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チェンジ・ロワイアル part2

1 : ◆5IjCIYVjCc :2021/10/10(日) 15:59:55 1b/oGS/Q0
【当企画について】
・様々なキャラに別のキャラの体を与えてバトロワをする、という企画です。
・コンペ形式で参加者の登場話を募集します。
・初心者から経験者まで誰でも歓迎します。

【参加者について】
・このロワの参加者は皆、自分の体とは別人の体で戦うことになります。
・参加者として扱われるのは体を動かす精神の方のキャラクターです。
・精神と体の元になるキャラの組み合わせは自由です。

【ルール】
・全員で殺し合い、最後に生き残った1人が勝者となる。
・制限時間は3日。
・優勝者だけが元の体に戻れる。
・優勝者はどんな願いでも叶える権利を得る。
・参加者は皆爆弾入りの首輪を嵌められている。これが爆発すると如何なる存在でも死亡する。
・主催者は権限により首輪を独自の判断でいつでも爆破することができる。
・主催者が「これ以上ゲームを続けることは不可能」と判断したらその時点で全参加者の首輪が爆破される。
・参加者は最初、会場のどこかにランダムにテレポートさせられる。
・NPCなどは存在しない。
・ゲームの進行状況等は6時間ごとに行われる放送でお知らせする。
・定期放送ごとに禁止エリアが3か所発表される。
・禁止エリアに立ち入ると首輪が5分後に爆破される。
・禁止エリアが有効となるのは放送から2時間後。
・禁止エリアに立ち入った場合、首輪は事前に警告音を鳴らす。

【支給品について】
参加者にはデイパックというどんなものでも入る小さなリュックが渡されます。その中身は以下の通りです。
・地図:会場について記されている。
・食料(3日分):ペットボトルの水やコンビニ弁当など。
・名簿:参加者の名前が羅列してある紙の名簿。最初は入っていません。本編開始とともに配布について放送でお知らせされます。
・ルール用紙:ルールについて書かれたA4サイズの紙。
・ランダム支給品:現実、フィクション作品などを出展とするアイテム。最大3つまで。
・身体の持ち主のプロフィール:このロワで与えられた体の元の持ち主について簡単に記してある。記載事項は名前、顔写真、経歴、技能といったものなど。
【追加支給品】
・コンパス:方位を知るためのアイテム。手持ちサイズの小さなコンパス。赤い針が北を指す。
・名簿:参加者の名前が羅列してある紙の名簿。五十音順で記されている。身体についての記載は無い。

【支給品についての注意事項】
・2021年9月22日現在、既に登場している参戦作品以外からの出展で支給品を登場させることを禁じています。

【開始時刻について】
・開始時刻は夜中の24時からです。

【時間表記】
深夜(0〜2)
黎明(2〜4)
早朝(4〜6)
朝 (6〜8)
午前(8〜10)
昼 (10〜12)
午後(12〜14)
夕方(16〜18)
夜 (18〜20)
夜中(20〜22)
真夜中(22〜24)

【状態表について】
・状態表には以下のテンプレート例に示すように[身体]の欄を表記することを必須とします。
【状態表テンプレート例】
【現在地/時間(日数、未明・早朝・午前など)】
【名前@出典】
[身体]:名前@出典
[状態]:
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3
[思考・状況]基本方針:
1:
2:
3:
[備考]

・死亡者が出た時は以下のように表記してください。
【名前@出典(身体:身体の名前@出典) 死亡】

【予約ルール】
・予約する場合は1週間を期限とします。
・1週間過ぎて何も連絡が無ければ予約は取り消しとなります。
・予約を延長する場合はもう1週間までとします。
・予約が入っていないキャラならば予約なしのゲリラ投下も可能です。

まとめwiki:ttps://w.atwiki.jp/changerowa/


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2 : ◆5IjCIYVjCc :2021/10/10(日) 16:01:30 1b/oGS/Q0
2スレ目になりました。
それでは引き続き、当企画をよろしくお願いいたします。


3 : ◆ytUSxp038U :2021/10/12(火) 14:31:37 PuHw1E8.0
スレ立てお疲れ様です。

檀黎斗、グレーテ・ザムザ、大首領JUDOを予約します。


4 : ◆ytUSxp038U :2021/10/15(金) 18:31:17 Lbz.y8p20
投下します


5 : 前兆 ◆ytUSxp038U :2021/10/15(金) 18:32:11 Lbz.y8p20
足を止めると、グレーテは自分が草原にいる事に気が付いた。
市街地での騒乱から少しでも遠ざかりたくて一心不乱に走り続けていたが、周囲の景色は無数の建造物が建ち並んでいる様から一変、
一面の草花が風に揺られている光景へとなっている。

逃げている最中、彼女は一度も振り返る事をしなかった。
だからあの後何が起きたのかを知る由も無い。
ただ逃げる背中に声は届いていた。
岩を素手で砕いた男の悲痛な叫びと、地の底から響くような稼働音。
直接見ずとも何が起きたのかは察せられる。
きっとあのモンスターのような参加者に、剣を持った男が殺されたのだ。
自分のすぐ背後で人が殺されたという事実は、グレーテに次は己の番かもしれないという恐怖を与えた。
だからもう何も見たくないし聞きたくもないと、脇目も振らずに逃げて来たのだ。

街を出た事で少しだけ気持ちが落ち着いたのか、自身が走ってきた方を振り返る。
遠くの方に街灯の灯りがぼんやりと見えるだけで、あのモンスターは追って来ない。
ひょっとして岩を素手で砕いた男も、自分が逃げた後で殺されてしまったのだろうか。
やはり彼らが差し伸ばしてくれた手を拒絶したのは間違いだったのでは、そんな罪悪感にも似た後悔が浮かび上がる。

(…違う。私の、私のせいなんかじゃない!だって、こんな化け物を本気で受け入れる人間なんて、いるはずが……)

必死に己に言い聞かせる。
もし本当に彼らが何の打算や悪意も無く、本気でグレーテを仲間に迎え入れようとしてたのなら、自らの手で救われる道を潰してしまったという事ではないか。
そんな事はあってはならない。
どうせ彼らだって、父がグレゴールをステッキで殴りつけ、リンゴをぶつけたように、グレーテを傷つけるに違いないのだ。
自らの間違いを受け入れられないグレーテは、もうこれ以上は余計な事を考えないように再度走り出した。

それから間もなくのことだった。彼女がソレを見つけたのは。

「ギギィ!?(ヒィッ!?)」

悲鳴を上げるのも無理は無い。
グレーテの目の前には男の死体が転がっているのだから。

端正な顔立ちの男だった。
身に着けた鎧は所々が砕け散り、痛々しい傷が露わとなっている。
よく見ると、この周辺だけ草花が吹き飛んでいる。
間違いなく何者かとの争いがあったのだろう。
唯一の救いと言うのも奇妙であるが、男の顔に苦痛や絶望は見当たらず、どこか晴れやかな笑みを浮かべていた。
男のが誰と戦い、何を想って死んだのかはグレーテの知る所では無い。
そんな事よりまだ近くに、男を殺した参加者がいるかもしれないと恐怖を抱く。
なら早々に立ち去るのが一番なのだが、怯える心とは裏腹にグレーテの視線は男へ釘付けとなった。

「ギ……」

破損した鎧の下、晒された素肌に付けられた傷。
死後数時間が経過したのだろう、血は渇き黒く固まっている。
常人であれば深い傷に痛ましさや嫌悪感を感じるのかもしれない。

だがグレーテは違う。

凝固した血を見ていると、無性に口内が疼き出す。
既に固まってしまっているが、あの血を飲みたいという欲求が――


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"
6 : 前兆 ◆ytUSxp038U :2021/10/15(金) 18:33:14 Lbz.y8p20
(………………ッ!!?!)

自分が今何を考えたのか。
男の死体を見て、何を欲した?
我が事ながら信じられない思いで後退る。

よくよく思い返せば、市街地にいた時から自分はおかしくはなかったか?
強面の男に追いかけられていた少女の傷口から流れる血を見て、何を考えた?
自分を捕まえようとした男に触角を突き刺した時、急に渇きが癒えたのは何故だ?

(ああ、嘘、こんなの嘘よ……!)

醜悪な毒虫の体になろうと、心までは変わらない。
自分は正真正銘、グレーテ・ザムザという名の人間だ。
そう信じていたのに、自分が人間の血を欲していると理解した瞬間、音を立てて崩れる気がした。

これではまるで、体だけでなく心までもが

醜い怪物になってしまったようではないか。

(いや…いやぁあああああああああああああああああッ!!!)

最早自分自身さえもが信じられず、絶叫を上げてグレーテは逃げ出した。
救いの手を差し伸べる者は現れない。
彼女自身が、救われる道を拒絶してしまったのだから。


【D-5 草原/早朝】

【グレーテ・ザムザ@変身】
[身体]:スカラベキング@ドラゴンクエストシリーズ
[状態]:恐慌、頭部に切り傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:絶望、過剰な怯え
1:この場から離れる
2:喉の渇きが消えた…何だか良い気分…
3:私は心まで怪物になったの……?
[備考]
※しっぽ爆弾は体力を減少させます。切り離した腹部は数時間ほどで再度生えてきます。
※デイパックの破れた傷が広がっています。このまま移動し続ければ他にも中身を落とすかもしれません。
※血の味を覚えました。





7 : 前兆 ◆ytUSxp038U :2021/10/15(金) 18:34:43 Lbz.y8p20
グレーテが去り、静けさを取り戻した草原。
青白くなった顔で横たわるリオン・マグナスの死体に、そっと近付く者が現れた。

「…何だったんだアレは」

決して少なくない金を掛けたであろう、白の衣服を纏った男。
檀黎斗は巨大な虫が去って行った方角を眺め、訝し気に呟いた。

少女とマゼンタ色の仮面ライダーがそれぞれ別方向へ別れた後、黎斗はリオンの死体の元へと移動した。
撮影した画像で確認できたが、ライダーは水や食料の入ったバッグは持ち去ったものの、鎧の男が使っていた武器は放置していったらしい。
ライダーの力が有れば他の武器は不要と考えての行動なのかは、黎斗に分かり様は無かった。
だが使うかどうかはともかくとして、一応回収しておいて損は無い。
幸い距離もそれ程離れてはいなかった為、特に迷う事無く武器の回収に走った。

そうして徐々に死体へと近づいた時、黎斗とは反対の方から何者かが近付いて来るのが見えたのだ。
そこで一度足を止めると草むらに身を潜め、ライブモードに変形させたバットショットで、相手の姿を確かめた。
驚いた事に相手の姿はどう見ても人間ではない、巨大な虫の化け物。
もしや新たなバグスターでも会場に放たれたのではと考えたが、あんな気味の悪い虫に関係するガシャットを開発した覚えはない。
ズームして観察すると、自分のとはサイズが違うが首輪らしきリングがあった。
まさかこいつも参加者なのかと声に出さずに驚く黎斗には気付かず、巨大な虫はじっと死体を見つめたかと思えば、唐突に鳴き声を上げて走り去っていった。

「ふむ、私はまだ運が良かったと考えるべきか?」

死体の傍に佇みながら、顎に手を当て考える。

あの虫の正体はともかくとして、中身は恐らく人間だろう。
だとしたら悲惨極まりない。
人間とはかけ離れた姿になり、意思疎通もままならない。
あの見た目では何もせずとも警戒心を与えてしまう。
もし自分があんな体に精神を閉じ込められていたらと考えると、背筋が寒くなる。
天津は黎斗とは相容れない人間だが、あの虫よりは遥かにマシだ。

(だがまぁ、もし彼女達と行動を共にしていたら、あの虫を放って置きはしなかったのだろうな)

お人好しの少年少女、リトといろはを思い浮かべ呆れたように笑う。
あの二人なら得体の知れない虫の化け物だろうと、放置せずに接触を試みたかもしれない。
それ以前に、鎧の男とマゼンタ色のライダーの戦闘にも介入した可能性だってある。
あれやこれやと首を突っ込んで、それに巻き込まれてはたまったものではない。
やはり別行動をとって正解だったと改めて思いつつ、本来の目的である転がった武器に手を付けた。

(短剣はともかくとして、こんな物で戦っていたのか?)

クリスマス用の長い蝋燭を手に取り眺める。
長さからして剣に見立てられない事も無いが、実際の戦闘で役に立つのかは疑問である。
ダメ元で付近の草へと振るって見たら、パラパラと切断できた。
刃らしき部分はどこにも見当たらないにも関わらず、何故斬れたのか。
よく分からない武器だと困惑するも、使い物にはなるようなので短剣と共にデイパックへ仕舞う。

武器の回収を終えるともうここに用は無い。
そろそろ合流場所へ行くべきだろう。
いろは達が生きているのなら、役立つ情報の一つでも手に入れておいて欲しいものだ。
もし死んでいるのなら、厄介な参加者を道連れにしてくれていると都合が良い。
どちらにせよ、自分の役に立つのなら生死は問わない。

悪意に満ちた笑みを隠さず、踵を返し早足で来た道を引き返していった


【D-5 草原/早朝】

【檀黎斗@仮面ライダーエグゼイド】
[身体]:天津垓@仮面ライダーゼロワン
[状態]:健康
[装備]:ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、バットショット@仮面ライダーW
[道具]:基本支給品、着火剛焦@戦国BASARA4、パラゾニウム@グランブルーファンタジー、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:優勝し、「真の」仮面ライダークロニクルを開発する
1:人数が減るまで待つ。それまでは善良な人間を演じておく。
2:次の放送が流れるあたりにいろは達と合流。
3:優勝したらボンドルド達に制裁を下す。
[備考]
※参戦時期は、パラドに殺された後
※バットショットには「リオンの死体、対峙するJUDOと宿儺」の画像が保存されています。


8 : 前兆 ◆ytUSxp038U :2021/10/15(金) 18:36:26 Lbz.y8p20



人間のと、そうでないもの。
二つの足音がJUDOの鼓膜へ届いた。

宿儺とは反対のエリアへ移動していたJUDOは、ふと新たに得た力を確認しておこうとライドブッカーを開いた。
数枚のカードを取り出してみると、確かに力が増している事が分かる。
ディケイド以外のカードは薄っすらとシルエットが浮かび上がるだけだったが、今はハッキリと姿が写し出されていた。
古代ではクウガ、現代では未確認生命体第四号の名で広く知られている戦士。
それが新たに得た、というよりも取り戻したディケイドの力の一つ。

カードを眺めるJUDOは直感的にクウガの持つ能力を理解した。
外見からしてプロトタイプ達とも関係がありそうだが、ディケイドと同様にJUDOが初めて見る戦士だ。
にも関わらず、まるで前々から知っていたかのような感覚には首を傾げた。
尤もJUDOの肉体である門矢士もまた、光夏実からディケイドライバーを渡された際に、記憶喪失であるというのに九つの世界のライダーの力を完璧に使いこなしたという経験がある。
それを考えると、JUDOの身に起きた現象も不思議ではないのかもしれない。

「ほう…」

クウガの持つ能力に一つ、興味を惹かれるものがあった。
早速試すべくカードをドライバーに挿入すると、一瞬で姿が変わる。
まず始めは赤い装甲と複眼の、クウガの基本形態とも言えるフォームへ。
続けてカードを差し込むと、装甲と複眼の色は緑へと変わった。
ペガサスフォーム。クウガの視覚や聴覚などを限界以上に強化し、遠距離からの攻撃を主体とした形態。

目当ての姿へ変身し終えると、耳へと侵入してくる音へ意識を集中する。
異様にハッキリと聞こえる風の音に加え、二種類の足音をJUDOの聴覚が捉えた。
どちらも先程までJUDOがいたエリアにいるようだ。
偶然立ち寄ったか、はたまた自分が去るのを遠くから観察して近付いたか。
どちらにせよ、彼らの存在を放って置くつもりはない。
とはいえこちらの身体は一つで、向こうは二人。
片方の追跡は諦めねばならない。

(だが、あちらも捨て難いな)

ペガサスフォームで察知したのは二つの足音だけではない。
東にある街、そこで何者かが放ったであろう閃光をこの目で捉えたのだ。
誰が放ったにしろ、中々の破壊力を秘めた閃光はJUDOに興味を抱かせた。
街へ向かい、その者と闘争を楽しむのも悪くは無い。

(フム、どこへ向かうか…)

どこへ行くにせよ、願わくば退屈せずに済む相手であって欲しいものだ。
想定外の傷を負わせた鎧の男や、自分に死を予感させた少女のように、ただの餌ではない力を見せてくれるのなら、
この渇きも少しは満たされる筈なのだから。


【E-5 草原/早朝】

【大首領JUDO@仮面ライダーSPIRITS】
[身体]:門矢士@仮面ライダーディケイド
[状態]:負傷(中)
[装備]:ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド ライドブッカ―@仮面ライダーディケイト
[道具]:基本支給品×2(リオン)、アタックライド@仮面ライダーディケイト
[思考・状況]基本方針:優勝を目指す
1:闘争を楽しむ。その為にどこへ向かうか…
2:宿儺と次出会ったら、力が戻った・戻ってないどちらせよ殺し合う
3:優勝後は我もこの催しを開いてみるか
[備考]
※参戦時期は、第1部終了時点。


9 : ◆ytUSxp038U :2021/10/15(金) 18:37:27 Lbz.y8p20
投下終了です


10 : ◆ytUSxp038U :2021/10/16(土) 16:50:57 g2WqiaJY0
空条承太郎、坂田銀時、魔王を予約します。


11 : ◆ytUSxp038U :2021/10/17(日) 21:19:27 TkyTF1W60
投下します


12 : サムライハート ◆ytUSxp038U :2021/10/17(日) 21:20:50 TkyTF1W60
音が消えて無くなった。
風の音も、羽虫の飛ぶ音さえも聞こえない、完全なる静寂。
それこそが時の止まった世界。スタープラチナとザ・ワールドという、二つのスタンド使いにのみ許された時間停止を行使した結果だ。
この世界の中でただ一人動くことが可能な少年は、己の直感に突き動かされるようにその場を飛び退く。
2秒経過した直後、道路や電柱が纏めて斬り裂かれた。

公園を後にし市街地を駆けていた承太郎は、前触れも無く背筋が凍る感覚を味わった。
空条ホリィを救うべく、DIO討伐の旅で幾度となく感じたもの。
殺気、である。
古今東西、どれ程優れた腕を持つ殺し屋だろうと、対象を手に掛ける瞬間の身は殺気を抑えられないという。
承太郎を追跡していた男、魔王もその例に漏れず。
だだっ広い道路を一直線に駆け抜ける背中を見つけ、すかさず剣を振るった。
放たれたのは不可視の刃。先の戦闘でも使用したピサロの特技の一つ。

追跡される可能性を考えなかった承太郎ではない。
公園にいた二名の危険人物、志々雄真実と魔王。
両名共に名前を知らぬが、並のスタンド使いを凌駕する実力の持ち主である事は明らか。
どちらもスタープラチナの拳を受けて尚も立ち上がるタフネスを有していても、何ら不思議は無い。
それでも承太郎一人ならば、敵が追ってこようと撒ける自信はあった。
だが此度は、背負った命の存在が足を引っ張る形となってしまった。

傷を負った侍、坂田銀時。
魔王との戦闘にて重き一撃を受けた彼を放ってはおけず、共に戦場を離脱した。
ネズミの速さの外套の力を以てすれば、今以上に速く駆ける事も容易い。
が、そんな真似をすれば銀時の体に軽くない負担を強いるだろう。
故に必然的に速度を落として走らねばならなかったのだ。

魔王に殺気をぶつけられた瞬間、即座に叫んだ。
スタープラチナ・ザ・ワールド。DIOとの決戦で得た力の解放。
時の止まった世界において、何者も承太郎の攻撃を防げず、承太郎への攻撃は届かない。
攻防一体、シンプルに強力な異能。
僅か数秒の猶予を得た承太郎は、魔王のしんくう波を無傷で回避した。

銀時を降ろし、承太郎は魔王と向き合う。
相も変わらず殺意のみの宿った瞳がこちらを射抜いた。
追いつかれた以上、この男に背を向けて逃走を続けるのは余りにも無謀。
戦闘不能に追い込むか、撤退させるか。どちらにせよ、ここで対処する以外に選択肢は無い。
銀時に戦わせる気は無い。咄嗟の止血程度しか処置されていない身体で剣を振るえば、傷口が開き今以上に危険な状態となるのは確実。
だからここは自分が、速攻でケリを着ける必要がある。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」

先手必勝とばかりに放たれる拳を、魔王は顔色一つ変えず防ぐ。
まるでどの位置に拳が来るのか、予め分かっているかのように最小限の動作のみでだ。
公園で戦った巨漢、志々雄も生身でありながらスタープラチナの攻撃へ余裕を持って対処していたのだ。
ならば、自分が来るまでに志々雄と戦闘を行っていたであろう男が同じように対処できることに驚きは無い。
元より敵対者へは加減も容赦もしない承太郎であるが、今回はそんなモノを抱く余裕は皆無である。
スタンドではない、正真正銘生身の肉体でスタープラチナと渡り合う怪物。
あのDIOに勝るとも劣らない強敵を前に、そんなふざけた考えなど浮かび上がるものか。


13 : サムライハート ◆ytUSxp038U :2021/10/17(日) 21:21:56 TkyTF1W60
拳の連打を防御しながら、魔王は空いた手を承太郎へかざし唱える。
マヒャド。志々雄との戦闘時より何度も使ってきた氷結呪文。
炎のエシディシの異名を持つ怪物と違い、燃堂力はただの人間。
食らえば氷漬けは確実の攻撃に、承太郎はスタープラチナのラッシュを中断し回避せざるを得ない。
距離を取ってマヒャドを躱す。鼻先がいやに冷えたが問題無し。

開いた距離を一瞬で詰め、魔王は剣を振り下ろす。
単純な身体能力では、ネズミの速さの外套を装備した承太郎よりも優れている。
スタンドを出現させ拳を放つも僅かに遅い、スタープラチナの右腕が斬り裂かれた。
同時に承太郎の右腕からも血が噴き出る。スタンドのフィードバックによるダメージだ。
苦悶の声を漏らす暇すらない。痛みを押し殺して拳を振るう。

「遅い」

痛みを感じた瞬間の、1秒にも満たない硬直。
魔王にとってはそれだけでも十分過ぎる。
先程までは、スタープラチナの攻撃を魔王が防ぐといった形であった。
それが今度は反対に、魔王の攻撃をスタープラチナが防ぐ形へと変化した。
縦横無尽に襲い来る刃へ、反撃もままならない。

「他人を放置して、ドッカンバトルやってんじゃねーぞコノヤロー」

刃が魔王へと奔る。
承太郎への攻撃を止め、バックステップで回避した。
乱入者へ向ける魔王の視線には、僅かばかりの苛立ちが宿っている。
睨まれた相手は、気だるい視線を魔王へ返す。

「ったく、二日酔いの時より気持ち悪いからよ、さっさとこのピンサロ野郎をどうにかしようぜ」
「…ああ。俺も時間を掛けるつもりはねぇ」

それ以上は会話も無く、承太郎と乱入してきた銀時は魔王へと構え直す。
肩に深い傷を負った銀時を戦闘に引っ張り出す気はなかったが、こういった相手に「ここは自分に任せて大人しくしろ」、
と言っても無駄だろうことは承太郎にも察せる。
何せ承太郎自身が、己の負傷を理由に戦闘を任せっきりにする質ではないのだから。
今は不要な言い争いで敵へ付け入る隙を与える訳にはいかない。
だから銀時の負傷に不安は有れど、共闘を受け入れた。

「……」

敵が二人に増えた所で、魔王が焦りを感じる事は無かった。
スタープラチナの拳と銀時の刀が、魔王を挟み込むように左右から迫る。
胴体を軽く捩ると拳は空を切り、刀は破壊の剣で防御。
どちらも殺すべき相手だが、先に始末するのは銀時と狙いを定めた。
傷の深い方から手早く片付ける算段だった。

「ガッ…!」

防いだ一撃の重さに銀時はたまらず呻く。
こちらは手負いの身とはいえ、向こうだって疲弊しているはず。
なのにこの重さは冗談としか思えない。
両津も燃堂も、常人を遥かに超えた身体能力の持ち主であるのは確かだ。
しかしだ、それでも魔王の肉体…ピサロとの間には隔絶した差が存在する。
肉体の強度、備わったスタミナ、発揮できる運動能力。それら全てが人間以上であるからこそ、彼ら魔族は恐れられて来たのだから。


14 : サムライハート ◆ytUSxp038U :2021/10/17(日) 21:22:58 TkyTF1W60
全身に圧し掛かる重みに、片の傷が酷く痛むが歯を食い縛り耐え切る。
剛毛の生えた太い腕へ力を込めると、破壊の剣を押し返した。
間髪入れずに振るわれる剣へ、銀時は刀を合わせる。
但し今度はただ打ち合うのではなく、敵の攻撃の勢いへ逆らわず受け流す戦法へ変え対処する。
幾ら両さんの体でも真っ向から打ち合っていてはもたない。

「オオオオオッ!」

幾度目かの剣を受け流し、魔王の懐へと急接近する銀時。
元の肉体の頃より刀を振るい続けて来た銀時にとって、敵との距離を迅速に詰めるのは慣れたものだ。
両津の短い腕は、元の体よりも刀を振るう範囲が縮まっている。
こちらの刃を確実に当てるには、近過ぎるくらいが丁度いい。

「チィッ!」

このままでは己の胴体に刃が食い込むのは確実。
身体スペックでは魔王に分があるが、要所要所で銀時が発揮する爆発力は侮れない。
敵の厄介さを噛み締めながらも、魔王が勝負を放棄する事は無い。
銀時がこちらの体を斬るより先に斬り殺せばいいだけだ。
それを実行に移そうとし、がら空きの背中へ痛みが走った。
誰がやったと考えるまでも無い。承太郎のスタープラチナだ。
魔王を倒す決定打にこそ程遠いものの、銀時へのアシストとしての役目は果たした。
自身の肉へ刀が食い込むのを感じ、だがそれ以上はやらせないと素手で刃を掴み強引に阻止する。
右手の剣は背後へと振り回し承太郎を牽制。

刃を掴む手から血が溢れる。
公園での戦闘と同じ状況。
今度は斬る側と防ぐ側が逆になっているが。
刀を持つ手に力を込める銀時だが、左肩の痛みによって阻害される。
食い込んだ刃は徐々に押し戻されていき、魔王の体をそれ以上傷つける事はなかった。

「どけ…!」
「うおお!?」

刃を掴んだまま、魔王は銀時を持ち上げた。
足が地面から離れ、宙で無防備を晒す羽目となった。
刀を離せば良いだけだが、ここで唯一の武器を手放すのはマズい。
一瞬の躊躇が判断を鈍らせ、結果銀時は大きく投げ飛ばされた。

「スタープラチナ!」

自身と激突するより早く、出現させたスタープラチナで銀時を受け止める。
ピサロの筋力で投げつけられたのだ。
マトモに受け身を取れるかも怪しく、壁の染みを一つ作る末路を迎えていたのかもしれない。
礼を言って立ち上がる銀時へ言葉を返す間もなく、魔王が呪文を唱えた。

「イオナズン」

弾かれたように二人が飛び退くのと、魔王の呪文が発動されるのはほぼ同時。
承太郎達が立っていた場所を中心に爆発が巻き起こる。
直撃こそ避けたが、爆風により吹き飛ばされる二人。
硬い地面を転がる度に鈍い痛みが伝わって来た。
特に銀時は悲惨だ。吹き飛ばされた際に左肩を強打し、声も出せない程の激痛が襲った。
体勢を立て直す暇すらロクに与えられず、魔王が迫る。


15 : サムライハート ◆ytUSxp038U :2021/10/17(日) 21:24:17 TkyTF1W60
「オラァ!」

銀時に比べればまだ傷の浅い承太郎が、魔王へ拳を叩き込む。
尤も承太郎に妨害される事くらい、魔王は予想済みだ。
拳を剣で払いながら片手をかざす。
相手が剣以外にも奇妙な能力持つと分かった承太郎は、その動作を見た瞬間に動いた。
スタープラチナは片手でストレートを放ちながら、もう片方の拳を地面に叩きつけた。
砕け散ったアスファルトが魔王の顔面へ飛び散り、咄嗟の行動で呪文を放つはずの手を顔の前へ持って行った。
一先ず呪文の発動を阻止すると、スタープラチナの脚が魔王へ伸びた。
剣で防いだが、蹴り飛ばされ距離を取らされる。

「〜〜〜〜〜っ!!」

もう何度目になるか、数えたくない痛みを押し殺す行為。
立ち上がった銀時が魔王へと再度急接近する。
柄を砕かんばかりに刀を握る。そうでもしなければ痛みで気が散りそうだった。

来ると分かっていれば驚きも何もない。
銀時の瞬間的な底力を十分理解した魔王は、冷静に朱雀の一閃を防ぐ。
一度防がれたなら二度三度と、ただひたすらに刀を振るい続ける。
この男相手に攻撃の手を緩めるのは愚の骨頂。
ただがむしゃらに、されど今の銀時が出せる全力の速度で刃が奔る。

甲高い金属音が絶えず鳴り響く。
数えるのも馬鹿らしいくらいに打ち合ってきたが、両者の得物には刃こぼれ一つ見当たらない。
互いに武器には恵まれていたのだろう。
もし手にしているのがなまくら刀であったらと思うと、全く持って笑えない。

だがそれもいつまで持つのか、一抹の不安が銀時へ浮かぶ。
朱雀は名刀と呼ぶのが相応しい武器であるが、魔王の持つ剣もまたただの業物ではない。
それに膂力は敵の方が上。果たしてこの状況を乗り切れるまでに自分の刀は持つのか。
もし破壊されてしまったら、いよいよマズい。

浮かび上がった不安をかき消すかのように、銀時は更に一歩踏み込む。
魔王の右側への急速な移動。
敵の視線がこちらを捉えたタイミングで、真正面から拳が魔王の腹部を叩く。

「ッ…!!」
「オラオラオラオラオラオラオラオラ」

一撃こそ食らったが追撃のラッシュまでもを甘んじて受けるつもりはない。
魔王と互角の剣戟を繰り広げた志々雄を吹き飛ばす程の威力だ。
回復呪文があるとはいえ、余計な魔力消費は抑えるに限る。
ここは距離を取らざるを得ず、スタープラチナのラッシュは二撃目以降当たらず空を切った。
承太郎も銀時も簡単な自己紹介すら行えていないが、即席のチームワークとしては見事と言える。
公園での戦闘と現在進行形で行われている死闘、その二つを通じて互いの持つ能力を何となく理解。
そこからは、どう動けば良いかを瞬時に選択しつつ剣を振るい拳を放った。
僅か数時間経つかどうか程度の間柄でここまでの立ち回りを行えるのは、共に強者呼ぶに相応しい人間だからだろう。


16 : サムライハート ◆ytUSxp038U :2021/10/17(日) 21:25:33 TkyTF1W60
その二人をして、魔王相手では苦戦を免れない。
ピサロの肉体だけではここまでの強敵にはなり得なかった。
姉を奪ったラヴォスへの復讐を糧に、研磨し続けた経験は他者の肉体であっても最大限に活かされている。
承太郎と銀時が手強い敵であることは魔王も認めている。
だが相手が強かろうと弱かろうと、その命を踏み躙って願いを叶える事には変わりないのだ。

魔王の表情はこれまでと一切変わらない無表情。
ただ眼前の敵を睥睨する瞳に一層強い殺意が宿らせ、大きく踏み込んだ。

戦闘開始からどれくらい時間が経っただろうか。
承太郎達に疲労が圧し掛かるが、それは敵も同じはず。
むしろ後から参戦した承太郎達より先に志々雄と殺し合っていた分、魔王の方が疲労の度合いは上のはず。
だというのにその動きに衰えは見られず、むしろ徐々にキレが増している気さえしてくる。
戦いが長引けばそれだけ銀時は危険になるのを、承太郎は危険視する。
ならば彼一人だけでも無理やり逃がす手もあるが、そう簡単に見逃してくれる相手ならここまで梃子摺ってはいない。
それに生半可なダメージを与えた所でこの男を倒すのは不可能と見る。
公園で銀時が斬った傷も、自分が殴り飛ばした傷も、追いついた際には綺麗さっぱり消え失せていた。
恐らくだが、負傷を回復する能力か何かもあるのだろう。
一方自分達にそんな便利な力や道具は無く、傷を負えば負った分不利となる。

それでもやるしかない。
運良く殺し合いに乗っていない参加者が加勢に現れるだとか、都合の良い可能性に賭ける気は毛頭ない。
自分達の力で、切り抜ける他に道は無いのだから。

魔王の剣は銀時へと振るわれた。
やはり傷の深い方を優先的に潰す狙いなのだろう。
無論、承太郎がそれを許すはずも無く、割って入るようにスタープラチナを立たせ殴りかかる。
本体の戦意に呼応するかのように、拳の威力と速度に陰りは無し。

馬鹿の一つ覚え、と嘲る気は魔王に無い。
スタープラチナの拳を十分な脅威と見ているだ。
故に油断も慢心も無く対処に回る。スタープラチナ目掛けて剣を振るった。
斧に似た形状の刃はスタープラチナへ当たっていない。だが問題はない。
刃から放たれるの不可視の攻撃、しんくう波。
複数ある内幾つかは拳で防いだが、残る二つの刃がスタープラチナを切り裂いた。
肩と脇腹からの出血に、承太郎の顔が痛みで歪む。

それ以上はさせじと銀時が朱雀を振るう。
肩の傷は変わらず痛み、刻一刻と進む戦場の空気に銀時の鼓動強く鳴り響く。
攘夷戦争に始まり、鬼兵隊や春雨との戦闘でも味わって来た殺し合いの場にいると実感させられる空気。
これまでと違うのは、未だ慣れぬ別人の体という一点のみ。

「フン……」

魔王の頬から流れ落ちる、一筋の血。
あれだけの傷を負って尚もこちらへ傷を付けた相手へ、少しだけ目を細める。

しかしその一撃が不利を覆すなど、有りはしないのだ。
気迫は十分。戦意も健在。死のうなんて思っちゃいない。
元の体を取り戻して、偉大なるジャンプの大先輩に体を返して、それであの変わらない万屋での日常に帰る。
そう銀時が思っても届かない。
人の足掻きを蹂躙するのが魔王なのだから。


17 : サムライハート ◆ytUSxp038U :2021/10/17(日) 21:26:29 TkyTF1W60
横薙ぎに振るわれた剣を頭部を下げて躱す。
低い目線が更に低くなり、そのまま朱雀を突き出した。
腕の短さをカバーするにはリーチがある突きが丁度いい。
脚部目掛けて一直線に進む切っ先。脚を潰されればこちらも幾らか有利となる。
但しそれは当たればの話。肉を貫かれる前に跳躍してあっさり回避した。
見下ろす先にある角刈りの頭部へと、剣を叩きつける。

「オラァ!」

ガン、という音がしたかと思えば、破壊の剣は狙いを外して地面を砕くに終わった。
邪魔をした承太郎へ剣を振るうのと、スタープラチナが拳を放つのは同じタイミングだった。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」

互いの命を刈り取ろうとする、剣と拳の応酬。
どちらも攻撃の手を緩めない。というより、緩める事が出来ない。
魔王が攻撃を止めれば即座にスタープラチナのラッシュで殴り殺され、承太郎が攻撃を止めれば即座に細切れにされる。
それを分かっているからこそ、どちらも己の得物と拳を振るい続けるしかないのだ。

スタープラチナがラッシュを放ち続けている間、本体の承太郎はフリーとなる。
少しでも魔王への勝率を上げる為に、支給品のマシンガンを取り出す。
スタンド使い同士の戦闘でこういった武器を使用した事は無いが、今は使える物は全て使う。
燃堂なら銃火器の反動にも耐えられるはずと、引き金を引いた。

「シィ…!!」

連続して発射される銃弾と、銃弾を掴む事が可能なスタープラチナのラッシュ。
二つの異なる攻撃に自然と魔王が剣を振るう速度も上昇する。
拳は弾かれ銃弾は斬り落とされたが、全てを完璧に防いではいない。
数発の弾が肩や腕を貫き、拳は時折頬を掠める。
顔には出さないようにしているだけで、魔王にも少しずつだが疲労の影響が現れ始めているのだ。
尤も、スタープラチナを相手にこの程度の傷は浅すぎるのだが。

とはいえ桁外れの速度を誇るスタープラチナを相手にする以上、必然的に魔王は承太郎に釘付けとなる。
その隙へ銀時が斬り込むのも、魔王には分かり切っていたこと。
左手を振り回すようにしてマヒャドを唱え、背後から迫る銀時と正面の承太郎の両方へ冷気の嵐が放出される。
両者共に後退を余儀なくされた。

「オラァ!」

距離を取りながらも承太郎は銃を撃ち続けた。
全て斬り落とされるとしても、敵の意識を自分の方へ引き付けられるのならそれでいい。
自分の傷も決して軽いものではないが、銀時に比べればまだ無理は利く。
というか魔王が相手では、どれ程の傷を負おうと無理をせねば勝てない。
と、銃弾の嵐が止む。弾切れだ。

「……」
「いい加減にしろよ…!」

銃への対処が不要となった瞬間、魔王は即座に銀時へ斬り掛かる。
破壊の剣を受け流しつつ反撃を試みるが、激しさを増す斬撃に隙を見出せない。
腕を振るう度に息が上がるのを自覚し、これはいよいよマズいと銀時の顔に焦りが浮かぶ。
傷口に巻いた学生服は血が滲み出て変色している。
咄嗟の止血だけでは長くは持たず、出血により体力が常に奪われているのだ。
超人的な体力の両津と言えども、無尽蔵のスタミナがある訳ではない。
焦る銀時の心とは裏腹に、体は鉄球を括りつけられたかのように重さが増す。
視界も少しずつ不安定となっていく中で、それでも致命傷となる一刀だけは防いだ。


18 : サムライハート ◆ytUSxp038U :2021/10/17(日) 21:27:53 TkyTF1W60
「バイキルト」

銀時の体力低下を察した魔王は、一気に決めるべく呪文を唱える。
攻撃強化の呪文により、平時でさえ驚異的な破壊力を持つ剣が、更に重みを増した。
刀身同士が擦れ合っただけで、尋常では無い負担が銀時を襲う。
朱雀も優れた武器とはいえ、一撃の威力では破壊の剣の方が上。
最早受け流す事すら危うくなり、右腕への痺れで刀を取り落としそうになった。

「オラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」

弾の尽きた銃を投げ捨て、スタンドで背後から攻撃を仕掛ける承太郎。
予備の弾も支給されていたが、今は弾倉を交換する手間すら惜しい。
スタープラチナの拳で受けるダメージは、無視するには大き過ぎる。
銀時への追撃を中断し、跳躍し回避した。
承太郎らの頭上を悠々と飛び越えた魔王は、地上に降り立つ前に次の一手を繰り出す。
足場も無いというのに、まるで独楽のように回転しこちらを見上げる人間達へ斬り掛かった。
ムーンサルト。複数の敵へ纏めて攻撃する特技。
それぞれ地面を転がり回避するが、魔王が繰り出したのはバイキルトにより攻撃力が強化された上でのムーンサルトだ。
まるで暴風が叩きつけたかのように地面や周囲の民家を削り取る。
承太郎達が飛散したコンクリート片を叩き落とす間に、再度跳躍しムーンサルトを放つ。

「なに…!?」

驚愕の声は果たしてどちらか。
魔王の攻撃は全身の筋肉を総動員しての回転斬り、ではない。
ムーンサルトと同時に破壊の剣からはしんくう波を、左手からはマヒャドを放った。
広範囲に撒き散らされた刃が見境なしに斬り裂き、冷気の嵐が片っ端から凍らせていく。
攻撃力が強化されたそれらを前に、生半可な防御など無意味。
魔王を中心に発生する、災害とも言うべき現象だ。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」

それに対して臆さず拳を放ち続ける承太郎。
超スピードのラッシュはしんくう波を掻き消し、冷気の嵐を霧散させる。
それでも全てを完璧に防げてはいない。
打ち漏らした刃が肉を裂き、噴き出た血が凍り付く。
戦闘不能になるダメージこそないものの、一つまた一つと増えていく傷は承太郎から確実に体力を奪っていった。
ムーンサルトも永遠に回転し続けるものではなく、徐々に速度が弱まって行く。
そこへ飛び掛かるのは銀時。朱雀の刃が魔王の首を捉えた。
空中ではロクに身動きが取れないだろうに、魔王は己の首へ刃が到達するより早く片足を伸ばした。
単純明快な蹴り。しかしピサロの長い脚ならば、リーチは十分ある。
衝撃が腹部を叩き、一瞬息が止まりながら銀時は地面へ落ちていく。

それでも無様に激突するのだけは免れた。
両の脚でしっかりと地面を踏みつけ着地。
勢い良く叩きつけられては、左肩の傷へ響く。
丁度魔王も地面へ降り立った。

「オォォラァァッ!」

魔王の脚がアスファルトを踏みしめたまさにそのタイミング。
銀時と承太郎が共に急接近したのだ。
すかさず迎撃に移る魔王。が、この時ばかりは魔王ではなく人間達に有利が傾いた。
拳は魔王の顔面に叩き込まれ、刀は左腕を切り裂いた。


19 : サムライハート ◆ytUSxp038U :2021/10/17(日) 21:29:08 TkyTF1W60
「畳み掛けるぞ!」
「分かってらぁ!」

二人揃っての追撃に、魔王は慌てず呪文を口にする。
その瞬間、承太郎と銀時の全身を奇妙な不快感にも似たナニカが包み込んだ。
痛みは無いが、魔王の目論見通り気を逸らしてしまう。

その場で一回転するように剣を振り回す。
後退する二人だが、胸部を浅く刃が通過した。
傷は浅い、はずが出血の量が異様に多く、痛みも強い。
当然これらは魔王が唱えた呪文の効果である。
呪文の名はルカナン。複数の敵の防御力を低下させる効果を持つ。
自身の攻撃力を上げ、敵の防御力は下げると言う、シンプルながら効果的な戦法。
また一つ、承太郎達にとっての不利な条件が増えてしまった。

魔王の進撃は終わらない。

再度バイキルトを唱え、効果時間を延長させる。
延々と攻め立てる魔王の剣を銀時はひたすらに避け、受け流す。
ビリビリとした衝撃が絶えず右腕を襲い、その度に刀を取り落とさないよう血管が浮き出る程強く握り直す。
左肩の感覚は大分曖昧となっている。
これでは刀を握るどころか立ションすらできねーよと、胸中で毒を吐いた。
勝てないだとか、もう無理だなどとは考えないようにする。一度でもそう思ってしまえば、その瞬間に全身から力が抜けそうな気がするから。
戦意を失っていないのは承太郎とて同じ。
彼の考えるのは、殺し合いに乗った男をブチのめし、共闘した男をすぐに治療するというシンプルなもの。

だから戦況を引っ繰り返すべく叫んだ。

「スタープラチナ・ザ・ワー「ラリホーマ」――ッ!?」

承太郎の体がぐらつき、膝を付く。
剣で斬られてもいなければ、冷気の嵐や大爆発が直撃してもいない。
だというのに魔王が呪文を唱えた途端、体に力が入らず、発動するはずだった時間停止も起こらなかった。
何らかの攻撃を受けたのは確実だが、これは傷の痛みにより膝を付いたのではない。
睡魔だ。突如として発生した強烈な眠気が承太郎を蝕んでいる。
まるで長旅から我が家へ帰って来て、自室の布団に潜り込んだ時のように眠くて仕方がない。
もし本当に自室の布団の中にいるのなら、抵抗せず瞼を閉じただろう。
だが実際には戦闘の真っ只中。この状況で進んで眠るなど自殺志願者か本物の狂人くらいである。

歯を食い縛り、瞳が乾くのも構わず限界まで瞼をこじ開ける。
それでも眠気は健在。このままでは自分は眠りに落ちてしまう。敵へ自ら首を差し出すようなものだ。
手っ取り早く睡魔を追い払うには、一つしかない。
燃堂へと小さく謝罪を呟き、スタープラチナを操作した。
対象は自分の顔面だ。

「オラァ!」

承太郎の、というより燃堂の頬に拳が叩き込まれた。
散々敵対してきたスタンド使いを戦闘不能に追い込んだ拳で、体が違うとはいえ自分へぶつけた。
目から火花が出る、という比喩が合いそうな痛みが走るが、眠気を覚ますにはこれくらいの痛みがあった方が良い。
現にジンジンとした痛みのせいで、睡魔は弱まった。

ラリホーマという名の呪文は、承太郎が受けた通り対象を眠らせる効果がある。
もしも承太郎が自分を殴るのに躊躇を抱いていたなら、彼は深い眠りに落ち、死ぬ瞬間にも目を覚まさなかったことだろう。
眠らせることは出来なかった。しかしだ、僅かな間とはいえ魔王への攻撃を封じられた。
その僅かな間でさえ、魔王には劇的な効果を齎した。
仲間の援護を封じられた、手負いの侍を仕留めるには十分である。


20 : サムライハート ◆ytUSxp038U :2021/10/17(日) 21:30:46 TkyTF1W60
「ググ……ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

腹の底から銀時が叫び声を上げる。
その行為自体に意味は無い。叫んだ所で何か有利になる訳でも無いし、秘めた力に覚醒なんてご都合展開も無い。
あえて言うなら自分に気合を入れ直す為だだろうか。
気休めにさえなるかも分からないが、何もしないよりはマシな気がする。
そうでもしなければ剣を落とし、敗北一直線になりそうなのだ。
本当に今更ながら、安請け合いして様子を見て来るなんて言うんじゃなかったと苦笑いが浮かんだ。

捌く、捌く、捌き続ける。
腕を止めれば死ぬ、目を逸らせば死ぬ、何も行動に移さなければ死ぬ。
残りの体力全てを振り絞って、魔王の剣へ対処する。

それもとうとう終わりを告げた。

破壊の剣に光が灯る。
炎のような力強い揺らめきではない、見ているだけで不安を駆り立てるような、黒と赤の混じった光。
魔力だ。魔族の王として世に君臨したピサロだけに許された力が剣へ宿った。

「終わりだ」

短く告げ、剣を振り下ろした。
その一撃は、これまで何度も振るってきたものよりもずっと速い。
銀時の本能が危機を伝える。これはヤバい。これだけは食らってはダメだと。
回避は間に合わない。必然的に残る選択肢、防御を選ぶ。
右手と、動かすだけでも苦痛な左手で柄を握り締める。
これを受け止めた際の左肩への負担は考えたくも無いが、この一撃を食らう方がマズい。

破壊の剣と朱雀。異なる世界の剣が衝突し――呆気なく両断された。
負けたのは銀時が持つ朱雀。僅かな拮抗さえ許されない。
刀身の半ば程で折れた朱雀は最早刀の役目を果たさず、銀時の体へ刃が食い込んだ。
肉が斬られる。骨が斬られる。水道管が破裂したような勢いで、血が噴き出る。
怪物染みた身体能力を誇る両津勘吉の肉体は、本物の怪物を前に為す術なく倒れた。

血溜まりに沈んだ男を見下ろす魔王に、喜びも達成感も無い。
ようやく一人殺した。優勝するにはこの先もっと大勢を殺さねばならない。
こんな序盤で梃子摺っているようでは、優勝など夢のまた夢だろう。
何の感慨を抱くことなく、残るもう一人へと振り返り、駆け出した。


21 : サムライハート ◆ytUSxp038U :2021/10/17(日) 21:31:45 TkyTF1W60
まじん斬り。それこそが銀時を斬った特技の名だ。
通常の攻撃を遥かに超える威力の会心の一撃。
それを更に上回る威力の一振りを繰り出す、正に必殺の一刀。
とはいえ、そう易々と繰り出せるものでもなく、大半は繰り出そうとしてもミスを引き起こす。
承太郎へ唱えたラリホーマもそう。
ラリホーよりは高い確率で効果が表れるものの、毎回確実に対象を眠らせれらる程万能でも無い。

その問題を解決したのは、魔王が身に着ける一つのアクセサリー。
元々ピサロが所有していた物ではない、魔王に支給されたアイテムだ。
一見すると何の変哲も無い装飾品のようだが、実際には違う。

テュケーのチャームと言う名のアクセサリー。
これを身に着けた者は、『運』を大幅に強化される。
つまりラリホーマが成功したのも、まじん斬りを一回で引き出せたのも、
支給品の効果で魔王の運が上昇していたから。
ただそれだけの事だ。

尤もそんな事情を知るのは魔王ただ一人であり、承太郎から見たら共闘した男が斬られた以上の事実は無い。

「次は貴様だ」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァーーーーッ!!!!」

淡々と告げ斬り掛かる魔王を、スタープラチナで迎え撃つ。
斬撃を防ぐには拳を放ち続けるしかないが、それでは時を止める隙を作れない。
時間停止を発動させようと動いたら最後、魔王の剣は承太郎の首を斬り落とすだろう。
厄介な能力も、使えなければ恐れるに足りない。
魔王は時間を止める力を把握してはいないが、絶え間ない連撃が偶然にも時間停止を防ぐ結果となった。

その後ろで、怒号と衝撃音に反応するように、
銀時はゆっくりと顔を上げた。


22 : サムライハート ◆ytUSxp038U :2021/10/17(日) 21:33:29 TkyTF1W60
○○○


自分はもうじき死ぬ。
そう分かっても不思議と銀時の心は落ち着いていた。
これまで様々な騒動に巻き込まれ、時には命の危機に陥りみっともなく喚いた事もあったが、
いざ本当に死を突きつけられると、案外冷静になれるらしい。
別に死にたがっていた訳じゃないし、生きて帰れるのならそうしたい。
だけどそれが無理だと理解したら、意外にも平然と受け入れている。

勝つつもりで、生き抜くつもりで戦った。
それでもあの時、気味の悪い光を纏った剣を振り下ろした時だ。
咄嗟に防ごうとはしたけど、心のどこかで、あの瞬間自分はもう助からないと悟ったのかもしれない。
実際その通りになったのには、笑い話にもならないが。

自分が死んだらこの身体の持ち主も巻き添えだ。
その事は非常に申し訳なく思う。
ゴリラも責任取ってジャンプ追放だなこりゃ。
なんて、どこか現実逃避気味にぼやいた。

ふと幾つもの光景が浮かび上がる。
死の間際に見る走馬灯と言うやつかもしれないが、生憎どれもこれも銀時が体験してきたのではない。
生粋のジャンプ読者である銀時には、誰の記憶なのか直ぐに分かった。

ヤクザになった同級生の逃亡を、力づくで阻止したりだとか。
幼い命を奪って悪びれもしない少年達を、真正面から向き合った上でぶん殴ったりだとか。
普段は金にがめつく、到底警察官とは思えない癖に、ここぞという時には漢らしさを見せる。

そんな男の記憶を見たからだろうか。
このまま終わってしまうのが納得いかない。
あの少年だけに押し付けて、情けなく倒れたままは気に入らない。

何よりも、銀時がこれまで折れずに戦って来れたのは、己の魂に従ってきたから。
坂田銀時という男の魂は、諦めを許さない。

どうせ死ぬだけなら、最後に一泡吹かせてからにしようじゃないか。
最後の最後まで、自分らしく戦ってやろうじゃないか。

――だからよ、悪いが付き合ってもらうぜ、両さん

デイパックに手を突っ込み、最後の支給品を取り出すと、
一気に飲み干した。


○○○


23 : サムライハート ◆ytUSxp038U :2021/10/17(日) 21:35:23 TkyTF1W60
――何が起きた?

己の目に映る光景に、魔王の表情は驚愕に染まっっている。
承太郎へ剣を振るう最中、突如左腕に鋭い痛みが走った。
この手でへし折ってやった刀。
半ば程度の長さしかないそれが、自分の左腕に深々と突き刺さっていた。
これをやったのは、斬り殺してやったはずの男。
それがどうだ。立ち上がったかと思えば爆発的な加速でこちらへ接近し、折れた剣を突き刺した。
どこにそんな力があった。何故まだ立てる。
そう問いかけるよう視線をぶつけるも、男は魔王の方を見ていない。

銀時に与えられた最後の支給品。
接種すれば一時の力を得られるが、代償として命を削る、豪水という一種のドーピング。
こんな物を両津の体で飲むつもりはなかったが、この状況では躊躇の必要も無い。
死に体となった今の銀時では、たった一撃が限界。
だがそれで良い。魔王を殺せずとも、意識を自分へ向けさせるには一撃で問題無い。

承太郎と銀時の視線が交差する。
銀時は何も言わない。それでも何を伝えたいのかは、目を見て分かった。
後は任せた。死に行く身とは思えない程に力強い瞳が、自分へ訴えているのを承太郎は感じた。

承太郎は、この男の名を知らない。
バトルロワイアル以前に、この男がどう生きて来たのかも知らない。
自己紹介すらしていない、僅かな時間共闘しただけの、ただそれだけの関係。
それでもだ、この男は承太郎と肩を並べて戦った。
敵の隙を作る為に命をも懸け、自分を信じて託した。
ならばそれに答えない道理は無い。

空条承太郎は、託された想いに応えられないような腑抜けでは断じてない。



「スタープラチナ・ザ・ワールド…!!」


世界は三度、完全なる静寂に包まれる。
自分だけに侵入を許された世界で、スタープラチナの拳を叩きつける。
一発一発に乗っているのは、言いようの無い怒りだ。
共に戦った仲間を殺された怒り。
みすみす仲間を死なせてしまった、自分自身への怒り。
感情の全てを拳に預け、解き放つ。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
 オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」

鼻がへし折れ、片眼は潰れ、端正な顔がひしゃげていく。
骨が次々に砕け散り、左肩の装甲も粉砕される。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
 オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」

「―――ッ!!?!ぎっ、がっ…!」

2秒が過ぎ、突如襲い来る全身の痛みへ魔王が呻く。
それでも承太郎は止まらない。
時が過ぎようと関係ない、このまま全力でブチのめす。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
 オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオォォォラァァァーーーーーーーッ!!!!!」

傷も疲労も押し殺して放った、今の承太郎が出せる全力のラッシュ。
ただの一発も漏らさずに食らった魔王は、血を撒き散らしながら吹き飛んでいく。
その勢いは、同じくスタープラチナのラッシュの直撃を受けた志々雄以上であった。
数軒の民家の壁をぶち破って尚も止まらず、その姿は承太郎の視界から消え失せた。


24 : サムライハート ◆ytUSxp038U :2021/10/17(日) 21:36:57 TkyTF1W60
「…っ」

体が異様に重くなったような感覚を、承太郎は味わう。
死んではいないと言うだけで、承太郎も重傷なのには変わらない。
魔王が死んだかどうか、この目で確かめなくては。
そう思っても疲労の蓄積した体で追跡するのは厳しい。
もし道中、公園で戦った半裸の巨漢と出くわせば、承太郎と言えども勝ち目は薄いだろう。

「……なぁ、兄ちゃん」

何よりも、この男を無視して敵を追う事はできない。
彼がいたから全力の拳をぶつけることが出来た。
共闘した人間として、男が何を言い遺すのかを聞く事こそ、唯一承太郎がしてやれることだ。

「今更だけどよ、名前、教えてくれなーか?」
「…空条承太郎だ。アンタは?」
「坂田…銀時。気軽に、銀さんとでも呼んでくれや」

か細い声だが、男の名は承太郎にも届いた。
言いたいことは山ほどあるが、銀時に残された時間はあと僅か。
承太郎にもそれが分かっているから、口を挟まず黙って次の言葉を待つ。

「いきなりで悪ぃが…味方になって欲しい連中が、いるんだよ……」
「アンタの仲間か?」
「おう。新八っていう、イケメン俳優みてーな外見の奴と、神楽っていう…あー、こいつの見た目は分かんねぇな……
 それと……ホイミンって……エロい恰好のネーチャンだ……」
「分かったそいつらの事は任せな」

多くは語らない。
ただ力強く告げる。銀時の言う仲間の事は任せろと。
相手の真剣な声色に安堵したのだろう。
銀時の瞼が静かに閉じられていく。



人間は死の間際に走馬灯を見るらしいが、短時間で二度も見るとは思わなかった。
ただし今回は銀時本人の記憶だ。
次から次へと写し出されるのは、どれも特別な光景ではない。
家賃を請求されたりだとか、万屋メンバーで卵かけご飯を掻っ込んだりだとか、チンピラ警察と出くわし子ども染みた煽り合いをしたりとか、
そういうありふれた日常の1ページ。

けどどうしてか、そんな日々が無性に恋しくなった。
変わる事の無いかぶき町での日常が、やけに輝いて見えた。

最後の最後でこんな未練がましくなるなんて、台無しも良い所だ。

だけど、だけどやっぱり―――


「………帰りてぇなぁ………チクショウ……」



【坂田銀時@銀魂(身体:両津勘吉@こちら葛飾区亀有公園前派出所) 死亡】


25 : サムライハート ◆ytUSxp038U :2021/10/17(日) 21:38:09 TkyTF1W60
【F-7と8の境界 街/早朝】

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:燃堂力@斉木楠雄のΨ難
[状態]:疲労(大)、両腕と肩に裂傷、上半身に切り傷、銀髪の男(魔王)への怒り
[装備]:ネズミの速さの外套(クローク・オブ・ラットスピード)@オーバーロード、MP40(残弾ゼロ)@ストライクウィッチーズシリーズ
[道具]:基本支給品×2、予備弾倉×3、ランダム支給品×0〜1(確認済み)、童磨の首輪
[思考・状況]基本方針:主催を打倒する。
1:銀時の仲間を探す。
2:まずは自分に協力してくれる者を探す。
3:主催と戦うために首輪を外したい。
4:自分の体の参加者がいた場合、殺し合いに乗っていたら止める。
5:DIOは今度こそぶちのめす。
6:天国……まさかな。
[備考]
※第三部終了直後から参戦です。
※スタンドはスタンド能力者以外にも視認可能です。
※ジョースターの波長に対して反応できません。
※ボンドルドが天国へ行く方法を試してるのではと推測してます。
※時間停止は現状では2秒が限界のようです。


◆◆◆


街から離れた草原に魔王は横たわっていた。

全身が酷く痛む。指一本軽く動かすだけでも、体中を激痛が駆け巡る。
スタープラチナのラッシュによる傷だけではない。
吹き飛ばされた際に民家の壁へ幾つも当たり、地面を何度もバウンドしたからだ。
ボロキレのような有様を見て、これが魔王の肉体だとは誰も思わないだろう。

「ベホマ」

一言呟く。たったそれだけで全身の痛みは消えて無くなった。
痛ましい肉体はどこにもなく、代わりにあるのは傷一つない魔王の肉体。
あっさりと回復を済ませた魔王だが、立ち上がる様子は見られない。
というより立てない。呼吸をするのすら億劫に感じる程、体中が鉛と化したかのように重い。

傷は癒せても、疲労までは消し去れない。
それに加えて呪文を連発した事による魔力の多大な消費。
特に回復呪文はその強力さに見合うかのように、唱えた瞬間かなりの魔力がごっそりと減ってしまった。
元々ピサロが使っていた時よりも、多くの魔力が消費されるよう枷を付けられているのだろう。
こんな状態でまたベホマを唱えようものなら、消耗死は免れない。

参加者を直ぐに殺したいと逸る心を静めるように、体は休めと伝えて来る。
気に喰わないが今はそうするしかない。

手痛い反撃を食らったとはいえ、あの太眉の男はもう死んだだろう。
男の死に、魔王は何も感じない。
良心も罪悪感も、当の昔に捨て去った。
そんな役に立たない感情を持っていても、ラヴォスは殺せない。姉は返って来ない。
結局のところ、元いた世界での復讐にも、この地での優勝にも、必要なのはそれを為すだけの力。
ただそれだけだ。

次の戦場へ臨む為に、男は力を蓄える。

魔王の脅威は、未だ消えず。


26 : サムライハート ◆ytUSxp038U :2021/10/17(日) 21:39:32 TkyTF1W60
【F-8 草原/早朝】

【魔王@クロノ・トリガー】
[身体]:ピサロ@ドラゴンクエストIV
[状態]:疲労(大)、魔力消費(特大)
[装備]:破壊の剣@ドラゴンクエストシリーズ、テュケーのチャーム@ペルソナ5
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:優勝し、姉を取り戻す
1:マトモに動けるようになるまで休む
2:強面の男(承太郎)は次に会えば殺す
3:剣を渡した相手(ホイミン)と半裸の巨漢(志々雄)も、後で殺す
[備考]
※参戦時期は魔王城での、クロノたちとの戦いの直後。
※ピサロの体は、進化の秘法を使う前の姿(派生作品でいう「魔剣士ピサロ」)。です
※回復呪文は通常よりも消費される魔力が多くなっています。

【MP40@ストライクウィッチーズシリーズ】
9x19mmパラベラム弾使用の短機関銃。
エーリカ・ハルトマンが使用する銃火器の一つ。

【テュケーのチャーム@ペルソナ5】
ニイジマパレスにてコインと引き換えに入手できるアクセサリー。
装備すると運+10の効果がある。

【豪水@ONE PIECE】
飲むと一時の力を得るが、命が削られる水。飲んだ後には、腕にアザができる。
アラバスタのツメゲリ部隊が使用した。チャカの台詞からすると、一気に命(余命)が削られる模様。また、ツメゲリ部隊は豪水の副作用で吐血して死亡した。
飲むんじゃなくクロコダイルにぶっかければ倒せただろ、と言ってはいけない。


27 : ◆ytUSxp038U :2021/10/17(日) 21:40:13 TkyTF1W60
投下終了です。


28 : ◆ytUSxp038U :2021/10/17(日) 23:01:09 TkyTF1W60
すみません。魔王のランダム支給品の数を間違っていました。

×ランダム支給品0〜2
○ランダム支給品0〜1


29 : 名無しさん :2021/10/17(日) 23:05:41 VGGHroPA0
投下乙です
承太郎と銀時という、ジャンプの強主人公コンビを相手にこれだけ優位に戦いを進める魔王、強い
銀さんお疲れ、承太郎共々、よく頑張った


30 : ◆vV5.jnbCYw :2021/10/17(日) 23:13:04 wo52kASk0
投下乙です。
ジャンプの王道主人公×2VS魔王という、クロスオーバー好きなら誰もが想像する作品を、
予想出来ないほど熱く書いた作者様に、敬意を表します。
最強のスタンドを持った承太郎も、覚悟を決めた銀時も、それを様々な魔法と技であしらう魔王、全てかっこいい。
最期の銀さんの言葉が悲しい。
改めて大作の投下お疲れさまでした!!


31 : ◆ytUSxp038U :2021/10/19(火) 12:58:18 jcHszgZ20
皆様感想ありがとうございます。

悲鳴嶼行冥、胡蝶しのぶ、デビハムくんを予約します。


32 : ◆ytUSxp038U :2021/10/22(金) 14:23:33 Al40UEpc0
投下します


33 : 不安の種 ◆ytUSxp038U :2021/10/22(金) 14:24:32 Al40UEpc0
「二手に別れる、というのはどうでしょう?」

真っ直ぐに、悲鳴嶼の目を見て提案するしのぶ。
ベッドの上でくつろいでいたデビハムも、その言葉に顔を上げる。
二人分の視線を受けたしのぶは至って冷静なまま続けた。

「ここで延々と顔を突き合わせていても、時間の無駄。
 かといってどちらか一方に三人揃って行き、何の収穫も得られなければ、それはそれで無意味に時間を消費した事になります」
「だから別々に行動する、か」
「はい。街と竈門家にそれぞれ向かい、デビハム君はどちらかに付いて来てもらう事となりますね」

しのぶの提案に悲鳴嶼は険しい表情を浮かべる。
二手に別れるという案、それ自体は悲鳴嶼の方でも一つの手として考えていた。
三人揃って竈門家に向かっても鬼殺隊の者がいなかったら無駄であるし、反対に街へ行って何もなければやはり竈門家に行くべきだったとなる。
それならいっそ別々に行動した方が良いと言うのは分かる。
街も竈門家も、病院からそう遠くはない。
各々で調べ終えたら、病院に戻って合流も良いだろう。
デビハムをどちらかに同行させるのにも反対は無い。
まだ明確に敵か味方かはっきりしない彼を、一人で行動させるなどすべきではないのだから。

が、分かれて行動するという事は、当然戦力の分散に繋がる。
会場には体が別人になっているとはいえ、あの無惨もいるのだ。
鬼殺隊の戦力を総動員し、それでも多大な犠牲を出して倒したあの鬼が。
今の無惨が具体的にどれくらいの力を持っているのかは不明だが、危険な存在である事は確か。
そんな相手といつ遭遇してもおかしくないのに、わざわざ戦力を分散させるのはどうなのかと悩む。

しかし、自分達があれこれ話し合っている最中にも時間は過ぎていく。
その間に無惨や殺し合いに乗った参加者による被害が拡がり、鬼殺隊の仲間や善良な者が危機に陥っているかもしれない。
慎重に動く事の重要性は理解しているが、迅速に動く事もまた必要。
だからこそ、しのぶも危険は承知で別行動を提案したのだろう。

殺し合いが始まって既に数時間が経過している。
準備を疎かにするつもりはないが、いい加減自分達も何らかの行動をせねばならない。
故に、ここは多少危険を伴えど行動範囲を広めた方が良いやもしれぬ。

考えを纏めた悲鳴嶼は、ゆっくりと口を開いた。


◆◆◆


34 : 不安の種 ◆ytUSxp038U :2021/10/22(金) 14:26:11 Al40UEpc0
「ごめんなさい、デビハム君の考えを聞かずに決めてしまって」
「オイラは優しいから気にしてないデビ〜。それにオイラも街はちゃんと調べられてなかったし、丁度いいデビ」

数十分後、各々出発の準備を終えた三人は入り口前にいた。
準備と言っても、しのぶが集めた医療品を幾つか悲鳴嶼にも渡したくらいだが。
しのぶのような知識は無いが、簡単な処置くらいなら悲鳴嶼も可能。
もし到着した先で負傷者がいたなら、きっとこれらの道具が必要になるはず。

悲鳴嶼は竈門家に、しのぶとデビハムは街へ行く事になった。
デビハムがどちらに行きたいかは本人に聞いたが、少し考えてから街へ行くと返答。
甜歌に騙され戦兎に襲われたせいでロクに調べられなかったので、改めて使える物や仲間になる人間がいないか調べたい。
もしまだ戦兎達が街にいるのなら、今度は逆にとっちめてやりたい。
このような理由を説明し、しのぶに同行すると決めた。

とはいえ、これらはあくまで表向きの理由に過ぎない。

(うぐぐ、この女を一人であいつらに会わせてオイラの嘘がバレたらマズいデビよ〜!)

しのぶと悲鳴嶼には、戦兎と甜歌の悪評を伝えてある。
それを信じて戦兎達と遭遇し、問答無用で戦闘になってくれれば万々歳だ。
だがもしも、しのぶが戦兎達にいきなり襲い掛からず、まずは言葉で事の真相を確かめようとしたら?
その結果、デビハムよりも戦兎達の方が信用できるとあちらの側に付かれたら、余計に敵を増やしてしまう。
更に親しい仲のしのぶから事情を説明され、悲鳴嶼までデビハムの敵に回れば非常に面倒。
ならばここはしのぶに付いて行き、もし戦兎達と遭遇しても話し合いで解決、とはならないよう誘導する必要がある。

「では行くか。お前ならば大丈夫だとは思うが、十分気を付けるのだぞ」
「はい、悲鳴嶼さんもどうかご無事で。お館様がと合流できたら、よろしくお願いしますね」

互いの無事を祈り、それぞれの目的地へと出発する。
二人の柱は仲間達や善良な参加者の無事を、デビハムは自分の思い通りにラブが壊れる様を願う。

尤も、彼らの知らない所で事態は悪い方へと転がり続けている。

悲鳴嶼としのぶの仲間、その一人である煉獄は既に命を落とし、お館様こと耀哉に至ってはあろうことか無惨の肉体になった挙句に精神を乗っ取られている。
デビハムが悪評を流した二人組、その内一人は傷ついた身で街を離れ、もう一人は邪悪なスタンド使いの手駒と化した。

もうじき夜が明ける。
だというのに彼らの進む道は、先見えぬ暗雲が立ち込めているかのようだった。


【D-2と3の境界 聖都大学附属病院前/早朝】

【悲鳴嶼行冥@鬼滅の刃】
[身体]:坂田銀時@銀魂
[状態]:健康
[装備]:海楼石の鎖@ONE PIECE、バリーの肉切り包丁@鋼の錬金術師
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1、病院で集めた薬や包帯や消毒液
[思考・状況]
基本方針:主催者の打倒
1:竈門家へ向かい、鬼殺隊の仲間や共に戦ってくれる者を探す。(最優先はお館様)
2:探索を終えたら病院へ戻り、しのぶ達と合流
3:無惨を要警戒。倒したいが、まず誰の体に入っているかを確かめる
4:デビハムの話には半信半疑。桐生戦兎と大崎甜歌に会い、真相を確かめたい
[備考]
・参戦時期は死亡後。
・海楼石の鎖に肉切り包丁を巻き付けています。

【胡蝶しのぶ@鬼滅の刃】
[身体]:アリーナ@ドラゴンクエストIV
[状態]:健康
[装備]:時雨@ONE PIECE
[道具]:基本支給品、鉄の爪@ドラゴンクエストIV、病院で集めた薬や包帯や消毒液
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止め、元の世界に帰る
1:街へ向かい、鬼殺隊の仲間や共に戦ってくれる者を探す。(最優先はお館様)
2:探索を終えたら病院へ戻り、悲鳴嶼さんと合流。
3:無惨を要警戒。倒したいが、まず誰の体に入っているかを確かめる
4:もしも上弦の弐がいたら……
5:デビハム君の話には半信半疑。桐生戦兎と大崎甜歌に会い、真相を確かめたい
[備考]
・参戦時期は、無限城に落とされた直後。

【デビハムくん@とっとこハム太郎3 ラブラブ大冒険でちゅ】
[身体]:天使の悪魔@チェンソーマン
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:秋水@ONE PIECE、アトラスアンクル@ペルソナ5
[道具]:基本支給品、ドロン玉×1@ペルソナ5
[思考・状況]基本方針:優勝してかっこいい悪魔の姿にしてもらうデビ
1:街に行くアイツら(戦兎と甜歌)がいたら、悪者に仕立て上げてやるデビ
2:オイラらしいやり方で参加者のラブをぶっ壊すデビ
3:アイツら(戦兎と甜歌)の悪評をばら撒いてやるデビ
[備考]
※参戦時期はハム太郎たちに倒されて天使にされた後。


35 : ◆ytUSxp038U :2021/10/22(金) 14:26:42 Al40UEpc0
投下終了です


36 : ◆5IjCIYVjCc :2021/10/23(土) 02:45:28 NO9qbb8w0
ジューダスでゲリラ投下します。


37 : ◆5IjCIYVjCc :2021/10/23(土) 02:47:06 NO9qbb8w0
G-4から森の中へと入っていったジューダスは、すぐにある異常に気付くことになる。

(………焦げ臭い?)

その鼻に入ってきたのは、何かが燃えているかのような妙な臭い。
入口辺りではかすかなものであったが、その臭いは確かに感じられた。
ジューダスはその臭いに対して何か嫌な予感を感じながら、森の中を進んでいく。

やがて、森の中を通る道路の上を歩き始めてしばらくした時、その予感は的中することになる。


「これは…火事か!?」

ジューダスが入ったその森は、彼から見て奥である東の方から火の手が迫ってきていた。
彼がその時に気づいた時には、地図上で言えばG-3の左半分ほどが既に燃え盛っていた。
火の勢いは激しく、その辺りは焔色の灯りで照らされていた。

(くっ…!これでは奥の方まで探り入れられない…!)

ジューダスがこの森に入ったのは、その広さから何か未知の施設がある可能性を考えたため。
しかし、この状況ではそういったものを探すどころではない。
火の勢いが止まる様子は無く、立ち止まっていたらジューダスもまたこれに飲み込まれてしまう。
ラブボムの力で天使化している状態であるが、この天使は別の場所にいる変態(実はジューダスにとって一番近い位置の参加者)とは違い火への耐性があるわけではない。
消火に使えそうな道具や火に耐えるための装備等も所持してない。

(この森で戦闘があり、その余波で燃え始めたのか?それとも、何か別の目的があって火を放ったのか?まさか自然に燃えたわけではないだろうが…)
(…誰がいて、何が起きたにしろ、この森からは離れるべきか?)

この森では何らかの要因で火災が発生し、そしてそれはおそらく人為的なものであると考えられる。
だが、この火事を起こしたと思われる何者かの追跡は難しいと考えられた。

ジューダスから見て右(北)と左(南)を比較してみれば、左の方が火の勢いが激しいように感じられる。
おそらく、火災の発生源は森の南西の方から始まったものであると考えられる。
そして、その方に向かおうと思っても、燃え広がっている炎のせいで真っ直ぐ向かうことができない。
火災の発生源と予測できる場所に行くには、遠回りする必要があると考えられた。

火事から逃げるにしろ、その原因を探すにしろ、どちらにしろこれでは森の中から出る必要が出てきてしまった。
しかしつい先ほど入ったばかりであるのに、いきなり森からでなければならないような事態になってしまったことには多少ながらも心残りが生じてしまう。


(……いや、探索するにはまだ間に合うか?)

火は確かにまだ燃え広がっており、ジューダスにこれを止める術はない。
だが、森全体で見てみれば、燃えているのはまだ半分にも満たっていないはずであった。
つまり、まだ火が燃え広がっていない東側の森はまだ探索する時間は残っていると考えられた。

(だが、奥と南の方は間に合いそうにないか)

先ほども述べたようにジューダスが見た所では奥である西側と左である南側の火はとくに勢いが激しい。
ここで南の方を探索しようとすると、やはり火の勢いに自身が飲まれてしまうだろう。
奥の方はこの状況ではもはや論外と言える。

つまり、これからジューダスが森を探索するとしたら、森の北東の辺りに行くのが最良の選択だろう。
その辺りならば火災もすぐには届かず、探索のための時間もまだあると考えられる。

(…あまりもたもたしてもいられないな。すぐに向かうべきか)

森林火災の原因についてもまだ気になるところはあるが、ここは当初の予定通り探索を優先すべきだと判断する。
もしかしたら今から自分が向かおうとしている場所でまだ火事に気づけず逃げ遅れる者だっているかもしれない。
そんな者がもしもいて、尚且つそれがリオン・マグナスの名の参加者であれば、絶対に放っておくわけにはいかない。
そして火災が現在もなお進行していることから、これ以上悩むことにも時間をかけてはいられない。

ジューダスは最初に火事に気付いたその位置からやや右斜め後ろ、北東の方に進行方向を転換する。
そして道路からも出て、多くの木がさらに生い茂る方へと入っていった。




38 : ◆5IjCIYVjCc :2021/10/23(土) 02:49:06 NO9qbb8w0

ジューダスが進む先は、先ほど目撃したものとは違い火の気といったものは全くない。
火事の様子から大方予測した通り、森の北東の辺りには確かに火は届いていなかった。

ジューダスは自分から見て後ろの方から火が迫っていないかを気にしつつ、森の中の探索を続ける。


それからしばらく歩いた後、やがてその探索に進展があった。
彼は元から予測していた通り、確かに森の中で施設を発見することに成功した。


「……無駄足にはならずに済んだようだな」

ジューダスが発見したのは、森の中にそびえ立つ大きな屋敷であった。

「ごく普通の屋敷のようだが、これは地図に載るのか?」

ジューダスは地図を見ながらその建物の様子をうかがう。
現在彼がいて屋敷もあるその場所は、地図から見ればF-4の森のやや北寄りに位置する場所。
そして今の地図においてその場所にはこんな施設があるなんて記載は一切無い。

「…まずは確かめてみるべきか」

ジューダスは地図を片手に見ながらその屋敷へと近づていく。
そのまま彼は門に手をかけ、それを開いて建物の敷地の中へと入っていく。
それと同時に、彼が見ていた地図に変化が起きた。

ジューダスが門の内側に入ったその瞬間、地図に新たな施設の名が追記された。
その場所は、確かに彼がいるF-4の森の位置を示していた。
ジューダスが足を踏み入れたことにより新たに記されたその施設は、名を『ジョースター邸』と言った。

「やはり、思った通りだったか」

ジューダスが立てた仮説の通り、地図上の施設は人が足を踏み入れることで浮かび上がることがこれにより証明されたと言える。
まさか建物の中まで入る必要はなく、玄関前の門を通った程度で記されるとまでは思っていなかったが、とにかくこれで施設が浮かび上がる条件を知ることができた。

(今ここで記されたということは、この中には誰もいないということになるだろうな)

ジューダスが考える通りの条件ならば、このジョースター邸の中には殺し合いの参加者は誰もいないということになる。
ジョースター邸がこれまで発見されなかったことから、そもそも周囲には誰もいない可能性も考えられる。
もしそうであれば、火事から逃げ遅れた者がいないかどうか気にする必要もないだろう。
少なくとも今すぐにおいては、自分の敵となりそうな者を警戒して動く必要もないと言える。

「火は今のところは来ていないようだが…」

ジューダスは後方へと振り返り、森の奥の方の様子をうかがう。
南西の方から迫っていると考えられる火の手は、少なくとも現時点においてはジョースター邸の周囲の方にまではまだ届いていなかった。

「しかし、いずれは時間の問題か?」

今すぐは心配をしなくとも、いつか自分がいるこの位置にまで火災が広がってくる可能性は十分に考えられる。
もしその時が来ると考えると、木造建築と思われるこの屋敷の中に居てはやはり火に巻き込まれるのではないかと考えられる。
森の火事が何者かによって消し止められない限り、目の前の建物の中に入ることは危険な可能性があった。

(だが、何もない施設をこうやって地図に記すことも考えづらい。やはり中に入って何かがないか探すべきか?)
(それでも、ここに長くいれば火が迫ることもまだ考えられる。探索するにしても時間はあまりかけるべきではないだろう)
(……とにかく、まずは中に入ってみるか)

不安な要素はまだあるが、ここも悩むより先にまずは行動するべきと判断する。

ジューダスは意を決してジョースター邸の扉に手をかけ、その中へと入っていった。


39 : ◆5IjCIYVjCc :2021/10/23(土) 02:49:27 NO9qbb8w0

【F-4 森 ジョースター邸/早朝】

【ジューダス@テイルズオブデスティニー2】
[身体]:神崎蘭子@アイドルマスター シンデレラガールズ
[状態]:健康、天使化
[装備]:エターナルソード@テイルズオブファンタジア
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:殺し合いには乗らない
1:ジョースター邸の中を探ってみる
2:自分の名前を知る意味でも、リオン・マグナスかジューダスを見つけたい
3:もしもリオン・マグナスが過去の自分ならば歴史改変を阻止するために守る
4:森の火事に用心。現在地に迫ってくるようであれば早めにこの建物から出る
5:可能であれば火事の原因を探っておきたい
6:できれば短剣も欲しい
[備考]
参戦時期は旅を終えて消えた後
名簿上の自分の名前がリオン・マグナスとジューダスのどちらか分かっていません
天使の翼の高度は地面から約2メートルです
天使化により、意識を集中させることで現在地と周囲八方向くらいまでの範囲にいる悪しき力や魂を感知できるようになりました。


【ジョースター邸@ジョジョの奇妙な冒険】
F-4の森の北寄りに設置された施設。
ジョナサン・ジョースターとディオ・ブランドーが共にその青春時代を過ごした場所。
もしかしたら、中には石仮面が存在するかもしれない。


40 : ◆5IjCIYVjCc :2021/10/23(土) 02:49:58 NO9qbb8w0
投下終了です。
タイトルは「いずれ燃えゆく運命の中で」とします。


41 : ◆OmtW54r7Tc :2021/10/24(日) 06:27:21 im64TSBk0
志村新八、ホイミン、空条承太郎で予約します


42 : ◆OmtW54r7Tc :2021/10/24(日) 23:07:03 im64TSBk0
投下します


43 : その魂は、否定させない ◆OmtW54r7Tc :2021/10/24(日) 23:08:16 im64TSBk0
「銀さん、遅いなあ…」
「大丈夫かな…」

近くの建物に入り、坂田銀時を待っている志村新八とホイミン。
彼らは、なかなか戻ってこない銀時に、さすがに少し不安を感じていた。

『それにしても、ホイミン君がその大男に僕のこと渡すようなことにならなくてよかったよ』

そして、そんな二人に対し声をかける新たな人物。
いや、それは人ではない。

「えっと、あなた誰でしたっけ」
『ちょ、新八君!?冗談きついよ!僕はシャルティエ。ソーディアンのシャルティエさ!坊ちゃんの魔の手から救ってくれてありがとう!な〜んて』

それは剣。
1000年という年月を生きた、物言う剣ソーディアンが一つ、シャルティエであった。
彼は、ホイミンに支給されたもう一本の剣であった。
しかし、でかくて目につきやすいエンジンブレードをホイミンが志々雄に渡したため、こうしてホイミンの手元に残ったのである。

「バタバタしてて銀さんには紹介しそびれちゃった…というか、あの人に渡したほうが良かったかな?」
「大丈夫じゃないかな、銀さんが持ってた剣も強力そうだったし」
『まあ、僕を使いこなせるのは、僕本人か、坊ちゃんくらいのものでしょうし』
「さっきあなた坊ちゃんの魔の手とか言ってなかったですっけ」
『やだなあ新八君。そんなの、小粋なジョークじゃないですか』

こんな調子で、二人と一本は会話をしつつ、銀時を待っていた。

「あ、誰か来た!」

ホイミンが、窓の外からこちらに近づいてくる参加者を発見した。
その人物は、待ち人である銀時ではない。
強面の、怖そうな男であった。


44 : その魂は、否定させない ◆OmtW54r7Tc :2021/10/24(日) 23:08:57 im64TSBk0

『どうしますか?』
「とりあえず僕が出ます」

シャルティエの言葉に新八は答えると、男の前から出ていこうとし…

「そこにいるのは分かっている。全員出てこい」
「「『!!!???』」」

しっかり、バレていた。
どうやらこの男、タダものではないらしい。
とりあえず隠れても無駄だと分かったので、男の前に全員で姿を現す。
現れた新八とホイミンの姿を、男はジッと見つめると、

「…なるほど、てめーらが新八、そしてホイミンか」
「「え…!?」」

名前をいい当てられ、新八もホイミンも動揺する。
男は、自分たちの今の姿を見て、新八とホイミンの名前をいい当てた。
どこからか、自分たちの外見情報が漏れているのだ。
そして、その情報を漏らす可能性がある人物は…一人しかいない。

「あなた…銀さんに会ったんですか!?」
「ああ…てめえらの外見は、あの男から聞いた」
「銀さんは…銀さんはどこに!?」
「…肉体は一応、この荷物袋に入れて回収しておいた」

そういって男―空条承太郎は、それを取り出す。
両津勘吉の肉体―つまりは、坂田銀時の死体を。


45 : その魂は、否定させない ◆OmtW54r7Tc :2021/10/24(日) 23:09:43 im64TSBk0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

「銀さん、もうすぐ朝ですよ。起きてください」

新八は揺らす。
銀時の身体を。

「こんなところで寝ちゃ、風邪引きますよ」

しかし、銀時は起きない。

「月曜日になったら、ジャンプ買わないといけないでしょ。こんな所にジャンプなんて売ってるわけないんですから、さっさとこんな所おさらばしましょうよ」

起きない。

「起きろって…いってんだろ!」

新八は激昂する。
それでも起きない。

「冗談、やめてくださいよ…ツッコミキャラは、ボケキャラがいないと始まらないんですよ?僕に一人漫才でもしろっていうんですか」

銀時の遺体が、濡れる。
新八の涙で、濡れる。

「起きて…起きてくださいよ…」

すがるように、身体をゆする。
やっぱり、起きない。

「銀さん…」

そこで、我慢の限界を迎えた。
溢れる感情のままに、新八は叫んだ。

「銀さああああああああああああああああああんん!!」


46 : その魂は、否定させない ◆OmtW54r7Tc :2021/10/24(日) 23:10:46 im64TSBk0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

新八の絶叫の後、辺りは静寂に包まれた。
聞こえるのは、新八のかすかなうめき声のみ。

(…ここで見せたのはまずかったか)

新八の様子を見ながら、承太郎は冷静に思考する。
今の状況で、この町に長居するのは得策ではない。
自分と銀時が相手取って劣勢に追い込まれた二人の危険人物が、近くにいるのだから。
ここは憎まれ役を買ってでも、移動を促すか。
そう考え口を開きかけたその時、

『あのー』

どこからか、声が聞こえてきた。
声の方向にいたのは、ホイミン。
しかし、喋っているのは彼女(中身は男だが)ではないようだ。

『もしかしたら…その銀さんって人、生きてるかもしれませんよ』

その声は、剣から聞こえてきた。

「喋る剣だと…てめえ、アヌビスの仲間か!?」

似たような存在を知る承太郎は警戒してスタープラチナを出す。

『あ、アヌビス!?なんですかそれ』
「しゃ、シャルティエさんは悪い剣じゃないよ!」

ホイミンの擁護に、承太郎はスタープラチナを引っ込める。
見た所ホイミンが操られているという感じはないし、ひとまず無害と判断しておこう。

「…銀さんが生きてるかもしれないって、どういうことですか」

いつの間にか、起き上がった新八がシャルティエに尋ねる。

『新八君やホイミン君にも話してなかったですけど…実は僕、元は人間なんですよ』
「人間だと…?てめえも、俺達と同じ立場ということか?」
『いえ、そういうわけではないです。いちから説明しますね』

シャルティエは語った。
1000年も前に行われた天地戦争。
その最終兵器として開発された、ソーディアンについて。

「…なるほど、つまりてめえら地上軍は、自分と同じ人格を埋め込んだ剣を使ったってことか。いかれてるぜ」
『僕たちの場合剣と人でしたけど…ボンボルドは僕たちのこの技術を人同士で応用したかもしれないって、思うんです』
「つまり…どういうことなの?」

ホイミンが、疑問符を浮かべる。
彼にはまだ、シャルティエが言いたいことが、ピンと来ていなかった。

『つまりです。ここにいた坂田銀時さんが、僕と同じようにオリジナルから人格をコピーした存在だとすれば…』
「あっ!本物の銀時さんは、生きてるってこと!?」

シャルティエの言いたいことを理解したホイミンは、喜びの表情を浮かべる。

「銀さんが…生きてる…?」

新八もまた、大切な人が生きてるかもしれないという希望に、目を見開く。
しかし…

「…くだらねえ」

ただ一人、承太郎は不機嫌そうな表情で切り捨てた。


47 : その魂は、否定させない ◆OmtW54r7Tc :2021/10/24(日) 23:11:58 im64TSBk0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

『なっ!くだらないとは失礼な!確かにこれは、憶測でしかないし可能性としては低いかもしれない!でも、全く可能性がないというわけでも…』
「可能性の問題じゃねえ…その考え方がくだらねえって言ってんだよ」
『考え方?』

承太郎の言葉の意図が分からず、シャルティエは困惑する。
そんなシャルティエに、承太郎は語る。

「てめえが言ってることはつまり…この世界にいる俺たちは、死んでも問題ねえどうでもいい命だってことだろう?」
『なっ!別にそこまで言って…』


「言ってるんだよ!!」


ドスの効いた承太郎の言葉に、新八とホイミンも驚いた表情で承太郎を見つめる。

「坂田銀時。あの男は…あの男の魂は…信念は…確かに『生きてた』。生きた人間のものだった。てめえの話を聞いてると…その生き様をバカにされたようで、虫唾が走るんだよ」

承太郎の脳裏には、かつての仲間たちの顔が浮かぶ。
アヴドゥル、イギー、花京院。
彼らもまた、それぞれの信念のもとに戦い、死んでいった。
彼らにもう一度会えるならば、会いたいに決まっている。
しかし、それは無理だ。
何故なら…

「…死んだ人間は、戻らないんだよ。どんなスタンドだろうと戻せない」


48 : その魂は、否定させない ◆OmtW54r7Tc :2021/10/24(日) 23:12:36 im64TSBk0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

承太郎の言葉に、新八はハッとする。
その表情は、まるで憑き物が落ちたようだった。

「…ごめん、シャルティエさん。あの人の言う通り、やっぱり銀さんは死んだんだ」
『新八君…』
「シャルティエさんの話は可能性の一つとして頭には留めておくけど…少なくとも、それに縋るようなことは、もうしない」

新八は、銀時の死体を見下ろす。
承太郎の話を聞く前の自分は、シャルティエの話に希望を見出そうとしかけていた。
それが…銀さんの命を結果的に軽く見ているということに気づかずに。
それがどれほど愚かなことだったか…今なら分かる。

「長くいたから分かる。ここにいたのは、確かに坂田銀時だ。破天荒で掟破り、生活能力もないダメ人間で…だけど、僕が憧れた、侍の魂を持った銀さんだった。それを、僕が…ずっと銀さんと一緒にいた僕が…その生き様を、魂を、否定しちゃダメなんだ!銀さんは死んだ…死んだんだ!」

新八の瞳に、再び涙がたまる。
しかし今度はそれを拭って、涙が落ちるのを防いだ。
泣かない、泣いてたまるか。
自分は、強くならないといけない。
強くなって、神楽ちゃんと一緒にここから脱出して、かぶき町へ帰る。
それまでは…泣いてたまるか!

「銀さん…今までありがとうございました!」

あなたの魂は、僕が継ぐから。
だから安心して…眠ってください。


49 : その魂は、否定させない ◆OmtW54r7Tc :2021/10/24(日) 23:14:51 im64TSBk0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

その後、銀時もとい両津勘吉の身体を新八のデイバックに移して。
承太郎、新八、ホイミンの3人は、地図を広げた。
とりあえずこの町を離れるのは確定として、どこにいくかを決めておこうということになったのだ。
そして3人は、地図を見て驚く。

「増えてる?」

ホイミンが呟く。
彼の言う通り、地図に書き込まれている情報が、増えている。

「え!?『万事屋銀ちゃん』!?」

新八が、驚きの声を上げる。
なんと、ここからすぐ近くに、万事屋があるというのだ。
見知った場所だし神楽もここを目指すかもしれないから、拠点にするには好都合だが…

「知ってる場所のようだが、そこは却下だ。俺と坂田が戦った奴らと出会う可能性が高い」

承太郎の言う通り、この町にある万事屋にのこのこと向かうのは自殺行為だろう。
そもそも町を離れる算段で地図を見ているのだ。

「それなら…僕はここに行きたいです」

そう言って新八が次に指したのは…ここから北西にある『風都タワー』という場所だった。
そこは、新八自身ではなく新八の肉体に関係がある場所だった。

「僕のこの肉体のフィリップって人は、左翔太郎さんって相棒がいれば、仮面ライダーWって超人に変身できるらしいんです。もしかしたら、翔太郎さんの肉体を持った人も、同じ考えでここを目指すかもしれない」
「なるほど…戦力アップができる可能性があるということか」

現状、先ほど戦った志々雄や魔王を倒すには心もとない戦力だ。
ここを目指す価値は、大きいかもしれない。

「ホイミンくんはどこか気になる場所はある?」
「う〜ん…特にないや」
「承太郎さんは?」
「気になる場所はあるが…風都タワーより優先するような火急の用があるほどじゃねえな」
「分かりました、それじゃあ…風都タワーを目指しましょうか」

こうして彼らは、風都タワーに向かうことになった。


50 : その魂は、否定させない ◆OmtW54r7Tc :2021/10/24(日) 23:15:26 im64TSBk0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

(ジョースター邸、か)

風都タワーを目指して歩きながら、承太郎は考える。
彼が地図の中で見つけた覚えのある場所は、今の肉体と関係がある『PK学園高校』と、自分自身と関係があるこのジョースター邸だった。

(じじいの家か?それとも…)

承太郎の脳裏には、ジョセフ以外にもう1人、思い当たる人物がいた。
ジョナサン・ジョースター。
ジョセフの祖父であり…100年前、DIOと因縁があった男だ。
自分やDIOに関連のある施設を持ってきたというなら、おそらくこの二人のどちらかの邸宅ということになるだろう。
それがどちらか、というのはこの際置いておく。
承太郎が考えているのは別のことだ。
それは、ジョセフかジョナサンの肉体が、この場にいるのではないかということだ。
この考えが浮かんだのは、肉体として参加しているフィリップに関係がある風都タワーがあったからだ。
まあ、名簿の中の人物にも風都関係者がいて、そちらに関連する施設を持ってきたという可能性もあるが。
ともかく、ジョセフかジョナサンの肉体がいるかもしれないと考えた時、承太郎はこの肉体が渡される可能性がある人物に、嫌というほど心当たりがあった。

(DIO…)

ジョナサンの肉体と同化し、ジョセフの血を吸ってパワーアップを果たした吸血鬼。
ある意味、肉体を渡す相手としては適任と言えた。
ジョセフが輸血により蘇生した後、冗談でDIOに乗っ取られたフリという悪趣味なことをしていたが、あれが現実になるかもしれないと思うと、頭が痛くなった。
勿論、肉親の身体だからといって、相手がDIOなら容赦する気はない。
むしろ、よく知らない無関係の人間よりははるかに抵抗が少ないくらいだ。
もしも、本当にDIOが彼らの肉体を手にしているというならば…

(DIO…また返してもらうぜ。今度こそな…!)


【F-7 北部/早朝】

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:燃堂力@斉木楠雄のΨ難
[状態]:疲労(大)、両腕と肩に裂傷、上半身に切り傷、頬に痛み、銀髪の男(魔王)への怒り
[装備]:ネズミの速さの外套(クローク・オブ・ラットスピード)@オーバーロード、MP40(残弾ゼロ)@ストライクウィッチーズシリーズ
[道具]:基本支給品×2、予備弾倉×3、ランダム支給品×0〜1(確認済み)、童磨の首輪
[思考・状況]基本方針:主催を打倒する。
1:新八、ホイミンと共に風都タワーに向かう。
2:主催と戦うために首輪を外したい。
3:自分の体の参加者がいた場合、殺し合いに乗っていたら止める。
4:DIOは今度こそぶちのめす。たとえジョセフやジョナサンの身体であっても。
5:天国……まさかな。
[備考]
※第三部終了直後から参戦です。
※スタンドはスタンド能力者以外にも視認可能です。
※ジョースターの波長に対して反応できません。
※ボンドルドが天国へ行く方法を試してるのではと推測してます。
※時間停止は現状では2秒が限界のようです。


【志村新八@銀魂】
[身体]:フィリップ@仮面ライダーW
[状態]:健康
[装備]:フーの薄刃刀@鋼の錬金術師
[道具]:基本支給品、ダブルドライバー@仮面ライダーW、T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、新八のメガネ@銀魂、両津勘吉の肉体
[思考・状況]基本方針:主催者を倒す
1:風都タワーに行く
2:神楽ちゃんを探す
3:左翔太郎さんの体も誰か入ってるのか気になる
[備考]
※メタ知識が制限されています。参戦作品(精神・身体両方)に関しては、現状では「何となく名前に見覚えがある気がする」程度しか分かりません。
こち亀に関してはある程度覚えているようです。
※地球の本棚は現状では使えないようです。今後使えるか、制限が掛けられているかは後続の書き手にお任せします。


【ホイミン@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
[身体]:ソリュシャン・イプシロン@オーバーロード
[状態]:健康
[装備]:アンチバリア発生装置@ケロロ軍曹、シャルティエ@テイルズオブデスティニー
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:人間にはなりたいが、そのために誰かを襲うつもりはない。
1:ライアンさんのように、人を守るために戦う。
2:風都タワーに行く
[備考]
参戦時期はライアンの旅に同行した後〜人間に生まれ変わる前。
制限により、『ホイミ』などの回復魔法の効果が下がっています。
プロフィールから、『ソリュシャン・イプシロン』と彼女の持つ能力、異世界の魔法に関する知識を得ました。


【シャルティエ@テイルズオブデスティニー】
意思持つ剣・ソーディアンの一つ。
剣としての用途だけでなく、地・闇属性の術も使える。
参戦時期は、少なくともD2の時期ではなく、ジューダスとしてのリオン・マグナスは知らない。


51 : ◆OmtW54r7Tc :2021/10/24(日) 23:16:19 im64TSBk0
投下終了です


52 : ◆ytUSxp038U :2021/10/28(木) 01:36:59 kxL11m5Q0
皆様投下乙です

アルフォンス・エルリック、鬼舞辻無惨を予約します


53 : ◆ytUSxp038U :2021/10/29(金) 00:16:01 D..0uoq.0
投下します


54 : 羅針盤はずっと闇を指したまま ◆ytUSxp038U :2021/10/29(金) 00:17:33 D..0uoq.0
喉を鳴らして水を飲む。
渇きを癒す為ではない、少しでも空腹を紛らわせる為だ。
水分摂取だけでは、アルフォンスを苛む空腹はそう簡単に消えたりはしない。
それでも、気休めになるかどうかも怪しかろうと何もしないよりはマシと考える。

(とにかく、ここからは時間との勝負だ)

のんびりしてたら空腹が限界に達し、その結果どうなるか。
未だ推測の域を出ていないが、千翼がアマゾンと言う名の人を喰う生物なら、最悪の事態になりかねない。
本能のままに参加者を喰らおうとする。そんな未来にまたもや背筋が寒くなる。
防ぐ為には一刻も早く元の体を取り戻すのが一番だろう。

一度深呼吸して己を落ち着ける。
行動は迅速に、されど思考は冷静に。
まず真っ先に行う必要があるのは、首輪の解除。
これがある限り、参加者は常にボンドルドによって命を握られている状態だ。
どれだけ共に戦ってくれる仲間を集めても、スイッチ一つでこちらは全滅が確定してしまう。
そうさせない為に、早速首輪の解析に取り掛かる。

掌同士を合わせると、両手を首輪に当てる。
既に慣れ切った動作である、錬金術の発動。
アルフォンスが使う錬金術とは、三つの工程を経て完了するものである。
まず第一に対象となる物質の構成元素等を理解し、第二に物質を分解、第三に分解した物質と同じ性質の物へ再構築する。
今回はまず首輪を構成する材質を理解、次いで分解するか、或いは材質は同じだが無害な物へと再構築するかで無効化する算段だった。

が、結果から言うとこれは失敗に終わった。

「術が発動しない…?」

困惑したように己の掌を見つめる。
首輪にエネルギーを流そうとした瞬間、まるで霧散するかのように消え去り、術の発動が無効化されたのだ。
錬金術自体が使えなくなっている、という訳ではないだろう。
殺し合いが始まってすぐに試したが、その時は問題なく使えた。
試しに今いる民家の椅子を対象に、術を使って見る。
すると木製の椅子は、あっという間に猫の形をしたオブジェへと変わった。

(少なくとも、お父様と戦った時とは違うってことかな…)

自分と兄の錬金術は封じられ、スカーとメイの術は問題無く使えていた事があった。
ただ今回は錬金術そのもが使えないのではなく、首輪を対象にした錬金術のみが無効化されている。
であれば、首輪本体に錬金術の干渉を無効化する仕掛けが施されているのだろう。
尤も、この結果を全く予想していなかった訳ではない。
錬金術師であるアルフォンスを参加させるという事は、錬金術により首輪を無効化される可能性を、当然ボンドルドは想定していたはず。
なら事前にこういった予防策があっても、何ら不思議は無い。
それはそれとして、落胆の気持ちは浮かび上がるのだが。

錬金術での解析は不可能なら、工具などを使って解除を行うべきか。
ただそうなると、新たな疑問も出て来る。

(ボンドルド達が首輪の解除を黙って見過ごすのか…?)

今分かっている首輪が爆発する条件は二つ。
主催者による意思と、禁止エリアへの侵入。
だが参加者が首輪を外そうと分解を試みた時、そうはさせじとボンドルドらが介入してくる可能性は無いだろうか。
直接姿を見せての警告か、それとも問答無用で首輪を爆破させるのかもしれない。
いずれにしろ、そう易々と首輪を外されては向こうにとって都合が悪いはず。


55 : 羅針盤はずっと闇を指したまま ◆ytUSxp038U :2021/10/29(金) 00:19:09 D..0uoq.0
(いや、だったらそもそも僕みたいに、殺し合いに反対の人間を参加させなければ良いだけじゃないか)

首輪を外して欲しくないのなら、そう考えるような人間を不参加にすればいい。
最初から優勝しか頭にないような危険人物のみで参加者を固めれば良いだろうに、あえてそれをしなかった。
千翼の肉体の影響で暴走させるのが目的かもしれないが、それにしたって少々回りくどい気がする。
となると、ボンドルドは首輪を外そうとする者が現れるのを問題視していないのではないだろうか。
それは首輪が絶対に解除されないという自身があるから。
若しくは、

(仮に首輪を解除されたとしても、殺し合いの進行には一切支障が無いと見ているから?)

可能性は幾つも思い浮かぶが、そのどれもが確証を持って言えるものではない。
せめてボンドルドの詳しい経歴が詳しく分かれば考察を進められるかもしれなが、生憎とミーティのプロフィールにそれらの記載はされていなかった。
アビスなどの気になる単語は見つけたものの、そちらに関しても詳しい事は不明。
そう簡単に自分へ繋がる情報は載せてくれないようだ。

「な〜〜〜み〜〜〜?」

間延びした鳴き声に、思考に沈んだ意識を引き戻された。
下を見ると、自分と猫のオブジェを交互に見比べているミーティーの姿。
何となくだが、アルフォンスには不思議がっているように見えた。

「ごめん、まだ言って無かったね。実は僕、錬金術師なんだ」

その言葉に、人間で言えば首を傾げるような動作をするミーティー。
続けて言葉を口にしようとした時、


『あ……こ……い……か……な……』


誰かの声が聞こえてきた。





錬金術。知識としては知っている。
卑金属から金を精錬しようとする試み。
古代の異国にて始まり、その過程で現在使われるようになった化学薬品も多く発見されたのだとか。
だがこれは何だ?
アルフォンスがやってみせたのは、椅子を一瞬の内に奇怪な像へと変化させた、文献で知った錬金術とは別物のなにか。
道具も何も用いず、ただ掌同士を合わせただけ。
むしろアルフォンスの肉体である小僧の、血鬼術と言った方がまだ納得できる。

だがアルフォンスは自分の事を「錬金術師」と名乗った。
ということはつまり、この力は肉体とは関係ない、アルフォンスが元々持つ力ということになる。
こんな力を私は知らない。
アルフォンスがボンドルドと同じ、未知の力を持っているというのか。

こいつは今自分の首輪に両手を当てた。
何をしようとしたかは明白、錬金術とやらで首輪を無効化しようとしたのだろう。
何も起こらなかったのを見るに、その目論見は失敗したようだ。
しかしここで役立たずと切り捨てるのは、まだ早い。
私もアルフォンスも、首輪が実際にどういう仕組みとなっているかは分かっていない。
ならもっと首輪に関する情報を手に入れた後に、改めて錬金術が役立つ可能性はある。
…尤も、その前に空腹で暴走する危険性も高いのだが。


56 : 羅針盤はずっと闇を指したまま ◆ytUSxp038U :2021/10/29(金) 00:20:14 D..0uoq.0
それにしても、肉体と精神を入れ替えた術、悪魔の実、錬金術。
そして死者の蘇生。
こうも未知の力を次々に見せられたなら、認めるしかあるまい。
ボンドルドの言う「どんな願いも叶える権利」、それがあれば太陽を克服する事も容易いはず。
奴の持つ願いを叶える力があれば、竈門禰豆子を手に入れずとも私は真に完璧な存在となれる。

だからといって、ボンドルドに感謝の念など全く抱いていないが。
願いを叶える何らかの力、そんなものがあったなら首を垂れて私に献上するのが当然だろう。
なのにあの男は、自分が「恵んでやる」側の存在と思い込んでいるらしい。
実に不愉快だ。一体全体何をどうしたらそんな勘違いができるのか。
仮に奴が今からでも私を元の肉体に戻し、鬱陶しい首輪を外し、額を地面に付けて己の愚かしさを悔い、願いを叶える力を献上するのなら、
余計な苦痛を与えず一瞬で死なせてやる程度の慈悲を与えてやっても良い。
あのような、産屋敷にも匹敵する異常者に限ってそうはならないだろうがな。

そして今、新たな問題が起きている。
唐突にどこからか聞こえてくる小娘らしき者の声。
具体的に何と言っているのは聞き取れない。
恐らくこの村からではないだろう。しかし内容は不明だが声自体は届いている為、そう遠くからではない。

声の主をどうするかだが、誰が聞きつけるかも分からないのに参加者を呼び寄せるような愚鈍の元へなど行きたいはずがなかろう。
もし小娘が殺し合いに乗っていないにしても、考え無しの間抜けと誰が好き好んで行動を共にするのか。
今は選り好みしている場合でないとはいえ、限度がある。
反対に小娘が殺し合いに乗っていたとしたら、余計にわざわざ出向く必要はない。
問題は私の意思がどうだろうと、アルフォンスは小娘の元へ向かう可能性が非常に高いことだ。
大人しく私だけを守っていればいいだろうに、余計なお節介で面倒ごとに首を突っ込まれるのは堪ったものではない。

もしも小娘が殺し合いに乗っておらず、声を聞きつけやって来た連中もまた同じような方針であったなら、
いざという時の肉壁が増え、アルフォンスが空腹の余り暴走した際に対処ができるかもしれない。
尤も、そう都合良く事が運ぶとは思えない。

このまま村に留まっても状況は変わらず、むしろアルフォンスの暴走をただ待つだけ。
小娘の方へ行けば何が待ち受けているか分かったものではなく、無能な連中が殺し合うのに巻き込まれるかもしれない。
ネコネコの実を食べるという選択もあるが、それだって確実に上手くいく保証は皆無。
加えて既に数時間が経過しているにも関わらず、配下の連中は一向に姿を現さない。

選択肢は複数あれど、そのどれもが私に余計な手間を掛けさせる。
苛立つ私を嘲笑うかのように、時間だけが過ぎていく。


57 : 羅針盤はずっと闇を指したまま ◆ytUSxp038U :2021/10/29(金) 00:21:12 D..0uoq.0
【B-5 村/早朝】

【アルフォンス・エルリック@鋼の錬金術師】
[身体]:千翼@仮面ライダーアマゾンズ
[状態]:空腹感、自分自身への不安
[装備]:ネオアマゾンズレジスター@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品、ネオアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:元の体には戻りたいが、殺し合うつもりはない
1:今の声は…
2:ミーティ(無惨)に入った精神の持ち主と、元々の肉体の持ち主であるミーティを元の身体に戻してあげたい。ただし殺し合いに乗っている可能性も考慮し、一応警戒しておく
3:殺し合いに乗っていない人がいたら協力したい
4:バリーを警戒。殺し合いに乗っているなら止める
5:もしこの空腹に耐えられなくなったら…
6:千翼はアマゾン…?
7:一応ミーティの肉体も調べる…?
[備考]
※参戦時期は少なくともジェルソ、ザンパノ(体をキメラにされた軍人さん)が仲間になって以降です。
※ミーティを合成獣だと思っています。
※千翼はアマゾンではないのかと強く疑いを抱いています。
※支給された身体の持ち主のプロフィールにはアマゾンの詳しい生態、千翼の正体に関する情報は書かれていません。
※千翼同様、通常の食事を取ろうとすると激しい拒否感が現れるようです。
※無惨の名を「産屋敷耀哉」と思っています。
※首輪に錬金術を使おうとすると無効化されるようです。

【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[身体]:ミーティ@メイドインアビス
[状態]:成れ果て、強い怒り、激しい屈辱感
[装備]:
[道具]:基本支給品、ネコネコの実@ONE PIECE、ランダム支給品0〜2(確認済み)
[思考・状況]基本方針:元の体に戻る。主催は絶対に許さない
1:ここからどう動くか。どいつもこいつも私に余計な手間を掛けさせるな
2:何とかして自由に動けるようになる
3:今はアルフォンスを利用。だがこのまま一緒にいるのは危険か?しかし錬金術は今後役立つか?
4:ネコネコの実の力が本当ならば食べてみる。が、今すぐ食べる気は無い
5:部下に苛立ち。何故あんな使えない女共を蘇生させた?
[備考]
※参戦時期は産屋敷邸襲撃より前です。
※ミーティの体はナナチの隠れ家に居た頃のものです。
※精神が成れ果てのミーティの体に入っても、自我は喪失しません。
※名簿と支給品を確認しました。
※アルフォンスには自身の名を「産屋敷耀哉」だと偽っています。
※アルフォンスの肉体(千翼)を鬼かそれに近い人喰いの化け物だと考えています。

※ダグバの放送が届きましたが、内容までは聞き取れませんでした。


58 : ◆ytUSxp038U :2021/10/29(金) 00:21:48 D..0uoq.0
投下終了です


59 : ◆5IjCIYVjCc :2021/10/30(土) 00:12:14 vLgoUvTM0
「蠍の剣士、厄災となりて。」における神楽の状態表の[状態]の欄において、ダメージ(小)、膝に擦り傷、と追記修正したことを報告します。


60 : ◆5IjCIYVjCc :2021/10/30(土) 00:41:35 vLgoUvTM0
すいません。もう一つ修正報告です。
「兄と姉の探し物」において、脹相の状態表の[備考]の欄に下記の事項を追記しました。

※竈門炭治郎の斧に遠坂凛(身体)の血が付着しています。
※服や体にも少量ですが血が飛び散っています。


61 : ◆ytUSxp038U :2021/11/01(月) 11:30:48 7/ulJZKY0
遠坂凛、キャメロット城、バリー・ザ・チョッパーを予約します


62 : ◆ytUSxp038U :2021/11/01(月) 14:36:18 7/ulJZKY0
投下します


63 : 朝を迎えて凶兆芽吹く ◆ytUSxp038U :2021/11/01(月) 14:37:32 7/ulJZKY0
朝日が差す草原を、堂々と踏みしめるのは一人の少女。
美少女という言葉は彼女の為にある、そう思わせる程完璧に整った美貌。
ゆっくりと顔を覗かせる太陽の光に当てられ、金の髪はより一層輝いて見えた。
代り映えのしない草原も、彼女が歩けば不思議と宝石を敷き詰めたが如き錯覚を抱かせる。
これで立派な毛並みの白馬が引く馬車があれば、いよいよもって童話のプリンセスが現実に飛び出して来たかのようだ。

実際には彼女の後ろに続くのは馬ではなく、帽子を被ったトナカイであった。
少女の細腕で抱きかかえられているのは、太い眉毛の幼子というミスマッチさ。
反対の手に持つのは見事な装飾の、素人でも一目で名剣と分かる武器。
少女が誰かに守られるだけのか弱い存在でない事を示す、そんな存在感があった。

「ありがとうねキャメロット。もう降ろしてもいいわよ」
「はい。お疲れさまでした、凛さん」

無事下山し、運んでもらう必要がなくなった凛は自らの足で大地を踏みしめる。
子供とはいえ人一人を抱えて来たというのに、キャメロットから疲れは見当たらない。

(いやー、大した嬢ちゃんだなぁおい)

通常の姿である頭脳強化へ変化したバリーは、感心したようにキャメロットを見やる。
外見だけなら庭園で紅茶でも飲んでるのが似合うお嬢様だが、実際はとんでもない。
顔色一つ変えずに、驚くべき速さで暗い山道を駆け抜けた。
恐らくは抱きかかえていた凛に配慮し、ある程度はスピードを落としていたのだろう。
それにしたって信じられない身体能力だ。
脚力強化でその背を追っていたバリーが一瞬、見失いそうになった程に。

(ってことは、やっぱ力づくで奪うのは得策じゃねえな)

もしも彼女がひ弱で争いとは無縁の少女なら、チョッパーの体にモノを言わせて装備を奪い取る選択もあった。
今となってはそんな手を使う気は無い。
少なくともキャメロットが戦闘不能になるくらいの傷を負ってない限り、怪しまれる行為は控えるべきだ。
一体全体その斬り応えの無さそうな、華奢な体のどこにそんな力が秘められているのやら。

そんなバリーの考えを知らず、キャメロットは彼へ声を掛けた。

「バリーさんもお疲れ様でした」
「おう。で、下山したは良いけどよ、これからどうする?」
「とりあえず休憩。バリーには聞きたい事もあるし、それに試しておきたい事もあるから」
「あの、凛さん。山でも聞いたのですが、何を試したいのですか?」

下山する時には聞きそびれたが、凛は何をする気なのだろうか。
首を傾げるキャメロットへ、あっけらかんと答える。

「そう身構えなくても良いわよ。ただ契約できるか試したいだけ」
「契約、ですか…?」
「そ。サーヴァントについてはさっき説明したわよね?」
「はい。…あっ、では契約とは王の肉体との…」

傍で聞いているバリーには、何の事やらさっぱりな会話だった。
ただ余計な茶々を入れて無駄に険悪な空気を作る気も無かったので、今は黙って待っている事にする。

尤もバリーが何かをせずとも、二人の会話は強制的に中断された。

『あー……。これでいいのかな。』





64 : 朝を迎えて凶兆芽吹く ◆ytUSxp038U :2021/11/01(月) 14:38:42 7/ulJZKY0
放送が終わり、凛とキャメロットは揃って険しい表情となる。
何らかの機器を使って広めたであろう声。
ほんわかとした人畜無害な雰囲気の少女の声だが、中身は全くの正反対だと二人は知っている。

「何かおっかねぇ顔してるが、今の奴を知ってんのか?」
「…ええ。バリーさんと会う前の事なのですが…」

ただならぬ雰囲気を察したバリーへ、白い弓兵との戦闘を説明する。
あの少女は風王鉄槌に吹き飛ばされた後、新たな獲物を仕留める為に放送という方法を取ったらしい。
あれで仕留められたとは思っていなかったが、まさかもう動けるくらいに体力があるとは。

「んなヤベェ奴がいるのは…あっちかぁ……」

声が聞こえて来た方向を、嫌そうに見るバリー。
その様子に今度は凛たちが疑問に感じる。
そういやまだ言って無かったと、自分が山で二人に出会ったまでの経緯を説明した。

殺し合いが始まって間もなく、自分は村で金髪の青年と遭遇した。
どうやら青年は殺し合いに乗っている側だったようで、自分との戦闘に発展。
幸い今の身体は戦いに適した姿にもなれるので、どうにか渡り合えた。(実際に雪男のような姿に変わると、またもや驚かれた)。
戦闘の最中、何時の間にか現れた紫鎧の剣士の手で金髪の青年は首を刎ねられ即死。
自分も武器を投げつけ、どうにか必死に逃げて来て、そこでキャメロット達に出会った。

事のあらましをざっと説明し終える。
ただ一つ、バリー自身も殺し合いに乗っているという真実は伏せて。

鎧の剣士の力は未知数。
バリーの話によると、気が付いたら金髪の青年は殺されていたという。
一体何をされたのかが全く分からない。
目にも止まらぬ高速移動、それとも姿を完全に消した?
推測だけなら幾らでも可能だが、攻撃の正体がハッキリしない事には対策も立てようがない。
バリーの予想では連発できないよう、何らかの制限が課せられているとのこと。

とはいえバリーが鎧の剣士と遭遇したのは、数時間も前。
その者は既に村を去った可能性が高い。
もしまだ村に居たら白い弓兵と戦闘になり、とても放送する余裕など無かったはず。

(ですが、その剣士がいないとしてもあの弓兵を放って置く訳にはいきません)

奴の呼びかけに引き寄せられた者達が犠牲となる前に、一刻も早く討伐すべきだ。
だがわざわざ参加者を誘い出そうとしているのなら、何らかの罠を仕掛けて待っている可能性はある。
城娘としての戦いは、本陣への進攻を阻止する防衛戦が大半だった。
今回はその逆。こちらから敵の待ち受ける場所へ攻め込む。
何の準備も無しに無策で突っ込むのは愚行極まりないが、

(……いえ、どうなのでしょう?奴はそういった手合いとも違う気が…)

相手を詳しく知るには言葉だけでなく、剣を交わすのも有効である。
時には余計な言葉を使わず、戦いを通じた方が相手がどんな者かをハッキリと知る事が出来る。
白い弓兵と戦った結果、理解できたのは相手が最悪の人物であること。
最初に戦った青い鎧の騎士のように譲れない願いを抱いているのではなく、己の快楽の為に他者を殺す輩。
今にして思えば、賢者の石を飲んで無防備を晒したキャメロットを傍観していたのも、ただ単に己を楽しませるだけの何かが起きそうだから期待して待っていた。
そういう子どものような歪な無邪気さの顕れだろう。

唾棄すべき存在だが、だからこそ思う。
あの少女にとって殺し合いは遊びでしかなく、その遊び相手が欲しくて放送を行った。
故に罠を仕掛けるといった小細工をする気は無く、集まった者と笑いながら殺し合うではないかと。

とはいえ、罠があろうとなかろうと奴の元へ行き、今度こそ斬らねばならない。


65 : 朝を迎えて凶兆芽吹く ◆ytUSxp038U :2021/11/01(月) 14:40:07 7/ulJZKY0
一方で凛も考える。
放送の主に関してだが、これは必ずしも自分達が向かわなければならないものではない。
無視して別の参加者を探しても問題は無い。
あの少女の対処は他の殺し合いに乗っていない参加者に放り投げるか、或いは危険な参加者と潰し合うのを期待し放置する。
そういった方法を取るのも一つの手だ。

(でもまぁ、キャメロットがそれに賛成するかって言ったらねぇ…)

出会ってまだ数時間の関係だが、少女の放送を無視するような質でないのは理解している。
きっとすぐにでも放送の主の元へ走り、今度こそ仕留める気でいるのだろう。
まぁ危険極まりない参加者の討伐は反対しない。
その結果として殺し合いに乗っていない参加者と出会えたり、しんのすけの安全を確保できるのなら悪い事でもないだろう。
なんて、どうにも言い訳染みた考えの自分につい苦笑いを浮かべる。

(で、行くにしてもまずは準備がいるでしょ)

仮にも敵の待ち受ける場所へ向かうのだ。相応の準備は必須。
こちらの最大戦力は言うまでも無くキャメロット。そこへある程度は戦闘もこなせるらしいバリーも加わる。
他にもバリーの肉体に関する情報や、支給品の確認もやっておきたい。
何より重要なのはキャメロットとの契約。
賢者の石により魔力供給が行われたとはいえ、無限の魔力を与えるものではない。いずれは尽きる時が来る。
キャメロットが安定して戦う為には、マスターとの契約が必要不可欠。
契約さえ無事に完了すれば、最優のサーヴァントらしい力を発揮――

(…って、ちょっと待って。本当にそう?)

凛の脳裏に浮かぶのは、バリーから説明を受けた鎧の剣士の力。
金髪の青年を一瞬で屠ったそうだが、バリー曰く何らかの制限があるかもしれないと言っていた。
そう、制限だ。何故そんなものを付けるのか。
答えは凛たちが巻き込まれているのは一方的な殺戮でなく、全ての参加者に優勝の可能性がある殺し合いだから。
強力な異能が何の枷も付けられず使い放題では、余りにも不公平。
故に強い参加者程、それに見合う制限が課せられている。

その制限とは鎧の剣士のみだけでなく、キャメロット…より正確に言うとセイバーにもあるのではないだろうか。
考えてみれば当然の話だ。
ステータスが低下している状態でさえ、超人という言葉ですら足りない程の戦闘力を発揮できた。
そんなセイバーが安定した魔力供給を受けられたなら、大半の参加者では手が付けられなくなる。
主催者が出来レースを望んでもいない限り、参加者の戦闘力には何かしらの調整が施されているはず。
ということは例え契約できたとしても、本来のセイバー程の力は出せないのかもしれない。

と言っても、やはり契約はしておくに越した事はない。
今後の戦いを考えると、キャメロット/セイバーの力は必要不可欠なのだから。

少女二人が考えを巡らせる横で、バリーもまた頭を働かせる。
放送した少女の所へ行くか行かないか、バリーとしてはどちらでも良かった。
もし向かって戦闘になった時、放送した少女をキッチリ殺せたなら支給品を手に入れ、使いやすい得物を見つけられるかもしれない。
反対にこちらが不利となりキャメロットと凛が殺されたら、彼女らの持つ支給品を回収して逃げるか、若しくは敵が相応の傷を負っていたならキャメロットに代わり仕留めてやる。
余り早く潜り込んだグループが崩壊するのは残念だが、その時はその時だ。
どちらに転んでも自分に損害は無い。

(ただあの鎧野郎がなぁ…。村にはもういねぇだろうけど、まだ近くにいるかもしれねぇんだよな)

またあの訳の分からない攻撃を繰り出されたら、今度こそバリーも自称世界一の殺し屋と同じ末路を迎える羽目になるだろう。
ただ今回は未知の力を秘めたキャメロットと、肉壁に使えそうな凛がいるので、仮に再度遭遇しても生き延びられる可能性はある。
鎧の剣士をどうにか殺せれば、あの奇妙な剣も手に入るかもしれない。
バリーとしてはもうちょっと刃が分厚い方が好みだが、番傘よりはずっと良い。

(つってもまずは休んどきてぇな。走りっ放しで疲れちまった)

とりあえずは体力の回復を待つ事から始めるべきと、蓄積した疲労に顔を顰めた。


城娘。
魔術師。
殺人鬼。

三者三様の考えを巡らせるが、もう間もなく彼らの意識は強制的に引き寄せられるだろう。

バトルロワイアル開始から6時間近くが経過している。

ボンドルドか、それとも新たな存在か。
誰が行うかの答えはすぐにでも分かる。

主催陣営による定時放送まで、あと僅か。


66 : 朝を迎えて凶兆芽吹く ◆ytUSxp038U :2021/11/01(月) 14:42:21 7/ulJZKY0
【B-4とC-4の境界 草原/早朝】

【遠坂凛@Fate/stay night】
[身体]:野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん
[状態]:健康、精神的ショック(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み、現在の状態で使用可能な武器)
[思考・状況]基本方針:他の参加者の様子を伺いながら行動する
1:放送が聞こえた方に行く?なら準備がいるでしょ。
2:サーヴァントシステムに干渉しているかもしれないし第三魔法って、頭が痛いわ。
3:私の体が死んでるなんて……。
4:身体の持ち主(野原しんのすけ)を探したい。
5:アイツ(ダグバ)倒せてないってどんだけ丈夫なの。
6:バリーからもう少し詳しく話聞かないと。
[備考]
※参戦時期は少なくとも士郎と同盟を組んだ後。セイバーの真名をまだ知らない時期です。
※野原しんのすけのことについてだいたい理解しました。
※ガンド撃ちや鉱石魔術は使えませんが八極拳は使えるかもしれません。
※御城プロジェクト:Reの世界観について知りました。

【キャメロット城@御城プロジェクト:Re】
[身体]:アルトリア・ペンドラゴン@Fateシリーズ
[状態]:マスター不在によるステータス低下、全身に裂傷(軽微)、ダメージ(大)、精神疲労(大)、複雑な心境
[装備]:はぐれメタルの剣@ドラゴンクエストⅣ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(確認済み、剣以外)、逆刃刀@るろうに剣心
[思考・状況]基本方針:一人でも多くの物語を守り抜く。
1:放送の元である村へ行き、白い弓兵(ダグバ)を斬る。ただ今の状態で向かうのは危険ですね…。
2:凛さんを守る。
3:アーサー王はなぜそうまでして聖杯を……
4:バリーさんは信用したいのですが、先程の件があって少し不安。
5:……大丈夫なのでしょうか、賢者の石。
6:バリーさんの言う鎧の剣士にも警戒しておく。
[備考]
※参戦時期はアイギスコラボ(異界門と英傑の戦士)終了後です。
 このため城プロにおける主人公となる殿たちとの面識はありません。
※服装はドレス(鎧なし、FGOで言う第一。本家で言うセイバールート終盤)です
※湖の乙女の加護は問題なく機能します。
 約束された勝利の剣は当然できません。
※風王結界、風王鉄槌ができるようになりました。
 ある程度スキル『竜の炉心』も自由意志で使えるようになってます。
※賢者の石@鋼の錬金術師を取り込んだため、相当数の魂食いに近しい魔力供給を受けています。
 また、この賢者の石にグリードが存在してるかどうかは後続の書き手にお任せします。
※名簿をまだ見ていません。
※Fate/stay nightの世界観および聖杯戦争について知りました。

【バリー・ザ・チョッパー@鋼の錬金術師】
[身体]:トニートニー・チョッパー@ONE PIECE
[状態]:疲労(大)、全身に切り傷、頭脳強化(ブレーンポイント)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、神楽の番傘(残弾100%)@銀魂、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:存分に殺しを楽しむ
1:どう動くにしろ、まずは休んどきたい。
2:あの鎧野郎(メタモン)をどうにかしたいので一度集団に紛れ込んでおく。
3:武器を確保するまでは暫くなりを潜めた方がよさげか。
4:いい女だが、姐さんほどじゃねえんだよな。後もう少し信用されておきたい。
5:使い慣れた得物が欲しい。
[備考]
※参戦時期は、自分の肉体に血印を破壊された後。

※ダグバの放送を聞き取りました。


67 : ◆ytUSxp038U :2021/11/01(月) 14:43:04 7/ulJZKY0
投下終了です


68 : 名無しさん :2021/11/01(月) 20:38:29 4YaB1JeY0
知らない作品もあるので誰か肉体ガチャ書いてくれるとうれしいです


69 : ◆5IjCIYVjCc :2021/11/01(月) 22:10:22 JcN4FZFw0
【放送についてのお知らせ】
皆さん投下お疲れ様です。
ほとんどの参加者が早朝の時間帯を突破したため、今後の放送の予定についてどうするつもりなのか、私の見解を述べさせてもらいます。

現時点ではまだ最終時間が黎明のままの参加者が存在します。
その対象となるキャラは、脹相、ヴァニラ・アイスです。

しかし彼らは放送までに新たに誰かと出会うなどのイベントが起こる様子がないと私は推測しています。
そのため、彼らについては早朝を突破させずに第一回放送を行っても問題はないと考えています。
よって、今から一週間後を目安に第一回放送の投下をしようと考えています。

もし放送突破前にまだ何か話を書きたいと考えている方がいれば、11/8(月)の22:00までに予約をお願いします。
先ほど述べた、まだ黎明の時間に残っている参加者達の予約も可能です。
期限までに予約が入れば、その予約分の話が投下されるまで放送は行いません。

今回の連絡事項はこれで以上となります。
何か疑問点や意見があればお申し付けください。


70 : ◆5IjCIYVjCc :2021/11/01(月) 22:10:23 JcN4FZFw0
【放送についてのお知らせ】
皆さん投下お疲れ様です。
ほとんどの参加者が早朝の時間帯を突破したため、今後の放送の予定についてどうするつもりなのか、私の見解を述べさせてもらいます。

現時点ではまだ最終時間が黎明のままの参加者が存在します。
その対象となるキャラは、脹相、ヴァニラ・アイスです。

しかし彼らは放送までに新たに誰かと出会うなどのイベントが起こる様子がないと私は推測しています。
そのため、彼らについては早朝を突破させずに第一回放送を行っても問題はないと考えています。
よって、今から一週間後を目安に第一回放送の投下をしようと考えています。

もし放送突破前にまだ何か話を書きたいと考えている方がいれば、11/8(月)の22:00までに予約をお願いします。
先ほど述べた、まだ黎明の時間に残っている参加者達の予約も可能です。
期限までに予約が入れば、その予約分の話が投下されるまで放送は行いません。

今回の連絡事項はこれで以上となります。
何か疑問点や意見があればお申し付けください。


71 : ◆5IjCIYVjCc :2021/11/08(月) 22:16:05 W2Yt2GK20
期限が過ぎたため、放送前の予約はこれで締め切りとします。

また、これから第一回放送の投下を始めます。


72 : 第一回放送 ◆5IjCIYVjCc :2021/11/08(月) 22:18:16 W2Yt2GK20

一日目、午前6時

その時間が来ると同時に、島中にチャイムが鳴り響いた。
その音は数時間前に鳴ったものと同じであり、放送の開始を告げるものであった。
チャイムが鳴り終わると同時に、空に異常が現れ始める。

そこには、巨大な映像画面が浮かび上がっていた。
その映像画面は島の中央辺りの上空に浮かんでいた。
4つの巨大な画面が島中央の湖の上空で四角を囲むように並べられていた。
それらの画面には同じ映像が映し出された。

それと同時に、島中の建物に存在する、テレビやパソコンなどのあらゆるモニター機器にも空中のものと同じ映像が映し出され始める。
民家や施設等の屋内に存在するものを始め、ビルに取り付けられた大型ディスプレイなど、映像を映し出すことができる機器には例外なく流れた。
それはどうやら、島中にいる人々全員にその映像による情報が伝わりやすいようにするための処置のようであった。

やげて、それら全ての画面に流れる映像には一人のある人物がいる様子が写し出された。



そこには、黒ずくめの男の上半身が映し出されてた。
また、その男は仮面も被っていた。
その仮面は、中央に走る薄紫色に淡く光る溝のようなものが特徴的であった。

『皆さんおはようございます。この殺し合いの進行状況を連絡するための定期放送の時間になりました』

島中に男の声が響き始めた。
どうやら、映像に映っている仮面の男が話始めたようであった。
また、その声は数時間前の放送の際に聞こえたものと同じものであった。

『私はボンドルド。こうして姿をお見せするのは初めてですね』
『今回からは皆さんにより情報をお伝えしやすくするために、様々なモニター機器を利用して映像を映し出しています』
『周囲にそういった機器が無い方…例えば、屋外にいる方はこの島の中央の湖辺りの方に顔を向け、空の方を見てください』
『現在、その辺りで先ほど話したものと同じ映像を映し出しています』
『かなりの大画面で映しているため、どこからでもこの映像を見れるとは思います』
『それでも、場所によっては見にくいこともあるでしょうがその場合はどうかご了承ください』


『………準備はよろしいですか?』
『それでは、改めまして放送を開始…と言いたいところですが、今回の担当は私ではありません』
『現在、私がこうして映像越しに話しているのは、ただ皆さんにこの姿を見せるためだけに過ぎません』
『元々の予定では、今のような形で初めて皆さんに私の姿を見せるはずでしたが…前回の放送時には映像を中継する用意が間に合わず、あのような形となってしまいました』
『皆さんには殺し合いに集中していてほしいこともあり、この時間になるまではこうして映像を出すわけにもいきませんでした』
『あの時は声だけしか私のことが分からず、快く思わなかった方もいたでしょう。その方々には申し訳ないことをしました』

『私からのお知らせはこれで以上です。本来の放送の前にお待たせしてしまい申し訳ありません』

『それではクウスケ、後はよろしくお願いします』

その言葉を最後にボンドルドが映っていた空中の映像画面にノイズが走る。

映像は切り替わり、ボンドルドとは別の新たな人物が画面に映し出された。


73 : 第一回放送 ◆5IjCIYVjCc :2021/11/08(月) 22:20:53 W2Yt2GK20


新たに画面に映し出されたのは白髪で高校生くらいの容姿をした男であった。
その男について特徴的な点を1つ上げれば、彼は頭の中央辺りに妙な装置を取り付けていた。
その装置は黄色の球体が付いたアンテナのような代物だった。
男は空の映像に映ったと同時に口を開き言葉を紡ぐ。

『さてと、僕の方からもおはようと言っておこうか』
『君たちとはこれが初めてだから、まずは少しだけ自己紹介をしよう』
『僕の名前は斉木空助。ボンドルドと同じくこの殺し合いの主催者の一人をしているよ』

『ただ、時間も押しているし僕のことについての話は一旦ここまでだ。今回は連絡事項に集中したいからね』
『話は少し長くなるから、聞き逃さないよう放送にはしっかりと集中していてほしいな』
『それじゃあ早速、本題に入ろうか』


『初めに、これまでの戦いで命を落とした者達についての連絡だ』
『五十音順で発表するから、名簿を見ながら見落としや聞き逃しが無いようにね』
『また、彼らが一体誰の身体で死亡したかについてもここで知らせよう』
『身体の名は基本的に名簿に載っていないから、これも聞き逃さないようよく注意することだね』

『それから、死亡者たちの精神・身体両方の顔写真も公開する』
『写真はこの画面において君たちから見て左が精神、右が身体の顔で映し出される』
『これらについてもまた、見逃さないように映像からはしっかりと目を離さないことを勧めるよ』
『それじゃあ、発表を始めようか』

映像は次に、2人の人物の顔写真を写すものに切り替わる。
そして、空助の声が脱落者たちの名前を一つ一つその名を呼び始めた。

『鵜堂刃衛…その身体の名は岡田以蔵』
『木曾…その身体の名は村紗水蜜』
『吉良吉影…その身体の名は二宮飛鳥』
『坂田銀時…その身体の名は両津勘吉』
『桃白白…その身体の名はリンク』
『童磨…その身体の名は擬態型』
『鳥束零太…その身体の名はケロロ軍曹』
『零余子…その身体の名は遠坂凛』
『リオン・マグナス…その身体の名はランスロット』
『累の母…その身体の名は港湾棲姫』
『煉獄杏寿郎…その身体の名は相楽左之助』

『以上、11名がこの戦いが開始してから死亡した者達の名前だ』
『最初が60人だったから、残り人数は49人ということになるね』

『それから、この放送が終わった後に君たちの持つ名簿において該当者の名前に線が引かれるようにすることになった』
『もしさっきの発表を聞き逃してしまったなんて人がいたらそれを見て確認すればいいだろうね』


空助が死亡者を発表し終えると、映像を再び切り替えられ、続けざまに次の話が始まる。

『次は禁止エリアを発表しようか』
『今回禁止エリアとなるのは【D-1】【F-5】【G-2】の3か所だ』
『前にボンドルドが伝えたように、禁止エリアが有効となるのは2時間後、今の時間から数えれば午前8時からということになる』
『その時間になる前には今指定した場所からは出る、もしくは近づかないことを勧めるよ』
『禁止エリアは今後も増えていくから、その点にも十分気を付けることだね』


『次に君たちに支給済みでもあるこの島の地図についての話をしよう』
『何人かは気付いているみたいだけど、全員に配布されている地図には後から施設の場所と名前が浮かび上がるようになっている』
『実は名前が浮かび上がるのには条件があってね…』
『その条件は、誰かが1人でもその施設の敷地内に足を踏み入れることなんだ』
『僕の言葉が本当かどうかは、また地図を見て確かめてみたらいいだろうね』
『もしかしたら、どこかに誰にも見つかっていない施設がまだあるかもしれないよ?』

『何だったらついでに、今回発表した禁止エリアとなる場所も分かりやすいようにしておこうか』
『この放送が終了したら地図の該当箇所に×印が浮かび上がる』
『これなら放送が終わった後に筆記用具が手元に無くて地図にメモできない状態でも困ることはないだろうね』
『禁止エリアにうっかり入って死んでしまうなんてのもアレだからね、もう一度言うけど地図の確認はちゃんとしておいたほうがいいだろうね』


74 : 第一回放送 ◆5IjCIYVjCc :2021/11/08(月) 22:22:23 W2Yt2GK20
『最後に、これまで生き残った者達にボーナスがあることの連絡だ』

『今回新たに配布することが決定したのは、この殺し合いにおける【精神】と【身体】の組み合わせを記した名簿だ』
『ただし、これを入手できるのは条件を満たした一部の参加者だけだ』

『組み合わせ名簿を入手できるのは、この戦いにおいて誰かを殺害することに成功した者達のみとする』
『この条件を満たす者にだけ、放送終了後にこの新たな名簿がデイパック内に転送される』

『一応言っておくけど、この名簿を入手できるのは今も生き残っている人だけだ』
『誰かの殺害には成功したけど、自分も死んじゃったって人のデイパックの中を探ろうとしても意味はないことを予め伝えておくよ』

『ああ、それとこの名簿の配布の機会は今回だけじゃない』
『次回の放送時にも新たに殺害に成功した者が現れれば、その人達にも組み合わせの名簿を配布する予定になっている』
『新しく欲しかったら、頑張って誰かを殺しておくのもいいかもしれないね』

『ただし、このチャンスはその次回放送時を最後にする予定だ』
『もし名簿が新しく欲しいのなら、今日の昼までに間に合わせることだね』

『ボーナスについての話はこれで以上にしようか』



『ああ…それからもう一つ、君たちに伝えておかなきゃいけないことがあるんだ』

『君たちがこの映像越しに見ているこの顔なんだけど…実はこれは僕の本当の顔じゃないんだ』
『顔だけじゃない。この身体がそもそも僕のものではないんだ』

斉木空助はそう言って、映像の中で自分の顔に向けて指を差した。
そこに映るのは先ほどと何ら変わらない「白髪」の男の姿だ。

『先に言っておくと、実は僕たちも君たちと同じように、別人の身体で過ごしているんだ』
『ちなみに僕が使っているこの身体の名前は確か「小野寺キョウヤ」と言ったかな?』

『……まあ、実のことを言うと今回はこのことについてはただ伝えるだけなんだ』
『何故僕もこんな状態になっているのか、今はこれ以上教えられないことになっている』
『もしこのことについての詳細を知りたければ、今後もこの戦いをしっかりと進めることだね』


『さて、これで今回の放送で連絡すべきことは全て伝え終わったかな』

『それじゃあ皆、またね〜』

斉木空助が手を振りながら微笑みを浮かべて発したその言葉を最後に、放送の終わりを告げるチャイムが鳴り、島中の映像も同時に消えた。



【主催陣営】

【ボンドルド@メイドインアビス】
[身体]:???@???
[備考]
※放送の際に島中に流れた映像の中では、本来の自分の服装と自身の象徴である仮面を着けていました。

【斉木空助@斉木楠雄のΨ難】
[身体]:小野寺キョウヤ@無能なナナ
[備考]
※放送の際に島中に流れた映像の中では、小野寺キョウヤの姿で頭に【テレパスキャンセラー@斉木楠雄のΨ難】を取り付けた状態でいました。


75 : 第一回放送 ◆5IjCIYVjCc :2021/11/08(月) 22:23:37 W2Yt2GK20


【死亡者発表について】
・死亡者は名前だけでなく、身体の名前、精神と身体の両方の顔写真が発表されました。
・全参加者の持つ名簿において、今回発表された分の死亡者の名前の上に赤い線が引かれました。

【地図について】
・参加者が持つ地図において、施設の位置と名前が浮かび上がる条件が伝えられました。
・また、放送終了後には、禁止エリアとなった場所には分かりやすいよう×印が浮かび上がるようになりました。

【ボーナスについて】
「組み合わせ名簿」
・参加者全員の『精神』と『身体』の組み合わせを記した名簿です。
・この名簿は殺し合いにおいて誰かの殺害に成功した者のみにデイパックに転送されます。
・上記の条件を満たしていても、死亡者のデイパックにはこの名簿は配布されません。
・名簿では、精神の名前を基準に五十音順に記されています。

今回の組み合わせ名簿の入手者は以下の通りです。
・ン・ダグバ・ゼバ
・アーマージャック
・メタモン
・絵美理
・大首領JUDO
・貨物船
・魔王


[書き手へのお知らせ]
【予約について】
・基本の予約期限を1週間から10日に変更します。
・延長期間やゲリラ投下についての変更事項はありません。


76 : ◆5IjCIYVjCc :2021/11/08(月) 22:26:44 W2Yt2GK20
放送の投下はこれで終了です。
予約・投下については明日の11/9(火)の18:00から再開とします。

それから、皆様のご尽力により本ロワは第一回放送の突破を迎えられました。
積極的に書いてくださった書き手の方々への感謝の意をここで述べさせていただきます。
ここまで読んでくださった方、感想を残してくださった方々にもお礼申し上げます。
本当にありがとうございました。
引き続き、チェンジ・ロワイアルをよろしくお願いいたします。


77 : 名無しさん :2021/11/08(月) 22:47:51 zRC2kFBQ0
黒幕の目的が非常に気になる魅力的な内容でありました。今後も頑張ってください。


78 : ◆5IjCIYVjCc :2021/11/08(月) 23:39:06 W2Yt2GK20
すいません、禁止エリアについて訂正です。
禁止エリアの一つを【G-2】としていましたが、【E-7】に修正します。


79 : ◆OmtW54r7Tc :2021/11/09(火) 18:19:09 jfoGzXGQ0
放送乙です
死亡者の精神と肉体両方の情報を伝えたり、報酬にネタバレ名簿があったりと、このロワならではの要素で面白いですね
そして新しく判明した主催陣営、ナナさんにダイレクトに直撃する組み合わせで、あの対主催チームの重要性が更に増してきた
放送後、各々がどういう展開を迎えるか、楽しみです

というわけで予約・投下の解禁時間となったようなので、早速ですがゲリラ投下させていただきます


80 : 運命を解き放つ ◆OmtW54r7Tc :2021/11/09(火) 18:20:18 jfoGzXGQ0
ジューダスのジョースター邸探索は、結局それほど実りのあるものではなかった。
少なくとも、邸内には特に気になるものは見つけられなかった。
しかし、問題は建物の外側である。
そこに、奇妙なものがあった。

「なんだこの焼死体は…!?」

ジョースター邸の外にある小屋。
そこには、犬の焼死体があった。
何故か針金で口を縛られた状態で。

「先ほど見た火事に巻き込まれたか…?」

ジューダスは一瞬そう考えたが、しかしすぐにそうではないと判断する。
焼死体は、すっかり冷たくなっており、先ほど火事に巻き込まれたばかりとは思えない。
そもそも、西の火事からここまで逃げたとして、犬小屋に入る理由が分からない。
口を針金で縛られているのも謎だ。
この犬は、最初からここにいたと考えた方がよさそうだ。

「ボンボルド…主催陣営の仕業か。あるいは…この屋敷の持ち主であるジョースター家が?」

もし後者なら、ジョースター家というのはなんとも野蛮な家だ。
見たところ、特権階級の人間の家と思われるが、そういう人種の中にはお世辞にもいいとは言えない趣味を持った者もいるものだ。
このジョースター家も、そういう悪趣味な気質の者が住んでいたのだろうか。

「これで大体見て回ったか」

ジューダスは時間を確認する。
6時まで、もうすぐであった。


81 : 運命を解き放つ ◆OmtW54r7Tc :2021/11/09(火) 18:21:06 jfoGzXGQ0
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

「なるほど、つまり僕の名前はジューダスということか」

放送が終わり、ジューダスは難しい顔となる。
自分の名簿上の名前は分かった。
放送でリオン・マグナスの名前が呼ばれるという、最悪の形で。
他にも自分の身体の神崎蘭子と関係が深いらしい二宮飛鳥の身体を使っていたものが死んだらしいが…それは今は重要ではない。
ジューダスは、もしリオン・マグナスが過去の自分なら、歴史改変を阻止するため守るつもりでいた。
しかし、リオンはこんなにも早く死んでしまった。

「…僕が消える、ということはないのだな」

過去の自分が死んだことで未来の存在である自分も消える、ということにはならないらしい。
ジューダスはその理由を考え…ふと、思い出す。
神であるフォルトゥナを倒した後の会話を。


『時空間のゆがみがはげしくなってる・・・・歴史の、修復作用ね』
『神が消滅したことによって時の流れに関する、あらゆる干渉が排除されつつあるんだ』
『僕たちが今までしてきたこともすべてが、なかったことになる』


「…そういうことか」

つまり、ここにいたリオンはエルレインによる干渉を受けてない【正しい歴史】。
自分は干渉を受けた【本来とは異なる歴史】。
確かにリオンとジューダスは同一人物だが、それぞれ異なる歴史に存在しているからこそ、この場にいるリオンが死んでジューダスに影響がなかった、ということだろうか。
そう考えると、リオン・マグナスが死亡後にエルレインとは別経由で蘇生させられた結果、エルレインによる蘇生が行われずジューダスが誕生しない、という危惧は的外れだったことになる。
本来の正しい歴史では、エルレインによるリオン蘇生は行われてないのだろうから。

「よかった…とはとても言い難いな、状況は変わらず最悪だ」

もしも推測通りリオンが正しい歴史のリオンなら…ここで死んだことにより、歴史はまた本来のものから改変された可能性があるということだ。
この場所で名簿を見た時に考えた可能性が、現実となりつつあるということだ。
自分のように死亡後に蘇らされてるなら歴史に影響はないかもしれないが、それも希望的観測だ。
あるいはこの殺し合いに呼ばれた精神というものが、ソーディアンのような擬似人格なら本物のリオンは死んでないかもしれないが、やはりこれも楽観がすぎる。
ここはリオンが元の世界で死ぬ前に呼び出され、精神が本物の魂そのものという、最悪の状況を想定して考えるべきだ。

ジューダスは、考える。
この最悪の状況を打開する方法を。
そして彼の脳裏に、ある一つの計画が浮かび上がる。

「…念には念を、入れておくか」

ジューダスは、ジョースター邸から拝借した紙とペンを使い、文を書き始めた。


82 : 運命を解き放つ ◆OmtW54r7Tc :2021/11/09(火) 18:21:50 jfoGzXGQ0
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

『僕はこの殺し合いにおいて、とある計画を立てた。
 しかし、僕自身がこの殺し合いで最後まで生き残れるとは限らない。
 故に、この計画を他の参加者にも共有するため、この文を残そうと思う。

 まず、僕の名はジューダスだ。
 しかし、かつてはリオン・マグナスと名乗っていた。
 この場に呼ばれたリオン・マグナスは、おそらく過去の僕だ。
 そして、放送を聞いての通りリオン・マグナスは死んだ。
 過去の僕が死んでいるのに未来の僕が生きている理由については、一応推測はたっているが、話が難しくなるので割愛する。
その代わり、『リオン・マグナス』と『ジューダス』の関係について簡単に説明しておく。
18年前、リオン・マグナスは死んだ。
しかし、18年後に神の力を持つ者により僕は蘇生させられ、その後とある人物からジューダスの名前を与えられた。
故に、リオンが生前殺し合いに巻き込まれた事実がないことは僕自身が証人だ。
つまり、ボンボルドたちは本来の歴史を歪ませてリオンをこの場に連れてきた可能性が高いということだ。
リオン・マグナスは良くも悪くも僕たちの世界に大きな影響を与えた人物の為、彼が本来とは違う形で死ぬことは、僕たちの世界の歴史にどのような影響を与えるか分からないので、避けたいと考えている。

そこで、ようやく本題に入らせてもらうが、僕の計画とは、『ボンボルドたちが殺し合いを開催する前の時間軸に時空転移し、歴史の修復をはかる』ことである。
過去と未来の存在であるリオンとジューダスを殺し合いに招いていることから、彼らがなんらかの時空に干渉する力を持っているのは間違いないだろう。
それを利用し、殺し合いが行われる前のボンボルドたち、あるいはこの殺し合いの黒幕を倒し、殺し合いそのものをなかったことにする。
それが僕の計画だ。

僕は、僕自身の人生に後悔などしないし、きっと何度生まれ変わっても同じ道を選ぶ。
しかし、だからこそ他人に僕の人生を、運命を弄ばれるのは許せない。
僕は僕自身の運命の為、そして大切な人が生きるあの世界を守るために、ボンボルドたちの野望を未然に止める。
お前たちもそうだ。
おそらくこの殺し合いに巻き込まれた人物の多くは、本来は殺し合いに巻き込まれることなく異なる運命を生きていたはずだ。
その奪われた運命を取り戻すため、僕に協力してほしい。
                                 ジューダス』


83 : 運命を解き放つ ◆OmtW54r7Tc :2021/11/09(火) 18:23:21 jfoGzXGQ0
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

「こんなところか」

文を書き終えたジューダスは、書いた文章を眺める。
少々内情を詳しく書きすぎたかもしれないとも思うが、しかし単に目的だけ書いて協力が得られるとも限らない。
ジューダスが直接この文を見せるならその場でフォローもできるが、仮に自分が死んだ後に文章だけ見た参加者にはそういうこともできない。
故に、書けることはできるだけ書いておいたのだ。

文を書き終えたジューダスは、それをデイバックにしまうと、この森に入る前に向かう予定だった北の町を目指した。
火事の原因も気になるところだったが、しかし文を書いているうちに火の手はジョースター邸近くまで広がっていた。
これ以上の森の探索は、諦めるしかないだろう。

「いい加減、誰かと遭遇したいところだ」

そう呟きながら、ジューダスは北へ進み森を後にした。


【F-4 北/朝】

【ジューダス@テイルズオブデスティニー2】
[身体]:神崎蘭子@アイドルマスター シンデレラガールズ
[状態]:健康、天使化
[装備]:エターナルソード@テイルズオブファンタジア
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1、ジューダスのメモ
[思考・状況]
基本方針:主催陣営から時渡りの手段を奪い、殺し合い開催前の時間にて首謀者を倒す。
1:北の町へ向かい協力者を探す
2:できれば短剣も欲しい
[備考]
参戦時期は旅を終えて消えた後
天使の翼の高度は地面から約2メートルです
天使化により、意識を集中させることで現在地と周囲八方向くらいまでの範囲にいる悪しき力や魂を感知できるようになりました。


84 : ◆OmtW54r7Tc :2021/11/09(火) 18:24:01 jfoGzXGQ0
投下終了です
これからも頑張っていきましょう


85 : ◆ytUSxp038U :2021/11/09(火) 20:25:57 JZzszXBs0
投下乙です。
ジューダス、マーダー化も有り得ると思ってただけに対主催者を貫くようで安心しました。
ダニーの死体まで再現したせいで、ジョースター家にあらぬ誤解が生まれているのは笑う。

そして放送突破おめでとうございます。
ナナしゃんが更に困惑しそうな人選に、今後どうなるのか目が離せません。

自分もゲリラ投下します。


86 : 軋む世界 ◆ytUSxp038U :2021/11/09(火) 20:27:34 JZzszXBs0
少女が一人、脇目も振らずに駆けている。

血走った目でブツブツと呟く様は、如何に余裕が無いのかを如実に表しているようだった。

「DIO様…!DIO様…!!」

絶えず口から出るのは、絶対的な忠誠を誓う主の名。
ヴァニラ・アイスが崇める、悪の救世主。
DIOこそが世界を支配するに相応しただ一人の御方、それがヴァニラにとっては当たり前の認識。
他の有象無象の輩など、己も含めてDIOに支配される為に生きているに過ぎない。
そう思っていた。そのはずだった。

「認めぬ!認めぬぞ!あんな、あんな化け物が…!!」

どれだけ頭から追い出そうとしても、さっきの画像は離れない。
どう見ても人間では無い、フリーザという名の化け物。
宇宙船のモニターに映った画像を見て、しかしヴァニラが真っ先に感じたのは嫌悪ではなく、圧倒的な畏怖の念。
画像一枚を見ただけで感じ取れるほどの、選ばれた強者のみが持ち得る存在感。
それを感じた瞬間に思ってしまった。
DIOに匹敵する程の悪のカリスマの持ち主ではないかと。そんな者、存在してはならないというのに。

焦燥するヴァニラを嘲笑うかのように、チャイムが鳴り響く。
主催者による定時放送の合図だ。

「ッ!ボンドルド…!」

島の中央に浮かんだ巨大な画面。
そこに映る仮面の男こそ、DIOをふざけた催しに巻き込んだ張本人。
歯が砕けんばかりに噛み締められ、ありったけの殺意を籠めた視線をぶつける。
当のボンドルドはこちらの怒りなどどこ吹く風で、淡々と説明をこなしているのが、これまた非常に腹立たしい。

「貴様…!よくも私にあのような…!!」

そもそも、ボンドルドがあんな宇宙船など配置しなければ。
もっと言えば、DIOと自分を殺し合いなんぞに巻き込まなければ、こうも心をかき乱される事は無かった。
あの男の存在が、自分の全てであるDIOへの忠誠心に余計な水を差したと言っても過言ではない。
叶うならば今すぐにでも暗黒空間へ送ってやりたいが、画面越しの相手へどれだけ怒をぶつけても無駄だ。
それにこれから奴が話すのは、今後の殺し合いに関わる情報。
怒りに身を任せて重要な情報を聞き逃すような失態を犯す訳にはいかない。
腸が煮えくり返る思いながらも、ボンドルドの紹介を受けた青年の言葉に耳を傾けた。





87 : 軋む世界 ◆ytUSxp038U :2021/11/09(火) 20:28:36 JZzszXBs0
『それじゃあ皆、またね〜』

舐めているとしか思えない態度の青年を睨みつけながら、得られた情報を整理する。

まず禁止エリアについてだが、ヴァニラが現在いるD-1が指定された。
ただこれに関してさほど焦りは無い。
禁止エリアが機能するのは今から2時間後。移動する猶予はたっぷりある。
ざっと見回したところ、周囲に施設らしきものは見当たらない。
こんな草木と砂浜しかないエリアへ好き好んで訪れる参加者がいるとは思えず、ここよりも東にある病院や、南の街へ行くに決まっている。
ならば長居は無用だ。

ボーナスである名簿は、一人も殺していないどころか未だ誰にも会っていないヴァニラに手に入れられるはずもなく、
DIOの体が誰に使われているかを知るには使えると留めておいた。

死んでいった連中に対して思う事は特に無い。
精神も体も知らない者達ばかりだ。
精々、首輪を外せるかもしれない者がいたなら惜しい事だ、それくらいだった。
空条承太郎がまだ生きている事には、忌々しいとは思いつつも、無駄にしぶといジョースターならば納得がいく。
やはりこの手で息の根を止めてやらねばなるまい。

「DIO様もご無事であられるか……」

唯一の朗報である、DIOの名は呼ばれなかった事。
それには安堵の思いで胸を撫で下ろし――



「………………………は?」

今自分は何と言った?
DIO様が無事?DIO様が死んでいないことに安堵した?

自分で言った事が信じられず、ヴァニラの顔が急速に青褪める。
DIOが無事かどうかを考える、それ自体が余りにも無意味。
何故ならDIOに敗北や死などあり得ない。
例え身体を別人に変えられ、普段より苦戦を強いられる事が有ろうと、最後には勝利を収める。
希望的観測などではない、純然たる事実としてDIOが勝利するという結果が有る。
世界の頂点に立つ帝王の勝利は絶対、そこに異論を挟む余地は皆無。
どこぞのゴミに体を使われているだとか、与えられた体が使い物になるかなどの危惧はあれど、その生死に関しては一切の心配は無用。
むしろそこを危惧するのは、DIOの力を信じていない事に繋がる。正に不敬の極み。

だというのに自分は、よりにもよって「DIO様が死んでいなくて良かった」などと安堵した。

これではまるで、DIOの力に疑いを抱いているようではないか?

「お…お……ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」

絶叫を上げ四つん這いになると、己の額を地面に叩きつけた。
プリキュアに変身し一般人よりも遥かに頑丈になっているとはいえ、何度も行えばズキズキと痛み出す。
しかし今のヴァニラに、その程度の痛みを気にする余裕は消え失せていた。

「クソッ!クソッ!ド畜生がっ!!!」

罵倒は全て自分自身へ向けられたもの。
もし目の前にDIOがいたなら、ヴァニラは即座に自決を選んでいた。
いや、実際今でも死にたくて仕方がない。
よりにもよってDIOの勝利を疑うような発言をしてしまったのだ。
もし時間を戻せるのなら、数十秒前の自分をクリームの餌食にしている。


88 : 軋む世界 ◆ytUSxp038U :2021/11/09(火) 20:29:57 JZzszXBs0
「……だが、まだ死ぬ訳にはいかん。承太郎を始め、DIO様の栄光を阻む屑どもを消し去らねば…!」

今考えるべきは、DIOの為に動く。ただそれだけでいい。
殺し合いに拉致される前から、ヴァニラの行動指針はいつだってDIOに忠義を尽くす。
その一つだけだった。
どうもこの地に来てからはいらん事に思考を引っ張られている気がするが、ここから先、それらの考えは全て不要。

余計な全てを振り払うかのように、或いは己を誤魔化すかのように、ヴァニラは再度駆け出した。


ある意味ヴァニラ・アイスは幸運だったのかもしれない。
宇宙船で見つけたフリーザの画像。
たった一枚を見ただけで、予想だにしなかった悪寒が走ったのだ。
もし他の映像記録でフリーザが惑星を支配下に置く様を見てしまったら、
若しくはフリーザ本人と対面するような事があったなら。
ヴァニラの心はへし折れ、本当に再起不能となっていたかもしれない。
そう考えると、画像一枚で済んだのはまだマシだろう。

しかしだ、フリーザの画像を目の当たりにした影響は確実に現れている。
DIOというただ一人の主に忠義を捧げる、誰にも侵される事のないヴァニラの世界。
そこに今、フリーザという劇薬により罅が生まれた。

もしもこの先、世界を支配するDIOのカリスマに僅かでも疑問を抱いたなら、
DIOに並ぶかそれ以上の悪のが存在すると確信してしまったのなら。

その時こそ、ヴァニラの世界は完膚なきまでに崩壊するだろう。


【D-1 草原/朝】

【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:立神あおい@キラキラ☆プリキュアアラモード
[状態]:疲労(小)、額に鈍い痛み、精神的動揺、キュアジェラートに変身中
[装備]:スイーツパクト&変身アニマルスイーツ(ライオンアイス)@キラキラ☆プリキュアアラモード
[道具]:基本支給品、回転式機関砲(ガトリングガン)@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-
[思考・状況]
基本方針:DIO様以外の参加者を殺す
1:余計な事は何も考えず、DIO様の元に馳せ参じ指示を仰ぐ
2:参加者は見つけ次第殺す。但し、首輪を解除できる者については保留
3:DIO様の体を発見したらプリキュアの力を使い確保する
4:空条承太郎は確実に仕留める
[備考]
※死亡後から参戦です。
※ギニューのプロフィールを把握しました。彼が主催者と繋がっている可能性を考えています。


89 : ◆ytUSxp038U :2021/11/09(火) 20:31:50 JZzszXBs0
投下終了です。


90 : 名無しさん :2021/11/09(火) 22:22:57 MuH9Zito0
投下乙です!

>運命を解き放つ
ジューダス、過去の自分が死んでも思ったより落ち着いていて何より
そして特に何かに使えそうなわけでもないのに、わざわざ死体をロワ会場に運ばれたダニーに合掌

>軋む世界
フリーザショックが悪化してますな、ヴァニラ
完全に壊れる前に、DIOと再会できるのかどうか


いろは、リト、檀黎斗、ギニュー予約します


91 : ◆5IjCIYVjCc :2021/11/09(火) 22:42:00 oT4pEHlw0
>>90
すみません、こちらの予約についてですが、トリップを付けることをお願いしたいです。


92 : ◆NIKUcB1AGw :2021/11/09(火) 23:51:27 MuH9Zito0
申し訳ありません
トリップが外れてたのに気づいていませんでした


93 : ◆ytUSxp038U :2021/11/10(水) 00:22:41 ku7tfGZY0
感想ありがとうございます。

伊藤開司、ニコ・ロビン、ゲンガー、エーリカ・ハルトマン、絵美理を予約します。


94 : ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 20:35:36 24Ies7Ls0
投下します


95 : Wの悲劇/悪魔と悪魔 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 20:36:49 24Ies7Ls0
ロビン、ゲンガー、ハルトマンの三人は会場の南東にある島を調べる為にカイジ達と別れ、現在D-7の街にいた。
街を経由して南下、F-7にある橋を渡り目的地を目指す。
そう提案したロビンに従い、こうして街を訪れている。
余裕があれば街全体を調べて協力してくれる参加者を探すのも有りだが、第一に優先するのは島の調査。
あまりのんびりと見て回るつもりはない。

「ポケモンに、海賊かぁ…」

驚きを含んだ言葉がハルトマンから出る。
移動がてら、互いの仲間や名簿にあった知っている名の者についての情報交換。
そこで知ったのは、それぞれの住む世界の常識が余りにも違う事だった。
ロビンの言うゴールド・ロジャーと大海賊時代、ゲンガーの言うポケモンことポケットモンスター、そしてハルトマンの言う魔女(ウィッチ)とネウロイ。
どれも各々の世界においては知っていて当然、むしろ知らない方がおかしい。
だがハルトマンはゴールド・ロジャーもポケモンも知らず、同じくロビン達もウィッチやネウロイを知らないと言う。
これは互いの常識が違う、というより存在する世界そのものが違うのだと気付くのにそう時間は掛からなかった。

(まぁ、操真のプロフィールを読んでなかったら、私も気付けなかったろうなー)

思い返すのは自分に与えらた肉体の持ち主。
晴人がこれまで経験してきた事の中には、それまで住んでいたのとは違う、所謂異世界に転移されたというのがあった。
魔法石という魔力が込められた石の中に存在する世界に迷い込み、その世界を統治する男と戦ったとのこと。
他にも嘗て晴人が戦ったアクマイザーという連中は、元々魔界という場所にいた種族らしい。
更に詳細は不明だが、晴人が共闘した戦士の中には異世界を旅する仮面ライダーもいたと書かれていた。
ここまで記されているのなら、別の世界の存在というのは間違いではないのだろう。

(んー…、やっぱりあの人は関係無さそうかな?)

カイジ達と出会う前、殺し合いにはトレヴァー・マロニーも一枚噛んでいる可能性を考えた。
しかし、やはりその可能性は非常に低い。
何と言うか、数多の世界の出身者を拉致しての殺し合いを運営するには不釣り合いな人物なのだ。
501部隊への復讐だとか、ウォーロック以上の兵器開発だとか、殺し合いに関わる動機にしては弱い気がする。
言うなれば、殺し合いの主催者に据えるには少々器が足りない。
ボンドルドと名乗った得体の知れない男の協力者にしては、何か違和感がある。
それに復讐目的ならば、やはり最初に思ったように精神と肉体でそれぞれ自分とバルクホルンのみを参加させているのも不自然だ。
もし本当にマロニーが主催側にいるなら、彼が一番恨んでいるだろうミーナを参加させるくらいはしそうなものだが。

(じゃあ他に誰が関わってるのかって言うとねぇ…)

晴人がこれまで戦って来た連中には、数名殺し合いを開催しそうな者がいた。
だがその者達は皆晴人や仮面ライダー達に敗れ既にこの世にはいない。
となると自分や晴人とは無関係の、ロビンやゲンガー、或いはカイジ達に関係のある者が関わっている可能性も出て来る。
結局のところ、主催者に関して分かる事と言えばロクでもない連中の集まりということくらいか。

(大丈夫かな……)

自然と殺し合いに巻き込まれた仲間の顔が浮かぶ。
トゥルーデと言う愛称で呼ぶ同室の、友の顔が。
どうやら彼女の肉体も参加者の誰かに与えられたらしいが、精神の方は不参加。
一体どこにいるのだろう。
可能性が高いのは主催者に捕えられている。考えたくは無いが、用済みとして既に始末されているのも有り得なくは無い。

そんなのはあんまりだと思う。
自分もバルクホルンも軍人だ。何も死にたいと思っている訳では無いが、どうしようも無くなった時の覚悟くらいはしている。
どれだけ事前の備えをしていたとしても、戦場では予想外の災難が降り掛かるのは珍しくも無い。
殺し合いの直前、キール軍港奪還のルート偵察で撃墜されてしまった時のように。
だから戦場で命を落とすのは、悲しくて嫌だけど、それでもそういう時もあるのだと理解できる。
けれどこんな、殺し合いなんて悪趣味なものに巻き込まれて殺されるなんて納得できる訳がない。

それに体の持ち主である晴人の精神の行方も気掛かりだ。
直接会った事は無いが、プロフィール通りならば決して死んで良い男じゃない。
両親を失い、大切に想っていた少女まで失った彼の命まで奪ったというのなら、自分はボンドルドを前にした時怒りを抑えられないだろう。

どれだけ不安に思っても、今のハルトマンに彼らの無事を確かめる術は無い

渋い顔で何となしに空を見上げた時、チャイムが鼓膜を叩いた。


96 : Wの悲劇/悪魔と悪魔 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 20:37:52 24Ies7Ls0



放送が終わった後、三人は暫し立ち尽くしていた。
死亡者の中にカイジ達は含まれていない。
それについては安堵すべきだろう。

(……やっぱり、死んじまったのかよ)

表示された死亡者の写真。
その中に一人、ゲンガーには忘れられない顔がいた。
イジワルズの特別ゲスト、木曾。
水兵服を着た少女の本来の姿は、眼帯をして凛とした顔立ちの少女。
殺し合いで出会った姿と本当の姿、その両方をハッキリ目に焼き付けた。

正直に言えば、ほんの少しだけ期待していた。
奇跡的に一命をとりとめていて、自分の前にヒョッコリ顔を出すのではと。
「悪い、心配かけたな」、なんて軽い調子で笑ってきやがるんじゃあないかと。
そんな光景があるんじゃないかという僅かな期待は、放送によって無慈悲に崩れ去った。

(ケケッ…馬鹿な事考えちまったぜ)

ありもしない幻想に、つい自嘲の念が浮かぶ。
木曾は死んだ。これは覆せない事実。
人も、ポケモンも、艦娘も命は一つ。死んだらそこで終わり。
そんな常識から目を逸らそうなど、我ながら馬鹿な事を考えたものと小さく笑う。

(それに、あの野郎もくたばってたみたいだしな)

木曾の命を奪った剣士。
鵜堂刃衛という名らしい男もまた、死亡者として名を連ねていた。
必要な犠牲だったなどとは微塵も考えたくないが、それでも木曾の死は無駄なんかじゃない。
それがハッキリしたのは、唯一の朗報か。
それと木曾が危険だと話していた港湾棲姫、その体に入っていた者も死んだらしい。
こちらについては殺し合いに乗っていたのかどうかはか知らないので、良いか悪いかの判断は付けられないが。

(…何時までもウジウジしてんのは性に合わねぇな)

木曾が死んだのは確定した。
ならば、その事実に悲しみや悔しさはあれど何時までも引き摺るつもりは無い。
ここから先はイジワルズのリーダーとして、ボンドルドや空助とかいう青年にキッチリと落とし前を付けさせるのみ。
連中が殺し合いの完遂を望んでいるなら、自分はそれを徹底的に邪魔してやる。

(ケケッ!オレの活躍、あの世でしっかり見てやがれ!)

逝ってしまった仲間へ向けて、胸中で伝える。
一瞬、彼女の呆れ笑いが浮かんだような気がした。

「坂田銀時って、確か神楽の仲間だよね?」
「ええ…。そう聞いてるわ」

ハルトマンの質問に、ロビンは暗い顔で答える。
発表された死者の中には、神楽が心配していた万屋メンバーの銀時もいた。
自分達が島で情報交換をしている最中に、会場のどこかで命を落としたらしい。
定時放送は参加者全員に知らされるものだ。神楽も銀時の死を知ったはず。
思い返せば神楽は自分達の中で特に、一刻も早く島を出ようとしていた。
それだけ仲間である銀時と新八が心配だったのだろう。


97 : Wの悲劇/悪魔と悪魔 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 20:38:54 24Ies7Ls0
(大丈夫かしら…)

そんな大切な仲間の死に神楽は打ちのめされていないだろうかと、心配になる。
下手をすれば、銀時を殺した者への怒りで平常心を失っているのかもしれない。
自分だってもし、ルフィ達が殺されるような事があったら、殺害者への怒りで我を忘れるかもしれないのだから。

「どうする?アイツらを追って様子を見に行くか?」
「…いえ、神楽にはカイジと康一が付いてるわ。私たちはこのまま島を目指しましょう」
「反対はしないけど…良いの?」
「ええ。問題無いわ」

ゲンガーの提案を断り、予定通り島の調査を優先する。
6時間で11人が命を落としている。
ここから先、殺し合いは更に激化するだろう。なら自分達も迅速に動かねばなるまい。
神楽のことが心配でない訳ではないが、幸い彼女は一人ではない。
カイジも康一も気遣いのできる人間だ。
きっと神楽の支えになってくれるはずと、自分を納得させた。

「そっか…うん、分かった」

ロビンが迷いを見せているなら、自分がカイジ達を追おうかと言うつもりだったが、
本人がキッパリ問題無いと言うなら、しつこく食い下がる気は無い。
差し当たっては、目先の問題へ切り替える。

「さっきの放送通りなら、私たちがいるD-7のすぐ下が禁止エリアなんだよね」
「ええ。と言ってもすぐに機能するのではないらしいけど」
「ってことは、このまま真っ直ぐ突っ切っても問題は無ぇか?」

ロビン達が想定していた島へのルート。
C-7から出発し南にあるD-7とE-7を経由、そのまま南へ進み続ければF-7に掛かる橋へ到着する。
その予定だったが、E-7が禁止エリアに指定されたのは予想外であった。
尤も禁止エリアとして効果が出るのは今から2時間後。
急いで移動すればギリギリ間に合うかもしれない。

「いえ、少し遠回りになるけど、ここは安全を優先しましょう」

そう言ってロビンが提示したのは迂回するルート。
まずここから西であるD-6へ行き、次に南のE-6へ移動、後は道路に沿って橋を目指すというもの。
そのまま南下するよりも時間を食うが、禁止エリアは避けられる。
ロビンが危惧するのは、殺し合いに乗った参加者の妨害を受け、禁止エリアで身動きが取れなくなる可能性だ。
もし全員が重傷を負ってまともに動けなくなったら、禁止エリアからの脱出もままならない。
そこで迂回を選んだ。

「ならよ、道中地図に載ってる施設も確認しといて損は無いかもな」

ゲンガーが指を指したのは、街にある二つの施設。
283プロダクションと純喫茶ルブラン。
どちらも聞いたことの無い場所だが、地図に載っているということは誰かが既に訪れたという事だ。
もしかしたら友好的な参加者もいるかもしれない。


98 : Wの悲劇/悪魔と悪魔 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 20:40:28 24Ies7Ls0
「決まりね。ならまず283プロダクションという場所から――」

言葉を途中で切り、咄嗟に一点へ視線を向けるロビン。
その行動をゲンガーとハルトマンも不審に思う事無く、彼女と同じ方向を見る。
三人の耳に届いたのだ。何かが低く唸るような音が。

「二人とも…」
「うん」
「ケッ、さっさと出てきやがれ」

警戒するロビンに応じ、それぞれベルトや刀を取り出す。
願わくば仲間になってくれる者で会って欲しいが、それだけとは限らない。
刃衛のような危険人物ならば、戦闘は避けられないだろう。
音は徐々に大きくなっていく。
緊張の面持ちで見つめる彼らの前に、とうとうソイツが現れた。



「いよっしゃぁぁぁーっ!獲物だぁぁぁぁぁっ!!」



頭部と両腕から回転する刃を生やした怪物。
低く唸るような音は、三本のチェンソーの稼働音。
チェンソーの悪魔に変身した絵美里が、再び己の身体を返り血に染め上げんと吼える。

「…何だありゃ。お前が言ってたネウロイって奴か?」
「いやー、違うと思う…。もしかしてゲンガーと同じポケモンだったり?」
「あんなやつ、ポケモンセンターでも門前払いされるぜ」
「能力者…かしら?」

初めて見る異形の姿に、困惑する三人。
だが呑気に眺めている場合では無い。
怪物が自分達に向けるのは、お世辞にも有効的とは言えない態度。
腹を空かせた肉食獣を前にした時のような空気を、嫌でも感じる。
警戒を緩めず、ロビンガ一歩前に出て問い掛けた。

「先に聞いておくわ。あなたは殺し合いに…」
「乗ってるに決まってんだろうがぁぁぁっ!どいつもこいつもつまんねぇ質問してんじゃねえぞぉぉぉっ!」
「うーん…取り付く島もないね」

単純明快な返答に、ハルトマンは引き攣ったような笑みを浮かべる。
それも一瞬の事、すぐに真剣な面持ちとなり気を引き締めた。
相手の正体は不明。分かるのはこの怪物を放置するのはマズい。
ならばやる事は一つ、ここで自分達がどうにかする。
ネウロイとの戦いと同じだ。冷静に戦況を見極め、どう動くかは即決あるのみ。
腰にはウィザードライバーが、指にはリングを装備済みだ。
後は体の持ち主である晴人と同じように、変身するだけ。

(操真、今は力を貸してもらうね!)

『シャバドゥビタッチヘンシーン!シャバドゥビタッチヘンシーン!』

「変身!」

『ハリケーン!フー!フー!フーフーフーフー!』

バックル中央部の手形、ハンドオーサーの向きを変え指輪を翳す。
すると真横に出現した緑色の魔法陣が、ハルトマンの姿を変えた。
緑の宝石に似た頭部と胸部装甲、ヒラリと風に舞う黒のローブ。
指輪の魔法使い、仮面ライダーウィザード。
その基本形態の一つであるハリケーンスタイルだ。

「いやベルトのテンションおかしくない…?」

自分で変身しておいて何だが、今更ながら変身時の呪文詠唱にツッコミを入れる。
あれが毎回流れていたら、敵も困惑したのではと少々ズレたことを思う。
が、今はそんな場合ではないと絵美里へ向き直る。
その手にはウィザード専用の武装、ウィザーソードガンが握られていた。
剣はともかく、銃という使い慣れた武器があるのは有難い。
ウィザードに並ぶようにロビンはハンマーを構え敵を睨みつける。
ゲンガーも刀を構えつつ、何時でも距離を取って幽体離脱を行えるようにしている。


99 : Wの悲劇/悪魔と悪魔 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 20:41:46 24Ies7Ls0
「クソうるせぇもん聞かせてんじゃねえぞゴラァァァッ!!」

ウィザードへ叫びながらも、冷静に思考する絵美里。
相対する敵は三人。対してこちらは自分のみ。
数では明らかに自分が不利。それに敵の力は未知数。
変身した青年も、筋骨隆々の女も油断はできない。
金髪の青年は見たところ特別戦闘が得意なようには見えないが、何か特殊な能力の持ち主の可能性もある。
全員殺す気ではいるが、無策で突っ込む気は無い。
数時間前の戦闘とて、煉獄にトドメを刺す段階でエボルトと蓮が乱入し撤退する羽目になった。

「では、ここは彼にも働いてもらいましょう」

唐突に異様な程落ち着いた口調となる絵美里。
一度片手のチェンソーを引っ込め、デイパックの口を開く。
取り出すのは放送の前に自分が殺した(と思っている)、竜巻の中にいた男の支給品だ。

「出て来いやぁぁぁーっ!」

絵美里の声に応える様に、デイパックから大きな影が飛び出した。

「なっ…」
「はぁ!?」

出てきたのは、チェンソーの悪魔同様に人間とはかけ離れた姿の存在。
灰色のゴツゴツとした脚部と胴体。
両腕の先には本来ある筈の五指は無く、代わりにあるのは四つの銃口を持つガトリングとクロー。
頭部に目や口といったパーツはなく、奇妙な光を放っていた。

まるでロボットのような外見をした存在の名は、ガーディアン。
スカイウォールの惨劇後の日本にて、難波重工が開発した機械の兵士である。
絵美里が出したのはハードガーディアンと言う、三都に配備された物を大きく超える戦闘力を持つ強化タイプのガーディアンだ。

右腕から再度チェンソーを生やし、ハードガーディアンもガトリングを向ける。

「皆殺しだアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

絵美里がハルトマンに飛び掛かるのと、ロビンがゲンガーの腕を掴んで飛び退き銃弾を躱すのは、ほぼ同時だった。

振り下ろされたチェンソーを、ウィザードはバックステップで避ける。
ヒラリと宙で一回転し、地面に足を着いた途端、横へとステップを踏んだ。
コンマにも満たない直後、降り立った場所へチェンソーが叩きつけられる。


100 : Wの悲劇/悪魔と悪魔 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 20:42:58 24Ies7Ls0
「くたばれぇぇぇっ!」

怒声と共に突き出されるチェンソー。
ライダーの装甲があるとはいえ、相手の凶器も人外の力で生まれた物。
直撃した際のダメージは、きっと軽いものでは済まないはず。
故にウィザードは跳躍して回避を選択。チェンソーは空を切る。
真っ直ぐ自身の頭上にではなく、絵美里の頭上を跳び越えるかのようにウィザードは跳ね上がった。
絵美里は上空を見上げ頭部のチェンソーで斬り落とさんとする。
ウィザードには僅か数ミリ届かず、己の背後への着地を許す結果となった。

「舐めてんじゃねえぞぉぉぉっ!」

振り返りつつ両腕のチェンソーを叩きつける。
長大な腕を振り回しているとは思えない程に速い。
鍛えた人間程度なら、反応もままならず真っ二つにされる事間違いない。
されど相手は歴戦のウィッチが変身した、希望の魔法使い。
怪物相手の戦闘には飽き飽きするくらいに慣れている。

「よっ、と!」

またもやバックステップで躱す。
ウィザードの基本戦法は敵の攻撃に対し防御よりも、こういった回避に重点を置いたもの。
そして避けるだけで終わらせる気は無い。
宙で回転しつつ、ガンモードのウィザーソードガンを絵美里へ向け、トリガーを引く。

小気味良い銃声が鳴り響き、銃口から次々に発射される銃弾。
対ファントム用に内部の魔力で生成された、銀の弾だ。
一直線に向かってくる銀の弾を斬り落としながら、横に跳んで躱す絵美里。
平然と行ってはいるが、発射された銃弾を斬るのも躱すのも、人間が行える芸当ではない。

「痛ぇぇぇっ!?」

困惑を含んだ絶叫が上がる。
絵美里の両脚に二つ、銀の弾が貫通し傷が生まれていた。
完璧に躱したはずなのに何故?
頭を捻っても答えは出来て来ない。

「うわぁ、これすっごい便利じゃん」

仮面越しにウィザーソードガンをまじまじと見つめるハルトマン。
この武器から発射された弾丸には、自動追尾機能が備わっている。
その為、わざわざ狙いを付けなくとも弾丸は勝手に敵へ命中するのだ。
それを懇切丁寧に絵美里へ教えてやる気は無く、続けて引き金を引き続ける。


101 : Wの悲劇/悪魔と悪魔 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 20:44:20 24Ies7Ls0
「しゃらくせぇぇぇっ!」

自分を狙う銃弾に怯まず絵美里は両腕を振るう。
敵の銃にどんな仕組みがあるにせよ、避けても無駄なら全て斬り落とせばいい。
シンプルな思考に従いひたすらに弾丸を斬り続ける。
無論、その場で棒立ちとなったままの膠着状態は望まない。
故に腕を振るって銃弾を防ぐのは変わらず、ウィザード目掛けて駆け出した。

突っ込んでくる絵美里へ、ウィザードは回避ではなく迎撃を選択。

(えっと、こんな感じかな)

発動するのはハリケーンスタイルに備わった能力。
使うのは始めてだが、自分の固有魔法と似た物らしい。
なら自分が使う、疾風(シュトゥルム)を発動する時と同じ感覚で魔力を体に纏わせる。
見事に成功し、ハリケーンスタイルの証でもある緑色の魔力と共に体へ風が発生した。

「いっくよー!」

ハリケーンスタイルは他のスタイルよりも、スピードに優れる。
そこへ風を纏い爆発的な加速力を得たウィザードは、生きる弾丸の如き速さを我が物にした。
ウィザーソードガンをソードモードへと変え、絵美里へと真っ向から突っ込んで行く。
敵の急接近に、絵美里は焦る事無く両腕のチェンソーを持って迎え撃つ。
接近して斬り付けると言う、単純な動作を恐るべき速度で行う。
そんな相手とは既に一戦交えている。
煉獄杏寿郎。一度は瀕死にまで自分を追い込んだ剣士を思い返せば、驚きは無い。

「てりゃあああああ!!」
「死ねやあああああああああっ!!」

チェンソーとウィザーソードガン。互いの得物が激突する。
ウィザーソードガンも優れた武器とはいえ、一撃の破壊力はチェンソーが上回る。
されど此度はハリケーンスタイルにより瞬間的に爆発力を発揮、その勢いで斬り付けた。
チェンソーの悪魔と真っ向勝負に十分持ち込める威力を叩き出したのだ。

激突の直後に、二人は後方へと吹き飛ばされる。
自分の体が宙を舞っている、そう認識し即座に地面への落下を防いだ。
ウィザードは風を纏わせゆっくりと、絵美里は身体能力に物を言わせ強引に、それぞれの形で着地する。

今の攻防で、敵は見た目に違わず面倒な相手と断定。
このまま地上を駆けまわって撃ったり斬ったりを繰り返す。
それも一つの手ではあるが、別の戦法を選択する。
ハリケーンスタイルの能力の出し方はもう覚えた。自分の固有魔法とほとんど同じ感覚で発動出来るのだから、当然と言えば当然である。


102 : Wの悲劇/悪魔と悪魔 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 20:45:40 24Ies7Ls0
風を纏ったウィザードの体が浮遊し、再度接近した絵美里の攻撃を躱す。
今度はただの跳躍ではない。
浮遊したままの状態で、再びガンモードへ変形させたウィザーソードガンの引き金に指を掛けた。
上空から雨あられと降り注ぐ銃弾を斬り落とす。避けても追って来るなら、回避に意味は無い。

両脚に力を入れ、ウィザードの元まで跳躍する。
フワフワ浮いているなら地上にはたき落とす。そう考えチェンソーを叩きつけた。
これをウィザード、浮遊した状態から横に移動して回避。
更に避ける瞬間、ソードモードに変形させ斬り付けた。

「うぎゃぁぁぁっ!?」

はたき落とすどころか、斬られて反対に地面に落とされた。
屈辱に針のような牙をガチガチと鳴らしながら、上空を睨みつける。
スイスイと空を優雅に飛ぶウィザードの姿があった。
今度こそはたき落とそうと跳ぶも、呆気なく避けられる。
ならばと周囲の建造物にチェーンを引っ掛け、その反動を利用してウィザードへの接近を試みた。
しかしこれも躱され、カウンター気味に斬られてしまった。

チェンソーの悪魔の身体能力ならば、ウィザドの元へ跳躍も可能なのは確か。
それでも自由に空中を移動できるウィザードと違い、ほんの一瞬の間しか空中にいられない絵美里では不利になるのは当然だ。
何より空というフィールドは、ウィッチにとって最も慣れ親しんだ戦場。
自分と同じ土俵に立ってもいない相手に後れを取る程、ハルトマンは軟では無い。

斬られ地面を転がる絵美里へ銃口を向けながら、ウィザーソードガンの巨大な掌…ハンドオーサーを展開する。
リングを填めた手を翳すと、ハリケーンスタイルの魔力が付与された。

『キャモナスラッシュシェイクハンズ!キャモナスラッシュシェイクハンズ!』

『シューティングストライク!フー!フー!フー!』

銃口から絵美里目掛けて発射されたのは、通常の銃弾よりも遥かに威力を高められた魔力弾。
突風をそのまま弾の形へ変化させたようなエネルギーが、絵美里へと襲い掛かる。
起き上がる間もなく迫る攻撃に、チェーンを近くのビルヘ引っ掛け巻き上げた。
魔力弾がほんの僅かに腕を掠ったものの、直撃は見事に回避成功。
だがウィザードは既に次の手を打った。

『サンダー!プリーズ』

魔法発動用のリングをバックルに翳し、絵美里へ手を向ける。
帯電する腕に、ウィザードはハリケーンスタイルの魔力を続けて纏わせた。
その工程を経て放たれたのは、巨大な竜巻だ。
魔力弾と謙遜無い威力に、範囲はより拡大。
咄嗟に片方の手で防御の姿勢を取った絵美里を、無駄な足掻きとばかりに飲み込んだ。

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!?!」

悲鳴を上げて大きく吹き飛ばされる。
その姿は竜巻に飲み込まれて見えないが、中で揉みくちゃにされているだろう。
数時間前、木曾が起こしたディープウォックスに遭遇し、今度はウィザードの竜巻の餌食になるとは何とも悲惨だった。
竜巻に巻き込まれたまま背後のビルに激突、ガラス窓を粉砕し奥へ奥へと吹き飛ばされていった。


103 : Wの悲劇/悪魔と悪魔 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 20:46:33 24Ies7Ls0
「倒したかな…?」

銃を構えながら、割れた窓へ近づくウィザード。
ビル内部は竜巻の被害をモロに受け、デスクやら何やらが散乱している。
死亡か気絶か。どちらにせよ無力化出来たのなら、ロビン達に加勢したい。
絵美里が吹き飛ばされたであろう、奥を覗き込み、

「ざけんじゃねえそおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

飛び出して来た絵美里に激突された。

「うわぁっ!?」

吹き飛ばされビル外へ締め出されるも、風を纏って持ちこたえる。
何をされたのか。まだ意識のあった絵美里に攻撃されたのは分かるが、先程よりも速い。
一体相手は何をしたのか、その答えは絵美里の姿を見ればすぐに答えが出た。

ウィザード同様、チェンソーの悪魔も宙に浮いている。
だが羽も生えていなければ、風を纏った様子も無い。
これまでと違うのはその足元。奇妙な物体の上に両足を着けている。
雲だ。黄色かオレンジに似た色の雲が絵美里を乗せ、浮遊していた。

アレも敵の能力の一つか、それとも支給品なのか、それは分からない。
ただ一つ、向こうも空を飛べるならウィザードだけが空中飛行が可能というアドバンテージは潰された事になる。

「っしゃあ!第二ラウンドだぁぁぁっ!!」

雄たけびを上げ突っ込んでくる絵美里の姿に、面倒な事になって来たと自然と表情が険しくなる。





握り締めた拳を、眼前の敵へ真っ直ぐに突き出す。
体全体の筋肉を動かして放つストレート。
大神さくらの肉体によるその一撃は、プロ格闘家の技がお遊びに見える程の破壊力を持つ。
されど相手もまた常人の領域で計れる存在ではない。
難波重工が生み出した機械兵、その中でも上位の力を持つハードガーディアン。
左腕のシールドで拳を防御。僅かな破損も無く防いだ。

「フッ!」

右が駄目なら左、それから右とロビンは両の拳を放ち続ける。
ハードガーディアンは全てシールドで防ぐ。
ハリボテのハンマーはガトリングの掃射でとっくに破壊された。
頼れる武器は、己の肉体のみ。
ハルトマンと絵美里がぶつかる傍らで、そんな攻防が繰り広げられていた。

拳を放ちながら、ロビンは二つの事実に内心で驚いていた。
一つは自分に与えられた体、大神さくらの能力。
殺し合いが始まって直ぐ、体が異様に軽く動き易いとは感じていた。
プロフィールによると大神は格闘家をしているとのこと。
ならばこれ程に筋骨隆々の肉体なのも納得がいったが、それでも拳の一発一発にここまでの力が有るとは思いもしなかった。
拳は全て防がれているものの、分厚い金属を殴り続けても痛みは皆無。
ハナハナの実の能力を用いない、純粋な肉弾戦は素人のロビンでも、大神が只者で無い事は理解できる。


104 : Wの悲劇/悪魔と悪魔 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 20:48:20 24Ies7Ls0
大神さくらはただの格闘家ではなく、超高校級の格闘家。
希望ヶ峰学園への入学を許された、選ばれた少年少女の一人だ。
ただ武術に優れているだけの人間では到底届かない、プロの世界に生きる格闘家ですら到達しえない領域に足を踏み入れる者。
それだけの才能がなければ、超高校級の肩書は与えられない。
現に希望ヶ峰学園への入学を許可された者は、明らかに超人と呼べるだけの身体能力を持つ人間が多数いた。
例えば大神と同じ78期生の戦場むくろ。
例えば一つ上の77期生の終里赤音や辺古山ペコ。
例えば希望ヶ峰OBの宗方京助や逆蔵十三。
彼らと同じく、大神もまた超人の域に属する者だ。

その大神の力でも破壊は困難なハードガーディアン。
相対する敵の異様さにもロビンは驚きを隠せない。

ハードガーディアンの外見、デイパックから出た事、そして首輪を着けていない。
何より敵からは生物らしさを一切感じ取れないことから、ロビンは相手が完全な機械だと考えた。
仲間であるフランキーのようなサイボーグとも違う、最初から心を持たない鉄の戦士。
海軍で開発されたパシフィスタのようなものだろう。
バーソロミュー・くまの外見を模したアレよりは、流石に戦闘力は低いだろう。
だがハードガーディアンのスペックは、ライダーシステムに匹敵するくらいには高い。
ブラックホールフォームの仮面ライダーエボル相手には足止めにすらならなかったが、それは相手が悪過ぎただけで十分脅威にはなる。

(くっ、やっぱり効いてる様子は無いわね…)

淡々と己の拳を防ぐハードガーディアンに、ロビンは歯噛みする。
もしこれが大神本人ならば、モノクマと激闘を繰り広げた時のように磨き上げた技を持って攻め立てただろう。
だがロビンの元の体での戦い方は、ハナハナの実の能力を使ったものばかり。
故にこういった能力を使えない状態での戦闘では、シンプルに拳を振るうか蹴りを入れるくらいしかできない。
支給品にハナハナの実があるとはいえ、別人の体を勝手にカナヅチにするのは幾らなんでも抵抗があった。
もしこの肉体が元CP9長官スパンダムのような人間ならば、何の迷いも無く実を食べていた。
しかしプロフィールを見る限り、大神は寡黙ながらも友や学友の身を案じる心の優しい少女。
悪魔の実の能力の代償を背負わせる気にはなれない。

ハナハナの能力が使えないなら、ひたすらに大神の身体能力を駆使する他ない。
だから攻撃の勢いを緩めず攻め立てるが、突如脇腹に衝撃が走った。
蹴りだ。ハードガーディアンがロビンの脇腹へ蹴りを放ったのだ。
筋肉の鎧に阻まれて重傷は防いだが、痛みが皆無とはいかない。
ハードスマッシュの体重は239.5kg。そんな機械兵の蹴りを受けたのだ、小さく呻いてよろける。
そこへ迫るのはハードガーディアンの左腕のクロー。
ロビンの頭部を締め上げ、果実を握りつぶすかのように粉砕する気だ。

「ケケッ!邪魔させてもらうぜ!」

突如、ハードガーディアンの頭部へ衝撃が来た。
ダメージは無いが、予期せぬ攻撃にほんの一瞬静止する。
ロビンが後退しクローを避けるには十分な隙だ。
頭部のカメラを動かすと、映ったのは刀を持った少年。幽体となったゲンガーだ。

ロビンに引っ張られたおかげでガトリングの掃射を逃れたゲンガーは、すぐに戦場から少し離れた場所へ走った。
幽体離脱中、本体は完全な無防備となる為戦闘の余波を受けない場所まで移動する必要がある。
手頃な物陰に移動し終えると、レンタロウの能力で使って幽体離脱を実行。
こうして加勢に来たのだった。

「もう一発喰らっとけぇ!」

頭部へと刀で斬り付ける。
だがハードガーディアンはびくともしない。
邪魔者を掃うかのようにクローを振り回すが、幽体となったレンタロウの体に攻撃は通らない。
あっさりと肉体を素通りする。
ハードガーディアンの攻撃は効かないが、同じくゲンガーの攻撃もまるで効果が無い。
はがねタイプかよと愚痴るゲンガーを締め上げようと、クローを開いた。


105 : Wの悲劇/悪魔と悪魔 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 20:49:47 24Ies7Ls0
その背後から殴りかかるのはロビン。
放った拳はがら空きの背中に命中。だが鈍い音が鳴るだけで、ハードガーディアンの装甲に凹みは見当たらない。
何故か攻撃が通らないゲンガーより、ロビンを先に始末しようとガトリングを向ける。
注意を自分に向けようとゲンガーが刀を振るうも、捨て置いて構わないと判断したのか見向きもしない。

「避けろロビン!」
「っ!!」

叫ぶのと走り出すの、一体どちらが速かったか。
近くにあったコンビニの窓をぶち破って、店内へと飛び込んだ。
ガトリングが火を吹き、まだ無事だった窓や、菓子が陳列された商品棚があっという間に破壊されていく。

「そっちじゃねぇ!オレの方を見やがれってんだ!」

焦るように刀を叩きつけるがやはり見向きもされない。
よく目を凝らせば、細かい傷が幾つか装甲に刻まれてはいる。
尤もこの程度の傷しか与えられないのだから、後回しにしても問題無いと思われたのだが。

ガトリングの掃射が止む頃には、コンビニ内は暴風でも巻き起こったかのような惨状と化していた。
ゲンガーに構わず、ハードガーディアンは店内へと死体の確認に踏み込もうとする。

そこへ、銃声が響いた。

銃弾はハードガーディアンの肩を掠める。
ダメージはゼロ。が、新たな乱入者へ意識が向く。
ゲンガーもまた、誰がやったのかとハードガーディアンと同じ方を見た。

「はぁ…はぁ…う、動くんじゃねぇっ…!」

そこには、見覚えのあるサングラスの男がいた。


◆◆◆


遡ること数十分前、定時放送が流れ終えた時だ。
メタモンにゲンガーの情報を漏らしてしまった、その事を警告しにカイジはロビン達を追い街の入り口付近にいた。
幸い道中で危険な参加者と遭遇する事なく、無事にここまで来れた。
一刻も早くメタモンの事を教えなければならないが、定時放送を聞き逃すのは今後に悪影響を及ぼす。
よって移動を一旦中止し、巨大な画面を集中して見上げた。

禁止エリアや殺害者へのボーナス名簿など気になる情報はあったが、何よりの衝撃は発表された死者の名だ。

「坂田…銀時…?それって神楽の…!?」

銀髪で気だるい雰囲気の男と、太眉の中年。
どちらの画像もカイジの記憶にない人物だが、その名前には聞き覚えがあった。
ギャンブル場の前で最初に遭遇した少女、神楽の大切な仲間の一人。

「クソッ!こんなクソッタレゲームで死んじまうなんて…!」

銀時とは直接会った事の無い、言わば他人だ。
だが殺し合いを潰すという志を共にした仲間が大切に想っていた人間、その者の死に何も感じない訳じゃない。
帝愛グループの非道なギャンブルよりも、更に悪質な催しで命を落とす者が現れる。
死亡者ゼロとはいかないだろうと予測していたとはいえ、やはりやり切れないものがあった。


106 : Wの悲劇/悪魔と悪魔 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 20:50:49 24Ies7Ls0
(神楽は大丈夫なのか…?)

仲間の死を聞かされ、神楽は塞ぎ込んでしまってないだろうか。
銀時を殺した何者かへの怒りに囚われ、暴走してやいないか。
今の神楽が良くない状態へなってるのではと、カイジは不安に思う。
いっそ神楽と康一の所へ戻り、様子を見た方が良いのではと考えるが、

「いや、ダメだ…!今更戻れるかよ…!」

ここで戻って、それからまたゲンガー達を追うとなれば大幅な時間を消費する。
それに無理を言って別行動を取ったと言うのに、幾ら心配だからとはいえまた戻って行くような優柔不断な行為をしていては、仲間からの信用を失いかねない。
やはりここはゲンガー達を追って警告し、それから改めて神楽達と合流し病院へ向かうべきだ。

「康一、神楽のことは頼んだ…!それと神楽、無茶な真似はするんじゃねぇぞ…!」

康一一人に押し付けるような形となるのは申し訳ないが、今は彼に任せるしかない。
年下だが、スタンド使いとして場数を踏み、それでいて他者への気遣いを忘れない男。
だから神楽の支えになってやれる。

仲間の身を案じながら、カイジは街中へと駆け出す。
そうして移動した先で目撃したのは、チェンソーを生やした怪物と仮面ライダーらしき戦士が空中でぶつかり合う姿。
地上では、ロビンが飛び込んだコンビニへガトリングをぶっ放すロボットと、必死に斬り付けるゲンガー。

自分が到着する前に、とんでもない事が起きたのは間違いない。
殺し合いの空気に生唾を飲み込み、それでも仲間を殺させまいと引き金を引いた。


◆◆◆


「カイジ!?何でこっちに来てんだよ!?」

予期せぬ人物の出現に、ゲンガーは思わず疑問を叫ぶ。
何故病院へ向かったはずの彼がこっちに来ているのか、神楽と康一は一緒ではないようだが、もしや何かトラブルでもあったのか。
単なる移動の最中だったらもっと落ち着いて質問出来たが、戦闘の真っ只中故に頭が回らない。
困惑する幽体の少年へ、カイジは脂汗を滲ませながら口を開いた。

「色々あってな…。それより、メタモンはこっちに来てないよな?」
「は?どうしてメタモンの話になるんだ?」

その反応から、どうやらメタモンはこちらに来ていないらしく一先ず安堵する。
だが一息つく余裕は無い。戦いに乱入した事で、ハードガーディアンの意識はカイジにも向いていた。
機械兵に警告など無意味。カイジが持つ銃に恐れる事なく、近付こうとする。

「おい…!動くなって言っただろうが…!」

銃を撃つのはメタモンとの遭遇に続き二度目だが、やはり慣れない。
手が震えて照準がズレるのを、どうにか抑える。
尤もハードガーディアン相手に普通の拳銃など無意味と言っても過言ではない。
脅威ではない、しかし見逃す気もないハードガーディアンが排除に掛かった。

両肩の装甲が開き、複数の穴が露わとなる。
何をされるかカイジが理解する前に、動く者がいた。

「カイジ!」

レジの下に隠れていたロビンだ。
吹き抜けとなった入り口から飛び出し、カイジを大きく突き飛ばした。
直後、ハードガーディアンの肩から煙を吹いた何かが射出された。
それはミサイルだ。ミサイルポッドから発射した複数のミサイルが、ロビンとカイジを襲う。
幸いカイジは突き飛ばされ、ロビンもまた大きく飛び退き直撃だけは避けられた。
しかし着弾時の爆風まではどうにもできない。
カイジもロビンも吹き飛ばされて地面を転がり、付近の壁へ強く背中を打ち付けた。


107 : Wの悲劇/悪魔と悪魔 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 20:52:18 24Ies7Ls0
「がっ……」

分厚い筋肉が鎧の役目を果たしたロビンはまだしも、カイジはそうはいかない。
背中に伝わる鈍い痛みは容赦なく、長谷川の体を苛んだ。

状況が悪くなっているのはカイジ達だけではない。

「ぶっ倒れろぉぉぉっ!」
「くぅ…!」

急接近して斬り付ける絵美里を、どうにか躱すウィザード。
さっきまでは余裕を持って回避に移っていたというのに、徐々に焦りが見え始めている。

絵美里が乗る雲、筋斗雲により空中戦へともつれ込んだ二人。
同じ土俵での戦いへと発展したが、戦況はハルトマンがやや不利のようだった。
これは何も、ハルトマンが絵美里に劣っているからではない。
たとえ相手も空中飛行の手段を手に入れようと、空での戦いは全くの素人。
ウィッチとしての才能と経験、どちらも並以上のものを持つハルトマンが圧倒的に有利なはずだった。

ハルトマンが押され気味の原因は、やはり仲間の存在だろう。
ロビン達を疎んじているという事は微塵も無い。
だが横目にみても、彼女らが不利状況に陥っているのはハッキリと分かる。
そこへ加えて、何故か別行動中のカイジまで現れ、吹き飛ばされた。
眼前の敵に集中すべきと分かっていても、仲間の危機に気を取られるのは避けようも無い。
一方で絵美里にハードガーディアンを心配する素振りはゼロ。
彼女にとっては所詮支給品の一つ。
壊されたら痛手ではあるが、戦闘中にも気を回す程思い入れがある物でもない。

全員が危機を脱するには、悠長に戦っている暇は無い。
早急に決着をつける必要がある。
その為の手段はあるが、いざ実行に移すとなると、暫しの躊躇が生まれる。

しかし何もしなければ、状況が変わる事は無い。

「ごめん、操真…」

これが自分の肉体ならば、迷いも生まれなかったかもしれない。
けれど今は別人の、誰より苦しいくせに平気なフリをして戦い続けた、不器用な魔法使いの体。
だから余計な負担は与えたくなかった。
それでも、仲間の命が懸かっているのならやるしかない。そう自分に言い聞かせる。

「ちょっとだけ、無茶するね!!」

これまで以上に引き出された魔力が、ウィザードの力となる。
空中飛行する風。それだけでは足りない。
絵美里を倒せるだけの風を、全身に纏う。
瞬間、爆発的な加速を持ってウィザードが絵美里へと迫る。
まるでウィザード自身が弾丸と化したかのような勢いで、絵美里を撃ち落とさんとする。

「チッ!!」

だが絵美里の乗る筋斗雲もまた、速さに優れている。
本来の最高速度には遠く及ばずとも、ウィザードを回避するくらいは可能。
絵美里の胴体、ほんの数ミリズレるだけで直撃したであろう位置を通過し、その余波だけで吹き飛びそうになるのを必死に押さえ留まる。
確かに速い、速いが命中しなければ意味は無い。

そう嗤う余裕は、一瞬で消え失せた。

空高くへ昇って行ったウィザードはUターンし、見下ろす形となった絵美里目掛けて急降下。
速さは更に上がっている。本命はこれだ。


108 : Wの悲劇/悪魔と悪魔 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 20:54:08 24Ies7Ls0
『ハリケーン!プリーズ』

『ルパッチマジックタッチゴー!ルパッチマジックタッチゴー!』

『チョーイイネ!サイコー!』

ハンドオーサーにリングを翳し、足先へ魔力が集中する。
更に先程は絵美里へ放った竜巻を、自らに纏わせるように発生させる。
この一撃で終わらせるべく、ウィザードは技を放った。

標的にされた絵美里の脳が、状況打破の為に焼き切れそうなくらい回転する。
今の状況は、放送前の戦いを嫌でも想起させる。
チェンソーを粉砕され致命傷を負わされた、炎の呼吸の奥義。
あれを前にした時と同じく、全身の肌が総毛立つ。
直撃してもチェンソーの悪魔の肉体ならば、ギリギリ助かるかもしれない。
その後はまた輸血パックを飲んで完全回復すれば良いが、煉獄と戦った時は向こうが同行者の救出を優先し、トドメを刺しに来なかったから回復が可能だった。
今回も同じようになるとは限らず、悪足掻きもさせじと確実にトドメを刺される可能性はある。
そもそも、チェンソーの悪魔の肉体でも確実に助かる保障は無いのだ。

チェンソーで防ぐか?無理。煉獄の時と同じく砕け散るだろう。
筋斗雲を動かして避ける?難しい。体中に竜巻を纏っているせいで、攻撃範囲も広がっている。
ハードガーディアンに指示を出して、盾にするなりミサイルを撃つなりさせる?不可能。今からでは間に合わず、距離も離れている。
では渦を発生させた男を仕留めた時の様に、支給品を駆使するのは?

――あるじゃねえか、丁度良いのがよぉぉぉっ!

右腕のチェンソーを引っ込め、ズボンのベルトに挟んだソレを取り出す。
ターゲットはこちらへ突っ込んでくる顔面宝石。
一切の躊躇をせずに、引き金を引いた。

「―――ッ!!?!」

轟音。
何かを撃たれたと分かった直後、ウィザードの胸部へ凄まじい衝撃が走る。
痛みと熱さが同時に湧き上がりながらも、蹴りの姿勢は崩さない。
だがその勢いは、決着を付ける為の一撃にしては、余りにも遅く、脆い。
そうなっては絵美里も容易く対処が可能だ。

「イィィィィィヤッフゥゥゥゥゥッ!!」

筋斗雲を上昇させ、ウィザードの真上を取る。
竜巻も明らかに弱まっており、脅威でも何でもない。
最早形成は完全に逆転していた。

「落ちろぉぉぉっ!!!」

大きく振りかぶった両腕を、同時に振り下ろす。
防御もロクにとれず、ウィザードは地面へと落ちて行った。
アスファルトが砕け散り、数回バウンドした後に転がり、電柱に激突した所でようやく止まった。

「うぐ…あ……」

光に包まれ、晴れた時には変身が解除されていた。
冷たい地面に横たわり、ハルトマンは呻く。
何を撃たれたとか考えるのは後、とにかく体勢を立て直さなくては。
頭ではそう分かっているのに、痛む体は中々指示を聞き入れてはくれない。
軋むくらいに歯を食い縛って、どうにか足腰に力を入れる。
死にはしなかったが、晴人の体に傷を負わせた事に、戦闘の最中にも関わらず申し訳ない気持ちとなる。

絵美里が使った支給品の名は圧裂弾。
対アマゾン用に開発された兵器だ。
たった一発でアマゾンを完全に処理する、生物相手に使用するには過剰過ぎる威力を持つ。
元々人間以上の生命力を持つアマゾンを殺す為に作られたのだ、指輪の魔法使い…仮面ライダー相手であっても効果は十分にある。
絵美里からすれば、何か物凄い威力の銃程度の認識だが。


109 : Wの悲劇/悪魔と悪魔 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 20:56:31 24Ies7Ls0
(畜生…!このままじゃ皆が…!)

目の前に広がる惨状は、カイジに多大な焦りを齎した。
ハルトマンは変身解除され、ロビンも苦戦中。幽体故に無事なゲンガーとて、攻撃手段が刀一本のみな以上はどうなるか分からない。
おまけに自分も吹き飛ばされた時の痛みが酷い上に、銃も手放してしまったようで見当たらなかった。
超硬質ブレードはあるものの、重武装のロボットやチェンソーの化け物にどこまで効くのやら。
状況は悪化の一途を辿っており、全滅も有りうる。
何とかしなければと必死に打開策を考え、ふと思い付いたのは自らの支給品。

(アレを使えば……)

ガイアメモリと言うアイテム。
それを使った者はドーパントとか言う超人に変身出来る、説明書にはそう書いてあった。
だが副作用としてメモリへの依存症や、暴走のリスクもある。

(駄目だ…!皆を巻き込むかもしれねぇし、それに長谷川さんの体でそんな……)

もしここにいるのが自分一人で、体も己自身のものならば踏ん切りが付いただろう。
だが仲間もいるのに暴走の可能性があるアイテムの使用は憚れるし、何より他人の体にそんな得体の知れない物を入れるのにも躊躇が生まれる。
長谷川泰三は事ある毎に職を失い、妻にも逃げられ、マダオという不名誉な愛称を付けられた哀れな男だが、決して悪人ではない。
そんな男の体を、勝手にドーパントにしていいはずがない。
けれども現実問題として、メモリを使わなければ危機は脱せない状況にあった。
このまま何もしなければ、待っているのは全員の死になる。

(やるしかねえのか…?)

カイジが思い出すのは、嘗ての苦い記憶。
帝愛グループとの因縁の始まり、希望の船エスポワールでのギャンブル。
その中でも人間の命を特に低く見た最悪の娯楽、鉄骨渡りだ。
地上へ真っ逆様に落ちて行った者達の悲鳴は、今も耳にこびりついている。
石田のような、死ぬべきではない善人でさえあの場では等しく死を与えられた。
あの時は自分が生き残るだけで精一杯だった。
今は違う。大きなリスクはあれど、この状況を乗り切れるかもしれない切り札がある。

副作用への危惧は消えない。
それでも自分がやらなくてはならない。
そんな思いに後押しされるように、震える手でメモリを取り出す。

『WEATHER!』

ガイアウィスパーが鳴り響く。
まるでカイジに早く使えと催促しているようだ。
暫しの躊躇。だが遂に

(すまねえ…!長谷川さん、すまねえ…!)

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

己の腕へ、メモリを突き刺そうとし―――



「えっ!?」



その決意を無視するかのように、メモリは独りでにカイジの手から離れて行った。


110 : Wの悲劇/悪魔と悪魔 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 20:57:49 24Ies7Ls0
咄嗟に掴もうとするカイジの手をすり抜け、ロビンとゲンガー、ハードガーディアンの間を飛んで行く。
絵美里すらも無視し、その果てにメモリは、

「うあっ!?」

立ち上がりかけたハルトマンの首筋に突き刺さり、あっという間に体内へ侵入した。

「あ、あああああああああああああああああああっ!!!」

何が起きたか理解する間もなく、ハルトマンは悲鳴を上げる。
体の内側から破裂するような痛みが襲い、急激に意識が薄れていく。
自分が今どうなっているかは分からないが、一つだけ確信して言える事があった。
このまま意識を失えば、きっと何か悪い事が起きてしまうと。

(だめ、だ……。このままじゃマズい…!分かんないけど…でも…!)

唇を噛み、意識を持って行かれないようにした。
それもすぐに無意味だと悟る。
体中から力が抜け、視界がぼやけていく。
起きろ起きろとどれだけ自分に言い聞かせても、徐々に思考は弱まって行き、
やがてハルトマンの意識は完全に闇に閉ざされた。

「アアアアアアアアア……アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

ハルトマンと入れ替わるように現れたのは、白い異形。
侍の羽織に似た体と、黒いマスクのような顔面。
天候を操る怪人、ウェザードーパントの姿があった。





もしこの場に、左翔太郎やフィリップ、照井竜といった風都の仮面ライダーがいたなら。
ガイアメモリの危険性を嫌と言う程に知っている彼らがいたら、カイジがメモリを使うのを断固として反対しただろう。
或いはカイジがメモリの存在を仲間に打ち明けていたなら、副作用の危険の事も説明していたら、
ロビン達だって使用を止めたはずだ。
だがここに翔太郎達はおらず、ロビン達はガイアメモリの存在自体知らない。
故に誰も止められなかった。

もしカイジがもっと冷静な状態であったなら、きっとメモリに頼らずとも上手く乗り切れたかもしれない。
たとえ何も良い考えが浮かばなくとも、銃を拾い上げ絵美里に連射し、ハルトマンが再変身するだけの時間を稼ぐだけでも勝機はあった。
しかしカイジには余裕が無かった。

危険な参加者のメタモンに仲間の情報を漏らしてしまい、
おくれカメラという貴重なひみつ道具を消され、
仲間との間に険悪な雰囲気を作ってまで別行動を取り、
その仲間が大切に想っていた男の名が死亡者として発表され、
ゲンガー達に追いついたものの、彼らはピンチを迎え、自分も傷を負った。

幾つものの積み重ねに加え、長谷川泰三という命懸けのギャンブルとは無縁の体にされたこと。
離れの島にいた時から兆候はあったが、頭脳のキレが落ちていること。
これらの事情がカイジから冷静さを奪った。
逆境の時にこそ最大限に発揮される閃きという、カイジ最大の武器を消してしまった。

時間は戻せない。
間違った選択に、やり直しは利かない。

そして事態は最悪の方向へと転がり出す。


111 : Wの悲劇/災害魔女警報発令 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 21:03:27 24Ies7Ls0
◆◆◆


T2ガイアメモリがT1ガイアメモリと違う点は主に二つ。

まず一つ、直接肉体に刺して変身が可能。
T1メモリの場合、仮面ライダー達やミュージアムの幹部のように、それぞれ特殊なドライバーを介したり、
措置を受けて生体コネクタというメモリの挿入口を体表面のどこかに付ける必要がある。
メモリ単体ではその力を解放できない為、ドライバーやL.C.O.Gの用意を行わなければならない。
それがT2メモリでは必要なく、どこでも良いので肉体に直接刺せばメモリガ体内に挿入され、ドーパントへ変身する。

二つ目、適合する人間と惹かれ合う。
以前、NEVERにより風都にT2ガイアメモリがばら撒かれた際に、風都イレギュラーズのクイーンの元にはクイーンメモリが、
仮面ライダーアクセルの変身者である照井の元にはアクセルメモリが、そしてWの左側でありフィリップ救出の切り札となる男、翔太郎の元にジョーカーメモリが現れた。
つまりT1メモリは人間が自ら所有するメモリを選ぶが、T2メモリはその反対、メモリが所有者に相応しい人間を選ぶのである。

ここで疑問となるのは、伊藤開司はT2ウェザーメモリの適合者に相応しいか否か。
経歴だけ見れば、一般人とは程遠い経験をしてきた。
だがカイジはウェザードーパントの能力である天候操作と関係のあるような、職であったり技能を何も持っていない。
その精神性も井坂深紅郎のように狂気と執念、残忍性に溢れたものではなく、基本的には善人寄りだ。
控えめに見ても、彼がウェザーメモリの適合者であるとは言えないだろう。

しかし、誰にとっても不幸な事に、この場には適合者となる人間がいた。
魔法により風を操り、雷を放ち、竜巻をも発生させる魔法使いの肉体。
大気操作という固有魔法を使え、空を自由に飛び回るウィッチの精神。

エーリカ・ハルトマンこそ所有するに相応しいと、選ばれてしまった。

ハルトマンがウィザードの変身を解除されていなければ、メモリの体内侵入を阻止できただろう。
仮に自分の意思でドーパントに変身していたなら、精神の汚染はあるにしても、自我を失う事だけは避けられたはず。
だが今回起こったのは、ハルトマンにとって予期せぬ変身。
まるで不意打ちのようにメモリを挿入され、心構えも何もなくドーパントへとなった。
ハルトマン本人の意思を完全に無視した上でのメモリ挿入は、彼女の意識を排除し力を解放。

その結果起こるのは、暴走である。


◆◆◆


112 : Wの悲劇/災害魔女警報発令 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 21:04:42 24Ies7Ls0
ウェザードーパントの出現に、誰もがすぐには動けなかった。
本当ならば自分が変身するはずだったのに、メモリが勝手に手を離れたせいで混乱するカイジ、
そもそもメモリの存在を知らない為、仲間が急に異形になった光景を目の当たりにしたロビンとゲンガー。
殺し合いの阻止を共に誓った者たちの動揺は誰の目にも明らかだった。

「あぁん!?今度は何だってんだぁぁぁっ!?」

カイジ達よりも先に動き出す異形が一体。
チェンソーの悪魔に変身中の絵美里だ。
それまで戦っていた顔面宝石男が、今度は別の姿に変身を遂げた。
驚きは有れど、皆殺しという自らの方針を変える気は無い。
姿形は変わっても殺す対象である事は同じな故に、いち早く正気に戻った。

「何だか知らねえが、殺せば皆一緒だぁぁぁっ!」

筋斗雲を蹴り上げ、ウェザードーパントへと迫る。
溢れ出す殺意に呼応するかのように、チェンソーの回転数が増加。
奇怪な肉体を三枚おろしにしてやろうと、腕を振り回した。

「アァアア……」

ウェザードーパントは低く唸り声を上げると、絵美里へ手を翳す。
武器らしきものは何も握っていない手に、何かが纏わりつく。
まるで煙のようなモヤがウェザードーパントの腕を覆った直後、絵美里に異変が起きた。

「な、何じゃこりゃぁぁぁっ!?」

接近する絵美里を阻むように、灰色の煙が現れる。
それは雲だ。雲が絵美里を取り囲むようにして出現した。
鬱陶しいと腕を振り回すが、雲は消えない。
赤く細かい光が、バチバチと雲の各所で光り出す。
光は雲に囲まれた絵美里へと、一斉に放出された。

「うげぇぇぇっ!?クソ痛ぇぇぇっ!」

体中に光が当たり、絵美里は悲鳴を上げる。
光の正体は雷。
雷を発生させる雲、ウェザードーパントの能力の一つである。

雲に攻撃される絵美里に背を向け、ウェザードーパントはハードガーディアンを見据える。
殺意を向けられた事で脅威と認識したハードガーディアンが、攻撃に打って出た。
右腕のガトリングを掃射し、肩のポッドからはミサイルを発射。
人間ならばあっという間にボロクズと化すだろう重装備を前にしても、ウェザードーパントに恐れは無い。


113 : Wの悲劇/災害魔女警報発令 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 21:05:35 24Ies7Ls0
「ウゥウウウウ…!」

両手を翳し、今度は白いガス…冷気を放つ。
すると何という事か、地面や周囲の壁ごと弾丸とミサイルが凍り付き、放たれたまま静止した。
凍結現象はそれだけに留まらない。
攻撃したハードガーディアンの両脚、続いて胴体と両腕、最後にはAIを搭載した頭部が凍り付いた。
完全に身動きを封じられたハードガーディアンは、近付いたウェザードーパントが軽く腕を振っただけで粉々に砕け散った。

雷雲も凍結も、ウェザードーパントの固有能力だ。
しかし以前、NEVERによりT2ガイアメモリがばら撒かれた時、不運にもメモリが体内に入りドーパント化した人間がいたが、
その者はただの一般人だった為能力を使わず、ただ身体能力に物を言わせ暴れ回るだけった。
あの時と違うのは今変身しているのは一般人では無く、体内にファントムが住まい潤沢な魔力を持つ、操真晴人の肉体であること。
この為に暴走状態でありながら、ウェザードーパントの能力も使えると言う、非常に危険な状態と化していた。

あれだけ梃子摺ったハードガーディアンが簡単に破壊され、ロビンは息を呑む。
ただ姿こそ変わったものの、敵である絵美里とハードガーディアンを攻撃したのなら大丈夫ではないか。
そんな考えは即座に打ち砕かれた。

「アアアアアアアアアアッ!!」

ウェザードーパントが叫んだ途端、周囲一帯に雨が降り注ぐ。
豪雨はすぐに範囲を狭め、ロビンの頭上からのみ振るようになった。
一体なんだと困惑するロビンだが、急に身動きが取れなくなる。

(これは…!?)

まるでコップに水を注ぐように、ロビンの足元へ水が溜まって行く。
慌てて脱け出そうとするも、身動きが取れない。
このままでは頭上まで水が溜まり、最後は溺死するだろう。

「クソッ!おいやめろ!」

仲間の暴挙を止めようと、ゲンガーが刀を振るう。
峰打ちとは言え当たれば痛みはあるはず。
が、振るわれた刀をウェザードーパントは難なく掴み奪い取った。
幽体離脱中はゲンガーへの攻撃は無効だが、手に持った武器は別。
刀を放り投げると、ゲンガーへと腕を叩きつける。
だが幽体故に効かない。殺せない事へ苛立ったのか幾度も腕を振るう。

(今の内に…!)

気が逸れた事で豪雨の勢いが弱まる。
その隙にどうにか脱出しようとロビンは藻掻くが、弾かれたようにウェザードーパントはロビンを睨みつけた。
マズい。そう感じた時には既に遅かった。

「ア…ガアアアアアアアア!!」

腰にぶら下げた専用の武器、ウェザーマインを掴む。
狙うは拘束を脱け出そうとするロビンだ。
相手は仲間だと言うのに躊躇する素振りは無く、腕を振るった。

「ああああああああ!!」

ウェザーマインから出たのは光るチェーン。
それが鞭のようにロビンへと辺り、体を切り裂いていく。
一撃では終わらない。
静止の声を張り上げるゲンガーには耳を貸さず、幾度も腕を振るい、その度にロビンの体から血が噴き出る。
一般人よりはるかに頑丈な大神の肉体と言えども、ドーパントの武器で痛めつけられればタダでは済まない。


114 : Wの悲劇/災害魔女警報発令 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 21:06:47 24Ies7Ls0
「やめろ…!やめてくれハルトマン…!!」

悲痛な声を上げ、カイジはウェザードーパントに掴みかかる。
傷を負った長谷川の体でドーパントを止めるなど、無謀としか言いようが無いし、
今も壁に叩きつけられた時の傷が痛む。
そう頭で分かっていても、カイジは動かずにはいられなかった。
自分がメモリを使おうとしたせいで、ハルトマンをドーパントにしてしまった。
しかも敵だけでなく、仲間も平然と殺そうとする。
副作用である暴走が起こっているのは確か。その原因を作ってしまった自分を、何度も心中で責める。

(何やってんだ…!何やってんだよ俺はっ…!!)

どれだけ悔やんでも、ハルトマンが正気を取り戻す気配は無い。
それでも止めなくてはならない。
仲間達からの責めは後で幾らでも受ける。失望されるのも当然だ。
だけど今は、ハルトマンがロビンを殺すのだけは何としても阻止しなければ。

そんな思いすらも、届かない。

「うぐぅ!?」

カイジを鬱陶しく感じたのだろう、ウェザードーパントが顔面を掴んで持ち上げる。
ほんの少し力を入れるだけでもミシミシと骨が軋み、痛みに情けなく呻いてしまう。
このままカイジの頭を握りつぶす気なのか?
違う。むしろその方がまだマシだった。

「あっ、あがっ、あぎゃああああああああああああああああああああああああっ!!!?!」

絶叫。
残った体力全てを使って尚も足りない程の、痛みを訴える叫び。
サングラスの奥で目をこじ開け、裂けそうなくらいに開かれた口からただひたすらに声を上げる。
カイジを襲う痛みの正体は、熱だ。
頭部を掴んだウェザードーパントの腕から、人間が耐えられる温度を完全に超す程の熱が、カイジの体内へ流れ込んでいる。
仮面ライダーにも有効なダメージを与える熱に、生身の人間の肉体が耐えられるはずも無い。
体の内側からグツグツに溶かされる絶望を、カイジは味わっているのだった。

「やめろって言ってんだろ!バカヤロウがあああああああっ!!」

超硬質ブレードを拾い上げ、ゲンガーは何度も振るう。
やがてドーパントの耐久力に負けたブレードがへし折れると、カイジが落とした拳銃の引き金を引く。
銃弾は掠り傷すら付けられず、体表面に弾かれ地面を転がる。
すると、ウェザードーパントはカイジを乱暴に放り投げるとゲンガーの方を向いた。

ゲンガーの訴えを聞き入れたからではない、もうこれ以上熱を流す必要が無くなたからだ。


115 : Wの悲劇/災害魔女警報発令 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 21:08:08 24Ies7Ls0
「あ……あ……」

金魚のように口を開閉させ、何か言おうとする。
無理だった。口から出るのは小さな呻き声だけだ。

これまで、帝愛との勝負で命に危機に瀕した事もあった。
時にはもう駄目だと心が挫けそうになったが、それでも最後には生き延びられた。
だけど今回はもう無理だ。
どうやっても助からないと悟る。

(俺は……)

後悔だけが浮かび上がる。
おくれカメラを失ったのも、メタモンの前でゲンガーの名を出してしまったのも。
神楽と康一とも余り良くない空気のまま別れ、謝る事もできない。
何より自分のせいでハルトマンを怪物にしてしまった。
その上このまま死んでしまえば、彼女を人殺しになる。
ほんの僅かな時間の付き合いだが、それでも仲間だ。
なのに自分の間違った選択が、全てを狂わせた。

(すまねえ…すまねえ…!すまねえ……!!俺のせいで……すまねえ……!!)

最早、何もかもが手遅れ。

最後の瞬間まで謝罪を繰り返し、やがてカイジの意識は消えて無くなった。


「ク、クソッタレ……」

身じろぎすらしなくなったカイジの姿に、それがどういう事かを察する。
悲しむ間もなく、ウェザードーパントがゲンガーへウェザーマインを振るった。
幽体に攻撃は届かない。だが同じく、ゲンガーもウェザードーパントをどうにかするだけの力は無い。

「人の獲物を横取りしやがってぇぇぇっ!!」

声を枯らさんばかりに叫んで、ウェザードーパントへ襲い掛かる者がいた。
上空からの一撃を避け、ウェザードーパントは片手を翳す。
掌からは七色に煌めく虹が発射される。
襲撃者、絵美里は筋斗雲を駆って虹を躱し、反対にチェーンを地上へと放った。
ウェザードーパントが横に跳んでチェーンを回避、そのタイミングで急降下からの斬り付る絵美里。
チェンソーが当たる前に、両腕から冷気を放つ。
舌打ちし攻撃を中断、絵美里は回避行動に移った。

ウェザードーパントの意識が絵美里から離れた為に、雷雲は徐々に縮小。
好機を見逃さず絵美里は筋斗雲に指示を出し、その場で高速回転。
おかげで纏わりついていた雷雲を吹き飛ばせた。

何故か攻撃が当たらないゲンガーを放置し、ウェザードーパントは絵美里を優先すべき獲物と見る。
互いに次の手を繰り出そうとした時、二人の体に異変が起きた。

「ゲェーッ!?なんじゃこりゃああああああああああああ!?」
「ガ、ガ、ガアアアアアア!!」

腕腕腕。何本もの腕が二人の体から生えだした。
浅黒い肌の筋肉質な腕は、二人の体をガッチリと拘束。
藻掻く絵美里とウェザードーパントを、何もさせまいと言わんばかりに抑え付けた。

「こ、今度は何だよ…」
「ゲンガー……」
「ッ!ロビン!?」

か細い声で自分の名を呼ぶ女の元へ走り寄る。
力無くゲンガーを見上げ、ロビンはどうにか言葉を紡いだ。

「カイジは…?」

質問に苦虫を噛み潰した表情となり、無言で首を横に振る。
予想していたが、信じたくなかった答えにロビンは目を伏せた。
だが悲しんでいる時間は無い。
今も拘束を脱け出そうと、二人の異形が藻掻いている。

「ロビン、あの手はお前がやったのか?」
「ええ…。正直、この娘の体で悪魔の実はたべたくなかったけど…。それよりゲンガー、これ…」

言って渡したのは、先程ウェザードーパントに奪われた刀。
偶然ロビンの近くに放り投げられたらしい。
礼を言って受け取ると、続けて言った。


116 : Wの悲劇/災害魔女警報発令 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 21:09:08 24Ies7Ls0
「ゲンガー、私とカイジの荷物を持って逃げなさい…」
「…ッ。ケケッ!冗談キツイぜ。お前を見捨てろってのか!?」
「……私はもう、無理みたい。見れば分かるわ」

大神の筋骨隆々な肉体は、見るも無残な有様だった。
ウェザーマインで執拗に嬲られたせいか、全身の肉が削がれ今も出血中。
顔にも被害は及んでおり、片目が斬り裂かれている。
特に酷いのは右足だ。分厚い筋肉がごっそりと削がれ、骨が露出していた。

「それに……このままあの二人が戦い続ければ、あなたの体が巻き添えになるかもしれないわ…」

否定できずに、ゲンガーは口ごもる。
レンタロウの能力を使用中、自由に動ける幽体は実質無敵だ。
だが魂の抜けた生身の肉体は動かしようが無く、予め安全な場所に隠しておくしかない。
今も戦場から少し離れた場所に置いて来たが、ウェザードーパントと絵美里の殺し合いが激しさを増し、その巻き添えを受ける可能性は否定できない。
それだけでなく、騒ぎを聞きつけた危険な参加者に肉体を見つけられでもしたら、本当にマズい。

「行ってゲンガー。貴方だけでも……」
「オ、オレは……」
「早く…!もう、持ちそうにないの…!だから……行って……!!」
「…………クソッ!!悪い……!!」

二人分のデイパックを掴むと、ロビンに背を向けてゲンガーは駆け出す。
その顔が悲しみや、自分への苛立ちで歪んでいる事にロビンは気付いていた。
こんな選択を取らせてしまい、申し訳ないと思う。
だけどこんなボロボロの自分が付いて行っては、きっと足手纏いになり逃げきれない。
だからこの選択が最善だと、ロビンは信じた。

「ベタベタ触んじゃねぇぇぇっ!気持ち悪いだろうがぁぁぁっ!」

本体であるロビンの体力低下に伴い、拘束していた腕の力が緩んだのだろう。
腕を斬り裂き、引き千切った絵美里が怒り心頭で近づいて来た。
ゲンガーを逃がす為にハナハナの身を食べたが、もう抵抗するだけの力も無い。
チェンソーの音が、酷く耳障りだった。

(ここまでね……)

思い返せば、浮かんでくるのは未練ばかりだ。
神楽と康一、ゲンガーは無事に生きて帰れるだろうか。
ハルトマンを正気に戻す方法が見つけられるだろうか。
ナミとチョッパーの肉体は、ちゃんと本人に返るだろうか。
思った所でもうどうにもならないと分かっても、考え続けてしまう。

そして何よりも悔い悲しむのは、
もう二度と、麦わらの一味の考古学者として、仲間との冒険に行けないことだった。

(ルフィ……みんな……ごめんなさい……)

胸の中だけで告げる、仲間への言葉。

それを最後にゆっくりと目を閉じ、ロビンの身体は真っ二つにされた。


117 : Wの悲劇/災害魔女警報発令 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 21:10:10 24Ies7Ls0
「うおっしゃあああああああああっ!回復だああああああああああああああっ!!」

ビール樽が破裂した時のような勢いの血を、真正面から喜んで浴びる。
大きく開いた口へ血が注ぎ込まれ、傷の痛みが徐々に消え去って行った。
煉獄と戦った時もそうだが、鬱陶しい傷がたちまち治るのは実に気持ちが良い。

そんな上機嫌に水を差すかのように、虹色の光線が放たれる。

「チィッ!!」

咄嗟に身を捩るも、左腕に当たってしまう。
しかもまだ血を飲んでいた途中なのに、ロビンの死体にまで光線が当たってしまった。
おかげでロビンの死体は燃え盛り、血を飲む事は不可能だ。

「テメェェェッ!何してくれてんだぁぁぁっ!」
「ガアアアアアアアアアアアアアッ!!ガアアアアアアアアアアアアアッ!!」

怒り狂う絵美里に反応してか、ウェザードーパントも叫び返す。

殺し合いを止める者達と、死を振り撒く為に乗った者の戦い。
そんなものはもう無い。

これより始まるのは、二体の怪物による殺し合い。
片方の命が尽きるまで続く、正義無き血みどろの争いだ。


◆◆◆


「チクショウ…!」

肉体に戻り、ゲンガーは戦場から覚束ない足取りで離れていく。
胸中にあるのは不甲斐ない自分自身への苛立ち。
彼とて理解はしている。あの場でロビンの判断は間違っていない。
自分がまごついている間に、もし肉体に被害が及んでしまえばロビンの行動は無駄になる。
そう理解しているからと言って、感嘆に納得できれば苦労はしない。

これでは沈んでいく木曾の手を掴めなかった時と、何も変わっていないではないか。
意地悪じゃなく邪魔してやる、そう決意して早々にこの様。
自分が酷く情けなくて、ただただ苛立ちが募る。

木曾も、カイジも、ロビンも死に、ハルトマンは正気を失い怪物になった。
ここに来てから、自分と関わった連中が次々ロクでも無い目に遭っている。
これではゴーストなんかじゃなく、まるで、


――まるで疫病神じゃねえか。


自分で思い浮かべた言葉に、吐き気がした。

こんなのは冷静さを欠いているが故に生まれた、ただの戯言。
そうに決まっている。


……きっと、そのはずだ。



【伊藤開司@賭博堕天録カイジ(身体:長谷川泰三@銀魂) 死亡】
【ニコ・ロビン@ONE PIECE(身体:大神さくら@ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生) 死亡】


118 : Wの悲劇/災害魔女警報発令 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 21:11:06 24Ies7Ls0
【D-7 街/朝】

【絵美理@エッチな夏休み(高橋邦子)】
[身体]:デンジ@チェンソーマン
[状態]:ダメージ(小)、左腕に火傷、疲労(大)、チェンソーの悪魔に変身中
[装備]:筋斗雲@ドラゴンボール、圧裂弾(0/1、予備弾×4)@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品、輸血パック×4@現実、虹@クロノ・トリガー、ランダム支給品0〜2(童磨の分)
[思考・状況]
基本方針:皆殺しだぁぁぁぁぁーっ!
1:この白い野郎(ハルトマン)をぶち殺すぜぇぇぇぇーっ!
[備考]
※死亡後から参戦です。
※心臓のポチタの意識は封印されており、体の使用者に干渉することはできません。
※女性の手首@ジョジョの奇妙な冒険を食べました。
※炸裂弾@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-は全て使用したため、一つも残っていません。
※鵜堂刃衛(身体:岡田以蔵)を殺したのは自分だと思い込んでいます。鵜堂の名前までは分かってません。

【エーリカ・ハルトマン@ストライクウィッチーズシリーズ】
[身体]:操真晴人@仮面ライダーウィザード
[状態]:ウェザードーパントに変身中、ダメージ(中)、胸部にダメージ(大)、疲労(大)、暴走
[装備]:T2ウェザーメモリ@仮面ライダーW、ウィザードライバー&ドライバーオンウィザードリング&ハリケーンウィザードリング+サンダーウィザードリング@仮面ライダーウィザード
[道具]:基本支給品、
[思考・状況]基本方針:殺し合いには乗らない
0:暴走中
1:この仮面ライダーの力で二人はわたしが守るよ!!
2:元の世界に戻れても、ネウロイに落とされたあの場所に逆戻りする羽目になる気がする…。それなら首輪を外す方法探しながら、脱出手段を見つけちゃえばいいよね!
3:トゥルーデの身体が…!!悪用されてないことを信じるしかないよね?
4:他の良い参加者と会えて色々話せて良かった!!色々話し合えたし、運が良かったかも
5:もし操真やトゥルーデ、そして今いる仲間の仲間が殺されてたら…わたしは主催を許さない。
[備考]
※参戦時期は「RtB」ことストライクウィッチーズ ROAD to BERLINの6話「復讐の猟犬」にてネウロイに撃墜された後からです。
※作中にて舞台になっている年代が1945年な為、それ以降に出来た物についての知識は原則ありません。
※晴人のアンダーワールドに巣食うウィザードラゴンの意識は封じられてはいませんが、ハルトマンとコミュニケーションを行う事は基本的に出来ません。
※操真晴人の肉体の参戦時期は「仮面ライダー平成ジェネレーションズ Dr.パックマン対エグゼイド&ゴーストwithレジェンドライダー」以降です。また経歴の記述については、正史(確定してるのはウィザード本編、MOVIE大戦アルティメイタム、戦国MOVIE大合戦のウィザードパート、小説 仮面ライダーウィザード)以外の作品にも触れられているようですが、具体的にどうなっているかは後続にお任せします。
※T2ウェザーメモリに適合しました。が、本人の意思とは無関係に変身した為、暴走しています。


119 : Wの悲劇/災害魔女警報発令 ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 21:11:47 24Ies7Ls0
【ゲンガー@ポケットモンスター赤の救助隊/青の救助隊】
[身体]:鶴見川レンタロウ@無能なナナ
[状態]:人の身体による不慣れ、高揚している、精神疲労(大)、自分への強い苛立ち、手にダメージ
[装備]:八命切@グランブルーファンタジー、シグザウアーP226@現実
[道具]:基本支給品×3、近江彼方の枕@ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会、タケコプター@ドラえもん、サイコロ六つ@現実、肉体側の名簿リスト@オリジナル
[思考・状況]基本方針:イジワルズ特別サービス、主催者に意地悪…いや、邪魔してやる。
1:今はここから離れる。
2:イジワルズ改めジャマモノズとして活動する。
3:ピカチュウとメタモン、港湾棲姫には用心しておく。(いい奴だといいが)
4:木曾のメモのこと、覚えておかないとな。
5:こいつらを見るとアイツ等を思い出すな…(主人公とそのパートナー達の事です)
6:何でオレが付けた団名嫌がるやつ多いんだ?
7:カイジのやつ、何でメタモンの事を聞いて来た?
[備考]
※参戦時時期はサーナイト救出後です。一応DX版でも可。(殆ど差異はないけど)
※久しぶりの人の身体なので他の人以上に身体が慣れていません。
 代わりに幽体離脱の状態はかなり慣れた動きができます(戦闘能力に直結するかは別)。
 幽体離脱で離れられる射程は大きくても1エリア以内までです。
※木曾から『ボンドルドが優勝を目的にしてない説』を紙媒体で伝えられてます。
 (この都合盗聴の可能性も察してます)

※10tと書かれた巨大なハリボテハンマー@ONEPIECE、ハードガーディアン@仮面ライダービルド、超硬質ブレード@進撃の巨人は破壊されました。
※ハナハナの実@ONE PIECEはロビンが食べました。

※ゲンガーがどの方角へ向かうかは後続の書き手に任せます。

【ハードガーディアン@仮面ライダービルド】
難波重工が開発した重装仕様の機械兵。
全身に重装甲・重武装化が施され、シールドクローやガトリングガン、ミサイルポッドなどが装備されている。
増設された戦闘AIユニットによって戦闘に特化しており、戦闘能力は単体でもライダーシステムに匹敵する。
鵜堂刃衛に支給された。

【圧裂弾@仮面ライダーアマゾンズ】
4Cが扱う対アマゾン用の兵器。
一撃でアマゾンを確実に粉砕する威力を持ち、一体のアマゾンに命中するとそのアマゾンから弾丸の中の起爆性が非常に高い成分が拡散され、他のアマゾンにも命中し大爆発する。
その脅威的な破壊力から、市街地での使用は基本的に禁止されている。
鵜堂刃衛に支給された。

【筋斗雲@ドラゴンボール】
悟空が亀仙人やカリン様からもらった、意思を持つ神聖な雲。
以前は至る所に沢山あったらしいが、清い心を持っているものしか乗れないため、ほとんど見かけなくなった。
元は巨大な雲塊であり、悟空が乗っているのは、その切れ端。
銃などで吹き飛ばされると一時的に消えるが、呼べばまた現れる。ただし、魔族に破壊された場合は完全に消滅してしまう。
当ロワでは誰でも乗れるが、最高速度と上昇可能距離に制限が掛けられている。
童磨に支給された。


120 : ◆ytUSxp038U :2021/11/12(金) 21:12:31 24Ies7Ls0
投下終了です


121 : ◆5IjCIYVjCc :2021/11/13(土) 00:03:35 oXcxeeWQ0
投下乙です!
最新話の感想を書かせてもらいます。

>Wの悲劇/悪魔と悪魔、Wの悲劇/災害魔女警報発令
メモリを渡した自分が言うのもなんですが、まさかここまでの惨事になってしまうのは予想外でした。
中の人ネタも兼ねて条件に該当するアイテムを渡したつもりでしたが、勝手により適合する者の下へ行く可能性は考慮してませんでした。
今回の暴走でガイアメモリの危険性とドーパントの恐ろしさを再確認できた気がします。
絵美理がまだいることもあり、ここのパートは次回もとんでもないことになりそうです。


122 : ◆ytUSxp038U :2021/11/13(土) 00:44:31 rKAuZ53E0
感想ありがとうございます。

野原しんのすけ、エボルト、雨宮蓮、シロを予約します。


123 : ◆ytUSxp038U :2021/11/14(日) 20:25:54 7LEo0row0
投下します


124 : Another day comes ◆ytUSxp038U :2021/11/14(日) 20:27:42 7LEo0row0



――この痛みから自由になる為に、自分の記憶に病み付きになってる






朝。新たな一日の始まりを告げる時間。
大人も子供も、善人も悪党も、人間も怪物もこの時間だけは等しく与えられる。

幼子は母親に叩き起こされ、朝から怒声を聞いた犬は呆れたように一吠え。
少年は隣にいる猫と共にベッドを脱け出し、一階で何時もと同じカレーを腹に入れる。
怪物は仮の肉体で今日も策を巡らせる、全ては元の力を取り戻す為に。

本来ならば交わる事の無い、異なる世界に生きる三人と一匹。
彼らは現在、同じ場所にて朝を迎えていた。





笑みを浮かべた青年が手を振り、放送は終わった。
自分もしんのすけも一言も喋らず、今はもう何も映っていないテレビをじっと見つめている。

コーヒーを飲み屋根裏部屋に戻った後、今は疲労回復を優先しようと眠りに付いた。
それから多分、数十分が経過したであろう時に、突如としてチャイムのような音が鳴り響いたのだ。
浅い眠りを起こされ、驚いたように飛び起きたしんのすけと思わず顔を合わせる。
それも一瞬の事。すぐにこれが主催者からの連絡と気付く。
何せ部屋にある、前にリサイクルショップで購入したのと全く同じ型のテレビに、奇妙な仮面の人物が映ったのだから。

『皆さんおはようございます。この殺し合いの進行状況を連絡するための定期放送の時間になりました』

声を聞き、この人物こそがボンドルドだと確信した。
相も変わらず、声だけなら優しい雰囲気だった。
実際は女子どもも殺し合いに巻き込む、とんでもない悪党だというのに。

顔を強張らせながら画面を睨んでいると、ボンドルド以外にも誰か現れた。
斉木空助と名乗る、自分と同じくらいの少年はこちらの疑問や困惑など知った事では無いかの様に、連絡事項とやらを話していった。

テレビ画面が元の真っ黒に戻り、放送の内容に関して考えてみた。

一番印象が強かったは、死亡者の発表。
この6時間の間に、11人も死んでいる。
殺し合いに乗った危険な参加者とは実際に遭遇したし、死体もこの目で見た。
誰一人として犠牲者が出ない、なんて事は有り得ないとも分かっていた。
それでもやはり、自分の知らない所でも殺し合いが進んでいるのには、気持ちが沈んでしまう。

表示された死亡者の画像には、煉獄さんもいた。
ハチマキを巻いた相楽左之助という男の体と、煉獄さん本人の画像。
炎の様に明るい色の髪と力強い瞳をした男の人。
彼らの顔を、決して忘れないように目に焼き付けた。

「お兄さん……」

か細い声に反応し振り向くと、しんのすけが暗い顔でテレビを見つめていた。
どうかしたかと聞き返せば、どこか言い辛そうに言葉を紡ぐ。

「煉獄のお兄さんは……やっぱり、死んじゃったんだね……」

その言葉に、自分は黙って頷くしかできなかった。
きっとしんのすけも、聞くまでも無い事だと分かってはいるのだと思う。
だけど今こうして、放送のせいで改めて煉獄さんの死を突き付けられ、つい口にしてしまった。
しかし放送の内容はデタラメだと偽る気は無い。
下手な誤魔化しは、煉獄さんの死を受け入れたしんのすけへの侮蔑でしかない。


125 : Another day comes ◆ytUSxp038U :2021/11/14(日) 20:28:38 7LEo0row0
しんのすけは「そっか…」とだけ言い、視線をソファーに移す。
そこには未だ寝息を立てるシロの姿がある。
放送前の戦闘で制服が所々で破れ落ち、体に拘束の為に巻き付けたワイヤーが食い込んでいた。
外見だけなら、乱暴された挙句に身動きを封じられている、痛々しい様の少女。
実際には鬼という、驚異的な力と凶暴性を持つ存在だ。
しんのすけに釣られて自分もシロを見つめていたが、衣服がボロボロのせいで所々の白い素肌や下着が剥き出しとなっている。
そのあられもない姿に見つめ続けるのは申し訳なくなり、咄嗟に目を逸らした。

何となく気まずさを感じたタイミングで、再度しんのすけが口を開いた。

「お兄さん。シロを解いてあげちゃだめ?」
「えっ?」
「だって…あれだと、痛そうだゾ…」

気持ちは分かる。
頑丈そうなワイヤーで拘束されたシロの姿は、見ていて気持ちの良いものでは無い。
飼い主であるしんのすけからすれば、相当不憫に思えるのだろう。

しんのすけの頼み事に自分の答えは

【シロの拘束を解く】
→【シロの拘束を解かない】
【いっそシロと同じグルグル巻きになってみよう】

駄目だ、幾らしんのすけの頼みでも聞き入れる事はできない。
今のシロを拘束せずにおくのは余りにも危険過ぎる。
それにもし、自由を取り戻したシロが自分達から逃げようとルブランを出たら、即座に鬼の弱点である太陽によって消滅してしまう。
そう伝えるとしんのすけは、顔を俯かせて頷いた。

改めて、ボンドルド達への怒りが湧く。
殺し合いなんて起きなければ、しんのすけもシロも元いた場所で平和な日常を送っているはずだった。
幼い子供と飼い犬が心身ともに傷つく原因を作り、あの男達は何が楽しいんだろうか。
さっきの放送でも、殺し合いを開いた事に微塵も罪悪感を感じている様子は見られなかった。
鴨志田や斑目、金城以上のろくでなしだ。

そして、今一度殺し合いを止めなくてはと決意を固める。
それを実行に移せるだけの力が、自分にはある。
アルセーヌだけではない、新たに得たマガツイザナギと仮面ライダージョーカーという二つの力。
今度こそ、自分は……。

…そういえば、エボルトの姿がまたもや見当たらない。
コーヒーの片付けを引き受けた彼は、まだ一階にいるのだろうか。
マガツイザナギを手に入れる切っ掛けとなった人物の、不敵な、悪く言えば胡散臭い笑みを浮かべながら、
ルブランへ降りる階段を見やった。


126 : Another day comes ◆ytUSxp038U :2021/11/14(日) 20:29:50 7LEo0row0



手早く片付けを済ませた後、軽く腰を伸ばして体を解す。
エアコンの真下にある手洗い場の蛇口を捻ると、両手で水を掬って顔を洗う。
冬場の水道を使った時のような冷たさだ。
近くにあったタオルで顔を拭い、真正面の鏡に映った姿にエボルトは苦笑いを浮かべた。

「慣れないもんだな、女の体ってのは」

10年もの間憑依していた石動に比べれば、やはり千雪の体は少々不便に感じる。
アイドルとして日々のレッスンをしているおかげか、致命的な程の動かし辛さがないのは救いか。
それでも宇宙飛行士として鍛えた石動には及ばない。

被害の少ないテーブル席に腰を下ろし、店内をざっと見回す。
改めて見ても酷い有様だ。この惨状を作った張本人は今も上で熟睡している。
尤も入口の破壊はともかく、椅子を蹴り倒し店内で銃を撃ったのはエボルトだが。

やはり新しい拠点が必要だと独り言ち、ふと店内に設置されたテレビの画面に異常が生じる。
奇怪なデザインの仮面をつけた男が映されると、気味が悪いくらいに穏やかな声で話し始めた。

(ボンドルドの言う定時放送ってやつか)

参加者への連絡事項を黙って最後まで聞き、斉木空助の笑みを最後に映像は終わった。
後には何もなかったかのような、静寂が残るのみ。
深く座り直すと胸の前で腕を組み、天上を見上げる。
ムニュリと腕に伝わる柔らかさ、石動の体には無かった感触に何とも言えない表情を作った。

放送から得られた情報を、一つずつ整理していく。

まず発表された死亡者。
知っているのは煉獄のみで、残りは精神・肉体どちらも知らない連中ばかり。
アーマージャックに凌辱されて殺された女もいただろうが、死体は顔が完全に潰されていたので不明。
肌の異様な白さからして累の母と言うらしい女かもしれない。別にどうでもいい事だが。
残念なことにアーマージャックはまだ生きているようだ。
しかも自分と蓮はあの男に目を付けられている。再会すれば戦闘は免れない。
一方で戦兎の無事を確認できたのは朗報である。
とりあえず、自分の身を守れる程度の力はあると見て良いだろう。

次に禁止エリア。
2時間後に機能する場所として、蓮と共にアーマージャックと戦ったエリアが選ばれたが特に問題は無い。
女の死体から首輪は回収済みだし、どうせ支給品もアーマージャックに取られている。
目ぼしい施設も見つからなかった以上、あのエリアに用は無い。

主催者が禁止エリアを導入した理由も、予想はつく。
侵入すれば首輪が爆発する場所へ、余程の理由が無い限り好んで行く人間はいない。
必然的に参加者が移動できる範囲は、放送の度に狭まっていく。
そうなれば、参加者同士の遭遇の機会は増え、今以上にあっちこっちで戦闘が勃発するだろう。
殺し合いが円滑に進む為の、ちょっとした工夫と言った所か。

それから精神と身体の組み合わせを記した名簿。
これがあれば戦兎は誰の身体に入っているのか、自分の知る者の身体が参加していないかの把握が可能。
但し一人でも誰かを殺さなければ手に入らない。
多少は無理してでもアーマージャックを殺すべきかと考えるが、今更だ。
それに次の放送を待たずとも、既に名簿を入手した参加者から奪い取るという手もある。
当然そう簡単に奪えはしないであろうが。

最後に主催者側の二人の男。
ようやく姿を見せたボンドルドと、斉木空助と名乗り小野寺キョウヤなる少年の身体に入った者。
連中に関して分かる事はほとんどない。
一応ボンドルドの方は『アビスの探掘家』、『白笛』と自己紹介していたが、具体的にどこで何をする人間なのかは不明。
空助に至っては、そういった紹介すら無かった。
彼らが殺し合いを開くより前は、どんな環境にいたのかの情報は無し。
よってここからは、エボルトが目で見て耳で聞き感じ取った二人の人物像を推理してみる。


127 : Another day comes ◆ytUSxp038U :2021/11/14(日) 20:32:05 7LEo0row0
まずはボンドルド。
顔は仮面に隠れていて分からない。声はとても穏やかな、父親が子どもを寝かしつけるようなものに似ている。
しかしその穏やかさは、殺し合いの主催者という立場を考えれば異質なモノ。
それに、あの男は確かに参加者へ優しく語り掛けていた。
が、本当に優しい人間ならば、殺し合いに巻き込んだ事への後悔や罪悪感を持っていそうなものではないだろうか。
ボンドルドの声色からそういった感情は一切無いように思えた。
むしろ、6時間前の放送で『未来を切り開くための鍵』がどうのと言っていたが、あの時のボンドルドは心なしか高揚していなかっただろうか。
つまりあの男が参加者に抱いているのは罪悪感ではなく、自分の望む物を見せてくれるだろうという期待。
自分の目的の為に女子供を巻き込んでも、それが問題だとは感じない人間。

斉木空助はどうだろうか。
彼は放送の最中、常に薄っすらと笑みを浮かべていたのを覚えている。
ただ空助の参加者へ向けていただろう目は、全く笑っていなかった。
アレと同じ目を、エボルトはよく知っている。
ネビュラガスを注入される囚人達を観察する、氷室幻徳やファウストの研究者ども。
空助が参加者に向ける目は、科学者が実験動物を観察するソレに似ていた。

二名に共通しているのは、どちらも参加者を目的達成の駒として扱っているだろうこと。
ああいった連中は自分の望む結果が出るまで、どんな犠牲も顧みない。
それこそ『新しい未来を切り開くための鍵』が現れるまで。
殺し合いが人々が醜く争う様を見て愉悦に浸る為の娯楽ではなく、ある種の実験として行われている可能性は非常に高い。
そうなると仮に殺し合いに優勝したとしても、元の体に戻して帰してくれるかは微妙な所だ。
バトルロワイアルという手間を掛けてまで手に入れた『新しい未来を切り開くための鍵』を、簡単に手放すとは思えない。

よくよく考えれば、優勝した者に与えられる『どんな願いでも叶えられる権利』、あれもどこかおかしい。
一番最初に死者を蘇生させたのだから、何らかの力はあるのだろう。
しかしだ、

(だったら殺し合いなんざ開かなくても、その力で欲しい物を手に入れれば良いんじゃねえのか?
 どんな願いでも叶えられるなら、不可能じゃあ無いだろ)

そうだ。願いを叶えるのは何も参加者に限定した話ではない。
その力を所有しているボンドルド達だって、叶えられるはずだ。
なのに連中はわざわざバトルロワイアルを開催するという、回りくどい方法を取っている。

ここから推測できる内容としては、まず第一に何でも願いを叶えるというのはただの嘘。
甘言で参加者を釣り殺し合いに乗る者を増やす為に言っただけで、そんな力は持っていない。
もしこれが本当なら、乗っている参加者達も激怒して殺し合いを放棄しそうだ。

第二に、願いを叶える力は今すぐ使用できる状態ではない。
ボンドルドは最後に生き残った一人の願いを叶えると言う。
ということは願いを叶える何らかの力を使うには、殺し合いの優勝が出なければならない。
59人の参加者の死亡、それがトリガーとなり初めて願いを叶えられるのではないだろうか。

となると、見せしめで殺された人間を蘇生させたのも、本当かどうか疑わしくなってくる。
実際には生き返っておらず、何らかの方法でそう錯覚させた。
ひょっとしたら見せしめにされた者は最初から主催者と繋がっており、揃って参加者を騙していたとも考えられなくはない。

(そういや、あの殺された奴に関しちゃあ何も言ってこねえな)

見せしめにされた人間の名前も、参加者と同じく精神と肉体を入れ替えられているのかも不明。
主催者からは見せしめの人間に関しては、何も言及されていない。
わざわざ説明する必要が無いからか。若しくは、あえて見せしめの素性には触れないようにしているのか。

願いを叶える力が事実にしろ嘘にしろ、結局のところボンドルド達は何がしたい?
『新しい未来を切り開くための鍵』と抽象的な事を言っているが、優勝者はどういった形でその鍵になる?。
バトルロワイアルとは、何を得る為の実験だ?
そこがどうにもハッキリしない。

「うわぁ!?」

と、上から聞こえて来た声により思考は唐突に中断された。

(…考えるのはここまでか)

ため息を吐きながら立ち上がる。
今の声はしんのすけのものだ。どうして急に慌てたような声を出したのかは、考えるまでも無い。
上にいる面子で騒動の原因に該当するのは一人、いや一匹。
呑気に眠ったままなら楽だったんだがな、そう小さく笑い階段を上った。


128 : Another day comes ◆ytUSxp038U :2021/11/14(日) 20:33:04 7LEo0row0
○○○


真っ暗な場所に僕はいた。

上を見ても下を見ても、グルリと見回しても真っ暗。
匂いもしないし、音も聞こえない。

ここは何処なんだろう。
僕はどうしてこんな所にいるんだろう。
不安になって、■■ちゃんの名前を呼んでみたけど、出て来てはくれない。

……あれ?
それって誰だっけ。

自分の事なのに、分からなくて首を傾げる。
その時だ、目の前に男の人が現れたのは。

綺麗な顔のその男の人は、僕を鬼にしてくれた御方。
僕に素晴らしい体を与えてくれた御方だ。

――ご主人様!

僕はたまらず嬉しくなって、ご主人様に駆け寄った。
だけどご主人様は、何故か凄く悲しそうな顔で僕を見つめている。
どうしてそんな顔をするのか分からない。
僕はこんなに嬉しいのに、どうして?

ご主人様に飛びつこうとしたけど、何故か届かない。
どんなに走っても、ご主人様の近くに辿り着けない。
そんな僕をご主人様はただ悲しそうに見るだけで、どんどん遠ざかって行く。

――待って!置いてかないで!

必死に追いかけても、全然追いつけない。
すると、今度は後ろの方から僕を呼ぶ声が聞こえた。

――シロー!

振り返ると、そこには四人の人間がいた。

大人の男と女。
女の腕に抱かれている、クルクルした髪の毛の赤ん坊。
そして、ジャガイモみたいな頭の男の子。

…おかしい。
僕はこんな人たち知らない。
なのにどうして、この人たちを見てると胸がざわざわするの?

良く分からないけど、この人たちを見てるのが嫌になってご主人様を追いかけようとする。
そんな僕の背に、男の子らしき声が届いた。

――シロー!待ってー!

うるさい、僕を気安く呼ぶな。
僕はお前なんか知らない、あっちに行け。
そう思っても、男の子は呼ぶのを止めない。

――シロー!

うるさいうるさいうるさいうるさい!
僕を呼ぶな!僕の邪魔をするな!

僕の邪魔を止めないなら、ご主人様の所へ行くのを邪魔する気なら

お前なんて、殺してやる


○○○


129 : Another day comes ◆ytUSxp038U :2021/11/14(日) 20:33:52 7LEo0row0
突然の事だった。

ソファーでぐっすり眠っていたシロの目がカッと開き、その瞳が自分達を捉えた瞬間、
牙を剥き出しにして飛び掛かって来た。

「うわぁ!?」

いきなりの事態にしんのすけが驚くのも無理は無い。
自分も身構えたが、シロの牙はこちらに届きはしなかった。
今のシロは、スパイダーショックという腕時計から発射したワイヤーで拘束している。
手足の身動きは取れない状態な為、あっさりと床の上に転がる羽目になったからだ。

「ギャウウウウウウ!」

じたばたと藻掻くが、ワイヤーはびくともしない。
仮面ライダーなる戦士に変身する人が使っていた道具だからだろうか。
鬼になったシロの力にも耐えられるほど頑丈だ。
どうにか引き千切ろうと暴れる度、ワイヤーはシロの身体へ食い込み傷を生み、鬼の生命力で瞬く間に塞がる。

まるで殺虫剤を吹きかけられた芋虫のように、床の上で激しく動き回る。
…シロも心配だが、この身体の持ち主である少女も心配になった。
もしシロの精神が元の犬の身体へ戻っても、身体が鬼のままではこの少女がとんだとばっちりを受けてしまう。

「シ、シロ……」

執拗に拘束から脱しようとするシロを見兼ねたのか、しんのすけがそっと手を伸ばす。
だがシロは唯一自由に動かせる首を振って、しんのすけの右手に噛みつこうとした。

「危ない!」

指が食い千切られるより僅かに速く、しんのすけの手を無理やり引っ込めさせる。
ガキンと、上下の牙が噛み合う音が響く。
邪魔をした自分を忌々し気に思ったのか、シロは自分を睨んで来た。
隣を見ると、しんのすけは怯えているともショックを受けているとも取れる表情になっていた。

「寝起きにしちゃあ、元気が良いじゃねえか」

この場には何ともミスマッチな、能天気な言葉。
何時の間に階段を上って来たのか、エボルトがいた。
新たな人物の登場に、シロは威嚇するように唸る。
敵意を向けられている当の本人は、飄々とした調子を崩さずにシロへ近付いた。

「まぁ落ち着けよ。そういきり立つなって」
「ワン!ワン!」
「俺とは仲良くできないか?悲しいねぇ」

けらけら笑いながら、エボルトは窓際へ移動した。
背後で転がっているシロへ、皮肉気な笑みを向ける。

「お前がどうしても暴れたいってんなら、そいつを解いても良い。
 だが、こんな屋根裏部屋で大暴れでもされたら、うっかり転んでその拍子にカーテンを掴んじまうかもな?」
「ガウッ…!?」
「それで勢い余ってカーテンが破れでもしたら、眩しい眩しい太陽の光が部屋を照らしちまう。
 そうなったら、お前はどうなると思う?確か鬼ってのは太陽が弱点らしいからなぁ」

何なら本当に死ぬか試してみるか?
そう言いながらカーテンの端を持ち、ヒラヒラとシロに見せつける様に動かす。
傍から見ると悪役のようだったが、効果はあった。
流石に自分が死ぬと聞かされては強く出れないのか、シロは激しく藻掻くのを止めた。
代わりに悔しそうに唸りつつ、エボルトを睨んではいるが。


130 : Another day comes ◆ytUSxp038U :2021/11/14(日) 20:35:02 7LEo0row0
『グギュゥ』

と、場の空気を壊すような気の抜けた音がした。
発生源は…シロのお腹から。
どうやら空腹を訴える音だったらしく、思わず傍に居るしんのすけと目を合わせた。

「あっ、そうだゾ…!」

何かに気付いたのか、しんのすけは自分の鞄を探り出す。
突っ込んだ手を取り出すと、タッパーのようなものを手にしていた。
蓋を開けると中身は大きな肉。
見た感じでは大層ボリュームのある肉を手に取り、シロへと近づけた。

「んも〜、シロったらお腹が空いてるならそう言えば良いのに〜」
「しんのすけ?それは…」
「オラの…しもんきん?だゾ」

それを言うなら支給品ではないのか。

「ほ〜らシロ〜。ご飯だゾ〜」
「グウウウウ……」

床に置かれた肉としんのすけの顔を交互に睨む。
その間も腹の虫はずっと鳴りっ放しだ。
食べようか迷っているように見える。
だが結局、空腹には勝てなかったのか肉に齧りついた。

全身を拘束され、這った体勢で床に置かれた肉を食べる女の子。
精神が鬼になった犬とはいえ、正直物凄く最低の行為をさせてしまっているような光景に、罪悪感がチクチクと刺激された。

「そんなに慌てなくても〜、お肉は逃げたりしないゾ〜シロ」

そんな自分とは反対に、しんのすけは少しだけ笑顔になっている。
自分が渡した食料を食べてくれるのが、嬉しいのだろう。
完全に笑顔を取り戻させるには、やはりどうにかして鬼から元に戻す方法を見つけなくては。

その為にも、今はとにかく体力を回復させ、来るべき時に備えよう。


131 : Another day comes ◆ytUSxp038U :2021/11/14(日) 20:36:31 7LEo0row0
○○○


イライラする。
よりにもよってあの御方を傷つけた男とその仲間に捕まるなんて。
しかも男からの施しを受ける羽目になっている。
それが何よりも腹立たしい。

本当だったらこんな男が寄越した肉なんて食べたくない。
肉を床に置いた時、その手を噛み千切ってやろうかとも考えた。
けどそんな事をしたら、仲間の二人が黙ってはいない。
すぐにでもカーテンを開けて、僕を焼き殺すに決まってるんだ。

だから今は屈辱に耐え、本当なら人間を食べたいのも我慢して肉を食らう。
少しでもお腹を膨らませて、いざという時お腹が減り過ぎて動けない、なんて事にならないように。
悔しいけど、太陽が出ている間は、迂闊に動けない。
だから今はチャンスを待つ。
機会を窺って、その時が来たらこいつらを喰い殺してやるんだ。

…ご主人様は大丈夫かな。
凄い勢いで殴られてたけど、それでもあの御方は僕よりもずっと強くて賢い。
きっと無事にいる。そう信じるしかできない自分がもどかしい。

自分があげた肉を僕が食べたのがそんなに嬉しいのか、男は笑っている。
今はそうやってヘラヘラしてれば良いさ。
いつか絶対、僕が殺してやるんだから。


――シロ〜、お散歩だゾ〜


また僕を呼ぶ、知らない人の声が聞こえる。

それを聞くと凄くイライラして……どうしてか、ほんのちょっぴり懐かしいような気がした。


○○○


132 : Another day comes ◆ytUSxp038U :2021/11/14(日) 20:37:58 7LEo0row0
肉に食らいつきながらも、シロは敵意を緩めてはいない。
素直に言う事を聞くのは鬼にした、あの男に対してだけだろう。
なら奴がしんのすけに殴り飛ばされるより先に、交渉してこちらに引き入れた方が良かっただろうか。
あの男が自分達の仲間である以上、シロも戦力の一つとして数えられる。

しかし、それは無いなとエボルトは自分で自分の考えを否定する。

シロを鬼にした男は意識を失った瞬間、無差別に暴れ回る殺戮マシーンと化す。
そんな爆弾のような人物を手元に置いて、肝心な場面で邪魔でもされたら堪ったものでは無い。
自分で暴走を制御する術を心得ているならまだしも、男は己に与えられた肉体の性能に振り回されているようだった。
ならやはり、余計な交渉を持ち掛けなくて正解。
あの男よりマシとはいえ、シロの存在も少々厄介であるのだが。

今はエボルトの脅しが効いたのか、それなりに大人しい。
尤もずっとこの調子とはいかず、何かの拍子にまた暴れるかもしれない。
最悪また蓮のペルソナで眠らせるか、ブラッドスタークの麻痺毒を注入する必要が出て来る。

ふと、ボンドルドの言っていた『新しい未来を切り開くための鍵』には、シロでもなれるのか。
元は犬で今は凶暴な鬼になった、肉体の持ち主である少女共々哀れな参加者である彼も、ボンドルドが欲するモノになり得るのか。
そんな事を考える。
もし何かの間違いでも起きて、本当にシロが優勝したら、それはボンドルドや空助の望む結果なのか?
“これ”で本当に、ボンドルド達の言う新しい未来は訪れるのか、どうにも疑問である。

(未来、ねぇ……)

バトルロワイアルの優勝者が決まった時、その人物が鍵となりボンドルドらが望む未来(あした)が訪れる。
それがどんなものであったとしても、参加者が納得いくものではないのは間違いない。

しんのすけなら、シロや元の世界の家族、友人と共に過ごす日常を望むかもしれない。
蓮なら、高校生と怪盗のそれぞれ充実した日々を望むかもしれない。
戦兎なら、三都の戦争が終わり、ラブ&ピースが溢れる世界を望むかもしれない。

ではエボルトは?地球外生命体が望む未来は何だ?

考えるまでも無い。
エボルトが望むのはたった一つ。

空も海も大地も、星に住まう生命も、一切合切を消し去る。
そこに地球という名の星があった、そんな痕跡は微塵も残っていない光景。
それこそがエボルトの望む明日。
星狩りの一族の本懐を遂げた先にのみ、エボルトの欲する未来がある。

火星の女王に予想外の抵抗をされ、脆弱な地球人に憑依し10年の時を過ごして来た。
子育てをし、喫茶店を経営し、記憶喪失の男や脱獄した殺人犯、7年も昏睡して同年代の友人一人いない娘に慕われる、『優しい惣一お父さん』を演じた。
その間、愛情や友情、人間の持つ感情を知る事ができた。
けれどそれだけだ。知るより上に行く事はない。彼が人間を愛する事も、友となる事も無い。
協力者や共犯者を得ても、それ以上の関係には決してならない。

エボルトの思い描く未来には、ペルソナ使いの共犯者も、嵐を呼ぶ5歳児も、ラブアンドピースのヒーローも、
バトルロワイアルの主催者達だって存在しない。

彼の望む未来に必要なのは、彼一人しかいないのだから。


133 : Another day comes ◆ytUSxp038U :2021/11/14(日) 20:38:54 7LEo0row0
【D-6 純喫茶ルブラン/朝】

【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[身体]:孫悟空@ドラゴンボール
[状態]:体力消耗(中)、貧血気味、右手に腫れ、左腕に噛み痕(止血済み)、悲しみと決意、精神疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、水水肉(残り少量)@ONE PIECE、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:悪者をやっつける。
1:逃げずに戦う。
2:困っている人がいたらおたすけしたい。
3:シロは怪物なんかじゃないゾ……。でも、オラのこと忘れちゃったの……?
[備考]
※殺し合いについてある程度理解しました。
※身体に慣れていないため力は普通の一般人ぐらいしか出せません、慣れれば技が出せるかもです(もし出せるとしたら威力は物を破壊できるぐらい、そして消耗が激しいです)
※自分が孫悟空の身体に慣れてきていることにまだ気づいていません。コンクリートを破壊できる程度には慣れました。が、その分痛みも跳ね返るようです。
※名簿を確認しました。
※気の解放により瞬間的に戦闘力を上昇させました。ですが消耗が激しいようです。

【エボルト@仮面ライダービルド】
[身体]:桑山千雪@アイドルマスター シャイニーカラーズ
[状態]:疲労(中)
[装備]:トランスチームガン+コブラロストフルボトル+ロケットフルボトル@仮面ライダービルド
[道具]:基本支給品×2、ピーチグミ×4@テイルズオブディスティニー、ランダム支給品1〜3(シロの分)、累の母の首輪、煉獄の死体
[思考・状況]
基本方針:主催者の持つ力を奪い、完全復活を果たす。
1:拠点の移動をしたい。が、本格的に動くのはまだ先だ。
2:蓮としんのすけを戦力として利用。
3:首輪を外す為に戦兎を探す。会えたら首輪を渡してやる。
4:有益な情報を持つ参加者と接触する。戦力になる者は引き入れたい。
5:自身の状態に疑問。
6:アーマージャックを警戒。できればどこかで野垂れ死んで欲しい。
7:出来れば煉獄の首輪も欲しい。どうしようかねぇ。
8:ほとんど期待はしていないが、エボルドライバーがあったら取り戻す。
9:シロに使い道はあるか?
10:移動に使う足も手に入れねえとなぁ。
11:今の所殺し合いに乗る気は無いが、他に手段が無いなら優勝狙いに切り替える。
[備考]
※参戦時期は33話以前のどこか。
※他者の顔を変える、エネルギー波の放射などの能力は使えますが、他者への憑依は不可能となっています。
またブラッドスタークに変身できるだけのハザードレベルはありますが、エボルドライバーを使っての変身はできません。
※自身の状態を、精神だけを千雪の身体に移されたのではなく、千雪の身体にブラッド族の能力で憑依させられたまま固定されていると考えています。
また理由については主催者のミスか、何か目的があってのものと推測しています。
エボルトの考えが正しいか否かは後続の書き手にお任せします。
※ブラッドスタークに変身時は変声機能(若しくは自前の能力)により声を変えるかもしれません。(CV:芝崎典子→CV:金尾哲夫)
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。


134 : Another day comes ◆ytUSxp038U :2021/11/14(日) 20:40:00 7LEo0row0
【雨宮蓮@ペルソナ5】
[身体]:左翔太郎@仮面ライダーW
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、体力消耗(小)、無力感と決意
[装備]:煙幕@ペルソナ5、T2ジョーカーメモリ+ロストドライバー@仮面ライダーW
[道具]:基本支給品×2、スパイダーショック@仮面ライダーW、無限刃@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-、ランダム支給品0〜2(煉獄の分、刀剣類はなし)
[思考・状況]基本方針:主催を打倒し、この催しを終わらせる。
1:もう少し休んでおこう。
2:まずは仲間を集めたい。
3:エボルトと行動。信用した訳ではないが、共闘を受け入れる。
4:しんのすけの力になってやりたい。一緒にシロを元に戻す方法を探そう。
5:体の持ち主に対して少し申し訳なさを感じている。元の体に戻れたら無茶をした事を謝りたい。
6:アーマージャックは必ず止める。逃げた怪物(絵美里)やシロを鬼にした男(耀哉)も警戒。
7:新たなペルソナと仮面ライダー。この力で今度こそ巻き込まれた人を守りたい。
8:シロを鬼にした男(耀哉)を捕えれば、元に戻す手掛かりを手に入れられるかもしれない。
[備考]
※参戦時期については少なくとも心の怪盗団を結成し、既に何人か改心させた後です。フタバパレスまでは攻略済み。
※スキルカード@ペルソナ5を使用した事で、アルセーヌがラクンダを習得しました。
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。
※ルブランのコーヒーを淹れて飲んだためSPが少し回復しました。
※翔太郎の記憶から仮面ライダーダブル、仮面ライダージョーカーの知識を得ました。
※エボルトとのコープ発生により「道化師」のペルソナ「マガツイザナギ」を獲得しました。燃費は劣悪です。

【シロ@クレヨンしんちゃん】
[身体]:犬飼ミチル@無能なナナ
[状態]:疲労(小)、鬼化、空腹(少しマシになった)、服がボロボロ、ワイヤーで拘束中
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]基本方針:??????
1:人間を喰らう。
2:■■■■■や■■家の人たちを…どうするんだっけ。
3:ご主人様(耀哉)を攻撃した胴着の男(しんのすけ)は許さない。絶対に殺してやる。
4:今はとにかくチャンスを待つ。
5:ご主人様(耀哉)は大丈夫かな……。
[備考]
※人間の言葉をそれなりに話せるようになりました。
※ヒーリング能力の寿命減少は、肉体側(人間)に依存します。
※犬飼ミチルを殺人鬼と勘違いしています。
※鬼化により記憶の一部が欠落しつつあります。


135 : ◆ytUSxp038U :2021/11/14(日) 20:42:45 7LEo0row0
投下終了です。

また、前回に続き支援画像を製作してくださった◆EPyDv9DKJs氏に、この場を借りてお礼申し上げます。
本当にありがとうございました!


136 : 名無しさん :2021/11/14(日) 21:04:13 .34ILWfI0
投下乙です
エボルト、ほんとこんな物騒な奴がゲームに乗らなくてよかったな…
シロ共々不穏だけど


137 : ◆NIKUcB1AGw :2021/11/15(月) 21:37:58 nChJTeM.0
投下します


138 : リリカル血風譚 ◆NIKUcB1AGw :2021/11/15(月) 21:39:22 nChJTeM.0
『それじゃあ皆、またね〜』

いろはとリトの二人は、風都タワー内のモニターで放送を見ることになった。
斉木空助と名乗る新たな主催メンバーが告げた死者の中に、二人が知る者はいなかった。
もっとも二人の知り合いの精神はもとより参加させられておらず、
この地で出会った参加者も黎斗一人だけなので当然といえば当然なのだが。
そして死者の肉体の身元という予想外の情報の中にも、彼らの知り合いは出てこなかった。
懸念していた事態が起こらなかったことに多少の安堵を覚えるリトだったが、その感情は決して大きなものではなかった。
11人もの人間が、すでにこの地で命を落としたのだ。
それを思えば、自分の都合だけで喜ぶ気にはなれなかった。

そしてもう一つ気がかりなのが、ボーナスとして提示された「肉体の情報付きの名簿」。
これが手に入れば、「知り合いの肉体が参加していないか確かめる」というリトの目的は一気に解決する。
だがそれを得るための条件は、他の参加者を殺すこと。
リトにとって、とうていのめる条件ではない。
ならば、すでに殺人を犯している参加者を倒して奪い取るしかない。
だが戦闘力の低いリトにとって、そちらもまた困難。
だからといって、いろはに戦闘を強要するわけにもいかない。
結局のところよほどの幸運にでも恵まれなければ、手に入れるのは困難という結論に至ってしまう。

「結城さん? 結城さーん」

つい考え込んでしまったリトであったが、いろはに呼びかけられ我に返る。

「ああ、ごめん。ちょっと自分の世界に入っちゃって。
 で、何?」
「とりあえず、地図の確認をしておかない?
 新しく表示された施設から、何かわかるかもしれないし」
「うん、わかった」

いろはに促されるがままに、リトは荷物から地図を取り出す。
空助が言っていたとおり、そこには最初に確認したときにはなかった施設名がいくつも出現していた。
自分たちが今いる「風都タワー」に、先ほど立ち寄った「葛飾署」。
中には「ジョースター邸」や「竈門家」といった、個人名が冠された施設もある。

「これ、変じゃないかな?」
「たしかに。病院とか、このタワーみたいに目立つ建物なら地図に載せるのもわかるけど……。
 なんで個人の家が載ってるんだ?」
「たぶん、誰かにとって重要な場所なんだよ」
「というと?」
「名簿にはジョースターさんも竈門さんもいないから、本人ではないだろうけど……。
 たぶん、参加者の中にその家の住人とつながりのある人がいるんだよ。
 その人が、地図のこの名前を見たら……」
「そこに行ってみようって思うわけか」
「そういうことだね」

自分と同じ結論に達したリトに対し、いろはは大きくうなずいてみせる。

「けど、なんかよくわからなくなってきたな……。
 知り合いの家があるってことは、この島に元々住んでた人が参加者の中にいるってこと?」
「いや、そういうことじゃないと思う。
 たぶん施設のほとんどは、この殺し合いのために用意されたものだよ。
 この島は結構大きいみたいだけど、それでも大学附属の病院なんて普通は島にはない。
 そんな大きな病院が、山の麓にぽつんと建ってるのも不自然だし。
 それに……葛飾署は東京の葛飾区にあるものでしょ?」
「うん、そりゃそうだ……。
 でも、施設をよそから持ってきたとしたらそれはそれで不自然じゃないか?
 民家一軒移動させるのでも半端じゃない手間がかかるだろうし、ましてやこんな大きい建造物を?」

新たな疑問を口にするリトであったが、すぐに自力でその答えに思い当たる。

「いや、それこそ魔法があれば可能なのか……?
 というか、考えてみればデビルーク星の科学力なら建物を一瞬で移動させるとかできそうだしな……。
 環さんは、魔法の専門家としてどう思う?」
「いや、私は魔法少女だけど専門家ってわけじゃ……。
 実際に会ったことある魔法少女も、そんなに多いわけじゃないし。
 でも魔法は、常識を超越した力っていうのは間違いないよ。
 だから、できないとは言い切れない」

そう言いながら、いろはの脳裏には具体的なイメージが浮かんでいた。
それは神浜市で様々な事件に関わっていた魔法少女達の組織、「マギウスの翼」。
彼女たちのように大勢の魔法少女が主催陣営に所属していたとしたら、このごった煮のような島を作り上げることも可能かもしれない。


139 : リリカル血風譚 ◆NIKUcB1AGw :2021/11/15(月) 21:40:50 nChJTeM.0

「とりあえず、方法を考えても今すぐ役に立つわけじゃないし、このくらいで切り上げようか。
 もう黎斗さんが来てるかもしれないし、入り口まで行ってみようよ」
「そうだな……。了解」

いろはに従い、リトは地図を閉まってカバンを背負い直した。
いろはも同様の動作を行い、歩き出す。
その最中、いろはの中では二つの懸念が渦巻いていた。

一つは、自分の頭が異様に冴え渡っていること。
いろはは決して頭が悪いわけではないが、頭脳派というわけでもない。
あくまで、年相応の頭脳の範疇である。
だが先ほどまでの考察で、彼女は自分でも驚くほどの推察力を発揮することができた。
そのことが、「自分の精神が高町なのはの肉体に侵食されているのではないか」という彼女の疑念を加速させる。

もう一つは、会場内の施設について。
参加者に関わりが深い施設が外部から移設されているとすれば、当然いろはに関わる施設がこの地に存在している可能性もある。
現在のいろはにとってもっとも縁のある場所といえば、下宿先であり魔法少女達の拠点でもあるみかづき荘だろう。
大切な居場所であるあの家が殺し合いの中で血に染まり、あまつさえ破壊などされたら……。
そう考えるだけで、胸が苦しくなる。

(この島に持ってこられてないことを祈るしかないかな、今は……)

心をむしばむ想像を押し殺しながら、いろはは階段を降りた。


◆ ◆ ◆


数分後、二人は1階のエントランスへと到着していた。

「黎斗さんは、まだ来てないみたいだね」
「そうだね」

他愛もない雑談をかわしながら、二人は歩を進めていく。
その最中、いろははふと自分たちに向けられる視線に気づく。
反射的に、視線の方向へ顔を向けるいろは。
その視界に映ったのは、刀を構えて物陰から飛び出してくる少年の姿だった。

「危ない!」

とっさにリトを突き飛ばすいろは。
その結果、いろは自身の回避が遅れる。
刀はデイパックのベルトごといろはの肩を切り裂き、鮮血を飛ばした。


◆ ◆ ◆


「浅手で済ませたか……。多少は戦いの心得があるようだな」

片膝をつくいろはを見下ろしながら、ギニューは呟く。
放送が始まる直前に風都タワーの前までたどり着いた彼は、放送の後すぐにタワーへと足を踏み入れた。
そこでギニューが感じたにおいは、まさしく警察署で感じたものと同じだった。
ターゲットは、この塔の中にいる。
そう確信したギニューは、物陰に隠れて二人が現れるのを待っていた。
そして、狙いどおり姿を現したいろはたちに奇襲をしかけたのである。

「だが、私の敵ではない。
 我が願いの礎になるがいい!」

いろはに対し、再び刀を振るうギニュー。
だが、いろはは冷静に対処する。
床を転がって斬撃を回避すると、片側だけ引っかかっていたデイパックを放り投げ、レイジングハートを握りしめる。

「レイジングハート! セットアップ!」
『Ready』

起動のキーワードを告げられ、レイジングハートはデバイスとしての機能を発揮する。
小さな宝石は長大な杖へと姿を変え、同時にいろはも姿を変える。
その身を包むのは、高町なのはの白いバリアジャケット……ではない。
白地にピンクのラインが入った、フード付きのマント。
その下には、腹部と袖がシースルーになった黒のインナーに、薄桃色のスカート。
手足を包むのは、黒い手袋とブーツ。
サイドテールにまとめられていた長い髪は一度ほどけ、三つ編みにまとめ直されている。
それは紛れもなく、いろはの魔法少女としてのコスチュームであった。

「……ハッ! いかん!
 あまりに華麗な変身に見とれてしまっていた!」

劇的な変化を遂げたいろはについ見とれてしまっていたギニューであったが、「変身」が完了するとすぐさま我に返る。

「なかなか面白い人材だが、死んでもらうぞ!」

距離を詰め、突きを繰り出すギニュー。
いろははそれをサイドステップでかわし、距離を取る。

「えーと、ディ、ディバインシューター!」

いろははプロフィールに記載されていたなのはの攻撃魔法を必死で思い出し、それを詠唱する。
それにより数発の魔力弾が出現し、ギニューめがけて発射される。


140 : リリカル血風譚 ◆NIKUcB1AGw :2021/11/15(月) 21:42:39 nChJTeM.0
「ふん! この程度のエネルギー弾など!」

しかしギニューにとって、原理は違えどエネルギー弾は見慣れた攻撃である。
あっさりと全ての魔力弾を回避し、また距離を詰めてくる。

『ディバインシューターは誘導制御可能な砲撃魔法です。
 発射後の制御を怠らないでください』
「いや、そんなこと言われても!?」

レイジングハートがアドバイスを送るも、それだけで初めて使う魔法を使いこなせるほどいろはは才能にあふれていない。
斬撃から逃げ回りつつ隙を見て魔力弾を飛ばすが、かすらせるのが精一杯だ。

「威力は侮れんレベルのようだが……。
 当てられないのではなあ!」

おのれの有利を確信し、ギニューが吠える。
そもそもいろはは遠距離攻撃タイプという意味ではなのはの体と相性がいいが、その本質はヒーラーである。
戦闘経験においてもまだまだ未熟な時期から参加させられており、百戦錬磨の砲撃魔導師であるなのはのスペックをとうてい活かし切れていないのだ。
一方のギニューは、急速に炭治郎の体になじみつつあった。
杉元たちとの戦いでは肉弾戦や飛び道具をメインに戦っていたが、炭治郎のプロフィールを把握した今回は剣術で戦っている。
さらに用いる刀も、炭治郎本人の愛刀だ。
それらが作用し、肉体にしみこんだ動きが少しずつ解凍されているのだ。
人に仇なす鬼を討つために炭治郎が習得した剣術が、凶刃となっていろはを襲う。
そしてついに、呼吸が変わった。

(な、なんだこれは!
 急に力が湧き上がってきたぞぉぉぉぉぉ!!)

急激な変化に戸惑いつつも、ギニューは体が自然に動くのに任せて剣を振るう。

水の呼吸・壱ノ型 水面斬り

ギニュー本人はまったく理解していなかったが、繰り出された斬撃はそう呼ばれる技だった。
そしてその一撃は、突然速度が上昇した動きに対応しきれなかったいろはの腹を切り裂いた。

「う……あ……」

うめき声を漏らしながら、いろはは膝をつく。
バリアジャケットの防御力のおかげで傷が内臓まで達していないのが不幸中の幸いだが、それでも決して小さな傷ではない。
彼女の動きを鈍らせるには十分だ。

「もらったぁ!」

勝利を確信したギニューが、追撃をかけようとしたその時。
奇妙な音声が、その場に響き渡った。


◆ ◆ ◆


リトは、焦燥に駆られていた。
いろはは自分をかばったせいで負傷し、そのままの状態で不利な戦いに挑んでいる。
助けなければならないと思うのは、当然のことだ。
だが目の前で繰り広げられている戦いは、学生の喧嘩とは次元が違う。
命がけの戦いを経験してきた者同士の激突だ。
たとえ武器を持ったとしても、おそらく自分といろはたちとの差はほとんど埋まらない。
足を引っ張る結果になるのが、目に見えている。

(待てよ、武器……?)

リトはふと、自分に支給されたあるアイテムの存在を思い出す。
それは、仮面ライダークロニクルガシャット。
説明書によれば、これを使うことで「仮面ライダー」に近しい姿に変身できるらしい。
これのベースを作った黎斗の話では、仮面ライダーとは都市伝説で語られるヒーローだという。
リト自身はそんな都市伝説はまったく知らないし、ゲームソフトでヒーローに変身できるというのもよくわからないが、
その辺はこの際どうでもいい。
大事なのは、戦う力が手に入るということだ。

(どれだけのことができるかはわからねえけど……。
 このまま指をくわえて見てるよりは!)

意を決してリトはガシャットを取り出し、起動スイッチを押す。

『Enter The GAME!Riding The END!』

ガシャットから音声がひびき、リトの体をアーマーが覆っていく。
数秒も経てば、彼の姿は茶色と黒で描かれたライドプレイヤーのものに変化していた。

「貴様、なんだその姿は!
 変身型の種族……というわけでもなさそうだな。
 あの女が服を変えたように、支給品で鎧を出したか!」

音声によってリトの変化に気づいたギニューは、彼に刀を向ける。
すでに深手を負っているいろはよりは、こちらを先に処理した方がいいという判断であろう。


141 : リリカル血風譚 ◆NIKUcB1AGw :2021/11/15(月) 21:44:14 nChJTeM.0

「おおおおおお!!」

おのれを奮い立たせるために雄叫びを上げながら、リトはギニューに向かって突撃。
ライドプレイヤーの専用武器であるライドウェポンを振り下ろす。
だがその攻撃は、あっさりと回避されてしまった。

「素人丸出しにもほどがあるわ!」

隙だらけのリトのボディーに、ギニューの袈裟斬りが叩き込まれる。
よろめくリトの首をギニューの右手がつかみ、体を持ち上げて床にたたきつける。
それだけで、リトの変身はあっけなく解除されてしまった。

ライドプレイヤーは、仮面ライダーの劣化版である。
それは事実だ。
だがそれでも、パンチ力は5トン。キック力に至っては、9トンに達する。
スペックは、生身の人間にとって十分な脅威となり得る数値なのだ。
だがいかにスペックが高かろうと、変身者の戦闘経験はどうにもならない。
戦いとは無縁の人生を送ってきたリトが変身したところで、熟練の兵士であるギニューには太刀打ちできなかったのである。
さらに言えば今のリトの肉体であるユーノもあくまで魔術師であり、
戦闘経験はあれど魔力を使わぬ肉弾戦では年相応の力しか発揮できない。
これでは、リトにとってプラスに働くはずもない。

「ふん、無駄に驚かせおって……。
 貴様のような雑魚は後回しだ。先に、向こうにとどめを刺してやる」

苛立ち交じりに呟くと、ギニューはきびすを返しいろはへと向かっていく。

(ダメだ……。止めないと……)

なんとかギニューを止めようと考えるリトだったが、叩きつけられた衝撃で呼吸すらおぼつかない。
意味もなく伸ばされた手が、虚空を切る。
だがそれがデイパックからこぼれ落ちた鎖鎌に触れた瞬間、彼の脳に電流が走った。

(これを……使う……? いや、そうじゃない……。
 鎖が僕の……俺の力……)

体内の酸素を必死でかき集めながら、リトは手をギニューに向けかざす。
ギニューの意識は完全にいろはに向けられており、リトの動きには気づいていない。

「チェーン……バインド……」

気力を振り絞り、リトはその魔法の名を口にする。
次の瞬間、彼の手から放たれた魔力の鎖が、瞬く間にギニューの体に絡みついた。

「何ーっ!? な、なんだこれは!」

突如体を拘束され、半ばパニックになりながらギニューはもがく。
だがその程度では、緑に輝く鎖はびくともしない。

「ありがとう……。助かったよ、結城さん」

身動きを封じられたギニューの前で、いろははゆっくりと呼吸を整える。
痛みはひどい。動くのがつらい。
されど、動けないわけではない。
レイジングハートの切っ先をギニューに向け、いろはは唱える。

「ディバイン……バスター!」

その叫びと共に、桃色の光線がレイジングハートから放たれる。
ギニューはなすすべもなくその直撃を受け、吹っ飛ぶ。
その体は無人の受付に突っ込み、轟音を立てた。

「勝ったの……かな……」

力なく呟くいろは。そこに、リトがゆっくりと近づいてくる。

「環さん、大丈夫?」
「大丈夫ではない、かな……。
 それよりありがとう、結城さん。
 魔法、使えたんだね」
「ああ、俺があんまりふがいないもんで、体の方が力を貸してくれたみたいだ」

他愛もない会話を交わす二人。
だがそれは、瓦礫を掻き分ける音で中断する。

「よくもやってくれたな、貴様らぁぁぁぁぁ!!」

怒号をあげながら、ギニューが立ち上がる。
上半身の衣服はほぼ吹き飛び、胸の皮膚は焼けただれている。
だがその目には、未だ衰えぬ戦意が宿っている。

「あいつ、まだやれるのか!」
「でも、ダメージは受けてるはず。今度こそ……うっ!」

今一度砲撃魔法を放とうとするいろはだったが、めまいに襲われバランスを崩してしまう。
リトはとっさに支えようと、手を伸ばす。
そして二人の手が重なった瞬間、リトといろはは奇妙な感覚にとらわれた。

「何だ!? 何かが繋がったみたいな……」
「これは……コネクト!?」

「コネクト」。
主に神浜市の魔法少女が用いる(厳密には名前がつけられ広く知られているのが神浜市というだけで、基本的に魔法少女なら誰でもできるが)、
二人の魔法少女がお互いの魔力を合わせて放つ合体攻撃である。
おそらくはリトがチェーンバインドを使えるようになり、魔力の制御がある程度できるようになったことで発動したのだろう。


142 : リリカル血風譚 ◆NIKUcB1AGw :2021/11/15(月) 21:45:28 nChJTeM.0

「結城さん! 私と自分の魔力を混ぜ合わせるのをイメージして!」
「ええ!? どうイメージすればいいんだよ、それ!
 まあ、やってみるけどさあ!」

いろはの指示に戸惑いながらも、リトは精一杯オーダーに応えたイメージを巡らせる。
それが上手くいったらしく、二人の前には巨大なクロスボウが出現した。

「おのれ、また大技か!」

状況を悟ったギニューは、焦りの表情を浮かべる。
セオリーに従うなら、大技は発動前に潰すべきだ。
だが先ほど吹き飛ばされたことで、いろはたちとの距離はかなり開いてしまっている。
ついでにダメージも軽くはなく、動きが鈍っていることが予想される。
今から突進しても、発動に間に合わない可能性が高い。

「ならば、飛び道具で……!」

ギニューは支給品のメギドボムを取り出し、右手に握る。
その直後、クロスボウから鎖につながれた長大な矢が放たれた。

「ええい、なるようになれ!」

自棄とも取れる台詞を吐きながら、ギニューは矢に向かってメギドボムを投げつける。
両者はぶつかり合い、大爆発が起きた。


◆ ◆ ◆


白煙が立ちこめる、風都タワーのエントランス。
いろはとリトは、爆風に吹き飛ばされ床に倒れ込んでいた。
いろはは魔力を大量に消耗したこともあってか、気を失ってしまっている。
リトの方はかろうじて意識を保っていたが、まともに動けない状態だ。
そしてギニューは……。

「散々手こずらせてくれたが……最後に勝利を手にするのは私のようだな!」

ダメージをさらに増やしつつも、どうにか両の足で立っていた。

「く……そ……」

なんとか抵抗しようと体を動かすリトだったが、その動きはあまりにも遅かった。

「感情としては貴様らは、存分にいたぶってから殺してやりたいところだが……。
 それでまた逆転のチャンスを与えてしまってはかなわんからな。
 一撃で心臓を貫いてやる!」

鬼気迫る表情で、日輪刀を構えるギニュー。
もはやこれまでかと、リトが諦めかけたその時。
ギニューは何かに気づいたように、目を見開く。

「なんだ、このにお……ぐげっ!」

そして唐突な打撃音と共に、ギニューの体が吹き飛んだ。

「は?」

目の前で起こったことが理解できず、まぬけな声を漏らすリト。
やがて彼の前で、虚空に何かが浮かび上がっていく。
それはカメレオンを模した、緑の甲冑。
仮面ライダーベルデの姿だった。

「すまない、遅くなった。
 少し前に到着していたんだが、割って入れそうな状況ではなかったものでね。
 ライダーの能力で透明化して、様子を見させてもらっていた」
「その声は……黎斗さん!?」

ベルデの声を聞いたリトは、その正体が待ち合わせ相手の黎斗であることに気づく。

「その通りだ。今さら遅れた分を帳消しにはできないだろうが、ここからは私に任せてもらおう」

そう語りながら、黎斗は向き直る。
その視線の先にいるギニューは、片膝をついて立ち上がろうとしているところだった。

「できれば、実戦の前にこのライダーに慣れておきたかったんだがね……。
 まあ死にかけ相手なら、ウォーミングアップの代わりにはちょうどいいか」

余裕を持って、ゆっくりとギニューに近づいていく黎斗。
だがこの状況でもなお、ギニューの顔に絶望は浮かんでいなかった。

「このオレを……舐めるなぁっ!」

振り絞るような声で叫ぶと、ギニューは最後のメギドボムを投擲した。


143 : リリカル血風譚 ◆NIKUcB1AGw :2021/11/15(月) 21:46:31 nChJTeM.0


◆ ◆ ◆


「大丈夫ですか、黎斗さん」
「ああ、仮面ライダーの装甲がだいぶダメージを抑えてくれたからね。
 無傷とは言わないが、君たちよりはよほどましさ」

おのれの体を案じるリトの言葉に、黎斗は微笑を浮かべて返す。
結局ギニューは、爆発のどさくさに紛れて逃げてしまった。

(ゲンムの時の癖で、つい真っ向から攻撃を受け止めてしまったな……。
 しっかりと修正しなければ、またあの世に逆戻りだ……)

反省点をまとめつつ、黎斗は改めていろはとリトを見つめる。

(二人とも満身創痍……。
 もう一度ベルデに変身すれば、殺すのはたやすい。
 だが、この二人は情報を集めさせるために生かしたのだ。
 何も聞かないうちに殺しては、ここまで来た意味がない)

手早く考えをまとめ、黎斗はもう一度リトに語りかける。

「さっそく情報交換を行いたいところだが、その様子ではしばらく休んだ方がいいだろう。
 それに、これだけ派手に戦闘をすれば他の参加者が寄ってくる可能性がある。
 今の状況で殺し合いに乗った参加者が来れば、私一人で君たち二人を守れるとは限らない」
「それは……たしかに……」
「近場でいいから、場所を移そう。
 動けるかね?」
「なんとか、歩くくらいなら……。
 あ、でも環さんは……」
「目覚めるまでは、私が背負っていこう」

気絶したままのいろはの体を担ごうとする黎斗。
だがここで、彼はあることに気づく。

「ん……? 環さんのデイパックはどこだ?」


【D-4 街 風都タワー/朝】

【環いろは@魔法少女まどか☆マギカ外伝 マギアレコード】
[身体]:高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[状態]:気絶、ダメージ(大)、魔力消耗(大)、右肩と腹部に刀傷
[装備]:レイジングハート@魔法少女リリカルなのは
[道具]:なし
[思考・状況]基本方針:元の体に戻る。殺し合いには乗らない
1:結城さんと行動。
2:檀さんと情報を交換したら、街の外へ出る
[備考]
・参戦時期は、さながみかづき荘の住人になったあたり
・デイパックを失いました


【結城リト@ToLOVEるダークネス】
[身体]:ユーノ・スクライア@魔法少女リリカルなのはA's
[状態]:ダメージ(大)、魔力消耗(中)
[装備]:ジェットシューズ@妖怪学園Y
[道具]:基本支給品、エッチな下着@ドラゴンクエストシリーズ、仮面ライダークロニクルガシャット@仮面ライダーエグゼイド、
     警棒@現実、ニューナンブM50(5/5)@現実、鎖鎌@こちら葛飾区亀有公園前派出所
[思考・状況]基本方針:殺し合いには乗らない
1:環さんと行動。
2:知り合いの肉体がないか、情報を集める
3:肉体の情報付きの名簿を手に入れたい
[備考]
・参戦時期は「ダークネス」終了後
・フェレットへの変身魔法、チェーンバインドが使えるようになりました。コツを掴めば他の魔法も使えるかもしれません。
・フェレットになっても首輪は外れないようです。


【檀黎斗@仮面ライダーエグゼイド】
[身体]:天津垓@仮面ライダーゼロワン
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、バットショット@仮面ライダーW
[道具]:基本支給品、着火剛焦@戦国BASARA4、パラゾニウム@グランブルーファンタジー、ランダム支給品0?1
[思考・状況]基本方針:優勝し、「真の」仮面ライダークロニクルを開発する
1:人数が減るまで待つ。それまでは善良な人間を演じておく。
2:いろは達と情報交換。その後の二人の処遇は、状況次第。
3:優勝したらボンドルド達に制裁を下す。
[備考]
※参戦時期は、パラドに殺された後
※バットショットには「リオンの死体、対峙するJUDOと宿儺」の画像が保存されています。


144 : リリカル血風譚 ◆NIKUcB1AGw :2021/11/15(月) 21:47:36 nChJTeM.0


風都タワー近くの路地裏。
ギニューは、そこに身を潜めていた。
その体に刻まれた傷は完全には消え去っていないものの、先ほどまでと比べればはるかに少なくなっている。

「とっさに奪ってきたが……。とんだ掘り出し物があったものだ」

おのれの手の中で輝く宝石を見つめながら、ギニューはほくそ笑む。
その石の名は、賢者の石。
ギニューが爆発のどさくさで持ち去ったいろはのデイパックに入っていた、傷を癒やす力を持つアイテムだ。
本来は何度でも使える代物だが今は主催の手によって制限がかけられており、一度使うと「次の放送まで」使うことができない。
これは、放送直後に使おうが放送直前に使おうが変わらない。
よって放送が流れたばかりのこのタイミングで使うのは、復活までのインターバルを考えれば悪手と言える。
だが今のギニューに、そんな贅沢は言っていられない。
いろはたちとの戦いにより、もはやまともに戦えないほどのダメージを受けていたのだから。
効率が悪かろうと、今すぐ回復する必要があったのである。

「しかし、このオレがまたしても誰一人殺せず逃げ出すことになるとは……」

先ほどの戦いを振り返り、ギニューは一転して苦い表情を浮かべる。
杉元たちとの戦いに続き、今回も敵を一人も殺すことができなかった。
大きな損害を与えたのは事実だが、その程度ではフリーザ軍のエリート兵士としての誇りは満たされない。
傷もある程度癒えたし、もう一度襲撃をかけるか。
向こうもまさか、逃げた相手がすぐさま再び襲ってくるとは思うまい。
だが、あの緑の鎧を着た男がネックだ。
逃げるのに精一杯で、ろくにあの男の情報を得ることができなかった。
ボディーチェンジを使うにしても、相手の戦闘力が未知数ではリスクが大きい。
それに、全身鎧を着込んだ相手に対してボディーチェンジを使った経験もない。
万が一の確率だが、鎧に弾かれて通用しないという可能性もある。

「奴らに執着せず、別の場所で獲物を探すという手もある……。
 その場合、目指すべきはあそこだろうな」

ギニューは、風都タワーに入る前に確認した地図を思い出す。
そこには殺し合いが始まったばかりの時にはなかった、「フリーザの宇宙船」の文字が存在していた。
まさかフリーザ軍の兵士たちまで一緒に配備されているということはないだろうが、何か自分にとって有益なものが隠されているかもしれない。

「さて、どうするか……」

ギニューの選択は……。


【D-4 街/朝】

【ギニュー@ドラゴンボール】
[身体]:竈門炭治郎@鬼滅の刃
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、姉畑への怒りと屈辱(暴走しない程度にはキープ)
[装備]:竈門炭治郎の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品×3、トビウオ@ONE PIECE、賢者の石@ドラゴンクエストシリーズ、警棒@現実、
     ニューナンブM60(5/5)@現実、ランダム支給品0〜3(鳥束+いろはの分)
[思考・状況]
基本方針:優勝し、フリーザを復活させる
1:もう一度タワーの連中を襲うor宇宙船に向かう
2:強敵と遭遇したら、ボディーチェンジで体を奪う
3:もしベジータの体があったら優先して奪う。一応孫悟空の体を奪う事も視野に入れている
4:可能であれば『呼吸』や『透き通る世界』を使えるようになりたい
5:変態天使(姉畑)は次に会ったら必ず殺す。但し奴の殺害のみに拘る気は無い
6:炎を操る女(杉元)にも警戒しておく
[備考]
・参戦時期はナメック星編終了後。
・ボディーチェンジにより炭治郎の体に入れ替わりました。
・全集中・水の呼吸がわずかに使えるようになりました。
 現状では一時的かつ無意識での発動で、意図的に使うことはできません。


「支給品紹介」
【賢者の石@ドラゴンクエストシリーズ】
使用すると味方全員のHPを中回復できるアイテム。
このロワでは、「使用者本人と、使用者が味方と認識している半径10メートル以内の人物」を回復する。
また本来はノーコストで何度でも使用できるが、制限により一度使うと「次の定時放送が流れるまで」使用不能となる。
外見は八面体にカットされた宝石に、持ち手として金属の棒がつけられているというもの。
その形状から、「鈍器としても使えそう」などと言われたりも。


145 : ◆NIKUcB1AGw :2021/11/15(月) 21:48:47 nChJTeM.0
投下終了です


146 : ◆ytUSxp038U :2021/11/16(火) 22:21:08 dt/BL5RQ0
投下乙です。
ユーノの魔法が徐々に使えるようになり、リトさんはいろはと良いコンビになってきた気がしますね。
ただ社長の判断次第でどう転ぶか分からないのが恐い所。

胡蝶しのぶ、デビハムくんを予約します。


147 : ◆EPyDv9DKJs :2021/11/17(水) 12:23:14 VrGt/4h.0
キャメロット、遠坂、バリー、無惨、アルフォンスで予約します


148 : ◆ytUSxp038U :2021/11/19(金) 17:24:20 6KPdq53Y0
投下します


149 : 心を腐らせる毒 ◆ytUSxp038U :2021/11/19(金) 17:25:39 6KPdq53Y0
(ふむふむ、アイツらはまだ生きてるみたいデビね)

放送の内容にデビハムが特別強く思う事は無かった。
6時間で11人の死者が出たそうだが、身体にも精神にも知っている者は無し。
そいつらのラブを壊せなかったのは残念ではあるが、そう後を引く程でもない。
標的として目を付けている戦兎達が無事ならば、それで良かった。

(それにしても、何であんな身体になってるデビ?)

デビハムが疑問に思うのは、空助と言うボンドルドの仲間に関してだ。
別に空助の詳しいプロフィールを知りたい訳では無いが、何故わざわざキョウヤとか言う少年の身体になっているのか、
それが分からなかった。
どうせ身体を変えるのなら、あんな普通の人間っぽいのじゃなく、もっとかっこいい身体にすれば良いだろうに。
目も口もない、縦に一筋の溝が入った仮面のボンドルドは、それなりに不気味でかっこいいとは思う。
なのに空助は変なアンテナらしき物を頭に付けている以外は、ごく普通の……

(…あれ?よくよく考えればあれはアンテナじゃなくて、ヘアピンじゃなかったかデビ?……うん、やっぱりただのヘアピンだったデビ)

とにかく、どうしてあんな普通っぽい身体に入っているのか疑問なのである。
主催者ならば、誰の身体になれるかは自由に選べるはずだろうに。

(ま、オイラはあんなのよりもっとかっこいい身体に………ん?)

はた、と何かに気付き目を見開く。
今まで気にしていなかったが、ひょっとすればデビハムの本来の身体も参加者に与えられている可能性がある。
デビハムを敗北に追いやったハムスターどもの身体だって、殺し合いの為に用意されたかもしれない。
そして参加者の身体となった以上、当然支給品に身体のプロフィールも配布されている。
プロフィールを読まない者はいないだろう。殺し合いに乗る乗らないを別にしても、仮の肉体のスペックくらいは把握する。
となると、もし殺し合いにデビハムやハム太郎達の身体があった場合、プロフィール用紙によりデビハムが危険な参加者なのかを知られてしまう。
今はまだ殺し合いに乗っていないと偽って動くつもりのデビハムとしては、よろしくない事態だ。

デビハムやハム太郎達の身体が参加しているか否か。
手っ取り早く把握するには、主催者が言っていたボーナスの名簿を手に入れれば良い。
但し入手するには誰でも良いので殺す必要があり、しかも殺したからと言って今すぐ手に入るのではない。
既に名簿を手に入れた者から奪う手もあるが、放送では誰が死んだのかは発表されても誰が殺したかは教えてくれなかった。

(ムキ〜!本当に気が利かない奴らデビ〜!!)

怒った所で名簿は手に入らない。
ならいっそ、今ここで同行者を殺してしまおうかと考える。
名簿が自分の手に渡るのはまだまだ先だが、それまで生き残っていれば確実に手に入る。
殺したのは戦兎達だとでも偽って、更に悪評を流す手も悪くは無い。
殺すのだって天使の悪魔の能力を使えば簡単だ。
ゴミが付いているから取ってあげるとでも言って、相手の身体に直に触って寿命を奪い取ればそれで片が付く。
唯一の懸念は、相手がどうにも感が鋭そうな女である事だが。

(というか、さっきから黙りっ放しじゃないかデビ?)

放送が終わってから、何のリアクションも無い同行者に首を傾げる。
もしや知り合いでも呼ばれたのかと、怪訝な目を向けた。

「へっ?」

デビハムの口から出たのは、何とも間の抜けた声。
彼が見つめる先には、これまでほぼずっと浮かべていた笑みが消え、呆然とするしのぶの姿があった。


150 : 心を腐らせる毒 ◆ytUSxp038U :2021/11/19(金) 17:26:35 6KPdq53Y0



煉獄の死を知った時、しのぶは悲しみこそすれど取り乱す事は無かった。
薄情な言い方をすれば、既に一度彼の死を味わったが故に、二度目となれば衝撃はそれ程大きくない。
叶うならばもう一度言葉を交わし、肩を並べて戦い、彼を元の時間に帰してあげたかった。
自分以上に煉獄の死を嘆いていた炭治郎との再会、それが不可能となったのは非常に無念である。
ただ一つ、この地での再会が叶わずとも分かる事はあった。
きっと煉獄は、己の命が尽きるまで剣を手放さず、守るべきものを守る為に戦い抜いたのだろう。
それだけはこの目で見ていなくとも、確信を持って言える。
しのぶだけでなく、煉獄と関わった者ならば誰もがそう言うに違いない。
煉獄杏寿郎は、まさしく炎のような生き様を体現した男であると。
生きている限り己の魂を燃やし続け、死した後も彼の死を嘆く者の魂へその炎が受け継がれる。
ならば同じ柱としてやるべき事は、彼と同じく鬼殺隊の隊士として恥じない戦いをし、元の世界で己の身を上弦の弐に喰らわせる。
それだけである。
幸いにして善逸と耀哉は無事。彼らとも早く合流しておきたい。

発表された死亡者の中には、煉獄以外にも気になる顔があった。
以前、那田蜘蛛山で討ち取った鬼と似た風貌の女。
角を生やし、瞳に下弦・四の文字を浮かばせた少女。
どちらも鬼だ。
やはり殺し合いには無惨の配下も参加している。
その事実に改めて気を引き締めつつ、しかし死んでいるのなら彼女達による脅威は去ったと見る。
問題は鬼の女どもが既に死んでいること。
下弦やその手下の鬼程度、柱であるしのぶからしたら大した敵ではない。
それでも一般人や平隊士からしたら、恐るべき化け物だろう。
そんな化け物は二体とももういない。別人の身体になっている為、力が弱まっている可能性を考慮しても驚くべきことだ。
彼女達を殺した参加者は、下弦程度の鬼なら殺せるということ。
もし手を下したのが殺し合いに乗っていないのなら、何も問題は無い。
反対に乗っているのなら、警戒する必要がある。
いざその者らと遭遇した時、蟲の呼吸の精度が低下している今の自分で、どこまで渡り合えるかは全くの未知数なのだから。

死者11名の中に、他にも鬼がいるのではと他の者の写真に視線をやり、

そこで一つ、信じられないものを見た。

(………えっ?)

男の顔を凝視する。
しのぶはその男に直接会った事は一度も無い。
殺し合いに参加していた事も知らなかった。
けど知っている。その男を、しのぶは知っている。

頭から血を被ったような頭髪を、しのぶは知っている。
人を小馬鹿にしたような、それでいてどこか空虚な貼り付けた笑みを、しのぶは知っている。
両の瞳に浮かぶ十二鬼月の証を、しのぶは知っている。

姉から聞いた通りの特徴を併せ持つ男の正体を、しのぶは知っている。

胡蝶カナエを殺した上弦の弐の名が「童磨」であると知った時には、全てが手遅れだった。





151 : 心を腐らせる毒 ◆ytUSxp038U :2021/11/19(金) 17:27:32 6KPdq53Y0
「えっと……」

よもやしのぶがそんな顔をしているとは思わず、つい困惑が口を突いて出る。
隙だらけの様子は、不意を突いて寿命を奪い取るのに絶好の機会だ。
しかしデビハムが何か行動を起こすよりも早く、しのぶのほうからデビハムへ声を掛けられた。

「ごめんなさい、知っている名前があったものですから」
「えっ、あっ、そ、そうデビか。じゃあしょうがないデビね…」

何時の間にか元の笑みを浮かべるしのぶに、デビハムはキョドキョドとした態度でどうにか返す。
そんな簡単に立ち直れる様子では無かったきがするが、それを直接聞くのはどうにも憚れる。
空気を読まずに我が道を突き進むデビハムであるが、今回ばかりはどうにも積極的になれなかった。

「さ、行きましょう。街はもう目の前です」
「ちょ、ちょっと待つデビ!置いてくなデビ〜!」

ニコニコとしたまま背を向け、街へ足を踏み入れるしのぶ。
無防備な背後からなら殺せるかもしれないが、いざ手を出そうとするとどうにも躊躇が生じる。
別に今更罪悪感が芽生えたなどと言うつもりは無い。
ただ、自分に向けられたしのぶの笑みを思い浮かべると、何とも言えぬ気味の悪さがデビハムの心を蝕むのだ。

ハム語で挨拶するハムスターたちの能天気な笑みとは違う、まるで人形のような作り物めいた笑み。
感情の全てを心の奥底に閉じ込めたようなその顔に、デビハムは言葉にできない気持ち悪さを感じていた。

同行者にそんな思いを向けられていると知ってか知らずか、しのぶは童磨の死に関し、こう考える。
悪いことでは無い。むしろ朗報であると。

あの男が最初の6時間の内に死んだのなら、もう童磨の被害が広まる事は無い。
生き残っていたとしても、兎のような姿では上弦の弐としての力をどこまで発揮できたかは怪しい所であるが、もういないのだから考える必要も無いだろう。

少々疑問に思うのは、あの童磨は自分と悲鳴嶼、どちらの世界から来たのかということ。
もし悲鳴嶼いる世界から連れて来られたのならば、しのぶが帰還した時間軸ではまだ童磨は生きている事になる。
だったら当初の予定通り毒に侵された己の身体を喰らわせ、カナヲに後を託すだけ。
仮にしのぶのいた世界の童磨であったとしても、何ら問題はない。
むしろ上弦の弐という無惨側の戦力が一つ欠けている分、鬼殺隊にとっては非常に有利な展開だ。
童磨と戦う必要が無くなったなら、上弦の壱や上弦の参との戦闘に加勢が出来る。
上手く行けば、無一郎や玄弥を死なせずに済むかもしれない。
毒に侵された身体とて、他の上弦や無惨に喰わせてやれば無駄にはならないのだから。

童磨がどの時間軸から来ていたにせよ、ボンドルドを倒して本来の身体を取り戻し、元居た世界に帰還する方針は変わらない。

だから、何も問題はない。

自分の手で仇を討てなかったからといって、それが問題にはならない。

(……ええ、そうよ。それで良いのよ)


152 : 心を腐らせる毒 ◆ytUSxp038U :2021/11/19(金) 17:28:28 6KPdq53Y0
――本当にそう思う?

「――――」

聞き覚えのある声がした。
デビハムではない、鬼殺隊の人間でもない、しのぶ自身の声だ。

――本当に、そう思ってるの?

自分の声ながら、羽虫が耳元を飛び回っているかのように不愉快だった。

――あいつを殺す為に、ずっと毒を取り込んで来たのに

姉が死んだ日から、しのぶは変わった。
本心を曝け出す事無く、姉の模倣を続けた。
家族や継子を奪われた怒りを常に抱えながら、笑みを浮かべていた。

――あいつを殺せるのなら、自分が死ぬのなんて怖くなかったのに

復讐を果たせるのなら、後悔なんて無い。
だからここまでやって来れた。

――なのにあいつが死んだなら、私は何の為に……

しつこく囁きかける声を振り払うように、早足となる。
仇が討てなくとも、自分は鬼殺隊の蟲柱。戦いを投げ出すつもりはない。
童磨は死んだが無惨は健在だ。剣を置くには早すぎる。

それにここで死んだ童磨が自分の世界の童磨かどうか、まだハッキリしていない。
本当に仇を討つ機会が失われたとは限らないのだ。
だからしのぶは、まだ死ぬわけにはいかない。

――じゃあもし、あいつが私と同じ世界から連れて来られてたなら?

(黙れ)

食い下がるような声を切り捨て、ただ前に進む。
そうしないと、自分の何かが壊れそうだから。


【D-2 街/朝】

【胡蝶しのぶ@鬼滅の刃】
[身体]:アリーナ@ドラゴンクエストIV
[状態]:健康、精神的疲労、童磨の死に形容し難い感情
[装備]:時雨@ONE PIECE
[道具]:基本支給品、鉄の爪@ドラゴンクエストIV、病院で集めた薬や包帯や消毒液
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止め、元の世界に帰る
1:街を探索し、鬼殺隊の仲間や共に戦ってくれる者を探す。(最優先はお館様)
2:探索を終えたら病院へ戻り、悲鳴嶼さんと合流。
3:無惨を要警戒。倒したいが、まず誰の体に入っているかを確かめる
4:もしも上弦の弐が自分と同じ世界から来ていたら……
5:デビハム君の話には半信半疑。桐生戦兎と大崎甜歌に会い、真相を確かめたい
[備考]
※参戦時期は、無限城に落とされた直後。

【デビハムくん@とっとこハム太郎3 ラブラブ大冒険でちゅ】
[身体]:天使の悪魔@チェンソーマン
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:秋水@ONE PIECE、アトラスアンクル@ペルソナ5
[道具]:基本支給品、ドロン玉×1@ペルソナ5
[思考・状況]基本方針:優勝してかっこいい悪魔の姿にしてもらうデビ
1:街に行くアイツら(戦兎と甜歌)がいたら、悪者に仕立て上げてやるデビ
2:オイラらしいやり方で参加者のラブをぶっ壊すデビ
3:アイツら(戦兎と甜歌)の悪評をばら撒いてやるデビ
4:オイラの身体があるかどうか確認したデビ
5:この女ちょっとおっかないデビ…
[備考]
※参戦時期はハム太郎たちに倒されて天使にされた後。


153 : ◆ytUSxp038U :2021/11/19(金) 17:29:55 6KPdq53Y0
投下終了です。


154 : ◆ytUSxp038U :2021/11/19(金) 21:51:34 6KPdq53Y0
DIO、貨物船、大崎甜歌を予約します。


155 : カルマ ◆EPyDv9DKJs :2021/11/20(土) 22:27:30 9TUKyrqk0
投下します


156 : カルマ ◆EPyDv9DKJs :2021/11/20(土) 22:28:55 9TUKyrqk0
 少女、彼女達は知らないがダグバの放送を聞いて一先ずすべきことを遠坂が告げる。
 今すぐ向かうつもりの如く、声の方へ視線を向けていた彼女を諫めるように早口で。

「キャメロット。少し落ち着いて状況確認をしましょう。」

 キャメロットが自分達を置いてそのまま直行するほど、連携が取れない人物とは思わない。
 ただバリーの出会った相手と言い、想像以上に乗った参加者が多く存在してる状況。
 言い方は悪いがセイバーの身体である彼女に離れてもらうのはかなりの不安だった。
 自分だけの問題なら割り切れたが、此処には肉体の持ち主のしんのすけだっている。
 なるべく危険なことは避けなければならない。

「ですが、急がないと……」

「私達だって、放送に従って行くべきかどうかを悩んでるのよ。
 全員がとは言わないけど、多かれ少なかれすぐに行く決断をしないわ。」

 自分一人だったら行く考えだったキャメロットにとって、
 少々耳が痛くなる言葉なのもあってその提案をすぐに受け入れる。
 ただ、話を切り出そうとした瞬間に次の、本来の放送が流れて早々に中断させられたが。
 ボンドルドと新たな主催側の人物、斉木空助による死者を筆頭とした新情報が開示される。

「ランスロット卿!?」

 一番反応が強かったのはキャメロットだ。
 それもそのはず、彼女が最初に交戦した剣士リオン・マグナスが死亡し、
 その上で肉体の名前が円卓の騎士の一人と同名で驚くなと言う方が無理だ。
 とは言えキャメロットの記憶にもアルトリアの方の記憶ともだいぶ姿が違うので、
 これまた彼女の知るランスロットとは別人であることはすぐに気づいたが。

(彼が亡くなられたとは……)

 相容れない敵。リオンとはそういう間柄だった。
 分かり合うことはできないことは十分に理解してたし、
 もう一度出会ったのであれば必ず斬るつもりでもあった。
 しかし彼には譲れない、言うなれば信念と言うものがある。
 その手を汚してでも、縋らなければならない願望の成就があった筈。
 ブリテンの為にアーサー王は何度も戦った。そんな敵にも信念があっただろう。
 だから敵ゆえに共感こそしないものの、彼にはそれなりに理解を示し尊敬の念を持つ。
 先の弓兵のような、自分の欲望の為だけに他者を踏み躙る輩と彼を同一にしたくない、
 そういう意味も含まれていると言えば含まれるか。

(彼も一因でしょうが、ランスロット卿も相当な鍛錬を積まれていたはず。)

 リオンだけだとしても、ランスロットだけが鍛錬していても、
 いくら得物が今一つだとしても敗走することになるとは思わない。
 お互いが相応の技術を持っていたからこその優れた動きだったはず。
 故に、この短時間で命を落とすと言うことは相当な実力者がいることの裏付けになる。
 できることならば、彼を討ったのが殺し合いに対して反対の人物であることを願いたい。

(アルフォンスの奴は生きてるってことかー。)

 バリーは死者に思うところは殆どなかった。
 桃白白がどんな奴だったのかが分かったぐらいで、
 どちらかと言えばアルフォンスがまだ生きてると言うこと。これに尽きる。
 彼が生きてる上で人数が減れば減る程、自分に対する悪評が広まって楽しむチャンスが減っていく。
 しかし現状はこうして二人に同行する以外はなく、どうしたものかと頭を抱えながら遠坂が地図を開き、
 どうせなので確認しようと顔を覗かせるも、自分の知っている場所は今のところ地図上にはなかった。

(不幸中の幸いとしましょう。)

 三人の中で遠坂が一番頭を回転させていた。
 地図と名簿を取り出して開示された情報を確認していく。
 しんのすけは無事なようだが、状況はかなり悪い方向に転がっている。
 自分の身体は僅かにそっくりさんで済ませられればいいな、
 なんて幻想をほんのちょっぴり抱いてたがそれは当然打ち砕かれたわけだが、
 所詮希望的観測。今更名指しもされて撃沈するほど受け入られないわけではない。
 この戦いが終わった後どうすればいいのかと言う、漠然とした未来の不安は残ったままだ。

 しかし今はそれについては後だ。
 問題はその死者の名前、と言うよりも死者の肉体の方。
 ランスロットに岡田以蔵と、他にもサーヴァント足りうる名前の人物がいたこと。
 これはつまり、サーヴァントを殺せるぐらいの実力者が存在しているということに他ならない。
 (厳密にはランスロットの方はサーヴァントでもなんでもないのだが、そんなことを知る由もない)
 同姓同名の可能性は無きにしも非ずだが、いかんせんそこにアルトリア・ペンドラゴンの身体がある。
 サーヴァントではありません、などと断言できる要素などどこにもないし、
 事実片方は本当にサーヴァントなのだから。


157 : カルマ ◆EPyDv9DKJs :2021/11/20(土) 22:30:40 9TUKyrqk0
(そういえばシロって犬のシロなのかしら。)

 しんのすけに注視しすぎててすっかり忘れていたが、
 名簿の残ってるシロは、しんのすけの愛犬のことだろうか。
 同姓同名の概念を考えた結果、ようやくそのことに気付けた。
 もしそうであったのなら、保護を考えておくべきかもしれない。
 犬である以上、普通の参加者以上に見分けがつくのもありうるから探しやすいか。

(禁止エリアは一応問題ないのよね……一応でしかないけど。)

 指定された場所はどこも距離が離れている。
 直ちに困ることはまずないが、一応と言うのは後述。

(で、一番得られた情報で大きいのはこっちね。)

 情報と言う面においてはかなり遅れ気味の中で得られたまともなもの。
 地図に追加されたのはただの施設ではなく、恐らくは参加者に縁のある施設になるだろう。
 明言はされてないがフリーザやジョースターと言った特定の人物の名を冠する施設、
 それらを考えれば地図上に出る風都タワーと言ったものも縁のあるものは確定だろう。
 彼女が注視したのは『何故この施設を用意したか』と言うことにある。

 参加者の接触を高める為に施設を用意した。
 そこまでは分かる。そうすれば殺し合いはより加速する。
 だが参加者を誘導するならジョースター邸などの施設ではなく、
 武器がありそうな刑務所、医療器具がありそうな病院を設置すればそれで事足りるだろう。
 この舞台には監獄も病院も存在しているので用意できなかった、ということはないはず。
 態々参加者に縁のあるものを用意する必要は薄く、何よりも移動する人数が限られる。

 例えば、此処に遠坂邸があるとしよう。
 自分の身体やアーチャーの身体に入ってでもなければ、
 自分以外がその場所を地図に見つけたとしても、近くでもなければ目指すわけがない。
 前述の病院や刑務所なら多くが何かしらを目当てに行動するのかもしれないが、
 ごく少数の人間しか行く意味を見いだせないものを用意するのは、非常に手間がかかるものだ。
 では名前だけの偽物? それはない。一度騙されたら理由がなければ施設へ向かわなくなってしまう。
 そうなると殺し合いの停滞につながる危険もある。見てはないが、恐らく再現はされてるはず。

(でもこれを『そうせざるを得ない』と考えたら……)

 参加者に所縁ある施設である必要を考えて行きついたもの。
 それが『主催の誰かが殺し合いを止める為に用意した』と言う仮説。
 先の空助と言う人物は分からないが、少なくとも運営も一枚岩ではないはず。
 平行世界の人物に干渉、精神と肉体の交換、参加者に所縁ある施設と島の用意、首輪の性能、支給品。
 これだけの大がかりなことをするのに現在判明してる二人だけでやるには余りに規模が大きすぎる。
 まだ複数主催側の人間がいて、そのうちの一人が反対してる人物がいる可能性は大いにあるだろう。
 だから特定の人物にだけわかる何か重要なものが、ひょっとしたら施設のどこかにあるのかもしれない。
 例えば、冬木市で龍脈の要石となる柳洞寺のような存在があれば自分にだけ重要な場所だとそれがわかる。
 そんな風に特定の参加者を、特定の場所へ向かわせて何か大事なものを手にしてもらうために所縁ある施設を用意した。
 だが露骨に用意すれば他の主催に感づかれてしまう。故に複数の施設を設置し続けてそれを隠す。
 木の葉を隠すなら森の中と言ったところだろうか。

(ただ、施設が後出しなのが引っかかるのよね。)

 この仮説の問題は施設が後出し表記と言うところがネック。
 先に誰かが入らなければ地図上に表記されない仕様では、
 その大事なものを先に持ち逃げされたり消されたりする可能性もある。
 先のキャメロットの戦いの激しさを鑑みれば、建物が吹き飛ぶことすらあるだろう。
 先ほどの一応、と言うのも禁止エリアに巻き込まれていたら意味がないのだから。
 そも。見つからなければ置く意味もなければ、何より参加者が生きてる前提の話だ。
 柳洞寺があっても自分がそこに辿り着けなければ、誰かに伝えなければ何の意味もない。
 生き残りやすい参加者に充てたのなら、話は別だろうが参加者にその把握は当然できないだろう。
 気付かれないように忍ばせたとしても、かなり綱渡りが過ぎる要素に頭を抱える。

(……いや待って。)

 『後出しで表記してる』のではない。
 『後出しで表記せざるを得ない』のではないか。
 主催でもこの島における施設の全容を把握しきれてない、
 だからこそ後出しで地図上に載せている、と言う可能性に行きつく。
 もしかしたら、ボンドルドでさえ想定してない場所があるんじゃないのかと。
 或いは、何か彼らにとって都合の悪い施設が何処かに配置されてて参加者を使って探らせてるとか。

(とは言え、結局そうでも問題の場所が分からない現状は進展しそうにもないか。)


158 : カルマ ◆EPyDv9DKJs :2021/11/20(土) 22:34:18 9TUKyrqk0
 想定してない場所が何処か不明だし、そもこれはその存在がいる前提の話だ。
 いなかったら笑い話にもならないが、現在遠坂は二人しかまともに情報が得られてないし、
 その上で魔術師ではなく五歳児の身体と言うことで、無茶は当然だしできることも少なすぎる。
 どうしても希望的観測になってしまうことは無理もないが、これも完全にあり得ない話ではないだろう。

(それと小野寺キョウヤだったかしら。)

 理由の一つが、先の新たな主催の人間。
 態々空助が必要もなく名乗った肉体の名前。
 名乗ったということは、誰かにそれを伝えたかったのではないか。
 この六十の参加者の中に、彼の知り合いが何かしら鍵になってるかもしれない。
 名乗った以上まだ生きてるのでできれば出会っておきたいが、乗ってる可能性もあるので、
 正直当てにできたものではないが、今後の方針の一つにはしておきたい。

「キャメロット、バリー。私の話を聞いてもらうわよ。」

 綱渡りの仮設ではあるが、
 現状はこれが精一杯なものを二人にも共有する。
 映像と言った媒体でこちらの行動は認識されてるだろうが、
 せめてもの対策で紙媒体でのやり取りで重要な部分は話しておく。
 表向きには施設を巡って籠城とかしてる参加者に接触と言う風を装って。

「さっきの、ボンドルド……じゃなくてメロンのほうね。
 あっちには行かないって方針なんだけど、二人の意見は?」

「俺は別にいいぜ。」

 迷うことなく即答するバリー。
 ダグバに興味はないのだから当然であるし、
 紫の鎧の方も出くわす可能性が減るなら十分だ。

「でもキャメ子の嬢ちゃんがどうするかだよな。」

「キャ、キャメ子? あの、その呼び方はちょっと……」

 提案に乗り切れないのは、やはりキャメロット。
 特殊な条件下によって顕現した竜宮城や地獄に絡む城娘と言う例外はあるが
 人々から『そうあれかし』と望まれ続けた物語群の先に誕生した、現実には顕現できない城娘。
 なので彼女は存在や成り立ちこそ城娘と何ら変わりはないのだが、殆ど兜に遭遇したことはない。
 現実に干渉はできない。つまり現実で兜がどれだけ暴れようとも彼女は介入することは基本不可能。
 こうして己の意志で、誰かの物語を守るという騎士の本懐を以って戦える機会など、恐らく今回きりだ。
 と言うよりもこんなにホイホイと例外が出てこられても困る、と言うのも少なからずあるだろうか。
 だから譲りたくないのが本音でもあるが、このまま直進すればそれこそ遠坂を危険な状態にしてしまう。
 ダグバによりまだ疑心が拭えない現状、バリーと一緒にするという行為も余り出来ない。

「あの放送に、普通の参加者は行かないわ。」

 誰が信用できるかもわからない状況下において、
 不特定多数の人物を集める相手を頼りになる人物とは思わない。
 それをねじ伏せるだけの力を持っていると思っているのもあるだろうが、
 たとえそうでもこれに釣られるのは参加者を殺すつもりの連中ばかりなのは必然。

「万が一、と言う可能性はありませんか?」

「うん、言うと思った。わかりやすいの本当に助かるわ。」

 お人よしを通り越して自己犠牲の塊で行動を御せない士郎を思うと、
 彼女が正直で、しかしそれでいてある程度制御できる人物であるのかよくわかる。
 真面目で誠実。実に騎士の代表格たる人物の居城であった存在らしい性格。

「でもキャメロット。よく考えなさい。
 あの弓兵は魔力供給した貴女でも倒しきれてなかった。
 此処に乗った参加者がさらに追加で入り乱れる可能性もあるのよ。
 しかも来るってことは、相手も当然勝つつもりで来てるって状況。
 さっきのような戦いをずっと続ければ、夜を迎える前に消滅するわ。」

 いかに肉体がセイバーであったとしても、
 立て続けに戦い続けて魔力が尽きれば彼女は消滅する。
 今の遠坂からすれば、セイバーの身体を持つキャメロットが最高戦力。
 彼女を喪えばこの戦いは大きく不利になると言うのは想像に難くない。

 捨てきれない面倒見の良さは、確かに遠坂を象徴する部分でもあるだろう。
 だが、一方で彼女は魔術師故にある程度の冷徹さを持つ為物事を現実的に見る。
 やれることはやるが、出来ないことはしない。無駄と言うものは極力省いていく。
 六時間も経過した今、殺し合いと言うものを十分に理解できる放送もあった中で、
 それでもダグバの放送へ殺し合いに反対の人物が向かうようでは、危機管理がなさすぎる。
 今の遠坂ではとても面倒が見れる状況ではないのもあって、それらの人物は見捨てる考えだ。
 ただでさえ自分が重荷になってるのを痛感してる中、これ以上はキャメロットに負担を掛けたくない。

(そりゃ、しんのすけのことを考えれば話は別なのかもだけど。)


159 : カルマ ◆EPyDv9DKJs :2021/11/20(土) 22:36:00 9TUKyrqk0
 五歳児のしんのすけなら殺し合いの意味を理解してないから行くかもしれない。
 ただ、六時間経ってもそんな彼が死者にならず生き延びてると言うことを考えれば、
 彼は誰かの庇護下にある筈。この放送に行くかどうかは、その人が判断できるだろう。
 だからこれにしんのすけが関与する可能性はほぼゼロだ。

「城娘だから、多くの人を守りたいって気持ちは理解するわ。
 知り合いにも自分を簡単に投げ捨てちゃうお人よしもいたわけだし。
 でも大局は見極めないといけないわ。それこそアーサー王のようにね。」

 ブリテンが何故滅んだのか。
 ランスロット、モードレッドの裏切りはあるだろうが、
 勢力を拡大させすぎたことによる信頼の低下も含まれる。
 ラウンドテーブルと言う意見の場を設けてこそいたものの、
 勢力を拡大すれば人数も増える。百を超えた円卓も存在した。
 昔の円卓は人数が少なく機能した。だが人数が増えてしまえば別。
 意見は纏まりがつかなくなり、結果的に信頼を落とすことに繋がった。
 アーサー王は寛大すぎた。そのことをキャメロットはよく知っている。

『ただ救われただけの連中がどういう末路を辿ったか、それを知らぬ貴様ではあるまい。』

 言葉と共に脳裏に映し出されるのは、逞しい肉体を持った赤髪の巨漢。
 誰かは分からない。恐らくアルトリアとしての記憶の人物の一人だろう。
 だがその言葉が今は刺さる。敵を倒して行くだけでは事態は解決しない。
 ただ倒したところでボンドルドは倒せない。もっと根本からの解決が必要だ。
 しかしその根本の解決ができる程、彼女は技術や知識については明るくない。
 謎の科学技術の知識を持つ友人、ラ・ピュータの方がこの場では活躍できるだろう。

「です……」

(ま、やっぱ説得は難しいか。)

 戦うことを運命づけられたのが城娘。
 そんな彼女に戦うことを避けるようにさせる。
 言うなれば存在意義を殺してるようなものだ。
 悩むのは当然だし、説得しきれるとも思ってない。

「……じゃあそうね。ある程度勝てる見込みのある戦力を揃えたら行きましょう。」

 今すぐ直進は、何人乗った参加者が集まるか分からない。
 施設を探して巡ると言う目的は一致しているわけだ。
 せめてもの妥協案についても既に織り込み済みである。

「そう、ですね……」

 目先のことに囚われ続ける。
 国を拡大すると言う救済こそしていたが、
 拡大に伴う先のことを理解してなかったアーサー王と同じだ。
 ある意味これは無理からぬことだ。城娘は兜と敵対する為基本は人にとって善だが、
 城に関係が深い城主の性質……城娘曰く『業』と呼ばれるものを背負ってしまう。

 分かりやすいので言えば、明智光秀が丹波攻略に築城した丹波亀山城だろうか。
 彼女は城娘でありながら己の意志で兜側に一度与したように『裏切り』を業に持った城娘。
 故に城娘と共にある殿と刃を交えた。そして最終的には大型兜の明智光秀でさえ裏切ろうとしている。
 全員がそうと言うわけではないが、悪名高い人物が纏わる城娘とは割とそういう厄介なものを背負う。
 キャメロットもまた城主たるアーサー王の性質が混ざっており、騎士らしい性格が色濃く反映される。
 熱が入ると周りが見えなくなると言った部分も、円卓の騎士に影響されたものだ。

「それが必要だと思います。」

 多かれ少なかれ城娘はそういう業を背負い、それと折り合いをつけていくものだ。
 とは言え、そこに折り合いを付けなければならないような機会に余り恵まれていない。
 兜と戦うことも、人との交流も少ない。業と向き合わなければならないこと自体が稀である。
 だから面向かってと言われたことや記憶の想起。それらに伴って二の舞を気を付けるべきだと認識できた。
 若干後ろ髪を引かれるようではあるものの、その提案を受け入れることにした。

「じゃあ今度こそ契約でも……っと、早速お出ましかしら。」

 北の村の方角からやってきた参加者。
 青年と異形と、何とも絵面が奇妙な二人(?)を前に、
 警戒はしつつも接触することにする。


 ◇ ◇ ◇


 ダグバの放送に反応したアルフォンスに、
 立て続けにやってきたボンドルドによる放送。

「十一人……」

 決して少なくない人数が命を落とした。
 戦争でもないのに、戦いと無縁な人だっていたはず。
 中には乗った参加者がいたかもしれないが、それでもだ。
 知らないところで命が消えていくのは、ヒューズの死を思い出させて気分が悪くなる。
 その上で、他者の死を殺し合いを盛り上げる為だけに利用してくる主催者達。
 許してはいけない相手だと改めて確認しつつ、今後の方針を固めていくことにする。


160 : カルマ ◆EPyDv9DKJs :2021/11/20(土) 22:36:29 9TUKyrqk0
(まずは周囲だね。)

 放送の声は断片的で聞き取れなかったが、
 素直に行くという行動は一先ずとらなかった。
 罠と言う可能性も想定してるが、別の理由がある。
 人を食うアマゾンである可能性がある中で人との接触、
 それだけでもリスクだが一度に大勢の人と一気に遭遇してしまって、
 空腹に耐えきれなくなった場合を考えるとかなり危険でもあるからだ。
 いくら時間との勝負になると言えども、いきなりではリスクが高すぎる。
 一方で、現在の持ってるものだけでは状況は打開できないことは証明された。
 なら錬金術ではなくアナログな、錬金術を介さない解除手段を探すのが一番だ。
 機械鎧技師であるウィンリィのように、工具の扱いに手慣れている人物を探す。
 此処からは時間の勝負だからと言って、焦って暴走みたいなことをを起こさないよう気を配る。
 中々に過酷な戦いを始めなければならない。

 放送は一先ず警戒し直行せず、
 放送につられて近づいてきた参加者に接触していく。
 敵の可能性の方が高いが、負傷してて病院に行ける程ではない。
 誰かが来ることを想定して、あえて向かう可能性だってあるのだから。

「……と言う感じだけど大丈夫?」

「フコッ。」

 否定的な行動をしてこないので、
 大丈夫と判断して無惨を背負い、アルフォンスは動きだす。
 一方無惨はと言うと───

(実に嘆かわしいことだ。)

 人の姿であれば恐らくは溜息の一つもついただろう。
 揃いも揃って不甲斐ない。此処まで役に立たない奴しかいないとは。
 下弦ですらない鬼や保身に走るような下弦の鬼が役に立つはずもなし。
 精々、私の障害となる敵を蹴散らして貢献すればいい程度でしかない。
 だが何をしている童磨。元よりあの男に好意と言うものは薄いのだが、
 それでも上弦の鬼が私の役に立ったことを示すことすらせず消え去るとは。
 しかも消えた鬼狩りは一人だけだ。貴様らは何故鬼であるのか忘れたのか。
 偽名の為に名乗った産屋敷が生きてる方が、まだ私に貢献してくれているだろう。
 私が元の身体であれば異常者共の相手をするのは心底面倒だとは思いつつも、
 誰も彼も役に立たなかったことを愚痴にして腰を上げるのが容易に脳裏に浮かぶ。

 それでいてこのアルフォンスも未だに問題だ。
 この六時間、ろくに動いていないことで間違いなく情報と言うものが欠落している。
 理由については分からなくもないだろう。殺し合いを否定するが肉体は人を喰らう肉体。
 参加者との接触を忌避する、或いは億劫になるのもわかる。私とて人間に擬態してる間は、
 穏便に事を済ませようとしたものだ。面倒な人間に絡まれようとも素直に謝罪して穏便に。
 だが時間をかければこいつがいつ私を食うのか分からない怪物になり果てる可能性もある。
 その前に早急に事態の解決か、安全となる参加者を探すようにしてもらわねばならぬ。
 して、三人の参加者と相対することになったが果たして私の役に立ってくれるのか───

「君達は、放送に向かうつもりの人?」

「結果的にはそうなるけど、準備段階よ。」

 アルフォンスから声をかけ、それに対応するのは遠坂。
 此処までの間でブレインとしての役割を果たしている。
 今更先導する立場にあっても二人が異を唱えることはない。

「アルフォンス・エルリックって言います。背負ってるこっちの人は産屋敷さんで……」

「アルフォンス───!?」

 絶叫と共に眼球が外れかねない程眼球が飛び、顎が外れそうなほどに口を開くバリー。
 ただでさえ絶叫と言う予想してない反応に加えそのインパクトのある表情。
 注視しない方がおかしいというものだ。

(あ、やっべ。)

 やってしまった。
 確かに先程確率が上がるとは言った。
 だがまだ放送が終わったばかりで参加者も八割。
 此処にいる人数分差し引いても低い確率で、本人と当たるとは思わない。
 当然この反応で一番訝るのはアルフォンスであり、心当たりも一人だけだ。

「……今の反応。ひょっとして───」










「やっと見つけたぞアルフォンス!!」

「えっ。」


161 : カルマ ◆EPyDv9DKJs :2021/11/20(土) 22:37:05 9TUKyrqk0
 数メートルはあった距離を一気に詰め寄り、、
 アルフォンスの手を取りブンブンと上下に振り回す。

「え? あ、うん。」

 思わぬ反応と動きを前に、うわの空のような相槌が返してしまう。
 下手に誤魔化しても意味はない。逃げたところでキャメロットの脚力なら追いつく。
 バリーが短い時間で選べるこの場の最適解な答えは、再会を喜ぶ以外になかった。

「いやぁ、こんなことに巻き込まれてお互い難儀だな!
 おめえの錬金術がありゃこんな面倒な状況からもおさらばだ!」

 偽名を名乗らなかったことでの信用を得ているこの状況下なら。
 再会を喜ぶため大げさな動作や声色で誤魔化すのが一番良かった。
 元々アルフォンスとはそれなりに交流があるならば、
 自分がこういう性格な奴だと分かっているはず。

「お知り合いなのですか?」

「殺し合いになる前に以前ちょっとね……でも、なんていうか変わったね。」

「いや、オメーに言われたかねえよ。」

 視線を上下させて姿を見やる。
 二メートル以上の巨漢が着込んでそうな鎧だったのが、
 今や半分にも劣るぐらいの小柄な身長に違和感を覚える。
 一方でバリーも見上げなければならないのは中々の違和感だ。

 二人はバリーが殺人鬼であることは気づいてない様子。
 しかし、此処でバリーが殺人鬼と言うのは余りよくはない。
 確かにバリーとは余りいい記憶はないし、警戒もしてる相手。
 一方でこうして集団を形成してるのは、乗ってない可能性もある。
 もしそうなら自分の一言で必要のない戦いを招いてしまいかねない。

「ところでバリー、君は乗ってないの?」

「今嬢ちゃん二名と色々考え巡らせてるから大丈夫な方だぜ。
 と言うより、開幕やべー奴に出会って戦意喪失してるから折れてる。」

 念のため今の状況の確認の為小声で会話をすることにする。
 背負ってるそれに聞かれるが配慮ができるアルフォンスなので、
 恐らくは大丈夫なのだろうと判断してそのまま普通に返す。

「ひょっとして、ホークアイ中尉を重ねてる?」

 端麗かつ(束ね方は違うが)後ろに髪をまとめた金髪の女性。
 バリーが同行しているということもあってリザ・ホークアイを想起する。
 青いドレスが軍服の色と同じと言うのもあってより思い出しやすい。

「一応言うが、俺は姐さんは強さで惚れただけで別に見た目じゃねえぜ?
 いやまあ、山を息切れなしで走れるぐらいの化け物体力だから絶対やべーけど。」

 惚れた経緯も聞いて安心した。
 乗っている可能性も十分にありえた人物だが、
 バリーがそう言うのであれば乗る可能性は低くなる。
 言い換えれば、彼女の存在が重要なのでそれはそれで問題だが。

(安心した、とか思ってんだろなぁ。)

 表情だけでもうわかる。
 鎧の時は表情がないからなのもあるが。
 嘘と真実が混ざった会話と出会ったときからの目論見通り、
 キャメロットの存在が疑心を減らす要因となっているのはありがたいことだ。
 分かりやすい甘い奴であることに変わらず、心の内で笑みを浮かべる。

「どうしたのよそっちの二人。此処で内緒話は感心しないわよ。
 と言うか、さっき錬金術って言ってたけどあんたも錬金術師なの?」

「うん。鋼の錬金術師って呼ばれる兄さんと一緒にいたけど、君も?」

「また別世界っぽい話が出てきたわね……まあいいわ。
 残念だけど、父や知り合いに錬金術ができる奴がいるだけよ。
 私自身にできるわけじゃないし、仮にできてもこの身体だとね。」

 彼女の世界における錬金術とは魔術師の派生だ。
 アインツベルンやエルトナム辺りは錬金術師として名高い家系であり、
 遠坂も亡き父時臣や、父の弟子となる言峰も恐らくだが錬金術の知識があるので比較的身近だ。

「それで、お互い乗ってないわけだしちょっと情報を交換し合うとかは?」

「うん、と言っても僕の方は全然動けてないから殆ど出せる情報はないけど……」

 アルフォンスが自覚してる通り、
 参加者との接触は産屋敷耀哉(無惨)一人だけで、
 加えて根本の解決についても錬金術が通じないことぐらいだ。
 (当然ながら、錬金術を披露したら二人とも関心を抱くことになったが)

「首輪に錬金術ねぇ……」

 自分の知る錬金術と致命的に違うわけではないが、過程や内容も異なる。
 これを首輪で制限とは、一体どんな細工をすればそんなことができるのか疑問だ。
 サーヴァントの力ならば知名度補正、魔力供給などを抑えればまだ現実的になるが、
 これを首輪に対してできないようにする。錬金術に詳しくなければできそうにない。


162 : カルマ ◆EPyDv9DKJs :2021/11/20(土) 22:39:39 9TUKyrqk0
 自分の知る錬金術と致命的に違うわけではないが、過程や内容も異なる。
 これを首輪で制限とは、一体どんな細工をすればそんなことができるのか疑問だ。
 サーヴァントの力ならば知名度補正、魔力供給などを抑えればまだ現実的になるが、
 これを首輪に対してできないようにする。錬金術に詳しくなければできそうにない。

「この殺し合いに関わる錬金術師や関係者って心当たりある?」

「お父様って呼ばれる人がいたけど、多分無関係ないと思う。」

 すでにお父様にも想定外であると考えているし、
 他に彼にとって敵となりうる錬金術師がいるならゾルフ・J・キンブリーだろうが、
 仮に彼が関わってるとしても、彼は高みの見物と言ったものをする男でもない。
 己の信念を貫く人物見たさに参加者に紛れ込む方が自然と言えるものだ。

「そういえば錬金術ってことは、もしかして賢者の石もそっちの世界あるのよね?」

 錬金術師と言えば当然代表的なのはパラケルスス。
 彼女が元の世界で持っていたアゾット剣の原典は彼が持つ元素使いの魔剣。
 当然ながら賢者の石と言うものについても軽い知識ぐらいはある。

「! まさか持ってるの?」

「えー……ありました。数時間前まで。」

 凄く申し訳なさそうなに目を逸らしつつキャメロットを指す。
 それがどういう意味かは、言うまでもないことだ。

「飲ませたの!?」

 彼の反応は当然そうなる。
 あれが何かを知ってるのはこの舞台では彼が一番なのだから。
 キング・ブラッドレイの話では相当な人数が発狂して死んだとされる。
 にも拘わらず、リンと同様に飲んで耐え抜いたと言うのだから驚くほかない。

「キャメロットさん、別人格とかは出てないの?」

「え? 今のところは問題はありませんが、どういうことでしょうか?」

 真っ先に思うのは、彼女にホムンクルスが内包してるのではないかどうか。
 一番想像しやすいのはやはり目の前でリンと融合したホムンクルス、グリードになる。
 唯一見たことのある成功例でもあるし、取り込んだ結果乗っ取られた光景も見たが故に。
 だが、たかが支給品の一つにリンの中にいるグリードを取り出すなんて、
 そこまでの手間をかけるとは思えないいないと考える方がまだ自然だ。

『『ありえない』なんて事はありえない。』

 そのグリードの言葉が今の考えを否定してくる。
 最初からありえないなどと決めつけることはできない。
 ただ、どちらかと言えば他のホムンクルスの可能性の方が現実的でもあった。
 バリーが生き返ってる以上既に死亡したホムンクルス、ラストの可能性だってある。
 考えつつも、賢者の石についてある程度かいつまんだ説明をしておく。

「───と言うわけなんだけど。
 サーヴァントだから平気なのか、症状が遅いのかな。
 なんも問題がないなら大丈夫だとは思うけど、気をつけてね。」

「そんなにやばいものだったのね。少し甘く見すぎてたかも……」

 相手が放置しなければ、確実にキャメロットはあの時点で死んでいただろう。
 肝心なところでやらかす、と言うのはある意味では遠坂の十八番。
 今になって始まったことではないが他者を巻き添えは気分はよくないし、

「ご忠告感謝いたします。」

 賢者の石を飲んでなおも保てている精神力から、
 恐らくは大丈夫だとしても警告はしておく。
 エンヴィーだったら間違いなくろくなことにならない。

「もしグリードだった場合のこと、メモにしておくね。
 彼、名前の通り何でも欲しがるから、取り扱いぐらいは……」

 性格的にはまだましと言えども、
 厄介な人物である可能性は十分にある。
 仲間想いだったあの時のグリードの面もあれば、
 リンと融合した後のようにお父様の配下となったこともある。
 警戒するに越したことはない人物だ。

「いや機械じゃないんだから……
 と言っても、そっちの方が頭抱える内容なんじゃないの?」

 自分が危険なアマゾンである可能性。
 それについても、勿論アルフォンスは話した。
 こればかりは話さないでおく方が危険であると判断しての事だ、
 三者ともに怪物と縁のある人生を送っていることもあって、
 左程彼の話を聞いても忌避感はない。

「だから僕は別行動で調査して、情報を集めようと思います。
 もし僕が人を食うような状態になってたら、その時は……」

「ええ、分かったわ。」

「凛さん!?」

 驚くほど素直に頷き、
 キャメロットが声を上げる。
 迷いも葛藤もない、冷徹な一言に戸惑う。

「私は無駄なことは極力したくないの。
 無理と断定したら遠慮なく殺すつもりでいるから。」


163 : カルマ ◆EPyDv9DKJs :2021/11/20(土) 22:40:06 9TUKyrqk0
 要するに彼はバーサーカーのクラス。
 今でこそ理性があって制御することが可能ではあるものの、
 いずれはそのクラス同様に、理性を奪われて災禍をまき散らす。
 此処で処分すると決められないので甘い人間だと言う自覚はあるが。

「でも、諦めることだけはしないことね。」

 逆に無理と断定できない状況なら。
 最後まで可能性を信じて行動する。
 それが遠坂凛という人物のあり方だ。

「第一私を見なさいよ。私なんて元の身体確定で死んじゃってて、
 その上で持ち主が今も何処かにいるって言う状況なのよ?
 それに比べたら、まだ貴方の方はまだだいぶ希望があるじゃない。」

 身体の方が死亡者として連なった人間が言うと説得力しかない。
 全員(一応無惨も含める)の意見が一致した瞬間でもある。
 自分で言っておいて虚しくなってきたのか、涙が零れていたが。

「遠坂さん……ありがとうございます。」

 不安でしかなく、拒絶されても仕方がない。
 そのような境遇であっても人として接してもらえる。

「とりあえず行動の確認よ。アルフォンスが施設と参加者に接触していく私達の目的をお願い。
 私達も別で施設を調べ参加者と接触して、戦力を整えてから村の放送の相手を叩く。これに異論はある?」

 全員が首を横に振り、産屋敷(無惨)も応じる。
 現状アルフォンスが多人数と行動することは危険なので、
 その方が助かるのもあって、一人で別行動をすることを選ぶ。
 産屋敷(無惨)はアルフォンスのことを考慮して預かることになり、
 風都タワーへ向かうべく、南へと歩き出す。

【アルフォンス・エルリック@鋼の錬金術師】
[身体]:千翼@仮面ライダーアマゾンズ
[状態]:空腹感、自分自身への不安
[装備]:ネオアマゾンズレジスター@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品、ネオアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]基本方針:元の体には戻りたいが、殺し合うつもりはない
1:遠坂さんに頼まれた地図上の施設を巡る。空腹には十分気を付けないと。
2:ミーティ(無惨)に入った精神の持ち主と、元々のミーティを元の身体に戻してあげたい。精神が殺し合いに乗っている可能性も考慮し、一応警戒しておく。
3:殺し合いに乗っていない人がいたら協力したい。
4:バリーは多分大丈夫だろうけど、警戒はしておく。
5:もしこの空腹に耐えられなくなったら…
6:千翼はアマゾン…?
7:一応ミーティの肉体も調べたいけど、少し待った方がいいかも。
8:機械に強い人を探す。
[備考]
※参戦時期は少なくともジェルソ、ザンパノ(体をキメラにされた軍人さん)が仲間になって以降です。
※ミーティを合成獣だと思っています。
※千翼はアマゾンではないのかと強く疑いを抱いています。
※支給された身体の持ち主のプロフィールにはアマゾンの詳しい生態、千翼の正体に関する情報は書かれていません。
※千翼同様、通常の食事を取ろうとすると激しい拒否感が現れるようです。
※無惨の名を「産屋敷耀哉」と思っています。
※首輪に錬金術を使おうとすると無効化されるようです。
※ダグバの放送を聞き取りました。(遠坂経由で)
※Fate/stay nightの世界観および聖杯戦争について知りました。





 新たに遭遇した三人とのやりとりは実に有意義だ。
 私にとっては実に追い風となりうるものと言えるだろう。
 小僧……いや小娘か。先程放送でその顔は映されていたからな。
 彼女が持つ考えは確かに希望的観測だが、筋としては通ってるだろう。
 私は常に全ての鬼を監視していた都合把握はしていたが、人間は限度がある。
 必ず綻びが生じるのは必然。私にとっての追い風だが、やはり人間と言うべきか。
 アルフォンスが莫迦正直に自分の身体のことを離したときは苛立ったものの、
 能天気なのか、或いはこいつらも鬼かそれに与する存在か。特に否定的な意見は飛ばなかった。
 実に都合がいい。戦力と知略、双方においてそれなりの水準に達したとも言える。


164 : カルマ ◆EPyDv9DKJs :2021/11/20(土) 22:42:38 9TUKyrqk0
 しかし、爆弾となった奴から一時的に離れることはできたが、問題は付きまとう。
 何故ならバリーといったか。この動物でも人でもある珍妙な生き物に宿った奴は、
 あのアルフォンスを以てして殺し合いに乗ると疑われるほどに性根に問題がある人物。
 もう一つ、キャメロットと呼ばれた小娘も賢者の石により問題を抱えてるではないか。
 他者の意志が乗っ取る可能性か。全ての鬼を監視する私は、ある意味ではそれだろうな。
 だが他者に乗っ取られるようでは、所詮その程度だ。

【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[身体]:ミーティ@メイドインアビス
[状態]:成れ果て、強い怒り(特に今は部下の不甲斐なさに、他は軽減)、激しい屈辱感
[装備]:
[道具]:基本支給品、ネコネコの実@ONE PIECE、ランダム支給品×0〜2(確認済み)
[思考・状況]基本方針:元の体に戻る。主催は絶対に許さない
1:今は小娘(遠坂)の庇護下にいる。私に余計な手間を掛けさせるな。
2:何とかして自由に動けるようになる。
3:アルフォンスや遠坂を利用。何方も私にはない視点を持っているようだ。
4:ネコネコの実の力が本当ならば食べてみる。が、今すぐ食べる気は無い。
5:誰も彼も役に立たない。戻った際は上弦も解体も考えておくか。
6:貴様ら、揃って問題を抱えているのは何故だ?

[備考]
※参戦時期は産屋敷邸襲撃より前です。
※ミーティの体はナナチの隠れ家に居た頃のものです。
※精神が成れ果てのミーティの体に入っても、自我は喪失しません。
※名簿と支給品を確認しました。
※アルフォンスには自身の名を「産屋敷耀哉」だと偽っています。
※アルフォンスの肉体(千翼)を鬼かそれに近い人喰いの化け物だと考えています。
※ダグバの放送を聞き取りました。(遠坂経由で)
※鋼の錬金術師のある程度の世界観を把握しました





(あっぶねぇ〜〜〜ギリギリ何とかなった。)

 脚力強化の状態で産屋敷(無惨)としんのすけを乗せて、
 キャメロットと共に身軽な動きで走るバリーは安堵の息を吐く。
 人がいいアルフォンスだからこそギリギリ凌げたと言ってもいい。
 ホークアイやマスタングなら確実に監視下に置かせるように言うはず。
 特に

(ま、何とかなったし結果オーライだな。)

 うまくやり過ごせたのでとりあえずは良いとしよう。
 ラストにやられて身体がばらされても生きてたように、
 なんだかんだうまくやっていけばいい……まあ、その後彼は死んだわけだが。

(……)

 後ろのバリーたちを一瞥しながら走るキャメロット。
 ついてこれてるかの確認、それもあるだろうが一つ別のものがある。
 グリードの取り扱いメモは一応彼の性格を簡潔にまとめていた。
 金も、女も、地位も、名声も、この世の全てを欲する強欲の化身。
 だが性格的には意外と気さくで仲間想いでもあり、うまくやれば仲良くなれるかもしれない。

『バリーはちょっと問題がある人だから気をつけて。多分キャメロットさんが無事なら乗らないと思う。
 後産屋敷さんはまともに喋れてないのもあるから、殆ど人物像が分からないのも少し気をつけておいて。』

 そういった内容がつづられていた中に、最後に書かれていた関係ない一文。
 アルフォンスが乗った人物で、チームの輪を乱すための行為……とは思わない。
 誠実な少年(推測)だ。自分の危険性を理解して告げてまで警戒させる必要はないはず。
 言い方が悪くなるが利用価値に乏しい産屋敷(無惨)を放置するメリットも薄い。
 他の参加者の目を気にするにしても、六時間殆ど一緒ならいくらでもあったはずだ。
 ついでにバリーにどう問題があるかも記載しなければ、乗ってる敵だとすぐに糾弾もしなかった。
 自分にだけ情報を渡すと言うのもおかしい。遠坂に共有してないのだから。

(私にだけ送ったのは、彼が殺し合いに乗ってないと信じたいことでしょうか。)


165 : カルマ ◆EPyDv9DKJs :2021/11/20(土) 22:44:30 9TUKyrqk0
 あくまで要注意程度。いざと言うときに頼ってはいけない人物。
 つまりはそういうことなのだろう。問題がある理由を記載しないのは、
 必要以上の警戒をしてほしくないから……そう受け取ることもできる。
 自分が無事なら乗らない可能性があるならば、しっかり気をつけておきたい。
 このチームでバリーが乗っていると仮定すれば、自分の死が遠坂の死に繋がる。
 何が何でも避けなければならないことについては余り変わってないものの、
 バリーについては程々に警戒をしておく。産屋敷(無惨)は現状不明なのと、
 元々戦えるような状態ではないのでさして気にするものでもないが。

「ところでちょっといいか?」

 走るのを止めてバリーが言葉を紡ぐ。
 訝る視線に気づかれてしまったのかと思ったが、

「契約するつってたの、まだやらねえのか?」

 すっかり忘れていたことを思い出す。
 心なしか、契約をしようとするたびに別のことに気を逸らされる。
 今度は契約ができるのか、それともまた妨害されるのか。
 そんなことを気にする暇もなく、契約を試すことにする。

【B-4/朝】

【遠坂凛@Fate/stay night】
[身体]:野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん
[状態]:健康、精神的ショック(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み、現在の状態で使用可能な武器)
[思考・状況]基本方針:他の参加者の様子を伺いながら行動する
1:ある程度戦力をそろえて、安全と判断できるなら向かうC-5へ向かう。
2:サーヴァントシステムに干渉しているかもしれないし第三魔法って、頭が痛いわ。
3:私の身体に関しては、放送ではっきり言われてもうなんか吹っ切れた。
4:身体の持ち主(野原しんのすけ)を探したい。後シロはほあのシロ?
5:アイツ(ダグバ)倒せてないってどんだけ丈夫なの。
6:アルフォンスは心配だけど、一先ず彼にサポートを任せる。
7:さっきから契約したい時に限って事が起きてない?
8:施設とかキョウヤ関係者とか、やること増えてきたわね……
[備考]
※参戦時期は少なくとも士郎と同盟を組んだ後。セイバーの真名をまだ知らない時期です。
※野原しんのすけのことについてだいたい理解しました。
※ガンド撃ちや鉱石魔術は使えませんが八極拳は使えるかもしれません。
※御城プロジェクト:Reの世界観について知りました。
※地図の後出しに関して『主催もすべて把握できてないから後出ししてる』と考えてます。
※鋼の錬金術師のある程度の世界観を把握しました

【キャメロット城@御城プロジェクト:Re】
[身体]:アルトリア・ペンドラゴン@Fateシリーズ
[状態]:マスター不在によるステータス低下、全身に裂傷(軽微)、ダメージ(大)、精神疲労(大)、複雑な心境
[装備]:はぐれメタルの剣@ドラゴンクエストⅣ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(確認済み、剣以外)、逆刃刀@るろうに剣心、グリードのメモ+バリーの注意書きメモ
[思考・状況]基本方針:一人でも多くの物語を守り抜く。
1:放送の元である村へ行き、白い弓兵(ダグバ)を斬る。その前に周囲の参加者との合流。
2:凛さんと産屋敷さんを守る。
3:アーサー王はなぜそうまでして聖杯を……
4:バリーさんと、彼の言う鎧の剣士に警戒。産屋敷(無惨)さんも一応は。
5:……大丈夫なのでしょうか、賢者の石。
6:リオン・マグナス……その名は忘れません。
7:契約、何度忘れるのでしょうか私は。
[備考]
※参戦時期はアイギスコラボ(異界門と英傑の戦士)終了後です。
 このため城プロにおける主人公となる殿たちとの面識はありません。
※服装はドレス(鎧なし、FGOで言う第一。本家で言うセイバールート終盤)です
※湖の乙女の加護は問題なく機能します。
 約束された勝利の剣は当然できません。
※風王結界、風王鉄槌ができるようになりました。
 ある程度スキル『竜の炉心』も自由意志で使えるようになってます。
 『輝ける路』についてはまだ完全には使えません。
※賢者の石@鋼の錬金術師を取り込んだため、相当数の魂食いに近しい魔力供給を受けています。
 また、この賢者の石にグリードが存在してるかどうかは後続の書き手にお任せします。
※名簿をまだ見ていません。
※Fate/stay nightの世界観および聖杯戦争について知りました。
※鋼の錬金術師のある程度の世界観を把握しました。
※グリードのメモ+バリーの注意書きメモにはグリードの簡潔な人物像、
 『バリーはちょっと問題がある人だから気をつけて。多分キャメロットさんが無事なら乗らないと思う。
  後産屋敷さんはまともに喋れてないのもあるから、殆ど人物像が分からないのも少し気をつけておいて。』
 の一文が添えられてます。


166 : カルマ ◆EPyDv9DKJs :2021/11/20(土) 22:44:48 9TUKyrqk0

【バリー・ザ・チョッパー@鋼の錬金術師】
[身体]:トニートニー・チョッパー@ONE PIECE
[状態]:疲労(大)、全身に切り傷、頭脳強化(ブレーンポイント)、しんのすけと無惨を乗せてる
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、神楽の番傘(残弾100%)@銀魂、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:存分に殺しを楽しむ
1:存分に殺しを楽しむけど、なんかなし崩しにどんどん泥沼になってねえか? 俺。
2:あの鎧野郎(メタモン)をどうにかしたいので今は集団に紛れ込んでおく。
3:武器を確保するまでは暫くなりを潜めた方がよさげか。
4:いい女だが、姐さんほどじゃねえんだよな。後もう少し信用されておきたい。
5:使い慣れた得物が欲しい。
6:アルフォンス、相変わらず甘い奴だな。
7:キャメ子の嬢ちゃん、ラストとかのお仲間になりかけてるってマジ?
[備考]
※参戦時期は、自分の肉体に血印を破壊された後。
※Fate/stay nightの世界観および聖杯戦争について知りました。



・遠坂の考察
①:一部参加者しか目指しそうにない場所=一部参加者のみに伝える何かを用意している
  主催の中の誰かが此方(対主催)にとって有利になるように託した、と言う可能性を考慮。
②:施設の後出しで地図に表記は、主催者もすべての施設の場所を把握してないかもしれない。
  或いは主催の誰かが置いた何かの施設が彼らにとって都合の悪い何かなのではないか。
③:小野寺キョウヤを名乗ったことから、小野寺キョウヤを知る参加者に何か大切なものがある可能性。


167 : カルマ ◆EPyDv9DKJs :2021/11/20(土) 22:53:11 9TUKyrqk0
以上で投下終了です

後遅ればせながら、第一回放送突破おめでとうございます

それと大分遅れましたが、画像の言及についてありがとうございます
簡素ながら喜んでいただけたのでしたら幸いです


168 : ◆ytUSxp038U :2021/11/21(日) 20:27:47 Yo5IrnKY0
投下乙です。
考察を進められてリーダーシップも発揮できる遠坂、戦う力はなくとも有力な対主催者ですね。
自分が圧倒的弱者になったのを棚に上げて、部下をこき下ろす無惨様はいつも通り過ぎて草生える。

投下します。


169 : CHANGE THE WORLD ◆ytUSxp038U :2021/11/21(日) 20:29:49 Yo5IrnKY0
「こんなものか」

燦々と降り注ぐ太陽。
百年ぶりに感じる、日光の暖かみ。
久しく味わう眩しさ。
それらに対するDIOの感想は、至って冷めたものだった。

バトルロワイアル開始直後にちょっぴり抱いた、日光浴への期待。
実際にやってみれば、思いの外何も感じない。
太陽をこの目で拝んでも、「ジョナサンの肉体なんだから当たり前だろう」という言葉しか浮かんでこない。

何故こんな結果になったのか。
当然自分の事なのだから、理由も分かっている。

結局のところ、これはDIOの肉体ではない。
あの船で死ぬ前の、ディオ・ブランドーと死闘を繰り広げたジョナサンの肉体だ。
だから日光を平気で浴びれても、感動も喜びもそこには無い。
首から下を乗っ取り、長い年月を掛けて馴染ませたDIOの身体であったら。
吸血鬼としてのDIOが真に太陽を克服し、日光を浴びても塵とならないのなら、心の底から充足感を得られただろう。

(俺が真に安心を得られるのは、お前から奪ったあの身体の時だけ、ということだな)

薄々分かっていたことだが、そう呟き太陽を睨みつける。

その横顔を、恍惚とした表情で見つめる少女が一人。
宇宙植物の花粉により、思考を大きく狂わされた甜歌である。

(DIOさん…凄く、かっこいい……)

朝日を浴び、端正な顔がより一層輝いている。
愛する男の姿をこのままずっと見つめていたい、そんな蕩け切った思いで熱い視線をぶつける。

(何を考えてるんだろう…。て、甜歌の事だと、嬉しいな……)

愛する男が、どんな時でも自分の事を考えていてくれる。
それだけで幸せのあまり死んでしまいそうだった。
実際には甜歌の事など微塵も考えていないのだが、それを彼女が知る術はない。

定時放送が流れたのは、丁度そのタイミングだった。


170 : CHANGE THE WORLD ◆ytUSxp038U :2021/11/21(日) 20:31:33 Yo5IrnKY0
「11人か…」

口に出すのは発表された死者の数。
妥当な人数だと思う。
DIOが遭遇した参加者は貨物船以外殺し合いに反対の者ばかりだった。
しかしヴァニラを筆頭に参加者を殺して回っている者も、それなりの数を揃えられているはず。
であれば10人以上の死者が出ても何ら驚きはない。

ご丁寧に顔写真付きで発表された死者の中に、DIOが知る者は精神・身体共に誰一人いなかった。
承太郎とヴァニラの生存に驚きは無い。
ジョースターのしぶとさは嫌という程に知っている。
最初の6時間すら生き延びられないような雑魚ならば、ジョースター家との因縁はもっと早くに断ち切れていただろう。
それに今回ばかりは承太郎に生きていてもらわねば少々困る。
ザ・ワールドが再び本来の力を取り戻すには、あの男のスタンドが必要となる。
ヴァニラに関しても、スタンドの強力さと本人の忠誠心を考えれば何の問題も無い。
きっと今も会場のどこかで、DIOの為に邪魔な参加者を殺して回っているのだろう。

続いて地図を取り出すと、空助の言った通り複数の施設の名が表示されている。
その中に一つ、DIOの知る名を見つけた。
ジョースター邸。ジョナサンとディオが青春を過ごした屋敷であり、長きに渡る因縁の始まりの場所。
ここに承太郎やヴァニラが向かう可能性はあるものの、存在するエリアが良くない。
スギモトとの戦闘で火事になった森のすぐ近くだ。
あれから大分時間が経っている。主催者がわざわざ消火活動でもしてない限り、ジョースター邸に近付くのは困難だ。
ただでさえジョナサンの身体になってから炎に対する忌避感が強くなっている気がするのに、燃え盛るジョースター邸という苦い記憶の再現のような光景に近付きたいはずがない。
石仮面が置いてある可能性を考えなくも無いが、幾らジョースター邸に関係するものとはいえ一施設に置くよりは、支給品として参加者に渡す可能性の方が高いだろう。
よって、ジョースター邸を目指す気は無し。

「ウキ!ウキキ!」

思考に耽るDIOへ、どこか誇らしげに話しかける猿。
元は意思を持った船であり今はオランウータンの肉体、しかも両方スタンド使いという異質な存在、貨物船である。
部下にチラリと視線をくれてやると、英和辞典で己の意思を伝えて来た。

『私はさっき参加者を一人殺しました。その証の名簿があります』
「ほう」

DIOの言った「ほう」には、複数の感情が込められていた。
甜歌と戦極ドライバーを自分の元に運んできた以外には何の役にも立っていないと思っていたが、
流石に一人くらいは仕留められた事への僅かな感心。
殺せたのは一人だけであり他の者は仕留め損ねた癖に、何故か自慢気にしている無能さへの侮蔑。
それはそれとして、精神と肉体の組み合わせを記した名簿への興味。
以上が混ざり合った短い言葉への返答として、貨物船は名簿をDIOへ献上する。

「フム…では中で休みがてら確認するとしよう。甜歌も疲れているだろう?」
「えっ、う、ううん…!DIOさんの為なら、これくらい全然平気、だよ…!」
「フフ、休める時に休んでおくのも大事な事だ。それに大切な君の体を壊す訳にはいかないからね」
「!?う、うん…!にひひ……DIOさん、そんなに甜歌のこと……」

優しく囁かれ手を取ってやると、それだけであっさり言う事を聞く。
我ながら薄っぺらい言葉を口にしたものだと思いつつ、甜歌に内心で冷めた思いを向ける。
恍惚の笑みで悶える少女が気付くはずはなく、ただ愛しい男に手を引かれるまま校舎内へ足を踏み入れた。
その後ろに貨物船が続き、PK学園はようやく静けさを取り戻した。


171 : CHANGE THE WORLD ◆ytUSxp038U :2021/11/21(日) 20:32:47 Yo5IrnKY0



二人と一匹は校長室にして名簿の確認を行う事にした。

来客用のソファーにどっかりと腰を下ろし、足を組む。
好青年な外見のジョナサンには不釣り合いなポーズ。
だがDIOの醸し出すどこか妖艶な雰囲気が、他者の体であろうと違和感のないものになっている。
隣にはちょこんと座る甜歌の姿。
早速名簿を開き、中身を確認する。

(成程……)

参加者全員に支給された名簿には無かった、誰の身体に入っているのか。
確かに記載されている。

己の名であるDIOの隣にはジョナサン・ジョースターの名が、大崎甜歌の隣には大崎甘奈、
ついでに貨物船の隣にはフォーエバーと記されている。
当然、他の全ての参加者も同様だ。

承太郎の身体は燃堂力、ヴァニラの身体は立神あおいと言う日本人のものらしい。
どちらもDIOの知らない人間。
彼らが何の力も無い者か、それともスタンド使いのような能力を持っているかも不明。
名簿から知ることが出来るのは、精神と身体の組み合わせのみ。
各自に配られたプロフィールのように、顔写真や経歴などは記載されていない。

ざっと見回したが、ジョースター一行や他の部下の身体は無い。
ジョナサンの肉体が完璧に復元されている為、嘗て自分に楯突いた波紋戦士どもや従えていた屍人の身体もある可能性もゼロでは無いと考えていたが、それらも無し。
ただ一つだけ、少し気にかかる名があった。

(東方仗助…?)

DIOの記憶に東方姓の日本人など存在しない。
どうやら犬飼ミチルという参加者の肉体らしいが、こちらも知らない人間。
特別珍しい名でも無い、なのにどうしてか引っ掛かる。
自分では無くジョナサンの知り合いであり、肉体の記憶に自分が引っ張られたのではと考えるも、ジョナサンが日本人と交流があったなどDIOは聞いた事がない。
何とも言えない気持ち悪さを感じ、ある可能性に気付いた。

(もしや……ジョースターの血統か?)

スギモトとの最初の戦闘の後、会場のどこかにジョースターの肉体があると星形の痣の疼きで知った。
だがこの名簿を見る限り、承太郎とジョセフの肉体は参加者に与えられていない。
ということは、DIOの知らないジョースターの肉体があると言う事だ。
それが東方仗助かどうかは、現段階では判断が付かない。そもそも単なる気にし過ぎでないとも言い切れない。
実際に会って確かめる他ないだろう。
もしDIOの予想通りジョースターの人間ならば、確実に始末しておく必要がある。
例え肉体のみであろうと、ジョースター家の人間を生かす選択肢など存在しない。

(こんな所か…)
「甜歌、君の知っている者の名は載っているかな?」
「う、うん、見てみるね」

DIOの知る名は他に無かったが、甜歌はあるかもしれない。
役に立つ情報があるかどうかはともかく、一応確認させておいて損はないと考えての事だった。
ちなみに貨物船に見せても承太郎の名前に反応する程度で、新たな情報は得られないと判断した。


172 : CHANGE THE WORLD ◆ytUSxp038U :2021/11/21(日) 20:34:16 Yo5IrnKY0
受け取った名簿に目を通すと、すぐに甜歌の顔色が変わった。

「なんで……」

意図せず口から漏れる、震えた声。
血の気が引くというのはこういうのだろうと言わんばかりに、顔は蒼白と化している。
ガタガタと震える手、いや全身のせいで今にも名簿を落としそうだ。
彼女にとって何か好ましくない情報があった。それは確実。
その何かを確かめるべく、DIOは極めて優しい声色で落ち着かせる。

「なんで…千雪さんと…真乃ちゃんまで…それに…エボルトって……そんな……!」
「一度落ち着こうか甜歌。今の君は良くない状態だ」
「DIOさん…で、でも…!千雪さん達が……!」
「君にとって何か良くない事が起きているのは分かる。だからまずは落ち着いて、それから話を聞かせてくれないか?私が君の力になる」

動揺の余り泣き出しそうな甜歌と目を合わせ、そう告げた。
DIOの言葉は不思議と甜歌の中に浸透し、頭を冷やしてくれる。
数回深呼吸をし、パニックになっていた自分をどうにか落ち着かせようとする。
その間、DIOが手を握っていてくれたのも功を為したのだろう。
愛する男のおかげで一先ず落ち着きを取り戻せた事に感謝の念を抱いた。

「落ち着いたかい?」
「う、うん…。ありがとう、DIOさん……」

気にしなくて良いと返し、ふと考える。
そう言えば自分は甜歌に関してほんとんど知らない。
分かっている事と言えば、殺し合いであの仮面ライダー…戦兎と共に行動していたらしいくらい。
であれば丁度いいかもしれない。この機会に彼女が殺し合いで得た情報を聞き出すには。
安心させるように笑みを向けながら、口を開く。

「甜歌、何故名簿を見て顔色を変えたのかも含めて、君の事をこのDIOにもっと教えてくれないか?」


173 : CHANGE THE WORLD ◆ytUSxp038U :2021/11/21(日) 20:35:34 Yo5IrnKY0



「そうだったのか…」

話しを聞き終えたDIOは神妙な顔で呟く。

参加者の身体として名簿に載っていた名、その中には甜歌が良く知る人間が三人もいた。

大好きな双子の妹であり、今は甜歌の仮の肉体となっている大崎甘奈。
甜歌と同じユニット、アルストロメリアのメンバーで大崎姉妹が本当の姉のように慕っている桑山千雪。
同じく283プロ所属のアイドルであり、イルミネーションスターズのメンバーである櫻木真乃。
彼女達まで巻き込まれているのなら、甜歌が取り乱すのも無理はない。

更に悪い事に、千雪の身体に入っている参加者の名はエボルト。
戦兎が話していた凶悪なエイリアンだ。
エボルトの事を説明した時、戦兎はどこか強張った顔になっていた。
それ程までに危険な男が千雪の身体で何をしでかすか、考えるだけでも恐ろしい。。
真乃の身体に入っているダグバなる人物は知らないが、もしかしたらエボルト同様に殺し合いに乗っている可能性の高い者かもしれない。
ほんわかした雰囲気の、一緒に居るだけで心がぽかぽかする。そんな真乃の身体で参加者を殺して回っているなど、想像しただけで気絶しそうだ。

加えて二人とも、甘奈と同じく精神は参加していない。
彼女達もまた、ボンドルドに捕らえられているのだろうか。
もしそうなら、自分はどうしたら良いのか分からず、俯いてしまう。
悩める少女へDIOは、力強い声を返した。

「甜歌、君が妹や友だちを心配する気持ちは良く分かった」
「うん……」
「そこで提案なのだが、彼女達の事は私に任せてくれないか?」

驚いたように顔を上げた甜歌、その頬へ優しく手を当てると途端に顔が赤くなる。
潤んだ瞳に視線をぶつけ、彼女に「安心」を与えるべく言葉を紡ぐ。

「君の大切な人が捕らえられているなら、私が必ず救い出すと誓おう。無論、身体の方も危険な参加者の隙にはさせない」
「ほ、ほんと?本当に、なーちゃん達のこと、助けてくれるの…?」
「勿論だとも。君は私を愛してくれる。だから私もその愛に応えたいんだ」
「…DIOさんっ」

歓喜極まり思わず抱きついた甜歌を、DIOも優しく抱きしめ返す。
愛しい男の腕の中で、甜歌は思う。
どうして自分はもっと早く、この人と出会わなかったのだろうと。
強くて、優しくて、誰よりも信頼できる男の人。
そんな彼が甘奈達を助け出すと約束してくれたのだ。嬉しくないはずがない。
妹の事が心配だったけどもう大丈夫、きっとDIOが何とかしてくれる。

狂わされた頭で、根拠も無いのに甜歌はそう確信した。





174 : CHANGE THE WORLD ◆ytUSxp038U :2021/11/21(日) 20:38:44 Yo5IrnKY0
緩み切った顔で自分に抱きつく少女を一瞥し、手に入った情報を頭で纏める。
妹がどんな女の子なのだとかどれくらい大切に想っているかなど、そういった話はどうでも良かった。
が、それ以外の話は実に有益だ。
特に参加者がそれぞれ別の世界から参加しているというのは、流石に驚いた。
貨物船がDIOを一方的に知っていたのも、別の世界で自分の部下だったからなのかもしれない。

(新世界、か……)

DIOと一戦交えた男、桐生戦兎。
驚くべき事に、何と奴は新たな世界を創造してみせたらしい。
甜歌からの又聞きであり、大雑把な概要のみしか分からなかったが。
嘗て、地球外生命体のエボルトが月を吸収し消し去ったのが原因で、戦兎の住まう地球が滅びの危機に瀕した事があった。
そこで戦兎はエボルトを倒し、尚且つ地球を救う為の方法として大きな策に打って出る。それが新世界の創造。
戦兎が住まう地球を、別の宇宙に存在する、所謂平行世界の地球と融合し、その為のエネルギーにエボルトを利用して消滅させる。
そうする事で、10年前にエボルトが地球に現れなかったという歴史に上書きされた世界が生まれた。
もっと細かい条件や必要な物については、戦兎がそこまで詳しく説明した訳では無いので分かり様が無い。

実に興味を惹かれる話だ、『天国』という新たな世界を目指すDIOにとっては。

無論、戦兎の創った新世界と自分が目指す天国が同じものでない事は理解している。
必要となるものも、手順も、創造する動機も違う。
何よりDIOの言う天国とは極限まで高められた精神…スタンドにより時が加速し、宇宙を一巡させた果てに誕生する世界だ。
平行世界同士の融合という要素は含まれていない。
それでもより詳しく知るだけの価値はある。
ひょっとすると、自分がノートに記したのとは別の方法で天国に到達も可能なのではないか。
尤も現段階ではあくまで、そういう可能性もなくはないかもしれない程度であるが。

(甜歌自身に纏わる話は実にくだらんが、他は価値のあるものだったな)

甜歌はDIOが甘奈達を救ってくれると信じ切っているが、DIOにそんな気は微塵も無い。
大衆の前で尻を振って歌うアバズレどもを、何故このDIOがわざわざ気にかけてやらねばならないのか。
甘奈や真乃とか言う小娘の安否など知った事では無い。
但し千雪という女には興味がある。正確に言えば千雪の身体に入っている者に。

エボルト。新世界創造の話にも登場した侵略者である、戦兎の宿敵。
それが何と甜歌が心配する女の身体に入り、参加者として会場のどこかにいる。
DIOとしては是非接触し、話をしてみたい。

甜歌の齎した情報は、他にも興味深いものがあった。

承太郎の身体である燃堂という男は、先程学園から逃げた連中の内の一人らしい。
この手で殺したいと思っているスギモトや戦兎、電気を出す黄色い獣に比べればさしてどうでも良い者の一人だが、まさかそいつの身体に承太郎が入っているのは予想外だ。
甜歌から聞いた所、その燃堂は自分が殺し合いに巻き込まれているのも理解していない、呆れを通り越して哀れに感じる程の馬鹿。
一体全体どんな間抜け面の身体になっているのやらと、承太郎を嘲笑う。

更にもう一人、戦兎の仲間である柊ナナという少女。
確かメガネをかけた少年の身体になっていたが、その肉体の名は斉木楠雄だという。

(斉木楠雄。“斉木”……)

定時放送でボンドルドから紹介を受けた少年、斉木空助。
主催側の人間と同じ姓の持ち主が、参加者の肉体として存在する。
偶然な訳がない。間違いなくナナの肉体は、斉木空助と関係がある。
ひょっとすると、ナナ自身も斉木と何らかの関係性を持っているのかもしれない。
DIOの肉体はジョナサン、甜歌の肉体は甘奈と、参加者に与えられた肉体はどれも何らかの強い繋がりがある。
貨物船とて、フォーエバーのスタンド能力が船に関係するという関連性があるのだ。
ナナに主催者に繋がる何かがある可能性は否定できない。


175 : CHANGE THE WORLD ◆ytUSxp038U :2021/11/21(日) 20:40:30 Yo5IrnKY0
(フフッ、悪くない流れだ…)

戦兎達にこそ逃げられたものの、有益な情報が手に入ったのは喜ばしい。
加えて甜歌が手元にいる以上、連中の方から懲りもせずDIOに戦いを挑んでくるだろう。
その時こそ自分に手傷を負わせたスギモトらを纏めて潰し、主催者と関りを持つと思われるナナを確保する。一石二鳥だ。

おもむろに白い小さな機械を取り出して眺める。
エターナルメモリ。DIOがこの地で得た新たな力。
変身した時の能力もさることながら、何より名前が気に入っている。
短い時の中でしか生きられないちっぽけな人間とは違う、人間を超越した吸血鬼として永遠を生きる、このDIOが持つに相応しい力だ。

甜歌には見せていない、邪悪な本性を剥き出しにした笑みが自然と浮かんだ。

「ウキ…」

そんな主の姿に、貨物船は思う。
DIOが機嫌を良くしているのは良い。主が嬉しいと自分もうれしのだから。
しかしあの小娘、甜歌にばかり構っているのはどうも面白くない。
カエルみたいな奴を殺し、名簿を手に入れたのは自分。
甜歌とメロンみたいな鎧を纏う道具を献上したのも自分。
なのにDIOは先程から甜歌にばかり構い、自分は空気のような扱いだ。
最初からDIOに忠誠を誓っていたのではない、支給品で洗脳されたに過ぎない小娘が、何故自分よりああもDIOと親しくするのか。

貨物船は沸々と苛立ちを募らせていた。


【E-2 街 PK学園高校(校門付近)/朝】

【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:ジョナサン・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険
[状態]:両腕火傷、体中に痺れ(時間経過で回復中)、疲労(中)、火に対する忌避感
[装備]:ロストドライバー@仮面ライダーW+T2エターナルメモリ@仮面ライダーW
[道具]:基本支給品、ジークの脊髄液入りのワイン@進撃の巨人、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル
[思考・状況]基本方針:勝利して支配する
1:貨物船と甜歌を従えておく。
2:どちらも裏切るような真似をしたら殺す。
3:役立たないと判断した場合も殺す。
4:学園から逃げた連中への苛立ち。次に出会えば借りは返す。(特にスギモト、戦兎、黄色い獣(善逸))。
5:元の身体はともかく、石仮面で人間はやめておきたい。
6:アイスがいるではないか……探す。
7:承太郎と会えば時を止められるだろうが、今向かうべきではない。
8:ジョースターの肉体を持つ参加者に警戒。東方仗助の肉体を持つ犬飼ミチルか?
9:エボルト、柊ナナに興味。
10:仮面ライダー…中々使えるな。
11:もしこの場所でも天国に到達できるなら……。
[備考]
※参戦時期は承太郎との戦いでハイになる前。
※ザ・ワールドは出せますが時間停止は出来ません。
 ただし、スタンドの影響でジョナサンの『ザ・パッション』が使える か も。
※肉体、及び服装はディオ戦の時のジョナサンです。
※スタンドは他人にも可視可能で、スタンド以外の干渉も受けます。
※ジョナサンの肉体なので波紋は使えますが、肝心の呼吸法を理解していません。
 が、身体が覚えてるのでもしかしたら簡単なものぐらいならできるかもしれません。
※肉体の波長は近くなければ何処かにいる程度にしか認識できません。
※貨物船の能力を分身だと考えています。
※T2エターナルメモリに適合しました。変身後の姿はブルーフレアになります。


176 : CHANGE THE WORLD ◆ytUSxp038U :2021/11/21(日) 20:41:45 Yo5IrnKY0
【貨物船@うろ覚えで振り返る承太郎の奇妙な冒険】
[身体]:フォーエバー@ジョジョの奇妙な冒険
[状態]:疲労(小)、ダメージ(大)、ジークの脊髄液入りのワインを摂取、酒酔い(多少は醒めた)
[装備]:英和辞典@現実
[道具]:基本支給品、ワイングラス
[思考・状況]基本方針:DIOのためになるように行動
1:DIOの命令に従う。
2:漫画を置いて行ってしまったのが少し残念。
3:甜歌が気に入らない。
[備考]
※スタンドの像はフォーエバーのものとそっくりな姿になっています。
※一応知性はあるようです。
※DIOがした嘘のワインの説明を信じています。

【大崎甜花@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[身体]:大崎甘奈@アイドルマスターシャイニーカラーズ
[状態]:疲労(大)、DIOへの愛(極大)
[装備]:戦極ドライバー+メロンロックシード+メロンエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:DIOさんの為に頑張る
1:DIOさん大好き♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥
2:戦兎さん……どうしてDIOさんに酷いことするの……?
3:ナナちゃんと燃堂さんも……酷いよ……。
4:なーちゃん達はDIOさんが助けてくれる……良かった……。
5:千雪さんと、真乃ちゃんまで……。
[備考]
※自分のランダム支給品が仮面ライダーに変身するものだと知りました。
※参戦時期は後続の書き手にお任せします。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※ホレダンの花の花粉@ToLOVEるダークネスによりDIOへの激しい愛情を抱いています。
 どれくらい効果が継続するかは後続の書き手にお任せします。


177 : ◆ytUSxp038U :2021/11/21(日) 20:42:20 Yo5IrnKY0
投下終了です。


178 : ◆ytUSxp038U :2021/11/21(日) 20:44:01 Yo5IrnKY0
すみません。現在位置の(校門付近)は間違いです。
消し忘れてました。


179 : ◆0EF5jS/gKA :2021/11/21(日) 23:00:08 o8venJDc0
皆様投下お疲れさまです。
感想を投下させていただきます。

>心を腐らせるどく

しのぶさんこれはいろんな意味で辛くて虚しすぎる…
振り上げた拳が下ろせなくなったのか…
このロワには無関係なキャラの台詞ですけど
某王様の「憎しみの果てに真の勝利はない」を思い出しました。

>カルマ

6:貴様ら、揃って問題を抱えているのは何故だ?
無惨のこのツッコミに笑いました。
すぐ棚上げして極悪非道だけど
なんだか妙に常識人な面もあるのが
無惨様の面白さだと思います。

>CHANGE THE WORLD

甜歌に対して嫉妬している貨物船がなんだか
ヤンデレのように見えてきました。
うろジョジョ本編では登場したらすぐにぶちのめされて
性格が一切不明だったのですが本ロワで皆様の執筆によってキャラ付けされて、とても面白いキャラになったと思います。

感想の投下は以上となります、失礼いたしました。


180 : ◆ytUSxp038U :2021/11/23(火) 10:16:37 DuSk5ZY20
感想ありがとうございます。

犬飼ミチル、キタキタおやじ、アーマージャック、大首領JUDO、産屋敷耀哉を予約します。


181 : ◆ytUSxp038U :2021/11/24(水) 20:21:30 KMBg.k560
投下します。


182 : 適者生存 ◆ytUSxp038U :2021/11/24(水) 20:23:14 KMBg.k560
「ごめんなさい……」

E-6。スタンド使いと自称ヒーローによる戦いが終わり、朝日に照らされた街。
涙を流し謝罪を繰り返すのはリーゼントヘアの少年の肉体に入った、犬飼ミチル。
ミチルの目の前には、傷一つない少女が横たわっている。
生命活動を停止し、青白くなった肌の彼女が目を覚ます事は二度とない。
傷は治せても、逝ってしまった魂だけはどうにもならない。

「ごめんなさい…」

ミチルに非があった訳では無い。
気絶から目を覚まし、状況の把握もままならず、それでも殺されそうになっている少女を助けようとしただけだ。
おまけに殺し合いが始まって直ぐ、自分の体が四つん這いで駆けまわっている場面に遭遇したせいで、プロフィールの確認も出来なかった。
だからまさか、助けようとした少女にとってこのリーゼントの少年が忌々しい敵であり、その身体に宿る精神のビジョンが死因に繋がったなど理解しろと言うのは余りにも酷である。
真実を知らぬミチルはただ、自分の力不足のせいで助けられなかったと悔やんでいる。
元々自分をいじめていた女子の死をも悲しむような少女なのだ。
例えロクに話もしていない、名前すら知らない人間の死だろうと深く受け止め双眸からは涙が溢れている。

「むぅ…」

そんな奇抜な頭の少年に、キタキタおやじことアドバーグ・エルドルは何と声を掛ければ良いのか迷う。
おやじもまた同行者、吉良吉影の死に悲しみ無力感を味わっている者の一人だ。
出会って数時間の関係だったが、共に主催者を打ち倒し、いずれはキタキタ踊りを継いでもらおうと思っていた人物の死には大きな衝撃を受けた。
しかし同じくらいに衝撃なのは、吉良を殺した魔物らしき参加者が人間になったこと。
吉良の死と正体不明の参加者。そこに加えて、悲しみに沈む名も知らぬ少年。
流石のおやじもどうすれば良いのか、混乱気味であった。

参加者の迷いも悲しみも無視して、定時放送は始まる。
優し気なボンドルドの声と、明るく弾んだ空助の声。
死者が出た事を何とも思っていないような態度が、おやじには酷くおぞましいものに思えた。

「な、何という連中…。許せませんぞ…!」

最後まで死者に対する罪悪感もなく、笑みを浮かべて放送を終えた少年におやじは怒りを燃やす。
分かっていたが、主催者はこれまで会った魔物よりもずっと悪辣だ。
あんな奴らが殺し合いを開いたせいで吉良がや多くの人が命を落としたと思うと、全く持って許せない。
普段は空気が読めず奇行が目立つおやじだが、決して悪人ではない。
キタキタ踊りを世に広める者として、何より一人の大人として必ずや殺し合いを止めねばと決意を一層強くした。

「どうしてキョウヤさんが……」

一方のミチルはまるで宇宙人でも見たかのように、目を白黒させている。
斉木空助と名乗った少年はミチルが知る人物と同じ顔をしていた。
というよりも、空助が言っていたようにあれは間違いなく小野寺キョウヤ本人の体だ。
何故クラスメイトの体が主催者のものになっているのか。
体を奪われたなら、キョウヤの精神はどこにあるのか。

(キョウヤさんに一体何が起きたんですか…?)

ミチルにとってキョウヤは事ある毎にナナを疑い、遂には殺人の容疑者扱いまでした少年。
正直言ってあまり良い印象は抱いていない。
それでも人類の敵と戦う、同じ学校の仲間だ。
キョウヤは無事なのかどうか、心配で堪らなかった。


183 : 適者生存 ◆ytUSxp038U :2021/11/24(水) 20:24:30 KMBg.k560
「うーむ、どうやらあの少年について何か知っているようですな」

ミチルの様子からただ事で無いと察し、おやじは神妙な顔付きになる。
ここでようやくミチルもおやじの方へと意識が向いた。
今更ながら、自分を責めてばかりで彼をほったらかしにしていた事を申し訳なく感じる。

「あっ、ご、ごめんなさい!私、自分の事しか考えて無くて…」
「まぁ頭を上げてくだされ。このような状況故に、混乱しても無理はありますまい」

慌てて謝罪するミチルを制し、横たわる吉良に目をやる。
こう見ると本当に眠っているかのようだ。
しかし吉良は先程の放送で、死者として名前を呼ばれている。
巨大な画像に表示されたのは間違いなくラーの鏡で見た男と、今ここにいる二宮飛鳥だった
吉良の死は悲しくてやりきれないが、受け入れねばならない。
そう己に言い聞かせると、今度はおやじがミチルに頭を下げた。

「吉良殿の傷を治してくれた事、感謝しますぞ」
「そっ、そんな!私は間に合わなかったんですし、感謝される筋合い何て…」

逆に頭を下げられてしまい、ミチルはまたしても慌てた。
ややあっておやじはミチルと向き合い、自己紹介をする。
ここまで互いが殺し合いに乗っていないだろうとは何となく分かっていたが、まだ名前も知らないのだ。

「挨拶が遅れましたな。私の名はアドバーグ・エルドル。キタキタおやじとも呼ばれてますな」
「犬飼ミチルです。一応元は女の子です。…えっと、エルドルしゃん、はもしかして男の人…ですか?」
「ええ。今はヘレン殿と言う麗しい女性の身体となっておりますが、元は立派な男ですぞ〜」

腰に手を当て、誇らしげに言うおやじ。
何故そんな自慢気なのかは知らないが、それよりおやじの恰好の方がミチルは気になった。
腰みのと胸当て、奇妙な額当てしか身に着けていない、肌面積が広すぎる姿。
ここを南国の島か何かと勘違いしてるのではと思ってしまいそうな恰好だ。
もしや何らかのアクシデントで服を失くしてしまったのだろうか。

「あ、あの…エルドルしゃんは何でそんな恰好を…?」
「理由は一つ、これがキタキタ踊りの正装だからですぞ〜!」
「えっ、何ですかそれ……」

困惑し聞き返すミチルに、おやじは吉良にしたのと同じ説明を熱く語った。
語り終えた時には心なしかミチルの頬が引き攣っていたが、おやじは気付かなかった。
とにかくキタキタ踊りに関しては分かったものの、他の大事な事に関しては分かっていない。
ミチルの提案により、お互い何があったのかを確認し合う。
結果としては、大した情報は得られなかった。
ミチルは自分の体で四つん這いになっていた者と、巨大な虫以外とは会っておらず、おやじも吉良と彼を殺した男以外とは会っていない。

と、ここで真っ先に対処すべき問題として、男の処遇をどうするかの話となる。

「あやつが邪悪な魔物でしたら吉良殿の仇として討伐するのですが、よもや人間だとは…」
「魔物?人類の敵のことですか?」
「何ですかなそれは?」

不思議そうに首を傾げるおやじに、ミチルは閉口する。
人類の敵を知らない。これがまだ幼い子供なら分かるが、エルドルは良い大人だ。
知らないなんて有り得るのかと困惑するミチルへ、エルドルが答えを示した。
吉良と出会った時に気付いた、参加者はそれぞれ別の世界から連れて来られていること。
そう説明されたミチルは案の定驚愕した。
冷静に考えれば能力者というのも大概ファンタジーだが、それにしたって異世界は流石にスケールが大きい。


184 : 適者生存 ◆ytUSxp038U :2021/11/24(水) 20:25:40 KMBg.k560
「異世界の方ならばキタキタ踊りを踊ってくださるかもしれない、というのが私の考えでしてな。
 ミチル殿も元の女子の体に戻った際には、ご一緒にキタキタ踊りは如何ですかな?」
「え!?ええっと、そのぅ……」

熱い眼差しで勧められても、非常に困る。
そんな肌を見せすぎな姿で踊るなど、年頃の女子高生としては恥ずかしいにも程がある。
キタキタ踊りから逃れようと、強引に話を戻す。

「そっ、それより!今はあの人をどうにかするのが先です」

吉良を殺した男は気を失っているのか目を覚まさない。
どうにかするなら今がチャンスだ。
だが殺す事にはミチルもおやじも強い抵抗があった。
確かに男は吉良を殺した危険人物だが、だからといって手を掛けるとなれば躊躇が生まれる。
とはいえこのまま放置ともいかず、結局拘束し身動きを封じようということになった。

「私のほうには縄や鎖は入っておりませんでな。ミチル殿はどうでしょうか?」
「今確認してみますね」

デイパックの中を確認するミチル。
そこで自分が支給品どころか、名簿すらまだ見て無いのに気付いた。
自分の体を追っていたせいで余裕が無かったが、今もいつ男が目を覚ますか分からない状況だ。
故に名簿は後回しにして、支給品を手早く確認する。

「駄目です、捕まえておけそうな物は入ってませんでした…」
「そうですか……。なら吉良殿の支給品と、あの男が持っていた物も探してみましょう」

おやじの提案に従い、ミチルは吉良のデイパックを開いてみる。
死者の持ち物を物色するようで気が引けるが、今は仕方ないと吉良に小さく謝る。
中を確かめていると、一枚の紙が見つかった。
何だろうと見てみれば、それは肉体のプロフィールだ。
但し吉良の身体であった少女ではなく、ミチルの身体である東方仗助のであった。

(どうしてこれがこの人の持ち物に…?)

プロフィール用紙に貼り付けられた顔写真から、これが吉良ではなくミチルのものなのは間違いない。
どうしてそれが自分のデイパックではなく、吉良の方に入っているのか。
可能性としては主催者がうっかり間違えたか、ミチルが気絶している隙に吉良がこっそり盗んだの二択。
どう考えても後者の可能性の方が高い。
何故そんな事をしたのか、その答えは仗助のプロフィールを読めば一目瞭然だった。

(殺人鬼…!?)

杜王町という町の連続殺人犯。それが吉良吉影の正体。
プロフィールに記載された通りならば、とんでもない悪党だ。
同時に仗助のプロフィールを奪った理由も納得がいく。自分の正体が発覚するような用紙を放置するはずがない。
チラ、と背後で吉良を殺した男の支給品を確認しているおやじを見る。
彼は吉良の正体をきっと知らない。
吉良が馬鹿正直に自分は殺人鬼ですと説明したとは思えないし、恐らくは無害な一般人でも装ったのだろう。
暫し迷ったが、ミチルは吉良の正体をおやじには黙っている事にした。
既に吉良は死んだのだ。おやじに余計な混乱を与える必要は無い。


185 : 適者生存 ◆ytUSxp038U :2021/11/24(水) 20:26:50 KMBg.k560
プロフィールをそっと自分の懐に仕舞い、再度デイパックを漁る。
今度もまた紙が出てきたが、それはプロフィールではない。
吉良の支給品に関する説明書だった。
読み終えると、それが今欲している物に合致すると分かりおやじに声を掛ける。

「エルドルしゃん!吉良さんの持ってたこの道具が使えそうです!」

月に触れる(ファーカレス)という名の道具はすぐに見つかった。
落ちていた筒を男に向けてみると、説明書の通り黒い触手のような物体が現れる。
黒い物体は未だ気絶したままの男の身体に絡みつき、身動きできなくした。
これで目が覚めても直ぐには動けない。
他にもそこら中に散らばっていた支給品を回収し、一先ずの目的は果たせた。

その時ふと、おやじは先程からずっと気になっていた事を尋ねる。

「そういえば…さっきミチル殿の背後にいた御仁はどちらに…?」
「…?誰のことですか?」
「へっ?さっき吉良殿を治療していた際に、ミチル殿の背後にいた方ですぞ?」

そう言われてもミチルには何のことだかさっぱり分からない。
あの時は吉良を治すのに夢中で周りを気にする余裕は無かったが、もし近くに誰かが立っていたら流石に気付くはず。
かと言っておやじの反応を見るに、嘘を付いているのではないだろう。
そこでおかしな事にミチルは気付いた。
さっきは無我夢中で吉良を舐めていたが、よくよく考えればこれは自分の体では無い。
つまりヒーリング能力は無いはずが、何故か吉良の傷は治った。
吉良を治したのはミチルの能力ではなく、この少年の身体に宿る別の力なのか?

(さっき私は……)

思い出す。吉良を治していた時の自分を。
あの時ヒーリングが使えなかったのなら、何を使って治した?
そういえば仗助のプロフィールにそれらしい記載があったはず。
確かスタンドという、特別な力。
名前は、そう

「クレイジー・ダイヤモンド…?」

呟いた瞬間、ソイツが傍に現れる。

「ひゃっ!?」

全身にハートマークがあしらわれた装甲に、頚部を巡る数本のパイプ。
人の形をしているが、人間のものとは違う存在感。
突然姿を現した怪人にミチルが後退ると、おやじが指をさして言う。

「おお!この御仁ですぞ!ミチル殿の背後にいたのは!」

おやじの言葉にミチルは思わず怪人をまじまじと見る。
そこに突っ立っているだけで、特に危害を加えてはこない。
もう一度プロフィールを取り出して見ると、確かにこの怪人はスタンドという能力が具現化したものらしい。
それにこのスタンド、自分以外のものを「治す」特殊能力があるとのこと。

「えっと、クレイジー・ダイヤモンドさん…?エルドルしゃんを治せますか?」

答えは返って来ないが、力強い瞳で一瞥される。
とにかく試そうとおやじへ向けてクレイジー・ダイヤモンドを操作してみた。


186 : 適者生存 ◆ytUSxp038U :2021/11/24(水) 20:29:59 KMBg.k560
「エルドルしゃん、失礼しますね」
「はい?って、どひゃぁ!?」

クレイジー・ダイヤモンドの掌がおやじの顔に当てられる。
素っ頓狂な声を上げるおやじだったが、別段痛みは無いと気付いた。
それどころか、殴り飛ばされた時の痛みが少しずつ薄れているではないか。
これこそが吉良を治した力かと確信し、ミチルへ視線を向ける。
ミチルはおやじとは正反対に、どこか疲れたような顔になっていた。

「ミチル殿?大丈夫ですか?」
「は、はい…。何だか、急に疲れて来ちゃって…」
「それはいけません!一度治療を止めてくだされ!」

ミチルの異変に、おやじはクレイジー・ダイヤモンドの手を振り払う。
フラフラとするミチルに肩をかしてやり、取り敢えず地べたに座らせてやった。

「もしかすると、誰かを治すとその分ミチル殿に負担が発生するのかもしれませんぞ。私はもう大丈夫ですから、後はご自分の傷を治してくだされ」
「いえ、この力で自分は治療できないみたいなんです。それに、エルドルしゃんの怪我だってまだちゃんと治ってないのに…」
「なんのなんの!さっきよりもずっと楽になりましたぞ。それに私よりも、ミチル殿の怪我が――」

言葉が止まる。
おやじが見つめるのはミチルのずっと後ろ。
日光により熱を帯びたアスファルトを踏みしめ、何者かが近づいて来る。
おやじの反応で気付いたミチルも振り返り、件の人物の姿を確かめんとした。

二人の前に姿を見せたのは、茶髪の青年だった。
その顔に浮かぶのは、お世辞にも友好的とは言えない不遜な表情。
値踏みするかのように、おやじとミチルへ視線をぶつける。

「な、何者ですk「放送前の赤い光、アレを放ったのは貴様らか?」

質問を遮られ鼻白むおやじ。
無礼な態度を取った青年は、「早く答えろ」と二人を睨みつける。
いきなり赤い光と言われてもミチル達には何のことか分からない。
が、思い返せば吉良を死に追いやったのも、確か宇宙人のような姿の男が出した赤い光だ。
二人の目は自然と拘束された男に向かう。
その動作で青年も赤い光を放ったのが誰かを理解した。

「その様では楽しめんな」

少々落胆したように呟く青年、JUDO。
渇きを癒せる闘争を求めて来てみれば、期待していた相手は気を失っている上に拘束中。
だったらリオンの死体の元を訪れた方を追えばよかったかと後悔するも、既に遅い。
ため息を一つ吐くと、気を取り直してライダーカードを手にする。

「まぁいい。貴様らを殺した後でそいつの拘束を解けば、少しは我の退屈も凌げるだろうよ」

相手が取るに足らないワームだろうと、見逃す気は無い。
装着済のディケイドライバーにカードを挿入した。

「変身」

『KAMEN RIDE DACADE!』

マゼンタと黒を基調とした装甲を纏い、顔面に板が突き刺さった異様な風体。
世界の破壊者、ディケイドへの変身があっという間に完了した。
ワームどもの驚きを意に介さず、ライドブッカーをソードモードへ変形させる。
細長い刀身を掌で擦ると、分かりやすく表情が強張った。


187 : 適者生存 ◆ytUSxp038U :2021/11/24(水) 20:34:00 KMBg.k560
「…ミチル殿、これを持って行ってくだされ」
「エルドルしゃん?これは…」
「落ちていた支給品と、それにラーの鏡という不思議な鏡でしてな。本当の姿が映るのです。それを持って逃げなさい」
「ま、待ってください!それじゃあエルドルしゃんが…!」

自分が敵の相手をするから、その隙に逃げろというおやじの言葉。
分かりましたと大人しく従う気はミチルには無い。
あんな得体の知れない男を相手に、傷も完治していないおやじが戦うのは危険過ぎる。
ここはスタンドを使える自分が残るべき、そう言おうとしたがおやじに遮られた。

「ミチル殿。失礼ですが、私よりも重症の貴女が残った所であ奴に勝てるかは厳しいでしょうぞ」
「それは……」
「なに、私の心配は無用ですぞ!とっておきの秘策がありますからな!」

自信満々に口にするが、その秘策とやらが何かは分からない。
ただこのまままごついて口論していれば、二人纏めて殺される。
そう理解しているがミチルとしてはやはり、おやじ一人を置いて行くのに抵抗がある。

「モタモタしている暇はありません!早く行ってくだされ!」

ミチルの迷いを断ち切るかのように、強い口調で告げる。
それを受けてミチルもようやく決心が付いたのか、頷きデイパックからある物を取り出す。
それは「銀」の一文字が書かれたバイク、というよりスクーターだ。
サドルに座り、その後ろに気絶したままの男をうつ伏せに乗せる。
手に持つ筒を動かすと、男が振り落とされないように黒い物体がスクーターにもへばりついた。
こういった乗り物の運転は未経験だが、今の自分…仗助の身体なら不思議とどうにかなる気がする。

エンジンを吹かし、一度おやじの方を見て叫ぶ。

「誰か、助けになってくれる人を探して戻って来ます!それまで絶対無事でいてください!」

親父が笑みを浮かべて頷き返すのを見ると、急発進してその場を去って行く。

本当にこの選択肢で良かったのか。
やはり自分が残っておやじを逃がした方が正しいのではないか。
そんな考えばかりが沸々と湧き出て来るが、今更遅い。

吉良は悪人だった。だけど死んで良いなんて思っていない。
彼を助けられなかった時の繰り返しは絶対に嫌だ。
だから今はおやじを助けてくれそうな人を探す。
他人任せの自分が酷く情けなくて嫌になるが、今はそれしかないとスピードを上げた。


【E-6 街/朝】

【犬飼ミチル@無能なナナ】
[身体]:東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険
[状態]:左背面爆傷、疲労(大)、深い悲しみ、無力感、運転中
[装備]:月に触れる(ファーカレス)@メイドインアビス、銀時のスクーター@銀魂
[道具]:基本支給品×2、ラーの鏡@ドラゴンクエストシリーズ、ストゥ(制裁棒)@ゴールデンカムイ、物干し竿@Fate/stay night、ウルトラフュージョンカード(ゾフィー、ベリアル)@ウルトラマンオーブランダム支給品0〜4(吉良の分含む)
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしたくない
1:今はこの場を離れる。誰か助けてくれる人を探して、エルドルしゃんの所に戻る
2:シロを追いかけて止める
3:どうしてキョウヤさんが…
[備考]
※参戦時期は少なくともレンタロウに呼び出されるより前
※自身のヒーリング能力を失いましたが、クレイジーダイヤモンドは発動できます。
※クレイジー・ダイヤモンドが発動できることに気付きました。
※まだ名簿を確認していません
※クレイジー・ダイヤモンドによる傷の治療は普段よりも完治に時間が掛かり、本体に負担が発生するようです。


188 : 適者生存 ◆ytUSxp038U :2021/11/24(水) 20:36:00 KMBg.k560
【アーマージャック@突撃!!アーマージャック】
[身体]:ウルトラマンオーブ・サンダーブレスター@ウルトラマンオーブ
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、全身のいたるところに火傷、気絶、クレナイ・ガイの状態へと弱体化、主催者に対するストレス(大)、二人組(エボルトと蓮)に対する苛立ち(大)、イトイトの実の能力者、ガキ(吉良吉影)に対する怒り(大)、拘束中
[装備]:馬のチンチン@魔界戦記ディスガイア
[道具]:基本支給品、オーブリング@ウルトラマンオーブ、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル
[思考・状況]基本方針:主催者をぶっ殺す。そのために参加者を皆殺しにして優勝する。
1:…………
2:さっきの二人は絶対に殺す。特に女の方は徹底的に調教してから殺す。
3:男はそのままぶっ殺す。女はレ〇プしてから殺す。
[備考]
※製作会社公認のパロディAV『悶絶!!アーマージャック』の要素も混ざっております。
※身体の持ち主のプロフィールは破り捨てました。怪獣と戦っていたという事以外知りません。
※装備している馬のチンチンはほとんど破壊されている状態のため本来の効果を発揮しません。
※ゼットシウム光輪、ゼットシウム光線を使いましたが、今後も自分の意思で使えるかどうかは後続の書き手におまかせします。
※【クレナイ・ガイ@ウルトラマンオーブ】の姿になっています。オーブリングとウルトラフュージョンカードを使えばサンダーブレスターに戻れます。
※悪魔の実の能力者になりました。水の中に落ちた場合、泳げずに溺れてしまいます。


◆◆◆


「行ってくれましたか」

ミチルが去り、おやじとJUDOの二人が残される。

「わざわざ待ってくれるとは思いませんでしたな」
「貴様の言う秘策に興味があっただけだ」

剣の切っ先を向け、JUDOが殺気をぶつける。
早く秘策とやらを見せてみろ、そう告げているようだ。
これまで出会った魔物を遥かに凌駕する威圧感に、おやじは冷汗を掻く。
しかし恐怖に固まっているつもりはない。
無事に生きてミチルと再会し、キタキタ踊りの力で殺し合いを止め吉良の無念を晴らす為にも戦わなければならないのだ。

「ではお見せしましょう!我が秘策をーっ!」

一際大きく叫び、おやじはその場で激しく動く。
腰は歪な円を描くかのように振り、両腕も奇妙な動きを見せる。
説明するまでも無い、キタキタ踊りである。

「さぁ〜!何時もより激しく踊っていますぞ〜!思う存分に見てくだされ〜!」

奇妙を通り越して奇怪な踊りを見せるおやじ。
それでも一種の芸術性を感じるのは、自身を世界レベルと豪語するアイドルの体になっているお陰だろう。

「……」

キタキタ踊りを見せつけられているJUDOは無言。
暫し黙っておやじの奇行を眺めていたが、おもむろに近付き、

「ヒャ〜ラリキタキタ、春が来――ってひょえ〜っ!?」

悲鳴を上げて、おやじは飛び退く。
JUDOが無言で振るったライドブッカーは、ヘレンの長髪を数本落とすに終わった。
避けるのが僅かに遅れていたら、頭部と胴体が泣き別れしていたとおやじは青褪める。
それも束の間、怒りに顔を赤くしてJUDOに食って掛かった。

「な、何をするんですか!まだ踊りの途中ですぞ〜!」
「茶番に付き合う気は無い。それが秘策と言うのなら、とんだ時間の無駄だった」

バッサリと切り捨てる言葉に、おやじは低く呻く。
おやじとしてはふざけているのではなく、本気でキタキタ踊りを踊った。
だがその想いは全く届いていない。
これ以上踊った所で無意味。
おやじとしては非常に不本意だが、そう認めるしかないだろう。


189 : 適者生存 ◆ytUSxp038U :2021/11/24(水) 20:37:15 KMBg.k560
しかし、おやじの秘策はキタキタ踊りだけではなかった。

「…仕方ありませんな。本当はコレを使いたくは無かったのですが」

小さく呟き、おやじは一つの支給品を取り出す。
その支給品とは、掌に収まるサイズの箱らしきものだった。
カードか何かのケースにも見えるソレには、鮫らしき模様が浮かんでいる。
箱を持った手を近くのショーウィンドウにかざす。
するとどんな仕掛けか、おやじの腰にベルトが出現したではないか。

「変身!ですぞ〜!」

ベルトに箱を填め込む。
その直後だ、おやじの姿が一瞬で変化したのは。

青い装甲と騎士の甲冑にも似た頭部。
鮫をモチーフにしたガントレット。
この姿こそ、おやじの支給品である「カードデッキ」により変身した、仮面ライダーアビスである。

デッキの効果は説明書で知っていたおやじだが、可能なら使いたくなかったというのが本音だ。
折角見た目麗しい美女の体になったのに、こんな鎧を纏っていてはキタキタ踊りの魅力が損なわれてしまう。
しかしそうも言ってられないのが現状だ。
おやじは元々、変態的な恰好とは裏腹に魔物相手でも引けを取らない強さを持っていた。
長年キタキタ踊りを続けた事で、桁外れの体力や打たれ強さを手にしている。
もしおやじが本来の体でここにいたら、恐らく生身であってもディケイドと渡り合えていたかもしれない。
尤も今のおやじはヘレンというアイドルの肉体になっている。
それ故に元来の打たれ強さは無いに等しく、アーマージャックによるストゥの一撃で呆気なく気絶するくらいに弱体化してしまった。

だから此度は、それを補うためにデッキを使って変身したのだ。

「ほう…、貴様もプロトタイプどもと同じ姿を……」

アビスの姿に、JUDOは僅かに機嫌が良くなる。
どうやらただのつまらん輩という訳でもなかったらしい。
これなら少しは楽しめそうだと、ライドブッカーを構える。

「では、行きますぞ!」

『SWORD VENT』

召喚機にカードを読み込ませると、アビスの手に一本の剣が握られた。
鮫の歯をモチーフにした剣を、ディケイドへと振るう。
迫る剣にディケイドも対処。刀身どうしがぶつかり合う。
続けて幾度も剣を振るい、アビスが攻め立てる。

「でりゃああああああ!」

気合を込めた連撃。
それら全てをJUDOは淡々と防ぐ。
この短い攻防だけで理解した。アビスの剣の腕はまるで素人だと。
強化された身体能力に物を言わせただけで、型も何もない。
放送前に戦った青い騎士ほどの剣術は皆無。

「フン」

つまらなそうに鼻を鳴らし、ライドブッカーでアビスの胴を突く。
デタラメに振るわれた剣の間を突かれた一撃に、アビスは呻き後退する。
わざわざ攻撃させてやったが、これではまるで楽しめない。
冷めた思いでアビスへと追撃を仕掛けた。


190 : 適者生存 ◆ytUSxp038U :2021/11/24(水) 20:38:31 KMBg.k560
「キタキタ〜!」

が、ディケイドの攻撃は空振りとなる。
先程見せたキタキタ踊りに似た動きでアビスが避けたのだ。
単なるまぐれで躱したのではない。
その証拠にディケイドが振るい続ける剣は、アビスに掠りもしていない。

「さぁ、当てられるものなら当ててみなされ〜!」

型に捉われない動きとでも言うべきか。
まるで風にそよぐタオルのように、ヒラリヒラリとライドブッカーを躱す。
アビスの動きは回避のみならず、剣を投げ捨て手刀により突きを連続で放ってくる。
この突きがまた厄介であり、ディケイドの攻撃が空振りした一瞬の硬直を狙って放たれていた。
身を捩り躱すも、一撃二撃とダメージを与え、ディケイドの装甲から火花が散る。

「…成程」

自身のダメージとアビスの動きを冷静に見極める。
青い騎士程の剣術は無いが、弱い訳では無い。
現に今、自分はあの奇怪な踊りに似た動きに翻弄されている。
このまま闇雲に剣を振るっても勝機は望めない。

だからここは、新たな力を使う。
一度距離を取り、ブックモードへ戻したライドブッカーからカードを取り出す。
これがどのような能力を持つのか、カードに力が宿った瞬間に理解している。

『KAMEN RIDE KUUGA!』

『FORM RIDE DRAGON!』

マゼンタ色の装甲は赤へ、次いで青になる。
ディケイドに比べるとスマートな印象の姿、仮面ライダークウガドラゴンフォームだ。
フォームチェンジと同時に現れた棒状の武器、ドラゴンロッドをアビスへ突き出す。

「ぬわっ!?」

姿が変わった事への驚きに動きを止めたアビスへ、容赦なくドラゴンロッドの先端が直撃する。
痛みに呻きながらも、すぐにまたキタキタ踊りの要領でロッドを回避する。
だが避け切れない。ディケイドの時よりも、攻撃の速度が上昇している。
一撃一撃の威力はそれ程高くは無いが、次々と放たれるロッドは全てアビスに命中し、着実に体力を奪っていた。
反対にアビスの突きは掠りもせず、先程までとは正反対となる。

ドラゴンフォームは耐久力と腕力を犠牲に、俊敏性とジャンプ力を強化した形態だ。
波のように揺らめき攻撃を無効化し、流水の如き勢いで攻め立てる。
これまでとは違う動きに、アビスは苦戦を強いられていた。

「ぐげっ!」

ロッドによる突きがアビスの首、装甲の薄い箇所を直撃する。
堪らず後退し喉を押さえるが、すかさず顔面へと蹴りが飛んだ。
情けなく悲鳴を上げて地面を転がるアビス。


191 : 適者生存 ◆ytUSxp038U :2021/11/24(水) 20:39:49 KMBg.k560
「ま、まだまだこれからですぞ!」

だがアビスはまだ勝負を諦めてはいない。
デッキから新たなカードを出し、召喚機へ読み込ませた。

『STRIKE VENT』

契約モンスター、アビスラッシャーの頭部を模した手甲が右腕に装着される。
こちらへ走るディケイドクウガ目掛けて、右腕を突き出した。

「ムッ!?」

敵の動作に良からぬものを感じ取り、ディケイドクウガは大きく跳躍する。
咄嗟の判断は正しい。
アビスの手甲からは鮫の姿に凝縮された高圧水流が発射され、付近のビルのガラスを破壊した。
もしあのままアビスへ突っ込んで行ったら、間違いなく高圧水流が直撃していただろう。

アビスの繰り出した攻撃に、新たな手を模索する。
ドラゴンフォームは回避力にこそ優れているが、耐久力と攻撃力は通常形態よりも低い。
暫し考え、クウガが持つ別の能力の使用を選択した。

『FORM RIDE TITAN!』

ディケイドライバーがカードの力を解放し、クウガはまたもや姿を変えた。
銀と紫の、重厚な装甲を纏ったタイタンフォーム。
専用の大剣、タイタンソードを片手にアビスへゆっくりと近づく。

「な、なんの!もう一発!」

タイタンフォームの威圧感に怯むも、手甲を向ける。
敵が真正面から向かってくるなら好都合。
今度は確実に当ててやると、高圧水流が襲い掛かった。
迫る水流をディケイドクウガは避けようともしない。
否、そんな必要無い。

鮫の姿の高圧水流が直撃する。
しかしディケイドクウガは、装甲を濡らしつつも前進を続ける。
あれだけの勢いの水流が当たったにも関わらず、後退どころか足を止めることすらしていない。
タイタンフォームはドラゴンフォームとは反対に、敏捷性を犠牲に防御力と攻撃力を強化した形態。
敵の攻撃を真正面から防ぎ叩っ斬るのが、このフォームの戦法だ。
そんな馬鹿なともう一度右腕をアビスが向けるが、ディケイドクウガもまた攻撃に移った。

『FINAL ATTACK RIDE KU・KU・KU KUUGA!』

己を飲み込まんと襲い来る水流へ、タイタンソードを投擲した。
未確認生命体…グロンギ族を滅ぼすエネルギーの込められた大剣は水流を斬り裂きながら進み、咄嗟に防御したアビスへと突き刺さった。
右腕の手甲も左腕の召喚機も砕け散り、大きく吹き飛ばされるアビス。
痛みを堪えどうにか立とうとするが、敵は悠長に待ってくれない。


192 : 適者生存 ◆ytUSxp038U :2021/11/24(水) 20:41:05 KMBg.k560
「ここまでだな」

『FINAL ATTACK RIDE DE・DE・DE DECADE!』

クウガからディケイドへと戻り、カードを挿入する。
等身大の巨大なカードがアビスへと続くように現れ、跳躍したディケイドに合わせてカードが道を作る。
ディメンションキック。リオン・マグナスを葬った技。
アビスはカードを使おうにも、召喚機が破損していてはどうにもならない。
だが黙ってやられるつもりはなく、地面に填め込まれているマンホールの蓋を引き剥がして即席の盾とする。

「つまらん足掻きだ」

カードを一枚通過する毎に、ディケイドの脚へエネルギーが付与されていく。
その光景が、アビスにはやけにスローモーションに見えた。
右脚がアビスへ到達した時、マンホールの蓋はあっさりと砕け散り、腹部へ衝撃が来た。

「ぐわあああああああああああああっ!!!」

蓋を外したが為に空いた穴から、地下へと真っ逆様に落ちていく。
悲鳴が地下に反響し、キンキンと鼓膜を叩いた。
ライドブッカーをガンモードに変え、ディケイドは地下を覗き込む。

「キシャアアアアアアアア!」

その背後から飛び掛かって来る何かの気配。
振り向けば、ディケイドへ殺気をぶつける異形がいた。
それは鮫だ。巨大な鮫が浮遊しながらディケイドへ襲い掛かった。
アビスが契約した二体のモンスターが融合した巨大鮫、アビソドンが己を喰い殺そうと迫る光景に、ディケイドは焦らずに回避。
獲物を一回で仕留められなかった事に腹を立てたのだろう、更に殺意が強まる。

「ギィイイイイイイイイイイ!!」

アビソドンの黒い頭部がバックリ開き、内部からノコギリ状の刃が飛び出す。
喰い殺せないなら、これで斬り殺す。
そう言わんばかりに身を震わせ、ディケイドへと再度突進した。

「くだらん」

『ATTACK RIDE BLAST!』

つまらなそうに吐き捨て、ライドブッカーを向ける。
連射力が強化された銃弾は、全てアビソドンの口内へと命中。
脆い箇所への集中攻撃に悲鳴を上げ、突進の勢いが弱まった。
すかさず駆けるディケイド。取り出したカードをドライバーに叩き込む。

『ATTACK RIDE SLASH!』

今度は斬撃の威力が強化された。ライドブッカーはとっくにソードモードへ変形済みである。
銃弾を浴びたばかりの口内へ剣先を突っ込ませ、そのまま幾度も振るう。
ノコギリも、下顎も斬り落とされ、最後には頭部を完全に両断される。
最早悲鳴すら出せずに、ミラーモンスターは哀れにも爆散し生涯を終えた。


193 : 適者生存 ◆ytUSxp038U :2021/11/24(水) 20:42:23 KMBg.k560
戦いですらない一方的な処分を終え、地下への入り口を見下ろす。
遥か下には汚水が轟々と流れるだけで、アビスの姿は見当たらない。
アビソドンの相手をしている隙に逃げたのだろう。
追ってトドメを刺そうかとも考えたが、止める。
どうせあの傷では長くないし、わざわざ追う程の相手でもない。

下水道から目を逸らし、すぐにアビスへの興味も消え失せた。
それなりにやる方だったが、最初に戦った騎士程楽しめはしなかった。
放送で発表された死者の中にはあの騎士、リオン・マグナスの写真もあったが何かを思う事もない。
自分に敗れ死んだ者に何時までも関心を抱くような存在では無いのだ、JUDOという男は。

「だが無意味な戦いという訳でも無かったか」

ライドブッカーから数枚のカードを取り出す。
戦いを重ねればディケイドの力が一つずつ取り戻されていく。
現にクウガ同様、新たなライダーの姿がカードにハッキリと浮かび上がっていた。
順調に力が増しているのならば問題無い。
いずれはこの自分に死を予感させた、両面宿儺と戦うのならば更に力を得なくては。

次の闘争を求め出発しようとし、不意に体がグラつく。
思っていたよりも疲労が蓄積しているようだ。
元の肉体であれば二度の戦闘程度で疲れるなど有り得ないが、今は事情が違う。
これもまた新鮮な感覚と奇妙な思いを抱きつつ、変身を解く。

次なる闘争に備える為に、一先ず休息の時だ。


【E-6 街/朝】

【大首領JUDO@仮面ライダーSPIRITS】
[身体]:門矢士@仮面ライダーディケイド
[状態]:負傷(中)、疲労(大)
[装備]:ディケイドライバー+ライドブッカ―+アタックライド@仮面ライダーディケイド
[道具]:基本支給品×2(リオン)、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル
[思考・状況]基本方針:優勝を目指す
1:闘争を楽しむ。だが今は休む
2:宿儺と次出会ったら、力が戻った・戻ってないどちらせよ殺し合う
3:優勝後は我もこの催しを開いてみるか
[備考]
※参戦時期は、第1部終了時点。
※現在クウガ〜アギトのカードが使用可能です。


194 : 適者生存 ◆ytUSxp038U :2021/11/24(水) 20:43:19 KMBg.k560
◆◆◆


「はぁ…はぁ…」

通路の壁に寄り掛かりながら、覚束ない足取りで歩く女がいた。
露わにした素肌は所々傷だらけで、口の端からも血が垂れている。

ディメンションキックをモロに食らったキタキタおやじは、辛うじて生きていた。
アビスに変身していたが故に、どうにか即死だけは避けられたのだ。
代償としてデッキは破壊されたが、今回はそれも良い方向に動いた。
デッキの破壊に伴い契約破棄された事で、アビスラッシャーとアビスハンマーは野良モンスターへと化した。
それが原因でおやじの指示を受けるまでもなく、近くにいたJUDOを餌として狙ったのだ。
そうして逃げるだけの時間を稼げたおやじは、何とかJUDOから離れられた。

「流石に少々、堪えましたな……」

一歩一歩進むたびに、身体は悲鳴を上げる。
死にはしなかっただけで、ディケイドの攻撃は確実にヘレンの肉体を痛めつけた。

「折角治療して貰ったというのに、ミチル殿には申し訳ないですな…」

あの少女は無事に逃げられただろうか。
拘束されているとはいえ吉良を殺した男と一緒だ、何か良からぬ事をされていないだろうか。
一刻も早く合流し無事を確かめたいが、歩く速度は腹が立つくらいに遅い。
少しでも気を抜けば、倒れてしまいそうだった。

「な、なんの、こんな時こそキタキタ踊りの…」




胸に衝撃が来た。


「がはっ…!」

同時に血を吐く。
遅れて胸に猛烈な痛みを感じる。
視線を下へと向けてやれば、腕が自分の胸から生えていた。

「な…な…」

なんだこれは。
口に出そうとしても言葉が出ず、代わりにボタボタと血が溢れた。
腕が引き抜かれると、おやじの体からも力が抜け、その場に倒れる。
誰がやった、このままでは死ぬ。
そんな考えすらも、すぐに吹き飛んだ。

「あっあがっあがががががががががぎゃぎゃぎゃがやががががががぎが」

激痛が体を駆け巡る。
痛い。痛くて痛くて泣きたい。
頭に浮かぶのはそれだけで、口から出るのは言葉にすらなっていない。
自分はこれからどうなるのか。
そう考えようとしても、痛くて何も考えられなくなった。


195 : 適者生存 ◆ytUSxp038U :2021/11/24(水) 20:45:44 KMBg.k560
白目を剥いて痙攣する女を、産屋敷耀哉は無表情に見下す。

日が沈むまでは自由に動けないと踏んでいたが、まさか運良く下水道に参加者が現れるとは思わなかった。
ここに来るまでに襲われたのか傷だらけだったが、関係ない。
鬼にすればそれらの負傷も全て再生する。

今も脳裏で絶えず繰り返される、参加者を鬼にしろとの命令。
そこに何の疑問も抱かず、鬼に変化する女を黙して見つめる。
定時放送は地下にも聞こえてきたが、耀哉に何らかの変化を齎しはしなかった。
炎柱の死にも眉一つ動かさず、ただ11人死んだ事にこう思っただけだ。

その者達は鬼にできなかったな、と。


【E-6 下水道/朝】

【アドバーグ・エルドル(キタキタおやじ)@魔法陣グルグル】
[身体]:ヘレン@アイドルマスターシンデレラガールズ
[状態]:疲労(大)、ダメージ(極大)深い悲しみ、無惨の血を摂取
[装備]:腰みのと胸当て@魔法陣グルグル
[道具]:基本支給品、最初着ていた服
[思考・状況]基本方針:?????
1:痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
[備考]
※参戦時期は魔法陣グルグル終了後です。グルグル2や舞勇伝キタキタは経験していません。
※ジョジョの奇妙な冒険の世界について知りました。ただしスタンドに関することは知りません。
※無惨の血を与えられました。現在鬼に変化中です。

【産屋敷耀哉@鬼滅の刃】
[身体]:鬼舞辻無惨@鬼滅の刃
[状態]:毒により理性消失、疲労(中)、絶望(大)、シロとしんのすけへの罪悪感(大)、毒による激しい頭痛、主催者への怒り(極大)
[装備]:マシンディケイダー@仮面ライダーディケイド
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:鬼を増やす
1:今は太陽の光を避けて移動
[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※スコルピオワームの毒に侵されています。現在無惨の肉体が抵抗中ですが、無惨の精神と共鳴した結果毒が強化され、精神が弱ったり意識を失うと理性を失います。二重人格みたいなものと考えると分かりやすい
※彼が死んだとき、鬼化させたシロも死ぬのかは不明です。

※下水道がどこまで続いているかは後続の書き手に任せます。
※アビスのデッキ@仮面ライダーディケイドは破壊されました。契約モンスターのアビスラッシャーとアビスハンマーも死亡しました。

【銀時のスクーター@銀魂】
坂田銀時が乗る原付のバイク。
「銀」の一文字が目印。

【アビスのデッキ@仮面ライダーディケイド】
龍騎の世界に登場した、Atashiジャーナル副編集長の鎌田が所持するデッキ。
鮫型のミラーモンスター二体と契約している。
ソードベント、ストライクベント、アドベント、ファイナルベントの4枚を所持。


196 : ◆ytUSxp038U :2021/11/24(水) 20:48:16 KMBg.k560
投下終了です。
自己リレーとなりますが、問題無ければこのまま

野原しんのすけ、エボルト、雨宮蓮、シロ、犬飼ミチル、アーマージャック、ゲンガー、エーリカ・ハルトマン、絵美里を予約します。


197 : ◆0EF5jS/gKA :2021/11/25(木) 00:57:06 mOvnOGSU0
感想を投下させていただきます。

>適者生存

親方様が本当にお労しいです。キタキタ親父が死よりもやばいことに…
SS名の意味がわかったとき「うおぉっ」ってなりました。
確かに適えば生存ができる…

感想は以上です。
SS投下お疲れさまです。


198 : ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 09:42:35 uMdudZVo0
感想ありがとうございます。

投下します。


199 : Life Will Change(1st) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 09:44:19 uMdudZVo0
「死にやがれぇぇぇっ!!」
「ガアアアアアアアアアアアアアッ!!」

二体の怪物が吼える。

一度死に、契約によってチェンソーの悪魔として蘇った少年、デンジ。
その身体を使うは川越市のお騒がせ殺人鬼、絵美里。
血を摂取し、全快とはいかずも戦闘を行うには全く問題ないコンディションだ。

アンダーワールドに絶望の化身、ファントムを飼う希望の魔法使い、操真晴人。
その身体を使うは501部隊所属、黒い悪魔の異名を持つウィッチ、エーリカ・ハルトマン。
だが今の彼女はウィッチでも魔法使いでもない、ウェザードーパントという名の異形と化してしまった。

片や主催者も含め自分以外の生命全てを殺す為に。
片や目的も何もなく、ただ湧き上がる破壊衝動に身を任せ力を振るう為に。
正義も信念も無い、互いへの殺意だけが異様なまでに充満した戦場。

「くたばれぇぇぇっ!」

先手を切るのは絵美里。
真正面のウェザードーパント目掛けて、ただ突っ走る。
両腕のチェンソーは肉を斬り裂き血を噴き出させるのを、今か今かと待ちわび回転数を上げている。
それなりのリーチがあるチェンソーだが、攻撃を当てるにはやはりある程度近付く必要があった。

「アアアアアッ!」

己の身体にチェンソーが到達する前に、ウェザードーパントも動く。
右手に握るは専用武器、ウェザーマイン。
ニコ・ロビンを痛めつけたソレを、今度は絵美里の体を削ぎ落さんと振るわれた。
光るチェーンが鞭のように迫る。

「しゃらくせえぇぇぇっ!」

羽虫を叩き落とす感覚でチェーンをはたき落とす。
続けて数回振るわれたチェーンも、同じように両腕の凶器を使って防いだ。
時間にすれば5秒も経たない攻防。
チェーンへ対処する間も足は止めない。あっという間にチェンソーの間合いに入った。
だがチェンソーはウェザードーパントを斬り裂けない。
風に吹かれたように距離を取られ、躱される。

「逃げんなコラァァァッ!」

怒声を放ち再度接近を試みる。
そこへまたもやウェザーマインが振るわれ、チェンソーで弾く
そんな攻防をどれくらい繰り返しただろうか。
先に痺れを切らしたのはウェザードーパントだ。ウェザーマイン以外の戦法に出る。

そう簡単に殺せる相手とは絵美里も思っていない。
敵がただ闇雲に武器を振るうだけの馬鹿でない事は理解しているのだ。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

両腕を広げて叫ぶウェザードーパント。
まるで自ら斬ってくださいと身を差し出しているかのようなポーズ。
実際には違う。
ウェザードーパントを中心に竜巻が発生した。


200 : Life Will Change(1st) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 09:45:33 uMdudZVo0
「のわあああああああああああああああああ!?」

チェンソーを振り上げた態勢のまま、絵美里は後方へと吹き飛ばされる。
これが厄介なんだと胸中で舌を打つ。
ウェザードーパントの固有能力である天候操作。
竜巻を起こしたのも数ある能力の内の一つに過ぎない。
技のレパートリーの多さには、絵美里でさえも舌を巻く。

「筋斗雲!!!」

吹き飛ばされた絵美里の足元に、黄色の雲が呼びかけに応じ現れる。
哀れ背後のビルに激突する寸前で間に合った。
このまま空中から一方的に攻めれば楽だが、それは叶わない。

ウェザードーパントが再度自分を中心に竜巻を起こす。
今度は絵美里を吹き飛ばしたのよりも、小規模だ。
まるで自分の体に竜巻を纏わせたかと思えば、絵美里と同じく空中に浮いた。
ハリケーンスタイルの時と同じく、風を纏っての空中飛行。
絵美里を睨み、両腕を翳した。

「チッ!」

その動作を見た瞬間に絵美里は動く。
筋斗雲を操作し横に移動すると、直後に虹色の光線が腕を掠った。
背後にあったオフィスビルのガラス窓が破壊されていく。
建物がどれだけ壊されようと絵美里にはどうでも良いが、自分に当たるのだけは勘弁して欲しい。
既に一度、躱し切れず腕に火傷を負ってしまった。

筋斗雲を駆り飛び回る絵美里を逃がさんと、光線を出しっ放しにして腕を動かす。
絵美里が通過した傍にある建物は、悉く光線に破壊されていく。

このまま逃げ回っているのは非常に癪だ。
何時までも好きにさせてやるものかと、まず両腕のチェンソーを引っ込める。
これから行う動作に、二本の武器は邪魔なのだ。

「こいつの出番だぜぇぇぇっ!」

ベルトのズボンに差した銃、圧裂弾を引き抜く。
一発ずつしか装填できないが、威力は折り紙付きだ。
光線を躱しながらも予備の弾を装填し終える。
後はウザったい敵に向けてトリガーを引くだけ。

筋斗雲のスピードを上げ、ウェザードーパントの周りを回転するように飛ぶ。
すかさず光線が追いかけて来るが、こちらに当たるよりも絵美里が撃つ方が早い。


201 : Life Will Change(1st) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 09:46:30 uMdudZVo0
「喰らっとけぇぇぇっ!」

照準を合わせて引き金を引いた。
発射される圧裂弾。
元々想定していた標的のアマゾン同様に爆散するか、それでなくとも大ダメージは免れない。

絵美里の期待に反し、ウェザードーパントは圧裂弾にも対処してみせた。

ウェザードーパントに直撃するほんの数ミリ手前で、弾が止まった。
よく目を凝らせば、弾は凍り付いている。
先程ハードガーディアンにも使った冷気を咄嗟に放ち、弾を凍らせ発射された状態のまま固定したのだった。

「クソがぁぁぁっ!!」

苛立ちを露わに絵美里はチェンソーを生やす。
攻撃こそ防がれたが、圧裂弾の対処に光線が止まったのだけは良い事だ。
両腕を左右に伸ばした態勢で筋斗雲を蹴り、指示を出す。
主の強引な命令に従い、筋斗雲はその場で高速回転した。

「回る回る回るぜぇぇぇっ!」

煉獄との戦闘の際にも使った、歪なバレリーナのような動き。
此度は筋斗雲に載っている為か、以前よりも回転数が増していた。
こちらへ近づかれる前に撃ち落とそうと、ウェザードーパントは光線を放つ。
だが何という事か、絵美里は桁外れの回転を維持したまま光線を躱し、ウェザードーパントへ接近して来るではないか。

「ガギィィィィ!」

ならばと今度は巨大な竜巻を発生させる。
さっきと同じく吹き飛ばすつもりだ。
が、それすらも絵美里には効かない。
回転により竜巻を斬り裂きながら、ウェザードーパントの真正面へと到達した。

「落ちろぉぉぉっ!!」
「ガアアアアアアアアアアアアアッ!!」

とうとうチェンソーがウェザードーパントに到達する。
胴体を斬り裂かれ、錐揉み回転しながら地面へと叩きつけられた。
衝撃でアスファルトが砕け散る。
痛みに低く呻くが、暴走が収まる気配は無い。
むしろ余計に絵美里への敵意が増加したが、いざ反撃に移るには些か遅かった。


202 : Life Will Change(1st) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 09:47:23 uMdudZVo0
「今度こそ終わりだぁぁぁっ!」

絵美里はチェンソーを突き出したポーズで、地上へと急降下する。
既に回転は止めているが問題無し。
立ち上がってもいないウェザードーパントを仕留めるには、このスピードで十分なのだから。

さっきは死体の血を飲んでいる途中で攻撃された。
だからこいつを殺してその血を一滴残らず飲み干してやる。
悪魔の特性である、血液接種による体力回復をすっかり受け入れてしまった絵美里は、歯を打ち鳴らしてウェザードーパントの命を刈り取らんとした。

「くたっばちまえぇぇぇっ!!」

ウェザードーパントの死は確実だろう。
ここにいるのは二体の怪物だけ。
助けてくれる仲間の内、二人は死んで残る一人はとっくに逃げている。

誰もがエーリカ・ハルトマンの終わりを確信する。
だけどもしこの場で、彼女を助けるモノが現れたなら。
怪物と化し理性を失って尚も、ハルトマンに救いの手を差し伸べる者がいるのなら。
その者は正しく、ハルトマンにとっての救世主と言っても過言ではない。

尤も


――ROCKET!STEAM ATTACK!ROCKET!


駆け付けたのは、そんな呼び名とは程遠い存在なのだが。


203 : Life Will Change(1st) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 09:48:39 uMdudZVo0
気付いた時には手遅れだった。
既に絵美里はウェザードーパントへ急加速で降下している真っ最中だ。
突如意味不明な電子音声が聞こえて来ても、それの正体を確かめる暇はない。
そういえば聞き覚えがあるようなと思った直後、衝撃が来た。

「うぎゃあああああああああっ!!」

悲鳴を上げて墜落する。
何度か地面をバウンドした後で、偶然近くにあった自動販売機に激突した。
ひしゃげた販売機の中から缶ジュースジュースやらペットボトルのお茶やらが降り注ぐ。
チェンソーの悪魔に変身している今、痛みは無いが不快感はある。
どこのどいつがやりやがったのかと怒りを露わに起き上がれば、即座に犯人が分かった。

『よう。数時間ぶりだな』

至って軽い雰囲気で話しかける、赤い装甲の不審人物がいた。
友人に対する仕草のようだが、絵美里はこの者とそんな良い関係ではない。
むしろ殺してやりたいと思っていたくらいだ。

「テメェェェ!あの時邪魔しやがった野郎じゃねぇかぁぁぁ!?」

煉獄にトドメを刺そうとした時、邪魔をして来た連中の一人。
一緒に居た帽子の青年や、シルクハットの怪人の姿は見当たらないがどうだっていい。
この赤鎧は一度ならず二度も横槍を入れて来たのだ。
三枚おろしでなく、千枚おろしにしてやらねば絵美里の気は晴れそうもない。

「ガアアアアア!
「ッ!?クソがっ!」

赤鎧のものではない殺気を察知し飛び退く。
光るチェーンに地面が削られた。誰だと問うまでも無い、ウェザードーパントだ。
乱入者に気を取られ、立て直す時間を与えてしまったと歯噛みする。

ここから自分はどうすべきか。
望みとしては赤鎧共々ウェザードーパントを殺したい。
だがどちらも簡単には倒せない上に、自分の負傷は軽いものではない。
ウェザードーパントが赤鎧と協力する事は有り得ないだろう。顔面宝石の姿だった時ならまだしも、今は敵味方の区別も付いていない。
よって三つ巴の形となるが、ウェザードーパントの手数の多さは厄介で、赤鎧の力はほとんど未知数。
癪に障るが、確実に勝てるとは自信を持って言えない。

やる事は決まった。

「筋斗雲!ぶっ飛ばして行けぇぇぇっ!!」

指示を受けた雲が、絵美里を乗せて浮遊する。
地上の連中に何かされる前に、急発進して戦場から遠ざかった。
戦闘の継続ではなく、逃走を選んだからだ。


204 : Life Will Change(1st) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 09:49:44 uMdudZVo0
(クソッタレがぁぁぁっ!!!苛つき過ぎておかしくなりそうだぜぇぇぇっ!!!)

まだ死ぬわけにはいかない。故にこの選択は間違っていない。
そう思ってもストレスは溜まる一方だ。
大渦を操っていた男と、筋肉達磨の女を殺して機嫌が良くなったというのに台無しとなった。
それもこれも、放送前の戦闘の時と同じくあの赤鎧が邪魔をしてきたせいだ。

(千枚おろしでも足りなねぇぇぇっ!、万枚おろし、いや億枚おろしだぁぁぁっ!!)

逃げている最中も赤鎧への殺意は消えず、自分をも壊しそうな怒りが蓄積していった。


【D-7 街 上空/午前】

【絵美理@エッチな夏休み(高橋邦子)】
[身体]:デンジ@チェンソーマン
[状態]:ダメージ(大)、胴体に爆破傷、左腕に火傷、疲労(大)、イライラ(大)、チェンソーの悪魔に変身中
[装備]:筋斗雲@ドラゴンボール、圧裂弾(0/1、予備弾×3)@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品、輸血パック×4@現実、虹@クロノ・トリガー、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、ランダム支給品0〜2(童磨の分)
[思考・状況]
基本方針:皆殺しだぁぁぁぁぁーっ!
1:逃げるぜクソッタレがぁぁぁぁーっ!
[備考]
※死亡後から参戦です。
※心臓のポチタの意識は封印されており、体の使用者に干渉することはできません。
※女性の手首@ジョジョの奇妙な冒険を食べました。
※炸裂弾@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-は全て使用したため、一つも残っていません。
※鵜堂刃衛(身体:岡田以蔵)を殺したのは自分だと思い込んでいます。鵜堂の名前までは分かってません。

※どこへ向かうかは後続の書き手に任せます。


205 : Life Will Change(2nd) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 09:51:51 uMdudZVo0
◆◆◆


時間を少し遡る。

ウェザードーパントと絵美里が殺し合うエリアを逃げたゲンガー。
禁止エリアに指定された南へ向かう訳にはいかず、西に向けて走り続けた。
もうとっくに戦闘音は聞こえない。
無事逃げれたがゲンガーに喜びは微塵も無く、やり場のない苛立ちだけが燻っていた。

「…チッ」

ロビンの判断を間違いだったと責める気は無い。
あのままゲンガーが残った所でハルトマンを正気には戻せなかっただろうし、
負傷していたロビンを抱えていては逃げ切れずに揃って殺されていたかもしれない。
ゲンガーだけでも生かそうとする、最善の判断だったとは分かっている。

だからといって簡単には割り切れない。
長年の友人の様に親しい間柄とまではいかずとも、志を共にする仲間だった。
カイジとロビンの死も、数時間後の定時放送で発表され神楽達が知る事になる。
いや、放送より前に彼らと合流したら、ゲンガーの口から伝えねばならない。
その時を考えると、非常に気が重かった。

「らしくねえなぁ…」

自分はこうも頻繁にセンチな気分になる奴だっただろうか。
イジワルズのリーダーとして、もっと好き勝手にやっていたはず。
だけどバトルロワイアルに巻き込まれる前、サーナイトの一件があってからどうにも他者の死に心を揺り動かされてる。
不甲斐ない自分がただ惨めで、乾いた笑いが漏れる。

「……ん?」

ふと顔を上げると、直ぐ近くに何かの店があった。
ルブラン。確か地図に載っていた喫茶店の名前。
チェンソーの化け物の襲撃さえなければ、探索するはずの施設。
一緒にここへ訪れていただろう二人の仲間がいない事にまたもや憂鬱となる。

(誰かが暴れでもしたのか?)

入り口が破壊され、吹き抜けとなっている。
地図に載っている事から誰かが訪れたのは分かっていたが、何かトラブルでもあったのだろうか。
危険な参加者に襲われでもしたのか、或いは扉の開け方も知らない奴が強引に入ったのか。
どちらにせよ警戒するに越したことは無い。

カイジの遺品となった銃を構え、慎重に足を踏み入れる。
純喫茶とある通り、コーヒー豆の入った瓶が並んでいた。
店内も酷い有様だ。ガラスが錯乱し、椅子やテーブルも幾つか引っ繰り返っている。
こんな場所にいつまでも長居するような奴なんて、果たしているのだろうか。
疑問に思いつつ店内をゆっくりと歩きつつ、カウンター奥を調べる。
何か、食欲をそそるような匂いがした。どうやらコンロに掛けられた鍋かららしい。
中身はカレーだ。

そういやこの地で食事を取った時、一緒にいた少女が食べていたのもカレーだったな。
何て、他愛のない事を一つ思い出す。


206 : Life Will Change(2nd) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 09:52:50 uMdudZVo0
「おいおい、店主に断りも無く入るのは感心しねぇな」

額に銃を突き付けられた。

「っ!?」

冷たく睨みつける銃口に息を呑む。
こんなに近付かれるまで気配をまるで感じなかった。
これでも気を張っていたつもりだが、心のどこかに緩みがあったのか。
それとも、目の前にいる人物が手練れだからか。
理由はともかく下手な動きはできず、自分に向けて舌打ちする。

銃を向けてくる相手は女だった。
人間で言えば美人に当て嵌まる顔には、どこか冷たい笑みが浮かんでいる。
おかしな真似をしたら撃つ、瞳がそう告げてきているようだった。
マズい状況に冷汗が流れるが、動揺を隠すように口を開く。

「ケケッ、店主だったら掃除くらいしろよ。こんなんじゃ客なんて来ないだろ」
「耳が痛いねぇ。まぁ、ここは俺の店じゃあ無いんだがな」

軽口を叩きながらゲンガーは頭を必死に働かせる。
自分は警戒されており、妙な動きをすれば即座に殺されるだろう。
幽体離脱していない生身の体では、銃弾一発で容易く死に至る
だが女がすぐに自分を殺す気でないのも確か。でなければ、何が起きたか理解する間もなく撃たれていたはず。
だったらどうにかなるかもしれない。

「勝手に入ったのは悪かったぜ。けどよ、危ない野郎が中に潜んでるかもしれないんだ。警戒するのは当然だろ?」
「そりゃ確かにな。反対に聞くが、中にいるのが危なくない奴だったらどうしてた?」
「…どうもしねえさ。ただ、隣のエリアにヤバい参加者がいるから警告くらいはしてたかもな」
「へぇ……」

返された言葉に、女は何かを考え込むような表情を作った。
相変わらず銃は突き付けられたままだが、自分の話には食いついたと見る。
と、女の後ろからギシリと軋むような音が聞こえた。
誰かが階段を下りて来たのだと気付く。
視界が捉えたのは帽子を被った青年。この状況に驚いている様子だ。

「誰だ?」
「さぁ?まだ名前も聞いちゃいない。…ああ、一番大事なこともな」

帽子の青年の顔を見ないまま返し、ゲンガーへ質問する。

「お前は殺し合いに乗ってるのか?」
「ケケッ!馬鹿言うんじゃねえよ。誰があんな野郎の言う通りにするかってんだ」

吐き捨てるように質問の答えを返す。
そもそもだ、ボンドルドが殺し合いなんて開かなければ木曾達が死ぬ事は無かったのだし、
自分も心をかき乱される事も無かった。
原因を作った主催者の言い成りになるのだけは、どうあっても許容できない。


207 : Life Will Change(2nd) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 09:54:04 uMdudZVo0
答えを聞いた女は暫し沈黙する。
先に反応したのは帽子の青年の方だった。

「銃を下ろしてくれ。彼は多分、大丈夫だ」
「…ま、アーマージャックみたいなろくでなしじゃあ無さそうだしな」

肩を竦めると、女は銃を下ろした。
どうにか命の危機は去ったようだ。
緊張感から解放され安堵のため息が漏れる。
だがゲンガーには、このままのんびり休憩を取るつもりは無い。
相手の雰囲気からして、彼らも殺し合いには乗っていないと察せられる。

「なぁ、お前らも殺し合いには乗ってないんだよな?」
「乗ってたらお前さんをさっさと撃ってるよ」
「…そうか。なら、頼みがある」

二人の顔をしっかりと見据えた後、頭を下げた。

「何でも良い。何か強力な武器があるなら俺に譲ってくれ」

突然の頼みごとに二人は揃って首を傾げる。
その反応は当たり前だ。
どういう事なのかと青年に聞かれ、ゲンガーはこれまでの経緯をかいつまんで説明する。
自分の名はゲンガーと言い仲間が複数いたが、内の一人が奇妙な支給品によって怪物になったこと。
怪物となったせいで暴走し、仲間をも手に掛けたこと。
自分だけはどうにか逃げて来られたが、暴走した仲間は今も隣のエリアで別の怪物と戦闘を行っている。

ハルトマンをこのまま放置しておく気は無いが、どうすれば正気に戻せるのかは不明。
それにチェンソーの怪物も決して弱い相手では無いのだ。もしかしたらハルトマンが殺されてしまう可能性も無視できない。
だからゲンガーはチェンソーの怪物をどうにか対処し、尚且つハルトマンの一度気絶させて暴走を無理矢理にでも止めようと考える。
その為にはレンタロウの能力と、今の装備だけでは不十分。
故にこうして強い武器の譲渡を頼み込んでいる。

わざわざ武器のみをくれと言うよりも、一緒に付いて来てくれと頼む道だってある。
けれどゲンガーは考える、考えてしまう。
ここに連れて来られてから、自分に関わった者が三人も死んでいる。
もし一緒に来てくれと頼みでもしたら、今度はこの二人まで死んでしまうのではないか?
馬鹿げた妄想かもしれない。木曾達の死はゲンガーに何の責任も無い。
それでも、もしもの事を思うと、同行を頼む事は出来なかった。
氷雪の霊峰に連れて行ってくれと依頼した時のような事は、どうしても口に出来ない。

頭を下げるゲンガーから視線を帽子の青年…蓮に移す。
言葉にせずとも瞳が告げていた。
「彼を助けてやりたい」と。

(お前ならそうすると思ったよ)

エボルトは呆れ笑いを蓮に返す。
この無口なようで、その実お人好しな少年ならそうする事くらいは予想が付く。
またチェンソーの怪物が関わっていて、煉獄の時のように助けられない。
そんな繰り返しをさせない為にも、早く怪物二匹の殺し合いに介入したくてウズウズしているのだろう。


208 : Life Will Change(2nd) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 09:55:04 uMdudZVo0
しょうがねえなと呟き、エボルトは頭を下げ続ける少年に言う。

「なら、俺が一緒に行って、そのお仲間の暴走を何とかしてやるよ」
「はぁ!?」

蓮もゲンガーも何を言ってるんだとエボルトを見やる。
二人分の視線を受けた当の本人は、至って涼しい顔で続けた。

「武器だけ渡した所で確実に上手くいく保証は無い。もしお前が死にでもしたら、あのチェンソー頭の奴か暴走中の奴に武器を奪われるだろ?だったら俺が直接行ってどうにかした方がマシだと思うがね」
「いや、だけどよ…!」
「なに、本当にヤバくなったらさっさと逃げるさ。それに、ウダウダ議論してるほど余裕は無いんじゃねぇのか?」
「うっ……」
「待ってくれ、だったら俺が二人を止めに…」
「ここに居る中で一番負傷が少ないのは俺だ。なら俺が行った方が良いだろ。大体、アイツらはどうする」

反論できずに押し黙る。
確かに、今ルブランにいる者の中ではエボルトが一番負傷していない。
それに屋根裏部屋にはしんのすけとシロがいる。
拘束中とはいえ今のシロをしんのすけと二人きりにさせるのは、流石に抵抗がある。
よって誰か一人はここに残るべきだ。

「反論が無いならさっさと行こうぜ?手遅れになっても良いなら別だがな」

自分一人で戻るつもりのゲンガーとしては、納得できない。
だがこう言われてしまえば、提案を受け入れるしかなかった。
口論している場合でないとは理解している。
渋々と言った様子を隠さずに頷く。

「……分かったよ。けど、本気でヤバくなったらお前はさっさと逃げろよ」
「心配ありがとよ」

深刻そうなゲンガーに反し、あくまで軽い調子を崩さず外に出る。
エボルトとしては、別に善意でハルトマンの暴走を止めに行くつもりは無い。
上手くハルトマンを正気に戻し、この機会にチェンソーの怪物を始末する。
そうなれば新しい戦力の確保と邪魔な参加者の排除を同時に済ませられ一石二鳥。
仮に暴走を止められなくとも、その時はその時だ。

フルボトルを手に取り、先程ゲンガーに付きつけた銃へ装填する。

「蒸血」

――MIST MATCH
――COBRA…C・COBRA…FIRE

手早くブラッドスタークへの変身を済ませる。
とっくに見慣れてしまった蓮はともかく、ゲンガーは少々驚いているようだ


209 : Life Will Change(2nd) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 09:55:53 uMdudZVo0
「うおっ、お前も仮面ライダーとか言うのだったのかよ」
『残念、正解はブラッドスターク!…何で仮面ライダーの事を……まぁいい』
「…いや声まで変わんのかよ」

詳しい説明は移動中にでも聞けば良いとすぐに切り替える。
徒歩で向かうよりも良い方法がある。
デイパックに手を突っ込み、取り出したのはどう考えても小さな鞄とは不釣り合いの大きさの物体。
バイクであった。

「それは…?」
『ん?ああ、シロの支給品にあったんだよ。見ての通り二人までしか乗れないから、拠点の移動にゃちょいと不向きだがな』

自分と蓮の二人だけならまだしも、しんのすけとシロも含めるならバイクでは無理だ。
いずれは拠点を移す為に、車が欲しい所だと苦笑いする。
だが蓮にはそういった事情よりも、バイクの見た目が興味を引いた。
黒い前部分と、緑の後ろ部分という奇抜なカラーリングが施された機体は、夢で見た光景を思い起こさせる。
左翔太郎とフィリップが変身した、あの戦士の色と同じなのだ。
このバイクも彼らと関係があるのだろうか。そんな疑問を抱く蓮を尻目に、エボルトはバイクに跨り、後ろにゲンガーも乗る。

『そんじゃあ行って来る。しんのすけとシロから目を離すなよ』
「ああ、分かってる」

アクセルを吹かし、ルブランを離れていく。
胡散臭い男だが、一緒に戦うと共犯関係を受け入れた相手だ。
ゲンガーや彼の仲間共々無事に戻って来ることを願う。


◆◆◆


『やれやれ、また逃げられちまったか』

そして現在、一目散に飛んで行った絵美里を見来るしか出来ずにボヤく。
煉獄を殺した時にはあんな雲には乗っていなかった。
言動は疑い様も無い狂人だが、考え無しの馬鹿ではない。
むしろ自分の不利をきちんと理解し退く判断は即座に下せる、敵ながら天晴だ。
アーマージャックと言い、ロクな性格をしてない奴に限って力だけはある。
何とも面倒だとブラッドスタークは苦笑いした。

『さて、そろそろ本来の目的を果たしますかね…とォッ!』

誰に向けるでもなく呟き、直後右腕を跳ね上げる。
狙いは勿論ウェザードーパント。トランスチームガンから硬化弾が発射された。
敵も当然ウェザーマインを振るい迎え撃つ。
僅か一瞬の差、ブラッドスタークの方が速さで勝った。

「ギッ!?」

硬化弾はウェザードーパントの右手に命中。
貫通こそしなかったものの、焼けるような痛みが走りウェザーマインから手を離す。
痛みは右手のみで終わってはくれない。
トランスチームガンを連射しながら、ブラッドスタークは敵目掛けて走り出す。
銃弾はウェザードーパントの体を痛めつけ、火花が絶えず散る。


210 : Life Will Change(2nd) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 09:56:46 uMdudZVo0
「グガアアアアアアアアアアッ!!」

煩わしい痛みにウェザードーパントの怒りはあっさり頂点に達する。
馬鹿正直に突っ込んでくるブラッドスタークにこれ以上好きにはさせない、そう言うかのように能力を行使した。
ブラッドスタークを囲むように出現する黒い雲。
敵を逃がさず一方的に痛めつける、絵美里にも使った雷雲だ。
中央のブラッドスターク目掛けて、赤い雷が迸る。

『聞いてた通りだな、こいつは!』

ブラッドスタークは走るスピードはそのままに、姿勢を低くする。
すると驚く事に、まるで赤い影のように体が変化し地を這うではないか。
当たる筈だった雷は、拘束から抜け出された為に全て外れる。
ウェザードーパントが標的を変更する余裕は無い、己の懐に潜り込んだブラッドスタークが実体化したからだ。

「グガアアアッ!?」

至近距離から銃弾を浴びせられる。
自分の体から血のように火花が散るのをむざむざと見せつけられた。
痛みから逃れようと、ウェザードーパントは両腕を広げ竜巻を発生させる。
これにはブラッドスタークも堪らず吹き飛ばされた。

「ガアアアアアアッ!」

体勢を整える暇など与えない。
手を翳し、ブラッドスタークの周囲にのみ集中豪雨を発生させる。
足元から水が溜まり、身動きが取れなくなった。
このままでは溺死させられる。だというのにブラッドスタークに焦りは無い。

胸部装甲が光り、エメラルドグリーンの大蛇が現れる。
動きを封じられた主に代わって、ウェザードーパントを噛み砕かんとする。
ウェザードーパントはブラッドスタークへの攻撃を中断し、大蛇へ標的を変更。
頭上に雷雲を発生させ、大蛇目掛けて雷を落とした。

――ICE STEAM!

エネルギー体の大蛇が消滅した直後、ウェザードーパントの体が凍り付く。
武器をライフルモードへ変形させた相手に、特殊弾を撃たれたからだ。
今度はウェザードーパントの身動きが封じられる。
両腕から熱を放射し氷を溶かす。

反対に凍らせてやろうと冷気を放つ。
これに対しブラッドスタークは再度大蛇を召喚、今度は炎を吐かせて迎撃。
炎がウェザードーパントの体表面を軽く炙り、冷気はブラッドスタークの装甲を僅かに凍らせる。
両名ともに致命傷にはならない。


211 : Life Will Change(2nd) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 09:57:32 uMdudZVo0
『続きといこうかァ!』

スチームジェネレターにより、各部から蒸気が噴射される。
瞬間的な能力強化がされ、ウェザードーパントへと急接近をした。
トランスチームライフルを振るい、ブレード部分による斬撃がウェザードーパントを傷つける。
ウェザーマインは落とした為に使えない。
なら竜巻を起こして吹き飛ばそうとするが、いざ能力を発動させる時に限ってブラッドスタークは引き金を引くのだ。
至近距離で銃弾が直撃する痛みに、能力の行使が遅れ、そうするとまた斬られる。
更にブラッドスタークは攻撃にトランスチームライフルのみならず、蹴りも行っていた。
単なる物理攻撃ではない。
足先に搭載された機能を使い、麻痺毒を含んだ蒸気を纏わせ蹴りを放っている。
これによりウェザードーパントは一方的に体力をじわじわと削られる羽目になっている。

「ガ、ガ…ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

絶えず襲い来る痛みを振り払うべく、ウェザードーパントはデタラメに腕を振り回す。
掌からは虹色の光線が発射され、手当たり次第に周囲の建造物が破壊される。
狙いも何も付けない、子どもの癇癪のような攻撃だ。
だからこそ余計に読み辛い。このまま攻撃を続けていては手痛い一撃を受けてもおかしくはない。
地面を蹴り、ブラッドスタークは後方へと大きく跳ぶ。

「グゥウウウウウウウウ…!」

距離を取られたウェザードーパントは雷雲を作り出す。
但し今度はブラッドスタークの周囲では無く、頭上にだ。
赤い光が黒い雲を駆け巡り、真下の獲物を焼き殺す出番を今か今かと待ちわびていた。
さながら神をも恐れぬ罪人へ裁きを下すかの如く、無数の雷を落とそうと腕を振るい、

「ケケッ!またまた邪魔させてもらうぜ!」

背後から何者かに斬られた。

「ギッ!?」

痛みは無いが、不意打ちに意識が持って行かれる。
振り返ればそこには、ゆらゆらと靄のような肉体の少年の姿。
幽体離脱を行ったゲンガーだ。

「ハルトマン、もういい加減に止まっとけ!」

両手で握り締めた刀を我武者羅に振るう。
ドーパントの肉体に効果はほとんど期待出来ないが、それで良い。
目的は倒す事では無く、自分に意識を向けさせる事。
隙さえ作れたなら、後はもう一人の出番だ。


212 : Life Will Change(2nd) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 09:58:23 uMdudZVo0
――COBRA!STEAM SHOT!COBRA!

電子音声によりウェザードーパントが再度ブラッドスタークを見る。
その時にはもう、眼前で巨大な蛇が大口を開いていた。
蛇を模したエネルギー弾がウェザードーパントを飲み込む。
ゲンガーへの巻き添えは気にしていない。
幽体故に心配は一切無用と予め伝えておいた。

「ガギャアアアアアアアアアアッ!!」

これまで以上のダメージに、とうとう膝を付く。
だがまだ終わらない。破壊衝動は消え去ってはいない。

「ガァァァ……!!」

ブラッドスタークもゲンガーも、目に映る全てを消し去る。
両腕に冷気を纏い、全方向に射出して、それでやっと自分を傷つける者はいなくなるのだと顔を上げ、


『悪いが、もう終わりにしたいんでね』

――STEAM BREAK!COBRA!


衝撃が体中に襲い掛かり、今度こそウェザードーパントの意識はプッツリと切れた。





悲鳴も出さずに倒れた瞬間、ハルトマンの首から何かが排出されるのをゲンガーは見た。
中央にWの文字が記された、白いメモリ。
カイジが使おうとして、何故かハルトマンの体内に挿入された機械だ。

メモリを拾い、傍に倒れたハルトマンと見比べる。
そこには猛威を振るった怪物の姿は無く、ボロボロで身じろぎ一つしない青年がいるだけだ。
近付き確かめると、胸が上下し呼吸しているのが分かる。気絶しているだけらしく、安堵の吐息を漏らした。

「こいつのせいで……」

手に持ったメモリを憎々し気に見る。
これのせいでハルトマンは暴走し、カイジとロビンも死んだ。
強力な支給品には違いないが、ゲンガーにとっては忌むべき代物である。

「チッ!」

ゴミでも扱うかのように地面へ叩きつけると、刀の切っ先を振り下ろす。
ちょうど真ん中の部分、Wの箇所に突き刺さり二つに割れた。
外部に晒された部品がバチバチと火花を散らし、それもすぐに収まりただのガラクタと化した。

『壊しちまったのか?勿体ない…』

やれやれと首を振るブラッドスタークへ、嫌そうに目を向ける。
確かに使い方次第では立派な武器になるだろう。
カイジが自分達に存在を隠し、密かに持っていたのも分からんでもない。
それでも、こんな暴走の危険がある機械など無い方が良いに決まっている。
少なくともゲンガーはそう思った。


213 : Life Will Change(2nd) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 09:59:22 uMdudZVo0
「…まぁ、そのよ。ありがとな。お陰でハルトマンを正気に戻せた」
『良いさ。俺も確実に戻せるかどうかは賭けだったしなぁ』

エボルトが提示した、ハルトマンを正気に戻す方法。
それは実にシンプルな、戦闘不能になるくらいのダメージを与えるというものだった。
余りにも脳筋過ぎる策と思われるかもしれないが、理由がってのことだ。
人から怪物に変化する、それはエボルトの良く知るスマッシュと同じだ。
スマッシュを人間に戻すには、体内の成分を抽出しなくてはならず、ハルトマンが変身したドーパントを解除させるにはWやアクセルなどの仮面ライダーのマキシマムドライブを当てガイアメモリを破壊する必要がある。
ここで注目すべきは、スマッシュもドーパントも元は人間ということだ。
どれだけ強力な異能の怪物になろうと、素体となったのが人間である以上は体力にも当然限界がある。
であるならば、耐えられる限界以上のダメージを与えられたなら幾ら怪物だろうと戦闘続行は不可能となる。
そう睨んでひたすら痛めつけたが、結果は成功だった。
仮にダメージを与えすぎて死んでしまっても、あのまま暴走を続けるよりはマシと適当に言いくるめるつもりであったが、わざわざ教える必要は無い。

(こいつが絶好調だったなら、もっと手間取ったかもしれねぇがな)

エボルトがウェザードーパント相手に有利に立ち回れた理由。
一つは移動中にゲンガーから情報を得ていたこと。
初見であれば多彩な天候操作の対処に梃子摺ったかもしれないが、大体どういった能力を使うのはゲンガーに聞いておいたお陰で即座に対処が可能となった。

二つ目は互いのコンディションの差だ。
ウェザードーパントのスペックは確かに高いが、変身者であるハルトマンは絵美里との戦闘で少なくない傷を負い、疲労も蓄積していた。
そこへ加えて、エボルトが到着するまでに繰り広げられた戦闘による疲れも加算された。
対してエボルトは定時放送前の連戦による疲労こそ完全には抜け切っていないが、ほぼノーダメージ。
ハルトマンに比べると余裕を持って戦えたという事になる。

とにかくこれで一件落着。
後はさっさとルブランに戻るだけだが、バイクに乗れるのは二人まで。
先に気絶したハルトマンを運び、それまでゲンガーには待っていて貰うしかなさそうだ。

自分がいない間に余計な問題が起きていなければ良いが。
そう思いながら来た道を振り返る。

「……ん?」

ずっと遠くの方に、何かが見えた。
気のせいか?いや確かに何かを見た筈だ。
トランスチームライフルを構え、スコープを覗く。
倍率を最大にまで上げ細かく観察すると、やはり何か、赤いモノが見えた。

『……何でこう面倒ばっかり舞い込むのかねぇ』

悪い事に、アレは恐らくルブランがある方向だ。
余計な問題が起きていなければと思った矢先にこれとは、エボルトと言えど頭が痛くなってくる。
かといってここでのんびり眺めている訳にもいかない。
貴重な戦力を失うのも困るので、早急に戻らねば。


214 : Life Will Change(2nd) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:00:40 uMdudZVo0
『ゲンガー、ちょいと向こうで問題発生だ。俺は急いで戻らなけりゃならくなったから、お前はどっかに隠れててくれ』
「あん?…ハルトマンを休ませたいから別に良いけどよ、大丈夫なのか?」
『大丈夫だと願いたいね。そいつが起きたらコレでも食わせとけ』

ピーチグミを一つ取り出し、ゲンガーに放る。
まじまじと見つめるゲンガーには構わず、バイクに跨り急発進した。

「何だか分かんねえが、無事でいろよ…」

あっという間に走り去ったエボルトを見送ると、ハルトマンを担いでその場を離れる。
派手に戦った音を聞きつけて、危険な参加者が集まって来るかもしれない。
このまま外にいては危険だ。
取り敢えず近くの建物に移動し、ハルトマンをベッドかソファーにでも寝かせてやりたい。

今は自分が彼女を守ってやらねばと、気を引き締め早足で戦いの跡が残る場を後にした。



結果だけ見れば、ハルトマンのドーパント化は解除され、ウェザーメモリも破壊された。
良いか悪いかで言えば前者だろう。

しかしハルトマンにとって本当に良い結果と言えるのだろうか。

カイジを殺しロビンを痛めつけたが、それらは彼女の意思ではない。
全てはガイアメモリが引き起こした事だ。
元々メモリを持っていたカイジとて、ここまでの惨事になると分かっていたらメモリを使おうなどとは考えなかったはず。
誰が悪いかで言えば、ハルトマンでもカイジでもなく、殺し合いの主催者達に決まっている。

だがそれでも、ハルトマンが仲間を死に追いやったという事実は消えない。
神楽や康一、ゲンガーが許したとしてもハルトマン自身が己の行いを赦せるとは限らない。

仲間に背負われ、魔女は眠り続ける。
目を覚ましたその時、彼女を待ち受けるのは自らが犯した罪という逃れようのない絶望だ。


215 : Life Will Change(2nd) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:01:26 uMdudZVo0
【D-7 街/午前】

【ゲンガー@ポケットモンスター赤の救助隊/青の救助隊】
[身体]:鶴見川レンタロウ@無能なナナ
[状態]:人の身体による不慣れ、高揚している、疲労(大)、精神疲労(大)、自分への強い苛立ち、手にダメージ
[装備]:八命切@グランブルーファンタジー、シグザウアーP226@現実、ピーチグミ@テイルズオブディスティニー
[道具]:基本支給品×3、近江彼方の枕@ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会、タケコプター@ドラえもん、サイコロ六つ@現実、肉体側の名簿リスト@オリジナル
[思考・状況]基本方針:イジワルズ特別サービス、主催者に意地悪…いや、邪魔してやる。
1:ハルトマンを連れ、どこかの建物に避難する。
2:イジワルズ改めジャマモノズとして活動する。
3:ピカチュウとメタモン、港湾棲姫には用心しておく。(いい奴だといいが)
4:木曾のメモのこと、覚えておかないとな。
5:こいつらを見るとアイツ等を思い出すな…(主人公とそのパートナー達の事です)
6:何でオレが付けた団名嫌がるやつ多いんだ?
7:カイジのやつ、何でメタモンの事を聞いて来た?
[備考]
※参戦時時期はサーナイト救出後です。一応DX版でも可。(殆ど差異はないけど)
※久しぶりの人の身体なので他の人以上に身体が慣れていません。
 代わりに幽体離脱の状態はかなり慣れた動きができます(戦闘能力に直結するかは別)。
 幽体離脱で離れられる射程は大きくても1エリア以内までです。
※木曾から『ボンドルドが優勝を目的にしてない説』を紙媒体で伝えられてます。
 (この都合盗聴の可能性も察してます)


【エーリカ・ハルトマン@ストライクウィッチーズシリーズ】
[身体]:操真晴人@仮面ライダーウィザード
[状態]:ダメージ(極大)、胸部にダメージ(大)、疲労(極大)、気絶
[装備]:ウィザードライバー&ドライバーオンウィザードリング&ハリケーンウィザードリング+サンダーウィザードリング@仮面ライダーウィザード
[道具]:基本支給品、
[思考・状況]基本方針:殺し合いには乗らない
0:……
1:この仮面ライダーの力で二人はわたしが守るよ!!
2:元の世界に戻れても、ネウロイに落とされたあの場所に逆戻りする羽目になる気がする…。それなら首輪を外す方法探しながら、脱出手段を見つけちゃえばいいよね!
3:トゥルーデの身体が…!!悪用されてないことを信じるしかないよね?
4:他の良い参加者と会えて色々話せて良かった!!色々話し合えたし、運が良かったかも
5:もし操真やトゥルーデ、そして今いる仲間の仲間が殺されてたら…わたしは主催を許さない。
[備考]
※参戦時期は「RtB」ことストライクウィッチーズ ROAD to BERLINの6話「復讐の猟犬」にてネウロイに撃墜された後からです。
※作中にて舞台になっている年代が1945年な為、それ以降に出来た物についての知識は原則ありません。
※晴人のアンダーワールドに巣食うウィザードラゴンの意識は封じられてはいませんが、ハルトマンとコミュニケーションを行う事は基本的に出来ません。
※操真晴人の肉体の参戦時期は「仮面ライダー平成ジェネレーションズ Dr.パックマン対エグゼイド&ゴーストwithレジェンドライダー」以降です。また経歴の記述については、正史(確定してるのはウィザード本編、MOVIE大戦アルティメイタム、戦国MOVIE大合戦のウィザードパート、小説 仮面ライダーウィザード)以外の作品にも触れられているようですが、具体的にどうなっているかは後続にお任せします。
※T2ウェザーメモリに適合しました。が、本人の意思とは無関係に変身した為、暴走しました。
※暴走中の事を覚えているかは不明です。

※T2ウェザーメモリ@仮面ライダーWは破壊されました。


216 : Life Will Change(3rd) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:02:30 uMdudZVo0
◆◆◆


エボルトとゲンガーを見送り、そのすぐ後の事だ。
ルブランに新たな訪問者が現れたのは。

しんのすけにエボルトが一旦別行動を取ったと伝えようと、階段に足をかけた時、
バイクのエンジン音らしきものが聞こえて来た。
まさかもう戻って来たのかと外に出てみたら、予想していたのとは別の人間が目に映った。

「よ、良かった、人がいた……」

エボルトが乗っていた黒と緑のではない、何故かデカデカと「銀」の一文字が書かれたスクーター。
運転しているのは自分と同い年くらいの少年だった。
ただ何というか、外見にインパクトがあり過ぎる。
そこまでやるかと言いたくなるような改造制服に、時代錯誤なリーゼント。
20年前くらいの日本からタイムスリップしてきたような、コテコテの不良スタイルだった。

運転席から少年が下りると、その後ろにも人がいるのに気が付いた。
けれどその人はうつ伏せの状態でグッタリしており、体中に黒い粘液のようなものが付着している。
明らかにただ事ではない。

リーゼントの少年は自分の警戒を気にしていないのか、気にする余裕もないのか、
今にも泣き出しそうな顔で縋り付いて来た。

「お願いします…!どうか、私と一緒にエルドルしゃんを助けてください…!」

……。

突然の要求に暫し固まってしまった。
というか数分前に同じような事を言われたばかりだ。
こんな偶然が現実に起こりえるのだろうか。
実際に起てるけど。

自分がフリーズしていた間にも、少年は必死に頭を下げている。
よく見たら酷い怪我もしているようだ。
しかし助けてくれと言われているが、具体的な状況は分からない。
それに彼が連れて来た男は何故気を失い、拘束されているのか。
疑問は山ほどある。


217 : Life Will Change(3rd) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:03:29 uMdudZVo0
ここは

→【詳しい話を聞かせてくれ】
【怪しい奴の話を聞く気は無い】
【頭にハンバーグ乗ってますよ】

「取り敢えず中に入って、詳しく聞かせて欲しい」
「で、でも急がないとエルドルしゃんが…」
「困ってるなら助けになる。だからそのエルドルって人の事も含めて、ちゃんと説明してくれ」

この少年の様子からして、何か緊急の案件なのは確かだろう。
でもそれがどういった内容なのかを知らない事には、動きようも無い。
こう言っては何だが、急かされるままに付いて行き待ち伏せをされていた、何て事も絶対無いとは言い切れないのだ。

ただあくまで自分の見た印象だが、少年は悪人には見えないし、焦りも本物な気がする。
どこぞの探偵ではないが、怪盗団としての活動で多少は観察力も鍛えられている、と思いたい。

「…っ。……分かりました。ごめんなさい、ちゃんと事情も説明しないで」

しゅんとする少年に大丈夫だと返し、ルブランに入るよう促す。
その際拘束された男に何とも言えない視線を投げかけていたので、少年と一緒に彼を運ぶことにした。
ガラスが散乱した床を踏みつけると、階段を大きな体が下りて来た。

「お兄さん?」

しんのすけだ。きっと自分とエボルトが下りたきり一向に戻らないので、心配になったのだろう。
その視線は見知らぬ二人の男へ向けられている。
一方リーゼントの少年も、敵意こそ無いが少しの警戒が混じった瞳でしんのすけを見つめ返す。

「しんのすけ、この人と話をしたいから上に戻っててくれないか?」
「えっ、でも…」

自分の言葉にしんのすけは困惑しているようだ。
リーゼントの少年も何故しんのすけには話を聞かせないのかと、目でこちらに訴えて来る。
別にしんのすけを会話に参加させたい訳ではない。
ただ二階にいるシロから目を離さない方が良いのではと思ったのだ。
グルグル巻きに拘束されているとはいえ、万が一何かあったら一大事なのだから。

それにもう一つの理由として、何も知らない人が今のシロを見たらどう思うかを懸念しての事だ。
年頃の女の子をワイヤーで拘束し、衣服はボロボロの状態。
きっとロクでもない連中だと思われる。
だからリーゼントの少年には自分だけで話を聞き、もしシロの事を明かすにしても鬼になっていて危険だからとちゃんと説明してからにしたかった。

だがこうなればもう遅い。
強引にしんのすけを二階に行かせれば、少年から余計な不信感を持たれる。
多少の不安は有れど、屋根裏部屋でしんのすけも交えて話しをしよう。
それに少年は急ぎの用があるらしい。グダグダしてはいられない。

「…やっぱり上で話すから、先に上がっていてくれ」
「お?良く分かんないけど、分かったゾ」
「上で話を聞く。ただ、何を見ても変に誤解しないで欲しい。ちゃんと説明するから」
「は、はぁ…分かりましたけど……」

訝し気にこちらを見る少年と共に男を上まで運ぶ。
そうして階段を上り切った時、少年はあんぐりと口を開けた。
おまけに驚きの余り男を運んでいた手を離してしまった。
慌てて支えたものの、男の頭部が手摺にゴンと音を立て当たった。
今ので目が覚めたのではと焦るが、低く呻いただけで反応は無い。


218 : Life Will Change(3rd) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:04:37 uMdudZVo0
ホッとしたのも束の間、少年は案の定と言うべきか、ソファーの上に拘束されているシロを指さし叫んだ。

「ど、ど、どういうことですか!?何で私の体が…!?」

…え?
今彼は何と言った?
聞き間違いでなければ、私の体と確かにそう言った。
という事はつまり、のリーゼントの少年の身体に入っている精神こそシロが入っている肉体の主とうことか。
通りで外見の印象と喋り方がチグハグな訳だ。

一人で納得していると、リーゼントの少年、いや中身は少女が掴みかかって来た。
さっきとは違う意味で泣きそうな顔になっていた。

「わ、私の体に何をしてたんですか!?ま、まさか何かエッチな事でも…」

【そうだ】
→【違う】

勘違いする気持ちは分かるが、それは全くの誤解だ。
ガクガクとこちらの頭を揺らすのをどうにか止めさせ、きちんと説明をした。





「そう、だったんですね…」

説明を終えると、複雑そうな顔でこちらを睨み続けるシロを見た。
自分の体が目の前にあり、しかも鬼というものに変わっているのだから無理もない。

こちらが大体の事情を話すと、彼女の方も自己紹介を含めて説明をしてくれた。

彼女…犬飼ミチルの話には驚く情報が幾つかあった。
何とミチルは殺し合いが始まってすぐ、シロと遭遇したのだと言う。
逃げるシロを追いかける途中、しんのすけが遭遇した巨大な虫に、チルも遭遇し傷を負わされた。
そこから気絶し、目が覚めた時には吉良という人が拘束中の男に殺されたらしい。
しかもその殺した男は今とは違う外見をしていて、特徴を聞く限り自分の知る参加者に一人当て嵌まる奴がいる。

アーマージャックだ。
エボルトと最初に出会った時に戦った、危険な宇宙人のような男。
それが今は人間の男性の外見と化している。
ひょっとしたらあの時の姿は、エボルトや翔太郎さんと同じく何らかの道具を使って変身したのだろうか。
拘束されているのがアーマージャックと分かった以上、絶対にこいつを野放しにしてはならない。

それにミチルが助けを求めていた理由も分かった。
エルドルという男の人が、危険な参加者からミチルを逃がす為の囮を買って出たと言うのだ。
おまけにその危険な参加者も、ベルトとカードを使って変身したらしい。

事情は理解した。
今すぐにでもエルドルさんを助けに行く、といきたいのだが…。

(しんのすけ達を残して大丈夫なのか…?)

今この中で、一番戦えるのは自分だろう。
しんのすけは今の体に少しずつ慣れているとはいえ、心身ともに万全ではない。
ミチルはスタンドというペルソナとも違う特殊な力を持っているが、怪我が酷くて戦いには行かせられない。
だからエルドルさんもミチルを逃がしたのだと思う。

ここは自分一人が急いで、エルドルさんとミチルが分かれた場所に向かうのが一番だ。
だがそうなると、シロに加えてアーマージャックという危険過ぎる男の見張りを二人にやらせてしまう。
それは本当に大丈夫なのだろうか。
身動きを封じられ支給品も取られているとはいえ、何の問題も起きないと言い切れるのだろうか。


219 : Life Will Change(3rd) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:06:04 uMdudZVo0
「ごめんなさい!」

突然の謝罪に振り向くと、ミチルがしんのすけに頭を下げていた。
どうしていきなり謝るんだ?
しんのすけも自分と同じく困惑しているようだ。

「オラ、変な髪のお兄さんに謝られる事されてないゾ…?」

しんのすけの言う通り、ミチルは自分達とはさっき会ったばかりだ。
彼女に困らせられる事はされていないのに、一体何故…?

「私があの時、シロちゃんを追いかけ回したせいで…。私が恐がらせるような事さえしなければ、鬼にされなかったかもしれないのに…!!」

最初にミチルがシロを見つけた時、四つん這いで走っていたらしい。
身体は人間でも精神が犬だから仕方ないが、幾らなんでも自分の体でそんな事をされたらパニックになるだろう。
だからその時ミチルが慌ててシロを追いかけたのは、責められる事ではないのではないだろうか。
しんのすけだってミチルの謝罪に困ったような顔はしているが、怒りは見当たらない。

「変な髪のお兄さん、オラは――」

ヒュン、と何かが舞った。

自分も、ミチルも、しんのすけも、ソレが何かを目で追う。

ソレの正体は筒だ。

ミチルがアーマージャックを拘束するのに使ったと言っていた筒が、彼女の手を離れて宙に舞った。





(クソ!ふざけやがってこいつら〜!)

蓮達が話す傍らで、屈辱に怒りを燃やす男がいた。
(自称)正義のヒーロー、アーマージャックである。

スクーターに揺られ冷たい風に当てられ、ルブランに到着した時には目を覚ましていたのだ。

記憶が正しければ自分は派手な髪色のガキに殺されそうになっていたはず。
どうにかして生き延びようと必死で頭を回し、ふと思い浮かんだ光景を実践しようとしたところまではハッキリと覚えている。
しかしそこから先がどうにも曖昧だ。
そして気が付いたら身動きを封じられており、全身のそこかしこがやたらと痛み、おまけに体はあのウルトラマンとかいう肉体じゃなくて、人間の男になっていた。

混乱で取り乱しそうになったものの、一度殺されかけた事もありどうにか冷静に周囲を観察した。
幸い、目覚めた際に大声を出しそうになったのを必死に抑えた甲斐もあり、自分の意識が戻っている事は気付かれていないようだった。

自分を拘束したらしいリーゼントの少年は見覚えがあるような無いようなでハッキリしないが、帽子の青年は知っている。
公園で、胸のデカい片おさげ女と共に自分をコケにした奴だ。
そいつとリーゼントによって喫茶店らしき場所の二階に運ばれた時、頭をぶつけられた。
怒りのメーターが一気に跳ね上がったが耐え、目覚めていない振りをしてやり過ごした。


220 : Life Will Change(3rd) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:11:02 uMdudZVo0
二階にはこれまた自分の知らない胴着の男と、拘束された高校生くらいの少女がいた。
男は適当なサンドバッグ程度にしか見ていないが、少女は別だ。
顔立ちも整っているし、溜まりに溜まったストレスと性欲をぶつけるには丁度良い。
それに拘束されていると言う事は、きっと悪人に違いない。
なら正義のヒーローであるアーマージャックにレイプされても、一切問題無し。

(あぁん?あの女がいねえじゃねーか)

赤い装甲を纏い、舐めた真似をした女がいない。
もしや自分から逃げた後で死んだのだろうか。
だとしたら非常に残念でならない。
あの女は徹底的に調教して、壊れるまでレイプしてから殺そうと思っていたのに。

(チッ!とにかくこのウゼェもんを脱け出さねぇとな…)

サンダーブレスターになっていても拘束を脱せなかったのだ。
あれより弱そうな人間の姿でどうにかできるとは思えない。
自分の支給品である刀が手元にあるならまだしも、それはデイパックごとリーゼントに取られている。
ヒーローの持ち物を勝手に奪った悪党。
如何にも不良な外見に加えて、また一つリーゼントを殺す理由が生まれた。
それを実行に移すには、やはり拘束をどうにかしなければならない。
八方塞がりについ舌打ちしそうになる。

(…んん?待てよ?アレは使えるんじゃねぇか?)

自分が持つ力は、サンダーブレスターのみでないと思い出す。
そうだ。イトイトの実という吐きそうなくらいにマズいもんを食べて、手に入れた力があるじゃないか。
糸を出す能力はサンダーブレスターとは無関係だ。
今の姿のままでも、きっと使えるはず。

試しに集中すると、指先から一本の糸が出て来た。
後はこの力をどう使うかが重要だ。

ドンキホーテ・ドフラミンゴのように力の使い方を熟知していれば、他者を操り人形のように動かし殺し合わせる事も可能だった。
アーマージャックは数時間前に実を食べたばかりの男。
やれる事は精々指から出した糸に物を括りつけるくらいだ。
だがこれだけでも、十分役に立つ。

アーマージャックは自分を拘束している道具の正体を思い出す。
確かこれは、派手な髪色のガキが筒から出したキモい触手。
だったらあの筒さえ手に入れれば、どうにかできるんじゃないか?
気付かれないように薄目で様子を窺えば、筒は今リーゼントが持っている。
しかもそいつは胴着の男に頭を下げていて、こちらに向いていない。

今がチャンスだ。

指先から出した一本の糸を筒に引っ掛け、自分の方へと戻した。

遅れて気付いたように自分の方へ視線が集まったがもう遅い。

キャッチした筒を操作し自由を取り戻した瞬間、弾かれたように動き出す。


221 : Life Will Change(3rd) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:12:06 uMdudZVo0



「テメェが喰らっとけ馬糞頭が!」
「きゃぁっ!」

起き上がったアーマージャックがまずしたのは、支給品の奪取。
筒を操作しミチル目掛けて黒い物体が絡みつく。
突然の事態にミチルは反応が遅れ、拘束される。
すぐさまデイパックを奪うと、口を開いて中身を他の男どもへブチ撒けた。

「くっ!」
「うわぁ!?」

基本支給品や、それぞれランダムに配られるアイテムが襲い来る。
大半は当たっても痛い程度で済むが、マズい物も紛れていた。
長い刀身をもつ日本刀が、回転しながらしんのすけに迫った。
蓮は自分に向かってくる物への回避を捨て、しんのすけを最優先に切り替える。

「アルセーヌ!」

召喚主の声に応え、シルクハットの怪人が現れる。
ナイフのように鋭い爪で、刀を叩き落とした。

「がっ…」

しんのすけの救助に成功した代償として、蓮は支給品の直撃を受ける。
ストゥと水の入ったペットボトルに、肩と脇腹を殴打された。
致命傷には程遠いのだが地味に痛い。

その隙にアーマージャックは床に転がったアイテムを手に取る。
今彼が求めているのは刀やストゥではない。もっと強大な力を齎す道具だ。
その道具とは、取っ手の付いたリングらしき物と2枚のカード。
オーブリングとウルトラフュージョンカードである。

「これを使えばまたあの力を…!」

これらのアイテムについてアーマージャックが知っている事はほとんど無い。
バトルロワイアル開始直後にデイパック内から見つけた時も、用途不要のガラクタとして仕舞ったままにしていたのだから。
しかし今なら分かる。
このアイテムを使えば、自分は再びサンダーブレスターになれるのだと。

吉良に追いつめられた時、アーマージャックはクレナイ・ガイの記憶を見た。
それが切っ掛けになったのだろう。
目を覚ましてからも、アーマージャックが思い浮かべるのは好き勝手やれるだけの力と自分を舐めた連中への報復。
余りにも身勝手な欲望を叶えるかのように、アーマージャックの脳裏にはガイの記憶が断片的に再生された。
その中で彼は見たのだ、ガイが奇妙なリングとカードを用いて変身する瞬間を。

その光景を見た今、オーブリングの使用に躊躇は無い。

『ゾフィー!』『ウルトラマンベリアル!』

『フュージョンアップ!』

オーブリングの中央にカードを通すと、発光するリングを掲げる。
光と闇、二つの異なる力がアーマージャックへ齎されようとした。


222 : Life Will Change(3rd) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:13:27 uMdudZVo0
――『光と闇の力、お借りします!!』

脳裏をよぎる言葉。
偉大なる宇宙警備隊の隊長と、悪に堕ちたとはいえウルトラ戦士である男への敬意が込められていた。
アーマージャックからすれば馬鹿らしいとしか思えない。
何故自分が、「お借りします」などと腰を低くせねばならないのか。
己に与えられた肉体だとしても、同じような事を言うつもりは全く無い。

自分に相応しい言い方は、こうに決まっている。

「テメェらの力、俺様に全部寄越しやがれえええええええええええっ!!」

『ウルトラマンオーブ!サンダーブレスター!』

光が晴れる。
吊り上がった瞳と、異様なくらいに盛り上がったマッシブな銀の肉体。
嘗て暴走に苦しめられながらも、闇を恐れないという決意により克服したウルトラマンオーブの姿。
サンダーブレスターは今、醜悪な欲望を叶える為の道具として顕現した。

アーマージャックの姿が変化したのを見届けず、蓮は飛び退いた。
分かっているからだ、アーマージャックは自分とエボルトを特に殺したいと思っている。
エボルトがいないなら、真っ先に狙われるのは自分だと。
だからこそ動く。敵の攻撃動作を待つとか、そんな悠長が許される相手ではない。

「ウラァッ!!」

予想通りに拳が蓮が立っていた場所目掛けて来た。
単に近付いて殴る。ただそれだけの動作が、銃やナイフ以上の凶器となる。
アーマージャックの拳は空気を裂くに留まらず、窓枠諸共ガラス窓を粉砕した。
日除けの役目を果たしていたカーテンとポスターは見るも無残な姿に変貌し、太陽の光が屋根裏部屋を照らす。

「ギャウウウウ!?」

鬼にとって太陽は最も忌むべき存在。
それを証明するように、燦々と照らす光がシロの体を容赦なく焼き潰す。
ほとんど敗れたスカートから伸びる白い脚が、瞬く間に爛れていった。

「シロォーッ!」

愛犬の、友だちの、家族の危機にしんのすけは血相を変えて駆け寄る。
彼が理解しているのは、太陽を浴びればシロが死んでしまう事。
例え鬼という人喰いの化け物になってしまっても、守らない理由は無い。
孫悟空の大きな体でシロに覆い被さり、自ら日除けの役目を果たす。


223 : Life Will Change(3rd) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:14:47 uMdudZVo0
マズい、これは非常にマズい。
屋根裏部屋でアーマージャックが暴れ続ければ、ルブランは完全に崩壊する。
そうなってはシロが太陽で焼き殺される。
しんのすけとミチルにも甚大な被害が及ぶ。
何とかしなくては、自分がアーマージャックと戦わなければ。
決意と判断はどちらも一瞬、即座に動く。

「ミチル!しんのすけ達を連れて下に行ってくれ!」
「はっ、はい!クレイジー・ダイヤモンドさん!」

スタンドを操作しどうにか拘束を脱け出したミチルへ、すかさず蓮の指示が飛ぶ。
もう一度クレイジー・ダイヤモンドを出し、ソファーを持ち上げ即席の日除けにする。
日光が屋根裏部屋に入っているが、一階の喫茶店まではブラインドも有り届いていない。
ミチルはクレイジー・ダイヤモンドで日を防ぎ、しんのすけにシロを連れて下へと行くよう伝えた。

「俺様を無視してんじゃねーぞ!」

それらをアーマージャックは見過ごしてはくれない。
ネズミのように逃げ回る雑魚どもを蹴散らすべく、拳を握る。
尤も、アーマージャックが邪魔しようとする事くらいは察せられた。
だから意識を自分に向けさせるのだ。

「ペルソナ!」
「うおっ!?」

アルセーヌのエイハがアーマージャックを蝕む。
ダメージは期待できない。
事実アーマージャックにとっては何だか気持ち悪い感覚こそあるが、戦闘に支障は全く無かった。
だが注意を引けたのなら上出来だ。

「こっちだ変態ジャック!」
「あ゛ぁ゛!?」

思った通り安い挑発にも簡単に引っ掛かった。
怒りの矛先が完全に自分だけに向いたのを確信し、割れた窓から飛び降りる。
ここは2階。死ぬほどの高さでは無いが、骨の一本くらいは折れるだろう。
が、そんな怪我を甘んじて受けるつもりはゼロだ。

「ペルソナ!」

アルセーヌを召喚し、地面へ激突する前にキャッチさせる。
人間ではない、ウルトラ戦士ならこの程度の高さは階段を下りるのと同じくらいに容易い。
あっさり飛び降り着地、自分をとことん舐めた青年を睨みつける。
もし蓮が気弱な男だったら、この段階で心臓が止まっていただろう。
それくらいにドス黒い殺気をぶつけられた。


224 : Life Will Change(3rd) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:15:40 uMdudZVo0
「テメェはすぐには殺さねえ。たっぷり時間を掛けて嬲ってやらねえと気が済まねえんだよ!!」
「お断りだ」

パレスの主以上に質の悪い男からの殺気に、冷汗が流れる。
だが戦意は失っていない。
もうこれ以上、この男のせいで誰かが犠牲になるなど真っ平だ。
奴を止めるだけの力が、今の蓮にはある。

懐から出したバックルを腹部に当てると、自動でベルトが巻きついた。
夢で見た通りだ。やはりこれこそ、左翔太郎がもう一つの姿に変身する為のキーアイテムだったのだ。

『JOKER!』

切り札の記憶を内包したメモリから、ガイアウィスパーが鳴り響く。
意識したつもりは無いが、蓮は自然と独自のポーズを取った。
NEVERとの戦いで、切り札を手にした翔太郎のように。

「変身!」

『JOKER!』

ロストドライバーに装填されたメモリが、その力を解放する。
シンプルな黒いボディ、輝く真っ赤な目。
仮面ライダーWが翔太郎とフィリップ二人の代名詞なら、こちらは翔太郎単独の力の証。

仮面ライダージョーカー。
雨宮蓮は今、心の怪盗団のリーダーとは別の、もう一人の切り札と変身を完了した。

「ケッ!何かと思えばショボい変身しやがって!カッコつけてんじゃねえぞエセヒーローが!」

ジョーカーの登場に、アーマージャックは苛立ちを露わにこき下ろす。
正義のヒーローは自分一人で良い、それ以外は存在する価値の無いパチモン。
アーマージャックにとっての常識だ。
だからジョーカーの存在は非常に目障りであった。

「ウラァッ!」
「ペルソナ!」

拳とスキル。
同時に放たれたそれが、ゴング代わりとなる。


225 : Life Will Change(3rd) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:16:54 uMdudZVo0
アーマージャックの体を包み込む、言い表せない不快な感覚。
スクンダにより敏捷性を削がれたのだ。
しかし気にする素振りは無い。
所詮は雑魚の小細工と低く見ており、実際サンダーブレスターのスペックはそう思っても仕方ないくらいに高い。

「くたばれ!」

顔面を叩き割ろうと放たれたストレート。
威力もスピードも人間の限界を遥かに超えたソレを、ジョーカーは僅かに顔を横に逸らして回避。
仮面越しでも空気が切り裂かれるのが分かった。
拳の威力に慄く暇は皆無、アーマージャックが続けて腕を何度も振るう。

「ウロチョロすんじゃねえ!」
「ペルソナ!」

胴体への一撃を、身を引いて躱す。
腕を砕かんとした一撃は、アルセーヌのスラッシュで弾く。
再度顔面への一撃も、横に逸らした。
アーマージャックがひたすら殴り、ジョーカーは躱し、捌く。

今の状況にジョーカーは心の底から驚いていた。

アーマージャックの攻撃は確かに脅威だ。
一撃モロに食らうだけでも、致命傷となりかねない。
そんな攻撃を、今の自分は全て対処できている。
生身の時には不可能だったが、今なら紙一重だがアーマージャックの攻撃を読めるのだ。

スクンダの効果だけではない。
ジョーカーメモリにより極限まで高められた身体機能があるからこそ。

「っとにウゼェぞテメェ!」

苛立ったアーマージャックが放った拳を、身を屈めて躱し、懐に潜り込む。

「ペルソナ!」

放つスキルはラクンダ。耐久力を低下させる。
アーマージャックの厄介な点は攻撃の威力だけでなく、異常な硬さもだ。
だからそれも削ぎ落し、今度はジョーカーが攻撃に移る。

「フッ!!」
「ぐぅ!?」

ただ単に腕を伸ばすのではない。
上半身を捻っての脇腹への一撃。
続けて反対の拳で腹部を叩き、最後に右拳で胸への殴打。
肉弾戦は元々蓮が得意とする戦法ではない。
今の動きは怪盗団の作戦参謀、クイーンこと新島真の動きを模倣してみただけのもの。
本人だったらもっと鮮やかに拳を叩き込めたろうなと、仮面の下で苦笑いする。


226 : Life Will Change(3rd) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:18:34 uMdudZVo0
「テメッ…!」

下に見ていた相手から受けるダメージは、アーマージャックの肥大化したプライドを刺激した。
脚がうねり、蹴り飛ばそうと迫る。
これをジョーカー、ギリギリの所でバックステップにより回避成功。
変身しているお陰で、パレス内にいる時と同じ感覚で動けるのは有難い。

「ペルソナ!」

回避ついでにスキルをぶつける。
マハエイハがアーマージャックを直撃、体の内側から蝕まれるような不快な感触を味合わされた。

「クソクソッ!ふざけんじゃねえぞ…!」

自分が一方的に袋叩きにしてやる筈だった。
なのにこの様は何だ?
格下に良いように弄ばれている。何故こうなった?

アーマージャックはサンダーブレスターへの再変身には成功した。
しかし、だからといってそれまでの傷や疲労まで消えはしない。
吉良吉影との戦闘で受けたダメージの影響で、アーマージャックの動きは公園で戦った時よりも鈍っている。

加えてアーマージャックにとって戦いとは、自分による一方的な殺戮だ。
今まで散々怪獣を相手にして来たが、それらはまともな戦闘とは言えない、圧倒的な暴力に物を言わせての惨殺。
彼のいた世界ではそれでどうにかなったが、数多の世界から参加者が集められたバトルロワイアルでは通じない。
一方蓮は元の世界での戦いは、苦戦する事も多々あった。
それでも勝利を収めて来たのは、冷静に敵の行動パターンや弱点を見極め、そこを仲間と共に的確に突いてきたからだ。
敵と自分の力の差を正確に把握し、そこからどう勝てるかを冷静に導き出す。
互いの経験の違いもまた、今回の戦闘に影響していた。

「マガツイザナギ!」

召喚するは、この地で得た新たなペルソナ。
道化師のアルカナを持つ共犯者との、絆の証。
名前に違わず禍々しい色を発し、手に持つ長得物を地面に突き刺した。
必殺の一手を放つ為、力を込め(チャージ)ているのだ。

「気味悪いもん出しやがって!それがどうしたってんだ!」

今まで出していたアルセーヌとは違うペルソナに一瞬怯むも、それがどうしたと思い直す。
ほんの少しとはいえ相手を恐れた自分への苛立ちを、そのままジョーカーへの殺意に変える。
その気味の悪い奴ごと殴り殺すべく走った。


227 : Life Will Change(3rd) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:19:42 uMdudZVo0
『JOKER!MAXIMAM DRIVE』

メモリスロットに装填し、エネルギーが拳に集まる。
自身へ迫るアーマージャックをしっかりと見据え、逃げも隠れもせずに堂々と待ち構える。

「ウオラアアアアアアアアアアッ!!!」

アーマージャックが拳を振り上げ上半身を捻る。
まだ動かない。

筋肉を総動員させた拳がジョーカーの仮面を砕かんと迫り、今がその時と動く。
顔を逸らすが完全には避け切れていない。
仮面が削り取られるような衝撃に、歯を食い縛って耐える。
この距離ならば、確実に当てられる。

脳裏に浮かんだ言葉を、反射的に口にした。

「ライダーパンチ…!」

ゴキリと、骨が軋むような音がした。

「ご…が…テメェ…」

アーマージャックの頬に突き刺さる、ジョーカーの拳。
敵はとうとう自分の顔にまで手を出した。絶対に許せない。
怒る思考を嘲笑うように、痛みで次の動きが致命的に遅い。
ジョカーメモリのエネルギーを一点に集中した拳だ。ただでさえ耐久力を落とされた体には堪えただろう。

そして放たれる、マガツの刃。

「ペルソナッ!!」

この時を待っていたと長得物を縦横無尽に振り回し、斬り付ける。
木っ端微塵斬り。広範囲の敵をも巻き込む豪快な斬撃の嵐。
マキシマムドライブをその身に受け、動きを止めたアーマージャックには回避も防御も許されず倒れ伏した。





屈辱と怒り。
その二つがアーマージャックの心に渦巻いていた。

何故自分が負けなければならない。
何故自分の思い通りにいかない。

身勝手の極みのような、それだけに強過ぎる負の感情。

吉良との戦いでは強過ぎる恐怖を感じた。
だが此度は死への恐怖以上に、力への渇望を強く抱く。

どいつもこいつも、気に入らない奴を皆殺せる力を俺に寄越せ。



――そして彼の肉体は、その願いに再び応えた。


228 : Life Will Change(4th) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:21:23 uMdudZVo0



「ガハッ…」

自分に何が起きたのかを、蓮はすぐには理解できなかった。

マガツイザナギのスキルによりアーマージャックを倒した。
戦いの終わりに気が緩んだ次の瞬間、自分の体が宙を舞っていた。
さっきまでと視界が違うと疑問を覚え、答えを出せないまま背中に衝撃が走る。
地面に叩きつけられたと上体を起こしながら正解し、ではそもそも何故そんな目に遭ったのかと新たな疑問を抱く。

その答えは、異様な雰囲気を放つアーマージャックを見れば一目瞭然だ。

「へへ…何だか分かんねえけどよ、最高にいい気分だぜええええええええええっ!!」

アーマージャックの叫びに呼応するかのように、禍々しいプレッシャーが蓮を襲う。
姿形はさっきまでと同じ。だがこの存在感は、明らかに別物だ。
仮面の下で、汗が頬を伝う。

「ヒャハハハーっ!」

繰り出されるのは、散々見た拳による一撃。
否、速度も威力も桁違いに上昇している。
現にどうだ、さっきは冷静に避けていたジョーカーが、今はろくに反応も出来ず殴り飛ばされた。

「ぐあ……」

痛みに一瞬息が止まった。
仮面ライダーに変身して尚もこの痛み。
もし変身していなかったらと考えると、背筋が寒くなるのを抑えられない。

「ひゃーっはははは!いい気味だぜ!この雑魚野郎がよぉ!」

ジョーカーの姿をこれ見よがしに指差して、アーマージャックは上機嫌で嘲笑する。
自分をコケにした相手がこうも無様を晒したのだ、笑うなという方が無理というもの。
何より今は最高に気分が良い。怪獣を殺した時や、女を犯した時が茶番に思えるくらいに高揚している。
湧き上がるこの力。この力で思う存分に暴れられたら、きっと何よりも気持ち良いだろう。
手始めに、目の前の男で遊んでやろうと邪悪な笑みを浮かべた。


229 : Life Will Change(4th) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:22:31 uMdudZVo0



サンダーブレスターによる暴走。
それはアーマージャックも、ウルトラマンオーブの本来の変身者であるクレナイ・ガイも体験した。

しかしガイは後に暴走せず、サンダーブレスターの力を使いこなす事に成功している。

その理由は、彼が闇を恐れなくなったからだ。
ウルトラマンベリアルという悪のウルトラ戦士の力を借りる。
それによって自身の心の闇に悪影響が及ぼすのではないか。
そんな恐れが原因で、ガイはベリアルの力を制御出来ずに、結果暴走し周囲に甚大な被害を齎してしまった。
だがガイは後に夢野ナオミの言葉もあり、闇への恐れを克服した。

ではアーマージャックはどうだろうか。

彼は吉良との戦闘で、強い死への恐怖から暴走した。
だが今回は暴走時と同様の力をはっきしながらも、意識はハッキリとしている。
それは何故か。

アーマージャックが蓮に抱いたのは強い怒りと屈辱。
ここまでは吉良の時と同じ。
違うのは、死への恐怖では無く力への渇望を抱いた点だろう。
恐怖こそがサンダーブレスターの暴走を引き起こすのなら、それを克服するのは何もガイのように正しき心の持ち主だけとは限らない。
闇をも恐れぬ醜悪さもまた、一つの方法だ。

ガイは闇を恐れない心によって暴走を克服した。
アーマージャックは闇をも自分の為の力にするというどこまでも自分本位な、されど恐れは微塵も無い願いを抱いた。

そして彼は手に入れたのだ。
暴走せずに行使できる、サンダーブレスターの能力を。


230 : Life Will Change(4th) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:23:38 uMdudZVo0



「オラオラァ!」
「ぐぅ!」

幾度も拳を放ち続けるアーマージャックに、ジョーカーは一方的に殴打の嵐を受けていた。
辛うじて致命傷となるものだけはギリギリで避け、或いはペルソナでガードする。
そこにさっきまでの余裕は無い。
二度の戦闘でアーマージャックの動きに大分慣れてきたが、ここに来て強化されたのだ。
急激な攻撃速度の変化に、付いて行けない。

「ペルソナッ!」

マガツイザナギが長得物を振るう。
単純なステータスではアルセーヌよりも上。
それがアーマージャックの攻撃と激突すると、拳の強さにジョーカーの方が押し負けた。

「雑魚がぁっ!!」

よろけたジョーカーへ杭打機のように放たれた蹴り。
強化された脚力を用い跳躍、回避と同時にジョーカーもまたアーマージャックの頭部へ蹴りを放つ。
しかし効かない。仰け反るどころか、ジョーカーの脚に痺れが来るほど。
ダメージこそ無いが、自分の顔を蹴られて気分が良い訳はない。
伸ばされたジョーカーの右脚を掴むと、地面に叩きつけた。

「ぐぁあああっ!」

変身していても背中に襲い掛かる痛み。
ジョーカーの悲鳴を、アーマージャックは心地良さげに聞いていた。

「お兄さん!」

仲間の悲鳴に悲痛な声をしんのすけは上げる。
ルブラン内でミチルと共にジョーカーの戦いを見守っていた。
まるでアクション仮面のように勇敢に戦っていたが、今はピンチに陥っている姿に居ても立っても居られない。
思わずルブランの外に出て、ジョーカーを助けに行こうとする。

「出てっちゃ駄目ですよ…!」

しんのすけを必死に止めるのはミチルだ。
彼女とてジョーカーを助けたいが、重傷を負っている自分が出て行ったとしても却って足を引っ張るだけなのではないか。
そう懸念し喫茶店内に留まったままだ。
以前クラスのリーダーは誰が相応しいかで能力者同士の小競り合いがあったが、ジョーカーとアーマージャックの戦闘はそれとは比較にならない。
そんな所へしんのすけを突っ込ませる訳にはいかない。


231 : Life Will Change(4th) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:24:44 uMdudZVo0
「変な髪のお兄さん!お兄さんがピンチなんだゾ!助けに行かないと…!」
「それは…分かってます!だけど…」

助けたい気持ちは同じ。
しかし無謀に突っ込んで行って勝てる相手でもない。
ミチルは言葉に詰まり俯く。

「ギャーギャーうるせえな…!」

しんのすけ達の口論がアーマージャックには耳障りだった。
雑音を発する連中を鬱陶し気に睨む。
最優先で殺したいのはジョーカーだが、あの二人の男も殺すつもりだ。
先にこのジョーカーの死を見せつけてやるつもりだったが、気が変わった。
自分に舐めた真似をした男、そいつのお仲間を見せしめとして殺し心をへし折ってやる。
リーゼントのガキは自分を拘束した悪人、ついでに胴着の男も悪人。
殺されて当然の連中だ。

アーマージャックの右手にエネルギーが集まり、赤と黒の光を放つリングへと変化した。
吉良の左手を斬り落とした技、ゼットシウム光輪だ。
『月に触れる』を切り裂いた光輪を、ルブラン目掛けて投擲する。

「クレイジー・ダイヤモンドさん!」

自分達が狙われていると分かり、スタンドを出現させる。
テーブルを持ち上げ即席の盾にするが、サンダーブレスターの技には無意味。
真っ二つにされクレイジー・ダイヤモンドの肩が斬り裂かれる。

「うあっ!?」

スタンドのフィードバックにより、ミチルの肩も出血する。
ゼットシウム光輪の勢いは止まらない。
店内を滅茶苦茶に切り裂き、コーヒー豆の瓶やサユリが被害に遭う。
当然中にいるしんのすけとシロにもだ。

「うわああああああ!?」

思わず蹲ってゼットシウム光輪から逃れようとする。
頭上からはガラスの破片がパラパラと頭部に落ちて来た。
少しでも頭を上げたら即座に斬られそうで、しんのすけは青褪める。

「キャウウ!」

シロもまた、ゼットシウム光輪の脅威に悲鳴を上げた。
拘束されている身ではどれだけ藻掻いても無意味。
いつ切り裂かれてもおかしくはない。
鬼の生命力ならば何度斬られてもすぐに再生できるが、もし首輪に当たればどうなるか。
身動きが取れない自分では、為す術も無く死ぬだけだ。

そしてその危惧は現実となる。

ゼットシウム光輪がシロに迫る。狙われるのは首だ。
アーマージャックが意図したのではないが、殺し合いにおいて太陽以外で鬼を殺せる物、首輪への攻撃。

(嫌だ!助けて!ご主人様!!)

自分を鬼にした男へ助けを求める。
その想いは届かない。


だけど、本当のご主人様には届いた。


232 : Life Will Change(4th) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:25:33 uMdudZVo0
「シローーーーッ!!!!」

シロ目掛けてしんのすけが飛びつく。
屋根裏部屋の時と同じ、大きな悟空の身体で覆い被さり自ら盾になった。
自分が傷ついてしまうなんて、頭からはすっぽり抜けている。
今はただ、家族を守れれば良いのだから。

「ああああああああっ!!」

背中が斬られ、ルブランの床が赤く染まる。
痛くて悲鳴が出て泣きそうになったけど、それでもシロを守るのは止めない。
猛威を振るったゼットシウム光輪は、やがて霧散する。

「ケッ、死んでねーのかよ」

つまらなそうに吐き捨て、アーマージャックは再度ゼットシウム光輪を作り出す。

「ペルソナ!!」
「ぐおおおお!?」

それをジョーカーが黙って見ている訳が無い。
マガツイザナギが長得物を振るい、ルブランへの攻撃を阻止する。
背中から斬られじんじんと痛む。どこまでも自分をコケにする相手へ、殺意が再加熱した。

「シロ…?大丈夫…?」

店内を襲った光輪が消え、真っ先にシロの無事を確かめる。

「ガウ…」

心配そうなしんのすけの瞳を無視するかのように、シロの視線は滴る血を向いていた。
しんのすけから与えられた肉を食べた事で、空腹も多少は消え去った。
だけど人の肉を喰いたいという欲求は健在。
目の前の男からは、とても美味しそうな血の匂いがする。
助けてくれた事への感謝なんてなく、それよりこの男を喰い殺したい衝動が高まった。

「ウガアアアアアアアアア!!」
「こ、こらシロ…!やめるんだゾ!」

しんのすけの言葉を無視して、分厚い筋肉に牙を突き立てんと口を開く。
唯一自由に動かせる首を動かして、目の前の「肉」に喰いつこうとする姿は、化物と呼ぶに相応しい。
空腹と、主を傷つけられた怒り。
両方に感情を支配されたシロの前には、しんのすけの行動も無意味だったのだろうか。

それを認めない者がここにはいる。


233 : Life Will Change(4th) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:27:01 uMdudZVo0
「いい加減にしてください…!!この、おバカ犬!!!」

ゴシャリ、と殴った際のとは思えない音がして、シロが殴り飛ばされた。
やったのはミチル。正確に言うと彼女の傍に立つクレイジー・ダイヤモンドだ。
呆気に取られるしんのすけを無視し、シロへと近付き胸倉を掴む。
殴られた際の傷はもう回復し、シロは食事の邪魔をされた怒りで顔を歪める。
そんなシロに負けじと顔を精一杯憤怒に染め上げ、言いたいことをブチ撒けた。

「しんのすけしゃんが、何であなたを助けたのか!何であなたを守ったのか!どうしてそれを考えないんですか!?」

至近距離で言葉をぶつける。
その剣幕にシロが怯んでも、お構いなしに続けた。

「鬼にされたからって…だからって、そんなのあんまりですよ…!!」

しんのすけは感謝が欲しくて助けた訳ではない。
ただ家族のピンチを見過ごせなかったから、それだけのシンプルな理由だ。
それでも、傷を負ってまで体を張って助けたのに殺そうとされる。
余りにも理不尽で納得がいかない。
しんのすけが助けた行為を踏み躙られるようで、黙ってはいられなかった。

「…変な髪のお兄さん」

激昂するミチルとは正反対に、しんのすけの声は落ち着いていた。

「オラは大丈夫だゾ。…オラ、やっぱりお兄さんをおたすけに行かなきゃダメだから、だから…」
「待ってください、それは…」
「正義のヒーローは困っている人を放って置かないから、ヒーロなんだゾ!
 オラもアクション仮面や、煉獄のお兄さんみたいなかっこいいヒーローになりたいから、じっとしてなんかいられないゾ!!」

言葉が出て来ない。
しんのすけの言う、困ってる人を放って置けない。
それを聞いたら、否定なんて出来ない。
だってその気持ちはミチルにも十分理解できるから。
自分をイジメから助ける為に、病に蝕まれる体で学校に通い続けたあの人の死を切っ掛けに抱いた決意。
それがあるから、しんのすけを止める言葉が口から出るのを拒否してしまう。

「シロ」

優しい声で自分を呼ぶ男に、敵意を籠めた視線をぶつける。
だけどどこか、困惑のような感情も宿っていた。
相手は一瞬悲しそうな顔をしたけれど、すぐに表情を崩して笑みを作った。


234 : Life Will Change(4th) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:30:00 uMdudZVo0
「もしシロがうっかりオラの事を忘れちゃっても、やっぱりシロはオラん家の家族だゾ。
 それに忘れちゃってても、一緒におうちに帰って、また沢山思い出を作れば良いんだゾ!いや〜ん、オラってばナイスアイディア〜」

言い終えると、ルブランの外へ駆け出した。
今も戦い続けている仲間をおたすけする為に、皆を傷つける悪者へ頭部を突き出す。
勢いを付けた頭突きは、マガツイザナギに斬られた背中へ見事命中。

「痛ェエエエエエエエエエ!?」
「オラも相手だゾ!甘納豆!」
「あぁ!?アーマージャック様だ!間違えてんじゃねぇよボケが!」

怒りのままに腕を伸ばし、しんのすけの頭部を掴む。
ミシミシと頭への痛みから逃れようとしんのすけは我武者羅に腕を振るい、偶然アーマージャックの顔に当たる。
そこはジョーカーのライダーパンチを受けた箇所。
鈍い痛みの再発に、頭を沸騰させしんのすけを地面に叩きつけた。

「うわっ!?」

仰向けになった所へ叩き込まれる追撃。
しんのすけの胴体を足蹴にしてやった。

「うああああああああああ…!!」
「ゴミの分際で舐めた真似するからだよ!このまま蹴り殺して――」

『JOKER!MAXIMAM DRIVE』

黒みがかった紫のエネルギーが、アーマジャックを殴り飛ばす。
しんのすけを嬲るのに夢中になっていたせいで反応が遅れ、強制的にしんのすけから距離を離された。
どうやらこいつは、とことん自分をコケにする気のようだ。
ゼットシウム光輪を再度出現させ、ジョーカーに斬り掛かった。

「クソ野郎がぁっ!!」
「ペルソナッ!!」

アルセーヌのスラッシュと、ゼットシウム光輪が弾き合う。
勝ったのはやはり後者、またもやだ。ジョーカーはダメージを受ける。

「お兄さんから離れろー!」

起き上がって向かってくるしんのすけを、アーマージャックは雑魚がと吐き捨てた。


235 : Life Will Change(4th) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:30:45 uMdudZVo0
○○○


胸がざわざわする。

変な髪の人と、胴着の男に言われた言葉が頭にべったりと貼り付いているようだ。

何で僕を助けたのかなんて知らないし、何で守ったのかもどうだっていい。
だってアイツはあの御方の敵、つまり僕の敵でもあるんだから。
だからあの男に何をされたって、感謝の気持ちがあるはずないよ。


…なのに、どうして僕は、変な気持ちになるんだろう。
殺してやりたい相手なのに、なんで…。


アイツは威勢よく出て行ったけど、ボコボコにやられている。
いい気味だ。ご主人様を傷つけた罰を受けているんだ。
そう思って、アイツのかっこ悪い姿を笑ってやろうとした。

だけど笑えない。
それどころか、何だか悲しい気持ちになってくる。
アイツが痛めつけられている光景は嬉しいはずだ。
なのになんで…。

……そうか分かった。
きっと僕の手で殺せないからだ。
ご主人様を傷つけた憎い相手を自分の手で殺せないから。
だから素直に喜べないんだ。

なーんだ、僕がおかしくなったとかじゃないんだ。
不安になって損しちゃった。

やっぱりアイツなんて、僕の家族なんかじゃ――










――本当にそう思う?


236 : Life Will Change(4th) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:31:36 uMdudZVo0
声がした。
僕が言ったんじゃない。
けれどその声は、僕と同じ声だ。

――それは本当に、君の気持なの?

僕の声で、そいつはおかしなことを聞いてきた。
そんなの当たり前だよ。
だって僕は、あんな男なんて大嫌いだもん。
あんなのが僕の家族な訳、絶対にないよ。

――違うよ。それは君の本心じゃあない

――君の本当の気持ちは、そんなんじゃあないよ

うるさいな!
勝手なことを急に言ってきて!
あんな男嫌いだって言ってるだろ!もう黙れよ!

――ううん、黙らないよ

――君が思い出すまで黙らない

――だって君は知ってるはずだ。さっきみたいに、自分を助けてくれた人の事を

そんなのは僕を鬼にしたご主人様だけだ!
他の奴なんて知るもんか!
誰も知らな――――


237 : Life Will Change(4th) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:32:26 uMdudZVo0
違う。

知っている。知らない筈なのに、知っている。

そんなのは有り得ないと思っても、僕の頭には映画みたいに記憶が流れ出す。



記憶の中で、僕のお尻には変なのがくっ付いていた。
オムツみたいなソレは、実は地球を破壊する威力の爆弾だった。
爆弾は僕のお尻にくっついて離れない。
だから…僕は地球が犠牲にならない為にロケットで宇宙に送られ、そこで死ぬはずだった。

――『シロは…オラが、お守りするゾ……』

恐いおじさん達や、変なおねえさんに追われる中、■■ちゃんは僕を守ってくれた。

疲れて、傷ついて、震えても、僕とずっと一緒にいてくれた。


これは嘘の記憶だ。
僕とあの御方を引き裂こうとする気なんだ。

そんな考えが浮かんだけど、すぐに小さくなって消えていった。

「うわあああ!?」
「しつけーんだよカスが!」

アイツがまた殴られた。
それを見ても、僕は全然嬉しくない。
憎い男なのに、どうしてか悲しくなってくる。


238 : Life Will Change(4th) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:33:23 uMdudZVo0
「■■……ちゃん」

知らない筈の、名前を口にする。
呟いた声は自分でも分かるくらいに小さくて、誰にも聞き取られない。
これを言って何になるんだろう。
どうしてこんな意味のないことをしているんだろう。
自分の事なのにおかしくて、だけどどうしてか口に出さずにはいられない。
この名前を知らないままでいるのは、凄くダメな事に思えた。

「■■ちゃん……」

もう一度口に出す。
すると今度は、頭がズキンと痛くなった。
さっき変な髪の男に殴られたのよりも、ずっとずっと痛い。
名前を口にするとこんなに痛くなるのかな。
だったらもう、言わなければ良いじゃないか。

「■■ちゃん……」

だけど僕は名前を呼ぶ。
知らない筈の名前を、ううん、本当は知っているはずの名前をもう一度口にする。

「■■ちゃん…!」

痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
痛くて痛くて、涙が出そうだ。
こんなに痛いんなら、もうやめちゃえよ。
思い出す必要なんてないだろ。

「■■ちゃん…!!」

その言葉を無視して、僕は名前を呼ぶ。
だってこの名前は、本当は忘れちゃいけないものだった気がする。
ずっとずっと、覚えて無いとだめな名前だったんだ。
根拠はないけどそう思う。
だから忘れてしまったなら、絶対に思い出さなきゃいけないんだ。


239 : Life Will Change(4th) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:34:33 uMdudZVo0

「■■ちゃん…!!!」

この名前を思い出した時、僕はどうなるんだろう。
ちょっとだけ恐くなった。
でも、名前を口にするのを止めようって気にだけはならない。
だって、もうちょっとで思い出せそうなんだ。



「■■ちゃん!!!」

そうだ。僕はこの名前が誰かを知っている。
僕を拾ってくれた、僕の家族になってくれた。




「しんちゃん!!!!!」


僕の大好きな、ご主人様だ。


240 : Life Will Change(4th) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:35:28 uMdudZVo0
○○○


拘束が解かれる。
ワイヤーが千切れ、自由の身となったシロが駆け出す。

これまで鬼の身体能力にも耐えたスパイダーショックのワイヤーを引き千切る程の力。
火事場の馬鹿力とでも言う力を発揮したからか。
それとも度重なるシロの抵抗に、ワイヤーもガタが来ていたからか。
詳細な理由を探った所で、何か変わる訳でも無い。

「待って!!」

シロへ伸ばされたミチルの手。
自分の体だから、それ以上に鬼となったシロを太陽の下に行かせられないから。
その想いも、シロを止めるには至らない。
伸ばした手は何も掴めず、虚しく空を切った。

体が焼ける。
大地を照らす太陽の輝きが、シロの命を奪おうと光を浴びせる。
白い肌はあっという間に焼き爛れ、醜い有様となった。

それでもシロは走る。
だってすぐそこに、一番会いたい彼がいるのだから。
その彼が今まさに危機に陥っている。
殴られ尻もちを付いた彼へ、トドメを刺そうと赤い光輪が振り下ろされようとしている。

しんのすけとアーマージャックの間に、シロは躊躇なく割って入り、

「邪魔だぁっ!!」

無慈悲な一撃を、我が身で受け止めた。

「シロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」

焼け爛れボロボロになっていた体が崩れる。
再生はしない。日光を浴びた鬼の肉体にそんな力は残っていない。
しんのすけがシロにしてやれることは、何一つなかった。

「シロ…!死んじゃダメだゾ…!オラが絶対助けるから…!!」

シロの肉体が崩壊するのを、しんのすけは止められない。
どれだけ叫んだ所で、シロの死は免れなかった。

「しん、ちゃん……」

シロもまた、か細い声で名前を呼ぶ。
たくさん傷つけてしまった事を、謝りたかった。
流れ落ちる涙を舐めて、安心させてあげたかった。

けれど何もできない。
しんのすけの瞳からとめどなく涙が流れるのを見上げながら、もう一度、大切な家族の名前を呼ぶ。

「しんちゃん……」

カランと、首輪が落ちる音が空しく響き、後にはもう何も残らなかった。


241 : Life Will Change(Final) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:37:24 uMdudZVo0
「ペルソナァッ!!!」

主の命を受け、アルセーヌがマハエイハを放つ。
負の感情をありったけ込めた呪怨属性の攻撃は、ウルトラマンの肉体も容赦なく蝕んだ。

「ウゼェっつってんだろうが!!」

不快な感覚を強引に振り切り、ギラギラと輝きを放つ光輪を投擲する。
勝てない癖にどうしてこうも懲りずに歯向かうのか、アーマージャックにはつくづく不思議でならない。
雑魚は雑魚らしく、大人しく殺されていれば良いだろうに。

「マガツイザナギ!!」

偶然にもサンダーブレスターのエネルギーと酷似した色のオーラを纏うペルソナが、豪快に長得物を振り回す。
マガツの名を持つペルソナと、闇すら利用する邪悪の力がぶつかり合う。
ゼットシウム光輪は掻き消されるも、激突の余波までは対処し切れずジョーカーに襲い来る。

「ぐぅうううう!!」

耐える。情けなく膝を付きそうになった己に喝を入れ、耐え凌ぐ。
また目の前で死者が出た。一体自分はどれだけ無力なんだろう。
後悔の言葉は幾らでも出て来る。だが今は、悔やみはしても諦めはしてはならない。

「ペルソナ!」

ラクンダを放ち少しでも敵の力を削ぐ。
自らへの怒りも拳に宿し、ただ真っ直ぐに殴りかかる。
嘲笑交じりの怒声と共に敵も拳を突き出した。
互いの拳が激突し、猛烈な痺れが腕を襲うも、隙は見せてたまるかと叫んだ。

「ペルソナァッ!!」


242 : Life Will Change(Final) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:38:23 uMdudZVo0
○○○


しんのすけはついさっきまでシロがいた場所で座り込み、
蓮とアーマジャックの戦闘をどこか他人事のように聞いていた。

大切な人の死を身近に感じた事はあった。
だけど家族の死は、これが始めてだ。
それも病気だとか天寿を全うしてではない、目の前で殺されるという余りに惨い最期。

大きすぎる悲しみとショックが、しんのすけを蝕む。
あれだけ仲間をおたすけしようとしていたのに、今や立ち上がる気力すら抜けていた。

もう何もしたくない、見たくない、聞きたくない。
いっそこのまま座っていれば、自分もその内シロと同じ場所に行けるんじゃないか。
しんのすけらしからぬ、自暴自棄な考えに支配される。



――『しんのすけ…強く……胸を張って……強く生きろ……君の勇気は……きっと……』

「――ッ!?」

逃げる事は許さないとでも言うように、彼の最期の言葉がリピートされる。

あの人は強く生きろと言った。
だけど自分は強くない。
ここに来てからずっと、助けられてばかりだ。

そもそも強いとは何だろう。
テレビに出てるヒーローみたいに、かっこよく悪者を倒すことか?
それも何だか違う気がする。

なら強いとは?

…きっとそれは、あの人みたいに、煉獄杏寿郎のような人の事だ。

困っている人をおたすけする。
それが本当にかっこよくて、「胸を張って強く生きる」ことだ。

どうしてそんな大事な事を忘れようとしたんだろう。
今何もしないのが、「胸を張って強く生きる」事なはずないのに。

――『今後ともよろしく』

自分に手を伸ばし、一緒に戦うと約束してくれた人。
その人が今ピンチになっている。

彼が困っているのなら、おたすけするのがヒーローの、

仲間の役目だ。


243 : Life Will Change(Final) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:39:46 uMdudZVo0
○○○


「うりゃああああああ!!」

アーマージャックの眼前に迫るモノ。
それは尻だ。ガッチリとした男の尻が自分の視界を塞ぐように迫っている。

「んなっ!?」
「ケツだけボンバーッ!!」

予想外にも程がある攻撃に、アーマージャックは凍り付く。
それが隙となり、顔面に男の硬い尻が押し付けられた。

「ぶぼぉ!?」

吐き気がするような生温かい感触に鳥肌が立つ。
引き離そうと藻掻くが、相手はグリグリと尻を更に押し付けて来て、余計に味わいたくない感触に襲われる。
気色悪い真似をしでかした男へ怒りと嫌悪感が湧き、ゼットシウム光輪で尻ごと斬り殺そうとエネルギーを集める。

「ドラァッ!!」

だがエネルギーを集めていた右腕に痛みが走り、ゼットシウム光輪は霧散する。
痛みは腕だけに留まらない。
肩や脇腹にも、鈍い痛みが連続して生まれる。
顔面に押し付けられている尻をどうにかどかしていた身の発生源を見れば、そこにはリーゼントの少年が立っていた。
傍らに立ち拳を放つのは、ハートの装飾が施された怪人。
忌々しい帽子の青年の仲間がこぞって邪魔をしている。それがただただウザったくて、二人を殴り殺さんと拳を握った。

『JOKER!MAXIMAM DRIVE』

「ライダーパンチ!」

「うげぇっ!!」

握った拳を振るう機会は失われ、アーマージャックの胴体に拳が撃ち込まれた。
殴り飛ばされ地面を転がるアーマジャックを警戒しながら、ジョーカーは並び立つ二人を見た。

「お兄さん!オラも一緒に戦って、悪者をやっつけるゾ!」

しんのすけは力強く、頼もしい事を言ってくれる。
彼は今家族を失ったばかりだ。瞳はまだ赤く、頬には涙の痕が残っている。
それでもこうして共に戦ってくれると言った。

「私も…戦います…!しんのすけしゃんも、蓮しゃんもボロボロになって戦ってるのに、私だけ見てるだけなんてやっぱりできません!」

ミチルが抱くのは己への怒りと後悔。
エルドルは自分を逃がす為に危険な参加者との戦いに臨み、蓮としんのすけもまた、傷だらけで戦っている。
なのに自分は何をしていた?
傷はまだ痛む。だがそれが何だと言うのだ?
シロを止められず、負傷を理由に戦いを任せっきりにして後ろでコソコソしてるだけ。
そんな情けない様で、誰かを助けられるはずが無い。こんな情けない奴を、細川ヒトミは守りたかった訳がない。


244 : Life Will Change(Final) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:40:59 uMdudZVo0
「そうか…」

仲間達の言葉に、蓮の戦意も一段と強くなる。
敵は強い、自分達は皆傷だらけ。
なのにどうしてか、負ける気がまるでしない。

「し、しんのすけしゃん!は、早く下を履いてください!」
「お?いや〜ん、丸見え〜」

二人のやり取りを無視し、アーマジャックが立ち上がる。
相も変わらずこちらへの怒りを燃やしているのだろう、鳥肌が立つほどの殺気をぶつけてきた。
それを受けて尚も、蓮は仮面の下で笑う。
たとえどんな状況であろうと、不敵に笑ってこそ怪盗というものだ。

さあ、決着を付けよう

「ショウタイムだ!!」


「どいつもこいつも…ウゼェんだよゴミどもがあああああああああああ!!」

気に入らない。目に映る何もかもが気に入らない。
とんでもない力を手に入れて、それで好き放題暴れられるはずだった。
なのにこいつらは未だ自分に楯突いて来る。
ここまで不愉快な気分にさせられたのは初めてだ。

「うらあああああああああっ!!」

何度も見て来たアーマジャックのパンチ。
単純な攻撃だが、威力は折り紙付きだ。
己へ迫り来る暴力の化身を前にしても、しんのすけに恐れはない。
確かに敵は強い。
だけどその強さは、ただただ自分勝手に暴力を振るうだけの、「カッチカチ」なもの。
ならば恐れる道理はない。

「ひとつひとより和毛和布!」

ぷにぷに拳が奥義の一。
柔軟な動きにより攻撃を回避する、身体も心も軟かな者だけに可能な技。
攻撃が空振りとなった時、アーマージャックのはつんのめる。

「ドラララララララッ!」

隙を見せた相手への攻撃は戦闘の基本。
クレイジー・ダイヤモンドのラッシュが、アーマジャックに叩き込まれる。
痛みに舌打ちしながら後退する相手へを追いかけ、拳を放つ。
但し今度はアーマジャックではなく、彼の足元にだ。

「ケッ!どこ狙ってんだ?そのダセェ髪が邪魔で見えてねえのか?」
「違います!この場所だから良いんです!」

ミチルの言っている意味が分からない。
まさか本当にイカレてるのだろうか。あんな時代錯誤なヤンキーファッションをしてるくらいだ、可能性はある。
そんな嘲りは、背後からの衝撃で瞬く間に消えた。


245 : Life Will Change(Final) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:42:25 uMdudZVo0
「うげっ!?」

頭部に何かがぶつかった。
痛みは無いが、予期せぬ方向からの一撃にまたもや隙が生まれる。
当然見逃してくれる相手はいない。

「ペルソナ!」
「ドラァッ!」

マガツイザナギが長得物を振るい、クレイジー・ダイヤモンドが拳を放つ。
二方向からの同時攻撃に、潰れたカエルのような声を上げる羽目になった。

アーマジャックを背後から襲った物の正体は街灯だ。
激し過ぎる戦闘の余波によりへし折れた街灯が、元々立っていた場所に戻って来た。
クレイジー・ダイヤモンドの「修復能力」により、起きた現象である。

「調子に乗んなよゴミども!!」

ゼットシウム光輪を作り出し、大振りな動作で振るう。
蓮はまだしも、クレイジー・ダイヤモンドの射程距離内に届かせる為近付いていたミチルには避けられるかどうか怪しい。
まずは一人と標的の死を確信するアーマジャック。

「アルセーヌ!!」

だが仲間の危機をカバーするのは、怪盗団として戦い慣れたジョーカーにはお手の物。
即座の判断で夢見針を放つ。
シロを眠らせたスキルだが、アーマジャックには効果が薄い。
しかし僅かながらも眠気を誘う事には成功した。
唐突な睡魔にアーマージャックは困惑したように頭を振り、ミチルへの攻撃にストップが掛かる。

そこへ動くのは嵐を呼ぶ園児だ。

「ふんっ!!!」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおお!!?!」

両手の太い二本指が、アーマジャックの肛門に突き刺さった。
しんのすけお得意の浣腸攻撃に、飛び上がって絶叫する。
指が引き抜かれると、アーマジャックは尻を抑えて悶絶する。
何故か自分の指を嗅いで哀愁漂う表情となるしんのすけ。

いつついつでも芋虫行脚。
シャクトリムシのように移動し、音を立てずに近付くぷにぷに拳の奥義の一つ。
これによりアーマジャックの背後を取ったのだった。


246 : Life Will Change(Final) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:43:29 uMdudZVo0
言葉に出来ない屈辱へ、喚きながらゼットシウム光輪を投擲しようとし、

「ドラララララララララララララァッ!!!」

投げる寸前でクレイジー・ダイヤモンドのラッシュを叩き込まれる。
またしても呻いて殴り飛ばされた。

(どうなってやがんだよ…!!)

何かがおかしいとアーマージャックは焦る。
幾ら三人掛かりとは言え、何故自分がこうも一方的にやられているのか。
今の自分は強くなっている。
なのにどうして、いいようにやられてばかりなのか。
疑問を感じながら顔を上げると、ジョーカーの赤い目と吊り上がった己の目が交差する。
ほぼ直感で気付いた。

「テメェ、何しやがった!?」

アーマジャックの推測は正しい。
蓮はこの戦闘でマガツイザナギのスキルを発動していた。
そのスキルの名はヒートライザ。味方一人の攻撃・防御・回避・命中というそれぞれの能力を強化する効果を持つ。
ヒートライザを自分含めて三人に使用し、基本ステータスを上昇させていたのだ。
流石に三回分のヒートライザにより、かなりのSPを消費したが。

尤もわざわざ答え合わせをしてやるつもりは一切無い。
公園での時と同じく、返答代わりにスラッシュを放った。

「クソウゼェんだよゴミどもがあああああああああああああああああっ!!!」

どこまでも自分をコケにする連中への怒りは頂点に達した。
もう時間を掛けて嬲り殺すのも止めだ。
一刻も早くこいつらを消し去らねば、ストレスで狂ってしまう。

アーマジャックの右手に光、左手に闇、異なるエネルギーが集まる。
吉良を殺したサンダーブレスターの必殺技、ゼットシウム光線を放つ気だ。
両手にチャージするエネルギー量は、ゼットシウム光輪の倍。

敵が放つ異様なプレッシャーに、ジョーカーとミチルは猛烈な危機感を覚えた。

「どうしましょう…!クレイジー・ダイヤモンドさんでも防げるかどうか…」
「いや、ここは俺が…」

「大丈夫だゾ、二人とも」

焦る二人を落ち着かせるように、しんのすけがずいと前に出る。
今の状況で自ら前に出ては駄目だとジョーカーが下がらせようとし、思わず驚いた。
しんのすけの顔には微塵も動揺は見受けられず、その瞳はしっかりとアーマジャックを捉えて離さない。
ミチルもまた、しんのすけの背中がやけに大きく見えた。
まだ5歳の幼稚園児が持つには、不釣り合いな存在感がある。

「二人は、オラがおまもりするゾ!」

言うや否や、しんのすけは構える。


247 : Life Will Change(Final) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:44:52 uMdudZVo0
「か」

それは、しんのすけのものじゃない記憶で見た光景。
記憶の中で、自分の体になっている人はいつも戦っていた。

「め」

シロが殺されるかもしれないと恐怖した時に見た、誰かが殺される光景。
あれが切っ掛けになったらしい。

「は」

仲間をおたすけしたい、おまもりしたい。
そう強く願うと、『彼』の記憶がしんのすけの頭へ断片的に映し出された。

「め」

しんのすけはその人の事を詳しく知っている訳では無い。
けれど、不思議と『彼』の記憶を受け入れられた。
勝手な思い込みかもしれないけれど、『彼』が自分に力を貸してくれるために、記憶を見せたのかもしれない。


何が本当かは分からないけど、今は仲間をおたすけしたい。
もう誰も、大切な人を死なせたくない。

だから


――だから、オラに力を貸して!悟空のおじさん!!

「波ーーーーーーーー!!!!!!」


248 : Life Will Change(Final) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:46:02 uMdudZVo0
両手を前方に突き出し、凝縮した気を放つ。
亀仙流の奥義と、サンダーブレスターの必殺技がぶつかり合う。
禍々しい赤と黒の混じった光に対抗するは、眩しい青色の光。
互いへ一直線に伸びた光は、丁度真ん中で拮抗し合う。
勝利するのはどちらか片方のみ。一方の光がもう一方を呑み込まんとせめぎ合う。

「んぎぎぎぎぎぎぎ…!!」
「クソがぁ……!!」

僅かにでも力を抜けば、即敗北に繋がる。
故にどちらも気を緩められない。歯を食い縛り、相手を押し返さんと踏ん張る。
負けられない。当然そのつもりだ。
だけど踏ん張れば踏ん張る度に、しんのすけの体に激痛が走る。
負傷と疲労、それに加えて完全に体が慣れ切っていない状態での技の使用。
これらの要素が、しんのすけを容赦なく蝕み敗北へ追いやろうとする。

「クレイジー・ダイヤモンドさん!」

だけど不意に、痛みが少しずつ和らいでいく。
しんのすけの背後から、スタンド能力を行使するのはミチルだ。
少しでもしんのすけの傷を治そうと、自分の疲労など知ったことかとばかりにクレイジー・ダイヤモンドの能力を発動する。

「ペルソナ!」

自分の体がまた少し軽くなったのを、しんのすけは感じた。
再度ヒートライザをしんのすけへと使用した蓮だ。
SPが根こそぎ持って行かれようと構わない、少しでも仲間の力になれば良い。

そうだ。
今までいろんな悪者と戦って来たけど、一人で勝てたんじゃない。
家族が、かすかべ防衛隊が、仲間がいたから勝てたんだ。
今も二人の仲間が傍に居る。

それだけで、負ける気がしない。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」

ゼットシウム光線が押し返される。
その事実が、己の目に映る光景が信じられなくて、アーマージャックから表情が抜け落ちていく。
ただ一言だけ、青い光が到達する寸前に、それだけを呟いた。

「クソが…」

気に入らない奴らを殺す、どこまでも自分勝手な感情で放たれた閃光は、仲間を守りたいと言う願いに敗北を喫した。


249 : Life Will Change(Final) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:47:23 uMdudZVo0



「よっ、生きてるか?」

目を開けると、見知った顔が至近距離にあった。

「……!!??!!」

自分でも何を言ってるのか分からない声を上げて、目を白黒させる。
そんな様子に呆れたのか、肩を竦めてそいつは笑った。

「人の顔を見てそんな反応とは、心外だねぇ」

こちらを見下ろしそう言って来たエボルトに、当たり前だろうと言い返したくなる。
精神は男、それは分かっている。だけど体は美人の女性。
その顔でああも近づかれたら、動揺するなと言うのは酷ではないか。
バクンバクンと心臓が跳ね、顔が熱くなってるのを嫌でも実感する。

「まっ、生きてるようで何よりだよ。俺が来た時には、もう全部片付いたみたいだしな」

片付いた。その言葉で思い出す。
しんのすけの攻撃はアーマジャックの光線に打ち勝った。
奴が閃光に消えたのを見届けて、安堵したように崩れ落ちたのだ。
自分だけでは無く、しんのすけとミチルも限界が来たのかドッサリと倒れ込んだ。

「二人は…?」
「安心しろ。どっちも死んじゃいねぇさ」

エボルトが見つめる先には、しんのすけとミチルが大の字になっていた。
二人とも胸が上下しており意識を失っただけのようだ。
仲間の無事に安堵した。折角勝ったのに死んでしまうような事にならなくて、本当に良かった。

「んん……」

身動ぎをして、しんのすけが目を覚ました。
緩慢な動作で辺りを見回し、自分と目が合った。

「お兄さん……?オラたち…勝ったの……?」
「ああ、しんのすけのおかげで勝てた。ミチルも無事だ」
「ほうほう……それは、良かったですな……」

自分も、しんのすけも、ミチルも生きている。
文句なしに良い事だ。
だけど、助けられなかった者もいる。

「シロ……」

ぽつりと呟かれた名前。
鬼にされたしんのすけの家族。シロは救えなかった。
しんのすけの事を思い出したのに、彼はいなくなってしまった。
ポロポロとしんのすけの目から涙が零れる。
けれど、泣くのを必死に我慢しているかのように、目を強く瞑った。

「しんのすけ、我慢する必要はない……」
「えっ…?」
「泣きたい時に泣くのは、悪い事なんかじゃない」

チラリ、とエボルトに視線を投げかける。
自分の言いたい事は察してくれたのか、やれやれとでも言うような動作で口を開いた。

「ま、空気の読めない奴が来たら追い払うくらいはしてやるよ」

そう言うと背を向けた。
エボルトなりに気を遣ってくれたのかもしれない。


250 : Life Will Change(Final) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:48:38 uMdudZVo0
「で、でも…」
「大切な人を失って、ちゃんと泣けるのも、強くて優しいヒーローなら当たり前だと思う」

強がる必要も、涙を堪える必要もない。
思いっきり泣いたって良い。

「あ……」

自分の言葉が引き金になったのだろう。
止まる事無く涙が溢れ出した。

「シロ……シロ……!シロ………!!」

我慢せずに、しんのすけは泣き出す。

暫くの間、家族を失った悲しみの声だけが聞こえていた。



【シロ@クレヨンしんちゃん(身体:犬飼ミチル@無能なナナ) 死亡】




【D-6 純喫茶ルブラン前/午前】

【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[身体]:孫悟空@ドラゴンボール
[状態]:体力消耗(超特大)、ダメージ(大)、貧血気味、右手に腫れ、左腕に噛み痕(止血済み)、決意、深い悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:悪者をやっつける。
1:シロ……
2:逃げずに戦う。
3:困っている人がいたらおたすけしたい。
[備考]
※殺し合いについてある程度理解しました。
※身体に慣れていないため力は普通の一般人ぐらいしか出せません、慣れれば技が出せるかもです(もし出せるとしたら威力は物を破壊できるぐらい、そして消耗が激しいです)
※自分が孫悟空の身体に慣れてきていることにまだ気づいていません。コンクリートを破壊できる程度には慣れました。痛みの反動も徐々に緩和しているようです。
※名簿を確認しました。
※気の解放により瞬間的に戦闘力を上昇させました。ですが消耗が激しいようです。
※悟空の記憶を見た影響で、かめはめ波を使用しました。


251 : Life Will Change(Final) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:49:39 uMdudZVo0
【雨宮蓮@ペルソナ5】
[身体]:左翔太郎@仮面ライダーW
[状態]:ダメージ(極大)、疲労(極大)、SP消費(特大)、体力消耗(大)、無力感と決意
[装備]:煙幕@ペルソナ5、T2ジョーカーメモリ+ロストドライバー@仮面ライダーW
[道具]:基本支給品×2、スパイダーショック@仮面ライダーW、無限刃@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-、ランダム支給品0〜2(煉獄の分、刀剣類はなし)
[思考・状況]基本方針:主催を打倒し、この催しを終わらせる。
1:勝てたのか…。
2:まずは仲間を集めたい。
3:エボルトと行動。信用した訳ではないが、共闘を受け入れる。
4:しんのすけの力になってやりたい。
5:ミチルの言うエルドルという人を助けたいが…
6:体の持ち主に対して少し申し訳なさを感じている。元の体に戻れたら無茶をした事を謝りたい。
7:逃げた怪物(絵美里)やシロを鬼にした男(耀哉)を警戒。
8:新たなペルソナと仮面ライダー。この力で今度こそ巻き込まれた人を守りたい。
[備考]
※参戦時期については少なくとも心の怪盗団を結成し、既に何人か改心させた後です。フタバパレスまでは攻略済み。
※スキルカード@ペルソナ5を使用した事で、アルセーヌがラクンダを習得しました。
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。
※ルブランのコーヒーを淹れて飲んだためSPが少し回復しました。
※翔太郎の記憶から仮面ライダーダブル、仮面ライダージョーカーの知識を得ました。
※エボルトとのコープ発生により「道化師」のペルソナ「マガツイザナギ」を獲得しました。燃費は劣悪です。

【犬飼ミチル@無能なナナ】
[身体]:東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険
[状態]:左背面爆傷、右肩に裂傷、疲労(極大)、深い悲しみ、無力感、気絶
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしたくない
0:……
1:誰か助けてくれる人を探して、エルドルしゃんの所に戻る
2:シロちゃんと私の体……
3:どうしてキョウヤさんが…
[備考]
※参戦時期は少なくともレンタロウに呼び出されるより前
※自身のヒーリング能力を失いましたが、クレイジーダイヤモンドは発動できます。
※クレイジー・ダイヤモンドが発動できることに気付きました。
※まだ名簿を確認していません
※クレイジー・ダイヤモンドによる傷の治療は普段よりも完治に時間が掛かり、本体に負担が発生するようです。


252 : Life Will Change(Final) ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:50:26 uMdudZVo0
【エボルト@仮面ライダービルド】
[身体]:桑山千雪@―――――――――

――――――――

―――――



…………




















「貴方は…何をする気なんですか?」

『さぁな。自分で考えてみたらどうだ?』


253 : Cが見ていた/囚われのアルストロメリア ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:52:16 uMdudZVo0
◆◆◆


時は蓮が目を覚ます前に遡る。

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」

薄汚れた路地裏を、男が一人這って進んでいる。
衣服も体もボロボロで、無事な箇所を探す方が困難なくらい。
ボロキレと呼ぶのが相応しい、アーマージャックの姿だった。

「クソが……クソどもが……」

口から出るのは怨嗟の声。
誰に対して?決まっている、自分をこんな目に遭わせた連中へのだ。

サンダーブレスターに変身していた為に、重傷を負いつつも命だけは助かった。
孫悟空のかめはめ波に厳重な制限が設けられていたのも理由の一つだろう。
もし悟空本人がかめはめ波を放っていたなら、生存どころか死体が残るかも怪しい。

アーマージャックは、自身の生存を喜べるような精神状態ではない。
胸を占めるのは、どうしてこうなったという思いだけだ。

最初はこんなはずじゃなかった。
いきなり襲って来た女をレイプし、見逃す振りをしてから殺してやった。
この先もそんな風に、気に入らない奴は殺して、良い女はレイプしまくってから殺す。
そうやって好き放題やれると思っていた。

だが結果はどうだ。
犯せたのは最初の一人だけで、後に会った連中に性欲をぶつける事はできなかった。
会う奴は悉く自分に舐めた態度を取り、ウザったい傷まで負わせられた。
極めつけに、立つのも辛い程の痛みに体中が悲鳴を上げている。

どうしてこうなってしまったのか。

「……ああ、そうだ。アイツらのせいだ」

公園で出会った二人の男女。
思えばあれが全ての始まりだ。あの二人に会ってからの自分は、何をやってもケチが付いて回った。
あの二人にさえ会っていなければ、こんな無様を晒す事はなかったはずだ。

「そうだ、きっとアイツらのせいで、このアーマジャック様がこんな目に……」

さっきも胴着の男やリーゼントと一緒になって歯向かった、帽子の青年。

そしてもう一人の……


254 : Cが見ていた/囚われのアルストロメリア ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:53:08 uMdudZVo0
『手酷くやられたもんだなぁ、おい』


目の前に、ソイツがいた。

「テ、テメェは……」
『まさかそれがお前の正体とはね。俺の知らないライダーシステムでも使ってたのか?
 …ああ、こっちの声じゃあ混乱するか』

首元のパイプをいじるような仕草をすると、すぐに変化が起きた。

「馴染みがあるのはこっちの声かぁ?」

渋みのある壮年男性の声が一変し、女性のものになった。
この声を、この赤い装甲姿をアーマージャックは知っている。
公園で戦った女。自分にふざけた真似をして逃げおおせた、絶対に殺したいと思っていた一人。
その相手が今、アーマージャックを見下ろしている。

(チ、チクショウが…!)

状況は最悪の一言に尽きる。
相手はサンダーブレスターともある程度渡り合えた力の持ち主。
対して自分はサンダーブレスターの変身が解かれ、疲労もピークに達している。
何より体中が絶え間なく痛みを訴えているのだ。
戦闘以前に移動すらままならない。

(クソッ!クソッ!!)

自分は殺す側で、それ以外は皆殺される側。
アーマージャックにとっての常識だった。
なのに今は立場が完全に入れ替わっている。
吉良と対峙した時にも味わった、死への恐怖がぶり返す。

「さてと、お前と長話する気はないんでね。そろそろ――」

ピタリと、唐突に相手は言葉を止めた。
頭部を動かし、アーマージャックへ向けていた視線を頭上へと移す。
そのまま動かない。まるで銅像と化したかのように、一言も発さない。


255 : Cが見ていた/囚われのアルストロメリア ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:53:57 uMdudZVo0
(な、なんだ…?)

いきなり様子が変わりアーマジャックは困惑する。
罠かとも考えたが、この状況でそんなこ事をせずとも自分を簡単に殺せるだろう。
分からないが、何か想定外の事態でも起きたのか。
とにかく今がチャンスだ。
確か赤い装甲には、銃を使って変身していた。
イトイトの実の力で、糸一本を生み出すくらいの体力は残っている。
それを使って奴が持つ銃を奪い取れば、何とかるかもしれない。

(そうだ、銃を奪えばこいつを殺して……)

気付かれないように糸を出し、銃に引っ掛ける。
相手はまだ動かない。動き出すならここだ。

「はは、テメェの負け――」



ゾ ブ リ


「――あ゛っ?」

アーマジャックの動きが止まる。
首に刺すような痛みが来たかと思えば、身体が言う事を聞かなくなった。
異変はそれだけではない。全身に、戦闘で受けた傷とは別の痛みが駆け巡った。

「あ゛っ、あ゛っあ゛っあ゛っあ゛っがががががががが」

呂律が回らず、視界も急に不安定になる。
その中でどうにか見れた。
ついさっきまで何もせず突っ立っていた赤い装甲の腕から伸びた針のような物が、自分の首に突き刺さっているのを。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

痛みに耐え切れず叫び、そして気付いた。
自分の体が崩壊を始めていると。
この地に来てから死を予感する事はあったが、今回は本当に死ぬ。
もう手遅れなのだと、理解したくないのに分かってしまう。

(死ぬ!?俺が、俺がこんな、こんな…!)

指一本満足に動かせない。
体を襲う痛みのせいか、或いはもうこれ以上自分の体で詰みを重ねさせない為に、クレナイ・ガイが最後の抵抗をしているのか。
真実が何にせよ、アーマジャックが知る事は永遠に無い。

「しに……たく……ね…………」

乾いた音を立てて、首輪が落ちる。
髪の毛一本すらのこさず消滅した男がそこにいた、唯一の証。

正義のヒーロを名乗る者にしては、あまりにも惨めな最期だった。



【アーマジャック@突撃!!アーマージャック(身体:ウルトラマンオーブ・サンダーブレスター@ウルトラマンオーブ) 死亡】


256 : Cが見ていた/囚われのアルストロメリア ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:55:06 uMdudZVo0



スティングヴァイパーと言うブラッドスタークの腕に搭載された機能を使って毒を流した。
アーマジャックの死の原因はそれだ。
死んで欲しいと思っていた男の最期を見届けると、首輪を回収しデイパックに放る。
事が済むと変身を解き、エボルトは生身に戻った。

「まさか、あんなタイミングでとはなぁ」

ポツリと呟く。
独り言、ではない。路地裏には彼しかいないというのに、まるで誰かに話しかけているように言葉を続ける。

「黙って殺されてやるつもりは無かったが、あいつは無駄に執念深いしな。ひょっとしたら危なかったかもな?」

答えは無い。
なのに言葉が止まりはしない。

「俺が死んだらお前も死ぬ。お互い災難な目に遭ったもんじゃねぇか、なぁ……」





『千雪ぃ?』

「っ…!!」

女が息を呑むような気配がした。

エボルトではない。
体は一つ、だがこの場にはもう一人がいた。

そうだ。考えてみればいずれは起こりえる事だった。
エボルトは自分の状態を、ブラッド族の能力で憑依したまま固定されていると考えた。
自由に出て行けない以外は、石動に憑依していた時とほぼ同じ。
憑依された人間の意識はエボルトの力で封じられるが、消えたわけでは無い。
エボルトが見、聞いた事を同じように感じられる。
であれば、石動と同じく今の体の持ち主の意識が目覚めたとしても不思議はない。

尤も、目覚めたからと言って、桑山千雪にエボルトをどうこうする術は無かった。

自分の体ではあれど、力関係はエボルトが圧倒的に上。
体の自由を取り戻したりだとか、動きを止めたりだとか何て、出来たらとっくにやっている。
千雪に出来る事は、エボルトの気まぐれか少しだけ自分の口で話せるようにした今、疑問をぶつけるだけだった。


257 : Cが見ていた/囚われのアルストロメリア ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 10:55:59 uMdudZVo0
「貴方は…何をする気なんですか?」

行動だけ見れば、エボルトがやってきたのは殺し合いに反対の参加者のソレだろう。
危険な参加者を討伐しようとし、仲間のフォローをしている。それは確か。
だが千雪には、この男が根っからの善人だとは思えない。
憑依されているからこそ分かる、エボルトが内に秘める悪意のような怖気の走る何かを。

『さぁな。自分で考えてみたらどうだ?』

返答は実ににべもない。
そして今は、これ以上話を続ける気は無かった。

『悪いが話は一旦終わりだ。相棒を待たせてあるんでね』
「待ってください!まだ――」

食い下がる千雪を無視して、一方的に会話を打ち切った。
すぐに千雪の意識も奥へ奥へと追いやられ、エボルトへは干渉できなくなる。

「さぁて……」

周囲を見回すも誰かが現れる気配は無い。
参加者は元より、主催者側の人間もだ。
千雪の意識が戻ったが、ボンドルドらが何かの反応を見せる事は今の所無い。
連中にとっては大した問題ではないからなのか。
それに関しても追々考えねばなるまい。

「今はさっさ合流するかね」

取り敢えずは、アーマージャックという面倒な男の死を喜ぶとしよう。

誰もが傷だらけとなった戦いで、蛇だけが笑っていた。


258 : Cが見ていた/囚われのアルストロメリア ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 11:03:18 uMdudZVo0
【エボルト@仮面ライダービルド】
[身体]:桑山千雪@アイドルマスター シャイニーカラーズ
[状態]:疲労(大)、千雪の意識が復活
[装備]:トランスチームガン+コブラロストフルボトル+ロケットフルボトル@仮面ライダービルド
[道具]:基本支給品×2、ピーチグミ×3@テイルズオブディスティニー、ハードボイルダー@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜2(シロの分)、累の母の首輪、アーマージャックの首輪、煉獄の死体
[思考・状況]
基本方針:主催者の持つ力を奪い、完全復活を果たす。
1:こっからどうするか。
2:蓮としんのすけを戦力として利用。
3:首輪を外す為に戦兎を探す。会えたら首輪を渡してやる。
4:有益な情報を持つ参加者と接触する。戦力になる者は引き入れたい。
5:自身の状態に疑問。
6:後でゲンガーも迎えに行かねぇとな。
7:出来れば煉獄の首輪も欲しい。どうしようかねぇ。
8:ほとんど期待はしていないが、エボルドライバーがあったら取り戻す。
9:千雪にも後で話を聞いておく。
10:移動に使う足も手に入れねえとなぁ。
11:今の所殺し合いに乗る気は無いが、他に手段が無いなら優勝狙いに切り替える。
[備考]
※参戦時期は33話以前のどこか。
※他者の顔を変える、エネルギー波の放射などの能力は使えますが、他者への憑依は不可能となっています。
またブラッドスタークに変身できるだけのハザードレベルはありますが、エボルドライバーを使っての変身はできません。
※自身の状態を、精神だけを千雪の身体に移されたのではなく、千雪の身体にブラッド族の能力で憑依させられたまま固定されていると考えています。
また理由については主催者のミスか、何か目的があってのものと推測しています。
エボルトの考えが正しいか否かは後続の書き手にお任せします。
※ブラッドスタークに変身時は変声機能(若しくは自前の能力)により声を変えるかもしれません。(CV:芝崎典子→CV:金尾哲夫)
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。

※ルブランの屋根裏部屋に基本支給品×3、月に触れる(ファーカレス)@メイドインアビス、ラーの鏡@ドラゴンクエストシリーズ、ストゥ(制裁棒)@ゴールデンカムイ、物干し竿@Fate/stay night、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、ランダム支給品0〜4(吉良の分含む)が落ちています。
※ルブランの近くに銀時のスクーター@銀魂が停車しています。もしかしたら戦闘の巻き添えで破壊されたかもしれません。
※オーブリング@ウルトラマンオーブ、ウルトラフュージョンカード(ゾフィー、ベリアル)@ウルトラマンオーブがどこかに落ちているか、かめはめ波で消滅したかは不明です。

【桑山千雪に関しての備考】
※肉体の主導権は基本的にエボルトにある為、自分の意思で体を動かしたり話したりは不可能です。
 エボルトが許可すれば可能となります。
※殺し合いをどこまで把握しているか、主催者に関わる情報を知っているか否か等は後続の書き手に任せます。

【ハードボイルダー@仮面ライダーW】
W専用の特殊モーターサイクル。名付け親は左翔太郎。
側面にWの文字が描かれた黒の前部と、緑の後部で構成されている。
前輪脇ににマルチガンユニットが搭載されており、マガジンの換装によりミサイル・追跡用ビーコン・煙幕などを発射する。
後部に専用ユニットを装着しそれぞれ異なる性能を発揮するが、会場にユニットがあるかは不明。


259 : ◆ytUSxp038U :2021/11/27(土) 11:04:16 uMdudZVo0
投下終了です。


260 : ◆vV5.jnbCYw :2021/11/27(土) 12:15:31 YMRhc8MM0
大長編投下お疲れ様です。
二転三転する状況、シロの決死の特効、エボルトの底のしれぬ強さ、
アーマージャックのしぶとさや原点回帰しつつもかめはめ波をぶちかますしんのすけなど見所がとても多くて、読んでて熱くなりました。
実はエボルトもアーマージャックも知らないキャラなのですが、長いのにずっとテンション上がりっぱなしでした。
書き手様の参戦作品への愛と執筆力が良く分かる作品でした。

改めて、大作投下乙です。


261 : ◆5IjCIYVjCc :2021/11/27(土) 12:41:04 ZLcK3tRo0
大作の投下お疲れ様です!今回の話の感想を書かせてもらいます。

>Life Will Change(1st)〜Life Will Change(Final)、Cが見ていた/囚われのアルストロメリア

ウェザーメモリは壊されてしまいましたか。
残しておいてもナミの身体の神楽とかに適合して暴走されたりとかしたら対主催陣営にとっては困りますし、この判断で良かったかもしれません。
最期にようやく正気を取り戻してしんのすけを庇ったシロ、
ゼットシウム光線とかめはめ波の激突、
こんな熱い展開にはとても興奮させられました。
そして最後に、路地裏で止めを刺すエボルト、更には目覚めた千雪さんの意識との会話、暗躍タイプの危険対主催として完璧なムーブであると感じました。


262 : ◆.EKyuDaHEo :2021/11/27(土) 13:19:28 RCmx9FE.0
大長編投下お疲れ様です!!
本当に最初から最後まで凄かったです!
クレしん好きの自分としては特にシロがしんのすけのことを思い出すところとしんのすけがかめはめ波を放ってアーマージャックとぶつかるところが胸熱展開でした!
本当にお疲れ様でした!!


263 : ◆0EF5jS/gKA :2021/11/27(土) 17:33:12 4o2P2eS20
大作の投下お疲れさまです、感想を投下します。

>Life Will Change(1st)〜(Final)、Cが見ていた/囚われのアルストロメリア

文字通り最後の最期で正気に戻ったシロやしんちゃんのかめはめ波など今回の熱い展開にはとても夢中になりました、
今までがハードな展開が多かったので
今回の熱い場面がより引き立っていたと思います。
アーマージャックはウルトラ戦士のちからを持ってしまっただけあって、
本当に強大なボスキャラになっていたと思います。
そしてラストに登場した千雪さんにびっくりしました。

改めて大作の投下お疲れさまでした。


264 : ◆ytUSxp038U :2021/11/28(日) 09:47:35 8jcbTxBI0
皆様感想ありがとうございます。
こうして感想を頂けると、書いて良かったと改めて嬉しく思います。

姉畑支遁を予約します。


265 : ◆ytUSxp038U :2021/11/29(月) 22:58:34 YSsw3sgw0
投下します


266 : 姉畑はソレを我慢できない ◆ytUSxp038U :2021/11/29(月) 23:00:24 YSsw3sgw0
ピカチュウを追うか、トビウオを追うか、それともまだ見ぬ動物たちを求めて移動するか。
選べる道は一つだけだが、選ばなかった方も捨て難い。
どこに行くにせよ障害も無しにとんとん拍子で進むとは思えず、何らかの試練が待ち受けている。
既に治った火傷の痛みに身を震わせながら、姉畑は行き先を未だに決められずにいた。

「困りましたね……」

動物たちへの愛は健在であり、彼らの姿を思い浮かべただけでスパッツが破れんばかりにテントを作り、小振りな乳房の先端が硬く尖る。
両性具有の天使故の性反応に悩まし気な声を出しつつ、されどこの情欲は動物達と再会した際に思う存分ぶつけようと誓う。

優勝を目指すのでなければ、主催者に反抗するでもない。
全参加者の中でも異質な方針を掲げる男にも、定時放送は等しく目に入った。

島の中央に突如として浮かび上がった、不気味な仮面の人物に驚き、その瞬間だけはピカチュウ達の事も頭の隅へと追いやられた。
一参加者の驚愕に構う事なく、予め台本を用意していたかのようにスムーズに放送は行われ、斉木空助の笑みを最後に画像は消えた。

「そうですか、彼が……」

見知った存在の死に、そっと目を伏せる。
数時間前に交わった歩くカエル、ケロロ軍曹は自分から逃げた後で命を落としたらしい。
己が汚らわしい罪を犯した証であるケロロを殺そうとしたのは事実。
しかしこうして、自分の知らぬ所で命を落としたというのはどうにもやり切れないものが残る。
あの時自分の手で確実に殺していれば、こんな思いはしなずに済んだのだろうか。

姉畑が死を嘆くのはケロロ以外にもう一匹、擬態型という兎に似た獣に対してもだ。
あのような愛くるしい動物と出会えず、死亡報告だけを聞かされる。
叶うならば生きている内に会いたかったと肩を落とす。
死んでしまったのなら、せめて擬態型の魂が安らかに天国へ到達して欲しいと願う。
そうしてまた愛くるしい動物に転生し、その時は自分と愛し合おうと。

「ううむ、そうなると迅速に動かねばなりませんね」

悲しむのもそこそこに、地図を取り出し向かう先を決めようとする。
いつまでもモタモタしていては、ピカチュウや他の動物達も殺されてしまうかもしれない。
自分がさっさと動き出さなかったせいで交わる前に全ての動物が殺されてしまったら、悔やんでも悔やみきれないのだから。
おまけに森を焼く火の勢いも、放送前より激しさを増している。
うかうかしていたら自分にまで被害が及んでしまう。

「む!?これは…」

地図を確認している最中、姉畑にとって無視できない施設が記載されていた。
網走監獄。嘗て姉畑が収監されていた、北海道の刑務所の名だ。
まさか殺し合いの為だけにわざわざ網走監獄を建造したのだろうか。
分からない。分からないが、別の疑問への答えは浮かんだ。

「ひょっとして…あの少女は網走監獄の関係者なのでしょうか?」

ピカチュウを追いかけた先で遭遇した白髪の少女。
何故か姉畑の事を一方的に知っているようだったが、彼女の体に入っているのが網走監獄の刑務官、或いは囚人だったらその理由にも納得がいく。
だがもう一つの可能性もある。


267 : 姉畑はソレを我慢できない ◆ytUSxp038U :2021/11/29(月) 23:01:35 YSsw3sgw0
(或いは……入れ墨を狙う者?)

のっぺら坊と言う囚人が手に入れたアイヌの金塊。
その隠し場所を外の仲間に伝える為の方法として、のっぺら坊は姉畑を含めた24人の同房の囚人の背に金塊の隠し場所を示す入れ墨を彫り脱獄させた。
金塊を手に入れるには囚人たちの皮を剥いで入れ墨を集め、暗号を解かなければならない。
姉畑自身は金塊に然程興味は無いものの、他の人間は違う。
少女の体に入っている者は、金塊を手に入れる為に入れ墨囚人を探している人間ではないか。
今は入れ墨を彫られた体では無いが、金塊の手掛かりを得る為に拷問くらいはされそうな気がする。
もしそうなら、やはりピカチュウの方に行くのはリスクが高い。

しかし、姉畑が選んだのはピカチュウを追う事だった。

何故か?理由としてはケロロ軍曹が死んだというのが大きい。
死んだという事は、当然彼を殺した人物が存在する。
殺した人物が存在すると言う事は即ち、ケロロと行動していた少女とピカチュウも何らかの問題に巻き込まれたという事だ。
放送で発表されなかったので死んではいないが、負傷している可能性は高い。
ならば底をついてピカチュウを少女から引き離し、誰にも邪魔されず事に及べるはず。

若しくは現在も何者かと戦闘中という事も考えられるが、それならそれで好都合。
少女が戦っている隙に、自分はピカチュウと交われば良いだけだ。
地図を見る限り、少女がピカチュウとケロロを連れ向かった先には街がある。
ならそこを目的地として出発するとしよう。

姉畑は進んで人殺しをするような悪党では無いが、善人でもない。
大量の家畜とウコチャヌプコロした末に惨殺し、激怒した牧場主へ重傷を負わせ、本来辿る筈だった正史においては羆とのウコチャヌプコロを決行する為に谷垣の銃を奪ったりと他人の迷惑を顧みない身勝手な面がある男だ。
そんな人物故に、自分がウコチャヌプコロをしたせいでどんな騒動が起きるかは考えていなかった。

「待っていてくださいね、ピカチュウ君!私は必ず、君と愛し合ってみせますよ!」

ピカチュウの小さく可愛らしい尻を思い浮かべ、汚れを知らない子どもの様に瞳を輝かせる。
一方で股間はまたもや膨らみだし、興奮の余り先端から漏れた汁がスパッツに染みを作った。


【F-3 森と道路の境目/朝】

【姉畑支遁@ゴールデンカムイ】
[身体]:クリムヴェール@異種族レビュアーズ
[状態]:疲労(小)、未知の動物の存在への興奮、勃起
[装備]:ドリルクラッシャー@仮面ライダービルド、逸れる指輪(ディフレクション・リング)@オーバーロード
[道具]:基本支給品×2(我妻善逸の分を含む)、青いポーション×2@オーバーロード、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:色んな生き物と交わってみたい
1:ピカチュウと交わる為に街へ向かう
2:ピカチュウや巨大なトビウオと交わりたい。他の生き物も探してみる。
3:あの少女(杉元)は私の入れ墨を狙う人間なのでしょうか?
4:何故網走監獄がここに?
5:人殺しはやりたくないんですが…
[備考]
※網走監獄を脱獄後、谷垣源次郎一行と出会うよりも前から参戦です。
※ピカチュウのプロフィールを確認しました。


268 : ◆ytUSxp038U :2021/11/29(月) 23:02:27 YSsw3sgw0
投下終了です


269 : ◆ytUSxp038U :2021/11/30(火) 01:28:21 fGWO0k2A0
文として足りない箇所がありましたので、『姉畑はソレを我慢できない』をwikiにて加筆しました。
全体の流れに変化はありません。


270 : ◆NIKUcB1AGw :2021/11/30(火) 22:52:05 O2k14/hQ0
悲鳴嶼、脹相で予約します


271 : ◆s5tC4j7VZY :2021/11/30(火) 23:31:49 4HbW1jTQ0
投下お疲れ様です!
Life Will Change(1st)
Life Will Change(2nd)
Life Will Change(3rd)
Life Will Change(4th)
Life Will Change(Final)
Cが見ていた/囚われのアルストロメリア
既に何人の方が感想を書いておりますが、私も読んでいて、しんのすけがかめはめ破を放つまでの一連の流れと戦闘。
アーマージャックを人知れず始末するエボルドのかっこよさにシロの献身と、とても読んでいて胸が熱くなりました。
改めて大作投下。本当にお疲れ様です。

姉畑はソレを我慢できない
そして、その熱き魂の話から、ギャップさを感じつつも、これもある意味、熱き魂の話。
本当にブレない姉畑に笑っちゃいます。

両面宿儺、ン・ダグバ・ゼバで予約します。


272 : ◆ytUSxp038U :2021/12/03(金) 18:38:09 h/e13JAU0
感想ありがとうございます。

柊ナナ、燃堂力、桐生戦兎、杉本佐一、我妻善逸を予約します。


273 : ◆NIKUcB1AGw :2021/12/03(金) 21:11:29 fTA7rMns0
投下します


274 : 一寸先は疑心暗鬼 ◆NIKUcB1AGw :2021/12/03(金) 21:12:42 fTA7rMns0
悲鳴嶼が放送を聞いたのは、山を登り始めたときだった。

「なんと奇怪な……。どれほどの力があれば、このようなことが……」

虚空に大きく映し出されるボンドルドの顔に、悲鳴嶼は驚嘆の声を漏らす。
たとえ盲目でなかったとしても、悲鳴嶼がいた日本ではこのような光景を見ることはできなかったであろう。
悲鳴嶼は、改めて自分たちが立ち向かおうとする相手の強大さを思い知らされる。
彼の心情をよそに、放送ではボンドルドに代わって現れた空助という男が死者の発表を始めた。

『坂田銀時…その身体の名は両津勘吉』
「!!」

悲鳴嶼の心が、激しく揺れる。
名前の読み上げと共に映し出されたのは、まさしく今自分の意識が宿っている体。
侍・坂田銀時。
体を返すべき相手は、出会うこともかなわずこの地で命を落としてしまった。

(おそらくは殺し合いに乗った者と勇敢に戦い、力尽きたのであろう……。
 どうか安らかに……)

悲鳴嶼は涙を流しながら念仏を唱え、銀時の成仏を祈る。
だが、衝撃はまだ終わらない。

『童磨…その身体の名は擬態型』
「上弦の弐だと!」

空中に映し出された男の目には、十二鬼月の一員であることを示す漢字が刻まれていた。
名前がわからぬまま討ち取られた、上弦の弐。
それがまさかこの殺し合いに参加していて、しかもすでに死んでいるなど、悲鳴嶼にとってはあまりに予想外だった。

(上弦の弐といえば、カナエを殺した鬼……。
 この報せを聞いたしのぶの心が、乱れていなければいいのだが……。
 くっ、こんな時に側にいてやれぬとは! 別行動をとったのは失敗だったか!)

おのれの決断を悔やむ悲鳴嶼。そこに、最後の衝撃が襲いかかる。

『煉獄杏寿郎…その身体の名は相楽左之助』
「なんと……。また逝ってしまったか、杏寿郎……」

誰よりも熱く生き抜いた炎柱、煉獄杏寿郎。
かつてと同じように、またしても彼は悲鳴嶼よりも早くその命を燃やし尽くしてしまった。

(今さら疑う余地もない……。鬼殺隊としての使命を全うして死んだのだろう。
 だがかなうならば……もう一度おまえと言葉を交わしたかった……)

悲鳴嶼の目から、再び涙があふれ出た。


◆ ◆ ◆


(さて、情報を整理せねばな)

放送終了後、心を落ち着かせた悲鳴嶼は改めて与えられた情報を確認する。
お館様と無惨は、共に健在。
ゆえに、自分の方針に大きな変更はない。
禁止エリアに関しては、自分の近くには設定されなかったため現時点では問題なし。
街に向かったしのぶたちにも、特に影響はないだろう。
最後に、精神と肉体の組み合わせが記された名簿。
これがあれば助かるのは間違いないが、入手条件が他者の殺害となれば積極的に求めていくわけにもいかない。
何かの偶然で手に入れば御の字、くらいに考えておくべきだろう。

(こんなところか……。
 とりあえず、現状では方針を変える必要はない。
 改めて、竈門家を目指すとしよう)

地図を片手に、悲鳴嶼は改めて山を登り始めた。


275 : 一寸先は疑心暗鬼 ◆NIKUcB1AGw :2021/12/03(金) 21:13:29 fTA7rMns0


◆ ◆ ◆


それから、しばらく後。
悲鳴嶼は、山の中の一軒家へとたどり着いた。

(ふむ……。おそらくはここで間違いあるまい)

年季の入った民家の外観を、悲鳴嶼はまじまじと見つめる。

(彼らはこの家で、家族と仲睦まじく暮らしていたのであろう……。
 だがその幸せを、鬼によって理不尽に奪われ……。
 改めて思い返しても、なんと残酷な話か……)

炭治郎たちの過酷な人生に思いを馳せ、悲鳴嶼はまたしても滂沱する。
その時、家の中から彼に声がかけられた。

「おい。なんで家の前で泣いてるんだ、おまえは」

その言葉と共に姿を見せたのは、いぶかしげな表情を浮かべた美少女だった。


◆ ◆ ◆


時は、放送時点まで遡る。
脹相が放送を聞いたのは、竈門家までもう少しという地点でのことだった。
告げられる死者の中に、脹相の心を動かすような人物はいない。
彼にとって有益な情報といえるのは、両面宿儺がまだ生存しているとわかったことくらいだ。

(やはり、やつは力を保ったままということか?
 いや、まだ殺し合いは序盤だ。
 この6時間、俺と同じように誰とも会わなかったとしたら、たとえ無力な子供になっていたとしても生き残ることはできる。
 判断するには、まだ情報が足りん)

両面宿儺については引き続き保留とし、脹相は思考を切り替える。
彼が放送の中で気になった点といえば、他には新たな名簿の存在がある。
当初はそこまで考えが回らなかったが、弟である虎杖の肉体が誰かに与えられている可能性もある。
もしそうであるならば、せめて体だけでも持ち帰ってやりたい。
新たな名簿があれば、弟の肉体の有無が確認できる。
だがそれを手に入れるには、他の参加者を殺害しなければならない。
殺し合いに乗っているのであればまったく問題ないが、脹相は殺し合いに反抗する立場だ。
そして、協力者を求める立場でもある。
名簿のためだけに殺人を行って協力できそうな参加者からの信頼を失うのは、リスクが大きすぎる。

(これに関しては、諦めた方が良さそうだな。
 しかしそうなると、どこに向かうべきか……)

これからのことを考え、脹相は頭を悩ませる。
今の彼には、行き先を決める指針がない。
東は殺し合いに乗った強力な参加者がいる可能性が高いので向かいたくないが、
他の方向に行ったところで強敵に遭遇する可能性は存在する。
新たに地図に浮かび上がった施設の中に、脹相に縁のある施設があるわけでもない。
よって、「とりあえずここに行ってみるか」という動機付けもない。

(直感で決めるのもありだろうが……。
 ここはじっくり考えるか。
 それなら、屋内の方がいいだろうな)

そう判断し、脹相は再び竈門家へ足を踏み入れる。
悲鳴嶼がやってきたのは、その少し後だった。


276 : 一寸先は疑心暗鬼 ◆NIKUcB1AGw :2021/12/03(金) 21:14:35 fTA7rMns0


◆ ◆ ◆


そして、現在。

「これは先客に気づかず、失礼を。私は鬼殺隊の悲鳴嶼行冥という者。
 どうやらこの家は仲間の一人が住んでいたものらしく、調べに来た次第」

姿を見せた脹相に対し、悲鳴嶼は丁寧に自己紹介を行う。

「鬼殺隊に縁のある者ならこの竈門という名前に気づき、ここを目指すのではないかと考えたのだが……。
 そちらに、何か心当たりはないだろうか」
「いや、悪いがおまえの言う単語に、ピンと来るものはない。
 俺はたまたまこの家を見つけて、拠点にしていただけだ」

悲鳴嶼の問いに、脹相は淡々と返す。
だがその心中では、ざわつきが生まれていた。

(キサツタイ……。おそらく、鬼を殺す隊と書くのだろうな……。
 こいつ、呪術師側の人間か?)

鬼殺隊の名に脹相は聞き覚えはないが、鬼は呪霊と置き換えることもできる。
すなわち悲鳴嶼と名乗ったこの男は、呪霊を狩る立場の人間である可能性が出てくる。
となれば立場上、脹相とは相容れないということも考えられる。

(見たところ、殺し合いには乗っていないようだ。
 それに、たたずまいに隙がない。おそらくは、そうとうに場数を踏んでいる。
 できれば味方につけておきたいが……。上手く交渉できるか?)

脹相は、味方を作るために考えを巡らせる。
一方の悲鳴嶼も、ある点で脹相に対して疑念を抱いていた。
それは、脹相の体にわずかながら血が付着していることだ。
むろん、血がついているからといって殺し合いに乗っていると判断するのは短絡的すぎる。
襲撃を受け、それを返り討ちにした際に付着した可能性もあるのだから。
だが、眼前の少女が流血するような事態に遭遇しているのは事実。
その詳細を突き止めないことには、信用することはできない。


お互いが相手を信じられぬ中、交渉が始まろうとしていた。


【C-3 山・竈門家/朝】

【脹相@呪術廻戦】
[身体]:ゲルトルート・バルクホルン@ストライクウィッチーズシリーズ
[状態]:健康
[装備]:竈門炭治郎の斧@鬼滅の刃、三十年式歩兵銃(装弾数5発)@ゴールデンカムイ
[道具]:基本支給品、デビ太郎のぬいぐるみクッション@アイドルマスターシャイニーカラーズ、アタッシュショットガン@仮面ライダーゼロワン、零余子の首輪
[思考・状況]基本方針:どけ!!!俺はお兄ちゃんだぞ!!!主催者許さん!!!ぶっつぶす!!!
1:殺し合いには乗らない。
2:「出来る限り」殺しは控える。
3:悲鳴嶼と交渉し、味方につける
4:ユニットを捜索する。
5:両面宿儺を警戒。今は遭遇したくない
6:もし虎杖の肉体が参加させられているなら、持ち帰りたい
7:お前が関わっているのか?加茂憲倫…!!
8:どう動くにせよ協力者は必要になるだろう。
[備考]
※渋谷事変終了後以降からの参戦です。詳しい時系列は後続の人にお任せします。
※ユニット装着時の飛行は一定時間のみ可能です。
※虎杖悠仁は主催陣営に殺されたと考えています。
※竈門炭治郎の斧に遠坂凛(身体)の血が付着しています。
※服や体にも少量ですが血が飛び散っています。


【悲鳴嶼行冥@鬼滅の刃】
[身体]:坂田銀時@銀魂
[状態]:健康
[装備]:海楼石の鎖@ONE PIECE、バリーの肉切り包丁@鋼の錬金術師
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1、病院で集めた薬や包帯や消毒液
[思考・状況]
基本方針:主催者の打倒
1:脹相と話し、信用できそうと判断したら協力関係を築く
2:探索を終えたら病院へ戻り、しのぶ達と合流
3:無惨を要警戒。倒したいが、まず誰の体に入っているかを確かめる
4:デビハムの話には半信半疑。桐生戦兎と大崎甜歌に会い、真相を確かめたい
[備考]
・参戦時期は死亡後。
・海楼石の鎖に肉切り包丁を巻き付けています。


277 : ◆NIKUcB1AGw :2021/12/03(金) 21:15:33 fTA7rMns0
投下終了です


278 : ◆5IjCIYVjCc :2021/12/04(土) 22:58:41 f.lnPpf20
メタモンで予約します。


279 : ◆s5tC4j7VZY :2021/12/07(火) 21:42:53 MFg078Ro0
予約、延長させていただきます。


280 : ◆ytUSxp038U :2021/12/07(火) 22:21:51 lfn1aM6Q0
投下乙です。
悲鳴嶼さんの涙脆さは初対面の相手からしたら危なく見えるから、この反応も仕方ない
ただやっと脹相にとっては出会えた参加者なんだから、どうにか協力を取り付けられると良いですね
後、別行動取らせた自分が言うのもなんだけど、しのぶさんの傍に悲鳴嶼さんがいてくれたらああも心を乱されなかったかもしれないですね。

投下します。


281 : Ψ難再び!柊ナナの憂鬱(前編) ◆ytUSxp038U :2021/12/07(火) 22:29:25 lfn1aM6Q0
佐藤太郎という男に関して知っている事はそう多くない。
桐生戦兎の誕生に深く関係する人間であるが、彼と直接話す機会は終ぞ無かった。
その存在を初めて知った時、彼は既にこの世にはいなかったのだから。。

だから今見ているのは、自分が知る事の無かった光景。
彼が如何にして命を奪われたのか、その顛末。

「ウォッフォーウ!」
「兄貴いってらっしゃーい!」
「夜は焼肉っしょー!ヒャッハーッ!!」

第一印象は、底抜けに明るい馬鹿。
全身真っ赤の派手なツナギに、ハリネズミのように逆立ったヘアースタイル。
ツナギーズとかいうネーミングセンスの感じられ無いバンドのボーカルをしている、自分とは正反対の人間。
いい年こいて、「メジャーデビューしたら女子アナと結婚して、牛丼卵つき100杯食べてビル1000件買う」という小学生でも言わないような夢を抱いていた。

だけど彼は悪人なんかじゃなかった。
馬鹿だけど気の良い男で、バンド仲間を弟分として大切に想っていた。
彼自身も、ツナギーズのメンバーに兄貴と呼ばれ慕われていた。
佐藤太郎は、決して理不尽に殺されて良い人間ではない。
それは間違いなかったのだ。

だが全ては終わっってしまった出来事。
この後に何が起ころうと、止める術は無い。

「チーッス!佐藤太郎でぇーす!新薬のバイトに……」

弟分の為に引き受けたバイト。
何も知らずに向かった部屋で見たのは、倒れてピクリとも動かない男と、傍に佇む赤い怪人。
初めて見る光景なれど、二人の正体は知っている。
そして、この後何が起こるのかも分かった。分かってしまった。

「う、うわ、うわあああああああああ!?マ、ママーッ!ママーッ!!」

『人の顔を見て逃げ出すとは心外だねぇ』

怯えて腰を抜かし、必死に助けを求める。
その姿を嘲笑うかのように、背中へナイフが投擲された。
あれだけ泣き喚いていたのが一瞬で静まり返り、後に立っているのは赤い怪人のみとなった。

きっと彼でなくとも良かったのだ。
ただ体格や血液型が同じなら、別の誰かでも良かった。
偶然選ばれてしまったが故に佐藤太郎は殺されたのだろう。

それから何が起きたかは、自分の存在が物語っている。
佐藤太郎は命だけでなく顔を奪われ、葛城巧もまた顔と記憶を奪われた。
数分後に部屋を訪れた万丈は殺人の容疑者として刑務所送り、自分は雨の中で元凶の男に拾われる。

全ては宿敵である地球外生命体の筋書き通りに。


282 : Ψ難再び!柊ナナの憂鬱(前編) ◆ytUSxp038U :2021/12/07(火) 22:31:05 lfn1aM6Q0



「………っ」

目を覚ますと体の節々が酷く痛んだ。
ただでさえ佐藤太郎に降りかかった理不尽な悲劇を見たばかりだというのに、余計気分が沈みそうになる。
視界に映ったのはやけに狭い天井。
ガタガタと自分の周りが揺れており、聞きなれた音が耳に入って来る。
どうやら今いるのは車の中らしい、状況を理解した戦兎が横を向けばポニーテールの少女と目が合った。

「…燃堂?」
「お?おぉ!目ぇ覚めたか!お前ぇら!桐生が起きたぞ!」
「ピカピ!(声でかっ!)」

何が嬉しいのか満面の笑みで、前の席に伝える。
膝の上では黄色い犬のような兎のような動物が、驚いたように耳を塞いだ。
狭い車内なんだからそんな大声じゃなくとも良いのではと戦兎は思う。
前の二人も同じ気持ちのようで、呆れ顔を燃堂へ向けた。
とはいえ戦兎が目を覚ましたのには安堵の笑みを浮かべていたが。

「良かった…。起きられたんですね、戦兎さん!」
「ん、ああ。そっちも無事みたいだな」

運転中のナナにそう返すと、助手席の人物に目をやる。
DIOに追いつめられた時、颯爽と現れ共闘した人物だ。
白い長髪を結った少女は戦兎の視線に、片手を軽く上げて口を開いた。

「とりあえず生きてて何よりだ。DIOの野郎に手酷くやられてたからな」
「あんたは……」
「杉元佐一だ。お前の事は柊から聞いてるよ、桐生」

傷は負っているが無事な様子の杉元に安堵する。
杉元が駆け付けて来なければ、あのままDIOに殺されていたかもしれないのだ。
命の恩人とも言える人間がこうして生きているのは、素直に喜ばしい。

「さっきは助かった、杉元。…ってか悪い、助けてもらったのに礼もロクに言ってなかったよな…」
「気にすんなよ。あん時はDIOの相手でそれ所じゃなかったろ」

結局あいつも仕留め切れなかったろうしな、と苦々しい呟きを漏らす。

様子を見るに戦兎が気絶した後、どうにかPK学園を脱出してきたという所か。
DIOは倒せなかったようだが、ナナ達は無事に生き延びられた。
但し全員で脱出、とはいかなかったようだ。
本来ならばこの場にいるはずの少女の姿は見当たらない。

「ナナ。甜歌は?」
「…ごめんなさい。あの状態の甜歌さんを連れて来るのは……」
「…そうか。いや、謝らなくてもいいって」

どうして甜歌を置いて来たんだ、などと責める気は戦兎には一切無い。
DIOを前にして余裕が無かったのは十分理解できる。
そもそも甜歌がおかしくされるのを阻止できず、気絶していた自分がアレコレ言うのはお門違いだろう。
代わりに去来するのは無力感だ。
守ると約束しておきながらこの様。己の不甲斐なさに、どうしようもない怒りが湧く。
幾ら後悔しても甜歌は正気に戻りはしないと分かっても、自分への苛立ちは止められなかった。


283 : Ψ難再び!柊ナナの憂鬱(前編) ◆ytUSxp038U :2021/12/07(火) 22:32:44 lfn1aM6Q0
「…あ!見えてきましたよ!」

ナナの言葉に釣られ正面を見ると、白亜の巨大な建物に近付いていた。
街を出た後、目的地として選んだのは北東にある施設、聖都大学附属病院だった。
戦兎の治療もできるし、当面の拠点としても申し分ない。
PK学園ではやれなかった物資の調達にも最適と、目指す価値は十分あると見ての判断。
杉元としてもDIOやギニューとの連戦で蓄積した疲労を回復しておきたかったので、病院に行くのは反対しなかった。

「何だありゃ…。あんな小奇麗でデカい病院なんて初めて見たぞ…」
「いや、そりゃ病院って言ったら普通はあんなもんだろ」
「マジかよ、病院すっげえ」

驚愕と興奮が混じった杉元の様子に、戦兎は思わず訝し気な目を向ける。
そうこうしている内に、ナナの運転する車はあっという間に到着した。

正面玄関前に停車し、いざ降りようとした時だ。
一行が奇妙なチャイム音を聞いたのは。

「これは…」

聞き覚えのある音が鳴り止んだ直後、上空に巨大な映像が浮かび上がった。
そこに映る仮面の人物を戦兎達は知らないが、声で誰なのか分かった。

「ボンドルド…!!」

自分達を殺し合いに巻き込んだ張本人。
映像越しとはいえ参加者に向けて姿を見せた男に、一行へ緊張感が走る。

「ピガアアアアアアアアア!?ピカピカチュウ!?(うわあああああああああ何だあれ!?血鬼術!?)」
「何見下ろしてんだコラァッ!俺っちが相手になってやるから、下りて来やがれ!!」
「ちょ、モニター相手に大声で騒ぐんじゃないよ!放送が聞こえないでしょーが!」
「もにたぁ?よく分かんねえけど、アレに撃っても意味は無いのか?」

「ちょっと皆さん!静かにしてないとちゃんと聞こえ――」

大騒ぎする男達を内心で呆れながら、落ち着かせようとする。
そんなナナも、ボンドルドに代わり現れた男の姿に一瞬頭が真っ白になった。

『僕の名前は斉木空助。ボンドルドと同じくこの殺し合いの主催者の一人をしているよ』

「おっふ……」

思わずおかしな言葉を放ち、空助と名乗った少年を凝視する。
彼の姿はナナにとって見覚えがあり過ぎるものだった。
というかあれは間違いなく、小野寺キョウヤの体ではないか。
しかもあの男、今何と名乗った?

(斉木だと…。まさか斉木の関係者か?確か斉木のプロフィールには両親の他に兄が一人いると書いてあったが……。
 という事は奴は斉木の父親か兄?そもそも何でキョウヤの体に……)

衝撃が大きくて思考が纏まらない。
とはいえ禁止エリアや死亡者などの情報を疎かにする事だけは避けようと、何とか齎される情報に集中する。
6時間の間に死亡した参加者の顔写真には鳥束のものもあった。
学園で殺されたカエルの中身はやはり彼だったらしい。
能力者が死んだ事自体は別に良いが、斉木に関する情報を聞き出せなかったのは痛手だ。
改めて自分の失態を悔やむ。
一方で犬飼ミチルは生きているらしい。利用価値のある少女の生存を知れたのは悪くない。

必要な情報を話し終えると、空助が最後に自分の肉体の名を告げ映像も消える。
これでキョウヤが空助の身体と化しているとハッキリした。
また一つ、考えなければならない事が増え、小さくため息を吐く。


284 : Ψ難再び!柊ナナの憂鬱(前編) ◆ytUSxp038U :2021/12/07(火) 22:34:33 lfn1aM6Q0
「やっぱりあいつは死んじまってたか…」

喋る二足歩行のカエルの死を告げられ、納得したように杉元が呟く。
学園から脱出する時に彼だけいなかった事からも、何となく予想はしていた為に驚きは無い。
別に親しい仲でも無かったし、名前だって今初めて知った程度の浅い関係。
しかし一度は助けようとした相手だ。ウコチャヌプコロの痛みを理不尽に引き受ける羽目になったのは、流石に同情する。
せめて名前くらいは覚えておいてやろうと、鳥束零太という名を頭に刻んでおく。

(アシリパさん達の身体は無事みたいだな)

死者の身体に杉元が知る人物は、ケロロという二足歩行のカエル以外に無し。
会場にあるかどうかはまだ不明だが、アシリパや白石の体に危害が及んでいないと知れたのは朗報である。

「11人……」

これまでに死亡した人数に、戦兎は渋い表情を作る。
数字だけ見れば三都の戦争で出た犠牲者や、エボルトがブラックホールで吸収した人の数に比べると圧倒的に少ない。
だからといって良かったなどとは微塵も思わないが。
仮面ライダーの力が有りながら、助けられなかった人たちがいる。
その事実が重く圧し掛かった。
死者の中には悪人も含まれていたのかもしれないが、それでも10人以上が死んだと知らされれば良い気分になろうはずが無い。

(エボルトはまだ生きてる……。まぁ、そりゃそうだよな)

因縁深い男の無事にはどこか納得していた。
エボルトのしぶとさは嫌という程に知っているし、余程与えられた肉体に恵まれない限りは下手を踏む事もないだろう。

「ピカ…(どういうことだよ…)」

放送が終わっても放心したまま、震えた声を出すのは善逸だ。
死者として表示された写真の中には鬼が数体いたが、それを吹き飛ばすくらいに衝撃的な人物がいた。
鬼殺隊の炎柱、煉獄杏寿郎。
見間違いではない、確かに煉獄の写真が表示され、名前も呼ばれた。

(どうなって……だって煉獄さんは……)

上弦の参と戦い死んだ男。
その最期は炭治郎と伊之助に看取られ、善逸が来た時には既に事切れていた。
実は生きていた?そんなはずは無い。
煉獄は間違いなく死んだ。なのに、殺し合いで死亡した参加者として名前を告げられた。
これは一体どういうことか。混乱する頭は一つの答えに辿り着く。
自分達は最初に見たではないか、首輪の爆発で殺された人間が生き返る様を。
あの者と同じように、煉獄を殺し合いに参加させる為に生き返らせた。

「ピカ…(そんな…)」

自分が変態天使に怯えている間、煉獄はまたも命を落としてしまった。
あの人と再会し、無事に炭治郎達の所へ一緒に帰る。
きっと炭治郎も伊之助も再会に涙を流して喜ぶだろうし、人間に戻れた禰豆子とも会って話ができただろう。
そんな光景は永遠に訪れない。そう思うとどうしようもなく悲しくて、項垂れるしかできなかった。


285 : Ψ難再び!柊ナナの憂鬱(前編) ◆ytUSxp038U :2021/12/07(火) 22:36:11 lfn1aM6Q0
各々差はあれど表情に陰りが見え、場は重苦しい空気に包まれる。
例外はポカンとした顔で、先程まで巨大な映像が映し出されていた空を眺める燃堂くらいだろう。
傍目からは何を考えているのか分からないが、不意に首を傾げながら疑問を口にした。

「何言ってやがんだ、アイツ。相棒の兄貴はあんな顔じゃねぇぞ?」

その言葉に真っ先に反応したのはナナだ。
参加者同様、主催者も別人の肉体になっている事を理解していないのを理解させるのは無駄に疲れるだけなので無視。
それよりも斉木空助の情報を燃堂は持っている方が重要だ。
まさか燃堂が主催者に関係する情報を知っているとは思わなかったのか、戦兎達も驚いて注目する。

「燃堂さん、貴方は斉木空助の事を知っているんですか?」
「お?お前まで何言ってんだ?お前は相棒の弟なんだから、その兄貴も知ってるだろ?」
「まだ続いてたんですかその設定……。いえ、それより知っている事があったら全部話してください!」

詰め寄るナナの剣幕に少々困惑しつつも、相棒の弟の頼みならと頷く。

「普通の良い兄貴だぜ?前に相棒が外国に旅行に行った時、俺っちとチビも招待してくれたし。
 その後、相棒と鬼ごっこするのにも俺っち達を誘ってくれたしよ」
「わざわざ海外旅行に行ってまで鬼ごっこするのは普通じゃない気がしますけど…。他には?」
「えーと……おっ、そういやケンドーパンチだかってのを出たとか何とか…」
「………ケンブリッジの事か?」
「おお!そういやそんな名前だったな!」

名門大学の出で、弟の友人にも優しい。
分かったのはこれだけだ。
とてもじゃないが殺し合いの首謀者には結びつかない。
斉木の兄なのだから同じく超能力者ではとナナは疑いを抱いたが、そういった情報は手に入らなかった。
燃堂のような馬鹿にそんな大事な話をするはずが無いと言えば、まぁその通りなので納得はいく。
鳥束なら或いは何か知っていた可能性もあるが、死者をアテにしても無意味である。

斉木の身体が殺し合いの参加者に与えられている時点で、兄弟仲がどんなものかは察せる。
燃堂が言うような良い兄貴とはかけ離れた人間だろう。

「とりあえず、中に入らねぇか?いつまでも立ち話してんのも何だしよ」

燃堂の話がひと段落ついたタイミングで提案したのは杉元だ。
空助の事も気になるが、詳しく話し合うのは中の方が良い。
全員少なからず疲弊してるし、戦兎に至っては体中傷だらけである。
外に突っ立っていては悪目立ちするのだから、早い所中で休もう。

その提案に反対の者は無く、ナナが車をデイパックへ収納し終えると、4人と一匹は病院内へと足を踏み入れた。


286 : Ψ難再び!柊ナナの憂鬱(前編) ◆ytUSxp038U :2021/12/07(火) 22:38:33 lfn1aM6Q0



ロビーにて腰を下ろした一行は情報の整理も含めて、改めて自己紹介を行った。
その際、人語を話せない善逸には名簿を見せて、自分の名前を指さす事でどうにか名前だけでも知る事ができた。
尤も名簿を確認した善逸が大騒ぎした為にひと悶着あったが。

「ビガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!?!(はあああああああああああああああああ!!!?!)」
「うおっ!?今度はなんだよ…」
「ピカ!?ピカチュウ!?(え!?え!?どうなってんの!?)」

名簿に自分の名前が載っていた。それは当然だ、驚くことではない。
しかし他の名前が問題だった。
煉獄杏寿郎、胡蝶しのぶ、悲鳴嶼行冥、産屋敷耀哉、そして鬼舞辻無惨。
そのどれもが既に死んだはずの者の名だ。
放送で名を呼ばれた煉獄だけではない、しのぶ達まで生き返らされたという事なのか。
いや、彼らだけならまだ良かった。
殺し合いの為に現世へ魂を呼び戻されるのは良くは無いが、心強い味方なのは確か。
だがよりにもよって、何故無惨まで生き返らせてしまうのか。
どんな体になっているかは分からないが、あの怪物とまた戦わねばならないなど、考えただけで恐怖の余り気絶しそうだ。

善逸の様子からただ事でないのは察せるが、人語を話せないせいで杉元達には何を伝えたいのか分からない。
ただ人語を理解はできるので、杉元達の方から知っている名はどれか、またその者は安全否かを教えるよう言われると、鬼殺隊の隊士の名を指さした時には首を縦に振り、無惨の時には横に振って何とか伝えられた。

無惨以外は協力可能な人物と分かり、改めて互いの持つ情報を交換する。

「何て言うか、とんでもねぇなお前ら」

話しを聞き終えての杉元の第一声には、呆れとも感嘆とも取れる思いが宿っていた。
炎を操る不老不死の少女、厳つい背後霊を出す悪党、電気を放つ珍獣など神秘のオンパレードを見て来たが、
ここに来て能力者だの仮面ライダーとかいうのまで現れた。
極めつけは、参加者はそれぞれ別の世界から連れて来られているという。
杉元自身もアイヌの金塊を巡って平穏とはかけ離れた世界にどっぷり浸かっている身だが、スケールの大き過ぎる話には軽く眩暈がしそうだった。

「いや、お前も大概だと思うぞ」

呆れたように言葉を返すのは戦兎。
確かに杉元の周りには仮面ライダーなどに関係する存在はいないが、驚くべき事実は見つかった。
杉元がいたのは平成の時代より100年以上も前、明治時代の日本だという。
話しをしてどうにも噛み合わない部分が多いとは感じていたが、まさか過去の時代の人間だとは思わなかった。
ボンドルド達は世界だけでなく、時間をも自由に行き来可能らしい。
主催者は一体どれ程の力を我が物にしているのか、底知れなさに改めて警戒心が強まる。

「ピカピカー……(色々衝撃過ぎて付いていけないんだけど……)」

頭を抱えて苦悶の鳴き声を出すのは善逸だ。
彼にとって杉元は過去の人間であり、戦兎達は未来の人間。
更には存在する世界自体も違うという。
正直受け入れようとするだけで頭がパンクしそうだが、この気持ちを言葉で伝えられないのはもどかしい。


287 : Ψ難再び!柊ナナの憂鬱(前編) ◆ytUSxp038U :2021/12/07(火) 22:41:27 lfn1aM6Q0
「で、お前らの話を聞いてて思ったんだけどよ。DIOも柊が言う能力者ってやつで、あの白い鎧も仮面なんちゃらか?」

杉元が話題にするのは、目下最大の脅威でもある男について。
丁度二人から聞いた存在に当て嵌まる力の持ち主な為、何か知っているのではと尋ねてみる。
が、返答は芳しくない。

「ごめんなさい、私の世界の能力者かどうかまでは……」
「仮面ライダーだってのは間違いないと思う。ただ、アイツが使ってたバックルもメモリも俺は初めて見たからな…」

精神か肉体か、どちらにせよDIOが人型実体を出現させる能力の持ち主なのは分かるが、そういった能力者を把握していると委員会からは聞いた事が無い。
それに参加者には自分の肉体の斉木を始めとして、平行世界出身の能力者も存在する。
DIOも斉木と同じく、ナナがいたのとは別の世界の能力者の可能性も有る以上、自分の世界だけの常識に当て嵌める事はしなかった。

戦兎もまたDIOが変身したのが仮面ライダーだとは分かるものの、嘗て共闘したライダー達の中にメモリで変身する者はいなかった為、その正体までは分からない。
ディケイドやゼロワンだけでなく、他にも戦兎の知らないライダーが大勢いるのだろうか。
現にディケイドライバーに入っていたカードには、見た事も無いライダーのカードが幾つもあった。
あの白いライダーに元々どんな人物が変身していたにせよ、DIOのような悪党の手にその力が渡っているのは非常に厄介だ。

「私の方からも皆さんに聞きたい事があるんですけど、良いですか?」

次いで質問をしたのはナナだ。
全員の視線が集まるのを確認すると、己の抱く疑問を口にする。

「殺し合いの、主催者とも言うべき人達。ボンドルドの仲間についてです」

ボンドルドとその仲間。
殺し合いに反対の立場の者にとっては、彼らとの戦いは避けて通れない難題。
必然的に空気が引き締まる。

「参加者が最初に集められた場所で、ボンドルドは「私たち」と言っていました。事実、さっきの放送では斉木空助というキョウヤさんの身体を奪った男が姿を見せています。
 となると、他にもボンドルドには複数の協力者がいてもおかしくはないと思うんです」

60名の、肉体側も合わせると120名もの参加者を平行世界から集め、精神を別の肉体に閉じ込め、首輪を開発・装着し、能力者が入り混じる殺し合いを運営する。
とてもじゃないが1人、2人で行えるとは思えない。

「だからボンドルドに協力している可能性の高い人間に、心当たりがあれば聞いておきたいと思いまして」
「そう言う柊にはその協力者の心当たりは無いのか?」
「私は……ちょっと分からないですね」

ナナの言葉は嘘では無く本心だ。
身の回りの人間に主催者に加わっている者がいるかを考えてみたものの、該当する人物は無し。
将来的には人類の敵となるクラスメイト達も、現段階ではボンドルドと肩を並べる程の頭角を現してはいない。
一瞬、もしや委員会が能力者を消し去る為に開いたのではとも思い浮かんだが、それならナナに何の説明も無いのはおかしいし、参加しているクラスメイトが犬飼ミチルだけなのも不自然。
加えて燃堂や甜歌のような無能力者まで参加させる意味が分からない。
よって委員会は無関係だろう。

「って言われてもなぁ…」

腕を組んで杉元は頭を捻る。
可能性の一つとして浮かんだのは第七師団を率いて金塊を手に入れんと目論む男、鶴見中尉だ。
金塊よりも手っ取り早く目的を達成する手段として、ボンドルドの言う「どんな願いも叶える」という力目当てに協力していると考えられなくも無い。
だがこう言っては何だが、わざわざボンドルドが協力者として引き入れるような人間かは疑問である。
確かに鶴見は中尉の階級となるだけの能力はあるし、杉元でさえ気味が悪いと感じる得体の知れなさを秘めている。
しかしそれだけで、こうも大掛かりな殺し合いの運営の一端を任せるかと聞かれると、可能性は低い気がする。
鶴見よりなら妹紅が住まう幻想郷とか言う地の住人の方が、まだ可能性はあると思う。

「ピカピ……」

善逸もまた頭を捻って考えるが、これといった人物は思い浮かばない。
一番可能性が高いのは無惨であるが、当の無惨は参加者として会場のどこかにいる。
他の鬼に関しても、主である無惨を裏切って主催側に付くとは考えにくい。


288 : Ψ難再び!柊ナナの憂鬱(前編) ◆ytUSxp038U :2021/12/07(火) 22:44:03 lfn1aM6Q0
「燃堂さんはどうです?」
「……あっ!そういや主催って言えばよ、俺っちの街の名物でゴミ拾い大会ってのが――」
「すみませんもう結構です。戦兎さんは誰か心当たりはありますか?」

聞いた自分が馬鹿だったと燃堂の話は打ち切り、まともな相手に話を振る。
眉間に皺を寄せ考え込んでいる様子の戦兎は、ナナが望んでいるだろう答えを返した。

「…ああ、候補としては3人浮かんだ」
「そ、そんなにですか…?」
「多いなおい。お前の世界どんだけヤベェんだよ」

反射的にツッコミを入れる杉元に「ほっとけ」と少しバツが悪そうに返し、主催者側にいる可能性のある者達について説明する。

平行世界移動装置エニグマを使い、二つの世界を融合させ不老不死になろうと目論んだ最上魁星。
美空達や日本の全国民を洗脳し戦兎を追い詰め、エボルトに代わり地球を滅ぼそうとした伊能賢剛。
宇宙全土を巻き込んで自殺するという破滅願望を叶える為に、新世界へ現れたエボルトの兄のキルバス。
彼らならば主催者側にいても何ら不思議は無い。
但しそれは生きていたらの話。3人とも既に戦兎達によって倒されこの世にはいない。
と言ってもボンドルドが死者を生き返らせる事が可能であれば、見せしめにされた者のように復活し殺し合いを運営しているとも考えられる。

「まぁ、本当にボンドルド達が死んだ奴を生き返らせられれば、の話だけど」
「…いや、何でも願いを叶えるってのは怪しいけど、死人を生き返らせるのはあながち嘘とも言えないと思うぜ」

名簿を取り出すと、全員に見えるようにしてある名前を指し示す。
杉元の人差し指の先にあるのは、「姉畑支遁」という名があった。

「この姉畑って奴は間違いなく死んだ人間なんだよ。なのに殺し合いに参加してるし、お前らと会う前に俺は実際に遭遇してる」

姉畑は羆とのウコチャヌプコロにより、挿入したままこの世を去った。
その後で彼の死体から入れ墨皮も剥いだし、実は生きていたというのは有り得ない。
杉元の証言により、死者蘇生の力への信憑性高まる。

それに意義を唱えるのはナナだ。

「いえ、ちょっと待ってください。その姉畑という人は、死ぬ前の時間から連れて来られたとは考えられませんか?
 杉元さんみたいに過去の時代の人間を参加者にするのなら、不可能じゃない筈です」
「…確かにな」
「ピカチュウ…?(じゃあ、煉獄さんやしのぶさんも死ぬ前から連れて来られてる…?)」
「つまり……あの先生は羆とウコチャヌプコロする前の先生って事か?」
「ウコチャ……え、何ですかそれは?」

ナナの考えに納得した様子で頷く戦兎。
最上や伊能が死ぬ前の時間から連れ出され、ボンドルドと協力しているのは有り得ない話ではない。

「ただ、本当にあいつらが殺し合いに関わってるかどうかは分かんねえんだよな…」

現状、本当に最上達が主催側にいるかどうかは、そういう可能性もある程度の話しでしかない。
それに参加者が複数の平行世界から集められている以上、戦兎のいた世界の出身者のみが主催者に協力しているとは限らない。
加えて、もし本当に最上や伊能がボンドルドに協力しているのなら、戦兎とエボルトだけを参加させるのも不自然である。
万丈や一海、幻徳など邪魔な仮面ライダーを全員集めるくらいはしそうなものだ。

結局、今は可能性の一つとして留めて置くと言う事で話しは付いた。
続いて戦兎がずっと気に掛かっていた件について話す。

「さっきの放送、アレがちょっと気になってな…」
「何がですか?」
「最初に出て来たのはボンドルドだけど、連絡事項を伝えたのは空助だったろ?それがどうにも引っ掛かるんだよ。
 だって禁止エリアとか死亡者の発表は別にボンドルドがそのまま伝えたって問題無い筈だ。なのに、アイツはわざわざ空助に連絡させた。何でだ?」
「何でってそりゃ……空助の存在を参加者に教える為、か?」

首を傾げて答えを捻り出した杉元に頷き返す。
先程の定時放送、内容は参加者にとって重要な事柄ばかりだが、それを伝える役目はボンドルドでも良かっただろう。
そもそも主催者側に誰がいるかを紹介する事自体、ハッキリ言って無意味だ。
主催者達が参加者に求めているのは、殺し合いの優勝者が出る事のみ。
不必要に自分達の情報を明かした所で何になるというか。
それがわざわざボンドルドの協力者の一人として顔を出したのは、空助が自分の存在を参加者に明かす事に何か意味があるからではないか。
自分がキョウヤの体で主催側にいる事を、参加者に伝える為ではないか。


289 : Ψ難再び!柊ナナの憂鬱(前編) ◆ytUSxp038U :2021/12/07(火) 22:46:05 lfn1aM6Q0
空助の存在に最も影響を受ける参加者、それは――

「私、ですよね……」

斉木空助の弟の体となり、小野寺キョウヤのクラスメイトであるナナしかいない。
空助の思惑通りか、彼の存在を知ったナナは大きく動揺した。
だがそれだけだ。ナナの殺し合いにおける方針を大きく変えるような事は起きていない。
では空助は一体何をナナに伝えたかったのか?

「人質として小野寺キョウヤの存在をチラつかせてる、のか…?体は空助に奪われてるし、精神は別の身体に入って捕まってるのかもしれないし」
「そう、かもしれません……。うーん…ハッキリとは分からないですね…」

一応頷きつつ、内心ではそれは無いなと否定する。
ナナにとってキョウヤはクラスメイトであるが、殺すべき人類の敵の一人。
仲間意識など皆無、人質としては機能しない。
おまけにキョウヤは中島ナナオの失踪を嗅ぎまわっているのもあり、ナナからすればボンドルドに始末されている方が好都合だ。
空助が何をしたかったのか、こちらも明確な答えは出せずに話しは終わった。

色々と考えてはみたが、余計に分からない事が増えた気がする。
燃堂以外は疲れたような顔を浮かべる中、空気を変えるように杉元が立ち上がった。

「とりあえず、暫く休まねぇか?。それに桐生は傷も何とかした方が良いだろ」

言われて思い出したように体が痛むのを戦兎は感じる。
散々DIOに殴られた挙句、甜歌に斬られたのだ。
変身していなかったらとっくに死んでいた。
幸いにして今いる場所は病院、傷の治療にはこれ以上ないくらいにうってつけだ。

椅子から立とうとしフラついた所を、杉元に肩を支えられた。

「っと、悪い」
「気にすんなよ。俺はこいつを手当てできそうな部屋に連れてく」
「はい!戦兎さんの事はお願いしますね!」

戦兎と杉元がロビーを後にし、話は一旦お開きとなった。


290 : Ψ難再び!柊ナナの憂鬱(後編) ◆ytUSxp038U :2021/12/07(火) 22:48:38 lfn1aM6Q0



「なぁ、小力3号」
「ピカ?ピカピ……(えっ?何か勝手に名前付けられてるよ俺……)」

ぼうっと天井を眺めながら、燃堂は不意に善逸へ話しかける。
ちなみに2号は彼が飼っているハムスターだ。

戦兎達が移動してそう間もなく、ナナは「使える物がないか探してきます」と言い残し移動した為、現在一階のロビーには一人と一匹が残されていた。
善逸からすればこの状況は少々気まずい。
人語を話せないせいでロクに意思疎通が出来ないのもあるが、燃堂とどう接すれば良いのかが分からない。
体は可愛い女の子だが中身は男。しかも善逸ですら呆れて物も言えないくらいのバカなのだ。
正直伊之助の方が遥かにマシなのではと思えるくらいに。

善逸の内心など知らずに、燃堂は視線を宙に向けたまま続ける。

「鳥束の奴は、ほんとに死んじまったんか?」

言葉に詰まる。
鳥束が死んだのは誤魔化しようの無い事実だ。
放送でも名前を発表されたし、何より善逸自身がハッキリと見た。
机の脚が口の中を貫通し、息絶える瞬間を確かに見たのだ。
故に暫しの躊躇を見せた後、首を縦に振り肯定の意を示す。

「そうかぁ……」

一言だけ呟き、それっきり燃堂は黙り込んだ。

今更言うまでも無いが、彼はとんでもないバカだ。
彼の肉体に入った空条承太郎に支給されたプロフィールに、わざわざバカと記すくらいのバカである。
そんな彼でも、この6時間の間に見て来た光景から、自分が異常な場に連れて来られたと何となくではあるが理解していた。
喋るカエルが殺され、戦兎が傷だらけになり、PK学園を出る時のナナや杉元の様子は鬼気迫るものがあった。
だからそう、鳥束が死んだと放送で言ったのも本当なのだろう。

燃堂と鳥束は知り合いではあるが、そこまで親しい仲という訳でもない。
クラスが違うし、偶に斉木と話しているのを見かけるくらいの関係。
けれど死んだという事は、もう斉木と鳥束が一緒に居るのを見る事は二度と無い。

燃堂にとって死とは身近なものではない。
彼の周りには普通じゃない人間が複数いるが、彼自身は殺伐とした世界とは無縁の人間。
実の父親は彼が生まれる前に死んでおり、悲しいとかそういう感情も湧かない。


291 : Ψ難再び!柊ナナの憂鬱(後編) ◆ytUSxp038U :2021/12/07(火) 22:49:45 lfn1aM6Q0
燃堂なりに考えてみる。
もし死んだのが鳥束よりももっと身近な人間だったら、自分は何を思っただろう。

チビと呼んでいる少年だったら?
アイツと二度と馬鹿騒ぎできないのは寂しい。それにあのチビは、喧嘩はからっきしのビビリの癖に友だち想いの良い奴だ。
真面目そうな外見の癖して、実は元不良の少年だったら?
アイツも何時の間にか自分達とよくつるむ仲だし、いなくなるのは寂しい。
クラスのリーダーポジで、人一倍暑苦しい少年だったら?
事ある毎に勝負を挑んでくる、そんな日常が無くなるのは寂しい。
学園一の美少女であるあの人は?
駄目だ。彼女がいなくなったらもう二度と「おっふ」出来ない。耐えられない。
事ある毎に偉そうにしている、金持ちの少年は?
一度アイツが転校すると聞いた時に泣き出したのだ。死んで欲しいなんて思うはずが無い。

では彼なら、相棒と呼んでいる少年がもし死んでしまったら?

「……」

寂しい。やっぱり寂しいのだ。
だって彼らは皆、燃堂の日常に存在するのが当たり前となっている人間なのだから。
学校の行事とか、休みの日に遊びに行ったりで、これから先も共に馬鹿をやれる連中が欠けるのは、無性に悲しい。
鳥束とはそこまで親しくは無い。だけど、そんな彼でももういないのだと思うと、寂しい気持ちは抑えられない。
自分でさえこれなら、鳥束と親しかった斉木はどう感じるのだろう。
そう思うと、訳も分からず心が重くなった。

「ピカ……」

黙りこくった燃堂に善逸は何も言ってやれなかった。
彼とてそこまで鳥束と親しかった訳ではないし、名前だってさっきの放送で初めて知ったくらいだ。
けれど、死んで良いような人間ではなかったと思う。
ロクでもない事を考えていそうなスケベな男だったが、悪い奴では無かった。
しかし死んだ。善逸の目の前で、呆気なく。

(俺って、いっつもこうだよなぁ…)

判断が、行動が遅い。
そのせいで気付いた時には手遅れとなっている。
鳥束が殺されるのを防げなかった。
煉獄が参加しているのに気付けず、知った時にはまたもや命を落としていた。
殺し合いの前からそうだ。
兄弟子が取り返しのつかない過ちを犯すのを止められず、師は責任を取り自ら腹を切った。
自分がやれたのは、兄弟子の頸を斬り落とす事だけだった。
悔やんだ所で過去は変えられない、分かっていても憂鬱な気持ちになる。

普段の彼らには似つかわしくない、重苦しい空気が漂う。
それでも何かを口にする事は無かった。


292 : Ψ難再び!柊ナナの憂鬱(後編) ◆ytUSxp038U :2021/12/07(火) 22:51:46 lfn1aM6Q0



「うっし、終わったぞ」

一通りの処置が終わると、立ち上がり軽く首を回して筋肉を解す。
杉元の目の前には衣服を開けた戦兎の姿があった、
体のそこかしこにある包帯やらガーゼは、杉元が手当てをした証だ。
軍人である杉元にとって傷の処置など慣れたもの。
時には衛生兵の手を借りられず、自分一人でどうにかしなければならない状況など腐る程経験してきた。

「おう、サンキュ」

礼を言って服を着直す。
本当に今更なのだが、佐藤太郎の身体で無茶をし過ぎたのが申し訳なく思った。
ふと、処置をしている最中に気になった事を杉元が口にする。

「なぁ、俺がやる前から巻かれてた包帯、ありゃお前が自分でやったのか?」
「…いや、これは甜歌がやってくれたものだよ」

どことなく沈んだ面持ちとなる戦兎に、自分の失言を悟り帽子を深く被り直そうとする。
と、妹紅の体では帽子を被っていないのを思い出した。
入浴時にも肌身離さず被っているのが無いのは、少々落ち着かない。
手持無沙汰を誤魔化すように毛先を弄りながら、言葉を返す。

「DIOにおかしくされちまった娘か」
「ああ。…守るって約束したのにな」

現実には守るどころかDIOに洗脳されるのを許す始末。
こんな様では正義のヒーロー失格だ。
だが自嘲はしても、投げ出すつもりはない。
恐らくは、DIOに甜歌を今すぐ殺す気は無いだろう。
洗脳された今の甜歌はDIOの忠実な僕。どんな命令でも聞く都合の良い存在をアッサリ切り捨てるような真似をするとは思えない。
だから甜歌を救う機会はまだ残っている。

(それに洗脳を解く方法もある)

甜歌が急にDIOの言い成りになったのは、間違いなくDIOに嗅がされた小瓶が原因。
具体的にどういった効果の支給品かは不明だが、洗脳を解除する術が今の所一つだけ存在する。
ビルドの最終形態、ジーニアスフォームの能力ならば可能だと戦兎は考える。
ジーニアスフォームに必要不可欠なフルボトル、ジーニアスボトルには浄化作用があり、キルバスの毒を解毒した事もあった。
戦兎が現在変身するジーニアスフォームはディケイドライバーの力で変身するのだが、DIOとの戦闘ではジーニアスの固有能力を変わらずに使用できた。
故に変身手段は違えど、浄化能力も健在であると見る。

方法があるなら、後は行動に移すだけ。
甜歌を助け出して、DIOを倒す。
口にするのは簡単だが、DIOは強敵だ。苦戦は免れない。
だからといって甜歌を見捨てる気は微塵も無い。
DIOの事だ、自分に代わり参加者を殺させるくらい平気でやるだろう。
もし甜歌が正気に戻っても、洗脳されてる間に人を殺してしまったと知れば、彼女の心には永遠に消えない傷が刻まれてしまう。
嘗て、ハザードフォームを制御出来ずに青羽を殺した戦兎のように。
あの時と同じような目に甜歌を遭わせるなど断じて御免だ。


293 : Ψ難再び!柊ナナの憂鬱(後編) ◆ytUSxp038U :2021/12/07(火) 22:53:01 lfn1aM6Q0
「まぁあれだ。甜歌って娘を助けるんなら、少しでも体力付けとかねえと話にならねえだろ」
「ああ、分かってる」

今すぐ飛び出して行ってどうにかなるような問題ではない。
甜歌を助けるのにDIOとの戦闘は避けられない以上、体力の回復は必須。
杉元の言葉は全くの正論だ。

杉元がデイパックから弁当を取り出したのに習い、戦兎も食事にする。
傷の処置が終わったなら、後は食べて不足したエネルギーを取り込むに限る。
何の変哲も無いコンビニ弁当の蓋を開け、箸を付けた。

「凄ぇなこの弁当。こんなの気軽に食える機会早々無ぇぞ」
「俺らの時代じゃどこでも売ってるけどな。普通のコンビニ弁当だし」
「凄すぎかよ未来」

杉元が食べるのは生姜焼き弁当だ。
少し冷めてはいるが豚肉は噛み応えがあって、濃いめの味付けは食欲を刺激する。
付け合わせの柴漬けも程良いしょっぱさだ、米が大盛で無いのが悔やまれた。
きんぴらごぼうや卵焼きも良い。ボンドルドに支給された、という点を除けば満足のいく食事となっただろう。

「ヒンナヒンナ」

自然と口に出る、食事への感謝を込めたアイヌの言葉。
弁当を用意したボンドルドは叩き潰す相手であるが、弁当自体に罪は無い。
自身の糧となった事への感謝はすべきである。

(そんな顔もするんだな…)

弁当に舌鼓を打つ杉元を、少し意外そうに戦兎は見やる。
DIOと戦った時の鬼神のような姿からは想像も出来ない、肉体の外見に相応しいあどけなさがあった。

食事を堪能している間も、杉元は今後の動きをどうするか頭を働かせる。
戦兎達と縁を作れたのは僥倖だ。
自分と同じく殺し合いに乗る気は無く、しかも首輪を外せるかもしれない技能がある。
このまま行動を共にして損は無い。

一方で悩みの種は尽きない。
DIOと奴に従う猿だけでなく、戦兎の話に出て来たエボルトとか言う化け物や、天使のような見た目の少年、更には鬼舞辻無惨なる者にも警戒が必要となる。
また天使のような見た目と言えば、姉畑にも引き続き注意しなくては。
どうせあの男の事だ、善逸の尻を今でも狙っているに違いない。
こんな時くらい自重して欲しいものではあるが、それが出来ない人間だから囚人になったのだろう。
尤もどんな相手だろうと、立ち塞がるなら叩き潰すだけだ。
いずれ来る戦いに向けて今は体を休め、牙を研ぐ。

また放送で知らされた精神と肉体の組み合わせが記された名簿、あれもどうにか手に入れたい。
肉体側の名も載っている名簿を見れば、アシリパ達の体が巻き込まれているかどうかが一発で分かる。
名簿を手に入れられたのは参加者を殺した者だけであり、仮に今すぐ誰かを殺しても、手に入るのは次の放送後だ。
だったら既に手に入れている奴の名簿を見る方が手っ取り早い。
もし名簿を持っている人間が殺し合いに乗っていないのなら問題ない、見せてくれと素直に頼めば済む話だ。
反対に乗っている人間ならば、殺して奪い取る。
名簿を手に入れられて危険な参加者を減らせるのだから一石二鳥だ。

暫く休んだら、どう動くかをまた話し合うとしよう。
考えを纏め、肉を咀嚼しながら部屋を見回す。
杉元からしたら未知の光景が広がっている病院も、戦兎やナナからしたら珍しいものでもない。
彼らの時代では当たり前の設備や内装と言うのだから、驚くしかない。
100年以上も未来の病院なのだから、当然医療技術も大きく進化しているのだろう。

(……)

もしも、もしもの話だが。
未来の病院へ自由に行き来できるなら、若しくは未来の医療技術を自分のいた時代に持って帰るのなら、
金塊を手に入れずとも故郷に残した“彼女”の目を治せるのかもしれない。
逝ってしまった友があの世でも安心できる、それが可能ではないかと思わずにはいられなかった。


294 : Ψ難再び!柊ナナの憂鬱(後編) ◆ytUSxp038U :2021/12/07(火) 22:55:49 lfn1aM6Q0



「こんなもので良いな」

必要な物をデイパックに仕舞い終え、一息つく。

燃堂たちの元を離れたナナは、PK学園ではできなかった物資の調達を行っていた。
包帯や消毒薬、各種医薬品など治療に必要な物。
メスや剪刃など、用途多数の刃物類。
その他、使い道のありそうな物は手に入れられた。
車が入っていた事から分かるように、デイパックにはどんな物でも入る上に重さは変わらない。
この点は非常に便利と言える。

近くの椅子に腰を下ろし、水を取り出して口に付ける。
口の中を潤すと、ロビーでの情報交換を思い返した。

病院にいる自分以外の4人の男。燃堂以外は有能な人材だろう。
脱出か優勝、どちらを選ぶにしてもDIOのような参加者を相手にするのは、斉木の超能力も使えないナナの手には余る。
故に戦力となる参加者と協力を取り付けられたのは、悪くない傾向だ。
仮面ライダーに変身し、首輪解除の有力候補である戦兎は言わずもがな。
善逸は意思疎通に少々苦労するものの、殺し合いに乗っていないだろう人物と分かればそれで良い。
そして杉元佐一。炎使いの少女の体となった、過去の時代の元軍人。
炎を操る能力者と言えばクラスメイトの飯島モグオがいるが、ガキ大将を気取るだけのモグオと、本物の戦場を生き抜いて来た杉元、どちらが強いかは言うまでもない。
DIOとも正面切って戦えるだけの力は今後も有効活用させて貰う。

病院にいる者以外で一番気になるのは、やはり小野寺キョウヤの存在だ。
生きていようが死んでいようがどうでもいい、むしろ死んでいると好都合な存在。
キョウヤの肉体を手に入れ、斉木空助は何がしたいのだろうか。

(キョウヤの持つ不老不死が狙いか?)

可能性は、ある。
老いる事も死ぬ事も無い、完璧な肉体。
それを手に入れるべくキョウヤの体を奪ったというのならば、動機としては納得がいく。
ただ、それと戦兎が言ったわざわざ参加者に自分の存在をアピールするのがどう繋がるかが不明。

空助は何をやりたかったのか、答えが出ずに頭の中で疑問がグルグルと渦巻き、やがてある可能性に辿り着いた。

「前提が……間違っている?」

これまで自分は、キョウヤが空助により一方的に肉体を奪われたと思っていた。
形こそ多少違えど、キョウヤも参加者と同じボンドルドの被害者。
そう思っていたが実際は違うとしたら?

キョウヤは一方的に体を奪われたのではなく、同意の上で体を差し出したとは考えられないだろうか。
ボンドルドや空助と何らかの利害が一致し、その見返りとして空助に体を渡した。
或いは他の理由があるかもしれないが、とにかくキョウヤの体が空助のモノになったのは、キョウヤ自身も承知の上での事。


295 : Ψ難再び!柊ナナの憂鬱(後編) ◆ytUSxp038U :2021/12/07(火) 22:57:34 lfn1aM6Q0
つまり小野寺キョウヤはボンドルドの被害者などではなく、ボンドルドの協力者である。

この考えが正しければ、ナナにとってはマズい事態となる。
キョウヤが殺し合いを運営する側にいるのなら、参加者の詳細なプロフィールを獲得しているはず。
という事は、ナナの素性もバレてしまっている可能性が非常に高い。
過去や未来に別世界をも自由に行き来可能な力を持つ連中だ、ナナの素性を暴くくらいは容易いだろう。

もしキョウヤがナナの正体、能力者抹殺の為に送り込まれたスパイの無能力者を知っているのなら、
ただ単に殺し合いから脱出すれば良いという話ではなくなる。
当たり前だが、潜入任務で潜入先の人物に素性がバレるなどあってはならない失態だ。
無事に元居た場所へ帰れても、キョウヤに秘密を握られている以上任務達成はほぼ不可能。
クラスメイト全員の前で決定的な証拠と共に正体と、中島ナナオ・渋沢ヨウヘイ殺しを曝露されれば、自分に逃げ場は無い。
これを防ぐには、キョウヤを殺しておく必要がある。
体が空助と変えられているなら、不死身ではないだろう。しかしどんな体になっているのかは不明。
もしかすると、斉木のような強大な能力者になっていないとも限らない。

キョウヤが主催者の一員だと明確になった訳ではないが、可能性は無視できない。
元の世界の学校にいた時からそうだが、あの男は本当に自分の邪魔ばかりすると、頭が痛くなった。

「全く……考える事が多過ぎる…」

最初に燃堂と遭遇してしまった時から始まり、6時間が経過しても悩みの種は尽きない。
放送で画面に映ったキョウヤの、アンテナを装着し胡散臭い笑みを浮かべた姿を思い出すと只々ため息が――

「――――っ!」

ハッとして頭部に手をやる。
触り慣れた本来の頭髪ではない、少年の髪の毛の感触が伝わった。
それだけではない、普通であれば人間の頭部には無い物が存在する。
先がボールのような形状になった、二本のアンテナだ。

燃堂と出会う前、自分の姿を鏡で確認した時からこのアンテナは頭部に刺さっていた。
ファッションと言うには奇抜過ぎる、奇妙としか言いようのない物体。
プロフィールの顔写真でもアンテナが刺さっていたので、前々から斉木が身に着けているものらしい。
何故こんなものを刺しているのか疑問に思ったが、プロフィールを読んで理解した。
アンテナの正体、片方は超能力の制御装置、もう片方は抜くと斉木が超能力者であると全世界に曝露される仕掛けがあるとのこと。
ナナでは斉木の超能力を使えないし、斉木の素性がバレた所でどうでもいいが、もし抜いてみて想定外の事態が起こったらそれはそれで困る。
触らぬ神に祟りなしと、アンテナには不用意に触れないようにしてきた。

が、冷静にこれまでの事を振り返ってみれば何ともおかしな話だ。
ナナ本人が気になったように、普通はこんなアンテナが突き刺さっていたら疑問に思い言及するだろう。
どうしてそんな物を付けているのだとか、聞いて来るのが当然の反応である。
ナナだって、斉木のようなアンテナを付けている人間がいたら不審に思い質問する。

それが実際にはどうだ。

燃堂はバカだから疑問を抱きもしないのは理解できる。
だが戦兎も、甜歌も、杉元も、善逸ですらアンテナに関しては何も言って来ない。
変わったファッションとしてあえて触れなかったという可能性があるにしても、訝し気な視線一つ寄越さないのはどういう理由だ?
他人の体になったとはいえ、観察力まで衰えたつもりはない。
戦兎達から、斉木のアンテナに妙なものを見るような目を向けられた覚えは一切無い。
つまり彼らにとって頭部にアンテナ二本を刺した斉木の姿は、言及する必要のない至って普通の姿と認識されたという事か。


296 : Ψ難再び!柊ナナの憂鬱(後編) ◆ytUSxp038U :2021/12/07(火) 22:59:33 lfn1aM6Q0
「まさか…」

一つの予感に突き動かされ、閉じたばかりのデイパックの口を開く。
中身を乱暴に漁り、手に取ったのは斉木のプロフィールだ。
既に隅々まで目を通した用紙を、もう一度読み進めていく。
すると、最後まで読み切る前にある一点に視線が釘付けとなる。
その項目は斉木が使える能力の一覧と簡易な説明。
内の一つ、「マインドコントロール」だった。

斉木楠雄が頭部に制御装置を着けているのは、殺し合いよりもずっと前、元の世界にいた時からだ。
成長と同時に超能力も強くなり、次第に制御が難しくなっていった。
そして小学校の時、陰湿ないじめの現場に直面した際に力を抑えられず、教室を破壊しいじめっ子達へ重傷を負わせるという事件まで起こした事がある。
尤も直ぐに治療や隠蔽をした為、斉木の仕業とはバレなかった。
変わりにこの事件のせいで、虐められていたクラスメイトに長年疑われ続けるのだが、それはまた別の話。

その後、実の兄である空助が開発した制御装置を頭に刺した為に、基本的には能力の暴走は起こらなくなった。
但し当然この装置、事情を知っている両親と兄以外には異様な物に映ってしまう。
そこで斉木はマインドコントロールという大掛かりな能力を使い、自分が住まう世界の常識を改変したのだ。
改変されたものの一つこそが、制御装置をごく普通の物と認識すること。
これにより斉木の制御装置は事情を知らない者からは、ただのヘアピンとしか見られていない。
松崎教諭による校門前での厳しいチェックも、マインドコントロールの影響で何時も無事に突破していた。

しかしマインドコントロールの影響下にあるのは、あくまで斉木のいた世界の住人だけのはず。
それが何故、別の世界出身の参加者まで影響を受けているのか。

(やはり斉木もボンドルド達の仲間だから…?)

単純に考えれば、主催者側にいる斉木がマインドコントロールを使って参加者の認識を弄った。
斉木の体となっているナナ以外は、能力の影響下にあるという事になる。
ただその場合、何故自分の体を参加者に与えたのかが疑問だ。
それに自分の体でなくとも超能力が使えるのか?という謎も新たに生まれる。
もしかしたら先に自分の体でマインドコントロールを使った後、ナナと体を入れ替えたのかもしれないが、
結局どうして自分の体を手放したのかに説明が付かない。

となると別の仮説。
マインドコントロールを使ったのは斉木楠雄本人ではなく、その体に精神を閉じ込められた人物。

「私が、やった…?」

意図してではなく、無意識にマインドコントロールを発動した。
そんな馬鹿なと思わず呟き、両方の掌を見下ろす。
一応試してはみたが、斉木の超能力は一つも使えなかった。
それがここに来て実は使えていたなど、すぐに理解しろというのは無茶である。
大体ナナ自身は、超能力が使えない事をむしろ当然だろうなと受け止めていた。
理由は一つ。強過ぎるのだ、斉木楠雄という少年は。

もしも自分が斉木持つ力を全て使えるとしたら?
参加者を皆殺しにして優勝する事も、首輪を解除し主催者を殲滅する事も容易い。
殺し合いを完全に破綻させるだけの力が、斉木楠雄にはある。
無論、出来レースも殺し合いの崩壊もボンドルドが望む筈は無く、他人の精神では超能力が使えないと見越して斉木の体を与えたのだろう。

しかし今、ナナでも超能力が使えるという可能性が生まれた。
あくまで可能性の段階であっても、軽く見る事は出来ない。

「これも、お前達の望む事なのか?」

ボンドルド、斉木空助、そして小野寺キョウヤ。
殺し合いを始めた連中への問い掛けに、答えは返って来ない。

だがナナはその沈黙こそが肯定の証ではないかと、根拠も無いのにそう感じた。


297 : Ψ難再び!柊ナナの憂鬱(後編) ◆ytUSxp038U :2021/12/07(火) 23:01:20 lfn1aM6Q0
【D-2と3の境界 聖都大学附属病院前/早朝】

【柊ナナ@無能なナナ】
[身体]:斉木楠雄@斉木楠雄のΨ難
[状態]:疲労(小)、精神的疲労
[装備]:フリーズロッド@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品、サッポロビールの宣伝販売車@ゴールデンカムイ、ランダム支給品0〜2(確認済み)、病院内で手に入れた道具多数
[思考・状況]
基本方針:まずは脱出方法を探す。他の脱出方法が見つからなければ優勝狙い
1:病院内にいる者達と行動。正直嫌だが燃堂とも
2:斉木楠雄はやはり超能力者なのか?
3:犬飼ミチルとは可能なら合流しておく。能力にはあまり期待しない
4:首輪の解除方法を探しておきたい。今の所は桐生戦兎に期待
5:能力者がいたならば殺害する。並行世界の人物であろうと関係ない
6:エボルトを警戒。万が一自分の世界に来られては一大事なので殺しておきたい
7:天使のような姿の少年(デビハムくん)も警戒しておく
8:可能であれば主催者が持つ並行世界へ移動する手段もどうにかしたい
9:何故小野寺キョウヤの体が主催者側にある?斉木空助は何がしたい?
[備考]
※原作5話終了直後辺りからの参戦とします。
※斉木楠雄が殺し合いの主催にいる可能性を疑っています。
※超能力者は基本的には使用できません。ですが、何かのきっかけで一部なら使える可能性があるかもしれません。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※貨物船の精神、又は肉体のどちらかが能力者だと考えています。
※小野寺キョウヤが主催に協力している可能性を疑っています。
※主催側にいる斉木楠雄、又は斉木楠雄の肉体を持つ自分がマインドコントロールを使った可能性を疑っています。

【燃堂力@斉木楠雄のΨ難】
[身体]:堀裕子@アイドルマスターシンデレラガールズ
[状態]:疲労(小)、後頭部に腫れ、鳥束の死に喪失感
[装備]:如意棒@ドラゴンボール
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:お?
1:お?
[備考]
※殺し合いについてよく分かっていないようです。ただ何となく異常な場であるとは理解したようです。
※柊ナナを斉木楠雄の弟だと思っているようです。
※自分の体を使っている人物は堀裕子だと思っているようです。
※桐生戦兎とビルドに変身した後の姿を、それぞれ別人だと思っているようです。
※斬月に変身した甜歌も、同じく別人だと思っているようです。
※斉木空助を斉木楠雄の兄とは別人だと思っているようです。


298 : Ψ難再び!柊ナナの憂鬱(後編) ◆ytUSxp038U :2021/12/07(火) 23:02:56 lfn1aM6Q0
【桐生戦兎@仮面ライダービルド】
[身体]:佐藤太郎@仮面ライダービルド
[状態]:ダメージ(大・処置済み)、全身打撲(処置済み)、疲労(大)、ジーニアスに1時間変身不能
[装備]:ネオディケイドライバー@仮面ライダージオウ
[道具]:基本支給品、ライズホッパー@仮面ライダーゼロワン、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを打破する。
1:今は体力の回復に努める。
2:甜歌を正気に戻し、DIOを倒す。あいつの手を汚させる訳にはいかない。
3:他に殺し合いに乗ってない参加者がいるかもしれない。探してみよう。
4:首輪も外さないとな。となると工具がいるか
5:エボルトの動向には要警戒。誰の体に入ってるんだ?
6:翼の生えた少年(デビハム)は必ず止める。
7:ナナに僅かな疑念。杞憂で済めば良いんだが…
[備考]
※本来の体ではないためビルドドライバーでは変身することができません。
※平成ジェネレーションズFINALの記憶があるため、仮面ライダーエグゼイド・ゴースト・鎧武・フォーゼ・オーズを知っています。
※ライドブッカーには各ライダーの基本フォームのライダーカードとビルドジーニアスフォームのカードが入っています。
※令和ライダーのカードが入っているかは後続の書き手にお任せします。
※参戦時期は少なくとも本編終了後の新世界からです。『仮面ライダークローズ』の出来事は経験しています。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※ジーニアスフォームに変身後は5分経過で強制的に通常のビルドへ戻ります。また2時間経過しなければ再変身不可能となります。

【杉元佐一@ゴールデンカムイ】
[身体]:藤原妹紅@東方project
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、霊力消費(中)、全身に切り傷(大部分治った)、再生中
[装備]:神経断裂弾装填済みコルト・パイソン6インチ(3/6)@仮面ライダークウガ
[道具]:基本支給品、神経断裂弾×36@仮面ライダークウガ、松平の拳銃@銀魂、予備マガジン、ランダム支給品×0〜2(確認済)
[思考・状況]
基本方針:なんにしろ主催者をシメて帰りたい。身体は……持ち主に悪いが最悪諦める。
1:今は休んどく。
2:あのカエル(鳥束)、死んだのか…。
3:俺やアシリパさんの身体ないよな? ないと言ってくれ。
4:なんで先生いるの!? できれば殺したくないが…。
5:不死身だとしても死ぬ前提の動きはしない(なお無茶はする模様)。
6:DIOの仲間の可能性がある空条承太郎、ヴァニラ・アイスに警戒。
7:精神と肉体の組み合わせ名簿が欲しい。
8:この入れ物は便利だから持って帰ろっかな。
[備考]
※参戦時期は流氷で尾形が撃たれてから病院へ連れて行く間です。
※二回までは死亡から復活できますが、三回目の死亡で復活は出来ません。
※パゼストバイフェニックス、および再生せず魂のみ維持することは制限で使用不可です。
 死亡後長くとも五分で強制的に復活されますが、復活の場所は一エリア程度までは移動可能。
※飛翔は短時間なら可能です
※鳳翼天翔、ウーに類似した攻撃を覚えました
※鳥束とギニュー(どちらも名前は知らない)の体が入れ替わったと考えています。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。また自分が戦兎達よりも過去の時代から来たと知りました。

【我妻善逸@鬼滅の刃】
[身体]:ピカチュウ@ポケットモンスターシリーズ
[状態]:疲労(小)、精神的疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:殺し合いは止めたいけど、この体でどうすればいいんだ
1:お姉さん(杉元)達と行動
2:炭治郎の体が……
3:煉獄さんも鳥束も死んじゃったのか……
4:しのぶさん達は大丈夫かな……
5:無惨を警戒。何でアイツまで生き返ってんだよ!?
[備考]
※参戦時期は鬼舞辻無惨を倒した後に、竈門家に向かっている途中の頃です。
※現在判明している使える技は「かみなり」「でんこうせっか」「10まんボルト」の3つです。
※他に使える技は後の書き手におまかせします。
※鳥束とギニュー(名前は知らない)の体が入れ替わったと考えています
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。また自分が戦兎達よりも過去の、杉元よりも未来の時代から来たと知りました。


299 : ◆ytUSxp038U :2021/12/07(火) 23:03:37 lfn1aM6Q0
投下終了です。


300 : ◆OmtW54r7Tc :2021/12/12(日) 07:27:03 cjnj5jko0
ゲリラ投下します


301 : 燃堂「オラオラオラオラ」杉元「オラオラオラオラ」 ◆OmtW54r7Tc :2021/12/12(日) 07:28:27 cjnj5jko0
「知った者の姿はない、か」

放送を終え、魔王は坂田銀時を殺したことによって手にした、組み合わせ名簿を見ていた。
名簿で彼がまず気にしたのは、肉体に知った者の姿があるか、ということだ。
別に感傷ではない。
むしろその逆、知っている者の肉体なら戦闘能力なども把握していてやりやすいと考えたからだ。
しかし、名簿には知っている姿はなかった。
ケロロ軍曹というカエルは少し引っかかったが、あのカエルとは明らかに別人もとい別カエルであるし、放送で呼ばれたので気にすることはないだろう。(ちなみに放送でケロロ軍曹の名前と姿が呼ばれたように、この組み合わせ名簿もギニューの入れ替えが反映されている。今後ギニューが再び姿を入れ替えた時この名簿がどうなるかは不明だ)
となると次に気にするべきは、この場で出会ったものたち。
まずは、最初に出会った大男。
精神の名は志々雄真実といい、肉体の名はエシディシ。
彼らで気になるのはやはり、志々雄の包帯だ。

「怪我か…いや、火傷か…?」

自分の肉体であるピサロは、自分と同じ異界の魔王だったらしい。
似た存在の肉体を与えられたのだとすると、この男は炎繋がりでエシディシの肉体を与えられたということか。
この包帯もあるいは、志々雄自身が持つ炎の能力が強力で、それを抑える特殊な布、という可能性もある。

次はホイミン。
精神の見た目は…なんというか雑魚魔物という感じだ。
そういえば奴は、自分の姿を見て、ピサロの名を叫んで驚いていた。
ということは、ピサロの配下の魔物か。
志々雄にあっさり武器を渡して逃げ出したところを見るに警戒する必要はなかろうが、しかし怖いのは肉体が強力な力を持っている可能性だ。
ホイミンが自身の身体に順応した時、脅威となる可能性はある。

「…死人とはいえ、こいつも無視するわけにはいかん」

次、坂田銀時。
この男は、既に自分の手によって殺している。
故にこの男自身を警戒する必要はない。
問題は、この男の肉体を持った参加者がいるということだ。
あの坂田銀時という男は、かなり手練れの剣士だった。
そうなると、その男の肉体を与えられた悲鳴嶼行冥という男も同じく手強い剣士という可能性が高い。
警戒が必要だろう。


302 : 燃堂「オラオラオラオラ」杉元「オラオラオラオラ」 ◆OmtW54r7Tc :2021/12/12(日) 07:29:17 cjnj5jko0
そして最後は…空条承太郎。
魔王は、この男を志々雄以上に警戒している。
あの戦いの最後にされた…いつの間にか至近距離まで詰められた謎の能力。
いったいあれはなんだったのか。
それについてはまた後で考えるとして、この組み合わせ名簿を見て考えたこと。
それは、あの能力が肉体に由来するものなのか、精神に由来するものなのか、だ。
まず、肉体に由来する能力だった場合。
その場合、あの能力は燃堂力の肉体が持つ能力だということになる。
そして、燃堂力は参加者としても存在している。
あれが肉体ベースの能力であるなら燃堂本人はその能力を使えなくなっているだろうが、しかし、参加者に与えられる肉体は精神となにかしらの共通点があるという可能性がある。
故に、燃堂の肉体、堀裕子が似た能力を持っている可能性もあるため、この燃堂力という男も警戒する必要があるかもしれない。
そして次に、あれが精神に由来する能力だった場合。
その場合、あの能力は空条承太郎のものということだ。
戦闘の中での能力の使いこなしようからみて、こちらの方が可能性が高いと踏んでいる。
もし精神由来だったとして…魔王には気になることがあった。

「この杉元佐一という男…空条承太郎に似ていないか?」

魔王は考える。
この二人は、兄弟なのではないかと。
承太郎が能力として叫んでいた『スター』プラチナと、杉元の軍帽の『星』に無意識に共通項を見出した辺りも、そう認識させてしまった原因かもしれない。
もし、承太郎が使ったあの能力が精神に由来するもので、なおかつ遺伝的なものであるとすれば、この杉元という男(今の肉体は女だが)も同じ能力を使うかもしれない。

「…こんなところか」

組み合わせ名簿を見終えた魔王は、地面に横になる。
疲労も魔力も多少は回復したとはいえ…万全には程遠い。
優勝するために重要なことは殺すことではなく生き残ること。
回復しきっていない状態であの承太郎や志々雄と対峙してやられてしまっては元も子もない。
故に、もう少し休もう。

「姉上…待ってください。私は…必ず…!」

誓いを胸に、魔王はしばし休息を取る。


【F-8 草原/朝】

【魔王@クロノ・トリガー】
[身体]:ピサロ@ドラゴンクエストIV
[状態]:疲労(中)、魔力消費(大)
[装備]:破壊の剣@ドラゴンクエストシリーズ、テュケーのチャーム@ペルソナ5
[道具]:基本支給品、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:優勝し、姉を取り戻す
1:充分戦えるようになるまでもう少し休む
2:承太郎は次に会えば殺す
3:ホイミンと志々雄も、後で殺す
4:悲鳴嶼や燃堂、杉元にも一応警戒
[備考]
※参戦時期は魔王城での、クロノたちとの戦いの直後。
※ピサロの体は、進化の秘法を使う前の姿(派生作品でいう「魔剣士ピサロ」)。です
※回復呪文は通常よりも消費される魔力が多くなっています。
※燃堂、杉元がスタープラチナ・ザ・ワールドと似た、あるいは同等の能力を持っているかもしれないと考えています。


303 : ◆OmtW54r7Tc :2021/12/12(日) 07:30:18 cjnj5jko0
投下終了です


304 : ◆OmtW54r7Tc :2021/12/12(日) 10:08:22 cjnj5jko0
すみません、今朝投下した話ですが破棄します
DIOの話読み返したんですが、組み合わせ名簿、顔写真付きだと勝手に思ってましたが名前だけだったんですね
今回の話が顔写真ありを前提としたものなので、破棄します


305 : ◆5IjCIYVjCc :2021/12/13(月) 00:03:36 4i9Pmyyg0
投下します。


306 : ふと迷う僕らの背を憧れがまた押している ◆5IjCIYVjCc :2021/12/13(月) 00:04:16 4i9Pmyyg0
森の中で一人でいたメタモンは結局、すぐには動かずしばらくここで休むことを決めた。
現在、彼が進むことを望んでいる道は3つだ。

同じポケモンの馴染みであるゲンガーを探しに東方面へ行くか、
西から聞こえた村の放送の声の主の下へ行くか、
先ほど出会い自分の能力を知ってしまった三人組を口封じしに行くか。

だがそれ以前に、メタモンには落下によるダメージが蓄積し、疲労も溜まっているという問題がある。
この状態ではどの道を選ぼうとも、たどり着いた先で思うように動けない可能性がある。
それに焦るあまり判断を誤り、本来自分が有利になるはずだった方を逃すことも考えられる。
この点については疲労感も判断ミスの要因になりえるだろう。
行動したい気持ちはやまやまだが、それを抑えてメタモンは体力とダメージを回復させることに専念しようとしていた。


メタモンは今、岩の上に座って休んでいる。
ついでに、朝の食事を摂ることにしていた。

彼が今回朝食としたものは基本支給品であるコンビニ弁当ではない。
それはメタモンの最後のランダム支給品として与えられたものであった。

『行動食4号』と名付けられたその食物は四角い棒状をしたもので、
クッキーのような色で中にはナッツのように見える何かが入ってる。
その形状からこの行動食4号は手で握り持ちながら食べることができる。
この手軽さからも今回の食事はこれを選んでいた。
メタモンは行動食4号の上の部分を齧り取って口の中に運び、コリコリと嚙みしめる。

「……なにこれ、何の味?土?」

行動食4号は、あまり良い味のするものではなかった。
思っていた味よりも、どちらかといえば悪いもののという感じがした。
この棒状の食べ物は合計三本支給されていたが、これを全部食べるのは何か嫌だという気持ちも出てきた。

メタモンが顔をしかめながらも、一応もったいないからと1本目の行動食4号を食べ切ろうとしていたその時、
前回と同じチャイムが響き、定期放送が始まった。




放送が終わった後、メタモンは手に持つ残りの一本目の行動食4号を口に放り込んで噛み砕き、食べ切った。
そして、先ほどの放送で伝えられた情報について考え始める。


307 : ふと迷う僕らの背を憧れがまた押している ◆5IjCIYVjCc :2021/12/13(月) 00:04:53 4i9Pmyyg0
「10人か…もうそんなに死んじゃったんだ…」

今回の放送で発表された死亡者の人数は合計11人。
その内、メタモンが殺せた相手は1人。
残りの10人はメタモンのあずかり知らぬところで死んでしまった者たちだ。
これは、メタモンが彼らの姿に"へんしん"することが出来なくなってしまったことを意味する。

この広い島の中で、それも殺し合いを強制されている状況で、全員をメタモンが直接殺すことは不可能なことは彼自身も理解している。
現にそういった死者たちが出たことは先ほど伝えられたばかりだ。
それでも、"へんしん"のレパートリーを増やすためになるべく多くの参加者を殺すことが目的のメタモンにとって、この事実はかなり残念に思うことだ。

「それに死んだ人たちの顔も分かっちゃうなんて…」

メタモンが他に思うところがあるのは、死亡者たちの顔写真が、精神・身体共に公開されたことだ。
ただでさえ自分が殺せなかった者がいるだけでも不満を感じているのに、顔が公開されたのは自分が逃したチャンスを見せつけられているようで全くいい思いがしない。
また、このことはメタモンにとって、他にも不都合が存在していた。

「これじゃあ僕のへんしんも使えなくなっちゃうよ…」

この場におけるメタモンの"へんしん"は自分で殺害した者にのみ可能である。
これは、必然的に死者の姿にしかなれないことを意味している。
つまり、死者の姿が全参加者に知らされたこの状況では"へんしん"を他者を騙すために使うことは出来なくなってしまったのだ。
少なくとも、現在使うことができるリンクの姿は先ほどの三人組以外にも死者の姿として見られるようになってしまった。
もしこれから誰かを殺してレパートリーを増やすことができたとしても、次の定期放送の時間になればその姿は騙し討ちには使えなくなる。
逆に言えば定期放送が行われる前まではまだ騙し討ちは可能だろう。
だが、それも時間の問題だ。
長時間騙すことは結局のところ不可能だ。

「……でも、おどろかすとかには使えるかな?」

先ほどの三人組が謎のカメラでメタモンの過去を暴いた時、最初はメタモンが死んでいるのに動いていると勘違いし驚いていた。
彼らからしてみれば、その瞬間のメタモンは幽霊(ゴースト)に見えたことだろう。
その時のように、死んだはずの人間が現れれたように見せかければ、他の参加者たちもまた驚かすことができるかもしれない。
それによってひるませて隙を作るという戦法だってまだあるのだ。
"へんしん"が全く役に立たなくなったとはまだ断言する必要は無いだろう。
だが何にせよ、"へんしん"はこれまでよりも使い道を気を付けなければならないことには変わりはないだろう。



「そういえば、新しい名簿があるんだよね」

放送ではこの戦いにおける精神と身体の組み合わせ名簿を新しく配布するという連絡があった。
配布には条件があり、それは誰かの殺害に成功している者とのことだ。
そして、メタモンはその条件を満たしている。
メタモンはデイパックを開けて新名簿を取り出し、その内容に目を通す。

まず最初に目に入れるのは元の名簿でも確認していたゲンガーの名前。
その右側に書かれているのは、「鶴見川レンタロウ」という人物の名前だ。
だが、メタモンはそのレンタロウという人物については何も知らない。
名前からして人間の男だろうということは何となく予測できるが、だからといってどんな姿をしているかといったことは全く分からない。
残念ながらゲンガーに関しては、この新名簿からは役立つ情報が得られたとは言えないだろう。

けれどももう一つ、身体側の名前の中に彼の知るものが新たに存在していた。

「……ピカチュウがいる」


308 : ふと迷う僕らの背を憧れがまた押している ◆5IjCIYVjCc :2021/12/13(月) 00:05:47 4i9Pmyyg0
ピカチュウ――それはねずみポケモンとも呼ばれるでんきタイプのポケモンだ。
ポケモンは精神側にはゲンガーがいることは確認していたが、身体側にもいる可能性はこれまでは考えていなかった。
ゲンガーもそうだったが、ピカチュウもまたポケモンとしての種族名であるため、自分の知るピカチュウの身体かどうかは判断できない。

だが身体の方がポケモンであるため、その強さやどんな技が使えるか、ある程度予測できるかもしれない。
中身にいる我妻善逸という者はおそらく人間だとは思うが、この人物がピカチュウの力をどれくらい使いこなせるかは分からない。
それでも、いずれ戦う相手にピカチュウがいるという情報はメタモンにとって有益な情報と言えるだろう。

やはりでんきタイプのわざを主に使ってくる考えられるため、下手に攻撃を喰らったらまひ状態にされる可能性もある。
今の持ち物にはまひを治せるクラボのみやラムのみ、人間のトレーナーが使うまひなおしといった道具がない。
可能ならば、こういった対策ができるアイテムを念のため手に入れることも視野に入れておくべきだろう。
どんなわざを使ってくるかは不明だが、何にせよ警戒するに越したことはない。
戦闘になった際には自分のこれまでのポケモンバトルの経験を活かして立ち回れるようにすることができればいい方だろう。
それに、身体だけとは言え、ゲンガーと同じくポケモンのよしみで殺してあげたいという気持ちがある。
メタモンの中で、ピカチュウとなった我妻善逸という人物もまた、自分に殺されるまでは無事でいてほしい者の1人となった。


「そういえば、今の僕って他のポケモンにへんしんできるのかな?」

ふとメタモンが疑問に思ったのは、ワームの擬態能力がポケモンにも適用されるかどうかということであった。
彼が持つプロフィールにはワームは自分が殺した『人間』に擬態できるとあった。
だが、人間以外の生き物に擬態できるかどうかといったことは特に記載は無かった。

「まあ、殺してみれば分かることだよね」

今の彼は自分で命を奪った対象にしかへんしんできない。
ワームがポケモンにへんしんできるかどうかはともかく、自分の手で止めを刺さなければどちらにせよ不可能なことだ。
この点に関しては今は余計に考える必要はないだろう。



「そろそろどう動こうか考えようかな」

しばらく新名簿を眺めながら休憩していたメタモンは次の方針を考えようとする。
彼はそもそも疲労で判断を誤ることを考えてこの場で休んでいた。
そして今回、定期放送や新名簿による新たな情報を入手することになった。
情報の確認のため、既にある程度の時間は経過している。
疲労感や体の痛みもそろそろ引いてきた頃合いで、考える余裕も出来てくる。
流石にそろそろ、今後の方針を考えないと行動が遅れて目的達成できない頃でもあるだろう。
メタモンは地図を取り出し、これを見ながら自分の行動方針を考え始める。


「……あの人たちがゲンガーに会ったのって、この島かな?」

メタモンが最初に考えるのは、自分の第一ターゲットであるゲンガーについてだ。
その名前は定期放送でも呼ばれていない、まだ生きているはずだ。

先ほどそのポケモンの名を出した三人組は東の方から来ていた。
彼らが通ってきた道路を辿る、東端の【C-8】にある島に着く。
そこで三人とゲンガーが出会った場合、その後彼らがどのような行動をとるのかについてメタモンは考える。


309 : ふと迷う僕らの背を憧れがまた押している ◆5IjCIYVjCc :2021/12/13(月) 00:07:02 4i9Pmyyg0
「もしかして、こっちの島の方に行ったのかな?」

メタモンが予測するゲンガーの移動経路は、東の島から道路橋で南下し南東の島の方に行くというものだった。
東の島の道路橋は西方向と南方向の二種類が存在し、ここで二手に別れたのではないかと考える。

「………あれ?もしかして、ゲンガーは今1人じゃないのかな?」

メタモンがふと思い至ったのは、ゲンガーが仲間を作って複数人で行動しているという可能性だ。
先ほどメタモンが出会った3人組は殺し合いには反対している様子であった。
そんな彼らがゲンガーと二手に別れるとして、ゲンガーをたった一人で行かせることがあるのだろうか
仮に最初に4人でいたとした場合、別れるならそれぞれ二人組になるのが自然のはずだ。
1人で行動させるのなら、よっぽど周りを巻き込む危険性があるといったことでもない限り、他3人が了承するとも思えない。
これはやはり、ゲンガーは今誰かと複数人で行動していると考えるべきだろう。
この新たに推測できた条件も含めて、メタモンは自分のこれからの道筋について考えてみる。


「…………ゲンガーのこと、今は探さなくても大丈夫なのかなあ?」

メタモンに一旦、ゲンガーを探しに行くことを諦めるという考えが浮かぶ。
ゲンガーに仲間がいるという推測が合っているのならば、無理に今すぐ追う必要は無いと考えられる。
仲間がいるのならば、自分が殺しにかかる際に邪魔される可能性が出てくる。
また自分以外の誰かに襲われたとしても、その仲間がゲンガーを守ってくれるといったことも考えられる。
絶対にそうなるとは言い切れないが、こう考えると今すぐ動かなくてもゲンガーを殺しに行くチャンスはまだあると思える。
望んでいる3つの道筋の中では、優先順位を下げた方が良いように思えてくる。



「そういえばあの人たち、どこに行くつもりだったんだろう?」

次にメタモンが気になったのは、前に出会った3人組がどこを目指して動いていたかという点についてだ。

「この街に行くつもりはなかったのかな?こっちの方に知っているところがあったのかな?」

彼らはこの島において東の方に位置する大きな街には目をくれず、西の方に向かって急いでいる様子であった。
この点からは、彼らは先ほどの放送で知らされた地図の仕組みに気づいており、街よりも西側の方に知っている施設がありそこを目指していたのではないかと考えられる。
だがこのように考えても、西側の施設は様々な場所に多くあり、彼らがどこに向かうつもりだったのかということは予測できない。

「でも、この辺りは通るはずだよね」

先ほど3人がいた道路は【C-6】に位置し、そこから西に向かえば【C-5】の道路へと差し掛かる。
【C-5】は、メタモンが向かおうと考えていた村があるエリアと同じ場所だ。


「……それなら、こんな風に行けばいいかな?」

メタモンはふと思いついた道順を地図上を指でなぞりながら確かめる。

彼が考える道筋はまず、現在いる森を南西の方から出て、一度【C-5】の南側の草原を目指すというものだ。
ゲンガーの方を後回しにするのならば、優先順位を上げるのは3人組の口封じ、次点が村の方に行くことだ。
同時にメタモンはここで、この二つの道筋の間を取ることを思いついた。

3人が自分に合う前の本来の予定を崩さす、【C-5】の道路を通過するとしても、そこからどの方角に向かうつもりなのかは分からない。
ひょっとしたら、今は既にそこを通り過ぎてしまっていることも考えられる。
そこでまずは草原の方に行き、そこで少し離れた場所から目視で彼らの姿を探してみる。
それもなるべく、向こうの方からは見つけにくい場所を選びたいと考える。
相手がなんか変なのを飛ばして索敵する手段を持っていることを考えると、早めに気づかれる可能性は高いが、どちらにせよ自分が場所を把握できればそれでよしとするしかない。

放送から既にだいぶ時間が経った今では、彼らが本当に予測した場所にいるかは分からない。
だからせめてもう自分が見つけられないと判断した場合、すぐに移動できるよう村に少しでも近い所から探そうと考える。

もしも、自分の予測が外れたor自分の方が遅かったといったことで3人を見つけられなかった場合は潔く諦めるしかない。
この殺し合いの最中で、自分だけが手の内を誰にも知らされないようにするのはやはり難しいことだったということになるのだろう。
青い仮面ライダーの変身ベルトも逃してしまうかもしれないと思うと焦燥感も出てくるが、だからと言って下手な動き方をするのも良くないだろう。


310 : ふと迷う僕らの背を憧れがまた押している ◆5IjCIYVjCc :2021/12/13(月) 00:07:45 4i9Pmyyg0

「あの村は様子を見に行くだけにしようかな?」

仮に3人を見つけられず村の方へと行く場合、すぐにはそこにいる人物を襲うことはせず、ただ中の様子見をするだけにとどめようかと考えていた。
メタモンとしてはやはり、ゲンガーの方を探しに行きたいという気持ちがまだある。
そのため、村にたどり着いた時はこっそりと中にいる参加者たちの状況を把握したらすぐに出ようと考えていた。

村にいるはずの少女のスタンスが分からないということもある。
現在村に何人集まっているかは不明で、何が起きているかも分からない。
けれども、特に変わったことが何も起きていなければ、メタモンはすぐにそこで行動を起こす必要は無いかもしれない。
特に戦闘が起きていることもなく、ただ単に人が集まっているだけならば、そこにいる者達を殺しに行くチャンスはその時すぐでなくてもよい。
村で行動するとしたら、どうしてもそこにいる者を殺害するチャンスがその時その瞬間だけという場合のみだ。
だから絶対、村に入っている間は、誰にも自分の存在を察知されないようにしなくては意味がない。


今後はまず、3人組の口封じ及び変身ベルトの強奪に成功、もしくは完全に見失うといったことになるはずだ。
次に、村の状況を把握しに行く。
そこまでできたのならば、それが今度こそゲンガーを探し始める時となるだろう。
その際に向かう場所はもちろん、先ほどゲンガーの目的地として推測した東南の島だ。
【C-5】の村からは遠いため時間はかかるだろうが、相手も移動していることを考えるとこれが一番自分がゲンガーに出会える確率が高いように思える。
これで絶対に目的が達成できるとは言い切れないが、既にだいぶ時間が経っているため、これ以上熟考を重ねたらやはり遅れてしまうような気もしてくる。


ようやく今後の方針が決まったメタモンは岩の上から腰を上げ、まずは南西の方へと向かい歩き出した。




(そういえばあのボンドルドって人、顔を隠していたよね)
(空助って人も自分の顔じゃないって言ってたし…)

歩いている途中、メタモンはふと先ほどの放送で流れた映像について考えていた。

(あの人たち、本当はどんな顔をしているんだろう…)

メタモンが気になった、ボンドルドが仮面を被って顔を隠していたことであった。
ボンドルドの後に出てきた斉木空助という人物は顔を出していたが、その姿は他人のものであると語っていた。

(あの人たちも殺したら、へんしんできるのかなあ…?)

メタモンが映像で姿を見せた主催者たちを気にしていたのは、彼らもまた殺害して自分の"へんしん"のレパートリーに組み込みたいと考えたためだ。
放送前はそんなことは考えていなかったが、顔を見せられたことでそんな思いが芽生えていた。
この狂ったモンスターは、もはや何者であろうと自分の"へんしん"のために殺害することを考えていた。

(あの人(ボンドルド)も別の人の身体を使っているのかな?)
(あの人を殺したらどんな人にへんしんできるのかな?)

メタモンが考えるのは、ボンドルドもまた空助と同じく別人の身体で過ごしているのではないかということだった。
空助は別人の身体でいることを説明する際に「僕たち」と言っていた。
ボンドルドは仮面で今の自分の顔が誰か分からないようにしていた。
そのため、その「僕たち」にボンドルドも含まれているのではないかと、メタモンはそんな風にぼんやりと思った。
しかし仮面が外されない限り、ボンドルドがどんな顔をしているかは分からず、殺した際にどんな姿になるかも不明瞭だ。

(……まあ、僕の手で殺せればそれでいいよね)

だがどちらにしろ、メタモンにとってはボンドルドが誰になっていようと関係のない話である。
先ほどの考えが当たっていたとしても、メタモンはボンドルドも斉木空助も本来の姿は知らず、殺して奪えるのは現在の姿だけのはずだ。
メタモンに人間の知り合いはいない。
だからボンドルドも他人の身体を使っていようと彼にとっては大した問題にはならない。

メタモンは主催者たちについて考えるのを止め、決めた目的地へ向かうべく歩き続ける。


311 : ふと迷う僕らの背を憧れがまた押している ◆5IjCIYVjCc :2021/12/13(月) 00:08:11 4i9Pmyyg0

【C-6 森/朝】

【メタモン@ポケットモンスターシリーズ】
[身体]:神代剣@仮面ライダーカブト
[状態]:疲労(小)、ダメージ(大)、背中に鈍痛(引いてきている)、胸の辺りに斬り傷、左肩に痛み(引いてきている)
[装備]:サソードヤイバー&サソードゼクター@仮面ライダーカブト
[道具]:基本支給品×2、魔神の斧@ドラゴンクエストシリーズ、ハチワレが杖で出したカメラ(残り使用回数:1回)@なんかちいさくてかわいいやつ、行動食4号×2@メイドインアビス
[思考・状況]
基本方針:参加者を殺して、変身できる姿を増やす
1:まずは【C-5】の南側の草原を目指してみる
2:結果がどうあれ、その次は村の様子を見に行く
3:1・2が済んだら、ゲンガーを探すために南東の島を目指す
4:あの仮面ライダー(ブレイズ)、僕も『へんしん』したい
5:状況を見て人間の姿も使い、騙し討ちしたり、驚かして隙を作ったりする
6:ゲンガーやピカチュウ(になっている我妻善逸)を見つけたら苦しめずに殺してやる
7:ピカチュウ対策ができる道具とかがあったら手に入れた方がいいのかもしれない
8:さっきの男(耀哉)を警戒。今度は迷わずクロックアップで頸を斬る
9:他にも『へんしん』ができるアイテムがあったら手に入れる
[備考]
※制限によりワームの擬態能力は直接殺した相手にしか作用しません
※クロックアップの持続時間が通常より短くなっています。また再使用には数分の時間を置く必要があります
※現在リンクに変身可能です
※ブレイズのような、アイテムが資格者を選ぶようなタイプの仮面ライダー等の変身者を殺害した場合、その変身資格を擬態によって奪い取れるかもしれません。


【行動食4号@メイドインアビス】
アビスの四層より深く潜る探掘家のために作られた固形の栄養食。
初期状態では3本支給されている。
その味は、ナナチ曰く「味がしない」、リコ曰く「壁の味がする」らしい。


312 : ◆5IjCIYVjCc :2021/12/13(月) 00:08:32 4i9Pmyyg0
投下終了です。


313 : ◆v6oOTJuihI :2021/12/13(月) 17:33:22 bOHihf2w0
投下乙です。
メタモンはそっちに向かうのか。康一神楽コンビと早くも再会しそう。
場合によってはダグバvs宿儺に巻き込まれそうな気もします。
更に名簿のせいで目を付けられてしまった善逸。DIO様からも殺したい内の一人に数えられてるし、この先も苦労が絶え無さそう。

空条承太郎、志村新八、ホイミンを予約します。


314 : ◆ytUSxp038U :2021/12/13(月) 17:41:15 bOHihf2w0
失礼、トリップ違ってました。


315 : ◆s5tC4j7VZY :2021/12/14(火) 19:33:45 j7kkeFdY0
投下おつかれさま様です!

Ψ難再び!柊ナナの憂鬱
放送後の大考察で重厚なお話素敵でした!
果たして主催側の狙いは……正にナナと同じように問いかけたくなりました!

燃堂「オラオラオラオラ」杉元「オラオラオラオラ」
今回は破棄とのことですが、魔王の組み合わせ名簿を見た思考を含めたお話大変楽しく読ませていただきました!
特に杉元と承太郎の「☆」繋がりは”おお!確かに”と唸りました。


ふと迷う僕らの背を憧れがまた押している
死亡者の顔写真が載せられるのは確かにメタモンにとっては痛手ですね!
”へんしん”のレパートリーが増えるのかどうか注視です!

投下します。


316 : 「誰かの笑顔」のために生きている ◆s5tC4j7VZY :2021/12/14(火) 19:35:00 j7kkeFdY0
We know from daily life that we exist for other people first of all, for whose smiles and well-being our own happiness depends. Albert Einstein

1章 身体のチェンジ……その先にあるのは……

『それじゃあ皆、またね〜』
軽薄な声と同時に映像が消える。

「……」
それを黙って眺めていた宿儺は———————

「不快極まりない」
言葉と同時に周辺の木々を粉々に斬り飛ばす。
先の放送は宿儺にとってただただ不快を募らせるだけでしかなかった。
死者の数や禁止エリアなどといった情報は宿儺の関心を引くことはないからだ。
しかし、収穫がまったくなかったわけではない。
一つは必ず鏖殺すべき相手が一人増えたことだ。

(しかし……本当の顔ではないだと?)
そして二つ目は、不快でしかなかった放送の中で聞き逃さなかった戯言。

『君たちがこの映像越しに見ているこの顔なんだけど…実はこれは僕の本当の顔じゃないんだ』
『顔だけじゃない。この身体がそもそも僕のものではないんだ』

(とすると、あのボンドルドとやらも体を変えている可能性があるということか……)
正直、ボンドルドの肉体が別人だったとしても魂が同じであれば問題ない。
ボンドルドという”肉体”ではなく意識……”魂”を鏖殺するのが目的だからだ。
そして魂は肉体と違い何度でも殺せる。

(このオレを不快にさせた罪は重いぞ)
ボンドルドと斉木空助の魂を徹底的に下すことは既に宿儺の決定事項。

だが――――――――――

それとは別に一つの推測が生まれた。

「……」
(もしかして奴らは肉体を変えることで、魂の有り方すら変えようとしているのか?)
例えば呪霊とは、人間から漏出した呪力が澱のように積み重なり形を成したモノ。
そしてもし、呪霊を産まない世界を作るとしたら、全人類から呪力を無くす。もしくは全人類に呪力のコントロールを可能にさせるの2通りが考えられる。

——————————肉体のチェンジ……いや、別の肉体に別の魂をねじ込む

そう、単純に互いの肉体と魂のチェンジではない。
なぜなら、宿儺の命の一つは現在、虎杖悠仁の精神にあるからだ。

関織子……元の身体である小娘の精神の影響により呪力を使用することが出来ていると先ほど推測した。
精神の影響と言うことは魂が残っている証拠。
勿論、魂の一部かも知れないが。
どちらにせよこのまま元の身体の持ち主の精神……魂と完璧に融合を果たしたとなれば、それはもう”新たな生物”と言っても過言ではない。
それを全ての人間に同じようなことをほどこせば、全世界から”呪力”がなくなる可能性が考えられるし、呪力がなくならないとしても進化した人類は呪力のコントロールが可能になるかもしれない。

—————————新しい世界の誕生……”創世”

「はー……くだらん」
”弱者生存”
それが、本当だとしたらまったくもってつまらん。
力による序列だからこそ、意味がある。
力を無くした世界など宿儺にとって退屈この上ない世界だ。

「……ま、今はとりあえず”やる”しかないか……」
あれこれ考えたが、現状では”あの男”と殺し合ったら直ぐに勝敗がつくだろう。
自身の敗北と死で。
いくら、元の肉体と力でないとはいえ、それでは両面宿儺としての沽券にかかわる。
とにかく、今は少しでも力を取り戻すためにも自分から笑顔にしてくれとほざくヤツの下へ向かわねばならない。
宿儺は不快さを感じながらも向かうしかない。

「ち……癪だが”使うか”……」
そういいながら宿儺はデイパックから取り出す。

☆彡 ☆彡 ☆彡


317 : 「誰かの笑顔」のために生きている ◆s5tC4j7VZY :2021/12/14(火) 19:35:27 j7kkeFdY0
2章 ザジャブ、ザセバボバギババァ

『それじゃあ皆、またね〜』
放送が終わると同時にダグバは名簿を確認する。

「ふ〜ん、確かに名簿が増えてる」
先の放送で言っていたボーナスとやらだろう。
デイバッグ内に名簿が一冊増えていた。
それを手に持ち眺めると―――――――――

「でも、せっかくくれるならそんなものより、参加者の位置が分かるのを支給してくれたらよかったのに」

————————————ため息をついた。

ダグバはボーナスにガッカリしている。
普通なら参加者の”精神”と”身体”の組み合わせが詰まった名簿は魅力的なボーナスであるといえよう。
何故なら、”精神”と”身体”が違うこの殺し合い。
この殺し合いをどうにか破綻したい対主催にとって、使われている身体は考察としてこの上なく最適で喉から手が出る。
しかし、ダグバにはそれが当てはまらない。

ダグバにとって”名”や”身体”は重視すべきことではない。
対峙する相手が自分にとって”楽しめる”かどうかが重要なのだ。

————————自分と純粋に暴力を振るい合うことができるのか

「残りは48人……」
身体がうずうずしだす。
放送で呼びかけたはいいが、まだ誰一人訪れてこない現状。
軽く村の周辺を探索してみたが暇つぶしになりそうなものは見当たらない。

—————————悩む。

「はぁ……”早く、誰かこないかなぁ”」
(そうじゃなきゃ、移動したくなっちゃうな……)

ダグバは待ち焦がれている。
まるで、恋する女子高生のように——————————

☆彡 ☆彡 ☆彡


318 : 「誰かの笑顔」のために生きている ◆s5tC4j7VZY :2021/12/14(火) 19:38:17 j7kkeFdY0
3章 笑顔と笑顔

「……ここか」
放送室にたどり着いた。
ちょっとした”発見”もあったため、寄り道をしたが、まぁ問題は無かろう。
宿儺は”移動手段”のソレを一度、デイパックの中へ仕舞う。

(死の匂い……それに……)
見えぬ扉の向こう。
しかし、その奥に感じる濃厚な”死”の匂いを感じ取ることができた。
それに加えて、放送の主であろう存在を。

「……ふん」

—————ギィ……

扉を開けると、女が立っていた。
ほんわかしか印象を与える女。
男から好まれそうな女。
女が嫌いそうな女。

(その肉を切裂いたら、さぞ心地よかろう……)
女の肉体を眺めながらそう思う。
そして悔やむ。
それができない現状に——————————
ボンドルド達への不快ゲージがさらに上昇する。

「やぁ、君が一番乗りだよ」
そんな風に思われているとは梅雨ほどにも感じないダグバはようやく来た来訪者にホッとした表情。

そして――――――――

「退屈で仕方がなかったんだ。さっそくだけど、始めさせてもらうよ」
言葉と同時にゲネシスドライバーにメロンエナジーロックシードを装填すると―――――――

————————アーマードライダー斬月・真へと変身する。

「……」
宿儺は黙って女の変身を見届ける。

「……」
(うーん。とはいえ、箸休めかな?)
変身したはよいがどう見ても、碌な抵抗もできずに狩られるだけの存在だろう。
メインディッシュとは程遠い貧弱な子供のリント。
しかし、せっかく放送で呼びつけてきた得物。

————————まぁ、暇つぶしにはなるかな。

しかし―――――――――

その認識は直ぐに改められる————————————————

「……おい」
低い低い声。
旅館業……接待する職業の人間が放ってはいけないほどの。
実際にお客様にそんな声掛けをしたら炎上必須。

「?」
幸いにも、ダグバはそうした口調を咎めるような性格でもないし気にしない。
単純に呼びかけられたと思い首をかしげる。

「このオレを舐めているな」
言葉と同時に胸を殴りつける。思い切り。

正に—————————————

———————開戦のゴング

☆彡 ☆彡 ☆彡


319 : 「誰かの笑顔」のために生きている ◆s5tC4j7VZY :2021/12/14(火) 19:38:52 j7kkeFdY0
———————パン、パン

「……うん。正直ガッカリしていたけど、これなら合格かな」
いきなりの先制攻撃。
貧弱なリントからは想像できない重い一撃。
当然吹き飛ばされた。
だが、”それだけ”
身体に付着した汚れを手で払うとダグバは笑顔になる。

「……」
(やはり碌に効いておらんか……チッ)
宿儺は苦虫を噛み潰したような顔になる。
斬月・真の装甲は健在。
先の男との邂逅での笑顔で取り戻した力では、アーマードライダーに傷を負わせることはできない。
唯一の成果は相手の落胆していた評価をひっくり返せたこと。

「それじゃあ、今度はこっちから行くよ」
お返しとばかりにソニックアローで射貫こうとする。

宿儺はそれを避ける。
射貫く→それを避けるの攻防。

「まるでウサギ狩りだね」
エナジーロックシールドのエネルギーが尽きぬ限り、矢が途切れることはない。
次々と五月雨の如く矢が宿儺を狙う。
雨あられの弓矢
先の一矢とは違い、避けきることは不可能。

しかし――――――――

「……ふむ」

—————————宿儺は健在であった。

「へぇ……リントにしては”意外な躱し方”をするね」

それもそのはず————————

宿儺はダグバが発見した斃れていた”首なし死体”を盾にして先ほどの猛撃の弓矢を防いだのだ。
そう、放送室に訪れる前にダグバと同じく血の匂いを辿り死体を発見した宿儺は、デイパックに入れていたのだ。

「何、ただの肉片であろう」
死体に矢が刺さっても宿儺はお構いなし。
それをダグバへ目掛けて投げると扉へ向かい———————

————————————外へ出る。

「鬼ごっこ?ふふ、ゲゲルの醍醐味だね」
投げつけられた死体を撃ち落とすとダグバは笑顔になる。
正にグロンギ族が行う遊戯。

逃げ惑う弱者を強者が刈るゲーム。

—————————グロンギらしく狩ろう。

ダグバも後を追う——————————————————

———————————ギィ

「?」
放送室から出ると、一面人気が無い風景。

(えーと、かくれんぼ?)
そう思った瞬間。
頭に衝撃がするのを感じる。

「こっちだ」
(ち……まだまだ鈍ら包丁か)
威力に不満足。
そんな声が含まれた呼びつける声。

頭上から声がする。

見上げると、宿儺はいた。

———————————箒にまたがって。


320 : 「誰かの笑顔」のために生きている ◆s5tC4j7VZY :2021/12/14(火) 19:39:11 j7kkeFdY0
先ほどの衝撃は宿儺による”解”の斬撃。
解でダグバの頭を下すことができず、宿儺は不快な表情を浮かべる。

一方—————————

(そうか……死体を投げて逃げ出したのは、デイパックから箒を取り出す時間稼ぎ。そして、空という予想外からの奇襲を仕掛けたってわけだね)
ダグバは頭への衝撃に全く気に留めず、考察する。
その余裕に見える姿がまた宿儺の不快を増長させる。

「ふふ、まるで残雪。撃ち落としてあげるよ」
先ほどの弓矢の躱し方をするだけでも珍しいのに空を飛ぶとは。
先ほどまでの相手(キャメロット、凛)とは全く違う戦法を見せるリントにダグバは嬉しくて笑顔を浮かべる。

「……ふん」
仮面越しでの笑顔だが、”それ”を感じ取ったのか宿儺はそれを黙って見つめる。

再び発射される弓矢の雨。
まるで弾幕。
箒に跨った宿儺はそれを当たる寸前で躱すように飛翔する。
これが”弾幕ごっこ”だったらグレイズを稼いでいるプレイ(飛行)だ。

「どこを狙っている。くく……これでは雁一羽狩るのもできぬ狩人だぞ?」

———————二ィ

宿儺はダグバを嘲笑う。

「……ふーん」
一見、変わらぬ口調。
しかし、わずかに”苛立ち”が生まれている。

苛立ちを振り払うかの如く、ソニックアローにエネルギーを貯めて—————————

『メロンエナジースカッシュ』

斬撃を衝撃波のように飛ばす。

宿儺は大きく箒を旋回して躱すと――――――――――

「ほら、頑張れ頑張れ」
兆発に次ぐ兆発。
宿儺はダグバを翻弄する。

「バビ?ジョグザヅ?」
仮面越しでもわかる不快の表情。

(くくく……いいぞぉ)
それを見て宿儺はほくそ笑む。

「そうだ。空に昇ればいいんだね」
ダグバは魔法のじゅうたんに飛び乗ると、上昇する。

すると――――――――――

「え?」
ダグバは呆気にとられる。

なぜなら———————————

———————箒の高度を落として地上に降りたからだ。

「ん?一人空に昇って何を考えておるのだ?ケヒッヒヒッ」
嗤う。嗤う。嗤う。

(本来なら、”アレ”を使用してもいいのだが、コイツの笑顔はそれではなくこの”やり方”が最適だろう」
宿儺は、自分の支給品を思い浮かべるが当初の計画通り、ダグバを煽りつくす。

「……」

ーーーーーーノーマルコミュニケーションーーーーーー


321 : 「誰かの笑顔」のために生きている ◆s5tC4j7VZY :2021/12/14(火) 19:39:29 j7kkeFdY0
——————ヅラサバギバァ

「ん?どうした飽いたのか?」
「……うん。君とのゲゲルは面白くない」
ダグバも宿儺同様魔法のじゅうたんを下すと、落胆の声と同時に変身を解く。
これ以上の戦闘は不毛だと理解したからだ。
目の前の相手はリントともグロンギとも違い異質すぎた。

「それは賢明だな。なら、貴様がきちんと笑顔になれる情報をくれてやる」
「……」
とりあえず、聞く耳は持ち合わせているようだ。
そのまま立ち去ろうとしたが、足を止めているのがその証拠。

「南側に貴様と同様に変身するベルトを持つ参加者がいる。そいつは俺と同様に力を大幅に制限されているが、十分に貴様の渇きを満たすはずだ」

「……ふぅん」
その言葉にニコッとする。
まるで、ファンからの差し入れに笑顔で受け取るアイドルの如く。

ーーーーーーパーフェクトコミュニケーションーーーーーー

「ありがと。それじゃあ、南にいってみるとするよ」
ダグバはお礼を伝える。

「礼を感じるなら、貴様の持つ”組み合わせ名簿”をよこせ。どうせ貴様には無用の長物であろう」
ホレホレ!さっさと寄越せと手を伸ばしながら要求する。

「……うーん。……ま、いいか。あげるよ」
一瞬の思案。

そして――――――――――

————————————ビュ

——————パシッ

「それじゃあ、せいぜい殺し合いを楽しむことだ」
宿儺はダグバへの興味を失い、見送る。

「……言われなくてもそうするよ」
片やダグバも宿儺への執着も関心もなく再び魔法のじゅうたんに乗り込むと――――――

——————————————今度こそ、ダグバは去った。

☆彡 ☆彡 ☆彡


322 : 「誰かの笑顔」のために生きている ◆s5tC4j7VZY :2021/12/14(火) 19:39:48 j7kkeFdY0
「はぁー……しんど」
立ち去ったのを見送り終え、地べたにぺたんと座り込む。

これは一種の賭けであった。
あの女は、事前の予想通り戦闘による享楽で”笑顔”になるメンドクサイことこの上ない参加者であった。
しかも、やり合う予定のヤツ同様に変身する道具を所有していた。
これでは、いくら霊界通信力なる呪術に近い力を有するとはいえ、所詮は女子小学生。ヤツを笑顔にさせる戦闘はキツイ。
故に、自身への興味を失わせる戦法を取った。
案の定、ヤツは興味を失い、戦闘を中断した。だがそれでは、”笑顔”にさせることはできない。
だから、自分よりも笑顔になれる標的を教えた。

ヤツを知ったヤツは”笑顔”になった。
先ほどの戦闘でもあの女は何回か笑顔を浮かべたが、力を取り戻すに繋がらなかった。
その原因はおそらく元々、この身体を侮っていたというのもあるのだろう。
しかし、強者の存在を知ったときの笑顔は別だった。
きちんと力が戻る感覚がしたのだ。
これで宿儺の当初の目標は達成した。
そして、”組み合わせ名簿”をも手にすることができた。
戦果は上々といっても過言ではないだろう。

「……」
(さて……”アヤツ”の肉体は載っているのか?)
パラパラパラと組み合わせ名簿を確認する。

「……」
名簿を見終える。

(どうやら、この場にはいないようだな……)
名簿に記載されていないのを無事に確認できた。

そう―――――――――

——————————伏黒恵の名がないことを

(だが、ボンドルド達(ヤツラ)の中に身体をチェンジしているやもしれぬ……安堵するかは早計だな)
先の放送内容から宿儺の見立てでは、この殺し合いのような儀式を行っているボンドルド側は全員、身体を入れ替わっているとみている。

今後、新たに姿を現す主催陣の一人が伏黒恵の身体になっていてもおかしくはない。

「ま、そのときはそのときだ。今、ここで考慮しても仕方がない」
宿儺は気持ちを切り替え————————
再び手に入れた死体をデイパックに詰め直す。

「さてと……では、”やる”とするか」
立ち上がる。
そして、ケツイする。
やらなければならないを。
それは——————————————————

「こうして、顔を見合わすのは初めてだな?小娘」
「……」

——————————若女将との邂逅

☆彡 ☆彡 ☆彡


323 : 「誰かの笑顔」のために生きている ◆s5tC4j7VZY :2021/12/14(火) 19:40:06 j7kkeFdY0
4章 呪いと対峙だよ!若おかみ!

若女将こと関織子が最初にとった行動は—————————

—————————スゥ

三つ指をついて頭を下げる。
旅館に訪れたお客様に対するがごとく。

「ふむ……小娘ながらも一旅館の若女将を務めているだけはいて立場をしっかりと弁えているか。小僧と違い賢いぞ」
織子の最初の対応に宿儺は見下ろす。

「……」
(この人が……両面宿儺さん)
織子は黙ってお辞儀を続ける。
自身の一挙手一投走が死因になりえることを記憶で知っているからだ。

そう―――――――

——————虎杖悠二が宿儺の指を飲みこんでから渋谷事変が終わりを告げたときまでの記憶を。

(でも……どうして私は出会うことができたんだろう?)
不思議だ。
今の自分はボンドルドさんによって精神を封印されていた。
現在、自分の身体を主導権となっている宿儺さんと会話することなんてできないはず?

そんなことを思っていると―――――――――

「ここは、俺の生得領域だ」
織子の胸の内を読むかの如く宿儺は答える。

「俺の心の中だ。つまり……小娘。貴様の精神はまだ死んでいないという証明にもなる」
宿儺の読みは当たっていた。
関織子の精神は無くなっていたわけではない。
何らかの方法で封印もしくはそれに近い処置をされていたのだろう。

精神が消滅していないのであれば、やはり霊界通信力との関係もあり、呪力を行使できるわけということだ。

そして、精神が消滅していないのであれば、”接触”も不可能ではない。
宿儺は生得領域という手段で元の持ち主と接触を図ることに成功した。

その理由は単純明快————————

————————織子の精神を生かさず殺さずのために

「だが、俺と接触ができるということはここで、貴様の精神を殺すことも可能を意味する」
「ッ……!!」

————————ドクン

額に汗が流れ、心臓の鼓動が高く鳴りだす。
織子の脳裏に浮かぶのは、宿儺の所業。

—————たかだか指の一、二本で俺に指図できると思ったか?

(私も、あのお姉さん達のように……殺されちゃうの!?)
正直、たくさん怖いなと感じた場面は数多くあれど、特に戦慄を覚えたのは、渋谷での宿儺さんが行ったこと。

夏油さんという男の人を救ってほしいと懇願したお姉さんを宿儺さんは無慈悲にも命を奪った。

明確な殺人。
怖い。
事故で両親を失ったからこそ、命の重さを思い知らされた織子にとって、宿儺の思考並びに行動はただただ災害のような理不尽を感じさせられる。

「面をあげよ」
それは死刑宣告なのだろうか。

(……!!。ウリ坊……美代ちゃん……鈴鬼くんッ!!)
自分に寄り添い支えてくれた3人を想起しながら織子は面をあげた。

——————————”死”はこなかった。


324 : 「誰かの笑顔」のために生きている ◆s5tC4j7VZY :2021/12/14(火) 19:40:35 j7kkeFdY0
「……とはいえ、この特異な状況。お前の魂ごと俺が死んだ場合、切り分けた魂がどうなるかまだ見当つかん」
顎に手を当てながら苦々しい顔。
通常なら、小娘の中にある自分が死のうと問題はない。
だが、”完全な死”の可能性がある以上、慎重にならざるをえないのだ。

「だから、俺と誓約を交わさぬか?」
「誓約……」
宿儺の誓約という単語を口に呟く織子。

「ああ、それを交わせばオマエは一時的だが身体を取り戻せる」
二ィと宿儺は口元を弛ませる。

「条件は二つ。①俺が「契濶」と唱えたら、オマエに肉体の主導権を渡すから他の参加者と交渉を交わしたり相手が笑顔になる条件を探ること②そして俺が心の奥からもう一度「契濶」と唱え直したら、体を明け渡すこと」
「え!?ど、どういうこと!?……ですか」
織子は宿儺の条件に頭が?で埋め尽くされる。

「何、利害による”縛り”呪術における重要な因子の一つだ」
宿儺は答える。

幸か不幸かはわからないが、JUDOにダグバと宿儺が出会った参加者は宿儺でも笑顔にできるタイプだった。
しかし、元々の性格上、宿儺との会話は一歩間違えれば地雷のオンパレード。
特に虎杖悠仁のような少年や”まともな倫理観”を持つ参加者と接触すれば笑顔どころではない。殺し合いの開幕のブザーが鳴り響くこと必定。

故にそうした参加者の笑顔担当は”関織子”に委ねることにした。

「とにかく、小娘。貴様が俺と縛りを結べば、一時的にだが肉体を取り戻すことが可能となる。……どうだ?誓約を俺と結ぶか?」
(もっとも、拒否をする選択肢は貴様にはないがな)

—————————天上天下唯我独尊

関織子に交渉を持ちかけておきながらも既に宿儺の中では縛りを結ぶことは決定事項している。

「一つ聞かせて下さい」
織子は意を決し、宿儺に尋ねる。

「宿儺さんは、本当に全員、鏖殺をするつもりなんですか?」
「……何がいいたい」
宿儺の表情が一変する。

「私は……人の命を奪うことには反対です」
言わないほうがいい。
織子もそれはわかっている。

だが――――――――

思ったことを口に出さないで胸にしまうほど、織子はまだ大人ではない。

「全員……塵殺(おうさつ)だ」

それは、宿儺が会場に降り立ったときの言葉。
精神が封印されてはいても、会場での自分の身体を所有している宿儺の動向を見聞きすることはできていた。
当然、その言葉も直接聞いている。
だから、”本当”なのか問いただしたくなるのは無理はない。

「……」

———————ピ

「いたッ!!??」
織子の両手の甲に小さな裂傷が走る。
宿儺の”解”だ。

人間……それも小娘の肌ごとき、力を取り戻していなくとも切裂くことは十二分に可能。
勿論、威力は最大限落としているため、皮膚を少し切っている程度で済んでいる。

「それは指図か?」
低い—————————低い声。
ここで、返答を誤れば、宿儺は即座に織子の精神を殺すだろう。

「私の夢は……春の屋に訪れるお客様を笑顔にさせること」
痛みに涙をグッとこらえながらも宿儺から目線を逸らさない。

「宿儺さんに指図をしているわけではありません……でも、私の身体で”殺し”なんて嫌に決まってるわ!」
身体が震える。
目の前の相手は”呪いの王”
自分のような人間は指先一つで精神ごと下されるだろう。

確かに、今の身体の所有権にあるのは宿儺さん。
だから、もし宿儺さんが私の身体で他の参加者を殺したとしても”私に罪はない”といってくれる人もいるかもしれない。

—————それでも、”殺した”という事実が私の身体に染み込む。
その染みは食器や布団についた汚れとは違い、永遠にふき取ることはできない。
染みがついた身体でこの先、春の屋の若女将としてお客様を笑顔にする自信はない。

「たとえ、ここで殺されるとしても”若おかみ”としてそれだけは受け入れられません!」
例え、自分の精神がここで消滅したとしても構わない。
でも、織子にも譲れぬ想いがある。


325 : 「誰かの笑顔」のために生きている ◆s5tC4j7VZY :2021/12/14(火) 19:41:08 j7kkeFdY0
(コイツ……)
認識を改める。
この”小娘”は強い。
勿論、宿儺の求める強さは単純明快”力”
それに当てはめると関織子は論外でしかない。

だが―――――――――

—————————自死する度胸は持ち合わせている。

ここで、積織子が自ら自死をしたら、ご破算になる。
あくまでも”生かさず殺さず”が目的だからだ。

「つくづく、忌々しい小娘だ」
ため息を吐かざるをえない。
女……それも小娘がこの自分に向かってここまでの啖呵を切った事実に。

「……わかった。なら、小娘。お前が笑顔にさせた相手は”俺の手で殺さぬ”と約束しよう。それとボンドルド達は勿論、襲い掛かってきた相手とアヤツは別だ」
これ以上は譲歩しない。
これでも、ごちゃごちゃと御託を並べるのなら、呪力が使えなくなったとしても関係ない。
生かさず殺さずの方針はどうでもいい。
小娘の精神を殺す。

「……わかりました。条件を……飲みます」
織子もこれ以上は無理だと悟る。
女将として様々な客と接客しただけに直感で感じたのだ。

「……よし。誓約成立だ」
これで、用事は済んだ。
宿儺は織子に背を向けると、歩きだそうとするが―――――――――

ふと一言、言い忘れたことがあったのか歩みを止め———————————

「そうそう、この俺に魅せたこと誇れ、関織子」

そういと、生得領域は消え去った——————————————

☆彡 ☆彡 ☆彡


326 : 「誰かの笑顔」のために生きている ◆s5tC4j7VZY :2021/12/14(火) 19:41:32 j7kkeFdY0
5章 ヅギパ、ゲガゴビバセスガギデグギギバァ

「……」
魔法のじゅうたんに乗り移動を開始して早数分。
ダグバは物思いに浸りながら座っている。

先ほどの戦闘……始めは期待できないと率直に感じた。
それをひっくり返した開幕の攻撃。

楽しめるはずだと思っていた。
しかし———————————————

「ほら、頑張れ頑張れ」
「ケヒッヒヒッ」

期待外れどころか、外れも外れのリントだった。
色々と違う意味で。

せっかく、自分と戦う力を持っているのに、終始相手を嘲笑うことに注力していた。
いくら、力を有していてもそんな相手とザギバス・ゲゲルを行うのは御免だ。

「それじゃあ、せいぜい殺し合いを楽しむことだ」

「いわれなくたって、そうするに決まってるじゃないか」
さも当然だといわんばかりに呟く。

「切り替え、切り替え。あれは……うん、特殊な事例だよね」
宿儺との邂逅は不幸な事故のようなものと片づける。

「次こそ、僕を笑顔にさせてくれるような参加者と会えるといいな」

————————違う……

笑顔ってそんなんじゃないですよ——————————

それは——————————

宿儺からダグバへの呪いか――――――――――

櫻木真乃の精神は悲しむ。
見てるだけしかできないこの状況に。
自分の思い描く笑顔と異なる認識を持つ相手に接触できない状況に。

宿儺との笑顔の邂逅により、真乃の精神は復活することができた。
果たしてそれが真乃にとって幸せかどうかは別だが……

【C-5 村/早朝】

【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
[身体]:櫻木真乃@アイドルマスターシャイニーカラーズ
[状態]:ダメージ(中)、脇腹に強い打撲痕、消耗(中) 苛立ち 櫻木真乃の精神復活
[装備]:ゲネシスドライバー@仮面ライダー鎧武、メロンエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、ミニ八卦炉@東方project
[道具]:基本支給品×2、魔法のじゅうたん@ドラゴンクエストシリーズ、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]基本方針:ゲゲルを楽しむ
1:南の方にいるらしい変身する男を探し、楽しむ
2:見失った二人(キャメロット、凛)と再戦する。ただ見つける手段がないので、また会えればいいなという程度。
3:あの青い着物姿のリントとはもう戦いたくない
4:私が届けたい笑顔はそんな笑顔ではないです……
[備考]
※48話の最終決戦直前から参戦です。
※櫻木真乃の精神が復活したことにはまだ気づいていません。

【櫻木真乃に関しての備考】
※精神は復活できましたが、肉体の主導権等は現在はありません。また、現状はダグバと接触を図ることはできませんが、何かしらのきっかけで可能となるかも知れません。
※この殺し合いにおけるダグバの行動理念(笑顔)については把握していますが、その他詳細については後続の書き手様に任せます。

☆彡 ☆彡 ☆彡


327 : 「誰かの笑顔」のために生きている ◆s5tC4j7VZY :2021/12/14(火) 19:43:28 j7kkeFdY0
終章 笑顔は続くどこまでも

——————————————スゥ

「……とりあえず、これで当面はなんとかなるか」
生得領域から意識を取り戻した宿儺は小さくそう呟く。
懸念事項であった精神の侵食については関織子との”縛り”という誓約によりひとまず安心することができた。

しかし――――――――――――

———————————関織子の意向を守ることにもなった。

「誰かの笑顔のために尽くす……か。はー……めんど」
宿儺はため息をつく。
宿儺が思い描く笑顔ではなく、若女将の思い描く笑顔との付き合いが長くなりそうなことに。


【両面宿儺 @呪術廻戦】
[身体]:関織子@若おかみは小学生(映画版)
[状態]:疲労(小) 関織子の精神復活 誓約の縛り
[装備]:魔法の箒@東方project
[道具]:基本支給品、魔法の箒@東方project 特級呪具『天逆鉾』@呪術廻戦 ランダム支給品×1 桃白白@ドラゴンボール(身体:リンク@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド)の死体 特典の組み合わせ名簿@チェンジロワ
[思考・状況]基本方針:主催は鏖殺。その他は状況による
1:とりあえず、村にて休息と兼ねて他の参加者がくるかどうか少し待つ
2:全員、鏖殺はひとまず保留
3:非常に忌々しいが参加者を笑顔にさせる(参加者の性質によっては織子に任せる)
4:関織子の精神は、生かさず殺さず
5:JUDOと次出会ったら力が戻った・戻ってないどちらせよ殺し合う
6:脹相……あの下奴か。どうでもいい
7:どこかでコイツ(天逆鉾)の効果を試してみたい。(変身するベルトや首輪など)
8:はー、めんど
[備考]
渋谷事変終了直後から参戦です。
能力が大幅に制限されているのと、疲労が激しくなります。
参加者の笑顔に繋がる行動をとると、能力の制限が解除していきます。
関織子の精神を下手に封じ込めると呪力が使えなくなるかもしれないと推察しています。
関織子の精神と縛りを交わしました。
デイパックに桃白白@ドラゴンボール(身体:リンク@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド)の死体が詰められています。
組み合わせ名簿から脹相がいるのを知りましたが、特に関心はありません。

【関織子に関しての備考】
※宿儺との縛りの内容は①宿儺が「契濶」と唱えたら、関織子に肉体の主導権を渡される。その後、他の参加者と交渉を交わしたり相手が笑顔になる条件を探るように行動する②宿儺が心の中からもう一度「契濶」と唱え直したら、肉体の主導権は宿儺に移行する③関織子が他の参加者を笑顔にさせた場合に限り、自らの手で殺しはしない。ただし、ボンドルド達と襲い掛かってきた参加者にJUDOは別。
※虎杖悠二が器となってから渋谷事変までの宿儺の行動を精神との邂逅により知りました。その他詳細については後続の書き手様に任せます。

【魔法の箒@東方project】
霧雨魔理沙が愛用している魔法の箒。
元は唯の竹箒であったが、長年の使用により魔性を帯びて変異した。
飛行能力を獲得し、植物としても息を吹き返している。

【特級呪具『天逆鉾』@呪術廻戦】
全長約50センチぐらいの二股の刃物のような見た目。武器として刺すことがでいるが、これが特級呪具としてなっている価値はその効果。効果は”発動中の術式強制解除”。


328 : 「誰かの笑顔」のために生きている ◆s5tC4j7VZY :2021/12/14(火) 19:43:51 j7kkeFdY0
投下終了します。


329 : 「誰かの笑顔」のために生きている ◆s5tC4j7VZY :2021/12/14(火) 20:49:01 j7kkeFdY0
すみません。時間と場所を更新するのを忘れていました。

宿儺・ダグバ共に
【C-5 村/朝】となります。
失礼しました。


330 : <削除> :<削除>
<削除>


331 : ◆ytUSxp038U :2021/12/19(日) 20:30:07 Nnvyup6I0
投下乙です。
ダグバから笑顔を引き出す方法に納得です。煽っている時の宿儺がノリノリで草。
どっちも本来とは比べ物にならない程弱体化しているのに、強キャラとしての格をきっちり保っているのは、描写が上手いなぁと感じられました。
宿儺と綱渡りの誓約を結んだおっこ、ダグバの殺戮を間近で見せつけられるだろう真乃、どっちも嫌な予感しかしない。

投下します。


332 : 一歩前へ ◆ytUSxp038U :2021/12/19(日) 20:31:16 Nnvyup6I0
本島と離れの島を繋ぐ橋上。
承太郎達が定時放送を目にしたのは、丁度橋の真ん中に到達した時の事だ。

怒りと警戒心を露わに睨みつける彼らを意に介さず、斉木空助によりスラスラと情報が読み上げられていく。
連絡事項を全て話し終えると、空助の姿はあっという間に消え静寂が戻った。

巨大な画面が浮かんでいた場所を険しい表情で見つめる承太郎、唇を噛み目を伏せる新八、何を言えば良いのか分からず視線を泳がせるホイミン。
三者三様の反応を見せていた。

(DIOは生きてるか…)

ジョースター家の宿敵である吸血鬼は健在。
そう簡単に死ぬ男でないとは分かり切っていたが、DIOの脅威が去っていない事実には自然と身が引き締まる。
あの男を倒すには、やはりもう一度スタープラチナの拳を叩き込んでやらねばなるまい。
今後二度と復活などできないよう、確実にブチのめす。

警戒すべきはDIOだけではない。
公園で戦った半裸の巨漢や、銀時を殺した銀髪の剣士の画像は表示されなかった。
時を止めた上でスタープラチナのラッシュを叩き込んだというのに、どちらも殺すまでには至らなかったのだ。
DIOにも匹敵する強敵が複数存在する。
この殺し合い、思っていた以上に一筋縄ではいかないと改めて理解した。

「……」

坂田銀時。放送では確かにその名が呼ばれた。
表示された画像の人物は、銀色の天然パーマに面倒くさそうな表情の男、繋がった太眉の厳つい中年と、見覚えのあり過ぎる二人。
既に銀時の死を受け入れていたが、改めて主催者から死亡者として告げられると気持ちが沈むのを新八は抑えられなかった。
それに銀時を殺した、ピサロの体に入っている者への怒りもある。
銀時の仇を討ちたい気持ちはあるが、相手は自分以上の剣の腕を持つ銀時と、スタンドという(どこかで聞いたような)特殊な力を持った承太郎の二人掛かりでも苦戦する程の強者。
今の自分が向かった所で呆気なく返り討ちに遭うだけだ。

だからといってこのままずっと引き摺り続ける気は無い。
神楽を連れて絶対にかぶき町へ帰ると誓ったのだから。
幸い神楽の名は発表されず、死亡者の肉体に知り合いの姿は一つも見当たらなかった。
11人もの死者が出ているので手放しには喜べないが、それでも神楽の無事を確認出来たのは大きい。
後は一刻も早く合流するだけだ。立ち止まってなどいられない。
悲しみを振り切るように、俯いていた顔を上げる。

「行こう、二人とも。グズグズしてたら、承太郎さんが戦った人達に追いつかれるかもしれない」
「う、うん。大丈夫?新八くん…」
「僕なら大丈夫だよ」

心配するホイミンへ、力強く頷いて見せる。
一瞬、無理をしているのではとも思ったが、それを一々指摘するのは野暮という事くらいは分かる。
それに新八の言う通り、ピサロの体に入った者や好戦的な巨漢に追いつかれる訳にはいかない。
だからここは早々に橋を渡り切りべきである。


333 : 一歩前へ ◆ytUSxp038U :2021/12/19(日) 20:32:23 Nnvyup6I0
「あっ、ちょっと待って承太郎さん」

いざ再出発というタイミングでホイミンが待ったを掛ける。
理由は傷だらけの承太郎を見兼ねてだ。
死に至る程の怪我は負っていない為放置しているが、処置もせずに放って置いては悪化してしまう。
だからここは自分の出番と、回復呪文を唱えた。

「ホイミ!」

全身が淡い光に包まれたかと思えば、不思議な感覚に包まれるのを承太郎は感じた。
魔王に斬られた箇所や、スタープラチナで自らを殴った際の痛みが薄れていく。
尤も完全に傷は癒えておらず、あくまで多少マシになった程度だが。

「あ、あれ?おかしいな…。もう一回ホイミ!」

ホイミン自身も呪文の効果に疑問を抱き、再度唱える。
先程と同じく承太郎の体から痛みが引いて行った。

「う、うーん?まただ……何だか何時もより効き目が悪いなぁ…それにちょっと疲れちゃったし……」

元々劇的な効果がある呪文でないとはいえ、それにしたって回復量が普段よりも少ない。
今の体が魔力に乏しいのなら分かるが、プロフィールを読む限りそれは無い事はホイミンにも分かった。
アインズ・ウール・ゴウンが誇る至高の四十一人のメンバー、ヘロヘロによって創造されたプレアデスの一体、それがソリュシャン・イプシロンだ。
戦闘能力も内包する魔力もホイミンを遥かに上回る。
だからホイミの効果が悪いとは、普通なら有り得ない筈。

(…成程な。俺のスタンドと同じく、参加者によっては制限ってやつがあるのか)

回復呪文を受けた当の承太郎は内心で納得していた。
志々雄との戦闘で時を止めた際に、普段よりも短い時間しか止められなくなっていた。
恐らくはそれと同様、殺し合いのバランスを崩壊させるような能力には何らかの枷が付けられているのだと推測する。
傷を回復させるという異能も、単純ながら強力だ。
どれだけダメージを与えてたとしても一瞬で回復するのは、流石に不公平である。
ホイミンの言葉から察するに、回復効果の減少と、普段よりも消耗が大きいといった具合か。

(なら、あの野郎も今は相当消耗してるんじゃねぇか?)

ホイミン曰くピサロという男の肉体に入った男。
公園での戦闘で負った傷が綺麗さっぱり消え去っていた事から、あの男もホイミンのような回復呪文を持っているのだろう。
しかし大ダメージを即座に治せる力など、当然制限の対象になっている筈だ。
という事は、今なら仕留められるチャンス。
急ぎ男が吹き飛んで行った方へ戻ろうかという考えが承太郎の頭に浮かぶ。

だがすぐにやめておこうと思い直す。
現在、会場南東の街にいる危険人物はピサロ(の体になった者)だけではない。
半裸の巨漢もまた近くをウロ付いている。
生身でありながら、ポルナレフのシルバー・チャリオッツに匹敵する速度で剣を振るう化け物だ。
ピサロの片手間に倒せるような雑魚では無い。

仮に承太郎一人ならば無理をしてでもピサロへの追撃を優先したかもしれないが、今は新八とホイミンが一緒。
銀時から力になってやってくれと託された彼らを放置する事は出来ない。
だから今は当初の予定通り風都タワーを目指し、戦力を整えるのを優先する。


334 : 一歩前へ ◆ytUSxp038U :2021/12/19(日) 20:34:44 Nnvyup6I0
「ごめんね承太郎さん。何だか上手くいかなくて……」
「いや、さっきに比べりゃかなりマシになった。助かったぜ、ホイミン」

ホイミンとしてはきっちりと治したかったのだが、承太郎はこれで問題無いと告げる。
普段より効果が弱まっていようと、回復呪文は重要な能力だ。
ここで自分一人を治すのに大きく消耗し、いざという時に使えなくなるのは避けておきたい。
故に完治まではいかずとも、戦闘が十分可能な程度には回復した為に良しとした。

と、ここまで手に持った剣がやけに静かなのに気付く。

「シャルティエさん?」
『………えっ、あっ、ああ、どうしたんだい?』

話しかけてもすぐには反応せず、沈黙を挟んで応答した。
放送前の陽気というか、お喋りな彼らしくも無い。
心なしか声にも元気が無いように感じられた。
放送が流れたタイミングでこの反応、それがどういう事なのか分からぬ程に鈍い者はここにはいない。

「…呼ばれたのか。テメーの知ってる奴が」
『……』

口火を切るのは承太郎。
遠慮も無いストレートな問いかけに、シャルティエは思わず閉口する。
だが無言は肯定と同じ。
隠す必要も無いと考えてか、或いは追及を面倒に感じたのか。
理由はシャルティエ本人にしか分かり様が無いが、ややあって言葉を返した。

『…ええ。坊ちゃん……僕の、マスターが…』

発表された11人の死亡者と、それぞれの肉体となっていた人物。
後者のランスロットと言う男は初めて見る顔だったが、その精神は誰よりも知っている人間だった。
リオン・マグナス。シャルティエのソーディアンマスターが6時間の間にどこかで命を落としたのだという。

人が死ぬ事に免疫が無いという訳ではない。
1000年前の天地戦争の頃から、死はシャルティエにとって身近な存在と化している。
地上軍と天上軍、その両方から毎日のように多くの死者が生まれたのだ。
あれだけの大規模な戦争を経験し、現代にて目覚めてからも貧富の差や国同士の遺恨により人が死ぬ光景を良く知っている。
故に殺し合いにおいても、死者が出るのは確実だろうと冷静に考えられた。

だからと言って、リオンの死に何も想わないような薄情な男でもない。

リオンと出会ってからは気苦労が絶えず、人間だったら連日胃がキリキリと痛んだろう事は確実。
不器用という言葉だけでは片付けられないくらいには、難のある少年だった。
だけど、シャルティエはリオンが幼少の頃からの付き合いだ。
彼が余りにも難儀な生き方しか出来ない人間で、だけどたった一人の女性の前でだけは年相応の少年らしく振舞えるのを、一番近くで見て来た。
他人を決して寄せ付けず、されど優しさや愛と無縁の人間でもない。
ある意味では、実の親以上にリオンという少年を知っているからこそ、愚痴を言いつつも共にある事を望んだ。
リオン自身が決して救われる事の無い道を突き進むのなら、運命を共にする覚悟もあった。
いつかスタン達と剣を交える時が来て、ディムロス達に非難されようと、最後までリオンの剣であると決意していた。

その想いを嘲笑うかのように、リオンはシャルティエの知らぬ所で力尽きた。
誰が殺したのかも、その者が生きているのかどうかも分からない。
久しく味わう無力感がシャルティエを蝕む。


335 : 一歩前へ ◆ytUSxp038U :2021/12/19(日) 20:35:50 Nnvyup6I0
だがこうも思う。
もしリオンが今のシャルティエを見たら、「くだらない感傷をいつまで引き摺る気だ?」と冷たく吐き捨てるのは想像に難くない。
我が主ながら気遣いの欠片も無い姿に苦笑いし、同時にもうその声を聞く事も無と思うと、言葉に出来ない喪失感が去来した。
とはいえその言葉は正しい。
死者を思うのは悪では無いが、延々と引き摺った所で現実は変わらない。
自分はソーディアン、人に振るわれてこそ真価を発揮する存在。
しかし殺し合いを放って置けない気持ちくらいはある。
無事に元居た場所へ帰った際に、リオンの死をスタン達へ伝える役目が待っていると考えると、気が重くなったが。

『僕なら問題ないですよ。さっ、いい加減出発しましょう』

あえて明るい声色で移動を促す。
今は新八達の力となり、殺し合いをどうにかするのが一番なのだから。
ホイミンと新八は少々何かを言いたげにしていたが、フードを深く被り直した承太郎が脚を動かした為、結局そのまま移動再会となった。

先頭を歩きながら承太郎は考える。
定時放送では遂にボンドルドがその姿を見せ、更には空助という新たな主催者側の人間も現れた。
一体あと何人が殺し合いの運営に関わっているのか。
現段階ではまるで予想が付かない。

一つの仮説として、主催者は天国への到達を目指していると考えた。
その条件の内、『信頼できる友』と『場所』の二つは不明だが、前者に関しては可能性として考えられるものがある。

即ち、主催者側の人間にDIOの友がいる。

承太郎はDIOの交友関係を深く知ってはいない。
だから参加者の精神、又は肉体にその友がいる可能性を考えたが、それは未だ詳細不明な主催者にも言える事だ。
連中が天国への到達が目的ならば、より詳しく天国の存在を知る者が主催者側にいても何ら不思議はない。
ただ前述の通り、承太郎はDIOの友がどんな人物なのかを全く知らない。
ひょっとしたらボンドルドや斉木空助が、その友であるかもしれないのだ。
エンヤ婆のような狂信者や、嘗て肉の芽を植え付けられ忠実な部下と化した花京院とも違う、“あの”DIOが心より友と認めた存在。
きっとDIOに負けず劣らずの邪悪、それだけは確信を持って言える。

そこから更に推測を広げていくなら、DIOも殺し合いの主催に一枚噛んでいるのではないか、とも考えられる。
天国への到達を最も望んでいるのが誰かと言えば、やはりDIO本人だろう。
という事はDIOは主催者でありながら、あえて殺し合いの促進の為に参加者として会場にいるという事だ。
若しくはDIO本人は主催者の目的を知らないが、DIOの友による強い推薦により参加者として招かれたという可能性もあるかもしれない。

であれば、DIOの友は主催者の特権を行使しDIOを他の参加者よりも有利な立場にしているのではないか。
例えば、DIOの首輪は爆破機能など付いていないダミーである、とか。
日記に記されていたように、天国の到達にはザ・ワールドが必要不可欠。
当然だがスタンド使い本体が死ねば、スタンドも消滅する。
それを防ぐ為に少しでもDIOが死ぬ要因を排除せんと、ダミーの首輪を装着したとは考えられないだろうか?


336 : 一歩前へ ◆ytUSxp038U :2021/12/19(日) 20:37:25 Nnvyup6I0
(……いや、そいつは俺にも当て嵌まる事じゃねえか)

ザ・ワールドとスタープラチナが同じタイプのスタンドならば、承太郎にも天国への到達が可能と言える。
もしDIOが死亡した時の保険として、承太郎も参加させられたとするなら、DIOと同じく首輪がダミーである可能性はゼロでは無い。
加えて『信頼できる友』。承太郎にとっての友と言えば、エジプトでの旅を共にしたスタンド使いの男達に他ならない。
(ジョセフは友と言うより家族だが、信頼できる人間には合致する)
彼らは皆バトルロワイアルを肯定するような輩ではないが、主催者側にいる条件は何も積極的に運営に携わるだけではない。
身動きを封じられ監禁されている、所謂人質といった形でボンドルド達の元にいるかもしれないのだ。
この場合、人質にされているのはポルナレフとジョセフだけとは限らない。
死者を蘇生させる力が確かなら、花京院やアヴドゥル、イギーも復活させられた上で捕らえられていてもおかしくはない。
或いは、参加者の肉体として会場にいるとも考えらる。

尤も、これらは全て「主催者が天国へ行く事を目的としている」という前提が正しければの話だ。
100%の確信を持ってそうだとは言えないし、承太郎が全くの見当外れな推理をしている可能性とて十分にある。

だがもし自分の考えが正しければ、友が殺し合いの犠牲にされそうになっているのなら、
また一つ、ボンドルド達を叩き潰す理由が増えた。

承太郎が改めて主催者への怒りを燃やした丁度そのタイミングで、三人は橋を渡り切った。


【F-6と7の境界、道路】

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:燃堂力@斉木楠雄のΨ難
[状態]:疲労(中)、両腕と肩に裂傷(中程度回復)、上半身に切り傷(ほぼ回復)、銀髪の男(魔王)への怒り
[装備]:ネズミの速さの外套(クローク・オブ・ラットスピード)@オーバーロード、MP40(残弾ゼロ)@ストライクウィッチーズシリーズ
[道具]:基本支給品×2、予備弾倉×3、ランダム支給品×0〜1(確認済み)、童磨の首輪
[思考・状況]基本方針:主催を打倒する。
1:新八、ホイミンと共に風都タワーに向かう。
2:主催と戦うために首輪を外したい。
3:自分の体の参加者がいた場合、殺し合いに乗っていたら止める。
4:DIOは今度こそぶちのめす。たとえジョセフやジョナサンの身体であっても。
5:銀髪の男(魔王)、半裸の巨漢(志々雄)を警戒。
6:天国……まさかな。
[備考]
※第三部終了直後から参戦です。
※スタンドはスタンド能力者以外にも視認可能です。
※ジョースターの波長に対して反応できません。
※ボンドルドが天国へ行く方法を試してるのではと推測してます。
 またその場合、主催者側にDIOの友が協力or自分の友が捕らえられている、自分とDIOの首輪はダミーの可能性があると推測しています。
※時間停止は現状では2秒が限界のようです。

【志村新八@銀魂】
[身体]:フィリップ@仮面ライダーW
[状態]:健康
[装備]:フーの薄刃刀@鋼の錬金術師
[道具]:基本支給品、ダブルドライバー@仮面ライダーW、T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、新八のメガネ@銀魂、両津勘吉の肉体
[思考・状況]基本方針:主催者を倒す
1:風都タワーに行く
2:神楽ちゃんを探す
3:左翔太郎さんの体も誰か入ってるのか気になる
4:銀さんを殺した相手(魔王)に怒り
[備考]
※メタ知識が制限されています。参戦作品(精神・身体両方)に関しては、現状では「何となく名前に見覚えがある気がする」程度しか分かりません。
こち亀に関してはある程度覚えているようです。
※地球の本棚は現状では使えないようです。今後使えるか、制限が掛けられているかは後続の書き手にお任せします。

【ホイミン@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
[身体]:ソリュシャン・イプシロン@オーバーロード
[状態]:健康、魔力消費(小)
[装備]:アンチバリア発生装置@ケロロ軍曹、シャルティエ@テイルズオブデスティニー
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:人間にはなりたいが、そのために誰かを襲うつもりはない。
1:ライアンさんのように、人を守るために戦う。
2:風都タワーに行く
3:新八くんとシャルティエさん、大丈夫かな…
4:何だか何時もより疲れた…
[備考]
※参戦時期はライアンの旅に同行した後〜人間に生まれ変わる前。
※制限により、『ホイミ』などの回復魔法の効果が下がっています。
※プロフィールから、『ソリュシャン・イプシロン』と彼女の持つ能力、異世界の魔法に関する知識を得ました


337 : ◆ytUSxp038U :2021/12/19(日) 20:38:25 Nnvyup6I0
投下終了です。


338 : ◆NIKUcB1AGw :2021/12/21(火) 22:48:26 ISuhnIX20
投下乙です
承太郎の考察がまた進んでるけど、どこまで当たっているのか……


ゲリラ投下させていただきます


339 : flame of sword〜夜明けの後に〜 ◆NIKUcB1AGw :2021/12/21(火) 22:50:21 ISuhnIX20
ああ? どこだ、ここは。
洞窟の中……。俺のアジトか?
いや、違うな。あそこはちゃんと人の手が加えられてた。
こんな岩肌がむき出しの場所なんて、ほとんどなかったはずだ。
まあそれも気になるが、目の前にいるこいつが誰なのかも気になる。
申し訳程度に布を纏っちゃいるが、ほぼ裸だ。
無駄の一切ない筋肉は、こいつがただ者じゃねえことを物語ってる。

「エシディシよ……」

いや、誰だよ。


◆ ◆ ◆


万事屋の店内で、志々雄は目を覚ました。

「んっ……。なんだ、いつの間にか寝ちまってたのか」

自宅でうたた寝でもしていたかのようなそぶりで、志々雄は椅子から体を起こす。
その表情には若干の緩みが見られたが、それはすぐに消える。
部屋の中から、誰かの話し声が聞こえたからだ。

「誰だ!」

即座にエンジンブレードを手に取り、構える志々雄。
だが、声はすれども人の気配はない。
不審に思いながら、志々雄は声の出所を探る。
そして、彼は気づく。部屋に置かれた小箱から、声が出ていることに。

「あぁ? なんだこりゃ?」

さすがの志々雄も、自分の時代には存在しなかった「テレビ」を一目で理解することはできなかった。
だが短時間の観察で、それが通信機器の一種であることを見抜く。

「遠くの光景を映すことができるからくり、ってところか……。
 俺の想像も及ばねえような技術が無造作に配置されてるとは、ますます興味深い」

感嘆の言葉を漏らしつつ、志々雄は主催者からもたらされる情報に注目する。
放送は、死者の発表にさしかかったところだ。

「知ってる名前がチラチラ出てやがるなあ」

告げられる死者の名前の中には、以前から志々雄が知っていたものもあった。
「鵜堂刃衛」に「岡田以蔵」。
どちらも、幕末の京都で名を馳せた人斬りだ。
この殺し合いにおいては、岡田の体に刃衛の精神が入っていたらしい。
いったい、いかなる剣客が誕生していたのか。
興味は湧くが、すでに死んでしまっているのでは確かめようがない。
そしてもう一人、「相楽左之助」。
志々雄の組織が全財産の3/5をつぎ込んだ兵器を、本領発揮前に海の藻屑へと変えた因縁の男。
彼は肉体のみが参加させられていたようだ。
肉体だけとはいえぶちのめしてやれば多少はスッキリするかなどという考えが頭をよぎったが、こちらもすでに死んでいるのではどうしようもない。

さらに、先ほど戦ったばかりの男も死者の中に含まれていた。
異様に眉毛が太い警官の体に入っていた男・坂田銀時。
彼もまた死んでしまったらしい。

「あの色男にやられたか、あるいは横から別のやつがかっさらっていったか……。
 まあ、どっちにしろ俺には関係ねえか」

面白い男ではあったが、死んでしまったということは弱者に過ぎなかったということ。
もはやたいして興味も湧かない。

「しかし、11人か……。そこそこ死んだな」

ややネガティブな感情を込めて、志々雄が呟く。
彼とて何も、全ての参加者を自分の手で殺せるとは思っていない。
だがすでに10人を超える死者が出ている中で、自分がまだ一人も殺せていないというのは面白くない。

「まあ、最初にぶつかったやつに時間を使いすぎたせいなんだが……。
 こりゃゆっくりしてらんねえな。
 のんびり太陽を避けてる間にほぼ全滅してましたなんてことになったら、さすがに格好がつかねえ」


340 : flame of sword〜夜明けの後に〜 ◆NIKUcB1AGw :2021/12/21(火) 22:51:14 ISuhnIX20

現在志々雄の意識が宿っている肉体は、柱の男であるエシディシのもの。
その種族としての特性ゆえ、太陽の光の下には出られない。
ゆえに彼は、これからの方針として二つの選択肢を想定していた。
一つは日が沈むまで、屋内に留まること。
もう一つは支給品の鎧で太陽光を遮り、外に出ること。
だが現在、前者の選択肢は完全に消えた。
殺し合いの進行は、思った以上に速い。
あと半日も、安全な場所に引きこもっている場合ではない。

「ただ生き残るのが目的なら、こんな危険を冒す必要もねえんだろうが……。
 あいにく俺は、それだけじゃ満足できねえんでな」

志々雄の目的は、殺し合いを勝ち残ることだけではない。
この会場に無数に存在する、自分にとって未知の技術を手に入れることも目的だ。
じっとしていては、それは手に入らない。
部下を動かせた生前とは違い、今は全て自分でやらねばならないのだから。

「一人くらい、手下を作ってもいいかもしれねえな。
 どのみち、首輪を外せるやつは従わせるやつだったし。
 まあ、捕らぬ狸の皮を数えても仕方ねえか」

そうこうしている間に、鎧はほぼ装着し終わっていた。
最後に残ったフルフェイスの兜が、志々雄の頭部にかぶさる。

「とりあえず、これで大丈夫だとは思うが……」

念のため、片手だけを建物の外に出してみる。
異変は見られない。

「よし、ちゃんと遮断できてるな。それじゃあ、行くか」

改めて、志々雄は店の外へと足を踏み出す。

「そういやさっき、変な夢を見たような……。
 まあ、どうでもいいか」

わずかな夢の残滓は、あっさりと消え去った。


【G-8 街 万屋銀ちゃん/朝】

【志々雄真実@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-】
[身体]:エシディシ@ジョジョの奇妙な冒険
[状態]:ダメージ(小)、再生中
[装備]:エンジンブレード+ヒートメモリ@仮面ライダーW、アルフォンスの鎧@鋼の錬金術師
[道具]:基本支給品、炎刀「銃」@刀語
[思考・状況]基本方針:弱肉強食の摂理に従い、参加者も主催者も皆殺し
1:参加者を探して殺す
2:首輪を外せそうな奴は生かしておく
3:戦った連中(承太郎、魔王)を積極的に探す気は無い。生きてりゃその内会えんだろ
4:未知の技術や異能に強い興味
5:日中の移動には鎧を着る。窮屈だがな
[備考]
※参戦時期は地獄で方治と再会した後。


341 : ◆NIKUcB1AGw :2021/12/21(火) 22:52:26 ISuhnIX20
投下終了です


342 : 名無しさん :2021/12/21(火) 23:06:58 LZQWN3g60
乙です
志々雄はやっぱり積極的に動く感じか、鎧があるけど日中どこまで動けるんだろう
というか煉獄の件をまだ根に持ってたの草


343 : ◆s5tC4j7VZY :2021/12/25(土) 22:29:40 dzUiu5aM0
投下お疲れ様です!

一歩前へ
銀さんやリオンを失った悲しみを振り切ろうとする新八にシャルティエは読んでいて切なく感じました。
定時放送から承太郎の考察が一歩一歩深まっていく描写はとても説得力があり、巧みだな〜と感心させられます。

flame of sword〜夜明けの後に〜
留まることを選択せず、鎧を纏ってでも動く志々雄。
鎧が損傷すれば諸刃の剣にもなりかねない状況ですが、やはり志々雄らしい行動だと思いました。

「エシディシよ……」

いや、誰だよ。
↑志々雄のこのツッコミに読んでいて笑っちゃいました。

感想ありがとうございます!

「誰かの笑顔」のために生きている
ダグバから笑顔を引き出す方法に納得です。
↑実は投稿する前、「この方法でダグバから笑顔を引き出すのに違和感を感じられたらどうしようかな……」と不安でしたので、感想に本当にホッとしました。
また、描写のことを褒めていただきありがとうございます。
ytUSxp038Uさんを始めとした他の書き手の皆さまから学ばせていただいております。
また、精神復活はytUSxp038Uさんの作品から着想を得ました。
この場にて感謝御礼申し上げます。
そして、おっこに真乃の身体の所有者はどちらも難あるので、確かに不安ですね……


344 : ◆5IjCIYVjCc :2021/12/27(月) 00:03:50 7ICCTHhM0
神楽、広瀬康一、グレーテ・ザムザで予約します。


345 : ◆5IjCIYVjCc :2022/01/01(土) 22:22:40 O6bsdQHQ0
投下します。


346 : 人生は選択肢の連続 ◆5IjCIYVjCc :2022/01/01(土) 22:23:34 O6bsdQHQ0
C-5の道路を東から西へ向かって走る2人の男女の人影があった。
その2人、広瀬康一と神楽は今もなお仲間との約束通り山の麓の病院を目指している。

康一は今、先ほどと同じく自分のスタンドであるエコーズを飛ばした状態で移動している。
ただし、前とは少しだけ違う部分も存在している。
前回、康一はエコーズを遠くに飛ばして索敵を行っていた。
だが、それにより危険人物(ポケモン)であるメタモンが自分達に近い場所で本性を現した時、エコーズを呼び戻すのに少々時間がかかった。
相手が瞬間移動か、もしくはとてつもない素早さによるものか、どちらにしろこちらがすぐに対応できない速度で動いてきたためにエコーズの真価を発揮することはできなかった。
だから今回は反省を生かし、エコーズと自分たちの距離は一定の時間で離したり近づけたりしながら、前よりももっと早く引き戻せるよう気をつかいながら動かしていた。

(カイジさんと神楽さん、大丈夫かなあ……)

周りを警戒しながらも、康一はカイジと神楽のことを心配していた。
カイジに関しては、遭遇したメタモンの危険性をゲンガー達に伝えるためとはいえ、単独行動を始めるのは彼自身を危険に晒してしまうため心配な気持ちは完全には消えない。

そして神楽に関しては、カイジと別れることになってからというもののどうも意気消沈とした様子になっている。
確かに彼のことが心配なのは自分も同じだが、明らかに自分よりも気分が落ち込んでいるように見える。

(やっぱり、カイジさんの身体の長谷川さんって人に関係あるのかなあ…)

神楽と康一はここで出会ってからまだ数時間程度の関係だ。
しかしそれでも、彼女の仲間や知り合いなどについての話は聞いている。
坂田銀時や志村新八についてもそうだが、カイジの身体となった長谷川泰三もまた彼女の友人と呼べる者の1人だ。
もしかしたら、中身が別人とはいえ、こんな異常な状況下で出会えた数少ない知人に会えて安心していたのかもしれない。
だからこそ、一時的とはいえ自分から離れることになったことに対してショックを受けたのではないかと思われる。
もし自分が目を離した隙にカイジと長谷川泰三の身体が死んでしまうのかと思うと、その不安はより大きなものになるのだろう。

思い返せば、メタモンの前で最初にゲンガーの名前を口に出したのは神楽だった。
発言としては何気ないものであったが、相手はそれを聞き逃さなかった。
カイジと別れたのもそれが理由であるため、もしかしたらこの点についても彼女は後ろめたく思っているのかもしれない。
しかし今更気付いたとはいえ、康一はこのことを神楽の前で口にするわけにはいかない。
わざわざ指摘してしまえば、それこそ彼女には自分を責めているように捉えられるかもしれない。

このあまり良くない空気をどうすればいいのか、そんなことを康一が考え始めていたその時であった。
島中にチャイムが鳴り、殺し合いの定期放送が始まる時間が来た。



『皆さんおはようございます。この殺し合いの進行状況を連絡するための定期放送の時間になりました』
『私はボンドルド。こうして姿をお見せするのは初めてですね』


「あの仮面の男が、ボンドルド!」
「あいつのせいで私たちは…!」


347 : 人生は選択肢の連続 ◆5IjCIYVjCc :2022/01/01(土) 22:24:13 O6bsdQHQ0
放送が始まると同時に島の中央辺りに出現した巨大な画面を見つめながら2人は、特に神楽は憤る。
彼女の中に溜まっている不安の感情は、突如画面越しに現れた今現在判明している殺し合いの主催陣営の人物に向けて怒りという形で出力される。
だがどれだけ怒っていても、遠くの画面の先にいる者に対しては意味がない。
感情をぶつけようとしても、それを無視して定期放送はただ進むのみである。
やがてボンドルドは自分の話を終え、次の担当者へと放送を引き継いだ。

『僕の名前は斉木空助。ボンドルドと同じくこの殺し合いの主催者の一人をしているよ』


「斉木、空助…?あいつは仮面を被らないのか…?」
「名前や仮面なんてどうでもいいネ。あの野郎もどうせ私たちでぶちのめすまでヨ」

白髪の男はどこか軽いノリでやっているように見えながらも淡々と話を続ける。
新たに主催陣営の人物が現れるとは思っていなかったが、今すぐはあまり気にせずに2人も放送に集中し始める。

そのすぐ後、斉木空助はこの殺し合いにおける死亡者についての話を始める。
遂にこの時が来たのかと、2人も唾を飲み込みながら放送に対しより意識を集中する。

そして、広瀬康一はそこで発表された死亡者の名前にかなり驚かされることになる。

『吉良吉影…その身体の名は二宮飛鳥』

「……え!?」

その名前は、彼もよく知る凶悪な殺人鬼の名前であった。



同時に画面に映し出された二枚の顔写真の内片方に写る男の顔を、康一はよく知っている。
初めてそいつに会った時、『普通っぽい顔をしている』という印象を抱いたことをよく覚えている。
それと同時にそんな顔をしながらも裏側に存在するであろうドス黒さに対しおぞましさと怒りを感じたことも覚えている。
その男の顔は今、死者のものとして康一の目に飛び込んできた。

けれどもこれに対し、康一は「ホッとした」という安心感を得ることはない。
もちろんその男…吉良吉影という殺人鬼は絶対に許してはいけない相手だということに変わりはない。
しかしだからといって、この瞬間に康一は吉良が死んだことを喜ぶことは全くできなかった。

そもそも吉良はかつて救急車に轢かれて事故死している。
彼はどうせ法律で裁けない相手であり、岸辺露伴もこれが一番いいと言ったため、そんな結末になるのも仕方のないことだっただろう。
だが、これが康一の意見と言うつもりはないが、人によってはあの最期が完全に納得できるかと聞かれたら少々口ごもる者もいるかもしれない。
タイミングの問題でもあったが、吉良を助けようとした女性に責任を感じさせ、救急車の運転手を人殺しにしてしまったとも言えるからだ。
あの時は康一が動かなければ吉良をバイツァ・ダストによって1時間前に逃がしてしまう可能性があり、そのおかげで空条承太郎が時を止めるのにも間に合った。
だがこの一連の流れにより吉良は救急車のすぐ後ろに投げ出された。
運が悪かったと言えばそれまでだし、既に起こってしまったことは変えられないものだ。


348 : 人生は選択肢の連続 ◆5IjCIYVjCc :2022/01/01(土) 22:24:55 O6bsdQHQ0
康一はかつて、杜王町は『町が生んだ吉良吉影という怪物によって町自身は傷つけられた』と表現した。
もしかしたらこれらのことについてもまた、吉良吉影が杜王町に残した『傷』そして『痛み』と言えるのかもしれない。
そして、その『傷』と同じようなものがこの瞬間、康一の心に付けられた。
吉良吉影の隣に写真が載せられている二宮飛鳥という少女のことを康一は知らない。
だがここで発表されたということは、彼女もまた吉良と共に死亡してしまったということになる。
二宮飛鳥は中学生くらいに見えるが、彼女の経歴といったものはここでは全く分からない。
しかし年若き彼女の命は、吉良という殺人鬼なんかの巻き添えで失われてもいいものであったとは言えない。
吉良がこの舞台のどこで何をしていたかは分からないが、彼女が死んでしまったのはその男の行動のせいと言えるだろう。
ひょっとしたら少女の精神の方はまだ無事かもしれないが、そういった考えを康一はすぐに思い浮かべることはできない。

そして、康一が与えられた衝撃はこのことについてだけではない。
吉良が死んだということは、吉良を殺せる力を持った何者かが存在するということだ。
いくら少女の身体になったとはいえ、精神由来の能力であるスタンドは今も使えるはずだ。
特に吉良のスタンドのキラークイーンは触れた物を爆弾に変えるという強力な能力を持っている。
そんな能力を持っていながらも、吉良は敗れて死亡したというのだ。
少女の身体であることがハンデとなったのか、そういったことは分からない。
むしろ、大人の男の姿でない分相手を油断させるといった活用法も考えられる。
どちらにしろ、吉良の命を奪った何者かは吉良を殺せるだけの"何か"を持っているということだ。


もっとも、康一は上記の事項の数々をこの瞬間に思考できた訳ではない。
吉良が死んだこと、罪の無いはずの少女も巻き添えになったこと、吉良を倒せる何かが存在すること、
そういったことは理解できたが、これらから連想できることはまだ整理できていない。
放送前まではおくれカメラが無くなってしまったことで出くわしても正体看破ができない可能性を心配していたが、そんなことも彼の頭の中から吹き飛ばされた。
それほど吉良の死は康一にとって衝撃的であった。


けれども、ここでその精神の混乱を落ち着かせる暇は与えられなかった。
この死亡者発表の時間において、彼らに大きな衝撃を与える情報はまだ存在していた。
その者の名前は、吉良吉影のすぐ後に発表された。


『坂田銀時…その身体の名は両津勘吉』


「…………………へ?」


その名前が出たとたん、隣にいた神楽の目から光が消えた。




その男の顔が出る直前までには3人分の、精神と身体を合わせれば6人分の死者の名前と顔写真が公開された。
その中で神楽の知るものは二つ、ゲンガーが出会い死に別れたという木曾と広瀬康一の敵である殺人鬼の吉良吉影。
聞き覚えはあるが少し違うものが一つ、人斬りの岡田似蔵に名前が似ている岡田以蔵という男。
それらの名前を聞いた時、自分が一体どんな感情を抱いたのか神楽はもう思い出せない。


349 : 人生は選択肢の連続 ◆5IjCIYVjCc :2022/01/01(土) 22:26:13 O6bsdQHQ0
4番目に死者として発表されたその男の名前を神楽は知っている。
右の写真の、いかつい顔つきの太眉警察官のことは何となく見覚えがある気がするが、今はそれを気にしている場合じゃない。
左の写真の、銀髪の天然パーマに死んだ魚のような目をした男の顔は、神楽がよく見慣れているものだった。

男の名前を聞いた瞬間、神楽の頭の中は真っ白になった。
経った今知らされた情報を理解することができなかった。
否、理解はできていたがそれを認めたくなかった。
次第に、自分の周囲の情報を彼女は認識できなくなっていく。
男とのこれまでの思い出が黒く塗りつぶされていくような感覚に苛まれていく。

彼女にとってとても大切な仲間、いなくなったら彼女の帰る場所も無くなってしまう存在、
そんな男、坂田銀時は神楽のあずかり知らぬところで死亡したという事実がここで突き付けられた。




(そ、そんな…坂田さんが死んでしまうなんて…!)

康一は坂田銀時という男のことは全く知らない。
名前の通り銀髪であるということも初めて知った。
だが、この名前を持つ男が神楽にとってとても大切な仲間であるということは理解していた。
そして彼女の反応から、今顔写真が公開された男が同姓同名の別人という訳でもない本人であることも分かった。

「いや…嘘……そんな………銀ちゃんが死ぬなんて嘘ネ……そんなわけ、な……」

康一の隣にいる神楽は自分が見ているものを信じられない様子でいる。
目を見開きながら震える手で島の中央に見える画面を指さす。
そんな彼女の目にはじわじわと、涙ぐんだ状態になっていく。

「あ、あぁ…うあぁ……」

神楽の声が段々と言葉にならないものになっていく。
呼吸も一緒に荒くなっていく。
両手が無意識に、頭を抱える形になるよう移動していく。

「銀ちゃああああああああああああああああんん!!」

神楽は、泣いた。
彼女の絶叫が辺りに響く。
手は次に顔を覆うように動いていく。
大声は次第に嗚咽となる。
呼吸もままならず、膝から崩れ落ちてすすり泣く。


「か、神楽さん…」
「康一ぃ……銀ちゃんが、銀ちゃんが……!」

康一に呼びかけられて少しして、神楽は彼の方に顔を向ける。
その顔は彼女の涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってゆく。
自分の感情の言語化もできず、ただもう戻ってこない者の名前を繰り返す。


(どうすれば…僕は、ここで一体何て言えばいいんだ……!)

康一は一応名前を呼んだはいいものの、その後どうすればいいか判断がつかなかった。
彼も吉良の死で大きな衝撃を受けたというのに、最悪なタイミングで銀時の死が知らされた。
神楽の精神は康一以上に大きなダメージを受けてしまった。
彼女がこの状態になったのは、ただでさえ早朝の出来事で落ち込んでいたところに泣きっ面に蜂の如くこの情報を叩きつけられたこともあるのだろう。

康一はそれでもなんとか彼女のためにかけるべき言葉を思い浮かべようとする。
けれども、自分もまだ動揺している頭ではやはりこれといった答えが見つからない。
目の前で絶望している女性に対し、ただ何もできないまま突っ立ってしまう。
この状況では彼の精神も、悔しい気持ちや自己嫌悪の感情が大いに占めていく。


そして、この康一の判断の遅れは、現状に更なる混沌を呼び込むことになる。


350 : 人生は選択肢の連続 ◆5IjCIYVjCc :2022/01/01(土) 22:26:51 O6bsdQHQ0

2人の近くに、新たな存在が現れた。


「な、何だあいつは!?」

最初に気づいたのは、康一であった。

「ふぇ…?」

神楽はそれに対し、泣き疲れて意識の朦朧とした頭のまま康一の視線の先へと目を向ける。


「ギ、ギギイ゛ィ゛ッ!?」

そこにいたのは、緑と青の体色が目立つ、怪物然とした姿の巨大な甲虫であった。





(あぁ…何てこと……あんなことまで………)


放送が始まったことでグレーテ・ザムザが感じたもの、それは前々からと変わらず、そしてより深くなったかもしれない絶望だ。
チャイムが鳴ると同時に島の中央上空に映った映像を見て彼女はそう感じた。
空に巨大な画面を映し出すという、彼女からしたらそれこそ神が行うような御業を、悪魔の如き催しを行う殺し合いの主催者たちが行っている。
主催陣営が持っているはずの、未知なる強大な力に対する恐れがより大きなものとなっていく。
画面に映るボンドルドが気味の悪い仮面を被っていることに対しては、殺し合いを強要している奴らはやはり人間ではなく、
正体はそれこそ本当に悪魔なのではないかという思いも出てくる。

やがて、途中で担当者が変わり、死亡者発表が始まる。
新たに現れたサイキ・クウスケという男に対しては特別な感慨を抱くことはない。
普通の人間の姿に見えても、彼女にとってはボンドルドと同じく悪魔だとしか思えない。
そんなことを考えていても、発表が止まることはなく、彼女の耳にも否応なし入ってくる。


『吉良吉影…その身体の名は二宮飛鳥』
『リオン・マグナス…その身体の名はランスロット』
『煉獄杏寿郎…その身体の名は相楽左之助』

(あ、あの少女まで…!?)

死亡者発表の中で、彼女が顔を知る者は3人、その内既に死を把握していたのは2人だ。

リオン・マグナスという男の名は今初めて知ったが、その右側に掲載された男の顔は先ほど見たばかりで、その時には既に死んでいた。
彼女が彼に対して何も感慨を抱くことはできない。
ただ、自分が彼を見つけた時に感じた自分が本当に怪物なってしまったのではないかという感覚を思い出してしまった。

煉獄杏寿郎については悲鳴から死んでいることを何となく察していた。
だがここでその事実を突き付けられると、無理矢理に己に言い聞かせて押さえていた罪悪感と後悔が再び湧き上がってくる。
もう一人の素手で岩を砕いた男がまだ生きていることにまで気を掛ける余裕はない。


そして、吉良吉影、及び二宮飛鳥と呼ばれた少女の名についてもグレーテは今初めて知った。
その少女に対して覚えていることは、自分から分離した腹部が爆発し、大男を1人巻き込んだ後に現れ、自分を『化け物』として見てきたことだけだ。
それ以外に少女に対して覚えていることはない。
少女に対してはグレーテは攻撃したことはない。

(まさか、私のせいで…?)

だがグレーテはここで、最悪の展開が起きたことを想像をしてしまった。
あの時腹部を爆発させてしまったことにより巻き込んだ大男は今回死亡者として顔を公開されなかった。まだ生きているということだ。
そしてグレーテは、あの男がこの殺し合いに乗っていると思い込んでいる。

そこから導き出される結論、それはあの時自分が少女を足止めしてしまったせいで、目を覚ました男が少女を殺害したのではないのかということだ。

(………違う、違う違う違う違う…違う!!私のせいじゃない!!私のせいじゃないの!!だって、だって、そんなつもりは…!)

自分のせいで、何の罪も無い少女の命が失われた。
心の中で必死に否定しようとしても、その最悪の想像はグレーテの中で事実ということになっていく。
度重なる絶望の中で、彼女は自分を信じられなくなった。

(私は…私は……!)

思い込みは、より彼女自身を追い詰めていく。
煉獄を見捨てたと感じた時の後悔も復活した。
彼女にとって人の力を超えていると感じた空中スクリーンを見た時の恐怖も加算される。
彼女の精神は、とうの昔から許容の限界を超えた絶望でより押しつぶされていく。
もはやまともな思考もままならず、絶望に身を任せて彼女は草原を駆けて行く。


そんなグレーテが方向、彼女自身が意識してなかったその方角は、北であった。
彼女はそこでその二人、広瀬康一と神楽に出くわした。



「ギ、ギギイ゛ィ゛ッ!?(こ、今度は誰!?)」


351 : 人生は選択肢の連続 ◆5IjCIYVjCc :2022/01/01(土) 22:27:57 O6bsdQHQ0

グレーテは新たに2人の人物と出くわしてもなお、その思考回路は錯乱したままだった。

男の方は軍服っぽい?格好をしていることや、女の方は胸部が異様に肥大化しているのに布一枚だけの謎の衣類を着けていることは認識できている。
ただし、これらのことに対してまで彼女が意識を向ける余裕はない。
グレーテを見た瞬間の2人の目、それはとても疎ましいものを見る目であった。
『何故お前のような者がここにいるのだ』『ここに居られても迷惑だ』そんなことを訴えているかのような視線であった。

(駄目よ…このままじゃいけない!このままでは殺される…!)

一瞬だけであったが、彼らから向けられた視線を、かつて自分たちがグレゴールに向けていたものと同じものだと感じた。
理解のできない化け物を見る目、
自分たちの領域に居られては困る、迷惑だという意志のある目、
そして、自分たちの普通の日常を侵害したという点に対する憎しみのこもった目だと感じた。

「お前は……いや、君は一体…」

「ギイ゛ィッ!ギエイ゛ア゛ァッ!」

男が何かを言いかけたところで、グレーテのスカラベキングとしての身体から触覚が伸びた。
彼女は、自分の方から目の前の相手に攻撃をしかけてしまった。
本当に殺されると思ったならば方向転換して逃げるべきであった。
だが多大な恐怖と絶望で錯乱した精神と、そしてかなり少量だが血の匂いがしたことでモンスターとしての意識が介在し、この行動をとらせてしまった。

彼女の触覚の行く先は血の匂いがしてきた方向、膝をすりむいていた神楽の方だ。


「でえぇい!」

「ギッ!?」

康一はとっさに、手に持った水勢剣を振るいグレーテの触覚を弾いた。
ブレイズになっていないのは、ここで変身していてはその隙に触覚が神楽の下に届いてしまうと咄嗟に判断したためだ。


神楽は今、仲間の死による深い悲しみで戦える状態にないと思われる。
康一の精神もまだ安定していないが、ここは神楽を守るために戦うことを何とか咄嗟に決められた。

突如現れた謎の虫に対してはその正体について考える暇はない。
一瞬新手のスタンドの一種か何かかと思ったが、よく見たら首に当たる部分に自分達と同じ首輪のようなものがあるのが見えた。
人とはかなりかけ離れた姿をしているが、この怪虫が参加者であることは何とか認識できた。
そして、今の行動により相手が自分に対して今は敵対的な行動をとっていると判断できる。


「エコーズACT3!その伸びてくるやつを止めるんだ!」
『了解シマシタ。3FREEZE!!』

康一は近くにいたエコーズをACT3に変え、グレーテの触覚に攻撃させた。
突如現れた宙に浮く謎の人型に対処できず、グレーテはその攻撃を受けてしまう。

「ギア゛ァッ!?」

触覚は、急激に重くなった。
グレーテはその重さを支え切れず、触覚は地面に落ちる。
あまりの重さに、触覚が落ちた道路にめり込んでいた。
これこそが、康一のエコーズACT3が持つ能力『3FREEZE』、攻撃した対象をとてつもなく重くする能力である。

「ギイッ!ギュア゛ァッ!」

グレーテは必死に重くさせられた触覚を引っ張り、動かそうとする。
しかし、地面にめり込むほどの重さとなったその触覚は簡単には持ちあがらない。
ACT3の能力は射程距離5メートル以内、近ければ近いほど攻撃対象は重くなる。
グレーテの触覚は今、その能力の範囲内のかなり近い方にあった。


「変身」

『流水抜刀!』


グレーテが重さに対ししばらく必死に格闘していた時、新たに別の男の野太い声が聞こえて来た。
その声は、グレーテの触覚を重くした謎の人型の声ではない。
だが、ここに新たに第5の人物が現れた様子はない。

グレーテは目線を声が聞こえて来た方に向ける。
そこにいた者は、最初に認識した軍服?を着た男のはずであった。
しかし、その姿は大きく変わってしまっていた。
残っている共通点はその手に持つ青い装飾のある剣だけであった。

そいつを見た時、グレーテの精神の恐怖がさらに加算された。


そこにいるのは水の剣士の異名を持つ仮面ライダー、ブレイズだ。
青い装甲を身に纏うその姿は、大体の人間にとってはヒーローと認識できるものだろう。


352 : 人生は選択肢の連続 ◆5IjCIYVjCc :2022/01/01(土) 22:30:09 O6bsdQHQ0

だが、グレーテにとっては違った。
その胸部にある青いライオンの顔は、本物の猛獣の頭を胸から生やしたキメラのごとき怪物に見えた。
そして何より彼女を恐怖させたのは、頭部から真っ直ぐ設置された聖剣に選ばれた証の刃、ソードクラウンと呼ばれるものだ。

彼女はこれを見て、数時間前に見た悪魔を想起した。
それは、頭部からチェンソーの刃を生やした怪物、チェンソーの悪魔だ。
彼女は、ソードクラウンから目の前の聖剣の仮面ライダーを以前見た悪魔と同一視してしまった。





「ギュア!ギュイアァッ!ギュエイアアァッ!!」

(こいつも、一体どうすれば…)

康一は、エコーズACT3の能力で無力化することができたらしき怪物を見ながら考え始める。
伸ばしてきた触覚を重くしたことで、相手は必死にそれを引きずて抜け出そうとしている。
今のところはそれ以外の行動をとりそうな様子は見えない。
その隙に念のためにと思い、康一はブレイズに変身しておいていた。
水勢剣の剣先は怪物に向けて構え、牽制できるようにしておく。

変身後のブレイズの姿を見た時、怪物は何故だか妙により必死にACT3の能力から抜け出そうとし始めた。
だからといって、康一は今すぐこいつに追撃をしようと思えなかった。


この巨大な虫が現れた瞬間、康一は『何でこんな時にこんな奴が来るんだ』と思ってしまった。
自分も動揺し、神楽の精神状態も危うい状態であるのに、さらに謎の虫まで出てきて『面倒』『厄介』『迷惑』という気持ちが現れ、顔にも出てしまった。
しかし少し落ち着いて考えてみると、『それは違うんじゃあないか?』という考えも出始めていた。

首輪の存在から、この虫もまたこの殺し合いの参加者であることが分かる。
それはつまり、相手は見た目通りの虫ではなく、精神は普通の人間である可能性が考えられる。
先ほどの放送でも、(あまり集中して聞けなかったが)身体は人外でも、精神は普通の人間と思われる死亡者がいた。
この虫もまた被害者であり、自分達以上に酷い状況であるとも考えられる。
もしかしたら、身体がこんな虫の怪物になってしまったことで、やりたくなくても本能のままに人を襲ってしまうのではないのか。
そうであるならば、自分はこの虫を哀れむべきだろうか。

『ドーシマスカ?コイツハマダ動ケルミタイデスヨ?追撃ハシナイノデスカ?』
「いや…もう少し考えさせてくれ」

エコーズACT3が急かすように話しかけてくるが、次の行動はまだ決められない。
今のところはもがくのに夢中で虫から攻撃してくる様子はない。
お互い落ち着くことができれば、交渉することも可能なのではないかと、そんな考えも浮かび始めた。


「……なあ、康一。こいつ今、私に何しようとしていたカ?」

そんな時、神楽が顔を上げて立ち上がり、グレーテのことを睨みながらそう言った。
その手には魔法の天候棒が握られている。
彼女の顔を見てみると、歯を食いしばっていた。


「銀ちゃんは死んじゃったのに…なんでこんな奴が……!」

神楽の声には、怒気が含まれていた。
ついさきまで嘆いていただけの彼女でも、自分に攻撃が仕掛けられたことには気づいていた。
自分の大切な仲間は死んだというのに、それを想うための時間を奪う存在に対して苛立ちが湧いてくる。
彼女の中で渦を巻いていた大きな負の感情が、今度はグレーテに対して怒りとして出力され始める。
天候棒を握る手に力が入り、これを長く伸ばす。
半ば八つ当たり気味に、グレーテの排除のために動こうとし始める。


「ギ、ギイィッ!キュイイイィッ!!」

神楽の様子を見たグレーテはより慌て始める。
相手が自分に対して、憎しみを抱いているのだと感じていた。

「神楽さん!ちょっと待ってください!ここは一旦落ち着いた方が…」
「うるさい!こんな虫、ここで潰したって…!」
「違います!この虫…いや、この人は参加者です!戦ったらそれこそボンドルドたちの思うつぼで…」

康一は怒りのままにグレーテに攻撃しようとする神楽を抑えようとする。
肩を掴んで力を加えて押さえる。
それでも神楽は無理にでも押し通ろうとする。


353 : 人生は選択肢の連続 ◆5IjCIYVjCc :2022/01/01(土) 22:31:03 O6bsdQHQ0



「キィ゛エ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!」

そんな折に突如、グレーテが叫んだ。
それと同時に2人の頭上に異常が現れた。
空の上から、どこからともなく大量の岩石が降り注いできた。


「危ないッ!」
「キャア!」

康一はグレーテの叫びを聞いてすぐ、空の岩石に気づけた。
神楽はそれに気づくのに少し遅れた。

康一は咄嗟に神楽を押し倒し、岩から庇うために覆い被さる。
だが、この体勢では手の中の剣を岩を砕くためには使えない。

「エコーズ!僕たちを守れ!」
『了解シマシタッ!』

グレーテの近くにいたエコーズACT3は康一の言葉に従い、2人の上の方の位置に陣取る。
神楽を守るために攻撃できない康一に代わり、降り注ぐ岩に向けて拳のラッシュを放ち、これを砕く。

「ぐうッ…!」

しかし、エコーズのパワーでは全ての岩石を完全に打ち砕くことはできなかった。
砕き切れなかった様々な大きさの破片もまた降り注ぐ。
康一はそれが神楽に届かぬようブレイズの装甲越しに受け止める。
衝撃はそれなりに大きく、苦痛の声が康一の口から漏れ出てしまう。


「キュイイイイイイイィィッ!」

スカラベキングの力で岩石おとしを放ったグレーテは、この隙に逃げ出した。



(もういや……誰も私のことを助けてくれないんだわ……)

グレーテはもはや、誰も信じることができなくなってしまった。
康一と神楽もまた、完全に恐怖の対象として認識してしまった。

彼女にとっては化け物のような姿に変身した男の姿はもう見たくなかった。
そして何より、女の方は自分に向かって『こんな虫』と、言って排除しようとしてきた。
自分のような存在は、やはり人間たちに受け入れてもらえないのだと実感させられた。
かつて犯した罪による罰が、より本格的に始まったのだと感じた。

グレーテは、これまで通り、またはそれ以上に最悪な気分で草原の上を北へと駆けて行った。



この時1つ、グレーテが気づいていないことがあった。
彼女の引きずるデイパックの穴から、新たに一つ、支給品がこぼれ落ちていた。
もっとも、もしそれに気づいたとしても今の彼女にはどうすることもできない。
グレーテは絶望を抱えたままその場を跡にするしか道は残されていなかった。



【C-5 草原/朝】

【グレーテ・ザムザ@変身】
[身体]:スカラベキング@ドラゴンクエストシリーズ
[状態]:恐慌、頭部に切り傷、触覚に痛み
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:絶望、過剰な怯え
1:この場から離れる
2:私を助けてくれる人なんてもういないんだわ…
3:喉の渇きが消えた…何だか良い気分…
4:私は心まで怪物になったの……?
[備考]
※しっぽ爆弾は体力を減少させます。切り離した腹部は数時間ほどで再度生えてきます。
※デイパックの破れた傷が広がっています。このまま移動し続ければ他にも中身を落とすかもしれません。
※血の味を覚えました。
※吉良吉影を殺したのは軍服姿の大男(犬飼ミチル)だと思い込んでいます。
※放送の内容は後半部分をほとんど聞き逃しています。


◇◆


354 : 人生は選択肢の連続 ◆5IjCIYVjCc :2022/01/01(土) 22:32:25 O6bsdQHQ0

康一と神楽が起き上がった時、巨大な虫(グレーテ)は既にその場から消えていた。
相手がエコーズの能力から逃れられたのは、岩を砕くために射程距離から離してしまったためであろう。
まさかあんな力まで持っていた点については驚かされるが、今はそれを気にするどころの状況ではない。

「うぅ…ひっく……」

神楽の悲しみはまだ続いている。
両手両ひざを地面につけ、顔を下に向けてまだ泣いている。

(……くそっ!何をしているんだ僕は…!)

康一の中に悔しい思いがどんどん湧き出てくる。
神楽のことを守り切ると決めたのに、彼女の涙を止める方法が分からない。
虫の姿をした参加者のことも止められず、逃げられてしまった。
康一はあの虫(グレーテ)がこの殺し合いにおいてどういうスタンスで動いているかについては想像できない。
だからここで逃がした相手が今後どうするつもりなのかも全く分からない。
放っておいたらどんな事態になるのかという予測もできない。
このことについてもまた、悔やむ気持ちが生じてくる。
今更ながらメタモンの時のことも、複数の能力を所持していながら相手を止められなかったことについても後悔の念が再び出てくる。


「…………ん?」

ふと、康一が巨大な虫がいた地点の方を見てみると、さっきまでそこには無かったはずのものが落ちていることに気づいた。
遠目ではそれは白い塊のように見えた。
それはどうやら、先ほどの怪物虫が落としていった物のようだった。
近づいて拾い上げてみると、その白い部分は紙であり、何かを包んでいることが分かった。

「何だ、これ…?」

包み紙を開けてみると、中からまるで懐中時計のような形状をした物体が出てきた。
その物体には上部にボタンが付いており、表の部分に何かの絵が描かれていた。
青い目に赤い体色を持つ、怪人の顔の絵であった。

包み紙の内側をよく見てみると、このアイテムの説明書になっていることに気づいた。
康一は恐る恐るそこに記された説明に目を通す。
その内容には、驚かされることになる。

「アナザー、ライダー?……仮面ライダーの力をもっているだって!?」


予想外のタイミングで仮面ライダーの名を見ることになって、思わず声が漏れ出た。
説明書によれば、このアイテムの名はアナザーカブトウォッチと言い、仮面ライダーカブトの力を宿しているらしい。
ただし、これによって変身できるのは仮面ライダーとしてのカブトではなく、アナザーカブトという名称の存在らしい。
どうも、このウォッチに顔が描かれている怪人が、そのアナザーカブトであるとのことだ。
使用するためには、上のボタンを押して体に埋め込むように押し付ければ変身できるとのことだ。

しかしデメリットとして、場合によっては力に飲み込まれて暴走してしまう可能性もあるとも記載されていた。

(何故だ…?なんでこんな危なそうな怪人が仮面ライダーの力を持っている?いや、そもそも仮面ライダーってどういう存在なんだ?)

疑問に思ってしまうのは仮面ライダーが一体全体『何』なのかということだ。
初めはただ、子供にも分かりやすい正義の味方のヒーロー何だと思っていた。
砂浜で出会ったハルトマンからもそういうものだと感じていた。
だが、前に会ったメタモンは、仮面ライダーに変身できていながらも殺し合いに乗る危険人物であった。
それだけでなく、メタモンは怪人の姿にも変身できていた。

(あれも、アナザーライダーみたいなものなのか?……メタモンはライダーと怪人の両方の姿でクロックアップという技を使っていた。仮面ライダーと怪人の力は元は同じだったりするのか…?)

よくよく考えてみれば、杜王町には吉良吉影をはじめとして、スタンドの力を悪用するスタンド使いもいた。
その対極に自分たちのように正義の心を持って戦ってきたスタンド使いがいた。
どんな力も、結局は使う者次第で正義にも悪にもなるものだと考えられる。
今自分が変身できるブレイズは、聖剣が持ち主を選ばないと変身できないとの記述があったため、正義の味方でなければいけないのだと思い込んでいた。
だがその考えは少し誤りがあり、場合によっては悪人が変身している可能性もあると考えられる。
特にこの殺し合いの舞台の上では仮面ライダーに変身しているからといって、やはり無条件に信用してはいけないのかもしれない。

そんなことを考えながら説明書を読んでいた時、康一はある記述を見つけ、思わず声を出した。

「えっ!?クロックアップが使える!?」
「……何?お前今何て言ったカ?」

康一のその言葉に、これまで泣きながらうつむいていた神楽が顔を起こし反応を見せた。


◆◇


355 : 人生は選択肢の連続 ◆5IjCIYVjCc :2022/01/01(土) 22:33:31 O6bsdQHQ0

クロックアップという能力、その正体はやはり超高速移動とのことだ。
その仕組みは、『身体を流れるタキオン粒子を操作し、時間流での自在な活動を可能とする』と書かれている。
仕組みについては知らない用語もあるため実際にどうなっているのかの想像はつかない。
だが、この記載からは、承太郎のスタープラチナ・ザ・ワールドのように時間に干渉する能力なのではという考えが浮かぶ。
それならば、自分たちが全く手も足も出なかったのも多少は納得がいく。

そして今、そのクロックアップの使用を可能にするアイテムが、この手に転がり込んできていた。
これは、康一に神楽、そしてカイジの3人を苦しめたその能力に対して対抗できる手段でもあった。


「……なあ康一、それを使えば、私らでもクロックアップを使えるのカ?」

神楽は涙の跡のついた顔を向け、震える指で康一の手のアナザーカブトウォッチを指さす。

「まさかとは思うケド、そいつがあれば、あのメタモンの野郎だってぶちのめせるんカ?」
「………うん、できなくはないと思う」

康一は神楽に、自分が拾ったこのウォッチについて説明書に書かれていたことを話した。

「……なるほど、仮面ライダーの力を持った怪人、ネ……。まあ、今はそんなことどうでもいいアル」

康一が読んだ時、少々悩むことになった記述について神楽は一蹴する。
今の彼女にとって、重要なことはその点についてではなかった。


「………なあ康一、私にそのウォッチとやらを渡してくれねえカ?」

それが、涙を流し終えた神楽の出した最初の要求であった。


「ちょっと待ってください。今の話を聞いてましたか?これは、とても危険なものですよ!?」
「構わないアル。それで、力が手に入るのなら」

康一としては、いくらメタモンに対抗できるかもしれないとはいえ、こんな危険な説明のデメリットの記述のあるアイテムを使うのは止めておくべきだと思っている。
一度、この島に来て最初の頃に巨人の力に飲まれて暴走した経験があるため、よりそうと考えてしまうのだろう。
それでも神楽は戦う力があるならそれでいいと言う。
やがて、彼女は自分の心情を吐露し始める。



「銀ちゃんは死んだ…信じたくないけど、こんなことで奴らが嘘をつくとも思えないネ」
「どこで死んだかは分からないけど、もしかしたら、私の選択次第ではこうはならなかったんじゃないかとも思うネ」
「今行こうとしている方で、あの時メタモンにしてやられたりしなければ、間に合っていたかもしれないとか、そんな風にも考えてしまうネ」
「それからもし銀ちゃんが南東の島にいたとしたら、例えば、私が1人で行動しても大丈夫な力があれば、あの島の方に行けたかもしれないネ。まあ、どちらにしろ竜巻が邪魔かもしれないケド」

「とにかく、もし私にもっと力があれば銀ちゃんは死ななかったんじゃないか、どうしてもそんなことを考えてしまうネ」
「モナドもなくなって、この棒もあまり使いこなせていない感じの私は、やっぱり守ってもらわなきゃいけない役立たずも同然アル」

「でも、新八や銀ちゃんの身体はまだ生きている。どこにいるのかも分からないけど、放送で名前は聞こえなかったし、きっとまだ無事のはずネ」
「だけどこのままじゃ、もし出会えたとしても、私はそいつらも守ることもできない」
「だから、みんなを守れるだけの力が欲しい」

「康一、お願いだからそいつを私に渡してほしいネ」





「それと、お前とはここで一旦別れたいアル」
「え?」

一通り話した終えた神楽は、そんな提案もし始めた。
急に少し前のカイジみたいなことを話し始めた神楽に対し、康一は少し驚いてしまう。


「さっきのあの虫…中身がどんな奴かは知らないケド、どちらにしろ危なそうな奴だから、私が何とかしに行きたいネ」
「放っておいたら、あいつが新八や銀ちゃんの身体を殺しちまうかもしれないネ」
「康一、1人になっちまうけどお前は先に病院に向かってほしいアル」

神楽は、先ほどの虫のことを敵と認識していた。
康一も、その考えは何となく理解している。
自分が追撃を躊躇したせいで先ほどはどこからともなく岩石の雨を降らされた。
そんな危険な参加者を放っておくわけにいかないという理屈は分かる。

ただ、神楽も病院に向かうという約束のことを忘れてなかった。
だからカイジと同じようにここは1人で対処しに行き、病院は康一1人に任せようとしているのだろう。
力が欲しいと、ウォッチを渡してほしいと言うのはこのこともあるのだろう。


356 : 人生は選択肢の連続 ◆5IjCIYVjCc :2022/01/01(土) 22:34:18 O6bsdQHQ0

神楽の切実な思いは、康一にしっかりと伝わっていた。


「……でも、それじゃあ駄目だ。このウォッチは渡せないし、あなたにはあの虫を追わせたりはしない」

だが、康一は断った。


「なんで…」

神楽は沈痛な面持ちで康一を見つめる。
考えを否定されて、余計に自分が役立たずと突き放されてるように感じている。
そんな、さらに悲しそうな眼をしている。

しかし康一の意図は、神楽が考えているものとは全く違うものであった。

「けれど、確かにさっきの虫を放っておくわけにはいかないというのは僕も賛成です」
「だからまず、あなたにはこれを渡したいと思います」

康一はそう言うとブレイズの変身を解除し、腰の変身ベルトも取り外す。

そして、そのベルト…聖剣ソードライバーと水勢剣流水を神楽の方に向けて差し出した。

「神楽さん、あなたが持つべきなのはアナザーライダーとかいう怪人の力じゃない」
「仮面ライダーブレイズなら、あなたの力となり、そしてあなた自身を守るものになってくれると思います」
「こっちの方なら暴走の危険性もありませんし、あなたならブレイズの力も正しいことに使えるはずです」

「病院に向かうのは、神楽さんにお任せします」
「このウォッチを預かるのと、あの虫を追跡するのは、僕がやります」
「どちらにしろまたまた別れてしまう上に、お互い1人になってしまうのは心配ですが、これならお互い無事にいられる確率は上がると思います」
「どうかこれで、納得してくれませんか?」




「そんな…どうして……」

神楽はより信じられない目で康一を見つめる。
だがそれは彼に失望したからではない。
自分が冒そうとしていた危険を、彼が引き受けようとしていたからだ。

「2人で一緒に行動できず、あなたのことも僕が守れないのは確かに心配ですが、このブレイズの力があれば多少は大丈夫だと思います」
「違う…私が聞きたいのはそういうことじゃないネ。カイジも、康一も、何で余計に危ない方に行こうとするネ!!」

思わず、そう怒鳴ってしまう。
カイジの時と同じように、また口論を始めてしまいそうになる。


「……少し酷なことを言うようで申し訳ありませんが、言わせてもらいます。神楽さんがこのウォッチを使ってしまえば、すぐに暴走してしまう気がするんです」
「なっ…!」
「待ってください!もう少し僕の考えを聞いてください!」
「…………分かった。聞かせろヨ」

また、けんか腰になりそうになる。
すぐに反論しそうになったが、康一の言葉を聞いて一旦口を止める。
前回と同じ轍を踏まないよう、何とか耳を傾ける。



「……僕がこの島に来てすぐの時、僕は巨人に変身して暴走してしまいました」
「あの時は、ただ、とりあえず試してプロフィールの内容が本物かどうか確かめようとしてました」
「しかし、今思えばあの時の僕は巨人の"力"に精神が飲まれていたのだと思います」
「暴走している間の僕は、悪夢を見ているかのようでした」

「それと…これは仮説なのですが、暴走の原因は僕の"精神"にもあると思います」
「あの時の僕は突然の殺し合いに驚くあまり、とても動揺していました」
「多分、それで巨人の力を制御できなかったんじゃないかと思います」
「たまたま出会ったロビンさんと話して、とりあえず力を試そうとしましたが、それは浅はかな判断だったかもしれません」


「そして、神楽さんは今、坂田さんの死で、精神がとても弱っているように見えます」
「このままこのウォッチで神楽さんが変身してしまえば、あの時の僕と同じく悪夢を見てしまうんじゃあないかと考えています」
「それにもしこれで暴走してしまう時のことを考えると、それによるクロックアップを止めるのは簡単なことじゃないと思います」

「だから、あなたにはこのウォッチは渡せません」




357 : 人生は選択肢の連続 ◆5IjCIYVjCc :2022/01/01(土) 22:36:19 O6bsdQHQ0


「悪夢…」

康一の言葉にあった単語を聞いて、神楽はあることを思い出していた。
それは、自分の本来の身体に流れる夜兎の血のことだ。

彼女の本来の種族である夜兎族は皆、高い身体能力を持っている。
そして、種族レベルで戦いを好む戦闘民族である。
本能では、常に血を求めている、ようは蛮族とでも言うべき種族である。

神楽はかつて、吉原での同じ夜兎族の傭兵・阿伏兎との戦いの際にこの夜兎の血が覚醒し、暴走したことがある。
そうなったのは新八の危機を救うためであったが、暴走していた間は完全に理性を失った「バケモノ」とでも言わしめるものとなっていた。
新八の呼びかけで正気を取り戻したが、このことは神楽自身がとても悔やんでいる。

『何も聞こえない。何も見えない。どす黒い闇の中』
暴走している間の新八の声が聞こえる前まで、彼女はそんな風に感じていた。
康一の言う"悪夢"とは、おそらくそれと同じものだ。

そして、その暴走から目が覚めた時、彼女はこう思った。
『もっと強くなりたい。みんなを守れるくらい。誰にも自分にも負けないくらい』

強くなりたいという思ったのは、その時と同じだ。
だが、そのように思った理由はその時とは真逆だ。
あの時は自分の力に負けたことによる言葉だったが、今はその力もない、自分の無力さを感じてのものだ。
そんな自分に対し、新八はこんな言葉をかけてくれた。
『こんな僕らの力でも必要としてくれている人がいる』
『僕らにも守れるものが今ある』
『いつだって、何かを守るために僕らは強くなってきた』
『きっと僕らは、また一つ強くなれる』


「新八……そうか…そうだな、そうだったなあ……」

つい、仲間の名前が口から、そして目からは涙が漏れ出てしまう。

このことを思い出した今、悲しみにとらわれていた神楽の頭が段々と冷えてくる。
そして今、かつての記憶を思い出した神楽が思うのは、康一の言うもしウォッチを手にした時の自分についてだ。
自分はここで、ほとんど感情のままに動いていた。
冷静さを取り戻してきているとはいえ、まだ完全に落ち着いたわけではない。
アナザーカブトになってしまっては、康一の言う通り暴走してしまう可能性が高いのではないかと自分でも思い始める。
もしそれで暴走してしまっては、自分はあの吉原の時から全く強くなっていないことになるのではないか。
それでは、あの時の新八の言葉も否定してしまうことになるのではないか。

「全く、駄目だったなあ私は……本当の強さってのが何なのか、忘れてたみたいアル」
「悪かったな銀ちゃん、私がしっかりしてなきゃならないのに、いつまでも泣いてちゃいるわけにはいかないヨなあ…」

神楽はようやく、自分がこんなところで嘆いていても何も解決しないことを理解し始める。
銀時の死の悲しさから立ち直ったわけではないが、ただ嘆き、力を求めるだけでも彼は喜ばないだろう。

「……ごめん、康一。確かに私がそのウォッチとやらを持つのは駄目みたいアルな」

康一の言葉に対しても納得した様子を見せ始める。

「だけど、だからと言ってお前がそのベルトと剣を渡すのはそれでいいのカ?それにお前だってそのウォッチを使うのはよした方がいいんじゃねーカ?」

それでも、康一がブレイズに変身するための変身セットを自分に渡すことに対しては疑問の言葉が出る。

「いえ、僕には元から使えるスタンドも、この身体由来の巨人化能力もあります」
「巨人の方は一度変身したこともあるから、アナザーカブトよりはまだ制御できるかもしれません」
「そもそも、このウォッチを使う気は僕には全くありません。ただこれを壊すにはカブトという仮面ライダーの力が別に必要らしいので、一先ず僕が持っておくしかないんです」

「でも…それで本当に大丈夫なのカ?」
「大丈夫です。そもそも僕が1人でこの仮面ライダーの力を持つのは、戦力集中としては過剰だったかもしれません。むしろここで渡した方があなたの安全に繋がると思いまます」

康一はそう言って、荷物から他の変身に使えるライドブック一式も取り出し、神楽に差し出す。
仮面ライダーの力は悪の怪人と同じ力の可能性はまだ考えられるが、少なくともこの聖剣と本ははアナザーウォッチよりは全然安全なものであると判断している。

「……まあ、そうかもしれないアルな」

神楽は康一の言葉に従い、変身セット一式を受け取った。


358 : 人生は選択肢の連続 ◆5IjCIYVjCc :2022/01/01(土) 22:37:33 O6bsdQHQ0

「それじゃあ、もたもたしてはいられません。僕はすぐにでも行かせてもらいますね」
「……うん、そっちの方はお願いするネ。危ないと思ったらすぐ逃げてこっちの方に来いヨ」
「はい。そちらこそ、病院の方は頼みましたよ。さっきの放送が確かなら病院にはもう誰か来たみたいですからその人に関してもいたらよろしくお願いしますね。もしかしたら神楽さんの探している人かもしれませんよ」
「………?…そうなのカ?」

この康一の最後辺りの言葉に、神楽は疑問符を浮かべる。
彼女の知らない情報がここにまだ存在していた。

「……ひょっとして聞き逃してました?どうやら地図上の施設は誰かが足を踏み入れないと記されないらしいですよ。先ほど放送で言われてました」
「ああ、そっか。ごめんナ。死亡者発表から先、ほとんど聞いてなくて…」
「まあ、その点は僕も同じようなものです。他には確か、精神と身体の組み合わせの載っている名簿があるとか言ってましたが……ごめんなさい、条件については聞き逃してしまいました」
「そんなものが…もしそれがあったら銀ちゃんの身体が誰になっているとか分かるってことネ」
「ええ、それに仗助君のものについても…まあ、条件が分からないからどうやっても手に入れようがありませんけどね」

康一にもまた、放送についてはまだ聞き逃している部分があった。

「…本当にごめんナ。私が騒いだりしたばっかりに…」
「いや、そのことについてはあなたに責任は無いかと思います。どちらかと言えば、さっきの虫が…」
「なるほどね…やっぱあの虫はしっかりと退治するべきネ。頼むアルよ」
「……ええ、分かりました。僕が何とかしておきます」

組み合わせ名簿の存在は知れたが、その条件が放送されるタイミングでグレーテがやってきたためにそれ以降の放送に集中することは全くできなかった。
そのことについて、神楽はより怪物虫(グレーテ)に対して許せないという思いが出てくる。

ただ、康一はグレーテについて思うところがもう少しある。
グレーテは言葉を全く話せない身体で、自分の意思を簡単には伝えらない状況にあった。
そんな相手を問答無用で倒してしまってもいいのだろうかと考えてしまう。
けれども、ここでそのことを話したらまた話がこじれて時間がかかるだろう。
既に話し合いで時間をかけているため、これ以上は病院に行くのも追跡するのもまた遅れが生じるだろう。
とりあえず今はこの考えについては話さず、さっさと次の手順に進むべきだろう。

「とにかく、もう過ぎたことをとやかく言っても仕方ありません。それじゃあ、行ってきますね」
「ああ、お互い気を付けていこうナ」

再び二手に別れることになった2人はそれぞれの選択肢を歩んでいく。
お互いまだ心配な点は存在しているが、別れること自体はこれでもう二度目で、感覚はその時よりもまだ悪い予感はしていない。
だが、2人にはまだすれ違っている点もまた存在している。
もっと話せる時間と精神的余裕があれば解消できたかもしれないが、もう別れてしまった以上この場でそれは叶わない。

人生は選択肢の連続とは言うが、この状態で選んだ道が正しかったかどうか、それは選んだ当人の今後の行動次第であろう。


【C-5 道路 西寄り/朝】

【神楽@銀魂】
[身体]:ナミ@ONEPIECE
[状態]:ダメージ(小)、膝に擦り傷、銀時の死による深い悲しみと動揺(少しずつ落ち着き始めている)
[装備]:魔法の天候棒@ONEPIECE
[道具]:基本支給品、タケコプター@ドラえもん、仮面ライダーブレイズファンタステックライオン変身セット@仮面ライダーセイバー、スペクター激昂戦記ワンダーライドブック@仮面ライダーセイバー
[思考・状況]基本方針:殺し合いなんてぶっ壊してみせるネ
1:カイジ、康一、気を付けていけヨ
2:早く病院に行って、悪党どもにめちゃくちゃにされるのを防がなくちゃネ
3:メタモンの野郎…今度会ったらただじゃおかないネ
4:あの虫(グレーテ)はやっぱ許せないアル
5:新八、今会いに行くアル、絶対生きてろヨ、銀ちゃんの身体もな
6:私の身体、無事でいて欲しいけど…ロビンちゃんの話を聞く限り駄目そうアルな
7:銀ちゃんを殺した奴は絶対に許さないネ
[備考]
※時系列は将軍暗殺編直前です
※ナミの身体の参戦時期は新世界編以降のものとします。
※【モナド@大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL】は消えました。カメラが破壊・消滅したとしても元に戻ることはありません。
※仮面ライダーブレイズへの変身資格を受け継ぎました。
※放送の内容は後半部分をほとんど聞き逃しています。


359 : 人生は選択肢の連続 ◆5IjCIYVjCc :2022/01/01(土) 22:38:13 O6bsdQHQ0

【C-5 草原/朝】

【広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:エレン・イェーガー@進撃の巨人
[状態]:吉良吉影の死に対する複雑な感情、背中に複数の打撲痕及びそれによる痛み
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、アナザーカブトウォッチ@仮面ライダージオウ
[思考・状況]基本方針:こんな殺し合い認めない
1:逃げていった巨大な虫(グレーテ)を止めないと。やはり交渉は不可能なのだろうか…
2:神楽さん…カイジさん…無事を祈っています。
3:まさか吉良吉影が死ぬなんて…しかも女の子の身体で…
4:仮面ライダーの力が無くなった分も、スタンドの力で戦う
5:いざとなったら巨人化する必要があるかもしれない。
6:メタモンにまた会ったら絶対に倒さなくては!
7:メタモンが僕らの味方に化けて近づいてくる可能性も考えておかなきゃ
8:皆とどうか無事に合流出来ますように…そして承太郎さん、早く貴方とも合流したいです!
9:DIOも警戒しなくちゃいけない…
10:この身体凄く動きやすいです…!背も高いし!
11:仗助君の身体良い人に使われていると良いんだけど…
12:吉良吉影を殺せるほどの力を持つ者に警戒
13:このウォッチを使う気はない。よっぽどのことがない限りは。
[備考]
※時系列は第4部完結後です。故にスタンドエコーズはAct1、2、3、全て自由に切り替え出来ます。
※巨人化は現在制御は出来ません。参加者に進撃の巨人に関する人物も身体もない以上制御する方法は分かりません。ただしもし精神力が高まったら…?その代わり制御したら3分しか変化していられません。そう首輪に仕込まれている。
※戦力の都合で超硬質ブレード@進撃の巨人は開司に譲りました
※仮面ライダーブレイズへの変身資格は神楽に譲りました。
※放送の内容は後半部分をほとんど聞き逃しています。具体的には組み合わせ名簿の入手条件についての話から先を聞き逃しています。




【アナザーカブトウォッチ@仮面ライダージオウ】
グレーテ・ザムザへの支給品。
仮面ライダーの力を持つ怪人、アナザーライダーの一種であるアナザーカブトに変身するための時計型アイテム。
起動して体内に埋め込むことで変身する。
強いダメージを受ければ体外に排出されることもある。
仮面ライダーカブトの力を伴う攻撃でないと完全に破壊することは不可能。
クロックアップの持続時間が通常より短くなっており、再使用には数分の時間を置く必要がある。


360 : ◆5IjCIYVjCc :2022/01/01(土) 22:38:30 O6bsdQHQ0
投下終了です。


361 : ◆ytUSxp038U :2022/01/07(金) 00:18:17 Eijs60sU0
投下乙です。
吉良の死に安堵ではなくやりきれなさを感じるのが実に康一くんらしい
ただそんな康一くんでも今回ばかりはタイミングが悪過ぎた。これでグレーテの他者への不信が急加速したのはやり切れません
アナザーウォッチという危険な支給品まで登場して、悪い方向に転がりそうな気がしてなりません。

環いろは、結城リト、檀黎斗、ギニュー、ジューダスを予約します。


362 : ◆5IjCIYVjCc :2022/01/07(金) 21:19:51 e1JMwNig0
前回投下した「人生は選択肢の連続」の本文や状態表において、追記修正したことを報告します。
神楽、広瀬康一の状態表の道具欄を以下のように変更しました。

【神楽】
[道具]:基本支給品、タケコプター@ドラえもん、仮面ライダーブレイズファンタステックライオン変身セット@仮面ライダーセイバー、スペクター激昂戦記ワンダーライドブック@仮面ライダーセイバー
→[道具]:基本支給品、仮面ライダーブレイズファンタステックライオン変身セット@仮面ライダーセイバー、スペクター激昂戦記ワンダーライドブック@仮面ライダーセイバー
【広瀬康一】
[道具]:基本支給品、アナザーカブトウォッチ@仮面ライダージオウ
→[道具]:基本支給品、アナザーカブトウォッチ@仮面ライダージオウ、タケコプター@ドラえもん

また、まとめwikiにおいて、上記の変更が成り立つよう本文に描写を加筆しました。
変更点は以上です。話の全体の流れに変化はありません。


363 : ◆5IjCIYVjCc :2022/01/11(火) 23:42:24 W2ljiG2w0
『ふと迷う僕らの背を憧れがまた押している』の話において、文章を加筆したことを報告します。
追記した分は以下のバツ印の間にある通りとなります。

×

新名簿については他に、身体側にあるものの一つの『孫悟空』という名が妙に気にかかっている。
しかし、メタモンはこれまでポケモンとして生きてきた中でそのような名前の人間に出会った覚えはない。
この時点においては、これはただの気のせいだと判断し、メタモンは孫悟空について考えるのを止めた。



メタモンが僅かながらでも孫悟空の名前に反応を見せた理由、それはワームと言う種族にある。
人間に擬態することが出来る怪人、ワームは相手の見かけの姿だけでなく記憶も同時にコピーすることがある。

メタモンはリンクとなった桃白白を殺害し、彼の身体に擬態できるようになった。
その際に彼の記憶もまたメタモンの中に流れ込んできている。

けれども、メタモンは姿を奪った相手の記憶に興味はない。
メタモンにとっては自分の"へんしん"のレパートリーを増やすことがなりよりも重要であり、姿を奪った相手がこれまでどうしていたかは関係ない。
そもそも、桃白白はメタモンのことや、自分が死んだこと自体認識できず殺された。
桃白白が持っていた僅かながらの孫悟空に関する記憶も、この時点においてはメタモンの関心を引くことはない。
ただ、記憶も奪えることに気づくことができたならば、流石にメタモンの認識も変わるだろう。


そしてもし、このワームの特性が彼に大きく影響を与える可能性があるとしたら、彼の身体であるスコルピオワームが神代剣を殺害した時に起きた事例のように―――

×

また、この加筆分に対応するように状態表も少々追記しました。
変更点は以上です。話の全体の流れに変化はありません。
既に投下してしばらく経った話の内容の突然の変更、失礼いたしました。


364 : ◆ytUSxp038U :2022/01/12(水) 18:38:49 Qsr8zzqM0
延長します


365 : ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:20:36 Oyx4Ojn.0
投下します。


366 : 嘘つきな世界 -Wish in the dark- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:23:37 Oyx4Ojn.0
朝起きて階段を降りると、両親、それから兄と姉が笑顔で挨拶してくれた。
この人達を私は知らない。
私の両親とはまるっきり別人の男女、私の家族構成には存在しない二人。
何よりも愛しいあの娘、妹の姿は影も形も見当たらない。
当たり前だ。だってこの人達は、環いろはの家族ではないのだから。

我が家を出発して学校へ行く途中、友だちと出会った。
この人達を私は知らない。
もうずっと前からの親友のように接して来る彼女達は、私の記憶に誰一人として存在しない。
みかづき荘で共に過ごし、共に戦った彼女達の姿は影も形も見当たらない。
当たり前だ。だってこの人達は、環いろはの友だちではないのだから。

こちらを尊敬する上司として慕う人達がいた。
ショートカットの少女は元気いっぱいに挨拶をして、それをツインテールの少女が呆れながらも同じく頭を下げる。
この人達を私は知らない。

敵として、立ち塞がった人達がいた。
ある女の人は我が子を生き返らせようという執念に憑りつかれ、4人の騎士は主の為に己の手を汚し続け、狂気を孕んだ科学者は12体の娘を引き連れ己の欲望を満たそうとする。
私が戦って来た相手はいない。
魔女も、ウワサも、マギウスの翼の魔法少女達すら何処にもいなかった。

これらは全部、私のものじゃない記憶。
本当だったら一生知る機会の無かった、別人の辿って来た軌跡。
それが私の中へと入り込んでくる。
まるで私の記憶を『彼女』の記憶で上書きするかの如き勢いで、私の頭は別人の記憶でいっぱいになっていく。

『なのは』
『なのはちゃん』
『なのはさん』
『高町教導管』
『高町さん』

やめて。
私は環いろは。高町なのはじゃない。
そう懇願しても、私じゃない『彼女』を呼ぶ声は鳴りやまない。
洪水のように襲い来る記憶に、私の意識が飲み込まれていく。
必死に藻掻いても記憶の濁流は止められなかった。

私の大切な人達が、別の人間に書き換えられていく。

やちよさんが、金髪の女の人になった。
鶴乃ちゃんが、関西弁を使う女の人になった。
フェリシアちゃんが、赤毛の小さな女の子になった。
さなちゃんが、どこか見覚えのある男の人になった。

そして、ういが、たった一人の妹が――


『なのはママ!』


367 : 嘘つきな世界 -Wish in the dark- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:24:59 Oyx4Ojn.0
○○○


「――ッ!!!」

目を見開き、いろはの意識は覚醒した。

心臓が気持ち悪いくらいに鼓動を早めている。
管理局の制服の下、素肌にはベットリと汗が流れていた。
率直に言って最悪の夢見だ。
ただでさえこの身体になってから、自分が自分じゃ無くなるような得体の知れなさを味わっていたというのに、夢のせいで恐怖は更に加速した。

いろはは夢に余り良い思い入れは無い。
神浜市を訪れる前、夢の中で繰り返し同じ少女が現れるのを見た。
少女の正体が、魔法少女となる代わりに病気の治療を願った妹だと思い出した時の瞬間が思い起こされる。
一時とはいえういを忘れてしまった事への恐怖と後悔。
もう二度とあんな思いはしたくないというのに、まるでいろはを嘲笑うかのように同じような、下手をすればあの時以上の恐怖が襲い掛かった。

あれはただの夢。
なのはの肉体に精神が入って、不安になったから見てしまっただけの悪い夢に過ぎない。
現に自分はういの事も、やちよ達の事だってちゃんと覚えている。

思い出したくも無い悪夢を振り払うように、意識を失うまでの経緯を思い返す。
そういえば自分は刀を持った少年との戦いで、気絶してしまったのだった。
あれからどうなったのだろう。リトは、黎斗は無事だろうか。
襲って来た少年はどうなったのか。

確かめようと視線を動かそうとした時、頬に熱い何かが降り掛かった。

「えっ」

瞬間、いろはの目に飛び込んだのは、夢であって欲しい光景。
直前まで夢から覚めて安堵していたというのに、今度は現実ではないと願ってしまう。


いろはの瞳には、刀で斬られたリトの姿がハッキリと写し出されていた。


368 : 嘘つきな世界 -Wish in the dark- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:25:56 Oyx4Ojn.0



数十分前、風都タワーを後にしたリト達は、少し離れた場所にある民家に身を潜めていた。

ギニューとの派手な戦闘があった以上、騒ぎを聞きつけた参加者がやって来るかもしれない。
殺し合いに乗っていない者なら何も問題は無いが、反対に危険な者であったら少々マズい事となる。
いろはは重傷を負い気絶中、リトもまた軽くない傷を抱え、まともに戦えるのは黎斗のみ。
元々ゲンムとしてそれなりに戦闘経験を積んでいる黎斗と言えど、未だ完璧に慣れてはいないベルデで、負傷した少年少女にも気を配りながら戦うのは難しい。
いろは達の事は単なる駒としか見ていない彼だが、情報交換もしない内に見殺しにしてはわざわざ生かしておいた意味が無い。
故にもう暫くは殺し合いには反対の善人の仮面を被り続ける気でいた。

「環さん……」

リビングに置かれたベンチソファーの上に寝かせたいろはを、心配気に見つめるリト。
息はあるが未だ意識は無く、衣服の所々に滲んだ血が酷く痛々しい。
最初に自分を庇った時に負った傷、あれのせいで苦戦する羽目になった。
悔やんでも悔やみきれない。

(クソッ…!何してんだよ俺……)

過ぎた事で己を責めても何も解決しない。
そう分かっていても、自分への苛立ちは拭い切れなかった。

現在、黎斗は救急箱か何かを探して来ると言って席を立っている。
その間、ただ待っているだけなのがもどかしい。
自分も探すのを手伝うと申し出たが、一人で問題無いから休んでいるよう言われた。
実際問題、いろはと同じく戦闘での傷が深いリトが動き回った所で余り役に立つとは言えないだろう。

(けど、もしもの時はまた魔法を使って…)

フェレットに変身するだけでなく、先の戦闘では拘束系魔法も使用できた。
更にはいろはと協力して放った砲撃、コネクトでギニューに深手を負わせたのだ。
完全に使いこなせている訳では無いが、いざという時にはまたユーノの魔法を使って戦う必要がある。

(あれ?そういや確か……)

ユーノの魔法、それで一つ思い出した。
変身魔法や拘束系の魔法、まだ使えていないが防御系の魔法もユーノは使用できるらしい。
他にも一つ、回復魔法も得意とプロフィールに記載されていた。
傷を治せる魔法、今まさに必要な力だ。

「よし…」

早速いろはへと手を翳し、試してみる。
フェレットへの変身もチェーンバインドも、効果は違うが発動する瞬間の感覚は似ている。
変身魔法は自分の体が小動物へと変わる様をイメージし、チェーンバインドは鎖鎌を見て脳裏にピンと来た。
故に今回は傷が徐々に塞がる光景を思い浮かべながら、集中する。
ユーノの魔法を使うのはこれが三度目だ。
体が覚えているとでも言うのか、何となくコツは掴めている気がする。

(集中、集中…)

自分を庇ったせいで斬られ、命懸けで戦ってくれた少女。
今はリトより年上の体になっているが、本来は年下である中学生の女の子。
そんないろはの傷を少しでも癒してあげたい。
純粋な想いに応えるかのように、リトの掌から淡い光が放たれた。


369 : 嘘つきな世界 -Wish in the dark- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:27:07 Oyx4Ojn.0
「やった…!」

光に当てられたいろはの体にも変化が起こる。
痛々しい傷は少しずつだが塞がっているのが分かった。
無事発動出来た事に安堵しつつ、しかし集中を切らしてはいけないと魔法の行使を続けた。

「すまない、探すのに少々手間取っ――結城君?」
「あっ、黎斗さん」

救急箱を片手にリビングへ戻って来たのは黎斗。
リトの手から光が発せられている光景に、目を丸くした。

「それは…君の体の少年が使う魔法、か?」
「あ、はい。幾つか使えるようになって……っ」

黎斗と言葉を交わしながらも、いろはの治療は続ける。
しかし急に呼吸が荒くなり、自分の体が重くなったような感覚が襲い掛かった。
当たり前だ。今のリトは重傷を負い、魔力も大分消費している。
その状態で魔法を使えば、相応の負担が体に圧し掛かる。
ましてユーノの身体はまだ9歳の少年のもの。
スクライア一族として地球に来る前から発掘作業に携わっていたのもあり、同年代の子どもより体力がある彼とて限界がある。

それでも再び回復魔法を使おうとするが、様子を見兼ねた黎斗により制止される。

「無理はしない方が良い。君だって傷は浅くないんだ」
「でも……」
「環さんを治したい気持ちは分かるが、それで倒れてしまうのを彼女は望まないだろう?
 幸い傷の治療に使えそうなものはあった。君自身の傷も含めて、後は私に任せてくれ」

ぐうの音も出ない程の正論を返され、渋々リトは引き下がる。
ただせめて、包帯を巻いたり等の処置はいろはを優先してくれとだけ頼んだ。

管理局の制服を脱がし、斬られた箇所への処置を行う。
元より仮面ライダークロニクルを始めとしたゲーム開発を優先するような男だ、下着姿の女性に動揺する事も無く淡々と包帯を巻く。
医療に携わる人間ならばもっと手際よく手当てが可能だったろうが、自分ではこれが精一杯だ。
情報交換の内容次第ではリト諸共ここで始末する事になるかもしれない。
そう考えると真面目に手当てするのは何とも無駄な労力な気がしないでもない。
しかし直ぐ近くにリトがいる手前、手を抜くような素振りは見せないようにしている。
当のリトは治療行為とはいえ衣服を脱がされたいろはを直視するのは憚れるのか、終わるまであらぬ方向を向いていた。


370 : 嘘つきな世界 -Wish in the dark- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:28:15 Oyx4Ojn.0
(フッ、私がこんな事をしているなど、CRの連中が知ったら何と言うやら)

最高のモルモットである研修医に、恋人を失った甘党の外科医。
ついでに元CRの闇医者と、そいつに付いて回っている小娘。
黎斗が死んだと思って安心し切っているのかもしれないが、だとすれば甘い。
優勝し帰還した際には憎きパラドに借りを返し、永夢達にも真の仮面ライダークロニクルを味合わせてやろう。
リトには見えない位置で口の端を吊り上げた。

が、不意に真顔へと戻る。

CRのメンバーには『彼女』もいる。
実の母が宿主だったバグスター、この手で生み出した命。
自分の死後どうなったかは不明だが、永夢達といるなら当然『彼女』も――

(……フン)

一瞬浮かんだ、自分らしくない考えを振り払う。
神の才能を持つゲームマスターが、こんな下らん事に気を回すなど有り得ない。
気を取り直しいろはの手当てを終えると、手早く衣服を着せた。

「よし、取り敢えず環さんは大丈夫だろう。次は結城君の手当てをしなくてはな」
「ありがとうございます、黎斗さん」

礼を言う少年へ気にしなくて良いと返し、再度救急箱から包帯と消毒液を取り出す。

CRのドクターたちの事を思い浮かべたからか、黎斗の脳裏には会場のとある施設が浮かんできた。
聖都大学附属病院。黎斗にとっても馴染み深い施設。
定時放送の説明通りなら、地図に載っている以上既に誰かが訪れた後という事になる。
それが何者にせよ、いずれは自分もあの場所を調査しておきたい所だ。

そのタイミングで、キーキーと鳴きながらナニカが黎斗の元へと飛んできた。
突然現れたのは蝙蝠だ。
青い体をした機械仕掛けの蝙蝠が黎斗の周囲を飛び回っている。

呆気に取られるリトを尻目に、黎斗は一転して険しい顔付きとなった。
念の為、参加者が近づいてきたら知らせるようバットショットを放っておいて正解だった。
懐からカードデッキを取り出すと、リトへ警戒を促す。

「結城君、どうやら何者かが近くに――っ!?」

最後まで言い切らず、弾かれたように飛び退く。
ガラス窓を突き破って、侵入者が刀を振るったのは直後の事だ。
ほんの1秒前まで黎斗が立っていた場所を刃が通過し、空気を切り裂く。
速さと言い力強さと言い、変身もしていない天津の肉体で耐えられるものではない。
肝を冷やしつつ襲撃者を睨みつける。


371 : 嘘つきな世界 -Wish in the dark- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:29:34 Oyx4Ojn.0
「チィッ!」

奇襲が失敗に終わり舌を打つのは、額の痣と耳飾りが特徴の少年。
リトにも黎斗にも見覚えのある者だった。
風都タワーにて一戦交えた危険人物。
ボディーチェンジにより竈門炭治郎の肉体を得た、ギニューである。

いろは達を仕留めるか、それとも宇宙船へ向かうか。
ギニューが選んだのは前者であった。
こちらへダメージを与えた事への雪辱を晴らす以外にも、理由はある。
敵は3人であるが、その内二人はどちらも傷は深い。数ではギニューが不利であっても、賢者の石により回復が済んだ分戦力としてはこちらが有利。
緑の鎧を纏った男の力は未知数ではあるものの、仕留めるならば仲間二人が負傷している今がチャンスと見た。
ギニュー自身が手を下さずとも、他の殺し合いに積極的な参加者が殺す可能性もある。
だが反対に殺し合いに乗っていない連中、放送前に戦った炎を操る少女と徒党を組まれる危険性も捨て置けない。
故に、殺せる内に一人でも殺す方を取ったのだ。

宇宙船に置いてあるかもしれない装備や、回復ポッド等設備の確認も重要だとは理解している。
モタモタしていたら、葛飾署の時と同じく使える道具を持ち去れるかもしれない。
しかし、装備を集めるのはわざわざ宇宙船まで赴かずとも、参加者を殺して奪う手だってある。

加えて、ギニューはこれまでただの一人も殺せていない。
別に自分一人だけで参加者全員を殺せると思っているのではないし、これまでもケロロの体であったりとか、心身のコンディションの問題があった。
が、地球人の身体になっているとはいえ流石に一人も手に掛けていないというのは、プライド的にも納得のいかない所はある。

以上、諸々の理由によりいろは達の殺害を優先。
魔力の砲撃でボロキレ同然となった羽織と隊服を脱ぎ捨てると、代わりに支給品の赤いコートを羽織り、匂いを頼りに追跡して来たのだった。

そんな相手の心情など露知らず、これから情報交換を行おうとしていた黎斗は不快感を露わにした表情を作る。
良く見れば相手は風都タワーで付けられた傷がほとんど消え失せているではないか。
支給品を使ったのかもしれないが、いずれにせよ少々面倒な相手に思えた。
だからと言って負ける気は微塵も無いが。

(まぁいい。ベルデの力を試すには丁度良いだろう)

手に持ったままのデッキを、地面に落ちたガラス片に翳す。
鏡面にデッキを翳すのは、神崎士郎の開発したライダーシステムに必要不可欠な動作である。
一瞬の内に、黎斗の腰へバックルが出現した。
普段手にするガシャットとも、天津が使うプログライズキーとも違う感触に少々違和感を覚えながらデッキを装填した。


372 : 嘘つきな世界 -Wish in the dark- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:30:36 Oyx4Ojn.0
「変身!」

数秒と経たず黎斗の姿が変わった。
カメレオンに似た頭部、緑色の装甲という異質な騎士のような外見。
ミラーワールドにおけるライダーバトルの参加者。
13人の仮面ライダーが一人、ベルデである。

「く、黎斗さん…」
「結城君は環さんの傍にいてくれ。怪我人を戦いに引っ張り出す気は無いからね」

仲間の身を案じ己一人で戦いを引き受ける。
そんな善人の仮面で背中越しに声を掛けつつ、敵を正面から見据える。

「フン…。そこで寝ている女に比べたら、地味な変身だな」

姿が変わった事への驚きは無く、されど油断せずに刀を構える。
風都タワーでは無視できないダメージを負っていた為、撤退を選択したが今度は別。
鎧ごと叩っ斬るまで。

「きええええいっ!!」

気合一閃。大きく踏み込んで刀を振り下ろす。
元の肉体では武器に頼らない戦法を好んだギニューだが、今は別。
炭治郎の身体は素手や拳銃よりも、刀を振るった方がしっくりくる。
一番良い結末としては、この一刀のみで鎧をかち割り中の体を両断すること。

そう簡単に終わらない事くらい、分かり切っているが。

金属音が響き、日輪刀はベルデへの到達を阻まれた。
刃を押し留めているのは、ベルデがデイパックより取り出した武器。
ただ見た目が余りにもおかしい。
クリスマス用の装飾をあしらった赤いキャンドルという、戦闘に用いるには不釣り合いな代物だ。
にも関わらず現実に刃を防いでいるのは、まっこと奇妙な光景である。

「ふざけているのか貴様はっ!」
「武器の外見の事なら、全く同感だ」

言葉の応酬は、直ぐに剣の応酬へと変化する。
日輪刀と着火剛焦、どちらの得物も狙うは敵の急所。
首を斬り落とすべく幾度も剣が振るわれ、されど両者共に到達は叶わず武器同士がぶつかり合う。

リーチで言えば着火剛焦に分がある。
ギニューが後退し躱そうとも、ベルデはほんの少し前進して腕を伸ばせば簡単に届く。
ではそれだけでベルデが有利かと聞かれたら、否である。


373 : 嘘つきな世界 -Wish in the dark- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:32:06 Oyx4Ojn.0
「そこだっ!」
「チッ…!」

突き出した着火剛焦を身を捩って避け、反対にギニューが斬り掛かる。
伸ばし切った腕を戻すより、相手の刀が鎧を走る方が速い。
咄嗟に左腕を翳して腹部への攻撃を防ぐ。
その結果として腕に痺れと痛みが襲い来るも、戦闘続行に支障は一切無し。
着火剛焦を振り下ろせば、頭部への致命的なダメージは日輪刀で防御された。

「ヌゥンッ!!」

日輪刀越しに上部から押しかかるベルデの力。
腹に目一杯力を入れ押し返してやれば、ベルデはよろけ隙を晒す。
見逃す愚行は犯さず、胸部装甲目掛けて日輪刀を振り上げた。
今度は阻む物は何一つとしてなく、吸い込まれるように命中した。
血は流れず、代わりに火花が散る。
思わず後退するベルデへ振るった一撃は、どうにか動かした着火剛焦に防がれる。

拮抗する刃と刃。
先に力負けしたのはギニューの方だ。
押し返され体勢が崩れた瞬間に、着火剛焦が首を狙って迫る。
ここでギニューは防御では無く回避を選択、不安定な体勢ながらも跳躍し、着火剛焦は靴底の数ミリ下を通過した。
跳び上がったままギニューは、ベルデの胸部へ脚を突き出す。
硬い靴底が命中し、生身の人間のものとは思えぬ威力にベルデは外へと蹴り飛ばされた。

地面を転がるも素早く立ち上がる。
今すぐ動けなくなるほどのダメージは皆無。
それでも仮面の下の顔は自然と険しさを増した。

仮面ライダーとは各々スペックや固有能力に差は有れど、共通して人間が出せる限界以上の能力を変身者に齎す。
腕力、瞬発力、反射神経等全てが超人と言っても差し支えないくらいに強化され、生半可な攻撃では掠り傷すら与えられない耐久力を得る。
黎斗の変身したベルデもその例に漏れず、ただの人間では到達できない能力を発揮可能だ。
ミラーモンスターと、同じくデッキ所有者が変身するライダーと渡り合い、殺せるだけの力が無くてはライダーバトルは成り立たない。

だが黎斗が相手をしている男、ギニューの肉体である少年もまた只者ではない。
人間以上の生命力と身体能力を持つ化け物、鬼を殺す為に結成された組織の剣士である。
ただの人間には手に負えない化け物を殺す為には、当然ただの人間以上の力を得る為に鍛えねばならない。
鱗滝左近次の与えた課題の達成、藤襲山での最終試練突破、蝶屋敷での機能回復訓練、隊士の基礎能力強化を目的とした柱稽古。
以上をこなし、数々の任務での実戦にて経験を積み、上弦の鬼との死闘をも制した。
それら全てが糧となった竈門炭治郎の肉体は、仮面ライダー相手でも渡り合えるだけの力を発揮している。

といった詳しい経歴など知らぬ黎斗にとっては、ただの厄介な敵以上の感情は抱かない。
仮に知ったとしても、新しいゲーム開発のアイデアに使える程度の関心であろうが。


374 : 嘘つきな世界 -Wish in the dark- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:34:08 Oyx4Ojn.0

追撃するべくギニューも外へと出る。
だがこのまま敵の好きにさせる気はベルデに無い。
支給品の説明書に記載されていた能力を試させてもらおう。
デッキから引き抜いた一枚のカードを、流れるように太腿に装着された召喚機へベントする。

『HOLD VENT』

カードを読み込んだ際の電子音声が流れるや否や、ベルデの手には新たな武器が握られていた。
シルバーのリングとワイヤーで結ばれた、巨大なヨーヨー。
カメレオン型契約モンスター、バイオグリーザの目を模した専用武器、バイオワンダーである。

ギニューに近付かせまいとバイオワンダーを放つ。
玩具のヨーヨーとは重量も速度も桁違い、直撃すれば人体など豆腐の様に砕け散る。
顔面を叩き潰さんと迫るヨーヨーへ、日輪刀を叩きつける事で防御。
傷は無くとも衝撃までは殺せない、両手にビリビリと痺れが走る。

一息つく間もなく再度バイオワンダーが放たれた。
ヨーヨーの形状をしている通り、相手へ放ったならば一旦手元に戻すという動作が必要となる。
それが余りにも速い。
防いだと思ったらまたすぐ目の前にバイオワンダーが迫っているのだ。
手元に戻す瞬間は間違いなく恰好の隙となるだろうに、そこを狙うより先に次の攻撃が放たれる。

「おのれ…!」

攻め入る隙を与えない猛攻に、ギニューの顔が忌々し気に歪む。
このままどちらかの体力が切れるまで、変わり映えのしない攻防を続ける。そんな状況に持ち込む気は無い。
そう思っても現実には防戦一方から抜け出せずにいる。

バイオワンダーを防いだ回数が20に到達するかといった時、唐突に不可思議な現象がギニューへ起きた。
現在の状況にどこか既視感を覚えている自分がいるのだ。
ギニューは目の前にいる鎧の男と戦ったのはこれが初めて。
フリーザ一味の戦士として数多の惑星を支配下に置いて来たが、このような者と出会った覚えは無い。
ひょっとしたら似たような姿の種族と遭遇した事はあるかもしれないが、強く記憶に焼き付く程のものではないはず。
だというのにギニューはこの鎧男、いや、この戦闘と似たような状況を経験したかのような気がしてならないのだ。

縦横無尽に飛来する敵の武器。
時にはワイヤーをしならせ、軌道を読み辛くしている。
炭治郎本人ならばこう思ったかもしれない。
遊郭で帯を操る上弦と戦った時と、少し似ている気がすると。

(何だ、これは)

前触れも無く奇妙な感覚に陥り、困惑を隠せない。
だが不思議と、この感覚は悪い者ではなく、むしろ戦闘を有利に動かせるような気がした。
これは確か、風都タワーでいろはと戦った時の現象にどこか似ている。
苛烈に攻め立てる中で急速に力が上がり、刀を振るう動作のキレが増した。
ならば、この感覚に逆らわず、身を任せてみる。


375 : 嘘つきな世界 -Wish in the dark- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:36:11 Oyx4Ojn.0
丁度25撃目の攻撃を防ぐと同時に前方へと転がる。
頭上をバイオワンダーが掻っ切り、髪の毛が数本落ちた。
正面を見据えるより早く駆けだすと、顔の真横の空気が切り裂かれ、頬に一筋の赤い線が引かれる。
そして見た。ベルデがバイオワンダーを手元に戻す瞬間を。
僅かな動作の間に生まれた、隙が出来た事を知らせる「糸」を。

――水の呼吸 壱ノ型 水面斬り

勢いを付け水平に刀を振るう、いろはに重傷を負わせた技。
此度は体へ刃を届かせる事は叶わず、バイオワンダーを持つのとは反対の手に持つ着火剛焦に防がれる。
が、その一撃はこれまで振るって来たものよりもずっと重い。
単に刀を振るうのではなく、鬼の頸を斬り落とす技へと昇華させた一撃だ。
着火剛焦越しに伝わる衝撃に、ベルデの動きが硬直する。

バイオワンダーによる連続攻撃が崩れたこの機会を逃す手は無い。
知らない筈なのに知っている動き、知っている名前。
ギニュー本人のではなく、肉体の記憶とも言うべきそれに従い日輪刀を振るった。

――水の呼吸 壱ノ型 水面斬り

先程と同じ型を、今度は跳躍し放つ。
上空からの攻撃に、ベルデは地面を転がって躱す。
防御したとしても腕への痺れで隙を晒すのを恐れての事だ。
攻撃が空振りし、地面へ降り立ったギニューへバイオワンダーを放った。

――水の呼吸 参ノ型 流流舞い

対するギニューもまた防御では無く回避を選択。
但しその足運びは、攻撃を紙一重で躱しながらもベルデへ接近し、刀を振るう。
が、刀が当たる寸前で攻撃を中断し頭を下げる。
急ぎ戻したバイオワンダーが頭部スレスレの所を通過。
危うく頭が果実を割ったかの如き末路を迎える所だった。

――水の呼吸 陸ノ型 ねじれ渦

ギニューはただ回避のみを行ったのではない。
頭部を下げた瞬間に、体を可能な限り捩じって次の型へと繋げた。
水中でこそ本領を発揮するこの技は、地上戦においても確かな威力を発揮する。
勢いを伴って繰り出された斬撃が、ベルデの上半身と下半身を真っ二つにせんと奔る。


376 : 嘘つきな世界 -Wish in the dark- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:37:42 Oyx4Ojn.0
「クッ…!!」

これをベルデは両手を腹部へ翳し防御の姿勢を取った。
右手にはバイオワンダー、左手には着火剛焦。
共に並以上の耐久性を持つ武器だ。
ベルデが危惧するのは自身へのダメージもそうだが、デッキを破壊される事だ。
貴重な戦闘手段をここで失っては、今後の立ち回りにも悪影響が出る。
少々焦りつつも防御は間に合い、デッキへの攻撃はどうにか凌いだ。

デッキの破壊だけは、だ。

「グゥッ!」

名前に違わず渦に巻き込まれたかのような勢いでベルデは吹き飛ばされた。
背中から地面へと叩きつけられ、呻く間もなくギニューが接近する。
このまま無様に転がり続ける気は毛頭ない。
バイオワンダーを惜しげも無く投げ捨てると、新たなカードを抜き取り召喚機へと読み込ませた。

『CLEAR VENT』

「何だと…!?」

ギューの口から驚愕の声が漏れるのも無理はない。
カードを読み込ませた途端、ベルデの姿は幻の様に消え失せたのだ。
周囲を見回しても、あのカメレオンに似た鎧は影も形も見当たらない。

警戒度を高めるギニューの背後から、ベルデは着火剛焦を振り下ろす。
クリアーベントという名のカード効果は、その名の通りベルデを無色透明へと変化させる。
正々堂々とは程遠い戦法だが、殺し合いにルールなど無用。
中々梃子摺らせて貰ったが、これで終わりと自分の勝利を確信した。

確かに殺せたかもしれない。
ギニューの体が、竈門炭治郎でなければ。

――水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き

弾かれたように振り返り刀を突き出す。
姿は見えないが、手応えはあった。日輪刀の切っ先から火花が散り、次いで短い呻き声と共に仮面の騎士が姿を現した。
斬るのではなく突く攻撃故に鬼は殺せないが、水の呼吸の中でも最速の技。
間近に迫った着火剛焦をその身に受けるよりも速く、刃を届かせるのに成功した。

「何故……!?」
「恨むのならオレじゃなく、鼻の良すぎるこのガキを恨むんだな」

ベルデの疑問にギニューは嘲笑で返す。
クリアーベントは姿こそ消せるが、臭いや気配までは消せない。
杉元との戦闘時にも活用した炭治郎の嗅覚は、ベルデの放つこちらへの殺意の臭いを的確に嗅ぎ取った。
奇襲や不意打ちといった戦法に打ってつけのカードを持つベルデだが、今回は相性が悪かったと言えるだろう。

加えて、ギニューはこれで攻撃を終わらせるつもりは無い。
成功すると思っていた奇襲失敗による動揺と、胸部への痛み。
「糸」を見ずとも分かる。これまでで一番の隙だ。


377 : 嘘つきな世界 -Wish in the dark- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:39:19 Oyx4Ojn.0
――水の呼吸 捌ノ型 滝壷

「ぬええええええええいいいいいいっ!!!!!」

両腕の筋肉が盛り上がるくらいに力を込めての斬り上げ。
ベルデの体が上空へと打ち上げられると、それを追い越すようにして跳躍。
見下ろす形となった獲物を、地面に叩きつけるように打ち下ろす。
それでも咄嗟に着火剛焦で防御できたのは、見事な反応だった。
威力を幾らか殺し、されど殺し切れない分の力がベルデへ容赦なく襲い掛かる。

「ぐああああああああああああああっ!!!」

再び背中を地面に強打する。
余程勢いがあったのだろう、アスファルトの地面が砕け散った。

「お…のれぇぇぇ…!!」

変身こそ解除されてはいないが、ダメージにより緩慢な動きしか出来ない。
神の才能を持つゲームマスターたる自分へ何たる仕打ちか。
必ずやこの不敬を後悔させてやると怒りを燃やすが、体は思うように動いてくれない。
若作りしていようと、実年齢45歳である天津の肉体には堪える痛みだ。

「成程、これが呼吸というやつか」

血液が沸騰したかのように体が熱くなり、細胞の一本一本に力が漲るかのような現象。
ギニュー自身が取得したのではない、炭治郎の肉体に刻まれた記憶により使えるようになった力。
戦闘力を上昇させ、剣技へ繋ぐ。理解した。

(喜べ炭治郎。フリーザ様復活の為に、貴様の力はオレが存分に使ってやる)

炭治郎本人からしたら、決して望まない言葉を胸中で投げかける。

「黎斗さん!」

戦いを見守っていたリトも、黎斗の危機に焦燥感を覚える。
このまま黙って見ている真っ平御免、しかし今の自分が出てどうにかなるのだろうか。
魔法を使おうにも消耗が激しく、まともに発動できるかどうか。

(けど、だからってじっとしてられるかよ…!)

自分といろはを守る為に、黎斗はたった一人で戦ってくれたのだ。
そんな人のピンチに何もしないままでいて良い訳があろうはずがない。
戦う為の力は魔法以外にもある。
逸る心のままに、ポケットから取り出したガシャットを起動させた。


378 : 嘘つきな世界 -Wish in the dark- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:40:47 Oyx4Ojn.0

『Enter The GAME!Riding The END!』

茶色と黒の装甲を纏った、ライドプレイヤーへと変身する。
エグゼイドを始めとしたライダー達には遠く及ばず、西馬ニコのような凄腕のゲーマーでもない限りバグスターにも苦戦する程度のスペック。
しかし生身でいるよりはずっとマシだ。
先程は剣で斬り掛かったが、ライドウェポンは銃にもなる。
変形させるとトリガーに指を掛け、ギニュー目掛けて光弾を放った。

「ふん!素人がつまらん真似をする!」

リトの必死の足掻きを鼻で笑い、ギニューは光弾をヒョイヒョイと軽く躱す。
いろはの時もそうだったが、エネルギー弾などギニューにとっては見飽きた戦法だ。
ケロロの体のままらまだしも、炭治郎の体だったら対処も容易い。
おまけにギニューは黎斗との戦闘に集中しつつ、リトといろはにも警戒をしていた。
油断できない破壊力のエネルギー波を放つ女、奇怪な光る鎖で身動きを封じた小僧。
ベルデとの戦い中に横槍を入れられては厄介な能力の持ち主だ。気を張っておくのは当然である。

「同じ玩具でも、使い方がなっとらんなぁ!」

光弾を避けながらギニューは懐から銃を取り出す。
いろはから奪ったデイパックに入っていた、ニューナンブだ。
引き金を引くと、銃弾はライドウェポンに見事命中。
突然の衝撃にリトは武器を落としてしまう。
拾い上げる隙をわざわざくれてやる気はない。またあの奇妙な鎖で拘束されては面倒だと、リトへ急接近する。
慌てて避けようとするがもう遅い。一撃で変身解除へ持って行く。

「うわっ!?」
「むっ!?」

そのつもりだったが、寸での所でリトに躱された。

「悪足掻きを!」

運良く躱せたから何だと言うのか。
即座に二度目の斬撃が迫るが、これもまたギリギリの所で避けられた。
ならば今度こそと三撃目、四撃目の刃も同様に回避されてしまう。

「ちょこまかと…!!」

苛立ち交じりに刀を振るい続けるが、その全てが当たらない。
情けない悲鳴を上げながら、寸での所で回避するのだ。


379 : 嘘つきな世界 -Wish in the dark- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:42:17 Oyx4Ojn.0
ここまで来ると怒りより先に困惑が浮かぶ。
相手が放送前に戦った炎使いの女のように戦い慣れた者ならば、躱され続けるのにも納得はいく。
しかしこの少年は明らかに素人。気を失っている女や、鎧の男に比べて圧倒的に弱い。
なのに不格好な動きながらも、攻撃は全て回避に成功している。
酷くチグハグな印象をここに来て抱いた。

ギニューが考えた通り、リトは戦闘に関しては全くの素人だ。
運動能力は非常に高い方だが、宇宙生物や殺し屋と戦える程の力など無い。
が、常日頃からヤミこと金色の闇の怒りを買い攻撃を仕掛けられている。
(主な原因は"突発性ハレンチ症候群という、いろは相手にも引き起こした体質なのだが詳細は省く)
変身能力により幾度となく攻撃され、必死に逃げるという日常を繰り返した結果、瞬発力や反射神経が劇的に成長したのだ。
つまり回避能力だけに絞れば、今のギニュー相手でも十分通用するのである。

但しそれはリトが万全の状態であればの話。

「ハァ…ハァ……うぐっ…!」

風都タワーでの戦いにおける傷と疲労は抜けきっていない。
本当ならば戦いに出るような状態では無いのだ。
必然的に回避動作にも影響が出て、徐々に鈍り出す。
こうなってしまえば、ギニューにとって最早何の脅威にもならない。
肉体の記憶から引き出した技で、さっさと終わらせてやる。

――水の呼吸 弐ノ型 改 横水車

「うわあああああああああああああっ!!?!」

元々は縦方向に回転し斬る型の応用と言える技。
横方向に全身を大きく回転させて標的を斬り付ける。
大木をも両断する威力にライドプレイヤーの装甲から盛大に火花が散り、大きく吹き飛ばされた。
受け身も取れずに地面を転がると、変身はあっさり解除され傷だらけとなったユーノの姿を晒す。

「貴様は後だ。そこで大人しく見ていろ」

取るに足らない少年へ吐き捨て、眠り続けるいろはへと近付く。
気絶しているとはいえ、自分へ甚大な傷を負わせた相手だ。
真っ先に殺しておくべきとギニューは見ている。


380 : 嘘つきな世界 -Wish in the dark- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:43:23 Oyx4Ojn.0
「くそ…っ。環…さん……!!」

いろはの命が奪われようとしている。
なのに自分は無様に倒れ伏し、黎斗もダメージから復帰できていない。
ギニューの言う通り、このまま黙っていろはが殺されるのを見ているしかないのか。
もう駄目だと諦める他ないのか。
悔し気に唇を噛むリトの視線の先で、とうとうギニューの刀がいろはへ振り下ろされようとした。

「や…め…ろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」

勝算も策も無い、ただじっとしていられず動き出す。
殺し合いが始まって直ぐの時には扱いきれなかった、ジェットシューズを起動。
深手を負った身にどれだけの負荷が掛かるかも、今は考えている余裕が無い。
爆発的な加速力を得て、いろはの元へと到達した。

そして、至極当然の如く刃が体へと食い込む。
本来ならば鬼から人々を守る為に鍛え直された、炭治郎の日輪刀。
使い手の心を踏み躙るかのように、守るべき人間の命を奪う凶器としてリトを切り裂いた。
バリアジャケットもなければ、ライドプレイヤーにも変身していない、齢十歳にも満たない少年の身体から血が噴き出る。

「えっ」

そんな光景が、起きたばかりのいろはの目に飛び込んで来たのだった。





何が起きたのかを直ぐには理解できなかった。
悪夢から目を覚ましたと思ったら、リトが血を流して倒れたのだ。
一瞬、まだ自分は夢の中にいるのかとさえ思ってしまう。
だがこれは紛れも無い現実。
頬に掛かった血の熱さ、むせ返るような鉄の臭い、五感に伝わる情報は夢ではあり得ないくらいに鮮明なのだから。

5秒にも満たない時間で状況を理解すると、即座に起き上がって駆け寄ろうとする。
体の痛みや未だ圧し掛かる疲労など捨て置く。
しかしいろはが事態を把握する僅か数秒も、ギニューが動くには十分過ぎた。

「――っ!?結城さ――あぐっ!?」
「貴様はそのまま寝ていろ。順番が狂ったが…まぁいい」

起き上がりかけたいろはの腹部に足を乗せ、身動きを封じる。
リトが自らを盾にしたのには少しだけ驚いたが、所詮は無駄な足掻き。
自分が死ぬのを早めただけだと嗤う。
目覚めたいろはに余計な抵抗をさせる気も皆無。

「貴様の変身は中々良いものだった。それだけは覚えておいてやるから、安心して死ね!!」

今度こそこいつらも終わりだと、いろはの頸を斬り落とそうとし――


381 : 嘘つきな世界 -Wish in the dark- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:48:00 Oyx4Ojn.0
「ラウン……ド…シールド……」


振り下ろした刃は、光を放つ盾に防がれた。

「何ぃいいいっ!?」

突如刀が弾かれ、いろはを仕留め損なった。
誰がやったのかは考えるまでも無い。
風都タワーでの戦闘の時と同じだ。あの時もいろはを仕留めようとしたタイミングで、奇妙な鎖が絡みつき邪魔をされた。

「結城さん!?」
「小僧…!貴様まだ…!!」

二人分の驚愕を浴びせられるのは、夥しい量の血を流しながらも立ち上がったリト。
発動したのはユーノが得意とする結界魔法。
自分の命が失われようという場面でさえも、いろはを守らねばという想いが実ったのか、土壇場での使用に成功した。

「環さんから……離れろ……!」

立っているだけで気絶しそうな痛みに苛まれ、それでもそれを口にする。
勝てる可能性はゼロ、だけど諦められない。
無理だと潔く投げ捨てる程合理的にはなれず、せめて自分だけでも助けてくれと命乞いするような卑怯者にはなれない。
何より、襲われそうになっている女の子を見捨てるような男にだけは、死んでもなりたくなかった。
そんな傍から見たら馬鹿げているような、けれどリトにとっては譲れない意地で死に体の身を動かす。

少し前、ネメシスが殺されそうになった時と同じだ。
デビルーク王の言葉は星を治める立場の者としての重みがあり、ネメシス自身も己の死を受け入れていた。
今思うと、地球の一般男子高校生に過ぎない自分が異を唱える等、とんでもない事をしでかしたものだ。
傍らにいたザスティンが焦るのも無理はない。
だけどもしあの場面で何もしなかったら、自分は一生後悔すると感じた。
ネメシスが殺されるのを指を咥えて見ている、その選択だけはどうしても取れなかった。

今だってそう。
もしもここで何もしなければ、いろはが殺されるのに何の行動にも移せないのなら、
きっと自分は、この先二度と家族に、父と妹に顔向けできない。
こんな自分を好きだと言ってくれた少女達にだって、顔向けできない。
だから立ち上がるのだ。

(このガキ……)

想像以上のリトのタフさに、内心ではギニューも舌を巻く。
この小僧は紛れも無く弱い。
同じ子どもでも、ナメック星で戦ったおかっぱ頭の地球人のガキよりも遥かに雑魚。
だが全くの腑抜けではない。
あの傷で女一人の為に立ち上がる根性、それだけは確かに存在する。
フリーザの蘇生という己の目的に比べたらちっぽけなものだが、譲れないものくらいはあるという事か。


382 : 嘘つきな世界 -Wish in the dark- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:49:16 Oyx4Ojn.0
「…良いだろう。そうまでして立ち上がるのなら、今度こそ確実にオレの手で殺してやるわ!」

いろはから足をどかすと、宣言通りにリトへトドメを刺そうと迫る。
それをいろはは止められない。
レイジングハートの起動よりも、ギニューが刀を振るう方が速い。
自分が呑気に気を失っていたせいで、一人の少年の命が失われる。

「結城さん…!だめっ…!!」

「死ねぃっ!!」

二人の声がやけに遠くに聞こえる。
魔法もライドプレイヤーへの変身も間に合わない。
指一本動かすだけでも、酷く緩慢な動きしか出来ないのだ。
そもそも立ち上がれた事自体が奇跡と言って良い。
せめてもの抵抗として、刀を振るう少年を睨み続ける。
やれる事といったらそれだけだった。意地で立ち上がったというのに、結局自分は何も――




















「月閃光!!」


383 : 嘘つきな世界 -残響散歌- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:50:58 Oyx4Ojn.0
◆◆◆


戦場に天使が降り立った。

誰もがそんな錯覚を覚えた。

頭上には淡い輝きを放つ光輪、背中にはどこを見ても純白一色の翼。
その身に纏うのは、翼とは正反対に黒を基調とした衣服。
未成熟な肢体を余すことなく黒で覆い隠した少女の美貌に宿る感情、それは純粋なまでの殺意。
両の瞳で睨みつけるのは、自身の一撃を躱した耳飾りの少年。

奇襲へ難なく対処してみせた相手への警戒度を、一段引き上げる。

天使の能力により感知した、悪しき者の魂。
それを追ってやって来てみれば、今まさに少年が殺されようとする場面に出くわした。
刀を振るおうとする少年から感じ取ったのは、まさしく自分が追って来た者の魂だと確信。
この状況でどちらに味方をすべきかなど、どこぞのお人好しなソーディアンマスターでなくとも一目瞭然。
こちらを明確に敵と認識したのだろう、耳飾りの少年から殺意をこれでもかと叩きつけられる。

地面に散らばっている支給品から、短剣より少し長い棒を拾う。
右手に持つ剣と比べたら武器の質には雲泥の差がある。
が、取り敢えずは得意とする二刀流のスタイルにはなった。

後は己の力と技を以て、眼前の敵を排除するのみ。

その前に、チラリと背後の少年へ視線を投げる。
傷は余りにも深く、立っている事にも限界が来たのだろう。
地面へ倒れ込み、女が必死に呼びかけている。
自分は間に合わなかった。その事を考えるのは後だ。

ただ、自分の到着までに必死で戦ったであろう少年へ、一言だけ告げる。

「後は僕に任せろ」

ぶっきらぼうな言葉を皮切りに、ジューダスは己が剣技を繰り出した。


384 : 嘘つきな世界 -残響散歌- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:52:09 Oyx4Ojn.0



「小娘ぇぇ…!!何者だ貴様はぁぁぁっ!?」
「これから死ぬお前が、知る必要は無い」

憤慨するギニューの言葉を冷たく切り捨て、エターナルソードを振るう。

剣に関して目利きが得意でなギニューからしても、己の首を狙うのはただの業物以上の何かがあると感じ取った。
エターナルソードに対しギニューは防御…ではなく、回避を選択。
横に跳んで躱すと、ジューダスは反対の手を突き出した。
握られているのは警棒。エターナルソードとは比べる事すら烏滸がましい武器。
されど狙うはギニューの顔面。
あれで突かれたら、目を潰されるくらいの被害は免れない。
顔を横に逸らせば頬スレスレを通過。回避のみには終わらせず、日輪刀を敵の豊かな胸元へと突き刺す。

柄を握った手に伝わるのは、肉を刺し貫いたのではなく、金属に当たった感触。
右手の剣で突きを恥じ返したジューダス、一歩踏み込み両手の得物を巧みに操る。

「双連撃!」

一撃の破壊力に優れたエターナルソード、威力は低いがその分速さで勝る警棒。
交互に繰り出される連撃を、日輪刀で防ぎ、或いは最小限の動作で回避する。
優先して警戒すべきはエターナルソードだが、警棒もまた目などの特に脆い部分を狙ってくる。
失明ないし視力低下を引き起こしては、戦闘にも支障が出る。
時折片や脇腹を警棒が殴打する痛みなど、目を潰されるのに比べたら屁でも無い。

「飛連斬!」

二つの武器を駆使した二連撃。
一体その体のどこにこんな力があるのやら、防御に回ったギニューの体を上空へ打ち上げた。
追撃をする気だろう、ジューダスもまた跳躍する。
が、このまま敵の好きにさせてやるつもりはない。

――水の呼吸 肆ノ型 打ち潮・乱

空中と言う不安定な位置にも関わらず、ギニューの斬撃は淀み無い。
加えてどの方向へ避けようとも刃が追って来るような、全方向への攻撃が可能な型だ。
翼で飛ぼうにも、迂闊に広げれば翼自体を斬られ兼ねない。
よってジューダス、ここは追撃は中止し防御を選択。
細かい切り傷こそ複数付けられるも、致命傷は全て防ぎ切った。


385 : 嘘つきな世界 -残響散歌- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:54:03 Oyx4Ojn.0
互いが地面へ着地した瞬間を見届けず、剣と刀を突き出す。

「幻影刃!」

――水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き

刃が交差し、互いの肉を貫き骨を断たんとする。
一手早かったのはギニュー。
日輪刀がジューダスの肩に突き刺さり、苦悶の声を漏らす。
幸い貫通まではしていない。
後方へと跳び体勢を立て直そうとすれば、すかさずギニューが追撃を仕掛ける。

「ストーンザッパー!」

接近をおめおめと許すジューダスではない。
すかさず呪文を唱えると、ギニュー目掛けて斧のような石片が飛来する。
頭部を叩き潰される前に、横へ移動して躱した。ジューダスの予想通りに。

「シャドウエッジ!」

次いでギニューを襲うのは地面から突き出した巨大な刃。
闇属性のソレは飲み込まれそうな黒一色に染まっている。
予期せぬ方向からの攻撃に両足が斬らそうになるも、使い物にならなくなるより早く対処へと回った。

――水の呼吸 参ノ型 流流舞い

攻撃のみならず回避技としても優秀な型。
刃をヒラリヒラリと紙一重で躱しながら、ジューダスへと接近する。
再度距離を取ろうとするが、させじと勢いを付けて斬り掛かった。
対するジューダスもまた、回避ではなく迎撃へと移る。

――水の呼吸 弐ノ型 水車

「月閃光!」

読んで字の如く、水車の様に全身を回転させての斬撃。
迎え撃つは、二刀流により三日月を描くのような斬り上げ。
金属同士が衝突し、両名の腕にビリビリと衝撃が走る。
だがどちらも武器を手放すことなく、次の動作へと移行した。

「散れ!!」

――水の呼吸 壱ノ型 水面斬り

ジューダスが繰り出したのは月閃光からの連携技。
打ち上げた敵を叩き斬る、月閃虚崩。
ギニューが繰り出したのは水の呼吸の基本となる技。
交差させた両腕から勢いよく水平に刀を振るう、単純ながらも威力に優れた型。


386 : 嘘つきな世界 -残響散歌- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:55:15 Oyx4Ojn.0
「ぐおっ!?」

短い悲鳴はギニューのもの。
深くはないが、胴体には一本の真っ赤な線が引かれる。
一方でジューダスもまた無事では済まなかった。
左手の得物、警棒がここに来てギニューの猛攻とジューダスの技両方に耐え切れず砕け散ったのだ。

(やはり持たなかったか……)

予想できた事故に落胆は無い。
むしろジューダスの関心は、ここまでの戦闘を可能にした己の身体にある。

神崎蘭子という名のこの少女。
本来であれば、如何にジューダスの剣技が優れていようとギニュー相手にこうも渡り合えるかは難しいだろう。
アイドルに必要な体力づくりをこなしているとはいえ、あくまで一般人の範疇でしかない身体で鬼殺隊の隊士を相手取るのは不可能に近い。
それを可能としたのは支給品、ラブボムによる天使化の影響か。
どうやら飛行能力や悪人の魂の感知以外にも、身体能力の強化という恩恵もあったと考える。
更にシャルティエが無いにも関わらず、晶術を使えた理由。
これについても天使化により、クリスタルコアが無くとも代用できるエネルギーが体に宿ったからだろう。

或いは、体の持ち主である蘭子が過去に経験した出来事。
346プロダクションのアイドルが巻き込まれた、空の世界での摩訶不思議な冒険で得た力が残留しているからか。

真実が何にせよ、ジューダスにとっては問題無く戦えるのならそれで良い。
尤も、武器を一つ失ったのはやはり痛い。
柄だけとなった警棒を投げ捨て、エターナルソードを構え直す。
敵は代わりの短剣を探すまで待ってはくれない。
日輪刀を振り被り、襲い掛かる。

その横合いから、丸い何かが叩きつけられた。

「ぐっ!?」

咄嗟に刀で防ぎ、攻撃して来た者を睨みつける。

「やってくれたな……!!」

視線の先に立つのは、カメレオンのような頭部の騎士。
どうにか戦線に復帰した仮面ライダーベルデ、檀黎斗である。
痛みが完全に引いた訳ではないが、ベルデの装甲と着火剛焦による防御があったからだろう。
同じく水の呼吸で斬られたリトに比べ、まだ戦闘は可能だった。
バイオワンダーを拾い上げ放ったが、やはり防がれた。
だが関係無い、ゲームマスターを愚弄しておきながら許せるはずがない。

「あの小僧の事か?フン!弱い奴から死んでいくのは当たり前だろう!」

どうやら相手は仲間を斬られた事に怒っているのだと、勘違いするギニュー。
実際にはリトの事など微塵も案じていないのだが、ご丁寧に訂正してやる気は無い。
返答代わりにバイオワンダーを叩き込もうとした時、ジューダスに声を掛けられた。


387 : 嘘つきな世界 -残響散歌- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:56:08 Oyx4Ojn.0
「おい!短剣か、それに近い武器を持っているなら僕に寄越せ!」
「なにぃ?」

露骨に顔を顰めてジューダスを睨みつける。
神の才能を持つ自分に、何と言う口を聞くのだこの小娘は。
お願いしますの一言すらないとは、無礼千万極まりない。
同じ子どもでも、いろはとリトの二人は目上の人間への礼儀を弁えていたというのに。

(全く不愉快だ!不愉快だが…仕方ないか)

この銀髪の小娘はギニューとも渡り合える力が有る。
手強いと認めざるを得ない相手と戦えるのなら、武器の譲渡は行うべき。
非常に納得がいかないが、今だけは仕方ないと自分を無理矢理納得させる。
丁度小娘の要求を満たせる物を、自分は手に入れている。
この礼儀の「れ」の字も知らない小娘へ、ゲームマスターが武器を恵んでやろうと、デイパックへ手を突っ込む。

「させるか!」

敵の戦力増強を黙って見ているギニューではない。
余計な事はさせてたまるかと駆け出すが、妨害される事くらいベルデは予測済み。
デッキからカードを引き抜くと、すっかり慣れた動作で召喚機へ読み込ませた。

『AD VENT』

「GUUUUUUUUUUUUUU…!!」

契約モンスターを召喚するアドベントのカード。
出現したのは二足歩行のカメレオンとも言うべき異形、バイオグリーザ。
主の邪魔はさせない為に、ギニューへと立ち塞がる。

「どけぃっ!」

現れた化け物に呆ける事無く日輪刀の一撃が迫る。
バイオグリーザは跳躍し回避。驚くべきは一度の上昇で遥か上に到達した脚力だろう。
両脚に付いたバネにより、生物の限界を容易く超えた跳躍力を我が物としていた。
口を開き上空から舌を発射する。
一般的なカメレオンではあり得ない長さの舌は、しかしギニューを絡め取る事はできない。
ギニューは上体を逸らし回避すると、伸びきったバイオグリーザの舌を斬り落とそうとした。
だがバイオグリーザの役目はあくまで足止め。
ほんの少しだけギニューを引き付けられれば、後は別の者が倒す役目を引き受ける。


388 : 嘘つきな世界 -残響散歌- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:58:01 Oyx4Ojn.0
「崩龍斬光剣!」
「ぐゥっ!?」

斬り上げを防ぐも、二撃三撃と二つの刃が縦横無尽に振るわれる。
瞬間移動もかくやといった速度で、次々と斬撃が繰り出されたのだ。
防御も回避も完全には間に合わせられず、ギニューの体へ新たな傷が生まれる。
ジューダスの左手には黎斗から譲渡された短剣、パラゾニウムがあった。
偶然にもバトルロワイアルにおいてリオンが使っていた短剣は、警棒よりも遥かに上等な得物だ。
これなら破壊される心配をせずに、思う存分振るえるというもの。

「千烈虚光閃!」

それを示すかのように、双剣でギニューを打ち上げる。
間髪入れずに神速の突きを幾度も放った。
反対方向からは、逃げ道を塞ぐようにバイオワンダーが放たれる。
片方を防いだとしても、もう片方の直撃は免れない。
逃げ場無しの状況で尚もギニューに諦めは存在せず。

「舐めるなよぉおおおおおおっ!!」

――水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫

両方から襲い来る剣とヨーヨー。
何とギニューは刀身の上で助走を付けると、バイオワンダーのワイヤー部分を軽々と駆け出した。
不安定な足場での戦闘に適した、水の呼吸の歩法。
思いもよらぬ対処法に相手が驚く間もなく、ベルデへと急接近し斬り付ける。
予想外の行動に回避は間に合わず、装甲からは血の代わりの火花が散った。
更にギニューはベルデの胸板を蹴り上げると、反動でジューダスの元へと跳んだ。

――水の呼吸 捌ノ型 滝壷

「粉塵裂破衝!」

ジューダスが巻き起こした土煙を掃うように、日輪刀を振り下ろす。
だがこの技は単に土煙で目を眩ませるのではない。
その真価を発揮すべく双剣を打ち鳴らして火花を出す。
次の瞬間、土煙は爆発し、当然ギニューも巻き込まれた。
しかし、爆発程度でギニューの勢いは止まらない。ギニューが放った型は水の呼吸の中でも特に威力に秀でている。
剣を振り下ろした際の勢いのみで爆発の威力を削ぎ落し、ジューダスへ刃を到達させんとした。

「チィッ!」

双剣を交差させての防御。
守り諸共叩っ斬ると言わんばかりの一撃に、剣を交差させた体勢のまま吹き飛ばされる。
天使の翼を展開し強引に踏み止まり、背後の電柱へ衝突する事態は回避した

「おのれ…!」

着地したギニューも無傷ではない。
威力を削いだとはいえ、爆発を受けたのだ。
体の各所がヒリヒリと痛む。火傷だろう。
尤も動く分には何の問題もない。自分の負傷への危惧など抱かず、再び水の呼吸を放つべく構えた。
ジューダスもまた、戦いは終わっていないと痛みを噛み殺し構え直す。
ベルデも同様だ。受けた痛みと屈辱を必ずや晴らさんと、ギニューへ怒りを向けた。


389 : 嘘つきな世界 -残響散歌- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 20:59:26 Oyx4Ojn.0
三人の男により戦場にはより濃密な殺意が満ち溢れ、爆発寸前まで膨れ上がり、

「むっ!?」
「なに…?」
「あれは……」

彼らの意識は突如巻き起こった力の奔流により、一点に向けられた。

「ハァ……ハァ……ハァ……!!」

三人分の視線をぶつけられるのは、再び魔法少女としてのコスチュームに似たバリアジャケットを纏ういろは。
息も絶え絶えになりながら、彼女は杖に変化したレイジングハートへ魔力をチャージしている。

背後には、身動ぎすらしなくなった少年が横たわっていた。





「結城さん!しっかりして!」

今にも目を閉じそうな少年へ何度も呼びかけ、いろはは傷の治療を試みた。
高町なのはの魔力を用いた回復魔法は問題無く発動されている。
インキュベーターとの契約で得た力と、リンカーンコアを宿す魔導師では魔法体系が違う。
しかしいろはは元々治療魔法を得意とする魔法少女。
砲撃魔法などに比べると、コツを掴むのはそう難しくはない。

だがこの場においては無意味だった。

「どうして……どうして治らないの…」

魔法は使えているのに、リトの出血が治まる気配は一向にない。
バトルロワイアルの参加者に付けられた制限が原因である。
魔王やホイミンの回復呪文や、犬飼ミチルの身体となった東方仗助のクレイジー・ダイヤモンドなど、傷の治療が可能な能力には何らかの枷が設定されている。
なのはの魔法もその例に漏れず、制限の対象とされていた。
普段のいろはやなのはならいざ知らず、血を流し過ぎたリトの治療に制限下の力では無力であった。

それらの事情を知る由の無いいろはは、ただ愕然と急速に命の灯が消えていく様を見る事しか出来ない。


390 : 嘘つきな世界 -残響散歌- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 21:01:05 Oyx4Ojn.0
「結城さん…結城さん…!!」

必死に自分の名を呼びかけ、涙を流す少女をリトはぼんやりと見上げる。
ああ、死ぬんだなとどこか他人事のように考えた。
何も死にたがっていた訳では無いが、自分が手遅れな事くらいは理解出来る。
自分はもうじき死ぬが、どうかいろはと黎斗の二人は無事に生き延びてくれと願う。
幸いと言うべきか、自分達を助ける為に銀髪の少女が来てくれた。
彼女のような殺し合いに乗っていない人間がいるのなら、きっといろは達も大丈夫なはず。

自分は無理でも、いろは達が無事ならそれで良い。
こんな自分でもいろはを守れたのなら、それで――





(…………良いわけ、ないだろ)

お前は見えないのか。
今も自分に縋りついて、悲しんでいる少女の姿が。
たとえ命が助かったとしても、自分が死んだらこの優しい娘がそれで喜ぶはずが無い。
こんな風に泣かせて、それで終わりで良い筈が無い。

それに自分が死んだら、元居た場所で待っている人達はどうなる?
父と妹が、自分を好きだと言ってくれた少女達が、悲しまないとでも思っているのか。

何よりここで自分が死ねば、体の持ち主の少年はどうなるんだ。
ユーノの精神が今どこにいるのかは分からないけど、自分の死で巻き添えにしてしまえば帰る体を失う事になるではないか。

だから死ねない。死ぬ事は許されない。
自分の為だけでなく、皆の為にも生きねばならない。

なのに、その意思に反して体はピクリとも動いてはくれず、掠れた声しか出せない。

自分の顔にいろはの涙が零れ落ちる。
泣いている女の子を前にしても何一つしてやれず、やけに重く感じる瞼が閉じられていく。

「ご……め…ん…………」

果たして誰に向けての謝罪だったのか。
いろはか?家族か?ララ達か?それともユーノ・スクライア?
或いはその全員?

確かめる術は誰にも残されていない。

唯一確かなのは、また一人、参加者の命が失われたという事だけ。



【結城リト@ToLOVEるダークネス(身体:ユーノ・スクライア@魔法少女リリカルなのはA's) 死亡】


391 : 嘘つきな世界 -残響散歌- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 21:02:51 Oyx4Ojn.0
「結城さん…!なんで…なんでぇ……!!」

助けられなかった。
共に戦った仲間を、自分を守る為に傷だらけで立ち上がった少年を。
出会ってまだ数時間の関係など些細な事でしかない。
自分が呑気に気絶なんてしていなければ。
あんな悪い夢なんて振り払って、もっと早くに目を覚ましていればリトは死なずに済んだかもしれないのに。

たらればの可能性ばかりが思い浮かび、無力感にただ涙を流す。

いろはを強制的に現実に引き戻したのは、今も続く戦闘の音。
怒声と剣戟が飛び交う戦場には、リトを殺した少年もいる。

「っ!!」

少年を見た途端、いろはの中に生まれたのは怒りと焦り。
リトのような優しい少年が死んだのに、あいつはまだ生きて、更に人を殺そうとしている。
このまま放って置いたら、黎斗や銀髪の少女までころされてしまう。
もうこれ以上、あいつの好きにさせるのは真っ平だ。

唇を噛んで立ち上がり、レイジングハートに魔力をチャージする
体力も魔力も完全に回復し切っていないけど、そんなのを気にしている場合じゃない。

涙で赤くなった瞳を少年にぶつけ、杖の先端を突き付けた。





いろはが何をする気なのか、ギニューは即座に理解する。
風都タワーで自分に大ダメージを与えた、あの忌々しい桜色の砲撃。
あれの威力は身に染みて痛感している。
二度も食らう手は無いと、ジューダスとベルデを捨て置いてでも阻止しなくてはならない。

それを二人が黙って見過ごすかは別である。

「っ!おのれっ!!」

コートを翻しいろはへと駆け出したギニューの横合いから、バイオワンダーが叩きつけられる。
姿勢を低くし回避、被害に遭ったのは数本の頭髪のみだ。
そのままの姿勢で速度を緩めずに走り続ける。

「デルタレイ!」

その先へは行かせないと放たれるは、三つの光弾。
いろはの名前すら知らないジューダスであるが、大技を使う気でいるのは直ぐに察せられた。
今は発動に必要な「溜め」の真っ最中といった所か。
勝負を決められるかもしれない技なら、撃つのに成功して貰わねば困る。
晶術でギニューを足止めした。

「鬱陶しいわ!」

三発全て斬り落とされる。
光弾が霧散した直後にギニューへと急接近、双剣を軽やかに振るうと敵も日輪刀で斬り結ぶ。
単純な手数ではジューダスに分があるが、膂力はギニューが上か。
短剣の突きを躱し切れずに右腕を刺されれば、刀の勢いを防ぎ切れずに脇腹を斬られる。
互いに一撃もらった所で、ギニューへ迫るバイオワンダー。
いろはの攻撃を待たずとも、このまま頭部を潰す算段だった。
相変わらず速い。速いがこの戦闘で何度も見た攻撃故に、いい加減体も慣れて来る。
僅かに体を逸らすと、真横に落ちて来たバイオワンダーへ力いっぱい刀を叩きつけた。
そうすると明後日の方向へワイヤーが伸びて行き、ベルデ本体もそっちへ引っ張られ、足がもつれる。
最初の時よりも対処には余裕を持って行えた。

だがいろはの元へと辿り着く筈の足は、見事に止められてしまった。


392 : 嘘つきな世界 -残響散歌- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 21:06:08 Oyx4Ojn.0
「二人とも避けてください!!!」

警告を言い切る前に、ジューダスとベルデは射線上から飛び退いた。
己の失態をギニューが悟った時には既に手遅れ。
レイジングハートには、ギニューを倒すのに十分過ぎる程の魔力がチャージ済み。
杖の先端にある赤い宝石が、まるで銃口のようにギニューへ突き付けられている。
今か今かと発射を待ちわびるかのように纏わりついた魔力。
お望み通り、一気に解放してやった。

「ディバイン……バスタァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

放たれるは高町なのはが得意とする砲撃魔法。
数時間前の時と同じく、此度も邪悪な戦士を?み込まんと桜色の光が襲い来る。
だが相手はこのまま黙ってやられる程、諦めの早い男ではない。
今のギニューには、なのはの魔砲にも対抗できる力があるのだから。

「大人しくやられると思ったのかぁっ!!!」

賢者の石やニューナンブと同じく、いろはから奪ったデイパックに入っていた最後の支給品。
ビー玉のようにも見えるソレを握り締めると、両腕に光が迸る。
敵がエネルギー波を放つなら、同じ土俵で打ち勝って見せよう。
ギニューの戦意に呼応するかのように、両腕からは高出力の光が放たれた。

「くらえぇええええええええええええええええええっ!!!!!」

桜色と黄色、二つの光がぶつかり合う。
相手を倒すという戦意はどちらも負けていない。
片方が押したかと思えば、もう片方が押し返す。
拮抗はいずれどちらかが力尽きるまで続くと思われたが、その瞬間は訪れなかった。
互いの力に耐え切れず、両者の光は全く同じタイミングでせめぎ合いながら霧散した。

「きゃあああああっ!!」
「ぐおおおおおおっ!!」

いろはもギニューも、悲鳴を上げて後方へ吹き飛ばされる。
前者は民家の壁に背中を強打し、激痛に一瞬息が止まった。
バリアジャケットを纏っていなければ、より大きな傷となっていただろう。
後者は壁や地面に叩きつけられることなく、強引に着地した。
が、突如膝を付く。傷の痛みではなく、全身を猛烈な倦怠感に包まれたからだ。


393 : 嘘つきな世界 -残響散歌- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 21:07:29 Oyx4Ojn.0
「お、おのれ…オレはまだ……」

殺せたのはガキ一人であり、残る三人はまだ健在。
休んでいる暇は無いと立ち上がるも、肉体は戦闘の続行では無く体力回復を命令する。
知った事かと無視して刀を握り直すも、ふと本当にそれで良いのかという考えも浮かび上がった。

殺す機会など生きてさえいれば幾らでもある。
仮に自分以外の者の手で連中が殺されたとしても、人数が減るのなら悪い事ではない。
だがここで無理をして死んでしまえばどうなる?
優勝しフリーザを復活させる事は叶わない。
この先二度と訪れないであろう、忠誠を誓った主の蘇生をさせるチャンスを、志半ばで終わらせていいはずが無い。

(いかんな、オレとした事が…)

目的を履き違えるな。
自分がやらねばならないのは、自分のプライドを懸けて戦うのでも、負傷を無視して勝利を掴むのではない。
どんな過程だろうと、最後の一人になりフリーザ様を復活させる事だ。

一時とはいえ己の感情を優先しようとした自分を恥じる。
反省し熱くなっていた頭を冷やすと、次に移すべき行動も瞬時を瞬時に選択。
デイパックからトビウオを取り出し跨り、この場から去ろうとする。

「待て!」

敵の逃走をみすみす許す気は無い。
そう告げるかのように斬り掛かって来たジューダスへ向け、ニューナンブを連射。
弾を全て撃ち尽くすと、ジューダスの顔目掛けて銃本体を投げつけた。
一発残らず斬り落とされた上に銃も両断されたが、足止めにはなった。
あっという間に上昇したトビウオは、乗りての指示に従い一目散へ飛んで行く。
苦し紛れに投擲されたバイオワンダーも躱され、地上には苦い思いで見送る者達だけが残された。





横たわる少年の傍でいろはは項垂れる。
リトを助けられず、殺した相手にも逃げられる始末。
一体自分は何をやっているんだろう。
心の内から湧き上がる、己を責める声に気持ちは沈む一方だ。

「環さん…」

無力感を噛み締める少女へ声を掛ける黎斗。
気の毒そうにいろはを見やると、リトへ視線を移し目を伏せた。

「結城君の事は、残念だ……」
「はい……」

勇気ある少年の死を嘆く言葉。
だがいろはにはそれがまるで、助けられなかった自分を責めているように聞こえた。
無論、黎斗にそういった意図は無いだろう事は分かる。
それでも、自分がちゃんと治せていたらという後悔は抑えられない。
いろはの想いを知ってか知らずか、気遣うように続けた。

「色々と混乱しているだろうが、今はまず休もう。結城君の死を蔑ろにする気は無いが、落ち着いて今後の事を話す時間も必要だ」
「…そう、ですね……」

黎斗の正論に力無く頷く。
よろよろと立ち上がり、昏い目でリトを見下ろした。


394 : 嘘つきな世界 -残響散歌- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 21:08:51 Oyx4Ojn.0
リトの死を悲しむのとは別に、いろははある事を考えていた。
最初に出会った時、リトはユーノの魔法を全く使えていなかったのは覚えている。
後にフェレットへの変身や光る鎖、いろはとのコネクトや彼女を守ったシールドなど複数の能力を使えるようになった。
だったら、リトと同じく自分もこの身体にもっと慣れればなのはの力を使いこなせるようになるのかもしれない。
そうなれば今以上に戦え、傷を治し、リトのような犠牲者を出さずに済むのではないか。

それがいろはにとっては恐ろしい。

何故なら、力を使いこなせるくらいに慣れてしまえば、自分の精神はより一層なのはのものへと近づく事になる。
あの夢で感じたように、自分の記憶がなのはの記憶に塗りつぶされてしまうのが、現実のものとなってしまう。

リトの死を目の当たりにしておきながら、彼のような犠牲者を生み出さない決意より、自分本位な恐怖が勝る。
そんな自分が、どうしようもないくらいに情けなかった。

いろはを気遣う善人という仮面の裏で、黎斗は冷静に思考する。
回復魔法を持つリトを失ったのは少々惜しかったが、死んでしまったのなら仕方ない。
どうせ機を見て殺すかもしれなかった相手だ。ある意味その手間が省けたとも言える。
リトの死を心から嘆く気持ちなど微塵もない。
真っ当な人間らしい倫理観など、幼少時の永夢に嫉妬心からバグスターウイルスを送り付けた瞬間に失った。

それより黎斗の意識は逃げた少年へ向けられている。
神の才能を持つ自分をやったらめったらに斬り付けたのだ、全く持って許し難い。
再度遭遇する事があれば、必ずや制裁を下してやらねば気が済まない。

とはいえ今はいろはに告げた通り、休む必要がある。
ベルデに変身していて尚も痛む程の傷だ。
今後どう動くにせよ、傷と疲労が大きいままではやれる事も限られてくるのだから。

「君の方も、今はそれで良いかな?」

振り返り、もう一人の少女へと問う。
相手は険しい表情を浮かべ、黎斗へ視線を投げ返した。


395 : 嘘つきな世界 -残響散歌- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 21:10:14 Oyx4Ojn.0



トビウオに乗って逃げた少年を追う。
その選択もジューダスの中にはあったが、彼が選んだのはここに留まる事だった。

ラブボムの効果で飛行能力を得たジューダスなら、ギニュー同様に空を飛び追跡も可能。
なのにそうしなかった。
というよりも、出来なかったと言うべきか。

(この男……)

ジューダスが険しい視線を向けるのは、先程まで緑の鎧を纏っていた男。
男の存在こそ、ジューダスがギニューを追いかけなかった原因である。

ジューダスは街を訪れた時、悪しき魂を感知した。
天使の能力に導かれるまま移動してみれば、リトを斬り殺し他の二人をも手に掛けようとする悪党、ギニューがいたのだ。
ラブボムにより得られた能力は信用に値すると見て良いだろう。

問題は、ジューダスが感知した悪の魂は『二つ』だったこと。

一つはさっきまで剣を結んだ少年。
そしてもう一つが、いろはを気遣う態度を見せた男、檀黎斗。

戦闘中はギニューのほうが危険度が高いと見たし、黎斗の方も一応共闘をした。
が、それだけで信用はできない。
ギニューは斬るべき相手だが、その為に黎斗を放置すればいろはが何をされるか。
だからこうして黎斗を監視すべく残ったのだ。

(こいつは一体何を考えている?)

ラブボムの力を信じるなら、黎斗は悪しき魂の持ち主となる。
ただ、それで黎斗が殺し合いに乗っているとは断定出来ない。
善人の仮面を被って、内心ではいろはやジューダスを殺す機会を虎視眈々と窺っているのかもしれないが、
実は過去に罪を犯したが今は悔い改め、贖罪のつもりで殺し合いに抗っている可能性もある。
或いは改心などしていないが、殺し合いに乗るのは得策でないと判断し、人当たりの良い演技をしているとも考えられなくはない。
ラブボムが教えるのはあくまで魂や力が悪かどうかであり、詳しい方針まで知らせてくれる力は無い。
魂が悪=殺し合いに乗っているとは限らないのだ。
現に自分とて、世間から見ればソーディアンチームを裏切った悪だが、カイル達にとっては信頼できる仲間の一人。
大勢から悪と断じられようと、見方一つで変わってくる場合もある。

とにかく、この男が殺し合いで何をしようとしているのかを見極める。
悪の魂であろうと殺し合いに抗うのなら、警戒はすれど協力はやぶさかでない。
反対に、自分やいろはを殺し優勝を狙う気ならば、こっちも容赦はしない。
どちらにせよ、やっと遭遇できた他の参加者だ。

「ああ、それで構わない」

内心の警戒は微塵も緩めず、休息の提案へ頷き返した。


396 : 嘘つきな世界 -残響散歌- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 21:11:43 Oyx4Ojn.0
【D-4 街/午前】

【環いろは@魔法少女まどか☆マギカ外伝 マギアレコード】
[身体]:高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[状態]:ダメージ(中)、魔力消耗(特大)、右肩と腹部に刀傷(処置済み)、悲しみと無力感、なのはの身体でいる事への恐怖
[装備]:レイジングハート@魔法少女リリカルなのは
[道具]:なし
[思考・状況]基本方針:元の体に戻る。殺し合いには乗らない
1:結城さん…。
2:檀さんの言う通り、今は休む。
3:もしも私の記憶が私のものじゃなくなったら……
[備考]
※参戦時期は、さながみかづき荘の住人になったあたり
※デイパックを失いました

【檀黎斗@仮面ライダーエグゼイド】
[身体]:天津垓@仮面ライダーゼロワン
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)
[装備]:ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、バットショット@仮面ライダーW、着火剛焦@戦国BASARA4
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:優勝し、「真の」仮面ライダークロニクルを開発する
1:人数が減るまで待つ。それまでは善良な人間を演じておく。
2:休みつついろは達と情報交換。
3:痣の少年に怒り。
4:優勝したらボンドルド達に制裁を下す。
[備考]
※参戦時期は、パラドに殺された後
※バットショットには「リオンの死体、対峙するJUDOと宿儺」の画像が保存されています。

【ジューダス@テイルズオブデスティニー2】
[身体]:神崎蘭子@アイドルマスター シンデレラガールズ
[状態]:疲労(大)、右肩に刺し傷、脇腹に裂傷、上半身に細かい切り傷(戦闘に支障なし)、天使化
[装備]:エターナルソード@テイルズオブファンタジア、パラゾニウム@グランブルーファンタジー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1、ジューダスのメモ
[思考・状況]
基本方針:主催陣営から時渡りの手段を奪い、殺し合い開催前の時間にて首謀者を倒す。
1:今は体力を回復させる。
2:男(黎斗)を警戒。何を考えている?
3:痣の少年(ギニュー)は次に会えば斬る。
[備考]
※参戦時期は旅を終えて消えた後
※天使の翼の高度は地面から約2メートルです
※天使化により、意識を集中させることで現在地と周囲八方向くらいまでの範囲にいる悪しき力や魂を感知できるようになりました。
※蘭子の肉体はグランブルーファンタジーとのコラボイベントを経験済みのようです。

※リトの死体の傍に仮面ライダークロニクルガシャット@仮面ライダーエグゼイド、デイパック(基本支給品、エッチな下着@ドラゴンクエストシリーズ、ニューナンブM50(5/5)@現実、鎖鎌@こちら葛飾区亀有公園前派出所)が落ちています。
※警棒@現実(リトの分)、ニューナンブM50@現実(いろはの分)は破壊されました。


397 : 嘘つきな世界 -残響散歌- ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 21:15:04 Oyx4Ojn.0
【D-4 街(上空)/午前】

【ギニュー@ドラゴンボール】
[身体]:竈門炭治郎@鬼滅の刃
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、上半身に火傷、右腕に裂傷、姉畑への怒りと屈辱(暴走しない程度にはキープ)、トビウオに搭乗中
[装備]:竈門炭治郎の日輪刀@鬼滅の刃、エドワードのコート@鋼の錬金術師、アクションストーン@クレヨンしんちゃん、トビウオ@ONE PIECE
[道具]:基本支給品×3、賢者の石@ドラゴンクエストシリーズ、警棒@現実、ランダム支給品0〜1(鳥束の分)
[思考・状況]
基本方針:優勝し、フリーザを復活させる
1:戦場から退く。いっそこのまま宇宙船に向かうか?
2:強敵と遭遇したら、ボディーチェンジで体を奪う
3:もしベジータの体があったら優先して奪う。一応孫悟空の体を奪う事も視野に入れている
4:『呼吸』は使えるようになったな。可能ならば『透き通る世界』も使えるようになりたい
5:変態天使(姉畑)は次に会ったら必ず殺す。但し奴の殺害のみに拘る気は無い
6:炎を操る女(杉元)、エネルギー波を放つ女(いろは)、二刀流の女(ジューダス)にも警戒しておく。ロクでもない女しかいないのかここには
[備考]
※参戦時期はナメック星編終了後。
※ボディーチェンジにより炭治郎の体に入れ替わりました。
※全集中・水の呼吸をほとんど意識して使えるようになりました。
※隙の糸が見れるようになりました。

【エドワードのコート@鋼の錬金術師】
国家錬金術師、エドワード・エルリックのトレードマークである赤いコート。
フラメルの十字架の大きなマークが入っている以外は、ごく普通の衣服。
鳥束霊太に支給された。

【アクションストーン@クレヨンしんちゃん】
映画版第一作『アクション仮面VSハイグレ魔王』に登場した、同作品のキーアイテム。
しんのすけ達が済む地球とは別次元の地球のアクション仮面が、次元移動するのに必要な球状カプセル。
これを持つことによって、アクション仮面以外の者でもアクションビームを放てるようになる。
本ロワ独自の制限として、ビームを一発撃つ毎に体力を消耗し、出力を高めればより消耗の度合いも大きくなる。
環いろはに支給された。


398 : ◆ytUSxp038U :2022/01/15(土) 21:15:39 Oyx4Ojn.0
投下終了です。


399 : 名無しさん :2022/01/15(土) 21:22:55 LXQCb.Ec0
投下乙です
リト君頑張ったけど死んだか…
何気にここまで4連続で精神サイドの主人公キャラ死んでるっていう…
そしてジューダス、ここまでのぼっち生活を払拭するかの如く活躍したなあ
ラブボムがここまで有能アイテムになるとは思わなかった


400 : ◆5IjCIYVjCc :2022/01/19(水) 22:04:30 qTgCTJX60
本ロワに登場する『ハチワレが杖で出したカメラ』の名称を『撮ったものが消えるカメラ』に変更修正したことを報告します。


401 : ◆ytUSxp038U :2022/01/24(月) 15:39:26 QAw.1iiU0
感想ありがとうございます。

DIO、貨物船、大崎甜歌、胡蝶しのぶ、デビハムくん、姉畑支遁を予約します。


402 : 名無しさん :2022/01/29(土) 13:59:21 3E5hQmoY0
書けないけど応援してる


403 : 名無しさん :2022/01/29(土) 21:33:05 vhVd5INU0
投下


404 : ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 21:39:56 vhVd5INU0
失礼しました。
投下します。


405 : 楽園に背く ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 21:40:58 vhVd5INU0
「……」
「……」

民家や商店がせわしなく建ち並ぶエリア。
車道のど真ん中を歩くのは、蟲柱の胡蝶しのぶと、ハムスターにして悪魔のデビハム。
市街地へと足を踏み入れそれなりの時間が経過したというのに、両者の間に会話は無い。
アスファルトを踏みしめる音だけが、無機質に響いていた。

自分達の現状に対して、デビハムは何となく気まずい思いとなる。
別にしのぶと仲良しこよしの関係になりたい訳ではないし、そもそもデビハムはそういう仲睦まじい連中が嫌いだ。
もし目の前に手を繋いで歩いている男女が現れたら、あの手この手で二人の仲を粉々にしてやりたくなるくらいには、友情だの愛情だのを嫌悪している。
けど、それにしたってこの何とも言えぬ居心地の悪さはどうにかならないものかと思う。
一応表面上は仲間という事になっているのだし、もうちょっと接しやすい空気になっても良い筈。
少なくとも街を訪れる前はこうではなかった。
程々に雑談に花を咲かせていたのもあって、今よりはずっとマシな空気だった。

(この女、ほんとに大丈夫なんデビかねぇ……)

戦兎と甜歌の悪評を吹き込み、あの二人を追い詰める。
その為にしのぶを利用し、尚且つ戦兎達の説得でこちらの嘘がバレるのを防ごうと、こうして同行している。
だからいざ戦兎達とバッタリ遭った時には、連中を危険な参加者と見て攻撃して貰わねば困るのだ。
なのにこんな、明らかに動揺を強く押し殺している状態で、自分の思い通りに動くのかと疑念を抱いた。
こうなった原因は間違いなくさっきの放送が関係しているのだろうが、それをストレートに尋ねるのはどうにも憚れる。
言葉にせずとも、自分に踏み込むなと言っているような圧力をしのぶからひしひしと感じられた。

(…って、何でオイラがこいつを心配するような真似しなきゃならないんだデビ!?)

自分がやろうとした事に、思わず胸中で気持ち悪いと舌を出す。
しのぶの放つ重苦しい空気に当てられて、自分まで妙な考えを起こしそうになってしまったではないか。
一体何時までこの空気に耐えねばならないのかとウンザリしてきた時、前方を歩くしのぶがピタと足を止めた。
後方のデビハムもそれに倣い、何だと尋ねようとすれば、彼女の視線が少し先の施設へ向かっているのに気付いた。

「アレは…」
「地図に載っていた施設ですね。私たちが今居る位置からしても間違いないでしょう」
「え〜っと確か…何とか学園だったデビ?」

地図を取り出し確認するしのぶの横から覗き込むと、確かにPK学園と記載されている。
そして施設の名が載っているというのはつまり、誰かが既に訪れているという事だ。

「それじゃ、あそこを調べるデビか?」
「ええ。まだいるかどうかは分かりませんが、もしかしたら私の仲間がいるかもしれませんし」

それに、ひょっとしたら桐生戦兎と大崎甜歌も、と付け加える。
彼らが学園にいるのならば、デビハムの言葉が嘘か真か確かめる良い機会。
そう言われるとデビハムも共に学園へ行くしかない。
しのぶを一人で行かせた結果、反対に戦兎達へ丸め込まれてはラブを壊す計画も台無しなのだから。

PK学園にて何が待っているのかを知る由も無く、それぞれの思惑を胸に移動を再開した。


406 : 楽園に背く ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 21:41:57 vhVd5INU0
◆◆◆


蛇口を捻ると熱いお湯が頭上から降り注いだ。
腰まで届く長髪、ほっそりとした腰、程良い肉付きの乳房と臀部、スラリと伸びた脚。
一糸纏わぬ身体が熱を帯びていくのを感じ、甜歌は何とも言えぬ心地良さに安堵の息を漏らす。

「はふぅ…」

運動部専用のシャワー室、そこが甜歌が今居る場所だった。
校長室で精神と肉体の組み合わせ名簿の確認を済ませた後、来訪者の見張りは貨物船に任せるから好きに休んで良いとDIOに言われ、折角だからと汗を流す為にここへやって来た。

普段はぐうたらな生活をしているとはいえ、やはり年頃の女の子。
大好きな異性の近くで、汗臭いままでいるのは抵抗がある。
アイドルを始めてからは大勢の前に姿を見せる機会がドンと増えた、故に以前よりも身だしなみには気を遣えている、と思う。
それに今の自分は妹の身体になっているのだ。
いずれ甘奈の元に返してあげる為にも、綺麗にしてあげなければならない。

備え付けのシャンプーやボディーソープで体を洗う。
ケアの行き届いている髪と、シミ一つ無い素肌が泡で覆われていく。
妹の身体だからだろうか、普段よりも時間を掛けた気がする。
纏わりついた泡を一粒残らず洗い流すと、シャワーを止めて個室を後にした。

ふと、鏡の前で立ち止まる。
全身をハッキリと映し出す、大きな鏡だ。
湯気で曇ったのを掌で拭い取り、映し出された裸の少女をじっと見つめる。
自分と同じ顔、だけど自分よりもずっと可愛い女の子。
改めて考えても不思議な状況である。自分は確かにここにいるのに、体は自分じゃないなんて。

「なーちゃん……」

妹の名を口にする度、胸が締め付けられるような想いになる。
今どこでどうなっているのかも分からない、そもそも生きているかどうかさえハッキリしない。
心配なのは甘奈だけでなく、千雪と真乃も同じだ。
甜歌と甘奈と千雪、三人揃ってアルストロメリア。一人でも欠けてしまえば、もうそれはアルストロメリアなんかじゃない。
「この先もずっと仲良しでいられますように」と初詣で絵馬に書いたお願い、あれがこんな意味の分からない殺し合いなんかで消えてしまうなんて絶対に嫌だ。
千雪の精神の行方も甘奈同様分からず、身体はエボルトと言う凶悪な参加者の手に渡っている。
仮面ライダーである戦兎が強く警戒する相手だ、千雪の事など知った事ではないと言わんばかりに大暴れしているのかもしれない。
真乃に至ってはどんな人物が身体に入っているのか、名前以外全く分からないのだ。
もしもエボルトや翼の生えた少年のような参加者に体を奪われていたら、そして精神にも大きな被害が及んでしまっていたら。
ここにはいないけど、真乃と同じユニットで、自分以上に親交の深い灯織とめぐるはどう感じるのか。
アルストロメリアが三人揃ってアルストロメリアであるように、イルミネーションスターズも三人揃ってイルミネーションスターズだ。
どのユニットも、たった一人でも欠ける事など絶対にあってはならない。
283プロの皆が誰か一人でもいなくなってしまったら、もうそれは甜歌の知る283プロではないのだ。
仲間で、ライバルでもあって、時には事務所のアイドル皆で遠出した事もある、そんなキラキラした居場所が無くなってしまう。
起こり得るかもしれない最悪の未来図に、シャワーを浴びたばかりの火照った体がブルリと震える。


407 : 楽園に背く ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 21:43:15 vhVd5INU0
「っ……」

震えを強引に鎮めるように、両腕で体を強く抱きしめる。
そして絶対の「安心」を得ようと、一人の男の姿を思い浮かべた。
甘奈達を助け出すと約束してくれた、誰よりも愛しい男を。

(大丈夫……DIOさんが、絶対に助けてくれる…)

思い返す、DIOが約束してくれた瞬間の光景を。
あの人の言葉はとても頼りになり、瞳は力強く、抱きしめてくれた時は凄く暖かった。
心の底からあの人と出会えて良かったと感じ、嬉しさで涙が出そうになった程だ。
DIOの事を思い浮かべると、自身を蝕んでいた震えは嘘のように消え去った。
代わりに去来するのは、改めてDIOと出会えた運命への喜び。
DIOを好きになったのは決して間違いなんかじゃないと、強く確信した。

一つの支給品によって植え付けられたに過ぎない、偽りの愛と安心。
己の心が捻じ曲げられているとは露程も思わず、軽い足取りで更衣室へと出る。
PK学園の備品であるバスタオルで体を拭き終えると、着替えの制服に手を付けた。
シャワー室を利用する参加者が現れる事も想定したのだろうか、ご丁寧に下着まで置いてあった。
飾り気のない色の下着を着け、PK学園の制服を身に纏う。

前々から着替えを手伝ってもらっていた甘奈の身体で身支度をしている、そんな状況に何とも言えない気分になり、
強引に引き戻すかのように更衣室の扉が開かれた。





校長室とは読んで字の如く、学校内での最高責任者に宛がわれた個室である。
であれば、他の教職員のデスクでごった返している職員室とは当然の如くグレードが違う。
仮にも教育機関に置ける最上位の職員が、他の教員と同等の扱いをされては示しが付かないというもの。
専用のデスク、座り心地の良さを追求した椅子に応接セット、四方を囲む棚でさえも値段の張るものを用意している。
PK学園もまたその例に漏れず、部屋の主の為に十分な金を掛けていた。
調度品一つ取っても、松崎教諭や井口教諭の一ヶ月分の給料を容赦なく削り取るであろう金額だ。
壁に掛けられた歴代の校長達の写真は、この部屋に相応しい人物か否かを見極めるかのように、眼下の者を見下ろしていた。
そんなどこか重々しさを感じられる場所にて、我が物顔で校長専用の椅子に腰かける男が一人。
男は部屋の主でなければ、そもそも学校関係者ですらない。生憎とそれを咎める者は存在せず。
仮にいたとしても、この男を前にすれば咎める気概はあっという間に消え失せ萎縮するのは間違いない。
好青年を絵に描いたような外見とは余りにも不釣り合いな、危険で、同じく抗い難い妖艶な存在感は肉体を変えられようと健在。

「フゥム……」

その男、DIOが興味深く視線をぶつけるのは、パラパラとめくる一冊の本。
学校に置いてあっても何ら不思議はなく、大半の参加者には見向きもされないだろう存在。
卒業アルバムという、取り立てて注目する事の無い代物だ。
もしもこのアルバムを甜歌に見せたとしても、特別気になる箇所は無いと答えるだろう。
DIOが訪れるよりも先にPK学園に居た戦兎やナナもまた、同じような反応を返したはず。
だがDIOにとっては見過ごす事の出来ない重大な情報を得られた。
卒業生や教師達の名前と顔写真ではない。
承太郎やヴァニラの体となっている少年少女は載っておらず、ジョースターの血統と疑いを抱いている仗助の写真も無かった。


408 : 楽園に背く ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 21:44:57 vhVd5INU0
DIOが注目したのは、アルバムに載っている生徒たちが卒業した年を記した一文。
2011年という、たったそれだけが大きな収穫となったのだ。

DIOの感覚からすれば、実に奇妙としか言いようが無い。
何せDIOが百年の眠りから目覚め活動を再開し、エジプトにてジョースター一行と相対したのは1988年のこと。
世界は未だ20世紀を謳歌している真っ最中であり、次の新しい時代を迎えるのは12年先の話である。
だというのに、このアルバムはDIOが記憶している年代と大きく矛盾している。
これを単なる主催者の悪ふざけと言い切るのは簡単だ。
しかしDIOが思うに、あのボンドルドは未だ思惑を明かさぬ不気味さはあれど、そういった無意味な遊びに時間を割くような輩では無いはず。
大体見るかどうかも分からないアルバム一冊に、このような手間を掛けること自体が全くの無駄。
であれば、答えは実に単純。
このアルバム、というよりもこの学園はDIOが活動していた年代よりも未来のものということなのだろう。

「……」

驚きは無く、むしろ納得がいった。
既にDIOは甜歌との情報交換によって、主催者の持つ強大な力の一端の情報を得ている。
参加者はそれぞれ別の世界から連れて来られている。
住んでいる国が違うとか、貧富の差故に価値観が違う事への比喩などではなく、文字通りの異なる世界。
並行世界、並行宇宙、パラレルワールドとも呼ばれる存在から参加者を集める力。
そのような力を有しているのであれば、「時間」を行き来する事すら可能であっても何らおかしくはない。

「『世界』と『時間』、か」

己のスタンドに大きく関わる二つの言葉を、あえて口に出してみる。
どうやらボンドルドらの持つ力は、バトルロワイアル当初に想定していたものよりもずっと強大らしい。
スタンド能力か、杉元の身体の少女のようなスタンドではない異能か、はたまた仮面ライダーへの変身アイテムのような未知の技術か。
力の正体が何にせよ、ソレを我が物としているボンドルドたち主催者。一筋縄ではいかないのは確実。

尤も連中を警戒はしても、恐れなどDIOは毛先ほども抱いてはいない。
それよりも主催者が持つ世界と時間を行き来する力、それの使い道の方にこそ関心がいく。
並行世界や過去と未来を渡り歩く力など、初めて見るのだ。
ひょっとすれば、天国への到達に何らかの形で使えるかもしれない。

ボンドルド達が油断ならない力の持ち主である事は理解した。
だがその程度では恐れるに足りない、このDIOの歩みを止めるには至らない。
DIOの方針は勝利して、支配すること。
それは何もバトルロワイアルに優勝する事だけではない。ボンドルド達主催者をも懐柔し、支配下に置く。
仮に自分と決定的に相容れないのならば、殺して連中の力を己のものとするまで。


409 : 楽園に背く ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 21:45:41 vhVd5INU0
自然と笑みが浮かぶ。
世界を手中に収めんとする邪悪の化身に相応しい、それでいてクリスマスシーズンの玩具屋に連れて来られた少年のような、どこか期待に満ちた笑み。
仮面ライダーなる戦士に変身する機械、この場では意味が無いが巨人という伝承の存在に変化させるワイン。
そしてボンドルド達の保有する強大な力。
元居た世界だけでは知る機会の無かったであろう未知の存在の数々に、柄にもなく心が滾っているらしい。
参加させられた当初はくだらないものに巻き込まれたと辟易していたが、今は中々どうして面白いと感じている。
だからといって主催者達に感謝などするつもりは無いが。

「しかし…奴らが過去にも行けるのならば、少々話は違ってくるかもしれんな」

ジョナサンの肉体が五体満足でここにある。
これについてDIOは最初、見せしめとして殺された者を蘇生させた時と同じ力でジョナサンの体を復活させたと考えた。
だがボンドルド達が時間を自由に行き来出来るのなら、別の可能性も浮上して来る。
現在DIOの精神が宿っているジョナサンの肉体は、ボンドルドが生前のジョナサンがいた時代に赴き、殺し合いの為に拉致したものではないだろうか。
となると、気になるのはこの肉体の元の持ち主であるジョナサンの精神の行方。
参加者名簿に名前が無かった以上、精神に用は無いとしてボンドルドに始末されたのか。
ひょっとすると、参加させる気は無いが別の使い道があるとして捕らえられているのかもしれない。

(それとも……お前は今も“ここ”にいるのか?)

衣服がはち切れん程の筋肉に覆われた胸を、軽く小突いて問い掛ける。
DIOが思い浮かべた第三の可能性。
それは即ち、ジョナサンの精神は今もこの肉体に宿ったままである。
今こうして体を動かしているDIOに干渉できないよう、奥深くへと精神を追いやられ幽閉されている。
その場合、もし何らかの切っ掛けでジョナサンの精神が解放されたならば、一体どうなるのか予想が付かない。
体はジョナサンで、精神は本人とDIOの二つが宿っていて、波紋とザ・ワールドを使う。
ジョナサンとDIO、どちらか一方の精神がもう片方に呑まれ消え去るのか。
それとも、別人同士の精神は一つになり全く新しい存在になるとでも言うのか。

そうなった時、ソレはジョナサン・ジョースターやディオ・ブランドーと呼べる存在なのか?

「……笑えんな」

自分自身の考えでありながら、実におぞましいものだと吐き捨てる。
現段階ではただの可能性止まりでしかないそれを早々に頭から追い出し、チラリと壁掛け時計を見やる。
定時放送から2時間以上が経過していた。
放送前に負わされた痺れもほとんど回復済みだ。戦闘への支障は無いと見て良いだろう。

今後の動きを思案し始め、強制的に中断させるかの如く校長室の扉が開かれた。


410 : 楽園に背く ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 21:46:57 vhVd5INU0



DIO達が休んでいる間の見張り、それが貨物船への命令だった。

命令された内容への不満は無い。
主の手足となり率先して動くのは、部下として当然のこと。
もしDIOが何も言って来なかったなら、自分から学園を訪れる参加者が現れるか見張っていると申し出る事も考えていた。

ただ一つ、気に入らない事があるとすれば甜歌の存在だ。
あの少女は支給品の効果でDIOに従っているに過ぎない。
真にDIOへの忠誠を誓った自分とは違う、体のいい操り人形のはず。
そう頭では分かっていても、苛立ちが沸々と湧き上がって来る。
自分は傷と疲労も癒え切らぬまま働いているというのに、あの小娘は呑気に休憩中。
このまま学園を訪れる者が現れなければ、貨物船そっちのけでここぞとばかりにDIOにべったりとくっ付くに決まっている。

「ウキ…!」

想像した光景が非常に面白く無くて、八つ当たりのように壁を蹴りつける。
続けて二度三度と蹴ろうとしたが、その程度でストレスが発散されるはずもなく、無駄に足を痛めるだけなのでやめておいた。

鬱屈した気分で見張りを続けてどのくらい経過しただろうか、遂に参加者が学園へ近づいているのを発見した。

発見するや否や、貨物船はすぐさま報告へ走る。
先に向かうのは甜歌のいるシャワー室。
DIOからは、誰か来たなら甜歌も連れて自分の所へ知らせに来い、との指示を受けている。
甜歌への苛立ちは健在だが、それを理由にDIOの命令を無視する事は出来ない。
駆け足で甜歌の元へ到着、ノックもせずに飛び込んで来た自分へ驚いている彼女と目が合った。
それに構わず付いて来るよう身振りで伝えると、向こうも察したようでたどたどしい足取りながら共にDIOのいる校長室へと走った。

そして今、一人と一匹はDIOの元へと馳せ参じた。

「そうか」

貨物船からの報告を受け、顎に手を当て暫し考え込むDIO。
学園に近付いて来る者は二人。戦兎達ではないとのこと。
承太郎が新たな仲間と共にいるのか、若しくはヴァニラが使える人材を引き連れているか。
そのどちらでもなく、DIOとは初対面の参加者か。
何にせよ、ここに来るというのなら会わない選択肢は無い。
吸血鬼の身体であれば応対は部下に任せ、自分は日光の当たらない最奥で待ち構える手を取る所だが、今の肉体なら日中外に出ても問題無い。


411 : 楽園に背く ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 21:47:39 vhVd5INU0
「なら、出迎えてやろうではないか。甜歌、念の為いつでも変身できるよう準備しておいてくれ」
「う、うん……」

指示に従い、甜歌が戦極ドライバーを装着する。
それを見届けると、部下を伴い堂々とした足取りで正面玄関へと向かう。
外へ出た途端に降り注ぐ太陽の光。
吸血鬼の天敵であるそれは、しかし人間であるジョナサンの身体には何の悪影響を齎さない。
校門を潜って来た二人の参加者へ、値踏みするような視線をぶつける。

三角帽子にカールした髪の毛の少女。
腰には一本の剣、いや刀か。
柔和な笑みを浮かべてはいるが、それがどこか作り物めいて見える。

もう一人は少年。こちらも少女と同じく刀を腰に差している。
目を引くのは頭上と背中の異物。輝きを放つ光輪と、折り畳んだ白い翼。
万人が抱く天使の特徴、ただ服装は至って普通のスーツ。

さてまずは何と言おうかと口を開きかけ、少年が驚愕の表情を作っているのに気付いた。
彼が見ているのはDIOではない、その背後にいる存在。
視線の先にいるのは甜歌。そちらを見ると甜歌も少年と同じような顔をしている。
ただこっちは驚き以外にも、怯えのようなものも浮かんでいた。
そこでようやく思い出す。
確かDIOがPK学園を訪れるよりも前、まだ甜歌が戦兎と行動を共にしていた時に襲って来た参加者。
その者の外見は、天使のような姿だったと聞いている。

「甜歌、彼は――「あ、あいつデビ!オイラを騙した性悪女は!!」」

君を襲った相手なのか。
そう問おうとしたDIOの言葉を遮り、少年が叫んだ。


412 : 楽園に背く ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 21:49:15 vhVd5INU0



その男が現れた瞬間、場の空気が一変したのを嫌でも感じ取った。

PK学園に到着したしのぶとデビハムを真っ先に迎えたのは、鍛え上げられた肉体の青年。
顔立ちからして日本人ではないだろうその青年を目にした二人は、意識せずに体が強張った。
青年はしのぶ達に対して何もしていない。
ただ正面の入り口から姿を現しただけ。まだ一言も口にしてすらいない。
なのにこの威圧感。精神由来か肉体由来かは不明だが、そこいらの一般人とは明らかに一線を画する者であると、本能で理解させられるかのようだ。

(この男……)

青年が放つ気配は、鬼殺隊の隊士がお館様と呼び慕う男とは全くの別物。
されど、上に立つべき人間、或いは支配者とも言うべき存在である。
言葉一つも交わしていないというのに、しのぶはそう感じずにはいられなかった。
横目でデビハムの様子を見ると、緊張し切った表情で冷汗を掻いている。
彼もまた青年の威圧感にやられたらしい。

視線を真正面に戻すと、青年の背後に何者かがいるのが見えた。
一人は少女。精神はまだ不明だが、肉体はカナヲやアオイと同年代のようだ。
もう一人、というかもう一匹は何と動物だった。
何故か服を着ている大きな猿。放送で参加者の肉体は人間以外のものもあると知ったが、実際に目にするとやはり驚いてしまう。

何にしても、このままずっと黙っているつもりもない。
そう考えた所で、向こうの方から口を開いた。

「あ、あいつデビ!オイラを騙した性悪女は!!」

が、青年の言葉はデビハムの叫びによって掻き消される。

青年の存在に固まっていた姿は何処へ行ったのやら、今度は驚きと怒りが混ざったような顔で少女を睨みつけていた。
推理ドラマで犯人を暴く探偵のように、ビシリと人差し指を突き付けるおまけ付きだ。

甜歌がビクリと震えるのを意に介さずデビハムは言葉を続ける。
予想していたとはいえ、本当にまだ街に留まっていて、しかも見た事の無い大男や猿と一緒にいるのは驚いた。
だがここで何もアクションを起こさなければ、自分の吐いた嘘が暴かれてしまう。
きっと相手の大男達は甜歌からデビハムが危険人物だと聞かされているに違いない。
だったらここは強引にでも自分の嘘を貫き通し、甜歌の方が悪党と言う事にしなくては。
大男…DIOの放つプレッシャーを今だけは必死に無視して、甜歌を責め立てた。

「だ、騙したって……何言ってるの……?」
「しらばっくれるなデビ!お前があの戦兎とかいう奴とグルになって、オイラを殺そうとしたのは誤魔化せないデビよ!
 どうせ今度はそいつらを騙して、殺すチャンスを狙ってるんデビね!その内またどっかに隠れてる戦兎に殺される気なのは、分かってるデビ!」

一切の反論もさせまいと、強気な態度に出る。
見るからにおどおどした様子の少女には、これで益々効いただろうと手応えを感じつつ、更に追及しようとした。


413 : 楽園に背く ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 21:50:39 vhVd5INU0
「や……やめて……!!!」

その一言に、デビハムは思わず口を噤んだ。
最初に見つけた時の雰囲気からは想像も出来ない、怒りに満ちた声。
嫌悪感を強く滲ませた一言に、デビハムは息を呑む。

「戦兎さんなんて……もう知らない……。あんな人、次に会ったら絶対に……!」
「へっ?え、えーと……」
「甜歌が大好きなのは…DIOさんなんだから……。なのに戦兎さんも、ナナちゃんも、燃堂さんまで……みんな…だ、大っ嫌い…!!」

顔を歪め吐き捨てたかと思えば、頬を赤く染め熱っぽい瞳で傍らのDIOに好意を告げた。
かと思えばまたもや苛立たし気に、殺意まで露わにし出す。
予想外過ぎる反応にデビハムは戸惑いを隠せない。
デビハムから見た戦兎という男は、困っているハムスター達を助けて回っていたあの憎き相手、ハム太郎と同じお人好し。
その戦兎に守られていた少女がどうしてこうも豹変しているのか。
訳が分からず目を泳がせ、やがて一つの結論に辿り着いた。

(ハッ!?ま、まさかこの女……最初からあの戦兎って奴を騙してたデビか!?)

一方的に守られるだけの大人しい少女、というのは参加者を騙す為の仮の姿。
そうやってか弱い女の子を演じて、男を都合の良い駒として利用する。それが甜歌の正体だとデビハムは結論付けた。
きっと自分が街を離れて病院にいた間に、利用する相手を戦兎からDIOに乗り換えたに違いない。
外見だけなら、この筋肉モリモリ男の方が強そうなのだし、可能性はある。

(とんでもない悪女だデビ!おっかない女デビよ〜…!!)

ドス黒い本性の女だと勘違いし、内心恐々するデビハム。
だが直ぐにそんな場合ではなくなった。

「あ、あなたも……DIOさんのこと、傷つける気なの……?」
「…は?ちょ、ちょっと待つデビ!オイラは…」

敵意の籠った目で睨まれ、さっきとは逆にデビハムの方が口籠る。
洗脳下にあるとはいえ、甜歌にとってデビハムは有無を言わさず襲って来た危険人物。
おまけに自分から襲って来たくせに、甜歌の方が危険だと堂々と嘘を吐いてきた。
戦兎の名前を出されて、頭に血が昇っているのもあるのだろう。
デビハムもまた、DIOに危害を加えようとする輩だと怒りを向けた。

「DIOさんに手を出すなんて、そんなの……甜歌が絶対に……ゆ、許さない……!」

相手が何を言って来るかなんて関係ない。
DIOの敵は自分の敵。
逸る殺意のままにロックシードを取り出した。


414 : 楽園に背く ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 21:51:40 vhVd5INU0
『メロン!』

「変身!」

『ロックオン!ソイヤッ!』

クラックから出現した巨大な果実が、甜歌へと降下する。
上半身へと果実が展開し、緑の網目状というメロンの色彩と似た装甲を纏う。
鎧武者のようにも見える外見のアーマードライダー、斬月への変身があっという間に完了した。

『メロンアームズ!天・下・御・免!』

戦極ドライバーから流れる電子音声が、存在を猛烈にアピールするかの如く響き渡る。
製作者の趣味を存分に発揮させたものだとは露知らず、ただまさか甜歌まで奇妙な装甲姿に変身した光景へデビハムはまたもや驚く羽目になった。
相手がどんな反応を見せようと関係ない。
甜歌の頭にあるのは、愛する男の障害を排除するという一点のみ。
腰に差した無双セイバーを勢い良く抜き放ち、未だ呆けるデビハムを斬り殺すべく駆けた。

「のわぁっ!?」

素っ頓狂な声を上げながら、デビハムは斬月の一刀を防ぐ。
反応の速さは肉体と支給品の恩恵によるものだろう。
黒い刀身の日本刀での防御に成功すると、表情を驚きから一転して憤怒に染め上げる。

「何するデビ!あの戦兎って奴とお似合いの乱暴さデビね!」
「ッ!うるさい……!」

互いに敵意を刃に乗せ、得物を振るい合う。
現代の市街地ではミスマッチな、金属同士がぶつかり合う音が絶え間なく繰り返された。

残された者達もまた、動き始める。

二人の争いを止めようとしたしのぶ、その眼前へDIOが立ち塞がった。

「何を…」
「甜歌の援護をしてやれ」

しのぶの問いかけを無視し、部下へ指示を出す。
ほんの一瞬不満気に眉を顰めたが、DIO直々の命令とあっては逆らう気は皆無。
たとえそれが気に入らない相手を助ける事だろうと、主の言葉は絶対だ。
頷いて肯定の意思を見せると、貨物船は内心嫌々ながらも甜歌の援護をすべく、デビハムへと剛腕を振るう。
部下の動きを最後まで見届けず、しのぶへと笑みを向けた。


415 : 楽園に背く ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 21:53:25 vhVd5INU0
「君の同行者の…デビハム君だったか。甜歌から聞いた話では、先に襲ったのは彼の方らしい」
「…私がデビハム君から聞いたのは、あの甜歌という娘に騙されたという内容でしたね」
「フム?どうやら情報の食い違いがあるようだ。ということは、どちらかが嘘を言っている事になる」
「それを確かめる為にも、二人を止めたいのですが?早くそこを退いてくれません?」

涼しい笑みのDIOに、貼り付けた笑みで冷たく正論をぶつける。
この時点でしのぶにとってDIOは「どんな方針であれ警戒した方が良さそうな男」から、「強く警戒すべきであり、絶対に相容れない男」へと印象が変わっていた。
もし殺し合いに反対の善人であれば呑気に自分と会話などせず、一刻も早くデビハムと甜歌の戦闘を止めるに決まっている。
だが実際には止めるどころか仲間らしき猿を焚き付ける始末。
信用できる相手でない事は明白であった。

「デビハム君には後でゆっくり話を聞くとして、今は君の方にも興味があってね。ええと、良ければ名前を教えてもらえるかい?」
「口説き文句のつもりなら時と場所を選んで頂けます?呑気に自己紹介している場合でない事くらい分かりますよね?」
「手厳しいな。その気の強さは嫌いではないよ」

埒が明かない。
そう判断したしのぶは警戒を解かないまま、強引にDIOを押しのけようとし――


「君がその笑顔の裏に、何をそこまで必死に押し隠しているのかがどうしても気になってね」


ピタリと、動きを止めた。

「おや?図星だったかな?これでも人を見る目には少しばかり自信があるのでな」

しのぶの反応へ事も無げに言って見せた。
心なしか意地の悪く聞こえる声色に、しのぶの笑みは崩れない。
が、何も感じていない訳では無い。

こちらの事情を何一つ知らない癖に、土足で踏み込みそのまま我が物顔で居座るような言葉。
構う必要は無い。時間の無駄だ。
頭では分かっているのに、心がざわめくのを止められない。
男の言葉一つで、ピシリピシリと笑顔という仮面に罅が入る。


416 : 楽園に背く ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 21:55:01 vhVd5INU0
普段のしのぶならばDIOの言葉に思う所はあれど、軽く受け流すくらいはできた。
だが今は、余りにもタイミングが悪過ぎたとしか言いようが無い。
自らの与り知らぬところで姉の仇が死んだ。
たった一つの、されどしのぶにとっては無視できない心を蝕む事実。
出会って数時間程度の間柄のデビハムにさえ異常を察知される程の動揺を見せた今のしのぶには、DIOの言葉をのらりくらりと受け流す余裕は持てない。
仮に、放送後に傍にいたのが悲鳴嶼行冥だったなら。
しのぶが胸に抱いた形容し難い感情を吐き出させ、姉の仇に先に死なれ傷ついた心の支えになれただろう。
現実には悲鳴嶼は別行動を取っており、代わりにいた少年はしのぶの心の乱れに気付きこそしたものの、それ以上は踏み込もうとしなかった。

だからこうして、童磨という鬼の死に心を蝕まれたまま、救い難い悪と対峙する結果となった。

「もう一度だけ言います。そこを退いてください」

これが最後通告。
それでも聞き入れないのなら実力行使も辞さない。
刀に手を掛け告げるしのぶの姿をどう受け取ったのか、余裕の笑みを浮かべたままDIOが返す。

「ほォう…女だてらに様になっているじゃあないか。お飾りで剣をぶら下げているのではないらしい。
 そうなると、君の腕前がどれ程のものか確かめたくなったよ」
「…そうですか。もう結構です」

これ以上は話をするだけ時間の無駄。
そう結論付けると、刀を鞘から引き抜いた。
心が恐ろしく冷え切っているのが自分でも分かる。

だけど今更止められない。
眼前の障害を押し退けるように、或いはこの耐え難い感情を一時でも振り払うかのように、駆け出した。

対するDIOもまた、やはり戦うのは無しだなどと言う気は無い。
迫る少女を視界に収め、慌てる事無く謡うように言い放つ。

「世界(ザ・ワールド)」


417 : 乱舞Escalation ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 21:59:05 vhVd5INU0



互いの得物を振るい続ける鎧武者と天使。
斬月とデビハムの斬り合いを、少しでも戦いの心得がある者が目撃したらこぞってこう言うだろう。
動きはどちらも素人同然、なのに身体能力だけが異様に高いと。
片や元々インドア派のアイドル、片や悪魔ではあれど手のひらサイズの小動物。
剣術を得意としているのではなく、もっと言えば争いの世界に身を置いて来たのでもない。
そんな両名の戦闘は、必然的にアーマードライダーと天使の悪魔のスペックによるごり押しとなる。

「て、てやぁぁっ!」

ひたすらに攻め立てるのは斬月。
我武者羅に右腕を振り回し、無双セイバーで敵の肉を断たんとする。
動きは精細さを欠いたものなれど、武器の性能は侮れるものではない。
インベンスやアーマードライダー相手の戦闘を想定して開発した、鎧武と斬月専用の装備だ。
悪魔の肉体と言えども、身に纏うのは人間社会で広く着られているスーツ。
防御の役目は果たせそうもない。

「鬱陶しいデビ!」

だがデビハムの武器もまた、そこいらの日本刀とは比べる事すら馬鹿げている名刀。
ワの国の剣豪リューマの愛刀であり、麦わらの一味の剣士ロロノア・ゾロの三刀流にて絶大な威力を発揮した大業物。
秋水を以てすれば、無双セイバーの連撃を防ぐなど実に容易い。
ゾロが振るう他の刀よりも重く頑丈な刀身は、無双セイバーであっても破壊は困難。
そこへ加わるのは天使の悪魔の肉体だ。
斬月の攻撃を一つ残らず防ぎ切ると、両腕に力を込めて押し返した。

「あうっ…」

変身はしているものの、中身は10代の少女の細腕だ。
重量のある秋水には耐えられず、背後へとよろける。
今度はこっちの番だと言わんばかりに、デビハムが秋水を斬月目掛け叩き込む。
どうにか無双セイバーで防ぐのには成功、だが一撃の威力の大きさ故に衝撃までは防ぎ切れない。
無双セイバー越しに感じる衝撃で腕が痺れる。このまま防御し続けてはいずれ武器を取り落としてしまうかもしれない。
だから続く二撃目は、左腕の武装で防いだ。
装甲と同じ緑の網目模様の装飾が施された、巨大なシールド。
斬月の固有武装であるメロンディフェンダーは、破壊力に優れる秋水でも傷一つ付けられない。


418 : 乱舞Escalation ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 22:01:01 vhVd5INU0
「こんのぉおおお!さっさと壊れるデビ!」
「ぜ、絶対に……壊れないもん……!そ、そっちこそ、早く折れちゃえ……!」

秋水とメロンディフェンダー。
どちらの性能が優れているかはともかくとして、戦いは膠着状態へ移り変わった。
斬る、というより最早叩きつけるといった表現が正しい勢いで秋水が幾度も振るわれる。
メロンディフェンダーもまた秋水を叩き込まれるが、使用者である斬月には傷一つ付かせまいと全て防いだ。
しかしデビハムの支給品は秋水のみではない。装着者の力を強化するアクセサリーにより秋水の破壊力を上げている。
無双セイバーで受けるよりはマシであっても、メロンディフェンダー越しに伝わる衝撃は徐々に左腕を痛め付けた。
状況を変える為、一手先に動いたのは斬月。
両手で秋水を握り締めているデビハムと違い、斬月は片手にそれぞれ異なる武器を持っている。
左手のメロンディフェンダーで防御している間、右手の無双セイバーは自由に動かせるのだ。
十数度目の斬撃が迫るタイミングで、無双セイバーによる攻撃を仕掛けた。

「ひょええ!?」

斬月の攻撃は無双セイバーを剣としてではなく、銃として使う事だった。
グリップ部分にあるトリガーを引くと、剣の鍔にある銃口からエネルギー弾が発射される。
至近距離の銃撃に、デビハムの腕から血が噴き出した。
だが命中を許したのは最初の一発のみ。
続けて小気味良い音と共に発射された弾は全て秋水を振り回し斬り落とす。
戦兎と戦った時もライドブッカーの銃撃を防いだのだ、天使の悪魔の身体と支給品により底上げした身体機能だから出来たこと。
続けて引き金を引き続けるが、すぐにカチリという乾いた音のみを発するだけとなる。
弾切れと理解した斬月は、無双セイバーを本来の剣として使った。

刃が真っ直ぐデビハムの胸部へと突き進む。
悪魔の肉体であっても心臓を串刺しにされればどうなるか分からない。
秋水を振るう手を止め、背後へと跳び距離を取る。
肉を貫くべく放たれた刃は何の手応えも無く終わり、斬月は歯噛みした。
何時までも棒立ちのままではいられない。
無双セイバーのスライドスイッチを操作し弾を再装填、エネルギーゲージに補充された証として弾数が表示。
トリガーを引き続けながらデビハムを追いかける。

移動しながらも秋水を振るう手は止めない。
一発受けた腕が痛みを訴えるも、それに構って二発三発と新たな銃弾を食らう方が問題だ。
直ぐに追いついた斬月、無双セイバーではなくメロンディフェンダーを攻撃に使用。
ハサイシンという名の先端の刃を用い、顔面目掛けて刺突を繰り出す。

「ウキャアアア!!」

デビハムを襲うのは斬月だけではない。
DIOの指示を受け、甜歌の援護に駆け付けた貨物船が剛腕で殴りかかった。
前方からは斬月、後方からは貨物船。
挟み撃ちにされたデビハム、だというのに焦る様子は見られず、むしろ馬鹿にするかのような意地の悪い笑みさえ浮かべている。


419 : 乱舞Escalation ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 22:02:05 vhVd5INU0
「甘々な奴らデビね〜!!」

背中の翼を広げると、そのまま頭上高くへ飛び立った。
前後からの攻撃は靴底の数ミリ下を通過しただけで、デビハムはノーダメージ。
攻撃の対象を見失ったメロンディフェンダーと拳、それらが向かう先は味方であるはずの貨物船と斬月に当たる。
ハサイシンは貨物船の肩に突き刺さり、拳は斬月の胴体を殴りつけた。
同士討ちの結果引き起こされた痛みに呻く斬月達を、上空のデビハムが小馬鹿にするように笑う。
空を飛べるアドバンテージを活かし、攻めに転じるつもりだ。

戦兎と戦った時の光景を隠れながらに見ていたお陰だろう。
相手がこの後何をするつもりか、甜歌には直ぐ分かった。
ぼけっと突っ立っていては良い的になるだけ。
慌てて斬月がその場を飛び退くと、貨物船も敵が何か仕掛けて来ると察し、痛みを堪えて立っている場所を離れる。

「喰らえデビィイイイイイイッ!!」
「きゃぁっ……!」

予想通り、デビハムが繰り出したのは刀を構えての急降下。
斬月の装甲スレスレを秋水が通過、直撃こそしなかったが、勢いの強さに吹き飛ばされた。
地面を転がる斬月が起き上がろうとするより早く、再度秋水が迫り来る。

「こ……のぉっ……!」

苦しい体勢となりながら、斬月はメロンディフェンダーを自分へ向かってくるデビハムへ投擲。
回転するシールドは秋水に弾かれ地面へ落とされた。
だがほんの僅かとはいえデビハムが急降下する勢いは削いだのだ。地面を転がるようにして秋水を回避する。

避けられた事に少々苛立ちの表情を見せながらも、デビハムは自身の優位を確信した。
自分は空をスイスイと飛び回れるが、敵は地上から見上げるしかできない。
それにこちらの急降下を躱すので精一杯。
飛び道具はあるようだが、あの程度なら斬り落とすのは実に簡単極まりない。

事実、斬月の装備はデビハムに防がれ、貨物船には飛び道具や飛行能力は無い。
せめて戦兎が変身した仮面ライダーのように、姿を変えられるのならどうにかなるかもしれないが、そういった機能は見当たらない。
だが甜歌はある事に気付く。確か自分の支給品には、もう一つ錠前があったはずだと。


420 : 乱舞Escalation ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 22:04:13 vhVd5INU0
(もしかして……)

まさかとは思いつつも、その錠前を取り出す。
メロンを取り囲むクリアパーツの装飾など、細部に違いはあるが変身する為の道具と見て間違いない気がする。
そしてバックルにあった錠前を填め込む窪みは一つではない。
左側にもう一つ、錠前の大きさと合致する窪みが存在した。
ここの窪みにもう一つの錠前を填め込めば、更なる力を得られるのかもしれない。

(もっと強くなったら、DIOさんの為に、もっと頑張れる……!)
「そらそらーっ!どんどんいくデビよーっ!」

威勢の良い敵の声に意識を引き戻される。
どの道今のままでは勝負は厳しい。
だったら賭けになるとしても、新しい力を得られるのなら構うものか。

(そうだ……そうだよ……だって負けたら……DIOさんのお荷物になっちゃう……)

役に立たなければ、自分はDIOに愛想を尽かされ捨てられるのではないか。
それだけはダメ、絶対にダメだ。そんな事があっては、自分は生きていけない。

想いに急かされるがまま、もう一つのロックシードを起動した。

『メロンエナジー!』

先に使った方とは少し違う音声。
エナジーロックシードを叩き込むように装填、二つ纏めて両断すべくカッティングブレードを操作する。

『ミックス!』

『メロンアームズ!天・下・御・免!』

『ジンバーメロン!ハハッー!』

二つの巨大なメロンが一体化し、真下の斬月へと降下。
展開された果実が斬月の新たな装甲となる。
白を基調とした基本形態の斬月を覆うのは、黒く染め上げられた鎧。
まるで陣羽織のようにも見える重厚な装甲を纏い、右手にも新しい得物を手にしていた。
血のように鮮やかな色の弓型アームズウェポン、ソニックアローである。

アーマードライダー斬月・ジンバーメロンアームズ。
葛葉紘汰が地球を去った後の沢芽市にて、狗道供界との戦いで呉島貴虎が変身した斬月の新たな姿。
戦極ドライバーの拡張機能、ゲネシスコアにエナジーロックシードを装填し可能となる強化形態だ。
自分の予想が当たっていたこと、そして通常形態よりも力が溢れて来るような感覚に高揚する。


421 : 乱舞Escalation ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 22:06:02 vhVd5INU0
これならばあの天使のような少年に勝てる。
DIOと自分の愛を邪魔する人たちを、消し去れる。

昂る戦意に呼応するかのように、ジンバーメロンアームズの機能を発動。
地面に転がったままのメロンディフェンダーへ飛び乗ると、即座に急上昇する。
ジンバーメロンアームズの固有能力、メロンディフェンダーを使った飛行能力だ。
標的は姿が変わって驚いているデビハム。
呆ける敵を射殺すべくソニックアローを引き絞り、エネルギーの矢を放つ。

「のわぁ!?」

慌てて斬り落とすデビハムへ、斬月は矢を放つ手を緩めない。
空を飛べるというアドバンテージは、自分だけのものでは無くなった。
おまけに斬り落とし防いでいるこの矢、さっきの銃弾よりも威力が上のようだ。
銃弾の時には無かった腕への痺れが、防ぐ度に強くなっていく。
折角有利だった状況を覆され、悔しさに顔を歪めるも斬月は容赦しない。
無限同然に供給されるエネルギーを矢に変えて、ひたすら射る。

「ぐぅっ!?」

斬月の強化形態へ梃子摺るデビハムの耳に、苦悶の声が入り込む。
今は次々に放たれる矢へ対処しなければならない、そう分かっていてもついそちらを見てしまう。

瞳に映し出されたのは、吹き飛ばされて地面に蹲る三角帽子の少女。
自分の同行者ではないか。
今度は何が起きたのかと、苛立ち交じりに少女が吹き飛んできた方を睨み、

「デ、デビ……」

背筋が凍り付くような感覚を味わう羽目になった。

おぞましい程のプレッシャーを放つ、白い装甲の怪人がそこにいた。


422 : 乱舞Escalation ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 22:06:59 vhVd5INU0



自分でやった事ながら驚き、同時に間違っていないと理解。
目の前の存在に対し、しのぶはそんな事を思った。

刀を抜いたとはいえ、しのぶは自分の邪魔をする男…DIOを殺す気は今の所無かった。
得体の知れない雰囲気の上にロクな性格をしてない男であるが、その正体はまだ不明。
鬼であれば今更何の躊躇も抱かず頸を斬る。だが人間ならばどうだろうか。
自分達がこれまで自らの剣を鍛え上げて来たのは、全て鬼を殺す為。
その力を人間に向けるのは、心を掻き乱されている真っ最中のしのぶと言えどもすぐには肯定できない。
何より今優先するのはデビハムと甜歌の戦闘を止めること。
だから邪魔をするDIOを力尽くで突破、場合によっては少々痛い目を見てもらう。
それで済ませる、そのつもりだったのだ。

DIOが自らのスタンドを出現させるまでは。

ザ・ワールド。
言葉の意味はしのぶには分からない。
辛うじて分かっている事と言えば、DIOの傍に現れた奇怪な存在。
ソレが現れた途端、DIOのが放ち続ける「圧」が一段階上がったという事くらいだろうか。

自らの本能に急かされるまま、しのぶは刀の切っ先で突き殺さんとし、
迎え撃つべくDIOも己がスタンドの拳を放った。

(人…いえ、人形でしょうか…?)

しのぶの刀は拳を貫けず、ザ・ワールドの拳も刀を砕けない。
初撃は双方にダメージ無し。
別人の身体とはいえ低級の鬼ならば確実に仕留められただろう速度の突き。
それが止められたという事実を噛み締めながら、しのぶはその止めた存在の正体に頭を回す。
派手な色の装甲を纏った人間らしき者。或いは人形だろうか。
最初は隠れていた仲間が加勢に現れたのかとも考えたが、首輪が存在しないのですぐに違うと思い直した。
奇妙な存在感はあれど、生きた人間のものとは似ても似つかない。やはり人形か?

(それとも……血鬼術?)

異様な姿の人形を使役する鬼の能力。
成程、確かにそういう血鬼術とは千差万別。そういう力を持つ鬼がいても不思議は無い。
だがそれもまた有り得ない話である。
今現在自分達がいる場所は、太陽の光が眩しいくらいに降り注ぐ日中の外。
禰豆子のような非常に特殊な例でもない限り、鬼の身体が耐えられるはずがない。
仮に精神が鬼だったとしても、血鬼術は肉体に依存する力。使えるのはやはりおかしいではないか。


423 : 乱舞Escalation ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 22:07:53 vhVd5INU0
つまりこれは、鬼のものとはまた別の異能。
そう結論付けた直後、両者揃って次の行動へ移った。

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!」

ザ・ワールドが刀相手へ先に放ったのは右拳。
では当然もう片方は空いている。
左拳を放ち、間髪入れずに右、そしてまた左右左右。
一発放つ毎に速さが増していく拳、相手が女だろうと一切の加減抜きで放たれた。

刀を素手で止め傷一つ付かなかった事からも、この人形(ザ・ワールド)が人間を超えた力を持っているのは明白。
ならば、鬼と相対した時と同じ感覚で戦わねば足元を掬われそうだ。
ザ・ワールドのラッシュを目の当たりにし、そう判断してからの動きは迅速の一言に尽きる。
正面からの応戦は得策ではない、ザ・ワールドの真横へと回り込む。

「ムッ!?」

しのぶの姿を一瞬見失ったかと思えば、何時の間にやら右横で刀を構えているではないか。
瞬間移動もかくやと言わざるを得ない速さ。
だが最強のスタンドと豪語するだけあって、ザ・ワールドの反応速度もずば抜けている。
こちらの頭部を狙った刃を視界にハッキリと収め、無駄とばかりに腕を振るう。

「っ」

咄嗟に屈み、顔面を狙った腕を躱す。
頭上の空気が切り裂かれるような音を聞きながら、しのぶは刀を持った腕を伸ばす。
標的はザ・ワールドの頭部。しかし屈んだまま放ったのが原因だろう。
狙いが微妙に逸れたのを察知したザ・ワールドは、顔を数ミリ横にずらし難なく回避に成功。
しのぶへ蹴りを繰り出したが、これもまた距離を取らされ当たらなかった。

(予想通り、ですね…)

僅かな攻防でしのぶは自身の肉体への印象が、最初に思った通りと確信した。
全集中の呼吸抜きでこれ程の高い身体能力があるのは、何の問題も無い。
が、やはりと言うべきか、刀を振るっていると言いようの無い違和感で技の精度が落ちる。
アリーナは武器を用いる事はあれど、刀剣類は不得意分野な為仕方ないと言えば仕方ないが。
そこは身体能力の高さでどうにか補うしかないだろう。


424 : 乱舞Escalation ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 22:09:08 vhVd5INU0
――蟲の呼吸 蝶ノ舞 戯れ

再度放たれた拳を避けるべく、上空へと飛ぶ。
両脚の筋肉を総動員しての跳躍ではない、まるで蝶が飛び立つかのような優雅な動きだ。
ヒラヒラと舞うかのように移動したかと思えば、着地の瞬間無数の突きが襲い来る。
鮮やかな羽の蝶が、蜜をたっぷりと溜め込んだ花に群がるかのよう。
蝿の一匹すら飛んでいないにも関わらず、有りもしない光景を幻視するかの如き技。

下弦の伍の家族である事を強いられていた鬼を滅ぼした、蟲の呼吸。
生きる世界は違えど、此度も悪鬼を滅ぼすべく刃の群れが殺到する。

「ほう!悪くない動きだ。ほんのちょっぴりとはいえ、美しさについ目を奪われてしまったよ。
 …だが、残念ながらそれだけだ。知ると良い、見栄えだけの技などこのDIOには届かんとなッ!!」

されど忘れるなかれ。
しのぶの眼前に立つ男は、人間所か並の鬼程度の範疇には決して収まらない力を持つことを。

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!!」

群がる蝶をはたき落とすかのように放たれるは、ザ・ワールドのラッシュ。
DIOにとっては眩い彩りの蝶も、道端に転がる野良犬の糞へ集る小蝿と大差ない。
どちらも鬱陶しい羽虫以上の何者でもないのである。
スタンドの中でも屈指の破壊力とスピードを持つが為に、最早機関銃の掃射と言っても過言ではない勢い。
胴体各所を貫き殺すはずの刃は、全て拳に相殺される。
本来であれば対象へ毒を流し込むのが蟲の呼吸だが、今のしのぶが持つ刀は自身の日輪刀にあらず。
よって単純に突いて攻撃する以外の効果は無く、防がれたのなら当然傷も与えられない。

「っ!!」
「無駄ァッ!」

ザ・ワールドのラッシュの勢いに負け、しのぶが後方へと吹き飛ぶ。
否、殴られた際の衝撃へあえて逆らわず自ら跳んだ。
痛みは多少あれど被害は最小限に押し留め、DIOから離れていく。
しかしそこはまだザ・ワールドの射程距離内。すかさずスタンドを操作し接近した。

地面へ叩きつけるべくザ・ワールドが拳を振り下ろす。
しのぶは片足を地面に着けると、脚一本の力のみで跳躍。
ザ・ワールドの頭上を飛び越え背後に着地、がら空きの背中へ刀を突き刺した。

だが超人的な身体能力のアリーナに出来るのなら、同じくザ・ワールドにも可能。
背中を刺されるより先に跳躍し、しのぶの背後へと着地する。
今自分がやったのと全く同じ動きに驚愕する暇は無い、この次にどうするかは分かっているなら対処に動かねば。
数歩真横へ移動すれば、案の定拳が1秒にも満たない直後に放たれ空気が切り裂かれた。

敵の攻撃が空振りした瞬間は、見逃してはならない絶好の機会だ。
ラッシュを放った直後で、腕を伸ばしたままの体勢のザ・ワールド。
そこをしのぶが狙うのは当たり前。
鬼殺隊の身体でない為やり辛さはあるが、呼吸法により型を繰り出した。


425 : 乱舞Escalation ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 22:10:58 vhVd5INU0
――蟲の呼吸 蜻蛉ノ舞 複眼六角

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!」

高速で放たれる六連撃の突き。
急所を的確に突き、そのまま死へ一直線のはずだった。
それすらも、ザ・ワールドは反応し対処してみせる。
スタンド使い本体と同じく、長い脚を鞭のように振り回しての防御。
攻撃失敗を悔やんでいる場合では無い、蹴り飛ばされる前に回避へ移らねばならない。

だがしのぶの危機感に反して、ザ・ワールドはそれ以上攻撃せずDIOの傍らへと戻って行った。
そのままじっと佇むだけで、何の動きも見せて来ない。
相手の意図が読めず、訝し気に睨みつけるしのぶへ微笑み返すDIO。
先頭の疲れなど微塵も感じさせない、余裕たっぷりの笑みだった。

「見事だよ。中々面白い物を見せてもらった」
「称賛されてこうも不快になったのは、貴方が初めてですね」

嫌味としか思えない言葉に、こっちも毒を吐いてやる。
何故急に攻撃を止め会話を再会したのか分からない。
時間稼ぎのつもりか?それとも単に己の余裕を見せつけてやりたいから?
疑問を抱くしのぶを弄ぶように、DIOは言葉を続けた。

「生身でありながら、まるでシルバー・チャリオッツにも匹敵する速度の突き。いやはや、良くぞここまで鍛え上げたものだ。
 だからこそ残念でならない。君が未だ心に迷いを抱えたまま戦った事が」

ピクリと、DIOの言葉へ嫌でも意識が持って行かれる。

「君が笑顔の裏に“何か”を必死こいて隠してさえいなければ、もっとマシな戦いができたはず。一体全体何を隠しているのやら、どうしても気になってしまってね」
「……さっき言った事は訂正させてください。称賛されて、ではなく、口を開くだけでこうも不快になったのは後にも先にも貴方だけですね」

罅が入っていく。
自分の怒りを隠し通す仮面へ、仇を殺せなかった事への感情を押し留める為の仮面へ、
自分の心が壊れないようとちっぽけな抵抗で被った仮面へ、ピシリピシリと罅が入る。

「……」

会話に応じるだけなのにも不愉快極まったのか、無言で刀を構え直す。


426 : 乱舞Escalation ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 22:12:00 vhVd5INU0
一方でしのぶの様子を観察するDIOの脳裏には、これまで自分に歯向かって来た連中の顔が浮かんでいた。
それはジョナサンを始めとする百年前の人間達であり、或いはエジプトまで自分を追って来たジョースター一行であり、或いは殺し合いで戦った不死身のスギモトや仮面ライダーの戦兎であった。
能力や年齢、人種に生きた時代もバラバラな彼らに共通しているもの、連中はDIOを前にした時「この男にだけは負けられない」だの、「ここで命を落とす事になってもこいつは絶対に倒す」だのと、DIOからしたら愚かしいと言う他ない心構えで戦いに臨んでいる事だ。
人間どもがこのDIOから勝利を奪う気でいる、これには馬鹿らしいと言わざるを得ないが、強気な姿勢や万全でブレない精神でいる事自体はDIOも否定しない。
精神の強さと言う奴は案外馬鹿にできないものだと知っているからだ。

スタンドとは、本体の生命エネルギー作り出すパワーの具現化したもの。
能力は個々によって違うが、どのスタンドも共通して精神力の高さによって強さが左右されるのは同じ。
脆弱で未熟な精神では制御もままならない反面、強靭で闘争心に溢れた者なら制御はおろか成長性によっては更なる能力を得る事だってある。

また精神の強さが作用するのはスタンド使いだけではない。
DIOの肉体となった最大の宿敵、ジョナサン・ジョースター。
このDIOをして侮るべきではないと警戒心を抱かせた爆発力、どれだけ叩かれ突き落とされても再起するタフさ。
ディオの嫌がらせで心が折れるような雑魚であったら、決して発揮できない力である。

そういった者達と比べると、しのぶはどうだろうか。
人間の中では強い部類に入るだろう。
現にDIO自身が評したように、生身でありながらザ・ワールドの速さに渡り合ったのだ。そこに関して異論の余地はない。
だがこの女は心の内に重りを宿し、自分で自分に枷を付けてしまっている。
己の心を蝕み腐らせる腫瘍をへばりつけたままで戦っている。

それをDIOは嗤う。
成程、確かに今の自分は吸血鬼の肉体を失い、時を止める力も消失した。
殺し合いに参加させられる前と比べたら、癪であるが弱体化していると言わざるを得ないだろう。
しかしだ、それでも迷いや葛藤を断ち切れぬ状態でどうにかできるような相手だと、そう低く見ていると言うのなら。

教えてやらねばなるまい。
このDIOはそんな生ッチョロい存在とは違うということを。


427 : 乱舞Escalation ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 22:13:19 vhVd5INU0
『ETERNAL!』

「変身」

『ETERNAL!』

解放する、この地で得た新たな力を。

存在を猛烈にアピールするかのようにガイアウィスパーが鳴り響き、全身が真珠色の装甲に覆われた。
適合者の証であるローブを翻し、溢れる蒼のエネルギーがザ・ワールドへと流し込まれる。

エターナルとザ・ワールド、共に蒼く燃え盛る四肢を持ち、しのぶを睥睨した。

蛇に睨まれた蛙、或いは鬼と遭遇した一般人と言うべきか。
全身の肌が総毛立つのをしのぶは感じた。
最初に入り口から現れた時、奇怪な人形を出現させた時、そしてあの白い鎧のようなものを纏った時。
一体この男はどれだけ他人を威圧すれば気が済むのか。
そんな毒を口にしてやる気も起きず、一筋の冷汗が額から落ちる。

「フンッ!」

既に何度も見た、ザ・ワールドを操作し殴りかかるという動作。
しのぶも同じく刀を突き出し、拳と刃が衝突する。
続けてしのぶが取ったのは連続して放つ突きでも、敵の死角へ回り込むのでもない。後方へ大きく跳んで距離を取ることだった。
刀を持つ腕への痺れ、胴体の鈍く重い痛み。
今の僅か一撃で理解した、敵の力が異様に上がっていると。

一般的な鬼殺隊の隊士は皆、鬼の頸を斬り落とし殺すべく訓練を積んでいる。
それは柱であっても同様だが、しのぶだけは例外である。
彼女は鬼の頸を斬り落とすだけの筋力がない。
代わりに「突く」力は岩を貫通させるほど強く、刺突技を昇華して完成させたのが蟲の呼吸だ。
刀を突き刺すという動作は、腕を相手へ伸ばす事になる。
その状態から続けて突きを繰り出す為には、一度腕を引きそれからまた伸ばすといった工程を行う。
この時の腕を一度引き、再度放つまでの僅かな時間、これが遅ければ致命的な隙と化す。
当然しのぶ自身もそれを理解しており、隙とならないよう鍛錬を重ねてきた。

だがエターナルのエネルギーで強化されたザ・ワールドは、そこを突いて来た。
しのぶが腕を引き戻す、常人では目視不可能な速さの隙とも呼べぬ隙をすり抜け、胴体へと拳を叩き込んだ。
これだけでしのぶは分かってしまった。
自分が一度の攻撃をする間、敵は二撃三撃と先を行くのだと。

だから追撃を躱す為に距離を大きく引き離す。
そのはずだった。

「――っ」

背後へ跳んだというのに、一瞬でザ・ワールドが目前に迫っている。
速さに戦慄するのと、咄嗟に刀で防御の構えを取るのはどちらが先だったか。
答えがどっちかは重要ではない。
無駄、そう叫んだ相手の拳が放たれると刀越しに衝撃が走り、自分の意思とは無関係に体が更に後方へと跳ねた。


428 : 乱舞Escalation ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 22:14:29 vhVd5INU0



『ロックオン!ソイヤッ!』

ほんの一瞬とはいえ斬月から目を離してしまった。
デビハムが自分の失態を悟った時には、既に斬月は必要な動きを終えている。
エナジーロックシードをソニックアローに填め込み、カッティングブレードを操作。
これまで連射していた以上のエネルギーが充填されていく。

『メロンスカッシュ!』

斬月とデビハム、二人の間を繋ぐようにメロンのようなエネルギーが幾つも出現する。
自身の攻撃準備が全て整った斬月が矢を放つ。
デビハムへと続くメロン型のエネルギーを通過する毎に、矢の威力が増していく。
このまま自分への命中を黙って見ているデビハムではない。
バッターが球を打ち返すようなフォームで、矢目掛けて秋水を豪快に振るった。

「うぐぅ!?」

秋水を叩きつけられ矢は霧散、しかしデビハムへの被害はゼロではない。
アーマードライダーが使う高火力の技なのだ、エネルギーの全ては殺せずデビハムの身体を痛めつける。
更に矢へ秋水を当てた反動により、デビハムは地上へと吹き飛ばされる。
だが激突の直前で目一杯翼を広げ浮遊。叩きつけられるのだけは避けられた。
偶然にもデビハムが降り立ったのはしのぶのすぐ傍。
一体何だとしのぶと白い鎧をキョロキョロと見比べれば、さっきまで自分と交戦していた白い鎧がもう一人の白い鎧へ駆け寄っていた。

「DIOさん……っ!」
「ほう。新しい姿になったようだね、甜歌」
「う、うん……!こ、これならもっと……DIOさんの為に頑張れるよ……!」
「ああ甜歌、君がそんなにも私を想ってくれて何よりだ。君と出会えた幸運に感謝しなくてはな。
 さて、ここから先は私に任せてくれ」

すっかり舞い上がる甜歌への安っぽい賛辞もそこそこに、DIOはエターナルエッジを構える。
掌で転がしていたコンバットナイフにはすでに、エターナルのエネルギーが流し込まれていた。
本体の戦意に当てられザ・ワールドもまた、蒼く燃え盛る拳を構えた。
標的はしのぶとデビハム。このDIOの力を、存分に味合わせてやろう。

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァーーーーーーーッ!!!!!」

エナーナルが得物を振り、ザ・ワールドも両手の拳を手刀へと変え振り下ろす。
拳によるラッシュではない。
本体とスタンドがそれぞれ腕を振るう度に、蒼いエネルギーが刃の形となり放たれる。
飛ぶ斬撃、そう表現すべき光景だ。
速度は落ちるものの、一度の威力を高めたエターナルの刃。
一発ごとの威力は低いものの、連射性に優れたザ・ワールドの刃。
二種類の蒼い刃がデビハム達を細切れにせんと殺到する。


429 : 乱舞Escalation ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 22:15:41 vhVd5INU0
「くっ…!」

蒼い刃はある種の幻想的な美しさがある。
だがそんなものに浸っていては、代償として訪れるのは自分達の死。
そんな馬鹿げた末路は真っ平だ。
痛みを噛み殺ししのぶは両脚に力を込める。

――蟲の呼吸 蜈蚣ノ舞 百足蛇腹

踏み込みの強さに地面が抉り取られ、縦横無尽に動き回る。
本来ならば四方八方に動き相手を撹乱し、その隙を突く技だ。
今回はその俊敏性を攻撃の回避に使う。
時折刃が掠める程度の痛みなど捨て置いて構わない。四肢が落とされず首が繋がっているのなら、掠り傷など問題にならない。

「ひえ〜!た、退避デビ〜!」

刻まれて死ぬのはデビハムだって御免だ。
刃が届いていない上空へと飛び上がり、何とか逃げるのに成功。
しかし最早、相手をおちょくるだけの余裕は無い。
エターナルの猛攻はほんの序の口に過ぎないのだから。

「躱してみせるか。だがネズミのように駆け回り、小蝿の如く飛び回るだけでは無駄だ。無駄無駄…」

エネルギー刃の嵐が止むと、今度は黒いローブに蒼い揺らめきが灯る。
端を持ち風を煽ぐかのように動かしてやれば、突如暴風が巻き起こる。
タイムジャッカーのスウォルツによって召喚された、「Wに勝利した世界線の大道克己」が仮面ライダーアクア相手に使用した技だ。
その時は水中というフィールド故に渦を引き起こしたが、此度は地上だからか巨大な竜巻を巻き起こす。
所々に蒼い光を伴った竜巻は広範囲に及び、地上のしのぶと上空のデビハムを容赦なく飲み込む。

「く、うぅ…!!」
「目が回るデビ〜!?」

暴風にもみくちゃにされた挙句に弾き飛ばされ、それでもどうにか受け身を取るしのぶ。
しかし視界が安定せず、立とうとすれば体を四方に引っ張られるかのようにふらついた。
デビハムの方もどうにか脱け出そうとするが安定した飛行など不可能であり、あらぬ方向へと吹き飛ばされる。
必死に翼を広げて体勢を立て直すべく奮闘。だがエターナルはそれを待ってはくれない。


430 : 乱舞Escalation ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 22:16:40 vhVd5INU0
『ETERNAL!MAXIMAM DRIVE!』

エターナルエッジのスロットにメモリを装填する。
すっかり手慣れた、マキシマムドライブ発動の動作だ。
右足にエネルギーを集中させると、上空のデビハムをも追い越す勢いで跳躍。
天使の悪魔を見下ろし、伸ばした足先の蒼い炎を叩きつけるべく急降下した。
この状況は放送前の戦兎との戦いの時と似ている。
だったらまた打ち返してやると、ギリギリのタイミングで体勢を立て直したデビハムは秋水を血管が浮き出る程に握り締めた。

が、あの時と違うのは、デビハムへ蹴りを放ったのがもう一人いた事だ。

「ザ・ワールド!!」

エターナルと並び、ザ・ワールドもまた飛び蹴りのフォームを取る。
伸ばした足の先には言うまでも無く、蒼いエネルギーが集中していた。
二人いっぺんに迎え撃つのはマズいとデビハムが焦るも、時すでに遅し。
構えた秋水ごと粉砕するかの勢いで、エターナルとザ・ワールドの蹴りが叩き込まれた。

これでもまだ軋み一つ上げないのだから、秋水の硬度にはDIOも思わず感心の念を抱く。
だがデビハムはそうもいかない。
二人分のマキシマムドライブによる威力の技、秋水では防ぎ切れずに体を蝕み痛めつけるエネルギーの余波。
人知を超えた悪魔の肉体と言えども、耐えられるのにも限界はある。

「ぎょええええええええええええええええっ!!?!」

隕石のように地上へと落ちて行き、丁度しのぶの近くへ叩きつけられた。
反対にエターナルはザ・ワールド共々華麗に着地した。

「あ、あがが……痛すぎるデビ……おかあちゃん……」

浮遊も出来ず、受け身すら取れなったのだ。
余りの痛みにピクピクと悶絶する。これでもまだ生きているのは、やはり悪魔の肉体の恩恵であるが。

「デビハム君…!」

平衡感覚をどうにか取り戻し、しのぶは少年の元へ駆け寄る。
疑う要素の多い相手とはいえ一応仲間。
息はあるようだが安心できる状態ではない。素早く傷の具合を確認しようとする。
それを許す相手では無いが。


431 : 乱舞Escalation ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 22:17:45 vhVd5INU0
「おっといかんな、少しばかりやり過ぎてしまったよ」

いけしゃあしゃあと言ってのけるDIOへ、近寄らせまいと刀を向ける。
仮面を着けた程度では隠し切れない邪悪な本性。
余裕たっぷりの足取りで一歩、また一歩と近付いて行く。
しかしDIOの到達を待たずにデビハム達の元へと飛び出す者がいた。

「ウキイイイ!!!」

貨物船である。
出現させた分身と共に、DIOの指示を待つ事すらせずに駆け出した。
その目的は一つ、しのぶとデビハムにトドメを刺す為だ。
相手は重傷を負い恐れるに足りない。ならば、わざわざDIOがこんな死にかけの奴らを殺す手間を掛ける必要は無い。
そういった後始末は自分が引き受けるべく、DIOが手を下すより先に殺そうと動いたのである。
とはいえDIOに、「自分が殺しましょうか」と確認一つも取らずにトドメを刺そうとするなど、貨物船らしくない行動だ。
おまけにもしDIOの目的が、殺すのではなく痛めつけた上で捕らえておくなどである可能性を全く考えていない。
彼(性別は不明だしそもそもあるのかどうかすら分からないが、便宜上彼と呼ぶ)は船だが人間と同じように物事を考えられる。
それが何故急に、こうも考え足らずの愚行に走ったのか。

その原因を作ったのは、貨物船が嫉妬の炎を燃やし憎々しく思っている少女、甜歌である。
貨物船はDIOから「甜歌の援護をしてやれ」と命令を受けた。
内容自体に不満はあれど逆らう気は皆無であり、実際デビハムとの戦闘では甜歌と共に戦った。
だがその戦いで役に立ったかと言えば、否定するしかない。
むしろ、デビハムの動きに翻弄された結果とはいえ甜歌へ余計なダメージを与えたのだから、足を引っ張ったという方が正しいだろう。
戦況はその後デビハムと互角に渡り合うまで持ち込んだが、それだって甜歌が斬月の強化形態になったからで、貨物船が何か役立ったのではない。
極め付けはDIOと甜歌のやり取り。
甜歌が称賛の言葉を貰った一方で、貨物船には言葉一つ無いどころか視線すらも寄越さなかった。
自分と甜歌の扱いの差に貨物船はまたもや嫉妬心を抱き、同時に強い焦りを抱いた。
このまま何一つ役に立てなければ、自分はDIOに捨てられるのではないだろうかと。
DIOの為なら命をも捨てる覚悟はある。だから死ぬのは恐くない。
恐いのは主に見捨てられるその一点のみ。

と、このような焦りが貨物船から冷静さを奪い、DIOに指示を仰ぐ事もせずしのぶ達を殺そうとしたのであった。

DIOや甜歌のように変身していないなら、オランウータンの力で殴り殺せるはず。
甜歌よりも役に立たなければという焦り、DIOにすてられるかもしれない恐怖。
二つの感情を握りつぶすように拳へ力を込め、分身と共に襲い掛かった。


432 : イこうぜ☆パラダイス 〜上級者篇〜 ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 22:21:03 vhVd5INU0
◆◆◆


唐突で申し訳ないが、ここでスタンドに付いて幾つか話をさせて頂く。
知っての通りスタンドには複数のルールがあり、今回はその中の二つ、スタンドを見ることができるのはスタンド使いだけ、スタンドに触ることができるのはスタンドだけ、これらについてである。
これら二つはスタンド使いにとっては、周知の事実と言っても過言ではない。
空条承太郎が悪霊に憑りつかれたと勘違いし自ら牢屋に入っていた時、スタンド使いではない警察官達にはスタープラチナの腕が見えなかった事からも分かるだろう。
たとえ吸血鬼や柱の男であっても、スタンド使いでなければスタンドの破壊は不可能。
これはスタンドに比べ力が劣っているからでは無く、覆しようの無い絶対の法則があるからに過ぎない。
但し、ボンドルドによって開催された殺し合いにおいてはそれらの法則は適用されていない。
最初にDIOと遭遇した杉元佐一はスタンド使いでないのに、ザ・ワールドをハッキリと見る事が出来たし、承太郎と戦闘になった魔王もまた生身でありながらスタープラチナを剣で斬った。
殺し合いにおいては参加者が全員がスタンドを見る事と干渉が可能という、公平さを期す為の制限が課せられている。

つまり、本来であれば不可能な形でのスタンドへの接触さえ、殺し合いでは可能なのである。

剣で斬る、銃で撃つ、電気や炎を浴びせる。
そういった武器や何らかの能力の使用以外、生身の肉体をスタンドに触れさせる事だってやれる。

例えば、そう。



「大好きだあああああああああああああああああああああ!!!!」



男性器でさえも。


◆◆◆


433 : イこうぜ☆パラダイス 〜上級者篇〜 ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 22:22:15 vhVd5INU0
「良い!最高に締まりますよぉおおおおおおおおおおおっ!!!」
「ウギィ!?ウキャ、ウギィエギャアアアアアアア!!?!」

PK学園前にいる全員が、何が起きたかをすぐには理解できずにいた。
しのぶとデビハムを殺そうとした貨物船、そのスタンドである分身がいきなり物陰から飛び出して来た天使に凌辱されている。
呆然とする視線が自分に集まるのを意に介さず、天使はひたすら腰を振り続ける。
その度に分身と本体である貨物船の肛門へ痛みが走り、のたうち回った。

「ああああああ!来ます!もう来ちゃいます!」

やがて限界が近づいている事を聞いてもいないのに大声で知らせれる天使。
貨物船からすれば堪ったものではない。
懇願するように首を横へ激しく振ったが、聞き入れるような者ならそもそも強姦などやる筈が無かった。
オランウータンの尻を両手でガッチリと固定し、思う存分性を吐き出した。

「んおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

一際強く腰を打ち付け、ポンプから水を発射したと錯覚する程の勢いで精液が注ぎ込まれる。
一滴残らず射精し満足したのか、肛門から引き抜くと貨物船は白目を剥いて痙攣した。
自らの精液、貨物船の血と腸汁で濡れた肉棒が太陽に照らされテカテカと輝き出す。

「ふぅ……」

一仕事終えた労働者のように達成感を露わにした表情の天使。
今更紹介するまでも無いが、変態動物愛好家にして入れ墨囚人の姉畑支遁である。

放送を聞き、最初に目を付けたピカチュウ(善逸)を改めて追いかけると決めた姉畑。
取り敢えずは、何故か自分を知っていた少女(杉元)と共に向かったであろう北西の街へ移動していた。
性欲は人並み以上だが体力は人並みのクリムの身体の為、思った以上に体力を消費したが何とか到着。
まずは適当な民家で休憩を取ろうかと考えた矢先に、激しい物音を聞きつけた。
もしやピカチュウがいるのではと慎重に近付き様子を窺った所、白い鎧を着た参加者が暴れ回っている光景を目撃。
明らかに只者ではない雰囲気に冷汗を掻きつつ、ピカチュウは見当たらないのでここは見つかる前に退散しようとした。
何故か翼を生やしている少年もいて、彼もクリムの仲間なのかと気にかかったが、それだけであの戦場に乱入する気は起きない。
だからそっと立ち去ろうとしたのだ。

貨物船を目にするまでは。

愛しい動物が二匹もいるのが目に飛び込んで来た瞬間、姉畑のイチモツは戦闘態勢へと移った。
相手の精神が人間かもしれないという懸念は姉畑の性欲を止めるには至らず。
一秒でも早くあの猿と交わりたいと、本能に従いスパッツを脱ぎ駆け出したのだった。


434 : イこうぜ☆パラダイス 〜上級者篇〜 ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 22:23:35 vhVd5INU0
「…………!?ひぃっ……!」

突然の異常事態に固まっていた甜歌が状況を理解し、悲鳴と共に後退る。
それを姉畑も気付いたのか、恍惚の表情から一転し慌てて弁明し出す。

「あっ!誤解なさらないでください!私は決してやましい気持ちがあったのではなく、動物が大好きなだけで…」
「や、やだ……!こ、来ないで……!!」

誤解を解こうとにじり寄るも、下半身が丸出しの為襲おうとしているようにしか見えなかった。
血管が幾つも浮き出た、天使の白い肌とは別物のようなドス黒い大蛇。
規格外のサイズ故に、フェアリーの風俗店でプレイを断られたクリムの巨砲がビクビクと揺れ動き、それが甜歌へすさまじい恐怖と嫌悪感を齎す。

そこへ追い打ちを掛けるように、ペニスがビクンと跳ね上がった。

「あぅんっ!」

あれ程精液を吐き散らしたのにまだ残っていたのか、絞り出すように白濁液が飛び出す。
生臭さを撒き散らしながら飛んで行った精液は、運悪く姉畑の正面にいた甜歌の顔へ付着した。
斬月に変身してたままなのは唯一の幸運だっただろう。粘り気の強い液体の生温かさを直に味合わずに済んだ。
尤も、甜歌からしたら何の慰めにもならない。
カメラアイにへばり付いた白濁液、それが何なのか分かった途端、

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!??!!!?!」

自分でも何と言ってるのか分からない絶叫を上げ、ソニックアローを乱射する。
狙いもろくに付けない、とうか仮面に付着した白濁液のせいで見えないせいで矢はあっちこっちに飛んで行く。
時折姉畑の方にも向かって行くが、支給品の指輪の効果で飛び道具は当たらない。

一人の変態の登場によりカオスに包まれた空間。
この好機を逃すまいと動く者もいた。

「デ、デビ〜〜〜〜!!!」

痛む体に鞭打ち、隣で困惑しているしのぶの襟首を引っ張る。
周りの視線が今度はこっちに向こうと無視、デイパックから出した黒玉を地面に叩きつけた。
あっという間に玉は弾け、デビハムとしのぶを中心に黒い煙が発生し包み込む。
DIOがザ・ワールドを操作し拳を放つも、手応えは無い。
晴れた時には二人の姿は影も形も綺麗さっぱり消えていた。


435 : イこうぜ☆パラダイス 〜上級者篇〜 ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 22:24:44 vhVd5INU0
「逃がしたか……」

そう呟くDIOの声色から苛立ちは意外にもほとんどなく、何とも言えない感情が込められていた。
彼とて今度ばかりは困惑しているのだ。
戦闘に乱入して来る者が現れる、その可能性は十分あると思っていた。
戦兎を殺そうとした時に現れた杉元のように、此度も殺し合いを止めようとする参加者が自分の邪魔をするのなら分かる。
ハイエナのように漁夫の利を狙って攻撃されるのも分かる。
百歩譲って、凌辱目的で油断した者を毒牙に掛けようとするというのも分からんでもない。
嘗ての部下である、J・ガイルのような男が参加してる事だってあるだろう。
だが何故その相手が、よりにもよって性欲をぶつける対象からは一番程遠い貨物船なのか。
流石のDIOでも理解に苦しむ。

とにかく逃げて行ったのなら仕方ない。
気持ちを切り替え、新たな乱入者に対処せねばならないだろう。
パニックになっている部下の前にずいと出て、改めてこの天使らしき変態と対峙する。
変態から自分を庇ってくれているとでも思ったのか、甜歌と息も絶え絶えな貨物船がキラキラした視線を投げかけられた。

「ま、待ってください!私は決して怪しい者ではなくてですね……おや?もう一匹のお猿くんはどこに…?」

ダメージに耐え切れず消えた分身の行方を不思議そうに探す変態。
こいつから何を聞こうかと考え、それより先に口にすべきだろう正論をぶつけた。


「まずは下を穿け」


【E-2 街 PK学園高校(校門付近)/午前】

【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:ジョナサン・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険
[状態]:エターナルに変身中、両腕火傷、体中に痺れ(ほぼ回復)、疲労(大)、火に対する忌避感
[装備]:ロストドライバー+T2エターナルメモリ@仮面ライダーW
[道具]:基本支給品、ジークの脊髄液入りのワイン@進撃の巨人、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル
[思考・状況]基本方針:勝利して支配する
1:こいつ(姉畑)は一体何だ?
2:貨物船と甜歌を従えておく。
3:どちらも裏切るような真似をしたら殺す。
4:役立たないと判断した場合も殺す。
5:学園から逃げた連中への苛立ち。次に出会えば借りは返す。(特にスギモト、戦兎、黄色い獣(善逸))。
6:元の身体はともかく、石仮面で人間はやめておきたい。
7:アイスがいるではないか……探す。
8:承太郎と会えば時を止められるだろうが、今向かうべきではない。
9:ジョースターの肉体を持つ参加者に警戒。東方仗助の肉体を持つ犬飼ミチルか?
10:エボルト、柊ナナに興味。
11:仮面ライダー…中々使えるな。
12:デビハムと少女(しのぶ)は…次に会う事があったら話をすれば良いか。
13:もしこの場所でも天国に到達できるなら……。
[備考]
※参戦時期は承太郎との戦いでハイになる前。
※ザ・ワールドは出せますが時間停止は出来ません。
 ただし、スタンドの影響でジョナサンの『ザ・パッション』が使える か も。
※肉体、及び服装はディオ戦の時のジョナサンです。
※スタンドは他人にも可視可能で、スタンド以外の干渉も受けます。
※ジョナサンの肉体なので波紋は使えますが、肝心の呼吸法を理解していません。
 が、身体が覚えてるのでもしかしたら簡単なものぐらいならできるかもしれません。
※肉体の波長は近くなければ何処かにいる程度にしか認識できません。
※貨物船の能力を分身だと考えています。
※T2エターナルメモリに適合しました。変身後の姿はブルーフレアになります。
※主催者が世界と時間を自由に行き来出来ると考えています。


436 : イこうぜ☆パラダイス 〜上級者篇〜 ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 22:25:50 vhVd5INU0
【貨物船@うろ覚えで振り返る承太郎の奇妙な冒険】
[身体]:フォーエバー@ジョジョの奇妙な冒険
[状態]:疲労(中)、ダメージ(大)、右肩に刺し傷、肛門裂傷、精神疲労(大)、ジークの脊髄液入りのワインを摂取、酒酔い(大分醒めた)
[装備]:英和辞典@現実
[道具]:基本支給品、ワイングラス
[思考・状況]基本方針:DIOのためになるように行動
1:DIOの命令に従う。
2:漫画を置いて行ってしまったのが少し残念。
3:甜歌が気に入らない。
4:尻が痛すぎる。
[備考]
※スタンドの像はフォーエバーのものとそっくりな姿になっています。
※一応知性はあるようです。
※DIOがした嘘のワインの説明を信じています。

【大崎甜花@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[身体]:大崎甘奈@アイドルマスターシャイニーカラーズ
[状態]:斬月に変身中、疲労(大)、胴体にダメージ(小)、DIOへの愛(極大)、姉畑への恐怖と嫌悪感(大)
[装備]:戦極ドライバー+メロンロックシード+メロンエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、PK学園の女生徒用制服@斉木楠雄のΨ難
[道具]:基本支給品、甘奈の衣服と下着
[思考・状況]基本方針:DIOさんの為に頑張る
1:DIOさん大好き
2:戦兎さん……どうしてDIOさんに酷いことするの……?
3:ナナちゃんと燃堂さんも……酷いよ……。
4:なーちゃん達はDIOさんが助けてくれる……良かった……。
5:千雪さんと、真乃ちゃんまで……。
6:この人(姉畑)……恐いし……気持ち悪い……。
[備考]
※自分のランダム支給品が仮面ライダーに変身するものだと知りました。
※参戦時期は後続の書き手にお任せします。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※ホレダンの花の花粉@ToLOVEるダークネスによりDIOへの激しい愛情を抱いています。
 どれくらい効果が継続するかは後続の書き手にお任せします。

【姉畑支遁@ゴールデンカムイ】
[身体]:クリムヴェール@異種族レビュアーズ
[状態]:疲労(大)、未知の動物の存在への興奮、下半身露出、一発射精したのでスッキリ、
[装備]:ドリルクラッシャー@仮面ライダービルド、逸れる指輪(ディフレクション・リング)@オーバーロード
[道具]:基本支給品×2(我妻善逸の分を含む)、青いポーション×2@オーバーロード、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:色んな生き物と交わってみたい
1:どうにか誤解を解かなければ…
2:ピカチュウや巨大なトビウオと交わりたい。他の生き物も探してみる。
3:あの少女(杉元)は私の入れ墨を狙う人間なのでしょうか?
4:何故網走監獄がここに?
5:人殺しはやりたくないんですが…
[備考]
※網走監獄を脱獄後、谷垣源次郎一行と出会うよりも前から参戦です。
※ピカチュウのプロフィールを確認しました。


437 : イこうぜ☆パラダイス 〜上級者篇〜 ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 22:27:46 vhVd5INU0
◆◆◆


ドロン玉の効果でデビハムとしのぶは草原に横たわっていた。
突然景色が街から変わっている事に驚くしのぶへ自分の支給品を使ったと説明し、デビハムは疲れ切ったように大の字へなった
治療を申し出たしのぶには、悪魔の身体で頑丈になっているから平気だと返す。

本当ならば甜歌の事を問い詰めたり、強引にでもデビハムを治療したりなどをやるべきなのだろう。
しかし今はそうする気力が欠けていると自分でも分かり、デビハムの隣へ無言で腰を下ろした。

(何をしているの、私は……)

胸の内に渦巻くのは、変わらぬ童磨の死への言葉に現わせない鬱屈とした想い。
そして、自分への強い苛立ち。
DIOの言葉に惑わされ、結果この様。あの奇妙な乱入者が現れなければ、デビハム諸共殺されていたかもしれない。
柱として恥ずべき失態。それでも未だに童磨の死を吹っ切る事も割り切る事もできない。
そんな自分が酷く許せなかった。

デビハムもまた考える。
存在を秘匿していた貴重なドロン玉を使ってしまったのは痛いが、死ぬよりはマシと割り切る。
頭を悩ませるのはそこではない。

(何でオイラはこいつを助けるような真似をしたんデビ……)

さっきの戦闘からは、自分一人で逃げる事だってできた。
しのぶの事など置き去りにして、自分だけドロン玉の効果で街を離れたはず。
どうせこの女は心を許した仲間なんかじゃなく、戦兎と甜歌の悪評を流すのに利用しただけ。
だったらあのまま置いて自分だけ逃げ、しのぶは甜歌に殺されたとでも言い触らしたって良かったかもしれないのに。
気が付いたらしのぶの首根っこを引っ掴み、共に逃げていた。
ラブの破壊を信条にした自分には、似つかわしくない行為。
自分でやった事ながら、訳が分からなかった。

その原因はデビハムの肉体。
嘗て早川アキとバディを組み、自分の寿命が減るのも厭わず彼に助けられた天使の悪魔の肉体による影響だろうか。
本当の事が何にせよ、デビハムにとっては面白くないだろう。

デビハムが考えるのはまだある。

PK学園にいたDIOという男のことだ。
甜歌が戦兎から乗り換えた(とデビハムは思ってる)相手。
デビハムから見た印象は、強そうだけど物凄くおっかない、近付きたいとは思わない男。
その筈なのに、心のどこかではこうも思っている。

DIOと話をしたい、DIOの事をもっと知りたい、DIOに自分の事を知って欲しい。

DIOを恐れる一方で、強く惹かれている自分が確かに存在するのだった。

(オイラは…どうしてあの男に……)

元の世界では決して会う機会の無かった、自分以上の悪。
かっこいい悪を目指す悪魔にしてハムスターの少年が出会ったのは、DIOという劇薬により心を強く揺さぶられた。

ふと、二人揃って空を見上げる。
青く澄み渡り太陽が燦々と照らす爽やかな光景、それとは裏腹に、二人の心は重苦しい曇天のようだった。


438 : イこうぜ☆パラダイス 〜上級者篇〜 ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 22:29:18 vhVd5INU0
【??? 草原/午前】

【胡蝶しのぶ@鬼滅の刃】
[身体]:アリーナ@ドラゴンクエストIV
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、精神的疲労、童磨の死に形容し難い感情、DIOへの強い不快感
[装備]:時雨@ONE PIECE
[道具]:基本支給品、鉄の爪@ドラゴンクエストIV、病院で集めた薬や包帯や消毒液
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止め、元の世界に帰る
1:今は、休む。
2:病院へ戻り、悲鳴嶼さんと合流。
3:DIOを強く警戒。二度と言葉を交わしたくない。
4:無惨を要警戒。倒したいが、まず誰の体に入っているかを確かめる
5:もしも上弦の弐が自分と同じ世界から来ていたら……
6:デビハム君の話には半信半疑。大崎甜歌のあの様子は……
[備考]
※参戦時期は、無限城に落とされた直後。

【デビハムくん@とっとこハム太郎3 ラブラブ大冒険でちゅ】
[身体]:天使の悪魔@チェンソーマン
[状態]:疲労(大)、ダメージ(極大)、DIOへの恐怖と羨望
[装備]:秋水@ONE PIECE、アトラスアンクル@ペルソナ5
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:優勝してかっこいい悪魔の姿にしてもらうデビ
1:疲れたデビ…
2:あの女(甜歌)とんでもない悪女だデビ
2:オイラらしいやり方で参加者のラブをぶっ壊すデビ
3:アイツら(戦兎と甜歌)の悪評をばら撒いてやるデビ
4:オイラの身体があるかどうか確認したデビ
5:この女ちょっとおっかないデビ…っていうか何でオイラは助けたんデビ?
6:DIOには会いたくない、が……?
[備考]
※参戦時期はハム太郎たちに倒されて天使にされた後。

※ドロン玉を使用した為、D-2、E-3、F-2、E-1のいずれかの草原へ移動しました。
 場所は後続の書き手に任せます。


439 : ◆ytUSxp038U :2022/01/29(土) 22:30:08 vhVd5INU0
投下終了です。


440 : ◆5IjCIYVjCc :2022/01/29(土) 23:45:35 7Fo0AChI0
投下乙です!今回投下された話の感想を書かせてもらいます。
>乱舞Escalation、イこうぜ☆パラダイス 〜上級者篇〜
そっか…デビハム視点だと確かに甜花はそういう風に見えてしまうのか。盲点でした。
そして、ここまで見事なシリアスブレイクを見られるとは。
今回はDIOがツッコミを入れて終わりましたが、果たして姉畑や貨物船は次回も無事でいられるでしょうか。


441 : ◆5IjCIYVjCc :2022/01/30(日) 00:20:19 0yVz34Ws0
>>440
すいません、最初の楽園に背くが抜けてました。失礼いたしました。


442 : ◆OmtW54r7Tc :2022/01/30(日) 14:13:51 kIocEYGs0
デビハム、胡蝶しのぶ、ヴァニラ・アイスで予約します


443 : ◆OmtW54r7Tc :2022/01/30(日) 16:35:27 kIocEYGs0
投下します


444 : 愛と引力 ◆OmtW54r7Tc :2022/01/30(日) 16:36:50 kIocEYGs0
「デビハムくん」

PK学園から脱出して、どれだけの時間が経っただろう。
おそらく時間としてはほんの数分だろう。
胡蝶しのぶは、デビハムに声をかける。

「…なんデビか」

それに対するデビハムは、不機嫌そうだ。
まるで、PK学園に着く前のしのぶのように。

「あのDIOという男の話によれば、甜花さんはデビハムくんの方から襲ってきたという話でした」
「そんなのあの悪女の嘘に決まってるデビ!」
「…つまり、甜花さんが嘘をついているとデビハムくんは主張するわけですね?」
「そうデビ!あの女、戦兎って奴を利用するだけして利用して、あのDIOって奴に乗り換えたに違いないデビ!」

デビハムの言葉に、しのぶは顔を俯かせて考える。
そして顔をあげると、言った。

「…私の印象では、逆のように思います」
「ぎゃく?」
「はい、デビハムくんは甜花さんがDIOを利用してるとのことでしたが…私には、DIOが彼女を利用しているように見えました」
「ああ…」

しのぶの言葉に、デビハムは納得していた。
理屈ではなく、魂が納得したのだ。
言われてみれば、あのDIOという男は、他人に利用されるような、しかもあんな女に利用されるタマではないような気がする。

「甜花さんという方は、DIOを心から慕っているように見えました。そう…」


「まるで、恋する少女のように」


「デビ?」

しのぶの言葉に、ピクリと反応するデビハム。

「…恋?あの女が、DIOに恋してるっていうのかデビ?」
「私の印象としてはそんな風に見えましたが…」

もっとも恋とはまた違うようにも見えましたが、という続きの言葉はしのぶの口から紡がれることはなかった。
何故ならば…


「許さんデビ!ラブなんて、恋なんて…ぶっ壊してやるデビ〜!!」

怒り狂ったデビハムが、走り去っていってしまったからだ。


445 : 愛と引力 ◆OmtW54r7Tc :2022/01/30(日) 16:37:50 kIocEYGs0
「デビハムくん…」

デビハムが去っていった方向を見ながら、しのぶは考える。
おそらく、デビハムはほぼ間違いなくクロだと。
しのぶの見立てでは、DIOという男は人心掌握に長けた人物のように見えた。
甜花は、それにやられてDIOを敵と判断した戦兎と対立した…というのがDIOや甜花の発言、様子、行動から見た、しのぶの見解だった。
ドロン玉を隠し持っていたことからも、デビハムがこちらを騙していた可能性が高い。
ラブ…つまりは愛や恋をぶっこわすなどという最後の発言にもとても善良さは感じられない。
まああれはモテない男のただの僻みという可能性もあるが…そういう性格ならなおのこと戦兎と甜花という男女のペアを見てデビハムの方から襲ったという可能性が出てきて、DIOの話に信憑性が増してしまう。

「とはいえ、一応脱出させてくれた恩もありますし…追いかけましょうか」

それに、戦兎と甜花を彼の方から襲ったのはほぼ間違いないと思うが、殺し合いに乗っているかどうかはまだ確信が持てない。
ラブをぶっ壊すというあの発言からすると、単に嫉妬で襲った可能性もありそうだし。
その辺の話を、彼自身から聞きたいところだ。


【D-2 草原/午前】

【胡蝶しのぶ@鬼滅の刃】
[身体]:アリーナ@ドラゴンクエストIV
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、精神的疲労、童磨の死に形容し難い感情、DIOへの強い不快感
[装備]:時雨@ONE PIECE
[道具]:基本支給品、鉄の爪@ドラゴンクエストIV、病院で集めた薬や包帯や消毒液
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止め、元の世界に帰る
1:デビハムくんを追う。
2:病院へ戻り、悲鳴嶼さんと合流。
3:DIOを強く警戒。二度と言葉を交わしたくない。
4:無惨を要警戒。倒したいが、まず誰の体に入っているかを確かめる
5:上弦の弐が死んだ…私は…
6:デビハムくんの話はおそらく嘘だろう。大崎甜歌のあの様子は……
[備考]
※参戦時期は、無限城に落とされた直後。


446 : 愛と引力 ◆OmtW54r7Tc :2022/01/30(日) 16:38:34 kIocEYGs0
(ぶっ壊すデビ!ぶっ壊すデビ!ぶっ壊すデビ!)

強い衝動に任せて、デビハムはPK学園へと引き返す。
彼は愛の破壊者だ。
ラブという存在をひどく嫌悪し、ハムスターのラブを全てぶっ壊すことを目指した悪魔。
そんな彼は、甜花がDIOに恋心…つまりはラブを抱いているという話を聞いて、いてもたってもいられなかった。
ラブは全てぶっ壊す。
その為に、甜花を、DIOを倒し――

(……DIOを、倒す?)

浮かんだ思考に、彼の足は止まった。
DIOを倒す。
それを考えた途端に、ひどく気持ちが萎えてしまった。
まるで、DIOを倒すのを惜しむかのように…

「どういうことデビ!あいつらは大嫌いなラブを持ってるのに…倒さなきゃいけないのに…なんでこんな気持ちになるデビかああ!」

ラブをぶっ壊す。
それはデビハムの絶対目的であり、それに例外などあるはずがない。
それなのに…DIOを倒すということを考えた途端、その気持ちが霧散していくのを感じる。
彼を倒すというビジョンが、まるで浮かばない。

デビハムにだって、ハムスターだったころには猫やワニなど、恐怖の対象はあった。
しかし、あのDIOに対して感じるそれは…猫やワニに対して感じたものとは別種のように思えるのだ。
彼が怖いと思うと同時に…惹かれてしまう。
そう、まるで彼に…ラブを……

「ありえないデビ!」

一瞬浮かんだ考えに、悪寒が走った。
自分はラブを否定し、壊す存在。
そんな自分がラブを求めるなど…ありえない。

そうしてPK学園を目の前にしながら足を止めたまま、デビハムが葛藤していると、

「貴様に聞きたいことがある」

少女――ヴァニラ・アイスが現れた。


447 : 愛と引力 ◆OmtW54r7Tc :2022/01/30(日) 16:40:01 kIocEYGs0
♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥

「私はDIO様を探している。どこにいるか、知っていれば話せ」
「DIO様?あいつの知り合いデビか?」
「!?DIO様に会ったのか!?」

デビハムの言葉に、ヴァニラは詰め寄る。
彼は、早くDIO様に会いたかった。
故に、焦った様子でデビハムに詰め寄る。

「…あいつなら、この先のPK学園ってとこにいるデビ」
「そうか…待っていてくださいDIO様…このヴァニラ、すぐに馳せ参じましょう」

デビハムからDIOの居場所を聞いたヴァニラは、彼に別れの挨拶もせずDIOのもとへ向かおうとしていた。

「待つデビ」

しかし…それをデビハムは止める。

「なんだ貴様、私は一刻も早くDIO様のもとに向かわねばならない」
「お前、あいつの部下デビか?」
「ああそうだ、私にとってDIO様は…………絶対の存在であり、忠誠を誓う方だ」

『まるで、恋する少女のように』

ヴァニラの話を聞いてデビハムが思い浮かべたのは、しのぶ曰くDIOを慕っていたという甜花の姿。
こいつも甜花と同じだというなら…

「お前も、あのDIOって男を…愛してるのかデビ?」
「なに!?愛…だと?」

予想もしないデビハムの問いに、ヴァニラは目を丸くする。

「答えるデビ」
「私は…」

もしも、ヴァニラが普段通りのヴァニラなら、デビハムの問いを鼻で笑ったことだろう。
自分のDIO様への忠誠は。そんな生易しいものなどではない。
愛など、そんなくだらない感情で私のDIO様への忠誠を語るな、とでも言ったかもしれない。

「私は…DIO様を……」

しかし、今のヴァニラは普通の精神状態ではなかった。
DIOとは異なるカリスマの存在を目にして動揺し。
DIOへの忠誠に、わずかながらも揺らぎが生じている状態だった。
そんな自分を否定しようと、彼は必死だった。
それ故に、普段よりも強い言葉が今の彼には必要だった。
加えて、彼の現在の肉体は愛の戦士プリキュア。
立神あおいの精神の影響を、少なからず受けていたのかもしれない。
彼の答えは…



「私は…私は、DIO様を……愛している!」

「そうだ、私が愛しているのは、忠誠を誓うのはDIO様ただ一人!」

「DIO様こそが…私の全てだあああああああ!!」


448 : 愛と引力 ◆OmtW54r7Tc :2022/01/30(日) 16:40:58 kIocEYGs0
「…ようく分かったデビ、お前が…オイラの敵だってことがデビ!」

ヴァニラの告白を聞いたデビハムは、彼を敵意の目で見据える。

「お前のラブを、大崎甜花のラブを、否定して、ぶっ壊すデビ!そして最後にDIOを倒して…オイラこそが悪だって証明してやるデビ!」

今の自分は、愛の破壊者デビハムとしても、悪魔デビハムとしても中途半端。
これでは、ダメだ。
こんなのは、自分じゃない。
故に、自信を、誇りを取り戻すためにもヴァニラを、甜花を、DIOを倒す必要があった。

改めて誓おう。
全てのラブをぶっ壊す。
そして、悪魔として悪の頂点に立つ。
それがオイラ…デビハム様だ!

「DIO様にあだなすというのなら…容赦はしない!」

ヴァニラもまた、戦闘態勢を整える。
考えてみれば、自分の方針はDIO様以外の参加者の殲滅。
DIO様がすぐ近くにいるという情報に逸り思わず見逃しそうになっていたが、倒さなければならない。
もしかすると首輪を解除する技術や知識を持っていたのかもしれないが…関係ない。
この男だか女だかよく分からない奴は、DIO様を倒すなどとのたまった。
絶対に…殺す!

「貴様を倒して証明してやる…私のDIO様への忠誠を!DIO様への愛を!!」

DIOという悪に惹かれて、それを否定するために戦うデビハム。
DIOへの忠誠が揺らぎ、それを否定するために戦うヴァニラ・アイス。
全く正反対の目的を胸にしながらも、DIOという引力に引かれた者同士である両者の戦いが、今始まる。

【E-2 街(PK学園より北)/午前】

【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:立神あおい@キラキラ☆プリキュアアラモード
[状態]:疲労(小)、額に鈍い痛み、精神的動揺、キュアジェラートに変身中
[装備]:スイーツパクト&変身アニマルスイーツ(ライオンアイス)@キラキラ☆プリキュアアラモード
[道具]:基本支給品、回転式機関砲(ガトリングガン)@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-
[思考・状況]
基本方針:DIO様以外の参加者を殺す
1:デビハムを殺し、PK学園にいるDIO様の元に馳せ参じ指示を仰ぐ
2:参加者は見つけ次第殺す。但し、首輪を解除できる者については保留
3:DIO様の体を発見したらプリキュアの力を使い確保する
4:空条承太郎は確実に仕留める
[備考]
※死亡後から参戦です。
※ギニューのプロフィールを把握しました。彼が主催者と繋がっている可能性を考えています。

【デビハムくん@とっとこハム太郎3 ラブラブ大冒険でちゅ】
[身体]:天使の悪魔@チェンソーマン
[状態]:疲労(大)、ダメージ(極大)、DIOへの恐怖と羨望と怒り
[装備]:秋水@ONE PIECE、アトラスアンクル@ペルソナ5
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:優勝してかっこいい悪魔の姿にしてもらうデビ
1:ヴァニラを倒して彼のDIOへのラブを否定してぶっ壊すデビ
2:あの女(甜歌)のDIOへのラブも否定してぶっ壊すデビ
3:DIOを倒して悪の頂点に立ちたい、が……?
4:オイラらしいやり方で参加者のラブをぶっ壊すデビ
5:アイツら(戦兎と甜歌)の悪評をばら撒いてやるデビ
6:オイラの身体があるかどうか確認したいデビ
7:しのぶはおっかないデビ。というか何でオイラはしのぶを助けたんデビ?
[備考]
※参戦時期はハム太郎たちに倒されて天使にされた後。


449 : ◆OmtW54r7Tc :2022/01/30(日) 16:41:32 kIocEYGs0
投下終了です


450 : 名無しさん :2022/01/30(日) 18:02:08 lerCgCjk0
投下乙です
DIOのカリスマを狂信するヴァニラと、振り払おうとするデビハム
まさかの対戦カードがどんな結果になるか楽しみ


451 : ◆5IjCIYVjCc :2022/01/30(日) 23:48:30 0yVz34Ws0
投下乙です!感想を書かせてもらいます。
>愛と引力
この対戦カードは予想外、だけどしっかりと対比になっていてとても良いです。
しのぶさんは少し遅れそうですが次も更なる修羅場になりそうです。


452 : ◆5IjCIYVjCc :2022/02/11(金) 21:14:51 Rq7W6ZvQ0
絵美理、魔王で予約します。


453 : ◆5IjCIYVjCc :2022/02/13(日) 00:44:12 lS3rLfKU0
すみません、>>452の予約についてですが、絵美理を外します。


454 : ◆ytUSxp038U :2022/02/14(月) 15:56:13 184wfXDU0
神楽、アルフォンス・エルリックを予約します。


455 : ◆5IjCIYVjCc :2022/02/14(月) 18:29:22 D9D/Aqb.0
投下します。


456 : ◆5IjCIYVjCc :2022/02/14(月) 18:30:55 D9D/Aqb.0
第一回定期放送が始まった時、魔王は未だF-8の草原にいた。

前回の戦いでの疲労を癒すため、早朝の時点ではその辺にあった岩の上に座って休んでいた。
(彼にとっては見たことのない容器に入った)水や食料を摂取しながら、少しでも体力を回復させようとしていた。
放送が始まったのはそんな時であった。

放送で発表された死亡者の中で、彼の気を引く名は二つあった。


『坂田銀時…その身体の名は両津勘吉』
『鳥束零太…その身体の名はケロロ軍曹』

「………」


それらの名前と同時に公開された顔写真を魔王は黙って見つめる。
精神側として左側に載せられた銀髪の男の写真については、その顔は初めて見る。
だが、右側に身体のものとして載せられた顔写真の太眉の男については、今日出会ったばかりでもよく覚えている。
その男に致命傷を与えたのは、他ならぬ自分だからだ。
直接この目で確認することは出来なかったが、今こうして男の死が確実になった。

そしてもう一つ、魔王が意識を向けた死亡者、それは身体側のものとして紹介されたケロロ軍曹だ。
もっとも、これについては自分が知っている者を一瞬連想しただけに過ぎない。
ケロロ軍曹がカエルに似た姿をした者であったため、自分がカエルの姿に変え、そしてこの殺し合いの舞台に来る前にも戦った男であるグレンのことを思い出しただけだ。
グレンやクロノら、自分を相手に戦い、結果諸共に時空の歪みに巻き込まれた彼らが今どこで何をしているのかは知る由もしない。
生きているのかどうかといったことも確かめる術はない。
だが、魔王は彼らについてこれ以上考えることはなかった。
クロノらが生きている可能性を考えれば、魔王も倒そうとしていたラヴォスを代わりに追おうとしているのではないかということも考えついたかもしれない。
しかし、今この場においては、何が起こるか分からない時空の歪みに巻き込まれてこの場にたどり着いたこともあり、魔王は自分の願いをこの殺し合いの果てに求めてしまっている。
だから、ここでグレンのことを思い出してもそれが魔王に与える影響は少ない。
ケロロ軍曹についても、カエルに似ていると感じてもよく見てみれば似ているだけの全然別の生き物にも見えるため、あくまで自分の労力を使わずに済んだ標的としか捉えない。

これまでの死亡者については、二人以外も含め魔王はこれ以上気に留めることは無い。
せいぜい、参加者が減ったため自分が優勝するまでの道のりが近くなった程度にしか思わないだろう。



少しして放送が終わった後、次に魔王はそこで伝えられた組み合わせ名簿を確認しようと思った。

食べ終えた弁当の容器等をしまうついでにデイパックの中を探ってみれば、確かに新たな名簿がいつの間にやら入っていた。
魔王は知る由もないが、坂田銀時は死ぬ前に一矢報いるため摂取すれば死が確実な豪水を飲んだ。
だがこの名簿がここにあるため、どうやら確かに坂田銀時を殺したのは魔王自身であると判定されたらしい。
魔王は念のため、この名簿に自分の知る者達の名が無いか探ってみる。

「…………む?」

ここで、魔王はとある違和感に気づく。
それを感じた2行分の名簿の欄を交互に見比べる。
彼がこれに気づけたのは、放送の顔写真を見てグレンのことを思い出したからかもしれない。


魔王は、先ほど死亡者として発表された鳥束零太の身体がケロロではなく竈門炭治郎となっていることに気づいた。
そして、ケロロ軍曹の名が隣に記載されているのは、ギニューという名の者であった。


457 : ◆5IjCIYVjCc :2022/02/14(月) 18:31:59 D9D/Aqb.0
「記載を間違えたのか?いや、まさか…」

一瞬ただのミスなのではと思ったが、少ししてある可能性に思い至る。
それは、この殺し合いの舞台においても、精神を入れ替える力を持つ"何か"が存在するのではないかということだ。
この発想に至れたのは、そもそもこの殺し合いが別人の身体で戦うというテーマを持っていたためであろう。
そのために、この新名簿においては鳥束零太とギニューの身体が放送の情報とは逆になっているのではないか。

「……このギニューという者には要注意すべきか」

2人の精神を入れ替えたのはおそらくギニューであると考えられる。
鳥束零太が死んでいるということは、このギニューが何らかの方法で精神入れ替えを行った後、用済みとなった鳥束を始末した可能性が高い。
なぜ入れ替えを行ったかについては、ギニューがケロロの身体で瀕死の重傷を負ったか、それとも竈門炭治郎の身体の方がケロロよりも強かったからか、動機はいくつか思い浮かぶ。
入れ替えた方法については、ギニューが元からそういった能力を持っていたか、それともそういったことを可能にする道具を持っていたのか、どちらなのかについては判断はつかない。
もしかしたら2人とは別の第三者が入れ替えたということも考えられるが、そんな可能性まで考えていてはきりがない。
何にせよ、このギニューについては警戒するに越したことはない。

魔王が持つピサロの身体はどちらかと言えばかなり強力なものに部類されるだろう。
つまり、ギニューに遭遇し、この身体の力を把握されたら、これを奪われる可能性も考えられるのだ。
魔王はギニューについて、もし戦いになった際は要注意することを心の片隅に置いた。



そして、魔王が他に新名簿について気になった名前はもう一つあった。

「………」

魔王はその名前を無言で見つめる。
それは、悲鳴嶼行冥の名であった。
魔王はこの者の名は今ここで初めて知った。
だがその名に注目してしまったのは、隣の身体のものとして記載された名前に理由があった。
そこには、さっきの放送でも発表された、自分が殺した男である坂田銀時の名が記されていた。

先の戦闘において、この名を持つ男はこちらが致命傷を与えたにも関わらず力を振り絞り、折れた刀で一撃与えた。
ここで魔王が思うのは、この悲鳴嶼行冥という男も坂田銀時と同じく、殺しても一矢報いようと攻撃を仕掛ける爆発力を持っているのではないかということだ。

組み合わせ名簿においては、いくつか精神と身体両方に名前が存在するものが見受けられる。
坂田銀時もその一つだ。
とは言え、精神・身体がどちらも存在する者の名は少ない。
どちらか片方だけが存在する者達とは何が違うのかという疑問は出てくるが、それは魔王がいちいち気にすることではない。

魔王の考え、それは悲鳴嶼行冥も坂田銀時と同じような性質を持った男ではないかということだ。
魔王もまた、自分と同じく魔王の称号を持つピサロの肉体を与えられている。
だからこそ、この悲鳴嶼という者もまた前回の戦いでの坂田銀時と同じく、例え人間と魔族で力の差がかなり開いていようとも、
例え致命傷を負おうとも、決して自分や仲間の勝利を諦めず、引き下がらずに死ぬまで戦い続けるような者なのではないかという考えが頭をよぎる。

それが愚かな行いかどうかは断じない。
ラヴォスに対する復讐心で動いていた頃であったならば、自分も命と引き換えにでもラヴォスを倒そうとしていたかもしれない。
しかし今この時点においては、自らの願いのために志半ばで死ぬわけにはいかないとも思う。
どちらにせよ自分以外の参加者を全員殺すしかないこの状況においては、他者による自らの命を顧みない行いの評価は無駄なことである。
自分の邪魔をしないのであれば、むしろ勝手に死んでもらった方がありがたいまである。

兎にも角にも、ここで魔王がふと思ったことはこの悲鳴嶼行冥に出くわした時のことである。
この名簿の情報と死亡者発表から、悲鳴嶼の今の姿は先ほど顔写真で見た銀髪の男の姿であることは確かだ。
もしこの男を相手に戦うことになったのならば、例え致命傷を与えられたとしても、決して油断してはならない。


458 : ◆5IjCIYVjCc :2022/02/14(月) 18:33:55 D9D/Aqb.0
いや、この心構えは悲鳴嶼行冥だけに限定するべきではないものだ。
あくまでこの男に対しては特に注意するだけで、誰であろうと油断してはいけないことは当然であろう。
とにかく、ここで頭に残しておく考えは『悲鳴嶼行冥もまた、殺しても止まらずに反撃できるような者かもしれない』ということだ。

先の戦いでは、坂田銀時の反撃によって隙ができ、もう一人の男の謎の能力により連続で殴られ、大ダメージを負った。
それが無ければ今よりも体力・魔力を節約できたかもしれない。
そのため、死にかけの人間による最期の抵抗は、魔王の中での警戒レベルが以前よりも上がることとなっていた。


他にも悲鳴嶼と銀時の共通点としては凄腕の剣士である可能性も考えられる。
こちらも少し疲労していたとはいえ、銀時は魔王に対し剣術で張り合っていた。
先ほどは致命傷を与える前提で考えていたが、相手の強さによってはそもそもその段階まで行けないかもしれないのだ。
この点についても、悲鳴嶼と戦う際に警戒すべきこと、そして油断してはならないことであろう。



悲鳴嶼行冥に対する考えをまとめた後、魔王は組み合わせ名簿をデイパックの中に戻す。
この名簿によって知りえた身体側の参加者の中に、魔王が前から知る者の名はなかった。
放送前にこの地で会った坂田銀時以外の他の者達(志々雄真実、ホイミン、空条承太郎)については、名前を聞いていないため名簿でどれが誰だかを判断することはできない。
よって、この時点において組み合わせ名簿から新たな情報を入手できないと判断する。


代わりに魔王は地図を取り出し、広げる。
次の行動に移すための目的地を決めるためだ。

(…この島にはまだ誰も立ち入っていないということか?)

そこで魔王の目を引いたのは、彼の現在地から北、道路橋を通じて繋がる場所にあるC-8の小島だ。
先の放送では、誰かが1人でも足を踏み入れた施設は地図上に新たに記されるということだ。
魔王が気にしたその小島には、そんな施設が記載されていなかった。

(ここに探索に来ようとする者はいるか?)

魔王が考える可能性、それは島に何もないらしいために新たな施設を探しに訪れる者がいるのではないかということだ。
この島と同じく、あからさまに何かがありそうなのに施設が記されていない部分はある。
C-8にあるもの以外の村や、B-6の森の中にある湖の中にある小島がそれに該当する。

(向かってみて損は無いか?)

魔王はこのC-8にある島およびその中にある村に行こうかと考える。

自分に近い場所にある施設としては、G-8にある万事屋銀ちゃんというものも存在する。
地図上に名前があるということはここに誰かが訪れたことを示している。
そしてその人物はおそらく、自分がここで最初に戦った相手である半裸の巨漢(志々雄真実)の可能性が高い。
だがだからと言って、今の時点ではこの場所に向かおうとは特別思わない。
仮に一度万事屋に訪れたとしても、いつまでもその場に留まり続ける可能性は低い。
下手したら、すれ違いになって再戦がさらに遅れるのではないのかとも思う。
別の方向から考えてみれば、志々雄も魔王と同じ考えを持ってこの島に向かう可能性も考えられる。

銀ちゃんという名から、坂田銀時に関連する施設である可能性も考えられる。
しかし、最もそれを理由にここに向かいそうな銀時は自分が殺したばかりである。
他にこの施設の名前からここに向かおうとする者がいるかどうかは魔王には知る由もない。

可能性というものはいくらでも考えられる。
もしかしたら志々雄もこの万事屋銀ちゃんで動かないでいることもまだ考えられる。
どこに向かうにせよ、誰かに出くわす可能性は結局はどこもそう変わらないだろう。
しかしそれでも、魔王はC-8の小島に向かおうかと考えていた。
これはただ単に、地図を見た時に最初に注目してしまったためだろうか。
どちらにせよ、この島を目指してもあまり無駄にはならないだろうと判断する。
もしかしたら、自分が有利になる施設が見つかる可能性もある。


459 : ◆5IjCIYVjCc :2022/02/14(月) 18:35:02 D9D/Aqb.0


他に悩み事があるとすれば、魔力の回復がまだ心もとないことだ。
前の消費量が特大だったこともあるため、体力よりもその自然回復量はまだ少ない。
志々雄真実を少々避け気味なルートをとろうとしたのは、少し情けないがこの状態で相手に確実に勝てる保証が無いためもということも意識にある。
回復手段については、自分の他の支給品に回復できる道具があるかまた探してみるか、
何らかの施設を見つけ、そこに回復できる場所があるかことを期待してみるか、
もしくは単純に時間経過で回復するのを待つかといったことが考えられる。
むしろ、志々雄から少しの間離れ、時間経過回復を待ってから再戦するといった道筋になる可能性も思い浮かぶ。
それならば、むしろ志々雄が後から来る可能性を考慮できるため小島の方に向かうのも案外悪くない選択かもしれないとも考えられる。
何にせよ、今後移動すると同時に考えておくべき事だろう。




それからしばらく休んだ後、魔王は立ち上がり北に向けて歩を進め始めた。
そのためにまず、橋にも繋がる道路の上に足を踏み入れる。
予測がどの程度合っているかはこの時点では確かめようがない。
だがなんにせよ、動かなければ何も始まらない。
体力的には、今回はだいぶ休んだため、動ける段階にまでは来ている。

次の戦場を求めて、魔王は歩く。
自らの願いのために、これまで遭遇した者達のように、もしくはそれ以上の強敵たちとも戦うことへの覚悟をより強く持って。


【F-8 道路(北寄り)/朝】

【魔王@クロノ・トリガー】
[身体]:ピサロ@ドラゴンクエストIV
[状態]:疲労(小)、魔力消費(大)
[装備]:破壊の剣@ドラゴンクエストシリーズ、テュケーのチャーム@ペルソナ5
[道具]:基本支給品、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:優勝し、姉を取り戻す
1:この場から北に位置する島へ向かう。
2:強面の男(承太郎)は次に会えば殺す。
3:剣を渡した相手(ホイミン)と半裸の巨漢(志々雄)も、後で殺す。
4:ギニューという者は精神を入れ替える術を持っている可能性が高いため警戒する。
5:悲鳴嶼行冥や他に似たような性質(殺しても止まらない)を持ちそうな者達と戦う際は、例え致命傷を与えても油断するべきではないだろう。
6:魔力の回復手段はどうすべきか…
[備考]
※参戦時期は魔王城での、クロノたちとの戦いの直後。
※ピサロの体は、進化の秘法を使う前の姿(派生作品でいう「魔剣士ピサロ」)。です
※回復呪文は通常よりも消費される魔力が多くなっています。
※ギニューと鳥束の精神が入れ替わったことに気づきました。


460 : ◆5IjCIYVjCc :2022/02/14(月) 18:35:47 D9D/Aqb.0
投下終了です。
タイトルは、『「鬼殺隊は異常者の集まりだ」by鬼舞辻無惨』とします。


461 : ◆NIKUcB1AGw :2022/02/17(木) 21:11:56 ICPa6NwM0
承太郎、新八、ホイミン、JUDO予約します


462 : ◆OmtW54r7Tc :2022/02/19(土) 07:11:06 c5698ceI0
産屋敷耀哉、キタキタおやじで予約します


463 : ◆OmtW54r7Tc :2022/02/19(土) 16:51:56 c5698ceI0
投下します


464 : その踊り、誰が為に ◆OmtW54r7Tc :2022/02/19(土) 16:52:49 c5698ceI0
『さあ魔物も人間もごいっしょに!』

キタキタ踊り。
それはキタの町に伝わる伝統的な踊り。
踊り手は冠とこしみの、女性ならば胸当てという非常に露出の多い格好で踊る。(もっとも本来のキタキタ踊りは女性が踊り手なので胸当ても標準装備といえるのだが)
かつてキタの町で町長を務めていたアドバーグ・エルドルは、このキタキタ踊りを見世物として観光客に見せることを提案。
若い女性によるキタキタ踊りは反響を呼び、寂れた町であったキタの町は賑わいを見せることになる・。
しかし、本来神に捧げる踊りを見世物にしたことによる罰が当たったのか、キタの町には女子が生まれなくなってしまい、踊り手がいなくなってしまう。
この事態を重く見たアドバーグは、自らが踊り手となり…町は急速に寂れた。

アドバーグはこの責任により町長の座を追われたが、しかし彼はその後も踊りをやめなかった。
きっとそれは、キタキタ踊りへの贖罪という意味もあっただろうが…そうして踊っているうち、彼はキタキタ踊りの魅力に取りつかれてしまったのだろう。
しかし、彼一人で踊っていても、いずれキタキタ踊りは絶えてしまう。
故に彼は、キタキタ踊りの後継者を見つける必要があった。
しかし…

『イヤ!ぜったいイヤ!あんな踊りするなら死ぬ!死ぬ!』
『うわああなんだこいつは!?』
『その気持ち悪い踊りをやめろ』

成果はまったく上がらない。
キタの町にいた頃も、町人たちは自分が近づくと避けていくし。
旅に出てからも、やはり拒絶されることがほとんどだった。
何故逃げるのか。
何故嫌うのか。
キタキタ踊りはこんなに素晴らしい踊りなのに。
かつてキタの町で見世物にした時は、あれだけ盛り上がったのに。

…いや、その理由だって本当は分かっている。

『女性の姿になっている今こそ後継者探しのチャンスなのでは』

吉良が言っていた通りだ。
この踊りは本来女性の踊りであり、かつて盛り上がったのは若い女性が踊っていたからこそだ。
小汚い老人が踊っても、気持ち悪いだけだ。
彼が踊ったせいで、キタキタ踊りは変態の踊りという不名誉なレッテルを貼られてしまった。
ある意味アドバーグ・エルドル…またの名をキタキタおやじという彼の行為は、キタキタ踊りへの冒涜とも言えた。
しかしそれでも、彼は踊りをやめない。
かつて見世物にしてしまった贖罪の為。
愛する故郷の愛する踊りを絶やさぬために。
出口の見えない闇の中を、彼は進み続けていた。

―何故見ない
―何故一緒に踊ってくれない
―何故嫌うのだ
―キタキタ踊りは、こんなに素晴らしいものなのに

闇の中に、一筋の光を見つける。
キタキタおやじは、その光に手を伸ばした。


465 : その踊り、誰が為に ◆OmtW54r7Tc :2022/02/19(土) 16:53:32 c5698ceI0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

光が晴れると、目の前には…

(ま、魔物が沢山!?)

彼の目の前には、沢山の魔物がいた。
驚いた彼は、その場から離れようとするが…

『おいおい踊り子さん、早く踊ってくれよ』

(え?)

呆気に取られて声がした方に顔を向けると、そこにはやはり沢山の魔物。
しかし彼らには敵意はなく…みな気持ちのいい笑顔でキタキタおやじを見ていた。
近づくだけで人が離れていくこの自分のことを。

『キタキタ踊り、だっけ?今日も楽しみにしてるぜ』
『人間の踊り、面白い!』
『もっともっとあんたの踊りを見せてくれよ!』

ああ、なるほど。
ここは、アラハビカ。
人間と魔物が共存する不思議な街だ。
そして今、自分はアラハビカで踊り子として踊りを披露しようとしているのだ。

『では、今日はいつも以上に張り切って、いきますぞ〜!ピーラリピピラリピピラリラ〜♪』

キタキタおやじは踊る。
精一杯、キタキタ踊りを踊る。
その度に、客席からは歓声が上がる。

『いいぞ〜!もっとやれ〜!』
『あははは、面白い!」
『俺たちも踊ってみよう!』

―魔物たちはキタキタ踊りを喜んでくれる
―人間と違って嫌がったりしない










―人間が魔物になってくれればいいのに





それは、本来のキタキタおやじならば考えもしなかったこと。
しかし、鬼の血を注ぎ込まれた彼は。
人間の頃から燻ぶっていた負の感情を増大させた彼は。
人間をやめて鬼という名の魔物と化した彼は。

―そうだ、人間を鬼にしてしまえば、みんなキタキタ踊りを好きになってくれるんだ

そんな歪んだ結論に、たどり着いた。


466 : その踊り、誰が為に ◆OmtW54r7Tc :2022/02/19(土) 16:55:01 c5698ceI0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

「う、うーん、ここは…?」

夢から覚め、目を覚ましたキタキタおやじは。

「ピーラリピピラリピピラリラ〜」

踊った。

「…はっ!?私は一体何を!?」

正気に返ったキタキタおやじは、自分の行動に戸惑う。
目が覚めた瞬間、気が付けば踊っていた。
いったいこの踊りは…?

「うーむ、何も思い出せませんな」

ひとまず彼は、踊りながら自分の名前を思い出すことにした。
なんとなく踊っていた方が思い出せそうな気がした。

「…そうですぞ!私の名前はキタ…キタキタ…」

キタキタおやじは何かを思いだそうとしている!

「キタキタおや…おあ…そうですぞ!私の名前は…『キタキタおあじ』!」

うろ覚えだった!

「…む、あそこに誰かいますな」

近くに人がいることに気づき、キタキタおやじ改めキタキタおあじはその人物に近づく。

「あ、あなたは…いや、あなた様は…」

その男を見た瞬間、キタキタおあじは察した。
先ほどの踊りはキタキタ踊り。
そして自分の使命は…人間を鬼にしてキタキタ踊りを広めること!
キタキタおあじはその男…産屋敷耀哉の前に跪く。

「私はあなたに協力しますぞ!鬼を増やし…キタキタ踊りを広めるのです!」
「……………」

産屋敷は何も言わず、その場にたたずんでいる。

「では、早速友好の証として、キタキタ踊りを披露しますぞ!ピーラリピピラリピピラリラ〜♪」

そういってキタキタおあじはキタキタ踊りを踊り始めた。
それは一見、いつもと変わらぬ光景。
しかし、それは決して同じではない。

『さあ魔物も●●もごいっしょに!』

何故ならその心には…黒い穴がぽっかりと開いているのだから。


467 : その踊り、誰が為に ◆OmtW54r7Tc :2022/02/19(土) 16:55:52 c5698ceI0
【E-6 下水道/午前】

【アドバーグ・エルドル(キタキタおやじ)@魔法陣グルグル】
[身体]:ヘレン@アイドルマスターシンデレラガールズ
[状態]:疲労(中)、ダメージ(大)、鬼化
[装備]:腰みのと胸当て@魔法陣グルグル
[道具]:基本支給品、最初着ていた服
[思考・状況]基本方針:産屋敷に人間を鬼にしてもらい、キタキタ踊りを広める
1:産屋敷にキタキタ踊りを披露する
[備考]
※参戦時期は魔法陣グルグル終了後です。グルグル2や舞勇伝キタキタは経験していません。
※ジョジョの奇妙な冒険の世界について知りました。ただしスタンドに関することは知りません。
※鬼化したことにより人間の頃の記憶はほとんどありませんが、身体が覚えている踊りがキタキタ踊りであることは思いだしました。
※自分の名前を『キタキタおあじ』だと勘違いしています。

【産屋敷耀哉@鬼滅の刃】
[身体]:鬼舞辻無惨@鬼滅の刃
[状態]:毒により理性消失、疲労(小)、絶望(大)、シロとしんのすけへの罪悪感(大)、毒による激しい頭痛、主催者への怒り(極大)
[装備]:マシンディケイダー@仮面ライダーディケイド
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:鬼を増やす
1:今は太陽の光を避けて移動
[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※スコルピオワームの毒に侵されています。現在無惨の肉体が抵抗中ですが、無惨の精神と共鳴した結果毒が強化され、精神が弱ったり意識を失うと理性を失います。二重人格みたいなものと考えると分かりやすい
※彼が死んだとき、鬼化させたキタキタおやじも死ぬのかは不明です。


468 : ◆OmtW54r7Tc :2022/02/19(土) 16:58:37 c5698ceI0
投下終了です
魔法陣グルグルは今年で30周年!
続編の2も10周年!
おやじはいないけど、現在テイルズオブザレイズのコラボでニケとククリが操作できるぞ!


469 : ◆vV5.jnbCYw :2022/02/19(土) 17:12:51 RIDqPNz60
投下お疲れ様です。
予約からして「地獄みてえな面子だな」って思ってたけど予想通り。
しかしエルドルの回想がどこか鬼滅の鬼の人間時代を彷彿とさせてしまう演出、見事でした。


470 : ◆NIKUcB1AGw :2022/02/22(火) 00:20:38 2M4jEoIU0
投下します


471 : DD破壊者/君は悪魔と相乗りできない ◆NIKUcB1AGw :2022/02/22(火) 00:21:55 2M4jEoIU0
風都タワーを目指し移動を続ける、承太郎たち3人。
彼らがいた南東の街から風都タワーに向かうには、西に向かってから北上するルートと北の街を経由してから西に向かうルートがある。
しかし前者は禁止エリアへの指定により、利用することができない。
すなわち、自動的に後者のルートを通ることになる。

「さて、ここら辺でおまえらの意見を聞いておきたい」

街が見えてきたあたりで、先頭を歩いていた承太郎が背後の新八とホイミンに話しかける。

「なんです?」
「このまま道をまっすぐ進めば、街に入ることになる。
 だが別に、道の通りに進む必要はねえ。
 街に入るか、街の外を迂回していくか……。
 おまえらはどっちがいい?」
「要するに、人が多そうな場所に行くか行かないかってことだよね?」
「そうだね。街なら味方になってくれる人がいるかもしれないけど、逆に危険な人に遭遇しちゃうかもしれない」

ホイミンの発言に、新八が補足する。

「要はリスクを冒してでも仲間にできるやつを探すか、安全策でいくかだ。
 どうする?」
「そうですね……」

承太郎に目線で振られた新八は、アゴに手を当てて考え込む。

「正直、今の僕たちは戦力不足です。
 承太郎さんにはスタンドがありますが、僕の体は一般人レベルか下手するとそれ以下の戦闘力しかありません。
 ホイミンくんの場合は肉体の強さはけっこうあるみたいですが、本人の性格が戦いに向いていません」
「ごめん……」
「ああ、いや……。責めてるわけじゃなくて」

落ち込むホイミンをフォローしてから、新八は話を続ける。

「人の多そうな場所に行くのは、ハイリスク・ハイリターンです。
 でも危険を冒してでも仲間を集めないと、僕たちに先はない。
 そう思います」
「なるほどな」

新八の話を聞き終えた承太郎は、今度はホイミンに視線を向けた。

「おまえはどう思う、ホイミン」
「僕は……正直、怖い。
 でも僕は、誰かを守れるような存在になりたい。
 だから……この恐怖を乗り越えないといけないと思う」
「そうか……。なら決まりだな」

承太郎は、再び前を向く。

「街に行くぜ」


◆ ◆ ◆


コンクリート製の建造物が並ぶ街の風景から露骨に浮いた、木製の建物。
JUDOはその2階でベッドに横たわり、体力の回復を図っていた。

「虫けらとしては、回復が早い方か……。
 悪くない体を引き当てたと思っておこう」

おのれの状態を確かめるように指先を動かしながら、JUDOは独りごちる。
すでにこのバトルロワイアルにおいて2度の戦闘を経験しているJUDOだが、その疲労はこの短時間の休憩でほぼ抜けている。
人間としてはずば抜けたスペックを誇る、門矢士の肉体がなせる技であろう。
もっともそれは、あくまで人間の尺度で見た場合の話だ。
人間をはるかに超越した力を持つJUDOにとって、その程度の違いなど人間がアリの違いを見分けるようなもののはずだ。
しかしJUDOが、その違いを実感しているのは事実。
それは彼の魂が、人間の肉体になじみつつあることを示しているのかもしれない。

「む……?」

ふとJUDOは、かすかな人の気配に気づく。
彼が窓から外を覗くと、そこには3人組の男女の姿があった。

「休息はここまでのようだな」

淡々と呟くと、JUDOはディケイドライバーを自分の腰にセットした。

「変身……」
『KAMENRIDE DECADE!』


472 : DD破壊者/君は悪魔と相乗りできない ◆NIKUcB1AGw :2022/02/22(火) 00:23:12 2M4jEoIU0


◆ ◆ ◆


承太郎たち3人は、周囲を警戒しながら街を歩き続けていた。
今のところ、他の参加者には遭遇していない。

(いくつか、人がいた形跡はある……。
 友好的なやつがまだ残っていれば助かるんだが……)

考えを巡らせながら、承太郎は歩を進める。
やがてその視界に、木造の建築物が入ってくる。
周囲とは異なる作りの建物に、承太郎の注意が向いた刹那。
そこから放たれる殺気が、承太郎に届いた。

「てめえら、避けろ!」

承太郎はそう叫ぶと同時に、後ろに跳ぶ。
他の二人も、それに合わせて回避行動を取る。
その直後、飛来したエネルギー弾がアスファルトを粉砕した。

「ほう、これに反応するか。
 最低限の力はあるようだな」

3人の視線が、声のした方向に向けられる。
彼らが見たのは、銃を構えて壊れた壁の向こうに立つ鎧の戦士だった。

「!?」

黒とマゼンタに染まったその鎧を見た途端、新八の脳に鋭い痛みが走る。
次の瞬間再生されるのは、彼が知るはずのない記憶。



「ちょっとくすぐったいぞ」
『FINALFORMRIDE DDDDOUBLE!』



「仮面ライダー……ディケイド……?」

半ば無意識のうちに、新八はそう呟いていた。

「ディケイド?」

新八の言葉を聞いた承太郎は、怪訝な表情を浮かべる。
新八に何か聞きたそうなそぶりを見せていた承太郎だったが、それよりも早くJUDOがリアクションを起こした。

「ほう、この姿を知っているか。ならば、貴様も異界の仮面ライダーか?
 その力、見せてみるがいい」

そう告げると、JUDOは新八に向かって突進する。
だが承太郎が、それをみすみす許すはずがない。

「スタープラチナ!」

承太郎の叫びと共に顕現した彼の分身が、JUDOめがけて拳を振るう。
左腕でその拳をガードしたJUDOであったが、衝撃を殺しきれず後退することとなった。

「初めて見る力だ……。
 推察するに生命力を人の形に具現化させ、操る能力か……」
「おいおい、一目見ただけでスタンドの本質を見抜くのかよ。
 ずいぶんと頭のいい野郎だな」
「スタンド……。それがその力の名か……。
 なかなかに興味深い」

JUDOは、承太郎の傍らに立つスタープラチナをまじまじと見つめる。

「だが、貴様らのような虫けらには過ぎた力よ。
 家畜に身の程を超えた力など必要ない。
 人は人のままであればいい」

その言葉と共に、JUDOは新たなカードをドライバーにセットする。

『KAMENRIDE AGITO!』

電子音声と共に、ディケイドの姿が変化する。
赤い目と黄金の角を持つ戦士へと。
仮面ライダーアギト。
人間を神の定めた道から解放するために戦った戦士の力が今、皮肉にも神と崇拝される超越者に宿った。

「そうやって姿を変えるのが、てめえの……いや、てめえのベルトの能力か。
 だがこっちとしては、やることは変わらねえ。
 警告もなしに襲いかかってきたクソ野郎をぶん殴る!
 それだけだ!」

承太郎は、迷わずスタープラチナをJUDOに向かわせる。
繰り出されるのは、必殺のラッシュ。

「オラオラオラオラオラオラ!」


473 : DD破壊者/君は悪魔と相乗りできない ◆NIKUcB1AGw :2022/02/22(火) 00:24:13 2M4jEoIU0

常人ではあり得ぬ速度の拳が、次々とJUDOに叩き込まれる。
JUDOはそれを捌き、防いでいく。
だが、全てに対応することはできない。
防御をすり抜け、いくつもの拳がJUDOを捉えていく。

「すごい! こんなに強かったんだ、承太郎さん!
 これなら……」
「いや……」

楽観的な反応を見せるホイミンに対し、新八は険しい表情を見せる。
そして当の承太郎も、現状を優勢だとは感じていなかった。

(この鎧、ずいぶんと硬いぜ……!
 スタープラチナのパワーでも、当たり所がよくなけりゃ有効打にできねえ!)

一方のJUDOも、余裕綽々とはいかずとも冷静に状況を把握していた。

(このスピードは厄介だな……。
 まともにぶつかっては、分が悪いか。
 ならば、こちらもスピードを上げるとしよう)

JUDOは強引にスタープラチナの拳を弾き、体勢を崩す。
その隙に、後ろへ跳躍。
距離を取ってから、新たなカードをセットする。

『FORMRIDE AGITO STORM!』

アギトの金色のアーマーが青く染まり、左腕が太さを増す。
風の力を宿した形態、ストームフォームだ。

「さあ、速さ勝負といこうか」

そう呟き、JUDOが承太郎に突撃する。

(さっきより速い!)

変化に多少の驚きを覚えつつも、承太郎は冷静にカウンターを狙う。

「オラァ!」

突き出される、スタープラチナの拳。
しかしJUDOは、それを紙一重で回避する。
JUDOはそのまま前進。スタープラチナの横をすり抜け、承太郎本人へと向かう。

(ちいっ! こっちを狙ってきやがったか!)

全力でスタープラチナを手元に戻す承太郎だったが、間に合わない。

「くっ、時よ……」

ならばと時間停止を発動しようとする承太郎だったが、それも一手遅い。
JUDOがストームフォームになると同時に出現した薙刀、ストームハルバードの刃が承太郎を襲う。

「ぐうっ!」

承太郎の声から、苦悶の声が漏れる。
同時に、飛び散る鮮血。
彼の胸筋が、横一文字に切り裂かれていた。
さらに追撃をかけようとするJUDOだったが、戻されたスタープラチナがそれを阻止する。
だが、JUDOは焦りを見せない。

「やはり本体へのダメージは、スタンドにも影響するようだな……。
 明確にスピードが落ちているぞ」

淡々と告げると、JUDOは攻撃を再開する。
構図は、先ほどと逆。
矢継ぎ早に繰り出されるストームハルバードによる斬撃や蹴りを、スタープラチナが必死で捌いていく。
しかし痛みとかすかな動揺が、スタープラチナの精密さを鈍らせる。
防御をすり抜け、いくつもの攻撃がスタープラチナにヒットする。
そのダメージは承太郎にフィードバックされ、さらなる隙を生んでしまう。
悪循環である。
時を止めようにも、その一瞬の集中さえなかなか生み出せない。

(さあ、どうする。
 このまま何の手も打たず、なぶり殺しにされるか?)

過度に慢心せず、相手の出方をうかがいながらもJUDOは攻撃の手を休めない。
だが突然、その右腕が止まった。
否、止まっただけではない。後方へ引っ張られている。


474 : DD破壊者/君は悪魔と相乗りできない ◆NIKUcB1AGw :2022/02/22(火) 00:25:03 2M4jEoIU0
「何っ!?」

すぐさま振り返るJUDO。
そこにいたのは、おびえの表情を浮かべながらも不定形となったおのれの右腕をJUDOの右腕に絡ませるホイミンだった。
人間の姿になってはいるが、現在ホイミンの精神が宿っているソリュシャン・イプシロンはスライムだ。
しかもその体は、ホイミンの世界のスライムよりも自在な変形が可能である。
ゆえに、このような芸当も可能なのだ。
だがそれだけでは、この状況は生まれない。

「あり得ぬ……。貴様、いつの間に我の背後に回った」

人の体に宿ってもなお、JUDOの感覚は常人以上に鋭い。
素人に背後を取られるなど、本来ならばあり得ぬこと。
だがイプシロンは、暗殺者のスキルを習得している。
その気配遮断能力は一級品。
ゆえに本来の体の持ち主でないホイミンであっても、JUDOに察知されず背後に回ることが可能となったのだ。

(ものすごく怖いけど……。
 僕も、誰かを守れる存在になりたいんだ!
 いつまでもおびえてるだけじゃいられない!)

必死でおのれを奮い立たせながら、ホイミンは空いた左手でパンチを繰り出す。
だがそれは、素人丸出しのテレフォンパンチ。
いかに右腕を拘束されているといっても、JUDOにとって避けるのは赤子の手をひねるよりたやすいことだ。
それが、ただのパンチであれば。

「っ!?」

仮面に隠されたJUDOの顔に、動揺が走る。
その理由は、目の前で起きた予想外の現象にあった。
素手であったはずのホイミンの左手から、突然剣が出現したのだ。
これもまた、イプシロンの肉体がなせる技。
生物や物品を体内に隠しておけるというイプシロンの体質を活かし、ホイミンはあらかじめシャルティエを体内に取り込んでいたのである。

『くらえーっ!』

ホイミンとシャルティエの声が重なる。
直後、ホイミンの腕に肉体を切り裂く感触が伝わってきた。

(やったか!?)

心の中で叫ぶホイミン。
だが彼はすぐに、無情な現実を認識してしまう。

「あ……」

シャルティエの刃は、たしかにJUDOの首を切り裂いていた。
だが、浅い。その表面を切り裂いただけに過ぎない。

「なるほど、下等生物なりに知恵を絞ったのは褒めてやろう。
 だが、所詮は脆弱な下等生物。根本的に力が足りぬ」

傲岸不遜な言葉を吐きながら、JUDOは右腕に力をこめる。
次の瞬間、爆発的な突風が周囲に吹き荒れた。

「うわああああ!!」

イプシロンの肉体は物理攻撃に強い耐性を持つが、暴風の前にはそれも意味をなさない。
つかんでいた右腕も離してしまい、ホイミンは大きく吹き飛ばされる。
そして吹き飛ばされたのは、すぐ近くにいた承太郎も同じことだった。

「おわあっ!」

承太郎が吹き飛んだ先には、偶然にも新八がいた。
地面への激突を避けようと、承太郎を受け止める新八。
しかし筋肉質な燃堂の肉体はそれなりの重量があり、結局支えきれず下敷きになってしまう。

「すまん、新八。大丈夫か?」
「大丈夫です。僕、これくらいしかできないんで……」

そう口にしながら、新八は悔しさを噛みしめる。
自分は、役に立てないと。
幼い頃から磨き続けた剣術は、この魂に刻まれている。
刀もある。
だがこの体は、剣術を振るうための体ではない。
それでも有象無象のチンピラ程度なら、なんとかなるかもしれない。
しかし今自分たちに敵意を向けている仮面ライダーは、そんな生やさしい相手ではない。
あの男の攻撃を一発でも食らえば、この肉体は死に至る。
新八には、それが理解できてしまっていた。
だから、ただ傍観することしかできなかった。
気の弱いホイミンですら、勇気を振り絞って戦ったというのに。

(せめて……仮面ライダーになることができれば……)

新八がそんなことを考えた、その瞬間。
承太郎のデイパックから、何かがこぼれ落ちた。


475 : DD破壊者/君は悪魔と相乗りできない ◆NIKUcB1AGw :2022/02/22(火) 00:27:00 2M4jEoIU0

(ん? 何だろう、これ)

反射的に、新八はそれを手に取る。
それは、ギリギリ片手に収まるくらいの大きさの、円形の物体であった。
それなりに厚みがあり、何かに例えるのが難しい形状をしている。
強いて言えば、パーツの一部が時計を思わせる程度だろうか。
そして上部には、おぞましい怪物の顔が描かれていた。

(これって……)

シルエットは似ても似つかない。
だが顔に板が刺さったようなデザインとカラーリングは、自分が無意識に「ディケイド」と呼んでいたあの仮面ライダーの最初の姿に似ている気がする。

(ひょっとしてこれを使えば、あいつを止められるんじゃ……)

新八は魅入られたように、「それ」のスイッチに手をかける。
だがその時、背を向けていた承太郎が、ようやく新八の様子がおかしいことに気づいた。

「新八、なぜおまえがそれを持っている。
 すぐに手を離せ」

承太郎は事前に説明書きを読み、「それ」が何かを知っていた。
その支給品の名は、「アナザーディケイドウォッチ」。
仮面ライダーのまがい物、アナザーライダーを生み出すアイテムだ。
アナザーライダーとなった者は高い戦闘力を得る代わりに、理性を失い暴走する危険性を抱える。
それを危惧した承太郎は窮地に陥ってもそれを使うことはなく、存在を仲間に伝えることもなかった。
だが運命のいたずらにより、ウォッチは新八の手に渡ってしまった。

「スイッチを押すな、新八!」

怒号に近い叫びを上げる承太郎だが、その言葉はすでに新八には届いていなかった。
新八は、無言でスイッチを押す。

『ディケイド!』

低い電子音声を響かせたウォッチを、新八は自分の胸に押し当てる。
するとウォッチは、物理法則を無視して彼の体内へと沈み込んでいった。


ここで一度、確認しよう。
アナザーライダーとは、仮面ライダーになるべきではない人間がその力を与えられてしまったことによって生まれる、偽りの仮面ライダーである。
だが新八の精神が宿っているフィリップは、紛れもない仮面ライダーである。
ならば彼の肉体でアナザーウォッチを手にすれば、本来の仮面ライダーになれるのか。
答は、「否」である。
仮面ライダーの変身者であっても、自分が変身すべき仮面ライダーでなければこの場合本物とはならない。

檀黎斗が仮面ライダーオーズになれなかったように。
矢車想が仮面ライダーカブトになれなかったように。

フィリップもまた、仮面ライダーディケイドになることはできない。

「があああああああ!!」

猛獣のごとき雄叫びが、周囲に響く。
その声を発した当人である新八は、もはや人の姿をしていなかった。
悪鬼のごとき形相に、左右に大きく張り出した角。
怪人・アナザーディケイドがそこにいた。

「ほう……」

何やら面白いことになりそうだと事態を静観していたJUDOが、感嘆の声を漏らす。

「その力、我のベルトと元は同じか……。
 もっとも、使いこなせているようには見えぬが。
 それでも、虫けらやアメーバよりは手応えがあろう。かかってくるがいい」

JUDOは悠然と構え、新八の攻撃を待つ。
それに対し、新八は真っ向から突っ込んだ。

「新八!」

承太郎の声も、新八を止めることはない。
新八はそのまま、JUDOに激突する。

「どうした、ただの体当たりで終わりか?
 それでは芸が……」

余裕を持ってそれを受け止めるJUDOだったが、その言葉が途中で途切れる。
彼は気づいたのだ。いつの間にか自分の背後に、オーロラのようなものが出現していることに。

「これは……時空のゆがみか?」
「おおおおおおお!!」

回避に移ろうとするJUDOだったが、時すでに遅し。
新八はJUDOをオーロラの中に押し込み、自分も飛び込む。
二人の姿は忽然と消え失せ、やがてオーロラも消滅した。

「き、消えた!? 承太郎さん、いったい何が起きたの!?」

困惑するホイミンは承太郎に尋ねるが、承太郎はそれに答えない。
ただ、拳を固く握りしめる。

「新八の野郎……。何考えてやがる……」


476 : DD破壊者/君は悪魔と相乗りできない ◆NIKUcB1AGw :2022/02/22(火) 00:27:56 2M4jEoIU0
【午前/E-6 「食酒亭」前】

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:燃堂力@斉木楠雄のΨ難
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(中)、銀髪の男(魔王)への怒り
[装備]:ネズミの速さの外套(クローク・オブ・ラットスピード)@オーバーロード、MP40@ストライクウィッチーズシリーズ
[道具]:基本支給品×2、予備弾倉×2、童磨の首輪
[思考・状況]基本方針:主催を打倒する。
1:新八のやつ、どこに……
2:ホイミンと共に風都タワーに向かう。
3:主催と戦うために首輪を外したい。
4:自分の体の参加者がいた場合、殺し合いに乗っていたら止める。
5:DIOは今度こそぶちのめす。たとえジョセフやジョナサンの身体であっても。
6:銀髪の男(魔王)、半裸の巨漢(志々雄)を警戒。
7:天国……まさかな。
[備考]
※第三部終了直後から参戦です。
※スタンドはスタンド能力者以外にも視認可能です。
※ジョースターの波長に対して反応できません。
※ボンドルドが天国へ行く方法を試してるのではと推測してます。
 またその場合、主催者側にDIOの友が協力or自分の友が捕らえられている、自分とDIOの首輪はダミーの可能性があると推測しています。
※時間停止は現状では2秒が限界のようです。


【ホイミン@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
[身体]:ソリュシャン・イプシロン@オーバーロード
[状態]:健康、魔力消費(小)
[装備]:アンチバリア発生装置@ケロロ軍曹、シャルティエ@テイルズオブデスティニー
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:人間にはなりたいが、そのために誰かを襲うつもりはない。
1:ライアンさんのように、人を守るために戦う。
2:新八くんが消えた!?
[備考]
※参戦時期はライアンの旅に同行した後?人間に生まれ変わる前。
※制限により、『ホイミ』などの回復魔法の効果が下がっています。
※プロフィールから、『ソリュシャン・イプシロン』と彼女の持つ能力、異世界の魔法に関する知識を得ました


477 : DD破壊者/君は悪魔と相乗りできない ◆NIKUcB1AGw :2022/02/22(火) 00:29:02 2M4jEoIU0
数時間前までいろはとリトがいた、風都タワーの展望台。
新八とJUDOは、そこにワープしていた。
この場所が選ばれたのは新八が目的地として強く意識していたからか、あるいは肉体に刻まれたフィリップの記憶の影響か。

「はあ、はあ……」

新八は、際限なく湧き上がってくる破壊衝動を必死で押さえ込んでいた。
「仲間を傷つける敵を倒す」。その思考に集中することで、かろうじて理性を保っている状態だ。

「仲間を守るために、我と自分だけを転移させたか……。
 愚かなことよ。全員でかかれば、多少は勝機があったかもしれぬというのに」
「黙れ! おまえは……おまえは僕が倒す!」

悪意に飲み込まれぬよう声を張り上げながら、新八は刀を構える。
その視界で、JUDOに一瞬白い仮面ライダーが重なり、消えた。
だが今の新八には、それを気にしている余裕もない。

「うおおおお!!」

絶叫と共に、「本物」と「偽物」の戦いが始まった。


【午前/D-4 風都タワー展望台】

【志村新八@銀魂】
[身体]:フィリップ@仮面ライダーW
[状態]:疲労(中)、アナザーディケイドに変身
[装備]:フーの薄刃刀@鋼の錬金術師、アナザーディケイドウォッチ@仮面ライダージオウ
[道具]:基本支給品、ダブルドライバー@仮面ライダーW、T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、新八のメガネ@銀魂、両津勘吉の肉体
[思考・状況]基本方針:主催者を倒す
0:激しい破壊衝動
1:JUDOを倒す
2:神楽ちゃんを探す
3:左翔太郎さんの体も誰か入ってるのか気になる
4:銀さんを殺した相手(魔王)に怒り
[備考]
※メタ知識が制限されています。参戦作品(精神・身体両方)に関しては、現状では「何となく名前に見覚えがある気がする」程度しか分かりません。
こち亀に関してはある程度覚えているようです。
※地球の本棚は現状では使えないようです。今後使えるか、制限が掛けられているかは後続の書き手にお任せします。


【大首領JUDO@仮面ライダーSPIRITS】
[身体]:門矢士@仮面ライダーディケイド
[状態]:負傷(中)、ディケイドアギトに変身
[装備]:ディケイドライバー+ライドブッカ―+アタックライド@仮面ライダーディケイド
[道具]:基本支給品×2(リオン)、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル
[思考・状況]基本方針:優勝を目指す
1:闘争を楽しむ
2:新八を倒す
3:宿儺と次出会ったら、力が戻った・戻ってないどちらせよ殺し合う
4:優勝後は我もこの催しを開いてみるか
[備考]
※参戦時期は、第1部終了時点。
※現在クウガ?アギトのカードが使用可能です。


【支給品紹介】
【アナザーディケイドウォッチ@仮面ライダージオウ】
仮面ライダーの力を持つ怪人、アナザーライダーの一種であるアナザーディケイドに変身するための時計型アイテム。
起動して体内に埋め込むことで変身する。
強いダメージを受ければ体外に排出されることもある。
仮面ライダーディケイドの力を伴う攻撃でないと完全に破壊することは不可能。
アナザーワールドの創造及びダークライダーの召喚、時間移動は制限により使用不可。
オーロラカーテンによるワープは会場内であれば自由に使えるが、ワープする距離に比例して体力を消耗する。


【施設紹介】
【食酒亭@異種族レビュアーズ】
異種混合街に店を構える、宿屋兼酒場。
クリムが従業員として働いており、スタンクたちが拠点として入り浸っている。


478 : ◆NIKUcB1AGw :2022/02/22(火) 00:31:01 2M4jEoIU0
以上で投下終了です
問題がありましたら、指摘お願いします

なおアナザーディケイドウォッチの説明文は、「アナザーカブトウォッチ」から一部流用させていただきました


479 : ◆5IjCIYVjCc :2022/02/22(火) 20:41:52 BJhw/NU20
皆さん投下お疲れ様です。
感想を書かせてもらいます。


>その躍り、誰が為に
キタキタおやじにこんな物悲しい気持ちにさせられるとは思わなかった。
うろ覚えのおあじが辛うじてのコメディ要素の抵抗のように感じました。


>DD破壊者/君は悪魔と相乗りできない
JUDOを風都タワーに連れていったことは、東の街の中にまだ不穏分子が残っていることを考えると、案外悪くない手かもしれません。
ただ、結果的に探していた翔太郎ボディとは離れてしまいましたが。


480 : ◆5IjCIYVjCc :2022/02/22(火) 20:43:46 BJhw/NU20
それから、少しだけ気になった点について指摘させてもらいたいです。


「DD破壊者/君は悪魔と相乗りできない」において承太郎達が入っていったと思われる街の入り口の近くには、吉良(だった二宮飛鳥)の死体が落ちている筈であり、それが未発見だったことが少々気になりました。
ただ、位置がずれていてたまたま見つからなかったという考え方も出来なくはありません。
そのため修正等については、絶対にしてもらいたい訳ではありません。
多少でも、ご一考していただけたらと思いここに書かせてもらいました。
今回は自分も気付くのが遅れたためにこんなタイミングで連絡することになってしまいました。
お手数をおかけしますが、お返事を頂けたら幸いです。


また、ついでになりますが、自作『「鬼殺隊は異常者の集まりだ」by鬼舞辻無惨』の状態表を一部修正したことを報告します。
状態表の備考の欄の文の一部を以下の通りに変更致しました。

※ギニューと鳥束の精神が入れ替わったことに気づきました。

※ギニューと鳥束の精神が入れ替わった可能性を考えています。


481 : ◆NIKUcB1AGw :2022/02/22(火) 21:47:39 2M4jEoIU0
>>480
指摘にお答えいたします。

結論から言いますと、「SSの展開上、特に発見させる必然性がなかったので発見させなかった」ということになります。
過去のSSの描写等から「入口付近」と言っても本当に入ってすぐの場所ではなく、ある程度離れた場所と判断し、
作中では「人のいる形跡はあった」という曖昧な表現にしました。

これで納得していただけましたら幸いです。


482 : ◆5IjCIYVjCc :2022/02/22(火) 22:21:18 BJhw/NU20
>>481

回答ありがとうございます。
死体発見については、この考え方で納得はできました。
今回に関しては私のものの見方が細かすぎたかもしれません。
この度は私の指摘で混乱させてしまったようで申し訳ありませんでした。


483 : ◆ytUSxp038U :2022/02/23(水) 16:27:17 SpNs9yT20
皆様投下乙です。
言動はいつものキタキタおやじなのに、決定的な部分が壊れてしまって悲しい。
お館様が正気を取り戻したらもっと曇りそう。

JUDOディケイドと新八アナディケという、歪な形での本物vs偽物。めーっちゃ(AMN)気になります。
さり気に初変身ながらアギトの能力も使いこなしてるJUDO、強マーダーの風格がひしひしと感じられる。

投下します。


484 : 未完成のアンサー ◆ytUSxp038U :2022/02/23(水) 16:28:34 SpNs9yT20
真っ直ぐ南下した先にある橋を渡ってC-5へ、そこからまた南へ向かい市街地とを繋ぐ橋を渡る。
凛達と別行動を取ったアルフォンスが最初の目的地と決めた施設、風都タワーへのルートがこれだった。
地図を確認した所、風都タワーがある街は湖のど真ん中に位置する。
ここへ行くには街の東と南に掛けられた橋を通過する以外に道は無い。

駆け足で風都タワーを目指すアルフォンスの頭には、先程別れたばかりの面子の顔が浮かぶ。
凛もキャメロットも殺し合いを良しとしない善人だ。
彼女達なら産屋敷(無惨)の事も無下に扱う真似はしないはず。
バリーは完全に信用こそ出来ないものの、今の所は協力的な姿勢を見せている。
だがこの先も凛達のような者にばかり会う、とはいかないだろう。
村で放送を行った、凛達を襲ったという弓兵のような危険人物が島の至る所で獲物を今か今かと待ちわびている。
そういった者の標的にアルフォンスが選ばれない保障は皆無。
今こうして移動している真っ最中に、突然襲われる可能性とて有り得るのだ。

もし襲われたなら当然戦う気ではいる。
身体が変わっても錬金術の使用に支障はない、この点は有難い事だ。
代わりに、痛みや疲れとは無縁の鎧の身体では無い点に注意して立ち回らねばならないが。

しかし戦う為の力があるとはいえ、危険人物とは会わない事をアルフォンスは願う。
非暴力主義だからとかそんな理由ではなく、現在の肉体がどんな反応をするかが不安だからだ。
今も尚空腹を訴え続ける千翼の身体。
戦闘行為により更に空腹が加速した結果、一体何が起こるのか分からない。
アマゾンという人喰い生物の本能に思考を塗り替えられ、食欲を満たす為だけに暴れ回るのだろうか。
一度そうなってしまえば、自我を取り戻せるかどうかも不明。
千翼はアマゾンである確かな証拠がある訳ではないが、大丈夫だと楽観視するには不安要素が大き過ぎる。

尤も、自分自身への不安を理由に投げ出す気は一切ない。
先程凛に言われたばかりだ、諦めることだけはするなと。
精神的に安定してはいないが、その言葉だけでも十分支えになった。
自らへの危惧はあれど、やれる事をやって抗うのだ。兄と共に体を取り戻す旅をした時のように。

(千翼は…どうしてたんだろう)

自分はこの地でも誰かに支えて貰っている。
その事実を噛み締めたからだろうか、身体の持ち主にもそういった人物が居たのかがふと気になった。
支給されたプロフィールに書かれた事はそう多くない。
そんな中でも千翼と関係がある人物の名は幾つか記載されていた。
友人関係にあるらしい長瀬裕樹という少年、千翼が恋心を抱くイユという少女、そして実の父である鷹山仁。
彼らと具体的にどんな形で交流していたかまでは記されていなかったが、少なくとも千翼は孤独では無かったのだろう。
千翼が自らの肉体が抱える問題に悩んでいた時、彼らが支えになったのだろうか。
答えを知る術は無いが、そうであって欲しいと想う。

川沿いに移動を続けどれくらい経過した頃だろうか。
ようやっと橋が見えてきた時、誰かが歩いているのが目に入った。

目を凝らしてみれば、それは女だ。
明るい色の髪に肌面積の広い恰好をした女が橋を渡って来る。
女に話しかけるかどうか僅かな思案、その間に女の方はアルフォンスに気付き足を止め視線を寄越す。
驚きと警戒の混じった瞳、だが敵意は存在しない。
だったら多分大丈夫な筈と意を決して女へ近づき、こちらも敵意が無い事をアピールした。


485 : 未完成のアンサー ◆ytUSxp038U :2022/02/23(水) 16:29:48 SpNs9yT20



「ポケモン…?合成獣(キメラ)とは違うの?」
「私もよくは分かんないアル。そういう生き物がいるって事だけ分かっとけばいいネ」

特に大きないざこざも無く、互いに殺し合いには乗っていないと確認した二人。
アルフォンスと、オレンジ髪の女…神楽はこれまでの経緯について情報を交換し合っていた。
どちらも目的地へ急ぐ身なれど、新しく情報を得る事の重要さも理解している。

「そんな大雑把で良いのかなぁ…」
「良いに決まってるアル。器と玉の小さい男とだけは結婚するなって姉御も言ってたヨ」
「そ、そうなんだ……」

曖昧な笑みを浮かべつつ、神楽から齎された情報を頭の中で纏める。

今は別行動を取っているが、殺し合いを止める志を共有する伊藤開司ら仲間のこと。
メタモンという殺し合いに乗ったポケモン。何とホムンクルスのエンヴィーと同じく他者への変身能力を持っているらしい。
更には剣やベルトなどの特殊な道具を用いて超人的な力を得る、仮面ライダーなる戦士。
件のメタモンもまた、変身能力とは別に仮面ライダーになる剣を手にしている。
ついさっき神楽と康一を襲った、巨大な虫のような参加者。

信頼できる者と警戒すべき者。
彼らと遭遇した際に素早く行動へ移せるよう、しっかりと刻んでおく。

凛達以外にもこうして殺し合いを止めるべく奔走する者を知れたのは心強い。
だがその反対、殺し合いへ積極的な者も複数いるというのはやはり気分の良いものではなかった。
それに神楽が話したメタモン、その変身した外見にはアルフォンスも聞き覚えがある。
確か放送前にバリーが命辛々逃げて来た相手の見た目と、特徴が一致する。
殺人鬼であれど手練れのバリーを退け、既に一人を殺しているメタモンには要注意が必要なようだ。

神楽の話が終わると、今度は自分の持つ情報を開示する。
遠坂凛を始めとする参加者と出会い、今は別行動を取り行動していると。
その際バリーが元は殺人鬼だという事は伏せておく。
幾ら凛達に協力的とはいえ、元の素性を知らされれば当然警戒されるに決まっている。
万が一の時を考えて、キャメロットにだけバリーの事を伝えておいたのだ。
あれやこれやと言い触らして回れば、バリーだけでなく一緒に居る凛達まで余計な警戒をされてしまうかもしれない。
そんな状況はアルフォンスとて望むものではない。

「分かったネ。じゃあもしそいつらに会ったら、アルフォンスの名前を出せば大丈夫カ?」
「うん。こっちも伊藤さん達を見つけたら、神楽さんと会ったって伝えておくよ」

互いの目指す場所は異なる為、同行はしない。
神楽としては新八の居場所を知る事が出来なかったのは残念ではあるものの、無意味な邂逅では無かった。


486 : 未完成のアンサー ◆ytUSxp038U :2022/02/23(水) 16:31:14 SpNs9yT20
「あと、さっきの放送の事で聞いときたい事があるネ」
「何か気になる事でもあったの?」
「そうじゃないアル。……後半の内容をほとんど聞いて無かったから、何を言ってたか知りたいだけヨ」

神楽へ理由を尋ねてみれば、仲間の名前が死亡者として読み上げられ、そのショックで放送の内容がほとんど頭に入って来なかったとのこと。

「ごめん…」
「別にお前が謝る事じゃ無いネ。私なら大丈夫アル」

表情に影が差した神楽へ、軽率な質問だったとアルフォンスは頭を下げる。
けれど神楽の返事はあっさりとしたものだ。
未だ銀時の死を完全に乗り越えられた訳では無いが、康一と交わした言葉の影響もあり、取り乱したり深く沈み込むような事態にはならなかった。
そうしてアルフォンスから告げられたのは、地図に関する補足と、精神と肉体の組み合わせを記した名簿の配布。
前者は康一から聞いていたが、後者を手に入れる方法は初耳。
組み合わせ名簿が手に入れば新八が誰の身体になっているのか、自分達の身体が誰のものになっているかを把握出来る。
だが名簿を手に入れる資格があるのは、既に参加者を殺した者のみだと言う。
神楽の中で、元々抱いていたボンドルド達への怒りが更に増したのは記すまでもない。

これで必要な事は話し終えたかと神楽が思った時、アルフォンスがふと首を傾げる。

「あっ、待って神楽さん。康一さんが虫みたいな参加者を追って行ったのって、どっちの方向?」

唐突な質問に多少の困惑を抱きつつも、素直に答える。
神楽の返答を聞いたアルフォンスは、途端に渋い顔になった。

「どうしたネアルフォンス。二日酔いの時の銀ちゃんみたいな顔になってるヨ」
「今の僕そんな顔なんだ…。いやそれより、神楽さんはここから北東にある村で放送があったの知ってる?」
「放送?あのボンマリアージュのじゃないアルか?」
「……あっ、ボンドルドの事か。いや、そっちじゃなくて…」

自分と産屋敷(無惨)、そしてより詳しく凛達が聞いた放送の事を説明する。
アルフォンスは直接の面識が無いが、凛とキャメロットを襲った危険な参加者。
その者が他の参加者をおびき寄せるべく行った放送。
凛が言っていたが、普通の参加者は警戒して近付かないか、万全の準備をした上で向かうはず。
しかし少々マズい事に、康一が巨大な虫を追いかけて向かったのはあの村の近く。
もしかしたら追跡している内に村へと入ってしまい、キャメロット達を襲った者と鉢合わせになるかもしれない。

案の定、それを聞いた神楽の顔には不安が浮かぶ。
カイジの時から仲間が単独行動を取るのには反対であった。
それでもさっきは巨大な虫を放って置いたら新八に危害が及ぶかもしれないという危惧、負の感情に支配された自分が追っては吉原の時のように暴走してしまう事への理解、スタンド使いとして戦い慣れていると言う康一への信頼、それらがあったから自分の代わりに虫を追うという提案を受け入れた。
だがここに来て齎された情報に、やはりそれは間違いだったのではという考えがよぎる。
村で放送を行ったのが具体的にどれくらいの力を持つかは知らない。
しかし自分から参加者を呼び寄せるくらいだ、相当腕には自信があるのだろう。
巨大な虫だけでなくそんな相手ともかち合ってしまったら、幾らスタンドと巨人の力を持つ康一でも危険ではないか?


487 : 未完成のアンサー ◆ytUSxp038U :2022/02/23(水) 16:32:13 SpNs9yT20
「神楽さん……」
「……大丈夫ネ。康一は少なくとも今の私より強いアル。もしかしたら村に着くより先にあの虫へ追いついてしばき倒すかもしれないヨ。
 そしたらわざわざ村まで行かないで、私を追って病院まで来るはずアル。それに危ないと思ったらすぐに逃げるように言っといたネ」

心配そうなアルフォンスに笑みを向ける神楽。
彼女の中には今からでも康一を追いかけるという選択肢が無い訳ではない。
けどそれは、メタモンに襲われた時に別行動を取ったカイジの焼き直しではないか。
本来ならば自分達は三人で病院へ行き治療手段を確保している筈だった。
それがどうだ。メタモンや巨大な虫との遭遇、定時放送で銀時の死の発表など幾つもの想定外の事態に遭い、チームは全員が別行動を取っている。
自由人気質な神楽と言えども、いい加減当初の目的地へちゃんと行くべきではないかという考えが存在した。
おまけに康一は神楽を信頼して水勢剣流水を託し、病院の方は頼んだと言ってくれたばかりだ。
その信頼に応える意味でも、自分は病院へ真っ直ぐに向かうべきという思いも強くある。

アルフォンスに康一の様子を見てきて欲しいと頼む手もあるにはある。
が、アルフォンスにだって目指す施設があるというのに、危険な場所へ送り込むのは流石に躊躇するというもの。
だからここは康一を信じ、自分は病院へ向かうと決めた。

その旨をアルフォンスへ言ったら、何故か顎に手を当て考え込む姿勢を取る。
自分の中で思考が纏まったのか、ややあって口を開いた。

「神楽さん。ちょっと気になる事があるんだけど」
「何ネ?急に改まって」

真剣な表情でアルフォンスは疑問を口にする。

「神楽さん達を襲ったって言う虫、誰かと一緒じゃなかったんだよね?」
「ああ、周りには他に誰もいなかったアルな」
「その虫、人間の言葉を話したりもしてなかったの?」
「変な鳴き声なら何回かしてたネ」

何故そんな事を聞くのか。
質問の意図が読めず眉を寄せる神楽へ、アルフォンスが自身の答えを示す。
但しそれは、神楽にとってそう簡単に受け入れられる内容では無かった。

「もしかしたら、の話なんだけどね。神楽さん達を襲ったって言う虫、本当は殺し合いに乗ってない可能性もあるんじゃないかって思ったんだ」
「なっ……」

予期せぬ言葉にほんの一瞬だけ頭が真っ白になった。
だがすぐに反論が口から飛び出す。

「何馬鹿な事言い出すアルか!アイツはいきなり私と康一を殺そうとして来やがった奴ヨ!」

思考復旧早々、アルフォンスの言葉に対して浮かんだのは怒り。
突然姿を見せたかと思えば神楽へ攻撃を仕掛けた虫を、何故庇うような事を言うのか。
銀時は死んだのにあんな危険な参加者は生きている。
仲間の死へ涙を流す時間すらも奪おうとした虫への怒りが、アルフォンスの言葉により再熱した。

神楽の怒りを真正面から受けつつも、アルフォンスは慌てて弁解せず冷静に話を続ける。
どうやらこちらも自分の意見を撤回するつもりは無いようだ。


488 : 未完成のアンサー ◆ytUSxp038U :2022/02/23(水) 16:33:22 SpNs9yT20
「うん、どんな理由があっても神楽さん達を襲ったのは許される事じゃ無い。それは間違いないよ」
「だったら!」
「けどね、思い出してみて神楽さん。僕たちが全然違う人間の体になってるように、神楽さんを襲った参加者も、望んで虫の身体になった訳じゃない」

冷水を浴びせられたというのは、正にこの事だろう。
怒りに眉を吊り上げていた神楽は両目を見開き、思わず息を呑む。
その様子に、責めるつもりはないと言ったうえで更にアルフォンスは続ける。

「殺し合いが始まって6時間以上が経ってる。
 なのに誰とも一緒じゃなかったっていう事は、誰にも会えなかったか、或いは殺し合いに乗った人にしか会えなくて必死に逃げて来たか。
 どっちにしても、凄い恐怖だったはずだよ」

恐怖。その言葉に神楽は康一を思い出す。
何の前触れもなく殺し合いに参加させられ、動揺したまま巨人化を試してしまった結果、彼は暴走した。
最初に出会ったのがロビンだったのは康一にとって幸運だったろう。
手遅れと見なして殺すのでなく、打つ手なしと放置するのでもない、会ったばかりの少年をどうにか元に戻そうとしてくれたのだから。
康一自身が言っていた、暴走している間は悪夢を見ているようだったと。
その悪夢から抜け出せたのは、ロビン、カイジ、神楽が康一を助けようと働きかけたからだ。
けれど、幸運な者がいれば反対に不幸に見舞われる者もまた存在する。
あの虫にはそういった者が現れなかったのかもしれない。

「虫の体になったせいで人の言葉を話せなくなったなら、助けを求める事も難しいはず。
 外見で警戒されて、自分の気持ちを言葉で伝えられないのって辛かったと思う。。
 つい昨日まで普通に喋っていたのが急に出来なくなるんだから、不安じゃないはずが無い」

アルフォンスの言葉に、どこか納得している自分がいるのが神楽には分かった。
ついさっきまで普通に行えていた移動、会話、食事。
それら全てが全く別の生物へと変化してしまったら、恐怖以外の何物でもない。
自分はナミという人間の体に精神を閉じ込められた。
だがもしかしたら、何かの切っ掛け一つで自分があの虫の体になっていたかもしれない。
その可能性を考えるとゾッとする話だ。

「勿論、虫の体になってる人は悪党で、殺し合いにも進んで乗ってるって可能性もある。だけど、そうじゃないかもしれない」

悪党じゃなかったら。それが何を意味するのかは、神楽にだって分かる。
誰も助けてくれず、誰にも助けを求められず、そんな状態で精神を平常に保つなど無理難題にも程がある。
自分達を襲った時の、あの甲高い虫の鳴き声。もしかするとあれは慟哭だったのだろうか。
誰にも手を差し伸べられず、それでも死にたくないという叫びなのか。

「……」

自分が自分じゃなくなる恐怖は、神楽自身も理解している。
嘗ての吉原での戦いが否応なしに蘇った。


489 : 未完成のアンサー ◆ytUSxp038U :2022/02/23(水) 16:34:08 SpNs9yT20



アルフォンスとの情報交換を終え、今度こそ神楽は病院へと向かう。
ただその足取りは、康一と別れた時に比べ重くなっている。
自分達を襲った巨大な虫。
もしアイツがアルフォンスが推測した通り、恐怖に翻弄されただけの、ボンドルドの被害者に過ぎないのだとしたら。
自分は間違いを犯してしまったのではないか。
あの虫は、有り得たかもしれない自分の姿。夜兎の血に呑まれ、誰からも受け入れる事の無かった自分。
暗闇の中で一人ぼっち、自分が自分じゃなくなる恐怖に苛まれている。
そんな相手を、よりにもよって自分は更に追い詰めるような真似をしてしまった。
飛躍し過ぎかもしれないが、神楽はもうあの虫をただの危険な参加者とは思えなくなっていた。

アルフォンスはあくまで可能性の話とも言っていたが、その可能性が当たっているかもしれないじゃあないか。

「……」

ふと隣を見ても、そこには誰もいない。
天パの侍も、メガネのツッコミ役も、巨大な愛犬もどこいもいない。
この地で出会った仲間達とも、今は全員と別行動中。

独りは寂しくて死んでしまうなんて馬鹿げた事を言うつもりは無い。
なのにどうしてか、心にポッカリと穴が開いたようだ。

余計な事を考えると更に気が重くなりそうだから、前だけを見て無理矢理に足を速める。

それでも、自分の隣に誰も居ない事実が無性に悲しかった。


【D-4 草原/午前】

【神楽@銀魂】
[身体]:ナミ@ONE PIECE
[状態]:ダメージ(小)、膝に擦り傷、銀時の死による深い悲しみと動揺(少しずつ落ち着き始めている)、精神的疲労(中)
[装備]:魔法の天候棒@ONEPIECE
[道具]:基本支給品、仮面ライダーブレイズファンタステックライオン変身セット@仮面ライダーセイバー、スペクター激昂戦記ワンダーライドブック@仮面ライダーセイバー
[思考・状況]基本方針:殺し合いなんてぶっ壊してみせるネ
1:カイジ、康一、気を付けていけヨ
2:早く病院に行って、悪党どもにめちゃくちゃにされるのを防がなくちゃネ
3:メタモンの野郎…今度会ったらただじゃおかないネ
4:あの虫(グレーテ)は……
5:新八、今会いに行くアル、絶対生きてろヨ、銀ちゃんの身体もな
6:私の身体、無事でいて欲しいけど…ロビンちゃんの話を聞く限り駄目そうアルな
7:銀ちゃんを殺した奴は絶対に許さないネ
[備考]
※時系列は将軍暗殺編直前です
※ナミの身体の参戦時期は新世界編以降のものとします。
※【モナド@大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL】は消えました。カメラが破壊・消滅したとしても元に戻ることはありません。
※仮面ライダーブレイズへの変身資格を受け継ぎました。
※放送の内容は後半部分をほとんど聞き逃しましたが、アルフォンスから教えてもらいました。
※アルフォンスからダグバの放送が起きた事を聞きました。


490 : 未完成のアンサー ◆ytUSxp038U :2022/02/23(水) 16:35:08 SpNs9yT20
◆◆◆


悪い事をしたかもしれない。
遠ざかる神楽の背中を見送り、アルフォンスはそう思う。

彼女の様子は最初に自分と遭遇した時よりも、意気消沈しているように見える。
原因が何かと言えば、間違いなく自分の言葉だろう。
そう考えると胸がチクリと痛む。
しかし、それでも神楽の話を聞いて巨大な虫を一方的に悪と断ずるのには、どうしても異論があった。

産屋敷(無惨)と最初に出会った時の光景を思い出す。
ミーティの身体となり移動もままならず、こちらを見つけた際には必死に爪を振るって近寄らせまいとしていた。
彼と同じような被害に遭った参加者が他にいないとは言い切れず、そう考えると巨大な虫もまた産屋敷(無惨)と同様に苦しんでいたのではないか。
違うのは、巨大な虫には助けとなる者が現れなかったこと。
身体を異形に変えられるという恐怖に苛まれたまま時間だけが過ぎて行き、我を忘れて凶行へと走ったのかもしれない。
絶対にそうだと言い切るつもりは無いが、そういう可能性があるとだけは知っておいて欲しかった。

自分の身体が人間のものでは無くなる。そんな悲劇をエルリック兄弟は幾つも目の当たりにして来た。
弟の魂を繋ぎ止めるべく錬金術を行使したエドワードと違い、身勝手な研究の犠牲になった者達の姿は今でも瞼に焼き付いている。
何も知らずに愛犬諸共合成獣(キメラ)へ錬成させられた少女。
どこか自暴自棄な態度ながらも、本心では人間に戻る事を望んでいる軍人。
彼らと言う存在を知っているからだろう。
神楽の話でしか知らないその巨大な虫を気に掛けているのは。

とはいえやはり神楽に暗い顔をさせてしまったのは申し訳ない。
可能ならば自分も同行しフォローしたが、彼女とは目的地が別方向。
何より暴走の危険があるから単独行動を取っているのだから、やはり神楽とは一緒に行けない。

神楽への心配を残したまま、アルフォンスは別の方へと考えを回す。
情報交換で聞いた仮面ライダーなる存在のこと。
様々な道具を用いて姿を変えるらしく、中にはベルトもあるのだと言う。
そこで思い出したのだ、確か自分の支給品にも用途不明のベルトが入っていた事を。

「…うん、やっぱりセンスは悪いかな」

デイパックから取り出したベルトをまじまじと見つめ、率直な感想を呟く。
それはともかく、これも神楽が言っていた仮面ライダーに変身する為の道具なのだろうか。
だが千翼のプロフィールに仮面ライダーなんて言葉は全く記載されていなかった。
となると違うのか?しかし主催者が何の意味も無く、こんな奇妙なデザインのベルトを渡すのか?
せめてベルトに関する説明書でも入っていれば良いものを。

「うーん……」

暫し悩んだ末、一応ベルトを装着してみる事にした。
似たデザインの腕輪と同じく得体の知れない為、放置しておこうと言うのが殺し合い開始当初の考えだった。
が、神楽の話を聞いた後だとどうにも気になる心を止められない。
危ないと感じたらすぐに外そう。そう決めてベルトを腰に巻いてみる。


491 : 未完成のアンサー ◆ytUSxp038U :2022/02/23(水) 16:36:29 SpNs9yT20



異変はすぐに起きた。



「――――」

地面に少女が倒れている。
血を流し、ゾッとするくらいに白い肌をしてピクリとも動かない。
アルフォンスの知らない少女だ。なのにどうしてか、心が引き裂かれるように悲しい。

目の前に二人の男がいた。
二人とも両目には紛れも無い殺意が宿っている。
なのに片方は酷く辛そうで、もう片方はどこか慈しむような雰囲気があった。

――『溶原性細胞は危険過ぎる…。君でも、コントロールできないくらいに……』

――『俺が送ってやる。母さんの所に』

言葉の意味は分からない。
だが何故だろうか、二人の男の姿を見た途端、アルフォンスの手は自然とベルトへ伸びた。
それは生物としての本能。
死にたくないから我が身を守る。いや違う。
もっと単純に、生きたいから。
生きていたいから戦う、戦って自分の生を掴み取る意思。

バックル部分にある注射器らしき部品。
それを起こし押し込めば、ジュグリジュグリと生々しい音を立て液体が流れ込む。

それから次は、次に言うべきは――


――『…アマゾン』

――『アマゾンッ!!』

「――――アマゾン」

『NEO』

溢れ出した水蒸気が、一瞬にして爆風と化した。
鮮やかな緑の草と、小さくも懸命に自己主張する花々が消し飛ぶ。
焼き潰された地面は彼の存在を拒絶するかのよう。
青い、機械のような装甲で全身を覆った怪人が立っていた。

「――っ。」

姿を変えたのと同じタイミングで、アルフォンスも勝機を取り戻したかのように顔を上げる。

(今のは……)

何だったのだろうか。
知らない人たちが周りにいて、だけどどうしようもなく心を揺さぶられた。
お世辞にも良い光景とは言えない。
なのに何故だろうか。不思議とあの場に悪人なんてのは一人も居なかったとは分かる。
ああもう理解している。自分が見たのは、肉体の記憶とでも言うべきもの。
千翼の記憶、それに間違いない。

「……」

そっと川に近付き、水面に映った自分の姿を確認する。
青い装甲を纏った怪人が、黄色い瞳で見つめ返して来た。


492 : 未完成のアンサー ◆ytUSxp038U :2022/02/23(水) 16:37:32 SpNs9yT20
分からない事が一気に増えた。
何故急に千翼の記憶を見たのか。あれは一体どういう状況で、千翼に何が起きたのか。
この姿が仮面ライダーというものなのか。確か千翼はアマゾンを狩っていたらしい。ではこの姿で狩っていたのか。
分からない、分からないが一つ確かな事は

「体が軽い…」

この姿は見掛け倒しでは無いらしい。
自分の拳を握ってみたり、軽くその場でジャンプしてみる。
ただそれだけの動作だが不思議と身体能力が大きく上昇していると、感覚で理解した。
良い事、だと思う。
身体能力が上がっているのなら、その分早く移動が可能。
風都タワーを始めとする施設の探索もよりスムーズに行える。
取り敢えず、仮面ライダー(仮)に変身した価値はあったと見て良いだろう。

ではこのまま風都タワーへ出発といきたい所だが、もう一つ気になる場所がある。
神楽の仲間である康一と、追われている真っ最中の巨大な虫。
彼らを追いかけるべきか否か、ここに来て迷いが生まれた。
康一はスタンドなる特殊な能力の持ち主であり、戦う力は持ち合わせているらしい。
そんな彼でももし村にいる危険人物、キャメロットが倒し損ねた相手と蜂会う事態となれば絶対に大丈夫とは言えない。
心配なのは巨大な虫の方もだ。
もしも虫が自分の推測通り精神的に錯乱しているだけであり、そうとは気付かず康一に殺されるような可能性も有り得なくはない。
だったら今からでも康一らを追いかけ、村に近付かないよう警告、そして巨大な虫へ対処した方が良いのかもしれない。
しかしアルフォンスは自身の肉体の暴走を危惧しており、もし康一達との接触が原因で悪い方向に転がってしまったら元も子も無いではないか。
巨大な虫が未だ恐慌状態である以上、言葉だけで大人しくなるとは残念ながら言えないのだから。

直接の面識は無いが、神楽が信じた康一を自分も信じて凛から頼まれた通り風都タワーへ急ぐか。
或いは康一への警告と巨大な虫への対処を一度優先させ、彼らを追いかけるか。

選べる選択肢は一つであり、時間は有限。
どちらへ行くべきか悩むアルフォンスを嘲笑うかのように、また腹の虫が鳴った。


【C-4 橋/午前】

【アルフォンス・エルリック@鋼の錬金術師】
[身体]:千翼@仮面ライダーアマゾンズ
[状態]:空腹感、自分自身への不安、アマゾンネオに変身中
[装備]:ネオアマゾンズレジスター@仮面ライダーアマゾンズ、ネオアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]基本方針:元の体には戻りたいが、殺し合うつもりはない
1:風都タワーへ行くか、康一さん達を追うか……。
2:遠坂さんに頼まれた地図上の施設を巡る。空腹には十分気を付けないと。
3:ミーティ(無惨)に入った精神の持ち主と、元々のミーティを元の身体に戻してあげたい。精神が殺し合いに乗っている可能性も考慮し、一応警戒しておく。
4:殺し合いに乗っていない人がいたら協力したい。
5:バリーは多分大丈夫だろうけど、警戒はしておく。
6:もしこの空腹に耐えられなくなったら…
7:千翼はアマゾン…?それにあの記憶は…?
8:一応ミーティの肉体も調べたいけど、少し待った方がいいかも。
9:機械に強い人を探す。
[備考]
※参戦時期は少なくともジェルソ、ザンパノ(体をキメラにされた軍人さん)が仲間になって以降です。
※ミーティを合成獣だと思っています。
※千翼はアマゾンではないのかと強く疑いを抱いています。
※支給された身体の持ち主のプロフィールにはアマゾンの詳しい生態、千翼の正体に関する情報は書かれていません。
※千翼同様、通常の食事を取ろうとすると激しい拒否感が現れるようです。
※無惨の名を「産屋敷耀哉」と思っています。
※首輪に錬金術を使おうとすると無効化されるようです。
※ダグバの放送を聞き取りました。(遠坂経由で)
※Fate/stay nightの世界観および聖杯戦争について知りました。
※千翼の記憶を断片的に見ました。


493 : ◆ytUSxp038U :2022/02/23(水) 16:38:11 SpNs9yT20
投下終了です。


494 : ◆5IjCIYVjCc :2022/02/23(水) 18:28:28 aI0SNbMk0
投下お疲れ様です。感想を書かせてもらいます。

>未完成のアンサー
グレーテに関して、アルフォンスの意見で神楽も冷静に見られるようになりましたか。
アルフォンスなら気づけるかもとは思ってましたが、結果として神楽の精神はより不安定になってしまいましたが。
前話の新八のこともあり、銀魂勢への追い詰めがより進んできた感じがします。
そのアルフォンスはどっちに向かうか迷う結果となりましたか。
それぞれの場所での状況を考えると、どう転んでも波乱が起きる予感しかしません。


495 : ◆OmtW54r7Tc :2022/02/26(土) 08:37:54 ZqZWhObQ0
ゲリラ投下します


496 : 犬飼ミチルの謎 ◆OmtW54r7Tc :2022/02/26(土) 08:38:52 ZqZWhObQ0
「よ、戻ったぜ」

席を外していたエボルトが戻ってきた。
その手には、沢山のデイパックがあった。

「デイパック、回収してきたぞ」
「すまないな、エボルト」

ルブランの屋根裏部屋で襲ってきたアーマージャックに対応するため、ミチルはデイパックを放置状態だった。
故に、エボルトに取ってもらってきたのだ。
これは後でミチルに返すとしよう。

「…でだ、そっちの新顔、ミチルって言ったか」
「ああ、シロの身体の本来の持ち主だ」

言いながら、蓮はチラリとしんのすけを見る。

「変な髪のお兄さん…」

しんのすけは、眠っているミチルを見ていた。
彼女の肉体はつい先ほど失われており、その原因は…しんのすけの飼い犬、つい先ほど太陽の光で消滅したシロにあるのだ。
少なからず、責任を感じているのかもしれない。

「蓮、話ときたいことがある。ちょっとこっちに来てくれ」
「ここじゃだめなのか?」
「ああ…ちょっとな」

そういってエボルトは、ミチルの方に目をやった。
…どうやら、彼女に聞かせたくない話らしい。

「分かった…じゃあしんのすけ、ミチルとここで待っててくれ」
「仲間外れなんてずるいぞ!オラも行く!」

ついてこようとするしんのすけに、蓮はフッと笑みを浮かべると、言った。


497 : 犬飼ミチルの謎 ◆OmtW54r7Tc :2022/02/26(土) 08:39:45 ZqZWhObQ0
「それは違うぞ、しんのすけ。仲間として信頼してるからこそ、お前にミチルを任せるんだ」
「お、おう…?オラが変な髪のお兄さんをお助けするってこと?」
「そうだ、今のしんのすけなら、任せることができるって思ってる」
「い、いやあ、それほどでもあるぞ」

顔を伏せた特有の笑みを見せながら、しんのすけは照れる。
蓮が語った言葉は、まぎれもない本心だ。
少し前までは、しんのすけのことは保護対象という印象がどうしても強かった。
しかし、アーマージャックとの戦いを経て、蓮は彼を共に戦う戦友として、認めたのだ。
蓮はしんのすけに手を差し出す。
意図を察したしんのすけが、その手を握る。

「任せたぞ、しんのすけ」
「うー、ラジャー!」

―――我は汝……汝は我……

―――汝、ここに新たなる契りを得たり

―――契りは即ち、 囚われを破らんとする反逆の翼なり

―――我、「太陽」のペルソナの生誕に祝福の風を得たり

―――自由へと至る、更なる力とならん……


太陽のペルソナ「ケツアルカトル」を獲得しました。


(『ケツ』アルカトル…いや、そんな理由でこのペルソナが発現したわけではないと思うが)

ケツアルカトル…疾風属性の技を多く備えたペルソナだ。


―嵐を呼ぶ園児


何故だか、そんな言葉が頭に浮かんだ。


498 : 犬飼ミチルの謎 ◆OmtW54r7Tc :2022/02/26(土) 08:40:23 ZqZWhObQ0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

「…というわけで、オラが変な髪のお兄さんをお守りしてたんだぞ!」
「そうだったんですね、ありがとうございます」

蓮とエボルトが席を外したすぐ後、犬飼ミチルは目を覚ましていた。
そして、蓮がいない理由をしんのすけがミチルに説明をしていた。

「…しんのすけしゃん、ごめんなさい。私がちゃんと止められなかったから…シロちゃんは…」

拘束を解き、しんのすけのもとへ向かうシロを、ミチルは止められなかった。
その結果、シロは太陽にさらされ、死んだ。

「謝るのはオラの方だぞ。だって、お兄さんの身体…シロが消えちゃったから…」
「…そうですね、私の身体なくなっちゃったんですよね」
「…ごめん」
「しんのすけしゃんが謝ることじゃないです。それに、身体がなくなったとしても、私はここにいます。ここにまだ、生きてるんですから。希望は捨てたくないです」
「変な髪のお兄さん…」
「…あの、その呼び方、この身体の持ち主があまり好きじゃないみたいなので、できれば名前で呼んでほしいです」

プロフィールによれば、この肉体の東方仗助は髪をけなされると激しく怒るらしく。
実は、先ほど気絶した時にその記憶をミチルは見ていた。…かなり怖かった。
だから、仗助への配慮もあり、呼び方を変えてほしい所だった。

「じゃあ…ミチルちゃん?」
「はい、それでお願いします」


499 : 犬飼ミチルの謎 ◆OmtW54r7Tc :2022/02/26(土) 08:41:22 ZqZWhObQ0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

「それで、話ってなんだ、エボルト」
「俺はあの犬っころの荷物を預かってた、そしてその中身も当然見てる」

そういうとエボルトは取り出した。
犬飼ミチルの肉体プロフィールを。

「そいつを読んでみな」
「女の子のプロフィールを読むってのはあまり気乗りがしないな…」

多少躊躇しつつ、受け取ったミチルの肉体プロフィールを読む。

「なっ!?推定殺害人数15万人!?」

出てきた情報に驚きつつ、プロフィールをじっくりと読む。
やがて、蓮はしっかり読み終えるとエボルトに返す。

「それで、お前はこれを読んでどう思った?」
「推定殺害人数以外に、気になったことがある。…このプロフィール、性格に関する記述が不自然なほどにない」

蓮が持つ左翔太郎のプロフィールには、彼がどういう人格の持ち主なのかについて記述があった。
しかし…犬飼ミチルのプロフィールにはそれがなかった。

「ちなみにエボルト、お前の肉体のプロフィールはどうだ?」
「そうだな、俺のにも桑山千雪がどういう性格なのかって記述はしっかりとあったな」
「おそらく性格の記述はほとんどの参加者にあるものなんだろうな。しかしミチルのプロフィールにはそれがない」
「ふむ…それについてお前はどういう考えだ?」
「俺がミチル本人と話をして感じた彼女の性格と照らし合わせると…おそらくだが、性格の記述をしてしまうことで、この推定殺害人数の記述と齟齬が生じると感じたんじゃないかって思う。だから意図的に性格の記述を隠した」

蓮たちは知らないが、鬼になる前のシロはミチルを殺人鬼と誤解していた。
しかし、もし性格に関して記述があったなら、そのような誤解はしなかっただろう。

「なるほどな。だがそうすると、逆に言えば、この推定殺害人数という記述が嘘ではないということになるんじゃないか」

エボルトの指摘に蓮は顔をしかめる。
そうなのだ。
この推定殺害人数15万人という記述は、少なくともまるっきりの嘘ではない。
何故なら、プロフィールに嘘を仕込むことが可能ならば、性格の記述を削除せずとも、嘘の性格を記述すればいいからだ。
そうなると、この推定殺害人数の記述は…


500 : 犬飼ミチルの謎 ◆OmtW54r7Tc :2022/02/26(土) 08:42:30 ZqZWhObQ0
「冤罪、だろうな」

冤罪。
それは蓮自身も苦い思い出がある。
自分は、女性を助けるために男を殴った。
その結果…犯罪者の汚名を被った。
真実がどうであろうと…世間の人間にとって自分は暴力事件を起こした恐ろしい犯罪者であり、それが彼らにとっての真実なのだ。
そして彼らは、そんな犯罪者に恐ろしい想像を抱き、ありもしないレッテル、罪状を突きつけてくるのだ。
ミチルのこの記述は、少々極端ではあるものの、そういう類のものなのではないかというのが、蓮の見解だった。

「あくまであいつの肩を持つってか。お人好しだねえ」
「そもそもミチルの能力からして、これだけの人数を殺しているのは非現実的だろう」

舐めた部位を治療し、代償として寿命が縮む。
回復能力でどう殺すのか…というのは先ほど見たクレイジーダイヤモンドの戦闘への応用方からまるっきり不可能とはいえないが、それでも15万人も殺していたら寿命なんてとっくに足りなくなっているだろう。
フィジカルが異様に強いならともかく、そんな記述もないし。

「実は吸血鬼で、人の生き血を吸って寿命を延ばしてるのかもしれねえぜ?」
「そんなとんでも設定あったら記述せず隠すのも無理があるし、そもそも殺人の理由の補強になるのに隠す理由がないだろ」
「まあ、言ってみただけだ。色々言ったが、俺もあいつはシロだと思うぜ。あ、犬っころのことじゃねえぞ?」
「…しかし、じゃあいったいこの推定殺害人数ってなんなんだろうな」
「それについては一つ仮説を思いついた。…戦争でどれだけ人を殺し得るかの、測定値なんじゃねえか」

プロフィールによれば、犬飼ミチルの通う学校は異能を持った者を集めた学校らしい。
つまり、彼女の世界では戦争が行われていて、異能者を軍事兵器として利用していた。
そして戦争においてどれだけ有用であるかというのを、推定殺害人数という形で表しているのではないか、というのがエボルトの見解だった。

「戦争…軍事兵器、か」
「まあ、高校生のガキにこんな物騒なこと伝えるかどうかは微妙なとこだ。本人はこれを知らねえかもしれねえがな」

ともかく、これ以上は憶測でしか語れないということで、ここで話は打ち切りとなった。
蓮とエボルトは、しんのすけとミチルのもとへ戻った。


501 : 犬飼ミチルの謎 ◆OmtW54r7Tc :2022/02/26(土) 08:43:55 ZqZWhObQ0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

「レンタロウさん!?」

蓮・エボルト・しんのすけ・ミチルは、話し合った結果まずゲンガーと合流することになった。
ハードボイルダーと銀時のスクーターをそれぞれ二人乗りで移動し、ゲンガーのもとへ向かった。
そして、ゲンガーの姿を見た瞬間、ミチルは驚くことになった。

「ケケッ、なんだ。この肉体のこと知ってんのか」
「私、犬飼ミチルって言います。レンタロウさんは、私の学校のクラスメイトなんです」
「!…犬飼、ミチル」

ミチルの名前に、ゲンガーは軽い驚きを漏らすとともに、顔を暗くした。
犬飼ミチルについては、レンタロウのプロフィールにも名前があった。
鶴見川レンタロウの殺人癖の犠牲者として、だ。

「…お前、俺のこの姿が怖くねえのか?」
「?…どうしてクラスメイトの姿を怖がるんですか?」
「いや、なんでもねえ」

どういうことだ。
プロフィールではミチルがレンタロウに襲われて死んだのかどうかまでは分からない。
しかし、殺されなかったとしても未遂ではあったはずで、この姿に恐怖を持っていてもおかしくはない。
襲われはしたが姿を確認してないからレンタロウが犯人だと知らないのか?

(レンタロウの能力ならありえなくはねえ、か)

レンタロウは幽体離脱の能力を持ち、幽体は姿が見えない。
レンタロウが殺人の際声を出さなかったならバレないのはありえる。
と、そんなことを考えていたら男と女―蓮とエボルトが近づいてきた。
蓮がゲンガーに声をかける。

「肉体のプロフィールを見せてくれないか」
「構わねえが…ミチルには見せるなよ。あいつは知らねえみたいだが、こいつやべえやつだからよ」

蓮とエボルトは鶴見川レンタロウのプロフィールを見る。

(…推定殺害人数の記述はねえ、な。さっきの俺の仮説は外れだったか?)
(その代わり性格の記述はある。…だいぶたちの悪い性格だったらしいな)

綺麗なものほど汚したくなる。
そんな動機で、石井リュウジを殺害し、犬飼ミチルを襲った。

(綺麗なものとしてミチルが狙われたのを見ると…やはりミチルは無害なのかもな)
(そうだな…推定殺害人数がなんなのかってのがふりだしに戻っちまったが)
(…ミチルの性格のように、推定殺害人数の記述が隠されてるのかもしれないぞ)
(隠す理由がねえだろ)
(…案外、調べがついてないだけだったりしてな)


502 : 犬飼ミチルの謎 ◆OmtW54r7Tc :2022/02/26(土) 08:44:56 ZqZWhObQ0
とりあえず蓮たちは、ゲンガーにプロフィールを返す。
そして、彼の隣で眠っている青年に目をやった。
エボルトが呟く。

「そいつ…ハルトマンだったか。まだ起きてねえのか」
「ああ…あれだけのことがあったしな」

ゲンガーは俯く。
正直、目を覚まさなくてホッとしている部分があった。
暴走し、結果的に仲間の死を招いたハルトマン。
そんな彼女に、なんと声をかけてやればいいのか…ゲンガーには分からない。
イジワルズとして人に嫌がらせは沢山してきたが、こういうことには慣れていないのだ。

「ケケッ、アンタたちがレンタロウのプロフィールを見てる間に、ミチルたちから事情は聞いたぜ。エルドルって奴を探しに行くんだろ?」
「ああ、敵に襲われてるらしいし、急がないと」

そして彼らは、エルドルを救出するため南西に進み、そして…

「あ、承太郎さん、誰かいる!」
『かなりの大所帯ですよ』
「やれやれだぜ」

ホイミンと承太郎…彼らからもたらされた情報によりエルドルと戦闘をしていたJUDOが姿を消したことを一行は知る。
そして彼らは、情報をまとめるため話し合うこととなった。


503 : 集う対主催軍団 ◆OmtW54r7Tc :2022/02/26(土) 08:46:26 ZqZWhObQ0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

『では、これより情報交換を行います。進行役は、支給品であるこの僕、シャルティエが務めさせていただきます』
「その前にお前が何者なんだよ」

シャルティエに対しそう言ったのはエボルト。
承太郎とホイミン以外の他の参加者も不思議そうにシャルティエを見つめていた。

「こいつについては後で説明する。とりあえずシャルティエ、進めてくれ」
『は、はい、承太郎さん!ではまず、それぞれの精神・肉体の名前を教えてください。名前によっては何かしら思うところがあるかもしれませんが、さっきみたいな茶々入れは無しでお願いします』

シャルティエの指示により、一同はそれぞれの名を名乗る。
やはり名前によっては反応を示すものがあったが、その時点では何も言わず黙っていた。
やがて、全員が名乗りを上げると、シャルティエが言った。

『では、何か質問や意見がある人は手を挙げてください』

そういって手を挙げたのは、承太郎・ホイミン・ゲンガーだった。

『では承太郎さんとホイミン君から。お二人は同じ理由ですよね』
「ああ…雨宮蓮。俺達は、お前の肉体である左翔太郎を探していた」
「俺の肉体を?」
「うん、さっき話した新八さんの肉体がフィリップって人なんだ」
「フィリップ…翔太郎の相棒か」
「そいつのプロフィールを読んだなら多分記述があっただろうが、新八はサイクロンメモリとダブルドライバーを持ってる。あんたの方も翔太郎のメモリを持ってるなら、仮面ライダーダブルに変身できる」
「メモリなら持ってる。このジョーカーメモリを。仮面ライダーダブルか…なるほど、これからのことを考えると合流して損はなさそうだな」

『話がまとまったところで、次はゲンガー君お願いします』
「ケケッ。俺が気になったのは空条承太郎…そしてミチルの肉体の東方仗助だ。どっちも広瀬康一って奴から話を聞いてる」
「広瀬康一…仗助さんのプロフィールに友人だと書かれてました」

康一の名前にミチルは反応したが…

「広瀬康一…誰だそいつは?」

承太郎は、その名前を聞き覚えがなかった。


504 : 集う対主催軍団 ◆OmtW54r7Tc :2022/02/26(土) 08:48:53 ZqZWhObQ0
「なんだ、知らねえのか?頼りになる熟練のスタンド使いだって言ってたぜ?」
「俺がスタンド使いになったのは精々3か月前ってとこだぜ。ポルナレフやアヴドゥルならともかく、俺はスタンド使いとしては新米だ」
「ケケッ…どういうことだ?」

疑問符を浮かべるゲンガーに対し、ミチルは言った。

「あの…仗助さんは1983年生まれの16歳らしいです。もしかして承太郎さん…」
「俺は1971年生まれの17歳だ…やれやれ、そういうことか」

ミチルの話を聞き、承太郎は理解した。
つまり、自分は10年以上未来に、東方仗助や広瀬康一という後輩スタンド使いに出会うらしい。

「ケケッ、そういやさっき話してた新八だけどよ、そいつの知り合いの神楽って女にも会ったぜ」
「神楽ちゃん!新八くんが言ってた仲間だ!」
「やれやれ…翔太郎に神楽、結果的にこっちに寄り道したのは正解だったみたいだな」

承太郎は舌打ちする。
確かにこの場所に寄り道したのは正解だったが、それだけに新八が離脱したのは悔やまれる。
JUDOと出会う前に蓮と出会えていれば、新八があのような道具に頼らずに済んだかもしれないというのに。

「ああ、そういや忘れてたが、これも見た方がいいよな」

そう言ってエボルトが取り出したもの、それは精神・肉体の組み合わせ名簿。
アーマージャックのデイパックに入っていたもので、ミチルに荷物を返す際密かにこれだけ自分の手元に置き、一通り先に見ていた。

(しっかし、戦兎の肉体が佐藤太郎とは…面白いことしやがる)
「ナナしゃんの肉体は…斉木楠雄」
「そいつなら、俺の肉体の燃堂のプロフィールに書いてあったな。自称相棒…だそうだ(DIOの肉体…ちっ、嫌な予想が当たっちまったぜ)」
「ピカチュウの肉体を持ってる奴は我妻善逸…人間みたいだが、雷の能力でも持ってるのか?」
「しんのすけの肉体の参加者もいるんだな」
「いやあん、オラの肉体が汚されちゃ〜う。…はっ、でも綺麗なお姉さんなら汚されてもいいかも」
「銀時さんの肉体もある!」

「あ、そういえば私も伝えたいことがあるんでした!」

組み合わせ名簿を見た後、次に意見を出したのはミチル。
彼女はなんと、先ほど放送を行った斉木空助…その肉体である小野寺キョウヤを知っているというのだ。

「不老不死…冗談見てえな能力だな」

ミチルからの情報に、承太郎は舌打ちする。
死なないというのは、シンプルに強い。
これがもし参加者であるならなんらかの制限をかけられているかもしれないが、主催者側ではそうも甘くはいかないだろう。

「何か弱点はないの?」

ホイミンの問いに、ミチルは首を振った。
ない、という意味ではなく分からない、という意味だ。

「私もそこまで詳しく知っているわけではないのでなんとも言えません。ただ…以前、死んでもおかしくない大怪我をして血もいっぱい出てるのに平然としていて、傷もすぐに治ったのは見たことがあります」


505 : 集う対主催軍団 ◆OmtW54r7Tc :2022/02/26(土) 08:49:41 ZqZWhObQ0


その後も話し合いは続き…その結果、彼らは二手に分かれることになった。
まず一つは、『風都タワーを目指すチーム』。
承太郎曰く、新八は自分の意思でオーロラを出して移動した可能性が高く、その移動方法がランダムでなければ、ある程度新八の意思が反映されている可能性がある。
そうなると、元々目指していた風都タワーに新八とJUDOが飛ばされた可能性があるので、そちらに向かうのだ。
こちらには、新八の元同行者である承太郎・ホイミン、そして支給品のシャルティエ。
それに加えて、新八の戦力になり得る蓮と、ライダーについての知識を持つエボルトが向かうことになった。
場所が離れているため、銀時のスクーターとハードボイルダーはどちらもこのチームが使うこととなった。

そしてもう一つは、『街に残りエルドルを探すチーム』。
こちらには、エルドルの元同行者で彼の最後の足取りを知るミチル。
街に残って産屋敷を探したいしんのすけ。
ハルトマンを抱えていて長距離移動がしにくく、また鬼が夜を活動の中心とするなら自分は頼りになるかもしれないということで、ゲンガーが街に残ることになった。
また、エボルトがアーマージャックにとどめを刺したことを打ち明け、次の放送で手に入るからということで、組み合わせ名簿はこちらのチームが持つことになった。

一応、それぞれの用事を終えた後の集合地点を、風都タワーチームと残留チームの中間地点に位置するE-5に定め、目印としてシャルティエが地の晶術で岩壁を出現させるという手筈となった。
集合予定時刻は第三回放送。
それまでに集まらなければそれ以上は待たない、ということになった。

こうして彼らは、それぞれの目的の為に動きだすのであった。


506 : 集う対主催軍団 ◆OmtW54r7Tc :2022/02/26(土) 08:51:31 ZqZWhObQ0
【E-6 街/昼】

【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[身体]:孫悟空@ドラゴンボール
[状態]:体力消耗(特大)、ダメージ(中)、貧血気味、右手に腫れ、左腕に噛み痕(止血済み)、決意、深い悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:悪者をやっつける。
1:街でエルドルを探す。
2:産屋敷を見つけたい。
3:逃げずに戦う。
4:困っている人がいたらおたすけしたい。
[備考]
※殺し合いについてある程度理解しました。
※身体に慣れていないため力は普通の一般人ぐらいしか出せません、慣れれば技が出せるかもです(もし出せるとしたら威力は物を破壊できるぐらい、そして消耗が激しいです)
※自分が孫悟空の身体に慣れてきていることにまだ気づいていません。コンクリートを破壊できる程度には慣れました。痛みの反動も徐々に緩和しているようです。
※名簿を確認しました。
※気の解放により瞬間的に戦闘力を上昇させました。ですが消耗が激しいようです。
※悟空の記憶を見た影響で、かめはめ波を使用しました。

【犬飼ミチル@無能なナナ】
[身体]:東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険
[状態]:左背面爆傷、右肩に裂傷、疲労(大)、深い悲しみ、無力感、気絶
[装備]:
[道具]:基本支給品×3、月に触れる(ファーカレス)@メイドインアビス、ラーの鏡@ドラゴンクエストシリーズ、ストゥ(制裁棒)@ゴールデンカムイ、物干し竿@Fate/stay night、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、ランダム支給品0〜4(吉良の分含む)
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしたくない
1:エルドルしゃんの所に戻る
2:どうしてキョウヤさんが…
[備考]
※参戦時期は少なくともレンタロウに呼び出されるより前
※自身のヒーリング能力を失いましたが、クレイジーダイヤモンドは発動できます。
※クレイジー・ダイヤモンドが発動できることに気付きました。
※まだ名簿を確認していません
※クレイジー・ダイヤモンドによる傷の治療は普段よりも完治に時間が掛かり、本体に負担が発生するようです。


507 : 集う対主催軍団 ◆OmtW54r7Tc :2022/02/26(土) 08:52:01 ZqZWhObQ0
【ゲンガー@ポケットモンスター赤の救助隊/青の救助隊】
[身体]:鶴見川レンタロウ@無能なナナ
[状態]:人の身体による不慣れ、高揚している、疲労(中)、精神疲労(大)、自分への強い苛立ち、手にダメージ
[装備]:八命切@グランブルーファンタジー、シグザウアーP226@現実、ピーチグミ@テイルズオブディスティニー
[道具]:基本支給品×3、近江彼方の枕@ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会、タケコプター@ドラえもん、サイコロ六つ@現実、肉体側の名簿リスト@オリジナル
[思考・状況]基本方針:イジワルズ特別サービス、主催者に意地悪…いや、邪魔してやる。
1:街でエルドルを探す。
2:ハルトマンが目を覚ましたら、どう声をかけたらいいのか…
3:イジワルズ改めジャマモノズとして活動する。
4:ピカチュウとメタモンには用心しておく。(いい奴だといいが)
5:木曾のメモのこと、覚えておかないとな。
6:こいつらを見るとアイツ等を思い出すな…(主人公とそのパートナー達の事です)
7:何でオレが付けた団名嫌がるやつ多いんだ?
7:カイジのやつ、何でメタモンの事を聞いて来た?
[備考]
※参戦時時期はサーナイト救出後です。一応DX版でも可。(殆ど差異はないけど)
※久しぶりの人の身体なので他の人以上に身体が慣れていません。
 代わりに幽体離脱の状態はかなり慣れた動きができます(戦闘能力に直結するかは別)。
 幽体離脱で離れられる射程は大きくても1エリア以内までです。
※木曾から『ボンドルドが優勝を目的にしてない説』を紙媒体で伝えられてます。
 (この都合盗聴の可能性も察してます)


【エーリカ・ハルトマン@ストライクウィッチーズシリーズ】
[身体]:操真晴人@仮面ライダーウィザード
[状態]:ダメージ(大)、胸部にダメージ(大)、疲労(大)、気絶
[装備]:ウィザードライバー&ドライバーオンウィザードリング&ハリケーンウィザードリング+サンダーウィザードリング@仮面ライダーウィザード
[道具]:基本支給品、
[思考・状況]基本方針:殺し合いには乗らない
0:……
1:この仮面ライダーの力で二人はわたしが守るよ!!
2:元の世界に戻れても、ネウロイに落とされたあの場所に逆戻りする羽目になる気がする…。それなら首輪を外す方法探しながら、脱出手段を見つけちゃえばいいよね!
3:トゥルーデの身体が…!!悪用されてないことを信じるしかないよね?
4:他の良い参加者と会えて色々話せて良かった!!色々話し合えたし、運が良かったかも
5:もし操真やトゥルーデ、そして今いる仲間の仲間が殺されてたら…わたしは主催を許さない。
[備考]
※参戦時期は「RtB」ことストライクウィッチーズ ROAD to BERLINの6話「復讐の猟犬」にてネウロイに撃墜された後からです。
※作中にて舞台になっている年代が1945年な為、それ以降に出来た物についての知識は原則ありません。
※晴人のアンダーワールドに巣食うウィザードラゴンの意識は封じられてはいませんが、ハルトマンとコミュニケーションを行う事は基本的に出来ません。
※操真晴人の肉体の参戦時期は「仮面ライダー平成ジェネレーションズ Dr.パックマン対エグゼイド&ゴーストwithレジェンドライダー」以降です。また経歴の記述については、正史(確定してるのはウィザード本編、MOVIE大戦アルティメイタム、戦国MOVIE大合戦のウィザードパート、小説 仮面ライダーウィザード)以外の作品にも触れられているようですが、具体的にどうなっているかは後続にお任せします。
※T2ウェザーメモリに適合しました。が、本人の意思とは無関係に変身した為、暴走しました。
※暴走中の事を覚えているかは不明です。


508 : 集う対主催軍団 ◆OmtW54r7Tc :2022/02/26(土) 08:53:00 ZqZWhObQ0
【E-6 街の外(街から南西の位置)/昼】

【雨宮蓮@ペルソナ5】
[身体]:左翔太郎@仮面ライダーW
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、SP消費(特大)、体力消耗(中)、無力感と決意
[装備]:煙幕@ペルソナ5、T2ジョーカーメモリ+ロストドライバー@仮面ライダーW
[道具]:基本支給品×2、スパイダーショック@仮面ライダーW、無限刃@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-、ランダム支給品0〜2(煉獄の分、刀剣類はなし)、銀時のスクーター@銀魂
[思考・状況]基本方針:主催を打倒し、この催しを終わらせる。
1:新八を探すために風都タワーへ向かう。
2:仲間を集めたい。
3:エボルトは信用した訳ではないが、共闘を受け入れる。
4:今は別行動だが、しんのすけの力になってやりたい。
5:体の持ち主に対して少し申し訳なさを感じている。元の体に戻れたら無茶をした事を謝りたい。
6:逃げた怪物(絵美里)やシロを鬼にした男(耀哉)を警戒。
7:新たなペルソナと仮面ライダー。この力で今度こそ巻き込まれた人を守りたい。
8:推定殺害人数というのは気になるが、ミチルは無害だと思う
[備考]
※参戦時期については少なくとも心の怪盗団を結成し、既に何人か改心させた後です。フタバパレスまでは攻略済み。
※スキルカード@ペルソナ5を使用した事で、アルセーヌがラクンダを習得しました。
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。
※翔太郎の記憶から仮面ライダーダブル、仮面ライダージョーカーの知識を得ました。
※エボルトとのコープ発生により「道化師」のペルソナ「マガツイザナギ」を獲得しました。燃費は劣悪です。
※しんのすけとのコープ発生により「太陽」のペルソナ「ケツアルカトル」を獲得しました。
 スキルは以下の通りです
〇ケツアルカトル
・マハガルーダ
・ガルダイン
・忘殺ラッシュ
・マハガルダイン

【エボルト@仮面ライダービルド】
[身体]:桑山千雪@アイドルマスター シャイニーカラーズ
[状態]:疲労(大)、千雪の意識が復活
[装備]:トランスチームガン+コブラロストフルボトル+ロケットフルボトル@仮面ライダービルド
[道具]:基本支給品×2、ピーチグミ×3@テイルズオブディスティニー、ハードボイルダー@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜2(シロの分)、累の母の首輪、アーマージャックの首輪、煉獄の死体
[思考・状況]
基本方針:主催者の持つ力を奪い、完全復活を果たす。
1:新八を探すために風都タワーへ向かう。
2:蓮や承太郎、ホイミンを戦力として利用。
3:首輪を外す為に戦兎を探す。会えたら首輪を渡してやる。
4:有益な情報を持つ参加者と接触する。戦力になる者は引き入れたい。
5:自身の状態に疑問。
6:出来れば煉獄の首輪も欲しい。どうしようかねぇ。
7:ほとんど期待はしていないが、エボルドライバーがあったら取り戻す。
8:千雪にも後で話を聞いておく。
9:移動に使う足も手に入れねえとなぁ。
10:今の所殺し合いに乗る気は無いが、他に手段が無いなら優勝狙いに切り替える。
11:推定殺害人数が何かは分からないが…まあ多分ミチルはシロだろうな(シャレじぇねえぜ?)
[備考]
※参戦時期は33話以前のどこか。
※他者の顔を変える、エネルギー波の放射などの能力は使えますが、他者への憑依は不可能となっています。
またブラッドスタークに変身できるだけのハザードレベルはありますが、エボルドライバーを使っての変身はできません。
※自身の状態を、精神だけを千雪の身体に移されたのではなく、千雪の身体にブラッド族の能力で憑依させられたまま固定されていると考えています。
また理由については主催者のミスか、何か目的があってのものと推測しています。
エボルトの考えが正しいか否かは後続の書き手にお任せします。
※ブラッドスタークに変身時は変声機能(若しくは自前の能力)により声を変えるかもしれません。(CV:芝崎典子→CV:金尾哲夫)
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。


509 : 集う対主催軍団 ◆OmtW54r7Tc :2022/02/26(土) 08:53:36 ZqZWhObQ0
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:燃堂力@斉木楠雄のΨ難
[状態]:疲労(小)、全身にダメージ(中)、銀髪の男(魔王)への怒り
[装備]:ネズミの速さの外套(クローク・オブ・ラットスピード)@オーバーロード、MP40@ストライクウィッチーズシリーズ
[道具]:基本支給品×2、予備弾倉×2、童磨の首輪
[思考・状況]基本方針:主催を打倒する。
1:新八を探すために風都タワーに向かう。
2:主催と戦うために首輪を外したい。
3:DIOは今度こそぶちのめす。ジョナサンの身体であっても。
4:銀髪の男(魔王)、半裸の巨漢(志々雄)を警戒。
5:天国……まさかな。
[備考]
※第三部終了直後から参戦です。
※スタンドはスタンド能力者以外にも視認可能です。
※ジョースターの波長に対して反応できません。
※ボンドルドが天国へ行く方法を試してるのではと推測してます。
 またその場合、主催者側にDIOの友が協力or自分の友が捕らえられている、自分とDIOの首輪はダミーの可能性があると推測しています。
※時間停止は現状では2秒が限界のようです。


【ホイミン@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
[身体]:ソリュシャン・イプシロン@オーバーロード
[状態]:健康、魔力消費(小)
[装備]:アンチバリア発生装置@ケロロ軍曹、シャルティエ@テイルズオブデスティニー
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:人間にはなりたいが、そのために誰かを襲うつもりはない。
1:新八くんを探すために風都タワーへ向かう。
1:ライアンさんのように、人を守るために戦う。
[備考]
※参戦時期はライアンの旅に同行した後?人間に生まれ変わる前。
※制限により、『ホイミ』などの回復魔法の効果が下がっています。
※プロフィールから、『ソリュシャン・イプシロン』と彼女の持つ能力、異世界の魔法に関する知識を得ました


※風都タワーへ向かうチームは、シャルティエが道中でE-5に目印を残すつもりです。
 両チームは第三回放送を目安にそこで合流予定です


510 : ◆OmtW54r7Tc :2022/02/26(土) 08:54:35 ZqZWhObQ0
投下終了です
今回かなり情報量の多い回だったので何か抜けがあるかもしれません
なにかあれば指摘お願いします


511 : 名無しさん :2022/02/26(土) 15:16:43 E2.Ckl6.0
指摘です。
銀時のスクーターとハードボイルダーがあるがE-6に戻るとき6人だから乗る人数が合わないことになります。
そしたら2人歩きになってしまいます。
銀時のスクーターとハードボイルダーに運転各一人にゲンガーとハルトマンを乗せる分なら矛盾はないと思いますが。
個人的に気になっていたので報告します。


512 : ◆OmtW54r7Tc :2022/02/26(土) 15:59:18 ZqZWhObQ0
指摘ありがとうございます。

>そして彼らは、エルドルを救出するため南西に進み、そして…

この部分の直前に、以下の文章を追加します。

>とはいえ、バイク2台で6人、というのは厳しい。
>どうするか考えた結果、スクーターを蓮が運転し、後ろに体格・身体能力が並みのゲンガー。
>ハードボイルダーをエボルトが運転し、エボルトの後ろに気絶しているハルトマンを乗せて、しんのすけとミチルには申し訳ないが徒歩で並走してもらうことになった。


513 : ◆5IjCIYVjCc :2022/02/26(土) 19:03:19 Lp1jUuq.0
すみません、私の方からも指摘させてもらいたい箇所があります。

犬飼ミチルの状態表についてなのですが、[状態]の欄に、現在はその状態にないはずの「気絶」とあります。
おそらく前回の話からコピーした時の消し忘れだと思いますが、この点について見直してもらいたいです。
お手数をおかけしますがどうかよろしくお願いいたします。


514 : ◆OmtW54r7Tc :2022/02/26(土) 19:10:26 ZqZWhObQ0
>>513
指摘ありがとうございます
消し忘れてました、収録の際は消しておいていただければ
それと自分でも気づいたんですが、エボルトの状態表9もハードボイルダー持ってる現状では消してよさそうですね


515 : ◆ytUSxp038U :2022/02/27(日) 01:02:20 ouKWJMWg0
投下乙です。
互いの参戦時期の違いによる認識のズレ、太陽というしんのすけにピッタリなアルカナ、ミチルの推定殺害人数への仮説などを見事に捌きつつ、
上手くグループ分けするのが上手過ぎる。
実は自分もこのエリアの対主催者どう動かそうか悩んでたので、その点でも嬉しかったりします。

空条承太郎、ホイミン、エボルト、雨宮蓮、環いろは、檀黎斗、ジューダス、志村新八、大首領JUDOを予約します。


516 : ◆5IjCIYVjCc :2022/03/01(火) 22:29:48 YJyIB0CQ0
悲鳴嶼行冥、脹相で予約します。


517 : ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 20:51:12 LmAHtPLA0
投下します。


518 : Fの集結/イン・マイ・メモリーズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 20:52:27 LmAHtPLA0





――僕の心に弱さは住み着いてた








民家の縁側に腰かけ、いろははぼうっと庭を眺めてた。

手入れが隅々まで行き届いていた庭は、ギニューとの戦闘で見るも無残な姿へ変貌している。
これが元居た場所、魔法少女の戦いに巻き込まれた神浜市の一般住宅などだったら良心が痛んだだろう。
生憎とここはボンドルドら主催者によって用意された、バトルロワイアルの会場。
後ろめたさや罪悪感は大して抱けない。
というより、今のいろはにはそういった点に気を回す余裕が無かった。

荒れ散らかされた庭の一点を見つめる。
そこだけ他と違い、どこか不自然に土が盛り上がっていた。
ほんのさっきまでいろはと共にいた少年、結城リトが土の下に眠っている。

物言わぬ屍となったリトを野晒しにしておけず、埋葬する事にしたのだ。
手伝ってくれた黎斗達に力無く礼を言い、リトに土を被せる作業中一言も話さずに手だけを動かし続けた。
眠るように目を閉じた幼い少年の顔を見ていると、湧き上がったのは罪悪感と無力感。
二回目の定時放送でリトの本当の顔が発表される、その事実に唇を噛み締めた。
プックリと血が浮き出て、鉄の味が舌先へと伝わる。
それでもここまで来て投げ出すつもりはなく、青白く変色した顔に土を被せた。

今は体を休めているが、自分の状態が良くなる気配はちっともない。
彼の荷物は君が持っていた方が良い、そう黎斗からリトのデイパックを譲渡された時も、暗い顔で頷いただけ。
寝ている間に傷の手当てをしてもらい、時間経過で体力と魔力は回復する。
なのに心は鉄塊を括りつけられたかのように重い。


519 : Fの集結/イン・マイ・メモリーズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 20:53:56 LmAHtPLA0
(結城さん……)

魔法使いの身体になったけど、元々は戦う力を持たない一般人の少年。
だけどいろはが危機に陥った時には、我が身が傷つくのも厭わずに戦った。
殺されそうになったいろはを庇い、小さな体に深い傷を負って、それでもリトは立ち上がった。
たった数時間行動を共にしただけの少女を助ける為に、命を懸けて戦ったのだ。
それに対して自分は何をしているのだろう。
魔法少女として戦わねばならない場面で呑気に眠りこけ、リトを助ける事も耳飾りの少年を倒す事も失敗する始末。
情けない、余りにも情けなさ過ぎる。

加えてこの期に及んで尚も、胸中に抱くのはもうこれ以上の犠牲は出さないという決意では無く、自分という存在が別人になる事への恐怖。
本当ならば少しでも早くなのはの身体に慣れて、万全の状態で戦えるようにせねばならないというのに。
分かっている、頭では分かってはいるのだ。
だけど心は不安に包まれたまま。高町なのはに罪は全く無いけれど、彼女の記憶は恐怖の対象でしかない。

鬱々とした思考につい視線を落とす。
スカートから伸びるスラリとした長い脚を見ると、やっぱりこれは自分の身体じゃあないんだなとぼんやり思った。

「おい」

頭上から投げかけられた声に反応し、顔を上げる。
何時の間にやら、ぶっきらぼうを絵に描いたような態度の少女が腕を組んで立っていた。
いろはの手当てにも使った救急箱の中身を拝借したのだろう、身体の各部に包帯が巻かれているのが見えた。
同性のいろはから見ても美少女と呼ぶに相応しい顔立ちで、どこか冷たく見下ろしている。
肉体の年齢で言えばなのはの方が年上だが、真紅の瞳に射抜かれたいろはは思わず縮こまってしまう。
どことなく、最初に会った時のやちよを思い起こさせる冷たさだ。
天使の翼と光輪という温かい印象を与えるはずのそれらも、余り機能してくれない。

ジューダスと名乗ったこの少女、精神は立派な男であるとのこと。
耳飾りの少年との戦闘に颯爽と参戦し、双剣を巧みに操る姿は彼が只者でない事への証明。
それまで自分達を追い詰めていた少年と渡り合うだけの剣術はやちよや鶴乃、ももこにも全く引けを取らない強さであると感じられた。
口数は少ないけど敵でないのは確か。
のはずだが、リトや黎斗と違ってどこか近寄りがたい雰囲気もある。
恐る恐る「何ですか」と返すいろはへ、ジューダスは暫しの沈黙を挟んだ後、感情を読み取らせない声色で告げた。

「お前は…何を恐れている?」

ドキリと心臓が跳ね上がった気がした。
まさか見抜かれていたのか。いや、自分が誰の目から見ても気落ちしている状態なのは分かっていた。
ただリトを助けられず後悔しているのではなく、なのはの身体への恐怖を抱いているのを指摘されるとは思わなかったのだ。
返答に窮しているとジューダスからは無言の圧力を掛けられる。
誤魔化しは通用しないと思え、そう告げているかのような瞳にいろはは眉を八の字にして何とも情けない顔を作った。
その子どものような表情に軽く目を細めたジューダスへ、戸惑いがちに口を開く。

「バレちゃってたんですね」
「……」
「もしかしたら、私の気にし過ぎってだけなのかもしれないですけど……」

力無く笑いながら、ポツリポツリと話していく。
ジューダスは黎斗のようにこちらを気遣う素振りは見せていない。
だけどどうしてだろう、不思議と胸の内を明かしていた。
話している間、ジューダスは仏頂面のまま口を挟まずに黙して聞いている。


520 : Fの集結/イン・マイ・メモリーズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 20:55:16 LmAHtPLA0
話が終わると沈黙が訪れる。
既に言ってしまった後で思う事では無いのだが、いきなりこんな話をされて迷惑だったのではと不安になった。
大体いろはとジューダスは最低限の自己紹介しかしていない。
そんな相手にこうも重い悩みを打ち明けられたら、向こうも困惑するのではないか。
しかし、先に質問してきたのは向こうからだ。だから正直に打ち明けた。
いやでも、黙っているという事はやはり困らせてしまったからでは。
だったら愛想笑いでも浮かべて、「何でもないです」とでも言った方が良かったのではないのか。

嫌われたくなくて愛想を振り撒き周りに合わせていた、前の学校の時のような思考になっていく。
頭の中が渦巻のように化してるいろはの様子をどう思ったか、ジューダスがやっと声を発した。

「もし肉体の影響で元の記憶を忘れたのなら、所詮はその程度の、取るに足らない記憶でしかないだけだろう」

桜色の唇から飛び出したのは、あんまりな言葉だった。
別に、慰めや励ましの言葉が出てくると思っていた訳ではない。
むしろ彼の雰囲気から明るい事は言われないだろうくらいは、いろはにだって察せられた。
だからと言ってそんな風に言われたら、激怒とまではいかないものの良い気分にはならない。
思わずムッとして見つめ返す。

「…ジューダスさんは、もし自分の記憶が別人のものになっても――」

恐くないんですか。
そう問いかけようとして、だけど言葉が最後まで続きはしなかった。
皆まで言われずとも何を聞かれるか分かっていたのだろう。
いろはを見下ろす紅い瞳は、真剣身を帯びた力強いものとなり貫く。

「僕にはそういった現象は起きていないが、お前の言う通り肉体の記憶が僕の記憶を侵食する事も、この先あるのかもしれない」

だがと区切り、いろはではない、別の誰かを思い出すように空を見上げる。

「例え他人の記憶で塗り替えられようと彼女の事は決して忘れない、いや、忘れる事など僕自身が許さない。
 …それに彼女だけでなく、そう簡単には忘れられない奴らの記憶が僕にはある。だから、僕に恐れなどない」

ジューダス…リオン・マグナスの人生において、マリアンという女は希望だ。
父の傀儡である事を強いられた冷たい記憶の中で、彼女と触れ合う時間だけは宝石のように輝いている。
だからマリアンを守る為なら、スタン達の敵に回るのだって躊躇はなかった。
世間から裏切り者だなんだのと自分が罵られる事など、マリアンの命が失われるのに比べれば苦痛でも何でもないのだから。
嘗て、エルレインの手で繰り返し悪夢を見せられていた時、未来を変えたいと願うよう迫られた。
裏切り者の汚名を消し去り、愛と名誉を手に入れられるという甘言。
だがジューダスの心には微塵も響かず、まやかしの幸福に意味は無いと突っぱねた。
それ程までに想っているマリアンを、どうして忘れる事が出来ようか。

そして――

――『知ってるとか、知らないとか、関係無い!オレは、ジューダスを信じてる!』

ああそうだ。思い返せばあの瞬間からだ。
カイル達の事を、肩を並べ、時には背中を任せられる仲間だと真に認められたのは。
最初は彼らの旅を助ける為だけのつもりだったのに、何時の間にか自分の方がカイル達によって救われていたのだ。
リオンだった頃の自分は、マリアンさえ幸せなら他には何もいらないとさえ思っていたというのに。
今はどうだ。カイル達の事だって忘れたくないと思ってしまっている。

だから忘れない。忘れてたまるものか。


521 : Fの集結/イン・マイ・メモリーズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 20:56:09 LmAHtPLA0
堂々と言い切ったジューダスに、いろはは目を瞬かせる。
ジューダスの人間関係がどんなものかは全く知らない。
だがここまでハッキリ言うものだから、二の句が継げなくなった。

「お前はどうなんだ?お前の記憶にいる人間達は、簡単に忘れても構わない連中か?」

問い掛けられたいろはが思い浮かべるのは、神浜市で出会った魔法少女たち。
導かれるように神浜市へ行き、小さいキュゥべえに触れ妹の記憶を取り戻したあの瞬間、自分の中で凍り付いていた時が動き出した。
ういの手掛かりを追い求め、その過程でやちよの助手となり、紆余曲折を経てみかづき荘の住人となったのだ。
みかづき荘は単なる下宿先ではない。
いろはにとって第二の我が家のようでもあり、誰かの顔色を窺う必要も無く、ありのままの自分でいられる居場所。
フェリシアの言葉にやちよが大人げなく怒って、鶴乃は「ししょーはギリ未成年だよ!」とフォローになってないフォローをし、さなは喧噪にオロオロする。
けど最後にはちゃんと仲直りして、一緒にご飯を食べて、それぞれのマグカップでお茶を飲む。
何て事の無い日常だけど、いろはには何よりも幸せな時間だ。
必ずういを見つけて、お姉ちゃんの大切な人達なんだよと紹介してあげたい。

忘れても構わない?そんな訳があるものか。

ジューダスの質問に首を横に振り答えを返す。
この先、なのはの記憶がより鮮明に自分を侵食するのかもしれない。
元の自分の記憶を失ってしまうのが、ボンドルドの目的の一つなのかもしれない。
そう考えると、何だか腹が立ってきた。
一緒に登校するのを楽しみにしていたういの笑顔を、みかづき荘で過ごした日々を、理不尽に奪われるなんて納得できる筈がないだろう。

「忘れたくない。皆の事を忘れるなんて、私自身が許せません」

真紅の瞳から目を逸らさずに言う。
まだ心のつっかえ全てが取り払われた訳ではない。
それでもいろはの目には、言葉には、先程まで失われていた強さが宿っていた。

いろはの様子に取り敢えず満足したのか、目を細めると無言で背を向ける。
折り畳んだ翼の目立つ背中からは、さっきまであった近寄り難さは薄れていた。
だからだろう、その背に臆する事無く声を掛けられたのは。

「あのっ、ジューダスさん!」

呼びかけを無視する気はないのだろう、足を止めじっと待つ。
自分の方を向いてはくれないが、聞いてくれるならそれで十分だ。

「ありがとうございます!」
「…この程度で礼など必要ない」

ぶっきらぼうな態度に、思わず困ったように笑う。
それでも不思議と、悪い気分にはならなかった。


522 : Fの集結/イン・マイ・メモリーズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 20:57:26 LmAHtPLA0



いろはがある程度落ち着いたタイミングで、黎斗から情報交換を切り出された。
特に断る理由も無く、いろはとジューダスの両名ともこれを承諾。
その際に黎斗が二人に見せたのは、バットショットに保存された画像。
鎧の男の死体を挟んで対峙する、少女と仮面ライダーを捉えた写真だった。

何者かが争う様子が遠目に見えて、支給品を使って撮影したのだと説明する。
二人とも驚いた様子で画像に目を奪われていた。
鎧の男を殺したのはマゼンタ色の仮面ライダーだが、不敵な笑みを浮かべる少女もまた危険人物の可能性が非常に高いとのこと。

「こんな小さい女の子まで…」
「精神まで子どもとは限らないがね。……まぁ、それでも巻き込まれたこの娘は可哀想だと思うが」

リトの身体であるユーノと同じく、幼い子どもまで巻き込まれているのにいろはの顔が悲し気に歪む。
心にもない言葉を口にしつつ、黎斗は内心でやはり騙しやすい相手だと嗤う。
二人の会話に耳を傾けているのかいないのか、ジューダスは渋い表情で写真を凝視していた。
どこかただ事ではない様子に気付くと、いろはは心配そうに尋ねる。

「ジューダスさん?大丈夫ですか…?」
「…ああ、別に問題は無い。ただ、知っている人間が写っていただけだ」
「えっ?それって……」

マゼンタ色の仮面ライダー、或いは少女はジューダスの知る者の身体なのか。
それとも倒れている騎士のような男の方だろうか。
確か放送ではこの男の精神に入っている参加者が、顔写真付きで発表された。
なら知っているのは精神の方か?

いろはと黎斗から目で疑問を訴えかけられる。
両者の視線を受け止め、説明の必要があるかとため息を吐いた。
どの道自分の目的を話すなら、画像で死体となっている騎士風の男との関係も明かさねばなるまい。
悪の魂の持ち主である黎斗にまで話すのは少々憚られるが、仕方ないと一抹の不安を強引に飲み込む。

「この男の名はリオン・マグナス。嘗ての僕自身だ」

衝撃的な一言を皮切りに、メモに記した内容を説明する。
話し終えるとやはりと言うべきか、二人とも少々困惑気味のようだ。
だが今の話を理解できていないと言う事では無く、得られた情報をゆっくりと噛み砕いている最中のようである。
魔法少女、ウワサ、バグスター、仮面ライダー。
取り巻く環境や存在するモノは日常を大きく逸脱しているが故に、今更大抵の事で驚きはしない。
が、神との戦いや歴史改変などは幾らなんでもスケールが大き過ぎる。
はいそうですかと即座には受け入れられず、少しだけ時間を要した。

それでも一度受け入れられれば、ジューダスの言う最終的な目的に関心がいく。
主催者が有しているだろう、時空に干渉する力。
それを使って過去に遡り、ボンドルド達が殺し合いを開催する前の時点で主催者を倒す。
こうすれば「殺し合いが開かれた」という事実は完全に消滅し、殺し合いにおける犠牲は生まれなくなる。
つまり定時放送で既に名前が呼ばれた者も、数時間後に行われる二回目の放送で発表される者も、全員死ななかった事になるのだ。


523 : Fの集結/イン・マイ・メモリーズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 20:58:48 LmAHtPLA0
「じゃあ結城さんも…!」
「殺し合いそのものが無くなる以上、ここでの死も修正されるだろうな。
 但し、当然殺し合いでお前達が出会った記憶も完全に消え去るが」

記憶が消える。その言葉に思わず閉口した。
過去の時間でボンドルド達を倒せば、いろはの記憶からリトは完全に消滅し、リトの記憶からもいろはは一切の痕跡を残さず消える。
最初からどちらも出会う事が無い、それが正しい歴史として修正されるということ。
リトが命懸けで自分を助けてくれた光景も、初めから無かったものになるのは、言いようの無い寂しさがあった。
双方の記憶から互いに関する全てが消える、それは悲しい事のように思う。

だけど、ジューダスの言う方法は何も間違っていないだろう。
だってリトには、帰るべき家があった。帰りを待つ家族がいた。
家族と永遠に離れ離れ、そんな悲劇を失くせるのなら何を迷う事があるのか。
自分の個人的な感情だけで、リトをこのまま死んだ事には出来ない。
思わず溢れ出した悲しみに蓋をして、されど今度は別の問題にも意識が向く。
殺し合いが無かった事になれば、出てくるのは助かる者だけとは限らない。

「でも、それだと檀さんが……」

黎斗は殺し合いに参加させられる前、不慮の事故により命を落としたと聞いている。
だが参加者として選ばれた為、ボンドルド達の手で蘇生させられた。
別人の肉体とはいえ、黎斗が今こうして生きていられるのは主催者達の力があってこそ。
しかし殺し合いが開催されなかった事にしてしまえば、黎斗の蘇生も当然行われない。
となれば、正しい歴史に修正すれば黎斗は死体に逆戻りとなる。

「環さん、心配は無用だ」

不安ないろはとは対照的に、黎斗は穏やかな笑みを浮かべている。
主催者を倒せば自分の死は確実であると告げられたのに、何故笑えるのか。
まさか逃れられない死に自暴自棄にでもなったかのとも考えたが、黎斗は至って冷静に言う。

「私は元々事故で死んでいた身。あの時の私は自分の終わりを受け入れていたんだ。今の状況は、死ぬのが少しだけ先延ばしになっただけに過ぎない。
 だから私はこれで良いんだ。私の我儘で、結城君を救える道を潰す訳にはいかないからね」
「檀さん……」
「ジューダス君、過去を変えて殺し合いを阻止すると言う策には私も勿論協力させてもらうよ」
「……そうか」

不安にさせまいと優しい声色で告げた黎斗を、申し訳なさを大いに含んだいろはと、僅かに眉を顰めたジューダスが見つめる。


524 : Fの集結/イン・マイ・メモリーズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 20:59:48 LmAHtPLA0
無論、黎斗の態度はあくまで表向きのものである。
本心では猛烈な不快感に舌打ちを零しそうになるのを、どうにか堪えた所だ。

(全く……冗談じゃない!神の才能を持つこの私が世界から失われるのが正しい歴史だと?寝言は寝て言え!)

折角手に入れた復活のチャンスが失われるかもしれない。
ジューダスの考えには毛先程も賛同できず、怒りがこみ上げる。
向こうからすれば殺し合いが起きなかったのが正しい歴史らしいが、黎斗からすれば馬鹿げているの一言に尽きる話だ。
正しい歴史とは即ち、檀黎斗が世に自らの手で完成させた仮面ライダークロニクルを広めたものに他ならない。
パラドの手で葬られたのが正史など、断じて認めてたまるものか。

(ジューダス…どうやら貴様の存在は、私が優勝する上で邪魔でしかないようだ)

いろははまだ良い。
お人好しで扱い易く、今だって黎斗を頼れる味方と信じたまま。
定時放送前に自分と別れた後、大した情報を得られなかったのは頂けないが、何時までも目くじらを立てる程ではない。
だがジューダス、こいつは駄目だ。
戦闘に乱入した時から無礼な態度を取り続け、おまけにずっとこちらを警戒している。
表面上は友好的な態度を取っても、容赦なく監視するような視線は変わらなかった。
挙句の果てに、殺し合いを無かった事にするとまで言い出したのだ。
可能ならば早急に排除しておきたいが、今の段階で殺し合いに反対の善人の仮面を脱ぎ捨てるのは軽率。
それに相手は耳飾りの少年と同じく、生身でありながら仮面ライダーに匹敵する強さの持ち主。
下手に怪しまれる行動は控えるべきだろう。

三人の話が一段落着き、何と無しにいろはは外を見やった。
少し離れた場所には巨大な塔が建っており、風車がゆっくりと回転している。
リトを殺した少年と最初に戦ったのもあの塔だ。
もしもあの時自分が気を失わず、少年を止めていればリトが死ぬ事も無かったのだろうか。
所詮は可能性の話でしかないそれを考えながら眺め、


525 : Fの集結/イン・マイ・メモリーズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:00:38 LmAHtPLA0
「……っ!」

何かが光るのが見えた。
見間違いではない、何せ目を凝らせばまた光が見え、更にはガラスが吹き飛んだではないか。
確かあの位置は展望台がある所だったはず。
チケット売り場に設置してあった案内図を思い出している最中、黎斗とジューダスも風都タワーの異変に気付いたのか、何時間にか窓に近付き険しい顔を作っていた。
とにかく今ハッキリしているのは、あの塔で戦闘が起きていること。
それが分かれば、いろはにジッとしている選択肢など無い。

「私、あの場所まで行って来ます!」

そう告げ飛び出しかけたいろはの前を塞ぐように、ジューダスが動く。

「体力も術を使う力も完全には回復し切ってないだろう」
「でも、戦えます。だから行かない理由になりません」
「あそこにいるのが『乗っている』連中だけならどうする?潰し合わせておけば良い」
「『乗ってない』人達がいるかもしれませんよ」
「さっき逃がした剣士、奴が暴れてたらどうするんだ」
「それなら、尚更行かない訳にはいきません」

どうあっても行く気らしい。
先程縮こまっていたのは何だったのかと言いたくなるような、迷いの無い言葉を即座に返して来る。
いろはは基本的に優しく、押しが弱い少女だ。
だがここぞという場面での意思は強い。こうと決めたら梃子でも動かない頑固さを発揮する。
神浜から出て行くようにやちよから冷たく警告された際にも、折れる事無く否と唱えたように。

どうあっても譲れないと睨み合う二人。
先に折れたのはジューダスの方だ。それはそれは大きくため息を吐き、全身で呆れをアピールする。
無鉄砲だ、どこぞの誰かを思い出すくらいには無鉄砲。
それでも勝手にしろと吐き捨てるのでなく、付き合ってやろうとしている自分自身が俄かには信じられない。
これもまた、カイル達と旅をした影響か。

「分かった。だが、無理だと思ったら退くぞ。僕達は万全とは程遠い」
「…え?えっと、あの…わ、私一人で行けますし、ジューダスさん達が無理する事は……」
「……お前、人にこう言わせておいて断る気か?」
「す、すみません……」

しゅんと項垂れる姿は、飼い主に叱られた子犬のようだ。
もう一度呆れたように小さくため息を吐くと、残る一人へ確認する。

「お前は?」
「勿論行くとも。君達だけを危険な場所に送り込む気はないからね」

本音で言えば、傷と疲労の残る身体でわざわざ戦場に突っ込むのはお断りだ。
しかし今は「殺し合いに反対する善良な大人」の仮面を被っている以上、いろは達だけを送り込む真似は出来ない。
だから表向きは快く、裏では仕方なしに承諾する。

(まぁ、場合によってはそう悪い事ばかりでもあるまい…)

風都タワーで戦っている者から何か使える支給品を奪えるかもしれない。
ひょっとしたら、戦闘のどさくさに紛れてジューダスを排除するチャンスが訪れる可能性もある。
頭を下げて礼を言ういろはに気にしなくて良いと返しながら、そんな事を考えた。

黎斗の頭の中など知る由の無いいろはは二人が付いて来てくれる事に申し訳なさを感じつつ、同時に共に戦ってくれる仲間に心強さを抱く。
彼らと共に殺し合いに乗った参加者を、そしてボンドルド達を止める。
例え殺し合いそのものを無かった事にするとはいえ、その過程でリトのような犠牲者が出るのは見過ごせない。

(よし…!)

言葉には出さず気合を入れ、いざ風都タワーへと駆け出した。


526 : Fの集結/イン・マイ・メモリーズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:01:47 LmAHtPLA0
◆◆◆


二台のバイクが市街地を並走している。
黒と緑という奇妙なカラーリングが施された機体を運転するのは、黒のベストに帽子の青年。
同乗するのは彼の腰に腕を回し、振り落とされないよう捕まる片おさげの女。
もう一台の方、銀の一文字が記されたスクーターを運転するのは、モヒカン頭に強面の少年。
同乗するのは煽情的なデザインの衣装を着こなす金髪の女。
左翔太郎のマシンには蓮とエボルトが、坂田銀時の単車には承太郎とホイミンがそれぞれ跨っていた。

出発の際に誰がどっちのバイクを運転するかとなった時、真っ先にハードボイルダーを運転させてくれと申し出たのは蓮だ。
蓮自身にバイクの運転をした経験は無い。
しかしハードボイルダーを見ていると懐かしいような、何とも言えない感慨深さが湧き上がった。
カラーリングと言い、やはりこれは翔太郎とフィリップが変身する仮面ライダーと関係があるのかもしれない。
そう考えながら跨りハンドルを握ると、自分でも驚くほどしっくり来た。
翔太郎の身体である自分ならば、このマシンを乗りこなせると本能で理解し、こうして運転を任されている。
その判断に間違いはなく、現に今も問題無しに走行中だ。

(成程ね。どうやら本当に、こいつの身体が持ち主だったみてぇだな)

運転する後姿を眺めながら、エボルトは内心で納得する。
元々犬であるシロにバイクを支給した所で宝の持ち腐れだが、自分達にとっては有用な代物。
運良くこちらの手に渡って何よりだ。
チラリと運転手の顔を覗き込めば、集中しているのか真剣に進行方向を見据えている。
最初にこちらが振り落とされないよう身体を密着させた時は、見るからにドギマギしていたというのに。
身体は女でも精神は男、いい加減に慣れて欲しいものである。

(しっかしまさか、こいつも仮面ライダーだったとはねぇ)

赤いバックルと黒いUSBメモリを用いて変身する戦士、仮面ライダージョーカー。
到着した時には決着がついていた為この目で見てはいないが、アーマージャックとの戦いでその力を存分に振るったらしい。
更に翔太郎が変身する仮面ライダーとはジョーカーのみではなく、もう一つあるとのこと。
それが仮面ライダーW。翔太郎と相棒のフィリップ、二人が揃って変身可能となる戦士。
承太郎達から齎された情報によると、件のフィリップ少年は彼らの仲間である志村新八の身体になっている。
なら新八と合流できれば蓮はジョーカーだけでなくダブルにも変身が出来る。
尤もそう簡単に事は進んでくれず、新八は今アナザーライダーなる怪人と化し、ディケイドと言う仮面ライダーと戦闘中。
現在どちらが優勢かは不明だが、新八と合流するとなれば戦闘は避けられないだろう。


527 : Fの集結/イン・マイ・メモリーズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:02:41 LmAHtPLA0
(ジョーカー、ダブル、ディケイド…。使ってたベルトからして、俺の知ってるライダーシステムとは別物だろうな)

フルボトルではなくカードやメモリで変身するライダーなど、見た事も聞いた事もない。
蓮が持っていたロストドライバーにしても、ビルドドライバー等とはまるで形状が違う。
自然と導き出される答えは、エボルトがいた地球とは別の地球の仮面ライダー。
恐らくはパラドと同じ世界出身だろう。
並行世界の仮面ライダーと共闘し最上を倒した戦兎なら、ダブル達と会っていたかもしれないが。

(ま、戦力になる奴が増えるならそれで良いけどな)

ブラッドスターク“程度”ではやはりというか、やれる事にも限界がある。
例を挙げれば、放送前に戦ったシロを鬼にした男。
蓮のアシストを受け、ブラッドスタークの機能をフルに活用し、それでどうにか食らい付いていた。
恐らくは、参加者である精神が肉体に振り回されている状態。加えて太陽による消滅を警戒しての逃走。
だからあの時点ではジョーカーに変身していなかった蓮と、ブラッドスタークにしかなれない自分で何とか生き延びられた。
もしあの男が力を十全に発揮出来るようになれば、先の戦闘の比ではない程に苦戦するのは間違いないと見る。
仮にエボルト単独であの男と真正面からぶつかるのなら、仮面ライダーエボルに変身しなくては話にならない。

(それが出来れば苦労はしないんだがなぁ。本当に余計な事をしてくれたもんだぜ、ベルナージュ)

地球に来る原因となった女への愚痴を漏らしつつ、横目で並走するスクーターを見る。
蓮と同じく真剣な顔つきでハンドルを握る少年、承太郎。
情報交換の時から冷静な佇まいをしており、スタンドという蓮のペルソナとはまた別の特殊な力の持ち主。
新八との合流を目的とするチームとして仲間の関係にあるが、エボルトには一つ気付いている事がある。
面だって敵意を向けられてはいないが、承太郎は自分の事も警戒していると。

実際、エボルトの考えは当たっていた。
新八達が消えた後に出会った複数の参加者との情報整理を通し、彼らがどういう人間(人間じゃない精神の者もいたが)かは承太郎にも大体把握出来た。
それを経て彼が出した結論は、今は信用して問題無い。ただ一人、エボルトを除いて。
不審な行動や言動があった訳ではないし、蓮やしんのすけの話からも殺し合いに乗っていないとは理解している。
だがそれでも信用し切れないナニカがある。飄々とした言動を繰り返しながらも、どこか人間味の感じられ無い雰囲気が承太郎に警戒心を抱かせたのだ。
とはいえそれだけで直ぐにエボルトを敵と断定する気は無い。
明確に自分達へ牙を剥いて来るのなら容赦なくブチのめすが、今の所はそういった行動に移す気はないように見える。
無意味に突っかかって不穏な空気を作るのは、承太郎自身やりたいとは思わない。
だから今はまだ警戒のみに留めておく。


528 : Fの集結/イン・マイ・メモリーズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:03:57 LmAHtPLA0
と、このような内心までは知らないが、警戒されているのは間違いないようでエボルトは薄っすらと苦笑いを浮かべる。

(まぁいい。今は新八との合流が最優先だ。一段落着いたら……千雪にも話を聞いとかねぇとな)

アーマージャックを始末してからそう間を置かずにバタバタした為、身体の持ち主である女とはあれっきり話していない。
意識を奥深くへと追いやったのだから、こっちに干渉出来ないのは当然である。
けれど消えてはいない、千雪の意識は確かに存在し、エボルトが見たり聞いたりした情報は彼女の元にも届いていた。
一足先に確認した精神と肉体の組み合わせ名簿を見た時には、それはもう千雪の動揺がハッキリと伝わったものだ。
大崎甜歌と大崎甘奈。精神だけが参加している姉と、肉体だけが参加している妹。
プロフィールに載っていた千雪と同じユニットのアイドルは、非常に難儀な目に遭っているらしい。
殺し合いで姉が心細くならないよう、妹の肉体(パーツ)を与えてやったのか。
大崎姉妹だけでなく、櫻木真乃という名前にも千雪は分かりやすく反応していた。
同じ事務所のアイドル仲間か何かだろう。
こうもアイドルばかりを巻き込むとは、主催者はアイドルに恨みでもあるのかとつい冗談交じりに考えた。

またその他にも考えなばならない事がある。
情報交換の際にミチルが知っている人物として名を挙げた参加者、柊ナナについてだ。
ミチル曰くナナはクラスのリーダーとして高い能力を持ち、人間性に関しても信頼できる人物と説明された。
そしてミチルと同じクラスでるなら、小野寺キョウヤとも知り合いということ。
何よりも、組み合わせ名簿で確認した所ナナの精神が入っている肉体の名は斉木楠雄。
主催者側にいる斉木空助と同じ姓の持ち主だ。
精神と肉体、その両方が主催者の一人と関係がある。偶然と片付けるには、少しばかり出来過ぎていやしないか。
ミチル達との合流後、余裕があればナナの捜索もしておきたい所である。

そうこうしている内に目的地へと到着し、二台のバイクが揃って停車した。
降りて手早くそれぞれのデイパックへと収納する。
貴重な移動手段を放置して、他の参加者に奪われるのは避けたい。

「ここが風都タワー……」

天を突くような佇まいの建造物を見上げ呟く。
大きさに圧倒されるよりも、蓮の心には不思議な懐かしさと安心感が込み上げている。
まるで愛する場所へ戻って来たような、或いは友との再会が叶ったような、言葉で簡単には言い表せない想いが溢れ出しそうだ。
間近で見ただけでこんな感情になるなんて、翔太郎は余程風都タワー、というより風都という街を愛していたのだろう。
そう思わずにはいられない。


529 : Fの集結/イン・マイ・メモリーズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:05:52 LmAHtPLA0
「…のんびり見物してる余裕はねえぞ」

険しい顔で承太郎が睨みつける先には、真ん中に位置する階。
地上からでも何かが光るのが見え、全員に緊張が走る。
新八とディケイドが風都タワーにいるという読みはどうやら当たっていたらしい。
二人の居場所が分かったなら、後は急ぐだけ。手遅れになる前に辿り着かなければ。

蓮はロストドライバーとガイアメモリを、エボルトはトランスチームガンとフルボトルを取り出す。
何が待っているか分からない以上、予め変身を済ませておいた方が良さそうである。
どちらかが提案したのではなく、同じ事を考えての行動だった。

『JOKER!』

――COBRA

スイッチを押したメモリと、ボトルを装填した銃から電子音声が響く。
片や威勢良く、片や低くじっとりとした声で互いの力の証を知らしめた。

「変身!」

「蒸血」

『JOKER!』

――MIST MATCH
――COBRA…C・COBRA…FIRE

一瞬の内に姿を変えた。そこにいるのは左翔太郎と桑山千雪ではない。
黒いボディと真っ赤な目の戦士。
宇宙服にも似た血濡れの装甲の怪人。
仮面ライダージョーカーとブラッドスターク。
正史においては決して交わる事の無い姿が、そこに存在した。

「あのバーコード顔の奴とは姿が違うが、それも仮面ライダーってやつか」
『正確に言えば俺の方は仮面ライダーじゃあないがな。上が片付いたらその内説明してやるさ』

承太郎の疑問に軽口で返す。
仮面ライダーじゃないという言葉に訝し気に眉を顰めるも、今は重要でないのでそれ以上聞きはしなかった。

「皆!急がないと新八君が…」

ホイミンの言う通りだ。今最も優先しなくてはならないのは、新八だ。
緊張しているのかホイミンはシャルティエを強く握り締めている。
それでも恐怖に屈し逃げる気は無い、彼の決意が表情から見て取れた。

「ああ、行こう!」

なら自分もそれに応えねばと蓮は駆け出し、三人も後に続いた。


530 : Fの集結/破壊者たちの狂宴 ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:07:43 LmAHtPLA0
◆◆◆


風都タワー第一展望室。
街を広く見渡せられ、マスコットキャラクターふうとくんのイベントにも使用される階。
今この場所は平穏からかけ離れた、戦いの場と化している。
それぞれの得物が振るわれる度に余波で壁が傷つき、風都市民の愛するシンボルタワーが破壊されていく。
床に転がったふうとくんのストラップを踏みつけても気にする素振りはなく、眼前の敵へ集中する。

「でりゃあああああっ!!」

気合を込めるかのような叫び。
腹の底から出した声の主は、己の内から湧き上がる破壊衝動を必死に抑え込みながら刀を振るう。
この戦闘中、彼は攻撃の際に必ずと言って良い程叫んでいた。
そうでもしなければ、自分の意識が瞬く間に呑まれそうだから。

「……」

対照的にこちらは一言も発せず、黙々と長得物で刀を捌く。
纏う空気は実に冷めていて、退屈と落胆がこれでもかと感じ取れる。
冷え切った心とは裏腹に戦闘の手を緩めはせず、斬り掛かって来た相手へ反対に斬り付けてやった。

「ッアアアアアア!!」

新八…アナザーディケイドが斬られたのはこれで何回目だろうか。
わざわざ数えてはいないし、回数など知りたくもない。
そのような余計な事に頭を回す余裕は無く、考えるべきは目の前の敵を倒す事のみ。
歯を食い縛って耐えてはいるものの、自分の意識が内から湧き上がる衝動に呑まれているのが嫌でも分かる。
完全に意識を奪われる前に決着を付けなければ、決意は固いが達成できるかは別問題だ。

「ノロいな」

自身の首目掛けて走る刃。
ギラリと光る刀身は、されど何ら脅威には映らない。
身体を数ミリだけ動かし、空振った刃の先を見る事無く腕を伸ばした。
長得物は吸引されたかのように勢い良く、相手の胸を到達する。

血は出ない。代わりに火花が散った。
低く短いくぐもった声。痛みに反応して飛び出したソレに構わず、豪快に長得物を振り回す。
回転する度に肉体は刃に切り裂かれ、巻き起こった風が巨体を後方へと押し出した。
だが耐える。ズッシリとした下半身で踏み止まれば、それ以上はどれだけ暴風を叩きつけられても動かない。
真っ向から自分を押し出す力に抗うように、大きく踏み込んだ。


531 : Fの集結/破壊者たちの狂宴 ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:08:46 LmAHtPLA0
「それがどうした」

長得物から発生させた突風を、真正面から叩き斬る。
呆れるような荒技で馬鹿正直に突っ込んでくる相手に向けた声は、相も変わらず冷たい。
再度長得物を振るってやれば、今度は暴風ではないモノが敵を痛めつける。
風の刃、かまいたちとでも言うそれが肉体を切り裂いていく。
身体を襲う鋭い痛みだが、全てを受けても致命傷とはならない。
ただ痛みによってまたもや集中力が途切れ、己を保つ意識が少し弱まる。
意識を完全に失った時に起こりえる事態への恐れも今は飲み込み、斬り掛かった。

「やはり硬いか」

呟きは小さく、破壊衝動に抗っている真っ最中の耳には聞こえはせず。
元より聞かせたくて言ったのではない為か、相手がこちらの声に無反応なのも気にしない。
上半身を軽く捩り、胸部アーマー目掛けて突き出された刀を回避。
掬い上げるように長得物を振り上げれば、風を纏った刃が相手を斬り、またしても火花が散る。

「うぐぁっ!?」

悲鳴を上げて後退る。刃は胴体だけでなく顔にも当たった。
敵の言う通り硬い肉体でも、やはりそこは幾分耐久力も落ちるらしい。

展望室を戦場へと変えたのは二人の破壊者。
マゼンタ色の装甲の仮面ライダー、ディケイド。
肉体はディケイドの本来の変身者である門矢士であるが、その精神は彼とは似ても似つかぬ邪悪の塊。
秘密結社BADANの大首領にして人類の創造主たる神、JUDO。
マゼンタ色の肉体の異形、アナザーディケイド。
肉体は正義の心と無限の知的好奇心を併せ持った魔少年フィリップ、だが精神は仮面ライダーとは元々一切関りの無い人間。
かぶき町の何でも屋、万屋銀ちゃんの従業員志村新八。

本物のディケイドと偽りのディケイドによる対決は、前者に分が傾いていた。

所詮は偽りの存在に過ぎないアナザーライダーが弱い、という訳ではない。
本来の歴史に存在する仮面ライダーに取って代わるべく、タイムジャッカーに見初められた者が変身した怪人。
変身者による性能の差は有れど、いずれのアナザーライダーも仮面ライダージオウ…常磐ソウゴとその仲間達を苦戦させて来た。
しかしソウゴは立ち塞がるアナザーライダーを次々と撃破し、順調に王への道を辿って行った。

アナザーディケイドはある世界線でのソウゴの王道において、最後に立ち塞がった脅威である。

タイムジャッカーの纏め役であり時の一族に生まれた男、スウォルツが門矢士から奪ったディケイドの力で変身し猛威を振るった。
数ある仮面ライダーの中でも一際異質な存在であるディケイドが元となったからだろう、アナザーディケイドの力はそれまでの敵とは明らかに一線を画していた。
最終的には魔王にして時の王者、オーマジオウへの変身を遂げたソウゴによって撃破されたが、それはつまりオーマジオウになる以外に倒す術があの世界線では存在しなかったということ。
肉体的にも精神的にもソウゴを最も追い詰めた最悪の敵、それがアナザーディケイドである。
(そのスウォルツでさえ『本物』の魔王にとっては傀儡にしか過ぎなかったが、ここでの詳細は割愛する)


532 : Fの集結/破壊者たちの狂宴 ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:10:00 LmAHtPLA0
アナザーディケイドの力を以てすれば、たとえ相手が本物のディケイドだろうと互角以上に渡り合える。
だが実際にはどうだ、アナザーディケイドの猛攻は余裕を持って対処され、反対にディケイドの攻撃は面白いように食らってばかり。
確かに今のアナザーディケイドはダークライダーの召喚やアナザーワールドの創造等、パワーバランスを著しく崩す能力を主催者の手で封じられている。
しかし肉体のスペックと耐久力を活用すれば、新八本人の身体の時よりも遥かにキレのある剣術を繰り出せただろう。
それが出来ていない理由は一つ、新八を精神を蝕み続ける破壊衝動だ。
承太郎が危惧しアナザーウォッチの使用を拒否させた暴走の危険性、それに抗おうと新八は仲間を守る為にJUDOを倒すという意思で破壊衝動を押さえ付けている。

が、それで簡単にアナザーウォッチを使いこなせられるのなら、わざわざ説明書に警告文など記さない。
時間が進む毎に破壊衝動は増していき、新八の意識はどんどん薄れていく。
だから我武者羅に刀を振るって一秒でも早くJUDOを倒そうとしているが、そんな大雑把な動作ではJUDOに届かない。
暴走を押さえ付けようとする意志が、逆に新八から精細な動きを欠いてしまっている。
アナザーウォッチは能力の強化という恩恵以上に、新八を見境なしに暴れる怪物へと変える時限爆弾の役目を果たそうとしていた。

だからと言っておめおめと暴走を許すつもりは新八に無い。
自分の刀はJUDOに届かないが、相手の攻撃も未だこちらの命を刈り取るには至っていないではないか。
さっきは顔への斬撃に呻きはしたものの、それだって致命傷にはなっていない。
ならばこのまま攻め続けるだけと、頭部目掛けて刀を振り下ろす。

「馬鹿の一つ覚えに過ぎんな」

後方へ跳んで刀を避ける。
切っ先は床に新しい傷を付けるのみに終わった。
身体能力だけは高いようだが、敵はこちらの予想通り変身した姿を使いこなせていない。
せめてあのオーロラのような移動能力を駆使すればマシになるだろうが、破壊衝動に呑まれかけている今は使う余裕も無いらしい。
必然的に脅威の度合いは下がっているが耐久力だけは異様にある。
であるのなら、こちらも戦法を少しばかり変えるか。

「使ってみるか」

『FORM RIDE AGITO FLAME!』

新たに取り出したカードをディケイドライバーに装填すれば、一瞬で姿が変わる。
ベースはこれまでと同じ仮面ライダーアギトのもの。
違うのは最初にカメンライドした金色の鎧とも、先程までに纏っていた青の鎧とも違うこと。
両目と同じ真紅の装甲を身に纏い、右手にはストームハルバードに代わる武装の長剣が握られていた。
仮面ライダーアギト、フレイムフォーム。
風の力を宿したのがストームフォームならば、こちらは炎の力を宿した派生形態。
余裕を感じさせる速さで、ゆっくりと敵へ迫る。

「わあああああああ!!」

相手の姿が変わった事に一々驚いている余裕など無い。
真正面から叩き斬らんと振り下ろされる刀。
対するJUDOは焦る事無く剣を構え、迎え撃つ動作を見せた。
同時に赤く染まった拳が更に色を濃くする。炎だ、突如発生した炎が右手を伝って剣、フレイムセイバーを包み込む。


533 : Fの集結/破壊者たちの狂宴 ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:11:47 LmAHtPLA0
「フンッ!」

フレイムセイバーを新八の刀へ叩きつけるように振るってやれば、いとも簡単にへし折れた。
武器としての機能を失ったソレにJUDOの剣を止める術は無い。

「うぐっ!」

遮る物が消え失せれば、必然的に刃は新八本人へと到達する。
切り裂かれた胸部がジンジンと熱さを伴って痛む。
ストームハルバードで斬られた時よりも、痛みが増しているように感じられた。

フレイムフォームは俊敏性こそ低下するものの、代わりに腕力と知覚が強化される。
承太郎との戦闘ではスタープラチナに対抗する為ストームフォームのカードを使ったが、今は一撃の威力を強化した方が良いと判断し、こちらの姿へとなった。

『FAINAL ATTACK RIDE A・A・A AGITO!』

相手の武器を破壊し一撃を与え、それで満足とはいくはずが無い。
流れるような動作でカードを取り出し、ドライバーへ叩き込む。
電子音声が発せられれば、瞬時にフレイムセイバーへエネルギーが流し込まれる。
アギトのクロスホーンを模した鍔が展開すれば、それは正に必殺の一刀を振るう合図。
正面の敵を見据え、大きく踏み込みフレイムセイバーを振り下ろす。
ディメンションキック等と比べれば派手な印象は受けない技であるが、破壊力は劣らない。

「うわあああああああ!!」

これまで以上に火花を散らして吹き飛ぶ新八。
本来ならばアンノウンを一刀両断する技を受けても、肉体の欠損が見られないのは流石の耐久力と言った所か。
新八にしてみれば何の慰めにもならないが。

「この程度の力で我を相手に勝ちを奪い取る気でいたなど、呆れて物も言えんな」

失望を露わに吐き捨てたJUDOへ新八は何も言い返せない。
リオン・マグナス、アドバーグ・エルドルなどこちらが思った以上の力を持つ人間との戦い。
少女の肉体でありながら寒気が走る程の「死」を予感させた、両面宿儺との邂逅。
元の身体より弱体化している事を踏まえても、面白いと感じる参加者と出会えていたせいもあるのだろう。
期待外れでしかない新八への落胆と苛立ちは普段以上に大きい。
せめてあのスタンドなる力を持つ男と、自身の背後を取った女との三人掛かりなら多少はマシだったろうに。
自分から一対一の状況を作っておきながらこの結果、全く持ってつまらないとしか言いようが無かった。
では完全に無意味な戦いでしかなかったのかと言えば、そういう訳でもない。
ライドブッカーから新たなカードを一枚取り出し、無言で眺める。
クウガ、アギトとも違う姿の戦士が描かれているそれは、また一つディケイドの力を取り戻した証拠。
JUDOからすれば退屈極まりない時間だったが、制限解除の為に必要な戦いとは見なされたらしい。


534 : Fの集結/破壊者たちの狂宴 ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:12:39 LmAHtPLA0
「フン……」

順調に力を一つ取り戻した。それについてはまぁ良い。
だがJUDOにとって参加者との殺し合いはディケイドの力を取り戻す為だけでなく、己の渇きを癒す為のものである。
長きに渡る虚無の牢獄への投獄は、退屈という名の拷問に等しい。
それ故か、家畜の肉体に精神を閉じ込められる屈辱すらもどこか楽しさを感じた。
本来の力を行使すれば取るに足らない連中へ、それなりに手を焼かされたのも一つの愉しみとして受け入れている。
それに伴い渇きはより大きなものとなり、求める闘争の質も上がって行く。
だというのに、ここに来ての退屈な時間に酷く気分が害されたのだ。
これで力も取り戻せていないとなったら、より不機嫌となっていただろう。

(しかし…我がこのような感情を抱くとはな)

JUDOにとって人間とは竜の餌にする為に生み出し、支配下に置いた存在。
だが今はどうだ、あくまで己の渇きを癒すに過ぎないとはいえ人間どもとの闘争を望んでいる。
より大きな力を持つ者の出現に期待を抱いている。
ツクヨミのように人類の味方となるつもりは毛頭ないが、隷属される者として以外の感情が宿りかけているのは否定できない。
それ程に牢獄での時間が苦痛だったか、或いは人間の身体になった事で精神に何らかの異変が起きているとでも言うのか。

「ぁ……」

自分自身への僅かな戸惑いを抱くJUDOの傍ら、新八は掠れた呻き声を上げた。
ディケイドアギトの一撃は強力だが、アナザーディケイドの肉体ならば耐え切れる。
但し精神は、破壊衝動にどうにか抗っていた心までは耐え切れない。
仲間を守る為に倒すという意思、それも一度倒れてしまえば呆気なく崩れてしまう。
このままでは駄目だ、立ち上がらねばと思っても、それすら湧き上がるドス黒い衝動に掻き消されていく。

そして、限界は訪れた。


○○○


「皆!あそこに!」

こえがきこえる。なんだかすごくあわてているようなこえ。
ええとだれだっけ。しってるはずなのに、おもいだせない。

『一足遅かった…。いや、変身が解かれてないって事はまだ生きてるみてぇだが』
「誰かと思えば、そこに転がる愚物の仲間か。こちらから赴く手間が省けたな」
「テメェ……」
「あれがディケイド…。アイツも仮面ライダー…!」

ほかにもだれかいるんだ。
けどこまったな、だれなのかぜんぜんわからないや。
ああそれにどうしてだろう、しんぱいしてくれるようなこえもあるのに、
うっとうしくかんじる。
ぼくのそばからいなくなってほしいって、そうおもってしまう。

「ほう、貴様らも我の知るプロトタイプとは別物か。ならば、多少は楽しめるやも知れん」
『やれやれ、この人数差でも余裕じゃねぇか。厄介な相手ってのは間違いないって事かね』

うるさいなぁ。だまってくれないかなぁ。いなくなってくれないかなぁ。
ぼくがどんなにおもってもこいつらはここにいるままだ。
じゃあどうすればいいんだろう。


535 : Fの集結/破壊者たちの狂宴 ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:15:31 LmAHtPLA0





――――壊せ





ドクンと心臓が強く跳ねた。

「新八……?一体何が…!?」
「ッ!?雨宮!新八から離れろ!分からねぇが、今のソイツは普通じゃねえ!」
「これは……!?」
『……どうやら、また面倒な事になって来たようだな』

壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ
壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ
壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ
壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ

「ふむ、これは……」
「新八に何をしたんだ…!?」

壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ
壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ
壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ
壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ

「勘違いするな。我ではなく、その愚物による自業自得に過ぎぬわ。
 使いこなせもしない力をその身に宿し、我に勝てると思い上がった代償を支払う時が来ただけだろう」
『…成程ねぇ。つまりこの後起きるのは――』

壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ
壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ
壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ
壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ


なにもかもぜんぶ、こわそう


536 : Fの集結/破壊者たちの狂宴 ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:16:59 LmAHtPLA0
○○○


弾かれたように起き上がった新八…アナザーディケイドが真っ先に行ったのは、最も近くにいた者の殺害。
運悪く該当したのは蓮。
倒れていた新八の傍で屈んでいた事が仇となった。
赤い眼の仮面越しでも分かるくらいに困惑している顔へ、剛腕を叩き込む。
刀はJUDOに破壊されたが問題は無し、素手だろうとアナザーライダーに変身している以上立派な凶器と化す。
人間所か並の魔物にすら反応を許さぬ速度で振るわれる腕。
ならばそれを防げるものがあるとしたら、同じく並以上の力を持つ者だけしかいない。

「スタープラチナ!」

最強のスタンド、スタープラチナ。
アナザーディケイドの攻撃を阻止するのに申し分のない力だ。
伸ばした腕は拳に弾かれ、蓮の命はまだ繋がったまま。
だが安堵している暇は無い。

「オラァッ!」
「ペルソナ!」

一度防がれただけでは諦める気にならないのだろう。
再度蓮目掛けて腕を振るうアナザーディケイド、されど黙ってやられるつもりは蓮にあらず。
スタープラチナとアルセーヌによって、二度目の妨害を受ける。
ここでようやくアナザーディケイドの意識は、蓮だけでなく承太郎にも移った。

歯が剥き出しとなった口から漏れるのは低い唸り声、そこに宿る感情はたった一つ、
目に映る全てを破壊してやるというもの。
元は仲間の死に涙した心優しい少年とは思えない、喉がひりつく程の殺気。
承太郎と蓮の表情も釣られて険しさを増す。

「やれやれだぜ。新八の奴、やっぱりこうなっちまったか…」
「承太郎、新八を元に戻す方法は知っているか?」
「…一定以上のダメージさえ与えられりゃ、アナザーウォッチとか言うのが排出されるらしい」

つまり力で押し切るしかない。
いっそ清々しいくらいに脳筋な方法だが、シンプル=簡単とはいかないだろう。
自分達が駆け付けた時、新八は倒れて伏していたが変身は解除されていなかった。
JUDOの攻撃だけでは足りなかったらしい、恐るべき頑丈さだ。
だが他に方法が無いならやるしかない。
銀時から後を託された承太郎は元より、助けられる可能性があるのなら蓮は実行に移すのに躊躇はしない少年だ。
何より新八の身体がフィリップであると聞いた時、一刻も早く会いたいという衝動が蓮自身も戸惑うくらいに湧き上がった。
これもまた翔太郎の身体による影響なのかもしれない。

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
「行くぜオイ!!」
「ペルソナッ!!

雄叫びを上げる異形に負けじと、己の力を解き放った。


537 : Fの集結/破壊者たちの狂宴 ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:18:00 LmAHtPLA0
『おーおー、向こうは派手におっ始めたな』

アナザーディケイドとの戦闘を開始した少年達を見ての一言。
殺し合いの空気には不釣り合いな軽さ。
彼らはエボルトにとっての貴重な戦力だ、死なれない為に蓮達をアシストしたい所である。
が、それを許してくれる相手ではないだろう、今対峙しているライダーは。

『そっちが元の姿って訳か」

エボルトが見つめる先、JUDOは何時の間にやらアギトではなくディケイドへ戻っていた。
記憶にあるどの仮面ライダーとも一致しない外見、やはり並行世界の出身らしい。
だがどこの世界のライダーかを真面目に考えるのは気が向いたらで良い。
今やるべきは、うんざりする程の殺意と、その裏に隠された期待を容赦なくぶつけて来る相手への対処。

「我を少しは楽しませてみせろ。あの愚物の相手をしている連中も、等しく黄泉の地へと送ってくれよう」
『悪いがお断りだ。俺はこんなとこで死ぬ気は無いし、アイツらにも死なれちゃあちょいと困る』

彼らは元々人間では無い、地球外生命体である。
片や猿から進化させた人類を支配下に置き、片や破滅の箱を用いて日本を分断した。
従者の裏切りによって肉体を失った神は、ショッカーを始めとする悪の組織を操り、村雨良という器を手に入れんとした。
火星の王妃との戦いで甚大な被害を受けた怪物は、三都を跨いで暗躍し戦争を煽り、エボルドライバーという力を取り戻さんとした。

IFの話でしか無いが、もしここにいるエボルトがもう少し未来の時間軸から参加させられていたら。
内海成彰という道化の姿に人間は最高の玩具であると認識した時、ジーニアスフォームの力で感情を得た時、
或いは万丈龍我と共にキルバスを倒し、人間という存在に愛憎入り混じった想いを吐露した時ならば、
JUDOが抱き始めた人間への奇妙な感情への答えを、エボルトなりに示せたのかもしれない。
しかしここにいるのは、それらよりも過去の時間軸から来たエボルト。
人間という存在に興味は抱いているものの、利用してから滅ぼす以外に強く思う所はまだ無い。

だから、JUDOに対してやる事は一つだけ。

ライドブッカーとトランスチームガン、互いの右腕が跳ね上がり銃口から火を吹いた。


538 : 閉ざされたH/クライマックスヒーローズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:20:02 LmAHtPLA0



アナザーディケイドとの戦いはあくまで殺すのではなく、暴走を止めること。
変身者である新八を正気に戻す為の戦い故に、本気の攻撃は控えるべきだろうか。
蓮のそんな考えは僅か数秒で消し飛んだ。

「ガァアアアアアアアアアアッ!!」

人間どころか獣に近い雄叫びを上げ、拳が放たれる。
その勢いたるや、アーマージャックにも引けを取らない程だ。
マガツイザナギで防いだものの、衝撃の余波が容赦なくジョーカーを襲う。
吹き飛ばされそうになるのを踏み止まり、しかし一息つく暇は無い。
即座に距離を詰めたアナザーディケイドの剛腕が、ジョーカーの仮面ごと頭部を粉砕すべく振るわれた。
ライダーの身体能力を総動員してのバックステップにより回避、同時にアルセーヌを出現させる。
放たれたのは二つ、ラクンダとスクンダ。
これまでの戦闘で度々使用した、耐久力と敏捷性を低下させるスキルがアナザーディケイドを襲う。

「オラオラオラオラオラオラァッ!」

間髪入れずに衝撃が連続してアナザーディケイドに叩き込まれる。
新八を止めるべく戦うのはジョーカーだけではない。
放送前から彼と行動を共にしていた少年、承太郎もだ。
近接戦において無類の強さを誇るスタンド、その破壊力に翳り無し。
ラクンダにより耐久力を削がれた肉体へ、遠慮なしに殴りかかった。

「ウグァッ!!」

だが拳が直撃した当のアナザーディケイド本人に、痛がる素振りは見られない。
己の肉体へのダメージなど知った事では無いとばかりに、スタープラチナへ拳を放つ。
攻撃を中断し両腕でガードの構えを取る。
間一髪で防御に成功はしたが、腕に走るのは痺れるような鈍い痛み。
顔を顰めた承太郎の反応に構う事無く、続けて拳を放ち続けた。

「ペルソナ!」

稀代の大怪盗の名を冠するペルソナが放つはマハエイハ。
呪怨属性のスキルに、アナザーディケイドの肉体は蝕まれる。
しかし相手は仮面ライダーの破壊者を更に歪めた、悪魔の如き怪人。
負の感情が込められたスキルなど多少鬱陶しい程度のものでしかなく、ダメージは期待できない。


539 : 閉ざされたH/クライマックスヒーローズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:21:18 LmAHtPLA0
「オラオラオラオラオラオラオラ」

尤もジョーカーからしても、これで倒せるとは微塵も思っていない。
攻撃を僅かにでも止め、自分の方へ意識を向けさせれば問題なし。
そうすれば承太郎がすぐに立て直せる。
ジョーカーの狙い通り、すかさずスタープラチナのラッシュを放ち再度打って出た。

「グゥウウウウウウウウ…!!」

破壊力のみならずスピードも桁外れ。
JUDOでさえ警戒した速さの拳を前にしても、アナザーディケイドは健在。
スタープラチナのラッシュに対抗するように手刀を振るい、拳を全て捌く。
胴体や顔面部を狙ったはずのラッシュは一つ残らず防がれた。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」

されど承太郎もまた拳を放ち続ける。
魔王と戦った時と同じだ、攻撃の手を緩めれば即座に殺されるに違いない。
だからひたすらラッシュを放つも、状況を変えるべく動き出したのは相手の方。
スタープラチナの拳を捌く手を片手のみに変えたのだ。
当然腕一本のみでは限界があり、防ぎ漏らした拳が幾つも体へヒットする。

殴打の嵐を受けたというのに怯みはせず、空いた方の手でスタープラチナの腕を掴んだ。

「っ!?」

思いもよらぬ行動に承太郎の両目が見開かれる。
掴まれたスタープラチナの腕からはミシミシと不快な音がし、本体の承太郎にも痛みが伝わった。
このままでは握りつぶされる、判断したのとスタンドを操作したのはほぼ同時。
拘束から抜け出そうと、アナザーディケイドへ片手で拳を幾度も放つ。

「グォオオオオオオオ…!」

何度殴られてもアナザーディケイドは拘束を緩めない。
狙いはこのままスタープラチナの腕を潰す事なのか?
違う。単に腕を潰すよりも、もっと強力な一撃で承太郎を仕留める気だ。
アナザーディケイドの腹部にある、ベルトのような物体。
本来ディケイドに変身する為のディケイドライバーに似た装飾のそれは、血走った眼球にも見える。
無論ただの飾りでは無い。
それを証明するように腹部からは紫色のエネルギー波が溢れ出し、スタープラチナを拘束するのとは反対の手に集まって行くではないか。
この一撃を食らうのは確実に危険、承太郎の脳が危険信号を鳴らす。


540 : 閉ざされたH/クライマックスヒーローズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:22:32 LmAHtPLA0
『JOKER!MAXIMAM DRIVE!』

「ライダーキック!」

だが忘れてはならない、今の承太郎には共に戦う戦士がいることを。
マキシマムスロットに装填されたメモリが、必殺のエネルギーをジョーカーに付与する。
アーマージャックとの戦闘では拳に纏わせたソレは、今回はメモリから右脚へと伝導された。
跳躍したジョーカーはアナザーディケイド目掛けて右足を叩きつける。

口から自然と飛び出した名前。ある意味では仮面ライダーの代名詞とも言える必殺技。
ルブランにて見た翔太郎の記憶に登場した怪人、ヒートドーパントを下したのもこの蹴りだ。
ライダーキックが捉えたのは顔面や胴体ではない、スタープラチナを拘束する腕だった。

エネルギーを一点に集中させた攻撃による衝撃は無視できない。
拘束が解かれた瞬間、承太郎はスタンドを解除。
続けて横へと大きく移動。エネルギーを纏ったアナザーディケイドの拳が放たれたのはその直後。
ネズミの速さの外套の効果で移動速度が強化されていた為、ギリギリの所で回避は間に合った。

「マガツイザナギ!」

空振りした瞬間の隙に叩き込まれる、マガツイザナギの長得物。
豪快に振り回された斬撃は、当たりこそしたものの怯ませるには至らない。
続けてスキルを放とうとするジョーカー、だが直ぐに回避へと変更。
跳躍したのと同じタイミングで、足底の真下を腕が通過した。

所々が砕け散った床へはまだ着地せず、アナザーディケイドの胸板を蹴り上げる。
無論ダメージを期待しての事では無いし、事実敵は微動だにしない。
蹴り上げた際の反動を利用し後方へと移動、ついでにアルセーヌのスキルを放った。
夢見針が命中したものの、予想通り効果は無し。
眠ってしまえば取り敢えず暴走は止まると期待したが、そう都合良くはいかないようだ。

だがアナザーディケイドの意識はまたもやジョーカーの方へと移った。
またとない攻撃の機会である。

「スタープラチナ・ザ・ワールド」

囁くような声は、時間停止発動の合図。
喧噪に包まれていた展望室が一瞬にして静まり返る。
アナザーディケイドとジョーカーだけではない、同じ階で戦闘中のエボルトとJUDOもだ。
完全な静寂に包まれた風都タワーで動く事が可能なのは、承太郎ただ一人のみ。
とはいえ止められる時間は無限ではない。僅かに得た猶予は無駄に出来ない。
拘束されていた腕の痛みなど気にしちゃあいられない、動かせるのならそれで十分だ。


541 : 閉ざされたH/クライマックスヒーローズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:23:33 LmAHtPLA0
囁くような声は、時間停止発動の合図。
喧噪に包まれていた展望室が一瞬にして静まり返る。
アナザーディケイドとジョーカーだけではない、同じ階で戦闘中のエボルトとJUDOもだ。
完全な静寂に包まれた風都タワーで動く事が可能なのは、承太郎ただ一人のみ。
とはいえ止められる時間は無限ではない。僅かに得た猶予は無駄に出来ない。
拘束されていた腕の痛みなど気にしちゃあいられない、動かせるのならそれで十分だ。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」

時の止まった世界において承太郎の攻撃を防ぐ術は無い。
同じタイプのスタンドを持つDIOか、時間を操る力を持ったスウォルツならば対応出来ただろう。
アナザーディケイドにそういった力は無く、変身者である新八と肉体のフィリップも同様。
だから時の止まった世界での承太郎は実質無敵。
スタープラチナのラッシュを、アナザーディケイドは一方的に叩き込まれるばかり。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」

だが拳を放っている最中にも、承太郎の表情には焦りが見えた。
バトルロワイアルで戦った剣士、志々雄と魔王も時間停止中にスタープラチナのラッシュをモロに食らい、派手に吹き飛んだのは記憶に新しい。
柱の男や魔族の肉体にも己のスタンドの力は有効だった。
だというのに今殴り続けている相手は、硬い。異様な程に硬過ぎる。

「オォォォラァァァッ!!!!!」

2秒が経過し最後の一発を叩き込む。
百に届くかと言う数の拳を受けたアナザーディケイドは、これまでの相手と同じように後方へ吹き飛ばされる。
が、突如として出現した灰色のオーロラの中に姿を消した。
何処へ行ったと考えるより早く灰色のオーロラは承太郎の背後に出現、飛び出しながらアナザーディケイドは拳を突き出す。

「ペルソナ!」

マガツイザナギの長得物と拳が激突、余りの力強さにジョーカーは歯を食い縛ってふらつく体を強引に立たせる。
その一瞬の隙に強化された瞬発力を承太郎は発揮、一旦アナザーディケイドから距離を取った。

アルセーヌのスキルは間違いなく効いている。
デクンダのようなステータス低下を打ち消すスキルを使われた形跡は無い。
つまり能力を低下されて尚も、この強さと言う事か。
本気の攻撃は控えるなど全く馬鹿げた考えだった、新八を正気に戻す以前に自分達の身が危うい。

確かにバトルロワイアルにおけるアナザーディケイドは、固有能力の大半を封じられている。
しかし単純な肉体スペックだけでも、他のアナザーライダーを凌駕する力を持つ。
パワーに特化した仮面ライダーゲイツの強化形態、ゲイツリバイブ剛裂でもまともなダメージを与えられず、
グランドジオウによって召喚されたライダー達の技ですら撃破には至らなかった程に堅牢だ。

JUDOと戦っていた時は必死に破壊衝動へ抗っていたが、今は身を任せているのも大きく影響している。
新八の抵抗により枷を付けられているに等しかった力を、暴走状態となった事で存分に振るえるようになった。

「グォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

全てを破壊する。
その為ならば自身の負傷すら無視し襲い掛かる悪魔を前に、スタンド使いとペルソナ使いの二人もまた衰えぬ闘志を以てして迎え撃つ。


542 : 閉ざされたH/クライマックスヒーローズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:24:32 LmAHtPLA0



トリガーを引く度にそれぞれの銃口から、エネルギー弾と高熱硬化弾が発射される。
一発一発に十分な殺意を乗せた銃弾は敵の装甲から火花を散らし、じわじわと体力を削り取る役目を持つ。
だがどちらの弾もその役目は果たせず、躱され、或いは弾き落とされる。
普通の人間は発射される前ならまだしも、発射された後で銃弾に対し出来る事など無い。
精々狙いが外れているようなけなしの信仰心を振り絞って、いるかどうかも分からない神に祈るくらいだろう。
対処出来た二人は普通では無いし、そもそも人間ですら無かった。

『おっ、と』

強化グローブに覆われた拳でエネルギー弾を防ぎながらも、トランスチームガンを連射する。
体を捩ったり地面を転がっての回避だけでなく、こうした対処法は向こうも同じようにやっていた。
今もそう、高熱硬化弾が手刀ではたき落とされた。
別に目を見開き口をあんぐりと開けて驚くような光景でも無い。
ブラッドスタークでやれる事は、ディケイドにも可能と言うだけのこと。

ブラッドスタークもディケイドも撃った弾の数は覚えておらず、そもそも計算して撃つこと事態していない。
通常の銃火器ならば装填された残弾や、予備の弾の数を考えて無駄撃ちを避けるだろう。
既に分かり切っているように、仮面ライダーやトランスチームシステムの怪人が使用する武器もまた普通の範疇には収まらない。
ライドブッカーは無尽蔵のエネルギー源を持ち、トランスチームガンは生成ユニットを搭載している。
どちらの銃も弾切れと言う概念は存在しない。トリガー引けば引いた分弾が発射される。
残弾など気にはせず、ただ相手を殺す事のみに意識を回していた。
だがこのまま撃ったり避けたり防いだりを続けた所で、埒が明かないのも事実。

状況を変えるべく先に動いたのはブラッドスターク。
銃弾を防ぐ左手は止めず、反対にトランスチームガンを持った右手は下ろした。
戦闘の放棄ではない。自身の身体を赤い影のように変化させ、ディケイドへと急接近。
元の世界ではナイトローグとの、バトルロワイアルではウェザードーパントとの戦闘に使用した移動方法。
至近距離へと到達し実体を露わにすれば、何時の間にやら左手にはバルブの付いた短剣が握られていた。
専用武器であるスチームブレードを振り下ろす。リーチは短いがこの距離なら確実に当てられる。
響く音は甲高い金属音。当たったのはディケイドの装甲ではなく、細身の刀身。
ライドブッカーをガンモードからソードモードへと瞬時に変形させ、防御したのだった。
とはいえこの程度はブラッドスタークにとっても想定内。

エメラルドグリーンのバイザーに隠された視覚センサーと、人間の8倍の視細胞を持つ緑の眼が交差する。
会話は無い、ただそれを合図に互いの刃が振るわれた。


543 : 閉ざされたH/クライマックスヒーローズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:25:28 LmAHtPLA0
一手早かったのはスチームブレード。
リーチが短い分、取り回しにおいては若干の有利が傾く。
武器内部に組み込まれた機能を使い、刃全体を急速加熱する。
ルブラン前での戦闘でシロの下顎を溶かし斬ったように、人体やら並の装甲などバターと変わらない。
熱せられた刃を防いでも変形しない、ディケイドの専用武器には関係の無い話だが。
ディヴァインオレというディケイドの各部装甲にも使われている特殊な鉱石は、ライドブッカーの刃にも加工済み。
スチームブレードとの打ち合いを可能にしていた。

「悪くない反応だな」

振り上げられた刃を防がれ、反対に顔面へ突き出された切っ先を弾きながらディケイドが言う。
唐突な称賛を向けられても特に大きな反応はせず、そりゃどうもとだけ返しブラッドスタークは首を狙った一撃を防いだ。

単純なスペックだけ見れば、勝っているのはブラッドスタークの方。
元々トランスチームシステムとは、仮面ライダーのハザードレベルを上げる為のライバルという役目で開発された。
それ故か基本的な性能は高めに設定されており、仮面ライダーと違ってハザードレベルが上がらない欠点を能力の高さで補っている。
加えてJUDOがバトルロワイアルにてディケイドに初めて変身したのに対し、エボルトは元の地球にいた時からブラッドスタークへ変身していた。
仮面ライダーエボルに戻るまでの「繋ぎ」に過ぎないとはいえ、エボルト自身の戦闘技能の高さも相まって他のライダー達と互角以上に渡り合うくらいには使いこなしている。

ではエボルトが圧倒的に有利なのかと言えば、それは否。

確かにエボルトにとってブラッドスタークは使い慣れた力だ。
しかし変身前の肉体はそうではない。
今更改めて説明する内容でもないが、バトルロワイアルにてエボルトに与えられた肉体は桑山千雪と言う争いとは無縁のアイドル。
体力作りをこなし運動能力を高めてはいるが、それらはステージ上でのパフォーマンスを成功させる為のものであり、間違っても戦闘目的では無い。
手先の器用さも雑貨作りに向けているものであり、人殺しの技術に活かしたものではない。
屋台の射的では百発百中の腕前を持っていても、本物の銃を人間相手に撃った経験など有り得る筈がない。
根本的に戦い向きではない肉体を、変身後のスペックとエボルトの戦闘技術でどうにか補っている状態なのである。

一方でJUDOの肉体、門矢士は仮面ライダーディケイドの本来の変身者である。
それ故に精神こそ別人であれど、ディケイドに変身した際には驚くほど馴染むのだ。
元々万能超人の言えるだけのスペックを有し、実際に疲労回復の早さにはJUDOも僅かながら感心を抱いた。
おまけに幾つものライダー世界への旅や、旅の果てに待ち受けたライダー大戦を経て磨き上げられた能力もまた、士の肉体へ強さを齎している。

よってこの戦闘、一概にどちらが有利不利とは判断できないものである。


544 : 閉ざされたH/クライマックスヒーローズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:26:37 LmAHtPLA0
数十度目の剣の打ち合いになった頃、ブラッドスタークは右手を至近距離のディケイドに向けた。
ライドブッカーをスチームブレードで防ぎつつ、右手のトランスチームガンの引き金を引く。
防御に使うべきライドブッカーは間に合わず、手はどちらも柄を握り締めたまま。
高熱硬化弾が連続してディケイドに命中、アーマーの機能に衝撃が緩和されてもダメージを完全に防いではいない。
火花を散らしながら後退、ブラッドスタークに逃がす気は無いらしくトリガーは引かれ続ける。
致命傷とまではいかないが、こうも撃たれ続ければ非常に鬱陶しい事この上ない。

「退けいっ!!!」

大地を震わせるかの如き怒声をディケイドが放つ。
怒鳴られた程度で攻撃を躊躇する相手では無い。
だがどうした事だろうか、ディケイドが怒声を放った途端にブラッドスタークの装甲から火花が大きく散ったではないか。
突然のダメージに銃撃は中断され、困惑しつつも距離を取った。

『妙ちくりんな攻撃だな…』

ボヤく相手に種明かしをするつもりは無いが、今のがディケイドの能力だとはJUDOも把握して怒声を放った。
ディケイドの顔面部、人間で言えば丁度口に当たる箇所に搭載された機能。
これはブームボイスと言い、ディケイドの雄叫びを高周波として放つ立派な武器の一つ。
10mの岩石でさえ破壊可能な威力は、実戦でも有用なようだ。

攻撃の正体をご丁寧に教えてくれるとは期待しちゃあいない。
コブラロストフルボトルをトランスチームガンに装填すれば、呼応するかのようにディケイドもカードをドライバーに叩き込む。
再度ガンモードに変形させたライドブッカーを向けられたブラッドスタークも、己の銃を突き付けた。

――STEAM BREAK!COBRA!

『FINAL ATTACK RIDE DE・DE・DE DECADE!』

10枚の巨大なカード型エネルギーを潜り抜け、銃弾は光線に形を変えた。
光の束はブラッドスタークを呑み込まんと迫り、同時に放たれた銃弾に相殺される。
ブラッドスタークの放ったコブラ型のエネルギーもまた、ディケイドへは届かなかった。

距離が開いた今、ディケイドはついさっき手に入れたばかりのカードに手を伸ばす。
1号から始まるプロトタイプとは違う、しかし仮面ライダーと確かに呼ばれていた戦士の力。

『KAMEN RIDE RYUKI!』

赤いスーツに銀色の装甲。
どこか騎士を思わせるその戦士の名は、仮面ライダー龍騎。
願いを懸けてのライダーバトル、別の世界では有罪無罪を懸けてのライダー裁判への参加資格を得たライダー。
この地ではクウガやアギトと同じく、純粋な破壊の手段として姿を現した。

『わざわざお揃いの色に合わせてくれたのか?』

自身の身体を指さしながら冗談めかして言うブラッドスタークを無視し、ディケイド龍騎はライドブッカーを構える。
ツレねぇなと苦笑いし、ブラッドスタークもまた己の武器二つをライフルモードへと合体させた。

(さて、そろそろ動いても良い頃合いだがねぇ……)

視線はディケイド龍騎から逸らさず、頭に思い浮かべるはこの状況を変えられるかもしれない人物。
戦闘に参加していない仲間が動き出す瞬間を、じっと待っていた。


545 : 閉ざされたH/クライマックスヒーローズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:28:33 LmAHtPLA0



(よ、よーし、バレてないぞー……)

承太郎と蓮はアナザーディケイドと、エボルトはJUDOとそれぞれ戦闘を繰り広げている。
しかし一人足りない。
風都タワーに向かったチームの人数は4人、残る一人はどちらとも戦っていなかった。
ホイミスライムのホイミンは風都タワーに突入して以降、姿を消していた。

戦いが恐くなったから?自分一人だけは助かりたいから?
そんな理由では無い。ホイミンだって心に恐怖を宿しながらも、新八を助ける為にここへやって来たのだ。

では何故姿を消しているのか。
彼が他の者に比べて戦闘力が劣っているからか?
確かにそれは否定できない。市街地での戦闘ではJUDOの不意を打つのにこそ成功したものの、与えた傷は余りにも小さかった。
二人の破壊者と正面切っての戦闘は、例えシャルティエの晶術込みでも厳しいだろう。
だがそれは一番の理由では無い。

ホイミンが姿を消しているのは、JUDOへの攻撃を成功させる為だ。
無論、ただ単にJUDOへ攻撃を当てた所で市街地の時同様、大して意味は無い。
しかし狙う箇所が腰に巻いた白いベルト、ディケイドライバーならどうだ。
承太郎が理解した通り、ディケイドへの変身は士やJUDOの力によるものではない、あくまでディケイドライバーの力によるもの。
出発前にエボルトも言っていた。ディケイドという名に聞き覚えは無いが、仮面ライダーである以上は共通の弱点があると。
それこそが変身する為のベルト。仮面ライダーにとっては第二の心臓と言っても過言ではない。
ベルトを破壊するか、或いは強引にでも剥ぎ取ってしまえば瞬く間に変身は解除されるのは間違いないらしい。

と言ってもそう簡単にベルトをピンポイントで狙わせてくれる程、軟な相手ではない。
そこで名乗り出たのがホイミンだった。
アンチバリア発生装置により姿を、肉体のスキルにより気配を消せる彼ならばJUDOの隙を突いてディケイドライバーをどうにか出来る可能性が高い。
当然いきなり奪おうとしても失敗する可能性が高い。
その為展望室へ承太郎達が飛び込んだ際にもホイミンだけは姿を消して、様子を見るのに徹していた。
ホイミンも風都タワーに来たと知れば一度背後を取られている以上、取るに足らない弱者と見下しつつも警戒はされるはず。
だからこうして、JUDOに姿は決して見せずチャンスを窺っていたのだった。

(新八君……)

アナザーライダーと化し暴走する仲間の姿に、ホイミンは胸が酷く痛んだ。
本当なら展望室で倒れている新八を見つけた時、傍に駆け寄って回復呪文を唱えたかった。
けれど今出て行ったら作戦が水の泡だとシャルティエに説得され、ぐっと堪え今に至る。

(僕は…僕に出来る事をやるんだ…!)

変身を解除されればJUDOは一気に弱体化する。
そうなれば倒すのは容易いし、JUDOをどうにかしたらエボルトも承太郎達の加勢に行けるのだ。
それで新八の暴走が止まったら、ホイミで彼の傷を癒してあげよう。
全ては自分が成功するかどうかに掛かっている。絶対に失敗は出来ない、してはならない。


546 : 閉ざされたH/クライマックスヒーローズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:30:23 LmAHtPLA0
(よし、今ならいける!)

JUDOはエボルトに意識を向けており、ホイミンに気付く様子は無い。
狙うならここだと急ぎ、されど慎重さも忘れずに背後から近づいて行く。

その際視界に一瞬映ったのは、アナザーディケイドと承太郎達の戦い。
仲間の死に深く悲しんでいた新八は、承太郎の強い言葉により銀時の意思を継ぐと決意した。
それなのに今は仲間同士で戦っている。
暴走する仲間を正気に戻そうと、承太郎と蓮は諦めずに立ち向かっている。

その光景はホイミンの心をざわつかせる。
ああ、彼らは何て、何て――





――見るに堪えないのだろう。ゴミの悪足掻きとは、本当に笑えるくらいに惨めだ。





「うわぇ!?」

素っ頓狂な声を出し動きを止めた。

今自分は何を考えた?人間を、仲間達に何を思った?
承太郎達が戦っているのなら自分だって頑張らないと。
そう改めて決意を抱いたはずなのに、出て来たのは全く違う感情。
仲間を侮蔑し嘲笑うようなそれが、本当に自分が思い浮かべた事なのか?

自分自身の事ながら信じられず、ホイミンはその場に立ち尽くす。
それが大きな失敗と気付いたのは、直後の事である。

余りの衝撃ゆえに、自分の置かれた状況をほんの一瞬とはいえ頭から追い出してしまったのだろう。
アンチバリア発生装置は姿こそ消す効果を持つが、気配までは消せない。
だから肉体の持つスキルを駆使していた。
しかし大声を出してしまえば、自分から居場所を敵に教えるのと変わらない。

だから、そう。

『ATTACK RIDE STRIKE VENT!』

失敗の代償は、己の身で支払う事となる。

「うわぁああああああああああ!!?!」

気付いた時には既に遅く、ホイミンの身体は炎に包まれた。
物理攻撃に耐性を持つスライムの肉体と言えど、それ以外の攻撃までは耐え切れない。
全身が焼き潰される激痛に立っていられず、その場でのたうち回る。

その様を見下ろしながら、ディケイド龍騎は続けて炎を放つべく右腕を向けた。
装着されているのは龍の頭部のような手甲、ドラグクロー。
龍騎の契約モンスター、ドラグレッダーの頭部を模した打撃武器だ。
元々龍騎が持つストライクベントのカードを、ディケイドはアタックライドのカードで使える。
ミラーモンスターを倒す威力の炎は、続いて放たれはしなかった。


547 : 閉ざされたH/クライマックスヒーローズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:31:38 LmAHtPLA0
――ELECTRIC STEAM!

電撃を纏った特殊弾が発射される。
標的は勿論ディケイド龍騎。連射性能を強化したトランスチームライフルの弾を、ドラグクローで防御する。
チラとホイミンに視線をくれてやり、直ぐに興味は失せたのかブラッドスタークへと炎を放った。
地面を転がりながらバルブを操作、照準は依然としてディケイド龍騎に向けられたままだ。

――ICE STEAM!

スチームブレード内部で生成されたエネルギーが、銃弾に付与される。
三発連続で発射された弾を再びドラグクローで防ぐ。
だが失敗だったと悟る。ドラグクローが凍り付き、使い物にならなくなった。
凍結はまだ続いており自分の腕まで凍らされる。それは御免だとドラグクローを躊躇せずに投げ捨てた。
所詮はカードの効果で出現させた武装の一つ。惜しくも何ともない。
代わりにライドブッカーをソードモードで構える。

『ホイミン君!しっかりするんだ!ホイミン君!』

何度もに呼びかけるシャルティエに、どうにか首を動かす事で反応する。
痛みから逃れようと必死にのたうち回った甲斐があったのだろう、身体に纏わりつく炎は消えていた。
といっても状況は全く良くは無く、ホイミンの負った傷は決して軽くない。
心優しいスライムの死を望まないソーディアンは、必死に叫んだ。

『ホイミン君!急いで自分に向けて回復呪文を唱えるんだ!』
「う……うん……。ホイミ……』

ホイミンの身体が淡い光に包まれ、焼かれた痛みも多少は緩和する。
尤もホイミは元々回復量が多くは無い上に、殺し合いでは制限の対象。
一度唱えた程度ではまだ安心できない。

『ホイミン君、一回だけじゃ駄目だ!魔力が続く限り唱えてくれ!』
「分かった……。ホ、ホイミ……ホイミ……」

弱々しく頷きながら、言われた通りにホイミを何度も唱える。
果たしてその効果はあった。
塵も積もれば何とやら、一度の回復効果は低いが複数回唱えた為痛みも大分引いている。
代わりに相応の魔力は消費されたが、躊躇って呪文を唱えず死ぬよりは遥かにマシだろう。

ホイミンの命は助かった。
しかし当初の狙いであったディケイドライバーへの攻撃は達成出来ず。
既にホイミンの姿を見られてしまった以上、同じ手は通用しないと見るべきだ。

「伏兵を忍ばせていたようだが、当てが外れたな」
『残念ながら、そうみてぇだな…』

ため息交じりに言葉を返しながらも、トランスチームライフルは撃ち続ける。
ライドブッカーで銃弾を斬り落としながらディケイドが接近、横薙ぎに振るわれた剣をブレード部分で受け止める。
流れるようなディケイドの剣裁き、的確に急所を狙ってくる刃を時には躱し、又は受け流す。


548 : 閉ざされたH/クライマックスヒーローズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:32:31 LmAHtPLA0
ホイミンの作戦が失敗したのは、アナザーディケイドと戦闘中の承太郎達にも見えた。
炎に包まれ絶叫を上げた彼はシャルティエの助言もあり、どうにか助かった模様。
偽りの破壊者を前に他へ気を回すなど自殺行為。
二人ともそう理解はしているものの、実際に仲間の絶叫を聞き、痛みに悶える姿をチラリとでも見てしまえば動揺が走るのは避けられない。
迫るアナザーディケイドの拳に対処が遅れてしまえば、後はもうされるがまま。
咄嗟の防御も間に合わずジョーカーが殴り飛ばされた。

「ぐぁあああ!!」
「雨宮!?チッ!!」

地面を転がる仲間へ目をやったほんの一瞬で、アナザーディケイドは承太郎の眼前まで接近していた。
間に合うか、いや間に合わせなければ。
動揺を即座に押し殺してスタープラチナを操作する。
しかし遅い。1秒にも満たない硬直ですら、アナザーディケイドには絶好の隙でしかない。
マゼンタと紫を混ぜ合わせたような色合いの爪をスタープラチナへ突き刺そうとし――


「グォオオオ!?」


背中に桜色の光弾が命中した。
それも一発のみでなく、二発三発と次々に当たってはアナザーディケイドの背に僅かな痛みを齎す。
ダメージとしては小さいものだが、予期せぬ攻撃に動きは止まった。
スタープラチナに爪は数ミリ届かず、反対に拳を叩き込まれる。
殴られた衝撃で後退したその瞬間に、アナザーディケイドへ急接近する影が見えた。

「僕はあっちを相手にする」

承太郎とジョーカーではない誰かへ伝えたその者は、アナザーディケイドの頭上を悠々と飛び越えて行く。
目指す先に居るのはブラッドスタークと戦闘中のディケイド。
自身へ迫る存在にディケイドが気付き、視線を寄越せば挨拶も無しに剣を振るった。

「幻影刃!」

踏み込む勢いは一切殺さず、右手の剣を真っ直ぐに突き立てる。
乱入者へ驚くより早くブラッドスタークへ蹴りを放つ。
ガードされたが距離はある程度取った。ライドブッカーで突き技を防ぐ。
刀身に伝わる衝撃、しかしディケイド本人にダメージは無し。
乱入者の正体をこの目で確かめてやろうとすれば、突っ込んで来た筈の姿が消えている。
何処へ行ったという疑問は、背後からの殺気ですぐに解けた。

「ここだ!」

再度繰り出される突き。
防御は間に合わないと悟り、真横へ跳んで回避。
こちらを串刺しにする目論見は外れ、直前まで自分が立っていた位置を通過する者をディケイドは冷静に眺める。
黒に身を包んだ、銀髪の少女。天使のような翼と光輪が異彩を放っていた。


549 : 閉ざされたH/クライマックスヒーローズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:33:47 LmAHtPLA0
「何が…」

唐突な乱入者の存在はジョーカー達にも困惑を齎した。
ディケイドへ斬り掛かった少女は何者なのか。
こちらへ攻撃しなかった事から、味方と思いたい。

殴られた箇所を擦りつつ立ち上がったジョーカーの元へ、新たに駆け寄る人物が一人。

「大丈夫ですか!?」

今度も女だ。
白いフードを被った女がジョーカーを心配そうに覗き込む。
いきなり問い掛けられて固まるも、一拍置いて大丈夫だと返す。
ジョーカーの返答に女はホッとした表情となる。
その反応からは悪意は微塵も感じられ無い。取り敢えず味方と見て良いと判断した。

「環さん」

今度はフードの女に話しかける者が現れ、ジョーカーは見た目に思わずギョッとする。
カメレオンに似た頭部と、どこか騎士の装甲を連想させる体。
今の自分が言えた事では無いのだが、奇怪な外見をしていた。
声からして男だろうカメレオン風の騎士は、ジョーカーの困惑を意に介さず女と会話を続ける。

「私はジューダス君の援護に回ろうと思う。こっちは頼めるかな?」
「わ、分かりました!でも、気を付けてくださいね?」
「分かっているさ。君こそ無理はしないようにな」

穏やかな声色で告げた男は、一度ジョーカーを見て頷いた。
彼女は任せたとでも言ったつもりなのだろうか。
真意を測りかねるジョーカーへそれ以上何かをするでもなく、ディケイドの元へと駆けて行く。
何故か手にはクリスマス用のキャンドルを持っていたが。

「やれやれ、取り敢えずお前らは味方って事で良いのか?」

女達のやり取りから敵では無いと判断したのか、何時の間にか承太郎が傍に居た。

「えっと、はい!ここで誰かが戦ってるのが見えて…あっ、私は環いろはって言います」
「雨宮蓮だ、よろしく。それでこっちが…」
「空条承太郎。悪いが今はこれ以上自己紹介している暇はねぇ」

承太郎の言う通り、今は長々と話している場合で無いとはいろはにも分かる。
唸り声を放つ悪魔の如き異形。
結界が展開されていないから、魔女やウワサの類では無いだろう。
しかし放たれる威圧感は、これまで戦って来た存在とは比べ物にならない程凶悪。
レイジングハートを握る手が緊張で汗ばむのを抑えられない。

「あれは……」
「仲間だ。ふざけた支給品のせいで、今は正気を失っちまってる」
「そうなんですか!?元に戻す方法とかは…」
「とにかく攻撃してダメージを与える、それしかないらしい」

シンプルだが最も骨が折れそうな方法である。
生憎と敵はこれ以上は会話させてくれないらしい。

「グゥオガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

数が三人に増えた所で破壊するのに変わりは無いのだろう。
一際大きく咆哮を上げ、三人目掛けて突っ込んで来た。


550 : 閉ざされたH/クライマックスヒーローズ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:35:04 LmAHtPLA0
(まさかここに奴がいたとは……)

ディケイドと対峙するジューダスは、内心の驚きを表情には出さず睨みつける。
敵の姿には見覚えがあった。
黎斗から見せられた画像、そこに映っていた鎧の参加者。
画像の状況から見て間違いなく、リオン・マグナスを殺した者だ。

過去の自分を殺した者を前に、ジューダスの警戒心は強さを増す。
別に自分がこの世で最も強いなどと大口を叩く気は無いが、ソーディアンマスターとしての実力は確か。
そのリオンに勝った相手となれば、甘く見るべきでないと思うのは当然の事だろう。
自分自身の敵討ちとまでは言わないが、思う所が何も無いという訳でもない。
よってもう一体の異形はいろは達に任せ、自分はこちらを相手にすると決めた。

ジューダスにとって思わぬ存在はディケイドだけではない。
こちらから少し離れた位置に横たわる金髪の女、そいつの傍に転がる一本の剣。
リオンだった頃から知っている、最も付き合いの長い存在もまた風都タワーにいたのだ。

「お前も巻き込まれていたとはな、シャル」
『その呼び方はまさか……いや有り得ない…!だって坊ちゃんはもうこの世にいるはずが……』
「ソーディアンにも痴呆は起こるらしいな」
『うっぐぅ!その一切遠慮のない言葉は、やっぱり坊ちゃんのもの!いえですが、それだと放送で名前を呼ばれたのは…?』
「何を言って……ああ、そういう事か」

どこかズレた会話に違和感を覚えるも、ややあってその理由が分かった。
バトルロワイアルには異なる時間、というより異なる歴史からリオンとジューダスがそれぞれ連れて来られた。
なら参加者だけでなく、支給品にも同じ事が起きているのだろう。
今ここに転がっているシャルティエはリオンが使っていた時代から来ている。
だから彼にとって一番新しい記憶と言えば、スタン達の脱出を見届けマスター共々力尽きた最期の光景。
ジューダスである自分も、名前を付けたカイルの事も知らない。

後でこいつにも説明が要るかと独りごち、まずは目先の問題に対処すべく双剣を構える。

『助っ人に来てくれた、って事で良いのか?お二人さん』
「勿論だ。こちらは殺し合いを止める気でいる。そちらは違うとは言わないだろうね?」
『なら安心しろよぉ。俺の目的はボンドルドを倒して帰る事だからな』

どこか上辺半分にも聞こえる会話が耳に届く。
背後を見れば、赤い装甲と緑の装甲が各々武器を構えながら言葉を投げ合っていた。
一応二人とも今は味方として扱うが、心を許す気は全く起きない。
黎斗は元より、赤い装甲の参加者の魂も『悪』だ。
表面上どう振舞おうと、ラブボムによる感知からは逃れられない。

(だが今は…)
「数を増やした程度で安心するのなら、程度が知れるわ」

リオンを殺した男を倒す事に集中する。

本物と偽物の破壊者、破壊者に抗う者達。
それぞれが3対1の形となり、戦いは次のステップへと移行する。


551 : 閉ざされたH/深い闇解き放って ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:36:48 LmAHtPLA0



『ATTACK RIDE SWORD VENT!』

『ATTACK RIDE GURD VENT!』

間髪入れずに二枚のカードをディケイドライバーに読み込ませた。
左手にはドラグレッダーの尾を模した青龍刀、ドラグセイバー。
両肩には腹部を模した堅牢な盾、ドラグシールドをそれぞれ装備する。
ついでとばかりにソードモードのライドブッカーを右手に持ち、完全装備の姿となる。

「私もそれを使わせてもらおう」

『COPY VENT』

システムは違うが、ベルデもカードを読み込ませ固有の力を発揮するライダー。
左脚の召喚機にカードを挿入し、電子音声が流れれば手には武器が召喚された。
但し此度は、ギニューとの戦闘で使ったバイオワンダーではない。

「フン、猿真似か」

ディケイド龍騎がそう評したように、ベルデが召喚した武器は全く同じ物。
青龍刀と二枚の盾、龍騎の装備と寸分違わぬ装備だ。
いや、武器だけではない。その外見すらも銀の装甲に赤いスーツと、龍騎の姿へ変わっているではないか。
唯一違うのは腰のバックル、そこだけはディケイドライバーではなくベルデのデッキのままであるが。

コピーベントというカードはその名の通り、対象の姿へ擬態し、装備をコピーする効果を持つ。
住む世界が違うとはいえ同じ仮面ライダーだからか、或いは現在のディケイドが龍騎というベルデと同じライダーシステムを使った存在だからか、
理由は何にせよコピーベントの効果は無事発動されたようだった。

「来い」

ディケイド龍騎の短い言葉を待たずして、ジューダスとベルデが斬り込む。
幼少時から剣術を磨き上げて来たジューダスの動きは、素人目にも見事なものとして映る。
威力に優れるエターナルソードを振り下ろし、ドラグシールドに防がれれば反対のパラゾニウムを突き出す。
ライドブッカーで弾こうとするディケイド龍騎、だが妨害するように青龍刀が振るわれた。
ジューダスとは反対方向から斬り掛かったベルデである。
こちらはジューダス程の剣技は持たないものの、ライダーに変身した際の力は侮れない。
パラゾニウムで突かれた痛みを無視し、左手のライドブッカーを大きく薙ぐようにして振るう。

「チッ」

舌打ちはどちらが漏らしたものか。
ジューダスは体勢を低くし、ベルデは一旦退いて刃を避けた。
ベルデはともかくジューダスとの距離は近いまま。
頭部目掛けてドラグセイバーを振り下ろした。


552 : 閉ざされたH/深い闇解き放って ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:37:48 LmAHtPLA0
「月閃光!」

双剣を駆使し、三日月を描くように斬り上げる。
ドラグセイバーを弾き返すも、続けてライドブッカーが首へと迫る。
地面を蹴って背後へと跳躍、僅かに皮一枚を斬られる程度の被害で済ませた。

同じく床を力強く踏み込み接近を試みるディケイド龍騎。
ライドブッカーを持つ腕を伸ばしかけた所で、軽快な音が発生した。
何の音かは見なくても分かる。伸ばした腕を引っ込め、ドラグシールドを前面に突き出す。
今度は弾けるような音が、シールドから連続して流れ始めるでは無いか。
次々シールドにぶつかっては火花を散らすソレの正体は、トランスチームライフルの高熱硬化弾。

ジューダスとベルデが突っ込んで行くのを見送ったブラッドスタークは、援護射撃に回った。
連射性能と狙撃精度を高めたトランスチームライフルが手元にある、なら揃って突撃しなくても良いだろう。
そう判断すると左腕を台座代わりにし銃身を置き、スコープを覗き込む。
後はトリガーを引いてやれば、敵は見事に足止めされた。
弾は全てシールドに防がれ傷一つ付けられていないが、それは他の者に任せるとしよう。
ブラッドスタークにわざわざ任せたと言われずとも動くだろう男達は、実際その通りに斬り込む。
左からはジューダスが、右からはベルデが両手に握った得物を振るう。
ディケイド龍騎は銃弾に足を止め動かない、またとないチャンス。

四本の刃が到達するかというそのタイミングで、ディケイド龍騎も新たな手に出た。
脚に力を込め高く跳躍、自身を襲う刃を躱すとすかさずドラグセイバーを振り下ろす。
その勢いたるや、地上で剣を振るっていた時の倍は確実にある。

狙われたのはジューダス。迎え撃つべく双剣を操る。

「飛連斬!」

対空能力を兼ね備えた二連撃。
本来ならば敵を打ち上げ、そこから追撃へ持って行く技。
が、ドラグセイバーの勢いに押し負け、床へ叩きつけられる。
背中に鈍い痛みが走り、青龍刀と打ち合った両腕にはジンジンと痺れが襲う。
被害はジューダスだけでない。
振り下ろした直後に自身の背後へドラグセイバーを振り回すと、斬り掛かろうとしたベルデが逆に斬られた。

「ぐっ…」

ディケイド龍騎が繰り出したのは龍舞斬。
ドラグセイバーを用いた際に、最も効果的なダメージを与えられる上空からの斬り落としだ。
倒れたジューダスへ続けて剣を振り下ろそうとするディケイド龍騎、させじとブラッドスタークがトランスチームライフルを撃つ。
敵の狙撃もとっくに予測済み、ドラグセイバーを躊躇なくブラッドスタークへ投擲する。

回転しながら向かってくる青龍刀を、ブレード部分で弾き斬撃を防ぐ。
ガランと音を立て床に転がる青龍刀には目もくれず、ライフルを構え直せば何時の間にやら近くには赤い姿が。
投擲されたドラグセイバーに気を取られた一瞬の間を縫い、急接近したらしい。
両肩のシールドを前面に突き出し、タックルを繰り出した。


553 : 閉ざされたH/深い闇解き放って ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:38:35 LmAHtPLA0
『っとォ!わざわざ俺の方に来てくれるとは嬉しいねぇ!』

軽口を叩きながらも、ブラッドスタークは動き出す。
つい今しがたディケイド龍騎がやったのと、同じように躱させてもらおう。
脚力に物を言わせ、猛牛のように突進して来たディケイド龍騎の頭上を跳び越える。
着地と同時に地面を転がり距離を離せば、自分の代わりに斬り掛かる男が二人。

僅かな間に痛みを押し殺して立ち上がったジューダスと、彼に続くベルデだ。
戦闘不能になるダメージでないのなら何も問題は無い。
それに最初から簡単に倒せるとは思っていなかったのだ、これくらいの痛みは想定内である。

振り返ったディケイド龍騎目掛けて、先に仕掛けたのはベルデの方。
両手の剣を振るうのではなく、何とドラグセイバーとドラグシールドをディケイド龍騎へ投擲した。
ついさっきブラッドスタークへ投げ付けた時のように回転しながら迫る三つの武器を、両肩の盾で防御する。
ヤケクソ染みた行動ではあるが、意識をほんの少しでもベルデへと向けられたなら目論見は成功したと言って良い。
もう一人の剣士が急加速して技を繰り出した。

「崩龍斬光剣!」

正面からの斬り上げはシールドで防ぐも、想像以上の力強さに体が宙へ浮く。
次いで胴体へ衝撃が来たかと思えば、背後からの斬撃を食らう。
それでもどうにか地上へ叩きつけんと振り下ろされた一撃だけはライドブッカーで防いだ。
ジューダスの攻撃はまだ終わりではない。
今の連続斬りですら、これから繰り出す技の前振りでしかなかった。
再度正面からの斬り上げ、ダメージにより反応が遅れたディケイド龍騎はまたも宙へと浮かされる。
何とかドラグシールドで防御の構えを取るも、無意味とばかりにジューダスは叫んだ。

「翔波裂光閃!!」

エターナルソードとパラゾニウムが虹色の光を帯びる。
幻想的な美しさの双剣を以て放たれるのは、ディケイド龍騎への連続突き。
その速度たるや、これまで剣を振るって来た速さを軽く凌駕している。
一切の抵抗を許さない突きがドラグシールドを痛めつけ、遂には破壊するまでに至った。
遮る盾が無くなった以上、ディケイド龍騎の装甲へと剣の切っ先が到達し、さらに大きく打ち上げる。

――COBRA!STEAM SHOT!COBRA!

『退かねぇと怪我するぜ!』

秘奥義を放ったばかりのジューダスへ掛けられた警告。
意味を理解し言われた通りに退く。
ジューダスの真横を巨大なコブラのようなエネルギー弾が飛んで行き、ディケイド龍騎へ追い打ちを掛けた。
連続して叩き込まれた高威力の技には流石に堪えたのか、地面に叩きつけられると低く呻き声を漏らす。
しかし恐るべき事に、多少のフラつきこそ見せながらも立ち上がったではないか。


554 : 閉ざされたH/深い闇解き放って ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:39:54 LmAHtPLA0
「やってくれたな…」

ダメージの大きさ故か、龍騎へのカメンライドが解除されている。
元のディケイドへと戻ったJUDOだが、戦意は未だ健在。
何かを確信したように頷くと、ライドブッカーへ手を伸ばした。

「だが貴様らとの闘争がまた一つ、新たな力を得る切っ掛けとなった」

『KAMEN RIDE FAIZ!』

言葉の通りブラッドスタークとの、そして乱入したジューダス達も加わった戦闘はまたしてもディケイドの力を取り戻すのに一役買った。
カードをディケイドライバーに叩き込み、新たなライダーへと変身する。
全身の血管のような赤いライン、「フォトンブラッド」が走った戦士の名は、仮面ライダーファイズ。
人類の進化系、オルフェノクの王を守護すべくスマートブレイン社によって作られた、三本のベルトの内の一本で変身した姿。

ファイズも仮面ライダーの例に漏れず、戦闘用特殊強化スーツによる恩恵で超人的な身体能力を持つ。
しかし他二本のベルト、カイザやデルタに比べると最もスペックは低い。
代わりに、ファイズは他のベルトよりも拡張性に優れている。
それを示すように続けて2枚のカードを挿入した。

『ATTACK RIDE FAIZ SHOT!』

『FORM RIDE FAIZ ACCEL!』

ディケイドファイズに新たな力が齎される。
右手に装備したのはファイズショット。
普段は高機能デジタルカメラとして機能し、戦闘時にはファイズのパンチングユニットとして拳の破壊力を強化する役目を持つ。
だがファイズショット以上に注目すべき点は、変化したディケイドファイズの外見だろう。
胸部装甲が展開し、フォトンブラッドの増幅炉が剥き出しとなった胴体、眼は黄色から血のような赤へと変化している。

「10秒間、耐えてみせろ」

『FINAL ATTACK RIDE FA・FA・FA FAIZ!』

何かマズいものが来る。
敵の姿にそう直感したジューダス達は、各々動き出した。

「ブラッディクロス!」

天使のエネルギーで代用し晶術を発動。
赤黒い闇の刃が十字状に出現し、ディケイドファイズを切り裂かんとする。
パラゾニウムの恩恵により、範囲も威力も元々使っていた時より上がっていた。
後の二人も指を咥えて眺めているつもりはない。
ブラッドスタークはライフルを持つ手を跳ね上げ、ベルデは新たにカードを取り出す。


555 : 閉ざされたH/深い闇解き放って ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:40:52 LmAHtPLA0
その全てがディケイドファイズの前では遅過ぎた。

ブラッディクロスに切り裂かれる正にその直前、ディケイドファイズの姿が掻き消えた。
何処へ行ったとか考えるよりも早く、ジューダスの胴体に衝撃が叩き込まれ、身体が宙へと浮かび上がる。

カードを召喚機に読み込ませ、バイオワンダーを手にしたベルデだが、武器を振るう機会は訪れない。
顔面と腹部に突如硬い何かが当たり、痛みを感じる間もなく床とキスする羽目になる。

立て続けに二人が打ちのめされた光景に、ブラッドスタークは攻撃から防御へと行動を変更。
胸部アーマーからエネルギー体のコブラを召喚し、即席の盾にしようと。
しかし遅い。胸部アーマーが発光した時には既に衝撃が到達しており、柱を破壊しながら吹き飛んだ。

ディケイドファイズの姿が消えてから丁度10秒が経過。
倒れる男達を見下ろすように再び姿を現した。
展開していた胸部装甲は再び中央のコアを覆い隠し、更にディケイドへと戻った。

ファイズ・アクセルフォーム。
この形態は元々ファイズアクセルというリストウォッチ型のツールが必要となるが、ディケイドはカードによって変身を行う。
アクセルフォームとなったファイズは10秒間だけ、通常の1000倍の速度で移動が可能となる。
嘗てカブトの世界を訪れた士が、アクセルフォームでクロックアップに対抗した事からも驚異的な速さであると言えるだろう。
超加速した上でファイズのエネルギーであるフォトンブラッドを集中させた拳を、三人それぞれに二発ずつ叩き込んだ。
流石に無視できるダメージでは無い。

「ぐっ、今のは…高速化のエナジーアイテムと同じ…?」
「ああ…痛ぇなおい…!ったく、アイドルに暴行なんざ事務所が黙ってねぇだろ」

変身解除され、痛む体に顔を顰める二人。
だがエボルトと黎斗はまだマシな方だ。
ブラッドスタークとベルデ、どちらの装甲も仮面ライダーや怪人など、通常兵器以上の力を持った存在との戦いを想定して作られている。
完全にダメージを殺し切る事自体は不可能だが、それでもある程度は緩和出来るのだから。

「がっ、はぁ……」

被害が深刻なのはジューダスだ。
先の二人と違い、彼は攻撃を防ぐ装甲など身に着けていない。
纏っているのは神崎蘭子の好む黒の衣服のみ。肌を隠す以上の効果など存在するはずも無かった。
ディケイドファイズの拳をモロに食らい、意識が飛び掛けた程だ。
天使化により身体機能が上昇していなければ、血と臓物を撒き散らす最期を迎えていただろう。


556 : 閉ざされたH/深い闇解き放って ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:41:57 LmAHtPLA0
震える体で立ち上がろうとすれば、右手の剣が無いのに気付く。
殴り飛ばされた時の衝撃で、手放してしまったらしい。
更に運の悪い事に、剣はディケイドの足元に落ちている。
敵も気付いたのだろう、剣を拾い上げると興味深そうに眺めた。

「ほう…中々の力を感じるな。家畜には過ぎた道具よ」

魔王ダオスとの決戦に向けて、精霊王オリジンの力を借りて精製された剣だ。
剣が作られた詳しい経緯を知る由の無いJUDOにも、これがただの武器ではない事は察せられた。

エターナルソードを奪われたジューダスは別の武器を手にするべく、転がるように走った。
回復呪文を唱え続けた甲斐も有り、顔色はマシになったホイミン。
彼の傍に転がる剣を引っ掴むと、聞き慣れた声が五月蠅いくらいに発せられる。

『坊ちゃん!麗しい女の子になってるけど、やっぱり坊ちゃんなんですね!?
 というか安心しました。てっきり僕からあの凄そうな剣に乗り換える気なんじゃないかと、不安に思ってましたよ!』
「傷に響くから少し黙っていろ…」

激痛を噛み殺して双剣を構え直すが、その動作もどこか緩慢だった。
先程までは心強い武器だったのが、敵の手に渡ってしまったのは痛い。
状況は悪くなるばかりだ。
口の端から垂れ落ちた血を拭い、ゆっくりと息を吐いた。

戦況が変わったのはジューダス達だけではない。
アナザーディケイドと承太郎達の戦いもまた、ある大きな変化を見せていた。





「グゴォオオオオオオオッ!!」

アナザーディケイドの咆哮に込められた感情は苛立ちだろうか。
戦闘が再開されてから絶えず自分の顔面へ飛来する桜色の光弾。
一発ごとの威力は大した事ないとはいえ、他の箇所よりも幾らか脆い部分への集中攻撃は非常に鬱陶しい。
今も光弾を連射しているフードの女…いろはの元へ駆け出し、白い衣装を彼女自身の血で染めようと腕を伸ばす。
無論、二人の男が黙ってはいない。

「オラァッ!」

横合いから叩き込まれるは、スタープラチナの拳。
強制的にいろはの殺害を止められ、続けて拳の連打を放たれる。
標的を承太郎に変えたアナザーディケイド。敵の意識がこちらに向いたと察知した承太郎は、外套の力で距離を取る。

「グゴ!?」

追いかけようとしたアナザーディケイドの顔面は、またもやいろはの光弾に狙われる。
承太郎への注意が外れ、そこへ仕掛けるのはジョーカー。
既にメモリはスロットに装填済み、紫色のエネルギーが宿る拳が胸部へと吸い込まれるように叩き込まれた。
ライダーパンチ、技の名をアナザーディケイドは理解しただろうか。
確かな事は、自分へ新た痛みを与えた人物への殺意を露わにし、そのまま拳を突き出す。
その直前で顔面へと当たるのは、やはりいろはの放った光弾だった。

「助かった!」
「はい!どういたしまして!」

短いやり取りをしながらも、光弾は撃ちっ放しにしている。
ショートバスター。威力は低いが燃費が良く連射性に特化した魔法。
戦闘が始まってからいろははこれを使って援護射撃を行っていた。
ももこと共に挑んだやちよのテストに始まり、やちよの助手として戦う時は武器がボウガンなのも有り、いろはは専ら援護を担当する事が多かった。
だから今のように、前線に出て戦う仲間がいる時の立ち回りは慣れたもの。
敵の脆いだろう部位へ集中的に攻撃し、常に自分へ注意を引き付け仲間が攻撃を当て易い状況を作る。
やちよや鶴乃程の実力は無いけれど、神浜市での戦いによる経験は確実に実を結んでいた。

一見すれば自分達が優勢かもしれない状況だが、仮面の下で蓮は渋い表情を作る。
今の自分はアナザーディケイドという強敵と戦うのに、SPの量が非常に心許ないのだ。
アーマージャックとの戦闘でSPを多大に消費したのが響いている。
ヒートライザの複数回使用などしてしまえば、あっという間に枯渇するだろう。

湧き上がる不安を仮面で覆い隠し、意識を戦闘へと集中させる。
ペルソナだけでなく、今は仮面ライダーの力、そして仲間がいるのだ。
なのにこんなネガティブな思いでいては、勝てる戦いにも勝てない。
自分自身へ喝を入れ直し、拳を強く握り締めた。


557 : 閉ざされたH/深い闇解き放って ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:43:26 LmAHtPLA0
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

ジョーカーが改めて抱いたばかりの戦意を消し去るように、アナザーディケイドは咆えた。
ディケイドライバーに似た腹部から溢れるのは、紫色の波動だ。
大量に溢れ出した波動はアナザーディケイドの両腕へと伝わり、やがて掌へと集中する。
腹部から発せられた波動により承太郎とは近寄れず、いろはの光弾も掻き消されてしまう。
攻撃の準備が整ったのか、勢い良く掌を掲げた。

「ぐうううう…!!」

三人を襲う紫のエネルギー波。
広範囲に放たれたソレは容赦なく肉体を蝕んでいく。
バリアジャケットやジョーカーの装甲を纏っていても、尋常でない痛みを感じる。

(ぐっ…!こいつは流石にマズいか……!)

身を守る装甲など纏っていない承太郎へのダメージは、必然的に三人の中で最も大きい。
スタープラチナ諸共エネルギー波を食らい、承太郎の表情も苦痛に歪む。
外套の効果による速さで避けようにも、エネルギー波の範囲が広く逃げ切れない。
ならば残された手は一つだけ。この状況で使用に躊躇は有り得なかった。

「スタープラチナ・ザ・ワールド…!!」

承太郎以外の全てが等しく静止する。
アナザーディケイドのエネルギー波とて、時の止まった世界では機能しない。
元々はスタープラチナと同じく時を止める力の持ち主が変身していた怪人が、逆に時を止められるなど何という皮肉か。
その男のことなど知らない承太郎には関係の無い話だ。
ただ一時的にとはいえエネルギー波から逃れた以上、時が動き出す前に行動へ移さねばなるまい。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!」

痛みに構う暇は無い。承太郎に与えられた猶予は僅か2秒だ。
時間の許す限りただひたすらにスタープラチナで拳を放つ。
相変わらず時間停止中でも硬い肉体だが、連続で殴り続ければダメージは通るだろう。

時が動き出しアナザーディケイドは吹き飛ばされる。
その際本能的に承太郎の仕業と悟ったのか、両掌を一点に集中して放った。
大きく吹き飛ばされている為、エネルギー波の放射は長くは続かない。
しかし短い時間のみでも、承太郎の体力を着実に奪い去った。


558 : 閉ざされたH/深い闇解き放って ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:44:43 LmAHtPLA0
「ぐっ…」

呻き膝を付いた承太郎の元へ、いろはとジョーカーが駆け寄って来る。
二人に時を止める力の事は教えていない為、気が付いたら敵が吹き飛んでいた状況だ。
だが困惑など傷ついた仲間の姿を見れば、構っていられるかとあっさり投げ捨てられる。
魔王との戦いで付けられ、ホイミンのお陰で塞がりかけた傷も開いたのだろう。
上着を脱いだ上半身から出血し、シャツが赤く染まり出す。

回復魔法で治療を試みるいろはだが、アナザーディケイドは承太郎の治療を認めはしない。
立ち上がり再度腹部から紫色の波動を溢れ出す。
さっきと違うのは、波動を両掌ではなく自身の前方へ流し出した事。
不定形なエネルギーはやがてハッキリとした形を作る。
出現したのは巨大な四角、カード状のエネルギーがアナザーディケイドと承太郎達を繋ぐ道のように作られた。

ディケイドを知る者が見たらこう思ったかもしれない。
まるで本物の破壊者、仮面ライダーディケイドの技のようではないかと。
だが単なる本物の模倣では無い、その威力たるや下手をすれば本物以上だ。

「グガァアアアアアアアアアアッ!!!」

アナザーディケイドが跳躍すれば、カード状のエネルギーも同じように移動し通過する為の道となる。
嘗て、明光院ゲイツやツクヨミといったソウゴの仲間を葬り去った、偽りの破壊者の技。
此度は二人の少年と独りの少女を破壊するべく、一枚一枚を通過するまでが残された時間だとでも言うかのように放たれた。

「っ!!!」

破壊者が通過する最後の一枚、そこを通られたら自分達の死が即座に訪れる。
そう分かっていながら、いろはは自らカード状のエネルギーの前に立ち塞がった。
自殺願望でも自暴自棄になったのでもない、己の手で承太郎とジョーカーを護る為だ。

「環!」

仲間の声と、カードを通り抜けて行くアナザーディケイド。
どちらもいやにゆっくりと感じられ、思考がクリアになっていく。
今自分が使うべき手は、魔法は一体何なのか。
高町なのはが得意とする砲撃魔法?耳飾りの少年に放った桜色の光?
違う。あの魔法は溜めが必要である。この状況では間に合わない。
今まさに必要なのは敵を確実に倒す力ではない、仲間を守り抜く為の力だ。

(結城さん……)

根強く記憶に残る、仲間だった少年の姿。
こんな場所で死ぬべき人じゃ無かった。家族や大切な人達の所へ生きて帰らなければならない人だった。
彼の最期を思い出せば、今も涙が溢れそうになる。

――『環さんから……離れろ……!』

それでも思い出せ、彼が使った力を。
いろはを助ける為に、消えかかった命の灯を燃やしたあの瞬間を。
彼に助けられたこの命で、今度は自分も誰かを護ってみせろ。


559 : 閉ざされたH/深い闇解き放って ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:45:43 LmAHtPLA0
「ラウンドシールド!!!」

己の魂を大きく震わせるかの如き叫び。
仲間を守るという切なる願いに応えるかのように現れるは、輝く桜色の魔法陣。
高町なのはのリンカーンコアに宿る魔力をありったけ込めて、偽りの破壊者へと抗う。
自分を守って命を落とした少年。
彼が自分にしてくれたように、守る為に力を使おう。

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

10枚目のカードを通り抜け、突き出されたアナザーディケイドの右脚は禍々しい輝きを放っている。
ディメンションキックと同じく、カード一枚一枚に宿るエネルギー全てを宿した今、破壊力は最高潮に達していた。
だというのに止められた。桜色の魔法陣に阻まれ、それ以上先へは進めない。
むしろほんの少しずつだが、自分の方が押し返され、エネルギーを霧散されているではないか。
蓄積したダメージにより威力が低下しているのだとしても、ふざけるなと叫ぶ。
自分の力が届かない事に、破壊する為の最後の一手があんなもの一つに防がれていると言う事実に、アナザーディケイドは咆え立てる。
己に破壊できないものがあるなど認めない、認めてたまるか。
怒り狂ったような叫び、その憤怒に同調するように紫色の光はより強く輝いた。

「う…うぅ……!!」

腕が酷く痛む、強く噛み締めた唇が切れ、鉄の味が口内に広がる。
それがどうした、この程度の痛みが何だと言うのか。
僅かでも挫けそうになった自分を叱咤し、いろはは敵を押し返さんと魔力を注ぐ。
リトはもっと痛かったはずなのに、自分の事を守ってくれた。
ならこの程度で折れる訳にはいかない。

『JOKER!MAXIMAM DRIVE!』

アナザーディケイドに抗い、戦う者はいろはだけではない。
切り札の記憶を内包したメモリをスロットに叩き込み、跳躍したジョーカーがアナザーディケイドへ蹴りを叩き込む。
ライダーキック。その声は敵の絶叫に掻き消される。だが己の心を奮い立たせ、燃やし続ける炎は消せない。
怒りの余り、最早右足どころか全身から溢れ出すアナザーディケイドのエネルギーに体を痛め付けられる。

「ぐ……おおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

知った事かと叫び返し、押し返されそうになった脚へ力を込める。
どれ程戦意があろうと破壊者相手には全てが無意味なのか?
否、断じて否だ。その証拠に、押し負けそうだったはずのライダーキックは徐々に力を増し、アナザーディケイドを逆に押し返しているではないか。
ジョーカーメモリは、ただ単に使用者の身体能力を強化するだけのガイアメモリではない。
使用者の感情エネルギーにより、性能の限界を超えた力を引き出すのだ。


560 : 閉ざされたH/深い闇解き放って ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:47:29 LmAHtPLA0
「新八……」

仲間の奮闘をこれ程近くで見せられて、それでも大人しくしていられる程承太郎はクールになれない。
彼は坂田銀時の、白夜叉の最後の戦いをこの目で見た。
最期を看取り、仲間の事を託され、帰るべき場所への未練をしっかりと聞いた。
過ごした時間は僅のみなれど、あの男の生き様は鮮明に焼き付いている。

そんな男の意思を受け継いだ少年が自分を見失っているのなら、
涙を堪えて叫んだ決意をも忘れてしまったと言うのなら、

「力づくで……思い出させてやるぜ…!」

スタープラチナが、承太郎の戦意に呼応し立ち向かう。
紫色の邪悪なエネルギーに蝕まれようと、止まる気は髪の毛一本程だって有りはしない。

「マガツイザナギ!」

アナザーディケイドとはまた違った禍々しいオーラのペルソナが、主の指示通りスキルを発動。
なけなしのSPを消費し、ヒートライザを承太郎へ使う。
今ここで使わない事の方が大間違いだと、心で確信したからだ。
ありがとよ。そう言うようにジョーカーへ笑みを返し、持てる全てを解き放つ。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」

これまで幾度となく叩き込まれた、スタープラチナのラッシュ。
今この瞬間に受けるその拳は、一発一発がやけに力強く感じた。
ジョーカーの援護を受けたからか、別の理由でもあるのか。
本当の事が何かなんて関係ない、重要なのは一つだけだ。

「っあああああああああああああ!!!」
「ッオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「オォォォラァァァーーーーーーーッ!!!!!」

桜色の魔法が、切り札の記憶が、星の名を冠するスタンドが、
偽りの破壊者の光を消し去って行き、そして――


561 : 閉ざされたH/深い闇解き放って ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:48:34 LmAHtPLA0
○○○


気が付いた時にはもう、新八はこの場所で蹲っていた。
ここは何処で、何時からいたのかはさっぱり分からない。
唯一分かる事と言えば、この場所には自分しかいないという事だろうか。

何度目を擦っても、何も見えない。
喉が痛む程叫んでも、返してくれる者は現れない。
それどころか自分の声さえ聞こえないのだ。
これでは自分は生きているのかどうかさえ、分からなくなった。

どれだけ待っても、誰かが現れる気配は無い。
誰も自分を迎えに来てはくれない。

幼い頃からずっと一緒に居た姉も、
本当の家族のように慕っていた兄弟子も、
酢昆布片手に巨大な白い犬に乗ったチャイナ娘も、

甘党のダメ人間で、だけど誰よりも憧れた侍も、現れてはくれなかった。

自分はどうなるんだろう。
このまま一人ぼっちで、朽ちて行くのを待つだけなのか。
泣き叫ぶ己の声さえ聞けず、終わってしまうのか。

一層強く膝を抱え、目を瞑る。
開けたところで何も見えないが、誰もいないという現実を見るのは嫌だった。

もし終わるのなら、いっそ一思いに終わらせてくれ。
こんな場所に長く居るよりなら、その方がずっとマシなはず。

全てを諦めかけ、安らかな終焉だけを望もうとし、


562 : 閉ざされたH/深い闇解き放って ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:49:26 LmAHtPLA0
『……なあ』


聞こえた声に、顔を上げた。

何時の間にやら、目に映る光景は一変している。
黒一色の世界は正反対の白に染め上げられ、上も下も見渡す限りの本棚が浮いていた。
訳が分からず視線を動かしてみれば、隣に男の姿があった。

――この人は……

白いスーツと帽子を完璧に着こなし、渋みを感じさせる男だ。
ハードボイルド。ふと浮かんだその単語は、この男の為にこそあるのだろう。
初対面の相手にも関わらず、そんな感想を抱く。

『お前は今まで一つでも、自分で決めて何かをした事があるか?』

こちらへ視線を寄越さないまま、男は続ける。
不思議な事に、これ程傍にいるのにも関わらず、男の言葉は自分に向いていないと新八には感じられた。
男は新八ではない別の誰かの為に、言葉を紡いでいる。
根拠も無いのに何故かそう確信出来た。

『じゃあ今日が最初だ。自分自身の決断で、この暗闇の牢獄を出ろ。
 そして自由になってから…』

立ち上がった男はそこで初めてこちらを見る。
だけどその瞳は、やはり新八ではない誰かを映しているようで。
それどもどうしてか、男から目を逸らせず次の言葉を待った。

『――――』

男が何かを口にした直後、また景色が一変した。
大量にあった本棚は影も形も無くなり、男の姿も消えてしまっている。
残ったのは白一色の空間のみ。
まさか色が変わっただけで、最初の空間と同じなのでは。
途端にぶり返す不安へ、焦りを隠す事無くあっちこっちを見回し、

「あ……」

見覚えのある背中を見つけた。


563 : 閉ざされたH/深い闇解き放って ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:50:34 LmAHtPLA0
白い着流しに、腰から下げるは茶色い木刀。
天然パーマの銀髪が何より目立つその男を、忘れるはずが無い。

「銀さん…」

坂田銀時。
太眉の警察官ではない、正真正銘本人の身体で銀時がそこにいた。
自分は夢でも見ているのか、それとも質の悪い幻?
いやなんだって良い。銀時がそこにいるのなら、夢でも幻でも構わないじゃないか。

「銀さん…!!」

居ても立っても居られずに、新八は銀時へと駆け寄る。
こちらの声は届いているだろうに、何故か背を向けたままの銀時へ。
ただもう一度話をしたい、顔を見たい、下らないボケにツッコミを入れて、またあの騒がしい日常に戻りたい。
逸る心に急かされるまま両足を動かす。

「はぁ、はぁ……」

だけどおかしい、どれだけ走っても銀時に近付けない。
そこまで距離は離れておらず、ちょっと走ればすぐに手が届くはず。
なのにどうしてか、銀時の元へは辿り着けなかった。

「銀さん……どうして……」

どうして追いつけないんだろう。
どうして背を向けたままなんだろう。
どうして。
どうして。
どうして。

縋るように見つめても、銀時は無言。
新八がずっと追いかけて来た背中は、まるでこちらへ来るなと言っているようだ。
何故拒絶されるのか新八には分からない。
これまでずっと一緒にいたのに、本当なら万屋メンバーとしてこの先もずっと……


564 : 閉ざされたH/深い闇解き放って ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:51:49 LmAHtPLA0
「あ――――」

ようやく気付いた。
拒絶される理由に、自分の過ちに。

「神楽ちゃん…」

万屋メンバーのチャイナ娘は、大切な仲間は、まだ生きている。
生きて、新八の事を探しているのだ。
神楽と共に、生きてかぶき町へ帰ると決意しただろう。
涙を拭ってそう決意したじゃあないか。
なのに自分は彼女を放って、銀時と同じ場所へ行こうとしていた。
自分で自分の決意に泥を塗るような真似をしてしまった。

「何やってんだ…何やってんだよ僕……」

これじゃあダメガネだ何だと罵られたって仕方ない。
馬鹿な真似をしでかした自分自身への怒りが湧く。

「何してんだよ僕…何してんだよ……!!お前それでも人間かあああああああ!!お前の母ちゃん何人だあああああああああああっ!!!」

自分に向けてありったけの怒りを吐き出す。
さっきまで聞こえていなかったはずの声が、ガンガンと耳を刺激する。

「銀さん…」

一通り叫び終えると、改めて銀時へ向き直る。
相変わらず背を向けたままだけど、それで良いのだと思った。
だって自分はまだそっちへは行けないのだから。
神楽と共にかぶき町へ帰って、人数は減ったけど万屋をこれからも続けて、
悔いの無いように目一杯生きて、そうして皺だらけのお爺ちゃんになってから笑って死んで、それでやっと銀時に再会するのだ。

だからさよならは言わない。
きっとまた会えるのだから、そんな湿っぽい言葉は自分達の間に似合わない。

口に出すべき言葉は、きっとこうだ。

「いってきます!」

そう言って背を向け走り出した新八へ、銀時は軽く手を挙げて反応を見せる。
新八が振り返る事は、一度も無かった。


○○○


565 : そしてSは目覚める/Extreme Dream ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:53:25 LmAHtPLA0
「承太郎…!」
「…気を失ってるだけです!でも、早く治療しないと……!」

目を覚ました新八が真っ先に聞いたのは、焦燥感を隠そうともしない男女の声。
薄っすらと視界に光が入って来る。
やけに重たく感じる瞼を開け顔を動かすと、見えたのはガタイの良い少年が淡い光に包まれている光景。
慌てて体を起こすと、全身が酷く痛み短い悲鳴が漏れた。
そこで男女も気付いたのだろう、二人の視線がこちらへ向けられる。

「新八!気が付いたのか?」
「う……はい…。承太郎さんは……」
「今傷を治してます。…その……」
「……うん。僕のせい、ですよね…」

鮮明に覚えてはいないが、自分がやったのだろう。
ディケイドに斬られた後の記憶は所々ボヤけていて、正確に何が起きたとは説明できない。
けれど自分が承太郎達を傷つけた事、承太郎達が自分を正気に戻そうと戦っていたのは間違いないと確信した。

承太郎が目を覚ましたら、傷つけてしまった事への謝罪、
何より暴走を止めてくれた事への礼を必ず伝えよう。
その前に、今はどうしてもやらなければならない事が一つある。

体中の痛みに耐えてよろけながらも立ち上がり、男の姿を真正面から捉える。
黒い帽子を被った傷だらけの青年だ。
彼が誰なのか、それはもう分かっていた。

「左翔太郎さん、ですよね」
「…ああ。精神は雨宮蓮だけど。そっちは、フィリップか」
「…はい。精神は志村新八なんですけどね」

目を覚まして蓮の姿が視界に入った瞬間、頭では無く心で理解した。
彼が左翔太郎、フィリップの相棒であると。
初めて見る顔だ、なのにずっと離れ離れになっていた友とようやく再会を果たしたかのような、そんな満たされた想いが新八の中を駆け抜けた。
その感動は蓮もまた同じである。
事前に説明を受けていたが、多分何も知らされずとも、相手を見たらフィリップだと一目で理解出来る。
そんな確信があった。


566 : そしてSは目覚める/Extreme Dream ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:55:16 LmAHtPLA0
「蓮さん。さっきまで暴れてた僕にこんな事言う資格何て無いって、そう分かってます。だけど…!」

一度言葉を区切り、蓮に向けてある物を差しだす。
赤いバックル。蓮の持つ物と違って、スロットが二つ付いていた。
夢で見たあの光景が鮮明に思い起こされる。
仮面ライダージョーカーは翔太郎の力の証。だがあの戦士は違う。
あれは翔太郎とフィリップ、二人が揃わなければ決して誕生する事の無かったヒーロー。
新八が何を言うのか、先を聞かずとも蓮には分かった。

「僕と一緒に、戦ってください…!!」

自分も彼も傷だらけで、そもそも彼を傷付けていたのは自分で。
勝手な事を言っている自覚は当然ある。
なのに止められない。自分の心は今どうしようもなく彼と共に戦いたがっている。
二人で戦わなければならないんだと、強く訴えているのだから。

――『悪魔と相乗りする勇気、あるかな?』

新八の言葉ではない。だがどこからかそんな言葉が聞こえて来た。
差し出された物と新八の顔を交互に見やる蓮。いや、もう彼の答えは決まっていた。
雨宮蓮にとって相棒と呼べる存在は、モルガナか、坂本竜司か、或いはこの地で共犯関係を結んだ男なのかもしれない。
だが左翔太郎にとっての相棒とはフィリップしかいない。
彼に仲間は数多くいても、相棒になれるのはフィリップだけだ。
その相棒が頼み込んでいるのなら、どうして断る事が出来ようか。

新八の手からダブルドライバーを力強く受け取る。
答えはそれだけで十分だった。





「……よぉ、やっと主役の出番って訳か?」

おどけたようなエボルトの言葉に、ディケイドは眉を顰める。
どこか面白そうな表情の女が視線を投げかけるのはディケイドではなく、その後方。
そういえば、愚物と蔑んでいた少年の雄叫びが聞こえなくなっているのに気付く。
焦らずに振り返ると、その少年が立っていた。
隣には見覚えの無い青年が一人。あの黒いライダーかと察する。

「懲りない輩よ」

呆れ交じりに吐き捨てる。
敵からの罵倒に新八は動じない。
自分が間違いを犯したの何て言われるまでも無く理解しているからだ。

「新八」
「はい…!」

そんなものより新八の心を占めるのは、絶対にディケイドを倒さなくてはと言う使命感、
自分達ならば、翔太郎とフィリップの二人なら不可能ではないという信頼。

「やろう、俺たちが!」
「はい、僕たちが!」

ダブルドライバーを蓮が自らの腰に当てると、自動でベルトが巻き付く。
ここまではロストドライバーと同じ、違うのは新八の腰にも同型のベルトが出現した事である。
原理不明の未知なる現象に驚きは無い、これが正しいのだと分かるから。
それぞれが取り出したガイアメモリのスイッチを押せば、ガイアウィスパーが高らかに鳴り響く。
切り札と疾風が、遂に揃った。


567 : そしてSは目覚める/Extreme Dream ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:56:36 LmAHtPLA0
『CYCLONE!』『JOKER!』

「「変身!」」

夢で見たのと同じようにメモリを持った手を振り被れば、偶然なのかWの形となった。
新八が装填したメモリは蓮のドライバーへと転移、同じく自身のメモリを装填、全ての準備が整いバックルを展開する。

『CYCLONE!/JOKER!』

疾風と切り札、二つの記憶が解放され、緑と黒の粒子が蓮の身体を包み込む。
並んだ新八の身体は床にゆっくりと倒れ込んだ。彼の意識は相棒の肉体へと憑依したのだ。

「貴様、いや貴様らは…」

風が吹いている。
まるで戦士の再降を祝福するかのように、強い風が吹いていた。
右は緑の、左は黒のボディ。長いマフラーをたなびかせたその姿こそ仮面ライダーW(ダブル)。風の都の守護者たるヒーロー。

「僕は…僕は幾つも間違いを犯してしまった。
 自分の無力さに焦って危険な力に手を出し、仲間を沢山傷つけて、挙句銀さんの前で誓った事すら破ろうとした」

ダブルの右側、ソウルサイドの眼が点滅し言葉を発する。
出てくるのは新八が犯した罪の告白。
後悔と、自分自身への強い怒りを滲ませながら、罪を一つずつ並べていく。
そこに悔いはあっても、諦めは無い。

「これが僕の罪。僕は自分の罪を数えた」

何も見えず、何も消えない暗闇が晴れた先の光景。
無数の本棚が並ぶ空間にいた、白スーツと帽子の似合う男。
あの男は最後に何と言ったのか、ちゃんと覚えている。

「今度はそっちの番だ」

ダブルの左側、ボディサイドの眼が点滅し言葉を発する。
新八の言葉の続きを、蓮が引き継いだ。
この後ぶつけるべき言葉は一体何なのか。
そんなもの、二人ともとっくに分かっている。
自分達が、仮面ライダーWが悪と対峙した際に放つ言葉はあれしかない。

「「さあ、お前の罪を数えろ!」」


568 : そしてSは目覚める/Extreme Dream ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:57:41 LmAHtPLA0
「人間が我に罪を問うか」

クツクツと低く笑い声を漏らす。
竜の餌が支配者に、人間がJUDOに罪を数えろとのたまった。
余りにも滑稽で、馬鹿馬鹿しいとすら思えない光景。
ここまで来ると怒りや苛立ちよりも、笑いの方が先にやって来る。

「世迷言の代償を支払わないとは言うまいな?」

尤もそれはそれとして、単なる戯言と聞き逃してやりはしない。
誰に何を言ったのか、理解していないのならば、手ずから教えてやる必要がある。
エターナルソードを構え、断罪するべく斬り掛かった。
ダブルもまた無手で迎え撃つ気は無い。
ソウルサイド、右手で構えるは一本の刀。幕末の亡霊の愛刀であり、今は亡き鬼殺隊の炎柱が振るった無限刃。
志村新八が最も得意とする得物である。

「フンッ!」

長い刀身が狙うのは、ダブルの首。
変身しているとはいえライダーの力で振るわれれば、致命傷は確実。
万が一首輪に衝撃が届けば、逃れようのない死が待っている。

「っと!」

尤も全ては攻撃が命中すればの話。
跳躍、というより浮遊したダブルに剣は届かない。
頭上に場所を移した標的目掛けて、ディケイドも跳躍。
エターナルソードを突き出した。

「やああああっ!」
「ムッ!?」

魔王を倒すはずの剣が、ヒーローを殺す。
あってはならない悲劇を現実のものにはさせてたまるかと、ダブルもまた剣を振るう。
掬い上げるような斬り上げがエターナルソードを弾いた。

「ハッ!」

刀を振るうのがソウルサイドなら、肉弾戦はボディサイドの役目。
ディケイドの腹部目掛けて長い脚が伸びる。
硬い靴底を剣を握るのとは反対の腕で防御、上空での攻防はそこまでであり、両者共に地面へと降り立った。


569 : そしてSは目覚める/Extreme Dream ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:58:31 LmAHtPLA0
「せやっ!」

足が床に着いた直後、無限刃がディケイドに迫る。
対処は難しくない一撃だ、エターナルソードに阻まれた。
その一撃だけは、である。
続く二撃目、僅かにディケイドの反応が遅れるも再び防御。
なら次はどうだ、防御はほんの少しの差で間に合わず、身を捩っての回避。
四度目に振るわれた刀は、防御も回避も一手遅い。
マゼンタ色の装甲を、血と脂の染みこんだ刃が奔った。

「クッ…」

低い呻きに僅かな苛立ちが灯り、反撃に出んとエターナルソードを左胸へと突き出す。
手応えは無し。風に吹かれた布のようにヒラリと躱せば、エターナルソードは虚しく空気を斬る。
ダブルもまた腕をピンと伸ばし一歩踏み込めば、無限刃の切っ先が敵の胴体を突いた。

(この動きは…)

ダブルの身体スペックはアナザーディケイドよりもずっと低い。
肉体の頑強さだって、あれ程では無いはず。
だが刀を振るう速さと精細さは、明らかにアナザーディケイドの時よりも上がっている。
本当にさっきまで愚物と見下していた少年と同じなのか。
困惑した所へ再度振るわれた刀を躱せば、こちらが斬り返す間もなく胸部を斬られた。

志村新八は決して弱者ではない。
剣術道場の長男として生まれ、幼い頃よりの地道な鍛錬で己を磨き続けて来た。
故にこれまで幾度も血生臭い騒動に巻き込まれても、その都度戦って生き延びたのだ。
銀時や神楽などの超人的な戦闘力を持つ面子に囲まれながらも、彼らの足を引っ張るのではなく、肩を並べて戦えるだけの力が確かにある。

加えて新八の攻撃を支援しているのは、サイクロンメモリの固有能力。
体や武器に風を纏わせる事で、攻撃の速度を高めている。

しかしディケイドは簡単に勝ちを譲ってくれる相手でない。
速さに物を言わせて休む間もなく振るわれた刀を、強引に突破する。
ディケイドが元々持つ武器、ソードモードのライドブッカーで無限刃を弾き返し、間髪入れずにエターナルソードを振り下ろした。
胴体から火花が散り、堪らずダブルはたたらを踏む。
もう一撃与えるべくライドブッカーを突き出せば、赤い眼へ伸びて行く。


570 : そしてSは目覚める/Extreme Dream ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 21:59:32 LmAHtPLA0
だが忘れるなかれ。
ディケイドと戦っているのは新八一人でない事を。

「マガツイザナギ!」

名前の通り禍々しいオーラの魔人が、長得物を振り下ろす。
両手の剣で防御の姿勢を取ったディケイド、それぞれの刀身から衝撃が腕を伝わった。

「アルセーヌ!」

ワイルドの特権であるペルソナチェンジを行使。
稀代の大怪盗と同じ名を持つペルソナが出現、両腕を組み尊大な仕草でディケイドを睥睨する。
反撃に移る為、防御の構えをディケイドは解除。その一瞬をジョーカーは見逃さない。
サイクロンメモリの速さを乗せた鋭い回し蹴りを放つ。
ダブルの動きへ呼応するようにして、アルセーヌが放ったのも主同様の回し蹴り。
二本の長い脚の内、片方は胴体へ、もう片方は右手に叩き込まれた。

「ガッ…」

命を刈り取るレベルの攻撃にはあらず。
されど意味はあった。ディケイドの右手からエターナルソードが弾き飛ばされ床に転がる。
取りに行かせる気は毛頭無し。無限刃に風を纏わせ、敵の胸部を境目に泣き別れさせる勢いで振るった。

「でりゃああああああああっ!!」

腹の底から出したその叫びは、決して威勢だけのものでは無い。
これまで以上に激しく火花を散らし、ディケイドが吹き飛び床を転がって行く。

攻撃の成功、その代償は握り締めた武器に降りかかる。
無限刃は砕け散り、今や柄と鍔、数ミリ程度の刀身を残すのみと化したのだ。
刀匠・新井赤空の最終型殺人奇剣。
チェンソーの悪魔と世界の破壊者を相手に振るわれ、今役目を終えた。

何時までも無様に地を這うディケイドではない。
素早く立ち上がるが目を離した数秒の間に、ダブルは決着を付けるべく動き出す。


571 : そしてSは目覚める/Extreme Dream ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 22:00:40 LmAHtPLA0
「決めるぞ新八!」
「はい!終わらせましょう!」

『JOKER!MAXIMAM DRIVE!』

スロットに装填したガイアメモリから、必殺のエネルギーがダブルへと伝導される。
街を泣かせる数多のドーパントを撃破して来た、サイクロンジョーカーのマキシマムドライブだ。
緑色の乱気流が発生し、瓦礫やガラス片が巻き込まれる。
中央に立つダブルが浮き上がれば、後は敵へ叩き込むのみ。

「面白い、付き合ってやろう…」

『FINAL ATTACK RIDE DE・DE・DE DECADE!』

対するディケイドもまた、真っ向から叩き潰すカードを叩き込む。
ライダー世界の怪人を屠って来た技が、同じ仮面ライダーを破壊する為に使われようとしている。
10枚のカード状エネルギーが出現し、ディケイドとダブルを繋ぐ道と化す。
バトルロワイアルで放つのはこれが三度目となるディメンションキック、大きく跳び上がりダブル目掛けてカードを通過して行く。

「「ジョーカーエクストリーム!」」

揃って言い放つ、技の名前。
ボディサイドとソウルサイド、ダブルの身体が中央で真っ二つに分離される。
ディメンションキックへ、ジョーカーの蹴りが真っ向から迎え撃つ。
しかしディケイドの勢いは微塵も揺るがず。
続けて時間差によりサイクロンもまた蹴りを叩き込むも、ディケイドは止められない。
蓮、新八、JUDO。
三人共に決して軽くない負傷を抱え込んではいるが、より重症なのはダブルの二人であるが故か。

だが左翔太郎と雨宮蓮。
彼らは切り札。如何なる逆境をも覆すからこそのジョーカー。
この局面で蓮は切る、残された最後の手札を。


572 : そしてSは目覚める/Extreme Dream ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 22:02:05 LmAHtPLA0
「ケツアルカトル!」

アステカ神話に登場する神の名を持つペルソナは、嵐を呼ぶ園児との絆の証。
翼を生やした白蛇が、威圧するかのように牙を見せる。
残りのSP全てを使い切る勢いで、ケツアルカトルは己の力を放った。
マハガルダイン。高威力の暴風を広範囲に巻き起こす疾風属性のスキルだ。

だが蓮が対象に選んだのはディケイドではなくダブル。
自分達への攻撃を選択するなど、血迷ったと取られてもおかしくない愚行。
普通ならばそう。

「何…!?」

蓮の選択が間違っていない事は、ディケイドの反応からも明らかだろう。
マキシマムドライブの威力が急上昇している。
このまま押し切れるはずだった自分の身体へ、猛烈な痛みが走り逆に押し負けている。
勝利するのはディケイド、その結果が大きく覆されようとしていた。

翔太郎とフィリップにとって、風は何時でも味方だった。
ある時は迷う背中をそっと押し、ある時は喪失の悲しみに濡らした頬を撫でてくれる。
そして人々の声援を風に乗せてダブルの元へ届け新たな力を授け、仮面ライダーエターナルとの決戦に勝利を齎してくれた。

此度もそうだ。
サイクロンが発生させた風とマハガルダインは一つになり、ダブルに力を与えてくれている。
ならば負ける道理は無い。勝てない道理は無い。
風が味方でいてくれる限り、仮面ライダーWは何度だって立ち上がれるのだから。

「「これで決まりだ!!」」

ダブルの両足が、ディケイド胸部を強く叩く。

猛威を振るった破壊者は、守護者の放つ風の中へと消えて行った。


573 : そしてSは目覚める/Extreme Dream ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 22:03:44 LmAHtPLA0



緩やかな風を纏い、ダブルはそっと降り立つ。

自分達はディケイドに打ち勝った。
そう思ってしまった直後、膝から崩れ落ち、変身が解除される。

「……っはぁ…!」

生身となった蓮は汗でびっしょりとなった顔で、言葉にもならず息を吐いた。
アーマージャックとの戦いによる傷も癒えないまま、風都タワーでの連戦。
いい加減疲労もピークに達している。
顔を上げるのも億劫に感じながら、どうにかこうにか見てみれば、新八も同じような状態だった。
アナザーディケイドの変身を解除させる為とはいえ、容赦なく攻撃し続けたのだ。
気力でディケイドと戦いはしたが、向こうも限界だろう。
仰向けになったまま、荒い呼吸を繰り返している。

自分もいっそ横になってしまいたい。
ついそんな風に考えて、



『KAMEN RIDE BLADE!』



心臓が凍り付きそうになった。

「よもや、我がここまで梃子摺らされるとはな…」

何時の間にやら、ソイツがいた。
膝を付き、立つ力すら残っていない自分達と違い、ソイツは二本の足でしっかりと床を踏みしめている。
また初めて見る姿に変わっていた。
角のようにも、一本の剣にも見える頭頂部は知らない戦士のもの。
けれど腰に巻かれたベルトは、これまでと同じだ。

「良くやったと言うべきか。それもここまでのようだが」

キリキリと不快な金属音。
ライドブッカーの刀身を撫でるという、門矢士と同じ動作。
今の蓮にとっては、まるで死神が鎌を研いでいるかのように、恐怖を煽るものだ。

人間どもの戦慄など、JUDOを止めるには至らない。
首を斬り落とし己の勝利で終わらせるべく、黙々と近付く。


574 : そしてSは目覚める/Extreme Dream ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 22:04:37 LmAHtPLA0
『おいおい、そいつに死なれちゃ困るってさっき言っただろ。もう忘れちまったのか?』

気だるさを含んだ呆れ声が、JUDOへ向けられた。
ピタリと足を止め声の主へと首を動かせば、案の定ブラッドスタークがため息を吐いている。
どうやらダブルと戦っている間に再変身したらしい。
生身の身体は女なのに変身後の声は男。ボイスチェンジャーでも使っているのか知らんが、どうでもいい事と投げ捨てた。

「貴様の考えなど知った事ではない」
『言ってくれるぜ。ツレない態度ばっかりで、こっちは涙が出そうだよ』

わざとらしくバイザーの目元を覆うブラッドスタークの姿に眉を顰める。
この状況には似つかわしくない態度を取り続けている。
いや、思い返せばこいつは常にこんな感じだったか。
だがまぁ良い。殺す相手という事に変わりは無いのだから。

標的を蓮から赤い怪人へ変えると、面倒そうに首を回した。

『ま、そりゃそうだよなぁ。お前は……』

気のせいだろうか、ブラッドスタークの声が一段低くなったように聞こえた。
ほんの僅かな疑問は、次の瞬間どうでもよくなった。
ブラッドスタークの右腕が光を帯びている。
元々赤い装甲だったが、より禍々しい赤いオーラのようなものが纏わりついているのだ。
アレはマズいものだと理解し、だが動き出すには少しだけ遅い。

『そうなるよなァッ!!!』

翳したブラッドスタークの掌から、エネルギー波が放射される。
自分の装甲と同じ色が破壊を齎そうと、JUDOへと殺到。
ライドブッカーで斬り付けようと飛び掛かるも、刃の到達は叶わず後方へと押し出されて行く。

「グ……オ…オオオオオオオオオ……!!」

これ以上は下がるまいという抵抗も空しく、火花を散らしてJUDOの体力は削り取られる。
自分の意思とは裏腹に、身体は前では無く後ろにしか動いてくれない。
戦闘の余波でとっくに砕け散ったガラス窓を失って、外と展望室を遮る物は皆無。
このままでは押し出されればどうなるかは、火を見るよりも明らか。
そうはさせるかと、どうにかライドブッカーを振り被る。

「ウィンドスラッシュ!」

それも無意味に終わった。
突如JUDOの周囲に発生した真空の刃が、余計な抵抗を封じる。
誰がやったかは今の声で即座に判明した。
傷がじくじくと痛む体に鞭打って、晶術を放ったジューダスだ。
緑の眼で睨みつけてやれば、真紅の瞳で冷たく視線を返される。

そして、限界は訪れた。

「ッ!?」

エネルギー波が一際激しくJUDOを呑み込み、とうとう立っている事すら出来なくなった。
安定のしない宙では抵抗らしい抵抗も叶わず、後はもうされるがまま。
自分の身体が引っ張られるような感覚を味わい、視界に映るのが展望室の天井から澄み切った青空に変化し、

『CIAO(チャオ)♪』

小憎たらしい声を最後に、JUDOは風都タワーの外へと吹き飛ばされていった。


575 : そしてSは目覚める/僕の修羅が騒ぐ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 22:06:48 LmAHtPLA0



猛威を振るった破壊者が消え、今度こそ風都タワー内は静けさを取り戻した。

ようやく事が済んだと判断すると、エボルトはブラッドスタークへの変身を解除。
吹き抜けとなった展望室に入って来る風が、黒いリボンで結った髪を揺らす。
肌寒さに少しだけ目を細め、しかし何かを口にはせず蓮の傍までやって来ると、そのまま大の字に寝転んだ。

「はぁ……。しんっどいねぇ、全く」

肉体の外見からは一生出そうにない言葉に、思わず苦笑いする蓮。
最初に出会った時から飄々とした態度を崩さないでいた共犯者も、今回は相当疲れたのだろう。
無理もない話だ。ディケイドも、アナザーディケイドも強敵だったのだから。
多分自分とエボルトだけでは勝てなかった。共に戦う仲間がいたからこそ、危機を乗り越えられたのだ。

思えば一番初めはこの男と二人きりだったのに、多くの参加者と出会ったものである。
少しだけ感慨深くなり隣を見ると、そこには上着の裾を捲り上げる共犯者の姿があった。

「やっぱり痣になってるか。キツいもん貰っちまったしなぁ」

ディケイドファイズに殴られた箇所を擦ると、鈍い痛みが起こり顔を顰める。
尤も変身していたからこそ、この程度で済んだのだが。
くびれた腰と形の良い臍を目撃して赤くなった顔を帽子で隠す蓮には気付かず、何度目かのため息を吐いた。

「取り敢えず、これで終わったのか」

JUDOの脅威が一先ず去り、多少は気を抜けると判断したらしい。
床に腰を下ろし、ジューダスは誰に向けて言うでもなく呟いた。
同じディケイドファイズの被害に遭った者でも、こちらの方がダメージは深い。
後でいろはに治療を頼む必要があるかもしれない。

「新八君!」

と、声に顔を上げると金髪の女が倒れた少年の元へ駆け出していた。
確か彼女はシャルティエの近くにいた者。
と言う事は、元は彼女の支給品だったのか。

ぼんやりと考えるジューダスの視線に気付かず、ホイミンは正気を取り戻した少年を心配そうに覗き込む。

「良かった…新八君が元に戻って…」
「うん…ごめんホイミン君。心配かけちゃって……」

心底安堵したような姿に、申し訳なさが募る。
よく見ると体の所々が爛れているようだ。ホイミンもまた必死に戦ったのだろう。
新八がホイミンの傷を心配するように、ホイミンもボロボロの新八を放っては置けない。
ディケイドに焼かれた自分自身の治療で回復呪文を連発したが、魔力はまだ幾らか残っている。

ならこの力を使うべきは、間違いなく今だ。
ホイミンは先程の戦闘の際に、自分が全く役に立てなかった事で落ち込んでいた。
ディケイドライバーへの不意打ちを成功させていれば、皆が傷つく事も無かったかもしれない。
絶対に成功させなければならなかったのに失敗し、自分の傷を癒すだけで手一杯だった。
皆のように真正面からディケイドやアナザーディケイドと戦えず、終わるまでじっとしているだけ。
そんな自分でも今なら傷ついた仲間の力になれると、やる気を出していた。


576 : そしてSは目覚める/僕の修羅が騒ぐ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 22:08:24 LmAHtPLA0
「じっとしてて新八君。今僕が傷を治すから!」
「ありがとうね、ホイミン君。だけど、僕より蓮さんの方が…」

共にダブルへ変身した青年も、相当の傷を負っていたはず。
承太郎はいろはに任せているが、蓮は違う。
自分の暴走で迷惑を掛けてしまった罪悪感もあり、蓮の回復を優先しようとする。
そこへ彼らの会話を聞いていたのだろう、蓮が首を横に振りながら口を開いた。

「いや、自分は後回しで良い。ホイミン、先に新八を頼む」
「蓮さん……」

でもと言い縋っても大丈夫だからと返されてしまう。
また自分は後で良いと言おうとしたが、このままどちらも遠慮し合っては堂々巡りとなるだろう。
申し訳ないながらも蓮の言葉に甘え、新八は先にホイミンの回復呪文を受ける事にした。

「じゃあ、ホイミン君。お願いしても良いかな?」
「任せてよ!」

張り切って回復呪文を唱える仲間に、何だか暖かい気持ちになっていく。
自分を正気に戻してくれ、傷ついた身を案じてくれる人たちがいる。
その事実だけで、自分の心が癒されていく気がしたのだ。
皆に感謝しなくてはならない。こんな自分に手を差し伸べてくれた事への気持ちを、言葉にしてちゃんと伝えたい。
神楽と再会した時に、彼女にも皆良い人だと教えたいから。

「ねぇホイミン君」

ありがとう。
その一言を伝えたくて顔を上げればそこには、























口が裂けそうなくらいに開かれ、醜悪に笑う女がいた。


577 : そしてSは目覚める/僕の修羅が騒ぐ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 22:12:16 LmAHtPLA0
「えっ」

気が付けば自分へ覆い被さるようにして、ホイミンが抱きついている。
目の前には、黒のメイド服越しにも自己主張の激しい乳房。
何をされるか考える間もあたえられず、顔を谷間に埋められた。
伝わって来るのはクセになりそうなくらいの柔らかさ。張りと弾力もある、女性の魅力的な部位への快感。

ではない。

ヌルリとした、生々しく不快な感触が顔全体に伝わる。
まるで桶いっぱい水飴に顔を突っ込んだ気分。
考える余裕が多少なりともあったのはそこまでだ。
顔に凄まじい衝撃が襲い掛かり、それが獲物を溶解させる強酸と分かるはずも無く、何が起きたかを理解せずに終わりだ。

顔が熱い。

最後にそれが一瞬だけ浮かび、プッツリと切れた。





何が起きたか分からず、誰もがすぐには動けなかった。
判断の遅さを責めるのは簡単だが、彼らへ向けてそれをやるのは酷というもの。
JUDOという脅威がやっと去り、全員が疲弊している状況だ。
大なり小なり気を抜く事を、どうして防げようか。

自ら回復を申し出た女の胸に、少年の頭部がスッポリと埋もれている。
うっかり胸に顔が当たってしまっただとか、そんな微笑ましい光景ではない。
首から上が女の体内に入り込んでいると言うべき、異様な光景。

何かマズい事が起きた。
たっぷり数秒かけて理解したならば、そこからの動きは迅速である。
銃を取り出し腕を上げ、照準を合わせ引き金を引く。
4つの動作を1秒と掛からず終え、エボルトはホイミンへ銃を撃った。
同じく異常事態と判断したジューダスが、傷の痛みに顔を歪ませる手間すら惜しいと駆け出す。

物理耐性のあるホイミンの肉体に、銃を撃った所で無意味。
だがトランスチームガンから放たれるのは高熱硬化弾、スチームビュレット。
皮膚が焼け落ちる程高熱の蒸気を纏った銃弾が当たれば、猛烈な熱さに悲鳴が上がる。

「熱いっ!?」

仰け反り痛みを訴えるホイミンの元へ、ジューダスが到着。
頭部を呑み込まれた少年を引き離し、ホイミンから距離を取った。
ようやく我に返った蓮が慌てて立ち上がり、新八へと駆け寄る。
自分の身体の痛みなど、今はもう気にならない。


578 : そしてSは目覚める/僕の修羅が騒ぐ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 22:13:15 LmAHtPLA0
「新八…っ!」

横たわらせた新八の姿に、ヒュッと喉が鳴った。
人間とは、たった数秒でここまで変わってしまうもなのか。
顔の皮膚は大半が焼け爛れ、ハムのような色の肉が外気に晒されている。
端正な顔立ちだった少年の面影はどこにも無い。
特に酷いのは口の部分だ。下顎から首にかけてがごっそりと無くなってしまい、露出した骨まで溶けていた。

目を背けたくなる程の惨状に、そんな場合ではないと必死に思い直す。

「いろは!!こっちに来てくれ!!!」

回復手段を持つ仲間へ、余裕を完全に無くした声色で叫ぶ。
全快とまではいかかないものの、ある程度顔色の良くなった承太郎を横たわらせたまま、新八の所へ急ぐ。
少し離れた位置からでも異常に気付いたのだろう、悲鳴に似た蓮の言葉を最後まで聞かずに駆け出していた。

「雨宮さん!一体どうし――」

質問は最後まで続かない。聞かなくてもすぐに分かったから。
新八の姿に声も出さず青褪める。
尤もここで何も出来ないような一般人ではない。
自分の力が必要なのだと理解すれば、新八の傍へ屈み回復魔法を発動した。
いろはもまたこれまでの戦いで莫大な魔力を消費していたが、自分の疲労など顧みずに新八を治そうとしている。
もうこれ以上、リトのような犠牲を出す訳にはいかない。
たとえ最終的には殺し合いが無かった事になるとしても、犠牲の容認なんてお断りだ。

その決意を、いっそ残酷なくらい冷静に止める。

「…止せ、いろは。もう意味が無い事だ」
「ジューダスさん…?何言ってるんですか、だって私が治さないと…」
「いや、そのお嬢ちゃんの言ってる事は正しいぜ」
「エボルト?お前まで何を……」

諦められない少年と少女へ、どこまでも冷静な言葉を向ける。
人間の死を数えきれないくらいに見て来た二人には、もう分かっていた。
いや、きっと蓮といろはだって分からない筈が無い。

「お前さんの力が、どれくらい効果があるかは知らねぇが…」

淡々と告げる言葉の先は、誰も望んでいない答え。

「死人を生き返らせるようなものじゃあ無いだろ」

エボルトの言葉がどういう意味なのか、理解できない者はいない。
いないからこそ告げられた瞬間、心が痛いくらいに重く感じた。

また目の前で死んだ、また助けられなかった。
後悔しても現実は変わらない。


志村新八は、死んだのだ。


【志村新八@銀魂(身体:フィリップ@仮面ライダーW) 死亡】


579 : そしてSは目覚める/僕の修羅が騒ぐ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 22:14:43 LmAHtPLA0
「え……あ……え……?」

意味が分からずホイミンは視線を彷徨わせる。

新八が死んだ。そう死んだのだと言う。
死んだらそこで終わりだ。
銀時が生きて帰って来ないように、新八だってもう動かない。

何故死んだ?

だって新八はさっきまで生きていたじゃないか。
ボロボロになっていたけど、ちゃんと目を開いて口からは言葉が出た。
死んでしまう要素なんて一つも無かったはず。

(…………違う)

新八の傷がいきなり悪化した?
それも有り得ない。何故なら自分がいたから。
ホイミを唱えて傷を治してあげたのに、死ぬなんてそんなのおかしい。

(違う…!)

何が違う?

(僕は……新八君を治してない…!)

じゃあ何をした?

(新八君に…抱きついて……)

それから?

(新八君の頭が…僕の中に入っちゃって……)

それでどうなった?

(それで……それで……それで……!)

それで新八は死んだ。

ホイミンが殺した。


580 : そしてSは目覚める/僕の修羅が騒ぐ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 22:15:34 LmAHtPLA0
「ホイミン…どうしてなんだ…?」
「…シャル?」
『ぼ、僕にも分かりませんよ!?だって、だってホイミン君は……ああもう何で……!』

気が付けば皆が自分の方を見ているのに気付いた。
蓮とシャルティエの言葉はようやっと絞り出したような、苦悶に満ちており、それがホイミンの心を掻きむしる。

(僕は……)

皆の目がたまらなく恐ろしい。
怒り、困惑、警戒、恐怖。
ライアンが自分に向けてくれた感情とは違う。


人間を襲って喰い殺す、悪い魔物へ向ける感情だった。


「う、うわぁああああああああああああああああああアアアアアアアアアアァァァァァアアアアアアアアッ!!!!!」

引き裂くような絶叫と共に、ホイミンは駆け出した。
自分を見つめる目から、そして自分の犯した罪から逃げるように。
向かった先は外界への入口。遮る物の無くなったそこは、JUDOが吹き飛ばされたのと同じ所。
違うのはただ一点、ホイミンは自分の意思でそこから飛び出した。

「待て…!」

静止の声は届く事無く、ホイミンの姿はあっという間に消えてしまった。

第一展望室は地上から離れた位置にある。
人間が命綱も無しに飛び降りればどうなるか。
いろはの顔から血の気が引いて行く。

「あ、あの人、ここから飛び降りたら…!」
「多分生きてると思うぜ?確かアイツの身体は人間じゃあ無いらしいからなぁ」

顔面蒼白となったいろはにあっけらかんと返し、エボルトは思わず天を仰ぐ。

自分達は新八の救出を目指し風都タワーへやって来た。
暴走していた新八は正気に戻り、仮面ライダーWへの変身を果たした。
だが新八は死んだ。それも殺したのはディケイドではなく、ホイミンだ。
助けに向かった筈の仲間が、どうにか生き延びた仲間を殺す。これでは、これでは一体、

「何の為の戦いだったんだろうな」

心底疲れきったようなエボルトの言葉に、誰も反論しない。
怒りと、悲しみと、やるせなさをぶつけるように、蓮の拳が床を叩く。
ジンとした痛みなど気にもならず、やり場のない想いだけが募り出す。
視線を落とすと望まなくとも瞳に映るのは、真っ赤な変身ベルト。

二人で一人の探偵、風の都の守護者の証。
しかしもう、切り札と疾風が揃う事が永遠に無くなった今となっては、単なる虚しさの象徴でしかなかった。


581 : そしてSは目覚める/僕の修羅が騒ぐ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 22:16:42 LmAHtPLA0
◆◆◆


精神が肉体の影響を受ける。
ボンドルド主催のバトルロワイアルにて発生する現象は、参加者に大きな影響を与えていた。

孫悟空の身体となった野原しんのすけなどは、肉体の恩恵を受けた分かりやすい例だろう。
鍛え上げられたサイヤ人の力を少しずつだが発揮可能となり、アーマージャックとの戦闘では亀仙流の奥義まで使えるようになったのだから。

しかし良い例もあれば、当然悪い例も存在する。

空腹に苛まれたうえに普通の食事を受け付けなくなったアルフォンス・エルリックや、
参加者を笑顔にするという全員塵殺とは正反対の方針を取らざるを得なくなった両面宿儺などは、典型的な例と言える。

そして肉体の影響を受けてしまった参加者が、また新たに現れた。
ソリュシャン・イプシロンの身体となったホイミンである。

ソリュシャン・イプシロンとは元々、西暦2126年に発売されたVRMMORPG「ユグドラシル」のプレイヤーによって製作されたNPCである。
つまりゲーム内のキャラクターであり、現実世界に存在する者ではない。
だがユグドラシルのサービス終了日、ゲーム内で栄光を誇ったギルド「アインズ・ウール・ゴウン」の創設者の一人でもあるモモンガが異世界に転移され、全てが変わった。
拠点であるナザリック大墳墓内にいたモモンガ共々転移したNPC達が自らの意思を持ち、言葉を話始めたのだ。
その中にはソリュシャンも存在し、彼女も他のNPC同様異世界転移によってゲームキャラクターから一つの生命へと変化したのだ。

では異世界でのソリュシャンはどういった性格だったのかと言えば、ホイミンに支給されたプロフィールの通りである。
ナザリックのNPCには珍しくない、「悪」へ大きく傾いた性格。
人間や亜人種を強く蔑視し、虐殺や拷問にも一切の抵抗を抱かない。
何より、同じプレアデスのナーベラル・ガンマが敵対者を下等生物として淡々と処理するのに対し、ソリュシャンは玩具として楽しみながら殺すのを好む。

そんな肉体による影響を受けたホイミンはどうなったか。
ディケイドへ不意打ちを仕掛ける時、戦う仲間へ露骨に蔑むような感情を抱いた。
決定的なのは新八の傷を治そうとした時だ。
傷だらけで戦い抜き、回復を申し出た仲間に感謝と安堵の混じった笑みを浮かべた新八を見て、こう思った。

一番気が緩んだタイミングで自分の事を強く信頼している人間を殺したら、さぞ楽しいんだろうなと。

ホイミンが肉体の影響を撥ね退ける程の強靭な意思をもっていれば、防げたかもしれない。
現に産屋敷耀哉はスコルピオワームの毒という異物さえ無ければ、鬼を増やせとのたまう無惨の声を完全に無視出来ていたのだから。
しかし心優しいホイミスライムにとって、死の支配者(オーバーロード)に使える邪悪なスライムの肉体は、劇薬として作用してしまった。
彼の心を侵食し、自分と同じ悪へと堕としてしまった。

風都タワーから飛び降りたホイミンは、エボルトが言った通り生きていた。
物理攻撃への耐性を持つ肉体が為、着地の際に少々形が崩れはしたものの、すぐに元の擬態した姿へと戻ったのだ。
だが体は戻っても、一度垂らされた毒は消えない。
人間になるのを夢見た純粋な心は、少しずつ、醜悪な形へと変貌していた。


582 : そしてSは目覚める/僕の修羅が騒ぐ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 22:17:38 LmAHtPLA0
◆◆◆


(ふむ、一人減ったか)

重苦しい空気となった蓮達を眺めながら、黎斗は冷静に思考する。

傍らにいるのは気を失ったスタンド使いの少年、空条承太郎。
血の滲んだ衣服は痛々しいが、いろはの回復魔法が効いたのか顔色はそこまで悪くない。
ジューダスが新八をホイミンから引き離した後、いろはの元へ赴き、
「彼は自分が見ておくから、彼らの方に行ってやってくれ」と促したのだ。
蓮の必死の叫びも効果があったのだろう、走って行くいろはの背を最後まで見送らず、黎斗はある物を探し始めた。

(破壊されている可能性もあったが、運が向いたようだな)

目当ての物は見つかり、素早くデイパックに仕舞った。
拾った道具に浮かび上がる異形の顔は、まさしくさっきまで暴れていた怪人のもの。
懐中時計のようにも見える形のソレは、アナザーディケイドウォッチ。
新八を偽りの破壊者へと変えた、危険なアイテムだ。

黎斗はアナザーライダーに関する正確な情報を持ってはいない。
アナザーオーズに選ばれた檀黎斗王ならともかく、ここにいる黎斗はタイムジャッカーとの接触もなければ、常磐ソウゴの存在自体知らないのだから。
しかしアナザーディケイドにも首輪が巻かれていた事から、参加者が姿を変えた存在だとは分かり、それに使っただろう支給品の回収に動いたのだった。

無論、黎斗本人にアナザーディケイドへ変身する気は全く無い。
どれだけ強大な力を得られようと、理性を失い暴れ回る獣と化すのはお断りだ。
だが使い道は十分にある。
アナザーディケイドに変身すれば、新八のように虐殺マシーンと化す。
だったら何も、黎斗本人が変身しなくとも他の誰かを変身させればいい。
善人だろうと悪人だろうと関係無く、参加者を減らす適当な駒として暴れさせられるのだから。
尤もこちらで制御は出来ない為、アナザーディケイドの暴走に巻き込まれないよう立ち回りが必要となるのだが。

(君にも感謝しておこう。ゲームマスターたる私からの礼だ、有難く受け取っておけ)

眠り続ける承太郎を、感謝などとは程遠い笑みで見下ろす。
全てはただ、檀黎斗という神の才能の持ち主がゲームクリアを果たす為に。
その過程で如何なる犠牲が生まれようとも、彼の心を揺さぶりはしないのだろう。


583 : そしてSは目覚める/僕の修羅が騒ぐ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 22:19:23 LmAHtPLA0
◆◆◆


風都タワーから離れた場所で、JUDOは変身を解除しのっそりと身を起こす。
周囲を見渡せば、見覚えのない家々や商店が所狭しと建ち並んでいる。
承太郎達と遭遇した市街地ではないようだ。
流石にあそこまで吹き飛ばされはしなかっただろう。

地面に激突する前に、JUDOはライドブッカーから新たなカードを取り出した。
不安定な体勢ながらもドライバーに挿入すると、すぐさま効果が齎されたのをその身で感じ、
数秒後には背中からアスファルトへと叩きつけられた。
それでも無事だったのは変身したままなのもあるが、やはりカードの力による所も大きい。
アタックライド・メタル。全身を硬化させ耐久力を著しく上昇させる能力だ。
JUDOが新たに変身した戦士、仮面ライダーブレイドはアンデットと呼ばれる不死の生物が存在されたカードの力を解放して自らの能力とする。
ディケイドであればアンデットの力も、あくまでブレイドが行使するものとして扱えるらしかった。

こうして死亡は免れたJUDOであるが、その足取りは少々ふらついている。
市街地での承太郎に始まり風都タワーでの連戦は、流石の士の肉体にも相応の疲労を蓄積させ、
ジューダスの秘奥義やダブルのマキシマムドライブ、エボルトのエネルギー波によるダメージもまた着実にJUDOから体力を奪った。
この状態で戦いに臨むのは、JUDOとしても無謀であると分かっていた。
だから今は退く。
人間の肉体は脆い、仮面ライダーの力があってもだ。
身体を休め傷を癒さなければ何も出来ない脆弱さ、しかしそれが今の自分なのだ。

――しかし…流石に認めなばなるまい

器である村雨良の身体でなく、本来の自分より弱くなっていると加味しても、
風都タワーにいた連中を仕留め損ねたのは事実。
自分がここまでの傷を負ったのは、無視できない。
所詮人間は竜の餌、取るに足らないものとして扱った結果があの手痛い反撃ならば、認識を変える時なのだろう。

参加者は全員殺す。
但し家畜としてではなく、このJUDOの敵としてだ。

「フッ、我がこのような事を考えるとは……」

虚無の牢獄にいた頃からは想像もできない、自分の心境の変化。
それすらも僅かに愉しさを覚えている事へ自嘲しつつ、破壊者は一度だけ振り返り、風都タワーを背に歩き始めた。


584 : そしてSは目覚める/僕の修羅が騒ぐ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 22:20:38 LmAHtPLA0
【D-4 風都タワー第一展望室/昼】

【雨宮蓮@ペルソナ5】
[身体]:左翔太郎@仮面ライダーW
[状態]:ダメージ(極大)、疲労(極大)、SP消費(残量ゼロ)、体力消耗(中)、怒りと悲しみ、ぶつけ所の無い悔しさ
[装備]:煙幕@ペルソナ5、T2ジョーカーメモリ+ダブルドライバー@仮面ライダーW
[道具]:基本支給品×2、ロストドライバー@仮面ライダーW、ハードボイルダー@仮面ライダーW、、スパイダーショック@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜2(煉獄の分、刀剣類はなし)
[思考・状況]基本方針:主催を打倒し、この催しを終わらせる。
1:新八…っ。
2:仲間を集めたい。
3:エボルトは信用した訳ではないが、共闘を受け入れる。
4:今は別行動だが、しんのすけの力になってやりたい。
5:体の持ち主に対して少し申し訳なさを感じている。元の体に戻れたら無茶をした事を謝りたい。
6:逃げた怪物(絵美里)やシロを鬼にした男(耀哉)を警戒。
7:ディケイド(JUDO)はまだ倒せていない気がする…。
8:新たなペルソナと仮面ライダー。この力で今度こそ巻き込まれた人を守りたい。
9:推定殺害人数というのは気になるが、ミチルは無害だと思う
[備考]
※参戦時期については少なくとも心の怪盗団を結成し、既に何人か改心させた後です。フタバパレスまでは攻略済み。
※スキルカード@ペルソナ5を使用した事で、アルセーヌがラクンダを習得しました。
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。
※翔太郎の記憶から仮面ライダーダブル、仮面ライダージョーカーの知識を得ました。
※エボルトとのコープ発生により「道化師」のペルソナ「マガツイザナギ」を獲得しました。燃費は劣悪です。
※しんのすけとのコープ発生により「太陽」のペルソナ「ケツアルカトル」を獲得しました。
 
【エボルト@仮面ライダービルド】
[身体]:桑山千雪@アイドルマスター シャイニーカラーズ
[状態]:ダメージ(大)、疲労(極大)、千雪の意識が復活
[装備]:トランスチームガン+コブラロストフルボトル+ロケットフルボトル@仮面ライダービルド
[道具]:基本支給品×2、ピーチグミ×3@テイルズオブディスティニー、ランダム支給品0〜2(シロの分)、累の母の首輪、アーマージャックの首輪、煉獄の死体
[思考・状況]
基本方針:主催者の持つ力を奪い、完全復活を果たす。
1:どうしたもんかねこれから。
2:蓮や承太郎を戦力として利用。
3:首輪を外す為に戦兎を探す。会えたら首輪を渡してやる。
4:有益な情報を持つ参加者と接触する。戦力になる者は引き入れたい。
5:自身の状態に疑問。
6:出来れば煉獄の首輪も欲しい。どうしようかねぇ。
7:ほとんど期待はしていないが、エボルドライバーがあったら取り戻す。
8:千雪にも後で話を聞いておく。
9:余裕があれば柊ナナにも接触しておきたい。
10:今の所殺し合いに乗る気は無いが、他に手段が無いなら優勝狙いに切り替える。
11:推定殺害人数が何かは分からないが…まあ多分ミチルはシロだろうな(シャレじぇねえぜ?)
[備考]
※参戦時期は33話以前のどこか。
※他者の顔を変える、エネルギー波の放射などの能力は使えますが、他者への憑依は不可能となっています。
またブラッドスタークに変身できるだけのハザードレベルはありますが、エボルドライバーを使っての変身はできません。
※自身の状態を、精神だけを千雪の身体に移されたのではなく、千雪の身体にブラッド族の能力で憑依させられたまま固定されていると考えています。
また理由については主催者のミスか、何か目的があってのものと推測しています。
エボルトの考えが正しいか否かは後続の書き手にお任せします。
※ブラッドスタークに変身時は変声機能(若しくは自前の能力)により声を変えるかもしれません。(CV:芝崎典子→CV:金尾哲夫)
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。


585 : そしてSは目覚める/僕の修羅が騒ぐ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 22:21:58 LmAHtPLA0
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:燃堂力@斉木楠雄のΨ難
[状態]:疲労(極大)、全身にダメージ(大)、銀髪の男(魔王)への怒り、気絶中
[装備]:ネズミの速さの外套(クローク・オブ・ラットスピード)@オーバーロード、MP40@ストライクウィッチーズシリーズ
[道具]:基本支給品×2、予備弾倉×2、、銀時のスクーター@銀魂、童磨の首輪
[思考・状況]基本方針:主催を打倒する。
0:……。
1:新八はどうなった?
2:主催と戦うために首輪を外したい。
3:DIOは今度こそぶちのめす。ジョナサンの身体であっても。
4:銀髪の男(魔王)、半裸の巨漢(志々雄)を警戒。
5:エボルトはどうも信用しきれない為、警戒しておく。
5:天国……まさかな。
[備考]
※第三部終了直後から参戦です。
※スタンドはスタンド能力者以外にも視認可能です。
※ジョースターの波長に対して反応できません。
※ボンドルドが天国へ行く方法を試してるのではと推測してます。
 またその場合、主催者側にDIOの友が協力or自分の友が捕らえられている、自分とDIOの首輪はダミーの可能性があると推測しています。
※時間停止は現状では2秒が限界のようです。

【環いろは@魔法少女まどか☆マギカ外伝 マギアレコード】
[身体]:高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[状態]:ダメージ(中)、疲労(極大)、魔力消耗(超特大)、右肩と腹部に刀傷(処置済み)、悲しみと無力感、なのはの身体でいる事への恐怖(ある程度克服)
[装備]:レイジングハート@魔法少女リリカルなのは
[道具]:基本支給品(リトの分)、仮面ライダークロニクルガシャット@仮面ライダーエグゼイド、エッチな下着@ドラゴンクエストシリーズ、ニューナンブM60(5/5)@現実、鎖鎌@こちら葛飾区亀有公園前派出所
[思考・状況]基本方針:元の体に戻る。殺し合いには乗らない。
1:私…また助けられなかったの…?
2:ジューダスさんの言う方法なら、結城さんが助かるかもしれない。
3:もしも私の記憶が私のものじゃなくなっても、皆の事は絶対に忘れない。
[備考]
※参戦時期は、さながみかづき荘の住人になったあたり。
※自分のデイパックを失いました。

【檀黎斗@仮面ライダーエグゼイド】
[身体]:天津垓@仮面ライダーゼロワン
[状態]:ダメージ(大)、胴体に打撲、疲労(極大)
[装備]:ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、バットショット@仮面ライダーW、着火剛焦@戦国BASARA4
[道具]:基本支給品、アナザーディケイドウォッチ@仮面ライダージオウ、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:優勝し、「真の」仮面ライダークロニクルを開発する。
1:人数が減るまで待つ。それまでは善良な人間を演じておく。
2:ジューダスに苛立ち。機を見てどうにかしたい。
3:痣の少年(ギニュー)に怒り。
4:余裕があれば聖都大学附属病院も調べたい。
5:優勝したらボンドルド達に制裁を下す。
[備考]
※参戦時期は、パラドに殺された後
※バットショットには「リオンの死体、対峙するJUDOと宿儺」の画像が保存されています。


586 : そしてSは目覚める/僕の修羅が騒ぐ ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 22:24:01 LmAHtPLA0
【ジューダス@テイルズオブデスティニー2】
[身体]:神崎蘭子@アイドルマスター シンデレラガールズ
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大)、右肩に刺し傷(処置済み)、脇腹に裂傷(処置済み)、上半身に細かい切り傷(戦闘に支障なし)、天使化
[装備]:シャルティエ@テイルズオブデスティニー、パラゾニウム@グランブルーファンタジー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1、ジューダスのメモ
[思考・状況]
基本方針:主催陣営から時渡りの手段を奪い、殺し合い開催前の時間にて首謀者を倒す。
1:どうするか…。
2:黎斗を警戒。何を考えている?
3:この女(エボルト)も悪の魂の持ち主のようだが…。
4:痣の少年(ギニュー)は次に会えば斬る。
[備考]
※参戦時期は旅を終えて消えた後。
※天使の翼の高度は地面から約2メートルです。
※天使化により、意識を集中させることで現在地と周囲八方向くらいまでの範囲にいる悪しき力や魂を感知できるようになりました。
※蘭子の肉体はグランブルーファンタジーとのコラボイベントを経験済みのようです。

※新八の死体の傍にT2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、デイパック(基本支給品、新八のメガネ@銀魂、両津勘吉の肉体)が落ちています。
※展望室内にエターナルソード@テイルズオブファンタジアが落ちています。
※フーの薄刃刀@鋼の錬金術師、無限刃@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-は破壊されました。


【D-4 街/昼】

【ホイミン@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
[身体]:ソリュシャン・イプシロン@オーバーロード
[状態]:ダメージ(中)、魔力消費(大)、精神的動揺(大)、半ば錯乱状態、
[装備]:アンチバリア発生装置@ケロロ軍曹
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:人間にはなりたいが、そのために誰かを襲うつもりはない。
1:今はとにかく皆の元から離れたい。
[備考]
※参戦時期はライアンの旅に同行した後?人間に生まれ変わる前。
※制限により、『ホイミ』などの回復魔法の効果が下がっています。
※プロフィールから、『ソリュシャン・イプシロン』と彼女の持つ能力、異世界の魔法に関する知識を得ました。
※精神にソリュシャンの影響を受けました。今後更に悪化するかもしれません。


【E-4 街/昼】

【大首領JUDO@仮面ライダーSPIRITS】
[身体]:門矢士@仮面ライダーディケイド
[状態]:負傷(極大)、疲労(極大)
[装備]:ディケイドライバー+ライドブッカ―+アタックライド@仮面ライダーディケイド
[道具]:基本支給品×2(リオン)、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル
[思考・状況]基本方針:優勝を目指す。
1:闘争を楽しむ。その為に今は休む。
2:人間どもは『敵』として殺す。
3:宿儺と次出会ったら、力が戻った・戻ってないどちらせよ殺し合う。
4:優勝後は我もこの催しを開いてみるか。
[備考]
※参戦時期は、第1部終了時点。
※現在クウガ〜ブレイドのカードが使用可能です。


587 : ◆ytUSxp038U :2022/03/04(金) 22:25:24 LmAHtPLA0
投下終了です。
またYouTubeで仮面ライダーWの公式配信が始まってますので、是非どうぞ。


588 : ◆vV5.jnbCYw :2022/03/04(金) 23:33:33 9mhGcnWo0
投下お疲れ様です。
まさか半年もしない内にLife will change 以上に凄まじい話を読ませていただけるとは思いませんでした。
書き手さんの熱いバトル描写、書き手さんのライダー愛と造詣の深さ、
そしてこれまでの集大成と言われるラストのホイミンの豹変、どれも目を惹かれる内容ばかりでした。

私もYoutubeでW2話見ましたよ。このssを読む前に「お前の罪を数えろ」などのWネタが分かってよかったです。


589 : ◆NIKUcB1AGw :2022/03/07(月) 22:21:39 DsIJsvzw0
志々雄予約します


590 : ◆NIKUcB1AGw :2022/03/08(火) 21:07:39 5eLqcMKs0
投下します


591 : ◆NIKUcB1AGw :2022/03/08(火) 21:08:53 5eLqcMKs0
「誰もいねえ……」

市街地を歩く志々雄の口から、ふいにそんな言葉が漏れる。
歩き続けて、すでに2時間以上。
しかし、未だに他の参加者との遭遇はない。
それもそのはず。放送時点でこの市街地にいた承太郎組と魔王は、両方ともすでに別のエリアへと移動してしまっている。
そして、外部からこの市街地に向かっている参加者もいない。
すなわちこの地で参加者を探す志々雄の行動は、完全な徒労。骨折り損のくたびれもうけである。
しかし本人に、それを知る手段はない。
そして彼には、もう一つストレスを感じさせる問題があった。

「熱が籠もるな、この鎧……」

現在、志々雄は全身を鎧で覆っている。
この鎧が日光を遮ってくれるおかげで柱の男の肉体でも日中に行動できているわけだが、鎧は同時に空気の流れも遮っていた。
2時間も歩けば、肉体はそうとうな熱を発する。
それが鎧の中に溜まってしまっているのである。

(以前思いつきで、戦国武将みてえな甲冑作ってみようとしたことがあったが……。
 やらなくて正解だったな……。
 まあ体温調節機能が死んでる俺本来の体でどうなるかは、よくわからねえが……)

さすがの志々雄もストレスで頭の回転が鈍ってきたのか、どうでもいいことを考え始める。

(とりあえずいったん脱ぎてえな、これ……。
 とはいえ、外で脱いだら自殺するようなもんだからなあ。
 適当な建物に入るか)

周囲を見渡す志々雄。
その時、彼の視界に気になるものが入ってきた。
建物自体は、妙に小さい以外はごく普通のものだ。
だがその前に設置された看板が、志々雄の目を引いた。
「地下通路」。そこには、そう書かれていた。

「ほう」

短く呟くと、志々雄はその建物に近づいていく。
そして、迷うことなく扉を開けた。
そこにあったのは、地面の下へと続く下り階段。
それ以外には何もない。

「地下なら今の俺にはちょうどいいな」

兜を外して脇に抱えつつ、志々雄は階段を降りていく。
その先には、薄暗く殺風景な通路が続いていた。

「どこまで続いてるかわからねえが……。
 どうせ出会いがなさ過ぎて、辟易してたところだ。
 行ってみるか」

薄笑いを浮かべながら、志々雄は通路を歩き始めた。


【F-7 地下通路/午前】

【志々雄真実@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-】
[身体]:エシディシ@ジョジョの奇妙な冒険
[状態]:疲労(小)、諸々のストレス
[装備]:エンジンブレード+ヒートメモリ@仮面ライダーW、アルフォンスの鎧@鋼の錬金術師
[道具]:基本支給品、炎刀「銃」@刀語
[思考・状況]基本方針:弱肉強食の摂理に従い、参加者も主催者も皆殺し
1:参加者を探して殺す
2:首輪を外せそうな奴は生かしておく
3:戦った連中(承太郎、魔王)を積極的に探す気は無い。生きてりゃその内会えんだろ
4:とりあえず地下通路を進んでみる
5:未知の技術や異能に強い興味
6:日中の移動には鎧を着る。窮屈だがな
[備考]
※参戦時期は地獄で方治と再会した後。


【施設紹介】
【地下通路@ポケットモンスター】
原作ではヤマブキシティの地下を通り、7番道路と8番道路をつないでいる地下道。
このロワでは片方の入り口が、F-7に存在している。
もう片方の入り口がどこにあるかは、現状不明。


592 : ◆NIKUcB1AGw :2022/03/08(火) 21:10:29 5eLqcMKs0
投下終了です
タイトルは「志々雄しかいない街」です

変則的な施設を登場させていますので、問題があるようでしたら破棄します


593 : 名無しさん :2022/03/08(火) 22:19:15 JWvPvTqQ0
投下乙です
位置的に志々雄はぼっちになりそうと思ったけど、これなら他参加者との接触も叶いそう
タイトルが直球で草


594 : ◆5IjCIYVjCc :2022/03/10(木) 23:05:25 CSVG98LE0
予約延長します。


595 : ◆5IjCIYVjCc :2022/03/13(日) 16:41:46 mDBqeD.c0
投下します。


596 : 人の過ちにはいつまでもとやかく言うもんじゃない ◆5IjCIYVjCc :2022/03/13(日) 16:42:30 mDBqeD.c0
(まずいな…どうも警戒されているようだ。俺の正体に感付いているのか?呪術師だとすれば、やはり分かるものなのか?)


山の中にある一戸建ての民家、竈門家の前で相対している2人の男女(実際にはどちらも中身は男)、
悲鳴嶼行冥と脹相は互いに無言のまま睨み合った状態になっている。

相手が呪術師である可能性は、ここが殺し合いの舞台であるという観点に対しては別に大きな問題ではない。
人に害を及ぼす呪霊や呪詛師(主催陣営にいる可能性高し)と敵対する立場の者なら、殺し合いに乗らないという点に対して信用は高い。
もっとも、前に出会った禪院家の金髪の男(禪院直哉)のような性格に難のありそうな人物だったら、状況に乗じてろくでもないことを考えてそうであるが。

だがこの場合で特に問題となってしまうのは、自分が渋谷事変まで呪霊達と手を組んでいたこと、
そして自分の大事な弟であり、ここに来る前まで共に行動していた虎杖悠仁が呪術界において死刑が宣告されたらしいことである。
理由は、渋谷事変において悠仁の後ろ盾となっていた五条悟が封印されたことに起因されているらしい。
相手が普遍的な呪術師でも、このことが伝わっている可能性はある。
そのため、自分やその兄弟に対する詳細が知られてしまえば敵対される可能性は高い。
それこそ脹相や虎杖悠仁が前に戦った、禪院直哉や乙骨憂太のように。



なお、今更ながらなことだが、脹相がこの場に連れてこられたのは禪院直哉を倒した後、乙骨憂太に殴られて気絶させられたタイミングの時である。
それにより、乙骨憂太があの場に来た本当の目的(虎杖悠仁を助けに来た)を脹相は知らずにいる。
このため、目の前の呪術師(仮)についても自分の立場を理由に中々協力を申し出ることがやりづらくなっていた。



(話さなくなってから間が空いたな…やはり何かやましいことがあるのか?)

そんな脹相の様子を見て、悲鳴嶼の方も疑念が先ほどより大きくなってきた。
別に決めつけるつもりは無いが、黙っている時間が長くなると、少しずつでも不信感は膨らんでいく。
もし、目の前の相手が急に豹変して襲いかかってくる可能性も頭に思い浮かび、手に持つ肉切り包丁を握る手の力も強まる。



脹相と悲鳴嶼が共に不安や不信感を抱き始めてから、互いに黙りこくったまま時間が過ぎる。
2人の間の空気も、張り詰めたものとなっていく。
この静かな緊張感の中、話を切り出すタイミングもつかめないでいた。
だからと言って、このまま話を進めないままでいるわけにはいかないのも確かなことであった。



「………とりあえず、まずはこの家の中に入らないか。このままここで立ち話というのも何だ、落ち着いて話ができるようするべきだろう」


静寂の中、最初に言葉を発したのは脹相であった。
いい加減、話を進めて行動しやすいようにしたいというのはお互いが思っていることだろう。
多少強引でも次の段階に移行したいため、このような発言をした。
警戒されていることに心当たり(元呪霊側、現虎杖悠仁側)はあるが、そのことについてはシラを切った。
脹相は竈門家の入口の引手に手をかけ、中に入ろうとする。
悲鳴嶼に対しても屋内に入るよう促す。



「いや、その前に貴女に聞きたいことがある」

その言葉を聞いて、脹相は体の動きを止める。

(くっ…やはり、バレているのか?)

自分の正体を感付かれたのかと思い、冷や汗が体から出てくる。
背中を見せている現状では、下手な回答をすれば先手を取られて攻撃されるかもしれない。
ほんの短い時間だったが、次の言葉を待っている間は動揺心があった。


そして悲鳴嶼は、自分が抱く疑念について、直球に質問した。

「貴女の衣服や体には何故血が付着している?見た所怪我はないようだが…誰かに襲われ、返り討ちにしたのか?」

「………何だ、そんなことだったか」

その言葉を聞いて、脹相が感じたものは、安堵感であった。
同時に、抱いていた心配事はほとんどが杞憂であったことを察した。


◆◇


597 : 人の過ちにはいつまでもとやかく言うもんじゃない ◆5IjCIYVjCc :2022/03/13(日) 16:43:41 mDBqeD.c0



「…とまあ、これが俺が今まで見て来たものだ」

脹相はようやく、悲鳴嶼を竈門家の中に招き入れ、自分のこれまでの動向について話すことができた。


聞かれた血については最初に『そんなこと』と言ってしまったため、その時は余計に怪しまれる感じになってしまった。
だから先に首輪をデイパック取り出して見せ、これは死体から外したことを伝え、より詳細な話をすると言ってようやく中に入ってもらった。

ここで脹相が話したことは、まず自分がそもそも殺し合いが始まってから今まで生きた参加者には出会わなかったこと、
謎の光を目撃し、その先に行ったら死体を見つけたこと、
そこでは戦闘が行われたらしく、死体を作った者は強い力を持っている可能性が高いこと、
情けない話だが現状ではその人物に勝てる可能性は低いと考え、協力者探しを優先しようと考えたこと、
念のため首輪も回収しておこうと思い、斧を使って死体の首を切断したこと、血はその時に付いたことを伝えられた。


だが、悲鳴嶼が脹相に対して警戒を解く様子はまだ見られなかった。
それは、仕方のないことだろう。
首輪の存在から、死体からこれを外したために血が付いてしまったという説明はできるが、その死体を生み出したのが自分ではないという証明はできていないからだ。
もっとも、これについては逆に脹相が殺したという証明も出来ないため、水掛け論になってしまうだろうが。
ただ、まだ警戒している理由は他にもあるが、これについては後述する。
悲鳴嶼は先に、脹相の話から気になった点について質問した。

「少し、聞いてもいいだろうか」
「どうした?」
「貴女が見つけたというその遺体…特徴から察するに遠坂凛という少女の身体のもので間違いないな?」
「ああ、放送で見せられた写真と同じ顔と服をしていた」

「私が思うのは、その遠坂凛の中にいた…放送で零余子と呼ばれた鬼の……鬼については後で話そう。とにかく、殺された側が先に仕掛けたのではないかということだ」
「………なるほど、その可能性もあったか」
「とは言え、殺した側がこの殺し合いに乗っていないとまでは私も言うつもりはない。警戒するに越したことはないだろう」

脹相は少し失念していたが、それは十分に考えられる事柄であった。
先に攻撃を仕掛けたのは殺された女の方であり、返り討ちにあったため死んだということだ。
つまり、殺害した張本人はあくまで止むを得ず殺しただけで、積極的に殺し合いに乗っているためにそうしたと断言はできないかもしれないのだ。
脹相自身も殺し合いには乗っていないが、本当にもしもの時は殺しも選択肢に入れている。
絶対にそうだという訳ではないが、女の殺害者はこの"もしも"があっただけである可能性も多少なりとも念頭に置けるかもしれない。


「如何にせよ、出会ったわけでもない者に対して何かを決めつけることはできない。貴女の言うその少女を殺した者は、きっと誤った選択をした、止めるべき対象だ」

悲鳴嶼の今の心境は、どちらかと言えば複雑なものだ。
放送で顔写真を見た時、銀時や煉獄、童磨などに特に注目していたため零余子についてはこの時はそこまで重要視していなかった。
零余子が鬼であることは、目に刻まれた十二鬼月の下弦の鬼であることを示す文字から判別できた。
だがここで改めて考えてみると、この零余子と、その死によって巻き込まれた遠坂凛という少女についても悲しみが出てくる。

遠坂凛の名は参加者としても名簿に記載されている。
放送で見た顔写真から、この少女はおそらく人間だと思われる。
その名は精神側の死亡者としては放送で発表されなかった。
自分の身体が死亡者として発表された時の少女の気持ちを考えると、悔やむ気持ちは現れる。

悲鳴嶼がここで零余子の方から襲いかかった可能性を指摘したのは、別に殺害者を庇う気持ちがあるからではない。
もし零余子が襲いかかったのが自分だった場合、絶対に殺さずに拘束したりすることができるとは断言できないが、別にそういったことに関係があるわけではない。
ただ少し、零余子という鬼を許せないという気持ちがある。
零余子が下弦の鬼ということは、決して少なくない数の人間を殺して喰ってきたということだ。
そんな鬼が、人間の身体になったからといってそう簡単に殺しを止めようとするとは、悲鳴嶼には考えにくいことだった。
どちらが先に襲い掛かったかはともかく、零余子はこの殺し合いの場において、乗っている立場であることは間違いないだろうと思った。
だからこそ、遠坂凛少女の肉体が、先ほど聞いた話の通り胴体泣き別れの状態にされたのは、その鬼の行動方針のせいだろう。
つまり、殺害者が鬼でないとしても、遠坂凛は鬼の被害者だと言えなくないかもしれないのだ。


598 : 人の過ちにはいつまでもとやかく言うもんじゃない ◆5IjCIYVjCc :2022/03/13(日) 16:44:33 mDBqeD.c0

無論、そんな形になったのは、零余子という鬼に人間の少女の身体を与えた張本人(達)であると考えられる主催陣営がこんな殺し合いを開いたからであることが前提だ。
それに、例え鬼でも既に死んでしまった者に対してこれ以上責めるような気持ちになっても仕方ない。
だが自分は、この家にも住んでいただろう竈門炭治郎ほど鬼に慈(やさ)しくはなれない。
それでも、鬼殺隊の者として鬼の行動を止められず、犠牲者を出してしまったことには悔やむ気持ちがある。
遠坂凛については実際に会ったわけではないため全く知らず、案外鬼のように人格に問題のある人物である可能性もあるが、そんなことまで想像する必要は無い。
ここにおいてはただせめて、彼女を含めてこれ以上鬼のせいで被害にあう者が現れないことを祈るまでである。



「それでは、次は私の話をさせてもらおうか」

零余子についてはとりあえず置いておき、悲鳴嶼は先に自分もこれまでの動向について話し始める。

最初の場所は山の麓にある病院だったこと、
そこで鬼殺隊の仲間の1人、胡蝶しのぶと合流できたこと、
しばらくしてデビハムと名乗る者に出会い、彼に襲い掛かったらしい者達の話を聞いたこと、
そして自分達が出会ったばかりの時にも話したように、仲間がここを目指すかと思いしのぶやデビハムとは二手に別れて行動したことを話した。

またついでに、自分が知る鬼についてもここで話した。
鬼とは、この殺し合いの参加者にもいる鬼舞辻無惨の血を与えられた人間が変貌する存在であり、人の血肉を食うことを説明した。
もっとも、鬼舞辻無惨も今は別の身体であるため人を鬼にすることはできなくなっていると思われるが。
そんな鬼はこれまで3体、脹相が見つけた死体に宿っていた者も含めて、精神側の死者として放送で発表されたことを伝えた。
自分はその鬼を狩るために結成された鬼殺隊の一員であり、この殺し合いには他にも仲間が巻き込まれており、一人は残念ながら放送で死者として発表されたことも教えた。



「すまん、俺の方からも質問がある」

鬼についての説明の途中、脹相が手を挙げて聞いてきた。

「その鬼とやらはこの無惨という者が生み出すやつだけを指すのか?」
「ああ、その通りだ。それがどうかしたか?」

「………なるほどな(全ての呪霊を鬼と呼ぶわけではないようだな)。」

脹相は鬼殺隊について一定の理解を示す…が、鬼殺隊=呪術師の集まりであるという誤解はまだそのままだった。
鬼舞辻無惨については、力の強い特級呪霊か何かであると考えていた。
血を媒介して人間を呪霊やそれに付随する存在と化させる術式(系統としては真人のものに近いもの?)を持っているのかなんてことを考えていた。
これは、あくまで脹相自身の知識・記憶に基づいて考察していたためにこのような解釈となっていた。


「他に危険な奴はいるのか?」
「デビハムに聞いた話が確かなら、桐生戦兎と大崎甜花という者が殺し合いに乗っているらしい。だが、私としては半信半疑だ。実際に会ってみないことにはまだ不明だ」
「………そうか(宿儺については話さないのか?……元から知らない、ということで大丈夫か?)」
「?…どうかしたのか?」
「いや、何でもない」

次の質問の回答は、脹相にとって意外であった。
これまでは悲鳴嶼が宿儺を知っていると思って会話していたため、その名が相手の口から出なかったことを少し妙に思う。
自分の正体に気づいており失言を引き出すためわざと出さなかったのかという考えも浮かんだが、そんな様子も見られない。

「なら、俺からもう少し話しておきたいことがある。お前の言う鬼というものと、同類の奴を俺は知っている」
「何?」

そうであるならば、話は大きく変わる。
相手が宿儺を知らないのなら、その情報共有は殺し合いを止めるために必要となる。

ただし、話すことが全て真実なわけではない。




599 : 人の過ちにはいつまでもとやかく言うもんじゃない ◆5IjCIYVjCc :2022/03/13(日) 16:45:42 mDBqeD.c0

脹相は宿儺について説明を始める。
そいつは、1000年も前から存在する怪物であり、強力な力を持っていること、その全容は自分もまだ知らないことを話した。

「そんな無惨のような者が、他にも…?」
「本当に知らなかったのか」
「ああ、初めて聞いた」

悲鳴嶼の反応から、相手が宿儺を知らないのは確かなことだと判断し脹相は話を続ける。
その話はやがて、自分の弟であり宿儺をその身に宿していた虎杖悠仁の話題に移る。
そうなってしまったのは宿儺の指を喰ってしまったからであること、
宿儺が参加者にいるため、その意識を取り出すために主催陣営が弟を殺した可能性が高いこと、
そんな奴らを自分は絶対に許さず、確実に倒したいことを強調して話す。

いくら元は知らなかったとしても、この説明により呪術師としては強大な力を持った宿儺を確実に祓うためには悠仁を殺すのが最速手段であることに思い至るだろう。
そうなれば、自分がその兄であったことを話してしまったため、弟を守りたい兄として余計な衝突を招く危険性がある。
だから本当ならば自分でも信じたくない、虎杖悠仁が既に殺されているという可能性をここで話す。
あくまで自分は、弟の仇をとることが第一目標であることを主張する。

ついでに、加茂憲倫についてもここで話す。
こいつはかなり昔から他人の身体を乗っ取りながら生きながらえている存在であり、そのことからこの殺し合いの主催にいる可能性は高いと考えていることを説明する。

加茂憲倫は自分にとって親の1人であることは、ここでは話さない。
これを言ってしまうことは、自分は呪霊との混血であることに触れてしまう。
自分との関係は、敵対であることだけを説明する。
加茂憲倫は虎杖悠仁の親であるかもしれないことも話さないでおく。
奴は悠仁が宿儺の器となったことに関係するかもしれなく、宿儺がこの場で参加者になっていることの目的の考察に繋がるかもしれないが、
自分が兄弟の上に立つ者であることを話しているため結局自分の正体について触れてしまう。
ここで話すのは、あくまで自分や悠仁が奴の被害者であることだけを話す。
我ながら強引な気もするが、こうでもして誤魔化しを入れなければ説得は難しいと判断していた。





そんな脹相の話を聞きながら、悲鳴嶼は違和感を感じていた。
鬼を体内に取り入れるという話は、自分も例を知らぬわけではない。
かつて自分の下に置いていた不死川玄弥は鬼の肉を喰らうことで鬼の力を一時的に使うことが出来たため、それのようなものかとも思った。
だが、その結果としてその宿儺という鬼の意識が体に宿るというのは流石に信じがたい。
ただもしかしたら自分が知らないだけで、そういうたぐいの血鬼術が存在していたのかもしれない。
加茂憲倫についても、脳を入れ替えるのは血鬼術の類なのかもしれない。

だがそういった考えを差し引いても、不自然だと感じる部分はあった。
ところどころ説明に抜けがあるような感じもある。
それ以前の問題として、どこか大きな認識の違いがあるような気もする。


(この女性、やはり信用はできないか…?)

目の前の女性に対して気になること自体はまだ他にもある。
例えば、死体から首輪を切断して取り外したことを、何てことないもののように話していた。
まるで、人の身体を傷つけることなぞ慣れているかのように。
一般人が何の抵抗も無くそんなことができるとは考えにくい。
鬼の首を斬り慣れている鬼殺隊の隊士たちでも、ただの人間の首をそう簡単に斬ろうとは思わないだろう。

(いや、まさか…)

彼女は実質、鬼に関わっていると告白していることになる。
弟が鬼に身体を乗っ取られる体質になり、これまでその弟を守るために生きていたととれる説明をされている。
そんな発言をまとめて思い至るのは、彼女の立場はこの家の住民でもあった竈門炭治郎に近いものなのでは?ということだ。
そして、炭治郎との違いは、鬼殺隊やそれに近しい者達と出会わなかったことなのではということが思い浮かんだ。

「貴女はもしや、その弟を守るために人を傷つけたことがあるのか?それこそ、命に関わるような…」

この言葉を聞いた相手は、図星のようにピクッと体を震わせる。
それを見た悲鳴嶼の表情も険しくなる。


600 : 人の過ちにはいつまでもとやかく言うもんじゃない ◆5IjCIYVjCc :2022/03/13(日) 16:46:41 mDBqeD.c0

これまで話していく中で、相手は兄弟というものにかなり強い執着を抱いていることを悲鳴嶼は感じ取っている。
彼女にとって、下の兄弟たちを守るのは竈門炭治郎と同じくらい当然のものだと感じられる。

かつての炭治郎は、柱合会議で風柱・不死川実弥に妹を刺されたことで実弥に頭突きを喰らわせた。
しかしだからと言って、相手の命を奪おうとまでは思っていなかったはずだ。
彼と目の前の人物の違うところは、守りたい者のためなら誰かを殺してもいいと判断できる苛烈さを備えているのではないのかということだ。

悲鳴嶼の想像の中では、脹相と弟の悠仁の人生は、言わば竈門兄妹の歩みをより過酷にしたものになっている。
頼れる相手もいなく、弟はいつ怪物になるのかも分からない、
その生活の中では、人に迫害されることもあったかもしれない、鬼殺隊の者に攻撃されることもあっただろうと推定する。
普通の人間は信用できず、自分たちだけの力で生きなければならない、
そんな生き方をしてきたために真っ当な感性とはずれた状態になっているのかもしれない。
悲鳴嶼は、この想像で相手に対して憐れみも浮かんできていた。


「いや、そのために殺しはしてないはずだ。あいつも、まだ生きているはずだ」

脹相は先ほどの図星の反応を見せた悲鳴嶼の問いに対して、少し間を置いて考えた後否定を答えを返す。

「……何にせよ、人を傷つけたことは認めるのだな」
「必要だからそうしただけだ。それに、悠仁も守るためとはいえ俺が人を殺すことは望まないだろう」

悲鳴嶼の責めるような言葉に対し、脹相はあくまで主張は曲げずに応じる。


(………殺し合いには反対の立場である、どうやらこれは確かに間違いはなさそうだ。だが、全てを信用することは…難しいだろうか)

悲鳴嶼は考える。
これまでの熱い主張から、相手が殺し合いを確実に潰したいという気持ちは伝わってきた。
だが、そのためにどこか焦っているような印象を見受けられる。
下手をすれば、目的のために手段を選ばず暴走してしまうような危険性を孕んでいるようにも感じられる。

「…俺のことは、まだ信用できないか?」

悲鳴嶼の表情を見て、気持ちを察したのか脹相はそう呟いた。

「貴女が殺し合いを開いた者達を倒したい気持ちはよく分かった。だが、貴女にはまだ危ういところがあると感じられる」

悲鳴嶼は脹相に対し、何が心配なのかを説明する。
こういったことは、はっきりと言ってしまった方が相手にも伝わりやすい。

「……なるほど、今の俺はそう見えるのか」

悲鳴嶼からの自分の印象を脹相は飲み込む。
顎に手を当て、考え込む。

「ならば、俺は宣言しておこう」

脹相は一呼吸間を置いた後、再び話始めた。



「俺は、兄弟の一番上に立つ兄として、何度間違えたとしても弟たちの手本にならなければならない」
「だから、俺が間違っていると思えば遠慮なく言え。その分直してやる」
「たとえ弟たちが皆もう既にいなくなっていたとしても、俺はあいつらの前を歩いていける兄でありたい」
「それはたとえ、この狂っている環境の中でもだ」
「だから、たとえ俺の全てを信用できなかったとしても、せめてこの殺し合いを終わらせるために協力関係を築かせてくれ」




601 : 人の過ちにはいつまでもとやかく言うもんじゃない ◆5IjCIYVjCc :2022/03/13(日) 16:48:03 mDBqeD.c0

そう言って脹相は頭を下げ、悲鳴嶼に対して懇願する。



「貴女…いや、貴方は男だったのか」

そして真っ先に気になったのは、相手が兄…つまり男性であるという点だった。
これまでは分かってなかったが、今の発言の中にあった兄という言葉でようやく気付いた。
男口調なことへの違和感はあったが、それよりも気になるところが多くてそこまで考えを及ぼす暇が無かった。
変なタイミングで気づいてしまったせいで、場の空気が少し変な感じになる。




「とにかく、ここで俺と共に行動できるのかどうか、今はその返答だけ聞かせてくれ」

脹相は頭を上げ、相手の方に向き直り答えを待つ。

「………ああ、分かった。味方が欲しいのは私も同じ気持ちだ。共にこの非道な催しを止めよう」

悲鳴嶼はそう答え、手を開いて脹相の方に差し出す。

「だが、まずい行動をするようであれば、私の方から止めさせてもらう」
「……ああ、分かった。それで構わない」


そして悲鳴嶼は一言脹相に対して釘を刺す。
脹相もそれに了承し、手をとって握手を交わす。

衣服等に付いた血やそうなった理由のこともあり、相手が自分の全てを信用できないことは理解した。
首輪を手に入れるにはああする他にはなかったため、死体の首を斬ったことは全てが間違いではないと思う。
ただ、話し方にミスがあり相手の信頼度を下げる結果となってしまった。
これに関しては既にやってしまったことであるためやり直しはきかない。
失った分の信頼はこれから取り返していけばいい。


「そういえば、俺の名を伝えていなかったな。俺は脹相だ。これからよろしく頼むぞ、悲鳴嶼」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」


こうして二人はようやく互いに、正式に協力関係を結ぶことができた。
脱線、価値観の違い、意見の食い違い、等々があり停滞しそうだった話もようやく進めた。
そもそもまだお互いに相手のことについて勘違いしているままの部分もまだあるが、それを正そうとすれば余計に話はややこしく長引く。
悲鳴嶼の方はそれについてなんとなく察しているが、具体的にどの部分までかは判別つかない。
後で病院で別れた胡蝶しのぶに合流してから、彼女の意見も取り入れて改めて正そうという考えも浮かんでいた。


そして二人は、ようやく情報交換に基づく今後の行動方針についての話し合いを始めた。

◆◇


結論から言えば、2人はこれから山を下りて病院に向かい、悲鳴嶼が別れた仲間との合流を目指すことにした。


脹相の話した東の方にいるらしき零余子を殺したと思われる人物を追う選択肢はあった。
だが結局のところ、その人物の正確な位置は分かっていない。
戦力も、光を出すものや周囲に火をつけるもの、人体を切断する術を持っていること以外は分からない。
そもそも、零余子の方から先に仕掛けた可能性がある以上、殺し合いに対するスタンスもどの程度まで乗っているのかも正確なところは結局不明だ。
まあ、胴体切断という残酷な方法で殺しているため、思いっきり乗っている可能性の方が高そうだが。
遺体を回収しに行くにしても、あの場所は火事の状態のため回収は困難、場合によってはその遺体に燃え移っている可能性もある。
そのため一旦仲間と合流し、情報交換を行い、そこから改めて二手に別れて東側の探索を行おうという話になった。



「そういえば、先の話でもう一つ気になった点がある」
「何だ?」
「お前が危険人物だと聞いた大崎甜花とやらについてだが、そういえばこんなものがあったことを思い出した」

そう言って脹相が取り出したのは、紫色をしたゆるいキャラクターのデビ太郎をかたどったぬいぐるみクッションであった。

「これは俺への支給品の一つで、どうやらこれはその大崎甜花の私物らしいのだが…お前はこれをどう見る?」
「……どう、と言われてもな…。私には、それの正しい使い方は思い浮かばない」
「それは俺も同じだ。何かに使えるとしても、大崎甜花にこれを見せて反応を伺うくらいだろう」

明らかに殺し合いに直接役立つとは思えない物品の存在に戸惑ってしまう。
脹相が言うように、持ち主が分かっていることから、本人でないと詳しい価値は分からないものだろう。
活用方法も、とりあえず脹相の案くらいしか今は無い。
デビハムの話によれば大崎甜花は危険人物らしいが、このぬいぐるみの存在でそれが嘘だいうことにはならない。
危険人物だろうと別にこれを所有してはならないということはないだろう。
とにかく、ぬいぐるみについてこれ以上話せることはない。



脹相は次に、今所持しているものではなく、手元にはないが欲しいと思っているものについての話を始める。


602 : 人の過ちにはいつまでもとやかく言うもんじゃない ◆5IjCIYVjCc :2022/03/13(日) 16:49:14 mDBqeD.c0

「支給品については他にも話したいことがある。この今の俺の身体についてだが、ユニットというものがあれば空を飛ぶといったことでより戦えるようになるらしい」
「本当にそんなことができるのか?にわかには信じがたいが…」
「だが、俺の荷物にそのユニットは無かった。悲鳴嶼、お前はそれらしきものについて何か知らないか?足に付けるものらしいのだが…」

ユニットについては前から求めていたが、これまでは影も形もなかった。
わざわざ身体のプロフィールに有用な道具だと記載しておきながら支給しなかった不親切な主催には呆れ返る。


「残念だが…私もそんなものは所持してなく、見かけた覚えもない」
「その鎖と包丁以外には他に何かないのか?俺のところはさっきの妙なぬいぐるみの他に、これら銃火器が二つあったのだが」

この殺し合いにおいて全員に共通しない、ランダムな支給品は最大3つ支給される。
脹相が言うのは、悲鳴嶼が持つ海楼石の鎖と肉包丁以外にもう一つ何かないのかということだ。


「いや、私に残された最後の支給品は残りはこれだけだ」

悲鳴嶼が取り出したものは、鍋であった。
その鍋の中には、何らかの肉が入っていた。

「何だそれは?」
「どうもこれはラッコという動物の肉を入れた鍋らしい。北海道で獲れたものだそうだ」

それは、北海道のアイヌ民族では男女同数で部屋の中で煮て食べるべしと言い伝えられる、ラッコの肉を入れた鍋だった。


「何故男女二人で食べなければならないのかは分からないが…せっかくだ、朝飯を兼ねてここで食べてみるか?」

これまで二人はここにおいて食事を摂っていない。
現在時刻は午前の8〜9時頃、朝食としては少し遅いくらいの時間だ。
今後も活動することを考えると何か食べておいた方がいいだろう。

そして今、この場には肉体だけなら男と女が2人きりでいる。
説明書にはなぜそんな言い伝えがあるのかの理由の記載は無いが、それを実践する条件は一応揃っていると言える。

時間についての心配も少しあるが、しのぶ達の方も探索には時間がかかっている可能性はある。
別に言い訳にするつもりはなく、上弦の弐の死のことを考えるとなるべく早めに合流した方がいいという考えも浮かぶ。
ただ、少し待ってみたら本来ここに居ることを期待していたである御館様や我妻善逸が後から来るのではないのかという考えも浮かぶ。


「まあ、ここはかまどもあり、炭も全然あるから火にも困らない。少し食べるくらいなら問題ないだろう」

ラッコ鍋を食べることには脹相も了承した。
わざわざラッコの肉を支給品として配った理由も分からないが、そもそも脹相のデイパックのようにただのぬいぐるみが入っている例もある。
あまり深い意味はないと判断する。

朝っぱらから鍋というのもアレな話ではあるが、2人ともここにおいては好奇心の方が僅かに勝っていた。
時間に余裕があるわけではないが、ここは病院からも近く、またここに後から誰かが来ることも期待できる。


そうして2人は竈門の方に赴き、鍋をかまどの上に置く。
そして炭を用意し、家の中にあった火打石で火をつけて調理を始めた。




「……独特な臭いがするな」
「…………ああ、そうだな」

しばらくして、鍋は煮立ち中のラッコ肉にも火が通ってきた。
2人は鍋から肉を少量取り出し、皿に盛りつける。
あまり時間に余裕があるわけではないこと、後で他の仲間にも分けれるようにと今回食べる量は少なくしておく。
かまどの火も消火しておく。
主目的はあくまで、今後の活動のための腹ごしらえのためだからだ。

2人は皿を持って座敷の方へと移動し、肉を食べ始めた。
かまどのある部屋と繋がっていることから、ラッコ鍋から出る蒸気は2人のいるところにも流れ込んでいた。

そして、異変は既に起こっていた。






603 : 人の過ちにはいつまでもとやかく言うもんじゃない ◆5IjCIYVjCc :2022/03/13(日) 16:50:45 mDBqeD.c0




(何だ…この気持ちは…私は一体どうしたんだ…?)


悲鳴嶼は、肉を食べながら自分の異常を自覚する。

(艶かしくに見える…?)


自分が目の前の女性の姿をした人に対して見る目が変わってきていた。

女性の姿、ゲルトルートとしての顔が美人に分類される顔つきなのは元は盲目だった悲鳴嶼でも分かる。
だがだからといって、これまではこんな風に見ることはなかった。
その顔を見て美しい、もしくは可愛らしいといったことを意識することはなかった。
唇も柔らかそうだとか、目が吸い込まれそうなほど大きくてつぶらだとか、そんな普段の自分なら絶対に考えないようなことが思い浮かんでいた。

(!……私はどこを見ている!?)

気を抜くと、視線が妙な所に移動してしまう。
例えば、その決して小さくはない胸の部分。
元の世界での仲間である甘露寺蜜璃は、その大きな胸の部分を大胆にも開いた隊服を着ていたが、(元は見えないとはいえ)そんな彼女にも向けなかった目でその部分を見てしまった。

それだけでなく、一般的なズボンを履いていない、下着だけ着けているように見える下半身の部分にも視線が勝手に移動する。
大きく露出した白く輝く肌の太ももからふくらはぎにかけてのすらりとした足にも目が奪われる。
この前述の甘露寺のような大胆な服装は、脹相曰く最初からこの状態であったものだと情報交換の際に聞いた。
こんな格好をしているのは何でも、この方が例のユニットとやらを装着するのに都合が良いかららしい。
だからその時は話はそこで終わらせ、他の重要な話を優先させた。
しかしそんな事情を知らされていても、何故だかその部分を見る目が変わってきていた。


(くっ…私は一体どうしたというんだ…!?)

こんな感情を抱くのは悲鳴嶼にとって初めてのことだった。
周りの自分より若い隊士たちならともかく、自分自身が浮ついた話に関わることはなく、そうなるとも考えたことはなかった。
子供たちと暮らしていた寺を鬼に襲撃され、御館様に助けられて鬼殺隊に入ることになった日以来、鬼殺隊として常に鬼と戦い続ける日々を死ぬまで生きていた。
しかし今、何故だか自分は目の前の相手に対して情欲を抱き始めていた。
普段なら絶対自分から興味を抱くことのない肉体の部位に目線が勝手に向くようになってきた。

「南無阿弥陀仏…南無阿弥陀仏…!(しっかりしろ!彼は男だ!)」

そう自分に言い聞かせ、念仏を唱えながら感情を押さえつけようとする。
いくら見た目が女性でも、中身が男であれば相手の方もこんな欲望を向けられるのはたまったもんじゃないだろう。
そもそももし中身が女性であったとしても、今のような感じで見られるのは不快だろう。
悲鳴嶼は何とかして自らの中に湧き上がる情欲を抑えようとする。



(くそっ…俺は一体どうしたんだ…!?)

しかし、異変が起きているのはその脹相も同じであった。
彼もまた、悲鳴嶼に対して見る目が変わってきていた。

今の悲鳴嶼である坂田銀時の身体がしっかりとした肉付きの良い体をしていることは見れば分かる。
だが、今は何故だかそのことが色っぽく見えてきていた。
自分は男であるはずなのに、どういうわけか女のような視点で男の体に見惚れているかのような感覚があった。

息も段々荒くなっていく。
下腹部の辺りにも何か妙な感覚がある。
胸の辺りも苦しくなり、片手で服を掴んで押さえてしまう。

(俺はお兄ちゃんだ!!しっかりしろ!!)

脹相もまた自分の気持ちを抑えようとする。
こんな妙な感情や欲望に振り回されるようでは兄失格だと自分に言い聞かせようとする。



「くそっ…熱い……!」

しかし、それだけで完全に押さえつけるなんてことはできなかった。
2人の興奮状態はまだ続き、体も火照ってくる。
それにより、脹相は思わず胸にあるボタンを1つ2つ開けてしまう。

そして、これを見た悲鳴嶼は羞恥心を感じているように目元を手で隠す反応を見せた。

「あ、悪い…」
「い、いや…私こそ…」


場の空気は余計、気まずくなる。
最初にここで話し始めた時の緊張感とは違うものだが、まともな状態じゃないことは共通していた。
そしてこの空気は、2人の妙な気持ちをより加速させていく。
2人の中では、ただ悶々とした何かが溜まっていく。


604 : 人の過ちにはいつまでもとやかく言うもんじゃない ◆5IjCIYVjCc :2022/03/13(日) 16:51:17 mDBqeD.c0


(さっきから何なんだこの気持ちは…!)
(この感情は一体どうしたらいいんだ…!)

2人の中の情欲は、押さえつけられたままどんどん溜まっていく。
しかしそれを発散する方法も思いつかない。
今にも爆発しそうな感情の昂ぶりが2人を苦しめる。



「ならば…!」

この明らかに異常な状況の中、遂に悲鳴嶼が立ち上がった。
それと同時に、上着を脱ぎ捨て上半身裸となった。


「組手をとろう!発散するにはそれしかない!ついでに互いの力量を測ることもできるだろう!」

それが、悲鳴嶼の出した提案であった。
現在抱える衝動を問題なく発散できる方法として思いつけるのはこれしかなかった。
相手の肉体が女性であるという点から見れば全然問題のある提案だと言えるが、そこまで思考できる状態にはなかった。
興奮してなければ、こんな提案をすることも、声を荒げて発言することもなかっただろう。

「なるほど!!そうか!!」

そして脹相の方もまた興奮状態でまともな思考ができる状態でなかった。
今はとにかく、兄としてとにかくこの情動を消し去ることしか頭になかった。
悲鳴嶼の提案に乗り、自分も上着を脱ぎ捨てた。

2人は、互いに肌面積を増やした状態のまま、ぶつかり合いを始めた。





『取り組み中』




『取り組み中』




『取り組み中』





◆◇◆


しばらくして、悲鳴嶼と脹相の2人は竈門家の外に出て立っていた。
2人は既に、服装も元に戻している。
だが、2人の間に漂う空気は、今まで以上に気まずいものとなっていた。


「…………何というか、すまなかった。どうかしていた」
「…………いや、それはお互い様だ」

2人とも、体の火照りも情動もきれいさっぱり消えている。
ただ、これに至るための過程は、もう思い出したくないものとなっていた。
先ほど起こったことの名残としては、服や髪に乱れている部分があることやよく見ると体に謎の痣がついていること等だろう。

「………」
「………」

今回2人がおかしくなった原因は、ラッコ鍋にある。
ラッコ鍋が男女同数で食べるよう言われている理由、それはラッコの煮える臭いは欲情を刺激し、1人でいては気絶するほどだからだ。
例え二人がこの場で同性同士の身体でここに居ても、ラッコ鍋を煮ればおそらく同じようなことにはなっていた。

ただ、今回のことの原因について互いの考えを確かめようとはしなかった。
2人はもう、これ以上自分たちの先ほどの醜態について考えたくなかった。
原因がラッコ鍋にあるかどうかは確信がないが、気まずさでそれについて話し合う精神的余裕はなかった。
肉はまだ残っているが、これをどうするかについてもあまり思考を割きたくなかった。
結局食べている間に他に誰かがここを訪れるようなことはなかったが、それを気にすることもできなかった。

ラッコ鍋に何か功績があるとすれば、それは2人の互いに対する警戒心を完全に消し去ったことだろう。
肌と肌でぶつかり合ったことで、互いの力量も、内に秘めた想いも、深く把握できただろう。


「……とにかく、そろそろ行こう」
「ああ、そうだな…」

しかしそれでも、2人の距離感は以前とはまた別の方向で変な感じになっていた。
お互い相手に対して妙な感情を抱いたまま、2人は山を下り始めた。


605 : 人の過ちにはいつまでもとやかく言うもんじゃない ◆5IjCIYVjCc :2022/03/13(日) 16:51:50 mDBqeD.c0


【C-3 山・竈門家前/午前】

【脹相@呪術廻戦】
[身体]:ゲルトルート・バルクホルン@ストライクウィッチーズシリーズ
[状態]:疲労(小)、虚無感、気まずさ
[装備]:竈門炭治郎の斧@鬼滅の刃、三十年式歩兵銃(装弾数5発)@ゴールデンカムイ
[道具]:基本支給品、デビ太郎のぬいぐるみクッション@アイドルマスターシャイニーカラーズ、アタッシュショットガン@仮面ライダーゼロワン、零余子の首輪
[思考・状況]基本方針:どけ!!!俺はお兄ちゃんだぞ!!!主催者許さん!!!ぶっつぶす!!!
1:さっきのことは思い出したくない
2:殺し合いには乗らない。
3:「出来る限り」殺しは控える。
4:悲鳴嶼と山を下りて病院を目指す
5:一応悲鳴嶼の言う通り危うい行動はしないよう注意する。
6:ユニットを捜索する。
7:両面宿儺を警戒。今は遭遇したくない
8:もし虎杖の肉体が参加させられているなら、持ち帰りたい
9:お前が関わっているのか?加茂憲倫…!!
[備考]
※原作第142話「お兄ちゃんの背中」終了直後から参戦とします。
※ユニット装着時の飛行は一定時間のみ可能です。
※虎杖悠仁は主催陣営に殺されたと考えています。
※竈門炭治郎の斧に遠坂凛(身体)の血が付着しています。
※服や体にも少量ですが血が飛び散っています。
※悲鳴嶼行冥たち鬼殺隊を呪術師の集まりだと思ったままです。
※鬼舞辻無惨は呪霊の一種だと思っています


【悲鳴嶼行冥@鬼滅の刃】
[身体]:坂田銀時@銀魂
[状態]:疲労(小)、虚無感、気まずさ
[装備]:海楼石の鎖@ONE PIECE、バリーの肉切り包丁@鋼の錬金術師
[道具]:基本支給品、ラッコ鍋(調理済み・少量消費)@ゴールデンカムイ、病院で集めた薬や包帯や消毒液
[思考・状況]
基本方針:主催者の打倒
1:私は何てことを…
2:脹相と山を下りる
3:病院へ戻り、しのぶ達と合流
4:無惨を要警戒。倒したいが、まず誰の体に入っているかを確かめる
5:デビハムの話には半信半疑。桐生戦兎と大崎甜花に会い、真相を確かめたい
6:脹相が危うい行動をしそうだったら止める
7:両面宿儺や加茂憲倫とやらについてはしのぶの意見も聞きたい
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※海楼石の鎖に肉切り包丁を巻き付けています。
※両面宿儺や加茂憲倫は鬼の一種なのか?と考えています。


【ラッコ鍋@ゴールデンカムイ】
北海道で獲れたラッコの肉を入れた鍋。
アイヌの言い伝えではラッコの肉を煮る時は男女同数で部屋にいなければならないとされている。
それはラッコの煮える臭いが欲情を刺激し1人でいては気絶するほどだからだとされている。
たとえ同性同士でも目の前の相手に欲情する効果がある模様。
味の詳細は不明。


606 : ◆5IjCIYVjCc :2022/03/13(日) 16:52:10 mDBqeD.c0
投下終了です。


607 : ◆5IjCIYVjCc :2022/03/13(日) 17:08:38 mDBqeD.c0
先ほど投下した話の状態表に追記したことを報告します。
悲鳴嶼行冥の状態表の[備考]の欄に以下の文を付け加えました。

※脹相の境遇は竈門炭治郎に近いものなのでは?と考えています。


608 : ◆ytUSxp038U :2022/03/21(月) 15:37:32 THqVgF2w0
>>588
感想ありがとうございます。Wに興味を持って頂けて何よりです。

そして皆様投下乙です。
普段からほぼ全裸の柱の男ボディに鎧はやっぱり暑苦しいらしい。
まさかポケモン出典の施設をそう使うとは予想外。

微妙に噛み合ってない情報交換からのラッコ鍋は温度差が酷くて草。
銀さんとお姉ちゃんの身体で組手はシュール過ぎる。

魔王を予約します。


609 : ◆ytUSxp038U :2022/03/24(木) 23:35:34 4JAB65XY0
投下します。


610 : 運に身分は関係ない ◆ytUSxp038U :2022/03/24(木) 23:37:23 4JAB65XY0
ここで戦闘が行われた。
地図で言えばD-8に架けられた橋を渡り切った魔王が、まず思ったのはそれだった。

橋の柵や地面に付けられた傷や、所々の赤黒い染みがその証拠。
血痕の渇き具合からして、数時間前に起きたものだろう。
戦闘に至る経緯は知る由も無いが、死人が出たのはほぼ確実と見る。
どう見てもただでは済まない程の血で草むらの一画が汚され、しかもそこは海に近い。
致命傷を負いそのまま海に落ちた、と言った所か。

それが分かった所で特別興味を抱く事も無い。
既に精神と身体の両方で自分の知る者は参加させられていないと分かっている以上、誰が死のうとどうでも良かった。
殺された何者かへの思考をあっさりと打ち切り、顔を上げる。

魔王がソレを発見したのはその時だ。

「あれは……」

視界の端にチラリと何かが映り、正体を確かめるべく近付く。
場所は島の南東側の端。集落から離れ、海上にプカプカと浮かんでいた。

「船か…?」

4〜5人は乗れそうな大きさのボート。
動かす為のオールなどは見当たらず、代わりに冊子が無造作に置かれている。
手に取ってページを開くと、内容に納得する。
これは内蔵された仕掛けで動くようであり、冊子には操縦方法が詳細に記してあった。
と言っても今の魔王には必要な代物でもない。
陸に上がろうとし、ふと何かがボートに引っ掛かっているのに気付いた。
手に取ってみるとソレは見覚えのある物、参加者に支給されたデイパックである。

近くに参加者の死体は無い。
と言う事は、海に沈んだと推測した参加者の物が偶然ここに流れ着いたのか。
理由が何にせよ使える道具が手に入ったのなら、悪い事ではない。
長時間海水に浸かっていたいたというのに、中身は濡れていないのは幸いだった。
自身のデイパックに中身を全て移し終えると、空になった方を海に投げ捨てる。

「何故わざわざ船を用意した?」

馬など地上の移動手段ならば分かるが、海上の移動手段など使う機会はほとんどないだろうに。
それをこうして設置したのには、何らかの意味があるのだろうか。
例えば、主催者が用意した施設は陸だけでなく海上にも存在する、とか。
地図を見る限りマス目状にエリアが分かれているが、A-8やB-8、H-1など島では無く海上部分も殺し合いの会場として指定されている。
と言う事はこういった地点に、船でなければ行けない施設が設置されているのかもしれない。
尤も現段階ではそこを調べようという気はほとんど無いのだが。

とにかくこれでもう用は済んだ。
ボートから離れ、本格的に島内の探索を開始した。


611 : 運に身分は関係ない ◆ytUSxp038U :2022/03/24(木) 23:38:38 4JAB65XY0
民家がポツポツと点在する代わり映えのしない光景。
神経を尖らせ参加者の気配を探りながら歩くも、人間どころか虫一匹引っ掛からない。
それでも何時仕掛けられても即座に対処出来るよう、警戒は緩めずに奥へと進む。

やがて集落を抜け島の北部にある池に近付いた時、奇妙な物体が視界に入って来た。

「…何だこれは」

少女の顔らしきものが描かれた、人型の箱らしきもの。
銅像かとも思い軽く小突いてみたが、違うらしい。
周囲を見渡しても、これと同じような物は存在しない。
景観を更に見栄え良くする為に像を置くのなら分かるが、こんなものが設置されていても不自然でしかないだろう。

何の意図があってこれを置いたのか、僅かに眉を顰める。
ひょっとすると罠かもしれない。
この箱に気を取られた隙に襲う、そんなお粗末な仕掛けのつもりだろうか。
が、相変わらず参加者の気配は全くしない。

箱をどかしてみると下からはぬいぐるみが現れた。
別段おかしな部分は無い、女児が好みそうな普通の玩具だ。
強いて言えば箱に描かれた顔と心なしか似ている気がするくらいである。

益々何がしたいのか分からない。
使い物にならない支給品があったから、ここに放置した?
それならわざわざぬいぐるみを隠すようにして箱を被せるのは、少々不自然な気もする。
念の為にとぬいぐるみを掴み上げ、そこでようやっと箱を置いて行った意味を理解した。

ぬいぐるみの底にあったのは一枚の紙切れ。
拾い上げて書かれた分にざっと目を通せば、そこには箱を置いただろう人物からのメッセージ。
『俺達』という書き方から、二人以上で行動しているだろう人物は、ここからずっと西にある病院へ向かったらしい。
彼らが何時島を発ったかは分からず、既に病院へ到着したのか、まだ移動の最中なのかは不明。
どちらにせよ、殺し合いに反対の連中が徒党を組むべく書き置きを残したのだろう。

そうと分かれば残しておいてやる理由は無い。
書き置きを乱雑に放り投げ、破壊の剣を抜き放つ。
数回振るえば、ヒラヒラと舞っていた紙切れは箱とぬいぐるみ共々切り刻まれる。
ぶち撒けられたぬいぐるみの綿を踏みながら、魔王は再度集落へと戻って行った。


612 : 運に身分は関係ない ◆ytUSxp038U :2022/03/24(木) 23:39:54 4JAB65XY0
取り立てて注目する箇所の無い民家と違い、目を引く建造物が一つだけあった。
ギャンブル場。数時間前にバトルロワイアルから無念の退場となった、伊藤開示のスタート地点だった施設。
無遠慮にズカズカと足を踏み入れ、探索を開始する。
サイコロなど博打に必要な品が転がっているが目もくれない。

(何故ここは地図に記さない?)

定時放送でサイキクウスケなる少年は、参加者が施設内に足を踏み入れれば名前と場所が浮かび上がると説明した。
だがデイパックから取り出した地図を確認しても、今魔王がいる島に施設名は追加されていない。
まさか地図の仕掛けに不備でもあるのかと思い、ややあって理由に気付いた。

「地図に名前が載るのは参加者と縁のある施設のみ、か?」

それならば納得はいく。
ギャンブル場のような娯楽施設は地図に載せず、ジョースター邸といった個人の家を載せるのはそういう理由からだろう。
となれば、魔王に縁のある施設が設置されている可能性も有る。
真っ先に思い浮かぶのは中世での活動拠点である自身の城。
勝手知ったる我が家、と言うのもおかしな話だがもし魔王城が会場の施設として存在するのなら、寄って行く価値はある。
尤も本当に魔王城があるかどうかは確証が持てない為、現段階では積極的に探す気は起きない。
散々探し回って結局ありませんでしたとなっては、時間と体力の無駄だ。

一応頭の片隅に留めて置き、部屋を一つ一つ覗いてみる。
博打に使う道具が置いてあるだけで、戦闘や魔力の回復に使えそうな物は何も無い。
或いは置いてあっても、書き置きを残した連中によって持ち去られた後とも考えられる。
僅かながらに落胆しつつ、とうとう最奥の扉の前まで到達した。
ここにも無ければさっさと島を出る。そう考えてドアノブを捻った。

その部屋は他とは違っていた。
そこそこの広さがあるにも関わらず、あるのは真ん中にポツンと置かれたナニカのみ。
他は幾ら見回しても、椅子の一つも無い。
明らかに異質な空間へ臆する事無く足を踏み入れ、部屋の中央へと近付いた。

設置されたソレが何なのか、魔王には分からない。
何せジャキとして生を受けた古代にも、魔王として活動していた中世にも存在しなかったもの。
カプセルトイの販売機、俗にガチャガチャやガシャポンとも呼ばれる機械だ。
現代人ならば至る所で目にするものであり、スーパーマーケットに足を運べば高確率で置かれている。

正体を全く知らず訝し気に眺める魔王だが、知る機会は即座に訪れた。


613 : 運に身分は関係ない ◆ytUSxp038U :2022/03/24(木) 23:41:17 4JAB65XY0
『とうとう見つかっちゃったみたいだね〜。うぷぷぷぷ』

突然聞こえて来た何者かの声。
剣を構え周囲を警戒するも姿は無い。
魔王の反応など知った事ではないとばかりに、声は続ける。

『見事このモノモノマシーンを発見したオマエラの為に、ボクが説明してやるから耳の穴をかっぽじってよ〜く聞いておくんだよ?』

声の主は姿を見せないが、どこから聞こえて来るかは分かった。
部屋の中央に置かれた、声の主の言うモノモノマシーンなる物からだ。
魔王は聞きなれない単語に顔を顰めるも、取り敢えず耳を傾ける。

『モノモノマシーン、それは開けてビックリ夢の機械!首輪一つにつき一回チャレンジ可能!
 何が出るかはカプセルを開けてみてのお楽しみ!運が良ければ物凄い武器が手に入るかもしれないんだ。これはやってみるしかないよねぇ〜?
 ま、役に立たないのが入ってる時もあるけど、人生なんてそんなもんだよ』

モノモノマシーンを見てみると、何かを投入する部分があった。
大きさ的にも、そこへ首輪を入れるのだろう。

『ん?首輪なんか持ってないだって?はぁ〜……、わざわざ説明してやったボクの時間を返してよ。
 うぷぷぷぷ、でもまぁボクは優しいからね。首輪を持ってないオマエラへの特別大サービス!
 参加者を殺した人は最初の一回だけ首輪無しでもチャレンジ可能!どう?一人でも殺していれば回せるなんてお得だと思わない?
 えっ?まだ誰も殺してないだって?そんなダメダメな奴の事までは面倒見切れないよ。
 一応言っとくけど、モノモノマシーンを壊して中身を奪おうなんてのはルール違反だからね?破ったらキツ〜いオシオキが待ってるよ?
 それじゃあレッツチャレンジ〜。うぷぷぷぷぷ……』

それ以上説明する事はないのか声は止んだ。
妙に神経を逆撫でする口調だったが、要は首輪と引き換えに道具がランダムで手に入る装置と言う事だろう。

「もしこれを破壊したらどうなる?」

オシオキという言葉でボカしていたが、具体的に何があるのかを尋ねてみる。
問答無用で首輪を爆破されるのだろうか。
だが魔王の質問に答えは返って来ない。意図的に無視しているのかと思いきや、ややあってまたあのダミ声が聞こえた。

『とうとう見つかっちゃったみたいだね〜。うぷぷぷぷ』

但し質問への返答ではなく、さっきと同じモノモノマシーンに関する説明。
魔王が聞いたばかりの内容が一文字も変わらずに流れる。
どうやら参加者がモノモノマシーンの近くにいれば、自動で音声が繰り返される仕組みらしい。
参加者の質問に受け答えする機能は無い。


614 : 運に身分は関係ない ◆ytUSxp038U :2022/03/24(木) 23:42:27 4JAB65XY0
モノモノマシーンを破壊した時に何をされるかは不明だが、わざわざ警告してきたのなら余計なリスクを背負う必要は皆無。
とにかく役立つ道具が手に入るかもしれないなら、使わない手はない。
説明通りなら参加者を殺害している自分は、首輪を投入しなくても一度だけ回せる。
物は試しとハンドルらしき部分を操作すれば、掌に収まるサイズのカプセルが取り出し口に落ちて来た。
こんな小さい容器に何が入っているのかと開けてみると、出て来たのは明らかにカプセルより大きい瓶詰の液体。
思わずカプセルと瓶を見比べるも、そう驚く事では無いと冷静になった。
大きさを無視して収納可能な入れ物、参加者に配られたデイパックと同じ仕組みとなっているのだろう。

同封していた説明書を読むと、魔王は躊躇せずにコルクを開け中身を口にする。
無味無臭の液体を飲み干した瞬間、失われていた魔力が回復するのを感じた。
完全に元通りとまではいかないものの、戦闘を行うには全く問題ない。
このような道具が手に入るのならば、モノモノマシーンを使う為に首輪も回収すべきか。
今後の方針に一つ付け加え、空き瓶を投げ捨てる。
首輪が手元にない以上ここに留まる理由も無く、ギャンブル場を後にした。


島の探索を終え本島へ移動しようとした魔王だったが、新たな問題が発生した。
自分がここへ来る前に戦闘でもあったのか、C-7に架けられた橋が破壊されている。
橋が使えないなら向こう側へ移動する手段は、来た道を引き返すしかないがそれでは大幅に時間を消費する。
と、この問題を解決する物をさっき見つけたと思い出した。
デイパックが引っ掛かっていたボート、アレを使えば遠回りの必要も無い。

足早に島の南東へ移動し、ボートをデイパックへと仕舞う。
破壊の剣が入っていた事から確信はしていたが、やはり大きさに関係無く収納が可能らしい。
重さも変わらず余計な負担が増えないのは有難い。
再び橋があったであろう地点まで来るとボートを取り出し、マニュアルとにらめっこしながら何とか動かす。
少々苦戦しつつも一度動き出せばあっという間に砂浜へ到着した。
移動を終えるとボートはデイパックへと仕舞う。
限られた場所のみとはいえ、他の参加者の為に移動手段を残しておく必要も無いだろう。

それにしてもと内心で独り言ちる。
海に漂う支給品、海上の移動手段、極め付けに魔力の回復を可能とする道具。
苦も無く立て続けにそれらが手に入るなど、少々都合が良過ぎる気がないでもない。

(それとも…運が良いと言い換えるべきか?)

テュケーのチャームと名付けられたアクセサリーを眺め、そんなどうでも良い事をふと思った。

それも僅かな間のこと。
思考を切り替えここからどう動くか頭を働かせる。
書き置きを残した連中を仕留めるべく病院を目指すか。その者達以外にも、治療手段確保の為に病院へ向かう参加者は少なくないだろう。
しかし参加者が多く立ち寄りそうな場所は他にもある。
一番近いのはここから南西にある街だ。
地図には三つもの施設が記されており、それらと縁のあるものに釣られてやって来る者がいるかもしれない。

参加者を狩る準備はとっくに完了している。
優勝するという意思は微塵も揺らいではいない。
決意を打ち砕き、願いを踏み躙り、与えるのは逃れられない絶対の死。
魔王の脅威は、すぐそこまで近付いていた。


615 : 運に身分は関係ない ◆ytUSxp038U :2022/03/24(木) 23:44:02 4JAB65XY0
【C-7 砂浜/昼】

【魔王@クロノ・トリガー】
[身体]:ピサロ@ドラゴンクエストIV
[状態]:魔力消費(小)
[装備]:破壊の剣@ドラゴンクエストシリーズ、テュケーのチャーム@ペルソナ5
[道具]:基本支給品×2、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、電動ボート@ジョジョの奇妙な冒険、ランダム支給品0〜2(木曾の分含む)
[思考・状況]基本方針:優勝し、姉を取り戻す
1:どこへ向かうか。
2:強面の男(承太郎)は次に会えば殺す。
3:剣を渡した相手(ホイミン)と半裸の巨漢(志々雄)も、後で殺す。
4:ギニューという者は精神を入れ替える術を持っている可能性が高いため警戒する。
5:悲鳴嶼行冥や他に似たような気質(殺しても止まらない)を持ちそうな者達と戦う際は、例え致命傷を与えても油断するべきではないだろう。
6:モノモノマシーンを使う為に、可能な限り首輪も手に入れる。
7:魔王城があるかもしれない。(現状の探す優先度は低い)
[備考]
※参戦時期は魔王城での、クロノたちとの戦いの直後。
※ピサロの体は、進化の秘法を使う前の姿(派生作品でいう「魔剣士ピサロ」)。です
※回復呪文は通常よりも消費される魔力が多くなっています。
※ギニューと鳥束の精神が入れ替わった可能性を考えています。

※C-8にあったカイジの書き置きと中須かすみセット@現実&ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の仕掛けは破壊されました。

【電動ボート@ジョジョの奇妙な冒険】
ブチャラティチームが移動に使っていたボート。
ローマへ到着した際にチョコラータのカビから逃れつつ上陸する為に、ミスタによって爆破された。

【ハイエーテル@クロノ・トリガー】
味方一人のMPを60回復する消費アイテム。
各地の宝箱から入手できる他、原始のショップにて購入可能。
モノモノマシーンで魔王が入手。

[モノモノマシーン@ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生について]
※首輪一個につき一回ずつ回せます。
※参加者を一人でも殺害した者ならば、一度だけ首輪を投入しなくても回せます。
 あくまで最初の一回のみであり、殺した人数分回せるのではありません。
※何が手に入るかはランダム。参戦作品出典・現実出典どちらでも可。
 カプセルはデイパックと構造が同じなので、大きさに関係無くアイテムが入っています。
※マシーン本体を破壊しアイテムを奪おうとした者には、何らかの厳重な処罰が下されます。
※ギャンブル場以外の場所にもモノモノマシーンが設置されているかは、後続の書き手に任せます。


616 : ◆ytUSxp038U :2022/03/24(木) 23:44:50 4JAB65XY0
投下終了です。


617 : ◆EPyDv9DKJs :2022/03/26(土) 11:40:53 CAsR4rzA0
投下お疲れ様です
東南におけるエリア最後の一人である為か今までの総括に加えて、
首輪を消費する装置の登場と次も楽しみになる要素が増えてきました
海にも施設がある可能性があるのは、より今後が面白くなりそうですね
海を移動できるキャラも結構重要な要素になるかも?

ただ少し気になったことがありまして、
木曾は拙作ではリュックを背負った状態で沈んでいました
なので、リュックが浮くのであれば彼女は沈むことはないと思うので、
そこが少し引っかかった部分ではあります
(村紗が異様に重いなら何も問題はないのですが、
 元船幽霊かつ外見上十代半ばでそうとは考えられにくいので)

細かすぎることではあるとは思われますが、
そこについての回答がありましたらお願いします


618 : ◆ytUSxp038U :2022/03/26(土) 13:15:47 bQudcpGU0
感想ありがとうございます。

リュックの件は完全にこちらが失念しておりました。
なので、木曾のデイパックを回収した描写を削除とさせて頂きます。全体的な流れに変化は無いので。
お手数をお掛けして申し訳ありませんでした。

問題が無ければこのまま

野原しんのすけ、犬飼ミチル、ゲンガー、エーリカ・ハルトマン、産屋敷耀哉、アドバーグ・エルドル(キタキタおやじ)、ン・ダグバ・ゼバ、魔王を予約します。


619 : ◆ytUSxp038U :2022/04/03(日) 23:14:11 HYeKClys0
延長します。


620 : ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 12:38:21 Koo/Qy5o0
投下します。


621 : Broken Sky -Dance With Me- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 12:40:18 Koo/Qy5o0
「あっ!!」

突然大声を出した仲間に、しんのすけとゲンガーは揃って振り返る。
二人からの注目を集めたた当の本人、ミチルははしたなく叫んでしまい恥ずかし気に縮こまった。

「どしたのミチルちゃん、おトイレ〜?」
「ち、違いますよ!」

幼稚園児特有のデリカシーを無視した問い掛けに顔を赤らめる。
そこで呆れを含んだゲンガーの視線に気付き、わざとらしく咳払いをし強引に話を戻す。

「あの、実はエルドルしゃんからコレを渡されていたんですけど…」

そう言ってミチルが取り出したのは、青い宝石が填め込まれた一枚の鏡。
変わったデザインのソレをしんのすけが好奇心から覗き込むと、途端に驚きの声を上げた。

「おぉ!?オラが映ってるゾ!?」
「そりゃ鏡なんだから映ってるに決まってるだろ」

何を当たり前の事をと思いながらゲンガーも鏡を覗き込む。
すると、彼もしんのすけと同じように驚く羽目になった。
映っているのは金髪の少年ではなく、ずんぐりした紫色の異形。
嫌と言う程見慣れてしまった、ゴーストタイプのポケモンであるゲンガー本来の姿がハッキリと映し出されている。
姿が違うのは隣のしんのすけも同じだ。
ガタイの良い胴着の男とは似ても似つかない、太い眉毛にジャガイモのような頭の幼子が鏡の中にいる。

「うんうん、我ながら惚れ惚れする板前っぷりだゾ」
「それを言うなら男前だろ。…こりゃどういう事だ?」

当然の疑問を寄越すゲンガーに、ミチルは元々鏡を支給された人物から聞いた説明を話す。

「えっと、ラーの鏡って言う名前らしくて。エルドルしゃん曰く本当の姿が映るらしいです」
「本当の…って事は体を変えられる前の俺らが映るのか?」
「多分そうだと思います」

そっと自分の顔を鏡の前にやると、数時間前に消滅した少女の顔が映る。
ふわふわとした癖っ毛も、パッチリとした瞳も紛れも無く自分のもの。
なのにもうこの世には存在しない。
受け入れた筈なのに、改めて心がジクリと痛むような感覚が襲い来る。
しかしそれを顔に出してしまえば、またもやしんのすけを落ち込ませてしまう。
だからすぐに鏡から顔を離し、自分の内心を気取られないようにした。

(ケケッ、こっちが本当の姿扱いかよ…)

別に今更良いけどよと、つい苦笑いを浮かべる。
サーナイトのパートナーであった頃の姿ではなく、ポケモンとしての自分が鏡に映った。
名簿にゲンガーと記載されていたのだから、当然の話ではあるが。
僅かに浮かんだ形容し難い想いはそれ以上考えず、ラーの鏡を今も意識を失っている仲間に向けてみた。

「…やっぱり女だったんだな」

しんのすけに背負われ眠り続ける青年と、鏡に映った金髪の少女を見比べながら呟く。
人間の美醜感覚にさして関心を持たないゲンガーから見ても、可愛らしい顔立ちだと思う。


622 : Broken Sky -Dance With Me- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 12:42:03 Koo/Qy5o0
承太郎達と別れた後、気絶したハルトマンを初めはゲンガーが運ぼうとした。
だがバトルロワイアル開始当初よりマシとはいえ、未だ人間の身体に不慣れな状態で男(の身体)一人を背負い移動はハッキリ言ってキツい。
だからこの中で最も体力のある悟空の身体を持つしんのすけが運ぶ事となったのだ。
そのしんのすけは鏡に映ったハルトマンを見た途端、だらしない笑みを浮かべる。

「いや〜ん、こんな可愛いおねえさんがオラの背中に〜♪」
「今は男の人の身体ですけどね…」
「エボルトおねえさんとホイミンおねえさんも素敵だけど〜、エーリカちゃんも捨て難いですな〜♥」
「どっちも中身は男じゃねえのか…?」

飄々とした態度の女と煽情的な衣服の女の姿が浮かび上がる。
女扱いされている事を本人達が知ったら、一体何と言うのやら。
別行動中の仲間へ、ゲンガーは同情の念を抱かずにはいられなかった。

そうこうしていている内に一行は目的地へと辿り着いた。
アドバーグとマゼンタ色の襲撃者…仮面ライダーディケイドをミチルが最後に目撃した場所だ。
当たり前だが二人の姿は見当たらない。
新八と共に消えたディケイドは元より、アドバーグもまた行方知れずのまま。
承太郎達がディケイドに襲われた時にも、アドバーグは見かけなかったとのこと。
もし既に殺されたのだとしても、死体すら無いのは少々おかしい。
鬼にされたシロのように死体すら残さず消滅した、という可能性もあるが。

ただアドバーグ以外の死体なら、一つだけ転がっている。

「おい、あれってよ…」
「はい……」

三人の中で、唯一生存していた時の彼と遭遇し、最期をハッキリと見たミチルが暗い顔で頷く。

「吉良吉影さん…、放送で発表された人です」

数時間前と変わらない二宮飛鳥の身体。
そこへ宿っていた殺人鬼の魂はとっくに消え去っており、ただの抜け殻として存在していた。

「吉良、かぁ……」

定時放送前に別れた仲間が強く警戒すべきと言っていた殺人鬼。
死者として発表された時には木曾の方に意識が向かった為深く考えていなかったが、こうして死んでいるなら康一も肩の荷が一つ下りたのだろうか。
巻き込まれた身体の持ち主の事を考えると、手放しでは喜べないが。

「……」
「しんのすけしゃん、大丈夫ですか…?」
「うん…オラは、へっちゃらだゾ」

言葉とは反対に表情は強張っている。
無理もないことだ。既に人が殺される光景を目撃して来たと言っても、しんのすけはまだ子ども。
死体に見慣れろというのは酷だろう。

これ以上しんのすけの精神に余計な負担を与えるのは、ミチルの望む所ではない。
何より今はアドバーグの捜索を優先すべきだ。
死体が無いならどうにか逃げ延びた可能性がある。問題はどこに逃げたかだが、周囲を観察し、あるものに気付いた。

「あっ……」

駆け寄ってみると道路に穴が、正確に言えば地面の下に通じる道が開いていた。
本来穴を塞いでいる筈の蓋は存在せず、サッと周囲を見渡せば瞳に映るのは砕け散った金属らしき物体。
マンホールの蓋の成れの果てだろう。
よく見ればマンホールの周囲のアスファルトも破壊され、穴が歪に広がり蓋以上の大きさと化している。
最後にアドバーグ達を目撃した場所にこんなものがあれば、自ずと答えは見えて来た。


623 : Broken Sky -Dance With Me- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 12:43:10 Koo/Qy5o0
「エルドルしゃんはここから逃げたんですか…?」

可能性は、ある。
他に目立った手掛かりも無い以上、下水道を調べる価値は十分にあると見て良いだろう。
では急ぎマンホールに飛び込むといきたい所ではあるが、ミチルには一つ懸念事項があった。

そもそもミチル達が街に残ったのはアドバーグの救出以外にも、しんのすけがシロを鬼にした男を探すという目的があってのこと。
名前は分からないが、彼としんのすけ、そしてシロの間に何があったのかは蓮から聞いている。
どうしてシロを鬼にしたのか、明確な理由は蓮達にも分からないそうだが恐らく本意ではないらしい。
シロを追ってルブランの前に現れた時、男は自らの行いを心底悔いているような素振りだったと言う。
事態が急変したのは、男がしんのすけに殴り飛ばされた直後だ。
殴った理由に関しては、正直ミチルからしても無理もないことだと思う。
家族を訳も分からず人喰いの怪物にされ、挙句の果てには殺そうとしたのだ。
話を聞いた限りでは男にとっても苦渋の決断だったらしいので、一概に責める気にはなれず、そもそも最初にシロを追いかけ回した自分にそんな資格があるとは思えない。
それはともかく、殴り飛ばされた男は突如人格が豹変したように襲い掛かり、エボルトと蓮が対処に回った。
最終的には戦闘で地面に空いた穴から地下へと逃げ、以降の消息は不明。

蓮の情報通りなら、男は今も下水道を移動しているのではないか。
鬼とは太陽の光が弱点らしい。
現に鬼となったシロは陽の光を浴び、自分達の目の前で消滅した。
日中は迂闊に外に出れない、なら日が沈むまでは地下に潜伏している可能性は非常に高い。
ならば、アドバーグを探しに下水道へ下りた先でシロを鬼にした男と遭遇してもおかしくはない。
危険人物の潜伏先へ自ら飛び込むのは、良い行動とは言えないだろう。

(でも、ここで考え込んでいる間にもエルドルしゃんは大変な目に遭っている…)

アドバーグはディケイドとの戦闘で深い傷を負い、不衛生な場所を逃げ続けているのだろうか。
下手をすればシロを鬼にした男と運悪く出くわしてしまっていないとも限らない。
自分を逃がす為にディケイドとの戦いを引き受けた彼が生きているなら、絶対に助けなくては。

「多分エルドルしゃんはここから逃げて行ったんだと思います」
「まぁ、ここが見るからに怪しいしな。じゃあ下りて探しに行くのか?」
「私はそうするつもりです。ただ…シロちゃんを鬼にした男の人と出くわすかもしれません」

チラリとしんのすけを見れば、険しい顔付きとなっていた。
家族を化け物に変えた相手がいる。思う所は多々あるだろう。

「…オラも一緒に行くゾ」
「しんのすけしゃん…」
「あのおじさんともっかいおはなししたいし、それに…ごめんなさいもしたいから……」

どうしてシロを鬼にしたのか、問い詰めたい気持ちは大いにある。
そしてもう一つ、怒りに身を任せ彼を殴った事への罪悪感がしんのすけにあった。
男がシロにやった事は簡単に許せるか分からない。
ただあの男は自分とシロに、苦しそうな表情で何度も謝り続けていた。
それがあるから、アーマージャックと同じ悪者とは断じられない。
だからもう一度話をしたい。

想いを吐露されれば、無下に扱う事はミチルには不可能。
彼女もまたシロの最期をこの目で見た一人だ。
故に心配は有れど、しんのすけの同行を断りはしない。
もしもの時は、自分が彼を守らねばという決意を密かに抱く。


624 : Broken Sky -Dance With Me- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 12:44:58 Koo/Qy5o0
地下の捜索がしんのすけとミチルに決まり、続いてゲンガーとハルトマンはどうするかだが、
二人にはしんのすけ達が戻るまで地上で待機してもらう事となった。
未だ目を覚まさないハルトマンを連れて行っては、言い方は悪いが足手纏いにしかならない。
かと言ってハルトマン一人を地上に放置する訳にもいかない。
気絶中の無防備な彼女が危険な参加者に見つかれば、一体何をされるか。
ゲンガーとしてもハルトマンを放り出して行くのは流石に抵抗があった為、ここは大人しく待っている事に同意した。
合流地点には地図に記載された施設、食酒亭とする。

話が終わり、しんのすけに代わってハルトマンを再び背負うゲンガー。
そこへミチルからデイパックが差し出される。

「何だ?くれんのか?」
「はい。吉良さんの支給品ですけど、何かの役に立てれば…」

地下にいる間、何か不測の事態が起きるかもしれない。
その時ハルトマンが目を覚まさないなら、ゲンガー単独で対処するしかないのだ。
だから少しでも助けになれるならと、吉良の支給品を譲渡した。
取れる手は一つでも多い方が良いというのには、ゲンガーも同意見。
礼を言ってデイパックを受け取る。

「それじゃあ行って来ます。そちらも気を付けてくださいね?」
「オラたちがお留守の間、エーリカちゃんの事は頼んだゾ!ゲンゴロウおにいさん!」
「ゲンガーだっての…。おう、お前らも用心しろよ」

マンホールへ入って行く二人を見送り、ゲンガーも移動し始める。
屋外で呑気に身を晒すような、不用心な真似をする気は無い。

少し歩けば、周囲の建造物からは浮いた木造りの施設が見つかった。
ベルトに差した拳銃を意識しながら、慎重に足を踏み入れる。
承太郎達がこのエリアを訪れた時に遭遇したのはディケイドのみ。
そのディケイドが新八と共に姿を消した以上、他には誰もいないだろうが警戒しておいて損は無い。
一旦テーブル席にハルトマンを下ろし、ゲンガーは銃を片手に店内をざっと調べる。
酒場らしき一階には誰もいないと分かれば、今度は二階。
各部屋を一通り見終え、やっと大丈夫だと判断。
ハルトマンを背負い二階の居住スペースへと運び、従業員が使っていたベットへと寝かせてやった。

「ふぅ…」

ゲンガー自身も木組みの椅子に腰を下ろし、一息つく。
ぼんやりと眺める視線の先には、目を閉じたままの青年の姿。
化け物になり暴走していたのが元に戻った、それは良い。
だがハルトマンが目覚めた時、自分は彼女に何と言ってやれば良いのかまるで分からない。
エボルト達と合流した際、ハルトマンが目覚めなかった事に安堵した。
しかし永遠にそのままとはいかない。いずれは必ず意識を取り戻し、何をやったのかを知ってしまう。

「分かんねぇ……」

何と言ってやるのが正解なのか。
そもそも自分の言葉が彼女にとって意味があるものなのかすら分からない。
他人が嫌がり、傷つく方法なら幾らでも浮かぶ。
だけど喜ばせ、救いとなるものはまるで思い浮かばないのだ。

「ケケッ、ガラじゃねえんだよ、こういうの……」

自分は、アイツらとは違う。
散々妨害をして来たにも関わらず、自分の依頼を引き受けてくれたアイツらのようにはなれない。
だというのに今ハルトマンの支えになれるのは自分だけなのだから、本当に悪い冗談としか思えなかった。


625 : Broken Sky -Dance With Me- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 12:46:12 Koo/Qy5o0
◆◆◆


「くさ〜い…」

鼻を摘まんでげんなりするしんのすけに内心で同意する。
濁り切った水が流れる通路はお世辞にも綺麗とは言い難く、悪臭が充満している。
好んで訪れるような場所ではないが、アドバーグを助ける為ならこれくらいの臭いは我慢出来る。
慎重な足取りで奥へ進んで行く。

そして二人はとうとう探していた人物と出会った。

「む!?そこにいるのはどなたですかな?」

しんのすけ達の存在に気付いた何者かが、駆け足で近付いて来た。
現れたのは、しんのすけにとっては初めて見る、ミチルにとっては数時間前に見た人物だ。
艶のある黒髪に誰もが美人と言うだろう容姿。
腰みの、胸当て、頭飾りのみを身に着け、見惚れるような体を惜し気もなく晒している。
346プロダクション所属のアイドルの身体を得た、キタキタ踊りの伝道者がそこにいた。

「エルドルしゃん!無事d「あは〜ん♥おねえさ〜ん♥」ちょ、え!?」

心配していた男の無事を喜ぶミチルより早く、アドバーグの元へ駆け寄る者がいた。
そう、しんのすけである。
抜群のプロポーションと美貌の持ち主が、やたらと露出度の高い姿で現れたのだ。
考えるより先に本能で突き動かされ、自分好みの美人へと腰をくねらせ近付く。
いやらしさを全開にした笑みの仲間に、ミチルは頬が引き攣る。
この少年、5歳児にしては男性の欲望に忠実過ぎやしないか。

しんのすけの突飛な行動に出鼻を挫かれたが、アドバーグを見つける事は叶った。
ディケイドに殺される最悪の可能性にならなかったのは喜ばしい。
安堵感から笑みを浮かべて、しんのすけの後に続く。

「良かったです…。エルドルしゃんが無事で……」

吉良と同じように助けられなかった、という結果にはならなっていない。
思わず涙ぐむミチルへ、アドバーグは不思議そうに首を傾げる。

「エルドル、というのは誰の事ですかな?そもそもお二人は一体…?」
「えっ……」

予想外の返答にミチルから涙が一瞬で引いて行く。
冗談か何かでも言っているつもりなのか。
だがアドバーグからそういった雰囲気は無く、本気で分からないと言うような顔をしている。
ミチルの中にあった安堵感はあっという間に消え去って、代わりに嫌な予感が沸々と湧き上がった。


626 : Broken Sky -Dance With Me- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 12:47:42 Koo/Qy5o0
「私の名前はキタキタおあじ!エルドルという名は聞いた事もありませんぞ〜」
「ほうほう、だったらおあじおねえさんですな」
「その通り!まぁ好きに呼んでくだされ〜」
「じゃあ好きに呼ばせてもらいますかな。わっはっはっは!」
「え、えぇー…」

気さくな態度を取りつつ、フラダンスのような動きを見せるアドバーグ改めキタキタおあじ。
アクション仮面のポーズで何故か得意気に高笑うしんのすけ。
妙に波長の合った二人のやり取りに、ミチルは困惑するしかなかった。
ミチルの反応を気にせず、アドバーグはひとつ咳払いをし爛々と輝く目を見せる。

「このような場所で出会えたのは運命の導き!記念にキタキタ踊りを披露してさしあげましょう!」
「…えっ、いやあの、エルドルしゃん!?今はそんな場合じゃ――」
「おぉ〜!オラ、おあじおねえさんの踊りなら見てみたいゾ〜!!」

シロを鬼にした男がうろついているかもしれないのに、呑気に踊りを眺める余裕は無い。
至極真っ当なミチルの意見は、興奮するしんのすけの声にかき消される。
アドバーグもまた踊りを強く望まれているとあっては、やっぱり無しだと言う気は皆無。
己の肉体に色濃く焼き付いた記憶に身を任せ、キタキタ踊りを披露した。

「さぁ!さぁ!さぁ!存分に見てくだされ〜!」

奇妙で、それでいてどこかダイナミックな動き。
大きな円を描くかのような腰使いは、肉体の運動能力が如何に高いかが分かる。
全身を余すことなく使った踊りにより、胸当てが外れそうな勢いで乳房が揺れ動く。
その度にしんのすけが鼻息を荒くし、ミチルはどこか遠い目となった。

――私は何を見せられているんだろう

踊っているのが美麗な女性だからか、同性のミチルから見ても惹かれる部分はある。
だがそれはそれとして、下水道で珍妙な踊りを見せられるというシチュエーションにはついていけない。
というかアドバーグは自分にキタキタ踊りを勧めて来たが、もし承諾していたらあの恰好であの動きをする羽目になっていたのか。
しんのすけとは正反対のテンションで、キタキタ踊りを始終無言で眺めていた。


627 : Broken Sky -Dance With Me- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 12:48:50 Koo/Qy5o0
やけに時間が長く感じられたがどうにか終わり、アドバーグは最後に一礼をする。
飛ばされるのはしんのすけの盛大な歓声と、ミチルの控えめな拍手。
そのどちらもアドバーグにとっては誇らしいものらしく、得意気に口を開いた。

「ふぅ、良い汗を掻きました。どうでしたかな?私のキタキタ踊りは」
「ヒューヒュー!マンホール!マンホール!」
「それを言うならアンコールじゃないですか…?」
「お?そうとも言う〜」

しんのすけの反応が余程気に入ったのか、満面の笑みを浮かべるアドバーグ。

「気に入ってくれたのなら何よりですぞ〜!よろしければお二人もご一緒にいかがですかな?」
「やるやる〜!オラもおねえさんと、お熱いダンスをしちゃうゾ〜!」
「あ、あの!!今はそんな場合じゃないですよ!」

すっかりその気になったらしく、しんのすけはおかしな腰使いで踊り出す。
頭の中には嘗て春日部市民のクローン入れ替えを目論んだアミーゴスズキとの対決と、決着後のサンバを踊った光景が蘇っているのかもしれない。
といった事情を知らないミチルからすれば、二度目のキタキタ踊りに発展しそうで堪ったものではなく、慌てて待ったを掛ける。
さっきは二人のおかしなテンションに流されたが、いい加減それどころでは無いと伝えねばなるまい。
こうなれば多少強引にでも話を聞き入れさせようと口を開きかけ、

「私と同じ鬼となり、共にキタキタ踊りを広めましょうぞ〜!」

飛び出た言葉に凍り付いた。

「エ、エルドルしゃん…今、何て…?」

鬼。聞き間違いでなければ、アドバーグは確かにそう言った。
ついさっきまで興奮していたのが嘘のように、しんのすけも顔を強張らせている。
二人とも鬼という存在がどういうものなのかを、己の目でしかと見た。
ミチルの中で浮かび上がった嫌な予感は、急速に何が起きたかを理解し始める。

「何も心配はいりませんぞ!この御方の手で人間なんぞよりも素晴らしい存在に生まれ変わるのですから!」

恭しく首を垂れるアドバーグの背後から、音も無く男が姿を見せる。
男を見たミチルの第一印象は、失礼ながら人形のようだと思った。
整った顔立ちからは感情というものがまるで読み取れない。
友好的では無く、さりとて明確な敵意がある訳でもなし。
それくらいに、背筋が寒くなる程の無機質な瞳だ。


628 : Broken Sky -Dance With Me- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 12:49:53 Koo/Qy5o0
緊張からゴクリと生唾を飲み込むミチルの鼓膜へ、「お、おじさん…」というか細い囁きが届く。
誰が言ったか確かめるまでもない、しんのすけから発せられたものだ。
声に宿る感情は、得体の知れない男への警戒のみではない。
アドバーグの言った「鬼」という言葉を考えるに、男の正体は明白。
この男こそがシロを鬼に変えた張本人であると、ハッキリ理解した。

「オ、オラ、おじさんにおはなししたい事があるんだゾ…!」

声を震わせながら、男へとしんのすけは歩み寄る。
瞬間、ミチルは猛烈な危機感に襲われた。
男が自分としんのすけへ向ける視線は、とてもじゃないが人間に対してのものとは思えない。
地面に転がるガラクタに少しは使い道が残されているか否か、無感動に見下ろしているよう。
アレはマズい。アレに近寄っては、きっと良くない事が起こってしまう。
無言で男が腕を僅かに動かすのが見え、反射的に叫んだ。

「クレイジー・ダイヤモンドさん!!」

バゴォ、と男の腕が弾かれる。
射程距離ギリギリではあったが、クレイジー・ダイヤモンドの拳はしんのすけへの接触を見事に防ぐのに成功。
ミチルには男が具体的に何をするつもりだったかは分からない。
だけどあのまま放って置いては最悪の事態になる、そんな予感に従い動いた。
アドバーグには男、産屋敷耀哉が何をするつもりだったのか分かっていた。
耀哉はしんのすけに血を与え、鬼にする気だったのだ。
鬼になればキタキタ踊りを共に踊ってくれる。
だが目論見は失敗に終わった、おかしな髪型の少年が出現させた人形のせいで。
アドバーグの頭を一転して占めるのは怒り。
主の邪魔をする不届き者への、何よりキタキタ踊りを否定するかのような愚者への、圧倒的な憤怒。

「我らの邪魔をするとは…許せませんぞ〜!!」

許し難い罪を犯したミチルへ肉薄し、突き出される手刀。
胴体を貫く感触はいつまで経ってもやって来ない。
代わりに何か硬いものへ当たった小さな痛みが指先から伝わって来る。
手刀の餌食となるのを防いだのは、ハートの装飾の怪人。
クレイジー・ダイヤモンドを操作し、アドバーグの一撃を対処してみせた。

「ミチルちゃん!」
「っ!しんのすけしゃん!後ろ!」

焦燥感を露わにしたミチルの叫びに、咄嗟に体を捩るしんのすけ。
訳も分からず立ち尽くすのではなく行動に移れたのは、肉体の恩恵だろうか。
グロテスクな肉の鞭と化した耀哉の腕が、オレンジ色の胴着を僅かに切り裂く。
被害はそれだけだ。しんのすけには掠り傷一つ無い。

だが事態は良くなる所か悪化してしまっている。
アドバーグは恐らくシロと同じ鬼にされ、このままでは自分達もとミチルの頬を汗が伝う。
一度地下を脱出するにもアドバーグ達が近過ぎる。素通りさせてはくれないだろう。
こうして思考に割いている間にも、向こうはこちらへ仕掛けようとしているのだから。

「しんのすけしゃん!絶っ対にその人の攻撃に当たらないでください!!!」

本当ならばしんのすけの加勢に回りたいが、アドバーグが許してはくれない。
故に今はこれだけをどうにか伝える。

シロとアドバーグは同じ人物によって鬼にされた。
分からないのは、彼らが一体どのような方法で人から鬼に変えられたかだ。
能力者のような超常の能力なのか、或いはゾンビ映画のように体液の接種かもしれない。
もしかすると何らかの道具を使った可能性とて、否定は出来ない。
鬼にする具体的な方法が不明な以上、現状で取れる対処法は一つだけ。
敵の攻撃に当たらないよう立ち回るという、これ以上ないくらいにシンプルなもの。
能力にしろ道具にしろ、鬼にするナニカが当たらなければ良いのだ。


629 : Broken Sky -Dance With Me- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 12:50:57 Koo/Qy5o0
「お喋りする余裕など与えませんぞ〜!」

しんのすけが頷くのが視界に映り、直後アドバーグの手刀が殺到した。
殺す為ではない、少しばかり痛めつけて動けなくするのが目的である。
どれだけ深い傷であっても、一度鬼にしてしまえば関係無い。

「チェリャリャリャリャ!」

餌を突く嘴のように両手がミチルに放たれる。
人間から鬼になった事の恩恵とは、キタキタ踊りのキレが増しただけで終わらない。
肉を紙の様に引き千切り、骨を小枝のようにへし折る。
年端も行かない幼子だろうと、天寿を全うする寸前の老人だろうと、容易く大男を屠れるだけの身体能力が手に入るのだ。
アドバーグもまたその例に漏れず。
次から次へと繰り出される突きは指一本でも直撃すれば重症は免れず、一撃躱すのも困難な速度。

「ドララララララララララララァッ!!」

だが破壊力とスピードならば、クレイジー・ダイヤモンドも負けてはいない。
射程距離こそスタープラチナに劣るものの、近接系のスタンドとしては上位の能力を誇る。
アドバーグの攻撃に真っ向からラッシュで迎え撃つ。
アイスピックの如く肉を貫かんとする指を弾き、あるいは勢いのままへし折る。
敵の手が使い物になら無くなれば、そこは正に拳を叩き込むチャンス。
胴体に、顔面に、岩石すらも破壊する威力の拳が次々と命中。
女性の身体をこうも殴りつけるのは、ハッキリ言って気持ちの良いものではない。
が、そうも言ってられないのが現状だ。

「何のこれしき〜!」

クレイジー・ダイヤモンドの拳はアドバーグの、より正確に言うならヘレンの肉体を痛めつけた。
指をへし折り、胴体には痛々しい殴打痕が付けられ、顎も砕かれた。
常人ならば泣き叫び、耐えようとしても苦悶の汗が浮かぶだろう激痛。
それらをアドバーグは意に介さない。というよりも気にする必要が皆無である。
肉体の損壊はほんの一瞬の事、時間を掛けずに全て完治したではないか。
これもまた鬼となった恩恵。
太陽光以外の如何なる攻撃も、鬼の生命力の前には無意味。
故に幾度拳をその身に受けようと、アドバーグが負傷を気にする素振りは全く無い。
反対にミチルはそうもいかない。
スタンド使いであろうと、行使する本人はれっきとした人間だ。
殴られ、斬られ、撃たれれば当然傷つき、瞬時に治るなど不可能。
傷を治すクレイジー・ダイヤモンドの能力とて、本人には効果が無い。

「ドラララララララララァッ!」

クレイジー・ダイヤモンドのラッシュは止まらない。
しかし勢いは、ミチル本人の戦意とは裏腹に落ちているのが見て取れた。
アドバーグがダメージを無視して攻撃を続ける以上、相手の怯んだ隙を突く事は不可能。
肉が潰れ骨が砕けようとも後退せず、前へ前へと襲い掛かる。
初めは全て防いでいた筈のアドバーグによる突き、それが一つまた一つとクレイジー・ダイヤモンドに命中していく。


630 : Broken Sky -Dance With Me- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 12:51:57 Koo/Qy5o0
「っ!」

致命傷にはならない。
されど痛みが、肉が削がれる痛みが集中力を奪い去るのを避けられようか。
歯を食いしばって耐えた先に、またしてもアドバーグの指がクレイジー・ダイヤモンドに当たる。
右肩への焼けるような痛み。
数時間前にアーマージャックのゼットシウム光輪を受けた箇所への攻撃。
短く悲鳴が漏れるのは、無理もないこと。

「ッヅ…!」

しかし耐えるしかない。
痛みに呻くだとか泣き叫ぶといった、余裕を持てる状況では無いのだ。
歯が砕けんばかりに噛み締め、痛みを押し殺す。
クレイジー・ダイヤモンドは操作したままで、ミチルはデイパックに手を突っ込む。
手にしたのは木製の棒。アイヌ民族の制裁道具、ストゥ。
元々はアーマージャックの支給品だったストゥを、アドバーグ目掛けて投擲する。

「はりゃあっ!」

クレイジー・ダイヤモンドと渡り合う能力を得た今のアドバーグからしたら、悪足掻きにすらならない。
魅力的なスラリとした脚を一度振るってやれば、麩菓子のように粉々と化す。
棒状としての名残は僅かに残った持ち手部分のみとなり、木片が足元の汚水へ散らばった。
ミチルの狙い通りに。

「ドララァッ!」

クレイジー・ダイヤモンドが腕を振るう。
今だけはアドバーグでは無く、蹴り上げ宙へと舞ったストゥの持ち手へと狙いを付けて。
破壊された物体への接触により、クレイジー・ダイヤモンドの固有能力が発動。
散らばった木片がビデオの逆再生のように、持ち手へと集まって来たではないか。
四方八方から飛来する木片は、間近に立つアドバーグの身体を切り裂きながら元の形へと戻って行く。
当然それらの傷で鬼の肉体はどうにか出来ない。
だが予期せぬ方向からの攻撃というものは、どうやったって隙を生み出すもの。

「おひょぉ!?」

アドバーグの視線がクレイジー・ダイヤモンドから逸れる。
僅かな間のみ、意識がミチルから外れた。
このチャンスを活かさない愚行を犯せるものか。

「ドララララララララララララララララララララララララララララァッ!!!」

無防備な身体へ容赦無しに叩き込まれる拳の嵐。
傷が再生する間すら与えてたまるかと放たれたラッシュにより、アドバーグは砲丸のように飛んで行き、

「キタキタ〜!!」

はしなかった。
何とアドバーグ、最初の数発こそ受けたものの即座にキタキタ踊りの要領で全身をくねらせ、ラッシュの大半を躱したのだった。

「キタキタ踊りで鍛えられた私の腰使いを甘く見てはいけませぬぞ〜!」

非常に不気味な動きで腰を振るアドバーグにミチルはただ歯噛みするばかり。
信頼の置ける仲間だったはずの男が敵として牙を剥く。
目を背けたくなる現実に、されど逃避してなるものかとスタンドを操作する。


631 : Broken Sky -Dance With Me- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 12:54:20 Koo/Qy5o0
ミチルとアドバーグが戦う傍らで、彼らの仲間と主による戦闘も行われていた。
尤も、彼らがやっているのを戦闘と言えるかは少々疑わしいが。
片方が幾度も腕を振るい、もう片方はひたすらに避ける。
繰り返されるのはそんな代わり映えのしない光景。

「あは〜ん、激し〜い」

言葉だけなら呑気であっても、表情には焦りが見て取れる。
フラダンスに似た動きで肉の鞭を躱すしんのすけ。
傍目にはふざけていると受け取られかねないが、本人は至って真剣だ。
ミチルからは絶対に攻撃を受けるなと警告された。
切羽詰まった表情からも、素直に聞き入れるべきと判断しこうして回避に全力を注いでいる。
5歳児の身体であった頃から、しんのすけは足元に銃弾を連射されても無傷で回避する程の反射神経を持つ。
制限下にあるとはいえ、馴染みつつある悟空の肉体ならば元の身体以上の動きが可能だ。

「……」

両腕を振るうも悉くふざけた動きで躱される。
身体の元の持ち主なら苛立ちで血管の数本は浮き出そうな光景にも、耀哉は顔色一つ変えない。
本人の人格が消失している現在の耀哉がするのは、出会った参加者を鬼にするという機械的な思考のみ。
怒りも喜びも無く、ただ淡々と毒を植え付けた存在の為に行動するだけ。
変形させた両腕の先端には自身の血を混ぜてある。
掠りでもすれば血が相手の体内へ瞬く間に侵入するのだが、当たらないなら当然鬼にはならない。

「やっつやっぱり柔軟弾丸!」

今だってそう、胸部と足を狙った両腕が空振った。
頭部を屈め足を折り畳み、身体全体をボールのように丸める。
的が少しだけ縮んだ所で大した効果は無い。
その筈が、しんのすけは丸めた身体で通路内を跳ね回った。
ピンボールのような動きを可能とするのは、ぷにぷに拳の奥義が八。
まるで本物のボールが如き弾力で回避・攻撃を行うのだ。

「うおっとと…」

ややあって丸めた体を元に戻すも、フラつきを見せる。
当然の如く迫る耀哉の両腕。
左右から挟み込む形のソレへは、跳躍し回避する。
着地するより先に、空中という身動きの取れない所へ振るわれる両腕。
しかし当たらない。海の中を揺蕩う海藻のような捉え所の無い動きにより躱されたのだ。
アーマージャックとの戦闘でも使用した、ぷにぷに拳の基本となる奥義である。

着地したならまたもや両腕に狙われる。
だがおバカなしんのすけとて、こうも繰り返し狙われたら次にどう動くべきかくらい瞬時に判断が可能だ。

「ここのつここから戦意尻失!」

張りのあるガッチリした尻を前方に突き出し、縦横無尽に動き回る。
偶然か必然か、しんのすけのケツだけ星人と同じ動きで相手の戦意を喪失させる奥義。
実際は尻を露出させなくても良いのだが、そこはしんのすけなので仕方ない。
尤も思考がスコルピオワームの毒により乗っ取られている耀哉には無意味。
一切の動揺無しに、攻撃の手を緩めない。
だが前々からしんのすけがしょっちゅう行っていたケツだけ星人を、ぷにぷに拳の修行により強化した動きだ。
以前かすかべ防衛隊のメンバーからも、普段のケツだけ星人より明らかにキレが増していると言わしめた程である。
耀哉の両腕は尻を露出したしんのすけへ掠る事すら叶わない。


632 : Broken Sky -Dance With Me- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 12:56:43 Koo/Qy5o0
元々しんのすけは千年に一人の逸材と見出され、恐るべき速さでぷにぷに拳の奥義を習得した。
加えて今の身体はサイヤ人の孫悟空。
亀仙人への弟子入りからセルゲームに至るまで、数多の修行と強敵との死闘を制して来た戦士。
肉体に刻み込まれた経験、しんのすけ自身が経験したぷにぷに拳とブラックパンダラーメンを巡るアイヤータウンでの戦い。
アーマージャックとの戦闘を経て悟空の肉体に馴染みつつある今、心身の経験が総動員されている。

攻撃をこうも避けられ続けれるのには、耀哉の方にも原因があった。

もしこの場に無惨との戦闘を経験した鬼殺隊の隊士がいたら、口を揃えて違和感を口にするだろう。
明らかに弱くなっていると。

拳を振るい、蹴りを放つ。たったそれだけの単純な動作ですら無惨が行えば脅威となる。
そして無惨の攻撃手段とはそれのみに収まらない。
両腕を触手のように変形、手数に優れた背中からと無惨が持ち得る力では最高の速度を持つ腿からの管、全身に生させた口による吸引及び奥の手である胴体部からの衝撃波、血液を茨状に伸ばす血鬼術等々、殺す手段なら幾らでもある。
だが現実にはルブラン前で蓮とエボルトを襲った時にも、此度のしんのすけに対しても耀哉が行っているのはただ一つ。
自身の血を付着させた両腕を振るう、それだけだ。
前提として、耀哉の目的は参加者の殲滅ではなく鬼に変えること。
変化させる前にどれ程の傷を負っていようと、鬼にしてしまえばあっという間に完治する。
但し死んでしまった者に血を与えても意味は無い。鬼の始祖だろうと死者に対して出来る事は何も無いのだ。
だから間違っても殺してしまわないよう、ある程度の加減を自身に課している。

加えて現在戦っている場所も問題だ。
彼らがいる下水道は狭過ぎるとまでは言わないが、決して広いとも言えない。
耀哉が危惧するのは戦闘の巻き添えによる天井部の崩壊。
鬼の弱点である太陽が下水道内に降り注ぐ事の一点。
竈門禰豆子のような例外中の例外でもない限り、太陽の光を浴びて消滅を免れる鬼などいない。
故に攻撃の勢いは鬼殺隊との決戦時どころか、ルブラン前での戦闘時より落ちている。

それらの事情があっても、しんのすけに余裕は無い。
相手は掠めるだけでも良くて、こちらは一発当たればアウト。
極度の緊張感はしんのすけの精神をじわじわと蝕んでいく。


633 : Broken Sky -Dance With Me- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 12:57:31 Koo/Qy5o0
余裕が無いのはミチルも同じだ。
鬼となったアドバーグをどうにか人間に戻したい気持ちはある。
その為に気絶させるなり拘束するなりして一度大人しくしてもらいたいが、現実にはアドバーグの猛攻に防戦一方。
尻を出して動き回るしんのすけに対抗意識でも燃やしたのか、ミチルに背を向けたかと思えば勢い良く尻を突き出した。
絵面は全く持ってふざけていても、威力は笑えない。
クレイジー・ダイヤモンドの両腕を交差させ防いだが、衝撃の強さに吹き飛ばされかけた。

「きゃあっ!」
「どんどんいかせてもらいますぞ〜!」

体勢がよろければ、尻を幾度も突き出し追撃を仕掛けて来る。
ただしラッシュは尻から出る。
一瞬浮かんだ意味不明な言葉を頭から追い出し、クレイジー・ダイヤモンドでどうにか迎え撃つ。
しかし一手遅い。柔らかな尻肉で突かれているとは思えない痛みに、ミチルの身体は悲鳴を上げた。

「っあぁ…!」

とうとう膝を付いたミチルに、アドバーグは尚も攻撃の手を休めない。
余計な抵抗をさせない為に、両腕を粉くくらいはするつもりだろう。
苦痛を訴える身体に鞭打ちクレイジー・ダイヤモンドを操作するも、やはり動きのキレは落ちている。
辛うじて防いではいても、一つまた一つと傷が刻まれていく。
このままでは致命的なダメージを負うのも時間の問題だろう。

「ミチルちゃん!」

仲間のピンチをしんのすけは見過ごせない。
再びやっつやっぱり柔軟弾丸を使い、耀哉の腕を回避。
跳ね回りながらミチル達へ急接近すると、そのままアドバーグを突き飛ばす。
背後からの衝撃によろけ、すかさずクレイジー・ダイヤモンドのラッシュがヒット。
殴り飛ばされ転がるも、すぐに立ち上がった。

「ありがとうございます、しんのすけしゃん…」

礼を口にしながらミチルも立ち上がる。
多少の距離は取ったが、すぐにまた詰められるに違いない。
一息つく間もなく、二体の鬼による攻撃を警戒し、


不可視の刃が四人へと放たれた。


634 : Broken Sky -生か死か- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 12:59:19 Koo/Qy5o0
◆◆◆


近場から攻める。
暫しの思考の後に、魔王は目的地を南西の街に決めた。
別段深い理由があっての事では無い。
単に参加者が寄り付きそうな場所が近くにあったから、それだけだ。

街に到着した魔王がまず訪れたのは、D-7に設置された施設。
283プロと地図に記載された三階建てのビル。
結論から言うと、ここでの収穫は得られなかった。
現代人には珍しくも無い電化製品の数々に首を傾げこそしたが、特別注目したものは無し。
留まっていても時間の無駄と判断し、早々に建物を後にした。

次いで魔王が向かったのは、南西のエリアであるE-6。
283プロ同様に地図に載っている施設、食酒亭を調べようとした時だ。
街の南側、入口付近に転がる死体を発見したのは。

足早に駆け寄り確認してみると、10代半ば程に見える少女が横たわっている。
そう言えば定時放送で発表された死者の肉体の中に、この少女もいたなと思い返す。
死体に何故か傷が無いのは気になったが、疑問の答えを返す者は存在しない為捨て置く。
デイパックは周囲に落ちていない。大方殺した人物が持ち去ったのだろう。
但し首輪は手つかずのまま。モノモノマシーンを今後も使うには、一つでも多く持っていて損は無い。
特に抵抗も抱かず首を刎ねると、首輪を回収する。

恨めし気にこちらを見上げる虚ろな目を無視し、魔王はざっと周囲を見渡す。
当初は食酒亭に向かおうとしていたが予定変更だ。
死体以外にもう一つ、気になる物があった。
地面に穴が開いている。覗き込むと異臭が鼻孔を刺激し、水の流れるような音が鼓膜を震わせる。

「地下水路か?」

街を設置するくらいだ、地下空間があっても不思議はない。
穴の周りの地面は砕け散り、地下への入り口が歪に広がっている。
仮にここを下りた者がいるとして、何故そうしたのか。
咄嗟の退路として選んだか、地上にはいられない事情でもあるのか。
さてどうするかと顎に手を当て、念の為に調べても損はあるまいと判断。下りてみる事にした。

バシャバシャと汚水を撥ねながら進んだ先で、魔王の目に飛び込んだのは四人の参加者。

こうなれば自分のやる事は一つだけ。
破壊の剣を四人目掛けて振るい、しんくう波を放った。


635 : Broken Sky -生か死か- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:00:16 Koo/Qy5o0



運が良かった、と言うべきなのかもしれない。
対峙するアドバーグが顔色を変えたのにミチルは気付いた。
この時だけ彼の視線は自分達ではなく、その後方の通路へと向けられたのだ。
後は考えるよりも先にスタンドを動かした。
背後へ向けてクレイジー・ダイヤモンドの拳を放ち、結果として不可視の刃を霧散するのに成功。

「うっ!?」
「おわぁ!?」

但し全てを防ぎ切る事には失敗。
撃ち漏らした刃はミチルとしんのすけの腕を切り裂き、赤い雫が汚水に落ちて混ざる。
しんくう波が当たったのは鬼達も同じ。
とはいえこちらは斬られた箇所が瞬時に再生。耀哉に至っては一滴の血も滴り落ちる事無く傷が修復された。
攻撃は当たらなかったと錯覚せん程に、肉体の再生速度が異常に速い。

彼らの意識は必然的に、今の攻撃を仕掛けた者へと集まる。
ただでさえ厄介な鬼達を相手にしているのに、ここに来て殺し合いに賛同した者が現れた。
表情が自然と強張るのをミチルは止められない。
アドバーグもまた、乱入者へ怒りを抱く。自分が斬られるのはまだしも、主にまで手を出すのは許されざる行為。
憤慨するアドバーグとは対照的に、耀哉は人形染みた無表情。
また鬼にする標的が一人増えた、そう思ったくらいか。

警戒や困惑の視線を無視し、魔王はミチルの傍らに立つ存在にを訝し気に見やる。
放送前に殺した太眉の剣士と共闘した男、そいつが操っていた人形とどこか同じ雰囲気を感じるのだ。
もしあの男と同じような能力なら警戒した方が良いだろう。
回復魔法で完治したとはいえ、最後に受けた謎の攻撃によるダメージは一歩間違えば死んでいてもおかしくない程に深刻なものだったのだから。

「あなたは…」

ミチルの問いかけを最後まで聞かずに駆け出す。
魔王の目的は彼らの殲滅であり、対話をする気は皆無。
まずは最も近くにいた橙色の服を着た男からと、しんのすけの首へ剣が振るわれた。
悟空の太い首だろうと、制限下で破壊の剣を直接受ければどうなるか。
まして首輪に当たってしまえば、問答無用の死が待っている。

しんのすけが回避に移るのを待ってはいられない。
接近した魔王へ横合いから叩き込まれるのは、クレイジー・ダイヤモンドの拳。
敵自ら射程距離内へ入って来たのならば好都合。
スピードに物を言わせひたすら拳を放てば、魔王はしんのすけへの攻撃を中断する他ない。
破壊の剣を防御に回し、ガンガンと金属を叩く音が下水道内に木霊する。


636 : Broken Sky -生か死か- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:01:23 Koo/Qy5o0
「ぐぅっ!?」

クレイジー・ダイヤモンドのラッシュに魔王は防戦一方、とはならない。
間髪入れずに放たれる拳の極僅かな間を縫って腕を振るえば、剣の切っ先が胸部を走る。
フィードバックによりミチルの身体に刻まれる赤い一本線。
一瞬遅れて出血し呻く。

「あの男と似た能力のようだが…」

一度ダメージが通ればラッシュの勢いは目に見えて弱まる。
ましてミチルはアーマージャックとの戦闘による疲労も癒えぬ身で、アドバーグとの戦闘に臨んだのだ。
魔王を相手にするにはコンディションが余りに悪過ぎる。

「貴様の方がノロい」

防御から一点、魔王が攻めに回る。
重量のある大剣が、まるで棒切れを振るうかの如く速度で殺到。
対するミチルにやれる事と言えば、クレイジー・ダイヤモンドで剣を防ぐ事くらい。
全ての斬撃へ完璧に対処するには体力が足りない。
故に致命的な攻撃のみは確実に防げるよう集中し、他は捨て置く。
首と四肢はまだ繋がったまま、しかし全身に切り傷が幾つ生まれる。

「こんのぉぉぉ!」

魔王目掛けて放たれる拳。
クレイジー・ダイヤモンドではなく、しんのすけのものだ。
乱入した男の正体が分からずとも、自分の仲間を傷付ける悪者だと判断。
仲間を守る為に振るわれたその一撃は、しかしあっさりと対処される。
しんのすけへ視線一つ寄越すことなく顔を少しだけずらせば、あっさりと回避に成功。
伸ばし切った太い腕を片手で掴むと、何としんのすけの身体が持ち上げられたではないか。
外見だけなら悟空の方が体格的に勝ってはいるだろう。
しかし魔王の肉体は人間以上の力を持つ魔族。その魔族の中で頂点に君臨したピサロである。

「おわあ!?」
「ぎえっ!?」

持ち上げたしんのすけを、あらぬ方向へ叩きつけるように投げ飛ばす。
魔王の手から離れた直後に、しんのすけは宙で何かと衝突。
悲鳴が起き、下へ落ちれば衝撃で汚れた水飛沫が飛び散った。
しんのすけへぶつかったものの正体はアドバーグ。
魔王へ飛び掛かった所へ、しんのすけを投げ飛ばされ揃って身体を濡らす羽目になったのだった。
復帰が速かったのはアドバーグ。
やはり鬼となった為に衝突の痛みも気にする事無く、立ち上がりと同時に駆ける。
ミチルへ剣を振るい続ける魔王へ向けて、両手を突き出す。
キタキタ踊りをする時と同じ形となった手は、人体のみならず岩石だろうと砕くだろう。
先程ミチルへも繰り出した素手による連続突きが迫っても、魔王の顔色に変化は無し。
剣を振るうのとは反対の手を冷静に翳す。


637 : Broken Sky -生か死か- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:02:31 Koo/Qy5o0
「ッ…」

唱えられる筈だった呪文は口内で霧散し、翳した左手は下ろされる。
攻撃の中断を選択した魔王は回避行動へ移行。
すぐさま飛び退けば、ミチルの眼前を醜悪な肉の鞭が通過。
あと数ミリずらせばミチルの顔面を引き裂いたであろう耀哉の腕は、何の被害も齎す事は無かった。
自身を狙った腕へ魔王が破壊の剣を振り下ろす。両断はされない、刃が肉を断ち切り終える前に再生が始まり完了したから。

「っう…!」

苦し気な声は反対の腕も鞭のように振るった耀哉ではなく、
腕の先の変形した爪を弾いた魔王でもない。
魔王に斬られ続け、今度は耀哉の攻撃による巻き添えを食らいかけたミチルのものだ。
耀哉は魔王を攻撃したが、それはミチルを助ける為では無かった。
仮に腕がミチルへ当たっていたとしても構わないのである。
彼にとってアドバーグ以外は鬼に変える標的に過ぎず、敵の敵は味方と共闘するつもりは無い。
魔王目掛けて振るわれる両腕は、ミチルとしんのすけを巻き込む事を全く考慮しておらず、二人はひたすら巻き込まれないよう避けるしかなかった。

「食らいなされ〜!」

砲弾の如き勢いで突き出されたアドバーグの尻を、魔王の冷めた瞳が貫く。
真正面から突っ込んでくる尻目掛けて繰り出されるのは、ピサロの身体能力による回し蹴り。
蹴り返されたアドバーグは素っ頓狂な悲鳴を上げて、耀哉の方へと逆に吹き飛んで行った。
耀哉も黙って衝突を受け入れはせず、軽く蹴り飛ばす。
アドバーグが潰れたカエルのような悲鳴と共に壁へ叩きつけられると、魔王は口を開く。

「ルカナン」

魔王以外の全員へ倦怠感にも似た感覚が身体を駆け巡る。
敵全員の防御力を低下させる魔法を使い、魔王は耀哉の両腕へ剣を走らせた。
しかし無意味。無惨の再生能力の前には両断どころか血の一滴を零す事すら不可能。
その筈だったが、此度は違う。

「…?」

僅かではあるが再生が遅い。
ルカナンにより肉体の強度のみならず、傷の治癒速度にも影響が出たらしい。
常人にはこれまでと同じ速度にしか見えないだろうが、魔王にはそれだけの効果でも十分。
完全に再生が完了するより早く次の呪文を唱える。

「マヒャド」

冷気の嵐が敵を凍り付かせる。
魔王が狙ったのは耀哉の両腕、再生途中の傷口が凍結する。
骨が、血管が、筋肉が傷口を覆う氷に阻まれ繋がらない。
無論この程度無惨の肉体機能を以てすれば、氷の除去は瞬く間に終えられるだろう。
その一瞬ですら魔王が動くには十分過ぎる隙だ。


638 : Broken Sky -生か死か- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:04:28 Koo/Qy5o0
一度跳躍した魔王は全身を独楽のように回転させ四人へ斬り掛かる。
承太郎と銀時にも繰り出したムーンサルトだ。
屋外での時と違い壁をガリガリと削りながら迫る刃を、四人は各々対処に回った。
耀哉とアドバーグは後方へ大きく飛び退き、攻撃範囲から逃れる。
動きが遅れたのはしんのすけとミチルの二人だ。
アーマージャックから始まった連戦による傷と疲労が、このタイミングで二人の足を引っ張る。

「うわあっ!?」
「ぎぃっ!?」

悲鳴が出ると言う事は、少なくとも首は繋がったままという事だ。
尤も安心できる要素にはなり得ない。
意識を失ったしんのすけの胸部から溢れた血は、胴着をあっという間に変色させる。
傷は決して浅くない。放って置いては悟空の肉体とて危険なのは間違いない。

「ドラァッ…!」

故にこそミチルは躊躇せずにスタンド能力を行使する。
完全に治すまではいかずとも、失血死は防げる程度には回復が可能。
自身の負傷を無視してこちらを優先した仲間の姿を見ずに済んだのは、しんのすけにとって幸運か。
絶対に死なせてたまるかとでも言いたげな、力強い瞳。
それが一つしかない。

ムーンサルトが当たる寸前、ミチルは咄嗟にクレイジー・ダイヤモンドで迎え撃った。
だから刃を幾分ズラす事には成功したが、斬られるの自体を防いだ訳では無い。
斬首を免れた代償として失ったのは右の眼。
東方仗助の片目は永遠に光を失った。

(ごめんなさい…)

自分が不甲斐ないせいで失明という傷を仗助に負わせてしまい、ただただ申し訳なさが募る。
同じくらいミチルの心を占めるのは現状への多大な焦りだ。
銀髪の乱入者、あの男は強い。今も耀哉とアドバーグを相手に焦りを感じさせず捌いている。
ただでさえアドバーグと耀哉に手を焼いていたと言うのに、更なる危険人物まで現れるなど悪い冗談だと思いたいくらいだ。
自分は体力的に余裕が無く、加えて銀髪の男だけでなくアドバーグ達にも気を回さねばならない。
アーマージャックの時と同じく仲間同士で連携するのなら勝ち目はあるかもしれないが、現実にはアドバーグ達はこちらへの被害などお構いなしに動く始末。
一度下水道を出て立て直す手もあるが、気絶したしんのすけを背負ってそれが出来るかは非常に難しい。
せめて蓮のような仲間がいればどうにかなった可能性はあるかもしれないが、言った所で何か変わるものでも無し。

「しんのすけしゃん」

だからミチルは決断する。
この状況で自分にやれる最善を。

「どうか、生きてください」

デイパックから取り出したのは、見慣れぬデザインの腕輪。
目を覚まさないしんのすけの手を取り、手首に装着する。
グズグズしている暇は無い。
腕輪にあるスイッチらしき箇所を押し込むと、それだけで全てが終わった。

しんのすけの姿が一瞬で跡形も無く消えてしまったのだ。


639 : Broken Sky -生か死か- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:05:18 Koo/Qy5o0
「マヒャド」

魔王が呪文を唱えたのはその直後。
足元にある汚水が凍り付き、魔王以外の全員がその場に固定される。
これがただの人間ならば為す術も無いだろうが、ここにいる面子ならば脱け出すのは容易い。
魔王とてそんなものは分かり切っている。
むざむざ脱出を待ってやる気は毛頭なく、翳した手は下ろさず続けて呪文を唱えた。

「イオナズン」

下水道内で大爆発が起こる。
汚れた水飛沫が散り壁が吹き飛ぶ。何より耀哉が警戒していた、天井の崩壊が巻き起こる。
降り注ぐ瓦礫など恐れるに足りない。
天からの祝福のように降り注ぐ光こそ、何よりの脅威。
肉体に刻まれた生存本能が絶えず耀哉に命令を下す。日光を避けろ、ここで滅びる真似は絶対にするな。
全身を絶えず移動し位置を変える無惨の脳がフル回転し、最適解を弾き出した。
後はただ行動に移すだけであり、それが可能な能力を有するのが無惨という鬼の肉体であった。

まず第一に優先するべきは自分自身の安全確保。
片手で瓦礫を叩き落としながら大きく後退、既にマヒャドの凍結は脱け出しており両腕も再生完了済だ。
太陽の光が入って来ていると言っても、下水道全域に被害が及んだのではない。
奥へ行けば太陽からは十分逃れられる。
次にやるべきは殺し合いにおける基本的な方針。即ち、鬼を一体でも多く増やす。
瓦礫を掃うのとは反対のを触手のように変形させ、まだ鬼となっていない者に巻き付ける。

「なっ…」

対象となったのは魔王ではない。
アレに腕を伸ばした所で簡単に躱されるか斬られるかの二択。
ではミチルならばどうか。
スタンドでどうにかこうにか自分へ降り注ぐ瓦礫を払いのけていた所へ、胴体に巻き付く触手。
掃除機のコンセントを巻き取るかのように、あっという間に耀哉の元へ引き寄せられる。
慌ててクレイジー・ダイヤモンドを操作し殴りつけるも、拘束は微塵も揺るがない。
これ以上天敵である日航が降り注ぐ場へ長居は無用。
取り出したマシンディケイダーへ飛び乗り、急発進させた。

「ぐぁあああああ…!!あ、熱い…!や、焼ける…!私の身体がぁあああ…」

背に届いた悲痛な声を無視して。


640 : Broken Sky -生か死か- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:06:20 Koo/Qy5o0
○○○


人々の歓声が上がる。
広々とした空間を余すことなく埋め尽くす熱気が、たった一人に向けられている。

『刺激が足りないと言うのなら、私が満たしてあげるわ。刮目しなさい!このヘレンがまた一歩、世界レベルに近付く瞬間を!』

応えるように彼女は踊り、歌う。
大勢が夢中になるのも納得だ。これを目にして魅せられない者がいるとは到底思えない。

ああ、彼女の歌と踊りはこんなにも人々から愛されるのに、
何故私のキタキタ踊りは忌み嫌われるのか。
どうして彼女ばかりが持て囃されて、キタキタ踊りは蔑ろにされるのだろう。

羨ましい、妬ましい、憎たらしい。

やはり人間ではキタキタ踊りを受け入れてくれないのか。
人間でなくならなければ、キタキタ踊りを踊ってくれないのか。
だったら人間を全部鬼にしなくては。
キタキタ踊りを世に広める為にも、人間の世界から鬼の世界へ変えなくては。

そうしないといけないのに、私の身体は動いてくれない。
焼けるような痛みが全身を駆け巡り、次の瞬間にはボロボロと崩れ去って行く。
このままでは死んでしまう。
そんなのは駄目だ。まだ私にはやらねばならない事が残っている。
人間を全て鬼にしなくてはならない。それに私が死ねば、もう誰もキタキタ踊りを後世に残す者がいなくなってしまう。
キタキタ踊りの後継者だって、まだ見つけてはいないのに。

だから私は死ねないんだ。
まだ生きて、生きてキタキタ踊りを――


641 : Broken Sky -生か死か- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:07:31 Koo/Qy5o0
……おや?
そこにいるのはまさか……。

勇者殿!勇者殿ではありませんか!
それにククリ殿までご一緒とは!
いやはや、まさかこのような場所で出会うとは思いませんでしたぞ〜!
何にせよこうして再会出来たのは実にめでたい!
では再会を祝して、キタキタ踊りを披露させてもらいますぞ〜!

…………勇者殿?
何故そんな暗い顔をなさっておられるのですかな?
折角また会えたのにそのような顔をしていては、ククリ殿まで落ち込んでしまいますぞ?

……ククリ殿も、どうして泣きそうになっているのですか?

お二人とも、どうしてそんなに辛そうなのですか?
どうして何も仰ってくださらぬのですか?

勇者殿、ククリ殿。
何故背を向けるのです?何処へ行くのですか?

待って、お待ちくだされ!
私を置いて行かないでください!
そ、そうだ!こんな時こそキタキタ踊りですぞ!
一緒に踊れば暗い気持ちもあっという間に無くなります!

だから、だから、だから――





「さ…ぁ……あなた…も……ご…いっしょ……に……」


スパンと首が刎ねられて、
胴体共々、汚水の上に崩れ落ちて、
すぐに皮一枚、骨一欠片、髪の毛一本すら残さず消え失せて、
後に残ったのは真っ赤な首輪が一つだけ。

それがキタキタ踊りに誰よりも魅せられた男の、酷く呆気ない終わりだった。


【アドバーグ・エルドル(キタキタおやじ)@魔法陣グルグル(身体:ヘレン@アイドルマスター シンデレラガールズ) 死亡】


642 : Broken Sky -生か死か- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:09:03 Koo/Qy5o0



拾い上げた首輪とデイパック、跡形もなく消滅した女の身体があった場所を見比べる。
チラリと下水道内を照らす光に目をやって、一つの答えに到達した。

「太陽が弱点だった、ということか?」

それならば、わざわざ地下へ潜ったのにも納得がいく。

日光が下水道へ降り注いだ時、運悪く丁度真下にいたアドバーグはモロに光を受けてしまった。
全身が焼き潰される激痛に絶叫し、逃げようにも瓦礫で手足が潰されたのだ。
焼け爛れた身体では再生するだけの力も残されておらず、魔王に首を斬られそのまま最期を迎えた。

「……」

死んだ女も含めて、相対した四人は何だったのかを今更ながら考える。
先の戦闘、形だけ見れば自分一人と連中の1対4だった。
しかし放送前に戦った二人の男、承太郎と銀時のような連携は見られず、どちらかと言えば各々が勝手に動いていた印象を受ける。
腕を触手に変形させた男がその最たる例。
あの男は今しがた死んだ女以外の二人を巻き込むように攻撃を行っていた。
一方で奇妙な人形を出す少年と橙色の服の男は、互いに庇い合う様子ではなかったか。
つまり少年と橙色の服男、女と腕を変形させた男で敵対していたのだろう。

後者二名にはある共通点がある。
どちらも速度に多少の違いはあれど異様な再生能力を有していた。何度斬ってもまるで効果が無かったのを実感したばかりだ。
再生能力、逃げた男、連れ去られた少年、仲間である筈があっさりと見捨てられた女。
これらの事情を組み立てて行けば、ある仮説を立てられる。

まず男が逃げた理由だがこれは簡単に予想が付く。
女と同じ再生能力を持つ、つまり女と同じ肉体ならば弱点も共通していると考えるのが自然。
あのまま戦い続けて自分も日光に当たってしまう、万が一の可能性を危惧し戦闘の継続より自身の安全を優先したのだろう。

次に男が女を見捨て少年を連れ去った理由。
女を助ける為にわざわざ日光へ当たりに行く危険は冒せないと言うのなら分かる。
だが少年を回収する意味が分からない。触手に幾度も巻き込まれそうになっていた事からも、男と少年は仲間といった関係からは遠い筈。
ここからは明確な証拠も無い魔王の想像でしかないが、死んだ女は後天的にあの再生能力を得たのではないだろうか。
即ち殺し合いの最中に他者の手で肉体を変貌させられた。それを実行したのが逃げた男。
となれば男の行動の意味はこういう事だ。
日光を浴びてしまった女に見切りを付け、代わりの手駒として少年を確保。
逃げた先で少年も女と同じように肉体を変えるつもりでいる。

(どうする…?)

男は鉄の馬にも見えるおかしな物体に跨り、一目散に逃げて行った。
アレに今から追いつけるかは微妙だが、太陽が弱点である以上日が沈むまでは地下への潜伏を余儀なくされる。
少なくとも橙色の服の男よりかは発見も容易い。
消える直前、少年が腕に何かを填めていた様子が見られた事から、きっと支給品でも使って逃がしたのだろう。

体力も魔力もまだ余裕がある。
どう動くかを思案する魔王の頭からは、殺した女への関心などとっくに薄れていた。


643 : Broken Sky -生か死か- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:10:30 Koo/Qy5o0
【E-6 下水道/昼】

【魔王@クロノ・トリガー】
[身体]:ピサロ@ドラゴンクエストIV
[状態]:疲労(中)、魔力消費(中)
[装備]:破壊の剣@ドラゴンクエストシリーズ、テュケーのチャーム@ペルソナ5
[道具]:基本支給品×2、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、電動ボート@ジョジョの奇妙な冒険、ランダム支給品0〜1、吉良の首輪、アドバーグの首輪
[思考・状況]基本方針:優勝し、姉を取り戻す
1:男(耀哉)を追うか?
2:強面の男(承太郎)は次に会えば殺す。
3:剣を渡した相手(ホイミン)と半裸の巨漢(志々雄)も、後で殺す。
4:ギニューという者は精神を入れ替える術を持っている可能性が高いため警戒する。
5:悲鳴嶼行冥や他に似たような気質(殺しても止まらない)を持ちそうな者達と戦う際は、例え致命傷を与えても油断するべきではないだろう。
6:モノモノマシーンを使う為に、可能な限り首輪も手に入れる。
7:魔王城があるかもしれない。(現状の探す優先度は低い)
[備考]
※参戦時期は魔王城での、クロノたちとの戦いの直後。
※ピサロの体は、進化の秘法を使う前の姿(派生作品でいう「魔剣士ピサロ」)。です
※回復呪文は通常よりも消費される魔力が多くなっています。
※ギニューと鳥束の精神が入れ替わった可能性を考えています。

※ストゥ(制裁棒)@ゴールデンカムイが下水道内に落ちています。


◆◆◆


「きゃっ…!」

乱暴に拘束を解かれ、ミチルは悲鳴を上げる。
ここまで来れば十分だと判断したのか、マシンディケイダーを止めた耀哉が無機質な瞳で見下ろした。
人形のような表情を睨み返しながらクレイジー・ダイヤモンドを出現させ、更にデイパックから物干し竿を取り出し構える。
ミチルにも仗助にも剣術の心得は無いが、これは耀哉を斬る為に出したのではない。
いざとなったら、これで自分の命を絶つ為だ。

自分一人で耀哉に勝てると等と思い上がりはしない。
負傷が大きく仲間もいない自分では、相手を取り押さえるのも、逃げ切るのも不可能に近い。
どう足掻いても、ミチルに勝ち目は無いのだ。

だが耀哉への敗北は死に繋がらない。
もっと恐ろしい、鬼と言う人喰いの怪物に変貌させられてしまう。
鬼となりしんのすけや蓮、ナナ達を喰い殺そうとする末路など断じてお断り。
だからせめて、鬼になり仲間を襲う前に人間のまま死んでやろうと決意した。

(しんのすけしゃん…。どうか、無事でいてください……)

しんのすけを逃がす為に使った腕輪。
あれは対象をランダムに転送させる、一種のワープ装置と言うべきアイテム。
どこに移動するかは完全に賭けであり、最悪の場合危険人物の目の前に転移してしまうリスクもある。
あの状況で他に方法が無かったとはいえ、彼の承諾も無しに使ってしまったのは本当に申し訳が無かった。
しんのすけが何処に行ったのか確かめる時間は残されておらず、ミチルにはもう無事を祈る事しか出来ない。

(エルドルしゃん……ごめんなさい…)

アドバーグがどうなったのかは考えるまでも無い。
連れ去られる直前に見た、彼が太陽に焼かれ苦しむ姿を。
シロと同じように、全身が焼け爛れるのをハッキリと見てしまった。
仮に生き残れたとしても、銀髪の剣士から逃げられるとも思えない。
結局自分は彼に助けられた恩を返せなかった。

(ナナしゃん、後はお願いしますね。しんのすけしゃん達と一緒に、生きてください……)

とうとうこの地での再会は叶わなかった少女。
自分が最も信頼する彼女は、今どこでどうしているのだろう。
きっと殺し合いを止める為に奔走しているのだろうけど、どうか無茶だけはしないで欲しいと思う。
殺し合いが始まる前、ナナが両親の死に負い目を感じていると知り、それを否定するべく考え込んだ。
ナナの抱える苦しみを取り払いたくて部屋を訪ねようとしたが、こうして殺し合いに巻き込まれ今に至る。
両親が殺されたのはナナせいじゃないと教えてあげられないのは、どうしても心残りだ。


644 : Broken Sky -生か死か- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:11:58 Koo/Qy5o0
大切な人達への思いを馳せるのもここまでのようだ。
こちらを見下ろす男の腕が波打つのが見える。
また触手のように変化させる気だろう。スタンドで腕を防ぎ、その間に自分の命を絶つ。
小刻みに震える両手でどうにか刀を自分の首に持って行く。
やはり、こんな状況でも死は恐いらしく苦笑いが浮かぶ。

だけどすぐに唇を噛み締め、目を瞑る。
仲間を襲う怪物になるくらいなら、こうした方がマシに決まっている。
意を決して刀を握る手に力を込めた。




「…………………は?」



その直前で聞こえた、間の抜けたような声が、ミチルの自決を押し留めた。
閉じていた瞼を開き正面を見れば、さっきと同じ光景。
シロとアドバーグを鬼にした男がこちらを見下ろしている。

「…え?」

何か違和感を感じ、その正体が男の浮かべる表情だと気付いた。
感情を削ぎ落したような人形染みた顔。
それが今は目を見開き、口元がワナワナと震えている、いやに人間臭くなっていた。

「ここは……どこだ…?君は…?」

耀哉を蝕むスコルピオワームの毒は未だ健在。
だが同時に毒を除去しようと、無惨の肉体による解毒も続いている。
シロを鬼にした後一度は元の人格を取り戻したように、永遠に思考を乗っ取られる訳では無い。
此度もまた、予期せぬタイミングで耀哉本来の人格へと戻ったのだ。
尤も、それが本人にとって幸運かどうかは別問題であるが。

「私は……何をした……?何を、したんだ……?」

自分がこれまで何をしていたのか。
シロを殺そうとしたはずなのに、何故こんな所にいるのか分からない。
大人に叱られるのを恐れる子どものように、震えの混じった声を絞り出す。
先程までとは別人のような姿に、ミチルは呆然と見つめ返すしかなかった。


【D-6とE-6の境界 下水道/昼】

【犬飼ミチル@無能なナナ】
[身体]:東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険
[状態]:ダメージ(大)、疲労(極大)、右目失明、左背面爆傷、右肩に裂傷、深い悲しみ、無力感
[装備]:物干し竿@Fate/stay night
[道具]:基本支給品×3、ラーの鏡@ドラゴンクエストシリーズ、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしたくない
1:え…?
2:どうしてキョウヤさんが…
[備考]
※参戦時期は少なくともレンタロウに呼び出されるより前
※自身のヒーリング能力を失いましたが、クレイジーダイヤモンドは発動できます。
※クレイジー・ダイヤモンドが発動できることに気付きました。
※名簿を確認しました。
※クレイジー・ダイヤモンドによる傷の治療は普段よりも完治に時間が掛かり、本体に負担が発生するようです。

【産屋敷耀哉@鬼滅の刃】
[身体]:鬼舞辻無惨@鬼滅の刃
[状態]:疲労(中)、絶望(大)、シロとしんのすけへの罪悪感(大)、困惑(大)、毒による激しい頭痛(多少緩和)、主催者への怒り(極大)
[装備]:マシンディケイダー@仮面ライダーディケイド
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:鬼を増やす
1:私は何をした…?
[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※スコルピオワームの毒に侵されています。現在無惨の肉体が抵抗中ですが、無惨の精神と共鳴した結果毒が強化され、精神が弱ったり意識を失うと理性を失います。二重人格みたいなものと考えると分かりやすい
※彼が死んだとき、鬼化させた参加者も死ぬのかは不明です。


645 : Broken Sky -生か死か- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:13:45 Koo/Qy5o0
【?????/昼】

【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[身体]:孫悟空@ドラゴンボール
[状態]:体力消耗(特大)、ダメージ(中)、腕に斬傷、胸部に斬傷(大・止血済み)、貧血気味、右手に腫れ、左腕に噛み痕(止血済み)、決意、深い悲しみ、気絶
[装備]:ぴょんぴょんワープくん@ToLOVEるダークネス(6時間使用不可)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:悪者をやっつける。
0:…
2:おじさん(産屋敷)とちゃんとおはなししたい。
3:逃げずに戦う。
4:困っている人がいたらおたすけしたい。
[備考]
※殺し合いについてある程度理解しました。
※身体に慣れていないため力は普通の一般人ぐらいしか出せません、慣れれば技が出せるかもです(もし出せるとしたら威力は物を破壊できるぐらい、そして消耗が激しいです)
※自分が孫悟空の身体に慣れてきていることにまだ気づいていません。コンクリートを破壊できる程度には慣れました。痛みの反動も徐々に緩和しているようです。
※名簿を確認しました。
※気の解放により瞬間的に戦闘力を上昇させました。ですが消耗が激しいようです。
※悟空の記憶を見た影響で、かめはめ波を使用しました。

※禁止エリア以外のどこかにワープしました。場所は後続の書き手に任せます。

【ぴょんぴょんワープくん@ToLOVEるダークネス】
ララの発明品である生体単位での短距離ワープを可能とする機械。
初期は行き先を指定できず、衣服はワープさせられない等の欠点があった。
後に改良された際に上記の欠点は無くなったが、据え置きタイプの為片道ワープしか出来ない。
支給されたのは初期の腕輪型。
本ロワでは手を加えられ衣服のワープも可能であるが、使用すれば装着者のみをランダムに禁止エリア以外の場所にワープさせる。
一度使用すれば6時間使用不可となる。





これにて下水道での戦闘は一先ずお終い。
能力者の少女はまたもや命を一つ取り零し、
嵐を呼ぶ園児は何が待ち受けるか分からぬ賭けに命を乗せられ、
鬼狩りの長は何も知らない。
成果を挙げた魔王の行く先は不明。
彼が止まる事は無い。
魔王に残された道は自分以外を殺し尽くすか、その命が果てるかの二つに一つのみ。
しかし彼の物語の続きは、今はまだ語るべき時では無い。

ではそろそろ、もう一つの戦いについても語るとしよう。


646 : Broken Sky -Blessed wind- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:16:02 Koo/Qy5o0
◆◆◆


(うーん…)

両面宿儺との邂逅を終え、村を後にしそう間もない頃。
ダグバは悩んでいた。

見つめる先にはおかしな生物が一匹。
キィキィと鳴き声らしきものを絶えず発しながら、一心不乱に駆けている。
その姿はどう見てもリントではない異形。
かと言って自分達グロンギとも違う。二足歩行ですらない。
強いて似ているものを挙げるとすればゴウラムだろうか。
古代のリントによって生み出された、クウガを支援する人口生命体。
現代においても度々クウガの力となり、数体の同胞が屠られたと聞く。
尤も実際にゴウラムとあの異形を並べてみれば、全く似ていないという結果で終わるだろうが。

異形の姿が見えなくなってから、少し遅れて別の何者かが現れた。
今度は黒髪の少年だ。脇目も振らずに異形と同じ方向へかけて行く。
異形と少年はどちらもダグバに気付いた様子は無い。
それなりに距離が離れており、片や逃げるのに、片や追いかけるのに必死でこちらへ意識を回す余裕も無かったのだろう。

彼らを追うか否か、それがダグバの悩みだった。
普段であればあれこれ考えずこちらから仕掛けていたが、今は南の方へ自分を楽しませてくれるだろう参加者がいるとの情報を得ている。
何より彼らの進行方向には宿儺と出会った村がある。
虫のような異形が急に方向転換して村には寄らない可能性もあるが、絶対にそうなるとも言い切れない。
もし異形と少年を追って村に戻ってしまえば、またあの少女の腹立たしいニヤケ面を拝む事になる。
ダグバからすれば、正直言って宿儺には二度と会いたくなかった。
最初に殺した少女のように逃げるだけの相手ならつまらないとは思いつつも、機嫌を損ねはしなかっただろう。
一方的に挑発を繰り返し、それでいてマトモに殺し合う気は無し。
アレと付き合っても笑顔になるどころか、ただただ不愉快になるだけ。
仮に今からでも気が変わったと本気で殺しに来るなら構わないが、そうならない事くらいダグバにも分かる。

「今はいいかな…」

追われる虫と追う少年を見送り、結局ダグバは彼らを無視すると決めた。
あの虫達が果たして宿儺と遭遇する羽目になったらどうなるかは多少興味があっても、直接確かめたいと思う程のものでも無い。
魔法の絨毯による移動を再開、村からはどんどん離れて行く。

道中誰とも会わずに真っ直ぐ南下し、辿り着いたのは流れる川のすぐ傍。
地図で言うE-5エリアの最南端にて、一度絨毯から降り大地に足を着ける。
これ以上南へ行けば禁止エリアに指定された場所へと足を踏み入れてしまう。
既に定時放送から数時間が経過している。
主催者の説明が正しければ、禁止エリアはとっくに機能している筈だ。

取り敢えず周囲を見回してみるが、人っ子一人見当たらない。
宿儺の情報によると、ダグバを笑顔にしてくれるだろう人物は南にいるらしい。
が、具体的にどのエリアだとか、何らかの施設にいるだとかは言って来なかった。
よくよく考えれば宿儺と件の参加者が出会ったのは、時間的に考えれば恐らく定時放送よりも前。
村を出た時は早々に宿儺から離れたいのと、無駄に不機嫌となったのを解消したくて頭を回さなかったが、とっくに南側から移動していると考える方が自然である。

結局は無駄足かとため息を吐き、またもや宿儺へのストレスが溜まる。
本人に文句を言ったところで、「貴様が愚図なのが悪い」とあの意地の悪い笑みと共に返されるだけだとは思うが。
とはいえ何時までも傍に居ない者へ苛立った所で、それこそ時間の無駄だ。
強引に気持ちを切り替え地図を取り出す。
南にいたであろう人物が向かったと思われる場所、それでなくとも参加者が集まりそうなエリアを探してみる事にした。


647 : Broken Sky -Blessed wind- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:16:55 Koo/Qy5o0
まず目に付いたのは北西にある施設、葛飾署。
警察官と呼ばれるリント達の拠点、警察署と言うやつだろう。
四方を池に囲まれた街に存在する施設だが、魔法の絨毯があればわざわざ橋を渡らずとも行ける。

「ガドルが標的にしたリント達なら、ここに集まるかも」

少し前、新たな進化を遂げたクウガに倒されたゴ集団のリーダーたる同胞。
そのガドルがゲゲルの標的として命を奪ったのは、警察官と呼ばれるリント達だった。
ガドルが己の力を高め、ダグバとのザギバスゲゲルに勝利する事を最終的な目標としていたのは知っている。
故にリントの中でも戦い慣れた戦士、警察官を標的と選んだ。
警察官一人一人はグロンギと戦い勝てる力は無いが、現代のクウガと協力関係にあるらしい。
更に連中はクウガの力抜きでドルドを撃破したらしく、それにはダグバも僅かながら関心を抱いたものだ。
そういうリント達ならば多少は楽しめるのかもしれない。

「でもやっぱりこっちかな」

暫し迷った末にダグバは葛飾署ではなく、北東にある街を目的地として選んだ。
理由は至って単純、こちらの方が地図に載っている施設の数が多いから。
施設が多いと言う事は、その分発見した参加者がいるということ。
それに街には必然的に人が集まるもの。
流石に誰とも会えない、何て事はもう無いだろうと再び絨毯に乗り込んだ。

街へ行く前、一応念の為にとE-6の草原地帯へ寄ってみたがやはり収穫は無し。
尤もダグバが草原を探索している間、E-5にて風都タワーへ向かった一団が合流の目印に晶術を使ったのだが、本人は知らない。
見事にすれ違った結果である。
寄り道を挟みつつも街へ到着したダグバが最初に見つけたのは、少女の死体。
首から上は離れた位置に転がっており、虚ろな顔と目が合った。
自分の肉体となった少女より同じか、少し年下に見える外見。
そう言えば放送で発表された死者の中に、同じ外見の画像があったような気がする。
さして興味も無かったのでうろ覚えだが。

死体の傍にデイパックは無く、首輪も持ち去られていた。
支給品はともかく何故首輪まで取ったのだろうか。
戦利品のつもりで集めているのかも。そんなどうでもいい事を考えつつ、地図にあった施設に行ってみようかと振り返り、

「ん?」

青褪めながら走る青年の姿が視界に映った。


648 : Broken Sky -Blessed wind- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:18:19 Koo/Qy5o0
○○○


私、どうなったんだっけ。
確か斬られて、地面に落っこちて…。
ああ、ヘマしちゃったなぁ。無茶しておいてこの様なんて、操真にも申し訳ないよ。

…うん、でも反省は全部終わってからだよね。
立って戦わないと。宮藤っぽい言い方をすれば、私が皆を守らないと、だね。


『ああああああああ!!』

この声…ロビン!?
まさか私が倒れてる間、マズい事になっちゃったの!?
待ってて!すぐに行くから!

『やめろ…!やめてくれハルトマン…!!』

え?
急に何言い出すのさ伊藤。
止めなきゃならないのは私じゃなくて、ロビンを襲ってる奴で……
あれ、今ロビンを痛めつけてるのって…

『あっ、あがっ、あぎゃああああああああああああああああああああああああっ!!!?!』

い、伊藤!?
な、何?何が起きてるの?誰に攻撃されてるの!?
…ちょっと待って。何か、おかしい。
伊藤を掴んでるこの腕、誰の?

『やめろって言ってんだろ!バカヤロウがあああああああっ!!』

え、え?ゲンガー…?
どうして、どうして私を斬るのさ…。
待って、待ってよ。だってこれじゃ、まるで私が……。

『テメェェェッ!何してくれてんだぁぁぁっ!』

こ、今度は何?
…えっ?あの燃えてるのって、ロビン…?
あ、あれ?あれ?私さっき何したんだっけ?
おかしい、おかしいよ。だって私は皆を守ろうと……

………………うそ、嘘だよ…。
こんな、こんなの……。

誰か、嘘だって言ってよ。


649 : Broken Sky -Blessed wind- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:19:43 Koo/Qy5o0



「っあああああああああ!!!」
「うおっ!?」

微睡の中にいたゲンガーの意識は急速に引き上げられた。
何時の間にか眠っていたらしい。
思い返せばバトルロワイアルが始まってから一睡もしていないのだ。
知らず知らずの内に疲れが溜まっていたのだろう。

何かの夢を見ていた気がするが、どんな内容だったかは忘却の彼方だ。
良い夢か悪い夢だったかも定かではない。
だが曖昧な夢など現実の光景の前にはどうだっていいこと。
目を見開き上体を撥ね起こした青年が、荒い呼吸を繰り返している。

「ハ、ハルトマン…?起きたのか?」

自分で聞いておきながら、当たり前だろと内心で呆れる。
彼女はあくまで気を失っていただけだ。死んでないのだから、いずれは目を覚ますに決まっている。
その瞬間が今やって来ただけであり、しかし手放しには喜べない事情がゲンガーにはあった。

「ケケッ!目を覚まさねぇからよ、ちょいと不安になっちまったんだぜ?
 おっ、そうだそうだ。今俺らがいるのは確か…食酒亭だか何だかって場所で…」

我ながらあからさま過ぎるとは思う。
触れて欲しくない話を露骨に避けているのだから。

「ゲンガー」

だからそう、こうして重苦しく呼ばれれば話を止めるしかない。
無理矢理明るく振舞っていた自分が馬鹿に思えるくらい、真剣な瞳をぶつけられる。
その目を見ただけで、彼女が何を聞く気なのかはすぐに分かってしまう。

「ロビンと伊藤は、どこ?」

そら来た、どう誤魔化した所でこの質問をされないはずが無いのだ。
だが質問が来ると分かっているのと、それに答えられるかは別。
口を開きかけ、何と言うべきか分からずゲンガーは目を泳がせる。
自分自身の反応に、馬鹿かよと内心で悪態を吐く。
これではカイジとロビンがどうなったのか、言葉にせずとも態度で丸分かりだろうと。
案の定、ハルトマンにもカイジ達がどうなったか分かったらしく俯いてしまった。


650 : Broken Sky -Blessed wind- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:21:07 Koo/Qy5o0
「あのさ…」

ゲンガーの顔を見ずに、というより見れずにハルトマンは言葉を紡ぐ。
もう一つ、どうしても確認しておかねばならない事がある。

「私が、殺したの?」
「っ!!ちが――」

う、そのたった一文字を口に出来たら。
ハルトマンの言葉を否定してやれたらどんなに良かったことか。
ここで嘘を伝えたとしてもハルトマンがカイジを殺している以上、次の定時放送後に精神と身体の組み合わせを記載した名簿が配られる。
名簿を手に入れる資格があるのは参加者を殺した者のみ。
今真実を伝えなくとも名簿が手元に来れば、ハルトマンが殺人を犯したという証明になってしまう。
先にゲンガーの口から伝えるか、定時放送後に名簿を寄越され事実を知るか。
しかし明確に何があったかを説明する手間は省けたらしい。
ゲンガーの様子だけで、自分が何をしたのかを理解してしまったのだから。

「――っ!!!」

ベッドから立ち上がると乱暴にドアを開け出て行く。
背中にぶつけられる静止の声も、足を止める効果は無い。
衝動のままに食酒亭を飛び出した。
行き先など決めていない。じっとしていては罪悪感に圧し潰されそうだ。

(私が、殺した…。殺したんだ…!)

人の死に慣れていないという訳ではない。
ウィッチとネウロイとの間で行われるのは戦争だ。
守るべき民間人への被害を防げなかった事例もあるし、祖国の大地を二度と踏めずに空で果てるウィッチだって珍しくない。
だがハルトマンが手に掛けたのはネウロイでもなければ、ファントムでもなく、救い難い悪党ですらない。
仲間だ。共有した時間は僅かでも、共に生きて殺し合いの阻止を誓った同志である。
ロビンを殺したのはチェンソーの悪魔だが、彼女が死ぬ原因を作ったのは紛れも無くハルトマンだ。
確かロビンには同じ船に乗って冒険する仲間がいたと聞く。
彼らと一緒に冒険する未来を、自分が奪ってしまった。
カイジだってそう。あの絶叫がこびりついたように耳から離れてくれない。

「あっ…」

足元が不注意になっていたのか、もつれさせて転倒する。
じんじんとした痛みなど気にもならない。
こんな痛みなど、カイジとハルトマンが受けた苦痛に比べたら鼻で笑われるレベルだ。

「何してんだろ…私……」

仲間を殺した挙句に逃亡とは。軍法会議物の大失態ではないか。
自嘲しようにも口元がちゃんと動いてくれない。
一度止まってしまえば、墨をぶちまけたように心が黒く染まり出す。
ああ、ああ、自分は一体……。

だが忘れるなかれ。ここは殺し合いの会場。
ハルトマン一人ぼっちの空間などでは無い故に、事態は彼女の胸中を無視してでも進んで行く。


651 : Broken Sky -Blessed wind- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:22:43 Koo/Qy5o0
「ねぇ」

力無く顔を上げた視線の先、一人の少女が立っていた。
髪色は黒ではないけれど、顔立ちから扶桑の出身に見える。
じっとこちらを見つめる姿に、警戒させてしまったかもしれないと思う。
当たり前だ。殺し合いという状況で錯乱したように走り回っていれば、何かあったと考えるのは普通のこと。
やらかしたなぁとぼんやり考えるハルトマンへ、少女は小首を傾げて尋ねる。

「君が、僕を笑顔にしてくれるの?」
「…え?」

言っている意味が分からず、つい聞き返す。
笑顔、笑顔と言ったかこの少女は。
どうしてこの状況で笑いを求めて来るのか、全く理解が及ばない。
まさか自分をコメディアンとでも思っているのだろうか。

困惑するハルトマンを尻目に、少女は「まぁいいや」と勝手に納得する。
何が良いのかも少女が何をしたいのかもさっぱりだが、相手が取り出した物を見た瞬間に些細な疑問は吹き飛んだ。

『メロンエナジー!』

「なっ!?」

奇妙な音声を発する錠前。
何時間にか腹部に巻き付けられた、赤いベルトらしき物。
ハルトマンの驚愕を余所に、少女は慣れた手付きで錠前を填め込んだ。

「変身」

『ロックオン!ソーダ!』

『メロンエナジーアームズ!』

左右のレバーを引くと、バックル中央部に液体が充填される。
ロックシードのエネルギーをゲネシスドライバーが解放した合図だ。
白い下地のライドウェアが全身を覆い、メロンを模した胸部装甲を装着。
新世代ライダー専用ウェポン、ソニックアローを右手に持つその武者の名はアーマードライダー斬月・真。
呉島兄弟が変身し混乱を引き起こした姿である。

「仮面ライダー…!?」

変身した姿の名称をハルトマンは知らない。
だからそう呼ぶも、少女が使ったのは錠前。ウィザードの指輪とは別物だ。
加えてベルトの形状も全く違う。
違う思い出せ。確か仮面ライダーとは晴人のみでは無かったはず。
詳細な情報こそ不明だが他にも多くの仮面ライダーと共闘したと、プロフィールにあったではないか。
それに康一が持っていたベルトだって晴人のと違っていたが、仮面ライダーに変身する為の物だった。


652 : Broken Sky -Blessed wind- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:23:54 Koo/Qy5o0
他の仮面ライダーはこういう見た目なんだ、と呑気に眺めている場合ではない。
少女は自己紹介すら無しに変身し、あからさまに殺気をぶつけて来ている。
今分かっているのは、仮面ライダーの力を持った危険人物に目を付けられてしまったという事。
ならばこちらも相応の対処をしなくては。

『ドライバーオン』

指輪を填めた手を腹部に当て、ウィザードライバーを出現させる。
向こうがライダーの力を振るうのなら、こっちも変身するまで。

「へぇ…」

ハルトマンが何をする気なのか分かったらしく、楽し気な声を出す少女。
生憎ハルトマンからしたら何も楽しくない。
喧しいくらいに待機音声が鳴り続ける中、この地で二度目の変身を

「――ッ」

果たそうとした寸前で、動きが止まった。
もう一度ハンドオーサーに指輪を翳す。
たったそれだけの動作が行えない。
脳裏にへばりつく仲間の最期が、耳にこびりつく絶叫が、ハルトマンから戦意を奪い去る。

「どうしたの?早くしてよ」

こちらの事情を知らずに少女が急かす。
言われなくとも変身するつもりだ。その筈なのに、身体は動いてくれない。

「私、は……」

キン、と音がした。
金属同士がぶつかったような音だ。
少女が纏う装甲に、何者かが斬り掛かったのが原因。

「ケケッ!俺が相手してやらぁ!」

刀を手にした少年が威勢よく吼える。
霧のように全身を揺らめかせる様は、まるでこの世に留まる悪霊のよう。
ハルトマンに追いついた先で、変身もせずに立ち尽くしている姿からただ事で無いと察したゲンガーだ。
近くの物陰に身体を隠して能力を発動、幽体となり刀を振るった。
緑の装甲に傷は無し。数時間前に相手したロボットに負けず劣らずの硬さ。
生身で刀を握っていれば痺れが来たかもしれないが、幽体故に無問題。


653 : Broken Sky -Blessed wind- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:25:09 Koo/Qy5o0
(クソッ!こんな時に襲って来るんじゃねぇよ!)

内心で悪態を吐くも、表面では不敵な笑みを崩さない。
ハルトマンが戦えるような精神状態でないなら、自分がどうにかする他ないのだ。
しんのすけとミチルが戻って来るのを悠長に待っていられない。
勝算などロクに無いが、今はとにかくこいつをハルトマン引き離す。
それしかないだろう。

「ふぅん…」

幽体という珍しい存在が現れたからか、相手の興味も一旦はハルトマンからゲンガーに移ったようだ。
ならばゲンガーにとっては好都合。
挑発するように手招きのポーズを取った。

「ケケッ!かかって来やがれ!」





幽体化したゲンガーを相手取り、どれくらい経過しただろうか。
ダグバの内心はとうに冷え切っていた。
単純につまらないのだ。
向こうが必死に攻撃してもアーマードライダーの装甲には効果が無く、こちらの攻撃も全てすり抜ける。
ハッキリ言って宿儺を相手にした時とどっこいどっこいである。
宿儺の時程苛立ちはしないのが唯一の救い(と言うのもおかしな表現だが)だろうか。

ハルトマンがベルトを出現させた時は、ようやく自分を笑顔にしてくれるらしい人物と出会え期待が高まった。
或いは宿儺が言っていたのとは別の人物の可能性もあるが、この際どちらでもいい。
だがどうした事か相手は一向に変身せず、代わりに現れたのは幽霊のような少年、ゲンガー。
少々肩透かしを食らった感はあったがこれはこれで興味があった為、標的をゲンガーへと変更。
尤もその興味は早々に薄れてしまったが。

銃弾が幾つも装甲へ命中し、その度に甲高い音が鳴る。
カイジの遺品である拳銃を連射するゲンガーへ、斬月・真は避ける素振りすら見せない。
同じく戦極凌馬が開発した兵器ならまだしも、ただの拳銃程度ではアーマードライダーに傷一つ付けられなかった。
やがて弾を全て撃ち尽くしたのか、トリガーを引いてもカチカチと乾いた音のみが出るだけ。

「クソッ!」

銃は使い物にならなくなっても、武器はまだ他にある。
ミチルから譲渡された支給品の一つ、月に触れるを取り出し操作。
元はボンドルドの武装であったが、此度は誰でも使いこなせるよう調整が施されている。
筒から粘液のような黒い触手が飛び出し、標的を絡め取らんと襲い掛かった。

『メロンエナジースカッシュ!』

斬月・真は慌てずにロックシードをソニックアローへ装填。
シャフト部に備わった刃へエネルギーが流れ込む。
剣のように振り回せば、緑色のエネルギーが刃状へ変化し黒い触手を切り裂く。
それだけでは終わらない。
月に触れるを操作した幽体のゲンガーをすり抜け、背後の建物を破壊する。


654 : Broken Sky -Blessed wind- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:27:34 Koo/Qy5o0
「げっ!?」

焦りを隠さずに振り返るゲンガー。
自分へのダメージは皆無だというのに、何故そんな反応をするのか。
訝し気に思った斬月・真がゲンガーと同じ方へ視線をやれば、その理由が分かった。
建物が破壊された事で物陰に座り込んだ人物、鶴見川レンタロウの肉体がここから丸見えとなっていたのだ。

これまでの戦いでゲンガーは幽体離脱を行う際、肉体は戦場から出来るだけ離れた位置へ置いて来た。
しかし今回はハルトマンを追いかけていた為、わざわざ安全そうな場所まで移動し幽体離脱をする暇が無かった。
だから近くの物陰で行うしかなかったのだ。

「……」

相手の慌てようからして、あの身動ぎもしない肉体を発見されるのは相当マズいらしい。
ならアレを攻撃すれば、この幽霊のような少年へ攻撃が通るのではないか。
そう推測した斬月・真は、次いでチラリとハルトマンを見やる。
ベルトこそ出現しているが、相変わらず変身を行う気配は無し。
このままでは自分は笑顔になんてなれない、どうしようかと考え、

(……あ)

一つ思い浮かんだ。
と言ってもそう複雑なものではなく、シンプル極まりない方法。
ダグバの案は実に単純、先にゲンガーを殺せばハルトマンも怒りで戦う気になるかもしれない、というもの。
以前、ジャラジのゲゲルに激怒したクウガは、彼へ凄惨極まりない攻撃を与え殺したのだと言う。
ならそれと同じように相手の怒りを引き出してやれば、こちらを殺しに向かってくるかもしれない。
そうと決まれば早速行動に移す。レンタロウの身体の元へ近づいて行った。

「止まれ!止まれってんだよ!」

させじと斬月・真へゲンガーは刀を振るう。
幽体離脱の弱点は元の肉体が完全に無防備となってしまう事。
近寄らせまいとするゲンガーの猛攻は、斬月・真を止めるに至らない。
実体が無い故に無敵とも言える防御性を持つが、攻撃面では常人の域を出なかった。

「ゲンガー……!」

仲間が絶体絶命の危機を迎えている。
それが分かってもハルトマンは動けない。
何とかしたいのは山々なのに、斬月・真を止めようとすると身体が震え出すのだ。
今も心を蝕み続ける、カイジとロビンの最期。
自分の犯した罪が足枷となり、ハルトマンの動きを封じている。

「くっ…!」

確かに自分は許されない事をしでかした。
でも今はゲンガーを助けに行くべきだろう。
罪に圧し潰されている場合か?
自分自身へ喝を入れてみても、身体は一向に言う事を聞いてくれない。

「くぅ……!」

そうこうしている間にも、ゲンガーが危ないと言うのに。
仲間の命が奪われそうになっているのにこの体たらく。
情けないにも程がある。
己への怒りと悔しさで、何時の間にやら視界が滲み出した。


655 : Broken Sky -Blessed wind- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:28:29 Koo/Qy5o0
「ッ、ハッ、グゥ…!?」

変化はそれだけでない。
胸が苦しく、呼吸もままならなくなる。
彼女は気付いているだろうか。自分の身体が、徐々にひび割れている事に。

「ハァ、ハァ、ま、さか……」

唐突な苦痛に思い当たる理由は一つ。
操真晴人の肉体だからこそ起こりえる、最悪の事態。
ゲートである人間の絶望がトリガーとなる、ファントムの誕生。
晴人はゲートでありながら己の意思でファントムを自らの精神、アンダーワールドへ閉じ込めた為魔法使いの資格を得た。
だがそれは、晴人が二度とファントムにはならないという事では無い。
もし晴人が完全な絶望に堕ちた場合、今度こそ本当にファントムを生み出してしまう。

「そ、んな……」

肉体がゲートならば、精神が別人であってもファントムが生まれてしまうのか。
愕然とするハルトマンの身体から力が抜けて行く。
仲間を殺しただけでは飽き足らず、危険な怪物となりもっと大勢を手に掛ける。
ハルトマンが望まずとも、現実にファントムが今か今かと姿を現わそうとしていた。

「わ…た…し……」

魔女から最悪の怪物へ。
それが、そんなものが自分の末路――





「…………違う」

否定する。
か細い声で、されどれっきとした己の意思で以て、
絶望に堕ちる最期になどしてたまるかと、言ってのける。

「私がやったのは…許されるものじゃないけどさ……」

ロビンを痛めつけた、カイジを殺した。
紛れも無い事実だ。言い訳なんてしないし、する気も無い。

「操真を巻き込んで、絶望しちゃうのは違うよね」

だがそれらは全てハルトマンの罪だ。
肉体の持ち主である、操真晴人の罪ではない。
ハルトマンの絶望に晴人を巻き込んで良い理由など一つも無い。


656 : Broken Sky -Blessed wind- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:29:18 Koo/Qy5o0
「ごめん操真、アンタはまだ生きなきゃならないもんね」

彼の命を、自分のせいで失わせる訳にはいかない。
彼の旅を、殺し合いなんかで終わらせて良い筈がない。

仲間を殺した罪悪感は健在だ。
だが後悔に沈むのも、責め苦を受けるのも後で纏めて背負ってやる。
今はどうしてもやらねばならない事がある。
お人好しの魔法使いへ身体を無事に返してやる、仲間を殺した自分を見捨てなかった少年を守る。
その為には、絶望なんかしている暇は無い。

気が付けば息苦しさも体中を駆け巡ったひび割れも、最初から無かったかのように消えていた。
今度はいける。ちゃんと戦える。
根拠は無いけど確信はあって、仲間を傷付ける敵の元へ力強く踏み出せた。

「おーっと、それ以上は行かせないよ!」

快活な声にゆっくりと斬月・真が振り返る。
どうにか止めようとしていたゲンガーも同様だ。
今にも死にそうな顔をしていた青年が、不敵な笑みを浮かべる姿に恐る恐る問い掛けた。

「ハルトマン、お前……」
「面倒かけてごめんね、ゲンガー。こっからは私に任せて」

さっきまでとは別人のような佇まいに、思わず肩の力を落とす。
どうやら彼女は自力で立ち直ったらしい。
結局自分は気の利いた言葉一つ掛けてやれず、役に立たなかった。
何ともまぁ情けなくて、乾いた笑いが浮かんだ。
ただハルトマンが戦意を取り戻したのなら、一つだけやれる事がある。

「使えハルトマン!」

ミチルから譲渡された、吉良吉影の支給品。
内の一つにあった、ハルトマンの手元にあってこそ真価を発揮する道具。
投げ渡されたソレをキャッチし、頷き返す。
これなら負ける気はしない。


657 : Broken Sky -Blessed wind- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:30:25 Koo/Qy5o0
『シャバドゥビタッチヘンシーン!シャバドゥビタッチヘンシーン!』

「変身!」

『ハリケーン!ドラゴン!ビュービュー!ビュービュービュビュー!!』

緑色の魔法陣を潜り抜けたハルトマンは、指輪の魔法使いへ姿を変える。
チェンソーの悪魔の時のも見せたハリケーンスタイルのウィザード。
此度は前回とは一味違った。
装甲はより豪奢で堅牢と化し、額や両耳にあしらわれるのは眩い輝きの魔法石。
宝石のような頭部には竜のヒゲをモチーフとした装飾、エクスドラゴロッドが盛り込まれている。

仮面ライダーウィザード・ハリケーンドラゴン。
輪島繁が新しく加工した指輪により変身する、ウィザードの強化形態の一つ。
通常形態よりも派手な外見だが、見掛け倒しでは無い。
証明するべくウィザーソードガンを構える。

「やっとその気になったんだね」

長々と待たされたが、ようやく楽しめそうな相手が現れた。
期待を込めてソニックアローを引き絞り矢を放つ。
一直線に向かって行く鋭利なエネルギーは、一般的な矢と比べ威力も速度も段違い。
戦極ドライバーを用いたアーマードライダー達ですら、対処に手を焼いた程だ。

「せやっ!」

強化形態のウィザードにとっては、何ら問題ない。
迫り来る矢を真っ向から斬り落とす。
たった一度の攻撃のみで終わらせる斬月・真ではない。
間髪入れずに引き絞り、次々に矢を発射する。
狙うは急所、装甲に守られているとはいえ当たればダメージゼロとはいかないだろう。
当たらなければ意味のない話だ。
最初の一発と同じように斬り落とすか、或いは僅かに体を逸らして回避。

「こっちの番だよ!」

何度目かの矢を斬り落とし、ウィザードが攻めに転ずる。
ウィザーソードガンをガンモードへ変形、引き金を連続して引く。
対ファントム用の銀の銃弾は、アーマードライダーにも効果的なダメージを与えられる。
加えて全ての弾には追尾機能が搭載済み。
回避行動に移ったとしても、ウィザードの銃撃からは逃げられない。


658 : Broken Sky -Blessed wind- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:31:28 Koo/Qy5o0
「おっとっと」

避けた筈の弾が胸部に命中し、火花が散る。
その一発のみで回避行動は無意味と斬月・真は理解。
ソニックアローを振り回し、シャフト部の刃で弾き落とす。
ウィザードにやれるのならば、同じく超人的な身体能力のアーマードライダーにだって可能である。

弾を斬り落としながら斬月・真はウィザードへ接近。
ソニックアローは遠距離のみならず近距離でも効果的な武器だ。
あらぬ方向へ銃口を向けたウィザーソードガンが火を吹き、四方八方から銀の弾が飛来する。
豪快に振り回されたソニックアローが一つ残らず防ぎ、刃は眼前のウィザードへ振り下ろされた。

「あれ?」

しかし当たらない。
ヒラリと華麗な足運びで移動したウィザードの回避。
攻撃の空振りにより僅かに前のめりとなった斬月・真へ、回し蹴りが命中。
胸部装甲への衝撃に、倒れはせずとも後退る。

「やぁっ!」

すかさず追撃に移るウィザード。
手には再度ソードモードへ変形させた専用の武器。
魔力を帯びた刀身はファントムの外殻すらも切り裂く、折り紙付きの威力を持つ。
真っ直ぐ突き出した切っ先が狙うは、装甲に覆われていない腹部。
ライドウェアもまた対衝撃性があると言っても、装甲箇所に比べれば耐久力は低い。

「っと…」

一方的な攻撃を甘んじて受ける斬月・真ではない。
ソニックアロー振り上げるようにして、刃を弾き返す。
今度はこちらの番とばかりにウィザードを直接斬ろうとするも、すでに標的の姿は消えているではないか。
今の今まで眼前にいた筈のウィザードは、何時移動したのか斬月・真の背後にいた。
背中に衝撃、少し遅れて痛みが襲う。

振り向き様にソニックアローで斬り付けるも、手応えは無い。

(どこに…)

またしても一瞬で姿を消したウィザードに、斬月・真は周囲を見回す。
姿は見つけられず、だが敵意が叩きつけられる。
視線を向けるよりも先にソニックアローで防御、直後に頭上から刀身が振り下ろされた。
跳躍してからの攻撃を防がれたウィザードは、敵の反撃を待たずに動く。

「そりゃぁっ!」

斬月・真の背後へ着地、と同時にウィザーソードガンによる斬撃。
再び背中への痛みに斬月・真が反応すれば、次の瞬間ウィザードは別方向から攻撃を行う。
瞬間移動もかくやといったスピードだ。
元々ハリケーンスタイルはウィザードが変身する四形態の中で、最も速度に優れている。
そこへ加えて魔法により風を体に纏わせる事で、更に速度を上昇。
トドメとばかりに現在のウィザードはハリケーンスタイルの強化形態だ。
当然魔法の出力も通常形態時以上へとなっている。


659 : Broken Sky -Blessed wind- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:32:29 Koo/Qy5o0
「そこっ!」
「っぅ……」

正面からの突きを間一髪防ぎ、斬月・真は後方へ大きく跳ぶ。

『ロックオン!メロンエナジー!』

地面への着地を待たずに、ロックシードをソニックアローへ装填。
ロックシードのエネルギーが矢の威力を激的に強化する。
宙へ浮いた態勢のまま弦を引き絞り、解放。
地上のウィザードを射殺さんと、緑の矢が迫る。

『キャモナスラッシュシェイクハンズ!キャモナスラッシュシェイクハンズ!』

『シューティングストライク!フー!フー!フー!』

矢はウィザードの華麗に舞うかの如き動作により当たらない。
回避ついでにウィザーソードガンのハンドオーサーへリングを翳す。
銀の弾丸へハリケーンスタイルの魔力が付与されたのだ。
銃口から発射されたのは、緑色の塊。
暴風を弾の形へ変化させたようなソレは、数発連続で斬月・真に命中。
着地は叶わず地面に叩きつけられ転がって行った。

「フィナーレだよ!」

『ルパッチマジックタッチゴー!ルパッチマジックタッチゴー!』

『チョーイイネ!サイコー!』

決着を付けるならこのタイミングと確信。
ハンドオーサーにリングを翳し、足先に魔力を集中させる。
軽やかに跳躍すると、斬月・真目掛けて右足を突き出した。
纏わせた竜巻が轟々と唸りを上げる。

「あの女の子とは違うけど、楽しいよ」

喜びを言葉に乗せ、斬月・真も迎え撃つ。
金髪の剣士…キャメロットと戦った時以来の楽しさだ。
山間部での戦闘時にも使ったマジックアイテム、ミニ八卦炉を取り出し構える。
ロックシードのエネルギーが充填され、上空のウィザードへ極太の光線が発射された。

真っ向から激突する二者の力。
互いの能力差、コンディションの差を比べても互角と言った所か。
勝利を左右したのは、ハルトマンにあってダグバには無いもの。
即ち、仲間の有無。


660 : Broken Sky -Blessed wind- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:33:15 Koo/Qy5o0
「ケケッ!俺を忘れんなよ!」

突如斬月・真の視界が塞がれる。
投げ付けられた物体がカメラアイを遮ったのだ。
振り払ってみれば何のことは無い、ただの枕ではないか。
やったのはつまらない相手と捨て置かれた幽体の少年、ゲンガー。
これと言った使い道も見つからず、デイパックの奥底に眠っていた支給品を投げ付けた。
無論、銃弾ですら傷付かなかった相手に投げてもダメージは期待できない。
そんな事は分かり切っている。

「イジワルズ改めジャマモノズとして、邪魔してやったぜ!」

その通りだ。
ウィザードへ集中せねばならない状況で邪魔をされた。
ほんの僅かとはいえ気を逸らしてしまった。
こうなれば、結果はもう一つしかない。

「でやぁああああああああああああああああっ!!!」

光線をど真ん中で切り裂くようにして、ウィザードが斬月・真へ到達する。
胸部へ叩き込まれる衝撃、暴風にもみくちゃにされるかのように白の弓兵が吹き飛んで行く。
風に呑まれて悲鳴も聞こえない。
後方にあった商店へ頭から突っ込むと、何かが宙へ投げ出された。
地面へガチャリと転がったのは、赤いバックルとメロンの錠前。
勢いが強過ぎて外れたらしい。

「ふぃ〜…」

一仕事終えたように、額の汗を拭う仕草をする。
完全に安心するには早いけど、どうに勝てたのだ。
されど気は完全に緩めずバックルと錠前を回収する。
取り敢えず、仮面ライダーへの変身する道具は奪っておくべきだろう。

「ありがとね、ゲンガー」
「あ?あー…おう」

援護してくれて、そして自分を見捨てず守ってくれて。
二つの想いが込められた礼を受け、どこかむず痒そうな表情となる。
純粋に感謝を述べられるのは慣れていなかった。
仲間の反応にカラカラと笑えば、相手も釣られて笑ってくれた。


661 : Broken Sky -Blessed wind- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:34:55 Koo/Qy5o0



仲間を殺したという絶望に一度は呑まれかけた魔女は、希望の魔法使いとして再起を果たした。

希望とは、絶望を掻き消す光のようなものだ。
今回もまた、絶望の後には希望が訪れた。

しかし忘れてはならない。
勘違いをしてはならない。

希望があれば絶望があり、絶望があれば希望がある。

どちらか一方のみで世界は回らない。

希望があるからこそ、絶望はより一層色濃くなり、
絶望があるからこそ、希望はより一層輝きを増す。

絶望の後には希望が来る。
だが永遠に続くものではない。

希望の後にまた絶望が来る筈が無いと、どうして言い切れようか。

世界は希望一色には決してならない。

だから、そう










『ARK ONE』

「変身」

『SINGURISE』





新しい絶望が始まった。

これはただそれだけの話。


662 : Broken Sky -ボクがアークの仮面ライダー- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:36:58 Koo/Qy5o0



ダグバがこれまでそのベルトを使わなかった事に、特別深い理由は無い。

説明書によるとゲネシスドライバーとは製作者が違うものの、姿を変えて力を得られるのは理解している。
ただゲネシスドライバーと違い、このベルトは一度変身すると一定時間経過しなければ再変身出来ない制限があるのだ。
それなら余計な制限など無いゲネシスドライバーの方が良いと、もう一つのベルトは仕舞いっぱなしとなっていた。

その後は最初に殺した赤い服の少女に始まりゲネシスドライバーを使い続けた結果、
斬月・真に使い慣れて来た事もあり、積極的にもう一つのベルトを使う気は起きなかった。

しかし今、手元からゲネシスドライバーが離れてしまい、丁度良い機会と見る。
指輪で変身した青年はまだ健在、ならまだまだ遊べるだろう。

もっと自分が笑顔になりたいから。
子どものような無邪気さと身勝手さで、深く考えずにダグバはベルトの使用に踏み切った。

そうして彼は、新たなライダーへと変身を遂げたのだ。

その名は仮面ライダーアークワン。
嘗て、人間とヒューマギアが手を取り合う未来を夢見た青年が、身を焦がさん程の憎悪により変身を遂げた悪意の象徴である。


663 : Broken Sky -ボクがアークの仮面ライダー- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:38:02 Koo/Qy5o0
◆◆◆


『破壊 破滅 絶望 滅亡せよ』

『CONCLUSION ONE』

赤い稲妻が迸ったかと思えば、商品棚やガラスが纏めて吹き飛んだ。
自身が破壊した被害など気にも留めずに、ゆっくりとハルトマン達の前へ姿を現わす。

その姿を見た時、ハルトマンとゲンガーは全く同じ感想を抱いた。
危険だ。こいつは非常に危険である。
脳内にはヤバいヤバいと語彙力をゴミと共に投げ捨てたような言葉しか浮かんでこない。

黒地のボディースーツに純白の装甲。
胸部の意匠と左目は、ゾッとするくらいに輝く赤。
一歩、また一歩と恐怖心を煽るかのように近付くアークワンのその様は、悪魔の如き恐ろしさだ。

黒い悪魔の異名を持つ自分が、よりにもよってそんな感想を抱くなんて。
そんな風に呆れ笑いを浮かべようとするも上手く行かない。
仮面の下で、ハルトマンは引き攣った表情しか出来なかった。

(ッ!!しっかりしろって!恐がってる場合じゃないだろ!)

恐怖を無理矢理打ち消すように、己へ喝を入れる。
敵がまだ仮面ライダーに変身する道具を持っていたのは驚きだが、やるべき事は先程までと同じ。
ウィザーソードガンをガンモードへ変形、先手必勝とばかりに撃つ。
新しいライダーがどんな能力や武装を持っているのかは未知数。
まずは遠距離で様子見との判断。

直後、その判断が全くの無意味と思い知った。

「えいっ」

最初は耳へ気の抜けた声が届いた。
敵が放ったものだと分かり、それにしてはやけに近くから聞こえて来たのを疑問に思う。
自分と相手の間にはそれなりの距離があったはずだろうに。

次に感じたのは胸への衝撃。
硬いものがぶつかるような感覚がして、前にも同じような事があった気がした。
意外にも早くに思い出した光景は、チェンソーの悪魔との戦い。
あの時はふざけた威力の銃で胸を撃たれたんだっけ。
変身しているとはいえ同じ箇所への攻撃に、痛みが少し遅れてやって来る。

最後に感じたのは自分の身体が宙に浮いている感覚。
ハリケーンスタイルの魔法で浮遊しているのではない。
自分でやったのでないなら、原因は敵のライダーしかいないだろう。
ああ殴り飛ばされたんだなと理解し、受け身も取れずにアスファルトへ叩きつけられた。


664 : Broken Sky -ボクがアークの仮面ライダー- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:39:01 Koo/Qy5o0
「がっ……はぁ……」

呻き声を出すだけで、意識が飛び退きそうな激痛が駆け巡る。
一体全体何をされたのか。
答えは単純明快。近付いて殴った、たったそれだけ。
冗談だとしか思えない速さと威力のオマケ付きであるが。

(やばいかも……)

一発食らっただけでこの様だ。立ち上がろうとすれば膝が笑い、視界が安定しない。
気絶せずにいる自分を褒めてやりたいくらいだ。
現在変身しているウィザードはチェンソーの悪魔と戦った時よりも、能力が強化された形態。
だというのにパンチ一発でダウン寸前へと追い込まれている。
本当に、悪い冗談だとしか思えなかった。

「これ、返してね」

殴り飛ばされたウィザードの手から落ちた、ゲネシスドライバーとロックシードを拾い上げる。
元は自分に支給された物を勝手に持って行かれるのは、ダグバでも気分の良いものでは無いようだ。

「なっ…ハ、ハルトマン…!?」

気が付いたら仲間が地面を転がっていた。
不可解な光景に叫ぶゲンガーの存在が、ハルトマンに戦う理由を思い起こさせる。
変身している自分でさえこれなのだ。
幽体離脱の種が割れてしまっているゲンガーはもっと危険に違いない。
彼を危険から遠ざけなければ。
もうこれ以上、仲間を死なせるのは真っ平御免だ。

「――ふぅっ!」

『スペシャル!』

痛みを噛み殺して、ハンドオーサーにリングを翳す。
ウィザードの背後に出現するのは緑色の魔法陣。
ハリケーンドラゴン固有の魔法を使う時だ。
背中から生えるように、巨大な翼が出現した。
強化形態のウィザードは自身のアンダーワールドに宿るファントム、ウィザードラゴンの能力の一部を現実世界で使う事が出来る。
フレイムドラゴンは頭部、ウォータードラゴンは尻尾、ランドドラゴンは爪。
そしてハリケーンドラゴンは翼により、風の魔法を使用した時以上の速度と高度で空中飛行を可能とする。

「行くよっ!!」

気合を入れ、アークワンへと急接近する。
敵の速さが桁外れなのは分かったが、こっちだって負けてはいない。
風を全身に纏い、更にウィザードラゴンの翼を用いての急加速。
見事アークワンへと近付いたウィザードは、勢いを殺さずに相手の腕を掴み上げる。
余計な抵抗をさせる余裕はない。
限界まで高度を上げると、最高速度で離れて行った。

「ハルトマン!おい!」

地上から微かに聞こえたゲンガーの叫びに、返す事無く。


665 : Broken Sky -ボクがアークの仮面ライダー- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:40:17 Koo/Qy5o0
『チョーイイネ!サンダー!サイコー!』

ゲンガーから十分に距離を取ったと確信し、ハンドオーサーにリングを翳す。
チェンソーの悪魔との戦闘時にも使った魔法は、ハリケーンドラゴンとなった今更なる効果を発揮する。

アークワンを頭上に放り投げるようにして手放す。
何故かこれまでロクに抵抗をして来なかったが、こっちにとっては好都合。
敵の落下を悠長に待ってはいられない、アークワンの周囲を円を描くように回転する。
二周、三周と繰り返す内に魔力を伴った風がとぐろを巻き、アークワンを閉じ込めたではないか。
敵を拘束して終わりではない、本命はアークワンの頭上に発生した雷雲である。
ハリケーンドラゴンは風と大気のみならず、雷をも自由に操れる。
風で標的を閉じ込め、高威力の雷を落としてトドメを刺す。
これこそがハリケーンドラゴンの切り札。

「これで…!!」

いけると確信した。

「えいやっ」

アークワンが、赤と黒の混じり合ったエネルギー波を放つまでは。

拘束していた風も、頭上から落とした雷も纏めて消し飛ばされる。
それらを操るウィザードとて例外ではない。
翼を展開し空中に留まる事すら許されず、装甲から大量に火花が散った。
風を操る魔法使いが何の抵抗も出来ずに落下する。
不甲斐ない自分を笑ってやる事すらやれず、地面に叩きつけられる感覚を味わう羽目となった。

スパイトネガ。アークワンの持つ唯一無二の能力。
変身者の持つ悪意を力に変換し、波動として放つ他、攻撃の強化に用いる。
これはつまり、変身者の悪意が強大であればある程スパイトネガはより大きな力を発揮するという事だ。
グロンギの長であり、最も邪悪な精神を持つダグバにとってこれ以上無いくらいに相性の良い力と言えるだろう。

「……っ……」

敵の能力の詳細など知る由の無いハルトマンには関係の無い話だ。
最早声を出す力すら残されていない。
これでもまだ変身解除していないのは、というより息があるのは奇跡に近かった。

だがウィザードの装甲によって死を免れたのは、決して幸運などでは無い。
もし彼女が変身していなければ、最初にアークワンの拳を受けたその時点で命を落としていた。
このような痛みに苛まれず、死んでいられたのだ。

二度に及ぶ苦痛を受けた彼女へ、とうとう終わりの時がやって来た。


666 : Broken Sky -ボクがアークの仮面ライダー- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:41:23 Koo/Qy5o0
『悪意』

ハルトマンと違い、難なく着地した悪魔が歩いて来る。

『恐怖』

一歩近付く毎に、ドライバーからは低く無機質な声が発せられる。

『憤怒』

ドライバー上部のスイッチ、アークローダーを押し込んでいるのだ。

『憎悪』

押し込む度に悪意が溜め込まれていく。

『絶望』

人類の犯して来た負の歴史、一つ一つを数え並べているよう。

『闘争』

常人が聞けば精神を磨り減らすだろう言葉も、ダグバにとっては何ら害とならない。

『殺意』

むしろ悪意の数々を心地良いとさえ感じられた。

『破滅』

物騒な言葉を並べ立てられ、趣味の悪いベルトだとハルトマンは苦笑いを浮かべる。

『絶滅』

どうせなら直接口にしてやりたいが、無理な事は自分が一番分かっている。

『滅亡』

もう本当に、何もやれる事が無い。


667 : Broken Sky -ボクがアークの仮面ライダー- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:42:45 Koo/Qy5o0
『PERFECT CONCLUSION』

『LEARNING END』

悪意を最大限に込めたアークワンの蹴り技。
自分へ迫る敵の姿に、さっきとは逆だなぁなんて存外呑気な事を思う。
違うのは、斬月・真はレーザーを放ったが自分は何も出来ない事か。

(悔しいなぁ……)

晴人の身体を本人に返す。
ついさっき決意したばかりなのに、現実はこの様だ。
ただただ申し訳なく思う。
交通事故で両親を失い、自責の念から夢を諦め、コヨミという彼にとっての希望だった少女をも失って、それでも戦い続けた青年。
そんな晴人の身体を自分のせいで失わせてしまった。
不甲斐ない自分への怒りと、晴人への申し訳なさで心が溢れ返る。

(悔しいよ……)

そして自分も、元居た場所へは帰れない。
501の面々とこんな形で別れるなんて、納得など出来る訳がない。
何より心残りなのは、自分がトゥルーデと呼ぶ同室の友人。
彼女の精神は何処にあるのだろう。
ちゃんと元の身体に戻るのだろうか。
身体に入っている人物が、殺し合いに乗っていない者だと良いが。
考えれば考える程心配になって来た。

こんな事なら部屋の掃除頑張ってやっておけば良かったかな、チョコレートの借り返しそびれちゃったよ、
次から次へと未練ばっかりが浮かんで、やっぱり自分もまだ死にたくないのを自覚する。

視界いっぱいが、黒く染まっていく。


――ああ、私たちがいたあの空は、もう見えないや。


668 : Broken Sky -ボクがアークの仮面ライダー- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:45:17 Koo/Qy5o0
◆◆◆


膝を付き、死人のような顔でゲンガーは空を見上げていた。

タケコプターじゃ追いつけない速度でハルトマンが敵の仮面ライダー諸共飛び去った後、緑色の風が円を描き巨大な雷雲が発生するのが見え、彼女の勝利を確信した。
大丈夫だ、きっとあの白黒を倒して戻って来ると。
カイジ達の後を追うなんて展開にはならないんだと、そう自分に言い聞かせたのだ。

直後、風や雷雲諸共吹き飛ばされ落ちて行く姿にあっさりと覆されたが。

それからハルトマンがどうなったのかは、自分がいる場所からは見えなかった。
ただ直接見ずとも分かる。彼女はもう自分の所へは二度と帰って来ないのだろう。

自分は一体なんなのだろうか。
疫病神か?死神か?どっちにしてもロクでもない存在だ。
またしても自分と関わった奴が命を落とした。
これならいっそ、しんのすけとミチルが戻って来る前に姿を消した方が良いんじゃないのか。
自分がまき散らす不幸の巻き添えを増やさない為には、そうするのが正解ではないか。

「チクショウ…」

そんな風に考えている自分自身への悪態は、やけに冷たい風の中にに消えて行った。


【E-6 街/昼】

【ゲンガー@ポケットモンスター赤の救助隊/青の救助隊】
[身体]:鶴見川レンタロウ@無能なナナ
[状態]:人の身体による不慣れ(多少改善)、高揚している、疲労(中)、精神疲労(極大)、自分への強い苛立ち、手にダメージ
[装備]:八命切@グランブルーファンタジー、月に触れる(ファーカレス)@メイドインアビス、
[道具]:基本支給品×3、シグザウアーP226(弾切れ)@現実、ピーチグミ@テイルズオブディスティニー、タケコプター@ドラえもん、サイコロ六つ@現実、肉体側の名簿リスト@オリジナル、ランダム支給品0〜1(吉良の分)
[思考・状況]基本方針:イジワルズ特別サービス、主催者に意地悪…いや、邪魔してやる。
1:チクショウ…
2:しんのすけとミチルが戻って来るのを待つ。
3:イジワルズ改めジャマモノズとして活動する。
4:ピカチュウとメタモンには用心しておく。(いい奴だといいが)
5:木曾のメモのこと、覚えておかないとな。
6:こいつらを見るとアイツ等を思い出すな…(主人公とそのパートナー達の事です)
7:何でオレが付けた団名嫌がるやつ多いんだ?
7:カイジのやつ、何でメタモンの事を聞いて来た?
[備考]
※参戦時時期はサーナイト救出後です。一応DX版でも可。(殆ど差異はないけど)
※久しぶりの人の身体なので他の人以上に身体が慣れていません。
 代わりに幽体離脱の状態はかなり慣れた動きができます(戦闘能力に直結するかは別)。
 幽体離脱で離れられる射程は大きくても1エリア以内までです。
※木曾から『ボンドルドが優勝を目的にしてない説』を紙媒体で伝えられてます。
 (この都合盗聴の可能性も察してます)

※近江彼方の枕@ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は破壊されました。

【ハリケーンドラゴンウィザードリング@仮面ライダーウィザード】
国家安全局0課の木崎正範から託された、緑の魔宝石を加工した指輪。
ハリケーンドラゴンスタイルへ変身する。
吉良吉影に支給された。


669 : Broken Sky -ボクがアークの仮面ライダー- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:46:28 Koo/Qy5o0
◆◆◆


「凄いなぁ、これ」

変身が解除され、ベルトを眺めながらダグバが言う。
父親に玩具を買い与えられた幼子のように、瞳に無邪気さを浮かべて。

アークワンに変身した感想は最高の一言に尽きる。
斬月・真を上回るスペックだけではない。
スパイトネガという使い勝手の良く、それでいて面白い力を扱えた。
何より気に入ったのは、変身している間は妙に心地良いのだ。
これならもっと早くに使っていれば良かったなと後悔するも、そう気安く変身出来ない事情を思い出す。

「暫くの間は使えないんだっけ」

強力故に課せられた制限。
主催者側としてはパワーバランスの調整のつもりだが、ダグバにとっては余計な真似をされたと感じる。
唇を尖らせ不満を露わにしても、一参加者の我儘など聞き入れてはくれないだろう。
とはいえゲネシスドライバーが手元にある以上、いざという時に戦う力が無い事態にはならない。
基本は斬月・真へ変身し、制限が解かれたらアークワンになる。

「クウガとちょっと似てるかもね」

状況によって姿を変え、異なる能力を駆使しグロンギを撃破してきた戦士。
自分も気分次第で変身する姿を変えるのだから、クウガと似ている部分はあるかもしれない。
そう考えると新鮮な試みでちょっとだけワクワクする。
グロンギの身体だった時には無かった感覚だ。

と、弾む心とは裏腹に足取りは少々重い。

「…ちょっと休んだ方が良いのかな」

グロンギの時ならまだしも、今は脆いリントの身体。
ある程度の休息を挟まなければ使い物にならなくなる。
身体の持ち主の少女は登山やハイキングを趣味としており、同年代の女子よりも体力はある方だ。
が、ライダーとしての戦いなど未経験な為、体が付いて行けないのだろう。
少女のプロフィールに大した興味を抱かなかったダグバには、関係の無い話だが。


670 : Broken Sky -ボクがアークの仮面ライダー- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:47:58 Koo/Qy5o0
まずは休める場所を探そうと地図を開き、街の北側に施設があるらしい事を確認。
283プロという名の場所を目的地とする。

早速移動しようとし、ふと何気なくショーウィンドウに目をやり、

「うん?」

思わず眉を顰めた。

足早に駆け寄り凝視する。
ガラスに映るのは不思議そうに見つめる自分の、というより殺し合いで与えられた少女の顔。
おかしなものは何もない。ただあるがままを映しているだけ。
しかし自分はさっき奇妙なものが見えた。

ガラスに映った自分の顔が、涙を流し、やめてくれと懇願するかのような憔悴し切った表情になっているのを。

「うーん…気のせい?」

もしかしたら自分はリントの身体になったせいで、思った以上に疲れているのかもしれない。
僅かな引っ掛かりを覚えながらも、まぁいいかと魔法のじゅうたんに乗り込み移動を再開した。





ダグバは気付いていない。
両面宿儺との邂逅を切っ掛けに身体の持ち主、櫻木真乃の意識が目覚めた事を。

ダグバは気付いていない。
アークワンに変身した影響が真乃にも及んだ事を。

嘗てアークドライバーワンを手にした青年、飛電或人は本来アークワンに変身するような人間ではない。
悪意を力の根源とするアークとは反対の立場にいる、人とヒューマギアの善意を信じ戦う者だ。
彼が何故アークワンに変身したのか。
それは或人が最も信頼を置き、誰よりも彼の心に寄り添った秘書型ヒューマギアのイズを破壊されたのが原因である。
時には飛電インテリジェンスの社長の座や、仮面ライダーゼロワンの変身資格を失って尚も再起出来たのは、何時だってイズが支えてくれたから。
それ程大切に想っている彼女を奪われた或人の心には、これまで感じた事のない憎悪が宿った。
人間とヒューマギアが手を取り合う未来という、自分の夢さえ捨ててしまう程に。


671 : Broken Sky -ボクがアークの仮面ライダー- ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:51:02 Koo/Qy5o0
逆に言えば憎悪という強大な悪意を抱いていたからこそ、変身後も自我を保てたのだろう。
人類の悪意の歴史、滅亡迅雷.netのシンギュラリティポイント、何よりもアークの概念。
それらを内包したプログライズキーを用いて変身するのだ。
如何にゼロワンとして戦って来た或人とて、普通ならば耐えられるのは不可能に近い。
メタルクラスタホッパーへ変身した時のように暴走ないし、より精神に悪影響を及ぼす可能性だってあった。

尤もバトルロワイアルにおける変身者、ダグバには何の問題にもならない。
究極の闇をもたらすグロンギの王からしてみれば、悪影響どころか気分が良くなるくらいだ。
だがもう一人、今の肉体に宿る精神にとっては別。
真乃とてアイドル活動をしていれば、芸能界の後ろ暗い部分に触れる機会はゼロではない。
プロデューサーを始めとする善良な大人に守られているとはいえ、時折他者の悪意を感じる時はある。
しかし未確認生命体の殺人ゲームや、滅亡迅雷.netの掲げる人類滅亡など、超常の世界における悪意など本当なら一生触れる機会は無かった筈だ。

もし真乃の意識が眠ったままなら、こうはならなかったかもしれない。
現実には真乃の意識は目覚め、その為アークワンプログライズキーに内包された悪意を受けてしまった。

泣き叫ぶ少女の声に気付きもせず、ダグバは行く。
次の闘争へ、更なる期待を寄せながら。

エーリカ・ハルトマンという名の参加者だった、焼け焦げた肉塊には見向きもせず。



【エーリカ・ハルトマン@ストライクウィッチーズシリーズ(身体:操真晴人@仮面ライダーウィザード) 死亡】


【E-6とD-7の境界 街/昼】

【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
[身体]:櫻木真乃@アイドルマスターシャイニーカラーズ
[状態]:ダメージ(大)、脇腹に強い打撲痕、消耗(大)、苛立ち(大分緩和)、櫻木真乃の精神復活及び汚染、アークワンに2時間変身不能
[装備]:ゲネシスドライバー+メロンエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、ミニ八卦炉@東方project、魔法のじゅうたん@ドラゴンクエストシリーズ
[道具]:基本支給品×2、アークドライバーワン+アークワンプログライズキー@仮面ライダーゼロワン、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]基本方針:ゲゲルを楽しむ
1:283プロに行って休む
2:見失った二人(キャメロット、凛)と再戦する。ただ見つける手段がないので、また会えればいいなという程度。
3:あの青い着物姿のリント(宿儺)とはもう戦いたくない
4:アークワンにはまた変身したいなぁ
5:??????????
[備考]
※48話の最終決戦直前から参戦です。
※櫻木真乃の精神が復活したことにはまだ気づいていません。

【アークドライバーワン@仮面ライダーゼロワン】
仮面ライダーアークワンに変身する為のベルト。
単体では意味が無い為、アークワンプログライズキーと合わせて一つの支給品扱い。
量産されたプログライズキーと違い、こちらは一級品のようである。
本ロワ独自の制限として、変身後10分経過で強制的に変身解除。再変身は2時間経過しなければ不可能。

【アークワンプログライズキー@仮面ライダーゼロワン】
仮面ライダーアークワンに変身する為のプログライズキー。
単体では意味が無い為、アークドライバーワンと合わせて一つの支給品扱い。
人類の悪意の歴史とヒューマギアのシンギュラリティのビッグデータが収められ、ザイアスペックと似た形状の「アークスペック」により人間と接続し、変身者の悪意をドライバーに供給する役割を持つ。
アズが滅亡迅雷.netからシンギュラリティデータを収集するために使用。
更に蓄積したデータを人工知能アークに提供するために使った事もある。


672 : ◆ytUSxp038U :2022/04/07(木) 13:51:54 Koo/Qy5o0
投下終了です。


673 : ◆vV5.jnbCYw :2022/04/07(木) 21:12:00 CNC362Gg0
大作投下お疲れ様です。
このロワのダグバ、DIOや絵美里といった他のマーダーに比べると地味じゃね?
そんな風に思ってた時期が、僕にもありましたよ。

平成初ライダー+令和初ライダーの圧倒的さは言わずもがな
キタキタおやじとハルトマンのとてつもない救われようの無さ、
ゲンガーと御館様の生きてるけどどうしようもない感じが凄くインパクトがありました。
改めて、投下お疲れ様です。


674 : ◆5IjCIYVjCc :2022/04/07(木) 23:02:46 wJ4CIczo0
投下お疲れ様です!まずは感想を書かせていただきます。

>Broken Sky -Dance With Me-〜-ボクがアークの仮面ライダー-

またとんでもないことになってしまった…
キタキタおやじがこんな物悲しい最期を迎えることになるのは私にとってもロワ開始当初の頃から見れば予想外でした。
そしてダグバ、よりにもよって何でそれを持っているんだ。
平成と令和の最初の仮面ライダーのラスボス同士が混ざり合って最悪最凶に見える。
この組み合わせで最初に出した自分が言うのもかなりアレですが、真乃も一体どうなっていくのだろう。


DIO、貨物船、大崎甜花、姉畑支遁で予約します。


675 : 名無しさん :2022/04/13(水) 19:04:40 5vxQvohM0
すみません、今更な質問になってしまうのですがちょっと気になったことが
お館様、正気を失ってからもずっとマシンディケイダーを装備状態ですが、地下道の中に持ち込んだことになるのでしょうかこれ


676 : 名無しさん :2022/04/13(水) 19:12:44 5vxQvohM0
と、自己解決しました
読み返してみると、下水道の中をバイク走らせてますね
下水道のマンホールにバイクが通れるか?って気になっての質問でしたが、杞憂でした、すみません


677 : ◆5IjCIYVjCc :2022/04/17(日) 21:05:59 nk2BLIZ20
予約延長します。


678 : ◆5IjCIYVjCc :2022/04/24(日) 21:18:36 /HGGG/co0
期限を超過してしまい申し訳ありません。投下を始めます。


679 : Aの友愛/君をもっと知りたいな ◆5IjCIYVjCc :2022/04/24(日) 21:20:20 /HGGG/co0
◆◆◆◆


「まずは話をさせてください!誤解があるのです!私はそこの女の子を襲うつもりはありません!」

一体どこにその誤解とやらがあると言うのか。
それが、姉畑の発言に対するDIOの率直な感想であった。

突如として現れた目の前にいる天使姿の人物の奇行をDIOは全く理解できない。
これまで様々なタイプの人間と出会ってきたが、こんな者は初めて見た。


「私はただの動物学者です!さっきのことは、動物が大好きで…彼らのことをよく知るためにまず仲良くなろうとしただけです!」

お前は何を言っているんだ。
そう思わずにはいられない。
この人物は先ほど、今は近くで尻を押さえながら涙ぐんでいるオランウータン…貨物船(のスタンド)の背中に、突如としてどこからともなく現れて飛び付き、犯した。
あまりにも意味不明過ぎる行動だ。
甜花を襲うつもりは無いという弁解も、それ以前の問題が多すぎてだからどうしたとしか思えない。

とりあえず下を履くように言って話ができる状態にはした。
エターナルへの変身も一応そのままにしておいた。

現状、話はまとも進んでいない。
目の前の相手、姉畑支遁の弁明は全然弁明の形になっていなかった。

第一、本当に動物と仲良くなりたいのならその手段に強姦を選ぶことからおかしい。
明らかに性欲に身を任せて動いたようにしか見えない。
いや、それにしてもやはり欲望をぶつけた相手が不可解過ぎる。
こんな異常性愛者は流石のDIOもこれまで見たことはない。
理解不能でツッコミどころだらけなせいで、思考が自分のことを棚に上げて一般社会的にまともと言えるような形になっていく感覚があった。
ここまで困惑させられたのは貨物船に初めて出会った時と同じ…いや、それ以上だ。


「……あー、少し良いだろうか。前提の話として、貴様は我々の状況を分かっているのか?」
「えっと、それはどういうことでしょうか?」
「この場所は殺し合いの舞台…それも肉体が他者のものに変わる特殊なものだ。この猿も見た目通りの奴じゃなく、中身は人間かもしれんぞ?」
「そ、それは………その、分かっている、つもり…なのですが……。ああ、私はなんてことを……」

つい、気になってこの点についても指摘してしまう。
精神が人間であればそれは動物と仲良くなったと言えるのか、そんな疑問も浮かんでくる。
相手も本当はそのことを分かっているのか、口ごもった状態になって言い訳が出てこない。
それどころか今更自分の行動を後悔するような台詞を吐く。
そんなことを言う資格は無いだろうに。

やはり、欲望に身を任せて考え無しに動いたということなのだろう。
どちらにせよ、相手が相手なもので全く理解できない行動であることには変わりないが。
今さら指摘されたことにうろたえているのは、先ほどのことで欲が解消され、男特有の虚無感に襲われ、冷静になり、自己嫌悪の状態に陥っているからということもあるだろう。




「……何?さっきから何を言っているの、この人…?やだ…もうやだ…!」

DIOの後ろに隠れている甜花は、姉畑の方を睨みながらわなわなと体を震わせている。
片手でソニックアローを姉畑の方に向けながら、もう片方の手で先ほど顔に飛んできて仮面越しに目元に付いた精液を拭っている。
その仮面の下では、彼女の目に涙が溢れてきている。

あまりにも訳の分からなさに、現状を把握しきれていない。
話にもついて行けない。
姉畑の発言も理解できず恐怖を感じている。
ただ、今にも再び弓による攻撃を始めそうではある。
それが防がれているのは、片手で必死に視界に入っている汚物を除こうとしていることもあるだろう。


「ウキィ………」

それは、貨物船も同じであった。
ダメージを負った体ではまともに動くことはままならなかった。
何より、いきなり自分(のスタンド)を犯してきた謎の天使には彼も怒りと恐怖を感じていた。
今すぐにでも自分も飛び出していきたかったが、それができる程の体力が無い。
彼もまた、甜花と共に震えながらDIOの後ろに隠れて話が進むのを待つしかなかった。


680 : Aの友愛/君をもっと知りたいな ◆5IjCIYVjCc :2022/04/24(日) 21:21:14 /HGGG/co0


「甜花、君たちは待て。ここは私がこいつと話をする」

攻撃を再開しそうな甜花に向け、DIOは手を前に出して静止する。
姉畑のことが理解できないのは同じだが、相手は自分達のことをまだ明確に敵対関係と見なしているわけではない。
話をすることで、こちら側に有利な情報を入手することができる可能性はまだあるのだ。

DIOの言葉に従い、甜花は一先ずソニックアローを下ろす。
この場は一先ずDIOに任せて、話が過ぎるのを待った。





「そ、そうです!もしかしたら今の私のこの身体のせいかもしれません!」

姉畑は今、若干パニックの状態になっている。
言い逃れのできないこの状況、焦った思考で現在の自分の身体であるクリムを話題に出してしまう。

「これを見てください!」

姉畑はそう言って自分に支給された身体のプロフィールを取り出してDIOに差し出した。
DIOもそれを受け取り、内容に目を通す。

(……サキュバス嬢のレビュアーだと?また訳の分からない情報が出てきたな)

サキュバスというものが何なのかはDIOにも一応知識はある。
男を誘惑し、堕落させると言われている悪魔だ。

このプロフィールにあるクリムはどうも見た目通り本当に天使らしい。
その天使が何故敵対関係にあるはずの悪魔の一種であるサキュバスのレビューをしているのかDIOは再び理解に苦しむ。


「……あの、そこに書いてあるサキュバス嬢というのは、おそらく娼婦の事なんでしょう。このクリムヴェールさんはどうも、様々な種類の娼館に出向いて評価する仕事をしていたようで…えっと…」

クリムのプロフィールを見て表情をしかめたDIOを見て、姉畑が補足した。
同時に、先ほどの苦し紛れの言い訳がその情報に由来することを示す。
姉畑が言いたいことは要するに、クリムは娼館狂いだった=自分もその影響で性欲が暴走するようになった、という事なのだろう。


(……どうやらこの天使も別の世界の存在と考えるべきか)

姉畑のしどろもどろな言い訳はあまり気に留めず、DIOは黙ってクリムヴェールのプロフィールを読み終える。
天使やサキュバス等、自分達の世界にも概念が存在するものの単語は記されているが、その関係は伝承とは大きく異なるようだ。
それによく読んでみれば、ここにあるサキュバスとは姉畑の言う通り娼婦を指す言葉らしい。
ただ、おそらく本物のサキュバスが存在しないわけでもなさそうだ。

このクリムの住む世界では様々な異種族…それもファンタジーの物語に登場するようなエルフ族や獣人、それ以外にも多種多様な種族が存在するらしい。
プロフィールに簡潔に書いてあった情報から推測するに、このクリムの世界では娼婦の仕事をするための言い訳としてサキュバス嬢という言葉を使うらしい。
サキュバスだから仕方がないという、まずサキュバスに人権が認められていることが前提にないと成り立たない言い訳だ。
プロフィール情報からの推測であるためどこまで合っているかは分からないが、どうもクリムの世界はかなり幅広い種族の権利が平等なものとされているらしい。
その中には、DIOの本来の身体のものである吸血鬼も含まれているらしい。
つまり、どんなに強い存在であろうと暴力で弱者を支配することができない、もしくはしようとしない世界なのかもしれない。
勝利して、支配することを信条としているDIOからしたら、とてもくだらない・つまらない世界と言えるだろう。
このクリムの…異種族レビュアーズの世界については珍しく興味をあまりそそられなかった。
第一サキュバスが普通に暮らしている上にそれを利用した風俗の文化が発展しているらしいところからあまり理解できない。
どれだけ色欲にまみれた世界なんだと感じる。
姉畑の身体のせいだという言い訳も、この情報だけなら納得してしまうかもしれない。


681 : Aの友愛/君をもっと知りたいな ◆5IjCIYVjCc :2022/04/24(日) 21:23:21 /HGGG/co0


「だが、ここにはこのクリムとやらは普段は食酒亭という酒場で働いており、娼館に行くのは友人に誘われる場合がほとんどのようだが?」
「い、いや…それは、その、えっと……すみません。うう…私は何てことを…。申し訳ありませんクリムさん…」

ただ、クリム個人のプロフィールとしては、姉畑の言い訳と当てはまらない部分もある。
姉畑もそれに気づいているようだ。
何だか、更に自己嫌悪が強くなった様子に見える。
本人としても、他人のせいにするのは気が進まなかったようだ。
言ってしまった以上もう遅いが。


(まあ…今はそんなことはどうでもいい。重要なのは、こいつがこのDIOに何をもたらすのかという点についてだ)

姉畑がここでわざわざプロフィールを渡してきたことにより、クリムヴェールの身体がどんな力を持っているのかは分かった。
この天使の身体の特徴の中で戦いにも関係しそうな情報と言えば、物理・闇属性以外の属性を持つ攻撃は効かないらしいことだ。
要は、火傷や凍傷を負ったり、感電したり等しないということだ。
普通に殴ったり刺したりして致命傷を負わせれば殺すことはできるということだ。


「主張は大体分かった。だが、この状況では落ち着いて話を続けることはできないだろう。ここは一先ず、どこかで私とだけで話をしよう」

DIOは姉畑に二人きりで話すことを提案する。
姉畑はかなり焦っている様子で、正しい情報をこのまま引き出せるとは思えない。

そして、プロフィール情報から相手が戦闘能力の低い身体であることも分かっている。
わざとこれを見せて油断を誘おうとしたのではという考えも浮かぶが、それは否定してもいいだろう。
あまりにもの焦り具合から勢いで渡したことは明白だ。
もしもの時は自分1人で簡単に殺せる相手だと、DIOは判断する。


「甜花、貨物船、君たちは一時どこかに隠れていろ。こいつとは私が2人で話をする」

さっきから自分の後ろに回っていた甜花と貨物船にも指示を出す。
貨物船は分身そのものがスタンドだったらしく(厳密に言えばフォーエバーそっくりなオランウータンの形をしたスタンド)、犯された際のダメージのフィードバックで苦しんでいる。
甜花の方は精液の残滓の放出を仮面越しに顔に受けた。
話している途中でも先ほどのことでの怒りに身を任せて襲いかかる可能性がある。
情報を全て引き出すため、一旦引きはがした方が良いと判断する。


「で、でも……大丈夫、なの…?」
「ウキ…」

甜花と貨物船は共に心配そうな様子を見せる。
変態天使の存在に、一人と一匹(一隻)は完全に怯えている。
DIOが強いことは彼らも理解している。
もしものことが合っても負けるとは思っていない。
しかしそれでも、こんな明らかな異常者と2人きりになるという状況に、どうしても拒否感が出る。

何より、ダメージ(甜花は精神、貨物船は肉体・精神共に)が大きいため、頼りにしているDIOに自分達から離れてほしくなかった。
口には出さないが、そんな感情を込めた視線でDIOを見つめた。


「私なら大丈夫だ。それよりも、彼の怪我を見ていてくれないか?」

DIOは貨物船に対して指差ししながら甜花に指示をする。
甜花と貨物船の意図はDIOに確かに伝わっている。
しかし、DIOからしてみればこの状況において彼らは邪魔でしかなかった。
敵意が大きい甜花も、再び性欲を暴走させる原因になりかねない貨物船も、姉畑との交渉においては不必要だ。
甜花と貨物船の気持ちを気遣う義務はDIOには無い。
怪我を診るように言ったのも、ただ状況に合わせただけだ。

そして、ここにおいて貨物船の方には一瞬だけ強めに睨んだ。

「ウキイ……」

DIOからの視線に貨物船は怯む。
先ほど、貨物船が勝手な行動をしていたことをDIOは気づいていた。
姉畑の乱入によりうやむやになるなんてことはない。
今は姉畑の対処を優先し、甜花の手前ダメージの心配をするようには振舞う。
だがこの状況を引き起こした原因の一端を担ったことは忘れずに後で問い詰める、そんな意思を込めて睨んだ。
このことは、貨物船にも確かに伝わったようだった。


682 : Aの友愛/君をもっと知りたいな ◆5IjCIYVjCc :2022/04/24(日) 21:26:47 /HGGG/co0


「さてと…貴様はこちらに来てもらおうか」
「は、はいっ…!」

DIOは姉畑に向かってエターナルエッジの刃先を向ける。
そして、姉畑を自分の前に歩かせる。


誤解を解きたいこと、刃物を突き付けられたこと、何よりここで言う事を聞かなければ何をされるか分からない、そんな思いから従ってしまった。
何より姉畑としては、DIOもそうだが、後ろにいた少女の視線も痛かった。
明らかに自分を軽蔑するような目で見ていた。
この空気から逃れたい思いもあった。
消えた方のオランウータンの行方も気になるが、今はそれを言い出せなかった。
ここではただ、名残惜しそうにもう片方を見るしかできなかった。
返事をした後の姉畑は、びくびくとしながらDIOの前を歩いて行った。

甜花と貨物船は、2人が離れていく様子を黙って見ているしかできなかった。


◆◆


DIOと姉畑がどこかへ行ってしまった後、甜花と貨物船も一旦屋内に移動することにした。
歩いて行った方向から、2人は一応このPK学園の敷地内で話をするようであった。

そして、甜花が選んだ待機場所は、ボロボロの体の貨物船の応急処置ができる部屋、保健室だ。

今の甜花は斬月への変身は既に解除している。
ただ、解除自体は校門付近にいた時もすぐに変身解除したかった。
それは仮面のカメラアイにへばりついた精液の跡がまだ見えていたからだった。
しかし、姉畑がまだ近くにいて何をしでかすか分からない、それこそ次は自分を襲うんじゃないかという恐怖から武装を解くわけにはいかなかった。
外でDIOが姉畑と話している時は相反する二つの考えで甜花の気持ちは押しつぶされそうだった。
一刻も早く姉畑がいなくなることを願っていた。
だからこそ、DIOの判断により姉畑が引き離されたことは甜花の心に落ち着きを与えられた。
引き換えに、自分自身も少しの間DIOから離れる羽目にもなってしまった。

そして落ち着いた甜花が次に抱く感情、それは後悔であった。
姉畑の出現で起きたことにより甜花は恐怖・混乱し、騒いだ。
その隙に、DIOを傷つけようとした二人(デビハム、しのぶ)は逃げてしまった。
一番悪いのが姉畑であることは明白だが、自分の行いにも責任はあると、そう感じてしまっていた。
DIOのために頑張ると決めたのに、結果的には邪魔になってしまったのではないかという考えで不安な気持ちが募っていた。

しかし、DIOは分かれる前にそのことについては自分に対して指摘しなかった。
甜花はそれを彼の優しさだと思っていた。
だからせめて、先ほど言われた仲間の怪我を診ることは今ここでちゃんとやろうと思った。
そんなことを考えながら、甜花は保健室内の薬や包帯などの準備をしていた。


「あ、あの……貨物船…さん?で、いい…?」
「………ウキッ」
「と、とりあえず…薬とか、包帯とか、付けるね……」

甜花は貨物船にぎこちなく話しかける。
未だ慣れない手つきで、応急手当を試みる。
人間相手にでさえ上手くできないのに、毛深いオランウータン相手にはそれ以上に難しかった。
獣医でもないのにこれをやるのは流石に無理があるように思えてくる。
それでも、DIOに「診ているよう」言われた以上は挑戦するしかなかった。
そして、甜花は手探りで処置を試みながら、貨物船に対する話を続けようとした。


彼女が今治療中の彼の名前を聞いたのは先ほどDIOと別れる時が最初だった。
このオランウータンを仲間だとは認識していたが、今まではDIOに夢中でこの動物のことを特別気にかけてはいなかった。
ただ今回、甜花が手当することになり、初めてこの貨物船についても関心を初めて持った。


683 : Aの友愛/君をもっと知りたいな ◆5IjCIYVjCc :2022/04/24(日) 21:28:02 /HGGG/co0

まず疑問に思うこととしては、やはり何故『貨物船』という名前なのかについてだ。
名簿でその名前があることは甜花も把握していたが、明らかに人名でないため正体を気にする余裕は無かった。
そして今、こうしてその名を持つ存在と相対してみれば、知性のある者であることを認識できる。
貨物船は本名なのか、それとも他に別の名前があるのか、そんなことが少し気になった。

ただし、このことについては甜花はここでは口に出さなかった。
気になったのは名前についてが最初だが、先に質問したいと思った疑問があった。


「あの……あなたは何で、DIOさんと一緒にいるの?」

自分がDIOについてくようになったのは、DIOのことが好きになったからだ。
だが、貨物船に自分のように従うことに何か理由があるのか、それが気になった。

名前からでは、甜花も貨物船が本来どんな人物だったのか想像できない。
身体がオランウータンのため、自分のように異性として好きになったという理由が当てはまるとは思いにくい。
まあ、この殺し合いにおいては見た目というものは何の指標にもならないのだが。


「……あっ、ごめんなさい…確か、喋れないんだった、よね…?」

それを思い出した甜花は、貨物船に対しての質問を止めた。
オランウータンの身体のため、喋れない彼は英和辞典を用いてDIOとコミュニケーションをとっていた。
そして、甜花は英語を完璧に読めるわけではない。
そもそも、貨物船の肉体はダメージが大きく英和辞典をしっかりと持てるのかも怪しい。
甜花は、貨物船と正確なコミュニケーションをとる方法が無かった。

いくら気になっているとは言え、答えられない、対話の不可能な相手に聞くのは少し悪かったかもしれないとも思った。
甜花自身は、この話をここで終わりにしようとした。


だが、甜花の質問を聞いた貨物船は、ふとあることを思い出した。





◇◇◇

「貨物船か…このDIOの生きた時代には蒸気の船しかなかった……はず、だ。うん」

それは、貨物船に残された過去の記憶。

貨物船はかつて、DIOを自分の上に乗せて遊覧させたことがあった。
何故こんなことをする羽目になったかについては…はっきりとは覚えてない。
まあ、エンヤ婆がDIOの新しいスタンド使いの部下候補として交流させる場を設けたとか、多分その辺りだった…はずだ、うん。
ようは、新入社員のための講習会みたいなものだ。


「いや、貨物船っていうか、荷物運ぶ用の船とかはあったはずだ…よ?このDIOが言いたいのはようするに電気とかガソリンとかで動く船はなかったはずだったような気がするというわけで……えっと、ガソリンで合ってよね?」

DIOは貨物船の上に立っていた。
この時は夜であり、吸血鬼のDIOも外に出ても大丈夫だった。

隣にはまるでコロネのような髪型をした金髪の子供もいた。
子供は船の上から見える海の景色を楽しんでいた。
特徴から察せる者もいるだろうが、この子供はジョルノ・ジョバーナである。
ジョルノが子供なのにこの姿でこの時代のここにいるのは明らかに色々とおかしすぎることであるが、何故かいるもんはしょうがない。

そして彼らの少し後ろに、貨物船は自分のスタンドであるオランウータン…力(ストレングス)を出していた。

「ウヘヘ、ジュウユデスヨ(小声)」
「えっ、あっ、そうなの、ごめん。そうなんだ。……ん?ちょっと待って?お前今喋った?」
「キノセイデスヨ(小声)」
「何だ気のせいか…」

DIOは貨物船に対し話をしようとしていた。
貨物船もストレングスを通じてそれに応えようとしていた。
ジョルノはその辺で適当に1人船の上を楽しんでいた。


684 : Aの友愛/君をもっと知りたいな ◆5IjCIYVjCc :2022/04/24(日) 21:33:05 /HGGG/co0



とにもかくにも、貨物船はDIOと正式な仲間となった。
貨物船は、友情のためなら死んでもいいと思っていた。
それはたとえどんな状況でも、DIOが今よりも邪悪な存在になったとしてもだ。
首から下が邪悪の化身なジョナサンだからその影響で今より性格が悪くなるのは十分に考えられることだ。
そもそもの話として、船である貨物船に善悪の区別はあんまりつかなかった。

何にせよ、DIOはこの貨物船の心を救ってくれたことは確かなことだ。
どんな時でも『DIOのためになるように行動する』、それが貨物船の基本原則だった。
自分のことを忘れ去られたとしても、貨物船はDIOのことを信じ続ける。
忘れられたならもう一度絆を結べばいいだけのことだ。
そのため、彼が唯一恐れるものはDIOに見捨てられることだけだ。

そんなことにならないよう、貨物船はこれからもDIOのために頑張っていく。
ジョースター一行の承太郎に突然オラオラされてしまったせいで死んでしまっても、
気づいたら自分のスタンドの姿そっくりなオランウータン(何故かスタンド名や立場も一緒)になったとしても、
そんな状態で殺し合いに巻き込まれたとしても、
自分の立場を脅かすライバルが出現したとしてもだ。

それが、貨物船が抱くたった一つの決意だった。



以上で、うろ覚え捏造過去回想……終わり。





◆◇

「………」

貨物船は、甜花の質問から自分の過去を思い返していた。
そして、そこから貨物船が思うのは、自分は何て愚かなことをしてしまったのだろうということだった。


自分の勝手な行動のせいで、DIOに迷惑をかけてしまった。
自身も体に(色んな意味で)酷いダメージを負ってしまった。
これではまともに戦うことができない。
突然の襲撃は予想外だったが、背後の注意がおろそかになったのは自分のミスだ。

自分のスタンドにまさかの行動を仕掛けて来た変態天使への怒りは大いにある。
それと同時に、自分のことも許せないという気持ちがあった。

先ほどDIOは、自分に対しては冷たい視線を向けたのに対し甜花にはそんな様子は見られなかった。
このことから貨物船は、自分はDIOに嫌われてしまったと思った。
恐怖があった。
彼はもう、自分に対して優しく・親しく接してくれないのではないのかという考えが浮かび始めた。
あの頃のような関係はもう、取り戻せないのではと思い始めていた。


DIOが以前よりも邪悪っぽく、怖い感じがするのは貨物船も感じていた。
それ自体は、単純にジョナサン・ジョースターの身体の影響だろうと思っていた。

自分自身も、殺し合いが始まった頃何故か今まで興味のなかった女の裸とかへの興味が湧いていた。
それにより、最初の数時間はうっかりなんかエッチな漫画を読みふけってしまった。
DIOのためを思うなら、そんなことで時間を潰すべきじゃなかったと今更後悔の念が出る。
そうなってしまったのは、おそらくオランウータンのくせに人間の女のピンナップとかを見ていたフォーエバーの影響だろう。


とにかく、貨物船はDIOが以前よりも冷酷になったと感じていた。
だからこそ、DIOに対して役立たずと判断されたり、見捨てられたりするのが怖いと感じていた。
しかしそれはDIO自身のせいじゃないと貨物船は思っている。
悪いのは身体となったジョナサン、そして自分を殺した承太郎。
そう、全てはジョースター家のせいなんだと貨物船は思い込みたかった。


……しかし、疲労した精神は別の考えも貨物船に抱かせる。
全ては自分が弱いから、そのせいなんだというネガティブな感情も強くなり始めた。

自分の心が弱かったせいで、身体がジョナサンになったDIOのことを必要以上に怖がってしまった。
甜花に対してもしょうもない嫉妬心を抱いてしまった。
そのせいで焦り、余計な行動をしてしまった。
結果的に、変態にお尻の処女を奪われてしまった。
DIOのためになると決めながら、全然それができていないのだと思い始めてきた。


「……ウッ、ウッ、ウウ……オアッ、エウッ、グスッ………」

思わず、涙がより多くあふれ出てきた。
船だった自分には本来流れることのなかったはずのものだ。
そもそも、自分の弱さを恥じる気持ち自体が初めてのものだ。
初めて抱く感情を、貨物船はだんだん抑えきれなくなってきた。


685 : Aの友愛/君をもっと知りたいな ◆5IjCIYVjCc :2022/04/24(日) 21:34:03 /HGGG/co0



「………大丈夫。きっと、大丈夫…だよ。DIOさんが、なんとかしてくれるから……」

泣き始めた貨物船に対し、甜花は慰めの言葉をかける。
オランウータン姿のこの人物(人じゃない)が何を考えているのかは相変わらず甜花には分からずじまいだ。
しかし、これまでと違い大いに悲しみ始めた様子なのは察した。
だからこうして、軽く落ち着かせようとするくらいなら甜花にもできる。

ただ、ここで貨物船にかけた言葉自体は、自分自身にも言い聞かせているものだ。
現状不安でいっぱいなのは甜花も同じだ。
口に出すことで、きっと何とかなる・大丈夫なはずだ、そう思い込むようにして何とか心を落ち着ける。
しかしいくらそう思っても、実際にはDIOはここにはいない。



「………グズッ」

そして、一つの嗚咽を最後に貨物船は涙を止める。
今まで敵視していた相手に慰められたとなれば、流石の彼の感情も複雑なものになる。
心は相変わらずぐちゃぐちゃのままだ。
だけど、今は言われた通りDIOのことを信じて待機するしかないことは分かっている。

貨物船は、痛みに耐えながら甜花に身を任せて治療を待った。



◇◆

(……………そういえば、前にここで戦兎さんと…)

何とかして貨物船の傷の手当てをしようと、甜花は未だ四苦八苦している。
とりあえず右肩の刺し傷の辺りの処置をするため、とりあえず包帯を取り出し、普通に巻いていいものかと少し悩む。
そんな時にふと、ここで桐生戦兎の応急処置をしたことも思い出した。
そして、同時にこんなことも思ってしまった。

彼はどこで何をしているのだろう、今も無事なのだろうか、ということを。


(…………って、何で戦兎さんのことなんか…!)

その考えに至ったことを、甜花は心の中で慌てて否定しようとする。
今の彼女にとって戦兎は自分の愛するDIOを傷つけようとした酷い人だ。
心配する必要なんてないはずだ。
だが、彼女の感情は確かに敵であるはずの戦兎のことも気にする方向に向き始めていた。


(甜花、どうしちゃったんだろう…)

甜花は先ほどから、自分について何かがおかしいと感じ始めていた。
これまでずっとDIOのことを考えていたはずなのに、その意識が段々とずれていく感覚がある。

貨物船のことについてもそうだ。
今まで友達の友達な他人くらいの距離感で接してたのに、急に心配するような意識の向け方をし始めた。


そして、戦兎について考え始めると、何か気分が悪くなっていくような気がする。
これは何も戦兎のことが嫌いだからだけじゃない。

自分は何か、違和感を感じている。
それは、気づいてはいけないようなものの予感がする。
気付いてしまえば、何か取り返しのつかないようなことが起きる気がする。
でも、誰かがそれに気づけと自分に訴えかけているような気がする。
その誰かは、決して無視してはいけない相手のような気がする。
それでも、違和感に気づいたら自分の大切なものを失ってしまうような気がして、訴えを無視しようとしてしまう。
それがとても苦しく感じてしまう。
心がどんどん板挟みされていくような感じがしてしまう。



「………ちょっと、外の空気…吸ってくる」

貨物船の右肩にとりあえず薬を塗り、包帯を巻いた後、甜花は一旦立ち上がり外の窓の方に向かった。
何も尻の穴の方の手当てをどうすればいいか迷ったわけではない。
先ほどからの気分の悪さに耐え切れなくなってきたのだ。
これ以上は考えるよりも、新鮮な空気を取り入れて一度気分をリセットしようと、そう思った。
甜花は窓を開け、外の方に顔を出した。


そして、甜花はある"音"を聞いた。
それは、ドスンドスンと鳴り響く、地面に何かを叩きつける音だった。

「……?」

甜花はその音が聞こえて来た方向へと顔を向けた。


686 : Aの友愛/君をもっと知りたいな ◆5IjCIYVjCc :2022/04/24(日) 21:36:49 /HGGG/co0


◆◇◆



そこにいたのは、『象』だった。

そう、象だ。
アフリカとか、インドとか、その辺りに生息しているはずの動物だ。
地上においては最大の体の大きさを持つ動物だ。

どう見ても、それは象だった。
ここは学び舎であるはずなのに、その景観に似つかわしくない大型動物がそこにいた。


……いや、よく見たらそいつは普通の象ではなかった。

その象は、背中から人間の上半身が生えていた。

よく見ればそいつは、さっきDIOが連れて行ったはずの天使姿の変態、姉畑支遁だった。
彼の手の中には、妙な形状をした銃…ガンモードのドリルクラッシャーが握られていた。


その象のおかしい部分は、背中の天使だけじゃなかった。

本来象の牙が生えている部分には、その牙が無かった。
代わりにそこからは、人間の足のようなものが生えていた。
それはどうも、あの変態の天使の身体としての足のようだった。


そして、象という動物にとって何よりも特徴的な部分であるその長い"鼻"にも異常な箇所があった。
少し距離が空いているため、"それ"が何なのかまだはっきりと確認できたわけではない。
だが、その象の鼻先から伸びる"それ"の形状を甜花は覚えている。
先ほど"それ"を見た際に彼女は尋常じゃない恐怖を感じた。
その恐怖が、再び呼び起こされ始めた。


窓の外から顔を出す甜花に気づいた姉畑が、下半身の象ごと正面を甜花のいる方に向ける。
それにより、甜花の視界に否応なく"それ"が入って来る。
“それ”が何なのかを認識した甜花の顔が青ざめていく。

姉畑のクリムとしての身体が生えたその象は鼻の穴の左から、それはそれは太く、長い、ペニスが生えていた。
そのグロテスクな見た目をした大蛇は、前に見たものと同じ形だ。

そして、もう片方の右の鼻の穴は、まるで女性器のように見えた。
陰唇がパクパクと開閉をし、膣口のような何かが見え隠れする。

象の鼻先に当たる部分にそれら性器が見えるのは、生理的嫌悪感を大いに刺激した。


甜花は、先ほど作られたばかりのトラウマを大きく刺激された。
甜花にとって姉畑は、デビハムと同じく天使に対するイメージを激しく損壊させた、怒りと恐怖を感じる敵だ。
そんな奴が、ここでさらに不気味な化け物となって甜花の前に現れた。

そもそもこいつはDIOがどこかへ連れていったはずだ。
それが何故ここにいるのか、DIOはどうしたのか、その姿は一体何なのか。
情報量の多さに脳が処理をしきれない。


「キ、ヤッ…!」
「そこにいるのですねッ!!」

甜花が恐怖の悲鳴をあげる前に、先にクリム姉畑と象のキメラのような生物が動いた。
姉畑は手に持ったドリルクラッシャーの銃口を甜花のいる方に向け、発砲した。


687 : Aの友愛/ハナっからのクライマックス ◆5IjCIYVjCc :2022/04/24(日) 21:40:16 /HGGG/co0





◆◆


話は少し遡る。

「私が出会ってきた方々についての話は以上です。えっと、これでよろしかったでしょうか?」
「………なるほどな」

甜花と貨物船と別れた後、DIOは姉畑をPK学園の体育館の裏へと連れて来た。
ここでDIOは姉畑のこれまでの動向についてゆっくりと尋ねていた。
この場所を選んだのは単純に他に人が来そうにないからだ。

話をするにあたり、DIOは一応エターナルへの変身を解除している。
顔を見せた方が相手も話しやすいとの判断だ。
ベルトは腰に巻いたまま、メモリは手に持ったままだが。

姉畑はDIOに対し自分の知る限りの情報をほとんど話した。
自分の名前もこの時話した。
姉畑の出会ってきた者達の中にはDIOも既に知る者達がいた。


炎を操る白髪の少女、スギモトは自分がここで最初に会った者だ。
どうも、自分から逃れた後奴はこの姉畑支遁という人物に出会っていたらしい。

放送で名前が呼ばれた鳥束零太等も名前を把握していた存在だ。
姉畑は彼の話をする時にその死を、特に身体のケロロ軍曹についてどこか惜しそうな様子であった。
DIOから見ても、姉畑は大方先ほどの貨物船に対する仕打ちと同じようなことを試みて逃がしたのだろうという予測はつく。
鳥束は既に死亡しているためDIOは特に気に留めず、話題も続けさせない。

電撃を放つ黄色の獣についてはDIOも出会っていたが、その名がピカチュウであることは初めて知った。
姉畑が知っていたのはたまたま身体のプロフィールを拾ったかららしい。
ついでに、そのプロフィールも渡してもらった。
その中身が誰なのかについては後で貨物船経由で入手した組み合わせ名簿でまた確認しようとも思った。
それを姉畑に教えるつもりはないが。
ただ、このピカチュウについての話をしている時が、姉畑の声にもっとも弾みがついていたように感じた。

そして、DIOの知らない者としては、額に痣がある少年の情報が新たに得られた。
この少年はどうも殺し合いに乗っているらしく、戦闘力も高そうだったとのことだ。
最初は杉元とも友好そうだったが、自分のついて行けない間に急に争いを始めていたとのことだ。
その際のいざこざで姉畑は杉元達とははぐれてしまったとのことだ。
他に、巨大なトビウオに乗って空を飛んでいたらしい。
少年についての話では、姉畑はトビウオについて特に力説していたがDIOにとってはそこは別にどうでもよかった。


(…スギモトは自分を不死身だと叫んでいたが、吸血鬼と同じように肉体が再生すると考えるべきか?)

姉畑の話では、スギモトは痣の少年と争いになったらしく、いつの間にか銃で撃たれたらしく頬に穴が開き、血だらけになっていたそうだ。
しかし、DIOとこの学園で再会した時、そんな様子は見受けられなかった。
姉畑の話が本当なら、いつの間にか再生したことになる。
初戦での『不死身』という宣言は、本物だったという可能性が思い浮かぶ。
もしかしたら、これまで与えたダメージ等も、再会時には全て綺麗さっぱり消えているかもしれない。
もし次もまた会えたのなら、その点をよく確認しておこう、とDIOは思った。


「……あ、あの、お話はこれで終わりでよろしいのでしょうか?私としては早く探したりとかしに行きたいのですが…」

DIOが思案している中、姉畑が早くこの場から去りたいという態度をあまり隠さずに終わりを急かす。
その理由が動物達を探しに行きたいということはDIOにも分かっている。
自分は動物学者だと先に言ったのは姉畑の方からだ。
今の話の中でも、情報の伝達の最中で動物達への愛情を隠す様子はなかった。

「…………えっと、できるならばでいいのですが…その……離れる前に、あのお猿さんについてなんですが…その…」

姉畑は口をもごもごとさせながら何か頼みたいといった様子を見せる。
言いたいこととしては、あのオランウータンともっとふれあいたいとか、そのあたりだろう。
はっきりと言わないのは、ナニをしでかすつもりなのかDIOも分かっていることを察しているからだろう。
それでも口に出そうとしているのは、まだ諦め切れていないからだろう。


688 : Aの友愛/ハナっからのクライマックス ◆5IjCIYVjCc :2022/04/24(日) 21:42:30 /HGGG/co0


「…………確か、アネハタと言ったな。お前は、人は何のために生きるのか考えたことはあるか?」
「え?」

唐突に、何の脈絡もなくDIOがそんなことを聞いてきた。

「そ、そんなこと急に言われましても…」

姉畑はその質問に対して回答はできない。

「私が思うに、人というものは『恐怖』を克服するために生きているのだと思う」

相手の回答を待たずに、DIOは畳み掛けるように話を続ける。


「『人間は誰でも不安や恐怖を克服して安心を得るために生きている』、これが私の考えだ。名声を手に入れる、金もうけをする、結婚したり友人を作ったりする…他にも様々あるが、今回は一先ずここまでだ」
「えっと、それがどうかしたのですか?」
「何も私に『恐怖』があるという話がしたいのではない。ただ、今のお前は大いに『恐怖』してる、と私は思っている」

姉畑は確かに、今にでもこの場から離れたそうに、怯えている風に見える。

「お前に一体何の『不安や恐怖』があるのかは知らんが、それを克服したいとは思わないか?」
「どうやってですか?」
「例えば…このDIOに一生仕える、とかだ」

それが、DIOがこの場で本題として話そうとしたことだ。

姉畑支遁は一般社会において『悪』に分類される人間だ。
じゃなければ網走監獄に収監されるなんてことはない。
DIOはそこまでの情報を入手しているわけではないが、姉畑が分類されるべき属性には流石に気付いていた。
人への迷惑も顧みず、自分勝手な行動で周囲に被害を及ぼすその性質。
状況が悪くなれば他人のせいにもしてしまうようなその精神性。
そして、自分という恐怖の象徴に屈しかけているように見える言動、これらの要素から説得により従えられる可能性はまだあると判断していた。


「アネハタ、お前は自分の欲望を制御できないのだろう?」
「い、いや…それは、その…」
「私はそれを責めるつもりはない。むしろ、何を恥じる必要がある?」

DIOは姉畑に対し甘い言葉をかけようとする。
性癖を理解できないのは変わらないが、そもそもそんなことをする必要は無い。
理解している『フリ』ができればいいのだ。
相手は自分のことを分かってくれていると思い込んだ者は、その相手の言うことを疑いづらくなる。
それもまた人を支配し利用するための方法の一つだ。

「何も心配することはない。お前は私たちの戦いを見ていたのだろう?ならば、私の力は分かっているはずだ。その私の下にいれば、お前の目的も果たせるのではないのか?」
「し、しかし…」
「安心するんだ。甜花達が怖いのなら、私の方から説得しよう。そして、話し合おう。君は、好きに生きていいんだ」
「ですが…ですが…」

DIOの言葉に姉畑は迷うかの様子を見せる。



その提案の魅力を、姉畑にも一応理解はできている。
DIOが白い鎧を身に纏って戦う様子は目撃している。
何か黄色い人型の何か(スタンド)を出現させ、操っていた場面も見ている。
そして何より、DIO自身のカリスマにも引き付けられている。
彼に従えば安心が手に入ることを理屈抜きに理解させられる。
だが…


「……駄目です。……駄目なんです」
「ん?」
「許されるわけが、ありません…!」

そう呻いたとたん、姉畑は両手でこめかみを抑えながら顔を下に向け、うずくまる。


689 : Aの友愛/ハナっからのクライマックス ◆5IjCIYVjCc :2022/04/24(日) 21:43:55 /HGGG/co0

「この私が、許されようだなんて、あなたみたいな人と一緒に行けるなんて、そんなことッ!あってはならないッ!!」

まるで発作を起こしたかのように、姉畑は叫び、地面に転がる。
いや、実際に気が触れているかのようだった。


「私はッ!穢してしまったんだッ!汚らわしいッ!!許されないッ!!あってはならないんだあッ!!」

そこにDIOがいるのを忘れてしまったかのように姉畑は叫び続ける。
じたばたと駄々をこねる子供のようだ。


姉畑は確かにDIOのカリスマの影響を受けている。
ひょっとしたらクリムの身体の雌の部分の反応もあるかもしれない。
しかしここにおいては、そのカリスマが逆効果となっているようだった。

姉畑支遁は確かに自然の生き物たちを自分の欲望のままに穢してきた。
だが、それが良くないことだということは心の中のどこかで分かっていた。
だから後になって穢した存在ごとなかったことにしようとして、殺してしまう。

姉畑は少し前、確かに欲望を満たすことができた。
しかし、その相手…スタンドのストレングスは何処かへと消えてしまった。
その行方を姉畑は知らない。
まだ生きているかもしれないと思っている。
だから、一刻も早く自分の罪の象徴の残るその動物(スタンド)を殺しに行きたいという思いが現れ始めていた。
彼の中の更なる狂気が、発散されないままその精神を蝕み、溜め込まれていた。


何より、姉畑がこの世で一番嫌いなものは『自分自身』だ。
動物たちを犯すのも、醜い自分が自然と結びつき、一つになれた気になるからだ。
しかし事が終わればその感覚もなくなり、後には罪の証だけが残るため姉畑は凶行に走るようになる。
姉畑のこの異常な願望を満たすのは、それこそヒグマのような強大な動物のようなものだろう。
ここにいる姉畑はそのヒグマとはまだ出会っていない。

何にせよ、姉畑はその自己嫌悪の感情がかなり強くなっている。
DIOに魅力を感じたことは、自分は彼に相応しくないという気持ちを新たに出現させる。
好きに生きても良いと言われても、それを自分自身が否定したくなる。
それにより姉畑の精神には更に負荷がかかる。
DIOの言う通りにしたい自分と、それが許されるわけがないと主張する自分で、板挟みになる。


「……もういい、十分に分かった」

姉畑が暴れる様子をしばらく眺めていたDIOが口を開いた。
その声音は、先ほどの甘く囁くものから、とても冷たいものに変わっていた。


「…………ハッ!お、お見苦しいところをお見せして………ブベッ!!」

冷静さをある程度取り戻した姉畑が起き上がろうとしたその瞬間、
DIOのスタンド、ザ・ワールドの拳が姉畑の顔面を打った。



姉畑に対し誘いをかけたのは、本気ではなかった。
ただ何となく、試してみただけだった。
そして今、姉畑を従えるのは不可能、もしくは従えたとしても自分にとって不利益が生じると判断した。

そもそもの話として、姉畑はこれまでの様子から動物を見ただけで欲望を暴走させる模様だ。
たとえ自分の下に置いたとしても、こちらの指示を聞かずに暴走されてかなり迷惑だ。
肉の芽とかがあれば制御できるかもしれないが、今のDIOの身体は吸血鬼ではない。

今の面接で少しでもDIOにとって利益になるところを見せていれば気まぐれに生かしてやろうとはほんの少しだけ思っていた。
その場合は甜花や貨物船とはどう折り合いをつけさせるか考えなければいけなかったかもしれないが、その必要もない。
こんな精神の不安定具合が酷い者を自分の下に置いておく理由はない。
ここで秘密裏に始末する方向に舵を切っていた。

まあ、どちらかと言えば初めからそのつもりでこの場所に連れてきていた。
本当に殺すかどうかの判断は、少し話をしてから決めても遅くはないと思っただけだ。
こうなる可能性の方が高いことは予想がついていた。


690 : Aの友愛/ハナっからのクライマックス ◆5IjCIYVjCc :2022/04/24(日) 21:46:10 /HGGG/co0

「お前はもはやこのDIOに利用される価値はない。ここで死ぬしかないな」
「そ、そんな…」

先ほど殴られたことで端正なクリムの身体の顔立ちも歪み、鼻血も流れ出ている。
痛みにより涙目にもなっている。
突然のことによるショックで立ち上がるのも困難なようだ。

「だが、お前にはもう少し聞きたいことがある」
「え?」

しかしDIOはすぐに姉畑に止めを刺そうとしなかった。

「私が聞きたいのはスギモトについての情報だ。貴様、まだ何かを隠しているな?」

DIOは姉畑の持つ情報をまだ引き出しきれていないと考えていた。
杉元佐一についての話をしていた時の姉畑の様子からそう判断した。

(ど、ど、どうしましょう…!)

姉畑がDIOに教えなかった情報、それは杉元が金塊の行方を示す刺青人皮を狙う者なのではないかということについてだ。
この話を出すと、自分もその刺青人皮が彫られた網走監獄の脱獄囚であることに触れないわけにはいかなくなる。
ただの動物学者で通している以上、囚人であったことを隠して話しても、ならば何故に刺青のことを知っているんだという話になってしまう。
自分が囚人であったことは隠したかった。
金塊についても、話題に出してそれこそ居場所を知っていると思われて拷問とかされるのではという発想がまた出てきていた。
そのために杉元佐一についての考察は隠して話していたのだが、それを察知されてしまった。



「どうした?質問は既に拷問に変わっているぞ?」

姉畑がうろたえて次の言葉を出せない間に、DIOはザ・ワールドの手を静かに地面についている姉畑の右手の方に持っていく。
そして、人差し指を力任せにへし折った。


「ギャアアアアアアアァッ!!?痛いッ!痛いよぉッ!!」
「まだ喋ってもらうことがあるからな。歯は折らないでやる」

突然指を折られた痛みにより姉畑は絶叫した。
後ろ向きにしりもちをつき、折れた指を抑える。


(こ、このままじゃ殺される…!)

骨が折れたことによる激しい痛みにより、姉畑は自分の現状にようやく理解が追いつく。
カリスマに酔いかけていた脳も醒めていく。
だが、自分が目の前の男に敵わないという実感は変わらない。
ドリルクラッシャーで抵抗を試みても、それは無駄な行いだと思わされる"凄味"を感じさせられる。
姉畑の中で絶望が急激に大きくなっていく。


(嫌だ…私にはまだやるべきことがある!死にたくない!あの子たちについても、まだ知らないことがたくさんなんだ!!)

だがこの絶望的な状況でも、姉畑支遁はまだ自身の生存を諦めたくなかった。
先ほどは魅力を感じていたDIOについても、この男のために死にたいとも思っていない。
どうせ死ぬなら、自分の愛する自然と一体になってから死にたい。
それに、ここで出会ってきた未知の動物たちについてもまだ仲良くなれていない。
生態等、興味深いこともたくさんだ。
そのためにもここは生き延びなければならない。



そして、姉畑はあることを思いつく。
彼の手元にはまだ支給品が残っている。
それは、我妻善逸が森の中で忘れていって自分が拾った物だ。
それらを使えばこの場から逃走することができるのではという考えが浮かぶ。

ただし、それが成功する確率はかなり低い。
以前メギドボムを喰らった時に飲んだ青いポーションも、半信半疑のまま飲んだが効果は説明書通りに現れた。
だが今使うことを思いついた支給品は、それこそ説明書通りなら、むしろ失敗しここで死ぬ可能性の方がずっと高い。


しかし、姉畑はその支給品をここで使おうと考えていた。
生き残りたいのはもちろんだが、それは姉畑の願望をある程度叶えることができるかもしれないものなのだ。
今まで使わなかったのは、効果が現れる成功率の低さ故だ。
例え効果が現れたとしても、この状況を脱することのできる力を手に入れられるとは限らない。
だがどうせここで死ぬのなら、せめて僅かでも成功する可能性に賭けようと思った。
ここで殺されるとしても、後からせめてそれを試してみるべきだったという後悔もしたくない。


691 : Aの友愛/ハナっからのクライマックス ◆5IjCIYVjCc :2022/04/24(日) 21:47:58 /HGGG/co0



「う、うわああああああああああッ!!」

そして、姉畑は行動に出た。
元から装備していた状態にあったドリルクラッシャーを手に持ち、ガンモードにし、銃口をDIOに向けようとする。

『無駄ァ!』

しかし、発砲されるよりも先にザ・ワールドが動く。
ザ・ワールドはドリルクラッシャーを構えようとした姉畑の右腕に向けてチョップを振り下ろす。
手首から肘にかけての部分、前腕内部の骨が折られる。
ドリルクラッシャーもその場に落としてしまう。

「あああああああああああああッ!!」
「無駄無駄。お前が何をしようと、このDIOのザ・ワールドの力の前では無駄なんだ。そして、その下らない企みもお見通しだ!」

姉畑は再び痛みによる悲鳴を上げる。
だが、それとは別に左腕を動かしていた。
姉畑の左腕は、横においたデイパックの中に伸びていた。

姉畑はそもそも、ドリルクラッシャーを発砲するつもりはなかった。
第一、先ほど右手の人差し指を折られているため引き金は元から引けない。
姉畑は右腕に注意を引きつけ、その隙に左手で横に置いたデイパックから新たに何かを取り出そうとしていた。
腕を折られるまで予測できていたわけではないが、それでも何とか痛みに耐えてこの場を脱する物を出そうとした。

しかし、その浅知恵もDIOの前では無駄だ。
右と同時に左も動かしていたことなど、すぐに気付く。
DIOはザ・ワールドを操作し、デイパックの中に伸びる姉畑の左手も潰そうとその部分に向かってそのスタンドの拳を叩きつけようとした。





それが、DIOに本当の意味での一瞬の隙を作らせることになる。


「グアァ!?」

DIOの体に、一瞬電気が走った。
体が痺れ、手に持っていたエターナルメモリも地面に落とす。

電撃を浴びたのはDIO自身ではない。
姉畑の近くにいたザ・ワールドに対してだ。
姉畑の左手を中心に、電気が破裂するかのように周りに広がり、ザ・ワールドもそれに触れた。
そのフィードバックにより体が痺れ、DIOの動きが一瞬止まる。


この状況を生み出した物、その名は黄チュチュゼリー。
ハイラルに生息するエレキチュチュという魔物から採れる物体だ。
他の種類のチュチュゼリーに電気を流して作ることもできる。
この物体は叩いて衝撃を与える等すると破裂し、周囲に電気を発生させる性質を持つ。
このゼリーは元々、我妻善逸への支給品の一つであった。
ついでに言えば、5つセットで支給され、その内1つが今回破裂した。

姉畑はこれを取り出そうとした。
そして左手と共にデイパックの外に出た瞬間、そこにザ・ワールドの拳が飛んできた。
その衝撃により破裂し、周囲の空間に電撃を走らせた。

そして、姉畑の身体であるクリムヴェールはほとんどの属性攻撃を無効化する。
ゼリーがまき散らした電気にも痺れない。
スタンドのパンチによる衝撃は、完全に防げたわけではないが、このゼリーがクッションとなりある程度和らげた。
全く痛くないわけではないが左手はまだ無事だ。

右腕の骨が折れたことによる激痛に耐えなければならないという条件はある。
だが、DIOが痺れている隙に姉畑は動くことができるようになった。


そして、姉畑がここにおいて生き残るために使おうと思った、本命の支給品はこの黄チュチュゼリーではない。
これはあくまで時間を作るためのものだ。

DIOが痺れで動けなくなったかどうかを確かめる時間も惜しんで、姉畑はさらにその『本命』を取り出す。
同時に、青いポーションも一つ取り出し、すぐさま飲み干す。
それによりまずは折れた右腕を治し痛みを和らげる。


「貴様…!よくもこのDIOに…!」

姉畑が青いポーションを飲んだ隙に、DIOの体から痺れが消える。
それと同時に姉畑に対し強い怒りを抱く。

黄チュチュゼリーは確かに電気を発生させるが、それは決して強いものではない。
以前DIOが浴びたピカチュウの10万ボルトにも及ばない。
ダメージは受けるが、大きくはない。
感電による拘束時間もすぐに過ぎる。

だが、DIOはすぐに姉畑を攻撃できたわけではなかった。
このゼリーによる電撃は、浴びると手に持っていたものをほぼ確実に落とす。
それにより自分が落としたメモリに一瞬視線が誘導された。

更にその隙に、姉畑は本命の支給品…二重丸の模様がたくさんついたリンゴのような果実を手に持つ。
そして、その果実にかぶりついた。


692 : Aの友愛/ハナっからのクライマックス ◆5IjCIYVjCc :2022/04/24(日) 21:50:48 /HGGG/co0


「死ねィ!」

ザ・ワールドが姉畑に対し拳を構える。
情報を抜き出すための拷問はもう止めだ。
怒りに任せ、ここで確実に殺すために拳を振るおうとした。

『ゴクン』

それと同時に、姉畑は口に含んだ果実を飲み込んだ。

そして、怪物が生まれた。



◆◆


「なっ!?」

突如視界に入ってきた巨大な物体に、DIOは驚いて思わずザ・ワールドの拳を止めた。

そこに現れたのは、一頭の象だった。
背中から天使を生やした象だった。
それは、姉畑支遁が変化したものだった。

動きを止められたのは、急な巨大化による体積の膨張に押されてのこともあっただろう。
まさかの展開に、流石のDIOも思考が追い付かない。
こんなことができるとは、クリムヴェールのプロフィールにも書いていなかった。
支給品を使ってこの姿になったという考えが浮かぶのにも少し時間がかかった。



ここで姉畑支遁が食したリンゴのような果実の正体、その名は『SMILE』。
シーザー・クラウンという男が開発した「人造悪魔の実」だ。
この果実の特徴、それは食した者に体の一部を何らかの動物の姿に変身させる能力を与えることだ。

ただし、このSMILEには多くのリスクがある。

1つは、何の動物の能力が得られるかは食べてみないと分からないこと、
そして変身させられる部位を選べず、動物の部分もどんな形で現れるか分からないことだ。
その変身能力も、自分の意思で解除できないのがほとんどだ。

次に、食べても必ず能力が得られるわけではないというリスクがある。
SMILEを食べた者達の中で、能力を発現させることができるのは10人に1人、全体の10%だけだ。

そして、最大のリスクとして、食べても能力者になれなかった者は、笑顔以外の表情を失いどれだけ悲しくても笑うことしかできなくなってしまう。


これらのリスクにより姉畑はこの果実をすぐに食べることはしなかった。
自然の動物たちと一つになりたい姉畑にとって、たとえ一部だけでも動物になれるこの果実の効果には大いに興味があった。
だが、その低い成功確率や、失敗した時のデメリットの大きさ故にこれまでは怖気づいて食べなかった。

しかし今、命の危機に瀕したため、どうせ死ぬのならとこのSMILEを食べる踏ん切りがついた。
そして、姉畑は賭けに勝った。

また、クリムヴェールの身体は属性攻撃が効かないが、薬が効かないわけではない。
女体化の薬を飲んで自分の体の雄の部分を一時的に消したこともある。
今回のSMILEについても、幸運に当たりを引き、その効果を発現させることができた。


「やった…やりました…!うおおおおおおッ!!」
『パオオオオオオオッ!!』

姉畑は想定以上の結果が得られたことに喜ぶ。
しかし今はそれにかまけている暇はない。
確立のことを考えたら狂喜乱舞したい気分だが、そんなことはまだできない。
この場を生き延びるために次に何をすべきなのか脳をフル回転させて判断する。
象も姉畑の意思に応えるように鳴き声を上げる。

下半身が変貌した象がその長い鼻を横に大きく振りかぶる。
そして、DIOに向かって力任せに薙ぎ払う。
同時に、背中の姉畑は変身と同時に手に持ったデイパックから黄チュチュゼリーをさらに二つ取り出す。
そして自分から見て左横の辺りにいたザ・ワールドに向けゼリーを投げ捨てる。

「くっ!」

ここで、DIOの行動は制限を受けた。
先に攻撃を仕掛けることができなかった。


693 : Aの友愛/ハナっからのクライマックス ◆5IjCIYVjCc :2022/04/24(日) 21:51:58 /HGGG/co0

まず一つとして、姉畑の下半身が変貌した象の容姿に驚愕してしまったことが効いた。
相手は、象の牙にあたる部分から足が生えていた。
そして、鼻先の穴の部分は男性・女性両方の性器が現れていた。
DIOはこれらを見てしまった。
その衝撃的な姿から、DIOの思考が復帰する時間も延ばされた。

次に、姉畑が黄チュチュゼリーをザ・ワールドに向けてバラまいたこと、
気付いた時には、姉畑の象とザ・ワールドの間にまでゼリーは落下していた。
そのため、ここで一瞬、このままザ・ワールドで攻撃したらこのゼリーを破壊し、再び電気を浴びることを考えてしまう。
実際に、姉畑はそれを狙ってゼリーを落とした。


結果として、DIOの方の行動が姉畑より一瞬遅れた。
そして、象が振りかぶった鼻が、DIOにたどり着いた。

「クゥアッ!!」

DIOはそれに対し、自身の、ジョナサンの身体での拳で象の鼻に対抗しようとした。
ザ・ワールドは約3メートル先の相手のすぐ近くにいるが、これで攻撃しても、鼻による攻撃も同時に防御する暇もなく自身にたどり着く。
エターナルへの変身はメモリを電気の痺れのせいで落としてすぐにはできない。
自分の身を守るのにここで頼れるのは、因縁の宿敵の膂力だけだった。
DIOはジョナサンの腕で迫りくる象の鼻を受け止めようとする。

「ウグアァッ!!」

しかし、その試みは失敗した。
象の鼻は1トンの物体を持ち上げることができるとも言われている。
体重1〜2トンのサイを転がしたという事例もあるらしい。
そんな象の本気の振りかぶりはたとえジョナサンの身体でも受け止めきれなかった。
防げる可能性があるとすれば、ザ・ワールドを近くに戻しておくか、エターナルへの変身は解除しないでいることか、
もしくは波紋の呼吸をもっと使えるように練習しておくべきだったか。

いずれにせよ、今回は姉畑の象の鼻による攻撃を受けてしまった。
DIOは横方向に吹っ飛ばされてしまう。
姉畑の横にいたザ・ワールドもそれに引っ張られる。
一応自分の体で受け止めることを選んでいたため、多少の防御はできている。
ザ・ワールドをすぐ自分の側に戻し、地面への激突に際する衝撃も和らげる。
象の攻撃によるダメージは少な目に抑えた。

しかし、DIOと姉畑の距離が離されたという結果が生まれてしまった。
その隙に姉畑は象の鼻を操作し、地面に落ちていたドリルクラッシャーを絡みとって拾い、背中の自分に渡させる。
他に落とした2つのチュチュゼリーは方向転換の際に蹴とばしてしまい破裂させてしまう。
象の部分もクリムの身体が変化したもののため発生する電気には無反応だ。
食べかけのSMILEも地面に落ちたままだ。
それらにも、DIOにも目もくれず、姉畑はこの場から走って逃亡を始めた。

「ぐっ…!」

DIOは何とかすぐに起き上がる。
ただ、追いかけるにはタイムラグが生じた。
DIOには落としたエターナルメモリを拾う必要があった。
その時間差が、姉畑に次の行動を許してしまった。





姉畑支遁は確かに体育館裏の場所から逃げられた。
しかし彼はすぐにはこのPK学園から出なかった。
彼にはこの中でまだやりたいことがあった。


694 : Aの友愛/ハナっからのクライマックス ◆5IjCIYVjCc :2022/04/24(日) 21:53:48 /HGGG/co0

DIOが連れていた二匹のオランウータン、その片割れを攫うことが次の目的だった。
自分が穢した方を殺すために探したい。
そのためには、同じ容姿をしたもう片方も必要だと考えていた。
もう片方は、自分が何もしてないにも関わらず尻の辺りを手で押さえてもだえ苦しんでいた。
見た目がそっくりなこともあり、二匹になんらかの繋がりがあるのかは確かだ。
これもまた、電気を出すピカチュウのような不思議な生態の一つなのかもしれない。
殺してあげたい気持ちと、特殊な生態を持っていそうなことの興味深さ、これらのために姉畑はもう片方のオランウータン…貨物船の本体を求めた。

そのためにまず、姉畑は最初の校門付近の場所に戻った。
あの甜花と呼ばれた少女と貨物船と呼ばれた彼が今も同じ場所にいるかどうかは分からない。
ただ、一縷の望みを持ってこの場所に戻ってきた。


そして、結果的にこの場所に戻ってきたのは正解であった。
PK学園の保健室は、窓の外から校門が見える描写が『斉木楠雄のΨ難』原作にある。
このシーンでは斉木楠雄が保健室内の窓から校門近くに停まった救急車を見ている。
単行本第1巻収録の第2χ、ページ数で言えば50ページを参照だ。
つまり、校門付近から保健室の窓の位置を見つけることは可能と考えられる。


◆◆◆◆





場面は元に戻る。

姉畑支遁が校門付近にたどり着くと同時に、大崎甜花は保健室の窓を開けてしまったのだ。
それを、姉畑は見つけてしまった。
最初のDIOの指示から、この赤みがかかった髪色をした少女が貨物船と呼ばれたオランウータンと一緒にいることは姉畑にも分かっていた。


「キ、ヤッ…!」
「そこにいるのですねッ!!」

そして姉畑は甜花のいる方に向かってガンモードのドリルクラッシャーを発砲した。
ただこれは甜花自身を狙ったわけではない。
姉畑が狙ったのは保健室の窓ガラスだ。
銃口から放たれた光弾が甜花の開けた方の隣のガラスを破壊する。


「キャア!!」

破壊されたガラスの破片が甜花にも襲いかかる。
とっさに腕で顔を守ったが、破片の一部が服や守り切れなかった皮膚を少し切り裂く。
そのまま窓が破壊されたことによる衝撃を大きく受ける。
それに押されて甜花は横方向に倒れてしまう。

「ウキャア!?」

突然の銃声、破壊された窓ガラス、倒れた甜花、
貨物船も異常事態を察する。
驚いたまま、尻の痛みに耐えながら窓の方へと近づいてしまう。
その判断が、彼の命運を分ける。


「見つけましたよッ!!」

ガラスの無くなった窓の外から、先に異物の付いた象の鼻が侵入してきた。
その長い鼻に、貨物船は体を絡めとられる。
それにより、彼は強引に開けた窓から引っ張り出される。
その際、窓枠にもぶつかり貨物船の頭に小さいこぶができる。


「ハア…ハア…ようやく君を手に入れられました!」
「ウキャアア!ウキヤアアアッ!!」

望むものを手に入れられた姉畑は興奮した様子を見せる。
貨物船は、目の前の相手に混乱・恐怖する。
姉畑の何に驚愕しているかは今更記す必要はないだろう。甜花と大体同じだ。

そして、相手が自分に何をしようと思いこの長い鼻で自分を拘束しているのか、おぞましい想像をさせられてしまう。
貨物船の中の恐怖が大きくなり、必死でもがこうとする。
だが、象の鼻の力は強く、オランウータンの腕力でもほどき切れない。
スタンドを出そうにも、消耗した体力・精神力では難しい。

「さあ!行きますよ!」

貨物船を鼻で締め付けながら、姉畑は象と共に方向転換し、校門の方へと向き直り、走り出す。


「待て!」

そんな折にDIOがようやく戻ってきて姿を見せた。
その姿は、白い仮面ライダーエターナルのものだ。
先ほどのこともあり念のために変身していた。
だが、姉畑はその呼び止めも無視してそのまま校門から出ようとする。


「ウ、ウッキャア!」

だが、DIOが姿を見せたことは貨物船の心にわずかながらの安心を与えた。
しかし、長い鼻による拘束が解けないことには変わりない。
距離が空いているため、すぐには追いつけない。


695 : Aの友愛/ハナっからのクライマックス ◆5IjCIYVjCc :2022/04/24(日) 21:59:10 /HGGG/co0

象の最大時速は40km/h、人間よりも早い。
今すぐにそこまで加速できているわけではないが、象が体の大きさの割に素早いのは確かだ。
エターナルの走力は100mを3秒、時速に直せば120km/hであるが、すぐさまその速度に加速できるわけでもない。
それに、保健室の窓が割れていることによりそちらにも一瞬注意が向く。
その間に姉畑は貨物船を連れて校内からの脱出を完了させてしまう。


けれども、DIOが姿を見せたことは貨物船に自分が何をするべきか、それを考える余裕を与えた。
彼もまた脳をフル回転させ、DIOのためにこの状況で何ができるのかを考えさせる。
そして、貨物船は1つの結論に至った。

「ウキアァ!!」

貨物船は所持していた英和辞典を開き、その最後の方のページを破いた。
そしてそれを丸めてDIOのいる方へと投げた。
この行動の意味が届くかどうかはDIO次第だ。
それを理解してもらえることを祈りながら貨物船は姉畑によりPK学園の外に連れ出された。

◆◆


貨物船が投げた英和辞典から破かれたページをDIOは拾って開く。
彼が投げたのは、辞典の『W』から始まる単語の載るページが数枚だった。
その意味を、DIOは察する。

貨物船が伝えたかったこと、それは「自分をワインの毒の効果で化け物にしてくれ」ということだ。

DIOは、いまだにあのワインの嘘の説明を信じている貨物船に呆れ果てる。
本人にとっちゃこれまで迷惑をかけたお詫びも兼ね、自分の命と引き換えに姉畑支遁を倒したいということなのだろう。
実際には、そんなことはできないにも関わらず。
自分がこれ以上DIOに役立てることは、もはやこれしかないのだと判断しているのだろう。
DIOがそれに対して何もできない以上、貨物船のこの選択は愚かなものであると、DIOは思う。
あまりにも無意味なメッセージだった。


そして、DIOはやがて体をわなわなと震わせ始める。
彼の中で、怒りの感情がかなり大きく渦巻いていく。

「………クソォ!!このDIOが…こんな屈辱を…!!」

まさかあんな異常性癖の変態に出し抜かれるなど、思っていなかった。
貨物船は自分の指示を無視した愚か者であるが、自分の部下であるという立場はまだあった。
自分の所有物であったのだ。
それを、あのアネハタと名乗ったふざけた天使は、このDIOから奪い取っていった。
他人から何かを奪い取るのは、いつだって勝利者だけが持つ権利だ。
その権利を持つことができるのは自分、いつだって支配者のこのDIOだけのはずだった。
だがあの天使は、あろうことかその自分から"物"を奪って行った。
よりにもよって、かなりの格下として見下していた者から奪われたのだ。
それによる屈辱は大きい。
決して許しがたいものだ。

DIOに落ち度があるとしたら、油断していたことだろう。
しかしそれをDIOの精神は認めたくない。
この屈辱による怒りは、身を焼き焦がすほど熱くなる。
DIOはあの姉畑支遁を自分の手で確実に殺すと、決めていた。


「あ、あの……DIOさん…」

DIOが貨物船の残したページを見ながら怒りを煮えたぎらせている中、やがて甜花がやってきた。

甜花は保健室内で起き上がった後、外にDIOがいることに気づき慌てて外に出た。
一応、ガラスの破片とかでこれ以上甘奈の身体が傷つくことを恐れて壊れた窓からでなく、正面玄関から出た。
そのせいで少し
甜花はおどおどとした様子でDIOに話しかけようとする。
DIOの機嫌が現在最悪なことは彼女も察しているようだ。


「……甜花、奴を殺しにいくぞ。一緒に来てくれるな?」
「……………うん」

ノーマルコミュニケーション。
甜花は、今のDIOの回答に顔を曇らせた。

今のDIOは、冷静さが欠落し始めている。
姉畑支遁への怒りが感情の大部分を占めている。
そのことを、甜花は察してしまった。
今の彼が自分のことを考えてくれていないことを悲しく思った。


696 : Aの友愛/ハナっからのクライマックス ◆5IjCIYVjCc :2022/04/24(日) 22:03:20 /HGGG/co0

ただでさえ姉畑支遁のこれまでの行いにより精神は大きなショックを受けているのに、そこに愛する人が自分を見てくれていないことは甜花の心をさらに強く痛める。

(……やっぱり、全部全部、あの人のせいだ…!)

そして、甜花の中の悲しみは次第に怒りへ、そして殺意へと変換されていく。
あの理解不能な自称動物学者な変態、
デビハム以上に天使の身体でいられることを許せない相手、
しまいには象の化け物になった上に、甘奈の身体に切り傷を作る原因となった。
その男、姉畑支遁への怒りがDIOと同等と言っても差し支えないほどに強くなっていた。

DIOと甜花は、たまたまであるがその考えがシンクロした。
二人とも同じ相手への敵意を強く持ち、PK学園からの移動を開始した。


◆◆


ここで少し、明言しておきたいことがある。

貨物船の治療の最中、甜花はホレダンの花粉で洗脳されているのにも関わらず戦兎のことを気にしてしまった。
そして、貨物船に対しても少し関心が向いた。
それまではDIOが彼女の全てであったはずなのにだ。

これについては一応、簡単な仮説が立てられる。
ホレダンの花粉の効果が時間経過によって少し弱まったかもしれないのだ。
ただ、弱まっただけで効果が無くなったわけではない。
これまでの愛が10〜9だとするならば、7〜8に変わった程度だ。

他に考えられる可能性としては、姉畑支遁の凶行を見てしまったことによる多大な精神的ショックも考えられる。
ストレスが、愛を抑制できた可能性を、ここで挙げておきたい。
まあ、この仮説については少々無理矢理な感じもまだするが。



そして最後に、彼女が聞いた気がする『声』についてだ。
この『声』は彼女に対し、「違和感に気づいて」と訴えているようだ。

さて、ここで一つ、『問題』を提起したいと思う。
この問題は、これまでの話と大きく矛盾する可能性を高く孕んでいる。
今後、話が進むにつれてこの問題の息が続くかどうかも不明瞭だ。
今後は無視してもらっても構わない。
それでも、思い立った以上記さずにはいられない。


それでは、書かせていただきます。

彼女が聞いた『声』、これを発したのは、






『姉』と『妹』どちらなのだろうか?


697 : Aの友愛/ハナっからのクライマックス ◆5IjCIYVjCc :2022/04/24(日) 22:10:28 /HGGG/co0
【E-2 街 PK学園高校(校門付近)/昼】

【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:ジョナサン・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険
[状態]:エターナルに変身中、両腕火傷、体中に痺れ(少し再発)、疲労(大)、火に対する忌避感、姉畑支遁への屈辱と怒り(大)
[装備]:ロストドライバー+T2エターナルメモリ@仮面ライダーW
[道具]:基本支給品、ジークの脊髄液入りのワイン@進撃の巨人、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、クリムヴェールのプロフィール、ピカチュウのプロフィール
[思考・状況]基本方針:勝利して支配する
1:アネハタを殺しに行く
2:甜花を従えておく。
3:裏切るような真似をしたら殺す。
4:役立たないと判断した場合も殺す。
5:貨物船はもはやどうでもいい。どうせ役に立たない、助かるまい
6:学園から逃げた連中への苛立ち。次に出会えば借りは返す。(特にスギモト、戦兎、ピカチュウ(善逸))。
7:元の身体はともかく、石仮面で人間はやめておきたい。
8:アイスがいるではないか……探す。
9:承太郎と会えば時を止められるだろうが、今向かうべきではない。
10:ジョースターの肉体を持つ参加者に警戒。東方仗助の肉体を持つ犬飼ミチルか?
11:エボルト、柊ナナに興味。
12:仮面ライダー…中々使えるな。
13:デビハムと少女(しのぶ)は…次に会う事があったら話をすれば良いか。
14:もしこの場所でも天国に到達できるなら……。
[備考]
※参戦時期は承太郎との戦いでハイになる前。
※ザ・ワールドは出せますが時間停止は出来ません。
 ただし、スタンドの影響でジョナサンの『ザ・パッション』が使える か も。
※肉体、及び服装はディオ戦の時のジョナサンです。
※スタンドは他人にも可視可能で、スタンド以外の干渉も受けます。
※ジョナサンの肉体なので波紋は使えますが、肝心の呼吸法を理解していません。
 が、身体が覚えてるのでもしかしたら簡単なものぐらいならできるかもしれません。
※肉体の波長は近くなければ何処かにいる程度にしか認識できません。
※貨物船の能力を分身だと考えています。
※T2エターナルメモリに適合しました。変身後の姿はブルーフレアになります。
※主催者が世界と時間を自由に行き来出来ると考えています。
※杉元佐一の肉体が文字通り不死身のものである可能性を考えています。

【大崎甜花@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[身体]:大崎甘奈@アイドルマスターシャイニーカラーズ
[状態]:疲労(大)、胴体にダメージ(小)、DIOへの愛(大)、姉畑への恐怖と嫌悪感と怒り(大)、服や体にいくつかの切り傷
[装備]:戦極ドライバー+メロンロックシード+メロンエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、PK学園の女生徒用制服@斉木楠雄のΨ難
[道具]:基本支給品、甘奈の衣服と下着
[思考・状況]基本方針:DIOさんの為に頑張る
1:DIOさん大好き♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥
2:あの人(姉畑支遁)……絶対に許さない…!
3:戦兎さん…DIOさんに酷いことしたのに……この気持ちは何で…?
4:ナナちゃんと燃堂さんも……酷いよ……。
5:なーちゃん達はDIOさんが助けてくれる……良かった……。
6:千雪さんと、真乃ちゃんまで……。
7:貨物船って……何でそんな名前に…?とりあえず、助けに行くことになるの…?
[備考]
※自分のランダム支給品が仮面ライダーに変身するものだと知りました。
※参戦時期は後続の書き手にお任せします。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※ホレダンの花の花粉@ToLOVEるダークネスによりDIOへの激しい愛情を抱いています。
 どれくらい効果が継続するかは後続の書き手にお任せします。


698 : Aの友愛/ハナっからのクライマックス ◆5IjCIYVjCc :2022/04/24(日) 22:11:21 /HGGG/co0

【E-2 街/昼】

【貨物船@うろ覚えで振り返る承太郎の奇妙な冒険】
[身体]:フォーエバー@ジョジョの奇妙な冒険
[状態]:疲労(中)、ダメージ(大)、右肩に刺し傷(包帯が巻かれている)、肛門裂傷、精神疲労(大)、ジークの脊髄液入りのワインを摂取、酒酔い(大分醒めた)、身動きが取れない、死の覚悟
[装備]:英和辞典@現実
[道具]:基本支給品、ワイングラス
[思考・状況]基本方針:DIOのためになるように行動
1:DIOが自分のメッセージに気づくことを祈る。
2:漫画を置いて行ってしまったのが少し残念。
3:甜花が気に入らなかったが…
4:尻が痛すぎる。
[備考]
※スタンドの像はフォーエバーのものとそっくりな姿になっています。
※一応知性はあるようです。
※DIOがした嘘のワインの説明を信じています。
※英和辞典の後ろの方のページが数ページ破れています。

【姉畑支遁@ゴールデンカムイ】
[身体]:クリムヴェール@異種族レビュアーズ
[状態]:疲労(大)、未知の動物の存在への興奮、下半身露出、DIOへの恐怖、必死、象のSMILE、貨物船を象の鼻で拘束中
[装備]:ドリルクラッシャー@仮面ライダービルド、逸れる指輪(ディフレクション・リング)@オーバーロード
[道具]:基本支給品×2(我妻善逸の分を含む)、青いポーション×1@オーバーロード、黄チュチュゼリー×2@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド
[思考・状況]
基本方針:色んな生き物と交わってみたい
1:DIOから逃げる。
2:この貨物船という名のオランウータンで消えた方をおびき寄せたい。
3:貨物船についても生態(もう片方(スタンド)とダメージを共有している点)が興味深い、もっと知りたい、仲良くなりたい
4:ピカチュウや巨大なトビウオと交わりたい。他の生き物も探してみる。
5:あの少女(杉元)は私の入れ墨を狙う人間なのでしょうか?
6:何故網走監獄がここに?
7:人殺しはやりたくないんですが…
[備考]
※網走監獄を脱獄後、谷垣源次郎一行と出会うよりも前から参戦です。
※ピカチュウのプロフィールを確認しました。
※象のSMILEとしての姿は、象の背中から上半身が生えている、足が象の牙にあたる鼻の付け根の横の部分から生えている、象の左右の鼻の穴がそれぞれ左が男性器・右が女性器になっています。
※どの方角に向かって逃げているかは後続の書き手にお任せします。



※PK学園の体育館の近くのどこかに食べかけのSMILEが落ちています。


699 : Aの友愛/ハナっからのクライマックス ◆5IjCIYVjCc :2022/04/24(日) 22:18:02 /HGGG/co0
【黄チュチュゼリー@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド】
エレキチュチュを倒すことで入手できるアイテム。
しびれるほどではないが常にビリビリしている。
叩くなどして衝撃を与えると破裂して周囲に電気を発生させる。
炎属性の物に当てて赤チュチュゼリーに、氷属性の物に当てて白チュチュゼリーにしたりすること等もできる。
魔物素材であるため、特定の虫と混ぜて調理すれば薬を作ることも可能。
ここにおいては計5つ支給。
元は我妻善逸への支給品。

【SMILE@ONE PIECE】
シーザー・クラウンによって開発された人造の悪魔の実。
シーザーがパンクハザードで作る「SAD」という名の薬品を、ドレスローザの地下工場でトンタッタ族の栽培能力を利用して生産されている。
トンタッタ族曰く、とても不自然な果実らしい。
食べると体の一部を動物のものに変身させることが出来る能力を得られる。
ただし、その成功確率は10人食べて1人だけである。
成功したとしても、どんな動物の能力を得られるか、どこを変身させることができるようになるかもランダムである。
場合によってはかなり悲惨な見た目になる例もある。
失敗を引いた場合、笑い以外の感情を永遠に失ってしまう。
元は我妻善逸への支給品。


700 : ◆5IjCIYVjCc :2022/04/24(日) 22:18:22 /HGGG/co0
投下終了です。


701 : ◆5IjCIYVjCc :2022/04/24(日) 22:57:07 /HGGG/co0
先ほど投下した話の状態表に追記修正したことを報告します。
DIOの[状態]の欄に、ダメージ(中) を追記しました。
大崎甜花の[状態]の欄に、戦兎に対し複雑な気持ち を追記しました。


702 : ◆OmtW54r7Tc :2022/04/30(土) 09:45:38 J9McV21w0
ゲリラ投下します


703 : 我妻善逸はでんきネズミのユメをみるか!? ◆OmtW54r7Tc :2022/04/30(土) 09:48:08 J9McV21w0
『誰か…』

走る。

『たすけて…!たすけて……!』

助けを呼びながら、少女は走る。
しかし、彼女に救いなどない。

『パパと…ママを……たすけてぇーっ!』

少女は走った。
大好きだった父親の頭をその胸に抱いて、走った。
しかし、少女を助ける者はいない。

少女は、一人ぼっちだった。

ZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZ

「おい、柊」
「う、ううん…?えっと…戦兎さん?」
「大丈夫か、なんだかうなされてたみたいだが」
「え、ええ…」

そういいつつも、ナナの顔は暗い。
とても大丈夫には見えない。
眠っている間、「パパ」とか「ママ」とか「助けて」といった寝言が聞こえてきた。
あまり詮索はしたくないが…とりあえずこれは聞かなければならない。

「それで柊、お前は2時間ほど眠っていたわけだが…斉木楠雄についての情報は得られたのか?」

今から遡ること約2時間前、戦兎はナナにとある提案をした。
それは…眠ること。

『学校での戦いで気絶した後にさ、記憶を見たんだよ。今の肉体…佐藤太郎の記憶を』
『肉体の記憶…ですか』
『ああ、だから柊、試しにお前も眠ってみないか?お前の肉体はこの殺し合いの運営者の一人、斉木空助の弟だ。俺のように記憶を見れば、何か分かるかもしれない』

そんなわけでナナは眠り、そして2時間が経って起こされたわけだが…


704 : 我妻善逸はでんきネズミのユメをみるか!? ◆OmtW54r7Tc :2022/04/30(土) 09:51:12 J9McV21w0
「…いえ、残念ながら、私の記憶する限りでは彼に関する情報はなかったですね」
「そうか、じゃあさっきの寝言は……」

言いかけて、戦兎はすぐに口を閉ざす。
先ほどの寝言は、柊自身の記憶に関するものだったのだろう。
寝ている間の苦しそうな様子を見れば、ろくな記憶でないことは容易に想像できる。
むやみに触れるべきではない。
そう戦兎は考えたのだが、しかしナナはといえば薄く笑うと言った。

「…気を遣わなくていいですよ。ええ、昔の夢を見ていたんです。両親が…殺された時の夢を」
「…そうか」

両者の間で、重苦しい雰囲気が漂う。
そんな中で、ナナは考える。

(眠っている間に余計なことを口走ってしまったようだが…まあいい。この手の話は、同情心を引き、警戒を薄める。この男は出会った頃からどことなく私を警戒していた様子があったし、好都合だ)

一方で、戦兎もまたナナに同情は寄せつつも、考えていた。
父親を亡くしたと嘘をついていた滝川紗羽のことを。
いや、あの寝言はとても演技には見えなかったし、紗羽のように嘘ではないかもしれない。
寝たふりをしていて、迫真の演技をしていたという可能性もなくはないが。
もう少し詳しい話を聞いて真偽を確かめたい気持ちもあるが…しかし今はそんなことをしている場合ではない。
斉木楠雄の記憶を引き出すための方法を見つけなければならない。
そして…実は戦兎には一つ、試してみたいことがあった。

「なあひいら「おっふ!」!!??」

ナナに声をかけようとしたところ、突然放たれる謎の言葉。
戦兎とナナが振り向いてみると、そこには燃堂が眠っていた。
可憐な堀裕子の容姿を台無しにするかの如く、品のない緩み切った寝顔で、はしたない寝相で眠っていた。

「おっふ!おっふ!おっふ!おっふ!」
「なんなんだおっふって…」
「分かりませんけど…なんとなく気持ち悪いです」
「そうだな…なんとなく『勃起』を連想させるニュアンスだ」
「戦兎さん」

ナナに睨まれた。
おっと、しまった。
見た目が男だからとつい油断してしまっていたが、こいつの精神は甜花や彼女の肉体だった双子の姉と同じくらいの、年頃の娘だった。

そんなことを考えていると、唐突に燃堂はパチリと目を開き、起きた。
もしかしたら身体の記憶を見ていたかもしれないし、一応聞いてみるか。
…先ほどの「おっふ」が何なのかも気になるし。

「おはよう、燃堂。何の夢を見てたんだ?」
「おう?……………忘れた」
「そうか…」

こいつに期待した俺がバカだった。


705 : 我妻善逸はでんきネズミのユメをみるか!? ◆OmtW54r7Tc :2022/04/30(土) 09:51:57 J9McV21w0


Zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz

僕はピカチュウ。
野生のピカチュウ。
僕は、元々トキワの森という場所に住んでいた。
だけど、そこには僕以外のピカチュウがいなくて。
仲間を探すため、僕は森を出た。
近くの町を抜け、更に南下していると、

『あぶないとこだった!草むらでは野生のポケモンが飛び出す!』

そういって立ちふさがってきた人間のおじいさんに紅白のボールを投げつけられ…僕は捕まった。
それから次にボールから出てきた時には、僕はおじいさんの隣にいた帽子をかぶった少年のトレーナーになっていて。
成り行きで僕はその少年の指示で、もう一人の少年とパートナー…この先何度も戦うことになるライバルとの初バトルを勝利した。

『おや?…ほう!珍しいことだがそいつはモンスターボールが嫌いなようじゃのう…』

当然だ。
僕はこいつを仲間と認める気なんてない。
それよりも、他のピカチュウを探さなければならない。
だから、ボールの中なんかに入ってられない。

『よろしくな、ピカチュウ』

とはいえ、今はこいつが僕のトレーナー。
ついて行くしかない。
こうして僕は、このトレーナー…レッドと旅を始めたんだ。


706 : 我妻善逸はでんきネズミのユメをみるか!? ◆OmtW54r7Tc :2022/04/30(土) 09:53:31 J9McV21w0


タマムシシティ。
そこは緑と都会が融合した、不思議な街。
純粋な森育ちのピカチュウには、少々戸惑いを覚える場所だった。

『この【かみなりの石】を使えば、そちらのピカチュウを進化させられますよ』
『へえ!買います』

レッドが店員さんに勧められて、何かを買ったようだ。
レッドが持っているのは、不思議な力を感じる石だった。

『ピカチュウ、この石を使えばお前は進化してもっと強くなれる。マチスさんの使ってきたライチュウに』

そういってレッドは石を近づけてくる。

…進化?
…姿が変わる?

冗談じゃない。
僕は仲間のピカチュウを探すためにこいつの旅に付き合ってるんだ。
姿が変わってしまったら…仲間だって分かってもらえないじゃないか。

『ピカァ!』

僕はレッドが差し出してきたかみなりの石をしっぽではたいた。
レッドは一瞬驚いた表情となったが、しかしすぐにいつものような優しい笑みを浮かべると言った。

『…そっか。お前が嫌だって言うなら、無理に進化はさせないよ』


その後も、旅は続き。
レッドはポケモンリーグを目指して戦う中、僕も仲間のピカチュウ探しを続けた。
不思議なことにレッドは、他の手持ちポケモンが進化して強くなっていくのに、進化しようとしない僕をいつまでも使い続けていた。
そして僕の方も、何故だかいつまでも他のピカチュウが見つからないことがあまり気にならなくなっていた。


707 : 我妻善逸はでんきネズミのユメをみるか!? ◆OmtW54r7Tc :2022/04/30(土) 09:54:53 J9McV21w0

そして、僕達はバッジを全て集めてポケモンリーグに挑戦。
4人の四天王を倒し、そして…

『ピカチュウ!いっけええええ!!』
『ジュウウウウウウ!』

僕の電撃に、チャンピオン・グリーンの最後のポケモンが倒れた。
僕達の、勝利だ。

『くそっ!進化もさせてないそんなピカチュウに、俺のポケモンが負けるなんて!』
『当たり前さ!だってこいつは…ピカチュウは』

―ああ、そっか。
―トキワの森には仲間のピカチュウがいなくて。
―僕には、仲間が、友達がいないと思ってた。
―だから、仲間を探し続けた。友達を求めた。
―だけど、それは間違いだったんだ。

『俺の一番大切な仲間…友達なんだから!』

―だって真の友情は、すぐそこにあったんだから。


Zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz

「ん?善逸の奴、泣いてんのか?」

杉元は、病院の外で見張りをしていた。
善逸と二人での見張りだったのだが、しかし善逸が眠そうに欠伸をしていたのを見て、自分の腕の中でしばらく眠ることを提案したのだ。
提案を受けた善逸は嬉しそうに(なんとなくスケベそうな顔で)杉元の腕の中で身体を丸めて眠りについた。

『ピカァ』
「泣きながら笑ってやがる…どんな夢を見てるんだろうな」

可愛らしい表情で眠るピカチュウ姿の善逸を優しい表情で撫でてやりながら、杉元は見張りを続けるのだった。


【D-2と3の境界 聖都大学附属病院の外/午前】

【杉元佐一@ゴールデンカムイ】
[身体]:藤原妹紅@東方project
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、霊力消費(小)、全身に切り傷(大部分治った)、再生中
[装備]:神経断裂弾装填済みコルト・パイソン6インチ(3/6)@仮面ライダークウガ
[道具]:基本支給品、神経断裂弾×36@仮面ライダークウガ、松平の拳銃@銀魂、予備マガジン、ランダム支給品×0〜2(確認済)
[思考・状況]
基本方針:なんにしろ主催者をシメて帰りたい。身体は……持ち主に悪いが最悪諦める。
1:善逸を起きるまで抱えてやりながら病院周りの見張りを続ける。
2:あのカエル(鳥束)、死んだのか…。
3:俺やアシリパさんの身体ないよな? ないと言ってくれ。
4:なんで先生いるの!? できれば殺したくないが…。
5:不死身だとしても死ぬ前提の動きはしない(なお無茶はする模様)。
6:DIOの仲間の可能性がある空条承太郎、ヴァニラ・アイスに警戒。
7:精神と肉体の組み合わせ名簿が欲しい。
8:何で網走監獄があんだよ…。
9:この入れ物は便利だから持って帰ろっかな。
[備考]
※参戦時期は流氷で尾形が撃たれてから病院へ連れて行く間です。
※二回までは死亡から復活できますが、三回目の死亡で復活は出来ません。
※パゼストバイフェニックス、および再生せず魂のみ維持することは制限で使用不可です。
 死亡後長くとも五分で強制的に復活されますが、復活の場所は一エリア程度までは移動可能。
※飛翔は短時間なら可能です
※鳳翼天翔、ウーに類似した攻撃を覚えました
※鳥束とギニュー(名前は知らない)の体が入れ替わったと考えています。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。また自分が戦兎達よりも過去の時代から来たと知りました。

【我妻善逸@鬼滅の刃】
[身体]:ピカチュウ@ポケットモンスターシリーズ
[状態]:精神的疲労(小)、熟睡
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:殺し合いは止めたいけど、この体でどうすればいいんだ
1:ピカチュウ……かみなりの石…
2:お姉さん(杉元)達と行動
3:炭治郎の体が……
4:煉獄さんも鳥束も死んじゃったのか……
5:しのぶさん達は大丈夫かな……
6:無惨を警戒。何でアイツまで生き返ってんだよ!?
[備考]
※参戦時期は鬼舞辻無惨を倒した後に、竈門家に向かっている途中の頃です。
※現在判明している使える技は「かみなり」「でんこうせっか」「10まんボルト」の3つです。
※他に使える技は後の書き手におまかせします。
※鳥束とギニュー(名前は知らない)の体が入れ替わったと考えています
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。また自分が戦兎達よりも過去の、杉元よりも未来の時代から来たと知りました。
※肉体のピカチュウは、ポケットモンスターピカチュウバージョンのピカチュウでした。


708 : 我妻善逸はでんきネズミのユメをみるか!? ◆OmtW54r7Tc :2022/04/30(土) 09:55:44 J9McV21w0
「サイコメトリー、ですか?」
「ああ、お前が寝てる間に斉木楠雄のプロフィールを読ませてもらったが…こいつが使える超能力の一つに、サイコメトリーがあるらしいな」

サイコメトリー…手で触れることで、物体に残された残留思念を読み取る事の出来る能力。
斉木楠雄は透明な手袋をして普段はこの能力を封印している。

「でも戦兎さん、私実は、学園にいた時に手袋を外してこの能力を試してるんですよ。物は勿論、人…燃堂さんや甜花さんにも」

アホで何も考えていなさそうな燃堂はともかく、甜花にも効かなかったとなると、使えないと判断していいと思う。
そうナナは考えたのだが、しかし戦兎は一つの可能性を考えていた。

「…正直、可能性としては低いと俺も思ってる。だけど柊…お前、斉木楠雄の身体にはサイコメトリーを使ってないだろ?」
「…なるほど、そういうことですか」

つまり、サイコメトリーで今の自分の身体…斉木楠雄の肉体に触れる。
それによって戦兎が見たような肉体の人物の夢が擬似再現できるのではということか。
確かに斉木楠雄の肉体というのは盲点だったし、ナナも試していない。
とはいえ、他の物や人に対して効かなかったのだし、斉木楠雄の肉体にも通用しない可能性は高い。

「とはいえ…一応試してみましょうか」

ナナは、透明な手袋を外すと、斉木楠雄の肉体の…額に手を触れた。

―待っていたぞ、柊ナナ

「な!?お前は…」

ナナの脳内に、一人の男が現れる。
ピンク髪で頭に変な装置を付けた男。
今のナナの肉体と瓜二つの人物。

「斉木……楠雄…!」


709 : 我妻善逸はでんきネズミのユメをみるか!? ◆OmtW54r7Tc :2022/04/30(土) 09:56:26 J9McV21w0
【D-2と3の境界 聖都大学附属病院内/午前】

【柊ナナ@無能なナナ】
[身体]:斉木楠雄@斉木楠雄のΨ難
[状態]:精神的疲労、斉木楠雄の精神復活
[装備]:フリーズロッド@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品、サッポロビールの宣伝販売車@ゴールデンカムイ、ランダム支給品0〜2(確認済み)、病院内で手に入れた道具多数
[思考・状況]
基本方針:まずは脱出方法を探す。他の脱出方法が見つからなければ優勝狙い
1:斉木楠雄…!?
2:病院内にいる者達と行動。正直嫌だが燃堂とも
3:斉木楠雄はやはり超能力者なのか?
4:犬飼ミチルとは可能なら合流しておく。能力にはあまり期待しない
5:首輪の解除方法を探しておきたい。今の所は桐生戦兎に期待
6:能力者がいたならば殺害する。並行世界の人物であろうと関係ない
7:エボルトを警戒。万が一自分の世界に来られては一大事なので殺しておきたい
8:天使のような姿の少年(デビハムくん)も警戒しておく
9:可能であれば主催者が持つ並行世界へ移動する手段もどうにかしたい
10:何故小野寺キョウヤの体が主催者側にある?斉木空助は何がしたい?
[備考]
※原作5話終了直後辺りからの参戦とします。
※斉木楠雄が殺し合いの主催にいる可能性を疑っています。
※超能力者は基本的には使用できません。
※サイコメトリーが斉木楠雄の肉体にのみ発動しました。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※貨物船の精神、又は肉体のどちらかが能力者だと考えています。
※小野寺キョウヤが主催に協力している可能性を疑っています。
※主催側にいる斉木楠雄、又は斉木楠雄の肉体を持つ自分がマインドコントロールを使った可能性を疑っています。

【燃堂力@斉木楠雄のΨ難】
[身体]:堀裕子@アイドルマスターシンデレラガールズ
[状態]:後頭部に腫れ、鳥束の死に喪失感
[装備]:如意棒@ドラゴンボール
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:お?
1:お?
[備考]
※殺し合いについてよく分かっていないようです。ただ何となく異常な場であるとは理解したようです。
※柊ナナを斉木楠雄の弟だと思っているようです。
※自分の体を使っている人物は堀裕子だと思っているようです。
※桐生戦兎とビルドに変身した後の姿を、それぞれ別人だと思っているようです。
※斬月に変身した甜歌も、同じく別人だと思っているようです。
※斉木空助を斉木楠雄の兄とは別人だと思っているようです。

【桐生戦兎@仮面ライダービルド】
[身体]:佐藤太郎@仮面ライダービルド
[状態]:ダメージ(中・処置済み)、全身打撲(処置済み)、疲労(中)
[装備]:ネオディケイドライバー@仮面ライダージオウ
[道具]:基本支給品、ライズホッパー@仮面ライダーゼロワン、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを打破する。
1:今は体力の回復に努める。
2:甜歌を正気に戻し、DIOを倒す。あいつの手を汚させる訳にはいかない。
3:他に殺し合いに乗ってない参加者がいるかもしれない。探してみよう。
4:首輪も外さないとな。となると工具がいるか
5:エボルトの動向には要警戒。誰の体に入ってるんだ?
6:翼の生えた少年(デビハム)は必ず止める。
7:ナナに僅かな疑念。できれば両親の死についてもう少し詳しいことが聞きたい
[備考]
※本来の体ではないためビルドドライバーでは変身することができません。
※平成ジェネレーションズFINALの記憶があるため、仮面ライダーエグゼイド・ゴースト・鎧武・フォーゼ・オーズを知っています。
※ライドブッカーには各ライダーの基本フォームのライダーカードとビルドジーニアスフォームのカードが入っています。
※令和ライダーのカードが入っているかは後続の書き手にお任せします。
※参戦時期は少なくとも本編終了後の新世界からです。『仮面ライダークローズ』の出来事は経験しています。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※ジーニアスフォームに変身後は5分経過で強制的に通常のビルドへ戻ります。また2時間経過しなければ再変身不可能となります。


710 : ◆OmtW54r7Tc :2022/04/30(土) 09:57:15 J9McV21w0
投下終了です


711 : ◆s5tC4j7VZY :2022/05/01(日) 22:28:53 tBKTC2uw0
皆さま投下お疲れ様です!
Broken Skyシリーズ
キタキおやじの最後は切なさを感じました。
特に↓
ああ、彼女の歌と踊りはこんなにも人々から愛されるのに、
何故私のキタキタ踊りは忌み嫌われるのか。
どうして彼女ばかりが持て囃されて、キタキタ踊りは蔑ろにされるのだろう。
大衆へ受け入れられているヘレンとの比較に読んでいて胸が痛みますが、キタキタおやじの心情がとても伝わり個人的に好きな文でした。
また、エーリカの最後の
――ああ、私たちがいたあの空は、もう見えないや。
これもまた切なさを感じました。
ですが、これがまたロワのもつ味わいで私は好きです。
最後に制限ありとはいえ二体のライダーの力を有するダグバのゲゲルは絶望待ったなしですね!

Aの友愛
個人的に結末が非常に気になるDIOを巡る愛のグループ。
あのDIOでさえ、姉畑に困惑をするしかないということにクスリとしちゃいました。
そして、何よりも像となった姉畑は文面を読むと、私の脳内では、もはや能力者というよりクリーチャーとなっております。
できたらどなたかイラスト化してくれないものかと密かに願っています。
最後の”問題”これは……ッ!!おおっ!と声を上げました。
気になる展開のオンパレードでした。

我妻善逸はでんきネズミのユメをみるか!?
「おはよう、燃堂。何の夢を見てたんだ?」
「おう?……………忘れた」
「そうか…」

こいつに期待した俺がバカだった。
↑初読みの際、声上げてめっちゃ笑いました。
私のツボにクリーンヒットです。
また、ピカチュウのバックボーンには、当時プレイしていた記憶も重なりホロリとした気持ちになりました。
最後にナナの前に現れた斉木楠雄……!!これも気になる引きで上手く気になりました。

広瀬康一、グレーテ・ザムザ、両面宿儺、メタモンで予約します。


712 : ◆s5tC4j7VZY :2022/05/11(水) 06:36:42 CMbEmSlk0
すみません。延長をいたします


713 : ◆5IjCIYVjCc :2022/05/14(土) 23:56:44 OHU8SPkM0
>我妻善逸はでんきネズミのユメをみるか!?
ピカチュウは野生ではなくトレーナーがいた、それもゲーム主人公のものだったことになるとは。確かにその辺りの明言はありませんでしたね。
その上チャンピオンを下していることを考えると、ピカチュウの中でもかなり強い個体になりそうです。

柊ナナ、燃堂力、桐生戦兎で予約します。


714 : ◆s5tC4j7VZY :2022/05/15(日) 22:48:26 KMIw1G3w0
投下します。


715 : ◆s5tC4j7VZY :2022/05/15(日) 22:49:25 KMIw1G3w0
God gives the nuts, but he does not crack them.
Franz Kafka

序章 朝まで生ポケモン 討論テーマ 廃人トレーナーへの”へんしん”について

チャ―チャーチャッ!チヤッチャッチャー♪ チャッ!チャッ!チャ―♪
チャ―チャーチャッ!チヤッチャチッャー♪ チャッ!チャッ!チャ―♪
ジャジャン♪

「皆さん、こんばんわ。朝まで生ポケモンの時間です。急増する廃人トレーナー問題。どうして純粋にポケモントレーナーとして道を歩んでいた若者たちが廃人へと”へんしん”してしまったのか、今日はこの問題にゲストの皆さんが朝まで徹底討論いたします!」
「それでは、出演者の皆さんをご紹介いたします」

ジャジャジャジャジャジャジャジャ(例のbgm)

「今では世界中のポケモントレーナーに欠かせないポケモン預かりシステム開発者。コガネ弁の論客で知られるマサキさん。よろしくお願いします。」
「よろしゅう!」

「はかいこうせんは人に向けてはなってはいけない。若さゆえの自身の過ちを講演で欠か
 さず話しています。カントー並びにジョウト地方チャンピオンワタルさん。よろしくお
 願いします」
「よろしくお願いします」

「ポケモン育てや40年。多くの有名トレーナーの所持するポケモン育成に携わり、”わしがそだてた”が口癖となりました。そだてやじいさんです。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくたのむのう」

「数多くの新人トレーナーに”きんのたま”を贈る気前のいいおじさんだと、もっぱらの評判です。きんのたまおじさん。よろしくお願いします」
「おじさんのきんのたま有効に活用してるかな!」

「世界屈指の富豪で所有している裏山には珍しいポケモンが集まります。メイドと二人きりで過ごしているウラヤマさん。よろしくお願いします」
「むふふ!うやましいであろう?そうだろう?」

「そして最後は当番組のご意見番。ポケモン研究の第一人者として名高いだけでなく、ポケモン川柳のみならず”せんせい”として戦うことも可能との都市伝説が有名です。オーキド博士。よろしくおねがいします」
「うむ!今夜もポケモンゲットじゃぞ〜」

「それでは、皆さん今夜はよろしくお願いします!」
司会者の言葉に全員、軽く会釈する。

「さて、それでは議論を開始する前に”廃人トレーナー”とはなにかオーキド博士、説明をお願いします」

「うむ!廃人トレーナーとは所謂”異常なやりこみ”をするトレーナーのことをさす言葉
 じゃ」

「異常なやりこみとは?」
「例えば、珍しい色のポケモンに出会うために何日も草むらに張り込むトレーナーや特定のモンスターボールに拘るトレーナーが有名じゃ。じゃが……、やはり代表されるのは”個体値”に異常な執着を持つトレーナーじゃな」

「個体値ですか……ワタルさん。個体値とは一体……?」
「個体値とは、ポケモンが持つパラメーターの事です。例えば同じポッポでも、たいあたりやつばさでうつといった”こうげき”が強いポッポもいれば、かぜおこしやエアスラッシュが強い”とくこう”の強いポッポがいるのです」
「それでは、自分が求める個体値を持つ野生ポケモンをゲットするまでそれを続けるのですか!?」

「そや!ポケモンをぎょーさんゲットしては個体値を確認しぃ、求めとる能力値やないポケモンはボックスの中で永遠に飼い殺しか逃がすが横行されとんねん!」
マサキは怒りを隠せない様子。
それに頷くのはワタル。

「ゲットされるだけはまだ可愛いものじゃよ……」
悲し気に語るのはそだてやじいさん。

「中には、何度も何度もポケモンにタマゴを生ませて割っては、割ってはを繰り返す者もおる……」
「何度も何度も同じ行為を繰り返すとは嘆かわしいことだね。だから、おじさんは同じトレーナーにはきんのたまは渡しません。おじさんのきんのたまは一人一個!」
胸をドンと誇らしげに叩くきんのたまおじさん。

「タマゴを受け取ってはわしの家の前で何度も自転車で往復する姿は一種の怖さをおぼえ 
 のう」
「34番道路。通称廃人ロードですね」
「また、アローラではケンタロスに乗って人とぶつかりながら孵化させる方法が問題とな
 っています」
「先月起訴された危険ライドポケモン致死罪が最たる例です」
「ところで、一つ疑問があるのですが、彼らにタマゴを生ませられているポケモンは主に
 なんのポケモンなのですか?」
「メタモンや」
「メタモンですか……?」
「そや、中でも6vメタモンが酷使されとる」
「どうして、メタモンが酷使されるのですか?」
「メタモンは♂♀関係なくほぼ全てのポケモンのタマゴを生めるんや」
「つまり、自分の望むポケモンの6Vが手に入るんだよ。そして、それはポケモン勝負の
 勝敗に強く作用されるんだ」
きんのたまおじさんの言葉にワタルの眉間にしわが寄る。


716 : 変身 Ungeziefer? Human? ◆s5tC4j7VZY :2022/05/15(日) 22:50:16 KMIw1G3w0
「確かにポケモン勝負は勝ち負けを決めます。しかし、そのために野生ポケモンの乱獲に
 個体値調整での経験値集め。さらに4桁にも上るタマゴの孵化にもいとわない行動は、
 余り褒められることではありません。
 ……私の同僚の四天王の子が言っている言葉で” つよい ポケモン よわい ポケモン そんなの ひとの
 かって  ほんとうに つよい トレーナーなら すきな ポケモンで かてるように がんばるべき”
  があります。
 これを口実に廃人トレーナーとなっているトレーナーもいるみたいですが、彼女はそうしたプレイを推奨するために言ったの
 ではありません。これを観ている視聴者並びに廃人トレーナーにこのことだけは伝えたいです」

ワタルは力強い目線でカメラ……その先の視聴者へ強く訴える。

「メタモンと言えば、最近”メタモンはうむきかい”と発言して辞任した大臣がいるのう
 ……」
「最近といえば、わいの預かりシステムを使用しとるトレーナーにも” ■■■■できないメタモンなんて価値なんかない”といってにがしたドアホがおるん」
「マサキさん。それは放送禁止用語です!」
「事実を述べただけや!」
「……今、ただいまの議論において大変不適切な言葉が使われました。視聴者の皆さまに
 深くお詫びいたします」
司会者は深く頭を下げ謝罪する。

「少し視点を変えましょう。ウラヤマさんの裏山には珍しいポケモンがいるとお聞きしますが色違いのポケモンもいるとの……」
「わしのじまんのうらやまにはメタモンがいるんじゃ! むふふ、うらやましいであろ
 う?そうであろう?」
司会者に話題を振られ、得意げに話すのはウラヤマ。

………わいわいガヤガヤ

こうして、論客達による討論は数時間に及んだ。

☆彡 ☆彡 ☆彡

「えー、今夜も非常に白熱してテーマに対する理解が深まりました。それでは、オーキド
 博士。今回の締めをお願い致します」
司会者に〆の言葉を振られたオーキドはコホンと咳ばらいをすると、目線をカメラに向ける。

「うむ。メタモンや ゆくぞへんしん かわるもん みんなもポケモンゲットじゃぞ〜!」

「オーキド博士。ありがとうございました。続いてはヤドンの天気予報です」

☆彡 ☆彡 ☆彡


717 : 変身 Ungeziefer? Human? ◆s5tC4j7VZY :2022/05/15(日) 22:50:58 KMIw1G3w0
1章 まさかのお料理!?若おかみ!

チチチチ……ボォ!

コンロに火がつくと、ごま油をひいたフライパンを中火で温める。
そこに支給品のコンビニ弁当が投入されると、適度にフライパンを前後に動かして混ぜる。そうすることで、ほぐした米と具が馴染むまで炒められる。
既に調理されているコンビニ弁当のご飯だからこそ水分がほどよく抜け、米がベットリすることがなにりにくい。

「焦げだけは、気をつけないと」

料理をする上で焦がすのだけは許されない。
どんなに見栄えが良くても焦げ一つで料理として台無しとなってしまう。
特にこの料理を食する相手を考えたら、”死”と直結してもおかしくない。
そんな極限状況の調理にも関わらず、どこか楽し気に行っているのは、”おもてなし”に楽しさを覚えているゆえか。

☆彡 ☆彡 ☆彡

「うん。……できた!」

―――炒飯―――

既に調理されているコンビニ弁当を満足する出来栄えにするに選んだのは手軽に作れる炒飯。
小学校の家庭科では、調理実習がある。
その調理実習の一つに”いためる”があるため、その経験から調理することができた。
料理を作り終えると、ふーっと肩を撫で下ろす。

(それにしても、まさか最初に言われたのが”飯を作れ”だなんて……)

そう、先ほどまで料理をしていたのは、両面宿儺ではなく、肉体の元の持ち主である若女将こと関織子であった。
先の宿儺との契約により織子は自身の肉体を一時的とはいえ手にすることができるようになった。
だからといって直ぐに戻ることはないと思っていた織子だが、その予想は直ぐに外れる。
早速宿儺により元の肉体を取り戻した織子。
まだ、参加者の姿が見えぬことからどうして?と首を傾げるが直ぐに理由が判明する。
宿儺が織子に命じたのはまさかの”飯を作れ”
流石の織子もその命令には、呆気にとられた。
とりあえず、ダグバとの戦闘になった放送室では、料理を行うことなど無理であるため、織子は村の中を見渡した。
すると、村の中にある一画に旅館があることに気づいた織子は、またまた驚くこととなった。
その平屋の古い旅館は自身が若女将として過ごしている”春の屋”なのだから。

「どうして春の屋が!?」
(もしかして……おばあちゃんやウリ坊たちも!!)

ふと、祖母の峰子に織子に寄り添い続けてくれているウリ坊がいるのではと、駆け足で旅館内へ入るが、居ないことに落胆する。
いや、愛する人たちがこの殺し合いの場にいないことを安堵するべきだ。
織子は直ぐに気持ちを切り替えると、厨房が使えることに気づく。
ここなら……ッ!
織子は宿儺のために料理を開始したというわけだ。

☆彡 ☆彡 ☆彡

―――コト

完成した料理を厨房で食するわけにはいかないため、炒飯を”あんずの間”に置く。
あんずの間。
春の屋の中でも主に宴会などで使われる部屋。
織子としてはゆったりとくつろげるだけでなく月見台が付いているため、そこから眺めるつつじや竹林といったTHE旅館といった景色で心安らげる”やまぶきの間”でもよかったが、宿儺はおそらく不機嫌そうに”つまらん”の4文字で終わると予感したので断念した。
そろそろ、宿儺に料理の準備ができたことを報告しようとした正にそのとき。

―――ガッシャン!!!

「え?何?」
部屋の向こうからガラスが割れた音が聞こえると、ガザガザガザとまるで人の足音ではなく虫の歩く音が。
やがて、襖がビリィィィと破かれると、巨大な虫が勢いよく金切り声を鳴きながら登場したのであった。

☆彡 ☆彡 ☆彡


718 : 変身 Ungeziefer? Human? ◆s5tC4j7VZY :2022/05/15(日) 22:51:19 KMIw1G3w0
2章 出口の見えない逃走中

「ギィ゛ィ゛ィ゛!?ギィ゛ィ゛ィ゛!?ギィ゛ィ゛ィ゛〜〜〜!?」
(こないで!?こないで!?こないで〜〜〜!?)

草原に響くグレーテの悲痛な叫び。
しかし、口から紡がれるのは耳障りな金切り声にしか聞こえない。
後方からの追跡が止まず、グレーテはひたすら逃走を続ける……

「まって……ください!」
(なんとか……一度……一度でいいんだ!落ち着かせることはできないかな)

片や康一も見逃さないよう必死に追いかける。
幸い自身の肉体であるエレン・イェーガーは巨人を駆逐するために訓練に励み結果、104期生の中で5番目と言う好成績で修了した。
そのため、グレーテの速度に巻かれることなく追跡が出来ている。

『コイツノ脚ダケ遅クシマスカ?』

追いかける中、エコーズACT3が提案してきた。
確かにこの状況。奥歯に小魚の骨が食い込んでいて、それを取り除こうと必死で口の中へ指を入れるが、中々取り除くことが出来ないもどかしさ。
エコーズの能力なら打開することができるが……

「……いや、止めておこう。ただでさえ対話ができていないのに、攻撃めいた行動をしたらもう二度とできなくなると思うから」

康一はエコーズの提案を断った。
先ほどの神楽との行動での対応が康一の躊躇に繋がっている。
スタンスが分からない以上、刺激する行動をもう一度起こしたら分かり合える可能性の芽が完全に絶えると考えたからだ。

『……ワカリマシタ』
「でも、ありがとう。ボクのために言ってくれて」

康一はエコーズに感謝を伝える。
神楽と行動を別にした今、話し相手がいることは、思考が広がるから。

やがて両者は村内へ到着する。

―――吸え……吸え……■を吸え

「ギィイ!キュイイ!?ギィ゛エ゛ア゛ア゛!!!」
(いや!何なの!?この悪魔のような声は!?怖いッ!!!)

聴いたことが無い声が聞こえるのは精神異常者が相場。
グレーテの脳内はさらに混乱と恐怖で塗りつぶされる。
やがて、旅館を目にすると……
まるで誘われるように出入り口に頭から突っ込んでいく。
そのまま一直線にあんずの間の襖をも突き破ると、目の前に少女がいた。

(あの服装……確か新聞で目にしたことがあるわ。確か……東洋の島国……japan)
紺色の民族衣装らしきを身に纏う少女。
何故だかわからないが、その姿を見た瞬間、ゴクリと唾を飲み込む。

『■を吸え……その人間の血を吸え!!!』

「ギュ……キュイイィィィ!!!」
(血を……吸いたい!!!)

身体が疼く。止められない。
脳細胞が直感する。
吸えばこの世の物とは思えない快楽が得られると。
触手が勢いよく伸びると、一直線に少女へ……


719 : 変身 Ungeziefer? Human? ◆s5tC4j7VZY :2022/05/15(日) 22:51:39 KMIw1G3w0
3章 Ungeziefer? Human?

「キュゥゥゥゥ!!!」
(……ッ!!お……美味しい!!)

触手が少女の首筋に突き刺さる。
ゴクッ……ゴクッと吸う。
小さな日本人の少女の血が脳内を活性化する。
兄が出張のお土産で買ってきてくれたことがある自国が誇るホルシュタイン州の最高級のミルクが霞むほどまろやかな味が口内を支配するからだ。
ついにグレーテは理解してしまう。
この身体が欲するのは甘いミルクに細かくちぎった白パンではもうないということに。
生物……人の”血”。
血を主食とする自分は”人間”といえるのだろうか?
答えはnein
人は血を食して生きるためのエネルギーを補ったりしない。
もし、それで補えるとすれば、小説に出てくるVampirといったMonsterだろう。
そして、やはり自分のこの毒虫のような身体はHumanではないMonsterだ。
証拠に少女の血を吸うことで頭部の切り傷に触角の痛みが沈静化していくのが肌で感じられる。
さらに、脳内で囁く言葉が大きくなっていく。

『気にすることも、気に病むこともない。なぜなら……人間は餌ダ……人間は餌ダ!……
 人間は餌ダ!!……人間は餌ダ!!!』

―――そうなのね。
人間は餌。
じゃあ、私も餌?
ううん。もう、私は人間じゃない。だから私は餌じゃない。
捕食者だ。
だから負い目を感じることはない。

織子とグレーテの目線が交差する。

(ああ……出来ることなら見たくなかった)

いくら、人間は餌だと割り切っても牛の顔を見ながら牛肉を食する人なんかいないだろう。
それに、おそらく自分の顔を見たら、死に物狂いで泣き叫ぶか、母親のようにけたたましい声を上げて気を失うであろうから。
グレーテの瞳を見つめた織子は一瞬、はっとした顔を見せると行動に移す。
グレーテは少女が泣き叫んで暴れると予見する。
しかし、織子の行動はそんなグレーテの予想と反する。
すっ……と両手を大きく広げるとグレーテをそっと抱きしめる。
一言も発さず。
泣きじゃくる赤子を母親があやすように時折手をポンポンと。
その間にも、自分の血が吸われているにも関わらずにもだ。
グレーテは血を食すのを止めていた。


720 : 変身 Ungeziefer? Human? ◆s5tC4j7VZY :2022/05/15(日) 22:53:44 KMIw1G3w0
4章 Answer 

「く……ッ!」
(しまった!?小さい女の子が!)

一歩遅れてあんずの間へ突入した康一。
虫(グレーテ)が少女の首筋に触手を突き刺して血を吸う姿を発見する。
それと同時に康一は対話はやむをえないといった表情をした後、エコーズに指示を出そうとする。

「え!?」
(な、なんだ……もしかして抱きしめてる?)

『ドーシマシタカ?ゴ命令ヲ』
「ACT3!いったんストップ。……ちょっと様子を見たい」

…が、少女の行動を視て、思いとどまる。

「落ち着きましたか……?
 ……グレーテさん」
「!!!???」

織子の言葉にグレーテは目を見開く。
どうして、自分の名を!?
この醜い毒虫の姿なのに。
グレーテの脳裏に疑問符が浮かぶ。
織子は穏やかな口調のままグレーテに話しかける。

「悲しいですよね……突然、見知らぬ身体になるなんて……
 それに、言葉も通じない……あたしも同じ状況だったらグレーテさんのように恐怖し、 
 傷つくと思います……」

この不条理ともいえる生き地獄。
彼女はひたすら怯え恐怖した。
出会う参加者からは、化け物を見るかのように睨まれた。
いや……そうじゃない参加者もいた。

「君も殺し合いに反対の思いならば、俺達と共に来ないか!?」
「もしも君自身が戦いとは無縁の者だとしても安心してくれ!俺が必ず君の事も守ってみせる!」

そう、毒虫の自分に手を差し伸べてくれた男の人を私は自分の狭い視野と過去の行いから拒んでしまった。
もし、あのとき歩み寄っていれば、違っていたかもしれない。
小さき日本人の少女は、彼らと同じように私に手を差し伸べる。
でも……兄さんを見捨てた私が本当に縋っていいものなのだろうか。
まるで、背中にめり込んだリンゴが痛みを与えるかのようなモヤモヤがグレーテを躊躇させる。

「だけどおばちゃんがいつも言ってるんです……花の湯温泉のお湯は誰も拒まない。すべ
 てを受け入れて癒してくれるって……」

(受け入れてくれる……)

―――人間?この毒虫のような体になっても私は人間なの?
―――なら、やっぱりあの毒虫も……人間……兄さん

―――グレゴール兄さん。

グレーテの脳裏に兄が想起される。


721 : 変身 Ungeziefer? Human? ◆s5tC4j7VZY :2022/05/15(日) 22:54:01 KMIw1G3w0
―――そうだ。兄さんは経営破綻で店が潰れ、借金を理由に両親をいじめる社長の下で昼夜問わず私たちのために働いていた。毒虫になる直前は一週間も都心に滞在していたのに毎晩在宅だった。
いつも給料のほとんどを家に送り、夜遊びもしなかった。
私はそんな兄さんが大好きだった。

私が兄さんを兄さんだと思わなくなった決定的な日の夜。
3人の間借り人たちが私の演奏に飽きていた。
私はそれに気づいていたけど、悔しくて気づかない降りをして演奏を続けた。
だけど、あの人たちは、すっかり私の演奏よりも兄の姿を面白がっている様子だった。
私の心に黒いモヤモヤが生まれた。
虫の姿になっても兄さんだと思っていた心が急激に冷めだした。

『あれを厄介ばらいをしないとダメよ』

決定的な言葉を吐いた。
一度、口に出したらもう止まらない。
結果として私たちは……いや、私は兄さんを見捨てた。

だけど、今考えれば分かることだ。
兄さんが考えなしにあの間借り人達の前に姿を現すはずがない。
そうよ!悲しげな私を助けるために……ッ!

「だから……しっかりしてください!あなたは……人間です」

その言葉ははっきりとグレーテの耳に届く。

―――人間です

(グレゴール兄さん……”あれ”といってごめんなさい)


『騙されるな。人間は餌だ……早く、その人間の血をもっと吸え!!!』
再び囁かれる悪魔の声。

「キュィィィィィィィィ!!!!!」
(私はグレーテ・ザムザ!毒虫ではないわ!!!)

―――兄さん。ごめんなさい

ああ……生きて帰れたら、兄さんのお墓を作ろう。
そして……冥福を祈りたい。

私は一滴を流していた。

☆彡 ☆彡 ☆彡


722 : 変身 Ungeziefer? Human? ◆s5tC4j7VZY :2022/05/15(日) 22:54:24 KMIw1G3w0
「キュィィィ……」
「え?これを私に?……ありがとうございます」

グレーテは感謝を伝えるためか、ビリビリとなったデイパックから幸運にも落とすことなかった最後の支給品を織子に渡す。
織子はグレーテの想いを受け取るため、それを素直に受け取った。
織子が受け取ってくれたことにグレーテは嬉しそうにキュゥゥと鳴いた。

(もし……このままこの姿だとしても私は発狂することはやめよう。だって、私が人間であると言ってくれたこの小さなjapanischMadchenの優しさを裏切ることになるのだから)

正直、今も不安と困惑でいっぱい。
いくらオリコが人間だと認めてくれても世界はそこまで優しくない。
多くの人間はグレーテを人間かと問われれば”いいえ”と答えるだろう。
一度はグレゴール兄さんを見捨てた過去が証明している
それでも……私は私が人間であると胸を張って生きる。

(よかった……グレーテさん。とっても穏やかそうな様子だわ)
織子は自分の辿った軌跡が間違っていないとお墨つきをもらった気がしたのだった。
グレーテがその身体をぐっと伸ばしたとき。

☆彡 ☆彡 ☆彡


723 : 変身 Ungeziefer? Human? ◆s5tC4j7VZY :2022/05/15(日) 22:55:18 KMIw1G3w0
5章 会話中にキャラ変するのは相手を困らせるだけで百害あって一利なし

「正直凄かったよ。あ……僕の名前は広瀬康一」
「あ、あたしの名前は関織子です」

織子と康一は互いの自己紹介を兼ねて歓談した。
ちなみに張りつめられた極限の疲れから解放されたのか、グレーテは部屋の隅ですやすやと寝ている。

「それにしても、どうしてあの虫のような身体が……グレーテさんだとわかったんだい?」
康一の疑問はもっともだ。
ただでさえ、この殺し合いは他者の身体で行われている。
この状況で普通に参加者の名前をピンポイントに当てることなど不可能に近い芸当だ。

「えっと……この名簿に目を通してたからです」

織子が康一に見せたのは、名簿。
そう、ダグバから譲り受けた得点の身体と精神の組み合わせ名簿。

「それって……」
(似ている……)
康一はゲンガーが持っていた名簿に似ていることに気づく。

「あ、あたしが殺したわけではありません!」
(いけない!勘違いされちゃうわ!)

―――かくかくしかじか

織子は康一に事情を説明した。
自分の名前と体と名前が同じであるということを。
名簿を手にした経緯を。

☆彡 ☆彡 ☆彡


724 : 変身 Ungeziefer? Human? ◆s5tC4j7VZY :2022/05/15(日) 22:55:57 KMIw1G3w0
「じゃあ、織子ちゃんはその身体が元々なんだね」
(嘘はついていなさそうかな……ひとまず、そう考えておこう)
「はい……」
(よかった……とりあえず信じてもらえたかな)

織子の話を聞き、康一はひとまず騙そうとしているわけではないと判断をする。
基本お人好しで裏表のない性質の康一らしいとえいばらしい。

「だとしても、知らない相手の組み合わせをしっかりと覚えているなんて」
康一は素直に感心する。

「あたしも全てを覚えているわけでは……」
織子は頬をポリポリとかく。
流石の織子も、全ての参加者の組み合わせを覚えているわけではない。
幸い、織子の知り合いが一人もいないため、他の組み合わせにも注目することができた。
特に目に留まったのは”スカラベキング”。
正確には”スカラベ”の部分。
スカラベには有名な和名がある。
”フンコロガシ”
動物の糞を食とするフンコロガシは所謂、小学生男子の笑いのネタになる。
そして、その会話を耳にした女子が”男子サイテー”となり”センセー○○君が”お約束となりがちだ。
織子もそんな同級生の会話を耳にしたことがあるため、この”スカラベキング”という身体の名と”グレーテ・ザムザ”の精神の組み合わせが記憶に残った。
一種の賭けでもあったが、織子は勝ち、若女将としてのおもてなしがグレーテの笑顔を引き出せたのだ

「僕もこの殺し合いが終わったら由花子さんと旅行にいきたくなっちゃたなぁ……」
「それでしたら、ぜひこの春の屋へ来てください!精一杯おもてなししますので!」
康一の呟きに織子は自身の春の屋を宣伝する。

ぐぅ〜……

康一のお腹からお腹が空いた音が鳴りだした。

「そういえば、まだ食事らしい食事をしてなかったよ」
顔を赤くして言う。
お腹の音が鳴るのも無理もない。
この殺し合いが開始された直後、自身のエレンの身体の検証でまさかの暴走という予想外が起こった。
その後、開司の提案による丁か半。
メタモンとの対峙からのグレーテとの出会いと休むことなく過ごしていたから。

「あ!あたしも宿儺さんに炒飯をできたことを報告しないといけないわ」
康一の腹の音で織子は宿儺に料理が作れたことを報告しなければと

その時……

アナザーウォッチカブトが織子の持つ■■■■■■ーに反応したのか震えだす。

(アナザーウォッチカブトが震えている?)
康一はウィッチの異変に気づき取り出すと、掌にのせる。

「それって……」
中々厳ついイラストらしきが描かれた支給品に織子は見つめる。

そして、そんな彼らを見つめる参加者もいた。

☆彡 ☆彡 ☆彡


725 : 変身 Ungeziefer? Human? ◆s5tC4j7VZY :2022/05/15(日) 22:56:23 KMIw1G3w0
 6章 メタモンは草むらから飛び出さない

(どうやら、見たところ3人だけのようなのかな?)
あんずの間。
東の廊下側の襖に開けられている穴から覗いているのはメタモン。

あれからメタモンはC-5の草原へ予定通り向かった。
そこで目にしたのは巨大な虫ポケモンらしき生き物とそれを追いかける三人組の一人だった。

(しまった!別々に行動したんだ!そうすれば僕の能力を広めることが出来るから!)
メタモンは三人組が自身の能力を広めるために別々に行動をしたと考えた。
まぁ、もっとも正確には、様々な要因で別々に行動することとなったのだが。

(とりあえず……追いかけよう!それに村の中もついでに見て回ろうかな)

虫ポケモン?とそれを追う三人組の一人はどうやら次の目的先の村の中へ入村していくようだ。
丁度、次は村の様子を見ておこうと考えていたメタモンはこれ幸いと後を追いかけた。
やがて、虫ポケモン?が大きな建物の中へ突き破るのを確認したメタモンは建物の裏が竹林と草むらが生い茂っていることに気づいた。
このまま、一緒に入ったら、後を追いかけていることに気づかれる危険からメタモンは少し遠回りだが、ぐるっと回って中の様子を伺う安全策を採用した。
ポケモンにとって草むらは自身のテリトリー。
自分から飛び出さなければ基本的にはトレーナーに見つかることもない。
竹林を抜けて中庭を通ると、幸運にも近くの部屋で何か物音が聞こえた。
扉に張られている白い紙(障子)に小さな穴を開けて中の様子を伺うと、虫ポケモン?が小さな女の子の首筋に触手を刺して血を吸っている姿を直視する。

(血を吸うなんて……ズバットくんみたいだなぁ)
ふと、友達の一人であるズバットを連想したメタモン。
しかし、メタモンも康一と同様、少女の行動に仰天する。
やがて、虫ポケモン?は大きな鳴き声を鳴らし、少女は三人組の一人と話し始めた。

(う〜ん。放送で聞こえた声とちがうってことは、もうどっかへ行ったってことかな?)
ワカオカミとなのる少女の声は放送の主とは違うことに気づく。
村といってもどこか違う場所にいるのだろうか?
とにかく一つわかることは、この春の屋という建物にはグレーテなる虫と三人組の一人とワカオカミしかいないということ。

(殺し合いもしていないようだし……島の方へいこうかな)
虫ポケモン?は寝ている今、二人だけなら……と思うが、メタモンはゲンガーの目的先であろう東南の島へ向かおうとひっそりと草むらの方へ歩き始める。
しかし、みすみすへんしんを得るのを逃す行為に後ろ髪を引かれる……

☆彡 ☆彡 ☆彡


726 : 変身 Kamen Rider ◆s5tC4j7VZY :2022/05/15(日) 22:57:36 KMIw1G3w0
7章 ”へんしん”

「いい、それでいい」

宿儺は先の顛末に満足気だ。
グレーテを笑顔にさせることは少なくとも宿儺には不可能であった。
強者が強者として思うがまま生きるのを是とする宿儺。
そんな呪いの王が恐怖と混乱により狂乱しかけたグレーテに寄り添えるはずもなし。
もし、血を吸ったときの肉体の主導権が織子ではなく宿儺だったら、この特異な状況に心身を極限まですり減らしていたグレーテのその精神は完全に壊れ、身も心も化け物(モンスター)になっていただろう。

「さて……”アヤツ”は俺が担当するとするか……」

宿儺が見据えるのは、目の前の人間ではなく―――

「契濶」

☆彡 ☆彡 ☆彡

「……」

―――スゥ
”織子”は立ち上がるとあんずの間から隣の廊下へと歩き始める。

「?どうしたの織子ちゃん……!!」
(こ、これは……!!??)

急に席を立ちあがり、移動を開始した織子にどうしたのかと声をかけると同時に身体全体に悪寒が走る。
姿は先ほどと変わらぬ若女将。
しかし、身に纏う雰囲気は瞬時に一変した。
吉良吉影よりもはるかに大勢の命を奪う”呪い”に。

「……何。すぐに戻る。貴様はそこの虫けらの傍に居ろ」
そして若女将の手には先ほどの康一の”アレ”が握りしめられていた。
そして、それを袖の中の袋へ仕舞う。
康一は金縛りにあったのか身動き一つできずに見送ることしかできなかった……

☆彡 ☆彡 ☆彡

(ん?……あ!)
ガラガラと扉が開く音が聞こえ、草むらから振り向くと一人の少女が出てきたことにメタモンは気づく。

(どうしよう……)
顎に手を置き、どうするべきかメタモンは思案する。
それと同時に迷いが生まれた。
当初の予定通り無視して向かうこともできる。
しかし。

(あの子に”へんしん”したいなぁ)

自分の欲望を止められない。
そもそもメタモンが殺し合いに乗ったのは、自身の存在価値を位置づけるへんしんの数を増やすためだ。
第一放送までで自分が手に入れられたへんしんはサソードにリンクのたったの2種類。
それも一つは支給品である。
メタモンにとってへんしんのレパートリーを増やすことは命題に等しい。

素早く少女の首を斬り落として竹林へ潜れば、見つかる可能性は低い。
大丈夫。ポケモンにとって草むらに隠れるのはお茶の子さいさい。
そうと決めれば、行動は迅速に。
メタモンはへんしんする。

『HENSHIN』

マスクドフォームにへんしん。
そして。

「キャストオフ」

『CAST OFF』

『CHANGE SCORPION』

素早くライダーフォームへと変身する。
流石に変身する際の装甲の吹き飛び音で少女はこちらに気づいた様子だ。
だが、関係ない。次の行動で全ての片がつくのだから。

「クロックアップ!」

『CLOCK UP』

間髪入れずに少女の首を斬り落とすためにメタモンはクロップアップを使用する。
電子音が鳴ると同時にサソードの姿は一瞬で消えその首を―――

ガギィィィィン!!!!!

―――斬り落とすことができなかった。


727 : 変身 Kamen Rider ◆s5tC4j7VZY :2022/05/15(日) 22:57:55 KMIw1G3w0
「ど、どうして!?」
少女が生きていることに狼狽するメタモン。
無理もない。
クロップアップは目にも見えぬ超高速移動。
少なくともメタモンはそう思っていた。
だが、様々な要因がメタモンの計画に支障をきたす。

「簡単なことだ。オマエ、”コイツ”を殺したな?」
そういうと、宿儺はデイバッグから首なし死体を見せる。

「それって……!!」
メタモンにとって見覚えがある死体。
そう、この殺し合いで最初に手に入れることができた”へんしん”

「この肉は鋭利に首を刎ねられている。いくら、目にも見えぬ速さだろうと狙っている箇所させ予測できれば防ぐことは愚図でも可能だ」

狼狽するメタモンを見つめつつ宿儺はニタニタと嗤う。
宿儺は簡単にそう述べたが、そう簡単に防げるわけではない。
クロップアップはタキオン粒子が全身に駆け巡らせ”時間流”を自在に活動できる超高速移動。
だが、行動や視界に発声をも加速した時間に応じて引き延ばせる性質のクロップアップは呪術における術式のようなものだ。
肉体こそ小学生女子とはいえ主導権は宿儺。
呪いの王である宿儺の眼だからこそ、通常の時間においても超高速の動きを眼で追うことができた。

「どれ、試すとするか。光栄に思え、この俺の実験体となれることに」
宿儺は腰にライダーベルトを巻く。
そして。

―――スゥ

手に握るはカブトムシの形をしたメカ。
カブトゼクター。

「変身」

『HENSHIN』

そう一言唱えるとバッグル部にカブトゼクターを装填する。
それと同時に体が言葉通りに”へんしん”される。
この殺し合いの舞台で幾人も変身している仮面ライダーの一人へ。

☆彡 ☆彡 ☆彡


728 : 変身 Kamen Rider ◆s5tC4j7VZY :2022/05/15(日) 22:58:14 KMIw1G3w0
8章 天の道を行き、全てを司る

「キャストオフ」

『CAST OFF』

『CHANGE SCORPION』

「あ……ああ!!」

『へんしんこそ…最強の技だ!』

ふと、メタモンは親友のコイキングくんに豪語した言葉が想起された。
目の前の少女はマスクドライダーからライダーフォームに”へんしん”のを見届ける。

仮面ライダーカブト。
本来の変身者である天道総司は自らを”天の道を往き 全てを司る男”と称して自身が太陽であると憚る青年。
総司とは違い弱者に救いの手こそ伸ばさないが宿儺もそれに負けない唯我独尊の質を持つ。
また、”おばあちゃんが言ってた”と祖母を尊敬する面は、春の屋の大女将である関峰子を尊敬する若女将こと関織子と共通する。
奇しくも肉体と精神が天道総司とマッチしている。

そして、カブトを直視したメタモンに変調が起きる。
それは……

”天道くん!止めて!駄目ー”
”ええ、ええ……!!何も心配することはございません。じいがずーっと傍にいますから”

「……え?」
メタモンの脳裏に聞こえる見知らぬ女性と老男性の声
いや、正確にはメタモンが知らないだけで、肉体である神代剣はよく知っている。
一瞬の躊躇。
メタモンは静止してしまう。
そこへ左足を軸に右足の回し蹴り。
脳天を直撃したメタモンのへんしんは解けてしまう。
すぐさまメタモンは態勢を整えようと、ふらつきながらも距離を置くと、再びサソードへへんしんしようとする。
しかし、自慢のへんしんに異変が起こる。

「へ……へんしん!……へんしん!!……へんしん!!!」

何度叫んでもサソードヤイバ―は反応をしない。
持ち主の声に反応せずただ沈黙を貫く。
メタモンの誤算は正にそのサソードヤイバ―。
多くの仮面ライダーと呼ばれる存在は”ベルト”を介して変身を行う。
しかし、メタモンの変身する仮面ライダーサソードはベルトではなく”剣”
しかも、その剣はその後サソードの”主武器”として扱われるのだ。
そして、そのサソードヤイバ―で宿儺の天逆鉾で捌かれた結果、内部のタキオン粒子に呪力が加わり、故障を引き起こしてしまった。

「なんで……ッ。なんでへんしんができないのぉぉぉぉ!!!!」
今までへんしんの4文字を唱えることでできたことができなくなったことにメタモンはパニックを陥る。
その狼狽は殺しで手に入れたリンクへの変身をも忘れるほどだ。
そして……

『はぁ……こいつも6Vじゃないか……』

―――ドクン

『とりあえずボックス行きだな……』

―――ドクン

つめたい……くらい……ぼくのへんしんは他のメタモンよりも凄いんだ!
だから……ぼくを旅のパーティにいれてよッ!!!
ねぇ!!!!!!!!!!
その訴えは虚しく響くのみ……

―――ドクン

『さてと……殿堂入りもできたし、ボックスの整理でもするか。
 ……ったくどいつもこいつも微妙な個体値だな。……まずはコイツかな』

―――ドクン

『■■■■できないメタモンなんて価値なんかない』

―――ドクンッ……ドクンッ……

―――にがすと メタモンは もう もどってこんで ええんか?

はい
いいえ



→はい
 いいえ

―――ほんとうに にがしますか?

→はい
 いいえ



→はい
 いいえ

―――メタモンを そとに にがしてあげた!

『ばいばい メタモン』


729 : 変身 Kamen Rider ◆s5tC4j7VZY :2022/05/15(日) 22:58:33 KMIw1G3w0
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!??????????」

それは、苦くて悲しくて苦しい記憶。
トレーナーにゲットされたが、期待された個体値ではなかった彼はボックスの中で長い事放置されたあげく、草むらに逃がされた。

「ぼくわたしわれおいらあたしおらぼかぁあーしぼくちゃんせっしゃてまえせっそうおいどん」
うずくまってブツブツ呟くメタモンを横目にデイバッグを漁る。

「……不快だな」
携帯食である行動食4号を一本口にしたが、味に不満か、吐き捨てる。
宿儺の不快指数が上昇した。

「……ま、こんなものか。……おい!」
いくつか取り立て終わると横腹を蹴りつける。

「メタ!?」
痛みと急の声掛けにビクリと身体を震わせる。
しかし、直ぐに壊れたテープレコーダーのようにへんしんを口に出す。

「んん?どうした?へんしんできぬことがそんなに悲しいのか?」
宿儺の言葉にメタモンはコクコクと首を頷く。

―――二ィ……

「なら、キサマの望みを叶えてやる」
スッと着物の袖から康一から無理やり奪い取った支給品を取り出す。
アナザーウォッチカブトを。
上部のボタンを押して、メタモンの身体に埋め込むように押し付ける。
すると、アナザーウォッチカブトはメタモンの体内へ入り……

「あぐぅぅぅぅうぅううう!!!!!」

『あれ!?メタモンくん、ゲットされたって風の噂で聞いていたけどじゃ……?』
『え?あ……ぼ、僕のへんしんの活躍でトレーナーが殿堂入りを果たしたから、草むらへ帰っていいよと快く送り出してくれたんだ!』
『へぇ……それはすごいね!』
(メタモンくん……)

苦しみに悲鳴。
かつてトレーナーににがされた(捨てられた)記憶がさらに鮮明に呼び起こされる。

「何が……6Vだよ……僕は凄いんだ……僕のへんしんは……ッ!!!」

”KABUTO”

「やった……やったー!へんしんできた!僕は凄いんだ!僕は■■■■なんかじゃな
 い!!!」
泣き笑いだろうか……再びへんしんすることがよほど嬉しかったのだろう。
メタモンは両手を万歳すると村外へ走り出し、姿は見えなくなった……

「さて……ようやく飯にありつける」

はー……っとため息をつきながらメタモンを感慨なく見送ると、宿儺は春の屋の中へ悠然と凱旋する。


730 : 変身 Kamen Rider ◆s5tC4j7VZY :2022/05/15(日) 22:59:09 KMIw1G3w0
【C-5 村(春の屋)/午前】

【両面宿儺 @呪術廻戦】
[身体]:関織子@若おかみは小学生(映画版)
[状態]:疲労(小) 関織子の精神復活 誓約の縛り
[装備]:カブトゼクターとライダーベルト@仮面ライダーカブト 特級呪具『天逆鉾』@呪術廻戦
[道具]:基本支給品x3(メタモンx2)、魔法の箒@東方project 魔法の箒@東方project 桃白白@ドラゴンボール(身体:リンク@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド)の死体 特典の組み合わせ名簿@チェンジロワ ケロボール@ケロロ軍曹 精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、撮ったものが消えるカメラ(残り使用回数:1回)@なんか小さくてかわいいやつ 魔神の斧@ドラゴンクエストシリーズ
[思考・状況]基本方針:主催は鏖殺。その他は状況による
1:関織子の炒飯を食す。マズかったら魂に制裁を加える
2:全員、鏖殺はひとまず保留
3:非常に忌々しいが参加者を笑顔にさせる(参加者の性質によっては織子に任せる)
4:関織子の精神は、生かさず殺さず
5:JUDOと次出会ったら力が戻った・戻ってないどちらせよ殺し合う
6:脹相……あの下奴か。どうでもいい
7:縛りにより虫けら(グレーテ)はとりあえず生かす。下奴(康一)はどうでもいい
8:コイツ(天逆鉾)の未確認の効果を試してみたい。(首輪など)
9:はー、めんど
[備考]
渋谷事変終了直後から参戦です。
能力が大幅に制限されているのと、疲労が激しくなります。
参加者の笑顔に繋がる行動をとると、能力の制限が解除していきます。
関織子の精神を下手に封じ込めると呪力が使えなくなるかもしれないと推察しています。
関織子の精神と縛りを交わしました。
デイパックに桃白白@ドラゴンボール(身体:リンク@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド)の死体が詰められています。
組み合わせ名簿から脹相がいるのを知りましたが、特に関心はありません。
天逆鉾の効果で仮面ライダーへの変身ツールに故障を与えられることを確認できました。

【カブトゼクターとライダーベルト@仮面ライダーカブト】
宿儺の支給品。
”天の道を往き、全てを司る男”天道総司がマスクドライダーカブトに変身するために使用するカブトムシ型のメカとベルト。
天上天下唯我独尊を往く両面宿儺に祖母を愛する関織子と奇しくも一致している面があり、カブトと適合することができた。

【ケロボール@ケロロ軍曹】
グレーテの支給品だったが、笑顔にしてくれた織子(宿儺)へ渡された。
丸い球の形にいくつかボタンが付いてる侵略兵器。
通信機・反重力・電気ショック・物質再構成・電波探知機・洗脳電波発信機・収納スペースなど、さまざまな機能を持つ、万能道具。
こうした強力の能力からケロン軍の軍法には”兵器を敵兵に奪われた場合は死刑”と記されている。
本来は使用料が存在し、後日使った分だけ請求されるらしいが……


731 : 変身 Kamen Rider ◆s5tC4j7VZY :2022/05/15(日) 22:59:29 KMIw1G3w0
【グレーテ・ザムザ@変身】
[身体]:スカラベキング@ドラゴンクエストシリーズ
[状態]:睡眠中、満腹 スカラベキングの精神復活
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:生きて帰れたら、兄に謝罪したい
1:……ZZZ
2:オリコ……ワカオカミ……この小さなjapanischMadchenが私を助けてくれた…
3:オリコの血…とても美味しくて……何だか良い気分だったわ…
4:私はグレーテ・ザムザ。心まで怪物になったわけではないわ
5:グレゴール兄さん……私、兄さんに謝らなくてはいけない…
5:キュイイイイイイ!!!(ニンゲン!!!)
[備考]
※しっぽ爆弾は体力を減少させます。切り離した腹部は数時間ほどで再度生えてきます。
※デイパックの破れた傷が広がっています。このまま移動し続ければ他にも中身を落とすかもしれません。
※血の味を覚えました。
※吉良吉影を殺したのは軍服姿の大男(犬飼ミチル)だと思い込んでいます。
※放送の内容は後半部分をほとんど聞き逃しています。
※織子により、ひとまず落ち着きました。(体が毒虫でもグレーテであると自信を持ちました)
※スカラベキングの精神が復活しました。
※脳内にスカラベキングの声が時折響きます。ただし、グレーテはまだ、それがこの身体の持ち主の声とは思っていません。
※織子の血を吸った際、宿儺の持つ呪力が身体に混ざりこんだ可能性があります。


732 : 変身 Kamen Rider ◆s5tC4j7VZY :2022/05/15(日) 22:59:48 KMIw1G3w0
【広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:エレン・イェーガー@進撃の巨人
[状態]:吉良吉影の死に対する複雑な感情、背中に複数の打撲痕及びそれによる痛み 両面宿儺に対する戦慄
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、タケコプター@ドラえもん
[思考・状況]基本方針:こんな殺し合い認めない
1:両面宿儺が戻ってくるのを待つ(戦慄と警戒)
2:そっか、グレーテさんというのか。何とかコミュニケーションを図りたいな
2:神楽さん…カイジさん…無事を祈っています。
3:まさか吉良吉影が死ぬなんて…しかも女の子の身体で…
4:仮面ライダーの力が無くなった分も、スタンドの力で戦う
5:いざとなったら巨人化する必要があるかもしれない。
6:メタモンにまた会ったら絶対に倒さなくては!
7:メタモンが僕らの味方に化けて近づいてくる可能性も考えておかなきゃ
8:皆とどうか無事に合流出来ますように…そして承太郎さん、早く貴方とも合流したいです!
9:DIOも警戒しなくちゃいけない…
10:この身体凄く動きやすいです…!背も高いし!
11:仗助君の身体良い人に使われていると良いんだけど…
12:吉良吉影を殺せるほどの力を持つ者に警戒
13:無理やり奪われたウォッチ……何とか取り戻すことはできるかな
[備考]
※時系列は第4部完結後です。故にスタンドエコーズはAct1、2、3、全て自由に切り替え出来ます。
※巨人化は現在制御は出来ません。参加者に進撃の巨人に関する人物も身体もない以上制御する方法は分かりません。ただしもし精神力が高まったら…?その代わり制御したら3分しか変化していられません。そう首輪に仕込まれている。
※戦力の都合で超硬質ブレード@進撃の巨人は開司に譲りました
※仮面ライダーブレイズへの変身資格は神楽に譲りました。
※放送の内容は後半部分をほとんど聞き逃しています。具体的には組み合わせ名簿の入手条件についての話から先を聞き逃しています。
※元の身体の精神である関織子が活動をできることを知りました。
※アナザーウィッチカブトは宿儺に無理やり奪われました。


733 : 変身 Kamen Rider ◆s5tC4j7VZY :2022/05/15(日) 23:00:24 KMIw1G3w0
【メタモン@ポケットモンスターシリーズ】
[身体]:神代剣@仮面ライダーカブト
[状態]:疲労(小)、ダメージ(大)、背中に鈍痛(引いてきている)、胸の辺りに斬り傷、左肩に痛み(引いてきている) アナザーカブト状態、神代剣の精神復活
     混乱と幻聴(過去の思い出により)
[装備]:サソードヤイバー&サソードゼクター@仮面ライダーカブト(天逆鉾の効力により変身不可)
[道具]:行動食4号×1@メイドインアビス、
[思考・状況]
基本方針:参加者を殺して、変身できる姿を増やす
1:あは、あはははは!何がv6だ……僕の『へんしん』は強いんだ!!!
2:とにかく、宿儺から離れる(二度と会いたくない)
3:ゲンガーを探すために南東の島を目指す
4:あの仮面ライダー(ブレイズ)、僕も『へんしん』したい
5:状況を見て人間の姿も使い、騙し討ちしたり、驚かして隙を作ったりする
6:ゲンガーやピカチュウ(になっている我妻善逸)を見つけたら苦しめずに殺してやる
7:ピカチュウ対策ができる道具とかがあったら手に入れた方がいいのかもしれない
8:さっきの男(耀哉)を警戒。今度は迷わずクロックアップで頸を斬る
9:他にも『へんしん』ができるアイテムがあったら手に入れる
10:このワーム(メタモン)に自分の身体を好き放題されるわけにはいかない……ッ!!
[備考]
※制限によりワームの擬態能力は直接殺した相手にしか作用しません
※クロックアップの持続時間が通常より短くなっています。また再使用には数分の時間を置く必要があります
※現在、天逆鉾の効力によりサソードへのへんしんは変身不可となりました。武器としてサソードヤイバ―を使用することは可能です
※現在リンクに変身可能です。ただし、アナザーカブト化が解除されるまでは変身することはできません。
※ブレイズのような、アイテムが資格者を選ぶようなタイプの仮面ライダー等の変身者を殺害した場合、その変身資格を擬態によって奪い取れるかもしれません。
※記憶もコピーできるとします。
※記憶の奥に閉じ込めていた、かつてトレーナーにゲットされ、にがされた苦い思い出が想起され、幻聴が聞こえるようになりました。
※アナザーカブトウォッチ@仮面ライダージオウによりアナザーカブト化しました。

【C-5】
春の屋@若おかみは小学生(映画版)
村内の一画に設置されていた温泉旅館。
岩の露天風呂は心地よい。


734 : 変身 Kamen Rider ◆s5tC4j7VZY :2022/05/15(日) 23:00:39 KMIw1G3w0
投下終了します。


735 : ◆5IjCIYVjCc :2022/05/16(月) 22:13:13 8IhcUh/60
投下お疲れ様です。
しかし、少しだけ気になった箇所があります。
仮面ライダーカブトのライダーフォームへの変身音についてですが、「SCORPION」ではなく「BEETLE」が正しいかと思います。
細かい箇所への指摘で申し訳ありません。
お手数をおかけしますが、念のため見直しをお願いできますでしょうか。


736 : ◆s5tC4j7VZY :2022/05/17(火) 05:38:05 GOBRbKWw0
読んでいただきありがとうございます。
ご指摘の通り、カブトなので「BEETLE」が正しいです。
仮面ライダーの肝というべきところをミスしてしまい、申し訳ありません。
BEETLEでの修正をいたします。
細かい箇所での指摘ではありませんので、お気になさらないでください。


737 : 名無しさん :2022/05/17(火) 18:04:53 YsnvdFfA0
すみません、まとめwikiでは今回の話、単作としてまとめられようとしてるみたいですが、今回の話は2分割なのでは


738 : ◆s5tC4j7VZY :2022/05/17(火) 21:10:29 GOBRbKWw0
たびたびすみません。
そうですね。私としては先の作品は
6章までが
変身 Ungeziefer? Human?
7章以降が
変身 Kamen Rider
の2分割として投稿したつもりでした。
ただ、まとめwikiへの作業をやってもらっている立場ですので……
まとめwikiへの変更作業の手間がかかるようでしたら単作扱いとしても大丈夫です。
wiki作業をしていただけている人の判断に委ねます。


739 : ◆5IjCIYVjCc :2022/05/17(火) 22:30:39 nlBniImA0
>>736
返信ありがとうございます。該当箇所につきましてはwiki編集の際に修正しようと思います。

そして、>>737の件につきましては申し訳ありません。
編集をした私の確認不足によりこのようになっていました。
この件につきましても、修正しようと思います。
作者の方にも余計な心配をさせてしまったことにお詫び申し上げます。
報告ありがとうございました。


740 : 名無しさん :2022/05/18(水) 21:17:44 /4V.H0wc0
織子の精神復活はやりすぎというか…
このロワの基礎が壊れる恐れがあるかと


741 : ◆ytUSxp038U :2022/05/18(水) 22:35:15 vCovSak20
皆様感想ありがとうございます。
そして投下乙です。

>Aの友愛/君をもっと知りたいな、Aの友愛/ハナっからのクライマックス
うろジョジョ本編で普通に有りそうな貨物船の過去回想で草しか生えない。再現度の怪物かな?
性欲のモンスターだった姉畑先生が正真正銘のモンスターと化したのは恐いですね。トラウマ植え付けられた甜歌ちゃん可哀想…。
何やかんやとギャグで生き延びて来た先生も、ブチギレDIO&甜歌に狙われそろそろ危ないか?

>我妻善逸はでんきネズミのユメをみるか!?
参加者じゃないのに株を爆上げするレッド好き。
ピカチュウ本人は進化を拒んでいるけど、もし会場にかみなりの石が支給されてたら…?
ついに接触を果たしたナナと斉木、今の予約でどう話が進むのか楽しみです。

>変身 Ungeziefer?、変身 Kamen rider
これまでスカラベキングの肉体に振り回されていたグレーテにようやく救いが。
ただ救いの手を差し伸べるだけでなく、そっからグレゴールへの罪悪感と贖罪に繋げるの、正に二次創作だからこそ出来る展開だと思いました。
前話のピカチュウとは正反対の境遇だったメタモン、今回出た過去を踏まえるとへんしんへの異常な拘りにも悲しいものがありますね…。

悲鳴嶼行冥、脹相、神楽、ギニューを予約します。


742 : 名無しさん :2022/05/19(木) 00:14:00 PWgNLsUU0
>>740
斉木楠雄の精神も復活したし、他のキャラクターの一部も精神が残されている描写があるため問題ないと思うが。精神の復活を主催が許さないのなら対策するであろうし、今後の展開のためにはむしろ好ましい流れだろう。


743 : 名無しさん :2022/05/19(木) 01:00:50 bGHKMoF20
>>740
宿儺は原作からそういうことができていたので、
個人的にはロワのコンセプトを極端に逸脱せず、
かつチェンジロワの独自の特性も混ぜたものだと思うので、
個人的見解になりますが、そこまで基礎が崩壊してるとは思いません。
原作でそういうのがないキャラだとちょっと……
とは私でもなってたと思いますが、今回のは宿儺なので。

主催がボンドルドであることを踏まえると、
こういうことになるのを予想してたとも受け取れますし、
>>742 の言う通り今後の展開に繋がる可能性も高いです。


744 : ◆s5tC4j7VZY :2022/05/19(木) 06:37:57 8X1ld9E20
◆5IjCIYVjCc様
本来なら修正は作者自身である私がすべきところをやっていただきありがとうございます。
また、編集ですが、私も投下のタイトル欄のみで、きちんと2部作だと明言はせずに投下終了としましたので、お気になさらないでください。

感想ありがとうございます!
グレゴールへの罪悪感と贖罪に繋げるの、正に二次創作だからこそ出来る展開だと思いました。
↑そのお言葉をもらえて感無量です。
原作の最後は兄と決別した形となりましたが、グレゴールが虫となる前は仲のよい兄妹だったので、罪悪感と贖罪につなげたくああした展開としました。
また、メタモンの過去ですが、我妻善逸はでんきネズミのユメをみるか!?で書かれたピカチュウの生い立ちの巧みな描写に感銘を受けたのもあり、書きました。
ただメタモンにはキツイ境遇としてしまったのは、私が書いたとはいえ、申し訳ない気持ちがあります。


745 : <削除> :<削除>
<削除>


746 : 名無しさん :2022/05/19(木) 22:12:55 AqnZyVKs0
>>745
まぁ言いたいことはわらんでもないけどな


747 : ◆5IjCIYVjCc :2022/05/23(月) 23:20:19 r.81vRQw0
予約を延長します。


748 : ◆ytUSxp038U :2022/05/24(火) 11:26:52 OqFpnrOc0
すみません、プロットに致命的な矛盾があった為予約を破棄します。
キャラ拘束申し訳ありませんでした。


749 : ◆5IjCIYVjCc :2022/05/28(土) 22:35:30 MLpLxUSQ0
投下します


750 : 疑似体験Ψエンスフィクション ◆5IjCIYVjCc :2022/05/28(土) 22:36:25 MLpLxUSQ0
前回までのあらすじ 「そうだな…なんとなく『勃起』を連想させるニュアンスだ」

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751 : 疑似体験Ψエンスフィクション ◆5IjCIYVjCc :2022/05/28(土) 22:37:53 MLpLxUSQ0
『改めて自己紹介から始めよう。僕の名前は斉木楠雄。超能力者だ』

突如として自分の脳内に出現した男の存在にナナは困惑する。
これまでこの殺し合いにおける最大のテーマは、精神の入れ替りのはずだった。
現在の身体の元の持ち主の精神は、精神が別に参加者として登録されていない限り、そもそもこの戦いの舞台にいないはずだった。
そのはずなのに、この男…斉木楠雄はこのような形で自分に言葉を伝えて来た。


『「信じられない」、そう思っているな』

「!」

それは明らかに、今のナナの心を読んだとしか思えない言葉であった。

『今の僕とお前は一心同体らしいからな。読む気が無くとも勝手に伝わってくる。こんなことでいちいち驚いてもらっては困る』

またまたナナの反応に合わせた返答をしてくる。
脳裏に映った男の像は、口が開かなくとも言葉を伝えてくる。
どうも、ナナの精神に直接語り掛けてきているようだった。


『これまでの情報の共有とかもする必要は無い。僕はお前の動向をこれまで全て見て来たからな』

「……全部、ですか?私についても?」

『いや、厳密には全てではない』
『この僕の意識が生じたのは深夜の頃、お前が燃堂とラーメン屋で話し始めたあたりからだ』

「あそこから…?」

そんなタイミングからだということには、ナナは正直驚く。
あの場面のどこに意識が目覚める要素があったというのだと思ってしまう。
その疑問は、ここでは解決されない。

『あのころから、お前が見て感じてきたこと、考えてきたことが全て僕に伝わっている』

斉木楠雄は自分がナナの心を読めていることを強調してくる。
取り繕って猫を被ることなんか無駄だとでも言うように。

ナナは、そのことに対し不快感を抱く。
思考を読まれていただなんてことを知っていい気持ちになるわけがない。
ましてや、それが異性であるのならなおさらだ。

『心が読めると自称していたくせにそんなことを思うのか』
「それとこれとは話が別です」
『まあ、確かにそうだな。悪かった』

その謝罪の言葉は本心であることは、ナナに感じられた。
まるで、心が繋がっているかのようだった。
聞こえてくる声も、確かに相手が本心から考えていることであると分からされている感覚があった。
正直、ナナとしてはその感覚を信じたくないと思っているが。
そして、もし本当に悪いと思っていたとしても、不快な気持ちが消えることはないだろう。


『あと今までずっと思っていたことなんだが、僕の顔で明るくあざとい女子の演技をするのは止めろ』
『今は男子高校生の姿だという自覚はないのか』
『不自然過ぎるし気持ち悪く見えるぞ』
「し、仕方ないじゃないですか!あれが普段の私なんですから!」

まさかの文句も飛んできて、つい大きな声で反論する。
確かに言われてみれば今までの自分の言動は「柊ナナ」としてはあまり不自然ではないだろうが、「斉木楠雄」としては奇異だったかもしれない。
でもこの件については自分は悪くないとナナは思う。


752 : 疑似体験Ψエンスフィクション ◆5IjCIYVjCc :2022/05/28(土) 22:39:10 MLpLxUSQ0



いや、こんな無駄話で時間を潰している暇はない。
今話すべきことは他にある。

もし今自分が見ているものが本当に斉木楠雄であるならば、ナナは彼に聞きたいこと・言いたいことがたくさんある。
そんなナナの考えを見透かすかのように、男の像は言葉を続けた。


『お前が知りたいことは分かっている。僕が本物の斉木楠雄の精神なのか、何故この殺し合いのテーマに反するかのように出てきて、今更話せているのか、そして主催陣営にいる僕の兄について…他にもまだまだあるだろう』
『それらのことについて話したいのは僕も同じだ』

確かにナナは今言われた通りの疑問を持っていた。
真偽はともかく、相手の言葉に集中したいと思い始めた。


「柊、さっきから誰と話しているんだ?」
「お?」

そんな折に、戦兎と燃堂の声も聞こえて来た。
これは斉木の声とは違い脳内に直接響いてきているわけではない。
近くにいる彼らが耳に直接届けている声だ。

今のナナと斉木の会話は普通の時間の流れで行われている。
ナナとは違い、戦兎は斉木楠雄の声が聞こえていない。
逆に、ナナが斉木に対して返事した声は聞こえていた。
戦兎から見れば、ナナは額に触れて目を閉じた後、急に怪訝な表情を浮かべながら独り言をぶつぶつ呟いているように見えている。

「さっき斉木楠雄の名前を呼んでいたが…もしかして、そいつと話せているのか?お前の中にいたということか!?」
「………はい」

そんなナナの様子からその答えにたどり着く。
ナナは目をつぶりながらも戦兎の声を認識し、肯定する。


「どういうことだ…?身体側の人物の精神も存在していたということか?俺たちは精神を入れ替えられたわけじゃないのか…?」
「相棒が何だって?」


戦兎もまたそこから生じる疑問も導き出す。
燃堂はその近くで状況を分かっていないままポカンとしている。
そして、少しの間考え込み、ナナの耳元に近づいて矢継ぎ早に喋り始める。

「なあ斉木楠雄、本当にそこにいるのなら、そして知っているのなら教えてくれ!俺たちは何故こんなことをやらされている!ボンドルドやお前の兄は一体何を企んでいる!奴らはどうやって俺たちの身体を変えた!」
「お?相棒いるのか?どこだ?」

戦兎はナナの中にいるであろう斉木楠雄に向かって質問攻めにする。
肉体の記憶を見ることが出来るのではと考えてナナにサイコメトリーを試させたのだが、予想外の出来事に少々焦ってしまっていた。
対して燃堂は、近くに斉木がいると思ったのか辺りを見渡し始める。

「あの、戦兎さん。ちょっとうるさいです」
『同感だ』
「あ、ああ…すまん」
「お?」

煩わしそうにかるくあしらわれ、戦兎は少し後ずさる。

「しかしどういうことだ?俺の中には佐藤太郎がいるような感じはしない。何故柊には身体側の人物の精神がある?」

疑問に感じる部分はまだ存在する。
戦兎はこれまで、佐藤太郎の人生の断片の記憶が見えるといった現象はあれど、本人が自分に語り掛けるなんてことは起きなかった。
ふと少しそのことについて考えてみると、そんな自分とナナには違う点があることに気づく。


「俺は夢の形で佐藤太郎の記憶を見た。だが、柊は眠っても自分の過去しか見れなかった。……肉体の記憶が見えるのならば、身体側の精神は存在しないということになるのか?」

戦兎はそう考察する。
何故斉木楠雄の身体にだけ元の精神が存在しているかの理由は分からないが、逆に存在しない条件ならばそんな風に考えられる。

『本当にそうかは分からないが、可能性はあるかもしれないな』
「……実際にその通りかはまだ分かりませんが、可能性としてはあるようです」

ナナは戦兎の考察に対する斉木の言葉を届ける。
残念ながら、彼も答えは知らないようだ。


753 : 疑似体験Ψエンスフィクション ◆5IjCIYVjCc :2022/05/28(土) 22:40:35 MLpLxUSQ0


戦兎もまたそこから生じる疑問も導き出す。
燃堂はその近くで状況を分かっていないままポカンとしている。
そして、少しの間考え込み、ナナの耳元に近づいて矢継ぎ早に喋り始める。

「なあ斉木楠雄、本当にそこにいるのなら、そして知っているのなら教えてくれ!俺たちは何故こんなことをやらされている!ボンドルドやお前の兄は一体何を企んでいる!奴らはどうやって俺たちの身体を変えた!」
「お?相棒いるのか?どこだ?」

戦兎はナナの中にいるであろう斉木楠雄に向かって質問攻めにする。
肉体の記憶を見ることが出来るのではと考えてナナにサイコメトリーを試させたのだが、予想外の出来事に少々焦ってしまっていた。
対して燃堂は、近くに斉木がいると思ったのか辺りを見渡し始める。

「あの、戦兎さん。ちょっとうるさいです」
『同感だ』
「あ、ああ…すまん」
「お?」

煩わしそうに軽くあしらわれ、戦兎は少し後ずさる。

「しかしどういうことだ?俺の中には佐藤太郎がいるような感じはしない。何故柊には身体側の人物の精神がある?」

疑問に感じる部分はまだ存在する。
戦兎はこれまで、佐藤太郎の人生の断片の記憶が見えるといった現象はあれど、本人が自分に語り掛けるなんてことは起きなかった。
ふと少しそのことについて考えてみると、そんな自分とナナには違う点があることに気づく。


「俺は夢の形で佐藤太郎の記憶を見た。だが、柊は眠っても自分の過去しか見れなかった。……肉体の記憶が見えるのならば、身体側の精神は存在しないということになるのか?」

戦兎はそう考察する。
何故斉木楠雄の身体にだけ元の精神が存在しているかの理由は分からないが、逆に存在しない条件ならばそんな風に考えられる。

『本当にそうかは分からないが、可能性はあるかもしれないな』
「……実際にその通りかはまだ分かりませんが、可能性としてはあるようです」

ナナは戦兎の考察に対する斉木の言葉を届ける。
残念ながら、彼も答えは知らないようだ。


「なあ桐生、相棒どこにいんだー?全然見つかんねーぞ」

斉木、ナナ、戦兎が少々手間取る会話をする中で、燃堂は状況を全く理解できていないまま行動している。
ベッドの下といったスペースのある場所だけでなく、机の引き出しの中とか狭い所までを探り始めている。
どう考えてもそこに人間はいないだろうに。

「もしかしてあいつウンコ行ったんか?そんなら俺っちが見に行ってくるぜ」
『おい、今すぐそこの馬鹿を止めろ。そして目を離すな』

燃堂が急に3人のいる病室から出て一人で行動しようとした矢先、ナナの脳内の斉木楠雄が呼び止めた。
そして、要求を話し始めた。


『今の僕は自分の口を使えない。残念だが、桐生戦兎とは直接会話できない。僕の言葉は後でまとめてお前から伝えろ。そうじゃなきゃ、僕の持つ情報の伝達は円滑に進められないだろう』
『あと燃堂を抑えさせろ。確実に邪魔になる。終わるまでここから離せ』
「………斉木さんとの会話は私しかできないみたいです。話すこともたくさんあります。集中したいので待っていてくれませんか?それから、燃堂さんをここから離してください。斉木さんもそう頼んでいます」

ナナは戦兎に斉木からの要求を伝える。
はっきり言って、ナナを通じて話すのは全員にとってかなりやりづらい。
そして燃堂がここにいては、斉木と話すナナの声に一々いらん反応をして話の進行の障害になる可能性があるとの判断だ。
それに、今ので燃堂は斉木楠雄がこの病院内にいると思い始めた。
ナナが黙っていたら今度は一人で勝手に探しに行きかねない。


754 : 疑似体験Ψエンスフィクション ◆5IjCIYVjCc :2022/05/28(土) 22:42:20 MLpLxUSQ0

「…どうしても俺は話を聞けないか?」
『本当なら確かに桐生戦兎は僕らの様子を見張った方が良いだろう。しかしだ、燃堂がこうなってしまってはどうすることもできない』
『関わりの深かった僕が言うのだがらそうなのだと、仕方ないから、とりあえず今は我慢しろと言え』
「………燃堂さんがこうなっては仕方ない、関わりの深かった自分だから分かる、今は耐えてください、と言っています」

ナナを通じて戦兎は斉木楠雄の意思を受けとる。
そして少しの間悩み、結論を出す。

「……分かった。そっちの方は頼む。俺はとりあえず杉元達の方に向かおうと思う。燃堂、こっちにこい」
「お?」

戦兎は言われた通り燃堂を連れて一旦離れることを選ぶ。
対し燃堂は相変わらず状況を分かってない。

「とりあえず俺たちは一旦この部屋から出る。また頃合いを見計らってここに戻ってくるから、その時に何を聞けたか教えてくれ。そっちの方が早く終わったら俺たちの方に来てくれ」

戦兎はナナにこれからどう動くつもりなのかを伝える。
なるべく早く、合流できるようにと思ってだ。

「ほら、行くぞ燃堂」
「お?弟のお前は行かねえのか?」
「いいからさっさと行ってください!」

「ほら、こっちだ」
「ちょ、おい待っ、お〜…」

戦兎はおとなしく引き下がり、燃堂を連れて現在彼らがいる病室から出る。
戦兎は燃堂を無理矢理気味に引きずって廊下の方に出る。

ナナの中にいるらしき斉木楠雄と話ができないのは残念だが、自分が声を聞けないのならしょうがない。
それに、燃堂が明らかに障害になることは戦兎も理解できてしまう。
かといって、部屋の外に一人で放り出すわけにもいかない。
しっかり見張っておかないとやはり勝手に別の場所に行きかねない。
危険な目に合わせないためにも、一緒に出るしかなかった。

「なあ桐生どこ行くんだよ?相棒ウンコじゃねーのか?」
「ウンコじゃねーよ。とりあえず杉元のとこ行くぞ」
「お?そっちいるんか?」
「……まあ、そういうことにしておこう。一応、いないとも思っておいてくれ」

そして、戦兎は外の見張りに出ている杉元佐一と我妻善逸の方に行くことに決めた。
ナナもまた、本当なら一人にしておくべきではない。
単純に危険かもしれないということもある。
それとは別に、ただの勘ではあるが、ナナに対する疑念も残っている。
先ほどの彼女の様子から斉木楠雄に接触できたことには一応嘘はないのだろうと思う。
だが斉木と会話している様子を、声や反応を見ておかないと後から斉木から得た情報を隠される、もしくは嘘を混ぜられるのではないかという思いも出てくる。
もちろんそんなことは面と向かって言えない。
疑念もやはりただの勘違いかもしれない。
だが何にしても、一人にするのはあまり良いことでは無いだろう。

杉元達と固まって行動していれば燃堂とナナの付き添いを杉元と役割分担できたかもしれない。
斉木楠雄の出現が予想外の事だったとはいえ、少し後悔の気持ちも出てくる。
しかし過ぎてしまったことはもう遅い。
せめて悪い結果にならないことを祈りながら桐生戦兎は燃堂を引っ張って病院の外目指して歩き出した。


755 : 疑似体験Ψエンスフィクション ◆5IjCIYVjCc :2022/05/28(土) 22:43:17 MLpLxUSQ0
【D-2と3の境界 聖都大学附属病院内 廊下/昼】

【燃堂力@斉木楠雄のΨ難】
[身体]:堀裕子@アイドルマスターシンデレラガールズ
[状態]:後頭部に腫れ、鳥束の死に喪失感
[装備]:如意棒@ドラゴンボール
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:お?
1:お?
[備考]
※殺し合いについてよく分かっていないようです。ただ何となく異常な場であるとは理解したようです。
※柊ナナを斉木楠雄の弟だと思っているようです。
※自分の体を使っている人物は堀裕子だと思っているようです。
※桐生戦兎とビルドに変身した後の姿を、それぞれ別人だと思っているようです。
※斬月に変身した甜花も、同じく別人だと思っているようです。
※斉木空助を斉木楠雄の兄とは別人だと思っているようです。
※斉木楠雄が近くにいると思っているようです。

【桐生戦兎@仮面ライダービルド】
[身体]:佐藤太郎@仮面ライダービルド
[状態]:ダメージ(中・処置済み)、全身打撲(処置済み)、疲労(中)
[装備]:ネオディケイドライバー@仮面ライダージオウ
[道具]:基本支給品、ライズホッパー@仮面ライダーゼロワン、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを打破する。
1:斉木楠雄が柊の中にいたのか?何故だ?何か有用な情報を得られればいいのだが…
2:佐藤太郎の意識は少なくとも俺の中には存在しないということか?
3:外にいる杉元と合流する
4:体力の回復にも努める。
5:甜花を正気に戻し、DIOを倒す。あいつの手を汚させる訳にはいかない。
6:他に殺し合いに乗ってない参加者がいるかもしれない。探してみよう。
7:首輪も外さないとな。となると工具がいるか
8:エボルトの動向には要警戒。誰の体に入ってるんだ?
9:翼の生えた少年(デビハム)は必ず止める。
10:ナナに僅かな疑念。できれば両親の死についてもう少し詳しいことが聞きたい
11:ナナも一人にするべきでは無いと思うが…今はどうにもできないか
[備考]
※本来の体ではないためビルドドライバーでは変身することができません。
※平成ジェネレーションズFINALの記憶があるため、仮面ライダーエグゼイド・ゴースト・鎧武・フォーゼ・オーズを知っています。
※ライドブッカーには各ライダーの基本フォームのライダーカードとビルドジーニアスフォームのカードが入っています。
※令和ライダーのカードが入っているかは後続の書き手にお任せします。
※参戦時期は少なくとも本編終了後の新世界からです。『仮面ライダークローズ』の出来事は経験しています。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※ジーニアスフォームに変身後は5分経過で強制的に通常のビルドへ戻ります。また2時間経過しなければ再変身不可能となります。










『さて、あいつらはもう行ったようだ。早速だが話の続きを始めよう……と思ったが、お前はまだ不服なことがあるようだな、柊ナナ』

燃堂と戦兎が出てった後、斉木は話の続きをしようとして、途中で止めた。

『お前はまだ、僕のことを信用しきれないのだな』

「………」

斉木楠雄の確認に対し、ナナは無言を貫く。
どうせ心が読まれているなら、返事をする意味はない。


ナナには、斉木楠雄は主催者側の存在なのではという考えがまだあった。
主催陣営の本部からこの脳内映像と声を能力で届けているのでは、
自分がこの肉体へのサイコメトリーを試すタイミングを見計らっていたのでは、
さっきの説明ももっともらしいことを言って誤魔化したのでは、
あれこれ言って自分たちに都合のいい方向にもっていくため騙そうとしているのでは、
そんな風に思ってしまう。

それほど、柊ナナの斉木楠雄に対する疑いは深かった。
彼女の中に存在する人類の敵となりえる能力者たちへの敵意がそうさせていた。
そして、ナナのそんな考え・感情も、当然斉木楠雄は読んでくる。

『一応言っておくが、ここにいる僕は主催陣営とは全く関わりが無い』
『あのラーメン屋の場面以前の記憶も曖昧で、僕が元の世界で最後に何をしていたのかも覚えていない』

ナナできることならばこの言葉をそのままの意味で受け取りたくなかった。
だが、無理にでもこの発言は真実であると、納得させられる感覚があった。
これは、自分の感情が無視されているような感じもし、それもまた何か嫌な様に感じられた。
まるで、このショッキングピンクの髪の能力者と本当に一つになったような気がして。
ナナが斉木への疑いを止めないのは、そうしないと不安な気持ちも出てくるからであった。

『……何を言ってもお前は疑ってかかりそうだが、僕の考えは最後まで伝えさせてもらうぞ』

それに対し斉木ができることは、自分の知る情報を開示することだ。




756 : 疑似体験Ψエンスフィクション ◆5IjCIYVjCc :2022/05/28(土) 22:45:31 MLpLxUSQ0
『まずはこうして僕らが会話できていることについての説明だが…お前も察しているようだが、サイコメトリーによるものだろう』

今斉木が言ったように、ナナもこの状況になった理由については何となく分かっていた。
斉木楠雄が使えた能力の一つ、物体に残った残留思念を読み取るサイコメトリーが原因であると明言された。

『僕のサイコメトリーは物体に残った残留思念を読み取ることができる。そして、常に思念を発し続ける人に触れた場合はその人の感覚をそのまま体感できる。対象の人物の五感を全てリアルタイムで感じることが出来るのだ』
『物体が対象の場合はダウンロード再生、人の場合はストリーミング再生と言える』

『そして、この僕は今、人間にとって精神の大本となる臓器、"脳"の中にいる』
『つまりだ柊ナナ、お前は今自分の額、つまり、"脳"に近い部分触れたため、僕の"思念"を読み取る形で会話している』
『だから今、僕たちはこうして互いの意思を伝えることができている』
『脳も、お前と同じもの…本来はこの僕「斉木楠雄」のものを使っているため、思考の共有という形で僕はお前の考えや感じていることを読めているのだろう』
『これまで他の物体や人に使っても発動しなかったのに今さらできたのは、おそらく本来の使い手である僕の精神に接触したため、能力が活性化したとか、その辺りだろう』

『もう一つ明言しておくが、本来なら僕の身体を動かす精神が僕以外の人物の場合、超能力を使えることはない』
『僕が他人の身体に入った場合は使えたがな』
『少なくとも、これまではそうだった』
『今こうしてサイコメトリーを使えているのは、特殊な事態であることも把握しておいてくれ』


ナナは、自分たちがこうして接触できた理由、斉木が自分の思考を読めている理由について、相手の主張は大体理解できた。
ところどころ曖昧ではっきりしないこともあるが。




『そして前提として、自分が今どういう状態にあるのか、僕自身でもよく分かっていない』
『この殺し合いのテーマは入れ替わりのはずだが、何故身体側の精神がここに残っているのか、その理由を知らない』
『この島における僕の最初の記憶は、柊ナナ、お前と同じところからだ』
『正直、情けない話だがな』

『超能力を使うこともできないみたいだ』
『お前が考えていたような、マインドコントロールを使った感覚も僕にはない』
『おそらく、お前が使ったわけでもない』
『周りの、僕にとって異世界の人間達がこの姿に対して違和感を抱いていない理由も現状不明だ』

「………」

斉木楠雄の話をナナは黙って聞く。
この男の発言が真実かどうか疑わしいのは変わらない。
マインドコントロールを使ってないのなら、制御装置とかのことはどう説明をつけるつもりだとも思った。

だが、全てを否定しては何の情報も得られないだろうことも分かっている。
いくら信じにくい、信じたくないという感情もあるとはいえ、一先ずは冷静に話を聞く他無かった。


757 : 疑似体験Ψエンスフィクション ◆5IjCIYVjCc :2022/05/28(土) 22:46:14 MLpLxUSQ0


『一応、この僕の正体やこうなった原因について、三つほど仮説を立てている』

『一つ目は、「参加者は別の人物の精神を植え付けられただけ」というものだ」
『要するに、ここで行われていたのは精神の「入れ替り」ではなく「憑依」だったということだ』
『この場合だと、僕は本物の斉木楠雄の精神ということになる』


『二つ目は、「ここにいる斉木楠雄の精神は新たに発生したもの」というものだ』
『もし身体が一度空っぽになり、後から別の精神が入れられたとしても、肉体の物理的な構造は変わらない』
『人の精神の在り方を決める場所、脳だって同じだ』
『そのため、脳の構造に従い新たな人格としてこの僕が発生したというのがこの仮説だ』
『この場合だと、僕とは別に斉木楠雄の精神が存在することになる』


『三つ目は、「そもそも参加者達の正体は別の人物だと思い込まされているだけである」というものだ』
『他者の精神を入れられたのではなく、「記憶を弄られた」という説だ』
『つまり僕たちの場合だと、柊ナナという人物は初めからこの殺し合いに巻き込まれておらず、お前は本当は「自分を柊ナナだと思い込んでいる斉木楠雄」だったということになる』
『近くにいる奴らの場合だと、「自分を燃堂力だと思い込んでいる堀裕子」、「自分を桐生戦兎だと思い込んでいる佐藤太郎」ということだ』
『この場合でも、僕の正体自体は二つ目とさほど変わらない。斉木楠雄の精神が別に存在する可能性が出てくる』
『二つ目と違うのは、その正体がお前だということになる』


「……中々恐ろしいことを言うな」

斉木楠雄の仮説を聞いてそんな感想を抱く。
口調も表向きの柊ナナのものではなく、冷徹な内面のものに変えている。
戦兎達がいないから隠さなくてもいいということもあるが、少々不快にも感じたからだ。

仮説の中でも特に最悪だと感じるのは三つ目だ。
この説はこれまでの自分を完全否定する代物だ。
この自分が、能力者の、斉木楠雄であってたまるものか。


『まあ、これらはあくまでただの仮説だ。僕は答えを言っているわけではない。真実はまだ別である可能性だって残っている』
『少なくとも、僕らは脳を物理的に入れ替えられたわけではないことは確かかもしれない』
『今はそのことだけ念頭に置いておけばいいだろう』

今はまだ心配する必要は無いと、そんな意図を伝えてくる。
それでもやはり、仮説とはいえ圧倒的に信じにくい話を聞かされて、不信感はより募る。


『だが、どの仮説においても無視できない存在がいる。主催陣営だ』

『どうも、僕はこの肉体を動かすことにおいてはどうしても干渉することができないようになっているみたいだ』
『いわゆる、制限というものかもしれない』

『奴らは、僕には殺し合いに干渉してほしくないようだ』
『それが僕だけか、他の身体側の参加者達にも該当するかは今のところ分からないがな』
『まあ、テーマのことを考えると当然かもしれない』
『それに僕が超能力をフルで使えれば、こんな殺伐とした催しも全て茶番になってしまうだろうからな』

要は、優勝することも、首輪を解除して主催者を止めることも、簡単なことだと彼は言っている。
普通だったらこんなことを自信を持って言われることは笑えない冗談か何かに思うだろう。
だがプロフィールの内容が真実ならば、そうなのだろうと思ってしまう。
そして、精神が他人の者ならば斉木楠雄の身体でも超能力が使えないだろうということは考えていた。

ただ、今ここで斉木楠雄の精神と思しき存在が彼女の脳内に現れた。
それでも超能力が、今のところはサイコメトリー以外が、使える気配がないのは彼がこの身体を動かすことが全くできないことの表れなのだろうか。

『とにかく、僕の方からお前たちを助けるために超能力を使うことはできないと、そう思ってくれればいい』

別にお前の助けなどいらないと反射的に思ってしまうが、これはただの反発心だ。
助けではなく、利用という形ならまだ飲み込める。

『まあいい、次の話に行こう』




758 : 疑似体験Ψエンスフィクション ◆5IjCIYVjCc :2022/05/28(土) 22:51:24 MLpLxUSQ0
『僕の兄、斉木空助についての話をしよう』
『あいつがどういう奴かを一言で表せば…マッドサイエンティストといったところか』
『そして、あいつが殺し合いの主催をやるかどうかについては…まあ、あり得るかもしれない』


前の放送で主催陣営の者として名乗ったその男について、その弟は自分の印象を答えた。
答え方は、どこか曖昧であった。

『兄は僕とは違い、特殊な能力は何も持っていない。無能力者だ』
『だが、早い話あいつは天才だった』
『2歳時点での知能テストの結果もIQは218、14歳で高校を飛び級しイギリスのケンブリッジ大学に留学するような奴だった』
『そして奴は、僕のことを目の敵にしていた』

『幼い頃から向かうとこ敵なしだったあいつにとって、人智の埒外の能力を持つ僕は大きな壁だった』
『あいつにとって僕は、唯一勝てない存在だった』
『それも自分の弟なのだから、奴の中では常に嫉妬や劣等嫌悪感の感情が渦巻いていた』
『そんな感情を向けられていたから、僕も自分の兄のことは嫌いだった』

『兄は僕によく勝負を仕掛けてきたが、僕はその全てに勝ってきた』
『さっきも言ったが、あいつは所謂マッドサイエンティストに分類されるような奴で、僕に勝つために妙な研究や発明も行ってきた』
『今度こそ僕に勝つためにと、こんな大掛かりでふざけた催しに関わるのは一応あり得るかもしれない』


『だが、それはそれでまだ疑問点もある』

『この殺し合いにおいて、僕は身体側のみの参加者となっている』
『さっきも言ったように、僕はここにおいて自分の身体を動かすことも、超能力を使用することもできないみたいだ』
『果たしてこんな状態の僕がここでの戦いに敗れて死んだとして、それはあの斉木空助にとっての勝利と言えるのだろうか?』
『もしたとえ生き残れたとしても、そこで勝者となったのは柊ナナであり、この僕斉木楠雄ということにはならないのではないか?』

『それに奴自身も今、自分の身体ではなく小野寺キョウヤという不老不死の能力者の肉体を使っている』
『もしあいつが僕らに勝てたとして、その勝因が小野寺キョウヤの身体のおかげだとしたら、それも奴にとっての勝利になるのだろうか?』
『まあ、精神入れ替えを行ったのが奴自身の力・技術ならば、あいつも自分の勝利として納得はしそうだ』

『とにかく、僕としてはこんな状態であいつが殺し合いの主催をしているにはまだ不自然な点があると考える』
『どうせやるなら僕自身を参加者として登録してくると思う』

斉木楠雄の語る斉木空助像は、弟である彼の視点でないと分かり得ないものだった。
現在彼がやっていることについては、納得と疑問の両方を感じているようだった。

『そして、これまでお前が聞いてきたものから、ある可能性に思い至った』
『あの斉木空助は、僕がよく知る兄ではない可能性だ』

『あいつは、僕にとっての並行世界…パラレルワールドの存在かもしれない』

並行世界の話はこれまで桐生戦兎が散々していた。
その話を斉木楠雄も聞いていたということだ。

『並行世界には、本来知るものとは違う人生を歩んできた、自分や、自分の知り合い達が住んでいることになる』
『僕には、そんな「斉木空助」に心当たりもある』

『そうだな…まずは今から、ある映像を強くイメージしてみる』

斉木楠雄がそう言うと、彼を中心に周りの風景に変化がおき始める。
これまでは、彼はただ暗闇の上で浮いていたようにしか見えなかった。
しかし段々と、明確な場所として認識できるような景色が彼を中心として現れ始めた。

「………え?」

それを見たナナは思わず声を漏らしてしまう。

それは、まるで人類の社会が、文明が崩壊したとしか思えない都市の風景だった。

『僕の兄は、奴は、斉木空助は、世界を滅ぼしたことがある』




759 : 疑似体験Ψエンスフィクション ◆5IjCIYVjCc :2022/05/28(土) 22:54:13 MLpLxUSQ0


『人の人生というものは無数の分岐点が存在し、それぞれが枝分かれして別の未来へと繋がっている』
『それが、僕の世界における並行世界というものの考え方だ』


『例えば、ある女学生が学校に遅刻しそうになっているとしよう』
『その女学生が学校に急ぐために全速力で走って行くか、どうせ遅刻するからと諦めて歩いて行くかの選択肢があるとする』

『もしそこで走ることを選べば、たまたま曲がり角で男子学生とぶつかり、歩くことを選べばそんなことが起こらないとする』
『そして、その男子学生が女学生の通う学校に転校して来るとする』
『走って行った場合は、歩いて行くよりも先に転校生と縁ができることになる』

『その縁の違いが、それぞれの選択での学校生活に別の影響を及ぼすことになるだろう』
『その結果として、その女学生の将来…仕事や家族といったものがそれぞれ大きく異なるかもしれない』
『このように分岐したものが、並行世界同士の関係というものだ』

『もちろんこれは漫画みたいな極端な例だ』
『だが、今言った例だって、もし女学生が前日の夜に早めに寝ることを選んでいれば、寝坊せずに早めに学校に向かえて、転校生とのファーストコンタクトが普通のもので確定されたかもしれない』
『ようは、並行世界の発生条件なんてほんの些細なことかもしれないということだ』
『「バタフライ効果」という言葉を知っていれば、理解は早まるかもしれないな』

バタフライ効果とは、蝶が羽ばたく程度の小さなものが離れた場所の未来の天候に影響するという問いかけから生まれた言葉である。
初めは些細な変化が後で大きな変化になることを表す言葉である。

「………まさか、この風景って」

『並行世界というものはバタフライ効果でも生まれる可能性がある』
『お前に言っても分からないだろうが、人気投票の世界がそんな感じだった(あの時は僕が犬を助けるか否かで変化したんだったな)』

『そして、この世界もまたバタフライ効果により生まれたものだ』
『それが、この「斉木空助が滅ぼした世界」だ』



『この世界が発生した理由は、僕の両親の出会い方が変わってしまったことだった(その原因を作ってしまったのは僕だった)』
『そのバタフライ効果により、その世界における僕は早死にしてしまった』
『それにより、僕は兄を止められなかった』

『この世界において、兄は僕を生き返らせようと思い、タイムマシンを発明した』
『結果、タイムマシンを巡って世界中で戦争が起きた』
『その戦争が大きく拡大し、やがては世界をこんな風に崩壊させた』

「………」

『僕の兄は、自分が戦争を引き起こしておいても悪びれない奴だった』
『あいつは、地球や人類のことなんて何とも思ってもいない奴だったんだ』
『……いや、元の世界でもあいつはそういう奴だったな』

『とにかく、斉木空助は人類のことなぞどうでもいいと思っていること』
『場合によっては戦争を引き起こしたり等して世界を滅ぼしかねない危うさもあること』

『そして、僕の感じる違和感のある点は、僕の知らない並行世界の「なにかあった未来」の存在である可能性も考えられるのではないかということを伝えたかった』
『……まあ、何らかの脅しをかけられている可能性もまだあるが、この考え方もあるということは念のため示しておきたかった』

斉木による兄の話はこれで終わりだった。
彼の話の中では、兄が主催をやるような人物であることは否定せずとも、庇っているように感じる部分もあった。
だが、ナナは今の話の中ではそれよりも気になる部分があった。

「………責任を、感じているのか?原因を作ったのは自分なのに?」

『伝わっていたか』

話の途中、何故かナナは斉木の考えていることが一部伝わっていた。
兆候は前からあった。
その原因は今は探らない。
それよりも、兄の凶行の原因が彼にあるらしきことが気になった。

『隠しても無駄そうだから教えておこう』
『僕は自分の能力を暴発させて過去に行ったことがある』
『先に言った両親の出会い方を変化させたのは僕だ』

『お前が言いたいことは分かる。世界を滅ぼしたのは兄ではない。能力者のこの僕だということだろう?』


760 : 疑似体験Ψエンスフィクション ◆5IjCIYVjCc :2022/05/28(土) 22:54:55 MLpLxUSQ0

その通りだ、とナナは思う。
間接的にではあるが、そもそも斉木楠雄が能力を暴発させていなければこの光景が生まれることはなかった。

『一応言っておくが、僕はこの改変してしまった世界を戻してある』
『空助の使ったタイムマシンと僕自身の能力を利用し、もう一度過去に戻り、何もせずに帰ることでな』

「………それは、本当にこの滅んだ世界は元に戻ったのか?今も地続きしている可能性はないのか?」

『それは分からない。確かめる方法も僕は持っていない』

「………」

ナナの中では斉木楠雄への敵意がさらに増大していた。
能力者たちが世界中の人類の脅威であることはナナの中では常識のことだ。
だが、それを実行しているところを見たことがあるわけではなかった。

しかし今、斉木楠雄は実質的にそれに成功した光景をここで見せて来た。
この光景が偽物でないという実感は感じられている。
プロフィールから斉木楠雄は危険な存在であることを感じていたが、ここまでとは思っていなかった。
こいつは、本物の"人類の敵"であると認定した。
ナナは今、この男をどうにかする方法、殺す方法について考え始めていた。

『待て、確かにお前からみたら僕は最優先殺害対象だろうが、今はその話は置いておけ』
『僕はまだ伝えるべき情報を持っている』

「………分かった。教えろ」

ナナは言われた通り殺意を一旦抑える。
情報がまだあるのも確かだと感じ取れた。
とりあえずは、斉木の話への集中に意識を戻した。



『並行世界の話に戻したい』

そう斉木が言うと同時に、周りのボロボロの街並みの景色が最初と同じ暗闇の状態に戻る。
イメージすることを止めたようだ。
そして男の像は話を続ける。

『実はこの考え方は、お前の立てた「斉木楠雄が主催に関わっているんじゃないか説」が半分当てはまることになるかもしれないのだ』
「どういうことだ?」

『さっきも言ったが、並行世界というものは人の人生にある無数の分岐点から発生する』
『その並行世界同士には、別々の運命をたどった全く同じ人間、「並行世界の同一人物」が存在する』
『つまり、「並行世界の斉木楠雄」が主催に関わっている可能性はまだ十分に考えられる』

「……そんな自分を疑えるのか?」
『十分疑えるさ。僕はこれまでに何度か並行世界の自分に会っている』
『その中には、悪役も同然となった僕もいた』
『それこそ、お前のいう"人類の敵"になりかねない奴もな』

今ここにいるお前だって十分"人類の敵"だ。
ナナはそう思うが今はスルーされる。

『そんな「斉木楠雄」の中には、「燃堂力を消した」ことで分岐した世界の奴もいた。そいつはノベライズ第2弾の奴だったな』
「………つまり、燃堂は死なせず、ここから生還させろと。さもなければお前がその「悪役の斉木楠雄」になるとでも言いたいのか?」
『そこまで言うつもりはないが……まあ、あいつも死なない方がいい』
『下手に元の世界に帰さなかったら僕以外にもどんな影響があるか分からないからな』
『あいつにだって、帰る場所はあるからな』

少し、ぶっきらぼうな言い方だった。
しかし、彼の身を案じているかのような感覚もあった気がする。
そう思った事もまた無視される。


761 : 疑似体験Ψエンスフィクション ◆5IjCIYVjCc :2022/05/28(土) 22:55:43 MLpLxUSQ0


『それに並行世界の僕がいると仮定するならば、話したいことはまだある』
『もしいるならば、そいつに何らかの動きを誘発させることができるかもしれない手段がある』

燃堂の話は一旦切り上げられ、並行世界の斉木楠雄についての話題に戻る。


『実は、並行世界の同一人物は本来同じ世界に同時に存在することができない』
「何?」

さっきそんな存在に会えたことがあると言ったばかりじゃないかと思う。
そんな法則があったのかとも思う。


『だが、僕にはそれを回避する方法が存在する。「別の人物」になればいいのだ』
『僕には、変身能力がある』
『一応言っておくが、戦兎とかが言う仮面ライダーとやらとかの変身とは全くの別物だからな』

『その能力で身体を変化させると、世界から別人と判定され、並行世界の自分が同じ世界に存在できるようになる』
『僕はこれまで、女体化して「斉木楠子」になることで並行世界の僕を出現させたことがある』

「…私に、それを試せということか?」

斉木が何故これを教えたのか、その理由をナナは察する。
主催陣営に並行世界の斉木楠雄が関わっていると仮定するのなら、この能力でそいつを世界に存在させられ、何らかのアクションをこちらに起こしてくるんじゃないかという考えだ。
もしくは、逆にその主催陣営の斉木楠雄が斉木楠子になっている可能性も考えられ、どちらにせよ動きを期待できるんじゃないかということだ。
だが、本当にそんなことができるのかとも思う。

『これは兄が最終巻で言ったことなのだが、僕の身体は生まれつきの超能力を制御するために「進化」しているかもしれないらしい』
『そして、この身体の脳内には、その超能力者の記憶を持つ精神体である「僕」がいる』
『先にも言ったが、今回サイコメトリーを発動させることができたのは「僕」に接触したことにより活性化したかもしれない』
『もしかしたら、この接触が今後もこの身体に何らかの影響を及ぼすかもしれない』
『僕が持つ様々な超能力を少しは使えたりするかもしれない』

『そもそも僕は他人に自分の身体を使わせたことはあってもそれが長時間になったことはない』
『殺し合いが始まって最低でも9時間以上経過しているこの状況、例え「僕」の存在が無かったとしても何らかの影響があり得るかもしれない』
『他人に身体を預けたのがこれだけの時間になるのは初めてだからな』


『柊ナナ、お前の意思で僕の能力が使える可能性は、まだ考えられる』
『変身を試す価値はあると思うぞ』
『一度の変身には2時間かかるから、場所の安全はしっかり確保する必要があると思うがな』

真偽はともかく、斉木楠雄からの提案の意図は理解できる。
だが、本当に言う通りにするかはこの時点では決められない。
とりあえず、頭の片隅に置いておくことにはした。


762 : 疑似体験Ψエンスフィクション ◆5IjCIYVjCc :2022/05/28(土) 22:57:34 MLpLxUSQ0




『次に、打ち明けたいことがある』
『僕は最初に超能力を全く使えなかったと言ったが…実はそれが嘘になるかもしれない』

「何だって?」

まさかの白状だった。
これまでは斉木が能力を使えない前提での話であったのに、それが一部覆された。

『僕の能力の一つに、予知夢というものがある。これは、未来を見ることができる能力だ。
『この能力は僕が眠っている間に夢という形で発動する』
「まさか…」

斉木が言わんとしていることをナナは察する。

『そう、お前が寝ている間にこの能力が発動した可能性がある。僕もまた夢を見たんだ』
『僕が見たものは、おそらくこの殺し合いの未来において現れるであろうものだ』
『そして、予知夢の形で現れた以上、これは何か重要なものかもしれない』

ナナが自分の過去を、凄惨な記憶を、夢で見ていた間に斉木楠雄は重要な情報を掴んだかもしれないというのだ。
意識が別々にあったため、互いに別の夢を見ていた。


「一体、何を…?」

『それはだな……かm































「申し訳ありませんが、そこまでです」


◆◇◆



瞬間、まるで自分の意識に何か妙なものが現れたのを感じた。

それと同時に、突如、ナナの視界に、脳内の映像に、新たな人物が現れた。

そいつは仮面を被っていた。
仮面のデザインは数時間前に見たばかりだった。
上部分についた取っ手のようなもの、中央を縦に走る淡く紫に光るライン。


それはこの殺し合いの主催陣営にいる人物、ボンドルドのものだった。


そいつが現れたのはほんの一瞬だけで、すぐに消えた。

ナナの脳内に現れた斉木楠雄の像も、同時に消えた。

彼の声も聞こえなくなった。

後に残ったのは、自分がたった一人でいるだけの静寂な病室だけだった。



◇◆◇


763 : 疑似体験Ψエンスフィクション ◆5IjCIYVjCc :2022/05/28(土) 23:00:48 MLpLxUSQ0

「くっ…!どうして…!まだ話は終わっていない…!」

ナナは自分の額に向けて何度も指を打ち付ける。
だが、斉木楠雄が再び彼女の脳裏に現れることはなかった。

(斉木楠雄は最後に何と言った…?「か」の後に「ま行」の文字を言ったみたいだがそれが何なのか分からなかった…!)

斉木楠雄の最後の情報は、中途半端なところで終わってしまった。
「かま」、「かみ」、「かむ」、「かめ」、「かも」
言葉の続きがこれらのうちどれだったのかが分からなくなった。
いや、そもそも斉木が伝えたかったのはこれだけではなかったかもしれない。
これら五つの二文字の後にさらに言葉が続いた可能性だってある。
そもそも、本当に「か」の後に続いた文字が「ま行」だったかどうかも定かではない。
実質的には、受け取れたメッセージは最初の「か」だけだ。
結局、彼が何を伝えたかったのかはこの場では分からずじまいだ。


(まさか、主催陣営がここで出張って来るとは…)

予想外で衝撃的だったのは、ボンドルドの登場だ。
放送で見たあの男の仮面が視界に現れた瞬間、斉木楠雄の声は聞こえなくなった。
ボンドルドは発言した後に一瞬で消え、後にはまぶたの裏の暗闇しか目には映らなかった。
突然の割り込みにより脳内での会話は強制的に中断された。

しかも、もうサイコメトリーでも斉木楠雄と話すこともできなくなっていた。
何らかの細工を施していったみたいだ。
それをやったと思われるボンドルド本人がこの部屋の中に出現した様子はない。
遠距離でこんなことができる主催陣営の力には更に驚かされる。

(少なくとも、盗聴なり何なりの方法でこちらの動向を把握している可能性は考えていた。だが今のタイミングでの登場、奴らはこちらの心の中までも監視していたということか?)

明らかに自分と斉木楠雄の会話をこれまで聞いていたとしか思えない登場の仕方をボンドルドはした。
だが、斉木の言葉は脳内の精神世界でのみ発せられていた。
「そこまで」という言い方から、それまで彼が語っていた内容も把握しているようだった。
主催陣営の奴らは、参加者が声を出さずに考えていることを読み取っているようだった。
その方法までは正確には分からないが、これは明らかに自分達にとってまずいことだった。
主催陣営が常にこちら側の心を読んでいるのだとすると、何を考えていても、たとえ殺し合いの脱出計画を立てていようとも、何もかもが筒抜けだったことになる。
下手したら、ナナは行動方針も転換せざるを得なくなってしまう。
そうするとすぐに決めるほど短絡的では無いが。


(しかしあのタイミングで止めて来たということは、斉木楠雄が予知夢で見た"何か"は本当に主催にとって重要なものだったということか?)

主催陣営が精神世界にまで干渉する力を持っていたことには大いに驚きを感じる。
それと同時に、斉木が伝えようとした「かm」から始まる何かは、主催にとって参加者に知られたら困るほど重要性の高いものであると考えられる。
斉木楠雄が本当に主催と関わりが無いとしたら、可能性が高くなる。

(………逆に言えば、それまでにもたらされた情報は、奴らにとってこっち側が知っても問題ない、大したことのないかもしれないということか)

主催陣営にとっては、斉木が立てた自分たちの状況の仮説も、斉木空助についても、並行世界の斉木楠雄についても、殺し合いの進行には影響のないことということになるのだろうか。
これでは、斉木が提案した「変身能力による女体化で並行世界の斉木楠雄がいないかどうか確かめる」ということも意味ある行いになるかどうか。
おそらく、目論み通りにはいかない。
よしんばもし自分が変身能力の使用に成功したとしても、せいぜい本来の性別通りになるだけだろう。

(……一先ず、戦兎や杉元達にも情報共有しよう)

今回脳内に現れた斉木楠雄と思われる者からもたらされた情報は多くあった。
更には、明らかに主催陣営の干渉としか思えないことが行われた。
これらは全て伝えるべきか、取捨選択するべきについても考えるべきだろう。

ボンドルドの登場による困惑は未だあるが、とりあえず時間も惜しいため動くことを決める。
ナナは戦兎達を追うように病室の外に出て廊下を歩き始めた。





764 : 疑似体験Ψエンスフィクション ◆5IjCIYVjCc :2022/05/28(土) 23:01:43 MLpLxUSQ0


ナナは廊下を歩きながら、自分の持つ情報を整理しながらも、あることを考えていた。

それは、この自分の身体である斉木楠雄を殺害する方法についてだった。


今回の話で、ナナは自分の中に本物の斉木楠雄の精神が存在する可能性に触れた。
他の可能性も無視できないが、本当に本物の身体の精神がここに存在するならば、それに応じた彼の殺し方について考え始めていた。


今回の出来事で、斉木楠雄が本当に世界を滅ぼす要因になることをナナは知った。
しかも、それは彼の能力の暴発によるものであった。
脳内で自分と話していた斉木楠雄には、悪意が無いことをナナは感じ取れてしまっていた。
だがしかし、それでも、彼自身に悪意が無くとも、彼は"人類の敵"になりえる者だとナナは判断した。

これまでの"委員会"からの教えでは、能力者は強力な力を未熟な精神のまま労力無しで得ることで傲慢となり、人類を脅かす存在になるのだと教えられた。
だが、それだけではなかった。
"人類の敵"は、例えその力を持つ本人が何もしなくとも、存在するだけで危険なものだと思い始めた。
彼らは存在するだけで、人類を狂わすことを知ってしまった。
斉木空助が、そんな人間だったことを知ってしまった。

それに、超能力の暴発で過去の世界に行って歴史を変えてしまうような者であることも問題だ。
下手したら、暴発で別世界の自分たちの世界にまで来られて何らかの影響を及ぼしてしまうかもしれない。
それこそ、世界が滅びるレベルのものを。
絶対にそうなることが決まった訳ではないが、可能性を思い浮かべてしまった。


斉木楠雄は確実に殺さなくてはならない存在だ。
最悪の場合、自分の命と引き換えにしてでも。
それほどの相手であると、思い始めた。


つまり、斉木楠雄を殺すための方法の選択肢に自分もろとも殺すこと、自死することが加わったのだ。

もし先ほど話した斉木楠雄が本物で、この身体に元から入っていたものなら、彼の命は完全にナナの手中にあることにある。
これまでは、この男の精神が別の場所にある可能性の方が高く、この選択肢はこれまで思い浮かんではこなかった。
身体の方を死なせても、精神の方が無事であるなら、後で死体となった身体を治して元に戻ることもあり得るかもしれなかったからだ。
だがこうして彼が出てきたのなら話は別だ。
もしかしたら、先ほどの話の中で自分が本物の斉木楠雄の精神ではない可能性を上げたのは、自分(ナナ)がこのような発想に至ることを防ごうとしたためだったのでは?という考えまでも浮かぶ。
確証があるわけではないが、ナナの中では可能性の一つとなった。

それに、先ほどの話では自分も身体の影響を受けて超能力が使える可能性も提示された。
自分の目的を達成するために能力者の能力を利用すること自体には問題はない。
ナナは過去に渋沢ヨウヘイという時間遡行能力者を彼自身の能力を利用して殺害している。
現在のバトルロワイアルの状況から抜け出すために斉木楠雄の超能力を利用するのもやぶさかではない。

だが、自分の精神が影響を受けるのなら話は別だ。
本来なら、斉木楠雄の能力は精神に由来するものであることが先の話でほぼ確定した。
そして先ほど、この身体は超能力を使うことに適応ために「進化」している可能性を提示された。
少々発想の飛躍にもなるが、この適応による進化とやらは、「精神」にも起きるのでは?という考えが浮かんだ。


もし自分の精神がこの身体に「適応」してしまえば、自分は超能力者に「進化」してしまうのでは?
むしろ、それこそが主催陣営の狙いなのでは?


もちろんこれはただの想像で、証拠なんてない。
だが、この想像に至ってしまった時、ナナは彼女自身も自覚せずにある感情を抱いていた。
それは、『恐怖』だ。

自分が"人類の敵"と憎む能力者たちと同じ存在になってしまうのではないか、
自分の両親を殺した奴らと同じになってしまうんじゃないか、
ただでさえ両親は自分のせいで死んだのに、更に最悪な罪を重ねるんじゃないか、
そんな想像をすると、身が震える。
だからそんなことになる前に、自分から死ぬ方が人類のためになるんじゃないかという考えまでも浮かんでしまう。
自ら命を絶つという発想が出たのはこのこともあるだろう。

もちろん、そんなことにならないのなら、自分から死ぬなんて真似をするつもりはない。
どうせ死ぬなら、自分にできる限りの"人類の敵"を殺してからだ。
無意味に死ぬことは、許されない。




765 : 疑似体験Ψエンスフィクション ◆5IjCIYVjCc :2022/05/28(土) 23:04:00 MLpLxUSQ0

そんな風に考えながら、歩きながら、ナナは自分のデイパックを少し開き中を見た。
そこには、一丁の銃があった。
これは、ナナへの支給品の一つだ。

PK学園にいた時からこの銃の存在は把握していた。
だがナナは貨物船やDIOに向けてこれを撃とうとはしなかった。

この銃をこれまで使おうとしなかった理由としては、まず第一にデイパック内の一番上にあのビール瓶型自動車があって取り出しにくかったこともある。
だが、それ以上に、この銃は簡単には扱うわけにはいかなかった。


これに装填されている弾数が、たったの一発だけであるからだ。
しかもこの銃は結構旧式のものであるようだった。
それこそ、自分の世界に能力者の出現が起きるよりも一世紀程前の時代のものに近そうだった。

他に分かることは、種類としてはボルトアクション式であること、
もとの持ち主の名前がライナー・ブラウンという人物らしいこと、
そして、何故か銃口が少し濡れていることくらいだった。

この銃は正直、予備の弾が無いこともあって、武器として扱うには使いどころの見極めがかなり難しそうな代物であった。
一発撃ってしまえばもうおしまいであるのだ。

だが、ナナにふと、これをもしもの時のための自害用にとっておくという考えが浮かんだ。
死ぬためだけならこの病院内で回収したメスを使って頸の辺り等を掻っ切るという方法もある。
ただ、念のためもう少しこれについてよく見ておこうかと思い、ナナはこの銃に手を伸ばした。


そして、ナナの手が銃に触れたその瞬間、脳裏にある映像が浮かんだ。





そこには、一人の男がいた。
男は、どこかの部屋の中で椅子の上に座っていた。

彼は、金髪だった。
短い髭を生やしていた。
軍服らしいものを着ていた。

そして、彼は銃の引き金に手を掛けていた。
今ナナが触れた銃と同じものだった。
ただし、それは遠くにいる誰かを狙っているわけではない。
銃口は、彼自身に向けられていた。

男は、虚ろな目をしながら、銃口を自分の口に咥えていた。





ナナが見れたのは、そこまでだった。

今のは、サイコメトリー能力が発動したことにより見えたのだろうか。
だが、一度指を離しもう一度触れてみても、今度は何も見えなくなった。

今見えたものはただの幻だったのだろうか。
けれど、感覚としては斉木と話していた時のサイコメトリーが発動していた時のものに近かった。

斉木楠雄は、ナナは彼と接触したことで能力が活性化しサイコメトリーで自分と話せたのだろうと語った。
その活性化の影響とやらが、まだ少し残っていたため触れた物体の過去を覗き見れたのだろうか。
残っていたとしても、それが弱まっていたためにもう見えなくなったのだろうか。

さっきの男は、この銃の本来の持ち主のライナー・ブラウンだと思われる。
彼がこの銃をどう使おうとしていたのか、何故少し濡れていたのか、理由が何となく思い浮かぶ。
そこに至るまでの過程は何の情報も無くさっぱり分からないが。


そして、今のが本当にサイコメトリー能力によるものか否かに関わらず、ナナはこう思った。

ちょっとこれを自決用にするのはやめた方がいいかもしれない、と。


766 : 疑似体験Ψエンスフィクション ◆5IjCIYVjCc :2022/05/28(土) 23:05:28 MLpLxUSQ0


【D-2と3の境界 聖都大学附属病院内 廊下/昼】

【柊ナナ@無能なナナ】
[身体]:斉木楠雄@斉木楠雄のΨ難
[状態]:精神的疲労、困惑
[装備]:フリーズロッド@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品、サッポロビールの宣伝販売車@ゴールデンカムイ、ライナー・ブラウンの銃@進撃の巨人、ランダム支給品0〜1(確認済み)、病院内で手に入れた道具多数
[思考・状況]
基本方針:まずは脱出方法を探す。他の脱出方法が見つからなければ優勝狙い
1:戦兎達に斉木楠雄から得られた情報、ボンドルドの出現について報告する。何をどこまで伝えるべきか…
2:「かm」とは何だ…?後に続く言葉はあるのか?何か重要なものなのか?
3:病院内にいる者達と行動。正直嫌だが燃堂とも
4:変身による女体化を試すべきかどうか…
5:犬飼ミチルとは可能なら合流しておく。能力にはあまり期待しない
6:首輪の解除方法を探しておきたい。今の所は桐生戦兎に期待
7:能力者がいたならば殺害する。並行世界の人物であろうと関係ない
8:エボルトを警戒。万が一自分の世界に来られては一大事なので殺しておきたい
9:天使のような姿の少年(デビハムくん)も警戒しておく
10:可能であれば主催者が持つ並行世界へ移動する手段もどうにかしたい
11:何故小野寺キョウヤの体が主催者側にある?斉木空助は何がしたい?
12:斉木楠雄は確実に殺害する。たとえ本当に悪意が無かったとしても、もし能力の暴発でもして自分の世界に来られたらと思うと安心できない。
13:12のためなら、それこそ、自分の命と引き換えにしてでも…
[備考]
※原作5話終了直後辺りからの参戦とします。
※斉木楠雄が殺し合いの主催にいる可能性を疑っています。
※超能力は基本的には使用できませんが、「斉木楠雄」との接触の影響、もしくは適応の影響で使えるようになる可能性があるかもしれません。
※サイコメトリーが斉木楠雄の肉体に発動しましたが、今後は作動しません。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※貨物船の精神、又は肉体のどちらかが能力者だと考えています。
※小野寺キョウヤが主催に協力している可能性を疑っています。
※主催側に、自分の身体とは別の並行世界の斉木楠雄がいる可能性を伝えられました。今のところは半信半疑です。
※主催側にいる斉木楠雄がマインドコントロールを使った可能性を疑っています。自分がやったかどうかについては、否定されたため可能性としての優先順位は一応低くしています。
※並行世界の同一人物の概念を知りました
※主催陣営が参加者の思考までをも監視している可能性を考えています。




【ライナー・ブラウンの銃@進撃の巨人】
心を病んだライナー・ブラウンが銃口を咥えた銃。
装弾数は一発、予備の弾は無い。
ライナーの唾液が銃口に付着している。
柊ナナに支給。



◇◇◇◇


767 : 疑似体験Ψエンスフィクション ◆5IjCIYVjCc :2022/05/28(土) 23:06:51 MLpLxUSQ0




やれやれ…こんな結末になるとはな

僕が見たものはやはり、奴らにとって重要な何かだったということか
しかしまさかあんなものが…正直な気持ちだと、信じられないが
一体"あれ"の何に知られたらまずい要素があったというのだろうか……

そう思っていなかったら、せめて、伝えるのは最後にしていた
だが、今の僕と柊ナナは脳は同じだ
記憶はまだ、残っているかも、しれ……


………くっ、意識が薄れてきた…
今更こんなことをしてくるということは…僕のことは想定内だったか…?
僕のやったことは、どこまで意味があったか……

あいつ(空助)なら、ある程度の、行動を…読んで、くる……
………そろそろ、考えることも難しくなってきた…
これでも、伝える順番は…考えて…いたんだが、な……



………せめて、あのことについては、先に……
柊、ナナ…お前の、両親、は………
記憶…矛盾……気………


………

………………

………………………



【斉木楠雄についての備考】
斉木楠雄の意識は失われました。
精神が消滅させられたか、封印にされたか等については現状不明とします。
少なくとも、バトル・ロワイアルが進行している間は再び現れることはないと思われます。

また、原作漫画最終巻までの記憶とノベライズ版の記憶はあったようです。
他の記憶も持っていたかどうかは後続の書き手にお任せします。







◆◆◆◆

最後に少しだけ、記しておきたいことがある。

ボンドルドが柊ナナと斉木楠雄の精神世界に現れた時のことである。
あの時、ボンドルドが発した言葉は、ナナは自分の脳内にだけ響いたものと認識している。
自分にだけ聞こえたものだと思い込んでいる。



しかし彼女は気づいていないことだが、あの台詞は、物理的な"音"として彼女が1人でいた病室内で響いていた。


部屋に戦兎ら第三者がいればそのことに気付けたかもしれない。
だが、彼らがここに居なかった以上、この事実を知る者はいない。


ボンドルドが出現した時、病室内で彼がナナの脳内に響かせたものと同じ言葉を発声したのは、













柊ナナの精神が中にいる、斉木楠雄の肉体だった。

これが意味することは、当面の間語られない。


768 : ◆5IjCIYVjCc :2022/05/28(土) 23:08:11 MLpLxUSQ0
投下を終了します。
また、ライナーの銃に関する描写をwiki収録の際に微修正します。


769 : ◆5IjCIYVjCc :2022/06/02(木) 21:33:36 stJBhcIc0
斉木楠雄についての備考を微修正したことを報告します。
少なくとも、バトル・ロワイアルが進行している間は再び現れることはないと思われます。

少なくとも、バトル・ロワイアルが進行している間は再び現れることはないです。


770 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/02(木) 23:51:45 ???0
キャップの確認中です…


771 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/03(金) 00:15:55 ???0
何とか書き込みが出来るようになりました。

本当にお久しぶりです。

以前のような食い違いが発生してしまうssを書かないように、盛り上げる事が出来るように、限界まで努力したいと思っております。

よろしくお願いいたします。

ギニュー、大首領JUDO、野原しんのすけを予約します。


772 : ◆ytUSxp038U :2022/06/05(日) 00:47:39 pdBPvUlo0
投下乙です。
斉木らしいメタ発言を挟みつつも、これまでの要素を丁寧に拾った濃厚な考察回に唸らされました。
それでも作中でナナが考えたように、最後の言葉以外は主催側にとって想定内というのが恐ろしいですね。
唾液付きライフルの登場でシュールな笑いを誘うライナーや、トドメのホラー要素などインパクト満載の話でした。

アルフォンス・エルリック、メタモン、絵美理を予約します。


773 : ◆ytUSxp038U :2022/06/10(金) 15:04:31 NHCOxdrI0
投下します。


774 : BLOOD+ ◆ytUSxp038U :2022/06/10(金) 15:07:22 NHCOxdrI0
狂喜乱舞。
狂人のように笑い声を上げ走る巨大な虫が一匹。
二足歩行の赤いカブトムシを歪めた、嫌悪感を沸き立たせる怪人。
歴史の改変者達と戦った若き魔王とその仲間なら、容姿の醜悪さよりも脚部に刻まれた「2019」の数字に注目しただろう。
西暦を記したその数字こそ、怪人がアナザーライダーである事の証。

天の道を行き総てを司る男が紡いだ歴史を塗り潰す、偽りの太陽。
それがアナザーカブト。
常磐ソウゴの歩んだ王への道程で撃破された存在も、今は殺し合いの一盛り上げ役に過ぎない。

「へんしん出来た…!僕はいらないポケモンなんかじゃない!へんしんできるんだああああああああああ!!!」

アナザーカブトの変身者、メタモンは有体に言えば冷静さを著しく欠いていた。

金髪の青年を殺した村へ戻り少女を襲うも、失敗した。
そこまではまだ良い。
クロックアップへ対処され動揺こそしたものの、放送前に遭遇した男だって似たような事はやってのけたのだ。
既にクロックアップとて万能の力ではないと理解しているなら、立て直しは可能だった筈。
直後、サソードへの変身が不可能とならなければ。

原因が少女の持つ短刀、若き日の五条悟を一度は瀕死に追い込んだ特級呪具とは知りもせず、ただへんしんを一つ失い我を忘れた。
確かにマスクドライダーシステムが使えなくなったのは痛いが、全てのへんしんが消え去ったのではない。
だがメタモンにとっては死活問題だ。
膨大な数のへんしんが可能だった元の肉体とは違い、レパートリーを大きく減らされた今の身体。
ただでさえ少なくなったへんしんを更に一つ減らされたのだ。
加えて、思い出さないよう目を背けていた苦い過去、無慈悲に捨てられた時の絶望。
へんしんという、唯一絶対のわざを持っていて尚も必要無しと見なされたのなら、そのへんしんさえ失くした自分は本当に価値の無いポケモンになるのではないか。
浮かび上がった最悪の考えはメタモンの思考を掻き乱し、それからすぐアナザーライダーへ変身させられた。
短時間で絶望に叩き落とされ、間も無く新しい希望で引き上げられ、今のメタモンに状況を正しく理解する余裕は無い。
新しいへんしんが出来た、いらないポケモンなんかじゃないという自分を安心させる為の喜びに酔いしれている。

そんな状態で遭遇した参加者は、メタモンから余計に冷静さを奪った。


775 : BLOOD+ ◆ytUSxp038U :2022/06/10(金) 15:08:49 NHCOxdrI0
「っ!?き、君は…!」

村を飛び出してそう間もない頃だ、メタモンの前に青い鎧の人物が現れたのは。
ポケモンではない、これまでに出会ったどの参加者とも違う。
見覚えは無くともメタモンには相手の正体に何となく察しが付いた。
康一と呼ばれていた少年が変身した剣士と同じ存在であると。
外見は全く違うが全身を装甲で覆い、腰に変わった形状のベルトを巻いている点は一致する。
へんしんするアイテムが自分のサソードヤイバー以外にもあると分かっているのだ、相手の場合はベルトが当て嵌まるのだろう。

そうだ、まだまだ本来のへんしんには程遠い。
ならもっと殺して、へんしんできる姿を増やさなければならないんだ。
こいつを殺せばベルトでへんしんするのと、ワームの能力で新しい姿に擬態出来る。
だったらやる事は一つしかない。

「よこせ…ぼくに君の姿をよこせぇえええええ!!」

困惑している様子の青鎧へ、サソードヤイバーで斬り掛かった。
変身機能こそ不調を起こしているが武器としては使える。
切れ味の鋭さは金髪の青年で実証済み。
装甲で覆われていようと、直撃すれば無事では済まない。

メタモンの頭の中には既に、新しいへんしんを手に入れた自分自身が浮かんでいる。
それが現実のものとなるかは別。何もかもがメタモンの思い通りに進むとは限らない。
この地に集められた参加者全てが、メタモンに狩られるだけの獲物ではない。
青鎧は逃げ惑うだけの無力な餌か?断じて否。

アマゾンネオ。アマゾンでありながらアマゾンを狩る、異形の戦士の一人。

『BLADE LOADING』

電子音声が無機質に告げる、どちらが狩られる側なのかを。
アマゾンネオの右腕から生える剣。
これまで幾度も標的の血で染められて来た刃が、アナザーカブトの胸へと突き刺さった。

「ぎゃっ!?」

悲鳴を上げて後退るアナザーカブトは、分かりやすいくらいに隙だらけ。
だがアマゾンネオはブレードを突き出した体勢のまま動かない。
油断でも慢心でもなく、困惑故にだ。


776 : BLOOD+ ◆ytUSxp038U :2022/06/10(金) 15:10:17 NHCOxdrI0
アマゾンネオに変身した少年、アルフォンスは神楽との邂逅の後、どこへ向かうか暫し悩んでいた。
凛と約束した通り風都タワーを探索するか、或いは神楽の仲間である康一を追いかけるか。
悩んだ末に選んだのは後者、康一と彼が追跡中だろう巨大な虫の方。
虫の正体が何者であれ、自分が危惧した通り助けを得られず追い詰められているのだとしたら。
勘違いで康一が虫を殺してしまうかもしれない、その可能性を見過ごせはしない。
無論、凛達への罪悪感と後ろめたさが無い訳ではない。
一時とはいえ、彼女達と話し合って決めた方針より個人的な感情を優先するのだから。
それでも康一達を無視し、取り返しの付かない結果になってしまうのはお断りだ。

胸中で凛達に謝罪をしながら、康一達の後を追うべく走り出した。
思った通りこの青い装甲を纏っている間は身体能力が強化されるらしい。
これなら余り時間を掛けずに済みそうだと安堵し、しかし直ぐに足を止める事になる。
村がある方向から、狂ったように笑いながら異形が駆けて来たのだ。
こちらを見つけるや否や名乗りもせずに斬り掛かられ、危機感に突き動かされるままドライバーを操作、迎え撃ち事なきを得た。

(急に何が……)

困惑から抜け出せないまま、相手の姿を観察する。
二本足で立ってはいるがどう見ても人間ではなく、合成獣と言った方が納得出来る。
カブト虫を無理矢理人の形にすればこうなるのだろうか。
虫と言っても神楽から聞いた巨大な虫の容姿とは違う。
何より巨大な虫は奇妙な鳴き声しか発していなかったそうだが、この異形はハッキリと人間の言葉を口にした。
有無を言わさず襲って来たということは、殺し合いに乗った参加者なのだろう。
だがキャメロットが戦った白い弓兵とも、バリーが遭遇した紫の剣士とも見た目は一致しない。
村の方から走って来たのなら、康一や巨大な虫はどうなったのか。
それについて答えを出す時間は与えてくれそうもなかった。

「ぐうう……!」

刺された痛みから立ち直ったメタモンもまた、ぐちゃぐちゃの思考を渦のように回す。
殺そうとしたはずが逆に攻撃され失敗に終わった。
ということは相手はまだ生きている。
生きているということはへんしんできる姿は増えていない。
その事実がメタモンを動かす糧となる。

「僕に…へんしんをさせろよぉおおおおおおおっ!!!」

名乗らなくていい、喋らなくていい、何もしなくていい。
黙って殺されろ、余計な抵抗なんてするな。
お前はただ新しい姿を寄越せばそれで良いんだ。

エゴを乗せた刃は、当然の如く防がれる。
鳴り止まない腹の虫、未だ消えない暴走の可能性、それらを抱えながらもアルフォンスは決断する。
可能ならば戦闘を回避したかったが、相手がこの有様では会話もままならない。
殺す気は無いが、さりとて死んでやる気も皆無。
だから戦うしかない。戦って状況を変えるしかない。


777 : BLOOD+ ◆ytUSxp038U :2022/06/10(金) 15:11:58 NHCOxdrI0
「このぉっ!」
「っと…!」

サソードヤイバーとアマゾンネオブレード。
同族殺しの剣と剣が火花を散らす。
人間以上の生命力と耐久力を持つ化け物。ワームとアマゾンに共通しているものだ。
そんな化け物の肉を裂き血を撒き散らして来た剣を、片や感情のままに、片や極めて冷静に振るう。

叫び声にも攻撃の勢いにもメタモンの怒りが宿っている。
敵が自分に殺されていないという事実が、何よりも許し難い。
早く死んで自分にへんしんをさせろ。そうして証明しなければ。
自分は役立たずでも、いらないポケモンでも無い事を。
両面宿儺との邂逅により思い起こされた過去は、メタモンから冷静さを奪い呪いのように蝕み続ける。

対するアルフォンスは徐々に困惑も引き、動揺も無く戦闘へ集中していた。
斬る、と言うより叩きつけるように振るわれた剣を防ぎながらも、考える事を止めない。
敵の正体は依然として不明だが、幾つか分かって来た事もある。
まず見た目に違わず力強い。自分も青い装甲のお陰で生身の時より強くなっているが、敵の力も劣ってはいない。
その膂力で振るわれているにも関わらず、へし折れもしなければ欠けもしない剣も厄介だ。
一体どんな材質なのか。武器を破壊して戦意を喪失させる展開には期待しない方が良いだろう。

逆に言えば、アルフォンスが脅威と見ているのはその二つしかない。
攻撃の勢いこそ苛烈であっても、精細さという言葉からは程遠い。
落ち着いていれば対処はそう難しいものではないのだ。
だからこうしてアマゾンネオの装甲へ傷つける事無く、ブレードで弾かれている。
純粋な身体能力こそ高いが、剣を扱う技術や体捌き自体は余りそれ程ではないと推測する。
ダブリスの合成獣を圧倒したブラッドレイ大総統とは、比べ物にならないだろう。
アマゾンネオは旧式のドライバーで変身したアマゾンよりもスペックが上、アナザーライダーが相手でも引けは取らない。
強化された身体能力と、ちょっとやそっとじゃ壊れない武器。
条件は同じだが勝てない戦いではないと確信する。


778 : BLOOD+ ◆ytUSxp038U :2022/06/10(金) 15:13:37 NHCOxdrI0
「ぐぅ!?」

アマゾンネオの左拳が脇腹を殴打。
右腕のブレードにばかり注意が向けられていた為に起きた凡ミス。
一歩踏み込み右腕を振り上げ、アナザーカブトの胴体に傷を付ける。
兄のエドワードが得意とする錬成の一つ、右腕の機械鎧(オートメイル)を刃に変えたものと似た武装。
だが今度は敵も退かない。痛みに耐えアナザーカブトもまた剣を振り下ろす。
少しばかり身を捩れば回避可能だが、アマゾンネオは後方に大きく跳んで躱した。

両方の掌を胸の前で合わせると、金属同士が擦れる音がした。
まるで神に祈りを捧げるかのようなポーズだが、神頼みではなく己の力を行使する為だ。
真理を見た錬金術師にとっては、己自身が錬成陣のようなもの。
地面に手を当て流れたエネルギーが、土と草花を蛇のような形状へと錬成。
アナザーカブトを絡め取るべく迫り来る。

「こんなもの!」

土色の蛇は全部で5匹。
全てがアナザーカブトに触れる事すら許されず、胴を断たれる。
最後の一匹が斬り落とされるのを見送らず、アマゾンネオは続けて錬金術を発動。
アナザーカブトと自身を遮るように壁が出現した。
とはいえ元の材質が土の蛇と同じ以上、破壊されるのはあっという間だ。
乱雑にサソードヤイバーを振るっただけで、呆気なく崩れ去り土煙が舞う。

『CLAW LOADING』

土煙の中から現れた巨大なフックが、アナザーカブトの肩に食い込む。
痛みに声を上げるより早く、体がアナザーカブトの意思を無視して前へと動き出した。
アナザーカブトを引き戻すワイヤーフックは、重量のあるゾウアマゾンにも効果があった程。
終着地点にて待ち構えるアマゾンネオ。
間近まで迫ったタイミングでフックを引き抜き、アナザーカブトをよろけさせる。
体勢の立て直しは待ってやらない、跳躍し胸部目掛けて蹴りを放つ。

「ぶぉっ!?」

最初にブレードで突かれたのと同じ箇所からの痛み。
流石に無視できず左手で抑え、そのまま膝を付く。
またもや隙を晒したが相手に殺意は無い。
色々聞きたい事は有るが、まずは厳重に拘束して武器を取り上げておく。
掌を合わせたアマゾンネオが近付き、


「クロック…アップ…!」


殴り飛ばされた。
いや、アマゾンネオ自身は殴られたと認識出来ていない。
ただ突然胴体に何かが当たった感触がし、訳の分からぬまま体が宙を舞っていた。


779 : BLOOD+ ◆ytUSxp038U :2022/06/10(金) 15:14:40 NHCOxdrI0
「ッ!?」

胴体への痛みに気付いたと同時に、今度は背中に衝撃が来た。
地面に赤い水が飛び散る。
どうやら斬られたらしいと理解させてももらえない。
まだ終わっていないからだ。

「ッヅ…!!」

目の前にアナザーカブトがいる。
いつ立ち上がって、自分にここまで接近したのか。
ひっきりなしに飛び込む情報量の多さに、次にどう動くべきか判断が間に合わない。
防御も回避も出来ず、無防備な胴体をアナザーカブトの足底が叩く。
カブトの資格者、天道総司と酷似した回し蹴り。
形だけでなく、威力もまたカブトのライダーキックに引けを取らない程だ。

「はぁ…はぁ…やった…!」

肩で息をしながら攻撃の成功を喜ぶメタモン。
今のへんしんした姿はマスクドライダーシステムともワームとも違う。
なのにどういう訳か感覚で分かったのだ、この姿でもクロックアップは使えると。
アナザーライダーに変身した者達は、元々仮面ライダーと関りの無い人間でも変身後は固有能力を使いこなしていた。
そう考えればメタモンがアナザーカブトの能力を理解出来ていたのも、別段おかしな話ではない。

「がふっ…」

蹴り飛ばされ地面を転がったアルフォンス。
変身も解除されたらしく、生身の少年となっていた。
自分が何をされたのか理解が追い付かない。
辛うじて蹴り飛ばされたとだけは分かるが、それだって急に目の前に出て来たのだ。
拘束しようとした相手がいきなり消え、次の瞬間には攻撃を受けていた。
物凄い速さで移動したにしても、限度がある。

だがアルフォンスはその現象に心当たりがあるではないか。
バリーが遭遇し、神楽達も襲われたという紫鎧の剣士。
メタモンと言う名の参加者は、今まさにアルフォンスが味わったような高速移動を可能にしているらしい。
しかし聞いた外見と目の前の外見は全くの別物。
唯一剣を持っている部分だけは同じだが、どういうことなのだろうか。

と、上述の疑問をアルフォンスが考えられたのはもっと後になってからのことだ。


780 : BLOOD+ ◆ytUSxp038U :2022/06/10(金) 15:17:15 NHCOxdrI0
吐き出した血で草花が変色する。
考えが纏まらない。
頭の中が痛いという言葉だけで埋め尽くされている状態だ。
敵は未だ健在で、何時までも寝転がっている場合でないと分かっていても、体に力が入らない。

久しく感じる事の無かった感覚。
人体錬成に失敗し、元の身体を失ったあの日から3年振りに感じる痛みがアルフォンスを蝕む。
冷たく空っぽな鎧の身体に痛覚など備わってはおらず、疲れや痛みとは無縁の生活が当たり前のようになっていた。
だから立てない。数年振りに味わうにしては強烈過ぎる痛みに、アルフォンスの精神が慣れていない。

こうして這い蹲って呻いている瞬間にも、敵は近付いて来ている。
青い鎧を纏っていたならともかく、今の姿では簡単に首を落とされるだろう。
もう一度変身か、錬金術を使うか。
選択肢は複数あれど、実際に動き出すのが難しいと来た。
ジャリジャリと地面を踏みしめる音が、徐々に近くなっている。

「ぁ…ぐ…」

死ぬ。
このままでは、確実に死ぬ。
スカーと最初に対峙した時と同じか、それ以上の危機だと感じる。

(駄目だ…)

もし自分が暴走し、見境なく他者を殺そうとする怪物になったのなら。
アマゾンという人喰いの獣に変わってしまったのなら、死を受け入れただろう。
しかしそうじゃないのなら、まだ正気を保っているなら話は違う。
死を突っぱねて、生を渇望する。

(僕は……)

今がまさにそうだ。
まだ己の意識を保っている。だから死にたいなんて思わない。
生きたいと願う、生きなければと決意する。

(まだ……)

生きて、兄と共に元の体を取り戻すのだ。
だからこんな所で、死んでなどやらない。


781 : BLOOD+ ◆ytUSxp038U :2022/06/10(金) 15:18:51 NHCOxdrI0
(生きたい)


ドクンと心臓が強く鳴った。
生きる。その意思を肯定するとでも言うように。
体中を熱が駆け巡った。
生きたい。その願いを叶えるとでも言うように。

(生きていたいから…)

生きるには、何をするべきか。
倒れたままでは殺されるだけ。
突っ立ったままでは何の意味も無い。
対話を試みるなど馬鹿げている。

(だから…)

戦う。
戦って、己の生を手に入れる。
それこそ彼らに課せられた運命(さだめ)。

アマゾンに与えられた一つだけの、答え。


――そして『彼』の肉体はアルフォンスの願いに応えた。応えて、しまった。





燃えている。
倒れ伏した少年の全身から熱気が放射され、周囲の草花を焼き払う。
顔の前に翳した両腕に熱を感じる。
仕留めるあと一歩の所で少年の様子が一変し、アナザーカブトは始末より身を守る方を優先した。
腕を下ろし、再度標的を視界に収める。

そこに鬼がいた。

青い装甲の戦士の面影を残しながらも、明らかに別物と言える存在。
メカニカルな装甲は生物的な肉体と化し、呼吸の度に6本の剛腕が揺れ動く。
アナザーカブトを補足する赤い瞳は、捕食者の如く強烈な輝きを放っていた。


782 : BLOOD+ ◆ytUSxp038U :2022/06/10(金) 15:22:44 NHCOxdrI0
オリジナル態。或いはアマゾンネオ素体。
千翼が変身するもう一つの姿。

オリジナル態となったアルフォンスの脳が下す命令は一つ。
障害の排除。
命令を受け取った肉体は即座に実行へと移る。
背中から生えた無数の触手。黒い針金のようにも見えるソレらがアナザーカブトへ殺到。
アイスピックのような先端へ無慈悲に貫かれる。そんな末路は真っ平だと迎え撃つ。
相手がアマゾンだろうと何だろうと、対抗可能な武器は手元にあるのだ。
サソードヤイバーで触手を斬り落とさんと振るう。
だが外れた。刃が触れる直前で、アナザーカブトを嘲笑うかのように触手が避けたのだ。

「この!」

周囲を取り囲む触手を斬ろうとしても当たらない。
一本一本にオリジナル態の意思が宿った触手は、サソードヤイバーを悠々と躱しアナザーカブトに傷を付ける。
人体程度なら障子紙を突くように容易く貫通しても、アナザーライダーの肉体は人間どころか並のアマゾンよりも頑丈。
されど連続して突き、切り裂けばダメージは蓄積する。

触手相手にチマチマ剣を振るった所で意味は無い。
手っ取り早く本体を叩くべきだ。
多少のダメージは覚悟でアナザーカブトはオリジナル態へ突っ込む。
顔面や首輪周辺への攻撃だけに集中して対処、他は無視して本体の元へ到達。
今度はこちらの番とばかりに首を狙う。

「うわっ!?」

サソードヤイバーはオリジナル態の首を斬れず、刃が触れる事すら無い。
ほんの数センチの位置で触手が巻き付き、それ以上は近づけさせまいと封じていた。
拘束する力は強く、振り下ろす事も引き戻す事も出来ない。
ならばいっそ手放してしまえば良いのだが、この剣はサソードに変身する為に必要不可欠な道具。
今は変身不可能になっているとはいえ、そうアッサリと捨てるのには躊躇する。

メタモンの葛藤を無視して、オリジナル態はここぞとばかりに打って出た。
隙だらけの胴体をひたすらに殴りつける。
アナザーカブトはどうにかサソードヤイバーを握るのとは反対の腕で防ぐ。
しかしこちらが腕一本なのに対し向こうは六本、辛うじて一本を防いでも残り五本が容赦無しに襲う。


783 : BLOOD+ ◆ytUSxp038U :2022/06/10(金) 15:24:22 NHCOxdrI0
「あがぁ!」

殴り飛ばされるのは当然の結果だ。
サソードヤイバーも手放してしまった。
うつ伏せの状態から立ち上がったアナザーカブト目掛けて、刃が一直線に迫って来た。
触手を使って絡め取ったサソードヤイバーを投擲したのだ。
眉間へ真っ直ぐ突き刺さる直前、掌同士を合わせるようにして剣をキャッチ。
白刃取りの形で防いだは良いものの、両手が塞がるのまでは考慮し切れていない。

「っ!?」

あっという間に数十本の触手がアナザーカブトに巻き付いた。
数本程度なら力任せに引き千切れるだろうが、数の多さ故にびくともしない。
サソードヤイバーも地面に落としてしまい、クロックアップの再発動にはまだ数分のインターバルが必要。
このままではどうなってしまうか。
虐殺された4Cの隊員や研究員と同様、アナザーカブトも体を裂かれる末路が待っている。

拘束から逃れようと滅茶苦茶に暴れる。
虫取り網の中で飛び回る昆虫のような様を嘲笑うでもなく、ただ殺す為に触手を操作し、







Q:エッチな女の子は好きですか?

た・だ・し

エッチはエッチでも……







「Hellの方だがなぁぁぁぁあぁぁぁ!!!死ねぇぇぇぇえぇぇぇ!!!」

黄色い雲から飛び降りた怪人が、オリジナル態へと両腕を振り下ろす。
低い稼働音を唸らせるチェンソーと化した腕で、三枚おろしにする気だろう。

「ぬおぉぉぉ!?」
「うわぁ!?」

だが怪人が突如横から叩きつけられた物体により攻撃を妨害、地面に叩きつけられた。
妨害して来た正体はアナザーカブト。巻き付けたままの触手で持ち上げ、怪人にぶつけたのだ。
そのおかげで拘束が外れたが、アナザーカブトに喜んでいる余裕は無い。
乱入して来た怪人が即座に立ち上がり、チェンソーの稼働音に負けないくらいの大声で吠え立てたからだ。

「誰だか知らねぇが獲物だぁぁぁーっ!纏めて刺身にしてやるぜぇぇぇーっ!」


784 : BLOOD+ ◆ytUSxp038U :2022/06/10(金) 15:25:55 NHCOxdrI0
◆◆◆


市街地での戦闘から撤退した絵美理。
制限されているとはいえ、最大速度で飛ばす筋斗雲には並のスピードじゃあ追いつけない。
二度も獲物を殺せずに逃げるのは腹立たしい事この上なかったが、下手を打って死ぬよりはマシ。
と言ってもそう簡単に苛立ちは抜け切れないのだが。

街を離れた絵美理は一先ず森に身を潜め、体力の回復に努めた。
ウェザードーパントと戦闘があったエリアから北西、C-6だ。
もっと早くにここを訪れていたら休憩中のメタモンと遭遇していたのだが、既に立ち去った後。
適当な木の根元に腰を下ろし、輸血パックをがぶ飲みする。

「美味ぇぇぇーっ!」

血液の摂取により傷が瞬く間に塞がり出す。
悪魔と呼ばれる存在に相応しい特徴だが、絵美理は特に嫌悪感を抱きはしない。
むしろこんな簡単に傷が治って便利だと感心しているくらいだ。
日本屈指の魔境、埼玉県川越市の殺人鬼だけあって常識も倫理観もゴミのように投げ捨てられている。

傷の回復が済むと、先程の戦闘で抱いた怒りがぶり返す。
真っ先に殺してやりたいのは赤い鎧の怪人。
一度ならず二度も邪魔をし、余計な傷まで負わせられた相手だ。
そいつだけでなく仕留めそこねたウェザードーパントや、帽子の男達もこの手で殺さねば気は晴れそうもない。
だがウェザードーパントの手数の豊富さは非常に厄介であり、赤鎧と帽子男の能力は未だ全容が知れず。
疲弊したまま無策で突っ込むのは流石に無謀である。

絵美理はまごうこと無き狂人だが、考え無しの馬鹿ではない。
必要とあれば本性を隠し少女らしい振る舞いをするし、山中で水着になり標的を油断させた事もある。
山の中に水着の女の子がいるシチュエーションはどう考えても普通では無いが、川越市ならありふれた光景なのだろう。

「…そういえばここにも山や森がありますね」

自分が居るのは森林地帯であり、西の方角には山が確認できる。
ならば川越市の時と同じように、水着姿で油断を誘うのも有りではないか。
しかしこの作戦には根本的な欠陥が存在した。
今の絵美理は体が女ではなく、不良っぽい外見の少年。
この身体で水着になっても余り意味は無いように思える。
一部のマニアックな趣味の奴なら食いつくかもしれないが、少女だった頃に比べれば油断を誘うどころか余計に警戒されそうだ。
よってこの作戦は却下、考えなかった事にしておく。


785 : BLOOD+ ◆ytUSxp038U :2022/06/10(金) 15:26:57 NHCOxdrI0
定時放送では参加者が立ち寄った施設が追加されたとか何とか言っていたが、ロビン達を発見し後回しになっていたのだ。
良い機会だから見ておこうと地図を開けば、放送で伝えられた通り幾つか施設名が新たに記載されている。
自分がいた街の南西には食酒亭、ここから西の村には春の屋。
定時放送前には載っていなかった名前だ。

地図に施設の名が載るというのは即ち、参加者がそこを訪れた証拠。
これらの施設にどのタイミングで訪れたかは不明だが、まだそこに居る可能性はある。
絵美理が殺したい連中はここから北西の街に集まっている。だがすぐさま向かうのは待った方が良い。
連中の力が厄介なのもあるが、食酒亭という施設名が追加されているのも気掛かりだ。
もしここを訪れた参加者が殺し合いに乗っていない者だった場合、赤鎧や帽子男と手を組む可能性が非常に高い。
おまけに放送直後の戦闘では金髪の少年を逃がしてしまっている。
今にして思えば、あの赤鎧は少年から事情を聞いて救援に駆け付けたと考えられなくもない。
赤鎧と白い怪物の戦闘がどうなったかは分からない。だがもし白い怪物が正気に戻り、改めて赤鎧や帽子男と協力関係を築いているとしたら?
ハードガーディアンも失われた以上、数では絵美理が圧倒的に不利だ。
となるとここは一旦赤鎧達は放置しておいて、別の参加者を殺し支給品を奪って装備を整える方が良いのではないか。

参加者も主催者も皆殺しを変える気は無いが、達成するには途中で力尽きないよう立ち回りも必要。
自分なりに頭を回し今後の方針を纏めある程度体力が回復すると、出発の準備をする。

目指すのはC-5にある村。
すぐ隣のエリアで、街程では無いだろうが人が集まるはず。
何より春の屋という施設が設置されており、誰かが居るかもしれない。

そうして出発した絵美理は村の近くで参加者を発見。
カブト虫のような化け物と、触手を生やした化け物。
人間であろうが無かろうが殺せるのなら問題無しと斬り掛かった。


786 : BLOOD+ ◆ytUSxp038U :2022/06/10(金) 15:27:59 NHCOxdrI0



「邪魔だボケェェェーッ!」
「メタ!?」

圧し掛かっている人型カブト虫を蹴り飛ばし、自身もバネのように飛び退く。
直後地面に突き刺さる触手、触手、触手。
肉を貫き中を掻き回してぶち撒けるソレの餌食にはならず。
各々獲物を構え直せば、後は相手に当てるだけだ。

轟音を上げ回転数を速めるチェンソーが狙うは、すぐ傍の人型カブト虫。
こいつを斬ればどんな色の血を噴き出すのか。
そんな事を考えながら振るった両腕は、しかしチェンソーよりも細い剣に防がれた。

驚きは無い。得物の細さで言ったら煉獄杏寿郎も同じようなものだった。
それはそれとして生意気にも防ぎやがった相手にイラっとする。

「虫が人間様の武器なんか使ってんじゃあねぇぞゴラァァァーッ!」
「五月蠅い!どいつもこいつも、僕にさっさとへんしんさせろよぉおおおっ!」

ストレスを溜めているのはメタモンも同じだ。
何故会う参加者は皆大人しく殺されないのか。
何故自分にへんしんする姿を増やさせないのか。
こうしている間にも参加者はどんどん数を減らし、その分へんしんできる姿が失われていく。
ひょっとしたらゲンガーやピカチュウも、既に殺されているかもしれない。
だから迅速に殺して行かねばならないのに、どうしてこう上手くいかないのだろう。

駄々をこねる子どものような動きでチェンソーが振るわれ、サソードヤイバーとぶつかる度にキリキリと不快な音がする。
煉獄が出来るだけ打ち合いを控えていたのに対し、アナザーカブトは反対に力任せに打ち込んでくる。
細い刀身は何度チェンソーと火花を散らしても、欠けも折れもしない。
相当な硬度がある証拠だ。
尤も武器が優秀だからと言って、チェンソー全てを正確に捌けはしない。
6本腕の時よりはマシとはいえ、手数は相手の方が上なのだから。
両腕をギリギリ凌ぎ切ったとしても頭部のチェンソーを振り下ろせば、赤い角ごとバッサリだ。


787 : BLOOD+ ◆ytUSxp038U :2022/06/10(金) 15:31:23 NHCOxdrI0
「っ!?危ねぇぇぇーっ!」
「ッ!?また…!!」

チェンソーの悪魔が攻撃を中断、アナザーカブトにも理由は即座に察せられた。
無数の黒い針金。
母親から受け継いだ、千の翼の如き大量の触手。
二体纏めて引き裂かんとした触手を寸での所で回避。
近くにいたアナザーカブトから殺す算段だったが急遽変更。
最も厄介なのはオリジナル態だ、触手の多さにはチェンソー三本でも対処可能な限度がある。
一度右腕のチェンソーを引っ込め、ベルトから銃を引き抜いた。

「こいつでっ!?」

撃ち殺すつもりがまたもや回避せざるを得なくなる。
これまで以上に大量の触手が四方八方から襲って来たのだ。
これでは引き金を引いた瞬間に全身串刺しになってもおかしくはない。
左腕のチェンソーを振り回すもするりと刃を躱し、両腕に次々と突き刺さった。

「ウギャアアアアアアア!!痛ぇぇぇーっ!!」

痛みで右手の銃を取り落としてしまった。
絵美理にとってはただの物凄い威力の銃であっても、オリジナル態には別。
肉体に刻み込まれた記憶、或いは直感的に抱いた危機感によりそれを撃たせるのを全力で阻止したのだ。
圧裂弾。4Cが携行する対アマゾン用の兵器。
オリジナル態がどれだけ危険な個体であろうと、アマゾンである以上は圧裂弾は有効。
直撃すれば如何にオリジナル態と言えども無事では済まない。
自分を確実に殺し得る武器を手放したなら後は容易い。
このまま力任せに引き千切って――


――殺す、の?


動きが止まる。
敵を殺す。自分は今、取り返しの付かない事をしようとしている。
千翼に宿る細胞が敵を殺せと叫ぶ。
だがそれは、それをしてしまえばアルフォンスは……


788 : BLOOD+ ◆ytUSxp038U :2022/06/10(金) 15:32:57 NHCOxdrI0
「隙あり!!」

拘束を脱し接近したチェンソーの悪魔が、左腕を大振りに振るった。
触手が貫通した腕は痛むが動かせない程ではない。
回転する刃が胴体に食い込み、ガリガリと削り取る。
人間のよりも頑丈な肉体だ、煉獄の時程傷は深く無い。
それでもオリジナル態にはここに来て初めてのダメージ。
獣の鳴き声に似た悲鳴を上げて、痛みを訴えた。

「っしゃァアアアアアアアアアッ!!!回復だぜぇぇぇーっ!」

針のような牙の生え揃った口を大きく開く。
水飲み場で水分補給するような感覚で、噴き出た血を飲み干す。
見る見るうちに両腕の傷が塞がり、満足気に両腕を振り回した。
が、何時までも喜んではいられない。
痛みから立ち直ったオリジナル態がけしかけた触手を、後方へ跳んで回避。
地面に転がる圧裂弾を拾い上げ、すかさず照準を合わせる。

オリジナル態とて黙って撃たせるつもりはない。
数本の触手が真っ直ぐにチェンソーの悪魔へ迫る。
数こそ多いが狙いは安直、軽く身を捩っただけで躱された。
狙い通りだ。本命はチェンソーの悪魔の足元へと走らせた二本の触手。
最初に放った方へ気を取られた隙に、二本を脚に巻き付けたのだ。

「うおお!?」

触手二本によってチェンソーの悪魔が持ち上げられる。
地面から足を強制的に離され、それでも圧裂弾は手放さない。
不安定な体勢ながらもどうにか照準を合わせるが、発射される事は無かった。
鎖鎌を豪快に扱うかのように、触手を豪快に振り回す。
狙いを付ける所では無くなり悲鳴を上げるチェンソーの悪魔を無視し、十分に勢いが付いたタイミングで解放した。

「ぬぉぉぉぉぉおぉぉぉぉ!!?!!」

悲鳴と共に遠ざかって行くチェンソーの悪魔。
殺す事だって出来た。
脚を引き千切る事も可能だったのにやらなかった。
今も殺せ殺せと訴え続ける千翼の細胞。それにアルフォンスは抗っているのだ。


789 : BLOOD+ ◆ytUSxp038U :2022/06/10(金) 15:35:13 NHCOxdrI0
「ガ…グ……ア……」

殺しては、駄目だ。
死が齎す悲劇を、兄との旅で幾つも目の当たりにして来た。
恋人を失い、偽りの救済に縋る者がいた。
合成獣へと変えられ、元凶の父親諸共殺された錬金術の犠牲者がいた。
戦争が復讐者を生み出し、幼馴染の少女が同じ復讐者へとなりかけた。
どんな状況であろうと死を容認するなど真っ平だ。
ラッシュバレーで見た命の始まりとは違う、命の終わりをこの手で作り出す訳にはいかない。

「ァ゛ア…マゾ……ン゛…!!」

『NEO』

六本腕が、触手が、人喰いの化け物が拘束具に覆われる。
アマゾンネオの装甲はオリジナル態を抑え込み、アルフォンスの意識を強引に正気へと戻した。
あれ程騒がしく疼いていた細胞も途端に静まり返る。
だがまだ終わっていない。
残るもう一体は未だ殺意に溢れている。

(今だ…!)

オリジナル態とチェンソーの悪魔が攻防を繰り広げている間、アナザーカブトはじっとチャンスを窺っていた。
下手に介入しようとすれば、どうせまた触手に邪魔される。
なら今は機会を待つべきと判断。
チェンソーの悪魔が大きく投げ飛ばされ、オリジナル態が元の青い装甲に戻った今が動き出す時。
厄介な触手は無くなり、何よりも感覚で分かる。
数分の間を置き、クロックアップが再び使えるようになったと。
敵はクロックアップに対処出来ない。今度こそ確実に息の根を止め、新たなへんしんを手に入れる。

勝利を確信し堂々と叫ぶ。


790 : BLOOD+ ◆ytUSxp038U :2022/06/10(金) 15:36:41 NHCOxdrI0
「クロックアッガァ!?」

腹部に何かが叩き込まれた。
視線を落とすと地面から茶色い柱が生え、己のボディへ食い込んでいる。
誰がやったかは明白、錬金術でクロックアップを妨害したアマゾンネオだ。
一度クロックアップが発動されてはアマゾンネオに為す術は無い。
なら発動そのものを止めてしまえば良いだけ。

クロックアップの阻止に成功、アマゾンネオはこのままに勝負を決めるべく続けて錬金術を行使。
足元が膨れ上がりアナザーカブトの頭上へと一気に移動。

『AMAZON SLASH』

出番を今か今かと待ちわびる右腕のブレードに、エネルギーが付与される。
後はただ振り下ろすだけ。

「うがァッ!?」

頭頂部から股を真っ二つにする勢いの斬撃。
仮面ライダーアマゾンの大切断にも似た技を受け、しかし大量の火花を散らせどもアナザーカブトは未だ健在。
だからアマゾンネオは最後の一手を打つ。
地面に降り立つや否や掌を合わせ足元へ叩きつける。
エネルギーが地面へ伝わり、

「あっ――――」

錬成された巨大な握り拳がアナザーカブトの真正面へ直撃。
漏らした声はあっという間に掻き消され、砲丸のように吹き飛んで行った。





アマゾンネオ一体となり、喧騒が消え去った草原。
聞こえてくるのは風の音と、繰り返される荒い呼吸。
ドライバーを操作し変身を解く。現れたのはオリジナル体ではなく幸薄な雰囲気の少年だ。

「っはぁ…!」

耐え切れず仰向けに倒れ、そのまま呼吸を整える。
照り付ける太陽の熱。
本当ならば久方振りの暖かさに顔を綻ばせる所だが、今はギラギラとした光と熱が鬱陶しい。
のっそりと緩慢な動きで水を取り出し、喉を鳴らして飲む。
渇きは癒されても、空腹はそのままだ。

(…前より酷くなってる)

腹の虫はこれまで以上に大きく鳴り響いている。
原因は間違いなく戦闘を行ったからだろう。
体を激しく動かせば、当然その分エネルギーが消費される。
消費した分は食事で補給しなくてはならないが、その食事が出来ないから悩んでいるというのに。


791 : BLOOD+ ◆ytUSxp038U :2022/06/10(金) 15:38:12 NHCOxdrI0
考えるのは空腹だけではない。
自分は戦いの最中、人間ではないモノに変身した。
アレの正体が何なのか。詳しく知らずとも答えは見えて来る。
アマゾン。人を喰う異形。
はっきりとした証拠は無かったが、ここに来てやはり千翼はアマゾンである事がほぼ確定してしまった。
自身の予想が当たってしまい、アルフォンスは重苦しい息を吐く。
あの姿になっている間、自分はマトモに思考が出来ない。
ただ全身の細胞が膨れ上がるような激昂に支配され、目に映る全てを殺そうとする。
アルフォンスからしても、今回自力で暴走を抑えられたのは奇跡に近いと思っているのだ。
またあの姿になった時、同じように止められるかは正直自信が無い。

康一達の安否も確認したい。
風都タワーへも行かねばならない。
やる事は複数あるのに、体の疲れはすぐに無くなってくれないのが辛い所だ。
兄や周りの皆はこんな風に疲れても戦い続けたのだろうか。
早く動き出したいアルフォンスの焦りとは裏腹に、眠気まで出現する。
こんな場所で眠ってられないと分かってはいるのだが、数年振りの睡魔の誘惑というのは思った以上の強敵だった。
抵抗虚しく、アルフォンスの意識は微睡の中に消えて行った。


○○○


喰われ倒れる女がいた。
血だらけで泣き叫ぶ子供がいた。
決して笑わない少女がいた。
銃を向ける大人たちがいた。
冷酷なまでに圧倒する緑の獣がいた。
執拗で病的な程に殺そうとする赤い獣がいた。
たった一人だけ、必死に助けようとする少年がいた。


――『でも……でも俺は生きたい!』

――『生きたいんだ!!!』


【C-5 草原/昼】

【アルフォンス・エルリック@鋼の錬金術師】
[身体]:千翼@仮面ライダーアマゾンズ
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、空腹感、自分自身への不安、睡眠中
[装備]:ネオアマゾンズレジスター@仮面ライダーアマゾンズ、ネオアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]基本方針:元の体には戻りたいが、殺し合うつもりはない。
0:……
1:康一さん達が心配。様子を見に行きたいけど…。
2:遠坂さんに頼まれた地図上の施設を巡る。空腹には十分気を付けないと。
3:ミーティ(無惨)に入った精神の持ち主と、元々のミーティを元の身体に戻してあげたい。精神が殺し合いに乗っている可能性も考慮し、一応警戒しておく。
4:殺し合いに乗っていない人がいたら協力したい。
5:バリーは多分大丈夫だろうけど、警戒はしておく。
6:もしこの空腹に耐えられなくなったら…
7:千翼はやっぱりアマゾンなの…?
8:一応ミーティの肉体も調べたいけど、少し待った方がいいかも。
9:機械に強い人を探す。
[備考]
※参戦時期は少なくともジェルソ、ザンパノ(体をキメラにされた軍人さん)が仲間になって以降です。
※ミーティを合成獣だと思っています。
※千翼はアマゾンではないのかとほぼ確信を抱いています。
※支給された身体の持ち主のプロフィールにはアマゾンの詳しい生態、千翼の正体に関する情報は書かれていません。
※千翼同様、通常の食事を取ろうとすると激しい拒否感が現れるようです。
※無惨の名を「産屋敷耀哉」と思っています。
※首輪に錬金術を使おうとすると無効化されるようです。
※ダグバの放送を聞き取りました。(遠坂経由で)
※Fate/stay nightの世界観および聖杯戦争について知りました。
※千翼の記憶を断片的に見ました。
※アマゾンネオ及びオリジナル体に変身しました。
※久しぶりの生身の肉体の為、痛みや疲れが普通よりも大きく感じられるようです。


792 : BLOOD+ ◆ytUSxp038U :2022/06/10(金) 15:39:22 NHCOxdrI0
◆◆◆


「無い!無い!どこにいったの!?」

血走った目で草を掻き分ける青年。
高価な衣服が汚れるのも構わず、憑りつかれたように何かを探している。
やがて目当ての物が見つかり、正気とはかけ離れた笑いで喜びを露わにした。

「あった!ぼくの、ぼくのへんしんだあああああ!!」

懐中時計に似たデバイス、アナザーウォッチを掲げ歓喜の叫びを上げるメタモン。
アマゾンネオに大きく殴り飛ばされ、地面に叩きつけられた際にとうとう変身が解除されたのだ。
体の痛みよりも、アナザーウォッチが体内から弾き出された方がメタモンには重要。
折角手に入れたへんしんをまたしても失っては、冗談抜きに発狂しかねない。
どうにか発見したアナザーウォッチには傷一つ付いておらず、またへんしん出来るようだった。

メタモンは知らない事だが、アナザーウォッチが無事なのは当たり前だ。
仮面ライダーカブトの力で無ければ破壊は不可能。
可能なのはカブトゼクターの資格者に選ばれた宿儺(織子)か、ディケイドライバーを持つ二人の参加者だけだろう。

「へんしんだ!僕はまだへんしんを……」

興奮冷めやらぬ様子だが、ふと我に返る。
思い返せば先程の戦闘、自分は呆れるくらいにお粗末な動きしかしていなかったのではないか。
アナザーカブトのクロックアップで追いつめたら、手痛い反撃を受けた。それはまだ良い。
ではどうしてすぐに、スコルピオワームのクロックアップを使わなかった?
大量の触手は厄介だがクロックアップなら対処は十分可能だった筈。
そもそも最初の接触のし方がまずおかしい。
剣の姿で油断させるなり、リンクにへんしんして動揺を誘うなり方法は幾らでもあっただろうに。
サソードへのへんしんが不可能になり冷静さを欠いていた?
貴重なへんしんを一つ失ったのなら、むしろより冷静で慎重に行動せねばならないだろう。

考え無しに暴れるだけで勝てないのは、ポケモンバトルもバトルロワイアルも同じ。
こんな様ではどんなトレーナーにGETされても、役立たずと見限られて当然なのではないか?

「あ゛ああああああああああああああああ゛っ!!!!違う違う違う!僕は凄いんだ!僕のへんしんは、どのポケモンよりもずっと…!!」

頭を掻きむしり過去のトラウマを否定するその姿は、己のへんしんに絶対の自信を置いていたとは思えない程、憐みを感じさせるものだった。


793 : BLOOD+ ◆ytUSxp038U :2022/06/10(金) 15:40:12 NHCOxdrI0
【D-6 草原/昼】

【メタモン@ポケットモンスターシリーズ】
[身体]:神代剣@仮面ライダーカブト
[状態]:疲労(大)、ダメージ(極大)、胸の辺りに斬り傷、神代剣の精神復活、混乱と幻聴(過去の思い出により)
[装備]:サソードヤイバー&サソードゼクター@仮面ライダーカブト(天逆鉾の効力により変身不可)、アナザーカブトウォッチ@仮面ライダージオウ
[道具]:行動食4号×1@メイドインアビス
[思考・状況]
基本方針:参加者を殺して、変身できる姿を増やす
1:僕はどのポケモンよりも凄いんだ!価値のないポケモンなんかじゃない…!!
2:とにかく、宿儺から離れる(二度と会いたくない)
3:ゲンガーを探すために南東の島を目指す
4:あの仮面ライダー(ブレイズ)、僕も『へんしん』したい
5:状況を見て人間の姿も使い、騙し討ちしたり、驚かして隙を作ったりする
6:ゲンガーやピカチュウ(になっている我妻善逸)を見つけたら苦しめずに殺してやる
7:ピカチュウ対策ができる道具とかがあったら手に入れた方がいいのかもしれない
8:さっきの男(耀哉)を警戒。今度は迷わずクロックアップで頸を斬る
9:他にも『へんしん』ができるアイテムがあったら手に入れる
10:このワーム(メタモン)に自分の身体を好き放題されるわけにはいかない……ッ!!
[備考]
※制限によりワームの擬態能力は直接殺した相手にしか作用しません
※クロックアップの持続時間が通常より短くなっています。また再使用には数分の時間を置く必要があります
※現在、天逆鉾の効力によりサソードへのへんしんは変身不可となりました。武器としてサソードヤイバ―を使用することは可能です
※現在リンクに変身可能です。ただし、アナザーカブト化が解除されるまでは変身することはできません。
※ブレイズのような、アイテムが資格者を選ぶようなタイプの仮面ライダー等の変身者を殺害した場合、その変身資格を擬態によって奪い取れるかもしれません。
※記憶もコピーできるとします。
※記憶の奥に閉じ込めていた、かつてトレーナーにゲットされ、にがされた苦い思い出が想起され、幻聴が聞こえるようになりました。
※アナザーカブトウォッチ@仮面ライダージオウによりアナザーカブト化しました。


794 : BLOOD+ ◆ytUSxp038U :2022/06/10(金) 15:42:19 NHCOxdrI0
◆◆◆


「ふぅ、間一髪でしたね」

空飛ぶ黄色い雲に腰を下ろし、異様に落ち着き払っている絵美理。
不良っぽい外見とはミスマッチな様子であったが、即座に一変する。

「ふざけんじゃねぇぞアイツらぁぁぁーっ!何で気持ち良く殺させねぇんだクソがぁぁぁーっ!」

口汚く罵る姿は外見とベストマッチしていた。
投げ飛ばされたが地面に激突する寸前で筋斗雲が間に合い、どうにか地面とキスする羽目にはならなかったのだ。

殺したい奴ばかりがどんどん増えていき、比例してストレスも増していく。
相も変わらぬ殺意一色の思考で、殺人鬼は苛立ちをぶつけるかのように筋斗雲を叩く。

自分がさっき、何の血を飲んでしまったのかを理解せず。

いや、仮に知った所で彼女には関係ないのだろう。
目に入る全てを皆殺しのスタンスは変わらず、他の参加者にとっての脅威が一つ増した。

ただそれだけに過ぎない。


【??? 上空/昼】

【絵美理@エッチな夏休み(高橋邦子)】
[身体]:デンジ@チェンソーマン
[状態]:疲労(大)、イライラ(大)、溶原性細胞感染
[装備]:筋斗雲@ドラゴンボール、圧裂弾(1/1、予備弾×2)@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品、輸血パック×3@現実、虹@クロノ・トリガー、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、ランダム支給品0〜2(童磨の分)
[思考・状況]
基本方針:皆殺しだぁぁぁぁぁーっ!
1:どいつもこいつもイラつくぜぇぇぇぇぇーっ!
[備考]
※死亡後から参戦です。
※心臓のポチタの意識は封印されており、体の使用者に干渉することはできません。
※女性の手首@ジョジョの奇妙な冒険を食べました。
※炸裂弾@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-は全て使用したため、一つも残っていません。
※鵜堂刃衛(身体:岡田以蔵)を殺したのは自分だと思い込んでいます。鵜堂の名前までは分かってません。
※オリジナル態の血液を摂取した為、溶原性細胞に感染しました。チェンソーの悪魔変身時への影響等は現状不明です。

※どこへ投げ飛ばされたかは後続の書き手に任せます。


795 : 名無しさん :2022/06/10(金) 15:43:28 NHCOxdrI0
投下終了です。


796 : ◆OmtW54r7Tc :2022/06/11(土) 02:18:25 9IoNzSAI0
投下乙&100話突破おめでとうございます

>疑似体験Ψエンスフィクション
自分の投げたパスに素早いアンサーをいただきましてありがとうございます
前々から気になってた「斉木の顔でナナの喋り方ってシュールじゃね?」って点のツッコミがあったりして、楽しんで読ませていただきました
不穏さはあれど考察班としては期待が持てるナナが彼からの情報をどう生かしていくのか、生かせないまま終わるのか、楽しみです
ただ、細かい点で気になったことがあったので、後述します

>BLOOD+
カオスな三つ巴にハラハラしつつ、痛み分けに終わってホッとしてたら…
最後に絵美理がとんでもないことになっとる!
これ以上化け物になるんか…
メタモンは冷静さ取り戻したけど、アルは一時的とはいえアマゾンの本能に飲まれたし、不穏さが増してこれからどうなるのか…


さて、疑似体験Ψエンスフィクションについての指摘なのですが、斉木が最後に残した『かm』という言葉についてです
この言葉、分析すると「マ行という子音は聞き取れたが母音は分からなかった」ということになりますが
しかし、音というのは基本的に母音が優先的に聞こえるようになっており、『かm』のm部分というのは声として聞き取るのは困難なのではと思うのです
細かいことかもしれませんが、このままだとナナは発音不能な言葉を斉木から聞き取り、他のメンバーも発音不能な言葉を喋りながら考察を進めるという奇妙な状態になってしまいます
企画主様がせっかく用意した考察材料にケチをつけるのは申し訳ないのですが、修正したほうがいいのではと思います


797 : ◆5IjCIYVjCc :2022/06/11(土) 10:00:39 ACkZw0bY0
>>796
ご意見ありがとうございます。
確かに実際に発音してみると、子音だけが聞き取れるようになるのは難しいかもしれません。
この度は私の浅慮で違和感を感じさせてしまい申し訳ありませんでした。

この件につきましては、「m」が何の文字を表していたのか、こちらが想定していたものを解禁する形で修正しようと思います。
修正の文は次の×後に書き込みます。





×

ナナが自分の過去を、凄惨な記憶を、夢で見ていた間に斉木楠雄は重要な情報を掴んだかもしれないというのだ。
意識が別々にあったため、互いに別の夢を見ていたらしいのだ。


「一体、何を…?」

『それはだな……かめ

〜省略〜

「くっ…!どうして…!まだ話は終わっていない…!」

ナナは自分の額に向けて何度も指を打ち付ける。
だが、斉木楠雄が再び彼女の脳裏に現れることはなかった。

(斉木楠雄は最後に何と言った…?「かめ」とは何だ…!?)

斉木楠雄の最後の情報は、中途半端なところで終わってしまった。
「かめ」の二文字だけだと、動物の「亀」、陶器の容器の「甕」等が思い浮かぶ。
だが、斉木が伝えたかったのはこれだけではなかったかもしれない。
この二文字の後にさらに言葉が続いた可能性だってある。
それに、ここでは平仮名で表しているが、実際はカタカナで表現される単語を言おうとしていた可能性だってあるのだ。
第一、「亀」や「甕」だったとしてもそれが何を意味するのか、何が重要なのかは想像つかない。
結局、彼が何を伝えたかったのかはこの場では分からずじまいだ。

×

修正は以上となります。
状態表の方もこれに対応する形に修正します。


798 : ◆OmtW54r7Tc :2022/06/11(土) 10:04:46 9IoNzSAI0
>>797
修正乙です
こちらこそ自分の細かい指摘に対応してくださって、ありがとうございます


799 : ◆5IjCIYVjCc :2022/06/11(土) 10:50:02 ACkZw0bY0
すいません、本日指摘を受けた身で言うのも何ですが、「BLOOD+」とその前話になる「変身 Kamen Rider」において気になった点があるので書き込ませてください。

メタモンの状態表の備考欄において、「※現在リンクに変身可能です。ただし、アナザーカブト化が解除されるまでは変身することはできません。」とあります。
ですが、現在のメタモンはアナザーカブトへの変身が解除されているため、これは成り立たないのではと思いました。

また、実の事を言いますと、アナザーカブト化により剣以外の擬態による変身が出来なくなる理屈が私にはいまいちよく分かっていません。
個人的には、この点について違和感を感じています。
アナザーウォッチにワームの擬態を阻害するような機能があるとは私には思えず、阻害できたとしても神代剣への擬態もできなくなるのでは?と思いました。

◆ytUSxp038U氏と◆s5tC4j7VZY氏にはお手数をおかけしますが、この点についてどういう考えを持っているかをお聞かせ願えないでしょうか。
投下されてからしばらく経った話についてもいきなりこのようなことを言い出してしまい申し訳ありません。

他の方でも何かご意見があればお申し付けください。
ご連絡をお待ちしております。


800 : ◆ytUSxp038U :2022/06/11(土) 12:41:45 z8qHpZHk0
感想及び指摘ありがとうございます。

備考欄にある「※現在リンクに変身可能です。ただし、アナザーカブト化が解除されるまでは変身することはできません。」ですが、
私は単純に「一度アナザーウォッチを排出して生身に戻らないと、ワームの擬態能力で他の参加者にはなれない」という風に解釈しておりました。

スコルピオワームの状態からリンクへの擬態はワームの肉体なので可能ですが、
アナザーカブトの変身を解除せずそのままリンクへ擬態は、アナザーライダーというワームとは別種の怪人と化している為不可能と考えております。
ジオウ本編でもアナザーカブトがワームの擬態能力を使う描写は無く、アナザーカブトに変身したままの状態でリンクなど殺した参加者の姿にはなれないのだと解釈しました。

繰り返しとなりますが「ワームの肉体ではないアナザーライダーに変身中は、ウォッチが体外に出るなど変身解除されない限り、擬態能力は使えない」と言うのが私の結論です。

アナザーカブトの変身が解除されているのに「アナザーカブト化が解除されるまでは変身することはできません。」と書かれたままなのは、単に私が消し忘れてしまいました。
ややこしくして申し訳ありません。

もし私が氏の意見に見当違いな返答をしているのであれば、その時は謝罪させて頂きます。


801 : ◆5IjCIYVjCc :2022/06/11(土) 16:07:45 ACkZw0bY0
◆s5tC4j7VZY氏からの返事はまだ来ていませんが、私の考えについて追記させてもらいます。


まず◆ytUSxp038U氏の「ワームの肉体ではないアナザーライダーに変身中は、ウォッチが体外に出るなど変身解除されない限り、擬態能力は使えない」という解釈についてですが、申し訳ありませんが私としては異を唱えさせてもらいたいです。

ここにおいてメタモンに与えられた肉体は名義上は「神代剣」ですが、言い方を変えると「神代剣に擬態したスコルピオワーム」となります。
そのため、「ウォッチを体内に入れられたことでワームの擬態能力が使えなくなるとしたら、変身の直前に神代剣の擬態も解けてワームの姿になってしまうのでは?」、
「ウォッチが体内にある状態で変身解除した場合も、ワームの姿のままで、リンクだけでなく神代剣の姿にもなれないのでは?」と私は思いました。
また、「BLOOD+」において変身解除直後のメタモンが神代剣の姿のままをしていたことからも、「擬態能力使用不可」の解釈は矛盾を生じさせてしまうのではとも思いました。

また、別のアナザーライダーの話になってしますが、『ジオウ』に登場したアナザードライブは『ドライブ』登場の怪人であるロイミュードが変身していました。
仕組みは違うでしょうが、ロイミュードもまたワームと同じく他人への擬態能力を持った怪人です。
このロイミュードは原典とは違う別の人物に擬態した状態でアナザードライブに変身していました。
アナザードライブに変身しても声が擬態状態と変わらなかったため、「ウォッチが体内にあっても擬態は可能なのでは?」と私は思います。
ワームやロイミュードはアイテムを使うアナザーライダー等と違い、生まれながらの怪人である存在です。
そのため元からの怪人がアナザーライダーになっても、元の怪人としての能力を共存させることは可能なのではないかと私は解釈します。

確かにアナザーカブトの状態からから直接別の人物に擬態することはできないと思います。
ですがそれならば、神代剣やスコルピオワームの姿になることも、一度アナザーカブトへの変身を解除しなければできないことは同じだと思います。
これは、ウォッチが体の中か外、どちらにあっても同じことだと思います。
もし、「ウォッチが体内に入った時の姿に固定される」という解釈をしたとしても、それならばやはりワームの姿になることもできないと考えられます。
そのため、わざわざリンクの姿だけが名指しで状態表で変身できないと書かれていたことに対し私は疑問を持ってしまいました。


◆s5tC4j7VZY氏には申し訳ありませんが、まだ大きな影響のない内に「変身 Kamen Rider」においての状態表の備考欄から「ただし、アナザーカブト化が解除されるまでは変身することはできません。」の記述を削除させてもらいたいのです。
私のこの考えに対し、何か反論等があればお聞かせください。
お手数をおかけして誠に申し訳ありませんが、お返事の方をどうかよろしくお願い致します。


また事後報告になりますが、>>800で消し忘れとあったため、まとめwikiにおいて「BLOOD+」の状態表の備考欄から前述と同じ該当部分を削除しました。
これについて何か問題があればお申し付けください。


802 : ◆s5tC4j7VZY :2022/06/11(土) 17:07:15 anDUs8O20
まず、返答が遅れましたこと申し訳ございません。
また、お手数とは感じていませんので、お気になさらないでください。
結論として◆5IjCIYVjCc 様のお考えの「ただし、アナザーカブト化が解除されるまでは変身することはできません。」の記述を削除には従います。

その上で、反論ではありませんが、私の考えを聞かせてほしいとのことでしたので、この場で述べさせていただきます。
私が上記の記載をしたのは、”あくまで、仮面ライダーサソードには変身が不可であり、リンクへの擬態は可能”(※もし、メタモンが他の参加者を殺めていて手に入れていたら、リンクの名前だけを名指しするのではなくその名前も載せていました。)と考えていたことと”無理やりアナザーウォッチの使用をされ、副作用の暴走状態となったので、それが解除されるまでは変身(手に入れた擬態の姿)できない”という意味合いを合わせた結果です。

最後に◆ytUSxp038U 様には、リレー元である私の作品によって、ご迷惑をおかけしてしまったこと申し訳ございません。


803 : ◆5IjCIYVjCc :2022/06/11(土) 19:27:00 ACkZw0bY0
>>802
返信ありがとうございます。
同意を得たため、一先ずは該当する箇所を削除とさせていただきます。

また、氏の考えでは暴走により上手く制御できなかったという解釈で見てよいのでしょうか。
アナザーライダーへの変身はあくまできっかけに過ぎず、問題があったのはメタモンの精神の方と見ればよいのでしょうか。

いずれにしましても、これでこの件について私の感じた違和感は解消されています。
一先ずは問題は残っていないと思います。
改めまして、先月投下されたにも関わらずいきなり今更このようなことを言い出したことに対しお詫び申し上げます。

他にも何か意見や疑問点等がある方がいればお申し付けください。


804 : 名無しさん :2022/06/11(土) 19:44:56 jSTK5s760
>>803
「亀」と「甕」ではイントネーションが違うため聞いた方はどちらか分かると思いますが。特にイントネーションが「甕」のだった場合は連想出来る用語としてこのチェンジ・ロワイアルで頻繁に登場する「仮面ライダー」があるためナナが考え付かなかったというのは少々無理があるように思います。


805 : ◆ytUSxp038U :2022/06/11(土) 19:55:10 z8qHpZHk0
連絡が遅れすみません。
wikiで「BLOOD+」での該当欄削除ありがとうございます。
また私の方も設定に矛盾の生じる解釈により混乱させてしまい申し訳ありませんでした。


806 : ◆s5tC4j7VZY :2022/06/11(土) 20:02:17 anDUs8O20
◆5IjCIYVjCc 様
いえいえ、繰り返しになりますが、私の不備ですので……
暴走により上手く制御できなかったという解釈で見てよいのでしょうか。
アナザーライダーへの変身はあくまできっかけに過ぎず、問題があったのはメタモンの精神の方と見ればよいのでしょうか。
↑そう解釈していただいて大丈夫です。


807 : ◆OmtW54r7Tc :2022/06/11(土) 20:23:24 9IoNzSAI0
>>804
そこまで突っ込んでたらさすがにキリがないように思います
「かめ」にまつわる言葉なんてそれこそ色んな可能性があるのですし、ナナだってそこまで煮詰めて「かめ」に関する思考を割いたわけでもないでしょう
これから戦兎たちとじっくり情報整理していくのでしょうし、ここでわざわざ修正をかけるほどのことではないかと


808 : 名無しさん :2022/06/11(土) 21:33:01 jSTK5s760
>>807
そうでしょうか?「かめ」で始まる言葉を調べたところ「亀」型 は亀、噛め、カメラで「甕」型は甕、擤め、下名、下命、加盟、仮名、家名、下面、火面、火綿、カメレオン、仮面、亀・カメラ・仮面それぞれの派生語の大多数(亀山市、カメン橋、カメルーンなどの特殊な用語は除く)です。これを多いと捉えるか少ないかと捉えるか個人によって違うかもしれませんが、私はそれほど種類は多くなく、この中で一般的にパッと思い付くのは亀、カメラ、仮面、カメレオンくらいであり、イントネーションが後者であれば戦兎という仮面ライダー関係者とつい先程まで話していたことを踏まえるとかめは仮面ライダーではないかと考えるというのは非常に自然なプロセスであると思います。


809 : ◆5IjCIYVjCc :2022/06/11(土) 22:14:29 ACkZw0bY0
>>804>>808
私からの見解を示させてもらいます。
「仮面ライダー」をすぐ連想しなかったことについては>>807でも書かれている通り、今はまだ熟孝する暇はなく、もし触れるとしても後で戦兎達と情報交換する際を想定していたため今回の話では触れていませんでした。

また、イントネーションについては、
・「め」の発音が途切れさせられてしまった。
・「め」の音を認識できただけでもギリギリだった
・突然のボンドルドの登場による精神的ショックが大きく、軽くパニックになった。
等の要因により上手く認識することができなかったという考え方ができるかもしれないと考えました。
このパニックという要因は仮面ライダーをすぐ思いつかなかった点についても説明できるかもしれないと思います。

イントネーションが上手く認識できなかったこと、パニック気味の状態になったことはまとめwikiにおいても追記修正しようと思います。
仮面ライダーについては今はまだ触れさないままにしようと考えています。
こじつけと思われるかもしれませんが、どうか今はまだこれでご了承願います。


810 : 名無しさん :2022/06/11(土) 22:36:20 jSTK5s760
>>809
返信有難うございます。説明に納得しました。


811 : 名無しさん :2022/06/12(日) 21:43:23 AnVVfMcs0
投下お疲れ様です。
Life will changeや大首領VSライダーWを書いた作者さんらしいライダー要素をフル活用した濃密なバトル描写と、
狂気のベクトルが違う2人と、徐々に狂気に侵食されているアルの対比が読みごたえがありました。
チェンソーの血にアマゾンズの血と、ヤバいもんが集まってさらにヤバいキャラになりそうな絵美里の行く末が気になります。


それとチェンジロワ100話到達おめでとうございます。肉体側のキャラも動き始め、この先どうなるかさらに楽しみです。
そう遠くない第二放送も楽しみにしています。


812 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/12(日) 23:38:02 ???0
すみません、予約を延長します。


813 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/19(日) 23:18:52 ???0
投下を開始します。

そしてまず初めに言っておきます









今回のssは結構根本に踏み込んでみました、出来る限り説得力は持たせることが出来ていると嬉しいです。


814 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/19(日) 23:21:12 ???0
鬼殺隊…それは平安時代から存在し続けた鬼舞辻無惨が生み出した鬼を滅する為に戦い続けた隊の事である。
彼らは独自の呼吸や剣術を駆使して不死身とも言える鬼を倒し続けて、人を守り続けた。
何故彼等は闘い続けるのか?
それは隊士それぞれ違う
ある者は家族の命を奪った鬼に対する復讐の為
ある者は借金の肩代わりの恩返しの為
ある者は一族の使命の為
ある者は孤児が育った場所が蝶屋敷だった為…
そのどれもが様々な事情を抱えながら剣を、武器を振るい続けた
だが彼等に共通している想い、それは人を守りたいという想いだ。
実を言うと鬼殺隊と鬼達は紙一重の生涯を生きてきた者ばかりだ。実際鬼殺隊から鬼になってしまった者もいるし、逆に鬼でありながら鬼殺隊の味方になった者もいる。
たった一つの違い、それは他人を餌として見ているか、護るべき者として見ているのかにすぎない。
だからこそ彼等は必ず争い続ける運命にある。思想が根底から違うのだから
だが…もし人を必ず護る為に戦う鬼殺隊の剣士が








人を殺してしまった場合、殺した者は何を思うだろうか?






夢を見た
そこに居た剣士は今の己の姿をしている。
その剣士は列車のそこにあった骨のような物に向かって剣戟を振るった
その剣戟の振り方はまるで円を描くように斬っていた。
そして惚れ惚れする程美しく、炎が描かれていたように見えた。






(…ハッ!…まだ身体が痛む…か…何だ今の夢は?)
現在ギニューはD-4エリアの家でトビウオから降りて民家で身体を休めている。と同時に仮眠もしていた。連戦の疲れをとる為のほんの10分の仮眠だが、体力の回復は早くなった気がする。

さっき戦ったばかりのエリアの付近で休んでいて大丈夫なのか?という疑問が湧くだろう、先ほどまで戦場から離れる事を、宇宙船へ向かう事を考えていたばかりであるはずなのに
それには幾つかの理由がある。
まずは一刻も早く動かないで身体を休ませる事で疲れを取るためである。勿論トビウオに乗っていても身体は回復するのだがその場合操作に神経を使う。回復に集中した方がより回復しやすいと判断し、疲れを早くとる事を優先した結果である(万が一敵が近づいてきても匂いで気付くつもりである)。
それに何故か分からないが…回復に集中していればいるほど傷が塞がっている気がしてくるのだ。

止血の呼吸、全集中の呼吸の1つである。…妙に暑苦しい声が聞こえた気がしたがギニューは気のせいだと結論づけた。
人である以上完全に治る訳では無いがある程度止血は完了した。そして更に回復の呼吸も無意識のうちに、寝ている時にも発動し…その結果
疲れも完璧に回復した訳では無いが、戦う事は出来るくらい回復していた。これも今まで炭治郎が重ねた研鑽、努力の賜物、鬼殺隊の歴史その物である。
(…やはり見事なものだな、竈門炭治郎、貴様の肉体、地球人にしてはかなり役に立つと認めてもいいだろう。フリーザ様の復活の為にな)
だがそんな物はギニューにとってはただの野望の為の道具でしかない、何処までも鬼殺隊の想いを踏みにじるつもりなのだろうか


815 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/19(日) 23:22:18 ???0

…話をタワーから離れない理由に戻そう。もう一つの理由、それはタワーに多くの人がいる事が察する事が出来たからだ。
檀黎斗、ジューダス、いろは達から離れれながら…ギニューは炭治郎持ち前の嗅覚を使用し、3人の匂いを記憶しておいといたのだ、トビウオに乗っていながらも、距離がどんなに離れようと匂いを嗅ぎ続けた。
3人がどう動くのか、それによっては回復した後に宇宙船に行く前に奇襲をし、殺し切れなかった雪辱を晴らすつもりだからだ。…嗅覚がさっきより優れている気がしているが気にもとめなかった。
その結果タワーの方へ向かい…多くの人と合流した事、と同時に戦いが起きた事も分かった。
人は身体を動かすと汗をかく、常識である。その大量の汗の匂いと戦いによる血の匂いが、戦いが起きた事をギニューに知らせていたのだ。
ギニューはこの戦いの結果によっては負けた奴を殺そうと考えていたのだ。勿論それは身体が回復した場合の話で、回復が間に合っていないと判断した場合は当初の目的通りフリーザ様の宇宙船に向かうつもりだった。

そしてその結果…ひとつの強者の匂いが急速に離れている事がわかった。
(一人だけのようだな…そしてこの離れ方は吹き飛ばされているようだ、つまり負けたと考えるべきだろう、この結果死んでいる場合なら手を煩わさずにすんだという事だが、生きている可能性もあると考えられる、回復する前に早く殺しておいた方がいいな…宇宙船は…様子を見てくるまでは後回しだな)
とりあえず未だに多くの人数の中にいて殺しにくいだろうあの3人は後回しにして…吹き飛ばされた奴の匂いを追う事にした。


ギニューは…その匂いの追尾を開始した…だがその途中の街のどこかで

(何だ…?追尾していた匂いを打ち消しかねないこの匂いは…!?)

強烈な血の匂いがした。
ギニューは追尾を一旦やめてその匂いを嗅ぐ…すると…
(何だ?何故か…激しい動揺と悲しみを感じ取れるぞ…どういう事だ?)
炭治郎の嗅覚は普通ではない、感情の変化をも嗅ぎ取ることも出来るのだ。
(全く気迫を感じられない…ならば優先して殺しに行った方がいいな)
通る途中の街の何処かに隠れている、更に一人でいる、強さも感じない、ならさっさと人数を減らす為に殺しておくべきだ。
だが…その前にふと迷いが出てしまう。
(ここで俺がもしソイツを追いかけた場合…今の匂いの奴はどうなる?)
ここまで強さを感じられない上怯えているという事は…つまりもし殺そうとした場合、徹底的に逃げられる可能性がある。気配を消して一撃で仕留めるのも良いがそれが上手くいく相手なのかも分からない。なぜならこの多くの血を纏った匂いはさっきまで多くの人々の匂いの中の1つにあった物だと分かったからだ。つまり生き残れるだけの戦闘スキルはある。戦う感情は感じ取れない為戦いにならずに逃げに能力を使われたら殺すのにどれだけ手間や時間がかかるのか分からない
となるとその間に追っていた匂いにも逃げられる可能性がある。更にもし殺せたとしても徹底的に逃げられて体力を消費した状態で最初の匂いの相手を殺せるのかも考えなければならない。
改めて最初に追っていた匂いを嗅ぐ、奴からはプライドと強い殺意を感じることが出来た。それも自信にありふれている殺意が…しいて言うなら敬愛するフリーザ様に似ていると言える
つまり強い殺戮者と考えるべきだろう。ソイツが多く殺した後に最後に殺せばその分楽ができるが、その頃にはもしかすると回復している可能性もある。となると吹き飛ばされて手負いの今こそ殺せるチャンスかもしれないのだ。更にプライドが高い奴が逃げる確率は低い、となると回復した今の自分なら倒しやすいチャンスかもしれない…と思うと簡単に捨てれない。
どっちにするぺきか…考えていた。その時だった


(戦え…!!)
(何だ…?この声は…?)
謎の声が、脳裏に響いてきたのは


816 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/19(日) 23:23:39 ???0
(残るカードは…後四枚か)
風都タワーの激戦を終えて休憩中のJUDOは色を取り戻せていないカードを眺めている
(宿儺との戦いの前に力を得ておきたいところだな…)
ここで宿儺は…時間配分について考え始めていた
というのも戦いの度に力を取り戻しているのは確かだ、イオンとの戦闘でクウガの力を、キタキタおやじとの戦いでアギトを、そして風都タワーの戦いで龍騎、ファイズ、ブレイドの力を手に入れていった。
だがこの連戦は多大な体力の消費を伴ったものだ。この肉体は普通の肉体ではない為に体力は回復しやすいが…だからといって自然治癒では限界がある
しかし病院に行く迄ではない、プライドもある。となると動かない事が1番の回復方法だ。治癒する為の薬があればいいのだが…それが手に入っていない以上仕方がないのだ。
だが回復している間に力を取り戻す機会が減ってしまう事も考えると後30分程の休憩で…

(…来るか)
だが迫る気配は、殺気はそれを許さない、そして振り向いた先にいたのは、赤いコートを着て、刀を携えた青年だった。

ギニューの選択はまず手負いの具合を確かめてから対処する事だった。
決めた理由は2つ…1つ目は…より強くなりたいという理由だ。
元々炭治郎の身体のプロフィールを見て、呼吸と透き通る世界が出来るようになる事が目標であった。
そのうち呼吸の技術だけは手に入った。
…一部だけだが
身体のプロフィールは大雑把にしか書かれない時があるのが特徴だ
炭治郎の特徴には呼吸、透き通る世界を使って戦える事、ヒノカミ神楽という舞が出来る事が書かれていた。
そう、詳しく書かれてはいなかったのだ。ヒノカミ神楽が戦いにも生かせる事、そして炭治郎の本領を発揮する戦い方である事も

ギニューが見た夢における炭治郎の戦い方はさっきの戦いでギニューが使った剣術と違う事は察することが出来た。フリーザの下で戦い続けていただけあって勘が働いたのだ。そして本当に1番強くなれる戦い方である事も察した。
となるとこちらも早く己の手にしたいものだと思った。そう思いながらも先程の二者択一を考えていた瞬間である。
炭治郎のヒノカミ神楽による戦いの姿を幻視するようになったのは
コマ切れのように、漫画のようにだが、様々な技を使った瞬間が浮かんできたのだ。そしてその度に思った。使いたい、その技を、と
それと同時に…響いてきた

戦え、戦え、戦え!!という声が

ギニューは戦闘技術を買われてフリーザの父、コルド大王にスカウトされた身、そもそも強い身体と肉体を入れ替えてきた身、強くなる事には貪欲である。
故に…ギニューは手負いだが戦って相手を殺せる相手の方を追いかけることに決めたのだ。そう考えた以上、生身の状態のJUDOを不意打ちしようとも考えなかった。
そしてもう一つの理由はその追っていた相手の状況が予想以上にこちらにとって好都合だと言う事が分かったからだ
近くまで行って改めて匂いを嗅いで、相手の感情を読み取ってみた。その時…妙な焦りを感じ取ったのだ。そしてこうして目の前に出た瞬間に分かった
(フッ…見かけは変わっていないが…分かるぞ…より焦ったな?今)
JUDOは人間ではない、故に人間の持つ感情とは無縁…のはずだった。
だが肉体の門矢士は人間、時には悲しみ、時には笑える男である。感情の振れ幅はしっかりとある。故に休憩がまだ十分取れていない状況で敵が現れた時に…ほんの少しだけ焦ってしまったのだ(勿論表面では全く分からないが)
更に肉体の疲労も呼吸の量からまだ察する事が出来た。そして
(…む?この男の身体、妙に透けて見えたぞ?)
今、ほんの一瞬だが、見えた、JUDOの身体が、多くの傷がある事が分かったのだ。
(まさかこれが透き通る世界というものなのか?)
特に強く意識した訳では無いが、これが透き通る世界である事を薄々感じ取る事が出来た。
…おかしいのでは無いだろうか?
透き通る世界に入る為には厳しい鍛錬が必要である。そしてこれは身体だけではなく、精神としても鍛錬をしていなければそもそも自分の肉体を、相手の肉体を視る観察眼など得る事など出来ないのだ。ギニューも勿論戦闘を仕事にしている以上鍛錬はしていない訳がないが、炭治郎としての鍛錬は全くの0である。何故一瞬でも入れた?そもそもさっきまでは見る事すら出来なかったというのに

だが今はそれについては後回しである、ギニューにとってはどうでもいい事であるのだから、そして相手の状況が悪いと分かった以上、戦わない選択肢は有り得ない。


817 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/19(日) 23:26:10 ???0
「貴様が何者かは知らん、だが中々の強い奴である事は分かった、オレが近づく前に接近を気が付いたからな…それでこそ今のオレに必要な相手だ、我が願いの礎になるがいい!!」

ギニューは刀を向けた、それは闘いを誘っている事が分かった。

匂いでギニューは分かっていた。この男は徴発を受けて逃げるような男ではないと

(…仕方があるまい)

休憩は十分ではない、だがそれでも大首領としての誇りは逃げを選択する事はない。更に

(それに…中々の強者である事は分かる、我の乾きをよりなくせるかもしれん)
どんなに疲れようとも戦いそのものが好きである事は変わりない
ベルトを装着し…カードを装填する。

「変身」

『KAMEN RIDE DACADE!』

緑色の複眼、マゼンタの装甲、仮面ライダーディケイドがその場に現れた

「ほう、中々カッコいい変身だな…そしてオレの目に狂いはなかった、貴様との戦いはオレをもっと強くしそうだ…始めようか!!」

「ふん、如何なる状況だろうと我が負ける事などありえない、我を楽しませろ」

ライドブッカーをソードモードにして構えるディケイド、それにギニューは嬉々として剣を振る。激闘が、始まる



『彼等』は被害者である。

殺し合いに巻き込まれたからだけではない、気まぐれによって自分そのものの存在が狂わされるのだから

ある者は仲間を捕食してしまい、ある者は細胞に狂わされ化け物になるのを恐れ続け、ある者は怪物としての全てに狂わされ、ある者はにっくき宿敵そのものの振る舞いをしてしまう事になったり、ある者は人として喋れず、貞操を狙われつづけている者もいる

いや、『彼等』だけではない、運が悪い為に望まぬ行為をする自分を見なければならなかったり、他人から見た場合、望まぬ行為をしている自分しかみてもらえなかったり『彼ら』も被害者である。

ただの殺し合いではない為に起きてはいけない事が起きてしまっている

だが『彼ら』もただ使われ続けるだけではない

『彼ら』もそれぞれ抗い続ける。ある者は参加者に直接交渉をした、ある者は己の意地を示した者がいた、ある者は支配され続けながらも支配者を危惧し、真意を聞き出そうとする者もいる。
そして今いる『彼ら』は


818 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/19(日) 23:28:01 ???0
幾度もぶつかり合う剣、状況はギニューに有利に働いていた。
まず疲労で疲れているディケイドの剣は剣の達人、そして戦闘に慣れていて、痣による身体能力の向上が起きているギニューには当たらない
ギニューは生身だがそれは剣が当たった場合のデメリットになる。逆に言うと当たらなければどうという事はないのだ
逆にギニューの剣はじわじわとディケイドの装甲を削っていき、火花が散っていく。
 
この状況を打開するべく、ディケイドはカードを装填する
『ATTACK RIDE SLASH!』
残像のように増える剣劇、それに対しギニューは
――水の呼吸 陸ノ型 ねじれ渦
全方位防御で守り跳ね返った勢いで空へ飛び
――水の呼吸 弐ノ型 水車
回転、そして降りながら剣を振り下ろす
ディケイドはそれに対して受けながら少しづつ下がって回避
だが間伐入れず着地した瞬間攻撃に移る…怒涛の波のように
――水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫・乱
激しい攻めはディケイドの防御の隙間を的確に、更に透き通る世界で相手の傷を見ながら効率よくダメージを与えていく
そして苦痛で防御が緩んだ瞬間を…ギニューは見逃さない
――水の呼吸 壱ノ型 水面斬り
「ぐっ」
派手に吹き飛んでいくディケイドの身体、タワーにぶつかって何とか止まった…
「どうした?それが貴様の実力なのか?俺は貴様を買い被りすぎていたようだな」
嘲笑いに対してディケイドはガンモードに変更してからの銃撃で返す、ギニューはそれを避けながら迫る。
『ATTACK RIDE BLAST!」
残像と共に増える銃撃、ギニューは何も使わず避けるのは不可能と判断した。
――水の呼吸 参ノ型 流流舞まい
次々と避け続けながらディケイドに迫るギニュー、だが
『FINAL ATTACK RIDE DE DE DE DECADE!』
(そうくるかっ!!)
そうなる事は既に予測済み、避ける軌道をディメンションヴィジョンで見通し、避ける軌道を読み、直撃するように必殺技を放った
並ぶ複数のカードを通過しながらギニューを軽く消し飛ばせる光線が迫りくる
残念ながら避ける事はもう出来ない、それくらい近くまで光線は迫っている
となると迎え撃つしかないが、先の戦いで使ったアクションビームは使えない、強くなる為に剣による戦いに集中したかったギニューは剣以外の武器はバックにしまっていたのだ、そしてそれは遠くに置いてある
残る方法はただ1つ、カエルに入れ替わる前から使っていた光線、ミルキーキャノンによる相殺だ
(出来るのか?この身体で…)
ギニューは以前の身体ではないこの身体で光線を使う事は孫悟空と入れ替わった時の事を考えると不安があった。その為に今まで使わなかったのだ
だが出来なければ…間もなく自分は死ぬ、良くて敗北だろう
(一か八かやるしかあるまい!!)
片手を剣から離して全身で気を溜め込んでそれを片手に集中させる…だが
(無理だ…!!)
気の溜まり具合で分かる。この気の量ではあの光線を押し戻す事は出来ない、やはり気のコントロールが上手くいってくれない、前の身体の10%しか気がたまらない
呼吸の為にも力を使っている事が原因だろうか
何れにしてもこのままでは結局死ぬ事は変わらない
(…ならば!!受け止めてその隙に躱す!!)
再び一か八かの賭け、結果は…
(受け止めは…出来たがっ…!!)
受け止めは成功、だがどうかわせばいいのかは…浮かんでこない
(早く、早く避けなければ…死ぬ…死ぬのか…?こんな所で…?フリーザ様の復活も叶わずに…?)
走馬灯を見かけた…その時だった

『雷の呼吸って1番足に意識を集中させるんだよな』

(この言葉は…!?)

今見た走馬灯に何故か意味があるような気がしたギニューは…無意識に善逸がどのような戦い方をしていたのかを思い出していた、そして雷の呼吸は超スピードの移動が出来ることを知った

勿論だからって雷の呼吸が出来る訳では無い、だがほんの少しだけ再現できないかと足に力を込めた

そして超スピードで回避、何とか窮地は脱した。実を言うもこの殺し合いで会っている善逸には感謝するべきだろう、するわけが無いが


819 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/19(日) 23:31:24 ???0
避けたのを見たディケイドは思う、この男の動きはあの青い騎士にも負けていない、久しぶりに全力を出せそうだ、と
ディケイドに残っている主な攻撃手段はイリュージョンによる分身による同時攻撃、そしてライダーキックがある。

前者は自分のプライドに触る。一人に対して大人数にで攻撃しなければ勝てないのかとは思われたくもない。だからタワーでの1対3の時でもイリュージョンは使わなかった。

後者はまだ使用には早い、となると他に手段がない…

わけがない

ディケイドの攻撃手段はあまりにも豊富、まだ5人のライダーしか解放されていないが、それでも多い

さて、ここでまずディケイドはどの姿を選ぶだろうか?

まず刀には銃が一番だ、遠距離から一方的に攻撃し続ければやがてギニューは限界を迎えるだろう

だがその手段を…ディケイドは取らなかった。遠距離攻撃にはもう相手に警戒されている以上常に接近されるだろうと考えた為だ

となると刀には刀で迎え撃つべきか








…本当にそうだろうか?

考えて欲しい、もし今のJUDOに一番効率のいい戦い方を考えるとしたらファイズアクセルで有無を言わず距離をとって遠距離で攻めるべきだろう

勿論万全のJUDOならばプライドを優先して取らないだろう、だがJUDOはまだ傷を治し切っていない状況だ、自分が傷ついている状況で近接戦はよろしくないはずなのだ

…もし門矢士がギニューと戦っていた場合こう言うだろう

『刀にはこっちも刀だ』



ディケイドはまず赤い戦士のカードをバックルに入れる、更に

『KAMENRIDE KUUGA!』

『FORMRIDE KUUGA TITAN!』

紫のカードを入れた。キタキタおやじの時も変身した姿だ

「一つの姿から更に別の姿だと?」

今までベルデ、ライドプレイヤーなどライダー、またはライダーに似た存在に会ってきたが変身した姿から更に変身する姿を見るのは初めてだった。

「まぁいい、やる事は変わらん、オレの刀で斬るだけだ!!」

ギニューはゆっくりと進んでくるクウガに向かって剣を振るう、だが

ガキィン!!

という音と共に弾かれてしまう

「何だと!?」

あの時の戦いと同じ防御力を見せつける、そしてぶつかっている刀を掴む

そして驚いて隙だらけのギニューにタイタンソードを振るう

ギニューは慌てて回避、そしてそれと同時に…何と上に引っ張り上げた

今度はクウガが驚く番だった、重力は常に下に働くもの、プロトタイプでもない戦闘力が強いワームが何か特殊能力を使わずに浮く事などありえないからだ。その驚きと共に掴む力が緩み、剣を引っ張り取り返されてしまった。

確かに一見何か特殊能力を使ったようには見えない、だがそれは見た目だけの話である。ギニューがここで使ったのは舞空術、自分がいる世界では当たり前のように使われている力である。かつて悟空の身体でも舞空術は使う事ができたのと同じように炭治郎の身体でも可能であった(そもそも舞空術自体が基本的に簡単であるのも理由の一つである)

ギニューは浮かび上がった勢いで攻撃をしようとする

だがここでほんの少し迷いが生じた

というのも今のクウガの鎧はとても頑丈である事が分かっている。もし刀身で攻撃をすると刀が砕ける可能性が、そこまでいかなくてもキレ味が落ちる可能性がある。今後の戦いを長期的に考えると切れ味が落ちるのはよろしくない。

そこで考えたのは一度呼吸による攻撃をやめる事である。そして何をしたのか、それは

何と持ち手を一瞬で変えて頑丈である柄頭による打撃であった、不意を突かれたクウガに当たってしまった。

勿論この鎧には少しもダメージが通らないのは百も承知、ギニューの狙いは衝撃を脳に伝わらせる事にある

どんな人間でも脳は振動を受ける事で動きが鈍る。狙い通りにクウガはほんの一瞬だけ動きを止める。この隙に透き通る世界で甲冑の隙間で最もダメージが通る場所めがけて

――水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き

一点集中の一撃…!!

「くっ…!!」

予想以上の痛みに吹き飛びながら苦悶の声をもらすクウガ、だが…この事も屈辱として怒りに変える

「我にこれほどの痛みを与えるとは…許さん」

「フン、許されないのは貴様の弱さではないか?」

煽り返され怒りはさらに増していく、この姿ではダメだと判断し、次のプロトタイプへと姿を変える。


820 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/19(日) 23:34:16 ???0
「変身」

『KAMENRIDE BLADE!』

銀色の装甲を纏ながらも蒼い印象を与える仮面ライダー、ブレイドの姿に変わる

「…一つ質問良いか?」
「何だ?」
「貴様は先程から様々な姿に変わっている、俺は以前貴様と同じような戦士と戦った事がある、恐らく貴様も先程戦ったはずだ」
「…あの緑の戦士の事か?」
「そうだ、今貴様が変身している戦士と同じようにベルトが力の源のように見えた、その変身している姿は一体なんなのだ?」
下らぬ質問だ、JUDOはそう思ったがほんの気まぐれで答えてやることにした。
我が知るプロトタイプ…とは別世界の仮面ライダーという物だ、と

だが実際に答えた言葉は










「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ………、!?」
全く違う言葉だった
(何だ?今の言葉は…?)
「仮面ライダー…というのか、面白い、その力、オレの物にさせてもらうぞ!!」
フリーザ様復活の為に更なる強さを求めるギニューは今闘っているディケイドのベルトを奪いたいと考えていた。
再び向かってくるギニューにブレイドは醒剣ブレイラウザーを構える
剣士と剣士の戦いが今始まる。



ぶつかりあう剣と剣、最初にディケイドの状態で剣を振るった際はディケイドが押されていたが、今の戦いでは互角の剣戟を展開していた
理由はブレイドに変身している事である。ブレイドは刀による戦いをメインにしている。その為に刀の扱いがディケイドの時より上手く行えてるのだ。

剣戟による衝突は互いに強く体がぶつかった拍子に一旦離れる、そして技を出す構えに入る
さて、ブレイドのアタックライドカードはどのようになっているだろうか?
まず、本当のブレイドに変身した人物、剣崎一真が使ったアタックライドはビート、タックル、スラッシュ、サンダー、キックである
一方で門矢士が使ったアタックライドはマッハ、メタルである

そして思い出してほしい、タワーの戦いにてディケイドが使用したカード、門矢士は使ったことがあっただろうか?
つまりこれが答えである。

『ATTACK RIDE SLASH!』

『ATTACK RIDE THUNDER!』
 
ライトニングスラッシュの再現である。

更にこれに加え

『ATTACK RIDE MACH!』

超スピードも兼ね合わせる

スピードも乗せた今の斬撃ならば生身のギニューなど一刀両断だろう

だがギニューが何もしない訳がない、超スピードを匂いで察知しながら透き通る世界で攻撃を見通しながら呼吸に集中する

まず一度斬りかかってくる、ギニューはギリギリで刃ではなく刀身で受け止めながらわざと弾かれて飛ぶ

飛ばされながら直ぐ追撃の攻撃も来るが再び刀身でガードし再び飛ぶ

ギニューは強烈な攻撃を受け止めるのではなく、受け流し切る道を選んだのだ

三度飛ばされながら受け止めてそしてそのマッハのスピードが終わった瞬間

――水の呼吸 捌ノ型 滝壷

隙があったブレイドへ渾身の一撃、即座にカードを装填し対応する

『ATTACK RIDE METAL!』

メタル、ギニューにその言葉が聞こえた瞬間、この技を後悔した

つまり硬質化による防御の技だと直感したからだ

だがこの型もまた攻撃力は高い、どうなるのかは分からなかった。

結果は…ダメージは与えられなかったが衝撃でブレイドを吹き飛ばすことは出来た


821 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/19(日) 23:35:25 ???0
ブレイドは体勢を整えて次なるカードを装填した。

『ATTACK RIDE TACKLE!』

体当たりによる勢いを乗せた攻撃、一見マッハと被るが、衝突の威力に重点を合わせた攻撃だ、これに加えて

『ATTACK RIDE  BEAT!』

拳による攻撃も合わせる、その拳は体当たりの威力も合わせた破壊力がある一撃である事は読み取れた
ブレイドは圧倒的な攻撃を相手からの剣の攻撃はブレイラウザーに守りながら喰らわせるつもりだ

だがそれくらいでダメージを与える事が可能だと思われているとは、ギニューを舐めていると考えるべきだろう

ギニューは刀で絶対に防御出来ないであろう場所を透き通る世界で見ながらそこにめがけて剣を振るう

――水の呼吸 肆ノ型 打ち潮

「ぐっ…!!」

再び一撃を喰らい火花を散らすブレイド、攻撃も中断してしまった。

…御覧の通り状況見れば分かるが今の所やはりディケイドが一方的にダメージを受けている。

JUDOが傷を負っているとはいえ、火の呼吸が使えなくともやはり今のギニューの身体の強さはかなり高い事の証明だと言えるだろう

「貴様…何故これ程強いのだ…生身の人間が…鎧を纏った我と張り合える…!!」

ディケイドになってからここまで苦戦した戦いは今までになかった。

ここまで相手に対応されて逆に攻撃をくらう事など想定外である

「不運を呪うんだな、貴様が外れの身体に選ばれてしまった事をな!!」

ギニューは大技を繰り出してトドメを刺すことを決めた

――水の呼吸 拾ノ型 生生流転

回転しながら高まっていく一撃、水の呼吸最強の技、水の龍を纏っているようにJUDOには見えた。

大技にはこちらも大技、こちらも金色のスペードが描かれたカードを装填する

『FINAL ATTACK RIDE B B B BLADE!』

ライトニングソニック、数多のアンデッドの封印のきっかけになった一撃だ

「ウオラァァァァァ!!」

「ハァァァァッ!!」

二つの強力な一撃が今、激突した。


「…中々やるな」

「…貴様こそ」

互角の威力だったようで、互いにダメージを受けながら離れただけだった
戦いはまだ続く、再び剣を向け襲ってくるギニュー、ブレイラウザーを構えながらブレイドはこの戦いで目覚めた新たなカードを取り出す。


822 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/19(日) 23:36:41 ???0
攻撃をブレイラウザーで受け止めながらそのカードをバックルに装填
『KAMENRIDE』
その瞬間、身体が紫炎に包まれる
「!?」
慌てて熱がりながら離れたギニュー、そして紫炎から現れたのは
『HIBIKI!』
紫色の鬼だった

「鬼…か、この身体は鬼狩りの剣士らしい、その時点で貴様の運命は決まったようなものだな」
「我をそのような雑魚と同等に考えるな」
『ATTACK RIDE ONGEKIBOU REKKA』
響鬼は音撃棒烈火を携えながら…ある事を考えていた
(奴の強さ、薄々気づいていたが呼吸によるものだろうな)
戦いの姿を見るうちにギニューの強さの理由に気づき始めていた。
(となると…早々に封じさせてもらおう)
封じる為の策を開始した




戦いが始まった瞬間である
鬼火、烈火弾をそこら辺にまき散らせ始めたのは
「貴様!?正気か!?」
「正気だが?」
ギニューは避け続ける、避け続けるが周囲が轟々と燃える炎に包まれ始める
(この男、何を考えて…!?グッ!?)
その瞬間である、肉体が、動きが鈍り始めたのが
「気が付いたか?」
JUDOは嘲りの笑いと共に答え合わせを始める。
「この極限の熱気、そして二酸化炭素の増加に対して、貴様の呼吸は…行使する事は出来るのか?」
燃える、身体の内部が燃えるように熱くなっていく

苦しい、圧迫感がギニューを蝕む、一瞬だが眩暈もしてしまっている

辺りにまき散らされた炎による火災は例え炎のダメージを受けずとも常に大きく呼吸をし続けて戦うギニューの身体を蝕む
慌てて全集中の呼吸をやめるが身体に沁みついている癖はそう簡単に抜ける物ではない、その上動きも遅くなる
「ぐああああ!?」
苦しむギニューに響鬼は容赦しない、慌てて響鬼に向き合うギニューだが容赦のない攻撃がギニューを襲う
『ATTACK RIDE ONIBI!』
口から吐き出した紫炎、慌てて避けるがその避けた隙を
ドカッ
「ぐはっ!!」
拳が襲う

そしてここから先も容赦しない
バキッ
蹴りが
メキョッ
裏拳が
ボキャッ
チョップが襲った
「がああああ!!」
響鬼の特徴の一つは圧倒的なスペックの高さにある、一つ一つの攻撃が他のライダーの基本形態より強いのだ。
それによって大ダメージを受けたギニュー、そして
『FINAL ATTACK RIDE』
止めの一撃
『HI HI HI HIBIKI!!』
バックルから飛び出したのは太鼓であった。
その太鼓はギニューの身体を容赦なく捉える。
烈火を構えながら近づく響鬼、阻害する者は誰もいない
そして奏でられる音撃打 火炎連打による太鼓の音、一つ一つ音を打ち込まれるたびにギニューの身体が震え、ダメージを追っていく
本来は大地の穢れから成るモノを浄化する為の音だが、ギニューという邪悪を祓い清めるには打って付けと言えた。が、その音を奏でている者もまた邪悪である事が非常な現実を思わせる。
そしてある程度奏でられ…締めに相応しい大音によって吹き飛ばされていった。

響鬼はディケイドへと姿を戻しながら倒れているギニューに近づく
ギニューは刀を握り、白目をむきながら気絶している
「不運を呪え、貴様が外れの身体に選ばれてしまった事を」
嘲りと共に先程の言葉を返し、ライドブッカーを剣にして…首に一閃









したはずだった。


823 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/19(日) 23:38:52 ???0
(…何だ?この景色は)

透き通るような青空が見えた

(どうなっている?オレは奴に…JUDOの攻撃を受けて…)

それからの記憶がない、気がついたらここにいた。そしてそれだけじゃない、周りは炎に包まれていないし、匂いが全然しない、そして右手には刀じゃない、斧を持っていた

それから姿は変わらないが様々な記憶が流れてくる。だが一番記憶に出てくる男は赤みがかった赫灼の瞳と月代を剃らず、後ろで大きく纏めている長髪、そして自分の今の身体と同じ痣がある。
日輪の耳飾りをしている男だった。

そしてその男は…先程の仮眠でみていた刀の振り方をしていた。

ギニューは直感で感じ取った。この男の動きをしようと思えば使える…真の強さを発揮できる、JUDOを倒せる、と

ならば目が覚めなければいけない、覚めなければ…!!死ぬ…!!

その瞬間であった。

急激に目が覚めていく気がした。そして何故か感じた頭の痛みと共に、ついでに今までの炭治郎の戦いがどのような物だったのかも理解させられながら…目覚めていった…






そしてその時に気が付いた…妙な違和感に

(そう言えば、何も声が聞こえなかったな、どうでもいいが)

ギニューにとっては至極どうでもいいのだ、彼等の想いが、どんな物であろうと


ガキィン!!

「!?」

JUDOは驚きざるおえなかった、白目向いた状態から一瞬で目を覚ましたことに、即座に

だがまぁ良いと思考を切り替える、どうであろうとコイツはこの状況ではよわ―

立ち上がった瞬間、JUDOは分かった。

この男、今までと全く違う、と

どういう事か、全く分からないうちに、始まる

ヒノカミ神楽が


824 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/19(日) 23:41:58 ???0
…単純な前斬りのはずだ、ディケイドはそう考える、考えるだけに頭がおかしくなりそうな感覚を覚える

何故ならこの一撃だけでも分かる。先程とは桁違いの威力を秘めている事を

「ぐああ!!」

ここまでの苦痛をJUDOは上げた事があっただろうか?記憶に全くない

だがそう考えている暇を与えるつもりはない

――ヒノカミ神楽 碧羅の天

慌てて守るが…それだけで守り切れるはずがなく、刀身はバキバキになり、弾き飛ばされてしまう

それもその勢いのまま炎に囲った周囲から飛び、橋を三分の一渡ってしまった

「があっ!!」

痛みに苦しみながらディケイドは向かってくる前に即座にカードを装填する。

『FORMRIDE KUUGA TITAN!』

防御力の高い形態へと直接変身する。だが

…残酷な事を言おう、クウガにとっての事であるが

今、ギニューの身体は燃える火の中にいた為に熱によって熱くなっていた。

そしてギニューは響鬼の時に強く痛みを負わせて更に殺そうとしたクウガに対する怒りで今までより強く刀を握っていた。そして火の囲いからは脱出した為に全集中の呼吸も復活した。

その結果、偶然であるが

彼の刀は赫刀へと成っていた

その事を知らずクウガはタイタンソードを振るう、だが

――ヒノカミ神楽 烈日紅鏡

まず左への一撃でタイタンソードをぶち壊し、そして右へのもう一撃でクウガの頑強なはずの装甲を砕く

「ガアアア!?」

信じられない、次から次へとありえないことが起こる

普通のディケイドならばこれ程の強さなら喜々として戦おうとするだろう

だが今のディケイドはギニューの突然の強さの向上についていけずにいて焦っていたのだ。

攻めはまだまだ続く

――ヒノカミ神楽 灼骨炎陽

強烈な前方向への回転斬りである

…クウガは受ける直前に後ろ向きに直接地面を蹴り、後ろに飛ぶようにしていた。

そして灼骨炎陽を受けてクウガは強烈なダメージを受けながらディケイドへと強制的に姿を戻される。

…何故そこまで後ろへ飛んだかって?そうでもしなければ
距離をとれず、カードを装填できる暇がないからである


825 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/19(日) 23:44:11 ???0
『KAMENRIDE RYUKI!』

龍騎へと姿を変える、そして即座に

『ATTACK RIDE ADVENT!』

無双龍ドラグレッダーを召喚する

時間稼ぎは出来るだろうと見込んで召喚した。だが

甘すぎる、その認識は、ヒノカミ神楽の前にその認識は

――ヒノカミ神楽 陽華突

頭を狙う突き技、ドラグレッダーは頭をぶっ刺され、ひび割れながら、苦悶の声を上げながら爆散した 

…瞬殺されるのは予想外でありながらも龍騎はカードを次々と装填する

『ATTACK RIDE SWORD VENT!』


『ATTACK RIDE GURD VENT!』

フルアーマーで迎え撃つつも

――ヒノカミ神楽 日暈の龍 頭舞い

りだったが気がついたら全ての武装を破壊され、龍騎自身の身体から火花が飛び散っていて龍騎の身体はディケイドへと戻っていた。

理解不能だ

ディケイドはもう奴に対する手段をどうすればいいのか分からなくなりそうになっていた。

――ヒノカミ神楽 斜陽転身

「ぐあああ!!」

しかし無慈悲にも攻撃は続く

だが、だからとて屈するディケイドではない、この攻撃を利用し横へ飛ぶ

更に橋を渡らされ、半分渡り切ってしまっていた。

『FORM RIDE FAIZ ACCEL!』

再び距離をとっての変身だ

10秒の高速移動の間に…ファイズはギニューの首輪を攻撃することを決めていた

ディケイドはこれを敵を殺す為には至極当然の事と考えて現実逃避をする

そう、実力ではギニューに勝てないという現実から

奴も向かってくるが問題はない、ファイズアクセルを推す方が早い

奴は剣先をファイズアクセルめがけて向けている、だがその剣先は僅かながら届かなかった

そう思ってスイッチを押すが…

反応しない

何度押しても反応しない

――ヒノカミ神楽 飛輪陽炎

否、しっかり届いてファイズアクセルを破壊していたようだ

そして出来ている隙を逃しはしない

――ヒノカミ神楽 輝輝恩光

ファイズアクセルの薄くなっている装甲への全体攻撃だ

「ぐあああああああああああああああああああ!!」

今までにない苦悶の叫びをあげながらディケイドへと姿を戻される


826 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/19(日) 23:45:41 ???0
…今までにない反応速度で、限界を超えるスピードでカードを装填する

身体が告げている、死ぬ、本当に死んでしまうと、それに応えるように早く

『FORM RIDE AGITO FLAME !』

何とかフレイムソードを…獲物を手に入れる、これで防御を

――ヒノカミ神楽 火車

防御していた前方向からの攻撃は来なかった、後ろへ回られて今度は後ろからの攻撃を喰らう、アギトは頭への強烈な一撃で意識が朦朧としかける、声すらも出せない

ディケイドへと姿をもう四度目だが戻される。戻されながら即座にカードを装填

『ATTACK RIDE INVISIBLE』

ディケイドは…ついに逃げの道を選んでしまっていた

誇りもプライドも何もかも捨てての逃亡である。

だがギニューはそれを逃さない、持ち前の嗅覚を生かし、匂いを辿る

――ヒノカミ神楽 幻日虹

幻日虹の身体裁きを生かしての高速移動で距離をとって橋の三分の二まで渡っていたディケイドを遠回りして

頭突きを喰らわせ、透明状態を解除させた

「ぐああっ…!!」

ただの頭突きでさえも苦悶の声を上げてしまう程限界を迎えてしまっていた。

ディケイドは…咆哮する、ブームボイスの弾丸を発しながら、ここまで追い詰められた事に対する怒りを発散しながら

ディケイドは一か八か最期の切り札をする為に、カードを装填した

そしてギニューも…ブームボイスの弾丸を避けながらヒノカミ神楽の総仕上げを構える。

『FINAL ATTACK RIDE DE DE DE DECADE!』

――ヒノカミ神楽 炎舞

今、それぞれの誇りを賭けた最後の技が

ライダーキックが、剣術が

激突した


827 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/19(日) 23:51:54 ???0
「馬鹿な…!!馬鹿な…!!この我が…!!」

負けたのは…JUDOだ

遂にディケイドの変身自体が解除され、血を吐きながら地面を転がっている。遂に完全に橋を渡り切ってしまった。

「ありえない…ありえない…!!」

身体を動かす力すら湧いてこない

初めてである、絶望という感情をJUDOが知ったのは

このまま…殺される、そう悟ってしまっていた

…だが、一向に何もしてこない

(…どういう事だ?)

…あの男の声が聞こえてきた、だがその声はまるで

「ぬ!?ぬ!?ぬぁぁ!?ぬああああ!?」

苦しんでいる、藻掻いているように、手を上に伸ばしながら苦悶の表情を浮かんでいた








…19世紀のドイツの哲学者・フリードリヒ・ニーチェの格言にこんな言葉がある。

深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ

全ては、あの時に始まっていた

結論から先に言おう







ギニューは肉体…竈門炭治郎に肉体を奪い返されかけていた。


828 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/19(日) 23:55:02 ???0
F-3とE-3の境目にて

「ボディーチェーーーーンジ!!」



『ここは、何処だ?俺は…無惨と戦っていて、右目を斬られて…それから…』

始まりはギニューのボディーチェンジの時、

ギニューは鳥束との身体の入れ替えを実行し、その狙いは成功した

この時ギニューは思ったに違いない

竈門炭治郎の身体を自分の物にした、と

だが事実は違う

ギニューが気付かないことは仕方がなかったかもしれない

この殺し合い、肉体の人物も意識は封じられていながらも存在している事を

そしてギニューが行ったのは魂の干渉とも言える行為、それが互いの身体で起きた結果

竈門炭治郎とケロロ軍曹の魂に接触し、意識は目覚めてしまったのだ

だからってこの時点では何かできる訳ではない、そう簡単に縛りが取れる訳がない、そしてそのまま鳥束とケロロは貨物船に殺されてしまった

だが炭治郎はこの時点で意識が目覚め…ギニューの考えを読み取り始めていたのである。そしてギニューの思考から自分が殺し合いに巻き込まれた事、元々はあの緑のカエルの身体の人が自分の中にいた事、そして…思考を見る限り最低最悪の悪の帝王であるフリーザを生き返らせる為に殺し合いに乗っている事を

『なんて奴だ…!!このままでは俺の身体が、俺の戦いで得た全てが、鬼殺隊の想いが!!人を殺す為に使われてしまう!!』

焦る、炭治郎はこの状況に、どうすればいいのかと、ギニューは自分の持ち前の嗅覚を生かして戦っているようだった。

『早く俺を殺してください!!それが無理なら逃げてください!!早く!!早く!!』

必死に叫んでも何も目の前の少女には聞こえてくれない

(イカレてるのかこの女は…!)

『お前が言うなギニュー!!平気な顔で人を殺せるようなお前がっ!!』

ギニューの行動全てに怒りが湧いてくる、人の命を平気で踏みにじる鬼に対する感情と同じものを向けていた。


とりあえず今はギニューが逃亡を選んだ為に誰も殺さなかった

しかしこの状況がいつまで続くかは分からない、早く身体を取り戻したい

(新たな体は手に入ったが、このガキの体で優勝は難しいだろうな……)

(まぁいい。炭治郎よりも強い体を見つけたら、再びボディーチェンジすれば良いのだからな

(そうやって今までも次々と身体を入れ替えて…殺しをしてきたのか…許せない!!)

そう怒りながら何度も身体を奪おうと意識を集中させるが何も出来ない、変わらない、現実は非情である

(どうすれば…どうすればいいんだ!?)


829 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/20(月) 00:11:39 ???0
派出所に入った時も自分の本来の時代とは全く別の物が多くあったがそれに驚嘆している場合ではなかった、ただただ必死に身体を取り返そうとしていたのである。

(全集中…!!駄目だ!!全く自由が利かない!!)

何をやろうとも身体は自由にならなかった

「顔も名前も知らないが、オレに存在を察知されたのが運の尽きだ!フリーザ様復活の礎となるがいい!」

(駄目だ…嗅覚を抑えられない…早く誰か…俺を殺してください!!お願いします!!お願いします!!)

必死に祈る事しかできなかった。

茶色の髪をした女性と金色の髪の女性を不意打ちで襲った時、炭治郎はギニューをどこまでも相いれない男であると改めて理解した。

早く身体を奪還する為、そして良い人であると匂いで分かった二人を守る為に全身でめちゃくちゃに暴れようとする

その結果…少しだけ自由になった。

だがそれが皮肉にも…ギニューが急速に身体がなじむきっかけになった

(な、なんだこれは!急に力が湧き上がってきたぞぉぉぉぉぉ!!)

水の呼吸・壱ノ型 水面斬り

『何で…?何でそうなるんだ…!?何でお前がそれを使えるようになるんだ!?実際に教えてもらったのは俺のはずなのに!!』

使われてしまった、鱗滝と共に必死の訓練の果てに身につけた水の呼吸が、そして…深手を負わせてしまった。恐らく俺がギニューの記憶を読んでいるように俺の記憶も読まれているからと推測出来た。だがこの男は俺の想いなんぞ少しも読み取りもしないだろう、本当に最低最悪だコイツは

罪悪感で吐きそうになる、苦しくなる、辛くなってくる、でも折れちゃいけない、俺は長男なんだ、でもそれだけじゃ今回は折れそうだから鬼殺隊の一員である誇りも乗せて奮い立たせる。

と同時に自由に少しだけなった感覚もあると気づく

だがそれでもギニューの攻撃を阻害できそうにない

幸いにも、二人は容赦ない攻撃をしてくれている。これなら俺を殺してくれるかもしれないと思う

だがこの男の戦闘センスは二人を殺さんと牙を向いている

そして激しい爆発の果てに…

「散々手こずらせてくれたが……最後に勝利を手にするのはオレのようだな!」

「感情としては貴様らは、存分にいたぶってから殺してやりたいところだが……。それでまた逆転のチャンスを与えてしまってはかなわんからな。
 一撃で心臓を貫いてやる!」

『やめろ!!やめろっギニュゥゥゥゥゥゥ!!』

無意味かもしれないと分かっていても止める為に本気で干渉しようとしたがその時

悪い人の…正確に言うと嘘を言っている匂いがする人が来てくれたおかげで殺さずに済んだ

だがギニューが奪った支給品にある賢者の石による回復、そしてギニューがその後に下した決断に…焦りは増加してしまった

あんなに傷ついてボロボロにさせてしまった少女達だ、回復手段があってくれるならと願うがもしなかったとしたら…すぐ俺が殺してしまう

あの嘘をついている緑の人が俺を殺してくれればと願うが…


830 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/20(月) 00:15:54 ???0
そして彼等がいる民家に乗り込んでしまったギニュー、ベルデと激しい激闘を繰り広げる。炭治郎は相手が隙をついてくれる事を信じてわざと隙を作ろうと必死に干渉した。

その結果自由をまた少し取り戻せた。結局隙は作れなかったが

ギニューが次々の水の呼吸の攻撃をしてしまっている現実と引き換えに

(喜べ炭治郎。フリーザ様復活の為に、貴様の力はオレが存分に使ってやる)

『ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!俺が身につけた力は鬼を、無惨を倒すための力だ、妹を、禰豆子を元に戻す為の力だぁぁ!!お前のような他人を踏みにじり、かけがいない命を殺すような奴が使っていい力じゃないんだぁぁぁぁぁぁ!!』

激情と共に自由を取り返そうとするが何もかもが無意味だった。

そもそも参加者がメインであるはずの殺し合い、身体の提供者が簡単に出てきたら殺し合いの前提自体が壊れてしまう。故に炭治郎も干渉する事は出来なくて当然である。

そしてギニューは、俺の身体は、近づいてしまう、あの何も罪がない茶色の女の子を殺すために

やめろ!!やめてくれ!!本当にやめてくれ!!善逸に!!伊之助に!!煉獄さんに!!鬼殺隊の皆に…そして禰豆子に!!どんな想いをさせる気だぁぁぁぁぁぁ!!

叫ぶ、懸命に叫ぶ、禰豆子は鬼だ、人を食いたくてたまらないはずの鬼なんだ、でも、誰一人人を殺さないようにして必死に頑張ってるんだ

それなのに兄である俺が人を殺したら、もう禰豆子と一緒にいる資格はない、兄を名乗る資格はない、いや、そもそも鬼殺隊にいる資格も、何もかも崩れてしまう、俺の何もかもが
何度も叫ぶ、喉が壊れそうになっても叫び続ける、だが止まらない、絶対に

遂に…刀を振って…

「「や…め…ろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」」

…この時同じ叫びをしていたのだ、リトと炭治郎は

同じ想いを持っていた、目の前の人に死んで欲しくないという想いを

そしてその想いは成し遂げられた

結城リトという少年の死を引き換えに


831 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/20(月) 00:19:15 ???0
俺達の家族が…禰豆子以外全員殺された前日に思った事がある

幸せが壊れる時はいつも血の匂いがする

今、俺は目の前の何も罪がない人は大量の血を流して倒れている…
誰がやったんだ?
俺は鬼殺隊の一員だ、人を食う鬼を倒してこれ以上悲劇を起こさないようにしなければいけない

こういう時は血の匂いを辿るのが1番だ、なぜなら人を食べた鬼の口にはまだ血が残っている事が推測出来たからだ、その推測の理由は血が凝固していない、まだ液状だ、つまり時間が経っていない事を示している。

そして匂いを嗅いでみる。…あぁこの血の匂いと同じを発しているのは


俺の日輪刀だ
ビキッ

炭治郎は思考を停止してしまっていた。現実を信じられなくて

その目の前の金髪の女の子は死にそうになりながらも魔法を使って、俺から茶色の女の子を守っていた。
遅れて緑の鎧の人が復活する、でももう遅い、彼は、俺が斬ってしまった

茶色の女の子は目が覚めて必死に何かをしている。治そうとしているのかもしれない

その途中に俺と同じ声で最悪な事をアイツは、ギニューは言った

「あの小僧の事か?フン!弱い奴から死んでいくのは当たり前だろう!」

この言葉はしっかりと耳に焼きついたが今は彼の無事を祈る事しか考えられなかった

何か他の人がやってきたが今は彼の事しか考えられなかった

だが匂いは伝えてきた。どうしようも無い彼の終わりを

そして善逸程耳が良くなくても…聞こえてきてしまう

「ご……め…ん…………」

「結城さん…!なんで…なんでぇ……!!」

彼の最期の言葉、そしてそばにいる彼女の涙声が

ピキピキピキっ
心が、心がひび割れていく
『あ…あぁ…』

彼の最期の言葉、ごめん、は誰に向かって言っていたのだろうか
目の前の彼女だろうか?それとも彼の元の世界の仲間に向かってだろうか?
彼の言葉の匂いには後悔しか感じられなかった、自分の大切な仲間にたいする申し訳なさを強く感じてしまった。

何で彼が謝るのだろうか?彼は何も悪い事をしていないのに
彼はこの殺し合いに巻き込まれなかったら、巻き込まれても死ななければ誰かに謝る必要なんてなかった
何で彼は謝らなくちゃいけなかったんだろう?

ピキピキパキピキっ


『ああぁ…あああぁ…!!』
彼女は泣いていた、彼を守れなかったから
自分のせいで彼が死んだから
違う、君のせいなんかじゃない
君は仕方がなかったじゃないか、あれ程の深手を負っていたんだから、休む為に休憩をとる必要があったんだから
君は絶対に悪くない
…じゃあ誰が悪い?

ピキパキピキピキバキャッ

決まっている
彼女と彼と彼の元の世界の仲間の幸せを壊したのは

たった1人

俺だ

俺は人殺しになってしまった

パリーン

『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁっっっっ!!』


832 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/20(月) 00:22:29 ???0
炭治郎には様々な人達との思い出があった

大切な家族との暖かい思い出や

鬼殺隊との厳しい訓練、だが想いを分かちあってお世話になったり、生き様を知ったり、互いに高めあった思い出等が

この思い出を胸に炭治郎は今まで戦ってきた。

だがその思い出は黒く塗りつぶされてしまった。ほんの数分で

自分の欲望だけの為に全てを踏み躙る悪によって

それからはもうずっと涙を流し、叫び続け…いや、発狂していたと考えてもいいだろう。外の様子は少しも頭に入ってこなかった


次に外の様子に目を向けた時にはもうギニューはトビウオに乗っていたのである。

『…何で俺死ななかったんだろう』

早く殺して欲しい、早く死にたい、罪人となってしまった俺はさっさとこの世から消えるべきだ


そう思って自分の日輪刀で腹を切りたいという考えを持った時

何故か…何故か分からないが身体が動いてくれる予感がしたのだ、今まで全く自由が効かなかったというのに

…そして炭治郎は察した、彼を殺した時のとてつもない激情、更にギニューが連続で水の呼吸を使った事によって魂の縛りが緩んだのだと

今だったら彼を殺すのを止めれたはずだ、遅すぎるけれど

…だが、感覚でわかる、まだこのままでは身体を奪い返せない、奪えたとしてもほんの一瞬だ

まだギニューは俺の身体になじみ切ってない、完全に馴染まなければ俺は俺を取り戻せない

どうすればいいのか、考えて…ふと思い出した

『記憶の遺伝』

俺の身体は先祖である炭吉さんと耳飾りの剣士の出会いの記憶を時々思い出す事があった

…もしかすると俺の記憶もギニューに伝える事が可能なのでは?

奴は願いの為にもっと強くなる事を望んでいる、なら引っかかるはずだ

よし…奪え返そう、俺の身体を


そして俺が殺してしまった彼の分まで多くの人を護って

そして最後は…彼の…結城君の墓の前で腹を切ろう、罪人として

そう考えた以上…悲しんでなんかいられない、悲しいけど…立ち直らなくちゃいけない


833 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/20(月) 00:26:17 ???0
こうして炭治郎は様々な記憶を見せて、強くなるきっかけを作った。時には気絶したギニューを強引に目覚めさせたり、透き通る世界に入るキッカケを作る為に視界を乗っ取ったりもした

運が良かったのは悪党かつかなり強いJUDOが近くによってきた事である。彼が身体を奪い返す総仕上げになってくれた。
彼と戦う為に宇宙船へ行くという目的を吹き飛ばすくらい戦闘の記憶を見せたり、魘夢の時と同じように戦え!!と声を張り上げたのは大変だった。


そしてヒノカミ神楽をギニューは完成させた。この瞬間、竈門炭治郎として身体が成った事を確信した。今ならいける。奪い返せる!!
遂に大きくギニューの精神に干渉し…!!捕らえた!!

(な、な、な、何だ!?何が起きて、ぐおおお!?)

「漸く、漸くだ、ギニュゥゥゥゥゥゥ!!この時をずっと、待ってた!!お前のような悪から、身体を、鬼殺隊の誇りを、奪い返す時をっ!!」

遂に、遂に炭治郎は身体を奪い返したのだ

だがまだだ、ギニューは抵抗を続いている。

ここにいてはダメだ、またコイツがJUDOとボディーチェンジをして逃げかねない

だがその前に、この、JUDOという男に…少しやっておきたい事、そして必ずやらなければいけない事がある

炭治郎はギニューの抵抗を抑えながらJUDOに急接近、そしてまず頭に手を当てて

「ぐあっ!?」

ある事をした、それについては後で話そう

そしてそれと同時にディケイドライバーを腰から強引に取り上げる。これでディケイドの力に傷つけられる人はいなくなるだろう

そして…ギニューの抵抗を抑えつきながら炭治郎はこの場を去っていった

「ま、待て…!!貴様…!!」

追う気力はなかった、そして体力も限界だったJUDOは気絶した。

こうして大首領JUDOはディケイドへの変身をする資格を失った。

残った物はライドブッカー、それもガンモードへ変更出来る物のみ

大首領を名乗る者としてはあまりにも寂しすぎる武装の数だった

【大首領JUDO@仮面ライダーSPIRITS】
[身体]:門矢士@仮面ライダーディケイド
[状態]:負傷(極大)、疲労(極大)、全身に大ダメージ
[装備]:ライドブッカ―@仮面ライダーディケイド
[道具]:基本支給品×2(リオン)
[思考・状況]基本方針:優勝を目指す。
0:…
1:馬鹿な…!!我が…ここまで…!!
[備考]
※参戦時期は、第1部終了時点。
※現在クウガ〜響鬼のカードが使用可能です。が、そもそも変身できない以上意味がありません


834 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/20(月) 00:30:35 ???0
炭治郎は匂いで探りながら周りに人がいない所へ移動していた。ここでギニューを完全に消滅させる気だ

そのために何をするのか?

炭治郎に1番馴染んでいる動きをし続けるのだ

ヒノカミ神楽、これが1番である、そもそもヒノカミ神楽は厄払いの神楽、ギニューという厄を払うのにはうってつけである

再び神楽を始める炭治郎の身体、ただし今度は炭治郎自身で始める神楽だ

『ぐ、ぐあああっ!!き、貴様、まさか今までオレが見た物は、オレから身体を奪うためのものだったのか!?ぐ、がぁぁ!!』

「そうだ!!お前が強くなりたいと思っていたからこそ通用したんだ!!」

ギニューは自分が調子に乗りすぎていた事を悔いた。思えばあそこまで強くなった事自体出来すぎだと考えるべきだったのだ、だがもう遅い

神楽は早くなっていく、その度に…ギニューは意識が薄れていく

『お、おのれェェェ!!…ば、ばかな…!!』

このままいけば…ギニューは消えるだろう





だが、幻日虹が終わった瞬間である

(な、何だ!?この匂いは!?何処からか突然!?)

一旦中断し、後ろを振り向いたら、そこに居たのは

オレンジ色の道着、青い帯、トゲトゲした髪の男

ギニューがよく知る男、孫悟空がそこにボロボロに倒れながら現れた

…運はギニューに味方していた

(あれ?ここどこだゾ?オラはミチルちゃんと一緒に戦ってたはずじゃ…)

未だに身体中を激痛が襲っていてろくに動かせないが、軽く落ちた衝撃で目が覚めたのだ

(何でこんな所に…そしてこの人は…ダレ?)

すると…目の前の男は…

「ククク…ど、どうやら…運に、オレは、見放さ、れて、…いなかったようだな!!」

冷酷な雰囲気に一瞬で変貌した


835 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/20(月) 00:35:00 ???0
『今だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

「何っ!?しまっ―」

突然現れた人物に炭治郎が驚いた隙にギニューは死に物狂いで気を高める。例え炭治郎の身体で集めにくいとしても、このままでは自身は消滅し、フリーザ様を復活させる事など出来ない。

死中に活、ギニューは今までにない気の量を集めていた。その結果、再びギニューが身体の主導権を得た

『まだここまで力があったのか!?』

「ギニュー特戦隊隊長を舐めるなァァァ!!」


これに対しギニューは…ボディーチェンジをする事を決めていた。

理由は至極単純、再び身体を奪い返される事による消滅が嫌だからだ、ボロボロの身体、そして一度も慣れる事が出来なかった身体だが、強さは本物、消えるよりはマシに違いないと考えた

炭治郎はギニューの思考を読み焦る。このままでは今度はあの身体が悪用されてしまう、と

炭治郎は何とか阻止しようとするが駄目だ、今度ばかりは超本気のギニューだ、ボディーチェンジを抑える事が出来そうにない

だから、だからせめてこれだけでも言わなければ

「避けてくださいっ!!」

そして

「ボディーチェーーーーンジ!!」

黄色い光線がしんのすけに放たれた

(な、何かくるゾ、よ、避けなくちゃ…痛ッ!!)

身体の痛みがしんのすけの回避行動を妨げる、それにそもそも動けるパワーすら湧いてこない

(い、今のオラ…じゃ…無理、だゾ…)

諦め…





(…って決めちゃダメだゾ!!)

てはいない!!

オラには背中を任せてくれる仲間がいる、ここで諦めたらその人達にも申し訳ない


と言っても痛みでろくに身体が動かないのは事実、だが


(…そういえば今ほんの少し気絶していた時に、悟空のおじさん瞬間移動していたのを見たような)


先程運はギニューに味方していたと書いたが…訂正しよう、本当に味方していたのはしんのすけだったようだ


(確かこんなふうに)


人差し指と中指をおでこに当てて、念じた瞬間


…光線の逆方向に瞬間移動する事に成功していた


836 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/20(月) 00:45:24 ???0
「ば、ばか…な…」

ギニューは知らなかった、孫悟空にあんな能力があった事を

まぁ知らなくても仕方がない、悟空の瞬間移動はフリーザとの戦いの後に身につけたものだ、

戦っていた当時はまだ身につけていなかったのだから

だが今重要である事はそれでは無い、光線を外してしまった事実の方である。

…そしてそもそもの今までの話に合わせて根本から説明して今後の展開を話す事にしよう

おかしいと思わなかっただろうか?

幾ら炭治郎の身体に完全にギニューが馴染んだからって簡単に乗っ取れる事なんてありえないと思った人もいたはずだ、そんな例今までひとつもないのだから、そしてそもそも様々な情報を伝える為に炭治郎は過去の戦いの記憶等を思い出してきたがそれら全てがギニューに伝わっているのはどういう事なのだろうか?

だがギニューの場合はその例になりうる素質があったのだ


セロハンテープはご存知だろうか?

離れている物同士をくっつけ合うことが出来る工作において使用され易い物の事である

セロハンテープは1度目はくっつきやすいがそれをはがして使い回すと効果が薄くなってしまうものである。

つまり、固定されている物を再び剥がすことが推奨されていない物でもあるのだ

ここまで言えば分かるだろう

ギニューは本来ケロロ軍曹と運営によってガッチリ固定されているはずだった

だがボディーチェンジで強引に固定を外し炭治郎とくっついた結果

彼の精神はこの殺し合いにおいて不安定な物になっていたのである。その為に炭治郎の記憶もしっかりと受け止めてしまっていた

そして更にボディーチェンジの技を使用中はギニューの魂の固定は外れている。そうでもしなければ入れ替える事が出来ないからだ。

だがボディーチェンジは失敗、そして固定は外れたまま

つまり

「あああああ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁっっっっ!!」

炭治郎は再び干渉を行う、ヒノカミ神楽をもう一度踊りなおし始めた、ギニューの意志と裏腹に

そうして踊りながら炭治郎のあの時の絶望の叫びと同じ声を上げているのは何の因果だろうか、ギニューの…魂は…消滅しようとしている


837 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/20(月) 00:57:12 ???0
『終わりだ、ギニュー!!』

「やめろぉぉ!!消さないでくれ!!オレを!!消さないでくれェェェ!!」

『…お前が殺した少年の事、今はどう思ってる?』

「悪かった!!本当に悪かった!!もう殺しはせん!!本当だ!!」


『…じゃあこれからどうするつもりだ?』

「護る為に戦う!!力がない奴の、た、為に!!そ、そうだ、オレと人格を入れ替えながら戦おう!!オレは気の扱いが上手い!!お前は剣で、オレは光線!!近距離も遠距離も対応して戦えるぞ!!」

炭治郎は少し考える、思えばディケイドの戦いの時も2人が同じ攻撃を思って攻撃した時、攻撃が強くなっていた、思いが合わされば強さも増す…という事だ、そう考えると悪くない相談だ

だが

『良いかもしれない、でも無理だ』

「な、何故だ!?」

『お前が嘘をついているからだ、ギニュー、お前はまだ殺し合いに乗るつもりだ』

匂いで分かっていた、フリーザへの忠誠心は何も変わっていない事を

歯ぎしりするギニュー

『お前のフリーザにたいする忠誠心は本当に凄いと思う、俺も同じくらい尊敬している上司がいるから』

思い浮かべるはこの殺し合いには招かれているが自分の世界では無惨を道連れに自爆した産屋敷耀哉

『だけど、フリーザも、お前も、俺が最も嫌いな人殺しを平気でやれるやつだ、お前達を…許すわけにはいかない』

…すると、精神世界に、まず死んでしまった竈門一家全員が現れる

「だ、誰だぁ…貴様らは…!!」

次に耳飾りの剣士、御先祖様である炭吉夫婦、も

同期の隊員である4人も、更に柱達も

そして村田達鬼殺隊のモブ達も、刀鍛冶の里の刀匠も、浅草の男も

皆、皆が炭治郎の思い出が、ギニューを消滅に追い込んでいく

「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

もがく、もがいてももがいても思い出の濁流に流されていく、想いを理解出来なかったギニューが因果応報も言わんばかりに消えてゆく

そして最後に…最愛の妹禰豆子も現れる

『後最後に…これだけは言っておく、お前、あの小僧の事か?フン!弱い奴から死んでいくのは当たり前だろう!と言ったよな?馬鹿にしたよな?あの誰よりも勇敢な少年の事を」

猗窩座の時と同じ言葉を向けた

『生まれた時は誰もが弱い赤子だ、誰かに助けてもらわなきゃ生きられない、強い者は弱い者を助け守る、そして弱い者は強くなりまた自分より弱いものを助け守る、それが…自然の摂理、生まれ変わったらもう間違った事をしないように、覚えていてくれ』

その言葉を聞きながら、ギニューは…心底後悔している

(間違っていた…間違っていた!!この男の身体と…身体を…入れ替えては…いけなかったぁぁぁぁぁぁ!!)

天を仰ぎながら、手を伸ばしながら、ヒノカミ神楽を、踊りきってしまった肉体から、上がっていく、魂が

「フリーザさまァァァァァァァァァァ!!」

主君の事を思いながら…ギニューの精神は消えていった

【ギニュー@ドラゴンボール 死亡】


838 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/20(月) 01:01:13 ???0
「…完全に取り戻せたな」

今の炭治郎は何も抵抗を感じない、漸くギニューを完全に倒せた

…何で俺の精神の中にもう現れてはいけないはずの、俺はもう一緒にいる資格がない人達が現れたのかは分からない

もしかして俺はまだ未練が…!!

…だめだ、駄目なんだ、俺は罪人なんだ。皆と一緒にいてはいけないんだ

凄く悲しい顔でそう思いを閉じ込めた

「あ、あの…貴方は…」

ボディーチェンジを避けてくれた人にお礼を言わなければ、そう思いました彼を見ると再び気絶していた

実を言うと炭治郎が身体を取り戻すまでは警戒して目を覚ませていたのである。だが炭治郎の優しい雰囲気に警戒心も抜けて気絶したのである

「この人…ボロボロだ」

治してあげたいが賢者の石は今もう持っていないし、そもそも今は使えない、一刻も早く病院に連れていくべきだ、そう思い彼を背負い病院へ向かう事に決めた。

血の匂いが 強く、でも哀しい感情を秘めていた匂いを感じた参加者、そして変身道具を奪い、ある干渉をしたJUDO、そしてあの民家にいた殺してしまった人の仲間である茶色の少女と嘘をついている緑色の鎧をまとう白服の人

彼等も気になるがまずはこの人からだ

そう思い病院へ一直線に突き進んだ…自分も身体がボロボロである事を気づかずに

身体を取り戻した真面目で勇敢な純朴な罪を背負った少年の未来はどんな物になるだろうか?

そして、このチェンジロワにおけるイレギュラーはこの殺し合いにどのような風を吹き込むのだろうか?

【E-3の川の近く/昼】

【竈門炭治郎@鬼滅の刃】
[身体]:竈門炭治郎@鬼滅の刃
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、上半身に火傷、右腕に切り傷、全身に音によるダメージ
[装備]:竈門炭治郎の日輪刀@鬼滅の刃、エドワードのコート@鋼の錬金術師、
[道具]:基本支給品×3、ランダム支給品0〜1(鳥束の分)
[思考・状況]
基本方針: 多くの人を(特にあの茶髪の女性)守り罪を償って最後に自決する
1: まずはこの人(しんのすけ)を病院に
2: この場にいる隊員の人達とかさっき会った人達とか色々考えなくちゃいけないがとりあえず走りながら考えよう
3: 彼…確か結城君って言われていた人、本当にごめんなさい…
4:肉体の精神の想いとその肉体を与えられた参加者の想いが同時に合わさったら強くなれる…か
[備考]
※参戦時期は無限城編
※ギニューの魂のみが成仏しました
【エドワードのコート@鋼の錬金術師】
国家錬金術師、エドワード・エルリックのトレードマークである赤いコート。
フラメルの十字架の大きなマークが入っている以外は、ごく普通の衣服。
鳥束霊太に支給された。

【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[身体]:孫悟空@ドラゴンボール
[状態]:体力消耗(特大)、ダメージ(中)、腕に斬傷、胸部に斬傷(大・止血済み)、貧血気味、右手に腫れ、左腕に噛み痕(止血済み)、決意、深い悲しみ、気絶
[装備]:ぴょんぴょんワープくん@ToLOVEるダークネス(6時間使用不可)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:悪者をやっつける。
0:…
1:おじさん(産屋敷)とちゃんとおはなししたい。
2:逃げずに戦う。
3:困っている人がいたらおたすけしたい。
[備考]
※殺し合いについてある程度理解しました。
※身体に慣れていないため力は普通の一般人ぐらいしか出せません、慣れれば技が出せるかもです(もし出せるとしたら威力は物を破壊できるぐらい、そして消耗が激しいです)
※自分が孫悟空の身体に慣れてきていることにまだ気づいていません。コンクリートを破壊できる程度には慣れました。痛みの反動も徐々に緩和しているようです。
※名簿を確認しました。
※気の解放により瞬間的に戦闘力を上昇させました。ですが消耗が激しいようです。
※悟空の記憶を見た影響で、かめはめ波、瞬間移動を使用しました。

【ぴょんぴょんワープくん@ToLOVEるダークネス】
ララの発明品である生体単位での短距離ワープを可能とする機械。
初期は行き先を指定できず、衣服はワープさせられない等の欠点があった。
後に改良された際に上記の欠点は無くなったが、据え置きタイプの為片道ワープしか出来ない。
支給されたのは初期の腕輪型。
本ロワでは主催者に手を加えられ衣服のワープも可能であるが、使用すれば装着者のみをランダムに禁止エリア以外の場所にワープさせる。
一度使用すれば6時間使用不可となる。


839 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/20(月) 01:04:02 ???0




炭治郎がJUDOにしたある干渉、それはボディーチェンジを応用した魂への干渉だ

ギニューの気のため方、そしてボディーチェンジを受けた時に感じた気を応用した物だ

正直に言おう、成功率はかなり低い、何故ならそもそもドラゴンボールの気は炭治郎の扱いの対象外、5%の確率で門矢士の精神は目覚めると考えてもいいだろう

だが今は1番大事な事を話そう


ディケイド響鬼の時の戦いにおいて火炎弾を大量にばらまかれた事は忘れてないだろう?
そしてその火は…












風都タワーにも燃え移ってしまっていた

何故炭治郎は気づかなかったのか?それは嗅覚の酷使が原因だ

様々な要因の為に嗅覚を限界まで使いすぎた炭治郎の鼻は一時的な麻痺に陥ってしまっていた
これによって焦げる匂いすら気づけなかったのである

そしてそのタワーには一番謝りたい茶色の髪の女の子もいる事をまだ知らない

風都タワーが燃え始めました、周囲にはJUDOと竈門炭治郎のデイパックも置いてあります。


840 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/20(月) 01:04:19 ???0
…以上で投下は終了です


841 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/20(月) 01:23:14 ???0
まず、ギニュー休憩からの追跡〜ギニューVSディケイド開始までのタイトルは『迫る超決戦!ギニューVSJUDO!!』
それ以降の話から響鬼によって追い詰められるまでのタイトルは『バトルワールド』
それ以降の話からJUDO変身解除までのタイトルは『ヒノカミ神楽』
それ以降の話からしんのすけ登場までのタイトルは『絶望への反抗!!炭治郎起死回生の策!!』
それ以降の話から最後までのタイトルは『嵐を呼ぶ!!チェンジロワ最大のイレギュラー!』

でお願いします

そしてお詫びを申し上げます。今回、期限は23時38分まででした。

なので、以前注意されたことを気を付ける為にギリギリではなく、15分余裕をもって21分に投下を始めました。

ですが、文章の区切りに苦戦した結果、1時4分に文章の投下が終わりました

これではやはり駄目だったのではと思ってしまいます。

本当にすみませんでした


842 : ◆OmtW54r7Tc :2022/06/20(月) 01:40:06 SWAqIhDM0
投下乙です
今回、肉体が精神をのっとって消滅させるという展開ということで、確かに物議をかもす内容ですが、自分は面白くていいと思います
ギニューが炭治郎の身体に馴染んでいくのを逆に利用した点やセロハンテープの理論など、なるほどと思わせる理由付けがされていて特に気になるとこもなかったです
ただ、幾つか気になった点があるので指摘させていただきます
まず、>>831のこの場面

その目の前の金髪の女の子は死にそうになりながらも魔法を使って、俺から茶色の女の子を守っていた。

状況を考えれば金髪の女の子というのは蘭子姿のジューダスだと思うのですが、蘭子は銀髪なので、銀髪の間違いなのではと思いました

次に最後の場面、「5%の確率で門矢士の精神は目覚めると考えてもいいだろう」
ここで、門矢士の精神が関係してくる理由がよく分からなかったです

そして最後、遡ってしまうのですが最初の場面
ギニューは、D-4の街にそれなりの時間潜伏していたような描写になっていますが、この点について気になることがあります
ジューダスの存在です
彼は、ラブボムによるレーダーで近くにいる悪人を探知できます
ギニューが風都タワーでJUDOが吹っ飛ばされるタイミングまでそこにいたのなら、ジューダスに探知されてるのではないでしょうか

以上が指摘です
次に、ちょっと提案があるのでここで一緒にします
前述の、ジューダスのラブボムレーダーについてです
このレーダー、範囲を現在地と周辺八方向としましたが、今になってかなり広く範囲を取りすぎたなと思います
このレーダー、状況によっては今回のギニューのように不都合が出てしまうので、範囲を広くとってしまうと参加者の動きを制限し、展開を狭めてしまうなと後悔しております
幸い、ここまでジューダスは近場の参加者の探知しかしていません
ですから、今のうちに探知範囲を現在地のみに変更しようと思うのですが、どうでしょうか
ご意見待ってます

最後に
色々指摘しましたが、今回の展開は面白くて楽しませていただきましたので、ぜひ採用されてほしいと思いました
ただ、文章の区切りに苦戦しただけでレス間の投下間隔が10分とか15分も空くものだろうかというのはちょっと気になりました
ともかく大作乙です、以上です


843 : ◆OmtW54r7Tc :2022/06/20(月) 01:42:45 SWAqIhDM0
あ、すいません、もう一つ大事なこと忘れてました
今回のタイトル、なんでしょうか


844 : ◆OmtW54r7Tc :2022/06/20(月) 01:49:43 SWAqIhDM0
と思ったら、すいません、投下終了宣言の後、ちゃんとタイトル発表してましたね
ただ、五分割もしてますし、具体的な区切り位置をレス番号で知らせてくれた方がいいかもしれないです
連投失礼しました


845 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/20(月) 02:25:28 ???0
◆OmtW54r7Tc さん
面白いと言っていただいて、感想をしてくださって、面白いって言ってくださって本当に嬉しいです。
実を言うと◆s5tC4j7VZYさんの「変身 Ungeziefer? Human?」「変身 Kamen Rider」がこれを描きたいと思うきっかけになりました、これについてのレスでこういう展開もあり、って書かれていたのも書く事のきっかけになりました

そして指摘に対する回答をさせていただきます。

その目の前の金髪の女の子は死にそうになりながらも魔法を使って、俺から茶色の女の子を守っていた。→まず最初にごめんなさい、書き間違えていました!!これ、女の子ではありません!!男の子です!!書き間違えていたのを気づかずにssとして出してしまっていました!!男の子と書き直せばくだされば金髪の男の子、
ユーノ・スクライアの身体であるリトであるとつじつまが合うはずです

次に5%の確率で門矢士の精神は目覚めると考えてもいいだろう→これに関しては自分と同じように悪い奴が使っている身体の魂に一か八かで接触する事で目覚めて欲しい、もしいい人だとしたら殺し合いに乗る人を減らせると考えた炭治郎がギニューが精神に残っているうちに光線を発射する能力+自身がボディーチェンジを受けた時の感覚をぶっつけ本番で再現して脳を刺激した事によって、門矢士が目覚めるという事になる確率を出したものです。
要は炭治郎流全くやったことないぶっつけ本番なんちゃってボディーチェンジ超劣化版(チェンジはしない)である為に目覚める確率はほとんど低い為に5%にしました、門矢士の精神が関係しているわけではございません

ラブボムレーダーに関しては確かに迂闊でした、そこら辺の範囲に入らないギリギリにいた…というのは苦しいでしょうか?ですが、しっかりそれに関しても配慮してくださって本当にありがとうございます。

そして文章の区切りに関してですが、これについては本当にごめんなさい、私はつい長文を書くのが癖なのでどうしてもどこで悔いればいいのかが分からなくなってしまうんですよね

なのでどれくらいの文字数が一レスの限界なのか、教えてくださるでしょうか?

では失礼します。


846 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/20(月) 02:27:33 ???0
…本当誤字多くてすみません

面白いと言っていただいて、感想をしてくださって、面白いって言ってくださって本当に嬉しいです。→感想をしてくださって、面白いって言ってくださって本当に嬉しいです。

男の子と書き直せばくだされば→男の子と書き直せば

です


847 : ◆5IjCIYVjCc :2022/06/20(月) 21:02:29 EdJxcbsA0
投下お疲れ様です。
復帰最初の投下でしたが、話はよくできていて、面白いと感じられます。
ですがやはり、私の方から言及・指摘した方がいいと感じたことがありますのでここに書かせていただきます。


まずは、他の方々も気にしているであろう「身体側の参加者が精神側の参加者の立場を乗っ取る展開」の是非について企画主である私の見解を述べたいと思います。

本当の事を言いますと、実は私は身体側の参加者の精神が表立って動く展開を好ましいとはあまり感じていないのです。
理由としてはやはり、このロワの基本テーマが自分とは別の存在の身体で戦うというものであり、上記のことはそれから外れているように感じていたからです。

しかしこれまでは、話の内容の面白さや面白いと感じている方々がいること、その話の内容の根幹に関わっていること、そして時間をかけてせっかく書いてきてくださったものを無下にはできないと思い、通してきました。
今回の話に関しても、これらの事柄に該当すると感じています。
そのため今回の結論は、ギニューと炭治郎に関して内容の大きな修正等は求めないこととします。

けれどもやはり、今の炭治郎の状態はこのチェンジ・ロワイアルの基本中の基本のルールに抵触しているようにも感じています。
実は今、このことについて、第二回放送が行われる際に主催陣営に何らかの対応をさせようかと考えているところであります。
また、場合によっては他の参加者に関しても似たような感じで主催陣営に何かしらの行動をさせるかもしれません。
ただ、あくまでまだ構想中の段階であり、予定が変更される可能性もあります。
ですが、放送後にどんな結果になろうとも、皆様方には受け入れてもらうことを願っています。


そして最後に、状態表について指摘したいことがあります。

今回の話ではJUDOの現在地が記されていませんでした。
この点については追記修正をお願いしたいです。

それから、ギニューの持ち物の中にあったアクションストーン、トビウオ、賢者の石、警棒、合計4つの物品は炭治郎の状態表の中にありませんでした。
これらは風都タワー近くに置いてあるとされているデイパックの中にあると考えてもよいでしょうか。

また、今回炭治郎が奪ってそのまま持ち去ったとされるディケイドライバーもまた炭治郎の状態表の中にありませんでした。
これについては単に書き忘れなのか、それともこれもまた風都タワー近くのデイパックの中にあるのか、この点についてもお聞き願えませんでしょうか。


今回の私からの連絡はこれで以上となります。
何か意見等があればお申し付けください。


848 : 名無しさん :2022/06/20(月) 23:36:12 7qU8gU7k0
すみません、細かいことなんですけど気になった点があるので指摘させて頂きます

ギニューが回復を優先する為にD-4の民家に留まったとありますが、いくら炭治郎の嗅覚で察知可能とはいえジューダス達と同じエリアに留まり続けるのは迂闊すぎじゃないでしょうか
描写を見るに睡眠も取っているようですし、流石に油断し過ぎな気がします

風都タワーにも火が燃え移ったとありますが、そもそもこの時のJUDOとギニューが戦っているエリアはどこなのでしょうか
D-4であれば、タワーに火が燃え移る程の戦闘が行われているなら、展望室にいるとはいえ蓮たちが異変に気付く可能性が高いでしょうし、
E-4であれば、隣のエリアの建造物を燃やせるような攻撃が放たれているなら、それだって蓮たちが全く気付かないのはおかしいですし、そもそも響鬼の攻撃ってそんな広範囲だっけ?と疑問があります

これらについては自分が細かすぎるだけかもしれないので、無視して頂いても構いません。

ただ今回の炭治郎が肉体を奪い返すという展開は、流石にやり過ぎではないかと感じました。

これまでも肉体側の精神が復活する展開は確かにありました。
ですが、エボルトに肉体の主導権を完全に握られている千雪、ロワ進行中はナナへ干渉不可能となった斉木等、肉体側が常に出ずっぱりな展開にはなっておらず、
以前ちょっとした議論になりかけたおっこについても、宿儺の設定的には有り得ないとも言い切れませんし、体の主導権がおっこのものに戻ったのでもありません

しかし◆P1sRRS5sNs氏が今回投下した内容は、◆5IjCIYVjCc氏の仰った通り「別人の体を動かして戦う」という根底のルールを破綻させる内容に感じられました
ボディーチェンジが原因で精神が不安定になったと、きちんと理由付けをなさっているのは承知しております
ですがそれだと、だったら何でギニューを参加させたんだとか、何故ボディーチェンジに制限などの対策をしなかったのかという、主催陣営にしてはあまりにもお粗末な参加者選抜に思えます

◆P1sRRS5sNs氏が今回復帰作ということで気合を入れて執筆した作品なのは理解しております
JUDO対ギニューのバトルや、炭治郎の悲痛な描写など話としては文句なしに面白かったです
しかしやはり自分には今回の話は申し訳ないんですがやり過ぎと感じました


849 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/21(火) 07:43:57 ???0
◆5IjCIYVjCc さん、返信、ありがとうございます。

実を言うと今回の内容は私としてもしっかりロジックを考えた上で

炭治郎の身体の体質である『記憶の遺伝』によるギニューへの全ての情報伝達の成功

ギニューのボディーチェンジの弱点とリスク

そしてたまたま光線を避ける事が出来るしんのすけが近くにやってきた奇跡

更に私はこれに少し追記して、身体の孫悟空がボディーチェンジを一度受けて嫌な思いをしていた為に本能で避けないと感じた上での回避成功(今からその文章を追加します)

による数多の奇跡が、偶然が重なって身体を取り戻せました。

…ですが、実を言うと私の考えは◆5IjCIYVjCcさんとは違っていたのは予想外でした

私の考えでは、初めはまず精神の参加者がメインとしてこの殺し合いに参加し
やがて肉体の影響が出始めて、参加者に異常を起こしていき
やがてエボルトなどの特殊な例を除き、肉体の能力を多く酷使した者から肉体の参加者の方に主導権が移っていく殺し合い
まさにチェンジしていくバトルロワイヤル、略してチェンジロワ

だと思っていたのです。だから肉体の影響を受ける描写が増え始めていたのかなって思ってましたし
炭治郎みたいな例もたまたま早すぎただけで何れ追随する者(特にホイミスライムが筆頭格で)もいるのではないかと思ってました

それについては私の読み間違いだったという事なので、申し訳なく思います

そして状態表については完全に私のミスです。後に修正して新しい物を出します。と同時に文章の一部も修正します。

更に7qU8gU7k0さんの意見についても書かせていただきます

確かに少しギニューが迂闊に見えてしまったのは申し訳ございません。ですがまぁそれくらい疲れていたので休憩を優先したのだと解釈してくださると嬉しいです
そして戦闘していたのは元々JUDOがいたE-4です。

火炎弾の威力が強すぎでは?については、ディケイド1話の火炎弾並みの威力があったと解釈してください、ようつべで見ると分かりますが凄まじい火力ですよあれは、あれを大量にまき散らし続けたと考えていただきたいです。
蓮達の反応については省かせていただきました。もしかしたら別の場所に言っている可能性もあったので

そして炭治郎の展開の理由については上記の通りです。やりすぎと思わせてしまい、申し訳ございません。

この度は私のssで賛否ある展開にしてしまい、すみませんでした。ですが出来る限り、楽しんでいただけると嬉しいです。


850 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/21(火) 21:09:15 ???0
こんばんは。P1sRRS5sNsです

今仕事から帰ってきて状態表を描こうと思っていた…のですが

◆5IjCIYVjCcさんのツイッターを見て、私も色々と考えました。

その結果なのですが、最後のssの部分だけを変えた方が良いのではないかと思いました

大きく流れを変えるつもりはありません、キャラも変えません。

つまり『奇跡が何度も起きるとは限らない』という事です。(◆ytUSxp038UさんのLife Will Changeシリーズが好きな方には申し訳ないのですが、私もあのss大好きです)

私としては最初のまま採用して頂いた方が嬉しいのは事実です。ですが、ここまで予想以上に迷惑をかけてしまった以上、私としても申し訳なく思い、結論に至ったわけでございます

そもそもこのssを描きたい、受け入れられるんじゃないかと思ったきっかけは「変身 Ungeziefer? Human?」「変身 Kamen Rider」ですが、発想の根源は◆ytUSxp038Uさんの『そしてSは目覚める/僕の修羅が騒ぐ』です。

自分は以前ラブライブが一番大好きといいましたが、銀魂もかなり好きです。

というより私が最初に投稿したssのメンバー4人は全員好きな物語からの出典です。

なので新八も好きだったので、何とか無事に収まったなって思った後に身体の影響でホイミスライムが新八を殺した時は思わず脳が破壊された感覚を知れました。

ですがそれと同時に、身体の影響であーなってしまうのならば、あれがかなり進行したならば精神自体が破壊されるのではと思いました。

その結果が私のssです。ですがその結果、多大なるご迷惑をかけてしまい、本当にすみませんでした。

返事をいただきしだい、書き始めます。

では失礼いたします


851 : ◆5IjCIYVjCc :2022/06/21(火) 23:15:16 C6qIQccw0
◆P1sRRS5sNs氏へ

私のTwitterを見て最後の方を書き直すとのことですが、それよりも先に私が本来今日述べようと思っていたことについて話させてください。

【最終的な展開について】

昨夜の書き込みにおいて、私は氏が投下した話に対し大きな修正は求めずこのまま本編として通す方向で進めていました。
ですが、他の方の意見等も考慮し、今日一日の中で考え直し、結論を変えようと思い始めました。

「身体側の参加者が精神側の参加者の立場を乗っ取る展開」についてですが、これを許可することは止めるべきではないかと考えが変わってきていました。

私がこれまで述べたり、他の方々も指摘されたりした通り、このロワの基本テーマは「他者の身体で戦う」というものです。
乗っ取り展開の理由付け自体はよくできていますし、面白いものであると感じております。
しかし、>>848でも指摘されているように、「主催陣営は対策はしなかったのか」等といった違和感もまた生じます。
私としても確かに、今回のような事態が起きているのに主催陣営がすぐに干渉しないことに対し少々違和感があるように感じ始めました。

実は、今回の事に対し、主催陣営には次の放送が行われる直前に炭治郎の首輪を爆破させ、二度と完全な乗っ取りが起きないよう何らかの対策を講じさせようかと考えていました。
ですが、それならば何故今回のことが起きる前に先に対策はしていなかったのか、そんな疑問も出てくるのではと思い始めました。

そして、>>849からも、氏と私ではこのロワに対する考え方が大きく違っていたことが分かりました。
このロワの参加者であり、優勝の権利を得られるのはあくまで最初に名簿上でも示された精神側の者達だけであり、身体側はそうではありません。
氏の考えのような、参加者が身体側の存在に変わっていくような展開は私は認められません。

実の事を言いますと、現在のチェンジロワもまた、自分が最初に想定していたものとは大きく変わっています。
特に、身体側の精神の存在が関わってくる展開がそうでした。
それでも、初めからの精神側の参加者が基本的な参加者であることへの影響はありませんでした。
よって、話の面白さ等も考慮し、これまでの身体側の参加者の干渉の展開は本編として通しても問題ないと判断してました。

しかし、先日の氏の話では先に精神側の参加者の存在が消えてしまうという事態が起きています。
この前例を認めてしまえば、また似たようなことがいつか起きるのではないかと想像してしまいました。
私としては、そのような展開になることはご遠慮願いたいのです。

そのため、今回氏が投下した話は、本編としては没としたいと考えてました。

しかし、>>850にある通り、内容の修正をしたいという思いは伝わりました。
それ自体は構わないのですが、ここで私が述べたことも考慮していただきたいとも思っています。

また、今回の事を踏まえ、今後は「身体側の参加者が精神側の参加者の立場を乗っ取る」という展開は禁止とします。
氏につきましては、たとえ修正したとしてもこの点が守られていなければやはり全面的に没になる可能性がありますので十分お気を付け願います。


852 : ◆5IjCIYVjCc :2022/06/21(火) 23:15:41 C6qIQccw0
【細かい描写について】

他の方も指摘されている風都タワーに火が燃え移ったことに対する問題ですが、私もこの件に気になることができました。
戦闘が起きたのはE-4とのことですが、私としてもやはり>>848の方の意見と同じくそこまで火が届くのかという違和感を抱きました。
攻撃がディケイド1話の火炎弾並だったとのことですが、自分としてはそれでも隣のエリアまで届くものなのか?と思いました。
1話においてディケイドがディケイド響鬼になって火炎弾を放つシーンがあることは確認しています。
確かに威力は高そうでしたが、私としては、これを大量にまき散らしたとしても、E-4から風都タワーまで届かせるのはやはり難しいのではないかと感じました。
この1話の出来事を根拠に風都タワーでも火事が起きるというのは私にも少々納得しかねることです。
私としましては、この最後の風都タワーの火事の描写はわざわざ入れなくとも話を成り立たせることはできるのではないかと思います。
火事が起きたとしても、ここにおいてはE-4だけ、もしくはE-4とD-4の境目での出来事とし、D-4や風都タワーまで燃え移るとしてもまだ先のこととすれば違和感は和らげられるのではと思いました。

それから、戦闘が起きたのがE-4ならば何故D-4の風都タワー近くにJUDOとギニューのデイパックが置かれているのかも疑問に感じます。

それと、これまでにギニューはD-4に留まったことが「レーダーに引っかかる」「うかつな行動である」といった指摘を受けています。
しかし、最初のギニューの位置をD-4ではなくE-4に変えればある程度はこの問題を解消することができるのではないかと私は思います。
もし私のこの意見を採用するとしたら描写を修正しなければならないかと思いますが、ある程度検討していただくことを願います。
余計なことと思われるかもしれませんが、多少は参考になっていただければと思います。


【投下された話の扱いについて】

話の内容を修正すること自体は構いません。
ですが、それならばやはり先日投下された話は一旦没という扱いにさせてもらいたいと思います。
話の投下は最初から改めて行ってもらいたいと思います。
3人のキャラについても予約という扱いには致しません。
再予約については後述のように新たにルールを設けようと思います。


【予約について】

前述したように、ついでなことになりますが、予約について少しルールを整備したいと思います。
これまで、予約期限が過ぎた場合、同じキャラの再予約ができるのはいつからなのかを決めていませんでした。

そこで、今後予約期限を過ぎた場合、同じキャラの再予約は期限が過ぎてから5日後にしたいと思います。

◆P1sRRS5sNs氏につきましても、ギニュー、野原しんのすけ、大首領JUDOの3人の予約ができるのは前回の投下期限から5日後の2022/06/24(金) 23:38:02からをお願いしたいと思います。

いきなりこのようなルールを追加してしまい申し訳ありません。
設けた期限までに自分以外の誰かが予約を入れてしまわないかと不安に思われるかもしれません。
それでも、こうしたことも明確にした方がいいと思い今回ここに書かせていただきました。
再予約制度自体はここ俺ロワ・トキワ荘の他の企画を参考にしどこかの時点でいずれ新しく設けるつもりではありました。
そして今日がその機会であると判断しました。


今日の私からの連絡事項はこれで以上です。
不満に思われることも数多くあるかもしれませんが、今後の円滑なロワ運営のため必要なことであると思い書かせていただきました。
何卒ご理解のほどをどうかよろしくお願いいたします。

他に何か意見や質問等があればどなたでもお申し付けください。


853 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/22(水) 00:24:31 ???0
こんばんは、◆P1sRRS5sNsです。

◆5IjCIYVjCc 氏の話について、承りました。

了解しました。では24日に改めて、予約させて頂きたいと考えております。細かい指摘に関してもしっかり修正したいと思います。

ただ、一つだけ言わせてください

正直キツいのです。

あの時とは違い、悪口を言う気は毛頭ありません。(あの時は無理やりにも程があったssの組み立て方だったので)

ですが没ssの項目を見るとほとんど私のしかない状況であります。

…実を言うとこの乗っ取り展開は前もって言ったうえで投稿しようとは考えた事がありました。

しかしそうなるとネタバレになります。面白さを考えた結果、言わずに書き続けました。

その結果、面白いという評価をもらえてとても嬉しかったのですが…現状でございます。

メンタル的にダメージが入ってしまっている状況ではあります。

…どうすればこのようなssを書かないようになれるのでしょうか、

自分がつらいであります。

以上です。貴重なスレを消費してしまい、すみませんでした。


854 : 名無しさん :2022/06/22(水) 00:33:45 C/SOK8lU0
流石にあなた個人の精神状態の事まで面倒見切れないと思いますが


855 : ◆5IjCIYVjCc :2022/06/22(水) 22:46:45 /CZurJB20
新たにチェンジ・ロワイアル専用のしたらば掲示板を作成しました。
今後の議論等はそこで行いたいと思います。
修正したSSも最初はそこにあるSS投下用スレに投下することをお願いいたします。

URL:ttps://jbbs.shitaraba.net/otaku/18420/


856 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/25(土) 00:23:51 ???0
改めて、ギニュー、野原しんのすけ、JUDOで予約します。

基本的に最後の展開以外変更するつもりはありませんのでよろしくお願いします。


857 : ◆5IjCIYVjCc :2022/06/28(火) 23:22:29 LEILJyQc0
◆P1sRRS5sNs氏へ

すみません、既に予約を入れているところを何ですが、話の内容をどう修正するつもりなのかを予めお聞かせください。
話のネタバレになることを快く思わないかもしれませんが、改めて投下した後に再び問題が生じるのを防ぐため、どうかご協力願います。
書く場所は先日建てた専用したらばの議論スレでお願い致します。

このことについて、他に何か意見等がある方がいればそれについても議論スレにお願いします。


858 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/01(金) 23:45:20 ???0
予約を延長します。


859 : 名無しさん :2022/07/02(土) 06:32:43 QuzDCSXA0
nicovideo.jp/watch/sm40708331


860 : ◆5IjCIYVjCc :2022/07/02(土) 22:33:36 fhSsHu9M0
◆P1sRRS5sNs氏にとても重要なお話があります。
したらば掲示板の議論スレをご確認ください。


861 : ◆ytUSxp038U :2022/07/06(水) 21:25:56 ho3lYnak0
DIO、大崎甜花、貨物船、姉畑支遁、胡蝶しのぶ、デビハムくん、ヴァニラ・アイスを予約します。


862 : ◆EPyDv9DKJs :2022/07/08(金) 16:44:37 WGuGhLok0
キャメロット、遠坂、バリー、無惨、ゲンガー予約します


863 : 名無しさん :2022/07/09(土) 00:11:19 NnP/bEl20
仮投下スレに◆P1sRRS5sNs氏の投下がされたようです


864 : ◆5IjCIYVjCc :2022/07/09(土) 07:24:07 slAv2H5.0
仮投下スレの修正を確認しました。
しかし、一か所だけ気になった点があるので議論スレに書き込んできました。
◆P1sRRS5sNs氏につきましては確認をお願いいたします。
また、議論スレにも書きましたが最終修正が完了しましたらこの本スレへの投下をお願いします。


865 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/09(土) 11:31:31 ???0
では本スレに投下します。



鬼殺隊…それは平安時代から存在し続けた鬼舞辻無惨が生み出した鬼を滅する為に戦い続けた隊の事である。

彼らは独自の呼吸や剣術を駆使して不死身とも言える鬼を倒し続けて、人を守り続けた。

何故彼等は闘い続けるのか?

それは隊士それぞれ違う

ある者は家族の命を奪った鬼に対する復讐の為
ある者は借金の肩代わりの恩返しの為
ある者は一族の使命の為
ある者は孤児が育った場所が蝶屋敷だった為…

そのどれもが様々な事情を抱えながら剣を、武器を振るい続けた

だが彼等に共通している想い、それは人を守りたいという想いだ。

実を言うと鬼殺隊と鬼達は紙一重の生涯を生きてきた者ばかりだ。実際鬼殺隊から鬼になってしまった者もいるし、逆に鬼でありながら鬼殺隊の味方になった者もいる。

たった一つの違い、それは他人を餌として見ているか、護るべき者として見ているのかにすぎない。

だからこそ彼等は必ず争い続ける運命にある。思想が根底から違うのだから

だが…もし人を必ず護る為に戦う鬼殺隊の剣士が








人を殺してしまった場合、殺した者は何を思うだろうか?






夢を見た

そこに居た剣士は今の己の姿をしている。

その剣士は列車のそこにあった骨のような物に向かって剣戟を振るった

その剣戟の振り方はまるで円を描くように斬っていた。

そして惚れ惚れする程美しく、炎が描かれていたように見えた。






(…ハッ!…まだ身体が痛む…か…何だ今の夢は?)
現在ギニューはE-4エリアの家でトビウオから降りて民家で身体を休めている。と同時に仮眠もしていた。連戦の疲れをとる為のほんの10分の仮眠だが、体力の回復は早くなった気がする。

さっき戦ったばかりのエリアの付近で休んでいて大丈夫なのか?という疑問が湧くだろう、先ほどまで戦場から離れる事を、宇宙船へ向かう事を考えていたばかりであるはずなのに
それには幾つかの理由がある。

まずは一刻も早く動かないで身体を休ませる事で疲れを取るためである。勿論トビウオに乗っていても身体は回復するのだがその場合操作に神経を使う。回復に集中した方がより回復しやすいと判断し、疲れを早くとる事を優先した結果である(万が一敵が近づいてきても匂いで気付くつもりである)。
それに何故か分からないが…回復に集中していればいるほど傷が塞がっている気がしてくるのだ。

止血の呼吸、全集中の呼吸の1つである。…妙に暑苦しい声が聞こえた気がしたがギニューは気のせいだと結論づけた。
人である以上完全に治る訳では無いがある程度止血は完了した。そして更に回復の呼吸も無意識のうちに、寝ている時にも発動し…その結果
疲れも完璧に回復した訳では無いが、戦う事は出来るくらい回復していた。これも今まで炭治郎が重ねた研鑽、努力の賜物、鬼殺隊の歴史その物である。

(…やはり見事なものだな、竈門炭治郎、貴様の肉体、地球人にしてはかなり役に立つと認めてもいいだろう。フリーザ様の復活の為にな)

だがそんな物はギニューにとってはただの野望の為の道具でしかない、何処までも鬼

…話をタワーから離れない理由に戻そう。もう一つの理由、それはタワーに多くの人がいる事が察する事が出来たからだ。
檀黎斗、ジューダス、いろは達から離れれながら…ギニューは炭治郎持ち前の嗅覚を使用し、3人の匂いを記憶しておいといたのだ、トビウオに乗っていながらも、距離がどんなに離れようと匂いを嗅ぎ続けた。
3人がどう動くのか、それによっては回復した後に宇宙船に行く前に奇襲をし、殺し切れなかった雪辱を晴らすつもりだからだ。…嗅覚がさっきより優れている気がしているが気にもとめなかった。
その結果タワーの方へ向かい…多くの人と合流した事、と同時に戦いが起きた事も分かった。
人は身体を動かすと汗をかく、常識である。その大量の汗の匂いと戦いによる血の匂いが、戦いが起きた事をギニューに知らせていたのだ。
ギニューはこの戦いの結果によっては負けた奴を殺そうと考えていたのだ。勿論それは身体が回復した場合の話で、回復が間に合っていないと判断した場合は当初の目的通りフリーザ様の宇宙船に向かうつもりだった。

そしてその結果…ひとつの強者の匂いが急速に離れている事がわかった。
(一人だけのようだな…そしてこの離れ方は吹き飛ばされているようだ、つまり負けたと考えるべきだろう、この結果死んでいる場合なら手を煩わさずにすんだという事だが、生きている可能性もあると考えられる、回復する前に早く殺しておいた方がいいな…宇宙船は…様子を見てくるまでは後回しだな)
とりあえず未だに多くの人数の中にいて殺しにくいだろうあの3人は後回しにして…吹き飛ばされた奴の匂いを追う事にした。


866 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/09(土) 11:32:24 ???0
(残るカードは…後四枚か)

E-4 エリア…葛飾署の近く、風都タワーの激戦を終えて休憩中のJUDOは色を取り戻せていないカードを眺めている

(宿儺との戦いの前に力を得ておきたいところだな…)

ここで宿儺は…時間配分について考え始めていた

というのも戦いの度に力を取り戻しているのは確かだ、イオンとの戦闘でクウガの力を、キタキタおやじとの戦いでアギトを、そして風都タワーの戦いで龍騎、ファイズ、ブレイドの力を手に入れていった。
だがこの連戦は多大な体力の消費を伴ったものだ。この肉体は普通の肉体ではない為に体力は回復しやすいが…だからといって自然治癒では限界がある
しかし病院に行く迄ではない、プライドもある。となると動かない事が1番の回復方法だ。治癒する為の薬があればいいのだが…それが手に入っていない以上仕方がないのだ。
だが回復している間に力を取り戻す機会が減ってしまう事も考えると後30分程の休憩で…

(…来るか)
だが迫る気配は、殺気はそれを許さない、そして振り向いた先にいたのは、赤いコートを着て、刀を携えた青年だった。

吹き飛ばされた匂いの元の青年を見つけた時、ギニューはどうするか、本当に襲うのか、やはり宇宙船に向かうべきかを改めて考えた。
歩きながらも呼吸を続けて、回復した今の自分なら全力で走れる。
ギニューは青年を見つけた時、本当に襲うべきかを考えた時、ふと気が付いたのだ。そろそろ放送まで時間がないのではないか、と
もしC-1エリアが禁止エリアになった場合、宇宙船に行けなくなるのではないか、と
そうなる前に早く向かうべきではないか、とも


…だがギニューの選択は戦いだった
決めた理由は2つ…1つ目は…より強くなりたいという理由だ。
元々炭治郎の身体のプロフィールを見て、呼吸と透き通る世界が出来るようになる事が目標であった。
そのうち呼吸の技術だけは手に入った。
…一部だけだが
身体のプロフィールは大雑把にしか書かれない時があるのが特徴だ
炭治郎の特徴には呼吸、透き通る世界を使って戦える事、ヒノカミ神楽という舞が出来る事が書かれていた。
そう、詳しく書かれてはいなかったのだ。ヒノカミ神楽が戦いにも生かせる事、そして炭治郎の本領を発揮する戦い方である事も

ギニューが見た夢における炭治郎の戦い方はさっきの戦いでギニューが使った剣術と違う事は察することが出来た。フリーザの下で戦い続けていただけあって勘が働いたのだ。そして本当に1番強くなれる戦い方である事も察した。
となるとこちらも早く己の手にしたいものだと思った。そう思いながらも先程の二者択一を考えていた瞬間である。
炭治郎のヒノカミ神楽による戦いの姿を幻視するようになったのは
コマ切れのように、漫画のようにだが、様々な技を使った瞬間が浮かんできたのだ。そしてその度に思った。使いたい、その技を、と
それと同時に…響いてきた


867 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/09(土) 11:32:49 ???0
戦え、戦え、戦え!!という声が

ギニューは戦闘技術を買われてフリーザの父、コルド大王にスカウトされた身、そもそも強い身体と肉体を入れ替えてきた身、強くなる事には貪欲である。
故に…ギニューは手負いだが戦って相手を殺せる相手の方を追いかけることに決めたのだ。そう考えた以上、生身の状態のJUDOを不意打ちしようとも考えなかった。
そしてもう一つの理由はその追っていた相手の状況が予想以上にこちらにとって好都合だと言う事が分かったからだ
近くまで行って改めて匂いを嗅いで、相手の感情を読み取ってみた。その時…妙な焦りを感じ取ったのだ。そしてこうして目の前に出た瞬間に分かった
(フッ…見かけは変わっていないが…分かるぞ…より焦ったな?今)
JUDOは人間ではない、故に人間の持つ感情とは無縁…のはずだった。
だが肉体の門矢士は人間、時には悲しみ、時には笑える男である。感情の振れ幅はしっかりとある。故に休憩がまだ十分取れていない状況で敵が現れた時に…ほんの少しだけ焦ってしまったのだ(勿論表面では全く分からないが)
更に肉体の疲労も呼吸の量からまだ察する事が出来た。そして
(…む?この男の身体、妙に透けて見えたぞ?)
今、ほんの一瞬だが、見えた、JUDOの身体が、多くの傷がある事が分かったのだ。
(まさかこれが透き通る世界というものなのか?)
特に強く意識した訳では無いが、これが透き通る世界である事を薄々感じ取る事が出来た。
…おかしいのでは無いだろうか?
透き通る世界に入る為には厳しい鍛錬が必要である。そしてこれは身体だけではなく、精神としても鍛錬をしていなければそもそも自分の肉体を、相手の肉体を視る観察眼など得る事など出来ないのだ。ギニューも勿論戦闘を仕事にしている以上鍛錬はしていない訳がないが、炭治郎としての鍛錬は全くの0である。何故一瞬でも入れた?そもそもさっきまでは見る事すら出来なかったというのに

だが今はそれについては後回しである、ギニューにとってはどうでもいい事であるのだから、そして相手の状況が悪いと分かった以上、戦わない選択肢はない。

◆P1sRRS5sNs :2022/07/08(金) 22:50:49
「貴様が何者かは知らん、だが中々の強い奴である事は分かった、オレが近づく前に接近を気が付いたからな…それでこそ今のオレに必要な相手だ、我が願いの礎になるがいい!!」

ギニューは所持品の刀以外を近くの民家に置いた後に刀を向けた、それは闘いを誘っている事が分かった。
匂いでギニューは分かっていた。この男は徴発を受けて逃げるような男ではないと

(…仕方があるまい)
休憩は十分ではない、だがそれでも大首領としての誇りは逃げを選択する事はない。更に
(それに…中々の強者である事は分かる、我の乾きをよりなくせるかもしれん)
どんなに疲れようとも戦いそのものが好きである事は変わりない
所持品のベルト以外を葛飾署に置いて…ベルトを装着し…カードを装填する。

「変身」
『KAMEN RIDE DACADE!』

緑色の複眼、マゼンタの装甲、仮面ライダーディケイドがその場に現れた

「ほう、中々カッコいい変身だな…そしてオレの目に狂いはなかった、貴様との戦いはオレをもっと強くしそうだ…始めようか!!」
「ふん、如何なる状況だろうと我が負ける事などありえない、我を楽しませろ」
ライドブッカーをソードモードにして構えるディケイド、それにギニューは嬉々として剣を振る。激闘が、始まる



『彼等』は被害者である。
殺し合いに巻き込まれたからだけではない、気まぐれによって自分そのものの存在が狂わされるのだから
ある者は仲間を捕食してしまい、ある者は細胞に狂わされ化け物になるのを恐れ続け、ある者は怪物としての全てに狂わされ、ある者はにっくき宿敵そのものの振る舞いをしてしまう事になったり、ある者は人として喋れず、貞操を狙われつづけている者もいる
いや、『彼等』だけではない、運が悪い為に望まぬ行為をする自分を見なければならなかったり、他人から見た場合、望まぬ行為をしている自分しかみてもらえなかったり『彼ら』も被害者である。
ただの殺し合いではない為に起きてはいけない事が起きてしまっている
だが『彼ら』もただ使われ続けるだけではない
『彼ら』もそれぞれ抗い続ける。ある者は参加者に直接交渉をした、ある者は己の意地を示した者がいた、ある者は支配され続けながらも支配者を危惧し、真意を聞き出そうとする者もいる。
そして今いる『彼ら』は


868 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/09(土) 11:33:24 ???0
幾度もぶつかり合う剣、状況はギニューに有利に働いていた。
まず疲労で疲れているディケイドの剣は剣の達人、そして戦闘に慣れていて、痣による身体能力の向上が起きているギニューには当たらない
ギニューは生身だがそれは剣が当たった場合のデメリットになる。逆に言うと当たらなければどうという事はないのだ
逆にギニューの剣はじわじわとディケイドの装甲を削っていき、火花が散っていく。
 
この状況を打開するべく、ディケイドはカードを装填する
『ATTACK RIDE SLASH!』
残像のように増える剣劇、それに対しギニューは
――水の呼吸 陸ノ型 ねじれ渦
全方位防御で守り跳ね返った勢いで空へ飛び
――水の呼吸 弐ノ型 水車
回転、そして降りながら剣を振り下ろす
ディケイドはそれに対して受けながら少しずつ下がって回避
だが間伐入れず着地した瞬間攻撃に移る…怒涛の波のように
――水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫・乱
激しい攻めはディケイドの防御の隙間を的確に、更に透き通る世界で相手の傷を見ながら効率よくダメージを与えていく
そして苦痛で防御が緩んだ瞬間を…ギニューは見逃さない
――水の呼吸 壱ノ型 水面斬り
「ぐっ」
派手に吹き飛んでいくディケイドの身体、タワーにぶつかって何とか止まった…
「どうした?それが貴様の実力なのか?俺は貴様を買い被りすぎていたようだな」
嘲笑いに対してディケイドはガンモードに変更してからの銃撃で返す、ギニューはそれを避けながら迫る。
『ATTACK RIDE BLAST!」
残像と共に増える銃撃、ギニューは何も使わず避けるのは不可能と判断した。
――水の呼吸 参ノ型 流流舞まい
次々と避け続けながらディケイドに迫るギニュー、だが
『FINAL ATTACK RIDE DE DE DE DECADE!』
(そうくるかっ!!)
そうなる事は既に予測済み、避ける軌道をディメンションヴィジョンで見通し、避ける軌道を読み、直撃するように必殺技を放った
並ぶ複数のカードを通過しながらギニューを軽く消し飛ばせる光線が迫りくる
残念ながら避ける事はもう出来ない、それくらい近くまで光線は迫っている
となると迎え撃つしかないが、先の戦いで使ったアクションビームは使えない、強くなる為に剣による戦いに集中したかったギニューは剣以外の武器はバックにしまっていたのだ、そしてそれは遠くに置いてある
残る方法はただ1つ、カエルに入れ替わる前から使っていた光線、ミルキーキャノンによる相殺だ
(出来るのか?この身体で…)
ギニューは以前の身体ではないこの身体で光線を使う事は孫悟空と入れ替わった時の事を考えると不安があった。その為に今まで使わなかったのだ
だが出来なければ…間もなく自分は死ぬ、良くて敗北だろう
(一か八かやるしかあるまい!!)
片手を剣から離して全身で気を溜め込んでそれを片手に集中させる…だが
(無理だ…!!)
気の溜まり具合で分かる。この気の量ではあの光線を押し戻す事は出来ない、やはり気のコントロールが上手くいってくれない、前の身体の10%しか気がたまらない
呼吸の為にも力を使っている事が原因だろうか
何れにしてもこのままでは結局死ぬ事は変わらない
(…ならば!!受け止めてその隙に躱す!!)
再び一か八かの賭け、結果は…
(受け止めは…出来たがっ…!!)
受け止めは成功、だがどうかわせばいいのかは…浮かんでこない
(早く、早く避けなければ…死ぬ…死ぬのか…?こんな所で…?フリーザ様の復活も叶わずに…?)
走馬灯を見かけた…その時だった

『雷の呼吸って1番足に意識を集中させるんだよな』

(この言葉は…!?)

今見た走馬灯に何故か意味があるような気がしたギニューは…無意識に善逸がどのような戦い方をしていたのかを思い出していた、そして雷の呼吸は超スピードの移動が出来ることを知った

勿論だからって雷の呼吸が出来る訳では無い、だがほんの少しだけ再現できないかと足に力を込めた

そして超スピードで回避、何とか窮地は脱した。実を言うもこの殺し合いで会っている善逸には感謝するべきだろう、するわけが無いが


869 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/09(土) 11:36:40 ???0
避けたのを見たディケイドは思う、この男の動きはあの青い騎士にも負けていない、久しぶりに全力を出せそうだ、と
ディケイドに残っている主な攻撃手段はイリュージョンによる分身による同時攻撃、そしてライダーキックがある。

前者は自分のプライドに触る。一人に対して大人数にで攻撃しなければ勝てないのかとは思われたくもない。だからタワーでの1対3の時でもイリュージョンは使わなかった。

後者はまだ使用には早い、となると他に手段がない…

わけがない

ディケイドの攻撃手段はあまりにも豊富、まだ5人のライダーしか解放されていないが、それでも多い

さて、ここでまずディケイドはどの姿を選ぶだろうか?

まず刀には銃が一番だ、遠距離から一方的に攻撃し続ければやがてギニューは限界を迎えるだろう

だがその手段を…ディケイドは取らなかった。遠距離攻撃にはもう相手に警戒されている以上常に接近されるだろうと考えた為だ

となると刀には刀で迎え撃つべきか








…本当にそうだろうか?

考えて欲しい、もし今のJUDOに一番効率のいい戦い方を考えるとしたらファイズアクセルで有無を言わず距離をとって遠距離で攻めるべきだろう

勿論万全のJUDOならばプライドを優先して取らないだろう、だがJUDOはまだ傷を治し切っていない状況だ、自分が傷ついている状況で近接戦はよろしくないはずなのだ

…もし門矢士がギニューと戦っていた場合こう言うだろう

『刀にはこっちも刀だ』



ディケイドはまず赤い戦士のカードをバックルに入れる、更に

『KAMENRIDE KUUGA!』

『FORMRIDE KUUGA TITAN!』

紫のカードを入れた。キタキタおやじの時も変身した姿だ

「一つの姿から更に別の姿だと?」

今までベルデ、ライドプレイヤーなどライダー、またはライダーに似た存在に会ってきたが変身した姿から更に変身する姿を見るのは初めてだった。

「まぁいい、やる事は変わらん、オレの刀で斬るだけだ!!」

ギニューはゆっくりと進んでくるクウガに向かって剣を振るう、だが

ガキィン!!

という音と共に弾かれてしまう

「何だと!?」

あの時の戦いと同じ防御力を見せつける、そしてぶつかっている刀を掴む

そして驚いて隙だらけのギニューにタイタンソードを振るう

ギニューは慌てて回避、そしてそれと同時に…何と上に引っ張り上げた

今度はクウガが驚く番だった、重力は常に下に働くもの、プロトタイプでもない戦闘力が強いワームが何か特殊能力を使わずに浮く事などありえないからだ。その驚きと共に掴む力が緩み、剣を引っ張り取り返されてしまった。

確かに一見何か特殊能力を使ったようには見えない、だがそれは見た目だけの話である。ギニューがここで使ったのは舞空術、自分がいる世界では当たり前のように使われている力である。かつて悟空の身体でも舞空術は使う事ができたのと同じように炭治郎の身体でも可能であった(そもそも舞空術自体が基本的に簡単であるのも理由の一つである)

ギニューは浮かび上がった勢いで攻撃をしようとする

だがここでほんの少し迷いが生じた

というのも今のクウガの鎧はとても頑丈である事が分かっている。もし刀身で攻撃をすると刀が砕ける可能性が、そこまでいかなくてもキレ味が落ちる可能性がある。今後の戦いを長期的に考えると切れ味が落ちるのはよろしくない。

そこで考えたのは一度呼吸による攻撃をやめる事である。そして何をしたのか、それは

何と持ち手を一瞬で変えて頑丈である柄頭による打撃であった、不意を突かれたクウガに当たってしまった。

勿論この鎧には少しもダメージが通らないのは百も承知、ギニューの狙いは衝撃を脳に伝わらせる事にある

どんな人間でも脳は振動を受ける事で動きが鈍る。狙い通りにクウガはほんの一瞬だけ動きを止める。この隙に透き通る世界で甲冑の隙間で最もダメージが通る場所めがけて

――水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き

一点集中の一撃…!!

「くっ…!!」

予想以上の痛みに吹き飛びながら苦悶の声をもらすクウガ、だが…この事も屈辱として怒りに変える

「我にこれほどの痛みを与えるとは…許さん」

「フン、許されないのは貴様の弱さではないか?」

煽り返され怒りはさらに増していく、この姿ではダメだと判断し、次のプロトタイプへと姿を変える。


870 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/09(土) 11:37:07 ???0
「変身」

『KAMENRIDE BLADE!』

銀色の装甲を纏ながらも蒼い印象を与える仮面ライダー、ブレイドの姿に変わる。

「…一つ質問良いか?」
「何だ?」
「貴様は先程から様々な姿に変わっている、俺は以前貴様と同じような戦士と戦った事がある、恐らく貴様も先程戦ったはずだ」
「…あの緑の戦士の事か?」
「そうだ、今貴様が変身している戦士と同じようにベルトが力の源のように見えた、その変身している姿は一体なんなのだ?」
下らぬ質問だ、JUDOはそう思ったがほんの気まぐれで答えてやることにした。
我が知るプロトタイプ…とは別世界の仮面ライダーという物だ、と

だが実際に答えた言葉は










「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ………、!?」
全く違う言葉だった
(何だ?今の言葉は…?)
「仮面ライダー…というのか、面白い、その力、オレの物にさせてもらうぞ!!」
フリーザ様復活の為に更なる強さを求めるギニューは今闘っているディケイドのベルトを奪いたいと考えていた。
再び向かってくるギニューにブレイドは醒剣ブレイラウザーを手で撫でた後に構える
剣士と剣士の戦いが今始まる。



ぶつかりあう剣と剣、最初にディケイドの状態で剣を振るった際はディケイドが押されていたが、今の戦いでは互角の剣戟を展開していた
理由はブレイドに変身している事である。ブレイドは刀による戦いをメインにしている。その為に刀の扱いがディケイドの時より上手く行えてるのだ。

剣戟による衝突は互いに強く体がぶつかった拍子に一旦離れる、そして技を出す構えに入る
さて、ブレイドのアタックライドカードはどのようになっているだろうか?
まず、本当のブレイドに変身した人物、剣崎一真が使ったアタックライドはビート、タックル、スラッシュ、サンダー、キックである
一方で門矢士が使ったアタックライドはマッハ、メタルである

そして思い出してほしい、タワーの戦いにてディケイドが使用したカード、門矢士は使ったことがあっただろうか?
つまりこれが答えである。

『ATTACK RIDE SLASH!』

『ATTACK RIDE THUNDER!』
 
ライトニングスラッシュの再現である。

更にこれに加え

『ATTACK RIDE MACH!』

超スピードも兼ね合わせる

スピードも乗せた今の斬撃ならば生身のギニューなど一刀両断だろう

だがギニューが何もしない訳がない、超スピードを匂いで察知しながら透き通る世界で攻撃を見通しながら呼吸に集中する

まず一度斬りかかってくる、ギニューはギリギリで刃ではなく刀身で受け止めながらわざと弾かれて飛ぶ

飛ばされながら直ぐ追撃の攻撃も来るが再び刀身でガードし再び飛ぶ

ギニューは強烈な攻撃を受け止めるのではなく、受け流し切る道を選んだのだ

三度飛ばされながら受け止めてそしてそのマッハのスピードが終わった瞬間

――水の呼吸 捌ノ型 滝壷

隙があったブレイドへ渾身の一撃、即座にカードを装填し対応する

『ATTACK RIDE METAL!』

メタル、ギニューにその言葉が聞こえた瞬間、この技を後悔した

つまり硬質化による防御の技だと直感したからだ

だがこの型もまた攻撃力は高い、どうなるのかは分からなかった。

結果は…ダメージは与えられなかったが衝撃でブレイドを吹き飛ばすことは出来た


871 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/09(土) 11:38:07 ???0
ブレイドは体勢を整えて次なるカードを装填した。

『ATTACK RIDE TACKLE!』

体当たりによる勢いを乗せた攻撃、一見マッハと被るが、衝突の威力に重点を合わせた攻撃だ、これに加えて

『ATTACK RIDE  BEAT!』

拳による攻撃も合わせる、その拳は体当たりの威力も合わせた破壊力がある一撃である事は読み取れた
ブレイドは圧倒的な攻撃を相手からの剣の攻撃はブレイラウザーに守りながら喰らわせるつもりだ

だがそれくらいでダメージを与える事が可能だと思われているとは、ギニューを舐めていると考えるべきだろう

ギニューは刀で絶対に防御出来ないであろう場所を透き通る世界で見ながらそこにめがけて剣を振るう

――水の呼吸 肆ノ型 打ち潮

「ぐっ…!!」

再び一撃を喰らい火花を散らすブレイド、攻撃も中断してしまった。

…御覧の通り状況見れば分かるが今の所やはりディケイドが一方的にダメージを受けている。

JUDOが傷を負っているとはいえ、火の呼吸が使えなくともやはり今のギニューの身体の強さはかなり高い事の証明だと言えるだろう

「貴様…何故これ程強いのだ…生身の人間が…鎧を纏った我と張り合える…!!」

ディケイドになってからここまで苦戦した戦いは今までになかった。

ここまで相手に対応されて逆に攻撃をくらう事など想定外である

「不運を呪うんだな、貴様が外れの身体に選ばれてしまった事をな!!」

ギニューは大技を繰り出してトドメを刺すことを決めた

――水の呼吸 拾ノ型 生生流転

回転しながら高まっていく一撃、水の呼吸最強の技、水の龍を纏っているようにJUDOには見えた。

大技にはこちらも大技、こちらも金色のスペードが描かれたカードを装填する

『FINAL ATTACK RIDE B B B BLADE!』

ライトニングソニック、数多のアンデッドの封印のきっかけになった一撃だ

「ウオラァァァァァ!!」

「ハァァァァッ!!」

二つの強力な一撃が今、激突した。


「…中々やるな」

「…貴様こそ」

互角の威力だったようで、互いにダメージを受けながら離れただけだった
戦いはまだ続く、再び剣を向け襲ってくるギニュー、ブレイラウザーを構えながらブレイドはこの戦いで目覚めた新たなカードを取り出す。


872 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/09(土) 11:38:19 ???0
攻撃をブレイラウザーで受け止めながらそのカードをバックルに装填
『KAMENRIDE』
その瞬間、身体が紫炎に包まれる
「!?」
慌てて熱がりながら離れたギニュー、そして紫炎から現れたのは
『HIBIKI!』
紫色の鬼だった

「鬼…か、この身体は鬼狩りの剣士らしい、その時点で貴様の運命は決まったようなものだな」
「我をそのような雑魚と同等に考えるな」
『ATTACK RIDE ONGEKIBOU REKKA』
響鬼は音撃棒烈火を携えながら…ある事を考えていた
(奴の強さ、薄々気づいていたが呼吸によるものだろうな)
戦いの姿を見るうちにギニューが頻繁に呼吸をしていたのを見ていた為に、ギニューの強さの根源に気づき始めていた。
(となると…早々に封じさせてもらおう)
封じる為の策を開始した




戦いが始まった瞬間である
鬼火、烈火弾をそこら辺にまき散らせ始めたのは
「貴様!?正気か!?」
「正気だが?」
ギニューは避け続ける、避け続けるが周囲が轟々と燃える炎に包まれ始める
(この男、何を考えて…!?グッ!?)
その瞬間である、肉体が、動きが鈍り始めたのが
「気が付いたか?」
JUDOは嘲りの笑いと共に答え合わせを始める。
「この極限の熱気、そして二酸化炭素の増加に対して、貴様の呼吸は…行使する事は出来るのか?」
燃える、身体の内部が燃えるように熱くなっていく

苦しい、圧迫感がギニューを蝕む、一瞬だが眩暈もしてしまっている

辺りにまき散らされた炎による火災は例え炎のダメージを受けずとも常に大きく呼吸をし続けて戦うギニューの身体を蝕む
慌てて全集中の呼吸をやめるが身体に沁みついている癖はそう簡単に抜ける物ではない、その上動きも遅くなる
「ぐああああ!?」
苦しむギニューに響鬼は容赦しない、慌てて響鬼に向き合うギニューだが容赦のない攻撃がギニューを襲う
『ATTACK RIDE ONIBI!』
口から吐き出した紫炎、慌てて避けるがその避けた隙を
ドカッ
「ぐはっ!!」
拳が襲う

そしてここから先も容赦しない
バキッ
蹴りが
メキョッ
裏拳が
ボキャッ
チョップが襲った
「がああああ!!」

響鬼の特徴の一つは圧倒的なスペックの高さにある、一つ一つの攻撃が他のライダーの基本形態より強いのだ。
それによって大ダメージを受けたギニュー、そして
『FINAL ATTACK RIDE』
止めの一撃
『HI HI HI HIBIKI!!』
バックルから飛び出したのは太鼓であった。
その太鼓はギニューの身体を容赦なく捉える。
烈火を構えながら近づく響鬼、阻害する者は誰もいない
そして奏でられる音撃打 火炎連打による太鼓の音、一つ一つ音を打ち込まれるたびにギニューの身体が震え、ダメージを追っていく
本来は大地の穢れから成るモノを浄化する為の音だが、ギニューという邪悪を祓い清めるには打って付けと言えた。が、その音を奏でている者もまた邪悪である事が非常な現実を思わせる。
そしてある程度奏でられ…締めに相応しい大音によって吹き飛ばされていった。

響鬼はディケイドへと姿を戻しながら倒れているギニューに近づく
ギニューは刀を握り、白目をむきながら気絶している
「不運を呪え、貴様が外れの身体に選ばれてしまった事を」
嘲りと共に先程の言葉を返し、ライドブッカーを剣にして…首に一閃









したはずだった。


873 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/09(土) 11:38:57 ???0
(…何だ?この景色は)
透き通るような青空が見えた
(どうなっている?オレは奴に…JUDOの攻撃を受けて…)
それからの記憶がない、気がついたらここにいた。そしてそれだけじゃない、周りは炎に包まれていないし、匂いが全然しない、そして右手には刀じゃない、斧を持っていた
それから姿は変わらないが様々な記憶が流れてくる。だが一番記憶に出てくる男は赤みがかった赫灼の瞳と月代を剃らず、後ろで大きく纏めている長髪、そして自分の今の身体と同じ痣がある。
そして日輪の耳飾りをしている男だった。
そしてその男は…先程の仮眠でみていた刀の振り方をしていた。
ギニューは直感で感じ取った。この男の動きをしようと思えば使える…真の強さを発揮できる、JUDOを倒せる、と
ならば目が覚めなければいけない、覚めなければ…!!死ぬ…!!
その瞬間であった。
急激に目が覚めていく気がした。そして何故か感じた頭の痛みと共に、ついでに今までの炭治郎の戦いがどのような物だったのかも理解させられながら…目覚めていった…






そしてその時に気が付いた…妙な違和感に
(そう言えば、何も声が聞こえなかったな、どうでもいいが)
ギニューにとっては至極どうでもいいのだ、彼等の想いが、どんな物であろうと、そんな奴に彼等の声なんぞ響くわけがなかった


ガキィン!!
「!?」
JUDOは驚きざるおえなかった、白目向いた状態から一瞬で目を覚ましたことに、即座に
だがまぁ良いと思考を切り替える、どうであろうとコイツはこの状況ではよわ―
立ち上がった瞬間、JUDOは分かった。
この男、今までと全く違う、と
どういう事か、全く分からないうちに、始まる

ヒノカミ神楽が

ギニューは思う、恐らくあの動きを、流れを全部再現すれば強いのだろう、そしてそれで倒せなかったらこの火に囲まれ、ダメージを受けている現状を考えると…こちらの敗北になる、とまぁ、火に囲まれているのは攻撃しながら脱出すればいいのだが


874 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/09(土) 11:39:50 ???0

――ヒノカミ神楽 円舞

…単純な前斬りのはずだ、ディケイドはそう考える、考えるだけに頭がおかしくなりそうな感覚を覚える
何故ならこの一撃だけでも分かる。先程とは桁違いの威力を秘めている事を
「ぐああ!!」

ここまでの苦痛をJUDOは上げた事があっただろうか?記憶に全くない
だがそう考えている暇を与えるつもりはない

――ヒノカミ神楽 碧羅の天

慌てて守るが…それだけで守り切れるはずがなく、刀身はバキバキになり、弾き飛ばされてしまう
それもその勢いのまま炎に囲った周囲から飛び、橋を三分の一渡ってしまった
「があっ!!」
痛みに苦しみながらディケイドは向かってくる前に即座にカードを装填する。
『FORMRIDE KUUGA TITAN!』
防御力の高い形態へと直接変身する。だが
…残酷な事を言おう、クウガにとっての事であるが
今、ギニューの身体は燃える火の中にいた為に熱によって熱くなっていた。
そしてギニューは響鬼の時に強く痛みを負わせて更に殺そうとしたクウガに対する怒りで今までより強く刀を握っていた。そして火の囲いからは脱出した為に全集中の呼吸も復活した。
その結果、偶然であるが
彼の刀は赫刀へと成っていた
その事を知らずクウガはタイタンソードを振るう、だが

――ヒノカミ神楽 烈日紅鏡

まず左への一撃でタイタンソードをぶち壊し、そして右へのもう一撃でクウガの頑強なはずの装甲を砕く
「ガアアア!?」
信じられない、次から次へとありえないことが起こる
普通のディケイドならばこれ程の強さなら喜々として戦おうとするだろう

だが今のディケイドはギニューの突然の強さの向上についていけずにいて焦っていたのだ。

攻めはまだまだ続く

――ヒノカミ神楽 灼骨炎陽

強烈な前方向への回転斬りである

…クウガは受ける直前に後ろ向きに直接地面を蹴り、後ろに飛ぶようにしていた。

そして灼骨炎陽を受けてクウガは強烈なダメージを受けながらディケイドへと強制的に姿を戻される。

…何故そこまで後ろへ飛んだかって?そうでもしなければ
距離をとれず、カードを装填できる暇がないからである


875 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/09(土) 11:41:18 ???0
『KAMENRIDE RYUKI!』

龍騎へと姿を変える、そして即座に

『ATTACK RIDE ADVENT!』

無双龍ドラグレッダーを召喚する

時間稼ぎは出来るだろうと見込んで召喚した。だが

甘すぎる、その認識は、ヒノカミ神楽の前にその認識は

――ヒノカミ神楽 陽華突

頭を狙う突き技、ドラグレッダーは頭をぶっ刺され、ひび割れながら、苦悶の声を上げながら爆散した 

…瞬殺されるのは予想外でありながらも龍騎はカードを次々と装填する

『ATTACK RIDE SWORD VENT!』

『ATTACK RIDE GURD VENT!』

フルアーマーで迎え撃つつも

――ヒノカミ神楽 日暈の龍 頭舞い

りだったが気がついたら全ての武装を破壊され、龍騎自身の身体から火花が飛び散っていて龍騎の身体はディケイドへと戻っていた。

理解不能だ

ディケイドはもう奴に対する手段をどうすればいいのか分からなくなりそうになっていた。

――ヒノカミ神楽 斜陽転身

「ぐあああ!!」

しかし無慈悲にも攻撃は続く

だが、だからとて屈するディケイドではない、この攻撃を利用し横へ飛ぶ

更に橋を渡らされ、半分渡り切ってしまっていた。

『FORM RIDE FAIZ ACCEL!』

再び距離をとっての変身だ

10秒の高速移動の間に…ファイズはギニューの首輪を攻撃することを決めていた

ディケイドはこれを敵を殺す為には至極当然の事と考えて現実逃避をする

そう、実力ではギニューに勝てないという現実から

奴も向かってくるが問題はない、ファイズアクセルを押す方が早い

奴は剣先をファイズアクセルめがけて向けている、だがその剣先は僅かながら届かなかった

そう思ってスイッチを押すが…

反応しない

何度押しても反応しない

――ヒノカミ神楽 飛輪陽炎

否、しっかり届いてファイズアクセルを破壊していたようだ。数秒経って気が付いた

そしてその数秒の隙を、出来ている隙を逃しはしない

――ヒノカミ神楽 輝輝恩光

ファイズアクセルの薄くなっている装甲への全体攻撃だ

「ぐあああああああああああああああああああ!!」

今までにない苦悶の叫びをあげながらディケイドへと姿を戻される


876 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/09(土) 11:42:29 ???0
…今までにない反応速度で、限界を超えるスピードでカードを装填する

身体が告げている、死ぬ、本当に死んでしまうと、それに応えるように早く

『FORM RIDE AGITO FLAME !』

何とかフレイムソードを…獲物を手に入れる、これで防御を

――ヒノカミ神楽 火車

防御していた前方向からの攻撃は来なかった、後ろへ回られて今度は後ろからの攻撃を喰らう、アギトは頭への強烈な一撃で意識が朦朧としかける、声すらも出せない

ディケイドへと姿をもう四度目だが戻される。戻されながら即座にカードを装填

『ATTACK RIDE INVISIBLE』

ディケイドは…ついに逃げの道を選んでしまっていた

誇りもプライドも何もかも捨てての逃亡である。

だがギニューはそれを逃さない、持ち前の嗅覚を生かし、匂いを辿る

――ヒノカミ神楽 幻日虹

幻日虹の身体裁きを生かしての高速移動で距離をとって橋の三分の二まで渡っていたディケイドを遠回りして

頭突きを喰らわせ、透明状態を解除させた

「ぐああっ…!!」

ただの頭突きでさえも苦悶の声を上げてしまう程限界を迎えてしまっていた。

ディケイドは…咆哮する、ブームボイスの弾丸を発しながら、ここまで追い詰められた事に対する怒りを発散しながら

ディケイドは一か八か最期の切り札をする為に、カードを装填した

そしてギニューも…ブームボイスの弾丸を避けながらヒノカミ神楽の総仕上げを構える。

『FINAL ATTACK RIDE DE DE DE DECADE!』

――ヒノカミ神楽 炎舞

今、それぞれの誇りを賭けた最後の技が

ライダーキックが、剣術が

激突した


877 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/09(土) 11:43:53 ???0
「馬鹿な…!!馬鹿な…!!この我が…!!」
負けたのは…JUDOだ
遂にディケイドの変身自体が解除され、血を吐きながら地面を転がっている。遂に完全に橋を渡り切ってしまった。
「ありえない…ありえない…!!」
身体を動かす力すら湧いてこない
初めてである、絶望という感情をJUDOが知ったのは
ふと目の前を見る、ゆっくり迫りくるは先程と同じく刃を構えた青年
その歩む音は死神の足音にJUDOは聞こえてしまっていた。
「ありえない…か、残念だったな、現実だ、今の状況も、そして貴様の命がここで終わるという事もなぁ!!」
遂に刀の間合いに入った…
「遺言はあるか?ここまでオレを強くしてくれた礼だ、聞いてやろう、まぁ貴様に遺言を聞かせる仲間などいないだろうがな」
単なる気まぐれである、というより常に尊大だったコイツから弱音を聞いてやりたいという愉悦を含めた気まぐれであるが
それに対してJUDOは…無言を貫く
大首領としてのプライドがある、誇りがある、負けたとはいえプロトタイプでもない人間どもに泣き言を言うつもりはない
「だんまりか…ならばそのまま死ねぃ!!」
勢いよく刀が…首にまっすぐ貫かんと向かっていった











JUDOは肉体が無意識のうちに反応し、目を瞑ってしまっていた
恐怖を感じたような反応を見せてしまった事も屈辱に…思うはずだった。
バチバチバチッって火花が弾ける音が聞こえてこなかったら
目を開けて見ると…刀は首ではない、ディケイドライバーを貫いていた
ボフゥンという音と共にディケイドライバーが爆発した。
ふと顔を上にあげた、そこにいたのは驚愕の顔をしたギニューだった。
当たり前である、ギニューは更なる戦力上昇の為にディケイドライバーを奪うつもりであったのだから
だからこそそのベルトを自分で壊したという事が信じられないでいる
「く、くぅ…!!」
悔やんでも悔やみきれないが再び刀を振るう、が
聞こえてくる、聞こえてきてしまう、最初にJUDOを斬ろうとした時と同じ声が

『強い物は弱い者を助け守る そして弱い者は強くなり また自分より弱い者を助け守る これが自然の摂理だ』

こんな考えギニューには論外なはずである、残虐非道であるフリーザの部下として、弱者を踏みにじる事を当たり前とするギニューとして、だがJUDOを殺そうと刀を振ろうとする度にこの考えが頭を侵食してくる
「ぐ、ぐあああっ…!!」
頭がおかしくなる感覚に振り回され耐えきれず…その場を走り逃げてしまった
「ぐああああああああああああ!!」


…なぜこんな事になったのか?

…19世紀のドイツの哲学者・フリードリヒ・ニーチェの格言にこんな言葉がある。

深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ

全ては、あの時に始まっていた


878 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/09(土) 11:44:47 ???0
F-3とE-3の境目にて
「ボディーチェーーーーンジ!!」



『ここは、何処だ?俺は…無惨と戦っていて、右目を斬られて…それから…』
始まりはギニューのボディーチェンジの時、
ギニューは鳥束との身体の入れ替えを実行し、その狙いは成功した
この時ギニューは思ったに違いない
竈門炭治郎の身体を自分の物にした、と
だが事実は違う
ギニューが気付かないことは仕方がなかったかもしれない
この殺し合い、肉体の人物も意識は封じられていながらも存在している事を
そしてギニューが行ったのは魂の干渉とも言える行為、それが互いの身体で起きた結果
竈門炭治郎とケロロ軍曹の魂に接触し、意識は目覚めてしまったのだ
だからってこの時点では何かできる訳ではない、そう簡単に縛りが取れる訳がない、そしてそのまま鳥束とケロロは貨物船に殺されてしまった

だが炭治郎はこの時点で意識が目覚め…ギニューの考えを読み取り始めていたのである。そしてギニューの思考から自分が殺し合いに巻き込まれた事、元々はあの緑のカエルの身体の人が自分の中にいた事、そして…思考を見る限り最低最悪の悪の帝王であるフリーザを生き返らせる為に殺し合いに乗っている事を
『なんて奴だ…!!このままでは俺の身体が、俺の戦いで得た全てが、鬼殺隊の想いが!!人を殺す為に使われてしまう!!』
焦る、炭治郎はこの状況に、どうすればいいのかと、ギニューは自分の持ち前の嗅覚を生かして戦っているようだった。
『早く俺を殺してください!!それが無理なら逃げてください!!早く!!早く!!』
必死に叫んでも何も目の前の少女には聞こえてくれない
(イカレてるのかこの女は…!)
『お前が言うなギニュー!!平気な顔で人を殺せるようなお前がっ!!』
ギニューの行動全てに怒りが湧いてくる、人の命を平気で踏みにじる鬼に対する感情と同じものを向けていた。


とりあえず今はギニューが逃亡を選んだ為に誰も殺さなかった
しかしこの状況がいつまで続くかは分からない、早く身体を取り戻したい
(新たな体は手に入ったが、このガキの体で優勝は難しいだろうな……)
(まぁいい。炭治郎よりも強い体を見つけたら、再びボディーチェンジすれば良いのだからな
(そうやって今までも次々と身体を入れ替えて…殺しをしてきたのか…許せない!!)
そう怒りながら何度も身体を奪おうと意識を集中させるが何も出来ない、変わらない、現実は非情である
(どうすれば…どうすればいいんだ!?)

派出所に入った時も自分の本来の時代とは全く別の物が多くあったがそれに驚嘆している場合ではなかった、ただただ必死に身体を取り返そうとしていたのである。
(全集中…!!駄目だ!!全く自由が利かない!!)
何をやろうとも身体は自由にならなかった
「顔も名前も知らないが、オレに存在を察知されたのが運の尽きだ!フリーザ様復活の礎となるがいい!」
(駄目だ…嗅覚を抑えられない…早く誰か…俺を殺してください!!お願いします!!お願いします!!)
必死に祈る事しかできなかった。


879 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/09(土) 11:45:26 ???0

茶色の髪をした女性と金色の髪の男を不意打ちで襲った時、炭治郎はギニューをどこまでも相いれない男であると改めて理解した。
早く身体を奪還する為、そして良い人であると匂いで分かった二人を守る為に全身でめちゃくちゃに暴れようとする
その結果…少しだけ自由になった。
だがそれが皮肉にも…ギニューが急速に身体がなじむきっかけになった

(な、なんだこれは!急に力が湧き上がってきたぞぉぉぉぉぉ!!)

水の呼吸・壱ノ型 水面斬り

『何で…?何でそうなるんだ…!?何でお前がそれを使えるようになるんだ!?実際に教えてもらったのは俺のはずなのに!!』
使われてしまった、鱗滝と共に必死の訓練の果てに身につけた水の呼吸が、そして…深手を負わせてしまった。恐らく俺がギニューの記憶を読んでいるように俺の記憶も読まれている。だがこの男は俺の想いなんぞ少しも読み取りもしないだろう、本当に最低最悪だコイツは
罪悪感で吐きそうになる、苦しくなる、辛くなってくる、でも折れちゃいけない、俺は長男なんだ、でもそれだけじゃ今回は折れそうだから鬼殺隊の一員である誇りも乗せて奮い立たせる。
と同時に自由に少しだけなった感覚もあると気づく
だがそれでもギニューの攻撃を阻害できそうにない

幸いにも、二人は容赦ない攻撃をしてくれている。これなら俺を殺してくれるかもしれないと思う
だがこの男の戦闘センスは二人を殺さんと牙を向いている
そして激しい爆発の果てに…
「散々手こずらせてくれたが……最後に勝利を手にするのはオレのようだな!」
「感情としては貴様らは、存分にいたぶってから殺してやりたいところだが……。
 それでまた逆転のチャンスを与えてしまってはかなわんからな。
 一撃で心臓を貫いてやる!」
『やめろ!!やめろっギニュゥゥゥゥゥゥ!!』

無意味だと分かっていても止める為に本気で干渉しようとしたがその時
悪い人の…正確に言うと嘘を言っている匂いがする人が来てくれたおかげで殺さずに済んだ
だがギニューが奪った支給品にある賢者の石による回復、そしてギニューがその後に下した決断に…絶望した
あんなに傷ついてボロボロに…させてしまった少女達だ、回復手段があってくれるならと願うがもしなかったとしたら…すぐ俺が殺してしまう
あの嘘をついている緑の鎧の人が俺を殺してくれればと願うが…

そして彼等がいる民家に乗り込んでしまったギニュー、ベルデと激しい激闘を繰り広げる。炭治郎は相手が隙をついてくれる事を信じてわざと隙を作ろうと必死に干渉した。

その結果自由をまた少し取り戻せた。結局隙は作れなかったが

ギニューが次々の水の呼吸の攻撃をしてしまっている現実と引き換えに

(喜べ炭治郎。フリーザ様復活の為に、貴様の力はオレが存分に使ってやる)

『ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!俺が身につけた力は鬼を、無惨を倒すための力だ、妹を、禰豆子を元に戻す為の力だぁぁ!!お前のような他人を踏みにじり、かけがいない命を殺すような奴が使っていい力じゃないんだぁぁぁぁぁぁ!!』

激情と共に自由を取り返そうとするが何もかもが無意味だった。

そもそも参加者がメインであるはずの殺し合い、身体の提供者が簡単に出てきたら殺し合いの前提自体が壊れてしまう。故に炭治郎も干渉する事は出来なくて当然である。

そしてギニューは、俺の身体は、近づいてしまう、あの何も罪がない茶色の女の子を殺すために


880 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/09(土) 11:48:05 ???0
やめろ!!やめてくれ!!本当にやめてくれ!!善逸に!!伊之助に!!煉獄さんに!!鬼殺隊の皆に…そして禰豆子に!!どんな想いをさせる気だぁぁぁぁぁぁ!!

叫ぶ、懸命に叫ぶ、禰豆子は鬼だ、人を食いたくてたまらないはずの鬼なんだ、でも、誰一人人を殺さないようにして必死に頑張ってるんだ

それなのに兄である俺が人を殺したら、もう禰豆子と一緒にいる資格はない、兄を名乗る資格はない、いや、そもそも鬼殺隊にいる資格も、何もかも崩れてしまう、俺の何もかもが
何度も叫ぶ、喉が壊れそうになっても叫び続ける、だが止まらない、絶対に

遂に…刀を振って…

「「や…め…ろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」」

…この時同じ叫びをしていたのだ、リトと炭治郎は

同じ想いを持っていた、目の前の人に死んで欲しくないという想いを

そしてその想いは成し遂げられた

結城リトという少年の死を引き換えに


881 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/09(土) 11:48:49 ???0
俺達の家族が…禰豆子以外全員殺された前日に思った事がある

幸せが壊れる時はいつも血の匂いがする

今、俺は目の前の何も罪がない人は大量の血を流して倒れている…
誰がやったんだ?
俺は鬼殺隊の一員だ、人を食う鬼を倒してこれ以上悲劇を起こさないようにしなければいけない

こういう時は血の匂いを辿るのが1番だ、なぜなら人を食べた鬼の口にはまだ血が残っている事が推測出来たからだ、その推測の理由は血が凝固していない、まだ液状だ、つまり時間が経っていない事を示している。

そして匂いを嗅いでみる。…あぁこの血の匂いと同じを発しているのは


俺の日輪刀だ

ビキッ

炭治郎は思考を停止してしまっていた。現実を信じられなくて

その目の前の金髪の男の子は死にそうになりながらも魔法を使って、俺から茶色の女の子を守っていた。
遅れて緑の鎧の人が復活する、でももう遅い、彼は、俺が斬ってしまった

茶色の女の子は目が覚めて必死に何かをしている。治そうとしているのかもしれない

その途中に俺と同じ声で最悪な事をアイツは、ギニューは言った

「あの小僧の事か?フン!弱い奴から死んでいくのは当たり前だろう!」

この言葉はしっかりと耳に焼きついたが今は彼の無事を祈る事しか考えられなかった

何か他の人がやってきたが今は彼の事しか考えられなかった

だが匂いは伝えてきた。どうしようも無い彼の終わりを

そして善逸程耳が良くなくても…聞こえてきてしまう

「ご……め…ん…………」

「結城さん…!なんで…なんでぇ……!!」

彼の最期の言葉、そしてそばにいる彼女の涙声が

ピキピキピキっ

心が、心がひび割れていく

『あ…あぁ…』

彼の最期の言葉、ごめん、は誰に向かって言っていたのだろうか
目の前の彼女だろうか?それとも彼の元の世界の仲間に向かってだろうか?
彼の言葉の匂いには後悔しか感じられなかった、自分の大切な仲間にたいする申し訳なさを強く感じてしまった。

何で彼が謝るのだろうか?彼は何も悪い事をしていないのに
彼はこの殺し合いに巻き込まれなかったら、巻き込まれても死ななければ誰かに謝る必要なんてなかった
何で彼は謝らなくちゃいけなかったんだろう?

ピキピキパキピキっ

『ああぁ…あああぁ…!!』

彼女は泣いていた、彼を守れなかったから
自分のせいで彼が死んだから
違う、君のせいなんかじゃない
君は仕方がなかったじゃないか、あれ程の深手を負っていたんだから、休む為に休憩をとる必要があったんだから
君は絶対に悪くない
…じゃあ誰が悪い?

ピキパキピキピキバキャッ

決まっている

彼女と彼と彼の元の世界の仲間の幸せを壊したのは

たった1人

俺だ

俺は人殺しになってしまった




パリーン

『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁっっっっ!!』

炭治郎には様々な人達との思い出があった

大切な家族との暖かい思い出や

鬼殺隊との厳しい訓練、だが想いを分かちあってお世話になったり、生き様を知ったり、互いに高めあった思い出等が

この思い出を胸に炭治郎は今まで戦ってきた。

だがその思い出は黒く塗りつぶされてしまった。ほんの数分で

自分の欲望だけの為に全てを踏み躙る悪によって

それからはもうずっと涙を流し、叫び続け…いや、発狂していたと考えてもいいだろう。外の様子は少しも頭に入ってこなかった。


882 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/09(土) 11:50:37 ???0
次に外の様子に目を向けた時にはもうギニューはトビウオに乗っていたのである。
『…何で俺死ななかったんだろう』
早く殺して欲しい、早く死にたい、罪人となってしまった俺はさっさとこの世から消えるべきだ
そう思って自分の日輪刀で腹を切りたいという考えを持った時
何故か…何故か分からないが身体が動いてくれる予感がしたのだ、今まで全く自由が効かなかったというのに
…そして炭治郎は察した、彼を殺した時のとてつもない激情、更にギニューが連続で水の呼吸を使った事によって魂の縛りが緩んだのだと
今だったら彼を殺すのを止めれたはずだ、遅すぎるけれど
…だが、感覚でわかる、まだこのままでは身体を奪い返せない、奪えたとしてもほんの一瞬だ
まだギニューはギニューの状態だ、完全に俺にしなければ俺は俺を取り戻せない
…と思ったが薄々分かってきた。魂の縛りがゆるんだ影響によるものだが
予想以上に壁は高いと感じた、残酷ながら、完全に身体を奪い返す事は…短時間じゃ無理だ、一週間ぐらいかかるだろうと分かった。しっかり対策を、制限をされていたのだ、精神の反逆を抑える為に、この殺し合いの期間では奪い返す事は、取り戻す事は無理である事を…悟ってしまった。
現実は本当に非常だ、神様はここまで俺に罰を与えたかったのかな?と思わずにいられなかった。

でも
それでも炭治郎には、どうしても退けない時がある。何度もそんな時はあったが、今もその時だと分かっていた。
例え奪え返せなくともこれ以上死者を増やさない為に抗わなければならない
その為にどうすればいいのか、考えて…ふと思い出した
『記憶の遺伝』
俺の身体は先祖である炭吉さんと耳飾りの剣士の出会いの記憶を時々思い出す事があった
…もしかすると俺の記憶もギニューに伝える事が可能なのでは?
奴は願いの為にもっと強くなる事を望んでいる、なら引っかかるはずだ


こんな今の俺でも…抗える、精一杯、ならば精一杯くらいついてやる!!
そう考えた以上…どんなに悲しくても、悲しんでなんかいられない、悲しいけど…立ち直っていくしかない

こうして炭治郎は様々な記憶を見せて、強くなるきっかけを作った。時には気絶したギニューを強引に目覚めさせたり、透き通る世界に入るキッカケを作る為に視界を乗っ取ったりもした

運が良かったのは悪党かつかなり強いJUDOが近くによってきた事である。彼との戦いは技をギニューに得させる良いきっかけになった。

彼と戦う為に宇宙船へ行くという目的を吹き飛ばすくらい戦闘の記憶を見せたり、魘夢の時と同じように戦え!!と声を張り上げたのは大変だった。

そしてギニューは少しずつ間が空いているとはいえ型の順番は正しかったために…不完全ではあるがヒノカミ神楽を完成させた。

こうしてギニューを自分の身体に馴染ませた炭治郎は相手の行動に大きく干渉する事に成功したのであった。


883 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/09(土) 12:00:56 ???0
…そして去っていくギニューを追う気力はなかった、何とか物陰に隠れる事は出来たが、体力も限界だったJUDOはそこで気絶した。
こうして大首領JUDOは世界の破壊者、大ショッカー首領の仮面ライダーであるディケイドへの変身をする資格を失った。

残った物はライドブッカー、それもガンモードへの変更しか出来ない

大首領を名乗る者としてはあまりにも寂しすぎる武装の数だった

【E-4とE-3の境目の川の近く/昼】

【大首領JUDO@仮面ライダーSPIRITS】
[身体]:門矢士@仮面ライダーディケイド
[状態]:負傷(極大)、疲労(極大)、全身に大ダメージ
[装備]:ライドブッカ―+アタックライド@仮面ライダーディケイド(刀部分は大きく折れて欠けてしまっています)
[道具]:
[思考・状況]基本方針:優勝を目指す。
0:…
1:馬鹿な…!!我が…ここまで…!!

[備考]
※参戦時期は、第1部終了時点。
※現在クウガ〜響鬼のカードが使用可能です。が、そもそも変身できない為に今の所意味がありません。
※基本支給品×2(リオン)、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナルを葛飾署に置いてあります。






だがここで良いニュースだ

ディケイドの力を取り戻せる可能性がある、という事だ

この殺し合いの場にはディケイドの力が3つある

今壊された本編のディケイドの力

桐生戦兎が持つ、ネオディケイドの力

そして今檀黎斗が持つアナザーディケイドの力である。

だがネオディケイドの力を奪い返すのは今のJUDOには限りなく難しい、変身して迎え撃ってくるだろうし

ではアナザーディケイドの力はどうだろうか?

紛い物の力?暴走する?

確かに普通の人ならば暴走してしまうだろう。アナザーライダーとはそういう生き物だ、スウォルツ等強大な力を持つものや、檀黎斗王等悪に振り切れている者にしか制御できないだろう

しかし、忘れないで欲しい、JUDOは強大な力を持ち、そして肉体は本物のディケイドに変身できる者である事を

もしかしると怪物の力であるアナザーディケイドの力すら…本当の力に変わる…という事も起きるかもしれない、つまり

ディケイドの力はアナザーディケイドの力でも取り戻せる可能性があるという事だ

(作者の推測です)


884 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/09(土) 12:02:22 ???0
「はぁ…!!はぁ…!!」
現在、ギニューはE-4とE-3の境目の川の近くにいた…頭痛が今やっと収まったのだ
(な、何故こんな事に…!?何故だ…?)
慌てて考えてみる…こんな事今まで戦った時に起きた事はなかった
急に戦いを妨げるように声が聞こえてくるようになるとは…そういえば戦えの前にも戦え、という声が聞こえたような…

まさか…!!
(まさか今までオレが見た物、そして聞いた声は、オレに強く干渉する事を可能にする為に…!!)
ギニューは自分が調子に乗りすぎていた事を悔いた。思えばあそこまで急激に強くなった事自体出来すぎだと考えるべきだったのだ

だがもう遅い、既に声が響いてくる、相手を殺して優勝する、と思っている瞬間に再び頭痛がしてくるのだ

…おかしいと思わなかっただろうか?

幾ら炭治郎の身体に完全にギニューが馴染んだからってここまで身体が精神に干渉出来る事なんてありえないと思った人もいたはずだ、そんな例今までひとつもないのだから、類似する例としてはホイミスライムの精神にソリュシャン・イプシロンの技能を多く使った結果、ソリュシャンの歪んだ考えがホイミンに影響を及ぼし志村新八を殺した例だろう。だがそれと比べても干渉の強さは桁違いである。そしてもう一つそもそも様々な情報を伝える為に炭治郎は過去の戦いの記憶等を思い出してきたがそれら全てがしっかりギニューに伝わっているのはどういう事なのだろうか?伝える事が出来るとしても短時間で伝えきるなんて難しいはずである。

だがギニューの場合はその例になりうる素質があったのだ


セロハンテープはご存知だろうか?
離れている物同士をくっつけ合うことが出来る工作において使用され易い物の事である
セロハンテープは1度目はくっつきやすいがそれをはがして使い回すと効果が薄くなってしまうものである。
つまり、固定されている物を再び剥がすことが推奨されていない物でもあるのだ

ここまで言えば分かるだろう
ギニューは本来ケロロ軍曹と運営によってガッチリ固定されているはずだった
だがボディーチェンジで強引に固定を外し炭治郎とくっついた結果
彼の精神はこの殺し合いにおいて不安定な物になっていたのである。その為に炭治郎の記憶もしっかりと受け止めてしまっていた
そして干渉の強さはソリュシャンと違い、炭治郎の精神は目覚めているという違いがあるのだ。千雪、真乃と同じように

この結果、長期的な干渉を可能にしてしまっていたのである。

ギニューは何とかとりあえず休む!!休む!!と念じて、休憩をする事で殺意を頭から抜いた結果…頭痛と声は引いた

だが再び誰か、特に人に殺意を向いた瞬間に脳に声は響いてくるだろう。
ただし、この声は今の所は人を殺そうとした時にしか響いてこない
炭治郎は人を護る剣士だからだ。今の所まだ干渉はギニューの行動を強く制限出来るようにはなっていない。その為、人に殺意を抱く時以外響かないだろう
だがこの殺し合いには都合が悪い事がある、肉体と精神が一致していない事である。
この為、人外に相対しても炭治郎は匂いで人の心を察知して護ろうとして干渉するだろう
現在生き残っている参加者の中で本気で剣を振るえるのは無惨、貨物船、デビハムくん、ホイミン、メタモンだけだろう…ほとんどがマーダーなのは偶然だろうか


885 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/09(土) 12:16:17 ???0
「くそぉぉぉぉぉぉぉ!!」

怒る、怒り続ける、間違っていた、この肉体に身体を入れ替えた事は、とギニューは悟っていた。
こうなるとギニューとしては目標を達成できないこの身体は邪魔だ、早々にボディーチェンジをするべきだろう、それには制限はかからないだろう、声が響いていない事がその証明だ。
だがボディーチェンジにも注意が必要だ。ボディーチェンジの技を使用中はギニューの魂の固定は外れている。この間に炭治郎の干渉が強くなってしまう可能性がある。
だがその前に…結局誰も殺せなかったJUDOとの戦いの休憩をしなければならない、その為に最初の目的にあった宇宙船に向かう事を…決めたかった。

決めきれないのには理由がある。さっきの戦いの際に所持品をE-4の民家に置いてきてしまっている。トビウオや賢者の石など使えるものがある。それを放置したまま宇宙船に向かっていいのか、迷いが生じる。呼吸をする為に離れながらヒノカミ神楽で攻撃をし続けた事が裏目に出てしまった。もし所持品を回収しに行ってもその場所はディケイド響鬼の火炎弾の影響で火事が起こってしまっている。取りに行こうとするとただでさえ無駄な体力を消費しているのにまた体力を消費してしまう。そして取りに行っている間にC-1 が禁止エリアになる可能性もある。
放っておいて他の奴から奪う事も出来ない、今の自分はほとんどの参加者を殺せないのだから


「があああああぁぁぁっっっっ!!」
どんな選択肢を歩もうとも苦難の道しかない。この現実を受け入れられるのは時間がかかりそうだ。




良かった…何とかあの人を護れた…危険人物だったけど奴が剣を振った事に干渉してベルトを壊せたからあの人が誰かを殺す事はできにくくなくなったはずだ
…今は何とか人を殺させないようにする事しかできない。でもそれだけでも大分俺としては良い結果だ、俺の剣が、鬼を滅する為の剣がこれ以上人の血で汚れないで済む
でもそれだけじゃ終わらせない!!例えお前から身体を奪い返せなくとも、お前の全てを邪魔してやるぞ…ギニュー!!

そして…ごめんなさい、緑壱さん、俺もしくじりました

いつの間にかに殺し合いに巻き込まれてしまい、邪悪に身体を奪われ、刃を無実の人の血で汚しました。

貴方の剣を…ヒノカミ神楽として受け継いでおきながらこの過ちは許されない

俺はもう鬼殺隊を名乗る資格は貴方と同じくありません。貴方には十分資格があるというのに

ですが、それでも、どんなに心が痛くても、苦しくても、悔しくても…!!

諦めない!!


886 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/09(土) 12:17:09 ???0
【E-4とE-3の境目の川の近く/昼】

【ギニュー@ドラゴンボール】

[身体]:竈門炭治郎@鬼滅の刃
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、上半身に火傷、右腕に切り傷、全身に音によるダメージ、姉畑への怒りと屈辱(暴走しない程度にはキープ)
[装備]:竈門炭治郎の日輪刀@鬼滅の刃、エドワードのコート@鋼の錬金術師
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:優勝し、フリーザを復活させる。
1:こんな体からは早くボディーチェンジしなければオレの願いは叶えられない!!
2:道具を早く取り戻しに行かなければ…!!だが宇宙船も…!!くそぉぉぉぉぉぉぉ!!
3:もしベジータの体があったら優先して奪う。一応孫悟空の体を奪う事も視野に入れている。
4: 変態天使(姉畑)は次に会ったら必ず殺す。但し奴の殺害のみに拘る気は無い。
5:炎を操る女(杉元)、エネルギー波を放つ女(いろは)、二刀流の女(ジューダス)にも警戒しておく。ロクでもない女しかいないのかここには。
6:これ以上お前(ギニュー)の願いの為に人は殺させない!!
[備考]
※参戦時期はナメック星編終了後。
※ボディーチェンジにより炭治郎の体に入れ替わりました。
※全集中・水の呼吸、ヒノカミ神楽をほとんど意識して使えるようになりました。
※隙の糸、透き通る世界が見れるようになりました。
※竈門炭治郎の精神がボディーチェンジを受けた時に目覚めていました。
※現在、ギニューは炭治郎の干渉により人を殺すことが出来ません。これは精神が人の場合も同じであり、精神と肉体が人間ではない無惨、貨物船、デビハムくん、ホイミン、メタモン以外と戦う時は炭治郎の声が頭に響くと同時に頭痛がしてしまい、碌に戦えません
他にも、肉体が人外で、精神が人の場合でも、精神が人外に浸食されている時は頭痛が止む可能性があります。
この今の状態でも普通に戦える相手がいる事をギニューは気が付いてません。
※ボディーチェンジは普通に使用が可能です。ただし失敗すると炭治郎の干渉が強くなり、上記の干渉の内容が変化する可能性があります。ですが、完全に身体を奪え返す事は『絶対に出来ません』
※基本支給品×3、賢者の石@ドラゴンクエストシリーズ、警棒@現実、ランダム支給品0〜1(鳥束の分)、アクションストーン@クレヨンしんちゃん、トビウオ@ONE PIECEを葛飾署の近くの民家に置いてあります。


E-4 葛飾署の周辺が火事で燃え始めています。


887 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/09(土) 12:17:20 ???0
そして更にギニューに悪いお知らせだ…だが良いお知らせでもあるかもしれない
宇宙船の内部に…何と先客がたった今現れた

運命とは皮肉だろうか、悟空の瞬間移動を使ったわけでもないのに
孫悟空の身体は、傷ついた身体をかつての戦いの時のようにメディカルマシーンで癒したいと思っているのかのように宇宙船内部へワープしていた。

「…お?」

そして空中から軽く落ちた衝撃で…野原しんのすけは目覚めていた。

彼はメディカルマシーンに気づいて、すぐに身体を癒せるのか?メディカルマシーンによる治癒はどれ程の時間がかかるのか?そして癒してすぐに宇宙船を離れる事が出来るのか?

それともギニューはしんのすけが一連の活動を行う前にとても疲労している身体で辿り着くことが出来るのか?そして孫悟空の身体を手に入れる事が出来るのか?そもそも宇宙船に真っ先に行くという選択肢を、道具を取りに行く選択肢を捨てて選ぶことが出来るのか?

【C-1 宇宙船内部/昼】

【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[身体]:孫悟空@ドラゴンボール
[状態]:体力消耗(特大)、ダメージ(中)、腕に斬傷、胸部に斬傷(大・止血済み)、貧血気味、右手に腫れ、左腕に噛み痕(止血済み)、決意、深い悲しみ
[装備]:ぴょんぴょんワープくん@ToLOVEるダークネス(6時間使用不可)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:悪者をやっつける。
1:ここどこだゾ?オラはミチルちゃんと一緒に戦ってたはずじゃ…何でこんな所に?
2:おじさん(産屋敷)とちゃんとおはなししたい。
3:逃げずに戦う。
4:困っている人がいたらおたすけしたい。
[備考]
※殺し合いについてある程度理解しました。
※身体に慣れていないため力は普通の一般人ぐらいしか出せません、慣れれば技が出せるかもです(もし出せるとしたら威力は物を破壊できるぐらい、そして消耗が激しいです)
※自分が孫悟空の身体に慣れてきていることにまだ気づいていません。コンクリートを破壊できる程度には慣れました。痛みの反動も徐々に緩和しているようです。
※名簿を確認しました。
※気の解放により瞬間的に戦闘力を上昇させました。ですが消耗が激しいようです。
※悟空の記憶を見た影響で、かめはめ波を使用しました。

【ぴょんぴょんワープくん@ToLOVEるダークネス】
ララの発明品である生体単位での短距離ワープを可能とする機械。
初期は行き先を指定できず、衣服はワープさせられない等の欠点があった。
後に改良された際に上記の欠点は無くなったが、据え置きタイプの為片道ワープしか出来ない。
支給されたのは初期の腕輪型。
本ロワでは主催者に手を加えられ衣服のワープも可能であるが、使用すれば装着者のみをランダムに禁止エリア以外の場所にワープさせる。
一度使用すれば6時間使用不可となる。


888 : ◆P1sRRS5sNs :2022/07/09(土) 12:22:23 ???0
まず、865〜867までのタイトルは『迫る超決戦!ギニューVSJUDO!!』(ドラゴンボール風タイトルがタイトルの由来です)

868〜872のタイトルは『バトルワールド』(ディケイドのBGMが元ネタです)

873〜877のタイトルは『ヒノカミ神楽』(ヒノカミ神楽そのまま)

878〜887のタイトルは『不殺の刃』(鬼滅の刃そのもののタイトルのアレンジです)

でお願いいたします

そしてまたJUDOの場所を書き間違いました

JUDOの場所は【E-4の橋の近くの物陰】です。よろしくお願いします。


889 : ◆5IjCIYVjCc :2022/07/10(日) 22:51:47 3RPv5u4E0
志々雄真実で予約します。


890 : エタニティ・デザイア ◆EPyDv9DKJs :2022/07/12(火) 08:05:28 YSyDZrVo0
投下します


891 : エタニティ・デザイア ◆EPyDv9DKJs :2022/07/12(火) 08:07:20 YSyDZrVo0
「ふこっ。」

 溜息の一つも吐きたくなるものだ、と無惨は先程も思った。
 今しがた本当にそれで溜息を吐いたが、他者からそれは認識されない声になる。
 あれからキャメロット達はB-5、B-6、C-6と移動したものの、誰とも出会うことは叶わなかった。
 近くの参加者は大体C-5か、そこから離れるように移動していたのもあったので、仕方ないのだが。

(契約とやらも殆ど徒労に終わり、なんとも無駄な時間を過ごしたものだ。私の時間を無駄にするな。)

 キャメロットと遠坂による、
 サーヴァントとマスターの契約についての経緯の結果。
 契約そのものはできた。しんのすけは過去に魔法を使った経験もあるため、
 少なくとも魔術師としての素質云々だけで言えば、ある側になるだろうか。
 魔術回路は少なからず存在してはいるようではある一方、あくまで存在してるだけ。
 先代から魔術刻印を受け継いだわけでもなく、そもしんのすけの家は一般家庭だ。
 ……世界を救うようなことがあったりとか、巨悪の組織を倒したとか、
 確かに一般家庭を超えた要素は多量にあるが一先ず一般家庭としておく。
 遠坂の本来の身体とは比べるべくもなく天と地ほどの差の魔力が存在する。
 契約はできたものの、結局根本的なステータスの低下は解決はしない。
 聖杯戦争の正式なシステムによる契約でもなく、聖杯にそうさせないようにしているのか、
 聖杯から令呪を授かるようなこともなかったので魔力供給は相変わらず乏しいものだ。
 魔力消費についてはセイバーのスキル『竜の炉心』もあるため、
 何度も先の相手(ダグバ)レベルと接敵しなければ吸いつくすこともないのが救いか。
 正直だめもとではあったので、さして落ち込むこともなかった。

 長々と語ったがつまり、殆ど状況は進展していない。
 遠坂とキャメロットは契約して移動した。しかし何も起こらなかった。
 この一文で終わってしまう程度に、彼女達は何の成果も得られてない。

(施設の一つとも見つかればよかったのに一つも出会わないし、何なのよもう。)

 森の中に建物一つあるかと思えば見つけられることもなく。
 殺し合いが始まり、一体何時間経ったのだろうか。確認するのも億劫だ。
 時間を費やしても結果を得られないまま、無作為に時間だけが過ぎていく。
 これ以上の無駄な浪費は避ける手段を考えたいところであり、

「二人ともストップ!」

 遠坂の静止により二人は歩みを止める。
 止められたが二人も意味はなんとなく察していた。
 大雑把とは言え複数のエリアを探せど、施設もなければ参加者もなし。
 これ以上の探索が無駄だと打ち切るのは当然の考えだ。

「一旦、C-5に向かうという概念そのものを捨てるけどいい?
 今の状態を続けたって、状況が改善される見込みはないと思ってるの。」

 戦力が増えてない今、突入するのは最初の時とほぼほぼ変わることはない。
 寧ろ既に行ったか、行かないという選択肢を終えてしまってるのは目に見えてる。
 固執するのは、キャメロットのように倒さなければならない敵がいるという人物のみだ。
 元よりバリーは無駄な時間だと思っていたので、事実上キャメロットの意見だけを聞く場になるも、
 彼女とて無意味に時間が過ぎていく現状を考えれば、受け入れることは十分にできた。

「分かりました。ではどちらへ?」

「喫茶店ルブランが近いと思うし、そのあたりを見に行くわよ。」

 ルートを確定させ、一先ず南へと向かう。
 キャメロットは西の方角を少しだけ一瞥するも、
 ルートを変えての行動をとることをせず素直に従う。
 バリーの件もある。考えなしに動くことはしない……と言うよりはできないが正しいか。





 D-6は煉獄と絵美里との戦いを筆頭に何度も戦いがあった。
 ルブランの攻撃の流れ弾もあって、相応に荒れているのが現状だ。
 喫茶店も拠点としての機能はあまり役に立ちそうにもない状態にあり、
 地図上に名前が載ればどうなるかを視覚的に教えてくれてるかのようでもあった。

(一人や二人どころじゃないわね、この様子。)

 ガラスの破片がかなりバラバラで、単なる破壊以外も混ざっている。
 恐らくは人が踏み荒らしたものであるので、此処は結構な人が関わった様子。
 人数が多いのなら物色する意味も薄く、探索することを選ぶことはしなかった。
 今更疑うつもりもないことではあるが、地図上の場所とは一致している。
 となれば遠くない場所に食酒亭もあるので、一先ず次の場所へと目指す。

「!」


892 : エタニティ・デザイア ◆EPyDv9DKJs :2022/07/12(火) 08:08:33 YSyDZrVo0
 微かに聞こえた音に全員が反応する。
 空に輝く緑の風と雷雲。通常の現象では起こり得ぬ現象。
 言うまでもなく、全員は其方へ向かうことを優先として走り出す。
 ある意味因果となる敵、ダグバまではそう遠くない距離ではあったが、
 近くの路地からキャメロットが捉えた一人の姿に、歩みを止めざるを得なかった。
 死に物狂いで逃げている、とでも言わんばかりの表情をした状態でだ。
 この状況で逃げている。となればどういう人物かは最早推理するまでもない。

「キャメロット?」

「凜さん、別の参加者がいたのですが。」

「……ええ、そっちでいいわ。」

 この先にも敵がいないという保証はない。
 逃げている様子から乗ってない可能性は十分にある。
 貴重な対話が望める参加者であり、一人であるなら放っておけない。
 遠坂の了承も得たので、直ぐに其方へと方角を変えて走り出す。





 ゲンガーは最後の気力で、死に物狂いで動いていた。
 流石に十数時間も人間の身体になるともなれば、相応に動かせる。
 人並みの走る行為をすること自体は、そう難しくはなくなった。
 とは言え、あくまで肉体的な話だ。精神は最早ボロボロである。
 あの場にいれば、そのままあの悪魔の少女によって死ねただろう。
 でもできない。木曾も、ロビン達も、ハルトマンもなんのために死んだ。
 彼自身にとっては死なせてしまったとも言うべき無数の死者たちではあるが、
 彼女達にとっては誰かを、或いは自分を死なせないために死力を尽くしてくれた。
 ハルトマンだって空へ飛んだのは、単純に有利な場面に持ち込んだだけではない。
 自分が死ぬかもしれないと思ったが末の行動であったことは、短い時間で察せた。
 本来ならばしんのすけとミチル、それとエルドルを待ちたかったものの、
 この状況で待てる余裕など、今の状況を考えればどこにもなかった。
 だから生きないといけない。災厄を齎す死神であろうとも。

(ケケッ……アブソルかよ。)

 ただ、それも限界を迎えつつあるが。
 随分前。元の世界……否、厳密にはゲンガーの頃の記憶だ。
 あの救助隊が逃亡生活の末に広場に戻ってきた際に、同行していたあのポケモン。
 アブソル。出会えば災害や災厄が訪れるとされる、災いポケモンと呼ばれる存在。
 あの救助隊のアブソルは、道中助けに入った仲間であり寧ろ彼らの助けをしてたそうだ。
 当たり前だ。アブソルは災害を察知して知らせる能力があるだけで災害は呼ばない。
 ただ災害を知らせようとした結果アブソルがいたことで、誤解されたことでそう呼ばれた。
 だが、今の自分は誤解される方のアブソルだ。出会った仲間に対して悉く死を齎していく。
 自分はあのアブソルのようになれない。どうあがいたって他者に糾弾されて然るべき死神。
 偶然か、或いは救いを求めたからか。風都タワーの方角へと向かうように彼は走っていた。
 正直なところ誰かに会いたいとは思わない。会えばその相手は死んでいく。
 敵は死なず、善良な味方だけが。自分は大して傷を負うことがないままに。
 向こうでもそうなってるのでは。神楽や康一もそうなっているのでは。
 追い詰めに追い詰められた精神は既に彼一個人の限界を優に超えている。
 動いているのは最初に言ったとおり、最後の気力で動いてるようなものだ。

「大丈夫ですか!?」

 でも出会ってしまう。新たな参加者と言う名の犠牲者に。
 背後から声をかけられた。声色、足音の数、言葉の内容。
 全てが『味方』に足りうる存在であることを証明してくる。

「それ以上寄るんじゃねえ!」

 だから、逆のことを選ぼうとした。
 八命切・轟天を振るって四人に近づかせない。
 刃物を握る姿は今の身体だからか、微妙に様になってしまう。

「お、敵か?」

「待ってくださいバリーさん。彼に戦意はありません。」

 臨戦態勢に入ろうとしたバリーをすぐに静止する。
 襲い掛かってくるのではなく、単なる迎撃に近い振るい方。
 相手を必要以上に近づかせないが、傷つける覇気が全くない。
 疲れ切った表情も相まって、錯乱しかけてるだけだとすぐに察せる。

「私はキャメロット。この戦いに対しては否定的な者になります。」

「ケケッ……見りゃわかるさ。だったら猶更ほっといてくれ。」

「個人で戦える力がある、と言うことでしょうか。」

 言われると納得はできる。
 手に軽い負傷以外まともな外傷はない。
 やりすごしたり戦う術があることは十分に伺えた。
 自分一人でも生きられる、などと勘違いをしたが早々に否定される。


893 : エタニティ・デザイア ◆EPyDv9DKJs :2022/07/12(火) 08:11:20 YSyDZrVo0
「関わった奴が死ぬって意味だ。逆だ逆。」

「自棄になってるタイプね。こういうのには覚えがあるわ。」

 少しばかり溜息が出る遠坂。
 この手の状態は面倒な相手になりやすい。
 プライドが高いのでわかりやすい慎二ならともかく、
 初対面の相手では他愛ない一言で余計に傷つけるものだ。
 お人好しでも相手するのは少々難儀な相手である。

「……その身体、ひょっとしてしんのすけって奴のか?」

「そうだけど……! 知ってるってことはアンタ、精神の方の居場所知ってるの!?」

 ミチルたちがラーの鏡を使っていた都合、
 しんのすけの本来の姿を見ていたのですぐに気付けた。
 肉体と精神、両方に面識がある唯一の参加者であるならば、
 此処でその情報を逃すわけにはいかず、遠坂は食いつく。

「ケケッ……やめときな。こっちは俺の前でもう四人も死んでるんだ。
 ついでにしんのすけは今はいねえし、俺に関わるとろくなことにならねえさ。」

 どうしたものかとしかめっ面になる。
 逃したくないがメンタルケアとかしなければならない。
 焦りから余計な一言を言いそうだしと言い淀んでしまう。
 決裂したと感じたゲンガーはそのまま離れるように歩き出す。

「関わった人が命を落とした、と言うのであれば私も同じです。」

 どうしたものかと悩んでいると、
 意外にもこの話に進んで出たのはキャメロットだった。
 彼女も元々は建築物の城。即ち、数多くの人の死を見届けてきたことになる。
 関わった人間に等しく滅びを与えるのであれば、それは似たようなものであると。
 モードレッドもアーサー王も、カムランの戦いでの傷によって命を散らした。
 国を統べる器を持つ王は、一人として残ることはないままに聖騎士の物語は幕を閉じる。
 (厳密に言えばアーサー王は物語によっては生きながらえるが、どの道ブリテンは滅びるので割愛)
 世間的……厳密に言えばキャメロットの世界におけるアーサー王伝説とは、物語である以上はフィクション。
 遠坂の世界におけるアーサー王伝説とは違って現実にて死んだ人間は存在しない、架空の物語。
 しかし彼女は今でも昨日のように思い出せる。数々の円卓の騎士が散っていったことを。
 無念の騎士も多かっただろう。他者の為にする行動が全て裏目に出る呪を受けたベイリンのように。
 城である以上、彼女ができたことはただ見届けるだけであり同じとは言えないものの、
 少なからず彼の思う気持ちを汲み取れるという点においては、一番近しい立場だ。

「何百、何千、何万……いえ、それ以上の人の命と私は関わりました。
 数を競いたいのではありません。ただひとえに、貴方の気持ちはよく伝わります。
 自棄になる気持ちも理解できます。ですが、それ故に此処で別れることを善しとしません。」

「一体、何しでかしたんだよ。」

「見届けただけです。名のある騎士が散ろうとも、
 我が王が自分の息子を槍で貫かれようとも、ただずっと。
 もっとも、全てを目の前で見続けてきたわけではありませんけどね。」

「ケケッ……そう言われちまったら、断れねえじゃねえか。」

 万単位ですら足りないという、戦争でもなければそうは出てこない数字。
 何があったかを察せられないが、それだけの死を前にしても彼女は戦うことを選んだ。
 彼女のようになるつもりはないし、彼女のような不屈の心はなろうと思ってなれるものでもないだろう。
 ただ、此処で拒絶することも後ろ髪を引かれるので、会話の為少し西の方角へ進んでから建物の中に入る。
 (食酒亭では近くにダグバがいる可能性もあったので、最初から選択肢から除外されている)

 D-5に近い場所に、都会の風景には余り似合わない中世時代の一軒家が目につき足を運ぶ。
 内装も全体的に遠坂の基準となる2004年の時代から見たとしてもかなり古い時代のものだ。
 遠坂にとってはこの景観を無視した建物も地図に載る類の奴なのだろうことを察しており、
 地図を確認してみれば、事実先ほどまでなかったはずが新たな名前が浮かび上がっている。
 此処が『エレン・イェーガーの家』と呼ばれる施設であることは間違いないようだ。
 こんなにあっさり見つかっては、今までの時間は何だったのかとすら嘆きたくもなる。
 イェーガーの名前を持った参加者はいないが、ゲンガーが出会った康一の身体が関係者に当たる。
 遠坂の『施設の関係者にしかわからない何か』がこの家にもあるかもしれない可能性はあるも、
 今は一先ず他の情報を得て、それを整理するのを優先とすることとして三人は席につきつつ、
 遠坂は身体の都合顔が机を越えられないので、椅子だけ持って近くの牧入れの箱に産屋敷(無惨)を置いて、
 其方に対応しつつの形での会談になる。


894 : エタニティ・デザイア ◆EPyDv9DKJs :2022/07/12(火) 08:13:16 YSyDZrVo0
「な〜〜〜み〜〜〜。」

「意思疎通するのも大変ね……お腹が空いてる? あってたら右手を挙げて。」

 意志疎通の取り方に難儀する遠坂を余所に、キャメロット達は情報交換を続ける。
 四人にとって、ほぼほぼ得られなかった情報をこれでもかと言う程に得られていた。
 一方で芳しくない状況でもあることは、ゲンガーの語り方からすぐに察せられる。

「まさか、此方に移動していたとは……」

 白い射手、彼等は仮面ライダーと呼ぶらしいその存在。
 既に村を抜けていて、先程の戦いの光景は彼(彼女?)が関わっていたものだと。
 キャメロットにとって二人目の敵であり、邪悪を体現したかのような不気味な人物。
 自分の行く先々で事を起こしていく。自分の選択によって誰かの命が奪われる。
 やはりあの時行くべきだったのかと、少しやるせない気分になってしまう。
 所詮そんなのはたらればであるので口にするつもりはないし、
 ダグバは新たな仮面ライダーの力を使うこともできている。
 もしその状態で挑んでくれば、キャメロットとて無事では済まず、
 全滅すらあり得ていたことは想像するに難くなかった。
 今はその情報が知れただけでも幸運であるのだと。

「なんかすごくゲテモノ感が凄いけど、まさかこれを食べるつもり?」

「み〜〜〜。」

「ま、違うか。此処においとくわよ。で、何がしたいんだっけ。支給品の確認?」

「と言うか本当にトナカイの獣人なんだな。
 オドシシからヒメグマみてーなそれになってビビったぞ。」

「最初はキメラの類かと俺も思っちまったな。」

 ロビンが言ってたチョッパーは無事であることは分かった。
 せめてそれができただけでもただ逃げるしかなかった自分にできている、
 数少ない贖罪なのだと心の中で静かに思う。
 少なくとも友好的な相手だし、戦うこともなさそうだ。

「にしても、私達がどれだけ遅れてるか分かるわね。」

 溜息を吐きつつ無惨のデイバックを漁りつつメモをしていく遠坂。
 ゲンガーが関わった人やまた聞きで得た人の情報は四人の二倍以上。
 全くと言っていい程得られなかった分の反動すら感じさせられる。
 シロが亡くなっていることについては少し残念ではあるものの、
 殺し合いに懐疑的な人物が多く集ってた相手に繋がれただけでも大きい。

「この石、まさか……ああ、賢者の石とかではないのね。」

「んで、しんのすけって奴は地下に降りたのか?」

「ああ。なんでも鬼がいたらしくてな。」

「鬼、ですか。」

 城娘は兜と戦うことが基本ではあるものの、
 時として九尾を筆頭とした妖怪と戦うこともあるらしい。
 無論鬼も存在している。出自の都合でまた聞きになるが。

「鬼と言っても、悪くなかった奴みてえだけどな。
 シロを鬼にしたことを悔やんでいたとかなんとか。
 名前は……あれ? 名乗ってたか? 確かミチルもしんのすけも……」

 聞いたか聞いてないか、少し思い出すのに時間がかかる。
 遠坂程頭の回転がいいわけではない以上多くの情報があっては、
 必要な情報をすぐに取り出せず時間を食う。

「となると、困りましたね。」

 相手は暴走してるだけに過ぎない。
 しかも地下と言う相手の方が圧倒的に有利な場所だ。
 かといって待てば夜にはホームフィールドが出来上がる。
 彼もまた助ける民。できることなら殺すことは避けたい。
 どう動くべきか悩んでいると、その答えはすぐに出された。










 轟音と共に。

「───」

 轟音はすぐそこだった。
 キャメロットが振り向けば元凶はそこにある。
 チョッパーに類する獣人のような二メートル以上の巨漢と、
 木製の玄関扉を突き破りながら吹き飛ばされている、遠坂の姿が。
 バリーとゲンガーには、理解が追いつかなかった。


895 : エタニティ・デザイア ◆EPyDv9DKJs :2022/07/12(火) 08:15:31 YSyDZrVo0
 何処から現れたのか、この怪物は。





 その言葉を聞いた瞬間、私は行動を即座に選んだ。
 シロと言う犬が鬼にされ、鬼にしたことを悔いた男が自決を選ぶだと?
 あの異常者共ならば自分から首を切り落として自決を図るところをしなかった。
 故に直ぐに察した。それは紛れもなく私の身体であり、中にいる精神が何者かも。
 予想はしていた。やはり貴様が私の身体を持っているというのか、産屋敷耀哉。
 完璧に近い生物を誰の許しを得て使っている? ボンドルドは奴にも嫌がらせを、
 と言う意味合いで私の身体にしたのだろうが、私の方にはさらに屈辱でしかない。
 あの男が私の身体だと? 吐き気がする。とにかく奴は神経を逆なでしたいようだ。
 しかも勝手に鬼を増やすなど、産屋敷も同じように私の癇に障ることばかりをしてくれる。
 鬼なんぞ増やしたくもないというのに。

 しかし、奴はどういうわけか鬼を増やしていると言うではないか。
 アルフォンスが衝動を考慮したところを見るに、奴も身体の衝動に汚染されてるらしい。
 当たり前だ。いくつ心臓や脳があると思っている。私以外にその身体が扱えるはずがないだろう。
 なのですぐに自決を図るとは思えぬ一方、万が一正気に戻り自決を図られたら手遅れになりかねん。
 悪魔の実を小娘に置かせたのは万が一に備えてだ。アルフォンスと小娘共が出会ったときは無理だったが、
 こうして私を人間と同じ扱いをするというふざけた行為をすることによってすぐに食えるように準備ができた。
 ついでに言えば奴が何処で私の名前を、或いは自分の名前を言ったかなど判断がつかぬ。
 いつ奴の名前がでるか分からぬ今こそ、動く時だ。身動きが満足に取れぬ私が疑われてしまえば、
 支給品であるネコネコの実を没収されて私はただ死ぬだけになる。それだけは回避しなければならない。
 遠坂と呼ばれた小娘を真っ先に選んだのは、位置が近かったとも言えるがキャメロットは私を警戒していた。
 アルフォンスと別れてから、私を見る目が少しおかしかった。奴が吹き込むようなことを言った覚えはないので、
 恐らくは個人で判断してるのだろう。故に奴の周りにいる連中を放置して、優先的に遠坂を狙うこととした。
 産屋敷程ではないにせよ、私を家畜のように餌やりを考えたこの小娘も筆舌しがたいほどに許せぬ。
 私を憐れんだ瞳で見るとは。そのような目で見るな、私は貴様に憐れまれるような存在ではない。





 この時点における無惨の考えは杞憂なことだ。
 彼が関わった参加者で産屋敷が名乗ったのはシロだけであり、
 当のシロも誰にもその名前を口にしてないので何も問題はなかった。
 ゲンガーは何も知らない。単なる杞憂の問題でしかない。とは言え、
 今まさに産屋敷はこの街の地下において正気を取り戻してミチルと邂逅している。
 そのことから、総合的に見ればこの判断は妥当とも言えるものだろうか。
 少なくとも現時点においては、だが。

 ネコネコの実を食べたことで、
 ついに無惨はまともに動く身体を手にした。
 無惨の今後を考えれば悪手でしかないだろう。
 この先ずっと追われ続ける可能性だってある。
 でもどうにもならない。勝手に自分の身体を使われ、
 あまつさえ産屋敷が持っているなど絶対に許したくないがゆえに。

 ゲンガーとバリーはこの状況に対応することはできなかった。
 場所が近すぎたのと、産屋敷(無惨)がどういう奴かを考えてすらいなかったから。
 動けたのはアルフォンスから彼を警戒するよう言われたキャメロットただ一人。
 即座に席を立ちながら、はぐれメタルの剣を抜いて無惨へと斬りかかる。
 敏捷に優れたサーヴァントの身体ではあったものの、勢いがある無惨の方が早い。
 殴り抜けた勢いのまま体格の都合出られない玄関を破壊して外へと出ながら、
 血まみれの遠坂を拾い上げて走り出したことで、刃は壁にクレーターを作るにとどまる。

「ッ! 逃がしません!」

「お、おい! バリー! 追うぞ!」

「分かってらぁ!」

 逃げ出した無惨を逃すことないままキャメロットがすぐに追走。
 遅れて状況の理解が追いついた二人も、バリーが脚力強化になってからゲンガーを乗せて追いかける。

「イデ、イデデデ! 角を掴むな!」

「じゃあどこ掴めって言うんだよ!? 乗った経験ねえんだよ!」


896 : エタニティ・デザイア ◆EPyDv9DKJs :2022/07/12(火) 08:17:49 YSyDZrVo0
「普通にしがみついとけ! つかデイバックがあんだろが!」





 ビル街を駆ける無惨とキャメロット。
 距離こそはそこそこ離れているものの、
 速度だけで言えばキャメロットの方が優勢になる。
 と言うのも、ひとえにこれは身体の問題でもあった。
 ネコネコの実モデル『レオパルド』の悪魔の実の分類はゾオン系。
 悪魔の実に於いてこれらは自らの身体能力を鍛えれば強化されるところにある。
 元々この力を使っていたロブ・ルッチは武術『六式』を素で持っており、
 此処に悪魔の実の力を使って更なる強化をするという本体の訓練の賜物でもある。
 更に若い頃から多勢に無勢の中でも相手できるだけの実力や才能もあって、
 より優れたネコネコの実の能力者とも言えるだろう。
 一方で無惨はミーティと言う満足に動くこともできない成れ果ての姿から、
 ようやくまともに動けた身体。いくらゾオン系が食うだけで身体能力に恩恵があると言えども、
 サーヴァント相手にこの差を埋めることは容易ではないだろう。

(ならばこれを使うタイミングを見極めるか。)

 支給品の一つは優秀だが、回数制限があるのと条件も厳しく成立するか怪しい。
 ここぞという場面で使わなければならないのでそのタイミングを作らねばならない。
 だから無惨は今も頭から血を流している遠坂を手にしつつ逃げている状態を選んだ。
 追跡させないために近くのビルの隙間を壁で蹴って屋上へと降り立つ。
 無論これに殆ど同じようにキャメロットもすぐに追いつき、
 ビルを跳躍する形で二人の事実上の鬼ごっこが始まる。
 逃げるのが鬼と言うのは、なんともおかしな話だが。

(やはり身体が慣れぬか。ボンドルドめ……忌々しい。)

 もう少し慣れれば振り切ることも、もしかしたらできただろう。
 少なくとも現状の単なる逃げでは追いつかれるのは時間の問題。
 ビルから飛び降りて、道路へ戻りながら近くの街路樹へとラリアットを決めた。
 ルッチの実力も含まれただろうが、彼は人一人を島の外へ放り投げる膂力を持つ。
 十全とは言えないものの、少なくとも街路樹を花を摘むように破壊することは十分に可能。
 ラリアットから破壊された街路樹を掴んで、それを後方へと投げ飛ばす。
 後方ではすでに同じように地面に着地したキャメロットが追走しており、迎撃。
 避けることは容易いがさらに後方でゲンガーとバリーも追走中だ。
 危険は取り除くに越したことはなく、アルトリアの力で容易く両断する。
 対応したことで距離が開いたかどうか、と言われると微妙なところか。
 多少の時間稼ぎはできるが、結局無惨もラリアットで僅かに動きが鈍る。
 差分を合わせると微々たる差で、街路樹の数も結局のところ有限。
 有効打とは言えないものの無惨は二度、三度と続けてそれを繰り返す。
 どちらも何の障害もなく処理して動きを止めることはない。
 七度目ぐらいだろうか。同じようなことをされていたが、
 ついに別の展開が起きた。

(頃合いか。)

 無惨が赤い石をデイバックから取り出したから。
 赤い石に一瞬アルフォンスから言われた賢者の石を警戒したが違う。
 輝きを放つとともに、コンクリートの大地を揺らす衝撃が周囲を走る。
 元凶は何か分かっていた。アルトリアたちの視線の先、無惨の前にあるから。
 コンクリートの大地に立つのは───まさかの、巨大な灰茶色の土偶だった。
 地面を砕き、その外見通りの質量を物語っているものの土偶というシュールさ。
 この状況で相手が使ってきた以上、打開してくるものだとキャメロットは警戒を緩めない。
 勿論その考えは事実であるが、その行動は予想の斜め上を往く。

「ええ!?」

 胸元が開閉し、エネルギーが収束した後巨大なビームを放つのだから。
 余りにも脈絡がなさすぎる手段での攻撃に、思わず変な声が出てしまう。
 こんな見た目をしているものの、これでも『ドグー』は生物兵器の一種だ。
 かの世界において、星の民が覇空戦争で使っていた星晶獣の一体なのだから。

「飛ぶぜぇ!!」

 バリーの方は後方にいたため即座に避けを選択したことで、
 横へ飛ぶようにジャンプしたことで何事もなく過ごせたが、
 近すぎたキャメロットは僅かに間に合わず、右腕が光線を掠めて焼けるような痛みが走る。
 ダメージは少なくないものの、腕が消滅していないだけましだった。


897 : エタニティ・デザイア ◆EPyDv9DKJs :2022/07/12(火) 08:20:27 YSyDZrVo0
 その程度で済んだのは遠坂と契約したことが、僅かながら理由かもしれない。
 契約しても殆どステータスが向上こそしなかったが、たった一つだけ上昇したものがあった。
 厳密に言えばそれは上昇したというよりは、僅かに戻ったというべきだろうか。
 それは『幸運』の値。魔力不足の場合、マスターの生き方に幸運が左右される傾向がある。
 衛宮切嗣がアルトリアと契約すると魔力不足から、生き方の相性からDと大幅に下がってしまう。
 同じく魔力不足であるはずの衛宮士郎との場合ならば、生き方の影響から幸運はBと元よりは低いが大分ましだ。
 遠坂、と言うよりしんのすけの生き方はアウトローな切嗣よりも士郎の方に寄っているので、
 殆ど伸びなかったステータスにおいても、辛うじて幸運だけは上昇してくれていた。
 とは言え今の光景が幸運によるものかどうかなど、誰も判断できないのだが。
 ビームはコンクリートの大地を砕き、近くのビルに風穴を開けていた。
 常人なら確実に死ぬ一撃を、この程度でとどめることはできている。

 しかし休む暇などどこにもない。
 動きを止めたドグーの股下から無惨は動いていた。
 いや、この言い方だとある意味語弊があるだろうか。
 無惨はその場から動かず、あるものを投げてきたから。

「ッ!?」

 投げてきたのはしんのすけの、遠坂の身体。
 膂力を使っての人間砲弾を相手は放ってきた。
 今度は斬ることはできず、回避すれば遠坂は死ぬ。
 だから剣を持たない左腕で受け止めざるを得ないが、仮にも砲の一撃。
 彼女を死なせないよう受け止めるにしても、凄まじい衝撃には変わらない。

「グァ───!」

 踏みとどまることはできず、軽く吹き飛ばされてしまう。
 軽く数度転がるも、すぐに勢いを使って起き上がる。
 遠坂は自身がある程度クッションになったと言えども少なからずダメージがある。
 傷口は余計に開き、先程よりも血を流していて猶予が余り残されていない。
 勿論その隙を見流すことなく、常人離れの脚力で一気に迫ってくる。

「すみません凛さん……バリーさん! お願いします!」

「ヴぇ!? お、おう!!」

 時間が惜しい。彼女がいては危険だ。
 だから乱雑であることを謝罪と共に彼女を後ろへ投げ飛ばす。
 咄嗟の出来事に後方は二人そろって驚かされるがバリーが筋力強化となってキャッチ。
 無論ゲンガーは放り出されて近くの植え込みに投げ捨てられるが、三人とも無事だ。
 後は相手するだけと剣を構えたかったが、今更になって彼女は気づいた。

「え?」

 何故こんなことになっているのか。
 痛みもなくて全く認識できなかった。





 ───彼女の右腕がなくなっていたことを。
 先ほどまではあったはずの右腕が何処にもない。
 腕の先端は、メドゥーサに睨まれたかのように石化している。
 だから痛みに気付かなかった。右腕は遠坂を受け止め転んだ場所にて、
 同じく石化した状態のはぐれメタルの剣と共に転がっていた。
 こればかりは理解が追いつかない。何がどうなっているのか。

 答えは今しがた姿を消し始めたドグーにあった。
 ドグーの光線『ギガ・ジョーモン・カノン』は対象を石化させる力がある。
 この殺し合いではまだ不明だが、主にこれは水属性に対して発揮されるものだ。
 アルトリアは湖の乙女の加護があり、完全とまではいかないが水属性の素質が存在している。
 湖の乙女の加護があるからこそ、彼女はリオンから逃れることができたが今回ばかりはその逆。
 湖の乙女の加護があるからこそ、ドグーの効果を掠めたとしても強く受けてしまう。

 右腕はない。武器もない。全くの無手。
 騎士の力が反映され刀や剣を扱えるキャメロットでは、
 素手での戦いなどサーヴァントの力に物を言わせるしかない。
 すぐそこまで無惨の右ストレートが迫っており、左腕で防ぐことを選ぶ。
 直撃は避けなければならなかったが、ネコネコの実で得た膂力は相当なものだ。
 腕は噛み砕かれたかのようにべきべきと悲鳴と激痛を与えながらひしゃげ、そのまま顔面を殴り飛ばされる。
 腕を挟んだおかげで死こそ免れたものの、片腕の欠損、武器の破壊、片腕は粉砕骨折。
 最早キャメロットはこの戦いで再起不能になって道路を転がっていく。

「キャメ子の嬢ちゃん!?」

 彼女が負けたことに驚きつつも、
 ちゃっかりと脚力強化でゲンガーと遠坂を乗せで逃げ出す。
 無理だ。少なくとも最高戦力であると認識していたキャメロットであれだ。
 流石にあのドグーは強すぎることからすぐにはでてこないだろうとは思っているが、
 それを抜きにしたって勝てる可能性は低い。逃げるしかないだろう。


898 : エタニティ・デザイア ◆EPyDv9DKJs :2022/07/12(火) 08:21:56 YSyDZrVo0
(ってなんで俺は助けちまってんだ!?)

 態々ゲンガーたちを見捨てなかったことについてはよくわかってない。
 能力、戦闘面で見たところでこの状況は打開できないのに。
 身代わりにして逃げてしまえばいいのに、何故かできなかった。

(まさか、俺の身体がチョッパーだからなのか!?)

 もしかして肉体のせいなのでは。
 他の参加者が何人も行きついてる肉体の影響。
 トニートニー・チョッパーは医者だ。命を尊さを誰よりも理解し、
 敵であったとしても治療することがある彼が怪我人を許せなかったのか。
 どちらにしても今から捨て置いたところで時間稼ぎにもならない。
 諦めてそのまま乗せたままで逃亡を図りたかったが、

「ッ! バリー飛べ! 投石……いや投木でいいのか?」

「おいおい冗談じゃあねえぞ!!」

 ゲンガーが後方を見やれば遠坂を投げたように、
 道中にキャメロットが切り捨てた木々を投げ飛ばす。
 人間を砲弾に飛ばしていた一撃。当たったらどうなるかなど想像したくない。
 此処までの道中で脚力強化で動いてきたことが功を奏して、
 必死にとびかう木々を指示によりなんとか回避しながら逃げ続ける。

「ゲェ!?」

 ゲンガーは再び恐怖する。
 今度は反対側の道路にあった街路樹を投げ飛ばしてきたから。
 放物線を描くように投げられたそれは突如として道を妨害する障害物の役割を果たす。
 即座にジャンプこそしたもののの、いきなり出てきた障害物を前に飛び越えるというのは、
 この身体になってからの経験がない結果、ギリギリのところで足を引っかけてしまう。

「いで!」

 遠坂だけは庇いながら硬い大地に叩きつけられ痛みで動けなくなりそうだが、直ぐに横へと転がる。
 無惨が上空からゲンガーのいた位置へ拳を叩きつけてきたから。
 咄嗟に回避したが、いた場所の地面はクレーターを作った。
 当たればまず頭が潰れていただろう。

「逃がすわけがないだろう。」

(別の意味でやべえ! 慣れない肉弾戦しなくちゃなんねえのかよ!)

 桃白白との戦いでも筋力強化を戦闘で使ったが、
 それはあくまで得物を握る為の膂力が必要だったから。
 完全な殴り合いは専門外であり、相手とは勝手がまるで違う。
 どうすれば助かるかを考えるが、今回ばかりはどうにもならない。
 ゲンガーの方に武器があるのは知っているが、そんな暇を絶対にくれない。

(あれ、詰んだ?)

 流石に死を悟った。
 相手がどういう奴か何一つとして知らないのでは、
 交渉など一切の余地がない。完全に詰んでいると。
 当然無惨も交渉する気はない。今すぐ自害するのが道理であり、
 それをしない奴ら畜生モドキ相手に交渉などする気はない。

 本来ならば、此処で無惨は逃げを選ぶ。
 彼は強いが何故いつも逃げを選んでいるのか。
 自分にとってリスクのある行動を僅かにでもあれば避けるがゆえに。
 キャメロットにとどめを刺して、さっさと帰る方がまだ彼らしくある。
 完璧に近い生物が異常者共でもない奴に固執するなどありえないと、
 本来の姿でいる無惨がこの光景を見たり思い返せばきっと思うことだろう。
 ではなぜそれをすることなく、二人を狙うのかと言うと……悪魔の実のせいだ。
 肉食獣を模した悪魔の実を口にした人物は変身中に限るが狂暴性が増す特性がある。
 そのせいでこの時点では逃げるという選択肢は彼の中にはなかった。










「え?」

 今までで一番、あり得ないと思った。
 死んだ奴は誰一人として戻ることはなかった。
 死ねば終わりだ。それは至極当たり前の話だ。
 であるならば───

「キャメ、ロット?」

 何故、そこにキャメロットがいる。
 ゲンガーの反応に対して思わず無惨も後ろへと振り向いた。
 無惨の背後、街路樹を挟んだ向こうに立っているのは、
 紛れもなくアルトリア・ペンドラゴン……キャメロットだと。
 しかも、腕は治っている。粉砕骨折はしたであろう左腕も、
 石化してから砕いたはずの右腕も(袖はともかく)戻りつつある。
 あり得ない。短時間でこれほどの再生は鬼でもなければ不可能だ。
 サーヴァントは無惨に取って未知数にしても、回復速度が速いとは聞いていない。
 しかも破壊されたはずの腕は今、紅い稲妻が発生しながら再生を始めていた。
 二の腕から砕かれた部分から段々と肉体が戻っていき、最終的に元の腕に戻る。


899 : エタニティ・デザイア ◆EPyDv9DKJs :2022/07/12(火) 08:24:28 YSyDZrVo0
「なあアンタら。この状況教えちゃくれねえか?
 なんか親父もいねえし、身体も違うしでわけがわからねえんだよ。」

 凛とした女性の騎士らしい声と立ち居振る舞い。
 例えるならキャメロットとアルトリアの雰囲気はそういうものだ。
 でも、そんな彼女はあり得ないような男口調で言葉を紡がれた。

「キャ、キャメ子の嬢ちゃん?」

「ん? ああ。この身体の持ち主の名前か?
 そういや都合上、話も聞いてねえし仕方ねえか。」

 左手で後頭部を掻きながら、笑みを浮かべる。
 歯を浮かべながら笑う彼女は、最早騎士らしさはない。
 寧ろ、何処か賊のような風にすら思えて来てしまう。










「俺はグリード。キャメコって奴じゃねえよ。」










 人の顔が埋め尽くす空間にキャメロットが浮かぶ。
 本来の城娘である、銀と水色を基調とした装備に加え、
 ボリュームのあるプラチナブロンドのロングヘア―を靡かせる。
 意識はない。精神的なショックの意味合いも軽く含まれるだろう。
 剣を握ることもできず、城娘としての矜持も守れずに敗北した。
 受け入れることはしているが、精神的ダメージは図り知れない。

『あ? なんでこんなとこに嬢ちゃんがいんだ?』

 顔の中に、一つだけ。
 確固たる意志を持ってるかのような顔が彼女を見やる。
 他の人の精神とは何か違う存在に、彼は疑念を抱く。

『なんつーか、雰囲気もおかしくねえか?
 人間でもホムンクルスでもねえ、なんなんだこの身体?
 お陰で、なんかさっきまで目が覚めてなかった気がするんだよな。』

 誰に言うでもない。
 彼女に語り掛けるわけでもない。
 ただ淡々と自分の今の状況を整理するように呟く。

『まあいいか。女だしちょいと悪いとは思うが、この身体貰うぜ!
 つっても、意識ねえから一方的になっちまうのは悪いとは思うがな。
 一方的に搾取するのは等価交換に反するんでな。後で忖度はしてやるよ!』

 心底楽しそうな笑いが空間内に響く。
 答えるものは誰もいない。持ち主であるキャメロット自身すらも。





 彼女の意識は闇の中だ。
 強い意志を持って保ってた中、
 彼女が意識を失えば必然的にこうなる。
 短くない時間をかけた末に、強欲は───グリードが顕現した。

「俺はグリード。キャメコって奴じゃねえよ。」

 端麗な少女の声から紡がれる男らしい喋り方。
 中々に強烈な光景だ当人らにはそんなことを考える暇がない。

「ゲェー!! ホムンクルス!!」

 アルフォンスとの再会した時のような、
 目玉が外れそうな強烈な顔と共に絶叫を上げる。
 グリードとの面識はないがラストに殺されかけたことを考えれば、
 少なからず拒否感はでてくると言う物で軽く後ずさりしていく。

「なんだ、俺達の事を知ってるのか。
 ってかおめーはなんなんだ? キメラか何かにでもなっちまって───」

 無惨が街路樹を超えて、無言の爪による斬撃を振るう。
 悠長に会話をする暇などさせるつもりなど欠片もない。
 加えて更に許せない。自分は鬼の力を失ったというのに、
 誰とも知らぬ奴が鬼のような力を行使することを。
 凶暴性が増したことで優先順位を変更した一撃だが、
 凶器以上の爪は彼女……いや彼の身体通すことは───

「あ。」


900 : エタニティ・デザイア ◆EPyDv9DKJs :2022/07/12(火) 08:27:54 YSyDZrVo0
 あった。
 防ごうと翳した右腕が、あっさりスライスされた。
 砕け散った腕と共に、アルトリアの右腕が大地に転がる。

「やべえな、ボケも発生しちまってら。
 確かにこうしてたらできなかった、なぁ!!」

 無惨の顔面に吸い込まれるグリードの左ストレート。
 受ける前に握り潰さんと爪を引っ込め、両腕でその手を掴む。

「何?」

 が、できない。
 握り潰そうとした腕は真っ黒に染まり、鉄以上の硬さで潰すことができない。
 グリードの『最強の盾』は体内の炭素を硬質化させることで尋常じゃない硬さを誇る。
 ダイヤモンドにも相当することも可能であり、握りつぶすということはできない。
 先ほどは再生と硬化が同時にできないことが原因にある。
 左腕がちゃんと完治しておらず単に誤っただけだ。

「……しかし、いいなこの身体! 健康で強いとか羨ましいなぁおい!
 アイツも悪くはなかったが、こいつぁとびっきりいい身体じゃねえか!」

 笑っていた。
 腕を切り落とされながら笑っている。
 最早アルトリアでも、キャメロットからもかけ離れた立ち居振る舞い。
 助けてくれているのに、恐怖すらゲンガーは感じてしまう。

「オラ!」

 回し蹴り。
 ロングスカートが揺らめきつつも、
 相手の脇腹を砕かんとする硬化させた足の一撃。
 咄嗟に無惨は距離を取るように回避したことで大事には至らない。

「え、おいおい。マジか。」

 回避と同時に、その勢いを使って無惨は逃げ出した。
 ある程度相性が悪い敵が出てきて、漸く無惨は落ち着いて逃げ出す。
 狂暴性が増してたところに冷や水をかけるような存在。
 今になって冷静さを取り戻したことで逃げを最優先とする。
 さらりと遠坂の荷物も奪っておいているので十分な収穫だ。

「ありゃ、行っちまったか。」

 グリードはそもそもこの状況が呑み込めてない。
 リンの身体にいたはずだし、地下研究所どころかアメストリスですらない。
 お父様もいない、そもそもこいつらは誰なのか。疑問は次々と沸いてくる。
 だから追わない。当然バリーたちは追おうなどと思わないので結果的に逃がしてしまう。

「んで、説明してくれねえか? 此処何処だよ。
 キャメコ? はまだ起きねえから何も分からねえんだわ。」





(あの小娘……!!)

 今にも砕きそうなほどに歯に力がこもる。
 鬼のような再生力を誇り、日光の下で活動可能の身体だと。
 明らかに本来の無惨よりも優れた存在となっているのは間違いない。
 あれが青い彼岸花を手に入れた先だとでもいうのか。だとしたら許せなかった。
 自分以上の存在がいるなど。自分は何百年も必死に手段を模索していたというのに。
 容易く超えてくることに怒りが収まらない。

 だが無惨は非常に短期ではあるものの、ある程度の冷静な判断力も存在する。
 脳が五つあった時と比べてしまうと、比べることすら失礼なほどの知能の低下だが、
 優先順位を考えると自分の身体を持つ産屋敷を捕まえることだが大事だ。
 どれだけ殺し合いが加速しようとも元の肉体は残さなければならない。

 それともう一人。
 主催の人物に近しい関係を持つ柊ナナの存在だ。
 エボルトからゲンガーの経由でそのことは知らされた。
 彼女の肉体は主催の一人と血縁関係であり、精神も肉体の関係者にある。
 主催にそのまま直結するようなことがないのはミーティの件でわかりきったことだ。
 一方で、木曾が残したメモには『優勝をする必要がないのではないか』という説があった。
 完全に信じ切るつもりはないが、現状ただ脱出するだけでは意味がない無惨にとって、
 その可能性を考慮するには十分すぎるので彼女も捜索しておきたい。

 永遠を欲する鬼の祖は解き放たれた。
 激しい怒りと憎悪と共に。

【D-6/街道/昼】


901 : エタニティ・デザイア ◆EPyDv9DKJs :2022/07/12(火) 08:29:09 YSyDZrVo0
【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[身体]:ミーティ@メイドインアビス
[状態]:豹人間化、成れ果て、強い怒り(特に今は産屋敷とキャメロット城、他は軽減)、激しい屈辱感
[装備]:召喚石『ドグー』@グランブルーファンタジー(現在使用不可能)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み)遠坂のデイバック(基本支給品+ランダム支給品×1(確認済み、遠坂がしんのすけの状態で使用可能な武器))
[思考・状況]基本方針:元の体に戻る。主催は絶対に許さない。
1:産屋敷を探す。誰の許しを得て私の身体を使っている?
2:体を早急に慣らさなければならない。
3:アルフォンスを利用したかったが、今となっては難しいか?
4:誰も彼も役に立たない。戻った際は上弦の解体も考えておくか。
5:奴ら(キャメロット達)、揃って問題を抱えているのは何故だ?
6:あの小娘(キャメロット)、まさか私よりも上だと言うのか……? 許さん。
7:柊ナナを探しておく。奴が主催に近いのであるならば利用する。
[備考]
※参戦時期は産屋敷邸襲撃より前です。
※ミーティの体はナナチの隠れ家に居た頃のものです。
※精神が成れ果てのミーティの体に入っても、自我は喪失しません。
※名簿と支給品を確認しました。
※アルフォンス、遠坂達には自身の名を『産屋敷耀哉』だと偽っています。
※アルフォンスの肉体(千翼)を鬼かそれに近い人喰いの化け物だと考えています。
※ダグバの放送を聞き取りました。(遠坂経由で)
※鋼の錬金術師、Fate、城プロ、救助隊のある程度の世界観を把握しました
※ネコネコの実を食べたことで豹人間になりました。
 体格は二メートル弱と長い爪以外はロブ・ルッチの豹人間とさほど変わりません。
 ただし武術を学んだ身体ではない為、剃刀等の技を使うことはできません。
 また慣れてない為変身しなおした場合、豹人間の姿になれないかもしれません。
 ネコネコの実はモデル『レオパルド』です。
※ドグーのインターバルは後続の書き手にお任せしますが、短時間で連打はできません。
※キャメロット城(グリード)を鬼かそれ以上の何かと認識しています。





「今はそれどころじゃねえから後にしてくれ!」

 今の状況はまだ安全だと分かった今、
 ピーチグミを遠坂に食わせて傷を治さないといけない。
 傷が塞がるかどうかは賭けではあるがないよりはましだと取り出すが、

「やめとき、なさい……」

 静止の声がかかり、動きが止まる。
 遠坂は生きてこそいるが、仮に傷は塞がっても血を流しすぎた。
 傷をふさいだところで、流れた血を戻すことはできない。
 輸血できる場所となりうる病院も風都タワーよりも西にある。
 今からではとても間に合わない。完全に自分でも悟りきっていた。
 どうにもならないと。

「お、おい! 冗談は───」

「あんたに、これ、あげる。」

 遠坂は震える手でポケットから紙を渡す。
 無惨の対応をしつつも定期的にメモしていたものだ。
 無惨は全て見ていたので奪う必要はなく放置されたそれには、
 施設の可能性や木曾の情報を人纏めにしている。現状で持てる限りの情報を。
 木曾から盗聴の可能性を聞いていたので、それを口にはしない。

「……自分が死神と思うのは勝手、だけどね。
 アンタが生きたから、私達、は……情報を得た。
 だから、ね……生き残ったことを誇りなさい。
 ついでに、今回は私の不注意、ってのもあるし。」

 こんな状態では事を起こすのも困難。
 どこかそんな先入観で侮っていた部分は否めない。
 あれを予測しろ、と言う方が無理だとは二人も思うが。

「───なんで、会ったばかりの俺にそんな気を遣うんだよ。」

 出会ってからものの十数分程度の関係で、
 殆ど情報交換でのやり取りでしか会話してない。
 自分と立場が同じと言ったキャメロットと違って、
 彼女の事なんて殆ど知らないので、そこまで気遣う理由が分からなかった。

「どっかの……誰かさんを、思い出すのよ。」

 簡単に命を投げ出せるほど突っ込んでしまう、自己犠牲の塊の男がいた。
 彼がそうする理由はよくは分からないが、自分がよりも他者を気遣うところは少しゲンガーと似ている。
 世間的に言えばある種のサバイバーズギルド。自分だけが災害の中生き残ってしまっている罪悪感。
 彼ほど死に急ぐような行動こそしてないものの、それに近しい状態にあるのだろう。
 だから、なんかお節介を焼きたくなった。なんとなくと言われると、なんとなくだ。
 奇しくも、その男はサバイバーズギルドの影響でそんな行動をとっていたのだが。

「全く……何処までも私は甘いわ、ね───」


902 : エタニティ・デザイア ◆EPyDv9DKJs :2022/07/12(火) 08:32:54 YSyDZrVo0
 最後の最後まで他人を気遣うとは。
 とことん心の贅肉を感じながら、遠坂は瞳を閉じた。
 嵐を呼ぶ少年と出会えるという、あと少しの所で。



【遠坂凛@Fate/stay night 死亡】



「おい、大丈夫か?」

 木曾は死は海に沈んで見えなかった。
 カイジの死に方はまともに直視などできなかった。
 ロビンの死は逃げた都合最期を見届けることはなかった。
 ハルトマンの死は空を飛んでた都合ちゃんとは見えなかった。
 遠坂の死は今、こうして目に見える形で見届けることになった。
 とうに限界を迎えてた中で更に人の死に、ついにプツリと糸が切れる。
 倒れそうなところを、グリードが咄嗟に肩を掴んでからゆっくりと寝かせる。

「おいおい。話聞きてえのに面倒なことになってんな。
 んで、そこのキメラは俺の質問には答えてくれるのか?」

 逃げたいところだが身体はアルトリアのもの。
 出鱈目なスペックをしてるのは理解しており逃げる選択肢はない。
 首を縦にブンブン振って正直に今の状況を、一から説明することを選ぶ。

「へぇー、殺し合い、願い、入れ替わり……親父はとことん関係なさそうってわけか。」

 これだけの力があれば人柱など最早必要ない。
 フラスコの中の小人すらも関与してない可能性のある状況。
 あらゆるものが欲しいのがグリードではあるが、研究所の侵入者排除の都合自由はなかった。
 前のグリードは自由にやってたそうだし、たまには自由を満喫するのも悪くないなと。

「さーて、これからどうするか。」

 金が欲しい、女も欲しい、地位も、名誉も、そしてボンドルドの力すらも欲しい。
 だったら殺し合いの優勝か? そういう道もあるだろうし選択肢にはある。

(ただその前に……)

 グリードは強欲だが、案外義理堅い男だ。
 リンの身体に入る前のグリードと言う違いはあるものの、
 魂は繋がっている。故に記憶はなくともある程度は似通っている。
 だからギブアンドテイク、等価交換をしないのはどうも性に合わない。
 なので、今すぐ優勝だなんだのの行動の前に二人をどうするか。

 永遠に欲するホムンクルスは解き放たれた。
 意識を落とした聖騎士の城娘に成り代わって。
 
【D-6/街道/昼】

【グリード(キャメロット城)@鋼の錬金術師(御城プロジェクト:Re)】
[身体]:アルトリア・ペンドラゴン@Fateシリーズ
[状態]:グリードの精神の乗っ取り、マスターによるステータス低下、全身に裂傷(軽微)、ダメージ(大)、精神疲労(大・キャメロットの精神)、複雑な心境(キャメロットの精神)、ワクワク(グリードの精神)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(確認済み、剣以外)、逆刃刀@るろうに剣心、グリードのメモ+バリーの注意書きメモ
[思考・状況]基本方針:この世の全てが欲しい! ボンドルドの願いも!(グリード)
1:欲しいものを全て手に入れる。けどどういう手順で行くか。(グリード)
2:こいつら、俺の部下(所有物)にするか?(グリード)

3:放送の元である村へ行き、白い弓兵(ダグバ)を斬るはずでしたが……
4:ゲンガーさんを守る。
5:アーサー王はなぜそうまでして聖杯を……
6:バリーさんと、彼の言う鎧の剣士に、それと産屋敷に警戒。
7:……大丈夫なのでしょうか、賢者の石。
8:リオン・マグナス……その名は忘れません。
9:……


903 : エタニティ・デザイア ◆EPyDv9DKJs :2022/07/12(火) 08:33:54 YSyDZrVo0
[備考]
※参戦時期はアイギスコラボ(異界門と英傑の戦士)終了後です。
 このため城プロにおける主人公となる殿たちとの面識はありません。
※服装はドレス(鎧なし、FGOで言う第一。本家で言うセイバールート終盤)です
※湖の乙女の加護は問題なく機能します。
 約束された勝利の剣は当然できません。
※『風王結界』『風王鉄槌』ができるようになりました。
 スキル『竜の炉心』も自由意志で使えるようになってます。
 『輝ける路』についてはまだ完全には使えません。
※賢者の石@鋼の錬金術師を取り込んだため、相当数の魂食いに近しい魔力供給を受けています。
※名簿をまだ見ていません。
※Fate/stay nightの世界観および聖杯戦争について知りました。
※鋼の錬金術師のある程度の世界観を把握しました。
※グリードのメモ+バリーの注意書きメモにはグリードの簡潔な人物像、
 『バリーはちょっと問題がある人だから気をつけて。多分キャメロットさんが無事なら乗らないと思う。
  後産屋敷さんはまともに喋れてないのもあるから、殆ど人物像が分からないのも少し気をつけておいて。』
 の一文が添えられてます。
※グリードに身体を乗っ取られました。
 彼女が気絶してる中一方的に肉体を使っている為、
 意識が戻ればある程度忖度しつつも等価交換を要求します。
※現在キャメロットの意志は眠ってます。
 スキル、宝具がキャメロット同様に機能するかは別です。
 湖の乙女の加護は問題なく発動します。
※グリードの記憶は少なくとも二代目(所謂グリリン)であり、
 少なくとも記憶を取り戻す前のグリードです。
※グリードが表に出たためホムンクルス由来の最強の盾が使えます。
 最強の盾がどう制限されてるかは後続の書き手にお任せします。
※キャメロット城の名前をキャメコと勘違いしてます。
※一度石化された後腕が砕けたので右腕の袖が二の腕までになってます。



【ゲンガー@ポケットモンスター赤の救助隊/青の救助隊】
[身体]:鶴見川レンタロウ@無能なナナ
[状態]:人の身体による不慣れ(改善)、疲労(中)、精神疲労(極大)、自分への強い苛立ち、手にダメージ、気絶
[装備]:八命切・轟天@グランブルーファンタジー、月に触れる(ファーカレス)@メイドインアビス、遠坂のメモ
[道具]:基本支給品×3、シグザウアーP226(弾切れ)@現実、ピーチグミ@テイルズオブディスティニー、タケコプター@ドラえもん、サイコロ六つ@現実、肉体側の名簿リスト@オリジナル、ランダム支給品×0〜1(吉良の分)
[思考・状況]基本方針:イジワルズ特別サービス、主催者に意地悪…いや、邪魔してやる。
1:……
2:しんのすけとミチルが戻って来るのを待ちたかった。
3:イジワルズ改めジャマモノズとして活動する。
4:ピカチュウとメタモンには用心しておく。(いい奴だといいが)
5:木曾と遠坂のメモのこと、覚えておかないとな。
6:こいつらを見るとアイツ等を思い出すな…(主人公とそのパートナー達の事です)
7:何でオレが付けた団名嫌がるやつ多いんだ?
8:カイジのやつ、何でメタモンの事を聞いて来た?
9:それでも、生きろって言うのかよ……
[備考]
※参戦時時期はサーナイト救出後です。一応DX版でも可。(殆ど差異はないけど)
※久しぶりの人の身体なので他の人以上に身体が慣れていません(改善)。
 代わりに幽体離脱の状態はかなり慣れた動きができます(戦闘能力に直結するかは別)。
 幽体離脱で離れられる射程は大きくても1エリア以内までです。
※木曾から『ボンドルドが優勝を目的にしてない説』を紙媒体で伝えられてます。
 (この都合盗聴の可能性も察してます)
※近江彼方の枕@ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は破壊されました。





(なあ、これもうだめじゃねえか?)

 ダメと言うのは殺し合いを愉しむことだ。
 だというのに出会う参加者はその殆どが自分よりも格上。
 格下もいるにはいるが、明らかに上が別次元の連中ばかりだ。

(とりあえず生き残って、あとから考えた方がいいのか?)

 もういっそ生きて脱出を選んで、
 その後で殺しを愉しんだ方がいいのではないか。
 上手くいかない結果に、ため息も出てきそうだ。

 殺しを欲する男は解放されない。
 二度目の生において事実上のとどめをさした、
 ホムンクルスの同族と行動を共にしながら。


904 : エタニティ・デザイア ◆EPyDv9DKJs :2022/07/12(火) 08:34:36 YSyDZrVo0
【バリー・ザ・チョッパー@鋼の錬金術師】
[身体]:トニートニー・チョッパー@ONE PIECE
[状態]:疲労(大)、全身に切り傷、頭脳強化(ブレーンポイント)、微妙に精神折れかけてる
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、神楽の番傘(残弾100%)@銀魂、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:存分に殺しを楽しむ、はずなのになぁ〜〜〜うまくいかねぇ。
1:存分に殺しを楽しみたいが、何か段々詰んできてねえか? 俺。
2:あの鎧野郎(メタモン)をどうにかしたいので今は集団に紛れ込んでおく。
3:武器を確保するまでは暫くなりを潜めた方がよさげか。
4:いい女だが、姐さんほどじゃねえんだよな。後もう少し信用されておきたい。
5:使い慣れた得物が欲しい。
6:アルフォンス、相変わらず甘い奴だな。
7:キャメ子の嬢ちゃん、乗っ取られてるー!?
8:産屋敷(無惨)まじかよ……
9:最悪生きること優先したほうがいいんじゃねえのか? これ。

[備考]
※参戦時期は、自分の肉体に血印を破壊された後。
※城プロ、Fate/stay nightの世界観および聖杯戦争について知りました。

遠坂の考察
①:一部参加者しか目指しそうにない場所=一部参加者のみに伝える何かを用意している
  主催の中の誰かが此方(対主催)にとって有利になるように託した、と言う可能性を考慮。
②:施設の後出しで地図に表記は、主催者もすべての施設の場所を把握してないかもしれない。
  或いは主催の誰かが置いた何かの施設が彼らにとって都合の悪い何かなのではないか。
③:小野寺キョウヤを名乗ったことから、小野寺キョウヤを知る参加者に何か大切なものがある可能性。
④:①に備えて自分に関係してそうな施設(聖堂教会等)などの記載
これらと今まで得た情報や遠坂の考えをメモにして纏めてます。
より具体的な内容は後続の書き手にお任せします

※D-6はぐれメタルの剣@ドラゴンクエストⅣは砕けました
 石化が戻ってますがまともな運用は望めません
※D-6周辺にアルトリアの腕が落ちてます
 また、街路樹が複数破壊された状態で転がっています。
 路上が損壊されており、エレンの家@進撃の巨人も玄関周辺は破壊されてます。
※ドグーのギガ・ジョーモン・カノンが放たれました。
 近くのエリアにいた参加者は見えるかもしれません。



【召喚石『ドグー』@グランブルーファンタジー】
鬼舞辻無惨に支給。覇空戦争時代、星の民が用いた星晶獣『ドグー』が込められた召喚石。
本来ならばグラン(またはジータ)とルリアがいなければ召喚できないが、此処では誰でも使用可能。
無機質なその顔は、ある時は怒りを湛える恐ろしい表情に、
またある時は慈愛に満ちた表情にと、見る者の心の在り方によって見え方が異なるという。
召喚すると胸元から発射されるビーム『ギガ・ジョーモン・カノン』で一回だけ攻撃する。
使用者に土属性の攻撃の強化と荒土の刻印を付与するが、後半の使い道が多分このロワにはない。
また被弾した相手に短時間の間だけ相手を石化させる効果もある(本ロワでは被弾した部分のみ)。
前者は土属性、後者は水属少年時代の江関する力を持つ人物にしか原作では通用しないが、
本ロワにおいてこれらがそれらの属性に該当しなくても発生するかどうかは現時点では不明。
召喚後は再度召喚までのインターバルが必要。壁にもなるが短時間しか召喚できないので気休め程度。

【エレンの家@進撃の巨人】
シガンシナ区にて少年時代のエレンが住んでいた家。
進撃世界における建築技術の為大分古いものではある。
少なくとも二階建て以上で地下室が存在しており、
地下室には原作では重要なものがあったが、
この舞台における地下室に何があるかは不明。
現在玄関周辺が破壊されてる。


905 : エタニティ・デザイア ◆EPyDv9DKJs :2022/07/12(火) 08:35:50 YSyDZrVo0
投下終了です


906 : ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 17:59:16 .XhQlctY0
投下乙です。
これまで我慢して来たけど遂にプッツンした無惨様や、後悔や未練ではなく自分の甘さ(優しさ)へ苦笑いして逝く凛など、それぞれのキャラ「らしさ」に溢れた話でした。
とうとう現れたグリード、精神ショックがデカいキャメロット、限界が近いゲンガー、ヤケクソ気味に対主催者への転向を思案するバリー
残された面子の今後も気になる回でした。

投下します。


907 : Lが呼ぶほうへ/矛盾に脳を惑わして ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:01:13 .XhQlctY0
ギラギラとした太陽に照り付けられ、熱を帯びたアスファルトを踏みしめる。
殺し合いの会場でないなら通行人でごった返しているだろう市街地に人の気配は無く、もし居たなら誰も彼もが目を剥き驚いたに違いない。
街を疾走する一組の男女。そのどちらも「普通」とはかけ離れた外見をしているからだ。
甲冑と言うにはスマートで、鎧と言うには近未来チックな印象。
全身を彩るカラーリングが白を主体にしている、という事以外は全く別物の装甲服。
白い装甲で全身をくまなく覆い隠した、現代社会においてはやけに気合の入ったコスプレイヤーとでも思われそうな、そんな二人組であった。

尤も、彼らの姿を知る者がいればコスプレなどと呑気な感想は到底抱けまい。
前を行く白の名は仮面ライダーエターナル。
後ろに続く白の名はアーマードライダー斬月。
ガイアメモリやロックシードと言った、既存の科学技術では再現不可能なシステムにより生み出された戦士たち。
片や風都という名の街を地獄に叩き落とそうとし、片や沢芽市という名の街にて独自の人類救済を果たそうとした。
ある者は決して相容れぬ敵と警戒し、またある者は信頼できる仲間として手を取り合う。
但しそれらは、エターナルや斬月を知っている人間が存在したらの話である。
風都の仮面ライダー達は肉体のみが参加し、肝心の精神は行方知れず。
沢芽市のアーマードライダーや、ユグドラシル・コーポレーションの社員に至っては精神・肉体のどちらも不参加。
二体のライダーの詳細な情報を知る者は、精々支給品としてドライバー等を与えた主催者くらいのものだろう。

とは言ったものの現在エターナルと斬月に変身しているのは、本来の変身者である男達とは何の関わりも無い者達だ。
大道克己も呉島貴虎もボンドルドに参加者の資格を与えられなかったのだから。
エターナルの変身者、吸血鬼にしてスタンド使いのDIO。
斬月の変身者、283プロダクション所属現役女子高生アイドルの大崎甜歌。
性別、性格、年齢、保持する能力、生まれ落ちた世界。
何もかもが違う二人に唯一共通しているもの、それはとある参加者への激しい怒り。
姉畑支遁という男を殺してやりたい気持ちだけは、DIOと甜歌のどちらにも宿っているのだった。

「……」

足を動かすDIOは無言を貫く。
今の彼からは形だけでも同行者を気に掛ける余裕は消え失せていた。
それ程までに姉畑から受けた屈辱は、DIOのプライドに傷を付けたのである。
余計な傷を負わされ、既に見限っているとはいえ部下を連れ去られ、みすみすと逃走を許す始末。
しかも相手は宿敵のジョースター一行や、癪ではあるが相応の力を持っている戦兎や杉元のような男達とは違う。
他者の目を気にせず動物と性行為を始める、異常性癖のド変態だ。
あんな脳と陰茎が直結してるとしか思えない輩に、このDIOがしてやられたという事実が何よりも許し難い。
思い出すだけでも腸が煮えくり返り、仮面に隠れた顔が歪んでいく。
あのふざけた変態だけはこの手で殺してやらねば、到底気が治まりそうもなかった。


908 : Lが呼ぶほうへ/矛盾に脳を惑わして ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:02:11 .XhQlctY0
(DIOさん……)

顔は見えなくとも明らかな怒気を放つ後ろ姿を、甜歌は悲し気に見つめる。
一度変身を解除したからか、斬月のカメラアイに付着した白濁液は綺麗さっぱり消え失せていた。
今の甜歌には大した慰めにもならないであろうが。
これまでDIOは自分を支える為に並んで歩き、時には守る為に前を歩いてくれた。
それが今はどうだ。前を歩いているのは一刻も早くあの変態天使を殺したいが為であり、甜歌を想っての事では無い。
本当だったら甜歌を気遣い歩幅を合わせてくれただろうに、ズンズンと進む背中からは急ぎ標的へ追いつこうという怒りしか感じられず、余計に悲しみが増すばかり。
愛する男が自分をどこかおざなりに扱っている。
しかし悲しみこそ抱きながらも、DIOへ失望や落胆の感情を向ける事はしなかった。

(あの人のせいで……!)

代わりに負の感情を向ける相手は姉畑だ。
よくよく考えればあの変態天使が現れたせいで、何もかもがおかしくなったのではないか。
自分とDIOの愛を引き裂こうとする別の天使らしき少年と、一緒に居たトンガリ帽子の少女をやっつけた。
あの時は新しい姿に変身した自分をDIOが褒めてくれて、幸福感に包まれていたというのに。
直後、何処からか乱入した変態天使が貨物船を凌辱し、自分は仮面越しとはいえ顔に精液をぶっかけられる目に遭ったのだ。
それだけではない。象のような化け物になった姉畑が暴れたせいで、甘奈の体に傷が付いた。
咄嗟に守らなければ顔に傷が出来ていたかもしれない。
思い出すだけでも体が震え、同時に原因を作った変態天使への怒りが湧き出す。
放送前に戦兎へ抱いた時以上の、激しさを伴った怒りである。

いや、戦兎は自分を守る為に戦ってくれた人だ。
皆を傷付け好き勝手やる変質者と一緒くたにするなんて、戦兎に失礼だろう。

(…………っ!?ま、また戦兎さんのことを……)

貨物船の手当てをした時と同じだ。
どういう訳か戦兎へ敵意以外の気持ちを抱いてしまっている。
自分が愛しているのはDIOであり、戦兎はDIOを傷付けようとした悪い人だというのに。
それがどうして、こんな風に戦兎を気に掛けるような事を考えてしまうのだろう。
DIOにこの気持ちを知られてしまったら、浮気しているとでも取られるんじゃあないか。
恐る恐る前を進む姿を見るも、当の相手はやはり甜歌の気持ちに気付いた様子は無し。
安堵する反面、改めて自分に目もくれていない事への悲しみが溢れ出す。

(あの人がいなくなれば……そうだよ……あの人さえ、し、死んじゃえば……!)

自分が戦兎へ妙な気持ちを抱き始めたのも、姉畑が現れた後からだ。
ならやはり、姉畑さえ死んでしまえばきっと全て元通りの筈。
DIOはまた優しい人に戻ってくれるし、自分も余計な事を考えずにDIOを好きでいられる。
己の心のざわつきから目を逸らし、全ては姉畑のせいだと必死に思い込んだ。

目を覚ましてという、聞き覚えのある声に気付かない振りをして。


909 : Lが呼ぶほうへ/矛盾に脳を惑わして ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:02:59 .XhQlctY0
◆◆◆


「ぶっ壊れろデビィイイイイイッ!!」
「吠えるなカスが!!」

剥き出しの殺意と殺意がぶつかり合う。

あらゆる手段を用いてハムスター達のラブを破壊して来た悪魔、デビハム。
華奢な外見ではあるが、正真正銘本物の悪魔の肉体を得た事で元の肉体とは比べ物にならない力を手に入れている。
連戦により蓄積した傷と疲労も、今のデビハムを止めるには至らない。

対峙するのは悪の救世主に絶対の忠誠を誓ったスタンド使い、ヴァニラ・アイス。
みんなの笑顔を守るプリキュアの肉体を単なる暴力装置として使う様は、主に負けず劣らずの邪悪である証拠。
こちらもまた相手を殺すまで戦いを終わらせる気は無し。

一度は見失いかけたラブの破壊者である自分自身を取り戻す為。
一度は見失いかけたDIOへの絶対的な忠誠を取り戻す為。
己のアイデンティティが懸かった譲れぬ戦いに、男達は挑むのだ。

「うりゃあっ!!」

気合一閃の字を体現するかの如く、力強い踏み込みからの斬撃。
肉付きの薄い体から繰り出されたとは思えない一撃だ。
与えられた肉体の能力と支給品による強化。
二つの恩恵を受けたうえで振るわれた秋水は、並大抵の防御など真っ向から打ち砕くだろう。

「ノロいわっ!」

と言っても現在交戦中の敵は並以上の力の持ち主
言葉の通り余裕を持って秋水を回避。
バルーンスカートに耳と尾というファンシーさのある格好だが、派手なだけの姿ではない。
伝説のパティシエの一人、キュアジェラートへ変身したヴァニラの力は悪魔にも引けを取らない程だ。


910 : Lが呼ぶほうへ/矛盾に脳を惑わして ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:04:07 .XhQlctY0
「丁度いい。この肉体の持つ力、貴様で試してくれる!」

両手で作った握り拳に冷気が纏わりつき、氷の塊へと変化する。
軽く打ち鳴らして硬度を確かめ、デビハムへと急接近。
氷の拳を顔面目掛けて放った。
十分な硬度がある氷の塊をプリキュアの腕力で打ち込むのだ。
直撃すれば崩れた豆腐のように、そこら中へ骨と肉片が飛び散る事間違いなし。
そのような末路を迎えるなど真っ平なデビハム、秋水を翳して拳を防ぐ。

「ググ…どいつもこいつもとんだ暴力女デビ!」

一撃が防がれようと攻撃の手は緩められない。
続けて幾度となく放たれる拳、されど全てデビハムの両手に握られた刀で防がれている。
大業物の中でも特に硬度がある秋水だ。
キュアジェラートが放つ殴打の嵐だろうと破壊は不可能に近い。

殴り続けても敵の刀に僅かな亀裂すら入らない事から、キュアジェラートは武器破壊は現実的でないと理解。
別にそれならそれで問題無い。取れる手段は他にもある。

「シェアッ!!」

拳同士を叩きつけると覆っていた氷が砕け散る。
間近でキラキラと舞う氷の欠片が目に入り、デビハムは痛みでつい目を瞑ってしまう。
直後、キュアジェラートの右足が吸い込まれるように腹部へ叩き込まれた。
骨が軋む不快な感触を味わいながら、後方へと吹き飛ぶデビハム。

「のぎゃああああああ!!」

素っ頓狂な悲鳴は、近場のビルの壁に叩きつけられ潰れたような声に変わった。
腹も背中も痛い、痛いがそれすらも怒りへと変えラブを破壊する意思を一層高める。
認めるのは癪だが、殺し合いに参加してからは一度もラブを壊せていない。
ラブの破壊者デビハムとして復活する為にも、キュアジェラート一人相手で躓いてる場合ではないのだ。
秋水を今一度強く握り締め、背中の翼を広げる。


911 : Lが呼ぶほうへ/矛盾に脳を惑わして ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:05:16 .XhQlctY0
「真っ二つにしてやるデビ!」

上空から急接近して刀を振るう。
戦兎や甜歌相手にも使用し、敵がフォームチェンジするまでは見事に翻弄していた戦法。
此度も地上のキュアジェラートを標的に刀を構えた。

「目障りな小蝿め…!」

地面に叩きつけるべくキュアジェラートが動く。
近くに合った電柱に腕を回すと、驚くべき事にそのまま力任せにへし折った。
少女らしかぬ野太い怒声と共に電柱を投擲、狙いは勿論上空で口をあんぐりと開けているデビハムだ。
回転し迫り来る柱を慌てて回避、電柱のシミとはならずに済んだ。

まずは一安心、とさせてもらえる相手ではない。
続いて自動販売機を持ち上げ投擲、そちらも躱せば背後にあった建物へ激突した。

キュアジェラート達が戦って来たのは、人間以上の力を持つノワール一派。
ならばプリキュア達も超人的な身体能力を手にしているのは当然である。
加えて、キュアジェラートの能力はこれだけではない。

(確か…こうだったか?)

プロフィールに記載されていた、キュアジェラートの武装を出現させる。
星をあしらった煌びやかなステッキ、キャンディロッドを手にした。
これは打撃武器などではない、キュアジェラートの固有能力を最大限に発揮する装置とでも言うべきもの。
キャンディロッドをプリキュア達が手に入れた経緯は断じて他者を傷付ける為では無いが、ヴァニラには関係の無い話。

自身のコスチュームと同じ色の星をタッチ。
プリキュアの力の源であるキラキラルがクリームエネルギーへと変換される。

「キラキラルン!ジェラート・シェイク!」

キャンディロッドから放出されたクリームエネルギーは、巨大な氷塊を生み出す。
眼前に出現したソレ目掛け、キュアジェラートはひたすらに拳のラッシュを繰り出した。
その勢いたるや、世界の名を冠した主のスタンドにも引けを取らない。


912 : Lが呼ぶほうへ/矛盾に脳を惑わして ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:06:46 .XhQlctY0
拳の連打で粉砕された氷は全て、上空のデビハムへ襲い掛かった。

これまでと同じように地上からの攻撃を、スイスイと飛んで躱す。
しかしクリームエネルギーによって生み出された氷は、僅かに掠るだけでもその箇所が凍り付く。
直撃こそ無いものの、体の各所が徐々に凍りデビハムの動きも鈍り出していった。

「ぎょひぃ〜!ち、ちべたいデビ〜!?」

自分の体が凍結する感触に悲鳴を上げる。
斬月やエターナルとの戦闘で疲弊している身には、流石に堪えるダメージ。
ラブヲ破壊すると言う執念で肉体を動かしていたものの、限界はある。
既に空中を飛び回るデビハムの動きからは、脅威というものが薄れているのが見て取れた。

「グゥルオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」

敵の疲弊は明らか、ならば畳み掛けるチャンス。
大地を震わせ雲を引き裂くような雄叫びが放たれる。
ただ単に相手を威圧するだけではない、キュアジェラートの咆哮へ呼応するかの如くキラキラルを放出。
光の粒は上空のデビハムへ殺到、凍結した体のせいで今回ばかりは回避も間に合わない。

「ぬぐあ〜!?」

痛い、というより言い知れぬ気持ち悪さが全身を駆け巡る。
キラキラルとは人や世界に活力を与える、言わば善の力。
悪魔の肉体であり、精神もまた善側とは言い難いデビハムとは相容れないだろう。
ハム太郎達との対決でラブボムを撃ち込まれた時のような感覚に似ていた。

「ふんぎゃ!?ま、また痛いデビ〜…」
「フン、しぶといガキめ」

度重なるダメージに悶え地面に転がるデビハム。
吐き捨てながら近付くキュアジェラートの表情は、女子中学生とは思えないくらいに冷たい。
痛め付けてやったがこんなもので済ますつもりは無い。
よりにもよってDIOを殺すなどと戯言を吐いた罪、死をもって後悔させるのだ。
全身氷漬けにして砕いてやるか、それとも己のスタンドの餌食にしてやるか。
暫しの思考の末に、


913 : Lが呼ぶほうへ/矛盾に脳を惑わして ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:07:44 .XhQlctY0


――蟲の呼吸 蝶ノ舞 戯れ


その場を飛び退いた。

ヴァニラの判断が間違っていないのは明白だ。
あのまま何の行動も起こさなかったら、両腕を刺し貫かれていたのだから。
デビハムから距離を取り、顔を上げ睨み付ける。
妨害して来た人物は女。カールした長髪と青色の帽子が特徴的な少女。
だらりと下げた右腕には一振りの日本刀。
恰好とはミスマッチな装備だが、今の動きはどう考えても素人のものではない。

「どうにか間に合いましたね」

デビハムを庇うように立ち、胡蝶しのぶは一先ず手遅れになる前に到着し、安堵の笑みを作る。
重症の身とは思えない怒り様で街中へ消えたデビハムを追いかけ、怒声やら何やらが聞こえる方へと向かった。
すると地上へ真っ逆様に墜落する見覚えのある少年を発見、走る速度を一段かい上げこうして介入したのだ。
こうもデビハムを追い詰めただろう相手は派手な衣装の少女。
先程の甜歌と言い彼女と言い、この地に集められた少女は血の気盛ん過ぎやしないか。

「な、何で…」

困惑を隠さずにデビハムが呟く。
DIOと甜歌のラブを壊す方にばかり意識が向かい、すっかりしのぶを置いてけぼりにしていた。
デビハムの言葉をどう捉えたのか、振り返って笑みを向ける。

「デビハム君、後で色々と聞かせてもらいますよ」

甜歌に騙されたと言っていたが、真実は彼女の方こそ被害者なんじゃないか。
戦兎と甜歌の二人との間に本当は何があったのか。
そもそも殺し合いにおける方針は、自分達とは相容れないものなのではないのか。
問い詰めねばならない事は山程ある。しかし今は、


914 : Lが呼ぶほうへ/矛盾に脳を惑わして ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:08:51 .XhQlctY0
「ここから先は私が引き受けます。貴方には助けてもらった恩もありますし」
「んなっ……」

しのぶからの返しに鼻白み、言葉に詰まる。
助けた。その言葉を否定は出来ない。
確かにDIO達から逃げる時、しのぶを見捨てたってよかったのにそうしなかった。
天使の悪魔の能力で寿命を奪ってしまわないように、わざわざ服を引っ掴むというおまけ付きで。

自分でやった事ながら、どうしてそうしたのかデビハム自身にも理由が分かっていない。
反論しようにも上手い返しは何も浮かばず、無意味に口を開閉させるだけ。
その姿に少しだけクスリと笑い、視線を正面の少女へと戻す。
デビハムを殺そうとしていたので止めに入ったが、さてこの少女は一体どのような考えで動いているのだろう。
実は暴走気味なデビハムに喧嘩を売られた為、仕方なく返り討ちにしたという可能性もなくはない。

(まぁ、多分違うでしょうけど)

「貴様…そのガキの仲間か?」

肉体の外見ではしのぶの方が年上だが、それにしては随分な態度で質問された。
僅かにヒクリと頬が引き攣るが、はしたなく怒鳴り返したりはしない。
あくまでニコニコとした表情のまま丁寧に答えてやる。

「ええ、そうなりますかね」
「…ならば貴様もDIO様とお会いになったのだな?」

一番聞きたくない男の名が返って来た。
正直、舌打ちしなかった自分を褒めてやりたい。
これを言ったらどうなるか予想は安易に付くが、だからと言って言い直すつもりも皆無である。

「確かに会いましたねぇ。…あれ程に虫唾が走る程不愉快になったのは初めてです。貴重な体験をさせてもらいました」

言い終わるより先に空気が変わった。

「っ……」

熱風が吹き荒れた、或いは喉元に刃を添えられた。
比喩表現はポンポンと複数浮かぶが、現実にされたのは一つ。
殺気を向けられた。いや叩きつけられたと言うべきか。
全身が強張るも笑みは崩さない。代わりに警戒度を引き上げる。
とてもじゃないが齢十五かそこらの少女が放てるとは思えない、それくらいに苛烈な殺意だ。
一体全体どんな人物の精神が入っているのやら。


915 : Lが呼ぶほうへ/矛盾に脳を惑わして ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:10:29 .XhQlctY0
(あの男の関係者なら不思議ではないですが)

少女は確かに「DIO様」と呼んでいた。
あのDIOを様付で呼ぶ人間がまともな性根をしているとは到底信じられない。
甜歌のように口先で誘惑されたのとは違う、更に質の悪い関係な気がする。
何にしてもDIO共々ロクな人間ではないだろう。

「このアバズレがっ!!DIO様とお会いしておきながら不愉快だと!?便器にこびりついたクソにも劣る分際でよくもそんな戯言を!
 その汚らわしい口を今すぐに聞けなくしてくれるわ!腐り切った売女め!!!」

端正な顔を怒りで修羅のように歪め、予想の数十倍は汚い罵りの言葉を吐き出した。
どう考えても少女の体でやる事では無い。
それにしても一度主を悪く言われただけでこの激昂、DIOへの忠誠心は相当に高いと見る。
尤もそれは自分たち鬼殺隊の柱にも言える事だ。
敬愛するお館様を罵倒されれば皆一様に不快感や怒りを露わにするだろう。

「オオオッ!!」

クリームエネルギーが氷のブロックに変化、しのぶへと発射される。
偶然にも正史において戦うはずだった上弦の弐、童磨と同じ能力。
そうとは知る由も無くしのぶは両脚に力を込め、キュアジェラートへと肉薄。
しのぶも肉体であるアリーナも、敵との距離を詰めるのは息をするくらい簡単なことだ。
剣術に慣れぬ体なれど言い訳する気は皆無、呼吸を練り上げる。

――蟲の呼吸 蜻蛉ノ舞 複眼六角

右手の刀による高速の六連突き。
本来であれば急所を貫き大量の毒を流し込む技。
だが此度の得物は自身の日輪刀ではなく、敵は鬼にあらず。
故に狙うは両腕両脚。四肢を潰し行動不能へと落とし行く算段である。

「ヌゥオオオオオオオ!?」

敵の急接近を認識した時には既に、刃が放たれた後。
常人ならばそもそも近付かれたと理解する事すら困難であるが、プリキュアの肉体を得たヴァニラには別。
身を捩りながら後方へと跳躍。所々の肌が切り裂かれ、キュアジェラートの青い衣装が己の血で染まる。
しかし腕も足もまだ十分に動かせる。戦闘続行が可能ならば上出来だ。


916 : Lが呼ぶほうへ/矛盾に脳を惑わして ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:12:27 .XhQlctY0
「ッ!?チッ!」

距離が離れたのなら、再度詰めれば良いだけの事。
アリーナの拳もしのぶの刀も、当てるには敵に近付かねばならない。
互いのバトルスタイルこそ噛み合わないが、距離を詰めるという点は同じ。
羽のように軽やかで、それでいて針のような鋭さを以て再度接近する。

突き出される刀は時雨。
海軍所属であるたしぎのローグタウン時代からの愛刀、新世界でも海の荒くれ者達相手に振るわれた業物。
そこへアリーナの身体能力としのぶの技量が合わされば、プリキュア相手にも通用する。
余計な抵抗を封じる為に両腕へ突きを放つ。

「おのれ…!」

対するキュアジェラート、クリームエネルギーを両腕に纏わせ凍結。
相手を殴り殺す打撃武器としてではなく、腕を守る盾として使用。
ガリガリと削られるも腕自体には届いていない。
この短い攻防で理解する。三角帽子の少女の剣術は、さっき戦った翼の少年よりも上なのだと。

相手に分があるのが分かったなら、何時までも同じ土俵で戦ってやる理由も無い。
両腕を合わせしのぶへ叩きつければ、氷の鈍器と化した一撃を時雨でガード。
突きが一瞬止まった隙にもう一度距離を取り、すかさずデイパックから新たな武器を取り出した。
質量保存の法則を無視したサイズの支給品、回転式機関砲(ガトリングガン)である。

「DIOと言い貴女と言い、ふざけた物を使いますね」
「“様”をつけんか無礼者めェッ!!!」

銃口は真っ直ぐにしのぶへと照準が合わせられている。
取り付けられたレバーを勢いよく回すと同時に、銃口からは絶えず弾丸が発射された。
弾を吐き出す度に、冷たい金属の銃身が熱を帯びていく。
如何にアリーナの肉体と言えども、殴られれば痣となり、斬られれば血が吹き出る。
弾丸の嵐をモロに食らってしまえば、ボロキレよりも惨い末路を迎えるだろう。
回転式機関砲の元々の持ち主であった武田観柳が緋村剣心達に撃った時、わざと外して嬲り殺そうとした。
その時は御庭番衆4人の犠牲も有り弾切れへ追い込んだが、ここにそう言った者はあらず。
加えて観柳と違いヴァニラに遊びは無い。
思い出すのは忌々しい記憶。偽物とはいえ自分にDIOの姿を破壊させたイギーを嬲っていた時の光景。
思えばあの時さっさとイギーを殺していれば、ポルナレフに敗北する事も無かったはず。
ついさっきだってデビハムへどうトドメを刺すか思案したせいで、仲間と思しき少女に邪魔をされこうなっているのだから。
DIOを愚弄したしのぶを苦しめてから殺したい気持ちはあるものの、何度も同じ轍を踏む訳にはいかない。

――蟲の呼吸 蜈蚣ノ舞 百足蛇腹

失敗の繰り返しを警戒するヴァニラだが、それだけで簡単に勝利はつかめない。
弾丸が発射されるよりも早く、しのぶは己の技を繰り出していた。
エターナルに変身したDIOの放った、青い斬撃を回避した型。
踏み込む力が強過ぎる余り、アスファルトの地面ですら抉る程の速さを発揮。
四方八方に動き回りながらヴァニラの元へ到達せんと試みる。


917 : Lが呼ぶほうへ/矛盾に脳を惑わして ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:14:24 .XhQlctY0
(これでもやはり、完全には躱し切れませんか…!)

致命傷こそ無いとはいえ、時折腕の肉を弾丸が食い千切られ痛みを訴えられる。
とはいえ回転式機関砲を生身で避けている事実が、普通ならば有り得ない光景だろう。
尤も煉獄杏寿郎は柱になる以前の任務において、重火器の一斉掃射を日輪刀一本で凌ぎ切るという荒業を披露した事がある。
それだけの力が、一般隊士とは一線を画す実力が無ければ柱にはなれない。
ならば同じ柱であるしのぶに出来ない理由は無い。

「このドグサレ女がぁっ!!!」

額に血管を浮かべながらレバーをより早く回し、

「ぶぅっ!?」

顔をはたかれるような痛みが走った。
しのぶとはまだ距離がある、だがやったのは間違いなくしのぶだ。
アリーナが元々身に着けていたグローブを投擲し、見事ヴァニラに命中したのである。
顔への痛みと塞がれる視界、これでも意識をしのぶから一切逸らすなとは流石のヴァニラでも不可能。
グローブをどかそうと回転式機関砲の掃射にストップが掛かり、決定的な隙が生まれる。
この最大級のチャンスに動いたのはしのぶだけではない。

「もらったデビィイイイイイイイイイイイイイッ!!!」

当然の如く最初にヴァニラと殺し合っていた少年、デビハムだ。
有無を言わせぬしのぶの物言いに気後れしここまで大人しくしていたが、そもそもこれは自分の戦いだと思い出す。
ラブの破壊者としての自分を取り戻す為にも、DIOへの愛を叫んだヴァニラをこの手で殺さねばならない。
はいそうですかとしのぶの言う通りにしている場合でないと、慌てて斬り掛かった。

(ふざけるな)

迫り来る二本の刀を前にヴァニラが抱くのは焦りや恐怖ではなく、圧倒的な怒り。
先程から頭の中でリピートされるのは、DIOの館で繰り広げられたあの戦い。
しのぶの剣技がシルバー・チャリオッツと同じ突きなのも、嘗ての記憶を思い起こさせる要因になったのかもしれない。
花京院同様DIOに支配されるという幸福を味わっておきながら、愚かにもジョースターの仲間となった許し難い男。
大人しくアヴドゥルと同じ所へ逝けばいいものを、アホ面のクソ犬が邪魔したせいで生き延び自分を敗北へと追いやった怨敵。

(ポルナレフを、DIO様に逆らった大罪人どもを生かしたまま死ねるものかァァァーーーッ!!!)

そうだ、自分はまだ何も為せていない。生き返ったと言うのにDIOへの忠義を何も示せていない。
フリーザとかいう化け物に精神を揺さぶられている場合では無い。DIOに仇名すクソカスどもを、一人残らず始末しなくてはならない!

刃が到達する。キュアジェラートの能力も、回転式機関砲も間に合わない。
ならば残る手段は一つ。自分の持つ本来の力のみ。

「クリィイイイイイイイイイイイイイム!!!!!」

巨大な顎に飲み込まれ、ヴァニラの姿が一瞬で消失した。


918 : Lが呼ぶほうへ/矛盾に脳を惑わして ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:16:18 .XhQlctY0



何が起きたのかを理解するのに暫しの時間を要した。
重火器の掃射が僅かな間だが止まり、隙を晒した少女へ刀を突き刺そうとしたのは覚えている。
そこへデビハムが乱入。あくまで動きを封じるだけのしのぶとは違い、デビハムは相手の命を奪う気でいた。
止めようにも既に刀を持つ手を動かした後、あわや二本の刀を身に受け絶命となったまさにその瞬間だ。
少女の姿が消え去ったのは。

(何が……)

完全にいなくなる直前、少女は何かを叫んでいた。
すると彼女の背後から人間とは異なるモノが出現したのは、一瞬とはいえ間違いない。
アレの口らしき部分に少女とアレの肉体も飲み込まれ、そうして消えた。
喰われて死んだ、とは違う。恐らくアレは少女が呼び出した存在。なら自分で自分を喰い殺す理由が無い。
というかアレは一体何なのだろうか。
少女はDIOの関係者。ならばアレもまたDIOが出現させた黄金色の人形と同じ能力か?
分からない。アレの正体も、アレ諸共姿を消した少女が何をするのかも。

「な、な、何なんデビか今度は!?どこに消えたデビ!?」

と、しのぶが思考に時間を割いている間、混乱と苛立ちからかデビハムは駄々をこねる幼子のように秋水を振り回していた。
決意新たにラブを破壊しようとしたと言うのに、しのぶが戦闘に介入してから妙な方へと転がっている。

「この卑怯者!さっさと出て来いデビ!それともオイラが恐くなったんデビか!?やーい臆病も」



ガ  オ  ン  ッ  !


919 : Lが呼ぶほうへ/矛盾に脳を惑わして ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:17:10 .XhQlctY0
消えた。
デビハムの背中に生えた純白の翼。
ほんのちょっぴりの根元を残して、何の前触れもなく消え去った。

「ぎ…」

理解が追い付かない。
急に背中が軽くなった気がして、すぐにそれを凌駕する痛みが襲い来る。
翼とはいえ天使の悪魔にとっては体の一部、喪失のショックと激痛は人間と同じようにあった。

「ぎぃやあああああああああああぁぁぁぁぁあああああああああああああああぁぁああああっ!!!?!」
「っ!!!!」

デビハムの絶叫は皮肉にもしのぶを現実へと引き戻し、最大限の警戒を抱かせる役目を果たした。
刀を握るのとは反対、グローブを脱ぎ捨てた左手でデビハムの手を掴み駆け出す。
今何が起きているのか。細かい説明は出来ないし考えている余裕は無い。
それでも分かる事は一つ。自分達は今アレに攻撃を受けている。
さっき少女が姿を消したのは逃亡の為などではない。
氷を操る能力や、鞄から出した銃火器なぞよりも遥かに強力な攻撃を行う為だったのだ。



 ガ  オ  ン  ッ  !


                        ガ  オ  ン  ッ  !


         ガ  オ  ン  ッ  !


                                ガ  オ  ン  ッ  !


   ガ  オ  ン  ッ  !


                     ガ  オ  ン  ッ  !



消えて行く。
道に存在する何もかもが背後で消されている。

街灯が支えを失い道路に落下した。
自動販売機が取り出し口から上を中のドリンクごと消された。
「本日のおすすめ」と書かれた看板が足だけを残して無くなった。
現代日本で数を減らしつつある電話ボックスが跡形もなく消え去った。


920 : Lが呼ぶほうへ/矛盾に脳を惑わして ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:18:40 .XhQlctY0
(おかしい…!私たちの背後でデビハム君の羽と同じように消されているのは確か…!なのにあの少女の気配だけが感じられ無い…!!)

目を凝らしても何も見えない。
耳を澄ましても何も聞こえない。
鼻を動かしてみても何も嗅ぎ取れない。
意識を集中させても、僅かな殺気すら感じ取れない。
攻撃はされているのに、攻撃している当人の気配が完全に消失している。

竈門炭治郎ならば悪しき匂いを嗅ぎ取れるか?不可能である。
我妻善逸ならば敵意の音を聞き取れるか?不可能である。
嘴平伊之助ならば刺し貫かれる程の殺意を感じ取れるか?不可能である。
栗花落カナヲならば常人では視認できないナニカを捉えられるか?不可能である。

どれだけ五感が研ぎ澄まされているかなど、ヴァニラ・アイスのスタンドには無意味。
あらゆる防御もクリームが相手では何の意味も為さない。

(とにかく今は…)

逃げるしかない。
攻撃しようにも何処にいるのか全く分からず、あの物体を消す攻撃を防ぐ手段も不明。
デビハムの手を強く引きながら角を曲がった所で、急に振り解かれた。

「はっ、離すデビ!何考えてるデビか!?」

それは何に対しての怒りなのか、デビハムにも判断が付かなかった。
頼んでもいないのに助けに来た事だろうか。
自分が殺さねばならない相手と、勝手に戦い始めた事だろうか。
それとも、素手で天使の悪魔の体に触れ続けるという、自分から寿命を差し出す真似をした事か。
しのぶには天使の悪魔の能力は伏せている。だから知らないのは当然で、何も知らないから素手で触る真似をしたとは理解できる。
第一寿命を吸い尽くされて死んでしまっても、しのぶは所詮戦兎と甜歌のラブを壊す為に利用しているだけの女。
死んだ所で大した問題にはならない。精々悲鳴嶼と再会した時に何と誤魔化すかを考えねばならない程度。
その程度の存在でしかないと言うのに、どうして自分はこうも声を荒げているのか。
デビハムには自分で自分の考えがまるで分からなかった。


921 : Lが呼ぶほうへ/矛盾に脳を惑わして ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:19:39 .XhQlctY0
「と、とにかお前は余計な真似をするなデビ!」
「デビハム君、今は…」



        ガ  オ  ン  ッ  !   



口論している場合じゃない。
言い終わるより前にデビハムの背後、ガードレールが消滅した。
マズい。敵はもうすぐそこまで迫っていると、しのぶの全細胞が危機を訴える。
物体が消えた位置から見ても、自分よりデビハムの方が近い。
そこへ突っ立っているのは最大級の悪手。
最早一刻の猶予も無しと、急かされるままにデビハムを突き飛ばすようにして飛び掛かった。



   ガ  オ  ン  ッ  !



「デビッ!?」
「――ッ」

目には見えないが、アレが攻撃したと分かる。
デビハムは無事。ならしのぶは?
腕は二本ともある、首も繋がっている、両脚だって失われていない。
ただその先、右足の真ん中から爪先にかけてが綺麗さっぱり消失していた。
人体の欠損は脳に情報として伝達し、当然の結果として激痛が喪失箇所からやって来る。

「っ……ぅ…!」

声の限り叫んで痛みを訴えている暇は無い。
病院で集めた道具を使って処置をしたい所であっても、後回しにするしかない。
動き続けなければ、今度は全身丸ごと消されるかもしれないのだから。

だがしのぶの予想に反して攻撃はもうやって来ない。
代わりに宙へ、ゆっくりとソレが姿を現わした。
骸骨にも見える異形の頭部。その口の中から顔を覗かせる少女。
自分が齎した破壊の痕跡には目もくれず、傷を負った少年少女を無言で見下ろした。

(仕留めてはいない。が、時間の問題だな)

少年は翼を失い、少女は片足に決して軽くない負傷を抱えている。
どちらも命こそ健在であっても、機動力を奪われた状態。
だったら殺すのはそう難しい話ではないだろう。
あのような傷を負ったままで何時までも逃げられる程、クリームによる追跡は甘くない。
問答する気は無い。再度自分はクリームの口内へと戻り、今度こそ二人纏めて暗黒空間送りにしてやるのみ。

スタンドを操作し姿を消そうとしたその時、突如地面が揺れた。

地震だろうか。
ボンドルドが用意した特殊な舞台と言えども、こういった自然災害からは逃れられないと言う事か。
いや違う。これは会場が揺れているのではなく、何者かが地面を揺らして近付いて来ている。
ドスンドスンとけたたましく接近する存在を視界に入れるべく振り返り、その瞬間だけヴァニラの頭からはデビハム達の殺害が吹き飛ぶ程の衝撃を受けた。
顔を驚き一色に染め上げるのはデビハムとしのぶも同様である。

三人の前に現れたのは背中に天使を生やし、鼻でオランウータンを拘束した、狂気の産物としか言いようのない象の化け物だったのだから。


922 : Lが呼ぶほうへ/愛が体を喰いちぎった ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:22:04 .XhQlctY0
大きな焦りが姉畑支遁の中にはあった。
SMILEによる悪魔の実の能力発現への歓喜、今度こそ自身の穢れの証拠を消さねばと言う強迫観念。
それらを上回るのは、DIOに追いつかれたら殺される事への恐怖。
拘束中の猿を利用して、どうにか交わった方の猿を呼び出す。その為にわざわざDIOの元から連れ去ったのだ。
だがもう一体の猿を始末するには、まず自分の安全を確保しなくては始まらない。
故にDIOがもう追って来ない、若しくは追いつけない程に距離を離すつもりで全力疾走をしていた。

逃走の真っ最中の事である。
姉畑が見覚えのある男女と遭遇したのは。

「あ、あなた方は…!?」

傷を負った様子の二人組。
学園前でDIO達と争っていた少年と少女ではないか。
自分が甜歌から矢を射られている間、何時の間にか消えていた。
まだそう遠くへは行っておらず、こうも早い再会となったのだろう。

一方のしのぶ達も姉畑の奇怪な姿へ呆気に取られていた。
相手の名前は知らないが、何をしたのかはハッキリと覚えている。
というか簡単に忘れられるなど有り得ない、悪い意味で衝撃的な光景を見せつけられたのだから。
DIOに追い詰められ危機に陥った正にその時、物陰から飛び出しDIOの部下らしき猿、その内の一匹と性交を始めた。
しのぶにもデビハムにも訳の分からない怪人物にしか思えなかったが、ある意味彼のおかげで危機を脱せたのは否定できない。
逃げた後はどちらも精神的に余裕は無かったので、深く考えはしなかったのだが。

しのぶ達にとってもこれは予期せぬ再会。
おまけに見た目が激変しているのだから、これで驚くなというのは幾ら何でも無理難題。
鬼殺隊の隊士としてこれまで様々な鬼を殺して来た。
中には人間とはかけ離れた姿の鬼も珍しくはなく、今更化け物染みた体の参加者が現れた所で錚々驚きはしない。
と考えていたしのぶからしても、目の前に現れた姉畑は異様に感じられる。
余りにも冒涜的、女として生理的嫌悪を抱かずにはいられない。

と、向こうが何を思っているかは今の姉畑には大きな問題ではない。
思わぬ再会となったとはいえ、改めて自己紹介など呑気な事をやっている場合ではないのである。


923 : Lが呼ぶほうへ/愛が体を喰いちぎった ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:23:31 .XhQlctY0
「も、申し訳ありませんが先を急いでいる身なので…。早く逃げないとあのDIOという人に「なに?」」

聞き逃してはならない単語に反応し、姉畑の言葉を遮る者が一人。
クリームを解除したヴァニラが険しい顔で姉畑に詰め寄る。
体格ならば象へ変身した姉畑の方が大きく勝っているのに、思わず萎縮してしまいそうな威圧感があった。

「貴様…どういうことだ?DIO様に何をした?」
「え!?い、いや、ナニをしたと言うか、私がされたと言うか、あ、ああでも元々は私があのお猿くんを…ああ、わ、私は…」
「さっさと答えんかグズがぁっ!!」
「ひぃっ!?わ、私も好きでああした訳ではなくてですね、でないと、あの、私がこ、殺されていまして……その…」

要領を得ない回答に痺れを切らし怒鳴り返せば、これまたしどろもどろの言い訳が出て来た。
DIOとの間に一体何が起きたのか、詳細な事実は不明だがある程度は答えも見えて来る。
この得体の知れない参加者は何かふざけた真似をしでかし、それが原因でDIOの怒りを買い粛清されそうになったのを逃げて来たのだろう。

(どいつもこいつも…!)

定時放送を過ぎてから立て続けに参加者と遭遇してはいるが、その全員が異なる形でDIOの害となっている。
承太郎以外にも殺さねばならない者は、思った以上に多くいるようだった。
ヴァニラが怒りの感情を向けるのは自分自身に対してもだ。
最初の6時間でもっと迅速に動いていれば、このような連中を早急に始末出来ていたかもしれないのに。
つくづく、フリーザなどと言う化け物の存在に気を取られていた己が間抜けでならない。
悔やんだ所で時を戻す術は存在せず。
せめてこれからの働きで放送前の失態を拭い取らねばなるまい。
その為にも、まずはDIOの敵であるこいつらを三人纏めて葬ってやる。

「DIO様の手を煩わせるまでもない。私が始末してくれるわ」
「そ、そんな…」

どうにかDIOから逃げて来たのに、今度はDIOの仲間に命を狙われる。
己の不運に泣きたくなったが、それで許してくれる雰囲気では無い。
幾ら動物系の能力者になったとはいえ、姉畑は戦闘が不得意。
だが何もしなければ今度こそ死が訪れるのは確実。
ガンモードのドリルクラッシャーを構えつつ、何とかして逃げる方法を見つけようとあっちこっちに視線を彷徨わせた。


924 : Lが呼ぶほうへ/愛が体を喰いちぎった ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:24:40 .XhQlctY0



「ほぉ…賑やかな事になっているじゃあないか、アネハタ」



一瞬。
場の空気がその一瞬で塗り替えられる。
その声の主を誰もが無視する事など出来ない。いや、許されない。
見上げた先にはローブをはためかせる白い怪人と、付き従うかのようにこれまた白の装甲を纏った何者か。
しのぶとデビハムは全身を強張らせ、姉畑はこの世の終わりを目の当たりにしたかの如き表情となる。
残る一人、ヴァニラもまた目を見開いていた。

(ま、まさか……)

耳に焼き付くあの御方の声ではない。
御姿も違う。装甲を纏っていなかったとしても、別人の肉体になっているのだから。
だがこの圧倒的な存在感は。有象無象ではどうやったって到達できない、支配者にのみ許されたオーラとも言うべきこの感覚は。
間違いなくあの御方でしかありえない。
道路へと降り立ったその眼前へ跪き、首を垂れる。

「DIO様…」

恭しい少女へチラと視線を寄越してやる。
見た目は記憶にある誰とも一致せず。
しかし自分を様付で呼びこうも分かりやすく服従の姿勢を見せる人物など、参加者の中で一人しかいない。

「随分と可愛らしくなったものだな。ヴァニラ・アイス」
「ハッ。立神あおいと言う名の小娘に御座ります。DIO様のお力で生まれ変わった元の肉体とは、比べる事すら烏滸がましい体ですが…」
「フム、肉体についての詳細は後でじっくり聞くとしよう」

可愛らしいの言葉に後ろで甜歌がムッとしたのには触れず、己の部下以外の面々を見回す。
傍目からは余裕たっぷりな仕草に苛立ちをぶつけるように、DIOへ襲い掛かる者がいた。


925 : Lが呼ぶほうへ/愛が体を喰いちぎった ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:25:35 .XhQlctY0
「DIOォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

背中の痛みも姉畑への困惑も放り投げ、デビハムはラブを壊す為だけに動く。
DIOの姿を再び目撃した時、またしても自分の心に畏敬の念が宿り出すのを感じたのだ。
ラブを破壊する悪魔のハムスターである自分が、このような感情を抱くなどあってはならない。
だから畏敬以上の怒りで書き換えたのだ。
すっかりDIOへお熱な状態の甜歌を連れ歩く様、デビハムが何よりも嫌悪するラブが破壊を逃れていると。

秋水で仮面諸共叩き割るべく迫る少年。
愛する男と絶対の主への暴挙は許すまじと、殺気立つ甜歌とヴァニラ。
当のDIOは部下たちの動揺などどこ吹く風で腕組を解き、余計な真似は控えるよう手で制す。
憤怒を燃料に繰り出される一撃。
成程、肉体や支給品の恩恵も加算され、まともに受ければエターナルに変身していようとも少なくないダメージとなるだろう。

「当たれば、だがな」

ゴシャリと胴体にめり込むエターナルの右足。
『まだ』殺す気が無い為ある程度の加減はしている。と言っても脆弱な威力にはならない。
血の混じった胃液を吐き出し、デビハムの体は後ろから引っ張られように飛んで行く。
丁度その先に合った商店の扉に激突、ガラスを撒き散らし商品棚を倒しながら奥へ叩きつけられる。

「デビハムく――!?」

行かせはしない。
言葉ではなく拳で語るように、しのぶの前へ立ち塞がる黄金色の拳闘士。
自分の方へ視線を寄越さずとも、この人形を仕向けたのが誰かは考えるまでも無い。
世界(ザ・ワールド)と呼ばれていた拳闘士が拳を放つ前に、こちらの刀で突破する。

が、蟲の呼吸を繰り出そうとしたしのぶを突如として襲う痛み。
筋肉の一本一本へ蓄積された負担が、ここに来て響き始めた。

繰り返しの説明となるが、バトルロワイアルにてしのぶに与えられた仮の肉体はサントハイム王国のアリーナ姫。
国一番のおてんば姫と自分でも言うように、活気に満ち溢れた少女。
ただ元気があるだけでなく、名のある格闘家やモンスター相手にも果敢に挑み勝利を手にする腕っ節の持ち主だ。
しかし一点、剣術は不得意というその一点のみがしのぶには大きな問題である。
PK学園前の戦闘の際に身を以て実感した、剣術が染み付いていない身体では蟲の呼吸の精度が落ちてしまうと。
それでも身体能力の高さで補ってきはしたが、剣術に全く慣れていない身体で、蟲の呼吸という鬼を殺す為に編み出した相応の実力があってこそ我が物に出来る技を放ち続けた。
当然体には負担が圧し掛かり、僅かな時間しか回復を行わず再度戦闘を行った為、アリーナの体が悲鳴を上げる事態へと陥ってしまったのだ。


926 : Lが呼ぶほうへ/愛が体を喰いちぎった ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:26:36 .XhQlctY0
そういた事情を知っているのは体を動かしているしのぶ本人だけ。
DIOには単に相手の動きが鈍ったと、目に見える以外の情報は知り様が無い。
仮に知ったとしても、DIOにとってはだからどうしたという話でしかないが。
詳しい事情を知っていようと知るまいと、立て直しの機会をくれてやる気は無し。
容赦なくラッシュがしのぶへ叩き込まれた。

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!」

鍛えていると言っても、無防備な少女の肉体を痛めつける無数の拳。
デビハムと同じように吹き飛んで行き、硬い何かに背中を強打。
何か悲鳴なようなものが聞こえた気がしたが、考えている余裕は無い。
短い呻き声が漏れ、すぐに体がアスファルトの上へ横たわる。

「ぐ……ぅ……」

歯を食い縛っても体に力が入らず、それどころか思考もあやふやになっていく。
これはマズい。意識が消えかけている証拠だ。
立とうにも立てない。口の端から血が垂れている事にすら気付けない。
それでも意地か、はたまた執念か、刀を握る右手の力だけは一向に弱まらなかった。

(私、は……)

危険な参加者を止められず、仲間の元へも駆け寄れず。
姉の仇の死へ未だ吹っ切る事も割り切る事も出来ない始末。
何て無様。自分自身への罵倒を胸中で吐き捨て、しのぶの瞼は閉じられた。

あっという間に二人を無力化し、DIOは本来の目的を果たそうとする。
殺すにしろ話をするにしろ後回しだ。今はデビハム達が邪魔な為力づくで大人しくさせた。
ついでに、どさくさに紛れて逃げようとしていたソイツの体にしのぶをぶつけ逃亡を阻止。
象の分厚い皮膚に当たっても大した傷にはならないだろうが、不意に受けた衝突で拘束していた部下を落としたらしい。
既にどうでもいい存在と化している為、ぐったりしている部下の安否に興味は無いが。


927 : Lが呼ぶほうへ/愛が体を喰いちぎった ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:27:51 .XhQlctY0
「さて…今度こそ貴様の番だ。なぁ?ア・ネ・ハ・タァ〜〜〜?」

わざとらしく声をかければ、情けないくらいに震える象の化け物。
気付いているのだろう。
声色は相手をおちょくるような軽さだが、内には怒りがふんだんに籠められていると。

「ちょ、ちょっと、ちょっと待ってください!た、確かに私はあなたを鼻で殴り飛ばしましたけど、それはあなたに殺されそうになったからで…」
「何だと…?貴様…仮の肉体とはいえDIO様に手を出したというのか?」
「ひぇっ!?お、落ち着いてください!そ、そもそも私は、本当は誰かを傷付ける気なんてのはこれっぽちも無くてですね、あの…」
「う、嘘つき……!あなたのせいで、なーちゃんの体が…き、傷ついたんだよ……!それに…あんな、あんな気持ち悪いのを……う、うぅ〜……!」

言葉を口にすればするほど、DIOに付き従う二人からの敵意が膨れ上がる。
さっきから汗が止まらず、目は狂ったかのようにグルグルと回りっ放しだ。
殺し合いに巻き込まれてから何だかんだで生き延びてきたが、とうとう終わりの時がやって来たのか。
冗談じゃない、自分はまだまだ生きて大好きな動物達と愛し合うんだ。
どれだけ姉畑が強く思っても、目の前の光景は姉畑に絶望しか齎さない。

(ど、どうすれば…私は一体どうすれば……)

PK学園でDIOから逃げられたのは、急な変化を見せた姉畑にDIOが呆気に取られ隙を見せたから。
DIOが姉畑を取るに足らない変態と見下し、油断があったからだ。
そんな幸運は二度も続かない。
自分をコケにした変態への怒りに燃えるDIOに同じ手が通用するとは思えず、しかも今回は近くに仲間がいる。
三人掛かりで来られたら、黄チュチュゼリーやドリルクラッシャーによる牽制も効果は期待出来ないだろう。
特にDIOは黄チュチュゼリーの効果を身を以て味わっている。当然警戒をしている筈。
象となった肉体を駆使すればと考えるも、それだってDIOの油断があったからどうにか一撃食らわせられたに過ぎない。
真正面から戦うとなれば例えDIO一人だろうと、不利なのは姉畑だ。

こんな事なら学園での尋問で、杉元佐一に関する情報を素直に吐いていればまだ助かる道はあったのだろうか。
いや、あの時点でDIOはもう自分を殺す気でいた。離そうと話すまいと結果は変わらなかった気がする。
それに金塊の事を知ったら、どの道自分は無事でいられる保障は無い。
この男と出会ってしまった時点で、自分の運命は決定づけられたとでも言うのか。
体が天使のクリムな事もあり、神に祈れば助けてくれるかもと軽く現実逃避気味な思考になる姉畑。
神が姉畑の所業を知ったら唾を吐きかけられそうであるが。

アレコレ考えても危機を脱する手は何一つとして浮かばない。
姉畑の力ではどう足掻いても無理だ。

姉畑一人、では。


928 : Lが呼ぶほうへ/愛が体を喰いちぎった ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:29:12 .XhQlctY0
「デェェェェェビィィィィィッ!!!」


DIO一派と姉畑の間へ割って入るように、商店から影が飛び出した。
傷だらけとなったデビハムだ。
地面を切り裂くようにして刀を振るう。
右手の秋水ではない、何時の間にか左手に握るもう一本の日本刀。
藤色の刃以外はとりたて注目すべき箇所は見当たらないソレは、アスファルトに巨大な切れ目を生み出した。
無数の破片がDIO達へと飛び散り、各々ローブや盾を翳し対処する。

刀一本が発揮するにしては高過ぎる威力。
天使の悪魔の肉体やアトラスアンクルの効果があるとしても、少々異常だ。
この刀は支給品ではない、天使の悪魔の能力により生み出した得物。
意図せずしのぶから奪った寿命を全て使い、刀を具現化した。
使用する寿命の長さによって威力は変動するが、そのどれもが人間の生み出した武器を上回る破壊力を持つ。

大業物と悪魔の能力の産物。
二振りの刀をDIO、ではなく背後の姉畑へ突き付け捲し立てる。

「おいお前!オイラが言う事をよく聞けデビ!」
「はっ、はい!な、なんでしょうか…?」

鬼気迫る表情に体格で勝っていても姉畑はつい怯えてしまう。
相手の恐怖など知った事かとばかりに、デビハムは唾を飛ばして己の要求を叩きつけた。

「そこに転がってる女を連れて早く失せるデビ!お前らどっちも邪魔デビ!」
「えっ?えぇ!?わ、私がこのお嬢さんを…?いやしかし、私はこのお猿君を…」
「いいからさっさと連れてけデビ!言う通りにしなきゃお前の寿命全部吸い取ってミイラみたいにしてやるデビよ!それとも体に教えて欲しいデビか!?」
「ひっ、ひぃいいいいいいいい!!わ、分かりましたから殺さないで……」

デビハムの迫力についつい承諾し、しのぶを鼻で絡め取る。
寿命を吸い取るとは何とも非現実的な脅しだが、この地には常識では考えられない人や動物が多数存在する。
なら本当にそういった力を持っている可能性を否定できない。
惜しむような、悔やむような目を息も絶え絶えな貨物船に向けながら、姉畑はデビハム達に背を向け一目散に走り出した。


929 : Lが呼ぶほうへ/愛が体を喰いちぎった ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:30:37 .XhQlctY0
「逃がさんっ!」
「ま、待って……!」

当然黙って見ているつもりはない。
ヴァニラがプリキュアの脚力を活かして飛び掛かり、甜歌もまたアーマードライダーの身体能力で斬り殺そうと走る。
二人を妨害するのはデビハム。
能力で作り出した刀を地面に突き立て、勢いよく斬り上げる。
地面が抉れまたもや大量の破片、それだけでなく真空の刃まで放たれたではないか。
咄嗟に回避したものの足止めされたヴァニラ、メロンディフェンダーの防御が間に合わず火花を散らして変身解除される甜歌。
おまけに逃走中の姉畑が背後を見ないまま、ドリルクラッシャーを乱射しているのも牽制の役目を果たした。

「ぜぇ…ぜぇ…お前らの相手はオイラデビ!ここで全員のラブをぶっ壊して、デビハム様の完全復活だデビ〜!」

肩で激しく息をしながら、それでもデビハムは威勢よく吠え立てる。
ラブの中心人物であるDIOと、そいつにご執心の奴らを完全に仕留める為に。
逃走を阻止できなかった部下と入れ替わるようにして、DIOがデビハムと対峙する。
姉畑を逃がした怒り。それが微塵も感じられ無い声色で言葉を紡いだ。

「デビハム君、だったかな?君は何故そうもラブの破壊に拘るのか、よければ私に教えてくれないかい?」
「あぁ〜ん?そんなもん決まってるデビ!オイラはラブが大っ嫌いだからデビ!DIO!お前のラブもお前の命と一緒にぶっ壊してやるデビ!!」

DIOへの殺害宣言に殺気立つ面々を無言で制し、尚も言葉を続ける。

「成程。君がどうしてラブを嫌うのかはともかくとしてだ、君の行動には些かの矛盾を感じずにはいられないな」
「オ、オイラにケチを付けるデビか!?」

ラブの破壊というデビハムにとって絶対の行動指針を否定するような言葉。
顔を赤くして食いつくデビハムの怒りを受け流し、DIOはそれを口にする。
デビハム自身にも理解が及んでいない、致命的な矛盾を。

「あの少女、しのぶを逃がす為に我々の足止めを行っている。それは何故かな?」

ドクリと心臓が跳ねる。
デビハムにとっては最も触れて欲しくない箇所を、DIOは容赦なく突き刺した。
そうだ、その通りだ。
何故自分はしのぶを逃がす真似をしたのだろうか。
DIO達を殺すのに邪魔をされては困るから?確かにその理由ならばおかしくはない。
だがそれならわざわざ姉畑を脅して逃がさなくても、寿命を全部吸い取って殺せば良いだけの話だろう。
しのぶはDIOの攻撃で気絶していた。何の抵抗もされずに殺す事だって出来た。
本当にしのぶが邪魔なら逃がすよりも、いっそここで殺した方が手っ取り早い。
それにしのぶはこちらへ強く疑いを抱いているようだった。
あのまま生かしておいても面倒ごとが増えるだけで、殺した方がメリットはあるだろう。

変装して仲違いさせた事はある。
助けがいると嘘を吐き船に置き去りにした事はある。
遊園地のアトラクションの制御を乗っ取って、ジェットコースターを暴走させようとした事はある。
ラブを壊す為なら、どんな卑劣な手段も実行してきた。
だけど、誰かを助ける為に行動した事なんて一度も無い。

なのにどうして。


930 : Lが呼ぶほうへ/愛が体を喰いちぎった ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:31:50 .XhQlctY0
「なぁデビハム君、私が思うに――」

悪寒が全身を駆け巡る。
やめろ。
それを言うな。その先を言うな。
これ以上聞くな。聞いてしまえば自分は…。

「君にもラブがあるんじゃあないか?君の大嫌いなラブが、君自身の中にも」

「――――――――――――」

何かが砕ける音が、デビハムには聞こえた。

一体、何を言っているのだろうか。
自分にもラブがある?そうほざいたのかこいつは。
つまり何だ。自分がしのぶを逃がす真似をしたのは、あの女に絆されたからだとでも言うのか。
あの女が二度も自分を助けたから、だからしのぶが死んでしまうのが嫌になったと。
そう言いたいのか。


ふざけるな。


死ね。


死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す

「デビハム君、君は」

消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ
黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ


「黙れデビィイイイイイイイイイイイイイイイィィィィイイイイイイイイイイイイイイイィィィィッ!!!!!」


怒り、焦り、憎しみ、恐怖、そのどれでもないナニカ。
最早自分がどんな感情を抱いているかも分からず、しかし突き動かされる衝動で斬り掛かる。
一刻も早くこいつを黙らせなければならない。
一刻も早くこいつを視界から消さねばならない。
一刻も早くこいつに言われた何もかもを否定しなくてはならない。

グチャグチャに歪めた顔で刀を振り下ろ――


「ウキィェアッ!」

どん、と。
背後からの急な衝撃でよろける体。
刃はDIOに到達せず、切っ先が掠る事すらない。


931 : Lが呼ぶほうへ/愛が体を喰いちぎった ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:33:10 .XhQlctY0
どん、と。
背後からの急な衝撃でよろける体。
刃はDIOに到達せず、切っ先が掠る事すらない。

何が起きたかと聞かれたら、答えは実に単純。
これまで状況に置いて行かれた参加者、貨物船がスタンドで分身を生み出し妨害した。
それだけであるが、貨物船が何を思ったのかも説明せねばなるまい。

学園から逃げた姉畑にDIOが追い付いた時、貨物船の頭は困惑で埋め尽くされた。
自分の事はもういいから、ワインの効果で巨人化させてくれ。
そうすればこの不届き者を殺せる。
詳しく説明する時間は残されていなかったが、DIOなら気付いてくれるはずとメッセージを残した。
なのにどうして巨人に変化させず、DIO自ら追いかけて来たのかが分からない。
まさかメッセージの意味が伝わらなかったのだろうか。
いや、DIOはセリフがカミカミのグダグダになる事はしょっちゅうだけど馬鹿ではない。
と言う事は、自分を口では冷たい事を言いながらも本当に自分を巨人に変える気は無かったのか。
もしそうなら涙が出る程嬉しい反面、彼の手を煩わせてしまい申し訳なさが募る。

傷の痛みでロクに動けない貨物船を差し置いて、事態はどんどん進んで行った。
許し難い変態天使はまたもや逃げ、残った天使がDIOを殺そうとしている。
それを見た時、貨物船は僅かに残った力を振り絞り分身を出現させ、天使の背後からぶつけた。
残り滓同然の力ではその一撃が限界。されどDIO殺害の阻止には成功。
安堵のため息をゆっくりと漏らす。
当のDIOが何を思っているかを知りもせず。

(余計な真似を……)

貨物船の献身に対するDIOの感想は、酷く冷めたものだった。
姉畑に連れ去られ見当違いのメッセージを残した時点で、既にDIOの中で貨物船を生かす価値は完全に消え去った。
自分への強い忠誠心を抱いている。それは良い。
だがああも馬鹿正直に言われた事をホイホイ信じるなど、元の人物も猿並かそれ以下の知能しかないらしい。
まだホル・ホースやラバーソールといった、金で雇ったゴロツキの方が優秀な気さえしてくる。
しかも今あの猿は残る僅かな力でデビハムの攻撃を邪魔した。そんな必要全く無いというのに。


932 : Lが呼ぶほうへ/愛が体を喰いちぎった ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:36:56 .XhQlctY0
ラブを破壊するという執念に己自身が支配されているのに気づかず、ちょっぴり矛盾を突けば我を忘れる悪童の刃如きが、
世界を支配する帝王に届くなど、そんな馬鹿げた道理があるものか。

「フン!」
「がぎっ!?」

ザ・ワールドの拳が顎を打ち上げる。
翼を失った天使は、本人の望まぬ形で体を地面から離された。

『誰』を殺そうとしたのか、愚行の代償を徹底的に叩き込んでやる。

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」

凄まじい刀を持っている?
普通の体よりも頑丈?
ああそうか。だからどうしたという話だ。
その程度でこのDIOを攻略しようとは、全く持って馬鹿げている。

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァーーーーーッ!!!!」

トドメの一発がヒットした頃には最早、蟻のように小さな呻きすら出せずに殴り飛ばされる。
時を止められなくとも、決して弱者とは呼ばせぬ姿。
部下たちからの熱の籠った視線にさして反応は見せず、ボロキレと化し、それでもピクリと動く悪魔を見下ろした。


○○○


男が自分の手を掴んでいた。
性格に言うと自分ではない、だけど今は自分の体となっている悪魔。
そいつの手を見知らぬ男が必死で掴んでいるのだ。
理由は、吹き飛ばされそうな悪魔を助ける為。

馬鹿じゃないのか。率直な感想が思い浮かぶ。
悪魔の方も、いいから手を離せと叫んでいる。
どうやら男は悪魔に触れれば寿命が吸い取られる事も把握済みらしい。
だというのに助けようとするとは、馬鹿過ぎて笑いも起きない。

もしかして死にたいのか。
自分の命がどうでもいいから、掴んだままで

『死にたいワケねえだろ!!』

じゃあなんで

『死にたいならどっか遠くで死んでくれ…』

なんだそれ

『目の前で死なれるのだけは…もう御免だ……』

なんなんだこいつは

胸が異常なくらいにざわめく。
不快感なのか、別の何かなのかすら判明しない。


933 : Lが呼ぶほうへ/愛が体を喰いちぎった ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:38:48 .XhQlctY0
気が付けば、そいつと二人で海に立っていた。
いや違った、二人じゃなく三人。
波が届かないギリギリの位置に、女が一人。
そいつの傍へ近寄り、男は懇願するような事を言い始めている。

『デンジとパワーだけは……生きて……幸せになってほしいんです…』

誰の事を言っているのかは知らない。
だけどそいつらの事を言う時、男は泣きそうな顔になっていた。

こんな顔をされて、しかも頭まで下げられている。
相手の女はどんな反応を――





見るな



ここから先は見てはいけない



見るな
見るな
見るな

見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな
見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな
見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな
見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな
見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな
見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな
見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな
見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな
見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな
見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな
見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな
見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな
見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな
見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな
見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな


見てしまえば、もう










『キミの力を私にみせて。これは命令です』













934 : Lが呼ぶほうへ/愛が体を喰いちぎった ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:39:32 .XhQlctY0
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ
死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ
死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ
死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ
死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ

みんな死んだみんな死んだみんな死んだみんな死んだみんな死んだ
言葉を教えてくれた人が死んだ家を造ってくれた人が死んだ仲良くしてくれた人が死んだ好きになった娘が死んだ
殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した
殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺してしまっ

…………違う

違う違う違う違う違うこれでよかったよかったに決まってる
ラブが壊れたどいつもこいつもラブが壊れて死んだ
ざまあみろざまあみろざまあみろラブが壊れて死んで嬉しいに決まってる

そうだ自分はラブを壊すんだその為にここまで来ているんだ
あいつらのラブを壊してやるああでもその前にやらなきゃいけない事が一つあった

一番壊さないといけないラブは、こんな近くにあるんだから


935 : Lが呼ぶほうへ/愛が体を喰いちぎった ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:40:38 .XhQlctY0



「ひっ……!そ、そんな……なん、で……!?」

目の前で起きた光景にショックを隠し切れず、声を震わせる甜歌。
ヴァニラもまた予期せぬ事態だったのか、言葉には出さないが驚愕の表情を作っていた。
唯一平静を保っているのはDIOただ一人。
仮面の下で欠伸を噛み殺しながら、彼にとっては茶番同然のソレを無言で見つめる。

「ひゃ、ひゃひゃ……ぶっご…わず……デビ……」

ボロキレのような有様と化しながらも立ち上がった少年。
彼がその後どんな行動を取ったのか。
懲りずにDIOを殺そうとするのでも、みっともなく逃げようとするのでもないのは、彼らの反応からも分かるだろう。
ならば何をした。

黒い刀身の刀を、自分に向けて何度も突き刺したのだ。

ぶっ壊す。
壊れた機械のように途切れ途切れで何度も呟きながら、己の身体を痛め付ける。
やがて、何度目かの自傷を最後にゆっくりと倒れた。
胸から刀を生やし、笑みと言うには歪な表情を貼り付け、そのまま動かなくなった。





…結局、天使の悪魔がある女に支配され続けたように
デビハムという悪魔もまた、ラブへの嫌悪という感情に、最後の最後まで支配され続けたのだろう。

どこか遠く。
ずっとずっと、ずうっと遠くで、
支配の悪魔が微笑んでいる。


【デビハムくん@とっとこハム太郎3 ラブラブ大冒険でちゅ(身体:天使の悪魔@チェンソーマン) 死亡】


936 : Lが呼ぶほうへ/愛が体を喰いちぎった ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:41:35 .XhQlctY0



惨たらしいデビハムの最期へ何ら感じるものもなく、DIOは貨物船へと近寄る。
何故デビハムが最後に自害を選んだのか。
単純極まりない答えだ。結局デビハムも姉畑と同じ、自分の欲を制御し切れず振り回された。
そのような相手の事を何時までも気にした所で時間の無駄。
あの肉体がクリムヴェールと同じ世界の天使かどうか気にならない訳ではないが、後で奴に支給されたプロフィール用紙でも見ればいい。

「ウキ…」

見上げた主は仮面で顔を隠している為、どんな表情をしているのか分からない。
黄色い眼で見下ろしながら、淡々と告げた。

「ここまでよく働いた。その傷で長く苦しませるのも酷だろう。私の手で終わらせてやる」

言葉だけを聞けば、助かりようのない部下へ苦渋の決断を下したと受け取られるかもしれない。
実際にはDIOに部下への思いやりや慈悲など毛先程も無し。
姉畑に殺されていたとしても別に構わなかったし、無事であってもどうでもいいとしか思わない。
忠実な部下と言うならヴァニラ以上の人材はおらず、ホレダンの花粉の効果が継続中の甜歌だっている。
加えて重症の貨物船にはもうPK学園の時のような働きも期待出来ず、お荷物以外の何者でもない。
姉畑が腕の骨折を治した青い液体のような支給品でもあれば話は別だが、そういった道具は自分や甜歌のデイパックには無かった。
というかそんな貴重な治療手段を、貨物船如きの為に使うなど馬鹿げている。
正直に言って、貨物船をこれ以上生かしておくメリットがDIOには無かった。
下手に放置しておいて、自分に関する余計な情報を承太郎や戦兎達にペラペラと話し…いや伝えられる可能性もゼロとは言い切れない。
だったらここで殺しておいた方がマシだ。

主の言葉に貨物船は寂し気に目を伏せるも、仕方ないと受け入れた。
こんな傷だらけの自分では、生きていたってDIOの役には立てない。
無意味に生き続けてDIOの足を引っ張るよりは、ここで死んだ方がずっと良い。
幸いと言うべきか、青い髪の少女がDIOに新しく付き従っている。
それに甜歌、今でも嫉妬交じりの複雑な想いはあるが、彼女なりにDIOの為に頑張っているのは認めてやる。
洗脳が永遠に続くかどうかは分からないけど、もし正気に戻ったとしてもDIOの素晴らしさに気付いて、そのまま部下でいて欲しい。

DIOならばきっと殺し合いも生き延びるに決まっている。
ならば後の心配は無用。
思い残す事は何一つ無いと目を閉じ、


937 : Lが呼ぶほうへ/愛が体を喰いちぎった ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:42:35 .XhQlctY0
『そういえば、君、じゃなくてお前…って貨物船の方が本体…なんだよな。すごいな』

目を閉じ…

『俺とちゃんとした仲間なら、こう……そういった不安とかを取り除いて、人生が彩り豊かになっていくよ。えっと……輝かしい毎日になっていくよ』

目を……

『えっと、とにかくお前の人生……いや船生?とにかく、俺なら毎日の不安を取り除けるぞ。この無敵のスタンド、ザ・ワールドによってな』

……

『まあ、とりあえず、これからもこのDIOと一緒に…頑張っていこう、ぜ!………なっ!』

…………いやだ。

こんな終わり方は嫌だ。
船のスタンド使いという孤独な境遇だった自分と仲間に、友になってくれたDIO。
彼を自分の上に乗せて夜の海を遊覧した、一番嬉しかった思い出。
あの時のように、自分へ優しい言葉を掛けて欲しい。
あの時のような、台詞を噛むけど優しいDIOに戻って欲しい。
あぁ分かっているんだ。DIOは自分への慈悲でトドメを刺すんじゃあない、邪魔になったから始末するだけなんだ。
でもそんな終わり方は嫌だ。せめて最後くらいは道具としてじゃなく、友として自分を見送ってくれ。

お願いだから。

「ウキィ…ウキャァ…」

懇願するような声は、DIOが右腕を振るった直後、それ以上聞こえなくなった。
真っ赤な線が首を横切り、オランウータンの頭部が落ちる。
動物の太い首だろうと、変身したままでエターナルエッジを振るえば斬り落とすのも容易い。

ふと視線を下げれば、自分を見上げる瞳が潤んでいるのに気付く。
その理由を考えようとし、すぐにどうでもいいことと興味を失くした。


【貨物船@うろ覚えで振り返る承太郎の奇妙な冒険(身体:フォーエバー@ジョジョの奇妙な冒険) 死亡】


938 : Lが呼ぶほうへ/愛が体を喰いちぎった ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:43:29 .XhQlctY0



エターナルの変身を解き振り返ったDIOは二人の少女(片方の中身は男)に、それぞれ言葉を投げかける。
まずは気絶しそうなくらいに青褪めている甜歌からだ。

「すまない甜歌。君には残酷なものを見せてしまったね」
「DIOさん……あ、あの…えっと……」
「……あれ以上貨物船を苦しめたくなかったんだ。甜歌、私の判断は間違っていたと思うかい?」
「っ!ううん!そんなこと……絶対ないよ……!DIOさんは優しい人だから……貨物船、さんも…きっと分かってくれたと思う……」

礼を言い髪を優しい手付きで撫でてやると、恍惚の表情でそれを受け入れる。
ヴァニラとの再会や、デビハムと貨物船の死など複数の出来事が重なった結果、DIOは幾分か冷静さを取り戻していた。
少なくともPK学園を出発した時よりは頭も冷えている。
だからと言って姉畑への怒りが消え去った訳では無いが。またしても逃げられた事には当然苛立ちがある。
次に出会う事があれば、三度も同じ展開にはならないと思え。そう忌々しい変態に吐き捨てる。
尤もそういった態度はあくまで内心に留めて置き、表向きは余裕たっぷりの態度を崩さぬままもう一人を見やる。

「アイス。よもやお前も参加させられていたとはな」
「ハッ……」
「だがお前の事だ。体を変えられようとこのDIOの為に働き続けていたのだろう?」
「…DIO様、私は」
「ああ待て、詳しい話はあとでじっくり聞かせてもらう。だがその前に…」

ス、と人差し指を頭上へ突き刺し、視線を寄越す二人へ告げた。

「もうすぐ放送の時間だ」

6時間毎に行われる定時放送。
新たな死亡者や禁止エリアは勿論のこと、精神と肉体の組み合わせ名簿のように役立つ情報がまた流れるかもしれない。
部下からの報告は、放送を聞いた後で良いだろう。


939 : Lが呼ぶほうへ/愛が体を喰いちぎった ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:44:15 .XhQlctY0
恭しく頭を下げながら、ヴァニラは思う。
自分は最初の6時間、ロクな成果を挙げられていない。
回復ポッドのある宇宙船の発見にしたって、既に別の参加者に使われていれば単なる無駄な情報だ。
何より気にかかる、というより恐れるのはDIOと共にもう一度宇宙船へ行く事になればどうなるか。
再びフリーザの画像を目撃してしまう事があれば、それでも自分は正気を保てるのか。

(……余計な事は何も考えるな!あんな化け物の事など早々に忘れるのだ!)

必死に自分へ言い聞かせるが、ヴァニラは既にフリーザの存在でDIOへの忠誠に揺らぎが生じている。
一度入った亀裂は無くならない。今はまだ目を逸らして問題無い程の小ささだ。
だけど亀裂とはちょっとした衝撃でより大きくなるもの。
現に今もそう。
逃げて行った象の化け物。あのような醜悪な輩に、世界を支配するはずの男がしてやられた。
その事実を受けて、ヴァニラの中にはDIOへの僅かな疑念と失望が生まれていた。

(良かった……優しいDIOさんに戻ってくれて……)

自分を気遣う様子を見せたDIOの姿に、甜歌は心底安堵する。
あの変態は殺せなかったけど、取り敢えずいつもの優しいDIOに戻ってくれた事を喜ぼう。
ヴァニラ・アイス、という美味しそうな名前の女の子との関係も気になるけど、きっと放送が終わったら説明してくれるはず。
今はただ、髪をそっと撫でてくれる幸福に身を委ねていたかった。

以前、千雪が髪をセットして褒めてくれた時の幸福とは比べること自体が間違っている、偽りの幸福へ目を逸らして。


【E-2 街/昼】

【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:ジョナサン・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険
[状態]:ダメージ(中)、両腕火傷、体中に痺れ(ほぼ治った)、疲労(大)、火に対する忌避感、姉畑支遁への屈辱と怒り(大・幾らか冷静にはなった)
[装備]:ロストドライバー+T2エターナルメモリ@仮面ライダーW
[道具]:基本支給品、ジークの脊髄液入りのワイン@進撃の巨人、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、クリムヴェールのプロフィール、ピカチュウのプロフィール
[思考・状況]基本方針:勝利して支配する
1:そろそろ放送か。
2:アイスと甜花を従えておく。
3:どちらも裏切るような真似をしたら、或いは役立たないと判断した場合も殺す。アイスにそれは無いだろうがな。
4:アネハタは必ず殺す。三度目は無いと思え。
5:学園から逃げた連中への苛立ち。次に出会えば借りは返す。(特にスギモト、戦兎、ピカチュウ(善逸))。
6:元の身体はともかく、石仮面で人間はやめておきたい。
7:承太郎と会えば時を止められるだろうが、今向かうべきではない。
8:ジョースターの肉体を持つ参加者に警戒。東方仗助の肉体を持つ犬飼ミチルか?
9:エボルト、柊ナナに興味。
10:仮面ライダー…中々使えるな。
11:少女(しのぶ)は…次に会う事があったら話をすれば良いか。
12:もしこの場所でも天国に到達できるなら……。
[備考]
※参戦時期は承太郎との戦いでハイになる前。
※ザ・ワールドは出せますが時間停止は出来ません。
 ただし、スタンドの影響でジョナサンの『ザ・パッション』が使える か も。
※肉体、及び服装はディオ戦の時のジョナサンです。
※スタンドは他人にも可視可能で、スタンド以外の干渉も受けます。
※ジョナサンの肉体なので波紋は使えますが、肝心の呼吸法を理解していません。
 が、身体が覚えてるのでもしかしたら簡単なものぐらいならできるかもしれません。
※肉体の波長は近くなければ何処かにいる程度にしか認識できません。
※貨物船の能力を分身だと考えています。
※T2エターナルメモリに適合しました。変身後の姿はブルーフレアになります。
※主催者が世界と時間を自由に行き来出来ると考えています。
※杉元佐一の肉体が文字通り不死身のものである可能性を考えています。


940 : Lが呼ぶほうへ/愛が体を喰いちぎった ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:45:00 .XhQlctY0
【大崎甜花@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[身体]:大崎甘奈@アイドルマスターシャイニーカラーズ
[状態]:疲労(大)、胴体にダメージ(中)、DIOへの愛(大)、姉畑への恐怖と嫌悪感と怒り(大)、服や体にいくつかの切り傷、戦兎に対し複雑な気持ち
[装備]:戦極ドライバー+メロンロックシード+メロンエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、PK学園の女生徒用制服@斉木楠雄のΨ難
[道具]:基本支給品、甘奈の衣服と下着
[思考・状況]基本方針:DIOさんの為に頑張る
1:DIOさん大好き
2:あの人(姉畑支遁)……絶対に許さない…!
3:戦兎さん…DIOさんに酷いことしたのに……この気持ちは何で…?
4:ナナちゃんと燃堂さんも……酷いよ……。
5:なーちゃん達はDIOさんが助けてくれる……良かった……。
6:千雪さんと、真乃ちゃんまで……。
7:この女の子(ヴァニラ)……DIOさんとどういう関係なんだろう……。
8:貨物船さん……死んじゃった……。
[備考]
※自分のランダム支給品が仮面ライダーに変身するものだと知りました。
※参戦時期は後続の書き手にお任せします。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※ホレダンの花の花粉@ToLOVEるダークネスによりDIOへの激しい愛情を抱いています。
 どれくらい効果が継続するかは後続の書き手にお任せします。

【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:立神あおい@キラキラ☆プリキュアアラモード
[状態]:疲労(中)、全身に切り傷、額に鈍い痛み(徐々に引いている)、精神的動揺、DIOのカリスマへの僅かな疑問(無意識)キュアジェラートに変身中
[装備]:スイーツパクト&変身アニマルスイーツ(ライオンアイス)@キラキラ☆プリキュアアラモード
[道具]:基本支給品、回転式機関砲(ガトリングガン)@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-
[思考・状況]
基本方針:DIO様以外の参加者を殺す
1:放送を聞き、その後DIO様の指示を待つ。
2:参加者は見つけ次第殺す。但し、首輪を解除できる者については保留
3:DIO様の体を発見したらプリキュアの力を使い確保する
4:空条承太郎は確実に仕留める
5:この娘(甜歌)は、DIO様に従うのなら自分から言う事は無い
[備考]
※死亡後から参戦です。
※ギニューのプロフィールを把握しました。彼が主催者と繋がっている可能性を考えています。

※秋水@ONE PIECEはデビハムくんの死体に刺さったままです。アトラスアンクル@ペルソナ5も装備したままとなっています。
※デビハムくんのデイパック(基本支給品)、貨物船のデイパック(基本支給品、ワイングラス)、英和辞典@現実が落ちています。


941 : Lが呼ぶほうへ/愛が体を喰いちぎった ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:45:45 .XhQlctY0
◆◆◆


(ど、どうしましょう…!)

DIO達から逃げた姉畑はまたしても悩んでいた。
デビハムの迫力に恐怖しつい承諾してしまったが、よくよく考えればこの少女を連れて歩くのはマズい気がする。
少女は姉畑が猿と交わった光景を目の当たりにしている。
つまり目を覚ませば警戒と嫌悪を剥き出しにしてくるに違いない。
最悪の場合、危険人物と見なされ気絶して尚も握ったままの刀で斬り殺されるかもしれない。
この少女には申し訳ないが、気絶している内にどこか適当な場所へ置いて行く方が良いのではないか。

気を揉むのは少女に対してだけでない。
折角捕まえた猿を手放してしまった。
自分の穢れの証を消し去る為にも、何とかあの猿にもう一匹を呼び出して欲しい。
だが今から戻った所で待っているのは、DIO達に捕まり嬲り殺しにされる最悪の結末だけだ。

「あぁ…どうしてこんな事になってしまったんだ……」

自らの動物への愛がこうも厄介な事態を引き起こすとは。
さしもの姉畑も頭を抱え、だが今は生き延びるのが最優先だと走る速度を上げるのだった。


【E-2 街(DIO達から離れた場所)/昼】

【胡蝶しのぶ@鬼滅の刃】
[身体]:アリーナ@ドラゴンクエストIV
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、腕に銃創、右足爪先を喪失、精神的疲労、童磨の死に形容し難い感情、DIOへの強い不快感、寿命減少、身動きが取れない、気絶
[装備]:時雨@ONE PIECE
[道具]:基本支給品、鉄の爪@ドラゴンクエストIV、病院で集めた薬や包帯や消毒液
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止め、元の世界に帰る。
0:……
1:デビハムくんの無事を確かめないと…。
2:病院へ戻り、悲鳴嶼さんと合流。
3:DIOを強く警戒。二度と言葉を交わしたくない。
4:DIOの部下らしき少女(ヴァニラ)も警戒しておく。
4:無惨を要警戒。倒したいが、まず誰の体に入っているかを確かめる
5:上弦の弐が死んだ…私は…
6:デビハムくんの話はおそらく嘘だろう。大崎甜歌のあの様子は……
[備考]
※参戦時期は、無限城に落とされた直後。
※天使の悪魔の能力で寿命を奪われました。本人は気付いていません。

【姉畑支遁@ゴールデンカムイ】
[身体]:クリムヴェール@異種族レビュアーズ
[状態]:疲労(大)、未知の動物の存在への興奮、下半身露出、DIOへの恐怖(大)、必死、象のSMILE、しのぶを象の鼻で拘束中
[装備]:ドリルクラッシャー@仮面ライダービルド、逸れる指輪(ディフレクション・リング)@オーバーロード
[道具]:基本支給品×2(我妻善逸の分を含む)、青いポーション×1@オーバーロード、黄チュチュゼリー×2@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド
[思考・状況]
基本方針:色んな生き物と交わってみたい
1:DIOから逃げる。
2:この少女(しのぶ)をこのまま連れて行って大丈夫なのでしょうか……。
3:貨物船の生態(もう片方(スタンド)とダメージを共有している点)が興味深い、もっと知りたい、仲良くなりたい。ですが戻るのは危険過ぎますね…。
4:ピカチュウや巨大なトビウオと交わりたい。他の生き物も探してみる。
5:あの少女(杉元)は私の入れ墨を狙う人間なのでしょうか?
6:何故網走監獄がここに?
7:人殺しはやりたくないんですが…
[備考]
※網走監獄を脱獄後、谷垣源次郎一行と出会うよりも前から参戦です。
※ピカチュウのプロフィールを確認しました。
※象のSMILEとしての姿は、象の背中から上半身が生えている、足が象の牙にあたる鼻の付け根の横の部分から生えている、象の左右の鼻の穴がそれぞれ左が男性器・右が女性器になっています。

※どの方角に向かって逃げているかは後続の書き手にお任せします。


942 : ◆ytUSxp038U :2022/07/12(火) 18:46:23 .XhQlctY0
投下終了です。


943 : ◆5IjCIYVjCc :2022/07/12(火) 23:32:33 pKtgclLw0
投下します。


944 : 課金は無理のない範囲で ◆5IjCIYVjCc :2022/07/12(火) 23:36:23 pKtgclLw0
地下通路に入ってしばらく移動した後、志々雄真実はあるものを見つけることになる。


地下通路の中は殺風景で何もなく、志々雄もただ移動するだけなことがつまらないと感じて始めていた。
そんな折に、彼の視界に異物が入ってきた。

通路の壁の方に、何か妙な物体が設置されているのが遠目からでも見えた。
それは、志々雄にとっては見慣れない大きな"機械"だった。

一応、ようやく現れた変化であったため、志々雄はこの物体に近づいてこれが何なのか見てみようと思った。
そして、その機械のすぐ前に立ち止まってみると、そこから音声が流れた。


『とうとう見つかっちゃったみたいだね〜。うぷぷぷぷ』
『見事このモノモノマシーンを発見したオマエラの為に、ボクが説明してやるから耳の穴をかっぽじってよ〜く聞いておくんだよ?』

「……あん?」

こちらを舐めているようなふざけた口調で声を発する物体の前に志々雄は呆気にとられる。
だがやがて、放送の際に万事屋の中で見たもの(テレビ)と同じく、自分の知りえない技術で作られた物なのではないかということを考えつく。
それでも、口調の不愉快さから怪訝な表情は変わらない。
そんな様子の志々雄を無視して機械…モノモノマシーンは録音された通りに音声の流し続けた。



『それじゃあレッツチャレンジ〜。うぷぷぷぷぷ……』

志々雄は一応、黙ってマシーンから流れる話に最後まで耳を傾けた。
一々気に障る喋り方だったが、何となくこの機械の役割は理解できた。
ようは、この島における戦いを激化させるために、積極的に乗っている者である程戦力強化されやすくするために主催陣営が置いたのだろう。
首輪や誰かを殺したことが条件になっていることからそんな答えはすぐに出てくる。
この場が殺し合いである以上、それを早く進めるために、積極的な者達である程優遇したいという気持ちもあるのだろう。

何が出てくるかは実際に動かしてみるまでは分からないようになっているらしく、運の要素も大きく絡んでくるようだ。
また、これを破壊しようとすれば何らかの罰則があるようだ。
実際にそうすると言われたわけではないが、例えば首輪を爆破するだとか、そういったことが考えられる。


「……で、お前は何者だ?これまで放送してきた奴らとは違うみたいだが…」

試しに声をかけてみる。
ボンドルドや斉木空助とも違う声、第三の主催陣営の人物の存在が現れたのではないかと思った。

『とうとう見つかっちゃったみたいだね〜。うぷぷぷぷ』

だが質問には答えず、機械は先ほどと同じ説明を最初からやり直した。
けれどもその様子から、これがただ同じ内容の音声を繰り返すだけのものであることを何となく理解する。
しかし、この声を発している人物が誰であるのかはここで知ることは結局できない。




何にしても、この機械は発見して損のある物体ではないようだ。
地下通路を通らなければいけないところでこれを見つけられたのは、注意力を高めておいて良かったと言うべきが、運が良かったと言うべきか。
いや、運については良いとも悪いとも言えない状態だ。
何故なら、志々雄はこのモノモノマシーンを使うための条件を満たしていない。
放送を1度通過するまで生き残れている志々雄だが、彼自身はまだ誰の殺害も成功していない。
首輪の残った死体を見つけても無い。
今の志々雄にとって、このモノモノマシーンは役立たずだ。


945 : 課金は無理のない範囲で ◆5IjCIYVjCc :2022/07/12(火) 23:36:45 pKtgclLw0

(あいつ(銀時)の死体を探しに戻るか…?いや、まだ街の中にあるとも限らねえか)

自分が吹っ飛ばされて見失った後、おそらくそう長い時間が経たないうちに死んだと思われる男、坂田銀時の死体を探しに戻ろうかと一瞬思いつく。
だが、それはあまりいい手ではないとすぐに判断する。
銀時が死んだ場所は先ほどまでいた街の中では無いとしても、そこからそう遠いところでも無いだろう。
だが、殺した奴が死体をその場でほったらかしするとは限らない。
首輪を解除しようと考え、首輪の解析のため、死体の首を切断し首輪だけを持ち去ることも考えられる。
そんな状態になっていれば、死体を見つけても徒労に終わる。
例え首輪が外されてなくとも、もし殺し合いに対し甘い認識を持つ連中が見つければ、埋葬をしようと思いどこかに死体を隠している可能性も考えられる。
何にせよ、銀時の死亡場所を正確に知らない志々雄には彼の死体を探しに戻るうまみは全く無い。


今回の結論としては、志々雄はこのモノモノマシーンについては機能と地下通路の途中にあることを覚えておくにとどめた。
結局自分以外の参加者の現在位置を把握していない以上、地下通路を戻るにせよ進むにせよ、誰かに会える可能性は五分五分だ。
とりあえず今は進むこととし、もし誰かを殺せたり、首輪を入手することができならば、余裕があればここに戻ってこれを試してみればいいだろう。
ただ、首輪に関してはいずれ外したいと考えているため、外すための解析・実験用に一つ予備は残しておきたいとも思うが。


志々雄は自分の現在位置の把握は正確にはできていない。
けれども、方位磁石から自分の進んでいる方角は分かっている。
そこからある程度は推測できる。
西南西の方…いや、それより少しだけ西寄りのようである。
入口からその方向の先にあるものと、これまで歩いた距離から考えて、この地下通路は海の中かもしくは海底の下も通っているのだろう。

おそらく、今の位置は地図上における【G-6】もしくは【G-5】辺りを通っていると思われる。
それも、先の放送で禁止エリアにされた【F-5】の南側にすぐ近いかもしれない。
もっとも、幅の限られた地下通路にいる分は禁止エリアに近いことに対しそこまで心配する必要はないだろうが。



志々雄はモノモノマシーンの前を通り過ぎて地下通路の先を急ぐ。
もしこの場所に戻ることがあるとしても、かなり時間が経ってからのことになるだろう。

トンネルの中の道はまだまだ続く。
最奥が見える様子はまだない。
この通路はどれだけ長いのか、一体いつまで歩けばいいんだと、そんな苛立ちも湧いてくる。
壁際にポツンと設置されていた機械の存在に気付いた時は、多少は退屈な気分を紛らわせられるかとも思った。
しかし結果的に、それは何の役にも立たず、説明の音声がこちらを煽っているような口調だっため、ストレスはむしろ増えた。
別に八つ当たりしようと思うほど短慮ではないが、攻撃して壊すこともできないため、手を出せないことには変わりない。

けれども、志々雄はこの道を進み続けるしかできることはない。
いい加減、自分の殺し合いに何か新しく大きな動きが欲しいと思いながら、彼は地下通路の先を歩き続けた。



そんな彼の目指す先、地下通路のもう一つの出入り口は、実は今は普通の状態では無い。

もう一つの地上に出るための階段が中にある建物は、志々雄の入ってきた街とは対照的に、深い森の中に存在していた。
島全体から見て、南西の辺りにある森の中だ。
細かく言えば、地図上における【G-3】エリアの森に建っていた。
そう、深夜の頃に起きた戦いの余波で火事の起きた森の中だ。


地下と地上を繋ぐ出入口の役割を果たすその建物にもまた、火が燃え移っている。
と言うより、全焼して、既に倒壊している模様。
階段も、燃えた建物の残骸に埋もれている状態だ。
普通の人間だったら、せめて火災だけでも消えてくれないと、通り抜けることはかなり難しい状態だ。

けれども、今の志々雄の肉体は人間よりも遥かに優れた生物、柱の男のものだ。
それも、高熱の血液が身体を流れている"炎のエシディシ"のものだ。
何か新たなる事態が起きない限りは、彼がこの炎の出口を抜けることへの心配は少ないかもしれない。
もっとも、本人がこの惨状を見てどう思い何を感じるかは別の話になるだろうが。


946 : 課金は無理のない範囲で ◆5IjCIYVjCc :2022/07/12(火) 23:37:24 pKtgclLw0

【G-5 地下通路/昼】

【志々雄真実@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-】
[身体]:エシディシ@ジョジョの奇妙な冒険
[状態]:疲労(小)、諸々のストレス
[装備]:エンジンブレード+ヒートメモリ@仮面ライダーW、アルフォンスの鎧@鋼の錬金術師
[道具]:基本支給品、炎刀「銃」@刀語
[思考・状況]基本方針:弱肉強食の摂理に従い、参加者も主催者も皆殺し
1:参加者を探して殺す
2:首輪を外せそうな奴は生かしておく
3:戦った連中(承太郎、魔王)を積極的に探す気は無い。生きてりゃその内会えんだろ
4:とりあえず地下通路を進んでみる
5:未知の技術や異能に強い興味
6:日中の移動には鎧を着る。窮屈だがな
7:誰か殺せたり、首輪を手に入れる機会があれば"ものものましーん"のあるこの場所に戻ってくることも一応考えておこう
8:だが、自分の首輪を外すためには、残しておくための首輪の予備も必要になるか?
[備考]
※参戦時期は地獄で方治と再会した後。


[地下通路についての備考]
地下通路のもう一つの出入り口は【G-3】の森の中にあるとします。
こちらの方も誰かがたどり着かなければ地図上に記載されないものとします。


947 : ◆5IjCIYVjCc :2022/07/12(火) 23:41:19 pKtgclLw0
投下終了です。

また、ついでになりますが、現在構想・検討中のことで報告したいことがあります。
モノモノマシーンについてですが、第二回放送が行われる際に、残りの数と場所を全て決めておくことを構想中であります。
このことについて何か質問や意見等があれば議論スレの方にお願い致します。


948 : ◆EPyDv9DKJs :2022/07/16(土) 10:23:14 0Hqrn2Kg0
拙作「エタニティ・デザイア」の修正版を投下します


949 : ◆EPyDv9DKJs :2022/07/16(土) 10:23:53 0Hqrn2Kg0
「ふこっ。」

 溜息の一つも吐きたくなるものだ、と無惨は先程も思った。
 今しがた本当にそれで溜息を吐いたが、他者からそれは認識されない形容しがたい声になる。
 あれからキャメロット達はB-5、B-6、C-6と移動したものの、誰とも出会うことは叶わなかった。
 近くの参加者は大体C-5か、そこから離れるように移動していたのもあったので仕方ないのだが。

(契約とやらも殆ど徒労に終わり、なんとも無駄な時間を過ごしたものだ。私の時間を無駄にするな。)

 キャメロットと遠坂による、
 サーヴァントとマスターの契約についての経緯の結果。
 契約そのものはできた。しんのすけは過去に魔法を使った経験もあるため、
 少なくとも魔術師としての素質云々だけで言えば、ある側になるだろうか。
 魔術回路は少なからず存在してはいるようではある一方、あくまで存在してるだけ。
 先代から魔術刻印を受け継いだわけでもなく、そもしんのすけの家は一般家庭だ。
 ……確かに世界を救うようなことがあったりとか巨悪の組織を倒したとか、
 明らかに一般家庭を超えた要素は多量にあるが、一先ず一般家庭としておく。
 遠坂の本来の身体とは比べるべくもなく天と地ほどの差の魔力が存在する。
 契約はできたものの、結局根本的なステータスの低下はほぼ解決はしない。
 聖杯戦争の正式なシステムによる契約でもなく、聖杯にそうさせないようにしているのか、
 聖杯から令呪を授かるようなこともなかったので魔力供給は相変わらず乏しいものだ。
 魔力消費についてはセイバーのスキル『竜の炉心』もあるため、
 何度も先の相手(ダグバ)レベルと接敵しなければ吸いつくすこともないのが救いか。
 正直ダメ元で行ったことではあったので、さして落ち込むこともなかった。

 長々と語ったがつまり、殆ど状況は進展していない。
 遠坂とキャメロットは契約して移動した。しかし何も起こらなかった。
 この一文で終わってしまう程度に、彼女達は何の成果も得られてない。

(施設の一つとも見つかればよかったのに一つも出会わないし、何なのよもう。)

 森の中に建物一つあるかと思えば見つけられることもなく。
 殺し合いが始まり一体何時間経ったのだろうか。確認するのも億劫だ。
 時間を費やしても結果を得られないまま、無作為に時間だけが過ぎていく。
 これ以上の無駄な浪費は避ける手段を考えたいところであり、

「二人ともストップ!」

 遠坂の静止により二人は歩みを止める。
 止められたが二人も意味はなんとなく察していた。
 大雑把とは言え複数のエリアを探せど施設もなければ参加者もなし。
 これ以上の探索が無駄だと打ち切るのは当然の考えだ。

「一旦、C-5に向かうという概念そのものを捨てるけどいい?
 今の状態を続けたって、状況が改善される見込みはないと思ってるの。」

 戦力が増えてない今、突入するのは最初の時とほぼほぼ変わることはない。
 寧ろ既に行ったか、行かないという選択肢を終えてしまってるのは目に見えてる。
 固執するのは、キャメロットのように倒さなければならない敵がいるという人物のみだ。
 元よりバリーは無駄な時間だと思っていたので、事実上キャメロットの意見だけを聞く場になるも、
 彼女とて無意味に時間が過ぎていく現状を考えれば、受け入れることは十分にできた。

「分かりました。ではどちらへ?」

「喫茶店ルブランが近いと思うし、そのあたりを見に行くわよ。」

 ルートを確定させ、一先ず南へと向かう。
 キャメロットは西の方角を少しだけ一瞥するも、
 ルートを変えての行動をとることをせず素直に従う。
 バリーの件もある。考えなしに動くことはしない……と言うよりはできないが正しいか。





 D-6は煉獄と絵美里との戦いを筆頭に何度も戦いがあった。
 ルブランの攻撃の流れ弾もあって、相応に荒れているのが現状だ。
 喫茶店も拠点としての機能はあまり役に立ちそうにもない状態にあり、
 地図上に名前が載ればどうなるか、それを視覚的に教えてくれてるかのようでもあった。

(一人や二人どころじゃないわね、この様子。)


950 : ◆EPyDv9DKJs :2022/07/16(土) 10:24:26 0Hqrn2Kg0
 ガラスの破片がかなりバラバラで、単なる破壊以外も混ざっている。
 人が踏み荒らしたものであることから、此処は結構な人が関わっていた様子。
 人数が多いのなら今更物色する意味も薄く、探索することを選ぶことはしなかった。
 今更疑うつもりもないことではあるが、地図上の場所とは一致している。
 となれば遠くない場所に食酒亭もあるので、一先ず次の場所へと目指す。

「!」

 微かに聞こえた音に全員が反応する。
 空に輝く緑の風と雷雲。通常の現象では起こり得ぬ現象。
 言うまでもなく、全員は其方へ向かうことを優先として走り出す。
 ある意味因果となる敵、ダグバまではそう遠くない距離ではあったが、
 近くの路地からキャメロットが捉えた人の姿に歩みを止めざるを得なかった。
 死に物狂いで逃げている、とでも言わんばかりの表情をした状態でだ。
 この状況で逃げている。となればどういう人物かは最早推理するまでもない。

「キャメロット?」

「凜さん、別の参加者がいたのですが。」

「……ええ、そっちでいいわ。」

 この先にも敵がいないという保証はない。
 逃げている様子から乗ってない可能性は十分にある。
 貴重な対話が望める参加者であり、一人であるなら放っておけない。
 遠坂の了承も得たので、直ぐに其方へと方角を変えて走り出す。





 ゲンガーは最後の気力で、死に物狂いで動いていた。
 流石に十数時間も人間の身体になるともなれば相応に動かせる。
 人並みの走る行為をすること自体はそう難しくはなくなっていた。
 とは言え、あくまで肉体的な話だ。精神は最早ボロボロである。
 あの場にいれば、そのままあの悪魔の少女によって死ねただろう。
 でもできない。木曾も、ロビン達も、ハルトマンもなんのために死んだ。
 彼自身にとっては死なせてしまったとも言うべき無数の死者たちではあるが、
 彼女達にとっては誰かを、或いは自分を死なせないために死力を尽くしてくれた。
 ハルトマンだって空へ飛んだのは、単純に有利な場面に持ち込んだだけではない。
 自分が死ぬかもしれないと思ったが末の行動であったことは、短い時間で察せた。
 本来ならばしんのすけとミチル、それとエルドルを待ちたかったものの、
 この状況で待てる余裕など、今の状況を考えればどこにもなかった。
 だから生きないといけない。災厄を齎す死神であろうとも。

(ケケッ……アブソルかよ。)

 ただ、それも限界を迎えつつあるが。
 随分前。元の世界……否、厳密にはゲンガーの頃の記憶だ。
 あの救助隊が逃亡生活の末に広場に戻ってきた際に、同行していたあのポケモン。
 アブソル。出会えば災害や災厄が訪れるとされる、災いポケモンと呼ばれる存在。
 あの救助隊のアブソルは、道中助けに入った仲間であり寧ろ彼らの助けをしてたそうだ。
 当たり前だ。アブソルは災害を察知して知らせる能力があるだけで災害は呼ばない。
 ただ災害を知らせようとした結果アブソルがいたことで、誤解されたことでそう呼ばれた。
 だが、今の自分は誤解される方のアブソルだ。出会った仲間に対して悉く死を齎していく。
 自分はあのアブソルのようになれない。どうあがいたって他者に糾弾されて然るべき死神。
 偶然か、或いは救いを求めたからか。風都タワーの方角へと向かうように彼は走っていた。
 正直なところ誰かに会いたいとは思わない。会えばその相手は死んでいく。
 敵は死なず、善良な味方だけが。自分は大して傷を負うことがないままに。
 向こうでもそうなってるのでは。神楽や康一もそうなっているのでは。
 追い詰めに追い詰められた精神は既に彼一個人の限界を優に超えている。
 動いているのは最初に言ったとおり、最後の気力で動いてるようなものだ。

「大丈夫ですか!?」

 でも出会ってしまう。新たな参加者と言う名の犠牲者に。
 背後から声をかけられた。声色、足音の数、言葉の内容。
 全てが『味方』に足りうる存在であることを証明してくる。

「それ以上寄るんじゃねえ!」

 だから、逆のことを選ぼうとした。
 八命切・轟天を振るって四人に近づかせない。
 刃物を握る姿は今の身体だからか、微妙に様になってしまう。

「お、敵か?」

「待ってくださいバリーさん。彼に戦意はありません。」

 臨戦態勢に入ろうとしたバリーをすぐに静止する。
 襲い掛かってくるのではなく、単なる迎撃に近い振るい方。
 相手を必要以上に近づかせないが、傷つける覇気が全くない。
 疲れ切った表情も相まって、錯乱しかけてるだけだとすぐに察せる。

「私はキャメロット。この戦いに対しては否定的な者になります。」

「ケケッ……見りゃわかるさ。だったら猶更ほっといてくれ。」


951 : ◆EPyDv9DKJs :2022/07/16(土) 10:25:15 0Hqrn2Kg0
「個人で戦える力がある、と言うことでしょうか。」

 言われると納得はできる。
 手に軽い負傷以外まともな外傷はない。
 やりすごしたり戦う術があることは十分に伺えた。
 自分一人でも生きられる、などと勘違いをしたが早々に否定される。

「関わった奴が死ぬって意味だ。逆だ逆。」

「自棄になってるタイプね。こういうのには覚えがあるわ。」

 少しばかり溜息が出る遠坂。
 この手の状態は面倒な相手になりやすい。
 プライドが高いのでわかりやすい慎二ならともかく、
 初対面の相手では他愛ない一言で余計に傷つけるものだ。
 お人好しでも相手するのは少々難儀な相手である。

「その身体、ひょっとしてしんのすけって奴のか?」

「そうだけど……知ってるってことはアンタ、精神の方の居場所知ってるの!?」

 ミチルたちがラーの鏡を使っていた都合、
 しんのすけの本来の姿を見ていたのですぐに気付けた。
 肉体と精神、両方に面識がある唯一の参加者であるならば、
 此処でその情報を逃すわけにはいかず、遠坂は食いつく。

「ケケッ……やめときな。こっちは俺の前でもう四人も死んでるんだ。
 ついでにしんのすけは今はいねえし、俺に関わるとろくなことにならねえさ。」

 どうしたものかとしかめっ面になる。
 逃したくないがメンタルケアとかしなければならない。
 焦りから余計な一言を言いそうだしと言い淀んでしまう。
 決裂したと感じたゲンガーはそのまま離れるように歩き出す。

「関わった人が命を落とした、と言うのであれば私も同じです。」

 どうしたものかと悩んでいると、
 意外にもこの話に進んで出たのはキャメロットだった。
 彼女も元々は建築物の城。即ち、数多くの人の死を見届けてきたことになる。
 関わった人間に等しく滅びを与えるのであれば、それは似たようなものであると。
 モードレッドもアーサー王も、カムランの戦いでの傷によって命を散らした。
 国を統べる器を持つ王は、一人として残ることはないままに聖騎士の物語は幕を閉じる。
 (厳密に言えばアーサー王は物語によっては生きながらえるが、どの道ブリテンは滅びるので割愛)
 世間的、厳密に言えばキャメロットの世界におけるアーサー王伝説とは、物語である以上はフィクション。
 遠坂の世界におけるアーサー王伝説とは違って現実にて死んだ人間は存在しない、架空の物語。
 しかし彼女は今でも昨日のように思い出せる。数々の円卓の騎士が散っていったことを。
 無念の騎士も多かっただろう。他者の為の行動が全て裏目に出る呪いを受けたベイリンのように。
 城である以上、彼女ができたことはただ見届けるだけであり同じとは言えないものの、
 少なからず彼の思う気持ちを汲み取れるという点においては、一番近しい立場だ。

「何百、何千、何万……いえ、それ以上の人の命と私は関わりました。
 数を競いたいのではありません。ただひとえに、貴方の気持ちはよく伝わります。
 自棄になる気持ちも理解できます。ですが、それ故に此処で別れることを善しとしません。」

「一体、何しでかしたんだよ。」

「見届けただけです。名のある騎士が散ろうとも、
 我が王が自分の息子を槍で貫かれようとも、ただずっと。
 もっとも、全てを目の前で見続けてきたわけではありませんけどね。」

「ケケッ……そう言われちまったら、断れねえじゃねえか。」

 万単位ですら足りないという、戦争でもなければそうは出てこない数字。
 何があったかを察せられないが、それだけの死を前にしても彼女は戦うことを選んだ。
 彼女のようになるつもりはないし、彼女のような不屈の心はなろうと思ってなれるものでもないだろう。
 ただ、此処で拒絶することも後ろ髪を引かれるので、会話の為少し西の方角へ進んでから建物の中に入る。
 (食酒亭では近くにダグバがいる可能性もあったので、最初から選択肢から除外されている)


952 : ◆EPyDv9DKJs :2022/07/16(土) 10:25:37 0Hqrn2Kg0
 D-5に近い場所に、都会の風景には余り似合わない中世時代の一軒家が目につき足を運ぶ。
 内装も全体的に遠坂の基準となる2004年の時代から見たとしてもかなり古い時代のものだ。
 遠坂にとってはこの景観を無視した建物も地図に載る類の奴なのだろうことを察しており、
 地図を確認してみれば、事実先ほどまでなかったはずが新たな名前が浮かび上がっている。
 此処が『エレン・イェーガーの家』と呼ばれる施設であることは間違いないようだ。
 こんなにあっさり見つかっては、今までの時間は何だったのかとすら嘆きたくもなる。
 イェーガーの名前を持った参加者はいないが、ゲンガーが出会った康一の身体が関係者に当たる。
 遠坂の『施設の関係者にしかわからない何か』がこの家にもあるかもしれない可能性はあるも、
 今は一先ず他の情報を得て、それを整理するのを優先とすることとして三人は席につきながら、
 遠坂は身体の都合顔が机を越えられないので、椅子だけ持って近くの牧入れの箱に産屋敷(無惨)を置いて、
 其方に対応しつつの形での会談になる。

「な〜〜〜み〜〜〜。」

「意思疎通するのも大変ね……お腹が空いてる? あってたら右手を挙げて。」

 意志疎通の取り方に難儀する遠坂を余所に、キャメロット達は情報交換を続ける。
 四人にとって、ほぼほぼ得られなかった情報をこれでもかと言う程に得られていた。
 一方で芳しくない状況でもあることは、ゲンガーの語り方からすぐに察せられる。

「まさか、此方に移動していたとは……」

 白い射手、彼等は仮面ライダーと呼ぶらしいその存在。
 既に村を抜けていて、先程の戦いの光景は彼(彼女?)が関わっていたものだと。
 キャメロットにとって二人目の敵であり、邪悪を体現したかのような不気味な人物。
 自分の行く先々で事を起こしていく。自分の選択によって誰かの命が奪われる。
 やはりあの時行くべきだったのかと、少しやるせない気分になってしまう。
 所詮そんなのはたらればであるので口にするつもりはないし、
 ダグバは新たな仮面ライダーの力を使うこともできている。
 もしその状態で挑んでくれば、キャメロットとて無事では済まず、
 全滅すらあり得ていたことは想像するに難くなかった。
 今はその情報が知れただけでも幸運であるのだと。

「なんかすごくゲテモノ感が凄いけど、まさかこれを食べる……」

「み〜〜〜。」

「なわけないか。此処においとくわよ。」

「と言うか本当にトナカイの獣人なんだな。
 オドシシからヒメグマみてーなそれになってビビったぞ。」

「最初はキメラの類かと俺も思っちまったな。」

 ロビンが言ってたチョッパーは無事であることは分かった。
 せめてそれができただけでもただ逃げるしかなかった自分にできている、
 数少ない贖罪なのだと心の中で静かに思う。
 少なくとも友好的な相手だし、戦うこともなさそうだ。

「にしても、私達がどれだけ遅れてるか分かるわね。」

 溜息を吐きながら無惨のデイバックを漁りつつメモをしていく遠坂。
 ゲンガーが関わった人や、また聞きで得た人の情報は四人の二倍以上。
 全くと言っていい程得られなかった分の反動すら感じさせられる。
 シロが亡くなっていることについては少し残念ではあるものの、
 殺し合いに懐疑的な人物が多く集ってた相手に繋がれただけでも大きい。

「んで、しんのすけって奴は地下に降りたのか?」

「ああ。なんでも鬼がいたらしくてな。」

「鬼、ですか?」

 城娘は兜と戦うことが基本ではあるものの、
 時として九尾を筆頭とした妖怪と戦うこともあるらしい。
 無論鬼も存在している。出自の都合でまた聞きになるが。

「この小さい玉? え、違う?」

「鬼と言っても、悪くなかった奴みてえだけどな。
 シロを鬼にしたことを悔やんでいたとかなんとか。
 名前は……あれ? 名乗ってたか? 確かミチルもしんのすけも……」

 聞いたか聞いてないか、少し思い出すのに時間がかかる。
 遠坂程頭の回転がいいわけではない以上多くの情報があっては、
 必要な情報をすぐに取り出せず時間を食う。

「となると、困りましたね。」

 相手は暴走してるだけに過ぎない。
 しかも地下と言う相手の方が圧倒的に有利な場所だ。
 かといって待てば夜にはホームフィールドが出来上がる。
 彼もまた助ける民。できることなら殺すことは避けたい。
 どう動くべきか悩んでいると、その答えはすぐに出された。










 派手な音と共に。

「───」


953 : ◆EPyDv9DKJs :2022/07/16(土) 10:26:31 0Hqrn2Kg0
 音はすぐそこだった。
 キャメロットが振り向けば元凶はそこにある。
 アルトリアの身長を上回り、チョッパーの脚力強化に分類されるような、
 猛獣が如き姿をした生物と、木製の玄関扉に叩きつけられ、荷物を散らばす遠坂の姿が。
 突然の状況にバリーとゲンガーには理解が追いつかなかった。
 何処から現れたのか、この猛獣は。





 その言葉を聞いた瞬間、私は行動を即座に選んだ。
 シロと言う犬が鬼にされ、鬼にしたことを悔いた男が自決を選ぶだと?
 あの異常者共ならば自分から首を切り落として自決を図るところをしなかった。
 故に直ぐに察した。それは紛れもなく私の身体であり、中にいる精神が何者かも。
 予想はしていた。やはり貴様が私の身体を持っているというのか、産屋敷耀哉。
 完璧に近い生物を誰の許しを得て使っている? ボンドルドは奴にも嫌がらせを、
 と言う意味合いで私の身体にしたのだろうが、私の方にはさらに屈辱でしかない。
 あの男が私の身体だと? 吐き気がする。とにかく奴は神経を逆なでしたいようだ。
 しかも勝手に鬼を増やすなど、産屋敷も同じように私の癇に障ることばかりをしてくれる。
 鬼なんぞ増やしたくもないというのに。

 しかし、同時に奴はどういうわけか鬼を増やしていると言うではないか。
 アルフォンスが衝動を考慮したところを見るに、奴も身体の衝動に汚染されてるらしい。
 当たり前だ。いくつ心臓や脳があると思っている。私以外にその身体が扱えるはずがないだろう。
 なのですぐに自決を図るとは思えぬ一方、万が一正気に戻り自決を図られたら手遅れになりかねん。
 悪魔の実を小娘に置かせたのは万が一に備えてだ。アルフォンスと小娘共が出会ったときは無理だったが、
 こうして私を人間と同じ扱いをするというふざけた行為のお陰ですぐに食えるように準備ができた。
 ついでに言えば奴が何処で私の名前を、或いは自分の名前を言ったかなど判断がつかぬ。
 いつ奴の名前がでるか分からぬ今こそ、動く時だ。身動きが満足に取れぬ私が疑われてしまえば、
 支給品であるネコネコの実を没収されて私はただ死ぬだけになる。それだけは回避しなければならない。
 遠坂を真っ先に選んだのは位置が近かったとも言えるが、キャメロットは少しばかりとは言え警戒していた。
 アルフォンスと別れてから、私を見る目が少しおかしかった。奴が吹き込むようなことを言った覚えはないので、
 恐らくは個人で判断してるのだろう。とは言え私の姿から軽い疑念程度の物だろうか。
 どちらにせよ奴の周りにいる連中よりも、優先的に遠坂を狙うこととした。
 産屋敷程ではないにせよ私を憐れんだ瞳で見るこの小娘も許し難い存在だ。
 そのような目で見るな、私は貴様に憐れんだ視線を向けられるような存在ではない。

 この時点における無惨の考えは杞憂なことだ。
 彼が関わった参加者で産屋敷が名乗ったのはシロだけであり、
 当のシロも誰にもその名前を口にしてないので何も問題はなかった。
 ゲンガーは何も知らない。単なる杞憂の問題でしかない。とは言え、
 今まさに産屋敷はこの街の地下において正気を取り戻してミチルと邂逅している。
 そのことから、総合的に見ればこの判断は妥当とも言えるものだろうか。
 少なくとも現時点においては、だが。

 ネコネコの実を食べたことで、
 ついに無惨は運よくだがまともに動く動物の身体を手にした。
 本来ならば変身に慣れないと動物の身体は維持できないが、
 本来数々の姿を持つ無惨であることと、元よりミーティが変態した存在だからか。
 或いはゾオン系における『己の解釈で姿を変えれる』と言う部分が起きて、
 無惨が『逃げたい』と言う考えに合わせた結果この姿をイメージしたからか。
 差だけではないが運よく豹(レオパルド)の姿に近しいフォルムになれた。
 ただ、ミーティの身体は足がまともに機能してなかったのかどうかは不明として、
 後ろ足の辺りはミーティの足に近しい、いびつさのある足の面影があるのは否めないが。
 パワーもネコネコの実はゾオン系は自らの身体能力を鍛えれば強化されるところにあり、
 元々この力を使っていたロブ・ルッチは武術『六式』を素で持っており、
 此処に悪魔の実の力を使って更なる強化をするという本体の訓練の賜物でもある。
 一方で無惨はミーティと言う満足に動くこともできない成れ果ての姿から、
 ようやく動けた身体。いくらゾオン系が食うだけで身体能力に恩恵があると言えども、
 本来使用したルッチとは比べることすらできない程に貧弱な状態であり、
 豹が武器とするものではない頭突きとは言え、扉を破ることも満足にできない。


954 : ◆EPyDv9DKJs :2022/07/16(土) 10:26:52 0Hqrn2Kg0
 無惨の今後を考えれば悪手でしかないだろう。
 この先ずっと追われ続ける可能性だってある。
 でもどうにもならない。勝手に自分の身体を使われ、
 あまつさえ産屋敷が持っているなど絶対に許したくないがゆえに。

 ゲンガーとバリーはこの状況に対応することはできなかった。
 場所が近すぎたのと、産屋敷(無惨)がどういう奴かを考えてすらいなかったから。
 動けたのはアルフォンスから少しだけ警戒しておくようにと言われたキャメロットただ一人。
 経緯はともかく、あれが彼(彼女?)であることは場所と状況から見ても明白なことだ。
 飛び出た支給品が落ちる前に席を立ちながら、はぐれメタルの剣を抜いて無惨へと斬りかかる。
 敏捷に優れたサーヴァントの身体ではあったものの、動物との戦いは不慣れだ。
 夢の世界に来るのは基本的に人である以上、小柄な相手との戦いは不得手だと。
 姿勢を更に低くしたことで壁に切れ込みを作るだけに終わり、その一瞬のスキを突いて、
 遠坂が置いた無惨の支給品の水色の玉へと手(この場合は足だろうか)を伸ばす。

「! キャメロット! それを破壊───」

 ゲンガーだけがその玉の意味を理解した。
 どれかは分からない。でもあれは絶対にろくなことにならない。
 だから叫ぶも、最後まで言葉を紡ぐことはできなかった。

 遠坂も、バリーも、ゲンガーも、キャメロットも。
 無惨以外が全員揃ってその場から消えてしまったから。
 救助隊活動をしていた都合、彼も見たことのある玉の類。
 無惨が使ったのは『ワープだま』だ。敵と認識した相手を全員ランダムにワープさせる。
 飛ぶ先は同じエリアと言う制約は科せられているので遠からず此処に戻ってくるだろう。
 しかしその場からは一応全員消えた。無惨にとってこれが逃亡のための準備の唯一のチャンス。
 ネコネコの実を食べるという綱渡りを超えた後は、ワープだまで時間が稼げるかどうかという綱渡りと、
 安全を第一とする彼にとっては何度も不安要素ばかりを押し付けられる状況に加え、
 人の姿になれない都合口や慣れない四足で出した道具をなんとかしなければならない。
 畜生のような行動をする必要もあり、より一層ボンドルドに怒りが沸いてくる。

(獣人にはなれぬが、そこは致し方あるまい。)

 逃げられる身体であるだけまだましな方だ。
 早急に残った支給品も利用して、逃げの準備を図るだけである。

(む。)

 遠坂が頭突きで飛ばされた際に散らばった支給品。
 ダグバとの戦いですぐに使えるように忍ばせてた結果、
 衝撃でポケットから落としてしまったそれが転がっている。
 遠坂の最後にして彼女が唯一使えた武器。大事に握りしめてたせいか、
 汗で説明書が石に引っ付いていた状態でそこにあり、それを手にする。
 人間の時のように掴むことは叶わないが、なんとか紙を広げる。

(ほう。)

 逃げにせよ殺すにせよ使えそうな支給品であるようだ。
 とは言え咄嗟に使えるようにするには、少々工夫が必要だったが。





(やばいやばいやばい!!)

 八命切を手に、霊体のゲンガーはビル街を走る。
 やはりと言うべきか、走る速度は此方の方が早い。
 状況が一番飲み込めてるゲンガーは今非常に焦っていた。
 これがワープだまによって引き起こされたことは理解できる。
 だからこそまずい。これは完全にランダムでワープするからだ。
 一人の自分や遠坂が狙われたら瞬殺されてしまうことが目に見えている。
 幸い、自分はルブランに飛んだことが幸いし勝手が分かる場所であり、
 直ぐに上の階へ移動してから幽体離脱でそのまま走っていた。
 (とは言え万が一のために月に触れるは本体の方に置いてきたが)
 相手の行動から、恐らく各個撃破の皆殺しか逃走のどちらかが目的になるはず。
 本体のまま表を走るのと、身を隠して本体と遭遇する危険を天秤にかければ、
 どちらかと言えばこっちの方が戦える二人は負担が軽減されるし合理的だ。
 何より、遠坂は負傷している状態。真っ先に優先するべきだ。

「おーい! 皆何処にいるー!」

 唯一大声を出しても狙われて死ぬというデメリットがない。
 その為一切の遠慮なしに周囲にその声をほぼ人がいない街に響かせる。

(いた! 遠坂だ!)

 車道の中心で遠坂が倒れている。
 頭を強打してたからか、気絶していて意識がない。
 幸い命に別状はなさそうなのが数少ない救いか。

「お、おい大丈夫───」

「▂▂▅▆▆▆▇▇▇▇▇▇▇▇ッ!!」


955 : ◆EPyDv9DKJs :2022/07/16(土) 10:27:07 0Hqrn2Kg0
「ウオオオオオッ!?」

 様子を確認していると、獣のようなうなり声と共に、
 無惨が背後の路地から姿を現して突進を仕掛けてくる。
 ヘルガーが如き獰猛さで迫る相手に思わず刀でガードを優先してしまう。
 無論レンタロウの力なんぞ高が知れている。今の無惨でもどうとでもなる。
 しかも霊体であるため気にしなくてもいい。とは言え遠坂のガードには繋げられたか。
 体当たりで狙われた柄を強打されて武器を手放してしまう。

(実体がない?)

 血鬼術のような類か。
 理解はしたが所詮はその程度の認識だ。
 今やゲンガーも遠坂も大して興味などない。
 と言うのも、

「おら見つけたぜぇ!」

 彼は今バリーに追われていたから。
 武器も何もない今、バリーの行為の意味を問われるが、
 勝手に人の殺しの相手を減らすような行為はされたくない、
 そんな身勝手な理由で彼を逃がさないようにしておくためだ。
 武器を回収しながらゲンガーも追うが、所詮人間レベルでしかない。
 追いつくなど土台無理な話だ。

 そのままアスファルトの大地となる車道を駆け抜ける。
 豹は本来自動車に近しい速度を叩きだすことができるが、
 無惨の後ろ脚の不完全さとその形態の不慣れが原因だろう、
 まるで街にの速度制限に合わせるかのように、安全運転を心がけてる速度だ。
 バリーも追走するが、仮にも戦闘の負傷も癒えず長時間遠坂たちを乗せていた。
 そのツケが回ってきたことで、走れても距離を縮められるものではない。

「ハァッ!」

 無惨の通った脇道からキャメロットが飛び出しての斬撃。
 豹特有の跳躍のお陰で、辛うじて避けることには成功する。

(口になにか咥えている?)

 一瞬だけ見えたが、相手は牙で何かを咥えていた。
 武器にもなりそうな牙の強みを捨ててでも、大事なものであるらしい。
 奪取、ないし破壊しておくべきものだと理解しつつ追走する。
 逃げるのが鬼と言うのは、なんともおかしな話だが二人の鬼ごっこが始まる。
 速度が落ちてると言えども常人の走るよりもずっと早い豹ではあるものの、
 僅かながらサーヴァントゆえにキャメロットの方が上回っている。

(やはり身体が慣れぬか。ボンドルドめ……忌々しい。)

 もう少し慣れれば振り切ることも、もしかしたらできただろう。
 少なくとも現状の単なる逃げでは追いつかれるのは時間の問題だ。

(今使うしかない、か。)

 支給品の一つは優秀だが回数制限があるのと、条件も厳しく成立するか怪しい。
 必ず当てられる場面を狙いたかったが、またも綱渡りを狙わなければならないのか。
 三度目の綱渡りにいい加減うんざりしかけながら口に咥えていた赤い石を空へ投げ飛ばす。
 一応、相手がそういうことをするだろうという想定ではあるので少なからず勝算はある。

 赤い石に一瞬アルフォンスから言われた賢者の石を警戒したが違う。
 輝きを放つとともに、コンクリートの大地を揺らす衝撃が周囲を走る。
 元凶は何か分かっていた。アルトリアたちの視線の先、無惨との間にあるから。
 コンクリートの大地に立つのは───まさかの、巨大な灰茶色の土偶だった。
 地面を砕き、その外見通りの質量を物語っているものの土偶というシュールさ。
 この状況で相手が使ってきた以上、打開してくるものだと、
 キャメロットは警戒を緩めることはなく距離を取る。
 勿論その考えは事実であるが、その行動は予想の斜め上を往く。

「ええ!?」

 胸元が開閉し、エネルギーが収束した後に巨大なビームを放つのだから。
 余りにも脈絡がなさすぎる手段での攻撃に、思わず変な声が出てしまう。
 こんな見た目をしているものの、これでも『ドグー』は生物兵器の一種だ。
 かの世界において、星の民が覇空戦争で使っていた星晶獣の一体なのだから。

(後方には誰が───ッ!)

 無惨に集中してばかりで確認してなかったが、
 背後を見やれば遠くにゲンガーたちの姿があった。
 ゲンガーの反応速度では遠坂を投げようとしたところで攻撃を受ける。
 バリーの方は自分が避けるので手一杯である為、二人を助けられない。
 故に、キャメロットは救出の為に向かおうと動かざるを得なかった。
 竜の炉心による魔力放出によりビームが到達する前に、
 なんとか遠坂を掴んで近くの植え込みへとその身体を投げ飛ばす。
 乱雑ではあるが、今の現状でできうる最大限の死なせないための行動だ。
 (ゲンガーは途中で霊体であることには気づいたので放置)

「キャメロット───」


956 : ◆EPyDv9DKJs :2022/07/16(土) 10:27:30 0Hqrn2Kg0
 しかしその代償として回避は完全に間に合わない。
 ゲンガーの叫びもビームの轟音でかき消される。
 射線にいたが直撃しようともゲンガーには何も問題はない。
 サイドステップで左側へと飛ぶように回避するも、
 右腕は光線を掠めて焼けるような痛みが走る。
 ダメージは少なくないものの、消滅していないだけましと言うべきか。

「ッ、これぐらいは……!」

 その程度で済んだのは遠坂と契約したことが、僅かながら理由かもしれない。
 契約しても殆どステータスが向上こそしなかったが、たった一つだけ上昇したものがあった。
 厳密に言えばそれは上昇したというよりは、僅かに戻ったというべきだろうか。
 それは『幸運』の値。魔力不足の場合、マスターの生き方に幸運が左右される傾向がある。
 衛宮切嗣がアルトリアと契約すると魔力不足から、生き方の相性からDと大幅に下がってしまう。
 同じく魔力不足であるはずの衛宮士郎との場合ならば、生き方の影響から幸運はBと元よりは低いが大分ましだ。
 遠坂、と言うよりしんのすけの生き方はアウトローな切嗣よりも士郎の方に寄っているので、
 殆ど伸びなかったステータスにおいても、辛うじて幸運だけは上昇してくれていた。
 とは言え今の光景が幸運によるものかどうかなど、誰も判断できないのだが。
 ビームはコンクリートの大地を砕き、近くのビルに風穴を開けていた。
 常人なら確実に死ぬ一撃を、この程度でとどめることはできている。

 しかし休む暇などどこにもない。
 動きを止めたドグーの股下から無惨は動いていた。
 右腕しか被弾しなかったのでは追走はしてくるだろうと、
 仕方がないので戦うことを選んでアルトリアへと襲い掛かる。
 この極限状態のお陰か、走ること自体に僅かばかり慣れて動きが洗練されていた。
 迎え撃とうと、キャメロットは今握っている剣を構え───られない。

「え?」

 今更になって彼女は気づいた。
 何故こんなことになっているのか。
 痛みは確かにあったが、時期に消えた。
 だからと言うべきか、それを見た瞬間は余り認識できなかった。
 彼女の右腕が石化していたことを。右腕も、はぐれメタルの剣も石のように、
 さながらメドゥーサに睨まれたかのように石化してしまっていた。
 こればかりは理解が追いつかない。何がどうなっているのか。

(まさか……!)

 今になって気付く。
 答えは今しがた姿を消し始めたドグーにあると。
 ドグーの光線『ギガ・ジョーモン・カノン』は対象を一時的に石化させる力がある。
 主にこれは水属性に対して発揮されるものだであり、水属性の素質があれば効果を受けやすい。
 アルトリアは湖の乙女の加護があり、完全とまではいかないが水属性の素質が存在している。
 湖の乙女の加護があるからこそ彼女はリオンから逃れることができたが、今回ばかりはその逆。
 湖の乙女の加護があるからこそ、ドグーの効果を掠めたとしても強く受けてしまう。

(ゲンガーさんの武器───も石化していますよね……!)

 右腕はない。武器は動かせない。実質全くの無手。
 今の状態で殴れば腕が砕ける可能性だってありうる。
 それは後ろに転がってる石化した八命切でも同じこと。
 騎士の力が反映され刀や剣を扱えるキャメロットでは、
 素手での戦いなどサーヴァントの力に物を言わせるしかない。
 すぐそこまで無惨が迫っており、左腕で殴ることを選ぶ。

「▇▇▇▇▇▇▇▇▂▂▅▆▆▆▇▇▇▇!!」

 が、だめ。
 何の生物か形容しがたいうなり声と共に容易く回避。
 無惨が強いというよりは、キャメロットの徒手空拳が弱すぎるというべきか。
 悲しいが全裸かつ素手で十数人も殴り飛ばしたランスロットの強さは内包されてない。
 (なおその場面はギネヴィアとの不倫現場であるので、あっても余り誇れないが)
 寧ろその腕をミーティの時よりは鋭くなった牙で噛み付く。

「グッアアアアアッ!!」

 歯並びは元の身体の影響か余りよくはないので、
 同時に顎の力が弱まっても百キロ近い力がかかる。
 歪なことが寧ろ逆に変な状態で食いこんでおり、
 聞くに堪えないような悲鳴が左腕と彼女の口から奏でられる。

「畜生、こうなりゃ自棄だ!!」


957 : ◆EPyDv9DKJs :2022/07/16(土) 10:28:18 0Hqrn2Kg0
 本来なら武器を持って戦うべきではあるが、
 ないのでは仕方がないとばかりにバリーが変身する。
 柔力強化(カンフーポイント)は変身慣れしてないため、
 チョッパーの身体において二年前から問題なく使えた形態、
 重量強化(ヘヴィーポイント)へと変わりガタイが大きく変わる。
 上半身のボリュームとは裏腹に下半身はスリムで強烈な外見だ。
 代用で神楽の傘を使いたかったが、キャメロットが近くにいて振るうも撃つも難しい。
 元々チョッパーは素手での格闘戦ができるのなら、キャメロットよりもましだ。
 剛腕を以っての右ストレートを叩き込まんとするが、まだ咥えていた彼女を盾にする。

「ゲッ!」

 殺しが好きだとしても、
 流石にこの状況でキャメロットを殴ったら後がまずい。
 思わず止めてしまい、その隙に彼女は投げ飛ばされる。

 アスファルトの地面に叩きつけられ、同時に石化した腕と剣も砕かれる。
 頭から行ったため気を失うには十分すぎるほどの衝撃で意識が落ちていく。
 片腕の欠損、武器の破壊、片腕は殆どちぎれかけた状態では誰が見ても再起不能だ。

「キャメ子の嬢ちゃん!?」

 あ、もしかして俺一人でやるの?
 とでも言わんばかりの状況に頭を抱える。
 八命切はまだ石化していて使い物にならない。
 なので仕方ないが、神楽の傘を構えることにする。
 構えてから、バリーはふと思う。何をやってるんだと。
 逃げるという選択肢が何故か彼の思考には存在しなかった。
 というか、さっきもキャメロットをなぜそこまで気遣ってたのか。

(まさか、俺の身体がチョッパーだからなのか!?)

 他の参加者が何人も行きついてる肉体の影響。
 トニートニー・チョッパーは医者だ。命を尊さを誰よりも理解し、
 敵であったとしても治療することがある彼が怪我人を許せないのか。
 人の獲物を横取りされるのも癪だ、と言うことにして戦うことを考えるが、

「って、えええええッ!?」

 何と此処で無惨突然の逃げ。しかも全速力で。
 思わず眼球が飛び出しそうになる。
 別に完全に不利でも何でもなかったはずだ。
 ゲンガーは戦力外、遠坂とキャメロットは気絶。
 どう考えたって十分勝てる見込みがある戦況のはず。
 一体なぜなのか、さっぱりわからないままどんどん離れる。
 ついでに道中に転がっていたドグーの召喚石も回収していく。

(何処までも忌々しい身体だ……!!)

 無惨が何故逃げを選んだか。
 いや、寧ろ本来無惨が真っ先に選ぶべき行為だ。
 彼は本来強い癖に何故いつも逃げを選んでいるのか。
 自分にとってリスクのある行動を僅かにでもあれば避けるがゆえに。
 バリーは殺人鬼だ。戦う以上に殺しを優先するならキャメロットを戦闘不能にすれば、
 逃げる自分を狙うよりも其方を優先するというのを見越しての行動を選んでいた。
 肉食獣を模した悪魔の実を口にした人物は変身中に限るが狂暴性が増す特性の結果、
 そのせいで右腕を破壊して逃げるだけだったのが、余計な行動をすることになった。
 完璧に近い生物が異常者共でもなんでもない奴に固執するなどありえないと、
 本来の姿でいる無惨がこの光景を見たり思い返せばきっと思うことだろう。

 ではなぜ急に理性を取り戻したのかというと、血が原因だ。
 キャメロットの、アルトリアの肉体を抉ったことで得た血の味。
 人を喰らうのが鬼である以上、当然人間の血肉が主食になるのが当然。
 しかし成れ果ての身体は食事が不要であり、そもそも鬼の身体ではない。
 狂暴性は増したとしても味覚が決して変化しているわけではなく、
 本来なら主食であるはずの血液に対して身体が不快感を呼ぶ。
 まるで数時間前のアルフォンスのように吐き気すら感じている。
 お陰で理性が戻った、と言うよりは冷めたが正しいだろうか。

 それはそれとして。
 悪魔の実を食べたと言えども元は成れ果てのミーティ。
 それがベースにしては少し強すぎるのではないかと思うが、
 それは無惨が予め先に飲み込んでおいたものが原因だ。
 いのちのたま。体力を犠牲に攻撃を強化できるどうぐの一つ。
 持てる場所もなければ口にはドグーがあったことで、
 飲み込む以外で持つことができなかった都合飲み込んだが、
 お陰でキャメロットに大打撃を与えることはできた。
 あの集団は最早使い物にならないだろう確信もある。
 最悪、バリーが全て処理してくれるだろう。


958 : ◆EPyDv9DKJs :2022/07/16(土) 10:28:41 0Hqrn2Kg0
(さて、私のやるべきことは今は一つだけだ。)

 無惨は非常に短期ではあるものの、ある程度の冷静な判断力も存在する。
 脳が五つあった時と比べてしまうと、比べることすら失礼なほどの知能の低下だが、
 そういう思考回路は十分に残されてるし、優先順位も忘れてはいない。
 どれだけ殺し合いが加速しようとも元の肉体は残さなければならない。
 なので優勝どうこう以前に、まずは産屋敷を探すことを今後は優先とする。

 それともう一人。
 主催の人物に近しい関係を持つ柊ナナの存在だ。
 エボルトからゲンガーの経由でそのことは知らされた。
 彼女の肉体は主催の一人と血縁関係であり、精神も肉体の関係者にある。
 主催にそのまま直結するようなことがないのはミーティの件でわかりきったことだ。
 一方で、木曾が残したメモには『優勝をする必要がないのではないか』という説があった。
 完全に信じ切るつもりはないが、現状ただ脱出するだけでは意味がない無惨にとって、
 その可能性を考慮するには十分すぎるので彼女も捜索しておきたい。

 永遠を欲する鬼の祖は解き放たれた。
 激しい怒りと憎悪と共に。

【D-6/街道/昼】

【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[身体]:ミーティ@メイドインアビス
[状態]:豹化、成れ果て、強い怒り(特に今は産屋敷、ボンドルド。他もどっこいどっこい)、激しい屈辱感
[装備]:召喚石『ドグー』@グランブルーファンタジー(現在使用不可能)、いのちのたま@ポケットモンスターシリーズ
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:元の体に戻る。主催は絶対に許さない。
1:産屋敷を探す。誰の許しを得て私の身体を使っている?
2:体を早急に慣らさなければならない。
3:遠坂やアルフォンスを利用したかったが、今となっては難しいか?
4:誰も彼も役に立たない。戻った際は上弦の解体も考えておくか。
5:奴ら(キャメロット達)、揃って問題を抱えているのは何故だ?
6:柊ナナを探しておく。奴が主催に近いのであるならば利用する。
7:血に不快感とは、どこまでも不愉快にさせてくるな。
[備考]
※参戦時期は産屋敷邸襲撃より前です。
※ミーティの体はナナチの隠れ家に居た頃のものです。
※精神が成れ果てのミーティの体に入っても、自我は喪失しません。
※名簿と支給品を確認しました。
※アルフォンス、遠坂達には自身の名を『産屋敷耀哉』だと偽っています。
※アルフォンスの肉体(千翼)を鬼かそれに近い人喰いの化け物だと考えています。
※ダグバの放送を聞き取りました。(遠坂経由で)
※鋼の錬金術師、Fate、城プロ、救助隊のある程度の世界観を把握しました
※ネコネコの実を食べたことで豹にもなれるようになりました。
 体格は爪、後ろ足が成れ果ての面影がある豹のような姿です。
 速度や顎の力などは全体的に弱体化してますが、いのちのたまである程度補強されてます。
 また慣れてない為変身しなおした場合、今ほどの姿になれないかもしれません。
 ネコネコの実はモデル『レオパルド』です。
※ドグーのインターバルは後続の書き手にお任せしますが、短時間で連打はできません。
※いのちのたまで攻撃に常に補正がかかり、攻撃の度に反動を受けます。
 成れ果ての不死性で軽減や無力化できるかは現時点では不明です。
※召喚石『ドグー』は口に挟んでます。
 いのちのたまは飲み込んでいるため吐かない限り外せません。










 何にせよ、無惨の逃げは十分に正解とも言えるだろう。
 だって逃げなければ『アイツ』が動き出していたから。
 アレに牙を突き立てようものなら、歯が全て砕けていただろうから。

(ま、潮時ってとこだな。)

 キャメロットが使い物にならない今、
 此処で綺麗な人間を演じるのももう必要ないだろう。
 さっきと違って状況が切迫しているわけでもないことだ。
 思う存分殺すことに興じようではないかとことを進めに入る。

「おいゲンガー! 確か回復できる道具あっただろ!
 キャメ子の嬢ちゃんこんなだが、まだ何とかなるかもしれねえし急ぐんだよ!」

 ただ先に幽体離脱してる都合攻撃できないゲンガーをなんとかしたい。
 状況の全てに放心していた相手に発破をかけるような言葉をかける。


959 : ◆EPyDv9DKJs :2022/07/16(土) 10:29:02 0Hqrn2Kg0
「あ、ああ!!」

 バリーに叱責されたことですぐに幽体離脱を解除。
 今度こそ死なせないためにも、という前向きな考えで。
 彼が殺されに来てくれと言う願いを持ってる等、露ほども知らずに。
 時期に本体がこっちに来てくれるだろうと笑みを浮かべる。

(あ〜〜〜やっとだ。やっとお楽しみができる。)

 ダグバ(厳密にはハルトマンだが)によるあの攻撃の規模。
 あれを見ていれば此処には殺し合いに懐疑的な奴はほぼいない。
 いるなら離れているか、ダグバへと向かっているのだから。
 いるとしてもみちるとしんのすけは地下。悪評を撒く人間はいない。
 思う存分、待ち続けた分だけ殺してしまおう。
 ゲンガーが置いていった八命切を手にする。

「よし、じゃあ元気に───え。」

 武器を手にいざ殺そうか。
 なんて思いながら振り向いたバリーは絶句した。
 何故、キャメロットが立ち上がっているのか。
 しかも、砕けた右腕も、ほぼ再起不可能な左腕もどんどん元に戻る(袖はともかく)。
 バリーは知っている。この治り方を知っている。この、赤い稲妻が走る治り方は。

「なあアンタ。この状況について教えちゃくれねえか?
 なんか親父もいねえし、身体も違うしでわけがわからねえんだよ。」

 凛とした女性の騎士らしい声と立ち居振る舞い。
 例えるならキャメロットとアルトリアの雰囲気はそういうものだ。
 でも、そんな彼女からはあり得ないような男口調で言葉を紡がれた。

「キャ、キャメ子の嬢ちゃん?」

「ん? ああ。この身体の持ち主の名前か?
 そういや都合上、話も聞いてねえし仕方ねえか。」

 左手で後頭部を掻きながら、笑みを浮かべる。
 歯を浮かべながら笑う彼女は、最早騎士らしさはない。
 寧ろ、何処か賊のような風にすら思えて来てしまう。










「俺はグリード。キャメコって奴じゃねえよ。」










 人の顔が埋め尽くす空間にキャメロットが浮かぶ。
 本来の城娘である、銀と水色を基調とした装備に加え、
 ボリュームのあるプラチナブロンドのロングヘア―を靡かせる。
 意識はない。精神的なショックの意味合いも軽く含まれるだろう。
 剣を握るは最早不可能となり、城娘としての矜持も守れずに敗北した。
 受け入れることはしているが、精神的ダメージは図り知れない。

『あ? なんでこんなとこに嬢ちゃんがいんだ?』

 顔の中に、一つだけ。
 確固たる意志を持ってるかのような顔が彼女を見やる。
 他の人の精神とは何か違う存在に、彼は疑念を抱く。

『なんつーか、雰囲気もおかしくねえか?
 人間でもホムンクルスでもねえ、なんなんだこの身体?
 お陰で、なんかさっきまで目が覚めてなかった気がするんだよな。』

 誰に言うでもない。
 彼女に語り掛けるわけでもない。
 ただ淡々と自分の今の状況を整理するように呟く。

『まあいいか。女だしちょいと悪いとは思うが、この身体貰うぜ!
 つっても、意識ねえから一方的になっちまうのは悪いとは思うがな。
 一方的に搾取するのは等価交換に反するんでな。後で忖度はしてやるよ!』

 心底楽しそうな笑いが空間内に響く。
 答えるものは誰もいない。持ち主であるキャメロット自身すらも。





 彼女の意識は闇の中だ。
 強い意志を持って保ってた中、
 彼女が意識を失えば必然的にこうなる。
 短くない時間をかけた末に強欲───グリードが顕現した。

「俺はグリード。キャメコって奴じゃねえよ。」


960 : ◆EPyDv9DKJs :2022/07/16(土) 10:29:21 0Hqrn2Kg0
 端麗な少女の声から紡がれる男らしい喋り方。
 中々に強烈な光景だが当人らにはそんなことを考える暇がない。

「ゲェー!! ホムンクルス!!」

 無惨が逃げた時同様目玉が外れそうな強烈な顔と共に絶叫を上げる。
 グリードとの面識はないがラストに殺されかけたことを考えれば、
 少なからず拒否感は出てくると言う物で軽く後ずさりしていく。

「なんだ、俺達の事を知ってるのか。
 ってかおめーもおめーでなんなんだ? キメラか何かにでもなっちまってんのか。」

「いや、その話はもう似たようなのやってんだよ。」

 逃げたいところだが相手の身体はアルトリアのもの。
 出鱈目なスペックをしてるのは理解しており逃げる選択肢はない。
 素直に彼との対話に応じて今の状況を、一から説明することを選ぶ。

「へぇー、殺し合い、願い、入れ替わり……親父はとことん関係なさそうってわけか。」

 これだけの力があれば人柱など最早必要ない。
 フラスコの中の小人すらも関与してない可能性のある状況。
 あらゆるものが欲しいのがグリードではあるが、研究所の侵入者排除の都合自由はなかった。
 前のグリードは自由にやってたそうだし、たまには自由を満喫するのも悪くないなと。
 特にこの身体は健康で強い。リンも悪いものではないがこの身体はそれ以上の逸材だ。
 自分の国の為に身命を捧げようとしている王族と、偶然にも面白いところも共通していた。
 女であることはちょっと不満ではあるが、まあそもそも状況的に仕方ないことだと割り切る。

「さーて、これからどうするか。」

 金が欲しい、女も欲しい、地位も、名誉も、そしてボンドルドの力すらも欲しい。
 だったら殺し合いの優勝か? そういう道もあるだろうし選択肢にはある。
 少女の顔つきに全く似合わない笑みを浮かべながら今後の事を考えていく。

(ただその前に……)

 グリードは強欲だが、案外義理堅い男だ。
 リンの身体に入る前のグリードと言う違いはあるものの、
 魂は繋がっている。故に記憶はなくともある程度は似通っている。
 だからギブアンドテイク、等価交換をしないのはどうも性に合わない。
 なので、今すぐ優勝だなんだの行動の前に三人をどうするか。

 永遠に欲するホムンクルスは解き放たれた。
 意識を落とした聖騎士の城娘に成り代わって。


961 : ◆EPyDv9DKJs :2022/07/16(土) 10:29:43 0Hqrn2Kg0
【D-6/街道/昼】

【グリード(キャメロット城)@鋼の錬金術師(御城プロジェクト:Re)】
[身体]:アルトリア・ペンドラゴン@Fateシリーズ
[状態]:グリードによる精神の乗っ取り、マスターによるステータス低下、ダメージ(大・再生中)、精神疲労(大・キャメロットの精神)、複雑な心境(キャメロットの精神)、ワクワク(グリードの精神)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(確認済み、剣以外)、逆刃刀@るろうに剣心、グリードのメモ+バリーの注意書きメモ
[思考・状況]基本方針:この世の全てが欲しい! ボンドルドの願いも!
1 :欲しいものを全て手に入れる。けどどういう手順で行くかねぇ。
2 :キャメコにはどう交渉したもんか。
3 :親父がいねえなら自由を満喫するぜ!

4 :放送の元である村へ行き、白い弓兵(ダグバ)を斬るはずでしたが……
5 :ゲンガーさんと凛さんを守る。
6 :アーサー王はなぜそうまでして聖杯を……
7 :バリーさんと彼の言う鎧の剣士、それと産屋敷に警戒。
8 :……大丈夫なのでしょうか、賢者の石。
9 :リオン・マグナス……その名は忘れません。
10:……

[備考]
※参戦時期はアイギスコラボ(異界門と英傑の戦士)終了後です。
 このため城プロにおける主人公となる殿たちとの面識はありません。
※服装はドレス(鎧なし、FGOで言う第一。本家で言うセイバールート終盤)です
※湖の乙女の加護は問題なく機能します。
 約束された勝利の剣は当然できません。
※『風王結界』『風王鉄槌』ができるようになりました。
 スキル『竜の炉心』も自由意志で使えるようになってます。
 『輝ける路』についてはまだ完全には扱えません。
 (これらはキャメロットの精神の状態でのみ)
※賢者の石@鋼の錬金術師を取り込んだため、相当数の魂食いに近しい魔力供給を受けています。
※名簿をまだ見ていません。
※Fate/stay nightの世界観および聖杯戦争について知りました。
※Fate、鋼の錬金術師、ポケダンのある程度の世界観を把握しました。
※グリードのメモ+バリーの注意書きメモにはグリードの簡潔な人物像、
 『バリーはちょっと問題がある人だから気をつけて。多分キャメロットさんが無事なら乗らないと思う。
  後産屋敷さんはまともに喋れてないのもあるから、殆ど人物像が分からないのも少し気をつけておいて。』
 の一文が添えられてます。
※グリードに身体を乗っ取られました。
 彼女が気絶してる中一方的に肉体を使っている為、
 意識が戻ればある程度忖度しつつも等価交換を要求します。
※現在キャメロットの意志は眠ってます。
 スキル、宝具がキャメロット同様に機能するかは別です。
 湖の乙女の加護は問題なく発動します。
※グリードの記憶は少なくとも二代目(所謂グリリン)であり、
 少なくとも記憶を取り戻す前のグリードです。
※グリードが表に出たためホムンクルス由来の最強の盾が使えます。
 最強の盾がどう制限されてるかは後続の書き手にお任せします。
※キャメロット城の名前をキャメコと勘違いしてます。
※一度石化された後腕が砕けたので右腕の袖が二の腕までになってます。
※ゲンガーと情報交換してます。

【ゲンガー@ポケットモンスター赤の救助隊/青の救助隊】
[身体]:鶴見川レンタロウ@無能なナナ
[状態]:人の身体による不慣れ(改善)、疲労(中)、精神疲労(極大)、自分への強い苛立ち、手にダメージ、焦り
[装備]:月に触れる(ファーカレス)@メイドインアビス
[道具]:基本支給品×3、シグザウアーP226(弾切れ)@現実、ピーチグミ@テイルズオブディスティニー、タケコプター@ドラえもん、サイコロ六つ@現実、肉体側の名簿リスト@オリジナル、ランダム支給品×0〜1(吉良の分)
[思考・状況]基本方針:イジワルズ特別サービス、主催者に意地悪…いや、邪魔してやる。
1:急いでキャメロット治しに戻るんだよ! ※意味はない
2:しんのすけとミチルが戻って来るのを待ちたかったけど余裕はない。
3:イジワルズ改めジャマモノズとして活動する。
4:ピカチュウとメタモンには用心しておく。(いい奴だといいが)
5:木曾のメモのこと、覚えておかないとな。
6:こいつらを見るとアイツ等を思い出すな…(主人公とそのパートナー達の事です)
7:何でオレが付けた団名嫌がるやつ多いんだ?
8:カイジのやつ、何でメタモンの事を聞いて来た?
9:産屋敷(無惨)の野郎、とんでもねえ本性隠してやがった。


962 : ◆EPyDv9DKJs :2022/07/16(土) 10:30:07 0Hqrn2Kg0
[備考]
※参戦時時期はサーナイト救出後です。一応DX版でも可。(殆ど差異はないけど)
※久しぶりの人の身体なので他の人以上に身体が慣れていません(改善)。
 代わりに幽体離脱の状態はかなり慣れた動きができます(戦闘能力に直結するかは別)。
 幽体離脱で離れられる射程は大きくても1エリア以内までです。
※木曾から『ボンドルドが優勝を目的にしてない説』を紙媒体で伝えられてます。
 (この都合盗聴の可能性も察してます)
※近江彼方の枕@ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は破壊されました。

【遠坂凛@Fate/stay night】
[身体]:野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん
[状態]:頭部と全身強打、気絶、精神的ショック(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:他の参加者の様子を伺いながら行動する。
1:……
2:サーヴァントシステムに干渉しているかもしれないし第三魔法って、頭が痛いわ。
3:私の身体に関しては、放送ではっきり言われてもうなんか吹っ切れた。
4:身体の持ち主(野原しんのすけ)を探したい。あと一歩まで来てるのよ。
5:アイツ(ダグバ)倒せてないってどんだけ丈夫なの。
6:アルフォンスは心配だけど、一先ず彼にサポートを任せる。
7:施設とかキョウヤ関係者とか、やること増えてきたわね……
8:ゲンガーとバリーとも行動。少なくとも私よりは頼れるのは羨ましいわ。
9:ある程度戦力をそろえて、安全と判断できるなら向かうC-5へ向かいたかったけど……想定外の展開か。

[備考]
※参戦時期は少なくとも士郎と同盟を組んだ後。セイバーの真名をまだ知らない時期です。
※野原しんのすけのことについてだいたい理解しました。
※ガンド撃ちや鉱石魔術は使えませんが八極拳は使えるかもしれません。
※御城プロジェクト:Reの世界観について知りました。
※地図の後出しに関して『主催もすべて把握できてないから後出ししてる』と考えてます。
※城プロ、鋼の錬金術師、ポケダンのある程度の世界観を把握しました
※ゲンガーと情報交換してます。










(なあ、これもうだめじゃねえか?)

 ダメと言うのは殺し合いを愉しむことだ。
 だというのに出会う参加者はその殆どが自分よりも格上。
 格下もいるにはいるが、明らかに上が別次元の連中ばかりだ。
 殺せると思ったら本当にホムンクルス入りの賢者の石ときた。
 頼むからおれに殺させろと叫びたくなってしまう。

(とりあえず生き残って、後から考えた方がいいのか?)

 もういっそ生き延びて脱出を選んで、
 その後で殺しを愉しんだ方がいいのではないか。
 上手くいかない結果に、ため息も出てきそうだ。

(殺しができねえとか、鎧の時以上に抜け殻じゃねえか。)

 殺しを欲する男は解放されない。
 二度目の生において事実上のとどめをさした、
 ホムンクルスの同族と行動を共にしながら。


963 : ◆EPyDv9DKJs :2022/07/16(土) 10:30:32 0Hqrn2Kg0
【バリー・ザ・チョッパー@鋼の錬金術師】
[身体]:トニートニー・チョッパー@ONE PIECE
[状態]:疲労(大)、全身に切り傷、頭脳強化(ブレーンポイント)、微妙に精神折れかけてる
[装備]:八命切・轟天@グランブルーファンタジー
[道具]:基本支給品、神楽の番傘(残弾100%)@銀魂、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:存分に殺しを楽しむ、はずなのになぁ〜〜〜うまくいかねぇ。
1:存分に殺しを楽しみたいが、何か段々詰んできてねえか? 俺。
2:あの鎧野郎(メタモン)をどうにかしたいので今は集団に紛れ込んでおく。
3:武器を確保するまでは暫くなりを潜めた方がよさげか。
4:いい女だが、姐さんほどじゃねえんだよな。後もう少し信用されておきたい。
5:使い慣れた得物が欲しい。
6:アルフォンス、相変わらず甘い奴だな。
7:キャメ子の嬢ちゃん、乗っ取られてるー!?
8:産屋敷(無惨)まじかよ……
9:最悪生きること優先したほうがいいんじゃねえのか? これ。

[備考]
※参戦時期は、自分の肉体に血印を破壊された後。
※城プロ、Fate/stay nightの世界観および聖杯戦争について知りました。

遠坂の考察
①:一部参加者しか目指しそうにない場所=一部参加者のみに伝える何かを用意している
  主催の中の誰かが此方(対主催)にとって有利になるように託した、と言う可能性を考慮。
②:施設の後出しで地図に表記は、主催者もすべての施設の場所を把握してないかもしれない。
  或いは主催の誰かが置いた何かの施設が彼らにとって都合の悪い何かなのではないか。
③:小野寺キョウヤを名乗ったことから、小野寺キョウヤを知る参加者に何か大切なものがある可能性。
④:①に備えて自分に関係してそうな施設(聖堂教会等)などの記載
これらと今まで得た情報や遠坂の考えをメモにして纏めてます。
より具体的な内容は後続の書き手にお任せします

※D-6はぐれメタルの剣@ドラゴンクエストⅣは砕けました
 石化が戻ってますがまともな運用は望めません
※D-6周辺にアルトリアの腕が落ちてます。
※ドグーのギガ・ジョーモン・カノンが放たれました。
 近くのエリアにいた参加者は見えるかもしれません。

【ワープだま@ポケモン不思議のダンジョン 赤の救助隊/青の救助隊】
鬼舞辻無惨に支給。ゲーム上ではたまに分類される水晶玉の類。
使うと使用者が自身が認識してる敵と認識した参加者全員をワープさせる。
ワープ先は同じエリア内ではあるが転移先は完全にランダム。消耗品。

【召喚石『ドグー』@グランブルーファンタジー】
遠坂凛に支給。覇空戦争時代、星の民が用いた星晶獣『ドグー』が込められた召喚石。
本来ならばグラン(またはジータ)とルリアがいなければ召喚できないが、此処では誰でも使用可能。
無機質なその顔は、ある時は怒りを湛える恐ろしい表情に、
またある時は慈愛に満ちた表情にと、見る者の心の在り方によって見え方が異なるという。
召喚すると胸元から発射されるビーム『ギガ・ジョーモン・カノン』で一回だけ攻撃する。
使用者に土属性の攻撃の強化と荒土の刻印を付与するが、後半の使い道が多分このロワにはない。
また被弾した相手に短時間の間だけ相手を石化させる効果もある(本ロワでは被弾した部分のみ)。
前者は土属性、後者は水属性に関する力を持つ人物にしか原作では通用しないが、
本ロワにおいてこれらがそれらの属性に該当しなくても発生するかどうかは現時点では不明。
召喚後は再度召喚までのインターバルが必要。壁にもなるが短時間しか召喚できないので気休め程度。

【いのちのたま@ポケットモンスターシリーズ】
鬼舞辻無惨に支給。DP以降に登場した所持してるだけで効果が発揮する。
攻撃技の威力が1.3倍になるが、攻撃技を使うごとに最大HPの1/10のダメージを受ける。
本体が攻撃する類以外のもの(召喚石等)は威力は強化されないがダメージも同時に受けない。

【エレンの家@進撃の巨人】
シガンシナ区にて少年時代のエレン・イェーガーが住んでいた家。
進撃世界における建築技術の為大分古いものではある。
少なくとも二階建て以上で地下室が存在しており、
地下室には原作では重要なものがあったが、
この舞台における地下室に何があるかは不明。
現在無惨が出た都合玄関が少し破壊されてる。


964 : ◆EPyDv9DKJs :2022/07/16(土) 10:31:29 0Hqrn2Kg0
以上で投下終了です


965 : ◆ytUSxp038U :2022/07/29(金) 10:39:16 3bquGwr60
両面宿儺、広瀬康一、グレーテ・ザムザを予約します。


966 : ◆ytUSxp038U :2022/08/03(水) 20:54:22 WkBikrds0
投下します。


967 : 言えない 言えない ◆ytUSxp038U :2022/08/03(水) 20:56:09 WkBikrds0
蓮華で掬ったソレを宿儺はじっと眺める。
黄金色(こがねいろ)の米粒、焼き目の付いた卵、その他料理を彩る具材の数々。
チャーハン(炒飯とも書く)である。
暫しの無言、とはいえ見ているだけで腹は膨れない。
スッと口に運び咀嚼、嚥下すると皿に盛られたチャーハンを見下ろした。

冷蔵庫の残り物でもサッと調理可能な事から、手軽な料理として家庭でも広く作られているのがチャーハンだ。
今回宿儺に飯の用意を命じられた関織子もまた、余り時間を掛けずに提供できるという点から、チャーハンを選択した。
だが手軽=手抜きとはならないよう、細心の注意及び調理場に立つ者の責任を背負って完成させている。
旅館の仕事が一段落したタイミングで肩の力を抜く事はあっても、仕事に手を抜いた事は一度も無い。
中途半端な考えや楽観的な態度の人間に務まりはしないのだ、若おかみとは。
始まりこそウリ坊に懇願され仕方なく承諾した若おかみの修行も、今となっては何よりやり甲斐を感じるもの。
たとえ相手が自分の体を支配した呪いの王であれど、春の屋で料理を食べるのなら全力でおもてなししない理由は無い。

そんなおっこのチャーハンを食した当の宿儺は一言も発さず皿を見下ろし……再度蓮華で掬い口に運び始めた。
来訪者や襲撃者が立て続けに現れた為出来立てとはいかなかったが、まだ温もりは残っており食欲をそそらせる匂いもあった。
両面宿儺へ捧げるにしては貧相な見た目、されどこちらを長々と待たせる訳にはいかないと考えた部分は評価してやる。
問題の味。まずパラパラとした口当たりは悪くない。
炊飯器の中には炊き立ての白米がギッシリ詰まっていたものの、水分が抜けやすいコンビニ弁当のご飯の方が良いというおっこの判断が正解だった為だ。
炒める際、フライパンに引いたごま油の量も多過ぎず少な過ぎない。おかげで余分なくどさを感じない。
味が濃い目なコンビニ弁当を使ったので、追加で加えたのは冷蔵庫から拝借した卵のみ。

やがて皿が空になると蓮華を置き、フンと鼻を鳴らす。
いただきますもごちそうさまも言わない、それを指摘できる者などここにはいないが。
代わりに一言、己の精神(なか)で固唾を飲み待っているだろう小娘に告げた。

「及第点はくれてやる」


968 : 言えない 言えない ◆ytUSxp038U :2022/08/03(水) 20:57:50 WkBikrds0



「良かったぁ……」

安堵からかテーブルに突っ伏すおっこ。
祖母が見たらはしたないとお叱りを受けるだろうが、今だけは許して欲しく思う。
何せ料理を提供した相手が相手だ。
たった一つの失敗で命を奪われていた、と言っても大袈裟ではない。
大満足とはいかなかったものの、幸い機嫌を損ねる事態にはならなかった。

(宿儺さん、全部食べてくれた…)

皿には米粒一つ残っていない、綺麗に平らげられている。
恐い人だし平気で誰かを傷付けようとするのは我慢がならないけど、自分の作った料理を残さず食べてくれたのには嬉しさを隠せない。
提供した料理を全部食べてもらえるのは、若おかみをやっていて嬉しい事の一つだ。

「織子、ちゃん…?大丈夫?」

心配そうな声に反応し顔を上げると、こちらを覗き込む少年が視界に映る。
広瀬康一という、肉体は異国の風貌だが精神はれっきとした日本人の参加者。
その後ろには寝息を立てる巨大な虫。

激変した雰囲気に慄き身動きが取れないでいた所へ、何事もなく宿儺は戻って来た。
すると凍り付いている康一の存在などどうでもいいとばかりに食事を始めたのである。
問い質したい事は山ほどあったが、宿儺の食事中康一は一言も喋らず食べ終わるのを待った。
理由は単純、この少女の皮を被った『ナニカ』の機嫌を損ねてはマズい。
殺人鬼の吉良とは違う、正真正銘化け物の放つプレッシャーを受け否応なしにそう理解したから。
康一の判断は間違っていない。
もし食事の最中にも関わらず詰め寄りでもしたら、殺されはしなくとも一瞬で達磨にされていただろう。

とにかく今は不用意に動くべきでは無いと大人しく待つ事数分、食事が終わり部屋全体を包み込む異様なプレッシャーが消失。
テーブルに突っ伏し年相応の反応を見せるおっこに一先ず大丈夫だろうと判断し、話しかけたのである。

「康一さん…。あっ、ごめんなさい!ほったらかしにしちゃって…」
「ううん、、気にしないでよ。さっきの宿儺…さん?の邪魔しちゃ悪いと思ったし」

慌てて頭を下げるおっこに、言葉と手振りで気にしていない事を伝える。
同時に『今』はやはり関織子の状態らしく、余りの雰囲気の違いに内心では驚いていた。
尚も頭を下げ続けるおっこだが、相手が気にしなくて良いと言っている為おずおずと顔を上げる。
と、先程は聞いていなかった事を思い出した。


969 : 言えない 言えない ◆ytUSxp038U :2022/08/03(水) 20:59:14 WkBikrds0
「あ、あの。ところで康一さんはグレーテさんをずっと追いかけてたんですか?」
「えっ?いや、僕がグレーテさんと会ったのは放送が終わってすぐの頃だけど、その前は…」

一瞬、どこか言い淀むような態度を見せる。
聞いてはいけない事だったのだろうか、咄嗟にまた頭を下げようとするおっこ。
だが康一が言葉を口にする方が早い。
中途半端に頭を下へ向けた態勢からバッと姿勢を正し、康一の話を聞く。

康一が語ったのは自分がバトルロワイアル開にて出会った仲間たち。
今は自分を含めて全員が別行動中。
元々は病院に向かう予定だったが、グレーテを追跡し村に辿り着いたのだと言う。
それと忘れてはならない危険な参加者の情報。
メタモンという名で、紫の装甲を纏った仮面ライダーなる姿に変身するとのこと。

そこまで話した時、ぐうと何とも間の抜けた音が康一とおっこの耳に届いた。
音の発生源は康一の腹からだ。
空腹を訴える音を意識せず鳴らしてしまい、康一は気恥ずかしそうに頬を掻く。
離れの島を出発する前に食事は取ったが、あれから色々とバタバタしてしまったので腹も減ったのだろう。
年上の少年の赤くなった顔を見て、おっこは馬鹿にせず微笑ましそうに言う。

「折角なので何か作って来ますね」

そう言って立ち上がり、康一が止める間もなくパタパタと厨房へ向かう。
後ろ姿を見送った康一は年下の少女に気を遣わせて申し訳なく思うも、体は正直で料理を作ってくれると聞き思わず唾が溢れた。
コンビニ弁当とは違う、旅館の温かい料理だ。どうしても期待はしてしまう。

「由花子さんに知られたら大変だなぁ…」

小学生とはいえ女の子の手作りをご馳走になる。
嫉妬深く気性の激しい恋人に知られたら、間違いなくとんでもない事になりそうだ。
苦笑いを浮かべ、すぐに暗い表情へと変わった。

(神楽さん達のこと、話して良かったのかな……)

仲間達の事をおっこに話した自分の判断は、果たして正しかったのだろうか。
知るのがおっこだけなら問題は無かった。
しかし彼女の肉体に宿るもう一つの精神、バトルロワイアルの参加者として登録された者は別。
康一は宿儺の具体的なプロフィールは知らないが、アレが非常に危険な存在である事は理解している。
吉良吉影の不気味さとは違う、喉がひりつき呼吸すら困難に感じる程のプレッシャー。
あんなものを放てる存在に、何も警戒するなと言う方がおかしい。
だから迷ったのだ、仲間達の存在は隠した方が良いのではないかと。

それでも結局情報を明かしたのは、宿儺の機嫌を損ねた際に起こる事態を恐れたから。
別段、宿儺の敵意が意図的に情報を隠した自分一人に向かってくるだけならいい。
その時はこちらも全力で抵抗させてもらう。
康一が恐れるのは宿儺の怒りが自分以外、グレーテとおっこにまで及ぶ事だ。
特におっこは自分の肉体を人質に取られているも同然、何をされるか分かったものじゃない。
故に仲間に関する情報を素直に伝え、問い質したかった疑問も無理矢理飲み込んだ。
自分の手から奪ったアナザーカブトウォッチはどうしたのかという疑問を。
もし最初から相手の精神が宿儺のままなら、恐れを強引に抑え込み対峙しただろう。
だがおっこに危害を加えられる可能性を考えると、どうしても宿儺へ強くは出れなかった。
アナザーカブトウォッチを強引にでも取り返そうとした結果、おっことグレーテまで巻き込まれ取り返しの付かない事態となる。
危険な支給品を取り返したいとはいえ、万一の可能性を考えれば強引な手段は取れない。
かと言ってまともに話を聞き入れてくれるかも微妙。

グレーテをどうにかしたら病院へ行き、神楽と共にカイジを待つ。
その予定も、両面宿儺という新たな問題が発生し雲行きが怪しくなっていると嫌でも実感するのだった。


970 : 言えない 言えない ◆ytUSxp038U :2022/08/03(水) 21:01:12 WkBikrds0



(どうしよう…)

厨房へ向かっている最中、おっこも一人頭を抱えていた。
康一から齎された彼の仲間に関する情報、それは問題無い。
むしろ殺し合いを良しとしない人たちが康一含めて6人もいる事に心強さを覚えたくらいだ。

おっこを悩ませるのは康一が放送前に遭遇した危険な参加者、メタモンについてだ。
名前に聞き覚えは無いが、外見の特徴は見覚えがある。
グレーテを落ち着かせて間もない頃、宿儺が対処に回った鎧の剣士と一致するのだ。
肉体の主導権が宿儺に回っている時は干渉こそ不可能なものの、視界は共通している。
その為、宿儺とメタモンの間に何が起きたかを全て把握していた。

襲って来たメタモンを返り討ちにした。
そこまでならあれやこれやと文句を付けたりはしない。
幾ら何でも殺されそうになっているのに手は出すな、とはおっこでも言えないからだ。
しかしその後、原理は不明だが紫の鎧になれなくなったメタモンへ康一の手から取った懐中時計を埋め込んだ。
結果、メタモンは宿儺が纏った赤い鎧と似た怪物へ変貌し、春の屋を離れて行った。

(宿儺さん…どうして…)

危険人物を春の屋から追い出した、と言えば聞こえは良いが実際にはメタモンへ新たな力を与えて野放しにしたようなものではないか。
メタモンを無力化するなら変身が解かれた時に拘束するなりできたはず。
なのにそうしなかった理由、おっこには一つだけ思い当たる節がある。

(笑顔…?)

真意までは分からないが、宿儺は自分に参加者を笑顔にさせたがっている。
だからわざわざ生得領域でおっこに交渉を持ち掛ける真似をした。
と言っても、参加者から笑顔を引き出す役目をおっこのみに押し付けたのではない。
例えば定時放送直後に遭遇した白い弓兵には、宿儺自ら他の参加者の情報を提供し笑顔を引き出す事に成功している。
メタモンもそうだ。康一から奪った懐中時計を埋め込み、狂ったような喜びの笑みを引き出した。

ハッキリしているのは、どんな理由があってかは不明だが宿儺にとって参加者から笑顔を引き出すのは極めて重要な事らしい。
全員塵殺を一時的に中止するくらいには。


971 : 言えない 言えない ◆ytUSxp038U :2022/08/03(水) 21:02:26 WkBikrds0
それが分かった所でおっこにやれる事はそう多くない。
相変わらず肉体の主導権は宿儺にあり、今この瞬間にでも彼が「契濶」と唱えれば即座におっこは一切の干渉を封じられる。
康一にメタモンと宿儺の間に起きた事を伝えなかったのもそれが理由だ。
勝手に支給品を取った挙句、危険な参加者に明け渡した。
馬鹿正直に伝えて康一が激怒した時、怒りの矛先がおっこに向かうだけならまだしも、張本人である宿儺へ向かうのは非常にマズい。
何せ相手はその気になれば小学生のおっこだろうと、蚊をはたき落とすような気安さで殺そうとする者。
誓約を結んでいるとはいえ、ほんの少しでも苛立たせれば何をしでかすか分からない爆弾のような男なのだ。

若おかみとはいえまだまだ小学生の少女が抱えるには重過ぎる悩み。
それを知ってか知らずか悩みの種である宿儺もまた、一人思考を重ねていた。
康一から手に入れた情報、殺し合いに反抗する人物が複数いる。
蛆虫の如く群れた連中を纏めて潰す、と本来ならばいきたい所だが残念ながらそれはまだ先の話。
既に何人かから笑顔を引き出し順調に能力は戻っているものの、宿儺本人からしたらまだまだ脆弱としか言いようが無い。
虎杖悠仁の体で引き起こしたような虐殺は以ての外、領域展開の使用など夢のまた夢。

(暫くは“玩具”に頼らざるを得んか。全く忌々しい…)

マスクドライダーシステムも特級呪具もただの人間にとっては当たりの部類に入るだろうが、宿儺からしたら玩具の域を出ない。
それでも今はそういった支給品の力も活用するしかなく、改めてボンドルドらへの不快感が蓄積した。

この苛立ちはいずれ必ず連中に直接ぶつけてやるとして、当面は自身に課せられた制限及び首輪の解除の為に動く。
康一の仲間だと言う連中には、引き続きおっこに交渉を任せる。
天逆鉾がマスクドライダーシステムに異常を引き起こしたのは確認できた。
なら次は首輪で試したい所だがいきなり自分の首輪で試した結果、首輪解除を防ぐ為に主催者の手で先に首輪を爆破される、と考えられなくも無い。
というか首輪解除が可能な支給品をわざわざ寄越すのか、そもそも純粋な科学技術の産物に術式解除の効果が働くかどうか疑問は尽きない。

(まぁ尤も、コレが本当に何の術式も無いガラクタだったら、の話だがな)

現在の宿儺は人間の小娘の肉体に精神を入れられている。
だから首輪が爆発したら死ぬ。脆い器なのだから至極当然の話だ。
では逆のパターンが他の参加者に起きていたらどうだろうか。
つまり人間の精神が人外の肉体、それこそ特級呪霊やそれに匹敵する存在に入っていたとしたら。
ダグバから手に入れた名簿を見る限り、真人や漏瑚など数少ない名前を記憶してやっている連中の肉体は参加していない。
だが宿儺が知らない、というか覚える価値のない呪霊の肉体が参加している可能性もある。
当然だが特級呪霊やそれに近い力を持つ呪霊をただの首輪爆弾如きで殺すのは不可能。
となればそういった肉体への抑止力として効果を発揮させるには、首輪に何らかの術式が組み込まれていると考えるのが自然。
いずれにしろ、実際に試してみない事には始まらないが。

(ああ、それにしても……)

さっさと全員殺すのが楽なのにそれは不可能で、こうも余計な手間ばかり掛けねばならないとは。
つくづく小僧と呼んでいた体の方がマシだと、数えるのも馬鹿らしくなったため息を吐くのだった。


972 : 言えない 言えない ◆ytUSxp038U :2022/08/03(水) 21:03:50 WkBikrds0



「ハシュー、ハシュー」

あんずの間にてグレーテは未だ眠り続ける。
若おかみの体を張った対話の甲斐もあり、殺し合いが始まってから絶えず彼女を苛んでいた恐怖からやっと解放されたのだ。
人間でない肉体とはいえ、寝息は安らかなものに聞こえる。

確かにおっこはグレーテの心を救った。
しかし忘れてはならない。今も尚グレーテの肉体は虫型の魔物、スカラベキングである。
放送前、市街地で起きた戦闘によりグレーテは血の味を覚えてしまった。
渇きが潤される快感を知ってしまったのだ。

今はおっこに救われた事で落ち着いているが、肉体の影響は簡単に消えはしない。
人間の血を飲みたいという欲求は、未だ心の奥底で燻り続けている。


【C-5 村(春の屋)/昼】

【両面宿儺 @呪術廻戦】
[身体]:関織子@若おかみは小学生(映画版)
[状態]:関織子の精神復活、誓約の縛り、満腹
[装備]:カブトゼクターとライダーベルト@仮面ライダーカブト 特級呪具『天逆鉾』@呪術廻戦
[道具]:基本支給品x3(メタモンx2)、魔法の箒@東方project 魔法の箒@東方project 桃白白@ドラゴンボール(身体:リンク@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド)の死体 特典の組み合わせ名簿@チェンジロワ ケロボール@ケロロ軍曹 精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、撮ったものが消えるカメラ(残り使用回数:1回)@なんか小さくてかわいいやつ 魔神の斧@ドラゴンクエストシリーズ
[思考・状況]基本方針:主催は鏖殺。その他は状況による
1:全員、鏖殺はひとまず保留
2:非常に忌々しいが参加者を笑顔にさせる(参加者の性質によっては織子に任せる)
3:関織子の精神は、生かさず殺さず
4:JUDOと次出会ったら力が戻った・戻ってないどちらにせよ殺し合う
5:脹相……あの下奴か。どうでもいい
6:縛りにより虫けら(グレーテ)はとりあえず生かす。下奴(康一)はどうでもいい
7:コイツ(天逆鉾)の未確認の効果を試してみたい。(首輪など)
8:はー、めんど
[備考]
※渋谷事変終了直後から参戦です。
※能力が大幅に制限されているのと、疲労が激しくなります。
※参加者の笑顔に繋がる行動をとると、能力の制限が解除していきます。
※関織子の精神を下手に封じ込めると呪力が使えなくなるかもしれないと推察しています。
※関織子の精神と縛りを交わしました。
※デイパックに桃白白@ドラゴンボール(身体:リンク@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド)の死体が詰められています。
※組み合わせ名簿から脹相がいるのを知りましたが、特に関心はありません。
※天逆鉾の効果で仮面ライダーへの変身ツールに故障を与えられることを確認できました。
※参加者の肉体に呪霊やそれに類する存在がいる可能性を考えています。またその場合、首輪に肉体の力を弱める術式が編まれていると推測しています。


973 : 言えない 言えない ◆ytUSxp038U :2022/08/03(水) 21:05:16 WkBikrds0
【広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:エレン・イェーガー@進撃の巨人
[状態]:吉良吉影の死に対する複雑な感情、背中に複数の打撲痕及びそれによる痛み、両面宿儺に対する戦慄
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、タケコプター@ドラえもん
[思考・状況]基本方針:こんな殺し合い認めない
1:両面宿儺を強く警戒。でも下手に逆らって織子ちゃんに危害を加えられたら…
2:そっか、グレーテさんというのか。何とかコミュニケーションを図りたいな
2:神楽さん…カイジさん…無事を祈っています。
3:まさか吉良吉影が死ぬなんて…しかも女の子の身体で…
4:仮面ライダーの力が無くなった分も、スタンドの力で戦う
5:いざとなったら巨人化する必要があるかもしれない。
6:メタモンにまた会ったら絶対に倒さなくては!
7:メタモンが僕らの味方に化けて近づいてくる可能性も考えておかなきゃ
8:皆とどうか無事に合流出来ますように…そして承太郎さん、早く貴方とも合流したいです!
9:DIOも警戒しなくちゃいけない…
10:この身体凄く動きやすいです…!背も高いし!
11:仗助君の身体良い人に使われていると良いんだけど…
12:吉良吉影を殺せるほどの力を持つ者に警戒
13:無理やり奪われたウォッチ……何とか取り戻したいけど……
[備考]
※時系列は第4部完結後です。故にスタンドエコーズはAct1、2、3、全て自由に切り替え出来ます。
※巨人化は現在制御は出来ません。参加者に進撃の巨人に関する人物も身体もない以上制御する方法は分かりません。ただしもし精神力が高まったら…?その代わり制御したら3分しか変化していられません。そう首輪に仕込まれている。
※戦力の都合で超硬質ブレード@進撃の巨人は開司に譲りました
※仮面ライダーブレイズへの変身資格は神楽に譲りました。
※放送の内容は後半部分をほとんど聞き逃しています。具体的には組み合わせ名簿の入手条件についての話から先を聞き逃しています。
※元の身体の精神である関織子が活動をできることを知りました。
※アナザーウィッチカブトは宿儺に無理やり奪われました。

【グレーテ・ザムザ@変身】
[身体]:スカラベキング@ドラゴンクエストシリーズ
[状態]:睡眠中、満腹、スカラベキングの精神復活
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:生きて帰れたら、兄に謝罪したい
1:……ZZZ
2:オリコ……ワカオカミ……この小さなjapanischMadchenが私を助けてくれた…
3:オリコの血…とても美味しくて……何だか良い気分だったわ…
4:私はグレーテ・ザムザ。心まで怪物になったわけではないわ
5:グレゴール兄さん……私、兄さんに謝らなくてはいけない…
5:キュイイイイイイ!!!(ニンゲン!!!)
[備考]
※しっぽ爆弾は体力を減少させます。切り離した腹部は数時間ほどで再度生えてきます。
※デイパックの破れた傷が広がっています。このまま移動し続ければ他にも中身を落とすかもしれません。
※血の味を覚えました。
※吉良吉影を殺したのは軍服姿の大男(犬飼ミチル)だと思い込んでいます。
※放送の内容は後半部分をほとんど聞き逃しています。
※織子により、ひとまず落ち着きました。(体が毒虫でもグレーテであると自信を持ちました)
※スカラベキングの精神が復活しました。
※脳内にスカラベキングの声が時折響きます。ただし、グレーテはまだ、それがこの身体の持ち主の声とは思っていません。
※織子の血を吸った際、宿儺の持つ呪力が身体に混ざりこんだ可能性があります。


974 : ◆ytUSxp038U :2022/08/03(水) 21:05:54 WkBikrds0
投下終了です。


975 : ◆5IjCIYVjCc :2022/09/04(日) 23:43:40 FoIS80io0
悲鳴嶼行冥、脹相、神楽、杉元佐一、我妻善逸、桐生戦兎、燃堂力、柊ナナで予約します。


976 : ◆5IjCIYVjCc :2022/09/14(水) 19:03:49 P7Oj1FzE0
予約延長します。


977 : ◆5IjCIYVjCc :2022/09/20(火) 22:43:12 7Odujtrw0
投下します。


978 : Ψ悪の展開を想像して ◆5IjCIYVjCc :2022/09/20(火) 22:44:18 7Odujtrw0
前回までのあらすじ
「組み手をとろう!」

----

脹相と悲鳴嶼は何事も無く、無事に山から下りることができた。
特に危険人物に遭遇することはなかった。
その間に、彼らの間に会話が交わされることはなかった。
とにかく、前に起きたことは完全に無かったことし、誰かに出会っても絶対話さない、顔に出すこともしないと決意していた。
だからもう、前回の話はこれでお終い、引っ張ることもない。
ないったらない。
ないのだ。
ない。

◆◆◇


山から出た段階での二人は、聖都大学附属病院からやや東寄りの位置にいた。
2人はそこからすぐに病院に向かったが、そう早く中に入ることはできなかった。

殺し合いが始まってから、病院の中に最初にいたのは悲鳴嶼だった。
その後紆余曲折あって、悲鳴嶼は一人山の中に入り、新たな協力者を得て留守にしていたこの施設に戻ってきた。
しかし今は、別の客人達がその敷地内に存在していた。

「む…?」

病院の駐車場内に入ってすぐ、悲鳴嶼と脹相は足を止める。
彼らが見たのは、病院前を往復しながら歩く一人の少女の姿だった。
よく見れば、その手の中には何らかの動物と思われるものが抱えられている。

その少女もまた、悲鳴嶼達の存在に気付く。
そして、彼らの方に向かって歩き出した。
悲鳴嶼と脹相もまた、彼女に向かって近付いていく。
やがて、三人(と一匹)が声の十分届く距離に付いた時、彼らの対話は始まる。


「……あんたら、何者だ?」

白髪に赤いモンペが特徴的なその少女は、少し警戒した様子を見せながら二人に尋ねる。

「ピカァ…」

彼女の腕の中では黄色の体毛に覆われた謎の生物が眠っている。



「………私の名は悲鳴嶼行冥、鬼殺隊に所属する者だ」

「……俺は脹相。訳あって素性はあまり明かせない。だが、俺たちはこの殺し合いを止めるために動いている。それと、俺は男だ」

悲鳴嶼と脹相は少女に向かって名乗る。
脹相の方は念のため、自分が男であることは強調して話す。

相手の様子から、この殺し合いには乗っていない、交渉は可能だという判断を出す。
少し警戒されているのは、単純に初対面だからだ。


「……悲鳴嶼?じゃああんた、もしかしてこいつのこと…」

少女……藤原妹紅の姿をした男、杉元佐一は悲鳴嶼の名前に反応する。
悲鳴嶼行冥という名は、前にこの黄色の獣…ピカチュウとなった我妻善逸に質問して、安全かどうかで肯定された名前だ。
このことについて杉元が切り出そうとした、その時だった。


悲鳴嶼と脹相の背後から、カランカランと何かが落ちる音が聞こえた。

「……ピカ?」

その音に反応し、善逸も目を覚ます。
そして、この場にいる全員が音の聞こえた方へと顔と意識を向ける。

この場における5人目の登場人物が病院の敷地内に現れていた。


「………………銀、ちゃん?」

そこにいたのは、上半身はビキニの水着だけ、ズボンはGパン、髪は長いオレンジ色をした女だった。
音は、彼女が持っていた棒状の物体を落としたために発生したようだった。

彼女は、ただ一人の人物のみを見つめている。
それ以外は何も目に入ってないようだ。
まるで、生き別れの家族にでも会ったかのような顔をして。
彼女の目は、どこか潤んでいるように見えた。
とても、感極まっている様子であった。

彼女の視線は、悲鳴嶼にのみ強く向けられていた。
女は、その視線の先へと突如駆けだした。


「銀ちゃあああああ『ドンッ』あぶへあああッ!!?」


女が悲鳴嶼に飛び付き、抱きつきそうになったその瞬間、脹相が二人の間に割り込んだ。
脹相は、女に横方向からぶつかった。
女は、その衝撃で手をつきながら倒れ込んだ。


979 : Ψ悪の展開を想像して ◆5IjCIYVjCc :2022/09/20(火) 22:45:06 7Odujtrw0


「いってえなテメエ何するカ!」

女は立ち上がり、脹相に向かって怒りの言葉をぶつける。

「……いや、いきなり何だお前は。こんな殺し合いの環境で初対面の相手をむやみに近づかせるわけないだろ」

脹相が今の行動をとったのは、もし相手が危険人物だった場合のことを考慮してのことだ。
このまま悲鳴嶼への接触をゆるして、攻撃等をされたら困る。
会話する前に、見た感じで判断しなかっただけのことだ。

「だからってタックルするこたねえだロ!」
「ならまずは名を名乗れ」
「神楽!これで満足カ!」

女…神楽にとっては、理屈は分かっても不満はある。
不安な気持ちが募っていた時に、ようやく会いたかった人物の内一人に出会えたところ、こんな仕打ちを受けたからだ。
神楽は脹相に対し、喧嘩腰になってしまう。

「脹相、今のは私もあまり良いとは言えない。警戒するのはいいが、もっと他のやり方もあっただろう」

悲鳴嶼も脹相を非難する。
わざわざ攻撃的なことをしなくとも、肩などを手で押さえるなり他の方法もあったからだ。
今のようになってしまったのは、そこまでできるほどの余裕が無いくらい近づかれてしまっていたからだ。
それは言いかえれば、反応が少し遅れてしまったためでもある。


「……ああ、悪かった。お前にもすまなかったな、突き飛ばして」

脹相も悲鳴嶼と神楽に対し謝罪する。


「………お前ら、何か距離近いアルな」

神楽は悲鳴嶼と脹相の2人の互いの態度に何か妙なものを感じた。

「まさか、銀ちゃんの体に変なことしてねえだろうな」

神楽も一応、この場においてはたとえ見た目が知り合いでもその中身が違うことは理解できている。
先ほど抱きつこうとしてしまったのは、精神的に不安定になっていたことも要因だ。
少し時間をおいて冷静になれば、仲間の姿をしている者も、ちゃんと別人として見られる。
そして次に気になることはこの自分の仲間…坂田銀時の身体を使っている者が、彼の姿で何か妙なことをしていないかどうかだ。

「………………………い、いや、何も、何もなかった。本当だ」
「……………ああ、その通りだ」

明らかに何か怪しかった。
答えた瞬間、目線がそれていた。
声もどこかどもっていた。
態度もはっきりしている感じがしなかった。


特に悲鳴嶼としては、後ろめたい気持ちがかなり大きかった。
神楽の名は、坂田銀時のプロフィールに確か記載があったと記憶している。
言動から、彼女にとってこの銀時が大切な仲間であることは察している。
ただでさえ、参加者の方の銀時が死亡してしまっているのに、あんなことがあっただなんて言えば相手を怒らせるどころじゃすまないだろう。
だからこそ、先ほど自分達に起きたことは絶対に話せなかった。


「………ていうかお前の体、そのおさげ、まさかハルトマンが言ってたトゥルーデって奴カ!?」

神楽は脹相の姿を見て、前に会ったエーリカ・ハルトマンが語ってた彼女の仲間の特徴に一致することに気付く。

「トゥルーデ……そういえば確かに、こいつのプロフィールにはそんな愛称があると書いてあったな」

脹相はその問いに肯定する。
神楽は目の前にいる二人が、自分やこの殺し合いの場でできた仲間にとって、大切な人の身体を使っていることを再確認する。
さらによく見てみれば、脹相の体には、わずかだが血液のようなものが付着しているのも見える。

「じゃあ、お前らマジで今まで何してたアルか!」

神楽の声がより荒げた感じになる。
今まで大変なことが多く、苦悩も多く、精神的不安定も大きかった状態、
そんな中で、ただでさえ自分が無事を祈っていた者の1人が、何かよからぬことをしていたという疑惑が出始めた。

「そ、それは……」

だが彼らは神楽からの問いかけに対して煮え切らない態度だ。
何か後ろめたいことがあると言っているも同然だ。
それで神楽は、2人に対し責めているかのような感じになる。


980 : Ψ悪の展開を想像して ◆5IjCIYVjCc :2022/09/20(火) 22:47:05 7Odujtrw0

◇◇◇◇

「ピ、ピカ?(え、何あれ?痴話喧嘩?)」

先ほど目覚めたばかりで、まだ寝ぼけまなこな善逸は初見の3人の話について行けてない。
何か、一人の男を巡って女二人がもめているように見えなくはない気がする。
女二人が結構際どい恰好をしていることもあり、そこにいる銀髪の男に対し何か羨ましいかもという思いが少し出てくる。


「お、おい…ちょっとあんたら…」

杉元は中々3人の話の中に入ることができなかった。
オレンジ髪の女、神楽が悲鳴嶼と脹相に出会ったのは自分達と同じくここが初めてだということは理解できる。
悲鳴嶼・脹相の身体に関する話をしているようで、それで何やら揉めているようだ。
どうもヒートアップしているようで、自分達のことを3人が気に掛ける余裕が無くなっているようで、話に割り込むタイミングがつかめない。
幸いなのは、彼らの間に殺意は感じなく、ここで殺し合いが起こることはなさそうであることぐらいだろうか。


そんなタイミングで、この場における登場人物はさらに増えることになる。


「杉元!いるか!………ん?」
「お?なんだあいつら?」

病院内から二人組の男女が出てきた。
ツナギ姿で髪があちこちに跳ねている男、ミュージシャン佐藤太郎の姿をした(天才)物理学者、桐生戦兎。
ポニーテールのアイドル少女、堀裕子の姿をした男子高校生、燃堂力だ。
彼らもまた、ここで初めて会う人物達の存在に気付く。


「あっ、桐生。いや、何かよく分からねえけどこいつらがもめ始めて…」

杉元は戦兎達の存在に気付き呼び掛ける。


「………桐生?まさか、桐生戦兎か?」
「おい、それって確か…」

その名に、悲鳴嶼と脹相が反応する。
それまで神楽への回答に困っていた様子の2人が、この名を聞いた瞬間、少しだけ気を張り詰めた。
自分たちの武装を握る力を強めていた。
注目する相手を、病院から出てきた戦兎の方へと変えていた。

「ちょ、ちょっと…!まだ話は……」

神楽はまだ問い詰めたかったが、2人の様子が変わり、空気も張り詰め、言葉を途中で止めてしまう。


「………あんたら、俺に何か用か?」

戦兎も悲鳴嶼&脹相から自分に向けられる視線に気づく。
2人が、自分に対して少し強く警戒していることを感じ取った。


「ちょっと待てお前ら。今まで何があったかは知らんが、俺達はここで互いに協力できるはずだ」

ここでようやく杉元は仲裁に入る。
空気の緊張感は高まったが、先ほどよいは多少落ち着きがあったため、このタイミングなら自分の話を再開できると判断した。

「あんた、確か悲鳴嶼と名乗ったよな。あんたのことはこいつ…善逸に安全だと教えてもらっている」
「ピ!?(え、こいつが岩柱のオッサン!?)」

杉元は悲鳴嶼に善逸のことを教える。
それと同時に、ようやく善逸は銀髪の男が自分と同じく鬼殺隊の人間であったことを認識する。

「……その珍妙な生物があの我妻善逸、なのか…?」
「ピッ、ピカ…(あっ、はい…)」

悲鳴嶼は少し信じられないような目で善逸を見る。
善逸はその言葉に対し、とりあえず肯定を示すために首を振る。


「とにかく、俺達は一旦落ち着いて話するべきだ。とりあえずこんなところで続けるのも何だし、中に入ろう」

この場において、全員がそれぞれ殺し合いをするつもりは無いであろうことは感じ取っている。
ならば、後は杉元の言う通りにするべきだ。
気になることはまだあるが、それらもまた室内で行うことになる。



◆◇◇◇◇◇◇◆


「皆さ…………ん?」

柊ナナは病院内の入口に近いロビーまで移動してきた。
そこに自分が行動を共にしている4人が集まっていたため、声をかけようとする。
そこで、自分が初めて見る者が3人増えていることにも気づき、出そうとしていた言葉が止まる。

「ああ、柊か。待っていたぞ」
「彼…いや、彼女があなた方の最後の同行者か」
「…どうも、初めまして。柊ナナです」

ナナの登場に皆が反応し、戦兎と悲鳴嶼が声をかける。


981 : Ψ悪の展開を想像して ◆5IjCIYVjCc :2022/09/20(火) 22:48:09 7Odujtrw0


「あの…これは今、どんな状況ですか…?」

ナナは皆の様子が(燃堂を除き)どこか妙だと感じる。
何というか、空気が少し重い。
具体的に言えば、頭を抱えているようだ。


「とりあえず、まずは柊にも教えてやらないとな」





先に言ってしまえば、ナナが離れている間に話はだいぶ進んでいた。
悲鳴嶼、脹相、神楽の自己紹介を簡潔に済ませ、次は彼らのこれまでの動向についての話に進んでいた。

初めに、一人でここに来た神楽の話から始めることになった。
彼女がこれまで誰と出会い、どんなことが起きたか、彼女はどうしたいかの話になった。

信頼できる人物として、伊藤開司、広瀬康一、ニコ・ロビン、ゲンガー、エーリカ・ハルトマン、アルフォンス・エルリックの名が挙げられた。
危険人物として、メタモンの名が挙げられた。
名前もスタンスも分からない者として、巨大な昆虫の姿をした参加者の存在の話もした。

またついでに、ゲンガーとメタモンはポケモンであること、そこにいる善逸の身体のピカチュウもポケモンの一種だとゲンガーから聞いたことを教えた。
何故そんなことを聞いたのかと言うと、前放送のボーナスとは別にゲンガーへの支給品として参加者の身体側だけの名が載っていた名簿があったことを話した。
ハルトマンからゲルトルートのことを聞いたのもこのためだと説明した。
なお、その実物は現在はカイジが持っているはずのためここにはなく、そこに載っていた名前も全員分覚えているわけではないため、今はここまでしか話せなかった。

カイジ〜ハルトマンまでの5人とは東端近くで出会ったこと、
6人で相談の結果治療手段の確保のために最初はカイジと康一の3人で向かっていたこと、
途中、メタモンに遭遇し、襲われ、ゲンガー、ロビン、ハルトマンの3人への注意喚起のためにカイジと一先ず別れたこと、
その後康一と2人で移動していた時に巨大昆虫に遭遇し、襲われ、そいつを止めるために康一とも別れたこと、
最後にアルフォンスに遭遇し、彼から危険人物が康一の向かう先の村にいるかもしれないこと、巨大昆虫が本当は殺し合いに乗っていないのではという可能性を聞いたことを伝えた。

そして彼女の希望としては、自分の本来の仲間である志村新八を探したいこと、
それともし康一がここに来るのが遅れた場合、心配だから念のためC-5の村に向かいたいと話した。


◇◇

次に、悲鳴嶼と脹相の話が行われた。

悲鳴嶼はこの殺し合いが始まった当初、この病院内で目覚めたことから話は切り出された。
この場所で、彼は自分の本来の仲間である胡蝶しのぶに再会できたこと、
それからしばらくして、デビハムがこの病院にやってきたという話になった。

そのデビハムから、『桐生戦兎と大崎甜花は殺し合いに乗っている』と聞いたこと、
その後、地図に竈門家という施設が新たに記されていることに気付き、この施設の名に自分の仲間と同じ姓が入っていたため、善逸含め、自分の他の仲間達が向かうかもしれないと考えたこと、
だがそれとは別に、ここから南西にある街の方が人がいるかもしれないとも考えたためしのぶとデビハムとは二手に別れたことを話した。

そして脹相とは竈門家で出会ったこと、
脹相は悲鳴嶼に会うまで誰とも出会えなかったこと、
その代わり、脹相は山の中で零余子であった、遠坂凛の身体の死体を発見し、そこから首輪を解除に役立つかもしれないと考え回収したこと、
体についている血はその時のものだということ、
死体を作り出した下手人は誰なのか、どこに行ったのかも分からない、おそらく山よりは東側にいるかもしれないこと、
零余子が鬼という人にあだ名す存在であるため、もしかしたら先に仕掛けたのは零余子の方かもしれないことを話した。


ここまで話して、そこから戦兎達の話とのすり合わせが行われた。


◆◇◇

最初に悲鳴嶼、脹相、そして神楽の疑問として出てきたのは、デビハムの話と今の状況の矛盾についてだ。
デビハムは戦兎を危険人物だと語ったが、今ここにいる戦兎は明らかに殺し合いに乗っていない。
それだけでなく、戦兎と一緒にいたはずの甜花もここにいない。

これについての話になった時、戦兎は「最悪だ…」と呟いた。
杉元や善逸も『これはまずいんじゃないか…?』といった旨の反応をした。

ナナがここに着いた時に皆の様子が少しおかしかったのも、このことに由来していた。


982 : Ψ悪の展開を想像して ◆5IjCIYVjCc :2022/09/20(火) 22:52:27 7Odujtrw0

戦兎は知っている、本当に殺し合いに乗っているのは、背中から羽の生えた天使姿の少年、デビハムの方であることを。名前の方は今知った。
杉元達も知っていることとしては、しのぶ達が向かったここから南西の街には、DIOというかなりの危険人物がいることを。
そして甜花は、最初は戦兎と共に行動していて(デビハムに襲われたのもこの時)、PK学園でナナ・燃堂と合流するまで一緒にいたが、
DIOに何らかの方法で洗脳されて自分たちの敵になってしまったことだ。


そう、ここで問題となることは、胡蝶しのぶは明らかに命に関わるレベルの危険な状況にある可能性が高いことだ。

まず、本当の危険人物であるデビハムと2人きりで行動させてしまったことからまずいことだ。
下手をすれば、悲鳴嶼と別れた後にどこかで襲われていてもおかしくない。
前回の放送ではしのぶの名が呼ばれていないため、少なくとも別れた直後に襲われているとか、襲われたとしても殺されていることはない。
しかしその可能性を潰しても、街に入ってから油断したところを背後から…何てこともまだ想像可能だ。

デビハムと2人でいる間は、もしくは一人になってから大丈夫だったとしても、もし街中に入り、DIOに遭遇した場合を考えるとやはり安心なんてできない。
DIOと戦うことになり、敗北して殺される可能性は考えられてしまう。
ただでさえ今のDIOは単体でもスタンドと仮面ライダーの力を持つのに、それに加えて洗脳した甜花や謎のオランウータンを味方につけている。
それにもしかしたら、デビハムがDIOの力を理解して、しのぶを裏切って攻撃するなんてことも想像できる。
洗脳状態の甜花とデビハムが相容れられるかどうかはともかくとして、平気で嘘をつく性格のデビハムが強者に媚を売るなんてことは考えられなくもない。
デビハムの本当の気持ちについてはここにいる者達は結局のところ分かっていないため、このような可能性も挙げてしまう。

戦兎達はPK学園からここまで、DIOから逃げてきた。
そして、地図の仕組み上しのぶは街に入った後、人がいる可能性のあるPK学園に向かうだろう。
そのDIOがそのままPK学園に留まっているかどうかは分からない。
運よくDIOと遭遇することは無く、デビハムと争うことも無く、まだ全然無事な状態である可能性も一応は考えられる。
しかし、その逆の最悪の可能性だって、消えてはいないのだ。


「すまない。私はやはり、今すぐにでも胡蝶の下へと向かいたい」

悲鳴嶼はそんな行動をとることを希望として出した。

しのぶが現在ピンチになっていることは、自分にも責任があると悲鳴嶼は思っている。
このままみすみす彼女を死なせてしまうなどと考えてしまうと、落ち着いてはいられなくなる。

できることなら、もう少しこの場で全員で話し合いたいとは思っていた。
知っていることを全て共有し、主催陣営の目的等の考察といったこともじっくり行いたかった。
だが人の命が、それも仲間のものが今すぐにでもかかっている状況となればうかうかしてはいられない。
せっかく殺し合いに反抗しようとしている者達に数多く合流できたにも関わらず、親睦を深める時間すら惜しくなってしまう。


「それなら、俺達も一緒に行こう」
「ああ、俺も同意見だ」
「…ピカッ!」

杉元と戦兎、そして善逸は悲鳴嶼の要望に合わせ、自分も胡蝶しのぶの迎えを共にすることを申し出る。

杉元の身体の傷は既に完治したと言っていい状態だ。
それに、杉元はDIOとはもう2度も戦っている。
ここにいる8人の中では最もDIOに対して因縁がある。
何にせよ、せっかく出会えた殺し合いの打倒に協力できるかもしれない者を放ってはおけない。

そして戦兎は、この殺し合いの舞台で最初に出会い、自分が助けになると決めた甜花をDIOに洗脳されてしまっている。
甜花をDIOから取り戻し、元に戻すためにも、今後もDIOとの戦いは避けられない。
自分のダメージはまだ完治しているとは言い難いかもしれないが、遅かれ早かれ行動しなければならないことに変わりはない。
今している話はあくまで胡蝶しのぶの救援が目的であるため、すぐにDIOと甜花をどうにかできるわけではないかもしれない。
しかしどちらにせよ、ラブ&ピースの為に戦う仮面ライダーとして、ここで動かないという選択肢はない。


983 : Ψ悪の展開を想像して ◆5IjCIYVjCc :2022/09/20(火) 22:54:01 7Odujtrw0
善逸も当然、しのぶを助けに行く道を選ぶ。
胡蝶しのぶは無限城での決戦において善逸のあずかり知らぬところで上弦の鬼との戦いで死んでしまった。
あの戦いの時、善逸は自分の"兄貴"との決着をつけなければいけなかった。
もし"アイツ"が鬼にならなければ、自分がしのぶを含めた無限城での鬼殺隊の仲間達の犠牲を減らせたのかは分からない。
だとしても、また同じように自分の知らないところで仲間が死ぬのは嫌だという気持ちは変わらない。
煉獄杏寿郎は結局、善逸がその存在を全く把握しないまま、また善逸の気づかぬ間に命を落としていた。
それと同じことは繰り返したくない。
今の身体のまままたDIOといった危険な存在達と戦うことには一応恐怖はまだまだある。
しかし、悲鳴嶼行冥とは再会できた。
ならば自分も、鬼殺隊士として今は恐怖を押し殺す。完全にはまだ難しいが。


「じゃあ、私も一緒に行くネ」

神楽もまた、悲鳴嶼達に同行することを願った。

「……いいのか?志村新八や広瀬康一…君の仲間達は心配じゃないのか?」
「そりゃ心配なのは変わらないアル。でも、あんたに銀ちゃんの体を下手に使われても困るネ。それに、もしかしたらあいつらはあいつらで何とかしてるかもしれないネ」

神楽がついて行くことを決めたのは、何も見知らぬしのぶという名の女のことが新八達よりも心配になったわけじゃない。
まあ、しのぶが本当に殺し合いの打倒に協力できる良い奴であるならば、そんな風に困っている人を助けに行くくらいやぶさかではない。
しかし、悲鳴嶼と脹相のことを本当に信用していいのかどうかという思いが神楽の中にはまだあった。
悲鳴嶼に銀時の身体を妙なことに使ってないか聞いた時、正直かなり怪しい感じがする答え方だった。
結局このことについては色々あってうやむやになっている感じがするが、怪しい反応をしたことを無視するわけにはいかなかった。
だから、監視も兼ねて彼らに着いて行こうと思った。

新八を探したいことや、康一が村にたどり着いて危険人物と遭遇する可能性についての心配の気持ちはまだある。
しかし新八については結局のところ、どこにいるのかの手がかりもない。
康一については前にアルフォンスに語った様に、彼自身の強さを信じて無事でいることを信じるしかない。
とにかく、神楽としてもここは悲鳴嶼達と共にここから南西の街に行くことにした。


◆◇

話は大体、皆で街に向かう方向で進んでいた。
まだこの話題について発言していない者達も、すぐにでも一緒に行く感じの空気になっていた。
しかしここで、この雰囲気に対し異を唱える者が現れる。

「……すみません、私はここで待機させてください」

ナナだけは、この病院で待つことを申し出た。

「何だ、怖気着いたのか?」
「…まあ、そう思ってくださって構いません。実際、私が行っても上手く戦えない、足手まといになるかもしれないと思ってのことですから」

脹相からの質問に対し、ナナは答える。
この部分に嘘は無い。

「確かに私は、戦うための訓練をしていましたが、結局はまだ訓練の段階ですし、自信もありません」

この部分には一応嘘は含まれている。
ナナは能力者を殺すための訓練は既に履修済みだ。
全く戦えないわけではない。
まあ、真正面から戦える自信は確かにあんまりないが。

しかし結局のところ、この理由は建前だ。
何だったらナナは、そもそもの話として、みんなして南西の街に向かうべきではないと思っている。


皆は胡蝶しのぶの救援に向かいたいようだが、"手遅れ"になっている可能性だってある。
味方になれる者が1人もいないなら、この可能性の方が高いだろう。
もしかしたら、他の皆もこの可能性自体には気づいているかもしれない。
それを口に出さないのは、わずかにでも希望を無駄にしたくないからだろうか。

それに、この殺し合いでは6時間ごとに放送が行われる。
前回の放送は午前6時に行われたはずだ。
そして、病院内にある時計にちらりと目を向けてみれば、次の放送が行われる正午まで残り数十分程度だ。
しのぶがまだ生きているかどうかは、もうすぐ分かるはずなのだ。

しかしこういったことを口に出せば、人の命がかかっているんだぞとか何とかで、余計な反感を買うかもしれない。
だったら、怖気づいた・自信が無いという風にした方が、まだ減少する信頼度の量は比較的少ないだろうと判断した。

DIO達と戦うにしても、本当にこの戦力で充分であるかどうかもまだ不明瞭だ。
どうせ戦うにしてももっとよく相談してからの方が良いだろうが、それで放送の時間が来て、手遅れだった場合に責められたらたまったもんじゃない。
それに、この病院でやりたいことはまだある。
考えをまとめる時間が欲しいのだ。


984 : Ψ悪の展開を想像して ◆5IjCIYVjCc :2022/09/20(火) 22:55:58 7Odujtrw0


「戦兎さん、"あの事"については話しましたか」
「…いや、まだだ」

ナナは戦兎に小声で耳打ちした。
"あの事"とはもちろん、先ほどの脳内に現れた斉木楠雄についてだ。
戦兎が皆にこれを話せなかったのは、単純に話すタイミングが無かったためだ。
あの後結局斉木楠雄との話はどうなったかについては、戦兎も気になっている。

「おい、急にどうした?何の話をしてるんだ?」

周りは当然、急に戦兎に耳打ちしたナナの行動に疑問を持つ。


「実は皆さんに話したいことがあったのですが…これはどうしても時間がかなりかかってしまう話なんです」

ナナは、斉木楠雄のことについては今はぼやかすことに決めた。
本当ならここで今すぐ話そうと思っていたのだが、情報量の多さや、身体側の精神の存在といった明らかな一大事は確実に話が長くなる。

「この話はおそらく皆さんを混乱させて、しのぶさんの救援にも支障をきたしてしまうと思うので、戦兎さんもまだ何も話さないでほしいです。終わったらすぐにここに戻ってきて、その時に話しましょう」
「……なるほど、確かにそんな考え方もあるか。皆、気になるかもしれないが一先ずはそういうことにしてもいいか?」

「…まあ確かに気になるが、今は人の命がかかっているもんな」

杉元は自分と善逸が見張りしている間に何かあったのかと思うが、その何かにあった本人たちがそう言うならと、ここでの追及は止める。
他の者達もまた同じだった。

◇◆

「それと、燃堂さんもここに残るべきだと思います」
「お!?なんでだよ!?」

突然のナナの発言に対し、燃堂は声を荒げる。
これまでの話を、燃堂は完全には理解できてない。
けれども何となく、しのぶという名の人物を助けに行くみたいだってことくらいは、感じ取っているようだった。
彼も一応善性を持っている側の人間のため、これに対し乗り気であったみたいだが、急に止めた方がいいと言われ驚いた。


「いや、だってあなたは……えっと…」

ナナが燃堂をここに残したいと言ったのは、彼も向かわせたら余計なことをしないか心配してのことだ。
下手すれば、もし戦闘が起きたとして、その際に勝手な行動をして誰かに殺されるか、もしくははぐれて行方不明になる可能性が高い。
相手をするのは正直かなり疲れるが、こいつは自分が監視してなければならない奴だ。
斉木楠雄は語った、こいつを消した結果斉木楠雄が悪役になった世界が生まれたという話を。
その話の真偽は分からないが、この燃堂を下手に自分の手元から離すのはまずいことかもしれないと感じている。

ただ、そういった思惑を持って燃堂に提案の訳を説明しようとすると、自分と同じように足手まといになりそうだとか、そういったことしか言えない。
そう言おうと思った直後で、こいつがそれで納得するような奴なのかと思い、言葉が詰まった。


「燃堂、お前にもこの病院の見張りを任せたい」
「お?」

ナナが少し迷っていると、代わりに戦兎が話し始めた。

「ここは病院だ。治療手段の確保のために誰か来るかもしれないだろ?康一って奴も後から来るみたいだしさ。そんな時に誰かがいた方がいいかもしれないが、一人より二人いる方が殺し合いをどうにかするために協力できるって思わせられるかもしれねえだろ?」
「お?」

戦兎も何となく、ナナの思惑を察していた。
そして確かに、燃堂に関してはここで待たせていた方が安全かもしれないと思っていた。
もしかしたら、今のナナの発言は斉木の助言を受けてのことなのかもしれないとも考えていた。
実際には、彼はもういないことを知らずに。

燃堂力という人物は一応高校生であるとのことだが、これまでの言動から、失礼かもしれないが扱い方は小学生くらいに対するものの方がいいかもしれない。
今の説明も、少し難しかったのかあまり理解できているように見えない。


「…いや、そうとは限らないのでは……」
「しっ、今はあいつらに任せた方がいい」

悲鳴嶼が戦兎の意見に口を挟もうとするが、杉元がそれを制止する。
杉元はナナ・戦兎程燃堂と共にいたわけではないが、彼が何か妙な程いわゆる"馬鹿"であることや、今からやることに彼がついて行けないかもしれないことは何となく察していた。


「まあとにかく、お前にはお前の役割があるってことだ。胡蝶しのぶについては俺たちに任せろ。もしかしたら、お前の相棒って奴もまたここに現れるかもしれないぞ?」
「……おお!そーなんか!」

燃堂は一応戦兎の言葉に納得した様子を見せる。
実際にどこまで分かっているのかは定かではないが、自分もこの病院に残ることは了承してくれたようだ。


◆◇◆


985 : Ψ悪の展開を想像して ◆5IjCIYVjCc :2022/09/20(火) 23:00:06 7Odujtrw0

こうして話がある程度までまとまり、すぐにでも6人が病院を出ていきそうになったその時、ナナが手を挙げた。

「……あの、正直言いにくいことなのですが、実は、もう一人この病院に残って欲しいと思っています。もしものことがあったら心配なので、護衛として…」

ナナの最後の申し出は、病院に残るメンバーについてだった。

そしてナナの考えとしては、この場には戦兎を残しておきたかった。
理由としては、やはり先ほどの出来事の情報共有や相談をしておきたいこと、
少しまでなら事情を把握しているため話がある程度スムーズになること、
「かめ」から連想できるあることについて、戦兎なら知っていることが多いかもしれないこと、
そして先ほどの話にあった脹相が回収できた首輪、その解析を頼めるかもしれないからだ。

仮面ライダーへの変身を可能としている戦兎は戦力的な価値も高い。
物理学者として技術力を持っている点からも、なるべく自分から離して戦いに向かわせたくは無かった。
戦兎もまた、ナナにとっては下手に死んでもらわれたら困る相手だった。

しかしここで、その希望が叶うことは無かった。
戦兎より先にその申し出に応えた者が出たからだ。

「ならば、俺が残ろうか」

そう言い出したのは、脹相だった。


「え?いや、ちょっと、何でですか?」

ナナはつい反射的に聞いてしまう。

「実はさっきから険しい視線を受けていてな。少々居心地が悪いと思っていたところだ」
「…それ、私のことカ?」
「さあな」
「まあ、そうしたいなら別に私もそれでいいと思うネ」

脹相は先ほどから、神楽から自分に対する視線が厳しいと感じていた。
彼女が自分をいまいち信用できていないと感じていた。
だから、今のナナの申し出に自分が乗り、少し神楽から離れようかと思った。

神楽としても、別に脹相の提案を反対するつもりはなかった。
確かに脹相の身体は、彼女がこの島で得た仲間の一人であるハルトマンの仲間のものだが、それは銀時のものほど監視にこだわる理由にならない。
無事ならまあそれでいいくらいのものだ。
そんな風に考える中、(中身が男とはいえ)この女が銀時の身体から離れるという事実に、心の片隅でどこか安心している気持ちがあることを、神楽は自覚していなかった。



「だがこうは言っても、実は俺も戦力には少々自信が無くてな。ユニットというものがあれば話は別だが…」
「ん?それってもしかして…」

脹相の心配事に対し、杉元が反応した。


「あるぞ!多分それっぽいものが!」
「でかした」

脹相が求めていたアイテムが、杉元への支給品の一つにあった。
杉元はデイパックからそれを取り出し、脹相の前に置いた。

それは、実際のゲルトルート・バルクホルンも使用していたストライカーユニットだ。
そのユニットはフラックウルフFw190、そのプロトタイプのD-6型だ。


「そう言えばあんたの持っているその銃(有坂銃)、もしかしたら俺の方が使えるかもしれねえ。俺は軍にいたからな。何だったらもっと使いやすそうなのと交換…」

「待って、待ってください。あの、私としては戦兎さんに残って欲しいのですが…」

脹相が残る方向で話が進む中、ナナは割り込んだ。
ナナとしては、今が初対面の人物に残られても困ることだった。
斉木の話だったり、考察したりするにしても余計な手間がかかるだろうからだ。
ナナは杉元と脹相の話を遮り、戦兎の方の様子を見る。

そして戦兎は少し考え込む仕草を見せた後、答えを出した。

「…いや、やはり俺も街の方に行きたい。もしDIOと戦うことになる場合の戦力として俺は必要になると思うし、それにもし甜花を取り戻せた場合、元に戻すために試してみたいことがある。俺としてはむしろ、柊も一緒に来てほしいと思っているんだが…」
「……ごめんなさい。私もやはり行けません」
「まあ、無理強いはしない。これ以上ここで時間もあまりかけていられないし、これで行こう」

戦兎としても、ナナから目を離すのはどちらかと言えば避けた方がいい気はしている。
けれども、しのぶの命やDIOや甜花と戦うことになった場合の事等を考慮して、この結論を出した。
それに、ナナのことを怪しいと感じでいたのは、最初の態度が何かおかしいような気もしていたからかもしれない。
明るさがどこかわざとらしく、何というか、仮面を被っているような感じがした。
今はその面が少し鳴りを潜めているため、一旦彼女から目を離すという判断をとることができたのだろうか。


986 : Ψ悪の展開を想像して ◆5IjCIYVjCc :2022/09/20(火) 23:01:09 7Odujtrw0
しかしどちらにせよ、ナナ達から離れる時間は短い方がいいだろう。
しのぶの救援も短時間で済ませなければならない。
皆は口に出していないが、"手遅れ"だった場合もまたすぐに戻らなければならないだろう。
他にある課題としては、しのぶを助けることができてもDIO問題を解決できない場合、DIOに自分たちの追跡をさせないことが挙げられる。
如何にせよ、自分たちはかなり困難な道を行こうとしている。
斉木楠雄についての話の続きも、これを乗り越えなければできないだろう。
"手遅れ"であるならばすぐにでもできることになるだろうが、人としてその可能性を望むわけにはいかない。

◇◇◇◆◆◆◆◆

その後は、支給品についての話があった。
まずは先ほどナナが割って入った杉元と脹相の銃についての相談から始まった。
脹相が装備していた三十年式歩兵銃は、やはり杉元の方が使い慣れているということで、これは杉元の方が持つことになった。
その代わりになるのは、神経断裂弾入りのコルト・パイソン6インチか松平の銃のどちらかということになった。
そしてこれから戦うことになる可能性が高いのは杉元達の方であるということ、神経断裂弾を使える方が強そうであるという話になり、脹相に渡すのは松平の銃になった。

それから、街方面に向かう5人のために乗り物を用意することになった。
そのためナナの持つサッポロビールの宣伝販売車が要求され、これに5人が乗り込んで移動することになった。
戦兎には一応バイクのライズホッパーがあったが、5人の中で一番車を運転できそうなのが戦兎という話になったため、彼も一緒に乗ることになった。



「そうだ、大崎甜花と言えばこんなものがあった」

病院の外で皆が集まった時、脹相は思い出したかのように戦兎にある物を投げ渡した。

「これは…」
「そいつは大崎甜花の私物らしい。はっきり言って何かの役に立つとは思えないが、一応お前に渡しておく」

それは紫色をした悪魔モチーフのマスコットキャラクターのグッズ、デビ太郎のぬいぐるみクッションだ。

「………」

これを見て戦兎は思う、彼女をやはりあのDIOの下に置いてはいけないと。
ぬいぐるみを持っているといったことは彼の仲間の一人だった石動美空にもあった。
それくらい、一般的な女の子には普通によくある趣味と言えるだろう。
そして彼女は、自分たちとは違い普通の平和な世界で過ごしてきた。
アイドルという特殊な立場にはあったが、それを加味しても真っ当な人生は送れていたと思われる。
このぬいぐるみはもしかしたら、そんなものを象徴しているかもしれない。
これを甜花に見せたとして、反応を得られるかどうかは分からない。
しかし何にせよ、このまま彼女に手を汚させかねない状態でいさせるわけにはいかない、彼女は絶対に元に戻さなくてはならない。
ぬいぐるみを見て、戦兎はその決意をより固めた。

◆◆◆◆◆

その後も少しだけ話し合いはあった。
もし5人がいない間に、対処できないほどの危険人物が来て3人が病院から離れなければならない場合どうするかについてだ。
その場合は脹相が2人を抱えて空を飛んで逃げ、他5人との合流を目指すということになった。


話が終わった後、5人は別れの挨拶を最後にビール瓶の車に乗って病院から去って行った。


◇◇◇



「……行ってしまいましたね」
「おーい!気ーつけてなー!」
「………」

病院に残ることになった3人もそれを見届ける。


「…脹相さん、と言いましたか。あなたに先に話しておきたいことがあります」
「そういえば、そんな話もあったな。中でゆっくり聞こうか」
「はい…もしかしたら途中で放送で中断されるかもですが…」
「それほどなのか」
「お?何の話だ?」

ナナは戦兎達に話そうと思っていたことを先に脹相に話すことにした。
相手に事前知識のない分、説明には時間がかかることになるだろうが、こうなっては仕方がない。
せめて5人が戻ってきた時のために話をスムーズにできるようにできることをしておくしかないだろう。


987 : Ψ悪の展開を想像して ◆5IjCIYVjCc :2022/09/20(火) 23:02:31 7Odujtrw0


最後に、ナナが斉木楠雄から得られた最後の情報について、少し落ち着いて考えた結果、気付いたことについて述べる。

斉木楠雄が最後に残したキーワード「かめ」。
この二文字から始まる単語には、ナナがこの殺し合いで初めて知り、それに関連する人物とも関わりを持てたものがある。

その単語とは、「仮面ライダー」である。

そのことに気付いた時、ナナにはあることが思い浮かんだ。
もし斉木楠雄が伝えたかった言葉が仮面ライダーであるとして、ならば斉木は何故この言葉を残そうと思ったのだろうか、
いや、そもそもの話として、斉木は何故予知夢で見たものを仮面ライダーだと思ったのだろうかと。
そこから導き出される答えが、一つある。


それは斉木が見たものが、ナナと一緒に殺し合いの過程で見た仮面ライダーの内のどれかと、同じ姿をしていたんじゃないかということだ。


最初に戦兎が変身して見せた姿、仮面ライダービルド(正確にはディケイドビルド)。
甜花が変身した姿、仮面ライダー斬月。
DIOが変身していた姿、仮面ライダーエターナル。

現在のところ、ナナが姿を目撃した仮面ライダーはこの三種類だけだ。
斉木が知っているのも同じはずだ。
そしてもし「かめ」=仮面ライダーだとして、この情報を主催陣営が隠そうとする意味を1つ、思いつく。


それは主催陣営の誰かが、殺し合いの未来で、この3種の仮面ライダーの内のいずれかに変身するのではないかということだ。


戦兎、甜花、DIOの三人が変身できたのは、結局のところ主催側が支給品として変身アイテムを用意していたからだ。
ならば、主催陣営も彼らと同じライダーに変身できる手段を用意していたとしても何ら不思議ではない。
斉木が見たものが参加者が変身した姿だとしても、それならば何故それで斉木が消されたのかがよく分からなくなる。
そうだとした場合、それが表すのは単に支給品の変身アイテムが未来でも無事であること以外の意味は思いつかなく、それを主催が隠す意味はあるのかと思ってしまう。

これが答えであるかどうかは分からない。
「かめ」の意味にだって他のものがあるかもしれない。
3つのライダーの内のどれかに変身できたとして、主催陣営にどんな意味があるのかも想像つかない。
そのためにも、仮面ライダーに詳しい戦兎とよく話し合いたかったが、それは延期されてしまった。
せめて近いうちに戦兎とその話ができることを祈りながら、ナナは他2人と共に病院内に戻っていった。


988 : Ψ悪の展開を想像して ◆5IjCIYVjCc :2022/09/20(火) 23:04:55 7Odujtrw0
【D-2と3の境界 聖都大学附属病院の外、車内/昼】


【神楽@銀魂】
[身体]:ナミ@ONE PIECE
[状態]:ダメージ(小)、膝に擦り傷、銀時の死による深い悲しみと動揺(少しずつ落ち着き始めている)、精神的疲労(中)、悲鳴嶼・脹相に対し少し不信感
[装備]:魔法の天候棒@ONEPIECE
[道具]:基本支給品、仮面ライダーブレイズファンタステックライオン変身セット@仮面ライダーセイバー、スペクター激昂戦記ワンダーライドブック@仮面ライダーセイバー
[思考・状況]基本方針:殺し合いなんてぶっ壊してみせるネ
1:悲鳴嶼と一緒に行動、銀ちゃんの身体を下手な使い方はさせないネ
2:新八、もう少し待っててほしいネ
3:カイジ、康一、気を付けていけヨ
4:メタモンの野郎…今度会ったらただじゃおかないネ
5:あの虫(グレーテ)は……
6:DIOが仮面ライダーとかどうとか言ってたみたいだけど…何か色々話しそびれたネ
7:私の身体、無事でいて欲しいけど…ロビンちゃんの話を聞く限り駄目そうアルな
8:銀ちゃんを殺した奴は絶対に許さないネ
[備考]
※時系列は将軍暗殺編直前です
※ナミの身体の参戦時期は新世界編以降のものとします。
※【モナド@大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL】は消えました。カメラが破壊・消滅したとしても元に戻ることはありません。
※仮面ライダーブレイズへの変身資格を受け継ぎました。
※放送の内容は後半部分をほとんど聞き逃しましたが、アルフォンスから教えてもらいました。
※アルフォンスからダグバの放送が起きた事を聞きました。


【悲鳴嶼行冥@鬼滅の刃】
[身体]:坂田銀時@銀魂
[状態]:疲労(小)
[装備]:海楼石の鎖@ONE PIECE、バリーの肉切り包丁@鋼の錬金術師
[道具]:基本支給品、ラッコ鍋(調理済み・少量消費)@ゴールデンカムイ、病院で集めた薬や包帯や消毒液
[思考・状況]
基本方針:主催者の打倒
1:街にいるしのぶの救援に向かう。
2:神楽には自分たちに何が起きたのかは話せない。
3:無惨を要警戒。倒したいが、まず誰の体に入っているかを確かめる。
4:デビハムは結局嘘をついていたということか…
5:脹相が危うい行動をしなければいいのだが…一応色々言ってはおいたが…
6:両面宿儺や加茂憲倫とやらについてはしのぶの意見も聞きたい。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※海楼石の鎖に肉切り包丁を巻き付けています。
※両面宿儺や加茂憲倫は鬼の一種なのか?と考えています。
※脹相の境遇は竈門炭治郎に近いものなのでは?と考えています。


【杉元佐一@ゴールデンカムイ】
[身体]:藤原妹紅@東方project
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、霊力消費(小)
[装備]:神経断裂弾装填済みコルト・パイソン6インチ(3/6)@仮面ライダークウガ、三十年式歩兵銃(装弾数5発)@ゴールデンカムイ
[道具]:基本支給品、神経断裂弾×36@仮面ライダークウガ、ランダム支給品×0〜1(確認済)
[思考・状況]
基本方針:なんにしろ主催者をシメて帰りたい。身体は……持ち主に悪いが最悪諦める。
1:悲鳴嶼達と胡蝶しのぶという奴の救援に向かう。
2:あのカエル(鳥束)、死んだのか…。
3:俺やアシリパさんの身体ないよな? ないと言ってくれ。
4:なんで先生いるの!? できれば殺したくないが…。
5:不死身だとしても死ぬ前提の動きはしない(なお無茶はする模様)。
6:DIOの仲間の可能性がある空条承太郎、ヴァニラ・アイスに警戒。
7:精神と肉体の組み合わせ名簿が欲しい。
8:何で網走監獄があんだよ…。
9:この入れ物は便利だから持って帰ろっかな。
[備考]
※参戦時期は流氷で尾形が撃たれてから病院へ連れて行く間です。
※二回までは死亡から復活できますが、三回目の死亡で復活は出来ません。
※パゼストバイフェニックス、および再生せず魂のみ維持することは制限で使用不可です。
 死亡後長くとも五分で強制的に復活されますが、復活の場所は一エリア程度までは移動可能。
※飛翔は短時間なら可能です
※鳳翼天翔、ウーに類似した攻撃を覚えました
※鳥束とギニュー(名前は知らない)の体が入れ替わったと考えています。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。また自分が戦兎達よりも過去の時代から来たと知りました。


989 : Ψ悪の展開を想像して ◆5IjCIYVjCc :2022/09/20(火) 23:06:01 7Odujtrw0
【我妻善逸@鬼滅の刃】
[身体]:ピカチュウ@ポケットモンスターシリーズ
[状態]:精神的疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:殺し合いは止めたいけど、この体でどうすればいいんだ
1:しのぶさんをみんなと一緒に助けに行く。
2:お姉さん(杉元)達と行動
3:しのぶさんは大丈夫かな……無事でいてほしいけど…
4:炭治郎の体が……岩柱のおっさんにも何とか伝えることができたら…
5:煉獄さんも鳥束も死んじゃったのか……
6:無惨を警戒。何でアイツまで生き返ってんだよ!?
7:……かみなりの石?何かよく分からない言葉が思い浮かぶ…
[備考]
※参戦時期は鬼舞辻無惨を倒した後に、竈門家に向かっている途中の頃です。
※現在判明している使える技は「かみなり」「でんこうせっか」「10まんボルト」の3つです。
※他に使える技は後の書き手におまかせします。
※鳥束とギニュー(名前は知らない)の体が入れ替わったと考えています
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。また自分が戦兎達よりも過去の、杉元よりも未来の時代から来たと知りました。
※肉体のピカチュウは、ポケットモンスターピカチュウバージョンのピカチュウでした。


【桐生戦兎@仮面ライダービルド】
[身体]:佐藤太郎@仮面ライダービルド
[状態]:ダメージ(中・処置済み)、全身打撲(処置済み)、疲労(小)
[装備]:ネオディケイドライバー@仮面ライダージオウ、サッポロビールの宣伝販売車@ゴールデンカムイ
[道具]:基本支給品、ライズホッパー@仮面ライダーゼロワン、デビ太郎のぬいぐるみクッション@アイドルマスターシャイニーカラーズ、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを打破する。
1:胡蝶しのぶの救援に向かう。
2:とりあえず今は救援優先、積極的に戦うわけにはいかないだろう。
3:もし"手遅れ"だった場合はすぐに病院に戻り柊達と話をする。だが、それを望むわけにはいかない。
4:斉木楠雄が柊の中にいたのか?何故だ?何か有用な情報を得られればいいのだが…
5:佐藤太郎の意識は少なくとも俺の中には存在しないということか?
6:甜花を正気に戻し、DIOを倒す。あいつの手を汚させる訳にはいかない。
7:他に殺し合いに乗ってない参加者がいるかもしれない。探してみよう。
8:首輪も外さないとな。となると工具がいるか
9:エボルトの動向には要警戒。誰の体に入ってるんだ?
10:翼の生えた少年(デビハム)は必ず止める。
11:柊ナナに僅かな疑念。できれば両親の死についてもう少し詳しいことが聞きたい
12:柊から目を離すべきでは無いと思うが…今はどうにもできないか
[備考]
※本来の体ではないためビルドドライバーでは変身することができません。
※平成ジェネレーションズFINALの記憶があるため、仮面ライダーエグゼイド・ゴースト・鎧武・フォーゼ・オーズを知っています。
※ライドブッカーには各ライダーの基本フォームのライダーカードとビルドジーニアスフォームのカードが入っています。
※令和ライダーのカードが入っているかは後続の書き手にお任せします。
※参戦時期は少なくとも本編終了後の新世界からです。『仮面ライダークローズ』の出来事は経験しています。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※ジーニアスフォームに変身後は5分経過で強制的に通常のビルドへ戻ります。また2時間経過しなければ再変身不可能となります。


990 : Ψ悪の展開を想像して ◆5IjCIYVjCc :2022/09/20(火) 23:07:04 7Odujtrw0
【D-2と3の境界 聖都大学附属病院の中/昼】

【脹相@呪術廻戦】
[身体]:ゲルトルート・バルクホルン@ストライクウィッチーズシリーズ
[状態]:疲労(小)
[装備]:竈門炭治郎の斧@鬼滅の刃、松平の拳銃@銀魂
[道具]:基本支給品、アタッシュショットガン@仮面ライダーゼロワン、零余子の首輪、予備マガジン、フラックウルフFw190D-6@ストライクウィッチーズシリーズ
[思考・状況]基本方針:どけ!!!俺はお兄ちゃんだぞ!!!主催者許さん!!!ぶっつぶす!!!
1:病院で5人が戻って来るのを待つ。
2:柊ナナの話を聞いてみる。
3:殺し合いには乗らない。
4:「出来る限り」殺しは控える。
5:一応悲鳴嶼の言う通り危うい行動はしないよう注意する。
6:あいつ(神楽)には嫌われたみたいだな…
7:両面宿儺を警戒。今は遭遇したくない
8:もし虎杖の肉体が参加させられているなら、持ち帰りたい
9:お前が関わっているのか?加茂憲倫…!!
[備考]
※原作第142話「お兄ちゃんの背中」終了直後から参戦とします。
※ユニット装着時の飛行は一定時間のみ可能です。
※虎杖悠仁は主催陣営に殺されたと考えています。
※竈門炭治郎の斧に遠坂凛(身体)の血が付着しています。
※服や体にも少量ですが血が飛び散っています。
※悲鳴嶼行冥たち鬼殺隊を呪術師の集まりだと思ったままです。
※鬼舞辻無惨は呪霊の一種だと思っています。


【柊ナナ@無能なナナ】
[身体]:斉木楠雄@斉木楠雄のΨ難
[状態]:精神的疲労
[装備]:フリーズロッド@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品、ライナー・ブラウンの銃@進撃の巨人、ランダム支給品0〜1(確認済み)、病院内で手に入れた道具多数
[思考・状況]
基本方針:まずは脱出方法を探す。他の脱出方法が見つからなければ優勝狙い
1:病院にて戦兎達が戻ってくるのを待つ。なるべく早く話をしたい。
2:手遅れならば、待つ時間も長くならないだろう。
3:脹相に斉木楠雄から得られた情報、ボンドルドの出現について話しておく。何をどこまで伝えるべきか…
4:「かめ」とは何だ…?後に続く言葉はあるのか?何か重要なものなのか?
5:「かめ」は「仮面ライダー」なのか?ならば、主催陣営の誰かが変身するということなのか?
6:病院内にいる者達と行動。正直嫌だが燃堂とも
7:変身による女体化を試すべきかどうか…
8:犬飼ミチルとは可能なら合流しておく。能力にはあまり期待しない
9:首輪の解除方法を探しておきたい。今の所は桐生戦兎に期待
10:能力者がいたならば殺害する。並行世界の人物であろうと関係ない
11:エボルトを警戒。万が一自分の世界に来られては一大事なので殺しておきたい
12:天使のような姿の少年、デビハムくんとやらにも警戒しておく
13:可能であれば主催者が持つ並行世界へ移動する手段もどうにかしたい
14:何故小野寺キョウヤの体が主催者側にある?斉木空助は何がしたい?
15:斉木楠雄は確実に殺害する。たとえ本当に悪意が無かったとしても、もし能力の暴発でもして自分の世界に来られたらと思うと安心できない。
16:12のためなら、それこそ、自分の命と引き換えにしてでも…
[備考]
※原作5話終了直後辺りからの参戦とします。
※斉木楠雄が殺し合いの主催にいる可能性を疑っています。
※超能力は基本的には使用できませんが、「斉木楠雄」との接触の影響、もしくは適応の影響で使えるようになる可能性があるかもしれません。
※サイコメトリーが斉木楠雄の肉体に発動しましたが、今後は作動しません。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※貨物船の精神、又は肉体のどちらかが能力者だと考えています。
※小野寺キョウヤが主催に協力している可能性を疑っています。
※主催側に、自分の身体とは別の並行世界の斉木楠雄がいる可能性を伝えられました。今のところは半信半疑です。
※主催側にいる斉木楠雄がマインドコントロールを使った可能性を疑っています。自分がやったかどうかについては、否定されたため可能性としての優先順位は一応低くしています。
※並行世界の同一人物の概念を知りました
※主催陣営が参加者の思考までをも監視している可能性を考えています。


991 : Ψ悪の展開を想像して ◆5IjCIYVjCc :2022/09/20(火) 23:09:31 7Odujtrw0
※「かめ」=仮面ライダーだと仮説した場合、主催陣営の誰かがビルド、斬月、エターナルのいずれかのライダーに変身するのではないかと考えています。

【燃堂力@斉木楠雄のΨ難】
[身体]:堀裕子@アイドルマスターシンデレラガールズ
[状態]:後頭部に腫れ、鳥束の死に喪失感
[装備]:如意棒@ドラゴンボール
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:お?
1:お?
[備考]
※殺し合いについてよく分かっていないようです。ただ何となく異常な場であるとは理解したようです。
※柊ナナを斉木楠雄の弟だと思っているようです。
※自分の体を使っている人物は堀裕子だと思っているようです。
※桐生戦兎とビルドに変身した後の姿を、それぞれ別人だと思っているようです。
※斬月に変身した甜花も、同じく別人だと思っているようです。
※斉木空助を斉木楠雄の兄とは別人だと思っているようです。
※斉木楠雄が病院の近くにいると思っているようです。


【フラックウルフFw190D-6@ストライクウィッチーズシリーズ】
航空用ストライカーユニットの一種。
両脚に装着すると、魔力で発現した飛行魔法を使い、飛行することが可能となる。
内部の魔導エンジンにより魔力を増幅し、より重い銃火器を持つ事や防御シールドを張ることも可能。
これはフラックウルフ社が開発したストライカーユニットで、設計主任が元ウィッチだったことにより、「自分が使うならばどのようなユニットがよいか」という視点が設計に反映されている。
D型は液冷エンジンを搭載している。
ここにあるのは、ゲルトルート・バルクホルンがテレビアニメ1期の頃に実戦テストを兼ねて使用したD-6型プロトタイプである。
杉元佐一に支給。


992 : ◆5IjCIYVjCc :2022/09/20(火) 23:16:58 7Odujtrw0
投下終了です。


993 : ◆5IjCIYVjCc :2022/09/20(火) 23:24:29 7Odujtrw0
現時点を持ちまして、生存している全参加者が早朝の時間帯に移行できました。
ですが、第二回放送についての連絡は調整・準備のため、後日にさせていただきます。
待たせてしまうことになり申し訳ありませんが、どうかご了承願います。


994 : ◆5IjCIYVjCc :2022/09/24(土) 17:59:44 kcIASnhA0
【第二回放送についての連絡】
以前連絡した通り、現時点において生存している全参加者が昼の時間帯を通過したため、第二回放送を行いたいと思います。
日程としては、まず10/1(土)の22:30までを放送前の予約可能期限とします。
まだ放送前に話を書きたいと思うところがあれば、この期限までに予約してください。
予約が無くこの時間を過ぎたら、第二回放送を投下したいと思います。
もし、こちらの都合で遅れが生じそうな場合はまた連絡します。


995 : ◆5IjCIYVjCc :2022/10/01(土) 22:44:29 y2ZK1xq60

予告していた時間を過ぎましたので第二回放送の投下を始めます。

また、今回の話では主催側に追加キャラが登場します。
その出典は既出の参戦作品シリーズに関連するものでありますが、具体的な出典作品名としては初めて出るものでもあります。
そのことをどうか、ご了承願います。


996 : 第二回放送 ◆5IjCIYVjCc :2022/10/01(土) 22:47:29 y2ZK1xq60
一日目、昼の0時、正午。
太陽が南の空の頂点に昇り、島全体を光で照らしている。

ただし、快晴という訳ではなかった。
ところどころ、雲が見られた。

その数が、だんだんと増えてきているようだった。

そんな折に、チャイムが鳴った。
殺し合いの進行状況を伝える定期放送、その第二回の開始を知らせる合図だ。


同時に、島の中央付近にホログラムの形で、そして島中のテレビ等の画面のある機械類に、前回と同様に映像が映し出される。
そこに、一人の人物が映し出される。

そいつは、島にいる者達が初めて見る顔だった。
いや、一部の者にとっては、とても見覚えのある顔だった。

仮面を被ったボンドルドでも、小野寺キョウヤの姿をした斉木空助でもない。

そいつは明らかに人間ではなかった。

白い肌と紫の光沢を持つ頭頂で構成された頭部、側頭部からやや斜め上に生えた二本の角、目の下のまるで筋繊維にも見える模様。
どこぞの怪人か、はたまた異星人か、そんな容姿をした人物だ。

この顔を持つ人物は、知る者が見ればすぐにその名を思い出すだろう。


そいつは明らかに、宇宙の帝王とも呼ばれた男、"フリーザ"の顔をしていた。

通常のフリーザと違うところを1つ挙げるとすれば、地球人の服を着ていることだろう。


『初めまして、殺し合いに参加している皆さん』

フリーザの姿をした者は自己紹介を始める。

『私の名前はハワード・クリフォード。かつては「クリフォード・インダストリーズ」の会長であった者だ』
『私もまた、この殺し合いにおける主催側の人物の一人を担っている』

『そして、私の今の身体の名は「フリーザ」という」
「カントー地方のある伝説のポケモンと名前は似ているが、それとは関係無い』
『君たちの中にもよく知っている者がいるらしいが…今は置いておく』
『今回も話すことは多くあるからだ』



『まずは死亡者等の発表からと言いたいところだが、先に参加者諸君に伝えておきたいことがある』
『実は今、我々にとっても想定外の事態がこの殺し合いで起きている』

『参加者の中に、"身体側の人物の精神の発生"という現象が確認されている』
『その"精神"と接触を果たしている参加者が何名かいることも確認している』
『これは、殺し合いの開始当初においては予測していなかったことだ』
『だが我々は、今はまだ、現状のまま進行させることにしている』
『何かしらの"反応"があるかもしれないため、こうすることを決定した』

『しかし、もしそれらの存在が殺し合いの進行にとって何か不都合を起こすのであれば、"消す"』
『そもそもこんなことが起きないことを前提でこの殺し合いを始めた以上、場合によってはこちら側はそれらの存在を容認できないことになる』
『そのことを、忘れないように』

『前置きはここまでとし、発表に移る』


997 : 第二回放送 ◆5IjCIYVjCc :2022/10/01(土) 22:52:46 y2ZK1xq60



『改めて、まずは死亡者発表から始める』

映像が前回と同じような形に切り替わり、死亡者たちの顔を精神・身体含め映し出す。


『アーマージャック…その身体の名はウルトラマンオーブ・サンダーブレスター』
『アドバーグ・エルドル…その身体の名はヘレン』
『伊藤開司…その身体の名は長谷川泰三』
『エーリカ・ハルトマン…その身体の名は操真晴人』
『貨物船…その身体の名はフォーエバー』
『志村新八…その身体の名はフィリップ』
『シロ…その身体の名は犬飼ミチル』
『デビハムくん…その身体の名は天使の悪魔』
『ニコ・ロビン…その身体の名は大神さくら』
『結城リト…その身体の名はユーノ・スクライア』

『以上、10名がこの6時間での死亡者達だ』

『ふむ…前放送の時より1人減っているようだ』
『残り人数は39人。もう少し、ペースを上げてもらいたいと思ってしまうな』

死亡者発表が終わると、映像は最初の状態に戻り、次の話に移る。

『次は、禁止エリアを発表する』
『今回禁止エリアとなるのは【D-2】【D-8】【E-5】の3か所だ』
『有効になるのは今から2時間後、午後2時からだ』
『近くにいる者達は注意するように』

『念のため言っておくが、今回は施設の一部が禁止エリアの範囲内に入ってしまっているものもある』
『その辺りのことも注意することだ』



『次に、ボーナス等といったこの殺し合いにおける追記事項について説明する』
『まずは組み合わせ名簿について。これは前回の放送でも説明された通り、今回の放送までに新たに誰かを殺害することができた者達に配布する』
『この件についての変更は無い。配るのは今回が最後だ』
『心当たりのある者は放送後にデイパックの中を確認することだ』


『それから、もう発見している者達もいるが、モノモノマシーンという物について説明する』
『これは、何かに役立つかもしれないアイテムをランダムで手に入れることのできる機械だ』
『ただし、利用するためには条件がある』
『君達参加者に着けてある首輪、これをマシーンの中に入れなければならない』
『もちろん、首輪を手に入れる手段は死体から取り外すしかない』
『また、誰かを殺害することに成功した者なら、一度だけならば首輪を入れなくとも利用することは可能となる』
『それから、これを破壊して中身を取り出そうとする行いは許されない。意図的にそのようなことを行った場合は罰が与えられる』
『これらの説明は、マシーンからも音声が再生されるようになっている』
『こいつはとてもふざけた口調で、聞いたら気分が悪くなるかもしれないが、その辺りのことは我慢してもらいたい』

『現在使用可能なモノモノマシーンが設置しているのは、「網走監獄」と「地下通路」の2つの施設内だ』
『それぞれの施設内のどこにあるかについては、自分たちの力で探すことだ』

『本来はもう一つあったのだが…それは今回指定した禁止エリアの範囲に入っている』
『だからどうせ利用できないということで、その場所は伏せておく』
『このように禁止エリア指定で使えなくなることもあるため、利用したかったらなるべく急ぐことだ』


『後は、天気の話をしておこう』
『空をよく見れば分かるだろうが、空に雲が多く出始めている』
『今から一時間もすれば、雲はこの島全体を覆うことになる』
『やがては、雨が降ることになるだろう。それもかなりの大雨だ』
『雨に濡れて風邪を引かないよう、傘なりレインコートなりを探してみたら良いだろう』
『だがもしかしたら、この雨で火事の勢いも弱まり…やがて鎮火することがありえるかも、しれないな』




『最後に、私個人の夢を話す』
『私の夢は、人とポケモンが本当の意味で共に寄り添った暮らしをする世界だ』
『ポケモンというのはとても高貴な生き物だ…そんなポケモンと人類の未来を、私はより良いものに変えていきたい』
『それを実現するために、私はこの殺し合いの運営に参加することを決めた』

『だからこそ、君たちには引き続き頑張ってもらいたい』
『健闘を祈っている』

ハワードのその言葉を最後に終わりを告げるチャイムが鳴り、空中や機械類から映像が消える。
そのまま空を見上げると、頂点に昇っている太陽が、既に雲の中に隠れてしまっていた。
降り注ぐ光は弱まり、島中がだんだんと、今までよりも暗くなっていった。

まるでこれからの殺し合いの行く末を、暗示しているかのようだった。


【追加主催陣営】

【ハワード・クリフォード@名探偵ピカチュウ(映画版)】
[身体]:フリーザ@ドラゴンボール
[備考]
※放送の際に島中に流れた映像の中では、フリーザ第一形態の姿の上に、本来の自分の服装を身に付けていました。


998 : 第二回放送 ◆5IjCIYVjCc :2022/10/01(土) 22:53:57 y2ZK1xq60

◆◇◆

「ねえ、ボンドルド。あんな言い方させて良かったの?」

「おや、どうしましたか?クウスケ」

「身体側の精神の発生ってやつ、あれ、全部が全部想定外って訳じゃないじゃん」
「僕の弟のやつのこととか」

「ええ。ですが、こちらの予想に無かったことが起きたのも事実です」
「宿儺さんとの接触や、ギニューさんのボディチェンジでの発生がそうでした」
「それに、『ボス』からもあのような形で放送するよう指示がありましたからね」

「やっぱり、『電話』があったんだね。想定外のやつの方はどうするって言ってた?」

「対策・制限するようにと言われました」
「あのケースが必要以上に増えるのを防ぐためとのことです」

「まあ、さらに変なことが起きて余計な対応に追われても困るだろうからね。ボスの判断は僕も間違ってないと思うよ」

「…ですが、せっかくのサンプルから手を引かなければならないのは惜しい気持ちがあります」

「僕らの人手だって無限じゃないからね。仕方がないよ」

「ええ…せめて、より良い『結果』が出ることを、祈りましょう」

◇◆◇

【組み合わせ名簿について】
今回、組み合わせ名簿が配布される参加者は以下の通りです。
・エボルト
・ギニュー
・ホイミン
・DIO

【モノモノマシーンについて】
現在利用可能なモノモノマシーンの場所は、以下の通りとします。
・【B-1】網走監獄
・【G-5】地下通路
※網走監獄内のものは、敷地内にある教誨堂の中の地下、ゴールデンカムイ原作においてのっぺらぼうが閉じ込められていた牢屋内にあるとします。
※【D-8】のカジノ内にあったものは、禁止エリア指定に伴い利用不可になります。

【雨について】
午後1時から島全体に大雨が降り始めます。
これにより火事となっている部分は、火の勢いが大幅に弱まるものとします。
また、地上に届く日光も弱まるものとします。
この雨は少なくとも、午後6時までは降り続けるものとし、それまでには火事が鎮火するものとします。


【身体側の精神登場に関する制限について】
以下の要因により身体側の精神が登場することは、今後は起こらないものとします。
・両面宿儺との接触
※例:79話、98話
・ギニューのボディ・チェンジ
※例:101話



[書き手へのお知らせ]
【予約について】
予約についても変更することがあります。
今後は、予約の基本の期限を2週間とします。
また、予約の延長についても変更しようと考えていることがあります。
これまでは延長申請した時点からプラス一週間という形でやっていました。
ですが、今後は延長申請すれば元からの期限にプラス一週間されるようにしたいと思います。


999 : ◆5IjCIYVjCc :2022/10/01(土) 22:56:30 y2ZK1xq60
第二回放送の投下はこれにて終了となります。
予約開始となるのは明日10/2(日)の20:00からにしたいと思います。


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