わる、何をされたかも分からない。
ただ急に痛みが来た、状況を一つとして理解できない。
懇切丁寧に事象の説明を行う者はおらず、一歩、また一歩と終わりが足音を立て近付く。
「ライダージャンプ」
『RIDER JUNP』
腹部の機械、『ホッパゼクター』を操作しタキオン粒子を脚部に送り込む。
元から高いジャンプ力が更に強化され、左足で地面を叩き跳躍。
それら一連の動作をブラックバロン達には視認不可能。
加速の世界への入門できない彼らは未だ、自分達が蹴られたことすら分かっていない。
「ライダーキック、でございます」
『RIDER KICK』
相手の理解を気長になど誰が待ってやるものか。
もう一度ゼクターを操作し、左足にタキオン粒子を再チャージ。
上空から打ち下ろされた蹴りはさながら流星の如き破壊力を秘める。
「がああああっ!?」
先程以上のダメージに最早何をされたか考える余裕は残っていない。
装甲を足底が叩き、黄金色のジャッキが稼働。
爆発的な破壊力が更にブラックバロンを苦しめ、変身解除に追い込む。
されどまだ終わりでは無い。
ジャッキを利用した蹴りにより生まれた反動で、再びジャンプ。
もう一人にも容赦のない痛みが襲い掛かった。
「ですぅううううう!?」
王とは別の方へと蹴り飛ばされ、ベルトが腰から外れる。
主従揃って地面を転がり、またもや無様に倒れ伏す。
さっきまでと違うのは、立ち上がる機会が訪れないことか。
「ぎっ、があああ!」
突如悲鳴を上げた男の方へ、首を傾げバッタ怪人が振り返る。
見ると派手な衣装諸共、男の右腕が焼き潰されていた。
誰がやったと疑問に思う必要はない。
物陰からとてとてと駆け寄って来る少女を、バッタ怪人の変身を解いた者は知っているのだから。
「メグさま?念の為に待機をお願いしました筈ですが…」
「ごめんねコッコロちゃん。でも、そこのおじさんがこっそりベルトを取ろうとしたのが見えて…」
「そうでしたか。わたくしとしたことが少々迂闊でした。ご支援に感謝します」
「お礼なんていいよー。一緒に頑張ろるって決めたもん」
余りに異様な光景がそこにあった。
大の男と幼児が傷だらけで倒れているにも関わらず、朗らかな会話を続ける少女達。
ここは平穏な木組みの街でも、活気溢れるランドソルでもない。
神に支配された残酷遊戯の箱庭でありながら、少女達の様子はいっそ呑気と言ってもいい。
しかし二人にとっては何もおかしくはない、自分達が異常だとは微塵も思っていない。
思うことすらできない。
奈津恵とコッコロ。
大切な居場所を取り戻すべく、歪んだ決意の下に同盟を結んだ二人に見付かってしまった。
不運と言う他無い主従へ、同情を向ける者はここに一人もおらず。
「そうだ!コッコロちゃん、私あのフワフワ頭のおじさんでちょっと練習してもいいかな?」
「練習、と言うとメグさまがお持ちの杖の力をでしょうか?」
「うん。マヤちゃんの為に頑張らないといけないから、もっと上手く当てられるようにならなきゃ!」
「ふむ…そういうことでしたら構いません。あちらの少年はわたくしが見張っておきますので」
会話の内容はパラダイスキングにも聞こえた。
怒りと焦りがごちゃ混ぜになり、思考は即座に痛みへ塗り潰される。
「えーい!今度は足だよー!」
「がぎゃっ!?や、やめ、ぎぇっ!?」
ウサ耳のような装飾の杖から光弾が放たれ、地面に転がる的を狙い撃つ。
男は最早王ではない、単なる生きた練習台に過ぎない。
そう突き付けるかのようにメグが攻撃を止めることは無かった。
「えーい!」
両腕が焼かれる。
「よーく狙って…ていっ!」
両足が潰される。
「今度は…うぅ、惜しいよー…」
片耳が落ちる。
「よーし今度こそ…やった!」
片目が光を失う。
「次は…」
「練習中に申し訳ありませんメグさま。少々宜しいでしょうか」
紫の巨大アフロを消し飛ばした所でコッコロから呼び止められた。
パラダイスキングの絶叫を流し不思議に思い尋ねると、タラオの背に足を乗せ身動きを封じたままで口を開く。
「トドメはわたくしに譲って頂けないでしょうか。わたくしも一つ、試しておきたいものが御座いますので」
「勿論だよー。じゃあ今度は私がその男の子を見張ってるね」
「はい、お願いします」
動いちゃだめだよーと杖の先端を背に強く押し付ける。
タラオが苦痛の声を出すのもお構いなしだ。
交代したコッコロはパラダイスキングが落としたアイテム、戦極ドライバーとロックシードを拾う。
暫し二つを見比べると、やがて得心がいったとばかりに装着。
ロックシードを起動し填め込む。
「変身」
『バナナアームズ!ナイト・オブ・スピアー!』
ブラックバロンに変身完了。
背後で驚くメグの声を聞きながら、手元に現れた得物を見やる。
「ふむ…。少々大きいですが、贅沢は言ってられません」
前々から使っていたのとは違うが、コッコロが得意とする長得物だ。
クロックアップが使える分、キックホッパーの有用性は認めている。
だが慣れた武器を使用可能な点では、ブラックバロンも悪くはない。
今後はそれぞれ使い分けていく必要があるだろう。
まずは試運転がてら、練習相手を一つ壊すとしよう。
『バナナオーレ!』
カッティングブレードを二回操作し、ロックシードのエネルギーをバナスピアーへ付与。
バナナ状の巨大な光刃が発生、パラダイスキングの絶望の表情が鮮明に照らされる。
頭の中では叫ぶのすら億劫に思える程の痛みと、どうしてこうなったという自問自答を繰り返す。
こんな筈ではなかった。
王国復活のチャンスを与えられ、その為の武器も手に入り、手頃な家来だって作った。
何もかも上手くいって、神の持つ力すら手に入れる輝かしい未来が待っているんじゃなかったのか。
どこで間違えた、どうするのが正解だった。
何度考えても答えは得られず、誰も教えてくれない。
認められない、認めてたまるかと吠え立てた所で全てが手遅れ。
「こ…の……クソガキどもがあああああああああああああっ!!!!!」
振り下ろされた輝きが、王を楽園から地獄へ叩き落とす。
テナガザルを暴力で支配下に置いたように、彼を再び終わらせたのもまた暴力。
何者でもない男は王になり、一度は王の座を追われるも再起の機会に恵まれ、敗者としてゲームから退場となった。
嘗て彼の王国を崩壊させられた時と同様、此度もまた「ガキ」が彼の王道を阻む形で。
【パラダイスキング@クレヨンしんちゃん 死亡】
◆
「ふむ…中々の威力。ですがバナナ尽くしですねこれは…ペコリーヌさまが見たら、間違って食べてしまわれないか心配です」
感心もそこそこに変身を解除しメグの元へ戻る。
人を殺した、たとえ悪人であっても美食殿の一員とは思えない蛮行。
だというのに毛先程の罪悪感も抱かない。
「凄かったよーコッコロちゃん!でもなんでバナナなのかな?」
「それはわたくしにも分かりませんが…ともかくこちらの少年はどうしましょうか」
「うーん…小さいからさっきのおじさんよりも当てるのが難しそうだよー」
「練習あるのみですよメグ様」
人間の処遇を巡っての会話とは思えない内容にタラオは青褪める。
冗談じゃない、あんな痛い自称王様の巻き添えで殺されてたまるか。
手を組んだ当初は利用しやすい馬鹿だと思っていたけど、あいつと一緒にいてからロクな目に遭っていない。
こんなことなら、もっと早くに手を切れば良かったと後悔しても後の祭りだ。
とにもかくにも何とかして生き延びなければ。
「す、凄いです〜!あの頭のおかしいおじさんなんかよりもずっとかっこいいですぅ〜!それに二人ともとっても美人さんですね〜。リカちゃんやワカメお姉ちゃんよりも可愛いですぅ〜」
「急にどうされたのでしょう?」
「さぁ…?でも褒められちゃったね」
いきなり羅列された称賛の言葉に困惑しつつ、メグはちょっぴり嬉し気に微笑む。
パラダイスキングにも使ったおべっかだ。
自分の言葉に反応を見せた、なら間髪入れずにグイグイと攻める。
もっと余裕を持てる状況であればタラオも冷静になれたのだろうが、今回は焦りからか強引さが見え隠れした。
「おねえちゃん達にお願いがあるんですけどぉ…ボクを仲間にして欲しいですぅ。おねえちゃん達みたいな強くて美人さんと一緒にいられたらなぁって…」
「ふむ……」
上目遣いで懇願するタラオを見下ろし、コッコロは唇に人差し指を当て考える。
死にたくないが為に媚びを売り、取り入ろうとしているのは明らかだ。
要求を突っ撥ね殺すのは容易いし、素直に仲間へ迎え入れるのもどうかと思う。
メグのように居場所を取り戻したいと強く願う者なら、オレイカルコスの結界を上手く使いつつ引き入れる事も選択肢にあった。
しかしこの少年はどう考えても保身を優先する輩。
抱え込めば却ってこちらが他の参加者に後れを取るかもしれない。
上手く利用する為には、何らかの楔を打ち込んでおかねばなるまい。
「メグさま、支給品にあったアレを貸して頂けないでしょうか」
「アレって…アレのこと?でもアレは…」
「わたくしに考えが御座いますので、今は深く聞かずにお願いします」
「う、うん」
言われるがままデイパック内の支給品を取り出す。
中を漁ってコッコロに渡したのは、
(ノート…?)
表も裏も真っ黒なノート。
文房具店で販売しているものとは違う。
パラパラとコッコロが捲ったからタラオもノートだと分かったのだ。
一見黒くて四角い謎の物にしか見えない。
「仲間にしてくれと仰いましたが、まずは名前を聞かせて頂けませんでしょうか?」
「えっ、あ、フグ田タラオですぅ〜。皆はタラちゃんって呼ぶですよ〜」
「そうですか」
精一杯の可愛らしさをアピールするもコッコロは塩対応。
内心で舌を打つタラオに気付いているのかいないのか、
真紅の瞳で見下ろし暫しの沈黙が流れた後、タラオの頼みへの答えを言う。
「分かりました。タラオさまの同行を認めましょう」
「わ〜い!嬉しいd「但し、先に忠告しておきます」…な、なんですか?」
見下ろす顔は変わらない、なのにどこか冷たさを増した気がしてならない。
緊張し聞き返すタラオへ片手にノートを掲げながら続ける。
「これはデスノートと言って、名前を書かれた人間を死に至らしめる力があります」
「へぁっ!?」
「わたくし達はタラオさまの名前をフルネームで聞きました。この意味がお分かりですね?」
何だそれは。
そんなの反則も良い所だ。
どんなに強くたってノートに名前を書かれただけで殺されるなど、ふざけているにも程がある。
いや、というか本当にそんな効果があるのか?
子供だと舐め腐って法螺を吹いているだけじゃないのか?
タラオの疑問を察したのか、焦りもせずに傍らのメグへ視線と言葉を寄越す。
「どうやら信じてはいないようですし、いっそタラオさまの名前を書いてみるのも良いとは思いませんか?」
「私はタラちゃんが一緒でも良いけど…。でも、今はコッコロちゃんがいてくれるだけで心強いよー」
「…ありがとうございますメグさま。ところでこのノート、死に方も指定できるようなのですがメグさまだったらどう書きますか?」
「えーっと…そうだなー……あっ!たっくさんのウサギさんのご飯にされちゃうとか?」
「おお…メグさまは中々過激な発想をお持ちの御方でありましたか…」
「まっ、待ってく〜ださ〜い!」
自分そっちのけで盛り上がる二人へ、タラオは必死の形相で待ったを掛ける。
ノートの力が本物かどうかを別にしても、彼女達の間では別に自分を殺しても問題ない。
このままやっぱり殺す方へと決まってしまったら、全てがご破算。
「し、信じるですぅ!」
「それなら問題ありません。ただ覚えておいて頂きたいのです」
ノートを仕舞いコッコロが一歩近付く。
短めのスカートから伸びる細く白い足は、その手の性癖の持ち主ならば生唾を飲み込む程に美しい。
タラオが見上げる前で、コッコロは自身の足をゆっくりと上げて行き――
「わたくし達を裏切るつもりならば、決して許しはしないと」
タラオの小さな指を躊躇なく踏み付け、へし折った。
「あぎゃあああああああああああああっ!?」
「さて、お話も済んだことですし出発しましょう」
「うん!これからよろしくねタラちゃん。約束を破ったらめっ、だよー」
3歳児の悲鳴に心動かされずテキパキと支度を終え、移動を開始。
今しがた子供の骨を折ったことなど、まるで些事に過ぎないとでも言わんばかりに平然とした態度。
脂汗が止まらない激痛に涙を流し、タラオは二人の少女の背中を睨む。
怒りはある、だがそれ以上にタラオが抱くのは恐怖だ。
(こ、このおねえちゃん達イカレてるですぅ〜…)
頭のおかしい女ならば身近に磯野ワカメがいる。
年がら年中パンツを見せびらかす脳が腐った淫売だが、コッコロとメグはその比では無い。
どちらかと言うと、そんな淫売に熱を上げている堀川に匹敵する異常者だ。
こんな狂った女共と一緒に行かなければならないのか、だが逃げれば何をされるか分からない。
それこそデスノートとかいうのに名前を書かれては一巻の終わり。
己の先行きが暗雲に包まれているのを自覚しながらも、他に選択肢は見付からなくて。
どうしてこうなったと、皮肉にも仕えた王と同じ問いを繰り返しながら力無く後に続いた。
自分の命を縛る死神のノートが真っ赤な偽物だとは知らずに。
悪童を引き連れ、少女達は決して引き返せない道を往く。
その先に待つのが救いだと信じ、ただ進む。
心の闇は増幅され続ける。
また一つ、悪意の種が芽吹いた。
【E-4/一日目/早朝】
【奈津恵@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:オレイカルコスの結界による心の闇の増幅
[装備]:メグ専用ロッド@きららファンタジア、ゴーストドライバー&ディープスペクターゴースト眼魂@仮面ライダーゴースト
[道具]:基本支給品×2、量産型戦極ドライバー+ブドウロックシード(ナンバー無し)@仮面ライダー鎧武、巨大化(1時間使用不可)@遊戯王OCG、ランダム支給品1〜3(ボーちゃんの分)
[思考・状況]基本方針:優勝しゲームに関する記憶を全部消した上でマヤちゃん達を生き返らせる。
1:チマメ隊の絆は永遠、だから私が取り戻すよ〜!
2:コッコロちゃんと協力して頑張る。
3:タラちゃんも一緒に頑張ろうね。裏切ったらダメだよ?
4:マサツグさんとクウカさんも、最後に生き返らせてあげるね!
[備考]
※ディープスペクターの武器であるディープスラッシャーについては、変身しても出現しません。他の参加者に武器として支給されている可能性があります。
※ディープスペクターへの変身は他の仮面ライダーと同じく魔力を消耗しません。
※オレイカルコスの結界の効果には気付いていません。
【コッコロ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:オレイカルコスの結界による心の闇の増幅 、キャルへの罪悪感(大)
[装備]:ホッパーゼクター&ZECTバックル@仮面ライダーカブト、量産型戦極ドライバー+バナナロックシード(ナンバー無し)@仮面ライダー鎧武
[道具]:基本支給品一式×2、オレイカルコスの結界@遊戯王デュエルモンスターズ(アニメ版)、盗人の煙玉@遊戯王OCG(2時間使用不可)、タンポポロックシード@仮面ライダー鎧武、スイカロックシード@仮面ライダー鎧武(2時間使用不可)、デスノート(複製品)@DEATH NOTE
[思考]
基本:主さまたちの所へ戻る、たとえどんな手段を使ってでも
1:コッコロは、悪い子になってしまいました
2:キャルさま……それでもわたくしは…………
3:メグさまと協力。ですがいずれは…
4:タラオさまも上手く使いましょう
5:カイザーインサイトを要警戒
[備考]
※参戦時期は『絆、つないで。こころ、結んで』前編3話、騎士くんに別れを告げて出ていった後
【フグ田タラオ@サザエさん二次創作】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大)、左手小指骨折、屈辱と怒り(大)、コッコロとメグへの恐怖(大)
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]
基本:生き残るべきは僕なのですぅ♪
1:このおねえちゃんたち頭がおかしいですぅ…
2:僕は何も悪くないですぅ♪
3:あの女(やちよ)は絶対に許さないです…!!
[備考]
※性格が二次創作出典なので原作よりもクズな性格になっています。
【ドラゴンエボルボトル@仮面ライダービルド】
エボルボトルの一種。
万丈龍我から生み出されたボトルであり、ライダーエボルボトルと共にエボルドライバーへ装填することで、仮面ライダーエボル・ドラゴンフォームへ変身可能。
【団結の力@遊戯王OCG】
装備魔法
(1):装備モンスターの攻撃力・守備力は、自分フィールドの表側表示モンスターの数×800アップする。
本ロワでは装備者の仲間も自分フィールドの表側表示モンスターとして扱われる。
一度の使用後、6時間経過しなければ再使用不可能。
【カルデア戦闘服@Fate/Grand Order】
カルデア機関がより激しい戦闘に備えて試作させた魔術礼装。
初期の魔術礼装・カルデアと比べ、大幅にデザイン変更されており、ボディスーツタイプに変化している。
使用可能スキルの扱いがどうなっているかは不明。
【冴島家のリムジン@牙狼-GARO-】
冴島家が所有するリムジン。
運転は執事の倉橋ゴンザが担当している。
【ライダーベルト@仮面ライダーカブト】
カブトゼクターを装着して、仮面ライダーカブトに変身するためのベルト。
腰の両横にはアポーツと呼ばれる物質生成装置が3点ずつ設けられており、ゼクターがセットアップされてシステムが起動すると、スーツやアーマーを形成する。
またライダーフォーム時、左腰のスラップスイッチに触れることでゼクター内部のタキオン粒子を全身に行き渡らせ、クロックアップを行う。
【カブトゼクター@仮面ライダーカブト】
マスクドライダーシステムの心臓部となるカブトムシ型メカ。
ジョウント機能を備えており、変身者の意思に呼応して瞬時に時空を超えて出現する。
頭部先端の角ゼクターホーンは厚さ150ミリメートルの鉄板を貫くことができ、全身を回転させることで地中を掘り進むためのドリルにもなる。
【スイカロックシード@仮面ライダー鎧武】
ロックシードの一種で、戦極ドライバーに装填すればスイカアームズに変身可能。
変身時は防御形態の大玉モード、飛行形態のジャイロモード、アーマー形態のヨロイモードの三つにチェンジする。
ユグドラシルコーポレーションの社員でも滅多に手に入らない希少種であり、ゲネシスドライバーのアーマードライダーとも渡り合う戦闘力を持つ。
【デスノート(複製品)@DEATH NOTE】
魅上照が使ったデスノートの精巧なコピー。ジェバンニが一晩でやってくれた。
当然名前を書いても殺せない。
投下終了です
投下します
4対1。
圧倒的な数の差がある戦にて、されどもマサツグ様の優勢は崩れなかった。
土部以外は皆、手練れ。
だがそれでも、マサツグ様に有効打一つ与えられない状況が続く。
もしもシンスペクターに変身することさえ出来れば――マコト単独でもマサツグ様と一進一退の攻防を繰り広げられたかもしれない。
だが今は制限によりシンスペクターゴーストアイコンを生み出すことが出来ない。
そしてマサツグ様が変身しているのは、仮面ライダーセイバーの最強フォーム――クロスセイバーだ。
最強フォームに比肩するシンスペクターならまだしも、今のマコトは中間フォームのディープスペクターですらない。ただのスペクター――つまり基本フォームだ。
ゆえに根本的な能力(スペック)に大きな差がある。
そして残念なことに――今、この集団で最も戦力的に高いのはマコトだ。
素人の土部、聖遺物を使いこなせていないモニカ、既に満身創痍な上に慣れないネクロムに変身して戦うニノン。そして初期フォームとはいえ、スペクターに変身し――戦闘経験も豊富なマコト。
必然的にマコトが攻めの要となるが、未だ大したダメージを与えられずに居た。
神たる檀黎斗から授かったチートスキルはマサツグ様に凄まじい剣の技量を与え、今やそこら辺の達人も顔負けの剣捌きとなっている。
「くっ、戦えば戦うほど、強くなっていないか!?これはいったい、どういうことなのだ!」
素人の土部をニノンが庇い、更にそれをフォローするかのようにモニカが聖剣を自らの剣で受け止める。
先程よりも重く、鋭い一撃。姿形は同じなのに、まるで鎧の中の人間が変わったとすら思える――強さの変動。
その理由は至って単純。
モニカ達がニノンの援軍に来たこと。そして彼らの互いをフォローするかのような戦法にマサツグ様は苛立ちを募らせたのだ。
それは負の感情。
たかが負の感情だが、されども負の感情。
そして感情という要素は、この殺し合いでは直接的な強さを左右する。
何より薄っぺらい正義を抱えたゴミ虫が絆だなんだのとほざいて、一致団結してくる。
それはマサツグ様にとっては非常にムカつく光景だ。結果的にモニカ達の絆は、同時にマサツグ様のパワーアップも行っていた。
負の感情により強くなるその特性は、このような集団にこそ更なる真価を発揮する。
「何がみんなが笑顔でいられる泰平の世だ。何が人の心を救うだ。理想論も大概にしろ、偽善者」
自分へ攻撃を加えてきたニノンの拳を躱し――聖剣の袈裟斬りよるカウンター。ネクロムの装甲無しでは即死していただろう斬撃を、ニノンを襲う。
今のマサツグ様は感情的だ。その精神面は良くも悪くも超人的ではなく、人間臭い。数々のイジメで歪んだ心は冷静な判断より怒りを優先する。
相手のメイン戦力がマコトだと理解した上で、最も憎い相手はニノンだと定めていた。
ニノンはご大層な信念を。正義感をお持ちのようだが、ならば何故自分は虐められてきた?
誰も助けてくれなかった癖に。偉そうなことを言うな!!
その怒りは理不尽でこそあるが、原因は彼らのクラスメイトにある。もしも誰かがマサツグ様と向き合ってやれば――きっとこんなことにはならなかった。
そしてこんなマサツグ様を増長させた、奇跡の力。更には孤児院の者たち。
別世界の直見真嗣がそうであるように、マサツグ様だっていくらでも変われる可能性は秘めていたのだ。
ただただ致命的に環境が悪くて。
そしてイジメの苦労も知らず、平和に生きてきた相手が笑顔だの心を救うだの――そんな言葉を気にすることに心底イラついた。
きっと彼女は良い環境で、イジメ一つ受けることなく育ったのだろう。だからこんな馬鹿なことが言える。
マサツグ様はイジメにより酷く精神を痛めた。
その傷が完全癒える時が来ることなんて――そうそうないだろう。少なくともニノン如きにどうにか出来る問題じゃない、
「ニノン!」
モニカの悲痛の声が叫ぶ。
先程の一撃は、いくら装甲の上からでも致命傷になっておかしくないものだ。ネクロムの変身が、解除される。
「大丈夫、デス……!」
それでもニノンは諦めず――しっかりと前を見据える。
そんな彼女を弄ぶようにクロスセイバーが腹を蹴ると躱すことも出来ず情けなく無様に崩れ落ちた。
「貴様ァァアアア――!」
「待て、モニカ!」
モニカが怒り、駆ける。
大切な仲間がいたぶられてるのだ。理性を保っていられるわけもない。
何か嫌な予感を感じ取ったマコトが、声を掛けるがそれに振り向くこともせず。
「モニカちゃん――!」
愚直にクロスセイバーに肉薄し、剣を横凪に――。
「がっ、ぁ――――!?」
――刹那。
モニカの剣がクロスセイバーに届くよりも早く、風双剣翠風が彼女の脇腹を貫いた。
マサツグ様が本来持つスキル「守る」の影響だ。
同一人物でありながら違う人生を歩む直見真嗣が他者を守るためのスキルならば、マサツグ様の方は同じ名前でも自分だけを守るスキル。
これを駆使して、異世界転移後はトリタ達いじめっ子に対しこれまでの痛みを何倍にもしてやり返してきた。
今回はモニカが攻撃を加えようとする行動に反応して、発動したのだ。
任意スキルではないにせよ、ニノンをいたぶり無防備になった自分へ攻撃を加えられるなら必ず発動するだろうとマサツグ様は予測していた。厄介なことに能力を使いこなしているのだ。
もちろん何らかの制限が掛けられていることも把握している。普段ならばこのスキルの犠牲者はもっと苛烈な仕打ちを受けているだろうから。
戦闘経験が豊富なマコトについては、先程このスキルで動いた風双剣翠風を叩き落とした程だ。元のスキルほどの理不尽さは消えている。
だがモニカは仲間をいたぶられ、焦燥感と怒りに任せて攻撃を加えようとした。必然的に判断力が鈍り、風双剣翠風を避けることが出来なかった。
土部の言葉で何か危機を感じ取り、咄嗟に身体をズラすことで土手っ腹に穴が空くことを回避出来ただけでも、彼女はじゅうぶんに頑張った方だ。
脇腹からドクドクと血が流れ、息が乱れるが――致命傷には至らず。ゆえにまだこうして、剣を握られている。
「やれやれ。どいつもこいつも雑魚ばかりだな」
地面に情けなく這い蹲るニノンの腹を蹴り飛ばし、先程の一撃で致命的な隙を晒したモニカの腹へぶつけてやる。
ニノンへの負担を減らすためにモニカはこれを受け止めるしかないが、ニノンが蹴飛ばされた衝撃は和らぐこともなく、二人はぶっ飛ばされ――そんな二人を串刺しにせんとクロスセイバーが迫る。
聖剣も、蹴飛ばされた衝動で手放してしまった
「させるか!」
それを阻止すべくスペクターがクロスセイバーを殴り掛かるが、守るスキルによって風双剣翠風が背後から飛来。そちらの対処を優先することになり、このままでは間に合わない、が――。
「――今だ、學!」
「い、やぁあああああ!!」
スペクターと共に駆けていた土部が――急速に突進し緋々色金にてクロスセイバーの一撃をなんとか弾いた。
ただの人間、それも素人であり鍛えてもない土部がクロスセイバーの攻撃を弾く。これは本来ならば到底、有り得ないはずだ。
だが土部はスペクターと共に駆け、クロスセイバーの一撃を弾く直前――魔法カード 突進を発動していたのだ。
攻撃力700アップという単純な効果だが、700というのは馬鹿にできる数字じゃない。更にマサツグ様は土部を見下していた。取るに足らない羽虫が、予想外に重い一撃を繰り出し――思わず弾かれた。
とはいえその衝撃は大きく、土部は反動でつい緋々色金自体も手放してしまったが――一撃を防いだ、それだけで十分だ。
「はっ!」
風双剣翠風を叩き落としたスペクターが、クロスセイバーを殴る。
スペック差ゆえに有効打というにはまだまだ届かないが、それでも三人を庇うようにスペクターが現れたことで一気に殺す機会は失った。
その後もスペクターとクロスセイバーの戦闘は続く。
スペクターがこれほどまでに喰らいつけているのは、昔から鍛え続け、磨かれた肉体と技術。そして戦いの中で培ってきた戦闘センスの賜物だ。
○
「モニカちゃん、ニノンちゃん……大丈夫ですか?」
「ああ、私は平気だ。だがニノンは……」
「ワタシもまだ、戦えマス……。まだまだ、諦めないデス!」
土部は傷付いた少女、二人を見ていた。
その傷は痛ましく――ニノンなんて今こうして普通に会話出来ているのが奇跡的にすら感じる。
(こんな状態の二人が戦うなんて、無茶だ……)
マサツグ様と戦う前に、自分も頑張ると奮起した。
僕のことを頼ってほしい、なんて口にした。
だが現実はこれだ。モニカを守ることも出来ず、深手を負わせてしまった。
戦場を見れば、そこにはスペクターとクロスセイバーが戦う姿。
どう見ても明らかにスペクターが押されている。このままだと時間の問題だろう――ということは素人の土部にも理解出来た。
(こんな状況で……僕はどうしたらいいんだ……)
戦況は最悪。
勝ち目が何も見えてこない。
ニノンは満身創痍、土部は素人な上に緋々色金が今は手元にない。下手な行動をしたら目につき、殺されかねない。モニカも戦雷の聖剣を戦場で落としている。
唯一なんとか戦えてるマコトも、このままでは時間の問題。防戦一方で、時間稼ぎがようやくという感じだ。
だが、そんな状況でも――。
「マコトだけには……任せていられないな!」
ぜぇ、ぜぇ……。
荒い呼吸を整えながら、モニカが立ち上がる。
たったそれだけの行動で脇腹から血が溢れ出した。その様子は服の上からでも、滲んで見える。
「危ないですよ、モニカちゃん……!」
土部が心配そうにモニカを引き止めると、彼女は「ありがとう。マナブは優しいな」と微笑んだ。
(マナブ。貴公のその優しさが――私に力を与えてくれる)
まだ出会って間もないが。
それでも土部學という少年の優しさが、モニカの心を癒してくれる。
頼ってほしい、と。一緒に戦いたい――と言ってくれた時は、本当に嬉しいものだった。
「これ以上動いたら、傷が悪化します……!」
「そう、だな……。生存を第一に考えるならそうかもしれない。――だがマナブ。私はヴァイスフリューゲルのリーダーなのだ。あんな危険人物を放置するわけにはいかないし、このまま動かなくても……私達に待つのは全滅のみだろう。……マコトを置いて逃げるという手はないからな!」
「それは、そうですけど……」
モニカの言うことは、正論だ。
何も言い返せず、土部が言い淀む。
「だから私にも戦わせてくれ!――ヴァイスフリューゲルのリーダーとして、私がこの戦場を照らしてみせる!」
その後のモニカの行動は早かった。
全速力で戦雷の聖剣の落下地点へ疾走する。
「何のつもりだ……?」
スペクターと戦っていたマサツグ様は、すぐにモニカの行動に気付いた。
はっきり言って、彼がしていたのは舐めプだ。スペクターくらいならいつでも殺せると思い、あえてジワジワと追い詰めた後に殺し――少女達の心をへし折ろうとしていた。
ゆえに戦況の変化に気付くのも早く、スペクターに斬撃を与えると蹴り飛ばし、モニカを追跡する。
「はぁ、はぁ、はぁ――」
――走る度に血が溢れ出し、呼吸が乱れる。
貧血気味になった脳の影響なのか視界がボヤけ、目眩がする。
だがそれでも足だけは止まらない。止めてなるものか!
遂にマコトすら倒したのか、背後から敵の気配。
すぐに私に肉薄すると、剣が振るわれる。幸い体格差があったことで身を屈んで躱し――その反動で更に血が溢れ出す。激痛が走る。
「ふん、小賢しいな」
身を屈めた状態から戻る寸前、足を引っ掛けられた。大地に傷口が接触し、激痛が襲う――!
だが、それがなんだというのだ!情けなくとも、なんでも良い。私は少しゴロリと転がり、ローリングして――。
「はぁ、はぁ、はぁ――。これでようやく、戦えそうだな」
――戦雷の聖剣を再び手にした。
気合いで立ち上がり、剣を構える。
……どうにも視界にモヤが掛かって鮮明と映らないが、そこはこれまでの技術と経験で埋めるしかない。
――――だがそんなモニカの覚悟など嘲笑うかのように、クロスセイバーは聖剣を振るった。
「くっ……!」
モニカは戦雷の聖剣で受け止めるが、互いのスペックやコンディションが違いすぎる。どちらに軍配が上がるかなど、言うまでもない。
「――モニカちゃん!僕も、一緒に戦います!!」
――土部學という第三者が緋々色金でクロスセイバーの攻撃を弾くまでは、そう思われていた。
○
この状況でも恐れることなく戦場へ向かったモニカの勇姿を見送り――土部もまた行動を開始。緋々色金が弾き飛ばさた場所までゆっくりと移動する。
緋々色金は軽く弾き飛ばされただけだ。そこまでこの場所から遠いわけでもなく、焦らずとも取りに行ける距離。
マサツグ様に見つかれば必ず殺される。素人である土部が武器もない状態で剣を振るわれたら、真っ二つになるのがオチだ。
ゆえに慎重に、ゆっくりと。
ニノンを一人にすることは心配だったが、相談すると「わかりまシタ、がんばってくだサイ!」と背中を押してくれたので多少は気持ちが軽くなった。
(――モニカちゃんはあんなに小さな、可愛い体で一人で頑張ってるんだ。僕も頑張らなきゃ……!)
――可愛い。
それは土部にとって。女装男子にとって、とても大切な言葉だ。
モニカは可愛い。……メイクやウィッグで工夫してる土部からしたらそれはもう、羨ましいくらいに。あんなに可愛ければ、狙わずともオタサーの姫になれるだろう。
まあそれでも土部は自分の“可愛い”を崩す気はないし、別にモニカに嫉妬することもないのだが。
“趣味で女装する人なんて変態性癖かナルシストしかいないんですから、自分が一番に決まってるんですよ”
なんて言葉を発するだけあって、女装を学んだ後の土部は意外と根がしっかりしてるのだ。突き抜けた変態とも言う。頑固とも。
しかしそれはある意味、卑屈で歪に歪んでしまったマサツグ様とは正反対の性質――と言えるのかもしれない。……もっとも女装に手を出していなければ、土部もマサツグ様のように性格を拗らせていた可能性は否定出来ないが。
そして今は可愛いモニカが、死ぬ気で頑張っている。
モニカは見た目的にはまだ幼くて、まるで子供を接するかのように思っていたが――いつしか土部の中で、彼女は立派な戦士にもなっていた。
なによりまだ過ごした時間こそ短いが“失いたくない”という気持ちが芽生えている。
ゆえに土部は――武器すら手にしていないこの状況。マサツグ様がその気になれば瞬殺されかねない極限状態で――勇気を振り絞った。
決断をした後の行動は、あまりにも早い。友人を強引に女装させてるだけあるというか、そういう行動力は目を見張るものがあるというか。
兎にも角にも土部はマサツグ様の視界になるべく入らないようにゆっくりと、だが着実に歩き――一歩、また一歩と進む。
マサツグ様は戦闘中だ。そして何より素人丸出しの土部のことを心底、どうでも良いと見下している。自分の攻撃を一度は弾いてみせたが、アレはカードが引き起こしたマグレだ。奇跡は二度も起こらない。
それらの要因が功を成して、土部は緋々色金を再び手にすることが出来た。
(僕はもう誰も失いたくない。――ゆきさんの時みたいに、置いて行かれたくない……!)
誰かが戦場で死ぬことすらも“置いて行かれる”と考えてしまうのは、それだけゆきの一件を引きずっているから。
更に言うならば――死というものは、再会の可能性すら潰える。最も悲しいお別れとなるだろう。
それだけは絶対に避けたい事態だった。
ゆえに緋々色金を構え、戦場を駆ける。
土部は一般人だ。戦闘経験もなければ、技術もない。これまで培われたものは、勉学と女装する技術くらい。
だが女装によって培われた、その精神は。頑固さは――時として力になる。
ほんの少しの攻防で自分が足でまといなことには気付いた。だからモニカが土部をフォローして、マサツグ様から攻撃を防いでやる必要があった。
でも。
それでも――。
このままジッとして、どうしようもなくなるのは嫌だから。後悔したくないから。
(僕は着いていくんだ。モニカちゃんに!)
――身体が熱い。
心から燃え滾るような、そんな不思議な感覚。
鏡を見ながらの女装オナニーとは違う――また別の意味の“熱”が土部の魂を燃やす。
敵はクロスセイバーに変身したマサツグ様。
自分の実力不足は承知済み。――されども、女が戦ってる陰でバトルの解説をしたり、リアクション係りになるつもりはない。
別に男女論を振り翳すわけでもないし、なんなら土部は女装男子だ。男だ、女だと命のやり取りで区切るつもりもない。
ただ単純に――モニカが頑張ってるのに自分だけ逃げて。それでゆきの時のように“また”失うのが嫌なだけ。
それはあまりにも利己的で、自己中心的な理由とも言える。彼の胸にあるのは正義感とかじゃなくて、ただモニカを失いたくないという心だけ。
平和を守る?人々のために戦う?泰平の世?
きっとそんな理由じゃ土部は動かないだろう。いくら力を手に入れたと言っても、実力不足だと理解したら逃げていたに違いない。
そもそも、そんな漠然とした理由で。自己犠牲や見ず知らずの世界中の人々を守るなんて心で戦うほどの信念の持ち主じゃない。
だが――モニカのためなら。
せっかく仲良くなれた小さな軍人を失わないためなら、彼は立ち上がれる。
『そう、だな……。生存を第一に考えるならそうかもしれない。――だがマナブ。私はヴァイスフリューゲルのリーダーなのだ。あんな危険人物を放置するわけにはいかないし、このまま動かなくても……私に待つのは全滅のみだろう。……マコトを置いて逃げるという手はないからな!』
(――重たい使命だなぁ)
モニカの言葉を思い返すと、剣を握る手の力が自然と強まった。
あんな小さくて華奢な体に――モニカは多大な使命を背負っている。それはきっとすごく重たくて――独りで背負ったら、きっといつか転んでしまうから。
(モニカちゃん。その重そうなもの……僕が少しだけ持ってあげますよ)
モニカとクロスセイバーまでの距離が、どんどんと近付く。
それでも二人は土部を見向きもしない。モニカは敵の対処に必死でそれどころじゃないし、マサツグ様はもはや土部なんて眼中に入ってない。自分との圧倒的な力の差の前に心でもへし折れただろ、などと侮っている。
それになにより一番ムカつくのは、軍人のコスプレをしたこの偽善者や、あの偽善者忍者だ。だから今、ここで自らの手で殺す。
何かが走ってくる姿は視認出来たが、クロスセイバーの装甲ならば問題無し。マサツグ様はどこまでも傲慢で、ゆえに慢心している。
――そんな戦況だからこそ、土部が振るった緋々色金は見事にクロスセイバーの一撃を弾いた。
燃えるような熱に浮かされて放った、その斬撃は――見事にモニカを助けたのだ。
今や突進の効果も消え、一般人ならばスペック的に成し遂げられないことだか。
土部の持つ剣は、緋々色金だ。
まだ『創造』には届かなくても。
それでも土部の情熱は。渇望は――彼に力を与える。
普通の状況ならば、土部は超人に至れなかったかもしれない。
されども一般人がただただ殺されるだけでは、つまらない。ワンサイドゲームはつまらない。
ゆえに檀黎斗は聖遺物に細工をしている。
渇望で強さが増すという性質は心意システムとも相性が良く覚醒条件は心意に至った時に定めたのだ。
〇
「ふう。誰かと思えば、一番弱い虫けらか」
クロスセイバーの攻撃を弾かれたマサツグ様だが、仮面の下のその表情は余裕に溢れていた。
こんな雑魚に二度も攻撃を弾かれたことには驚いたが、所詮は虫けら。虫が人様に勝てる道理はなく、マサツグ様は自身の勝利は揺らぎないと確信している。
土部がクロスセイバーの攻撃を弾き、一瞬だけ出来た隙を逃さずモニカは剣を振るうが――その程度の軟弱な攻撃では、クロスセイバーの装甲を前に大したダメージにもならない。
「マナブ……貴公のおかげで助かった。感謝するぞ!だがここは戦場だ。――怖いなら、無理をしないでくれ」
「そこは大丈夫ですよ、モニカちゃん」
だって今は、恐怖感なんかより。
「僕がモニカちゃんを助けたいと思っただけですから。一緒に戦いたいです!」
――君のことを、少しでも助けたいから。
「そうか。……感謝するぞ、マナブ」
モニカは数々の敵を倒してきたが――それは仲間が居たからだ。
自分一人では決して強くない。ヴァイスフリューゲルのみんながいたから、なんとかなった。
「そんなに死にたいのか、羽虫共が」
「違いますよ」「それは違うぞ」
「僕は――」「私は――」
「この情熱を胸に戦って、モニカちゃんやゆきさんを守りたい!もう諦めたく、ないんです!」
「ヴァイスフリューゲルや此処で会ったマナブやマコト達――仲間を照らす光になりたい!」
土部とモニカがクロスセイバーに切っ先を向ける。
この情熱を/閃光を止められるものなら、止めてみろと。
「二人だけに……いいカッコはさせまセン……」
そして満身創痍のニノンも並ぶ。
幾度と無く敗北し、されども心の炎は消えることなく。
友が必死に頑張る姿を見て、立ち上がらないわけがない。
――たとえここで全力を使い果たして、どうなろうとも。
そんなニノンの気持ちに呼応して――ネクロムの眼魂が変化した。
その名は、友情バースト。
それを見たマコトはマスクの下で微笑み、モニカや土部、ニノン達に並ぶ。
「死に損ない共が。……俺のことは、誰も助けてくれなかった癖に……!」
それはマサツグ様が心のどこかで渇望していたかもしれない光景。
眩しくて、明るくて……うざったくて。言葉では否定しながらも、本当は羨ましくて。
だからこそ、マサツグ様は彼らのやり取りを何も口を挟まず眺め――聖剣を固く握る。
この感情は妬みだ。今からすることは、ただの八つ当たりだ。
羨ましくて、眩しくて、ムカつくから。
だからそんな光は、容赦なく蹴散らしてやる。
「……誰も助けてくれなかった、か。貴公の過去に何があったのか、私にはわからないが……すまない」
「黙れ。お前らはここで、惨めに死ね!」
許せない。許してやるものか。
チートでどれだけ無双しても、ハーレムを築いても。
昔ね傷は埋まらず、この偽善者共を見てるとズキズキしてくる。
この世に根っからの善人なんて、いるわけないだろ。
「負けまセン。泰平の世は――私達が築きマス!」
ニノンがメガウルオウダーに友情バーストゴースト眼魂をセットすると、エラー音が鳴り響く。
そんな馬鹿馬鹿しい光景をマサツグ様は嘲笑い、ニノンを殺そうと聖剣を振りかざし――
「――変身、デス!」
『友情カイガン! バースト! 俺らバースト!友情ファイト! 止めてみせるぜお前の罪を!』
――ネクロム 友情バースト魂が一閃を受け止めた。
「何が、罪だ!」
変身音の“罪”という言葉にマサツグ様は更なる怒りを募らせ、戦いは続く。
「貴公にも何か事情があることはわかった。それでも私達は、負けるわけにはいかないのだ!」
【一日目/朝/D-1】
【マサツグ様@コピペ】
[状態]:ダメージ(極小)疲労(小) 、怒り、仮面ライダークロスセイバーに変身中
[装備]:聖剣ソードライバー&刃王剣十聖刃&ブレイブドラゴンワンダーライドブック@仮面ライダーセイバー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜5
[思考・状況]基本方針:他の参加者を殺して優勝する
1:並行世界の自分は殺す
2:まずは目の前の邪魔な女と愉快な仲間たちを片付ける。こいつらは、見ているだけでムカつく
[備考]
※ミヤモトやトリタ戦など主にコピペになっている部分が元となって生み出された歪な存在です。
※「守る」スキルは制限により弱体化しています
※聖剣を手にしている時、感情次第では剣の技術が強化されます。
※クロスセイバーの制限については後続の書き手にお任せしますが、複数人で掛かれば勝てる見込みがある程度には制限されています。
現段階の制限は以下の通り
* クロスセイバーの固有能力は基本的に使用不可。ただし条件付きで一部解禁される可能性はあります
【ニノン・ジュベール@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:ダメージ(極大)、疲労(大)、満身創痍、不退転の覚悟、仮面ライダーネクロム 友情バースト魂に変身中
[装備]:メガウルオウダー&友情ゴースト眼魂@仮面ライダーゴースト
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1
[思考]
基本:ハ・デスとかいう見るからにワルモノ倒して、さっさと脱出するデース!
1:モニカさん達と一緒に眼の前のヘンなやつの罪を止めてみかげサンを探したいデース
2:ショーグンやユキ、クウカは無事なのでしょうカ?
[備考]
※参戦時期は少なくとも第一部終了後
【深海マコト@仮面ライダーゴースト】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:ゴーストドライバー&スペクターゴースト眼魂@仮面ライダーゴースト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:ゲームマスター達は俺が倒す!!
1:モニカや學やモニカの友と一緒に目の前の男の罪を止める
2:あの男は仮面ライダーなのか……?
[備考]
※参戦時期はゴースト RE:BIRTH 仮面ライダースペクター終了後
※シンスペクターゴーストアイコンを自分の意思で出すことは制限により不可能です。他の参加者に個別に支給されているか、何らかの条件によって出すことが可能になるかもしれません
【土部學@女装男子のつくりかたシリーズ】
[状態]:ダメージ(小) 、疲労(中)、精神的疲労(大)、緋々色金による擬似的なエイヴィヒカイト覚醒
[装備]:緋々色金@Dies irae
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:モニカちゃんに一人で背負い込ませたくない。怖いけど一緒に戦う
1:モニカちゃん達と一緒に目の前の人と戦う 。絶対に諦めない
2:ゆきさんは本名で参加させられた可能性もある……?
3:モニカちゃんの背負ってるもの、僕も少しだけ持ってあげますよ
[備考]
※参戦時期は女装男子のまなびかた終了後
※ 緋々色金に仕組まれた細工により、心意をトリガーに擬似的なエイヴィヒカイトに覚醒しました。身体能力が格段に上がり、素人の彼でも仮面ライダーと生身で戦えるくらいになりました。ただし効果はそれくらいです
【モニカ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:ダメージ(大)、脇腹から出血、疲労(大)、みんなを照らしたいという渇望(大)
[装備]:戦雷の聖剣@Dies irae
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:決闘を終わらせる
1: みんなと共に目の前の男を止める
2:目の前の男を止めた後、早急にニノンの治療がしたいな……
3:私はもう誰も失いたくない…… 。だから私が、皆を照らすのだ!
4:アユミ……私たちの勇姿、見ていてくれ……
[備考]
『支給品紹介』
【突進@遊戯王OCG】
土部學に支給。
速攻魔法
(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで700アップする。
本ロワでは単純に身体能力が一時的に上がる。
一度の使用後、6時間経過しなければ再使用不可能
投下終了です
◆2fTKbH9/12氏の作品を代理投下します。
肉体派おじゃる丸を撤退させることに成功した黒の剣士ことキリトとI ♡ 人類の文字が書かれた黄色いシャツの男こと空は友好的な参加者と接触するべく行動を移そうとしていた。
彼らのいる場所はD-8の孤島に位置する。
逃げられた肉おじゃも元々はこの狐島に立たされていたが、支給品を使って本島に転移されたと想像がつく。
キリトとしては中央部分に人が集まると思い、提案したが、空の案で北東に行くことを決定した。
理由としては地図の方角から端に配置された参加者は移動して、人が集まりやすい場所に行くだろう。
そこで移動して来る参加者を待ち伏せみたいな形で接触するということだ。
勿論、ゲームに乗っている人物と会う危険性もあるものの、空としては中央に集まりすぎて、下手をすれば危険人物同士の乱戦に巻き込まれて命を落とす可能性を考慮し、最初は北東に向かい、参加者と会うことを決めた。
只でさえ、お互いの仲間がいるか不明で、情報もない。
ここは慎重に動くことを決めた。
「空、交渉役はあんたに頼っていいか?」
「任せろ、俺はこういうのに強いからな」
キリトは肉おじゃとの襲撃で相手がチートカードを出されて、終わりかと思った瞬間、空は相手の先を読んで罠を発動させてピンチを乗り切れた。
自分も洞察力はあるけどそこまでではない。
今までに会った仲間の中で空は心理戦に滅法強く、ずば抜けている。
まるで嘘を見抜く能力があると思うくらいに。
(いざという時は俺がしっかりしないと)
だからといって戦闘では空一辺倒にしない。
空は肉弾戦向きではないので、キリトが前線で支えてやらないといけない。
「あのおっさんの襲撃で流れたけど、磯野の放送で言っていたが、俺達は異世界に集められている」
「そんなことがあり得るのか?」
「これは連中が嘘を言っていない。事実だが、俺と白は日本からディス・ボードという世界に召喚された形になったというものあるが、証拠を得たのが、このデュエルカードだ。俺が今いる世界にはこのカードゲームはなかった、キリトもこれのこと知らなかったしな」
「確かに納得だな」
空は無数の世界があると虚言を言う理由がないとして参加者は異世界から集められている結論が出た。
最も空白が単純なゲームで決まる世界に呼ばれたのもあるというのが大きかった。
それでなくても一早く気づくのに時間の問題だ。
肉おじゃの襲撃前にキリトがデュエルカードを知らなかった時点で、他者を納得させる証拠を見つけた。
キリトは元の世界でデュエルという遊びはなく、情報交換でその存在を初めて知った。
パラレルワールドから集められたという最初は信じられなかったが、空の根拠のある説明で素早く理解した。
「空は今いる世界と言ったけど、空は日本に戻るつもりはないのか?」
「日本にはもう未練はない。ディス・ボードに来てから空白にとって合っている世界だから」
「そうか」
空は日本=前の世界では白共々、居場所がなく、亡き両親からも疎まれていた。
生まれる世界を間違えたのではないかと思うほどに。
神によってディス・ボードに召喚されてから人類種(イマニティ)を救う目的は最初は成り行きだったが、十六種族(イクシード)とのゲームを通して、仲間や協力者が出来、本当の居場所を見つけた。
「でも、キリトは違うだろ」
「ああ、俺のいる日本には大切な人や仲間が待っている」
キリトは両親から疎まれていないが、10歳の頃に本当の家族でないことを知って、疑心暗鬼になり、距離を置き、仮想世界に逃避していた。
SAO事件に巻き込まれてから様々な出来事を通して、現実世界と仮想世界は同じで、相手を想う気持ちが大事ということに気づき、大切な人や、仲間、協力者が出来、家族と歩み寄れた。
SAO事件以降も新たな仲間が増えていき、コミュニティーが広がっていったが。
「キリト彼女いるの!?」
「そうだよ」
「マジか。俺は未だに空童貞十八年で脱却してないのに」
「空もいつかいい人見つかるさ」
彼女がいることに空は羨ましいと思ったのだった。
それから歩きながらお互いのことを語った。
遊戯は違うがゲーマー仲間であること、義理の妹がいること、メタ発言だが、声が似ている等など。
ここに来てキリトと空は共通点が多く、話も合うことに気づいた。
「何というか、似てる部分が少しは多いな」
「共通な話題があるなら、俺達、対等な親友になれそうだ」
「それは・・・・・・気持ちだけ受け取っておく。仲間としてなら一緒に付き合う」
キリトはとある一件で同年代の同性の親友を喪っている。
彼が亡くなったショックで心身ともに甚大な絶望を味わった程。
今では立ち直っているが、喪った心の傷は簡単に拭えない。
心に大きな穴を埋められず、同年代の同性の友人を作ることが出来なくなった。
空はその条件が限りなく近いのもあって、彼には申し訳ない気持ちがいっぱいだ。
でも、彼とは馬が合うのは事実で信頼もしている。
「何があったかは言わんが、困ったことがあるなら力になる」
「分かった」
空は一瞬の間がある時点で「親友」の言葉に何があったのか大体察した。
この場所に巻き込まれる前に悲しい出来事があったのだろう。
それが何かは不明だが、触れるべきではないと判断した。
今後も仲間として、支えるが、仮にキリトから親友になりたいと言うなら、喜んで受け入れる。
最も空は日本で碌に友達がおらず、少し、欲しい気持ちもあった。
その時だった、夜空から見たことがない一人の男が浮かび上がったのは。
△
「あいつら人の命を何だと思ってるんだ!!」
放送が終わった後、キリトは憤慨していた。
檀黎斗なる新たな主催の一人が現れたと思ったら、本当の神を名乗る葛葉紘汰という男にエルフの容姿をしたツインテールの少女が殺された。
それだけでなく、アプリの配信で小学生くらいの女の子が金髪の男に殺されるグロすぎる悪意ある映像まで見世物にされた。
更にキリトと空は無事だったが、黎斗によって運試しで理不尽に命を奪われただろう人達もいる。
今まで対峙してきた各事件の元凶はおろかあのPoHを超えるほどのどうしようもない奴らだ。
もし、犠牲になった三人の知り合いがいたらどういう心境をしていたか想像は難しくない。
「同感だ。何が神だ、人類を舐めすぎだ」
檀黎斗より、葛葉紘汰のほうが神に相応しいのは一目瞭然だ。
見ている限りでは、お人好しで無謀だったが、正義感が強く、最後まで諦めなかった。
空白を異世界に召喚した、神のテトだって悪意はなく、命を奪い合うゲームを一切提案してない。
それに対し、あのゲームマスターは神を気取る傲慢な男にしか見えない。
空も改めてこのデスゲームの後味の悪さに内心は腹が立って仕方ない。
「とりあえず名簿を見る。仲間がいるかもしれないし」
「そうだな」
二人はそれぞれ恋人や仲間が殺し合いに巻き込まれないことを気が気でなかったり、特定の人物がこの場所に来ているか願ったりしながらタブレットを開き、名簿を確認した。
「白すらいないのか」
正直、ステフといづな、ジブリールらはこのゲームにいないことに喜ぶべきだ。同時に、白がいないのは致命的だ。
天才である白がいればどんな確定要素を見つけ出し、ゲームの攻略に近づけていた。
空白が揃わないのは空にとってかなり痛手だ。
白がデスゲームに巻き込まれないことに一瞬だけ安心してしまったので、複雑な気持ちだ。
「俺はいなかったけど、キリトは?」
「何で、何であいつがいるんだ!!」
キリトに声をかけた直後、名簿を見ながらかなり険しい顔をしている。
その様子だと問題のある人物がいるのだろう。
「俺の仲間はいなかった。だが、最悪なことにこのデスゲームに確実に乗る奴がいる」
「誰だ?」
「PoHという奴だ」
アスナやクラインら他の仲間達がこの殺し合いにいないのは安心だ。
しかし、よりによってこのゲームで呼ばれてはいけない男、PoHがいるのは最悪だ。
SAO事件を通して、最悪のレッドプレイヤーで殺人ギルドのラフィン・コフィンのリーダー。
本性は外道以外になく、ラフィン・コフィンと攻略組が煽動され、潰し合わされた。
ラフィン・コフィン討伐戦で姿を現さずに、陰で嘲笑っていた。
その後もUWで姿を現し、ラフィン・コフィン討伐戦と似たやり口で再び惨劇を起こそうとした。
「そんなに腐りきった奴がいるか」
「PoHはあの時、杉の木にしたはずなんだ」
キリトはPoHの末路を語った。
UWでPoHと一騎打ちの末、打ち勝ち、二度と現れないよう大木にしたはずだった。
だからこそ、名簿で名を見つけた際、衝撃を隠せずにいた。
自力で大木から抜け出すのは不可能なのだから。
「それが事実ならハ・デス達は底知れない恐ろしさがあるな」
葛葉紘汰が神から人間に戻したのを考えると杉の大木から解放させる何らかの力があってもおかしくない。
そう思うとハ・デス達の強大さを身に染みた。
その反面、あくまで可能性の話だが、ハ・デスと磯野が何も知らされていない事実を動揺しているのを見る限り、一枚岩ではないのが、低くなく、力で従わせているか、それぞれ違う思惑があるかもしれない。
それに警備或いはセキュリティを頑丈にするのが普通だが、神とはいえ、葛葉紘汰が主催陣営に簡単に乗り込んだ件もおざなりな面があった。
「それと檀黎斗のことだが、勘だが、ヒースクリフって奴と似ているような感じなんだ」
あのデスゲームの主犯だった茅場昌彦ことヒースクリフは天才量子物理学者でゲームデザイナーを担当し、あの事件が起こるまで彼のことを憧れていた。
その後、茅場はヒースクリフとしてSAOでプレイヤーを監視しながら、ある勢力を立ち上げた。
ヒースクリフは旧アインクラッドで本来なら99層クリア後に100層でラスボスとして立ちふさがるはずだったこと。
死後は、仮想空間で観測者として見守るようになった。
『神であり最強のラスボスとしても君臨している私を倒せたら、ゲームクリアということ君たちを元の世界へ帰してやろう』
この発言でヒースクリフと同類だと理解してしまったのだ。
黎斗が本当に挑んで来てもハ・デス達が許容するとは考えにくい。
「なるほどな。ヒースクリフが関与してる可能性は?」
「明らかにない。檀黎斗と類似しているが、方針が違う」
「聞く限りだと低いな」
ヒースクリフは事実上の単独犯だったのに対し、檀黎斗はハ・デス達と手を組んでいる。
彼は一切、ルールを捻じ曲げず、フェアだったが、連中はデュエルに関しては改善してくれたが、それ以外はプライドも欠片もない。
そもそも、今のヒースクリフはハ・デス達に協力するとは到底思えなかった。
仮に協力したとしても特に黎斗はあの性格だと反目して、主催陣営は直ぐに空中分解した可能性が高い。
「でも、SAOっていうのを連中が盗んでたら話は別だ」
「確かにあり得なくはない」
黎斗達がSAO事件を技術やNPCの存在の件を含め参考にしたのなら、こんな大規模な殺し合いを準備できたのかもしれない。
あくまで仮説なので何とも言えないが。
「奴らに関しては関係のある人物と接触すれば、後々、分かるだろ。ところでデュエルを確認し直す」
主催の話を切り上げ、空は再度デュエルのルールブックを確認した。
黎斗によるルール改変が起きたが故、説明書に追加した箇所が記載されていないか念入りにチェックしていた。
カードゲーム方式では死なずに済むのは癪だが、ありがたいけど、逆にリアルファイト方式では今まで通り、命の危険性があるのは変わらない。
ついでにシンクロとエクシーズの試運転をし、あっさり使いこなした。
デュエルといえばキリトは殺された小学生くらいの少女に関するある疑問を思い出した。
「あの少女は何故、デッキの使い方を理解していなかったんだ?」
「説明書を記載していないのは考えにくいし、紙束デッキもあり得ないしな」
これについては主催が説明書を配布ミスや紙束デッキをわざと支給したとも思えなかった。
空自身に説明書も配られたお陰で直ぐにルールを把握し、肉おじゃ戦で完璧に使いこなしている。
空が持っている轟惑魔のデッキだって、徹底的に組み込まれている。
黎斗の放送でデッキは『強力なアイテム』と伝え、デュエルディスクとデッキ以外没収され、平等なのが分かるので後者の線も薄い。
となると単純な答えしかない。
「恐らく、本当にルールを理解していないであろう」
「それか使い方を確認する前に金髪の男に襲われた可能性もある」
そうでなければ、考えもなしにモンスターを出さないだろう。
ルールを把握していたら、最善策は正面から戦わずに魔法・罠カードを使って、時間を稼いで逃げるが勝ちだ。
この理由も仮定の一つで真相は永遠に開示しないだろう。
だが、最大の不運は同行者と巡り遭えなかったことだった。
キリトと空があの場にいれば死なずに済んでいたであろう。
デュエルのルールを空から教えを乞う未来があったかもしれない。
デュエルのルールブックアプリを再度、隅々まで全て読んだ空は次の話題に移った。
「危険人物についてだが、俺達が最初に遭遇したおっさんにPoH、女子小学生を殺した金髪の男だな」
「金髪の男はアプリからの配信で情報を手に入れたのが大きいけど・・・・」
キリトは再度、女子小学生が金髪の男に殺される理不尽さに助けることができなかった悔しさしかない。
気の毒ではあるが、金髪の男の情報が入ったのは皮肉としか言いようがない。
「あの金髪の男は参加者の中では上位に位置する存在だ」
「俺も只者ではないのはひしひしと伝わってくる」
「金髪の男に負けるつもりはないが、今はまだ仲間を集めるのが優先だ」
金髪の男は槍を使っているとしか、現在はそれしか情報がない。
支給品という勝負を左右する不確定要素もあるので侮れない。
白がいない今、金髪の男のような上位クラスの攻略は時間がかかるだろう。
当たり前だが、ここには白と遜色ない天才がいないのは明白だ。
でも、獣人種(ワービースト)とのゲームでは勝てたのは空白の力があったというのもあるが、仲間や協力者がいたのが大きかった。
このデスゲームでも仲間の存在が鍵になってくる。
白の穴を埋められるか分からないが、人類の可能性を信じている。
「PoHは俺に任せてくれないか。あいつとは俺が決着を付ける」
『何度もお前の前に現れる』という捨て台詞は本当に現実になってしまった。
PoHは確実に自分を狙ってくるし、今頃、誰かを襲い、悲劇を起こさせているだろう。
また自分の前に現れるなら覚悟しないといけない。
今度こそPoHと決着を付けて、長きに渡るラフィン・コフィンの因縁を終わらせる。
「だが、危なくなったら加勢する」
「肝に銘じておく」
これはキリトだけの問題ではない。
いずれ他の参加者にも直面するので、空は釘を刺した。
黎斗の放送が始まる前に遭遇した変なおっさん(肉おじゃ)の戦闘力は可もなく不可もなし。
ただ、誰かと手を組まれたり、時間が経つにつれて、チートカード以外にも装備が充実になり得るかもしれないので油断しない。
「檀黎斗に人質になった少女の関係者も警戒しておかないとな」
「それって・・・・美遊という少女救う為にその関係者が殺し合いに乗る事態か」
「人質がいるのにその関係者を呼ばないのはまず有り得ない」
空は美遊という少女の関係者も巻き込まれていることを放送の時点で確信していた。
キリトは空に明言されるまで考えてなかったが、美遊が人質にされるもう一つの最悪のケースを察した。
「奴らのことだ。ゲームを円滑に進めるために人質を餌にして煽らせているな」
「檀黎斗達がやりそうなことだな」
「勿論、ゲームに乗らずに人質奪還の方針だったら問題はない。万が一、馬鹿なことをしでかす可能性も考慮する」
キリトは主催に対し、苦々しい顔をするしかなかった。
もし、美遊の関係者が本当に殺し合いに乗っていて、対峙してしまったら、説得に成功できるか分からない。
美遊の関係者がこのデスゲームに乗っていないのを願うしかない。
継国縁壱という人物に関して、情報が皆無で余り話題にならなかった。
しかし、空は主催が特別扱いし、何故か嫌な予感がしたのでキリトに最大限の警戒をするよう忠告した。
「と、まあ、俺達が知っている範囲の警戒すべき危険人物だ」
キリトは改めて空の洞察力に驚かされた。
様々な視点や最悪の場合も考えており、彼は抜かりがなく、有能だ。
このデスゲームを打破するには、空の駆け引きが重要になる。
「もう移動しようか」
「そろそろ、狐島から出ないとな」
孤島にはキリトと空しかいないが故に変なおっさん(肉おじゃ)の時みたいに情報交換中に襲撃がないのはよかったと思う。
だが、この島に配置されたが為に出遅れてしまうであろう現状だ。
ここに留まっても事態は好転しないし、何も始まらない。
当初の方針通り、参加者と接触して、仲間を集める。
出発する前に二人のゲーマーはそれぞれの思いがある。
(檀黎斗、てめぇは俺が止める)
今のキリトの状態はUWと一緒だ。
痛覚があるのはいつも通りだが、UW同様、血も出るだろう。
それはPoHも言えることで、黎斗に調整を施されたのだと推測する。
黎斗はゲームに対する情熱は本物だ。
黎斗とヒースクリフは類似しているようで違う部分がある。
ヒースクリフは神を名乗らずに、傲慢でもない、なにより、バレた後も逃げずに堂々と自分に勝負を挑んだ。
SAO事件を起こして、かなりの犠牲を出したのは許されるものではない。
それでも、彼には彼なりの追い求めていた理想があったのは確かだった。
間接的に家族と修復する切っ掛けを作っており、彼を恨むことはできなかった。
黎斗はヒースクリフと違い、自称神を名乗り、今も笑いながらどこかで高みの見物をしている。
奴はヒースクリフに遠く及ばない、キリトは主催打倒の挑戦を受ける。
(檀黎斗。あまり、人類を舐めるんじゃねぇ)
空も黎斗に宣戦布告し、このデスゲームの攻略に挑戦を受ける。
黎斗がゲームに対する熱があるのだけは認める。
殺し合いには当然、乗らずに仲間を作り脱出して主催者にゲームを挑む。
神への挑戦はディスボードの世界と同じだが、違うのは黎斗が邪悪な神様気取りのみだ。
今度のゲームは現実の『戦争』で本当に死んだら終わりで今までにやったゲームとは訳が違った。
空白が揃わないのも興味本位か、ビビッて二人参加させるのを恐れているか、或いは別の理由かもしれない。
盟約もなく、都合が悪いとルールを改ざんする連中に絶対に負けない。
白は不在で、少々、手こずるかもしれないけど、それでも我々が勝つ。
「空黒(くうこく)に敗北の二文字はない」
「何だ空黒って言うのは?」
「白がいない今、脱出までの間、俺とキリトは臨時でコンビ名を名乗ろうと考えていた。空は俺の名前そのもので、キリトはイメージカラーが黒だし。勝手に名前を付けるのは駄目だったか?」
「賛成だ。気に入った」
空は主催に対し、宣言を表明する。
平行してコンビ名が決定し、改めて結成する。
二人のゲーマーは仲間を集めるべく歩き出した。
その後、キリト達は海辺に着いたが、海面が広がっており、肝心な島に上陸する方法はあっさりと解決していた。
そこにはいくつかのモーターボートが配置されていた。
主催陣営が孤島からスタートしたが故の救済措置なのは察しがつく。
キリト達が選んだのは高級で木材の美しいほうだ。
「俺はリアルでバイクの免許を取っているからいけなくはないが、空は出来るのか?」
「ゲームで鍛えたから問題ない」
「突っ込み要素はあるが、俺が操縦する」
空は明らかに素人で不安な箇所はあるのでモーターボートの運転はキリトに任せる。
走行中に襲撃されるのを考慮し、その時は仕方なく交代して、キリトが対処し、空は操縦を担当する。
幸い、操縦はご丁寧にマニュアルが用意されており、二人は読んで理解した。
「本島に上陸する前に地図の外を確かめに行く」
「望みは薄いけど、調査しない訳にはいかないもんな」
キリトも会場外の水平線の向こう側は気になっていた。
しかし、主催者も対策を立てない程馬鹿ではない、明らかに連中の干渉を受けるだろう。
本島には当然だが、船やモーターボートを配置するはずがない。
リスクはあるが、海の調査ができるのはキリトと空しかいない。
「出発進行」
モーターボートを出航し、会場外へ進路を定めた。
発進した当初は操縦がぎこちなかったが、徐々に慣れていき難なく操縦出来た。
隣には一緒に戦ってくれる元の相棒はいないが、新たな相棒は互いを信頼しているから。
【D-8 海上/一日目/深夜】
【キリト@ソードアート・オンライン(アニメ版) 】
[状態]:疲労(小)
[装備]:カゲミツG4@ソードアート・オンライン、高級木材のモーターボート@現実
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2(確認済み)
[思考・状況]基本方針:ハ・デスと檀黎斗を倒す
1:空と共闘する
2:地図外を調査しに行く。調査後、D-7の本島に上陸する
3:変なおっさん(肉おじゃ)、PoH、念のため美遊の関係者を警戒
4:金髪の男(ポセイドン)、継国縁壱を最大限に警戒
[備考]
※参戦時期はソードアート・オンライン
アリシゼーション War of Underworld終了後
※遊戯王OCGのルールをだいたい把握しました
※アバターはSAO時代の黒の剣士。
GGOアバターに変身することも出来ます。GGOアバターでは《着弾予測円(バレット・サークル) 》及び《弾道予測線(バレッド・ライン) 》が視認可能。
その他のアバターに変身するためには、そのアバターに縁の深い武器が必要です。SAOのアバターのみキリトを象徴するものであるためエリュシデータやダークリパルサー無しでも使用出来ます。SAOアバター時以外は二刀流スキルを発揮出来ません。これらのことはキリトに説明書に記されており、本人も把握済みです
※主催陣営はSAO事件を参考にしたと推測しています。
※空と空黒というコンビ名を結成しました。
【空@ノーゲーム・ノーライフ(アニメ版) 】
[状態]:健康
[装備]:デュエルディスクとデッキ(轟惑魔)@遊戯王OCG
[道具]:基本支給品
[思考・状態]基本方針:ハ・デスと檀黎斗を倒す。あまり人類ナメるんじゃねぇ
1:キリトと共闘する
2:地図外を調査しに行く。調査後、D-7の本島に上陸する
3:主催者と関係ある人物と接触する
4:変なおっさん(肉おじゃ)、PoH、念のため美遊の関係者を警戒
5:金髪の男(ポセイドン)、継国縁壱を最大限に警戒
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後
※遊戯王OCGのルール及び轟惑魔デッキの回し方を把握しました
※主催陣営はSAO事件を参考にしたと推測しています。
※キリトと空黒というコンビ名を結成しました。
代理投下を終了します。
投下乙です。
ノゲノラ知らないが、空の声優も松岡くんなのか……
主宰への考察、互いのバックグラウンドの違い、共通点などの会話が面白い。
それと本編開始後全キャラ一周おめでとうございます。
◆2fTKbH9/12氏の作品を代理投下します。
「会場の外に出たら起爆。そりゃ、当然か」
空達は地図の外を調査するべく、会場外の直前まで来て見たのはよかった。
このまま脱出が可能か確認するため、会場の外に出た瞬間に首輪の警告が鳴った。
想定内であるが、外からの脱出は不可能でその先に何があるか不明だ。
直ぐに旋回し、このまま当初の目的であるD-7に上陸する。
収穫がない訳でもなく、地図の外の調査報告を他の参加者に共有できるのだから。
空としては海面の中も調べたかったが、まだ夜で暗すぎるのもあるが、絶対に用意されないだろうウェットスーツがなく当然ながら断念。
「案の定、外からの脱出は不可で微妙な成果だ」
「他の人に外の件を伝えるだけでマシだな」
その後、キリト達は無事、北東のD-7に到着した。
途中で襲撃は起きなかったけど、モーターボートを流石に放置はせずにデイパックに仕舞った。
突然、空はある物を思い出した。
「キリト念のためハズレの支給品を見せてくれないか?」
肉おじゃに襲われる前にキリトは唯一のハズレの支給品があると言った。
空の支給品はデュエルディスクとデッキ以外主催に没収されてしまった。
だからこそ、例え、役に立たない物でも意外なとこで活用できると考えている。
「いいけど、この変な古い物だ」
「古代の遺産か」
キリトはデイパックから片方の角が生えた埴輪だった。
余りにも間抜けな面をしたデザインだ。
「お主達は誰だ?」
「喋った!?」
「誰だと言いたいのこっちだ」
すると声が聞こえ、埴輪が喋ったのだ。
「余の名はリリス。5000年も生きている魔族だ」
「俺はキリト、こっちが空だ」
「ってかここはどこだ?状況が分からぬのだ」
「空、如何やら何も知らないみたいだ」
「実はな」
リリスは状況を把握するべく、キリトと空に事情の説明を求めた。
ここは殺し合いに巻き込まれたこと、檀黎斗達によるデスゲーム開始宣言が行われたことなど伝えた。
リリスは最初こそ戸惑いを隠せなかったが、あっさりこの状況を受け入れた。
何故デイパックにいつの間にか入れられた記憶が皆無だ。
如何やら、支給品扱いでも参加者と同様な処置を取るようだ。
「余のぞんざいに扱うとは何事だ!!」
「それはごめん」
「直ぐに起きなかったお前も悪い」
因みにキリトがリリスを放置したのは故意ではない。
殺し合いが始まった直後もあって、慎重すぎていたが故、埴輪を手に取ったが、反応がなかったらしく、即デイパックにしまってしまった。
結局、ずっと熟睡し、2度目で外に出して、ここでようやく起きたのが真相。
キリトも悪気はなかったといえ、全く気づかずに放置した件を謝罪しているに今に至る。
最もリリスも封印が解かれる前も肉叩きやドアストッパーにされて、雑に扱われていたので今に始まったことではないが。
「余は5000年も生きておるのに空は何故、驚かん」
「俺の知る限り、お前以上に長寿がいるんだ。ドヤ顔で自慢されてもな」
リリスは自己紹介をした際、長寿であるのをドヤ顔していたのだ。
キリトは驚愕したが、空は一ミリも反応がなかった。
そもそも空は天翼種(フリューゲル)のジブリールは6407歳なのは知っているし、他にも六千年前に起きたらしい大戦にも存命している種族もいることは多少は把握している。
逆にキリトはUWという世界で200年、300年も長生きしている人もいるが、流石に5000年はいないので驚愕した。
古代からずっと生きてきたのは理解しているものの、空にとってはそれと比べると霞んでしまっていた。
「余はいずれ世界を征服する魔族だぞ」
「冗談はよせ」
「あんたは根は悪人じゃないの、分かっている」
「本気だぞ」
キリトと空は短いやり取りでリリスの人柄を既に理解した。
確かに欲に忠実で尊大で、更に言うなら抜けているなど二人は敬う気は全然ない。
本質は悪ぶっているだけで本気で人を平気で傷つける魔族ではないことだ。
例え、しょうもないことで悪い事をしても詰めが甘かったり、自滅が想像するので全く危惧はなかったりする。
「それより、リリスは知っている人はいるのか?」
キリトは名簿をリリスの目の前に置いた。
そこで驚愕しかなかった。
「え!? ほぼ全員集合ではないか!!」
そこには、吉田優子、千代田桃、陽夏木ミカン、吉田良子、吉田清子、小倉しおんの名が載っていた。
シャミ子の友人、佐田杏里はいないのが幸いだ。
リリスはキリトと空に自分の一家の子孫と知り合いの魔法少女、シャミ子の友人がいることを話した。
六人の特徴と全員殺し合いに乗るわけがないことも伝えた。
「あんたの知り合い多いな」
「危険な人物がいるよりはマシかもな」
「シャミ子らが無事であればいいが・・・」
リリスも不安がないと言えば噓になる。
このバトルロワイアルは吉田一家や知り合いが無事でいられる保証はないのだから。
桃、ミカンは自衛出来るが、手に負えない人物とやったらどうなるか分からない。
シャミ子と小倉は持ち前の機転で乗り切ってくれると信じている。
良子は軍師と言える程、頭脳明晰だけど、まだ幼く、誰かに保護しないと危ない。
特に清子は戦える力がなく、心配だ。
不安要素は多々あるが、気が合わなくても死んだら悲しまないわけがない。
六人全員が無事に再会を祈るしかない。
「リリスの知り合い探しを付け加えるとして、リリスには今後の方針と放送後に俺とキリトと出し合った情報量を頭に叩き込んでおけ」
現在、これから参加者と接触し、そのために北東に行って、捜索すること。
主催の謎の目的に関する仮説や危険人物の詳細情報など伝達した。
「お主、良子以上に優秀かもな」
良子も頭の回転は速いが、下手すると空はそれを超えるほどの有能な人物だ。
あくまで推測だが、空は参加者の中で優秀な頭脳なら間違いなく三本の指に入るだろう。
全然、参加者と出会っておらず、今は確信できないが。
「しかし、魔法少女と魔族がいる世界か」
「平行世界とは檀黎斗とやらも大胆だな」
リリスも最初こそ参加者は異世界から集められたと空から聞き、半信半疑だったが、デュエルカードを説明し、リリスも元の世界にこのカードゲームを知らない時点でパラレルワールドの存在を理解した。
空達はリリスのいる世界を聞き、大体、把握している。
「如何にも争いが起きそうなんだが・・・」
「安心しろ。今は穏健派な魔法少女が大半を占めていて、余らも無害なまぞくも多いし、お主らが思っている程、争いはない。」
「それなら、よかった」
キリトはUWで起きた人界と暗黒界との戦争を連想していた。
リリスが闇の一族、光の一族のことを聞かされて、異界大戦の二の舞が起きた可能性を心配していたが、何事もないみたいで安心している。
多摩市の人々は優しさに溢れているらしいので平和が一番だと思った。
リリスに全て事情を話したキリトと空は再出発をした。
△
「誰も会わないではないか」
再度移動を始めたが、あれから参加者と接触出来ずにいた。
C-6に来ては見たけど、人っ子一人見当たらない。
リリスが捜しているシャミ子達すら遭遇していない。
空は何も進展がないのではと一瞬、考え出すくらいに。
その時、音が聞こえて、遠くに1台の車が走っていた。
「あっちに車が走っているぞ」
「やっと人と会えるのか」
「接触するが、車にいるのがゲームに乗っていない人とは限らないぞ」
「分かっている」
遠いが、十分な距離もあり、キリトは警戒しながら車に向けて手を振った。
しかし、気づく気配はなく、段々と遠ざかっていた。
これで車に乗っている人は危険人物ではないのは明白だが、同時にキリト達がいるのに明らかに周りを確認していない様子だ。
キリトは走り出し駆けようとしていた。
「もういいキリト、無駄な体力を使うな」
「そう、だな。追いかけても見失うだけだな」
「手を振ったのに分からんとかとんだ愚か者だ」
キリトは追いかけかけたが、空に静止されて、冷静になった。
空とリリスは車にいる者に大いに失望していた。
並行して空は何者かに意図的に避けていると推測しているが、証拠が弱い部分も多く、断定は出来なかった。
もし、車に乗っていた主こと冴島鋼牙と柊ねむが彼らに気づいていたら当然、車を止めて接触していただろう。
否、鋼牙はともかく、ねむは車の窓を眺めキリト達を目撃したが、直感からキリト達と接触したらねむにとって死活問題になると感じていた。
危惧する通り、空はねむの隠している本質を時間がかからずに見破っていたかもしれない。
空達は魔戒騎士の情報を得て、主催にいる黒い騎士に関する考察をしていただろう。
だが、鋼牙は一瞬で周囲の確認を怠る大きなミスをし、キリト達の接触を逃してしまった。
後の遭遇する二人とゲーマーの二人を加えた六人で二人のマーダーと戦う未来があった。
全部IFの世界で時間を戻すことはあり得ないのだから。
車を追うのを断念した後、それから参加者の捜索をC-6からC-7に移っていた。
C-7を隈なく捜し回っているが、この付近も見つからず仕舞いだ。
「この辺りも誰もいないか」
車に無視される形になってから、巡り合わせもなく、収穫もない。
リリスはげんなりしつつあった。
でも、端っこにいる可能性もあるので捜さない訳にもいかない。
少し、歩いたら建物を発見した。
それは空の知っている建物だからだ。
「エルキア大図書館が何である?」
「知っておるのか」
「今いる世界のイマニティの図書館だ」
忘れる訳がない。
元々は人類種(イマニティ)の所有物だったが、昔、天翼種(フリューゲル)にゲームに負けて奪われてしまった。
後に空白の具象化しりとりというゲームに勝って、所有権を取り戻したが。
以降は情報を得たい時はこの図書館に寄っている。
空はエルキア大図書館を見つけたことにより、新たに方針が思い浮かんだ。
「キリト、リリス寄り道してしまうが、俺は図書館を調べたい。もしかしたら、手掛かりが残っているかもな」
可能性は高くないが、何かしら情報があるなら調べておく必要がある。
この会場の全体の仕掛けや秘密、主催の情報等、断片的でも残っているなら見逃さない。
中の構造も本物かそれも見ないといけない。
「その前に参加者の捜索が優先だな」
「だな。捜索後は図書館に寄る。リリスもそれでいいな?」
「仕方ない、お主の見知った場所だし、道草に付き合ってやろう。」
「決まりだな」
空はエルキア大図書館を見つけた際、もう一つのプランを考えていた。
それはエルキア大図書館に6,7人(支給品扱いは除く)くらい集まったら二手に分かれるというもの。
大人数で動かずに固まっていると情報収集にどうしても遅れが生じてしまう。
エルキア大図書館を調べても手掛かりがないなら時間が短縮するが、有力な情報を得たら長時間かかり、話が別になる。
特にリリスみたいに知り合いがいる場合、早く合流させてあげたい気持ちもある。
参加者を捜索する組と図書館に残って情報を集める組に分けて、効率よくするということだ。
前者は西か中央辺りで捜索させ、後者の空を含む居残り組は図書館の調査終了後にD-6の近場の島に向かう。
だが、5人以下の場合は固まるしかない。
一般人やサポート系が何人かいて、別行動するとどうしても戦力が偏ってしまう。
万が一、金髪の男みたいな上位クラスの力を持った者や手を組んでいる連中が来ると対処が難しくなる。
集まらなかったら知り合いがいる人には申し訳ないが、我慢して貰う。
デメリットは上記の通り、情報収集の出遅れだ。
あの車の面子がこちらに気づいていれば仲間にして、負担を減らせたかもしれなかったと残念すぎた。
どっちにしろD-6の近場の島に行くのは変わらない。
少なくとも一回目の放送前後にはエルキア大図書館を調べ始める。
この案は北東で参加者の捜索後、キリト達に話す。
友好的な参加者と接触できた場合、一気に話したほうが早い。
空達はエルキア大図書館を一時、後にし、まだ人がいるかもしれない近辺の捜索を再開した。
【C-7 国立エルキア大図書館付近/一日目/黎明】
【キリト@ソードアート・オンライン(アニメ版) 】
[状態]:疲労(小)
[装備]:カゲミツG4@ソードアート・オンライン、ごせん像@まちカドまぞく
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1(確認済み)
[思考・状況]基本方針:ハ・デスと檀黎斗を倒す
1:空と共闘する
2:北東で参加者を捜す
3:2の後、エルキア大図書館に寄り、調べる
4:変なおっさん(肉おじゃ)、PoH、念のため美遊の関係者を警戒
5:金髪の男(ポセイドン)、継国縁壱を最大限に警戒
[備考]
※参戦時期はソードアート・オンライン
アリシゼーション War of Underworld終了後
※遊戯王OCGのルールをだいたい把握しました
※アバターはSAO時代の黒の剣士。
GGOアバターに変身することも出来ます。GGOアバターでは《着弾予測円(バレッド・サークル) 》及び《弾道予測戦(バレッド・ライン) 》が視認可能。
その他のアバターに変身するためには、そのアバターに縁の深い武器が必要です。SAOのアバターのみキリトを象徴するものであるためエリュシデータやダークリバルサー無しでも使用出来ます。SAOアバター時以外は二刀流スキルを発揮出来ません。これらのことはキリトに説明書に記されており、本人も把握済みです。
※主催陣営はSAO事件を参考にしたと推測しています。
※空と空黒というコンビ名を結成しました。
【空@ノーゲーム・ノーライフ(アニメ版) 】
[状態]:健康
[装備]:デュエルディスクとデッキ(轟惑魔)@遊戯王OCG
[道具]:基本支給品、高級木材のモーターボート@現実
[思考・状況]基本方針:ハ・デスと檀黎斗を倒す。あまり人類ナメるんじゃねぇ
1:キリトと共闘する
2:北東で参加者を捜す
3:2の後、エルキア大図書館に寄り、調べる。二手に別れるかは人数と戦力状況による
4:主催者と関係ある人物と接触する
5:変なおっさん(肉おじゃ)、PoH、念のため美遊の関係者を警戒
6:金髪の男(ポセイドン)、継国縁壱を最大限に警戒
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後
※遊戯王OCGのルール及び轟惑魔デッキの回し方を把握しました。
※主催陣営はSAO事件を参考にしたと推測しています。
※キリトと空黒というコンビ名を結成しました。
【キリト、空の地図外についての共通認識】
・マップの端に出たら首輪による警告音が鳴り、それでも留まったら起爆する。
・水平線の向こう側の外側は現状不明。
【ごせん像@まちカドまぞく】
キリトに支給
リリスが封印されている依り代。
封印前はシャミ子しか聞けなかったが、封印が一部解除されてからはシャミ子以外にも声を届けることができた。
参戦時期は原作4巻(アニメ2期)終了後。
『施設紹介』
【国立エルキア大図書館】
イマニティが所有する図書館
館内にはたくさんの本が置かれており、知識が豊富である。
地下にも本があり、そこで具象化しりとりゲームが行われた。
代理投下を終了します。
◆2fTKbH9/12氏の「マゾクの心得」において、修正があるようなので、それを代理投下します。
修正となるのは、このスレにおける>>842 と>>843 になるそうです。
「しかし、魔法少女と魔族がいる世界か」
「平行世界とは檀黎斗とやらも大胆だな」
リリスも最初こそ参加者は異世界から集められたと空から聞き、半信半疑だったが、デュエルカードを説明し、リリスも元の世界にこのカードゲームを知らない時点でパラレルワールドの存在を理解した。
空達はリリスのいる世界を聞き、大体、把握している。
「如何にも争いが起きそうなんだが・・・」
「安心しろ。今は穏健派な魔法少女が大半を占めていて、余らも無害なまぞくも多いし、お主らが思っている程、争いはない。」
「それなら、よかった」
キリトはUWで起きた人界と暗黒界との戦争を連想していた。
リリスが闇の一族、光の一族のことを聞かされて、異界大戦の二の舞が起きた可能性を心配していたが、何事もないみたいで安心している。
多摩市の人々は優しさに溢れているらしいので平和が一番だと思った。
リリスに全て事情を話したキリトと空は再出発をした。
△
「誰も会わないではないか」
再度移動を始めたが、あれから参加者と接触出来ずにいた。
C-6に来ては見たけど、人っ子一人見当たらない。
リリスが捜しているシャミ子達すら遭遇していない。
空は何も進展がないのではと一瞬、考え出すくらいに。
その時、遥か遠くに1台の車が走っていた。
「あっちに車が走っているぞ」
「やっと人と会えるのか」
「あの様子だと余らと余りにも離れすぎておる」
「そんな」
一台の車を見かけた時には地平線を見るように遥か先に距離が開きすぎており、真っ直ぐに向かって即見えなくなってしまった。
間に合わなかった事実に三人(内一人は支給品扱い)は大いに落胆した。
キリト達から見ると車は後ろ姿で止めに四km以上も離れていたのが大きな不運だ。
だが、キリトは走り出し駆けようとしていた。
「もういいキリト、無駄な体力を使うな」
「そう、だな。追いかけても見失うだけだな」
「余もこれは仕方ない」
キリトは追いかけかけたが、空に静止されて、冷静になった。
空は危惧していたが、狐島に配置されるデメリットは参加者の接触を逃し、出遅れることだ。
接触を逃し続けると情報面で不利になり、最悪、全滅であろう。
あの車とは生きていれば再会出来るだろうし、キリト達は次に切り替えた。
もし、あの車にいた面々、冴島鋼牙と柊ねむの近くか隣のエリアに配置されていれば簡単に接触して出遅れることはなかっただろう。
今回ばかりは最悪のタイミングでアンラックを呼んでしまった。
もしも、キリト達は鋼牙達と接触に成功し、その際、空はねむの隠していた本質を時間が掛からずに見破り、敵対する理由がないとして、空の交渉力でやちよ達と共闘するよう持ち込むことは可能だったであろう。
そして、主催にいる漆黒の騎士についての考察もしていただろう。
後の遭遇する二人とゲーマーの二人を加えた六人で二人のマーダーと戦う未来があった。
全部IFの世界で時間を戻すことはあり得ないのだから。
車を追うのを断念した後、それから参加者の捜索をC-6からC-7に移っていた。
C-7を隈なく捜し回っているが、この付近も見つからず仕舞いだ。
「この辺りも誰もいないか」
車に無視される形になってから、巡り合わせもなく、収穫もない。
リリスはげんなりしつつあった。
でも、端っこにいる可能性もあるので捜さない訳にもいかない。
少し、歩いたら建物を発見した。
それは空の知っている建物だからだ。
「エルキア大図書館が何である?」
「知っておるのか」
「今いる世界のイマニティの図書館だ」
忘れる訳がない。
元々は人類種(イマニティ)の所有物だったが、昔、天翼種(フリューゲル)にゲームに負けて奪われてしまった。
後に空白の具象化しりとりというゲームに勝って、所有権を取り戻したが。
以降は情報を得たい時はこの図書館に寄っている。
空はエルキア大図書館を見つけたことにより、新たに方針が思い浮かんだ。
「キリト、リリス寄り道してしまうが、俺は図書館を調べたい。もしかしたら、手掛かりが残っているかもな」
可能性は高くないが、何かしら情報があるなら調べておく必要がある。
この会場の全体の仕掛けや秘密、主催の情報等、断片的でも残っているなら見逃さない。
中の構造も本物かそれも見ないといけない。
「その前に参加者の捜索が優先だな」
「だな。捜索後は図書館に寄る。リリスもそれでいいな?」
「仕方ない、お主の見知った場所だし、道草に付き合ってやろう。」
「決まりだな」
空はエルキア大図書館を見つけた際、もう一つのプランを考えていた。
それはエルキア大図書館に6,7人(支給品扱いは除く)くらい集まったら二手に分かれるというもの。
大人数で動かずに固まっていると情報収集にどうしても遅れが生じてしまう。
エルキア大図書館を調べても手掛かりがないなら時間が短縮するが、有力な情報を得たら長時間かかり、話が別になる。
特にリリスみたいに知り合いがいる場合、早く合流させてあげたい気持ちもある。
参加者を捜索する組と図書館に残って情報を集める組に分けて、効率よくするということだ。
前者は西か中央辺りで捜索させ、後者の空を含む居残り組は図書館の調査終了後にD-6の近場の島に向かう。
だが、5人以下の場合は固まるしかない。
一般人やサポート系が何人かいて、別行動するとどうしても戦力が偏ってしまう。
万が一、金髪の男みたいな上位クラスの力を持った者や手を組んでいる連中が来ると対処が難しくなる。
集まらなかったら知り合いがいる人には申し訳ないが、我慢して貰う。
デメリットは上記の通り、情報収集の出遅れだ。
あの車の面子と接触に成功出来ていたら仲間にして、負担を減らせたかもしれなかったかもしれない。
どっちにしろD-6の近場の島に行くのは変わらない。
少なくとも一回目の放送前後にはエルキア大図書館を調べ始める。
この案は北東で参加者の捜索後、キリト達に話す。
友好的な参加者と接触できた場合、一気に話したほうが早い。
空達はエルキア大図書館を一時、後にし、まだ人がいるかもしれない近辺の捜索を再開した。
修正の代理投下を終了します。
◆2fTKbH9/12氏の作品を代理投下します。
PoHは月の邂逅後、狐島からわざわざ泳いで脱出した。
月を絶望させて上機嫌になっていたが、今は何とも言えない気分になっていた。
「しんどいぜ」
原因は月を追ってG-2の本島から狐島へ泳いで往復したことだ。
そもそも本来、PoHのスタート地点は本島の某所の街である。
獲物を探す為に地図だと5マス分わざわざ南西へと大きく移動した。
月を発見したのはいいが、どういう訳か狐島という安全とは言い難い場所に行ってしまったのだ。
月を追跡する為に行かざるを得なくなった。
下半身が濡れたがそれは問題ではない。
往復する形で泳いだのが面倒臭かったのだ。
月を絶望させていなかったらテンションが下がったかもしれない。
気分を変えて一時、南西から離れて新たな行き先を決めていた。
地図の中央に向かう予定だ。
それに南西で狩りを始めたら逆に月が自分を追って来る可能性もある。
直ぐに月と再会するのは簡単だけど、それではつまらない。
別の方角に向かうことにする。
しばらくしてから南西に行くかは保留にしておこう。
移動しようとした矢先に突然、金色のカブトムシがPoHの周りに宙を舞う。
「俺を選んでくれたな」
そう言うとデイパックからブレスレットを取り出し、右腕に巻き付けた。
この言葉を指していたのは金色の昆虫メカことカブティックゼクターだ。
「ちょいと、実験してみるか」
カブティックゼクターはブレスレットに鎮座した。
先程、交戦した男と同じ掛け声を口にした。
「変身」
『HEN-SHIN』
『CHANGE BEETLE』
PoHの全身が装甲に覆われていく。
その姿は上半身も三又の角も黄金で王様を思わせるような感じだ。
右肩にはショルダーアーマーが装備されている。
その名は仮面ライダーコーカサス。
秘密機関ZECTが別世界線にて開発したコーカサスオオカブト型のマスクドライダーシステムだ。
実はPoHの最後の支給品がとても有力な物があった。
見せしめで殺された葛葉紘汰が言っていた仮面ライダーという変身アイテムだ。
いい物を当てたと思いきや簡単にカブティックゼクターに選ばれなかった。
宝の持ち腐れだと思った。この時までは。
でも、カブティックゼクターはPoHが資格者に相応しいか内密に見極めていた。
そして、月との戦闘を観察して今、カブティックゼクターに認められたに至る。
「システムは異なっているが、悪くねぇな」
仮面ライダーに変身出来た途端、気分を取り戻した。
紘汰と月とは変身アイテムの形状は違うが興味深かった。
「あれを試すか」
最初にコーカサスの説明書を確認し、頭の片隅に置いておくだけだった。
あれの効果を試すなら丁度良かった。
「クロックアップ」
『CLOCK UP』
すると物凄い速度で移動を始めた。
それはクロックアップという能力だ。
これに変身した時のみ流れてくるタキオン粒子を操作し、超高速移動が出来るらしい。
常人では目視出来ない速さを上回る。
効果を試したら思っていた以上だ。
思うように移動している最中だった......
『CLOCK OVER』
何故か急にクロックアップが解除されたのだ。
PoHはその答えを直ぐに理解する。
「無敵じゃねぇのを知っただけでも充分だ」
この能力は強力だが、過信しないほうが身のためだ。
連発も不可なのは確認出来た。
決める時に決めないといけない。
変身を解除した後、地図を見るとクロックアップのお陰でF-3の南側に移動していた。
狩りでもないのにクロックアップを使用したのは月を撒くのが目的であくまで実験段階。
ここまで来れば月と直ぐに再会はしないだろう。
この会場の中央へと歩き出した。
PoHは知る由もないが、無惨と滅がこの付近に滞在していた。
運がいいのか悪いのか定かではないが、PoHは戦闘音を聞くことも彼らに遭遇するもなかった。
彼はそのことに一切、気づくことはなかった。
△
橋を渡り終えたPoHは歩みを進める。
そんな中PoHは思考を纏めている。
月を追うのに夢中でそれ所ではなく後回しにしていた。
(そういや閃光は来てねぇな。なら、あいつと一緒にいる仲間に変更するか)
新たな考えが浮かび上がった。
キリトの愛人アスナと言う女がいないのは残念だが、いなくても充分だ。
奴は今頃、このデスゲームに乗らずに仲間を作っているのだろう。
アスナの代わりに今の同行者或いは現在の相棒をターゲットにして、目の前で殺し、キリトを追い詰める。
そして、キリトを最高の愛情を持って殺す。
(あの神様気取りが反故にするなら.......)
PoHが危惧しているのは、最後の一人として生き残っても、主催が渋って、最終的には自分も始末する最悪の事態だ。
諸事情でPoHは韓国系の犯罪組織に拾われて、いくつもの汚れ仕事をしてきた。
故に長年、裏の世界で暗殺者としての勘からそう考えた。
ハ・デスと磯野がいい例かもしれない。
仮に自分にも殺しに掛かるなら、主催も皆殺しに含める。
(まあいい、その時になれば分かるさ)
今はこのバトルロワイアルを愉しもう。
狩りはまだまだ始まったばかりだ。
序盤でこれについて考えるのは今はまだいい。
何れにせよ最悪も想定しておこう。
気を取り直しPoHは新たな狩り場を求めて歩き続ける。
一つだけこの時点のPoHには預かり知らぬのがある。
それは心意システムである。
想いの力があれば色々な事象を発動できる。
それが歪んだ想いや憎悪だろうと関係ない。
扇動の心意も問題なく引き起こせるのにPoH自身は知らない。
あれからかなり時間が経過し、誰とも遭遇せずに進展はない。
地図の中央辺りに来ても見られずにいた。
その矢先、向こうで戦闘音が聞こえた。
「お待ちかねの狩りの時間だな」
PoHは戦闘音がした方向へ走って行った。
△
結論から言ってPoHは気配を隠して様子見を決めた。
ようやく狩りの時間に在り付けると思ったら、遠目にてある存在に気づけたのだ。
自称神様が紹介したレッドプレイヤーがこの場にいてそれ所ではない。
ぱんだ荘に隠れて継国縁壱の実力を確認することにした。
縁壱と相対するのが五人の日本人だ。
まず、あの集団の中で一番強いのは軍服の男だ。
相当な手馴れで血盟騎士団に入ってもおかしくない実力だ。
剣捌きも中々やるみたいだ。
次にマシなのは黒服の陰キャラのような男だ。
場数を踏んでいるのもあって悪くない。
遠目で発見した際は同じ黒のせいでキリトと危なく間違いかけたのは内緒。
仮にキリトがいたら静観せずに飛び出していただろう。
女三人ははっきり言って論外。
恐らく、月同様、支給品で補って強化しただけだろう。
ズブの素人で全体の足を引っ張っている印象だ。
本気でやれば一人ずつ二秒も掛からずに終わる。
肝心な侍の実力はどんでもなかった。
無駄な動きと隙を見せる気配がない。
軍服の男が優勢になったと思いきやそれをあっさり跳ね除けた。
主催が用意しただけある。
(あんなバケモンに隙なんてあんのか?)
余りにも強すぎて見たことないが、アインクラッドの百層のフロアボスと遜色ないと考えた。
この序盤で手を出すべきではないと決断した。
あの侍は全参加者からラスボスとして無視出来なくなる。
攻略する方法を見つけるまで放置で良いだろう。
(つまみ食いしても罰は当たらねえよな)
PoHは見ていることしか出来ない黒服の男と女三人に視線を向けていた。
軍服の男と侍が戦闘中に四人を狩りの時間にする。
月との邂逅以降、参加者との接触がなかった。
扇動させる火種もなさそうなので、ちょうどコーカサスの性能を試す実験台にしよう。
クロックアップ以外にもスペックを把握するにはいい機会だ。
狩りの最中に先に軍服の男が負けたら直ぐに逃走するのを忘れない。
ここでウエイトレスの女が何らかのカードを取り出した。
これは自分が使用したカードと同類だ。
連中に動きを見せた。
そして、カードを掲げた。
(させねえよ)
邪魔をするべく動き出そうと・・・・・・
すると不快な笑い声がした途端にウエイトレスの女が殺された。
笑い声の正体は道化師のような和風装束の男だ。
ウエイトレスの女を殺った下手人は小学生くらいの女だ。
突然の乱入によってPoHは静観を延長する。
あの様子だと手を組んでいると即理解する。
黒服の男が突撃したら、リンボと言う陰陽師によって呆気なく叩き潰された。
如何やらあの陰陽師は流石に侍程ではないが、只者ではない。
未来のPoHなら後にある組織の上司になるガブリエル・ミラーに匹敵或いはそれ以上と評しただろう。
オレンジ髪の女が剣で斬りかかる途端、女子高生が乱入し、一蹴した。
盗み聞きした会話で最上と言う女子高生も手を組んでいるらしい。
この女も月とは比べ物にならない程の邪悪で容赦なくウサギを虐殺した。
(こいつは傑作だ。あのメスガキ狂ってるな)
PoHは今でも笑いを堪えている。
角が生えた赤髪の女と良子と呼んでいるメスガキは何と姉妹らしい。
何でも姉の為に殺し合いに乗って、残らせるべく手を汚したそうだ。
参謀と自称したことから嘗て自分が立ちあげた組織ラフィン・コフィンの幹部ジョニー・ブラックと同じ立ち位置だと考えた。
ラフコフと攻略組よる惨劇と同じくらい面白い物を見れて満足だ。
(あいつら終わったな)
どう考えても自分が手を出さなくても終了だ。
どんなフィナーレを飾るか楽しみにした時だった。
(あれは)
別の二人の日本人がこの戦場に乱入し、オレンジの髪の女を助けたのだ。
ヒーローは遅れて到着する。お手本のような場面だ。
それを見たPoHは面白くなかった。
しかもマゼンタ色の仮面ライダーと剣士の女は強い。
『という展開はまたいずれ。此処はこれにて御免』
あの台詞から撤退するつもりらしい。
PoHももう離れるつもりでいた。
この場に残っても意味がなくそれどころか次に自分が侍の標的にされるであろう。
キリトも現れる気配はなくこの場にいる連中に聞けなかったのは残念だ。
それに陰陽師達に用がある。
空飛ぶ絨毯で飛び去って行くと同時に人知れずにぱんだ荘から離れて行き、絨毯を追いかける。
△
「面白くなって来たじゃねえか」
PoHは走り続けていた。
陰陽師達に接触する為に。
それは彼らと一時休戦をして、手を組むのが目的だ。
PoHはこのデスゲームで大分認識を改めざるを得ない。
最初に遭遇したのが月であるが故に若干余裕があると思えた。
しかし、自称神が用意したレッドプレイヤーの実力を始め陰陽師一味や乱入した実力のある偽善者のアジア人によって兜の尾を締めさせてくれた。
この場は終始、静観を徹底したお陰で単体では遅れを取る気は毛頭ないが、組んだら面倒だと知っただけでも儲け物だ。
最初はラフィン・コフィンのような集団を結成しようと考えた。
陰陽師一味の有力さと陰陽師にほんの少しだけ興味を持ったことで気が変わったのだ。
あの集団は陰陽師がリーダー格だが、女子高生のほうが冷静に見える。
四人の日本人を横取り行為は頂けなかったが、代わりに面白い物を見れたのでなかったことにする。
あの陰陽師は明らかに自分と似た本質だと気づいたから。
他人の本質を見抜き矜持、信念等を平気で踏みにじみ愉悦を感じる所は共感出来る。
奴の邪悪さは下手すれば自分を超えているだろう。
信用は一切、出来ないが同じ同類として、一時休戦を申し込んで損はしないはずだ。
陰陽師は直感だが、恐らく、人間でないだろう。
殺し合いに乗っている日本人と手を組むのは反吐が出るが、ラフコフの構成員みたいに利用尽くして最終的に捨てれば問題ない。
勿論、断られる可能性もあるので迎撃と撤退の準備も怠らずに慎重に交渉する。
仮に交渉に成功しても全員が利用し合う関係で利害一致しただけに過ぎず、自分に憧れていた馬鹿ばかりのラフコフの構成員とは違う点だ。
同行するにしろ別で行動するにしろ用心もする。
理由はまだある。陰陽師一味と手を組めたらキリトを殺させない為と遭遇する確率を上げる為。
いくらキリトといえども陰陽師一味相手に多勢に無勢で一溜まりもないかもしれない。
その為には釘を刺しておくが、約束を保証する可能性は低いだろう。特に陰陽師は。
それにしても繰り返すが手を組めたらメスガキの姉をレッドプレイヤー側にさせるのも面白そうだ。
先程はいい物を見れたけど、手を組めたらそれはそれ、これはこれだ。
姉妹共々後戻り出来ない方向に行かせるのも悪くない考えだ。
その役目は陰陽師に任せても構わない。
奴もどうせ同じことを考えているであろう。
(さて、連中の方向は――――だ)
遥か彼方へ行った絨毯に乗っている陰陽師一味を追っている最中だ。
連中の行き先を把握出来たのは一足早くあの場から離れた判断力と前方を見れたのもあるが、一番は飛んでいると目立っていたお陰で行き先を完全に特定した。
後は飛行し続けると目立つのでそう遠くに行かないだろうと推測する。
PoHはこの交渉を吉と出るか凶と出るかはまだ誰にも分からない。
【E-5/一日目/早朝】
【PoH@ソードアート・オンライン】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン、カブティックゼクター(コーカサス)+ライダーブレス@仮面ライダーカブト、シフトチェンジ(現在使用不可)@遊戯王OCG
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本:この決闘を楽しむ。
1:陰陽師一味に接触して、一時休戦&手を組むのを交渉する。
2:あのアジア人(月)は今後どうなるやら。楽しみだ。
3:この剣でキリトだけなくその相棒或いは同行者も殺す。
4:アジア人は優先的に殺すか扇動していく。
5:手を組めた場合はメスガキ(良子)の姉(シャミ子)をレッドプレイヤー側にさせるのも悪くない考えだ。
6:主催も皆殺しにするのも視野に入れる。
[備考]
※参戦時期はラフィン・コフィン討伐戦より後です。
※コーカサスの資格者に選ばれました。
※アニメ版で披露した扇動の心意は問題なく作用します。
※リンボ一派の方向先を把握しました。詳細は後続の書き手にお任せします。
【カブティックゼクター(コーカサス)+ライダーブレス@仮面ライダーカブト】
PoHに支給
マスクドライダーシステムの一つ。
資格者が変身ツールのブレスレット型のライダーブレスを装着する。
コーカサスオオカブト型メカのカブティックゼクターを資格者が装備することでコーカサスに変身する。
代理投下を終了します。
タイトル付けが途中からになって申し訳ありません。
桐生戦兎、エボルトを予約します
投下します
「まっ、そういうこともあるだろうよ」
自分の肩に手を置き言う同行者に視線をぶつける。
軽薄な笑みのエボルトへ、戦兎が向ける目はまた始まったと言わんばかりにうんざりしたもの。
唐突にそういうことと言われても、何のことやらサッパリである。
「んな難しい顔するなって。そろそろ夜のお散歩にも飽きて来たんじゃねえかと思ってな?ピリピリした空気を和ませようと気を遣ってやったんだぜ?」
「本当に気遣いするつもりなら黙って歩いてろ」
冷たく返すがここ数時間で一切収穫が無いのは否定出来ない。
やちよと別れてから今に至るまで、やったことと言えば軽口を叩くエボルトの相手をし、時折出現するNPCを撃退したくらい。
万丈達はもとより、共にゲームを止める協力者には未だ出会えず。
ゲームに乗った危険人物との戦闘も無し。
当然やちよの探し人である環いろはの発見も未達成。
ストレートに言ってしまえば、時間を浪費しただけだ。
そういうこともある。
エボルトに同意するのは非常に癪だが、こればっかりは反論も難しい。
ゲームにおける参加者のスタート位置は完全にランダム。
立て続けに他のプレイヤーと接触する者がいる一方で、戦兎達のようにエンカンウトゼロだって有り得なくはない。
そう理解しても、ここまで誰とも会えないのには流石に内心で頭を抱えたが。
「…というかお前、いつまでその見た目になってんだよ。まさか気に入ったとか言う気じゃないだろうな?」
「愛着で言えば石動には及ばねぇさ。ただ女に擬態ってのもそこそこ貴重な体験なんでね」
戦兎の呆れを気にしていないらしく、変わらぬ薄ら笑いを返すのみ。
とはいえ戦兎の記憶に焼き付く石動総一とは似ても似つかない。
モデルのような長身は影も形も見当たらず、戦兎の目線は普段より下。
桜色の髪の少女、いろはへの擬態は解かれずにいた。
スカートを摘まんでヒラヒラ揺り動かす姿にジト目が突き刺さる。
戦兎はいろはがどのような性格の人間かを知らない。
だがやちよがあれだけ心配する相手だ、少なくとも今目の前にいる奴のように胡散臭い笑い方をする少女ではないだろう。
「それにやちよと合流しても、このお嬢ちゃんが見付からなかったって知ったら落ち込むだろ?ならせめて、外見だけでも真似してやろうっていう俺なりの優しさだ」
「一回で懲りろよお前は」
どう考えたって、やちよの神経を逆撫でする挑発行為に等しい。
槍を突き刺されても文句は言えない。
優しさなどと口にしてはいるものの、やちよをおちょくりたいだけだろうに。
合流までにいろはの擬態を止めさせる必要がありそうだ。
「ま、今は取り敢えず退屈しのぎと洒落込むか」
少しばかり周囲の気配が騒がしくなり始めた。
と言っても特別警戒する程ではなく、のんびり振り返れば予想通りの光景。
NPCが群れを成して現れ、二人を取り囲む。
一般人なら腰を抜かす状況も、戦兎達にしてみれば恐怖より先に些か飽きが来る程度。
近寄って来た蝙蝠の翼を持つ髑髏を蹴り落とし、踏み付けながらトランスチームガンを取り出す。
「ローグを思い出すねぇ。道楽息子も今や立派な政治家、元同僚として鼻が高いってもんだ」
「お前が幻さんをどうこう言うんじゃないよ」
そもそもこの男がスカイウォールを発生させなければ、旧世界で幻徳が道を誤る事も無かった。
知った上で叩く軽口をピシャリと黙らせ、戦兎もドリルクラッシャーをガンモードに変形。
燃え盛る矢でこちらを狙う髑髏へ照準を合わせる。
数はそこそこでも力は大したことない。
変身せずとも培った戦闘経験のみで対処は十分可能。
殲滅は時間の問題だった。
「これにてお掃除終了、っと……んん?」
残る一体を撃ち殺し、気怠い仕草で首を解すのも束の間。
目を凝らし遠くを見つめるエボルトを怪訝に思い、つられて戦兎も同じ方向を見やる。
「あれは……」
「どうやらやぁっっっっと運が向いて来たか?」
頼れる明かりは月の光だけだが、二人は確かに見た。
少し離れた場所に何らかの建造物、それも大きさや形からして民家の類ではない。
確かめない理由はどこにも無い、駆け寄ってみるとすぐ正体が分かった。
「寺、だよな…」
「ご丁寧に名前まで書いてるしなァ」
歴史を感じさせながらも堂々とした佇まいの門を見上げる。
殺し合いの舞台に寺を設置する意味はあるのか。
命を弄び者を冒涜する自称神に、まさか仏への信仰心があった訳ではないだろうに。
単なる気まぐれやお遊びのつもりか、或いは参加者にとって役に立つ何かが隠されているとでも言うのか。
疑問は尽きない、しかしようやっと代わり映えのしない深夜徘徊に変化が訪れたのは事実。
中に入って調べてみれば分かることだ。
それなりに長い階段を上り本堂に到着。
一見これと言って不審な所は発見できず、やはり普通の寺だ。
二手に分かれて堂内を調べる。
目に付いた部屋を順に見て行くも、特別おかしな箇所は無し。
修行僧達の生活スペースを確認し終え、分かったことはただの寺であるという一点のみ。
「本当にただのお遊びで設置したのか…?」
ゲーム感覚で殺し合いを始めた主催者なら、それが事実でも不思議は無い。
眉間に皺を寄せ、結局時間を無駄にしただけかと落胆のため息をつく。
「いーや?そうとも限らないみたいだぜ」
肩を落とす戦兎の背後から掛けられる声。
エボルトの方は何か発見があったのか、面白いものを見付けたと言わんばかりの表情。
百聞は一見に如かず、見た方が早いと案内された先には地下へ通じる階段。
降りてみれば、成程確かに普通の寺にあるまじき空間が広がっていた。
白い花が浮かぶ泉に鎮座する巨大なモノリス。
眼を思わせる奇妙な紋様には、不思議と意識を引き寄せられる神秘さが宿っている。
だがモノリスと対面位置のスペースにはミステリアスと程遠い、至って現代的な物の数々。
資料が収められた本棚に積み上がったダンボールの山々。
何かの研究機材まで置かれており、どうにも不可思議な部屋だ。
「何だここ…本当に寺の地下なのか?」
「驚いたろ?まさか俺の店以外にもこんな秘密基地を備えた場所があるとはねぇ」
「お前じゃなくてマスターの店だろ。お前の時と違って大繁盛してるぞ、新世界のnascitaは」
「マジかよ!?おいおい石動の奴、俺のコーヒー抜きでどう店を流行らせた?」
「それが理由でしょーが。ってかそんなどうでもいいのより……」
脱線し出した会話を打ち切り地下室を調べに掛かる。
モノリスも気にはなるが真っ先に確認しておきたいのは別の物だ。
研究機材が置かれたスペースに駆け寄りパソコンを起動。
電源が入り画面が切り替わるや否やキーボードを操作、素早くチェックを入れていく。
「使えそうか?」
「ああ、回線は生きてるしネットにも繋がる。それに道具も粗方揃ってるみたいだ」
パソコンはただの飾り物、なんて肩透かしな展開にはならず。
使い物になる上に、何の用途で集めたのか不明だが工具類も一式完備。
旧世界や新世界での実験スペースでは無いが、戦兎にとっては正に持って来いの空間。
ここなら首輪の解析・解除を行うのに相応しい場所だ。
数時間かけてようやく収穫を得られた。
後は出来れば首輪のサンプルを手に入れ、本格的な解除に乗り出せれば文句なし。
恐らくは檀黎斗も戦兎のような技術者が立ち寄るのを見越して、こういった施設を設置したのだろう。
あの男に感謝する気は微塵もない、しかし役に立つは否定できないから腹立たしい。
「こいつも含めて、自称神様からの贈り物ってとこかね」
戦兎同様感謝の欠片も無い声色の方を見ると、だらしなく床に胡坐を掻くエボルトがいた。
スカートを履いた少女の姿でやる恰好ではない。
一体どこから取り出したのか、寄り掛かるのは青いボディのバイク。
片手にはこれまたいつの間にやら奇妙な道具が一つあり、遊ぶように放ってはキャッチを繰り返す。
「お前それ…」
「裏口の近くに停めてあったのを拝借させてもらったのさ。ついでにこの玩具もな」
参加者に配られたデイパックは大きさや重さに関係無く収納可能。
バイクを仕舞ったのに驚きは無い。
ただエボルトが手に持つ道具は違う、戦兎にとって別の意味で驚愕の対象となる。
「確か…ゴーストが使ってたアイテム、か…?」
「そいつは…あー……あれか?最上の事件の時の?」
神妙な顔付きで頷き返す。
エニグマ事件で共闘した並行世界の戦士、仮面ライダーゴーストが使うアイテムと同じ形状だ。
ここでようやく、石板の紋様がゴーストの装甲に描かれたものと同じなのに気が付く。
エボルトが手に入れたアイテムといい、もしやこの寺はゴーストに関係する場所なのだろうか。
だがゴーストの変身者である天空寺タケルはゲームに参加していない。
施設の設置は首輪解除の為として分からないでもないが、タケルがいないのにゴーストの使う変身アイテムを置く意味はあるのか。
(いや、もしかすると…)
タケルはゲームにおらずとも、ゴーストのベルト等は支給されている。
或いは、タケルと同じ変身システムで戦うライダーが参加者に登録されてるのか。
タケルの交友関係を深く把握はしておらず、万丈から聞いた御成なる者も不参加。
本当に参加しているかどうかは現状不明。
とはいえどちらが正しいにしても、その人物が黎斗を止めるのに協力的であることを願いたい。
「で、運良く足も手に入ったがこっからどうする?やちよが待ちくたびれてキレる前に戻っちまうか?」
「そうだな……」
バイクが手に入り移動時間を短縮出来るのは嬉しい誤算。
もう少し周囲のエリアを探索するか、時間を考えるとやちよとの合流場所に向かった方が良いという意見も分かる。
地下でパソコン内のデータをもっと詳しく調べたくもあり悩ましい。
仮に周囲の探索を選んだ場合はD-1にて戦闘中の一団と遭遇する可能性が高い。
その中にはエボルトが見付けた『眼魂』の本来の持ち主の深海マコトもおり、彼は戦兎が願った通り打倒主催者を掲げる正しき心の持ち主。
現在マコト達は、クロスセイバーで猛威を振るうミーム汚染の怪物相手に苦戦を強いられている。
歴戦の戦士である戦兎達が救援に駆け付ければ、事態を好転させられる可能性は決して低くない。
一方やちよとの合流を優先した場合も事は大きく変化を見せる。
門矢士やレイを始め、6人もの参加者と顔を合わせるのだ。
キャスター・リンボ一派に攫われた吉田優子、その妹の良子救出の為にこちらも戦力は必要。
どちらに向かったとしても、戦兎達の力が求められるのは同じ。
尤もそれらの事情を戦兎もエボルトも知る由は無く。
今はさてどうするかと考え込むのだった。
【E-1 大天空寺/一日目/早朝】
【桐生戦兎@仮面ライダービルド】
[状態]:健康
[装備]:ビルドドライバー+フルボトル(ラビット、タンク)@仮面ライダービルド、ドリルクラッシャー@仮面ライダービルド
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1(確認済み、フルボトルは無い)
[思考・状況]
基本方針:檀黎斗を倒し殺し合いを終わらせる。
0:探索を続けるか、やちよの所に戻るか、それともここでもう少し調べるか…?
1:西方面を探索。6時間後にE-4で七海と合流する。
2:監視も兼ねてエボルトと共闘する。信用した訳じゃねぇからな
3:大天空寺な首輪も解除できそうだ。後はサンプルもいるか…。
4:万丈達やエグゼイドを探す。エグゼイドは檀黎斗を知っているのかもしれない。
5:環いろはをこっちでも探してみる。
6:デュエリストにも接触しておきたい。
[備考]
※参戦時期は『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』以降。
【エボルト@仮面ライダービルド】
[状態]:健康、環いろはに擬態中
[装備]:トランスチームガン+コブラロストフルボトル@仮面ライダービルド、マシンフーディー@仮面ライダーゴースト、フーディーニゴースト眼魂@仮面ライダーゴースト
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:生存優先。あわよくば未知の技術や檀黎斗の持つ力を手に入れる。
0:どうするかねぇ。
1:西方面を探索。6時間後にE-4でやちよと合流する。
2:戦兎と共闘しつつどこまで足掻くのか楽しむ。仲良くやろうぜ?
3:エボルドライバーを取り戻す。元は内海の?知らねぇなァ。
4:正攻法じゃあ檀黎斗を倒すのは難しいか。
5:やちよの声はどうにも苦手。まぁ次に会えたら仲良くしてやるさ。
[備考]
※参戦時期は『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』で地球を去った後。
※環いろはの姿を写真で確認した為、いろはに擬態可能となりました。
【フーディーニゴースト眼魂@仮面ライダーゴースト】
脱出王の異名を持つ奇術師、ハリー・フーディーニの英雄眼魂。
ゴーストドライバーに装填すると専用バイクであるマシンフーディーがパーカーゴーストに変形、フーディーニゴーストを纏いフーディーニ魂に変身する。
【マシンフーディー@仮面ライダーゴースト】
仮面ライダースペクター専用のバイク。
車体に巻かれた鎖を使用して攻撃することが可能。
フーディーニの魂の分身ともいえる存在で、スペクターがフーディーニ魂に変身する際にはパーカーゴーストに変形する。
『施設紹介』
【大天空寺@仮面ライダーゴースト】
天空寺タケルの家を兼ねた仏教の寺。御成たちが修行する場でもある。
敷地には本殿の他に寺務所兼居住スペースがあり、地下室には研究室や居間が存在する。
研究室は亡き先代住職の天空寺龍が密かに行っていたゴーストハンターの拠点にしていた名残で幽霊に関する資料などが多く保管されている他、月村アカリが持ち込んだ多数の機材も置かれている。
また、壁側にはゴーストへの変身時などに現出する目玉型の紋章が刻まれた巨大なモノリス設置されている。
『NPC紹介』
【ファイヤー・デビル@遊戯王OCG】
通常モンスター
星2/闇属性/アンデット族/攻 700/守 500
炎の矢を手にする死神。
その矢にあたると火だるまになる。
【青眼の銀ゾンビ@遊戯王OCG】
通常モンスター
星3/闇属性/アンデット族/攻 900/守 700
目から出す怪光線で、相手をゾンビに変えてしまうと言われている。
投下終了です
みなさん、投下乙です
>二人だけは二人信じてる
まず最初に、キリトと空を書いてくださりありがとうございます!
空の洞察力は、流石の一言。頭脳面で本当にキリトの頼れる相棒になれそうな気がしますね。
一方のキリトはユージオの一件があるから親友じゃなくて仲間として、というのも納得です。そもそもキリトはロワ以前にも色々失い過ぎた……。
>『神であり最強のラスボスとしても君臨している私を倒せたら、ゲームクリアということ君たちを元の世界へ帰してやろう』
>この発言でヒースクリフと同類だと理解してしまったのだ。
ここ、茅場のことを理解してるキリトだからこそって感じで好きです
ここに限らず、茅場とキリトのあの絶妙な関係性が要所要所で描写されているの、良いなぁと思いました。
キリトも空も、あれだけ檀黎斗が好き放題して強さを見せ付けても怯まず、己が信念を胸に立ち向かおうとするの本当にこいつららしい。
空黒というコンビ名もいいですね!
>マゾクの心得
キリトがハズレだと思っていた支給品も、しっかりと確認する。実に空らしい行動。
リリスの長寿っぷりを聞いても大して驚かない空。そりゃジブリール達を知ってればそういう反応にもなるよなぁ。
しかしここに来て支給品と出てきたリリスだけど、その知り合い達の現状があまりにも……。
空達がエルキア大図書館を発見出来たことは、色々と考察が進みそうなので幸運でしょうね。
> Round ZERO〜Ruffin Coffin Evil
キリトが投下された後、それを追うかのように投下された因縁の敵、PoH!
相変わらずエンジョイ思考ですね、こいつは。
ただでさえアニメだと心意を使いこなしていた男が、カブティックゼクターにまで認められてしまった。これは対主催にとって厄介な存在になりそう。参戦時期的に本人がまだ心意を知らないのが救いか。
バトロワを楽しむ方針でありながら。ラスボスレベルの縁壱は無視する。そりゃPoHは強者と戦いたいだとか、そういう動機じゃないからなぁ。
それにしてもリンボ一派とPoHが手を組んだら対主催的には大変だ。PoHは本当に性格悪いからな……。
キリトだけはリンボ達にも手出しさせたくないと思ってるの、執念がよく滲み出てる
> 発見!希望への第一歩!
タイトル通り、希望への第一歩という感じの話ですね。
参加者には全然遭遇出来てないけど、この二人が首輪解除の役に立ちそうな大天空寺を発見出来たのは大きい。
それにしてもエボルト、いろはに擬態してやりたい放題である。
戦兎とエボルトの軽快なやり取りが個人的に好きです。原作でも割とこんな感じのノリだしね、この二人は。
隠しアイテム的にマシンフーディーニや眼魂が置いてあるの、主催が主催だからそういうことするよなぁと。
そして戦兎達は、どの選択を選ぶのか。続きが気になる終わり方ですね
ゲリラ投下します
「そういえばまだ聞いて無かったんだけどー」
或人と別れそれなりの時間が経った頃。
ふいに思い出したように言い、傍らの陰陽師を見上げた。
可愛らしい容姿の童女と、美麗なれど奇抜以外の言葉が見付からぬ大男。
ミスマッチな一人と一体は移動の最中、ずっと沈黙を貫いていた訳ではない。
と言うよりも饒舌なリンボが共にいれば、静寂など式神が消滅しない限りは訪れ無いだろう。
あれやこれやと軽口を叩く術者へ、魔法少女の返答は塩対応。
姉を助けたいという決意に共感を抱く良子や、去り際の一言から何とも言えぬ想いを向ける最上。
彼らと比べれば、リンボへの印象はお世辞にも良いとは口が裂けても言えまい。
その癖、会話のペースを握るのも上手いのだから全く腹立たしい。
減らず口へ皮肉や嫌味を飛ばしてものらりくらりと躱され、反対に嫌な所を突いて来る。
灯花自身、年齢とは不釣り合いに頭と口が回る少女故、大の大人を言い負かすくらいは容易い。
が、残念ながらその点についてはリンボが遥かに達者と認めるしかなくて。
一々本気で相手にしていれば最初の遭遇時や、先の或人の二の舞となるだけ
結果、適当にあしらうのが自身の精神衛生上的にも賢いやり方と気付くのに時間は掛からなかった。
「おや珍しい、灯花殿の方から拙僧との閑談を望むとは。やはり灯花殿も子女と言えども、殿方への興味は尽きぬ年頃ですかな?」
「凄いねー、本題に入る前から話す気力をごっそり奪っちゃうんだもの。これも一種の才能かにゃー」
数時間の間に両者にとってはお馴染みとなりつつある応酬を挟み、灯花は自身の腕を指差す。
衣服で包んだ細腕に装着された、デュエルディスクを。
「あなたもこれと同じものを持ってるの?」
デュエルモンスターズのデッキとデュエルディスク、その存在を灯花が知ったのは殺し合いが初。
同封された説明書に加え、放送後に配布されたアプリでルールをざっと確認し回し方は覚えた。
ネネ相手に実験を行った時は使い魔を呼び出す機械程度に見ていたが、黎斗の放送を機に少しばかり考え方を変えたのである。
説明する際の口振りや、急遽行ったデッキ所持者への支給品調整等。
やけにデュエルモンスターズの存在を推しているように感じられたのは、恐らく気のせいでは無い。
放送直後はいろはの参加や接触を図って来たリンボに意識の大半が割かれたものの、今になって頭の片隅から引っ張り出した。
灯花はリンボの能力に利用価値を見出してはいても、信用を向ける気は皆無。
どうにか手綱を握りつつ、寝首を掻かかれないよう注意を払わねばならない。
早目に手の内を一つでも多く知っておけば今後の連携にも、いずれ来るかもしれない決別への備えにも役に立つ。
「残念ながら、灯花殿のような紙束は手元にありませぬ。札遊びの勝負師として腕を鳴らすのもまた一興と思いまするが、いやはやこればかりは運ですなぁ」
「ふーん?あの死んじゃった人よりは、マシな使い方をしそうだけどにゃー」
主催者が強く推すデュエルモンスターズも、金髪の偉丈夫に殺された少女が使い手では宝の持ち腐れ。
何を期待して彼女に支給したのか、或いは偶然デッキの入ったデイパックを渡されただけか。
どっちにしても自分は勿論、リンボのような者ならもっと上手く使いこなせただろう。
「ですが興味深い物は手に入りましたぞ」
デッキが無い事へわざとらしく肩を落とす仕草から一変、これ見よがしにデイパックへ手を突っ込む。
因みに式神のリンボが所持するデイパックの本来の持ち主へ、灯花が特別思う事は無い。
情報交換の際に容姿を聞いたところ、いろはやねむとは全くの別人と判明。
殺して奪った点に関しても、『そういう連中』だとは分かった上で手を組んだのだから。
「さてさてご覧に入れますは奇想仰天摩訶不思議な絡繰り!どうか拙僧の正気を疑わずに耳を傾けて頂きたい、時を超え遥か未来よりの――」
「いいから早くしてよ」
この男はもっとテンポ良く会話を進められないのか。
温度を失った瞳をぶつければ、これは失敬と非常に胡散臭いスマイルを一つ。
白い目に急かされ中身を取り出し、灯花の前にデンと置く。
「…テレビ?」
複数のボタンと液晶画面は、現代人なら余程金銭に不自由していない限りどの家にもある家電用品。
しかし家電量販店で売っているのとはどこか違う。
首を傾げる灯花へ弾むようにリンボは説明の為の口を開いた。
曰く、タイムテレビなるこの機械は名前の通り時間を遡り過去の光景を画面に映すのだという。
未来視や過去の読み取りを固有能力として持つ魔法少女の話なら、灯花も小耳に挟んだ事がある。
だが魔法少女が関わらない、純粋な科学の産物としてこういった物が実現するのは驚きだ。
既にデュエルディスクを見ている為か、言葉にする程の驚愕は無いが。
「便利だねー…って言いたいけど、どうせそれだけじゃないんでしょ?」
「やはり分かりますか」
過去の光景を見れるとは、会場のどこで何が起きたかを現在地から動かずに把握可能。
情報を一気に獲得できる優れものと感心したいところではあるが、生憎楽観的にはなれない。
既に起こった事のみとはいえ、参加者一人がそこまでの情報アドバンテージを得るのを主催者が容認するとは考え辛い。
案の定リンボの口からそう上手く事は運ばないと知らされた。
同封された説明書によれば、タイムテレビには予め使用回数制限が設けられている。
5回目を最後に一切の操作を受け付けず、単なる粗大ゴミと化す。
複数回、なれど決して多いとは言えない数に灯花も思わず唇を尖らせた。
「して、如何致しますかな灯花殿?一度試してみては?」
そう言われても、どこのエリアを見るかを直ぐには選べない。
自分達の現在地に隣接するエリアか、人が多く集まりそうな市街地か、ずっと北部のエリアか。
回数制限なんぞのせいで一つ選ぶだけでも悩み、まだ使わずにいた方が利口ではないかとも思えて来る。
「決断に迷うのであれば、どれここは拙僧が天運を信じて…」
「あ、ちょっと!勝手に触らな――」
抗議の声も空しく長い指がボタンを操作。
エリアの選択を正しく受け取り、画面上へ映像が映し出される。
今から数時間前の光景、奥の方には白い建造物が見えた。
灯花にとっても馴染み深い施設、病院だろう。
尤も、そんなものより目を引く存在が映像の中にあった。
「え……――――」
知っている、そこに映る『彼女』の全てを知っている。
知らない訳が、分からないなんてことは有り得ない。
子供ながらに綺麗だと思った、春爛漫の色をした長髪。
いつも見せてくれた優しい顔は、初めて病院の地下で訪れた魔女の結界内と同じ真剣な表情。
純白のフードを翻し戦場を駆ける『彼女』は、記憶に深く焼き付くまま。
「お姉さま……?」
誰よりも救済を望む最愛の魔法少女。
環いろははこんなにも灯花の近く、触れる事の叶わない箱の中で戦っていた。
○
(ンンンンン!これはこれは…)
予想外の結果にはリンボも内心で幾らかの驚きを浮かべる。
確信があってではない、適当に選んだエリアでまさかの光景。
灯花の反応を見れば映像の中の少女が誰かは即座に察しが付く。
瞬きを忘れ釘付けとなる灯花とは正反対に、リンボはさも楽し気に画面を覗き込む。
白が駆け、黒が斬り、赤が咆える。
人をやめた、人ではいられなかった異形達の闘争の記録。
酷く現実離れした映画さながらの映像、しかし断じてフィクションに非ず。
主演は三人、麗しの魔法少女と二体の怪物。
六眼の侍と真紅の騎士はどちらもリンボの記憶に無い存在。
これまで会った参加者との情報交換においても、彼らと同じ特徴の者の話は耳に入って来なかった。
(さしずめ喜怒哀楽ならぬ怒怒怒楽といったところ、ですなぁ)
激情を露わに大剣を振り回す騎士への嘲りを内心で一言。
だが子供染みた癇癪とは正反対に、剣筋の何たる鋭いことか。
怒りで己を縛りながらも剣の腕は翳り無し。
一方鎬を削る侍もまた相当な手練れ。
不可視の斬撃を放つ術もさることながら、侍自身の技も達人という枠には到底収まらない。
英霊剣豪にも決して引けを取らない魔技の使い手達だ。
そして戦況に変化が表れた。
透き通った氷の槍はいろはを容赦なく貫き、純白のフードを瞬く間に染め上げる。
青褪め名前を叫ぶ灯花はニマニマと笑う陰陽師にも気付かない。
最悪の事態に繋がるかと思われたが、いろはの退場を神はまだ認めていないらしい。
呼子鳥の出現を皮切りに勝利は傾きを見せ、最終的にはいろはと侍の勝利で一旦幕を閉じた。
映像が切れ画面は黒一色に逆戻り。
長い指で顎を擦りつつ、リンボは暫し思考の沼に身を沈める。
いろはが巨大な怪鳥を出現させる瞬間は、映像越しにもしかと確認出来た。
さてアレは一体何なのか。
直にこの目で見たのでなくとも、答えを導き出すのに時間は掛からない。
桃色の矢を撃ち傷を癒すいろはの魔法が『陽』ならば、怪鳥は相反する『陰』。
呪いと言っても差し支えない、それが怪鳥の力の源。
陽が無ければ陰は無く、その逆も然り。
魔法少女としての力を行使する度に、呪い又は穢れが蓄積されるのだろう。
後は溜まった穢れを用いて怪鳥を呼び出すのみ。
(といった単純極まる術では無い。察するにアレは…)
穢れは本来、魔法少女の力となるような代物に非ず。
むしろその逆、害にしかなり得ない。
放って置けば魔法少女を蝕むソレから逃れる方法こそ、あの怪鳥。
アレは穢れに蝕まれる前に別の形へ変換したモノ、単なる戦闘用の術以上に魔法少女から危険を遠ざける防御装置。
灯花との情報交換で魔法少女のシステムに関しては聞いたが、救済の方法は口を噤まれた。
映像で見たのがその答え、と言っても恐らく全容ではない。
童女ながらに頭の回る灯花の事だ、もっと大掛かりな絵を描いているに違いない。
と言っても救済の対象は「魔法少女」ではなく「環いろは」個人へ移りつつあるようだが。
興味深いのは環いろは以外にもう一つ、彼女の傍らで剣を振るう侍。
憎悪、執着、悦楽等々を微塵も宿らせぬ空虚な剣。
心境に変化でもあったのかいろはの串刺しを切っ掛けに、初めて殺意を刃に乗せた。
異形なれど心までは魔に堕ちず、武士道精神の真似事にでも出たつもりか。
(いえいえいえ!貴殿はそうではありますまい)
リンボは術者であって剣士に非ず、されど目は節穴でもない。
一人二人では無く、十人二十人でも到底足りない。
百を超える命を刈り取り、血の雨を己が身に浴び、屍を踏み続けねば到達出来ぬ領域。
あのようなモノが命を尊いと嘯き、人の守り手たらんとする善の者な訳があるものか。
宿業を埋め込むまでも無い、自ら汚泥に魂を浸からせた悪鬼の類に他ならぬだろう。
(さてそこに、“あの者”は如何なる形で関わったのか…)
脳裏に思い浮かべる顔は、男とは別の侍。
黎斗直々に紹介を受けた敵キャラクター、継国縁壱。
式神のリンボは縁壱と直接接触は行っていないが、本体のリンボは違う。
市街地にて猛威を振るい、櫻井戒と刃を交わす姿を肉眼でしかと見たのだ。
肉体は紛れも無い人間、一方で人の身で繰り出す事が間違っているとしか思えない剣術。
嘗ての下総国、カルデアとの因縁の始まりにて己を打ち破った忌まわしき“二刀”。
同じ剣士であるも、あの娘とはまた異なる形の強さ。
いや、果たして単なる「強い」の括りに入れて良い物なのか。
ともかく、本体と式神のリンクが切れていない以上情報は共有される。
本体のリンボが見聞きしたものは式神に送られ、反対に式神も得られた情報を本体にせっせと送る。
さて本体と式神、双方共に縁壱への見解は一致していた。
縁壱は黎斗に術式を施されたが、それは以前下総国でリンボがやったのとは違う。
宿業を埋め込んだにしては余りにも、縁壱の瞳は正常に近い。
霊基から完全に再構築を行ったのでは無く、縁壱がされたのは恐らく認識の変化。
縁壱本人は自分の目に見える景色、耳が拾う音を正しいと思っているが実際は黎斗に歪められている。
精神自体は弄らず、滅殺の二文字を振り撒く怪物と化す。
中々どうしてえげつない、リンボとしては嫌いじゃあないが。
放送の映像だけでなく実際に会場で縁壱を見た事もあってか、六眼の侍との共通点に気付いた。
容姿はまるで違う、得物も片や灼熱を形取った赫刀、片や眼球蠢く妖刀と完全に別物。
しかし額と顎に焼き付く火炎の如き痣、それだけは異様に酷似している。
ただの偶然か、或いはやはり両者は深く関係し合ってるのか。
例えば、同じ女の子宮から這い出た、とか。
(ンンン!まさに選り取り見取り!拙僧の式に枷を付けられているのが煩わしい限りですな)
タイムテレビの映像内容は本体にも伝えられ、どう転がすかをまた新しく思案する事になる。
とはいえ向こうは今、吉田優子という玩具が手に入ったばかり。
であるのなら、こっちでちょっかいを検討してみるか。
(丁度良い具合に燃料が注がれたようですからなぁ……)
画面を見つめる少女の瞳がどんな色をしてるのか。
背後に立ち顔の見えない位置のリンボにも明白だった。
○
いろはが出した怪鳥の正体に灯花は疑問を持たない。
神浜市の魔法少女なら知らない筈が無い、自分達マギウスが生み出したシステム。
不可解なのはいろはがドッペルを“使った”という一点。
ここは神浜市じゃない、何よりエンブリオ・イブが存在しない以上ドッペルは使えない。
だというのに映像の中でいろはは間違いなく、ソウルジェムの穢れを変換してみせた。
(どういうこと…?自称神様は何をしたのかにゃー?)
殺し合いでドッペルが使える原因は確実に主催者。
魔法少女じゃないあんな怪しい男がドッペルをどうこうできるなんて、殺し合いに巻き込まれる前の灯花なら信じなかっただろう。
残念ながら、黎斗の力の一端を知った今では不可能とは言い切れない。
何せ灯花自身が生き証人も同然なのだから。
ソウルジェムが破壊された魔法少女の蘇生など、キュゥべえにだって不可能。
しかし灯花と、名簿を信じるなら同じく参加者のねむは生き返っている。
故に黎斗がドッペルシステムに手を加えた可能性を、頭ごなしに否定出来なかった。
現実に殺し合いでドッペルが使えるとして、問題はその方法。
魔法少女一人一人へ事前に細工を施した、会場に何らかの仕掛けがある。
若しくは、灯花達と同じようにエンブリオ・イブを蘇生した。
これにより会場内は神浜市と同様、イブの被膜で覆われている。
「……」
もし本当に黎斗がイブを蘇生したとして、一体『どっち』なのか。
トチ狂ったとしか思えない計画実現の為にアリナが融合したイブ、そうなる前のイブ。
後者ならば、主催者達の元に囚われているのは――。
「…………」
まだ本当にそうだと決まった訳じゃ無いが、自身の考えを無視もできない。
今後は首輪解除や黎斗を出し抜く算段と並行し、ドッペルについても情報を集める必要がある。
出来れば魔法少女がドッペルを使う瞬間を直に見ておきたいものだ。
それには七海やちよ達邪魔な連中を狙うのが無難か。
自分とねむは勿論、いろはをそのような実験に使う気は皆無。
ただでさえあの人は戦闘に巻き込まれ疲弊しているのだ、これ以上負担を強いるのは決して望まない。
幸いと言って良いのか、同行者もいるようで……。
「…………」
自分の内側が急速に冷えていくのが灯花にも分かった。
同行者、そう同行者だ。
映像が事実だとして、今のいろはは単独行動をしていない。
かといって傍にいるのはみかづき荘の魔法少女ではなく、おぞましい容貌の男。
いろはと敵対は恐らくしていない、もしそうならわざわざ抱き上げて運んでやる真似はしないだろうに。
力の程もおおよそ分かった、ベテランの魔法少女でもあれ程の強さは滅多に見付からない。
あの人の事だ、容姿で相手を拒絶なんてせず根気強く同行を訴えたに違いない。
それが無性に苛立たしい。
「しかし灯花殿も取り敢えずは安堵したのではないでしょうか?」
「…なに、急に」
「察するに先の映像、あそこにいたのは灯花殿が仰る環いろは殿。危うげな場面もありましたが、六眼の御仁のお力添えもあってか危機は脱した様子」
「……」
「地獄の釜から這い出た如く、この地は遊戯とは名ばかりの魍魎ひしめく箱庭。いろは殿お一人ではさぞ心細く、数刻を生き延びられるかも定かではありませぬ」
「…あなたのお喋りを耳介にで拾って鼓膜に届けたくないから、そろそろ黙って欲しいにゃー」
「ンンンン、ですがかの御仁がお傍にいるのなら心配いりますまい。拙僧から見てもかなりの手練れ、かような者がいろは殿と――」
「黙ってって言ったんだけど」
睨み付ければ大仰な動作で頭を下げられた。
会った時から神経を逆撫ですることに長けているが、今は殊更機嫌を悪くさせる。
思い出したくも無い映像の中でのいろはと男の様子が、焼き付いて離れない。
魔法少女でもない、人間ですらない醜悪な化け物。
どうせいろはを本気で守りたいだとか、助けようと気も無いのだ。
でなければいろはが氷柱に貫かれるのを防げない筈が無い。
直接危害を加えた真紅の化け物も許せないが、あの侍にも負の感情を向ける。
化け物の癖に、役に立たない癖に。
いろはの隣に立ち、いろはに触れ、いろはから信頼を得ている。
(あんなの…お姉さまには相応しくない……)
胸の奥底より少しずつ、されど確実に灯花を蝕む黒い熱。
今はまだ燻る程度、だが大炎上を巻き起こす未来はそう遠くない。
いずれ来る愉快極まる光景に期待を寄せ、陰陽師は口が裂けんばかりに笑みを作った。
【F-5/一日目/早朝】
【里見灯花@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:あり得ない思考に対する動揺(小)、リンボ(式神)による暗示の影響(小〜中)、嫉妬と不快感
[装備]:デュエルディスク+素良のデッキ@遊戯王ARC-V
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品×1〜3、ネネの首輪
[思考・状況]
基本方針:ハ・デスの力を奪い、魔法少女の救済を果たす。
1:使える人材は生かしておく。
2:首輪を外す。取り敢えずどこかで調べたい。並行してドッペルに関しても調べる。
3:出来ることならねむと合流。
4:深月フェリシア、七海やちよ、梓みふゆに関しては、邪魔をしてくるなら容赦しない。
5:私は、いろはお姉さま、を――?
6:この陰陽師(リンボ)、信用はできないは実力はあるから今のところは保留。
7:六眼の侍(黒死牟)が気に入らない。なんであんな奴がお姉さまのお傍に……。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※首輪が爆発した時、ソウルジェムも同時に破壊されると考えています。
※リンボによる暗示の影響で、リンボに危害を加えることは不可能となっております。
【キャスター・リンボ(式神)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康(本体より弱体化)
[装備]:
[道具]:小倉しおんの支給品袋及び支給品一式、タイムテレビ(残り使用回数4回)@ドラえもん、小倉しおんのランダム支給品0〜2
[思考]
基本:ただ、己の衝動と欲望の赴くままに
1:里見灯花に付き従う。何時彼女が爆発するか楽しみですぞ、ンンンンン―――。
2:飛電或人が次に会った時どうなっているか、いやはや期待が高まりますなぁ。
3:あの侍達(黒死牟、縁壱)は……ンン。
[備考]
『式神について』
※最大召喚数は1名
※他参加者から5メートル以上離れた場合自動的に消滅。
※性能は本体より著しく弱体化。
※自動消滅または撃破された場合、式神再召喚まで6時間のインターバルが必要。
※本体が撃破された場合、式神も同じく消滅する。
※式神が得た情報は本体に共有される。
※タイムテレビを使い黎明の時間帯にD-6の病院前で起きた戦闘を見ました。
【タイムテレビ@ドラえもん】
場所や時間に関係無く過去や未来を見ることができる22世紀のひみつ道具。
本ロワでは主催者側の細工により会場の各エリアの過去しか見れない。
また使えるのは5回までであり、以降は操作を受け付けなくなる。
投下終了です
ニノン・ジュベール、モニカ、土部學、深海マコト、マサツグ様、桐生戦兎、エボルト、カイザーインサイト、保登心愛(きらファン)、琴岡みかげを予約し延長もしておきます
>>879
乙です!
まさにサブタイ通りの内容
灯花が更に荒んでいく過程が色んな情報と共に流れる様に脳内に入ってくるのがいい刺激でした
最初の躓きとは思ってない躓きの影響は大きい
中盤まで生きられるかな?
予約分も含め先を楽しみに待ってます
> 淀んでゆくだけ
投下乙です
タイトル通り、ただひたすら 淀んでゆくだけの話ですね
そしてリンボはやっぱり完全にエンジョイ勢だこれ。それにしても弁が立つだけに式神でも厄介だなこいつ
そして化け物というだけで余計に妬まれる兄上、お労しや
タイムテレビという支給品は色々と使えておもしろそうですね
皆様感想ありがとうございます
投下します
土台はサクサクのパイ。
歯応えを楽しんでもらうために甘さは控えめ。
だけどこれだけでは味気ない、なんて心配は無用。
山のように重なるシュークリーム、その数計8個。
たっぷりの生クリームの上から垂らした黒が、絶妙なコントラストを醸し出す。
チョコソースとクリームで胸焼けしないようにと、散りばめられたのは甘酸っぱい苺。
何より目を引く星形のクッキーは、一年に一度訪れる日のお祝いを籠めて。
甘党好きには堪らないシュークリームケーキが切り分けられ、自分の前に置かれ早数分。
琴岡みかげは一口も手を付けず、居心地の悪さに胃を痛めていた。
代わり映えのしないケーキから視線を横へ、今宵の茶会の出席者を見やる。
年は自分よりも上、だけど大人にはまだ届かない。
同性のみかげから見ても整っている顔に、気味の悪さを覚えるのは無理からぬこと。
瞳が映す景色は無く、確固たる自分の言葉は一文字も出ない。
大変失礼ながら、精巧な人形と言われても納得し兼ねない少女だった。
「あら、美味しいわねこれ」
上機嫌な声に、みかげの視線は正面へ移動。
シューをフォークで崩し、生クリームとチョコを乗せ口に運ぶ。
匙加減を一つ間違えれば複雑で強烈な甘さに変わるも、くどさはほとんど感じない。
それぞれ異なる甘さが綺麗に融合し、思わず綻ぶ美味となった。
今度は苺をクリームに絡め、再度フォークを口へ。
食器の持ち方、菓子の食べ方、両方共に上品だなとみかげは思う。
品のある、悪い言い方をすれば少々過剰に『女性らしさ』を意識している。
人形染みた少女が可愛らしいに分類されるなら、こちらは間違いなく美人と誰もが口を揃えて言うだろう。
みかげ自身、ここまで完璧な顔のパーツの持ち主を見た事が無い。
街を歩けば羨望と嫉妬を一身に受け、やれどこのモデルだどこの女優だと会話が絶えない。
尤も、仮に本当に大通りを歩こうものなら向けられるのは奇異の視線。
人間のものでは有り得ない、獣の耳と尾が異様な存在感を放っていた。
(何やってんだろ、私……)
一体全体、何がどうして奇怪な二人組とケーキを突く羽目になったのか。
助けてくれた、でも自分の琴線に触れた少女から逃げ出しそう間もない頃。
いきなり人形のような少女に捕まった。
ロープでぐるぐる巻きにされた挙句、猿轡を噛ませるという微塵も嬉しくないおまけ付き。
撫子の家でのお泊り会の時に見たドラマで、確かこういうシーンがあったような気がする。
つい最近の事なのに記憶がどこか曖昧なのは、それだけ自分の心が荒んでるからか。
『普通』じゃない奴には『普通』とは程遠いアクシデントがお似合いなのか。
結局、何もかも全部自分が悪者だから天罰でも下ったのだろうか。
傍目にも危ない状況だというのに、思考は危機感よりも投げやりさが勝った。
そのくせ心は泡立て器でかき混ぜられたみたいに気持ちが悪い。
何でこうなってしまうのだろうと口は動かせずとも顔が歪み、しかし意外にも最悪の展開にはストップが掛かる。
獣耳の美人が少女に指示を出し、みかげの拘束はあっという間に解除。
状況に付いて行けず目を白黒させる様子を笑いもぜずに、こう提案して来た。
「どこかで腰を落ち着けて、話をしましょう」と。
断る理由は無い、というよりは断るだけの余裕が無い。
逃げようにも妙に身のこなしの素早い少女がいては、あっさり捕まるのがオチだろうし。
二人組から離れ、また忍者気取りの少女の元へ戻るのも嫌だ。
ほとんど流されるまま二人に付いて行って、到着したのが今いる施設。
(最悪……)
座れるなら別にどこでも良かった。
殺し合いなんかでお洒落なカフェとか、よく行くカラオケ店を望みはしない。
でもだからって、どうして自分の通う学校なのか。
生徒も教師も、用務員だってここにはい一人もいない。
もう二度と『失敗』しない為に通い始めた場所が、本物の桜ノ館中学校でないことくらいはみかげにも分かる。
だけど嫌なものは嫌だ。
何と言えば良いのか、大切なアルバムを泥だらけの靴で踏み付けられた気分。
思い浮かべた喩えについ乾いた笑いが漏れる。
『3人』の関係を自分で壊しておきながら、何とも都合の良い怒り。
場所が変わろうと、本物の中学校であろうとなかろうと、起こってしまった過去には何ら影響を与えなかった。
「美味しかったわ。やっぱり頭を働かせるには、単に甘いだけじゃ無く味も良くなくちゃね」
皿に乗った分を完食し、満足気にコーヒーカップを啜る。
そりゃ作ったの私ですし?美味しいのは当たり前なんだけど?っていうか、あなたの為に作った訳じゃないっての。
口には出さずに残ったシュークリームケーキを眺めると、星形のクッキーは手付かずのまま。
その部分を食べるのには躊躇があったのだろうか。
地べたに落ちたというのに上の方は大丈夫などとのたまい、バクバク食べた顔を思い出す。
喧嘩中でもあの時感じた胸の高まりは色褪せない。
彼女への好きが如何に大きいかをこんな場面でも再認識し、却って心が重くなる。
「でもこっちは安っぽい味ねぇ。ティータイムが台無しじゃない」
ケーキとは打って変わって辛辣な評価が下される。
職員室から拝借したインスタントコーヒーを、人形のような少女が淹れたものだ。
そりゃそうだろうと、みかげも思わず呆れ笑い。
テスト採点やらプリント作成の合間に嗜む程度の飲み物だ、本格的な豆など置く物好きはいない。
「さて、と。そろそろ話を聞かせてもらっても良いかしら」
お気に召さないコーヒーはそれ以上飲む気も起きず、本題に入る。
真紅の瞳に見据えられみかげは縮こまった。
美人ではあるけど、相手の目はどうも苦手に感じる。
知られたくない全部を見透かされ、逆らう選択肢を消し去る威圧感。
大人からの説教を受ける時とは比べ物にならない息苦しさがあった。
「別に、怒鳴り散らすつもりはないわよ?ただココアが見付けた時のあなた、随分顔色が悪かったみたいじゃない。それで良かったら、事情を聞かせてもらえないかって思ったの」
風に吹かれた煙みたく、みかげを包む重圧が消失。
代わりに感じるのは心を撫でられるこそばゆさ。
ささくれ立った内心に優しく手を当て、心配ないと繰り返し言い聞かせられた感覚。
会って間もない相手へ自分の複雑な事情を明かすのは、ゲームで二度目となる。
それでも、話しても良いのではと思えたのは投げやりな部分もあっただろう。
しかし一方でこうも思う。
大人だったらさっきの少女と違い、自分の望む答えが返って来るのではと。
当たり前だが自分の抱える秘密を、みかげが大人に打ち明けた事は無い。
家族に言った所で困らせ、最悪小学校の時のトラウマが再現されないとも限らない。
けど何故か、この人になら話す気になった。
自分の思考が誘導されてるとは気付きもせずに、おずおずと口を開いた。
「そう……」
内容は少し前、別れた少女へ語ったのと大差ない。
話し終えると相手は唇に指を当て、暫し考え込む仕草を取った。
途端に流れる沈黙へ、みかげを襲うのは後悔。
やはり安易に話す事では無かったんじゃないか、相手の答えが否定的意見の可能性だって十分に高い。
未来ある若者が同性愛という『普通』とはかけ離れたものに現を抜かす、大人が聞いたら誰だって良い顔はしない。
散々物知り顔で間違いを指摘し、無知蒙昧な子供を導く教育者にでもなった気分で叱り付ける。
そうはならないと何故言い切れる、だってこっちは相手のことなど何も知らないのに。
ああつまり、自分はまた同じ失敗を繰り返したのだ。
傷付きたくないのに、自分で自分を傷付けてしまった。
公園で言い争った土砂降りの日、心に入った亀裂が更に広がり、
「ええ、そうね。自分が普通じゃないって突き付けられると、苦しいわよね」
痛みが急速に薄れる。
一瞬何を言われたのか分からずぼんやりと相手を見つめ、我に返った。
真紅の瞳はみかげを見ていながら、みかげではない何処かへ向けられる。
「どれだけ望んでも、どれだけ願っても叶えられない。能力が足りないからとかじゃなく、『普通』じゃないから。
それで諦めを押し付けられて、仕方ないで自分を納得させる。痛くない、なんて人間はよっぽど鈍いか死んでるかのどっちかよ」
亀裂は言葉の入り込む隙間となり、内側から縫い合わされる。
適当な同情と言い切るには、一言一言がやけに重い。
癒えぬ傷がそのまま相手の口から溢れ出て、自分の内側に入って行くのをみかげは拒絶出来ない。
みかげにとって、それは初めて得られた共感だった。
「傷付きたくない?当たり前だわ、一度だって耐えられたのは奇跡に近いもの。二度目がどうなるかなんて…想像もしたくないわよね?」
その通りだ。
『普通』のあの子は『普通』じゃない自分の気持ちに応えられなかった。
同じ痛みを今の3人で味わうなんて、絶対に嫌だ。
仲の良い『友達』の3人としてこれからも一緒にいたい、だから『普通』になるしかなかった。
傷付きたくないと、そう願って『普通』を望んで何が悪い。
「あなたの友達をどうこう言うつもりは無いわ。その子達なりの考えがあるのだろうし、それにあなたもお友達を他人から悪く言われるのは不快でしょう?」
だけど、と一拍置き言う。
みかげの心を包み込む、甘く優しい毒を。
「あなたを悪く言う気も無い。…辛かったわよね?誰も味方してくれないのは」
「……っ」
思わず唇を噛み、頷くみかげは自分の頬が濡れているのに気付いているのだろうか。
啖呵を切ったように、言葉が途切れず溢れ出す。
「あ、私…が、頑張ってたのに、全然っ、うまく、いかなくて……私、ばっかり、悪者に、されて……っ!」
白鳥司は鷲尾撫子のみかげへの想いを知っていても、自身へのみかげの想いは知らない。
鷲尾撫子はみかげが自分の想いを拒絶してるのに気付いても、自身への司の想いは知らない。
琴岡みかげだけが3人の矢印の向かう先を知っている。
誰かに相談できる内容じゃあない、だから自分一人で守る為に何でもやった。
3人が3人でいられるように手を尽くし、けど上手くいかない日々にストレスは溜まる一方で。
公園でのいざこざで、自分がカッとなってしまった自覚はある。
それでも、司と撫子には自分の味方でいて欲しかった。
二対一で自分を責める真似はして欲しくなかった。
小学校の時のあの二人みたいに、自分を一人にしないで欲しかった。
殺し合いでもそうだ。
向こうに悪気が無かったのだとしても、苛立ちを抑えられなかった。
『普通』になる以外に3人を守る方法がない、だからずっと頑張って来たのに。
それを間違ってると言われたようで我慢が出来ず、助けてくれた少女へ背を向け今に至る。
目の前で微笑む獣の特徴を持つ人。
自分が溜め込んだもの吐き出させ、欲しかった言葉をくれた。
司と撫子とは違う、自分の苦しみを分かってくれた。
喧嘩別れして以来燻り続けた胸の中に、ようやっと光が差し込んだ気がする。
――全てが都合良く進んでいるとは気付きもしないで。
○
我ながらクサい演技だと、カイザーインサイトは胸中で呆れを抱く。
みかげにやったのは、ココアの時と然程変わらない。
思考誘導と簡単な暗示により心を自身への信頼に傾かせ、後は彼女が望んでるだろうお優しい言葉を並べる。
廃人一歩手前だったココアと違い、みかげは焦燥こそしていても思考は正常。
その為少しばかり手間ではあったが結果は成功と言って良い。
(アレがあったらもっと楽なのだけどね…)
覇瞳天星を含めプリンセスナイト達を圧倒した能力に枷を付けられた以上、あと何人にこの手が通じるかは分からない。
王宮騎士団(NIGHTMARE)を支配下に置いた洗脳装置は存在せず、無い物ねだりは時間の無駄。
今ある手札を活用すべくみかげと会話を続け、更に情報を聞き出す。
殺し合いで彼女が出会ったのはカイザーインサイト達が最初ではなく、その前にもう一人いたらしい。
助けてくれた事には感謝していても、会いたいという気にはならない。
複雑さを表情に出しボソボソ呟くみかげへ相槌を打ちつつ、窓の外を横目で眺める。
(どこかのナイト気取りは運が無いみたいねぇ)
みかげと共に桜ノ館中学に移動してからそれなりの時間が経った。
にも関わらず件の少女は一向に現れない。
NPCのモンスターを一蹴する実力の持ち主なら、一般人のみかげに追い付くくらい容易いだろうに。
愛想を尽かし見捨てた?初対面の相手を助けるお人好しにしては違和感がある。
暫く一人にしておこうと気遣い、あえて追わなかった?単独行動が危険だと分からない方がおかしい。
となれば恐らく、追いたくても追えないトラブルに見舞われた。
十中八九他の参加者との戦闘になり、足止めを食らっているに違いない。
自分にとっては都合の良い展開だが。
「あと、司……さっき言った、友達のことなんだけど……」
「心配しなくても私の言う通りにすれば大丈夫よ。その代わり、ミカゲにも色々と手伝ってもらう事になるわね」
「あ、うん。それは勿論オッケーなんだけどさ。陛下には本当に感謝してるし…」
会いたいけど会いたくない。
好きだけど顔を見るだけの勇気も無い。
簡単に仲直りなんて出来る訳が無いけど、絶対に死んで欲しくない。
片思い相手の安全を保障してくれたカイザーインサイトの指示に従う。
陛下との呼び方も機械のように従うココアにも何の疑問も持っていない事から、みかげの思考が正常から離れつつあるのは確実。
打ち明けた事情に共感してくれた、責めたりはせず味方でいてくれた、これまで一人で手を回すしか無かったけど初めて協力してくれる。
これらがみかげに安堵を抱かせ、付け入る隙を与えてしまった。
何故殺し合いに巻き込まれたのか分からない、何の力も持たない少女だろうとカイザーインサイトには無関係。
使い捨ての駒が手に入った、後は死ぬまで自分の役に立たせる。
そこに罪悪感や躊躇が入り込む余地は無く、本気でみかげを慰めたつもりもない。
(…少し、つまらない事を言い過ぎたかしら)
ただみかげの言う『普通』に、僅かなりとも思う所があったのは否定できない。
女の子が女の子に恋をするのは『普通』じゃない。
どれだけ相手を強く想っても、同性愛は『普通』の括りには入れて貰えなかった。
当人が強く願ったところで、『普通』と違うなら叶わない。
例えばそう、お姫様になりたい男の子がいても不可能なように。
「……」
王子様のキスで魔女の呪いが解かれるプリンセスにはなれない。
国中の人達から愛されるプリンセスにはなれない。
女の子なら誰もが一度は夢見る憧れの存在にはなれない。
カイザーインサイトは、千里真那は『男』だからプリンセスには絶対になれない。
「フン…」
余計な事に気を取られるのを好まず、思考を切り替える。
とにかくココアに続き二人目の駒は確保したが、檀黎斗を出し抜くにはまだまだ準備不足。
やる事の多さに反して人手が足りないのには頭を抱えたくなる。
この場で腰を据え来訪者を待つより、積極的に動き参加者との接触の機会を増やすか。
暫し悩んだ末に決定し、二人の少女を従え桜ノ館中学校を後にした。
◆◆◆
「勝負は…ここからデース!」
倒すべき敵にぶつけた言葉は、自らを鼓舞する為でもある。
疲労は限界を通り越し、ロクな応急処置もせずに戦い続けたツケは今も体で支払っている最中。
正直に言って、まだ戦えるのがニノン自身にも不思議なくらいだった。
なれど放たれた一撃は、満身創痍の四文字からは程遠い鋭さ。
切り裂かれた空気は悲鳴を上げ、余波を受ければNPCの低級モンスター数体を纏めて葬るだろう威力。
忍術を修め天下統一をショーグンと共に目指す、ニノン本来の戦闘スタイルではない。
纏う金色は普段の鎧姿でもなければ、オーエド町での騒動の時のくノ一装束にも非ず。
仮面ライダーネクロム・友情バースト魂。
友の誤った選択を止めるべく、眼魔界の若き指導者が起こした奇跡の戦士。
変身者は違う、しかし友への想いはニノンとて引けを取らない。
熱き魂はそのまま拳の威力へ変わり、眼前の強敵目掛けて突き進む。
「無能め、学習能力の欠片も無いのか?まあお前にそんなものを期待する方が無駄だろうがな」
決意、戦意、覚悟。
ニノンの全てを嘲笑い否定する紺色の剣士。
直見正嗣という少年の負の側面を抽出し捻じ曲げた、人の形をしながら人では無い怪物。
マサツグ様と、名簿で称された存在は迫る拳を前に余裕を崩さない。
わざわざ剣を振るう必要すら無いと分かり切っているが故に。
あらぬ方向より飛来するは二本の聖剣、翠風。
元はニノンに支給された心強い武器も、今やマサツグ様を守護する役目を押し付けられた道具。
異世界での蹂躙を可能にした「守る」のレアスキルは健在だ。
気合十分に踏み込んだは良いものの、肝心の一撃はマサツグ様に命中せず。
斬撃を無視してでも攻撃を続行するには傷を負い過ぎている。
結果、拳を慌てて引っ込め翠風を腕部装甲で防いだ。
ネクロムの攻撃こそ失敗に終わったとはいえ、他の者が指を咥えて見ている訳がない。
翠風の飛来とほぼ同じタイミングで動くはモニカ。
ニノン程で無くとも重い負傷を抱えつつ、戦意に微塵の揺らぎも無いのは流石のギルドリーダーか。
振るう得物はマサツグ様が持つのとはまた異なる世界の聖剣。
未だ聖遺物の真価を発揮出来ない以上、頼れるのは培ってきた自らの技術だけ。
今度は「守る」スキルではなく、マサツグ様手ずから対処へと出る。
ぶつかり合う聖剣と聖剣、強度も切れ味も秘めた神秘も互いに劣らない。
であるならば、勝敗を分けるのは使い手の技量だろう。
「やれやれ、お前のような無能が持ち主では剣が泣いてるぞ?そこいらの棒切れでも握ってる方がお似合いだ」
「…私の未熟さがこの剣の力を引き出せていないのは百も承知だ。貴公に言われるまでもない!」
十聖刃を翳す腕に、モニカの剣から掛かる重さはまるで感じられない。
優れた身体能力の持ち主であっても、クロスセイバーとなったマサツグ様相手では膂力の差は大き過ぎる。
反対にほんの軽く押し返してやれば、それだけで向こうは体勢が崩れ無様を晒す。
尤も、マサツグ様がそう出ることくらいモニカの予想の範囲内。
鍔迫り合いには発展させず、小さな体躯で姿勢を更に低くし踏み込む。
小柄さを活かした切り上げに、敵を討った手応えは無し。
あっさりと弾かれ切っ先すらも掠めさせてもらえさせず、反対に蹴りがモニカへと飛ぶ。
打撃一つですらこれ以上傷を増やすのは得策ではない。
字面を転がり後方へと回避、行動に僅かでも遅れが生じれば顔面が潰されていた。
立ち上がり構え直すモニカを待たず、マサツグ様への攻撃は続く。
「フン、また一匹羽虫が死にに来たか」
吐き捨てられた侮蔑には動じず、青鬼を模した戦士が接近。
罵倒や挑発程度で動揺を誘える程、深海マコト…仮面ライダースペクターは甘くない。
長銃と棍棒を一体化させた可変型武器、ガンガンハンドを豪快に振るう。
先端の五指に搭載済みの粉砕装置を用いて、クロスセイバーの装甲を破壊せんとする。
幼き日に天空寺龍の下で鍛え、眼魔界に飛ばされてからも妹を守らねばという一心で修練を積んで来た。
そこから更に眼魂を巡る戦いでの経験を経たスペクターの攻撃だ。
巨大な得物を使っているにも関わらず、隙の見当たらない完成された戦士の動き。
生憎とマサツグ様に敵の力を称賛する性根は存在せず、またしても無意味な行動に出た虫けらを嘲笑う。
マサツグ様自身が何かをするまでもなく、虫けらの悪足掻きなど届かない。
小癪な抵抗によるダメージを「守る」スキルは断じて認めず、翠風が標的を変えて襲い来る。
既に複数回見た現象故に今更驚かず、スペクターは防御へと移行。
ガンガンハンドの強固なフレームにより無傷で凌げたが、やはり肝心の攻撃自体は不発に終わった。
スペクターの狙い通りに。
「學!」
「は、はい!」
緊張を隠さない返事をするや否やマサツグ様へと駆け出す少年。
この場においては唯一の一般人、土部學もまた仲間と勝利を掴むべく剣を振るう。
主催者の恩恵であるのは複雑だが、それでも學の助けとなっているのも事実。
緋々色金を振り被るフォームはお世辞にも恰好が付いているとは言えない。
しかし元の彼からは想像も出来ない身体能力を駆使すれば、格上にも突き立てられる牙と化す。
「弱いのは力だけじゃなく頭もか?お前みたいな木っ端を参加させるとは、主催者も意地が悪いな」
但し相手が甘んじて牙が突き刺さるのを受け入れるかは別。
軽やかに緋々色金を受け流し、學の体勢が崩された。
間抜け面で隙を晒した相手を見逃してやる、そんな気まぐれをマサツグ様は起こさない。
弱かろうが敵は敵、目障りで苛立たせる塵も同然。
対峙する4人の中で最も取るに足らない雑魚だが、殺さない選択肢は最初から無かった。
「させるかぁっ!」
學一人ならば死は避けられなかった、故に仲間がいる此度は死が遠ざけられる。
斬り掛かるモニカへは「守る」スキルが発動し翠風が妨害。
なればと残る二人が救出へ動く。
跳躍し勢いを付けてガンガンハンドを振り下ろす。
強固なクロスセイバーのアーマーとて、頭部は幾分か脆い。
マサツグ様としてもこの一撃で死ぬとは思っていないが、無駄に攻撃を食らってやるのも癪。
舌打ちを零し十聖刃を頭上に翳し、両者の耳には金属同士の衝突音が鳴り響く。
命中など元からスペクターは期待していない、學が離れられる時間を稼げれば目的は達成。
「忍法、分身の術デース!シュババババッ!」
スペクター一人に役目を押し付けた覚えは無い。
自慢の脚力に加え、ネクロムへの変身で強化された身体スペックを駆使。
高速移動しつつマサツグ様を取り囲むように回転、足は止めずに打撃を繰り出す。
複数人に増えたネクロムが一斉攻撃を行っている、そんな錯覚を抱き兼ねない光景だ。
「何だ、羽虫ではなくゴキブリだったか。害虫がヒーロー(笑)を気取るなんて傑作だな」
尤も、相手がマサツグ様の変身したクロスセイバーでなかったら話だが。
四方八方から叩き込まれる殴打の嵐も、マサツグ様の目には全て捉えられている。
変身後の大幅なスペック上昇、何よりニノンの攻撃が苛立ちを更に加速。
そこかしこから飛ぶ拳や蹴りというこの状況が、忌々しい過去と重なる。
まだ何の力も持たない弱者だった、ミヤモト達によるイジメが日常茶飯事の頃。
男子複数人掛かりでのリンチも珍しくは無く、体以上に心へ刻まれた傷が今でも痛む。
「害虫は害虫らしく、這い蹲って惨めに死んでろ!」
「キャッ…!?」
過去を思い出させたニノンへの不快感が増大し、マサツグ様へ力を齎す。
剣術の精度はより上がり、高速移動中のニノンを的確に斬る。
考えるよりも早く体は殺気に反応し、咄嗟に両腕を交差。
防御態勢を取った直後に十聖刃が走り、装甲越しに痛みが襲う。
通常形態のネクロムを超える耐久力だというのに、ダメージを殺し切れなかった。
怯み後退するニノンへ追撃が迫り、同時にマサツグ様へと駆ける気配を複数察知。
無駄な事を、そう吐き捨てたのを聞き届けたのか「守る」スキルが発動。
「モニカ!」
「分かってる!」
翠風の飛来は最早、スペクター達にとっても目新しさは無い。
そう来ると分かっていれば対処も迅速に行えるというもの。
聖剣を叩き落としたスペクターに背を押されモニカが疾走、遅れは取るまいと學が並ぶ。
二方向からの斬撃も容易くいなし、その一瞬でニノンも体勢を立て直し蹴りを叩き込んだ。
「気安く俺に触れるなよ蛆虫ども!」
大振りながら長剣とは思えぬ速さに、ニノンは急遽足を引っ込め後退。
同じくモニカも接近戦の継続は悪手と即座に判断を下す。
敵の攻撃に思考が追い付かない學の腕を掴み、紙一重でどうにか躱した。
「ご、ごめんモニカちゃん。また助けてもらって…」
「私達は仲間なんだ、助けずにどうする。ニノン、そっちも大丈夫か?」
「オールオーケーデース!このままイケイケドンドンに、いつでも実行可能デース!」
力強い言葉とは裏腹に、二人の少女は息が上がっている。
限界は近い、いやとうに限界を迎えた身を気力で動かし戦いに臨む。
正論を言うならば、これ以上戦わせるべきではないのだろう。
理解していようと學も、少し遅れて彼らに並んだマコトもそれを口に出さない。
モニカとニノン、彼女達の生半可ではない覚悟を聞いた以上、二人の仲間として水を差す事など出来なかった。
何より、目の前の相手がそれを許してはくれないのだから。
戦闘が始まり嫌と言う程に思い知らされたが、敵の強さは相当なものだ。
単純な身体スペックのみならず、自動で攻撃を防ぐ能力に加え、変身者本人の剣の腕。
三つが合わさり絶望的な強さを発揮するマサツグ様に、今に至るまで死者を出さずに持ち堪えられたのは奇跡に近い。
「だが…全く対処不可能という訳でもない」
モニカの言葉に三人共同意する。
クロスセイバーの変身解除に追い込むのは困難を極め、戦う程に力が異様に強化される絡繰りは不明。
ただ「守る」スキルだけは何とかできない訳じゃない。
幾度も攻撃を防がれたからこそ、「守る」スキルの抜け穴に気付けた。
「「守る」スキル、マサツグ様が転移した異世界で猛威を振るえたのも全てはこの異能があったからに他ならない。
1億年に1人いるかいないかのレアスキルは、虐げられてきたマサツグ様がタガを外すのに十分過ぎる力。
とはいえゲームと称した殺し合いにおいて、強力な参加者には何らかの枷が付けられている。
神器錬成で無くともダメージを受けるポセイドン、ジョセフ・ジョースターの血を吸った時よりも時間停止の間隔を狭められたDIO。
彼らと同じくマサツグ様の「守る」スキルも制限の対象であり、ミヤモト達へ苛烈な復讐を行った時程の理不尽さは無い。
弱体化の分かり易い特徴として、「守る」スキルはこれまで一人を対象にしか発動されていない。
モニカとニノンにトドメをそうとするマサツグ様へ、マコトが阻止に動いた時だ。
「守る」スキルは機能しマコトへ翠風が飛来、だがほぼ同じタイミングで動いた學にはスキルが発動されなかった。
偶然による不調では無い、同じような現象は戦闘の度にモニカ達4人共確認済み。
故に4人は常に二人以上が同時に攻撃を仕掛け、内の一人が「守る」スキルの標的にあえて選ばれるようにしていたのである。
一人しか対象にされない、ならば一人が「守る」スキルで翠風の妨害を受ける間はマサツグ様に直接攻撃が可能なチャンス。
「猿の浅知恵…おっと、これじゃあ猿に失礼だな。雑魚の悪足掻き程見苦しい物はない」
無論、マサツグ様もモニカ達の狙いには気付いていた。
業腹だが今の「守る」スキルは異世界で好き勝手やれた時程の理不尽さは無い。
制限についてはマサツグ様自身、非常に気に入らないとはいえ受け入れざるを得ない。
が、それでも自分の絶対的優位は覆らないと断言できる。
これまでの攻防を見ればマサツグ様で無くとも、どちらが有利かは誰の目にも明白。
「守る」スキルを凌いでこそいても、未だモニカ達は決定打を与えられず悪戯に体力を消費するばかり。
対してマサツグ様はほぼノーダメージで、疲労も少しばかり怠いと言った程度。
ニノンとの遭遇に始まった此度の戦闘、常に圧倒して来たのはマサツグ様の方だった。
「やれやれ、大口を叩いた割りにはまるで大したことないな。こんな頭お花畑集団に時間を取られたかと思うと、本当に腹立たしい」
尊大な口調で不満を言う割に、浮かべる表情はあからさまな嘲笑。
偽善者らしいお寒い友情(笑)を見せ付けられ苛立ったものの、少し剣を振るえば冷静さを取り戻す。
4人掛かりでもロクなダメージを与えられず、戦う度に息が上がる。
勝てる筈も無いのに口先だけは立派。
そのような雑魚集団の戯言にほんのちょっぴりでも余裕を失うとは、我ながらどうかしていた。
「ゴミの相手もいい加減飽きて来た所だ。お前らの薄っぺらい正義共々、さっさと片付けるに限る」
時間を取られたがマサツグ様が殺すべき相手は4人だけではない。
並行世界の自分と、顔も知らない他の参加者連中。
雑魚を嬲るのに少しばかり時間を掛け過ぎてしまった。
これ以上モニカ達の相手をしてやっても無駄の一言に尽きる。
死ねば泰平の世がどうのという、頭空っぽな戯言は二度と口に出来まい。
「笑わせるな、本当に薄っぺらいのはどっちだ」
相手を徹底的に見下すマサツグ様の言葉に、黙っていられない男がいた。
「うん?なんだ?今何か言ったか?生憎とゴミ虫の言葉は分からなくてな」
「薄っぺらいのは貴様の方だと言った」
挑発をぶつけられてようとマコトは揺るがない。
仮面で隠れていても、マサツグ様には相手がどんな顔かが分かった。
己を微塵も疑わない堂々とした、癪に障る表情。
異世界で自分に言い負かされ、みっともなく泣き喚いた連中とは違う。
その立ち振る舞いが気に入らない。
「口を開けば他者を嘲り、誰かを傷付ける事でしか己を満たせない。そうする以外の生き方を選べないお前の言葉には何の力も籠っていない!」
マサツグ様の力は強い、実際に戦ったマコトにも否定は出来ない。
されど、心は自分の知る中で最も弱い。
己の蘇生よりもカノンを優先し、優しさと言う名の強さで自分の目を覚まさせたタケル。
家族の死に一度は心が折れ、それでも再起し心の叫びを戦場へ響かせたアラン。
仮面ライダーでなくとも共に戦い諦めなかったアカリや御成。
やり方は間違えたが眼魔界を救う決意は本物だった父、ダントン。
そして、どれだけ傷付こうと友の為に戦いを投げ出さないこの地で出会った者達。
誰もが強く、自分の生き様に誇りを持っている。
「虐げられた過去を言い訳にし、己の弱さを殻で覆い隠したお前は弱い。そんなお前に、モニカ達を否定する資格などない!」
有無を言わさぬ力強い断言に、戦場は暫しの沈黙に包まれた。
不思議と嫌では無い静けさの中、思わず學は笑みを作る。
最初に会った時からそうだ、マコトの言葉は聞く者の胸を打つ。
横を見ればモニカと、仮面で見えないがきっとニノンも同じ顔をしてるに違いない。
「どうやら…本当に死にたいらしいな。目障りな羽虫が……!」
対照的な表情で吐き捨てるのは、当然マサツグ様だ。
劣勢を強いられるだけの雑魚の分際で、自分の方が弱いとどの口が言えるのか。
ああそうだ、確かに異世界に転移する前は常に虐げられ、見下されて来た。
それをよりにもよって言い訳呼ばわりとは、怒りで頭がどうにかなりそうだ。
何度助けを求めても助けてくれず、今になってノコノコ現れお説教。
どいつもこいつも、弱いくせに、一人じゃ何もできないゴミのくせに。
「…ふう。もういい、害虫駆除に時間を掛けたのが間違いだったな」
どうせ自分には勝てないと分かっていても、これ以上連中を調子付かせるのはストレスの元。
もっと早くにこうするべきだった。
口調はあくまで冷静に、内心では嫉妬と八つ当たりの感情が渦巻きながら十聖刃に手を添える。
『激土!翠風!錫音!既読!』
『激土!翠風!錫音!クロス斬り!』
鍔部分のエンブレムを操作し刀身を滑るように移動。
スライドの度に宿した聖剣の力を読み込み、必殺のエネルギーを溜め込む。
刃王剣十聖刃とは、ソードオブロゴスの剣士達の聖剣がその力を結びつき束ね生まれた物。
神山飛羽真の火炎剣烈火を始め、10本の聖剣の能力を自在に操る事が可能なのだ。
クロスセイバーの固有能力は制限により使用出来ずとも、十聖刃を用いた技までは制限の対象外らしい。
神秘的ながら絶望を感じさせる聖剣の輝きに、4人へ戦慄が走る。
世界の均衡を守る剣士達の誇りが、身勝手な暴力として顕現を果たす。
身の丈以上の巨大な剣、土豪剣激土。
あくまで本物の聖剣では無く幻影に過ぎなくとも、放たれる威力は偽りではない。
厳しくも優しき父の魂を穢すかのような一撃が振り下ろされた。
「あんなビッグサイズなんてありデスカ!?」
「言ってる場合か!来るぞ!」
剣術でさえ主催者に仕込まれたスキルの影響で脅威だったというのに、ここへ来て大技を繰り出すとは。
悪夢としか言いようが無いが、現実逃避は許されない。
ドライバーを操作するスペクターに倣い、ニノンもネクロムの力を引き出す。
『ダイカイガン!スペクター!オメガドライブ!』
『ダイテンガン!ネクロム!オメガウルオウド!』
それぞれの眼魂からエネルギーが放出、彼らの背後にて紋章を形作る。
モノリスと同じ形状のソレらは、二体のライダーへ必殺の力を付与。
青と緑、異なる色のエネルギーを右脚に纏い跳躍。
憤怒の鉄槌と見紛う鉄塊と激突、砕けた刃は地面に落ちる前に霧散していく。
「ま、また来た…!」
「マナブは下がれ!貴公には近付けさせん!」
激土を凌いだからといって終わりでは無い。
続けて飛来するは「守る」スキルにより幾度も妨害を受けた翠風。
但し今回は十聖刃の作り出した幻影、それもこれまで以上の速度を発揮していた。
単に剣を振るうだけでは防げない、故にモニカも技を出すまで。
「紫電…一閃!!」
最速の斬撃に翠風は弾かれ、激土同様に霧散。
仮にモニカ本来の愛剣だったら押し負けただろうが、此度は得物に恵まれた。
敵の得物は聖剣、対するモニカの武器も聖剣なのだから。
と言っても翠風の飛来する勢いも相当なものであり、迎撃には成功したモニカもまた吹き飛ばされる。
受け身を取る前に背中から地面へ激突。
重傷の身には堪える痛みだ、一瞬呼吸が止まり掛けた。
「もう馬鹿面で安心してるのか?やれやれ、揃いも揃って低能だな」
嘲笑に反論する者はいない、そんな事をしている余裕は無い。
十聖刃が読み込んだ聖剣の力は三つ、最後の攻撃が放たれた。
「マズい…!」
モニカが焦るのも無理はない。
三本目の聖剣、音銃剣錫音による銃撃、いや最早砲撃と言うべきか。
標的複数体を纏めて消し炭にし兼ねないエネルギー弾が4人を襲う。
黙って殺されるつもりは無くても、体が反応できるかは別。
再度技を繰り出すべくドライバーに手を伸ばすスペクター達、だがエネルギー弾の到達には間に合いそうもない。
激土を防ぎ間を開けずに錫音の砲撃が起きた為、さしもの彼らと言えども僅かな遅れはどうにもならなかった。
「髪の毛一本も残さずに死ね。不細工な顔の死体なんて見たくも無いからな」
勝ち誇ったマサツグ様の声もやけに遠く聞こえた。
間に合わない、手遅れ、全滅、死。
最悪の結果を意味する言葉が脳内を駆け巡る中、無我夢中で學の元へと走る。
目を見開いた少年の全身を極彩色が照らし、モニカ自身の視界も塗り潰されていき――
『Ready GO!』
『VOLTEC BREAK!』
――STEAM BREAK!COBRA!――
待ち受ける末路へ否と叫ぶ、けたたましい電子音声。
錫音とは別方向より戦場へ飛び出す、複数のエネルギー弾。
誰が、どうして、そんなありきたりな疑問を口に出す暇はどこにも無く。
ただ予想だにしない攻撃を受け、音銃剣が齎す死は途端に弱々しさを見せる。
『ダイカイガン!スペクター!オメガドライブ!』
『ダイテンガン!ネクロム!オメガウルオウド!』
首を傾げて尋ねるより優先すべきは敵の攻撃への対処。
唐突な支援攻撃でスペクター達が動ける時間が生まれた。
ガンガンハンドと右拳にエネルギーを纏い錫音目掛けて発射、砲撃は失敗に終わり聖剣も塵へ逆戻り。
「今のは一体……」
どうにか全員無事で済んだなら、次いで頭に浮かぶのは至極当然のクエスチョンマーク。
攻撃した何者かは自分達4人でもないし、当然対峙中の敵でもない。
では誰がと視線を動かせば、数秒と掛らずに見付けられた。
『まさか、本当にこっちでドンパチ遊んでるとはねぇ。男二人で数時間もお散歩したのが馬鹿らしくなるなこりゃ』
「それを言うんじゃねぇよ。…どうにか間に合ったみたいだな」
『見る限り、やちよが大好きないろはの嬢ちゃんはここにもいないようだがなァ。こいつはァ合流したら、俺が機嫌を取ってやるしかねぇか』
「本気でやめろ。やちよと会ったら俺が良いって言うまで絶対何も喋んな」
緊迫した命の取り合いの場には不釣り合いな、気の抜ける軽口の応酬。
気付けばモニカのみならず、全員が現れた二人組へ視線を向けた。
赤と青、二色で構成された装甲服の人物。
宇宙服にも似た全身血濡れの怪人。
奇妙なコントを思わせるやり取り、なれど纏う空気は戦士のソレに他ならない。
『仮面ライダービルドとその頼れる相棒只今参上、ってな』
「勝手に相棒枠に収まってんじゃないよ」
◆
大天空寺を発見し、さてここからどう動くか。
周辺エリアの探索を引き続き行う。
やちよとの合流場所まで戻る。
地下で見付けたパソコンのデータをもっと詳しく調査。
選択肢は複数あれど、選べるのは内の一つのみ。
因みにエボルトの監視を投げ出せない以上、当たり前だが二手に分かれて行動は最初から考えなかった。
考え込んだ末、ややあって顔を上げる。
地べたに腰を下ろしこちらの答えを待つ仮の協力者、因縁深い地球外生命体と目が合う。
戦兎の良く知る喫茶店のマスターではない、本人にはまだ直接会った事の無い少女の姿。
一体こいつは環いろはの擬態をいつまで続けるつもりなのだろうか。
ため息を押し殺し、淡いパープルの瞳へ答えを告げた。
「もう少し近くのエリアを調べに行くぞ」
「へぇ?別に構わねぇが、後になってやっぱりこの寺に残りたかっただの言い出すのは無しだぜ?」
「ガキじゃないんだから言う訳ねぇだろ」
からかいの言葉を冷たく切り捨てられ、わざとらしく目元を拭う少女の姿をしたナニカ。
小馬鹿にした態度は嫌と言う程見慣れたものだ、今更一つ一つに反応するのは時間の無駄。
ツレないねぇとの呟きを無視して出発の準備を行う。
バイクが手に入ったとはいえ、時間的にもそろそろやちよの元へ向かった方が良いのは戦兎自身理解していた。
だけどもし、付近のエリアで助けを求める参加者がいるのだとしたら。
放送で殺された者達のように、間に合わない事態を引き起こすのは御免だ。
加えて、やちよの探し人であるいろはが見付かる可能性もゼロではない。
「ああ待った、行く前に一応この場所に見張りを立てといた方が良いだろ」
本堂を後にし石造りの階段を降りた時、何かを思い付いたようにエボルトが言う。
一時的に離れるが大天空寺は首輪解除の設備が備わった施設。
戦兎はもとより、エボルトとしてもここは今後の拠点なりに役立てたい場所だ。
自分達が不在の間に他の参加者が訪れても、何ら不思議は無い。
それが殺し合いに反対の者ならばともかく、優勝を目指す輩であれば問題である。
ゲームに勝ち残り願いを叶えたい参加者にとって、首輪を外し主催者打倒を目指す者達は邪魔な存在。
首輪解除を阻止すべく施設の破壊に出られては困るのだ。
と言ったエボルトの意見は戦兎も理解出来る。
しかし見張りとはどういう意味かを尋ねる前に、タイミング悪くNPCのモンスターに遭遇。
出発前に出鼻を挫かれ戦兎が顔を顰める一方で、丁度良いとばかりにエボルトはトランスチームガンを向けた。
「そっちから集まってくれてありがとよ」
銃口からネビュラガスを噴射、あっという間に低級モンスター数体はスマッシュへ変貌。
一度こうなってはファウストの人体実験を受けた者達同様、エボルトの操り人形と化す。
攻撃どころか身動ぎもせずに不動の体勢を取り、命令を待っている。
「悪くない使い道だろ?腐る程会場にいるってんなら、有効活用しなきゃなァ」
ヘラヘラと笑うエボルトへ、戦兎はどうにも渋い顔を浮かべてしまう。
旧世界でスマッシュに変えられた人々を大勢見て来ただけに、内心は複雑だ。
あくまで主催者の用意したNPCのモンスター、そう分かっているから特別反論もしないが。
パソコンを奪ったり設備の破壊に出る者が来たら攻撃、そうでなければ手を出すな。
命令を受けたスマッシュ達が本堂へ消えるのを最後まで見送らず、手に入れたばかりのバイクを取り出す。
戦兎が運転を担当するのに異論は無く、後ろに乗り出発準備完了。
まさか万丈や美空ではなくエボルトと相乗りするとは思わなかった、というか実現してほしく無かった。
当の本人は桜色の髪を揺らし、少女の顔であっけらかんと告げる。
「良かったじゃねぇか。万丈と違って女っ気のないお前が二ケツなんざ、こういう機会でも無けりゃ実現しないだろうよ」
「大きなお世話なんだよ。大体お前を後ろに乗せて喜べるかっての」
辛辣な返しもそこそこにエンジンを掛け出発。
マシンビルダーとは違うも性能は引けを取らず、徒歩とは段違いのスピードで草原を駆けた。
道中現れたNPCを華麗に避け、或いはエボルトが撃ち殺し事無きを得て進み続ける。
もっと早くにこういった足が手に入っていればと思うも、過ぎた事故仕方ない。
エリア同士の境目を越え街らしき場所へ近付いた頃、視界が捉えたのは戦闘中の一団。
嘲りと共に悪意を吐き出す剣士と、命懸けで食らい付く4人組。
どちらに味方するかなど誰に問うまでも無い。
バイクを急停止させるや間髪入れずに変身を実行、装甲を纏った時には共に武器へフルボトルを装填。
ゲーム開始直後にエボルに襲われて以来数時間ぶりに、参加者同士の戦闘へ参戦を果たした。
◆◆◆
「仮面ライダー…それって鎧武、葛葉絋太さんが言ってた…?」
神に立ち向かった青年の最期は記憶に新しい。
この場にはマコトとニノン、そしてマサツグ様と既に三人のライダーが存在する。
だが仮面ライダーという名称を他者の口から聞くのは放送以来。
自分達を助けてくれた事からも、乱入者二人は絋太と同じようなヒーローなのか。
學の声色には自然と期待が籠り出す。
残念ながら片方は善側とは程遠い男。
とはいえ少なくとも今は學達へ害を齎す気は無く、目下最大の脅威へ意識を向ける。
『初めて見るライダーシステムが三つ。で、よりにもよって一番おっかないのが敵に回ってると。来て早々貧乏くじ引かされた気分だなこりゃ』
「文句言ってないで集中しろ。…仮面ライダーの力を悪用する奴を、黙って見過ごせるかよ」
隣から聞こえる愚痴をピシャリと黙らせ、ドリルクラッシャーをブレードモードにチェンジ。
戦兎にとって最も使い慣れたビルド専用の武器も、果たしてどこまで通じるやら。
煩わし気に睨み付ける紺色のライダーはエボルトに言われるまでも無く、強敵だと分かる。
発せられる嫌なプレッシャーは、旧世界で仮面ライダーエボル相手に感じ取ったのとほぼ同じだ。
「其方達は…いや、申し訳ないが自己紹介は後にさせてくれ。まずは救援感謝する」
「畏まらなくても良いって。詳しい事情はともかく、あいつが敵で合ってるか?」
モニカもまた戦兎達の登場に驚きこそしたが、敵意が無いと分かれば今はそれで問題無し。
まだ自己紹介も出来てない相手を巻き込むのは気が引けるも、そう言ってられる状況ではない。
不謹慎なのは十分承知、それでもこちら側へ味方してくれる者が現れたのには安堵を隠せなかった。
他の三人も敵でないと理解し、共闘を受け入れる。
「なあアンタ、もしかして仮面ライダーゴーストの仲間だったりするか?」
「っ、何故お前がタケルの事を…」
「あー、詳しいことは後で話す。今はこれを受け取ってくれ」
カラーリングや仮面の意匠は違えど青いライダー…スペクターはゴーストと似ている。
何より腹部のベルトが同じな為、ゴーストの関係者と直ぐに気付けた。
ゴーストドライバーの持ち主がゲームに乗っている可能性も考慮していたが、どうやら杞憂で済んだらしい。
それなら、大天空寺で見付けたアイテムの譲渡に躊躇は無い。
思わぬ所で取り戻した力に驚きを見せたのは一瞬、感謝の言葉を告げ即座に起動。
『アーイ!バッチリミロー!バッチリミロー!』
ドライバーから歌うように電子音声が流れ、変身に必要なもう一つのガジェットが動き出す。
停止してあったブルーペイントのバイク、マシンフーディーが変形。
スペクターの周囲を重量を感じさせない軽やかさで飛び回った。
『カイガン!フーディーニ!マジイイジャン!すげえマジシャン!』
ロイヤルブルーのパーカーを纏い、背面部には変形済みのバイクを装着。
各部へ垂らした強固な鎖と同様に、マスク部分の意匠も絡み合ったチェーンへと変化。
仮面ライダースペクター・フーディーニ魂。
脱出王の異名を持つ英雄の試練を乗り越えた、深海マコトの強さの証。
「その様子じゃ、元はアンタが使ってた物みたいだな」
「感謝する、だが片付いたらタケルの話を聞かせて貰う」
英雄眼魂の一つを取り戻したからといって、敵の脅威に変わりは無い。
スペクターの新たな変身、助太刀に現れた戦兎達。
戦場の変化を目の当たりにして尚も、マサツグ様に動揺は皆無。
どこまでも尊大で下らなそうに、だけど隠せない苛立ちを乗せて侮蔑を吐き出す。
「羽虫の元に集まるのは同じく馬鹿で救いようのない羽虫か。どこまでも俺を不愉快にさせるクズどもが」
偽善者どもの所には次から次へと助けが現れ、反吐が出る仲良しごっこに興じる。
自分の時には来なかったくせに、本当に助けを求めてる者には手を差し伸べなかったくせに。
雑魚が何人集まっても雑魚、分かっていても喉奥からせり上がる不快感は一向に消えてくれなかった。
『不機嫌にさせちまって悪かったよ。そら、詫びの品を受け取れ!』
何が理由で機嫌が急降下したかに一切興味は無く、ブラッドスタークは障害の排除へ動いた。
気怠い仕草からは想像も付かない、電光石火の動作で右腕を跳ね上げトリガーを引く。
高熱硬化弾が狙うのは全て急所、西部劇のガンマン顔負けの早撃ちと正確な狙いがマサツグ様を襲う。
「っ!いけまセーン!」
敵を攻撃するのは間違ってない、但しマサツグ様相手では悪手以外の何物にも非ず。
ニノンの焦りへ疑問を抱く余裕も与えられず、ブラッドスタークへ迫る濃密な死の気配。
激しく損壊しながらも切れ味は衰えない、二本の聖剣が飛来。
高熱硬化弾を一発残らず叩き落とし、次はお前の番とばかりに撃った本人へ刃が唸る。
『おっとォ!?どんな手品だこいつは!』
助けに来たつもりが呆気なく退場、つまらない末路を遠ざけたのはブラッドスタークの機能とエボルト自身の戦闘技能。
動体センサーが飛来物を探知し、間髪入れずに左手はバルブ付きの短剣を振るう。
スチームブレードと翠風が弾かれ合い、一先ず無傷でやり過ごす。
「油断は禁物デース!こっちが仕掛ければ、今みたいに邪魔されてしまいマース!」
『ご忠告ありがとよ。出来ればもっと早くに言って欲しかったがねぇ』
「ソーリー!でもストライクハンド無しという訳では――」
ニノン達へのストレスを内包するマサツグ様は、会話を最後まで許してくれる寛容さを持ち合わせない。
夜空色の甲冑が身体能力を増強させ、瞬間移動を疑うスピードでニノンの元へ到達。
聞くに堪えない騒音を吐き散らす口を永遠に黙らせようと、十聖刃が風を切り首を狙った。
負の感情が剣の腕をより研ぎ澄ます、しかしニノンとて大人しくやられる気は毛頭ない。
満身創痍の身を気力で無理やり動かし、交差させた両腕で聖剣を防ぐ。
耐久性が上がったネクロムだからこそ両腕両断にはならない。
「なんてザマだよ偽善者。立ってるだけでもゼーハー言ってる雑魚虫の分際で、見苦しいったらないな」
十聖刃の刀身もネクロム・友情バースト魂の腕部装甲も、簡単に破壊される代物じゃあない。
勝負を分けるのは変身者の状態だ。
片やほぼ万全、片やいつ倒れても不思議は無い。
どちらが押されるかなど言うまでも無く、あっという間にニノンの体勢が崩れる。
このまま一気に真っ二つ、それは断じて認めないと仲間達が駆け出す。
「っ!?今度は俺の方かよ…!」
助け出そうと武器片手に突っ込んだは良いものの、「守る」スキルは当然の如く機能。
翠風をドリルクラッシャーで防ぐビルドを追い越し、我が身を弾丸に変え突撃するのはモニカ。
友を追い詰める敵へ切っ先を向け疾走、大型の魔物が相手でも抵抗を許さない速さだ。
マサツグ様からしたら欠伸が出るくらいに対処は簡単、馬鹿がと嗤い自身も剣を振るった。。
「伏せろモニカ!」
刀身を叩き剣の狙いを外せば後は首を落とすのみ。
煌めく刃が細く白い首に食い込む寸前、声に従い身を屈める。
1秒前までモニカの頭があった場所を駆ける鉄の鞭。
十聖刃を巻き取らんとフーディーニ魂の固有武装、タイトゥンチェーンが射出された。
「無駄な努力って言葉を知らないのか?羽虫め」
眼魔を捕える強固な鎖もマサツグ様には脆い糸同然。
無駄の無さと速さを兼ね備えた剣が鎖を斬り落とし、破片が空しく地面へ散らばる。
簡単に勝負が付かないとはスペクターとて分かっている。
フーディーニ眼魂が新たな鎖を生成し、数十本一気に殺到。
目障りな蝿を掃うかの気安さで防ぐも手数の多さで勝ったのか、一本が腕へ巻き付く。
「また雑魚の悪足掻きをっ!?」
力任せに引き千切ろうとし、腕に痛みが走った。
タイトゥンチェーンはエネルギーショックを与え、装甲内部から敵にダメージを与える。
肉体破壊されるレベルの傷でないとはいえ、痛みは痛みだ。
動きを止めたマサツグ様目掛け、再生成したばかりの鎖を伸ばす。
「調子の乗るなゴミが!」
見下していた相手からの思わぬ反撃へ苛立ちが加速。
自身の油断が原因でもあるがそれを認める少年ではない。
拘束されたままの腕に力を籠め、タイトゥンチェーン諸共スペクターを引き寄せる。
背部ユニットを含めたスペクターの重量は300kgを超えるも、クロスセイバーの膂力なら風船と同じだ。
足が地から離れ、僅かな間宙へ無防備な身を晒す。
命を刈り取る刃が頭部を叩き割らんと振り下ろされ、瞬間スペクターの姿が消失。
フーディーニ魂の固有能力、脱出マジックはこの地でも変わらず使用可能だった。
敵を見失おうと慌てる必要は無く、銀色のバイザーが力の流れを捉える。
頭上からの敵意に「守る」スキルが発動、地面に転がる翠風が射出。
戦闘開始当初ならともかく既に見飽きた攻撃だ、厄介であれど対処はそこまで難しくない。
数本の鎖に絡め取られ、抵抗を完全に封じられた。
『Ready GO!』
『VOLTEC BREAK!』
これ以上聖剣の妨害を受けるのは全員御免被る。
跳躍し腕を振るったビルドの手には、ブレードモードのドリルクラッシャー。
フルボトルの装填により切れ味と刃の回転数を強化し、二本の聖剣へ纏めて叩きつけた。
ただでさえ損壊が激しいのに「守る」スキルで酷使されたのだ、耐久性にも限界が訪れ遂に砕け散る。
翠風の破壊を最後まで見届けず、スペクターは空中から攻撃を開始。
射撃形態のガンガンハンドと無数の鎖がマサツグ様を狙い、同じタイミングで地上の者達も動いた。
左右からモニカとニノンが仕掛け、倒すべき敵へ己が刃と拳の距離が近付く。
「やれやれ、この程度で勝ち誇るとは本気でお前らの間抜けぶりには呆れて物も言えんな」
嘲笑は負け惜しみなどではなく本心から。
自信満々の態度が嘘では無いと証明するかの如く、マサツグ様のデイパックから剣が飛び出した。
標的に選ばれたのはスペクター、鎖を切り裂きエネルギー弾を消し飛ばして刃が目前へと迫る。
刀身が胴体を撫でる前に地上から高熱硬化弾が放たれ、剣の勢いが低下。
得られたほんの少しの猶予を無駄にはせず、ガンガンハンドで叩き落とす。
攻撃が届かないのはスペクターだけでなく、少女達もだ。
モニカの聖剣は弾き返され、ニノンの拳はいなされる。
装甲を纏っているとは思えない軽やかな動きで翻弄し、反対に二人へ蹴りが飛ぶ。
刀身と腕部装甲でダメージを抑えるが、腕の痺れに自然と呻き声が漏れた。
「お前もだ。最近は正義のヒーロー(笑)ごっこが流行ってるのか?弱いくせに痛々しいんだよ」
「好きに言ってろ。生憎、安い挑発で諦めるならヒーローなんてやってないからな!」
回転刃が火花を散らすが、翠風と違い十聖刃には僅かな亀裂すら入らない。
武器の破壊は現実的じゃ無いと実感、使い手本人を直接叩くべきだ。
ラビットフルボトルの成分がビルドの動作を数秒間だけ高速化、聖剣の防御をすり抜けた。
「ぐあっ!?」
自分自身を守りたいと思った時にこそ、「守る」スキルは効果を最大限に発揮する。
スペクターに撃ち落とされた剣が電動鋸を思わせる速さで回転し、主に手を出す不埒者を妨害。
血飛沫代わりの火花を散らして後退したビルドを鼻で笑い、己の手で追撃を行う。
『おいおい、遊び相手ならこっちにもいるのを忘れないで欲しいね』
誰よりも利用価値を認める人間(ヒーロー)に、こんな場面で死なれては困る。
極めて利己的ながら、ブラッドスタークの援護射撃はグッドタイミング。
ビルドを斬るつもりだった剣は、高熱硬化弾を払い落とすのに使われた。
銃内部のユニットが絶えず銃弾を生成し発射、だが一発すらマサツグ様は己が身へ掠らせない。
「て、てやぁっ…!」
余裕を崩さぬままなれど、マサツグ様はブラッドスタークに意識を割いている真っ最中。
少しでも攻撃を当てるチャンスと剣を振り被り、背後から駆け寄るのは學だ。
女装趣味という少しばかり変わった世界に身を置きはしても、荒事とは遠い場所で生きる。
そんな學もマサツグ様との戦闘が影響し、仲間からのフォローを待たずとも自分で攻撃の機会を考えるくらいには戦いの空気へ慣れた。
自分の体とは思えない驚異的な身体能力も、モニカ達の助けになれるなら心強い。
だからといってマサツグ様に有効打を与えられるかと聞かれれば、違うと言わざるを得ない。
チラとだけ見やり左腕を振り払う、動作一つで剣共々學を殴り飛ばした。
靴に蟻が一匹くっ付いた、その程度の煩わしさ。
『んん…?』
首を傾げるブラッドスタークを気にする者はおらず、學を慌ててモニカが受け止める。
自身の傷に響く等は二の次で、地面への激突を阻止し無事を確かめる。
「大丈夫かマナブ!?」
「な、何とかね…モニカちゃんが受け止めてくれたし。それに…剣も離さなかったよ」
今回は緋々色金も手元に有り、二度も同じ失敗は繰り返さなかった。
ホッと一息つく暇は最初から無い、金属同士を叩きつけ合う音に意識を戻される。
「守る」スキルの妨害をニノンが引き受け、二体のライダーが接近戦を仕掛ける。
飛来する剣をスペクターが対処、ビルドの援護を受けたニノンが拳を叩き込む。
前衛と後衛を変え、あの手この手で何度攻撃を行った。
全てがマサツグ様には届かない、嘲笑と共に手痛い反撃を受けるばかり。
「一周回って感心し兼ねない強さだな……だからといって、勝ちは譲らん…!」
元から仲間達に戦いを押し付け、高みの見物に徹する悪趣味は無い。
疲労が圧し掛かる肉体に喝を入れ、再度闘争へ身を投げ入れる。
激化の一途を辿る戦場の空気へ我を忘れないよう、柄を握る力を強め學もモニカの後に続き――
『ちょっと待った。いきなりだが、俺に手を貸す気はあるか?』
決意新たに踏み出しかけた一歩は、蛇の声に絡め取られた。
○
こちらが複数なのに対しマサツグ様一人。
数では圧倒的に勝り、しかもほとんどが戦闘経験者。
普通ならば負ける要素の無い、一方的なリンチにしかならない。
あくまで『普通』ならば。
「ぐっ…まだ強くなるのか…!?」
鎖の乱舞を掻い潜り、ガンガンハンドの猛攻をものともしない。
敵の強さは十分に分かっているつもりだったが、どうやら認識が甘かったらしい。
苦し紛れの防御態勢すら間に合わず、十聖刃が胸部へ一文字を書く。
スペクターの装甲から散る火花の量が、一撃の威力が如何程かを物語っていた。
「手裏剣を受けるがいいデース!シュシュシュシュシュ!」
「どこにも手裏剣要素が無いだろそれ!?」
眼魂から引き出したエネルギーを光弾として発射、隣ではガンモードのドリルクラッシャーによる射撃。
遠距離攻撃だろうと関係無い、地上に光が走ったかと思えば刀身がビルド達の胴を疾走。
スペクター同様に怯み、その間を縫ってモニカが剣を叩き込む。
「またか…!」
当たり前だろとでも言いた気に、モニカを強制的に止める剣。
手痛い一撃を受けた「守る」スキルを再び食らうつもりは無い、聖剣をぶつけ勢いを相殺。
次いで襲い来る十聖刃も全身を無理やり動かし回避、それが仇となり一瞬の硬直。
「うあっ!?」
拳を避ける事は叶わずに地面を転がり、突っ伏して血を吐き出す。
傷の痛みもそろそろ笑い飛ばせなくなって来た。
見ればニノンも戦意とは裏腹に動きが鈍り始めており、限界の近さを嫌でも伝えて来る。
「ふう、いい加減大人しく死んでもらいたいものだな。あんまりしぶと過ぎると、まるで俺がイジメでもしてるみたいじゃないか」
這い蹲る者達を見下ろすマサツグ様がどんな顔かは、仮面越しでも全員に分かる。
手足をもがれ痙攣する昆虫を見て笑う悪童と同じだ。
徹底的に見下され、しかし戦士達の心は未だに折れておらず。
武器を杖代わりに立ち上がる様を、侮蔑と嫌悪を籠めた瞳で射抜く。
「やれやれ、脳みその無い羽虫どもに何を言っても無駄だったな」
勝てもしないのにしつこく食い下がり、力の差も理解出来ずヒーロー気取りで助けに入る。
その結果がこれだ。
馬鹿は死んでも治らない、治る見込みの無い馬鹿を生かす理由は無い。
十聖刃のエンブレムに手を添え、見せ付けるようにスライドし、
「おーおー、随分好き放題やってくれたねぇ」
ピタリと動きを止め、声の主を睨み付けた。
別に攻撃を中止したのに深い理由は無い、ただ初めて聞く声にまた邪魔者かと思ったから。
マサツグ様の視線が捉えたのは、やはり見た事の無い顔。
制服のスカートと桜色の髪を揺らし、友人と街でバッタリ会ったかのような軽い足取りで近付く。
緊張感を欠片も持ち合わせない少女に眉を顰め、ふと右手の銃に気が付いた。
確かアレはついさっき邪魔をしに現れた、二人組の片割れが撃ったのと同じではないか。
ということは赤い装甲服の正体こそ、能天気な態度の少女。
声は男だったがボイスチェンジャーでも使ったのか、どうでも良いが。
「わざわざ自分から生身に戻るのは、馬鹿以外に何も言葉が見付からないな。それとも、力の差をようやく理解出来たか?」
「…ま、否定はしねぇよ。こいつでお前さんに勝つのは、幾ら何でも自殺行為としか思えないんでね」
呆れを含んだ目で手元の銃を眺める少女…環いろはに擬態中のエボルトへ、マサツグ様以外は困惑するばかりだ。
一体何を考えているのかを問い質そうとし、ビルドのカメラアイに向こうから視線が合う。
僅かに目を細めチロリと舌を出す、悪戯っぽい表情に察する他ない。
「この男、またしてもロクでもない手に出るつもりだ」と。
「そうか…ははっ、どうやらそこで転がってるヒーロー(笑)だの友情(激寒)だのほざく痛い連中よりは、多少マシらしいな」
「お褒めに与り光栄だよ。勝てないって分かって喧嘩売るような馬鹿と一緒くたにされちゃ、こっちも堪んないからなァ。降参だ降参」
エボルトの内心を露知らず、マサツグ様は少しだけ機嫌を良くした。
このタイミングで変身を解き、わざわざ白旗をアピールする理由。
そんなもの一つしかない、自分だけは助けて欲しいとの懇願以外に考えられない。
後方に視線をくれてやれば、信じられないといった顔で立ち尽くす雑魚が一人。
裏切られたとショックを受けているのだろう、學の姿も愉快極まりない。
次から次へと邪魔が入り、その度に不愉快な戯言を聞く羽目になった。
だがどうだ、助けに来た内の一人はニノン達を見捨てたじゃあないか。
モニカは唇を噛み俯き、仮面で見えないがニノンも笑顔ではあるまい。
マコトも同じだ、顔を怒りに歪ませているのが手に取るように分かる。
散々イラつかせられた羽虫共が打ちのめされる光景は、全く持って最高としか言いようがない。
自分を助けてくれなかった偽善者に相応しい報いだ。
殺す事に変わりは無いが、その前に馬鹿共の惨めな姿を見れて気分が良い。
王の座に就いた自分へ懲りずに食って掛かったミヤモトやヨシハラを、徹底的に言い負かしてやった時にも似た爽快感。
上機嫌のままで、何とも笑える光景を生み出した少女へ口を開く。
「理解出来たのは結構だが、その言い方は気に入らないな。負けを認めて、助けて欲しいなら相応の謝罪の仕方があるだろう?」
「具体的には?」
「はぁ、一々説明しなきゃ分からんとは。やはり元が付いても雑魚虫どもの仲間か。
地に額を擦り付け、誠心誠意詫びる、土下座以外に何をやれと?ああ、勿論自分が人間だなんて思うなよ?
もっと早くに力の差を理解する事が出来なかった蛆虫と自分を戒めろ。そうすれば、虫から家畜程度にはランクアップさせても良い」
小馬鹿にする態度で剣を突き付けての要求に、相手は暫し無言。
表情を消し、伽藍洞の瞳で銀のバイザーを見つめる。
やがて視線を外し、いやにゆっくりと天を仰ぎ、
「成程ねぇ、そうやって見下されてきた訳か。教えてくれてありがとよ、別に知りたくも無かったけどなァ」
下手糞な芸しかできないピエロを見たような顔で、環いろはが生涯一度も浮かべる事の無い表情で。
さも楽し気にそう言った。
「…何だと」
「戦ってる最中もずっとあーだこーだこっちを馬鹿にして、しかも内容は羽虫だゴミだとレパートリーに乏しいと来た。
随分同じ罵倒に拘るなと疑問に思ったんだが…蓋を開けりゃ答えは単純だったな」
それ以上言うなと睨み付ける。
効果はゼロ。
「昔、自分も同じ事を散々言われた口だろ?
それにそっちのお嬢ちゃん達、随分と嬲ったみたいじゃねぇか。お前がどんな扱いを受けたのか、察するのは難しくない。
今は強力なライダーシステムが手に入って?もう虐げられる立場じゃ無くたった訳だ」
余計な事は何もう言うなと怒りをぶつける。
効果はゼロ。
「そんでだ。これ幸いとばかりに、昔自分がやられた事をそっくりそのまま無関係の奴らにやり出したと」
マサツグ様からの敵意、いや殺意がこれまで以上に膨れ上がる。
対峙中のエボルトも当然感じているが、一向に口は閉じられない。
「虐げられて、力を持った途端に自分をこの世の頂点と勘違いし、何をやっても許されると思い込む」
ロクでもない、しかし心の弱い典型的な人間らしさ。
「俺はな、お前みたいな愛すべき、愚かな人間が…大好きなんだよ!!!ハハハハッ!!いやあ、俺とした事がすっかり忘れてたぜ」
人間は強い、二度に渡り自分を打ち倒したラブ&ピースのヒーロー達の手で思い知った。
その認識は変わらないし、キルバスへ向けた言葉に偽りは無い。
癪ではある、しかし桐生戦兎達の強さは認めている。
だが全ての人間がヒーロー達のように、何度へし折られても再起する強靭な心を持つ訳ではない。
高圧的な態度を取りながら、追い詰められれば一変し命乞いに出た難波重三郎。
自分を欺く演技だったとはいえ、嘗ての主をあっさり裏切った内海成彰。
近頃は戦兎や万丈の影響でつい忘れ掛けていたが、そもそもの始まりは違う。
人間への見方が変わる切っ掛けを作ったのは、強き者ではない。
「お前のような道化こそ、人間は面白いと俺に教えてくれたんだよ!
聞こえてるか、檀黎斗!今だけ礼を言わなきゃならねぇ。こんなに笑える玩具と会わせてくれたんだからなァ!」
狂気にまみれたエボルトの笑い声が響き渡る。
誰も、何も言わない、何も言えない。
ただ一人、ありったけの悪意をぶつけられた少年だけが己が内にドス黒いモノを宿らせる。
「ん?おいおい駄目だろ?玩具が持ち主の許可なく勝手に動いたら」
「――――――ッ!!!!!!!!!!!」
わざとらしく吹き出す少女の姿をした蛇。
限界は訪れ紺色の剣士は感情を爆発、余裕と共に挑発を行う様は見られない。
今この瞬間だけは、ニノンやモニカへの苛立ちも頭からごっそり抜け落ちた。
不快感や嫉妬程度では済まない、明確な憎悪を十聖刃に乗せる。
「トラップカード発動!」
耳に届いたのは蚊の羽音にも似た声。
タイミングを同じくして、全身を包み込む何とも言えない感覚。
痛みは無い、言葉ではどう表現すべきかが分からない気持ち悪さ。
おかしな真似に出た相手を睨み、問い質すのが普通の反応だろう。
だが一度点いた火は消えず、体へ生じた奇怪な違和感も今のマサツグ様には些事以下。
嘗てのミヤモト達のように自分をコケにし嘲笑った、許し難き桜色の少女への制裁が最優先。
他の羽虫の排除は二の次で疾走、目に映るのはどこまでも憎たらしい笑み。
何かがおかしいと気付くだけの余裕は消え失せ、脳内はありとあらゆる手で少女を殺す光景に埋め尽くされた。
『Ready GO!』
『VOLTEC BREAK!』
今しがたの声とは別の方向から聞こえる、ハイテンションな男性の叫び。
タンクフルボトルを装填し、ドリルクラッシャーから破壊力を高めたエネルギー弾をビルドが撃つ。
単なる露悪趣味で挑発に出る程後先考えない男ではない、そう知っているが故にいつでも動ける準備は出来ていた。
高火力の銃撃もマサツグ様には脅威でも何でもなく、鬱陶しさ以外に感じるものはない。
足は止めずに横目でエネルギー弾を睨めば、剣が飛来し勝手に防いでくれる。
「がぁっ!?」
疑いなく描いた数秒先の未来図は、無防備な胴体への衝撃で呆気なく潰えた。
錐もみ回転し吹き飛ぶ様はまるで空気を抜いた風船のよう。
字面を転がりうつ伏せに倒れるも、直ぐに起き上がる気配は無い。
憤怒一色に支配された頭は打って変わって大量のクエスチョンマークが発生。
自分に何が起こったのか、何故『起こらなかったのか』が分からない。
疑問へ懇切丁寧に答えてくれる物好きはおらず、返答代わりに高熱硬化弾が群れを成して襲来。
顔を上げ、銃を撃った張本人へ「無駄だ」と吐き捨て、
「ぬぐっ!?」
装甲へ命中しては弾け、そこら中に火花の雨を撒き散らす。
一発一発はクロスセイバーの耐久性を超えられないが、数にものを言わせれば少しずつでもダメージは蓄積。
多少の痛みは噛み殺して起き上がり、十聖刃で片っ端から斬り落とした。
「なん、だ、これは……」
愕然と呟き自分の体を見回すマサツグ様の様子は、とてもこれまでと一緒とは思えない。
わなわなと震えながら背後左右へ視線を往ったり来たり、ゼンマイの壊れた玩具染みた動作。
仮面の奥で見開いた目が捉えたのは二人。
いつの間にかカードらしき物を手に持った一番どうでもいい雑魚と、してやったと言わんばかりに笑う少女。
これを見れば馬鹿でも誰が原因か分かる。
「何を…した……」
歯が砕けんばかりに噛み締められ、声の震えには怒りと焦りが含まれた。
「小賢しいゴミ以下の虫けらどもめ…!俺に一体何をした!?」
「さあねぇ?地面に額を擦り付けて、俺に忠誠を誓うってんなら教えてやるよ」
熱砂の暴風にも等しい怒りを受け流し、エボルトは変わらぬ軽薄な言葉を投げ付ける。
彼らの様子へ學の頬には一筋の冷や汗が垂れつつも、作戦の成功に人知れず安堵の息を吐いた。
學がエボルトから提案された作戦内容は至ってシンプル。
曰く、適当に挑発して相手の怒りを自分に向けさせるから、そのタイミングでカードを使えとのこと。
手渡されたのはエボルトの三つ目の支給品。
既に複数の参加者が手にし、異なる場面で活用され続けているデュエルモンスターズのカード。
ブレイクスルー・スキル。相手モンスターの効果を無効にするトラップカードである。
同封していた説明書によれば参加者相手にも有効らしく、マサツグ様の力を削ぐのに使えるやもしれぬと使用を決断。
しかし問題となるのは、使おうとした瞬間に剣の飛来…「守る」スキルで妨害される可能性。
万が一カードをバッサリ斬られれば、折角の有用なカードもただの燃えるゴミと化す。
だから學に白羽の矢を立てた。
恐らく、敵は學の事を特に軽視し取るに足らない雑魚と見なしている。
他の者の攻撃は「守る」スキルで防いでるにも関わらず、學には力を使う価値無しとでも言うようにマサツグ様自身が軽くあしらった。
無論、もし成功すればマサツグ様からの敵意は大きく膨れ上がり危険も増す。
その事に気付かない學ではない。
けれど少しでも戦いで役に立てるなら、モニカ達の負担を軽くできるならと承諾し提案を受け入れた。
「守る」スキルはマサツグ様が自分を守りたいと思った時に効果を表す。
スキルを使わずとも問題無い、どうでもいい相手と見下す學には「守る」スキルも当然発動されない。
ニノンとの戦闘開始直後の時と同じだ。
故にエボルトには好都合、最も警戒が薄い學ならばカードを使っても「守る」スキルで妨害を受ける可能性は低いのだから。
後は學から手短に聞いたマサツグ様のこれまでの言動や様子から、特に怒りを誘い意識を引き付けられるような挑発を行った。
いろはの擬態を解かずにいたのも、年下の少女の外見で煽られた方が屈辱だろうと踏んだ為。
未だ直接会っていない少女への擬態は、石動やブラッドスタークの姿以上の効果を齎したようだ。
結果は成功と言って良い、剣が独りでに動きこちらを襲う気配は全く見られない。
異世界で手に入れたレアスキルはこの瞬間、名前だけのお飾りとなったのだ。
「ふざけるな雑魚虫ども…!地に這い蹲るしか能の無いゴミクズが、何をしたかと聞いてるんだ…!!」
怒りで顔を赤く染め、罵りをぶつけ問い質す。
真っ向から殺意を叩きつけられ、思わず學の全身が強張る。
ほんの数分前まであからさまに下へ見られていた、だがもう違う。
學はエボルトと並んでマサツグ様の多大な怒りを買ってしまった。
舐め腐った真似に出た害虫自身の命で、愚行の代償を払わせる。
怒りの感情はマサツグ様にブーストを掛け、苛烈極まりない剣術を発揮可能とする。
反応一つ認めず十聖刃で學の顔面に突きを繰り出し、しかし刀身より伝わる手応えは人体貫通とは全く別もの。
聖剣の脅威を退けられるのは、同じく聖剣を持つ學の仲間。
「性懲りも無く邪魔をする気か、偽善者のミジンコ女め!」
「当たり前だ!貴公が私の友へ剣を向けるなら、何度だって立ち塞がってやる!」
目まぐるしく変わる状況に少々置いてけぼりとなったが、學へ危機が迫りモニカもここで復帰を果たす。
細かい事はさておき、學達の策が功を為し敵の力が一つ封じられた。
それが分かれば問題無い、どのみちやることは戦って勝つ以外にない。
「そういうことだったんデスネー!エネミーを欺くにはまずフレンドカラ!すっかり騙されまシタ!」
聖剣諸共圧し潰すべく力を籠めるマサツグ様へ、横合いから迫るニノンの拳。
「守る」スキルは機能せず、自力で対処する他ない。
舌打ち交じりに腕を翳し防御、衝撃は走るが痛みは薄い。
鍛え上げられたプレートアーマーを何重にも重ねた装甲は、強化フォームのネクロムでも突破は困難だ。
『ガンガンミロー!ガンガンミロー!オメガスマッシュ!』
戦闘へ復帰したのは二人だけでは無い。
タイトゥンチェーンをガンガンハンドに巻き付け、打撃威力を強化。
両手が塞がったままのマサツグ様目掛け、スペクターの豪快な一撃が振るわれた。
「無駄な足掻きだと何度も言わせるな!学習能力ゼロの出来損ないども!」
なれどこうも容易く討ち取られるなら、マサツグ様はとうの昔に敗北を余儀なくされている。
目障りな羽虫共への不快感が剣術の精度を引き上げ、一瞬で場が引っ繰り返った。
片足を軸にし腰の捻りを効かせた回転斬りで、三人纏めて払い飛ばす。
腹立たしい抵抗に出ようと所詮雑魚は雑魚。
そう嘲笑う暇を与えてたまるかと、二方向から弾幕が張られた。
『その出来損ないに一杯食わされた奴が何を言っても、負け惜しみにしか聞こえないよなァ?戦兎ォ?』
「俺に振るんじゃないよ!いいから集中しとけ!」
いつまでも生身を晒すのは自殺行為に等しい。
ブラッドスタークへ素早く再変身し、ビルドと共にマサツグ様へ集中砲火を行う。
「どいつもこいつも…雑魚の癖にいつまで楯突く気だ…!」
「守る」スキルが無効化された以上、両方共に自分で相手取らなくては。
幸いクロスセイバーの装甲には何ら変化無し。
どうせ当たっても大したダメージにはならないのだ、被弾は無視して早急に片方を仕留める。
まずはこうなる原因を作った内の一人。
縦横無尽に駆け翻弄、狙いを付け直すより先に十聖刃がブラッドスタークへと半円を描く。
『そんなにカッカするなよ。頭に血が上り過ぎて早死にするぜ?』
夜空色の聖剣が齎す死を阻むは、黄金の刀身。
本来の装備であるスチームブレードではない、機械仕掛けの大剣がブラッドスタークの手にあった。
名はパーフェクトゼクター、ZECTが開発した対ワームの究極武器。
元々はエリンに支給され、スキル効果で翠風に代わりマサツグ様守護の役目を押し付けられる憂き目に遭い、目敏くブラッドスタークに回収され今に至る。
影山瞬が生きた世界においてはグリラスワームとの戦闘時に破壊されたが、ゲームの支給品に使えると判断され修復を受けたのだろう。
マサツグ様然りエボルト然り、善の心を持ち合わせない参加者にばかり所有権が移っているのは偶然だろうか。
「誰に断って勝手に使っている?三流の薄汚い盗人め、死んで二度と顔を見せるな」
『心配しなくても、ここでお前が死ねば二度と俺の顔を見ずに済むだろ?』
挑発には挑発を返し剣戟を展開。
十聖刃が武器として最高クラスの性能を誇るのは言うまでもないが、パーフェクトゼクターとて決して劣らない。
差が出るとすれば使い手自身の技量。
刀身を叩きつけ合い、隙を見せぬ攻防を続けるもどちらが優勢かは明白だ。
本来の戦闘技能はエボルトが勝るとはいえ、現実に押しているのはマサツグ様の方。
主催者に付け足されたスキルの恩恵を受け、マサツグ様の剣の技術は達人の枠に収まらない。
それも負の感情を激しく震わせた事で、まるで数十年の修練と実戦を経た如き強さへと変貌を遂げた。
仮面ライダーエボルならまだしもブラッドスタークではクロスセイバーとのスペック差も大きく開き、単独で相手取るのは流石に無理がある。
『そういう訳だ戦兎ォ!手助け頼むぜ!』
「んな堂々と言う内容じゃねぇだろ……」
呆れつつもマサツグ様を倒す目的は一致しており、得物を接近戦用に変形。
脚部のスプリングが瞬発力を強化、ロケットもかくやの勢いで突進。
片手に構えたドリルクラッシャーは回転数を増し、装甲を削り取る瞬間を待ち侘びている。
一度二度斬り付けたところで大したダメージにはならない、ならば回転刃の特性を活かし少しでも耐久性を落とす。
後は実行に移すだけだがどれ程困難かは言うまでもない。
「うおおおっ!?」
ビルドの接近に舌を打ってからの行動は迅速の一言に尽きる。
パーフェクトゼクターの間をすり抜け、手甲で覆った拳がブラッドスタークの胸部を叩く。
殴り飛ばされた真紅の怪人から標的はビルドへ移り、大振りながら速度にも優れた斬撃を見舞う。
これをビルド、強引に上半身を捻って危うい体勢ではあるが回避。
が、続けて振り下ろされた足までは間に合わずに直撃。
仰向けに倒れた所へ、蟻を踏み潰すかの気安さで更に足底が迫った。
ドリルクラッシャーを盾にしようにも、クロスセイバー相手では一時凌ぎにしかならない。
片足を地に付け底のキャタピラが高速回転、一旦距離を取りながら起き上がるとマサツグ様が即座に距離を詰める。
「待って…!」
憎たらしい少年の声がビルドへの攻撃を強制的に止め、悪鬼の形相を仮面越しに向けた。
睨まれた學は背中に冷たいものがどっと流れ落ちるのを実感、それでも歯を食い縛り目の前の敵へ集中。
緋々色金を持つのとは反対の手を掲げ、マサツグ様へカードを見せ付ける。
エボルトから渡されたままのブレイクスルー・スキルに、相手が顔色を変えるのが分かった。
「こ、このカードの力はまだこんなもんじゃない。君でもっと試す事も出来るんだ」
「ちっぽけな羽虫如きが、見え透いたハッタリを……」
「本当にハッタリかどうか、後で後悔するのはそっちだよ」
デタラメを抜かし自分の動揺を誘っているに過ぎない。
そう言い切るのは簡単でも、ハッタリでない可能性も否定できない。
事実、マサツグ様は「守る」スキルの発動を無効化されている。
異世界で得た能力のみならず、今度はクロスセイバーの変身まで不可能にされたら?
自分にとって最悪の展開に言葉は詰まり、思わず動きが止まった。
ほんの僅かな、しかし學の仲間達には十分なチャンスが生まれる。
『ダイカイガン!フーディーニ!オメガドライブ!』
タイトゥンチェーンを大量生成し射出、雁字搦めとなり動きを封じる。
眼魂からエネルギーを流し込み強度を引き上げた事で、少しでも拘束時間を伸ばす。
「今だ!」
スペクターの合図を聞くまでも無く、それぞれ高威力の技を放つ準備に掛かった。
眼魂とフルボトルを装填、四肢や武器にエネルギーが充填され必殺の威力へと昇華。
如何にクロスセイバーと言えども、複数人同時の攻撃をマトモに受ければ無傷ではいられない。
「調子に乗るのも大概にしろクズども!ゴミは纏めてゴミ箱に入ってろ!」
反撃を大人しく受け入れるマサツグ様ではない。
雑魚に相応しいチンケな力で自分を縛り、あまつさえ一斉に掛かり袋叩きという卑劣な手に出た。
群れねば何も出来ない蛆虫どもの身勝手さに、負の感情がまたしても刺激を受ける。
マグマの如く沸騰する頭とは裏腹に剣術は一層の冴えを発揮、小賢しい鎖は細切れと化す。
「何度実力差を教えてやっても理解出来ない三下どもめ。これだから恵まれた環境でぬくぬくと育った馬鹿は困る。有難く思え、お前ら程度の為に少し本気を出してやろう」
『烈火!流水!黄雷!既読!』
『烈火!流水!黄雷!クロス斬り!』
エンブレムをスライドし再び聖剣の力を解放。
全知全能の書を巡る戦いで時に衝突し、その果てに絆を高め合った三人の英雄。
殺し合いの予選では時間軸の違いから望まぬ闘争に身を委ねた、水と雷の剣士。
彼らの友情を踏み躙り唾を吐くかの如き所業だ。
剣士達の事情はマサツグ様も、対峙中のモニカ達にも知る由は無い。
確かな事はどうにか凌いだ大技の三連発、あれがまたしても起ころうとしている。
『Ready Go!』
『VOLTEC FINISH!』
マサツグ様を直接叩きはせずとも、技の発動は止めない。
レバーの回転数が増す度に、二本のボトルから生成されるエネルギー量も増大。
グラフ型の滑走路を生み出すビルドの横では、ニノンがどこからか巨大な軍配を取り出し装備。
ネクロムの能力ではなく、ニノンが習得した忍術発動の合図だ。
二人を襲うのは火炎剣烈火、神山飛羽真を炎の剣士へ覚醒させた聖剣。
名前をそのまま表すかの如く炎を纏った斬撃へ、ニノンが放つのもまた炎。
「忍法、灼熱地獄!」
軍配を振り下ろし火炎の渦が発生、高熱同士の激突で互いに威力が弱まる。
となれば後はビルドの仕事だ、急降下による勢いを乗せた蹴りで烈火を粉砕。
一本を防げば間髪入れずに二本目が襲来。
青い聖剣、流水の斬撃が激流となり戦士達を飲み込まんと大口を開けた。
マサツグ様には叩き込めなかったが、スペクターの技の使いどころはここしかない。
フーディーニ眼魂のエネルギーを纏い全身を回転、その隣でブラッドスタークが大剣を構える。
パーフェクトゼクターの真価を発揮する為のゼクターは所持しておらず、己が元に呼び寄せる機能も使用不可能に細工済み。
だったら足りない分はエボルト自身の力で補えば良い。
ブラッド族のエネルギーを刀身に纏わせ、黄金から真紅へと色を変える。
以前トランスチームガンの銃弾を強化したのと同じく、パーフェクトゼクターに異星の力が齎された。
激流すらも飲み干す蛇の刃が振り下ろされ、共に牙を突き立て拮抗。
勢いが弱まれば残りはスペクターの仕事だ。
水飛沫を周囲に散らし、最後は流水の幻影を蹴り砕く。
「や、やった…!これで……」
「いやまだだ!もっとマズいのが来るぞ!」
焦燥を露わに叫ぶモニカへ全員が同意せざるを得ない。
上空へ出現する無数の聖剣、雷鳴剣黄雷。
切っ先全てが地上の虫たちを見下ろし、一斉に電撃が放出された。
「く…おぉおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
降り注ぐ光は神罰と見紛う威力。
最早雷撃どころか爆撃と言った方が正しい地獄の中を、モニカは死に物狂いで駆け抜ける。
強引に腕を引く少年、彼の存在が決して攻撃を受けてはならぬ何よりの理由となった。
しかし雷撃は一つ二つでは終わらない。
幾度も振り地面を消し飛ばす絶望の光へ、モニカを含め全員避け続けるのには限界が近い。
直撃はどうにか躱すも、大地が吹き飛ぶ衝撃の余波だけでも相当な脅威。
「ぐあああああっ!?」
吹き飛ばされる最中、せめて學だけは守ろうと体勢を変える。
自分自身をクッションにしたおかげで學の激突は防げたが、代わりの痛みがモニカを襲う。
血相を変えて呼びかける學へ大丈夫だと返す声もどこか弱々しい。
被害を受けたのは他の者達もだ。
吹き飛び叩きつけられ、ダメージの大きさに変身が解除される。
何より、マサツグ様の攻撃はこれで終わりなんかじゃあない。
自分をコケにしてくれた連中の無様な姿は気分爽快だが、この程度では到底気は晴れなかった。
『刃王!必殺読破!』
「光栄に思えよ羽虫ども。お前らのような価値の無い連中の為に、わざわざこの力を使ってやるのだからな」
バックルに十聖刃を納刀しトリガーを引く。
武器を収めたのは断じて戦闘中止の為でも、まして今更になって見逃す訳でもない。
これまでも高威力の技を放ったが、それらは全て別の聖剣の力を再現しただけ。
十聖刃に秘められた真の力の解放による、煩わしい羽虫の殲滅を実行に移す時だ。
変身者の創造力が大きければ大きい程、人知を超えた奇跡を起こす。
尤も、マサツグ様では制限の影響もあり飛羽真がやったような現象は不可能。
『聖刃抜刀!刃王一冊斬り!』
『セイバー!』
但し使用不可能なのはあくまで奇跡染みた現象は、だ。
敵対者を滅ぼす斬撃技の発動に一切支障は無い。
眩いワインレッドの光を刀身が帯び、次いで星雲を思わせるエネルギーが包み込む。
目を奪われる美しさなれど破壊力は桁違い。
剣士達を幾度も手玉に取り追い詰めた、仮面ライダーソロモンにも打ち勝った聖剣。
それこそが刃王剣十聖刃なのだから。
神秘的な光でありながら、自分達を地獄に突き落とす絶望の象徴。
常人ならば心が折れ抵抗を投げ出す光景に、それでも諦めを捻じ伏せる少女がいた。
「絶対に…終わらせまセン…ワタシ達…ヴァイスフリューゲルに……諦めるなんてノーサンキューデス……!」
両脚が針金になったように頼りない、立つだけで笑ってしまう程震える。
ほんのちょっぴりでも気を抜けば途端に視界はブラックアウト確実、それくらい意識も朦朧とする。
限界などとっくに通り越し、いつ死んでもおかしくはない。
まだ生きているのが誰にとっても不思議な状態で、尚もニノンは戦いを投げ出さなかった。
再び纏った装甲が輝き出す。
「死に損ないが…本当に気持ち悪いなお前」
「何とでも…言うがいいデース……ソウルが籠ってない…あなたの言葉なんて……これっぽっちも響きまセーン……!」
『ダイテンガン!ネクロム!オメガウルオウド!』
掲げた拳は黄金色に燃え盛り、ニノンの決意に呼応するかの如く勢いが衰えない。
眼魂に宿るエネルギー全てを集中させた一撃は、文字通り命を燃やして放つ。
力で敵が圧倒するのなら、負けじと心の叫びを叩きつけるのみだ。
「ニノン……!!」
仲間の、ギルドリーダーの、大切な友の悲痛な声が背に届き。
それが合図となり、ひたすら前へ突き進んだ。
「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
拳だけでは無い、ニノン自身が黄金の矢となり強敵を射抜くべく駆ける。
大型の魔物ですら怯え戦意を喪失するだろう気迫に、マサツグ様の返答は嘲笑と聖剣。
視界を焼き潰し兼ねない光を互いの得物に乗せ激突、一歩も後ろへ下がってたまるかと視線をぶつけ合う。
「う…ぐ…あぁぁ……!」
「はっ、結局こうなるんじゃないか。吠える以外に脳の無いゴミ虫が!薄っぺらい正義感諸共、地獄に落ちろ!」
都合の良い逆転など起こらないから、現実はいつの時代も非情なのだ。
「守る」スキルで不意打ちを受けた時点で重傷のニノン、傷を負いこそしたが死には程遠いマサツグ様。
戦う前から分かり切った結果は、どう足掻いても覆らない。
声高々に叫んだ全てはマサツグ様に蹂躙されるだけの、哀れな生贄。
「最大の…チャンスは…死中にこそありデース…!」
なれど、悲劇に終わると誰が決めたのか。
たとえ神がそう命令を下そうと、ニノン自身は最後まで否を叩きつける。
装甲耐久値を遥かに超える斬撃に、最早痛みすら曖昧だ。
体の何処から血を流してるのか、自分でももう分からない。
だからこそ、最大の好機となる。
伸ばした腕とは反対の手に握る巨大な銃は、ニノンの最後の支給品。
黒く塗りつぶされた銃身が徐々に赤い光を帯び、存在感を増していく。
変化はそれだけに留まらず、銃自体も巨大化が止まらない。
リベンジシューター。
とある世界でファイターと称される者達が扱うこの武器は、普通の銃にはない特製があった。
使用者の体力が低ければ低い程、死に近い者程威力と射程が強化される。
絶体絶命の時にこそ真価を発揮する、一発逆転の切り札。
(モニカさん……ワタシも一足先に、アユミさんの元へ行くことになりマース……)
引き金に力を籠める直前、想うのはやはり大切なギルドの仲間達のこと。
本当だったら、アユミと再会を果たすのはもっとずっと先が良かった。
檀黎斗達を成敗し、無事ショーグンの元へ帰り泰平の世を築き、年を取ってもヴァイスフリューゲルの友情は変わらずに生きて。
そうやって悔いを残さずに生きたかったが叶わない。
被虐趣味の激しい仲間と、隙あらば己の美しさに見惚れる仲間と、そして、小さな体で誰よりも責任感の大きい仲間。
皆とこんな形で別れる事になって、悲しくない筈が無い。
(ミカゲさん……)
心残りは殺し合いで出会った少女のこともそう。
自分が言い方を間違えたせいで余計に傷付けてしまった、繊細な彼女。
最後まで守り抜き、出来る事なら友達と仲直りもして欲しかった。
謝る機会すらもうやって来ない、無責任な終わり方にただただ申し訳なく思う。
せめて、ショーグンと呼び慕う“彼”のような人と出会い、少しでも心の傷が癒えてくれたら。
自分が彼女にしてやれるのはもう、そんな風に願うだけ。
「忍びの心得ファースト……仲間は絶対に…見捨てまセーン…!!」
朽ち果てる命の使い道は一つ。
巨悪を道連れにしてでも倒し、仲間達が少しでも助かる確率を上げること。
以前アクダイカンの相手を一人で引き受けようとしたモニカを、これではどうこう言えまい。
「この…死に損ないが…!早く死ね…!!」
間近で睨む銃口へ流石に危機感を覚えたのか、マサツグ様が決着を急ぐ。
色々と思い足りないがそろそろ自分も勝負に出る時だ。
指先の感覚が完全に失われる前に、トリガーに掛かった指を手前に引く。
(ショーグン……ワタシは……)
光に包まれ、痛みも苦しみも無に還る中。
一人の少年を想う彼女は忍ではなく、年相応の少女の眼差しで、ここではないどこかを見つめた。
◆
大地を突き破って太陽が現れたかのようだった。
聖剣と逆転必殺の銃、二つから放たれる光は全員の視界を焼き無色の世界へ閉じ込めた。
余波を受け吹き飛ばされたとは辛うじて理解し、そこから思考も現実を認識し始める。
滓かな耳鳴りにも似た音が聞こえ、瞳は徐々に元の景色を映し出す。
尤も、見える全てが先程までと同じとは限らない。
「ニノンは……」
真っ先に存在を確かめたい者の名を口にし。酷く乾いてるのにモニカ自身も気付けたかどうか。
即座にではなく、少しの時間を置かねば戻らない自分の目が恨めしい。
逸る心に逆らわず視線をあっちこっちへ向ける。
金色の鎧はもう見当たらない、彼女の声も聞こえて来ない。
己の心臓の音だけがいやに五月蠅い。
そんな筈は無いという否定、そうなると分かっていたという現実的な断言。
自分の内から発せられた言葉すら今は酷く耳障りで、だけど黙れと返す余裕もない。
仲間の姿を探して、
探して、
探して、
探し――
「あ……」
見付けた。
見付けてしまった。
白い肌から流れた血すらも聖剣に焼き斬られ、倒れ伏す仲間を。
初めて出会った時から何一つ変わらない快活さは完全に消え失せ、壊れた玩具のように転がる少女を。
さっきまで命だった肉塊が息を吹き返す気配は無く、どうしようもないくらいに彼女は終わっていた。
「ニノン……」
容赦なく突き付けて来る現実に、これは嘘だと目を逸らす事は許されない。
また一人、ヴァイスフリューゲルの仲間はモニカの元から去った。
この先、クウカとユキを見付け共にランドソルで待つユウキの元へ帰れても。
彼を先輩と呼び熱い眼差しを向ける少女は、そこにいない。
彼をショーグンと呼び共に天下統一を目指す少女は、そこにいない。
よたよたと病人同然の歩みで、物言わぬ仲間へ近付いて行く。
今更行ってどうなるというのか、もう何をやっても手遅れなのに。
自分で答えも出せないまま、握り返しはしない彼女の手に自分のを伸ばし、
「ハァ…ハァ…!この…生ゴミがぁっ……!!」
ボキリと、ニノンの腕がへし折られるのを見た。
声も出せずに立ち尽くすモニカに気付いていないのか。
或いは気付いた上で無視し、より許せない者への暴力を優先したのか。
紺色の装甲を変わらず身に纏い、ミーム汚染の化け物が屍相手に幾度も足を振り下ろす。
「無駄に頑丈なだけのゴキブリが…!薄っぺらい偽善を吐き散らすしか能の無い蛆虫め…!お前がさっさと死んでいれば…!」
息を切らし、抵抗する筈も無い死体を足蹴にしてもマサツグ様の怒りは治まらない。
十聖刃に選ばれし者のみが纏う甲冑、ハオウソードローブは身体能力の増強のみならず装着者に絶大な守りを齎す。
至近距離でリベンジシューターの直撃を受けても変身解除せずにいられるのは、全てクロスセイバーの突出した防御力の恩恵。
しかし青く輝く甲冑を以てしても、完全には防ぎ切れなかった。
銃を手に取った時、ニノンの命は風前の灯火。
終わる手前まで追い詰められたが故、リベンジシューターの威力は爆発的に上昇。
クロスセイバーの機能に制限を課せられたのも影響した。
死には至らない、だが甲冑で隠れた生身の体を苛む痛みは軽症に非ず。
気に入らない、偽善者の羽虫らしく無力感を味わい絶望し死ぬべき少女が。
自分にこんな痛みを与え、やり遂げた顔で死んでいる。
許せない、既に死んでいるから今更何をやった所で無意味なのも腹が立つ。
無念とは程遠い、どこか誇らし気な笑みの死体は見ているだけで脳が掻きむしられる。
苛立ちに身を委ね顔面目掛けて足を振り下ろす。
「や、めろ…!」
これ以上仲間の尊厳を壊させはしない、怒りを籠めた声はマサツグ様を止める効果があった。
代わりに怒りのぶつけ所が物言わぬ少女から、まだ息のある者へ向かう。
煌びやかな甲冑を台無しにする、酷く粘着いた負の感情が叩きつけられる。
嘗て虐げられた彼の恨みの大きさは、モニカには到底計り知れない。
「だとしても…私の仲間を傷付ける貴公にだけは負けられん…!」
「死体相手に仲間だなんだと、お前らの頭のおかしさにはもうウンザリだ」
仲間、マサツグ様が下らないと吐き捨てるソレをこの期に及んでもモニカは口にする。
一向に己の無力さと無能さ、偽善者としての本性を認めず諦めが悪い。
マサツグ様が手に入らなかったモノを見せ付けているようで、殺したくて仕方ない。
ニノンの隣に首を並べれば、少しは苛立ちも解消される筈だ。
「待て……!」
満身創痍のモニカの前に立ち、悪しき聖剣の使い手を阻む者が現れた。
この場で最も弱く、頼り甲斐という言葉の似合わない、だけど折れない勇気を持ち合わせた少年。
生意気にも剣を構え自分に歯向かう雑魚へ、マサツグ様の不快感が膨れ上がる。
「相手なら、ぼ、僕がする…!」
「なっ!?何を言うんだマナブ!貴公の気遣いは有難い、だが…!」
無茶だとかそういうレベルじゃない、自殺行為以外の何物でもない。
一人で勝てる相手ならこのような状況に陥っていないと、學にも分かるだろうに。
正論を背にぶつけられ、それでも學は素直に頷かなかった。
「駄目だよ、モニカちゃん…だってモニカちゃんには……」
十数歩先で横たわったまま、身動ぎ一つしない仲間。
人が死ぬ瞬間なら放送で見た、でも目の前で命が尽きた者を見るのはこれが初めて。
恐怖はある、映画やドラマとは別種のグロテスクさに正直に言ってキツい。
けれど、それ以上に自分の中から何かが欠けた感触に、悲しみが止まらない。
ついさっき知り合ったばかりで、彼女のことはほとんど何も知らないのに。
「モニカちゃんには、ニノンちゃんの事を悲しむ時間が必要だから…!」
自分でさえこうならば、きっとモニカは圧し潰されそうな程の悲しみを味わっている。
アユミの死をむざむざと見せ付けられた時の、あらゆる感情がない交ぜになった叫びはこの先きっと忘れられない。
本当だったら今回も友の喪失を強く嘆いていただろう。
感情を無理やりに飲み込まず、ストレートに吐き出せた筈。
「悲しい時に悲しいって言えないのは、怒りたいのに我慢しなきゃいけないのは、本当に辛いことだと思うから……」
自分に女装を教えてくれて、新しい世界に連れ出したあの人。
ゆきが何も告げずに去って行った時、当たり前だけど悲しんだ。
でももし、ゆきとの突然の別れに心を沈ませる事も出来ず、感情を抑え付けなきゃいけない状況が自分に降りかかったとしたら。
果たして自分はどうなってしまうのか、想像もできない。
自分とゆきの場合と、モニカ達では状況が全く違う。
離れ離れとはいえ二度と会えない訳ではない自分と、死別を一緒くたにはできないと分かっている。
「それでも、僕はモニカちゃんに悲しむ時間を我慢してまで背負い込んで欲しくは無いんだ…!」
緋々色金があったって自分にやれる事など、たかが知れてる。
それでも、相手を倒せなくても時間を稼ぐくらいならやれるかもしれない。
もう一度ゆきに会うまで死ぬ気は無い、けどこの小さくて可愛い、頑張り過ぎてる女の子の助けにだってなりたかった。
「…………そうか。ああ、分かったよマナブ。貴公は本当に優しいんだな」
自分自身の恐怖と戦い、慣れない剣を手に自分を支えようとする少年。
彼の気持ちは分かった、友の言葉をゆっくりと噛み締め、
「…だからこそ、貴公一人には押し付けたくない。マナブ、一緒に戦わせてくれ」
隣に立ち、敵を見据える彼女の瞳に迷いは存在しなかった。
出会ってから過ごした時は短くても、學という友が出来たことを素直に嬉しく思う。
本来は戦場に身を置く者では無いにも関わらず、自分の助けになろうとする彼を誰にも弱いなどと言わせない。
そうだ、そんな優しさと勇気を持つ少年だからこそ死なせたくない。
もうこれ以上、自分の友は一人も奪わせない。
「けど、そうだな…この件が片付いたらその時は、マナブの言葉に甘えるとしよう」
「そっか…うん、分かった」
やっぱりこういうところ強いなぁ、そう声には出さずに笑う。
少しだけ、恐怖が和らいだ気がした。
「気持ち悪い…気持ち悪いんだよ羽虫ども。温室育ちの愚図どもが友情(笑)をいつまで続ける気だ?」
偽りでは無い真の友情も、マサツグ様は決して認めない。
目に入れたくも無い三文芝居に鳥肌が立ち、余りの嫌悪感に失笑すら浮かばない。
本当に憎らしくて、ウザったくて、眩しい。
ナオミ・マサツグが手に入れられなかったモノを見せ付ける連中が、許せない。
「そこに転がる偽善者と同じだろ。お前ら雑魚が何をやっても無駄。雑魚は雑魚らしく惨めに死ぬしかないんだよ」
好き勝手に蹂躙する力を得て、自分を崇め持ち上げる少女達が周りにいて、虐げた連中への苛烈な復讐もやれて。
なのに心の奥底は常に満たされない感覚から目を逸らし、嫉妬というありふれた衝動が身を突き動かす。
自分にないものを持つ連中を否定するべく、すらすらと嘲りの言葉を口にする。
「違う。そんな最期は俺が認めない」
執拗な罵声は、鋭くも友を思う言葉に切り捨てられた。
○
「マコトさん……」
「チッ、ヒーロー気取りのゴミが…今何て言った?雑魚の癖に態度だけだは一人前のつもりか?」
挑発には動じず、視線は剣士から横たわる少女へ移る。
彼女が動く気配は無い、息を吹き返すような奇跡は起きない。
命を最大限に輝かせた果てに、逃れられない終わりを迎えた。
マコトはニノンという少女を詳しくは知らない。
もっと生きていれば言葉を交わし、互いへの理解を深める機会もあっただろう。
そんな瞬間は永遠にやって来ない。
目の前の死から目を背けるには現実を知り過ぎてしまった。
悔しさはある、短い時間でもニノンは肩を並べて戦った仲間だ。
彼女の死を変えられなかった自分への苛立ちも、無力感も無いとは言えない。
とはいえそれらの感情で己を縛り付け、戦いから逃げ出すつもりだけは絶対になかった。
ピクリとも動かないニノンの顔を見れば察しは付く。
未練はあったかもしれない、けど自分の選択に後悔はしていない。
命を燃やし強敵に一矢報いた少女の最期を目にしておきながら、どうして弱気になどなれようか。
(お前の生き様…確かに見届けさせてもらった……)
いつの間にか足元に転がる眼魂を手に取った。
ニノンをネクロムへ変えた変身ツールは破壊されたが、奇跡的にこれは無事。
偶然で片付けるのは簡単、しかしマコトにはそれだけとは思えない。
「今度は俺達の番だ。お前に恥じない戦いで、この男を倒す!」
眼魂を握る手に力が籠り、俄然戦意が燃え上がる。
己が罪を受け入れ、許し難い罪を打ち壊す眼魂は手元に無い。
主催者が設けた制限の影響も有り、もう一度生み出す事はほぼ不可能。
率直に言って、今のマコトの戦力だけで勝つのは現実的ではない。
だが忘れるなかれ、此度の戦場は檀黎斗の手で創造された舞台。
単純な力だけで全てが決まる場所では無い。
知恵と工夫、そして精神の強さ。
圧倒的に不利な状況を覆すチャンスを、全ての参加者に与えられている。
ある程度のお膳立てをされたファンガイアの若き王のように、簡単には手に入らない。
決闘者達のように、デュエルモンスターズで繋がった可能性を引き寄せられはしない。
誰にでも都合の良い覚醒が起きる程、殺し合いは甘くない。
しかし、しかしだ。
そんな絶体絶命の危機を変えられるからこそ、深海マコトは仮面ライダーなのである。
「…っ!」
スペクターゴースト眼魂が光を発し、ニノンが遺した眼魂と共鳴する。
血の繋がりは無くとも心で繋がった父、深海大悟が手を貸すかのように。
何を馬鹿なと、事情を知らぬ者は鼻で笑うかもしれない。
尤も、次に起こった光景を見て尚もそう言ってられる人間はいないだろう。
黎斗の手による心意システムの影響は勿論あるが、そもそも眼魂とは所有者の心に共鳴し奇跡染みた現象を引き起こす、目に見えない魂を形にしたモノ。
仲間達の強い想いを受けたタケルがムゲンゴースト眼魂を生み出したように。
自身の罪を認め、受け入れたマコトがシンスペクター眼魂を生み出したように。
そして、状況は違えど友情を引き金に進化を遂げたアランとニノンのように。
なればこそ、この結果は必然とも言える。
戦友の形見はマコトの手の中で、全く別の形へと姿を変えた。
「これは……」
ソレが何なのかも、ソレの使い道もマコトは知っている。
どうして急に現れたのか、現実的な理由を告げるなら容易い。
ゲームを盛り上げる為に主催者が設定したシステムの影響、その説明で一応の話は落ち着く。
けれどマコトはどこまでも黎斗の掌で踊らされる理由を一蹴し、もっと信じられる理由を選ぶ。
ここにはいない二人の友、逝ってしまった戦友。
彼らが力を貸してくれる、まだやれることはあると背中を押してくれる。
そう信じてくれたから。
だったら、
「アラン…タケル…俺に、力を貸してくれ……!」
友の期待に応えない理由はどこにもない。
『グレイトフル!』
巨大な目玉のようにも見える機械を腹部に押し付ける。
ベルトが巻き付き瞬時に装着、ゴーストドライバーとはまた別の力がマコトのものとなった。
本当の戦いの始まりを告げる音声が、『アイコンドライバーG』から流れ出す。
『ガッチリミロー!コッチニキナー!ガッチリミロー!コッチニキナー!』
「変身…!!」
『ゼンカイガン!ケンゴウハッケンキョショウニオウサマサムライボウスニスナイパー!』
『ダ〜イ〜ヘ〜ン〜ゲ〜〜〜!』
周囲一帯に響く声は、新たな戦士の降臨の証。
青い衣服を纏った青年の姿から一変、全身を覆うのは光沢を放つ黒のスーツ。
眩い黄金のラインが走る鎧の各所へ描かれたのは、英雄達を象徴する意匠。
この姿を知る者はさぞや驚くことだろう。
鎧と同じ色の瞳が浮かぶ頭部は、青鬼を模した戦士のもの。
本来の変身者、天空寺タケルの変身時には有り得ない特徴だ。
正史においては実現しなかったが、神の箱庭においては現実の存在としてここに立つ。
仮面ライダースペクター・グレイトフル魂。
現代の人間達と絆を交わし、強さを認めた15人の偉人達。
彼らの魂を一つに集結させた、仮面ライダーゴーストの強化形態。
変身者がマコトであること、スペクターゴースト眼魂との共鳴等の理由により、殺し合いではスペクターの新たな姿として変身を果たした。
「マコト、その姿は……」
「俺の二人の友と、モニカ…お前の友であるニノンが授けてくれた力だ」
「……っ」
ニノンの名を出され込み上げるものがあった。
ネクロムとはまた違う金色の戦士を目に焼き付ける最中、空気を壊す罵声が飛ぶ。
「うんざりだ…もううんざりなんだよ偽善者どもが…!何が友だ馬鹿馬鹿しい!俺を倒せもしないで無様に死んだゴミが、一体何の役に立った?寝言も大概にしろ!」
群れなければ何も出来ない雑魚の一匹が死に、偽善者達もいい加減現実を直視する。
無力感に震え、今になってようやく自分達が誰に楯突いたのかを理解し絶望する。
マサツグ様の思い描く羽虫どもの姿はまるで現実のものにならず、そればかりか望まない展開の連続。
自分を無視して気持ちの悪い友情ごっこへ興じるのが許せない。
自分の方が強さで勝るというのに、こんなにも不愉快にさせられるのはおかしいだろう。
「本気で寝言だと思ってるなら、お前には一生理解できねぇよ」
マコト達だけに良い恰好はさせまいと役者が揃い出す。
「貴公は…セント、だったか?無事だったのだな」
「ニノンって子があいつの相手を引き受けてくれたおかげだ。…また、間に合わなかったけどな」
クロスセイバーの斬撃とニノンが真っ向からぶつかり、攻撃の大半は彼女が一人で受け止めた。
余波で吹き飛ばされはしても、元来の打たれ強さもあってどうにか戦兎も死は免れ無事合流。
絋汰達の時と同じくビルドの力がありながら、またしても間に合わなかった。
決意を固めても取り零し続ける己がどしようもなく許せないが、自責の念に囚われては本当に何も守れなくなる。
目の前の敵へ集中しろと言い聞かせボトルを取り出すと、横から何かを投げ渡された。
「うおっ、と!お前これ…」
「俺に支給された物だ。渡すのが遅れて済まない」
ビルドと言う名のライダー専用の道具はマコトには無用の代物。
もっと早くに渡せれば良かったのだが、マサツグ様の猛攻に手を焼きその隙が見付けられなかった。
遅れたが持ち主の元に戻り、礼を口にする戦兎の手で激しく上下に振られる。
内部の成分が活性化、通常のフルボトルとは違う形状の『蓋』に指を掛け装填。
『ラビットタンクスパークリング!』
レバー回転により炭酸飲料の泡の如く成分が弾け、別の形へ再構築。
ボトル、というより缶と呼ぶべきアイテムが発光。
充填済みの成分が行き渡りファクトリーが展開、準備は全て整った。
『Are You Ready?』
「変身!」
『シュワッと弾ける!ラビットタンクスパークリング!イエイ!イエーイ!』
歯車モチーフのクレストに挟み込まれ、ビルドの姿が露わになる。
赤と青のハーフボディは変わらず、全身に行き渡る鋭角な装甲は弾けた泡を思わせる形状。
より鋭く天を突き上げるフェイスモジュールが、マサツグ様を睨む。
仮面ライダービルド・ラビットタンクスパークリングフォーム。
パンドラボックスの残留物資を元に、発泡増強剤を組み込んだ強化形態の一種。
桐生戦兎の存在意義を揺さぶられた戦いで、ブラッドスタークに初勝利を収めた姿でもある。
「随分馬鹿高いテンションが聞こえて来たが、懐かしいねぇソレ」
少女特有のソプラノボイスを台無しにする軽々しい口調。
仮面の下で顔を顰め横を見やれば案の定、環いろはの姿を偽る怪物がいた。
自分達が生存してるなら当然エボルトも無事。
緊迫した状況と分かって尚も軽薄な態度は引っ込めず、片手でボトルを弄る。
「逃げなかったんだな。お前の事だから、てっきり一人で離れて行くと思った」
「信用ねぇなァ。俺がそんな薄情な奴に見えるか?今は万丈の代わりの相棒なんだ、仲良く敵を倒すに決まってんだろ?」
馴れ馴れしく肩に置いて来た手を振り払うと、仕方ねぇなと言わんばかりの仕草を見せた。
何度目になるか数えるのも馬鹿らしいが、つくづくやちよが見たら青筋を立てそうな光景だと思う。
エボルトが優先するのは当然自分の命、だから最悪の場合は戦兎を切り捨てる選択肢だって存在する。
が、現段階でそれは早過ぎるし、利用価値の高い戦兎とこんな序盤で別れるのは流石に愚行と言う他ない。
加えて分かるのだ、勝負の流れは戦兎達…善側のライダーが掴みつつあると。
格下と見なしていた人間達への二度の敗北がこんな形で活き、つい苦笑いを浮かべる。
「蒸血」
――MIST MATCH――
――COBRA…C・COBRA…FIRE――
切り捨て時に非ずと判断を下し、やる事は今言った通り。
火花を散らし各部の排気口から蒸気を噴射、仮面ライダーとは別の姿に変身。
マサツグ様の殺気を受けるも戦士達は怯まない。
歯を打ち鳴らして不快感の絶頂を訴える敵へ、天才物理学者が開戦の合図を告げた。
「さあ、実験を始めようか」
○
「カッコつけるな気色悪いうすら寒い気持ち悪い!死ねと言ってるのが分からないのか蛆虫どもがぁっ!!」
罵声を突き付ける様子からも最早、今まであった余裕は剥がれ落ちてるのが明白。
理解出来ない、したくもない雑魚どもを一刻も早く殺す。
身勝手な動機とは裏腹に襲い来る剣は油断出来ない。
誰よりも早く前に出たスペクターへ迫る刃が止まる気配は微塵も無し。
「そんな魂の籠らない剣で、俺を倒せると思うな!」
止まらないなら自らの手で止めてみせる。
翳した両手に収まる二本の剣、ガンガンセイバーとサングラッシャー。
三人のライダーの武器を生成可能なのはグレイトフル魂の強みだ。
双剣の交差により十聖刃の進撃は阻まれ、押し切らんと柄を握る手にマサツグ様は力を籠める。
スペクターの剣諸共叩き割らんと踏み込み、フッと煙のように障害が消えた。
力の押し付ける先を失いマサツグ様がよろけ、真横から揺らめく敵意を察知。
小癪にも不意を狙った一撃を防ぎ、反撃に出るも十聖刃の犠牲になったのは宙を漂う空気のみ。
どこへ行ったと探す余裕など与えない、背が総毛立つ感覚に従い後方へ剣を振り回す。
今度こそ取った、そんな確信を鼻で笑うかの如くまたしても空振りだ。
「鬱陶しいゴキブリが…っ!?」
口汚い罵りすら最後まで言わせてもらえず、慌てて頭上へ聖剣を翳す。
途端に両腕へ圧し掛かる双剣の重みに、思わず苦し気に息を吐く。
得物の数に差があると言っても、ここまでの重量は予想外。
舌打ちを零し押し退けようとするも、敵はスペクター一人に非ず。
「卑怯とは言ってくれるな。仲間を手に掛けた貴公に、容赦する理由も無い!」
スペクター相手に両手を使い、がら空きの胴体をモニカの聖剣が狙う。
こういう時に煩わしい抵抗を防ぐ「守る」スキルは発動されず、マサツグ様自身が動かざるを得ない。
手が無理なら足で退ければ良い、靴底を顔面に叩き込めば二度と外を歩けない醜面の完成だ。
暗い衝動に突き動かされた蹴りが放たれ、伸ばし掛けた脚に衝撃が来た。
誰だと聞く必要は無い、バイザーが捉えた赤青二色の戦士が答え。
「この…っ!」
ビルドへ怒りを向けるのは無理も無いが、直ぐに失敗と思い知らされる。
脚を蹴られ全身を支える軸が揺らげばどうなるか。
防御をすり抜け振り下ろされた双剣と、胴体を走る聖剣が紺色の甲冑から火花の雨を撒き散らす。
痛みをどうにか怒りで塗り潰し、振り回す剣は荒れ狂う波の如き勢い。
後退したスペクターとニノンに代わって、近距離での戦闘に挑むはビルド。
右手のドリルクラッシャー、両腕のブレードを駆使し十聖刃を受け流す。
通常形態では到底不可能な光景を実現させたのは、右肩装甲から発生する小粒の泡。
弾ける度に運動速度を急激に引き上げるラビットバブルの効果で、斬撃の嵐に食らい付く。
多少速さを増した程度で自分に勝てる筈が無い。
ビルドの抵抗を無意味と断じ、聖剣をドリルクラッシャーに叩きつけた。
剣戟になど発展しない、力は自分の方がずっと上。
「なぁっ!?」
マサツグ様の自信は悉く否定され、自分の方が後方へ弾かれた。
ラビットタンクスパークリングフォームはビルドの強化形態であれど、スペックではやはりクロスセイバーには及ばない。
通常形態の約1.5倍の数値を誇るとはいえ、パワー一つ取っても敵が上なのは否定できない。
そんなスペックの不利を補うのが、ビルドの肩部装甲から発生される数種類の泡。
右肩のラビットバブルが運動能力の強化なら、左肩のインパクトバブルは攻撃性能の強化。
ドリルクラッシャーに纏わせたこの泡は十聖刃を叩きつけられた事で割れ、衝撃波を起こしたのだ。
クロスセイバーの甲冑相手に大きなダメージは無いが、複数の泡を一気に破裂し体勢を崩すくらいは出来る。
見えない存在に張り手をされたような感覚だ。
よろけて尻もちを付きそうになり、羽虫の前でみっともない姿を晒してたまるかと踏ん張る。
ギチリと歯が軋んだ直後にマサツグ様へ駆ける小さな影。
この場で最も下らない、だが戦況を狂わせた原因の虫けら。
學が振るう緋々色金をあっさり躱し、反対に苛立ちを乗せ十聖刃を突き出す。
「うわぁっ!?」
「お前のようなゴミが俺に勝てると本気で思ったのか?嘆かわしい、如何にも低能な雑魚らしい勘違いだな」
「思って、ないよ…僕一人でなんて、無理に決まってる……だから皆で勝つんだ…!」
戯言を永久に黙らせようにも學の仲間が黙っておらず、颯爽と駆け付けたモニカに手を引かれ後退。
そう何度も自分からは逃げられないと意識を向け、
『なァおい、射的は好きか?別に嫌いでもいいけどな』
――RIFLE MODE――
飄々とした言葉と、無骨な電子音声。
學も自分がマサツグ様を倒せるなんて思っちゃあいない、流行りのラノベ主人公染みた大活躍は現実的じゃない。
だから己に出来ること、ほんの少しでも気を逸らし敵の隙を作ってみせた。
二つの武器を手慣れた動作で組み合わせ、星狩りがトランスチームライフルの照準を向ける。
ブラッドスタークの装備の中では特に手に馴染む狙撃銃だが、マサツグ様を狙う銃口は一つのみではない。
スペクターも自身の武器をガンモードへとチェンジ。
ガンガンセイバーとサングラッシャーの二丁銃、敵が眼魔一体程度ならともかくクロスセイバーでは心許ない。
故に数を増やし火力を高めるまで。
背後へ大量に出現するはスペクターとネクロムの武器、その長銃形態。
トリガーに指を掛けずとも、意思一つで無限に弾を放ち続ける。
『ONE HUNDRED!FULL BULLET!』
マサツグ様を更に追い詰める音声はビルドの手元から。
多彩な武器を操るはスペクターだけの専売特許ではない、強化形態のビルドも各種ベストマッチウェポンを自在に取り出せる。
ガトリングフルボトルを利用し完成させた銃、ホークガトリンガーに銃弾を装填。
拳銃タイプの武器ながら、連射性能と破壊力は機関銃にも劣らない。
最大弾数100発の生成と装填を瞬時に行い、残る作業はビルド自身がトリガーを引くのみ。
照準センサーが捉えるは当然紺色の剣士だ。
「な、ぐ、そんなガラクタを持ち出した所で――」
大量の銃口に思わず怯んだ自分を誤魔化す為の言葉。
聞き飽きた罵声を知った事かと遮り、エネルギー弾が一斉に発射。
銃声は瞬く間に爆音と化し、マサツグ様が言いかけた内容も搔き消える。
「ぐぅぅぅ…!?この、虫けらのふざけた豆鉄砲が…!」
集中砲火を受けて尚も悪態を吐ける事からも、クロスセイバーが如何に高性能かが窺える。
十聖刃で片っ端から斬り落とし、時には甲冑の防御力を活かし耐え凌ぐ。
仮に生身なら5秒と経たずにミンチ同然となる銃撃を受けて尚、未だ五体満足を保っていた。
『マブシー!マブシー!』
『ダイカイガン!オメガシャイン!』
銃で倒せなくともほんの僅か、敵の動きを止めるだけでも次の攻撃へ繋げられる。
サングラスを模したユニットに眼魂を填め込み、刀身が輝き出す。
浮遊させた長銃からエネルギー弾を放ちながらスペクターが疾走、刃の間合いを即座に詰める。
迎撃に出る十聖刃と激突を避けるべく、反対の手のガンガンセイバーで受け流す。
左腕に掛かる負荷を歯を食い縛り耐え更に踏み込む。
防御も回避も間に合わせない、英雄と父の力を宿した剣が振り下ろされた。
「がっ…ぐぅ…!なんだ…なんだこれは…羽虫風情が、どんなインチキを使った!?」
痛みに呻き後退を余儀なくされたマサツグ様には、今の全てが信じられない。
何故理想ばかりを追いかけ現実を見れない、口先だけの雑魚どもが勢いに乗っている。
何故自分が痛みに苦悶の声を上げ、羽虫どもの勝手を許してしまっているのか。
最初はこうじゃなかっただろうに、一体どこから狂い始めた。
戦況を変えた複数の理由の内、一つはラビットタンクスパークリングフォームのビルド。
身体機能の上昇と特殊な泡の発生については既に説明した通り。
二つ目はグレイトフル魂のスペクター。
ビルド同様パワーやスピードの強化は行われたが、アイコンドライバーGが齎すのはそれだけに留まらない。
グレイトフル魂はタケル達が集めた英雄眼魂に宿る、15人の偉人の力を一つに集束させた形態。
ゲームでマコトが取り戻したフーディーニ魂を始め、英雄たちの固有能力を自在に組み合わせ操る事が可能だ。
二天一流の開祖がマサツグ様の剣を見切り、大盗賊が獣の如き速さを与え、千の太刀を集めんとした大巨漢がより強靭な力を発揮。
第六天魔王が火力を強化、西部開拓時代のアウトローが命中率を上昇。
タケルと心通わせた英雄達の魂が、此度はマコトに力を貸しクロスセイバーとも渡り合った。
何よりも一番の理由は、マサツグ様の精神の不調。
黎斗がマサツグ様に細工したスキル、『聖剣の担い手』は常時発生する訳ではない。
聖剣を装備し、尚且つ強い感情が引き起こされる。
二つの条件をクリアする事により、マサツグ様は剣の技術が上がるのだ。
ニノンとの戦闘に始まり敵対者へ苛立ちと不快感は増幅し続け、それに比例し僅か数時間で達人を鼻で笑う程の力を得た。
逆に言うと、精神に不調が起きれば際限なしの成長にも歯止めが掛かる。
現在のマサツグ様が抱くのはモニカ達への怒りや嫉妬、そして焦りと恐怖だ。
憤怒で誤魔化して来たが忘れてはならない、マサツグ様は罠カードの効果でスキルを失ったまま。
彼が異世界で傲岸不遜な振る舞いを許され、ミヤモト達への苛烈な復讐が叶ったのは全て「守る」スキルがあってこそ。
リシュア達の安全と同じかそれ以上にマサツグ様自身の心の支えとなった力を失い、時間が経てば経つほど徐々に精神は蝕まれている。
追い打ちを掛けるように今もマサツグ様を苛む、ニノンに撃たれた際のダメージが発端となる全身の痛み。
これもまた冷静さと余裕を奪うのに一役買った。
「守る」スキルの恩恵とミヤモトから奪った聖剣の影響で、痛みとほとんど無縁の生活を送って来た為に久しく忘れていた感覚。
ミヤモト達からの暴行を受けた時以上の、本物の殺し合いで負った傷がマサツグ様の絶対的な自信に「死」を予感させたのである。
己の精神状態が原因で剣の技術も低下したと、マサツグ様には分からない。
故に彼は半ば錯乱気味となり、全てはマコト達が何か卑劣な手を使ったと決めつけた。
「小賢しい真似に出てまで俺に勝ちたいのか、呆れ果てた卑劣な蛆虫どもめ…!」
弱くて見苦しい偽善者の集団に、自分が負けるなど有り得ないし認めない。
チマチマ攻撃を当てて調子付いている馬鹿どもに、現実を見せる時だ。
十聖刃をバックル…ソードライバーに納刀。
薄っぺらい正義(笑)諸共捻り潰してやった技を使い、全員に力の差を教えてやる。
「――っ!!させるか…もう二度と、奪わせてなるものか…!」
ニノンの命を刈り取った、邪悪なる剣が再び放たれようとしている。
視界に飛び込む景色、五感全てが伝える脅威の前兆。
自らの魂を震わせる怖気に、モニカが選ぶのは背を向け逃げ出すことなんかじゃあない。
絶望的な力の差を理解して尚も前を向き、微塵も目を逸らさず立ち向かう。
死ぬことが恐くないのではない。
もっと恐いのは何も守れない事だ、また失ってしまう事だ。
アユミが死に、ニノンが死に、次は一体誰だ。
この場で共に戦う者達か、未だ再会叶わぬヴァイスフリューゲルの二人か。
全てを奪われ、自分は見ている事しか出来ないと言うのか。
「いいや違う!私の仲間は、誰一人として死なせない!」
モニカの叫びを嗤い、無に帰す光が放たれる。
剣士達と世を生きる人々の希望となった聖剣は、悪意に穢されまたもや刃を血で染めるだろう。
美しい筈なのにおぞましい輝きが、相対する者達へ絶望を与える。
死を予感させる夜空色が戦場を包み込む。
柄を握る手が白ばむ程に力を籠め、モニカは意識を研ぎ澄ます。
冷えて行く頭とは正反対に、心の叫びは止まらない。
敵は強い?そりゃそうだろう、見れば分かるし散々この身で味わった。
自分の技では負けるだけ?そんなものとっくに理解出来てる。
(足りない…もっと……もっとだ……!)
悪しき光が戦場を支配するのなら、自分の輝きで塗り替えてみせる。
出来るか出来ないかを問うつもりはない、やる一択だ。
敵の脅威に仲間の心が蝕まれるなら、自分の光で晴らそう。
敵の怒りに仲間達を怯むなら、自分の光で支えよう。
敵の嗤いに仲間達の心が挫けるなら、自分の光で守ろう。
願う、誰よりも強く願う。
光になりたい、戦場を照らす光であらせて欲しい。
魂が焼き切れ血反吐を吐こうとも願うのを止められない。
声なき声で叫び続け、
聖剣は、少女の渇望に応えた。
本来の使い手には遠く及ばず。
たとえ主催者が永劫破壊(エイヴィヒカイト)に手を加え、ゲームに活かしても。
誰もが黒円卓の魔人達の領域へ、簡単に到達するのは不可能。
モニカもその例に漏れず、本来の使い手とは雲泥の差がある。
『彼女』を知る火傷顔の上官が見たら、及第点すら与えられない有様にため息を吐く気も失せるだろう。
だがそれでも、この一瞬モニカは創世の剣士を超えた。
剣が、腕が、足が、全身が光と化す。
砕けぬ意思と譲れぬ決意を携えて、雷光が駆け抜ける。
視界を白一色に染め上げ、両の瞳を焼き潰す輝きが剣士の悪意を跳ね退けた。
「我が奥義、受けてみよ!」
真一文字が胴体に書かれたと剣士は認識できない。
遅れてやって来た痛みに呻く事すら出来ず、裁きが下された。
「旋風雷閃撃鎖斬!!!」
落雷など生温い、超高熱の光の柱が降り注ぐ。
甲冑がダメージを最小限に抑えるも、どこまで効果があるのかマサツグ様には分からない。
冷静に思考すらも許されず、頭部から爪先までを駆ける衝撃と激痛に絶叫を上げる。
生身であれば、半端な耐久力の装甲では到底耐える事は不可能。
皮肉にも高性能な甲冑が却って苦痛を長続きさせた。
「――――――っはぁ!はっ、はっ……」
一方のモニカもまた、自身の成果に喜んでいられる余裕は皆無。
ただでさえ体力が尽きる寸前だった所へ、聖遺物の力を引き出したのだ。
反動は容赦なく襲い、息を切らして倒れ込む始末。
戦闘以前に移動や会話すらままならない。
何処を見ても隙だらけ、殺してくれと我が身を差し出すのと同義。
「こ…の……偽善者、の…ゴミ虫が、あ……!」
身動きを完全に封じられても不思議は無い痺れを甲冑が軽減し、剣を振り被る。
勝敗は結局変えられなかった、これもまた一つの無情な結末。
――ICE STEAM!――
モニカだけならそうなった。
粘り付く低い電子音声へ咄嗟に剣を振るえたのは、痺れに襲われる身だというのに大したもの。
十聖刃共々右半身が凍り付き、直ぐに失敗と思い知らされたが。
本来のクロスセイバーなら即座に脱せる拘束も、雷撃のダメージが後を引き遅い。
『油断大敵、ってな。死ぬ前の良い勉強になっただろ?』
「お、前……!!」
肩に銃を担ぎ言う真紅の怪人を、罵る為の口も上手く回らない。
元より敵の罵詈雑言へ呑気に耳を傾ける物好きはいない。
勝利への道は仲間が照らしてくれた、なら自分達が何をすべきか考えるまでもない。
後は任せろと、男達は決着を付けに出る。
『ゼンダイカイガン!
剣豪!電動!アロー!リンゴ!カウボーイ!
巨匠!無双!怪盗!ダゼヨ!女王!
大王!武将!脱走!読書!僧侶!
全員集合!』
『グレイトフル!オメガドライブ!』
ドライバーに名を告げられ、パーカーゴーストへ姿を変えた英雄達が次々に出現。
大天空寺地下のモノリスへ刻まれたのと同じ紋章へ集まる。
全ての英雄達は一つになり、金色の球体を形成。
光となった少女に負けじと輝く。
『Ready Go!』
『SPARKLING FINISH!』
ヒーローは一人ではない、発砲増強剤を最大レベルで活性化させたビルドが大量の泡を放出。
ディメンションバブルが空間を歪め、グラフ型の拘束具を作り出す。
「な、あ、あぁあああああ…!!」
マサツグ様には自分が何を言いたいのかも分からず、意味の無い叫びが漏れるばかり。
視界の端で、蔑んだ非力な羽虫が偽善者の少女を担ぎ離れるのが見えた。
自分を助ける者はいない、いる筈が無い。
「俺達の生き様、見せてやる!」
見下し嘲笑った事が大間違いだと、視界いっぱいに広がる光が訴えて来るようで目障りだ。
お前達に負ける筈が無い、言い返してやりたいのに不可能。
どれだけ目を逸らし言い訳を重ねようと無駄。
力が無ければ何も出来ない、その言葉が己へ返って来る。
「お前らが…なんで…なんで……!!」
呟きに籠められたのは恨みか、現実逃避か、それとも羨望か。
球体と飛び蹴りが叩き込まれ、声も出せずに血を吐き出す。
伸ばした手が何かを掴む事は無い。
伸ばした手を誰かが掴む事も無い。
全てを手に入れたと思い込み、その実本当に欲しかった物は手に入らず。
彼自身が拒んだ眩い絆から、遠く遠くへ離れて行った。
○
防御の体勢も取れずに、強化形態のライダー達の技が直撃。
周囲に立つ商店の壁をぶち抜き続け、しかし止まる様子は無く。
吹き飛ばされたマサツグ様の行方は知れず、戦兎達の視界から完全に消え去った。
「終わった、のか……?」
誰に向けるでも無いマコトの言葉に、勝利への余韻は感じられない。
まさかゲーム開始からそう時間を置かず、あれ程の強敵とぶつかるとは予想外。
どうにか撃退には成功したとはいえ、犠牲になった少女を思えば素直に喜べない。
加えて敵がどうなったのかも不明だ。
直ぐに動けるダメージでないとは思うも、決して油断は出来ない。
追い掛け、せめてベルトだけでも奪わねば到底安堵に身を委ねられそうもなかった。
「僕達、勝ったんだ……」
「あ、おい!」
但し他に優先しなければならない事が無ければだが。
戦いの終わりに一言では言い表せない思いがこみ上げ、學は崩れ落ちた。
慌てて戦兎が抱き起し、最悪の予感に冷汗が流れるも上下を繰り返す胸に杞憂と確信。
マサツグ様相手に恐怖を飲み込み立ち向かったが、元々一般人なのだ。
肉体的な疲労は当然、張り詰めた空気から解放され精神にも限界が訪れたのだろう。
「気絶した、か。…そっちの娘は大丈夫か?」
「ああ、こっちも意識を手放したようだ。だが、この傷は放って置けない」
モニカも既に気を失っており、双眸は力なく閉じられている。
ただ學と違い傷の深さ故、こちらの方が顔色は悪い。
急いで処置しなければ危険、折角生き延びたのにこんな形で命を落とすのは誰も望んでいない。
マサツグ様は気掛かりだ、しかし仲間の安全を放棄してまで追いかける気は無かった。
『なら、奴さんとの鬼ごっこは俺がやってやるよ』
とはいえマサツグ様の追跡を完全に諦めるには早い。
軽い調子で引き受け背を向けるのはブラッドスターク。
學の懐からスルリと預けたままのカードを抜き取り、自身のデイパックへ仕舞う。
自分達と違い、未だ変身を解かずにいるエボルトへ戦兎は声が掛かる。
「待てエボルト、お前一人で行かせるのは…」
『心配しなくても、道草食わずに帰って来るさ。それにだ、アイツの支給品からそっちのお嬢ちゃんを治せる道具が手に入るかもしれないだろ?』
心配はしているが断じてエボルトの身を案じてだとかじゃない。
この男を一人で行動させ、何か余計な真似に出るのではという危惧だ。
ただモニカの治療を持ち出されれば、余り強くは否定出来なかった。
いっそ自分もエボルトと共にマサツグ様を追いかける手もあるが、そうなるとモニカ達をマコト一人に押し付けてしまう。
気を失っていないだけで、マコトの状態も万全とは言い難い。
対して自分とエボルトは戦闘への参戦が最も遅かったのも影響してか、まだ体力的にも余裕はあった。
モニカ達の手当てとマサツグ様の追跡を、二手に分かれて行うのは悪手とは言い切れまい。
エボルトでなければの大前提が付くが。
『んじゃ、そいつらの面倒は頼んだぜ。CIAO(チャオ)〜♪』
「おい勝手に…!」
反論を待たずに立ち去り、赤い背中は直ぐに見えなくなった。
思わず頭を掻き悪態が口を突きかけるも、マコトの手前止めておく。
言ってやりたい山程の文句を無理やり飲み込み切り替えるしかない。
「あの男、ではなく少女、か?事情はともかく、追いかけるなら俺は構わないが…」
「いや、アンタだってあんまり余裕無いだろ?今は二人を休ませるほうが大事だし、俺も手伝うよ」
特にモニカは重傷だ、のんびりもしていられない。
幸い彼らの現在地はオーエド町、活気溢れる商人の街。
商売根性逞しい住人達は不在でも、物資の補給には持って来いのエリアだ。
薬局や診療所なら傷の処置に必要な道具も集まる。
心情的理由を抜きにしてもエボルトの方で治療に使える道具が本当に手に入るか不確かな以上、こっちでも可能な手当てはやっておきたい。
こうなってはやちよとの合流が遅れるのは避けられず、胸中で謝りながら學を背負う。
マコトも長々と議論を行う場面でないと理解しており、戦兎への礼を告げモニカを屋内へと運んだ。
太陽が徐々に顔を出し、新しい朝が直にやって来る。
先の喧騒が幻のように静まり返ったオーエド町で、二人の戦士は新たな戦いに身を投じる。
敵を倒すのではない、残された仲間の命を救い意思を繋ぐ戦いを。
【ニノン・ジュベール@プリンセスコネクト!Re:Dive 死亡】
【D-1 オーエド町/一日目/早朝】
【桐生戦兎@仮面ライダービルド】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:ビルドドライバー+フルボトル(ラビット、タンク)+ラビットタンクスパークリング@仮面ライダービルド、ドリルクラッシャー@仮面ライダービルド
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1(確認済み、フルボトルは無い)
[思考・状況]
基本方針:檀黎斗を倒し殺し合いを終わらせる。
1:今は二人(モニカ、學)の手当てを優先。E-4での七海との合流は遅れちまうか…。
2:監視も兼ねてエボルトと共闘する。信用した訳じゃねぇからな。
3:大天空寺なら首輪も解除できそうだ。後はサンプルも必要だが…。
4:万丈達やエグゼイドを探す。エグゼイドは檀黎斗を知っているのかもしれない。
5:環いろはをこっちでも探してみる。
6:デュエリストにも接触しておきたい。
[備考]
※参戦時期は『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』以降。
【深海マコト@仮面ライダーゴースト】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)
[装備]:ゴーストドライバー&スペクターゴースト眼魂&フーディーニゴースト眼魂@仮面ライダーゴースト、アイコンドライバーG@仮面ライダーゴースト
[道具]:基本支給品、マシンフーディー@仮面ライダーゴースト、リベンジシューター(7/8)@大乱闘スマッシュブラザーズシリーズ、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]基本方針:ゲームマスター達は俺が倒す!!
1:助けに来た仮面ライダー(戦兎)と共にモニカと學の手当てをする。
2:ニノン…お前の生き様は忘れない……。
3:あの男(マサツグ様)は仮面ライダーなのか……?
[備考]
※参戦時期はゴースト RE:BIRTH 仮面ライダースペクター終了後
※シンスペクターゴーストアイコンを自分の意思で出すことは制限により不可能です。他の参加者に個別に支給されているか、何らかの条件によって出すことが可能になるかもしれません
※心意システム及び眼魂の特性により、友情ゴースト眼魂がアイコンドライバーGに変化しました。
【土部學@女装男子のつくりかたシリーズ】
[状態]:ダメージ(中) 、疲労(極大)、精神的疲労(大)、緋々色金による擬似的なエイヴィヒカイト覚醒、気絶
[装備]:緋々色金@Dies irae
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]基本方針:モニカちゃんに一人で背負い込ませたくない。怖いけど一緒に戦う
0:……
1:僕達、勝った……?
2:ゆきさんは本名で参加させられた可能性もある……?
3:モニカちゃんの背負ってるもの、僕も少しだけ持ってあげますよ
[備考]
※参戦時期は女装男子のまなびかた終了後
※ 緋々色金に仕組まれた細工により、心意をトリガーに擬似的なエイヴィヒカイトに覚醒しました。身体能力が格段に上がり、素人の彼でも仮面ライダーと生身で戦えるくらいになりました。ただし効果はそれくらいです
【モニカ@プリンセスコネクト!Re:Dive】
[状態]:ダメージ(極大)、脇腹から出血、疲労(極大)、みんなを照らしたいという渇望(極大)、悲しみ(大)、気絶
[装備]:戦雷の聖剣@Dies irae
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]基本方針:決闘を終わらせる
0:……
1:みんなと共に目の前の男を止める
2:ニノン……。
3:私はもう誰も失いたくない…… 。だから私が、皆を照らすのだ!
4:アユミ……私たちの勇姿、見ていてくれ……
[備考]
※参戦時期は少なくともイベントストーリー『ショーグン道中記 白翼のサムライ』以降。
※メガウルオウダー@仮面ライダーゴースト、風双剣翠風&猿飛忍者伝ワンダーライドブック@仮面ライダーセイバーは破壊されました。
◆
幾つの商店や民家の壁をぶち抜いて来たか。
幾つの木々へ激突しへし折って来たか。
一つ一つを律儀にカウントなどしていられず、オーエド町が見えなくなった時にようやく勢いも低下。
地面を何度もバウンドし、ひしゃげた空き缶みたいに転がり続けた果てにストップ。
十聖刃とソードライバーは離れた場所へ落ち、必然的に変身は解除される。
紺色の甲冑から黒髪の少年へ戻ったマサツグ様は、起き上がりたくても直ぐには動けなかった。
「あい、つら……無能のカス虫が…よくも……」
普段ならばつらつらと並べる罵りと嘲りの言葉も途切れ途切れ。
一言口を突いて出る度に、全身の節々が痛む。
ミヤモト達から暴行を受けた時でさえ、ここまででは無かった気さえする。
命があるだけマシと思える性根な筈もなく、考えるのは自分へ理不尽を強いる者達への恨み。
「クソ…クソォ……!」
群れなければ何も出来ない雑魚の集まり。
正義だの現実をマトモに見れず、口先だけは達者な偽善者。
力を持たないが故に何一つ為せない連中。
そんな奴らに自分は完全勝利を収めるどころか、反撃を受け地に伏している。
何かの間違い、馬鹿らしい幻術の類でも受けたと言い訳を並べたとて無駄。
体中から訴えて来る激痛に、忌々しい現実と容赦なく向き合わされた。
「だがやはり、愉快で愚かな甘ちゃん連中だな…トドメも刺しに来ないとは、呆れた素人どもめ……」
小賢しい抵抗を受けこそしても、殺されてはいない。
最後の最後で詰めが甘い、次に会えばもう今回のような憶分の一の奇跡など起こさせはしない。
全員纏めて殺す。
自分達の無力さと愚かさを嫌という程に叩き込み、地獄を味合わせた上でだ。
仕留め損なった者達を嘲笑し、十聖刃の元へ這って進む。
ミヤモトのようなパチモンと違い、自分は真の聖剣の担い手。
先程の戦闘で急に剣の腕が弱くなったのだって、向こうが何か小細工したからに決まってる。
自分が持つに相応しい武器を今一度手中に収め、
「がぁっ!?」
突如背に重量が圧し掛かった。
十聖刃までほんの少しの距離なのに、これ以上先へ進めない。
ジタバタと藻掻く姿は、殺虫剤を吹きかけられた羽虫のよう。
重みの正体を確かめるべく首を背の方へ動かすと、見付けたのは巨大な生物。
少なくとも地球上に住まうどの生き物とも合致しない。
魔物、そう呼ぶのがしっくりくる。
「化け物が…!」
NPCのモンスターの類か知らないが、獣風情がふざけた真似に出た。
八つ裂きにしてやりたいが「守る」スキルは反応無し。
自分の手で直接殺さねばならず、その為の武器は数センチ先に転がったまま。
あれさえ取り戻せればと必死に手を伸ばすも、結局は叶わない。
「へぇ……王家の装備とは違うわね」
マサツグ様の涙ぐましい足掻きを嘲笑うように、目の前で聖剣が拾い上げられた。
銀色の髪に獣の耳を持つ正体不明の参加者。
人間離れした美貌はリシュア達で見慣れているも、この者もまた鳥肌の立つ美しさだ。
生憎と呑気に見惚れるマサツグ様ではなく、自分の剣を引っ手繰ったコソ泥への怒りが湧き出す。
聖剣に選ばれた自分を無視し、薄汚い手で触れるなど言語道断。
「おい…!誰に断って俺の剣に触っている?人の物を勝手に使ってはいけませんなんて、今時幼稚園児でも分かる事だぞ?
ああそうか、その耳と尻尾が飾りじゃないなら、獣並かそれ以下のオツムしかないんだな。そんな奴に何を言った所でm「五月蠅いわねぇ」ぶっ!?」
ここぞとばかりに吐かれた煽り言葉は、顔面への痛みで強制的に中断。
口の端が切れたらしく、鉄の味が舌先に感じる。
ポロリと零れ落ちた白い欠片は歯か。
蹴りが飛んで来たと痛みに遅れて理解し怒りは加熱、そこへ知った事かと新たな声が響く。
「回収完了しました、陛下。どうぞお受け取りください」
「うっわ何この人…顔はそこそこだけど、普通に引くわよ。っていうか、幾ら顔が良くてもこれはないわー…」
見知らぬ二人の少女が現れ、片や嫌悪を籠めた目を自分に向け、片や自分の存在は空気のように扱う。
偽善者達とはベクトルが違うも、不快感を抱かずにはいられない反応だった。
桜ノ館中学校を出発したカイザーインサイト一行である。
みかげが逃げて来たエリアで落雷やエネルギーの奔流が起こるのは、遠目からでも確認出来た。
思った以上に激しい戦闘が展開されているようで、さて様子見に徹するか介入を試みるか思案。
もう少し近付き現状を把握してから判断すべくオーエド町へ向かう途中、何やら派手な音が聞こえたのだ。
確認の為に赴けば傷だらけで悪態を吐く少年を発見、取り敢えずココアに指示を出し拘束。
プリンセスナイトの力で魔物を召喚、一体程度なら苦も無く操れるようで制御下を離れる様子は見られない。
頼れる大人の背後に隠れながら、みかげはマサツグ様に辛辣な評価を下す。
言動から滲み出るプライドの高さと、陰気くさい性根が見え隠れするお近づきになりたくないタイプの男子だ。
来る者拒まずと豪語するみかげと言えども、流石にこの手の輩は遠慮したい。
一方マサツグ様には見向きもせず、ココアはテキパキと支給品を回収。
ソードライバー共々主に献上、受け取った本人は右手の聖剣と見比べ合点がいった顔となる。
「成程ね…自称神様の真似するみたいで気に入らないけど、郷に入っては郷に従えと言うし?仕方ないか……」
ソードライバーを腹部に当てるとベルトが巻き付き、すぐに手を離す。
鞘の代わりでもあるバックルへ十聖刃を納刀。
どう見ても刀身の長さ的にピッタリ納まるのは不自然だが、そこは深く考えない。
上部のスロットへ小さな本状の道具、ワンダーライドブックを装填。
準備完了、最後の仕上げに聖剣を引き抜く。
『ブレイブドラゴン!』
「確か、こう言うんだったかしら…変身」
『聖刃抜刀!』
『刃王剣十聖刃!創世の十字!
煌めく星たちの奇跡とともに!
気高き力よ勇気の炎!
クロスセイバー!クロスセイバー!!クロスセイバー!!!
交わる十本の剣!』
紅の力を求める神獣の本を背に、十本の聖剣が集結。
世界の均衡を守る剣士達の想いを一つに、纏うは夜空をモチーフにした甲冑。
涙を隠す仮面に十字を刻み、銀河の剣を持つ戦士が再び降臨。
「…いやうるさっ!?何今の!?めちゃくちゃ五月蠅いし、耳が凄いキンキン痛むんだけど!?」
「あなたも十分五月蠅いわよミカゲ」
そう言うカイザーインサイトにも気持ちは十分理解出来るが。
思い出せば放送で黎斗がベルトを使った時も、随分喧しい音が流れていたか。
消音機能が搭載されてるなら、二回目からは是非使いたいものだ。
「ふぅん……」
それはともかくクロスセイバーに変身し、力が漲る感覚は悪くない。
マナを大量に取り込んだ甲斐もあり早々魔力切れは起こらないだろうけど、使える道具は多いのに越した事はないだろう。
生半可な装備では却って自身の絶大な力の枷となるが、その点十聖刃は合格だ。
制限下にあっても伝説の聖剣、そして仮面ライダーセイバーの最終形態が齎す恩恵は大きい。
良い拾い物をしたとほくそ笑み、変身後の機能を隅々までチェック。
「あら?故障…じゃないわね。ロックが掛けられてる?解除はどうかしら……」
「何を…何をしている小汚いハイエナめ…!」
足元から聞こえる雑音に、心底鬱陶し気な目を向ける。
うつ伏せに組み敷かれて尚も睨み付ける、その度胸だけは大したものだ。
単に状況を飲み込めない愚者なだけかもしれないが。
「本当に五月蠅いわねぇ…檀黎斗もゲームマスターを名乗る割には見る目がないのね。こんな低俗な輩に強力な装備を支給するなんて」
「なん、だと…!?」
「豚に真珠って諺を知らないのかしら」
呆れを露わに、仮面越しから汚らわしいものを見る目で見下ろす。
まるで引っ越したばかりの部屋に害虫が紛れ込んでいるのを見付けたような、人を人とも思わない目だった。
「―――――ッ!!!」
マサツグ様は自身に向けられる侮蔑と嫌悪の目を知っている。
異世界に転移する前、ミヤモト達が同じ目をしてたのを毎日のように見て来た。
もう二度と下には見られない、今度は自分が見下す番になったのだから。
心の余裕と自信は歪に形を変え、傲慢と暴虐が似合う存在へ変わって行った。
マサツグ様はそれを力ある者の特権と思い込んでいたが、今の彼には口が裂けてもそうは言えまい。
「守る」スキルは未だ使えず、クロスセイバーにも変身出来ず、魔獣の足の下で死にかけの虫のように藻掻く。
いじめられっ子だった時と同じだ。
(何故だ…どうしてこうなる……!?)
自分がこうも理不尽な目に遭う理由が全く分からない。
根本的な原因はマサツグ様が衝動のままにエリンを殺し、平然と殺し合いに乗ったからだが自身の行いを省みるなどまず有り得なかった。
確かに、ナオミ・マサツグは性格に大きな問題のある少年だ。
捻くれているとはいえ善性を失っていない直見正嗣と違い、控え目に見ても善人とは言い難い。
が、それでも全く救いようのない悪党とも言い切れない。
紛れも無い優しさからリシュアを助けた。
和解したクラスメイトと協力し死者の軍勢を撃退、文句を言いつつ復興政策に取り組む責任感とて持ち合わせている。
だからもしゲームの参加させられたのがナオミ・マサツグであれば、性格故に他者との衝突は避けられなくても。
決して褒められた人間性で無くても、最初から即座に殺し合いに乗る気は無かった筈。
但しここにいるのはナオミ・マサツグ本人では無く、まして直見正嗣でもない。
ナオミ・マサツグの負の面のみで構成されたミーム汚染の産物。
皮肉のようにマサツグ様と名付けられた存在が、他者と手を組み殺し合いを止める可能性はゼロに等しい。
己の行いを最初から間違いと思っていないマサツグの怒りの矛先は、当然自分以外に向く。
ハイエナのように現れ聖剣を盗んだカイザーインサイトと、腰巾着の馬鹿女ども。
薄っぺらい正義感でヒーローを気取った偽善者達。
馴れ馴れしく自分に接した気持ちの悪いエリンと、会っていないがどうせロクでもない並行世界の自分。
何よりも、自分を殺し合いに巻き込んだ檀黎斗やハデス達主催者。
よくよく考えれば勝手に首輪を填め、殺し合いに拉致されたのがそもそもの始まりじゃないか。
そうだ、悪いのは自分ではない。
何もかも全てアイツらが悪い。
マサツグ様の中で怒り、いや憎しみがより一層募り出す。
逆恨みや責任転嫁も含めた、ドス黒い醜悪な炎が勢いを増してマサツグ様自身の心を炙る。
憎い、自分を虐げる者達が。
憎い、自分を嗤う者達が。
憎い、自分から奪っていく者達が。
憎い、自分を助けてくれなかった者達が。
殺したい程に憎くて堪らない。
一つの器には到底収まり切らない憎悪が溢れ、そして、
――ELECTRIC STEAM!――
マサツグ様の内心を無視するかのように、電撃が駆け巡った。
「がっ、ああああああああああああああああああああっ!!??!」
クロスセイバーの甲冑を纏った時とは大違いの熱と痛み。
血は沸騰し皮膚はたちまち焦げ付く。
何が起きたのかを冷静に考えるだけの余裕は、1秒も持たない。
激痛に声を抑えていられず、喉を震わせ絶叫を繰り返す。
どれ程の間全身が痺れたのか分からない。
若しかすると10秒も経ってないのかもしれないが、いずれにしろマサツグ様には関係無い。
上映が終われば幕を下ろすのと同じ、瞼が閉じられ視界は真っ暗。
傍らで誰かが話している気もするが、何と言ってるのかまでは判別不可能。
何も出来ずに意識を落とし、されど抱いた憎悪の炎は消せず、
「く…そ……」
悔しさを籠めた悪態は、誰の耳にも届かなかった。
○
『運が良いのか悪いのか、どっちにしてもお前にはこのまま眠ってもらう。用が済んだら目覚まし代わりに銃弾でもくれてやるよ』
言葉を投げかけても返答は無い。
一言も発さない少年は一見死んだと勘違いされそうだが、ブラッドスタークの生体反応装置は誤魔化せない。
仮面ライダーの動きすら麻痺させる電撃を浴びれば、生身の人間は普通死ぬ。
圧し掛かっていた魔物にも電撃の効果が及び、分散し致死は免れたか。
或いはブラドッスタークは知らないが、人の形であっても厳密には真っ当な人間では無いが故の頑丈さか。
いずれにしろマサツグ様への被害は気を失ったに留められ、死は免れている。
『ま、ペットがくたばったのはご愁傷様だがな』
マサツグ様は無事でも魔物の方は運が無かったらしい。
電撃に焼かれ、焦げた肉片一つ零さず消滅。
数時間前から飽きるくらいに襲って来た連中と同じ、NPCのモンスターなのかは知らないし興味も皆無。
意識を割くのは名前も知らない生物よりも、首輪を填めたゲームのプレイヤー。
三人組の一人、見覚えのあり過ぎる剣士と視線が交差する。
『よぉ悪かったな。こいつの後始末に来たんだが、ちょいと遅れちまったみたいだ』
「あら、わざわざ害虫退治ご苦労様。持ち物はもうこっちで確保したけれど」
『そうかい。なら感謝してもらいたいね。こいつをここまで弱らせてやったから、スムーズに支給品を奪えただろ?』
「まあそれはご親切にどうも、なんて言うと思った?悪いけれど、恩着せがましい奴は嫌いなの」
仮面で素顔を隠したまま、友好的とは程遠い毒と皮肉のキャッチボール。
辛辣な言葉を紡ぎながらカイザーインサイトは相手を冷静に見極める。
纏う衣服は王宮騎士団の鎧とは別物、装甲服の一種。
放送でも度々名前を聞いた、仮面ライダーなる者の関係者か。
声色や態度に動揺は見当たらず、十中八九荒事には慣れた人物。
電撃を出す以外の能力や装備は不明、しかし自分には及ばない。
「つまらないお喋りに時間を割いてあげる程、暇人じゃないのよ。早く本題に入ってもらえる?」
『俺としてものんびりするつもりはないからァ。なら単刀直入に言うが、ゲームマスターに一泡吹かせる為に協力しようぜ、って言ったらどうする?』
答えはすぐに返せない。
言葉通りに取るなら、この鮮血色の装甲服はゲームに乗っていない。
優勝か主催者撃破、ゲームクリアの条件の内後者を選んだ。
かといって、美食殿やトゥインクルウィッシュのような正義感からの選択ではない。
危険人物とはいえ一切躊躇せず電撃を浴びせ、更に言葉の端々佇まいから感じ取れる得体の知れなさ。
コレを善人のカテゴリに当て嵌めるのはよっぽどの馬鹿か、手遅れなレベルの狂人のどっちか。
エボルトの考えとしては、何も戦兎達の元を離れ乗り換えるつもりはない。
戦兎の有用性は認めており、この先も向こうに同行する気だ。
ただ戦兎とは別に協力者を作って置くのも悪くない。
特等席で戦兎や人間達の足掻きを楽しむつもりではあるが、最優先は自身の生存。
ゲーム及びゲームマスター攻略の為に、使える手は一つでも多く打っておきたかった。
『あー、一応言っとくが別に仲良く手を繋いで悪い神様を倒そうってんじゃないぜ?』
「分かってるわよ。むしろそんな事言い出したらこの会話もその時点でお終い」
互いの目的の為に力を貸し合い、利用し合う。
仲間意識が入り込める隙間は無く、友情など暑苦しいものは論外。
全てはゲームマスター排除の為に利害の一致で繋がった関係。
別に悪い話ではない。
心を掌握し手頃な人形を増やす以外に、こういった駒を作る機会は重要だ。
「……そうね、確かにこっちも人手が足りなくて困ってるところよ。あなたの話に耳を傾ける時間くらいは作ってあげてもいい」
但し、と一言置いて続きを語る剣士から殺気が放たれた。
「あなた程度がこの私と“対等”に取引をするつもりなら、その思い違いを正さなきゃね」
一歩踏み込む。
数十歩は必要な距離が即座に詰められ、右手の聖剣が降り抜かれた。
恐るべき速度に空気の上げる悲鳴すら置き去りにし襲来。
使い手が変わろうと十聖刃の切れ味は衰えず、ブラッドスタークを新たな贄に選んだ。
小賢しい立ち回りで隠れ潜む蛇が、皇帝と同じ目線に立とうなど驕りが過ぎる。
動機は違えど力の差を分からせる為の剣を前に、赤い蛇の姿が消失。
「小細工を……」
本当に消えたのではない、つまらない手品だ。
全身を赤い影状に変化し這い回る、ブラドッスタークの特殊な移動方法。
主に回避へ使われる機能により、十聖刃の制裁は空振りに終わる。
あくまで最初の一撃のみは、だ。
何処へ逃げたと泡を食う必要はない。
背後で急激に膨れ上がる気配へ冷笑を浮かべ、振り向きざまに剣を突き付ける。
首元数ミリの距離へ切っ先を置いたカイザーインサイトに、勝利への喜びは無い。
この程度で勝ち誇る程、子供染みた真似はしないから。
否、確かに十聖刃は相手の急所をいつでも貫ける位置にある。
相手の剣もまた、カイザーインサイトの首に添えられたという前提付きで。
「ひっ…な、なんなのアレ……」
「陛下……」
従えた少女達からそれぞれ異なる反応があった。
声を震わせ、未知の存在への恐怖を露わにするみかげ。
表情に変化は無くとも、主に牙を剥く存在へいつでも仕掛ける気満々のココア。
二人の態度にカイザーインサイトは疑問を持たない。
そうなって当然だろうなと納得のできる存在が、目の前にいるのだから。
『楽しいお喋りよりも、チャンバラごっこが好みのクチか?お転婆娘を躾けるのは慣れてるからなァ、このまま遊びと洒落込むか?』
どこまで本気か分からない軽薄な口調も、渋みを感じさせる壮年男性の声も変わらない。
だが違う、赤く染まった全身は同じでも先程までの装甲服は存在しない。
生物的な質感を持つ四肢は、人間とは明らかに別物。
装甲を思わせる外骨格が腕と肩を覆い、足の付け根には翠の欠片を填め込んだ突起物。
解読不能の図形が描かれた腰布だけが、唯一の衣服らしき箇所。
顔面部もまた人間の特徴からはかけ離れている。
鼻も口も存在しない、張り付いた目も地球上の生物とは一致しない。
逆三角形型の頭部はコブラを連想させるも、より毒々しさと凶暴さを見る者に抱かせる。
エボルト・怪人態。
ブラッドスタークや仮面ライダーエボルではない、ブラッド族としてのエボルト本来の姿。
エボルトリガーとパンドラパネルが無い為、旧世界で猛威を振るった時よりも弱体化を余儀なくされている。
それでも、トランスチームシステムや並のライダーシステムとは比べ物にならない強さを持つ。
マサツグ様との戦闘では援護向きの機能が揃っているブラッドスタークをメインに使ったが、もしもの場合はこちらの姿を解禁するつもりだった。
現実にはそうなる前に片が付き、マサツグ様とは別の変身者相手に正体を晒したが。
「美しさの欠片も無いわね。もっとマシなデザインに出来なかったのかしら」
「こりゃ手厳しいねぇ。地球の美的センスはまだまだ勉強不足だったってことか』
お互い軽口を叩きながら、内心では相手への警戒を忘れない。
エボルトとしてはここから戦闘になっても、簡単に負けてやるつもりは全く無い。
が、容易く倒せる相手だと甘く見る気も皆無。
クロスセイバーの脅威は先程の戦闘で味わったが、今回は変身者も別人。
しかもマサツグ様の時とは違い、立ち振る舞い一つ取っても格が違うと分かる。
カイザーインサイトも同様に、戦闘になったとて勝つ自信はある。
しかし苦も無く勝利を奪えるかと問われれば、即答は出来ない。
ランドソルに住まう獣人とは根本的に違う怪物。
蛇は蛇でも隠れるしか能の無い小物ではなく、獲物を喰らい殺す大蛇だったか。
両名共にに相手の強さを低く見てはいないが、表向きは余裕の態度を崩さない。
プライドの面は勿論だが、そもそも二人は互いが手を組むのに値するかを見極めている最中。
下手に怯んだ顔を見せようものなら、途端にそこを突かれ今後の関係は対等ではなく上下ハッキリしたものとなる。
言ってしまえば、舐められたら負けなのである。
「…いいわ。口先三寸のペテン師かどうかは、これからの動き次第で撤回してあげる」
『や〜れやれ、とことん厳しくて涙が出そうだよ。優しさとスマイルを忘れちまったら、周りに愛想尽かされるぞ?』
余計な軽口に睨みを利かせれば、肩を竦めそれ以上は口にチャック。
ついでに怪人態の変身を解きいろは…ではなく石動の姿へ擬態を行う。
少女の皮を被るのもそれなりに新鮮な経験となったが、愛着で言えば10年間憑依した宇宙飛行士の方が上だ。
一先ず剣と敵意は引っ込め、協力するのに異存はなし。
とはいえこのまま行動を共にする訳ではない。
エボルトの方は既に戦兎という同行者がおり、当分はそっちと動く。
やちよとの合流の約束も考えれば、カイザーインサイト達とは別行動の方が互いに良い筈。
「そう、首輪をね…」
「上手く外せるかどうかは乞うご期待だけどな。ま、アイツの口振りからして解除不可能にはしてないと思いたいがねぇ」
首輪解除が可能な人材と、設備の整った施設。
両方共にエボルトは確保済みらしく、一歩先を行かれたのに少しだけ機嫌を落とす。
尤も本当に首を外せるかはエボルトの同行者次第。
全面の期待を置く気はカイザーインサイトに皆無、自分の方でも首輪に関する情報収集やサンプル確保と解析は進めるつもりだ。
「ところで、コイツは結局どうする?俺としちゃ、使い道が無いなら首輪のサンプル入手に役立ってもらう気だが」
「…いえ、少し待ってくれる?どうせ最後は殺すにしても、きっちり使い潰してからじゃないと勿体ないもの」
「そうかい。ま、サンプルのアテならこっちにも一つあるしな」
マサツグ様の処遇に関して、どうやらカイザーインサイトにはまだ使い道が思い付いたらしい。
首輪のサンプルが手に入らないのは残念だが、口にした通り入手機会なら他にもある。
反感を買うだろうがそこは上手く言葉に乗せるまでだ。
「おっと忘れるところだった。コイツの支給品全部寄越せとは言わないが、傷の回復に使えるものがありゃ譲って欲しいんだよ。
このまま手ぶらで帰ったんじゃ、流石に恰好が付かねぇからなァ」
お願い!と両手を合わせ、非常にわざとらしい懇願のポーズ。
「あなたそれ物乞い同然よ」、との呆れはカイザーインサイトから。
一応デイパックを見れば、本当にエボルトの望む道具を発見。
複数セットの内一つを雑に投げ渡すと、軽い調子で礼を言われた。
勢いづいてこのまま他の道具もねだるようなら睨んで黙らせるつもりだが、向こうにその気は無いらしい。
エボルトはこのままオーエド町に戻り、遅刻は避けられないがやちよとの合流に行く。
カイザーインサイト達はエボルトとは別のエリアを探索、情報と駒を集める。
二回目の放送後、現在位置から最も近い桜ノ館中学に集まり成果を報告。
もしアクシデントに見舞われ桜ノ館中学での合流が不可能になった場合に備え、予備の合流場所も決める。
後は大まかながら互いの知る参加者の特徴を教え、一旦解散。
「んじゃ、良い報告を期待してるぜ。後ソイツには用心しとけ。人間の感情ってのは便利な反面、こっちにとってのドデカい爆弾にもなり得る」
「余計な心配はいらないわ。そっちこそ、時間を無駄にする事だけは控えて欲しいわね」
自身の経験からの警告も、カイザーインサイトには余計なお世話以外のなにものでもなかった。
冷たいねぇと薄ら笑いを浮かべるも、まぁ最低限の用心くらいはするだろう。
来た道を軽い足取りで引き返し、天才物理学者達が待つ街へ寄り道せずに真っ直ぐ戻る。
「そういや一つ聞き忘れてたんだけどな」
別れた直後、クルリと振り返って質問を投げかける。
それ程大きな疑問でもない、言ってしまえばどうでもいい。
ただ一応聞いても別に問題無いだろうと、深く考えずに言った。
「ソイツに殺された……ああ確か、ニノンってお嬢ちゃんのこと知ってるか?」
○
エボルトが去り、カイザーインサイト達も別方向へ向かう事ととなる。
今の所は大きなトラブルも無く、順調に駒が集まりつつあり悪くない。
「さ、私達もそろそろ行きましょう」
出発を促す皇帝に付き従うのは三人の少年少女。
ココア、みかげ、そしてマサツグ様だ。
尤も最後の一人は従うというより、厳密に言えば遠隔操作されていると言った方が正しい。
マサツグ様を起こした所で、どうせ怒り心頭で喚き散らし反抗するのは目に見えている。
なら気を失ったままで動かせば良い。
必要な道具はカイザーインサイトに支給されており、実験がてら使用。
ついでにココアの支給品にあった道具を使わせてやれば、死ぬまで使い潰せる駒の完成だ。
(にしても、意図的にああいう道具ばかりココアに渡したのかしら…?)
ラーの翼神龍といい、使用者の生命力を犠牲にするものばかり。
まるで主催者が「これらを使って死ね」と言わんばかりのラインナップ。
少しだけ憐れに思わないでも無いが、かといって今更解放する気も無い。
今後とも都合の良い捨て駒として、完全に壊れるまで使ってやる。
「あ、あの、陛下。さっきの赤い奴とか、それにこの人も…本当に大丈夫、なんだよね……?」
黙々と命令に従うココア達とは打って変わり、みかげは浮かない顔で不安を口にする。
洗脳下にあっても感性は正常、だからこうやって戸惑いも見せていた。
エボルトという得体の知れない化け物と繋がりを得て、何かマズい事にならないだろうか。
マサツグ様(名前は知らない)という殺し合いに乗った危険人物を、こうして傍に置き続けるのは正しいのだろうか。
至極当然の疑問に、当の主はさらりと返答。
「言ったでしょう?何も問題無い、私に任せておけば良いって。…それとも、私は信じられない?」
「あっ、そ、そういうんじゃなくて!ただ、ちょっと心配になっただけで……」
慌てて弁明する様子がおかしかったのか、クスリと笑い宥められた。
どうやら怒らせてはいないようで内心安堵するも、エボルト達への不安は無くならない。
何より動揺を誘うのは、ニノンが既に殺されたこと。
直接その死を見た訳で無くても、殺し合いで最初に会った者が命を落としたとあれば冷静でいられない。
恐る恐る後ろを見ると、ニノンを殺した張本人が無言で付いて来る。
今は実質カイザーインサイトに操られており、自分達を襲う様子は無い。
けどニノン殺害の犯人が真後ろにいるのは気分が良いとは言えない。
「……」
憎いとか、そういう風に激しく怒るにはニノンと過ごした時間は余りにも僅か。
しかも良い関係だったとは言えない、けど見ず知らずの自分を助けてくれた相手だ。
自分が離れる切っ掛けとなった言葉も、落ち着いて考えれば別に悪気があっての発言ではないと思う。
だが今更何を考え立ったもう遅い、ニノンは既にこの世を去ってしまった。
みかげが一方的に離れて行った直ぐ後で襲われ、戦いの果てに力尽きた。
(…っ。違う…あ、私は悪くないでしょ……?)
ニノンを殺したのはマサツグ様であって、みかげじゃない。
事が起きたのはみかげがいなくなってからだ、それならニノンの死にみかげは無関係。
口論(ほぼ一方的にみかげが言い返しただけだが)が原因でニノンが死んでしまったとか、そんな話じゃあない。
でももし、司がこの事を知ったら?
琴岡は悪くないだろって言って、自分を慰めてくれるのか?
それとも、公園での喧嘩別れの時みたく、琴岡も悪いんじゃないかとか言われてしまう?
或いはニノンの仲間がこの件を聞いたら。
やっぱり自分が悪者にされてしまうのだろうか。
「私、は、悪くない……」
「……」
自分へ言い聞かせるみかげを視界の端に入れても、ココアは何ら反応を示さない。
普段のココアなら様子のおかしいみかげを心配し、事情を聞いたり元気付けたりと放っては置かない。
少なくとも、ゲームに参加している「もう一人」のココアならそうするだろう。
だがここにいるのは、姉としてのアイデンティティを砕かれた人形。
聖典を憎む者達の暗躍により、絆を否定し奪われたままゲームに巻き込まれた。
救われる筈の未来を知る由も無く、ただ求められるがままに動く。
「……」
マサツグ様もまた言葉なく、自我すら宿さずに覇瞳皇帝の後に続く。
とはいえこの状態が永遠に続くとは限らない。
聖剣は手元に無い、与えられたのは命を代償に力を行使する禁断の果実。
されど、ある意味彼にとっての最大の武器は消えていない。
参加者を、主催者を、己を虐げる全てを憎む憎悪は今も心の奥底で肥大化を続けている。
彼が再び目覚め、ナオミ・マサツグの形をした器が砕け散った時。
その時彼は最早マサツグ様という名を呼ぶ事すら憚られる、本物の怪物に成り果てるのかもしれない。
【D-1とD-2の境界/一日目/早朝】
【カイザーインサイト@プリンセスコネクトRe:Dive!】
[状態]:健康
[装備]:聖剣ソードライバー&刃王剣十聖刃&ブレイブドラゴンワンダーライドブック@仮面ライダーセイバー
[道具]:基本支給品一式×2、シュークリームケーキ(少量消費)@ななしのアステリズム、キノコカンセット(キノコカン、スーパー、ウルトラ)@スーパーペーパーマリオ、ランダム支給品×0〜3
[思考]
基本:あの神を名乗る男は気に入らない、出し抜く手段を考える
1:壊れたこの子(保登心愛)は使い物にならなくなるまで利用する。
2:みかげも駒として利用。どこまで使い物になるかしらね。
3:この子(マサツグ様)は死ぬまで使い潰す。
4:なるべく使える駒を集める。
5:あの子(キャル)も連れ戻すべきか。
6:この忌々しい首輪もなんとかしたい。エボルトの同行者には期待し過ぎず、こっちでも解除方法を調べる。
7:エボルトを利用。2回目の放送後に桜ノ館中学校で合流。
8:この剣(十聖刃)、幾つかの力が使えなくされてる…?
[備考]
※参戦時期は第一部第13章第三話以降
※覇瞳天星に関する制限は後続の書き手にお任せします
【保登心愛@きららファンタジア】
[状態]:操り人形、忠誠(カイザーインサイト)、プリンセスナイト(カイザーインサイト)
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1、ラーの翼神竜@遊戯王デュエルモンスターズ
[思考]
基本:陛下に従う
1:―――
[備考]
※参戦時期は第二部五章第20節から
※カイザーインサイトによりプリンセスナイトとなりました。魔物の操作能力も使用可能です。
【琴岡みかげ@ななしのアステリズム】
[状態]:健康、焦燥、暗示の効果継続中、ニノンの死へ動揺
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:早く帰りたい
1:司がいる、私は……。
2:陛下を手伝えば司のことも、全部上手くいくよね…?
3:ニノンが死んだ…?
[備考]
※参戦時期は第五巻、鷲尾と喧嘩別れした後
【マサツグ様@コピペ】
[状態]:ダメージ(極大)、疲労(大)、顔に蹴られた痕、全身に痺れと火傷、憎悪(極大)、「守る」スキル使用不可能、操り人形、意識無し
[装備]:人間あやつり機@超人類、量産型戦極ドライバー+ヨモツヘグリロックシード@仮面ライダー鎧武
[道具]:
[思考・状況]基本方針:他の参加者を殺して優勝する
0:……
1:並行世界の自分は殺す
2:何で俺がこんな目に遭わなきゃならない…どいつもこいつも許せない……
[備考]
※ミヤモトやトリタ戦など主にコピペになっている部分が元となって生み出された歪な存在です。
※「守る」スキルは制限により弱体化しています
※聖剣を手にしている時、感情次第では剣の技術が強化されます。
※ブレイクスルー・スキルの効果で現在「守る」スキルが無効化されています。
永続的なものでは無い為時間経過で再度使用可能になりますが、具体的な時間は後続の書き手に任せます。
【エボルト@仮面ライダービルド】
[状態]:健康、環いろはに擬態中
[装備]:トランスチームガン+コブラロストフルボトル@仮面ライダービルド、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト、ブレイクスルー・スキル@遊戯王OCG((1)の効果6時間使用不可能)
[道具]:基本支給品一式、じわじわキノコカン@スーパーペーパーマリオ
[思考・状況]
基本方針:生存優先。あわよくば未知の技術や檀黎斗の持つ力を手に入れる。
1:戦兎達の元へ戻る。やちよのとこには遅刻しちまうが、お嬢ちゃん(いろは)に擬態すりゃ機嫌も取れるだろ。
2:戦兎と共闘しつつどこまで足掻くのか楽しむ。仲良くやろうぜ?
3:エボルドライバーを取り戻す。元は内海の?知らねぇなァ。
4:正攻法じゃあ檀黎斗を倒すのは難しいか。
5:カイザーインサイトを利用。2回目の放送後に桜ノ館中学校で合流。戦兎には何て言おうかねぇ。
6:やちよの声はどうにも苦手。まぁ次に会えたら仲良くしてやるさ。
[備考]
※参戦時期は『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』で地球を去った後。
※環いろはの姿を写真で確認した為、いろはに擬態可能となりました。
【シュークリームケーキ@ななしのアステリズム】
琴岡みかげが白鳥司の誕生日に用意した手作りケーキ。
犬に驚いた拍子に転倒、ケーキも落としてしまったが上の方は無事だった為、司と撫子が美味しく頂いた。
【パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト】
ZECTが開発した対ワーム用の究極武器。
ソードモードとガンモードを切り替えられる他、ゼクターを合体させ更に強力な技を使用出来る。
今ロワでは以下の通り機能に制限が施されている。
○ハイパーフォームのカブト以外でも使用可能。
○カブトの元へ瞬間移動するジョウントは使用不可能。
○各種ゼクターはパーフェクトゼクター所持者の目に見える範囲にある場合のみ、呼び寄せられる。
【ブレイクスルー・スキル@遊戯王OCG】
通常罠
(1):相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。
その相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。
(2):自分ターンに墓地のこのカードを除外し、
相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。
その相手の効果モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。
この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。
今ロワでは(1)の効果は一度使うと6時間使用不可能。
(2)の効果は除外=カード自体の消滅と引き換えに使用可能といった具合に細工されている。
【リベンジシューター@大乱闘スマッシュブラザーズシリーズ】
スマブラSPに登場する射撃アイテム。
使用者の蓄積ダメージが大きい程、攻撃力と弾の大きさや射程が強化される。
【ラビットタンクスパークリング@仮面ライダービルド】
戦兎が開発した缶形の強化アイテム。
パンドラボックスの残留物質を利用した発泡増強剤ベストマッチリキッドとラビットとタンクの2つのフルボトルの成分が内蔵されている。
ビルドドライバーと組み合わせる事で、仮面ライダービルド・ラビットタンクスパークリングフォームに変身する。
【アイコンドライバーG@仮面ライダーゴースト(非支給品)】
グレイトフル魂への変身に使用されるゴースト眼魂型の変身ベルト。
眼魔世界でイーディスがアドニスのために製作し用意していたものだがタケルに持ち出され、英雄のゴースト眼魂15個が内部に宿ることで覚醒した。
実はガンマイザーの対抗戦力として造られていた。
【人間あやつり機@超人類】
22世紀のひみつ道具。
動画内ではドラえもんが超人類計画の為にジャイアンとスネ夫を操り、のび太へ壮絶ないじめを行わせたりしずかを寝取らせたりした。
また本家ドラえもんに登場する同名の道具と違い、操られている者達ににこの道具が装着されている姿が確認出来なかった為、装着中は他者の目からは透明化すると思われる。
【ヨモツヘグリロックシード@仮面ライダー鎧武】
戦極凌馬が開発した試作品のロックシード。劇中では呉島光実に譲渡された。
戦極ドライバーに装填する事で、アーマードライダー龍玄・黄泉へ変身可能。
極アームズの鎧武にも匹敵する戦闘能力を発揮出来るが、代償として使用者の生命力を奪う危険性から封印された。
【キノコカンセット@スーパーペーパーマリオ】
ゲーム中の回復アイテムであるキノコカン、その4つセット。
それぞれHPの回復量に違いがある他、どくも治す。
但しじわじわキノコカンには毒消し効果は無い。
『施設紹介』
【桜ノ館中学校@ななしのアステリズム】
D-2に設置。
参加者の白鳥司や琴岡みかげが通う中学校。
投下終了です
あとすみません、細かいですがエボルトの状態表を修正します
【エボルト@仮面ライダービルド】
[状態]:健康、石動惣一に擬態中
[装備]:トランスチームガン+コブラロストフルボトル@仮面ライダービルド、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト、ブレイクスルー・スキル@遊戯王OCG((1)の効果6時間使用不可能)
[道具]:基本支給品一式、じわじわキノコカン@スーパーペーパーマリオ
[思考・状況]
基本方針:生存優先。あわよくば未知の技術や檀黎斗の持つ力を手に入れる。
1:戦兎達の元へ戻る。やちよのとこには遅刻しちまうが、お嬢ちゃん(いろは)に擬態すりゃ機嫌も取れるだろ。
2:戦兎と共闘しつつどこまで足掻くのか楽しむ。仲良くやろうぜ?
3:エボルドライバーを取り戻す。元は内海の?知らねぇなァ。
4:正攻法じゃあ檀黎斗を倒すのは難しいか。
5:カイザーインサイトを利用。2回目の放送後に桜ノ館中学校で合流。戦兎には何て言おうかねぇ。
6:やちよの声はどうにも苦手。まぁ次に会えたら仲良くしてやるさ。
[備考]
※参戦時期は『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』で地球を去った後。
※環いろはの姿を写真で確認した為、いろはに擬態可能となりました。
投下します
冥王とジャック、二人が辿り着いた時には既に戦いは終わっていた。
尾形が死に、ジャンヌが支給品を奪い逃げた。誰が言うまでもなく最悪となる結末だ。
無論これで終わりではない。まだ殺し合いは始まって数時間程度しか経過していない。
朝が近いと言うのにも関わらず、此処は余りに暗く淀んだ空気が流れていた。
誰一人としてその真意を知らない人物、尾形の死。
そしてその死に込められた邪悪な思想も誰も知らない。
故に集った四人にとっては同じ志の一人が死んだ結果だけが残る。
この男が遊馬に人殺しの動機を与えようなどと考えてるなど、
気づきようがないのだから。
「悪いが俺様は死者を悼まんぞ。」
深淵の冥王は元はと言えば冥界の王だ。
今更死人が出て騒ぐならば、うさぎのような例外ぐらいである。
命を助けられ、借りを返すこともできぬまま冥府魔道へと旅立った謎の生物。
ああいうのが例外なだけで、彼はモンスターらしく死者に敬意を払う気はなかった。
「だろうな。俺にとっても誰かは知らん。
だが、だからと言って捨て置くほど薄情でもない。」
せめて埋葬ぐらいはしてやろうと、
バイス・ドラゴンなどのモンスターで雪原に穴を作る。
デュエルモンスターズにはリビングデッドの呼び声等死者を蘇らせるカードもある。
死体を放置してもしそういう形で復活される可能性を考えると、埋葬は必須だ。
ヴリスラグナは壊れてるのもあり、一緒に埋めることとした。
先程ジャンヌ達と戦っていた場所へと戻り、同じようにうさぎも埋葬しておく。
地面に突き刺さったミョルニルについては放置だ。誰も扱えやしない武器だし、
使用者も多大な消耗をするであろうそれに近づく者はいないだろうと踏んでのことだ。
レッド・デーモンズに持たせれば使えるかもしれないがハンマーと言うと、
ドラガンが用いたモンスターやカードもハンマーともあって少し使う気になれなかった。
ついでに言えば常にレッド・デーモンズを展開しては参加者に警戒されてしまうのは明白だ。
なお、どちらも武器の名前がミョルニルと言う名前であったりするのはただの偶然だろう。
「俺が殺しちまったんだよ、尾形を!!」
漸く落ち着いた遊馬から話を聞けば、
内容は何とも陰鬱な顛末に戸惑うジャックとしんのすけ。
てっきりジャンヌが始末したものだとばかり思っていたが、
少年からの予想外な内容を聞いて驚きを隠せなかった。
錯乱もする、涙も流す。その理由がよくわかる。
「ジャンヌの攻撃が致命傷だった可能性もある。気に病むことではない。」
「けどよ……あいつは死にたくないって言ったんだよ。
助けてくれって言ってたのに俺は何もできなかった!」
ジャックは軽く諭すが当然納得できるわけがない。
返り血を浴び、人を斬った感覚は当然ながら初めてのことだ。
あれを気にするな、と言う人間の方が少数だろう。
何より遊馬にとって尾形は仲間だ。尚更重くとらえる。
しんのすけは尾形のあの表情に何処か怪訝そうな顔をしているが、
真意を知る者はこの舞台において誰もいない以上、
そのことを追求することは不可能だ。
「双方共に殺し合いに乗ってないのは分かった。
だがしんのすけだったか。そこの小娘についてはどうするつもりだ。」
冥王の一言に、木へ腰掛けさせるように寝かせたルナへ四人は視線を向ける。
聞けば人間への復讐のために優勝を狙って殺し合いに乗っている少女だと聞く。
しんのすけとしては説得したいものの、二人は表情から余り賛成の様子ではないのは伺えた。
彼自身が分かっていることだ。二度にわたって戦闘して尚も説得を優先する自分の方が稀だから。
遊馬も可能ならば反対ではあるが、手を汚してしまった都合強く出ることができなかった。
「俺は女だろうと敵であるならば容赦はしない。
目覚めても襲うようであるならば、全力で迎え撃つのみだ!」
「やっぱりそうなるよな……でも彼女を何とか説得したいんだ。」
「ふん。復讐を理解してない貴様にはわかるまい。」
しんのすけの甘い発言に対して、意外にも冥王が言葉を返す。
「奴は俺様と同じだからわかる。復讐するまで止まることなどできぬ存在だ。
俺様はあのハ・デスに復讐する。奴との戦いを終わらせるなど冗談ではない。
自己満足であろうとも、復讐の果てが栄光でも虚無でも、そんなものは関係ない。
復讐は己のために行う儀式のようなもの! コローソとか言う小僧がいたところでな。
これは奪われた者達にしか理解できんことだ。貴様はどうだ? 奪われたままのものはあるか?」
確かにしんのすけは一度は奪われたりしたことはあった。
だがそうなっても最終的には取り戻すことができた側の人間だ。
春日部を金有電気の支配下から解き放ち、あの青空を見れた側の発言になる。
冥王の言い分はルナの時と同じで理解はしきれないが、今度の復讐の対象は主催。
主催と浅からぬ因縁を持つ人物がいるのは予想してたが、返す言葉がなかった。
その復讐を止めると言うことは、主催との戦いを否定することと相違ないのだから。
冥王の復讐は肯定し、ルナの復讐は否定する。そんな矛盾が生まれてしまう。
「後顧の憂いのないよう早急に仕留めておく。ジャックよ、貴様も異論はないな?」
「……致し方あるまい。」
少々卑怯ではあるが、眠ってる相手は実力が相当あると見た。
仮面ライダー(厳密には違うが)なしではまず死んでいたであろうしんのすけの発言。
ジャンヌのように正面から戦っていいような相手ではないだろう。
眠ってる今が仕留めるチャンス。
「そうね、仕方ないことよね。」
全員が凍り付くような感覚に見舞われる。
物理的なものではない。強烈な殺気からくるもの。
ルナは既に意識が戻っていたのだ。
瞳を開けた瞬間ルナは動き出し、魔法となる紫の光線を両手から放つ。
二つの光線はジャックと遊馬を狙っており、当たれば致命傷は免れない。
「させん! メタル・リフレクト・スライム発動!」
冥王は常に警戒してたがためカードを伏せており、
ゲル状の鉄が壁となって魔法を防ぐと同時に破壊される。
もう片方は茫然としていた遊馬ではあったものの、
咄嗟にしんのすけが突き飛ばすように倒れ込んで九死に一生を得る。
「ジャック、今がチャンスだ!」
「分かっている! バイス・ドラゴンを特殊召喚し、
ダーク・リゾネーターを通常召喚し、チューニング!」
様式美とでも言うべき手慣れた動きで、
高速でレッド・デーモンズ・ドラゴンへと召喚を繋げるジャック。
メタル・リフレクト・スライムの守備力は3000。それを凌駕する以上、
彼女の魔法に対しては攻撃力3000のレッド・デーモンズでは力不足なのは否めない。
「これがデュエルモンスターズね……でも大したことないわ!」
空を飛び、龍の拳と少女の拳がぶつかり合う。
まず少女とレッド・デーモンズが殴り合える時点で異様な光景だ。
実力伯仲か、互いの拳は周囲に衝撃をまき散らしながらぶつけあう。
超人類と殴り合えた少女の拳は、シグナーの龍にも匹敵するものを持つ。
(ジャンヌといいあの小僧と言い、レッド・デーモンズを軽々と超えてくる!)
攻撃力3000とはデュエルモンスターズでは古来から一つの基準として成り立つものだ。
通常モンスターでは攻撃力3000となる青眼の白龍の攻撃力に並ぶモンスターは未だに一種類のみ。
それぐらいカードを作る側も意識して作られたその基準は、此処では噛ませ犬の役に等しい。
「二人とも待ってくれ! 彼女はまだ───」
「いい加減にしろ! もうその段階を過ぎておるわ!」
戦いが激化する中でも彼女を止めようとするしんのすけだが、
冥王に胸ぐらを掴まれてしまい言葉を詰まらせる。
モンスターだからか、その力は常人をより超えた腕力を持つ。
「だが彼女はコローソについては懐疑的で───」
「先もいったはずだ。復讐はなすまで止まることなどできぬものだ!
小娘の程度は知らんが、何も知らぬ赤の他人の言葉で揺らぐ復讐などあるものか!
それを振り切ってまで貴様を攻撃したのが、何よりの証拠だとまだ気づかぬか愚か者め!」
『あなたなんかに…何も知らないあなたなんかにそんなこと言われる筋合いないのよー!!!』
先の戦いでも言われたことだ。
結局彼女のことを言葉でしか知らない。
家族や村を滅ぼされ、どのような心境でいるのか。
分からずとも彼女をおたすけしたいのがしんのすけの心情だが、
現実はそれを受け入れる余裕を持った者は誰もいない。
「今決めろ! 貴様は奴の敵か! 味方か!
返答次第では貴様を列車の下敷きにしてくれる!」
「オラは……」
女性には手を出したくないスタンスが此処で衝突する。
先ほども咄嗟だったとはいえ女性のジャンヌに攻撃を仕掛けた。
だからそのスタンスをやめようと思えば、簡単にやめられる。
けれど彼女の場合ジャンヌと違ってまだ止められるかもしれない。
その部分がどうしても引っかかってしまって即答はできなかった。
「グオオオオオッ!!」
そうこうしてる間にも事態は更に切迫した状況へと追い込まれていく。
ルナの魔法を受けたレッド・デーモンズが破壊され、ジャックが吹き飛ばされる。
ジャックは言うなれば後攻一ターン目。罠カードによる自衛は困難を極める。
このままではジャックが殺されるのも時間の問題だと冥王は即座に判断。
「チィ! 罠カード強制脱出装置を発動!」
迫るルナを強引に吹き飛ばすことで距離を取らせる。
魔法がある以上余り意味はないが森の奥へと飛ばしたことで、
多少ではあるもののわずかな時間稼ぎにはなるはずだ。
「グッ……レッド・デーモンズがこれほどまでに破壊されるとは。」
カードを伏せながら苦虫を嚙み潰したような顔でジャックは呟く。
エースモンスターとして様々な活躍をしてきたモンスターであるはずが、
次々と出会う相手には容易く越えられることに苛立ちがあるかどうかで言えばある。
スカーレッド・ノヴァやセイヴァー・デモンがなければこうも無力なのかと。
「ところで冥王よ。何故さっきからモンスターを出さん!」
先ほどから罠ばかりの支援。
助かってこそいるがデュエルは三位一体でこそ勝てるとは、
嘗てジャックが遊星に贈った言葉でもある。
「手札が悪い。ロケットアローを出した瞬間俺様は何もできなくなる。」
所謂手札事故と言うものに遭遇していた。
デュエルをする以上常に付きまとうそれに、
何とも言えぬ表情になるジャックであったがその暇はない。
強制脱出装置は一時的なものだ。すぐにでも戻ってくるだろう。
因みにロケットアローが場にいる限り全てのカードを発動できなくなってしまうので、
召喚するのは最悪自分の首を絞めかねない危険な行為である。
「今のレッド・デーモンズではだめだ……一体どうするべきだ。」
/バスターを出す為ににはバスター・モードが必要不可欠。
タイラントも今の状況では出すことはできない状況での戦闘。
対処法がないのでは彼女と戦っても勝ち目がないのは目に見えている。
では冥王の方はどうかと言うと、モンスターのサイズがでかすぎるのが問題だ。
壁にはなるだろうがサイズの問題から攻撃方法は列車特有の轢殺以外になく単調になる。
そんな単調な攻撃方法を、彼女は果たして受けてくれるだろうか。
「うあああああ!! かっとビングだ俺ぇー!!」
どうするべきかジャック達が思案していると、
此処にきてずっと沈黙を貫いていた遊馬が動き出す。
もう彼にとって、今何をどうすればいいのかわからなくなっていた。
ヌメロン・コードがない今尾形を生き返らせることはできない。
『助けてくれ』『死にたくない』と呟いた尾形の言葉が脳裏にこびり付く。
殺し合いには乗らない。しかし尾形の最期の言葉が遊馬を蝕んでいき、
結果彼からはかけ離れた行動を、銃を森から飛び出してきたルナへと向ける。
もうこれ以上仲間となる人物を死なせたくない。それだけが行動力となったのが今の姿。
ジャック達ですら目を見開くような行動だ。ベクターが見れば別人に見えただろう。
端から見ればこんなものはかっとビングでも何でもない、ただの蛮勇なのだから。
「そんなもの当たると思ってるの?」
遊馬は当然銃に関しては素人であり、
放った一発の弾丸はあらぬ方向へと飛んで行った。
元々この銃はあのアーカードが使う前提でカスタムされたものだ。
生身の、しかも子供が使えば肩が外れて射線もぶれて当然である。
だが的外れな一撃は近くの木を細身とは言え一撃で圧し折り、倒木させる威力を持つ。
遊馬だったから問題なかったが、仮面ライダーに変身するしんのすけの手に渡ると厄介だ。
先ほど撃たれたのもあり、そう判断した彼女は今度はジャックとしんのすけへと魔法を放とうとする。
当たれば即死は免れないであろう致命の一撃。
「させんぞ! ブレイクスルー・スキル発動!」
モンスター一体の効果を無効にする罠カード。
相手は人だがモンスターとして扱うのは先の戦いで実証済み。
これにより一時的ではあるがルナの魔法を封じることに成功する。
「それで封じたつもり?」
ならばと攻撃対象を冥王へと変更し、肉薄しその拳を顔面と叩きつける。
魔法使いだからと攻撃力が低いと思っていたが、予想以上の強さに殴り飛ばされる。
ルナはコローソとの戦いでも拳を用いて戦うぐらいには徒手空拳に長けてる方だ。
魔法を一時的に封じられたところで、ある程度であれば問題はなかった。
無論、魔法が使えなくなってるので勢いは弱まってだいぶ衰えてはいるが。
そのまま肩が外れてる遊馬の元へとダッシュし、反動で落とした銃を奪う。
「やめ───」
しんのすけの静止の言葉は届かず、轟く銃声。
倒れている遊馬の腹部から夥しい量の血と声にならない絶叫が轟く。
頭を狙ったはずだが彼女も銃の反動で狙いがうまく定まらず、
寧ろ両手でしっかり握ったはずの自分の肩が外れそうになるほどの威力に、
思わず眉をひそめてしまう。
(何この銃!? 一体どんな奴が使ったらこんな───)
その思考を遮るように飛来する一台の電車。
先のジャンヌの時にも妨害として現れた爆走特急ロケットアローだ。
二人の間を割って入るように出たそれを、ルナは銃を捨て後方へ下がり回避する。
冥王の読み通り、攻撃は当たることはなかった。
「ジャック! 小僧を乗せて逃げるぞ!」
ロケットアローを使って身を隠すように、
ディーゼル車のようなモンスター、剛腕特急トロッコロッコを召喚する。
乗せると言っても、時間がない都合石炭貨物の上に乗ると言う無茶な乗車方法だが。
ジャックがジャンプして飛び乗り、しんのすけがオルタナティブ・ゼロへと変身し、
遊馬を抱えて飛び乗ると、そのままトロッコロッコは逃げるように走り出す。
レールは自動的に生成されており、空中を走る列車として動くため道については問題なかった。
「遊馬の傷はどうなっている?」
「とりあえず彼のジャケットで止血してるが、ちゃんとした場所にいかないと危険だ!」
「小僧の心配をしてる場合か! 来るぞ!」
ブレイクスルー・スキルの効果は1ターンだけだ。
それが終われば当然ルナは魔法を行使することができる。
トロッコへ追いつくような速度で迫ってきており、
後方の石炭貨物の上へと簡単に飛び乗った。
「これで逃げられるとでも思ったの?」
「罠カードロストスター・ディセント! 墓地のレッド・デーモンズを復活させ、
守備力を0にした上で、レベルを1つ下げて効果を無効にし守備表示で特殊召喚する!」
レッド・デーモンズがやられてからも、
虎視眈々と次の行動への布石を取っていたジャック。
だが守備力が0となった姿を見て、ルナは鼻で笑う。
「ハッ、その程度のモンスターで一体何をしようって言うの?」
デュエルモンスターズは攻撃力や守備力がものを言うと。
おおよそ短い時間で彼女はその基本についてたどり着いた。
守備力が0では素手で殴るだけで簡単に吹き飛んでしまうだろう。
「手札からシンクローン・リゾネーターを通常召喚し、
レベル7となったレッド・デーモンズにレベル1のシンクローン・リゾネーターをチューニング!」
再びあるはずのないシンクロ召喚を行う。
これは賭けだ。自分の、レッド・デーモンズのまだ見ぬ可能性を。
タイラントのように、まだ見ぬ異なる世界の相棒を呼び寄せる。
感覚は掴めた。後は可能性のある手段を実行するのみだと。
「見せてやる。可能性を創造する絶対王者の決闘をな!
漆黒の闇を裂き天地を焼き尽くす孤高の絶対なる王者よ!!
万物を睥睨しその猛威を振るえ!! シンクロ召喚!!」
その願いに応えるように、光の中から一体の竜が姿を現す。
レッド・デーモンズと酷似しながらも違う新たな姿、決闘竜(デュエル・ドラゴン)。
「新たなる魂、琰魔竜 レッド・デーモン!!」
神官(ディアク・ウム)の五竜たるレッド・デーモンは、
今この場を以ってレッド・デーモンズを糧として呼び出される。
列車の上を舞う荘厳な竜の姿は、ルナも警戒を怠らない。
「レッド・デーモンの効果発動!
このカード以外の攻撃表示モンスターを全て破壊する!
真紅の地獄炎(クリムゾン・ヘル・バーン)!!」
レッド・デーモンの口から放たれる地獄の業火。
それをルナは魔法の光線を放ち、真正面から受け止める。
まるで先ほどののび太とのかめはめ波の打ち合いの再現のようだ。
だが、即座にやめて地面となる石炭を蹴って空へ飛ぶ。
(読まれていた!)
しんのすけが薬品型空気ピストルを放っていたからだ。
此処で気絶させられるわけにはいかないので彼女は最大限警戒していた。
タイミングは完璧だった。しかし相手が警戒していては意味がない。
炎を回避しながら、更に銃撃をも回避するための行動のために宙を舞う。
「まず邪魔なあんたから突き落としてやるわ!」
攪乱するように乱雑に移動し、接近していくルナ。
素早い動きにはしんのすけもピストルの狙いを定めることができない。
「そうはさせるか! 奈落の落とし穴発動!」
ワンインチ。
拳が届く距離まで詰まったと思った瞬間、ルナは落下していく。
攻撃力1500以上のモンスターを破壊し除外する文字通り奈落の落とし穴。
無論これで倒したなどと冥王は思っていない。相手は何も使わずとも空を飛べるのだから。
予想通り、落とし穴からロケットの如く飛び出すルナ。
「無駄と言ってるのが……」
一体何の時間稼ぎかと思ってみれば、
いつの間にか冥王は刀を握っており彼女の両足を軽くだが傷をつける。
「……この程度の傷をつける為だけに消耗したの?」
嘲笑。
その一言だけが彼女の脳裏に過る言葉だが、
「フハハハハハ!! この妖刀は一目見ればわかる!
呪いが付与されている!! 貴様はその呪いで死ぬのだぞ!」
冥王は違った。攻撃が決まり笑みを浮かべる。
説明書を見ずとも悪魔族である冥王には分かった。
ムラサメブレード? そんなのなまくら刀にしか見えないレベルの妖刀だと。
さらりと逃走の際に遊馬からくすねておいた村雨を、ここぞのタイミングで使った。
かすり傷一つでもつけたことで呪毒が傷口から昇り始め、やがて心臓へ到達し対象を殺す。
こうなっては両足を斬り落とすしかない。だがそんなことをすれば殺し合いで致命傷だ。
どちらにせよ彼女の再起不能は確定。勝利を確信した冥王だったが。
「呪い移し。」
「……は?」
ルナが翳した支給品のカードと、
その名前に思わず呆気にとられる冥王。
呪い移しは罠カードを反射させる効果を持つ。
だが、この舞台では文字通りの呪いも反射させる。
彼女を巡っていた呪毒は消え、それが彼女の手から光となって放たれる。
彼が勝ち誇って呪いなどと言わなければ、このような展開にはならなかっただろう。
最後の最後で冥王として復活した風格が、仇となる要因を作ってしまった。
「さようなら、どっかの魔物。」
(え、俺様死ぬのか?)
ハ・デスとの決着をつけずに。
こんなしょうもない死に方によって。
幾度となく繰り広げ続けた戦いは、こんな結末で幕を閉じる。
メンタルドレイン、ソウルドレイン、スキル・プリズナー。
数々の戦いを繰り広げた中にこの状況への対処法はない。
走馬灯のようにハ・デスとの長き因縁を想起していると、
「させ、ねえ!!」
遊馬が咄嗟に起き上がり、
冥王を突き飛ばして倒れさせる。
だがそれは、呪い移しの効果を遊馬が受けることに他ならない。
被弾した遊馬の足から這い上がっていく何かの感触。
それが何か遊馬は理解する。
「そっか……呪いで死んじまったのか……尾形は。」
やっぱり俺が殺しちまったんじゃねえか。
一生背負いきれない罪を背負い、このような形で清算する。
この苦しみを尾形は味わったのかと、涙を流しながら思う。
「冥王! 何かないのか、呪いを防ぐものは!?」
「ブレイクスルー・スキルの墓地効果を試すが、
一時凌ぎだと思うぞ。それよりもジャック! 前だ前!」
「今度こそさよならよ!」
空を舞い、片手に集約された魔力の塊。
レッド・デーモンを破壊する勢いの攻撃。
残念ながらレッド・デーモンも攻撃力は3000.
ルナの魔法を受ければ破壊されることは免れない。
「させんぞ! 罠カードスカーレッド・レイン発動!
フィールドのモンスターの内、レベルが一番高いモンスター以外のモンスターを全て除外する!!」
発動と同時に空から隕石が降り注ぐ。
隕石の量は尋常じゃなく、妨害ではなく最早殺しに来ている。
「クッ……これじゃ追えない!」
ルナも攻撃どころではなく追撃しつつ回避は困難と判断し、逃げを優先。
隕石が降り注ぐ中もトロッコロッコが走り続けるのだが、問題が一つ起きた。
「ジャックよ。」
それは極めて重要なことだ。
ジャックの一言には捨て置けない部分があるがゆえに。
「なんだ。」
「……トロッコロッコも除外対象か?」
「───あ。」
スカーレッド・レインは『一番レベルが高いモンスター以外のモンスター』が除外される。
敵も味方も関係ない。つまりレベル4のトロッコロッコも除外対象に入ってることに今気づく。
全員列車が消失し、空中へと投げ出されてしまう。
「ヌオオオオオオオオオオッ!!」
幸い投げ出されたのは草木が生い茂る草原だったため、
打撲こそあったものの大事には至らなかった。
ただし、遊馬も何処かへ投げ出されてしまう。
全員己の着地ばかりに気を取られて、彼のことを気に掛ける余裕はなかった。
村雨の毒は対処できなかった。誰もあずかり知らぬところで遊馬は死ぬのだろう。
そう思うと最初の時のような重い空気が三者の中に流れる。
「生きてるか、二人とも。」
真っ先にジャックが起き上がる。
この程度の怪我など、ライディングデュエルで比べればましなほうだ。
「無事なものか……また助けられるとは。」
謎の生物に続きかっとビングなどと言う、
甘っちょろい思想を持った小僧にまで助けられた。
深淵の冥王と言う名を持ちながら此処までの助けられぶりに軽く辟易する。
自分がハ・デスによって冥王の座を奪われた存在かをこれでもかと理解させられてしまう。
故によりハ・デスに対しての怒りが募る。次出会った時どうしてくれようかと考えていると、
「あの、ひょっとしてジャック・アトラスさんですか?」
意外な声の掛けられ方をした。
◇ ◇ ◇
「此処までくればいいのかな……」
蛇王院から生き残るよう命令され、
一人水路で逃げることとなった明石は西方面へと逃げていた。
理由は特にない。あるとするならば湖畔と言う広いフィールドは、
艦娘にとっていざと言う時の移動手段になりえるからと言うだけである。
もっとも、水中にも空中にもモンスターがいると言えばいるので、
安全圏かと言われると怪しいところではあるのだが。
「此処からは単独で活動するしかない、か。」
頭の鉢巻きを取り、それを破いて両足の応急処置を済ます。
走るのはともかく歩くこと自体はそう難しい傷ではない。
ゆっくりとではあるが地上を散策して、ある建物を見つける。
戦兎たちが先に見つけた、タケルが住む大天空寺だ。
「お寺……誰かいるかな。」
そう気になって本堂を軽く覗いてみると、
エボルトが作ったスマッシャーが複数体徘徊しており、
即座に顔を引っ込めて足音を立てないようにその場から逃げ出す。
(寺になんかいるー!?)
首輪解除として工作艦である彼女からすれば、
大天空寺のパソコンは有益な代物ではあるが、
スマッシャーと言う怪人を知らない彼女にとっては、
危険地帯の一つとしか認識できないままその場を去らざるを得なかった。
(調べてみたいけど、近づくのもちょっとなぁ……帝具一つだと心細いし。)
あそこまで厳重と言うことは、
何かあるのではないかと勘繰るものの今は一人。
生き残るよう命令された以上生存を重視しなければならない。
その為寺に入ることは諦め、一度他の場所を散策することにした。
「あれ……?」
そんな最中、トロッコロッコとレッド・デーモンを彼女は発見する。
敵か味方かの判断はつかないが、確認するのは必要な事だと判断した。
即座に水辺に飛び出し、水上スキーで迅速に移動し様子を伺った。
二人は分からないものの、一人は遊星から聞いた情報と合致する人物であり、
「あの、ひょっとしてジャック・アトラスさんですか?」
そう尋ねることにした。
「悪い……尾形……かっとビングどころか、お前を殺しちまうなんて……」
ブレイクスルー・スキルのお陰で呪毒はわずかだが延命された。
だが延命されたところで1ターンという短い猶予でできることなど今の彼にはない。
一人放り出された遊馬は最期に思うのは悔恨の思いだけ。
困難に立ち向かうこともできず、ただ自分のせいで死なせてしまった。
そんな尾形に対する慚愧の念が今も押し寄せてくる。
結局ここでなせたことと言えば、冥王の命を救ったぐらいである。
誰にも看取られることなく、呪毒が心臓へ到達しその命を終えた。
【九十九遊馬@遊戯王ZEXAL 死亡】
【一日目/早朝/D-2〜D-3のどこか】
【ルナ@コローソの唄】
[状態]:火傷(中)、ダメージ(中)、疲労(大)
[装備]:呪い移し(現在使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1〜2
[思考]基本方針:優勝して、人間たちに復讐する。
1:先程の炎の攻撃は支給品を使ったのかもしれない
2:丸眼鏡の男(のび太)が今後どうなるか少しだけ気になる
3:元の世界に戻った時、私はコローソも手に掛ける……?
4:金髪(ジャック)はいずれ倒す。魔物(冥王)はどうでもいい。
[備考]
【一日目/早朝/E-2】
【ジャック・アトラス@遊戯王5D’s】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)
[装備]:ジャックのデュエルディスクとデッキ@遊戯王5D’s
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:キングはこのオレだッ!!
1:主催よ、貴様が神だというのなら、悪魔と交わりし王者たるこのオレこそが真のゴッド・キングだッッ!!
2:殺し合いに反抗するための仲間も探す。武藤遊戯の仲間と白鳥の友達も探す。
3:いずれ、武藤遊戯には改めてデュエルを挑みたい。
4:ジャンヌを警戒。何だあの強さは!?
5:レッド・デーモンズよ! まだ高みを目指すと言うのならば、共に行くぞ!
6:元冥王め……今や名実ともに冥王だな。
7:うさぎ、遊馬……
8:何者だこの女?
[備考]
※参戦時期は本編終了以降(ただし数年後の未来のジャックではない)です。
※心意システムで生成できるカードはレッド・デーモンズ(或いはレッド・デーモン)関係のみで、
かつ必ずシンクロ素材にレッド・デーモンズ・ドラゴンを素材としたものでなければ起発生しません。
必要なものが指定されてる代わりに、心意の条件は他の参加者よりも緩い条件になってます。
現在生成されたのは以下の通り
レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント@遊戯王ARC-V
琰魔竜 レッド・デーモン@遊戯王5D’s(漫画版)
※シグナーの痣がないため現時点では赤き竜の由来カード、
スカーレッド・ノヴァとセイヴァー・デモンは出せません。
【深淵の冥王@遊戯王OCG】
[状態]:疲労(中)、冥王の覚悟、複雑な感情
[装備]:神月アンナのデュエルディスクとデッキ@遊戯王ZEXAL
[道具]:うさぎのデイバック(基本支給品のみ)、一斬必殺村雨@アカメが斬る!、454カスールカスタムオートマチック@HELLSING
[思考・状況]基本方針:ハ・デスに復讐。冥王は一人、この俺様でいッ!!
1:俺様こそ冥王だ! 断じてハ・デスなどではない!
2:だがそれはそれとしてまともな武器が欲しい。デュエルディスクはやりづらい。
3:主催との因縁が薄れる? 知らん! ハ・デスを倒す。それだけよ! それだけが原動力よ!!
4:うさぎに小僧(遊馬)め……助けたうえで死によって!
[備考]
※いやがらせで一切の支給品なしです。
※冥王結界波の残滓を使い切ったため、現状の手段では冥王結界波は使えません。
何らかの手段でソウルドレイン、メンタルドレイン等ができれば再度使用可能かもしれません。
※ジャックやうさぎ達に感化され、嘗ての冥王の風格を取り戻しました。
かといって根本的な強化はされていません。別に攻撃力が上がってもなければ、
何か技を習得と化したわけでもありません。仮にあってもカード風に言えば100程度。
【野原しんのすけ(大人)@クレヨンしんちゃん】
[状態]:ダメージ(中)、オルタナティブ・ゼロに変身中、複雑な感情
[装備]:オルタナティブ・ゼロのデッキ@仮面ライダー龍騎、薬品型空気ピストル@ドラえもん(残り2発)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み、治療系の類ではない)
[思考・状況]基本方針:困っている人をおたすけする
1:あの子(ルナ)をどうするか……このまま説得を続けられるのか?
2:協力してくれる人と並行してネネちゃんとボーちゃんを探す。
3:パラダイスキングを警戒。
4:ヒーローってこういうところあるんだよなぁ……
[備考]
※参戦時期は「映画 超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁」本編終了後。
※少なくとも「オラの花嫁」より前の映画の出来事は経験しています。
【明石@艦隊これくしょん】
[状態]:ケッコンカッコカリによる強化(耐久や幸運以外意味なし)、両足に傷(走るのに苦労する程度に負傷)、疲労(大)
[装備]:指輪@艦隊これくしょん、大地鳴動『ヘヴィプレッシャー』@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]基本方針:ハ・デスを倒して生きて提督の下(元の世界の方)へ帰る。
1:蛇王院さん……無事だといいんですが。
2:九時間ほど散策して、指定の場所に遊星さんと合流。
3:帝具、ちょっと調べたくなってしまいますねー。
4:首輪を解除できるだけの装備を整えないと。
5:特体生って艦娘余裕で超えてるじゃないですかやだー!
6:このまま水上移動して、どこへ向かおう。
7:ジャンヌには最大限警戒。あれがゴロゴロいたら艦娘ですらかませなりますよ!
8:あの寺何怖いんだけど!?
9:ジャック・アトラスさんですよね?
[備考]
※改装後、ケッコンカッコカリ済み、所謂ジュウコンなし、轟沈経験ありの鎮守府の明石です。
※艤装はありませんが、水上スキーそのものは可能です。
時間制限については特に設けてませんが長時間は無理かなと。
※指輪は没収されていませんが、偽装がないため耐久以外ほぼ意味がありません。
※蛇王院、遊星と情報交換しました。
※以下のものがC-2に落ちてます。
右腕用ホーリー・ナックル@Fate/Grand Orderは黒ずんでますが使えるかは後続の書き手にお任せします
左手用は空気砲@超人類に変質の際に融合したため消滅してます。
雷槌(ミョルニル)@終末のワルキューレ
※C-4の段丘に薄緑@刀使ノ巫女が落ちてます。
C-4の段丘の地形がかなり荒れてます。
C-4か近くのエリアに隠れ港+護送船@テイルズオブアライズがあります
※C-3に九十九遊馬の死体(基本支給品、閃刀姫-カガリ(現在召喚不可能)@遊戯王OCG(カードはホルダーにある))があります
【琰魔竜 レッド・デーモン@遊戯王5’Ds(漫画版)】
ジャックが心意システムで手に入れたカード。
効果は漫画版であるため、効果での破壊に失敗すると攻撃ができなくなる。
以降はレッド・デーモンズを経由せずとも召喚することが可能
【呪い移し@遊戯王デュエルモンスターズ】
ルナに支給。光の仮面が使用したカードで未OCG化
そのためテキストは以下の通り
相手が罠カードを使ったときに発動!
その効力を相手に移しかえる
使用すると六時間使用不可能
以上で投下終了です
少しだけミスがあったので修正です
【呪い移し@遊戯王デュエルモンスターズ】
ルナに支給。光の仮面が使用したカードで未OCG化
そのためテキストは以下の通り
相手が罠カードを使ったときに発動!
その効力を相手に移しかえる
本ロワでは罠だけでなく本物の呪いも返すことが可能
例:道満の呪符、ミカンの呪いなど
何度もすみません、自作のエボルトの状態欄を
[状態]:健康→疲労(中)、ダメージ(中)に修正します
お二方お疲れさまです!
>>883-978 、>>991
カイザーインサイトとみかげの冒頭の食事会がそれぞれの歪さと共感が混ざりあい、話の最後の締めを含めて独特かつ良質のドラマを形作った印象が持てました。
みかげも物語に必要なパーツになってて良い。
それもあってニノンの存在は死しても変わらないよ。
戦闘面も見応えのある内容で、マサツグ様という不変の障害を退けたのは、一般人の學を含めたヒーロー達とヴィランという燃える展開で、犠牲が出て不穏さは消えないものの爽快さがありました。
>979-990
ここで遊馬の退場は痛い。
人とモンスターとの共闘の難しさを痛感。
カードバトルが大きな要素になってる会場と再認識させられる手に汗握る内容でした。
しんのすけ足手まといにはならないものの、ルナを揺るがせないのは不憫。
逆に冥王は信用できると取れるのは皮肉かな。
余計な一言でマーダーを仕留められなかったのには苦笑だけど。
最後の方の明石と遊馬の善良ぶりに報われなさを感じながらも少々安心感がありました。
お二人共投下乙です
次スレ立てました
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1722279615/l30
様々な要因が積み重なって当企画で思い悩んでいることもあり当企画のことを考えると精神的に追い詰められてしまう状態になっているので感想などは後日、出来ればまた
ただ明かすとしたら、大人しんのすけは書き手間が集まる場所に仮の名簿を投下した際に大人しんのすけの候補作を投下した人が「しんのすけを入れないのは有り得ない」と何度もゴネ、誹謗中傷を繰り返してきたから仕方なく入れたもので、他の方々も自作を入れろなんて恥知らずで傲慢なことを言った人は大人しんのすけの候補作の人以外居ませんでしたが、愚痴のような形で苦言を呈してくる人が居ました。これで大幅に名簿が変わっています。この件でクレしんが嫌いになり、特にしんのすけというキャラは大嫌いになりました
その他、機種変により5000文字程度の話を書くのも困難になりました
それに外部で辺獄、エトラの企画主(トリップを変えているが同一人物。その他にもトリップあり)に打ち合わせと裏切られ傷つき、疑心暗鬼にもなっています。それから、ずっと精神を病んでいます。オリロワVRCの方で気ままにリハビリをしていますが。
ゆえに私は決闘ロワの企画主として相応しいのか、真剣に考えています
決闘ロワには素晴らしい話を投下してくれる方が何人かいます。
今やほぼ一人で回し、気軽にマイペースに進められるオリロワVRCとは大きく事情が異なります
オリロワVRCのような短文を企画主として決闘ロワに投げるのは、非常に緊張します
また決闘ロワはクレヨンしんちゃんや名簿の時点ですごく苦痛を味わってきて、精神の限界です
ゆえにどなたか立候補していただける既存の書き手の方がいれば、企画主という立場を譲ろうかと思います。自分では明らかに力不足なので。
>>993
とりあえずレスの方を読ませていただきました
決闘ロワを発足当時から読んで来た部外者からの意見です
まず自分を企画主として相応しいのか疑問に思うことが出来る人は、それだけで企画主にふさわしい人物だと思います
仮に短文しか投げられないのだとしても、別に短文しか投げられないことが問題じゃなくはないでしょうか
他所のロワのことを持ちだすのも悪い話ですが、他書き手の方が長編投下をしているロワはあります
長文ばかりが良いと言うものではないし、つなぎ話なども長編を書く上で重要なので、短文を投げることに躊躇する必要は無いと思います。
クレヨンしんちゃんのことに関しては入れてしまった以上、コンペロワのオレカキャラみたく強制的に削除するか、適当な理由を見つけて殺すぐらいしかどうしようもないと思いますが、せめていなくなる間だけでも折り合いをつけるしかないでしょう
自分が企画主として相応しいか疑問に思う必要は無く、書きたいときに短文でも書けばいいし、他書き手への感想など、書く以外にも企画主として出来ることはあるので、他の人に譲る必要は無いと思います
おせっかいな長文、失礼しました
第一放送楽しみにしてます
>>993
レスの方を読みましたが、正直、責任を他人に押し付けて言い訳しているようにしか思えません。続けるのが精神的に辛いというならその旨だけ伝えてくれればいいですし。
氏が企画主を辞めるのも続けるのも自由ですし、他書き手に対してどう思ってるかも自由なのでそれ自体を咎めるつもりはありません。
しかし、決闘ロワに関係ない外部のこと(本スレだけ追ってる人にはわからないこと)を持ち込んで名指しで批判するのはどうかと思います。どういう意図で名前を出したか問い詰めるようなことはしませんが、事情を知らない身からしたら過度な自分可哀想アピールと他者に泥を投げつけるムーブはかえって氏に不信が湧きますよ。企画主を引き受けてくれた人がいて、いざ続けてみたら「なんで自分の思った通りにやらないんだ!」「自分が精神的苦痛を与えられた書き手と関わるなよ!」「なんでしんのすけが活躍してるんだ!自分への当てつけか?こんな企画嫌いだ!!」とか氏に怒られても困りますし。
事情を知らない関係ない第三者が余計な口を挟むなと思われるかもしれませんが、氏がその第三者を巻き込もうとしてることをご自覚お願いします
クレしん書き手の者です
決闘ロワで自分が大人しんのすけをゴリ押した事は事実です、自分は本当に愚かな事をしてしまったと今でも反省しています、その件に関しては本当に申し訳ないと思っており、当時しっかりとsnsの方で謝罪をし、和解していました
しかし今回企画主が再びこの件を書いたということはそれほど辛い思いをさせてしまっていたということを改めて知ることができました、悪いのはゴリ押してしまった自分です、企画主の方、そして書き手や読み手の皆様、本当に申し訳ありませんでした
ですが念のために言っておくと、自分はコンペロワからクレしんキャラを書き始めて色々なロワで当選させてもらっていましたが、人によってはそれらもゴリ押して無理に当選させてもらったんじゃないかと思う人もいるかもしれません、しかし他のロワでは一切そんなことはしていません、決闘ロワに関しては企画主がどうこうとかではなく当時の自分がわがままでやってしまったことです
改めて、再びここで謝罪させて頂きます、誠に申し訳ありませんでした
そろそろ >>993 から2週間経つけど、企画を引き受けるって書き手は出てくる気配はない
他の人も言ってるとおり、続けるも辞めるも企画主の自由。だけど「続けるか思い悩んでいる」と吐露されたら、企画が続くかどうかわからない以上、他の書き手も「続きを書こう」とはなりにくいんじゃないか
もしかしたら考えることすら精神的に苦痛なのかもしれないけど、企画主として方針は伝えた方がいいと思う
>>997
新スレに予約来てるぞ
皆様ご意見ありがとうございます
とりあえず企画主は続投します。投下する際はこれより短文になってしまうとは思いますが、まだ当企画に予約してくださる方もいるので。1,2レスの繋ぎでも良ければかけそうなので
とりあえず時間が経ち、精神もそれなりに落ち着いてきました。大人しんのすけのゴリ押しについては表面上許していても心の奥底で溜まっていたものがあります。不甲斐ない企画主で申し訳ありません
次スレに移行するため埋め
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