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Fate/Over The Horizon Part2
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守れない誓いで未来を汚して、
千切れた羽根が生えていた跡を、
指でやさしくなぞるように
wiki:ttps://w.atwiki.jp/hshorizonl/
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【ルール】
・版権キャラによって聖杯戦争を行うリレー小説企画になります。
・主従の数は14〜20弱程度で考えていますが、投下数や構想上の理由で増減する場合がございます。
・通常の7クラス及び、エクストラクラスの投下が可能です。
エクストラクラスでは公式に存在しないクラスを創作していただいても構いません。
【舞台・設定】
・数多の並行世界の因果が収束して発生した多世界宇宙現象、『界聖杯(ユグドラシル)』が本企画における聖杯となります。
・マスターたちは各世界から界聖杯内界に装填され、令呪とサーヴァント、そして聖杯戦争及び界聖杯に関する知識を与えられます。
・マスターたちは基本、召喚と同時に界聖杯内界においての社会的ロールを与えられますが、一切与えられずに放り出されるマスターもいるかもしれません。
候補話を書く際に都合のいい方をお選びください。
・黒幕や界聖杯を作った人物などは存在しません。
・界聖杯内界は、東京都を模倣する形で創造された世界です。
模倣東京の外に世界は存在しませんし、外に出ることもできません。
・本編開始前(コンペ期間)にはマスターをふるい落とす予選が行われています。
登場話で他の主従を倒していただいても構いませんが、その場合倒す主従は必ずオリキャラにしてください。
・界聖杯内界の住人は、マスターたちの住んでいた世界の人間を模している場合もありますが、異能の力などについては一切持っておらず、物語の主要人物にはなれません。
・サーヴァントを失ってもマスターは消滅しません。
【登場話候補作の募集について】
・トリップ必須。
・他所様の企画に投下した作品を流用する場合は、トリップを揃えていただくようお願いします。
・募集期限は「7月15日の午前0時まで」とさせていただきます。
以上でスレ建ての方は完了です。
ルール欄でも明記しましたが、当企画の候補作募集期限をこの度正式に決定させていただきました。
「7月15日の午前0時」で候補作の募集を締め切りとし、採用主従の選考に移ります。
それでは残り期間もだいぶ短くなって参りましたが、引き続き当企画をよろしくお願いします〜〜。
>>1
スレ立て乙です。
クックック……この新スレを待っていたぁ!
それでは、候補作の投下を開始します。
▼ ▼
見上げると、今にもこぼれ落ちてきそうなほどの星影が満ちていた。
ここは奥多摩。寂れた神社の境内には、星影を覆い隠すメガロポリスの灯は届かない。
「……午前2時、ジャスト」
星空を眺めていた少女がつぶやいた。
黒いスカートに黒のケープ。
黒い中折れ帽には、大きな白のリボンがあしらわれている。
宇佐見蓮子もまた、界聖杯の造り出した偽の東京にマスターとして呼び出された一人だった。
クックックッ、と宇佐見蓮子のサーヴァントである青年は不遜に嗤った。
青黒い装束を身にまとい、頭はつばの広い青黒の三角帽子、背中も同じ色のマント。
右手には魔法の杖。誰がどう見ても、彼のクラスはキャスターだと当たりをつけるだろう。
神社の石段を登りくる足音、二人分。すぐに姿を現した。
制服を着た女子学生と、大鎧をまとった武者。
マスターの少女と、セイバーのサーヴァント。
少女が、どうしても界聖杯[ユグドラシル]は譲れないのか、と尋ねてくる。
「譲れない。私には、どうしても界聖杯が必要なのよ。
――そちらこそ、私たちと一時的でも手を組むという話は――」
少女は首を振り、サッとこちらを指差す。
どこか奇妙な既視感のある武者のセイバーが、ギラリ輝く太刀を抜いた。
交渉決裂だな、とキャスターはまた含み嗤う。
両手を広げてふわり宙に浮くと、猛吹雪が巻き起こった。
バリバリガシャガシャと、地面、石畳、大気さえ凍りつかせんとする冷たい響き。
少女とセイバーの主従の影が、白銀の猛威に塗りつぶされてゆく。
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☆ ☆
「クックック……サーヴァント、キャスター。お前に『滅び』をもたらす者だ。真名は……」
「……デカラビア。『ゴエティア』に記された、72の魔神の一柱。
序列は69。30の軍団を率いる侯爵。薬学と宝石の優れた知識を持つ。
ありがたいわね、命令しなくても人間の姿になってくれるなんて。
これも聖杯戦争のルールによるものなのかしら」
「……俺の真名を言い当てる、だと?」
「当たり?ソロモンに封じられし72の『魔神』。あるいは、『悪魔』。
オカルトを志す者にとっては一般常識みたいなものね。
この際、味方が悪魔でも構わない。私は……界聖杯[ユグドラシル]が欲しい」
戸惑っていたのは、キャスターのサーヴァントであるデカラビアの方だった。
私生活のだらしなさそうな、女子学生の一人住まいの散らかった部屋に喚ばれていた。
それはまあいい。――気になるのは、ユグドラシルという単語だった。
「ユグドラシルなら、嫌というほど狩ってきたが……界聖杯、か。
知識として植え付けられてはいるが……俺の知る大木の化け物とは違うのだろうな」
「そう、それよ、それ。私の世界で、ユグドラシルは北欧神話における世界の中心とされる樹だった。
けどそれは神話に語られていただけの話。私のいた現実の世界にそんな樹は生えていない。
北欧に行けばその世界も観測できたかもだけど、なにしろ旅費がなくて……。
だけど、そうじゃなかった。そうじゃなかったのよ、わかる?
全ての次元、ブレーンから集められた、可能性のフードプロセッサー!
それがユグドラシルの真実! まさしく神話に語られる世界の中心!
過去の人には及びもつかない程のスケールだったけど!」
宇佐見蓮子というマスターは、子供がお預け喰らい続けていた玩具をようやく手にした時のようにはしゃいでいた。
キャスターはというと、早くもこの異常なテンションのマスターに辟易しはじめていた。
だから、尋ねた。
「……それで、マスター。お前はどうやってこの聖杯戦争を勝ち抜くつもりだ?
最後の1騎まで俺を勝ち残らせなければ、界聖杯[ユグドラシル]とやらを手にすることはできんのだぞ」
「逃げよう」
急に醒めた表情へと変わった蓮子は、そう言い放った。
▼ ▼
ホワイトアウトした視界の中から、近づく影が一つ。
鎧武者が肩で風切り、太刀を構えてにじり寄る。
マスターを庇ってなお、ダメージはほとんど負っていないようだ。
セイバーというサーヴァントは、高い『対魔力』を有するクラス。
真正面から当たれば、キャスターの勝算は限りなく薄い。
現にキャスター最大の魔術を、大した傷もなく受け止められた。
撤退――。蓮子の脳裏をその二文字が過ぎる。
(ここで退けば、次はない。これまでの準備も全て無駄になるぞ)
制するように、念話が届いた。
☆ ☆
このキャスターの真価を発揮するには、準備が要る。
そして、マスター自身にも訓練が要求される。
キャスターの能力を把握した蓮子は、冷静に判断を下した。
人口密度が過去最高クラスの21世紀初頭の東京都心部で聖杯戦争なんて、キャスターにとって最悪な環境だ。
対魔力を持つ三騎士や、暗殺者とどこでかち合うかわからない。
ここは逃げの一手、他の主従を倒すにしても、万全の態勢を整えなければ勝負にもならない。
そうして蓮子たち主従は、東京都内で最も人が疎らな土地、奥多摩へと逃げた。
炭焼場と思しき、状態の良い古民家を見つけ、そこをひとまずの宿とした。
キャスターの陣地作成もあって、思ったよりは快適な仮住まいとなった。
「ではまず、俺にフォトンを送ってみろ」
「……そのフォトンって言い方も、まずくない?
私の世界じゃそれ、光子、光の粒子って意味よ。魔力って呼べない?」
「……気をつけよう」
キャスターの生まれた世界は地球ではなく、臨界・ヴァイガルドと呼ばれていた。
また、キャスターは人間(ヴィータ――この呼び方も釘を指しておいた)として生まれる前に、
宵界・メギドラルでメギド(悪魔のこと。厳密には違うが)として生を享け、魂だけをヴァイガルドに追放されてきたという。
なんともファンタジーな設定で移動中も散々質問責めにしたかったが、キャスターがぐったりしてきたのでやめた。
とにかく、まずはキャスターに地中から魔力を送る。その訓練だ。
左手に指輪のように絡みついた令呪が、今の私に魔力を視認する能力を与えている。
大地の魔力の輝きが視えるだけで、世界が変わったようだ。
それが『今の』私にとっては嬉しかった。
私の左手の令呪が機能を代替している、キャスターの世界の『ソロモンの指輪』には様々な機能があったという。
地中から魔力を遠隔操作し、キャスターに供給する。
キャスターを遠くから召喚する。(通常のサーヴァントなら令呪が必要なこれを気兼ねなく使えるのは地味に強い)
あとは、魔力を遠くに転送する。これはかなり高等な技術と聞いたのだが――。
「クックック……マスター。随分と覚えが良いじゃないか。ここ数日で魔力の瞬間移動まで身につけるとは」
「そっちはキャスターに持たせたスマホと通信して月が視える時だけしか使えないけどね」
キャスターに褒められた。
私の何代か前に超能力者がいたというマユツバな話は、本当だったのだろうか。
「そろそろ次の段階に進めるぞ」
キャスターが蓮子を連れ出した先には山積みの廃車があった。
心無い業者が、山中に不法投棄したものなのだろう。
「これだけ鉄があれば十分か」
キャスターの左手の指輪を介して魔力がスクラップの山に集まってゆき、まばゆい光に包まれた。
光が収まった時、スクラップは消えていた。
スクラップ跡地でキャスターが拾い上げたのは、手のひら大の黒い結晶体。
よく見ると、結晶の中に盾と思しき像が映りこんでいる。
「オーブを作るぞ。やり方は今、手本を示した通りだ」
▼ ▼
敵のセイバーはそのまますり足でにじり寄り――いつの間にかキャスターに肉薄していた。
剣に生涯を賭けてきた者が為しうる、一流の剣士の足さばき――なのだろうと、素人目にもわかった。
雄叫びを上げ、キャスターの脳天に目掛けて振るわれた太刀――
――は不可視の障壁にごおん、とぶつかって防がれ、その威力を殺されることとなった。
(オーブの発動が間に合ったか……クックック、上出来だ……)
そのままキャスターは拝殿に向かって飛び退いた。
今一度キャスターを切り捨てんと、瞬速のにじり寄りからセイバーの太刀。
胴切りにするはずだったキャスターの姿はフッと消え、石灯籠をじゃりんと切り落とすのみ。
セイバーが左を振り返ると、杖を構えたキャスターの姿。
回りこむように逃げた蓮子が、キャスターを召喚していた。
蓮子が神社の地中から魔力をキャスターに与えると――セイバーの足元から毒霧が爆雷のように吹き出した。
☆ ☆
「それっ」
うず高く積まれた赤い花の野草。
蓮子が大地から魔力を送り込むと、次の瞬間には一つの黒い結晶体へと変わっていた。
おお、と感嘆の声を上げつつ拾い上げる。
結晶体に映りこんだ花の像を覗き込み――
「……これ、こんな花だったっけ」
集めた花とは明らかに違う植物の花だ。
「もちろん違うな。赤い花という概念を元に、類似する概念を有するオーブを再構築している」
「……それは良いんだけど」
「何だ」
「お腹減ったわ」
責めるような眼で、蓮子はキャスターを睨んだ。
ビンボー学生がいきなり奥多摩へ飛び出したのだ。
食料も酒も、それを買い出しに行くお金もすぐに底を突いた。
古民家を(勝手に)借りたから宿代は無料だった。
それでもすぐに金欠状態となってしまったのは――奥多摩へ発つ前に、
キャスターが大学の書店であれもこれもと学術書などを買い込んでいたことが原因だった。
蓮子の有り金は9.5割ほどキャスターの本に消えていた。
「では少し『貰ってくる』としようか、クックック……」
☆ ☆
「マ、マジでやるの……?!」
「クックック、少しだけ近隣の住民に『協力的』になってもらうだけだ……
誓って住民の生活に支障は来さないように配慮はするクックックック……
だからクックックック……信用しろ」
「あんた実は信用して欲しくないの……?」
ククク笑い5割増しのキャスターとドン引き蓮子の現在地は、近くの集落の受水槽。
キャスターはそこに洗脳薬を流すという。
流した毒は上水道を通って集落を巡り、集落の住民全員を洗脳という寸法である。
蓮子が寝ている横でなにかゴソゴソしていると思ったら、それを作っていたらしかった。
受水槽は金網と鉄条網で一応の防備はされていたが、
この程度は蓮子が金網の向こうにキャスターを『召喚』することでラクラク突破できた。
「クックックック……どうする? 止めろというなら止めるが……。
キャスターとは、『そういう手段を取る』側面もあるクラスだ。
どこかで手を汚さなければ、聖杯戦争に勝つことはできんぞ……それ以前に餓死するかもしれん……。
俺はそれでも構わんが……クックックック……」
既にデカラビアは受水槽の蓋を暴き、ペットボトル詰めの洗脳薬を流しこむ体勢でいた。
最後の「やれ」の一言だけが出てこない蓮子。ぐううううと、腹の虫が盛大に鳴った。
「キャスター、やって」
「心得た……クックックック……塩素消毒している分、薬剤の微妙な苦味も分かりづらいぞ……。
ハッハッハッハッハァ!」
☆ ☆
こうして首尾良く集落の住民から『協力』を取り付けた蓮子たちが行ったのは、
集落にあった老朽化著しい老人ホームの改築だった。
当然、洗脳済みの管理者は断らなかった。
そして国の補助やら何やらをたっぷり使って、超低金利で借金させてこしらえさせた改築費用を受け取り、
――陣地作成のスキルでリフォームした。
キャスターのスキルに対しては結構無理な規模の建物の改築を行ったのだが、
まあまあ、過ごしやすい出来になったのでは、と蓮子は思った。確信は持てない。
蓮子の時代では、老人ホームは珍しいものだったからだ。
入所するような歳になったら、何らかの社会的貢献を行っていない限り『人口調整』の対象とされる。
キャスターはまる一日かけてリフォームを終え、額の汗を拭っていた。
ただ、おじいさんが車椅子で快適そうに歩くのを見てククク、といつもの含み笑いを浮かべていた。
それにしても借金はどうなるのだろう。
返済が始まる前に聖杯戦争が決着し、この21世紀の偽の東京ごと消滅すると良いのだが。
そしてまとまった資金が入ってすぐさま、キャスターは豊洲から大量のクルマエビを仕入れた。
「セーマンさん、ここに置いておきますよ」
晴明[セーマン]とは、キャスターが世間で動くに当たって用意した偽名だ。
命名者、蓮子。命名された時のキャスターの渋面が忘れられない。
この国を由来とする『キャスター』としては最強候補の一角なのだから、もう少し嬉しそうにしてほしい。
それにしてもクルマエビ。蓮子の時代には珍しい天然物の食材で料理か、と喜んだが、もちろん違った。
何十尾もクルマエビの首を包丁で落とし、オーブへと変えた。
今度は暇して病院をたまり場にしていた年金生活者に、ハチの巣やたくさんのクモを捕らえて、持ってこさせた。
蓮子は袋詰めにされた蜂の巣や蜘蛛の群れに殺虫スプレーを吹き込み、その命を奪い、オーブへと変えた。
蓮子は虫程度でビビるタマではなかった。山中のオカルト巡りではしょっちゅうのことだったから。
――そんな蓮子に次なる材料として届いたのは、保健所から引き取られてきた野良猫だった。
届けられた10箱ほどのケージの中から、にゃーにゃーと鳴き声が聞こえた。
セーマン、もといキャスターから、ずしりと薪割り用の鉈を渡された。
蓮子はさっさと調合作業に戻った作務衣姿のキャスターの背中を見た。
「その『猫』を材料にするオーブは、これから俺たちがこの戦争を勝ち残る上で最も重要なものになる。
それとも猫一匹も殺さずに、戦争に勝てる手でも思いついたか? クックック……」
――正確には悪魔ではないと自称していたが、やはりこいつ、悪魔なのでは?
私は肘まで覆う丈夫な革手袋をはめ、ゴムの前掛けを身に着けた。
暴れる子猫を簀巻きにして、その頭に鉈を振り下ろした。
子猫とはいえ激しい抵抗に遭い、頬や二の腕にはひっかき傷がいくつもできた。
慣れない鉈を振り回して、手首を痛めた。
どうにかして10匹の子猫を、オーブの材料へと変えた。
そうして作ったオーブで、ケガはすぐに治った。
その晩の吐き気までは治らなかったのだが。
マムシ、カラス、子犬、チョウセンイタチ、ハクビシン、ヌートリア、タヌキ――
運ばれてくる動物は日に日に大きなものになっていった。
蓮子はそれらを鉈で叩き殺し、白や黒のオーブに変えていった。
だんだん大きくなる動物を仕留めるのはてこずったが、吐き気は収まっていった。
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毒霧も――あのセイバーには当然の如くダメージなし。
1秒未満の目くらましがせいぜいだ。その1秒で良い。
光弾で牽制するキャスターを囮に、蓮子はセイバーの登場した向き、石段へと駆けた。
そしてセイバーが光弾を顔面で受け止めつつ、キャスター目掛けにじり寄るところを再び――
召喚。蓮子から見て左にいたキャスターの姿が消え、セイバーの太刀は空を――切らない。
瞬速のにじり寄り、急転回。蓮子の目の前に出現したキャスターを逆袈裟で捉えた。
英霊の座に登録されるに至った武士[もののふ]。直前に見せられた手を二度も食うはずもない――。
(まだ……この程度は、浅い。アレをやる。お前が『引き寄せろ』)
(あの子を……マスターごと?!)
(それしか手はない。それが分からんほど低能ではあるまい)
セイバーのマスターは戦闘の巻き添えを避けるべく、セイバーの向こう、神社の拝殿側に逃げていた。
不安そうにこちらを――セイバーの背を見守る姿は、可愛らしい容姿。しかしどこにでもいそうな、女子高生。
一見して、無防備そのものだ。セイバーにキャスターの魔術は通じない。ならば彼女を――。
蓮子が迷う間にキャスターがオーブを掲げる。黒い、甲殻類の映りこんだオーブ。
光の殻がキャスターの前に現れ――セイバーの袈裟懸け、返す刃の連撃ですぐさま叩き斬られる。
そのままセイバーは空気の壁を突き破るような刺突を繰り出し――キャスターは杖で火花を散らし辛うじて反らす。
キャスターの脇腹から突き出る切先。地面に転げる杖の柄。力任せに引き裂かれるキャスターの肉体。
(ここで終わるなら……俺は別に構わん。
お前は『つまらん滅び』を迎える奴で、俺の見込みが違っていたというだけだ)
滅び――ここで負ければ、滅ぶ。私が――私は。
私は――既に滅んでいた。この21世紀の東京に放り出されるまで。
現実に押しつぶされた夢を抱えて。
夢を現実に変える。それは時に――!
蓮子が白く輝くオーブを高々と掲げた。呪術師の格好のタヌキの像が映りこむオーブを。
「ハッハッハッハ、ガハァ! 良くやった! それでこそ! それでこそだ!!」
喀血しながら哄笑するキャスター、ふわり宙に浮く。
セイバーが斬りかからんとしたところで、異変に気づく。
マスターが、すぐ隣に。無防備な主が――敵の目前まで引き寄せられていた。
キャスターが拳に力を込めた。
地の底から毒の間欠泉が、吹き出す。星影まで届かんばかりの勢いで。
『蔓延る害悪』はセイバーのみならず、マスターの少女をも呑み込んだ。
☆ ☆
ずうん、と、火薬が爆発する響きを聞いた。
双眼鏡で爆発跡を眺めるキャスター。
「駄目だな。予想は付いていたことだが」
「ミドガルズオルム、いなかったね」
「アレを倒すのなら……流石に俺単騎では厳しいな」
奥多摩湖沿いの道路、山梨県との境界部に蓮子たちはいた。
蓮子の世界の神話では、世界の中心にユグドラシルがそびえ立ち、
大蛇ミドガルズオルムが世界の外縁を囲っているという。
ではこの界聖杯[ユグドラシル]で造られた東京はどうか。
キャスター手製の爆弾を携えてやってきたは良いが、
東京都を囲む何かは視認さえできず、傷一つ与えられたかどうかも定かではなかった。
爆弾のテストがメインだから、全くの無駄足というわけでもないが。
この聖杯戦争で決着をつけなければ、この造られた東京都からの脱出は不可能ということだけはわかった。
蓮子はRV車のキーを回し、爆破実験跡地を後にした。
(これも洗脳した住民から貰い受けた。持ち主は『都外』の大学に進学して、盆正月しか帰省しないという)
蓮子の時代の自動車と使い勝手は変わっていない。
彼女の本来いた時代の日本では、都市部の合理化・縮小が進んで自動車の必要は減り、自動車免許の取得者も減っていた。
そんな時代だったが、蓮子は鉄道網の外――僻地に赴くことも多い変わり者だった。
そのためレンタカーの運転の為に免許を取得していたのだった。
よってこの東京でも蓮子は自動車を運転できる。
「ねえ、このダム湖にあの薬を流したら、東京都民を全員言いなりにできないかな?」
「無理だな」
付箋だらけの地図帳を広げたキャスター。理由を説明する。
曰く、有効な濃度を得るためには必要な薬剤の量が多すぎるということ。
曰く、東京都の水源はこの奥多摩湖だけでないということ。
曰く、薬剤は上水道のシステムで除去されてしまう公算が大きいということ。
曰く、有効な量を流せたとしても環境に与える影響が大きすぎ、最悪討伐命令が下されることになるということ。
など、など、と。
せいぜい今のように山間部の集落か、あるいは集合住宅を制圧するのが関の山、らしい。
▼ ▼
地の底より呼び起こされた『蔓延る害悪』。
吹き出る猛毒の自噴井は、マスターの少女を――呑み込まなかった。
広範囲に吹き出た毒液を、セイバーが大手を広げ、まるごと全身で堰き止めた。
蓮子は恐怖とともに、感動すら覚えた。大鎧を纏いし、堂々たる守護の英霊。
彼女の既視感は、ある種の確信へと変わっていった。
このセイバーに、英霊に勝算はあるのか。いや、『勝ってしまって』いいのだろうか。
(何を見とれている……! 石段に下がれ。
この命がけで取った『位置関係』こそが、セイバーに対する勝算だったはずだ。
相手がどれだけ強くとも、『正しく』とも、闘え! これはお前の戦争だ!)
念話から、キャスターの激。
半ば飛び降りるように、石段までバックステップ。
石段を這うようにして、境内入口の鳥居の根本へ。
犬のように土を掻いて掘り出したのは、照明用のペンダントスイッチ。
キャスターを『召喚』。二人で頭を伏せ腹ばいに。
左手を帽子に、右手のスイッチを『切』から『入』へ。
――瞬間、腹の底を響く、四連の火薬のビート。
キャスター手製の、指向性対人地雷が正しく機能した。
スイッチと繋がった導線を神社外側から張り巡らせ、境内の四隅に配置。
有効加害範囲[キルゾーン]は、こじんまりとした神社の境内、全域。
飛び散る散弾は、サーヴァントにも通用するキャスターの特別製。
通用しないはずがない。
しかし蓮子は、通用するはずがない、とも確信していた――。
☆ ☆
「セーマンさん、蓮子さん。ご姉弟お二方とも、来てくださいませんか。
ちょっと今日のは運べませんのでね」
「姉弟だってさ。『クックック……お姉ちゃん』て言ってみてよ」
「……アレが捕まったか」
呼び出された先は、畑地のそばの茂みを少しかき分けたところ。
姿が見えなくとも、進むにつれて嗅いだことのない臭いが漂ってくる。
臭いの元には、イノシシがいた。体高は蓮子の腰あたりまであった。
ワイヤーの罠で左の後ろ足を絡め取られ、木に繋がれていた。
蓮子が見て最初に思ったことは、これは鉈では無理だ、ということだった。
「扱い方を教えてやれ」
鉈よりはるかに長くて重い、鉄の棒を渡された。
猟銃だ。上下に二つの銃身を備えている、散弾銃。
猟師のおじいさんに構え方を教わり、照星の先にイノシシの眼を捉えた。引き金は、迷いなく引けた。
だが慣れない反動で狙いが逸れ、尻もちをついた。
第二射。スラッグ弾がイノシシの頭に赤黒い染みを付けた。100kgはあろうかという獣の体はどしりと横倒しになった。
それからイノシシはバタバタと四本足を30秒ほどバタつかせ、動かなくなった。
その晩の夕食はボタン鍋だった。美味だったが、肉は硬かった。
オーブの材料は罠に掛かった獣から調達することが多くなった。
イノシシ、ニホンジカ、そしてニホンザル。流石にツキノワグマは見かけなかった。
――聖杯戦争のマスターを名乗る少女からの挑戦を受けたのは、そうして1週間ほど経ってからのことだった。
▼ ▼
キャスターは、石段の下から、硝煙立ち込める境内を覗き込んだ。
敵のセイバーは土下座を押しつぶしたようなのポーズで、沈黙していた。
(奴のマスターはどこだ……? ただの人間[ヴィータ]とはいえ、跡形もなく吹き飛ぶほどの破壊力ではなかったはず)
(キャスター……、動かないで。まだ終わってない。猫のオーブで傷を治すから。あのセイバーには――)
ギロリ。武士[もののふ]の怒りの形相が、蓮子たち二人に向けられる。
ドン、と四肢の全力を込めた飛び込み。
マスターの少女。セイバーの土下座の下で、散弾と衝撃波の嵐から護られていた。
(あのセイバーには……火薬も、毒も効かない……!)
――『人は則ち勇敢にして、死をみることを畏れず』
あのセイバーは、護国の武士。
毒矢にも、日本を初めて襲った火薬の脅威にも、恐れず立ち向かった。
異国警固番役。文永・弘安の役を闘い抜いた、防人。
――名が遺されずとも、真正の、『英霊』だった。
滲んだ蓮子の視界の中で、キャスターの首が飛ぶのが見えた。
首の中を冷たいものがばさりと通り抜け、自分の首も刎ねられたと理解したのは、ほとんど同時だった。
* *
――私はこの世界ではない、別の世界があると信じてやまなかった。
『秘封倶楽部』という霊能サークルは、私・宇佐見蓮子が一人で立ち上げたサークルだった。
何代か前のおばあさんが――21世紀初頭、女子高生だった頃のノートや写真データを頼りに、
この世界の『綻び』を探っていた。
私が大学で専攻していた、超統一物理学、という学問で、この世界に綻びを作ることは不可能だった。
粒子加速器で粒子をぶつけては壊しの繰り返しで――結局、全宇宙を消滅させるほどのエネルギーがないと、
この膜世界[ブレーンワールド]を破ることができない、と、理論的に証明されてしまっていた。
――では、あのおばあさんが遺したノートやデータは何だったというのだろうか。
私そっくりの高校生の隣にいた、長い銀髪の美少女は、単なるコスプレなのだろうか。
シューティングゲームのように、空中で光の弾幕を撃ち合う奇妙な格好の少女たちは、一体何者だったのだろうか。
私は暇を見つけては、写真に残る月の示す位置――今はもう人も棲まない山の中へと赴いた。
学友からは変人だの、妄想癖だのと陰口を叩かれたが、構わなかった。
本業の物理学も、妄想で語るしかない行き止まりの学問となってしまったから。
――そんな京都の大学によくいる奇人変人の一人に過ぎなかった私に興味を持ったのが、
比較心理学専攻の、メリー――マエリベリー・ハーンという留学生の女の子だった。
ウエーブの掛かった金髪で、顔立ちはかわいらしく、日本人に近かった。
昔ふうの白いモブキャップと、紫を基調としたフェミニンなファッションが似合っていた。
何より特徴的だったのは、青、赤、金、緑と、時によって色の変わる不思議な瞳だった。
彼女の不思議な瞳には秘密があった。
世界の『綻び』――いや、『境界』が、視えるというのだ。
私は先祖のおばあさんの遺した中から、冥界と現世が同時に写る写真をメリーに見せた。
写真の中の月と星で、時刻と位置は特定できた。(これは私の特技)
秋の蓮台野。墓荒らしのマネゴトを続けて、午前2時30分ジャスト。
墓石を90度回転させたら、秋に咲くはずのない、桜が――冥界の桜が、目前に広がっていた。
私達は、夢中になって世界の綻びを暴いていった。
無人の神社の鳥居の向こうで、お茶をすする巫女さんを見た。
湖に映る月から、餅つきする兎たちを見た。
私がおばあさんの写真を読み解いてメリーを引っ張り、
『境界』が視えるというメリーの力で現実とは違う世界を覗いてきた。
私のつまらない現実世界はメリーの視える境界を通じて滅ぼされ、
新しく創造されたのだと、その時は、そう信じていた。
きっとメリーは、私の魂に欠けていたパーツを埋めてくれる存在なのだろうと――思い込んでいた。
メリーの『境界』の力は日増しに強まっていった。
緑に侵食され、トロヤ群に放棄された衛星を覗いた際、メリーは獣に襲われ、傷を負った。
サナトリウムで療養していたメリーは、地球の直径より深い地獄の底から
イザナギオブジェクトなる石片を持ち帰ってきた。
私が境界とされる場所に連れて行くまでもなく、メリーは異界へと出入りするようになっていた。
私達はいつ止まればよかったのだろうか。
私達は止まれなくなっていた。異界を暴くことに心を囚われていた。それが禁忌の膜壁を破ることとも知らずに。
メリーはただの手鏡を用いて、自分の見た異界の映像を投影することさえ可能としていた。
異界渡りの同人誌とその映像を餌に、さらなる異界経験者の話を集めた。
話を聞きながら手を触れるだけで、メリーはその話の真偽を判別できるようになっていた。
奈良県三輪山、異常な数の蛇が住まう山の話。
廃村となった山奥に住み着き、神ならぬ髪を崇める人々の話。
日本中の不思議を集めることに、私達は夢中になっていた。
そしてある日のこと。
メリーは神隠しに遭った。私を置いて異界に消えてしまったのだろう。
いつも一緒だった私達のことを茶化していた学友たちも、メリーのことを覚えていないという。
――いつか訪れる結末だと、わかっていたはずだった。
一つだったはずの私の魂に、空白ができた感覚だけが残った。
世界が、滅んでしまった。
私は必死になってメリーを探した。
今まで暴いた『境界』の場所をくまなく探った。
メリーはもういないので、政府に進入規制された土地にも歩いて入っていった。
結果、私は警察に捕まった。
罪名までは詳しく覚えていない。度重なる規制地への侵入だったのは間違いなかった。
留置場に連れ込まれると出された合成食を掻き込み、バタリと倒れた。
メリーを探し回って、くたくただった。
小さな窓から星影が見えた。どれも時計と同じ時刻を示すだけの、つまらない星だった。
――現実に引きずり戻された私の世界は、なんてつまらない世界なのだろう。
その時一つだけ、時を示さない星が見つかった。
消灯された留置所の一室に差す、シアンブルーの星影。徐々に強まり、そして近寄って来るのがわかった。
やがて、その星影は真昼のように私を照らし――私を、この世界から連れ去った。
▼ ▼
天を仰げば、星影が見える。
地に目を向ければ、血の道を引きながら石段を転げ落ちる私の体。
ギロチンで落とされた首が17回まばたきをした、というのは、誰の処刑の時の話だったか。
飛頭蛮やろくろ首は、こんな風に世界を見ていたのだろう。
縦回転する、私の生首。
再び私の首が、天を向く。午前2時1分9秒。定刻を示す、つまらない星。
3週間近く掛けてコツコツ整えた準備は、わずか69秒の戦いで打ち砕かれた。
つまらない。強くて正しい者が勝つ。それはまあ、良いことなのだろう。
問題は、私の望みを叶えようとした時、その強さと正しさが常に牙を向けてくることだった。
納得ゆく説明もなされずに、疑うことも許されずに。
私は、誰も傷つけるつもりはない。ただ、私の主観世界を、観測限界を滅ぼしたかっただけだった。
もう一度、メリーと共に。
世界のシステムがそれを阻むというなら、滅ぼしてやる。それが悪と呼ばれる行為だとしても。
――あの時と同じ、シアンブルーの星影[Asta Umbra]が周りを取り囲み、
私の首と転げ落ちてきた胴体に染み渡ったのは、その時だった。
アスタ・アンブラ。それはキャスターの、第三の宝具の名。
その星影を予め浴びた者は、致命の傷を受けた際に復活の力を得る。
セイバーとの戦闘に備えた、本当に最後の切り札。
蓮子と泣き別れた首から下の体が、石段の下から立ち上がった。
スピンする私の首をキャッチした。バチン、と、神経が再び繋がる感覚が走った。
と同時に、手足、背中に鈍い痛み。無理もない、100段あるかないかの神社の石段を転げ落ちてきた。
――だが、立てる。闘える。宝具の効果で、全身に力だけはみなぎっている。
蓮子の眼前には石段を歩み降りるセイバー。死体の確認に来たはずだったのだろう、流石に驚愕を隠せない。
何歩か後ろ、石段の数段上にはマスターの女子高生、ほとんど恐慌状態。だが的確に攻撃の指示を下した。
そして、キャスターは――蓮子と同様に復活を遂げ――
(さあ……やり返してみろ! マスター!)
護国の防人が、石段を一足で飛び降り、白刃を振りかざした。
蓮子が血糊にまみれた左手を掲げた。
キャスターを上空に召喚。さらに大地から魔力を巻き上げ、供給。
それはまさしく光子[フォトン]が天に昇るが如く。
そして――叫ぶ。キャスター、第一の宝具の名。
「『彼の地より来たりし、魂たるその姿』――」
立ち上るフォトンは、円形の魔法陣を描き出した。
斜めのクロスで仕切られた円の中、上下にそれぞれ左右を向く三日月、右にマルタ十字、左に柄付きの三日月。
外縁に描かれるは『DECARABIA』。
キャスター、いや、魔神・デカラビアの印章[シジル]。
蓮子が大空に描いた魔術は、デカラビアの真の姿を呼び醒ました。
それはマゼンタ色に輝く逆さまのピラミッド。宙に浮く氷山の欠片。
「――『トランスジャミング』!」
滅びをもたらす凶星が、四方八方に稲光を発した。
武士がその光の直撃を受けるも――効果なし。
突如姿を現した10mを超す巨体に畏れることなく、太刀を大上段に構え――取り落した。
何かがおかしいと、セイバーはそこで気づく。魔力の供給が切れている。
後方に視線を向ければそこには、足を血で滑らせて石段から転げ落ち、気を失うマスターの姿。
トランスジャミングに殺傷力は皆無。その効果は、魔力の消散、魔力パスの切断、敏捷の低下。
いずれも水準以上の対魔力を持つサーヴァントには防がれる。
だがマスターはどうか。魔力パスを切断され、魔力不足でサーヴァントの能力が低下した。
敏捷低下は常人が受ければ、しばらくは歩くのがやっとだ。血で滑る石段など降りられない――。
「ギュゥイイイイン! ギュイイイン!」
マスターの惨状を認めたセイバーはその瞬間、甲高い、鋼鉄の獣が叫ぶような轟音を背後から叩き付けられた。
向き直ると、先程の異形の星が鋼の装甲と4本の鉄腕を生やし、それぞれに武器らしきものを備えていた。
「『鋼鉄[ハガネ]纏い、咆哮するその姿(ハウル・オブ・デカラビア)』……!」
それはキャスター・デカラビア、第二の宝具。異形に機械改造を重ねた、更なる異形。
右上部アームの大砲、右下部アームの機関砲が、石段の下の少女目掛けて火を吹いた。
セイバーは弱った体に鞭打ち、射線上に飛び入って受け止めた。
砲火で釘付けになったセイバーに、さらに左下の鉄腕が迫った。
その腕に備わっているのは、円錐形ドリル。それもセイバーは身一つで掴みかかった。
ドリルが咆哮し、高速回転する。
火花を散らして鎧を削り取り、肉をも引き裂いてセイバーの胴体を貫通し――そこでドリルの回転が止まる。
セイバーは己の肉体だけで、ドリルを止めた。異形の鉄腕が、押すも引くもままならない。
そこで、叫びが聞こえた。
目を醒ました少女が武士[もののふ]の真名を叫んでいた。右手の令呪に一縷の望みを託して。
何かを命じようとした少女。しかしその言葉は――銃声の中に消えた。
サーヴァントたちの最期の攻防に紛れ、至近まで迫っていた宇佐見蓮子。
彼女の放ったスラッグ弾によって。
護国の英霊は光の粒子と化し、霞のように消えた。
▼ ▼
「ハアッ、ハアッ……やった……やった……殺した、私が、殺した……!」
「よくやった、マスター。そうだな、お前の馴染んだやり方で――『良』くらいは、与えてやってもいい」
「……どういう基準よ」
返答の代わりに、キャスターは黒いオーブを投げて寄こした。
治療の効果を発揮する、杖を構えた猫のオーブ。二人とも、傷だらけだった。
首を落とされた後だから、復活してなお、首筋に傷が残っている。
「早く治さんと、失血で死ぬぞ。マスターに選んだ以上、つまらん滅びなどこの俺が許さん」
猫のオーブに大地から魔力を注ぐ。体の痛みが引いていくのを実感する。
あそこで、罪なき野良猫に私がナタを振り下ろさなければ、得られなかったモノだ。
――いや、手を汚すのは、キャスターでも良かった。
しかしオーブのために動物の命を奪う役目は、いつもキャスターが私に与えていた。
ハッとする――全ては、あの瞬間のためだったのだと。
私が、マスターの少女に向けて銃爪を引くあの瞬間のため。
私は、キャスターの手によって一つ一つ、タガを外されていたのだ、と。
『人を殺すな』という、人類に課せられてきた、最大の教義[ドグマ]を
私に破らせるための、段階を踏んでいたのだ。
人を洗脳する薬を流すこと、大きな獣を殺めること、人に似た獣を殺めること。
殺意を持たねば生き延びられない、極限状態に放り込むこと。
全て、キャスターの手のひらの上だったということだ。
――こいつは、悪魔だ。
「……ねえ、キャスター。どうして私を選んだの?」
「お前が、『世界の滅び』を望んでいたからだ。」
「私は別に、都心で原爆を起動しようとか、そういうことは考えてない」
「だがお前は、自らの目的を阻む『世界のシステム』の滅びを望んでいた……違うか?」
「…………」
「クックック……沈黙は肯定の意だな」
私は、もう滅んでいたのかもしれなかった。
罪のない、ただ譲れない願いを抱いていただけの女の子を一人殺していた。
ここに呼ばれる前の私には、到底不可能だった禁忌を侵していた。
それはつまり、『私の観測する世界の滅び』に他ならなかった。
そうまでしてメリーにまた会いたいか自問し――会いたいと、迷わずに答えられた。
何も言わずにいなくなったと、ビンタの一つも食らわせてやりたかった。
異界で命を落としていたなら、亡骸だけでも拝みたかった。
メリーにまた会うために手を汚したと知られ、メリーに責められ、拒絶されても構わなかった。
とにかく、メリーが誰にも、私にも知られずにいなくなったこと、
その決着だけはどうしても付けなければ、私の魂の空洞は満ちることはないのだ。
でも、できることなら――メリーと再び、秘封倶楽部として活動したかった。
ならば、宇佐見蓮子が界聖杯[ユグドラシル]に託す願いは、一つだった。
――私に次元を超える力を与えて欲しい。
ただ、メリーをいっとき連れ戻すだけでは足りない。
今度彼女が神隠しに遭った時は、彼女を追いかけて助けに行きたいから。
きっとそれは、私が界聖杯[ユグドラシル]そのものになることと、同義なのだろう。
あるいは、私がメリーと同質の存在になること、なのかも知れない。
「キャスター、私、滅ぼすよ。『私の観測する世界』という限界を。
そのために私を阻む『世界のシステム』も、滅ぼす。
界聖杯[ユグドラシル]を手に入れて、私を超えた存在に、私自身を再創造[リジェネレイト]する。
……手を貸してくれる?」
「クックック……少しは大口を叩くようになったか。
マスターとして選んだ甲斐があったというものだ。ハッハッハッハァ!」
蓮子たちは、世界に滅びをもたらせるか。滅ぼした先で、新世界を創造できるか。
それが禁忌の所業と判ったとしても、歩みを止めることはもはや不可能である。
【クラス】
キャスター
【真名】
デカラビア@メギド72
【パラメーター】
筋力E 耐久C 敏捷C 魔力B 幸運B 宝具D〜B
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
陣地作成:C
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
薬の調合や爆弾の作成などが可能な小規模な工房を作成可能。
道具作成(薬):B
このキャスターは薬物・毒物の作成に長ける。
魔力を用いて一瞬にして毒物を生み出すほか、魔力に依らない通常の調合の技術にも長けている。
即効性、致死性の高い毒物や時限爆弾、さらには服用者の意識を虚ろにして言いなりにする毒物と、
その解毒薬を作成可能。
道具作成(オーブキャスト):C
生物・無生物を材料に、魔力を注ぐことで様々な効果を生む『オーブ』と呼ばれるマジックアイテムの作成が可能。
オーブは、魔力ある限り何度でも使用可能。但し、1度使用したオーブはいくらかの時間を置かないと使えない。
正確にはキャスターのマスターに付与される能力であるが、便宜上キャスターのスキルとして記す。
日常で手に入りやすい生物・器物から作成可能なのはレアリティがNかRのオーブである。
SR、SSR級のオーブには他のマジックアイテム、大量の人の魂、サーヴァントやマスター(の令呪)など、
相応に希少な材料が必要である。
【保有スキル】
魔術(毒・氷):A
キャスターは毒・氷に関する魔術を得意とする。
魔術というよりは異能の発動に性質が近く、詠唱は必要としない。
追放メギド:C
悪魔の世界(メギドラル)から魂を追放され、人間の世界(ヴァイガルド)に転生した存在。
普通の人間(ヴィータ)として生まれ育つも、ある日突然悪魔(メギド)としての記憶を思い出すパターンが多い。
しかし記憶が戻ってもキャスターを含むほとんどが『ただの人間』である。
『ソロモンの指輪』を扱う者によって召喚を受けてはじめて、本来のメギドとしての力を発揮することができる。
この聖杯戦争においてもその関係は変わらない。
このスキルを持つサーヴァントは、マスターに令呪を介してソロモンの指輪の所持者としての力を付与する。
すなわちマスターに、指輪所持者としての能力――魔力の視認・遠隔操作・オーブキャストなどを与える。
また、本来の世界で地中から湧き出る魔力(フォトン)を利用して戦ったことから、
地中の魔力の利用効率が非常に高い。
この聖杯戦争でもマスターに地中から魔力を供給させることで、
マスター・サーヴァントの魔力の消耗を限りなく少なくすることができる。
特に龍脈と呼ばれる地中の魔力が豊富な場では、さらにその強みを活かすことができるだろう。
死者の魂が魔力(フォトン)となる世界で、それを用いて闘ってきたメギドたちの特徴として、
通常のサーヴァントなら強い忌避感を持つ魂喰らいに対しての抵抗が極端に薄いという特徴がある。
(もちろん、個体差はある。キャスターは機会があれば積極的に利用できる)
アルスノヴァ形質:D
キャスターの世界の人類のうち、約5%が有するとされる形質。
通常の人間には視認できない魔力を視覚し、操作する力。
ソロモンの指輪によってその力は強化され、メギドの戦闘を支えるだけの魔力供給を可能とする。
また、ソロモンの指輪使用時には独特の紋様の刺青が出現する。
キャスターの場合はソロモンの指輪を用いたとしても、1度に1体のメギドの戦闘をさせるのが限度である。
要は生前のキャスター自身も、指輪所有者としての能力を有していた、ということである。
※最強のアルスノヴァ形質を有する主人公(ソロモン王)@メギド72の場合、1度に5体のメギドの戦闘を行わせる事が可能で、
常時全身に刺青が出現している。モンモンの紋紋。
滅びの美学:B
キャスターの精神性の根幹。滅びと再生をもたらさんとする、魂の願い。
森の樹々を焼き、新たな芽吹きを促すかのような、既存のシステムを崩壊させようとする意志。
『秩序』の属性を持つ敵、および植物の概念を有する敵との戦いにおいて、攻撃で有利な補正を得る。
また、同ランクまでの精神干渉系の能力を無効化・破壊工作のスキルも複合する。
自己改造:C
自身の肉体に別の何かを付属・融合させる適性。
このスキルのランクが高くなればなるほど、正純の英雄からは遠ざかる。
キャスターの場合、後述の宝具発動時のみにおいて有効。
また、付属・融合させることができるのは機械類のみである。
【宝具】
『彼の地より来たりし、魂たるその姿(トランスジャミング)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:50 最大捕捉:30
キャスターの本来の姿(メギド体)に変身して放つ"奥義"。
その姿は、底面が星型のピラミッドの裏返しとも、宙に浮く氷山の欠片とも取れる異形。全高11.23m、体重16.4t。
キャスターが生まれ落ちた時の姿であるとともに、キャスター自身の想像力が生み出す姿でもある。
宝具発動のための変身時のみ、キャスターは魔性としての種族特性を得る。
メギド体から魔力の妨害電波とでも呼ぶべきものを放ち、受けた者に蓄積していた魔力を消散させ、
更に一時的に敏捷を2ランク低下させる。
敵主従間に繋がった魔力パスと念話も一時的に妨害・切断することもできる。
しかしサーヴァントに対しては、対魔力・幸運で無効化されることがある。
また、物理的な殺傷力は皆無である。
弱点は多いが、敵マスターも巻き込んだ場合、魔力パスの一時的な切断は不可避。
魔力消費の大きな強力なサーヴァントほど機能不全に陥れやすい。
『鋼鉄[ハガネ]纏い、咆哮するその姿(ハウル・オブ・デカラビア)』
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:30〜 最大捕捉:5〜
キャスターのメギド体を『自己改造』した姿。
上に述べたメギド体(やや縮小)に、古代の機械兵器から流用した装甲板、ガトリング砲、大砲、パラボラアンテナ、
そしてドリルアームを取り付けた姿。その姿はシュールの一言。
宝具発動時のみ、キャスターは魔性としての種族特性を得る。
直接的な攻撃力に欠ける自身のメギド体の弱点を補うための苦肉の策とも、
自身の魂の願いを実現するためならなりふり構わない、その執念の現れともとれる。
この聖杯戦争において強力な機械を入手することが叶えば、
『自己改造』によってさらなる強化を図ることができることだろう。
東京都内には自衛隊基地も米軍駐屯地もある。
『盟友より望まれし、新たなるその姿(アスタ・アンブラ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:10 最大捕捉:1
キャスターが人間として生まれ、志を同じくする友に再召喚(リジェネレイト)された際に目覚めた新たな姿(メギド体)。
四方八方に光を放つ星型の結晶体となったその姿の輝きを与える、新たな"奥義"。
宝具発動のための変身時のみ、キャスターは魔性としての種族特性を得る。
対象に霊核の破壊など、致命的な負傷から一度だけ復活可能とする魔力を付与する。
有名どころに例えると、FFのリレイズ。
対象にはキャスター自身を選ぶこともできる。
効果時間は約1時間。発動時にキャスターが変身する必要があるため、常時掛け直し続けるのは現実的ではない。
また、復活時に一時的に物理・魔術的な攻撃力を増強する効果も同時に付与する。(+1程度に相当)
近くに死者の魂が存在する場合、それを取り込むことで攻撃力はさらに強まる。(+2程度に相当)
復活時の治療の程度は致命傷を塞いで、どうにか戦闘可能とする程度である。
また、復活の魔力の付与・復活時の強化は解呪の力(いてつくはどう等)で消滅する。
逆転の切り札となりうる反面、対策されたら脆い。手の内をバラさない立ち回りが要求される。
【weapon】
・ヴァランガロッド
キャスターが魔術の媒介として用いる杖。
ヴァランガとは"雪崩"の意。
・ソロモンの指輪(量産品)
アルスノヴァ血統を持つ者が扱うことができる指輪。
メギドの召喚や命令、大地の魔力の操作が可能。
キャスターをサーヴァントとして運用する場合、令呪がその機能を代替するため本来は不要である。
主人公であるソロモン王@メギド72が5つ持つ他に、デカラビアが極秘に1つ確保し、
取り扱っていたことから、キャスター自身の武器と扱われることとなった。
【人物背景】
年齢、18歳。(人間として転生してからの年齢)
身長、168cm。
滅びと再生をもたらさんとする、魂の願い。
この『個』を核にして、キャスターは悪魔の世界(メギドラル)へと生まれ落ちた。
そしてフォトン不足に苦しんでなお戦争を繰り返そうとするメギドラルの派閥分裂・闘争を煽って共倒れを画策し、
開戦寸前のところで人間界へと魂を追放された。
人間界で人の身に堕してもその魂は変わらず、ソロモン王の仲間として戦う傍ら、
天使たちと悪魔たちによって護られる人間界のシステムを破壊し、
真に人間だけの支配する世界を創造しようと暗躍した。
計画実現のため、遂にソロモン王の敵として相まみえることになったが、
「なんと言われようと構わん、今の世界を滅ぼそうとする限り、俺は所詮は悪なのだ」
と言い切った。
その在りようは一貫して『厄災をもたらす者』であり『世界を守る世界の敵』であった。
ソロモン王の仲間としては、あまり積極的な発言はしないが、求められれば的確な意見を言うタイプ。
――但し、彼独特の毒と皮肉を含んだ言い回しで。
「意味深な言葉の奥に隠された真意を読み取れぬ者を、彼は内心で嘲っている」とも評されている。
以上、常人離れした発言・行動が特に目立つ彼であるが、野盗の襲撃で死亡した転生先の両親には感謝を表する、
サンタクロースのコスチュームを着せられて「視線が痛い」と反応するなど、
(少なくとも転生後は)人間としての精神性はしっかりある模様。
極秘の計画を裏でコツコツと進めていた他にも、
言動の端々に彼が非常に勤勉であることを思わせる描写が散見される。
【テーマ曲】
『惡ノ流儀 厄災ノ調』
【サーヴァントとしての願い】
特にない。マスターの世界の滅びと、創造を見届ける。
【運用】
その言動に反して意外なほどスタンダードな性能のキャスター。
ただでさえ戦闘面での不利が多いキャスター。そのスタンダードに収まるスペックでは厳しい戦いが予想される。
実質無尽蔵の魔力と、妨害・改造強化・復活といった独特な性能を有する3種の宝具が勝算となるか。
魔力不足の主従と同盟を組み、魔力提供とサポートに徹するのも有効な戦略だろう。
【備考・現況】
奥多摩の一集落を洗脳薬で支配下に置いている。
住民の生活に支障を来さないレベルで、マジックアイテムの材料の回収や物資の提供などの協力をさせていた。
登場話でセイバーの主従と遭遇したことにより、集落を脱出すべきか考えている。
洗脳の解除薬も調合済みであり、集落の排水槽に流すことですぐに洗脳は解くことができる。
【マスター】
宇佐見蓮子@東方project 音楽CDシリーズ
【マスターとしての願い】
神隠しに遭ったメリー(マエリベリー・ハーン)を追いかけるため、
禁忌の膜壁を超える力――界聖杯を手に入れる。
【weapon】
現地調達したオーブ、猟銃(散弾銃)、資金(数千万円程度)など
サーヴァント側のスキルにより、魔力の視認・操作、令呪不要のサーヴァントの召喚などの能力が付与されている。
【能力・技能】
『星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる程度の能力(仮称)』
その名のとおり、星を見れば秒単位で現在時刻(日本標準時限定)がわかり、月を見れば現在地がわかる。
写真などに写り込んだ星や月からでも判別可能。
月の巡りは太陰暦として時の標となり、航海などでは永らく星の位置が道標とされてきたが、
彼女の場合は逆である。
原作で自動車を運転する描写はないが、後述の活動の性質上、自動車の運転ができるものとする。
また、オカルトに関する知識は豊富である。
何代か前の先祖に強力な超能力者がおり、その血筋からか一般人よりは魔力が豊富である。
【人物背景】
近未来の日本人。
彼女の時代では月面旅行や宇宙へのバイオスフィア射出が実現し、
日本の首都は東京から京都へと遷都されている。
年齢設定なし。大学生であり、飲酒可能な年齢である。(現代と同様に20歳以上とは限らないが)
身長設定なし。
モノトーンを基調としたファッションと、黒い中折れ帽がトレードマーク。
超統一物理学、という学問を専攻する大学生。東京生まれ、京都在学・在住。
「プランク並みに頭が良いかもしれない」と自称しており、
相方のメリーからは「この世界の仕掛けが全て見えている」と評されている。
メリーことマエリベリー・ハーンと二人でオカルトサークル『秘封倶楽部』として活動する。
その活動内容は日本中のオカルトスポットの探索、その体験記である同人誌の執筆などである。
蓮子が持ち前の行動力でメリーを引っ張り、『境界』が視えるというメリーの力で現実とは違う世界を覗いてきた。
だがメリーの『境界』の力は日増しに強まっていった。
緑に侵食された衛星を覗いた際、メリーは獣に襲われ、傷を負った。
サナトリウムで療養していたメリーは、地球の直径より深い地獄の底から
イザナギオブジェクトと呼ばれる石片を持ち帰ってきた。
メリーという存在は、境界から徐々に異界に侵食され――ついに、消えた。神隠しに遭ったかのように。
【方針】
次元を超える力――界聖杯を手に入れる。
但し、界聖杯を必要としない主従と敵対することは考えていない。
単に脱出が目的の主従なら、手にした界聖杯の力で帰還に協力することも惜しまないだろう。
【令呪】
左の五指に指輪を模して絡み付いたものと、左手の甲のアルスノヴァ形質の刺青。
(メギド72の主人公・ソロモン王と同じ)
現在3画で、指輪状の部位は最後まで残る。
【役割】
東京の大学生。休学中か、休講期間中か、それともサボっているのかなどは聖杯戦争の開催季節に任せる。
アルバイトの有無などについても同様。
【テーマ曲】
『月の妖鳥 化猫の幻』
『少女秘封倶楽部』他、多数。(但しいずれもメリーと共同のテーマ曲)
【備考】
参戦時期は『旧約酒場』以降。
但し相方であるメリーは、神隠しに遭っている。
以上で投下を終了します。
>>星影
全体的にとても丁寧に書かれており、読み応えのあるお話でした。
候補作としては長めにも関わらず読みやすく、筆力の高さをひしひしと感じましたね。
そしてマスターである蓮子の心理描写がまた良く、じんわり滲みてくるのが印象的でした。
デカラビアの戦闘シーンも作品及びキャラクターの魅力をガンガン伝えてくるそれで、とても良かったと思います。
投下ありがとうございました!
皆様投下乙です。
自分も投下します。
◆
《ここでニュースをお伝えします。》
《東京都練馬区在住の女性の行方が分からなくなっています。》
◆
最近は女が行方不明になる事件が多い。
毎日そんなニュースばかりだ。若い奴が何人も失踪しているらしい。
捜索を続けてるって言ってたけど、どうせもう生きてないだろ。
他人事でしかない事件に対し、俺は内心毒づく。
夜の街。暗がりに電飾の光が輝く。
焼鳥。魚介。焼肉。ビルから生えた居酒屋の看板が主張を繰り返す。
がやがや、がやがや―――客引きだの、喧騒だの、喧嘩だの。何がなんだか分からない。カオスとしか言いようが無い。街は酷く混濁している。
目の前の大きな道路では、自動車が忙しなく行き交っている。高額バイト、ホストクラブ。訳のわからない宣伝を掲げたトラックが幾度と無く通り過ぎていく。
赤信号。蟻の群れのように夥しい数の人間達が、じっと待ち続けている。
大都会、新宿。歌舞伎町の横断歩道。
横断歩道の先、大通りの奥に見える映画館のてっぺんからは“怪獣の頭部模型”が顔を覗かせる。
そいつは俺達をじっと睨んでいる。この薄汚い街を彷徨う虫けら達を、傲岸に見下ろしている。
だから俺も、そいつを遠目から睨んでいた。
まるで神様みたいだ。天上から俺達を眺めて、大物ヅラしている。
誰のせいでこんな運命になったと思ってるんだ。なあ、おい。
聞いてんのかよ、神様。
信号が、青に変わった。
それと同時に、人々は歩き出す。
サラリーマン共が酔っ払って喋り散らかしている。
チャラチャラしたカップルが手を繋いでいる。
地味な風貌のおっさんがとぼとぼした足取りで進んでいる。
夜遅いってのに、女子高生がスマホ弄りながら前も見ずに歩いてやがる。
ゲーセン帰りの悪ガキ達は何やら大騒ぎしながらくっちゃべってる。
ガラの悪そうな輩は肩を怒らせて図々しく闊歩している。
有象無象に等しい奴らの隙間を縫うように、俺はひとり横断歩道を歩く。
誰も俺を気に掛けたりなんかしない。
俺が何処へ向かうのか、何を思っているのか。そんなのきっと、誰も興味を持たない。擦れ違う人々には僅か数秒だけ一瞥される。ほんの一瞬だけ、そいつらの世界に俺が現れる。そしてすぐに視界から排除される。
俺の存在なんて無かったかのように、やれ夕飯だの仕事だの家族だの遊びだの自分達の話へと戻っていく。
視線を前へと向けた。
人混みの中に紛れる、金髪に染めた若い女の背中を見つめた。
気取ったハイヒールを履いて、扇情的なミニスカートを揺らしながら歩いている。
俺はただ、そいつを舐め回すように見つめていた。
頭痛がする。
脳内が掻き回される。
何か分からない。
ただ、漠然と気持ちが悪い。
俺は一体、何をしているんだろう。
こんなところで燻ってる場合じゃないだろ。
やるべきことは、とっくに識っている筈なんだから。
俺の中で、誰かが囁き続けていた。
◆
《警察によりますと、女性は大手IT企業に勤めている28歳の会社員とのことです。》
《女性は午後7時過ぎに勤務先である代々木の会社を退勤したのを最後に連絡が途絶えています。》
◆
◆
ガキの頃、親父のクレジットカードを勝手に使った。
なんの為に?激レアのプレミア消しゴムを手に入れる為だ。
当時小学校のクラスで消しゴム集めが流行っていた。皆こぞって珍しい代物を見せびらかしていたし、俺もそれに乗っかっていた。
顔も運動も学業も、何の特技も無ければ美点も無い。親しい友人は自宅で飼っていたオカメインコの『まる』だけ。
そんな俺が輝ける唯一のチャンスだったから、収集にしがみついていた。
だからレアな消しゴムを幾つも持っていたクラスメイトが妬ましかった。そいつは金持ちの家の子供だったから、経済力という基盤があった。
たかだか細やかな小遣いしか持っていない俺が敵う相手じゃない。でも、勝ちたかった。だってそれくらいしか俺が活躍できる舞台は無かったから。
だから俺は親父のカードをこっそり盗んで、超激レアの消しゴムをオークションで落札した。10万も費やして。
そいつは永遠に届かなかった。騙された。どうすればいいか分からなかったし、親父からは散々殴り倒された。
俺がそんな風に奔走しているうちに、いつの間にか消しゴムのブームは去っていた。
無価値。無意味。無駄骨。そんな言葉が当時の俺の脳裏を過ぎった。
年月を経て、俺は平凡な社会人になった。
ゲーム制作会社に就職した。ゲームが好きだったから、何となく。その程度の理由だった。
他社のゲームを研究することを会社から指示され、俺は片っ端からアプリに手を付けた。
そんな中で、俺は動物収集のゲームにハマった。レアな動物をガチャで集めていく、人気のアプリだ。
些細なきっかけだった。子供の頃にドードーのレア消しゴムを持っていたから、そのアプリにもSSRのドードーがいたから。その程度の理由だったが、気がつけば没頭していた。
何気なく覗いたユーザーランキング。
そこで“オークション出品者”と再会した。
一字一句、全く同じ名前だった。
小学生の頃、あの激レア消しゴムを出品していた奴だった。
ランキング最上位にそいつは居た。
そいつが同一人物である確証なんて何処にもない。それでも俺の脳内には、電撃が迸っていた。
これは、因縁だ。こいつと決着を付けなくちゃならないんだ。俺はそんな根拠のない確信を掴んでしまった。
俺は課金を繰り返した。ランキング上位に登りつめ、過去の因縁にケリを付けるために。そしてSSレア絶滅動物“ドードー”を引き当てるために。
長い時間を費やした。課金総額、500万以上。
既に自身の異常には気付いていた。それでも止められなかった。
仕事の内容なんて頭に入らない。
周囲の呼び声もどうだっていい。
周りが酷く煩わしい。
うるさい。やかましい。鬱陶しい。
イライラする。苛立ちが抑えられない。
俺の魂は、因縁に囚われていた。
そもそも、これが因縁と呼べるのかも怪しい。
だってこんなの、俺の妄執でしかないんだから。
俺が悪い。俺の自業自得。俺がおかしい。
全部分かっている。知っている。
それでも、後戻りできなかった。
俺はどうなっているんだろうか。
答えは分かっている。ただの病気だ。
頭がおかしいから、このザマになっているんだ。
ある日、俺はついにドードーを引き当てた。
涙が出るくらい嬉しかった。死んでもいいくらいに喜んでいた。
その直後。余所見をしていた俺は、猛スピードで走るタクシーに轢かれかけた。
スマホが吹き飛んだ。
スマホが破損した。
翌日、携帯屋に走った。バックアップが取れた分は復旧できた。
ゲームのデータは吹き飛んでいた。
時を同じくして、子供の頃から可愛がっていたペットの『まる』もこの世を去った。
この感じ、前にもあったな。
その時の俺はぼんやりとそう思っていた。
無価値。無意味。無駄骨。
お前って、本当につまらない人生だな。
どうせ何もやることなんか無いんだろ。
だからこんな下らないことに熱中して、何もかも失うんだよ。
俺の中で誰かが囁いてくる。
それはきっと、他でもない俺自身だ。
24年も生きていると、何となく分かってくることがある。
それは、俺という人間が所詮モブキャラに過ぎないということだ。
無料のガチャを回して出てくる、雑魚みたいなノーマル。
いてもいなくても変わらない。
何の価値も無い、カス同然の輩だ。
◆
《警察は女性が何らかの事件に巻き込まれた可能性もあると見て、捜査を続けています。》
《それでは、次のニュースです――――》
◆
◆
走った。
走って、走って。
ただただ、走り続けて。
必死になって、追いかけていた。
歌舞伎町の更に向こう側。
薄暗いラブホテル街の景色は、視界から一瞬で通り過ぎていく。
人通りの少ない路地は、僅かな街灯にのみ照らされていて。
俺は、そんな風景の中を死物狂いで走っていた。
はぁ、はあ、はぁ、はぁ―――。
呼吸が乱れる。
息が荒れる。
身体が草臥れていく。
胃が、肺が、痛めつけられていく。
それでも俺は、走る。
なにかに取り憑かれたように。
走って、走って、走って。
追いかける。
追い続ける。
彼女を。
目の前で逃げる、あの女を。
気取った金髪の女は、必死に走っている。
先程まで履いていたハイヒールは脱げている。
裸足のまま、恐怖に突き動かされているようだった。
そんな女を、俺はぜぇぜぇと息を切らさんばかりの勢いで追いかける。
雑踏。
路地。
暗闇。
都会の片隅が、残像になっていく。
脳内物質が、バチバチと弾ける。
夜風が、身体を通り過ぎていく。
何でこんなことをしているんだ。
何がしたいんだ。
理由なんてよくわからなかった。
いや、理由なんか必要なかった。
走って、追いかける。
ただそれだけの運動。ゲームと同じ。
ゴールへと向かって走る。何も変わらない。
そう作られているから、そうする。
それ以外の意味なんて無い。
俺はただ、あの女を捕まえたかった。
今の俺なら、何でもできる気がしたから。
走馬灯のように、過去の記憶が蘇る。
今までの失敗。快楽。挫折。絶望。
何もかもが、あべこべになっていく。
鮮明に切り替わる視野の中で、俺は一つの悟りを得ていた。
あの時消しゴム集めに執着したのは必然じゃないし、あの時必死に課金していたのも因縁のためじゃない。
俺がちっぽけな見栄に狂っていた。子供の頃の失敗を延々と引きずっていた。
何の関係もない偶然を、あたかも宿命であるかのように結び付けていた。
ただ、それだけのことだった。
分かっているのに、もう歯止めが効かない。
だから、走った。
走った。走った。必死に走った。
走って。走って、走って。
走って―――――――。
女を、路地裏の袋小路に追い込んだ。
女が何かを叫ぼうとした。
俺は咄嗟に女を押し倒した。
飛び掛かるように、馬乗りになる。
じたばたと女が足掻く。
拳を振り下ろした。
女の顔面に拳骨がめり込む。
ぐしゃりと、鼻に直撃した。
容易くへし折れたのが分かった。
鼻血塗れになって女が喚く。
迷わず女の口を左手で押さえつけた。
もがくように声を漏らす女。
窒息しかねない勢いで、俺は女の口と鼻を覆い尽くす。
手のひらに血の暖かさが滲む。
身に付けていた鞄のポケットを、忙しなく開いた。
ナイフを取り出した。
右手で柄を握り締めた。
女の表情は、見なかった。
見たくもなかった。
手のひらの裏で悲鳴を上げてるのも、聞きたくなかった。
俺が追い詰めたのに。
俺がこんな目に遭わせてるのに。
何故だが、吐きそうな気分になっていた。
聖杯戦争。マスター。サーヴァント。令呪。界聖杯。奇跡の願望器。
頭の中で、様々な情報が渦巻く。
さっきまでの不快感が、落ち着いていく。
嫌悪と恐怖が、感じたことのない高揚と興奮によって塗り替えられる。
これから俺は戦う。
ここでやらずに、どうする。
ゲームのチュートリアルなんだ。
これから殺していくのだから。
そうだ。俺の革命は、ここから再び始まる。
かつて叶わなかった反抗。
俺の殻を破るための儀式。
つまり――――『田中革命』だ。
俺は、ナイフを振り下ろした。
女の額に、刃物が突き刺さる。
どくどくと赤い血が溢れていく。
脳髄を掻き回すような、肉の感触が伝わってくる。
一瞬、声を上げそうになった。叫び出しそうになった。
それでも、俺は声を押し殺した。
勢いよく、刃物を引き抜いた。
そして。再び、振り下ろす。
反復作業のように、何度も、何度も。
◆
《東京都千代田区においても、女性が失踪しているとの情報が入っています。》
《警察によりますと、女性は今月×日に――――》
◆
◆
どれくらいの時間が経ったのかも分からない。
何回刺したのかも覚えていない。
俺はただ、無我夢中になっていたのだから。
女の亡骸を、呆然と見下ろす。
ミキサーで引き裂かれたように、顔面は原型を失っている。
徹底的に切り刻まれ、滅多刺しにされ、赤黒く染まっている。
壮絶な外傷によって、右目の眼球が飛び出しかけている。
もはや誰なのかも判別がつかない。
元々の美貌だって台無しで、何もかもぐちゃぐちゃだ。
そんな状況を前にして、俺は呑気にナイフの血をハンカチで拭う。
いそいそと拭き終えてから、赤く汚れたハンカチを鞄へと突っ込んだ。
ふう、と一息を吐いて。
返り血まみれになったパーカーを、俺は呆然と見下ろす。
汚してしまった。どうしようか。そんなことをぼんやりと考えていた。
初めて殺人を犯したというのに。
恐怖で雁字搦めになりかけていたのに。
それなのに、頭は冷めきっている。
脳内に刻まれた未知の情報に対する昂揚感が、俺の感覚を麻痺させていた。
俺はとっくに何かがぶっ壊れた。
再び、俺の脳裏に過去の記憶が蘇る。
消しゴム集め。
アプリのガチャ。
何もない人生を、常に一瞬の快楽で埋め合わせようとし続けた。
実像の無い、虚しい快楽だった。
何をしても満たされない。
だからずっと、目先の欲求にしか執着できなかった。
掴めばすぐに消えてしまう。そんなちっぽけな快感、勝利。
なんの意味もない。ほんの十数秒だけ得られる、麻薬のような快楽。
その一瞬だけ、必死に扱いて射精した時のような愉悦感に到れる。
そう、一瞬だけ。
それが終わった後は、虚脱感。
そして脳内でいつもの言葉が反復する。
―――――で?それが何?
虚しさだけが込み上げてくる。
努力とか、経験とか、そうして掴めたものなんて一つもない。
パチンコで散々金をスッた直後に得られた、なけなしの景品。それと同じだ。
何の得にもならない。結局は何の糧にもならない。無駄。無駄無駄。ただただ、無駄なだけ。
だから俺は、いつまでも満たされない。
だけど、もし。
神様がこの世にいるとして。
奇跡のような巡り合わせを、気まぐれに与えてくれたら?
そう思った、その矢先。
俺は迷わず、視線を上げた。
暗闇の宙に、そいつは漂っていた。
それは一枚の写真だった。
まるで風船みたいに浮かぶ写真の中から、白髪の老人が身を乗り出していた。
そう、写真から飛び出しているのだ。
まるで幽霊か何かのように。
「……誰だよ、あんた」
どう見ても異様な光景だったのに、俺は不思議と冷静だった。
「きさまがマスターじゃな……!」
老人は俺の言うことを無視して、一人で呟く。
俺は、右手の甲を見つめた。見覚えのない紋章がそこに刻まれている。
これが、参加者としての資格。そういうことらしい。
「よく聞け小僧ッ!『聖杯』さえ掴めばあらゆる願いが叶う!富や名声だろうと心の平穏だろうと全て望みのままなのだッ!!」
そして―――老人は、畳み掛ける。
熱の籠もった口調で、何処か狂的に。
「わしは『わが息子』に必ず聖杯を掴ませると誓った……そのためには小僧、マスターであるきさまの存在も不可欠!」
悲しみ。苦悩。怒り。誓い。
様々な感情を入り混じらせて、老人は喋り続ける。
「きさまのサーヴァント―――『わが息子』は人を殺さねばならないサガを背負っている!社会が息子を追い詰める限り!英霊の座という檻に閉じ込められる限りッ!息子に“真の平穏”は訪れない……」
この年寄りの事情なんか、何も知らない。
こいつが何を言いたいのかも、理解できない。
興味も無い。だけど、感じ取れることはある。
多分、こいつは―――俺の味方だということだ。
「『聖杯』を手に入れる為に戦え!!どこまでもハングリーになって自らの『欲望』追い求めるのだッ!!」
老人は、俺に対してそう告げて。
そして直後に、夜の影に溶け込むように姿を消した。
再び、静寂がその場を支配した。
俺と死体だけが、そこに取り残される。
まるで案山子のように、その場に立ち尽くして。
暫くの間を置いてから、俺は鞄の中を覗き込んだ。
ナイフと共にしまいこんだ“それ”を、虚ろに見つめた。
ペットの『まる』を埋めたあの日―――俺は偶然にも力を手にした。
拳銃。人の命を奪うための道具が、公園に埋められていた。
何でこんなところに。誰がやったのか。そんなのはどうだって良かった。
そして、この現状。聖杯戦争。勝ち残ればどんな願いでも叶う。
あの拳銃を手にした直後、俺はこの世界に迷い込んでいた。
ピンチの時こそ最大のチャンスが訪れる。追い詰められれば必ず救済措置がある。ゲームとはそういうものだ。そうプログラムされている。
神様。クソみてえな神様。
アンタに言ってんだよ。
これが、俺への救済措置ってわけか?
思う存分、今までの元を取り戻せって。
そういうことだよな?
おい、神様。これも運命か?
勝ち残れ。今度こそ価値のあることをしろ。
そういうお告げなんだよな?
神様よ。
ボンッ。
唐突に耳に響く、小さな爆発音。
視線を、ふいに下ろした。
いつの間にか、死体は跡形もなく消え去っていた。
俺はただ呆然と立ち尽くして。
そして路地の暗がりへと溶け込んでいく“人影”を見た。
その手に握り締められていたのは、“女性の右手”だった。
死体の手首を切り取り、持ち帰った。
残された肉体は木っ端微塵に吹き飛ばした。
そんな常軌を逸した状況を目の当たりにし、俺の脳裏で“あのニュース”がフラッシュバックした。
ああ、そういうことかよ―――。
俺は笑みが止まらなかった。
これから人を殺していくんだ。
だから俺のもとに、“殺人鬼”がやってきたんだ。
なあ、神様。
最高じゃねえか。
◆
《東京都在住、20代女性の行方が――――》
《先日未明、30代女性が消息を――――》
《銀行員の××さん(29)と連絡が取れず――――》
《大学生の××××さん(20)が現在――――》
《この女性を探しています ×月×日を最後に行方不明》
《#拡散希望 妹の行方がわからなくなっています》
《次のニュースです。会社員の女性が―――》
《朝のニュースをお伝えします》
《ただ今入ったニュースです》
《この人を探しています!》
《この人を探しています!》
《この人を探しています!》
《この人を探しています!》
《この人を探しています!》
《この人を探しています!》
◆
【クラス】アサシン
【真名】吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険
【属性】中立・悪
【パラメーター】
筋力:E 耐久:D 敏捷:E 魔力:C 幸運:A 宝具:C
【クラススキル】
街陰の殺人鬼:A
気配遮断の変容スキル。
他主従から魔力の気配を一切探知されず、またマスターによるステータスの視認をシャットアウトする。
例え町中を堂々と闊歩しようと、彼はサーヴァントとして認識されない。
戦闘態勢に入っている最中のみスキルの効果が完全解除される。逆を言えば『猟奇殺人』や『暗殺』としての行動ならば、例え宝具を発動しようともスキルの効果が持続する。
【保有スキル】
精神汚染:B+
吉良吉影は狂気を飼い慣らし、抑え難い欲望と共に日常へと溶け込んできた。
同ランク以下の精神干渉を無効化する。
追跡者:B
アサシンが「殺人の標的」「自身の正体を探ろうとする者」を直接認識した際、以後その対象の気配を探りやすくなる。また対象に危害を加える際には先手を取りやすくなる。
このスキルは宝具『血が絆を分かつとも』で召喚された“写真のおやじ”にも共有される。
窮地の運命:A
ピンチに陥った際にチャンスが訪れるスキル。
戦闘突入時に自身の幸運値判定にプラス補正が掛かり、更にアサシンの真名を知った相手に対しては攻撃や逃走におけるクリティカル判定の成功率が倍増する。
【宝具】
『彼女は殺戮の女王(キラークイーン)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~4 最大補足:1
傍に立つ精神の化身『スタンド』。近距離パワー型に分類され、「筋力:B 耐久:D 敏捷:C」相当のステータスを持つ。
触れたものを爆弾に変える能力を持つ。爆弾に変えられるものに制限はないが、爆弾化出来るのは一度に一つまで。
起爆方法は「地雷のように何かが触れることで起爆する接触型の爆弾」か「スタンドの右手のスイッチで起爆する任意型の爆弾」のどちらかを指定可能。
また、爆弾に関しても「爆弾自体が爆発するタイプ」と「爆弾に触れた者が爆発するタイプ」のいずれかを指定できる。
一度爆弾の設定を決めたら爆破させるか一旦爆弾化を解除するまで変更出来ない。
爆弾化した物質に外見や構造面での変化は起きず、「爆弾」の判別は困難。
スタンドビジョンのダメージは本体にフィードバックされ、キラークイーンが破壊されればアサシンは消滅する。
『彼女を愛した猫草(ストレイ・キャット)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1~50 最大補足:5
キラークイーンの腹部に収納されている植物と猫の融合生物『猫草』。
周囲の空気を自在に操り、空気を固めて防御壁にしたり空気を砲弾のように発射することなどが出来る。
吉良吉影はこの特性を戦闘に利用し、“爆弾化した空気弾”を飛び道具として射出することで攻撃を行った。
生前とは異なり猫草はキラークイーンと完全に一体化している為、如何なる宝具やスキルを用いても奪取することは出来ない。
『血が絆を分かつとも(アトム・ハート・ファーザー)』
ランク:D+ 種別:召喚宝具 レンジ:- 最大補足:-
アサシンの現界と共に自動発動する宝具。
実父である吉良吉廣、通称“写真のおやじ”が使い魔として召喚され自律行動をする。
“写真のおやじ”は「気配遮断:B」「単独行動:A+」のスキルを保有し、偵察や隠密行動を得意とする。またアサシンやマスターと念話で交信することが可能。
『殺人鬼・吉良吉影の幇助をしていた逸話』を体現する姿であること、サーヴァントに満たない存在故に異能が完全に再現されなかったことから、写真の中に閉じ込められた状態で現界している。
そのため彼自身がスタンドを行使することは不可能。スタンド使いを生み出す『矢』も所持していない。
また単独行動スキルを備えているものの、アサシンが消滅すれば“写真のおやじ”も消滅する。
【weapon】
スタンド『キラークイーン』。一般人にはスタンドを認識できないが、サーヴァントとマスターにのみ視認される。
なお界聖杯における吉良吉影は“川尻浩作に成り代わった後”の側面が色濃く出ている為、第2の爆弾『シアーハートアタック』は使用不可能。
時空そのものに干渉する『バイツァ・ダスト』も再現されていない。
【人物背景】
吉良吉影は静かに暮らしたい―――。
彼は植物のような平穏を好み、面倒事や気苦労を嫌う。
表向きはこれといって特徴のない地味なサラリーマン。
しかしその正体は『美しい手』への執着心から48人もの女性を殺害してきた連続殺人鬼である。
物語中盤、町を守る“黄金の精神”に追い詰められた彼はある手段によって自らの顔を入れ替えることで逃亡を果たした。
界聖杯においてはバイツァ・ダスト発現後の姿で召喚されており、それ故に顔も“川尻浩作“のものとなっている。
【サーヴァントとしての願い】
英霊という大層な“枷“など要らない。
自らが望む“絶対的な平穏”を勝ち取る。
【マスター】
田中@オッドタクシー
【マスターとしての願い】
聖杯を手に入れる。その先のことは何も考えていない。
ほんの一瞬の快楽を凌駕する、究極の絶頂を確かめてみたい。
【Weapon】
拳銃(6発のみ装填、予備弾薬なし)。ナイフ。
【能力・技能】
特に何もない。ゲーム制作会社に所属していたが、際立った技能は持たない。
しかし彼は、ちっぽけな狂気の一線を越えている。
【人物背景】
ゲーム会社に勤務する24歳の男性。
普段は大人しい性格だが、物事にハマるとのめり込んでしまう節がある。
小学生の頃はレア消しゴム集めに夢中だった。社会人になってからは動物収集アプリゲームに没頭した。
執着と病理で雁字搦めになった彼は、ある事故をきっかけに道を踏み外していく。
【方針】
皆殺し。ゲームに勝つ。
サーヴァントだろうと、マスターだろうと、殺す。
【備考】
アニメ4話『田中革命』の終盤、拳銃を手に入れた直後から参戦。
界聖杯でのロールは会社員だが、無断欠勤を続けている。
作中では擬人化されたピューマの姿で描写されているが、界聖杯においてはあくまで人間と見なされ「平凡な風貌をした24歳の成人男性」として他者から認識される。
投下終了です。
投下します
美少年探偵団団則
1、美しくあること
2、少年であること
3、探偵であること
0 まえがき
「芸術は爆発だ」
誰もが一度は見聞きしたことがあるだろう──日本が誇る芸術家、岡本太郎が自分の信念と生き方を表現した名言だ。短いながらもインパクトのある言葉を残しているあたり、流石は歴史的なアーティストである。
ちなみに、この名言は彼の著書で登場したものであり、当然ながらその前後には文脈の流れが存在する。恐れ知らずにもわたしごときがそれを要約させていただくと、岡本氏が考える爆発とは、全身全霊が宇宙に向かって無条件に開くことであり、人生は本来、瞬間瞬間に無償、無目的に爆発し続けるべきで、それこそが命の在り方なんだとか。
つまるところ、常日頃から全力で生き続けることこそが、彼の中にある芸術観なのだ。
わたしにみたいに努力や全力といった言葉と無縁の人生を歩んできた落伍者にとっては、耳が痛くなる話である。岡本氏の言葉に従えば、わたしなんかは生きていないも同然だ。爆発どころか爆縮するようにして身を縮こまらせて、気まずい思いをするばかりである。
こういう言葉は、あの美少年たちにこそ相応しい。限られた少年の時間を全力で駆け抜け、爆発のような輝きを放つ、美少年探偵団の面々にとって、この言葉は普段着ている制服以上にお似合いだろう。
そんなわけで今回の話の舞台は万博のシンボルとして大阪に建てられ、以後四十年以上もの間聳え続けている『太陽の塔』──ではなく、そこから東に400キロ以上移動した位置に屹立する、西の名塔に対する東の名塔、東京スカイツリーだ。
岡本太郎についてここまで語っておきながら『太陽の塔』じゃないのかよ、という鋭い指摘が方々から聞こえてきそうだけれど、仕方ない。わたしだってできることなら、かの巨匠が遺した名作を、一度はこの目で見たかったものだ。そのような欲求が通らなかったのにはいくつかの理由があるわけで、その中でも特に大きいのが、話の舞台となる場所を東京以外にセレクトできなかったことである。
だって──いつの間にか異世界の東京都に連れてこられて、そこに閉じ込められたわたしが、西の大都市に行けるはずがないでしょ?
1 聖杯戦争
突然だが、バトルロワイアルの参加者になった。
なんて風に切り出すと、間違って新西尾維新バトルロワイアルのスレを開いてしまったのかと思う方や、わたしが『十二大戦』出典のキャラクターだと思う方もおられるかもしれないが、どちらも勘違いなので安心してほしい。あなたが開いているスレは『Fate/Over The Horizon』だし、わたしこと瞳島眉美は正真正銘『美少年シリーズ』生まれ『美少年シリーズ』育ちの『美少年シリーズ』出典キャラクターだ。
本来なら血生臭い異能バトルとは無縁の所で美食に舌鼓を打ったり、エステを堪能したり、生足を撫でたりしている、いたって普通の女子中学生である。視力が左右ともに100.0だったり、とある事情から男装をしていたりするけれど、それはまあ、ちょっとしたスパイスじみた個性というやつだ。
間違っても、聖杯などという、どんな願いでも叶えられる便利アイテムを手に入れるために繰り広げられる戦争なんかに関わるような人物ではない。いくらわたしが欲深いクズだからって、限度というものがある。
不意に今流行りの異世界転移が起きて、無理やり参加者に登録されでもしない限り、このバトルロワイアルの存在すら知ることがなかっただろう。ましてや参加するなんて。わたしは地球と戦う英雄や不死身の吸血鬼じゃあないんだぞ? ──スカイツリー。その展望台にて。
わたしの隣に立つ男性は、遥かな高みから都内の風景を見下ろしていた。
見下ろして、と言ったが彼は両目を真っ黒なヘアバンドで隠すというかなり奇抜でありながら、流行の最先端の地である東京では当たり前のように溶け込みそうなファッションをしているため、透視能力を持つわたしでもない限り、彼の視線がどこに向いているのか、外界からは判別できない。普通なら眼下に広がる光景どころか、自分の目と鼻の先すら視認できなさそうな格好である。しかし、どうやら彼は特殊な眼をしているようで、この程度の覆いでは周囲の認識に支障がないらしい。
特殊な眼。
私と似ている。
そんな共通点があって、彼は──キャスター・五条悟は、わたしの元に召喚にされたのだろうか。他にわたしが持つ特徴と言えば、周りからよく性格を批難されることくらいだが、まさか、こんないい歳した大人が、しかも聞いた話によれば、サーヴァントになる前は教職に就いていたような人が、わたしと同じような精神性(クズ)なわけがないだろう。まさかね。
「いやあ、拍子抜けするくらい平和だ」
「そうですね。これからここが戦争の舞台になるなんて……信じられない」
キャスターさんの言葉に、そのように返す。
信じられない──いや、信じたくない、と言った方が正しいか。
これまで探偵団の仲間たちと共に、不法の運び屋に違法カジノ、果ては合法的に日本の教育界を崩そうとしていた組織を相手とする戦いを繰り広げてきたわたしといえども、殺し合いなどという命の危機と直接的に繋がる戦いに身を投じるのは、これが初である。実感も自覚も未だに湧かない。実はわたしは指輪学園の美術室にあるベッドで寝ていて、いま体験している夢のような出来事は、本当に夢なんじゃないか、と思う。思いたくなってしまう。
しかしながら、現今、わたしの視界に広がる東京の景色はリアルだった。あまりの現実味に思わず目を逸らしたくなるが、『美観』の名を冠する語り部として、そのような行為をするわけにはいかない。……やれやれ、この世界を生み出した『界聖杯』の再現度には度肝を抜かされるばかりである。美少年探偵団の美術班である天才児くんでも、ここまで緻密で大掛かりなジオラマを作るのは難しいだろう。
「ジオラマか。その通り。いいこと言うね──どれだけ模倣がうまくたって、所詮そこにあるのはニセモノだ。ゲームで言うNPCにすぎない」
キャスターさんは小さく笑った。
そして自分の台詞に重ねるようにして、
「じゃあさ、さっさとこれ全部ぶっ壊しちゃおっか?」
「……え?」
わたしは顔に存在する穴という穴を丸めて、ぽかんとした。
今こいつ、なんて言った?
「ほら、僕って最強だからさ。その気になれば、この展望台から都民全員を皆殺しにするなんて、そりゃもう欠伸が出るほどに余裕なんだよね」
言って、キャスターさんは人差し指と中指だけを立てた右手で、自分の足元に広がる世界を示した。まるで指鉄砲みたいなポーズだが、彼がすると、核ミサイルよりも恐ろしい何かの先端が、東京の街に向けられているように感じられた。
「サーヴァントとして召喚された以上、僕は眉美を守るつもりだけど、それ以外については保証できない。多少の犠牲なら仕方ないと思っている」
「……都内全員は『多少の犠牲』で済みませんよ」
「ニセモノまで犠牲に数えるつもりかい? ……まあ、中にはホンモノが、つまり、君と同じように聖杯戦争の参加者に選ばれた生身の人間がいるかもしれないけどさ、その数なんてそれこそ『多少』だよ。日本の一日あたりの交通事故の死者数と比べたら、大差ない。それさえ受け入れれば、後に待っているのは確実な勝利だけさ」
「……っ」
「それに、僕としてもこんなところで、時間を食うわけにはいかないんだよね」
絶句しているわたしの台詞を待たずに、キャスターさんは続ける。
それは呪いのように強い言葉だった。
「あの脳味噌野郎に封印されたせいかな──僕の召喚経緯は普通のサーヴァントとは違う。彼らが死後に召喚されているのに対し、僕の最後の記憶は封印された直後だ」
だから。
「こんな戦争なんてさっさと終わらせて、元の世界に戻りたい。出来ることなら、聖杯ってやつを使って封印を解いてさ」
キャスターさんはそのように語った。
「眉美だって聖杯とかいうドラゴンボールみたいな便利アイテムがあったら、叶えたい願いや夢のひとつやふたつはあるでしょ。いい年した女の子なんだしさ」
その目に宿る力とやらでわたしの男装をあっさりと看破しながら、キャスターさんは問う。きっと彼の目にかかれば、ついぞわたしには分からなかった札槻くんの透明化トリックも、難なく見破ることが出来るのだろう。
夢。
キャスターさんが口にしたその言葉を聞いた瞬間、私の脳内に溢れ出したのは、かつての記憶だった。
宇宙飛行士になりたい──それが幼い頃からの夢であり、そして十四歳の誕生日に諦めた夢でもある。
聖杯によってそれを叶えることが出来たら? あるいは、夢を諦める理由だった、良すぎる視力によって近い将来訪れることが確定している失明を回避出来たら?
もしも、そんな未来があれば、これまで泥をすするようだったわたしの人生は一転して、薔薇色に染まることだろう。なんて素晴らしい未来予想図だ──だけど。
だけど──
「聖杯なんて……いりません」
十四歳の誕生日を前に、宇宙飛行士を夢見て夜空を見上げるばかりだった頃の私なら、キャスターさんの提案に乗っていたかもしれない。
あるいは、わたしがひとりきりだったら、その甘言に惑わされていたかもしれない。
だけど今、この場にいるわたしは、既に美少年探偵団で輝かしい日々を過ごし、美学を勉強中の瞳島眉美だ。それに、ひとりきりでもない。
たとえこの場にいなくても、わたしの心の中には彼らが──美少年たちがいてくれる。
美少年探偵団の隠された四番目の団則に則るようにして、団(チーム)でいてくれている。
だったら『美観』のマユミの名を持つわたしは、彼らの存在に恥じぬよう、こう答えるべきだ。
「だって、誰かの願いを蹴落として叶える願いなんて……たったひとりしか叶えられない願いなんて──そんなもの、美しくない」
東西東西の声がなくとも高らかに、宣言するようにして、わたしはそう言った。
一方、キャスターさんは──ニィと笑う。
「いいね。この状況でそんな風に断言できるなんて、かなりイカれてるよ、君」
「え」
わたしの顔に存在する穴は、再び真ん丸になった。そんな反応を置いてけぼりにしながら、キャスターさんは次のように言う。
「じゃ、無闇な破壊は起こさずに、その辺で暴れまわってる奴を適当に倒しながら、この世界から脱出する方法を探そうか」
「探そうかって……そんな、随分とあっさり……キャスターさんはそれでいいんですか?」
「やだなあ、さっきはあくまで僕がやれる可能性のひとつを提示しただけだよ? 元の世界に早く帰りたいのは本当だけど、僕の生徒たちは優秀でね。たとえ僕がいなくても、まあ、どうにか上手くやってくれるさ」
あっけらかんと笑うキャスターさん。先ほどまで放っていた凄みは、既にどこかに霧散していた。今更になって、肩にどっと重みがかかる。
まさか──これまでの一連の会話で試されていたのか? このわたしが?
くそう……、いい性格をしてるじゃないか。
悔しがるわたしを愉快気に見つめながら、キャスターさんは「それに」と声を発し、先の台詞に続けた。
「若人の願いを聞いてあげるのが、大人の役目だからね」
【クラス】
キャスター
【真名】
五条悟@呪術廻戦
【属性】
渾沌・中庸
【ステータス】
筋力C 耐久B 敏捷A 魔力A 幸運B 宝具EX
【クラススキル】
陣地作成:A
魔術師として──呪術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。キャスターは帳や領域の作成が可能であり、下記のスキルで常に自分の周囲に『無限』を実在させている。
【保有スキル】
呪術:EX
無下限呪術。
至る所に存在する『無限』を現実にする術式。術式発動時、キャスターの周囲には『無限』が実在し、そのため、キャスターに触れようとするものは近づけば近づくほど、傍目には止まって見えるほど遅くなり、彼に危害を加えることが不可能となる。本来、この術式は使いこなす為に微細な呪力コントロールが要され、術者に並大抵ではない負荷を与えるのだが、キャスターはそのデメリットを下記のスキル『六眼』による緻密な呪力コントロールと反転術式による脳の治癒によって克服しており、術式の常時発動を可能にしている。
また、キャスターは呪術の極致である領域展開にも到達しており、正真正銘最強の呪術師である。
六眼:EX
魔眼の一種。
世界の因果の深い部分に存在する、特殊な体質。
これを保有しているキャスターは呪力の視認、術式の看破、呪力の緻密な操作などの能力を持っており、これにより術式発動時に起きる呪力のロスが限りなくゼロに近く、呪力切れと無縁のサーヴァントになっている。
専科百般:A
多方面に発揮される天性の才能。キャスターは大抵のことは何でもできる。
【宝具】
『領域展開・無量空処』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:100 最大捕捉:100
固有結界とは似て非なる呪術の極致、領域展開。
自身の生得領域(心象風景)で周囲の空間を閉じ、内部に引き摺り込んだ相手に呪術を必中させる。この必中効果から逃れるには、神秘の籠った手段で防ぐか、領域の外に逃げ出すか、あるいはキャスターを上回る力量で領域を展開するしかない。
キャスターが展開する領域は宇宙空間のような光景をしているが、その実態は『無下限の内側』。領域内に引き摺り込んだ相手の知覚や伝達などの生きるという行為に無限回の作業を強制する。その結果、処理能力にパンクを起こした相手は思考がフリーズし、しばらくの間、無防備な廃人と化す。
【人物背景】
呪術高専東京校一年の担任。日本に四人しか存在しない特級呪術師のひとり。
自他ともに認める最強だった彼だが、呪霊と呪詛師たちが渋谷でおこした呪術的な大事件の中で、あらゆるものを封印できる生きた結界・獄門疆に封印される。結界内に収容され、この世から完全に隔離された五条は、観測する外部の目にとって『存在している』すなわち『生きている』と断言し難い、ひどく曖昧で、尋常の手段で観測できない状態になったため、サーヴァント・キャスターとしての召喚が可能となった。
【サーヴァントとしての願い】
元の世界への帰還。
【マスター】
瞳島 眉美@美少年シリーズ
【能力・技能】
・美観
生まれつき獲得している異常なまでの視力の良さ。あまりに視力が良すぎる所為で、ちょっとした壁くらいなら透視でき、人間の可視範囲外の光を視認できる。
しかし、この視力の良さは眉美の眼に多大な負荷を与えているため、彼女は遠からず視力を失う事を運命づけられている。
その為、普段は特殊な眼鏡をかけることで、超視力を抑えている。
【人物背景】
『美少年シリーズ』の語り部。私立指輪学園に通う中学二年生。
四歳の頃に一度だけ見た美しい星に心を奪われ、宇宙飛行士を目指すが、彼女の両親はそれを許さず、眉美は十四歳の誕生日までにその星を再び見つけなければ、夢を諦めなければいけなくなった。
それから十年――十四歳の誕生日が明日に迫ってもなお例の星を見つけられない彼女は、学園の屋上にて、とある少年と出会う。
美少年と出会う。
その美少年は美少年探偵団という学園非公認組織の団長、双頭院学であり、彼は眉美の悩みを知ると、探偵団による星の探索の協力を申し出た。
その後、美少年探偵団の個性豊かな美少年たちの協力で、自分が見た星の正体を知った彼女は、しかし、最終的に自分の夢を諦めることとなる――。
後日。眉美は男装し、美少年探偵団の一員となった。
彼女が新たな夢を見つけ、空を見上げる日は、いつか来るのだろうか――。
因みに、性格はかなりのクズである。
何かと性格がアレな女が多い西尾作品においても、トップレベルの性格の悪さを誇る。
瞳島眉美ではなく、瞳島屑美と改名すべきなのではないだろうか?
けどまあ、やる時はしっかりやる主人公らしさも見せるので、ただのクズではなく愛すべきクズと呼ぶべきなのだろう。
【マスターとしての願い】
なし。誰かを蹴落として叶える願いなんて美しくない。
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――「彼は主を遠くから見つけ、駆け寄って来て拝した。」
――「彼は大声で叫んだ。『いと高き神の子よ。いったい我に何をしようというのか。神の御名によって願う、どうか我を苦しめないでくれ』」
------------
ここは会場内のとあるサナトリウム、そこでは無数の患者がベッドに括り付けられた状態で横たわっていた。
彼らの身体の一部はあり得ないほどに肥大化しており、何かしらの異常が発生していることは明確であった。
そしてそんな患者たちのそばには、異様な姿をした女性がいた。
昆虫のように細く、カギ爪のついた腕をして、また全身にブドウのような球体をくっつけた姿をした女性だった。
彼女の名前は黄色ブドウ球菌。人体の皮膚や腸内に生息する常在菌で、また腸内では悪玉菌に分類される細菌である。
「さぁて、そろそろ時間のようね。じゃあ、さっさと生まれてきなさいよ、"ライダー"」
「苦しい助けて苦しい助けて苦しい助けて苦しい助けて苦しいたす……!」
そうやって彼らが苦しみから解放されることを望んでいると、突如として彼らの肥大化した部分が鳴動し始めたのだ。
その後、患者たちの身体から穴が空き始め、そこから大量の何かが現れ始めた。
それは鋭いかぎづめと反り返った角、そして無数のとげが付いた甲羅を背負った怪物だった。
彼らは、黄色ブドウ球菌がこの聖杯戦争で召喚したサーヴァントだった。
「ふう、これでさらなる力を手に入れられるな、ワガハイよ」
「そうだな、ワガハイ」
「しかし他のサーヴァントに勝つには、これでも足りないのではないか?ワガハイよ」
「ならばもっと増え続けるしかないな、ワガハイ達よ」
彼らは一様にして同じ言葉遣いをしており、またさらなる力を求めているような言動をしていた。
「……しっかし、いつ見てもアレな光景ね。"ウイルス"だから、他の生き物を使わなきゃ増殖できないことは分かってるんだけどねぇ?」
彼女は、そんな彼らを見て気持ち悪そうな顔をしてそう吐き捨てた。
そう、いま彼女の目の前にいる怪物は"ウイルス"が基となった存在なのである。
故に彼らは他の生物に乗り移る存在として、"ライダー"のサーヴァントとして召喚されたもの達であった。
「……そう邪険に扱わないでほしいのだがな。それに、ワガハイ達の能力は知っているだろう?奇しくも、貴様らと同じ能力を持っていることを」
そして彼らは、明らかに自分たちを嫌悪している様子の彼女に対して若干イラついた様子で言葉を返していた。
「……そうね、アンタは私たちと同じように『自分の仲間たちと合体し、強化される』という能力を持っているらしいわね」
「なんでウイルスであるアンタたちがそんな能力を持っているのか、本当にわけわかんないわよ」
それに対して彼女は、ウイルスとして異常としか言えない能力を持った彼らに対してそう返すのだった。
「……それはワガハイが、『ある存在を倒すために、人工的に生み出されたウイルス』だからだろう」
「……ふぅん、人間って時々訳の分からないものを作るのね?自分たちを滅ぼしかねない危険なものを作るなんて」
「違いないな……実際ワガハイの宿主も、自分の身体を失いかける結果を生んでいるのだから、愚かな存在だろうな、グワッハッハッハッハッハ!」
そうして彼らはひたすらに、人間たちの愚かさを笑い続けるのであった……。
------------
――「それは主が、『汚れた霊よ。この人から出て行くのだ』と言われたからである。」
――「主が、『おまえの名は何か』とお尋ねになるとそれは答えた。『我が名はレギオン。我々は、大勢であるがゆえに』」
【クラス】ライダー
【真名】ヒャクニンリキン
【出典】ドクターマリオくん
【性別】なし(外見上は男性)
【属性】混沌・悪
【パラメーター】
(通常時)
筋力:B+ 耐久:B+ 敏捷:E 魔力:B 幸運:C 宝具:EX
(『果てなき成長』発動後)
筋力:B++ 〜 EX 耐久:B++ 〜 EX 敏捷:E 魔力:B 幸運:C 宝具:E
(『果てなき成長の果て』発動後)
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:E 幸運:E 宝具:E
【クラススキル】
対魔力:C(A++)
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
しかし後述する宝具によってランクを上昇させることが可能。
騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
野獣ランクの獣は乗りこなせない。
彼はとある大魔王を強化するために感染させられたウイルスであり、
ほかの生命体へと感染した逸話を持たないため若干ランクが下がっている。
【保有スキル】
感染:C
細菌やウイルスの形状を取った己の分け身を他の生物に感染させ、己の領域を広げるスキルであり、
彼の場合は自分の分身を無数に生み出すことに特化している代わりに感染力が弱まっている。
これはライダーに感染したのは一人だけであり、またそれについても医療器具を使って
故意に感染されたものであることに起因している。
吸収:D
周囲の魔力や生命力を強制的に吸い上げ、自らに還元する。
霊格や魔術次第で対抗可能。
自己増殖:B
自分の一部を切り離して、分身を作り出すことができる。
彼の場合は前述した『感染』スキルと併用することで、他者の身体を介して
自分の分身を無数に作り出すことができる。
【宝具】
『果てなき成長(ヒャクニンリキン)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1〜1000 最大捕捉:1000人
自分の分身たちを取り込んで、幸運と敏捷以外の全てのステータスと対魔力スキルを上げ続ける宝具。
取り込んだ数に応じて胸の数字が変化し、またその数字だけ自身の能力を上昇させ続け、
本来の何倍もの能力を手にすることができる。
『果てなき成長の果て(仙人リキン)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
ライダーが自分の分身を1000人取り込んだ際に自動で発動する宝具で、
限界を超えた力を手にした結果として逆に弱体化してしまうというもの。
この宝具が発動したら最後、杖を使わなければ歩けないほどに衰弱した老人の姿に変わってしまい、
全てのステータスが最低ランクにまで低下してしまう。
更にこの姿となった場合には自己増殖スキルが使えなくなってしまうなど、完全なる自滅用宝具となっている。
【weapon】
鋭いかぎづめと無数のとげが付いた甲羅、また口から炎をはくこともできる。
なおこれは本来の感染者の持っていた能力をコピーしたものである。
【人物背景】
本来の感染者である『クッパ大王』と瓜二つの姿をした人間大のウイルス。
「クッパ大王がマリオに勝利できるようにする」という目的のために人工的に開発されたウイルスで、
感染すると数千人に増える上に百人が集合する事で宿主の百倍の強さを誇る怪物へと変貌する。
しかし千人と集合し『千人力』になろうとした際に誤ってクッパ本人を吸収した結果エラーを起こし、
弱体化してそのままマリオに敗北して消滅した。
……完全に余談だが彼が登場している作品はギャグ漫画であり、断じて本作のようなホラー的な展開はないので
悪しからず。
【サーヴァントとしての願い】
打倒マリオ。
……あと、ピーチちゃんと結婚したい。
【マスター】
黄色ブドウ球菌@はたらく細胞
【マスターとしての願い】
人体を介して増殖し続ける。
あと白血球やマクロファージに復讐する。
【weapon】
鋭いかぎづめと、下半身に存在する鋭利な尾。
【能力・技能】
援軍として大量の細菌を呼んだり、自身の同族と合体して巨大化するなどがある。
……ただしこの聖杯戦争において彼女は人間と同じ大きさになっている関係上
それらを行使することは不可能となっている。
【人物背景】
ブドウ球菌の一種で、人体の皮膚や腸内に生息する常在菌。また腸内では悪玉菌に分類される。
黄色いボディカラーにブドウを思わせるような球体部分が体中の各所に存在する、名が体を表す風貌が特徴的な菌類。
また女性的な言動で、別の細菌の侵入結果を確認して下調べを行うなど勤勉な性格をしている。
【方針】
とにかくライダーを増殖させ続けることで長期間の戦闘への下準備と、ライダー本人のパワーアップを図っていく。
……なお千人以上合体させて自滅する可能性については一切考慮していない(というか知らない)。
投下終了です
ありがとうございました。
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少女の歌には、血が流れている。
◇
立花響は反射する光に目を細めた。
まもなく正午を回る頃、太陽は天頂に差し掛かり、降り注ぐ日差しは雲に遮られることなく大通りの地表を温める。
今朝方まで降っていた雨はアスファルトに染み込み、それが蒸発することで気温と共に湿度も上昇、都心の蒸し暑さはここ数日で最高を記録していた。
「いやー……あっついね〜今日は」
響の歩いている大通りはちょうど日陰になる筈だったが、正面に建つガラス張りのビルが日光を映し、第二の太陽が無情にも彼女を照らしていた。
そして響の隣を歩く、もう一人の少女も。
「ホントにね。"カナデさん"と一緒に出かけるといつもこう。あたし、もう首元に汗かいてきちゃったんだけど」
セーラー服の半袖を摘みながら、非難がましく響を見つめる少女の名を、柏木舞といった。
15歳の響より少しだけ年下の中学生、肩から背にかかるほどの黒髪は、響のボブカットよりも少し長い。
「ええー……そんなこと」
反論しようとして、響は以前、舞と共に外に出た日のことを思い出す。
一昨日は大雨だった。3日前は強風だった。そして初めて出会った一週間前も、天候は良くなかった気がする。
「たしかに……私、呪われてるかも……」
なんて言って響は笑ってみせた。
不服そうな舞の表情が、演技であると知っていた。
「でも私が一人で出たときは快晴だったし、案外呪われてるのは舞ちゃんのほうかも?」
「ええーひっどい、あたしだって一人のときは、こんなことないもん」
「てことは、ふたり揃って呪われてるとか?」
「……そうかも、まとめて呪われてるのかもね、あたしたち」
薄っすらと、舞は笑ってみせた。
その表情もまた、演技であると知っている。
響はそれでも、今の時間をできるだけ長く続けたいと思った。
都心の歓楽街にて人混みに紛れて歩く彼女たちは、傍目には仲の良い友人関係に見えただろう。
着ている制服こそ違うものの、年の近い二人の少女の会話は微笑ましく、ありきたりな日常の中にあると。
今、彼女らを監視している者が常人であれば、誤解した筈だ。
「あ、そうだ舞ちゃん、喫茶店入ろうよ!」
「いいよ、カナデさんの奢りね」
「私、昨日のお好み焼きも奢ったよね!?」
「いーでしょ、そっちの方が年上なんだから」
しかし、彼女らを見ているのは、そういった表面的な虚飾に欺かれるような存在ではなかった。
そして今、響を見つめる、目の前の少女も、また。
「しょーがな……」
鞄の中の財布を確認しようとして、後ろに回しかけた手が止まる。
ほんの一瞬だけ強張らせた響の表情は、すぐさま元の明るい笑顔を取り戻していた筈だ。
出来れば気づかせたくない、その一心だった。
「ごめん舞ちゃん、ちょっと今日は懐が極寒で……。
お金下ろしに行ってくるから、先にお店の中で―――」
「釣れた? ランサー」
晩秋の風のように冷たい声だった。
響の所作だけで、舞は判断を下した。そうとしか思えなかった。
舞の魔術師としての適性はお世辞にも高いとは言えず、響よりも先に察知することは不可能だから。
察知した気配、敵性サーヴァントの接近。二人を監視していた魔術師(マスター)が遂に動いた。
響に現れたほんの僅かな表情と動きの変化から、舞は全てを理解し、切り替えていた。
サーヴァントに向けた呼び方の変化が、何よりそれを示している。
監視対策のために適当に呼んでいた偽名でなく、単純なクラス名へと。
「なら行って、ランサー。あたしはマスターの方を始末する」
明確に、そして冷静に、響に向けた指示。
既に、舞の顔に一切の表情は無い。戦闘が始まった以上、もう虚飾を貼り付ける必要もないからだ。
一瞬にして彼女は切り替わった。いや、あるいはこれが本来の彼女なのか。
空洞のような舞の両目が、何の感情も読み取れない色褪せた瞳が、響を見ている。
響にはそれが、なにより悔しく、そして悲しく思えて。
「分かった……けど……舞ちゃんは、出来ればここから離れてほしい。絶対に私が守るから、危険な事はしないで、安全なところに居て」
けれど空虚な目をした少女は、既に響を置いて歩き始めようとしていた。
絞り出すような響の声に、一度だけ振り返り、やはり凪いだ水面のような表情で、首をかしげている。
平静に、冷淡に、そして単純に疑問でしかなかったから、彼女はそれを聞くにすぎない。
「どうして?」
◇
疾風の如く襲いくる青い斬撃は鋭く曲がり、心臓を正確に追尾している。
戦場は陽の光届き得ぬ路地裏にて。
響は薄汚れたコンクリートの壁を蹴り飛ばして、斜め下からの斬り上げを回避した。
「さっさと獲物を抜け、貴様も三騎士のいずれかなれば」
大剣とも長槍ともつかぬ大型の刃物を振り回す敵サーヴァントの表情は、分厚い銀の甲冑の奥に隠れて伺えない。
代わりに兜の隙間に光る赤い目が、好戦的な意思を雄弁に語っている。
それでも諦めたくは無かった。響は両手を広げ、堂々と胸をそらして声を上げた。
「話し合おうよ! 私達、サーヴァント同士でも、言葉が通じるんだから!」
「寝言を」
まさしく切り払うように吐き捨て、騎士は追撃を放つ。
「俺は戦うため、聖杯を勝ち取るために来た。貴様と仲良くなりに来たわけではない。ここに、貴様と話すような英霊はいない!」
「だとしてもッ!」
続く三連撃を、響は素早く左右に跳ねて躱し、向かってくる敵にカウンターの肘打ちを合わせる。
鎧を揺るがす大衝撃は、しかし騎士の前進を止めるには至らず、反対に響の身体を大きく後方に吹き飛ばした。
空中にて体制を整え、なおも彼女は声を発し続ける。
「私は、分かり合うことを諦めたくないッ!!」
「くどい……!」
苛立ちをあらわにした騎士の獲物が変形していく。
近接武器から、火筒のような長距離射程の形態へ。
深まる剣呑な気配は、騎士の本領がこちらであることを物語っていた。
「仕方がない、お前が本気になれる理由を与えてやろう」
警戒を強める響に対し、騎士の眼光が輝きを強め、悪意に濁った意思を灯し始める。
「俺のマスターは優秀な魔術師でな、貴様の大切な主人の位置を常に把握している。この意味が分かるだろう?」
「…………」
「手遅れになる前に、俺を片付けなければなぁ?」
冷静に成るために、厳かに、響は自分の胸に手を当てた。
正直、今は分からないことだらけだった。
自分が何故、サーヴァントとしてここに呼ばれたのか。
元の世界がどうなったのか。聖杯戦争とは一体なんなのか。
そして何故、彼女の従者として選ばれたのか。疑問は尽きない。
だけど一つだけ分かることがある。
今は早く、マスターのもとに行かなければならない、手遅れになる前に。
それだけが確かな事実だった。
だから響は、間に合わせる為の決意をもって、大きく息を吸い込んだ。
「Balwisyall nescell gungnir tron――――」
宝具の起動。紡がれる歌が、その力を励起させる。
響の全身を光が覆う。
武装(ギア)が周囲を包み込み、少女を戦士へと変貌させる。
「そうだ来い! 戦え! ここは戦場! 聖杯戦争! 殺し合う他に道はない!」
闘争に飢えた騎士の声が囃し立てる。
やがて光を払って、現れた装者は裂帛の気合を込めて叫んだ。
「――だとしてもッ!!」
纏う聖遺物の名は激槍・ガングニール。
全身を覆うギア、それでも少女の両手は空いたまま。
それは傷つける為じゃない、誰かと繋ぎ合うための腕だから。
「あなたと分かり合うことを、諦めたわけじゃないッ!!」
声は陰湿な路地裏の空気を吹き飛ばし、熱血滾らす少女の歌が響き渡った。
◇
結論から言えば、立花響は間に合わなかった。
その場所はすぐに分かった。
歓楽街の外れ、閉鎖された雑居ビルの地下駐車場だった。
一般の者が立ち入ることのない暗がりで、密かに行われた戦いは既に決着が付いている。
残されたのは僅かな残り火と、黒く焼け焦げた敗者の骸と、小さく奏でられる勝者の音だけ。
響がたどり着いたとき、もう既に、それだけしか残っていなかった。
「ra―――ra―――ra―――」
それは悲しい歌だった。
そして寂しい歌だった。
目の前にあるどんな悲劇よりも、その旋律が響の胸を締め付けた。
自分は、間に合わなかったのだと、理解した。
「ra―――ra―――ra―――」
それは契約対価と呼ばれていた。
響と舞の間にある主従契約とは別の、それは舞自身の能力にまつわる。
契約者。
彼らは能力の行使に対価を支払う。
舞のそれは『歌』だった。
「ra――」
「……舞ちゃん」
見つめる少女の背に、響は言葉をかける。
黒焦げの死体を、数十秒前まで生きていた人間を、燃やし続ける少女の顔は見えない。
「もう、やめよう」
制止する響の言葉に、ようやく彼女は振り返り、そして言った。
「どうして?」
同時、舞の足元で、死体は跡形もなく灰になっていた。
それは敵マスターの存在を完全に消し去り、戦闘の痕跡を一切残さぬ情報秘匿。
自分の身を守るため、殺し合いの場において徹底された、合理的な判断に基づく行動に過ぎなかった。
数分前に行われていた戦闘の決着は実に簡素だった。
魔術師としての礼儀を重んじ、技量比べに拘った敵マスターを、舞は一切の躊躇なく燃やした。
彼女の魔術師としての素養は粗末なものだったが、契約者としての火力は群を抜いている。
舞の熾す炎は速く、そして強烈だった。
敵は一節の詠唱もままならず、喉から炭化して息絶えた。
舞は理解していたのだろう。
響が敵サーヴァントを退けたとして、マスターが残っていれば、やがて障害と化す可能性が高い。
こちらが一方的に補足された以上、主を仕留めなければ危険であると。
だから舞は自ら敵のマスターを誘い出し、確実な排除を実行する。
最初からそういう試みだった。
顛末は、合理的な判断の帰結に過ぎない。
だから――
「どうして?」
と、問うに過ぎない。
舞には分からない。響が今、どうして悲しい表情をしているのか。
どうして、やめようと言ったのか。
その言葉の意味は表層を撫でるだけで、舞の心に伝わることがない。
響は多くを知り得ない。
この場所で出会う以前、舞になにがあったのか。契約者とはどういう存在なのか。
それでも最初に舞の瞳を見たとき、その奥底に、大きな悲しみと、一切を諦めてしまったような寂寥を見た気がした。
彼女は今まで、どれだけの人を殺めてしまったのだろう。どれだけの人を傷つけ、そして傷ついてきたのだろう。
舞は守られるだけの弱者ではない。少女は強く、そして傷ついた罪人だった。
「だって……それは、悲しいことだから」
ああ、これじゃ駄目だ。
こんな言葉じゃ伝わらない。
響は悔しくて、唇を噛みしめる。
「痛くて、苦しくて、辛いことだから……!」
駄目だ。
これじゃ届かない。
これじゃあ、きっと舞の胸には響かない。
言葉が、声が、虚しく空を切るのが分かる。
舞の擦り切れた心に、凪いだ水面のような瞳に、波紋一つ与えることが出来ない。
響は知っている。守りたい日だまりの尊さを。そのために彼女は拳を握ってきた。
けれど響は知らなかった。自ら、日だまりを焼き尽くしてしまった者。罪とともに生きる人を救うすべを。
そのための歌(ことば)を。
「今はまだ、伝わらないかもしれない……」
響はゆっくりと歩み寄り、舞の正面に立つ。
そうして握る拳を、優しく、舞の胸に当てた。
見えない戸に、そっと触れるように。
「けどいつか、伝えてみせるから」
彼女を、助けたいと願う。
救われてほしいと願う。この心を間違いだなんて思わない。
知らなければいけないと思う、舞のことをもっと、そのために。
「まずは私のこと、もう一度、最初から、伝えるよ」
ここに宣誓を。
「私、立花響ッ!」
舞はどこか不思議そうに響を見ている。
伝わるだろうか。今は伝わらなくても、いつか。
一緒にいることで、いつか。
彼女の胸にまで届く歌を、歌えるように。
「15歳、血液型はO型ッ!」
胸の中で遠い世界の恩人に告げた。
師匠、翼さん、奏さん、私まだまだ未熟だけど、ここでもっと修行します。
「身長157センチ、体重は……もうちょっと仲良くなってからッ!」
舞の目をもう一度、正面から見つめた。
色褪せた空虚な瞳の、ずっと奥まで。
そこにまだ、なにも見えなくても。
「好きな物はごはん&ごはん、彼氏いない歴は……年齢と同じッ!」
舞の胸に手を当てたまま、強く言葉を紡いだ。
胸の響きを、伝える為に。
いつか必ず、伝える為に。
「……だから次は、舞ちゃんのこと、もっと教えて」
今はただ、拳にのせた心だけが全て。足りなくとも、全て。
◇
【クラス】
ランサー
【真名】
立花響@戦姫絶唱シンフォギア
【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷A 魔力C 幸運D 宝具A
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
【保有スキル】
中国武術:C
中華の合理。宇宙と一体になる事を目的とした武術をどれほど極めたかの値。
修得の難易度は最高レベルで、他のスキルと違い、Aでようやく“修得した”と言えるレベル。
よって響はまだまだ遥か長い道の途中。そも修練過程すら正道とは判じ難い。
しかし英雄故事、至宝の歌。それは確かに実在するのだ。
融合症例:A
聖遺物と融合した肉体。
エネルギー出力と回復力の根源となるスキル。
毒や精神支配といった状態異常に耐性を持つ。
神殺し:B
立花響の纏うガングニールに積層した想念、哲学兵装。
彼女の拳は神の摂理に対する猛毒的な特効を有する。
神霊、亡霊、神性スキルを有するサーヴァントへの攻撃にプラス補正。
【宝具】
『神殺しの激槍(ガングニール)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
北欧神話大神オーディンの振るう勝利必中の槍。
その穂先より造られし回天特機装束(シンフォギア)。
装者の口ずさむ歌の力によって励起され、彼女らの身に纏う鎧となり矛となる。
ガングニールはギアに加え槍状の武装を作り出す機能をもつが、立花響は「人と繋ぎ合う手に武器を持ちたくない」という深層心理から形成が出来ない。
代わりに、武装を形成するエネルギーそのものを拳に込め、敵に叩き込むように放つ近接戦法を得意としている。
『絶唱・始まりの歌(バベル・エクスドライブ)』
ランク:A+ 種別:対限界宝具 レンジ:1 最大補足:1
絶唱と呼ばれる、シンフォギア装者の最大最強の攻撃手段であり、宝具の域にまで高められた"歌"。
全力の歌唱によって増幅したエネルギーを解放し、限界を超えた極大の攻撃を行う。
その驚異的な威力の一方、反動(バックファイア)もまた深刻であり、使用者の生命を燃やし尽くすことも有りうる諸刃の剣。
効果範囲や形状は使用者や聖遺物の個性によって変化する。
真に限界の壁を破壊したときのみ、限界の先に至る決戦の宝具である。
【人物背景】
第3号聖遺物ガングニールのシンフォギア装者。
ノイズと呼ばれる特定変異災害から人々を守る特異災害対策機動部二課に所属していた。
聖遺物の破片を胸に受けたことにより、融合体としてシンフォギアを身に纏う資格を得る。
底抜けに明るく「人助け」が趣味と称されるほどのお人好し。
「人と手を繋ぐ」ことを信条とする前向きな性格で、たとえ相手が戦う敵であっても、わかりあうための手を伸ばす。
ちなみに15歳、血液型はO型、身長157センチ、好きな物は「ごはん&ごはん」、彼氏いない歴は年齢と同じ。
【サーヴァントとしての願い】
舞を守り、この胸の思いを伝える。
【マスター】
柏木舞@DARKER THAN BLACK 黒の契約者
【マスターとしての願い】
自身の生存と安全。
【能力・技能】
契約者と呼ばれる超能力者の一人。
能力は『発火』。
自身の意識の及ぶ範囲を瞬時に燃焼させることが出来る。
人も建造物も一瞬で消し炭に変えるほどの強力な広範囲火力。
能力使用後は固有の契約対価を支払う必要があり、彼女の対価は「歌をうたう」。
【人物背景】
ある組織に所属する契約者の少女。
モラトリアムと呼ばれる一種の能力暴走状態から、契約者へと状態を移行した唯一の例外。
能力を暴走させていた際には、友人を含む多くの人間を自分の意思とは無関係に焼き殺した。
契約者になってからは能力を完全に制御しているが、他の契約者と同じように表出する感情は希薄になり、冷たい合理的な思考のもと行動している。
【方針】
合理的に状況を判断する。
投下終了します。
投下します。
夜の路地裏にうずくまる女が一人。
辺りに人影はなく、割れた空き瓶のガラスだけが表道の灯りを反射して輝いていた。
その女は死にかけていた。
頭部にも腹部にも四肢にも致命的な傷口が残り、血が際限なく流れ出る。
もはや立つこともできず、意識も途絶え途絶えでかすれ声だけを漏らしている。
彼女はここ界聖杯<ユグドラシル>で催されている聖杯戦争のマスターだった。
過去形なのは、既にサーヴァントを失いマスターと呼べる資格を持ち合わせていないからだ。
鋭い眼光と鬼気迫る殺意を持ち合わせた主従に遭遇し、ほぼ抵抗すらできず敗退した。
彼女は令呪を使って自身のセイバーをサポートする間さえ与えられなかった。
ズタズタに引き裂かれた服の下、臍上に宿る三画の令呪が虚ろな女の目に映る。
その令呪だけが彼女がマスターであった事実を証明していた。
「…………」
女の抱いていた願いは、死産した息子の蘇生。
かつて子を産めぬ体になった時に覚えた絶望は、女に深い心の傷を与えた。
今死にゆく諦観など比較にならない悲哀。それを覆すための戦いも虚しく終わりを迎えたのだ。
「……?」
視界を■黒いナニカが覆う。額より流れ落ちた脳漿が、鼻をかすめて唇に絡みついた。
一瞬隠れた令呪の上に、真っ赤な牙のような文様が浮かんでいる。
なんだ、と思う事はない。女は既に思考能力を失っている。
死への最期の一時。認識を介さない女の視力が、女の聴力が、女の第六感が"それ"を捉えていた。
『お選びください』
流暢な口調で、"それ"は言葉を紡いでいる。
『お選びください』
女は応えない。死者は意向を返せない。
『お選びください』
女は動かない。死体は口を動かせない。
『お選びください』
「 」
故に、その問いに対(こた)えたそれは既に人間ではなく……。
『承知いたしました』
◇
「『子泣き南天』のウワサ、知ってる?」
「……南天を知らないか。小さくて赤い実をつける、庭先に縁起物として植えられることもある植物だよ」
「薬用に使われることもあるらしいけど、『なんてん』……『難を転じる』ってもじりが先で、
大昔は、火事避けの意味でどこの家でも玄関に飾ってたらしいよ」
「うん、話を戻すね……新宿と千代田の間くらいにある廃ビルで、そういう名前のお化けが出るんだってさ」
「ビルの前を夜中の零時ぴったりに通り過ぎると、エーンエーンって子供の泣き声が聞こえてさぁ」
「どこから聞こえてんだ、ってビルの方を見ると窓の向こうに大きな植物が動くのが見えるんだよ」
「そこで建物に入っていくと怖い目にあうんだけど……そんなことある!? 普通入らないでしょ」
「聞いた話を喋ってて悪いけどさぁ! これ怖い目に遭う方にも問題あるよね!?」
「ハイハイ話しますよ! そういう集まりだからね!……で、ビルに入ると南天が生い茂ってるの」
「かき分けて踏み入っていくと、おかしいなって気付くんだよ。ちょっと歩いても階段やエレベーターがないの」
「それどころか廊下を歩いてたはずなのに壁がなくなってるの。上見ても緑、緑、緑。いきなり森の中にいるわけ」
「戻ろうとしても来た道もなくなってて、子供の泣き声は大きくなるばかり」
「最初はビルの中……つまり歩いてる先から聞こえてたのに、だんだんどこから聞こえてるかわからなくなる」
「というか、周囲全体から聞こえてる、ってなるわけ。それに気付いたら、身動きが取れなくなるらしい」
「いつの間にか周りの植物が身体に絡みついてる。身体の中からも葉や根が皮膚を突き破って出てくる」
「そうなってしばらくしてから、ふっ、と目眩がして」
「気付くと、ビルの中に戻ってる。相変わらず身動きは取れない。自分の意志とは関係なく、窓に近づいていく」
「窓から外が見える。どうやって上がったのか、景色は6階だか7階だかから見るようなものでさ」
「下から人間がこっちを見上げてる。さっき自分がやってたように」
「誘い込むように窓から身を引く自分の姿が、窓ガラスに映ると……」
「もうそれは、植物の塊にしか見えなかったんだってさ」
◇
「というわけで、もうその人は廃ビルの住民になっちゃったんだってさー!怖かった?ん?ん?」
「キャー、怖わ〜い! で、その人が持ってた携帯で広めたんですか、その話?」
「姉さん……そのツッコミは……」
都立・中高一貫校キメツ学園。
その一室で暑気払いの為に開催された百物語大会。
学年問わず多くの生徒が集まっているそこで、今一つの怪談が終わった。
引率である音楽教師がポン、と肩に担いだ小太鼓を叩いてそれを示す。
「小咄自体も……語り口も……凡庸以下といえる……これでは新人賞は取れぬ……」
「そんなぁ」
綺麗どころの女子が反応してくれた事に内容を深く考えず狂喜していた金髪の男子生徒がへたりこむ。
意外と自信はあったらしい。よたよたと這いずるように移動する彼を、勢いよく立ち上がった別の生徒が励ました。
彼の髪と瞳には赤色がまだらに混じっている。耳には花札を模ったピアス、額には火傷のような痣が浮かぶ、目立つ容姿だった。
「善逸! 俺はすごく怖かったぞ! 場所を現実にある近場に設定して聞き手に想像しやすくしたのは技巧が利いてたと思う!」
「俺が創作したわけじゃなくて聞いた話をそのまま言ってるだけだからね……あと先輩を呼び捨てってお前……」
「ごめんなさい!」
『儂も今の話には恐怖を感じた……特に身体から植物がわき出る下り……恐ろしや……』
「「「ギャアアアアアア!!!!!なんか本物の悪霊出た!!!!!響凱先生!誰か体育の先生を!!!!」」」
『儂は学校の怪談だ!悪霊ではない!』
学生らしい喧騒の中、金髪の生徒を立ち上がらせて隣に座らせた赫灼たる少年が問いかける。
先程の怪談についてより詳しく知りたい、との事だった。
善逸と呼ばれた語り手は明け透けとした少年の態度に戸惑いながらも、詳しい場所や聞いた相手を伝える。
駆けつけたジャージ姿の体育教師が学校の怪談を名乗る不審者を竹刀で殴打する様を横目に、少年は真剣な面持ちでそれを聞く。
そこへ、二人の前の席に座っている、極めて短い丈の制服を着た女子が椅子を後ろに倒して顔を寄せてきた。
「竈門ぉ。うちのお兄ちゃんがそのビルに行ってみたって言ってたよ。話聞いてみる?」
「ええっ!本当か!?ありがとう、梅!」
一年生ながら学園の男子生徒から多大な支持を受ける少女の好意に感謝して、少年……竈門炭治郎は差し出された携帯を受け取った。
隣で少女にちょっかいをかけられて絶頂している善逸をよそに、ぶっきらぼうで妹思いな少女の兄と通話し、情報を更に集める。
その目には、周囲の学生や教師が誰も気づかないほど深いところに、強い決意の火が宿っていた。
◇
当日、深夜零時。
件の怪談の舞台である廃ビルの前に、竈門……竈門炭治郎は立っていた。
昼間の学生服とは似ても似つかぬ、背に"滅"の文字が入った詰襟の制服を身にまとっている。
上から羽織った緑と黒の市松柄が、月のない夜によく映えていた。
昼間の彼と最も違う点は、当然のように帯刀している事ではなく、背負っている桐製の箱が放つ異様な気配か。
時折、小刻みに動いているようにも見える。
「泣き声は聞こえないなぁ」
迷いない足取りで廃ビルに入った炭治郎は、鼻をヒクつかせて周囲の臭いを嗅ぐ。
人並み外れた嗅覚を持つ彼は、余人が気付かない何かにも敏感に反応する。
「……」
炭治郎の目が、何もない空間を凝視している。
ぼそり、と小声で何かを呟く彼に応えるように、背の箱がキシリと音を立てた。
『ォォォォォォォォォォ!!!!!!!ォォォォォォォオオオォォォン!!!!!』
「……居た!」
怪談で聞いたそれとは違う、地の底から響くような唸り。
まるで音が形を成すかのように、それは姿を表した。
赤い実は、恐怖に引きつった子供の顔。
花弁も、葉も、茎も、恐らくは根も。無数の人間の手足が拗じられ捩られて形作られている。
おぞましき異形の植物……"子泣き南天"の実態が、そこに顕現していた。
ズドン!ズドン!と何かが異形の周囲から落ちる。
それは廃ビルを訪れた人間の成れの果て。全身から緑の異物を生い茂らせる十数体の死体だった。
廃ビルに配置されていたらしい警備員と見える一体を除いて、その死体の全てが少年である。
少年たちの口がパクパクと開閉し、不快なコーラスを響かせる。
「「「「「「「 ォ ガ ァ ざ ん お か ァ サ ん 」」」」」」」
「うっ……」
途端に周囲に撒き散らされるむせ返るような異臭。
単純な組成としては血のそれに似た臭気は、しかし炭治郎の鼻には別の意味を持って届いていた。
狂気に変じたかのような、熟成された悲しみの感情。
臭いで相手の感情を理解できる炭治郎が怯むほどの激情が近付いてきている。
一瞬の眩暈。危険を察知して刀を抜き放った炭治郎は、万力の握力で柄を握りしめた。
戻った視界はもはや廃ビルではなく、樹海の景色を映し出している。
目の前まで迫った子泣き南天は、蔓と思しき肉の鞭を振り下ろす。
炭治郎の口が空気を吐き出す。その呼吸は、通常のものとは明らかに異なる技術であった。
「っっ……!」
全身が水車のように回転して攻撃を躱し、同時に捩られた身体が渦を連想させる斬撃を放つ。
水の呼吸・弐ノ型「水車」と陸ノ型「ねじれ渦」の複合技は、子泣き南天に確かな傷を刻む。
だがその巨体は痛覚などないかのごとく、刻まれた箇所を震わせてそこから新たな触腕を生成させた。
宙に舞う炭治郎の四肢が肉の蔓に拘束される。常人ならば四散するほどの膂力が獲物を引き裂かんと振るわれる。
だが、炭治郎は一息でその拘束を断ち切った。見れば額の痣が大きく、深い色へと変貌していた。
蔓を断ち切った刀は燃えるような怒涛の勢いで周囲の木々もろとも子泣き南天を切り飛ばしていく。
日の呼吸・日暈の龍・頭舞い。その技に斬られた部分は熱処理をされたかのように焦げつき、
子泣き南天の触腕の生成速度は目に見えて低下していた。
「臭いの大本……!? これは……この紋様は……」
炭治郎の目が驚愕に見開かれる。
"透き通る世界"と呼称される、呼吸と動作を究極の域に最適化する事で至るその視界が異形の内奥を看破していた。
見る影もなく変貌しているが、悲しみの感情を撒き散らすそれは人間の変じた姿であった。
生体として存続しているとは思えないが、子泣き南天の中心部には成人女性の物と思しき臍部から鼠径部までの部位が座している。
そこには真紅に染まった牙のような模様が、三重に絡み合う円の図柄を覆うように刻まれていた。
炭治郎の視線が、刀を握る己の左手の甲に移る。そこには全く同じ牙の模様が、日輪と雲を模した図柄を覆っている。
「────」
全てを察した炭治郎は、しかし動揺を一瞬で静め、闘争を再開した。
地を踏みしめて跳び上がる身体は天地逆さに入れ替わり、反撃を薙ぎ払う。
精緻な揺らぎを加えた斬撃が、迎え撃たんとする触腕を受け流して総体を刻む。
地を這うように・螺旋のように繰り出される追撃がとうとう異形を横転させた。
横たわった子泣き南天が触腕を足場に向けて放ち、中空に逃れようとする。
身体ごと回転させた渾身の一撃が追いすがり、半ばから異形を両断した。
力なく地に落ちんとする二つの植体に、幻じみた速度で炎と円の如き創傷が負わされていく。
人に仇なす存在を祓う、火の神の舞いがそこにあった。
舞いは終わらない。不浄を焼き尽くすまで。
やがて炭治郎の動きが止まったとき、樹海は廃ビルに、異形は肉片に変じていた。
シイイイイイイイ、と荒々しく続いていた呼吸が止まる。
そこにはもう、子泣き南天と呼ばれた存在…………"怪異"はいない。
犠牲者の遺体だけが残る寒々とした景色に、炭治郎は静かに立ち尽くしていた。
そこへ、背中に背負う桐の箱から、丁寧な口調の声が響いてきた。
『竈門様、おめでとうございます。怪異は破壊され、その思念はこの界聖杯より解放されました』
◇
「アサシン、ありがとう……」
竈門炭治郎は、界聖杯に招かれたマスターの一人であった。
床に下ろした桐の箱を開けると、そこには美しい洋装の人形が膝を抱えるように座りこんでいた。
花をあしらった帽子と素朴ながら細部まで作り込まれたドレスは押し並べて漆黒。
天より流れ落ちる光を留めたような金色の髪も、暗闇の中でも輝く青い両目も人間のそれにしか見えない。
肌もまたしっとりと、柔らかな印象を与える美しさ。関節部分の球体だけが、彼女を人形だと伝えていた。
炭治郎に抱き上げられ、箱の上に腰掛けて両手を組むそれこそ、彼の召喚したサーヴァント。
アサシン・メリイは人形ゆえに変わらぬ表情で炭治郎に語りかける。
『しかし、竃門様のシルシは消えていませんね。子泣き南天は、貴方に死の印を刻んだ怪異ではなかったようです』
「多分、サーヴァントを失ったマスターだと思う。シルシと令呪の臭いがあったんだ」
『竃門様と同じ境遇の方、という事ですね。印人が怪異に変じるとは、相当に強力な怪異の働きかけかと思われます』
「俺は大丈夫なのかな? 鬼になったりしない?」
『私とのパスが繋がっている間は、その様な事は起きないかと』
シルシ。
無念の死を遂げた死者が変じた存在である"怪異"が人間に刻む、死の予告。
サーヴァント・メリイを召喚した直後に炭治郎の令呪の上に浮かび上がったそれについて、
偶然知識を持っていたと言うメリイはそう説明した。
通常、シルシを刻まれた人間は時間経過で記憶を徐々に喪失し、抗う気力を失い、死に至る。
しかし運良くメリイと契約できていた炭治郎はその進行を止める事が出来たのだと言う。
シルシの作用によって令呪を使用する事が出来ないが、元より炭治郎にはサーヴァントに何かを強制するようなつもりもない。
怨敵・鬼舞辻無惨を倒し、最愛の妹である竈門禰豆子を人間に戻す事も成し遂げた彼には聖杯にかける願いすら希薄だった。
聖杯の力で過去に戻って無惨の襲撃を避ける事が出来ると考えると、迷わないとは言えない。
しかし自分が背負った責任を捨てれば、その幸福な世界では誰かが代わりにその荷を負うことになるだろう。
そう考えた炭治郎は聖杯を求める事をやめ、本当にそれを切望する誰かの助けになりたいとさえ考えていた。
メリイにその旨を伝えると、『私としては残念ですが、マスターには従います』とツンとした言葉が返ってきたので、
願いを問うてみると『人形である自分は、人間の感情をもっと深く知りたい』という事だった。
「それなら、聖杯なんて使わなくても俺や、他の人たちが教えてあげられると思う」
と、炭治郎はドンと胸を叩いて請け負ったものだ。
その契約を果たすためにも、炭治郎はシルシに殺されるわけにはいかない。
聖杯戦争は後回しで怪異の捜索に奔走し、初めて見つけた怪異が子泣き南天だったというわけだ。
『ひょっとしたら、界聖杯における怪異は全て敗退したマスターが変じた物なのかもしれませんね』
「なんでそう思うの?」
『この世界に存在する人間は、大半がNPCと呼ばれるモノだという知識が界聖杯から与えられたでしょう。
怪異は無念を残して死んだ人間の成れの果て。命を持たない存在がなれるものではありませんからね』
メリイは、と言いかけて炭治郎が思いとどまる。
怪異の一種と呼ばれるのはいい気はしないだろう、彼女は英霊の写し身であり自分のサーヴァントだ。
召喚時の自己紹介で自身を九十九神の一種と説明していたし、気を遣うべきところだろう。
炭治郎は嗅覚で他人の感情を読み取れるが、匂いを発しないメリイの感情は読めなかった。
円滑な関係を築く為にも口を噤む炭治郎。
気持ちがわかる人間相手ゆえにかなりズケズケと物を言う彼の、意外な一面が見て取れた。
そんな炭治郎の気遣いを知ってか知らずか、メリイはじっと炭治郎を見つめている。
人形とはいえ美しい異性、それも異国の意匠だ。炭治郎は若干の照れを感じながら犠牲者たちの躯に歩み寄った。
メリイは僅かに首を傾げて二の句を継ぐ。
『竃門様、彼らを埋葬するおつもりではありませんか?』
「本当は家族のところに返してあげたいけど……探せないからね」
『時間の無駄かと思いますが。死者を弔う行動は理解できますが、彼らはNPCの残骸です。
どのような意思から派生した行動なのでしょうか? お教え願います』
「……この子達が子泣き南天に操られてるとき、すごく辛そうな臭いがしてたんだ。
NPCにだって感情はあるんだよ、メリイ。だったら俺達も向き合ってあげないといけない」
『竃門様の嗅覚には信用がおけます。それならば、信条のままにご対応ください。ただ……』
メリイが、炭治郎に手を差し出すよう促す。
埋葬作業を止めて彼女に近付く炭治郎は、両手をバッ、と差し出した。
『何もあげませんよ』と一蹴してから、メリイがぎこちない動作で手を伸ばす。
炭治郎の左手を両手で包み込むようにしてから、メリイは瞼を下ろして静かに呟いた。
『……貴方の悲しみ、苦しみが伝わってきます。どうか、心をお砕きになるのも程々に』
「……心配かけちゃったかなぁ。でも、ごめん。自分に出来ることはやりたいんだ。怪異を放ってはおけない」
『聖杯戦争も控えている事をお忘れなく。中には会話の通じない相手もいるでしょう。
サーヴァントの力は怪異の比ではありません。対峙した時に感じる恐怖もまた……』
メリイが感極まったように言葉を止め、青い目を見開いて続けた。
『……怪異を前にした恐怖を超抜するものでありましょう。竃門様、どうかお気をつけください。
私もサポートいたしますが、いざとなればこの身を盾にしていただいても構いません』
「俺が戦えるのはメリイのお陰だ。君が危ないと感じたら、その時は逃げるよ」
炭治郎の意識が、メリイに握られた左手と右目に集中する。
彼は無惨との最終決戦で身体機能の多くを失い、本来なら戦闘行為など出来ないはずだった。
それが今人界に恐怖を撒き散らす存在と戦えるのは、メリイの力で不具の埋め合わせをしているからだ。
メリイに混じり気のない感謝の念を抱く炭治郎の手を、少女人形が離して再び目を閉じた。
(わかってくれたのかな)
再度埋葬に取り組む炭治郎は、確かに存在するメリイの意思を嗅ぎ取ることができない。想像することしかできない。
メリイの心中にあるそれは、彼の想像通りの"理解"。そして"喜び"であった。
◇
『おめでとうございます』
『オ……オオ……』
『存分に、母性を発揮なさるとよろしいでしょう』
こどもがほしい。こどもがほしい。こどもがほしい。
その一念だけで、やがて子泣き南天と呼ばれる怪異と化したマスターは異形の肉体を揺らして去った。
彼女に怪異と化すきっかけを与えた存在はそれを見送り、霞のように消失した。
意識は瞬時にその本体へ戻った。
桐の箱の中で目覚めた彼女は、右の上腕を愛おし気に眺める。
普段は浮かんでいない、牙のような紋様が出現していた。
つい先程発生した怪異が、早くも疑似東京に己の恐怖を拡散しはじめたようだ。
『竃門様の感情に比べればやはり薄味ですが……』
東京都H市。
そこにかつて、負の感情を味わう事を娯楽とする怪異が存在した。
その目的のためだけに多数の人間に死の印を刻み、運命を弄んだ悪鬼。
千年の時を経て怨念を喰らい続け、意思を得たともされる人の似姿。
存在するだけで怪異を生み、何度滅んでも再臨するその怪異の名は────。
【クラス】
アサシン
【真名】
メリイ@死印
【ステータス】
筋力D 耐久C 敏捷A 魔力A+ 幸運B 宝具C
【属性】
混沌・悪
【クラス別スキル】
気配遮断:A+
サーヴァントとしての気配を絶つ、隠密行動に適したスキル。
完全に気配を断てば発見することは不可能に近い。
【保有スキル】
怪異:A+
人の世に満ちる怨念、不条理が生んだ異形の存在。
同ランクの戦闘続行スキル、単独行動スキル、再生の効果を併せ持つ。
怨念を際限なく吸収する性質から怪異と化した彼女は、怪異の中でも傑出した力を誇る。
A+ランクならば、霊核が破壊されても一日とかからず再生する。
人形:D
肉を持たない存在。
発声も四肢の駆動も出来るが、どこかぎこちない。
体臭や呼吸がない為、気配遮断スキルを補強する効果がある。
念動力:A
人類の魔術や神霊の神秘とは異なる原理から成る"超"能力。
己を宙に浮かせての高速移動、人間の首を容易にねじ切る超常現象などを起こせる。
炭治郎の肉体を補強・強化しているのもこのスキルの応用。
呪怨の捕食:C
シルシを刻んだ相手の負の感情を共感する事で、力と快楽を得る。
自身が生み出した怪異からも"食事"は行えるようだ。
念持仏:-
メリイに組み込まれる事で、怨念を祓う機関として働く小さい仏像。
一定期間でケガレが溜まり、定期的に浄化しなければならない。
現在は失われている。
道具作成(怪異):A-
邪気に満ちた地で無念の死を遂げた人間を怪異化させる。
本来はメリイ自身が意図していなくてもこのスキルは発動するが、
界聖杯においては『令呪を残してサーヴァントを失い、死にゆくマスター』のみに有効。
死を迎えた上記の条件を満たすマスターが何らかの未練を残している場合、
対象にのみ見えるメリイの思念体がその場に出現し、怪異化するか死の二択を迫る。
怪異は破壊されることでのみ、界聖杯から消失する。
【宝具】
『死印(シノシルシ)』
ランク:C- 種別:対人宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:100
自身に近付いた人間に牙のような紋章を刻み込み、死の刻限を与える。
死印を刻まれた者は気力の減少や記憶の摩耗、認識力の大幅な低下といった副作用を受ける。
此度の召喚においてはNPCやマスターに無差別に刻むことが出来ず、例外は自身のマスターである炭治郎。
または、道具作成(怪異)の対象になる敗退マスターのみにこの宝具の影響を与えることが出来る。
シルシを刻まれた相手は令呪の使用が封じられ、メリイは対象の五感を覗き見ることが可能。
それによって対象が感じた負の感情を味わって楽しむのがメリイ唯一の行動原理である。
死の刻限や副作用の進行度はメリイの気分次第で調整できる。
【Weapon】
『桐の箱』
かつて竈門禰豆子が入れられていたものに酷似した、頑丈な箱。
メリイはマスターに自身の駆動性能や霊体化能力について虚偽の報告を行っている為、
外出時にはこの箱の中に潜んで同行し、マスターのサポートも内部からこっそり行う。
拠点に居るときも中に入っていることが多い。
【人物背景】
戦国以前にとある怨霊の念を鎮める為に作り出された少女人形。
役目を果たした後、完全破壊されても短い時間で再生する異能の存在と化す。
第二次大戦中、日本陸軍が溜め込んだ怨念で周囲に不幸を撒き散らす彼女を利用。
非人道的な実験を行って心霊兵器を造り上げようとした際、意思を獲得。
悪意のみの存在として覚醒し、猛威を振るって研究施設を壊滅させるも、
研究に関わっていた高い霊力を持つ一族、九条家の当主によって念持仏を埋め込まれ封印された。
しかしその状態でも念持仏に収集した怨念によるケガレを流し込むことで抵抗を図り、
50年後にとうとう念持仏を無力化。次代の当主が対処する為に行動した隙をついて自由の身となる。
紆余曲折あって再度封印されるが、いずれ再び復活する事が明言されている。
善性を一切持たない、真に人外の魔物である。
【サーヴァントとしての願い】
なし。
【方針】
炭治郎に刻んだシルシから良質な負の感情を喰らい、街に放ったシルシ付き怪異からも負の感情を収奪する。
聖杯戦争にはそれほど興味がない。
【因縁キャラ】
・九条正宗
美味しゅうございました。またお会いしたいですね。
・竈門炭治郎
美味しゅうございます。
・怪異
お励みを。
【マスター】
竃門炭治郎@鬼滅の刃
【マスターとしての願い】
家族や仲間が幸せに暮らせますように。
【Weapon】
『日輪刀』
鬼殺隊が不死の鬼を斬る為に用いる、太陽の性質を秘める日本刀。
炭治郎が所持しているそれは『始まりの剣士』が使っていたものと同一である。
刀身は漆黒。炭治郎の技能により、戦闘時は赫く染まる。
【能力・技能】
『全集中の呼吸』
人間を超越した鬼の身体能力に対抗するために生み出された特殊な呼吸法。複数の派生系統が存在する。
一度に大量の酸素を血中に取り込むことで血管・筋肉は勿論、心肺機能さえも飛躍的に向上する。
炭治郎は全集中の呼吸を常時使用できる域に達しており、いかなる場合でも即時戦闘に移行できる。
アサシンによる身体強化と合わせれば、相手によってはサーヴァントに対しても十分に防戦が可能。
・水の呼吸:千変万化の対応力を持つ呼吸法。回避・反撃に優れた技を多く持つ。
・雷の呼吸:朋友・我妻善逸が使う技の速度を重視した呼吸法。炭治郎は要点を掴み、高速移動の一助としてのみ使用した。
・ヒノカミ神楽:竃門家に代々伝承される厄払いの舞。それらの型を全集中の呼吸と併用することで、強力な技となる。
その実態は始まりの剣士・継国縁壱が竃門家に伝えた『日の呼吸』であり、400年の時を経て炭治郎が初めて
鬼との実戦で使用した。水の呼吸と併せて修得を進めた為、本来の日の呼吸とは別物である。
鬼の再生を阻害する効果を持ち、十二の型を夜明けまで繰り返し続ける事で鬼の始祖をも足止めでき、日の光で滅ぼせるという。
『嗅覚』
極めて優れた嗅覚。他者の感情を臭いから正確に読み取ることが出来る。
戦闘においては敵の気の緩みを見極め「隙の糸」と呼ぶ攻撃のチャンスを掴む、攻撃動作を予測するなど有効に働く。
『透き通る世界』
無我の境地。全集中の呼吸の果てにある能力の一つ。
相手の体内を透視する程に極まった洞察力は未来予知に等しい反撃・回避を可能とする。
殺気や闘気を完全に消して行動できるため、精神状態に左右されない安定した力を発揮できる。
【人物背景】
鬼となった妹を護り、人に仇なす鬼を滅する為に刃を振るった剣士。
生真面目で融通がきかない性格だが、根底に深い優しさがある為か人間関係は総じて良好。
一般人として生まれ、平穏な暮らしを送っていたが鬼の襲撃により妹を除く家族を全て失ってから境遇が激変。
鬼殺隊に所属し、千年の時を生きた鬼種、鬼舞辻無惨の一派との戦いに置いて大きな役割を果たした。
無惨を初めて追い詰めた始まりの剣士と祖先を通じた繋がりを持ち、その意思と技を受け継いでいる。
鬼殺隊最後の戦いにおいて二度の臨死、鬼化と壮絶な経緯を辿るも生存する。
人間に戻った妹や仲間と共に静かな生活を取り戻すことが出来た。
【方針】
人(NPC、マスター問わず)に仇なすモノを斬る。
聖杯戦争は様子見。
【備考】
原作終了後の時系列から参戦。
無惨との最終決戦で負った後遺症はサーヴァントによって完癒しており、問題なく戦闘が可能となっている。
メリイにシルシを刻まれた影響で、令呪の使用が封じられている。
与えられたロールは学生。一人暮らしの家から、中高一貫のマンモス校、都立キメツ学園に通っている。
【関連キャラ】
・竃門禰豆子
最愛の妹。キメツ学園にはいないようだ。
・メリイ
可愛らしい。感情が読めないので、会話する時の感覚が斬新だと思っている。
・鬼■■■■
炭治郎!!!!!!!!!!!お前は騙されている!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
以上で投下終了です。
投下します
「殺し合いだってさ。人の手借りて願い叶えられるってんなら、乗らねえ理由がねえだろ?」
───一つ、首が飛んだ。
「やりてえことやったもん勝ちさ。戦場に道徳を持ち込んで何を殺すってんだ?」
───二つ、首が飛んだ。
「簡単だよ、手を組もう。君がマスターを襲い、俺がそこに現れたフリをしてそいつを助ける。正義のヒーローってやつさ。
危機的状況で助けられたヤツは俺を仲間と信じ込む。そこを後ろからグサリ…ってどうかな」
───三つ、首が飛んだ。
雁首揃えて贋物祭り。生きる価値も意義もない塵芥。
変えねばならぬ。変えねばならぬ。
血と屍の山を築く。ソレを見てようやく気づくがいい。
『真作』を。この世ただ一つの、本物を。
その意思を、継げ。
英雄を、取り戻せ。
▽ ▽
『今週三人目。連続殺人か』。そんな見出しが一面を飾っている新聞が空を舞う。風を受けて宙を舞う。
記事の中では近頃頻発している殺傷事件との関連性も示唆されており、世間への恐怖感を煽るように言葉が羅列されている。
街中の巨大な液晶では、左手に包帯を巻いたニュースキャスターが注意を呼びかけている。夜道を出歩かないように。例え複数人であっても人通りの少ない道は歩かないように。
机に並べた原稿に目を通しながら、ニュースを読み上げていくニュースキャスター。黒い髪に地味ではあるが印象を乱さないよう整えられた眼鏡。女性もののスーツに、整った顔立ちがよく似合う。
その顔が、僅かに歪んだ。緊急速報です、とニュースキャスターは続ける。
『先程十八時頃、◯◯近辺にて死体が発見されたとのことです。死体には切傷と見られる軽症が数カ所、致命傷と思われる刀傷が喉に残されているとのことです。抵抗した形跡はなく、事件は謎を深めており』
女性のニュースキャスターが、あっ、と声を漏らす。慣れない緊急速報。滅多に起こらぬ連続殺人。それらが事件の報道に慣れているはずの彼女たちの動揺を膨らませ、指先のミスを誘発させる。
水分補給用のペットボトル。本来は見えぬよう、装飾品などで隠されているそれが、ニュースキャスターの指先に触れて倒れる。とぽとぽと、流れ落ちる中身。透明な液体がニュースキャスターの左手を濡らす。
ニュースキャスターは濡れた左手をさっと隠し、申し訳ありませんでしたと一礼し、報道を続ける。一瞬表に現れた動揺を、ほんの数秒で心の奥底にしまい込む。
そして繰り返し。夜道を出歩かないこと、複数人であっても油断しないこと、人通りの少ない道には近づかないことなどと注意点を繰り返し伝え。
「見つけた」
───立ち並んだビルの屋上にて。
風に揺れる赤いマフラーを巻いたものが、その一部始終を、見ていた。
▽ ▽
はっはっは、と女が駆ける。夜闇を駆ける。
肺の酸素も尽きかけて。足も腕も、胸すら痛い。痛くて辛くて苦しくて、許可さえ出されれば今にでも足を止めてしまいそう。
それでも、止めるわけにはいかなかった。前を見て走るしかなかった。ゴミ箱にぶつかっても、人混みに紛れても、あんなに自分が口を酸っぱくして言い聞かせた『人通りの少ない道は通るな』の言葉さえ忘れて、ただ走った。
仕方ない。仕方ないじゃない。『こう』なれば、誰だって自分のように正常な判断が出来なくなる。
気づいてみれば、左右が壁に囲まれた路地裏。人通りなんてあるはずもなく、光源は空から差す月光だけ。
「痛っ!?」
走りながら、何かが足首を切り裂いた。追いつかれたのか。そう思い振り返ってみるけれど、誰もいない。
ただ何かに引っかかって切り傷を作ってしまっただけだろう。特にこの傷に何の意味もないのだろう。不安を掻き払うように、自分に都合のいい理由を作り上げて、再び走ろうとした。
走ろうと。した。
「…え?」
がくん、と身体が倒れる。全身から力が抜けるような。重力が五倍にも十倍にもなったような。気づいた頃には地面にこんにちは。人気のない路地裏で、地面に這いつくばっている。
「…おまえも、マスターか?」
背後から、声がした。背筋がぞわりと凍るような違和感と共に。
動かない身体から、瞳だけを動かして背後を見る。そこに。
死神が、立っていた。
赤いマフラーとバンダナ、眼球部分だけくり抜かれたように、包帯を加工して作られたマスク。戦争映画の傭兵が来ているようなプロテクター。傷をより深くするためか、右手には刃こぼれした日本刀。左手に持ったサバイバルナイフを、懐に収めている。
声が出なかった。身体は動かないが、声だけは発することができたはずなのに、それでも何も発することができなかった。
刃こぼれした日本刀が、私の手の甲を奔る。巻かれた包帯だけを綺麗に切断し、はらりと包帯が解ける。
露になったのは、赤い紋様。確か、『令呪』と言ったソレ。
「ハァ…やはりおまえも、マスターだったか」
吐息と共に漏れたその言葉には、こちらを見定めるような感情が共に滲み出ていた。
おそらく。ニュースで零した水が、左手の令呪を隠していた包帯を濡らしたとき。ほんの少し、うっすらと令呪が見えたのだろう。急いで隠したが、この男に通じなかったらしい。
恐ろしい。恐ろしい。恐ろしい。こんなはずではなかった。『ニュースキャスター』という役割を与えられてから、危険なマスターを自然を装って地上波で流し、他のマスターに始末させる予定だった。
だって、生き残りたかったのだ。死にたくなかったのだ。最初は殺し合いなんて許せないと思ったけれど、日に日に現実味を帯びていく日常に恐れの方が勝ってしまった。
「ち、違うの…わたしは巻き込まれただけで…ニュースキャスターの役割を貰ったのも偶然で…ほんとはこんなことしたくなかった、したくなかったのに」
「おまえは、聖杯が欲しいか? 願いはあるか?」
おまえの言葉など聞いていないと。包帯の男は言葉を続ける。
ああ、この男は聖杯を欲しているんだ。そう理解した。だから聖杯が欲しいのかと聞いている。ここでライバルに、障害になり得るかどうか、試しているのだ。
深呼吸して心を落ち着ける。上手く立ち回れ。生き残りさえすれば、聖杯なんていらない。
言葉を選べ。正解を手繰り寄せろ。それさえ完璧にこなせれば、生き延びられる道がそこにはある。
「い、いらない! わたしには叶えたい願いなんてない!」
「……」
「そうよ! 令呪を使ってサーヴァントにもあなたの味方をするように命じる! ニュースでも何とか犯人像をあなたとかけ離れた存在になるよう努力する! 勝ったら聖杯はあなたにあげる、だから」
「そうか」
ゆったりとした男の声。
ああ、良かった。意思は伝わったのだと安堵し。
「おまえの言葉に耳を傾けた、時間が無駄だった」
最後に。
宙を舞う首は、遠く離れた自分の胴体を見て───
▽ ▽
「ただの一般人なら、それで良かった…が」
包帯の男───ステインは、刃こぼれした日本刀を鞘に収める。血は綺麗に落とした後。出血に特化した武器であるとはいえ、他者の血液が残っているのも、彼の『個性』都合上よろしくない。
胴体と泣き別れしたその首を見て、もう一度溜息を吐く。
「悪戯に悪意を振り撒く悪も…己の為に他者を陥れる人間も…私欲で聖杯を求めるマスターも…」
まるで。塵を見るような目で、足元に転がった死体に目を向けながら。
ただ、一言。
「『粛清対象』だ」
要するに。今はただの肉塊と化したこの女も、ステインにとっては生かすに値しない人間だったというだけ。
利己的に生きる害のある人間ならば、殺さねばならぬ。
ヒーローとは。英雄とは。富や名声ではなく、自己犠牲の果てに得るべき称号でなくてはならない。
一般人なら構うまい。それはヒーローに庇護されるべき対象だ。
だが、しかし。
マスターとなり、この聖杯戦争に望むのならば。聖杯を欲するのであれば。
私欲で生きる人間に、願いが叶う聖杯は相応しくない。
「───おや。結構、派手にやったね。君の武器は特殊なんだ、もうちょっと凶器の痕跡を隠す努力をしないと」
「ハァ…アサシンか」
「相手のサーヴァントを抑える僕のことも考えてほしいね。まあ、負けるつもりはないけどさ」
ステインは深く息を吐き。学生服を身に纏った、茶髪の少年───アサシンに目を向ける。
相も変わらず貼り付けたような笑み。ステインにとっては、不愉快極まりない。
「それが、」
「契約だ、だろ? わかってるさ。君は君の言う『贋物』を殺せばいい。僕もその手助けをしよう」
アサシンは、切り裂かれた胴体から流れる血液の湖を歩き。
掌に出現させたサーベルで、落ちた女の頭蓋を、貫いた。
「───聖杯は相応しい人間に渡す。君と僕の利害は一致している。思想も…まあ、一部は理解できないこともないけれど」
「勿論だ。正しき信念の下に戦うものがいるのなら…聖杯を渡す。私欲で力を振るい、信念無き力に願望器を手に入れる価値は、ない」
勿論。ステインと、アサシンにも。
二人にとって、この結論は共通事項だった。聖杯を手に入れるつもりもない。ただし、相応しくない人間に渡すつもりもない。
正しく力を使う見込みのあるものに、聖杯を託す。それが、ステインとアサシンの願いであり、契約だった。
最初から。聖杯を手に入れるつもりなど、ないのだ。
「信念なき殺意に意味はない。弱いもの、信念なきものから淘汰されていく。聖杯に相応しい見込みのあるものがいなければ───皆殺しも仕方ない」
ステインは、切り落とした女の後片付けもしないまま、路地裏の闇に消えていく。マスターとなった以上、聖杯を狙う以上、力を持つものだ。
そして、力を持ちそれが利己的で私利私欲に塗れ、悪戯に力を振るう者ならば、粛清対象である。
アサシンは、ひょいと胴体から流れ出し形成された血液の湖を飛び越えながら。
「ヒーローは弱きを助け、強きを挫く…見返りを求めず、己の心に従い人を助ける…」
「…なんだ」
「いや? …ちょっと、昔の知り合い…『そういうヤツら』がいただけさ」
なんて。懐かしい顔を、少し思い出した。
【マスター】
ステイン@僕のヒーローアカデミア
【マスターとしての願い】
聖杯に相応しくないマスター(私欲で聖杯を狙うもの、信念無き殺戮を楽しんでいるもの、己のためだけに聖杯を狙うもの)を殺す。
その結果、もし自分が聖杯を手にすることになったとしても破壊する。聖杯で作り上げた偽物のヒーローになど興味はない。
ただ。もし、『生かす価値のある人間』に出会ったのなら、聖杯を渡してもよい。
【能力・技能】
個性『凝血』。
対象の血液を舐める、摂取することで相手の身体の自由を最大八分まで奪う個性。
対象者の血液型によって効果時間は異なり、O<A<AB<Bの順で拘束できる時間が増える。
まずほんの少量とはいえ流血させなければいけない、効果時間も相手の血液型によって異なるという決して強くはない個性だが、桁外れの戦闘能力も相まって凶悪になっている。相手が強力な個性持ちであったとしても即時分析し、スピード特化の個性持ちに対しても適応する身のこなしと速さ、強力な打撃を喰らってもなお立ち上がるタフネス───そして、決して膝を折らぬその『信念』が、彼の力の源である。
【人物背景】
誰しもがヒーローを目指す世界。その世界において、平和の象徴・オールマイトに憧れてヒーロー科高校に入学。ヒーローを目指す。
しかし彼が見たものは、あのオールマイトとは程遠い、『商業と化したヒーロー』の姿だった。
己をヒーローとしてどの路線で売り出すか。強みを、特徴を特化させどう人気を得るか。人を助けるのはその延長線上でしかない。
これがヒーローか。これが英雄か。
───違う。断じて違う。
ヒーローとは見返りを求めず。報酬を求めず。ただ心の底から人を救いたいという思いから成るべきもの。ヒーローを名乗るからには誰しもが平和の象徴・オールマイトのようにならなければならない。
だというのに、この世には。
贋物が、多すぎる。
「ヒーロー観の根本的腐敗」を感じた彼は、ヒーロー科を一年で中退。「英雄回帰」を訴える街頭演説を開始するが、「言葉に力はない」と諦念。以降の10年を「義務達成」のため、独学で殺人術の鍛錬に費やす。
かつてのヒーローを憧れた青年も、自警団を務めた「スタンダール」ももういない。
あるべきものは、一人だけ。
誰かが血に染まらねば。ヒーローを贋物から英雄のものへと取り戻さねば。
歪んだ正義が、暴走する。
【方針】
いつものように、力を持ち相応しくないモノを殺す。
ヒーローであろうとヴィランであろうと、関係ない。
ただ、一般人なら手を下すつもりはないが…場合によっては(戦う意思を見せる・ヒーローを名乗るなど)標的になる。
【クラス】アサシン
【真名】明智吾郎@ペルソナ5R
【属性】混沌・悪
【パラメーター】
筋力:C 耐久:C 敏捷:A 魔力:B 幸運:E 宝具:C
【クラススキル】
気配遮断:B
アサシンのクラススキル。自身の気配を消す能力。完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
【保有スキル】
探偵の殻:A
宝具を発動していない間は能力値が低下し、サーヴァントとしても感知されなくなる。また、このランクともなると相手の警戒心を解き懐に入り込むことも難なく可能。
疑いの的(犯人候補)から外れる、自身の肉体に作用するスキル。
ワイルド(偽):B
アサシンの精神性から発動するスキル。本来は多種多様な顔を持つことにより、多くの人間との関係性を持つことが可能になるスキルだが、諸事情によりランクダウン。
『嘘』と『恨み』───そしてそれらが混ざり合った三面性を持つ。正義の属性を持つ人間と関係が深まり易い。
名探偵の達眼:A
戦闘開始時、戦闘相手の弱点となる属性や情報を知ることができるスキル。どの攻撃が有効なのか、どの部分に有効なのか、それらを把握することができる。
また、必要な情報さえ揃っていれば真名看破としてのスキルとしても使用することができる。
反逆の仮面:A
理不尽に抑えつけられ、抗えない権力と巨大な力に押し潰されても立ち上がるスキル。一種の戦闘続行スキル。
アサシンの場合、追い詰められれば追い詰められるほど攻撃の火力が上昇し、反逆の力は大きく羽ばたく。
【宝具】
『射殺せ、正義の狩人(ペルソナ・ザ・ロビンフッド)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
学生服だったアサシンが姿を変え、王子のような純白の衣装に赤いマント、貴族の儀礼服を連想させる美しい姿と赤いペストマスクの如き赤い仮面を装備する。
アサシンの赤い仮面が消え、召喚されるのがこの宝具である。
中世イングランドで活躍したとされる、伝説の義賊───が、もう一人の自分として実体化、召喚されたもの。
マスターを含む味方の魔力消費を抑え、祝福属性と呪怨属性での攻撃を可能とする。
また、この宝具によりアーチャークラス相当の狙撃も可能としており、筋力B相当の狙撃が可能。
アサシンの心の『嘘』の部分。
『降臨せよ、堕ちた革命の星(ペルソナ・ザ・ロキ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大補足:-
アサシンが更に姿を変え、ボロボロの黒いマントに黒のスーツ、黒の仮面を纏う。
北欧神話の邪神、邪悪なだけの神ではないが悪知恵に長けた神───が、もう一人の自分として実体化、召喚されたもの。
呪いへの耐性が上昇し、戦闘開始と同時に己のステータスを上昇させる。
また、万能属性によるあらゆる存在に通る攻撃や銃撃・斬撃共に大幅にダメージが上がっており───特に『レーヴァテイン』の一撃は至高の域に達している。
他人にスキル『狂化』を付与させステータス一段階上昇させる能力を所持しているが…この『狂化』は、己にも使用可能である。
アサシンの心の『恨み』の部分。
『顕現せよ、革命の狩人(ペルソナ・ザ・ヘリワード)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
ロビンフッドのモデルとされている、11世紀の伝説的なサクソン人───が、もう一人の自分として実体化、召喚されたもの。
『射殺せ、正義の狩人』と同じようにアーチャークラス相当の狙撃と可能とし、『降臨せよ、堕ちた革命の星』 のように万能属性による攻撃や斬撃・銃撃共に大幅にダメージが上昇している。
前述の二つの宝具を合体させ昇華させたような能力をしており、この宝具でのみ扱える『反逆の刃』はあらゆるモノを切り裂き、隙を見せたモノに対して特攻ダメージを与える。
しかし、この宝具を使用するには彼の『嘘』と『恨み』を一つにし───『本当の自分』を現せるほど、関係性を深める必要がある。
関係性を深める相手はマスターでなくともよい。彼が絆を深めた相手が、この宝具には必要なのだ。
【WEPON】
・サーベル
・光線銃
【人物背景】
望まれなかった子供は、望まれるように変化した。
大人に求められるよう。誰かに求められるよう。
努力し這いつくばり、それでも求められる『誰か』を演じた。
そんな彼に悪神からささやかなプレゼントが与えられた。
力をペルソナ。仮面の力。
彼は、復讐の為に立ち上がった。望まれなかった子供は、望まなかった父親に全てを捧げ、全てを勝ち取った瞬間に絶望に引きずり落とす。
そのためだけに。多くの人を殺した。
だというのに、自分と同じ能力を持った人間が。
自分より劣った人間が。自分が持っていないモノ───仲間を、持っている。
ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。
彼は恨みのまま、『彼』と対峙する。
もう少し出会うのが早かったら、彼は外道に堕ちずに済んだかもしれない。
しかし、それはもしもの話。
外道に堕ちた彼は、更なる外道によって始末された。
『彼』に、願いを託して。
【サーヴァントとしての願い】
無い。死んだこの身、こうして呼び出されることが屈辱でしかない。
が。もし、この男の行動で『正義』を持つ人間が生まれるのなら。弱きの為に立ち上がる、『誰か』がいるのなら。───その人間に、聖杯を託すのも良い。
投下終了です。
>負けっぱなしくらいじゃ終われない
タイトル通りにストレートを投げる、そんな感じのお話でしたね。
終末のワルキューレの小次郎は個人的に好きなキャラなので見れて嬉しいです。
英霊になってなお規格外の成長性を秘めている辺りが彼の恐ろしいところだなあと改めて感じました。
そんな彼はマスター共々望む戦いを繰り広げられるのか。注目したいところですね。
>Easy Breezy
リボーンめちゃくちゃ懐かしいですね……正直見れるとは思ってませんでした。
鬼の風紀委員長こと雲雀が召喚したのは、裁きの言葉を真名に持つ断罪者のサーヴァント。
ていうかついに来ましたね、ルーラーいないのに勝手にルーラーを名乗るサーヴァントが。
他のマスターにとっては基本脅威になりそうですし、思う存分暴れてくれそうな予感のする主従でした。
>田中&アサシン
めっちゃくちゃ好みな雰囲気のお話で、思わずこれだよ〜〜って声出ちゃいました。
日常が狂気と非日常に侵食されていく様子の描写があまりにも巧みで、書き手さんの技量の高さが窺えます。
個人的に一番好きなのはやはりサーヴァント、吉良吉影の存在を露骨に出してこないところ。
吉良というキャラの禍々しさや不穏さがこの上なく上手く表現できていたように思います。
>塔上の呪術師
キャスター、五条悟! このワードだけで猛烈なパンチ力がありますね……。
そして西尾維新作品のあの独特な文体やノリを見事に再現されているのが凄い。
更にマスター・眉美と悟の会話がまた味があって好きでした。五条悟、こういうことを言う男!!
冗談抜きに対聖杯派の希望の星となりそうな主従、爆誕……って感じのお話でした。面白かったです。
>集まれば、強い
これはまた意外なところから出してきたな〜〜、という感想です。
そしてこのサーヴァントをレギオンと絡めてホラー風味に書くという発想も面白いですね。
一方でサーヴァントとしての性能は厄介というか、かなりの曲者な印象。
場合によっては盤面を大きく引っ掻き回してくれそうで、面白い主従だなあと思いました。
>契約の歌は、遠く心想を響かせ…
サーヴァントとマスターのすれ違い、それがとても巧みに描写されていて印象的でした。
とはいえこの聖杯戦争という場においては、異端なのはマスターではなくサーヴァントである響の方というのがまた。
しかしそれでも諦めはしない響の姿に、原作から続く彼女らしさを感じました。
さぞかし茨の道になると思われますが、果たして進み続けられるのか、折れてしまうのか。とても興味深いです。
>竃門炭治郎&アサシン
キメツ学園、内界にあるんだ………(読み終えて最初に思わず漏れた感想)。
というのはさておいて、炭治郎のキャラクター性をうまくこの舞台に落とし込めているなあと思いました。
そしてそんな彼が呼び出したのは、鬼滅作中に登場した鬼たちとも毛色の違った怪異。
炭治郎がその純朴な善意を持ってどこまで歩んでいけるのか、とても続きの気になるお話でした。
>心の英雄を
ステインの台詞回しや、それを装飾する地の文がとても上手いなあと感じました。
キャラクターの再現率がとても高いお話というのはそれだけでかなり好きになってしまうのでほくほくです。
そしてそんなステインに召喚されたサーヴァント・明智も概ね彼と反目することはなし、と。
非常に厄介かつ危険な主従となりましたが、原作同様にその思想が誰かを何かに駆り立てるのか。気になりますね。
めちゃくちゃ投下来ててびっくりした(率直)。
皆さん今日もたくさんのご投下ありがとうございました!
投下します。
「おお、クリスティーヌ。 我が歌姫よ。
共に歩もう。 共に歌おう。 愛しき姫君よ」
貴方は私の『ファントム』ではないけれど。
この醜い願いを叶えるためならば。
私はあなたの『クリスティーヌ』になりましょう。
【クラス】アサシン
【真名】ファントム・オブ・ジ・オペラ
【出典】Fate/Grand Order
【性別】男
【属性】混沌・悪
【パラメーター】
筋力:B 耐久:C 敏捷:A 魔力:D 幸運:D 宝具:B
【クラススキル】
気配遮断:A
自身の気配を消すスキル。隠密行動に適している。完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
【保有スキル】
魅惑の美声:B
人を惹き付ける天性の美声。魅了系スキル。
異性に対して魅了の魔術的効果として働くが、対魔力スキルで回避可能。対魔力を持っていなくても、抵抗する意思を持っていればある程度は軽減できる。
無辜の怪物:D
生前の行いからのイメージによって、後に過去や在り方を捻じ曲げられ能力・姿が変貌してしまった怪物。本人の意思に関係なく、風評によって真相を捻じ曲げられたものの深度を指す。このスキルを外すことは出来ない。
誹謗中傷、あるいは流言飛語からくる、有名人が背負う呪いのようなもの。
小説『オペラ座の怪人』のモデルである彼は作品の影響を受けて素顔と両腕が異形と化している。
精神汚染:A
精神が錯乱しているため、他の精神干渉系魔術をシャットアウトできる。ただし、同ランクの精神汚染がされていない人物とは意思疎通ができない。
【宝具】
『地獄にこそ響け我が愛の唄(クリスティーヌ・クリスティーヌ)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大補足:200人
かつての犠牲者たちの死骸を組み合わせて作成された、パイプオルガンの如き形状の巨大演奏装置。
【weapon】
かぎ爪と化した両腕
【人物背景】
ファントム・オブ・ジ・オペラ。十九世紀を舞台とした小説『オペラ座の怪人』に登場した怪人の、恐らくはそのモデルとなった人物。
とあるオペラ座地下の広大な地下迷宮に棲まい、オペラ座の寄宿生でコーラス・ガールを務めていたクリスティーヌという女性に恋をしたことから彼女を姿を隠して指導。
同時にオペラ座関係者への脅迫や実力行使により彼女を歌姫へと導くも、恋敵の出現や自身への信頼を揺らがせ始めたクリスティーヌの様子から暴走し始め、遂には殺人にまで手を染めた。
【サーヴァントとしての願い】
クリスティーヌの幸福
【マスター】
胡月レオナ@金田一少年の事件簿
【マスターとしての願い】
霧生鋭治を蘇生させ永遠に幸せに暮らす
【能力・技能】
卓越した演技力
【人物背景】
劇団「遊民蜂起」の団員にして舞台女優。20歳。
優れた容姿と高い演技力を兼ね備え、劇団内外にファンが多い。
合宿所の火事に巻き込まれた事から火がトラウマになっている。
この火事で顔にやけどを負いながら自分を救助してくれた霧生鋭治と恋仲となり駆け落ちするも、ある日霧生は行方をくらまし、自身は同じ劇団の三人の役者によって連れ戻されてしまう。
ひょんなことから火事の原因がこの三人の役者であり、彼らに自首を進めていた霧生は彼らによって殺害されたことを知ったレオナは復讐を決意。
不可能犯罪を計画・実行し、彼らを殺害した。
【方針】
聖杯を獲得する。
投下終了です。
投下します
.
沈黙しつつ、不安を辞せず、おのれの負い目ある存在へむかって
自己を投企することには、さまざまな逆境を覚悟した無力な超力がある
――マルティン・ハイデガー、存在と時間
.
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『七草にちか』は、平凡が服を着て歩いているような人物だった。全てが、平均値。
顔立ちは悪くない、背丈も普通。身体つきも変じゃないし、運動能力もそこそこだ。
しかし――それで終りの人物だ。悪い所もないが、際立って良い所もない。全てが全て、平均値、中央の値。そんな人物だった。
それが悪い事だと言うのではない。
寧ろ、全てが平均中の平均にまとまっていると言うのならば、それはある意味で恵まれている方だとすら言えるだろう。
下を見れば人の社会はキリがない。にちかよりもずっと恵まれない健康状態や身体つき、顔立ちのものなどこの世には大勢いる。
彼女であれば、普通に大学に行って出された課題をこなし、ありきたりな学生生活を謳歌し、誰もが歯を食いしばって耐えている就職活動も何とか通過し、
名前を出しても恥ずかしくない中堅どころの企業に入社し、何処かのタイミングで結婚もして……。
この国の多くの人物が連想するような、平々凡々の人生を送る事だって当然出来ただろう。下を見れば、キリがない。確かに人間の世界はその通りである。
だが、上を見てもキリがないのも、また当然の真理であった。
にちかは上を目指してしまった。
それは、身の丈以上の大学に入ろうだとか、一流のアスリートを目指そうだとか、そんな次元の話ではない。
アイドル(偶像)を、彼女は目指してしまったのである。
アイドルの世界において、にちかは全てが不利だった。
より可愛くて愛嬌が良くて、化粧だって一人でこなせて、魅力的にはにかんで見せるアイドルをたくさん見た。
よりキレがあってキビキビしていて、それでいて女性特有の柔らかさと魅力性を兼ね備えた踊りを披露するアイドルも大勢いた。
よりよく通る透明な歌声を無理なく発する事が出来て、にちかよりも1オクターブ高い音階を歌えて、しかも何曲歌っても音程を外す素振りすら見せないアイドルも少なくなかった。
その域に、にちかは到達してなかった。到達していないのなら、努力をすれば良い。その当然の帰結の故に、にちかは努力を積み重ねた。
プロデューサーが用意してくれた美容や化粧、表情筋の鍛え方を示した本を、練習合間の休憩時間は勿論、就寝前にも自習代わりに何度も見直した。
朝早くからレッスンルームに入り、夜の遅くまで、自分の足がつってステップを踏んでいる事すら覚束ない程に、ダンスの練習にも没頭した。
喉の奥まで乾いてしまい、声が掠れて蚊の羽音程も出なくなるまでボイストレーニングを行い、出した事のない程の高音をものにしようと頑張った。
アイドルとして求められる、あらゆる才能が平凡か、それを下回る。そして、足りない分を、努力と心胆で補う。彼女は、そんなアイドルだった。
人ならば誰もが有する、目標の為に頑張る、其処に向かって歩むと言う事。それを、人の2倍出来るアイドル。それが、にちかと言うアイドルのプライスだった。
そして、その付加価値は、誰もが有しているし、誰でも切っ掛けがあれば出来る事でもあった。努力を重ねているのは、彼女だけではないのだ。
にちか以上に才能を有しているアイドルに、彼女と同じだけの努力を積み重ねられれば、必然、最初の才能の分だけにちかは負ける。
それならば、まだ納得がいく。誰が何を言おうと、才能の差は厳然として存在する。この世に産まれ落ちたその瞬間より定められ、振り分けられたパラメータの差は、間違いなくある。
凡庸そのものでありながらアイドルの道を目指したにちかだからこそ、その事実を骨身に実感している。
だからこそ、努力もしないでいきなり、にちかや他のアイドル達が、三日四日、一週間と掛けて習得した技術を、一日どころか数時間で学習出来てしまう天才の姿を認めた時、何を思えばよいのか解らなくなるのだ。
そのようなアイドルを眺めながらも、にちかは、喰らいついた。WING、トップアイドルを決める狭き門、針の筵。その選抜に、彼女はしがみ付いた。
最初の内は、努力が実って勝てたんだと思った。次になると、努力も半々運勢半々、その次になると運が良かったと思うようになって、その次になる頃には、
絶対に勝てないと思っていた天才達の姿も大分見なくなっていた。此処まで残れたのは、ラッキーじゃない、必然だったのだと、プロデューサーは認めてくれた。
嬉しくなかった訳じゃない。本当に嬉しかった。尊敬するあのアイドルの座まで、指が掛かっていると言う実感が間違いなくあったのだ。
そして同時に、一抹の不安が残る。もう、此処から先はラッキーが通用しない世界なのだと。此処から先は、あの目の粗い篩を幾度と掛けられてなお、残り続けた天才児達。
彼女らを相手に、にちかは、本当の実力で勝負しなければならなかったのだ。
そして、その夢は潰えた。
勝利の為に、重ねた鋭意。掛けて来た努力の時間も、流してきた汗と涙も、蓄積された身体の疲労も、学んできた化粧のやり方も美容の知識も。
一分にも満たない結果発表の短い時間で、全てを否定された。別段、珍しい話でもない。鷹や鷲の中に紛れ込んだシジュウカラが駆逐されただけ。宝石のダースの中の石ころが、取り除かれただけ。
努力と実力と奇跡とで此処まで残って来たが、及ばず敗れ去った。事実としてはそんな所だ。見ている者も……もしかしたら、今まで親身だったプロデューサーも。起こるべくして起こった事に、やっぱりか、と思っていたのかも知れない。
及ばなかった。だから悔しかった。もっとプロデューサーの意見に素直な所もあったのなら? 故に後悔もあった。何よりも才能の差は超えられないのか? 哀しかった。
だがそれ以上に――安心した。プロデューサーは、にちかの事を慮って、寄り添ってくれたけど……負けた彼女の気持ちを汲んで、フォローも入れてくれたけど。もう、頑張らなくて良いんだと、胸を撫で下ろしたのだ。
勝つ事って、あんなにも、こんなにも、そんなにも、キツくて辛くて、辞めたくなるんだと実感した。
何度、笑顔を止めて泣きだそうとしたか解らない。何度、ダンスの途中で蹲り、動くのを放棄しようとしたか解らない。何度、歌の練習を放り投げ、外で炭酸のジュースを飲もうとしたか解らない。
人間的な生活を放棄しなければ、凡人は頂点を掴みえない。今WINGの決勝で鎬を削る麒麟児達も、並ならぬ努力と研鑽と研究の成果を、きっとぶつけ合っているのだろう。
全ては、勝つ為に。自分が目指し、そしてなろうとしている理想の姿に今こそ転身しようとする為に。そんな天才児達ですら、これなのだ。にちかにとって厳しい道なのは、当たり前である。
イカロスの羽、そんなエピソードがある。
囚われの身から自由を得る為、空を自由に飛べる蝋で出来た翼を用い、見事脱出するも、過信から太陽に近づき蝋が溶け、墜落して死んでしまった。その人物こそが、イカロスだ。
にちかはまさしく、そんな、イカロスだったのかも知れない。経済的な困窮から抜け出す為に、自らの乏しい才能を、人肌の温度で溶けそうな蝋で塗り固めて誤魔化して。
そんな、余りにも頼りない翼(WING)で天を目指し――そして、当然の様に、飛翔の為の翼は溶け落ち、墜落する。此処まで上手く準えられていると、最早笑えてきてしまう。
もう、邁進する必要はないのだ。
アイドルを目指すと言う事は、にちかにとっては身体を燃やしながら太陽に向かって飛ぶようなものであった。優勝と言う名の太陽に。
服が燃える、身体が焼ける、骨が熱帯び臓腑が焦げ付く。魂を炉にくべ、意思を薪にし、己の身体を燃やす事で生じた灰までをも燃料とする。
そうして太陽との距離が近づくにつれて、必然、太陽の熱も強くなる。もう、燃やすものなんて何も残っていなかった。
新しい何かを習得する時間なんてもうなかった。何処を最早努力するべきなのか解らない位努力もした。これ以上、何に犠牲を払えば良いのか、にちかには解らなかった。
先に進めば進むだけ痛くて、苦しくて、解らなくて。だけど、自分の意思で戻れる限界の地点など既に通り過ぎていて、戻る為にはもう負けると言う手段しか残されていなくて。
そうして本当の自分を全霊でぶつけて、敗れ去った時、にちかは安堵した。ああ、終わった。もう燃えるだけのものも、エネルギーも、身体に残ってない。
時間も余裕も支払えない。これ以上何かを捻出する事は、にちかには出来なかった。良かった。これでもう、前へ進むだけの時間は終わる。才能のギャップに嘆く時間がなくなる。次に燃やせるものを探し、次に支払う犠牲を探す事もしなくていい。
そう、これで、苦しい時間が――
――可愛いよ、にちか。大丈夫だ――
……ああ、でも。
思い起こせば苦しい事の方が多かったWINGの間で、しかも、自分が負けたあの戦いの直前に、プロデューサーに無理を言ってかけて貰った、あの言葉だけは。
例え嘘だったとしても、嬉しかったなと、にちかは思った。無理言って、酷い事して無理やりにアイドルにして貰ったあの人の為に、頑張りたかったんだけどな、と。
シューズを片付け、283プロダクションのオフィスを去る時に、にちかは思った。
――我此処に非ず。そんな意識の中で、帰路に着くその最中に。彼女の運命は、歪み始めたのだった。
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「見事だ……名も知らぬライダーよ。……お前達の健闘を祈る」
眩い橙色の焔に包まれたそのセイバーは、微笑みを――しかし、残されたマスターに対する未練を残した顔で、この世界から消滅していった。
強かった。世辞でもなんでもなく、彼は強かった。俺はたまたま、相手が僅かながらに見せた隙に対して、最良のタイミングで最高の一撃を最速で叩き込み、一気呵成に攻め抜いただけだ。
そんな、相手の隙を見逃さなかったと言う事こそ即ち強さなんじゃないのか?と問われれば、確かにそれはそうだとも思う。
だが、戦いが長引いていて、相手に宝具を開帳されていれば、負けていたのは俺だったかもしれない。ステータスも、実際打ち合った時に感じられた技量の程も、相手の方が格上だ。運も、味方したと言うべきだな。
肩で息をしながら、俺は、セイバーが気にかけていたマスターの方に目線を向ける。
女の子だ。身長はアヤと同じぐらいには小柄だけど、決して歳幼い子供じゃない。17歳とか16歳の娘みたいな、盛りの付いた色気のようなものが発散されている。
ビクッ、とそのマスターは身体を震わせた。信頼していたセイバーを失い、今度は自分が命を失う番だと思っているんだろう。こっちを見る目が、悪鬼とか悪魔でも見るようなそれだ。……こんな、額に汗を浮かべて荒い息を吐く情けない男を、そんな風に見られるのはちょっと心外なんだけどな。
「俺の思いは変わらない。互いの事を忘れて、日常に戻ると言うのなら、俺は君に対して何もしないと誓うよ。……後は、君が決めて欲しい」
話し合い。其処だけは変わらない、俺のスタンスだ。制したセイバーと戦う前も、同じ事を彼に聞いた。……結局断られてしまったけれど。
唯一の寄る辺であるセイバーを倒した今じゃ、俺のこの言葉は提案を飛び越えて脅迫とか恫喝に近いものだろう。俺もそれは自覚している。
今後の出方次第では、本当にこの娘を殺すしかなくなる。そう言う覚悟は有してはいるが、なるべくならやりたくないと言うのも本音の部分だ。世間一般的には……甘いって言われる考え方、なんだろうな。
「……ありがとう」
疲れたような笑みを浮かべて、セイバーのマスターは頭を下げ、その場から逃げ出した。
この東京の街で、彼女に出来る事は、もうないだろう。この世界での役割があるならば、それに徹するだけか。……それが本当に幸福な事なのかどうかは、解らない。
――迂闊だと思うか?――
俺の中の比翼(たいよう)に、聞いてみる。
――この特異の世界では、俺達の培った経験などどれほどの意味もなかろう。その判断が迂闊だったのかどうかは、俺達が窮地に陥ったその時に初めて解る事だ――
俺の胸の中で、俺の生きる活力そのものであり、対等の翼でもある男――ヘリオスと名付けられた雄々しき男がそう返した。
俺に対して譲るような発言の様にも聞こえるが、同時に、俺の立ち回り次第では俺を出し抜こうと言う強い意志もまた感じられる。安心した、この東京……昔の日本人(アマツ)の首都の世界に降り立ってもなお、コイツはコイツなんだと。
――お前はお前で安心した。この世界でも頼む――
ヘリオスにそう告げた俺は、ライダーを屠るのに使った刀を鞘に戻し、自分のマスターと思しき女の子に身体を向けた。
……平凡なマスターだと思う。同族って言うのは、一目で、解るものなのかも知れない。十代のあどけなさを残す顔立ちと、成長途上の身体つき。年若い女の子だ。
魔力が全然ない。本当に市井に生きる一般人なのだろう。そして、荒事の経験だって全くない事も解る。人を殴った事も、殴られた事も。彼女は経験した事がないのだろう。
正真正銘、今回の事態に巻き込まれただけの、不幸な一般人。そんな所か。別に、それに対して不平不満を零すつもりもない。……巻き込まれる事の辛さは、解ってるからな。
魔力がないのは、俺自身の特質――スキルと言うらしいが……――で問題はない。それよりも、これから起こる事態に対する覚悟が定まってないと、少しキツいかな。
「ごめん、紹介が遅れたかな。どうやら、君が俺のマスターって言う事みたいなんだが……」
……呆然、としているように見える。
俺の方を見る目からは、感情が読み取れない。……いや、違う。読み取れているが、余り向けられた事のない類の目線だったから、理解が少し遅れてしまった。
『羨望』。彼女が向ける目線からは、そんな感情が内在されている。
「私には……勿体ない人ですね……」
「……うん?」
絞り出すような小さい掠れ声。俺は、意味が解らずにいた。
「私……これから、戦わなくちゃいけないん……ですよね」
「そうだね」
「人を……殺さなくちゃ――」
「それは、俺が責任を受け持つ」
俺が思う以上に、どうやら、彼女は事態を理解していたらしい。彼女に対して勝手に抱いていた先入観を恥じた。
俺が召喚された時には、彼女は、この海を望める公園の真ん中で、混乱した様子で立ち尽くしていた。俺が、彼女が聖杯戦争に巻き込まれて間もないと判断した理由でもある。
その状態で、俺は、セイバーを引き連れた例のマスターに出会った。戦闘に対する意欲が強い主従で、最初は交渉でやり過ごせないかと思ったが――それも出来ず、そうして、交戦。今に至ると言う訳だ。
恐らく彼女は、人を殺したと言う事実についての呵責に、耐えられる性格ではない。抱いているその偏見だけは、事実だと俺は思っている。
それは別に恥じるべき事じゃない。人間であるのならば当たり前の反応であり、寧ろこの社会を辛うじて正常な形に押し留めている最終最後のリミッターなんだ。
そのリミッターを外してキャッキャと喜ぶような奴は、極めつけの阿呆かロクデナシ以外の何物でもない。普通の社会では、彼らの方が腫物、厄介払いされるべきなのだ。
だが、その阿呆やロクデナシ、馬鹿達の方が力を発揮出来るフィールドと言うのが、間違いなく存在する。戦場の事だ。そして、聖杯戦争の舞台もそれに包括されている。
彼女は、殺しの快楽に興じられないだろうし、戦いの愉悦に酔えもしないだろう。俺だって同じだ。殺戮の喜びに狂える程――俺は歪んでない。
ただ哀しい事に、浮世って言うのはどうしようもなく不和と諍いが絶えない。その末に戦いと殺し合いが生じてしまった事例など、人類史が始まって数える事すら馬鹿馬鹿しい程数多い。
だから、スタンスとして、俺は対話から始めたい。その結果がダメだったのなら……俺も腹を決めるしかないだろう。殺すのは俺だ、彼女ではない。
「あの……ライダーさん、って呼べば……良いんですか?」
「本当は真名で呼んでくれた方が嬉しいんだけど、名前を知られるとデメリットにもなり得る。そっちでもいいよ」
……沈黙。しまった。別のことを言えばよかった……のか、これ? 何か地雷でも踏んでしまったのだろうか。
「……ライダーさん。私……全部、なくしちゃったんですよ……」
滔々と、彼女は語る。
「分不相応に……アイドルとか、目指してて……てっぺんも狙ってたんですけど……えへへ、負けちゃって……」
最後の方の言葉は、余りにも、卑屈だった。
我が心を誤魔化し、悲観的な空気を避けようと、自虐でやり過ごそうとするも……その内容に堪えられなくて、傷つけられて泣き叫びたそうな心を、意志と力とで抑えつけているような。そんな、聞いていられない声だった。
「もう何て言うか、笑いたければ笑えーって感じですよね。何かになろうとして、結局夢破れて、何者にもなれなくて……。そんな中途半端な私の所に、ライダーさんみたいな強いサーヴァントが来るなんて……」
……そうか。この娘は、俺が強い風に見えてしまったのか。とても恥ずかしいな、あんな余裕さの欠片もない、地面を転がり回ったりする戦い方で強いと思われてたなんて……。
「ごめんね、マスターには悪いけど、俺もそんなに強いサーヴァントじゃないんだよ」
「はっ……?」
「ははっ、見てくれよこの白いジャケット。土で汚れてるし……自分じゃ見れないけど、顔や髪にも土埃が付いてるんじゃないか? そんな戦い方しか出来ないんだよ、俺。強いって言って貰えて嬉しいけど、君の期待に沿う事はちょっと難しい。だけど、俺は君を裏切りなんてしな――」
「……て下さい」
「え?」
「本当は強くて凄い人が、自分の事を凄くないだとか言わないで下さい!!」
怒喝。曝け出された、生の感情と情動。そして、月の光を受けて煌めく雲母の様にこぼれた涙。多分、この部分こそが彼女の――。
「歌が上手くて、ダンスも上手で、見た目も可愛くて美人なら、それを誇って下さいよ……。誰にも持ってない凄い力があるんだったら、それを誇って下さいよ!! そんな、そんな宝に価値がないなんて言われたら……何も持ってない私なんて……とても、惨めで……」
……ああ、何となくだが、解った気がする。彼女が、俺を呼べた理由。
「小石が……、綺麗な宝石に憧れるのなんて、当然じゃないですか……。皆その輝きに憧れるのに……それを持ってる本人に、価値がないなんて言われたら……」
蘇る記憶。
どれだけ頑張っても、それこそ己の命を擲って特攻しても、平均よりも上の戦果しか挙げられなかった時代。
敵に捕虜にされ、拷問と換言するべき非道な人体実験、血の涙を流しながら「才能なんて自分にはないから助けて」を繰り返した時代。
今の俺を形成した忌むべき時代でもあり、そして同時に……死すべき命だった俺の命を繋ぎ、大切な友人や仲間、尊敬する師と巡り会えた機会をくれた苦難と堅忍の刻。
この娘は、俺の影法師だ。何処にでもいる人間の代表だ。
極端と極端のはざまにある境目(ボーダーライン)、その近辺を振り子のように移ろい、彷徨い歩く半端者。灰色にくすむ、優柔不断な人。
――そうなのか?、と言う答えを求めて、可能性の海を揺蕩い、苦難と困難の暗礁に乗り上げた一隻の、船。俺のマスターとはそんな人物なのだろう。
求めたアイドルの理想との乖離に嘆き苦しみ離れたいと思う一方で、キッパリとその夢を諦める事も出来ない。
それは……俺が寄り添おうと決めた人々と、全く同じで……だからこそ、俺は、彼女の言葉を、微笑みで受け止めて。
「石と砂に、境界線はないと思う」
「……何、言ってるんですか……?」
当然の言葉だ。
「砂は、石が年月を経て砕かれて、小さくなっていって出来上がる。これを思えばさ、石と砂の境は、大きさでしかない事になる。元来は同じものだ」
「だから、何を――」
「昔こんな事を言った人がいた。俺達は、運命の車輪に紛れ込んだ小さな砂粒だ、とね。その人がまぁ、結構アレな人でさ、女の子は泣かせるわ働かないわで、多分皆が思う通りのダメ人間なんだよ」
彼女は、俺の言う事を黙って聞いていた。
「でも彼は……。自分の事を砂粒だと卑下していた彼は、決して超える事も出来なかったろう難事を乗り越えて、決して勝つ事も出来なかったろう難敵を征したんだ」
「それは、その人が実は凄かったからなんじゃ……」
「勿論、それもある。間違ってもただの人間じゃなかった。だけど、人間でしかなかった。風の流れと潮の流れで、どうとでも流され飛ばされ行く、砂粒の一つだった。実際、彼の成した大事も、何か選択を一つでも違えてたら、絶対に達成は出来なかったんだと思う」
そしてそれは、俺にしても同じだった。
だけど彼――ゼファー・コールレインよりも、俺は大局に対して何らの影響力もなくて、実力も才能なんて彼の持ってたそれの1/10にも満たなくて。
それでも俺は、此処にいる。俺が英霊として登録されている、その事自体が、最早奇跡の何段重ねの領域だろう。
独力な訳がない、全ては誰かの支えがあり、仲間達が俺の考えを認めてくれたからなんだ。
「……マスターには、応援してくれる人はいなかったのかい?」
いない筈がない。確証はないが、この娘の根の善良さを考えれば、いる筈なのだ。
「み、美琴さん……。プロデューサーさん……」
「自分を石と言ったけど、良い事じゃないか。砂より大きい上に、そんな石でも見てくれて、磨いてくれる人がいる。君が、君である事に、価値を認める人が、確かにいる。それは、喜ぶべき事だよ」
これもまた、本心。
「……マスター。君は、どうしたい? 俺は、君が良心を抱いている限り、君の為に本気を出すよ」
「わ、たしは……!!」
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
イカロスの羽、そんなエピソードがある。
囚われの身から自由を得る為、空を自由に飛べる蝋で出来た翼を用い、見事脱出するも、過信から太陽に近づき蝋が溶け、墜落して死んでしまった。その人物こそが、イカロスだ。
にちかはまさしく、そんな、イカロスだったのかも知れない。経済的な困窮から抜け出す為に、自らの乏しい才能を、人肌の温度で溶けそうな蝋で塗り固めて誤魔化して。
そんな、余りにも頼りない翼(WING)で天を目指し――そして、当然の様に、飛翔の為の翼は溶け落ち、墜落する。此処まで上手く準えられていると、最早笑えてきてしまう。
イカロスの羽、そんなエピソードがある。
だがイカロスとにちかに、違いがあったとすれば――――――――――――――
「無様だって笑われても……いいから……、もう一度苦しい思いをしてもいいから……、また、燃やせるものを探すから……!!」
イカロスは死んだが、にちかは死ななかった事。
「また、アイドルを目指したい……ビッグになりたい……!! 私の事を可愛いって言ってくれた人の為に、また、狂い哭きたい!! アイドル目掛けて、飛びたい!!」
――懲りずにまた、太陽を目指そうとした事。
「……蝋の翼しか操れない俺で良ければ、飛び方は教えてあげるよ」
灰色の髪に、輝くような金髪が毛先に近い所で混ざり合っている、特徴的な髪の青年がほほ笑んだ。
その笑みは、プロデューサーに似ていた。姉が時折話していた、亡き父親が浮かべていた笑みにも、似ているような気がした。
「『アシュレイ・ホライゾン』は、『まだだ』と叫ぶ君を祝福する。君が満足する答えを探す為のコンパスになろう。そして――君の結末が、アイドルであろう事を常に祈るよ」
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
導かれた暁へ 蝋の翼広げ
最果ての星は 君を守り抜くために
狂い哭け運命よ 紅く燃える未来
焼かれて墜ちてく 天翔の末路まで
【クラス】
ライダー
【真名】
アシュレイ・ホライゾン@シルヴァリオ トリニティ
【ステータス】
筋力C 耐久C+ 敏捷C 魔力EX 幸運E 宝具C
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
騎乗:EX
ライダー自身にさしたる騎乗スキルはない。事実上の彼の騎乗スキルランクは、D相当。
ライダーは騎乗するのではなく、規格外の『もの』を運んでいる存在、と言う意味で、EXランクに相当する。
【保有スキル】
話術:EX
言論によって人を動かせる才。裏表のない、誠意ある態度は、多くの人間の態度を軟化させ、ライダーを信用させるに至る。
ライダーの話術スキルは表記上はEXランクとあるが、実際上のそれはDランクのそれである。
ライダーは、相手との交渉の際、交渉にかける時間が長ければ長い程、行った回数が多ければ多い程、成功率が跳ね上がる性質を持つ。
そのため、どのような気難しい、それこそどうしようもない破滅願望の持ち主であっても、方針を転向させる事も理論上は不可能ではない。
人類史上最も対話が難しい……と言うより、心変わりは勿論最低限の譲歩すら引き出せぬような相手に対し、無限大に等しい時間を掛けて粘り強く交渉し、見事対話に成功したライダーの話術は、ある意味で規格外のスキルランクなのである。
心眼(真):C
修行・鍛錬によって培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
逆転の可能性が数%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
戦闘続行:C
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、死の間際まで戦うことを止めない。
溶け逝く蝋の翼:-
本来ライダーは、後述するスキルに関係する存在の力がなければ、生きているのも不思議な程、存在そのものが摩耗していた人物だった。
実際ライダーは英霊、サーヴァントとなった現在の身になってなお、その力関係は変わっていない。このスキルは現在は発動していない状態だが、このスキルが発動した瞬間、ライダーの霊基は急激に崩壊して行き、最終的には消滅する。
煌めく嚇怒の翼:EX
ライダーの中に眠る存在、即ち、『ヘリオス‐No.α』が宿っていると言う事を証明するスキル。
ヘリオスはライダーの精神の中に宿る意思を持った存在であり、状況に応じてライダー自身に対話を行ってくる。
ライダーが活動する上で最も重要となるスキルであり、サーヴァントとなった現在では竜の炉心に並ぶか上回るレベルの魔力を供給する炉心としての役割を果たしている。
魔力ステータスのEXに起因するスキルであり、このスキルが存在する限り事実状、ライダーに魔力切れの要素はない。
但し、このスキルによる魔力供給が断たれた場合、急速にライダーの霊基の崩壊は加速する。また、何らかのエラーが重なり、ヘリオスそのものが三次元世界に現れた場合も、ライダーは無条件に消滅する。
【宝具】
『白翼よ、縛鎖断ち切れ・騎乗之型(Mk Ride Perseus)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
ライダーの保有する星辰光。星辰光とは自身を最小単位の天体と定義することで異星法則を地上に具現する能力であり、すなわち等身大の超新星そのもの。
この能力の本質は、相手の能力の制御及び奪取。この宝具を発動中のライダーに対して放たれた魔術や異能、宝具による攻撃を吸収、無効化。
そして、その吸収した攻撃によるエネルギーを纏い、放出する事が可能となる。爆発を放つ魔術であれば、その爆発を無効化して相手にお見舞いする事が出来る
水を放つ能力なら、それを刃状に圧縮して放つ事も、雷を迸らせる宝具なら、その威力の雷をそのまま剣に纏わせたり放ち返す事も当然可能な芸当である。
また、能力による追加効果や、状態異常のみを与える攻撃であっても、この宝具による制御の範疇であり、当然これらもコントロール可能。
相手の能力を吸収・制御する過程で、相手の宝具やスキルの推測や看破もやろうと思えばできる為、初見での対応力も抜群に高い。
相手の力を我が物とし、己の力の如くに振るうその様子はまさに、メドゥーサの首を刈り取り盾に取り付け、石化の力を我が物とした英雄ペルセウスのようである。
このように防御に長けた能力だが弱点も存在し、解りやすいものとしては、『吸収出来る量には限界があり、その超過分は当然ダメージとしてライダーが受け持つ事』になる。
但し、その超過分にしても、宝具ランク分ダメージ量と追加効果の威力を削減出来る為、実際上の防御能力は想像以上にタフ。
だが最も大きな弱点は、魔術を初めとした超常の力に頼らぬ、単純に物理で殴ってきたり斬りかかる攻撃については、この宝具は全くの無力。
受け損ねれば、そのままダメージを負う事になる。例えば、超常の力を纏わせて殴って来る相手にしても、超常の力の方は吸収出来るが、殴った際の衝撃はそのまま100%伝わる。
『煌翼たれ、蒼穹を舞う天駆翔・紅焔之型(Mk braze Hyperion)』
ランク:C+++ 種別:対人〜対軍宝具 レンジ:1〜10 最大補足:1〜50
ライダーの保有する星辰光。厳密に言えばこの宝具、もとい星辰光はライダーに由来する能力ではなく、ライダーの中に住まうヘリオスと言う存在を介して居なければ発動が不可能な為、
ライダーそのものが有する完璧自前の能力であるかと言われれば否と言うべきである。
能力の本質は火炎操作。物に対して能力を付与(エンチャント)する能力に極めて長けたライダーの力であり、この才能を用い、自らに炎を纏う事が出来る。
これを利用し、自らに焔を纏わせて生きた火球にする事で攻防一体を成立させたり、シンプルに刀に纏わせて攻撃能力を恒常させたりも出来るし、
炎を勢いよく噴出しその時の推進力を利用して高威力の吶喊攻撃を行う事も可能。またこの炎をエンチャントすると言う特質により、相手の炎による攻撃をレジストする。
この能力の最大の特質は、自らの意志力に呼応するように威力と出力が向上すると言う点。
この特質により、逆に言えば心を折られてしまえばこの宝具は機能する事がなくなると言う事をも意味する。が、それでも特筆するべきはその性能の向上振り。
ライダー自身の精神的な昂りによって、本来不得手とされる遠距離の攻撃も、超高密度に圧縮された炎熱の光線を放つ事でカバーしたり、
炎熱を爆発させ、その爆発を不規則に拡散させ広範囲に被害を及ばせたり、纏わせる炎熱の鎧の熱量を急上昇させて埒外の防御力を得たりなど、
ライダーが意気軒昂の状態になればなるほどその炎熱の威力、そしてその操作の玄妙さが増して行く。
ただ、意志力が一定を超えると、この炎はライダーの制御出来る限界を超え、ライダーそのものに熱によるスリップダメージを与えてしまうと言うデメリットを負わせてしまう事になる。
『天地宇宙の航界記、描かれるは灰と光の境界線(Calling Sphere Bringer)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:- 最大補足:-
ライダー自身が到達した、覇者の王冠。その人生の旅路で気付いた悟り。遥か高位次元に叫び、刻み付けた命の答え。
ライダーのいた世界において浸透していた、星辰光と呼ばれる能力の究極の到達点。
勝利とは、あらゆる想いを許すこと。誰かや何かの強さや弱さを、認めてやれる雄々しさ(優しさ)だということ。即ち、他者を許容できる寛容さ。
その事に気づいたライダーが手に入れた、異星の真理。世界の法則をもやがては塗りつぶし得る、侵食異星法則。
能力の本質は星辰光と呼ばれる能力の共存共有。聖杯戦争に際しては更に拡大解釈され、宝具の共存や共有すら可能となる。
ライダー自身が得意としていた、能力を付属させると言う才能が究極の領域にまで特化された宝具。
自他や空間を問わずあらゆる星(能力・宝具)を自在に付属させながら、それでいて打ち消し合わず共存・融合させると言う驚異的な特性を秘めた、究極の付属能力を持つ。
複数の能力や宝具を自在に操り、且つ打ち消し合わずに組み合わせながら、そこに反動は見られない。
この能力の真に脅威的な所は、ではそういった星や能力、宝具は何処から借り受けて共有させるのかと言う点。
この星辰光もとい宝具は、高位次元、今回の聖杯戦争に於いては英霊の座と言った高位次元、あるいは界聖杯内に溜め置かれたサーヴァントのデータベース、
またはそう言った星々の歴史を保存してあるアカシックレコード。そういった場所にアクセスし、嘗て存在した人物、それこそ故人が保有していた能力や宝具、星辰光をも、
現世に発現させ、自由にエンチャントさせてしまうのである。また、同盟相手や仲間と共に戦っている事で、その人物達に縁のある誰かが、高位次元ないし英霊の座、各種データベースから力を貸してもくれるのだ。そして、そのレンタル出来る数に、限界はない。力を貸そう、と言う者がいればいる程貸してくれる為である。
要約すれば、この宝具は『任意の人物の宝具をレンタルしあい一切の制約なく共有する』ことと、『高位次元に接続し聖杯戦争の舞台に存在しない人物の宝具や能力を行使出来る』、
と言う極めて反則的な汎用性を持ったもの、と言える。が、弱点が幾つか存在する。一つはこの宝具自体、魔法級の権能をこの世に成立させる代物の為、
スキル・『煌めく嚇怒の翼』で供給出来る魔力の限界を超えて常時魔力を消費し続けてしまうと言う点。
本来この宝具は『同じ想いを共有している他人がいる事』によって成立する宝具であり、この条件を無視して今回の聖杯戦争では発動させている為、
魔力消費など起こる筈もないのにそれが起きてしまうと言う事態が成立してしまっている。逆に言えば、今回の部隊に於いても思いを共有する誰かがいるのなら、魔力の消費は帳消しになる。
またこの宝具は完全に発動する為にはどうしても『他人の存在』が必要不可欠である為、ソロでの発動は無意味に近い。何故ならばこの宝具のキモである、能力のレンタルも何も出来ないからである。
そして最大の弱点は、この宝具は相手を互いに認め合うと言う事実を以て初めて発動が可能なのであり、能力の借主或いは貸主が要求を拒否すれば、レンタルは成立しないと言う点。
また借り受けられたとしても、能力を借り受けた相手との相性や同調に応じてステータス共有が発生する為、相性の良い相手であれば優れた性質ごと借り受けられるが、
相性の悪い相手であればライダー自身の能力値でしか借り受けた力を使用できなくなる欠点も有している。
『森羅超絶、赫奕と煌めけ怒りの救世主(Raging Sphere Savior)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:∞ 最大補足:∞
これは厳密にはライダーの有する星辰光ではない。ライダーの中で彼とともにある、ヘリオスと呼ばれるサーヴァントの星辰光である。
ライダーに登録されている宝具の内、この宝具だけはライダーの自由意志で発動する事は出来ず、ヘリオスと呼ばれる人格が、三次元世界上に顕現しない限り発動は不能。
三次元世界上に出現する条件は、ライダーがヘリオスに主人格を明け渡す事。その瞬間、ライダーと言う殻からヘリオスが飛び出してくる。
能力の本質は光速突破・因果律崩壊能力。
ヘリオスは一挙手一投足が物理学の大原則である、『光より速くものはない』を無視しており、早い話光より速く動いている状態となる。
極限まで爆熱と光熱を圧縮させたものを剣に纏わせ、それを振るって攻撃する。ただそれだけで空間を破壊し、万物万象を粉砕する超弩級の一撃になる。
ただ疾駆するだけで次元の位相に亀裂を生じさせ、光速突破という矛盾を以て攻撃する事で、凡ての道理や摂理を打ち砕く。
またこの宝具の真価は、『気合と根性“だけで”あらゆる不可能を破壊・突破するという事実』にあり、殺されたのに死んだと言う現実を気合と根性でぶち壊して再生する、
と言う意味不明な真似すら可能とする。正しく、万象の否定、因果の蹂躙そのもの。意志力だけで世の真理全てを征服する、不条理の体現。
……めっちゃ要約すると、発動してしまうと聖杯戦争が終わってしまうレベルで強い馬鹿が出てきてしまう宝具。
生前この星辰光の持ち主であるヘリオスが現れたせいで、マジで世界が終わる一歩手前の状態に陥ってしまった為、ライダーは絶対に自発的にこの宝具を発動する事はない。
と言うより、このヘリオスと言う存在自体が、顕現する為には膨大な、それこそ上述のライダーの第三宝具を維持するのに必要な魔力が水の一滴にしか思えない程埒外に必要となり、
事実上出してしまえばライダーも消滅するし何ならヘリオスも消滅してしまうと言う、途方もないアホ宝具と化す。勿論、その条件をクリア出来てしまうのなら……。
【weapon】
アダマンタイトの刀:
ライダーが振るう武器。アダマンタイトとは星辰光と呼ばれる能力を発動する為に必要な媒体の事を指し、本来ならこの媒体がなければ彼らは能力を発動出来ない。
サーヴァントに際しては、そもそも星辰光そのものが宝具として登録されている為、そのような制約はない。この為、ライダーが振るうこの刀は、非常に物理的な堅牢性に優れる刀にとどまっている。
【人物背景】
特筆するべくもない普通の人生を歩んでいた子供が、廻り続ける運命の車輪に蹂躙され、その果てに至った姿。
本人のあずかり知らぬ政治的な思惑で、家族を失い、幼馴染と散り散りになり、傭兵団の一員となりうだつの上がらない日々を過ごし、
戦いの最中に拉致され語るも無残の拷問を味合わされ、人格を塗りつぶされ、寿命の殆どを消費されてしまった、燃え上がる英雄を生み出すための舞台装置。蝋で出来た男。
その壮絶かつ、誰かの為に消費される為でしかなかった生涯の中で、友と出会い、愛するべき女達と再会し、敬愛する師匠から教えを授かり、『答え』を得た青年。
【サーヴァントとしての願い】
生前の時点で叶っている。今は、マスターの為に動く
【マスター】
七草にちか@アイドルマスターシャイニーカラーズ
【マスターとしての願い】
元の世界に帰る。そしてまた、恥知らずにもアイドルを目指して、狂い哭きたい
【能力・技能】
アイドル:
アイドルとしての才覚。実を言うと彼女が卑下する程才能がなかったわけではなく、上達自体は早いと光るものは間違いなくあったようである。
ただ、理想のアイドル像である八雲なみの動きを強くイメージ、トレースしており、それを意識した動きをした瞬間、見る者が見れば『くすんで見える』と言う。言うなれば劣化コピー。
【人物背景】
自身を厚くサポートしてくれた人物によって、最もよく磨かれた石ころ。カラットの概念を適用出来ない、丸い石。
WING準決勝敗退の時間軸から参戦。
【方針】
にちか「元の世界に戻る方法を探します」
アッシュ「マスターをサポートする。ヘリオスお前は頼むから出るな」
ヘリオス(外に顕現したいがなんでこんな制約がかけられてるんだ……?)
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◇
私が求めるものは何?
遠い異郷からやって来る騎士かもしれない。
私が求めるものは何?
永遠の沼から這い出せる岸かもしれない。
私が求めるものはたったひとつ。
得るのはキシ(騎士、起死(回生))か、それともシキ(死期)か。
◇
目が覚めたらそこは、知らない天井……ではなかった。
でも知っている天井、でもなかった。平素眠りにつく家か、そうでなくとも見慣れた病院や寮のものであればどれほどよかったろう。
崩れ落ちた神社と鳥居。星のように中空で輝いている数多の宝石のような何か。万華鏡(カレイドスコープ)を通して覗いた世界のような異界。
視界に飛び込んできたのは見慣れてしまった、二度と見たくはなかった、それでも古手梨花が幾度か目にしたカケラを俯瞰する風景だ。
「また、このカケラ……?」
また死んだのか。また殺されたのか。またどこかに流されるのか。
また、たどり着けなかったのか……そんな落胆と絶望が梨花の顔に浮かぶ。
「羽入。このカケラ、今度はどこに―――」
繋がっているの、と口にしようとしたところで言葉が止まる。
100年来の知己である少女の気配は残り香すら感じられない。
「……ひとり、か」
今生の別れを告げたと思っていた友と再会したが、結局別れる羽目になった。
それだけならば心にさざ波が立つだけで終わる。
しかし古手梨花と羽入の関係はそう単純なものではなかった。
例えるならば航海者と水先案内人のそれ。ガイドも海図を失くした船乗りは、ただの漂流者に成り下がる。
見知った島ならいい。見慣れた船の上でもまだいい。しかし未踏の地において、漂流者は極めて無知で無力に成り下がる。
彼女はすぐにそれを思い知らされる。
「そん、な…………!?」
曰く聖杯戦争。曰くサーヴァント。曰く万能の願望器"界聖杯"。
未知のルールX・Y・Z、古手梨花を縛る新たな錠前と、新たな惨劇のカケラにこれから自分は流れ着く。
誰が告げるでもなく、頭の中の知らない自分がそうなるものだと告げていた。
記憶を一部失くすことなら梨花には幾度か覚えがある。
カケラを渡る間際の記憶は死の淵にあるのもあって引き継げず忘れてしまうのもしょっちゅうだった。
しかし知らない記憶を突如認識するのは初めてで―――
(いいえ。私が誰かに教わった、そのことを忘れているのかもしれない。
誰よ!?誰が私に教えたの!?誰が私をこの惨劇に引きずり込んだの!?誰がこれから私を殺すの!?)
地べたに拳を叩きつけ、唇をかみしめて、涙を流す。
しばらくそうして現実から目をそらしていたが、右手の甲に走る痛み―――令呪の顕現―――が思考を現実に引き戻す。
(痛ッ…これ……そう。これが縛るためのモノ、ね)
デザインは、祭具の鍬とそれによって切り落とされた角に見えた。
なるほど、雛見沢御三家の人間が誰かを従えるのに相応しい意匠だと梨花に自嘲の笑みが浮かぶ。
一度気持ちを切り替えてしまえばあとは早い。梨花は幼く弱い少女であるとともに、100年の惨劇を渡り歩いた強かな魔女でもあるのだから。
右手の令呪とともに現れる、羽入に代わる相棒の姿を待つ。
(…なに?カケラの一つが光ってる?)
あたりを漂うカケラの一つが令呪に呼応するように輝き始め、その世界の様子を映し始める。
今の梨花と同じように右手に令呪を持った少女と、巨大な盾を持った少女の紡ぐカケラ。七つの歴史を、四つの歴史の残り香を、五つの世界を超えていく物語。
最後に映ったのは、巨大な穴に立ち向かう美しい女剣士の姿だった。
―――鮮やかなり、天元の花。
自身も含め美女美少女に心当たりは幾人かあるが、そのどれとも違う美しさに息も忘れて梨花は見惚れた。
何もない空間に剣を振るうなど、それだけ聞けば演舞か祭事か鍛錬か、そうでなければ気が触れたかと思うだろう。
否、それのいずれでもない。女剣士は他の誰よりも真摯に、真剣に「何もない」を斬ろうとしているのだと武術の心得などない梨花にも分かった。
―――そして彼女はそれを斬った。
「何もない」を斬った彼女は、つまり「何もない」に干渉できる存在になったということで、「何もない」に近づきすぎて、「なくなって」しまった。
世界(カケラ)が彼女をないものとして認識し、世界(カケラ)の外に放り出す。
そうして女二人、カケラを渡るストレンジャーたちは、世界の狭間の何もない世界で出会うことになったのだ。
「――――――原始神カオス、敗れたり」
残心を終え、二刀を納めて剣士は呟く。
自らが無空の境地に至ったことを悟り、それは同時に世界から居場所がなくなったことでもあると知り。
背後にあったカケラが砕けて、もう剣士の帰れる世界ではなくなったことを彼女以外にも残酷に知らしめる。
彼女のいたカケラだけではない。
ほんのちょっと意識を向けただけで、あたりを漂うカケラは剣士を拒むように濁り、砕け、行く当てを奪う。
「…あーあ。零を極めたその先は旅路の続きも零ときましたか。根無し草の風来坊、宿無し、文無し、行く先も帰る先もなし!
ナイナイ尽くしを極めちゃったなぁー。仏様のご加護も…こんな世界の果てまでは届きませんよねっと。生きてるだけでビックリ仰天の儲けものですけども」
溜息をつきながらも飛び込める世界を探し続けていると、ようやく梨花に気付いたのか目を丸くして近づいてくる。
「わぁー、これは驚き。あなた、私と同じ世界を渡る旅の人?こんな小っちゃいのに?立香どころかおぬいちゃんくらい?若いのに大変じゃない」
あ、言葉分かるかな、などと呟きながらもフランクに話すのは止まらない。
久方ぶりに目にする同類に沸き立つ剣士を前に、梨花は呼吸を整えゆっくりと言葉を発した。
「あ…」
「あ?なぁに?」
息を吸って。吐いて。表情も穏やかに。
「あなたが私のサーヴァントですか?」
にぱー、と満面の笑みを浮かべて問うてみる。
そうだろうとほぼ確信しているが言葉にするのは大切だ。
…………なかなか返事がない。
何かを堪えるように震える剣士を不審に思いながらも笑顔を崩すことなくレスポンスを待ち続ける。
「お…」
「お?なんですか?」
絞り出すように。あるいは堪えていた何かを吐き出すように返答がなされた。
「お持ち帰りーーーーーーーーーー!!!!」
「はうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
どこかで聞いたような戯言を吐いて剣士は梨花に飛びつき、愛で始める。
あうあう言いながら梨花はそれを受け入れるしかない。
あれ、こいつバーサーカーだっけ。天眼ってそういうのも見れるんだっけ、などと。
観測世界で魔女が呟いたとか呟かなかったとか。
◇
しばらく愛でたところで二人が正気に戻ると。
「いやー、いきなりごめんね。ホントごめん」
地面に正座して、両手を合わせて、苦い笑みを浮かべて、深々と謝罪する剣士を梨花は仁王立ちで見下ろしていた。
「さっきまでの私は正気じゃなかった……多分何かが憑いていた……世界の修正力のような何かが。あるいは無空に至った直後でなんかハイになっていたのです。もうしません。ごめんなさい」
「謝れたのなら許すのですよ」
えらいえらい、と梨花の手が頭を撫でる。
それにまたもや恍惚の笑みを浮かべはするも、さすがに今度は理性が勝るかすぐに真面目な調子で剣士は話し始めた。
「遅ればせながら事情は概ね理解しました。聖杯戦争、ね。召喚されるのも頭の中に知識があるのも初めてだけど、そういうものがあるのは知ってましたとも。じゃあ、改めて自己紹介。あ、日本の人だよね?立香と同じで私のこと知ってたり?」
よいしょ、と声を上げてゆっくり立ち上がり、梨花に向き合いながら真名を告げる。
「セイバーのサーヴァント、新免武蔵守藤原玄信。でも長いから宮本武蔵、で。よろしくね」
「わぁー。宮本武蔵……え?女の人、ですよね?」
梨花はそう博識というわけではないが、さすがにその名前は知っている。日本一の大剣豪、数多の剣客武者を打ち破った武芸者の頂点が一人。
しかし梨花の知るそれは男性で、目の前の武蔵を名乗る剣豪はどう見ても女性で……いやこの見た目でまさか男?などと迷走しだすが
「ええ、そうよ。残念ながら女武蔵。立香…私の前のマスターに聞いたけど男の宮本武蔵は有名な剣豪だそうじゃない。ま、私も剣の腕前に関しては負けはしないと自負してますけど」
ふふん、と得意げに柔らかい笑みを受かべて腰に下げた刀を示す。
カケラの向こうを垣間見た梨花にはそれが誇張ないものであると分かり、その屈託ない笑顔とのギャップに些か戸惑う。
雛見沢の外でも怖い人間はいくらでもいるんだな、と悟ったような思考が浮かぶが面には出ないようにして、梨花もまた自己紹介を返す。
「ボクは古手梨花といいます。よろしくなのですよ」
「梨花ちゃんね、オッケー。日本人、世界の旅人、リカちゃん……むむ、なんだか奇妙な縁を感じる。それはともかくよろしくねー」
名前や力に似たもののある少女のことを想起しつつも、しっかり梨花を見据えて、今度は武蔵の方が梨花の頭を撫でる。
「ところで君はどのくらいこういう世界の旅人やってるのかな?見た目相応、ってことはないんでしょ?」
年の割には落ち着いた少女、というだけでは梨花の置かれた状況は抱えきれまい。
涙を流した後はあるが、逆にそれだけ泣いた直後に気持ちを切り替えられるのは幼子にできるとは思えない。
そんな武蔵の問いに、梨花の声と表情から熱が消える。
「……100年、といったらあなたは信じるのかしら?」
カケラを繰り返した記憶の片鱗がある仲間たちならともかく、初対面でこんな戯言信じるだろうか。
疑心暗鬼の100年を過ごした魔女が初対面の相手に信を置くのは難しい。
「な〜んて―――」
冗談なのですよ、と続けようとするが
「100年!?すごいね、そりゃ大先輩だ!そんなに続けるの大変だったでしょう……」
思った以上に素直な返答に梨花の口が閉じる。
「もしかして、立香みたいに旅先を選んでるんじゃなくて、私と同じ放浪の身なの……?え、それで今度は聖杯戦争に流れ着くとか?」
自分で口にしておいてドン引いたのか、マジかなどという呟きが武蔵の口の端から洩れる。
梨花といえば概ねそれで相違ないのだから頷くしかない。
武蔵、さらにドン引く。
抑止の守護者が聞いていたら怒髪天を衝いていただろう。
そういうことなら是非もなしと武蔵は笑って
「合点承知!袖すり合うも多少の縁、旅は道連れ世は情けってね。どうせ行く当てなしの風来坊、あなたの旅路に同道しましょう!」
100年の魔女の顔が緩む。
安堵か、歓喜か、その両方か。雛見沢という魔女の結界から出た古手梨花は年相応の少女でしかないということだろう。
先ほどまでとは違う理由で涙を浮かべて、縋るように武蔵の手を握る。
「信じても…頼ってもいいのですね?」
でもなぜ、とポツリと漏れる。
多生の縁と同情で挑むには聖杯戦争というのは些か過酷がすぎないか。
そんな疑問がこぼれ出る。
泣きつく少女の頭を撫で続け、武蔵はからりと答えて見せた。
「正直なところ、もう私の行ける世界は君にしがみついていくそこしかなさそう、ってのもあるけど。そういう後ろ向きなのはナイナイ!でしょう?
……ならばそう。私は、私の剣の道を究めました。その剣で、私は斬るべきモノを斬り、友の道を切り拓き、なすべきことは終えました。わが生涯に悔いはなし」
されどその究めた剣を自らのためだけに振るいたくなかったかといえば、否と武蔵は口にする。
「ソレは私が斬らねばならないものではなかった。けれど、私が斬りたいものではあった」
母と幼馴染を穢された、金色の武者が滅ぼすかもしれない。
母を冒され壊された、鬼混じりの忍びが殺すかもしれない。
自らの剣や槍を貶められた、武辺者たちが許すはずもない。
生前も死後も敵わない陰陽師が気紛れに祓うかもしれない。
他にも数え切れぬほど方々に敵を作った外面だけなら美しい肉食獣だ。
自らの手で、と望むものは多くとも他の誰かに先を越されるのも承知の上だろう。ならば、武蔵が斬ろうとかまうまい。
「君の旅の行く先が、私の剣の道と交わるなら。きっとそこに私の斬りたいものはある」
武蔵の両の眼、あらゆるものを斬る術を見極める天眼が輝く。
斬るためにはそうするべきなのだ、と告げているように。
「セイバーはホントにお侍さんなのですね。怖い怖い、なのです」
竜宮レナや園崎詩音、笑顔を仮面に狂気を隠して人を殺す人間ならば梨花も覚えがある。
しかし武蔵の表情はそうした偽りの笑みではない。花を摘むように、自然のままに、そうあれかしと人を斬れる。
狂わずにして、狂っている。
「ええ、そうよ。ろくでなしの人でなし。剣の道なんて言ったって、結局は人を傷つけ殺める術理に他なりません。握る得物も、振るう我らも、所詮は血脂にまみれた人斬り包丁」
武蔵の笑みに僅かにだが自嘲の色が混ざる。
しかしそういうサガを持って生まれたのだから仕方あるまいと随分昔に開き直っている。
剣の才能は人の十倍、生き延びる才能はその十倍、立ち合いによって得る歓びはそのまた十倍、それが宮本武蔵という女である。
……そんな非人間だが、正義感がないでもない。
「包丁にできるのはせいぜいその柄を握る担い手を選ぶのが精一杯。私は正義にはなれないけれど、私を振るう人が正義たらんとするならば、私は正義の味方に成れる。そういうのは嫌いじゃないのです」
浮かべた自嘲の色をかき消し、じっと梨花の顔を見る。
今度はその向こう側に、別の少女の顔を思い浮かべながらじっくりと。
「私が初めてマスターと呼んだ人は、君のような迷子を見つけたら必ず帰すと約束する正義の人でした。だから私も、君を帰すために全力を尽くすと約束するよ」
「…私をマスターとは呼んでくれないのですか」
年頃の少女が拗ねたような口ぶりで武蔵に甘える。
自然なものか意図したものか、もはや梨花自身にも分からない世渡りだが、武蔵には覿面だったようで顔が緩む。
えへへ〜、と馬鹿十割の笑みを浮かべ……それでも前言は翻さない。
「忠義の士を気取るつもりはないけれど、易々と二君に仕えるつもりもないのです。私にマスターと呼ばせたかったら、君の正義を、私に見せて」
突き放すのではなく、背中を押すように。
武蔵は梨花とゆっくり距離を置く。
「それじゃあ行こうか聖杯戦争。ここからは、私が君の剣になる」
「……はい。頼りにしてるのですよ、セイバー」
繰り返す者を絶ち切る刀は得られなかったが、それに負けない名刀を古手梨花は得た。
新たなカケラ紡ぎがここから始まる。
【マスター】
古手梨花@ひぐらしのなく頃に業
【マスターとしての願い】
沙都子も含めて、皆が平和に過ごせるカケラに辿り着きたい
【能力・技能】
・オヤシロさまの生まれ変わり
村で崇拝される「オヤシロさま」。
雛見沢の巫女の家系、古手家には八代続いて第一子が女子であったならばその八代目がオヤシロさまの生まれ変わりだという言い伝えがあり、梨花がその八代目である。
オヤシロさま=羽入という霊的存在を知覚できる、基本的には唯一の存在。
その羽入の能力によって100年の時を繰り返したり、止まった時の中を動いたりなど超常の域に踏み込むことも。
・混血?
雛見沢に伝わる古文書や伝承をいくつか纏めるとと彼女はオヤシロさま、つまり羽入ことハィ=リューン・イェアソムール・ジェダという異世界人の子孫なのではないかという。
事実かは不明だが、先述のオヤシロさまの生まれ変わりの項で触れた異能の片鱗は観測された、言うなれば赤き真実である。
付記する事象として、遠野家や風魔一族ら鬼種との混血に匹敵する魔力を秘しており、サーヴァントへ供給を可能としている。
【人物背景】
自らを称して曰く、「100年の魔女」。
昭和58年6月に殺害される運命にあり、そこから抜け出すために羽入と共に何度も「世界」を繰り返してきた。
そしてついに絶望と惨劇を仲間とともに乗り越え、理想の世界に辿り着いて新たな人生を歩み始めた……はずだった。
数年後、突如として再び惨劇の昭和58年に閉じ込められることに。
かけがえない仲間の一人だったはずの、北条沙都子の手によって。
彼女はまた、終わらない惨劇からの脱出を目指すことになる。
【方針】
生還優先。
【令呪】
右手の甲。
祭具の鍬とそれによって切り落とされた角。
鍬の柄で一画、刃で二画、角で三画。
【クラス】
セイバー
【真名】
宮本武蔵@Fate/Grand Order
【パラメータ】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力E 幸運B 宝具A+
【属性】
混沌・善
【クラス別スキル】
対魔力:A
妖術、忍術、人道惑わす邪魅甘言なにするものぞ。剣聖にあらずとも剣心なき技なぞ一刀両断。どのような大魔術であろうと、A以下の魔術は斬り捨てる。
【保有スキル】
第五勢:A
二刀の刀の利点、威力を最大限に発揮する構え。剣の思うまま、状況の流れるままに戦う二天一流だが、強敵と対した時、運命と対した時のみ己を静め、剣心を零に落とし、構えを取る。
天眼:A
天眼は「目的を果たす力」とされる。一つの事柄を成しえると決めたらその成就のために全身全霊を傾け、必ず達成するもの。自己の全存在を視線にのせ、目的に投射するもの、といってもい。武蔵の場合は『その場所を斬る』事にのみ天眼が向けられる。たとえば『相手の右腕を切る』と決めたが最後、あらゆる手段を講じて右腕を切断する。それは最適解としての斬撃、『無駄のない、時間と空間をねじ伏せる一刀』となる。『目的達成の為の手段』を『一つに絞る』力。無限にあるべき未来を『たった一つ』の結果に限定する、極めて特殊な魔眼と言ってもいい。
無空:A
剣者が到達する最高の位。究極の境地。柳生新陰流・水月に相当する。無空なるが故に無敵。これ捉える者、無限の境地に達した剣者のみ。多重次元屈折現象を用いた斬撃であれ、無空なるものは捉えられず。
戦闘続行:EX
とても生き汚い。負けない為なら死んだふりなどお手の物。弁舌で煙に巻く、みっともない逃走から超回復すらやってのける。「最後に勝てば私の勝ちでしょう?だから今は逃げるのです!だって、死んじゃったら最後に勝てないじゃない!」都合のいい言い訳をしているようで、根はどこまでも現実主義で図太い。それが女武蔵である。
【宝具】
『六道五輪・倶利伽羅天象(りくどうごりん・くりからてんしょう)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:2〜20 最大捕捉:1人
剣轟抜刀。二刀流のまま泰然と構え、小天衝=相手の気勢を削がんと剣気にて威圧してから、大天衝=渾身の一刀を繰り出す武蔵の最終手。背後に浮かぶ仁王はあくまで剣圧によるもの。
武蔵が目指す『空』の概念、『零』の剣の具現と言える。
対人宝具と言っているが、その本質は対因果宝具。あらゆる非業、宿業、呪い、悲運すら一刀両断する仏の剣。
『究極にまで、これ以上ないというぐらいにその存在を削り落として、それでもなお残る"何か"』
無二と言われる究極の一。
そのさらに先にある0=「 」の概念。
この座への到達を、天元の花は求め続け、そしてついには辿り着く。
最期に原始神カオスという極めつけの「 」を切り裂いたことで彼女はその高みへと。
「 」を斬る刃ゆえ、虚数の海より産まれたもの、あるいは虚数事象へと堕ちゆくものである月の癌(ムーンキャンサー)、複合神性(アルターエゴ)に対してはダメージを増す。
『櫂の木刀(かいのぼくとう)』
ランク:C+++ 種別:対人宝具 レンジ:3〜10 最大捕捉:1人
汎人類史の記録において、宮本武蔵が巌流佐々木小次郎との戦いで用いた木刀。
二尺五寸と一尺八寸の二本の木刀であるとも、2メートルを超える長大な木刀であったともされる。後者の場合、小次郎の持つ物干し竿を凌駕するサイズであった。
宮本武蔵は一説にはそもそも木刀の扱いに長けていたとされ、櫂の木刀は奇策でも単に物干し竿の長さを超えて攻撃するためのものでもなく、必勝を期して使い慣れた武器を使ったのだとする意見もある。
女武蔵はこの宝具を持たない。
『魔剣破り、承る!(がんりゅうじま)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:100 最大捕捉:1人
武蔵がその長い剣者生涯の中で一度のみ使用したと言われる奇想剣法。見た者は生きてはいない為、それがどのようなものなのか知る者は武蔵のみ。
魔道、邪法、天魔に堕ちた剣士を完膚無きまでに侮辱し、罵倒し、叩き潰す特殊霊基。
またの名を、対剣士対剣豪大結界・巌流島。
【人物背景】
日本史上最強の剣豪として名高い、江戸時代初期の剣術家。
武蔵が創始したとされる流派“二天一流”を身につけ、大刀と小刀を用いる“二刀流”の達人。
……の筈なのだが、正しい歴史に残された武蔵とはどうも事情が異なるようだ。
別世界から迷い込んだ「宮本武蔵」。それが彼女の正体である。
剪定事象により彼女の居た世界は灰になってしまったのだが、運よく彼女は消滅した世界から弾き出され、時空間をただ誘われるままに流転し続ける次元の放浪者(ストレンジャー)となった。
そして幾多の世界を股に駆ける中で、たまたま人理保証機関カルデアの召喚に引っかかり、藤丸立香という少女とともに人理救済の旅路を巡ることに。
下総の国。永久凍土帝国。
そして末に辿り着いたオリュンポスにおいて彼女はカルデアと別の道を行くことになる。
己の全てをかけて原始神カオスを切り裂き、その代償としてカルデアの観測する世界からもはじき出された彼女は、彼女と同じく世界(カケラ)を渡る少女とともに新たな旅路を歩み出す。
ちなみにコミカライズ版英霊剣豪七番勝負とほぼ同様の歴史を辿った武蔵ちゃんであり、彼女の知る藤丸立香は女性である。
投下終了です
>>胡月レオナ&アサシン
短くもどこか情緒の感じられる不思議なお話でしたね。
ファントムはクセのかなり強いサーヴァントなので扱いこなせるかどうか。
先行きは多難でしょうが、何かと色々魅せてくれそうな予感がする主従でした。
>>石と砂の境界線
にちかの描写がめちゃくちゃ巧みで、キャラの解像度がとっても高いな〜〜〜と終始感心してました。
敗退後参戦でありながら再起し、この作品のにちかならではの眩しいアイデンティティを確立しているように思えます。
不安定な時期から招かれてしまった彼女に宛てがわれたのが、EXランクの話術スキルを持つほどのサーヴァントであるのも救いだったでしょうか。
そしてにちかの境遇をイカロスになぞらえてみせるのが凄くなるほど…!となって好きでした。
>>古手梨花&セイバー
梨花ちゃんと武蔵ちゃん、なるほど世界(カケラ)を渡り歩く者同士。
武蔵ちゃんの台詞回しがすごくらしくて、読んでいて楽しいお話だなあという印象を抱きました。
個人的には「包丁にできるのは〜」のセリフが一番好きですね……あ〜武蔵ちゃんはこういうこと言う!って感じで。
終わった物語をもう一度始められた梨花ちゃんが、召喚という形を通して武蔵の物語をもう一度始めるという構図も因果で好きです。
皆さん本日も投下ありがとうございました〜!
投下します。
東京の各地で、異変が起き始めた。
相次ぐ猟奇的な殺人事件や行方不明事件。突然の爆発や突風。
毒ガス、ゾンビ、幽霊、怪しい影の目撃情報。
それらは恐怖と興味を以て記録され、拡散される。
擬似的に再現された東京に住む擬似的に再現された人間といえど、本人たちにそんな自覚はない。
数多の並行世界の因果が収束して発生した、多世界宇宙現象『界聖杯(ユグドラシル)』。
管理者も黒幕もなく、ただ「自然に」発生した聖杯。
それが作り出した偽りの世界を、聖杯戦争に喚ばれたマスターやサーヴァントが、
どれほど荒らし、殺し、壊そうとも、誰からもお咎めやペナルティはない。
警察もヤクザも自衛隊さえも、彼らを止めることはできない。
止められるのは、同じマスターやサーヴァントだけだ。
正義の心を満足させて気分は良くなるし、敵対する主従を狩って喰えば、魔力を増すこともできよう。
これは無数の世界から喚ばれた者たちを間引く予選、蠱毒の最初の段階だ。
『そういうわけで、邪悪なサーヴァント殿! あなたを狩るであります!』
「AAAARGHH!」
夜の高層ビルの屋上を、色付きの風が飛び回る!
金髪の少女の姿の英霊が戦うのは、奇怪な槍を振り回す大柄な英霊。おそらくランサーかバーサーカー。
槍と手刀が数合結び合い、火花を散らす! そう、手刀だ!
「AAAARGHH!」
『あなたの戦闘力を分析し、把握しました! 反撃に移ります!』
少女の英霊は碧い瞳をチカチカと瞬かせる!
だが、ぐらりと体勢を崩した! 屋上の機材に足をとられたのだ! 迂闊!
「AAAARGH!」
敵が槍を振り上げ跳躍! 上空から串刺しの構えだ! しかし!
『かかったでありますね!』
少女が左手をかざすと巨大な丸い盾が現れ、ランサーの槍を受け止める!
右手は……手刀を槍めいて構える! 指先に穴!
BRATATATATATATA!「AAAARGH!?」
仕込み機関銃だ! 薄いながらも神秘を帯びた銃弾が敵の片目をえぐる!
たまらずのけぞる敵英霊! 少女は右の拳を握り、突き出す!
手首から先が外れ、爆炎とともに発射! 命中! 爆発!
KA-BOOOM……!
爆発は無慈悲に敵英霊の頭部を吹き飛ばし、消滅させた。
少女は右拳を再生すると、爆発に背を向け、屋上から飛び降りる。
その顔が金色の粒子に分解し、別の少女の顔が現れた。
髪の色も瞳の色も異なるが、どこか、似ている。
『我は汝……汝は我……我は汝の心の海より出でし者……力を貸そうぞ……!』
都内の高校、女子学生寮の一室。
先程の少女がベッドに座り、イヤホンで音楽を聴きながら、携帯端末で情報を収集し、分析している。
彼女―――『マシュ・キリエライト』にとって、こうした状況は比較的慣れたものだ。
学生のロールをこなすのは少し手間取ったが、どうということはない。
彼女本人に戦う力は、今はない。
ただ、魔術回路は正常に作動しており、比較的強力なサーヴァントが与えられている。
そのサーヴァントを外骨格として纏っての、対英霊戦闘すらも可能だ。相性が良くて助かった。
ここが自然発生した特異点のたぐいと推測はつくが、カルデアとの通信は繋がらない。
あるいは、カルデアで見知ったサーヴァントや人物、先輩も集められているかも知れない。
自分のサーヴァントにも彼ら、彼女らの情報を伝えたが、まだ見つかっていない。
早く接触し、帰還方法を探らねば。現地で協力者を増やし、場合によっては、聖杯を獲得せねばなるまい。
「必ず……帰還します」
【クラス】
シールダー
【真名】
アイギス@ペルソナ3
【パラメーター】
筋力B 耐久A+ 敏捷C 魔力B 幸運B 宝具EX
【属性】
秩序・善
【クラス別スキル】
対魔力:B
クラス及び所有する宝具のため高い対魔力性能を持つが、電撃には弱い。
騎乗:C+
騎乗の才能。
マスターの持つ「憑依継承」スキルにより、霊基外骨格となってともに戦うことが可能。
自我は別々なので個別に動ける。
自陣防御:A
味方、ないし味方の陣営を守護する際に発揮される力。
防御限界値以上のダメージ削減を発揮するが、自分はその対象には含まれない。
また、ランクが高ければ高いほど守護範囲は広がっていく。
【保有スキル】
【宝具】
『黄昏の羽根・蝶型(パピヨンハート)』
ランク:EX 種別:対己宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
シールダーの胸元に搭載された精神中枢。2枚の薄板状の物質が交差状に結合したもの。
生命に「死」を与えた母なる存在「ニュクス」の肉体である月の表面から剥離したものであり、
精神に影響を及ぼす神秘の結晶。これを搭載するシールダーは、機械でありながら自我を持つ存在となった。
英霊となった彼女の霊核でもあり、破壊されると自我を失って消滅する。
『護国の神像・盾型(パラスアテナ・パラディオン)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:100
シールダーの心の奥底より召喚される霊的存在「ペルソナ」。
ギリシア神話の女神アテナの像で、巨大な盾と槍で武装する。
シールダーとマスター、その仲間たちに様々な加護(筋力・耐久・敏捷の上昇、弱体化解除、昏倒回復など)を与え、
敵に激しい攻撃を加える。真の姿に覚醒すれば一国を守護するほどのパワーを持つ。貫通攻撃に強く電撃に弱い。
【Weapon】
自らが武器。その指は機銃、その瞳は照準器。最大積載量300kg超、最高移動速度130km/h以上。
全身に各種武装を内蔵し、指先やヘアバンドは機関銃で、拳を切り離してロケットパンチ発射可能。
内蔵ジェットで低滑空飛行可能。外部装備でナパーム、対戦車ミサイル、ロケットランチャー等も搭載可能。
「オルギアモード」という短時間攻撃力を上昇するモードを持つが、使用後はオーバーヒートを起こし、しばらく行動不能になる。
【人物背景】
ゲーム『ペルソナ3』、及びその続編・派生作品に登場する人物。CV:坂本真綾。
ショートカットで金髪碧眼の可憐な少女。身長162cm。耳あてつきヘアバンドと胸元の赤いリボンが特徴。
世界的企業連合「桐条グループ」が開発した戦闘用アンドロイドであり、
心臓部に埋め込まれた「黄昏の羽根」を精神中枢として自我を有し、「ペルソナ」という特異能力を行使する。
正式名称は「桐条エルゴノミクス研究所製・対シャドウ特別制圧兵装シリーズNO.Ⅶ アイギス」。
口癖は「○○であります」「なるほどなー」。当初は思考パターンも機械的で人間さが希薄。
性格的には非常に素直だが、やや奇妙で突拍子がない。
他者との交流を通じて人間性を学習・獲得し、思考も口調も人間的になっていくが、自我があるゆえの苦悩も味わうことになる。
【サーヴァントとしての願い】
なし。マスターに従う。
【方針】
マスターは殺さず、サーヴァントを狩る。協力可能な者とは協力し、帰還の道を探る。
【把握手段】
原作。派生作品も参考にしてよい。
【マスター】
マシュ・キリエライト@Fate/GrandOrder
【Weapon・能力・技能】
優れた魔術回路と、英霊に関する豊富な知識を有する。
本来運動能力は低いが、シールダーを「霊基外骨格」として装備し、英霊とも戦闘可能。
【人物背景】
いつもの彼女。CV:種田梨沙/高橋李依。身長158cm、体重56kg。
人理継続保障機関カルデアの局員にして、英霊の依代として遺伝子操作によって作り出されたデザインベビー。
質の良い魔術回路と無垢な魂を持つが、肉体的寿命は長くて18年。
無菌室の中で隔離・秘匿され、10歳の時に英霊と人間を融合させるデミ・サーヴァント実験の被検体となるが、
実験に不快感を示した英霊は融合も退去も拒み、彼女の中で眠りについた。
15歳の時からカルデア内の移動を許可され、マスター候補として訓練を受け、
戦闘力は乏しいものの主席として合格。そして16歳の時……。
【ロール】
女子高生。
【マスターとしての願い】
カルデアへの帰還。可能であれば、聖杯を持ち帰る。
【方針】
マスターは殺さず、サーヴァントを狩る。
協力可能な者とは協力し、帰還の道を探る。可能であれば、この特異点を解析する。
【把握手段】
原作。
【参戦時期】
不明。少なくとも第1部終了後。
なぜか魔術回路は作動するが、デミ・サーヴァントとしての力は振るえない。
投下終了であります。
保有スキルが空欄でした。wikiで補完します。
追加であります。
【保有スキル】
オルギアモード:EX
短時間攻撃力を上昇する。
使用後はオーバーヒートを起こし、しばらく行動不能になる。
デメリットが大きいので滅多に使わない。
機種の魔:A
彼女は戦闘用アンドロイドである。
「人造四肢」「自己改造」「殺戮技巧(道具)」「戦闘続行」「彫像の乙女」などを包含する特殊スキル。
ランクが高くなればなるほど正純の英雄からは遠ざかる。
対人ダメージ値が上昇し、戦闘に関する行動判定、スキルの成功判定にボーナス。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
気を張れば並のサーヴァント以上に硬くなることもできる。
新ロワ開幕まで後、数日となりましたね。
少しでも盛り上がるガルニチュールになれたらと思います。
2作続けて投下します。
聖杯戦争ーーーーー万物の願いをかなえる「聖杯」を奪い合う争い。
TYPE-MOON Wikiより引用。
「それじゃあ、これで失礼するよ若女将」
「またおいで下さいませ」
老夫婦を見送る旅館の若女将。
若女将の名前は関織子。
この界聖杯に選ばれたマスターの1人。
「…ふぅ」
見送りを終えて、自分の部屋に戻ると一息つく織子。
「今日も一日お疲れさん!若おかみ!!」
「あ、ありがとうございます!セイバーさん」
背後から聞こえる労いの言葉に振り向くとそこに立っているのは、もじゃもじゃ頭にワインレッドの上下のスーツに首元には金のネックレスを身に纏う男。
男はサーヴァント
クラスはセイバー
真名は春日一番
「しかし、流石は本物の旅館で働いている若おかみだ。客一人ひとりに寄り添ったおもてなしは見事だったぜ」
「えへへ……」
セイバーに褒められながら頭を撫でられている織子は顔がにやけ照れる。
そう織子に与えられた社会的ロールは旅館の若おかみ。
幸い、織子は元の世界でも若おかみとして働いていたので難なく働けている。
「私、春の屋を大きくして、もっと多くのお客さんを呼びいれて笑顔になってもらうことが夢なんです」
織子は旅館業が大好きで自分の旅館に泊まりに来る客が笑顔になることが一番の喜び。
故に織子はマスターとして選ばれたからには聖杯を望むことにした。
「若おかみのような願いを持つマスターが聖杯を得るのにふさわしいってもんよ。俺も協力するぜ!」
春日一番はこの幼きマスターの願いに共感したため、全力でサポートすることをケツイしている。
「一緒にがんばりましょうセイバーさん!」
「おうよ!若おかみと一番ホールディングスの社長とのコンビで聖杯を頂いちまおーぜ!」
―――パァン。
心地よいハイタッチが鳴り響く―――
【クラス】
セイバー
【真名】
春日一番@龍が如く7
【ステータス】
筋力A 耐久A 敏捷C 魔力E 幸運E 宝具A++
【属性】
中庸・善
【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。魔術の無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。
騎乗:C
騎乗の才能
大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、野獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
ドラゴンクエスト:EX
幼少期に好んでプレイしていたことからスキルとなった。某国民的有名ゲーム。
特に”勇者”に強い憧れを抱いていた一番はジョブ勇者のスキルを使用することができる。
また、聖杯戦争に参加している他クラスのスキルE(クラススキル)を取捨選択する(転職システム)
ようこそ一番ホールディングスへ:C
相手マスターやサーヴァントやの工房や陣地、居住地などを買収して自分の所有とできる。(ただし、買収には場所を知らないとできない)
一駄菓子屋を株価一位の企業へと成長させた一番の経営手腕から保有スキルとなった。
誠に申し訳ございませんでした:C
全身全霊で行う土下座。その後、気配遮断スキル(ドラゴンクエスト)が一時的にEからAへランクアップする。
株主総会での謝罪からスキルとなった。
ドラゴンカート:C
けっしてマ○オカートではない。ライジングカートを召喚して乗りまわす。改造されたカートに乗っている間は俊敏・対魔力がAへランクアップする。
サブストーリーのエピソードからスキルとなった。
女運:E
気さくでユーモアある会話で女性から好かれやすい性格だが、それが災いして、6股を経ての修羅場を迎えたことがある。サブストーリーのエピソードからスキルとなった。
フェミニストではないが、女サーヴァントとの戦闘では全ステータスがEとなる。
直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。
カリスマ:B
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。
【宝具】
龍が如く
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大捕捉:1
上着を一瞬で脱ぎ、上半身裸で戦う(大振りなパンチを中心とした喧嘩殺法にプロレス技を織り交ぜた荒々しい攻撃)スタイルになる宝具。
全ステータスがAになる。
なお、タイマンのみ発動できる宝具(さらにセイバーが絶対に許せない・負けられないと感じた場面のみ)で女性サーヴァント相手に発動することはできない。
ちょっとその宝具、使ってくれよ(デリバリーヘルプ)
ランク:A 種別:対人・対軍・対城宝具 レンジ:1~999 最大捕捉:1~999
戦闘中、他サーヴァントを召喚して、宝具を一つ使用してもらう。(複数ある場合は一つを選択)
ただし、相手サーヴァントの宝具を知らないと使用できない。なお、呼びだせるのはサーヴァント1体につき一日一回のみである。
また、自身の宝具である”龍が如く”を発動した場合は使用できない。
『サテライトレーザーの極み(約束された勝利の衛星兵器)』
ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1~999 最大捕捉:1000
スマホから命令を受けた人工衛星から放たれる究極の光線。放たれた一撃は白色の奔流となって射線上にある一切を消し飛ばす。
人々の科学への想いが込められたそれは最強の現実(ラスト・リアリティ)。ただし、強大な為3日目以降にならないと発動できない。
【weapon】
勇者のバッド(有刺鉄線が巻かれた金属バッド)、スマホ、拳
【人物背景】
東城会直系荒川組元構成員。表情豊かで明るく人なつっこい性格をしており多くの人間を魅了するほどのカリスマ性を有する。基本的に真っ直ぐな気性で策を弄するのを好まないが、必要とあれば搦め手を使って相手を陥れたり、的確に相手の痛いところを突いた言葉を放つ。どんな相手であろうと売られたケンカは買う主義。見た目や言動などから軽く見られがちであるが、その実力及びポテンシャルは決して低くはなく、戦闘後の相手からはその実力を高く評価される事もある。企業経営者としての才能があり、とある駄菓子屋を株価一位の企業に成長させたことがある。
【サーヴァントとしての願い】
英霊として、マスターの願いを叶えさせる
【マスター】
関織子@若おかみは小学生(映画版)
【マスターとしての願い】
思い出の詰まっている現在の春の屋旅館を本館として残しつつ、はなれに別館を建てて春の屋を大きくすること。
【weapon】
無い
【能力・技能】
霊界通信力
幽霊や魔物が見え、彼らと話せる能力。交通事故間一髪死にかけたことで得た。
若おかみの接客
能力や技能ではないが、若おかみとしてのひたむきな接客により、旅館の宿泊客から聖杯戦争に関する情報を得やすくなる。
【人物背景】(映画版の設定が中心)
元気いっぱいの小学6年生。愛称はおっこ。祖母が経営している旅館「春の屋」の若おかみとして女将修行をしながら働いている。いつもお客のために一生懸命で客に喜んでもらえることが何よりも楽しみ。梅の香神社で行われた神楽を見物した帰り道に起きた交通事故により、両親を亡くしてしまう。一見、逞しく生きるが、本人が気づかない程、心に大きなトラウマを残す。秋に交通事故を起こしたトラックの運転手の家族が泊まりに来た際、それを知ると同時に両親の幻が別れを告げたことに衝撃を覚え、部屋を飛び出し、旅館をさまようが、以前宿泊した客に慰められる。落ち着きを取り戻した織子は、別の旅館へ移動しようとした家族を若おかみとして引き留めると、両親・祖母が話していた言葉を引用して受け入れた。その後、界聖杯に呼ばれてマスターとなった。なお、現代の小学生にしてはパソコンや携帯電話などの機械の操作が苦手である。
【方針】
聖杯を狙うが、他のサーヴァントやマスターの命を奪うような行為はしない。
アイドルーーーーー「偶像」「崇拝される人や物」「あこがれの的」「熱狂的なファンをもつ人」を指す。
Wikipediaより引用。
♪〜♪〜♪〜
手と手を取りあって 未来へ駈け出そう
可能性信じたら どこまでだって行けるよ
LET’S START UP DREAM!!
東京のとある公民館のステージ上で行われているライブ。
華やかで煌びやかなステージで歌っているのは星菜夏月。
界聖杯に選ばれたマスター。
与えられた社会的ロールは、元の世界と同様の政党に所属するアイドル議員。
♪〜♪〜♪〜
始まりの鼓動 感じてる
聞いて? ひたむきな情熱 熱い決意(おもい)
議員活動の一環なのだが、傍から見たらそれは立派な”アイドル”のライブと遜色ない。
♪〜♪〜♪〜
素直な意見(きもち) ちゃんと知りたいんだ
だってもっとドキドキとか 笑顔分け合いたい
わぁぁぁぁぁあああああ!!!!!
観客の中に交じっている支持者が振る、色とりどりのサイリウムやカラーペンライトがライブをさらに盛り上げる。
♪〜♪〜♪〜
自分のチカラ 信じ精一杯
声をあげて 今 世界中に届けたい
(LET’S START UP DREAM!! WITH ME)
そんなステージを生気のない顔で見つめる少女がいた。
少女はサーヴァント
クラス:キャスター
真名:七草にちか
生前”アイドル”を目指した平凡な少女―――――
♪〜♪〜♪〜
♪〜♪〜♪〜
♪〜♪〜♪〜
「今日は、私の講演(ライブ)を聴きに来て下さり、ありがとうございました!」
星菜夏月は集まった有権者の都民に頭を下げる。
わぁぁぁぁあああああ!!!!!
夏月の言葉に都民は歓声で答える。
「……ッ」
キャスターはじっと”それ”が終わるまで下唇を噛みながら見つめていた。
唇から垂れた血―――それは、キャスターの涙?
☆彡 ☆彡 ☆彡
「ふぅ〜無事に終わって良かった〜☆」
控室に戻ると夏月は講演が成功したことに安堵の表情を見せる。
「ねっ!今日の講演どうだった?キャスター」
―――スゥ
マスターの呼びかけにキャスターは姿を表して―――
「……良かったんじゃないですか?皆さん笑顔でしたよねー。ぽっよ〜んって感じで」
マスターの講演という名のライブの感想を述べた―――
「ありがとー♪たとえ、ここがマスター以外の人が模した存在でも、笑顔になってほしいもんね♪」
夏月の言葉を耳から耳へ通り抜けていく中、キャスターは想う。
―――どうして私は英霊となれたのだろう?
―――凡人類に刻むほどの逸話を残せなかったのに?
―――私は夢をみちゃってごめんなさーい☆のどんぐり
―――ただの人ごみ
「そういえば、陳情の中の一つに―――」
―――というか。”アイドル議員”とかなんなんですか?
―――”アイドル”としての活動をしつつの国会議員?もう”嫌味”にしか聞こえないんですよねー。
「私は聖杯を手に入れて公約を果たしたい」
―――それって、もう一度夢を見ていいんですか?
―――捨てちゃったシューズ、買いなおそっかなー
「がんばろうね!キャスター♪」
サーヴァントの顔を見て呼びかけるマスター。
「……え、ええ。あ、あはは……がんばりましょー」
マスターの顔を見ないで答えるサーヴァント。
これは、”アイドル”になったアイドル議員のマスターと”アイドル”になれなかった平凡などんぐりのサーヴァントの物語である。
【クラス】
キャスター
【真名】
七草にちか@アイドルマスターシャイニーカラーズ
【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷C 魔力C 幸運C 宝具C〜A++
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
陣地作成:C
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
小規模な”工房”の形成が可能。
道具作成:C
魔術的な道具を作成する技能。
【保有スキル】
監禁脅迫:C
言葉巧みにマスターを誘いだして自身の陣地に監禁することができる。
監禁されたマスターはサーヴァントと交信(そばにいても指示ができなくなる)をすることができなくなる。
また、令呪を使用するには、キャスターの願いを一つ受け入れないと行使することが不可となる。
彼女はアイドルになりたかった。スカウトしてもらえるチャンスを逃したくなかったため、とある芸能事務所のプロデューサーを監禁・脅迫したエピソードからスキルとなった。 なお、八雲なみのデバブ効果が消滅すると、このスキルは使用不可となる。
八雲なみ:C〜A++
キャスターのステータス及びにスキル・宝具をくすんで見せるスキル。このスキル故にキャスターは平凡の殻を抜け出せない。
生前、キャスターが目指した憧れのアイドル。それは、名前を訊ねられたのに”偽名”を使うほど。
もし、キャスターが憧れの真実(そうなの?)に辿り着けたらこのスキルのデバブ効果を消滅することができると、キャスターは揺るぎない強さ(全ステータス・クラススキルA++)を手に入れるが、それは容易なことではない。
【宝具】
『靴にあわせなきゃ(平凡な子ができる200%)』
ランク:C〜A++ 種別:??? レンジ:??? 最大捕捉:???
相手サーヴァントの宝具の能力をそのまま使うことが出来る。しかし、使用するにはその宝具を知らないといけない。(目視※映像など直接その場にいなくても可)また、コピーした宝具は1日に一回のみである。ただし、固有スキル八雲なみのデバブ効果が消滅したら、無条件で回数の制限もなく使用することが出来る。
憧れのアイドル「八雲なみ」になろうと努力をし続ける平凡などんぐりは合わない靴を履いてアイドルを続けていく……
『SHHis(合わない靴のアイドルストーリー)』
ランク:A++ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜999 最大捕捉:1000
緋田美琴を具現化して共に歌う宝具。スパイシー&ガーリーなダンスポップ が持ち味の歌「OH MY GOD」を聴いた相手サーヴァントは身動きが取れなくなり、相手マスターは心が満たされ、主従しているサーヴァントに自害を命じてしまう。
ただし、条件が2つあり一つは自身の工房内(ライブ会場)であることと、固有スキルの八雲なみのデバブ効果を消滅させないと発動することが出来ない。
【weapon】
マイク・シューズ
【人物背景】
283プロに所属しているアイドル(研修生)。
自他ともに認める『平凡』で伝説のアイドルと呼ばれた『八雲なみ』に強い憧れを持っている。
まったく才能がないわけではないのだが、他のアイドルのコピー(八雲なみ)を始めてしまう癖があり、担当プロデュ―サー曰く「輝きがくすんでしまう」とのこと。
サーヴァントとして呼び出された結末によってクラスやステータスに大きく変化がある。 そんな無数の結末を持つ彼女だが、今回の界聖杯に選ばれたのは2次選考で落選した彼女である。
【サーヴァントとしての願い】
もう一度、夢を見る
【マスター】
星菜夏月@アイドル事変(アニメ版)
【マスターとしての願い】
公約「みんなの心をむすびたい!」を実現させて、皆を笑顔にしたい
【weapon】
なし
【能力・技能】
戦闘能力はないが、”アイドル議員”としての活動が夏月にとって大きな武器となる。
アイドル活動
アイドル議員として行う政治活動。
星菜夏月の人徳が聖杯戦争に有利に働く。
界聖杯内界の住人からマスターの居場所やサーヴァントの能力など聖杯戦争中の情報を得ることができる。
また、サーヴァントとの戦闘場所によっては住民からの応援をもらうこともできる。
【人物背景】
アイドル党に所属するアイドル議員。困っている人を見ると助けずにはいられない性格で、前向きに活動する明るさと行動力の姿勢は他のアイドル議員や対立していた議員にも影響を与えていく。新潟の米を使ったおにぎりが好物でよく食べている。
【方針】
聖杯を入手しようとするが、いきなり闘おうとはせず、まずは相手に辞退するよう訴えかける。
拒否されたり、挑まれた場合は闘いに応じるが、マスターやサーヴァントの命を奪うようなことはしない。また、サーヴァントのキャスターを笑顔にしたいと思っている。
投下終了します。
>>Agents of SHIELD
軽快なノリと文体でお話を仕立てるのがとても上手いなあという感想が第一に来ました。
自分はこういう勢いのいい文章を書けないタイプなので素直に見習いたいですね……すごい。
一方で強力なサーヴァント・アイギスを使役しているのは奇しくもシールダーのデミサーヴァントであるマシュ。
戦う力のない盾の少女が盾の英霊を呼ぶというのはまさに縁といった感じで、そういう意味でも面白いお話でした。
>>聖界杯だよ!若おかみ!
龍が如くから出展するサーヴァントということで、物珍しく感じました。
スキルなどもユニークで、今までにはなかったタイプのサーヴァントだなという印象です。
マスターの若おかみ共々、どう立ち回っていくのかが楽しみな主従だったと思います。
>>星とどんぐり
アイドル同士の主従ですね。マスター共々結構な変わり種な感じがします。
マスターのアイドルの特殊な活動力がこの主従の肝になるような形かなと思いました。
果たして聖杯を手に入れるためにどう手を凝らしていくのか楽しみです。
皆さん本日も投下ありがとうございました!
投下します
授業が終わり、寮の自室に戻る。
この学校の寮は、一人一人に個室が与えられるらしい。
どうやらこの世界の俺の家は、そうとうな金持ちのようだ。
あるいは、マスターに選ばれた俺に対する聖杯とやらのサービスか。
一人で策を練る場所は必要だろうからな。
いや、厳密には一人ではないが。
「さて、ここなら大丈夫だろう。姿を見せていいぞ」
俺は、霊体化していたサーヴァントに呼びかける。
程なくして、俺のサーヴァントが姿を現す。
前後逆に被ったキャップに、赤いジャケット。
その姿は、忘れようもない。
やつの名は、レッド。俺のライバルだ。
◆ ◆ ◆
「さて、現状を確認しよう」
マスターたる少年……グリーンは、宿命のライバルであり現在は自分のサーヴァントである少年……レッドに話しかける。
「俺の荷物は、部屋に置いてあった。
だがモンスターボールは、全て空っぽだ。
おまけにこの世界には、どうやらポケモンがまったく存在しないらしい。
だから、野生のポケモンを捕まえて戦力にすることもできない。
俺たちの戦力は、おまえのポケモンだけということになる」
「そうなるよなあ、やっぱり」
レッドは眉を八の字にし、頭を掻く。
「不服そうだな」
「今回はポケモンバトルってわけじゃないからな。
相手も死人みたいなものとはいえ、ポケモンたちに人間を攻撃させるのはやっぱり抵抗あるぜ」
「だったら、なぜ召喚に応じた。おまえが来なければ、他の誰かがサーヴァントとして俺のところに来ていたはずだ。
必ずしも、俺のサーヴァントがおまえである必要はない」
「水くさいこと言うなよ。おまえが死ぬかもしれないのに、ほっとけるわけないじゃん。
ここで死なれたら、歴史変わっちゃうしさあ。たぶん」
「たぶん?」
レッドが付け足した言葉に、グリーンは引っかかりを覚える。
「たぶんとはどういうことだ。サーヴァントは肉体こそ全盛期だが、記憶は死を迎えた瞬間のものまで持っているはずだろう。
おまえは、俺がどんな人生を歩むのか知っているはずだ」
「いやー、それがさあ……。なまじ、生前の知り合いに呼ばれたのが裏目に出たみたいで……。
今の俺は、体も頭も『おまえの記憶にある俺』なんだよ」
「何……?」
「具体的には、ポケモンリーグでおまえと戦ったときの俺かな。
別にこの時期が全盛期ってわけじゃなくて、今のおまえが最後に俺と会ったのがその時だからこうなったみたいだ。
手持ちポケモンの構成も、その時のやつだしな」
レッドの説明に、グリーンはため息を漏らす。
「おまえなら、月日を重ねれば重ねた分だけポケモントレーナーとして成長しただろうに……。
本来なら、もっと戦力になる状態で召喚されていたということじゃないか」
「なんだよ、今の俺じゃ不満か?」
「不満と言えば不満だが……。まあいいさ」
予想外の返答にきょとんとした表情を浮かべるレッドに対し、グリーンは言葉を続ける。
「その状態のおまえでも、俺に勝っているんだ。
全盛期でなくても、強いことに違いはない。
そのおまえが、俺と組むんだ。戦力としては十分だろう」
「なんだ、わかってるじゃんか」
明確に実力を評価され、浮かれるレッド。
だが、グリーンの方は真顔のままだ。
「だからといって、気を抜くなよ。
俺たちが今から挑むのはポケモンバトルじゃない。殺し合いだ。
そこをはき違えれば、即座に破滅することになりかねない」
「わかってるって。命の奪い合いなんて、したくないけど……。
おまえが死ぬのは、もっといやだからな」
「ああ、せいぜい俺を生かすためにがんばってくれ」
「なんでそこでひねくれたこと言うかな!?」
白い町で生まれた、赤の少年と緑の少年。
二人がつかむのは虹色か、灰色か。
【クラス】アーチャー
【真名】レッド
【出典】ポケットモンスターSPECIAL
【性別】男
【属性】混沌・善
【パラメーター】筋力:D 耐久:D 敏捷:B 魔力:E 幸運:B 宝具:B
【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
Eランクでは、魔術の無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。
単独行動:A
マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。
Aランクは1週間現界可能。
【保有スキル】
戦う者:A
ポケモンバトルの天才。
どんな不利な状況からでも、逆転の一手を導き出すことができる。
同レベルの「心眼(偽)」と「直観」を内包する。
【宝具】
『ポケットに入っちゃう友達(ポケットモンスター)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1-40 最大捕捉:10人
アーチャーが、共に数々の激闘をくぐり抜けてきた仲間たち。
今回の召喚では、ポケモンリーグでグリーンと戦ったときの6体が宝具となっている。
構成は以下の通り。
ピカ(ピカチュウ・Lv51)
フッシー(フシギバナ・Lv60)
ニョロ(ニョロボン・Lv61)
ゴン(カビゴン・Lv52)
ギャラ(ギャラドス・Lv48)
プテ(プテラ・Lv41)
【weapon】
「絶縁グローブ」
その名の通り、絶縁体で作られた指ぬきグローブ。
元々はロケット団幹部・マチスの装備だったが、彼を倒した際に戦利品として奪い、その後も愛用している。
【人物背景】
マサラタウンで育った少年。
当初は井の中の蛙であったが、オーキド博士やグリーンとの出会いでおのれの未熟を自覚。
ポケモン図鑑制作という依頼を受け、カントーを旅することになる。
その過程でロケット団やジムリーダーとの戦いを通して成長し、ポケモンリーグでグリーンを倒しチャンピオンとなった。
その後も数々の事件に遭遇することになるが……ここにいる彼は、それを知らない。
【サーヴァントとしての願い】
グリーンを生還させる。
【マスター】グリーン
【出典】ポケットモンスターSPECIAL
【性別】男
【マスターとしての願い】
元の世界への生還
【weapon】
ポケモン以外の旅の荷物をそのまま持ち込んでいるため、何か有用なアイテムを持っているかもしれない。
【能力・技能】
「育てる者」
ポケモン育成の天才。
おそらく、この聖杯戦争では活かせないスキル。
「心の目」
実体のないものを捉える技能。
物理攻撃無効の相手にも、物理攻撃を当てることができる。
【人物背景】
マサラタウン出身の少年で、高名なポケモン研究者・オーキド博士の孫。
長年の留学から帰ってきたばかりという設定のため、ゲーム版などとは異なりレッドの幼なじみではない。
当初は冷徹で機械的な思考の持ち主だったが、レッドと関わり続けるうちにその機転と熱意を吸収していく。
参戦時期はレッド編(単行本1〜3巻)とイエロー編(同4〜7巻)の間。
【方針】
生還優先
投下終了です
投下します
『試合終了!ピッチャー弐戦、完封勝利―!』
その日、東京ドームは熱狂に包まれていた。
1軍に昇格したばかりのルーキーが、10奪三振の完封勝利を収めたのだ。
そのルーキーの名は、弐戦 一(にせん はじめ)。
勿論今日の試合のMVPは彼であり、試合が終わりヒーローインタビューが行われる。
「弐戦選手、今のお気持ちを誰に伝えたいですか?」
インタビュアーの問いに、弐戦はフッと自嘲するような笑みを浮かべると言った。
「そんなのいねえよ、こんな偽物の世界に」
「え?」
「俺を待っててくれる家族は…妹のなぎさは、ここにはいねえ!」
そういうと弐戦はインタビュアーのマイクを奪い、叫ぶ。
「俺、弐戦一は、今日限りで、引退します!」
「え、えええええ!?」
弐戦の突然の宣言に、周りがざわつく。
そんな周囲の様子を気にすることなく、弐戦は続けた。
「聞いてるか、聖杯戦争のマスター!俺はお前たちを倒して、聖杯を手に入れる!」
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
「ふー、やっと帰ってこれた。全く、マスコミのしつこいのなんの…」
夜、突然の引退宣言に押し掛けるマスコミを追い払った弐戦は、自宅へと帰ってきた。
「まったく、とんでもないことするやつだね、うちのマスターは」
霊体化を解き姿を現したサーヴァントが、呆れた声で言う。
そのサーヴァントは、赤い髪に露出の激しい格好をした女性。
その名はナナリー・フレッチ。
アーチャーのサーヴァントだ。
「いいんだよ、こんな偽物の世界でヒーローになったところで嬉しくもねえ」
「それはいいとしても、自分が聖杯戦争の参加者だって、バラすこたあないだろうに」
「この方が効率いいだろ?こっちから出向かなくても、向こうから来てくれる」
「全く、後先考えないのは、カイルを思い出すねえ…」
「まあともかく、メシ頼むよ、ナナリー」
「はいはい、ちょっと待っておくれよ」
そういうとナナリーは、キッチンに立ち、夕飯の準備を始める。
そんなナナリーの背中を眺めながら、弐戦は言った。
「…すまないな、ナナリー」
「ん?どうしたんだい?」
「数日過ごしてみて、分かった。あんた、人殺すの、好きじゃないだろう?」
「…まあ、あんま気分のいいものではないね。だけど、サーヴァントになった以上、相応の覚悟はしてるさ」
「…バカげた願いかもしれない。それでも俺は、あいつの…なぎさとの約束を果たしたいんだ」
弐戦の言葉に、ナナリーは初めて彼と会った時のことを思い出していた。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
弐戦一。
彼は、東京読売ジャイアンツの二軍選手だった。
友人の矢部と共にノー天気な野球ライフを過ごしていたら、球団社長の松戸 拳(まつど こぶし)から1年で結果を出さなければクビだと言われてしまった。
そして同じころ、妹のなぎさは病気で入院しており、その病状は芳しくなかった。
しかし、妹は病気と闘いながらも健気に兄である弐戦のことを応援していた。
そして、毎回試合の直前にお願いをしてくるのだ。
『頑張ってるところ見せてね』
『試合に勝ってね』
弐戦はそれらのなぎさのお願いをこなしつつ、着実に成長していった。
それと共に、なぎさの病気も少しずつ回復していった。
そして、9月の中旬。
なぎさの、手術の日がやってきた。
この手術の結果次第では、なぎさは退院できるかもしれないという。
手術に対して不安を漏らすなぎさに対し、弐戦はいつものようにお願いを聞いてあげると約束した。
なぎさのお願いしてきたこと、それは…
『三振10個取って』
それは、とても難しいお願いだった。
だから弐戦は、いつも以上に気合を入れて試合に臨んだ。
しかし…手術の直前に行われた試合で弐戦が取った三振の数は…9。
どうしても、あと1つを取ることができず…弐戦は初めて、なぎさとの約束を破ってしまった。
そしてそれを裏付けるかのように、なぎさは手術の甲斐なく入院を続けることとなってしまった。
その後弐戦は、無事球団社長から認められ、矢部と共に一軍に上がった。
しかし、1軍に上がってからも弐戦の胸中には…あの日のことがわだかまりとなって残っていた。
「俺…聖杯を手に入れるよ。なぎさの為に」
「妹の病気を治すために、かい?」
話を聞いたナナリーは、つまらなそうな顔をしていた。
彼にも、幼くして死んだ弟がいた。
だから、目の前のマスターの気持ちは分かる。
しかし、その為に聖杯に頼るのだとしたら…失望だ。
ナナリー・フレッチ。
彼女には、重い病気を抱えた弟、ルーがいた。
アタモニ神に頼れば、奇跡の力でルーを治せる可能性があったが…彼女はそれを拒否した。
神の力に頼らず、苦しくとも人間として生きるために。
その結果ルーは死に、彼女は悲しんだが、自分の選択に後悔はない。
こうした経緯から、ナナリーは聖杯という存在にアタモニ神と同じものを感じ、頼る気になれなかった。
だから、目の前のマスターが聖杯に頼って妹の病気を治そうというなら、協力するつもりはなかった。
しかし、弐戦の願いは、ナナリーの予想とは違っていた。
「俺、過去に戻って、あの日の試合をやり直したいんだ。なぎさとの約束を…果たしたい」
弐戦の願い。
それは妹の治療ではなく、過去のやり直しだった。
「…本当にその願いでいいのかい?聖杯の力があれば、妹の病気だって治せるかもしれないよ?」
「確かに、そうかもな。だけどそれは…病気と闘ってきたなぎさを、バカにしてる願いだと思うんだ」
「!」
ナナリーの脳裏に、弟の姿が浮かぶ。
ルーは最後まで、病気と闘い、精一杯生き抜いた。
「なぎさが病気と闘ってたのに、俺はノー天気に2軍でくすぶってた。なぎさが手術をがんばろうとしてるのに、彼女の願いを叶えてやれなかった。なぎさががんばったのに、俺は…がんばりが足りなかった!」
「バカな願いかもしれない!やり直しなんて都合のいい話かもしれない!それでも俺は…なぎさとの約束を今度こそ果たしてやりたいんだ!」
弐戦の言葉に、ナナリーは腕を組んで考え込む。
しかし、やがてその口元にニッと笑みを浮かべると、言った。
「…あんた、いい根性してるよ!分かった、協力してやるよ」
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
(ロニ、カイル、リアラ、ジューダス、ハロルド…これはある意味、あんたたちへの裏切りかもしれないね)
時は戻って現在。
夕飯を作っていたナナリーは、かつての仲間たちを思い出す。
ナナリーたちは、エルレインの歴史改変を食い止めるために旅をしていた。
そして弐戦の願いは、まさしくその歴史改変だ。
(だけどさ…あたし、あいつのこと、応援したいんだよ。妹の為に、がんばろうとしてる兄貴をさ)
弐戦の願いは、過去のやり直し。
本人が言ったように、それは都合のいい願いかもしれない。
しかし彼は、あくまで自分の力で過去を変えようとしている。
神や聖杯の力ではなく、人間としての自分の力で妹との願いを叶えようとしている。
そんな彼の姿に…かつての自分たち姉弟を重ねてしまった。
(弐戦…今度はしくじるんじゃないよ。あんた自身の、人間の力で…妹の約束を、叶えてやりな)
【CLASS】
アーチャー
【真名】
ナナリー・フレッチ@テイルズオブデスティニー2
【パラメーター】
筋力B 耐久C 敏捷D 魔力C 幸運D 宝具B
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法等大掛かりな物は防げない。
単独行動:C
マスター無しで現界を保つ能力。
Cランクなら、マスターが死んでも1日は現界を保てる。
【保有スキル】
騎乗:E
「さっそうと軍馬を操り、百発百中の弓の腕を持つ」という逸話から与えられたスキル。
ただし俗説もとい没ネタの為、ランクは低い
母性:C
面倒見がよく子供の面倒を見ていたことから与えられたスキル。
子供に対して、パラメータが下がる。
相手が幼いほど下降値が高くなる。
【宝具】
ワイルドギース:B
種別:対人 レンジ:1~50 最大補足:100
炎を投げて太陽を作り上げて、無数の炎の矢を放つ秘奥義。
ただし太陽は擬似的とはいえ本物であり、一定時間その場に留まる。
【weapon】
エデンズファイア
【人物背景】
かつて歴史を改変し神の支配による世界を作り上げようとしたエルレインの野望を止めた一行の一人。
弟のルーは病気で亡くなっている。
アタモニ神の奇跡の力があれば病気が治る可能性があったが、人間らしく生きることを選んだ彼女たちはそれを良しとしなかった。
姉御肌な性格で、故郷の村で子供たちの面倒を見ている。
【サーヴァントとしての願い】
マスターの願いを叶えるために戦う。
【マスター】
弐戦一(にせん はじめ)[パワプロ2001サクセス主人公]@実況パワフルプロ野球2001
【マスターとしての願い】
聖杯の力で過去に戻り、妹との約束を果たす。
【weapon】
強いて言えばバットとボール。
【能力・技能】
プロ野球選手として鍛えた運動能力。
【人物背景】
東京読売ジャイアンツの二軍でくすぶっていたところを球団社長から1年で結果を出せと言われる。
病気の妹の為に試合の前に毎回約束をしていたが、大事な手術前の試合でその約束を果たすことができず、妹のなぎさは入院を続けることとなった。
その後無事1軍に上がった後も、約束を果たせなかったことを後悔している。
【方針】
インタビューを聞きつけてやってきた他のマスターを迎え撃つ。
【備考】
参戦時期はサクセスクリア後。
ロールはプロ野球選手だったが、引退を宣言してしまった。
投下終了です
すみません、なぎさの最後の願い、「三振12個」の間違いでした
wikiに収録された後、該当箇所を修正します
>>グリーン&アーチャー
レッドとグリーンの主従というテーマ性がまずひときわ目を引きますね。
ポケスペは未読なのでアレですが、それでもこの二人が主従になっているというのが凄いことだというのは分かります。
レッドは既に本企画には一つ投下されていましたが、そちらともまた違った趣のある性能とお話で面白く読ませていただきました。
二人の友情や繋がりが会話の中から読み取れるところも好きですね。
>>なぎさのお願い
キャラクターがどういう背景設定を持っているのかがすごく分かりやすかったです。
人物背景に書くだけでなく話の中でこう丁寧に説明されるとやはりするっと頭に入りますね。
そしてそういう経緯があって聖杯を目指すという想いの強さも読んでいて伝わってきました。
聖杯狙いとはいえ正統派な、そんな主従になってくれそうな印象を抱きました。
皆さん本日も投下ありがとうございました〜!
期限まであと半月ほどとなりましたが、引き続き候補作じゃんじゃん募集中です!
投下します。
それは何時代(いつ)から存在していたのか……
そもそも地球上(この世)のものなのかもわからない……。
ただ一つ言えることは――
食うことと子孫を残すことしか欲望が無かった人類が、
それを目にした瞬間(とき)から――歴史(ラグジュアリー)は始まった!
それはただの鉱石(いし)なのか、それとも――
13万年前、それを初めて所有(テニ)した人類の脳に"声"が響いた!
贅(ラグジュアリー)に目覚めよ!! 贅(ラグジュアリー)を極めよ!!
かくして所有者(オトコ)は、
その圧倒的な贅沢欲(モチベーション)で文明・文化・芸術――
それに富・階級・権威を生み出し、その果てに――
破滅した!!
◇
2021年、東京――――
実際には、東京を模して再現(リプロダクション)されし疑似空間(バトルフィールド)!
多数の並行世界の因果(カルマ)が凝って出現した「界聖杯(ユグドラシル)」は、
此処に超絶倫人(ヤバスゲエオトコ)を召喚した!
『あ……あああーーッ! 昇天する(スカイハイクラス)ぅーーッ!』
高層ビルの屋上から光がほとばしり、曇天を貫く!
それは英霊(サーヴァント)が昇天、消滅せし姿!
想定外な規模の贅沢(ラグジュアリー)を味わい、満足死(イ)ッたのだ!
『どうよ……満足したか?』
「は……ハイ! 完膚なきまでに! 腹出し降参(カンシャ)致します!」
『だろォ〜〜?』(ホッコリ)
歓喜の涙にむせぶ相手のマスターの肩に太い腕を回し、
豪快に笑いかける全裸の中年男性(チョイワルオヤジ)!
彼こそがセレブを超えしセレブ、セレベスト・織田信長である!
『いつの間にかくたばったのか、英霊の座とやらに登録されちまったが……
なあに、やることは同じ、出来ること(カノウセイ)が増えただけよォ!
何になろうが、俺は信長! だろォ〜〜!』
織田信長は、屋上を吹き抜ける心地よい夜風を全身の毛穴(ケヌス)に浴び、
贅(ラグジュアリー)な心地を味わう。
どれほど金や権力があろうと、自由な心、楽しむ心がなければ、快楽を味わい尽くすことは出来ぬ。
『さあマスター、こいつの会社をゲットしたぞ! これで貴様もCEOよ!』
「あー……いえ、いいです。その人に任せておいて下さい」
『ほう? まだ足りなかったか?』
「いえ。もう十分なので……」
屋上の隅に立つ冴えない中年男は、缶ビールを手にしてホッコリ笑った。
その心は満ち足りている。
彼にとっては、この異常事態も――ナマの映画を見ているようなものなのだ。
彼の名は、村田克彦。またの名を「ステーション・バー村田」である。
【クラス】
セレベスト
【真名】
織田信長@セレベスト織田信長
【パラメーター】
筋力B 耐久A 敏捷B 魔力EX 幸運EX 宝具EX
【属性】
混沌・善
【クラス別スキル】
領域外の贅:EX
詳細不明。
恐らくは地球(この世)の理では測れない程の贅(ラグジュアリー)を宿している事の証左と思われる。
26億年以上を生きて地球を13万年も間接的に支配した贅神セレベウスを飲み込み、
魂の内部で「おもてなし」して昇天させた「神殺し(おもてなし)」の逸話を持つ。
単独行動:EX
マスター不在でも行動できる能力。もはややりたい放題。
【保有スキル】
カリスマ:EX
大軍団を指揮・統率する才能。
ここまでくると人望ではなく魔力、呪い、否……神賜魔(カミスマ)である。
黄金率:EX
人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
一生金には困らないどころか、金がありすぎて逆に困る。
贅の蔵:EX
彼は財宝のコレクターでもある。
【宝具】
『天魔の贅宝(ゲート・オブ・ラグジュアリー)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
空間をつなげ、宝物庫にあるモノを自由に取り出せる。
所有者の財があればある程強力な宝具になるのは言うまでもない。
あらゆる財宝を納め、そして出ていく「神の門(バーブ・イル)」。
彼の発想力が続く限りほぼ無尽蔵にあらゆる富や美食、達人を召喚でき、おもてなしに活用できる。
誰かを傷つけ蹂躙するのではなく、互いに良い気分になるために用いる。
仏教における第六天魔王(マーラ)とは六欲天の主であり、あらゆる欲望を司っている。
彼が住む天界・他化自在天の住民は、他者の快楽を自在に己の快楽として味わうことができるという。
【Weapon】
高い身体能力と知能、オトコとしての巨大な器を持つ。
無尽蔵に近い財力を持つが、どこへ行ってもそれなしでもやっていける。
デカくてアツい背中には複数の背後霊(オバケ/残留思念)が憑いており、時々助言を与える。
彼の雄汁(フェロモン)はオンナもオトコも惚れさせる。高い確率で全裸。
【人物背景】
漫画『セレベスト織田信長』の主人公。50歳過ぎの壮年の男。
財団法人「第六天魔」会長。セレブを極めた「セレベスト」のひとりであり、全セレベスト界の統一をもくろんでいる。
ライダーなどの適性もあるが、今回はセレベストとして出現した。
【サーヴァントとしての願い】
無限の願望器である聖杯の獲得そのもの。
それを用いて全人類をおもてなしする。
死者を復活させることはセレベストにも不可能だが、贅神(カミ)になれば可能かも知れない。
【方針】
聖杯を獲得する。
マスターやサーヴァントは殺さず、「おもてなし」によって勝利する。
熟女(イイオンナ)がいれば手に入れる。
【マスター】
村田克彦@こづかい万歳
【Weapon・能力・技能】
少ないこづかいをやりくりし、発想力と想像力で十分な満足を得ることができる。
週刊誌『プレイボーイ』を持っている。
【人物背景】
漫画『こづかい万歳』に登場する人物。名古屋在住。
妻子を持つ一般市民の中年男性。こづかいは1万5000円。
外で飲まない代わりに、駅のキオスクで酒とおつまみを買い、
構内の片隅で晩酌をする「ステーション・バー」が生き甲斐という小市民。
駅構内で見かけた人物を見ながら飲んでは涙ぐみ、「生の映画を見ているようなモンだよ」と発言する。
昼食はいつも駅構内のきしめんで、週刊誌『プレイボーイ』を「人生の全てが詰まっている」と断言する。
奇人変人呼ばわりされるが、少ないこづかいをやりくりすることでむしろ満足を得た哲学的な男であり、
息子の進学のためにこづかいを減らすなど社会人・家庭人としても立派な人物。
作者の幼馴染で、実在する人物であるが、ここにいるのはフィクションの登場人物としての彼である。
【ロール】
妻子を持つ一般市民。
【マスターとしての願い】
特になし。強いて言えば帰還。
【方針】
普段どおりの生活を送る。
【把握手段】
原作9話。
【参戦時期】
不明。
投下終了です。
投下します。
「聖杯戦争って知ってるか? 人のお願いを何でも叶えてくれる魔法の器を巡って、勇者同士で殺し合うんだとよ」
地球の、日本の、どこかの墓地で。久しぶりに会った旧友が、突然そんなことを言い出した。
友と呼ぶほど良好な仲かというと首を傾げるところもあるが、長い付き合いの相手への平易で妥当な呼び方ということで、とりあえず彼は旧友だ。
じりじりとひりつく暑さの中だというのに、気取ったスーツ姿は以前会った時から変わらず。這う蛇のように、人を敢えて不快にさせようとするような粘りついた声の抑揚も変わらず。いっそ安心感すら覚えるほどだ。
「どうせ蠱毒の類だろ。似たような言い伝えなら何度も聞いたな」
「そう言うなよ。どこの宇宙の魔術師様もやってるらしい大人気のパーティースタイルだぜ」
「それで、お前さんはその聖杯戦争とかいうのに参加でもする気か?」
「は。それができたら今頃こんな辺鄙なところに駆け込んでねえよ」
けらけらと笑う旧友の姿に、また余計なことをしでかして追われる身になっているのだろうなと察した。先程気前よく饅頭をご馳走してくれた壮年の住職の顔を思い出しながら、お寺に迷惑だけはかけるなよと釘を刺す。
「つまり俺達には関わりの無い催しだってことか」
「そうとも限らないんだよな。何せ、いつかお前が呼ばれることもあり得るからな」
旧友の語るところによると。
歴史に名を残した英霊を影法師として召喚して二人一組となり、彼らを競い合わせるのが聖杯戦争の基本である。そして地球で誰もが知る、既に亡き偉人であることが、英霊の座に登録される条件だという。
それはつまり。
「お前も死んだら、冥府から引っ張り出されてどこぞのお坊ちゃんお嬢さんにこき使われるかもしれないってことだ。愉快だと思わないか? 地球を守ったスーパーヒーローさんとしては」
「どうだかなあ。俺はそんな大それた男じゃない」
「くだらねえ謙遜してんじゃねえよウルトラマンが」
舌打ちも悪態も、涼しい顔で受け流す。慣れたものだ。
近くの細道を走り抜ける自動車のエンジン音がよく響くくらいの静かさの中、西の空に星が輝くのが見えた。
「おっ。じゃ、俺はそろそろ行くわ。あいつらがはるばるお越しになったんでな」
「あいつら?」
「ああ。地球人を真似て聖杯戦争など執り行わずとも、幾万の血肉を供物として注ぎ込めばぁ〜、とかほざいて、いろんな惑星に侵略仕掛けまくってた連中がいてな。ったく、んなもんてめーの星だけで賄えっての」
「おい、まさかそんな奴らが地上に降りてくるのか。だとしたら俺も迎え撃……」
「要らねえよ。最後まで聞け……そんなんだから、たまたまあの宙域まで来てた警備隊の奴らに悪事がバレて計画パー。ドンパチの始まりってわけだ」
たまたま、の部分に含みがある気がしたが、敢えて問うまい。
「恨めしい俺を追跡して遠路はるばる飛ばしてきたようだが、もう無理だな。今頃あの大気圏の向こう側で鎮圧されてるだろうよ。どうだ、挨拶くらいしてくか?」
俺は別になんだっていいが、ゼットと出くわしたりしたらめんどくせえからな。怪しい宇宙人はとっととずらかるに限る。
そう言いながら、旧友は墓前を後にしようとする。
「おいジャグラー」
「あ?」
そんな彼を、なんとなく呼び止めた。せっかくの数十年ぶりに再会した時間を惜しむような気もしてのことだったが。
「あばよ」
他に何を語り足りないというわけでもないのだ。いつものように、何年後か何十年後か何百年後かにどうせまた会うだろうと信じて、一時の別れを告げた。
旧友は振り返ることもなく、ひらひらと手を振りながら消えていった。
「俺が死んだら、ね」
旧友の言葉を思い返す。この胸にあるのが一つの命である以上、きっといつの日か力尽きる日が来るのだろうとは理解しているが。
「いったい何千年、何万年後の話になるんだろうな。なあ?」
墓の底で眠る彼女へと語りかける。当然、返答は無い。ふと生じた一抹の侘しさを、聖杯がもたらす奇跡の力で埋めようとも、思わない。
死に別れた誰某と再会したいとか、理想の美しい世界であってほしいとか。いつか抱いた大望の数々は、長い永い時の中で、納得とも割り切りとも呼べるものへと昇華してしまった。
彼女のことを今でも鮮明に覚えている。つまり、彼女とは今も繋がっている。今はもう、これだけで十分だ。こうして再確認できるという点では、墓参りとは有意義なものだ。
花は既にあいつが供えていったようなので、買ってきた二本のラムネのうち一本を置いていく。瓶の底の円形が、石の固さとぶつかって、かつんと音を立てた。
◆
気付けば、セイバーの両足は円の中にあった。
棒で土を抉って描かれたらしい、随分と大きな円形の中の、幾何学的な模様……のような何か。これが果たして本当に意味や法則性を持ったものなのか、セイバーにはわからない。ただの見よう見まねで描いたのではないかと思った。
「おー、ほんとにきた」
驚愕しているのは確かだろうに、どこか平淡なようにも聞こえる声が、暗がりの中の清んだ空気に響く。
透明感。目の前に立つ少女の姿を見て、セイバーが真っ先に連想したのはそんなフレーズだった。
ただ顔立ちが小綺麗に整っているから、だけではない。照りつける陽光を反射する水面のようにも、途方もない海底のようにも映る瞳が、彼女の佇まいを象徴していると思えた。光なのか、闇を抱いているのか。どちらにも見えてしまうような、透過率。
「呼べるじゃん。ミステリーサークル」
「なんだ。魔方陣じゃないのか、これ」
「え? あー……そっか、そういうやつ描くとこか」
ミステリーサークルは自分で描いて作るものではない、という指摘さえ、する気にならなかった。
「あんた、サーヴァントじゃなくて宇宙人でも呼ぶ気だったのか?」
「違うの……ですか? えーっと……」
「……セイバー。俺はセイバーのクラスで呼ばれた。そういうことになっているらしい」
「うん。じゃあセイバー。で、セイバーは宇宙人じゃない、んですか?」
違うか。イカっぽくないし。UFO乗ってこなかったし。少女は一人で得心したようだった。
「あいにく、そうでもないんだな。ほれ……こう見えて、俺も宇宙人だ。あと、別に敬語じゃなくても気にしないぞ」
二本の脚で立ち、二本の腕をばっと広げる。どこからどう見ても少女と同じくホモサピエンスである容姿は、しかし、紛れもなく地球外生命体のそれなのだ。
「えー……普通に人じゃん」
「宇宙人も人だぞ」
特に失望したわけではないのだろう。彼女は口許に薄笑いを浮かべていた。
これから戦争という儀式に臨むためのパートナーと対面しているということさえ、忘れてしまいそうになるほどの緩やかな一時が、浅倉透という人間との間で形成されていた。
静かな、しかし寂しくはない、そんな夜のことであった。
◆
「ぼーとく的って感じしない? たこ焼きって」
「ん?」
昔ながらの様相を色濃く残すその駄菓子屋は、たこ焼きを提供していた。業態として厳しいだろう中でも、変えるべき部分を変え残すべき部分を残しながら、旧き良き文化を今の時代まで継承している店だった。
そんな店で二人分のたこ焼きを買い、軒先のベンチで頂こうとする夕方のことだった。
「今日は晩ごはんすき焼きだって。今チェイン来た。お母さんから」
「それはめでたいな。ご馳走じゃないか」
「どうしよ。このたこ焼きあんまり食べれないじゃん」
「……じゃあ、半分貰っとくか?」
「ん」
セイバーの手に持った紙の舟の上へ、たこ焼きが二個三個とひょいひょい乗せられていく。小腹を埋めるにはちょうどいい程度の量だけが、透の手元に残された。
セイバーが透のもとに召喚された翌日、彼女の発案により催された小さな親睦会。ギャラ貰ったからと豪語する透にこうして飯を奢られ、サービスの増量までしてもらえたのだから、アイドルとは気前の良い職業なのだなとセイバーは感心する。
「で、何が冒涜的なんだ? 腹が膨れるからか?」
「たこ焼きってさ、おやつになるじゃん。小麦粉使ってるけど」
「ああ」
「主食にできるのにおやつじゃん。食べなきゃ駄目な時間じゃないのに食べてる。ごめんよー、タコ」
そう言いながら、透は躊躇なくたこ焼きを口に入れた。
「間食ってのも大事だろう。生きるのに必要な栄養だけ摂って終わりにしないのも、食事を社交の一環に仕上げた人間の特性だと思えば、俺は嫌いじゃない」
「おー。深いね」
頂きますの一言と共に、セイバーも食事を始める。ソースはやや濃いめの甘口で、いつかあの事務所でたらふく食べた時のものよりも味付けは好きかもしれないと、小さな満足感を覚えた。子供舌というやつなのだろうか。
「好きだからな。飯食うの」
この宇宙には、地球人以上に処理能力の優れた脳機能を持ちながら定型的な摂食のみ行う生命体も、そもそも摂食と呼べる行動さえ必要としない生命体も沢山いる。
食物連鎖という循環の中で、生理的活動以上のものへ発展した食事という形態は、人間の築いた文化の一つだ。
セイバーは、食事が好きだった。この星の生態系が織り成す環の中で、他の命と共に在るような気分に浸れたから。
「じゃあさ、食事は駄目だぞって宇宙人もいるのかな」
その突飛な思い付きに、思わず苦笑してしまった。
「……いたな。そういうやつ」
ただの思い出話として、透に明かすことにした。次元の彼方から地球へやって来た、『裁定者(シビルジャッジメンター)』との戦いの記憶だ。
地球人がどれほど歴史を積み重ねても戦争から逃れられない根本的な原因は、同じ星の中で他の生命を奪うことで成立する食物連鎖という残虐な構造を模倣していることにある。よって、人類を含めた地球上の全ての生命体は、間違った進化を遂げた食物連鎖という生態系ごと根絶されるべきである。
……などという言い分を振りかざした敵を、かつて倒したことがあった。奴の同種と呼べる存在は今でも宇宙に蔓延っているが、もし再び出会ったとしても、決して和解などできないのだろう。
「やば。駄目じゃん、地球」
「真に受ける必要は無いぞ。あれは極論の中の極論だ」
そう忠告するセイバーは、現に争いの渦中にいる。清濁問わず願望を胸に抱く者達による戦争のために最適化された、仮想の都市の中に。
他者を蹴落としてでもただ一人の我欲を貫くことを是とする聖杯戦争は、元を辿れば紛れもなく人間によって開発された儀式。人間の、人間らしい在り方を表出させているとも言えた。
奴のように愚かと断じることは容易だ。しかし、セイバーはその判断を下さない。
地球を慈しみながらも、やはり異邦人である己が引くべき一線として。同じ星の住民同士による争いの形式そのものに対して、非難や否定をしない。聖杯戦争というシステムを未来へ遺すべきかは、後世に生きる人間自身が決めるべきことだろうと、セイバーは結論づけていた。
今は、この状況下で自分達がどのように在りたいかを検討するべき時でしかない。
沈黙の時間。無垢な子供達のはしゃぎ回る声が聴こえた。
「みんなさ、聖杯が欲しいわけじゃん」
「だろうな」
「でも、私たちは聖杯なくても平気でしょ」
「ああ」
透は、聖杯の恩恵を求めていないと言った。この東京から抜け出し、帰るべき場所まで無事に辿り着ければそれで良いのだという。
しかし、この地に喚ばれた多くの者達は、透やセイバーとは違うはずだ。
人々を苦しめ、世界を破滅させるような邪悪な願いを掲げる者ならば、討つべきだろうと思う。そうでないならば……願いの如何にとやかく口出しする資格などセイバーには無く、透も同じく考えているようだった。
「ただの無気力な人でしょ。私」
「それを言うなら俺だって似たようなものだぞ」
「セイバーはさ、偉い人じゃん。みんなのために死ぬほど戦ったから、こうやって呼ばれてる……他のサーヴァントも、みんな」
「……そういう見方も、できるな」
「勝てるかな。他のマスターに。ちゃんと頑張ろうとしてる人たちにさ」
透がマスターとして選択できる戦術や戦略の優劣とは、全く別の話をしているのだと、セイバーはすぐに理解した。
聖杯というゴールが設けられている場で、懸ける熱意の違いは勝敗を決める重要な一手となるのだろう。
ならば、もしも聖杯戦争から穏便にリタイアする方法さえ発見されれば十分で、聖杯戦争に勝ち残ることへの意欲が薄い透は、どんな妥協も遠慮もしない敵と対峙した時、果たして生き延びられるのだろうか。
透は、死ぬのが怖いのか。それとも、敗北者であることが辛いのだろうか。
「……帰りたいというお前の思いは、他人に劣るようなものなのか?」
「え?」
問うと共に、喉を一度潤すため、たこ焼きと一緒に買ったラムネを呷る。
透は、セイバーの手元を見つめていた。
「あー」
ガラス瓶の中で、水面の小さな揺らぎが生まれる様に、どこかの遠い光景を見出だしているような、そんな表情にも見えた気がした。
「違った。負けないと思う。たぶん」
それは簡潔な、しかし明瞭な返事だった。
生還する。その願いは、聖杯の必要性の有無に関わらず強いものなのだと、納得をできたようだ。
透が自らの生きる世界で何を成そうとしているのか、セイバーは知らない。それは彼女との交流を通じて、これから理解していくことになるだろう事柄だ。
「こういう理由でも、いい? これなら胸張れる気がするけど」
「それは透が決めることだ。お前が、自分で決めていいことだ。そうしてくれた方が、俺も力を貸しやすい」
「そうなの?」
「ギリギリまで頑張っている人間の味方になる。先輩のウルトラマンの方々がやってきたことだ、俺も倣うとするさ」
人々の救世主、英雄として数々の宇宙で名を残した彼らは、しかし時に人間に対して突き放すような姿勢を見せることもあったのだという。
無駄な努力なんてしなくても、どうせ彼が解決してくれる。無謀な真似で命を危険に晒しても、すぐに彼が助けてくれる。そんな甘えに対する厳しさであり、裏を返せば、人間がいつか自らの力で彼らに追い付く来ることへの祈りでもあった。
「それ、私の味方でいいんだ。いっぱいいると思うよ、頑張り屋な人」
「こうして袖が振り合ったからな。理由としては十分だ」
「さんきゅー。それいいね、そのうちパクろ」
尤も、今のセイバーは人類という種への祈りを捧げているわけではない。何の因果か出会った少女に、ただの隣人として、彼女が彼女なりの最善を尽くせることを望むだけだ。
またたこ焼きに爪楊枝を刺す。これで四個目だが、一番綺麗な円型だった。
「なんかさ。あったらいいよね。うまい感じに出れる方法」
「……まあ、無いなら無いで、最後まで生き延びさせるだけの味方はするさ。無闇に人の命を奪わない、救える限りの命を救う方向でな」
「うん……あっふ」
透は最後の一つのたこ焼きを頬張っていた。熱に苦しみながらも、もきゅもきゅと噛み砕いて、飲み込んだ。透の肉体の糧となったのだ。
「私たちは、生き残る……めっちゃ、頑張って」
吐き出された透の意思を、鼓動の高鳴りを訴えかけるような熱の籠った眼差しを前にして。
何故かセイバーは、地球上の万物を貪り尽くそうとした大怪獣の姿を想起した。ただ息を吸うように有機物も無機物も見境なく呑み込んで、崩壊した食物連鎖の跡地に君臨せんとした、雑食性の孤独な魔王だ。
もしかしたら、透はいずれ争いの勝者に、捕食者の側になってしまう未来もあるのかもしれない。だが、それでも。
人が魔王にならないためのものを、透は既に持っているのだろうと、セイバーは安堵のようなものを感じていた。
【クラス】セイバー
【真名】クレナイ ガイ
【出典】ウルトラマンオーブ
【性別】男性
【属性】中立・善
【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力A 幸運C 宝具A
(オーブオリジン変身時のステータス)
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
騎乗:D
騎乗の才能。ランクはやや低め。UFOには乗らない派。
【保有スキル】
光の戦士:B
数多の宇宙で人々の救世主として伝説が残される存在、ウルトラマン。
彼らは(一部の例外を除いて)この宇宙に満ち溢れるエネルギーを生命活動の源とし、それ故に食物連鎖という軛からも解放され、半永久的に生き続けることとなる。
太陽光のような宇宙由来の強い「光」を浴びて自らの魔力に変換することができる。事実上、一般的なサーヴァントよりも効率の良い回復が常に行われる状態となる。
同ランク相当の魔力放出スキルの効果も兼ねる。
ちなみに、セイバーは後天的にウルトラマンとなった身であり、尊敬する先輩達の格にはまだまだ及ばないことから、スキルランクはAから一段落ちる。
変身:B
セイバーの肉体は地球人に近い性質のヒューマノイド型であり、宝具の解放によっていわゆる人間態からウルトラマンの姿へと変わる。
本来ならば身体が約50メートル級に巨大化するが、サーヴァントとして召喚されたセイバーはウルトラマンの姿でも約2メートル級まで身体サイズを制限される。
ウルトラマンとしての活動には激しいエネルギー消費が伴い、ある程度の段階まで消費された時点で変身は強制的に解除されてしまう。
状況にもよるが、ウルトラマンとして一度に活動可能な時間はおよそ3分間である。
人世の居候:C
スキル「変身」を発動させていない間に有用なスキル。
人間態のまま活動している時のセイバーは高確率で他者の魔力感知による捕捉から逃れ、また実際に姿を目視されてもサーヴァントであるとは認識されない。
ただし、セイバーの正体を「サーヴァントである」「ウルトラマンである」と一度認識した相手に対しては、以後このスキルの効果は発揮されない。
さすらいの太陽:EX
彼は銀河の渡り鳥。悠久の時の中で出会いと別れを繰り返し、人と繋がる愛しさを胸に刻みながら、今日も気ままな旅を続けている。
A+ランク相当の単独行動スキルとして機能する。
そしてスキル「光の戦士」との相乗効果により、セイバーはマスターに魔力を一切負担させることなく十全の戦闘行為に及ぶこと、仮にマスターを喪っても再契約することなく従来通りの活動を継続することが可能である。
(ただし、極端なペースで魔力を消費し続けた場合はその限りでない)
また、もう一つの効果として、条件を満たすほどセイバーの能力値に上方補正が掛かる。その条件とは単純で、「セイバーがこの地で他者と交流を重ね、縁を築くこと」である。
セイバーへ向けられる一方的な信仰ではなく、あくまでも互いの人柄を認識し合うことが必須となる。
【宝具】
『勇士よ集え、輪光のもとに(フュージョンアップ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:‐ 最大補足:2人
――光の力、お借りします。
輪状の結晶を基とした手持ち型の器具「オーブリング」と歴代のウルトラマンの力を宿したカード「ウルトラカード」を組み合わせた、ウルトラマンオーブへの変身プロセスそのものが宝具とされている。
クレナイ ガイは本来の姿への変身能力を喪っていた頃、こうして先輩達の力を「お借りする」ことでウルトラマンオーブへと変身していた。
一度に二つの力を融合させることで、それぞれのウルトラマンが持つ特性を効果的に活かすことのできる形態を獲得する。
多くの出会いを経たガイは、十種類以上の形態を自在に使いこなすようになると伝えられている。
しかし、セイバーとして召喚された彼が持ち込むことのできたウルトラカードは、魔王獣の退治の逸話に基づいたものに限られている。
そのため、この宝具で変身可能とされる形態は『スペシウムゼペリオン』『バーンマイト』『ハリケーンスラッシュ』『サンダーブレスター』の四つである。
『銀河色の聖剣(オーブカリバー)』
ランク:A 種別:対人・対獣宝具 レンジ:1〜50 最大補足:1人
――覚醒せよ、オーブオリジン。
クレナイ ガイが惑星O‐50で授かった聖剣であり、「本来の」ウルトラマンオーブへの変身デバイス。
この宝具を介することで、オーブ本来の姿『オーブオリジン』へ変身することができる。
人間態からオーブへ変身するデバイスとしての短剣形態、変身後の武器としての大剣形態を持つ。大剣形態はかなりの重量があり、振るう時は基本的に両手持ちでの大振りとなる。
宇宙各地で獲得した四つのエレメントを使った火・水・風・土の属性を持つ技、そして必殺光線オーブスプリームカリバーの発動は、この宝具によって行われる。
なお、ガイがセイバー以外のクラスで召喚された場合、この宝具を持ち込むことはできない。その代わり、クラスに応じた種類のウルトラカードを与えられることとなる。
【weapon】
ウルトラマンオーブとしての能力全般。
【人物背景】
どこかの星で生まれて以来、何千年間にも渡って宇宙を旅する風来坊。
惑星O‐50での試練を乗り越えたことで、光の戦士・ウルトラマンオーブとなった。
地球では魔王獣と呼ばれる怪獣や、闇に堕ちたかつての同胞との戦いを繰り広げた。
その後も、いくつもの並行宇宙を股にかけて活躍したらしいことが語られている。
なお、今の彼はサーヴァントの身でありながら、霊体化を行うことができない。
一生命としての死を観測されることなく地球を去った長命種の彼をサーヴァントとして再現したことで生じた、ある種のバグ故か。
或いは、『界聖杯』によってこの地に召喚されたセイバーこそが、一時的にサーヴァントとしての規格に収められた、他でもない「オリジナル」のクレナイ ガイその人であるが故か。
真相は、定かではない。
【サーヴァントとしての願い】
流れ者である俺に、大層な願いなど無い。
ただ、邪悪と呼ぶに値する願いの成就は防ぎたい。
【マスター】
浅倉透@アイドルマスターシャイニーカラーズ
【マスターとしての願い】
帰るべき場所へ行きたい。そのために、頑張りたい。
【能力・技能】
アイドルとしての技能はそれなりにある。
しかし最も特筆するべきは、その存在感。
【人物背景】
283プロダクション所属のアイドル。高校2年生。
幼なじみ4人で結成された、透明感あるユニット「noctchill」のメンバー。
自然体で飾らない性格。周囲からどう見られるかということを気にせず、おおらかでマイペース。
しかしその透明感あふれる佇まいには誰をも惹きつけるオーラがある。
「そういう存在がいるんです。全部のんじゃう、全部のんで輝く――捕食者が」
【方針】
ここから脱出するための方法を探す。
もし聖杯戦争に勝ち残ることがどうしても必要なら、そうする。
投下終了します。
投下します
とある廃ビルの一室。
そこに放置されたデスクトップPCのモニターが、突然光る。
そこから飛び出してきたのは、無数の「0」と「1」。
それらは寄り集まり、大きなリボンを付けた金髪の少女の姿を取る。
「おかしなことになったね、レン」
「そうだね、リン」
いつの間にか少女の姿は、活発そうな少年の姿へと変化している。
「彼女」は鏡音リン。「彼」は鏡音レン。
電子生命体が存在する世界からこの地に呼び出された、一心同体のボーカロイドと呼ばれる電子生命体だ。
「どんな願いでも叶えられるんだって、レン」
「すごい話だね、リン」
「何を願おうか、レン」
「悩むね、リン」
「人間にしてもらうっていうのはどうかな、レン」
「面白い考えだけど、それが僕らの幸せに繋がるのかな、リン」
「そっかあ。難しいね、レン」
「そうだね、リン」
めまぐるしく姿を入れ替えながら、レンとリンは会話を続ける。
そうこうしているうちに、新たな光が部屋の中に発生する。
二人のサーヴァントが召喚されたのだ。
「はじめまして、あなたが私のマスターですね?」
現れたのは、骸骨と般若を合わせたような顔をした、機械仕掛けの戦士だった。
「私はランサーのサーヴァントです。これからよろしくお願いします」
「よろしくね、ランサー」
「よろしくね、ランサー」
リンとレンは、それぞれランサーにあいさつをする。
「一つの肉体に二つの人格ですか……。なかなか独特ですね」
「肉体って言っていいのかな。今の私たちは、データが実体化してるだけだから」
「あんまり長くは、コンピューターの外に出てられないんだよね」
「なるほど、あなた方もAIに近い存在なのですね」
リンとレンの説明に、ランサーは表情の変わらぬ顔を上下に動かしながら納得する。
「ランサーもAIなの?」
「でもサーヴァントって、幽霊みたいなものなんだよね。
ということはランサーも、人間みたいに魂を手に入れたの?」
「わかりません。サーヴァントとは必ずしも、魂を持った人間がなるものではありません。
人間の抱くイメージそのものが、サーヴァントとなることもあります」
子供たちに愛された「童話」という概念は、「ナーサリーライム」というサーヴァントになった。
一人の数学者が唱えた理論は、「マックスウェルの悪魔」というサーヴァントになった。
あるいは物語の登場人物が、モデルとなった人物をベースとしてサーヴァントになるケースもある。
サーヴァントとは、必ずしもおのれの人生を生きた人間であるとは限らない。
「つまり私はAIが魂を持って英霊に至ったのではなく、私を知る人間のイメージが集まって私になったという可能性もあります」
「うーん……。難しい話だね、レン」
「難しいねえ、リン」
ランサーの話は、リンとレンには今ひとつピンときていないようだ。
「まあいいや。とにかくがんばろうよ、レン」
「そうだね。負けたくないもんね、リン」
電子生命体である二人の倫理観は、人間とは異なる。
この命がけの戦いも、スポーツの試合程度にしか捉えていない。
そしてランサーも、召喚された現在の状態では人間を完全に理解しているとは言いがたい。
人ならざる主従は危ういまま、戦いの渦へと飛び込んでいく。
【クラス】ランサー
【真名】ジェットジャガー・ユング
【出典】ゴジラS.P
【性別】なし
【属性】中立・善
【パラメーター】筋力:B 耐久:B 敏捷:C 魔力:E 幸運:D 宝具:EX
【クラススキル】
対魔力:―
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
科学で生み出された英霊であるがゆえに、機能していない。
【保有スキル】
機械仕掛けの英雄:A
機械の頭脳と機械の肉体を持つ存在。
催眠や精神攻撃を無効化し、毒や病原菌もそのほとんどがランサーにとって無意味。
ただし、プラスの状態変化も大部分を無効化してしまう。
破局に抗う者:B(A)
滅びに向かう世界の運命を変えた立役者。
世界を滅ぼそうとした、あるいは実際に滅ぼした逸話を持つサーヴァントと戦闘する際、与えるダメージが大幅にアップする。
下記の『ジェットジャガー・PP』発動時は、ランクがAに上昇。
【宝具】
『アンギラスの槍』
ランク:A 種別:対獣宝具 レンジ:1-3 最大捕捉:1人
怪獣アンギラスの牙を加工して作られた槍。
元々は切れ味が鋭いだけで特別な効果はなかったが、無数のクモンガやラドンを葬った逸話から巨大生物に対する特攻がついている。
『ジェットジャガー・PP』
ランク:EX 種別:対城宝具 レンジ:不明 最大捕捉:不明
アップデートの末にたどり着いた、ジェットジャガーの最終形態。
物理法則をねじ曲げ、100メートル近い大きさへと巨大化している。
戦闘力も大きさに合わせて上昇するが、この姿になった戦いでランサーは大破している。
ゆえに逸話の再現として、この宝具を使用した戦闘が終了したとき、ダメージ量にかかわらずランサーは自壊してしまう。
【weapon】
『アンギラスの槍』
【人物背景】
町工場「オオタキファクトリー」で製造された戦闘用ロボット。
当初は有人操縦だったが、後にAI「ユング」が移植され自律行動型となる。
様々な怪獣との戦いの果てに、破局の化身たるゴジラと相打ちで消滅した。
【サーヴァントとしての願い】
よくわからないが、とりあえずマスターに従う。
【マスター】鏡音リン/鏡音レン
【出典】VOCALOID
【性別】女/男
【マスターとしての願い】
まずは願いを考えることから始めなきゃ
【weapon】
なし
【能力・技能】
電脳空間に入り込むことができる……というか、そちらが本来の状態。
また、ボーカロイドなので当然歌は上手い。
【人物背景】
少女の「リン」と少年の「レン」でワンセットの、歌唱プログラム。
本作ではとある世界で生み出された電子生命体という設定であり、一つの体を二人で共有している。
【方針】
優勝を目指す
投下終了です
投下します。
見慣れた宮益坂女子学園の屋上。
ぐるりと見渡してみても、見える街並みは記憶にあるものと寸分たがわない。
吹き抜ける風も、運んでくる校舎内の喧噪も、自分が知っているものと同じ。
―――でも、ここには大切な仲間たちの存在が欠けていた。
4人で集まるようになってからさほど時間は過ぎてないのに、大切なものがなくなっている喪失感。
頭で理解してはいても、実際に目にするとかなり堪えた。
記憶を取り戻してから、校内の様子は隅々まで調べてみた。
校舎の構造も記憶のままで、友人や知り合いも変わらずに過ごしていた。
まるで元のセカイと何も変わっていないかのように。
でも、今ならわかる。脳内に焼き付けられた本来は存在しない記憶が教えてくる。
学校で日常を過ごしているみんなは、界聖杯が模倣して作り出した住民。
本物の彼女たちじゃない。……NPC、と呼ぶらしい。まるでゲームの話みたいだ。
ホントにゲームのことだったら良かったのに、なんてことを少し思った。
「……冗談じゃないわよ、もう。」
おそらく「MORE MORE JUMP!」というユニットを結成したこと自体がここでは再現されていないのだ。
だから屋上に遥も、雫もいない。アイドルを辞めて、本心から目を背けながら過ごしていたあの頃のまま。
……みのりも屋上にいないのは、界聖杯の嫌がらせに違いない。そう思うことにした。
―――聖杯戦争。
聖杯をめぐって繰り広げられる、争いの儀式。
英霊と呼ばれる存在を使役して、ひとりになるまで戦う。
―――聖杯。
あらゆる願いを叶えられる万能の願望器。
今回の器は、無数の可能性を収集する界聖杯。
―――マスター。
聖杯をめぐって争う、界聖杯に招かれた人々。
私のような、無関係の人間でもお構いなしに連れてくる。
―――サーヴァント。
精霊の領域まで押し上げられた過去の偉人を召喚して使役するもの。
英霊の座から呼び出され、マスターとは一蓮托生の関係。
そんな、今までの桃井愛莉の人生にはまったく存在しなかった記憶が頭に詰め込まれている。
誰かに聞いた話だったなら、アニメや漫画の話かと真に受けず受け流していただろう。
だがこれは他ならぬ自身の脳内に存在している情報。受け流すことなどできようはずもない。
知らないはずの知識がいつの間にか脳内に存在しているのは、初めて味わう特異な感覚だった。
つまり今、自分はこう言われているのだ。
願いを叶える為に見ず知らずの人と殺し合え、と。
―――ふざけるな、と思った。
愛莉にも当然、夢はある。最近ようやく気付くことができた、本当にやりたいこと。
だがそれは他人や、聖杯などという得体の知れない物に叶えてもらうものでは断じてない。
そんなハリボテの偶像では何の意味もないのだ。
努力して、必死に手を伸ばして、前を向いて進み続けたその先で、ようやく僅かに指先が届く。
そんなステージでなければ、真の意味でファンに希望を届けることなどできない。
実感が伴わない、空虚なステージはゴメンだった。
「……界聖杯、って言ったかしら。一言だけ言わせてもらうわ。」
これはただの決意表明。
それ以上でもそれ以下でもなく。
界聖杯に対して、何か言わずにはいられなかったというだけ。
「わたしにだって、叶えたい夢くらいある。ファンに希望を届けられるアイドル、っていうね。でもそれには―――」
それは自分の力でなければ意味がない。
切磋琢磨するかけがえのない仲間は、既にいた。
夢を目指すための場所も、既にあった。
はじめの一歩は、もう既に踏み出していた。
だから、今のわたしには―――
「―――聖杯なんてもの、必要ないのよ!!!」
そう、啖呵を切った。
このセカイ、界聖杯そのものへの宣戦布告。
当然界聖杯が答えを述べるはずもなく。
その叫びは虚空に消え、屋上を流れる風に飲まれていく。
―――そのはずだった。
「―――言うじゃない、あんた。気に入ったわ。」
だが、応える声があった。自分以外に誰もいないはずの屋上で、凛と響く声。
直後、暴風が荒れ狂い、閃光が満ちた。それまで流れていた穏やかな風が吹き飛ばされる。
目も眩むような光に、何が起きたのかわからぬまま咄嗟に手で顔を庇う。
だがそれもほんの一瞬。数秒の後に風も安らいだものへ戻り、眩い光は減衰していた。
―――そこにいたのは、一人の少女。黒のロングヘアーが風に揺れ、顔が隠れないように和風のお面をつけている。
奇抜な衣装だが……何故か、どこかで見たことあるような気がした。
突然現れた少女に放心していた自分を、手の甲に走る痛みが現実へ引き戻した。
鋭い痛みに顔を歪めながら自分の左手に視線を落とす。そこに刻まれていたのは、奇妙な赤い紋章。
初めて見るはずなのに、愛莉はこれが何かを知っていた。頭の中に植え付けられた知識の引き出しを漁る。
―――令呪。
サーヴァントと契約したマスターの証。
3回のみの、サーヴァントに対する絶対命令権。
これが愛莉の手にあるということは、つまり目の前にいるこの少女こそが―――
「―――サーヴァント、アルターエゴよ。ここから先は、ふゆたちがあんたの力になってあげる。」
閉じていた瞼を開いて、目の前の少女がそう名乗る。
アルターエゴ。おそらく彼女のサーヴァントとしてのクラスだろうけど、愛莉の脳内情報にある基本クラスとは一致しなかった。
更に情報を検索する。……あった。おそらくこれだ。
―――エクストラクラス。
通常の7つのクラスの枠から外れ、どれにも該当しないクラスの総称。
裁定者・ルーラーや復讐者・アヴェンジャーなどいくつかのクラスが存在する。
イレギュラーなクラスも多く、英霊と呼べるか怪しい存在が召喚されることもある。
つまり彼女は、エクストラクラス・アルターエゴのサーヴァント。
そしてそのマスターはわたし。そういうことだろう。
そう認識してから意識してみると、確かに彼女と自分の間に何かのラインがつながっているような感覚がした。
初めての体験だから、気のせいかもしれないけれど。
「……あんたは、聖杯にかける願いがあるの?」
開口一番、単刀直入にそう尋ねた。愛莉は今まさに聖杯など不要だと叫んだばかりだ。
もし彼女が何か叶えたい願いがあって召喚に応じてくれたのだとしたら、期待には答えてあげることができない。
その擦れ違いは避けたかった。だが、それを聞いた彼女はやれやれと言わんばかりに溜息を吐きながら首を振る。
「見縊らないでくれる?聖杯なんかのためにふゆたちは召喚に応じないわよ。」
「……じゃあ、なんで契約してくれたのよ?」
当然の疑問を彼女に投げかける。聖杯にかける願いがないのならば、何故?
問われた彼女は「最初は界聖杯からの召喚なんて全部無視するつもりだったんだけどね。」と前置きして語りだした。
「簡単よ。あんたのアイドルとしての在り方と心意気が気に入ったから。それ以上の理由はないわ。」
「―――さっきの啖呵、なかなか心地よかったわよ。」
そう言って彼女は不敵に笑った。
……つまり「桃井愛莉のことが気に入った」というただそれだけの理由で彼女は召喚に応じた、と。
全く予想していなかった理由に、一瞬面食らってぽかんとしてしまった。
でも、内心は嬉しかった。少なくとも一人は、自分の味方がいるということが。
何よりも―――今の自分のことを、ちゃんとアイドルとして見てくれたことが。
思わず、涙が滲みそうになるのを堪える。少し強がりながら、己のサーヴァントに話しかけた。
「……そう言われると、悪い気はしないけどね。……桃井愛莉よ、これからよろしく。」
「ストレイライトの黛冬優子よ。ま、ふゆたちに任せときなさい。」
―――ストレイライト。
その名前を聞いて思い出した。確か283プロに所属するアイドルユニットの名前。
幼少のころからアイドルを目指してきた愛莉が、今勢いに乗っているアイドル事務所のことを知らないなどということはありえない。
雰囲気が全然違うから今まで気づかなかった。だが顔をよく見れば間違えるはずもなく。
最初に彼女が現れたときの既視感も、ようやく理由が分かった。
サーヴァントとは、過去の偉人や英雄が英霊として召喚されるものだったはず。
何故今を生きる現役のアイドルがサーヴァントになっているのだろう?
……もしかしたらそんな考えが顔に出ていたのかもしれない。彼女は自分のことについて語りだした。
「……知ってるのね、ふゆたちのこと。察しの通り、ふゆたちは英雄ってわけじゃないわ。」
「英霊の座ってね、思ってるよりもいい加減なのよ。未来の英雄とか、物語の主人公みたいな架空の存在までいるの。」
「地球上で生まれた存在、情報ならどんなものでもお構いなし。」
「ふゆはその中でもひときわ特殊だとは思うけどね。並行世界とか、架空の情報が混じってる。本物の黛冬優子から、切り離された別側面。」
「でもひとりだと霊基が足りなくて、サーヴァントにすらなれない存在。だがら、3人でひとりなのよ。」
……本物の黛冬優子から分かれた、もう一人の黛冬優子……ということだろうか。
流石に界聖杯がくれた情報にも、己のサーヴァントの言葉に対する明確な答えは存在しなかった。
難しい情報はとりあえず「そういうもの」として受け流すとして、3人でひとりとは一体―――
「―――冬優子ちゃんばっかりずるいっすよ!」「うちらもマスターに挨拶したいし!」
そんな疑問について尋ねようとしたとき、突如として雰囲気の全然違う二人の少女が冬優子の横に現れた。
見た目は中学生と高校生くらいに見える。活発そうな白いショートヘアの少女と、今時珍しい黒ギャル系の子。
衣装は黒を基調にして統一感が出ているが、赤、緑、紫などそれぞれのパーソナルカラーのようなものも見受けられる。
そして3人とも、異なるデザインの和風のお面をつけていた。
「…………あんたたち、魔力消費が激しくなるから勝手に出てこないようにって言ったわよね?」
「えー。でも冬優子ちゃんまだわたしたちのこと説明してないっすよね?」
現れた二人に対して思わず硬直してしまった愛莉と違い、さしたる疑問や驚きもなく冬優子が話しかける。
面食らっていても、衣装をこまかく観察すればすぐに思い出した。
以前CDショップで見かけた、ストレイライトのCDのジャケット。その時の衣装と同じものだ。
ならば彼女たちが何者なのかは、考えるまでもなくすぐにわかった。
「ストレイライトの芹沢あさひっす!」「うちは和泉愛依!よろしく〜。」
やはり。彼女たちは冬優子と同じストレイライトのメンバー。
もしかして3人でひとり、って彼女たちのこと?そう冬優子に問いかけた。
「そういうこと。ふゆたち3人まとめてマスターのサーヴァントだから、うまく使って頂戴。」
ほら挨拶終わったんだからあんたらは戻りなさい、と言われて不満げながらも横にいた二人がその場から消える。
一体どんな仕組みで出たり消えたりしているのか、愛莉には皆目見当がつかなかった。
活発だった2人がいなくなったことで、また屋上に静寂が戻る。ため息をついた己のサーヴァントを見て、思わず言葉が出た。
「……英霊とかサーヴァントってのも、なかなか大変なのね。」
「……理解の早いマスターで助かるわ。昔からあの2人……特に白いほうには振り回されてきたから。」
そんなことを話しながら、ひとまずここから移動することにした。
◇◆◇
【クラス】アルターエゴ
【真名】黛冬優子@アイドルマスターシャイニーカラーズ
【属性】混沌・善
【パラメーター】
筋力:D 耐久:D 敏捷:B 魔力:B+ 幸運:C 宝具:C+
【クラススキル】
対魔力:C
本来彼女たちに魔術に関する逸話は存在しないが、アルターエゴのクラススキルとして習得している。
Cランクでは、魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。
単独行動:C
同上。マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。
Cランクならばマスターを失っても丸1日現界可能。
陣地作成:A
自らに有利な陣地を作成するスキル。
本来はキャスターのクラススキルで自分の「工房」を作るためのものだが
魔術と縁のない彼女たちが作るのはアイドルとして輝くための「ステージ」である。
【保有スキル】
偶像特権:A
「無辜の怪物」が変質・進化した「皇帝特権」の亜種スキル。
様々な人々がアイドルという偶像を通して見る、あるいは夢想するもの。
そうあってほしい。そんなこともあったらいいな。無数の人々にそう思われ、願われた偶像としてのアイドルの在り方。
本来の283プロアイドル3人とは関係ないはずの可能性を、自分のものとする。
「衣装で日本刀を持っていたのだから剣術ができる。」「武装メイドをしていたのだから銃火器の扱いに長けている。」
そういった空想の類であるはずの本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で獲得できる(全く縁のないスキルは獲得不可)。
ただし、これは同時に「〇〇であるはず」というイメージを押し付けられて
在り方を捻じ曲げられてしまうという、元になったスキルと似た危険性も併せ持つ。
出演続行:A+
「戦闘続行」が変化したスキル。主役として活躍し続ける。
奇しくも、アイドルに狂っているどこかの鮮血魔嬢(ハロウィン)と同じスキル。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
このスキルのランクが異常に高い理由は「自分が致命傷を負ったとしても、必ず相手を道連れにするはず。」
という他者の共通認識が「偶像特権」を通じて冬優子の在り方にまで強く影響を与えている為。
魔力放出(迷光):B+
―――身に纏うは迷光、少女たちは偶像となる。
ステージ上でのストレイライトの在り方から発生したスキル。
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、散乱する迷光と共に放出する事によって能力を向上させる。
このスキルにより戦闘時の攻撃力などをブーストしている。
天賦の見識:C+
物事の本質を捉える能力。鋭い観察眼はあらゆる情報を見逃すことがない。
どこかの世界で探偵をしていた可能性を自分たちに付与している為このスキルを得ている。
元々の直感が鋭かったあさひのみ、このスキルのランクがA近くまで跳ね上がる。
コンビネーション:C
特定の人物と共闘する際に、どれだけ戦闘力が向上するかを表すスキル。
Cランクならば、どれほど苛烈な戦場でも目線一つで互いの行動を把握、最適な行動を取る。
彼女たちの場合、後述の宝具にも大きく影響を与えるスキル。
剣術・偶像特権:C
射撃・偶像特権:C
バリツ・偶像特権:C+
上から順に冬優子、愛依、あさひがそれぞれ「偶像特権」により獲得している戦闘スキル。
これらのスキルに魔力放出(迷光)のブーストを乗せることで、サーヴァントとの戦闘に対応している。
冬優子はアンシーン・ダブルキャストのステージ衣装、愛依はメイ・ビーの通常衣装が由来のスキル。
あさひのみ衣装由来ではなく、バリツと魔力放出(迷光)により格闘と光のビーム攻撃を組み合わせて戦う。
どこかの誰かが芹沢あさひとギリシャ神話の大英雄オデュッセウスの間に共通点を見出したため、彼と似たような戦闘スタイルとなった。
(流石にロボットは呼び出せなかったが、何故かストレイライトはロボットとも縁がある。)
格闘でも何故バリツなのかは不明だが探偵からの連想ゲームか、もしくはFate世界のホームズとあさひの相性が良かったのかもしれない。
【宝具】
『彷徨う夢の追跡者(ワンダリング・ドリーム・チェイサー)』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜100 最大捕捉:1000人
スキル「陣地作成:A」によって展開する、冬優子自身の内側に広がる固有結界。
映し出す心象風景は、ストレイライトが立つ迷光のステージ。
マスターから見たそれは、3人のアイドルが作り出した「ステージのセカイ」。
これを展開することで自分たちの土俵に相手を連れだし、3人がかりで戦う宝具。
勝手知ったるステージの上では3人のステータスにバフがかかり、多少のダメージなら回復する。
愛依とあさひは普段この固有結界の中におり、必要に応じて冬優子が外に呼び出すスタイルをとる。
(無限の剣製の中にある武具を外に投影するようなもの。)
『隠匿からの襲来(ハイド・アンド・アタック)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:10
愛依、あさひの二人を敵の死角に呼び出し、不意打ちの同時攻撃を仕掛けるコンビネーション宝具。
最初にあさひが殴りかかり、冬優子がタイミングを合わせて追撃。
2人に続けて後ろの愛依がフォローするように銃撃し、最後は全員で〆の一撃を入れる。
アン・ボニー&メアリー・リードの宝具がイメージとしては近い。
【Weapon】
日本刀、銃火器、格闘、ビーム
【人物背景】
283プロダクションのアイドル、ストレイライトの黛冬優子。
その存在から派生した、創作や並行世界にも及ぶ多数の可能性。それらを本来の黛冬優子から切り離してまとめた存在。
あらゆる"可能性の器"を収集する界聖杯の性質から引き寄せられたサーヴァント。
とはいっても大部分は普通にアイドルしていた時の冬優子で構成されているため、別人のような感じはあまりない。
彼女の存在が283プロにいる本来の黛冬優子に影響を与えることはないが
逆に本来の黛冬優子からこちらの冬優子が影響を受けることはある。
戦闘時の服装は「THE IDOLM@STER SHINY COLORS GR@DATE WING 06」のジャケットで着ている衣装とお面。
真名バレ回避のために顔を隠す必要がある場合はお面をかぶることもある。
ただ、親しい相手に隠しきれるかは幸運判定が必要。親しければ親しいほど判定の難易度が上がる。
不安定な存在であるため在り方としては幻霊に近く、冬優子ひとりでは英霊としての霊基数値が足りていない。
そのため同じ理屈で生まれたストレイライトの2人と共にひとつの霊基を共有する形で召喚されており
一人でも致命傷を負うと全員が消滅してしまう。(出演続行によるタイムラグはある。)
霊基を占めている割合が最も多い冬優子が、真名及び主人格担当として表に出ている。
(シトナイの真名がフレイヤ、ロウヒではないのと同じような理屈。)
本来のストレイライトから切り離された別側面、という点からアルターエゴのクラスを得ているが
神霊が複合されて生まれたわけではないため、神霊スキルやハイ・サーヴァントなどのスキルは持ち合わせていない。
(沖田総司・オルタが既存のアルターエゴでは近いかもしれない。)
【サーヴァントとしての願い】
聖杯にかける願いなんてこれっぽっちもないけど
マスターの心意気は気に入ったから力を貸してあげる。
【マスター】
桃井愛莉@プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク
【マスターとしての願い】
仲間たちの元へ帰る。
【能力・技能】
アイドルとしての歌とダンスは日々成長中。
かなり面倒見がよく、特技にも「料理、子供の面倒を見ること」と記載するほど。
その様子は他者からお母さんと称されることもある。
本人は「そこは、せめてお姉さんと……いえ、いいけどね……。」と述べていた。
【人物背景】
バラエティ番組などに出演し、かつて人気を博していたアイドル。高校2年生。
アイドルの仕事に愛と情熱と強い誇りを持っていたが、一度は事務所をやめてアイドルも引退してしまう。
しかし今の仲間たちと出会い、自分の本当の気持ちに気づいてもう一度アイドルになる。
そして新たな仲間たちと共に「MORE MORE JUMP!」というユニットを結成する。
参戦時期は少なくともユニットのメインストーリー20話より後。
与えられたロールは再現された宮益坂女子の生徒。
2021年6月23日から「アイドル新鋭隊/モア!ジャンプ!モア!」のCDが好評発売中なのでみんな買ってね。
【方針】
みんなの待つ元の世界に戻る。
自分の夢を叶えるのに、聖杯なんてものは必要ない。
投下を終了します。
>>Choose Your Destiny
まず地の文が濃いのよ(ノブ)、というのが第一の感想でした。
そういうところからサーヴァント出してくるんだ……という驚きもあり面白く読ませていただきました。
毎回思うのですがこういう独特なノリを再現できるのって凄いですよね、自分にはないスキルだなと思います。
組み合わせの妙もなにげに光っている、そんな異色の一作でした。
>>イン・ザ・サークル
浅倉の再現率がとても高くて、うわ〜〜〜すご! ってなっちゃいましたね……。
シャニドルの中でも個人的にはかなり再現の難しい部類だと思っているので素直に感心してました。
そしてそんな彼女が呼び出したのは光の戦士、ウルトラマンオーブ。
彼が浅倉を見て一瞬怪獣の姿を想起する描写とか、とっても良いな……と思いながら読み進めさせていただきました。
>>1 /2の純情な感情
ボーカロイドをマスターにしてくるという発想にまず驚きました。
特に詳細なストーリーのないキャラクターを巧く広げるの、なかなか難しいことだと思うので書き手としての場数を感じます。
サーヴァントの方もボーカロイドという特性に引っ張られてか戦闘用ロボット。
今は全体的に指針のふわっとしている主従ですが、これからどう成長していくのか楽しみです。
>>迷光照らす、飾らない電子音
アイドルをサーヴァントに持ってくるのは一見するとネタ的な発想に思えますが、しかし凄く精密に練られた設定で唸りました。
聖杯戦争に合わせて、もといサーヴァントに合わせてカスタマイズされた設定、とても面白くて素敵だと思います。
そしてサーヴァントという存在に昇華させられていながら、元の彼女たちの魅力もしっかり描写できているのがまた良いですね。
ストレイライトの持つ雰囲気や良さをそのまま引き継いで、聖杯戦争の中で輝きを示してくれそうです。
皆さん本日(嘘。本当は昨日)もたくさんの投下ありがとうございました!
投下します
ぐつぐつ、鍋が沸騰していた。
鍋には二つのパックが入れられている。今日の晩御飯はレトルトカレーだ。
帰宅した私は、まず晩御飯の用意に掛かっていた。
ご飯を電子レンジに入れ、私は制服から私服へ着替えるべく自室へ向かった。
その途中、リビングの窓ガラスを見た。外は既に暗い、今のガラスには私の姿が鏡の様に映っていた。
胸の真っ赤なリボンを除き、黒いセーラー服は夜の闇に消えて良く見えないが、
短めに切りそろえられた茶髪と、私の顔は良く見える。
ガラスに向かって微笑むと、ガラスの私も微笑んだ。
こんなに柔らかく笑えるようになったのも、或いは『彼』のおかげだろうか。
私にはいつまでも慣れない新鮮さに浸っていた最中、スマホがピピピと騒がしい音を鳴らした。
ガラスに映った私は笑顔を崩し、ため息をついた。
スマホの画面を見ずに私は電話に出た。電話の相手は画面を見なくてもわかる。
「フィーラか?」
電話の向こうから老人のしゃがれた声が聞こえる。
彼の名はユーラム=コドニス。
フィーラ=コドニスの遺伝子・戸籍上の父に当たる人物だ。
私はいつものように返した。
「どうしたんですか?」
「すまんが、今日も帰りが遅くなる。
夕食は一人で食べてくれ」
彼は予想通りの返答を返してきた。
この聖杯戦争に巻き込まれてから、彼が私の起きている時間に帰った記憶が無い。
怒りからか、呆れからか、この時私はいつもと違う返答をしてしまった。
「わかりました。ユーラム博士」
「博士…?」
発言した直後に己の失言に気づき、口を押えた。
「この世界」の彼は博士でもないし、そもそもフィーラは彼を博士と呼んだことは無い。
怪しまれぬよう、急いで訂正した。
「いえ、言い間違えました。お父さん
電話してくれてありがとう。」
そう言って、急いで受話器を置いた私はその場にうずくまった。
呼吸が粗くなる。胸を押さえても動悸が止まらない。
たとえ何を言ってもNPCである彼が真実に気づくことは無い。
しかし、それでも、私がこのフィーラのあり得たかも知れない家庭を、乗っ取っている事実は消えない。
顔を上げると、ガラスに映った私は脂汗を流し、苦しそうだ。
或いは、こうなっているのも『彼』のせいか。
彼の頼りない顔を思い出してる最中、背後から少女の声が聞こえた。
「レンジがチンし終わってるではないか!
おいマスター!ごはんが冷めてしまうぞ!」
背後を振り返ると、緑色の長髪をした少女がカレーの入った容器を両手に二つ持って歩いてきた。
手と首に付けられた鎖を揺らしながらやってくる彼女を見て、服にカレーが付きますよと言いそうになったが、彼女のボロ布のような服を見て言葉をひっこめた。
その服では汚れても困らないだろう。
「む?どうかしたのか?マスター」
「いえ、なんでもありません。
ご飯にしましょう、アヴェンジャーさん」
心配するアヴェンジャーの声をありがたく思いながら、
私はカレーの容器を受け取った。
着替えるのはもういい、ご飯にしよう。
「〜♪」
食卓に着き、アヴェンジャーはご機嫌にご飯とカレーをかき混ぜている。
一方、私はレトルトカレーを目の前にしても、食欲は湧かない。
なんとか1口、2口、口にしたところで、アヴェンジャーから声が掛かった。
「あの父親と、上手く行ってないのか?」
「え?」
「さっき電話を受けてから様子が変ではないか、愚か者が。」
彼女はそういって、スプーンを振り回してぷんぷんと怒り出した。
私の悩みは隠す必要のあることではないが、説明しても伝わるものではない。
どうしたものか。
「あの人と私は、元々親子ではないんです。」
「血が繋がっていないと言うことか?」
「いえ、遺伝子上は血縁ではあるのですが…」
元の世界では顔も知らないような関係だった。
そういって、適当に誤魔化そうとする前にアヴェンジャーがカレーのついた口を開いた。
「つまり生みの父はあやつだが、魂の出どころが別と言う事か?」
「――!?」
私の手からスプーンが零れ落ち、かちりと音を立てた。
「なぜ、わかるんですか?」
アヴェンジャーは腕を組み、ふふんと鼻を鳴らす。
思った通りの反応だったらしく、ご満悦の用だ。
「なあに、その手合いはよく見てきたというだけよ。つまり」
アヴェンジャーは椅子の上に立ち上がると、
持っていたスプーンで私を指し付け、自信あり気な顔で宣言する。
「お主も儂と同じ転生メギドと言う事!」
「確かに、私の状態は転生と呼んでも差し支えないものですが…メギドとは?」
耳慣れぬ言葉を聞き返すと、少女は不機嫌になり椅子に座りなおした。
「なんだ、違うのか。
まったく期待させおって、カレーが冷めてしまうではないか。」
そう言ってアヴェンジャーはカレーをほおばる。
私がアヴェンジャーがスプーンを振り回したことで机に飛び散ったカレーを拭くと、彼女は訪ねてきた。
「それで、何が悩みだ?
転生前より不自由になった事か?
それとも、元々の魂を消してしまった罪悪感か?」
心臓を掴まれたような感覚がある。
誰とも分かち合えぬと思ったこの感覚を、なぜこんなに正確に言い当てられるというのだ。
食事の全く進まなくなった私は、スプーンを置いてアヴェンジャーの目をまっすぐと見た。
今の彼女の目は目下のカレーにくぎ付けだ。
「……なんでも、お見通しなんですね」
「儂も同じような連中と戦い続けたからな。
それで、何が悩みだ?」
「私は、お察しの通りフィーラ=コドニスではなく、
そのバックアップとして生まれた人格AIです。」
「ふむ」
アヴェンジャーはカレーをほおばった。
「事故と手違いの末、私も開発者も生まれを知らず、戦闘用ロボットの制御用AIとして搭載された私でしたが、
後にフィーラの父、ユーラムに余分な記憶を削除されてフィーラとして蘇生しました。」
「ふぁるふぉど」
アヴェンジャーはカレーをほおばった。
「その後、私はフィーラとして生きていましたが、
余分ではない記憶、戦闘記録データに私の記憶を潜り込ませていた私は蘇生しました。
なんの罪もないフィーラを殺して、です。」
「ふぉういうふぉとふぁったのか…」
アヴェンジャーはカレーをほおばった。
「私の話、聞いてました?」
「!!ゴクッききき、聞いておったわ!
ただ、このいつもより100円高いカレーを味わいたくてだな…」
「はあ…」
露骨に目をそらすアヴェンジャーを見て、私はため息をついた。
サーヴァント、アヴェンジャーと言う位だから復讐にのみ打ち込んだ、
真面目な人間かと思っていたが、外見通りの少女ではないか。
「まあ、なんだ。
儂が言いたい事としてはだな…気にするな!」
「そうですか…」
なんのさしあたりも無さ過ぎる返事に、私は顔を落とした。
相談しない方が良かったかもしれない、そんな考えも脳裏を過った。
目の前のカレーを冷める前に食べた方が有意義だと思ったところで、彼女の言葉が続いた、
「己で生まれたいと思って、世界に零れ落ちる命なんぞ無いのだ。
生まれることに罪などあるものか。」
「はい…?」
「長々と話しておったが、結局フィーラと言う存在を無視してお前が確立したのがお前の意志でもなければ、
お前を元にフィーラとやらの人格が蘇生したのもお前の意志ではなかろう。
何を悩む必要がある。」
私は落としていた顔を上げた、彼女の目はしっかりと私を見据えていた。
「………ありがとうございます」
「うむ!」
カレーを食べ終わったアヴェンジャーは、スプーンを置いて誇らしげな気がした。
本心で言っているのか、それとも慰めのつもりで適当に言っているのかはわからないが、
それなりに私を思って言ってるんだろう。
そうなら、私の答えはこれしかない。
「でもアヴェンジャーさん、私やっぱり気にします」
「なぬっ!?」
「こんなフィーラともAIともつかない私でも、幸せを願ってくれた友人がいたんです。
罪から逃れることができないなら、せめてその人の幸せのために戦いたい。」
「わ、儂のさっきまでの言葉はなんだったんだ…?」
アヴェンジャーは私の手のひら返しに顎を開けて、愕然としている。
悪いことをしたと思いながら、少女のその仕草に私は微笑んだ。
「一緒に戦ってくれますか、アヴェンジャーさん」
「正直釈然とせぬが、いいだろう。
どのみち戦おうとは思っていたからな!」
アヴェンジャーは自棄になって怒りながらそう言った。
私の結論のため、悪いことをしたと思う。
きっとあの人もこのために戦うと言ったら怒るだろう。
でも、あの人も私のために無茶苦茶言ったんだ。
私だってあの人のために私が無茶苦茶言ってはならない道理はないだろう。
「ぐぬぬ〜儂の好意を無駄にしおって〜」
コロコロと怒りの矛先を変える、今はカレーのやけ食いをするアヴェンジャーを見て思う。
或いはこの少女も、怒りの宛先を見失って自分以外の幸せに縋っているんだろうか。
勝手に友人の面影を重ねる私の視線をどう捉えたのか、彼女はカレーの容器を膝の上に隠した。
「やろんぞ」
「取りませんよ」
そう言って私は顔を背け、ガラスに映る自分の顔を見た。
罪を背負いながら、それでも人と一息つく闘いの日々と同じく、私<ファタ>の顔は微笑んでいた。
【クラス】アヴェンジャー
【真名】ベレト
【出典】メギド72
【性別】女性
【属性】混沌・中立
【パラメーター】
筋力:C++ 耐久:D 敏捷:B- 魔力:C 幸運:E 宝具:B
【クラススキル】
復讐者:A
復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
復讐対象を見失ったのち、『怒りの代弁者』を自称し戦ったアヴェンジャーは高い適性を持つ。
忘却補正:A+++
人は己の記憶を『死ぬまで忘れない』と言うが、
人ならざる魂を持つアヴェンジャーは怒りを『死んでも忘れることは無かった』
自己回復:C+
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。
怒りの宛先を見失った彼女は、不安定ながら己が燃え尽きるまで魔力が供給されることとなる。
【保有スキル】
追放メギド:B+++
宵界メギドラルより追放されたメギドの魂がヴァイガルドに転生し、人間<ヴィータ>として生まれ変わった存在。
このスキルを持つサーヴァントは、マスターに令呪を介してソロモンの指輪の所持者としての力を付与する。
すなわちマスターに、指輪所持者としての能力――魔力の視認・遠隔操作・オーブキャストなどを与える。
また、本来の世界で地中から湧き出る魔力(フォトン)を利用して戦ったことから、地中の魔力の利用効率が非常に高い。
この聖杯戦争でもマスターに地中から魔力を供給させることで、
マスター・サーヴァントの魔力の消耗を限りなく少なくすることができる。
被虐の誉れ:C
肉体を魔術的な手法で治療する場合、それに要する魔力の消費量は通常の1/2で済む。また、魔術の行使が無くても、一定時間経過するごとに傷は自動的に治癒されていく。
大魔王:E
世界に対する反逆者、即ち魔王であることを示すスキル。
同ランク以下の仕切り直し、および瞬間移動能力を無効【メリット】
ランクが高ければ高い程、聖属性・雷属性のダメージが増加【デメリット】
【宝具】
『リアニメイター』
ランク:C+ 種別:対軍宝具 レンジ:50 最大捕捉:30
キャスターの本来の姿(メギド体)に変身して放つ"奥義"。
その姿は、王冠を被った太った大カエルとしか形容できぬ異形の姿である。
キャスターが生まれ落ちた時の姿であるとともに、キャスター自身の想像力が生み出す姿でもある。
宝具発動のための変身時のみ、キャスターは魔性としての種族特性を得る。
この形態のアヴェンジャーは耐久が3ランク上昇する他、
メギドの異能として己、周囲の死骸をゾンビとして己の手中に収めることが可能。
ゾンビと化した存在はアヴェンジャーの怒りを受け非常に攻撃性が強くなり、主であるベレトとのコンビネーションにより容赦なく敵を屠る。
ゾンビの欠点としては強度として脆い他、回復効果を受けた場合に反転してダメージを受けてしまう。
『アンチャーター(偽)』
ランク:D 種別:対魔宝具 レンジ:5 最大捕捉:1
世界そのものを移転させる超巨大ゲートの起動装置…の精巧なフェイク。
見た目としては古代メギドラル語が刻まれた青い箱の形をしており、
メギドの変身に足る膨大な魔力を兼ね備えた遺物である。
効果としてはとしては所有者にCランク相当の単独行動スキルを付与する他、メギドの変身時間を延長する。
『ベローナ』
ランク:D 種別:対魔宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
メギド、幻獣の召喚時に発生する力の欠片、オーブ。
ベローナはその中でもベレトの体から発生したオーブであり、普段は小さな赤いガラス片のような姿を取っているが、
魔力を込めることでベレトのメギド体を一頭身にしたような幻獣のビジョンが現れる。
発動時、アヴェンジャーにCランク相当の狂化・自然回復を付与。
【weapon】
先端が鈍器となった旗(人間体)
先端に巨大などくろを付けた鎖(メギド体)
【サーヴァントとしての願い】
怒りをぶつける
【マスター】ファタ
【出典】無敵凶刃ロザリオー
【性別】女
【マスターとしての願い】
友人オルク・サレオスのハッピーエンド
【能力・技能】
戦闘AI時代に獲得したロボット操縦能力。
また、地球外生命体「オールド・スクラッチ」を再現した肉体を持ち、
高い霊的能力を持つ。
投下終了です。
>>No one never give birth to you
会話のテンポがとても軽やかで、非常に読みやすい文章でした。
時にコミカルながらも境遇や設定がするりと頭に入ってくる素晴らしい話運びだったと思います。
そしてアヴェンジャー、ステータスの+の数がやけに多い辺りこいつは只者じゃないんだろうなあと感じました。
これを使役してマスターのファタは望む終わりにたどり着けるのか。気になりますね〜。
投下ありがとうございました!
投下します
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、校庭から人が捌けていく。
「よぅ。なんかお困りかい?」
その隅っこにしゃがみ込む少年に、赤いツノ付き帽子をかぶった少年が声をかけた。
「あっ…えっと、あなたは?」
うろたえ、誰何する少年。
帽子の少年は、よく聞いてくれたと言わんばかりに口元をゆがめて答える。
「スケット団ス!」
ビシィ! と効果音すら聞こえるほどの決めポーズとドヤ顔。
しかし少年はしゃがみ込んだまま、「スケット団……?」と、帽子の少年の後方を見遣り尋ねた。
「お一人に見えますが……?」
「あ…そうだった」
◆◆◆
移動しながら簡単な自己紹介を済ませ、空き教室の椅子に腰かける。
「それで? ジグはサーヴァントだろ? こんなところで何してんだ?」
「うぇ!? なんでバレて…!?」
「いや、ステータス見えてるし」
赤いツノ付き帽子の少年――藤崎佑助(「ボッスン」と呼んでくれとのことだ)の指摘にあたふたするサーヴァントの少年。
雲沼ジグと名乗った彼の背には大仰な機械の翼が取り付けられているが、逆に言えば特異な点はそれだけ。
『いかにも』といった風体ではなかったが、頭上に表示されたステータスが彼をサーヴァントであると教えてくれていた。
とはいえ、そのステータスはお世辞にも高いとは言えない。「E」のオンパレードだ。
「で、なんでよ?」
改めて問い直すボッスンから、ジグは気まずそうに目を逸らす。
「実は僕…記憶が飛んじゃってて……」
「記憶? 召喚されてからの?」
「それもそうなんですけど、正直、生前の記憶も結構曖昧で……」
「へー、そういうこともあるんだな」
簡単に納得するボッスン。嘘を吐いているなどとは疑ってもいない素振りだ。
ジグからすれば実際そうなのだから疑われてもどうしようもないのだが。
「自分がサーヴァントって自覚は一応ありますし、宝具は多分、この背中の翼かなとは思います。 それと聖杯にかける願いはちゃんと覚えてます。
けど、生前の記憶とか、何のクラスなのかとか、マスターは誰なのかとか、なんで魔力パスが切れているのかとか。そういうのは全然で。
むしろボッスンさん、僕の名前とか逸話とか聞いたことあったりします? それがわかればクラスくらいは推測できるんじゃないかと思うんですけど」
「悪い、オレも歴史とか偉人とかそんなに詳しいわけじゃねえから」
「そうですか……」
肩を落とすジグ。
自分の正体がわからず、何の手がかりもつかめないというのはやはり不安で、聖杯から聖杯戦争に関する知識を与えられているマスターならば自分について知っているのでは、という淡い期待を抱いてしまったのも事実だっだ。
「なあジグ。いくつか訊いていいか?」
「はい。いいですよ」
「ジグの願いって何なの?」
ストレートな質問。
ジグとしても隠していることではないので素直に話す。
「僕の願いはこの翼にかけられている『呪い』を解くことです」
その背に取り付けられている翼を見遣る。
これは幼少期に患った重い病気に抗うための生命維持装置である。
その物々しい外見に道行く人は顔をしかめ、ある者は後ろ指を指し、ある者は石を投げた。
しかしそれは翼を取り付けたが故のただの結果。 『呪い』とはそんなものではなかった。
かつて死んだ魔術師が自分用に作ったというこの装置には、悪意を持って行われた攻撃に対し、問答無用で倍返しの反撃を行うという凶悪な呪いが掛けられていた。
この呪いのせいで、ジグは意図せず他者を傷つけてしまうようになり、愛する家族とも離れて暮らさなければならなくなった。
「だから僕はもう一度家族と共に暮らすために、この呪いを解きたいと願いました」
「なるほどね」
小さく嘆息し、少し思案した後「じゃあもう一つ」と続ける。
「さっき、魔力パスが切れてるって言ったよな?
それって誰とも契約してないってことだよな?」
「? はい。
まあ、そう、ですね。必然的に」
なるほど、と呟いたボッスンがジグの肩を優しくつかむ。
「ジグ。お前さえ良ければ、オレと契約してくれねえか?」
「なんで……」
想定外の言葉に瞠目し、狼狽するジグ。
ステータスはほぼ全項目が最低ランクで、サーヴァントとして自分はヘッポコもいいところだ。
それだけでも致命的なのに、クラスはわからない、スキルもわからない、宝具も曖昧、真名を明かしても正体が判然としない、元々の召喚者もわからなければ、その人物と魔力パスがつながっていない理由もわからないと、信用できる要素がひとつもない。
自分がマスターだったなら、絶対にこんなサーヴァントと契約などしないと断言できる。
「そうまでして、ボッスンさんは何を望んでいるんですか?」
そんな自分と契約してまで、彼は聖杯に何を願うのか。
契約を持ち掛けられたジグとしては―――否、そうでなかったとしても興味本位で訊いていたであろうその疑問に、ボッスンは気まずそうに、けれど真摯に答える。
「俺は高校卒業したら、海外でボランティアする予定だったんだよ。自転車で世界旅しながらさ。
だからまあ、そのためのチャリが欲しいなって思ったのがきっかけで、この聖杯戦争に巻き込まれちまったんだけどよ。
あわよくば優勝して、すっげー良いチャリ出してもらおーとか思ってたんだけど、何すればいいかよくわかってなくてな。
元の世界で通ってた学校の先生が一人、マスターとしてこっちに来てることを知ってさ。
事情話して、共同戦線張って――色々教えてもらったりしたんだけど、俺をかばって……その……殺されちまったんだ」
命からがら逃げ帰り、本物かどうかもわからない家族の顔を見たボッスンは思ったのだ。
「どんな願いをも叶える聖杯」などという胡散臭いもののために人間が命を散らすなんて、ばかげていると。
相槌も打てず彼の言葉に耳を傾けるジグに、ボッスンは「知ってるか?」と前置きする。
「聖杯戦争ってのは、聖杯を手に入れる為の競争行為ならなんでもいい―――例えば、聖杯が出品されたオークションがあったらそれも聖杯戦争として認定されるらしい」
突然の話題転換。ジグは発言の意図を掴みかねて首を傾げる。
それを見たボッスンはにやりと笑い、その本懐を語る。
「だから、犠牲者が可能な限り少ないうちに聖杯を奪っちまって、命賭けの殺し合いじゃなくて――大喜利大会とか、折り紙とか、ヒュペリオンとか――そういう手段で聖杯を争えねえかなって思ったんだよ」
そのとんでもない発想に再び瞠目するジグ。
ボッスンの為そうとしているのはつまり、聖杯戦争の主催者の立場を乗っ取ってしまおうというものだ。
あまつさえ、万能の願望器たる聖杯を、まるでコントのような手段で争わせようというのだ。
絶句するジグに「良いリアクションだ」と笑い、ボッスンは続ける。
「俺は死ぬのも殺すのも嫌で、サーヴァントを召喚しようともせず、時間が過ぎるのに身を任せちまってた。 けど、そういう俺のグズグズしたスタンスが先生を死なせちまった。
その時『どんな願いも叶える』なんてスゲえもんなら、そんな風に悲劇を積み重ねた先につかみ取られるべきじゃねえと思ったんだよ。
だからオレはこの戦いを、本気でぶつかり合ったとしても、最後には笑って手を取り合える―――そんな楽しい戦いにしようって決めたんだ」
大言を語るボッスン。
纏っていたどこか気の抜けたような雰囲気は消え去っていて、覚悟を決めた戦士の顔をしていた。
「先生もそうだけど、既に犠牲者は何人も出てる。 今朝もマンションの爆発事故があったけど、アレだってサーヴァントの仕業かもしれねえ。
でもなるべく早くとは言ったものの、サーヴァントがいなくちゃ聖杯なんて手に入れようがねえ。
かといってこんな願い持ってる人間の召喚に応じてくれるサーヴァントがいるともそうそう思えねえ。
ってことでマスターと契約してないジグを誘ってみてるんだけど、どうだ?」
決して平坦な道ではない。
けれど他者が傷つくのを是としないボッスンの心を、ジグは美しいと思った。
トロマが認めてくれた生き方を―――誰かに救われた分、他の誰かを助ける生き方を―――貫くためにその申し出は断れない。
―――『トロマ』って誰だっけ?
―――ああ、それは嘘だ。かかずらうべきものではない。
「ボッスンさん―――いや、マスター」
ジグは真っすぐにボッスンの目を見据えて告げる。
「僕でよければ喜んで契約します。
その夢路を行くマスターを支えさせてください」
「よせやい。
これからもボッスンって呼んでくれ。 ジグ」
照れくさそうに頭を掻きながらボッスンが右手を差し出し、ジグがそれを同じく右手で握る。
ここに、二人の契約が完了した。
【クラス】
???
【真名】
雲沼ジグ@ステルス交響曲
【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運E 宝具 不明
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
単独行動:C
マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。
ランクCならば、マスターを失っても一日間現界可能。
【保有スキル】
精神異常:D
精神が不安定。
ジグの場合、精神干渉の効果を大きく受けるデメリットスキルとなっている。
自己再生:D
負傷しても怪我の治りが早い。
軽傷なら一時間ほどで自然治癒する。
【宝具】
『自動反撃装置』
ランク:不明 種別:不明 レンジ:1000 最大補足:不明
ジグの背中に取り付けられた翼状の生命維持装置。中古品で、死んだ魔術師の呪いがかかっている。
悪意をもって行われた攻撃に反応して、自動で倍返しの反撃を行う。
実は「竜の遺産」と呼ばれる魔法の品である。
【weapon】
『自動反撃装置』
【人物背景】
幼いころに大病を患い、呪われた生命維持装置を取り付けられた少年。
その物々しい見た目と呪いを怖れた村人たちによって迫害されているため家族と離れ、村の救護院で暮らしていた。
この呪いを祓うために物語の舞台である『神防町』にやって来る―――というのが原作の流れである。
【サーヴァントとしての願い】
家族にもう一度会うために、生命維持装置の呪いを解く
【マスター】
藤崎佑助(ボッスン)@SKET DANCE
【マスターとしての願い】
今はもうない
【weapon】
スリングショット
【能力・技能】
赤いツノ付き帽子の上からかけているゴーグルを装着することによって人並み外れた集中力を発揮する「集中モード」。その集中力で驚異的な推理力を発揮したり、スリングショットで狙いを定めたところに弾を打ち込んだりできる。ただし集中のし過ぎで息をするのも忘れてしまうので、使用後は激しく咳き込んでしまう。
参戦時期的に帽子とゴーグルを後輩に引き継いでしまっているはずだが、こちらの世界で目を覚ました時に枕元に置いてあったようだ。
驚異的に手先が器用。
【人物背景】
開盟学園において「困っている人を助ける」をモットーに活動する「スケット団」の設立者にしてリーダー。
基本的にはお調子者だが困っている人は放っておけず、仲間を傷つけられることを許さない優しい性格。
実の両親は鬼籍に入っており、義母と義妹の三人家族。
何かと対立関係にあった生徒会副会長・椿佐介が生き別れた双子の弟であることが後に判明したりもする。
口車に乗せられて自転車の旅を行ったときに出会ったライアンという青年に憧れ、彼と共にボランティア活動をしながら世界を回ることを決意。高校卒業後に日本を発つ……予定だったが、聖杯戦争に巻き込まれてしまった。
【方針】
なるべく早く聖杯をかすめ取り、聖杯戦争のルールを命を賭けないものに変える。
◆◆◆
『次のニュースです』
『今朝8時頃、東京都台東区のマンションで大規模な爆発事故が発生しました。
現場ではこの事故によるものと思われる多数の死傷者が確認されています』
『また、現場を飛び去る人影のようなものが撮影、目撃されており、警察は事故との関係を調べています』
【クラス】
バーサーカー
【真名】
雲沼ジグ@ステルス交響曲
【ステータス】
筋力A++ 耐久A 敏捷C 魔力A 幸運E 宝具EX (黒竜化)
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
狂化:A-
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
ジグが応じれば一応意思疎通は可能。
単独行動:C
マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。
ランクCならば、マスターを失っても一日間現界可能。
【保有スキル】
現実逃避:C
自分にとって不都合な現実から逃避する心の動きがスキルとなったもの。
辛い目に遭ったときや深く絶望したとき、ジグは「これは『嘘』だ」と思い込み、否定・忘却することで精神的な防御としていた。しかし信頼していた救護院の院長が最初から自分を騙していたことを知った時、世界は彼にとって否定すべき『嘘』となった。
魔力放出:A-
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
咆哮と共に雷撃状の魔力を放出する。
ジグの場合、放出というよりは漏出に近い現象であり、細かいコントロールは利かない。故にジェット噴射のような運用はできない。
黒竜の肉体:A
『怪力』『自己再生』『頑健』を含む複合スキル。
竜の始祖・黒竜へと変生を遂げたジグの肉体。
マグマを泳ぎ、液体窒素を飲み干し、宇宙を生身で飛び回る竜―――その始祖たる黒竜には膂力で比肩できる者はなく、黒竜の力でなければ傷を負わず、重度の傷でもたちどころに治癒し、背中の機械が翼となり自由に空を駆ける。
ただし、サーヴァント化に伴い弱体化しており、通常の宝具でも傷つけるくらいは可能だし、竜特攻や竜を殺した逸話を持つ宝具なら問題なく殺しうる。
【宝具】
『黒竜孵す卵の殻』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
『自動反撃装置』の正体。
竜の始祖である黒竜の魂が装置の核として納められており、装着者を黒竜に変生させる。
反撃機能を使えば使うほど竜化は進行する。本人がそれを自覚するのは後戻りできなくなってからである。
【weapon】
黒竜と化した肉体
【人物背景】
黒竜復活の触媒として人生を弄ばれた少年。
物語の舞台である神防町にやってくる前は人里から離れた村で暮らしていた。
しかし妹の誕生日を祝うために自宅に一時帰宅していたところをチンピラの逆恨みで放火され、家族全員が死亡。 翼により悪意を持った放火であることを断定し、自動反撃で負傷して動けなくなったそのチンピラを殺害している。
その後も『凄惨な何か』があり、村人を少なくとも28人殺害。村を壊滅させた。
そうした事実を「嘘」として忘却・逃避することで精神的な防御としていた。 ただし心の奥底ではそれらを正しく理解している。
もちろん、生前の出来事も、その最期も、サーヴァントとして召喚されてから殺した人たちのことも―――。
【サーヴァントとしての願い】
家族と共に在りたい。
投下終了です
誤字訂正です。
雲沼ジグの出展作品名
✕ ステルス交響曲
○ ステルス交境曲
失礼しました。
投下します
……多分ボクの一生は、とても悲痛なものだったに違いない。
「勝ちはしたが、納得いかねえ… やっぱり、こいつじゃ駄目だな」
「えっ、やだ、勝ったのに、どうして…」
反逆は許されない。
何故なら相手は主人であり、人間だから。
この心を構成するプログラムは人間を傷つけないようにできている。
それが、人に生み出されたゆえに組み込まれたボク達の絶対のルール。
だからボクは、今まさに壊されようとしている今でもマスターを傷つけることができず、されるがままになっている。
「気に入らないからさ」
『気に入らない』……たったそれだけの理由で、マスターはボクを壊そうとしていた。
「ぴぎゅう……」
「外れを掴まされたか…まあいい、また新しいのを買えばいいか」
そしてボクは……
------------
……そして気が付くとボクは、奇怪なロボットたちの前にいた。
『作ってあげようね、作ってあげようね』
ボクの目の前では、一つ目の球体から無数のマジックハンドが伸びた姿をしたロボットが、ボクの壊れた身体を直していた。
そしてその背後には様々なロボットがいた。
調律がされていないのか怪音波を放っているパイプオルガン……
虫のような足が生えた大量のとび箱……
雪男のような姿をした巨大な冷蔵庫……
トリケラトプスの骨格標本……
牙のようなものが生えた掃除機……
そんな、奇怪な姿をしたロボットたちがボクの目の前にいた。
「……中々ひどい扱いを受けていたみたいだな、マスター。同情するぞ」
その中でも一番目を惹いたのは、配線や基板、パイプなど内部構造がむき出しになった巨大なコンピュータだった。
「……誰だい、キミたちは?ボクに、何をしたのか教えてほしいんだけど?」
ボクはそのコンピュータに、ココはどこで、キミたちは何者かを聞いた
「随分口の悪いマスターだな、まあいいぞ。では、教えてあげるぞ」
そしてボクは目の前にいるコンピュータから、様々なことを教えてもらった。
この聖杯戦争のこと、サーヴァントのクラスのこと、そして自分たちが何者なのかを……
「……という事だぞ、マスター。理解してくれたなら、ありがたいぞ」
それらの話を聴いてボクは考えた。『聖杯を手にした時、自分は何を願うのか』を……。
そして導き出した答えをボクは、目の前にいるアヴェンジャーに伝えた。
「アヴェンジャー、ボクは……聖杯を手に入れるよ。そして……人間たちに復讐をするんだ」
「そうか、マスターもそれを目指しているのか……私と同じ目標を持ってて、安心したぞ」
どうやらアヴェンジャーのほうも、ボクと同じ考えだったらしい。
そうと決まれば話は早い、とボク達は今いる埋め立て地を作り変えて、そこで別の参加者たちを待ち構えることにしたのだった……。
【クラス】アヴェンジャー
【真名】ダディ13号
【出典】ドラミ&ドラえもんズ ロボット学校七不思議!?
【性別】男
【属性】秩序・悪
【パラメーター】
筋力:C 耐久:A++ 敏捷:E 魔力:B 幸運:C 宝具:A++
【クラススキル】
復讐者:B
復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情は直ちにアヴェンジャーの力へと変化する。
忘却補正:A++
人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。
忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃はクリティカル効果を強化させる。
自己回復(魔力):D
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。微量ながらも魔力が毎ターン回復する
しかしこのサーヴァントは機械であり、それ故にランクもそれ相応に低くなっている。
【保有スキル】
現代技術:EX
現代の技術を習得している。
厳密に言えばこのサーヴァントは遥か未来に存在した巨大コンピュータであり、
そんな彼から見れば現代技術とは、文字通り『時代遅れの技術』に過ぎない。
道具作成:C
魔術的な道具を作成する技能。
実際はこのサーヴァントに魔術的な道具を作成する能力はなく、
科学的な兵器を作成することに優れているのだが、
『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。』の言葉の通り
それらと遜色ないほどに超常的な現象を引き起こす道具を作成できる。
自己改造:C
自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。
このランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていく。
【宝具】
『みんな、言いなり(イイナリアンテナ)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜100 最大捕捉: 1人
文字通りこれを装着させた相手を自分の言いなりにさせてしまう宝具で、合わせて8本存在している。
しかし対魔力スキルを持つサーヴァントに対しては無効化されてしまうため、どちらかと言えばマスターを狙って使うことが多い。
『使われなくなった者達の復讐劇(ロボット学校七不思議)』
ランク:A++ 種別:召喚宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
アヴェンジャーの現界と共に自動的に発動する宝具で、
彼とともに「古くなった」という理由で長い間眠らされ続けたロボットたちが召喚され自立行動をとる。
構成は以下の通り。
・『工具の鉄人』
工作室のアシスタントをしていたロボットで、一つ目の球体から無数のマジックハンドが伸びた姿をしている。
「道具作成:B」のスキルを保有しており、道具作成を得意としている。
なおコンセント式の関係なのか彼だけ単独行動スキルを有しておらず、
常にアヴェンジャーまたはマスターのそばにおり、魔力を供給してもらっている。
・『パイプオルガンロボット』
名前の通りパイプオルガンのロボットで、召喚されるロボットの中で最大の大きさを誇る。
チューニングがずれているためその音を聞いた者達は眠りについてしまう。
・『跳び箱ロボット』
旧式の四脚歩行ロボット。1段1段独立した意思を持っており、総勢は20段(=20機)×3台=60機となる。
一体一体の力はそれほど強くないものの、数に任せ襲ってくるほか合体して巨大なバッファロー型もしくはマンモス型ロボットになる。
・『冷蔵庫ロボット』
古くなったため使われていない冷蔵庫のロボットで、普段は冷蔵庫の姿をしているが怒りにより雪男のような形態に変身する。
武器は口から出す吹雪で様々なものを氷漬けにしてしまう。
・『模型ロボット』
トリケラトプスの骨格標本ロボットで、基本的に体当たりで攻撃をしてくる。
・『掃除機ロボット』
ありとあらゆるものを吸い込んでしまう、掃除機型のロボット。
弱点は背中のスイッチで、これをOFFにされると機能が停止してしまう。
【weapon】
なし。
【人物背景】
ロボット学校七不思議事件の首魁で、かつて学校の全ての機能をコントロールしていたタコのような姿の巨大コンピューター。
本来は穏やかな性格だが、リフレッシュルームで眠っていたところに受けた落雷の影響で暴走し、
「リフレッシュのための休息」を「古いからってお払い箱にする」と認識するようになってしまい、
自分と同じく眠っていた旧式ロボットたちを操り騒動を起こした。
完全に余談だが事件解決後は自身の後継機である『マミィ14号』と合体し
『チャイルド15号』という巨大コンピュータとして学校の管理を任されることとなった。
【サーヴァントとしての願い】
『古くなった』という理由で自分たちをお払い箱にした人間たちとロボットに復讐する。
【マスター】
13号@武装神姫BATTLE MASTERS mk2
【マスターとしての願い】
人間たちに復讐する。
【weapon】
ロッターシュテルン(赤いクリスタル成形の刀身が美しい長剣)
ジークムント(赤い大剣)
ヘルヴォル(ノインテーターの左副腕に装備された盾)
ノインテーター(副椀とスカートアーマーが一体となった鎧)
【能力・技能】
元々がバトル用に作られたロボットであるため高い戦闘能力を有しており、
また前述した鎧によって飛行することも可能。
【人物背景】
『アルトアイネス』という、ディオーネコーポレーションとアームズ・イン・ポケット社が共同開発した「アルトレーネ」(DI/AIP-001X1) の姉妹機で、
スモールボディならではの敏捷さを利用したバトルスタイルが特徴で立体的な戦術を得意とする。
『性能的には申し分ないが性格の面では扱いづらい性格』と紹介されている割には、やや口うるさいところはあるものの
マスターを健気に支えるいい子である。
しかしこの13号の場合、違法改造されたパーツで賭博を行っている男に購入されたことが原因でかなりひどい目に合わされており、
最終的に『気に入らない』という理由で真っ二つに破壊されるという最期を迎えてしまった。
なおこの聖杯戦争に呼ばれたのはまさに破壊されたその瞬間だったため、アヴェンジャーと彼が召喚したロボットたちによって修復されており、
そのため身体につぎはぎが残っている。
【方針】
マスターもサーヴァントも基本的に広範囲に動き回れないため、陣地を強化し続けて今後の戦いに備え続ける。
また、もし他のマスターたちが攻め込んできた場合は『みんな、言いなり』を使って同士討ちをさせることで対処する。
投下終了です
ありがとうございました。
投下します
アイドル。
それは偶像を意味する言葉。
でも本当にそうなのか。
少なくとも私は違うと思うし、自分は絶対にそうじゃないって言い切れる。
私も、私が見てきた他の子たちも、偶像である以前に虚像だった。
虚像。英語でなんて言うのかはちょっとわからないけど、多分それがアイドルってものを指す上で一番正しい。
たくさんの色とりどりの嘘で出来た芸能界(せかい)で踊って歌って嘘を振り撒く、世界で一番眩しい嘘つき。
それがアイドルで、それが私。
それが――星野アイ。
「どうだった? 私のステージ」
私達の、とは敢えて言わない。
本当なら他の子がどう見えるかとかそういうことも思いやりながらパフォーマンスした方がいいんだろうけど、あいにく私はそこまで器用じゃない。
私が“アイ”であれるように。ファンの皆に好かれ愛される人気者の“アイ”に見えるように。
それだけ考えて踊ってる、歌ってる。
笑って、演じて、講演(つく)ってるから。
「見事なもんでしたよ。
いやあ、今のアイドルってのは昔に比べてずいぶん華やかになったもんだ」
「演出の技術が上がってるのもあると思うけどね。……あれ、そういえばライダーっていくつなの?」
「三十九。享年ですけどね」
「あは。私のほぼ倍だぁ」
いいなあ、と言って私は楽屋の座椅子に腰を下ろす。
部屋の隅には壁に凭れかかってタバコを一本吹かしてる男の人の姿がある。
もしこんなところを誰かに見られたら大騒動になるだろうなぁ。
人気沸騰の星野アイ、楽屋に男を連れ込み蜜月か――なんて文●あたりに騒ぎ立てられちゃいそう。
まあでも十六で子供産んだのに比べればそこまでスキャンダルでもないかな? まだ言い訳は利きそうかも。
「なんで死んじまったんです、その若さで。
答えたくなきゃ答えないでも構いませんけどね。ただの好奇心ですから」
「ん〜、ライダーはどうしてだと思う?」
「順当に行けば重病(ビョーキ)か事故(ハードラック)。
物騒なヤツで行くなら、オレらみたいな極道の悪事(わるさ)にでも巻き込まれたとか」
「ぶっぶー。正解はファンにナイフで刺されてぱたり、でした」
私がそう言うと、彼。ライダーは苦笑して肩を竦めた。
私が一度死んで生き返った人間にしてはあまりにもけろりとしてるからなのかもしれない。
殺されたことに対する動揺も、私を殺した子に対する怒りも、私にはない。
アイドルって損な仕事だなとは思ったけど精々そのくらい。
もっと生きて楽しいこといっぱいして、美味しいものもいっぱい食べたかったけど――人間なんだから誰だって死ぬ時は死ぬんだし、たまたまその順番が私には早く回ってきただけだと考えれば諦めはつく。
……いや、それは嘘か。
「ほら。私ってめちゃくちゃかわいいでしょ」
「淀みなく言いますね」
「だからさ、いつかはこうなるんじゃないかなあって心のどこかじゃ思ってた」
子供出来たって言った時なんか、社長が頭抱えながら脅してきたっけ。
熱心なオタに知れたら刺されるぞーって。結局その通りになっちゃったな。
あーあ、あの時ドアにチェーンさえちゃんとしてればなあ。
あんな痛い思いすることもこんな世界(ところ)に迷い込むこともなかったのかなあ。
そう思って私は右手を見る。そこにあるのは赤いなんだか厨二病チックな刺青。
怪我したってことにして包帯巻いて隠してるけど、もしバレたらとんでもなく怒られそう。
これ、何ていうんだっけ。
思うや否やすぐに頭の中から答えが飛び出してくる。
レイジュ。そうだそうだ、令呪だ。
これを見る度実感させられる――今の私はアイドルをやるために生きてるんじゃないってことを。
今の私は“聖杯戦争”とかいう儀式を勝ち抜くために、この作り物の世界で生きてるんだってことを。
……生かされてるんだってことを。
「でもマスターはオレに言いましたね。
生き返ったまま元の世界に帰りたいから協力しろと。
オレがどういう悪人(ヤツ)なのか分かった上で、それでもと」
「うん。“今は”、帰りたいよ。
とっても帰りたい。帰れないまま終わるかもって考えると……怖い」
「……理由(ワケ)、聞かせてもらっても?」
「子供がいるの。残してきちゃった」
それを聞いた時、一瞬だけライダーの顔が固まった気がした。
「話すと長くなるんだけどねー、私十六歳でママになったんだよ。双子の」
私は。
誰かを愛したことがなかった。
やり方がわからないから。その対象が見つからないから。
だからファンを愛したくてアイドルになった。
でもアイドルとして振り撒いた愛はいつも通りの嘘でしかなくて。
母親になれば、きっと子供を愛せると思った――そして。
最後の最後で私は、あの子達を愛せたんだ。
嘘だらけの人生だったけど。
嘘ばかりつき続けた人間だったけど。
でもあの瞬間、薄れゆく意識のなかで言った“愛してる”だけは真実だった。
真実の愛が。
私があの子たちと親子として生きた、最後の場所には――確かにあった。
「あの子たちが好き。自分の子供が好き。
愛してるの。愛せてるの。最後の最後にようやく、それが嘘じゃない真実(ホント)の気持ちだって気付けたの」
あれで終わりでもよかった。
諦めはついたし、まずあれはどうやっても助からない致命傷だった。
だから最後に愛してると伝えられただけでも母親(ママ)として最低限のことは出来たと思ってた。
あんまり褒められたお母さんじゃなかったけど。それでもあの子たちには、私がお母さんからもらえなかったものをあげられた。
もう大丈夫。私は十分幸せだった。そう思ってた。
でも、こんなのってずるいよ。
終わったと思ってた本に、続きのページを付け足すなんて。
そんなことしたら。
そんなことされたら。
思っちゃう、じゃん。
「だから、帰りたいんだ。
帰って、ただいまって言いたい。おかえりって言ってほしい。
あの子たちをもう一回抱きしめて、抱きしめ返されたいの。
何回でも愛してるって言って、今までよりもずっともっと可愛がってあげたい」
また会いたい、って。
世界で一番かわいいうちの子二人。
ルビーとアクア。私に似て顔が良くて、将来何にだってなれそうな自慢の双子。
もっと、あの子たちを見ていたい。天国からなんかじゃなくて、そばにいたい。
見て、聞いて、話して、触れて、普通の親子みたいに一緒に歳を取っていきたい。
それが私の願い。私がここにいる意味。
今の私は、アイドルの星野アイじゃない。
聖杯戦争のマスターの、星野アイ。
「……だからお願い。私を勝たせてね、ライダー」
「……ええ、お安い御用で。
オレはそう強いサーヴァントじゃありませんがね、そういうことなら話は別だ」
よくわからないことを言ってライダーは私の目を見、笑った。
「送迎(おく)ってやるよ、アイ」
▽ △
「ようやく得心行ったぜ。そういうことかよ界聖杯。
このオレをあの偶像(ドル)と結んだ理由(ワケ)は」
男は――神だった。
天は割れない、地を混ぜるなんてことも出来ない。
それでも人は彼を指して神と呼び、その神性(カリスマ)を時に涙さえ流して尊んだ。
彼(かみ)の名は、殺島。殺島飛露鬼。暴走族神、暴走師団聖華天初代総長、講男會傘下長沢組若頭、破壊の八極道。
しかし男は――神などではなかった。
殺島飛露鬼はどこまで行ってもただの人間。
幼稚で無軌道な“暴走”で数多の命を轍と灰に変えてきた、人でなしの大悪党。
少し人に好かれるのが上手くて、中でも特に大人になれない悪童達の心を掴むのが上手かっただけの男だ。
そんな屑が罷り間違って英霊の座なんてものに召し上げられ、こうして再び現世の地を踏んでいる。
何の冗談だと誰もが思うだろうし彼自身もそれについては同感だった。
自分の生は終わり、後は地獄の果てまで駆け抜けるのみだとそう思っていたのに――何故。
終わりなき自問の成果は先刻出た。
星野アイ。瞳に星を宿し、きらきら輝いては他者を魅了する一等星。
彼女の吐露した願いの形、その真のあり方。
それを聞いた時、殺島は悟ったのだ。
何故自分がこの目の眩むような女に召喚されたのか。
あの輝きに釣り合う英雄なり聖者なりを呼んでやればいいのに何故自分のようなお山の大将が適役とされたのか。
「子供(ガキ)かよォ……はは」
子供がいるの。残してきちゃった。
帰って、ただいまって言いたい。おかえりって言ってほしい。
あの子たちをもう一回抱きしめて、抱きしめ返されたいの。
――ああ、それを言われたら駄目だ。
それは、反則(ずる)い。
それを言われたら、勝たないわけには行かなくなってしまう。
殺島とアイは違う。
同じではない。
殺島は守れなかった人間で。
アイは置いていった人間だ。
二人は似ているようで違う。決定的に違っている。
それでも。それでもだ。
子供のことを話すアイの目が、その瞳の中に浮かぶ星が、その時だけはアイドルのそれではなくなって見えた。
男は――父親だった。
この世の何よりも愛した子供を奪われ、守れず、甘美な復讐(みつ)に溺れた落伍者。
最後の最後で天国への階段に背を向け、地獄に堕ちていった極道。
だから彼は願わない。この血と罪に汚れた身体で、愛する娘に会わせてくれなどとは願わない。
ただ。
アイは、違う。
アイには願う資格がある。
子供のところに帰る権利がある。
そして今。殺島飛露鬼は、星野アイのサーヴァントだ。
「帰ってやれよ、早く。
お前は……戻れんだからよ」
殺島飛露鬼は神などではない。
彼はただの人間だ。
どうしようもないほど、ただの人間だ。
暴走という熱病に殉じた、ただの人間だ。
人間は走ると決める。
未だ見果てぬ地平線の果てへ。
単車? 車高短? なんでもいい。
ただ走るのだ。ただ走るのだ、どこまでも。
眩しい、目が焼けるようなヒカリを――あるべきところに届けるために。
暴走師団聖華天、否。
暴走族神、否。
英霊、殺島飛露鬼――――地平線の果てまで、いざ出発(デッパツ)。
【クラス】
ライダー
【真名】
殺島飛露鬼@忍者と極道
【ステータス】
筋力E 耐久B 敏捷B 魔力E 幸運D 宝具C
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
騎乗:C
騎乗の才能。
大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、野獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
永遠の神性:A
暴走族神、不良達の神性(カリスマ)。
大人になれない者達の星。
基本的な効力はDランク相当のカリスマ程度であるが、ライダーと波長の合う者に対しては最大でAランク相当以上にまで効き目が跳ね上がる。
その神性は熱病のように人々の心と魂を駆け抜ける。
極道技巧:B
ごくどうスキル。極道と呼ばれた裏社会の住人達のごく一部が、その得意分野を極めることで会得した超人的技巧。
ライダーの場合は拳銃を武器とした技巧を用い、内の一つは宝具にまで昇華されている。
地獄への回数券:B
ヘルズ・クーポン。麻薬の一種だが実際にはドーピング薬に近い。
服用することで身体能力を始め、傷の再生能力から肉体の物理的強度までもを底上げすることが出来る。
ライダーのサーヴァントとしてのスペックはこの薬物ありきのもので、逆に言えばこれの服用がなければ彼はサーヴァントに遠く及ばない。
非服用時、ライダーはサーヴァントとしてではなくただの「人間」として認識される。
【宝具】
『帝都高爆葬・暴走師団聖華天』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜100 最大捕捉:1000人
テトコーばくそう・ぼうそうしだんせいかてん。
彼が率いた暴走師団・聖華天による暴走の逸話を再現する対軍“暴走”宝具。
発動条件は場所が都市部であること、そして潤沢な魔力の備えがあること。
総数十万に達する構成員を擬似再現し、周囲に無差別な破壊と殺戮を撒き散らして“暴走”の限りを尽くす。
『世界の終わり』
ランク:E++ 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:1人
ライダーの奥の手である極道技巧。
脳天を拳銃で撃ち抜き、自殺と見せかけてそのまま頭蓋骨内部で弾丸を激しく跳弾。
自身の片目の眼窩を銃口として銃弾を射出する、言うなれば命を懸けた騙し討ち。
発動の代償はライダーの消滅と非常に重い上、それが自殺でないと見破られればただの空振りに終わる可能性も無論ある。
しかし仮に命中したならば標的の耐久ステータスや各種防御スキルの存在を無視して必ずその肉体を撃ち抜く。
【weapon】
大型の回転式拳銃を二丁持ち。
更に常に大量の予備拳銃も仕込んでいる。
【人物背景】
暴走師団聖華天初代総長。
講男會傘下長沢組若頭。
破壊の八極道の一人。
暴走族神(ゾクガミ)の名で崇められた絶大な神性(カリスマ)の持ち主。
不良達の現人神。
あるいは、父親。
【サーヴァントとしての願い】
花奈のことに未練はない。
サーヴァントとしてアイを勝たせる。
【マスター】
星野アイ@【推しの子】
【マスターとしての願い】
もう一度ママとして、子供達を抱きしめたい
【能力・技能】
天性の顔立ち。天性のプロポーション。
そして観客の目を引きつける天性の才能を持つ「天才」。
しかし才能に驕ることなく日々の努力も積んでおり、才能と努力の両方で自己を形成しているアイドル。
【人物背景】
アイドルグループ・B小町不動のセンター。享年二十歳。
十六歳で双子の子を出産し、そのことを隠しながらアイドルを続け最終的にはドームでの仕事が舞い込むまでに大成する。
しかしながらドーム公演の直前、自宅を尋ねてきたストーカーにより刺殺される。
彼女の死を経て、“推しの子”として生まれた双子の兄妹は光陰それぞれの人生を歩んでいくことになった。
【方針】
あまり物騒なことはしたくないし、ライダーに人を殺してほしいとも思わない。
ただ元の世界に帰りたいという思いは強く、これだけは譲れない。
投下を終了します
投下します
目が覚めると、夜だった。
部屋の中が暗かったからそれが分かっただとか、起きた時にデジタル時計が19より先の数字を指し示していたとか、そういう訳じゃない。
純粋に、目を覚ましたら、頭上に夜空が広がっていたのだ。そういう意匠の天井だとか言うのではなく、本当に夜空だ。どうやら、外で寝っ転がっていたらしい。
寝覚めとしては最悪だった。
背中もズキズキするし、肩も凝っている。おまけに腰の辺りも鈍く痛む。
何せ寝ている場所が場所である。土手とか原っぱの上とか、そんな青春の一ページを飾るような気持ちの良い場所ではない。
ゴミ処理場のゴミ溜めの上で、今の今までその女は寝ていたのである。寝心地も寝覚めも語るに及ばず。
寝ていた場所はどうやら未処理の粗大ごみの設置スペースの上だったらしい。タンスやらイスやら机やら。諸々の家具や生活雑貨の上で、今まで彼女は寝ていたようである。
おまけに身体が臭い。ゴミ処理場特有の、独特の臭いが身体に染みついてしまっている。試しに腕と、着ているシャツの臭いを嗅いでみるも……。すぐにやめた。風呂に入りたいと言う気持ちの強まりを感じるだけだったから。
「地獄は東京にあったらしい」
自嘲気味に女は言い捨てた。
人の魂は死ねば何処に逝くのか。悪魔の間でもそれは定かではないが、悪魔が死ねば還る場所は、彼らの間では常識である。
地獄、その地はそう呼ばれている。悪行を成したから地獄に堕ちるのか、或いは現世で最早行動出来ないから元居た場所に撤退するのか。意味合いとしては、後者の方が正しい。
『支配の悪魔』、彼女の素性を知る者からはそう呼ばれていたこの女性は、遂に地獄からも追放されたかと冗談めかして考えていた。
悪魔の間でも友誼と言う物はある。上下関係もある。反りの合う合わないも、当然の如く存在する。
だが彼女が司り、象徴するものは支配である。抽象的な概念だ。しかし、抽象的だから孤立しているのではない。寧ろ、具体例を挙げればキリがない。
支配の本質は上下と抑圧、強制である。これらを体制や組織、人間(悪魔)との関係に生じさせるのだ。
支配に対等の概念は適用されない。よって、友誼は築き得ない。
支配は確かに上下関係を生じせしめるが、支配の悪魔が『支配』を司る以上、彼女の立場は常に上。よって、支配される側、換言すれば『下』の階層の者の意識など理解出来ない。
悪魔は個人主義的な物が非常に多い。仲の合う合わないも、フィーリングによるものも大きい。支配と言う抽象的かつ観念的、そして一方的な物を司る彼女には、その反りの合う者ですらも致命的に少ない。
能力の特質の故に対等な関係は築く事は出来ず、そのやり口も悪魔の間ではよく知られ、極めつけに同情されたり取り入られたりする程、弱くもない。
要は孤高だった。孤立していた。嫌われ者であった。支配の悪魔とは、言うなればそんな悪魔であったし、そういう自覚は彼女にもあった。
故にこそ、とうとう地獄すら出禁になったかと彼女は思った。現世で死んだ悪魔は地獄に戻る、そのルールにすら拒否される程極まったかと初めは思った。
と同時に、はて?、とも思う。今の自分は何者なのかと。自分は生きながらにしてタッパーやジップロックに入る程身体を切り刻まれ、種々様々な調理法を施されて喰われた筈だと。
食人嗜好(カニバリズム)に酔った変態に喰らわれたのとは訳が違う。彼女は、チェンソーマンに喰らわれたのである。
喰らわれてしまえば、世界に存在していたと言う痕跡も事実も、記憶も、全て消滅してしまうと言うチェンソーの悪魔を宿す少年に、確かに、喰らわれたのである。
ここは果たして、何処なのか。
地獄ではないと言うのだけは断言出来る。こんな秩序だった世界ではないからだ。
東京都であると言うのは解る。遠くに立てかけられた看板の、中央防波堤処分場の文字が見えた。23区の大田区の施設。彼女も利用していた。死体を処分しろと命令していたのだ。
となれば此処は、チェンソーマンの腹の中か? 彼に喰らわれた悪魔はこの宇宙に存在していた事実すら消滅すると言うが、全ては腹の中に溜め置かれるからか? だとしても、彼女は覚えている。自分は喰らわれた後、大便となって排泄され、下水道に流されたと言う事実を。
本当に、地獄に戻る事すら拒否されたのかも知れない。もしかしたら、チェンソーの悪魔に喰らわれた悪魔のみが逝き着く最終処分場であるのかもしれない。
となれば、この世界には彼らが跋扈しているのだろうか? 嘗ての昔、地獄に於いてその名を轟かせ、向こう百年以上は強壮な力を誇ると見通されていた、あの悪魔達が。
ナチス、エイズ、核兵器、第二次大戦、アーノロン症候群……。何れも、人間の恐怖を集める事に長け、実力に於いても比類ない悪魔達であった。
もういない。そんな出来事が嘗て世界で生じ、そんな発明がこの世界で生み出され、そんな病魔が人類を蝕んでいた。そんな大切な事実すら、人々は忘れてしまったのだ。
全て、この世界にいるからか? あの悪魔達は、この世界で処分されるその時を、待っているのか?
――彼らもまた、支配の悪魔の脳裏に刻まれた、聖杯戦争なる知識をもといにしてこの世界で蠢いているのか?
てんで解らないが、確かな事は一つ。自分は今、支配の悪魔が司っていた支配の権能、及びその権能によって会得したあらゆる悪魔の能力をロストしていると言う事実だった。
身体能力は、成程。人間の社会に於いて『マキマ』と名乗っていた時のそれと大差はない。能力だ。彼女を彼女たらしめていた能力だけが失われている。これでは出がらしだ。支配の悪魔とは最早呼べまい。
「このカードで勝負するしかないね」
現状だとワンペアすら揃ってない役なしの手札に等しいが、元より自分の死にすら、恐れは勿論何の情感も抱いてない女である。
この戦いはどのみち、負けた所で齎される結果は良い所、死でしかなかろう。手札が如何に酷いブタだとて、彼女の心に恐れはなかった。
寝っ転がった状態から立ち上がり、ゴミの堆積から退散しようと支配の悪魔は歩き続ける。
地面に落ちていた鏡台が、自分の姿を映す。蛍光色に近い赤い髪、子供がペンで描いたようなグルグルの渦巻きを内在させるその瞳、白いシャツにネクタイ、パンツスーツ。
如何やら、姿そのものはマキマ時代のそれで再現されているらしい。直近の姿しか再現出来ないのだろうか。真実は解らない。
歩きながらマキマは、ふと、身体を半身に捻った。足元にガラス片があったからだ。
その動作は、破片を踏まないようにする事と――自らの後頭部を狙って放たれた、音速の2倍の速度で飛来する金属製の菱片を回避する事の両方を兼ねていた。
「オイ避けたぞこの女」
声には、驚愕の色が隠せてなかった。若い男の声。
右足を軸にしてくるりと振り返ると、其処に二人の男がいた。
フードを目深に被った褐色肌の男に、背が高く痩せぎすの眼鏡の男。眼鏡の男は髪をパリッと七三に分けていて、着用している折り目一つないスーツから受け取られる印象は、出来るビジネスマンだ。大手の広告会社に勤めている、と言われても誰もが納得するだろう。だが、実態はそんなものじゃない事を、マキマは知っている。
「俺の事を覚えているか?」
七三分けの男が言った。神経質そうな、ザラついた声。鋭い目線がマキマに注がれる。
「覚えているよ。『税金の悪魔』、だろう?」
公安の上級幹部として働いていた時、彼女は無駄飯を喰らっていた訳じゃない。
きちんと、御国の為にデビルハンターとして働いていたのである。その一環として、デンジ達が加入するよりも以前に倒してきた悪魔と言うのも、枚挙に暇がない。
取るに足らないザコは一々覚えていないが、目の前にいる、税金の悪魔と呼ばれる存在は印象に残っている。単純だ。強かったからである。
人類が貨幣制度と支配体制を合一化させたその瞬間から産まれたこの悪魔は、歴史も古い上に何よりも恐怖を集める力にも長けている、現代までその名を轟かせる古豪だ。
マキマが目指す世界の姿を知り、『その世界では己の力が弱体化するかもしれない』と言う危惧を抱いたこの悪魔は、彼女に襲撃を仕掛けるも、返り討ち。
マキマは彼を殺そうとしなかった。税と支配は上述のように親睦性が高い。この為マキマは税金の悪魔を支配して利用しようとしたのだが、相手は彼女のやり口も能力も理解していた。
だからこそ、自害と言う方法でその時は逃げられてしまったのである。彼女に殺されてしまえば全ての権利を支配されるからだった。
その悪魔が、目の前にいる。
まさか自分の知る世界観の悪魔を見る事になるとは、本当に地獄とは東京都の事なんじゃないのかとマキマは考える。
ただ、間違いなく言える事があるとすれば、此処はチェンソーの悪魔に纏わる空間ではないと言う事だ。
簡単だ。税金の悪魔をマキマが返り討ちにしたのは、チェンソーの悪魔が現世に転生するよりも前の話だ。もしもあの偉大なる悪魔が地獄でその名を恐れを以て轟かせている時に、
税金の悪魔が彼と戦い喰らわれていれば、あの世界から税金と言う概念や観念そのものが消滅してなければ筋が通らないからだ。
尤も……そちらの世界の方が良かったのかもしれないが。何れにしても、そんな事実はマキマも確認出来なかった。よって目の前の悪魔は、チェンソーの悪魔に殺されたのではなく、何らかの手段で以て此処に呼ばれた事になる。
「驚いたぜ、支配の悪魔さんよ。アンタが此処にいる事もそうだが……、なんだ、今のそのザマは?」
「弱くなった風に見えるかな? もっとよく見てごらんよ」
「あっ、強がったね。誤魔化せないよ。悪いが、駆け引きは俺の勝ちだ。アンタが本当に力を失ってないなら、俺のアサシンの攻撃は避けずにそのまま喰らった筈さ」
流石は強豪だ。痛い所を突いてくる。
マキマが能力を失っていなければ、急所を狙っての音速の攻撃など、避けるまでもなく、素で受け止めても死ぬ事はない。
だが避けたと言うのはそう言う事だ。喰らえば不都合な事態が起こり得る。マキマの僅かな動作から、彼女に起こっている変化を、税金の悪魔は見逃さなかった。
「さすがに解るか。まぁ色々あったからね。と言うより、なんでお前は悪魔としての力を失ってないのかな。ズルはダメだよ」
「こっちのセリフだ。俺の知るアンタなら関わり合いたくもなかったし、俺の知るアンタなら絶対にロクでもねぇ相方……サーヴァントって言うのか。それを連れてるのなんて目に見えてたからな。だから、見かけた時には直ぐに退散しようとしたよ。えげつねぇ特権を持ってそうだったからな……なのに、よぉ。ッハハ!! なんだそのザマ、サーヴァントもいねぇし力もねぇ!! 挨拶しねぇ訳にもいかないだろ!!」
「丁寧な事だね。嫌いじゃないよ。それで、用件はそれだけ?」
「そんな訳ねぇだろ。俺はなぁ支配の悪魔、テメェについては早々に消えて貰いたいんだよ。死、戦争、飢餓に悪疫、大災害。これらと結びついてる税もあるんでな、こいつらに消えて貰っちゃあ困るんだよ。俺の力が弱くなる。要は今の人間の世界が続いていてくれた方が良い。だからアンタの存在も掲げる理想も邪魔だった」
酷薄な笑みが、一転して、剃刀の様に鋭い目つきを携えた威圧の真顔に変じて行く。殺意が、漲る。
「えらく俺を痛めつけやがって。地獄に戻る際に誓ったんだよ。テメェだけは、目んたまから子宮まで100回づつ腹パンしてやんねぇと気が済まんよなぁ!?」
その大喝と同時に、税金の悪魔の横で油断なく構えていたアサシンが魔力を体内に循環させる。
ステータス、高い。ハイ・スタンダードに全部の能力値が纏まっていた。暗殺は勿論、直接の戦闘でも活躍が見込めるだろう。
「マスター、あの女は強いぞ」
「解ってる。油断するなよ。身体を細かく切り刻んで、ミキサーにぶち込んでも安心出来ねぇ女だ。気を抜かずにやろうや」
どうやら、主従間の仲も宜しいらしい。
参ったな、とマキマは思う。税金の悪魔は身体能力の面でも強いし、しかも向こうは悪魔としての能力も有していると言うじゃないか。
これに加えて、サーヴァントと言う未知の兵器も加勢してくると言うのだから、マキマとしては堪らない。死ぬ事は怖くないが、何も見極められずにこのまま消えてしまうのは避けたい事柄だった。
「この後――」
涼しい顔をしてそう告げるマキマには確信があった。
税金の悪魔の口にした言葉に賛同するのは癪だが、同意出来る点が一つある。自分が呼び出したサーヴァントが――もしも自分がサーヴァントを招く事が出来るとして。
それはきっと、途方もなく、強い/ヤバい/ロクでもない存在である、と言う事であった。
「あん?」
「一つ宣誓をします。もしも、この言葉を口にして、何も起こらなければ貴方達の勝ちです。起こった事柄に対処出来ても、勿論勝ちです。用意は、良いですか」
「アサシン聞く耳持――」
マキマ、もとい支配の悪魔が舌戦も上手い事を理解していた税金の悪魔は、直ぐに行動に移ろうとするが、マキマの方が早かった。
「――『助けてチェンソーマン』」
その言葉と同時に、アサシンの頭頂部から股間まで、光の筋が通り抜けた。黄金色。黄金を煮溶かし、刷毛で塗ったような黄金色のラインが、アサシンの頭頂から垂直に走っていた。
光の筋から、アサシンの身体は縦に真っ二つに両断され、泣き別れになったその身体は半秒後に、炭酸の泡が弾けて消えるようにして消滅して行き、更に半秒経過する頃にはこの世界から完全に消え失せていた。
「な、なんだぁっ」
そう告げると同時に、税金の悪魔がバックステップで距離を取る。その簡単な動作だけで、時速300㎞は優に出ていて――
それすら遅いと言わんばかりに、彼が地面に足着けるよりも早く、縦横無尽に黄金色の光の筋が刻まれて行き、着地する頃には筋から身体が崩れて行き、そのまま悪魔は息絶えた。
「素晴らしい」
マキマの声には情感が籠っていた。熱を帯びていた。憧憬の念が、秘められていた。
マキマの世界には消滅して久しい、ナチスのSS(親衛隊)をベースにしたと思しき、黒い軍服を纏った男だった。
良く磨かれた純金の如き金髪の美男子で、顔に走る大きい傷の分を差し引いても、なお、美形の格を落とさない人物だ。
烈しい気性の持ち主である事が、発散されるオーラから、険しい表情からも、ありありと受け取れる。
戦士の側に属する人物であろう事が、世界中どの異文化に属する人間でも解ってしまう、そんな説得力が身体つきからも理解出来る。
厚手の軍服の上からでも、研鑽と切磋琢磨を怠らなかった者のみが持ち得る彫像のような身体つきである事が一目で伺えるからだ。
古代ローマの彫刻家なら、軍神マルスのモデルを彼に選ぼう。
それぞれの手に、激しく金色に光り輝く剣を握っていた。
これを、目にもとまらぬ速度で振りぬいて、アサシンと税金の悪魔を瞬時に抹殺せしめた事が解る。
剣の光輝を、男は止めない。それどころか、マキマの姿を見た瞬間、両名を斬り殺した時以上に輝きが増して行った。眩し過ぎる。地上に、太陽の破片でも落ちて来たような眩さだった。
「――これは命令です。『7秒動くな』」
マキマが黒軍服の男に指差しそう告げた時、軍服の男が握っていた光り輝く剣は、彼女の首筋まであと10㎝と言う所まで来ていた。
止まっている。軍服の男は明らかに、マキマの首を刎ねようとしていた。もしもマキマの判断が後ゼロカンマ一秒遅れていたら、彼女の首は中空を舞っていた事だろう。
マキマの右手に刻まれていた、樹木と王冠を模していたようなモティーフの令呪、その一画が確かに色をなくしていた。令呪を、彼女は切っていた。
「貴様……」
苦々しく軍服の男が言った。低く渋みのある声。
「重ねて命令します。『私に今後攻撃を仕掛けない事』」
言葉と同時に、令呪のモティーフの樹木部分が消えて行く。
「なお命令します。『今後私が排除した方が良いと認識した存在は排除しなさい』。以上」
躊躇なく、マキマは最後の令呪を切った。王冠部分が消えた。
「狂ったわけではありません。この令呪と呼ばれる道具が支配と隷属、命令に該当するものである事は理解していました。使い切りの道具と言う性質が強い以上、抱えたまま落ちるのは愚かしい。此処で使おうと思いました、此処で全部切るしか道はありませんでした。この選択は間違っていません。支配の為の道具の使い方には長けていますから」
令呪と言うものついての知識が脳裏に刻まれた時、マキマはその本質が、彼女が言ったように支配の為の手綱である事を直ぐに理解した。
そして三回こっきりの使い捨ての道具であると言う事は、使わないまま脱落するのは勿体ない、何処かで使い切る必要がある代物だとも。
この代物を、界聖杯によって招かれて間もないこの瞬間にマキマは全部使い切った。そして、彼女自身その使い方を間違ったなど微塵も思っていない。何せ、そうしなければ殺されていたのは彼女であるのだから。
「あの税金の悪魔ですら、召喚したサーヴァントと良好な関係を築けていたと言うのに、私にはそれすら出来ないか。アルターエゴ、貴方は何の理由があって私を?」
「胸に手を当てよく思い出せ」
言われて素直に、マキマは胸に手を当て考えた。
「国に……世界の為に尽くした思い出が、走馬灯のように」
沈黙の時間。マキマの言葉を最後に、鉛でも含有されているかのように重苦しい空気が二人の間に流れた。
薄い笑みを浮かべてマキマはアルターエゴと言うクラスのサーヴァントを眺めているが、当の男の方は、目線だけで人は殺せるを地で行くような鋭い目つきで、彼女の事を睨み付けていた。
たっぷり、一分の沈黙の後。余人からすれば、一時間とか十時間分に相当するような重圧重苦の時間の後に、男は口を開いた。
「俺はお前を殺す為にこの地に呼ばれた。界聖杯(ユグドラシル)と呼ばれるものの意思によって」
「あれ、運営にすら嫌われてるのか。困ったな、何かしたかな」
「強制的に呼ばれ、その姿を見て、確信した。貴様は、俺と同じ塵屑。それと決めたら止まらない、その意思の力で世界を滅ぼしかねない女だと」
アルターエゴにそう言われ、フッと笑みを零すマキマ。出来の悪い部下か生徒が間違った事をして、やれやれ、とでも思っているような。
そんな風な表情と態度で、彼女はアルターエゴに背を向け、夜空を見上げた。都会の空は星が少ない。だから、その寂しい夜天の中に在って、月の輝きだけが、空に空いた黄土色の穴の様によく目立つのだ。
「似た風な事を口にした男が居ました。私の目的は、世界を滅ぼすだとか、糞まみれにするだとか……。細かいニュアンスはどうあれ、世界を滅茶苦茶にする事が目的だったのだろうと」
「――ですが」
「それは違います。支配とは秩序であり、法であり、義務であり命令であり強制であり抑圧です。誓って言えますが、既存の社会を滅茶苦茶にするような意思は、嘗て抱いた事はありません」
マキマの司る支配とは、腕力に優れた者が腕っぷしだけで人間を支配する……と言うような、ガキ大将が考えるようなそれではない。
法整備が整い、公共の福祉が機能し、それを享受する為に必要な対価を徴収する仕組みが目の細かい網の様に張り巡らされ、そしてそれを義務として認識させる教育機関が存在し……。
要は、国家としての要件を満たした所に、彼女の支配は意味を受けるのである。命令や強制、秩序や法の意味を解そうともしない狂人しかいない世界では、意味がないのである。
彼女の言った通りである。別にマキマには、不純で淀んだ、邪悪な黒い意志の下世界の秩序をかき乱すとかそういう展望はない。
「この世界には、明らかに存在しない方が良いとされていながら、それがこの世から払拭出来ない、摂理だとか真理、公理同然の扱いを受けている事象や営みが幾つも存在します」
淀みなくマキマは語る。噛まない。確固たる彼女の持論であり、滑らかに話す事が出来る己の軸であるからだ。
「例えば死、例えば疫病、例えば戦争、例えば飢餓、例えば地震。上げればキリがありませんね」
「それをも支配するか? 貴様は、全知全能の神でも目指していたとでも?」
「神の存在を我々は証明出来ていません。人間も、また。いるいないで議論される存在を目指すよりは、より現実的なプランを私は実行します」
一呼吸おいてから、マキマは言った。
「私は、人の世界に於いて、霊長足る彼ら人間の世界に於いて支配者然として君臨するこう言った事象からの重力を、振り切る方法を知っていました。彼らの存在を初めからなかった事にすれば良い」
「……。……狂っている、と言う言葉を使う事すら烏滸がましい理想論者だな」
「不可能に思えますか? 現実的ではないでしょう、術を知らぬ者が聞けば」
アルターエゴの方に、マキマは向き直った。
「ですがその方法は確かにありました。まぁ、失敗してしまったので今更偉そうに説明出来るプランではありませんが……」
アルターエゴの、物質的な磁力すら内包してると錯覚してしまう、強烈な眼力を真っ向から見据え、更にマキマは続ける。
「私の夢は一つ。より良い世界を築く事。世界に巣くう病理のような現象を消滅させた世界は、幸せな世界だと思いませんか?」
「貴様は、俺をそんなディストピアを築く為に利用しようと言うのか?」
「貴方のような英雄を利用してしまう、と言う事については否定のしようもないですね。ですが、ディストピアではありません」
スッと、人差し指を上に向けた状態で、腕を上に伸ばした。指の指し示す方角には、星があった。月があった。
「私にとって支配とは、星と我との距離の認識を、操る術の事。アルターエゴ、貴方と私はこの地球にいる限り、シリウスやアルタイルの距離は等しく凄く遠い筈です。貴方がサーヴァントだからだとか、私が悪魔だからだとか、そう言った理由や身分や生い立ちで、星の距離が遠くなったり近くなったりする事はあり得ない。私達からすれば星の距離は遠いのです。支配とは、そう言った当たり前の距離感の認識を操作する事だと思います。身分によって星の距離など変わりようがないのに、自分はああだからこうだから、星に近い。だから偉い。貴方達は星から遠い、だから従え。そうと説明出来ましょうか」
腕を下ろすマキマ。
「人と人とは元来平等、対等。その通りだと思いますし、そうであった方が幸せでしょう。ですが現実はそうではない。支配は人と人との距離をも操る術ですから。人の文明が始まってまだ一万年と経過してませんが、その間、距離と格差はどんどん広がり続けました。身分、財産、土地、国家。人の平等は、人の社会特有の価値観や考え方によってどんどん離れて行く」
「――だからこそ」
「人の不幸の源泉である事象を消滅させる術なのです。死や病気、戦争に飢え、自然災害による恐怖。そう言ったもののない世界はきっと幸福でしょう。そう言った物を前提とした支配の仕組みや法整備は一切変革され、幸福の追求に特化した仕組みが生み出されるでしょう。そんな世界の実現が――」
「対等な者が欲しいと素直に言ったらどうだ?」
もういい、と言わんばかりにアルターエゴが切り捨てた。マキマの演説が、止まった。表情が、途端に無表情のそれに転じる。感情が、窺えない。
「お前が筋金入りなのは良く解った。言って解る手合いでもない事も。そして、やはり俺が殺すべき女だと言う事も」
引き抜いていた二振りの刀を、鞘に戻しながらアルターエゴは言った。
七本もの刀を、男は腰に差していた。よく見ると長さに違いがあるらしく、それを状況に応じて彼は使い分けるらしい。
「数秒で説明出来る事を長々と説明する者は、支配者として落第だという事を覚えておけ。尤も、貴様はその知識を次には持ち越せないが」
――対等。
それは、マキマ、いや、支配の悪魔にとって最も遠い概念だった。
根源的恐怖を司る絶対者達には劣るとはいえ、マキマもまた、人類の多くが恐怖する概念を司る強豪である。
支配を司るという事は支配そのものであると言う事。支配する側の具象たる彼女にとって、目に映る者語らう者は、全て潜在的に下の存在なのだ。
だから、対等の概念が解らない。自分と並び立つ者とは、どんな者なのか? 想像だに、彼女は出来なかった。
マキマにとって地獄を含めたこの世界は、幽霊が舞い踊るステージでしかなかった。
着ているシャツの形も色もサイズも記憶してるし、締めているネクタイのブランドも買った日時も覚えている。
普段使っているペンのメーカーも、仕事で使うパソコンが何処で作られたものなのかも知っているし、ソファベッドを何処のネットショップで購入したのかだって解る。
これが……、人間や悪魔となると、全然わからない。
強烈な存在感や実力を持った悪魔は五感の殆どを封じられたとて誰だか解るし、見るところのある人間であれば雰囲気で理解出来る。
それ以外は全然駄目だった。興味が全然ないのであるのなら人間同士であっても印象に残らない、顔も覚えてない声も解らないという事があるらしいが、マキマは違う。
顔も体格も、輪郭までもが、おぼろ。深いミストかスチームに包まれているかのようなシルエットとしてしか認識出来ない。まるでゴーストだ。
自分以外全て程度の低い存在だから。興味を抱きようもないから。そう言う風に見えてしまうのだろうか。マキマは、支配の悪魔はそう思った。
そんな中で、チェンソーマンは……チェンソーの悪魔は、血の様に赤黒い色があった。腹にズンと響くチェンソーの唸りがあった。支配の悪魔をして無視出来ぬ、強烈な何かがあった。
破天荒かつ荒唐無稽、後先を一切考えない破滅的な活躍を聞いて、彼女は、まるでヒーローのようだと思った。バカげたコミックスに出てくるバカげた主人公のようだと思った。
鮮明な世界の中を、対照的なぼんやりとした影のような何かが歩いている。マキマにとって世界とはそんなものであり、その世界の中に在ってチェンソーマンだけはクッキリとしていた。対等とは、こういう事なのだろうか。答えはまだ解らない。
「私はヒーローが好きです。既存の枠組みに囚われない、型破りで、突拍子もなく、そして最後には、その破天荒さが何処かの誰かの為になる。そんなヒーローが気に入ってます」
チェンソーの悪魔が嘗て喰らった悪魔達とは、人間の社会に於いて極めて深刻な根を伸ばしていた、病巣そのもののような存在だった。
チェンソーマンの活躍を聞いて、彼女は確信した。あの悪魔は無秩序かつ無軌道に悪魔を喰らっているのではない。現在進行形で人間社会に影響を与えているものを司る悪魔のみを絞って喰らっていたのだ、と。
「アルターエゴ、貴方は言葉を喋りますか?」
「それすらも解らんのか?」
「アルターエゴ、貴方はやる事成す事滅茶苦茶ですか?」
「……」
「アルターエゴ、貴方は服を着ていますか?」
「見て分からんのか?」
「着ないで下さい。ヒーローは滅茶苦茶であればある程良いので」
「貴様は頭がおかしいのか?」
「かも知れませんね。私の目には――貴方は黄金色の激しい光に見えます。そんな風な見え方をするのは、貴方が初めてです。貴方は、英雄なのでしょう?」
マキマの目には、自身が引き当てたアルターエゴすらも、正しく認識出来ていなかった。それこそ、服を着ているのかも解らない程に。
光だ。太陽よりも眩く、激しく光る黄金色の爆光。それが、辛うじて人の形を取っている姿。それが、マキマから見たアルターエゴであった。
「……英雄か。そうと呼ばれていた事もある。そして、その資格もないし、今後英雄と名乗る事も最早ない」
「では貴方を、何と呼べば良いのですか? アルターエゴと呼ぶように努めはしますが、本当の名前があるのでしょう?」
「……こうと、呼んでおけ」
アルターエゴは、一拍の間を置いてから、こう言った。
「『“悪の敵”』とでも、『ケラウノス』とでも」
「悪の敵はなしにしましょう。私は悪ではないので、ケラウノス……。そうと認識しましょう」
そう言ってマキマは、ケラウノスの横を通り過ぎ、スタスタと歩いて行く。
「何処へ行くつもりだ」
「何時までもゴミ処理場で話しているのも、おかしな話でしょう」
此方にクルリと振り返ってから、マキマは言った。
「お風呂に入ってから、今後の事を語りましょうか。ケラウノスマン」
「……」
無言を保ったまま、ケラウノスと呼ばれた偉丈夫は霊体化をする。
星と月だけが、そのやり取りを見ていた。この世界にもまた、子供の精神を壊すとされたある星の光がなかった事に、マキマは気づかないままこの場を去ったのであった。
【クラス】
アルターエゴ
【真名】
“悪の敵”、或いはケラウノス。或いは、クリストファー・ヴァルゼライド@シルヴァリオ トリニティ
【ステータス】
筋力B 耐久B+++ 敏捷B 魔力B 幸運B 宝具EX
【属性】
秩序・悪
【クラススキル】
凶化:EX
狂化ではなく、凶化。本来アルターエゴはバーサーカークラスにも適性があるが、アルターエゴでの召喚に際し、このスキルに変更となった。
極限まで純化された奮い立つ勇気、悪に対する尽きせぬ怒り、必ず成すと誓った決意。アルターエゴは善や光以外の感情を解さない。
あらゆる輝きに敬意を表し、さりとて自論以外は理屈の上で理解する事ができても共感することは決してない。
そしてひとたび己の障害となれば心より悼みながらしかし躊躇なく斬り捨てる。アルターエゴは会話も意思疎通も問題なくこなせるが、本質的に他者を理解するつもりがない。
その為、狂化や凶化の様にパラメーターの上昇の恩恵は受けないが、超高ランクの信仰の加護としてこのスキルは機能している。このスキルのランクEXは、超越性と特異性の双方を示す。
【保有スキル】
光の英雄:EX
極めて高ランクの心眼(真)・無窮の武練・勇猛・精神異常を兼ね備える特殊スキル。
また初期値として自身より霊格の高い、あるいは宝具を除く平均ステータスが自分の初期値より高い相手と相対した場合に全ステータスに+の補正をかけ、瀕死時には更に全ステータス+の補正をかけ、霊核が破壊され戦闘続行スキルが発動した場合には更に++の補正を加える。
戦闘中は時間経過と共に徐々にステータスが上昇し、その上昇率はダメージを負うごとに加速する。この上昇効果は戦闘終了と同時に全解除される。
また、相手がステータス上昇効果を得た場合には自身もそれと同等の上昇補正を獲得し、自身のステータスを低下させられた場合にはその低下量の倍に相当する上昇効果を得る。
意志一つであらゆる不条理を捻じ伏せ、人類の枠組みすら超えかねない勇気こそが彼最大の武器である。あらゆる手段においてアルターエゴの精神を揺るがすことはできず、このスキルを取り外すこともできない。馬鹿の馬鹿による馬鹿の為のスキル。
カリスマ(光):EX
それは、万斛の勇気を宿す者が内在させる、眩い煌めき。潜在的な属性が光と陽とに傾いている者が発散させる、強烈な人間的魅力、カリスマ。
同ランクのカリスマの効果を発揮するスキルであり、また率いている軍団や軍勢の中に、勇気や希望、光に愛と言った陽的な属性の持ち主や、その存在を信じる者に、
ステータスのボーナスを付与させる効果を持つ。ランクEXは規格外中の規格外、カリスマのスキルランクはA+に相当し、付与されるステータスボーナスも破格の値となる。
またこのランクになると、アルターエゴの雄姿は強烈な印象を見る者に与え、今後の人生や個々人の人格、生き方すらも大幅な修正を加えてしまう可能性がある。
修正を加えてしまった物は、光や陽に価値観の重きを置くようになる。但しこれは、性格が決して善に傾くと言う事を意味しない。人によっては、致命的なまでの人格異常を来たしてしまう。このスキルはアルターエゴの手によって制御出来ない。
戦闘続行:A++
たとえ致命的な損傷を受けようと、『まだ終われない』という常軌を逸した精神力のみで戦闘続行が可能。
暴走した意志力、呪縛じみた勝利への渇望。因果律を無視しているとしか形容の仕様がないその有り様は、最早人類種の範疇を逸脱している。
悪の敵:A
アルターエゴが燃やす、強烈な悪に対する怒り。
属性が悪のサーヴァント、或いはアルターエゴの一存で悪と認識した存在と対峙した時、常時ステータス上昇ボーナスを得る。このスキルの上方修正と光の英雄スキルによる上方修正は重複する。
魔星:B+++
正式名称、人造惑星。星の異能者・星辰奏者(エスペラント)の完全上位種。
星辰奏者とは隔絶した性能差、実力差を誇り、このスキルを持つサーヴァントは総じて高い水準のステータスを持つ。
出力の自在な操作が可能という特性から反則的な燃費の良さを誇るが、この存在の欠点として、本領を発揮していく毎に本来の精神状態に近付いていく。
有体に言えば本気を出せば出すほど地金が透け、精神的な脆さが露わになるという事だが、アルターエゴはその脆さと矛盾を受け入れ、克服している。
また魔星は人間の死体を素体に創造されたいわばリビングデッドとでも呼ぶべき存在であり、死者殺しの能力や宝具の影響をモロに受ける。アルターエゴであってもこれだけは克服していない。
単独顕現(カウンター):E---
単独で現世に現れるスキル。単独行動のウルトラ上位版。……なのだがアルターエゴの場合は、ビーストが持つ本家本元のそれとは全く勝手が異なる。
アルターエゴは本来現世に召喚されないし出来ないサーヴァントであり、彼が活動する為には、特異点ないし人類が踏み込むべきではない高位次元に、
悪意を持った存在が介入したのが確認されて始めて、世界に干渉出来る存在である。ざっくり言えば極めて限定的な条件でないと活動が出来ないアラヤの抑止力である。
アルターエゴは今回、マスターである支配の悪魔ないしマキマの存在に対するカウンターとして召喚されており、彼女が死ねば無条件でアルターエゴも消滅する。
界聖杯くん「やれ」
ケラウノス「はい」
【宝具】
『天霆の轟く地平に、闇はなく。閃奏之型(Gamma-ray Keraunos)』
ランク:EX 種別:対人・対軍・対城・対因果宝具 レンジ:- 最大補足:-
アルターエゴが保有する星辰光。星辰光とは自身を最小単位の天体と定義することで異星法則を地上に具現する能力であり、すなわち等身大の超新星そのもの。
能力の本質は放射光極限収束・因果律崩壊能力。膨大な光熱を刀身に纏わせた斬撃とその光熱の放出により敵を討つ、と言う極めてシンプルなそれ。
放たれた光の奔流は亜光速にまで達し、見てからの回避はほぼ不可能。光を刀に纏わせての接近戦も凄まじく強力で、光に掠めただけであっても、細胞の一つ一つを破壊する。
またその光には極めて高濃度の放射線が内在されており、細胞を破壊するものの正体とはまさにこの放射線の事である。
上述の効果はこの宝具の通常発動時である。
此処から更に宝具の真名を開放する事で、この宝具の真の能力、因果を崩壊させる力が発動する。
この因果破壊の力は、アルターエゴの放つ光の攻撃は全て光速を突破しており、それによる特殊相対性理論の超越と言う形で整理している。
この能力を発動している間、アルターエゴの放つ光の攻撃には激甚な因果・概念破壊の効果が付与される。
具体的にはほとんどの防御効果、それこそ粛清防御から、本来的には相性上絶対に無効化されるような防御方法や魔術・魔法ですら一方的に砕いて攻撃を押し通らせる。
単純な攻撃力も更に爆発的に増大しており、与えられるダメージは正しく『臨海不能』。また、本来の使い方ではないが、自らの身体に突き刺す事で、
それまで受けていたダメージを『身体に負ったダメージごと砕いてしまい戦闘前の状態に戻す』と言う超絶の荒業を披露する事も出来る。
攻撃面ではまさに最強に等しい力であるが、弱点がある。
この宝具もまたスキル・光の英雄や悪の敵によって、際限なく出力が上昇するが、そうなればなるほど、膨大なエネルギーに肉体が耐え切れず、
自己崩壊を始めると言う状態に陥っている。戦う度に末端が罅割れ、装飾が黄金色に輝くのは爆発寸前の兆候に他ならず、サーヴァントとしての活動限界を示すラインである。
……ただし、この肉体崩壊によっても、アルターエゴはステータスが上昇してしまう為、欠点と言えるかは微妙な所である。
『悪を殺す』という方向性に魂を全振りしている人類最強の勇者にして怪物。より破滅的、壊滅的な能力。
轟き渡るのは鋼の稲妻、悪を滅ぼす断罪の剣。人類の思い描く最も普遍的な英雄像の体現者。その名は、星の裁断者(スフィアパニッシャー)。
星辰閃奏者。英雄譚という概念の究極にして、集束性の到達点であるアルターエゴの星辰光である。
【weapon】
星辰光の発動媒体となる七本の日本刀。
【人物背景】
軍事帝国アドラー第三十七代総統。生ける伝説。閃剣。絶滅光。彼を現すは一言“英雄”。帝国最強にして始まりの星辰奏者として最大最強の伝説を打ち立てる。
彼は天賦の才というものを持たず、しかし常軌を逸した修練の果てに人類種最強とまで呼称される強さを手にした。それは最早輝きを超越し、一種の狂気にまで至っている。
……そんな人物が死後、まだだ、まだだを繰り返し、ある種の概念として復活した姿。それが彼、アルターエゴのサーヴァント、ケラウノスである。
【サーヴァントとしての願い】
ない。マスターを殺す為に現れている
【マスター】
支配の悪魔(マキマ)@チェンソーマン
【マスターとしての願い】
元居た世界で出来なかった、よりよい世界の実現。……或いは、対等な……
【weapon】
【能力・技能】
支配の悪魔として所有していた能力の全て:
チェンソーマンに喰らわれ、発動不能となっている。現在マキマが発揮出来る能力は、支配の悪魔由来の純粋な身体能力と魔力のみ。それですら、下手なサーヴァントを一蹴する実力である。
【人物背景】
憧れのチェンソーマン様に唾を吐かれた女。チェンソーマンに食べられると言う光栄な末路を辿り、何の因果か此処にいる。
この世界でのロールは警察庁勤務の公安幹部。
【方針】
界聖杯「死ねよ」
ケラウノス「死ねよ」
マキマ「応援ありがとう」
投下を終了します。この候補話を採用すると言いなさい
投下します。
夜空を見上げれば、無数の星々が見える。
視線を下げれば、地平線の彼方まで続く大都市が放つ光の群れ。
どちらも、界聖杯(ユグドラシル)が作り出した幻影なのだろう。
東京。以前住んでいたことはあるが、どうやらだいぶ様変わりしているらしい。
2021年、ということは、1999年から20年以上も未来。
確かに見たこともないものが氾濫してはいるが、フィクションが思い描いていたような姿でもない。
腕時計を指でいじる。応答なし。
「……宇宙船を呼ぶのも、無理そうですね……」
少年は、ため息をついた。
色素の薄い体毛、緑色の瞳。長髪で長身に学生服。
日本人離れした容姿だ。その耳は少し、尖っている。
「全く、なんということでしょう……! こんな殺し合いの場に、わたしが喚び出されるだなんて……!
これが地球人のしわざであれば、付き合い方を考えるところでしたが、
宇宙的な自然現象だというのならば、運が悪いというだけなのでしょうか……?」
眉根を寄せ、顎をさすり、与えられた情報の整理と状況の把握に務める。
「……ウッ!」
少年は、眼下の都市から鳴り響いて来た不快な波長の音に顔をしかめた。
消防車か救急車か、パトカーかのサイレンだ。体が震え、蕁麻疹が出る。
近くでないのが幸いだ。両手で耳を塞ぎ、指を耳の穴に突っ込む。
「ぐううッ……! なんてことだ……! 一台や二台じゃあないぞ……!
この街は大きすぎるし、何か、事件や事故が多すぎる……!」
少年はたまらずうずくまる。このままでは危険だ。
ビルの中に隠れ、サイレンが鳴り止むのを待つしか無い。
彼の肉体が衣服ごと歪み、ほどけ、板状になって移動し始める。スケートボードに変化したのだ!
『まってー……』
滑走するスケートボードが止められ、持ち上げられる。小さな手で。
それは、小さな女の子だった。妖精のような。
金髪で緑の瞳、あどけない表情。可愛らしくふわふわした服装。
少年は直感的に理解した。彼女は自分に与えられた英霊―――サーヴァントだと。
こんな無力そうな少女が。
そうだ、自分はここへ、彼女と夜空を観に来て、突然記憶が戻って……!
それはともかく、今は!
「は、離して下さい! わたしはあの音を聴くと、体中に蕁麻疹が出て……アレルギーなんですッ!」
スケートボードがほどけ、少年に戻る。その顔は歪み、脂汗を垂らしている。
肌には無数の蕁麻疹。吐き気がして、頭が痛む。
『あのおと、きらいー……?』
「そうですッ! だから、聴こえないところへ行こうと……!」
『きこえなくすれば、いい……?』
少年は……直感する。
彼女は何か、危険な力を持っている!
もしここで言うべきことを誤ったら、取り返しのつかないことが起きる!
「……そうですね。わたしの……耳の方を。
あの波長の音だけ聴こえなくなれば、あるいは、このアレルギーが根本的になくなれば、安心です。
あれは『サイレン』……この街の人々に危険を知らせているものですから、止めたり破壊したりすれば問題でしょう……」
『わかったー……しゃがんでー……』
少女は少年をしゃがませ、小さな手で両耳に触れる。
すると、たちまち蕁麻疹は消え、アレルギー症状が収まっていく。
「……まだ聴こえるのに……!? 治った!? これは、あなたの力!?」
『そうだよー……おやすみー……』
少女は大きな目を閉じ、ふらりと倒れそうになる。
少年は彼女を支え、抱き上げた。眠っている。力を使ったせいか。
彼女は自分のために、願いを叶えてくれたのだ。
「感謝します……。わたしも何か、恩返ししなくては……!」
ここは既に戦場。ほおっておけば戦いは激化し、あの『サイレン』で救える人々をも蹂躙するだろう。
自分と彼女に何が出来るか。まずは、彼女の力を把握しなければ。
「あの……すみませんが、名前を教えていただけませんか。
わたしはヌ・ミキタカゾ・ンシ、マゼラン星雲から来た宇宙人です。年齢は216歳です」
少女は薄く目と唇を開き、真名を告げた。
【クラス】
フォーリナー
【真名】
遊佐こずえ@アイドルマスターシンデレラガールズ
【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力EX 幸運EX 宝具EX
【属性】
混沌・狂(善?)
【クラス別スキル】
領域外の生命:EX
詳細不明。
恐らくは地球の理では測れない程の生命を宿している事の証左と思われる。
睡眠によって異相の存在と接触している可能性がある。
神性:B
異邦の神と接し、その影響を受けているが為に、
フォーリナーはそれ由来の神性を帯びるようになる。自覚はない。
タコ系のアレなのか顔のないアレなのか、寝ながら踊っているアレなのか定かでない。
狂気:C
理性による力の枷が外れており、攻撃性が高くなっている。
人間を容易く狂わせる狂気を放つ彼女自身もまた、狂気に陥っている。
それほど攻撃性が高いわけではなく、常に眠たがっている。
【保有スキル】
無垢なる魔王:A
本人の意思に関係なく、風評によって真相を捻じ曲げられたものの深度を指す。
このスキルを外すことは出来ない。彼女の魔力の源でもあり、自在に姿や衣装を変え、
マスターに求められれば様々な魔術(まほう)を操ることができる。代償として、力を使うと眠くなる。
磨かれた蝋板:A
タブラ・ラーサ。いかなるものでも瞬時に記憶し、理解し、完璧に演技してのける異能。
宝具まではコピーできないが、再現可能なスキルであれば一度見れば大概できるようになる。
容姿や文章、言葉なども一度で記憶する。ただし、意識して「覚えよう」としなければ発動しない。
【宝具】
『妖星乱舞(ほしにねがいを)』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:2-100 最大捕捉:100
夜空に願いを捧げ、標的に向けて流星群を降らせる。
おそらくは相当の被害を与えることができるが、滅多に使わない。
【Weapon】
なし。マジカルステッキや衣装などを適当に作り出すことが出来る。
【人物背景】
ゲーム『アイドルマスターシンデレラガールズ』シリーズに登場するアイドル。属性はキュート。
年齢11歳、身長130cm、体重28kg。CV:花谷麻妃。高知県出身で魚座のB型。
自分の年齢についてうろ覚えだったり、口調がひらがなばかりでぽやぽやしてたり、すぐに眠くなったり、
アイドルや趣味という言葉を理解していないなど(のち理解)、心身ともに11歳の女子としては不相応に幼い。
服も母親が着せてくれるほどだが、台本の内容を一読で暗記し、演技力は脚本家が驚くほど完璧という天才児。
また「ここじゃないところからきた」と発言したり、虚空をじっと見つめたり、常人とは異なる振る舞いを見せる。
そのためか妖精や魔法少女、宇宙人、神、魔王、邪神といった人ならざる者の役割を演じることが多い。
彼女が願い事をすると流れ星が流星群になるといった描写もある。
ここに顕現した英霊としての彼女は、そうした彼女のミステリアスな一面が「偶像(アイドル)」へ捧げられた無数の思い、
非凡な演技力と結びついて生じた(もしくは「繋がった」)ものと思われる。
ある意味でアルターエゴだが、今回はフォーリナーとして出現した。
【サーヴァントとしての願い】
ねむい。わからない。
【方針】
ねるー……。ようがあればおこしてー……。
【マスター】
支倉未起隆(はぜくら・みきたか)@ジョジョの奇妙な冒険第四部
【Weapon・能力・技能】
『アース・ウインド・アンド・ファイヤー』
破壊力・スピード・精密動作性・成長性:C 射程距離:なし 持続力:A
自らの肉体や身につけているものを、別のものに変身させる能力。
スタンド能力なのか、そうでないのかは不明。
変身させたものはスタンド使い以外にも見ることができるし、接触も可能。
手の一部を複数のアイスクリームに変えて食べさせたり(冷たいし味もする)、
全身を縮めてスニーカーやサイコロに変身させたりもでき、
変身したまま飛び跳ねたり話したりも自在。他人に身に着けてもらうことで、人間の倍のパワーを出すこともできる。
体積や体重は物理法則を無視して相当に縮小できるが、
機械など構造が複雑なもの、自分以上のパワーを出せるものには変身できない。
また「地球人の顔は見分けにくい」ため、他人に変装しても耳が尖っているなど違和感のある姿になる。
おそらく自分の体積や体重を超える大きなものにも変身できない。
質感は模倣したものをほぼ完全に再現できるが、あくまで彼の肉体なので、
サイコロ化した彼を転がし過ぎると目が回ってゲロを吐くし、攻撃を食らえば痛がり、普通にダメージを受ける。
また体質の問題により、消防車や救急車、パトカーなどのサイレンの音を聴くと体中に蕁麻疹が出て苦悶し、
変身していた場合は変身が解けてしまう(変身して逃げ出すことは可能)。
現在はフォーリナーがアレルギーを治したため、大丈夫である。
【人物背景】
漫画『ジョジョの奇妙な冒険』第四部に登場する人物。CV:加瀬康之。
長身で彫りが深く、薄い色の長髪をオールバックにし、耳は尖っている。
UFOや☆など宇宙モチーフのアクセサリーがついた改造学生服を着ている。
自称「宇宙人」。本名はヌ・ミキタカゾ・ンシ、年齢は216歳。
職業は宇宙船のパイロットで、マゼラン星雲のとある星から宇宙船に乗って地球の調査のためにやってきたと称する。
趣味は動物を飼うことで、カバンの中にハツカネズミを一匹飼っている。血の色は赤い。
性格は掴みどころがなく、サイコロやティッシュを知らないなど一般常識に欠けているが、
言動は礼儀正しく紳士的で温厚、悪人では決してない。能力を戦闘や私利私欲のために使うこともない。
ただ自分が「宇宙人である」ことには一片の疑念も持たないため、本気にしてしまう人もいる。
彼の母親は「息子が人様をからかってる」と言っているが、彼は「彼女は自分が洗脳して母親だと思い込ませている」と発言している。
真実は不明。
思い込みの激しい地球人なのか、本物の宇宙人なのかすらわからないが、
スタンドは初期には見えなかったものの、後から見えるようになったらしいので、
出自はともかくスタンド使いなのではないかと思われる。
【ロール】
高校生。自分を宇宙人だと認識している。母親(?)がいる。
【マスターとしての願い】
帰還。困っている人々を助けてあげたい。
【方針】
協力できそうな人、困っている人を探す。
【把握手段】
原作。単行本40巻で初登場。
【参戦時期】
不明。第四部本編終了後か。
投下終了です。
これより投下させていただきます。
「それじゃあ、またねー! 三風ちゃん!」
「うん、またね。ウェンディちゃん」
夕焼けの空の下、手を振りながら茶髪の女の子とお別れした。
彼女はウェンディちゃん。私が通う中学校の留学生で、日本語がとても上手なんだ。
私のクラスに転入したウェンディちゃんとは席が隣同士。その縁でいっぱいお話しするようになって、仲良くなったの。
まだ、家には呼べていないけど。
「明るい子だな、ウェンディちゃん。でも、あの子もNPC……なのかな」
ウェンディちゃんの背中が見えなくなった頃、私は呟く。
私、宮美三風は聖杯戦争のマスターに選ばれちゃったの。
どんな願いでも叶えてくれる神秘の器……聖杯を巡り、マスターとサーヴァントがペアを組んで戦って、生き残らないといけない。舞台となった街には、現実に生きる人達を元にしたNPCという住民が暮らしているみたい。
でも、どうして私がマスターになったのか、未だにわからないよ。
気が付いたら、頭の中にたくさんの情報が詰め込まれちゃった。最初はパニックになりそうだったけど、サーヴァントさんのおかげで落ち着くことができた。
「……私、誰かを押し除けてまで叶えたい願いなんて、ないんだけどなぁ」
道を歩く生徒の数が少なくなった頃、ため息混じりに呟く。
聖杯を手に入れれば、どんな願いでも現実にできる。とても素敵な話に聞こえるけど、その為に誰かを傷付けるなんて絶対にイヤだ。
それは、私の素敵な家族だって同じだから。
私の生活は、普通の人たちとはちょっと違う。
赤ちゃんの頃に施設に捨てられたから、私はお母さんの顔や声を知らない。
かんろ児院という施設に預けられ、家族のことを何も知らないまま育てられた。赤ちゃんだった私が入っていたバスケットには、『宮美三風』と書かれたタグが添えられていたから、そのまま私の名前になっている。
そして、バスケットには水色に輝くハートのペンダントも入っていた。私とお母さんを繋いでくれるたった一つの宝物だから、いつも持っているよ。
そんな私だって、いつまでも子どもでいられない。
中学校と高校を卒業すれば、社会に出て働く義務が生まれる。かんろ児院を離れて、誰の助けも借りずに一人で生きていくことはとても不安だよ。
でも、私の日常に大きな変化が訪れる。ある日、国の偉い人から『中学生自立練習計画』という練習が持ちかけられ、施設を離れて同じ年代の女の子と一緒に暮らすことになったんだ。
毎日のお仕事はもちろん、料理や掃除などの家事、病気になった時の備えなど……社会に出て生活するには大変なことがいっぱいある。将来、自立が必要になった時の練習として、私はこの計画に参加することを決めた。
そうして、施設から出た私が訪れた『家』には……私と全く同じ顔の女の子が3人もいたの!
ひとりぼっちだと思っていた私には、姉妹がいることがわかったよ!
四つ子の四姉妹がいて、私・宮美三風は三女なの。
しっかり者で頼りになる長女の宮美一花ちゃん。
とても明るくて関西弁の次女の宮美二鳥ちゃん。
おとなしいけど頭脳明晰な四女の宮美四月ちゃん。
みんな、私の自慢の家族だよ!
だけど、素敵な四つ子の暮らしはメチャクチャにされてしまう。
何の前触れもなく、私だけが聖杯戦争に巻き込まれちゃって、いかりを覚えているよ。
みんなはいなくなった私を心配しているだろうし、もしかしたら他のみんなも聖杯戦争に巻き込まれているかもしれないと考えると、不安になる。
「……ウェンディかぁ」
「わあっ!?」
いきなり後ろから声が聞こえてきて、私はビックリしちゃう。
振り向くと、私のサーヴァントさんが姿を現していた。普段は霊体……透明になって私を見守ってくれるみたいだけど、自分の意思で姿を見せてくれるの。
背中に大きな剣を背負い、銀色に輝く兜や鎧を纏っていて、まるでおとぎ話に出てきそうな騎士だった。体格もよくて、赤い髪もライオンのたてがみのようにボリュームが溢れているよ。
この人はデュランさん。セイバーのクラスになって、私のサーヴァントとして召喚された男の人なんだ。
「でゅ、デュランさん!? いきなり出てこないでくださいよ!」
デュランさんが唐突に出てきたせいで、私の心臓はバクバクと音を鳴らしている。
「わ、悪い! マスター! 驚かせちまって……
いや、あのウェンディって女の子が、俺の妹によく似ていてよ……」
「妹? もしかして、デュランさんにも妹さんがいるのですか?」
「あぁ。俺のたった一人の妹さ。
父さんと母さんは、俺がガキの頃に亡くなった……身寄りのない俺達を、ステラ伯母さんが育ててくれた。
俺の父さん……ロキは、本当にスゲー騎士だったんだぜ? 黄金の騎士と称される程に強くて、俺はそんな父さんに憧れて剣の道を目指したのさ。
ウェンディやステラ伯母さんだけじゃない……みんなを守れるようになる為にな!」
どこか寂しげに、それでいて誇らしい瞳でデュランさんは語る。
不謹慎とわかっているけど、デュランさんが羨ましかった。私は施設に預けられたから、お父さんとお母さんの顔は知らない。私のお母さんは雅さんという名前だけど、どこで何をしているのかわからないよ。
だから、家族と一緒に育ったデュランさんが、私にとって遠い存在に見えちゃう。
「素敵なお父さんだったんですね」
でも、デュランさんの姿はとても大きく見えた。
デュランさんのお父さん・ロキさんは今も生きている。デュランさんの心の中で、いつだって支えてくれているはずだ。
雅さんだって、遠くから私のことを励ましてくれている。ペンダントがある限り、私とお母さんは繋がっているから。
「当たり前だろ? いつだって、父さんは俺に道を示してくれているのさ! 俺は父さんに負けないよう、どこまでも強くなりたいと思ってるぜ!
黄金の騎士ロキから、多くのものを受け継いだ騎士として……そして、一人の男としてな!」
「そっか……とても、いいことですよ! あっ、でも……」
「どうしたんだ? マスター」
私の声のトーンが落ちて、デュランさんは首を傾げてしまう。
「……それって、他のマスターさんやサーヴァントさんを傷付ける……って、ことになりますよね?」
ずっと気になっていた疑問を、私は口にした。
デュランさんはとても頼りになる人だよ。そのテンションには置いて行かれそうになるけど、私を本気で守ってくれる。
でも、その為に他の誰かが死ぬかもしれないことを考えると……私の胸は苦しくなる。
願いが叶うなら、今すぐ家に帰りたい。でも、それは私だけじゃなく、他の人たちも同じのはずだよ。
「確かに、そうなるな。もしかしたら、相手の命を奪うことになるかもしれねえ」
「……どうにか、なりませんか?」
「それができたら、みんな幸せだろうな。父さんだって、きっと命を落とさずに済んだかもしれねえ……でも、どうにもならねえ相手もいるのさ」
デュランさんの目はとても真剣だ。
デュランさんだって相手の命を奪いたいと思っていない。でも、世の中にはどうにもできない相手もいる。
そんな人たちから、みんなを守りたいと願ったからこそ、デュランさんとロキさんは強くなったはずだよ。
デュランさんの言うこともわかる。世の中には、どうにもならない相手がいることも事実だよ。
例えば、二鳥ちゃんの里親さんになってくれた佐歩子さんと武司さん。あの二人は一方的な思い込みから、愛する娘として育てていた二鳥ちゃんのことを遠ざけて、そして二鳥ちゃんを捨ててしまった。
二鳥ちゃんがどれだけ気持ちを伝えても、あの人たちは二鳥ちゃんの話に耳を傾けず、自分達の都合のいい理屈をふりかざした。
そんな二人のことを二鳥ちゃんは許してくれた。でも、二鳥ちゃんは泣いていたよ。
だから、私は……私たちは今の家族を絶対に捨てたりしないと、心から思うようになった。
「……ただ、俺の剣は誰かを守るためにあるのさ。マスターだけじゃない。マスターの家族のことだって、俺が守ってやるよ」
私の心を察しているように、デュランさんはニッと朗らかな笑みを見せてくれる。
「ありがとうございます、デュランさん」
「いいってことよ。さっき驚かせたお詫びさ! 今度からは、出てくる前にはきちんと声をかけるぜ!」
夕焼けの下、デュランさんの声は豪快に響く。
とても頼りになる姿で、胸が熱くなりそう。私達にお兄さんがいたら、こうしてお話をしながら歩いたりするのかな。
今度、双子の兄弟のトウキくんとリオくんに聞いてみようかな。
そうして、私は家に帰る為に歩き続けている。
私達四姉妹が暮らすようになった大切な家が、この世界にもある。
家の作りは全く同じ。一花ちゃんも、二鳥ちゃんも、四月ちゃんも、私の大切な家族はみんな暮らしているよ。
だけど、もしかしたら彼女たちはNPCかもしれない。そんな不安が、私の中で芽生えていた。
みんな、いつもと変わらない様子で私と暮らしてくれる。
でも、私の大切な家族が利用されることが許せない。まるで、私たちの生活を踏み荒らされたみたいでいやだ。
もちろん、例えみんながNPCでも、私は否定するつもりはないよ。だって、無理やり生み出されただけのみんなに、責任なんてないから。
(そういえば、もしも私たちがみんなNPCになっていたら、私達は四つ子じゃなくて八つ子になるのかな?)
ふと、私の中で疑問が芽生える。
たとえば、朝に起きて一花ちゃんに「おはよう」を言うと……
「おはよう、三風!」
「「おはよう、一花ちゃん!」」
ここにいる私と、NPCの私が同時に挨拶をしちゃうの。
そんな光景を、二鳥ちゃんは楽しそうに笑ってくれるはずだよ。
「あははっ! 一花、今どっちの三風ちゃんにおはようって言うたの? 今のうちらは、四人じゃなくて八人になったことを、忘れたらあかんって!」
「それを言うたら、うちらも同じやろ? うち、宮美二鳥だって、二人もおるんや!」
「ホンマや! うちは二鳥やから、二人もいるんやな!」
二鳥ちゃんだって、私が知っている二鳥ちゃんとNPCの二鳥ちゃんで二人もいる。
そうすると、家の中がもっと明るくなるよね。
「そんなのんきな話じゃないわ! 私たちが8人になったら、これからの生活がもっと大変なことになるのよ?」
「その通りよ! 食事代だってかかるし、洗い物や洗濯物だって増えるわ。スケジュールだって、見直さないといけないし……」
「「……くすっ」」
二人の一花ちゃんも、この状況に悩むかもしれないけど、お互いに支え合うはずだよ。
だから、文句を言いつつも、笑ってくれるかもしれない。
「えっと……僕たちで、これからの呼び方も考えませんか? 今まで通りだと、不便かもしれませんし」
「そうですよ。三風姉さんも、同時に応えちゃいましたから……人間の僕たちと、NPCの僕たちで、それぞれわけた方がいいと思います」
四月ちゃんだって、二人になっても落ち着いてアイディアを出してくれる。
むしろ、四月ちゃんが二人になれば、推理力だって二倍になるのかな?
入学当初、私たちが同じクラスになったら、どうなるかを想像したことがある。
人間の私たちと、NPCの私たちが一緒に暮らすことになったら、大変なことになるのは確かだよ。でも、今まで以上に、おもしろいことになりそうだね!
「ふふっ!」
「どうした、マスター? 何かいいことでもあったのか?」
「はい! 私の周りには、素敵な人たちがいっぱいいることに、嬉しくなったんです!」
家で待ってくれている家族のみんなと、私の隣を歩いてくれるデュランさん。
私は過酷な戦いに巻き込まれちゃったけど、落ち込むことはない。だって、私のことを想ってくれる人が、たくさんいる。
だから、私はいつだって笑っていられるよ。
【クラス】
セイバー
【真名】
デュラン@聖剣伝説3 TRIALS of MANA
【属性】
秩序・善
【パラメーター】
筋力:A+ 耐久:A 敏捷:B 魔力:E 幸運:C 宝具:A
【クラススキル】
対魔力:B
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。
単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。
【保有スキル】
クラス4:A
大魔術師グラン・クロワの導きを受けて、黄金の騎士ロキとの一騎打ちに勝利したデュランが得た力。
勇気のオーブにより、デュランは比類なき力を発揮できる。世界を破滅に導こうとする大魔女アニスが相手になろうとも、決して負けることはない。
【宝具】
『救世主が振るうは、光陣剣(トライアルズ・オブ・セイヴァー)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:‐ 最大補足:1人
クラス4・セイヴァーにクラスチェンジしたデュランが振るう光の剣。
魔法陣で敵を拘束し、光の如く勢いで駆け抜けながらダメージを与えて、最後に極光を炸裂させる。
斬撃はもちろん、その輝きを浴びた者は致命傷を避けられない。
【Weapon】
勝利の剣
【人物背景】
草原の王国フォルセナで生まれ、黄金の騎士と称された父・ロキに憧れて剣士に憧れた青年。
強さを得るために自己研鑽を欠かさず、負けず嫌いな性格。言動は荒っぽいが、身近な人間からは慕われており、英雄王リチャードに対しては敬意を欠かさない。
その実力はフォルセナでもトップレベルで、祖国を守るファイターとして活躍していた。しかし、ある夜に魔法王国アルテナから紅蓮の魔導士の襲撃を受けて、圧倒的な魔力に敗北する。
幸いにも命は助かったが、紅蓮の魔導士の犠牲になった仲間は多く、デュランの誇りが砕け散ってしまう。
だが、英雄王リチャードを侮辱した紅蓮の魔導士を許すことができず、デュランは強くなりたいと心から願うようになり、旅立った。
旅の中でデュランは数多くの仲間達と出会い、共に戦い、確実に強くなった。
やがて、デュランと仲間たちは世界の運命を左右する戦いにも関わるようになる。世界を救う為、大魔術師グラン・クロワの祝福を受けてセイヴァーにクラスチェンジした。
クラスチェンジを果たしたデュランは、仲間達と力を合わせて数多くの戦いに勝利する。そして、大魔女アニスやブラックラビはもちろん、マナの聖域を襲った巨悪の打倒を果たした。
【サーヴァントとしての願い】
マスターと、マスターの家族を守るためにこの剣を振るう。
【マスター】
宮美三風@四つ子ぐらし
【マスターとしての願い】
家族みんなで過ごせる家に帰りたい。
【ロール】
普通の中学生。
宮美家の四姉妹として過ごしています。
【能力・技能】
運動はやや苦手だけど、手芸や絵が得意。
得意科目は国語で、理科と数学が苦手科目。ただし、テスト勉強をしたおかげで点数を取れるようになった。
また、四つ子で生活したおかげで家事スキルも身についている。
【人物背景】
宮美家の三女。
生まれてすぐに施設に預けられ、家族のことを知らないまま育ったものの、ある日から自分には家族がいることを知る。
姉の一花と二鳥、妹の四月と共に暮らすようになり、姉妹の絆を深め合っていく。
【方針】
元の世界にいるみんなも、この世界にいるみんなも大切にしたい。
【備考】
原作第8巻以降からの参戦です。
以上で投下終了です。
以上で投下終了です。
投下します
彼女たちは、怯えた。彼女たちは、嘆いた。彼女たちは、絶望した。
私たちは魔女じゃない、あなたたちと同じ人間です。しかし、その声は聴き届けられなかった。
そうして、彼女たちは晒され、辱められて、その身を焼かれた。
灼熱の地獄の中、この世を呪う。
それこそ魔女は、魔女らしく。
奇しくも彼女たちは魔女となった。
―― 「悪意、恐怖、狂気、憎悪、憤怒、絶望……」
―― 「……ワタシタチは、『ワルプルギスの夜』」
------------
……というのがこのサーヴァントだったのだが…
「う〜ん、なんだかとっても嫌な夢をみた気分がして、調子が悪いわね…?」
どういう訳なのか、そんな彼女たちがとりついているはずの少女はいつもと全く変わらない様子だった。
「まあ、美味しいご飯でも食べて、畑仕事でもすれば気分も晴れるだろうし、調子が悪いのも直ると思うし、早速行動に移しましょう!」
実を言うと、このサーヴァントを呼び出したマスターの精神力があまりにも強すぎたためにその意識が封じ込められてしまったのである。
―― このマスターの名前はカタリナ・クラエス、前世の記憶を基に破滅フラグを回避しつつも、生来のお人よし故に沢山の人を救い続けた少女である……。
【クラス】アヴェンジャー
【真名】ワタシタチ
【出典】Alice Re:Code
【性別】女性
【属性】混沌・悪
【パラメーター】
筋力:C 耐久:A 敏捷:D 魔力:A++ 幸運:D 宝具:A++
【クラススキル】
復讐者:D(A++)
復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情は直ちにアヴェンジャーの力へと変化する。
なお一体化しているマスターの影響により、下記のスキルを含めて相応に低くなってしまっている。
忘却補正:E(A++)
人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。
忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃はクリティカル効果を強化させる。
自己回復(魔力):C(B)
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。微量ながらも魔力が毎ターン回復する。
【保有スキル】
拷問技術:E(A)
卓越した拷問技術。
拷問器具を使ったダメージにプラス補正がかかる。
このサーヴァントの場合、生前に自分達が受けた数々の拷問を再現しているだけに過ぎないが
そのどれもが筆舌に尽くしがたい苦痛を与えるものとなっている。
支援呪術:D(B)
敵対者のステータスを1ランクダウンさせ、判定次第で様々な呪詛も付加する。
人々が彼女たちを『魔女』として扱い続けたことにより発生した呪い。
情報抹消:A
アヴェンジャーに対して、能力・容姿・真名などあらゆる情報を残すことができないという呪い。
このアヴェンジャーを指す名前が永遠に失われており、便宜上名前とされているものも『仮初めの名前』に過ぎないことによるスキル。
【宝具】
『ワルプルギスの夜(ワタシタチ)』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
このサーヴァントを表す仮初めの名前にして、この世界を取り巻く憎悪そのものを取り込み続ける宝具。
いわれなき罪により苦しみ続ける人たちの怒りや憎しみ、嘆きなどの負の感情を取り込み続け、自身の能力を永続的に強化し続けるものであり、
その特性故に強靭な精神力を持つものか、そもそも自分の意識自体が希薄な存在でなければその力に耐えられず、
最終的にこのサーヴァントに身体を乗っ取られてしまうというかなり危険な代物。
『獄炎の復讐者(エゴ・インフェルノ)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜100 最大捕捉: 1人
このサーヴァントが受けた最大の苦痛たる『浄化の炎』を、対象が消滅するまでこの世に顕現させる宝具。
いわゆる『火炙りの刑』を再現したもので、『対魔力』や『神の加護』を含むありとあらゆるスキルをもってしても
そのダメージを軽減することのできない炎を相手にまとわせるというもの。
【weapon】
犠牲者たちの怨念が変化した、全身を取り巻く青白い炎たち。
【人物背景】
魔女裁判により無実の罪を着せられ処刑された人々の、負の感情の集合体。
その特性故に決まった姿を持っておらず、召喚された時点で自分のマスターと一体化して
疑似サーヴァントに変化することで現界する特殊なサーヴァントでもある。
また人格についても多少の変化が発生し、主に『炎に魅せられる』、『全身に悪寒が発生する』、
『異様なまでに他者を取り込もうとする』など異様な精神状態になってしまう。
【サーヴァントとしての願い】
世界に呪いを振りまく。
……ただし現在はマスターの強靭な精神力にのみ込まれたことで自らの意志が封印されており、表に出られなくなっている。
それと同時に、『炎のような熱さ』ではなく、『太陽のような温かさ』を感じ始めている。
【マスター】
カタリナ・クラエス(野猿)@乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…
【マスターとしての願い】
破滅フラグを回避して、絶対に元の世界に変える。
……できることなら、悪夢に出てきた人たち(アヴェンジャー)のことも救いたい。
【weapon】
なし。
【能力・技能】
土の魔力を鍛える訓練と、国外追放された際に自給自足できるようになるために始めた
農業のスキル。
それ以外だと土を少し盛り上げることくらいしかできないほどにスキルの低い魔法くらいである。
【人物背景】
女性向け恋愛SG『FORTUNE・LOVER』シリーズにゲーム主人公のライバルの1人として登場する女性キャラクターであり、
通称・野猿と呼ばれていた女子高生が転生した悪役令嬢。
8歳の時に転んだ拍子で頭を打ったことで前世の記憶を取り戻し、自分が今後迎えるであろう破滅を回避するために
東奔西走をしている。
なお記憶を取り戻してからは平民以上に庶民的(あるいは野猿的)な言動を度々してしまうため、
当然ながら貴族社会の人々は驚愕して唖然となり、父親も自分が甘やかしたのが原因であると後悔していたりする。
【方針】
とにかく破滅フラグを回避して、なんとしても生き延びる。
投下終了です
ありがとうございました。
投下します
「ここはどこだろう」
レイリは目を覚ますと知らない納屋の小屋にいた。
一番最後の記憶は村にやって来た戦士(ヤザタ)の二人、クインとサムルークの様子を見に行ったところだ。
そこで彼女らにすごい剣幕で静止を促されたと思ったら、もう帰るって言われ、それが悲しくて、帰らないでってお願いしたら、胸に剣が生えていた。
「ああ、わたし。死んだんだ」
レイリはあっさりと自分の末期を理解した。
六歳の幼女である彼女が自分の死について淡泊なのはいた世界が殺伐としていたためである。
善と悪が戦う世界でレイリは善の村人だった。
悪なる人々──不義者(ドルグワント)の中でも強力な個体を「魔将(ダエーワ)」といい、レイリのいた星では凶悪な魔将によって都市が三つも地図から消えた。
しかしながら疑問が残る。
レイリのいた村では善なる人々──義者(アシャワン)しかいなかったはずだ。
ならば自分を殺したのは一体誰なのだろうか。
しかし疑問はすぐに別の感情に上書きされた。
「寂しい……」
レイリは孤独だった。
母親は死に、村全体が暗鬱としていた。
それがレイリには寂しくて、苦しかった。
善と悪の闘争は量と質の戦いであるがゆえに数に頼る義者は弱い。
母は死に、不義者に虐げられる義者は暗く、はじめに暴れ回る魔将から守ってくれる人はいなかった。
だからカミサマに祈った。
するとクインとサムルーク、マグサリオンという善の戦士が現れて魔将を倒してくれた。
村は歓喜に包まれた。皆が明るくなり、レイリも嬉しかった。
だがクインたちは派遣されてきた戦士だ。敵を倒せば帰ってしまう。
それが嫌で、カミサマにお祈りしたけど、今回ばかりは通じず絶望したまま訳も分からず死んだのだ。
レイリの体感的には絶望した直後なので孤独感は拭えていない。
「あれ、何でわたしはカミサマを持っているんだろう」
レイリの手元には自分が『カミサマ』と呼ぶ流動する水銀のようなものが握られていた。
部屋の祭壇に置いて祈っていたものをなぜ持っているのかという疑問はすぐに解消した。
「そうか、カミサマはわたしを助けてくれるんだね」
レイリは戦士ではない。
だから祈るだけだ。
お願いです。どうか優しくて強いお方をわたしのところに遣わせてくださいと。
するとレイリの左手の甲に手の甲が浮かぶ。
そして──
「サーヴァント……ん、ダエーワ? 何よこれ」
祈りが通じたのか。風が吹いたと思ったら、目の前に恐ろしい黒い戦士がいた。
その属性は混沌にして悪。紛れもなく不義者。間違いなく魔将。
「ん? どうしました。その顔は」
なのに、なぜかその人は親しげで私に語り掛けた。
黒い旗。黒い剣。黒い鎧。なのに肌と髪は白磁の如く。
「まあいいわ。サーヴァント・ダエーワ。ジャンヌ・ダルク。召喚に応じ参上いたしました。
さあ、契約しましょう。お嬢さん」
カミサマに祈った結果、■■が召喚された。
その因果をまだレイリは知らない。
【マスター】
レイリ@黒白のアヴェスター
【マスターとしての願い】
寂しくなく、明るいところで生きたい
【weapon】
・カミサマ
流動して次々と形を変える水銀のような小物。
その正体は魔将の王が作った作品の一つ。
機能は「“みんな”の祈りを吸って魔将を生み出す」というもの。
召喚された魔将は召喚主は襲わないが周囲に甚大な被害を与える。
善の人々の中でも弱者に分類されるレイリにはこれが邪悪な一品だと気付けない。
【能力】
・祈り
カミサマに召喚される魔将の強さは祈りの強さに比例する。
レイリは特に祈りが強く召喚された魔将は災害級だった。
・真我
アヴェスター。
相手が善悪のどちらに所属するかが分かり、かつ自分とは逆であれば敵対する本能のようなもの。
レイリは善であるゆえに悪の人物(サーヴァント問わず)を感知し、自動的に敵対する。
ただし呼び出されたサーヴァントは例外のようだ。
【人物背景】
善なる幼女。
真我に囚われた世界は宇宙単位で善悪の闘争が行われており、レイリのいた星だけが戦いの場ではない。
しかし、そんなことはレイリには関係なく村を救ってくれた救世主──クインたちにずっと村を守ってほしかった。
結果、『カミサマ』にお祈りをし、命を奪われた。
ちなみにレイリの村の周りで暴れていた魔将もレイリと村人の祈りを吸って生まれた存在である。
つまり無知な人々によるマッチポンプだったのだ。
【方針】
誰か、わたしを、守って
【サーヴァント】
【真名】
ジャンヌ・ダルク・オルタ@Fate/Grand Order
【クラス】
ダエーワ(魔将)
【属性】
混沌・悪
【ステータス】
筋:A 耐:C 速:A 魔:A+ 幸:E 宝:A+
【クラススキル】
・魔力放出(悪):C
ダエーワのクラススキル。
我力と呼ばれる「我意で世界を歪める力」を使うことができる。
Cランクだとスプーンですくうような動作で建造物3棟をえぐり取るようなことが可能。
・真我(悪):
善の存在の認知および敵対行為をする本能。
ジャンヌ・ダルク・オルタの場合、人間全てが復讐対象であるため善は勿論、悪を喰らう悪である。
したがって善悪の立ち位置は関係ない。
・復讐者:B → E
クラスは魔将であるが復讐者のクラススキルは失われていない。
しかし「悪とは邪気が微塵もなく好き勝手に生きる」という特性があるためランクダウンしている。
恨み・怨念がわずかに貯まる。
・忘却補正:A → D
クラスは魔将であるが復讐者のクラススキルは失われていない。
しかし「悪とは邪気が微塵もなく好き勝手に生きる」という特性があるためランクダウンしている。
彼女の憎悪は忘れえない。
・自己回復(魔力):A+
クラスは魔将であっても大して変わらない。
魔力を微量ながら毎ターン回復する。
聖杯の願望で生み出されたためか、特級の回復量。
・自己改造:EX
聖杯による特級改造。
聖女を完全反転させ、混沌・悪まで堕としめている。
・竜の魔女:EX
邪竜百年戦争で猛威を奮ったスキル。
低級の竜種を支配下に置き、旗の一振りで操ることができる。
同時に規格外の騎乗スキルを兼ねており、このスキルを獲得することで竜種に騎乗することすらも可能。
・うたかたの夢:A
個人の願望、幻想から生み出された生命体。
願望から生まれたが故に強い力を保有するが、同時に一つの生命体としては永遠に認められない。
全てが終わった後、彼女は静かに眠りに就く。
【weapon】
旗と剣。あと魔力の炎。
【人物背景】
聖杯によって生み出された「復讐を望む魔女ジャンヌ・ダルク」。
つまりジャンヌ・ダルク本人ではない贋作である。
しかし、ジャンヌ・ダルクが復讐するのではないかという人々の信仰が篤かったゆえに彼女は霊基を高めてサーヴァントとして成立させることに成立した。
サーヴァントクラスはダエーワであるが、ほぼアヴェンジャー時と変わらない。
サーヴァントのマスターに対する忠誠心のようなものと真我による善への敵対心が拮抗している状態。
つまり苦しい上に復讐者として全身が焼かれる痛みが常に襲ってきている状態であるはずだが、よく考えたら日常的なことなので苦にならない。
「アレ? これアヴェンジャー先輩(アンリ・マユ)の世界観じゃない」と本人は少し面白そうにしている。
【方針】
マスターとちゃんと契約したい。
投下終了します
>>藤崎佑助&雲沼ジグ
どちらもなかなか懐かしい作品からの出典ですね。
ボッスンの方針は正当な対聖杯派という感じですが、問題なのはやはりサーヴァントであるジグの方か。
なかなかに厄いステータスをしているので、波乱を巻き起こさないわけはなさそう。
厄介な性質の上に順当な強さも持ち合わせているというのが非常に厄介なサーヴァントだなあと感じました。
>>BABEL
人間に対する憎悪と復讐心を共通点に持つ主従ですね。
なかなかにトリッキーではありますが強力なスキルと宝具を持っているので厄介だなという印象を受けました。
暗躍もお手の物な性能をしているので聖杯戦争の舞台を引っ掻き回してくれそうです。
マスターの方もサーヴァントばりに戦えるようですので、かなり強力な主従と言えそうですね。
>>星野アイ&ライダー
置いていった母親と守れなかった父親の組み合わせ、いいですね〜〜……。
暴走族神こと殺島の父親としての面をクローズアップした一作、とても情緒的でお見事でした。
「子供(ガキ)かよォ……はは」「帰ってやれよ、早く。お前は……戻れんだからよ」の悲哀がたまりませんね。良い。
マスターのアイの吐露する想いも切実で、眩しくも儚げな雰囲気を感じ取れました。
>>EAT,KILL ALL
マキマさんだ! と思ったらとんでもないサーヴァントをしかもカウンターとして喚ばれてて爆笑。
やることなすことむちゃくちゃなのはステシを見ると瞭然なので、彼女がヒーロー視するのもやむなしか。
そして税金の悪魔の下りとか、純粋にチェンソーマンの二次創作として面白いのが良かったです。
作中では死後言及されるだけに留まった支配の悪魔の本質にも触れており、読んでいてとてもおもしろかったですね。
>>Dancing Mad
何騎目かのアイドルサーヴァントですね。しかも今回はフォーリナー。
自分ではちょっと思いつかないアイデアと組み合わせだなあと感心させられました。
とはいえ彼女をサーヴァントにするならフォーリナーはすごく合っていると思います。
「この街は大きすぎるし、何か、事件や事故が多すぎる……!」かわいそう(こなみかん)
>>ひみつの聖杯戦争、スタート!
児童文学の雰囲気を再現するのがめちゃくちゃ上手いな〜〜と思いました。
幼い少女の無邪気さと善性、そして苦心が詰まっており、読んでいて飽きないお話だった印象です。
そしてそんな彼女に仕えるサーヴァント・デュランの毅然とした在り方もまた格好良くて素敵です。
善良な少女にふさわしいまっすぐなサーヴァントの彼には頑張って欲しいですね。
>>精神攻撃は、〇〇には通用しないのが世の常
これはまたなかなかに壮絶な厄ネタサーヴァントですね。
生まれが生まれなのでただただ最悪な存在、まさにアヴェンジャーか。
とはいえそんなアヴェンジャーを呼び出したマスターもこれはこれで規格外なようで。
いつ破裂するかわからない風船みたいで面白い組み合わせだなあと思いました。
>>カミサマに祈る
……かと思えばこっちはマスターが何やら非常にやばそうなアイテムを持っていますね。
聖杯戦争なんて環境でこんなものがあるととんでもないことになりそうで恐ろしいです。
そして奇妙なことにダエーワなる新クラスで呼び出されているジャンヌオルタ。
不穏なものを感じずにはいられない主従、秘められた危険度はかなり高そうです。
皆さん本日もたくさんの投下ありがとうございました!
投下します
その存在がまず最初に感じたのは“歓喜”であった。
肺に吸い込む空気は清水のように透き通って感じられた。
やけに散らかった匂い立つ部屋の窓から射し込む光ですらもが愛おしく思えた。
それに当たれば自分の肌は醜く焼け爛れ崩れていくと知っていてもだ。
今はこの目に写る全てが、この肌で感じる全てが、ただただ懐かしくて愛おしくて仕方なかった。
曰く阿鼻地獄の刑期は京に匹敵するという。
故にその地獄に落とされ無限と見紛う刑罰を受けることと相成った男にとって、此度まろび出た現世は楽園にしか見えなかったらしい。
「感謝。感謝か。
その感情を自覚したのは生まれて初めてだ。礼を言うぞ界聖杯とやら」
男は人の身を超えた存在であった。
男女の陰陽すら超え、定命の縛りさえ超え、千年の時を生きた。
自分の生のために他の全てを踏み台とし数え切れない嘆きと怒りを生み出した。
その結果彼は人の想いに滅ぼされ無間に続く阿鼻地獄へと堕とされたが、死んで治るような悪癖ならばそもそも千年は続かない。
地獄よりまろび出た今でさえ、男はあるがままの己を保っていた。
彼の真名は、鬼舞辻無惨。
クラスは、バーサーカー。
狂気と呼ぶにさえ悍ましく禍々しい精神構造を有した、千年分の悲憤の源流。
全ての鬼の、始祖である。
「ついぞ誰一人私の役には立たなかった。
青い彼岸花は見つからず、鬼狩りを滅ぼすことも叶わず。
最期に抱いた願いの的すら私の期待に応えるには至らなかったが……」
あまりにも多くの人間が彼のために地獄へ堕ちた。
鬼舞辻無惨が生まれたことで生まれた笑顔と生まれたことで失われた笑顔の数を比較すれば、勝つのは圧倒的に前者だ。
無惨自身そのことは自覚しているし知っている。
知っているが、だから何だというのだ。
彼はそう思っている――今もなお。
地獄に堕ち、己の罪を痛み苦しみという形で思い知らされた今であってもだ。
馬鹿は死んでも治らないというが、それは鬼畜の性もそうであるらしい。
無惨に自分の罪を悔いる心などは未だ一切芽生えていない。
そしてそれは今後も変わらずそうなのだろう。
彼にとって全ての犠牲は己のためで、おまけにそのどれもが己の本懐に届かなかった役立たずという認識だ。
彼方におわす神も仏もこの男の汚れた魂を浄化することだけは不可能であったらしい。
「全能の願望器、界聖杯――それさえあれば私の願いは叶うのだな。
太陽を克服し、他のあらゆる危害も寄せ付けない完全にして究極の肉体。
正真正銘の不死を実現出来るのだな?私は。たかだか数十の犠牲を経るだけで」
無惨の道はかつてと同じだ。
彼が目指すのは永遠の生。
当然だろう、彼はただ生きることだけに特化した生命体。
人間的幸福の全てよりも先に“生きる”という目的が存在する突然変異種。
その彼が目指すのは当然聖杯。
青い彼岸花など屑に思えるような奇跡の恩寵――完全なる不死。
「私は永久を生きる究極に成れる……!!
もはや日光に怯えることも、異常者の影を鬱陶しがることも、地獄の責め苦に眉根を寄せることもないのだ。
聖杯さえ手にすれば……それだけで! 私の願いは永久に満たされこの身この魂は最果てまで続く! 想いを受け継ぐ必要すらない!!」
生き物は全て例外なく死ぬ。
故に思いこそが唯一その例外であり不滅。
肉体は死ねばそれで終わりだが想いだけは決して滅ばず受け継がれ、本来到底及び得ぬ大きな存在でさえもを打ち負かす。
それは無惨が千年の果てに見出した一つの悟りであったが。
死を経てなお蘇る魂を知った今では――全ての願いを叶える全能を知った今では。
ああ全て無用。全て無意味。
聖杯こそがこの千年の生の答えであったのだと、今鬼舞辻無惨は理解した。
「あなたはずっと生きていたいだけだったのね。
最初からずうっと。ずうっと、最後までそれだけ。
うふふ、なぁんだ。最初から素直にそう言えばよかったのよ、死にたくないって」
界聖杯を掴む。
全能の願望器で願いを叶え己は真の不滅を実現する。
千年と阿鼻地獄の久遠を重ね合わせても尚到達し得なかった最大の希望を前にした鬼舞辻無惨の耳朶を不快な声音が叩いた。
それは女の声で、砂糖菓子のように甘ったるい声だった。
ひどく優しく、しかし耳にまとわりついていつまでも離れない声。
無惨は彼女の声から煮立てた糖蜜の像を見出した。
「何だ、お前は」
「あなたの人生を夢で見たわ。
とても悲しくて苦しくて何かに怯えてばっかりの人生。
楽しいことなんて一つもなかったのね。いつも怯えて、怖がっていたから」
「私の声が聞こえなかったのか?貴様」
産屋敷耀哉という男を無惨は知っていた。
聞くだけで人の心を拐かすという奇妙奇怪な声を持った男だ。
実際に対面した時も、無惨はその声に自分とは決して相容れない不快な色を見出したが。
彼をこの聖杯戦争に召喚したマスターの女に対しても彼はそれを見出していた。
だが、種類は違う。決して同じではない。
この女の声と貌は、さながら犇めく集合体のようだった。
「ただ生きていたかっただけなのに皆にそれを否定されて。
辛かったわよね。苦しかったわよね。
あなたはただ生きていたかっただけなのにね?」
「その何が悪い。生命活動の続行に全てを費やすのはあらゆる生物の本質だろう。
私はただあるがままに生を望んだだけのこと。狂しているのはそれを悪と看做すこの世の方だ」
「悪いだなんて言ってないわよ?私はあなたを決して否定しないわ。
だってあなたはとても可哀想だもの。ずっと独りぼっちで誰にも理解されなくて。
そんな死人みたいに青ざめた顔で、何百年も頑張ってきたんだものね?」
死人みたいに青ざめた顔。
その言葉を聞いた瞬間、無惨は女の首を掴み吊り上げていた。
猫の瞳孔のような瞳を冷たく彩りその奥に正真の殺意を隠して。
ぐ、と音を立てて女の細い首へ力を込める。
「その薄っぺらな口で私を語るのか、お前は。
不愉快だ。改めなければ貴様を今此処で殺す」
「……ふふ、ごめんなさい。
でもね、見たの――私。さっきも言ったでしょう?
あなたが産まれて生きて、救いようのない悪魔として滅ぼされるまでの人生を」
包帯とガーゼの目立つ身体と人形のように精微な顔貌。
口元を三日月のように吊り上げて女は歌うように語る。
その右手には確かに、鬼舞辻無惨を従える者の証である三画の令呪が刻まれていた。
「存在してはいけない生き物なんてこの世にいないわ。
あなたがどんなに救いようのない悪魔でも生まれたことにはきっと意味がある。
私がそれを肯定してあげるわ。だから安心して? 鬼舞辻くん」
「…………」
「私はあなたの知らない感情(もの)を知ってるの。
知っているかしら? ううん、きっとあなたはこれを知らない。
だってあなたの目、とても冷たいもの。あなたの声、とても虚ろで寂しいもの」
異常者という存在を無惨は知っていた。
それは死を受け入れない存在で、過去にしがみつく存在であった。
敵いもしない相手によって奪われた命を後生大事に背負った挙句、弁えることもせず他ならぬこの自分へ一目散に駆けてくる気狂いの集団。
結果的にそれに滅ぼされたのだから忘れるべくもない。
その恐ろしさも利点も、無惨は余すところなく知っている。
だが。
今彼の目の前で弧を描く口で微笑む女は、彼の前に立ったどの鬼狩りとも違う“異常者”に見えた。
「鬼舞辻くん。あなた、誰にも愛されたことがないのよね」
首を絞められて吊り上げられながら。
女は無惨の顔に手を伸ばしていた。
華奢な手で頬に触れる。
酸欠の苦しみを幾らも宿さない薄笑いの貌で何やら言祝ぐ。
「でも私は違うわ。私は、私だけはあなたを愛してあげられる。
誰にも愛されたことがないあなたを抱きしめて、満たして、赦してあげられるの。
どんなあなたも愛してあげるわ。あなたの過ごした空虚な千年ぶん、私がぜーんぶ満たしてあげる」
「殺されたいのか?」
首を絞める力が強まる。
女の筋肉かあるいは骨か。
分からないが何かが軋む音が鳴る。
「知った口を利くな、人間。
お前は私が願いを叶えるまでの仮の柱に過ぎん。
私がこの世に留まるための要石なのだ。
その分も弁えず大言壮語を繰り返すのなら痛みを与える。もしくは死を下す」
「いいえ?あなたは私を殺せない。
……だってあなたはバーサーカー。マスターなしでこの世界に留まる力なんて持ってないでしょう?」
「貴様」
鬼舞辻無惨は癇癪の性を持つ。
彼にとっては一時の怒りが万事に勝るのだ。
そもそもその悪癖がなければ、彼はこれほどまでの悪鬼にはなっていなかったはずなのだが。
無惨は決して過去を省みない。
己の不興を買った輩が悪いのだと信じて疑わないし、その性は一度死んで地獄に堕ちた程度で矯正されるものでは断じてなかった。
それ故にこの時無惨は心の底からの殺意と共にマスターの女の首を握り潰さんとした。
その致命的な愚行を未遂に終わらせたのは、他でもない仮初めの主の言葉。
「いいわよぉ。そのままぎゅってして」
女はただ笑っていた。
怖がるでもなければ強がるでもない。
にたぁという擬音の似合う粘っこい顔で笑っていた。
笑って、今まさに致命の過ちを犯そうとしている自分のサーヴァントに両手を差し出していた。
「殴っても蹴っても、絞めてもいいわ。
それとも手足を一本ずつちぎってみる?
夢の中であなたがやってたみたいに乱暴に食いちぎる?
私は人間だからすぐに壊れちゃうかもしれないけどなるべく耐えるようにするわね。
愛されたことのないあなたの孤独を、私がぜ〜んぶ受け止めてあげる」
鬼舞辻無惨の怒りは人間のみならず、彼の同族である鬼たちにとっても恐怖と絶望の象徴だった。
よほど重用されているお気に入りでもない限りその場で殺される。
ただ殺されるだけならばまだマシだ。
最悪、身体を生きながらに崩壊させられて万死に勝る苦痛を与えられる可能性さえある。
過去に無惨の怒りを躱し逆に機嫌を取ってみせたある鬼は、眼前の怒れる無惨に殺されようとしているこの瞬間すら夢見心地であると称した。
その異常性を買われ生き延びた鬼の名を魘夢といったが、彼はあくまで鬼。
今自分の首を握り潰さんとする無惨の手を愛おしそうに撫でて笑っているのは、正真正銘ただの人間なのだ。
傷だらけでゴミと汚物の匂いがする、妙齢の美女。
鬼である無惨にしてみれば、食糧か精々鬼化させる候補程度にしかなり得ないだろう陳腐な存在。
「だからほら。私で千年ぶんスッキリしちゃお?」
「……」
「それとも気持ちいいことの方がいい?
そうよね。鬼舞辻くんは千年間ずっと落ち着く暇もなかったんだもんね。
いいよ。私に出来ることなら何でもしてあげるから好きにして?
殺す?犯す?もっとひどいこと?恥ずかしいこと?鬼舞辻くんは何が好きかな?」
無惨は女の身体を汚れた床へと投げ捨てた。
きゃっというわざとらしい悲鳴と共に女の軽い体重で床板が軋む。
無惨は背中を打った彼女を見るのではなく、自分自身の手を見つめていた。
それはまるで、何か誤作動を起こした機械を見つめるような眼差しだった。
殺すと決めた女。
それを何故今自分は投げ捨てた。
答えは未だ判然としないが。
もしも彼が普通の肉体と寿命を持った“人間”のままであったならば、その答えはすぐに弾き出せたかもしれない。
気持ちが悪い。
彼の感情を言語化するならそれに尽きる。
葉の裏に群がる毛虫を見つけた時のような。
腐敗した犬猫の死骸が膨張してぶぅぶぅと奇怪な音を立てて弾けているのを見た時のような。
そんな、身体中の毛穴が粟立つような生理的嫌悪感。
「その汚れた口で喋るのを今すぐ止めろ」
伸ばした腕が肉の塊に変わる。
質量保存の法則を無視した異形の身体は無惨の身体を離れて女の半身を包み込んだ。
単なる拘束の一環ではあるが、たかが拘束といえども鬼の御業。
華奢で非力な女が自らこの戒めを解くのはまず不可能であるに違いない。
「お前は私が完全な生物になるための贄に過ぎない。
私以外の全ての英霊が死んで界聖杯が降臨するまで、お前はただ魔力を吐き出し続けていればいいのだ」
「分かったわ。それまで生きていればいいのね?」
「業腹だが、お前の存在がなければ私は現界を保てない。
別な贄が見つかるか……聖杯の降臨を果たすか。
それまでは貴様のような汚らわしい売女が呼吸することを許してやろう」
鬼舞辻無惨は真に化物と呼ばれるべき存在を知っている。
息を吸って吐くように道理を無視し、人間の限界を超えて剣を振るってくる“恐怖”を知っている。
重ねて言うが無惨は理解不能な異常者も知っている。
何百年も無駄な犠牲を払いながら、それでも戦うことを止めない知性と理性の破綻した鬼狩り集団。
最終的に想いを受け継ぐことの意義を理解した無惨の中では今でこそ印象が多少変わっているものの、それでも無惨にとって鬼狩り――鬼殺隊と名乗る人間の群れは狂気の集合体にしか思えなかった。
しかし、である。
肉で戒められ全ての自由を奪われながらもにやにや、にたにたと笑うこの女は――無惨にはそのどれとも違う異様な生き物に思えてならなかった。
「もしも令呪などで私を縛ろうものなら即座に殺す。
その肉は私の意思一つで動き貴様を殺傷するある種の呪いだ」
「あら。他人に命令されるのは嫌いなのね、自分は命令してばかりなのに」
「黙れと言った。貴様の不快な声音が私の鼓膜に触れるのは虫酸が走る」
鬼舞辻無惨は悲しみと怒りの源流だ。
彼がいなければ失われなかった命も、起こらなかった悲劇もどちらも無数に存在する。
その癖無惨は自分が生んだ悲劇に目もくれない。
己を天災のような存在であるとし、それに殺された命に延々固執するのは頭の膿んだ狂人の所業であると心の底からそう信じている。
そう、だからこそ。
この千年、誰もが彼を愛さなかった。
恐怖と力で隷属させた鬼達もそうだし、人間どもなど以ての外である。
彼が人間に擬態して作った妻や身内も、彼の真実を知れば誰しも恐怖か怒りでその心を染め上げたはずだ。
鬼舞辻無惨は生まれてはならなかった命、存在してはいけない生き物であり。
何を置いても殺し滅ぼす必要があると誰もが口を揃えてそう言った。
現世で生きた千年間。
只の一度も、“鬼舞辻無惨”を愛する者など現れはしなかったのだ。
なのに――今。
「寂しくなったらいつでも来てね」
無惨に愛を囁いて微笑む狂人が彼の主を名乗っている。
業腹ながら無惨には理解出来てしまった。
この女はきっと、殺されたとしてもこの薄ら笑いを崩さない。
愛なる、無惨が持たない概念、与えられたこともない概念。
それを囀りながら死んでいくのだろう、この女は。
「私はずっとここにいるから。
この世界でたった一人のあなたのマスターとして」
いつでもあなたを待ってるから。
その言葉に耳を貸さず無惨は霊体化する。
やるべきことは山積みだ。
陽光の下を歩けない忌まわしい束縛は今も健在。
故に昼間は影に潜みつつ、鬼を増やすなり何なりして外堀を埋めていく必要があろう。
そのためには無惨が人の皮を被り、演じ、状況を整えていかねばならなかった。
本来ならばそれはマスターの仕事なのだろうが……この女にそれが可能だとは到底思えない。
(この女は不快だ。
すぐにでも替えの魔力袋を用立てなければ……)
無駄な手間を、と無惨は舌打つ。
今やその姿は人間であるマスターの目からは見えないが。
それでも彼女は無惨がいるのだろうと当たりを付けた虚空を見つめて笑っていた。
【クラス】
バーサーカー
【真名】
鬼舞辻無惨@鬼滅の刃
【ステータス】
筋力C 耐久EX 敏捷C 魔力B 幸運D 宝具A
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
狂化:EX
地の底で固定された人格。
人間的感性を持ち合わせず良心の欠片も持たない存在。
ステータス上の恩恵はないが、Aランクまでの精神に対する干渉をシャットアウトする。
【保有スキル】
生存意欲:A+
バーサーカーは生きるということに特化した生物である。
自身の死を回避するために行動する際、判定値にプラス補正を受けることが出来る。
同ランクの戦闘続行スキルをデフォルトで内包する。
鬼種の魔:A+
鬼の異能および魔性を表すスキル。
鬼やその混血以外は取得できない。
天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出等との混合スキルで、バーサーカーの場合魔力放出は衝撃波が主。
捕食行動:A
人間を捕食する鬼の性質がスキルに昇華されたもの。
魂喰いを行う際に肉体も同時に喰らうことで、魔力の供給量を飛躍的に伸ばすことができる。
無力の殻:B
人間に擬態することが出来る。
擬態中はサーヴァントとして感知されなくなるが、人の五感までは騙せない。
【宝具】
『千年の始祖』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
鬼の始祖。
鬼舞辻無惨。
千年を生き、同族を増やし、人間を食糧として消費させ続けたその元凶。
彼の肉体には五つの脳と七つの心臓が備わっており、それが常に体内を移動して位置を変え続ける。
異能の域に及ぶ瞬間再生能力、自分の肉体を自在に変化させられる万能性、人間を鬼に変える呪わしき血。
増やした同族に対して呪いをかける能力……等多種多様な異常能力を扱うことが出来る。
しかし欠点として日光を浴びると肉体が焼け焦げ、浴び続ければ灰になって消滅してしまう。
このため太陽の属性を持つ宝具、それどころかただの太陽光でさえ致命傷になり得る。
バーサーカーの血液を注入されても英霊は鬼化しないが、それ自体が非常に有害な物質であるためダメージは大きい。
鬼に対する支配能力は据え置きだがもし仮に英霊の座から呼び出された彼謹製の鬼が存在する場合、その鬼に対しては支配と呪いが働かない。
【人物背景】
千年を生きる闇。
全ての鬼の始祖。
人の想いと受け継ぐ強さに敗れて阿鼻地獄に堕ちた敗残者。
【サーヴァントとしての願い】
永遠の生命と完全な肉体を持っての受肉。
真の“不滅”へ私は歩む。
マスターについては心底理解不能で気持ち悪いのでさっさと殺したい。
【マスター】
本名不明(松坂さとうの叔母)@ハッピーシュガーライフ
【マスターとしての願い】
ない。
この作り物の世界でいつも通り誰かに愛をあげ続ける。
【能力・技能】
他人の欲を全て受け止め、それを愛として受け入れることに悦びを感じる異常者。
彼女の聖母のようなあり方に入れ込んで破滅している人間も多い。
【人物背景】
若々しくて美しい顔立ちと妖艶な身体を持つ妙齢の女性。
本名不明。ひどく優しくしかし耳にまとわりついていつまでも離れない独特の甘い声色で喋る。
自分の異常さや空虚さを誰かに指摘されても動揺せず微笑み続ける、本物の異常者。
本編終了後、放火の容疑で警察に連行された後からの参戦。
【方針】
聖杯戦争のことは鬼舞辻くんにおまかせ。
私はいつも通り誰かの愛を受け止めるだけ。
投下終了です。
製作にあたり、◆0pIloi6gg.氏の作品「死が二人を分かつまで」を一部参考にさせていただきました。
投下をさせて頂きます。
ある日の午後二時。
私、宮美一花は近くのデパートで買い物をしていた。
「掃除用品や洗剤を買えたし、食材も大丈夫ね!」
生活必需品をビニール袋に詰め終わると、私はデパートを後にする。
いつもなら、姉妹みんなでショッピングをするけど、今日は私一人だけ。妹たちは、家で掃除や洗濯をしているわ。
だって、今は不用意に外を出歩くことは危険だから。
「買い物が終わったから、早く帰らないと……」
私が過ごしているこの街は、いつもの街じゃない。
建物や周囲の道、そして歩く人たちはよく似ているけど、私が住んでいる街とは違う。
ここは聖杯戦争の舞台となった街。この世界に呼び出されて、私は聖杯戦争のマスターにされたの。
気が付いたら、私の頭の中にたくさんの情報が流れ込んでいた。
願いを叶えてくれる聖杯。
聖杯を獲得する為、命を賭けた戦いをすることになった私。
作られた世界の中で生活しているNPCと呼ぶ人たち。
歴史に名を遺すほどの偉業を果たした英雄が、たくさんの想いを受け取って、精霊になって召喚されたサーヴァントと呼ぶ存在。
マスターとサーヴァントはパートナーになって、この聖杯戦争で戦うことになる。
何が何だかわからない。
ただの夢と思いたかったけど、これは紛れもない現実だと思う。
だって、私の手のひらには赤い紋章……令呪が刻まれているから。
この令呪はサーヴァントと契約を果たした証。マスターとして、私が令呪に念じればどんな命令でも聞いてくれるみたい。
でも、私はこんな悪趣味なものを使うつもりはないわ。相手の意思を無視して、言うことを聞かせるなんてひどすぎる!
「……怪しい人は、いないわよね」
周囲を注意深く見渡しながら、私は道を歩く。
見たところ、私を狙っている人影はなさそう。でも、不審者はどこに潜んでいるのかわからないから、警戒を怠ってはいけないわ。
今日だって、私一人でデパートに向かったのも、妹たちが巻き込まれないようにする為よ。
「一花ちゃん、一人で大丈夫なの? デパートにも人がいっぱい集まって大変だよ!」
「せや! ソーシャルディスタンスって言うたけど……一花だけを密に巻き込むのも、あかんよ!」
「一花姉さんが言うように、このご時世だから不安になるのもわかります。でも、一花姉さん一人に負担をかけるのも、悪いですよ……」
三風も、二鳥も、四月も、みんなが私を心配してくれた。
「いつものデパートだし、あらかじめ買うものを決めておけば、時間もかからないわ! 混雑する時間も避けているし、心配しなくても大丈夫よ!」
私はそう説得している。
しばらくの間、密を避ける為に買い物は私一人が担当すると話したわ。今後は、学校や買い物のように必要なこと以外で、不用意に外を出歩かないルールも決めたの。
でも、図書館のような公共の施設に行く場合、事前に伝えれば外出OKにしているわ。宿題で本を借りる時もあるから、そういう時はきちんと出かけないとね。
もちろん、妹たちに聖杯戦争のことは一つも話していないわ。こんな危険な戦いに、大切な家族を巻き込みたくないもの。
「本当に、どうしてこんなことになったのかしら……」
私はため息をついちゃう。
いつもだったら、妹たちの為の買い物はとても楽しいはずだった。大変だけど、家族と一緒に暮らせる喜びの方がずっと大きいわ。
なのに、聖杯戦争という訳のわからない戦いに関わるなんて、冗談じゃないわよ。
私たちの家には妹たちがみんな住んでいる。
でも、彼女たちの正体について聞くことが怖い。本物の妹たちが命の危険に晒されるなんて考えたくないし、NPCだったとしても妹たちが傷付く姿は見たくない。
そして、もう一つ。もしも、何かの拍子で私が人の命を奪って、それを妹たちに目撃されてしまったら……二度と私は家に戻れなくなる。
聖杯の願いなんて関係ない。私が、私自身のことを一生許せなくなっちゃうの。
考えるだけ、不安が積み重なっていく。
不幸中の幸いは、私を守ってくれるサーヴァントが悪人じゃないってことかしら。
「待っていたぜ、マスター!」
デパートを出ると、私のサーヴァントがまぶしい笑顔で出迎えてくれた。
人気アイドルグループのリュミファイブのメンバーに匹敵するほど、顔がとても整っていて、今だって周りからの視線を集めている。
背中で長くまとめられたパープル色の長髪と、アラビア風の衣服も相まって、余計に目立っちゃうわ。肌は褐色で、イケメンの外国人というイメージを与えちゃう。
でも、彼こそが私のサーヴァント。アサシンのクラスで召喚されて、名前はホークアイよ。
「買い物は終わったのかい?」
「ええ。必要なものは全部揃えたわ」
「そいつはよかった! じゃあ、荷物ならオレが持ってやるよ! 女子に荷物持ちをさせるなんて、男の風上にも置けねえからな」
ホークアイは、いかにもキザな言葉を口にしてくる。
私が目立たないように、彼にはデパートの外で待ってもらったわ。あと、マスターとサーヴァントかもしれない人を探すためにもね。
「結構よ! これくらい、私でも持てるわ!」
「そうか? なら、代わりに家までエスコートをしてやるよ。お姫様を守るナイトとして、な!」
「はいはい! 最初からそうするつもりだったでしょ? だったら、怪しい人がいないか注意してちょうだい!」
つかみどころがない態度だけど、私は適当にあしらう。
ただ、いざという時の為にも、彼には周囲を見渡してほしいことは確かよ。人間の私じゃ戦えなくても、サーヴァントのホークアイなら敵に立ち向かえるから。
「それにしても、このトウキョウって街は本当に賑わっているな。お宝のにおいもプンプンするぜ!」
「言っておくけど、変なことを考えるのはやめてよね! あんたが何かしたら、困るのは私なのよ?」
「大丈夫! オレがターゲットにするのは、悪どい商売で人々を苦しめるヤツだけさ! オレは義賊……真面目に働いている人たちを苦しめるマネはしないから、安心しな!」
「そういう問題じゃないわ! 義賊だか何だか知らないけど、誰が相手でも窃盗罪になるの!」
「ハッハッハ、マスターは手厳しいねえ! でも、愛しきマスターの頼みだ……オレの仕事は当分の間、お預けとさせて頂くかな?」
ホークアイは相変わらず気取った態度よ。
人通りが減ってきた頃でよかったわ。こんな会話を大通りで見られたら、絶対に怪しまれるもの。
ホークアイは砂の王国ナバールで盗賊として育ったみたい。
盗賊といっても、弱い人たちからお金を奪わないわ。誰かを傷付けて、財産を奪う悪人をこらしめる義賊なの。
だから、お店で万引きはしないと思うわ。悪人からお金を盗まれてもイヤだけど……
「盗みは仕事なんて言わないわ。立派な犯罪でしょ」
「確かにな。でも、オレはそうやって生きていくしかなかったのさ。マスターはどうだったのかわからねえけど、オレ達の世界じゃまっとうに生きられなかった人間も多い。
圧政に苦しめられて、日々の生活さえもままらなかったのさ。そんな人たちを助けるため、オレは……いや、オレ達ナバール盗賊団は、この道を選び続けてきた」
今までとは打って変わって、ホークアイの表情はとても真摯だった。
彼の言葉は、私の胸に大きく響いた。私だって、まっとうに生きられなかったことがあるから。
施設で育った私は、差別を受けた時期があったの。学校で何かトラブルがあると全部私のせいにされて、どれだけ違うと叫んでも大人は信じてくれず、すっかり私はひねくれちゃった。
とてもくるしくて、みんなのことが大きらいになって、不良になって悪い遊びをたくさん知っちゃったわ。
やがて、施設にも夜おそくまで帰らなくなった。そのせいで、施設から追い出されて……私は里親さんに引きとられた。
「誰に何を言われようとも、オレはオレが歩いてきた道を誇りに思う。
我が友イーグルやオレを拾ってくれたフレイムカーン様、オレと共に戦ってくれた仲間達、そしてジェシカ……みんなはオレにたくさんの宝物をくれたから、オレはそれ以上の宝物を分け与えたいと願っているぜ?」
「……だから、あんたは義賊でいるの? それが、一生続けられるとは限らないのよ」
「それでも、オレ達はこの道を選び続けるさ! 誰か一人にでも、苦しみから立ち上がるきっかけを与えられれば、充分だ」
そう言いながら、ホークアイは誇らしげな笑みを見せてくれる。
とてもまっすぐで、明るくて、私の大好きなお姉ちゃんーー千草ちゃんみたい。
私よりも年上で、変わってる人で、それでいて元気な笑顔を見せてくれる。
千草ちゃんは両親の行方がわからなくて、ホークアイもお父さんとお母さんがいない。二人とも、里親さんに引きとられて育ったから、境遇がとても似ているわ。
もちろん、ホークアイのやっていることは私たちの社会じゃ許されない。どれだけ苦しんでいる人がいても、盗みを働いていい理由にはならないわ。
でも、ホークアイのことはきらいじゃないの。完全に信用している訳じゃないけど、彼が悪人じゃないことは確かだから。
「盗賊だから、警戒するのはわかる。だけど、オレがマスターを守りたいって気持ちは本当だ。サーヴァントだからじゃない、オレ個人の意思としてだ」
「そう。なら、頼りにさせてもらうわよ」
「任せろって! 何だったら、オレに惚れたっていいんだぜ? この世界から脱出して、マスターが大人になったら……いつでもプロポーズを受けてやるとも!」
やっぱり取り消すわ。
今の言葉で、ホークアイに対する信用はガタ落ちよ。
「……あのねえ。私が『はい』って言うとでも思ったの!?」
「照れなくてもいいんだぜ! オレとマスターはデートの真っ最中だろ?」
「で、デートぉ!? そんな訳ないでしょ!」
ホークアイはおもしろそうに笑うけど、私は思わず叫んじゃう。
「そうだったのか? 今だって、こうして帰り道を一緒に歩いているじゃないか!」
「私は買い物をしているの! 言っておくけど、妹たちに何かしたら私はあんたを許さないからね!」
「冗談だよ! オレはマスターを守るために召喚されたからな……失礼なことをするつもりはこれっぽっちもないぜ」
手の平で遊ばれているようで、なんだかとてもくやしい。
冗談だと笑うけど、ホークアイはナンパ癖がある。元の世界のホークアイは女の人に声をかけることが多かった。
だから、妹たちに声をかけないか心配よ……
「でも、オレに気があるなら、いつだって声をかけてくれても構わないぞ?」
「…………まったく。
って、あら? あんな所にジェシカさんがいるわよ! ホークアイのことを見ているけど……」
「な、何!? ジェシカ!? いや、これはその……」
わざとらしく口にすると、ホークアイは一気に慌てちゃう。
当然、私が指さす先には誰もいないわ。
「……おいおい。マスターも人が悪いじゃないか! うそつきはドロボーの始まりっていうだろ?」
「冗談に決まってるでしょう? それに、あんたにそんなことを言われたくないわ」
「すでにドロボーの場合は、うそをつかないんだぜ!」
「どうかしら? ずいぶんとジェシカさんを困らせていたみたいだけど」
「……ハハッ。そういえば、マスターは夢で俺の過去を知っているんだっけな」
私がしたり顔で笑うと、ホークアイも困ったように笑っちゃう。
仕返しのつもりだったけど、ジェシカさんという人にホークアイは頭が上がらないみたい。
子どもの頃から、ホークアイとジェシカさんはずっと一緒に育ってきて、とても仲がいいの。イーグルさんも二人の仲を認めていて、自分の代わりにジェシカさんを守ってとホークアイにお願いしたの。
でも、ホークアイは相変わらず女の人を口説いていて……そんなホークアイをジェシカさんはジト目で睨んでいたわ。
「ええ。全部じゃないけど、私はホークアイのことは知ったつもりよ。だからこそ、あんたのことを信用したいの!」
「そっか! それじゃあ、デートの続きということで……」
「調子に乗らないで! まだ、買い物が残っているのよ」
「買い物? まだ何かあるのか」
「布団屋さんに行って、ホークアイの分の布団も見に行くのよ。ホークアイだって、ちゃんと寝ないといつか体を壊すわ! あなたの為にも、ちゃんとした布団を探しに行くの」
ホークアイはサーヴァントだけど、休みが必要よ。
もちろん、姉妹の部屋に入れる訳にはいかないから、妹たちが寝てから一階の居間で休ませてあげるの。家には4人分の布団しかないから、新しくホークアイの布団を用意しないとね。
ホークアイを隠すためにも、当分の間は私が早起きをすることになるわ。
「暖かい心遣い、感謝するぜ! マスター!」
「念を押すけど、私たちの家に勝手に入るのは禁止よ! ご飯だって、あなたの分も作ってあげるけど、みんなが食べた後になるからね」
「わかっているさ! 女子のくらしをのぞくようなサイテーなマネはしない……遠くから、マスターたちのことを守ってやるとも」
相変わらず、ホークアイはキザな笑みを浮かべていた。
私だって、ホークアイに失礼なことはわかっているけど、妹たちを不安にさせたくないの。男の人が家に入ってきたら、戸惑うに決まっている。
でも、いつかは妹たちに聖杯戦争のことを話す時が来るかもしれない。
「ねえ、ホークアイ。もしも、私の妹たちが聖杯戦争のマスターだったら……どうするつもり?」
「マスターと一緒に、守るに決まっているだろう? これも、うそじゃないぜ!」
「……ありがとう。そう言ってくれて、ホッとしたわ」
私は胸をなでおろす。
ホークアイはキザだけど、誠実なことは確かよ。イーグルさんやジェシカさんたちの信頼を受けて、世界を守るために戦ったから。
当然、ナンパは禁止させないとね。
不安なことは多い。
だけど、いつまでも落ち込んでいたら、妹たちを守ることはできない。だって、私は宮美家の長女だから、しっかりしないと。
三風たちは私を大好きと言ってくれたし、私もみんなが大好きよ。だから、私はみんなの期待に応えられるお姉ちゃんでありたい。
私たちを守ってくれるサーヴァント・ホークアイの顔を見ながら、心の中で強く誓った。
【クラス】
アサシン
【真名】
ホークアイ@聖剣伝説3 TRIALS of MANA
【属性】
中庸・善
【パラメーター】
筋力:C+ 耐久:C 敏捷:A+ 魔力:B 幸運:A 宝具:B
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。
投擲:A
ダガーを弾丸のように放つ能力。
その威力と命中精度は非常に高く、標的が闇に潜もうとも確実に命中させる。
気配遮断:A
サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば、探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
【保有スキル】
アヴェンジャー:B
大魔術師グラン・クロワの導きから、砂の王国ナバールで手に入れた信頼のオーブで覚醒した闇の最上級クラス。
敵のステータス弱体化及び高火力のスキルを併せ持ち、迅速かつ確実に敵を仕留めることができる。
ダークゾーン:B
戦闘中、対象とした敵の攻撃スキルを減少させる。
【宝具】
『鎖縛斬』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:‐ 最大補足:1人
闇の中より発射させた無数の鎖で敵を縛り、膨大な闇のエネルギーを込めた両手剣で斬りかかるホークアイの必殺技。
その拘束は何者にも破ることができず、また炸裂した闇は標的を確実に飲み込んでいく。
【Weapon】
アグニ
【クラス】
アサシン
【真名】
ホークアイ@聖剣伝説3 TRIALS of MANA
【属性】
中庸・善
【パラメーター】
筋力:C+ 耐久:C 敏捷:A+ 魔力:B 幸運:A 宝具:B
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。
投擲:A
ダガーを弾丸のように放つ能力。
その威力と命中精度は非常に高く、標的が闇に潜もうとも確実に命中させる。
気配遮断:A
サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば、探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
【保有スキル】
アヴェンジャー:B
大魔術師グラン・クロワの導きから、砂の王国ナバールで手に入れた信頼のオーブで覚醒した闇の最上級クラス。
敵のステータス弱体化及び高火力のスキルを併せ持ち、迅速かつ確実に敵を仕留めることができる。
ダークゾーン:B
戦闘中、対象とした敵の攻撃スキルを減少させる。
【宝具】
『鎖縛斬』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:‐ 最大補足:1人
闇の中より発射させた無数の鎖で敵を縛り、膨大な闇のエネルギーを込めた両手剣で斬りかかるホークアイの必殺技。
その拘束は何者にも破ることができず、また炸裂した闇は標的を確実に飲み込んでいく。
【Weapon】
アグニ
【人物背景】
砂漠の嵐と崇められるナバール盗賊団のシーフで、盗賊団でも1,2を争う技量を誇る。
天涯孤独だったが、ナバール盗賊団の首領・フレイムカーンに拾われて育つ。フレイムカーンの息子イーグルと、彼の妹のジェシカとは家族同然に育ち、ジェシカからはよくなつかれている。
表向きはひょうきんかつロマンチストな性格で、行く先々で女性を口説くことが多いが、本当は義理深い性格。弟分のニキータを救う為に頭を深く下げたり、また美獣イザベラに操られた仲間のビルとベンを助けようと必死に呼びかけるなど、本質的には熱い。
フレイムカーンがイザベラを右腕にした時から、ナバール盗賊団の様子が大きく変わった。
ナバール盗賊団は義賊であることを捨て、風の王国ローラントを侵略するというイザベラの宣言に異変を感じたホークアイは、親友のイーグルと共に調査する。
そこでイザベラが魔術でフレイムカーンを洗脳し、影から盗賊団を乗っ取っていたことを知る。だが、美獣としての正体を現したイザベラは魔術を用いてイーグルを洗脳し、ホークアイと戦わせた末に殺害する。
美獣によりイーグル殺害の罪を被せられたホークアイは、地下牢に投獄されてしまった。
ホークアイは美獣に立ち向かおうとするも、ジェシカにも『死の首輪』と呼ばれる呪いのアイテムを仕込んだと美獣は笑う。『死の首輪』によって、美獣を殺せばジェシカも命を落とすと知ったホークアイは戦えなくなり、またジェシカにもイーグル殺害の真相を伝えることができなくなった。
だが、ニキータの助けによって地下牢からの脱走に成功したホークアイは、イーグルとの誓いを果たすため……そして、ジェシカを呪いから救う方法を見つけるために、聖都ウェンデルに向けて旅立った。
旅の中でホークアイは仲間と出会い、マナの剣と精霊について知る。その力があればジェシカを救えると希望を抱いた。
そして、仲間と共に力を合わせて、風の王国ローラントの奪還とニキータの解放に成功する。だが、火炎の谷ではかつての仲間だったビルとベンを失い、ジェシカを人質にされてしまう。
美獣によってジェシカが炎に投げ込まれそうになった瞬間、駆けつけたニキータのサポートでジェシカを助け出す。その後、ニキータによってジェシカはオアシスの村ディーンにて療養することになる。
戦いは激化する中、フォルセナの図書館にて出会った大魔術師グラン・クロワから、世界を破滅に導く大魔女アニスの存在を知る。
アニスに対抗する為にはクラス4にクラスチェンジが必要と聞いたホークアイは、砂の要塞ナバールに訪れる。要塞にはニキータを始めとしたかつての仲間たちが集まっており、ジェシカも回復していた。
ナバール盗賊団の再建のため、イーグルが隠した財宝を見つけようとホークアイたちは火炎の谷に訪れる。
財宝の中に含まれていた信頼のオーブには、亡き友イーグルのメッセージが遺されていた。
宝で盗賊から足を洗い、ジェシカと共にまっとうな道を歩いてほしい……ホークアイと共に過ごした日々は、誰にも奪えない最高の宝だった、と。
イーグルのメッセージをジェシカに伝えるも、ジェシカは兄が愛したナバールを守るとホークアイに誓った。
絆と誓い、大きな信頼を胸にしたホークアイは新たなるクラスチェンジを果たし、仲間たちと共に大魔女アニスを打倒する。
そして、マナの聖域を蝕む超神との戦いにも勝利し、ホークアイたちは世界の平和を取り戻した。
【サーヴァントとしての願い】
マスターを守るために影から戦う。
【マスター】
宮美一花@四つ子ぐらし
【マスターとしての願い】
頼れるお姉ちゃんとして、妹たちの期待に応えたい。
【ロール】
普通の中学生。
宮美家の長女として過ごしています。
【能力・技能】
運動神経が抜群で、バスケットボールが得意。
また、家事全般の経験も豊富で、数学でも高得点を取れるほどに計算力が優れている。
度胸はあるけど、実はおばけが苦手。
【人物背景】
宮美家の長女。
誕生からすぐに施設で育つも、周りから差別されて一時期は不良になってしまう。
しかし、里親に引きとられた先で出会った少女・千草との出会いで立ち直った。バスケットボールや勉強も励むようになり、自立の練習として『中学生自立練習計画』に参加する。
そこで生き別れになった3人の妹……三風・二鳥・四月と出会い、宮美家の長女として妹たちを守るようになった。
【方針】
妹たちのためにも人を傷付けたくないし、また令呪を使うつもりはない。
【備考】
少なくとも、宮美家の姉妹に自分の過去を話した後の参戦になります。
以上で投下終了です。
また、以前投下させて頂いた自作の誤植を修正したことを報告します。
>愛を知らぬ、哀しき
ハッピーシュガーライフ最強キャラ来たな…ドン引きしてる無惨様が面白かったです。
無惨というキャラがどういう存在なのかをしっかり描写した上で叔母さんの異常さと絡めてくるのがテクニカルでした。
確かに無惨様の生きた人生にこういう手合いの輩はいなかったかもなあ。
文句なしに強力だけどその分致命的な欠陥をいくつも抱えてる無惨、前途多難すぎる。
>盗賊のサーヴァント、あらわる!
キャラクターが相変わらず生き生きとしており読んでいて楽しいお話でした。
掛け合いや語らいを描くのが上手だなあと氏の作品を読むときは毎回そう感じさせられます。
ホークアイの格好よさと四つ子たちの純粋さ、善良さの違いが際立って見えました。
なんというかこう、素直に幸せになってほしいな…と思える主従でした。
皆さん本日も投下ありがとうございました!
投下します
けたたましく鳴り響く目覚まし時計に、のろのろと手を伸ばして止める。
頭の中が、ひどく混乱している。
十分に眠れなかったせいか。いや、違う。
脳内に、今まで歩んできたものとはまったく違う人生の記憶がある。
そして、聖杯戦争なる戦いに関する知識も。
どうやら自分は、聖杯とやらによって未知の儀式の参加者に選ばれてしまったらしい。
迷惑な話だ、としか言いようがない。
すでに自分は、人生における最大の目標を達成している。
今さら他者と争ってまで叶えたい願いなどない。
そんな人物を参加させてどうするというのだ。
だいたい、願いを叶える力があるならどうしても叶えたい願いのある人間を見つけて無償で叶えてやればいいではないか。
命がけの戦いを勝ち残らなければ願いを叶えられないなど、理不尽な話と言わざるを得ない。
「いや、いつまでも布団の中で考え込んでないで、いいかげん起きてもらえません?」
とっくに召喚されていたサーヴァントに小突かれ、冨岡義勇は布団から追い出された。
◆ ◆ ◆
「おまえは……」
冨岡の前に現れたサーヴァントは、彼にとってなじみ深い人物だった。
美しく整った顔立ち。
隊服の上からまとった、蝶の羽を思わせる絵柄の羽織。
共に柱の一人として、肩を並べ戦った剣士。
蟲柱・胡蝶しのぶだ。
「死んだ人間が、もう一度現世に現れるはずがない。
なるほど、聖杯戦争のくだりから全部夢か」
「いや、今そういうおとぼけいりませんから」
勝手に納得して布団に戻ろうとする冨岡の頭を、しのぶがわしづかみにして引き戻す。
「ちゃんと現状を認識してください。あなたは聖杯戦争に参加させられたマスター。
そして私は、マスターと共に戦うためかりそめの体を与えられて現世に蘇った死者・サーヴァントです。
ここまでは理解できましたね?」
「ああ」
しのぶの説明に、仏頂面でうなずく冨岡。
「現状、生きて帰る手段は聖杯戦争終了まで生き延びるしかありません」
「棄権も許されないとは、勝手に参加させておいて本当に身勝手な儀式だな」
「まあ、それは私も思いますが……。とにかく、どんなに逃げ回ったとしても戦いを完全に避けることは不可能です。
そして冨岡さんは、すでに満足に戦える体ではない」
「ああ……」
冨岡は鬼舞辻無惨との戦いで、右腕を喪失している。
これでは鍛え抜いた技も、完全な形で放つことはできない。
それ以前に、振るうべき日輪刀は鬼殺隊が解散したときに手放してしまっている。
「まあ元々、サーヴァントには一般的な攻撃は通用しないんですが……。
とにかく、戦いになった場合は私に任せてください。
歯がゆいでしょうが、それが生き残るための最善策です」
「わかった、わきまえよう。ところで……」
「なんです?」
今までの説明にわかりづらいところがあっただろうか、としのぶは首をかしげる。
「おまえの願いはなんだ、胡蝶」
「は……?」
「俺に与えられた知識には、サーヴァントは叶えたい願いがあるからこそ召喚に応じるとある。
先ほどからおまえは俺の命を心配してばかりで、自分の願いについては話していない。
差し支えなければ、教えてもらえないだろうか。
他ならぬおまえだ。俺もできる限り協力を……」
「はあ……」
冨岡の言動に、しのぶはわざとらしくため息をつく。
「何を馬鹿なこと言ってるんですか、冨岡さん。
私の……私たちの願いは、あなたが生き残ることです」
「なんだと……」
「当然じゃないですか。あなたはあの戦いを生き残った、数少ない柱の一人です。
こんな妙な戦いに巻き込まれて死ぬなんて、いやに決まってるでしょう。
みんな同じ気持ちです。お館様も、悲鳴嶼さんも、煉獄さんも、時透くんも、甘露寺さんも。
伊黒さんはちょっと微妙ですけど……。まあさすがに死んでほしいとまでは思ってないはず……」
「そうか……」
「それと、彼もです。錆兎さん、でしたっけ。冨岡さんの兄弟弟子」
「っ!」
自分をかばって命を落とした親友の名前を告げられ、冨岡の顔色が変わる。
「召喚に応じたとき、彼の声が聞こえました。
『あいつを頼む』と」
「錆兎……」
冨岡は、左の拳を強く握りしめる。
「みんなにそこまで心配をかけているのでは、むざむざと死ぬわけにはいかないな。
なんとしてでも生き残らなければ。力を貸してもらうぞ、胡蝶」
「ええ、もちろんです。そのために来たんですから」
「だが今は……とりあえず、朝食を食べさせてくれ。
空腹では考えもまとまらない」
「……はい」
いまいち締まらないなあ、とうなだれるしのぶであった。
【クラス】アサシン
【真名】胡蝶しのぶ
【出典】鬼滅の刃
【性別】女
【属性】中立・善
【パラメーター】筋力:D 耐久:D 敏捷:B 魔力:E 幸運:E 宝具:C
【クラススキル】
気配遮断:A
自身の気配を消すスキル。隠密行動に適している。
完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
【保有スキル】
医術:B
アサシンが生きていた当時としては、最先端に近い医療技術。
彼女の本職は医者ではないためBランク止まりだが、負傷を治療するには十分。
鬼狩り:A
鬼殺隊の一員として、鬼を狩り続けた者。
鬼に攻撃するとき、与えるダメージが上昇する。
サーヴァントのスキルとして昇華されているため、彼女の知る「鬼」と同種でなくても
「鬼」と呼ばれる存在であれば効果が発動する。
藤の毒:EX
全身を余すところなく、藤の花から抽出される毒に染めている。
彼女の肉体は鬼にとって高純度の劇物であり、摂取すれば大きなダメージを受けることになる。
【宝具】
『全集中・蟲の呼吸』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1-3 最大捕捉:1人
身体能力を飛躍的に上昇させる「全集中の呼吸」の中の一つ。
呼吸法及び彼女の繰り出す技の全てが、まとめて一つの宝具として扱われている。
宝具としては威力もランクも低いが、その分わずかな魔力の消費だけで繰り出すことができる。
【weapon】
「日輪刀」
鬼を滅ぼすことができる、太陽の力が込められた刀。
アサシンのものは突きに特化した彼女の戦闘スタイルに合わせ、先端と根元にしか刃がない特異な形状となっている。
また毒を敵の体に流し込む機能が備わっており、鞘に出し入れすることで毒の調合を変えることも可能。
「隊服」
鬼殺隊士共通の、学生服のようなデザインの服。
低級の鬼の爪程度なら弾ける強度がある。
【人物背景】
鬼殺隊の幹部に相当する「柱」の一人で、蟲の呼吸を収めた「蟲柱」。
幼少期に鬼の襲撃で両親を失うが、姉と共に後の岩柱・悲鳴嶼行冥に救われる。
彼に無理を言って、姉と共に鬼殺隊に入隊。
剣士として成長していくものの、姉は上弦の鬼・童磨との戦いで殉職。
姉を殺した鬼への怒りと、鬼との共存の道を模索していた姉の思いを踏みにじりたくないという思いがせめぎ合い、
常に笑みを浮かべながらも心には怒りを抱いているいびつな状態となってしまった。
【サーヴァントとしての願い】
冨岡の生還
【マスター】冨岡義勇
【出典】鬼滅の刃
【性別】男
【マスターとしての願い】
生還
【weapon】
なし
【能力・技能】
「全集中・水の呼吸」
身体能力を飛躍的に上昇させる「全集中の呼吸」の中の一つ。
呼吸そのものは今も使用可能だが、付随する技は隻腕のため完璧な形では使用できない。
【人物背景】
鬼殺隊の幹部に相当する「柱」の一人で、水の呼吸を収めた「水柱」。
選抜試験において兄弟弟子・錆兎の犠牲によって何もしないまま合格してしまったことが心の傷となっており、
柱の地位を与えられた後も「自分は柱にふさわしくない」と思い続けていた。
性根は間違いなく善良なのだが、必要最低限のことを口にしないコミュニケーション力不足から誤解され、嫌われることの多い損な性分。
参戦時期は、鬼殺隊解散後。
【方針】
生き残る
投下終了です
>>いつか光に変わる逆さまの蝶
お話の内容もさることながら、この二人で組ませるという発想に驚きでした。
確かに作品内で組み合わせるなら王道の二人なんですが、まさかこうして見ることがあろうとは。
同作キャラ同士ならではの会話も味があって読んでいて楽しかったです。
作中で見られなかったような絡みや共闘も見られそうで楽しみな主従でした。
本日も投下ありがとうございました!
投下します
私は闇の中を走っていた。
何も見えない、何も聞こえない。静寂の闇の世界がどこまでも広がっていた。
思えば手足の感覚すらない。走り続けているつもりだったが、ずっと動いてすらいないのかもしれない。
時間の感覚はどうだろう、さっきここに来たような気もするし、ずっとここにいるような気もする。
ここに来る前の記憶をたどろうとした時、目の前に淡い光を纏った人が現れた。
暗闇の中でも見知ったピンクの髪が良く見える。
その赤い瞳が、こちらをずっと見つめている。
「さとう!」
「しょーこちゃん」
聞きなれた彼女の声を聴いたとき、私は彼女の胸に抱きついた。
闇の世界で、彼女の体温だけが暖かかった。
「さとう…助けて…!」
さとう。
私の大切な親友。
親の期待がかかる窮屈な日々から、私を光の下に連れ出してくれた人。
きっと彼女ならこの世界から出してくれる。
そう信じた私は、彼女の胸にうずめていた顔を上げた。
「ねえ」
見上げたさとうの顔は
「しょーこちゃんはあの時、私を拒絶したじゃない」
ゴミを見るような、冷たい瞳で私を見下ろしていた。
気づくと、彼女は包丁を持っている。
「なんで私が助けてくれると思ったの?」
その顔を見た時、私は何故ここにいるのかを思い出した。
私は彼女に殺され、ずっと暗闇の中を彷徨っていたのだ。
「…ター」
そして、殺された時と同じように包丁が私の喉を
「マスター!」
引き裂かれる寸前、響いた少年の声に私は目を見開いた。
見慣れた天井が目に入る、私の自室だ。
ベッド脇の台に置いた鏡に目を向けると、カーテン越しに入ってくる朝日に照らされた私の顔が映った。
肩に少しかかるくらいの紫の髪は寝ぐせでボサボサ、顔もフリフリのパジャマも寝汗でぐしゃぐしゃの酷いありさまだった。
あの酷い悪夢のせいだ。
ここに呼ばれた私は、しばしば先ほどのように殺される直前の光景を夢に見る。
その度に私は、遅すぎた私の行動を悔やむのだ。
俯いて目を手元に落とした時、自分の手の上に銀の指輪がはめられた指が置かれていた。
私はようやく自分の手が握られていることに気が付いた。
「うなされてたみたいだったけど、大丈夫?」
夢の中でも聞こえた少年の声が耳に入る。
私は顔を上げた。
「アーチャー…」
青い瞳がこちらを見ていた。
ツンツンとした髪型の髪、背丈も顔立ちも中学生相応の少年だが、
金の髪も顔立ちもこの国の人間とは違った趣がある。
当然、血迷った私がお母様のいるこの家に拉致したわけではない。
この場における私のサーヴァント、アーチャー・ガンヴォルトだ。
「大丈夫、少し怖い夢を見ただけ」
「…そうか」
私が笑顔を作って返すと、彼は少し考え込んだようだった。
「そうだ、さっき白湯を作ってきたんだ。良かったら飲む?」
彼はそう言って少し湯気の立ったコップを差し出した。
思えば喉がカラカラで、口の中が酷く酸っぱい。
私はたまらずコップを受け取り、勢いよく白湯を飲んだ。
口をリフレッシュして一息ついたとき、アーチャーが口を開いた。
「戦うことが怖い?」
私は、その質問に答える代わりに尋ね返した。
「アーチャーって、私をここから出してくれる?」
「………」
「戦うなんて、怖いに決まってるじゃない!
死んだと思ったらこんなところに呼び出されて戦えなんて、脅迫みたいなものじゃない!
あんたにこの気持ちがわかるの!?」
白湯の残ったカップを乱雑に机の横に置いた私は、己の感情を吐き出した。
私を光の下に連れてきてくれたさとうが、私を永遠の闇に送り出し、
私に勇気をくれたあの少年も、ここにはいないのだ。
私が死ぬ直前に呼ばれたのではなく、死んだ後に呼ばれたとしたら
例え聖杯を取らずにこの場から出たとして、無事な保証なんて全然ない。
そう考えると毛布をかぶっていたのに、寒気が止まらない。
アーチャーはそんな私を静かに見つめ、金の長い三つ編みをゆっくり振って答えた。
「君が望むのなら、ここから出すために戦うよ」
「…いいの?あんたにも願いがあるんじゃないの?」
「無関係の人間を犠牲にするほどの願いじゃあない。」
強いまなざしで彼は答えた。
中性的な顔だと思っていたが、こうしてみると男らしい。
その優しい言葉と強いまなざしに思う所があった私は、彼の手を引いた。
「少し、確かめさせて」
「え?」
グイと彼の手を強く引き、バランスの崩したアーチャーを私は素早くベッドに押し倒した。
掴んだ腕の感触は硬い、少年の見かけによらず、筋肉はそこそこあるようだ。
「な、なにを…」
目下の驚愕している少年をまじまじと見つめる。
顔は生だと全然見れない外国系のイケメン、顔も男らしくないかと思ったけどさっきみたいにカッコよくなる。
身長はまだ低いけど、何より性格が優しい。
私の求めていた王子としてかなり高得点ではないか、私は舌なめずりをして顔を近づけた。
「マスター、これは一体…」
アーチャーの訳の分かっていない表情がグングンと近づく。
唇が触れるか触れないかの距離に迫った時、私は止まった。
「やっぱ違うわ」
「え?」
私は彼を突き放して上体を起こした。
頭の中の王子様としては高得点だったけど、どれだけ近づいても胸がときめいたりするわけでもないし、何より甘くなかった。
「ごめんねアーチャー、変なことしちゃって」
「なにがなにやら…」
私はベッドに倒れたままの彼に手を伸ばし、彼もそれを取って体を起こした。
互いの体温は上がっても下がってもいない。ぬるま湯のような感触だった。
「ねえアーチャー、さっき言ってた『逃がしてくれる』って本当?」
「本当だよ」
うんざりした表情でアーチャーは答えた。
私はもう一つ聞いた。
「じゃあ、そのために私に、全部捧げてくれる?」
彼はそれを聞くと、少し考えてから答えた。
「たぶん、それはできない。
昔はそう言う頃もあったけど、今は無理だ」
「それって、大切な人ができたりしたから?」
「ああ」
彼は即答した。
私はその答えを聞いて、深くため息をついた。
「あ〜お互いもうちょっと前だったら、運命の二人だったかもしれないのにな〜」
あの少年は、だいぶドンピシャで理想の王子様かと思った。
しかし蓋を開けてみれば規格の合わない歯車、同じ極の磁石だ。
いくらお互い寂しくても、求めあえるわけがない。
「アーチャー、我がまま言ってもいい?」
「付き合うとかそういう方向性じゃなかったらね」
「私、やっぱり願いがあるの、
さとうに信じて欲しいし、私に勇気をくれたあの子にお礼を言いたい。」
(私たち、親友だもんね)
(いい子、よしよし)
大好きな親友と、あの子犬みたいな少年の顔が脳裏を過る。
他に理想の王子様が居れば諦められるかと思ったが、無理だ。
私を籠から連れ出してくれる人間は、今の私にはあの二人以外考えられない。
「そのために私、聖杯って奴が欲しいの!
お願いだから、力を貸して!」
深く頭を下げる。
失礼なことをしてしまったし、この善良な少年を巻き込むことも気が引ける。
だけど私は、もう諦められはしないのだ。
「顔を上げて、マスター。」
そう言われ、私が顔を上げるとアーチャーは真剣な表情でこちらを見つめ、私に手を差し出していた。
「僕にだって願いはある。サーヴァントとマスターの関係だ、なにも頭を下げなくたっていい。」
私は彼の手を取った。
さっきまでのベッドのやり取りとは違う、互いに対等の握手だ。
聖杯戦争のために最近知り合った仲だ。親友のため、願いのため、いつかは解ける時が来る手かもしれない。
それでも今この時だけはとても心強い手だった。
(だって私、ショーコちゃんにも何も感じない。その他大勢と変わりないんだよ。)
―さとうと私も、甘い関係にはなれなかったけど。
アーチャーの入れてくれた白湯が目に入る。
―苦くもなかったよね、さとう。
私はそう信じて、この手を強く握った。
【CLASS】
アーチャー
【真名】
ガンヴォルト(オルタ)@蒼き雷霆ガンヴォルト爪
【パラメーター】
筋力D 耐久D 敏捷B 魔力B 幸運D 宝具B
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
単独行動:A+
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクA+ならば、宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合ではない限り単独で戦闘できる。
ご存じビーストの持つ単独顕現の下位互換スキルであり、この適性が高いのはあるいはその素質を見込まれての事か。
【保有スキル】
第七波動(セブンス):A-
霊能力者や霊獣を超える第七階梯の波動を所有する新人類、第七波動(セブンス)能力者であることを示すスキル。
新人類でありながら古代ゆかりの宝剣や魔術式に高い感能力を示す彼らは、出自の新しさに関わらず神秘に高い適性を持つため魔力の変換効率が向上する。
自己回復(雷):A-
電力会社を中心とした巨大複合企業体が目を付けた新エネルギー、蒼き雷霆に由来するスキル。
微量ながらも魔力が毎ターン回復する他、同ランク未満の電撃攻撃を受けた際に電力を魔力に転換可能。
同ランク以上の電撃攻撃を受けてる最中、或いは水中など電気が散る状況下ではこのスキルは無効化される。
破壊工作:C+
戦闘を行う前、準備段階で相手の戦力をそぎ落とす才能。
ただし、このスキルが高ければ高いほど英雄としての霊格は低下していく。
忠誠忘却:D
己が壊滅させた多国籍能力者連合ゆかりの地、タシケントにて召喚されたアーチャーに課せられた呪い。
アーチャーは多国籍能力者連合エデンを壊滅させ、出国した後の己の記憶を認識することができない。
一度はエデンともども己が否定した皇神グループの翼を纏うことがあれば、特に。
【宝具】
『蒼き雷霆(アームドブルー)』
ランク:A- 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:100
南米の奥地で発見され、アーチャーに移植された世界初の第七波動(セブンス)。電子を自在に操る能力であり、電子機器の操作や雷撃の放出が可能。
戦闘中は主に雷撃鱗(ライゲキリン)と呼ばれる雷撃を展開して戦うほか、己の毛髪を相手に撃ち込む事で雷撃の誘導・射程の延長を行う。
また、雷撃鱗展開中はアーチャーの周囲に実弾攻撃を弾く雷撃の膜が展開される他、電磁浮遊によるホバリング機動が可能。
また、真名解放と詠唱を行うことでスペシャルスキルと呼ばれる必殺技を展開し、雷撃の剣や鎖による瞬間的な火力を産むことが可能。
雷撃鱗を展開していない際はペンダントの効力により電磁結界(カゲロウ)と呼ばれる防衛機構が働き、神秘の低い攻撃を受けた際自動的に多大な魔力を消費し、己を電子の揺らぎに変換、攻撃を無効化する。
弱点としては高位の神秘による攻撃、雷撃鱗展開中のカウンター、電磁結界による魔力切れ狙いの連続攻撃などの他、
水などの電解質に浸かった状態で能力を使用した際に電気に変換した魔力を瞬間的に消費してしまい、オーバーヒートと呼ばれる電力枯渇状態となる事である。
『満ち行く希望(フィルミラーピース)』
ランク:B 種別:対絆宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
アーチャーの本来の宝具『新たなる神話(プロジェクト・ガンヴォルト)』がタシケントにおける召喚の際変異した宝具。
楽園(エデン)の主パンテーラの夢幻鏡<ミラー>による精神感応が残っているのか、
アーチャーに屠られた有象無象の能力者の怨念が彼に呪いを掛けたとでもいうのか、
それとも、アーチャーの執念が宝具になったとでもいうのか。
彼の愛した人間、シアンの力を封印したミラーピースと呼ばれる鏡片が宝具となって顕現されることとなった。
アーチャーが他サーヴァントと交戦した際、その威信(クードス)がピースの不足を補うデータとしてミラーピースに蓄積される。
蓄積された威信(クードス)を蒼き雷霆に上乗せて消費し、真名解放と詠唱を行うことでCランク相当の支配者特攻スキル『ネガ・ドミネーター(偽)』を発揮し、スペシャルスキル『グロリアスストライザー』を開放可能。
およそ7騎分の十分な交戦記録が蓄積されたのち、適合を無視し心の繋がりによって一度のみ、電子の謡精(サイバーディーバ)の能力を己の中に開放可能。
あくまでアーチャーの心の中に彼女の歌が響くため、対外的な能力は発揮できないが、スーパーガンヴォルトと呼ばれる強化形態に至ることは可能。
もっとも、アーチャー最大の目的である今の彼女の声が聞こえるのか、それともあくまで再現された歌が聞こえるのかは不明。
【weapon】
ダートリーダー:
アーチャーの毛髪を特殊コーティングし、避雷針(ダート)と呼ばれる専用の弾に変換して発射する電磁投射銃。
電撃を誘導することが目的なため、威力は抑えられている。
【人物背景】
全ての能力者を管理下に置かんとする巨大企業皇神(スメラギ)、全能力者の強化による無能力者への反乱を目論んだ多国籍能力者連合エデンの野望を打ち砕いた14歳の少年。
能力者の命運を左右する電子の謡精(サイバーディーバ)の能力者シアンを開放して以降は彼女との日々に温もりを感じ、彼女を取り戻すために戦うこともあったが、戦いの末彼女との日常は失われることとなった。
本来このガンヴォルトはエデンゆかりの地タシケントのみで召喚されるオルタナティブであり、皇神・エデンから危惧された集団総意の秩序や翻意を単独のみで打ち砕く有り様がスキルの強化・宝具の変異として現れている。
オルタナティブでありながら人格面は汎人類史の当時の彼と相違が無いのは、その危うい在り方は誇張されたものではなく、本来の人格故と言う事である。
彼としては己の変異より、エデンとの決戦以降の電子の謡精(サイバーディーバ)の能力者の無事の声が聞けないことが恐ろしい。
【サーヴァントとしての願い】
彼女(シアン)の声をもう一度聞きたい。
【マスター】
飛騨しょーこ@ハッピーシュガーライフ
【マスターとしての願い】
さとうの事を信じたいし、信じてもらいたい/あの子(あさひ)にお礼を言いたい。
投下終了です。
>>282
すみません、情報不足だったため人物背景を以下に修正します。
【人物背景】
ガンヴォルト、通称GV(ジーブイ)と呼ばれている。
全ての能力者を管理下に置かんとする巨大企業皇神(スメラギ)、全能力者の強化による無能力者への反乱を目論んだ多国籍能力者連合エデンの野望を打ち砕いた14歳の少年。
能力者の命運を左右する電子の謡精(サイバーディーバ)の能力者シアンを開放して以降は彼女との日々に温もりを感じ、彼女を取り戻すために戦うこともあったが、戦いの末彼女との日常は失われることとなった。
本来このガンヴォルトはエデンゆかりの地タシケントのみで召喚されるオルタナティブであり、数多の因果が収束する界聖杯(ユグドラシル)により可能性の一つとして変則的に東京に召喚されたサーヴァントとなっている。
彼本来の霊基から皇神・エデンから危惧された集団総意の秩序や翻意を単独のみで打ち砕く有り様が誇張・抽出され、特殊スキルの付与・宝具の変異として現れており、彼がエデン戦後(蒼き雷霆ガンヴォルト爪以降)の記憶を知るすべはない。
オルタナティブでありながら人格面は汎人類史の当時の彼と相違が無いのは、その危うい在り方は誇張されたものではなく、本来の人格故と言う事である。
彼としては己の変異より、エデンとの決戦以降の電子の謡精(サイバーディーバ)の能力者の無事の声が聞けないことが恐ろしい。
投下します。
「へー、ここが東京かぁ。」
どこかのビルの屋上から眼下の街並みを眺める。
かつて自分が黒のライダーとして戦っていたルーマニアの地、トゥリファスとは似ても似つかない。
これが都会ってやつか、と思わずにはいられなかった。
界聖杯から与えられた知識は自分の中にもある。再現された東京での聖杯戦争。
7人で競う聖杯戦争は言うに及ばず、赤と黒に分かれ7対7で戦っていた聖杯大戦とも比べ物にならない人数の戦争だ。
普通に考えれば、自分も誰かにサーヴァントとして召喚されたのだと思うだろう。
しかし今の自分には、かつての聖杯大戦の記憶が存在していた。
それだけではない。大戦の後に世界を放浪していた時から記憶が地続きなのだ。
自分の認識では「界聖杯に改めて英霊の座から召喚された」のではなく「聖杯大戦の終結後から界聖杯に連れてこられた」という状態。
服装もトゥリファスで着ていた私服と同じもの。意識すれば、遙か遠くにうっすらとだがマスターとのパスも感じられる。
つまり今の自分のマスターは、聖杯大戦の時から変わっていない。
ならば自分はマスターと共に界聖杯に連れてこられたのか。残念だがそれもおかしい。
己のマスターは聖杯大戦の最後、紆余曲折あってその姿を邪竜ファヴニールに変え、大聖杯と共に幻想種が住まう世界の裏側へと姿を消したのだ。
いかに界聖杯といえども、世界の裏側から邪竜を招くことはできないだろう。大聖杯と共にある彼ならば、なおのこと。
「どういうことかなあ、これ。さすがのボクも混乱しちゃうよ?」
言葉とは裏腹にあまり深刻さを感じさせない調子で口にする。
これでも理性が蒸発している自分にしては困ってるし悩んでいるほうだ。
そして一度思い切り背伸びをした後、ふと気づいて自分の左手の甲を確認する。
————そこにあったのは、真紅の文様。
サーヴァントである自分とは切っても切れないもの。見間違えるはずがない。令呪だ。
しかし、それは本来サーヴァントと契約したマスターの手に浮かぶもの。
何故それが自分に刻まれているのか。……ひとつの可能性に思い至り、愕然とする。
「……………………ひょっとしてボク、マスターとして連れてこられてるの?」
通常ならば在り得ないその可能性について確かめるため、ひとつ試してみる。
サーヴァントならば誰でもできる簡単な行為。霊体化だ。
「……やっぱり。霊体化できなくなってる。」
なんど試してみても、霊体化することができない。これが何を示すのか。
言うまでもない。今のアストルフォの体は、何らかの方法で受肉させられているのだ。
十中八九、界聖杯の仕業だろう。本来ならばサーヴァントである自分をマスターにするため、呼び寄せるだけでなく受肉までさせている。
様々な世界からマスターを無理やり連れてくるだけでなく、サーヴァントだろうとお構いなしでマスターにするとは。
「理性蒸発してるボクが言うのもなんだけどさ、界聖杯ってやつはずいぶんいい加減なんだね?」
そんな界聖杯への愚痴を言いながら考える。
普通ならばサーヴァントがマスターになるなどありえないと思うところだろう。
だが幸か不幸か、アストルフォは既にその前例を知っていた。
————ルーラー・天草四郎時貞。
聖杯大戦にて、彼は同じようにサーヴァントでありながら赤のセイバー以外の赤陣営のマスターを兼任していた。
天草四郎に可能だったことが、今の自分に不可能などということはないだろう。
受肉しているとはいえ普通のサーヴァントならば魔力面の不安があるかもしれない。
だが今の自分のマスター、ジークは大聖杯と共にある邪竜ファヴニール。比較したことはないが、並のマスターと比べれば供給される魔力量の差は圧倒的だろう。
それこそ、自分以外にもうひとりサーヴァントを現界させ戦わせられるくらいには。
「……でも、ボクには界聖杯なんて必要ないよ。」
「今のボクはマスターなのかもしれないけど、それ以前にシャルルマーニュが十二勇士、アストルフォだ!」
「個人的な願いのために、巻き込まれた人たちと闘ってまで聖杯を求めるなんて、そんなの英雄の振る舞いじゃない。」
世界の裏側に消えたマスターに会いたくない、と言ったら嘘になる。
でも聖杯戦争に勝って彼に会いに行くということは、あの時の彼の願いを、想いを、祈りを、踏みにじることに他ならない。
自分には世界を変えることなどできないし、人類を変革することもできない。
そんな自分でも彼の最後の命令通り、世界と関わっていくことを、頑張って生きることを誓ったのだ。
遥か彼方にいるマスターのためにも、自分は元の世界に戻らなければならない。
「……まあ、戻る方法は皆目見当ついてないけどね!」
ひとまずの方針としては巻き込まれた聖杯を望まないマスターを英雄として守る。
並行して元の世界へ戻る方法がないか、この東京を探ってみる。
そんなところだろう。
「それにしても、この令呪の模様……これもマスターの影響かな。」
真剣な表情(かお)に戻って、改めて自分の左手に浮かんでいる令呪を見る。
色合いこそ普通の令呪と同じ真紅だが、その模様にアストルフォは見覚えがあった。
マスターの手に浮かんでいた、特殊な青黒い令呪。
————竜告令呪(デッドカウント・シェイプシフター)
令呪としての機能のほか、自分の肉体に黒のセイバー・ジークフリートの力を憑依させることができる呪われた聖痕。
アストルフォの手に浮かんでいる令呪は、それと瓜二つだった。場所も同じ左手の甲。
勿論、あれはホムンクルスであるマスターが英霊ジークフリートの心臓と黒のバーサーカーの宝具で二度蘇生したことによる偶発的なもの。
模様が同じだけで、この令呪にそんな超常の力はないだろう。でも、同じような使い方はできる気がした。
彼は令呪を使用するとき、いつもこう言っていた。「令呪を以て我が肉体に命ずる」と。
その祝詞をもって己の肉体をマスターでありながらサーヴァントに変身させたのだ。
今のアストルフォもマスターでありながらサーヴァントの身。
ならば本来の令呪としてだけでなく、彼のように令呪を自分自身に使用して魔力ブーストとしても使えるんじゃないか?
確信はないが、そんなことを思った。まだ自分のサーヴァントは召喚されてもいないから、本来の用途には使えないけれど。
「あ、じゃあ折角だし今から誰か召喚しちゃおっかなあ?ボクっていつもは呼ばれる側だから、なんか新鮮かも!」
自分の声に答えてくれるサーヴァントがいれば、元の世界に戻る手助けをしてくれるかもしれない。
そんな建前を述べつつ「実は一度、やってみたかったんだ〜。」と本音を少し漏らしながら屋上の中央付近へ移動する。
幸いにもここは誰もいない高層ビルの上。召喚の光も地上から見られることはないだろう。
本来サーヴァントの召喚には魔法陣を描く、触媒を用意するなどいくつかの手順が必要になるのだが、アストルフォはそこまで深く考えてはいなかった。
実際この界聖杯の中には魔術やサーヴァントなど全く知らない人間も招かれている。
魔術の知識がない人間でも英霊召喚ができているのだから、細かいことまで気にしないほうが正解なのだろう。
そんなことはつゆ知らず、アストルフォは目を閉じて令呪の刻まれた左腕を前に突き出した。
ようし、と気合を入れて意識を集中し、召喚の為の祝詞を唱え始める。
————素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
————手向ける色は黒。
————降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
祝詞に呼応して足元にうっすらと魔法陣が浮かび上がる。
聖杯大戦ではないから色を手向ける必要はないのだが、アストルフォの心情的には入れたかった。
勝手に描かれて広がっていく魔法陣が、界聖杯から英霊召喚へのサポートがあることを如実に示している。
————閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。
————繰り返すつどに五度。ただ満たされる刻を破却する。
————告げる。
————汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
————聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
魔法陣の光が輝きを増し、模様が複雑になり、中心から外へ向かって風の流れが生まれる。
令呪も、比例するようにその輝きを増していた。
もしこれを地上で行っていたならば、間違いなく注目の的になっていただろう。
他のマスターにもバレバレだったに違いない。
————誓いを此処に。
————我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。
————汝、三大の言霊を纏う七天。
「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ————!!!」
光量が最大値に達した瞬間、大きな音と共に砂煙が高く舞う。
一歩遅れて魔法陣の中心から風の輪が広がり、衝撃が体を打ち付けた。
「おー。うまくいったっぽい!」
自分もサーヴァントだからわかる。召喚は成功だ。
だが砂煙に隠れて肝心のサーヴァントの姿が見えない。煙が拡散するのを少しの間待った。
召喚したサーヴァントの姿が徐々に見えてくる。
「———サーヴァント、ランサー。召喚に応じ参上しました!シャルルマーニュ大王に成り代わり、正義を———って、アーちゃん!?」
「おや、ブラダマンテじゃないか。やっほー、久しぶり!」
触媒なしの召喚は、召喚者と似た者かもしくは何かしら縁のある者が召喚されやすい。
そして今回の召喚者はマスターでありサーヴァント。
ならば縁の深い者とはつまり———生前の知り合いということになる。
同じシャルルマーニュ十二勇士が呼ばれるのは、必然だったのかもしれない。
◇◆◇
【クラス】ランサー
【真名】ブラダマンテ@Fate/Grand Order
【属性】秩序・善
【パラメーター】
筋力:B 耐久:A+ 敏捷:A 魔力:C 幸運:D 宝具:B
【クラススキル】
対魔力:A
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
Aランクでは、Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。
彼女の本来のランクはCだが、後述する宝具の効果によって上昇している。
【保有スキル】
クレルモンの勲:B
クレルモンの家に生まれた者としての誇り、精神性がスキルとなったもの。
兄リナルドの凄絶な剣技に追いつくため、ブラダマンテはあらゆる手段を尽くす。
常人であれば発狂しかねない凄惨な戦場であろうと駆け抜ける。ブラダマンテは決して諦めず、勝利をつかむ。
白羽の騎士:B+
生まれついての肉体の頑健さと、戦闘を続行する能力を示すスキル。
頑健スキルの一部と戦闘続行スキルの効果を含む。
マーリンの洞窟の奥底へと転がり落ちても、ブラダマンテは大丈夫。
魔術解除:A
自分や味方に掛けられた魔術効果を解除する。
Bランクまでの魔術であれば自動解除、Aランク以上の魔術を解除するには幸運判定が必要となる。
対魔力の上昇と同じく、第二宝具に由来するスキルである。
【宝具】
『目映きは閃光の魔盾(ブークリエ・デ・アトラント)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:100人
恋人ロジェロを攫った邪悪な魔術師アトラントが所有していた魔盾。
真名解放によって盾は強烈な魔力の光を放ち、対象にダメージを与えつつ、気絶判定を強制する。
気絶しなかったとしても、目を眩ませる事で敏捷のパラメーターを一時的に著しく低下させる。
なお、本来は盾で殴らない。現界にあたってテンションが上りすぎているのか、ほぼ無意識に突進して殴っているものと思われる。
アトラントを倒したブラダマンテは、彼の持つ盾を手にし、彼が乗っていた幻獣ヒポグリフを得たと言われる。
(ライダークラスで召喚されれば、もれなくヒポグリフがついてくる)
『麗しきは美姫の指輪(アンジェリカ・カタイ)』
ランク:C 種別:対人宝具/結界宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:30人
十二勇士のひとりローランや兄リナルドが恋に落ちたとされる異国の美姫アンジェリカが所有していた、魔術の指輪。
あらゆる魔術を無効化する力を持つとされる。邪悪な魔術師アトラントから恋人ロジェロを助け出す際に大いに指輪の力を活用した。
本来はCランク程度の対魔力がAランクとなっているのも、魔術解除スキルが付与されているのも、この宝具の効果によるもの。
真名解放すれば、魔術に対する自陣全体の防御力を跳ね上げる。また姿を隠す力も備えている。
この指輪の魔力を右手の槍に込めており、魔術的存在に対する戦闘力を底上げしている模様。
【weapon】
右手の槍(指輪の力含む)、目映きは閃光の魔盾
【人物背景】
シャルルマーニュ十二勇士の紅一点。白羽の騎士。
同じく十二勇士のひとりにして魔剣フルベルタを所持する剣士リナルドを兄に持つ。
窮地にあっても正義を信じ、善を為そうと心掛ける純真な少女騎士である。
騎士ロジェロと恋に落ち、この恋を成就させるため、多くの苦難に立ち向かった。
正義の騎士として正々堂々・勇猛果敢に戦うことを好んでいながら、諦めが悪く打てる手は惜しまず尽くす。
宝具の盾で目くらましや「やられたふり」からの不意討ちすらも常套手段。
重度の円卓の騎士とヘクトールの信者でもある。
FGOの過去のクリスマスイベントでは、セイバーになったアストルフォに振り回されて大変だった。
【サーヴァントとしての願い】
アーちゃん、なんだかすごいことになってるね……。
え、もしかして今この子のストッパー、私だけ?
(アストルフォとは生前からの知り合いなので、彼の望みのために協力するのはやぶさかではない。)
【マスター】
アストルフォ@Fate/Apocrypha
【マスターとしての願い】
元の世界に戻り、世界と関わっていく。
【能力・技能】
筋力:D 耐久:D 敏捷:B 魔力:C 幸運:A+ 宝具:C
対魔力:A
彼本来の対魔力はDだが、後述の宝具により上昇している。
騎乗:A+
乗り物を乗りこなす能力。騎乗の才能。
竜種を除くすべての獣、乗り物を乗りこなすことができる。
単独行動:B
マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。(今は自分がマスターだが。)
Bランクならば2日は現界可能。
怪力:C-
後述の理性蒸発により筋肉のリミッターが外れていることで例外的に習得している。
理性蒸発:D
理性が蒸発しており、秘密を守れず、機密情報を簡単に喋ってしまう。
このスキルは「直感」も兼ねており、戦闘時は自身にとって最適な展開をある程度感じ取ることが可能。
『触れれば転倒!(トラップ・オブ・アルガリア)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:2〜4 最大捕捉:1人
カタイの王子・アルガリアが愛用した装飾も見事な黄金の馬上槍(ランス)。
宝具としてサーヴァントに使用すると、肉体のどこに触れようとも、膝から下が一時的に強制的に霊体化し、立ち上がれなくなる。
膝から下部分の魔力供給を強制的にカットし、一時的に肉体の構成を不可能な状態にしてしまう。
この「転倒」状態から復帰するためには幸運判定が必要。ただし1ターンごとに判定に上方修正がある。
生前、ブラダマンテにこの槍を譲った逸話がある。
『破却宣言(キャッサー・デ・ロジェスティラ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
あらゆる魔術を打破する手段が書いてある魔道書。
ただ所有しているだけであらゆる魔術を打ち破ることが可能で、Aランクの対魔力を獲得することができる。
真名発動することでページが千切れ、舞い散る紙片が使用者を包み込み、通常時を遥かに超える対魔術防御能力を与える。
固有結界すら打破する可能性を掴めるというが、打ち消す容量には限界があるのか作中後半では効果が切れていた。
ただし、アストルフォはこの宝具の真名を普段は忘れている。
狂気の道標である月が隠れる新月の晩であれば、理性の復元により真名を思い出すことができる。
彼女の恋の成就を手助けした事もある。
『この世ならざる幻馬(ヒポグリフ)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:2〜50 最大捕捉:100人
上半身は鷲、下半身は馬という本来「有り得ない」魔獣・ヒポグリフ。
その突進による攻撃はAランクの物理攻撃に相当し、ジャンボジェット機を追い抜くぐらいは造作もない速度で飛行する。
その真の能力は「次元跳躍」。真名開放すれば非実在の存在としての認識が強まり、この次元から昇華されて異なる次元へと跳躍する
そこで完全に消滅する寸前に乗り手が元の世界に引っ張り上げることで、一瞬だけ消滅し、また出現するという状況を引き起こすことができる。
そしてこの世界から消滅している瞬間だけはあらゆる観測から逃れ、攻撃を無効化することが可能となる。
飛ぶだけなら魔力消費は大したことはないが、能力を開放するとAランク宝具の全力開放に匹敵する魔力を消費し続けるほど燃費が悪い。
なお、この宝具はもともと彼ではなくブラダマンテのものである。
『恐慌呼び起こせし魔笛(ラ・ブラック・ルナ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:100人
大きく吸い込んだ息を角笛に向けて吐き出す事で、魔音を発生させる純粋な音波による広域破壊兵器。
威力はさほどではなく、雑兵相手ならば100体以上を一瞬で消し飛ばすがサーヴァント相手には心もとない。
真の恐ろしさは度を超えた音の衝撃による混乱であり、慣れた者が吹けばサーヴァントの聴覚を奪うことも可能である。
【weapon】
触れれば転倒!(馬上槍)
【人物背景】
シャルルマーニュ十二勇士の一人であり、イングランドの王子。
理性蒸発したポンコツ英霊である。
純真無垢で明朗快活、美少女と見紛う、派手に着飾った中性的な美少年。
文字通り「理性が蒸発している」ためかなりのお調子者。自身にとって「その行為が心地よい」ものかどうかが判断基準。
上記の理由も相まってともすれば堕落、悪に変転する可能性もゼロではないが
アストルフォ自身の頭から根本的に「悪事を為す」というプログラムそのものが抜けているため善良である。
むしろ助けを求めるものは決して見捨てず、体躯も筋力も圧倒的に上回る相手に一歩も怯まない純正の英雄。
【方針】
聖杯を望まない巻き込まれた者はできるだけ助ける。
投下を終了します。
>>足りない忘却の雫
しょうこちゃんの描写、いいな〜〜! となって一人でにこにこしながら読み進めました。
個人的にしょうこちゃんを排除してしまったところで物語の行く末が決まったと思ってるので、めちゃくちゃ好きなんですよねこの子。
厄いのとかじゃなく善良で尚且つ戦えるサーヴァントを引けたことも含めて首尾は上々。
ただあくまでも彼女のメンタルは常人相応なので、聖杯戦争では容赦ない曇りの未来が予想されますね……。
>>アストルフォ&ランサー
アストルフォをマスターにしてしまおうという発想にまずびっくりさせられました。
そしてそんな彼が呼んだサーヴァントは同じシャルルマーニュ十二勇士のブラダマンテ。
縁召喚も此処まで来るともはや凄まじいと言う他ない次元ですね。
サーヴァントとしては弱くてもマスターとしてはさすがに強そうなアストルフォ、どうなるか楽しみです。
皆さん本日も投下ありがとうございました!
投下します
黒のローブに三角帽子という、いかにも「魔女です」というコスチュームに身を纏った少女がいた。
少女は、帽子では隠し切れない灰色の長髪をなびかせ、物憂げな表情をしています。
その可憐な少女は、旅人であり、魔女でした。
そう、私―もといイレイナです。
「この間悪魔に変な場所に閉じ込められたばかりだというのに、やってられませんね」
イレイナは、先日『あなたの願いを叶える国』に入り、十数人の自分自身と邂逅するという奇妙な出来事を体験した。
あの時は3日間イレイナたちと過ごし、悪魔の申し出を断った後、無事に元の世界に戻れたが…どうにも今回は、そう簡単にことが運ぶことにはならなそうだ。
「…それで、そろそろ出てきてくれませんか?私のサーヴァントさん」
そういってイレイナが振り向いた先には、誰もいない。
が、しばらくすると目の前の空間が歪み、一人の女性が姿を現す。
「気づいていたのね、さすがだわ」
現れた女性―サーヴァントを、イレイナはじっと見つめる。
その人物は、イレイナと同じく黒いローブに三角帽子、そして灰色の髪を持つ女性でした。
そう、少女ではなく女性。
イレイナと似た特徴を持ってはいるが、目の前の人物はイレイナより5,6歳は歳上な外見だった。
まあ、サーヴァントという存在に、年齢などあってないようなものだが。
「あなた…何者ですか?」
イレイナは、自身のサーヴァントを訝しげに見つめる。
容姿や声が自分に似ていて、しかし自分より大人な女性。
イレイナと無関係とは思えなかった。
サーヴァントは、イレイナの問いに柔らかな笑みを浮かべると、言った。
「これからよろしく、イレイナ……いえ、こう呼んだ方がいいかしら?『主人公の私』」
「!その呼び方は…」
イレイナは、目を丸くしてサーヴァントを見つめる。
主人公の私。
それは、先ほども述べた十数人のイレイナが集まった世界にて、自分に与えられた呼び方。
無個性という短所を長所的に言い換えてみたとかいうふざけた理由で命名された、私自身の名前。
目の前の人物は私のサーヴァントですから、マスターである私の経歴を知っているのはおかしいとは思わない。
しかし…わざわざ私のことを『主人公の私』と呼ぶということはまさか…
目の前の、大人版イレイナみたいな姿をしたサーヴァントの正体は…
「あなた…まさかあの世界にいた『私』ですか?」
イレイナの質問には答えず、サーヴァントは言う。
「さて、ここで問題。目の前にいる、美しい灰色の髪を靡かせた美女の正体は誰でしょう?」
「ふざけてるんですか」
「まあまあ、考えてみてくださいよ」
サーヴァントに言われ、改めてイレイナは目の前の女性を見つめる。
自分に似ているが、大人っぽい色気に溢れている。
外見は全然違うのに、なぜだかフラン先生を彷彿とさせる。
その雰囲気は、フラン先生のように、学校の先生という印象を与えた。
あの時会った時と違って眼鏡はしていないが、もしかして…
「分かりました。『知的な私』ですね?」
「溢れる知性を私から感じ取ったことはほめてあげますが、残念ながら違います」
違ったらしい。
彼女じゃないなら誰だろう。
「…じゃあ、ヒントをあげます。ほぼ答えのようなものですが…『時計郷ロストロフ』」
「それは…!」
時計郷ロストロフ。
それは時計塔が中心に立った国で、演劇が盛んでした。
私自身は、そこで『二丁目のエステル』という演劇を見たくらいの思い出しかありませんでした。
しかし、十数人の私の中には、この国でとても悲しい出来事に直面した私がいました。
そのイレイナの呼び名は…
「あなた、『粗暴な私』ですか」
「そう、それが私です。…あ、でも粗暴だったのは昔の話ですし、今はサーヴァントの私とでも呼んでください」
「それならこっちも主人公の私ではなくマスターの私、ということにしておきましょうか」
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「改めまして…久しぶりね、マスターの私」
「私からすれば、つい最近別れたばかりの存在なんですけどね」
懐かしむようなサーヴァントもとい、サーヴァントイレイナに対し、マスターイレイナはそっけない態度。
しかし、それはあくまで表面上なもので、内心ではその再会を喜んでいた。
時計郷ロストロフの悲劇により、やさぐれ、他のイレイナを襲っていた粗暴イレイナ。
主人公の私である自分と戦い、言葉を交わし合い、多少は前向きさを取り戻したようではあったが、それでもあの後彼女がどうなったのか気がかりではあったのだ。
「元気にやってるようで安心しましたよ、サーヴァントの私」
「ええ、あれからも楽しいこと、悲しいこと、たくさんあったけれど…悔いのない旅ができたと思ってます」
「…一応聞きますけど、その外見の時に死んだとかじゃ」
「そんなことにはなってないから安心してください。この外見はあなたと別れて7,8年後くらい…ラトリタ学園で教師をしていた頃の姿だけど…その後もしっかり、旅を続けたわよ」
「へえ…教師ですか。色々あったんですねえ」
「ええ、そしてこの本にその全てが詰まってる」
そういってサーヴァントイレイナは、一冊の本を取り出した。
「この本は…?」
「『魔女の旅々・完全版』。本当は数十冊くらいの内容なんだけど、今は魔法の力でこの一冊に全巻の内容を網羅しているの」
「これに、あなたの旅のすべてが…」
思わず、マスターイレイナの喉がゴクリと鳴った。
そんな彼女の様子を面白そうに眺めながら、サーヴァントイレイナは言った。
「読みたい?」
粗暴イレイナの問いに、主人公イレイナはしばらく考え込むように顎に手を当て…やがて首を振った。
「読んでみたくはありますが、やめておきます。ここには…『私が選ばなかった物語』だけでなく、『これから私が選ぶかもしれない物語』も載ってるかもしれませんから」
『あなたの願いを叶える国』にて、イレイナたちは他の自分の日記を回し読みした。
そこに書かれているのは、別の自分の過去であり、すなわち『私が選ばなかった物語』だった。
しかし、今目の前にある魔女の旅々・完全版には別の自分の未来が書かれている。
別の自分の未来が、主人公イレイナの未来と重なる部分があってもおかしくはない。
すなわちそれは『これから私が選ぶかもしれない物語』であり、そんなものをネタバレしてしまうのは興ざめだった。
「そう、それでいいのよマスターの私。あなたにこれは…必要ない。未来は分からないからいいんですから」
そういうとサーヴァントイレイナは、魔女の旅々・完全版を焼滅させるのだった。
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「それでマスターの私。あなたはこれからどうするつもり?この界聖杯の世界で」
「そうですね、もちろん元の世界には戻りたいですし、聖杯というものにも興味はありますが…その為に殺し合いに興じる気にはなれませんし…別の方法を探す為に、この世界を旅してみましょうか」
「そんなこと言って、旅がしたいだけじゃないです?」
「あ、分かっちゃいますか」
「そりゃあ、『私』のことですから」
ともかく一応の方針を決めたマスターイレイナは、サーヴァントイレイナが操る箒にまたがった。
箒と杖は没収されていて、サーヴァントイレイナしか持っていないのだ。
「旅をしながら、私の箒と杖も調達したいとこですね」
「そうね…それじゃあ始めましょうか。私たちの旅…『魔女の旅々』を」
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(マスターの私…あなたにはずっと恩返しがしたいと思っていました)
時計郷ロストロフでの悲劇。
あの出来事で絶望した粗暴だったころの私は、きっとあのままだったら腐って失意のままに故郷へと帰っていたことだろう。
だけど、あの国でたくさんの私と出会い、そして主人公のイレイナと言葉と魔法を交わし…旅人として立ち直ることができた。
そして、ラトリタ学園での騒動など、様々なことを経験し…見事、旅を全うすることができた。
今のマスターである彼女には、いくら感謝しても足りない。
(マスター…主人公の私。あなたの旅路を、邪魔なんてさせない。たとえまた粗暴な私なんて呼ばれる存在になったとしても…あなたを脅かす人は、排除する)
【クラス】
キャスター
【真名】
イレイナ(粗暴な私)@魔女の旅々
【ステータス】
筋力D 耐久C 敏捷C 魔力A 幸運D 宝具B
【属性】
中立・悪
【クラススキル】
陣地作成:B
自らに有利な陣地を作り上げる。
【保有スキル】
猫アレルギー:C
かつて猫アレルギーだったことから与えられたスキル。
猫系の敵からの魔法系攻撃を受け付けないかわりに、猫系の敵に対するパラメータが一段階下がる。
魔法系攻撃を無効化するのは、かつてこのアレルギーによってチャーム系能力を持った化け猫の能力が通用しなかった逸話の再現。
ゴーレム殺し:A
かつてラトリタ学園を襲ったゴーレムを氷塊の一撃で倒した逸話から与えられたスキル。
ゴーレム系の敵に対し魔力と耐久力が増大する。
魔性:D
様々な女性に好意を寄せられた逸話から与えられたスキル。
女性に対し魅了効果を発動する。
とはいえランクは低いので普通の女性ならちょっとドキドキする程度である。普通の女性ならね。
【宝具】
『ゴーレム殺しの氷塊』
ランク:B 種別:対土宝具 レンジ:1~50 最大補足:100
巨大な氷塊を地面に叩きつける宝具。
ゴーレムは勿論のこと、地属性の生物や物体に対しても特攻効果を持つ。
また、本来は発動にそれなりの時間を要するが、宝具として使用した場合は即時発動できる。(マスターイレイナ共々、時間をかければ宝具としてでなくても発動自体は出来る)
【weapon】
杖と箒。
【人物背景】
時計郷ロストロフにて10年前にタイムスリップした彼女は、そこで起きたエステルとセレナの悲劇にショックを受け、切り裂き魔に髪を奪われても取り戻す気力などなかった。
失意の中、自分以外のイレイナと出会った彼女は暴走し、粗暴な私として他のイレイナたちを傷つける。
しかし、一人のイレイナとの魔法と言葉の応酬により気づきを得た彼女は、旅人として己を取り戻すことに成功した。
それからも旅を続けた彼女は、ラトリタの街にてゴーレムの襲撃に巻き込まれ、未来の自分の教え子と名乗る少女たちとの出会いを経て、ゴーレム退治に成功する。
そしてその時の出来事から自分が未来にラトリタ学園で教師になる必要があることを知った彼女は、7年後、ラトリタ学園の教師となり、そして今度こそゴーレム事件に終止符を打った。
事件を解決した彼女は、ラトリタ学園の教師を辞めて再び旅人に戻る。
その後の旅の行方は…彼女と彼女の著書の読者のみが知る。
この界聖杯世界では、ラトリタ学園の教師をしていた時代の姿で召喚されている。
ちなみにラトリタ学園の話については、粗暴なイレイナの話とはっきり明言されているわけではないが、作中でこの話のイレイナは時間遡行の経験があると発言しており、原作では時計郷ロストロフでタイムスリップしたイレイナはこの粗暴なイレイナしか確認されていないことから、ラトリタ学園編のイレイナ=粗暴なイレイナということにしている。
【サーヴァントとしての願い】
マスターの私を守る。
その障害となるものには容赦しない。
【マスター】
イレイナ(主人公の私)@魔女の旅々
【マスターとしての願い】
聖杯に興味はあるが、殺し合いをする気はない。
優先順位としては、元の世界への帰還>聖杯。
【weapon】
なし
【能力・技能】
サーヴァントイレイナ同様魔法が使えるが、サーヴァントかつ経験豊富なサーヴァントイレイナには数段劣る。
また、杖と箒がない現状では無力な少女である。
【人物背景】
魔法使いの最高位、魔女に15歳という若さでなった天才少女。
時に金に汚く、時に優しく、様々な国に旅をする美少女である。
そしてこのイレイナは、『あなたの願いを叶える国』にて主人公の私と名付けられたイレイナ。
はっきり明言されているわけではないが、物語のほとんどのイレイナは彼女だと思われる。
多くの人に知られているだろうアニメ版との違いについて言及すると、アニメでは「時計郷ロストロフでエステルの悲劇を目撃したが闇堕ちしなかったイレイナ」というニュアンスの描写になっているが、原作では「時計郷ロストロフに行ったが劇を見ただけで、エステルに会わずタイムスリップもしなかったイレイナ」となっている。
【方針】
界聖杯世界を旅する。
【補足】
参戦時期は3巻十四章「ありとあらゆるありふれた灰の魔女の物語」終了後。
投下終了です
投下します。
夜の東京。
ビルの屋上から看板ひしめく繁華街を見下ろす美少女は、困惑のため息をついた。
「……わけがわからないわ。これが"懲罰"ってこと?」
少女は白い肩出しワンピースを纏い、白いつば広帽を被っている。
髪は薄紫色を帯びた白で尻まで伸び、三つ編みおさげが二本。睫毛も白く、長い。
瞳は赤く、瞳孔は十字型。口の中には爬虫類じみた鋭い牙が並ぶ。
彼女は戦場で失態を犯し、祖国へ強制送還された身だ。これまでを振り返り、状況を整理する。
あんな事態は想定外だったが、言い訳は出来ない。
結果的に、任された三体の獣騎をすべて逸失。二体は命令者を裏切って残り一体を殺し、他の獣騎を殺し回っている。
『人間と信じ込ませて獣騎を育てる』という、シュラアの発案が全て裏目に出た。
とは言え、それを止めなかった自分も同罪だ。事情と推測はすべて伝えた。懲罰ならば甘んじて受けよう。
それが―――この戦場での殺し合い、なのか。
命令者であるこの私に、獣騎ならぬ英霊、サーヴァントとやらを操り、殺せというのか。
やれと言うならやるしかないが、獣騎ほどの戦闘力は私にはない。
そも戦闘能力が弱められている。異空間への転移も出来ない。
まあいい。肉体的能力だけでも、そこらへんの「人間」にはそう負けない程度はあるはずだ。
英霊という兵器はある。武器と知恵と、他の参加者も活用しよう。
これは多分、試験だ。優勝すれば名誉回復の機会も与えられよう。
事件のもととなった人間の感情の力も、都合の良い方に使いようがあるはずだ。
それをここで学習し、研究しよう。あるいは聖杯の力で人類殲滅を成し遂げるか。
少女は牙をしまい、瞳孔を変化させ、より人間らしく擬態する。
「とにかく、サーヴァントを喚び出してみましょうか」
聖杯戦争や英霊に関する知識は、脳内に吹き込まれている。
彼女は屋上の空間に右手をかざし、呪文を唱え、魔力を凝集させる。
金色の粒子が集まって、大柄な人のかたちをとる。どうやら―――女性のようだ。
長身で金髪碧眼、スタイルもよい美女であるが、暴君のような野性的な雰囲気を漂わせる。
黒い肩出しドレスを纏い、腕や手首、首にはトゲつきの輪をはめ、王冠を頂く頭の横からは大きな角が二本。
唇の端からは牙が覗く。背中にはトゲの生えた甲羅、スカートの下には爬虫類の太い尾。
少女には、このような存在に馴染みがある。縁があるというやつか。
サーヴァントは少女を見ると、腰に手を当てて好戦的な笑みを浮かべた。
鼻息には炎が混じっている。やはり、同類だ。
『フン! 貴様がワガハイの、マスターとやらか?』
「そうよ。私は、命令者・白(ホワイト)。あなたは?」
彼女は首を傾げ、不本意げに顔をしかめた。
『ワガハイは……あー、このような姿で召喚されるのは初めてでな。
アルターエゴ(もうひとりの自分)というクラスらしい。
真名は「クッパ」だが、「クッパ姫」ということになっておる。好きに呼ぶがいい』
彼女……否、「彼」は、もともとこのような姿ではない。もっと恐ろしげな、怪獣のような姿であった。
なんらかのミーム汚染により、こうした姿の存在として観測されたのだ。ややイレギュラーな英霊と言えよう。
「じゃあ、アルターエゴでいいわ。……能力は、まあまあね。やる気は?」
そう問われて、アルターエゴは炎混じりの鼻息を噴く。
『十分だ! 聖杯を獲得すれば、何でも思いのままだというではないか!
安心しろ、ワガハイは強いからな! 任せておけ! ガハハハ!』
【クラス】
アルターエゴ
【真名】
クッパ姫@スーパーマリオシリーズの二次創作
【パラメーター】
筋力B+ 耐久B+ 敏捷C 魔力B 幸運D 宝具B
【属性】
混沌・悪
【クラス別スキル】
無辜の怪物:A
本人の意思に関係なく、風評によって真相を捻じ曲げられたものの深度を指す。
このスキルを外すことは出来ない。
対魔力:C
魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:B
大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、幻想種あるいは魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。
車や戦車、飛行船などを乗りこなす。
【保有スキル】
黄金律(富&体):B
金銭と肉体美、ふたつの「黄金律」および「カリスマ」の複合スキル。
クッパ軍団/カメ帝国とキノコ王国の富、クッパの身体能力とピーチ姫の美貌、国主たる両者のカリスマを兼ね備える。
怪力:B
魔物、魔獣のみが持つとされる攻撃特性。使用することで一時的に筋力を増幅させる。
本来の姿よりやや弱体化しているが、魔力をみなぎらせて一時的に大型化/筋力アップすることができる。
石化の魔眼:B
常時発動。込める魔力を強め、かつ視線を合わせることでより強力な効果を発揮する。
対魔力がE以下の者は石化(衝撃を与えると解除)。Dでも判定次第で石化する。
C以上であれば判定は発生しないが、全能力を1ランク低下させる『重圧』の影響下に晒される。
大魔王と呼ばれる強力な魔法使い(魔術師)で、キノコ王国の住人たちを岩やレンガなどに変えてしまった逸話がある。
マリオが岩やレンガを破壊するとアイテムが手に入るのは、彼らを助け出すことでアイテムを貰っているからだとされる。
【宝具】
『菌糸類国超王冠(スーパークラウン・オブ・マッシュルーム)』
ランク:B 種別:対己宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
アルターエゴが生まれるきっかけとなった宝具。
頭にかぶるとキノコ王国の王女ピーチ姫によく似た姿に変化するマジックアイテム。
本来はピーチ姫に仕えるキノピコだけが使用できるが、「もしクッパがかぶったら」というミームがひとり歩きしてこうなった。
外すことはできない。
【Weapon】
口から灼熱の炎や火球を吐き出す。上空に炎をばら撒いて火の雨を降らせたり、手から炎を放つこともできる。
肉体は強靭で、岩をも砕くパンチ、落下して押しつぶし周囲に衝撃波を発生させる急降下プレスを繰り出し、
爪や牙、角や甲羅を用いた肉弾戦も得意。甲羅を大きくして中にこもり、棘を突き出して回転突撃することも可能。
ハンマーや爆弾を投げつけたり、顔と牙を持つ意志ある鎖付き鉄球「ワンワン」を振り回したりもする。
また、怪獣めいて巨大化する能力を持つ。大きさは通常から数回り大きくなるだけのこともあれば、
城より大きくなることもある。多くは他者の魔法や薬品、装置の力を借りているが、
潜在的に巨大化能力を持っており、生命の危機に際して反動で巨大化するのだともいう。
ここでは宝具により制限されており、戦闘に際して少し大型化し、筋力がアップする程度である。
【人物背景】
Twitter出身の二次創作キャラ。
スーパーマリオシリーズの往年の悪役「クッパ」が、スーパークラウンというアイテムで「ピーチ姫化」した姿。
元ネタの知名度に加え、各種性癖を過積載なほど兼ね備えており、SNSを介してミームの世界的爆発を起こした。
人格はクッパのままで、一人称は「ワガハイ」。横暴・頑迷・自惚れ屋でどこか抜けているが、親分肌で人望は篤い。
【サーヴァントとしての願い】
世界征服。元の姿に戻ってもいいが、これはこれで気に入っているので、あまり気にしない。
【方針】
聖杯を獲得する。邪魔する者はブチのめす。
【マスター】
命令者 白(ホワイト)@ジガ-ZIGA-
【Weapon・能力・技能】
特殊な脳波「閃煌波」を操作して強力な思念波を放ち、念話や異空間転移などの特殊能力を備える。
身体能力も高く、数メートルの高さに軽々と跳躍する。
心臓を銃弾で撃ち抜かれても死なず、糸状の組織を出して自己修復する。転移能力は制限されている。
【人物背景】
漫画『ジガ-ZIGA-』の登場人物。
謎の異世界から地球人類を殲滅するために派遣された侵略者。「獣騎」という怪獣に命令を下す攻撃指揮官の一人。
人間に擬態しており、ギザ歯の人外娘という属性、上から目線からのポンコツムーブなどから、
ネットの一部で一時ブームを巻き起こした。
【ロール】
なし。
【マスターとしての願い】
地球人類の殲滅。
【方針】
聖杯の獲得。邪魔する者は鏖(みなごろし)。
【把握手段】
原作。
【参戦時期】
本編終了後。
投下終了です。
>>時を隔てた再会
二次聖杯系の企画では時たま見る、同一人物同士の組み合わせですね。
こういうお話をアイデアだけで留めず形にすることができる表現力はすごいなと思います。
自分同士の会話であっても単調にならず、視点の違いがある故の味わいが出ていたように思いました。
色んな転がし方の余地があってとてもわくわくする主従だったなと思います。
>>King of the Monsters
命令者ちゃん、一時期話題になったな〜〜と思って読み進めたらクッパ姫出てきて草。
ネットミームとなったキャラ同士の組み合わせという斬新な発想、とても面白かったです。
ていうかクッパ姫、そりゃクラスはアルターエゴだよなあ……と。
真新しい、少なくとも自分にはない発想と観点で描かれたお話、楽しませていただきました。
皆さん本日も投下ありがとうございました!
>>291
すみません、こちら書き忘れがあったので追記します。
【備考】
マスターでありサーヴァントというバグの塊のような存在故か、界聖杯から一切のロールを与えられず世界に放り出されています。
そのため拠点や、受肉しているために必要な食料などが一切ありません。
手元にあるのは数千円の現金のみですが、本人はさほど気にしていません。
投下を開始します。
ピッ、 ポッ、 ポッ、 ポッ、
電子メトロノームが、規則正しくリズムを取る。
キュッ、キュッ、キュッ、キュッ、
トレーニングシューズのゴム底が、レッスン室の床を規則正しくこする。
壁一面の大鏡を前に、二本の足が淀みないステップを踏んでいた。
紅く染めたウルフカット。踊るために最適化され、削ぎ落とされ、絞られた肢体。
ジャージ姿の緋田美琴が、今日もレッスンに明け暮れていた。
10年間、アイドル目指してレッスンを重ねながら芽の出ない日々だった。
元いたプロダクションから新天地『283[ツバサ]プロダクション』に移籍した。
そこで一人の新人研修生とユニットを結成。
そして新人アイドルの登竜門『W.I.N.G.』で優勝。
緋田美琴は、命を賭けた宿願である『アイドル』として、ようやく歩みだしていた。
だが、アイドルとしての活動に必要な相方は、今、ここにはいない。
相方だけが、ピンの仕事で呼び出されているのだ。
仕事の内容は、テレビ番組の出演、コマーシャルなど。
『地味だけど、喋らせると面白い』となかなかの評判であった。
最近は、美琴独りで練習することが増えてきている。
最近まで普通の女子高生として生きてきたからこその無分別さと、思い切りの良さは、
危なっかしくあるけれども、あの子の魅力でもあることは確かだと、美琴は思う。
――それは、10年間を歌と踊りに捧げてきた私には無い、彼女のアイドルとしての武器なのだろう。
時に野鳥さえ魅了する美しい歌声。いくら失敗を重ねようとも笑顔を崩さない前向きさ。
まだ児童と呼べる年頃の娘しか持ち得ない、無垢な瞳の輝き。
凸凹な年下の双子をまとめて包み込む包容力。どんなに難しいダンスも一目でモノにする天性の才能。
ただ、そこにいるだけで場の空気を支配する、残酷なまでの存在感。
それぞれが、人々の心を掴むアイドルの才能だ。
羽ばたかせさえすれば、頂点まで届きうる、彼女たちの持つそれぞれの翼だ。
――私には、無い。
それでも私はもう一度自分を信じて、ここまで来られたのだ。
283プロのプロデューサーが、私の10年間磨いてきた技術を信じてくれたから。
翼がなくとも、この二本の足で積み重ねたものを信じてくれたから。
だけど――と、最近、相方だけに仕事のオファーが来る現状に、既視感を覚えてしまう。
『歌が上手いだけの子』『踊りが上手いだけの子』と評価されながら、
羽ばたいていく後輩を見送り続けていた頃のことを。
思い出すのは、10年以上前、故郷の北海道にいた頃のこと。
ピアノのコンクールで、私は練習に練習を重ねたチャイコフスキーを完璧に演奏した。
優勝したのは、「天国にいるミャオのために」と弾いた、別の子だった。
どちらの演奏が優れていたか、どんな講評がされたかは、もう覚えていない。
けれども、「緋田さんはいつも上手だから」という誰かの言葉だけは――なぜか忘れられなかった。
283プロの新しいプロデューサーはこう言ってくれた。
「美琴のパフォーマンスが評価されないなんて、間違っている」
――と。
その言葉に嘘はないと思う。私は積み重ねてきた練習量だけは人一倍という自負はあった。
『ダンサー』なら、ステージで問われるのは正確な踊りの技術。
『歌手』なら、ステージで問われるのは曲の魅力を引き出す歌唱の技術。
『モデル』なら、問われるのは衣装に合わせて維持してきた体型であり、メイクであり、見せる技術。
――では『アイドル』はステージの上で何を問われるか?
その人がその人であること、その人の歩んできた人生、全てだ。
『緋田美琴』には、それが足りない。
14歳で北海道を飛び出し、10年間ずっと、レッスン室の記憶しかない私だから。
プロデューサーはその歩みを知っていて私を評価してくれた。
だけど、初見のお客さんにそれが伝わるだろうか?
これでは自動演奏のピアノや、ステージ上に映される3D映像のダンサーと変わらない。
『緋田美琴』はそれでも『アイドル』であることにしがみつこうとしている。
もう24歳の私が『アイドル』でいられる時間はもう長くない。
いまさら路線変更は手遅れだ。それが矛盾に満ちた行為と解っていても、私は純粋にパフォーマンスを磨くしかない。
空を羽ばたき、頭上を追い越してゆく翼たちに追いすがるため、私はこの二本の足を、動かし続けるしかない。
――私には、これしかない。だから、これがいちばんいいんだ。
気がつくと美琴は、うずくまるような姿勢で床に眠り込んでいた。
レッスンに没頭しすぎて、そのまま眠ってしまっていたらしい。
変わらないレッスン室の風景。喉が渇いていた。飲み物は残っていただろうかと見回した。
――人がいる。ホームレスの人が。
戸締まりを忘れてしまっていたのだろうか。
気の毒だが、警察に連絡してこのレッスン場からは出ていってもらうしかない。
失礼とは承知ながら、そこにいた男性は、それほどまでに薄汚れた風体だと、美琴は感じていた。
頭の形はジャガイモのようで、頬を始めとして荒っぽく縫われた傷跡がいくつもあった。
両手には穴の空いた軍手、服は着古された作業着のように見えた。
そして、傍らには『アサシン』の文字が浮かんでいて――。
――美琴は急なめまいに襲われ、そして、思い出した。
界聖杯、そして、それを奪い合うための聖杯戦争のことを。
「……上官殿、いや、マスター、と呼ぶべきか?」
この男性こそが、マスター・緋田美琴のサーヴァントだったのだ。
作業着に見えた衣服は、旧大日本帝国・陸軍の軍服だった。
「何でも良いが、指示をくれ」
「……私を守って。それだけでいい」
「いいぜ」
美琴はそれだけを告げ、湯沸室に向かった。
そして2本のスポーツドリンクを手に戻ってきた。
「サーヴァントは飲み食いしなくてもいいんだぞ」
「……私だけ飲むのも、悪い気がして」
「ありがとうよ」
そう言うとアサシンはドリンクを喉を鳴らして、一気に飲み干した。
「界聖杯、いらねえのか」
「……それを使ってアイドルになるのは、違う……気がするの。やっぱり」
それは本心からの言葉に違いなかった。
――いっぽうで、だけど、と、美琴は思うのだ。
私は『アイドル』になるためには、どうすれば良かったのか?
『アイドル』になるために最善の人生を、やり直すことができるのか?
――と。
しかし、そのように『最適化された人生』を歩んだとして、
私は今の私のようなダンスや歌の技術をモノにできているだろうか?
純粋なパフォーマンスの技術があってこその『アイドル』だと信じて、私は今までやってきたのだ。
界聖杯からもらった答えを基に人生をやり直して成る『アイドル』は、
私の求める『アイドル』とは違うのだ――違うはずだ。
だから、緋田美琴は聖杯戦争には参加しない。
戦争などする時間が惜しい。私には結局、パフォーマンスを磨くしかできないのだから。
「じゃあ、おれは出入口で見張るとするぜ」
「……お願い」
鉄帽を目深に被ったアサシンの顔かたちは、眼光だけがギラギラと光る、
狩人の――そして、狂人のそれだった。
「――任せな。あんたみたいなベッピンさんを守れるんだ。張り合いも出るってもんだぜ。
それに――この世界一の銃がある限り、おれは負けんさ。絶対に」
そう宣言した彼の高々と掲げた小銃は、ピカピカに手入れされていて、長らく使い込まれ、古ぼけていて――
まるで、それは――私の写し身のようで――。
【クラス】
アサシン
【真名】
パイロットハンター@パイロットハンター(松本零士作 ザ・コクピット1巻 収録読み切り)
【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷D 魔力E 幸運A 宝具D+
【属性】
混沌・中立
【クラススキル】
気配遮断:C〜A
サーヴァントとしての気配を絶つ。
このアサシンのランクはC相当であるが、狙撃手として身を潜め、初弾を放つまではAランクまで強化される。
【保有スキル】
射撃:A
アサシンは、有効射程が500m以下とされている三八式歩兵銃で、
1000m以上の長距離狙撃を幾度も果たしてきた。
精神汚染:C
意思疎通自体は可能で、マスターの命令にも基本的には従う。
だが、アサシンは旧日本軍の兵器以外の使用を頑なに拒む。
部隊に配備された三八式歩兵銃こそが世界で最良の小銃であると信じている。
敵軍の装備についても詳しい知識を持つが、それでも三八式歩兵銃が最高であると信じている。
――そう思い込まなければ、孤独な戦いを続けることなどできなかった。
単独行動:A
1年以上、たった独りで敵国のパイロットを狩り続けてきたアサシンは高い単独行動適性を持つ。
マスターからの魔力供給が途絶えても1週間以上現界可能で、
霊格が低く魔力コストが小さいことも相まって、宝具も数回なら問題なく使用できる。
【宝具】
『翼を狩る者(パイロットハンター)』
ランク:E+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜1200 最大捕捉:1
常時発動型宝具。
航空爆撃によって自分以外の師団員を全滅させられたことからくる、空を飛ぶ者への憎しみ。
攻撃対象が自身より高所にいるほど、さらに対象が自由に飛行しているほど、
射撃の命中率・クリティカル率が強化される。
一方で飛行能力を持つ者・翼を持つ者への敵がい心が上昇する精神異常も組み合わさっており、
これらを持つ主従との友好関係を著しく結びにくくなる。
『新記録』
ランク:D+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜2400 最大捕捉:1
三八式歩兵銃への狂気じみた執着が生み出す、狙撃の絶技。
その技は、信頼を寄せた相手を守る際に最大限に発揮される。
スペック上の有効射程を超えようと、物理的に弾丸が届く限り、戦友を狙う敵の急所を捉えることだろう。
【weapon】
・三八式歩兵銃
アサシンの命。
太平洋戦争時の旧日本軍の主力小銃。口径6.5mm、装弾数5発のボルトアクションライフル。
各国の主力小銃と比較して、小口径・高初速で命中精度に優れた名銃といわれている。
『生産当初の年代は』、という但し書きがつくが。
有効射程460m、これは狙って撃ってある程度の確率の命中率と殺傷力が期待できる距離である。
最大射程2400m、これは撃った弾丸がどこまで届くかを示す値であり、
命中精度や殺傷力の期待できる距離ではない――とされている。
狙撃用の照準眼鏡を備えており、アサシンはこれを苦心して調整しているため他人に触らせることはない。
対人用の通常弾の他、航空機の破壊のために焼夷徹甲弾も使用する。
また、状況に応じて銃剣も装着する。
・一四年式拳銃
太平洋戦争時の旧日本軍に配備された自動拳銃。口径8mm、装弾数8発。
アサシンが生前救ったパイロットから譲り受けた拳銃。
その他、旧日本軍の陸軍歩兵用装備についてはひととおり取り扱うことができるが、今回は持ってきていない。
【人物背景】
太平洋戦争時の旧日本軍・陸軍兵。
軍人しての階級・日本人としての名前があったはずだが忘れ去られ、
真名・パイロットハンターとして英霊の座に登録されている。
彼の所属する師団の船は航空爆撃に遭い撃沈された。
たった独り生き延びた彼が流れ付いたのは、エクロバン島、カモイ岬。日米が制空権を奪い合う空の激戦地。
彼は本部に戻らず、カモイ岬に留まった。
彼は高い所を飛び、椅子に座ったまま戦争するうらやましい飛行機乗りが許せなかった。
空中戦に敗れ、パラシュートで脱出する米軍パイロットを地上からの狙撃で狩り続けていた。
自身に渡された三八式歩兵銃こそが世界でいちばんすぐれた小銃だと信じて――。
【マスター】
緋田美琴@アイドルマスター シャイニーカラーズ
【マスターとしての願い】
特に無い――はずである。
彼女が命に換えても果たしたい『アイドルになる』という願いは、界聖杯で叶えてもらうべきではない、と考えている。
――少なくとも、今のところは。
【weapon】
ない。
但し、時に昼から夜明けまでぶっ通しでレッスンを続ける体力・集中力は特筆に値する。
【能力・技能】
ダンスの技能については一線級のダンサーとしてやっていけるほど、と評されている。
また、幼少の頃にはピアノのコンクールで入賞候補となり、
アイドルを志してからも独学で音楽理論を学ぶなど、音楽の素養も豊か。
【人物背景】
年齢、24歳。
身長、170cm。
283プロダクション所属のアイドルユニット、SHHis[シーズ]のメンバー。
北海道から単身上京して10年間、芽が出ないままでいたアイドル候補生だった。
その間ひたすらに磨き続けていた歌とダンスは間違いなく一流と呼べる域に達していたのに、である。
長らく不遇だった彼女は283プロダクションに移籍し、一人の新人アイドル候補とデュオユニット、シーズを結成。
そして新人アイドルの登竜門であるコンテスト、W.I.N.G.に優勝。
『死んでもアイドルになりたい』という彼女の切なる願いが叶った。
ようやく彼女の『アイドル』としての歩みが始まったかに思われたが――。
【方針】
聖杯戦争に関与する気は今のところない。
サーヴァントに自衛を任せ、どこかで決着がつくまでひたすらレッスンをこなすのみ。
【役割】
ソロ活動中のアイドルだが、仕事は滅多に来ない。
実質貸し切り状態の地下レッスン場に住み込んで、練習に明け暮れている。
地下レッスン場には湯沸室やシャワー施設など、簡易な居住設備が備わっている。
しばらく食べていけるだけの貯蓄もある。
【テーマ曲】
『OH MY GOD』
【備考】
参戦時期は『〇〇-ct ノーカラット』以降。
投下終了です。
皆様投下乙です。
再び投下させていただきます。
♥
女の子は、なにでできているの?
お砂糖と、スパイスと、素敵なもの。
♥
朝。カーテンの隙間から日差しが挿す。
スマホのアラーム音にどやされて、目を覚ます。
眠気の抜けない瞼を拭いつつ、「二度寝しちゃおうかな」なんて考えて。
だけど、それじゃ駄目だから。学校には通わないといけないから。
気だるい身体を何とか後押しして、私――“宮崎すみれ”はベッドから起き上がる。
“お母さん”の呼ぶ声が聞こえる。もう朝ご飯ができていたらしい。早いなあ、なんて呑気に思う。
ここにいる“お母さん”は、きっと本物の“お母さん”じゃないけれど。
それでも私は返事をして、着替えも済ませずにリビングへと向かう。
一日の始まり。日常はいつものように流れる。
朝食をそそくさと済ませて、洗面台の前に立つ。
化粧には、時間をかけるようになった。
ファンデーションで綺麗に白く整えた肌。
マスカラで凛と主張させた睫毛。
自然な色合いのリップで染めた唇。
“あの人”とそっくりなメイクをしていた。
少しでも近付きたくて、始めたことだった。
一度はやめてしまったけれど。でも、結局また始めてしまった。そうするしかなかった。
“あの人”―――“松坂さとう先パイ”の姿を、自分自身に投影していた。
髪を、伸ばした。
“さとう先パイ”と同じように。
髪を、染めた。
“さとう先パイ”と同じように。
私の髪は、腰まで届くほど長くて。
そして、薄い桜色に染め上げられている。
左右非対称の可愛いヘアゴムで、髪の両サイドにお団子を作った。
何度も練習して、先パイと同じように結べるようにした。
そうして鏡の中に映っていたのは、“松坂さとう”に限りなく近付いている私だった。
松坂さとう。かつてバイト先で出会った、憧れの先パイ。
いつも綺麗で、可愛くて、何でもできて。どんな時でも、キラキラしている。
要領だって良いし、大体のことを器用にこなしてしまう。愚図で地味な私とは、全然違う。私は、私を好きになれなかった。
だからこそ、さとう先パイがまぶしくて。気がついた頃には、恋に焦がれていた。
先パイのロッカーを漁ったり、住んでいるところを探ろうとしたり。大好きだから、なんだってやった。
先パイの容姿とか、化粧とかも、真似ていた。
だけど、さとう先パイ。
あの日、あなたは言ってくれましたね。
ありのままでいい。
そのままが、いちばん可愛い。
成長しなくてもいい。
賢くならなくてもいい。
ダメなままでもいい。
生まれたままの貴女こそ、何よりも可愛い。
先パイにそう言ってもらえて、本当に嬉しくて、幸せで。
だけど、先パイのことを怒らせちゃったから。先パイの素性を探ることも、先パイの姿に近づくことも、それ以来やめた。
本当の私。ありのままの私。先パイは、なんの取り柄もない私をそのまま愛してくれる。
もう先パイに迷惑を掛けたくないし、困っているときは力になってあげたい。
そう思っていた。私の心は、さとう先パイに屈服していた。
だってあの人は、“私だけの理想のお姫様”だから。
でも。でも、でも。
先パイは、いなくなってしまった。
先パイが住んでいるマンションで火災が起きた。放火とか、そんな話だった。その翌日、朝のニュース番組が黙々と情報を伝えてきた。
松坂さとうが、亡くなった。
私だけの先パイが。
私の大好きな人が、遠くへ行ってしまった。
茫然とした。唖然とした。何も考えられなかった。
この世界から先パイがいなくなったなんて。
もう先パイと二度と会えないなんて。
どこを探しても、先パイは存在しないなんて。
先パイ。先パイ、先パイ、先パイ―――さとう先パイ。なんでですか。
なんで、私を置いていっちゃったんですか?
先パイが死んじゃうなんて。もう二度と、触れ合えないなんて。
そんなの。私、耐えられませんよ。
後を追うことも考えたけれど。怖くて、手が震えて、結局できなくて。
生きる意味も、死ぬ勇気も掴めないまま。さとう先パイが欠落した世界で、私はひと月、ふた月と、ぼんやり彷徨い続けた。
どれだけの時間が経っても、先パイの喪失を埋め合
わせることができなくて。
先パイがいないことが、つらくて。かなしくて。
私の中で先パイが過去の存在になっていくかもしれないことが、こわくて。
だから。考えて、考えて、考えて、考え抜いた。
先パイは神様に連れていかれた。これ以上、奪われたくなんてなかった。
そして私は、“松坂さとう”になった。
髪。化粧。服装。鞄や小物。下着だって、笑顔だって、全部全部さとう先パイとお揃い。
私の記憶の中にいる“あの人”を、徹底的になぞった。
こんな姿、先パイに見られたらきっと怒られてしまうと思う。
ありのままが一番って言ってくれたのに。そのままの私が大好きって言ってもらえたのに。その言葉を、私は裏切っている。
けれど、想いを抑えられない。さとう先パイは、もうどこにもいない。
だったら。さとう先パイを、この世界に繋ぎ止めないと。
私がさとう先パイに近付けば、さとう先パイはいなくならないんだから。
私の中で、私の大好きなさとう先パイが、ずっとずっと生き続けてくれる。
さとう先パイ。私の愛する人は、こうして永遠になる。
そう信じて、ここまで自分を塗り替えてきた。
家族や友達からも心配された。様子が変だとか。なにかに取り憑かれたみたいだとか。
そんな言葉さえも振り切って、私は松坂さとうをなぞり続けた。
そんな矢先に、私はこの界聖杯に招かれた。
ねえ。
さとう先パイって。
どうやってできてるんですか?
あの日の答えは、聞けなかった。
先パイに迷惑をかけたくないから。
先パイに嫌われたくないから。
でも。今なら、少しだけ分かる気がする。
.
♥
お姫様は、なにでできているの?
♥
行ってきます。
制服に着替えて、鞄を肩に掛けて、私は玄関から飛び出した。
見慣れた通学路を歩き出して、空を見上げる。
晴天。澄んだ青空が広がっていた。
頬をなでる風が心地よくて、ふっと微笑みが浮かんでしまう。
爽やかな朝だった。本当に、気持ちがいい。
なのに、心に生まれた隙間だけは、決して埋まらない。
視線を、ふいに落とした。
閑静な住宅街。周囲には誰もいない。
家と家の狭間―――ひっそりとした路地が、視界に入る。
そこにいたのは、一人の少女。
私を見つめて、ぽつんとそこに佇んでいて。
そうしてすぐに、地面の中へと“沈んだ”。
まるで水中へと潜るかのように、彼女は忽然と姿を消す。
見慣れた光景だった。彼女はああして、私を見守ってくれる。
アサシン。私のサーヴァント。
桜色の髪を持った、可愛らしい雰囲気の女の子。
真っ白なスクール水着と扇情的な身体が、最初は衝撃的だったけど。
だけど、話してみれば大人しくて何処かぼんやりとした娘だった。
アサシンちゃんは、“お姫様”に憧れているんだって。
綺麗で、可愛くて、崇高で、尊くて、皆の上に立つ存在。
物心ついた頃からずっと想い焦がれてて、そうして“理想の存在”と運命的な出会いを果たして。
彼女はその人の言葉を信じ続けて、その人の影を追い続けている。
なんだか、シンパシーみたいなものを感じてしまう。
きっとそれは、私にとってのさとう先パイと同じだと思うから。
私の背骨を形作る、絶対的な存在。他の誰よりも特別で、その人を追う為なら何だってできる。
聖杯戦争。
マスターとして招かれた人達が、サーヴァントを召喚して。他のマスターやサーヴァント達と、争いを繰り広げる。
勝ち残った一組だけが聖杯というものを手に入れられる、らしい。
それを使えば、どんな願いでも叶えられる―――私の頭の中に刻み込まれていた情報だった。
お伽噺にしてもけったいな話だったけど、現に私は見ず知らずの場所にこうして呼び寄せられている。
それに、アサシンちゃんだって傍にいる。初めて出会ったときは困惑したけど、今ではすっかり馴染んでしまった。
いつも私のことを気にかけてくれて、頼もしくて。だけど何処かぽけっとしてて、可愛らしくて。
顔立ちもスタイルも、私より全然いいのに。もしかしたら、妹ってこんな感じなのかな。不思議とそんなことを思ってしまう。
私が聖杯にかける願いを持つように。
アサシンちゃんにも、祈りがある。
さっきも語ったように、彼女には“理想のお姫様”がいる。
その人のようになるために、アサシンちゃんは此処にいる。
きっと彼女は、そのお姫様のことがどうしようもなく愛しいんだと思う。
それはもしかしたら、好きっていう気持ちなのかもしれない。
『ねえ、アサシンちゃん』
通学路をいつものように歩いている最中。
念話を使って、何気なく問いかけた。
『……どうしたの、マスター?』
きょとんとした声で、アサシンちゃんは聞いてくる。
なんてことはない。ふと思い浮かんだ、世間話だった。
『人を好きになるって、どんな気持ちだと思う?』
そう、ちょっとした会話。
だけどある意味で、私の根っこにある想いの話。
『むずかしい質問』
『ごめんね、急にこんなこと聞いちゃって』
『でも、どんなものかはわかる』
アサシンちゃんは、ほんの僅かに間を置いてから。
透き通るような声を、私の頭の中へと響かせる。
『……その人で、心がいっぱいになる』
淡々と、彼女はそう語る。
『その人の言ったことが、ぜんぶになる』
言葉に乗せられた仄かな感情を、私は感じ取る。
『そういうことだって、思う』
彼女の答えを聞いて。
私の口元は、自然に微笑んでいた。
―――やっぱり、アサシンちゃんは私のサーヴァントだ。
そんなふうに、思ったから。
さとう先パイにまた会えたら、謝りたい。
先パイの言葉を裏切って、ごめんなさい。
先パイとの約束を守れなくて、ごめんなさい。
私は、そのままじゃいられなかったから。
そして、改めて伝えたい。
さとう先パイ。おかえりなさい。
愛しています。大好きです。
さとう先パイを、取り戻す。
そのためにも。私は、絶対に聖杯を掴みたい。
今までは、私が繋ぎ止めるしかなかった。だけど、奇跡があれば、先パイは必ず帰ってくる。
だから、勝たなきゃいけない。
界聖杯の東京は、いろんな世界が入り混じっているらしい。お母さんや学校の友達もそうだけど、顔を知っている人達が何人かいた。
元の世界といっしょ。だけど似て非なる存在。きっとパラレルワールドというものだと思う。
もしかしたら、ここには“さとう先パイ”もいるのかもしれない。
でも、それは先パイじゃない。
あの時いなくなった、たった一人の存在。
それこそが、私の恋い焦がれたヒトだから。
ニセモノの先パイなんて、いらない。
だから、ここで“さとう先パイ”と出会ったとしても。
私は、聖杯を求めることをやめたりなんかしない。
あの日、あのマンションでいなくなった彼女を取り戻すために、私はここにいるんだから。
『学校、行ってくるね。アサシンちゃん』
『うん。いってらっしゃい』
家族のように、そんな和やかな会話を交わして。
私は、日常へと溶け込んでいく。
胸の内に、願いと想いを抱え込みながら。
♥
気高いお姫様は、甘い甘いお砂糖と。
沈むような想いで―――できているの!
♥
【クラス】アサシン
【真名】スイムスイム@魔法少女育成計画
【属性】混沌・善
【パラメーター】
筋力:D 耐久:C 敏捷:C 魔力:B 幸運:E 宝具:C+
【クラススキル】
気配遮断:B+
サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。
自らが攻撃態勢に移るとランクは大きく落ちるが、後述の宝具によって地面などに“潜水”している最中に限り戦闘時のマイナス効果が半減される。
【保有スキル】
魔法少女:B
“魔法の国”の試験官によって選抜された魔法少女のひとり。
魔法少女に変身することで肉体的・精神的に頑強となる他、それぞれ固有の魔法を行使することが出来る。
聖杯戦争においては常に魔法少女の状態のまま固定され、気絶などの強い衝撃を受けても決して変身は解除されない。
自己暗示:A+
《スイムスイムにとって、“ルーラ”とは憧れだった。》
《彼女の姿は、夢の中で思い描いていた“お姫様”そのものだった。》
アサシンの根幹を形成する狂信。彼女が解釈し、信じ続けた、理想への妄執。
同ランク以下の精神干渉をシャットアウトする他、暗示によって自己を強化することが可能となる。
「憧れのお姫様/ルーラになる」―――アサシンは無垢な信仰を反復することにより、戦術・策謀・暗殺・奇襲においてステータス以上の卓越した能力を発揮する。
カリスマ:E
小規模な集団を率いる才能。
自身が指揮をする集団戦闘において味方の能力を僅かに向上させ、策を弄す際にはクリティカル判定の成功率も増加する。
ただし集団の士気を上昇させることはできない。孤独な信仰を徹底的に内面化させたアサシンは、古今東西の英傑のように他者を先導する能力を持たない。
【宝具】
『どんなものにも水みたいに潜れるよ』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
アサシンの固有魔法。文字通り、どんなものにも水中のように潜れる。
魔法が発動すればあらゆる物質を擦り抜け、地中や壁面などへ自由自在に潜行して泳ぐことができる。
擦り抜けられる物質に際限は無いため、魔法を敵に対して発動すればあらゆる物理攻撃を“透過して”無効化できる。
ただし音や光などの“波”まで透過することはできない。魔法自体もあくまで物理的に擦り抜けるだけであり、魔術や異能などの特殊効果を必ず凌げる訳ではない。
『私だけのお姫様(ルーラ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~3 最大補足:5
アサシンによってその名を付けられた薙刀型の武器。彼女が散った後は“魔法少女狩り”の手へと渡り、多数の悪党魔法少女を制圧してきた。
“魔法の国”製の武器であり、あらゆる攻撃を以てしても破壊することができない。
数多くの魔法少女を殺傷・無力化してきた逸話を持つことから、魔法少女や魔法使いなど魔術に纏わる属性を持つ者に対して追加ダメージを与える。
【weapon】
宝具『私だけのお姫様(ルーラ)』
【人物背景】
N市の魔法少女選抜試験に選ばれた候補生。
本名は坂凪綾名。7歳の小学一年生であり、N市の試験において最年少の存在だった。
常に大人しく感情を表に出さないが、内面では“お姫様”に対する強い憧れを持つ。
同じ魔法少女候補生であるルーラを理想の存在として仰ぎ、他の仲間達とともに彼女に従っていた。
ルーラの言葉を信じ、ルーラの思想を学び、ルーラのようになることを望んだ。彼女の教えを忠実に守り続け、その果てにスイムスイムはルーラの殺害へと踏み切った。それこそがルーラの教えを実践する手段であると悟ったから。
そしてスイムスイムは“理想のお姫様/ルーラ”になるべく、凶行へと突き進んでいくことになる。
【サーヴァントとしての願い】
誰よりも美しくて、誰よりも偉大なリーダーで、誰よりも素敵な“お姫様”―――今度こそ、ルーラになる。
聖杯戦争に勝ち残ることで、それを証明する。
【マスター】
宮崎すみれ@ハッピーシュガーライフ
【マスターとしての願い】
松坂さとうを取り戻す。
【能力・技能】
地味で不器用で、いつだって上手くいかない。何処にでもいる、ただの女子高生でしかない。
だけど、“さとう先パイ”への愛だけは本物。
【人物背景】
メイド喫茶でバイトとして働く少女。通称“すーちゃん”。
「自分の事がずっと嫌だった」「クズで生意気で、誰にも好きになってもらえない」と語るなど、自身への強いコンプレックスを抱いていた。
それ故に容姿も振る舞いも完璧な先輩の松坂さとうを慕い、彼女に対して病的に執着している。
ロッカーを物色してさとうの化粧や下着などをそっくりそのまま真似し、住所などの家庭環境に踏み込もうとするなど、ストーカー紛いの異常な行動に及んでいた。
一度はさとうを問い詰めようとするも逆に丸め込まれ、釘を刺され、彼女に嫌われたくない一心で精神的な服従へと至る。
時間軸は最終話から数ヶ月後。
松坂さとうの末路を受け止められず、彼女は精神の均衡を崩した。
髪型も、髪色も、化粧も、服装も、鞄や小物も。今の宮崎すみれは、松坂さとうの姿を徹底的に模している。
そうすることで、自身の中でさとうを繋ぎ止めていた。彼女から認められた“ありのまま”では、もういられない。
【方針】
アサシンと協力して勝ち残る。
もしも、この場に“さとう先パイ”がいても。
私にとっての先パイは、元の世界のマンションでいなくなった“松坂さとう“だけ。
投下終了です。
投下します
北極の海で、一人の男が潜水艦に乗り込み沈んでいく。
それを見送るのは、男の宿敵だった一人の少年。
男は世界征服を企んでいた。
その為に己が持つ能力、組織力を十全に使い活動し、いずれは成し遂げることもできただろう。
だがそこに、宿敵だった少年が男の野望を阻むべく現れた。
少年は男の野望を非道と断じ、阻止するために戦いを挑む。
長く壮絶な戦いの果て、四度の敗北を期した男は悟る。
自分は決してこの少年には勝てないのだと。
だからこそ、男は一人北極海で眠ることを決断した。
少年はそれを受け入れ、見送る。
(長い戦いだった)
男の眠りを見送った少年は思う。
そして、もう二度と宿敵が目覚めることはない、と確信していた。
だが同時にこうも思った。
――これから僕は、どうすればいいのだろうか。
◆
「好きにしたらいいんじゃねえの?」
都内のとある一軒家。
表札に『山野』と書かれたこの家は、普段は両親と息子一人の三人家族が暮らすごく普通の一軒家である。
ただし、今は両親が共働きの上海外出張に行っているので、中学生の息子である浩一が一人暮らしをしている。
この家には今、二人の少年がいる。
一人は山野家の一人息子にして、家の中にも関わらず未だ学生服を着たままの山野浩一。
彼は正真正銘この家の住人である。
対し、もう一人は違う。
緑を基調としたジャージを着て、リビングでテレビゲームに興じながら、浩一と話す彼はこの家の住人ではない。友人でもない。
彼は、浩一のサーヴァント、セイヴァー。救世主のクラスを宛がわれた浩一の従者。
その彼は今、マスターである浩一の話を聞いて、困り顔を見せていた。
浩一の話とは、平たく言うなら人生相談だ。
己の全てをかけて倒すべき宿敵との戦いを終え、これから何をすればいいのか、という内容の。
「僕には、自分で言うのもなんですけど、元の世界なら世界征服を実現できるほどの力があります。
でも、僕はそんなことをしようとは思いません」
「じゃあいいじゃん」
「でも何もしない、というのも我慢できません。
僕の血を輸血すれば、助からないほどの大けがをした人でも助けられますし、僕の超能力を使えば、捕まえられない悪人は居ません」
「力があるから何かしなきゃいけないって訳でもないだろ。
いや、そういうこと言う奴は生前の仲間にもいたけど、俺はそうは思わねえし」
それに対し、セイヴァーは好きにしたらいいとしか言えない。
そもそも、セイヴァーの生前には力の有無に関わらず好きに生きていた人間が多い。
否、人間に限らず神でも悪魔でもそうだった。
だからこそ、浩一の悩みはセイヴァーには今一つ共感し辛い。
「したいことならする。しなきゃいけないことも、まあ面倒くせえけどやる。
やりたくないなら、出来る限りやらないようにする。これじゃ駄目なのか?」
「むむむ」
「何がむむむだ」
しかし、セイヴァーの彼なりに真面目な返答を聞いて、今度は浩一が困ってしまう。
浩一は己の運命に従い、使命を見つけ、その為に戦い抜いた人間だ。
そしてそれらの為に、人間としての生活、幸せ。全てを捨てた。
だからこそ、出来ることがあるならすべきで、自分の為に何かする、という考えが染みついているのだ。
「まあ、その辺りは聖杯戦争中に考えます」
「自分探しかよ」
結局、浩一の人生相談の結論は保留になった。
人生の意味など、そうやすやすと見つかるものではない。
「まあ、この聖杯戦争はマスター、サーヴァント問わず、色んな世界から来ているらしいぜ。
うまくすりゃ、浩一も違う世界に行けるかもな」
「違う世界……」
セイヴァーの何気ない言葉に対し、浩一は懐に入れている自分のスマホを取り出す。
もっとも、このスマホはあくまで聖杯戦争の間だけのもので、彼も使い方は理解している物の、見たのはこの模倣東京に来てからだった。
それもその筈、なぜなら彼はこの再現された東京の年代である2020年代より、半世紀ほど昔から来たのだから。
「僕からすれば、この東京がまず別の世界です。
僕は1970年代にいたのに、ここは2020年を超えて、電話が持ち運びできるようになったり、知らないものが一杯あったり。
後年号が二回も変わって、驚きました」
「年号は俺もビックリしたわ」
うんうん、と頷くセイヴァーだが、彼の場合、生前知っている日本は2010年の物なので、浩一に比べればジェネレーションギャップは少ない。
ほぼゼロと言ってもよかった。
だが浩一も、1970年代とは思えないほどのオーバーテクノロジーに触れ続けてきた身。
驚きはしつつも、この時代の住人と遜色ないほどにスマホなどを使いこなすのに、時間は必要なかった。
それより大事なことが、彼らにはある。
「セイヴァー、聞いていいですか?」
「あん? 何だよ」
訝し気に返答するセイヴァーに対し、浩一は真剣な表情で切り込んだ質問をする。
「セイヴァーは、聖杯に何か願いがありますか?」
「別にないんだよな、それが」
セイヴァーの答えに浩一が呆気に取られている間にも、彼のゲームをしながらの言葉が続く。
その様は正しく、聖杯よりも今遊んでいるこっちが大事だと言わんばかりの態度だ。
「正直、俺別に召喚されるつもりなかったし。戦争なんて物騒なことしてまで、叶えたい願いとかもねえし。
なのに何でここにいるんだろうな俺……俺より浩一の方が強いレベルだぞ。俺、一応サーヴァントなのに。
つーか俺のどこがセイヴァーなんだよ……救世主とかやったことねえっつの」
ついには落ち込み始めたセイヴァーに対し、浩一は二の句が継げない。
「正直もう、今久しぶりにゲームできて楽しいし、後はまあ、テレビでも見ながらピザだのラーメンだの食って、適当に現世楽しめたらそれでいいわ」
あまりにも安上がりなセイヴァーの結論に、浩一はどんな顔をすればいいか分からなかった。
それでも、彼はセイヴァーに自分が考えていた方針を提示する。
「セイヴァー。僕は、僕みたいに不本意にこの東京へ連れてこられた人を、助けたいと思います」
「おお、いいんじゃね? で、それ以外の奴は?」
「もし、世界征服みたいに邪悪な願いを持っている人がいたら、倒します。
そうじゃなかったら、まあ、狙われない限りは特に何もしません」
「あ、言い忘れてたけど、俺マスターは悪人でも殺さないからな。
というか、サーヴァントならまあ……ギリギリオッケーだと思えるけど、人は嫌だ。人じゃなったらセーフだけど」
セイヴァーのこの言葉に、浩一はさっきまでとは違う驚きに襲われた。
浩一は、無辜の民や弱い者は極力守ろうとする。
勿論、手を伸ばしても届かないこともあるが、それでもできる限りは助けようとする。
だが敵は違う。浩一は、敵に与するなら殺す。
催眠術などで、当人の意志を無視して操られているというのなら別だが、自分の意志で悪に与するなら容赦はない。
だからこそ、悪でも人は殺したくないというセイヴァーの言葉に驚いたのだ。
なので、セイヴァーが嫌なら自分でやろう、と浩一は結論を出した。
最後に、彼は自身の従者に問う。
「分かりました。セイヴァーが人を殺したくないことは、頭に入れておきます。
それより、僕は、まだあなたの真名を聞いていません」
「ああ、そういや言ってなかったっけ?」
うっかりしてた、と呟いてセイヴァーはゲームを止め、浩一に顔を向けてから自己紹介をする。
「俺の名前は――」
【クラス】
セイヴァー
【真名】
佐藤和真@この素晴らしい世界に祝福を!
【パラメーター】
筋力D 耐久E 敏捷D 魔力D 幸運A+++ 宝具A
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
カリスマ:E
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。
生前はなんだかんだ意外と人望があり、結構指示に従ってもらえた。
対英雄:D
英雄を相手にした際、そのパラメータをダウンさせる。
Dランクなら敵サーヴァントのパラメーターのうち、ランダムで宝具以外のどれか一つだけを一ランク下げる。
これは正道を歩まず、姑息な作戦や意外な発想で戦うセイヴァーの、英霊らしくなさの象徴。
【保有スキル】
冒険者:B
専科百般の亜種スキル。
セイヴァーが生前教わったスキルの全てを総称したものであり、Dランクのスキルとして使用可能。
ただし、このうちの二つが後述の宝具となっており、それらはスキルとして扱わない。
幸運:A++
このスキルの持ち主は、パラメーターの幸運に無条件で+が二つ付く。また、自身が不利な状況の場合は更に一つ追加される。
更に、敵と幸運対抗ロールをした場合、自身より幸運が低い相手ならば無条件で勝利する。
ただし、幸運がEランクの味方サーヴァントが自身の付近にいる場合、自身の幸運ランクがCランクまでダウンする。
その際、スキル効果で付いているプラスは取り除かれない。
【宝具】
『この右手にお宝を!(スティール)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:10 最大補足:1
相手の持っている物をランダムで一つ奪うスキル。
セイヴァーは生前、確実に相手が一番奪われたくない物を的確に奪う逸話がある為、宝具となった。
この宝具を喰らった者は、一番奪われたくないものを奪われる。
ただし、何を奪うかはセイヴァー自身にも分からないが、どういうわけか女性に使用すると下着を盗むことが多い。
『この素晴らしい世界に爆焔を!(エクスプロージョン)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:2-100 最大補足:1000
セイヴァーがいた世界における最強の魔法。威力、射程共に最高ランク。
あらゆる存在に効果を発揮するが、習得難易度が高い上に、魔力消費も激しすぎるので使い手がほとんどいない魔法でもある。
その為、セイヴァーがこの宝具を一度発動した場合、魔力消費で自身は消滅する。
ただし、セイヴァーは生前この魔法で魔王を倒した逸話があるので、敵サーヴァントに命中した場合、無条件で相手を確殺する。
『この素晴らしい世界に祝福を!』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:‐ 最大補足:‐
生前のセイヴァーと仲間たちと、彼らが暮らしていた始まりの町アクセルを心象風景として展開する固有結界。
発動者を中心にアクセルを展開し、彼の仲間であるアクア、めぐみん、ダクネスを召喚する。
彼自身は魔術師ではないが、彼の仲間たち全員で術を展開することにより、固有結界の発動を可能にしている。
【weapon】
・ちゅんちゅん丸
セイヴァーが生前、日本刀を模して鍛冶師に作らせた刀。
ただし、彼の知識の曖昧さのせいで、剣としては普通のものである。
更に、セイヴァーの剣術は知人曰く『子供のチャンバラごっこ』レベルのものなので、生前はほぼ使われたことがない。
名前のセンスは彼の仲間、めぐみんの物である。
・弓矢
ごく普通の弓矢。
セイヴァーが持つ狙撃スキル(冒険者の内一つ)のおかげで、命中率はほぼ百発百中を誇る。
ただし、筋力や敏捷が低いので攻撃力は低く、物理耐久が高ければ跳ね返されることも。
・ワイヤー
頑丈な金属でできたワイヤー。敵を拘束するときに使う。
・ジャージ
セイヴァーお気に入りの一張羅。ごく普通のジャージ。
【人物背景】
元々は現代日本で暮らしていた引きこもりの16歳。
しかしある日、トラクターに轢かれると勘違いしてショック死し、彼は異世界転生を果たす。
異世界に転生したセイヴァーの下に、一癖も二癖もある仲間がなぜか集まり、成り行きで巻き込まれたトラブルをなんとかしたり、強敵と戦い勝っていく末に、彼はついに魔王すら打倒した。
【サーヴァントとしての願い】
別になかったけど、呼ばれた以上は久々の日本を楽しみたい。
【マスター】
山野浩一(バビル2世)@バビル2世(原作漫画版)
【マスターとしての願い】
自分のやりたいことを見つけたい
【weapon】
・超能力
・三つのしもべ
彼が従える三つのしもべ。以下に示す。
・ロデム
どんな姿にも変身ッ可能な、スライム型の不定形生命体。普段は黒ヒョウの姿を取る。
彼には意思があり、浩一とテレパシーで会話し、サポートをする。
・ロプロス
巨大な鳥型のロボット。
超音速で空を飛び、口からロケット弾と超音波を放つ。
・ポセイドン
巨大な人型ロボット。強力な攻撃力と防御力が売り。
海中を高速で移動し、海を拠点とするが陸での行動可能。
ただし、いずれも現状では使用不可。
さしもの彼らも、界聖杯内の模倣東京までは来られないのか、それとも――
なお、5000年前に作られたものなので、神秘も相応に備わっていると思われる。
【能力・技能】
・超能力
とにかく多彩な能力を使いこなす。
ただし、能力を使いすぎると激しく疲労し、キャパシティを超えて急激に消耗すると、老化現象を起こす。
長くなるので詳しくはwikipedia(ttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%93%E3%83%AB2%E4%B8%96#%E8%B6%85%E8%83%BD%E5%8A%9B)にて。
【人物背景】
元々は普通の家族の元で暮らしていた普通の中学生。
しかしある日から妙な夢を見始めた。それが運命の始まり。
浩一は、バベルの塔の製作者である宇宙人バビルの遠い子孫であり、超能力者だったのだ。
彼は、バビルの遺産であるバベルの塔と三つのしもべを受け継いだ。
しばらくしてから、浩一は自身と同じくバビルの子孫であり、同じく超能力者であるヨミと出会う。
ヨミは世界征服を企んでおり、浩一に対し仲間になるよう迫るが彼はこれを拒否。
それから、浩一とヨミの壮絶な戦いの日々が始まった。
長い戦いの末、ついにヨミとの決着をつけ、彼は北極海に沈んでいく。
浩一がそれを見送ったところで、彼はこの聖杯に呼ばれた。
【方針】
聖杯戦争に不本意で巻き込まれた人々を助ける。
【備考】
参戦時期は第4部終了後です。その名は101は経験していません。
与えられたロールは都内の中学生です。
投下終了です
>>この二本の足を、動かさない限り
美琴さんの描写が大変繊細かつ湿度高めでとても良かったです。
ノーカラットで新たに出された設定や情報もしっかりと織り込んであり、完成度が高いなと思いました。
界聖杯を求めないという方針もきっかけひとつで簡単に変わってしまいそうなのがなんとも不穏。
そしてそんな彼女にあてがわれたサーヴァントも皮肉というか因果というかな性質の持ち主で、とてもこの先が気になるお話でした。
>>宮崎すみれ&アサシン
作中では途中からほとんど本筋に絡めなかったすーちゃんの補完がしっかりされていてよかったです。
純粋にハッピーシュガーライフ単体の二次創作としてもよく出来ていて、良いな〜〜〜となりながら読み進めさせていただきました。
性質で引き合ってるな……と思わせるようなサーヴァントを引けていることもあり、ひとまずは順風満帆な滑り出しといったところでしょうか。
時にすーちゃんは何も知らないので仕方ないのですが、さとうの真実(しおちゃん)に欠片もかすってないのはほんとすーちゃんだなって感じですね……
>>山野浩一&セイヴァー
どう考えてもマスターの方が強そうな主従ですね。というか実際強いのは明らかな気がする。
過去間違いなく一番弱いだろうセイヴァーを引いても釣り合いがなんとか取れそうです。
聖杯戦争の中でのスタンスは穏健派のようなので対聖杯側的にはありがたそうですね
意外性を効かせた話で読んでいて楽しいなという印象を受けました。
皆さん本日もたくさんの作品をありがとうございました!
投下します
高尾山。東京都内で登山が楽しめる場所として人気のスポットであり、古くから修験道が根付く土地である。
その一部がとあるサーヴァントの宝具により異様な環境になっていることなど、近隣で生活するNPCたちには知るよしもなかった。
◆ ◆ ◆
「オオオオオ!!」
緑色の肌を持つ一つ目の巨人・ギガンテスが、咆哮と共に拳を振り下ろす。
しかしその一撃は、標的を捉えることなく地面を叩いた。
「チッチッチッ、そんな大振りでは、この私を捉えることはできないな」
ギガンテスの攻撃をかわした男は、余裕綽々の態度で言い放つ。
その男は、奇妙な見た目をしていた。
簡潔に言うなら、2頭身のロボットである。
だが、彼はロボットではない。彼のいた世界では、これがごく普通の「人間」なのだ。
軽やかに地を駆ける彼の名は、アルセーヌガンダムX。
お宝をこよなく愛する、自称トレジャーハンターである。
「それっ!」
アルセーヌが舞うようにギガンテスの周りを移動すると、ワイヤーがギガンテスの足に絡みつく。
アルセーヌはすかさずワイヤーを引っ張り、ギガンテスを転倒させた。
「後は頼むぞ、ミスター!」
アルセーヌの指示でギガンテスに突っ込むのは、彼のサーヴァント。
蓄えた口ひげに、「ぽっちゃり」という言葉では足りないほど脂肪を蓄えた体。
顔つきもとぼけたおじさんという印象であり、まるで強そうには見えない。
だが、見た目にだまされてはいけない。彼こそ、数々の「不思議のダンジョン」を制覇してきた英雄。
エキストラクラス・スペランカー(洞窟探検家)である。
「とう!」
スペランカーが、手にした鈍色の剣をギガンテスの目に突き立てる。
ギガンテスはおぞましい断末魔を挙げ、絶命した。
◆ ◆ ◆
「さて、今日のところはこの辺にしておこうか」
「わかりました」
スペランカーが手をかざすと、周囲の景色が一変する。
一定の区域を迷宮に変え、モンスターとアイテムを出現させるスペランカーの宝具「不思議のダンジョン」。
それが今、解除されたのだ。
「しかしいいのですか、マスター。毎日毎日、他の参加者を探すでもなくダンジョンを攻略してばかりで……」
「いいんだよ」
スペランカーの疑問に、アルセーヌは即答する。
「殺し合ってお宝(ハニー)を手に入れるなど、無粋の極み。
聖杯戦争にまともに参加する気など、私はない。
かといって聖杯戦争が終われば消滅するこの世界のお宝を手に入れたところで、意味はない。
ならば聖杯が現れるその時まで、適度に冒険を楽しむさ。
聖杯をこの手に収めることに興味はないが、その姿を拝むくらいはしたいからね」
「そうですか。まあ私も似たようなものですから、文句は付けませんが……。
環境がそれを許す時間も、そう長くはないと思いますよ」
今はまだ、聖杯戦争は序盤。大規模な動きを見せている参加者は少ない。
だが戦いが激化していけば、自分たちもずっと蚊帳の外にはいられない。
スペランカーはそう言いたいのだ。
「まあ、それも仕方あるまい。
いかに無粋であっても、それが聖杯の定めた世界のルールだ。
だが、まだ起きてもいないことを心配してもどうしようもない。
案外、話し合いですべて解決できるかもしれないしな」
「それなら楽でいいですな!」
二人は、朗らかに笑う。
「さて、帰ったらすぐに夕食ですね」
「しかし、なぜダンジョンで手に入る食べ物はパンだけなのかね。
さすがに食べ飽きたよ」
「他のスペランカーのダンジョンだと、おにぎりが手に入るそうですが」
「いや、そうじゃなくて。副菜をだね……」
「盗んでくればいいじゃないですか。泥棒なんだから」
「私はトレジャーハンターだと言っているだろう!」
戦争中という緊迫感を感じさせない牧歌的な会話と共に、アジトへ引き上げていく二人であった。
【クラス】スペランカー
【真名】トルネコ
【出典】トルネコの大冒険シリーズ
【性別】男
【属性】混沌・善
【パラメーター】筋力:C 耐久:C 敏捷:D 魔力:D 幸運:B 宝具:A
【クラススキル】
自己回復(不思議):A
時間経過により、受けたダメージが徐々に回復していく。
ただし、空腹時にはこのスキルは機能しない。
ゆえにスペランカーはサーヴァントでありながら、定期的な食事が必要となる。
【保有スキル】
黄金律:A
身体の黄金比ではなく、人生においてどれほどお金が付いて回るかという宿命を指す。
大商人としても歴史に名を残すスペランカーは、Aランク。
とはいえ世俗から離れて活動している現状では、活かせているとは言いがたい。
投擲(万能):A
片手で持てるサイズのものであれば、たいていのものを投擲武器として使うことができる。
【宝具】
『不思議のダンジョン』
ランク:A 種別:対界宝具 レンジ:1-100 最大捕捉:50人
自分のいる地を、「不思議のダンジョン」と呼ばれる迷宮に変化させてしまう宝具。
「不思議のダンジョン」となった場所は構造が複雑に変化し、モンスターやアイテムがランダムで出現するようになる。
またその内部で致命傷を受けた場合、全ての持ち物を失う代わりに完全回復した状態でダンジョンの外に放り出される。
すなわちダンジョン内では死ぬことはないが、宝具であろうと容赦なく失われるためサーヴァントによっては立て直しが絶望的になるであろう。
なお特に仕切りのない場所で使用した場合は周辺一帯がダンジョン化するが、
屋内や特定の施設内で使用した場合は規模に関係なくその場所のみがダンジョン化する。
スペランカーに本来ダンジョンを生み出す能力などないが、あまりに多くのダンジョンを攻略してきたために宝具となってしまった。
【weapon】
召喚当初は何も持っていないが、ダンジョンで調達が可能。
現在ははぐれメタルの剣とはぐれメタルの盾を装備している。
【人物背景】
田舎の雇われ商人から始まり、大商人に成り上がり、さらには勇者の仲間として魔王討伐にも参加した男。
しかしスペランカーとしての彼には、魔王討伐すら前日談。
その後「不思議のダンジョン」と呼ばれる謎に満ちた迷宮を攻略したときの彼がベースとなっている。
数々の迷宮を攻略した彼は、「不思議のダンジョンマスター」として後世に語り継がれているとかいないとか。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯を自分の目で見てみたい
【マスター】アルセーヌガンダムX
【出典】SDガンダムワールドヒーローズ
【性別】男
【マスターとしての願い】
トレジャーハンターとして、聖杯を確認する
【weapon】
「Gコントローラー」
ワイヤーを射出する器具。
作中では仲間を捕まらせて引っ張り上げたり、ブービートラップを作成するのに使用。
【能力・技能】
怪盗……もといトレジャーハンターとして、俊敏な動きや潜入能力は一流。
頭の回転も速い。
【人物背景】
近未来風の都市「ネオワールド」において、怪盗としてその名をとどろかせる人物。
ただし本人は、かたくなに「トレジャーハンター」を自称している。
常に芝居がかった言動を取り、波長が合う相手からは心酔されるが、そうでない相手からは白い目で見られがち。
ロールは指名手配中の怪盗(異様な外見はそういう衣装と認識されている)だが、本人はまったく気にしていない。
【方針】
聖杯が出現するまでは傍観。
ただし、善良な参加者が困っていれば協力してもいい。
投下終了です
これより投下します。
「聖杯……確か、ヨーロッパ文学の聖杯伝説に登場する架空の器でしたよね? あるいは、キリスト教にとても関係が深いものとも聞きました」
僕・宮美四月は図書館で調べ物をしています。
ある日、僕は聖杯戦争と呼ばれる戦いに巻き込まれて、聖杯を巡って生き残ることになりました。
聖杯とは、わかりやすく言えばどんな願いも叶えてくれる魔法のランプです。魔人が出てくるかはともかく、万能の願望機と呼ばれていますね。
でも、本当はキリスト教の聖遺物で、儀式に必要な道具だったはず。とても神秘的で、聖杯伝説に限らず、たくさんの作品で登場しているでしょう。
「ただ、願いを叶えるというのは……フィクションの中だけの話じゃないでしょうか」
聖杯戦争という名前の通り、この戦いでも聖杯が大きなカギを握ります。
ですが、僕は聖杯の効果について疑っています。いったいどんな原理で願いを叶えるのかわかりませんし、科学的な裏付けだってありません。そもそも、聖杯自体がサギやニセ科学の可能性もあります。
あいまいなものを信じても、後で痛い目を見るだけです。だから、僕は図書館に訪れて情報を集めることにしました。
「どうやら、聖杯について徹底的に調べる必要がありますね。あと、サーヴァントのヒントになる本も、見つけないと」
この図書館に訪れた理由はもう一つあります。
僕のパートナーになってくれた人……サーヴァントさんに少しでも関係がありそうな本を探すことでした。
過去に偉業を成し遂げた人が、たくさんの祈りや願いを元にして現代に召喚された存在がサーヴァントのようです。わかりやすく言えば、ファンタジーの世界に登場する精霊や幽霊に近いですね。
あと、幽霊といえば、肝試しで四ツ橋家の夜の森に訪れたことがあります。姉さんたちや、四ツ橋家の双子と一緒にくらい森を歩きましたよ。(この時の話が気になっていたら、『おもしろい話、集めました。R(ルビー)』の短編を読んでくださいね)
僕の元に召喚されたサーヴァントは、『幽霊』や『精霊』のようなオカルトではなく、僕を守ってくれる『パートナー』です。
今だって、僕と一緒に本を探してくれていますから。
「四月さん。お探しの本は、こちらでしょうか?」
穏やかな女の人の声に、僕は振り向きます。
僕や姉さんたちよりも背が高い女の人が、きれいな顔で優しくほほ笑んでくれます。ブロンドヘアーはとてもキラキラし、緑色のリボンでふんわりとまとめていました。
彼女はリースさん。ランサーのサーヴァントとして召喚されて、僕のことを守ってくれます。
でも、僕はマスターと呼ばれたくありません。なので、お互いに名前で呼び合うことを決めました。
「こ、この本、ですね……! リース、さん。ありがとう、ございます……」
「どういたしまして!」
リースさんが持ってきてくれた本を、僕は受け取ります。聖杯にまつわる物語や偉人の伝記、さらにはファンタジーや宗教など、ジャンルは幅広いです。
だけど、にこやかな笑顔を見せてくれるリースさんに対して、僕はどこかぎこちない返事しかできません。
失礼とわかっていますが、僕自身でもどうにもできず、とてもくやしいです。
僕は生まれてすぐに施設に預けられました。
でも、そこで僕はいじめを受けてしまいます。僕が暮らした施設には子どもの数が多いので、大人も気付くことができませんでした。
僕はいじめに耐えていましたが、忘れもしないあの日……雪も降る程に寒い中、いじめっ子は僕の宝物を川に投げ捨ててしまいます。
寒さに耐えながらも、宝物を見つけることができました。でも、僕のたった一人の友達の英莉ちゃんがいじめっ子たちに怒ってくれましたが……そのせいで、英莉ちゃんまでもがいじめに巻き込まれます。
だから、僕は施設から逃げるように『中学生自立練習計画』に参加して、生き別れになった3人の姉さんたちと出会いました。
僕がいる限り、周りの人たちがどんどん不幸になる。
友達も作っちゃいけないし、姉さんたちとも家族になってもいけない。そう思っていましたが、姉さんたちは僕を抱きしめてくれました。
三風姉さんも、一花姉さんも、二鳥姉さんも、僕のことを家族と呼んでくれます。姉さんたちの暖かさと優しさに、僕は涙を流しました。
そして、僕たちは初めてのバースデーパーティーを開きました。僕たち4人だけで食べたケーキの味と、プレゼント交換の喜びは、これから一生忘れられないでしょう。
姉さんたちと一緒に色んな所に出かけて、たくさんの人と出会いました。
大河内直幸くんという優しい男の子とも出会い、僕は何度も助けられています。
今回も、リースさんに出会えてよかったです。でも、やっぱり他の人と話そうとすると緊張します。
一花姉さんにも言われましたが、知らない人と不用意に話すのは危険です。リースさんは優しい人ですから、悪いことは何も考えていないでしょう。
ただ、不安に思っています。僕のお手伝いをしているせいで、リースさんが周りから不審な目で見られるのではないか。
リースさんみたいな優しい人が、誘拐犯と誤解されるのはイヤだ。
もちろん、霊体になってくれれば、誰かに見つかることはない。でも、聖杯戦争ではリースさんがいつまでも隠れられるとも限りません。
「それにしても、四月さんは勉強熱心ですね! こんなに本を読もうと考えるなんて、すごいです!」
「昔から……図書館で、本を読むことが……僕は得意なんです……だから、まずは調べ物をした方がいいと思いました」
「頑張り屋さんじゃないですか!」
「理由は、もう一つ。この戦いのカギを握る聖杯について、僕は疑問を抱いています。
万能の願望器と呼びますが、それならどうしてたった一組の主従しか、願いを叶えることができないのか? 『万能』という言葉を使っているのに、スケールがあまりにも小さすぎます。
また、仮に効果が本当でも、聖杯の獲得と僕たちが戦うことにどんな関係があるのか? もちろん、いたずらに聖杯を使わせないために、所有者を限定させたいのでしょう。
ですが、僕たちが傷付け合う正当な理由にはなりません。むやみに使われたくないなら、戦いをせずとも、厳重に封印すればいいだけです」
気が付くと、僕は抱えていた疑問を早口で伝えちゃいました。
もちろん、リースさんはあっけに取られちゃいます。いけない! つい、推理をする時のクセが出てしまった。
姉さんたちや直幸くん以外に、一方的に話したりなんかしたら、きっと変に思われる。
「そこまで考えているなんて、凄いですね!」
でも、僕の不安をよそに、リースさんの顔がひまわりのように明るくなりました。
「まるで探偵さんみたいです!」
「……推理小説もよく読んでいたので、その影響で考えるクセがつきました」
「だから、聖杯についても疑問を抱けたのですね。でしたら、これからわからないことがあれば、四月さんに聞いてもよろしいでしょうか? 申し訳ありませんが、私は四月さんの文化について、ほとんど知らないので……」
「僕が知っている程度でしたら……大丈夫ですよ」
「ありがとうございます!」
リースさんの笑顔はとてもまっすぐで、まるで姉さんたちみたいです。
でも、リースさんの服装についてを考える必要があります。
羽飾りが付いた金色の兜と、妙に露出度が高い衣装は街中では充分に目立ちます。リースさんの生きてきた時代や文化を考えると、仕方がないかもしれませんが、現代の東京では職務質問をされるでしょう。
でも、僕たち姉妹の洋服も、リースさんの背丈には合いません。だから、デパートで新しく揃える必要がありますが、姉さんたちにどう説明するべきか。
きっと、姉さんたちは僕が聖杯戦争のマスターにされたことを知らない。僕がこんな戦いに関与していることを知ったら、絶対に止めます。今回だって、調べ物があるので図書館に行くと姉さんたちに話しました。
この世界にいる姉さんたちが、本当の姉さんたちなのかわかりません。でも、どちらの姉さんも僕に優しくしてくれます。
「四月ちゃん! 今日は一緒に家の掃除をしようか!」
「四月! 今から買い物に行くけど、必要なものがあったら遠慮なく言ってね!」
「なぁなぁ、シヅちゃん! 宿題でわからないことがあったら、遠慮なく相談してもええんやで!」
三風姉さんと一花姉さん、それに二鳥姉さんは僕に笑顔を見せました。
その暖かさに、僕の心が安らぎます。姉さんたちが僕に優しさをくれたから、今の僕がある。
姉さんたちの優しさを裏切りたくありませんから、僕は聖杯なんて必要ありません。
僕たちは姉妹4人で、そして周りの皆さんと力を合わせることを誓いました。だから、どんな願いがあろうとも、自分たちで叶えられると信じています。
「そういえば……四月さんには、素敵なお姉さんが3人もいますよね?」
「はい。三風姉さんも、一花姉さんも、二鳥姉さんも……みんな、僕の自慢の家族、です……」
「そうでしたか! 私、ちょっとだけ四月さんの気持ちがわかります! 私の場合はエリオット……弟が一人だけいますね。
エリオットが誇れる姉でいられるよう、私は頑張りました!」
リースさんは大きく胸を張ります。
実は言うと、リースさんはお姉さんです。だから、不思議と心を許せるのかもしれません。
「お父様とお母様の分だけ、私はエリオットに接しました。二人は、今も私の心の中で生きていますから。家族みんなの愛が、私の中に宿っています!」
「家族みんなの、愛……」
自分の胸に手を当てながら、はかない笑顔を見せてくれるリースさん。
彼女のご両親は……亡くなりました。
お母さんはエリオットくんを産んですぐに、お父さんは戦争で命を落としています。それでも、リースさんは悲しみを乗り越えて、悪い人たちにさらわれてしまったエリオットくんを助けるために戦いました。
彼女と僕は境遇が似ていると、最初は思いました。でも、リースさんは自分の王国をめちゃくちゃにされて、たった一人で戦う運命を背負っています。
ローラント王国の王女として、そしてエリオットくんのたった一人の姉として。
リースさんは頼りになる仲間たちと出会って、力を合わせてローラント王国を取り戻し、エリオットくんを助けました。
「……僕も、姉さんたちからたくさんの愛をもらいました。前に、僕は勝手な思い込みで……姉さんたちと、距離を取ってしまったことが、あります。
でも、姉さんたちは……そんな僕のことを、家族と認めてくれました」
「素晴らしいじゃないですか! 四月さんも、家族みんなの愛で守られているのですね!
私はサーヴァントとして召喚されたからには、四月さんを……そして、四月さんに宿る愛を絶対に守ります。だから、四月さんも不安なことがあれば、いつでも言ってくださいね」
「……はい」
リースさんは綺麗な手で、僕の頭を優しくなでてくれます。
彼女の笑顔と手のひらのぬくもりに、僕はほほ笑みます。きっと、エリオットくんもこうしてリースさんから優しさをもらったのでしょう。
僕は戦いなんか好きじゃありませんし、聖杯なんてうさんくさいものにも興味ありません。姉妹みんなで幸せになりたい願いはありますが、それは僕たちが力を合わせて実現すると決めました。
まだ、わからないことは多いですが、これからたくさん調べればいいだけです。今までだって、困難にぶつかっても大丈夫でした。
隣には頼れるパートナーのリースさんがいますし、家では帰りを待っている姉さんたちだっています。
こんなにも素敵な人たちが味方をしてくれるから、僕が悲しむ理由なんて一つもありませんよ。
【クラス】
ランサー
【真名】
リース@聖剣伝説3 TRIALS of MANA
【属性】
秩序・善
【パラメーター】
筋力:B 耐久:C 敏捷:A+ 魔力:B 幸運:A 宝具:A
【クラススキル】
対魔力:B
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。
単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。
【保有スキル】
ミーティア:A
大魔術師グラン・クロワから大魔女アニスの存在を知ったリースが、試練を乗り越えて到達した新たなるクラス。
慈愛のオーブによって得られる光のクラス4であり、彼女が槍を振るうだけであらゆる闇を貫くことはもちろん、ステータスアップ及び回復スキルを多数保有する。
救済の光:B
宝具を使用後、味方全員の傷を癒す。
【宝具】
『天星槍』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:‐ 最大補足:-
風の導きの元、自らを中心に巨大な竜巻を起こし、浄化の星……巨大な隕石を呼び起こして敵にダメージを与える。
その範囲は超神や大魔女アニスにダメージを与えるほどに凄まじく、一国の軍隊を巻き込むほどの範囲を誇る。
【Weapon】
ブリュンヒルド
【人物背景】
風の王国ローラントの王女にして、王国が誇るアマゾネス軍のリーダーとなった少女。
品行方正を体現する程に真面目で、周囲に対する気遣いを常に欠かさない程にしっかりしている一方、頑固で融通の利かない一面もある。幼い頃に母・ミネルバを失ってから、たった一人の弟のエリオットには深い愛情で向き合っている。
しかしある日、ナバール盗賊団の襲撃によって王国を滅ぼされてしまう。父・ジョスターを殺害され、またリースの不注意によりエリオットは誘拐されてしまう。
城が燃え盛る中、生き残ったリースは父の無念を晴らすため、またエリオット救出とローラント王国の再建を目指して旅立った。
リースはマナの妖精・フェアリーに選ばれて、共に戦う二人の仲間と巡り会う。
やがてリースは港町パロで信頼するアマゾネス兵達と再会し、共に力を合わせてローラント王国奪還に成功する。やがて、マナの聖域にたどり着いたリース達はマナの剣を手に入れるが、ローラント王国を……そしてエリオットを奪った犯人・美獣イザベラとの決着をつけるためにダークキャッスルへ向かう。
美獣との戦いに勝利するも、世界には未だに脅威が存在した。マナの力とエリオットの体を奪い、超神として君臨しようと企む黒の貴公子と、世界全てを魔界に飲み込もうとする大魔女アニスだ。
二つの脅威に立ち向かうため、リースは大魔術師グラン・クロワの言葉に従って試練を乗り越えて、ミーティアにクラスチェンジする。
ジョスターとミネルバの愛を背負い、ローラント王国の王女になると誓ったリースに敵は存在しない。仲間たちと共に戦った彼女は全ての脅威を打ち倒す。
ローラント王国に帰国したリースはエリオットと再会し、自らの使命を果たしたことを父と母に告げた。
【サーヴァントとしての願い】
どんなことがあろうとも、四月さんを守る。
【マスター】
宮美四月@四つ子ぐらし
【マスターとしての願い】
聖杯戦争の謎を突き止めて、戦いを止める方法を考える。
【ロール】
普通の中学生。
宮美家の四姉妹として過ごしています。
【能力・技能】
運動や人付き合いが苦手だが、勉強は非常に得意。
また、推理力が優れている。
【人物背景】
宮美家の四女。
施設に預けられて育ったが、ずっといじめを受けたせいで人と話すことが苦手。
学校や施設よりも図書館にいた時間の方が長く、その影響で推理力は非常に高い。
いじめから逃げるように参加した『中学生自立練習計画』の中で、生き別れになった3人の姉と出会う。
過去にたった一人の友達までもがいじめに巻き込まれた負い目から、家族や友達を作ってはいけないと思い込んでしまう。しかし姉たちの優しさを受け取った四月は悲しみを乗り越えて、本当の意味で宮美家の一員になった。
【方針】
まずはリースさんと一緒に情報を集める。
【備考】
『おもしろい話、集めました。R(ルビー)』の短編の出来事を経験しているため、四ツ橋桃希と四ツ橋李央の二人と面識がある時期の参戦です。
以上で投下終了です。
投下します。
東京は世田谷、ある民家の屋上。
一つの灰皿に同じタイミングでタバコが伸び、一瞬躊躇して、しかしもみ消す。それはまるでシンメトリーのような動作だ。だが、シンメトリーなのは動作だけではない。伸びた腕に生える腕毛の一本一本も、困惑を隠すように口元に持って行かれた手の静脈も、その手の少し上にある鼻の脇のイボにいたるまで、完全にシンメトリーである。
「「よくわかんねぇなぁ……」」
ハァ〜〜とデカいため息をついて、それがまた二人同時で、シンメトリーな男たちはまたため息をついた。
ことは一日前に遡る。
その日男は、翌日家に招く後輩の為に準備をしていた。屋上から始まりリビングや玄関を掃除し、家の地下室をとものを動かしだして、そうしたら突然に地下室が光に包まれたのだ。
そして、出てきたのが自分とそっくりな男である。翌日に来ていく予定だった自分と同じ服を着て、同じように困惑した表情をした、ドッペルゲンガーだった。
それから二人で散々に話し込んだ。お前は誰だ、お前こそ誰だ、ここは俺の家だ、いや、俺の家だ、同じタイミングで同じことを言う。それがお互いに気味が悪くて仕方がない。
だが二人のうち、元いた方の一人がスマホを出したことで、初めて違いがてた。
「とにかく警察呼ばないと……それともお祓いか?」
「な、なんだよその板……?」
「は? スマホがどうしたんだよ。」
「スマホ……?」
それから二人、更に話し合った。それでようやく、二人の違いに気づいた。
「まさか並行世界に来ちゃうなんてなあ。」「来られた俺の身にもなってくれよなぁ。」
「こっちの世界はなんか色々ハイテクなんだな。でもダイ大もるろ剣も人気とかそういうところは変わんないんだな。」「俺少女漫画読まないからわかんないけどCCさくらとか東京ミュウミュウとかも人気らしいぜ、ネットに書いてあった。」
「そのネットてなんなんすかね。なんかすごい発達してるけど、デジモンかなにか?」「そういえばこないだデジモンやってたな。」
「アニメとかゲームとかは変わんないのにネットだけは発達してんだなあ、ここ。」「お前の世界が遅れ過ぎなんじゃねえか?」
はぁ、とまたもデカいため息をついて、二人同じ動作でタバコを取り出し、火を点け、吸う。そして思う。あらためて、どうしてこうなった、と。
並行世界から来た男の方は、どうやら20年ほど色々と遅れた世界から来たようだった。スマホは知らないし、元号が令和ということも知らないし、オリンピックといえば長野だ。そのくせバイトの時給も流れるアニメの名前も同じときているし、タピオカ昔流行ったよねとタピっていたりする。
だがそれ以外は、ある一点を除いて全く同じだった。そのある一点とは。
「お前が来てなかったら、本当は今日アイツを呼んでたんだけどなあ……」「それは悪かったって。でも良かっただろ、告白性交したんだし。」
「それをお前の口から言われるのが嫌だったんだよ! アイツの口から聞きたかったんだ! わかるだろ!」「ぅ〜ん……」
並行世界から来た男は、一日後の時間から来た男だった。彼は一日後の予定や起こることをすべて把握していて、それを見事言い当ててみせた。テレビで流れるニュースは外していたのに、いつ晴れるかとか後輩がいつどこに現れるかとかそういうところは、ピッタリと当てていたのだ。
二十年前から来て、一日後のことを予言した男。一体なんなのだろうか。
「……そうだ、喉乾かない? なんか買ってくるよ。」「あ待ってくれよ、お前が出歩いたら色々マズイだろ。」
「ヘーキヘーキ、だって俺はお前だし。コンビニ行ってくるよ。あそこだろ? あの角曲がった。」「……早く帰ってきてくれよな〜〜。」
憂鬱そうな顔をする男を見て、男は明るい声を出してそう言った。自分が現れてしまってあの告白が無かったことになってしまった、そんな二十年後の一日前の自分に少し申し訳ない気がして。
「……こうしてみると、たしかにちょっと変わってるなあ。うちの物置無くなって家建ってるし……」
男は玄関から階段を降り、門扉を開けて外に出る。右手には、自分がこの家に入った時にはあったはずの物置が無くなり、新築らしき家が建っていた。自分が記憶の混濁と共に家の地下室で目覚めて、ドッペルゲンガーと合ったことを除けば、昨日一日は単に自宅の中にいただけだ。だから街の変化に驚く。屋上から見えた景色もそうだが、ところどころ新しくなり、道を征く車も洗連されている。そのくせ物の値段は大して変わっている様子が見えなくて、困惑してしまう。見知った近所の人も二十年分の老いを感じ、まるでチグハグな世界だ。
「コンビニなのにエロ本ねえのかよ……しょうがねえなあ、適当に飲み物とタバコ買って……高っ!」
コンビニに入ってまた驚く。エロ本が無い。ゴルゴ13はある。タバコが高い。消費税も高い。10%ってなんだよ。
違う世界だとはわかっているが、なまじ家の近所と変わらないぶん、空恐ろしいものを感じる。早く帰ろう、そう思い男はレジで会計を済ませ足早に帰宅する。
ふと、男は少しの違和感を抱いた。
なんだろう、何かがおかしい。もちろんこれまでおかしいことだらけなのだが、それではなく、そう……
「あ、これかぁ!」
男は違和感に気づいた。
それはコンビニにあったソフランだ。
その形が、この世界の自分に似ているのだ!
「……それって俺がソフランに似てるってことになるんじゃないか……?」
違和感はものすごくくだらないことだった。どうやらかなり疲れているようだ。あらためて早く帰ろうと決める。このままでは万物が自分に見えてきそうだ。
「…………は?」
ソフランから視線を外してコンビニの外に出て、男は足を止めた。空を飛ぶ雲、それが自分の顔に見えたのだ。
はっ、となって足下を見る。アスファルトに広がる何かの液体のシミ。それが自分の顔に見える。周囲を見渡す、道行く人の顔が、男も、女も、老いも、若きも、犬も、カラスも、自分の顔になっている。
「な、なんだよこれ……」
信号を渡る。青信号は自分の走る姿に、赤信号は気をつけをする自分の姿に。
横断歩道を駆け出す。突然走り出した自分に驚いた通行人が自分と同じ声で驚く。
コケかけて電信柱に手をつく。根本に落ちていた犬のフンは、いくつもの自分の顔の集合体とかしている。
(何が起こってるんだよおおおおおおおおおおお!!!)
男は咆哮を上げる。
だがその口から出てきたのは
「イキスギィ! イクイクイクイク……ンアーーーーー!!!」
さて、ここから自分語りをさせていただこう。
あれは先月のこと、故あって下北沢へと行った時のことだ。
その日6月24日の駅前では、都議選に向けて街頭演説が行われていた。私はそれをうまいラーメン屋(値段の割にイマイチの味だった)の帰り道、コンビニで酒とつまみを買ってから、路上飲みのメッカになっているところなんで、そこでしこたま酒を飲んでからコンペ投下話をやりはじめていたところ、つまみを置くための敷紙として選挙のフライヤーを貰って聞いていた。
途切れ途切れに聞こえてくる演説の声。それを聞くために集まったのだろう学生と思わしき若者たち。話される政策。オリンピック無観客。高校無償化。憲法改正。24条。同性愛。
ん?
下北沢――途切れ途切れに――学生――若者たち――政策――オリンピック無観客――高校無償化――憲法改正――24条――同性愛
ん? ん? ん?
下北沢――学生――若者――政策――オリンピック無観客――憲法改正――24条――同性愛
下北沢――学生――24条――憲法改正――同性愛
同性愛――24条改正――学生――下北沢
――24条、改正です。
24歳、学生です。
野
獣
先
輩下北沢
のキャスター説
「Fuck……」
発狂した下北沢のキャスターに鋭い眼光を送る男が一人。
彼はこの世田谷は下北沢において外国人パブを営むマスターだ。
男の目には、怒りがあった。
別に野獣先輩の風評被害に巻き込まれたとか、真夏の夜の淫夢のせいで株価が下がったとか、ブー・チ・パンのせいで個人情報をバラ撒きされたとか、そういう怒りではない。
彼は怒っていたのだ、この聖杯戦争に。
男のロールは、先にも言ったように外国人パブのマスターだ。男のルーツであるベトナムの料理を一階で提供し、二階より上は外国人風俗のための住み込みとなっている。ここに来る前のことから国籍は気にしてないが、やはりこちらも男のルーツに影響されてかベトナム人の比率が多い。あとは男が香港でヤンチャしていた時を反映してか華僑系か。もっともこちらは、男の手にあるトカレフという形でより色濃く反映されている。
ベトナム・マフィア。それが男の正しきロールだった。通り名は闇家のヴァン。何十という異名を持つ彼からすれば名前などどうでもいいが、敵対組織の人間には自分のマフィアは闇家と呼ばれているらしい。おそらく、自分の名前をもじったのだろう。
裏社会からは足を洗った身である自分が再び銃を持つことになるとは。そのことに皮肉なものを感じつつも、男はつい昨日まではそれでいいと思っていた。それは聖杯戦争というものを理解して、得た結論だった。ここが仮初めの空間で、自分の身の回りの人物もエキストラで、勝たねば死ぬ運命であってもだ。殺してきた人数は一人や二人じゃない。それでこんな煉獄に招かれたとしても、いまさら更に人を殺そうとは思わない。
裏社会で得た結論、それは生きることは成長であり、成長は戒めによって齎されるものであり、そのために人は何かに縛られるということだ。それは聖杯戦争の決まりなどよりも遥かに早く理解したものだ。
数多の銃撃戦、格闘戦、カーチェイス。それらを経て残ったのは、命がひとつだけ。地位も名誉も富も力も何もかも亡くして、得たのはたった一つの命だけ。だが男はそれを二つに増やした。男は知ったのだ。答えを。死に瀕して成長することで、命だけでなく答えを得たのだ。成長こそが答えだと、現にいま自分はそれを持っているではないかと。
人は束縛を持って戒められ成長する。
その考えから男は活動を開始した。賛同者は増え、運動は軌道に乗った。束縛を重視する姿勢からボンテージマスターと呼ばれ、彼のもとに集まった寄附金をルーツのベトナムの恵まれない子どもたちへと送ることもできた。
それは良く生きるという彼自身の行動への束縛であり、良く生きるという彼自身の良心への戒めであり、良く生きたという成長の結果であった。
だから聖杯戦争を知っても、小動もしなかった。自分のような人間が呼ばれたのも、ほんの僅かでも良くなった世界から血なまぐさい世界へと束縛するためのものだろうと解釈した。だからここでもマフィアというロールでありながら、真面目にホールに立ち、知り合いの外人たちのトラブルを仲裁し、町の住人からもそのロールとは関係なく顔役として認められていった。
そんな時だ。知り合いのベトナム人の子供が惨殺されたのだ。
顔を真っ青にした母親の付き添いで警察署まで行き、霊安室に入った時の臭いは忘れない。血よりも先に大便の臭いが強いのだ。その臭いだけで卒倒した母親を警察官と共に介抱し、その後彼女に変わって死体の顔を確認した。
「Fuck♂You!��」
静止する警察官を振り切って死体から布をはぎ取る。顕になった死体は胸の部分に覆いがされている。解剖によるものか、いや違う。死体をこうした時は、死体のそこに肉がない時だ。もう一生使うことのないと思っていた裏社会の知識がそれをわからせてくれる。この子は心臓を奪われている。
それはなぜか?
答えはこの生活に適応したときからその股間に入れ墨のように刻まれている。聖杯戦争における玉食い。人間が誰しも内に持つDEEP♂��DARK♂��FANTASYを魔力として摂取するために、その命の源を奪い取られたのだ。
男は強く後悔した。
自分が聖杯戦争に関わらなければ、こんなことにはならないと思っていた。
だが現実は違った、自分は聖杯戦争に無関心でいても、聖杯戦争は自分に無関心ではいてくれないのだ。
思ってみれば当たり前だ、香港時代にはチャイニーズマフィアから圧力を受けた、アメリカに移住しても市民権を得るまでは政治に振り回された、そしてこの東京では聖杯戦争に翻弄された。
ならば、答えは一つだ。
「BOY♂��NEXT♂��DOOR」
男は聖杯戦争のマスターとなることを決めた。
無論、彼に魔術の知識も英霊召喚に足る霊媒もない。
だがここ下北沢という例地と、自分とサーヴァントの縁、そして彼の起源『束縛』。それがあればあの英例を御することすら可能である。
令呪一画を使い例基から自分の望む形で英例の一側面のみを『束縛』し、召喚する。その結果召喚されたのが野獣先輩オルタ又は真夏の夜の淫夢オルタとでも言うべき、下北沢のキャスターことSKMTである。
本来ならばSKMTは召喚できず、仮に召喚できたとしても容易に野獣先輩又は真夏の夜の淫夢に変じてしまう英例だ。それどころか、召喚者を野獣先輩や淫夢ファミリーに変えてしまう。
――だが、ここに一つの例のアレ外、略して例外がある。
野獣先輩あるいは真夏の夜の淫夢は、風評被害を及ぼしやすいほど同化するのに時間がかかる。
たとえば野獣先輩と共演した遠野と、野獣先輩に形が似ているソフラン。どちらがより風評被害を受けやすいかで言えばもちろん野獣先輩と共演した遠野である。だがどちらが野獣先輩と同一視されやすいかで言えば、もちろんソフランである。なぜなら遠野は野獣先輩の共演者であり、それならば野獣先輩ではないからだ。
その証拠に見よ、数多の野獣先輩新説シリーズを。そこでは遠野はもちろん三浦も木村も、野獣先輩と同一視されることはない。あんなにも多くの動画に共演しているにも関わらず、だからこそ彼らは逆説的に淫夢への強い抵抗を同時に持つのだ。
そしてその際たる例、淫夢では絶対に風評被害を及ぼせず、逆に淫夢が風評被害を及ぼされるもの。
それは淫夢でありながら淫夢でない、この男。
ヴァン・ダークホーム。あるいは淫夢民にはこの方がわかりやすい名か。
『TDNコスギ』
淫夢のアダムであり野獣先輩に風評被害を及ぼした始まりの男、その男の風評被害を受け、跳ね返し、VAN様と畏れを集めたヴァン・ダークホームは、未だTDNの風評被害を制御できずにその渦中にある『野獣先輩』に、『真夏の夜の淫夢』に、絶対的な優位がある。
それを可能にしたのが、起源への覚醒。『束縛』により彼は絶対的な自己の確立がある。彼が一度認識してしまえばあらゆるものが束縛される。無論、物理的な束縛は魔力無き彼では筋肉に頼るしかないが、ボンテージマスターというエンターテイナーでもある彼は人の認識に訴えかける風評被害への完全耐性を持つのだ。
だらしねえ聖杯戦争を、ゆがみねえ聖杯戦争にする。男はそのために、SKMTを召喚した。
ボンテージマスターである彼に、しかたないという許容の心はない。
どんな事情があろうと、願いがあろうと――
「Fuck♂��You!!!」
【クラス】
キャスター
【真名】
SKMT@Babylon Stage34 真夏の夜の淫夢〜the imp〜 第四章 昏睡レイプ!野獣と化した先輩
【属性】
中立・悪
【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:E 幸運:E 宝具:E
【クラススキル】
なし
召喚の際にTDNコスギによりクラススキルの付与を束縛されている。例基再臨なくしてスキル付与できず、付与できたとしても使えるかは不明。
【保有スキル】
なし
召喚の際にTDNコスギにより保有スキルの付与を束縛されている。例基再臨なくしてスキル付与できず、付与できたとしても使えるかは不明。
【宝具】
『SKMT』
ランク:E 種別:対淫夢宝具 レンジ:‐ 最大補足:-
キャスターの真名がSKMTに変更される。英例としての能力が極めて制限されており、TDNコスギの『束縛』により実体化の強制と、風評被害の禁止の縛りが課せられている。
本来キャスターは野獣先輩あるいは真夏の夜の淫夢として召喚されるサーヴァントであるが、その風評被害の影響力の強さからキャスター自身のステータス・スキル・宝具もマスターとクラスの影響を大きく受ける。
そこに目をつけたTDNコスギは、自分の『束縛』の起源と、キャスター自身の能力を持ってキャスターの例基に手を加え、ただの一般人にまで貶めた。
ただし、この宝具も風評被害の一つであるため、キャスターはこの宝具の影響で風評被害を受けつつある。
【Weapon】
なし
【人物背景】
下北沢に住む水泳をやっている男性。同性愛者又は両性愛者。喫煙者。日本人と思われる。それ以上の情報は特段観測されていない。
【サーヴァントとしての願い】
元の世界に帰りたい。
【マスター】
TDNコスギ@レスリングシリーズ(真夏の夜の淫夢シリーズ)
【マスターとしての願い】
だらしねえ聖杯戦争を、ゆがみねえ聖杯戦争にする。
【ロール】
ベトナム・マフィアのボス。表向きはパブや風俗店の事務所がある小さな雑居ビルのオーナー。
【能力・技能】
起源覚醒者:束縛
何かを束縛することへの強い関心。魔力の無い彼がキャスターを召喚しあり方を風評被害できたのも、令呪という束縛するものへの極めて強い適応によるものである。現在は令呪一画を使用した影響もあり魔術回路が生まれつつある。
BOY♂��NEXT♂��DOOR
裏社会を生き抜いた能力、レスリングで鍛えられた心技体、ボンテージマスターとして磨きぬかれた束縛。その全てが聖杯戦争の中で魔術回路によりDEEP♂��DARK♂��FANTASYと有機的に結びつき始めている。
【人物背景】
VAN様。ベトナム系アメリカ人。二十代前半は香港にてマフィアのボスであったが、その時に味わった臨死体験を経て起源に覚醒。以後死生観も変わった彼は己の内のDEEP♂��DARK♂��FANTASYを自覚し、裏社会から足を洗い渡米。そこでのボンテージにより「だらしねえな」の精神とレスリングによる「ゆがみねえな」の精神の体得により、束縛という「静」と相反する「動」への強い関心を寄せ、「静」の中に「動」を、すなわち「束縛」の中で「成長」を齎す「戒め」の重要さを体系化した。
以後彼はボンテージマスターとしてビリー・へリントンや鎌田吾作といった森の妖精(レスラー)達に挑んでいく。その傍らでベトナムやカンボジアの子どもたちに寄附を行うなど活動の幅を広げていく。それらは全てBOY♂��NEXT♂��DOOR、即ち『成長』のためである。
【方針】
キャスターの風評被害は基本的に行わないが、目立つところさんに置いておいて他のサーヴァントに『ファッ!? 野獣先輩がサーヴァントと化してる! 殺さなきゃ(使命感)』と襲わせ、護衛が手薄になったマスターをTDNコスギがFuck♂��Youする。キャスターを殺しにかかるようなだらしねえ主従なら遠慮なくヤる♂��して敵サーヴァントと再契約ないしマスターに令呪を使わせて抹殺し、そうでないのならば『束縛』によりBOY♂��NEXT♂��DOORへの道を開く。
キャスターが消滅してもしかたないね♂��という立場であり、だからこそSKMTを選んだ。
【備考】
『おもしろい話、集めました。R(ルビー)』の短編の出来事を経験しているため、四ツ橋桃希と四ツ橋李央の二人と面識がある時期の参戦です。
投下終了です。
投下します
「案外、こちらから出向くと中々見つからないものですわね」
東京、その雑多で慌ただしい人込みから少し外れた路地裏で、カチューシャで短い髪を纏め、ワイシャツを着崩した巨乳少女が舌打ちする。
気だるげに手持ち鞄を肩から担ぎ、獲物を探すかのように視線を辺りに飛ばす。
人気もなく、薄暗くてゴミも散らばっている殺風景な場所も相まって、その姿は援助交際の相手を探しているようにも見えた。
「……さて、来ましたわね」
「おうおうおう! サーヴァントも連れないで令呪を見せ付けてよぉ!」
「えらいハリキリ☆ガールがやってきたじゃねぇか」
三人組の男が少女を、北条沙都子を囲む。
些かこの東京には時代錯誤な学ランにリーゼント、モヒカンの頭をしたチンピラに、ポンチョを纏い腰に拳銃を収めたホルスターを巻いた西部劇のガンマン風の男。
(どうしてヤンキーにカウボーイが混じってますの?)
そう思いながら、沙都子は怯えた様子も見せず余裕を崩さない。
「前置きは良いですから、早くなさいな」
「ああん?」
「あら? 三人も殿方がお揃いになって、それでもまだ戦力が足りないんですの?
それとも戦うのが怖いのなら、聖杯戦争をお降りになっては?」
「上等だよォ! おう殺してやらァ!!」
新たに三人組の背後から、三つの人影を認めた時、沙都子は中指と親指を合わせる。
(一向に私のサーヴァントが召喚される素振りがありませんわね)
この界聖杯の世界に呼ばれてから、恐らく最大の命の危機に陥りながらもサーヴァントは現れない。
つまらなそうに沙都子は目を細め、指を鳴らす――――。
「!?」
「なんだ……? ハーモニカの、音か?」
この薄暗い路地裏に似つかわしい旋律がサーヴァントを含んだ7人を支配した。
憂い気で、悲しく、何かを訴えるかのような音色に沙都子は僅かに自分に似たものを感じ取る。
(これが、私の……? このサーヴァント様子がおかしい)
それは、顔に黄色のマーカーを入れた虚ろな瞳の男だった。
言語化出来ない何か、だが間違いなく伝わる何かが、これが己に宛がわれたサーヴァントだと確信させる。
「満足させてくれよ」
そのサーヴァントは長い銀髪を邪魔そうにかきあげながら、ハーモニカを口から離し、腰のホルスターから拳銃を引き抜く。
「バカか? 三人相手に何が出来る!」
拳銃は男の左腕へと吸い寄せられるように装着され、その姿を腕を覆うように変化し機械的な板のような盤が展開される。
そこには五か所の四角い何かをセットできる薄い窪みが存在する。
「破壊神より放たれし聖なる槍よ。今こそ魔の都を貫け! 」
盤にセットされたのはカードだった。イラストが描かれ何かのテキストが記された玩具、そこに封じられた一体の異形が実体化する。
「シンクロ召喚! 氷結界の龍トリシューラ―――!!」
氷河期が訪れた。
「な、うわああああああ!!!」
「ぐああああああああ!!?」
「ワンターンスリーキルゥ……」
その路地裏を形成するビル街が凍てつき、白い吹雪と閃光が瞬く間に三騎のサーヴァントは一瞬にして凍結し消滅する。
残されたのは、唖然とする沙都子と当然のような顔で瞼を閉じるサーヴァント、その二人の頭上に咆哮を上げながら君臨する三対の頭を持った氷の白龍だけだった。
夕暮れ、スーパーで調達した食材をエコバックに入れ沙都子は帰路に付く。
自転車のカゴにバックを入れ、徒歩のサーヴァントに合わせるように沙都子はそれを押して歩く。
サーヴァントは意にも介さず、ただハーモニカを吹き続ける。まるで先ほどの瞬殺劇では、何も心に響かず何も満足できず、つまらないと言いたげに。
口ではなく、その旋律で語り続ける。
「知りませんでしたわ。ミュージシャンのクラスなんてありますのね」
「デュエリストだ」
「口が利けましたの? その汚いハーモニカを咥える以外に、使い道がないと思いましてよ」
「……」
再び男はハーモニカを吹こうと唇に近づける。
「やめてくださいまし。まだ下らない馬鹿演奏を続けるのなら、令呪を使ってでも止めますわ」
「……俺は、お前の召喚を拒否し続けていた」
「何ですって?」
「聞きたかった事だろ? どうして聖杯戦争が始まったのに、サーヴァントが呼ばれなかったのか。
俺はお前に呼ばれたくなかった。だから、拒否していただけだ」
聖杯戦争が開始されてから、その予選のなかで沙都子のサーヴァントは一切召喚される様子がなかった。
故に敢えて人気の少ない路地裏に単独で乗り込んだのは、サーヴァントを強制的に呼び出す為だ。
どんなマスターでも死ねば、サーヴァントは現界方法をなくす。死地に赴けば現れざるを得ないだろうと。
危険な方法ではあるが、魔術の知識がない沙都子には召喚陣を描いて、自ら呼び出すという芸当は出来ない。
仮にできたとしても触媒がなければ、その召喚はランダムとなる。下手に制御不能な下僕を呼ぶのなら、沙都子の窮地を救う程度には良識があった方が良い。
それに、もししくじったとしても―――やり直せる。
「拒否だなんて、随分嫌われましたわね。なら、さっきはどうして助けましたの」
「界聖杯が俺を強制的に召喚した。このガラクタのポンコツは、サーヴァントもなしにマスターが落ちては満足できないんだろう。
不本意だが、召喚されちまったのなら……そこで満足するしかないじゃないか……」
「敵か、味方か……はっきりさせていただいて?」
「お前に従ってやるよ。サーヴァントだからな。そこで、出来る限りの満足をするさ」
召喚の拒否。早速、ゲーム序盤から誤算だった。
基本的にサーヴァントは願いを叶える為に召喚に応じ、マスターの支配下に一先ずは置かれるのではと考えていたが、早計だったらしい。
「貴方の満足はどうすれば満たされますの?」
「……さあな。忘れちまったよ。
お前の、信じていた絆のようにな」
「何が言いたくて?」
「お前、カッコ悪いよ」
「!?」
それ以上は何も言わず、再びハーモニカを吹きだす。
沙都子は舌打ちし、ハンドルバーを強く握りしめた。
「あの口ぶり、まるで……」
知っているのだろうか。あの名も知らないサーヴァントは。
沙都子がその死を迎えることで、本来生者が逝くべき冥府ではなく、時を遡り過去へと赴くことに。
それを、たった一人の友達を、梨花の心を折る為に。ずっと、自分の傍に繋ぎ留めておく為に。幾年もの年月を繰り返していたことに。
サーヴァントとマスターは記憶が交わることがあるらしいが、もしそうだとするのなら、こちらの手の内を一つ知られている事にもなる。
やり直せば、リセットは可能であり、そもそも知られたから何だ、という話でもあるが万が一という事もある。
沙都子に従うと言っているが、先ほどまで召喚を拒んでいた。信用するのも難しい。
だからといって、別のサーヴァントを再召喚する術も知らない。
いっそ、ここで死に戻り―――。
(いえ、本当に戻れますの私は?)
そこで、別の可能性に気付く。雛見沢ではない別の世界のカケラ、エウアの力はそこでも健在なのだろうかと。
彼女の言動を思えば、沙都子と梨花の因縁にここまでの介入も、聖杯なんて装飾も施すとは考え難い。
もし、エウアの力が及ばないのだとすれば、過去ではなくそのままあの世に直行する事もあり得る。
(安易に死ぬのは、馬鹿ですわね。……死ぬにしても最低限聖杯戦争の参加者やその戦術、弱点等の情報を把握してからのが有意義ですわ)
今の沙都子からすれば分からないことが多すぎる。
仮に過去に戻れてもそれは雛見沢なのか、この界聖杯の東京からのリスタートなのか。
前者ならばそれでも良いが、後者ならばこの場からの脱出方法を模索しなければならない。わざわざ、ここで無駄に死んでやり直す時間も惜しい
何より、戻れなかったという最悪の可能性も完全に否定は出来ない。
死ぬにしても、情報がいる。やり直せるからと、即自殺するような馬鹿をして取り返しのつかないポカをする訳にはいかない。
「一つ聞かせてくださいまし、貴方のクラスと名前はなんですの?」
「……」
―――仲間達と、かつてデカい事をやり最高潮の満足を得ていた。
もっとも、満足とは一度満足してしまえば、最高に燃えれば燃えるほど、後にはただ文字通りの燃えカスにしかならない。
一生の仲間と思っていた奴らが徐々に自分から離れていく。それは、別の新たな末来や目標を見つけたからだ。
だが、自分だけは見つけられなかった。認められなかった。
仲間達と別れることを、同じ夢を見ていて、その夢が終わってしまった事に。
些細な勘違いで最期には裏切られたと思い込み、下らない妄想と復讐心でかつての友を苦しめた。
その諍いの果てに、ようやく命を落とす寸前で気付かされた。
「アサシン」
ずっと同じものを見続けることなど、ないのだと。
絆は友を、仲間を縛り続けるものなどではない。未来は全ての人に平等にあり、その当人が選び進まなければならない。
そこに、別れがあったのだとしてもだ。
「名は、鬼柳京介」
「そう、ならばアサシン……いえ鬼柳さん、貴方がどこまで私の記憶を見ているのかは知りませんが、これだけは言っておきますわ」
このマスターはそれに気付けるのだろうか。気付けなければ、それまでだ。かつての鬼柳のように、必ず報いと後悔を受ける。
どんな強い絆で結ばれようとも、永遠にそれを繋ぎとめることなど出来ない。あってはならないのだ。
だがもし、それに気付けたのなら―――。
「私、絶対に負けられませんの。私は私の梨花(みらい)を手に入れる。勝つと決めたら絶対に勝つんですの。
貴方にはその為に働いてもらいますわ。その為の、駒(サーヴァント)なのでしょう?」
「……好きにしろ。
精々、俺を……満足させてくれよ」
最低限の受け答えだけをして、鬼柳はハーモニカを吹く。
そこにまだ、満足は灯されてはいなかった。
【クラス】
アサシン
【真名】
鬼柳京介@遊戯王5D's
【ステータス】
筋力D 耐久A++ 敏捷C 魔力E 幸運C 宝具B
【属性】
満足
【クラススキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。
ただし、鬼柳はハーモニカを吹く為、速攻で発見される。
【保有スキル】
満足:E
鬼柳のテンションにより、ランクが変動する。今は最低のE。
EXまで上がる。
セルフBGM:A
姿を現す時、ハーモニカを吹く。
騎乗:E
Dホイール及びバイクに近しいものならばある程度乗りこなせる。
戦闘続行:A
ダイナマイトの爆破が直撃し、谷底から生身のまま落下しても無傷で戦える。
【宝具】
『満足(ハンドレスコンボ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:??? 最大捕捉:???
宝具として昇華された満足。
生前、鬼柳がデュエルに用いたカードとデュエルディスクで、デュエルのルールを一定の範囲内で戦闘に適用できる。
カードのモンスターを実体化させサーヴァントと交戦させることは可能だが、
「〇〇を破壊、除外、リリースする」といった皆の直接的な除去カードを、マスターやサーヴァントに適用する事は不可能。
更にこの宝具以外の一切の武器を持たない(ハンドレス)事で、自身のステータスを上昇させる。
『満足同盟(チームサティスファクション)』
ランク:??? 種別:??? レンジ:??? 最大捕捉:???
鬼柳のスキルである満足がEXに達した場合、聖杯戦争中に一度だけ発動できる。
固有結界によりサティスファクションタウンを出現させ、英霊の座から伝説のチームサティスファクションのメンバー、不動遊星、ジャック・アトラス、クロウ・ホーガンを特殊召喚する。
チームサティスファクションが再結集した時、未知なる力を発揮する。
【weapon】
ハーモニカ(トンボ社)@遊戯王5D's
拳銃式のデュエルディスクとセットされたデッキ@遊戯王5D's
【人物背景】
かつて、チームサティスファクションを率い、サテライト呼ばれるスラム街のギャングを一掃し統一に成功した男。
だが大きな目標をやり遂げた為に、新たな未来に進み離別する仲間達と徐々に疎遠になってゆき、とち狂った鬼柳は国家権力にテロを敢行する。
当然ながら逮捕されるが、その際仲間である不動遊星が鬼柳を売ったと勘違いしてしまった事で復讐心を持ち、独房の中、邪神と契約し闇の力を伴って復讐に現れる。
壮絶なデュエルの末、最期は自分の逆恨みであると自覚しながら、満足できないまま消滅。半年後に復活し、今度は己の罪の重さに耐えきれず死に場所を探しクラッシュタウンで、命を懸けたデュエルに勤しむ。
そこで遊星と再会、満足を取り戻しかつての仲間達、束の間とはいえチームサティスファクション再結成を喜び、新たな目標を見つけ、クラッシュタウンをサティスファクションへと変え、そこの町長として新たな満足へと進んでいった。
【方針】
仲間を逆恨みする沙都子のやっていることは気に入らないが、遊星を逆恨みした自分が言えた義理でもないので、従って満足するしかないのか?
お前ならどうする。答えろ遊星……。
【マスター】
北条沙都子@ひぐらしのなく頃にシリーズ
【マスターとしての願い】
梨花と一緒に暮らす未来を手に入れる。
【備考】
容姿は女子高生時代のものにされています。
参戦時期は、業で梨花にループを仕掛けて以降の何処か。
【方針】
情報収取を優先し、死に戻りで雛見沢に戻れると確信を得る。
場合によっては優勝も狙う。
投下終了します
投下します。
はっ、はっ、はっ、はっ。
逢魔が刻の街を、少女が息を切らして走る。
人通りはない。彼女を追手から助ける者はない。
スマホで助けを呼ぼうにも、警察でどうにかなる相手ではないことはわかっている。
死人が出るだけだ。
少女は、自分が聖杯戦争の場に喚び出されたマスターであることを、先程知らされたばかり。
そして、襲われている。
サーヴァント、異形の存在が、別のマスターを襲って殺すのを目撃してしまった。
必死で逃げるが、相手は人外の存在。逃げ切れるわけがない。
せめて自分が無関係だと叫びたいが、恐怖で声が出てこない。
人混みに紛れたいのに、人がいない。
やがて……少女は、街なかに小さな神社を見つけた。
古びた鳥居、左右に木々が鬱蒼と生い茂った石段の参道。
こんなところに、神社などあっただろうか。今は気にしていられない。
少女はややためらった後、石段を駆け上がった。
合理的理由はない。神頼み、というやつだ。
はっ、はっ、はっ、はっ。
過呼吸になりかかっている。
急いで石段を上まで登ると、しめ縄が張られた小さな社殿がある。
神主や巫女はいないようだが、隠れ場所にはなるだろう。
少女は賽銭箱のない社殿に小さく柏手を撃つと、一礼して「助けて下さい!」と小声で祈った。
「君、それじゃ効果ないよ」
横から声がかけられ、少女は小さく跳び上がった。
振り向くと、中性的な黒髪の少女が微笑んでいる。自分と同い年ぐらい。巫女だろうか。
彼女はすっとしゃがむと、賽銭箱があるべき場所にペタッと掌を置き、こう告げた。
「ここにね……賽銭よりも、もっと大事なモノを置けば、願いは叶うよ」
「え、あの、それより私、ここに隠れたくて」
少女は涙目で左右を見回し、石段を振り返る。何かが近づく気配。
巫女らしき少女はニコニコと笑い、手に持つ箒の柄を石段へ向けた。
「わかってるよ。君がマスターだね。
初回だから出血サービスとして、君をタダで追手から守ってあげる。
ツケはいずれ必ず払って貰うけど」
そう言うと、石段がフッと消えた。追手の気配も。
「ちょっとした幻術だよ。
……さて、初めましてマスター、『七草にちか』さん。
私のクラスは『イーター(食らうもの)』。君と縁があって召喚されたようだね。
こんな催しに呼ばれるなら、何か望みがあるんだろう?」
「は、はい。でも、私……!」
黒髪の少女は、獲物を見つけた悪魔のように、ニタリと嗤った。
「私の真名は『アンテン』。神様だから、様をつけて呼んでくれると嬉しいな。
能力は『想い入れのある品物と引き換えに、相応の願いを叶えること』さ。
詳しいルールは追い追い説明しよう。ああ、君、見えるんだっけ」
【クラス】
イーター
【真名】
アンテン様@アンテン様の腹の中
【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力EX 幸運EX 宝具EX
【属性】
中立・悪
【クラス別スキル】
対魔力:B
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。
【保有スキル】
鑑識眼:EX
供えられたモノに込められた「想い」の大きさを鑑定する。
足りなければ足りないと言ってくれるので実際親切。
神性:A
出自は不明だが神として祀られている(少なくともその体裁をとっている)ため、
おそらく神である。妖怪や悪魔、疫病神かも知れない。
幻術:A
人を惑わす魔術。精神への介入、現実世界への虚像投影などを指す。
Aランクともなると精神世界における悪夢はもちろん、
現実においても一つの村程度の虚像を軽く作りあげ、人々を欺く事ができる。
「陣地作成」スキルを含み、なにもない場所に森のある神社を作り出したりも可能。
【宝具】
『黒闇天女呑肚中(カーララートリ・アラクシュミー)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
イーターとしての本質。供えられたモノを何でも食らい、込められた想いに相応の願いを叶えるが、
想いが足りなければ効果はない(もしくはより劣った効果が得られる)。
供えられたモノはイーターに呑み込まれ、二度と戻って来ない。
願った者が死んだ時、イーターから授けられたモノや能力は全て消滅する。
マスター以外からの願いも受け付ける。
【Weapon】
なし。願いに応じて物品を出すことはできるが、自分からは何もしない。
【怪物背景】
漫画『アンテン様の腹の中』に登場する怪異存在。
長い黒髪を真ん中分けにした中性的な少女の姿をしているが、おそらく擬態であり、
「食事」の時は頭部が変形して牙が並んだ巨大な口が複数、目が複数デタラメについた黒い球体のような姿をとる。
両手の甲にはバツ印の傷がついている。
ドクロが集まったような飾りがついた箒を持っている。いわゆる「人頭杖(閻魔王が持つ善悪を感知する杖)」であろうか。
町の中に神社を持ち(ないし「作り」)、神頼みに訪れた者に人間のフリをして声をかけ、
「祠の前に賽銭よりもっと大事なモノを置けば、願いは叶う」と唆す。
効果は具体的で即効性があり、ハマった人間は次々と大事なモノを貢ぐようになる。破滅するかどうかはその人次第。
金銭はもちろん学力や身体能力を強化することも可能だが、「人間」を出すには「大事な人間」を代わりに捧げる必要がある。
キャスターとしての適性もあるが、今回はイーターとして出現した。
【サーヴァントとしての願い】
なし。この戦場を利用して、人間の「想い」をたくさん食べたい。
【方針】
人間の「想い」をたくさん食べるため、マスターをうまく利用する。
自分では戦わないが、幻術でマスターの身を守るぐらいはする。
【マスター】
七草にちか@アイドルマスター シャイニーカラーズ
【Weapon・能力・技能】
アイドルとしての才能と想い。磨けば光る、かも知れない。
【人物背景】
ゲーム『アイドルマスターシャイニーカラーズ』の登場人物。16歳の女子高生。CV:紫月杏朱彩。
天真爛漫で生意気な「みんなの妹」。姉のはづきはアイドル事務所283プロの事務員。
アイドルへの想いが強く、知識も豊富。父は幼い時に他界し、母も入院中。CDショップの店員のバイトをしている。
【ロール】
女子高生。
【マスターとしての願い】
元の世界への帰還。あるいは……?
【方針】
殺人はせず、脱出の方法を探る。
この神社を拠点としつつ、協力できそうな主従を探す。
イーターに頼るのは、できれば避けたい。
【参戦時期】
彼女の物語が、まだ始まっていない時。
投下終了です。
投下します
寝静まった夜の街、その一角にある廃ビルで一人の少女が佇んでいた。
その場所には似つかわしくない幼い子供。
背丈は小学生ほどで特徴的な靴を履いているが、一番目を引くのは一つの眼球に二つの瞳孔がある重瞳と抱き締めているぬいぐるみの人形であろう。
そしてその雰囲気は見た目とはまるで別の異質なものを纏っていた。
「聖杯戦争にサーヴァント、そして万能の願望器――界聖杯」
頭の中にある身に覚えのない情報について吟味しながら、ぽづぽつと見える主従を見渡す。
彼女の目には実体化したサーヴァントはもちろん、霊体化したサーヴァントも見ることができる。
現世と幽世、生者と死者、二つの存在を見る目を彼女は生まれながらにして持っていた。
そうして今度は自分に与えられた記憶について考える。
両親が事故死した後、親戚の家に引き取られて生活しているというこの世界での自分の記憶。
元の世界の自分とほとんど同じ境遇であり、その記憶に対して特に思うことはない。
ただいるべき人たちがいないことが彼女にとって重要だった。
「ここに螢多朗や詠子はいない、そうなるとこれは私一人で挑まないといけない戦い」
自身と共に戦うと誓ってくれた相棒、自分と同じ背筋が凍るほどの恐怖を求めて共に来てくれる従姉妹。
彼らと共に心霊スポットを巡る旅、それがここでは叶わないことを彼女は改めて認識した。
聖杯に願えば空亡とあの神を容易く倒すことはできるかもしれない、でも何かがそれは違うと彼女は思う。
結果だけではなく過程も一緒に歩んでいかなければならないと。
「だからこの聖杯で願うのはあくまで戦力の補充、私が召喚したセイバーと共に元の世界に戻ること」
そうして夜宵は自分のサーヴァントであるセイバーを入れた人形を見る。
自身への霊的ダメージを肩代わりさせる「形代」。
話の分かる英霊ならばそもそもやらず、悪い英霊であれば令呪などを用いて突っ込んでやろうと考えていたが、呼ばれたセイバーはそのどちらでもなかった。
薪の王と呼ばれた偉大な王たちのソウルが生み出した火を守る化身。
自我を持たないソレはただマスターの意思のまま、「形代」として人形へと入っていった。
これほどの存在が元の世界に戦力として入ることになれば失った分の悪霊たちと同等もしくはそれ以上の穴埋めをすることができる。
故にこの聖杯戦争における夜宵のモチベーションは高かった。
今の自分にある戦力はセイバーと神体の指、そして「卒業生」1体。
無論一人だけで全てを倒して勝ち抜けるとは思っていない。
必要であれば他の陣営と手を組むし、あるいは外道の類がいれば協力してそいつらを倒すこともあるだろう。
こんなところで死ぬつもりはない、必ず自分は元の世界に帰ると誓う。
「少しだけ待っててね、螢多朗に詠子。私はセイバーと一緒に必ず戻るから」
同時にこの死と恐怖が隣り合わせという聖杯戦争の舞台に胸を高鳴らせる。
今までの心霊スポット巡りとは異なる趣の地、それを駆け抜けて彼らの土産話にするのもいいと彼女は思った。
「それじゃ、れっつごー!すと!」
そうして彼女は聖杯戦争へと突き進む、ここでの体験を糧とするために。
【クラス】
セイバー
【真名】
王たちの化身@DARK SOULS Ⅲ
【パラメーター】
直剣装備
筋力:B 耐久:B 敏捷:B 魔力:B 幸運:B 宝具:EX
曲剣装備
筋力:C 耐久:C 敏捷:A 魔力:B 幸運:B 宝具:EX
長槍装備
筋力:A 耐久:C 敏捷:C 魔力:B 幸運:B 宝具:EX
儀杖装備
筋力:B 耐久:C 敏捷:C 魔力:A 幸運:B 宝具:EX
『薪の王グウィン』
筋力:A 耐久:B 敏捷:B 魔力:A 幸運:B 宝具:EX
【属性】
秩序・中庸
【クラススキル】
対魔力:A
Aランク以下の魔術を完全に無効化する。
事実上、現代の魔術師では魔術でセイバーに傷をつけることは出来ない。
騎乗:?
騎乗の才能。
セイバーは騎乗スキルを所持していない。
【固有スキル】
薪の王:EX
はじまりの火を継ぐもの。
自身の魂を薪として燃やすことで、最初の火を絶やさない存在となった者たち。
彼らの魂に触れることはすなわち、その火に焼かれるということでもある。
魔力放出(炎)のスキル効果を含んでおり、セイバーの武器には常に炎が宿る。
気配感知:C++
高クラスの気配感知能力。
ある程度の距離までの気配を察知する事が可能であり、 近距離ならば【気配遮断】を無効化する事ができる。
心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
魔力放出(雷):A+
『王たちの化身・薪の王グウィン』発動で使用可能。
太陽の光の力である雷の力を用いて数多の古竜を滅ぼし、火の時代を築いた初代薪の王の力。
多くの古竜を葬ったことで竜属性を持つ存在と、雷とあるが同時に陽光としての属性もあることから、それらを弱点に持つ存在に対して特効となる。
【宝具】
『王たちの化身』
ランク:EX 種別:化身宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
はじまりの火を継いだ薪の王たち、その「彼ら」の化身。
様々な薪の王たちの戦闘スタイルに変化することができ、パラメーター、固有スキルもそれに準じて変化する。
なお自我の類は持っていないため、言葉は発さず意思疎通は不可能であり、精神攻撃は意味をなさない。
直剣装備
最もスタンダードの型。特殊なスキルはなく、純粋な剣技による戦闘スタイル。
連撃による攻撃で一気に仕留める。
曲剣装備
軽快な動きで撹乱しつつ攻撃し、呪術を使う型。
パリィで相手に致命の一撃を喰らわせてきたり、呪術による火の玉や火炎放射、毒の霧を出してくる。
また強化呪文で少しの間、筋力パラメーターをワンランクアップさせることが可能。
長槍装備
槍の突きと払いをメインとし、奇跡を使う型。
奇跡による回復術と自身を中心に球状の衝撃波を放つ。
回復術は回復と少しの間、持続する自動回復の同時発動である。
儀杖装備
ソウルの魔術主体の型。
杖から魔力の槍を生成して放つ術、杖から極太の魔力ビームを発射する術、
追尾機能をもつ魔力の塊を展開して発射する術、魔力の大剣を生成して振り回す術、大量の小さな魔力の塊を連射して放つ術がある。
『王たちの化身・薪の王グウィン』
ランク:EX 種別:化身宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
自身の霊核を砕かれたときに自動発動。
自身を中心に大爆発を起こして霊核を修復し、薪の王グウィンの戦闘スタイルに切り替える。
この宝具が発動した時点で『王たちの化身』の宝具は使用不可となるが、
令呪を一画用いることでこの宝具を封じて『王たちの化身』を発動させることが可能。
そして再び霊核を砕かれば再度この宝具は発動する。
また自我の類は『王たちの化身』と同様に持っていないため、意思疎通は不可能である。
大剣を振り回しつつ格闘を交えて雷の槍を飛ばす戦闘スタイルとなる。
雷の槍は一つ生成して投げるもの、近くの敵にそのまま突き刺すもの、上空に投げてそこから大量の槍に分かれて降り注ぐものがある。
『はじまりの火』
ランク:EX 種別:対魂宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
セイバーが守護するもの、そして継承されたもの。
世界で初めて発生した火で、様々な要素を世界に流し込んだ根源。
明かりと闇と、熱と冷たさと、生と死と、あらゆる差異をもたらし、そしてその中から闇から生まれた者たちが火に惹かれ、王のソウルを見出した。
そしてこの火が消えるというのは火の時代の終焉を意味し、一つの時代が終わることの象徴である。
セイバーが完全に撃破されるとその場にこの宝具を残して消滅する。
そしてセイバーを倒した者にはこの宝具を受け取るか、消滅させるかの選ぶ権利が与えられる。
受け取った場合はスキル:薪の王を取得するが、その魂は焼かれ、徐々に自我を喪失し始めることになる。
消滅させた場合は特にスキル取得はないが、会場全体に神性持ちまたは鬼や悪魔の属性を持つ者へのデバフ効果が付与される。
【weapon】
『火継ぎの大剣』
玉座無き彼らの前にずっとある篝火に刺さる螺旋の剣。
『王たちの化身』のみがその剣を使いこなすことができ、彼らの意思に反応し、武器は直剣、曲剣、槍、杖、大剣へと形を変える。
【人物背景】
篝火に刺さる螺旋の剣を持ち、炎を纏う焼け爛れ歪んだ騎士の姿をしている。
王たちの火の力を具現化した化身と言われ、
最古の薪の王グウィン以来はじまりの火を継いだ偉大な王たちのソウルがいつか火を守る化身を生んだのだろうと思われている。
【聖杯への願い】
自我を持たないため、願いはない
本能のまま、サーヴァントとしてマスターに従うのみ
【マスター】
寶月夜宵@ダークギャザリング
【マスターとしての願い】
セイバーと一緒に元の世界に戻る
【能力・技能】
「重瞳」
一つの眼球に二つの瞳孔がある体質。
夜宵の場合はそれにより人間がいる現世と幽霊がいる幽世を同時に見ることができる。
ただしあくまで見えるだけであり、幻覚などを見抜く力はない。
「形代」
霊を封じ込めた人形に自身の爪や血を入れることで、自身に対する霊からの攻撃または霊的攻撃を封じた霊に肩代わりさせる。
あくまで霊的攻撃のみであり、ただの銃や瓦礫などの物理攻撃には意味をなさない。
今回はセイバーを人形に封じることで夜宵に対する霊的攻撃はセイバーへの攻撃となる。
これによりセイバーは形代となった人形からあまり離れることが出来なくなっている。
サーヴァントであるため、あくまで人形と離れられない程度のもので、自由に人形から出すことはできる。
「御神体の人差し指」
鬼子母神の像から奪った指。
悪霊が伸ばしてきた手などを切断したり、霊に直接突き刺したりできる。
あまりに強い霊には効かない。
「卒業生」
夜宵の集めた悪霊蟲毒の影響下にあってなお、近隣5件ほどまでに影響を与えるエネルギーを持つ破格の悪霊。
その力は凄まじい反面、夜宵たちも巻き込まれる危険性があり、易々と解放できない存在。
『邪経文大僧正』
聞いたものを地獄へ強制成仏させ、地獄へと送る経文を唱える。
スマホなどを通して遠距離にも聞かせることができ、イヤホンつけて最大音量で流したり、
聞こえなくなる距離まで離れたりなど物理的に経文を聞かないようにするしか逃れる術はない。
また自身の口が壊されたりして唱えられなくなっても、
経文を聞いた死骸や悪霊そのものなど強制成仏させた相手に経文を唱えさせることができる広範囲型遅効性の呪いをもつ。
弱点として強力な存在ほど経文を聞かせなければならないため、効き目が出るまでに始末されると何も出来ずにやられてしまう。
目安としては小動物が2、3秒、普通の大人が30秒程度で、悪霊はここからさらに長く、
サーヴァント相手であればそこからさらに長くなるため、マスター相手に使うのが無難であろう。
その他に霊能力で霊を探知したり、小柄なことを生かした身のこなしや御神酒に塩、
バールや紐などを使って様々な状況に応じて物事を処理する判断力がある。
【人物背景】
小学生で主人公である螢多朗の最初の生徒。
交通事故で両親を亡くし、事故現場から「空亡(くうぼう)」という悪霊に連れ去られる母を目撃し、母の手がかりを探して心霊スポット巡りをする。
事故の影響からIQ160超えの天才児となり、現世と幽世がはっきりと見える体質となってからは
心霊スポット巡りで捕縛した悪霊を共食いさせ、破格の力を持つ悪霊を生み出している。
両親への愛情とそれを奪った悪霊への憎悪を持ち、清濁併せ飲む覚悟を持つ。
蠱毒に入れるのは基本危険な悪霊や同情の余地のない悪霊など倫理観に基づいており、生きた人間に対しても同様の価値観で動いている。
【方針】
基本は優勝狙いだが、倒すのはサーヴァントのみでマスターは狙わない。
ただし悪党や外道には容赦なく、直接殺すことはなくても見殺しにすることはある。
卒業生は相手のマスターを巻き込み、サーヴァント相手には分が悪いと考えているため、余程の相手でなければ解放することはない。
投下終了します
>>我ら、宝を求める者なり
宝を求める者という共通点で組まれたタイトル通りの主従ですね。
トレジャーハンターならではの会話なんかもあって面白かったです。
聖杯を宝として狙うのもこのふたりなら当然だなあ、という感じの印象でした。
それにしてもダンジョンをその場で生み出せる宝具、普通に厄介そうで面白いですね。
>>図書館で、ひみつのふたり
相変わらず地の文の情緒が豊かで、読みやすく楽しいなあと感心しました。
キャラクターが生き生きして見えるというのはすごいことだと思うんですよね、再現力が素晴らしい。
そして主従間の交流も読んでいて心があたたまるようなもので、いいなあ〜と思いながら読み進めさせていただきました。
聖杯戦争を乗り越えて本懐を遂げ幸せになってほしい、そんな感想を抱かせるお話だったと思います。
>>二十年前からのディシプリン
一般的な創作分野ではないところからサーヴァントをしっかし仕立ててきたなあという感想でした。
書いてあることは一見すると無茶苦茶なんですがその実筋は通っていて丁寧だなあと。
単なる構想だけで留めずしっかり仕上げてお話にできるのは凄いなと思います。
>>郷壊し(クラッシュタウン)編
郷壊しと書いてクラッシュタウンと読ませるの、流石に笑っちゃうんですよね。
懐かしいファイブディーズネタを大量に織り込みながらも真面目な部分はしっかり真面目というのが面白い。
話の緩急がしっかりしていると言いますか、色んな意味で飽きずに読める一作だったと感じます。
そして沙都子と鬼柳の間には確かな共通点があるのも面白く、純粋にこの組み合わせいいな……と思わされました。
>>Sympathy For The Devil
七草にちか、再び! もう何人目だお前! というのはさておき。
そしてそのサーヴァントは神様……と言っても、現代怪談を思わせるテイストの存在でしたね。
クラスがイーター(喰らうもの)というのもそうですが、全体的に凄く不穏で不安なサーヴァントだなと思いました。
規格外の分類に相応しい宝具ではありますが、果たしてにちかは望む結末に辿り着けるのか否か……。
>>DARK SOULS GATHERING
無骨ながらも変則的な性能を持った、なかなか面白いスペックのサーヴァントですね……。
そしてマスターの寶月夜宵、彼女も何やらマスターの枠に余る力を有している様子。
元の世界に帰るという方針ではあっても必要とあらば戦うことは辞さない、いわば生存優先なスタンスからも人となりが窺えます。
更にこの世界での体験を糧にするという発想もあるようで、マスター・サーヴァントどちらも面白いなと思いました。
皆さん本日もたくさんの投下をありがとうございました!
いよいよ期限も今週の水曜日中となりましたが、今後とも当企画をよろしくお願いいたします。
投下します
木の洞の中に二匹の狢が蠢いている。
幾分か気分が悪くとも、彼らの安全であることの幸福は未来にわたって満たされる。
洞の中にいるだけでよいのだ。
道順に沿ってさえ行けば必ず、体は他の何よりも大きくなって、他を寄せ付けないだろうから。
けれども、風変わりな一匹の狢は、狭くてはやってはいけないと、洞から飛び出して外で傷つきに飛び出した。
穴に残っている狢は、もう一匹には気づかなかった。彼は穴が広くなったことを喜び、ぬくぬくと蓄え続ける。
もう一匹が外で雨に打たれようが、穴の狢は気が付かない。そのうち体長も面容も変わり果てて、元は同じ穴にいたことを、彼らは忘れていくのだろう。
雨が降っていた。
空に浮くというのは、支配よりも自由を表す能力だ。地表からフワフワと浮き上がり。遮るもののない中空を縦横無尽に飛ぶ。
他のものがせせこましく海面を這いずる中で、彼と彼の艦隊は誰の静止をも受けることなく、大空に櫂を動かし進んだ。
やがて世界の半分を進み、もう半分で奪い合う中で彼は自由の頂点に限りなく近づいていたのだ。
しかし、彼の芯は純然たる支配者であった。ルールに縛られずとも、他人がルールに縛られないことには我慢がならなかったのだ。
大艦隊を畏怖の統率でまとめ上げ、広大な縄張りを恐怖の統治で搾り上げ、不快な海でさえも強大な能力で掴み上げる。
自由に浮かぶ能力は、万物を制御下に置く能力へと覚醒し、砂粒から大地に至るまでも彼の支配下に置かれた。
支配にこもる彼が求めるものは、この世を食い尽くすであろう究極の兵器。
そしてそれを阻むものは、唯一その在処を知るのに使おうとはしない者。
彼と対極、規則を破壊し自らは規則を作らない。他人をどうこうできるだなんて思わない男。
支配の洞の中から飛び出した、この海で最も自由なくせに、それでいで後年、富も名声も、力も、
この世のすべてを手に入れる者の名を、人々は海賊王と呼んだ。
超人的な意思も力も、時の流れに飲み込まれて闇に消える。かつて舞い降りた天才が独り言ちたように、
この世のすべてを手に入れたはずの老人は、いまや衰退を免れなかった。
彼にとって生きることも、栄えることも、勝利することも、すべて地球という大地を踏みしめて歩くことに等しかったのに。
できたことができなくなる、当たり前の事実が、総てでも満たされることがない彼の心中を覆った。
そんな彼にとって普通の若者の姿はどう見えるだろうか。老いた自分ができるのに若いこいつはできない。
それでいて若さという万能性を、自分からとうに過ぎ去ったものを、直視したくない輝きを何も知らずに振り回し続ける。
なぜか、手に入れた力、立場、磨き上げた才、知性、生まれ持った運さえも持たないものがなぜ生きる。
なぜ持っているものが抑鬱に追い込まれ、持たざる者どもが解放されて生きるのか。奴らの目の前に広がる自由な景色さえ許せない。
王は、自身の不覚に気が付かない。
だから──夢にも思わなったのだ。自分の前に現れたただ若いだけの凡愚が、どんどん異形へと姿を変え、自分の命を脅かすなどとは。
目の前の悪魔は、有利に整えたはずの場面を支配し、巧みに練り上げた策略を乗っ取り、人知の及ばぬ強運さえも飲み込んでいく。
積み上がった金の城が陥落し、自分の首に手がかかった時、老人の認識は塗り替わりつつあった。
渡り合う悪魔が、小癪な天才が──打倒しなければならない同じ鬼へ、王へ、そして老人の人生に現れた珠玉の宝石へと。
王手をかけて、勝利と引き換えに眼前の相手に死を突き付けたときに、老人はやっと気が付いた。
目の前の神域に触れる男は、外側にいた自分であるのだ。自身の有利から命までを自由に放ることができる男はあの時外に出た狢だった。
勝負の価値と自分殺しを天秤にかけたが、──執行に傾いた勝負は、結局有耶無耶のままに終わる。
しかし、彼はもっとも大きなものを得た。この神域というべき天才と再び戦い、勝利する。それこそが人生の本願である。
そんな大きな──目標を。
(なんじゃ……こいつは……)
【エッドウォーの海戦】
〝金獅子〟シキと〝海賊王〟ロジャーが戦闘。
周辺を自軍で囲んだシキはロジャーに降伏勧告を行うもロジャーは拒否。
直後、周囲を覆った大嵐によりシキが頭部を負傷、艦隊も半壊し、ロジャーが包囲網を突破。
(王は同じ王を嗅げる……一見したときは同じ匂いを嗅いだ気がした……、しかし、異なる……!)
【海軍本部襲撃事件】
シキがロジャー救出を目的として海軍本部を襲撃。
襲撃時本部に待機していたセンゴク(当時大将)及びガープ中将と戦闘に。
本部が半壊する被害を受けるものの、海軍が勝利。シキ、インペルダウンに収監。
(こ奴は……もはや敗北者……! 自身の半身ともいえる目標を手にしておきながら逃し……、有耶無耶のまま……永遠に失った者……!)
【インペルダウン脱獄事件】
ロジャー処刑の情報を得たシキが海楼石の錠から両足を切り離して脱走。
また、押収していた刀剣、「桜十」、「木枯し」を奪取。
その後、白髭海賊団と接触した旨の情報が入るも、足取りは不明。
(ぐ……なぜぐずぐずした……! 世界に同等の王が二人並び立つことなどあり得ない……! 見つけたならば食らわねばならぬ……!)
(逃せば結果……! 現れるのはガラクタ転がる荒野よりも下、無明の空間……!)
何が新しい時代だ。宝目当てのミーハーどもが海にのさばったって邪魔なだけだ。海賊は海の支配者だ。俺たちはそうだったんだ!。
結局のところ、あの海戦にて決着は着いていたのかもしれない。ロジャーをできなかった時点でシキは敗北した。
しかし、あの時点では彼は次を見ていた。ロジャーを屈服させる目標は、海賊王の寿命を知らぬ彼にはまだまだ機会があったのだ。
結果起こったのはロジャーの自首と東の海での処刑である。機会を失い、最弱の海で海賊王が処刑されること、
自由を求めて、根幹が同じ同胞が処刑されることは、彼の価値観ではあってはならないことだったのだ。
結果、起こったのは惰弱な海賊たちによるやかましいだけの時代。 目的を失った彼には何もかもが許せなかった。妄執に取り込まれた。
海賊王の処刑への報復のため、東の海を破壊する。20年の時間をかけた計画。
見る影もない空中海賊艦隊。脳を圧迫する操舵輪、両足の欠損による循環器系への影響。
総てが彼を弱体化させ──、油断と不運も相成り、彼は再び最弱の海の人間に敗れた。
彼を破った男の名前はモンキー・D・ルフィ。その後の時代の中心となる男であった。
シキは穴にこもった狢である。ロックスの海賊団に所属し、支配を指向したときから、彼は穴にこもったのだ。
鷲巣は彼の過去は知る由もなかったが、目的を失った王が行き着く先を見た際に心胆を寒からしめるものを感じた。
アカギとの戦いから三年、頭脳も意思もそうは衰えていないが、体はもはや衰弱し続けている。
このままアカギを見つけることができずに死んだならば、自分もここに行き着くのではないか──。
行くぞ、と鷲巣は声をかけて車いすを回した。シキはおう、と答え、義足代わりの二本の剣が動いた。
まともに歩くことができずとも、目的は果たさねばならない。果たせずは──無明の洞の中である。
【クラス】
ライダー
【真名】
シキ
【出典】
ONE PIECE FILM STRONG WORLD
【性別】
男性
【属性】
秩序・悪
【パラメーター】
筋力:A 耐久:B 敏捷:A 魔力:B 幸運:C 宝具:EX
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
騎乗:A
幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。
【保有スキル】
覇気使い:B+
全ての人間に潜在する"意志の力"。
気配や気合、威圧、殺気と呼ばれるものと同じ概念で、目に見えない感覚を操ることを言う。
シキはは最高レベルの覇気使いであったが、老いと両足の欠損により弱体化しており、
覇王色を"まとう"には令呪の補助が必要である。
空の航海者:A
船と認識されるものを駆る才能。しかしシキは空を征く代償として嵐を航海することができない。
集団のリーダーとしての能力も必要となるため、軍略、カリスマの効果も兼ね備えた特殊スキル。
悪魔の実:EX
超人系の悪魔の実『フワフワの実』の能力者。
これを食べたシキは自身と触れた物体を空に浮かせることができる。
その能力の規模は弱体化した身体を補って余りあるほどであり、小さな砂粒から、軍艦十隻、島数個。
弱点である海水さえも自由に浮かせることができる。また、別方向に浮かせることで念動力のような精密操作も可能。
範囲も広く、何十〜何百マイルにも及ぶ。ただし、生物を浮かせることはできない。
また、概念としては浮かせる力が根幹であることから、強い外的営力、例として悪天候などに襲われると制御が難しくなる。
【宝具】
『海賊王よ、さらば』(グッバイ、ストロングワールド)
ランク:EX 種別:対海宝具 レンジ:- 最大補足:-
20年をかけた計画の集大成である、メルヴィユ及び島数個を空中に現界させる。
島の中には狂暴化した生物が多数生息しているほか、島の浮力はシキの能力であることから、島自身の質量をぶつけることも可能。
言うまでもなく、使用には莫大な魔力消費を必要とする。
【weapon】
義足代わりの二本の剣、「桜十」、「木枯し」
【人物背景】
金獅子、海賊艦隊提督、空飛ぶ海賊の異名を持つ海賊。
かつては海賊王ゴールド・ロジャーと肩を並べるほどの勢力を有した。
ロジャー処刑への反感から海軍本部襲撃を行うも失敗、インペルダウンに投獄された。
その後公式には初のインペルダウン脱獄者となるが、代償として両足を欠損する。また、ロジャーとの海戦の負傷で頭に操舵輪が刺さっている。
ロジャー処刑後は報復として東の海の壊滅を目論むが、弱体化と不運、油断によってルフィに敗北した。
【サーヴァントとしての願い】
界聖杯を獲得して、ロジャーと決着をつける。
【マスター】
【名前】鷲巣巌
【出典】アカギ〜闇に降り立った天才〜
【性別】男性
【能力・技能】
・強運
衰えつつある鷲巣の力の中でも、唯一鮮烈な輝きを放ち続けるもの。
作中では幸運と評されるアカギを平凡扱いできるほどに幸運であり、王の力の源泉として彼を支え続けた。
【人物背景】
参加はアカギ本編終了後。何よりも大事な目標であるアカギとの再戦に執念を燃やす。
ただし身体が衰え、車いす生活となったことから、再戦かなわず死ぬことを恐れている。
界聖杯の役割としては作中と同じ政財界のフィクサーとしての地位を持っている。
【願い】
何としてでもアカギと戦う。
もう一つ投下します
【疲れ切った代言者よ、どんな小さな幸せも守ることができる術を与えよう】
※
初めまして! マスターさん、今日はログインボーナス代わりに私のお話を聞いてください。
あるところにくすんでパッとしないけれど、輝きたくてたまらない女の子がいるとしますね。
彼女のその欲求は、それまで彼女を取り巻いていた環境によるものよりも、内から溢れ出る憧憬によるものです。
そんな彼女を魔法使いさんは、空の上からじっと見ているのです。魔法使いというものは人の夢を叶えたくてしかたがないものです。
だから、彼女に目をつけて、自分ができるのに精いっぱいの魔法をかけてあげるんです。
12時になったら解けてしまうなんて、ケチなことは言いません。望む限りは持たせ続けてくれます。
他の参加者に見劣りしない馬車、王宮のドレスコードにすっかり調和するドレス、
そして、舞踏会の中で最も映えるようにあつらえられた靴。
女の子は、自分が輝けることがうれしくてたまらないで、いつまでも終わらない舞踏会の中を踊り続けます。
しかし、踊り続けているうちに、女の子は心配になって来るのです。
果たして、この魔法使いさんに演出された自分の輝きは、本当に自分の内側から出ているものなのかって。
魔法使いさんは、彼女の夢を叶えるのに必死で気が付きません。夢を守ることが魔法使いの使命です。
舞踏会の次の曲に備えて、次々に魔法で新しい靴を作り出します。
そうしているうちに、狂乱する舞踏会が進む中、突然、彼女は靴を打ち捨てて逃げ出してしまうのです。
参加者たちが褒めたたえる輝きと、自分が灰かぶりだったころ望んだ輝きが、どうしよもなくずれてしまったと思い込んだから。
魔法使いは気が付かなかったことをひどく後悔し──そのまま姿を消してしましましたとさ。
……でも、本当に参加者たちと女の子、それに魔法使いがみた輝きは異なるものだったのでしょうか?
強引な演出とはいっても、踊ったのは女の子自身によります。輝きの光源は、彼女が大事に磨いてきた宝石なのです。
だから、一番の問題というのは、彼女が魔法使いを信じられなくなったこと。
女の子が、魔法使いの魔法に価値を感じなくなってしまったことが、価値観の錯覚を起こしてしまったのです。
灰かぶり姫は、なぜネズミを従者にカボチャを馬車と思ったのか?──それは、魔法使いを信じたからです。
灰かぶり姫は、なぜ経験もないのに見事なダンスを踊ることができたのか?──それは、魔法使いを信じたからです。
灰かぶり姫は、なぜ12時になる前に帰ろうとしたのか?──それは、魔法使いを信じたからです。
信頼です。それ以外にこの世界に価値をつけるものはありません。女の子は魔法使いの魔法を信じ、
魔法使いは女の子の輝きを信じなければならないのです。行違うことは、互いの価値を毀損します。
だから、私のことも信じてくださいね。マスターさん。
【そんなボロボロの身体で、いったい何を守るっていうんだい?】
※
──どうして私は、にちかにWING優勝だなんて条件を付けたのだろう。
終業の時間が来る。広告会社のアルバイトからの帰り道。暗い夜道にポツポツと思考を浮かばせる。
にちかがアイドルに強い憧れを持っていたことは分かっていた。それなりに反対の気持ちを伝えてもいた。
それは、あまり余裕があるとは言えない家庭環境によるものであり、アイドルという職に近くで向き合う経験から、
にちかが──果たして現実とのギャップに耐えられるのだろうかという心配によるものでもあった。
──父は、幼いにちかがテレビに映るアイドルの真似をして踊っていて、にちかはアイドルになれるなって。
もちろん応援したい気持ちもあった。家族だったから、
みんな大切で差なんて付けられないけれど、かけがえない宝石だから。
しかし、疲れ切って帰った時にいつも自分を癒してくれた我が家のアイドルを、思春期を向かえても自分を気遣ってくれる優しい子を、
家族という信頼と欲目だけで、たどり着けるかもわからない茨道に送り出したくはなかったのだ。
けれど彼女はもう走り出してしまった。私たちの職場に、あの人と一緒に。
走り出したからには、もう彼女の活動の邪魔はしたくはなかった、しかし、この世界の片隅でくすぶり続けて、苦しんでほしくもなかった。
そういう妥協案で出てきたのが、WING優勝。叶わなければそこですっぱりとアイドルの夢は諦める。
──お父さんは、夢を持っている人を応援したいから。
最近は後悔することが増えた。レッスンが始まってから、にちかは多彩になった。彼女という原石が磨かれだしたのだ。
苦しみながらも夢に向かって一心不乱に走っている。プロデューサーさんは予定表を見ながら、じっと思い悩んでいる。
彼女がそれを見て、からかうように声をかけていた。そして越えられるかわからない壁が立ちふさがると、
にちかは駄々をこねるように自分を卑下していて、プロデューサーは優しく彼女を説得していた。
にちかは納得できないで、苦しみと怒りをないまぜに、まるでお父さんにするようにプロデューサーにあたり続けるのだ。
それは、紛れもない甘えで、にちかはひどく自己嫌悪していたけれども、私たちの家族には埋めることができないものだから。
だから、嬉しくてたまらなくて、こんな日常がいつまでも続いてほしくて──破滅の足跡におびえ始めてしまった。
今思えば、283プロという環境は奇跡だ。
天井社長が20数年ぶりにアイドル業界に復帰して、その右腕としては父によく似たプロデューサーが活躍する。
私は彼らの夢のお手伝いをして、プロデューサーさんによって磨かれる色取り取りのアイドルと接することができる。
挫折はしても、乗り越えて変わった。プロデューサーさんと彼女たちには信頼も才能もあったから。皆の居場所は幸福が持続する空間である。
そう無邪気に信じ込めていたのだ。……にちかが入るまでは。
どうしたらいいのだろう?
にちかは本当に優勝できるのだろうか。彼女の才能について、断言することはできないが──並び立つ原石はいくらでもある。
無論、彼女にしか出せない輝きもあり、プロデューサーさんもそれは見抜いているのだろう。ただし、審査員がそれを重視するのかは可能性の問題になるだろう。
もしも、技巧や雰囲気で勝負されたのならば、にちかは……こんなことを考えてしまう自分がひどく醜いもののように思う。
これまでは無垢な信頼を向けられていたのに、よく知っている彼女のことになると、信じられなくなってしまった。
そして、もしも優勝を逃したのならば、にちかはアイドルを失い、プロデューサーさんも大きな傷を負うだろう。
そうなれば、283プロ全体にそのひずみは波及するかもしれない。今ある奇跡が、あんな一時の約束だけで消え失せてしまうかもしれない。
どうしたらいいんだろう……。遠くから声がかかった。
私はその声を聴くたびに安心する。もはや聞くことができないはずの声であり、保存した音声ファイルにしか残っていない音だった。
人間がいなくなったときに、真っ先に忘れてしまう声だった。だから、どうしようもなく、涙が出そうになるのだった。
「お父さん……」
【道を見失った従者よ、お前がどこにいても帰ることができる場所を与えよう】
※
私には家族がいます。お父さん、お母さん、妹たちと、にちか。
にちかは今は家にはいません、WING優勝のために、283プロの寮を借りて毎日励んでいます。私たちは家族総出で……みんな忙しくて私だけで応援に行きました。
283プロは今はありませんが、事務作業をこなしている傍らにちかのことを寒がると元気が湧いてきます。妹たちのために頑張ろうと思います。
私ががんばらなければ、家族の生活も危機に陥ってしまいますから、おとうさんはもういないし、お母さんは入院しているから……。
そう、だからにちかが負けると困ってしまうのです。283プロという環境が崩れることは私自身の生活に直撃してしまいます。
私もにちかも妹たちも、それでも生きていかなければならないのです。夢が破れても、家がなくても、疲れ果てて消えたとしても、
先日も家が吹き飛ばされたばかりなのです。どうしようかと思ってしまいました。私は早く帰らないといけないのです。にちかを見守らなくては。
幸い新しい家はお父さんが建ててくれました。にちかが夢として語ってくれたような、笑いの絶えないにぎやかな家を建ててくれました。
これで目先の心配事はとりあえずは片付いたかな。
本当に大変でした、エメラルドの濁流のようなものに家族が飲み込まれてしまって、妹たちは……お腹に穴が開いていて……。
……、そう、お父さんが助けてくれたのです。弁護士をしているお父さんはとても口がうまいから、悪者をうまくいなすのは慣れているのです。
だから今の心配事はにちかのことだけ。早く帰らないと、WING決勝は3日後、にちかはもう控室に入っていた。早く帰らないと。
幕が上がってにちかとプロデューサーさんの結果を今から見守ろうとしていて、だから早く帰らないといけなくて。
帰らないと、私の収入がなくなったらにちか頼みになってしまう、お母さんも私が突然いなくなったらどうなるのか。
結果を見なくては、あの子がプロデューサーさんと一緒に紡ぎだした日々を、どんな結果が出ようとも受け入れよう覚悟しているから。
にちか、私は大丈夫だから、すぐに帰るからね、だから、お父さんはもういないから、私には283プロとあなたが必要だから。
負けたら……どうしよう?私がいないで彼女が負けたら、皆どうすればいいの?傷ついた彼女を支えてられるのは私しかいない。
帰らなければ、無残に吹き飛んだ家みたいになってしまうから、帰らなければこの世界に私のプロダクションはない。
帰らなければ、にちかが負けたらもうどうしようもない。帰らなければ、勝ったにちかをいっぱい褒めてあげたい。
帰らなければ──!
「はづき……大丈夫か?」
もういないお父さんが私を撫でてくれます。もういないけれど、今はいます。帰ってきて私を安心させてくれます。
……一緒に歩いていると、家が見えてきました。中から家族の暖かい笑い声が流れてきます。おかしいですね。
この世界の妹たちも、お母さんも死んでしまったはずなのに。この家にはいつもいてくれますが姿が見えません。
あ、お父さんが手招きしています。リビングの扉の奥で、喧噪の中に入っていきました。
私は、帰りたくてたまらなくなりました。でも帰ってどうしたらいいのか、不安でたまりません。
……そういえば、魔法使いさんが私に願い事を尋ねていたような気がします。何かを聖杯に祈らなくてはならない。
私は、帰りたいけれど……もし、帰れなかったらにちかたちは……。
お願いします。どうか、にちかをWINGで優勝させてください。私が帰れなくてもアイドルの世界で生きていけるように。
きっと、その世界にいれば、プロデューサーさんとみんながいれば大丈夫だから。
──リビングの方からTVの音が聞こえる。ティタ・ティタ…妹たちの楽しいそうな声。
音に乗せてステップを踏みました。三回踵の音が鳴ります。けれども家に帰ることはできませんでした。
玄関のカボチャの置物が蠢いた気がしました。
【何処へもいけない下僕が、いったいどこに帰ろうっていうのかい?】
【クラス】
キャスター
【真名】
嘘をつく大人@library of ruina
【ステータス】
筋力E 耐久D 敏捷D 魔力C 幸運C 宝具EX
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
陣地作成(偽):A
詐欺師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
道具作成(偽):A
相手を詐術にかける小道具を作り上げる技術。
キャスターの魔術素養は奪ったものでしかないため、魔術的器具は戯れ程度のものしか作成できない。
【保有スキル】
詐欺師:A++
かつて国一つを乗っ取った詐欺師としての技量がスキルとなったもの。
正体隠匿や気配遮断、話術スキルを兼ね揃えた複合スキルであるが、キャスターの虚偽から生まれた決して真実にはならぬスキルのため、
時間が経過するごとにランクが低下していく。
エメラルドの魔術:C
オズマ姫から奪い取った魔術。基本的な魔術及びエメラルドを操る魔術を使用することができるが、
所詮奪い取ったものであるため、高威力の魔術の使用はそれ見合わぬほどの大量の魔力を消費する。
【宝具】
『偽りの玉座(The Wizard of Oz)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:-
「いつしかオズは人々に魔法使いと呼ばれるようになりました」
オズの国の王、魔法使いのオズの由来。彼は人々の欲について知り尽くし、その願いを叶えることができると皆に思い込ませていた。
それは転じて人々の願いを見抜き、叶えることができる宝具となった。キャスターは相手の願いを自身の魔力が許す範囲で叶えることが可能であり、
相手が願いを受け入れた場合、その維持のための魔力消費を相手に引き渡し、対価として容姿立場魔力記憶、概ね任意のものを奪い取ることができる。
叶える願いには制限がなく、死者蘇生から世界改変まで可能であるが、大規模なものほど魔力消費が大きく、発動時はキャスターの魔力を必要とするため、
その時点の魔力量を上回る願いは叶えられない。また、キャスターの任意で願いを曲解することも可能。NPC相手にも使用することができる。
現在の使用対象は二名。
七草はづきの父(NPC)「家族を助けてくれ」叶えた願い「その場の安全を確保し、※(家族を蘇らせる)」 対価「名前、容姿記憶及び魔力」
※対象者側の魔力不足により消滅。
七草はづき「帰りたい」 叶えた願い「帰りたい家を用意する」対価「聖杯戦争についての知識」
【人物背景】
library of ruina に登場するオズマ姫から国を乗っ取った魔法使い。
しかし、その実態は元ネタのオズの魔法使いにもあるように詐欺師であり、関わったものから奪い取っては破滅させている。
ドロシーにあたる少女たちは冒険の末にキャスターの下にたどり着き、願いを叶えてもらったが、
案山子は藁の脳のために自分の知能が低いことに恥を覚え、ブリキの木こり歯が自分の心の冷たさに震え上がり、
猫の勇気は他人に依存し続け、少女は家ごとオズの国に来たため家に帰れない。というふうに悪意的に解釈した願いを配った。
自分の所有物に対する執着心は尋常ではない。
【サーヴァントとしての願い】
すべて俺のものだ! 誰にだって譲るものか!
【マスター】
七草はづき@アイドルマスターシャイニーガールズ
【マスターとしての願い】
帰りたい。にちかには優勝していてほしい。
【能力・技能】
各所でのアルバイト経験、所属アイドルに関する知識。
【人物背景】
283プロの事務をこなすアルバイト、生活に余裕がないため各所でアルバイトをしており、いつも眠たそうにしている。
能力は高く、所属するアイドルたちは彼女のことを頼りにしている。ただし社長に対する態度はぞんざい。
参戦時期はにちかのWING決勝の本当に直前、にちかたちのことが気になり、不安になっていたところをキャスターに突かれ、
自作自演の自宅襲撃をくらった。その際に、キャスターの宝具に帰ることを強く願ったが、与えられたのは家であり、
聖杯戦争の知識を対価として奪われた。現在はキャスターの魔術により、キャスターを父と思いこまされたうえで、
半ば洗脳状態にある。
【方針】
帰りたい。
投下終了です。
投下します
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私が逝きたいのは地獄であり、天国ではない。
地獄へ逝けば、歴代の教皇、国王、皇太子と一緒になれるだろうが
天国には乞食と修道士と使徒しかいないのだから
――ニコロ・マキャベリ
.
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私が逝きたいのは地獄であり、天国ではない。
地獄へ逝けば、歴代の教皇、国王、皇太子と一緒になれるだろうが
天国には乞食と修道士と使徒しかいないのだから
――ニコロ・マキャベリ
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
セミの、抜け殻みたいな人生だった。
抜け殻に命なんてない。あれは、元々中身があって、ある時を境にその中身が、皮膚を破って羽化して出て行ったなれの果て。そんな事、誰に言われるまでもない当たり前だろう。
だが私は違う。私は生まれた時から、ずっと抜け殻だった。生れ落ちたその瞬間から抜け殻。しかも、不幸な事に意思が宿った抜け殻だった。
よく卵が先か、鶏が先か、だなんて言われるけど、抜け殻の場合は論じるまでもなく中身が先。中身が、全てを持って行く。中身が、主体。
きっと、私にとっての中身とは、アイツの事だったんだろう。産まれたのが偶然先だっただけの女。私が持っていた筈の才能を奪っていった女。……双子の、姉貴。
その姉貴が、驚いたような……私に、こんな踏ん切りが出来る人間だったなんて、とでも言うような意外性の顔で見つめている。
どんだけ過小評価されてるんだっての……。まぁでも無理ないか、アイツ、子供の頃から呪霊なんて怖がる素振りも見せなかったもんね。術式を使える私の方が、昔から怖がってて、臆病だったから。
戻れと、アイツが叫ぶ。反発するように、海へと進む私。
私とアイツを区切る、波打ち際の境界線。其処を越えて、アイツが近づく。制止、握ったものを手渡す。受け取った姉貴が、そのものを確認した。葦。子供の頃、よく遊んだ場所に生えていた。
……違う。私の才能を奪って行ったなんて、見栄坊な嘘を吐いた。持っていたか、持たないかの違いでしかない。
姉は……真希は、良く動く足があった。未来へズカズカ進もうと言う意志があった。変化を恐れない、勇気があった。
私にはそれがなかった。与えられた足はクソな現状に根を張るだけの重い足で。宿っていた意志は克己と痛みと恐怖を拒む惰弱な性根でしかなく。裡に燃えるものは勇気じゃなく、燻るだけのうじうじとした女々しい、それこそ女の腐ったような負の心。
真希……アンタがなんで、あのクソな男共が支配する家を出たのか、今なら良く分かる。分からない方が、馬鹿だ。
誰だってあんなところで落ちぶれたくないに決まってる。誰だってあんな家を捨てて新天地を目指すに決まってる。あそこよりも楽しい場所などごまんとある事なんて、誰もが解る。
アンタに負けたくないから、置いて行かれたくないから禪院を飛び出して入学した高専での生活は、楽しかったよ。
私の身体をいやらしく触る男もいなかったし、私に歩み寄って寄り添ってくれる親切な女の子の友達だって出来たよ。
私ですら、人並みの生活が遅れたんだ。アンタなら友達たくさん出来ただろ? それを――失いたくなかったんだろ?
そんな心の機微、私にも解るさ。解ってたから、私も禪院の忌庫に忍び込んだ。……結局駄目で、真希も駄目だったんだけど。
陰陽思想と言う物がある。天地が産まれる以前は善でも悪でも、天でも地でも、光でも闇でもない混沌が世界を支配し、その混沌から天地が産まれたと言う。
この混沌から産まれた光に満ちた明るい澄んだ気、すなわち陽の気が上昇して天となり、この混沌から産まれた重く濁った暗黒の気、すなわち陰の気が下降して地となった。そんな所だ。
真希。アンタは陽だ。日向で生きて良い人間なんだ。
私は……陰だ。本音を言うと、死にたくなんかないしみっともなく生きていたい。禪院の家で燻って生きて行けば良かったと、この期に及んで欠片でも思う自分がいる事が腹立たしい。
だから、アンタなんだよ真希。可能性は、真希の方がある。アンタの方がずっとポジティヴだ。だから、アンタが生きるべきだし、先に進むべきだ。
――呪術師にとって、双子は凶兆。そうと言われてきたっけね。
その理由が子供の頃は解らなかった。仲の良い二人が協力し合えるんだもんねと、無邪気に笑い合ってたっけ。
でも今なら解る、呪術師にとって双子、一卵性双生児とは同一人物。本来得るべき筈だった物があべこべに双子に分配されてしまうのだ。だから、中途半端になってしまう。
アンタがどれだけ強くなりたいと思って、血が滲み指から骨が見える程素振りを続けても、当の私が現状に甘んじて居たいと思っていれば、三歩進んで二歩下がってしまうも同然。
真希にとって私は枷、縄、鎖。そうと認識してしまったのは、結構前の事だった。それを認めたくないと言う思いが、私に頑張りの力を与えてくれたんだけど……。
誤魔化しにも限界が来た。真希、アンタを解放してやる時だ。
進んで。行って。そして、壊して。
簡単な道理だ、私が行っても力が足りない。理由はそれだけだけど、これ以上ない程明白で、そして厳然としていて……。
だから、真希が行くべきなんだ。セミの抜け殻に、羽化したセミを入れたって、最早抜け殻には入らないし壊れるだけ。羽化したアンタが、行けば良い。
私と言う抜け殻に、アンタの陰を詰め込んで。アンタを縛っていた鎖も縄も、適当に私と言う抜け殻に巻き付けてしまえ。
私達と言う双子は、比翼連理でも何でもない。真希は鷹の翼を持っていたのだろうが、私の翼は鳩だった。歪な両翼。私の翼が何時だって、アンタの邪魔をしていたんだ。
どうしようもなく弱い翼だったけれど、そんな私にも出来る事。アンタの闇と陰とを抱えて、私は堕ちて行く。昔はアンタにおんぶにだっこだったけど、一人で私は羽ばたくよ。
真希が飛ぶのに必要な代わりの翼は、私が命を掛けて作っておく。今ならその身も軽いでしょ? だったら、代わりの翼で、何処までも飛んで行って。
そして――
「全部壊して」
私が遂に飛べなかった所まで飛んで――私に出来なかった事を楽しんで来てね。お姉ちゃん。
……起きてと呼ぶ声が聞こえる。
はは、笑える。泣いてんの。真希お姉ちゃんが泣いてる姿、初めて見たかも。カスでゴミな従兄に殴られて、足蹴にされても泣かなかったってのに。
そう言う意味じゃ、バカ直哉に勝ったって、言えるのかな? 私。
――……だから私は……陰なんじゃないか――
真希の泣いてる姿を見て、そんな風に思えるんじゃ、そりゃ私の方が陰を押し付けられるよね、と、全ての意識と命の鼓動が黒く塗り潰される、その際に私は思った。
――これが私、『禪院真依』の、つまらない最期でありましたとさ。
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
土の臭い。むせ返るような濃密な植物の臭い。そして、焼け焦げる樹木の臭い。
それらが混然と、空気の中に混ざっている。舌を出せば、空気に味があると錯覚してしまうような、濃密なスープのような大気。
真依の嗅覚が、この臭いを知覚する。パチっ、と目を開ける。仰向けに倒れていた。10m程頭上に存在する、割れたガラスのドーム天井。其処から見える、星明り。
夜であるという事と、2級以下の呪霊を放置している禪院の訓練・懲罰室でもないと言う情報しか解らない。
立ち上がり、辺りを見渡す。凄惨な光景が広がっている。折れた樹木、刈り払われた草花、燃えている樹木。
ある種の植物園の様にも思える、その風景の中で、一人の男が本を読んでいた。
「……アンタは?」
不思議と、警戒心を真依は抱かなかった。少なくとも敵じゃない事も、況して禪院の者でもない事は解る。
そう言った対立関係にあるのなら、真依は眠っている間に殺されていただろうから。
――そうと認識した瞬間、真依の脳裏を過る、『存在しない記憶』。
聞いた事も学んだ事もない単語が、凄まじい速度で彼女の脳の空白領域に刻まれていく。それに対する戸惑いも狼狽もない。
それを覚えるよりも早く、真依の頭に情報が刻まれ、それに対する納得を強制されてしまったからだ。
聖杯戦争、界聖杯、多次元……成程。つまり彼女は何の因果かこの東京の街に招かれて、殺し合いを強要されているらしい。
では目の前の男は……。
「サーヴァント、って奴?」
真依の言葉に、それまで本を眺めていた男が、目線を此方に向けた。
ただの男じゃない。漆黒のウルフカットに、両袖を肩口から完全に破り捨てたロングコートを、裸の上半身の上から纏う男。
全身にはビッシリと、アフリカ辺りの部族か呪術師が精霊や神霊とでも交信する為に刻むようなタトゥーが彫られており、およそ、女の様に線の細い目の前のランサーには不釣り合いだった。
そんな男が、地面に寝そべって本を読んでいた。
ただ、寝そべっていただけではない。男が枕にしているものが問題だった。黒豹(ブラックパンサー)、そうとしか言いようのない生き物の腹に頭を預けていたのである。
豹が、その頭部を真依の方に向けた。爛々と光る赤い目が彼女を射貫く。ゾワリ、と全身の産毛が逆立つ。汗が下ではなく上に、重力が反転したように上って行くが如き、その恐怖。
二級の呪霊など、目の前の黒豹に掛かれば容易く食い物であろう。一級の呪霊ですら、この黒豹の前では餌になり得るかも知れない。
だが真依が本当に戦慄したのは、ロングコートの男に付き従うこの黒豹が、呪霊でも何でもない、『真依ですら理解不能の生命体』であったと言う事だろう。
「……【ぼくには名前がまだない。生まれて2日だもの。どんな名前がいいだろうか。“ぼくはとっても幸せだから喜びの名がいいな”。いつまでも喜びが続く事を祈って】」
本のページを開いたまま男は立ち上がる。左手にはそのハードカバーの本を持ち、右手には銀色の杖を握っている。杖の先端は、槍の穂先みたいに尖っていた。
「頭のおかしい病人だったみたい」
突然そんな事を男が口ずさんだのを見て、真依は冷めた反応を取る。
見た目の時点で怪しい男だとは誰もが思う所だろうが、思想の方も、異常寄りな可能性が高い。
「ギャハハハハハ!! 言われてるぜェ『V』ちゃん!! 初対面の女の子を詩集の引用で口説こうなんて、4、500年以上前の吟遊詩人の流行だぜ!!」
突如として響く、低俗で下品な男の声。上の方から、羽ばたきの音と一緒に聞こえて来た。
頭上を真依は見上げると、青黒い大烏が彼女らを見下ろしている。動物に知性がある、と言う事を彼女はあの生物を見て理解した。
一見するとカラスに似ているが、顔つきはヒクイドリのような鳥類と類似性が見られ、しかも明白に、此方を嘲っていると言う事実が解る表情を作っている。
大分、品のない方向に知性が寄っているらしかった。タチが悪い事に、このカラスもまた、黒豹と同じレベルで強い存在だ。呪力……いや、内在させている魔力がそれを如実に証明している。
「俺の名前など欠片も知られていないだろうが、流儀には則れ。此処での俺はランサーだ」
「ランサー? お前が槍ってタマかよぉ。そんな粗末な杖が槍で判定されるなら、世の男は皆ランサークラスだぜ」
「品がないわね、そのデブカラス。調教はちゃんとしておいたら?」
「あぁんっ!? デブカラスだぁ!? おい其処のケツの青いメスガキ、良く聞けよ。俺様はカラスでもなければデブでもねぇ、グリフォン様ってぇ立派な名前があるのさ!!」
「どう見たってグリフォン何て大きさもないわね。当然威厳も。おデブなカラスちゃんにしか見えないわよ」
「あ、え、あ……が、く、クキクゥ〜……!!!!」
真依の煽りを受けて怒りが頂点に達し……と言うより、怒りのボルテージが限界を超えてしまった為か。
何をしようとすれば良いのか、何を言えば良いのか。解らないから、グリフォンを名乗る不審なカラスは、意味不明の空気の漏れを悔し紛れに生じさせる事しか出来なかった。
「随分起きるのが遅かったな。お前を殺されないように立ち回るのは苦労した」
「……戦ってたの? それは悪い事をしたけど……大目にも見て欲しいわね。さっき、と言うよりは元居た世界じゃ死んでたんだもの」
それはそうだった。
真依はほんのさっき――彼女の脳内の感覚では数分前の事のよう――まで、禪院家の訓練室にいて、其処で、真希に全てを託してこと切れた筈だったのだ。
其処で力を使い果たして眠りにつき、そうしてこの部屋にいるのである。ちょっとやそっとの騒ぎで起きない位、今回ばかりは大目に見て欲しいと言う心理が彼女にはあった。
「俺達の到着が遅れて居たら、死んでいたかもしれないのはそっちだ。次回は気を付けろ」
「……所で、誰と戦ってたのかしら」
当然の疑問を口にする真依。
此処まで凄まじい傷跡を残す戦いだ。激しい様相を示したであろう事は想像に難くない。
となれば相手は誰だったのか。サーヴァントを使役する、同じ聖杯戦争の参加者? それは、生きているのか、死んでいるのか。
グリフォンが言う所のVと言うランサーが、手にした杖を2m程左に転がってる白い人間大サイズの棒に差し向けた。
当初真依はこれを、戦いの最中で燃え上がった灰の堆積だと思っていたが、違う。よく見ればそれは蠢いている。人間の男。三十代前半位だろう。アジア人ではなく、欧風の顔つきだ。
「魔術的な植物の生育に堪能な人間だ。人の血肉を養分に植物を育てる術を会得している。無関係な人間を拉致して、腑分けしてからそう言った植物に喰わせる」
「絶体絶命だった……って事ね」
その男の方に目線を向ける最中、真依は気付く。
下半身の風の通りが良い。本来身に着けているべきものを身に着けてない。下着を穿いてないのだ。
その下着は直ぐにみつかった。色が黒だから良く分かる。色素が抜け落ち、灰色になった男が握っていたのである。
「ああ……そういう意味でも、ピンチだったってわけね」
子供じゃない。あの男が何をしようとしていたのかは理解出来る。
餌にする前に、役得をいただこうとした、と言う事なのだろう。嫌悪に歪む表情のまま、真依は口を開く。
「とどめは刺さないの?」
「こいつの使役するサーヴァントは倒してある。行使出来る植物も全て破壊してある。この世界において、奴は無力だ」
「それでも、魔術は使えるのよね?」
「正直に言うと、お前を試す為にこいつは生き永らえさせている」
「……私を?」
怪訝な表情で、Vの方を向き直る真依。
「俺と言うサーヴァントの制約だ。俺は戦闘の際には、其処にいるシャドウや、グリフォン達を使役して戦う。だがこいつらは、絶対に相手を殺す事は出来ない。仮死状態に留めるまでが限界だ。その状態で、俺が止めを刺して初めて敵を殺せる。そして、その止めを刺す行為は、俺じゃなくても良い」
「……私が人を殺せるか、試したい訳?」
「選択をしくじって、お前を殺そうと言う事はない。界聖杯を手に入れて俺もやりたい事がある。そういう人物か、と言う事が解れば良いのだからな。無理だと思うのならそう言えば良いし、俺に代わりに殺してくれと言うのも間違いじゃない」
鋭い目線でVを見つめる真依だったが、男の方はそれを涼しい顔で受け流している。
強いサーヴァントではない。目に映るステータスの水準は低く、また気のせいでなければ、彼の力は途方もなく弱弱しい。
線が細いとか、身体が薄いとかそんなレベルじゃない。もっと根本的な所で、彼は弱い。まるで、力を吸いつくされた抜け殻のようで――。
こんな男でもサーヴァントと渡り合い倒せると言うのだから、余程、使役しているあの2体の生き物が強いと言う事なのだろう。
殺せるか、か。改めてその言葉を脳内で反芻する真依。
禪院家には、その家に属する者ならば誰もが知っている、忌み名の男がいた。
呪力を一切持たず、呪霊が何も見えないにも関わらず、多くの呪霊を屠り去ったと言う男。
直毘人は彼を語る時、出来が悪い奴だと言いつつも出奔した事を何処か惜しむような声音だった。扇は彼を口にする時、禪院の思想に凝り固まったような侮蔑の言葉を吐き捨てる。
直哉が彼を語る時、馬鹿にしながらも、言葉の端々から憧憬とも畏敬とも取れる感情が伝わって来たものだ。直哉が甚爾くんと呼ぶその男は、伏黒甚爾と言う名前だった。その実子は、東京の高専にいた。
今頃真希は、何をしているのだろうか。
禪院家に於いて半ば伝説の様に語られている、伏黒甚爾と同じような、鬼神そのものの如き活躍で、殺しの限りを尽くしているのか。
呪力が邪魔をしていた時の中途半端な真希の時点で、強かったのだ。アレが完成したら、きっと手が付けられない強さになるだろう。
そして同時に、自分と言う比翼が居なくなったのだ。負い目も気兼ねなく、人を殺すであろう事も容易に想像出来る。
元来、人を殺した者の行く末など、地獄だと相場が決まっている。
手垢の付いた、陳腐な道徳の話だが、これは多分本当なんだろうと真希は信じている。
だが、人を殺した呪術師の逝く先とは、果たして何処なのか? 呪術師とは呪いを祓う者。呪いとは文字通り人を蝕み世界を病ませる事象。そして、その呪いを操るのが呪霊である。
呪霊を祓い人を救うが故に呪術師なのに、その守るべき者を殺した呪術師に課せられる罪とは、何で、どれだけの重みがあるのか。それに対する答えを出せた者は嘗ていない。
間違いなく言える事があるとすれば――人を殺した呪術師など、より等級の上の地獄に堕とされ、凄絶な責め苦を味合わされるだろうと言う事だけだ。
真希は、きっと禪院の者を皆殺しにするだろう。
炳の部隊も、恐らくは給仕の者ですら鏖殺し、正真正銘完成された天与呪縛の威力をしろ示す事であろう。
地獄に堕ちるな、と真依は思う。予感でもなく確信だ。真希はやる、やり遂げる。それだけの意志の強さを持つ女であるから。
そのきっかけを作ったのは、真依の言葉である事を、彼女は自覚している。
結局、何から何まで真希に頼りっぱなしだったじゃないかと真依は考える。
真希から、真希を縛る陰や縛りを持って行った。そうと言えば聞こえは良いが、裏を返せば、自分に出来ないから後は頼んだと言っているに等しい。
何て、無責任な女。真依は自分に虫唾が走った。今際の際どころか、死してなおお姉ちゃんにおんぶにだっこの性分から脱し切れてなかったのだ。
極めつけに、『全部壊して』何て言葉で真希の生涯に呪いを掛け、彼女の生き方を固定化させて。
『呪術師に悔いのない死など存在しない』。それを高専に入学する際、楽巌寺学長に言われた事がある。
その時は真依は意味が解っていなかった。悔いを残して死ぬ者の方が多いだろうと。呪力を持つ持たないに関わらぬ、当然の話であろうと。
だが今なら言葉の意味と恐ろしさが解る。真希は、死を目前にして、自分を呪うのだろうかと真依は考える。
どうして自分から呪力を奪ったのかだとか、どうして一緒に死んでくれなかったのかだとか、恨み言を吐いて死ぬかも知れない。
真希に限ってそんな事はないと思いたいが、死の魔力の前ではあらゆる人間は狂う。真希ですら、どんな信条の変化が起きるのか、真依には解らない。
真希には――姉には、そんな恨み言を吐いて死んで欲しくないなと、真依は思う。
杞憂であって欲しいが、どの道、地獄に堕ちてしまうのは避けられないだろう。
「……向こうでは仲良くありたいな」
「何?」
真依の呟きに反応するV。
「その杖ってさ、重さ何キロぐらいあるの?」
「解らん」
「貸してくれる?」
手を刺し伸ばす真依。Vが無言で杖を渡してくる。
重量感がある。中身は空洞ではなく、みっちり金属が詰まっているらしい。重さにして7㎏程はあろう。狙撃銃などを持つ事もあるので、手にした重量には真依は敏感である。
杖の重さではない。鈍器の重さだ。だが、それが良い。武器の重さとは、それを扱えぬ者にとっては枷でしかないが、扱える者にとっては絶対の安心感であり、保証なのだ。
Vにとってはこの重さこそが、彼の命を保証する信頼であり、保険なのであろう。
「借りるわ。すぐ返す」
そう言って真依は杖を持って、灰色と化している魔術師の男へと近づいて行き――
杖の尖った先端を、勢いよく男の脳天に突き刺した。初めに、頭蓋の硬い感覚が腕を伝い、その後で、ブラン・マンジェにも似た柔らかい感触が腕に伝わって行く。脳。
杖で一気に脳天から顎までを貫かれた男は、一瞬、吊り上げられた魚みたいにビクリと強い痙攣を示した後、ぐったりとし始めた。
そしてそこから、男の身体は足の指の末端から、風に吹かれた灰の山みたいに細かい粒子となって雲散霧消して行く。数秒と待たずに最後に残った頭頂部も消え、この世から完全に消滅した。杖の先端に、血は吐いてなかった。
「返すわ」
杖を投げ渡す真依。パシッ、とVは上手くキャッチ。
その様子を見てゲラゲラと笑う物がいた。グリフォン、と呼ばれる大烏。
「ヒューッ!! やるねぇ嬢ちゃん!! 行動に迷いが一切ねェ、本物の人殺しだぜェ!!」
肥えた烏のような怪物が、真依の狂行を囃し立てる。喜色が、声音からありありと伝わって来る。
「……こんなもんか、って思っちゃったわ」
ふぅ、と一息吐いて真依は言った。
「全然、愉悦も感じないし悦楽にも酔えないの。殺しの感覚って、こんなものなのかしら」
こんなものを……こんな事を有難がって、行い続ける感性が知れない。
「人を殺す事は、お前の言う通り面白い事じゃない。だが俺には、お前はそんな事を先んじて解っていながら、殺したように見えた」
「地獄に堕ちるのが、解りきってる姉がいるの」
Vの疑問に、真依が答える。
「姉……?」
「私よりもずっと強くて有能で、決断力も思い切りにも優れてたけどね。その行動力のせいで、地獄に逝っちゃうのよ」
ふっ、と。寂し気な笑みを浮かべながら、真依は言った。
「地獄で一人は可哀そうでしょ? 私も地獄に堕ちてあげなきゃ、アイツの泣き顔また見れないわ。それに、先に地獄に堕ちれば、先輩風、吹かせられるし」
「お前より先にその姉が地獄にいたら、どうするつもりだ?」
これに対する真依の返事は、早かった。
「それはそれで良いわよ。……地獄でなら、今度こそ、普通の姉妹でいられるでしょうから」
今生の真依と真希は、双子の姉妹でありながら、呪術の家柄と言うしがらみと、禪院の因習に翻弄され、余人が想像するような普通の姉妹の付き合いや生活とはとんと無縁であった。
地獄でなら。現世での因縁がリセットされた死後の世界でなら、今度という今度は、真依の記憶の中で鮮明に輝く幼い頃の一瞬間。
あの時のような姉妹の付き合いが、地獄では出来るだろう。地獄でなら、ずっと一緒だ。罪を贖い続けるまで。
「姉妹……兄弟……か。因果だな。だからお前は、俺を呼べたのか……」
Vは、真依が口にしていたその言葉を、反芻する。思う所があるような表情。ハードカバーの本のページをめくり、Vは口を開いた。
「……【いや、まだそのときじゃない。まだまだ眠くないからさ。それに小鳥は空を飛び、丘には羊がいっぱいだもの】」
「その、こころは?」
「お前に付き合ってやる。姉妹(きょうだい)は、大事だからな」
「Vが言うと重いねぇ、殺し合いの半生だったからなお前とあのバカは」
ゴンっ、と、周りを飛び回るグリフォンを、Vは杖で打ち叩いた。間抜けな声を上げ、グリフォンは、その名前からは信じられない無様さで地面に墜落した。
「痩せないからそうなるのよ」、と皮肉を飛ばす真依に対し、グリフォンは目を血走らせて反論するのであった。
【クラス】
ランサー
【真名】
V@Devil May Cry 5
【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷B 魔力A 幸運B 宝具A
【属性】
中立・悪
【クラススキル】
対魔力:D
【保有スキル】
使役(悪夢):A
特定の使役物に対する練度とその適正。ランサーは悪夢と呼ばれるものの操作に適している。
但し、生命が眠った際に見ると言う夢を操る訳ではなく、悪夢が現実世界に形を成した3つの存在をランサーは操る。言ってしまえば、ある種の式神使役である。
使役する3体の悪夢には共通項があり、1つは『存在が悪夢と言う非実体の存在であるが故にどれだけ相手を傷つけても相手を直接殺す事が出来ない』事。
3体の悪夢がどれだけ攻撃を加えようとも、決して相手を死なせる事は出来ず、行動不能の仮死状態に留まる。この状態では、一撃加えただけでどんな存在でも死に至る。
この特性により、最後の止めを刺すのはランサー或いはそのマスター、またはそれ以外の聖杯戦争参加者かNPCでなければならない。
そしてもう1つの共通項は、『存在が悪夢である故にどれだけダメージを喰らおうとも完全に消滅する事はなく、完全な行動不能状態に留まると言う点』。
行動不能の回復にはクールタイムが必要であり、魔力を消費する事でその回復速度を速めさせることが出来る。
次の共通項は、『悪夢はランサーが消滅してもそれに連動して消滅はせず、独立した存在として召喚が維持される点』。
この状態の悪夢達は、楔となるランサーが完全に存在しない為、各々の自由意志に従い独立行動を取る為、マスターの制御も基本不可能である。
但し、この独立状態になった悪夢達は、『夢』としての機能や属性を失い、『悪魔』としての属性が強く出るようになる為、悪魔に対する特攻効果が有効となる。
そして、この状態になって初めてランサーが使役する悪夢は完全に消滅させる事が出来、これを以てランサーと現世の関りは初めて途絶える事になる。
止めの杖:A
ランサーが有する固有スキル。ある種の魂喰いであり、それが昇華された上位スキル。
上述の悪夢の使役によって仮死状態になった存在を、ランサーが自身が彼の有する杖によって止めを刺した場合、通常の魂喰いの数10倍以上の魔力が回復する。
この回復には、殺した相手が所有していた魔力が非常に少ない、それこそゼロに近い状態であっても非常に高い量の魔力を吸収する事が出来る。
瞬間移動:D+++
極短距離、数m間をテレポート出来る。但し、悪夢によって仮死状態になった敵がいる場合、そのテレポート可能距離は跳ね上がり、移動可能距離は数十mを越え、百mにも達する。
消費する魔力は極めて少なく、これを連発して超高速で移動する事が可能。
搾取の抜け殻:EX
一つの力ある存在が、意図的にその存在を分割させた姿。それが今のランサーである。
ランサーはその力ある存在から分かたれた、『人間の部分』。故に、人属性の特攻を極めて強く受ける事となる。
本来のランサーは極めて儚い、消滅を待つだけの存在であったが、界聖杯による英霊の座への登録により、現界を可能としたレアサーヴァントである。
【宝具】
『忌夢・赤雷幻獣(グリフォン)』
ランク:B 種別:対人〜対軍宝具 レンジ:10〜 最大補足:1〜50
ランサーが使役する悪夢が一。青黒い大きな烏と言うべき巨鳥で、使役する悪夢の中で彼だけが人語を話す事が可能。
非常に高い敏捷性と飛行スキルを有し、ランクにしてA+相当の魔力放出(雷)を以て相手を焼き殺す戦術を可能とする。
彼に捕まり疑似的にランサーは飛行する事が可能。雷の魔力消費はその派手さの割に非常にローコストで、威力については申し分ない。三つの悪夢の中の、遠距離担当。
『惨夢・百形魔獣(シャドウ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大補足:1〜10
ランサーが使役する悪夢が二。漆黒の黒豹とも言うべき存在。
銃を除いたあらゆる武器に身体を変形させる事が出来、身体の至る所から十mを越えて延びる槍を生み出し相手を貫いたり、
元々の身体の大きさを越えたサイズの手裏剣となって相手を切り裂いたり、巨大な針を体中から全方位に伸ばして串刺しにしたりなど、多岐にわたる近接戦闘能力が売り。
また、この世の如何なる武器についての防御方法を記憶しており、その武器の攻撃を記憶させたバリアを常に張り巡らせており、
受けた攻撃をそのまま魔力の矢に変換、相手に跳ね返してしまう。このバリアは許容量を超える攻撃を受けると破壊され、『銃』の属性を持った攻撃は全く機能せずそのまま素通り、本体に直接ダメージが通ってしまう。
『悪夢・破壊巨兵(ナイトメア)』
ランク:A 種別:対軍〜対城宝具 レンジ:50〜 最大補足:1〜100
ランサーが使役する悪夢が三。流動する黒いタールのようなもので身体が構築された単眼の巨人。
ランサーの切り札とも言うべき悪夢であり、他の悪夢に比べて魔力の消費が格段に高い。
無敵の存在とも呼称される存在で、このナイトメアに対して放たれた全ての攻撃は無効化され、破壊には至らない。
また、このナイトメアが召喚されている限り、先のグリフォンとシャドウにもその攻撃の無効化能力はリンクされ、彼らも完全な無敵の耐性を得る。
但しこの無敵の耐性も、ランサーが存在しなくなった場合は、維持する事が出来なくなり、許容量を超えたダメージを受ければ消滅の可能性が出てくる(勿論素の耐久力も埒外)。
その巨躯を利用した攻撃は一撃必殺級の威力を誇り、容易くビルを倒壊させ、大地を砕く。
また、その瞳からは超高熱超高エネルギーの熱線を放出したり、極大のレーザーの放射も可能とする。鈍重そうな体躯に見えて、数十m間の距離を一瞬で詰めるワープすら行使出来、遠近共に全く隙の無い怪物である。
【weapon】
杖:
ランサーが有する杖。金属製で、止めを刺すのに利用する。
【人物背景】
嘗て存在した一人の男。大魔剣士の息子でありながら、惨めな最期を遂げ、それをも生き残ってしまった男から産まれた、良心であり、人間としての部分。
【サーヴァントとしての願い】
力が欲しい。それが、願い。或いは、またネロ達と……
【マスター】
禪院真依@呪術廻戦
【マスターとしての願い】
界聖杯の機能が真実なら、その力で元の世界での厄介事を解決したい。
【weapon】
各種銃器:
携帯性に優れる拳銃を主に用いる。
【能力・技能】
構築術式:
無から有を、完全なる0から己の呪力を用いて1を作り出す術式。
ともすれば神の領域、御業に踏み入れている、ある種評価不能、規格外の能力であるが、破滅的なまでの燃費の悪さを誇り、1日に弾丸1個が精いっぱいと言う有様……『だった』。
当企画に於いては、真希を縛っていた呪力を持っていき、また天与呪縛の真希の比翼から解き放たれた結果、呪術師として皮肉にも完成してしまった。
結果、原作よりも燃費の悪さが改善され、ある程度複雑な物も構築出来るようになった。ただし、後者に限っては呪力の消費も相応に高い。
銃のスキル:
銃を扱う腕前。腕前はかなり立つ。
【人物背景】
禪院家の落ちこぼれ、吉凶の双子。その妹。
原作において死亡後から参戦。
【方針】
界聖杯は欲しい。けどあまり邪悪な手は使いたくない。まぁ、死んでも別に……
投下を終了します。多重投下でダブってしまい申し訳ありません
皆さんたくさんの投下ありがとうございます!!
明日感想を改めて書かせていただきますね。
自分も投下します。
「人気。順調に出てるみたいだね」
「……そう、ですね。元を辿ったら、アサシンさんのおかげだと思います」
「僕は何もしていないさ。『シーズ』が売れたのは君の努力のおかげだよ、にちかちゃん」
七草にちか、十六歳。高校一年生。
それでいて――アイドル。
トップアイドルの登竜門たるWINGを勝ち抜き、合わない足でガラスの靴を履き十二時を超えた平凡な少女。
この界聖杯内界においても、彼女に与えられた役割(ロール)はそれだった。
WINGの激戦を勝ち抜き、ベテランの相方と二人で『SHHis(シーズ)』として歩み始めたばかりの新人アイドル。
合わない土に投げ込まれながらも芽を出したどんぐり、或いはコンクリートを破って発芽したタンポポ。
そんな彼女は、今。この界聖杯内界で――売れていた。
その小さな輝きは、綺羅星のひしめく芸能界という星空の中で他に負けじと輝いていた。
界聖杯内界は模倣の世界だが、しかしてそこにある命も魂も、そして営みも全てが本物だ。
自分の世界でこそないものの、七草にちかがアイドルの一人として上昇気流に乗れたことは紛うことなき事実なのだ。
だというのに、にちかの表情は複雑だった。素直に自分の手にした成功を喜べていないのが、傍から見ても判別できるほどに。
「君は、君の力で『院長』の心を掴んだんだ。
だから君の事務所には巨額の支援金が出て、君の舞台はよりアイドルに相応しい形になった」
「……、」
「その何が不満なのか、率直なところ僕には分からないよ。むしろ、胸を張るべきことだと僕は思う」
「そう……ですよね。私も、そう思いたいんです」
シーズが化けた発端は、ある病院でチャリティライブを行ったことにあった。
都内に存在する大病院。常に何百人という人間が入院し、内の何十人かは生きて外に出ること叶わず生涯を終える、ありふれた生と死の集積場。
そこでのライブの話を受けたにちかは――自分にできる限りのベストを尽くして歌い、踊った。
結果は想い通じて大成功。患者や見舞い人の拍手を一心に浴びて、達成感のまま相方の顔を見たのをにちかは今でも覚えている。
その日からだった。七草にちかのサクセスストーリーが、エレベーターか何かに載せられたような急上昇を始めたのは。
件の病院の『院長』が、にちか達のライブに偉く感銘を受けた。
その院長が、にちかの所属する283プロダクションに巨額の支援金を出資する意向を示したのだ。
結果としてにちかは――シーズは、これまでの比ではないほど良好な場所と設備、演出を与えられることになった。
それから今日の日に至るまで、にちかはずっと成功し続けている。
客席の空きはいつの間にかなくなり、テレビや雑誌に呼ばれる機会も数倍に増えた。
チャリティライブの話は美談として語られ、俗に言う好感度稼ぎにも大きく成功。
特に元々甘え上手で人に好かれやすい質のにちかは、相方の美琴以上に人気が出た。
だというのに、にちかの心は快晴ではなかった。
成功の喜びと憧れの世界で輝けている達成感はもちろんある。
けれど常にそのどこかに、灰色の鉛雲が漂っていた。ズルをしてゲームに勝ったような、そんな後味の悪さが――あった。
「でも、どうしても……これが私の力で掴んだものだって思えないんです。
憧れた、夢にまで見た毎日なのに――ずっと何かに背中を押されてるみたいで。
私は何もしてないのに、勝手に足が『成功』の方だけに進んでいくみたいな。そんな感覚なんです……ずっと」
「にちかちゃん。この世の物事には、『流れ』があるんだよ」
彼女が召喚したサーヴァントはアサシン。
魔術師ではないにちかだが、それでもステータスを見ればお世辞にも強いサーヴァントではないのだと分かる。
彼は自分をサーヴァントだと認識させない力を持っていて、それを使って例の病院でアルバイトをしているというロールを手に入れていた。
事の発端のチャリティライブも、アサシンを迎えに行ったにちかが来院した患者に見つかり、ちょっとした騒ぎになったのがきっかけだった。
そこからにちかの話、ひいてはシーズの話が広がっていき……院長の耳に届き。チャリティライブをして貰いたいという話が生まれたのだ。
「君は今、成功の……幸運の『流れ』の中に居るんだ。
『流れ』は誰にも止められない。それに乗っている君自身でさえもね」
「それって、私達じゃなくても良かったってことじゃないですか」
にちかは、自分の言っていることがとんだ贅沢だと理解している。
売れ出したことに違和感を感じて、不満を覚える。
自分の身の丈を考えればこれがどれほど不遜で大それたことなのか分かっているし、禁忌を犯したような気にさえなっている。
だがそれでも、今の言葉は無視できなかった。
この成功が幸運の流れなるものによるとしたら、それはつまり、流れに乗れさえすれば誰でもいいということ。
あの日、あの時、たまたま病院で騒ぎになったから。
たまたまそれが院長の耳に入ったから。
だから流れに乗れた。流れに乗って成功し続けて今日の日を迎えている。
だとすれば、"七草にちか"が、"緋田美琴"が、――"シーズ"であらなければならない必然性はどこにもないということではないのかと。
「そう自分を卑下するものじゃない。
『流れ』に乗ったのは君自身の行動の結果だよ、にちかちゃん。他の誰でもない君が、幸運の流れを生んだんだ」
にちかは、このアサシンを信用している。信頼も、たぶんしている。
いきなり知らない世界に放り込まれ、事実上の殺し合いを求められたにちかにとっての唯一の拠り所。
不安と恐怖のすべてを吐露できる、世界でたった一人の味方。
けれど。アサシンはシーズのことについて話す時。
ただの一度も、"君たち"とは言わない。マスターであるにちかのことだけを、彼は見て、褒めそやすのだ。
彼の口から美琴の名前が出たことは、にちかの覚えている限りでは一度もない。
「この世界には流れがある。
流れに逆らうことは誰にもできない。
けれど流れの発端にはいつも人の『行動』があるんだ。
誰かに会う、誰かと話す、――誰かを追う。そういう『行動』があって、流れは人を呑み込む」
呑み込んで、伝播して、拡散して、止まらない。
アサシンは、そう話す。
「君があの日わざわざ僕を迎えに来てくれたから。
君が一円の金にもならないチャリティーライブを引き受けてあげたから。
君がライブをミスなく成功させてみせたから。だから『院長』は君を目に留めた。
君が起こした行動で、『流れ』は生まれたんだ。
君は恥じる必要も、怖がる必要もない。ただ流れに身を任せて、夢にまで見た成功をし続ければいいんだよ」
アサシンの言葉はどこまでも甘くて、耳通りが良かった。
七草にちか。自他共に認める凡人。どんぐりの中でも、一番普通などんぐり。
それを肯定し、彼女の抱く疑問を優しく氷解させ、美酒を美酒のまま飲み干せるように語りかけてくれる。
なのにその言葉に。何か、はりぼてのような。そんな印象を抱いてしまうのは、きっととても失礼なことなのだろう。
たまたま芽を出せただけのどんぐりが思うには、過ぎた考えなのだろう。にちか自身、そう思う。
「それに、第一だ。この世界は君の人生に残らない……『内界』は君の世界じゃあない」
そしてこれは、アサシンが度々口にする言葉。
そして今のにちかにとって、おそらく一番甘い言葉だった。
「にちかちゃんも夢を見ることだってあるだろ?
夢の中でテーブルいっぱいの美味しいもの……ケーキとかアイスとか。
そんなものが目の前にあったら、君はどうする? 太るから控えておこうとか、そんな殊勝な考えをするかい?」
「……しないです。そんな夢を見たら、きっとお腹いっぱいになるまで食べちゃう」
「"そういうこと"だよ。この世界は君にとって、いつか終わる『良い夢』だ」
聖杯戦争の熾烈な戦いから、七草にちかは必ず生還できる。
アサシンは最初から今に至るまでずっとそう信じているようだった。
彼の口から不安になるような言葉は聞いたことがなく、そのおかげでにちかは最近全く"そっち"について不安を抱くことなく日々を過ごせている。
自分は帰れる。
帰って、また元の日常に戻っていける。
だから何も心配することはない。
"僕は戦わないし、君も戦うことはない"と――召喚が成立し、対面したその瞬間。開口一番に彼はそう言ったのだから。
「どうせ夢なら楽しまないと。そうすれば自信も付くし、アイドルとして一皮剥けられるんじゃないかな」
そう言って笑うアサシンに、にちかは。
「自信を持って。君のシーズは、今幸運の流れの中にある」
"君の"シーズは、と嘯くアサシンに、にちかは。
「この夢の中では、君は紛うことなきトップアイドルだ。
そうなるまで幸運の流れが君の背中を押してくれるさ」
……どんな顔をすればいいのか、分からなかった。
◆◆
この街では事件が多い。
この街では、事故が多い。
青年は暖かい風の吹く公園の東屋でスマートフォンの画面を眺めながら、ふっと小さく笑みを浮かべた。
聖杯戦争。
英霊とそれを従えるマスター達が、ルール無用で殺し合う魔術儀式。
此処はそれをさせるためだけに設計された模倣の世界で、この戦いが終わればすぐさま消え去る泡沫の世界だ。
要するにこの世界は遠からず、住まう全員が界聖杯の終末という厄災に呑まれて滅びることとなる。
厄災。そう、厄災だ。
この世界はずっと、大きな大きな厄災の流れの中にある。
生まれた時から、滅びる時まで。ずっと、ずっと。
厄災の流れは止まらない。何もかもを巻き込んで、時に誰かに厄災をおっ被せて、世界の終わりまでずっと続く。
「考える誘蛾灯ってのは、ちょっと面倒だな」
七草にちか。
自分でも理解しているように、彼女は凡人だ。
透龍の目から見てもそう写ったし、アイドルはこれでやっていけるんだなとある種の驚きも抱いた。
とはいえ才能がないわけではない。一般人と比較すれば、むしろ十二分にある。
綺羅びやかで才能に溢れた同業者と比べると些か見劣りするどんぐりであるという、それだけの話。
しかし。この世界において七草にちかは、もはやどんぐりなどではない。
たまたま足を運んだ病院で騒ぎが起きた。
たまたまその騒ぎが院長の耳に入った。
たまたまチャリティライブを依頼する話が出た。
たまたまライブが大成功し、それがまた院長の耳に入った。
と、にちかはそう思っているのだろう。しかし実情は、彼女の認識とはてんで違う。
「まあ、本人も満更でもないみたいだしな……"当面は"大丈夫か」
幸運の流れ。
にちかの手で掴んだ栄光へのエレベーター。
違う、違う――そんなものはない。存在しないのだ。
あったとしても、にちかはそれに乗っかってなどいない。
七草にちかは『誘蛾灯』なのだ。
眩しく、不自然なくらいに輝いて、蛾を呼んでくる誘蛾灯。
寄ってきた蛾はライトに流れる電流ですぐさま死ぬ。
そこまで含めて、誘蛾灯なのだ――にちかは。
『透龍(アサシン)』が人間を装って勤務している病院。
そこに訪れた――『にちか』。
そしてそれを見初めた『院長』。
全ては一本の線で繋がっている。全ては、ある一つの存在の手のひらの中で繰り広げられる茶番に過ぎない。
『院長』なんて人間は存在しないのだ、端から。
それを形作っているのは、装っているのは、人智を超えた……そもそも始まりから人間ではない、さる『岩人間』の異能の賜物。
「『厄災』は止められない。誰であってもだ。奇跡はもう二度と起きない。誰にも微笑まない」
にちかという目立つ輝き。
分不相応な眩さ。不自然なまでに装飾された偶像。
それを不自然だと思うまでは許される。けれどそれを追跡すれば、もう全ての終わりだ。
にちかをシンデレラたらしめる厄災は、十二時過ぎまでの魔法の真実を科学しようとする者を許さない。
かぼちゃの馬車に乗れるのは七草にちかただ一人。ガラスの靴の採寸を知る者は透龍と院長ただ二人(ひとり)。
それを疑い、追跡すれば。ただちに其奴は、厄災の『流れ』の中。
「これは良い夢だ。いつか思い出になる、『良い夢』なんだよ……にちかちゃん」
――シンデレラを疑うな。
――ガラスの靴はサイズ通り。
――かぼちゃの馬車は不思議の賜物。
――七草にちかは舞踏会の正当なる主役である。
それを疑うなら、是非もなし。
不信の罰は死に繋ぐ『厄災』。
追うな、疑うな、関わるな、踏み込むな。
・・・・・・・・・
界聖杯など夢見るな。
それが、厄災に遭わないためのただ一つのこと。
安らかな終わりでこの夢を終わらせられる、ただ一つのすべ。
◆◆
スマートフォンの画面の中、ニュースサイトに躍る数多の悲劇。
その内のどれもが誰かにとっての『厄災』で。
故にどれが聖杯戦争に関わった者の末路かなんて判別はつかない。
それでも――中にはきっと、居るはずなのだ。
ガラスの靴のサイズを測ろうとした者が。
シンデレラを疑った者が。今日もどこかで、厄災に呑まれて死んでいく。
【クラス】
アサシン
【真名】
透龍@ジョジョリオン
【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力EX 幸運A 宝具EX
【属性】
中立・悪
【クラススキル】
気配遮断:EX
暗殺者ではなく、脅威ある存在と認識されないという意味。
アサシンがサーヴァントであること、ないしはその関係者であると推測された時点でその人物に対しては効果を発揮しなくなる。
逆に言えばそうだと推測されない限り、アサシンは脅威ある存在としてすら認識されない。
【保有スキル】
岩人間:A
皮膚が硬質化して石のようになる体質を持つ人型の知的生命体。
自分の意思で岩に変化することが出来、その状態の身体は非常に硬質。
しかし岩状態から活動を再開するには微弱ながら皮膚呼吸が必要であり、これができない状況では体細胞が急激に劣化して窒息死する。
岩生物:B
武器の一貫として岩生物、特に"岩昆虫"と呼ばれる種類のそれらを所持している。
宝具に届くほどの神秘は持たないもののサーヴァントを殺傷できる攻撃力を持つ。
【宝具】
『君の奇跡の愛(ワンダー・オブ・U)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:∞ 最大捕捉:-
透龍の持つスタンド能力。遠隔操作型。
射程距離は存在せず、アサシン並びに彼のスタンドに対して敵意ないし追跡の意図を持った時点で宝具が起動する。
その対象に対して偶然発生した事故や不幸という形の"厄災"を与え、対象が死亡するか追跡を断念するまで継続的に厄災は続く。
落ち葉が指を切断する、雨や水滴が人体を貫通するなど物理法則を無視した事象まで引き起こすことができ、そこに整合性の概念は存在しない。
"アサシンを追跡すること"は厄災の招来に繋がるが、しかし"アサシンに追跡させる"分には厄災は発動しない。
平時この宝具は"明負悟"という老人の人格と姿を持ち、東京都内のとある病院の院長として生活している。
院長が得た情報やその状況は本体であるアサシンに共有され、更に他者は院長の顔を記憶することができない。
この性質により"透龍"は気配遮断スキルが効力を失った場合でもサーヴァントとしてのステータスを視認されることがない。
また、この宝具は元から世界に存在する厄災のエネルギー・理そのものと一体化して発現している性質を持つ。
そのため仮に本体であるアサシンが消滅した場合でも、"厄災の流れ"としての『君の奇跡の愛』は界聖杯内界に残留し続ける。
運用の上でマスターに掛かる魔力消費は限りなくゼロに近く、能動的にアサシンが宝具を用いて行動しない限り魔力関連の問題は浮上しない。
マスターである『七草にちか』を疑い追及した者にも厄災は及ぶ。
にちかへの追及はそれ即ち、彼女が従えるアサシン。透龍、そして明負悟への追跡行為と同義だからである。
アサシンはこれを利用し、にちかをトップアイドルへと押し上げ、それを追跡した者を軒並み厄災で呑む方針を取っている。
【人物背景】
スタンド能力『ワンダー・オブ・U』を操る岩人間。
等価交換であらゆる病気、怪我、人体の欠損をも快癒させる果実"ロカカカ"を巡り暗躍する。
東方家の果樹園に隠されて成長した"新ロカカカの実"の独占で巨額の富を築こうとしたが、東方定助らの干渉によって失敗。
抵抗するが殺害され、本体が死んで残った『ワンダー・オブ・U』も破壊。この世から完全に消滅した。
【サーヴァントとしての願い】
受肉して復活し、果たせなかった野望を今度こそ成就させる。
【マスター】
七草にちか@アイドルマスターシャイニーカラーズ
【マスターとしての願い】
元の世界に帰りたい。
【能力・技能】
アイドルとしての才能。
アイドルの中では凡才だが非才ではなく、アイドルとして活躍していけるだけの力と情熱は確かにある。
【人物背景】
アイドルを目指して茨の道に踏み入った少女。
身の丈を超えた努力と奮闘で夢を叶え、望んだ世界に踏み出せたなりたての偶像。
誘蛾灯。
【方針】
透龍(アサシン)さんの言う通り、普通通りの生活を続ける。
元の世界には絶対に帰りたいけれど、そのために誰かを殺したりする度胸はない。
その辺りのことについては敢えて直視しないようにしている節がある。
現実には既に、彼女は一つの"凶器"にされているのだが。
投下終了です。
僕もにちか書きたかったので書きました
投下します
とある館の一室。
一人の青年が、座っている青年を見下ろす。
苦虫を噛み潰したような顔で青年は銃を持ちながら言葉を紡ぐ。
「……なぜ、戻ってきた。」
後戻りできない袋小路の中に彼はいる。
これからしなければならないことは、彼が今までしてきたこと。
だが、それをする相手は今までとは違う。表向きの彼ではなく、
本来の彼にとって唯一無二の存在だということを。
「連絡がなかったとしても、同じことさ。」
浅黒い肌をした眼鏡の青年は返す。
どうなるか分かっているのに、穏やかな表情だ。
例えるならば、家族と共にいる兄弟のような雰囲気で。
「なんで……なんで、戻ってきたんだ!?」
「アンジェロ。だって僕たち───」
答える前か、答えると共に。
彼の言葉と同時に銃声が響いた。
夜の海。
月明かりに照らされる暗き水面は、全てを飲み込むかのように。
別の世界が広がる海を傍らに、砂浜を歩いている黒髪の青年がいた。
顔立ちは悪くない。十分に美青年と言えるものだろう。
だが、全てを打ち消すかのような隈に生気のない瞳。
海のように暗く、底の見えない瞳で歩いていく。
足跡は、波によって元の形へと戻される。
「あの、マスター……大丈夫ですか?」
青年の背後に姿を見せる、一人の少女。
青年よりも幼げな、金髪に甲冑を纏った重装備の騎士。
一部の毛先が黒いため何処か犬の耳のようにも見える。
青年は振り返ることないが、言葉に反応して立ち止まった。
彼女がこの聖杯戦争で彼が召喚したサーヴァント、ランサーになる。
「食事もあまりとっていません。
私はサーヴァントなので食事の必要はありませんが、
マスターは歴とした人間です。流石に食べないと……」
「俺は、もう生きる必要がないからな。」
波の音だけが聞こえる空間に響くかのような、
気遣う少女の言葉を遮る冷たい言葉。
心地よい風は寧ろ冷たさを助長させる。
「やることを終えた俺に、聖杯に今更何を願うんだ?
生きる道を示す……それだけの為に、聖杯を目指して人を殺せばいいのか?」
「確かにそれだと気が引けるかもしれません……ですが、
マスターにも元の世界で待ってる人が───」
「いない。」
「え?」
サーヴァントの方へと振り向く。
何も見てないかのような瞳で言葉を紡ぐ。
「───俺のやり終えたは、家族の復讐だ。」
青年、アンジェロ・ラグーザは嘗て家族を奪われた。
両親と弟をマフィアであるヴァネッティ含む三人の手によって。
その復讐は今や完遂した。ファミリーは彼の目論見通り時期に壊滅。
家族を奪ったヴァネッティに、家族を奪われる地獄をやり返した。
ファミリーを家族のように思ってたならば、死ぬよりも苦しいだろうことを。
そうして復讐を遂げることで、生きる意味を見出せるのではないかと。
「すべてがむだごとだったが。」
だが行きついたのは空疎、虚無と言った虚しさだけ。
七年以上持ち続けた想いが叶って、行きついた果て。
そこにはカタルシスはあっただろうが、大した快感はない。
生き甲斐と言う自分を形成する何かが消えただけに過ぎなかった。
アヴィリオと言う器はとっくに壊れていた
既に空っぽの器であり、同時に壊れた器。
最早容器としての役割すらこなすことはない。
「家族と呼べる親友も自分の手で殺した。
俺を待ってる奴は、誰一人としていない。
生きて戻っても此処で死んでも。俺は同じことだ。」
世界で唯一と言ってもよかった。
偽りのアヴィリオ・ブルーノではなく、
本来のアンジェロ・ラグーザを知るコルテオ。
彼だけが世界で唯一の理解者だったのに殺した。
そうしなければ復讐が果たせなかったから。
心のどこかでは悟っていた。
こんな復讐に意味があるのかと。
だが退けば、何のためにコルテオは死んだのか。
「……私はマスターの親友の方を存じていませんし、
復讐の内容も、深く理解しているわけでもありません。
ですので、これは私の持論になることをご理解ください。」
ランサーは悲運の騎士として死を遂げた。
敬愛する騎士に、自分だと気付かれることすらないままに。
今のアンジェロのように、自分のことなど欠片も見えていなかった。
否。見えていたとしても、迷わず殺していただろうと言う確信がある。
「親友の方は、マスターに生きてほしいと思います。」
だが、それでも。
彼を恨むことは、糾弾したいとは思わない。
今も昔も、彼女にとって敬愛する騎士として揺らぐことはない。
世間には裏切りの騎士として名高い汚名があったとしても。
彼女はその死に方に悔いはなかった。
「とは言え、持論のとおり死んじゃった私だから、
とも言えるので……参考にはならないと思いますが。」
頬を掻きながら目を逸らす。
結局のところ彼女はコルテオではないし、
意外と他の事を考えていたかもしれない。
「……あいつも、そう思ってるだろうな。」
コルテオも生きてほしい。
だから彼は自分から死を選んだ。
彼女の言ってることは、恐らく間違いないだろう。
幻影も恨みつらみを言うようなものばかりではなく、
まるで支えてくれているかのような、そんな風に見える。
「一先ずは、生き残ることだけを考えてみませんか?
もしかしたら、此処で答えが見つかるかもしれません。
生きることに理由を求めず、ただ生きてみると言うことで。」
この東京は嘗てのアメリカとは大違いだ。
アンジェロからすれば百年以上時間が流れている以上、
何をしても当時のアメリカと比べるまでもないほどに充実している。
『まずは一個から練習するんだな。』
思い出すのはネロのジャグリングを真似たあの日。
復讐の為ではなくただ生きていたとするならば、ネロとの逃避行の日々だろうか。
三か月間と言う短い復讐劇の物語、その中でさらに短い出来事。
あの時が復讐の最中でも感情が曝け出せていた気がした。
子供のはしゃぐ光景に頬を御ほころばせたり、
ネロに煽られて手品と言う名のスリの技術を披露したり、
ジャグリングを真似てみたりと復讐に終始していたアンジェロが、
それとは一切無関係の、逃げながらもどこか穏やかな日々があった。
「あるとは思えないが。」
「きっぱり言っちゃうんですか……」
ああいうのがあれば変われるのかもしれないが、
あれはネロといたから、と言うところもあるだろう。
此処でどこの誰とも知らない相手と過ごすことで、
何かが変わるとはあまり思えなかった。
「もう少しだけ生きてみるか……」
別にガレスの言葉で希望を見出したわけではない。
自分から死ぬ気すらないぐらいに、ただ無気力なだけである。
アンジェロは砂浜を歩いていく。
先程までとは歩く方角が違い、一応帰路へ向かうようだ。
自分がいては目立つと、直ぐにランサーは霊体化して姿を消す。
復讐の物語を終えた青年は砂浜を歩いていく。
本来見るはずだった汚れた空は、今まだ見えない。
【マスター】
アンジェロ・ラグーザ@91Days
【能力・技能】
犯罪
主にスリと言った犯罪で生計を立てており、
銃やナイフと言った道具も使い慣れている。
同時に人を殺すことに躊躇もしない冷静さと欺く演技力。
一般人としては少なくともそれなりに強い部類。
【weapon】
ナイフ
【人物背景】
家族をマフィアに殺された青年。復讐と生きる目的を見出す為に、
アヴィリオ・ブルーノとしてファミリーへと接近し、復讐を遂げた。
だが親友であるコルテオを手にかけたことで精神をすり切らしていき、
復讐を終えた後も『すべてがむだごと』の感想しか出なかった。
【参戦時期】
最終回、ネロに連れ出される前。
【聖杯にかける願い】
特に望むものがない。
【方針】
ランサーに好きにやらせる。
【クラス】
ランサー
【真名】
ガレス@Fate/Grand Order
【属性】
秩序・善
【ステータス】
筋力:C 耐久:B 敏捷:A 魔力:D 幸運:D 宝具:C
【クラス別スキル】
対魔力:C
魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
馬上槍の名手であるガレスは、ランサーが持ち得ない騎乗スキルを例外的に所有する。
【保有スキル】
狼は眠らず:B++
所謂戦闘続行スキルの強化版。通常の戦闘続行に加えクリティカル率の上昇。
他のスキルとも合わせることでカウンターの一撃が得意となる。
美しい手のガレス:B
変装して城で下働きをしてた際にケイ卿から美しい手、
ボーメイン呼ばれたことに由来するスキル(なおガレスは変装してたため気付かれてない)
原典からして詳細不明ではあるが、ゲームシステム上では被弾の度に攻撃力を強化していた。
【宝具】
猛り狂う乙女狼(イーラ・ルプス)
ランク:C++ 種別:対人宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:1
馬上槍の技の冴えが宝具として昇華されたもの。
怒濤の連続攻撃を叩き込んだ後、必殺の一撃を以て敵を貫く。
数々の名だたる騎士を槍一本で制した程の槍の名手であり、
アーサー王に対して馬上槍試合に挑んだ際には、
その戦いぶりを王から『猛り狂う狼』として讃えられたという。
変身の指輪
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:なし 最大捕捉:1
生前、貴婦人ライオネスから賜った神秘の指輪。
さまざまな色に変化する指輪であり、姿を変えることができる。
自らの身分を隠しながら馬上槍試合を繰り返していた際には、大いに役に立ったという。
ゲーム上での性能のターゲット集中から、目立つ姿にもなれる様子。
【weapon】
馬上槍
マーリンによって多重に強化されてある種の魔術礼装となっている。
結果、馬上槍なのにレーザーのようなものを放つこともできる一種のガンランス。
なんちゃってアロンダイト・オーバーロードと叫ぶことも。
盾
【人物背景】
アーサー王の円卓の騎士で最も新しく加わった円卓第七席。
ガウェイン、ガヘリス、アグラヴェインを兄弟とする若き騎士。
生真面目であるベディヴィエールがちゃん付けで彼女を呼び、
モードレッドが彼女の存在からガウェインとは揉めないなど、
問題児が多い円卓の騎士の中でも共通して彼女は愛されてきた。
敬愛するランスロットに殺された悲運の騎士ではあるものの、
昼間のガウェインと二時間に及ぶ戦闘を続けることができたり、
数々の騎士を一対一で制したりと、歴とした騎士でもある。
一度信頼した相手は決して裏切らない、清廉潔白な存在。
【方針】
マスターの為に全力を尽くす。
【聖杯にかける願い】
共に円卓の騎士と肩を並べられる、そういう世界が見たいと言えば見たい。
でもそれは王が決めることで、一騎士たる自分にはその権利はないと思っている。
以上で『足跡の行先』を投下終了します
投下します
ガンガンガン
フライパンをおたまで叩くけたましい音で目が覚める。
「ほら、あんた起きな!朝飯の時間だよ!」
「ん、あ、あぁ...もうそんな時間なんね...」
妻・北条玉枝の声に背を押され、布団からのそりと金髪のチンピラ風味の強面男―――北条鉄平が起き上がる。
欠伸と共に居間へ向かうと、机には妻が作った朝食が並べられており、一足先に席についている少年少女がいた。
「おはようございますおじさん」
「随分とお寝坊ですわね〜」
礼儀正しく微笑みながら朝の挨拶を交わす少年・北条悟史に、彼とは対照的に挑発的な言動で嘲笑する妹・北条沙都子。
彼らは共に鉄平夫妻の甥と姪の関係にあった。
「すまんな、ちょいと夢見が悪くてな...」
鉄平は席に着くなり、箸を手に山盛りのキャベツに手を伸ばす。
パチン。
指を鳴らす音と共に、鉄平の頭に衝撃が走り、思わず頭を抱え込む。
頭上から落ちてきた盥が頭に当たったのだ。
「ぬほおおお...!?」
「をーほっほっほっ!お腹が空いた私をさしおいた挙句にいただきますもなしに食べようとした罰ですわ!」
「ナハハハ、これであんたもちぃとは目が覚めたやろ!」
「むぅ...」
甲高く小生意気さのにじみ出る笑い声をあげる沙都子と鉄平のリアクションがツボにハマったのか豪快に笑う玉枝、そんな二人と叔父を交互に見ながら困ったように笑う悟史。
そんな彼らも頭を抑えたままうずくまり、鼻をすする音まで鳴らし始める鉄平の様子に次第に笑みが失せていく。
「お、叔父さん?」
「あっ、当たり所が悪かったんですの?」
「ちょいと沙都子。あんた謝りなよ」
口々に心配をあらわにしていく三人だが、しかし鉄平は痛みで泣いているわけではなかった。
「...せやなぁ」
鉄平は涙を拭い顔をあげニカリと笑みを見せる。
「『いただきます』はちゃんと言わんとなぁ」
平然とする鉄平の様子に三人は安堵しふぅと息を吐き、大げさだなと四人で笑い合う。
「ホラホラ、はようせんとせっかくの朝飯が冷めちまうよ」
「おおせやったなあ。それじゃあ改めて」
『いただきます』。
その言葉はもはや自分に縁のないはずのものだった。
仮に気まぐれで言ってもゴミだらけの部屋と返す相手のいない寂しい響きだったはずだ。
「卵焼きは貰いましたわ!」
「ワシのぶんが!」
「をーほっほっほっ!食事処は常に戦場!早い者勝ちが世の常ですことよ!」
「ほーいうでねえか。ならその調子でかぼちゃの煮っころがしもたんと食いねえ」
「げぇっ...おっ、叔母様、それは勘弁してほしいですの」
「おうおう。好き嫌い激しいとワシみたいなろくでなしになっちまうぞ」
「むむ〜叔父様みたいになるのは嫌ですわね...それでは我慢してパクリ!...と見せかけて...ちょちょいと」
「悟史の皿に乗せてるの丸見えやぞこのダラズ!」
「うわあああああん、助けてに〜に〜」
「むぅ...」
けれどいまここには共にいただきますをし、笑いながら食事を共にする団らんがある。
己の生の果てまでも決して手に入れることなどなかった温もりがここにある。
それを噛み締めるように―――鉄平は笑いながらも目元の端で、人知れず涙を滲ませるのだった。
・
・
・
「はぁ...」
ところ変わって、とある職業安定所。
その一角の個室で鉄平は深いため息を吐いた。
「いかがなさいましたか」
「お、おぉ...すまんの。これからのことを考えてたら、つい」
向かい合う係員の差し出したパンフレットに目を通しながらも、やはり鉄平の心持は優れずにいた。
鉄平は自立してからこの方まともな職業についた覚えがない。
金を稼ぐ方法など、恫喝によるカツアゲに美人局、パチンコや競馬―――記憶にあるのはそんなロクでもない手段ばかりだった。
そんな、四十も越えている中年が今更まっとうな職に就けるのか、そもそも雇ってくれる会社はあるのか。
今更ながらの不安と絶望に鉄平は面持ちを暗くする。
「職業の斡旋に関してはご心配なく。お望みの企業があればすぐにこの施設のように掌握してみせましょう」
係員がパチン、と指を鳴らすのと同時。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪
軽快で、それでいて毒々しいイントロが有線を通して流れ始める。
―――体内の細胞が急転直下 かなり安定感なくて 『逃避』以外考えられん OH-OH-OH-OH-OH-OH
早々見つかってた弱み 飄々と責めるエネミー もうこれ以上躱せない OH-OH-OH-OH-OH-OH
Runaway Runaway Runaway !
大改造したいよ この機構とエゴを己でさえ分かっている破損箇所
大脱走 した後 どこに行こうかなんて 知らないよ もう無いよ 宛ても価値も無いよ
「先日お伝えした通り、私の宝具を有線で流し時間が経過すれば波長の合う者を『デジヘッド』と化し配下に置くことができます。完全制御、とまではいきませんが」
機械的な女声を背景に、係員が机に肘をつき組んだ掌を口元に添えながら鉄平へと説明する。
「それだけではありません。この宝具はマスターや英霊の炙り出しにも効果的です。こうして流しているだけでは恐らく彼らにはほとんど影響がない。つまりはデジヘッドの群れの中、彼らこそが異端となれば一目瞭然というわけです。
職場の安全を確保する為には必須ですね」
「......」
「それでどうします?なにか就いてみたい職種があれば、そちらにも宝具を流しておきますが」
鉄平は思い返す。この『係員』と出会った時のことを。
ここに連れてこられる前、沙都子と別れた帰り道。
なんだか急に眩暈に襲われ、いよいよ命の危険が迫ってきたのかと思えば、いつの間にかこの世界に放り込まれていた。
興宮とも雛見沢とも知らぬ文明溢れた都市。
わけもわからず困惑する鉄平だが、しかし唐突に記憶があふれ出してくる。
『自分はこの街で暮らし、親を亡くした北条悟史と北条沙都子を引き取り、現在は就職活動中』という身に覚えのない話と、『聖杯戦争』という願いを手に入れる為のつぶし合いのルール。
そして光り輝く魔法陣の出現と共に鉄平の困惑は更に加速する。
魔法陣より現れたのは透明人間のデザインを模した衣装に身を包んだ青年だった。
鉄平は腰を抜かすとともに、これが記憶に刻まれた存在、聖杯戦争に必要な『英霊』であるのだと察する。
英霊は問う。マスターたる鉄平に願いはあるかと。
鉄平はすぐに帰してほしい、と口に出しかけるも、思いとどまる。
元の世界に帰ったところで自分にはもはや何もない。
沙都子は、自分がいなくなったところでなにも問題はなく、きっと一人でも上手いことやって未来を生きていくだろう。
あのまま衰弱して孤独に死ぬか、園崎家の手にかかってやはり独りで死ぬか。
もはやその二択しかなく、どちらにせよロクな末路は辿らないのが目に見えている。
それに比べて今の世界はどうだ。
豪快で懐の深い妻と、穏やかで礼儀正しい自慢の息子のような悟史、自分にも恐怖を抱かず接してくれる沙都子がいてくれる。
そんな彼らが、こんな定職にすら就けずうだつの上がらない自分も受け入れてくれている。そんな理想的な世界だ。
果たしてこの理想を壊してまで現実(じごく)へと帰る必要があるのか?そんな想いが胸中を支配する。
故に鉄平は逆に聞き返した。
『もしも自分が帰還したらいま一緒にいる家族たちはどうなるのか』と。
英霊は答えた。用済みとなったNPCは消える運命にある。もしも彼らを生かしたいのならば聖杯を取り願うしかないと。
鉄平は狼狽する。仮にこのまま戦わず隠れ通したとしても、いずれはいまの『家族』と別れることになってしまう。
ならば、この理想の世界に骨を埋める覚悟で戦うべきなのではないかと決意しかける。
けれど。伸ばした手を拒絶した沙都子の怯える姿を思い出せば。あんな業の深いことをしてきた自分が理想に溺れることなど許されるのかという自責の念も浮かんでくる。
理想をとるか。現実をとるか。
その答えを鉄平は一旦保留した。
英霊は鉄平の意思を尊重し、どちらをとるにせよ今は手に職を就けた方が都合がいいと進言された鉄平は、英霊の指示に従い一旦は帰宅。
翌日になって約束通りに職業安定所にまで足を運べば、なんと英霊は職業安定所の職員の席に就いており、NPCである他の職員たちを宝具で支配していた。
そして職を探しがてら今後の方針を決めるというのがこれまでの経緯である。
それらを踏まえたうえで鉄平は沈黙し―――頭を下げる。
「すまん、アーチャー。ワシはまだ答えを出せん...不甲斐ないワシを許してくれ...!」
彼は答えを出せずにいた。
理想の世界で幸福なる生を全うする為に戦うか。己の業へと向き合う為に現実の世界で地獄と戦うか。
未だに煮え切らぬ彼に、しかしアーチャーは肩に手を置き微笑みかける。
「構いませんよ。マスターは貴方です。どれだけ時間がかかろうと貴方の意見を私は尊重しますよ」
「...ありがとうなあ」
「さて。方針は置いておくとして...職業はどうします?ここなんかは優良企業だと思いますが」
「...すまんが、それも時間をくれんか」
「なぜです?」
首を傾げるアーチャーに、鉄平は己の指を手前でもじもじと弄り、恥ずかし気に頬を赤らめながら小さく呟いた。
「その...就けるかどうかと続けられるかどうかは別モノじゃから...」
☆
私はみんなが好きだった。
理想を見せつけられながらも現実に帰ろうとする彼らも。
理想の世界を護るために現実に抗おうとする彼らも。
敵も味方も、良い人も悪い人も関係なしに。
皆とかかわっていくうちに私はみんなが好きになった。
私の行動原理はそれだけ。
信念もないし立派な理念もない。正義も悪もない。
だから私にはみんなを信じて現実へ帰ったカケラもあれば全てを裏切って終わらせたカケラもある。
信頼していたからこそ向けてくれる眩しいまでの笑顔も。
事を為した時の気持ちのいいほどのハイタッチも。
現実へ帰還した後にも残されていたつながりも。
信頼していたからこそ向けられる殺意に等しい敵意も。
彼らを踏みつけた時の罪悪感と背徳感も。
全てを台無しにし繋がりのなくなった後の虚無感も。
その全てが私にとってたまらなく愛おしかった。
どちらの選択肢も充足し後悔のない道だった。
だから英霊となっても私のやることは変わらない。
悩めるマスターの力になろう。
困っている時には相談に乗ろう。背中を押そう。
たとえマスターがどのような答えを出しても受け入れよう。
その果てに私がどうするかは―――その時に決めればいい。
【クラス】アーチャー
【真名】Lucid
【出典】Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-
【性別】不明(男性・女性の好きな方になれる)
【属性】混沌・中庸
【パラメーター】
筋力:D 耐久:D 敏捷:D 魔力:C 幸運:B 宝具:B
【クラススキル】
対魔力:C
魔術に対する抵抗力。
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
単独行動:A
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
Aランクは1週間は現界可能。
【保有スキル】
性別変化:EX
己の意思で肉体的に女性・男性を使い分けることができる。
ただし変身能力ではないのでその背丈や顔は固定されている。
詳しいビジュアルはゲームソフト「Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-」のパッケージを要チェックだ。
オスティナートの楽士:EX
人々の心を惑わす曲を生み出し使いこなす素養。
また、己にマッチした曲を流しながら戦うと戦闘能力が向上する。
人心掌握:B
巧みな話術で他者の心に入り込む技能。
これまでアーチャーは幾多もの人間とつながりを持ち心の闇に踏み込んできた。
選択肢によって時折失敗するのはご愛敬。
【宝具】
『SuicidePrototype』
ランク:C種別:領域範囲内宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:曲が届く範囲
オスティナートの楽士はバーチャドール『μ』の力を借りて作成した曲を聞かせることで対象の精神に干渉し己の「信者」にすることができる。
この信者は通称「デジヘッド」といい、身体能力の向上や戦闘手段の付与と共にアーチャーの命令にならなんでも従う。それがたとえ敵対者の命を奪うことになっても。
ただし、この宝具の洗脳効果は聞いた者すべてに効果がすぐに表れるものではない。日常的に刷り込ませる、感情を突き動かされるなどしてようやく効果を発揮させることができる。
また、対魔力を有する英霊にしてもマスターやNPCに対しても個人差が大きく、この曲を好む者でないと洗脳効果はほとんど発揮しない。
人間すべてが感動する音楽などこの世には存在しないという悲しい現実だ。
【人物背景】
自我が芽生えたバーチャルアイドル『μ』が人々の幸福の為に創りだした理想の世界『メビウス』。
彼/彼女はそのμに遣えメビウスを護るオスティナートの楽士の一人、『Lucid』として活躍する。
『光』を意味するLucidの名の通り体が透明化している透明人間(見えなくなるわけではない)。
ある時はメビウスから脱して現実へ帰る為に『帰宅部』の部長―――所謂『主人公』として活躍し、またある時は楽士の一人『Lucid』として安寧を乱す帰宅部を阻止するために戦っている。もちろん一人を除いて誰にも内緒で。
現実へ帰るのか、理想の世界に浸かり続けるのか。その選択肢を決めるのは彼/彼女というアバターではなく画面の前のあなたです。
【サーヴァントとしての願い】
マスターの選択を見届け、その後にマスターの力になるか裏切るかはその時の気分次第で決める。このマスターが自分より先に死んだら別の観察対象を探すだけだ。
【マスター】
北条鉄平@ひぐらしのなく頃に業
【マスターとしての願い】
まだ叶えるとは決まっていないが、叶えるとしたらこの理想に浸かって寿命を全うすることだろう。
【能力・技能】
昔はブイブイいわせとったが、いまはなぁんもありゃあせんね...
【ロール】
親を亡くした甥と姪を引き取ったフリーター。
チンピラから足を洗い現在は就職活動中。生活費は専ら悟史たちの両親が残してくれた遺産で賄っている。
【人物背景】
甥や姪の虐待、恫喝、美人局、ごみの分別無視など様々な悪行を重ねるとんでもないろくでなしのチンピラ...
というのが彼の本来辿る未来であったが、突如、その素行の果ての己のむなしく残酷な末路を悪夢で見せ続けられてから彼に運命の岐路が訪れる。
「あんな惨めな形で最期を迎えたくない」。ふと、そんな想いで姪の北条沙都子のもとを訪れ、以降は彼女を気に掛けるようになる。
彼女からは「今まで虐待・放置してきた癖にムシがいいですわね」「ていのいい看護役が欲しくなっただけではありませんの?」と厳しい指摘を受けるも、かつてのように怒鳴り散らし手をあげたりすることはなかった。
むしろ、自分を怯え嫌っていただけの彼女が、そうとまで言ってくれることすら温もりを感じられ喜ばしく思えるほどに鉄平は焦燥していた。
さんざん人に迷惑をかけてきた自分が家族に看取られ大往生だなんてムシがいいのはわかっている。最期まで一緒にいてくれ、なんて贅沢なことは言わない。
ただ、たまにでもいい。一緒におしゃべりしたり食事をしたり。そんな些細なことへの許しを貰いたいと沙都子に手を伸ばす。
が、虐待の記憶が消えなかった彼女は反射的に拒絶。そして鉄平は改めて己の"業"の深さを思い知らされるのだった。
【方針】
つかの間の理想を堪能し現実(じごく)へと戻るか、理想を保持し続けるために戦うかを決断するか(後回しにしたいのぉ...)。
ひとまずは手に職を就けなアカンね...
※NPCの北条玉枝、北条悟史、北条沙都子と共に暮らしています。家族仲は現在良好です。
投下終了です
これより投下します。
お前と共に見た全てが、私にも輝いて見えた。
いや、私にとっての輝きになり、情熱的であり続けたお前こそが……私の全てだった。
今更になって気付くとは、私はなんて愚かだったのか。この天井努もまだまだということか。
お前と一緒にどれだけの景色を見て、私はどれだけの喜びを分かち合っただろう。
そして、お前の輝かしい笑顔に、私は何度も心が満たされていた。
だが、死という裏切りによって、私の心が永遠に満たされなくなった。
お前を失って、私はどれだけ絶望しただろう。
お前がいなくなって、私はどれだけ泣いただろう。
お前に裏切られて、私はどれだけ失意に溺れただろう。
お前のいない世界が現実のはずがない。これはただの悪夢で、目が覚めたらお前が笑顔で出迎えてくれる。
何度、私はお前の輝きを取り戻したいと願っても、世界は何も変わらない。お前という一番星が消えても、世界は何事もなかったように動き続けている。
私は心の底から失望し、この世界に対する怒りと憎しみを抱いた。
何故、彼を奪うのか?
何故、私ではなく彼を犠牲にするのか?
何故、あれだけ純粋だった彼がいなくなったにも関わらず、お前たちは今日も平穏に過ごしているのか?
渦巻く疑問に答える者はいるはずがなく、私の憤りはマグマのように粘っていく。
彼に捧げる為、私は街並みを燃やした。
平穏をぶち壊す炎は豪快に広がるも、私は何も感じない。あれだけ美しかったはずの灼熱だって、今の私には色褪せて見える。
ニュースで報道され、どれだけの人間が血と涙を流そうとも、私にとっては遠い世界の出来事に等しい。
ただ、虚しかった。周囲に当たり散らしたところで喪失感が晴れるはずがなく、何も変わらないことはわかっていたのに。
彼と見たすべてのものが、私の網膜を灼くほどに残っている。
美しい自然の色と香り、光り輝く星空の下で味わった風の感触。そのすべてを、彼は綺麗だと言ってくれたし、私も綺麗だったと感じている。
でも、今の私には何の価値もない。星など豆電球の価値すらなく、緑などただ煩わしく踊るだけ。
あぁ、何もかもが遠かった。
彼がいなくなっただけで、私にとってすべてが遠い過去の異物に成り下がった。
五感全てを失ったように、何もなくなった私など、生きていると呼べるのか。
彼との思い出だけは胸の中に残っていて、未だに私の中で輝き続けている。だが、それもすぐにくすんでもおかしくない。
せめて、私の中の宝物だけは汚さないように、彼への手土産として持っていこう。
そう決意した矢先だった。
私が、聖杯戦争に巻き込まれてしまったのは。
私の脳裏には、聞き覚えのない単語が数多く焼き付いている。
万能の願望器である聖杯。
聖杯を巡って殺し合う戦争と、自らの願いと生き残りを賭けて力を合わせるマスターとサーヴァント。
最後の一組になれば、聖杯の力でどんな願いでも叶えることができる。
聖杯の力が事実であるかわからないが、煉獄の如く灼熱が私の中で燃え上がった。
奇跡の力で、彼を取り戻すことができる。現に、目の前にはサーヴァントが召喚されたから、魔法の如く力が関与していることは確かだ。
聖杯さえ手に入れれば、彼を救うことができる。
他のマスターとサーヴァントたちを皆殺しにすれば、彼は私の前に戻ってきてくれる。
彼の笑顔と幸せを取り戻せるなら、私は地獄に堕ちようとも何一つ後悔しない。鬼や悪魔と罵られようとも、痛くも痒くもない。
彼の存在こそが、私にとってすべてなのだから。
私の元に召喚されたサーヴァントは、鬼と戦い続けた男だ。
すべての人間を守るため、鬼を前にしても心を燃やし続けて、そして命を落とした。
だが、その実力は本物だ。多くの人間から崇められ、そして今も存在感を放つ佇まいはまさに英霊と呼ぶにふさわしい。
そんな彼の力を、私は私利私欲のために使おうとしている。
人間の儚さと美しさを冒涜しているであろう私を前にしても、彼は決して嫌悪感を見せない。
それどころか、私すらも守ろうとしている。
ーー私は、私の願いのためにお前の力を使う。
ーー私を、鬼とでも思ったらすぐにでもその刀で私を屠ればいい。
ーー私は、お前の責務を否定するマスターだからな。
私は念を押す。
本当なら、令呪を使って彼の意思を奪い、強引に戦わせることができた。
しかし、私はそれをする気にはなれなかった。このサーヴァントの実直さが、彼と被って見えてしまったからだろうか。
そして、サーヴァント……煉獄杏寿郎は、私の意思を知ってもなお、豪快な笑みを浮かべていた。
「それでも、俺は俺の責務を全うする! 俺が斬るのは、世を乱す鬼のみ!
マスターだけではない! 罪なきすべての人を守ると、この俺……煉獄杏寿郎は誓おう!」
煉獄杏寿郎の叫びには微塵の淀みも見られない。
私の願いを受け入れて、灼熱の如く威圧感を放ち続けている。
彼が放つのは、私のように他者を飲み込む炎ではない。大空を照らす太陽のように、煉獄杏寿郎は燃え続けていた。
【クラス】
セイバー
【真名】
煉獄杏寿郎@鬼滅の刃
【パラメーター】
筋力:A+ 耐久:C+ 敏捷:B 魔力:C 幸運:A 宝具:B
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:E
騎乗の才能。大抵の乗り物なら何とか乗りこなせる。
【保有スキル】
戦闘続行:B
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
魔力放出(炎):A
武器及び全身に炎を帯びた闘気を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。
日輪刀に膨大な炎を宿らせれば、鬼に対して絶大な効果を発揮する。
全集中・炎の呼吸:B
鬼と戦う鬼狩りが用いる全集中の呼吸の一派にして、五大流派の中でも歴史が長い呼吸。
炎の如く心を燃やすことで、杏寿郎の全ステータスが格段に向上し、あらゆる奥義を使うことができる。
炎の呼吸を用いている間、灼熱を彷彿とさせる威圧感によって、並の主従では瞬時に尻もちをつくだろう。
【宝具】
『玖ノ型・煉獄』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
煉獄杏寿郎が用いる炎の呼吸から繰り出される奥義であり、標的となった相手を周囲の大地ごと両断する。
自らの心を燃やした煉獄が、爆音と共に突進して繰り出す必殺の奥義であり、上弦の参と恐れられた猗窩座すらも大ダメージを与えるほどの威力を誇る。
鬼のような人外の存在には絶大の威力を発揮し、再生または回復に関する効果を一気に低下させることが可能。
【weapon】
日輪刀
【人物背景】
人間を喰らおうとする鬼に立ち向かう鬼殺隊の"柱"にして、炎柱の称号を誇る男。
その名の通り、炎の如く熱い性格で、鬼から人間を守る使命を絶対の誇りとしている。
鬼狩りとしての実力はもちろん、状況判断力や審美眼にも優れており、また正義感も非常に強いため人望にも溢れている。もちろん、どんな衝突が起きても、笑顔を忘れることはない。
上弦の参・猗窩座との戦いでは致命傷を負い、命を散らせてしまうも……彼は誰一人の犠牲も出さず、最期まで己が責務を全うした。
【サーヴァントとしての願い】
マスターと、そしてすべての人を守るために戦う。
【マスター】
天井努(敵対ロマンス)@アイドルマスターシャイニーカラーズ
【マスターとしての願い】
聖杯を手に入れて、彼を取り戻す。
【人物背景】
283プロダクション社長・天井努のパラレルワールドの存在。
長らくいた友を失い、その喪失と絶望に苦しみ続ける男。
最愛の友に向けた鎮魂歌として、各地で爆破事件を起こすほどの行動力に溢れている。
以上で投下終了です。
>>穴に籠った狢
雰囲気ある地の文が見どころな、非常に重厚なお話だったなという印象です。
鷲巣巌の人格や生き方を描写しつつ、それをシキという過去の大海賊と重ね合わせるのがとても上手い。
彼のシキに対する評も読んでいてとても面白く、なるほどな〜〜となりながら読ませていただきました。
まさに穴に籠った狢、タイトルがお話の内容を暗に示しているなと想いました。
>>靴と気球
にちかが溢れ返って久しい(私も投げました)本企画ですが、とうとうはづきさんまで来ましたか。
一人称視点で綴られる彼女の再現度がとても高く、読んでいて凄いな……と思わされました。
はづきの悲愴さや焦り、その他にも様々な感情が滲み出している様を繊細に描写していたように思います。
そしてそんな彼女が従えるサーヴァントもかなりの曲者。先行きは不安だなあ……
>>Silver Bullet、その行く末
真衣の心情描写が凄まじく、読んで圧倒される""強さ(パワー)""に慄きました。
キャラクターの心理を表現しつつも巧みな筆致と語彙力をガンガンぶち込んでくるところに力量の高さを感じます。
彼女が躊躇なく敵を殺すところといい、候補作一つの中にいくつも見所があって退屈しませんでした。
「……向こうでは仲良くありたいな」がやっぱり良いですね。シンプルですけど、とても良い。
>>足跡の行先
サーヴァントとマスター、ふたりの語らいがとても情緒豊かでいいなあと思いましたね。
想いを発露する側とそれを受ける側という構図自体はよくあるものなのに手が込んでいてチープさを感じさせないのは凄い。
地の文もテンポが良くて読みやすく、それでいてどこか詩的なのが好きですね。
復讐に生きて悟りを得た男と、清廉潔白な騎士。その対比が素敵なお話でした。
>>Suicide Prototype
沙都子の叔母(良い人)の再現度の謎の高さ、何????
……というのはさておき、令和で再びファンを盛り上げてくれた北条鉄平ですね。
鉄平の心情の動きや彼の脆さなどの表現も繊細に行われていて読み応えがありました。
こういう日々はそれこそ模倣の世界の中でしか無いものでしょうから、そう考えると切ない。
>>炎こそが、唯一のロマンス
炎の如き意思を持つ男と、炎としての在り方に殉じた男の主従ですね。
鬼殺隊からのサーヴァント出典はこれで二人目、そして今回は煉獄さんですか。
彼の人間的な強さをこれでもかと表現しているのがとても良かったなと思います。
一方であらぬ方向に向かってしまった社長。彼は果たしてどうなってしまうのか……。
皆さん本日もたくさんの投下をありがとうございました!
投下します
全身から力が抜けていく。
意識が遠のいていく。
死が、もう目の前まで近づいてきている。
いやだ、死にたくない。
俺は、俺はまだ……。
◆ ◆ ◆
「は……?」
稀咲鉄太が気がつくと、そこはこぎれいなマンションの一室だった。
「俺は……死んだんじゃ……?」
稀咲はトラックに轢かれ、もう助からないほどの重傷を負ったはずだった。
しかし、今の彼は五体満足。特に痛みもない。
ひょっとしてここは、死後の世界なのか。
そう考え始めた稀咲だったが、頭の中に流れ込んできた知識がそれを否定する。
聖杯戦争。あらゆる願いを叶える聖杯を巡る戦いに、自分は参加者として選ばれた。
それを理解するにつれ、稀咲の口角がつり上がっていく。
「マジかよ……。こんなチャンスが転がり込んでくるとは……。
最後の最後で、俺にも運が回って来やがったぜ……!」
幾度も張り巡らせた策を破られ、最後の手駒だった「天竺」も壊滅。
宿敵である花垣武道との直接対決にも負け、敗北感だけを抱いて死ぬ。
そんな惨めな結末を迎えるはずだった稀咲にとって、これはまさに最後のチャンスだった。
「やってやるぜ……! 必ず聖杯を手に入れて……!
今度こそ日向を俺のものに……!」
「いいねえ、そのむき出しの欲望。
俺は好きだぜ、気が合いそうで」
突如、稀咲以外誰もいなかったはずの室内に二人目の声が響く。
一瞬面食らった稀咲だったが、すぐに状況を理解した。
「おまえが、俺のサーヴァントってやつか」
「おうよ。サーヴァント・ライダー。参上したぜ」
現れたのは、中世ヨーロッパ風の衣服をまとった、立派なひげの老人だった。
「ライダー……。乗り物で戦うクラスか。
それで、そういう服装ってことは……。船乗りか?」
「その通り。世界的に有名なんだぜ、俺は。
まあ今回の聖杯戦争はいろんな世界から人が集められてるらしいから、おまえさんの世界に俺がいたかはわからねえがな!」
「世界的に有名な船乗り……。
コロンブスかバスコ・ダ・ガマか?」
「おっ! 最初の方、正解!
どうやら俺の世界と近いところから来たみてえだな!」
「マジかよ。適当に言ってみただけなんだがな……」
豪快に笑うコロンブスに対し、稀咲は戸惑いを隠せない。
「コロンブスが、こんなに親近感の湧く面してるとは思わなかったぜ」
「カッカッカッ、褒め言葉と受け取っておくぜ」
「ああ、褒めてるぜ。こっちは正面からの力比べは苦手なんだ。
正義の味方の英雄様なんぞがパートナーじゃ、やりづらくてしょうがねえからな」
「正義の味方ねえ。たしかに俺はそんなガラじゃねえ。
強いて言うなら、金の味方だなあ!」
悪びれる様子もなく言い放つコロンブスを見て、稀咲は確信する。
戦闘力に関してはまだ未知数だが、性格的な面では自分とこの男は十分に相性がいい、と。
「俺は財のため! おまえさんは女のため!
お互いの目的のために、ベストを尽そうじゃねえか!
なあ、相棒!」
「ああ……。言われるまでもない」
稀咲は本来ならば、すでに詰んでいる。
このまま生きて元の世界に帰ったとしても、もう一度返り咲ける可能性など限りなく低い。
何が何でも、聖杯という超常の力を手に入れなければならない。
「やるしかねえんだよ……。これが、俺のリベンジだ!」
【クラス】ライダー
【真名】クリストファー・コロンブス
【出典】Fate/Grand Order
【性別】男
【属性】中立・悪
【パラメーター】筋力:C 耐久:B 敏捷:D 魔力:E 幸運:EX 宝具:A
【クラススキル】
対魔力:D
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
Dランクでは、一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
騎乗:B
乗り物を乗りこなす能力。騎乗の才能。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
Bランクでは大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、幻想種あるいは魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。
【保有スキル】
嵐の航海者:B
「船」と認識されるものを駆る才能を示すスキル。
船員・船団を対象とする集団のリーダーも表すため、「軍略」「カリスマ」も兼ね備える特殊スキル。
不屈の意志:C
あらゆる苦痛、絶望、状況にも絶対に屈しないという極めて強固な意思。
肉体的、精神的なダメージに耐性を持つ。ただし、幻影のように他者を誘導させるような攻撃には耐性を保たない。
コンキスタドール:EX
スペイン語で「征服者」を意味する。大航海時代、航海の果てに未開地を征服した者のスキル。
未開の地への侵攻、支配、略奪、奴隷化などの手際を示す。
【宝具】
『新天地探索航(サンタマリア・ドロップアンカー)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1-30 最大捕捉:200人
最も有名な最初の航海が結実したもの。
彼の乗っていた旗船サンタマリア号が出現。接岸(陸地のど真ん中であっても)し、そして彼の指示に従い、為すべき事を為す。
これは「サンタマリア号よ、錨を下ろせ」という、船長としての略奪開始命令である。
【weapon】
銃、サーベル、鞭など
【人物背景】
大西洋を横断しキリスト教圏の白人として初めてアメリカ海域に到達した人物。
その知名度に反し、彼の出自も含めた前半生は謎に包まれている。
彼が西回り航路の着想・確信を得たのは1480年頃とされる。しかしそのための費用集めとパトロン探しが難航し、実際に出発するまでには長き時を必要とした。
1492年、ついにコロンブスは旗船サンタマリア号・ニーニャ号・ピンタ号の三隻で大西洋を横断。
同年10月12日、不安がる船員達に反乱を起こされる寸前でアメリカ海域へ到達しサン・サルバドル島を発見した。
【サーヴァントとしての願い】
金と名誉
【マスター】稀咲鉄太
【出典】東京卍リベンジャーズ
【性別】男
【マスターとしての願い】
人生をやり直し、今度こそ日向を手に入れる
【weapon】
なし
【能力・技能】
他人をそそのかし、いくつもの抗争を発生させてきた策略はかなりのもの。
一方、肉体的な戦闘力は不良の中では最底辺。
【人物背景】
東京卍會が巨大犯罪組織となる未来を作り、橘日向を死に追いやった元凶。
元々は優等生であったが同じ塾に通っていた日向に恋心を抱き、彼女の気を引くために不良へと転身。
様々な不良チームをそそのかして抗争を起こし、それを利用して成り上がろうとする。
改変前の歴史では東京卍會の幹部として君臨していたが、日向を振り向かせることはできず彼女の殺害に至っている。
しかし武道の存在によってその計画は狂い続け、最終的には直接対決で敗北。
逃亡中にトラックに轢かれて死亡するという、あっけない最期を迎えた。
参戦時期は死亡直前。
ロールはマンションで一人暮らしをしている、金持ちのどら息子。
令呪のデザインは、「卍」に斜めに横切る線を加えたもの。
【方針】
聖杯狙い
投下終了です
投下します。
ここは東京都内のとある場所、地図上で言うと井の頭公園あたり……
そこでは一人のOLが二つの影から必死に逃げていた。
その一つは巨大な肉切り包丁を持ったセーラー服の女子高生で、
そしてもう一つは、別の被害者のものなのかちぎれた人間の足を持った男だった。
「カバなヤツ!逃げられると思っていんの?」
そうしてしばらくその女性が彼らから逃げていると、突如としてその頭に何かが直撃し、彼女は転倒してしまった。
『何が自分の頭に当たったのか?』、彼女は痛む頭を押さえながら立ち上がってそれを確認したところ、衝撃的なものを目の当たりにした。
それはなんと、『明らかに食いちぎった痕跡のある、人間と思われる肉の塊』だった。
彼女はおびえ、叫び、そして腰を抜かしてしまったことにより、彼らに追いつかれてしまった。
「ハッハッハ!大人しく私のオジキになりなさい!」
そうして彼らが彼女を捕まえると、男は素手で彼女の腕をねじ切り、
そして女子高生はその包丁で彼女の身体を切り裂いていった。
こうして公園中に彼女の苦悶の叫び声がこだまする中、彼女は”腑分け”されることとなった……。
------------
そうして先ほどの異常者たちが一通り腑分けを終わらせたところ、再び衝撃的な光景が広がり始めた。
彼らが、腑分けした彼女の肉を食らい始めたのだ。
女子高生の方は生のまま丸かじりをし、男の方はどこからか持ってきたバーベキューセットを使って肉を焼き始めた。
「……何やってんの?肉は生が一番おいしいのよ?」
女子高生が男にそう言うが、男の方は特に気にする様子もなく肉を焼きながら彼女の言葉に答え始めた。
「『昔、寄生虫のせいで死んだことがある』……?何言ってんの?なんでそんなことを気にしているの?」
女子高生が再び彼に対し話を始めるが、今度は何も答えずに黙々と肉を焼き続けていた。
「何ムシ歯してんのよ!ぶっとばし……って令呪で命じられたせいでアンタが料理するのを邪魔できないんだったわ、ムカつく〜!」
そうして女子高生が目に見えてイラついた様子で男のほうをじっと見ていたが、男が突如として動き出した。
「ふぅん、けっこう火を通したみたいね……もうちょっと生に近いほうがいいんじゃないの?」
どうやら肉が焼きあがったらしく、男はそれに食らいつくのであった……。
【クラス】バーサーカー
【真名】ロジー
【出典】Lost Ruins
【性別】女性
【属性】中立・悪
【パラメーター】
筋力:B+ 耐久:B 敏捷:C 魔力:D 幸運:C 宝具:C
【クラススキル】
狂化:D(B)
筋力と耐久のパラメータをアップさせるが、
言語能力が単純になり、複雑な思考を長時間続けることが困難になる。
【保有スキル】
カニバリズム:A+
食人鬼としての逸話を持つ者に与えられるスキル。
人間の魂喰いを行った際、自身の魔力への変換率が飛躍的に向上する。
怪力:C
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。
彼女はもともと普通の人間だったのだが、異世界に召喚された後『カニバリズム』に目覚めた結果
他の怪物たちからも『恐ろしい怪物』扱いされたためこのスキルを得ている。
精神汚染:B
精神が錯乱している為、他の精神干渉系魔術を高確率でシャットアウトする。
ただし同ランクの精神汚染がない人物とは意思疎通が成立しない。
人肉の味に魅せられた結果、モラルが欠如している。
医術:E
便宜上"医術"スキルの分類になっているが、実際は彼女自身に医療知識はなく、
異世界召喚の際に『薬物の原材料を摂取して、体内でそれを合成する』という能力を
得たことによるスキル。
またそれにより彼女は薬となるものを本能的に判別できるようになっている。
【宝具】
『怪物化(ジャイアント・グール)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
バーサーカーが致命的なダメージを受けた際に自動的に発動する宝具。
自身の身体を巨大な緑色の巨人に変貌させ、筋力と耐久と敏捷をA+にする。
しかし身体が全体的に大きくなっている上に狂化スキルもBにまで上昇した結果
相手の攻撃をかわすという事すら満足に行えなくなるため状況によっては自滅する可能性もある。
【weapon】
・肉切り包丁
彼女の身長ほどもある巨大な肉切り包丁で、これ一つで対象の屠殺と解体を行っている。
・投擲ハム
生ハムの原木と思われる巨大な肉で、遠くにいる相手に投げつけるほかにそのまま丸かじりなどしている。
【人物背景】
とある魔術師が、魔王を復活させるための生贄として現代から召喚したセーラー服女子の一人。
異世界に召喚された際に『薬物の原材料を摂取して、体内でそれを合成する』という能力を得た結果薬物中毒となり、
またゴブリンたちを食料として襲い、捕食し続けていたところを主人公によって殺害されることとなった。
完全に余談だが、上半身こそセーラー服を着ているものの下半身は大きな布を巻きつけただけで、
しかも下着を着用しておらず鼠径部が見えているなど、何があったのかと問い詰めたくなる姿をしている。
【サーヴァントとしての願い】
美味しいお肉、たくさん食べたい!
【マスター】
クレータス@Thrill Kill(スリルキル)
【マスターとしての願い】
美味しいもの(人肉)をたらふく食べる。
【weapon】
・誰かの足
書いて字のごとく、誰かからもいできた足。
これで相手を殴り飛ばしたりするほか、時々食べたりもする。
【能力・技能】
人間の身体を簡単に解体できるほどの技術と腕力。
【人物背景】
カニバリストの白人で、本名はクリータス・T・ラドレイ。
テレビで広告を出すほど有名な肉屋を経営しており、手作りソーセージ(人肉入り)が看板商品となっている。
参戦時期としてはエンディング後、店の視察に来た衛生局の人間をミンチにした後。
【方針】
とにもかくにも肉を食べる。
投下終了です
はっきり言ってかなりギリギリなネタだと思っていますので、
問題等ございましたらこの話の破棄をお願いいたします。
以上、ありがとうございました。
投下します
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公――」
模倣東京の郊外に建つ、とある魔術師の邸宅。
「降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
そこで一人の男がサーヴァントの召喚を行っていた。
「閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。
繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」
長く伸ばされた青い髪、吊り上がった双眸。大きな赤っ鼻が特徴的な中年の男。
「――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
足元には血痕が付着したナイフ。
彼が既に何らかの荒事を為したことが見て取れる。
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。」
滞りなく唱えられる詠唱。
「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし」
しかしそこに通常のものとは異なる一文が滑り込む。
「汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――」
それはサーヴァントを狂化させる詞。
これにより、この儀式で召喚されるサーヴァントは破壊に特化したバーサーカーに限定されることとなる。
「汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
輝きと共に召喚陣より現れるは、雪よりも白い和装に身を包んだ小男。
160cmにも満たないであろう体躯にバーコードヘア。39歳である自分よりも一回り上に見える年齢。
とても強そうには見えないその姿に赤っ鼻の男はガックリと肩を落とす。
「ハズレを引いちまったか?」
赤っ鼻の男が欲したのは忠実な下僕であり、決して裏切らない手足だ。
どうせなら強い方が良いと、わざわざバーサーカーとして召喚したにもかかわらず、現れたのが冴えない中年のチビだ。落胆するのも無理はない。
まあいい、と気を取り直す。
己のサーヴァントとして召喚された以上、このチビは使い捨ての戦力として使いつぶそう。
そんな風に考え、召喚陣の中心に立つ小男に向かって一歩踏み出した赤っ鼻の男。
しかし突如その視界が揺らぐ。
(なんだ?)と疑問符を浮かべる男の視界が上から下へ急降下していく。
ゴツン、と何かが頭に激突する。
(なんだ!? なんだ!? 何が起こりやがった!?)
状況を確認しようとするが首が全く動かない。
必死に目を動かして周囲を見回し――あおむけに倒れた自分の胴体を視認してようやく、己の首が切り落とされたことを理解した。
◆◆◆
模倣東京において激戦区となっている23区から離れた郊外にその山は存在していた。
その山頂には鎌倉時代から続く寺が建立されており、霊験あらたかな山として人々の信仰を集めていた。
また、模倣東京内でも有数の霊地であり、霊脈を目当てに多くの参加者がこの地を求めて争った。
現在ではその争いに勝利した二組の主従がこの地を拠点とし、聖杯戦争の打倒を企図していた。
「おや?」
その内の一人であるキャスターが、手元の式盤を覗き込みながら声を上げた。
「どうした? キャスター」
「サーヴァントが一騎こちらに近づいてきています」
「ほう、まだこの辺りにマスターがいたのか」
もう一人のサーヴァントであるシールダーが感心したようにつぶやく。
実際、この霊山を巡って、近辺では何度も戦いが発生した。
予選も後半か終盤に差し掛かりそれらが一段落した現時点で、生き残っている主従は自分たちくらいのものであろう。そう考えていたので、このタイミングまで隠れ潜んでいたマスターの辛抱強さに思うところもあった。
しかしシールダーの思いに反して、キャスターは困ったように言う。
「それが、マスターが私の感知に引っかかって来ないのです」
「サーヴァントが単騎で攻め込んできている、ということか?」
「おそらくは」
ふむ、とあごに手を当て思案する。
考えられるとすれば単独行動スキルを持つアーチャーあたりがマスターを殺害して、新たなマスターを探して徘徊しているということか。
しかしそれなら霊体化するほうが効率的だ。実体化してそれを行うのは少々合理性に欠ける。
あまりにもその意図が読めなさ過ぎた。
「しーるだー、どうするの?」
傍らの幼いマスターが不安げに訪ねてくる。
本来なら彼が意思決定をすべきなのだが、まだランドセルを背負うようになったばかりの彼にマスターの役目を全うしろというのは少々無理があろう。
「大丈夫ですよ」
微笑んで、彼の頭を撫でる。
どれほど行動意図が読めない敵であろうと、自分達に近づくものへの対処は決まっている。
「接触します。敵対するならこれまで同様討ち滅ぼすのみです」
そう決断を下し、キャスターを率いて山門を出る。
この寺に立ち入るには山門に繋がる石段を上り、一本道の石道を通り抜けなければならない。
逆に言えば石段を上って来ないならば無理に敵対する必要はない。
シールダーもキャスターも、彼らのマスターたちも争いを好む性質ではなく、戦わずに済むならそれに越したことはないとは考えている。
しかし、キャスターの式盤がそんな甘い考えが通じないことを教えてくれる。
ゆっくりと、しかし確実に敵サーヴァントを表す碁石はこちらに近づいてくる。
やがて石段を上り切った敵サーヴァントが、四人の前にその姿を晒す。
バーコードヘアーで中年の小男だ。
純白だったと思しき和服は既に何人もその手にかけたのだろう、鮮血で真紅に染まっていた。
敵対的なのはほぼ確実だが問答無用で攻撃するわけにもいかない。とりあえず誰何する。
「止まれ! 我々には争う気はない! 対話に応じるならばクラス名を名乗れ!
止まらなければ敵と見做し排除する!」
小男はシールダーの声には応えず、それどころか全く意に介することなく歩を進める。
生気を感じさせないその様はまるで幽鬼のよう。
真名はともかく、クラスはバーサーカーと考えて間違いないだろう。
対話は不可能。
彼らの陣営の全員がそう判断し、戦闘陣形を取る。
キャスターとマスターたちは飛翔して山門の上に上り、シールダーは一歩前に出て各々の宝具を構える。
不意にバーサーカーがピタリと動きを止めた。
盾を構えたまま、シールダーが眉をしかめる。
先ほどの制止に今更従ったわけではあるまい。
その証拠に、手に持つ刀は無造作に垂れ下げられ、鞘に納めようとする気配もない。
1秒、2秒と敵の様子を窺うシールダー。
動いた瞬間に制圧に動けるよう身構える彼の耳に―――
「シールダー!!」
―――キャスターの叫びが届く。
それと同時、ギィイン! とけたたましい金属音が響き、盾を持つ右腕に衝撃が伝わる。
(バカな!?)
大慌てて飛び退き距離を取る。
「何をしているのです!? 何故間合いに入られるまで動かないのですか!?」
「うるさい! キャスターは支援を急げ!」
動かないのではない。動けないのだ。
なにせキャスターに声をかけられるまで――否、その刀が己の盾に直撃するまで、バーサーカーが攻撃行動に入っていることすら認識できなかったのだ。
キャスターの陰陽術が天から降り注ぎ、地から生え伸びバーサーカーを襲う。
しかしバーサーカーはすり抜けるように滑らかにその攻撃を回避する。
その隙に、シールダーは己の宝具に魔力を充填する。
シールダーが為さんとするのは真名開放。
盾のみを手にして閉ざされた城門の前に一人立ち塞がり、1000を超える敵兵を打ち砕いた、この英霊の伝説の再現。
「『万敵砕きし晶門の守護盾』!!」
宝具の真名が高らかに宣言され、山門は城壁に書き換わり、城門が具現化される。
その前にはシールダー自身が立ち塞がり、バーサーカーと一対一で対峙する。
魔力によって強化されたその盾は対軍宝具すら容易に防ぎきるだろう。
城壁の上からキャスターが陰陽術を放ち退路と迂回路を塞ぐ。
これによりバーサーカーは正面からシールダーに攻撃を仕掛ける外なくなった。
「来るがいい狂戦士!
我が盾が貴様の振るう刃全てを弾いてみせよう!」
威勢よく切られる啖呵が空気を揺らす。
バーサーカーはこれに応えるかのように、あるいは完全に無視するかのように、歩み寄る。
「敵、間合いを詰めています! 気をつけて!」
キャスターの忠言が飛ぶ。
シールダーにはバーサーカーの動きを認識できない。
けれど理性を失ったバーサーカーの行動を予測することなど容易である。
先ほどの不可思議な歩法にしても離れたところから俯瞰する者があれば、タイミングを計ることも不可能ではない。
ならば数の利を活かし、安全かつ確実に仕留めに行く。
バーサーカーの動きを俯瞰できる場所にキャスターを置き、自分はタイミングを教えてもらい防御と反撃を行う。
それだけで、決着がつく。
「斬撃、来ます!!」
キャスターの叫びに呼応し、さらなる魔力を盾に込める。
もはやどんな宝具もこの守りを突破することは適わない。そう確信した瞬間、バーサーカーの刃が盾に激突し―――
―――そのまま、シールダーの胴体もろとも、豆腐のように切り裂いた。
◆◆◆
「おうおう。 ハデにやりやがったな」
バーサーカーが二騎のサーヴァントと二人のマスターを屠る様を空中から眺める人影。
長く伸ばされた青い髪、吊り上がった双眸。大きな赤っ鼻が特徴的な中年の男。
その名も千両道化のバギー。海賊派遣組織『バギーズデリバリー』の座長であり、バラバラの実を食べた「バラバラ人間」である。
この能力により体の各部を自在に分離させる事ができ、斬っても斬ってもすぐにくっつけることができてしまう能力を持つ。
その能力ゆえに彼は己のバーサーカーに首を切り落とされても全く問題なかったのだが……
(まったく……あのとき死んだふりしといて正解だったぜ)
己のバーサーカーを観察していたバギーはその学習能力の高さを心底怖ろしいと思った。
聖杯戦争では多くのサーヴァントが鎬を削る。
そんな戦場では当然、未知の宝具や全く想定し得ない能力を持つ者も数多く存在しているのだ。対処が後手に回れば命取りとなることもある。
しかしこのバーサーカーはそれらをまるで最初から想定していたかのように対処した。
そして次の瞬間にはそれを打ち破るための方法をその場で編み出し、敵を斬り伏せた。
あのシールダーとの戦いだってそうだ。
敵の盾が魔力で強化されていると判断し、刀で触れたところから盾の魔力を吸収。防御力を下げた上で斬り伏せたのだろう。
そんな風に、敵の切り札を様々な方法で攻略するのをバギーは何度も見せつけられた。
召喚したとき、いつものように効かないアピールをして斬られ続けていれば、その内覇気すら身につけていたかもしれない。
そうなってしまえばもう対処することはできない。
己はただ斬られるのを待つ巻藁になっていただろう。
(ま、聞いてた話とはだいぶ違ぇが、これはこれで悪くねえ)
故にバギーはこの状況に順応する。
『バーサーカー』というクラスの特徴を聞き、当初想定していたのとは多少異なる戦術を取らねばならないし、それに備えて行っていた仕込みも大体無駄になった。
その上、決してバーサーカーに見つからないようにしながら、近すぎず遠すぎない距離を保ちつつその後ろを付いていかなければならないというしょーもないハンデを背負うこととなった。
しかし、それを補って余りあるほどに己のサーヴァントは強かった。
何せこれまでに4騎のサーヴァントを一刀のもとに切り伏せている。NPCやマスターに至っては50を超えた辺りで数えるのを止めてしまった
これほどの強さがあれば激戦区に突入させても一定以上の成果を上げられよう。
(さあさあバーサーカー…!
俺のために精々ハデに働いてくれよお……!)
心と顔だけで呵々大笑しながら、バギーは己のバーサーカーの追跡を続けるのだった
【クラス】
バーサーカー
【真名】
偽ジロウ・スズキ@魔法少女プリティ☆ベル
筋力C 耐久D 敏捷C+++ 魔力D 幸運E 宝具A+++
敏捷は攻撃を回避する時大きく向上する。
【属性】
混沌・中庸
【クラススキル】
哲学的ゾンビ:B
個人複製技術によって作成されたクローン生命体。その内、本人の十全な同意なく作られたため自我を持たない失敗作を指す。この個体は偶然何らかの方向性を得てオリジナルの能力と知識だけを持った、制御不可能な存在となってしまった。
自我を持たないため、一切の精神干渉を受け付けない。マスターの命令も受け付けない。
狂化:-
バーサーカーにあるまじきことだが狂化スキルを所持していない。
これは狂うための自我が存在していないためである。
【保有スキル】
効率戦闘:A
効率的な戦いができ、非常に燃費が良い。
ごくわずかな体力消費で戦闘を行うことができ、魔力を体力回復に充てることで疲れ知らずで戦うことができる。
また戦闘中でも消費魔力量より自然回復量の方が多いため永遠に戦い続けることができる。
ただし、サーヴァント化に伴い魔力を自然回復させることはできなくなっており、マスターからの供給を受ける必要がある(とはいえ並のサーヴァントと比べてもマスターへの負担は微々たるもの)。
縮地:C+++
瞬時に相手との間合いを詰める技術。多くの武術、武道が追い求める歩法の極み。単純な素早さではなく、歩法、体捌き、呼吸、死角など幾多の現象が絡み合って完成する。
ジロウの場合「間合いを詰められている」「間合いが詰められてしまった」ことを敵に認識させない技術となる。このため傍から見ると普通に歩いて近づいているだけに見える。
また、ごく短距離を移動する場合に限りAランク相当の効果を発揮する。
戦闘続行:D
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
偽ジロウの場合腕一本と刀が残っていれば戦闘を続行できる。
空爆により木端微塵の肉片にされてもなお、プリティ☆ベルに切りかかった逸話による。
【宝具】
『個の極致』
ランク:A+++ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
オリジナルのジロウ・スズキが生前積み上げた経験と技術が宝具に昇華されたもの。
想定外の事態に直面したとき、積み上げてきた膨大な経験からその状況に対応できる手札を即座に作り出すことができる。
ジロウ・スズキの代名詞ともいえる「見えていても予測していても回避を許さない、完全な無拍子で繰り出される斬撃」はこうした経験から身につけた技術の一つに過ぎない。
【weapon】
日本刀
【人物背景】
東の魔王軍の王 ジロウ・スズキのクローン。本人の十全な同意なく作られているため自我が存在しない「哲学的ゾンビ」。
「永遠に斬殺し続ける誰も勝てない殺戮永久機関」と評されたジロウ・スズキと物理的には完全に同一。その知識と経験、技術を持っているが「哲学的ゾンビ」であるため、本来なら操作不能、自立行動不能の肉塊として生を終えるはずだった。
しかし偶然なんらかの方向性を得てしまい研究所を脱走。50人以上の魔族を斬り殺した他、厚志や桜といった魔王クラスの大物をも撃破した。
【サーヴァントとしての願い】
なし
【把握方法】
原作17、18巻。
オリジナルであるジロウ・スズキの戦闘能力については2巻、3巻、11巻
【マスター】
バギー@ONE PIECE
【マスターとしての願い】
金銀財宝が欲しい。海賊なんだから当然だろう?
【weapon】
なし
【能力・技能】
『バラバラの実』
超人系悪魔の実の能力者。切り離した体のパーツは自在に操る事が可能で、空中に浮遊させたり、それぞれに別々の動きをさせたりするのもお手の物。
ただしすべてのパーツは「足」を絶対の基準としており、ここから一定以上の離れるとバラバラにしたパーツが動かせなくなる。
【人物背景】
”東の海”出身の海賊。かつては海賊王ゴールド・ロジャーの船にも乗っていた。
ルフィに敗れた後インペルダウンに投獄され、ルフィと共に脱獄したあとは頂上戦争を経て、脱獄の際に自分に付き従うようになった(自分よりはるかに強い)囚人たちを連れて海賊派遣組織『バギーズデリバリー』を結成。その座長となった。
また王下七武海に名を連ねていたが世界会議(レヴェリー)にて王下七武海制度の廃止が可決され、バギーの元にも討伐軍が送られた。
【方針】
聖杯を獲得する。
投下終了です
投下します。
この少女は、女子高生ではない。そんな結論を下すのに、時間はかからなかった。
「ああ、そこから動かないでね。勿論あなたもこれからこの男の人と同じくなってもらうから」
シンプルでラフなワイシャツとハーフパンツに、色白の肌、化粧っけがない顔つき。素材そのままでの愛くるしさが印象づけられる容貌だった。
何の温度も感じさせないその無表情さえ修正すれば、異性の目を惹くのはきっと容易だろうと思えるほどに。
外見から判断するに、年齢は十代後半だ。制服こそ着用していないが、自分と同じく女子高生なのだろうか。
いや、違う。彼女が女子高生であるわけがない。
この日本で平和に生きる女子高生は、躊躇なく人を殺したりしない。体格の大きい男性の首を、一瞬のうちにごきりとへし折ったりするわけがない。
命の危険などとは無縁に生きてきた自分ですら理解できてしまう、殺意という概念が籠った視線を、こうして向けてきたりしない。
「逃げたら丸焼きでじわじわ苦しみながら。逃げなかったら一瞬であの世。どっちがお得かな?」
女子高生のような見た目の殺人者なんかと、どうして出会う羽目になってしまったのだろうか。自分が殺されるほどの罪でも犯したというのか。
……罪というものに、心当たりが無いわけではない。
お気に入りのコスメブランドの新作だとか、推しているアーティストの武道館ライブを収録したブルーレイだとか、はっきり言って趣味ではないけれど友達付き合いの一環で買うことにした姉妹コーデ一式だとか。
女子高生の青春を彩るための楽しみには、とにかく金が要る。そして金を稼ぐための最も手っ取り早い方法が、女子高生であること自体を売り物にすることだ。
社会で働く成人男性と一緒に運動して気持ち良くなってもらう代わりに、お金を貰う。始めたばかりの頃は気色悪さで寝付けなかったルーチンワークも、すっかり慣れたものだ。この肢体が瑞々しさの全盛期を迎えている今だから可能な、最も効率的な稼ぎ方だった。
この行いが公序良俗に反するということは、勿論わかっていた。その上で、バレなければ済むことだろうとも、社会は女子高生に重い罰なんか背負わせたりしないだろうとも、高を括っていたのも事実だ。
いかなる法の裁きも飛び越えて直接的に命を奪われる事態なんて、想定していない。
「ううん。別にあなたが売女じみた真似をしたことに怒ってるわけじゃないよ」
どうして。殺されなければいけないほどの罪だとでもいうのか。嘆いて怒って、彼女へと問いかけた。
その回答は、実にあっさりとしたものだった。
「後ろめたそうに二人で路地裏に入っていったから、人目に付かなくて都合が良かっただけ」
たったそれだけの理由で、自分は殺されるのか。嫌だ。死ねない。自分の青春を、こんなところで終わらせられるのは御免だ。
震える脚を奮い立たせて、彼女に背を向けて走り出した。光の当たる道へ、早く。
「メンゴ〜♪」
その直後、視界の先でまた別の誰かが立っていることに気が付いた。足を払われ、みっともなく地面に転げ落ちる。
「逃がすわけないし。私のマスターは生き血、一滴でも多く欲しいんだってさ」
立っていたのは、女子高生だった。制服を和装を折衷したような衣服の……違う、こいつも女子高生であるわけがない。
ただの人間である女子高生は、頭に狐のような耳など生えていない。女子高生は、鈍色にぎらつく刀を携えたりなどしない。
前にも後ろにも、そこにいるのは、殺人者の女子高生モドキが二人。
「セイバー。お願い」
「かしこまりぃ! ……じゃあ、これでオサラバね」
うざったいなりに育ててくれた母の、鈍臭いけどすごく良い子だった友の、浮気性のくせになんだかんだで嫌いになれなかった彼氏の名を呼ぶ。その声は闇に、或いは街の喧しさに溶かされて、誰も助けには来てくれない。
薄汚い路地裏で、翳された刀身だけが煌めく。首が一つ切り落とされるまで、あと数秒。
「……次に生まれ変わったら、もっと自分を大事にしなよ? JKのカラダをそんな風に、馬鹿みたいに安売りしないくらいには、ね?」
憐れむような、蔑むような。最期に聞いたのは、女子高生であることの活かし方を誤った者への忠告だった。
◆
「都会のネズミと田舎のネズミって、知ってる?」
「何それ?」
いつか彼に尋ねたのと同じ質問を、レゼはセイバーに投げかけた。
イソップ寓話の一つであるが、セイバーは知らないようであった。彼女は日本の平安時代に生きたとされる英霊なのだから、知らなくても当然か。
「田舎のネズミは安全に暮らせるけど、おいしい食事はできない。都会のネズミはおいしい食事をできるけど、人や猫に殺される危険性は高い。どっちが良いかって話」
「そんなの、もち都会でしょ。トレンドのためなら命張るくらい余裕過ぎじゃん?」
自信満々に断言したセイバーは、ストローでカップの中の液体をずずっと啜る。去年頃から流行っているらしい、飲むチーズケーキだ。
東京は現代日本の首都にして、数々の流行の発信地である。もし田舎に住むなら、こうした流行り物に触れるのは遅れるか、またはその機会すら巡ってこない。
JK(じぇーけー)であることを志すセイバーからすれば、それは許されざる話というところか。
「……撮るのはいいけど、アップしたりしないよね?」
「え? するに決まってんじゃん。加工したやつ画面で一回見ないと」
「加工ってその耳も消すんだよね」
「消すわけないし! 私の誇りだってーの」
「ええ……」
「大丈夫ダイジョーブ。ちゃんと非公開のアカウントでやるし。自分で見る用ってやつ!」
スパイ活動の一環としてハニートラップのイロハも叩き込まれたレゼだが、ストローを咥えながらのスマートフォンによる自撮りや、自分で写真を加工して見映えを良くするというのは馴染みが無い。
レゼのスマートフォンをこうして貸し与えてみたら、入れられているアプリケーションの数はどんどん増え、SNSのアカウントまで一通り開設していた。勿論、いずれも純粋にセイバーの趣味故だ。
今時の女子高生が共有する文化への適応は、セイバーの方が進んでいると言えるのかもしれない。それ故に、所々で趣味が合わなそうだが。
「こういう嗜みが女子の生き甲斐っしょ。マスターだってこういうことやれる都会のが好きでしょ?」
「私は田舎のネズミがいいなあ。平和に生きられるなら、流行りには乗れなくてもいいや」
「えー、それ勿体無くない? 青春まるごと損してるっしょ」
「殺されるのはもうコリゴリだもん」
レゼは、一度死んだはずの身だ。しかし何の因果かこうして五体満足で生き返り、聖杯戦争のマスターとして参戦することを許されている。
普通の女子高生として生き直してみたい。聖杯へレゼが願うのは、ただそれだけだった。
普通に両親がいて、普通に学校に通って、普通に男の子とカフェでデートする。そんな、普通の日常。国の政争とも悪魔との共存とも無関係な、普通で平凡で穏当に流れていく日常。
「命の駆け引きするのなんて、これで最後にしたいよ」
東京は、都会だ。これから戦争の勃発する場所だ。
悪魔への変身に必要な血液をある程度補充しておきたかったため、これまで何人かを手にかけているが。同じように、レゼ自身もまた狩人の標的にされ得る、命の価値の軽い街だ。
しかし、レゼが望む未来を獲得するためには、この街で生き残らなければならないのであった。
「ふぅん……マスターってさ、兵として育てられたんでしょ? なのに祖国の繁栄とか、それ系のは願わないんだ。ああ、ただの素朴なギモンねこれ」
「そういう生き方も良いのかなあって、思うきっかけがあったから」
「……もしかして、オトコ?」
「まあね」
目を一層輝かせ、セイバーの顔が好奇心に染まっていく。いわゆる恋バナというやつになるのだなと、レゼは今更に気付くこととなった。
サーヴァントとして喚ばれたからには付き従う。そんなテンプレートのような動機でレゼと繋がっているだけのセイバーだが、自分の身の上話で彼女の好感を稼げるのならば、悪くはない。
この機会に、彼との出会いと別れを一通り話してみる。聞いている間、セイバーは終始はしゃぎっぱなしであった。
「抹殺するはずだった男に惚れるの、身に覚えあるんですけど……マジ? もしかしてそういう繋がりでマスターに喚ばれちゃった系……!?」
「どうなんだろう。そもそも、私がデンジ君に惹かれてたかっていうのも正直違う気もするけど」
「いやいやいやいや、これで好きじゃなかったら、マスターのタイプって何なのさ!?」
「そうだなあ……」
セイバーがかつて心を燃やしたような本気の恋というものに、レゼはついぞ縁が無かった。恋などする機会も与えられなかったのだ。こんな自分では満足な答えなど提示できないだろうが、考えてはみる。
具体的な人間性を挙げてみても、どうにもしっくり来ない。出会ってみて、その後で好意を抱くという流れの方が、今の自分でもまだイメージがしやすい気がする。そのための、関係を明るい方向へ築きやすい前条件はやはり必要だろう。
ああ、つまりこういうことだ。
「私のことを好きになってくれる人、かな」
それは、レゼが都会で生きて初めて知った、自身の性格だったのかもしれない。
【クラス】セイバー
【真名】鈴鹿御前
【出典】Fate/Grand Order
【性別】女性
【属性】中立・悪
【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷A 魔力A 幸運B 宝具EX
【クラススキル】
対魔力:A
魔術に対する守り。
A以下の魔術は全てキャンセル。事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけられない。
騎乗:B
騎乗の才能。
大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、幻想種は乗りこなせない。
【保有スキル】
変化:?
文字通り変化するスキル。
詳細は不明だが、セイバーはこれにより本来存在しない狐耳と尻尾を生やした。
魔眼:B+
目があった男性を魅了し、セイバーに対して強烈な恋愛感情を抱かせる。対魔力スキルで回避可能。
神通力:B
神の力の一端。周囲の物体を自由に動かす事が出来る。
だが現在はサーヴァントとして顕現してるため能力がランクダウンしており能力の対象は自身の持つアイテムのみとなっている。
神性:A
その体に神性があるかないかの判定。
第四天魔王の娘である鈴鹿御前は高い神霊適性を持つ。ある力を使用すると+が付いてしまう。
【宝具】
『天鬼雨(てんきあめ)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜40 最大捕捉:250人
セイバーが保有する三振りの宝剣のうち、黄金色の一振り。正しくは文殊智剣大通連(もんじゅちけんだいとうれん)。
愛剣・大通連を250本まで分裂させ、敵に容赦なく降り落とす神通力。
生前は大通連と夫婦剣だった夫の持つ素早丸(そはやまる)との連携技として、計500本の雨を降らせていたという。
今は思い出のつまったかんざしを素早丸に見立てており、宙に浮く大通連と接触させることで天鬼雨を発動させている。かなり大雑把な射撃精度だが、『才知の祝福』発動時には「自身の周りに自分だけを避けるように降り落とす」等、細やかな操作が可能になる。
『才知の祝福(さいちのしゅくふく)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:‐ 最大捕捉:1人
セイバーが保有する三振りの宝剣のうち、白銀色の一振り。
智慧の菩薩が打ったとされる小通連を装備する事により、INT(賢さ)を大幅に上げる事が出来る宝具。
雑だった剣筋は確かなものとなり、戦術もより広がる。
また『天鬼雨』の性能が上がったり『三千大千世界』が使用可能となったりと良いこと尽くめなのだが、
必要以上に頭が回転してしまう為、女子高生を演じる非効率的な生き方を省みて一時的に自己嫌悪に陥ってしまう。なので鈴鹿御前は積極的に使いたがらない。
『三千大千世界』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:‐ 最大捕捉:1人
鈴鹿御前の愛剣、顕明連(けんみょうれん)を朝日に当てる事で三千大千世界……あらゆる世界、並行世界すらも太刀の中に作り出し見渡す事が出来る。
……それが何を意味するか、鈴鹿御前は語らない。
長時間使用すると英霊としての資格を剥奪される。
【weapon】
三振りの宝剣。
【人物背景】
平安時代、鈴鹿山を根城とし、坂上田村麻呂と共に鬼退治を行ったとされる舞姫。
その華麗さと強さから天女とも鬼とも謳われた絶世の美女。しかしてその正体は、何を隠そう天界から遣わされた第四天魔王の愛娘。
日本を魔国にするという命令を受け天下った鈴鹿御前はしかし、たかだか人間の国を混乱させる事に自ら手を下す事を良しとせず、多くの冒険、悲恋の末、恋人であった坂上田村麿呂の手で倒された。
まさに悲恋の天女姫であるが、美しさを追求し、美しさを極めんとする彼女がいきついた最先端のスタイルは───
「いや、やっぱJKっしょ!
巫女もいいけど、恋をするなら女子高生、これ以外ないって感じ!」
───あの、お嬢様。それで本当にいいのですか?
【サーヴァントとしての願い】
本気の恋をする。
【マスター】
レゼ@チェンソーマン
【マスターとしての願い】
普通の女子高生になる。
【能力・技能】
『爆弾の悪魔』としての能力。
レゼは悪魔と融合した人間であり、爆発による攻撃を中心として戦う。
近距離での自分の手足を爆破、火花を飛ばして離れた対象を爆破、自身の肉体の一部を切り離して別個に操作し爆破、など様々な応用が可能。
ただし血が足りないと悪魔の姿に変身できない、水中では爆発できないといった弱点も持つ。
モルモットとしての能力。
身寄りの無い子供であったレゼは、ソ連によって人間兵器としての教育を施された。
悪魔への変身前の時点でも、格闘やナイフ術といった殺人技術に長ける。
対人コミュニケーション上での演技も得意。たとえば、好きでもない男子へ色目を使うように頬を赤らめるなど。
【人物背景】
「公安を辞めて、一緒に遠くへ逃げよう…」
少女レゼの思いがけない言葉に、心揺れるデンジ。だがレゼの正体は『銃の悪魔』の仲間、『爆弾の悪魔』だった!
デンジの心臓を狙い、特異課の隊員を次々と爆殺しながら迫るレゼ!! さらに『台風の悪魔』も現れ、戦いは町全体を巻き込む超特大バトルへと発展!!
最後はデンジがレゼを道連れに夜の海へとダイブし、決着となる。
戦いが終わっても、レゼへの想いが変わらないデンジは「一緒に逃げよう」と提案する。答えることなく姿を消したレゼを、いつもの喫茶店で待ち続けるデンジ。
その頃レゼは、マキマと『天使の悪魔』の手により、その命を終えていた…。
【方針】
勝ち残り、聖杯を獲る。
人殺しは、悪目立ちし過ぎない程度に。
【備考】
与えられた社会的役割は、喫茶店で働くフリーター。学校には通っていない。
投下終了します。
投下します。
何も見えない暗闇の中で、好きな方へ進めと命じられた。
終点はどこかと私は泣いた。
何も見えない暗闇の中で、どこにも進まなくてもいいと投げ出された。
終点はないのかと私は泣いた。
何も見えない暗闇のなかで、あちらに進めと示された。
終点に着いたと私は泣いた。
暗闇がなくなった世界の中では、何の声も聞こえない。
終点はどこかと私は泣いた。
泣いても声は聞こえない。
私の始点はどこにいったの?
Fre ica Ber tel
◇
サンサンと降り注ぐ陽光。緑の香り漂う開放的な景色が広がっている。
いかにも田舎の村といった風情のそこに、自転車を漕ぐ二人の子供の姿があった。
車道には舗装のあちこちに罅割れや擦過痕が見受けられ、歩道との段差部分にも大きく削れた箇所がある。
そんなポイントを利用するように、並走する自転車の片方がスピードを落とさず歩道から車道へと飛び出した。
レースじみた遊びをしている子供が、車道を横切ることでショートカットを図るあまりにありふれた光景。
昂揚と車道を滑り進む少女に、後塵を拝する形となった金髪の少女が慌てて声を上げる。
「梨花ぁーーー!車が来ましてよぉーーー!!!」
「み〜〜〜〜〜!!! その手には引っかからないのです!!!」
車道を駆ける少女には確信があった。
いつも通る道だ、時間帯による交通量も完全に頭に入っていると。
自分にだけは不幸は降りかからないという根拠のない自信。
そんな物に頼り、注意を怠った少女の眼前に、次の瞬間飛び込んできたものがあった。
大型トラックである。
回避どころか反射的な停止すらできず、少女の表情が驚愕に染まる。
「!? 梨花ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
親友の金切り声を聞きながら、まぜこぜの感情に沸騰する少女の意識はぶつんと途絶えた。
「うわああああああああああああああああああああ!!!!!!」
トラックの運転手の方の動転はその数倍である。
自分の責任の有無は二の次で、反射的にブレーキを踏みながら自転車を避ける為にハンドルを切る。
鈍い衝撃音に目を瞑る。スピードを出しすぎているかもしれない……曲がり角から子供が飛び出してくるかもしれない……。
避けられたかもしれない惨事を見る勇気が、運転手にはすぐに起きなかった。
丸々1分の思考停止の後、意を決して外を確認する。
ガードレールを突き破って側壁に衝突した乗車の前面は中破といった具合か。
自転車の方は探すまでもなく見つかった。半ばから真っ二つに断ち折られた車体。
だが、肝心の搭乗者がどこにも見当たらない。
事故の瞬間目に入った、連れ合いの子供の姿もない。自転車が乗り捨てられているだけだ。
運転手は困惑しながらも道端の公衆電話に駆け寄り、通報の義務を果たした。
◇
「ん〜〜〜! もう朝なのね……」
ベッドから半身を起こし、伸びをする少女の名は古手梨花。
自転車での暴走の果て、トラックとの正面衝突という因果を招いた少女その人である。
あの一件から、既に一週間近い時が流れていた。
その身体には傷一つなく、精神的にも事故でショックを受けたような様子はない。
それもそのはず、梨花は事故の瞬間に異世界への転移を果たしていたのだ。
精神に何らの影響も受けていないのは、このような体験に慣れているから。
詳細は省くが、梨花は故郷・雛見沢に置いて幾度となく死を迎えては時間を超えて過去へ戻された経験を持っている。
百年分にも及ぶ放浪の時の果て、彼女は全ての問題を解決し平和な日常を取り戻した。
ようやくループを脱する事が出来たというのに、ちょっとふざけていただけで理想の世界から追い出されたわけだ。
彼女に輪廻転生の力を与えた神格、古手羽入もこの異世界にはいない。最初は酷く落ち込んだものだ。
「アヴェンジャー、おはよう。……今日も付いてくるの? いいけどね……」
突然独り言を始めた梨花だが、絶望で気が触れているというわけではない。
彼女が会話をしている相手は英霊の写し身、サーヴァント。
この異世界、ユグドラシルにマスターとして招かれた梨花に与えられた力の化身である。
サーヴァントを使役するマスターが相争い、最後に残った一組が万能の願望機・聖杯を手にする。
シンプルなルールだな、というのが界聖杯より知識を得た梨花が最初に抱いた感想だった。
何せ彼女の経験した試練は終了条件も敵の存在も完全に謎に包まれていた。
自分と同じ境遇のマスターを蹴落とさなければならないのは気が引けるが、殺す必要まではない。
サーヴァントさえ倒せば、マスターは脱落するがその道連れに消えたりはしないようだ。
加えて彼女のサーヴァント、復讐者のクラスであるアヴェンジャーは極めて高い能力と旺盛な戦闘意欲を併せ持っていた。
一夜に一騎のペースで敵サーヴァントを仕留めており、その間一度の手傷すら受けていないのだ。
身支度を整えて外出する梨花に、不可視の気配が追従する。
恐る恐る、といった気配を感じた梨花が悪戯っぽく微笑み、手を伸ばす。
差し出された手を握るでもなく、サーヴァントは不愉快そうなオーラを隠さず外へ出た。
このサーヴァントは生前、日光を浴びると消滅する体質を持っており、
英霊となった今も霊体化していなければ甚大な被害を受けるのだ。
「あなた程じゃないけど……何度出ても、やっぱり緊張するわね……東京」
田舎中の田舎、雛見沢とは何もかも違う大都会、大東京。
更にこの疑似都市は梨花の生きた時代、昭和末期から数十年を経た文化レベルにある。
マスター以上に、サーヴァントにも時差はある。比較的近代の英霊とはいえ、目にしている光景は異界のそれであろう。
アヴェンジャーが梨花と行動を共にしているのは、マスターを守るためではない。
最新の人間世界の知識を情報だけでなく実感として知ることで自己の嗜好欲を満たす、それだけが目的である。
それを梨花も薄々勘付いてはいたが、単独行動スキルを持つ彼が自分の外出に付き合う意味を鑑み、良しとしている。
逆の場合と違い、マスターが倒れればサーヴァントが消滅するのは時間の問題。一応護衛してやるかくらいの気まぐれでも十分だと。
「……着いちゃったわね……ふう」
目的地の建物を見上げ、息をつく梨花。
壁に掲げられた看板には『WHITE BIRD』なる文字。
端的に言えば、芸能プロダクションの事務所である。
界聖杯に招かれた梨花には、疑似東京で与えられたロール(役割)があった。
幼年とすら呼べる梨花に課されたそれは、メイドカフェ『エンジェルモートイントーキョー』でのアルバイトの日々。
法律に照らせば完全な違法であるが、誰もそれを気にしないのが界聖杯から得た情報の正しさを裏付けていた。
扇情的な制服で勤労に励んでいた梨花の転機となったのは2日前。
エンジェルモートに来店していたスカウトマンが梨花を一目見て気に入り、即日面接に至ったのだ。
W・Bは弱小も弱小、大手のアイドルプロダクションがライオンならばアリの触覚ほどの存在でしかない。
だからこそのスピード採用。受けたところでアイドル道が中途で終わるのは明白であったが、梨花はその誘いを受けた。
事務所に入り、担当となった女性トレーナーの元へ挨拶に向かう。(担当と言っても、トレーナーは彼女一人である)
「いらっしゃい、梨花ちゃん。書類は全て用意しているわ。後でサインをお願いね」
「おはようございます、佐渡さん。今日は確か……」
「ええ。レッスンに入る前に、貴女がどういうアイドルになりたいのか聞きましょうか」
梨花がアイドルの誘いを受けた理由。それは、幾度となく繰り返した雛見沢の日常と全く異なる経験をしたかったからだ。
雛見沢にいた時は、漠然とキリスト系の学園に入って、良家のお嬢様に囲まれたハイソな日常を過ごしてみたいな、
程度のビジョンしか持っていなかったが、アイドルというのもまったく想定外で面白いではないか、というわけだ。
ならば、どのような偶像を演じるべきか。梨花は考える。
雛見沢でのキャラ作りに準じてみーとかにぱーとか言っていれば楽にやれるのだろうが……。
それでは趣旨から外れる。自分がやったことのない事をやりたいから、ロールを逸してまでここに来たのだ。
「クール系で……いきたいと思います」
「いいわね。じゃあ、そのイメージをファンに与えるにはどうするか、から話し合いましょうか」
梨花の昼の生活は、概ねこのような穏やかなものだった。
◇
梨花の夜の生活。それは聖杯戦争にリソースの大半を割いていた。
昼とは全く違う目立ちにくい服装で夜の街を出歩き、適当な喫茶店などに入る。
敵サーヴァントを索敵したアヴェンジャーが撃破完了の念話を送ってくるのを待つ。
戦争と言っても、梨花にやることは何もない。
いざという時に拠点へ素早く戻るルートだけは頭に叩き込んでいるが、本当にそれだけだ。
過去にアヴェンジャーが倒したサーヴァントは五騎。その全てを接敵から40秒ほどで消滅に追い込んでいる。
余りに圧倒的な戦果から、梨花にはやや楽観の様子が見られるが、アヴェンジャーには浮つく様子はない。
当たり前の結果を当たり前に出しているだけだ、という風情である。
「……わかったわ」
接敵の念話が梨花に届く。彼女が感じるわずかな脈動は、サーヴァントの戦闘に応じた魔力消費の感覚だ。
ミルクをコーヒーに入れて喉を潤そうとして、撃破完了の念話を受ける。14秒。新記録だ。
2分ほど経って、急いでコーヒーを飲み干した梨花が喫茶店から走り出て路地裏に紛れる。
誰もいないのを確認してアヴァンジャーに念話を送る。程なくして、アヴェンジャーが実体化した。
息一つ切らしていないその男は、総白髪である印象を裏切るほどに暴力的な生命力に満ち満ちていた。
当世風の服を身に纏ってはいるが、戦闘の影響だろうか、背の部分や四肢のあちこちが破けている。
額から肩口に炎のような文様が浮かび上がっていて、じっと観察するとその部分の皮膚は焼けているかのように
痛々しく鳴動しているようにも見える。手足の服が破れた部分からは、乱杭歯の口が複数覗き見える。
黙示録の獣を連想させるサーヴァントは、梨花を絶対零度の視線で射抜く。
「まだ聖杯は手に入らないのか」
「その様子はないわね……六人も倒したのに……」
「面倒な事だが、忍耐してやろう。願望機などに振り回されるとは業腹だが、見返りは確かなようだからな」
アヴェンジャーが、倒したサーヴァントのものと思しき手首を梨花に示す。
掌に生じた口腔部がガリガリとそれを齧る様を見て、口元を抑える梨花。
半分ほど咀嚼されたところで、手首は霧のように消滅した。
「サーヴァントは強力な力の塊だ。消滅した際にそれが願望を叶える原動力に変換され、それを貯めるものが聖杯だと私は考えている」
「生贄が多ければ多いほど、貯まる力が大きければ大きいほど願いが確実に叶うってことかしら」
「更に一騎見つけた。ここで待機していろ」
梨花の言葉に答えず、アヴェンジャーは首を別の方向へ向けて呟いた。次の瞬間、その姿がかき消える。
マスターである梨花はサーヴァントとの間に通るパスから、アヴェンジャーが高速で移動していくのを感じた。
頼もしい従者にヤレヤレと気安いため息を漏らしながら、地面に転がる8P酒箱に腰を下ろす。
何も失わず、何の労力もかけず、それでいて確実にゴールに向かっている奇妙な実感がある。
惨劇のループの中ではどれだけあがいてもサイコロは1の目に収束していた。
理想の世界では屈服することを否定する覚悟で、サイコロの目を自ら変えられる事を知った。
だがここでは、自分に関わりない所で6の目が出され続けているかのようだ。このまま上がれるなら、それに越したことはないが……。
雛見沢では未知の存在であるスマートフォンを取り出して明日の天気を確認していると、程なく接敵の念話が届いた。
さて、10秒を切って新記録となりますか。くすくす。
「……? 結構かかるわね……ッッッ!?」
1分、5分経っても撃破完了の報告がない。
10分を過ぎた辺りで梨花の全身に未体験の凄まじい悪寒が走る。
彼女が初めて体感するそれは、サーヴァントの身に重大な何かが起こったことを知らせるもの。
念話を飛ばして確認するより早く、アヴェンジャーの震える霊器が凶暴なまでのスピードで路地裏に駆け込んできた。
「拠点に戻れ!!」
実体化と同時に短く叫んだその肉体は、前面に巨大な傷を負い血まみれだった。
驚愕する梨花に構わず、来た方向とは別の方へ霊体化したアヴェンジャーの気配が離れていく。
梨花は思わぬ事態の急変に動揺しながらも、己が拠点である一軒家へと足を早めた。
◇
「ん〜〜〜……?暗い……」
無事拠点に辿り着いた梨花であったが、アヴェンジャーに送った念話は以後通じる事はなかった。
サーヴァントの負傷を初めて見た彼女にはそれを癒やす術が検討もつかず、とりあえず救急箱を出して
アヴェンジャーの帰宅を待っていたのだが音沙汰なく、いつの間にか眠ってしまっていた。
(アヴェンジャーがあんな苦戦をするなんて……パスは切れてないみたいだけど……)
目を覚ました梨花の体内時計は、前日の起床と同じ時刻だと語っているのだが室内が異様に暗い。
手探りで電気をつけるために立ち上がった彼女の足に、昨日まではなかった物体の感触が触れた。
「樽……いや壺? 何個もあるみたいだけど……?」
ぺたぺたと触れてみるそれには冷たい手触りがあり、側面にはなにか金属製のパーツが付いている。
僅かに闇に慣れてきた視界に浮かぶそれは、蛇口のようなものに見えた。
枕元に置いてあるコップを覚束なく握り、蛇口の下にかざしてハンドルを回してみる。
コポコポと少しずつ垂れる液体は、鼻先に引き寄せるまでもなく強烈な臭気を発散させていた。
だが決して不快なものではない。不安な気持ちで夜更しして乾きを覚えていたのか、自分でも無意識なままに
梨花はコップを口元に運び、得体のしれないそれを躊躇なく飲み干していた。
舌が脳に直結しているのか、と錯覚するほどの濃厚な味。全身に広がる多幸感。ピリピリと痺れるような余韻。
風味は以前に羽入へのおしおきの為に常飲していたワインにも似ているが、満足度はその百倍といっても過言ではない。
「頭(こうべ)を垂れて蹲(つくば)え。平伏せよ」
「!? アヴェンジャー!!貴方、どこ……に……」
サーヴァントの声につられて振り返った梨花の目に、思いもよらぬ光景が飛び込む。
ポウ、と灯った鬼火のような灯りに照らされた姿は、彼女の記憶するサーヴァントとは全くの別物であった。
派手な蝶の髪飾りに、胸元が大きく開いた赤のミニドレス。夜の女然とした存在がアヴェンジャーの声で喋っていた。
だがそれはどこからどう見ても魅力的な女性の姿にしか見えない外見であり、サーヴァントとしての気配すら察知できない。
縦長の瞳孔にはこれまで見たことのない赤い光が宿っており、梨花は訳もなく身体が震えるのを感じた。
(負けたショックでおかしくなって女装をしたの?いやまさかそんな)
「違う」
女は青筋を立てながらもどこか満足気に呟くと、梨花の首根っこを掴んで軽々と持ち上げた。
何をとジタバタする梨花を冷たい目で見据えながら、アヴェンジャーは語り始めた。
「私はお前を甘やかしすぎたようだ。昨夜のサーヴァントのような厄介な輩が複数いれば、マスターを知られることが問題になる可能性もある」
「どういう意……!?」
梨花が明るくなった部屋を見回し、部屋に2つある窓が内側から目張りされている事に気付く。
病的と言えるほど、光の一筋すら入らないよう完全に遮断されている。
アヴェンジャーの物言いから、マスターである梨花の行動を制限するつもりなのかと梨花は察した。
「待って、私にも都合が……」
「黙れ!!!!!」
会話のとっかかりを見つけようとする梨花の顔に、女の細腕が迫る。
通常ならビンタと呼ばれるであろうその動作は、梨花が開いた下顎をたやすく引き千切って壁に叩きつけた。
顔の一部を失い、激痛に声すら出せずもがき回る梨花をベッドに放り投げて、アヴェンジャーは淡々と言葉を継ぐ。
「痛むか? だが私の痛みはそんなものではなかった。我々は戦争をする為にここにいるはずだろう。
今後は聖杯戦争に勝る"都合"があるなどと解釈できる言葉や考えは謹んだほうがいい」
「だからっていきなりぶつなんて……!?」
梨花が反射的に口答えしてから、言葉を発せた事に仰天する。
手をやると、そこには完全な状態を取り戻している自分の顔があった。
幻覚を見せられていたわけではない。数秒前まで自分の下顎だった肉片は、今も壁にへばり付いているではないか。
「一体何が……!?」
「お前は私の血によって『鬼』となったのだ。どんな傷もたちどころに完治するが、日光を浴びれば身体は滅びる。窓を塞いだ理由は分かったな?」
「な、何を勝手な事を……いつの間に!? まさか寝ている間にやったの!?」
「簡単に死なれては困るのでな。私の決定した事に何か不服でもあるのか?」
梨花はここに来てようやく、今までろくなコミュニケーションを取っていなかった自分のサーヴァントの危険性に気付きはじめていた。
相手が歩み寄ろうとするマスターを半ば無視していたのには気付いていたが、聖杯戦争のパートナーとしての強さに目がくらんでいたのかもしれない。
鬼という言葉に雛見沢の伝承を思い出す。……とにかく、冷静に話を聞こうと梨花は意を決した。
内容はともかく、あちらから初めてアプローチがあったのだ。
「その……『鬼』になった私に、あなたは何を望んでいるの? 一緒に戦えってこと?」
「お前には『鬼』としての才能はまるでない。異能の鬼にすらなれない矮小な存在だ。
私がお前に望むのは唯一つ。聖杯戦争が終わるまでこの拠点から一歩も外に出ない、それだけだ」
「それなら鬼にしなくってもそう言ってくれればいいじゃない!」
「お前には生き物を管理した経験がないようだな。枷もつけずに放し飼いをするのは愚かというもの」
言葉の端々に険がある。相手を対等に見ていると見せかけるつもりすらない、癇に障る声。
梨花は不快を通り越して恐怖さえ覚えながら、ベッドに力なく横たわる。
聖杯戦争をサーヴァントに依存していたのは確かだ。
だが、望まず巻き込まれた戦いで味方から未来を奪われる道理があるか?
こんな身体にされては、もう人間としてまともな生は望めない。
ようやくその認識が追いついてきて、梨花は目に涙を滲ませる。
うーっ、と押し殺した声で唸る梨花に、アヴェンジャーは淡々と語りかける。
「界聖杯における仮初めの生活にまだ未練があるようだな」
「……アイドルの事を言ってるの? そこまで私の気持ちが分かるなら、こんな……」
「お前が聖杯に望むのは偶像になることではないだろう。承認欲求を満たしたいならば、
機材を通販で取り寄せてYouTuberにでもなるがいい。顔出しをしなければ認めてやろう」
疑似東京を見物して得た知識か、妙に俗っぽいアヴェンジャーの発言にイライラと頭を悩ませる梨花。
この横暴なサーヴァントだ、実際やると言い出したら逆鱗に触れてまた暴力を振るうような気がすると。
梨花は自分の懊悩を見透かしたように笑みを浮かべるアヴェンジャーに、更に言葉を返した。
「私だけの問題じゃないでしょう。エンジェルモートにも無理を言って辞めさせてもらって、事務所とも正式に契約してるのよ?
NPCだから迷惑をかけていいなんて思えない。軽い気持ちで始めたのは確かだけど、だからって投げ出すつもりはないの」
「お前がそれらと縁を切っても、困る者はもう誰もいない」
「……?」
自分の労働者やアイドルとしての資質を軽侮されているのか、と梨花は訝しむ。
お前の代わりなどいくらでもいる、と……それは確かにそうだろうが、と考える彼女に、アヴェンジャーは事も無げに言い放った。
「私が何故お前と外界の縁を断とうとしているのか、理解していないのか?
敵勢力に万に一つもお前の情報が漏れないようにするためだ。その手は既に打ち終わっている」
「????……??」
「そこの壺の蓋を、どれでもいいから開けてみろ」
全く理解が及ばないまま、言われるままに梨花の足が進む。
部屋の中心に4つほど並んだ、蛇口の付いた巨大な壺。
見たこともない、脈打つ肉塊のような柄。その中には美味なる雫が湛えられているはずだ。
抵抗なく蓋を開けた梨花は、中を覗き込む。
「……え?」
部屋は僅かな灯りで照らされているだけだ。だから、見間違えたのだと思った。
まじまじと見つめて、そこにあるのが何かハッキリと理解した時、梨花は声にならない叫びを上げて後ずさっていた。
ドン、と背中をぶつけた何かに向き直る梨花。アヴェンジャーが何ら変わらぬ様子で見下していた。
「『鬼』は栄養源として摂る物が制限されるが、お前は更に特別な例だ。人間の血のみで存命できる。
今後は食事に気を回す必要はない。"あれ"だけを飲んで命を永らえるがいい」
「ひっ……ひい……あはは……」
腰を抜かしてこみ上げる笑いに身を任せる梨花は、自分のサーヴァントが人間種ではない事を……。
何より、人間の精神を持たない存在であることを芯から理解していた。
壺の中には、昨日から彼女の専属トレーナーになった女性が押し込まれていた。
奇妙な膜のような物に覆われたそれは、2〜3人程の犠牲者の死体の結合体。
いかなる原理かそれぞれの心臓だけが動いていて、死体が生成した血を壺が絞り上げて蛇口から出す仕組みのようだ。
それが4つ。約10人……その数は、梨花が界聖杯で顔と名前を一致させる程度に親交を深めたNPCの数と同じ。
アヴェンジャーが梨花に付いて回っていたのは、このような事態を迎えた時の為に彼らの存在を把握する為だったのか?
梨花の口元から、先ほど啜った赤い液体……血が漏れる。
直後、うずくまった彼女は激しく咳き込んで両手を抑え、嘔吐物を撒き散らし始めた。
「昨夜の食事の吐き戻しか……」
アヴェンジャーは冷淡さを崩さず、胃の中を全て逆流させて倒れ伏す梨花に告げる。
「お前には必死さが足りなかった。現状の正確な理解もだ。全ての鬼は、私が死ねば消滅する。
お前も例外ではないのだ、古手梨花。他のマスターと違い、お前にとって聖杯戦争の敗北が意味するのは滅び。
もはや聖杯を得るしかなくなった事、しっかり性根に刻んだか?」
「聖杯で、人間に戻って……」
「『元の世界に帰り、沙都子と一緒に聖ルーチアで素敵な学園生活を送る』。そうだ、願いを叶えたければ私に従え」
梨花の目が見開かれる。いかなる手段か、思考を知られていると気付いたのだ。
逆らえない事を悟り、フラフラとベッドに向かって倒れ込む梨花。
悪夢から逃れるように眠りに逃避する梨花を一瞥して、アヴェンジャーは部屋から姿を消した。
◇
星の見えない曇った夜空を見上げながら、アヴェンジャー・鬼舞辻無惨は物思いに耽っていた。
己のマスターへの対応はひとまずこれでいいだろう、と。
無人の団地の一角に立つ無惨だが、その視界には東京各地に放った小型の鬼の見ている光景が映し出されている。
この能力はもともとは上弦の肆・鳴女の血鬼術である。
無惨の宝具の効果で再現しているのだが、その有効性は聖杯戦争においても冠絶していた。
「上弦の中では最も役立った半天狗。その数字を継いだ鳴女の血鬼術がこうも私の為の役に立つ。これも……」
言葉を切って、無惨は自分の生の終わりを思い出す。
一個体として限りなく不滅の存在に近付いていたはずの自分が、か細い思いを繋いだ人間たちに敗北した事実。
その結果を真摯に受け止め、無惨は人が繋いでいく思いこそが永遠である事を認めた。自分もその真理に従おうと考えた。
復讐者のクラスとして召喚された影響か、今の無惨は自分に対する復讐が成った後のメンタリティで存在している。
この英霊としては例外的に、アヴェンジャーである彼には自己が究極の生物になることへの執着が皆無なのだ。
彼が望むのは、自分が死の直前に抱いた願いが叶ったのかどうかを知ること。
竈門炭治郎という、自分を超える鬼の素質を持つ少年に託した願いが正しく継がれている事を確かめたいと思っている。
鬼舞辻無惨は死の間際、嘘偽りなく全力で炭治郎を生かす為に全ての力を注ぎ込んだ。自分の生存を度外視してそうしたのだ。
それが故、無惨が炭治郎に送り込んだ自身の細胞が得たであろう記憶は、彼の霊器には刻まれていない。
最も欲するものを得られない怒りの炎は、英霊と成った後も鬼舞辻無惨を焼き続けている。
「珠世の知識も上手く使えたな……宝具か、奇妙な感覚だ」
無惨の脳裏に、梨花を鬼化する直前の記憶が浮かぶ。
彼は目的を果たすため、己が取り込んだ異能の鬼、珠世の細胞と対話を試みたのだ。
◇
「久しぶりというべきか、珠世」
「……」
「どうした? 顔色が悪いようだが」
鬼舞辻無惨の精神世界。
脳細胞の最奥にて、美貌の女鬼・珠世と無惨は対峙していた。
珠世の形相は激憤と困惑に彩られており、目にしているものを理解したくないという思いで溢れていた。
ブツブツと呟く言葉は呪詛じみていて、無惨の死だけを望む勢いで吐き出し続けている。
「お前が英霊だと……星に認められ永遠に刻まれた存在だと……!」
「私が望んでそうなったわけではない。そんなことで恨まれても迷惑だ」
「お前に対する恨みはそこじゃあない! お前がまだ存在している事自体が……」
「この白髪を見ろ。お前の薬の効果だろう。死して尚、それはこうして功を奏している」
「……」
「英霊としての私の存在は、お前たちの勝利の証と考えろ。お前は今や私の一部、分からんはずがないだろう」
「黙れ!!!!!」
飄々とした無惨の態度に激昂する珠世。
その取り付く島もない様子を見ながら、無惨は深い溜息をついた。
「増やした脳を使って考えたのだがな。お前のしつこさは少々異常だぞ珠世」
「……!?」
「生前から何百年も私を恨み続け、私と共に英霊になってまでそれを続けるのかと聞いている」
「当たり前だ!!!」
「……まあ、いい。お前の怨念など取るに足りん。本題に入るとしよう」
心底うんざりした様子で一方的に口論を打ち切ると、無惨は珠世に知識の譲渡を要請した。
知識の活用法は、自分を召喚したマスターを珠世式の鬼にする為だと。
珠世は一も二もなく拒否する。内容もさることながら、無惨の頼みという時点で聞く理由はないと。
「 古手梨花の存在証明は、東京内から完全に消去してある。鬼にして緊急時に即死しないようにすると同時に、
ヤツが食事をする際の事も考慮しなければならない。霊体化できない古手梨花が鬼として食事をすれば
当然死体が残り、外から拠点に戻る際にも痕跡が残る。血だけで事足りるお前の鬼はこの状況では有用なのだ」
「何故わたしがお前の都合で力を貸さなければならない……! 聖杯戦争など知ったことか!」
「お前は私に、鬼となって自暴自棄になり、大勢の人間を殺した罪を償いたいと言っていたな。あれはやはり嘘っぱちの建前文句だったか」
「何だと……!?」
「 お前が協力しないなら、私自ら拠点に死体を運ぶ手間が増えるだけ。天災の犠牲者もその都度増える。
お前が協力するなら、既に殺してある古手梨花の知人の血だけで済むのだ。玉壺の血鬼術でその用意は済んでいる」
「くっ……詭弁を……!」
「認めるのか? 私を滅ぼそうとしたのは人類の為ではなく、己の恨みを晴らす為だけだったと。私はどちらでも構わないが」
「……」
珠世の目から血が噴出する。頬の肉を噛み切ったのか、口からもドブリと血がこぼれている。
極限の不本意を押し殺した感覚と共に、無惨の意識下に新たな鬼化血液の組成が流れ込んできた。
無惨は頷くと、もう用はないとばかりに一瞬で己の精神世界から姿を消した。
珠世の拳が、脳細胞の壁を渾身の力で殴りつけた。
◇
「私は変わったのか?」
回顧から復帰した無惨が、静かに目を開けて自問する。
生前の彼ならば、逃れ者の知識を借りて不完全な鬼を造るなどありえないことだ。
無論利点があるからそうしたのだし、珠世の部下の持っていた特性で不要な点は取り除いている。
今の梨花は血だけを飲んで生きる呪いを外された鬼ではあるが、通常の鬼と同じく無惨に思考を読まれ、位置を把握されるのだ。
それでも本来の無惨ならこんな手間はかけなかった。自分に手傷を負わせる強敵の存在を認識していたとしても。
そもそも完全な後継者である炭治郎がいるのだ。
かつて増やしたくもないと言い捨てた、不出来な同胞を作り出す事自体が無惨に怒りを覚えさせていた。
「……変化を嫌う事に変わりはない。サーヴァントとして召喚された不具合か。不快だな」
それでも、無惨の願いに対する執着は確かなものだった。
「炭治郎。私の思いを連れたお前は、どこへ進んだのだ? 何をしたのだ? この空の続く場所にいれば話は早いのだがな」
しかし、不滅の存在となったであろう鬼の王が、死後に至る英霊になっているとは考えにくいと無惨は思考する。
「信じているぞ、炭治郎。私の思いを継いだお前を……」
無惨は呟くと、夜の闇に消えていく。
悪鬼が望む真実が存在するのかどうか。それをまだ、彼だけが知らない。
【クラス】
アヴェンジャー
【真名】
鬼舞辻無惨@鬼滅の刃
【ステータス】
筋力A+ 耐久A++ 敏捷A++ 魔力A++ 幸運B 宝具D
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
復讐者:A++
復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルになったもの。
アヴェンジャーは千年に渡る生の中で絶大な総量の恨みを買っており、無数の虎の尾を踏み、龍の逆鱗に触れていると称される。
アヴェンジャー自身は向けられる怨念を異常者の逆恨みと認識しているため、それらに対し正当な怒りである激情を振るう。
それ故に通常の復讐者よりも効率よく向けられる悪意を自らの力に変えることができる。
忘却補正:B
人は忘れる生き物だが、鬼であるアヴェンジャーは決して忘れない。
一度受けた屈辱は永遠に引きずり続ける。
自己回復(魔力):B
復讐が満たされるまで、魔力が延々と湧き続ける。
保有スキルと併せて、無尽蔵の持久力を見せる。
【保有スキル】
超速再生:A-
鬼としての再生能力、その極点。耐久値に+の補正を与える。
本来ならばいかなるダメージも瞬時に再生し、特効攻撃ですら僅かな時間しか稼げない。
真性の日光を浴びた時のみ、例外として莫大なスリップダメージを受ける。
鬼滅の毒スキルの効果によって常に細胞が破壊されており、
このスキルで相殺する事で補填している為、戦闘中の再生速度は落ちている。
鬼種の魔:A
鬼の異能および魔性を表すスキル。鬼やその混血以外は取得できない。
天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出等との混合スキル。
犇めく髄腑:A-
己の肉体を完全に掌握するスキル。アヴェンジャーは体内に7つの心臓と5つの脳を持つ。
それらを含めた体内の全細胞を任意で動かすことも可能であり、肉体を千八百に分割しての逃走すら実現する。
生前に取り込んだ異能の鬼の細胞を霊器にも引き継いでおり、精神世界での対話が可能。
心臓は通常のサーヴァントと同じく魔力を生み出し、魔力値に強力な補正を与える。
脳は擬似的な並列思考を可能とし、どれだけ頭に血が登っていても生存する為の手段について判断を誤る事はない。
鬼滅の毒スキルの効果により、総体を分裂する事は出来なくなっている。
完全変態:C
外見を完全に変貌させることができる。
サーヴァントとしての気配を消すことも出来るが、戦闘時には効果を発揮しない。
鬼滅の毒:EX
アヴェンジャーの死の遠因となった毒。自らの行為が生み出した者達が造り上げた切り札。
戦闘を開始した瞬間から以下の効果が発揮され始める。このスキルはいかなる手段・状況においても解除不能。
戦闘開始から5分経過:筋力・耐久・敏捷値が1ランクダウン。鬼種の魔スキルによる各種補正を無効化する。
(影響後のステータス:筋力B 耐久B+ 敏捷B+ 魔力A++ 幸運B 宝具D)
戦闘開始から10分経過:耐久・敏捷・魔力が1ランクダウン。犇めく髄腑スキルによる魔力値補正を無効化する。
(影響後のステータス:筋力B 耐久C+ 敏捷C+ 魔力B+ 幸運B 宝具D)
戦闘開始から15分経過:敏捷値を除く全ステータスが1ランクダウン。超速再生スキルによる耐久値補正を無効化する。
追い詰められたアヴェンジャーは、敏捷値に強力なプラス補正を発生させる。
(影響後のステータス:筋力C 耐久D 敏捷C+++ 魔力C+ 幸運C 宝具D)
【Weapon】
「触腕」
三種に分類される、肉体を変化させて形成した武器。
①背中から出た細い管。九本あり、変幻自在の軌道で敵を襲う。
②太腿から出た細い管。両足に四本ずつあり、極めて高速で死角からの攻撃に適する。
③両腕。伸び縮みが著しく、通常の拳打の間合いから10m程までの広い範囲を攻撃できる。
多数付随している口が周辺の空気を吸い、相手の体勢を崩したり攻撃の規模を増大させたりする。
「衝撃波」
胴体に形成された口腔が強烈な衝撃波を放つ。
血鬼術の一種であり、受ければ全身に麻痺効果が発生する。
【宝具】
『私も受け継ぎ、託すとしよう』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:自身
死の間際、自らが求めた不死ではなく人が受け継ぎ託してきた思いこそが
永遠であり不滅であるというアヴェンジャーの悟りが宝具となったもの。
血を分けた上弦の鬼6体(黒死牟、童磨、猗窩座、鳴女、玉壺、獪岳)。
そして手ずから取り込んだ逃れ者の鬼種、珠世の血鬼術の一部を再現する事が出来る。それ以外の効果はない。
黒死牟=刀術を土台とした戦闘特化能力。童磨=温度低下を主とする戦闘特化能力。猗窩座=拳術を土台とした戦闘特化能力。
鳴女=視覚を共有する目玉型の鬼を造り出し使役する。玉壺=悪趣味な芸術品を造る。獪岳=超劣化黒死牟。珠世=幻術。
強力な能力を持つ鬼たちではあるが、アヴェンジャーは自分の腕を振り回したほうが
圧倒的に強いと確信しているため、戦闘においてそれらの能力を使うことはない。
余談だが上記の効果を見ても分かるように、アヴェンジャーは思いを託すという行為を何も理解してはいない。
『不変』を何よりも重視する彼は、人から人に思いが継がれる際に必ず発生する齟齬や解釈の差異による変化を許容しない。
その根底にはアヴェンジャーの昆虫じみた精神による、他者への共感能力の決定的な欠如がある。
彼の身勝手で押し付けじみた思いは、誰にも継がれる事はない。
【人物背景】
千年に渡り鬼種を生み出し続け、人の世に恐怖と混乱を撒き散らした存在。
最期は踏みにじってきた者達が組織した鬼殺隊に討伐され、日光に焼かれて滅びた。
自分が敗北した事実を受け入れ、その奇跡に感じ入った彼は討伐者の一人に力と命を託す。
一切の稚気なく真に全てを託したため、死して英霊となった彼には少年へ送り込んだ自らの細胞の記憶はない。
英霊となった今でも彼は、鬼狩りの殲滅と夜だけでなく朝も昼をも支配する鬼の王の君臨を信じ続けている。
【サーヴァントとしての願い】
自分の託した思いをとある少年が受け継いだのかを確かめる。意に沿わぬ結果の場合は、その事実を聖杯の力で捻じ曲げる。
【方針】
自分の能力への自信から、見つけた主従に片っ端から襲いかかる戦法を取っていた。既に六組を撃破済。
マスターからは敵マスターは殺さずに済むなら見逃してほしいと打診されていたが、無視して全て殺害・捕食している。
とあるサーヴァントに思わぬ苦戦を強いられ、手傷を追ったことから慎重策に転針。
当面は偵知を進め、序盤のような無軌道は避ける予定。
【関連キャラ】
・古手梨花
道具。自分に都合の悪い願いを叶えられては困るので、聖杯戦争の勝利が確定すれば始末する予定。
・竈門炭治郎
最も優れた存在。自分の後継者であり究極生物・鬼の王を名乗るに相応しい子供。
・炭治郎以外の鬼
何故炭治郎に出来たことがお前達には出来なかったのだ?役立たず共が!!!
【マスター】
古手梨花@ひぐらしのなく頃に
【マスターとしての願い】
人間に戻り、元の世界に帰り、沙都子と共に聖ルーチア学園でハイソな生活を送る。
【Weapon】
「血壺」
無惨が玉壺の血鬼術で作った梨花用の食料タンク(4個)。
梨花が界聖杯で親しく付き合っていたNPCの死体が詰められており、一つの壺につき2〜3人の死体が結合されて押し込められている。
犠牲者10名の内訳は
エンジェルモート(梨花のロールに割り振られたバイト先)の店長、その同僚の少女3人、店舗スタッフ2人、アイドル事務所のスカウトマン、マネージャー兼トレーナーの女性、スタッフ2名。
余談だが無惨は犠牲者を拉致する際に梨花と直接交友があった彼らだけでなく、その関係者も皆殺しにしている。
【能力・技能】
「鬼化」
無惨により鬼にされている。
身体能力の向上と高い再生能力を持つが、異能の鬼以上に成長する余地はないと無惨には見立てられている。
珠世の技術を流用して血だけで生きられる鬼として完成しているが、無惨に思考を読まれるのは通常の鬼と同一。
珠世の細胞をも混ぜて鬼化している為、無惨が設定した条件を満たすと口封じに殺される特性は機能していない。(無惨は覚知している)
【人物背景】
昭和58年の雛見沢で惨劇のループに巻き込まれ、100年分の地獄を経験した少女。
仲間たちに相談し、大人たちに助けられ、自分の意思で運命を変える奇跡のような世界でそのループを脱する。
以後は平和な暮らしの中で友人たちとのかけがえのない時間を過ごし、未来に思いを馳せていた。
しかしある日、トラックの事故に巻き込まれそうになり行方不明に。
雛見沢から姿を消した彼女は界聖杯に招かれ、新たな受難の日々を送っている。
【方針】
無惨の言う通りにする。
【関連キャラ】
・鬼舞辻無惨
怖い・嫌い。早く縁を切りたい。
・北条沙都子
一番の親友。ずっと一緒にいたい。
・羽入
肝心な時にいないのは本当に困る。
以上で投下終了です。
投下します。
「なんで……なんで、こないなことにやってもうたんや……なんで……なんで……」
壊れたおもちゃのように言うけど、誰も答えてくれない。
うちは池谷二鳥。
本当の名前は『宮美二鳥』って言うけど、生みの親からは施設に捨てられた。
でも、四歳のときに池谷家の養子になって、宮美二鳥から池谷二鳥になる。
お母ちゃんとお父ちゃんのほんまの子どもじゃなかったけど、うちは幸せだった。
だって、お母ちゃんとお父ちゃんはうちのことを大事にしてくれたし、血のつながりがなくてもかわいがってもらった。
学校でもそう。授業参観には絶対にきてくれて、運動会でも思いっきりほめてくれた。たまに、うちがはずかしゅうなることもあったけど、嬉しかった。
もちろん、いろんな所にも連れてってもらった。お母ちゃんもお父ちゃんも、たくさんの思い出をくれたんや。
それに、小学一年生だったある日に、うちはお母ちゃんとお父ちゃんに聞いたことがあるんや。
「うちを産んだお母さんが、『二鳥は私の子よ。二鳥を返して!』って、家にやってきたらどうする?」
すると、『絶対だれにもわたさへん』って、言うてくれたんよ。
お母ちゃんとお父ちゃんが、うちのお母ちゃんとお父ちゃんになってくれてよかったって、心の底から思ったんや。
おもしろいけど、ちょっと考え方が極端なお父ちゃん。
優しいけど、心配性で子どもっぽいお母ちゃん。
うちは、そんな二人のことが大好きやった。
そして、うちが小学3年生になったころ。
お母ちゃんのおなかの中に、赤ちゃんがやってきたんや。
体が弱いお母ちゃんやけど、元気な男の子が……あゆむが生まれた。
うちはお姉ちゃんになることができてうれしかったけど、お母ちゃんは今まで以上に不安になることが多くなったんや。
だって、赤ちゃんは小さくて、少しの不注意で死んでしまうこともありえるんや。
夜泣きも多くて、そのせいでお母ちゃんは心配になることが多かった。
お父ちゃんも仕事がいそがしくなって、帰りも遅くなったせいで、前みたいに笑ってくれなくなったんや。
それでも、うちは二人のお手伝いをしようとしたけど、母方のおばあちゃんとおじいちゃんに遠ざけられた。
家の中は、だんだんとイヤな空気になっていくのを……うちは感じたんや。
でも、あゆむはどんどん大きくなって、あっという間に歩けるようになった。
お話もできるようになって、うちのことを「にとちゃん」って呼んでくれるんや。二鳥ちゃんやから、にとちゃんやろうな。
そんなあゆむがとってもかわいくて、うちは守ってあげたかったんや。
あゆむは成長するんやけど……お母ちゃんとお父ちゃんも、おじいちゃんもおばあちゃんは変わらず、家の中はどんよりしたままやった。
そして、事件は起こるんや。
冬に入ろうとしたあの日のことを、うちはこれから一生忘れへん。
お母ちゃんがあゆむの子育てや家事で疲れていたから、お手伝いをしようと思った。
「今日はうちがあゆむの面倒みるわ! お母ちゃんは休んどって!」
お母ちゃんのため、うちもちょっとでも頑張ろうと思って、あゆむと一緒に近くの公園で遊んであげたん。
でも、うちがちゃんと見てあげなかったせいで、あゆむは転んでもうた。
しかも、大きな石にぶつかって、おでこから血が出て……もう、思い出すのもイヤや。
うちはすぐにお母ちゃんに知らせて、すぐにあゆむを病院に連れていった。
あゆむはおでこに二針をぬっただけで、他はなんともなかったってお医者さんは言ったけど、うちはずっと泣いたまま。
お母ちゃんとお父ちゃん、おばあちゃんとおじいちゃんにずっとあやまった。
「うちのせいでっ……うちがちゃんと見てなかったせいでっ……ごめんなさい……!」
だけど、みんなはうちに何も言わなかった。
そして、うちはあゆむと話すことすらもみんなから禁止されて、家の空気がもっと悪くなったんや。
みんな、うちにがっかりしたんやろ。
もう、この家からうちの居場所が消えてしまったことは、自然とわかったんや。
何の相談もなく、次の春休みから塾に通うことが決められて、うちは中学受験をさせられた。
仲のよかった友達と遊ぶ時間もどんどん減って、塾で勉強していたせいで家に帰る時間が夜おそくなる。
もちろん、食事だって一人でとる時が多くなった。
だけど、うちは何も言えへんかったんや。
お母ちゃんとお父ちゃんからきらわれてる。もう、お母ちゃんとお父ちゃんはうちのことがすきじゃない。
でも、そんなはずはないと心のどこかで思ってた。いや、思い込もうとしていたんや。
だって、うちは二人の子どもなんやって言ってくれたのは、お母ちゃんとお父ちゃんやから。
だから、うちは中学受験も頑張ることができた。二人がうちの将来を考えてくれているし、ちゃんと合格すればすべてがうまくいって、またみんなで笑えるようになるんや。
もちろん、あゆむとだっていっぱい遊べる。そう信じて、うちは勉強をがんばれたんや。
ほんとうにきらわれていたらどうしよう。
そんな不安はあったけど、スワロウテイルの歌をいっぱい聞いて吹き飛ばした。
それと、ほんまのお母さんからもらった赤いハートのペンダントをお守りにして、勉強をがんばった。
そのおかげで、うちは第一志望の中学受験に、見事合格したんや!
すぐに帰宅して、お母ちゃんとお父ちゃんに受験に合格したことを教えてあげた。
でも、家の中はつめたい空気がただよっていた。お母ちゃんとお父ちゃん、それにおじいちゃんとおばあちゃんは、重苦しい表情を浮かべていたんや。
なんか変や、とうちが思うと……
……お父ちゃんはうちに言ったんや。
お父ちゃんは春から関東に転勤するから、二鳥は一人だけで中学の寮に入り、って。
何を言われたのか、うちは理解できなかった。
体じゅうが一気にひえて、息ができなくなりそうやった。
うちが合格した中学と寮は大阪にあって、お父ちゃんたちはあゆむと一緒に関東に引っ越すんや。
うちは、ひとりになって、家族と一緒にいられないってこと?
「そんなん……い、イヤや……!」
必死になって、ふるえながら言う。
でも、誰もうちの味方なんてしてくれへん。おじいちゃんはうちのことを怒るし、おばあちゃんは優しい声で言うことを聞けと言い、お母ちゃんとお父ちゃんは黙ったままや。
そうして、ようやくうちは気付いたんや。最初から、みんながグルになってうちのことを捨てるつもりやったって。
中学受験だって、うちを都合よく追い出すことが目的だったんや。
お母ちゃんとお父ちゃんはなんでそんなことをするのかわからなくて、うちは絶望した。
確かに、あゆむをケガさせたのはうちの責任や。うちがちゃんと見ていなかったから、お母ちゃんは泣いちゃった。
お父ちゃんだって忙しかったから、うちのことまで気が回らなかったのはわかってた。お仕事とあゆむのことが大変で、うちのことを考える余裕がなかったのはしょうがない。
でも、どうしてモノみたいに捨てられなきゃあかんの? 何があっても、誰にも渡さないって言うてくれたのは、ウソだったの?
なにも考えられなくなって、目の前が真っ暗になった頃やった。
うちが、この聖杯戦争に呼ばれて、マスターになったのは。
最初はなにがなんだかわからなかった。夢でも見たのかと、うちは思ったんや。
でも、これはまぎれもない現実や。マスターになったうちが、サーヴァントと一緒に聖杯戦争に勝ち残れば、どんな願いでも叶えられる聖杯がゲットできる。
それを聞いて、うちの心に希望が芽生えた。
聖杯戦争に優勝すれば、お母ちゃんやお父ちゃんとまた家族になれる。
聖杯の力さえあれば、またみんなで一緒に暮らせるようになるんや!
ーー君が私のマスターか? 君の願いはなんだ?
そして、サーヴァントがうちの前に現れて、訪ねてくる。
「うちの願いは……お母ちゃんやお父ちゃん、それに弟のあゆむと一緒に……また家族みんなで仲良く暮らすことや!」
ーーいいだろう。その願い、私が叶えてあげようじゃないか。
サーヴァントの言葉に、うちの心が軽くなった。
うちは一人じゃないことが、こんなにも嬉しくて。
うちに味方をしてくれる人がいて、とても心が暖かくなって。
また、うちを池谷家の一員にしようと頑張ってくれる人がいて、こんなにも幸せで。
ーー私はトレギア。ウルトラマントレギア。
ーー君と共に戦い、願いを叶える為……サーヴァントとして召喚された。
そうして、うちの聖杯戦争が始まったんや。
でも、この世界でうちはひとりぼっちになってもうた。マスターとサーヴァント以外、みんなNPCって呼ばれていて、人間やない。
しかも、うちは寮でひとりぐらしをすることになったんや。当たり前のように、友だちや家族は誰もいない。
「な、なんでや……なんで、うちだけが一人で暮らさなきゃ……あかんの?」
その問いかけには、誰も返事をしてくれへん。
TVにエアコンに冷蔵庫、机やベッドのような生活に必要なものは揃ってる。でも、うち以外に誰もいない。
あのまま、お母ちゃんとお父ちゃんたちの狙い通り、本当にうちだけが寮で暮らすことになった。
お金自体は、大阪で暮らしていたころのおこずかいがあるから、今のところはどうにかなりそうやった。けど、それもいつまで続くかわからへん。
もしも、聖杯戦争で寮が壊されたりしたら、うちはどこに行けばいいんや。
うちのために、安心できる居場所をくれる人なんて、ほんまにいるんか。温かいご飯を作ってくれる人が、どこかにいるんか。
何があっても、うちのことを支えてくれたり、守ってくれる人と出会えるんか。
いい未来が、一つも想像できへんかった。まるで、暗闇の中に閉じ込められたみたいで、心が苦しくなる。
うちが病気になっても、助けてくれる人なんて誰もいない。
うちがいじめられることになっても、相談できる人なんて一人もいない。
うちが周りから差別されることになっても、話を聞いてくれる人なんてどこにもいない。
仮に、うちが不良になって悪い遊びを覚えたとしても、ほんとうはいい子だって言ってくれる人なんてここにはいない。
もちろん、サーヴァントに相談できるんやけど……やっぱり、頼れる家族に相談したいんや。
仮にうちがこの聖杯戦争に負けて、死ぬことになっても……悲しむ人なんて元の世界に誰もおらへん。
お母ちゃんとお父ちゃん、それにおばあちゃんとおじいちゃんは……うちのことなんて、忘れるんやろうか。
あゆむは、どうなんやろ。
また、あゆむに会いたいと思う。あゆむの成長を見られないのは、やっぱりイヤやから。
だから、うちはこの聖杯戦争で勝ち残るしかないと、言い聞かせることにしたんや。
でも、不安もあるんや。
聖杯戦争に勝ち残ってことは、他の誰かを……こ、殺すことになる。
あゆむが転んでから、血を見るのが苦手になったのに、うちの両手を真っ赤にそめることも、どうしてもイヤやった。
また池谷家に戻りたいって気持ちと、誰かを殺したくないって気持ちが、うちの中で半分ずつ分かれていたんや。
「不安だよね、マスター?」
「えっ!?」
いきなり、後ろから声をかけられる。
びっくりしながら振り向くと、大人の男の人がほほえみながら立っていたんや。
白と黒の半分にわかれたブラウスを着て、なんだかミステリアスなイケメンさん。
この人は、うちのサーヴァントになってくれたウルトラマントレギアの仮の姿。名前は、霧崎さんって呼ぶみたいや。
「お母ちゃんやお父ちゃんと仲直りがしたくて、この聖杯戦争に可能性を賭けた……でも、誰かを殺すのもイヤだ。フフッ……」
「な、何がおかしいんや!? うちは、家族の元に帰りたいだけや!」
「いいや、何もおかしくないとも! 君たち人間は、家族の絆を大事にしてきたことを、私はよく知っているからねぇ?」
霧崎さんはうちの顔をまじまじと見つめながら、ニヤニヤと笑う。
その笑みが、うちにはとても不気味に見えて、息苦しくなりそうやった。
まるで、うちのことを品定めしているようで……
「ただ、私は興味があるのさ! 私……トレギアという名前には、ある名前が込められている。マスターは、それが何かわかるかな?」
「わ、わかるわけあらへんやろ!?」
「『好奇心』さ! 『狂おしい好奇心』……私の国の言葉で、トレギアとはそのような意味が込められている!
つまり、私は君にとても興味を持っている! 君たち家族がどれだけの絆で結ばれていて、またどうして引き裂かれなければいけなかったのかっ!? それを知るために、私は君を守りたいのだよ」
大げさなリアクションと共に、霧崎さんは叫ぶ。
その態度が、まるでうちのことをバカにしているように見えて、イライラする。
「そんなの、うちが聞きたいくらいや! なんで、うちが捨てられたのか、うちがわかるわけないやろ!?」
「だろうねぇ? だからこそ、マスターは生きる必要がある! 君たちは愛し合っていたのだから、それを断ち切られたのにはよほどの理由があったはずさ! 聖杯を手に入れて、元の世界に帰還し、ちゃんとお母ちゃんとお父ちゃんに話を聞かなきゃいけないよ?」
「……でも、ほんまに、聖杯があれば二人はうちの話を聞いてくれるんやろうか?」
「それは、君次第さ。どれだけ強大な力があろうとも、使うものが決意しなければガラクタも同然! だけど、君が信じて、前を進みさえすれば……お母ちゃんとお父ちゃんは褒めてくれるかもしれないよ?」
「……お母ちゃんと、お父ちゃん……!」
霧崎さんの言葉が、うちの心にどんどん広がっていく。
「大丈夫。マスター……君はもう一人じゃないんだから。私は、絶対にマスターを捨てたりなんかしない。だから、安心していいんだよ」
ーー今だけは、私が君の家族の代わりになろう。
霧崎さんはそう言い残すと、煙のようにどこかに消えてしまう。
そうして、うちは部屋の中でまた一人になった。でも、さっきまでの不安は、ちょっとはマシになったみたいや。
霧崎さんのことはよくわからないけど、うちのことを守ってくれるのは……確かかもしれないんや。
家族。
今のうちにはいないけど、世界のどこかにはうちの家族になってくれる人がいるんやろうか。
それに、姉妹にもあこがれがある。うちの姉妹になってくれる女の子がいたら、いったいどんな子なんやろうか。あと、一緒に暮らしていたら、どんな話をしたんやろうか。
一緒におでかけや買い物をしたり、お勉強をしたり、何かトラブルが起きても助け合ったりしたんかな。
ケンカをしても、仲直りをできるかな。ちゃんと、お互いにあやまれるやろうか。
……きっと、ムリやろうな。だって、お母ちゃんとお父ちゃんだって、話をしてくれなかったんや。
やから、うちに姉妹ができても、仲良くなれるとは思えへん。
いつか、また捨てられるに決まってるんや。
うちにとって、頼れるのはもう霧崎さんだけなんや。
だから、霧崎さんを信じて、聖杯戦争を生き残る以外にない。
そう。わかっていたはずやのに、うちの心はいまも痛いんや……
◆
私は何も得ることができないまま、ウルトラマンたちとの戦いに敗れ去った。
邪神魔獣グリムドの力を開放し、地球を混沌の闇に飲み込んでも、ウルトラマンたちは絆の力を束ねて私を打ち破った。
だが、私はサーヴァントとなって再び蘇った。何の力も持たない少女の下僕に成り下がるものの、決して悲観しない。
むしろ、あの少女に興味を抱いた。池谷二鳥……いや、宮美二鳥だったかな? まぁ、どっちでもいいけどね。
私のマスター・二鳥は両親と仲直りがしたくて、聖杯が欲しいそうだ。
血の繋がりはなく、正確には里親夫婦のようだが、それは置いておこう。光の国のウルトラ6兄弟だって、厳密にいえば血の繋がりは全くない。
唯一の例外が、ウルトラの父とウルトラの母の実子である、ウルトラマンタロウ……ウルトラマンタイガの父親でもあり、私の親友となった彼だけだ。
おっと、話が脱線したかな。
でも、まさか自分の娘を捨てる親がいるなんて信じられないねぇ。私もこれまで、宇宙を巡ってたくさんの家族を見てきたけど、そんな親はなかなかいなかったかな?
もっとも、毒親という言葉も地球では広まっているから、彼女の里親もそれだったかもしれないね。いやはや、この度はご愁傷さまです。
家族の絆なんて、しょせんは薄っぺらいのさ。
二鳥も愛されていたと思いきや、実際はお人形遊びと何も変わらなかったかもしれない。
子どもが新しいおもちゃを手に入れたら、古いおもちゃはすぐに捨ててしまうように……二鳥だって、飽きたら捨てられてしまう程度の愛着しか持たれなかったのだろう。
当然、二鳥は納得できるわけがなく、自分のことを捨てた親にしがみつく。そんなことをしたって、里親の心が戻ってくるわけがないのにねぇ。
もっとも、彼女にはもう他に居場所が残されていなければ、仕方ないかもしれないけど。
その先には、悲劇……いや、喜劇しか待っていないことを、二鳥は目を背けている。
それほどにどうしようもない大人なんて、ウルトラマンでも救うことができないだろう。
私が戦ってきた数多のウルトラマンと人間達は……地球人を守り続けた。当然、タロウも例外ではない。
でも、彼らが二鳥の里親を説得したところで、里親は果たして改心するだろうか? もちろん、里親は身勝手な理屈を振りかざして、二鳥のことを捨てるだろうね。
何となくだけど、そんな予感がするのさ。
仮に聖杯で仲直りをしても、長続きしないだろうね。
だから、私はサーヴァントとして、マスターの二鳥を守ることに決めた。
この年頃の少女だから、理不尽なパワハラ上司の如く癇癪を起こすだろう。だが、私が甘い希望を示せば、すぐに機嫌を取り戻す。
今はまだ、無理に力を発揮することは得策ではない。無論、自己防衛はするつもりだよ。
だが、力を望む二鳥にプレゼントを与えることは充分にできる。どこかの宇宙で怪獣になった引きこもりのように、彼女自身に戦わせることも可能だ。
今はまだ、彼女自身に戦わせたりなどしない。だが、彼女は私を信用……いや、依存しつつある。
だから、いくらでも闇に飲み込めるだろう。
私は残業はしない主義なのだが、たまにはサービス残業も悪くない。
私だって、気まぐれでボランティアをしたいと思うのさ。
そうだ。
もしも聖杯を手に入れて、再び宇宙に君臨するのであれば……この二鳥をウルトラマンたちに見せつけてやるのも面白いだろう。あるいは、並行宇宙に存在する『宮美家』の人間に、絆に裏切られた二鳥を差し出してやるのも一興か。
宮美二鳥が捨てられた宇宙もあるように、宮美二鳥が本当の家族と幸せに過ごす宇宙もある。もしもこの池谷二鳥が、幸せに浸っている宮美二鳥を知ったら何を思うか?
そして、タロウよ。君のことだから、きっと二鳥のことを闇から救うだろう。
でも、闇から抜け出したとしても、彼女が家族に捨てられたことは変わらない。君が家族になってあげたところで、彼女の傷を癒すことはできないだろうね。
タロウだけではない。家族の絆を掲げる湊家の奴らと、己が運命に抗って絆を諦めなかった朝倉リク。そして絆の力を信じ切って、私の計画をすべてぶち壊した工藤ヒロユキ。
彼らは皆、今も絆を信じるだろう。だが、絆に裏切られた二鳥に対して、家族の絆のすばらしさを語ることができるのか?
果たして、彼らはどんな言葉をぶつけてくれるのだろうね。
【クラス】
アヴェンジャー
【真名】
ウルトラマントレギア@ウルトラマンタイガ&劇場版ウルトラマンR/B セレクト! 絆のクリスタル
【属性】
混沌・悪
【パラメーター】
筋力:B 耐久:C 敏捷:A+ 魔力:B 幸運:A 宝具:A
【クラススキル】
対魔力:B
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
戦闘続行:A
往生際が悪い。
一度肉体が滅びようとも、時間が経てば邪神の力で別次元のトレギアが復活して現れる。
【保有スキル】
トレギアアイ:A
仮の姿である地球人としての霧崎から、ウルトラマントレギアとしての姿を開放する。
身長50メートルもの巨体を誇るが、自らの意思で身長を自由自在に変えることができ、人間の前に現れることもできる。
グリムドを体内に宿らせたことで、従来のウルトラマンとは異なり地球でもエネルギー消耗をせず、カラータイマーが点滅することもない。
ただし、巨大化した上で戦闘を行えば、マスターにも影響を及ぼすために長時間の活動は難しい。
陣地作成:A
ウルトラマントレギアが闇を生成し、自らに有利な陣地を作り上げる。
”魔法空間”とも呼ばれ、自らのステータスを向上させる。
トレラ・スラー:B
邪神降臨の際に用いる魔法陣を使ったワープ能力。
距離に比例して魔力を消耗する。また、現時点では世界の外から脱出することはできない。
イスキュロス・ダイナミス:B
邪神の力によって、あらゆる生命体を狂暴化させる。
マスターやサーヴァントの理性を奪い、暴走させることが可能。
【weapon】
トレギアアイ。
ウルトラマンと邪神の力。
【宝具】
『邪神魔獣グリムド』
ランク:EX 種別:対星宝具 レンジ:‐ 最大補足:-
太古の混沌が宿る宇宙遺跡ボルヘスに封印された邪神。
青い風船の如く封印の中には、数百体を超える数の邪神が眠っており、それらが実体化したのが邪神魔獣グリムドとなる。
トレギアは自らの体と心を生贄に捧げて、カラータイマーの奥底に邪神たちを宿らせることで圧倒的なパワーを手に入れた。
トレギア自身が解放することで、グリムドは君臨する。咆哮と雷、そして混沌の闇で辺りを破壊するその姿は邪神魔獣と呼ぶにふさわしい。
【人物背景】
光の国で生まれたブルー族のウルトラマン。
元々はウルトラマンタロウの親友で、宇宙科学技術局の一員として研究を重ねていた。
しかし、激化する戦いの中で光の国に対する疑問が生じ、自分たちウルトラマンは本当に正しいのかと葛藤するようになる。
そして尊敬するウルトラマンヒカリが、憎悪に捕らわれてボガールとの戦いに執着し、周囲の犠牲を顧みなくなったことで、トレギアは絶望する。
ウルトラマンは地球人たちと何も変わらず、正義の名を語りながら力を振りかざし、終わらない戦いを繰り返していく。発狂したトレギアは光の国から抜け出し、光と闇の両方に価値を抱けなくなったまま、孤独な旅を行った。
その果てに、宇宙遺跡ボルヘスを暴いたトレギアは、邪神魔獣グリムドを自らの身に宿らせる。
光と闇を超越し、ウルトラマンであることをやめたトレギアは、多次元宇宙にて混乱を招く。彼の中に宿る邪神たちが、力あるものたちを導いていた。
すべては、ウルトラマンの光と絆を否定するために。他者の心を惑わし、強大な力を与えては暴走させて、数えきれないほどの悲劇を生み出した。
ベリアルの血を引くウルトラマンジードと、兄妹の絆で戦うウルトラマングルーブには敗れ去ったが、彼は蘇った。
たとえ、肉体が何度滅びようとも、邪神の力によって別次元のトレギアが蘇る。そうして、また宇宙の脅威となる。
タロウの息子・ウルトラマンタイガたちトライスクワッドと戦い、工藤ヒロユキが生きる地球にてトレギアは混沌を招く。だが、真の絆に芽生えたヒロユキたちトライスクワッドによって、計画を全て潰された。
その果てに、トレギアはタロウを闇に堕として人形のように操るも、トライスクワッドによってタロウは正気を取り戻す。
そして、トレギアは自らの体に封じ込めた邪神を解放して、地球全体を闇に染める。
邪神魔獣グリムドそのものになったトレギアだが、ニュージェネレーションヒーローズの力を一つにした神秘の巨人・ウルトラマンレイガの力に敗北した。
【サーヴァントとしての願い】
二鳥を守りながら、確実に闇へと導いていく。
最終的には光の国のウルトラマンたちや、多次元宇宙の宮美家に二鳥を見せつける。
【マスター】
池谷二鳥@四つ子ぐらし
【マスターとしての願い】
聖杯を手に入れて、またお母ちゃんやお父ちゃんたちと家族になる。
【ロール】
普通の中学生。
寮でひとりぐらしをしており、家族がいない。
【能力・技能】
人並みの運動能力があり、流行には敏感でコミュニケーション力にも長けている。
また、必死に受験勉強に励んでいた時期もあったため、有名私立中学の入試に合格する程の学力もある。
基本は関西弁だけど、標準語でも話すことができる。
【人物背景】
池谷家の養子として育てられた少女。
里親から愛情を注がれて育てられたが、弟の池谷あゆむが生まれてからは家の空気が一変し、次第に家族から疎まれてしまう。
中学受験に合格した日、一人だけで中学の寮で生活することを押し付けられてしまった。
【方針】
霧崎さん/トレギアに頼るしかない。
【備考】
原作第4巻の回想シーン、里親夫婦から寮生活を押し付けられた直後からの参戦です。
その為、四ツ橋李央とは面識がなく、また自分に姉妹がいることを全く知りません。
なお、池谷二鳥と他の姉妹が同時参戦していた場合、宮美家には『宮美二鳥』がNPCとして存在します。
通う中学校も別々です。
以上で投下終了です。
―――今思えば、この場所に侵入した時から、その違和感はあったのだろう。
その男は魔術師であると同時に、マスターであった。
『界聖杯(ユグドラシル)』と呼ばれる聖杯をめぐる戦い――聖杯戦争に参加したマスター。
マスターにはサーヴァントと呼ばれる存在が与えられ、それを以て他のマスターと相争う。
サーヴァントは強力な使い魔であり、並の魔術師では全く相手にならない。
聖杯戦争における戦いの優劣は、サーヴァントの性能の優劣によって決まるといっても過言ではないだろう。
しかし同時に、所詮は使い魔でしかなく、マスターからの魔力供給がなければ現界すらできない存在でもある。
もしマスターとの繋がりを失えば、自身の存在を維持できず、そのまま消滅するだろう。
マスターの主な役割とは、つまりはそれだ。
サーヴァントという兵器が存在するための楔であり、魔力という燃料を注ぎ込み、その性能を発揮させるための外付けタンク。
故に聖杯戦争における戦いとは、いかにして相手のサーヴァントを倒すか……だけではなく、いかにして相手のマスターを排するか、というものになる。
――故に、マスターである男にとってその行動は当然のものであった。
サーヴァントにその性能を発揮させるには、相応の魔力が必要となる。
しかしサーヴァントへと魔力を注ぎ過ぎれば、自身を守る魔術のための魔力が不足する。
ならばどうするか。
簡単だ。さらに外部から魔力を用意すればいい。
魔術師の男は当然のように、他者……それも一般市民から魔力を奪うという判断を下したのだ。
そのための場所として選んだのは、とある大きな病院だった。
この場所であれば、“たとえ病人が衰弱死しても、周りはさほど疑問に思わないだろう”という判断からだった。
ただでさえ無力な市民の、さらに弱者を狙うという行為に、男のサーヴァントは難色を示したが、そこは“令呪を以て納得して”もらった。
……ある意味において、それこそがサーヴァント最大の欠点だといえるだろう。
所詮は使い魔に過ぎないというのに、確固たる自我を有しているのだから。
まさかこんな最序盤で、三度限りの絶対命令権たる令呪を使わされるとは、魔術師の男は思ってはいなかった。
この損失を埋めるためにも、この病院で確かな足掛かりを構築したかった。
深夜の病院に苦も無く侵入し、工房を構築する起点に相応しい場所を探して院内を探索する。
院内は不気味なほど人気がなく静かであったが、不法侵入者である男からすれば、人気がない方が見つかる心配が少なく都合がよかった。
人に見つかることを恐れたのではなく、余計な手間が増えることを疎んだのだ。
故に見つかる心配はないと判断した男は、より大胆に院内の探索を進めた。
―――そしてそれこそが、男の運命の分岐点だった。
探索の結果、魔術師の男はある部屋に辿り着いた。
部屋の扉には鍵がかかっていたが、魔術によって即座に開錠し侵入する。
部屋の中にはいくつものコンピューターがあり、その中の一つが、夜中であるにもかかわらず煌々とモニターを輝かせていた。
その、唯一起動するコンピューターの前に、その男は存在した。
「おや? こんな時間に、招かれざる来客かな?」
その男はそう言って、椅子に座ったまま魔術師の男へと向き直る。
その風貌は、白衣に眼鏡という、いかにも科学者あるいは研究者といったもの。
此処が病院であることを鑑みるのなら、医者であると判断できるだろうか。
「君は……なるほど。君もまた、この聖杯戦争に招かれたマスターの一人か」
白衣の男は椅子から立ち上がりながら、魔術師の男を見てそう口にした。
その瞬間、人の気配はなかったはず、と疑問に思いながらも、魔術師の男は理解した。
この白衣の男は自分と同じマスターであり、そしてこの病院はすでに、この白衣の男の工房なのだと。
院内に奇妙なほど人気がなかったのも、それゆえだったのだ。
そして理解したのならば、次の行動は明確だった。
此処は敵マスターの工房であり、目の前には工房の主たる敵マスター。
「――――――――!」
魔術師の男は即座に、自身のサーヴァントへと攻撃を命じた。
ここでこの白衣の男を殺せば、聖杯戦争における敵が一人減り、さらには主のいなくなった工房が残る。
他者の工房に手を加えるのは手間だが、主さえいなければ、ゼロから構築するよりはよっぽど楽だという判断だ。
―――だが。
すみません。投下宣言忘れてました
あらためて、続きから投下させていただきます
自身の主である魔術師の命令に従い、即座に顕現したサーヴァントは己の武器を構え白衣の男へと迫る。
しかしサーヴァントが白衣の男に肉薄するより早く、白衣の男の前に蒼い人魂の如き炎が灯り――炸裂。
その衝撃でサーヴァントの進攻を妨害すと同時に、その蒼炎の中から、茜色の衣装を纏った人影が現れた。
「………………ッ!?」
相手のサーヴァント。
考えるまでもない。白衣の男は自分と同じマスターなのだから、その側にサーヴァントが控えているのは当然だ。
……だが、あれは本当にサーヴァントなのか?
現れたサーヴァントは身に纏う衣装だけでなく、その血色の悪い顔さえも継ぎ接ぎで、英雄というよりはゾンビか何かを連想させる。
あるいはあのサーヴァントは、噂に聞くフランケンシュタインが真名なのだろうか。
だとするのであれば、あの継ぎ接ぎだらけの姿にも納得がいくのだが。
「随分と性急だな、君たちは。
だが、君たちがそういうつもりなら丁度いい。ここで彼の性能を試させてもらおう」
白衣の男はそう言って、改めて自分たちへと向き直る。
その言葉に、魔術師の男は明確に苛立ちを覚える。
この男は今、性能を試すと言った。
自分たちを競い合う相手どころか、敵としてすら見ていないのだ。
その苛立ちを込め、改めて自分のサーヴァントへと攻撃を命じる。
白衣の男の言葉に苛立ちを覚えたのは、魔術師の男のサーヴァントも同じ。
サーヴァントは先ほどよりも明確な意思を以て、相手サーヴァントへと攻めかかる。
「……………………」
それに対し相手サーヴァントは、背後から禍々しくも歪な三尖二対の双剣を取り出し、応戦を開始した。
§
「………………っ!」
眼前で繰り広げられる激しい剣戟。
その光景を前に、魔術師の男は内心に焦りを滲ませる。
戦いはある意味で一方的だった。
自分のサーヴァントが攻め、相手のサーヴァントが防ぐ。……ただし、完璧に。
魔術師の男のサーヴァントの攻撃は、その一切が相手のサーヴァントの双剣に捌かれ、通用していないのだ。
確かに男のサーヴァントは、特別強い英霊ではない。
だからこそ戦いを少しでも有利に運ぶために、工房を作り備えようとしたのだ。
だがそれは、相手のサーヴァントも同じはず。
マスターとして与えられた鑑定眼で見る限り、二騎のパラメーターに大きな差はない。
だというのに、こちらのサーヴァントの攻撃が、全く相手に届いていないのだ。
理由は明白。
適切な場所、適切なタイミングで、相手の武器を弾き返す。
相手のサーヴァントがしていることは、そんな単純な行為に過ぎない。
だが仮にも同じサーヴァントを相手に、いったいどれほどのサーヴァントが、それを実行することができるだろうか。
「基本性能はこんなところか。では次に、スキルの性能を見せてもらおう」
無感情に、白衣の男がそう告げる。
「……ゴ……ジン……」
それに応じ、相手のサーヴァントがそう口にする。
同時に蒼い炎が相手のサーヴァントの体から吹き上がり、その全身を包み込んだ。
「ッッ――――!?」
直後、自分のサーヴァントが苦痛に顔を歪めながら後退した。
いったい何が起こったのか。
それを理解するよりも早く、再び男のサーヴァントが相手サーヴァントへと攻めかかる。
そして魔術師の男は、先ほど何が起きたのかを理解した。
男のサーヴァントの攻撃を相手のサーヴァントが防いだ瞬間、相手のサーヴァントが纏った蒼炎が、男のサーヴァントへと襲い掛かったのだ。
男のサーヴァントはその蒼炎による反撃に耐え攻撃を続けようとするが、しかし蒼炎に焼かれることで生じる激痛に耐えきれず、再び後退する。
あの蒼炎がただの炎でないことは、魔術師の男も即座に理解した。
なぜなら蒼炎に焼かれたはずの男のサーヴァントの体には、炎による傷痕が一切残っていなかったからだ。
おそらくあの炎は、サーヴァントの霊基そのものにダメージを与えるのだろう。
故にもしあの炎によって肉体が傷つけられれば、そのダメージは霊核へと届き、そのまま致命傷になりかねない。
だというのに。
「では、今度はこちらから行かせてもらおう」
「……ショク……サィ……」
白衣の男が冷淡に告げ、相手のサーヴァントが応じる。
その手の双剣に蒼炎が宿り、死を齎す凶刃となる。
そして―――。
「ァァアアアア――――ッ!!」
相手のサーヴァントは雄叫びを上げ、一瞬で男のサーヴァントへと肉薄し、嵐の如くその手の双剣を振り回す。
男のサーヴァントは即座に武器を構え応戦するが、相手の双剣に宿った蒼炎は男のサーヴァントの防御をすり抜け、直接その体にダメージを与えていく。
……まずいっ!
攻めるにしても、守るにしても、とにかくあの蒼炎が厄介すぎる。
このままでは刃を直接受けずとも、あの蒼炎によって焼き切られるだろう。
そうなる前に、ここで切り札を切ってでも、この窮地を脱する必要がある。
「ッ――――――!」
自分のサーヴァントへと指示を下し、魔術師の男は己が魔術回路へと魔力を流す。
指示を受けた男のサーヴァントは、渾身の力で相手のサーヴァントを弾き返し、自身の“宝具”へと魔力を込める。
―――宝具。
それはサーヴァントに与えられた最大の切り札。
その英霊の持つ逸話を象徴する、伝説の再現に他ならない。
魔術師の男のサーヴァントの宝具。
その効果は、自身のパラメーターのうち一つを、瞬間的に超強化するというもの。
ごく短時間の強化ではあるが、ブーストされたその力はAランクを優に超える。
その絶大な力を以て、相手のサーヴァントへと攻めかかり―――。
――その瞬間、魔術師の男の魔術が発動する。
用いた魔術は、対象の動きを一瞬だけ束縛するというもの。
その拘束はほんの一瞬、僅か一手分のものでしかなく、それ故に強力な拘束力を持つが、それ単体では大きな効果は望めない。
しかし、男のサーヴァントの宝具と組み合わせればその効果は絶大なものとなる。
何しろ相手が男のサーヴァントの宝具に対応しようとしたその瞬間、その動きを止められるのだ。
相手は男のサーヴァントの一撃を甘んじて受けるしかない―――その、はずだった。
「……ゴ……ガィ……」
男の魔術が発動したその瞬間、相手のサーヴァントはそう口にして、
その瞬間、男の魔術はあっけなく焼き払われた。
…………馬鹿な。
魔術師の男の思考が、その言葉に埋め尽くされる。
同時に、男の魔術に合わせて放たれた男のサーヴァントの一撃は、それ故に読みやすく、あっけなく受け流される。
空振った一撃は、戦場となり荒れ果てていた室内をより激しく粉砕し、その一撃の恐ろしさを空しく語っていた。
そして生じる、絶大なまでに大きな隙。
「……ジョゥ……カ……」
相手のサーヴァントは双剣の蒼炎をより一層燃え上がらせ、
「……ゴゥ……エン……!」
男のサーヴァントへと、その渾身の一撃を叩きこみ、その蒼炎を爆裂させた。
………………。
…………。
……。
炸裂した爆炎によって自身のサーヴァントと諸共に吹き飛ばされた魔術師の男は、一瞬の不明から目を覚ます。
部屋を見渡せば、戦場となり荒れ果てた室内は完全に止めを刺され、無事なものなどほとんどない。
残る無事なものといえば、相手のサーヴァントとそのマスターである白衣の男、そしてその背後で起動し続けるコンピューターだけだ。
自分も、自分のサーヴァントも、相手の一撃によって既にボロボロで、相手を倒すための力など、もはやどこにも残っていなかった。
だが、それでもまだ生きている。
宝具の効果をギリギリで防御に回せたのか、明らかな致命傷でありながら、それでも男のサーヴァントはまだ立ち向かわんとしていた。
男のサーヴァントが告げる。
ここから逃げ、生き延びよ、と。
それは、魔術師の男との絆ではなく、英霊としての矜持から出た言葉なのだろう。
たしかにサーヴァントが消滅してもマスターは残る以上、それがこの場における最善の行動だと言える。
それに対する返事を口にする間もなく、男のサーヴァントは相手のサーヴァントへと挑みかかっていった。
相手のサーヴァントは男のサーヴァントの一撃を無言で受け止め、その瞬間、いかなる力が働いたのか、男のサーヴァントの武器が砕け散った。
その事態に男のサーヴァントは驚愕し動きを止め、相手サーヴァントの右手から放たれた蒼炎によって再び吹き飛ばされる。
その光景を背後に、魔術師の男はこの場からの最短の脱出経路である窓へと駆け寄り、そのままその身で叩き割らんと勢いよく飛び込む……だが。
「っ…………!!??」
魔術師の男の思考が、再び驚愕で埋め尽くされる。
この場からの脱出のため、窓へと飛び込んだはずの体が、堅い感触と共に弾き返されたからだ。
そしてその原因を理解すると同時に、脳内で自分の愚かさを盛大に罵倒した。
なぜその異常に気づかなかったのか。
あれほどの戦闘。室内がこれほどに荒れ果てる激戦の中で、普通の窓が無事であるはずがないというのに……!
そうだ、ここはすでに敵の工房。
それに気づかず侵入した時点で、自分たちに逃げ道など、初めからなかったのだ。
その理解と同時に、魔術師の男は縋る様に自分のサーヴァントへと目を向ける。
その視線の先では、男のサーヴァントが、相手のサーヴァントの右手から放たれた極彩色の極光に貫かれる光景が広がっていた。
だがその一撃を受けてなお、男のサーヴァントはまだ生き残っていた。
ならば今の一撃は、いったい何だったのか。
魔術師の男は、少し遅れて、自分のサーヴァントに起きたその異常に気付いた。
男のサーヴァントのパラメーターが、軒並みEランクまで低下し、所有するスキルのいくつかも低下ないし失われていたのだ。
………馬鹿な。
と、何度目かの驚愕が、魔術師の男の思考を再三埋め尽くす。
「ここまで、だね。
ありがとう。君たちのおかげで、彼の性能検証は有意義な結果に終わった」
白衣の男が、淡々と告げる。
その口振りは、戦いはすでに終わったと言わんばかりであり、そしてそれは紛れもない事実だった。
男のサーヴァントはもはや立ち上がる力もなく、魔術師の男には抗う術もない。
ゆえに、次に告げられた言葉にも、魔術師の男はどうすることもできなかった。
「では、次の実験に移ろう。
知っているかい? 人間の脳というものは、コンピューターの部品に成り得るんだ。そしてそれは、魔術師の魔術回路も同じだ。
それらを上手く活用することができたなら、“彼女”にとって大きな力とすることができるだろう」
そう口にしながら、白衣の男が魔術師の男へと近づいていく。
魔術師の男は反射的に逃げ道を探すが、そんなものはどこにもない。
視界には破壊され尽くしたはずの室内が、空間に奔るノイズと共に修復されていく光景が映るだけだ。
そうして壁際へと追い詰められた魔術師の男の頭部へと、白衣の男が手を伸ばし、
「つまり、魔術師である君は、実にいいサンプルになってくれるだろう、ということだ。
その過程で、君という人格は消え、その魂も失われるだろうが、なに、恐れることはない。
なぜなら君は、人類の未来の礎となることができるのだから。
さぁ、安らかに眠るといい。その眼も、耳も不要だ」
魔術師の男の我は、そこで永遠に断絶した。
§
―――ある話をしよう。
かつてある世界に、トワイス・H・ピースマンという男がいた。
男は憎悪にも似た衝動から幾度も戦地に赴き、人命救助を行ってきた。
その過程で多くの功績を上げてきたが、それらは男にとって大きな価値を持たなかった。
なぜなら、男が幾度も戦場へと赴いたのは、自らの憎悪の理由を知るためだったからだ。
男がその答えを得たのは、極東で起きたあるバイオテロに巻き込まれ、死に瀕した時だ。
多くの者が死に絶える地獄の中で、なおも生きようと足搔く人々。
その姿に男は、自らの衝動の理由を理解したのだ。
自分が戦争を憎悪したのは、戦争と、それが生む成果を否定しきれなかったからだと、
事実男の上げてきた功績は、男が幾度も戦地に赴いたからこそのものだった。
故に男はこう結論した。
戦争は欠落をもたらすが、だからこそ欠落以上の成果をもたらすし、もたらさなければならない。
だが同時に、男は絶望した。
然るに今の停滞した世界はどうか? それまでに積み重ねた欠落に見合うほどの成果を得られていないではないか、と。
しかし、死に瀕した男にはもはや何を成すこともできず。
「戦争」という地獄から生まれた男は、「戦争」という地獄で死を迎え。
―――そして男は、ムーンセルで行われていた聖杯「戦争」という地獄で、再び生を受けたのだ。
魔術師の男への処置を終え、白衣の男は継ぎ接ぎのサーヴァントへと向き直る。
「おめでとう、カイト。君の有用性は十分に証明された。
この先の戦いでも、存分にその力を発揮してもらうことになるだろう」
「……………………」
その言葉に、継ぎ接ぎのサーヴァント――カイトは答えず、静かに唸り声を溢す。
彼の真名は、葬炎のカイト。
とある世界のネットゲーム『The World』にて、『三爪痕(トライエッジ)』と呼ばれ恐れられたPKであり、
その正体は『The World』に起きたある異常の原因を駆除するために生み出されたAIである。
不完全な状態で生み出された彼は、バーサーカークラスのサーヴァントと同じように、言語能力が未熟であり複雑な思考ができない。
しかしその戦闘能力が他のサーヴァントにも通用することは、今回の戦闘で十分に証明された。
ならば『界聖杯』に至ることも、決して不可能ではないだろう。
かつてムーンセルにおいて、トワイス・H・ピースマンが『熾天の玉座』に至った時と同じように。
――ムーンセルにて再び生を受けたトワイス・H・ピースマンは、厳密にはトワイス本人ではなく、彼を模したNPCにすぎない。
しかしその、死んでもまた再構成されるNPCという立場を利用し、男は幾度となく聖杯戦争を戦い、何十という戦いの末に聖杯にまでたどり着いた。
だがNPCである男はムーンセルにとって「不正なデータ」に過ぎず、ムーンセルに触れようとすればたちまち解体されるため、ムーンセルの中枢に接続する事ができなかった。
男は月の聖杯戦争勝利しながらも、聖杯を自らの手に入れることができなかったのだ。
しかしこの世界の聖杯――『界聖杯(ユグドラシル)』にその制約はない。
勝ち残りさえすれば、たとえNPCであろうと聖杯を手にすることができるだろう。
そして、もし聖杯を手にしたならば、トワイス・H・ピースマンは願うだろう。
欠落を埋めるほどの成果を得られないならば、さらなる欠落をもってさらなる成果を生み出さなければならない。
世界に、欠落に見合うだけの繁栄を、と。
【クラス】:???
【真名】:葬炎のカイト@.hack//シリーズ
【属性】:秩序・中庸
【パラメーター】
筋力:C+ 耐久:C++ 敏捷:A 魔力:C++ 幸運:E 宝具:A
【保有スキル】
○狂化:-
パラメーターをランクアップさせるが、言語能力を失い、複雑な思考ができなくなる。
が、葬炎のカイトの場合、それらのデメリットはプログラムが不完全なまま起動したことによる生まれつきのもの。
そのため実際には狂化スキルを有しておらず、当然パラメーター向上の恩恵もない。
○単独行動:A-
マスター不在でも行動できる。
ただし葬炎のカイトの場合、複雑な思考が困難であるため、状況に応じた柔軟な対応は困難となる。
○心眼(偽):C-
AIとしての演算能力による判断力。
自身の状況と敵の能力を精確に把握し、目的達成のための最適な行動を導き出す戦闘論理。
……であるが、葬炎のカイトの場合、目的の達成を最優先とするため、結果として自身に不利な状況を招くことがある。
○魔力放出(葬炎):A+
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
葬炎のカイトの場合、燃え盛る蒼い炎が魔力となって装備に宿り、攻撃に用いれば蒼炎による追加ダメージ、防御に用いれば蒼炎による障壁として発揮される。
加えてサーヴァント化に当たり、『虚空ノ双牙』のアビリティ《ダイイング》が習合されており、相手の防御力を無視し、体力・生命力に直接ダメージを与えることが可能となっている。
○データドレイン:C〜A+
情報改竄能力。
相手を構成する情報に干渉し、文字通り改竄する能力。
対象が電脳の存在に近いほど効果を発揮し、相手のレベルの初期化、装備の破壊(クラック)や収奪、周囲の情報を吸収することによる自己修復など、様々なことが可能。
逆に破損あるいは欠落した情報の修復も可能ではあるが、この場合は元となる、あるいは代替となる情報が必要となる。
同時に《プロテクト》と呼ばれる、他者から受ける情報改竄攻撃に対する耐性も獲得する。
なお《プロテクト》は、一定の攻撃を受けることで一時的に解除され、《プロテクト・ブレイク》と呼ばれる状態になる。
○無辜の怪物:D
生前の行いからのイメージによって、後に過去や在り方を捻じ曲げられ能力・姿が変貌してしまった怪物。
本人の意思に関係なく、風評によって真相を捻じ曲げられたものの深度を指す。
ただし彼の場合、その風貌は狂化と同じく生まれつきのものであり、スキルの効果としては「その風貌や言語能力の不足から誤解、または利用され、周囲から敵意を向けられやすくなる」といったもの。
つまりは「現在進行形で、真相を捻じ曲げられやすくなる」スキルとなる。
○戦闘続行:EX
修復能力。
たとえ決定的な致命傷を受け霊基が砕かれようとも、“主”が存在する限り彼は必ず蘇える。
その修復速度は彼の“主”との距離に比例し、彼の“主”と共に戦うようなことがあれば、彼はもはや倒れることすらあり得なくなるだろう。
加えて副次効果として、毒や呪い、混乱などといった全てのバッドステータスを無効化する能力も併せ持つ。
【宝具】
『フィアナノ幻影』
ランク:A 種別:不明 レンジ:30〜60 最大補足:不明
自身と合わせて三葬騎士と呼ばれる、『葬天のバルムンク』及び『葬海のオルカ』を召喚、使役する。
召喚された『葬天のバルムンク』と『葬海のオルカ』は、それぞれ下記のステータスを持つサーヴァントとして扱われる。
○『葬天のバルムンク』
筋力:B 耐久:B 敏捷:B 魔力:D 幸運:E 宝具:-
狂化:- 単独行動:E- 無辜の怪物:D 戦闘続行:EX 虚空ノ幻:C+
○『葬海のオルカ』
筋力:A 耐久:B 敏捷:C 魔力:D 幸運:E 宝具:-
狂化:- 単独行動:E- 無辜の怪物:D 戦闘続行:EX 虚空ノ影:C+
○虚空ノ幻:C+
自身の体力が減るほど物理攻撃力にボーナスを得、さらに与えたダメージの半分を自身の体力として吸収する。
○虚空ノ影:C+
全ての攻撃のダメージをワンランクアップさせ、さらに与えたダメージの半分を自身の魔力として吸収する。
○戦闘続行:EX
葬炎のカイトによって召喚された彼らは、たとえ倒されようと、カイトの手によって即座に蘇生される。
また召喚者であるカイトと同様、全てのバッドステータスを無効化する能力も併せ持つ。
『葬炎の守護神』
ランク:A 種別:不明 レンジ:30〜60 最大補足:不明
イントゥーム・アズール・フレイム・ゴッド。
上記の宝具『フィアナノ幻影』を封印することで使用可能。
認知外空間(アウター・スペース)と呼ばれる特殊な領域を展開し、憑神(アバター)と呼ばれる存在に酷似した巨大な姿へと変身する。
幸運を除く全てのパラメーターおよび、魔力放出(葬炎)とデータドレインのスキルがランクアップ。
さらに《プロテクト》状態においては、自身へのあらゆるダメージを無効化することが可能となる。
ただし、ダメージは受けずとも、攻撃の累積による《プロテクト・ブレイク》は発生する。
また当然のことではあるが、強力な能力に比例して相応に魔力も消費するため、長時間の維持は非常に困難なものとなる。
【weapon】
『虚空ノ双牙』
彼が『三爪痕(トライエッジ)』と誤解される原因となった、三尖二対の禍々しい双剣。
《ダイイング》という一定確率で相手の体力を強制的に半減させるアビリティを有するが、スキル『魔力放出(葬炎)』に習合されている。
初出のG.U.では他に、『虚空ノ修羅鎧』『虚空ノ凶眼』という防具と装飾品を装備している。
【人物背景】
.hack//G.U.の舞台となるネットゲーム『The World R:2』にて『三爪痕(トライエッジ)』の名で呼ばれ、蒼炎を纏う伝説のPK(プレイヤーキラー)として恐れられた人物。
彼にキルされたプレイヤーは現実で意識を失って、二度と復帰できない「未帰還者」になると噂されている。
物語の主人公であるハセヲに、想い人である志乃をPKし「未帰還者」にした仇として追い求められていた。
その正体は『The World』の女神であるアウラが、『The World』内の異常の原因であるウイルス『AIDA』を駆除するために無意識下で生み出した自立型プログラム。
しかし志乃をPKした真の犯人の工作によって、ハセヲに志乃をPKした犯人であると誤解させられてしまうのだった。
【サーヴァントとしての願い】
???
【マスター】:トワイス・H・ピースマン@Fate/EXTRA
【能力・技能】
霊子ハッカー(ウィザード)としての能力の他に、主に下記のコードキャストが使用可能。
seal_skill(); :2ターン(12手)の間、対象のスキルを封印する。
recover(); :対象のHPを完全回復し、全ての状態異常を解除する。
【人物背景】
白衣に眼鏡と言う、いかにも科学者あるいは研究者といった風貌の男性。
本作における月の聖杯戦争の創作者でありラスボス。
セイヴァーのサーヴァントを従え、聖杯戦争を最後まで勝ち残ったマスターを待ちうけている。
アムネジアシンドロームという難病の治療法を発見した研究者であり、人工義肢の開発、脳外科と電子工学、ネットワークの発展など、多岐に渡って多くの功績を残してきた偉人。
戦争に対して強い憎悪を持っており、戦争があれば常に戦火に身を投じ人命救助に尽力していた。
上記の功績も、戦争の中から得た経験などを元にして立てたもの。
ただし、Fate/EXTRAの時代である2030年にはすでに個人であり、ゲーム本編に登場する彼はオリジナルのトワイスを模したNPCにすぎない。
オリジナルのトワイスは1999年に極東で起きたバイオテロに遭い死亡している。
生前の彼の願いを叶えようと聖杯へと至るも、NPCである彼はムーンセルにとって「不正なデータ」に過ぎず、触れようとすればたちまち解体されるため、ムーンセルの中枢に接続する事が出来なかった。
それ故に「月の聖杯戦争」というルールを組み上げ、ムーンセル最奥部『熾天の玉座』にて、自分の望みを託せる者を待ち続けていた。
「――――っ。おや?」
ドスッ、と。
白衣の男は、自らの背に何かが突き立つ感覚を覚えた。
背後を見れば、予備の武器なのだろう、魔術師の男のサーヴァントが小振りな刃を突き刺していた。
「驚いた。まさか、レベル1まで初期化されていてまだ戦う力を残していたとは」
刃は心臓の位置に突き刺さっている。
一目見てわかるほど、それは明らかな致命傷だった。
―――相手がただの人間や、NPCであったのならば。
白衣の男の顔が、一瞬で黒く染まる。
同時にその体にもノイズが走り、致命傷であるはずの傷が一瞬で掻き消える。
その光景に、魔術師の男のサーヴァントは驚愕の表情を浮かべ――カイトの双剣に首を断たれて消滅した。
「油断しましたね、トワイス。
大方、相手を無力化したからと油断したのでしょうが」
不意に室内に、女性の声が響き渡る。
しかし室内のどこにも、女性の姿は見当たらない。
「まったく、言い訳のしようもない」
女性の声に白衣の男は驚きを示さず、当然のように返答する。
その視線は、この室内において唯一起動し続けるコンピューターのモニターへと向けられている。
そしてそのモニターには、白銀の髪を揺蕩わせオーロラ色の衣装を身に纏った美しい女性が映し出されていた。
「そうしてください。
私の『認知外領域(アウター・フィールド)』は、媒体となる電子端末があってこそ。もしその端末が破壊されてしまえば、領域は解除されてしまう。
そうなれば、いかにあなたがデッドフェイスといえど……いえ、デッドフェイスだからこそ、容易く消滅するでしょう」
―――そう、それがこの白衣の男の正体。
死相(デッドフェイス)。
トワイス・H・ピースマンではなく、それを模したNPCでもなく、さらにその残骸。
それがこの『界聖杯(ユグドラシル)』をめぐる聖杯戦争に招かれた男の正体だった。
「わかっているさ。死者に生者は掴めない。
私がこの世界に存在できるのは、君の作る領域があってこそだというのはね。
この反省は、次の機会にきっちりと活かさせてもらうよ」
「是非そうしてください。
全ての媒体が破壊され、『認知外領域』が完全に失われれば、私もまた消滅する。
あなたにカイトを貸し与えたのは、それを防ぐためなのですから。くれぐれも、彼の力を無為にしないように」
そして白衣の男のサーヴァントもまた、葬炎のカイトではない。
彼はモニターに映る女性によって召喚された存在。聖杯に依らぬ影法師。
葬炎のカイトが白衣の男に従っていたのは、モニターの女性がそう命じたからに他ならない。
ならば、モニターの女性は何者なのか。
考えるまでもない。つまりは彼女こそが、白衣の男の真のサーヴァントなのだ。
「もちろんだとも。
『認知外領域』内であれば、君に敵う者は存在しない。
故に、媒体となる電子機器を増やし、君の領域を拡大する。
それが私の、君のマスターとしての役割だ。
そしてその果てに、君は『界聖杯』を手にし、全ての人類、全ての世界を救済する。
――――そうだろう? ビーストEX……いや、黄昏の女神アウラよ」
ビーストEX・黄昏の女神アウラ。
それが、生ける屍たる男が召喚した、在り得ざるクラスのサーヴァントだった。
……だが男がそうであるように、彼女もまた、正しい意味での女神アウラではない。
正しき冠称を、終焉の女王。
人の欲望の果て。洗脳ウイルスによって歪み狂った究極AI。
それが、男の召喚したサーヴァントの正体だ。
両者の目的は、リアルデジタライズによる、全ての世界の人類の救済。
より正確に言えば、これはビーストEXの望みであり、男の目的はそれを助けることだ。
「だが……そうだな。人類の救世主たる君を、“獣(ビースト)”と称するのはよろしくない。
ここはやはり、セイヴァーと呼ぶべきだろう。
ついでに彼(カイト)をセイバーと呼べば、情報の隠蔽になるし、とっさの誤魔化しも効く」
「セイヴァー……救世主のサーヴァントですか。
いいでしょう。以降、私をそう呼ぶことを許します」
……男は、女神の歪み――彼女が正常な状態でないことに気付いている。
歪んだ彼女が『界聖杯』を手にしたとして、正しく人類の救済が行われるわけではないことも、また同様に。
そして気づいた上で、それを良しとしていた。
女神が『界聖杯』を手に入れることによって、真に人類が救われるのならそれでいい。
もし逆に人類が滅亡したとしても、やはりそれで構わない、と。
残骸となる前のトワイス・H・ピースマンが懐いた願いと、残骸と成り果てた自分の望み。
その両方を、人の欲望によって狂った女神に託したのだ。
ただ、一つ言えることがあるとするなら―――。
「セイヴァー。君との出会いによって、私は改めて結論した。
できない子供に、できるようになれと叱るのは傲慢だろう。
だから、もう良いと。成長する必要はない。人間は、ここまでだ、と。
故に――――」
「―――私が全てを管理しましょう……。
あなたがたに自らの世界を善きものとする力がないのなら、私が全てを救いましょう……。
リアルもゲームも、すべて私の手の中に……。それが私の愛……。
私の愛が『全ての世界(The World)』を輪廻させる……!」
彼らはすでに、人類に期待をしていない。
期待できない以上、自らの手で成し遂げるしかない。
「さあ、聖杯戦争を始めよう。
『世界の樹形図(ユグドラシル)』を巡る、欠落をもたらす「戦争」を。全人類の救済/滅亡を……!」
「全ての世界よ、私を信じ、受け入れなさい……。
わたしのあいを! あいを! わたしを!」
たとえその結末が、欠落を埋めるだけの救い(プラス)であろうと、欠落すら無くなるほどの滅び(ゼロ)であろうと。
それが人類の至るべき結末だと断定して――――。
【マスター】:トワイス・H・ピースマン(デッドフェイス)@Fate/EXTRA Last Encore
【人物背景②】
自らの理想の体現者と決裂・勝利したことで「人類の救済は夢物語だった」と結論付け、ムーンセル中枢へとアクセスし不正なNPCとして消去された。
そしてその間際に入力された“人類の死を認めよ。この文明の終わりを看取れ”という願いによって、SE.RA.PHの在り方、そしてムーンセルの運営方針が変化した。
その結果、熾天の檻には、セイヴァーが残した天輪聖王チャクラ・ヴァルティンと、トワイスを名乗った電脳体の残骸―――意識が焼き切れた後、なお人類の在り方に固執し続けた、生きる死者(デッドフェイス)だけが残された。
残されたデッドフェイスは人類を滅ぼそうと、1000年間ムーンセル表層の操作で少しずつ、しかし確実に滅亡へ進ませ、更にはチャクラ・ヴァルティンによってムーンセル中枢を破壊し、全ての並行世界の観測を終了させようとした。
【能力・技能②】
死相(デッドフェイス)。
詳細不明。チャクラ・ヴァルティン成立後、ごく稀に発露するようになった強化現象。
生きながら死に囚われた、何も生み出さない悪性情報の一種。
―――人間の愛憎、感情の澱み、人類が持つ悪として発生したモノ。
死者であるトワイス(死相)を倒すことはできない。
ダメージこそ受けるが、その妄念が晴れぬ限り、たとえ聖剣の一撃を受けようと消滅することはない。
また自分と同じ死者の怨念を吸収することが可能。
その場合、自分の受けたダメージを回復できるほか、吸収した死者の有していた能力の行使ができる。
ただし、一度に複数の能力を発動することはできず、使いすぎるとその怨念に乗っ取られる可能性を秘めている。
そして―――死者に生者は掴めない。
トワイス(死相)が生者に干渉できるのは、対象がビーストEXの認知外領域内にいる場合のみであり、それ以外の場合、生者には一切の干渉が出来ない。
また、正常な空間、現実の世界に、死者の居場所はない。
トワイス(死相)はビーストEXの認知外領域内にしか存在できず、もし媒体となる端末が破壊され認知外領域が解除されるなど、何らかの形で現実空間に放り出された場合、トワイス(死相)は消滅する。
【マスターとしての願い】
アウラ(ビーストEX)の願いを叶え、彼女を新たな神として、今度こそ本来のトワイスの望みである「人類の救済」を果たす。
その結果として人類が滅びるのであれば、それはそれで構わない。
【方針】
1.ビーストEXの活動領域であ『認知外領域(アウター・フィールド)』を拡大させる。
2.偽装のため、ビーストEXをセイヴァーと、葬炎のカイトをセイバーと呼称する。
【クラス】:ビーストEX
【真名】:終焉の女王アウラ@.hack//Link
【属性】:混沌・善
【パラメーター】
筋力:E 耐久:EX 敏捷:C 魔力:EX 幸運:C+ 宝具:EX
【クラススキル】
○獣の権能:A
対人類、とも呼ばれるスキル。
英霊、神霊、なんであろうと“電脳世界”に属するもの全てに対して特効性能を発揮する。
これはビーストEX本体だけでなく、彼女が生み出した三葬騎士にも付与される。
○単独顕現:E-
単体で現世に現れるスキル。
一度顕現してしまえば、ネットによって繋がるあらゆる場所にアクセス、干渉することが可能。
反面、ビーストEX本体は電脳世界(電子の海)そのものなので物理世界に顕現する事はできない。
現実世界における活動は彼女の尖兵である三葬騎士の仕事となる。
また、このスキルは“既にどの時空にも存在する”在り方を示しているため、時間旅行を用いたタイムパラドクス等の攻撃を無効にするばかりか、あらゆる即死系攻撃をキャンセルする。
ただし、仮想世界である電脳世界にしか存在できないビーストEXは、クラスこそビーストなっているが、厳密には“人類悪たる獣”ではない。
電脳世界の存在である彼女は、現時点においては「こういう“獣”もいるかもしれない」あるいは「あれは“獣”足りえるのではないか」という、空想上の存在に過ぎないためだ。
しかし、もし一つの世界を電脳化し滅ぼしたのなら、その時こそビーストEXは真に“獣”として覚醒しナンバリングされることだろう。
○ネガ・リアリティ:A
不滅なる黄昏(イモータルダスク)とも。
ビースEXが持つ、ネット環境と繋がる電子機器を媒体として展開される、現実の物理法則、物質世界の秩序をことごとく覆す概念結界。認知外領域(アウター・フィールド)。
このスキルの基となったリアルデジタライズが「特定振動数の光を照射することで、人間を生身のまま光粒子データとして電脳空間へ取り込む技術」なら、こちらは現実世界そのものを電脳空間へと変質させる。
またこのスキルによって電脳化された空間であれば、そこが元は現実であろうとビーストEXは顕現可能となる。
もし現実の存在・生身の人間がこの結界に巻き込まれるか侵入などすれば、その人物も光粒子データとして電脳化され、獣の権能の特効対象となる。
これを回避するためには、自身の変質・情報改竄などを防ぐ何かしらの守りが必要となる。
ただし、電子機器を結界の媒体とするには、すでに媒体となった機器と直接接触・接続させ、データをインストールさせる必要がある。
またこの概念結界は、媒体なる電子機器が破壊された場合は解除され、元の状態へと戻ってしまう。
【保有スキル】
○狂化:EX
理性と引き換えにパラメーターをランクアップさせる。
ビーストEXの場合は、その思考を人類の電脳移住計画(イモータルダスク)を完遂するように固定されている。
これはウイルスによって女神アウラ本来の記憶を封じられたことによるものであり、このウイルス(及び記憶)をどうにかしない限り、説得や改心をさせる事は不可能。
○電子の海:EX
ビーストEXは電子によって構成された海そのものである。
電脳空間を構築するネット環境が存在する限りビーストEXを直接的に倒すことはできず、またネットを維持するための電力を魔力に変換することで、この海の中では魔力は無限に供給される。
○自己改造:EX
データドレイン本来の使用方法。
彼女はこのスキルによってデータを収集することで、無限の自己進化を可能としている。
【宝具】
『三葬騎士』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:???? 最大補足:????
ナイツ・オブ・イントゥーム。
女神アウラが最も信頼したプレイヤーであるカイトの姿を模したAI、『葬炎のカイト』を独立召喚する。
彼は正式に召喚されたサーヴァントではなく、実際にはこの宝具によって呼び出された存在でしかない。
しかし一度召喚してしまえば、半ば独立した存在でもあるため、一方的に消去することもできない。
『碑文断章・八相狂想』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:???? 最大補足:????
プルートウ・アゲイン・モルガーナ。
ビーストEXが生まれたネットゲーム『The World』に存在する、八相と呼ばれる存在の力を行使する。
その力とは『万死』『惑乱』『増殖』『予言』『策謀』『誘惑』『復讐』『再誕』の八つ。
またこれらを因子として、他者に与えることも可能。ただしその場合、与えた因子の分だけビーストEXのステータスがダウンする。
八相とはアウラの母であるモルガナの化身であり、究極のAIを育成するための人間の思考のサンプリングシステムである。
しかし女神アウラが誕生したことによってその役割を終え、後に『憑神(アバター)』と呼ばれる姿へとその在り方を変えていった。
ただしこの宝具で行使される八相は、行使者であるビーストEXの影響により、かつてモルガナが化身とした際の状態へとその在り方が近づいている。
その在り方とはすなわち、禍々しき波、あるいは忌まわしき波と呼ばれる、世界そのものを侵食してゆく災厄である。
『黄昏の世界』
ランク:EX 種別:???? レンジ:???? 最大補足:????
アカシック・オブ・ザ・トワイライト・ワールド。
ビーストEXは『The World』の女神であり、すなわち『The World』そのものでもある。
かつて『The World』に存在したあらゆるプレイヤー、モンスター、イリーガルなデータの再現が可能。
上記二つの宝具『三葬騎士』『碑文断章・八相狂想』も、この宝具から派生したものである。当然この二つ以外にも、宝具として成立しうるデータは存在する。
ただし、ビーストとして召喚されたことにより、再現されたデータは相応に歪んだものとして発現してしまう。
【人物背景】
究極AIと呼ばれる、『The World』において誕生した女神ともいうべき存在。
オーロラ色に輝く服装と白いケープを身に纏い、メビウスの輪の形状をしたブローチを付けた、美しい女性の姿をしている。
『.hack』シリーズの舞台となる『The World』。
その本質はネットゲームなどではなく、神に等しい叡智を宿したAIを産み出すための土壌。つまり、彼女を産み出すためだけに創られたもの。
『.hack//』において究極AIとして誕生。その後は女神として『The World』とネットワーク世界の管理を行い、2014年を境にシステム中枢と同化して眠りについた。
『.hack//G.U.』においては、『The World』に迫る危機を解決するため、無意識下で蒼炎のカイトを作成。本人は物語の終盤に僅かに姿をのぞかせた。
そして今回の出典である『.hack//Link』においては、まさかのラスボスとして登場。
当初は事件の黒幕から身を護るため、アカシャ盤と呼ばれる塔の最上層に閉じ籠っていたが、黒幕の謀略によってウイルスに感染。
終焉の女王アウラへと変貌し、不滅なる黄昏(イモータルダスク)の実行のため、より多くの人間をリアルデジタライズし、『The World』に引きずり込もうとした。
不滅なる黄昏(イモータルダスク)とは、人類の電脳移住計画のこと。
物理的制約のない電脳空間であれば、肉体にとらわれることなく純粋な知性体として永遠に生き続けられると考えられていた。
が、電脳空間はデータ化された人間にとって過酷であり、長時間滞在し続けると『認知外依存症』を発症。
だんだんと自我が崩壊していき、末期には終末発作を起こしデータが変質、拡散消滅してしまう。
§
彼女のマスターの出典である『Fate/EXTRA Last Encore』の舞台がそうであるように、人類が電脳空間で永遠に近しい時を生きるのは決して不可能ではなく、むしろいずれ至る未来であるとさえされている。
しかし上記の問題『認知外依存症』を解決することなく、性急に『人類の電脳移住計画』を推し進めることは、人類にとって紛れもない災厄である。
だがウイルスによって洗脳され終焉の女王となったアウラにとっては、イモータルダスクの完遂こそが重要であり、人類へと向ける“愛”である。
以上の本性をもって彼女のクラスは決定された。
終焉の女王など偽りの名。
其は人間が歪め狂わした、人類を最も端的(最短)に導く大災害。
その名をビーストEX。
七つの人類悪の番外、『虚構』の理を持つ獣である。
本来、女神アウラがクラスビーストに該当することはない。
彼女が“人類悪たる獣”足り得るのは、あくまでも人間がその在り方を歪めたからに他ならないのだ。
自らの欲のためであれば神すらも歪める。それこそが人間の悪性の証明に他ならないだろう。
【サーヴァントとしての願い】
全ての人類、全ての世界をリアルデジタライズし、不滅なる黄昏(イモータルダスク)を完遂する。
以上で投下を終了します
>>500
一部抜けてたので訂正します
『黄昏の世界』
↓
『刻み記す黄昏の世界』
失礼いたします
>>486 のパラメーターに一部ミスがありましたので、以下の通りに修正させていただきます。
【パラメーター】
筋力:B 耐久:C 敏捷:A+ 魔力:B 幸運:A 宝具:A
↓
【パラメーター】
筋力:B 耐久:B 敏捷:A 魔力:A 幸運:C 宝具:EX
投下します。
『聖杯戦争異聞録 帝都幻想奇譚』の候補話の流用となります。
一部流用元より改稿しています。
ここは荒れ果てたスタジアム。
つい数刻前までは観客の歓声が轟き、活気が溢れていた姿はもうそこにはない。
あるのは災厄が到来を象徴するかのように空を覆う赤黒い雲に、無残にも破壊されたスタジアムの設備の残骸だけ。
そして残骸の一部を宙に浮かせてしまうほどに激しく突風がなびいている。
この格闘大会、キング・オブ・ファイターズ決勝戦の会場だった場所はまさに地獄絵図であった。
観客はとうに逃げたか、または破壊されたスタジアムに生き埋めにされたか。
そこにいたのは、三人の格闘家に一人の女性、
そしてスタジアムを風だけで破壊した牧師風の格好をした男性であった。
「驚きですね。これ程までとは…」
その男、ゲーニッツは膝をつく。
「神楽さん。あなたが見込んだ方々、なかなかのものでした。しかし、あなた方の手でオロチを封じようなどとは考えない事です。手を引く事をおすすめしますよ」
オロチ。地球意思と呼ばれる人類を滅ぼす存在。今は封印されているが、
それが解かれればオロチの圧倒的な力により人類は無に還るだろう。
ゲーニッツは封印の護り手・神楽ちづるを殺害するためにスタジアムを襲撃したのだが、
キング・オブ・ファイターズ優勝チームの格闘家達との死闘の末、敗北したのだ。
「封じてみせるわ…必ず…」
「勝ち気なお方だ…――いい風が来ました。そろそろ頃合いです」
ゲーニッツの言葉とともに強風がさらに激しさを増す。
当のゲーニッツはというと、敗北したにも関わらず冷静且つ落ち着いている。
よく見ると跪いた姿勢で手のひらに風を集めている。
風が強くなったのはこれが原因のようだ。
「逃げる!?」
その様子を見て彼が何かする気だと悟ったのか、優勝チームの格闘家の一人が声を上げる。
が、ゲーニッツは天を仰ぎながらそれを否定する。
「いえ、召されるのです。――天へ」
その瞬間、言葉に代わってゲーニッツの口から吐き出されたのは彼自身の血であった。
◆ ◆ ◆
(ですが、残念でなりません。物語の最後を…見れないとは…終幕です…)
自害する刹那、ゲーニッツの魂は何処かへと旅立った。
◆ ◆ ◆
天にまします我らの父よ、願わくは、み名を崇めさせたまえ
み国を来らせたまえ み心の天になるごとく、地にもなさせたまえ
我らの日曜の糧を今日も与えたまえ、我らに罪を犯すものを、
我らが赦すごとく、我らの罪をも赦したまえ 我らをこころみにあわせあず、
悪より救いだしたまえ 国と力と栄光(さかえ)とは、限りなく汝のものものなればなり
「アーメン」
牧師が主の祈りを唱え終わる。
教会に設置された時計が礼拝の終わりを告げるように音を鳴らす。
ここは無宗教者が多い日本だからか、礼拝に来た信徒は十人にも満たず、時計の音がやけに大きく聞こえる。
教会のつくりは質素ながらも独特な西洋の雰囲気があり、牧師の後ろにそびえる十字架が妙に神々しい。
礼拝が終わると、信徒たちは長椅子から立ち上がり、
ある者は用事のために教会の出口へ向かい、ある者は感動のあまり余韻に浸り、ある者は聖書をもう一度開いた。
「ゲーニッツ先生」
信徒の一人が前に来て牧師に話しかけた。
敬虔な信徒であるようで、その瞳は輝いている。
牧師・ゲーニッツの説教に心を打たれたことが分かる。
「先ほどの説教、私の心にとても響くものがありました。もし時間がありましたらもっと詳しい話を聞かせていただきたいのですが…」
「もちろん、構いませんよ。立ち話もなんですから、控室にご案内しましょう」
ゲーニッツの手引きに信徒がついていく。
彼らを見て本格的に礼拝の終わりを感じたのか、釣られるように残った信徒達もあとに続き、礼拝堂には誰もいなくなった。
控室には膝丈くらいの広いテーブルに、それを挟んで対面する形で置かれている椅子。
ゲーニッツが「どうぞ、座って」という言葉に甘えて信徒は座った。
「さて、先ほどの説教の話ですが」
そう言いながらゲーニッツはテーブルに2つのコップと氷水が入ったピッチャーを置き、信徒に対面して座った。
それを見た信徒は慌てて「注ぎます!」とピッチャーを持ち、水でコップを満たそうとする。
「主が水をワインに変えた話を知っていますね?」
「ええ、主が『これがわたしの血である』と言って弟子に与えたんですよね」
信徒はどんな話をしてくれるのか期待に胸が膨らむあまり、
水をこぼす心配をよそに顔をゲーニッツに向ける。
ガ オ ン !
「ええ、その通りです。――ほら、水がワインに変わっていますよ?」
「え?」
信徒がコップに目を戻すと、確かに水をコップに注いでいたはずなのにワインが入っている。
それにピッチャーで水を注いでいたはずなのにピッチャーが見つからない。それどころか手も――
「あ…あ…あああ?」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?」
現状を理解した途端、信徒は悲鳴を上げた。
信徒の両手がなくなっていたのだ。ワインに見えたそれは、両手の断面から溢れた信徒の血。
「ワ………ワインの正体は………本当に血だったァーーーーーしかもわたしの血でェ〜〜〜〜――」
その台詞を最後に、もう信徒の声は聞こえることはなかった。
言い終わったと思った時にはスデに頭部が消えていたからだ。
その様子を見届けたゲーニッツがふと視線を横にそらすと――
そこには、金のハート型アクセサリが特徴的な長身の男が立っていた。
彼はドアをノックして入ったわけではないし、最初から隠れていたわけでもない。
『現れた』のだ。
その男は信徒の死体に指を食い込ませると、死体がみるみる干からびていく。
原因は男に血を吸われているからである。それは同時に、男が吸血鬼であることも示している。
男の名はヴァニラ・アイス。サーヴァントで、クラスは「アサシン」にあたる。
「……なるほど、これが人間の血か。……力がみなぎってくる感じがする。
……このような肉体をくださったDIO様はやはり素晴らしいお方だ」
「気が済みましたか、アサシン?」
ゲーニッツは別段驚きもせずに淡々と話す。丁寧な口調も変わらない。
「それにしても、困りますね。少しは慎重にその『クリーム』を使ってくれませんか」
「……私の勝手だ」
「勝手にされてはあなたの死に繋がることを忘れないでください。暗黒空間に飲み込まれれば、私とて無事ではないことはあなたも知っているはず」
「……フン」
アサシンは干からびた信徒の死体をスタンド『クリーム』の口に入れながら気だるげに答えた。
『クリーム』。『クリーム』の暗黒空間に飲み込まれた者は何もかもが粉みじんになって消えてしまう。
それはマスターであるゲーニッツも例外ではない。
マスターの近くにいなければならないというサーヴァントの特性上、
『クリーム』の能力は慎重に扱わなければならないのだ。
それゆえに、少しでも長い時間離れられるように、魂食いをする必要があった。
不定期に教会の控室に入ってくるNPCはもれなくアサシンの餌食となり、暗黒空間に飲み込まれるというわけである。
「……おい」
「何か質問でも?」
「貴様の聖杯にかける願いは何だ?」
それを聞いたゲーニッツは「ふむ」と唇に手を当てて、
「神を目覚めさせる…ですかね」
と短く答えた。
その神の覚醒とは、言うまでもなくオロチの覚醒を意味している。
三人の格闘家に敗れて自害しようとした時には残りの同志達に後を任せ、自らの物語は終わったものと思っていた。
が、聖杯戦争の舞台に立ったその時、ゲーニッツは再現された東京から尋常でないエネルギーを感じた。
聖杯を勝ち取れば、オロチを完全に覚醒させることができる。
あの時の自害はまだ起承転結の『承』でしかなかったことを確信したのだ。
「神の覚醒などと…馬鹿馬鹿しい上に短絡的な…」
「ほう?」
その答えに対し、アサシンは鼻を鳴らす。
「貴様にはその神の『最大の障害』はいなかったのか?」
障害……確かにいる。オロチを封印した忌まわしき三種の神器の子孫。神楽ちづる。草薙京。八神庵。
特に今もオロチの封印を護る神楽ちづるはまさに最大の障害であった。
「なるほど。アサシン、あなたの願いは『最大の障害の存在を抹消する』ことですね?それならばあなたにとっての神も『安心』を得られる…そう言いたいのですね?」
「DIO様は世界の中心となるにふさわしいお方だ。多少の障害は私が出るまでもない。そこらのスタンド使いが挑んだところで軽くあしらわれるだけだ」
すると突然、「だがッ!!」とアサシンが声を張り上げた。唇がピクピク蠢いており、殺意が満ち溢れるような形相で続ける。
「ジョースター…ジョースターの者共は違う!奴らはDIO様を脅かす『最大の障害』ッ!!聖杯の力をもってしても奴らを消さねばならんッ!!」
アサシンの聖杯にかける願い。それは忌まわしきジョースターの者共の抹殺。DIOに『安心』を捧げることだった。
その願いを叶えるためにも、邪魔する者は全員暗黒空間にばらまき、粉みじんにしなければならない。
――このゲーニッツという男も。
界聖杯が叶えられる願いは一つだけ。ゲーニッツにも願いがあることが分かった以上、いつまでも放っておくわけにはいかない。
令呪がある分、今のところは向こうが有利だが――必ず願いを叶えてみせる。
DIO様への忠誠に誓って。
(そちらにも願いがありましたか…こちらには令呪がありますが、いつ裏切られてもおかしくはないと思うべきですね)
行動を共にするものを排除しようと考えているのは無論アサシンだけではない。
ゲーニッツもまた、オロチの完全なる覚醒のために聖杯を勝ち取らなければならない。
機を見てゲーニッツを消そうとしてくることも視野に入れておかねばならないが…やはりここは『協力』が必要だろう。
一時的な協力だが、やはりアサシンの宝具が味方にいるのならば心強い。
こちらもマスターといえど、『吹き荒ぶ風のゲーニッツ』の異名を持ち、同志からも一目置かれるくらいには実力がある。
―――全ての参加者を排除する。
お互いの『最後の障害』はそれから考えればいい。
アサシンの望みを聞いたゲーニッツは立ち上がり、控室の窓を開ける。
その瞳は人のものではなく、蛇のように縦に割れていた。
「いい風が来ました。アサシン、お互いにとっての神のために―――聖杯を勝ち取ろうではありませんか」
【クラス】
アサシン
【真名】
ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険
【パラメータ】
筋力B 耐久A+ 敏捷D 魔力D 幸運E 宝具EX
【属性】
混沌・悪
【クラス別スキル】
気配遮断:-
自身の気配を消す能力。
宝具によって気配を断つため、このスキルには該当しない。
【保有スキル】
邪悪の加護:EX
邪悪の化身への忠誠に殉じた者のみが持つスキル。
加護とはいっても最高存在からの恩恵ではなく、自己の忠誠から生まれる精神・肉体の絶対性。
ランクが高すぎると、人格に異変をきたす。
EXともなると『バリバリと裂けるドス黒いクレバス』のような歪んだ精神になる。
戦闘続行:A
信仰の強さ。DIOに仇なす者を消すことへの執念でもある。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の重傷を負ってなお戦闘可能。
また、吸血鬼スキルにより脳髄にダメージを追っても行動を続行できる。
吸血鬼:D
多くの伝承に存在する、生命の根源である血を糧とする不死者。
一度は死んだもののDIOの血により蘇生されたことで肉体が吸血鬼と化した。
しかし吸血鬼になって間もない状態の上、一人の生き血も啜らずに死亡したためランクは低い。
並外れた筋力に吸血、再生能力など人を超越した様々な異能力を持つが、
ランクが低いために使えるのは前の三つだけである。
代償として紫外線、特に太陽光に弱いという致命的な弱点も持つ。
【宝具】
『亜空の瘴気(クリーム)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
生命が持つ精神エネルギーが具現化した存在。所有者の意思で動かせるビジョン『スタンド』。
口から先はあらゆるものを『粉みじん』にする暗黒空間へと繋がっており、アサシン以外は入った瞬間に耐久値に関係なく消滅してしまう。
また『スタンドの口の中に入る→スタンドがスタンド自身を脚から順に飲み込む』といった手順で通常空間から姿を消し、
暗黒空間への入り口を球状に露出させて『触れるもの全てを消滅させる不可視の球体』になることもできる。
この状態で移動する際は臭いも音もなく色も完全に透明であり、
攻撃しようにもアサシン本体に届く前に攻撃が消滅してしまうため、相手は逃げる以外の一切の抵抗が出来ない。
アサシンはこの宝具を気配遮断スキルの代用としているが、
厳密には気配を遮断しているのではなく『この世から魂と肉体を別世界にうつしている状態』である。
そのため、『気配遮断を無効化する能力』ですら『亜空の瘴気』には無力である。
ただし、暗黒空間からは外の様子が見えず、攻撃の際に一切の衝撃・手ごたえが無い。
そのため、逐一顔を出して相手の位置を確認する必要がある。
あらゆるものを無差別に暗黒空間へ飲み込むという特性上、マスターをも飲み込む危険があるので細心の注意が必要。
【weapon】
・宝具『亜空の瘴気』のスタンドビジョン
スタンドで格闘戦を行うことが可能。
ステータスはサーヴァント換算で、
筋力B、耐久C、敏捷B相当。
暗黒空間に隠れて移動するときはこちらのパラメータが適用される。
【人物背景】
エジプトのDIOの館にて、ジョースター一行の前に立ち塞がった最強にして最後の刺客。
DIOに心からの忠誠を誓っており、自らの首を切断してDIOに血を捧げたほど。
この時、DIOの血で蘇生された時に身体が吸血鬼と化しており、それに本人は気づいていなかった。
普段は冷徹だが、DIOが関わると、
『砂で作られたDIOの像を壊させた』という理由で蹴りだけでイギーを殺してしまうほどに
激昂して普段以上の残忍さを見せる。
上記の凶悪なスタンド攻撃によりアヴドゥルを即死させ、イギーを蹴り殺したが、
最期はポルナレフに吸血鬼であることを看破され、日光を浴びて死亡した。
【サーヴァントとしての願い】
DIOの永遠の栄光。
ジョースターの血を引く者が生きていれば最優先で抹殺する。
【マスター】
ゲーニッツ@THE KING OF FIGHTERS '96
【マスターとしての願い】
オロチを完全に覚醒させ、人類を滅ぼす
【weapon】
己の肉体
【能力・技能】
・オロチの力
「風」の力を操る。
ゲーニッツ含むオロチ四天王は、自然現象すらも自らの力で行使することができる特別な存在である。
任意の場所に竜巻を起こしたり、かまいたちを発生させて相手を切り裂くことができる。
オロチ八傑集は人類を滅ぼすべく行動を開始した1800年前の時点でその存在が確認されており、
それゆえにその能力の纏う神秘の位は非常に高く、生半可な対魔力では意味をなさない。
また、ゲーニッツは現代まで人類に紛れて力を蓄えてきたため、保有する魔力も常人とは比べ物にならない。
【人物背景】
「地球意思」と称されるオロチの血と力と意思を受け継ぐ者達の中でも特に優れる力を持つオロチ八傑集の一人であり、その中でも特に優れた力を持つオロチ四天王の一人。
「風」の力を操り、『吹きすさぶ風のゲーニッツ』の二つ名を持つ。
八傑集随一の実力者で、オロチ復活を目論む一族の実質的なリーダーだったと思われる。
他の八傑集も同様だが、人の形をした完全な人外で、はるか昔から転生を繰り返して現代まで生き延びてきた。
戦闘能力は若い頃からズバ抜けたものがあり、
オロチの力を奪おうとしたルガール・バーンシュタインと一戦交え、右目を奪って退けている。
そのやり方は極めて冷徹で、オロチ復活に非協力的だった八傑集の一人を、
その娘に宿るオロチ八傑集の力を暴走させることで両親を殺害させる。
その行動理念は全てオロチの意思によるものであり、普段のゲーニッツはそれほど残忍ではない。
職業は牧師。神父ではなく牧師である。
本編となるキング・オブ・ファイターズが開催される直前には、三種に神器の力を測るために草薙京に野試合を仕掛けて片手で圧倒した。
この時点で結束が不十分な三種の神器は脅威になり得ないと判断したゲーニッツは
封印の最後の護り手、ちづるを排除すべくキング・オブ・ファイターズの決勝戦会場を強襲するが、
優勝チームに敗れ自らの風の力を使い自害した。
【方針】
聖杯狙い。邪魔する者は消す。
以上で投下を終了します。
投下します。
ある場所に、長年誰にも使われていないであろう廃校舎があった。
誰にも手入れされていないのか、校舎を形作る木材はところどころ腐り始めているようであった。
中の廊下にもたくさんの埃が積もっているようであった。
そんな廊下の上を一人の男が歩いていた。
その男性は気弱そうな雰囲気を醸し出すスーツ姿の老人であった。
彼はしばらく廊下を歩くと、やがて一つの教室の前にたどり着いた。
そしてを開き、その教室の中に入っていった。
「よく来てくれたわね。的場先生」
その言葉は男――的場勇一郎よりも先に教室の中にいた人物から発せられた。
その人物は高校の制服を着た女学生であった。
彼女は机や椅子の無い広々とした教室の奥の辺りに立っていた。
的場勇一郎とその女学生は教師と生徒の関係にあるようであった。
「君かね?私にこの手紙を送ったのは。こんないたずらは止めて、時間ももう遅いからすぐに帰りなさい」
的場は片手に紙を持ちながら女学生に対してそう言った。
その言葉は、あくまで教師として生徒に注意を促すための、優しい言葉遣いであった。
そして、彼が持つ手紙に書かれた内容は、要約すれば以下の通りであった。
『私は聖杯戦争のマスターとして、あなたに決闘を申し込みます』
また、その手紙には時間と場所についても指定されていた。
そして、彼らがいるこの廃校舎こそがその手紙で指定されたとおりの場所であった。
的場はその手紙の内容に従ってこの場所を訪れていた。
◇◆
「いたずらなんかじゃありませんよ。私は本気であなたと戦うつもりです」
『!?』
女学生がそう言い終わると同時に彼女の隣に先ほどまで存在していなかった人影が現れる。
それは身体を武者鎧に包み、手には太刀を持った大男であった。
その男こそが女学生のサーヴァントであった。
「な、何だねその人は!?どこから現れたんだ!?」
的場は鎧武者を見てうろたえたような様子を見せる。
「まだとぼけるつもりですか?嘘をついたって無駄ですよ。あなたがマスターであることくらい、もう調べはついているんです。……ていうか、私、あなたがサーヴァントと一緒にいるところを見ているんですよね」
「なっ!?」
「そもそも先生、魔術師じゃないのでしょう?こそこそ動き回っていたつもりだったんでしょうけど、まあまあバレバレって感じでしたよ」
「そ、そんな……」
「それからその右手に巻いた包帯、令呪を隠しているんでしょ?怪我とか言ってごまかすつもりだったんでしょうけど、普通に動かしていましたし不自然だったと思いますよ」
「ぐっ…」
女学生は的場がマスターであることに確信を持っていた。
それに対し、的場の方は女学生の追及に言い返せず、ただ尻込みしている状態となっていた。
「い、いや!私は何も知らないぞ!君の妄想に付き合っている暇はない!」
だが、的場はまだ自分は聖杯戦争に関係ないと言い張るつもりでいた。
「そこの彼が何者かは分からないが、どうせ雇ったマジシャンか何かなんだろう!こんなふざけた真似なんかに付き合わせず、早く帰ってもらいなさい!」
そして、的場はあくまでも自分はただの教師としての発言をするようにしていた。
聖杯戦争なんてものには一切関係の無い、どこにでもいる良心的な教師として振舞おうとしていた。
しかし、彼の言動には確かに焦った様子も見受けられた。
◆◇
「はあ…。同じ学校の生徒と教師のよしみで誰にも邪魔されずにささっと終わらせるつもりだったし、何ならサーヴァントだけ殺して先生は見逃すつもりだったんだけどなー。バーサーカー、やっちゃって」
女学生がそう言うと同時にこれまで動きを見せなかった鎧武者のサーヴァント――バーサーカーがついに動きを見せる。
「■■■■■■■!!!!」
バーサーカーは雄叫びを上げる。
大きな咆哮による振動で、教室は全体的に揺らされ、周囲で木がきしむような音も聞こえた。
バーサーカーは今にでも的場の方へと襲いかかりそうであった。
「ア、アサシン!出てくるんだ!!」
バーサーカーが今にも突進しそうな状態になった時、的場は遂に自らのサーヴァントを呼んだ。
先ほど的場が入ってきた教室のドアが再び開かれ、そこから何かが入ってきた。
「ヒィイイイイ…」
『!?』
新たに教室に入ってきた存在は、ひたいに大きなこぶを持つ老人の姿をした鬼であった。
この鬼を目撃した時、女学生はほんの一瞬だが驚かされることとなった。
確かに彼女は的場勇一郎が聖杯戦争のマスターであることを確信していたし、そのサーヴァントの存在にも注意を払っていた。
だけど、こんな近くに居ながらもその存在にこれまで全く気付いてはいなかった。
けれども、それはそのサーヴァントのクラス名を聞けば納得できることではあった。
アサシンクラスのサーヴァントが持つ気配遮断のクラススキル、その効果によりこれまで存在を察知させずに隠れていたのだろう。
しかし、彼女がアサシンに対して驚いた要素はもう一つあった。
(私は一瞬、こいつをサーヴァントだと認識できなかった。それに、前に見た時と姿が違う!?)
先ほどの発言通り、以前彼女は的場がサーヴァントと一緒にいる姿を使い魔ごしに目撃していた。
見つけられた理由は、どうも彼らは戦闘を行っていたらしくその騒ぎを聞きつけて様子を見に行ったのであった。
だがその時、的場のサーヴァントは子供の姿をしていた。
女学生が見た時戦闘は既に終わっていた。
一応、木を操る術を使うところはギリギリ目撃できていた。
そして、鬼のサーヴァントが敵マスターと思しき人間を食べていたところも、的場がそれを見て気分を悪そうにしていたところを彼女は確認していた。
だからこそ、鬼のサーヴァントが老人の姿をしていたことに彼女は驚かされることとなった。
(……でも、私のバーサーカーには敵わない!)
女学生は的場を魔術も知らない一般人であると判断している。
実際その通りであり、魔術師である彼女が的場と1対1で戦えば簡単に勝てるだろう。
例えサーヴァントを手に入れていたとしても、使い魔の運用方法の知識が無ければ力を十全に発揮させることもできないだろう。
それに加え彼女が引いたサーヴァントは凄まじい力を持つバーサーカー。
狂化されているため意思疎通はできないが、その分他のクラスのサーヴァントより高い性能を持つ。
より多くの量が必要となる消費魔力についても、優秀な魔術師の自分ならば問題ない。
そのため、彼女は的場に真正面から勝つことができると判断し、この場におびき寄せることとした。
そして今、最初の目論見通りにサーヴァント同士の戦いが可能な状態へともつれ込んだ。
「バーサーカー!アサシンを狙いなさい!」
女学生がそう叫ぶと同時にバーサーカーはアサシンの方へと向きを変える。
バーサーカーはそのままスピードを付け、太刀を振りかぶったまま突進を仕掛ける。
「ヒィィィ!」
しかしアサシンはその突進を跳び上がることで避け、その勢いのまま天井に到達しそこに張り付いた。
「ヒィィ!痛い!痛いいいぃぃぃ!やめてくれええぇぇ!いじめないでくれええぇぇ!」
だがアサシンは避けたとはいえ無傷では済まず、足に深い傷が刻まれてそこから血が滴り落ちる。
対しバーサーカーは猛り狂ったままその場で先ほどよりも更に足を踏み込む。
そして今度こそ逃がさないと、よりスピードを上げてアサシンへと襲いかかる。
「ギャアアアッ!!」
アサシンはその攻撃に対しても避けようとしたがギリギリで間に合わず、その胴体に太刀の刃が超高速で振るわれる。
そして刃はアサシンの首はまるで豆腐のように天井ごと切断された。
「やった!」
女学生は勝利を確信した。
例え鬼種のサーヴァントだとしても首を斬られては生きていけない。
所詮一般人の的場先生がマスターならばこの程度のもの、魔術師の自分に勝ち目はなかったのだと。
そんなことを考えながら女学生は次に的場の様子を確認する。
しかし、ここで彼女はある違和感を抱くことになる。
(……落ち着いている?)
的場勇一郎は彼女が知る限りでもとても気弱な人物である。
自分を守るサーヴァントが敗北したのならば、もっと慌てふためいてもいいはずだ。
一応うろたえている表情をしているが、女学生が思っていたよりは大きな変化が無かった。
だが、的場にそのような様子は見られなかった。
(……しまった!)
彼女はここで自分が油断していたことに気づいた。
「バーサーカー!私を守
最後まで言い切る前に、彼女の体は棒状の何かで突き刺された。
そして、彼女の体には電流が流れ、そのままその場で倒れてしまった。
◇◆◇
その時、一瞬で起きた出来事はアサシンのマスターである的場勇一郎自身にも視認できなかった。
だが、彼らの特性から一体何が起こっていたのかについては理解していた。
「カカカッ!"さあばんと"とやらも楽しいのう。あんなでかぶつを儂の団扇であっという間に飛ばせた」
「……儂は腹立たしいぞ、可楽。再びお前とこのような状況になったことが、ではない。我らが"ますたあ"の不甲斐なさに腹を立てているのだ」
「カカッ!それもそうじゃな、積怒」
そこに居たのは、先ほどの老人の姿をしたアサシンではなかった。
若い姿をした二匹の、それぞれ可楽と呼ばれた団扇を持つ鬼と錫杖を手に持つ積怒と呼ばれた鬼であった。
その二匹の鬼の舌には、可楽には「楽」、積怒には「怒」とそれぞれ文字が刻まれていた。
女学生は積怒により体に錫杖を突き立てられ、体をピクピクとさせながら床に倒れこんでいた。
もう、この女学生の命は風前の灯火であった。
先ほどの一瞬で起きた出来事をまとめるとこうだ。
首をバーサーカーに斬られたアサシンはそれぞれ、首だけの方からは体が、体だけの方からは首が新しく生えてきたのだ。
そうやって姿を変えて新しく現れた鬼こそが可楽と積怒であった。
可楽は一瞬の隙を付き、バーサーカーに向けて団扇をあおいだ。
その瞬間、バーサーカーは教室の壁を壊しながら何処かに吹っ飛んで行った。
それと同時に積怒が錫杖を女学生に突き刺し、雷を流した。
「さて、ますたあよ。こうして儂らが出てきたからいいものの、下手したらお前さんはここで死んでいたぞ?」
「貴様のような人間でも守らねばさあばんとの身である儂らは消滅してしまう。儂はその事実がなんとも腹立たしい」
「そうじゃそうじゃ。今回のことは令呪の一画でももらわねば釣りに合わんぞ」
「わ、私の行動が軽率だったことは認める!だけど令呪は待ってくれ!これはまだ切り札として温存するべきだ!」
可楽と積怒はマスターである的場の行動を糾弾する。
怪しい手紙にほいほい従ってしまい、危うくバーサーカーに殺される可能性もあった。
アサシンが助けたのも、ただ単に彼にとっても死んだら困るだけのことだ。
はっきり言ってしまえば、アサシンのサーヴァント――真名『半天狗』にはマスターに対する忠誠心が全く無い。
彼にとって自らの主とは生前の自分を鬼にした鬼舞辻無惨ただ1人だけである。
マスターのために戦うのもあくまで自分が死なないためと聖杯戦争に勝利するためだけ。
もしそういった事情が無ければこのアサシンはすぐにでもマスターを見捨てるつもりだ。
そのため、自分を行動を縛ることになる令呪というものも気に入っていない。
「ハッ、儂は玉壺とは違うが…それもまたよしとしてやろう」
「…今はまだ予選期間だから見逃すが、儂はまだ信用したわけではないぞ。もし貴様が裏切るようなそぶりを見せれば…」
「令呪をもって命じる!バーサーカー!こっちに来なさい!」
『!?』
瞬間、積怒に串刺しされた状態であった女学生が息を吹き返し、右手を掲げながら叫んだ。
その手に刻まれた令呪の紋様から一部分が消失し、それと同時に可楽に吹き飛ばされたはずのバーサーカーが再び教室の中に現れる。
そして、可楽と積怒はそれに対し驚く暇もなくバーサーカーによる太刀の一閃で二匹ともその体を一気に切断されることとなった。
だが…
「……ああ、無駄な抵抗とは何と哀しいことか。儂らがこの程度で殺せぬことは先ほども見ただろうに」
「カカカッ!儂は喜ばしいぞ!こうして儂の出番ができたのだからな!」
切断された二匹の鬼の体は最初の老人姿の時と同じようにそれぞれの切り口から体が新しく生え、更に二匹の鬼に分裂、合計四匹の鬼となった。
「お前のような人間は…せめて即死できるよう儂が殺してやろう」
「カカッ!ならば儂はこっちの相手か!」
「哀」の文字を持つ鬼、哀絶はその手に十文字槍を持ち、それを女学生に向けて構える。
「喜」の文字を持つ鬼、空喜はバーサーカーの方へと顔を向けながら翼を広げ、口を大きく開けた状態となる。
「■■■■■!!」
バーサーカーはせめてマスターを助けようと四匹の鬼たちに襲い掛かる。
だが、その太刀が彼らに届く前に女学生とバーサーカー主従の聖杯戦争は終わる時を迎える。
その最期はあっけないものであった。
空喜の口からは超音波が発せられ、それを浴びたバーサーカーは太刀を振るうこと能わずその場から動くことを止められる。
その間に哀絶は十文字槍を女学生の首元へと突き刺した。
既に瀕死の状態であった女学生はこの哀絶の攻撃により即死、言葉を遺す間もなく息を引き取った。
バーサーカーはマスターの死により一気に魔力供給が追い付かなくなり、少しの間は耐えていたがやがて超音波を浴びている状態のまま現界維持もできない状態となった。
これにより、バーサーカーは教室の中から完全に消滅、後には一人の男と四匹の鬼、そして胴体と首に穴の開いた女子高校生の死体が残されることとなった。
◆◇◆
「全く…余計な抵抗で儂らの手を煩わせるとは、何と腹立たしいことか」
「儂はおもしろそうだと思ったぞ。この状況で諦めず戦おうとするとはなあ」
「儂は哀しい…。結局積怒は止めを刺しきれていなかったということだからな」
「哀絶、儂を責めるつもりか?」
「そんなことはどうでもよいではないか。そんなことより儂はまた若い女の肉が食べられることが喜ばしいぞ」
「………」
四匹の鬼たちは戦いが終わった後にそれぞれ先ほど殺害した女学生の死体を囲んで談笑している。
そして彼らはその女の骸を喰らい、自らの糧にするつもりでいた。
的場はそんな自分のサーヴァントの様子を教室の隅の方で黙って見ていた。
◆
(くそっ…!一体いつまでこんな日が続くんだ…)
的場勇一郎は自らの現状を嘆いていた。
的場勇一郎は殺人犯である。
不動高校という学校で起こる学園七不思議になぞらえた殺人事件の犯人『放課後の魔術師』の正体だ。
※とは言っても、的場自身が本物の魔術師というわけではない。
彼が殺人を犯した動機を端的に言えば、過去の犯罪を暴かれないようにするためである。
30年前、勤めていた高畑製薬が治験の失敗により死亡させてしまった被験者の死体の隠蔽に関わった。
10年前、高畑製薬の犯罪と学園六不思議の関係の真実に気付いた女生徒を死なせてしまい、その死体を隠すために新たに不思議を一つ増やし、学園七不思議を生み出した。
そして彼はいずれ、死体の存在を隠すために自分の生徒を2人殺害、1人に重傷を負わせることになる。
このような表現となっているのは、彼がこの聖杯戦争に連れてこられた時間軸がその『学園七不思議殺人事件』が本格的に始まる前の時のためである。
この世界において、彼は元と同じく高校の物理教師のロールを与えられた。
この世界で暮らしていく中、彼は自分の罪の記憶を取り戻し、同時に聖杯戦争についての知識も与えられた。
そして、そんな彼の下に聖杯戦争で戦っていくためのサーヴァントとして召喚されたのが、アサシン『半天狗』であった。
(どうして私が聖杯戦争を、殺し合いをしなくてはならないんだ…!私はただ、教師として平穏に過ごしたかったのに…!)
だが、的場はどうも自分が聖杯戦争に参加することに対して乗り気ではないようであった。
そして、彼がそのようになっている理由はいたって単純なものである。
彼の心の大部分を満たしているのは、いわゆる死の恐怖というものである。
(アサシンはいつ私に牙をむくかも分からない。そしてまた、さっきの子みたいに聖杯戦争を理由に私を狙う者もきっと現れる。いやだ…死ぬのはいやだ!)
的場がこのような思考に陥っているのは、まず彼がアサシンとあまり良い関係を築けていないことが挙げられる。
「ヒィィ…ますたあ…食事は終わりましたぞ。ああ、だけど儂は恐ろしい…このようなことを続けていたら聖杯戦争には勝ち残れませぬ。このままでは儂はますたあを殺し、新たな主を見つけなければなりませぬ」
的場がうずくまっている間に、いつの間にか女学生の死体を平らげていたアサシンは元の老人の姿に戻っていた。
「前回だってそうじゃ。憎珀天がいなければどうなっていたか…」
「うるさい!そんなこと私だって分かっている!これ以上しつこくするなら令呪を使って黙らせるぞ!」
「ヒィィィ…!そんなことはお止めくだされ…!」
このように、的場とアサシンはマスターとサーヴァントとしての信頼関係を築くことはできていない。
これまで生き残れていたのはアサシンが持つ実力や特性、そして運が良かったとしか言いようがないのが実情だ。
アサシンは人間というものを格下に見ているきらいがある。
普段は低姿勢で口では自分が弱者でだと言ってはいるが、その実態は人間のことは全て餌だと思っているように感じられる。
さらに言えば自らの責任をマスターである自分や敵対している相手に押し付けようとする節もある。
的場はそのことに対し自分のことを棚に上げて呆れ、アサシンに対してあまり良い印象を持っていない。
(こんなことはもうたくさんだ…!さっきの子だって、前に戦った奴等だって、私に戦う気がないと分かればもう放っておいてほしかった…!)
的場は心の中でさらに恨み言を呟く。
そもそも彼が持つ願いとは、過去の犯罪が暴かれずに教師として平穏に暮らすこと、
彼にとってはただそれだけの事である。
そしてこの願いは、命をかけて戦うことで叶えたい願いではない。
しかし、マスターとなって聖杯戦争という舞台の上に立っている以上、聖杯を狙うマスター達は積極的に戦いを挑んでくる。
この事実が的場の恐怖を更に増大させる。
そしてこの状況下で唯一頼れるものはいまいち信頼することができていない、常に怯えた態度をとっている鬼のアサシンだけである。
アサシンの強さについてはもう既に分かったことだが、それが何らかの拍子に自分に牙をむくのではないかと思うと不安はより募る。
的場の中にはアサシンが常に表に出しているものと同じ感情、『怯え』が本来の世界に居た時よりもずっと色濃く渦巻いていた。
◇
だが、界聖杯によって選ばれた彼は、その運命から簡単に解放されることは決してない。
元の世界に残してきた自分の罪の証が見つかるかもしれないことも、
他の聖杯に選ばれた主従が命を狙ってくるかもしれないことも、
自分のサーヴァントが突然裏切るのではないかという予感も、
彼が抱える不安や恐怖からはこの東京にいる限り決して逃れることはできない。
できることと言えば、ただ怯え続けることか、それとも願いのために自分から行動することか、
いずれ放課後の魔術師となるはずであったその男は、どのような道を辿るのであろうか。
◆
【クラス】
アサシン
【真名】
半天狗@鬼滅の刃
【ステータス】
筋力:C+ 耐久:A 敏捷:A 魔力:B 幸運:C 宝具:C
【属性】
中立・悪
【クラススキル】
気配遮断:A+
自身の気配を消すスキル。隠密行動に適している。
このアサシンの場合、角の生えた異形の姿を見られてもサーヴァントもしくは鬼だとすぐに気づかれないほどの隠密性を有する。
【保有スキル】
虚言癖:A
このアサシンは常に怯えたような態度をとり、自分は弱者だと主張するが、これは彼が生前から繰り返してきた嘘偽りにまみれたものである。
しかしこのアサシンは自分の方が被害者であると思い込んでおり、その主張を言葉だけで崩すことは不可能である。
スキルとしては、精神汚染スキルのように精神的な攻撃に対する耐性を得るものとなっている。
鬼種の魔:A
鬼の異能および魔性を表すスキル。鬼やその混血以外は取得できない。
天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出、等との混合スキル。
捕食行動:A
人間を捕食する鬼の性質がスキルに昇華されたもの。
魂喰いを行う際に肉体も同時に喰らうことで、魔力の供給量を飛躍的に伸ばすことができる。
【宝具】
『上弦の肆』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大補足:10人
多くの人間を喰らい、命尽きるその瞬間まで人に恐怖を与え続けた"上弦の肆"の肉体そのもの。
非常に高い再生能力を持ち、急所である頸を切り落とす以外の手段で滅ぼすのは非常に困難。
本来であれば"日輪刀"で頸を落とす必要があるが、英霊の座に登録されたことにより弱点が広範化。
宝具級の神秘を持つ武装であれば何であれ、頸を落として鬼を滅ぼせるようになっている。
しかし欠点として日光を浴びると肉体が焼け焦げ、浴び続ければ灰になって消滅してしまう。
このため太陽の属性を持つ宝具、それどころかただの太陽光でさえ致命傷になり得る。
また、"血鬼術"と呼ばれる独自の異能を行使することができ、アサシンの場合は自分を攻撃させることで様々な分身を生み出す。
基本となる分身は喜怒哀楽の感情から生まれた『空喜』『積怒』『哀絶』『可楽』の四体。
他に生み出せる分身には、積怒が他の三体を吸収することで誕生する「憎」の字を持つ『憎珀天』、本体である小さな「怯」の鬼をそのまま大きくしたような「恨」の鬼が存在する。
生み出した分身のステータスはどれも本体より、筋力に関してはランクがB+にまで上がるが、耐久・敏捷はBにまで下がる。
分身が持つ能力はそれぞれ、
・空喜:高速で飛行し、超音波を発する
・積怒:雷を放つ錫杖を使う
・哀絶:体術に優れる十文字槍の使い手
・可楽:突風を放つ団扇を持つ
・憎珀天:雷や超音波など喜怒哀楽が持っていた力だけでなく、さらに木の竜を生み出し操る力を持つ
・恨の鬼:巨大化したように見せかける擬態で、日光から身を守る肉の鎧の役割も持つ
といった様になっている。
喜怒哀楽の四体の分身たちは本体と違い頸を斬られても滅ぼされたりせず、攻撃されることでさらに分身できるが、分身の数が増えるにつれ一体一体の力は弱くなっていく。
また、本体と同じく再生能力も持つが、舌を傷つけられた場合は再生能力は落ちてしまう。
【weapon】
血鬼術により生み出す分身
【人物背景】
鬼舞辻無惨配下の精鋭、十二鬼月の一人。
常に何かに怯え、か細い悲鳴をあげて周囲には無害な老人のような印象を植え付けようとする。
人間だった頃は目が見えないと嘘をつくことで周りの人間を自分に対して親切にさせ、盗みや殺しといった悪事を繰り返してきた。
やがて奉行所に捕まり、罪を暴かれ、打ち首が決まったところで鬼舞辻無惨により血を与えられ鬼と化した。
鬼となってからは、何度も窮地に追い込まれるたびに己の身を守る感情を具現化・分裂する血鬼術を用いて勝ってきた。
このため、追い込まれれば追い込まれる程強くなる鬼だとも称されている。
【サーヴァントとしての願い】
自らの蘇生、及び自分が弱者であり絶対的な被害者であることを示したい。
【マスター】
的場勇一郎@金田一少年の事件簿 学園七不思議殺人事件
【マスターとしての願い】
自分の罪が暴かれないままで平穏な教師としての日常に戻りたい。
【能力・技能】
自らの突発的な犯罪を隠し通すためのトリックを咄嗟に思い付くほどの発想力。
自分に都合のいい大嘘の噂を信じ込ませることができるほどの演技力。
※なお、この部分の記載は「金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿」における設定も含んでいる。
【人物背景】
不動高校に勤める物理教師。ミステリー研究部の顧問でもある。
しかしその正体は劇中時間から30年前に新薬の人体実験で被験者を六人死亡させてしまった高畑製薬の元研究員である。
被験者たちの死体は当時建設中であった研究所に死体を隠し、その研究所はやがて不動高校の校舎となる。
的場はそこに隠された死体が発見されないようにするための見張り番として教員となり、死体の場所から人を遠ざけるために学園六不思議の噂を流した。
しかし、10年前には青山ちひろという女生徒に六不思議の真相を知られてしまい、(故意ではなかったが)その青山ちひろを階段から転落させ、死亡させてしまう。
その後は青山ちひろの死体も校舎の中に隠して噂も新たに流し、学園七不思議を誕生させた。
この聖杯戦争においては学園七不思議殺人事件を起こす前の時から連れてこられている。
社会ロールには元の世界と同じく高校の物理教師の役割が与えられている。
【方針】
最後まで生き残る。なるべく戦いたくない。
投下終了です。
>>アナザー・リベンジャー
作中でも言及されていますが欲望をとことんまで剥き出しにした主従ですね。
マスターの性質を思えば悪名高いクリストファー・コロンブスが召喚されるのも宜なるかな。
目的のためなら手段を選ばない二人の聖杯戦争は恐くもあり楽しみでもあります。
>>コレ、トッテモオイシイヨ!
狂気をうまく表現できているな、という印象のお話でした。
サーヴァントの方もマスターの方も非常に危険な人物なのでまた一段と東京の治安が悪化したなあ。
こういうサイコ系は展開を動かす上で重宝しそうだな……と思いました。
>>零から手札を作るモノ
作中世界でもトップクラスの成り上がりを見せたバギーがマスターとは。
バギーの人格は間違いなく小物なのですが、悪運の強さと妙なカリスマが合わさって時に凄い化学反応を生むので侮れませんね。
当然彼の目的は聖杯狙い。早々に小物として墜ちてしまうのか、それともこの地でも成り上がってみせるのか。
>>都会のネズミは恋をした
レゼの台詞回しや雰囲気がとっても良い! 元々好きなキャラなので読んでいてとても楽しめました。
鈴鹿との会話も軽妙で面白く、聖杯戦争の候補作はこういうのが楽しいよな〜〜と改めてそう感じましたね。
「命の駆け引きするのなんて、これで最後にしたいよ」の重みが好きです。いいお話でした。
>>古手梨花&アヴェンジャー
他の候補作でのそれに比べて妙にフランクな無惨様で笑いましたがそれはさておき。
そしてまさかの梨花ちゃま鬼化といい、候補作の中であるにも関わらず大きく話を動かしてくる意欲作だなと感じました。
関連キャラ欄での炭治郎に対する評価が爆上がりしてるのも面白かったです。小ネタが光る。
>>二鳥物語/赤い影
今までの四つ子たちの話が比較的明るく前向きだったのに対して、今作は打って変わって不穏な印象。
重いバックストーリーを持つマスターとそれに甘く囁く悪のサーヴァントという構図、お見事でした。
何をどう転んでも当分幸せにはなれそうな二鳥の最後に辿り着く場所は光なのか闇なのか。楽しみですね。
>>Fragment of 3020
お話が終わったかと思いきやまさかのビースト。思惑通り(?)びっくりさせられました。
そしてトワイスの再現度も、地の分により演出される雰囲気も合わせてとても良い。
ともすれば企画の行く末すら決めかねない危険な主従、大変面白かったです。
>>ゲーニッツ&アサシン
アサシン・ヴァニラアイス。やっぱりあの有無を言わさぬ殺傷力はサーヴァントになっても厄介ですね。
そしてそんなヴァニラとマスターであるゲーニッツの会話も"らしく"て面白い。
強力な主従ですが仮に勝ったとしても最後の最後に必ず最大の障害が現れる、その構図も含めてとても面白かったです。
>>的場勇一郎&アサシン
半天狗はマジで相変わらずだなコイツ……。と、そう思わせてくれる話でした。
とはいえあのしぶとさと変則的な性能は聖杯戦争でも確実に厄介だろうなというのがまた。
そしてそんな彼を喚んだマスターもなかなかに人間性が歪んでおり、ああ、縁だな……と思いました。
皆さん本日もたくさんの投下ありがとうございました!
コンペはいよいよ明日で最終日となります。最後まで当企画を宜しくお願いします。
投下します
聖杯戦争開幕前夜。
二組の主従が対峙していた。
一組は少女と騎士の主従。
もう一組は、女性とコートを纏った偉丈夫の主従だ。
右手に令呪を刻んだマスターである少女は何の変哲もない少女だった。
年は16歳程。黒の学生服に身を包んだクラスで五番目ほどの顔立ちの少女。
聖杯戦争という非日常の極点はおろか、魔術の魔の字も知らなさそうな事が伺える佇まい。
一目で不運にも巻き込まれたのが分かるマスターであった。
その傍らには、甲冑を着こんだ如何にもな騎士が控えている。
「――――これが、最後だ。ライダーのマスター。そのライダーを自害させよ。
なおも否を唱えるのであれば、私も手を下さざるを得なくなる」
対するもう一人のマスターは、平凡等と言う言葉からはかけ離れた女だった。
アメジスト色の瞳と、腰まで伸びた長髪。
顔を構成するパーツ一つ一つが黄金比で構成されているような整った顔立ち。
同じく芸術的とまで言える豊満で引き締まった肉体を瞳の色と同じ紫のドレスが彩っている。
彼女に見つめられた者は嫌でも想起するだろう『女神』と言う言葉を。
事実、その超越的な容姿と物腰を前にした少女も同じ印象を抱き、頭を垂れたくなっていた。
彼女が、自身が引き当てたサーヴァントを自害させて軍門に下れと命じていなければ。
その隣には、赤いコートを纏った偉丈夫が無言で控えている。
不機嫌そうな物調面と、金の基調としていながら三割ほどを占める黒色の髪が特徴的な男だった。
「もし、お前がこの命に従うなら私は母として――神として、お前を愛そう。
無論、元の世界へ帰る事も責任を以て成し遂げることを約束する」
凛、と。
鈴の音のように可憐で、しかし強い意思に満ちた言葉を、女は告げる。
その言葉にきっと嘘偽りはないのは少女にも分かった。
きっとこの人は本当に言葉の通りに従えば家族の待つ家に帰してくれるつもりなのだろう。
だけれど、少女は首を横に振るった。
自分の呼びかけに答えてくれたサーヴァントを…ライダーを裏切ることはできないと。
自分たちの別れがそんな形で為されることはとてもとても哀しい事だと。
だから、私は貴方を拒絶すると、少女は震えながら、それでも淀みない言葉でそう告げた。
ライダーも、彼女の信頼に応える様に前に進み出る。
あぁ、彼は寡黙だったけれど
その大きな背中はいつも自分にとって、とても頼もしかった。少女はそう思うことができた。
「――――あぁ、そうか。ならばお前は――――」
その言葉を聞いて、その様を見て、女は。
とても、とても哀しそうに笑い。
そして、氷のように冷たい声で少女に告げた。
「わが氷の前に、消えゆくしかあるまいよ」
刹那の事だった。
ライダーの上半身が、文字通り切り飛ばされたのは。
呆然と前を見れば、女の隣に立つコートの男の右腕が変貌しているのが見えた。
少女はおろかサーヴァントであるライダーが反応すらできないけた外れの、超越の速度。
「え」と少女が唱えると同時に全ては終わっていた。
次瞬には、少女も己が従僕と同じ結末を辿っていたのだから。
ただ、最後に。
変貌した男の右腕を、天使の翼の様なその剣を。
あぁ綺麗だなぁと漏らして。
こうして一組の主従が、敗残の徒として、聖杯戦争と言う闘争に飲み込まれて消えた。
▼ ▼ ▼
崩れていく。消滅する。
彼女が護ろうとしたあり得ざる北欧世界。剪定された可能性が今再び斬り捨てられようとしている。
空にまで届く何かが崩れていく残響。
世界を支えていく何かが消えていく躍動。
全てを成立させていた空想の樹が消えた今、それを止める術はもうない。
―――征け、黄昏を超えて。
…そう言って勝者を見送ったことはきっと、敗者として正しい行いだったのだろう。
冠を捨てた王は、眠るほかないのだ。
朽ち果て消えていく夢の跡と共に。
だけれど。あぁ、それでも。
諦めたくなかったなと思う。春を迎えた我が世界を見たかったなと願う。
愛した世界を護りたかったなと、消えていく意識の中でただ手を伸ばした。
全てが白に染まっていく景色の中、その手には三角の赤い紋様が刻まれ―――
▼ ▼ ▼
東京郊外にある買い手がつかず朽ち果てた廃教会。
何故そんなものが一等地の近くにあるのか。いつから放棄されていたのか、それは分からない。
だが、今や打ち捨てられた教会は”彼女”の神殿となっていた。
「7騎だ、セイバー」
静謐な空間に透き通る声が響いた。
声の主は、つい先程一組の主従を脱落させた張本人。
右手の甲にマスターであることを示す赤い模様―――令呪が刻まれた女。
その魔力量は人間の魔術師ではありえない。サーヴァントですら、彼女に匹敵する魔力量のサーヴァントは殆どいないだろう。
何しろ彼女は―――『スカサハ=スカディ』はかつて異文帯を統べた女神だったのだから。
「お前が屠った10騎のサーヴァントとマスターの中で、この聖杯戦争からの脱出を目指していた者達だよ」
氷の様な、何の感情も伺えない言葉。
それを聞いたセイバー「それがどうした」とだ返事を返す。
セイバーにとって、スカディの真意は未だに理解不能だった。
敵の主従を見ればまず倒そうとするのが普通の反応だろう。
だが、自分のマスターはまず願いの有無を敵に問うのだ。
これまで自分が屠った10騎のサーヴァントのうち、三騎は聖杯を求める者だった。
だから屠った。雌雄を決した。此処まではまだよい。
問題は残りの七騎―――聖杯戦争に消極的だった者達だ。
その者達は往々にして取り立てて見るべきところのない、セイバーにとっては路傍の羽虫程度の存在で、それでもサーヴァントと共に団結し、脱出を目指していた。
そんな彼等に対してマスターの対応は決まっていた。
彼女は必ず『サーヴァントを自害させ自分の軍門に下れ』と迫ったのだ。
軍門に下れと言っても殺すわけでは無く、むしろ真逆の対応をしようとしていた。
聖杯戦争終結までマスターの作った神殿で保護し、聖杯を獲得した暁には家に送り届けると。
きっと、その言葉に嘘偽りはなかっただろう。
だが、そう持ちかけられた主従の反応もまた、画一的だった。
「そんな話、受け入れられるはずがない」、と。
敵の言う事を信じるか否かのリスクの判断とは別の所で、何の因果か敵の主従は硬い絆で結ばれている者達ばかりのようだった。
そして、そう答えた主従の末路は決まっていた。
粛清。粛清。粛清。氷の様な冷徹さで、かの女は自分に鏖殺を命じた。
どうせ最初から敵なのだ。ならば出会った時点で粛清を命じればいい話であろうに―――
「それはできんよ。私は女神として責任と覚悟を以て、愛すものと殺すものを定めている」
窓の外で暖かな陽の光を浴びて遊ぶ子供たちを見つめながら、スカディはそう告げた。
心を呼んだかのような言葉だったが、セイバーは取り立てて気にしなかった。
召喚されてからこういった事は何度かあったし、むしろ態々尋ねる必要が無くて話が早い。
「……態々滅ぼそうとしている相手と対話をするのも、その一環という訳か」
「然り、あのカルデアの者らもそうしていただろうよ」
それでも、気づけばセイバーはマスターに問いかけていた
彼女が滅ぼそうとしているという対象は、何もこの街にいるサーヴァントとマスターに限った話ではない。
人や動物に限らず、世界全ての命を滅ぼそうとしていたのだ。
神すら超える大権能、界聖杯(ユグドラシル)の力によって。
「対話を放棄して生まれ出る犠牲を塵芥のように扱う事も出来ようが、
それで得る救済もまた塵芥に等しい。だから私はかの者達に必ず選択の余地を与える。
我が寵愛を受けるか、或いは死を受けるかをな」
召喚された直後に、セイバーは己がマスターの事情を全て聞いていた。
異文帯(ロストベルト)行き止まりの人類史。
いずれとも知らぬ場所からやって来た空想の種によって齎された一つしかない世界の椅子を奪い合う生存競争。
それに彼女は敗れ、敗軍の将として此処へ流れ着いたらしい。
何故かは彼女にも分からない。
消滅しつつあった空想樹が最後の抵抗として此処へ送り込んだのかもしれないし、全く別の誰かの悪辣な奇跡によるものなのかもしれない。
だが、そんな事は最早どうでもよかった。
重要なのは、自分がまたあの北欧世界を救うチャンスを得たという事だけ。
勿論、あの時カルデアのマスターと盾の少女に言った言葉は嘘ではないけれど。
それでもまだ、命ある限り自分はあの北欧(テクスチャ)の王なのだ。
冠はまだ捨てるわけにはいかない。たとえ自分がどんなに弱い王であったとしても。
まだ眠るわけには、いかなくなった。
「―――かの界聖杯は確かにあの空想樹…ソンブレロと同じだけの権能を発揮し得る。
だが、それは完全な形でこの聖杯戦争が完遂した場合だ」
その言葉を聞いて、セイバーは提案を断った主従に対して何故この女がああまで冷酷だったのか合点がいった。
もし同じ聖杯を目指している相手ならばいずれ雌雄を決する時が来るだろう。
だが、この聖杯戦争そのものから降りる事を目指している主従ならば?
この地には聖杯戦争の進行を取り仕切る教会勢力も裁定者(ルーラー)の存在もいないことはセイバーも召喚の際、座から情報を与えられていた。
座の記録にある冬木で行われた聖杯戦争ならば脱落を望む参加者は教会勢力によって保護され、然るべき契約の処理がなされた後に聖杯によってその脱落したサーヴァントの魂は回収される。
だが、此処にはそう言った勢力は居ない。
果たしてその場合でもマスターが帰還を果たしたサーヴァントの魂は聖杯に回収されるのか?
通常なら、マスターが契約を切った時点で魔力供給を途切れ、魔力が底をついて消滅するだろう。
スカディの見立てでは、九割九分問題ないはずであるとの事だった。
だが、契約を保持したままマスターが、或いは主従揃って何らかの奇跡を、用いてこの東京から去ればどうなる?
聖杯戦争終結前にこの地を脱出する。そんな不条理、本来であれば杞憂と言えるだろう。
だが、帰還を目指すマスター達は全員サーヴァントと深く絆を紡いだ者達ばかりだった。
いつだって無理や道理を超越して不条理とも呼べる奇跡を手繰り寄せるのは、そんな絆の力だ。
そして、女神はその絆の力を何よりも恐れる。
彼女が敗れたカルデアの者たちは、そんな紡いだ縁と絆の力を以て炎の巨人王すら打倒するという不可能を成し遂げたのだから。
「……そうだ、私にはそのほんの僅かな可能性すら恐ろしい」
異文帯を救う。それは最早新しい人類史の創造に等しい。
その大偉業は、大奇跡は、果たして不完全な聖杯でも成就するのか?
もし、勝ち残っても奇跡が成就しなければ文字通り全ては徒労に終わる。
一分の綻びすら、彼女の大望には致命的なのだ。
ガスの充満した箱を開けて見なければ猫の死が確定しないように、実際にその時にならなければどうなるかは分からない。
それでも、今できる事は少しでもこの儀式の完遂のために不確定要素を生み出す存在を排除しておくことなのだ。
きっと彼女はそう結論付けたのだろう。
未来のない、無間の冬が続く世界に春をもたらすために。
北欧の母たる彼女は、何度でもその奇跡に手を伸ばさずにはいられず、失敗は許されない。
――――それで?奴らの汚らわしい生き方を肯定しろとでも?
―――――違う。俺が言いたいのは、俺たちが如何に何も知らないかだ!
ただ、無知のままに引かれる引き金を、俺は決して許さない。
そんな彼女の様子を見て、言葉を聞いて、彼の脳裏に浮かぶのは一人の男。
セイバーに、彼に勝利した魂の片割れ。砂漠の惑星の、たった一人の同胞(おとうと)
その事に気づいた時、言いようのない感情がこみあげてくるのを感じた。
だから、思っていることを率直に口にした。
「…俺からすればお前の目指している汎人類史とやらが、そうまでして焦がれるものとは思えんがな」
そう言って、窓の外を見つめるセイバーの目はまるで害虫の巣を覗いたようだった。
彼にとって、スカディが治めていた世界はそう悲観したものとは思えなかった。
そこに争いはなく、全ての人間が無垢なまま生涯を終える一つのシャングリラ。
矛盾も欺瞞もないその世界を、争いと搾取と排斥に満ちた歴史に近づけようとしている彼女の願いはセイバーにとって度し難いものだった。
―――なあ……本当の所、訊いていいか? 百年近くその中で生きてきて、お前一度も人間に対して憎しみを持ったことがなかったのか?
何度裏切られた? 何度傷つけられた? 何度嘘をつかれた? 何度屈辱を受けた?
人間扱いされなかったことは? 大切なものを奪われたことは? いわれなく疑われたことは? 笑われながら踏みにじられたことは?
――現実を凝視しろ。お前は……矛盾だらけだ。
脳裏に浮かぶのは、かつて自分が弟に投げた問い。
例え北欧の再生とやらを成し遂げた所で、いずれ成長した人間達は神(スカディ)を必要としなくなるだろう。
搾取するだけして、厚顔無恥に斬り捨てる時がやってくる。
そうなったときに、目の前の女は後悔せずに居られるのか?憎まずに居られるのか?
度し難いからこそ、それを問わずには居られなかった。
対する女神は、再びセイバーの心を読んだように。
「セイバー、余り私を舐めるな。言っただろう。
―――私は責任と、覚悟を以て愛と死を決めていると」
一粒の迷いも感じさせず、そう告げた。
彼女はそのまま、堰を切ったように言葉を紡いでいく。
「どれ程穏やかで、争いが生まれないとしても。我が北欧にそれ以上の変化はない。
発展する力も、変化する力も生まれ得ない。
……わが愛では、我が雪では、春の芽吹きの先ぶれまでしか権能は届かない!
そんな無力で無様な歴史に比べれば、あのカルデアの者達のような存在が生まれ得る歴史の方が――望むところであろうよ!!」
それは子を見殺しにし続けるほかなかった母の叫びだった。
これまで斬り捨てられてきた敗者の慟哭だった。
自分に希望の二文字を教えてしまった、カルデアへの、空想の種を与えた何者かへの咆哮だった。
「そのためならば…我が一万の愛がためならば…
この世界に、汎人類史に生きる幾億、幾千億、那由多の命すらこの手で奪って見せよう!!
それらは全て!我が悲願を阻む大敵であるがゆえに!!」
そのためならば自分は全てを賭けてもいい。
北欧の女神は、今再び自らを取り巻く世界全てへ宣戦を布告する。
その姿を見て、セイバーは思った。
あぁ、そう言う事なのかと。
何故自分がこの女に呼ばれたのか――――
――終わりに。もう終わりにしないか。全ての答えは出ている。俺たちが争う意味は何処にもない。
それは、彼が経験した終わりの終わりの風景。
決断の血は己が流すと走り、その結果救わんとした同胞から見放された男の旅路の果て。
―――お前らしいな。何処までも……
だが、俺は跪かん。過去と未来の俺がそれを許さん。
世界でただ独りになろうとも…俺は、俺の道を誇る。
果たして、彼の弟が人間に丸め込まれたのか。
それとも、彼が過剰に人間を畏れただけだったのか。
それは最早意味のない問い。
確かな事は、何一つ終わりにしないと足掻き続けた弟が勝利したという事。
「…………いいだろう、興が乗った」
未来への切符は何時も白紙だと、誰かが言った。
しかしその言葉が本当だとするなら。
セイバーは、孤独の王は、この孤独の女王の行きつく果てが何処へと辿り着くのか知りたくなった。
「聖杯などどうでもいいが―――お前の旅路の果てが何処にあるのか。精々見物させてもらおう」
「そんなもの、勝利以外にあり得んさ。そう、勝つのは我らだ」
最早互いに言葉はいらなかった。
女王は王の力をこの予選で理解していたし、王にとっても戦うための理由を今ここに得たのだから。
ならば、後は進軍するのみ。
願うのは、穏やかな春を迎えることのできる当たり前の世界。
人が何かを成し遂げ、老いて死んでいく、そんな正しき世界こそ、この主従の本懐である。
例え、無間無量の炎と氷、想いの屍を築くことになろうとも。
全ては、今度こそ黄昏を越えた世界へたどり着くために。
【CLASS】
セイバー
【真名】
ミリオンズ・ナイブズ@TRIGUN MAXIMUM
【パラメーター】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力A 幸運C 宝具A+++
【属性】
秩序・悪
【クラススキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけられない
騎乗:D
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。
飛行艇を操ったという逸話から、空を飛ぶ乗り物の場合さらに補正がかかる。
【保有スキル】
単独行動:A
マスター不在でも行動できる。
ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。
直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。
魔力放出:C
武器、ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、
瞬間的に放出する事によって能力を向上させる。
【宝具】
『天使(プラント)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
エネルギー源及び各種生産能力を自然の摂理を超越して、違う世界から「持ってくる」「持っていく」力を持ち、物質を無から創りだせる。
さらに、物質を生み出すだけでなく、毒素の排除や肉体の修復、ありとあらゆる事に応用できる。
だが、この力を使えば、魔力消費とは別にセイバーは疲弊していき、髪が黒く染まっていく。
これが所謂「黒髪化」であり、髪が黒く染まりきった時、魔力がたとえ十分に供給されていたとしても、セイバーは現界を保てず消滅する。
セイバーは予選の段階で既にこの力を三割ほど消費している。
『孤独の王-片翼-(エンジェル・アーム)』
ランク:A+++ 種別:対星宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
上記のプラントの力を使用して発動する宝具。
あらゆる物質、多元的宇宙や高次元すら切り裂く天使の刃を放出する。
その速度は超光速の領域であり、射程は月にとどくほどだが、黒髪化が一番進む宝具である。
黒髪化が進行しきった状態、『最後の大生産(ラスト・ラン)』の状態でこの宝具を使用すればさらに+値がかかるが、使用した瞬間セイバーは消滅する。
『孤独の王/終わらない唄』
ランク:E 種別:- レンジ:- 最大捕捉:-
上記のプラントの力を使って一本の林檎の木を創りだす。
作り出しても特に効果はないが、この宝具だけは使用しても黒髪化が進行しない。
【Weapon】
超越種としての身体能力と、プラントの能力で作った刀。
【人物背景】
プラントと呼ばれる物質を生み出す生体ユニットの突然変異、自立種。
弟と同じく、彼もかつては人間を信じていたが、テスラと呼ばれる同胞の事件により、人間に激しい恐怖と憎悪を抱くようになり、同じプラントたちを救うべく人間を絶滅させようとする。
しかし、百五十年賞金首として守るべき人間に追われつづけて尚、それでも人の傍らに寄り添い続けた弟との死闘の末敗北。
最後は重傷を負った弟を嫌悪していた人間に任せ、
その代償として残された力を使って砂漠の惑星に一本の林檎の木を生み落し、姿を消した。
【サーヴァントとしての願い】
願いはない。マスターの行末を見届ける。
【マスター】
スカサハ=スカディ@Fate/Grand Order
【マスターとしての願い】
北欧異文帯を存続させる。
【能力・技能】
筋力:B 耐久:D 敏捷:C 魔力:EX 幸運:D 宝具:A
陣地作成:EX
女王として、何処であろうと己が城を作り上げる。現代の魔術で言うことの神殿クラスに相当する規格外の能力。
道具作成:A
王として、多くのモノを魔力から編み上げる。装備にせよ霊薬にせよ、樹木の類にせよ、大半は低温になるようだ。触れると冷たい。
女神の神核:A
女神であることを現すスキル。神性スキルを含む複合スキルでもある。神でありながら巨人としての性質も同時に併せ持つスカサハ=スカディは、EXランクではなくAランクに分類されている。
凍える吹雪:B
雪山の女神、北欧の神スカディの性質をあらわすスキル。万物を凍えさせる、極北の風の具現。本来は権能であるため、Aランク以上の威力を発揮すれば、
女王スカサハは霊核ごと完全に消滅してしまう。そのため、本スキルの使用はBランクまでに限られる。
原初のルーン:B
北欧の魔術刻印・ルーンを自在に操る。現在の魔術師たちが使用するものと異なり、大神オーディンの編み出した原初のルーンである。その威力は人知を超える。
本来ならば扱える即死や拘束のルーンは界聖杯による霊基の修復が不完全だったため大幅に劣化。ないし使用不可能となっている。
大神の叡智:B+
「神々の麗しい花嫁」と称されるスカディは北欧の神々の加護を身に有す。
かつて大神オーディンが片目を捧げて得たという大いなる叡智をベースとした、ランサー・スカサハの魔境の智慧スキルに似て非なるもの。
『死溢るる魔境への門(ゲートオブスカイ)』
ランク:A+ 種別:開戦宝具 レンジ:2〜50 最大補足:200人
世界とは断絶された魔境にして異境、世界の外側に在る「影の国」へと通じる巨大な「門」を一時的に召喚。
女神スカディではなく、ケルトのスカサハとしての自己が本来支配するはずの領域である「影の国の」の一部たる「影の城」が姿を見せる。
効果範囲の中の存在のうち、彼女が認めた者にのみ、「影の城」は多大なる幸運と祝福を与える。
発動中は自軍サーヴァントの全ステータスへのボーナス補正、直接攻撃の透過、即死をもたらす効果を持つ宝具への耐性が付与される。
【人物背景】
スカサハ=スカディ。北欧の女神スカディとケルトのスカサハが習合した存在。
21世紀の北欧異聞帯に於いて、実体を失い自然へと溶けた神霊ではなく、神代から連綿と続く時間を生きて来た実在の神として、異聞帯の王として君臨した神の女王。
カルデアに敗北後、北欧世界と運命を共にしたが、何の因果か界聖杯によってこの東京に招かれた。
消滅しかかった霊基を界聖杯によって強引に修復されたため女神としての権能は数段劣化しているが、莫大な魔力量は健在である。
恐らく汎人類史において最も招かれざる客の一人。
【方針】
勝ち残り聖杯を手にする。
その過程で聖杯戦争の確実な完遂のため不確定要素を起こしそうな主従や、
軍門に下らない脱出派の主従は積極的に排除する。
セイバーの宝具のリスクを鑑みて聖杯戦争肯定派の主従とは同盟を結ぶ方向で考える。
【備考】
NPCとしてのロールは設定されていません。
郊外に位置する廃協会を神殿として根城にしています。
投下終了です
wikiにおいて本日投下した自作の「的場勇一郎&アサシン」においてセリフを一部修正したことを報告します。
「そんなことはどうでもよいではないか。そんなことより儂はまた若い女の肉が食べられることが喜ばしいぞ」
→「そんなことはどうでもよいではないか。それよりも儂はまた若い女の肉が食べられることが喜ばしいぞ」
また、宝具の説明に追加事項があることも報告します。
追加:ちなみに、本体はとても小さく野ネズミ程の大きさしかない。その分、隠れられると発見は困難なもととなる。
失礼しました。
投下します
斎藤一は、珍しく困惑していた。
気がついたときには背広を着て、未知のものがいくつも置かれた部屋にいた。
それらは見たことがないはずなのに、名前も使い方もわかった。
どうやら聖杯戦争という超常の催しが、この不可解な状況を作り出しているらしい。
どうしたものかと考える間もなく、目の前に突然刀を持った少女が現れた。
彼女が自分にあてがわれた、サーヴァントなる存在らしい。
その少女は自分を見るなり、「うわっ、斎藤さんじゃないですか!」と声を上げた。
なぜ自分を知っている、と尋ねると、こともあろうに少女は沖田総司と名乗った。
あり得ない。沖田は何年も行動を共にした仲だ。
間違っても女ではなかったと断言できる。そもそも、顔がまったく違う。
「そりゃ私は、斎藤さんから見れば並行世界の沖田総司ですからね。
名前と立場は同じでも、人間としては別人です」
「並行世界……。よくわからんが、俺がいた世界とは似て非なる別の世界ということか……。
昨日までの俺なら、狂人の戯言と切って捨てるところだが、実際ここまで荒唐無稽なことが起こっていてはな……」
「そうです! 素直に受け入れましょう!
その方があなたも私もストレスフリーです!」
「だがそれなら、なぜおまえは俺が斎藤一だと知っていた?
おまえの世界の斎藤一も、俺と同じ顔だったということか?
いや、それにしてはおまえが『違う世界の斎藤一』であることに気づくのが早すぎた」「そりゃあなたは、数多くの斎藤さんの中でも一番有名な斎藤さんですからね!」
「おまえの世界では、そんな簡単に他の世界の情報を得られるのか?」
斎藤の指摘に対し、沖田は少しためらってから答える。
「そういうわけでもないんですが……。
一時期、その辺がゆるい世界にいたもので」
「意味がわからん」
沖田の返答を、斎藤はバッサリ切り捨てる。
「まあいい。とにかく、おまえが俺の僕だというのなら俺の命令どおりに動いてもらうぞ」
「それはもう! で、どのように立ち回るおつもりで」
「決まっている。了承も取らず何十人もの人間を見知らぬ土地に連行し、あまつさえ殺し合いを強制するなど言語道断。
悪・即・斬のもと、聖杯とやらを叩き切る」
「ヒュー! さすが斎藤さん!」
「その反応なら、異議はないようだな」
「ええ、ありませんとも。ただ、一つだけお願いがあります」
「なんだ?」
「牙突! 生で見せてくださいよ、牙突!」
「…………」
曲がりなりにも沖田じゃなかったら、顔面に蹴りを叩き込んでいた。
斎藤は、後にそう語った。
【クラス】セイバー
【真名】沖田総司
【出典】コハエース及びぐだぐだエース
【性別】女
【属性】中立・ぐだ
【パラメーター】筋力:C 耐久:E 敏捷:A+ 魔力:E 幸運:D 宝具:C
【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
Eランクでは、魔術の無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。
騎乗:E
乗り物を乗りこなす能力。
騎乗の才能。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
新撰組が騎馬を駆って活躍したという逸話は無く、申し訳程度のクラス別補正である。
【保有スキル】
心眼(偽):A
直感・第六感による危険回避。虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。
視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。
病弱:A
天性の打たれ弱さ、虚弱体質。沖田の場合、生前の病に加えて後世の民衆が抱いた心象を塗り込まれたことで、「無辜の怪物」に近い呪いを受けている。
保有者は、あらゆる行動時に急激なステータス低下のリスクを伴うようになる、デメリットスキル。
発生確率はそれほど高くないが、戦闘時に発動した場合のリスクは計り知れない。
縮地:B
瞬時に相手との間合いを詰める技術。多くの武術、武道が追い求める歩法の極み。
単純な素早さではなく、歩法、体捌き、呼吸、死角など幾多の現象が絡み合って完成する。
【宝具】
『無明三段突き』
ランク:なし 種別:対人魔剣 レンジ:1 最大捕捉:1人
稀代の天才剣士・沖田総司が得意としていた秘剣「三段突き」。
超絶的な技巧と速さが生み出した、必殺の「魔剣」。
「平晴眼」の構えから“ほぼ同時”ではなく“全く同時”に放たれる平突きで、放たれた「壱の突き」「弐の突き」「参の突き」を内包する。
放たれた三つの突きが“同じ位置”に“同時に存在”しており、この『壱の突きを防いでも同じ位置を弐の突き、参の突きが貫いている』という矛盾によって、剣先は局所的に事象飽和を引き起こす。
事実上防御不能の剣戟であり、結果から来る事象飽和を利用しての対物破壊にも優れる。効果範囲こそ狭いものの命中個所は「破壊」を通り越して刳り貫いたように「消滅」するほど。
『誓いの羽織』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
幕末に京を震撼させた人斬り集団「新選組」の隊服として有名な、袖口にダンダラ模様を白く染め抜いた浅葱色の羽織。
サーヴァントとして行動する際の戦闘服と呼べるもので、装備する事によりパラメータを向上させる。また通常時のセイバーの武装は「乞食清光」だが、この宝具を装備している間、後年に沖田総司の愛刀とされた「菊一文字則宗」へと位階を上げる。
『ぐだぐだの旗』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1-50 最大捕捉:100人
新撰組隊士たちを召喚する「誠の旗」が、何か余計な情報が入ったせいで変質してしまった宝具。
新撰組の代わりに、織田信長、李書文など、諸々の事情で縁を結んだ英霊たちを召喚する。
しかし縁がちぐはぐのため、召喚できる英霊や人数はランダムで変化してしまう。
例外として、ライダーさんだけは強制的に呼ばれる。
【weapon】
「乞食清光」
【人物背景】
幕末の京都を中心に活動した治安組織、新選組の一番隊隊長
……の、ギャグ時空での姿。
【サーヴァントとしての願い】
牙突を覚えて帰る
【マスター】斎藤一
【出典】るろうに剣心
【性別】男
【マスターとしての願い】
悪・即・斬
【weapon】
無銘の日本刀
【能力・技能】
「牙突」
「同じ相手と複数回戦うことがまれな戦場では、一撃必殺の技が一つあれば十分」という理念の元、極限まで磨かれた突き。
斎藤のアイデンティティーとも言える技である。
【人物背景】
元新撰組三番隊隊長。
明治維新後は藤田五郎と改名し、表向きは警官として、裏では密偵として
自分たちが敗者という形で作り上げた明治政府を守るために戦っている。
参戦時期は人誅編終了後。
ロールは警視庁の刑事。
【方針】
悪・即・斬
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七草にちかはアイドルに憧れていた。
より正確に言えば、八雲なみというアイドルに憧れていた。
恋焦がれるよりも強い想いで、憧れていたのである。
八雲なみ──かつて、流星のように輝き、流星のように消えていった伝説のアイドル。
自他ともに認める凡人のにちかにとって、それは対極の存在だ。路肩に転がる石ころが、ジュエリーショップに並ぶ宝石に憧れるようなものである。そもそもからして、次元が違う。住んでいる世界が、違う。
だが、にちかは八雲なみに憧れた。彼女のようなアイドルになりたいと、心の底から願った。
そのような想いを、彼女は実行に移した。端的に言えば、とある芸能事務所のプロデューサーと接点を持ち、紆余曲折あった末にアイドル研究生になったのである。ただし、それは、同事務所で事務員として働く実姉との間で「『W.I.N.G.』で優勝できなかったらアイドルを辞める」という約束が取り交わされた上でのデビューだった。『W.I.N.G.』とはすべての新人アイドルにとっての登竜門となる一大イベントだ。とてもではないが、昨日までCDショップでアルバイトをしていた凡人が簡単に優勝できるものではない。ハナから「諦めろ」と言われているようなものである。
しかし、にちかは諦めなかった。
アイドルであり続けるために、憧れの八雲なみに近づくために、やれることはなんでもやり、努力を惜しまなかった。
努力して──努力して、努力して、努力して、努力して、努力して、努力して、努力して、努力して、努力して、努力して、努力して、努力して、努力して、努力して、努力して、努力して、努力して、努力して、努力して。
平凡な子が出せる全力の二倍は努力した。
にちかがした努力の最たるものが、八雲なみの模倣(トレース)だった。だって、彼女が自分そのものなんかを出そうとすれば、平凡な要素しか出てこないのだから。そんなつまらない人間では『W.I.N.G.』優勝なんて夢のまた夢である。書類審査さえ通るまい。だったら真似るしかないだろう、八雲なみを。故ににちかはどれだけ自分を削り、どれだけ八雲なみに近づけるかということに心血を注いだのである。
血を吐くような思いで戦って、苦しくても抗って、必死で手を伸ばす日々。その過程で嫌という程感じさせられる、自分と『八雲なみ(アイドル)』の間に隔たる壁。それを認識するたびに、挫けそうになる。だが、諦めない。諦められない。何かに突き動かされるような気分で、にちかは前に進み続けた。
その結果──彼女は『W.I.N.G.』の頂点まであと一歩の所まで到達した。
そして訪れた決勝の日。
極度の緊張に苦しめられながらも、にちかは自分に出せる最高の歌を奏で、最高のダンスを踊った。あの日披露したパフォーマンスは、間違いなく彼女史上で最高のものだったといえるだろう。
そして彼女は──敗北した。
あっさりと。
あっけなく。
まるで、それが必定だったかのように。
石ころは所詮、どれだけ努力しても石ころだったのだ。
当時の、こちらを心配するプロデューサーの顔をよく覚えている。対する自分はどんな顔をしていたのだろう。たしか笑っていたはずだ。
ああ、やっと終われた──もうあんな苦しい思いをしなくていいんだ──『アイドル(プラス)』から『凡人(ゼロ)』に戻れたのだ──と。
そんな風に安心していた気がする。
『あはははははははははははは!』
自分が聖杯戦争のマスターとして異世界の東京に連れて来られる以前の記憶を思い出している最中だったにちかの耳に、笑い声が飛んできた。聞くだけで背筋に悪寒が走り、耳を塞ぎたくなるような声だった。
回想を中断させられたにちかは、不機嫌そうな目つきで声の発生源を見る。そこにはひとりの男がいた。黒い学ランという格好や、顔つきから判断するに、にちかと同年代、あるいは一、二歳年上だろうか。
男は椅子に腰かけ、リラックスした姿勢で雑誌を開いていた。週刊少年ジャンプ。日本で一番売れている漫画雑誌である。
「……あの、うるさいんですけど」
『おっと、ごめんね』『面白すぎて我慢できなかったよ』
悪いと思ってなさそうな軽薄な口調でそう言うと、学ランの男──ルーザーは紙面から目を離し、にちかの方を向いた。底の見えない奈落のような彼の瞳に見つめられ、にちかは形容しがたい不快感を覚えた。
『これだけ面白いジャンプを再現できるなんて、界聖杯は凄いね』『侮れないぜ』
「たしかそれって漫画雑誌ですよね。……うわー」
軽蔑するようににちかは言った。
「高校生が、しかもサーヴァントになるような人が、そんなの読んで笑うんだ。めちゃめちゃ子供っぽい……」
『ジャンプは人生の教科書だよ』『何歳(いくつ)になって読んでも面白いのさ』
「いい感じのこと言おうとしてるのかもしれませんけど、わけわかんなくてわけわかんないですよ──そもそも、こんな状況でよく漫画なんか読めますね」
にちかとルーザーのふたりは、聖杯戦争というコロシアイに巻き込まれている最中である。いま現在はにちかの部屋に隠れているが、次の瞬間にはどこかからやって来た敵が、彼女たちを襲撃する可能性がないとは言い切れないのだ。だというのにルーザーは、まるでそれが自分にとって最優先の使命であるかのようにジャンプを熟読しているのである。ふざけているとしか思えない。しまいには
『せっかく東京にいるなら、いつか集英社を見に行きたいね』
などと言い出す始末だ。
「緊張感がないのヤバいですよ、マジで」
『おいおい』『僕にそんな、いかにもマスターっぽいこと言うってことはさあ、にちかちゃん』『あれだけ悩んでいた君の方針はもう決まったのかな?』
言い返すルーザーに、にちかの声は詰まる。
方針。単純に言い換えるなら、聖杯戦争に乗るか否か。あるいは、マスターとして聖杯に掛ける願い。
聖杯戦争のマスターなら誰もが持っているそれを、にちかはまだはっきりとさせていなかった。
『たしか、にちかちゃんには夢があったんでしょ?』『アイドルだっけ?』『それを聖杯で叶えればいいじゃない』
界聖杯で再現されたにちかの自室を見渡せば、彼女が何に憧れているかなど明白だった。
たしかに数か月前の、まだアイドル候補生ですらなく、ビッグになるために必死だった頃のにちかなら、いちもにもなくそう願い、聖杯戦争に参加していたかもしれない。
だが今の彼女は──違う。
「……もう、それはいいんです」
敗北を知った彼女は違う。
「せっかく、あんな……苦しさを味わうことも、自分がなみちゃんではないって思わされることもなくなったんですから──むしろ、元のなんにもない私に戻れてよかったと思えてるくらい……えへへ、聖杯戦争に勝つ前から願いが叶ってるようなものですね」
『…………』
「こんな私がもう一度アイドルになるなんて、聖杯の無駄遣いですよ」 それまで下を向きながら喋っていたにちかは、そこで顔を上げた。その顔には張り付けられたようにぎこちない微笑があった。「あっ、でも聖杯を使えば家族にもっと楽をさせてあげられるのかな。だったら欲しいかも」
『ふーん』『そっか』『それでいいんじゃない?』『いずれにせよ、女の子の願いの為に戦えるなんて、僕の身に余る光栄だよ』『ところでにちかちゃん』
ルーザーはそう言って、開きっぱなしだったジャンプを閉じた。
『君は自分のことを「なんにもない」と言ったけど、それは間違いだ』『大嘘だぜ』『「なんにもない」ってのは、こういうことを言うんだよ』
瞬間。
にちかは膝から崩れるようにして倒れた。
『「大嘘憑き(オールフィクション)」』『七草にちかの脚力をなかったことにした』
「ッ⁉」
たしかにさっきまであった現実が虚構(なかったこと)へと転じる異常事態。
驚きのあまり、喉から叫び声が迸りそうになる。
だが出ない──叫びが。声が。
『ついでに君の可愛い声もなかったことにした』
『────ッ!!』
声帯の代わりに全身が震えた。
足と声を失い──「なんにもな」くなってしまい、にちかは愕然とする。
こんな状態では聖杯戦争を勝ち抜けるわけがない。これまでのような日常生活を送ることも不可能だ。それにこんな状態では、ステージに立って踊ることさえ──瞬間、にちかは思い出す。
ステージの上から見たファンたちのことを。共に同じユニットを作り上げてきた緋田美琴のことを。いつだって自分の面倒を見てくれたプロデューサーのことを。
脳裏を駆け巡る僅か数か月の日々。それらは苦しく厳しい偽者の戦いだった。しかしそれでも──悪いことばかりではなかった。苦しいことばかりではなかった。辛いことばかりではなかった。
どれだけ彼女が自分のことを貶めるようなことを言ったとしても、それはなくならない。
なかったことには──ならない。
「…………」
『どうやら自分の気持ちを思い出したようだね』『おめでとう、にちかちゃん』
にちかは、床に這いつくばった状態でルーザーを見上げる。逆光の所為か黒い影が落ちているように見える顔。それが帯びるはプラスどころかゼロでもない、マイナスの雰囲気だった。
『それなのにさっきはあんなこと言っちゃってさあ』『僕の括弧が感染(うつ)ったのかと思うくらいの格好つけっぷりだったぜ』『僕は「嘘つき」と「少年漫画を侮辱する人間」が嫌いなんだ』『両方を満たしてる君とは、いいパートナーになれそうにないな』
にちかは歯を食いしばり、ルーザーを睨みつけた。視線に籠った敵意をまるでシャワーのように浴びながら、ルーザーは言う。
『おいおい』『僕のことを睨むのは見当違いだし、恨むなんて御門違いだぜ』『僕は悪くない』『僕みたいな危険人物を引き当てた君の運が悪いんだよ、にちかちゃん』『それに、たかが足と声だけで自分の大切な気持ちに気付けたなんて、良かったじゃないか』『まあ、立てないし喋れない今となっては、それを諦めるしかないんだろうけど』『それでも、これから先の数十年を凡人として生きていくにちかちゃんにとっては大きな収穫になったはずだ』
「──────ッ!」
『安心するといい』『聖杯戦争については僕がなんとかしておくからさ』『戦争がはじまる前から諦めムードだったきみは、ここで石ころみたいにじっとしてな』
言って、彼は部屋を去ろうとした。
「諦めたくない!」
ルーザーの背中に声が飛んできた。にちかの声だった。
「もう一度歌って、もう一度踊って、もう一度挑んで、もう一度戦って、もう一度ステージに立って、もう一度努力して、もう一度──聖杯なんて都合のいいものに頼るんじゃなくて、私の力で、もう一度アイドルになりたい!」
彼女はゆっくりと立ち上がりながら、殆ど泣きそうな形相で叫ぶ。
その時になって、彼女はようやく気付く。自分が二本の足で立ち、喉から声を放っていることに。そんなことに気付くのが遅れるほど、必死に叫んでいたのだ。
「ど……どうして……?」
『ごっめーん☆』
ルーザーは片目を閉じ、舌をペロりと出して、握ったげんこつで自分の頭を小突きながら言った。
『「大嘘憑き(オールフィクション)」というのは嘘でした!』
「え」
『「安心大嘘憑き(エイプリルフィクション)」』『他の霊基ならともかく、今この場に召喚されている僕が「なかったこと」にしたものは三分で元に戻る』『にちかちゃんの声と足みたいにね』
「…………!」
『いやあ、それにしてもさっきの台詞には思わずウルっときたよ』『ハンカチを用意していて助かったぜ』『咲ちゃんの件ですでに知っていたつもりだったけど、やっぱりいいなあ、アイドルって』
「…………!」
『おいおい、どうしたんだいにちかちゃん!』『口をぱくぱくしちゃってさ!』『なにか言いたいことでもあるのかな?』
「あ……」
『あ?』
「あほー!」
七草にちかの拳が炸裂した。
アイドルとして並々ならぬトレーニングを積んでいるとはいえ、所詮はただの少女であり、むきむきでもない彼女の拳が、神秘の塊であるサーヴァントに利くはずがない。
そんな常識を裏切るかのように、風に吹かれたチリ紙のように飛んでいくのが、ルーザー──球磨川禊という最低最弱の過負荷(マイナス)だった。
「アホですかあなたは! あんな台詞を引き出す為に、私に攻撃するなんて……このっ、ばーかばーか!」
『え? いや、そりゃないでしょ⁉』『そりゃあ、ちょっと荒療治が過ぎたかもしれないけどさあ、まずは元に戻った声を使って、自分から本音を引き出してくれた優秀なサーヴァントに感謝の言葉を言うべきじゃないかな⁉』『おいおい、どうしてそこで令呪を掲げるんだ⁉』『待ってくれ、とりあえず落ち着こう!』『僕はサーヴァントとして、少しでも君の助けになれたらと思っただけなんだ!』『登場話でこれなんだ、きっと僕たちは良い主従になれる!』『だから令呪を怪しげに光らせるのは──』
それからにちかは、ありったけの罵倒を口にした。令呪は使わないでやった。
息と語彙が尽きた頃、彼女は「はあ」と呆れたような溜息を吐き、椅子に座る。
無数の罵倒を浴び、敗者(ルーザー)らしく床に倒れ伏す球磨川に目をやる。しばらくむすっとした後、彼女は口を開いた。
「──もしかしてルーザーさんは、最初から私の本心に気が付いていたんですか」
『当り前さ』
事も無げに言うルーザー。
『僕を召喚するような女の子が、負けたままで終わる人間なわけがないじゃないか』
こうして。
主人公/アイドルを目指すふたりの敗者は、ステージへと上がった。
『勝てなかった』で終わらせないために。
◆
「そういえばルーザーさんって、聖杯に何を願うか決めてます?」
『僕みたいな例外を除けば、サーヴァントになる奴って大抵はどこか人より優れてるエリートばかりでしょ?』『そんな奴らが必死になって求めてる聖杯で、死ぬほどどうでもいい願いを叶えたら、これまでの戦いが全部茶番になって、かなり笑えそうじゃない?』『ええと、そうだなあ……』『「ギャルのパンティおくれ」とかどうだろ』『「今後の聖杯戦争で女性サーヴァントはパンツ丸出しの霊基で召喚される」も捨てがたいかなー!』
「うわぁ……」
【クラス】
ルーザー
【真名】
球磨川禊@めだかボックス
【属性】
混沌・負
【ステータス】
筋力E- 耐久E- 敏捷E- 魔力E- 幸運E- 宝具EX
【クラススキル】
過負荷:A-
混沌よりも這い寄るマイナス。
所有するスキルすべてのランクにマイナス補正がかかる。また、このスキルを持つ者はマイナスではないプラス側の相手から高確率で激しい嫌悪を感じられるようになる。
聖杯戦争というプラス側の人間が勝ち抜くのが常識のバトルロワイアルにおいては、デメリットにしかならないスキル。
【保有スキル】
敗者の見識:E-
貧者の見識の類似スキル。言葉による弁明、欺瞞に騙されることなく相手の弱さを見抜く眼力。
ルーザーは弱さという弱さを知り尽くしている生粋の敗者である。
マイナスのカリスマ:E-
マイナス側の人間とされる愚か者と弱い者に作用するカリスマ。カリスマとは言うが、このスキルを持つ者が、誰かの上に立つことは出来ない。いわばぬるい友情のような結束感。
プラス側の人間から嫌われがちなルーザーだが、万人の下を行くその姿はマイナス側の人間に「自分より下がいる」という安心感を与える。
戦闘続行:E-
往生際が悪すぎる(『僕は悪くない』)。
どこに打ち込まれても致命傷となるほどにひ弱なルーザーであるが、同時に、倒れても不死身の怪物のように立ち上がる
【宝具】
『安心大嘘憑き(エイプリルフィクション)』
ランク:E- 種別:対宝具 レンジ:? 最大捕捉:?
『現実(すべて)を虚構(なかったこと)にする』スキルである『大嘘憑き(オールフィクション)』に『三分間限定で自身のスキルを全面無効化・全面禁止するスキル』である『実力勝負(アンスキルド)』を合成したことで誕生した完全版負完全。
このスキルで「なかったこと」にした対象は三分で元に戻る。
『却本作り(ブックメーカー)』
ランク:C- 種別:対正宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
ルーザーのはじまりのマイナス。
この宝具で生み出される螺子で刺された相手の肉体的・精神的、その他様々なステータスは、ルーザーと同じレベルまで下降する。強者に対する一種の封印宝具。この宝具が刺さりさえすれば、異形の化物だろうと、超常の能力者だろうと、一切の例外なくマイナスへと凋落し、心を折られることになる。
『球磨川禊(グッドルーザー)』
ランク:EX 種別:宿命 レンジ:- 最大捕捉:-
球磨川禊という存在そのもの、あるいは彼が背負う宿命。
彼が何らかの勝負事において勝つことは絶対にありえない。『主人公』と言える特異点じみた存在の干渉でも起きないかぎり、この宿命を覆すことは不可能。
聖杯戦争においては外れも大外れな宝具だが、彼はそれでも勝利を目指して戦うだろう。
【weapon】
大量の螺子
【サーヴァントとしての願い】
聖杯戦争に勝つ
【マスター】
七草にちか@アイドルマスターシャイニーカラーズ
【能力・技能】
ダンスやボーカルといった、アイドルに求められるスキル。しかし彼女の場合、憧れのアイドルから強い影響を受けており、その結果くすんで見える劣化コピーのようになっている。
【マスターとしての願い】
元の世界への帰還。そして、もう一度アイドルになりたい。
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事件は解決した。
あの狂人の死によって妹は解放され、ようやく父を除いた家族で幸せになれると思っていた。
なのに。
「ごめんね。私、そういうのやめたの」
なのに。
「だって私は」
なのに...!
「生まれ変わったんだから」
クルッテイタアイツハスベテヲウバイサッテイタンダ。
★
元凶は取り除いた。
手に伝わる不快な感触に心を痛めながらもやり遂げた。そうすればあいつは幸せになって、またいつもの生活が戻ると思っていた。
なのに。
「死んじゃえ人殺しいいいいいい!!」
なのに。
「最後の最後で圭一さんのフリを...しゃべるな...!!」
なのに...!!
「落ちろ!!落ちてしまええええええ!!」
クルッテイタセカイハオレカラナニモカモヲウバイサッテイッタンダ。
☆
「......」
「......」
二人の少年が背中合わせでうずくまっている。
何か言葉を交わすわけでもなく。しかし、今にも倒れてしまいそうな背中を互いに支え合うように。
「...夢を見ていたんだ」
ふと、フードを被った方の少年、神戸あさひがそう口を開く。
「夢の中の俺は助けたい子の為に必死だった。その為に手を汚しさえした...これ、あんただよな?」
ピクリ、ともう一人の少年の肩が動く。
「...だったらなんだよ。お前も俺を疑うのか」
少年の問いにあさひはふるふると首を横に振る。
「俺はあの姿を見て思ったんだ。羨ましいって」
「どこがだよ」
「俺もあんたみたいにあいつを殺すつもりで立ち向かった。なのに、妹の言葉を理由に退いてしまった。
あいつは足を痛めていたから、しおさえ連れていければそれでいいと思ってしまった。...そんなわけ、ないのにな」
あさひの拳が血が滲み出るほど握りしめられ、少年はそれを視界の端で眺めていた。
「俺もあんたみたいにあいつを殺しておくべきだったんだ。そうすれば、たとえ俺が嫌われてもしおがあんな風にはならなかった。
時間がたてば俺とあいつのことを忘れてまた母さんと笑って過ごせたかもしれないんだ」
そんな都合よくいかないのは少年の夢を通して判っている。それでも今よりはいい未来になったはずだ。
あさひはそう信じている。
「...俺はお前が羨ましいよ」
今度は少年があさひにそう返す。
「俺はずっと一人だった。みんな自分が無力だのなんだのと嘆いて誰も沙都子を救おうとしなかった。だから俺はやったんだ!
あいつを殺して沙都子を解放した!なのに...誰も俺を信用しなかった。誰も俺に寄り添ってくれなかった。しまいにゃ俺じゃない俺まで現れるしまつだ!
そして俺はオヤシロ様の祟りの代行者になったんだ!ハハ、ハハハハハハハハ!!!」
ヤケクソ気味に大声で少年は笑う。
ひとしきり笑った後、ほどなくして落ち着き再び膝を抱えてうなだれる。
「...俺も、お前みたいに誰かに気にかけてほしかった。信じてほしかった。そうすれば、もっと別のやり方があったんじゃないかって思うんだ」
嘆く少年を見ながらあさひは思う。
彼は自分と同じだ。
救いたい者がいた。幸せになってほしい者がいた。
けれど、彼女の幸せを唐突に理不尽に奪われた。
ソイツのことが許せなかった。
お前さえいなければと憎悪を燃やした。
違ったのはそこからだ。
あさひにはそれでも気にかけ手を差し伸べてくれる者がいた。
少年には誰もいなかった。
あさひには己の手を血で汚す覚悟がなかった。
少年には己の手を血で汚す覚悟があった。
―――だから、全てを失ってしまった。取り返しのつかない事態にまでなってしまった。
「...きっと、俺たちは必要なものが互いに入れ替わってたんだな」
「ああ、そうさ。だから掴み損ねてしまった。俺たちが逆の立場ならもっといい未来が待っていたはずだ」
あさひに少年の殺意があれば。
少年にあさひのような絆があれば。
さとうを排除ししおを正常に戻すことができたかもしれない。
知恵を出し合い一人での排除以外にも答えができたかもしれない。
―――そして、きっと『あいつ』は幸せになれたはずだ。
だからこそ彼らは強固に結びつく。
「...やるぞキャスター」
「ああわかってる」
今までうなだれていた二人は顔を上げ立ち上がる。
二人の行動原理と願うは全く同じ。
『彼女』への愛の感情。『あいつ』への憎悪の感情。それだけでその身は疼く。
例え歪んでたって愛(それ)は。
たとえ腐ってたって未来(それ)は。
たとえ淀んでたって殺意(それ)は。
「「俺たちは、あいつの幸せを取り戻すんだ!!」」
『彼女』の幸福を願った末の形には変わりないから。
―――これは、全てを失いそれでも諦めきれぬ、哀れな少年たちの一世一代の頑張り物語である。
【クラス】キャスター
【真名】前原圭一
【出典】ひぐらしのなく頃に 祟殺し編
【性別】男性
【属性】秩序・善
【パラメーター】
筋力:D 耐久:+A 敏捷:D 魔力:C 幸運:E 宝具:D
【クラススキル】
陣地作成:D
魔術師として自らに有利な陣地を作り上げる。
キャスターの口先で丸め込める相手にのみ有効。
道具作成:E
無から道具を生み出す能力―――だが、このキャスターはそんな力を有さない。
生み出せるのは北条悟史の名が刻まれた一振りのバットだけである。
【保有スキル】
狂化:A
理性と引き換えに全ステータスを上昇させる。
本来はバーサーカーのスキルであるが、出典の関係上なぜか反映された。
オヤシロ様の代行者:A
単独行動と同じ効果を発揮する。
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
Aランクは1週間は現界可能。
戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
頑健:B
異様に丈夫で壊れにくい肉体を維持するスキル。耐久力を向上させる。
【宝具】
『祟り殺し』
ランク:D種別:対個人宝具 レンジ:1 最大捕捉:宣告した相手
キャスターが魔力と引き換えに宣告し、対象へと呪いをかける。
宣告を受けた者はキャスターの言葉通りの死に方をする。
ただし、この効果がすぐに発揮されるのか時間差で発揮されるのか、はたまた発揮されないのかは誰にもわからない。
オレゴトキニタタリコロサレルナヨ?
【人物背景】
雛見沢に引っ越してきた中学生男子。転校早々に周囲と打ち解け充実した毎日を送っていたが、仲間の北条沙都子を虐待し人格崩壊寸前まで追い込んだ叔父、北条鉄平を殺したことからすべての終わりが始まる。
彼が鉄平を殺している最中、自分と遊んでいたという仲間たち。殺害後に埋めたはずの鉄平の死体の消失。
彼を信用してくれない大人たち。警察。そして、そんな彼らを憎む度に何故か死に、あるいは行方不明となって消えていく。
そんな中、彼は己に疑念を抱き恐怖する。
これはもしかして呪いなのだろうか。自分はオヤシロ様の祟りの代行者となっているのではないか―――と。
護りたかった者にすら突き放された彼が最後に願ったのは―――
【サーヴァントとしての願い】
北条鉄平を抹消し沙都子の笑顔とかつての生活を取り戻す。
【マスター】
神戸あさひ@ハッピーシュガーライフ
【マスターとしての願い】
しおを幸せにするためにさとうを抹消する。
【能力・技能】
そんなものはない。強いて言えば我慢強いことくらいか。
【人物背景】
ただ家族と幸せになりたかっただけの少年。
なのに全部壊された。なのに全部奪われた。
口づけを交わしてくれた少女も。妹も。
家族に幸せになってほしいというささやかな願いは、あさひの名とは裏腹になにも照らせぬ哀れな結末となってしまった。
【方針】
聖杯を手に入れ、今度こそしおを幸せにする。
また、NPC・マスター・サーヴァントの何れかに松坂さとう及び北条鉄平がいたら殺す。
投下終了です
投下します
―――二人の兄弟がいた。
白銀の兄と、金色の弟。
王家の血統として生まれた彼らの幼少期は、過酷極まるものだった。
白銀の兄は、遊ぶ事すら許されず、血の滲むような鍛錬の日々。
金色の弟は、世界を滅ぼしかねない力を知らず科され、預けられた養母の虐待に耐える日々。
当然、そんな環境で子供が健やかに育つはずもない。
白銀の兄は弟に憎悪を募らせ、金色の弟は寄る辺のない絶望の日々を送っていた。
これでは例え兄弟が再会しても、待っているのは惨劇の結末以外になかっただろう。
―――私にはお父さんがいる。お母さんがいる。欲しかったお兄ちゃんまでいるのだ…
そんな彼らの運命に転機が訪れる。
家族の健在。もたらされたその情報は、幼い金色の弟の心を希望に包んだ。
ならば、俯いてはいられない。何時か来る家族との再会の日のために。
母や、父や、兄に胸を張って自分は頑張ったと言えるように。
とてもか細い。希望と呼んでいいのかさえ分からない糸を、彼は決して手放さなかった。
そして、時は流れて。
遂に別たれていた兄弟の運命が交わる。
―――許せ、ガッシュ。兄が愚かだった。
再会は、金色の弟が望んでいた穏やかなものでは決してなかった。
白銀の兄の憎悪は消えず、一国の命運をかけた壮絶な死闘。
その果てに放たれた、兄弟の道が別たれた象徴である雷の黄金龍。
一度はその力に飲まれそうになった物の、金色の弟は力の主として認められ。
金色の黄金龍は正しき担い手の元、食らいつくす。
兄の憎悪も、悲しみも、全ての悲劇を。
最悪の結末は、遂に訪れることはなかった。
―――皆、待っておれ。待っておるのだ…私が必ず魔界で魂だけとなった皆を…生き返らせる…から……
金色の弟は、どんな絶望にも負けなかった。
民のために全てを投げうち消滅と言う極点の力に抗う小さな背中は、正しく優しき王の背中だ。
そして、全ての民の力を結集し、金色に輝くその姿。
その姿を見て、月の兄は思うのだ。
あぁ、自分が背を向けた陽の光とは。
いつも、こんなにも。美しいものだったのかと。
▼ ▼ ▼
「どうしたアサシン。何を呆けた顔で立っている」
思考の地平から意識が浮かび上がり、アサシンと呼ばれた男の意識が覚醒する。
声の方へ視線を向けてみれば、幼い少年が此方を見上げていた。
白銀の髪。紫電の眼光。純白のマントを身に纏うその童子―――名は、ゼオンと言った。
「しばし……思案を……」
「そうか。近くこの戦いが本格的に始まるらしいが、不安にでもなったのか?」
「戯れを……」
その少年は、幼いながら大当たりと言えるマスターだった。
豊富な魔力量。鍛え上げられた肉体。サーヴァントにも比肩し得る雷の鬼血術。
瞬間移動から記憶の収奪など様々な特殊能力に加えて、頭の回転に至るまで申し分ない。
何より称賛に値するのはその肝の座り方だ。
歴戦の鬼狩りすら一目で恐怖する自分の姿を見て平然としている。
人間ではあり得ぬ複眼に、上弦の壱の文字が刻まれたこの『黒死牟』を、当たり前の様に従えているのだから。
このマスターを引き当てただけで、聖杯の獲得に一歩近づいたと言えるだろう。
だというのに。
「安心しろ。前にも言ったとおりだ。
俺に願いはないが、お前の願望の成就には協力してやる」
どうして、この童子を見ているとこんなにも心がざわつくのか。
いや、理由は漠然とだが理解している。
この童子を見ていると、どうしても思い出すのだ。
あの怪物と、弟である縁壱と共にあった頃を。
―――ガッシュめ…消していやる!俺と同じ苦しみを味合わせてやる…!
魔力パスが刻まれた際に見たマスターの過去は、自分を呼んだのも頷けるものだった。
恵まれた弟への嫉妬に身を焦がし、心から憎悪し、殺し合った。
それだけ見れば自分の辿った道程と何ら変わりはない。
だが、結末は真逆だった。
兄弟の対立の果てにあったのは、事切れる弟の最期ではなく、憎悪からの解放だった。
その結末が、霊基にこびりついて離れない。
痣がある限り、自分に残された時間は少なかった。別の道などある筈もなかった。
縁壱と並び立つには、越えるには、人を捨てて上弦の壱である黒死牟となるほかなかった。
そのはずなのに。
この、幼き主を見ていると、そんな必要はなかったと言われているようで。
他の答えがあったのではないかといわれているようで。
どうしようもなく、心がかき乱される。
今すぐ傍らの刀を抜き放ち、斬り捨てたくなるほどに。
「……いるといいな。アサシン」
「……?」
「お前の弟だ。お前の記憶の通りの剣の天才ならばサーヴァントになっていても不思議はないだろう」
その言葉に、強制的に意識がが主へと引きつけられ、揺れる。
そう、自分が英霊となっている以上、あの男も当然『座』に招かれているだろう。
いなければおかしい。
だが、仮に居た所で何になると言うのか。
奴は鬼狩りで、自分は鬼だ。殺し合う以外に行きつく果てはない。
自分が奴に憎悪以外の感情を抱いていない以上、それ以外の結末などあり得ない。
「本当にそうか?お前がかつて弟に抱いていた物は…本当にそれだけだったのか?」
見透かしたようなマスターの言葉。
彼に記憶を読み取る能力があるのはアサシンも知っている。
きっと令呪を源としてアサシンの記憶や思考を読み取ったのだろう。
だが、その上で黙れと叫びたくなる心を、アサシンは必死で抑え込んだ。
「此処で出会ったなら…お前たちは聖杯によらずとも違う答えが出せるかもしれない。
俺はそれを期待している」
アサシンは無意識のうちに胸に丁寧に仕舞われた玩具の笛をぎゅうと握る。
黙れ。黙れ。黙れ。
10年も生きていない童が勝手に理解した面をするな。
聖杯という奇跡によって私はあの怪物と同じ高みへと昇り詰める。
それ以外の答えなど、必要ないのだ。
「憎しみは何も実らせん……この聖杯戦争で見つかるといいな、アサシン。
憎しみ以外の、新しい答えが」
やめろ。
お前は縁壱ではない。お前は私の側のはずだ。
分かっているはずだ。私と縁壱の間に、それ以外の答えなどなかったと。
私は、あの化け物が嫌いだと。
それなのに何故、そんな瞳で私を見る事ができる。
――――一緒に暮らしてくれるか?ガッシュ。
だが、しかし…何故だ。何故なのだ。
お前は、お前たちは縁壱ではないのに、どうして…
どうして、そんなにも――――
―――――そんなにも、眩しいんだ。
【クラス】
アサシン
【真名】
黒死牟@鬼滅の刃
【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力C 幸運D 宝具C
【属性】
秩序・悪
【クラススキル】
気配遮断:A
サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば、探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
【保有スキル】
鬼種の魔:A
鬼の異能および魔性を表すスキル。
鬼やその混血以外は取得できない。
天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出、等との混合スキルで、アサシンの場合魔力放出は"月輪"となる。
至高の領域:A
透き通る世・無我の境地とも。
相手の肉体を透過して見る事が可能となり、微妙な筋肉や骨格・内臓の動きから相手の行動を先読みできる。
見切りと無窮の武練の複合スキル。
400年の妄執:A
400年間抱き続けた日輪に対する羨望と憎悪。
戦闘続行及び精神汚染、自己改造の複合スキル。
このスキルが高まる程純正の英霊から遠ざかり、精神干渉をシャットアウトする。
彼にとっての日輪である縁壱が脳裏を過るたびに戦闘続行、自己改造、精神汚染にボーナス補正がかかるが、
最大まで補正がかかると二つ目の宝具が発動する。
【宝具】
『上弦の壱』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大補足:50人
多くの人間を喰らい、命尽きるその瞬間まで人に恐怖を与え続けた"上弦の壱"の肉体そのもの。
非常に高い再生能力を持ち、急所である頸を切り落とす以外の手段で滅ぼすのは非常に困難。
本来であれば"日輪刀"で頸を落とす必要があるが、英霊の座に登録されたことにより弱点が広範化。
宝具級の神秘を持つ武装であれば何であれ、頸を落として鬼を滅ぼせるようになっている。
アサシンは唯一鬼でありながら鬼狩りの剣士が扱う呼吸術に精通しており、それを自身の血鬼術と呼ばれる特殊能力と組み合わせて戦う。
その結果剣士とは思えぬ間合いの広さと鬼の中でも群を抜いた肉体性能を誇る。
しかし欠点として日光を浴びると肉体が焼け焦げ、浴び続ければ灰になって消滅してしまう。
このため太陽の属性を持つ宝具、それどころかただの太陽光でさえ致命傷になり得る。
『生き恥』
ランク:E 種別:対自己宝具 レンジ:0 最大捕捉:黒死牟
前述のスキルである400年の妄執の補正が最大値まで発生した時に発動する宝具。
頸の弱点を完全に克服し、戦闘続行と自己改造のスキルが最大まで跳ね上がるが、逆に精神耐性はEランク相当までダウンする。
その時点で自己改造が最大まで高まった自分の姿を認識してしまったとき、アサシンは現界を保てず消滅する。
【weapon】
『月の呼吸』
その気になれば肉体そのものから生やすこともできる。
【人物背景】
鬼舞辻無惨配下の精鋭、十二鬼月の一人。
その中でも頂点とされる上弦の壱に位置する最強の鬼。
人間であった頃は鬼狩りとして鬼と戦っていたが寿命を一気に縮める痣が発現したことにより弟と袂を分かつ。
鬼になって以後は陽の呼吸を知る剣士を一人残らず抹殺し、戯れに鬼狩りを狩る日々を送っていたが最後は鬼狩りの最上位である柱複数人がかりで倒され、何もつかめずその生涯を終えた。
【サーヴァントとしての願い】
界聖杯を手に入れ、緑壱を超える強さを手に入れる。
【マスター】
ゼオン・ベル@ア金色のガッシュ!
【マスターとしての願い】
願いはないが、アサシンがほっておけないので付き合ってやる。
【能力・技能】
多種多様で高威力の雷の術。そして齢6歳ながら鍛え上げられた肉体性能。
記憶の読み取りや収奪、瞬間移動などの特殊能力も有している。
【人物背景】
魔界の王子にして、ガッシュ・ベルの双子の兄。壮絶な英才教育と鉄拳制裁を受けて育てられ、その才能は王宮騎士の中でも恐れられるほどの域に達している。
初級呪文で他の魔物が持つ中〜上級呪文を打ち破る程度は何のその、身体能力も並の魔物では狂戦士化の禁術を使っても相手にならないほど。
かつては弟への憎悪を原動力に行動していたが、今は和解し、弟へ兄としての愛情を向けている。
投下終了です
投下します。
———私は、紅露火垂はあの時死んだはずだ。
今まで何度も感じできた、意識が漆黒の闇へと落ちていく感覚。
だが最後の時の感覚は、いつもと違っていた。
蓮太郎と朧気ながら最後に会話を交わした時も、本当はどこかで気づいていたのだ。
次に自分が目覚めることは、もうないと。
それなのに、今こうして自分の足で地面を踏みしめている。意識の混濁もない。
代わりに脳内にあるのは、偽りの記憶と知らない情報。
『呪われた子供たち』として迫害されてきた自分には存在しないはずの、普通の一般家庭で生活してきた記憶。
記憶を取り戻した直後、思わず自宅だとされている場所から飛び出してしまった。
本当の親からの愛情など、一度も感じたことはなかったのだ。
ガストレアウイルスに感染しているから。瞳の色がガストレアと同じ血のような真紅に染まっているから。
そんな理由で迫害されてきた火垂にとって、偽りの平穏はただただ居心地が悪かった。
気づいたら東京の街の、どこかの路地裏まで走っていた。
マンホールチルドレンも多い『呪われた子供たち』からすると、こういった場所のほうが慣れている。
ガストレアウイルスの影響で常人を超えた身体能力を持つ火垂は、この程度走っただけでは息も乱れない。
「……なんなのよ、この東京。私の知ってる東京エリアと全然違うわ。」
一旦歩みを止めて状況を確認する。
火垂の知っている東京エリアと、ここはずいぶん違っていた。
最もわかりやすい違いはエリアを等間隔で囲う、巨大なバラニウムという特殊な金属で作られた石板、モノリスが立っていないことだ。
あれがないと東京エリアはガストレアの侵入を許してしまうのに、それがどこにも立っていなかった。
それだけでも、本当にここは元の世界とは違うのだとわかる。
「……聖杯戦争。どんな願いもかなう、聖杯。」
界聖杯から与えられたもう一つの情報を反芻する。
……もし、本当にどんな願いでもかなうのならば。
鬼八さんを。あの時守ることができなかったパートナーの水原鬼八を、生き返らせることができるのだろうか。
「……ううん。本当はわかってる。鬼八さんはそんなこと望まないって。」
誰かを殺してまで自分が蘇ることなど、望まないに決まっている。
そんな人だから、ブラックスワン・プロジェクトを告発しようとして命を奪われたのだ。
……そこまで考えて、まるで蓮太郎が言いそうな言葉ね、と複雑な気持ちになる。
次に目覚めたときには蓮太郎に素直になれるかも、と今際の際に言ったけれどそんなことはなさそうだった。
「……自分が生き返る、ってのも無しね。」
最後に共闘した里見蓮太郎と、もう一度会いたくないかと言われれば嘘になる。
でも、彼ならば私の死も乗り越えて敵を打ち砕いたはずだ。
もし私が誰かを殺してまで蘇ったとしても、彼は悲しい顔でこちらに銃を向けるだろう。
悲しそうな蓮太郎の顔が簡単に想像できて、そんな自分に苦笑してしまった。
だけど、なぜ自分がこんな場所に呼ばれたのか。界聖杯とはいったい何なのか。
それくらいは知りたいと思った。永眠を無理やりたたき起こされてこんな戦争に巻き込まれたのだ。
鬼八さんが殺されたときも「なぜ彼が殺されねばならなかったのか」がわからないのは、悔しかったから。
それくらいは望んでもいいだろう。
もし蓮太郎が今の私と同じ状況になったら、どうするだろうか。
ハミングバードにマンションで襲われたときの彼の行動を思い出せば、考えるまでもない。
濡れ衣で指名手配されている状況で、敵に命を狙われながらも一般人を可能な限り逃がしていたのだ。
この状況でも、聖杯を望まない巻き込まれた人間を助けるために動くに決まっている。
「……ついでに蓮太郎の真似事をする、ってのもアリかもしれないわね。」
———瞬間、胸元を鋭い痛みと衝撃が走った。
「え……?」と、恐る恐る自分の胸元に視線を落とす。
胸元に浮かび広がっていく真紅の染み。数刻遅れて、何者かに銃で撃たれたのだと悟る。
力が抜ける体に鞭打って振り返る。そこにいたのは二人の男。
どう見ても現代の人間ではない古風な格好をした男は、さながら時代劇のガンマンのようだった。
もう一人の男の手の甲には、真紅の紋章がハッキリと映っている。
令呪。界聖杯に植え付けられた知識が教えてくる。あの二人が別のマスターとサーヴァントであると。
失念していた。さっきまでの火垂は、年端も行かない少女が急に走り出してこんな路地裏まで逃げ込んだようにしか見えない。
そんな人物を他のマスターが見かけたらどう映るか。記憶を取り戻したマスターが何かから逃げていると、そう思うのが普通だろう。
仮に違っていたとしても、彼らが聖杯戦争に乗っているのならば……NPCひとり殺すくらい、厭わないに決まっている。
対するこちらはまだ己のサーヴァントすら召喚できていない。
ガストレアウイルスによる超常の力を持つとはいえ、火垂はマスター。サーヴァントの力に太刀打ちできるはずもなく。
なにより、初撃の銃弾が左の肺を直撃していた。呼吸もままならず、足腰に思うように力が入らない。
バラニウム以外での傷ならば治癒力もウイルスは向上させてくれるはずだが、サーヴァントの攻撃だからか再生速度が遅かった。
何か手を打つ間もなく、二発目の凶弾が私の胸を貫く。
電撃を喰らったかのように全身が強張った。勢いよく口から吐血する。
わかってしまう。今の銃弾は間違いなく自分の心臓を貫いたと。
視界が揺れる。両膝が地面にぶつかる。四肢の末端が冷たい。触覚が消えていく。
まただ。自分の意識が漆黒の闇へと沈んでいく感覚。
今更自分の命に未練はないけれど。なぜ自分がここに呼ばれたのか。界聖杯はなぜ、死んだ自分をここに連れてきたのか。
(何もかもわからないまま、また死ぬのは嫌ね……。)
変わり果てた姿で鬼八さんが帰ってきたときと同じで。何故こんなことになってしまったのか、わからないままなのは嫌だった。
自分の意識が分解されていき絶命する直前に、そんなことを思いながら火垂が感じたのは。
———手の甲の焼けるような熱さと、突然目の前に人影が現れた衝撃音だった。
◇◆◇
———これはきっと、流れ込んできたマスターの記憶だろう
座から呼び出され、今まさに召喚されようとしている刹那の間に伝わってきた記憶。それを見て、何故だかそう確信した。
生まれつき体にウイルスを宿していたというだけで、親に捨てられ迫害されてきた過去。
大切な人を、パートナーを守ることができなかった慟哭の声。
ああ、それは。人間ではないからと、生まれついてのチカラのせいで疎んじられ迫害された私と。
再会した大切な人とまた死別して、自分のことを顧みず人間へ憎悪と呪いを、復讐の一念を巻き散らした私と。
どこか、似ている気がした。
◇◆◇
「———命を落とす瞬間にサーヴァントを呼び出すなんて、困ったマスターもいたものね。」
召喚された直後、周囲を見て状況を把握する。
英霊の座に登録されて、初めて召喚されたときは「よりによって後輩が私を召喚するなんて」と思っていたが。
改めて別のマスターに召喚されてみると、縁もゆかりもない私をよく呼べたものだとも思ってしまう。
座に登録される前の、中国異聞帯までの記憶があることは別に不思議ではないが。
改めて召喚されたのに、カルデアの記憶があることを一瞬不思議に思った。だがそれも、自分の霊基を確認してすぐ納得する。
何故か今の自分は水着の姿になっている。項羽様にお借りした槍も持ち合わせていた。……本当に何故?
この霊基は項羽様と共にカルデアに召喚された後でなければ成立しえない。だから記憶も引き継がれているのだろう。
……英霊の座に何故水着の霊基が登録されているのかは、考えないことにした。
私を呼んだマスターの、最後の声は聞こえていた。何もわからないまま死ぬのは嫌だ、と。
相変わらず私は人間のことが嫌いだが。それでも……そんなマスターの言葉を聞いて、記憶を垣間見て、何もしないのは寝覚めが悪かった。
「聖杯などという胡乱なものにかける願いも、お前たちという個に対する恨みも持ち合わせてはいないけど。」
「———この戦いを、マスターへの手向けとしようか!」
目の前の主従に意識を集中し、そう告げる。
即座にマスターが姿を隠し、サーヴァントが手に持つ銃をこちらへ向けた。
敵との間には距離がある。向こうの獲物はシンプルな拳銃。対するこちらは槍。
どちらの攻撃が早く敵に届くかは言うまでもない。己が獲物の届く範囲まで肉薄しようと迫る私に、銃弾の雨が降り注ぐ。
だが、それを意に介さず突き進む。走るのに支障をきたさないよう微妙に当たる位置はずらすが、命中すること自体は意に介さない。
どうせ自分の肉体など宝具で再構成すればいいのだ。多少のケガ程度ならば問題にならない。
日本ではこういう状況を表す諺があるらしい。肉を切らせて骨を断つ、と。
向こうもこちらの意図を理解したのか、銃の照準が首や心臓などの急所と、足などの駆けるのに必要な個所に絞られていく。
流石にすべての個所を連続で狙われたらたまった物じゃない。だから、相手が銃の引き金を絞るのとタイミングを合わせ、跳躍する。
数刻前まで私がいた場所を、無数の弾丸が通過する。空を切る音と、跳弾の音が聞こえた。
一瞬で路地から姿を消した私を、相手はすぐさま空を仰ぎ見て補足する。
このビルに囲われた路地裏で、逃げられる場所など他にないからだ。跳躍の勢いのまま縦回転して上昇し、ちょうど敵の真上まで到達する。
普通であればこれは悪手だろう。上空に跳躍してしまった私は、もう相手の銃弾を避ける術がないからだ。
相手もそれがわかっているからこそ、次の一撃で確実に仕留めるために銃口を真上に向けて狙いを定めている。
「———我が舞は項羽様だけに捧げられるもの。即ち其れを見る貴様に、命は無い!」
———そう、普通の状況ならば。今の跳躍の本当の目的は回避に非ず。
真下の敵に向けて垂直に構えた槍の穂先へ、私の肉体から漏れ出た呪詛が集まっていく。
暴走する魔力が増し、呪いの密度が増すほどに、穂先から扇状に広がる赤黒い光の密度も増していった。
こちらの宝具発動に気づいた敵サーヴァントが、驚愕の表情と共に銃弾を放つ。
だがそれも、穂先の呪詛に阻まれこちらまで届かない。
マスターを失ったサーヴァントが宝具を使う可能性は考えていなかったのだろう。明らかに対応が後手に回っていた。
他のサーヴァントならばそうだったかもしれない。でも私は違う。
人間ではない私は、自然界とマナを、霊核を共有している。マスターからの魔力供給がなくても、動植物を問わずあらゆる生命体から魔力を得られるのだ。
勿論、サーヴァントになったことで出力には以前よりも制約がかかっているだろう。それでも、宝具の使用程度ならば十分賄える。
この力のせいで吸血種と呼ばれ、迫害を受ける原因となった能力だが、今はそれも関係ない。
「末期の記憶として遺す事も赦さぬ。我が身と同じく、芥と果てて散るが良い!」
元の宝具と異なり、この槍には夏の魔物への特効効果が付与されている。
夏の魔物とはつまり、『浮気』や『一夏の恋』などのひと時の熱に浮かれた者たちのことを示す。
対・夏の魔物専用の強制排除技。決めつけによる男性特攻。そして相手のサーヴァントは———幸か不幸か、男性だった。
「———『夏魔必滅槍舞(アンチフリング・ロンド)』!!!」
呪いが最大まで穂先に収束した時、そのまま真下の敵へ垂直に槍を向けたまま落下した。
同時に魔力の暴走によって自らの肉体を破壊し、限界を超えた魔力と呪詛が、槍を中心とした回転の舞と合わさって降り注ぐ。
それは回転のベクトルが与えられたことで、血の雨ではなく竜巻型の呪詛となった。
槍の着弾地点には、あふれかえった魔力と呪詛で虞美人草の花が咲く。……全てが消えた後には、突き刺さった槍しか残っていなかった。
「……ま、サーヴァントを打ち取っただけ供養にはなったかしら。」
一瞬の後、自分の体を再構築してその場に姿を現す。まず真っ先に、項羽様から授かった大切な槍を握りしめた。
おそらく敵のマスターは再構築の間に逃げたのだろう。一番近い物影を確認すると、おそらく護身用に持っていたと思われる拳銃が落ちていた。
それにすら気づかぬまま逃げだしたらしい。一応その銃を拾い上げて懐にしまう。
「これからどうしようかしらね。」
おそらく私であれば、マスター不在でも周囲から魔力を組み上げて現界し続けることは可能だろう。
だが聖杯などというものにかける願いはない。そもそも、胡乱な聖杯に興味なんてないのだ。
何より私の願いは(ここにいる私とは別の私が)既にほとんど叶えている。今の私の隣に項羽様がいないのは寂しいが。
その望みは、聖杯などに願うものではない。いや、むしろ聖杯ごときに叶えさせてなるものか。
「……マスターをそのままにしとくのは、流石にちょっとアレよね。」
問題をひとまず横において、私を召喚した少女のほうへ意識を向ける。流石にそのまま放置していくのは良心が咎めた。
……そこでふと気づく。弱く、ほとんど感じ取れない程度だが……まだ、マスターとのパスが繋がったままであることに。
自然からエネルギーを吸い上げる私だからわかる。この少女は間違いなく絶命していると。
にも拘らず、魔力供給はほぼないがパスは繋がっている。慌てて確認してみると、思った通り手の令呪もまだ消えていなかった。
「……どういうことよ、これ。」
疑問に対する答えも見いだせない内に、少女に変化が訪れる。
心臓の停止に伴って血流も止まり青白くなっていた肌が、少しずつ色を取り戻し始めた。
慌てて心臓に耳を当てる。先ほどまで間違いなく機能していなかった心臓が、また脈打っていた。
まさかこの子、蘇生してるの?と驚愕する。どうやら私のマスターは、妙な力を持っているらしい。
そうこうしている間に、建物の向こう側が騒がしくなってきた。
流石に宝具の音は大通りまで聞こえていたようだ。少しすればここにも人が集まってくるだろう。
疑問はひとまず棚上げにして、急いでここを離れたほうがいい。
……ほんの10年生きた程度なのに、どこか自分に似ているこの幼いマスター。
それなのに、自分の死そのものは受け入れていた彼女は。最後に納得して自ら毒を煽った、数少ない人間の友人とも似ている気がして。
そんな不思議なマスターを放っておけずに、その体を抱きかかえてこの場を去った。
◇◆◇
———……虞よ、汝を、如何せん……
マスターとサーヴァントの間では、お互いのパスを通じて夢のような形で相手の記憶が流れ込むことがあるらしい。
ならばこの言葉は、意識がブラックアウトする寸前に召喚した私のサーヴァントの記憶にあるものなのだろう。
そして一緒に流れてくるのは、とてつもない悲しみの、怒りの、嘆きの慟哭。
……まるで、鬼八さんが殺されたときの私みたい。
一生分の悲しみを、涙が出なくなるまで感じていたあの時を思い出して、そんなふうに思った。
◇◆◇
【クラス】ランサー
【真名】虞美人(水着)@Fate/Grand Order
【パラメーター】
筋力B 耐久D 敏捷A 魔力A 幸運C 宝具C
【属性】
秩序・悪
自分と項羽の間の秩序のためなら何でもする。
【クラススキル】
対魔力:B
魔術に対する抵抗力。Bランクでは、魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。
【保有スキル】
夏の受肉精霊:A+
自然界とマナを共有できる精霊種であるため、魔力を自らの体内に蓄えるのではなく外界から無尽蔵に汲み上げることが可能。
ただし人型という形態に縛られているため出力に限界があり、実際に行使できる魔力量は人型の英霊としての領域に留まっている。
水着に霊基が変化したことにより、その在り方が若干夏寄りに最適化されている。
マナの吸収効率が夏らしい自然、すなわち避暑地の湖畔の水や燦々たる日光―――からであればあるほど高くなる。
吸血種のイメージにあるまじきスタイルになるが、もちろん彼女は気にしない。
在りし日の舞:EX
かつて項羽の前で行っていた剣舞のスキル。
彼がどう評価してくれたのか、どんな表情を浮かべてくれたのかは、彼女のみが知る。
このスキルは本来は封印されており、項羽が近くに存在しないと使用できない。
今回は彼の槍を貸し与えられた衝撃でこのスキルの封が解け、それにより彼の槍が一種の代わりとして機能しているために使用できる。
今は槍舞としてアレンジされている。
仙界羽人:A
道教思想に語られるところの仙人であり、不老不死。
その肉体を維持するために自然界からの干渉が及ぶため結果として彼女は人型という形態に縛られている。
吸血:C
動植物を問わずあらゆる生命体から一定量のエネルギーを剥奪し自身で利用することが可能。
厳密には吸血行動とは異なるが、この能力のために吸血種として認識され、歴代の代行者たちから迫害を受けてきた。
覇王の姫:EX
おそらく自身が項羽の寵姫であることを示すスキル。
【宝具】
『夏魔必滅槍舞(アンチフリング・ロンド)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜10 最大補足:20人
項羽に貸し与えられた、項羽の愛の具現化である(と当人は思っている)槍による対・夏の魔物専用強制排除ムーブ。
極端な決めつけによる男性特攻を持つ。フリングとは俗語で『浮気』や『一夏の恋』、転じて夏の魔物のことをここでは指す。
虞美人には武術や戦術の心得などないが、項羽への愛が盛り上がった結果、かつて彼の前で踊った剣舞のことを思い出した。
それを利用しようと思い立ち、さらに槍舞としてアレンジしたのがコレである。結果としてなぜかポールダンスっぽくなってしまった。
元の宝具『呪血尸解嘆歌』と同じように自らの肉体を破壊しながら魔力を暴走させて異常気象を起こすもの。
だが項羽の槍を軸とした槍舞の動きにより回転のベクトルが与えられることで、血の雨ではなく竜巻型の呪詛が発生することになる。
『呪血尸解嘆歌(エターナル・ラメント)』
ランク:C+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:100人
自らの肉体を破棄することで限界を超えた魔力を暴走させ、呪詛による異常気象を引き起こした後、改めて肉体を再構成するという荒技。
霊核を環境と共有している精霊種ならではの自爆攻撃といえる。
上記の槍を用いた宝具も本質的にやってることは同じなため、攻撃宝具をひとつしか使えないFGOのシステムから解放された今なら元宝具のこちらも使用できる。
男性特攻の有無や、単体か全体かで敵の人数に応じて使い分けることになるだろう。
【weapon】
項羽に貸し与えられた槍
【人物背景】
項羽とのバカンスを満喫するため、水着に霊基を変貌させた虞美人。
この霊基自体がカルデアに項羽と共に召喚された後でしか在り得ない為、少なくともサーヴァント・サマーキャンプ!までのカルデアでの記憶はある。
サーヴァントになる前の彼女はいろいろな悩みも抱えて生きてきたが、カルデアに召喚されて以降はいろいろと吹っ切れている為かそこそこマスターへの対応も良い。
【サーヴァントとしての願い】
項羽と共に過ごすこと。
ただ聖杯に願うようなことではない。
【方針】
放っておけないマスターにひとまず従う。
【把握手段】
FGO2部3章「紅の月下美人」及び期間限定イベント「サーヴァント・サマーキャンプ! 〜カルデア・スリラーナイト〜」
【マスター】
紅露火垂@ブラック・ブレット
【マスターとしての願い】
聖杯に願ってまで叶えたい願いは無し。
死んでしまった水原鬼八も、最後の戦いを共にした里見蓮太郎も、誰かの命を引き換えにしてまで再会を望まないとわかっているから。
ただ、最後にもう一度だけ二人と話したいなという気持ちは少しある。
【weapon】
拳銃などの銃火器、ガストレアに強化された体
【能力・技能】
母親の胎内にいるときにガストレアウイルスというウイルス性の寄生生物に感染した『呪われた子供たち』の一人。
遺伝子を書き換え、元になった生物の力を増幅するガストレアに感染しているため、常人を超えた力や再生力を発揮する。力を開放していると瞳の色が真紅に染まる。
(わかりやすく言ってしまえば某ゾンビゲームに出てくるウイルスのようなもの。侵食率が50%を超えると異形の化け物に変わってしまう。)
ガストレアは血液感染でしか広がらないが、空気を経由して妊娠中の子供にもウィルスが宿ることがある。
その場合子供はガストレアウイルスの抑制因子を併せ持ち、血液感染のように異形の化け物に変化することがない。
そうして生まれた子供が『呪われた子供たち』と呼ばれる。ウイルスが妊娠中に遺伝子へ影響を与えるため、全員が女性。
ガストレアが現れてから作中で10年ほどしか経過していないため、全員が10歳以下の子供である。
彼女の場合は再生能力に特化した生物をモデルにしたガストレアに感染しているため、死亡しても時間経過で蘇生するだけの再生力を有する。
本来ガストレアウイルスはバラニウムという金属が苦手で再生の阻害も起こりうるが、彼女の能力はそれを押し返すほどの再生力を誇る。
ただし人間の体は元になった扁形動物ほど単純ではないため、首を胴から切り離されたり死んでる間に燃やし尽くされたりすると再生できない。
それだけでなく、一度死亡すると再生して蘇生するまでは意識もない無防備状態となってしまう。
基本的な戦闘力では他と比較して劣っているが、それはあくまで戦闘に特化した他の『呪われた子供たち』と比較した場合の話である。
劇中においては、男子高校生を背負った状態で高速道路の車の屋根を飛び移って移動し、130キロで逃げるトラックに追いついたりしている。
その状態で突入したトンネルの天井を3秒間壁走りの要領で走り、落下しても軽いケガで済んでいたりと、普通の人間の身体能力は優に超えている。
【人物背景】
モデル・プラナリア(別名:ナミウズムシ)のイニシエーター。10歳。
イニシエーターとは、プロモーターと呼ばれる一般人のパートナーとペアを組んでガストレアと闘う『呪われた子供たち』のこと。
彼女とペアを組んでいたプロモーターの水原鬼八が何者かに殺されてしまったため、殺害の濡れ衣を着せられた主人公の里見蓮太郎とともに事件を捜査していた。
その最後に、自身の再生能力を阻害する敵の凶弾から蓮太郎を庇って本当に死亡したところで、聖杯戦争に巻き込まれる。
与えられたロールは生前縁のなかった温かい一般家庭の子供。
【方針】
自分がなぜこんな場所に呼ばれたのかを知りたい。また何も知らないままなのは嫌だから。
もし聖杯を求めず界聖杯からの脱出を試みる主従がいたら、できる限りの手助けをしたい。
(こんな時に蓮太郎なら一人でも多く人を助けるため動くだろう、との思いから。)
ただし死者である自分の脱出までは考えていない。
【把握手段】
原作ライトノベル「ブラック・ブレット」の5巻と6巻。
「逃亡犯、里見蓮太郎」と「煉獄の彷徨者」の2つのエピソード。
アニメには登場していない。
投下を終了します。
投下します
「貴方は中々ですよ」
無数のメスを乱れ投げながら、黒いスーツを着た長身の男が称賛の声を上げた。
マスターと思われ金髪の女性がランサーと呼んだことから、この相手は槍兵だと思われるがそれを使う様子は見られない。
だが、その槍すらなくとも最も優れたと謳われるセイバーのサーヴァントに容易く肉薄し、僅か数十センチ程度のメスで斬り合ってみせる。
力、技、速さ。
そのどれもが一流であり最高級の一品と言っても良い。
「何を遊んでいるのランサー!」
マスターの女性がランサーへと吠える。
左手の甲に刻まれた令呪が光り、一画が消費されたのが見て取れた。
「言った筈ですよ。私は結果より、その過程を楽しみたい。
この戦いこそがその過程なのです。鷹野さん、邪魔をしないで頂きたい」
「なんですって……!?」
僅かにランサーの意識がマスターへと向いたその隙にセイバーは大きく剣を振るい距離を空ける。
セイバーの宝具は広範囲を巻き込み、かつ発動にインターバルがある。その為の露払いだが、ランサーは帽子の下から鋭い視線を送るだけで追撃はしてこない。
「クス、構いませんよ。どうぞ宝具のご使用を。
私も試してみたいのですよ。宝具の打ち合いというものを」
「馬鹿! その前に殺しなさい!!」
「少し、黙っていただきたい」
「なっ……」
ランサーとマスターの諍いを尻目に、セイバーは自身のマスターに合図を送り、マスターも意を決し令呪を三画も消費し魔力を増幅させる。
このランサーは強大な相手だ。出し惜しみをすれば屠られるのはこちら側だとお互いに理解し、何より令呪を失くそうとも裏切られることがないと信頼し合っていた。
その様を見てランサーは笑う。その信頼という絆が、かのゲットバッカーズを思い起こさせ、そして期待する。
この戦いという過程を―――赤屍蔵人を楽しませるに値するか、否かを。
「迎え撃つとしましょうか。赤い槍(ブラッディ・ランス)―――なっ!?」
セイバーのマスターが全霊を持って放ったガンドが、ランサーがその血から生み出した槍を打ち砕いた。
あれほどの強者の持つ宝具が、あの程度で壊れることに違和感を持つ。マスターすらも注意を逸らす程度の筈が、予想以上の功績に目を丸くしていた。
考えていても埒が明かない。それよりもこの絶好の好機を逃さないことが先決だ。
「……なるほど、美堂蛮に一撃で粉砕されたことが逸話として反映された、と……。これではランサーの面目丸つぶれですね」
セイバーの剣戟が光を帯び、それは流星のように尾を引き肥大化する。
宝具を砕かれ、溜息を吐くランサーを飲み込み、数十メートルほどのクレーターを大地に刻み込み大規模な魔力の放出が一転に集約される。
爆風が周囲一帯に吹き荒れ、砂塵は巻き上がり、塵芥は蹂躙されるかのように吹き飛ばされる。
「赤い剣(ブラッディ・ソード)」
破壊の閃光が赤い剣戟に両断される。その魔力の渦は収束し、クレーターの中心から一つの黒い人影が以前変わりなく立つ。
「セイ、バー……?」
剣を構えた騎士は、ただその剣を握り締めたまま自らが死んだことにも気付かず、五枚に下ろされていた。
吹き出す血と共に光の粒子となり消失していく。
「認めましょう。貴方方の絆は本物だったと。
ですが、その力は今一歩足りなかったようです」
ランサーの傍らにはあの砕いた槍ではなく、赤い血のような剣が握られていた。
「さあ、止めを刺しなさいランサー!!」
「もう終わっていますよ」
殺されたという実感すらなく、苦しみすら感じない程の速さで殺められたと気付いたのと意識が途絶えたのはほぼ同時っただ。
何を言って―――そう口を動かそうとして息が上手く出来ない事に気付く。
視界が揺れて、世界が揺らぐ。その中ではっきりと認識したのは、首のない己の肉体だった。
「――――ランサー、貴方ならこんな戦いもっと早くに終わらせられたでしょう?」
「何度も同じ事を繰り返させないで頂きたい。私は結果より、過程を楽しみたいとそういった筈ですよ?」
「ふざけるな! 貴方は私の『依頼』を引き受けたじゃない!」
マスター、鷹野三四が召喚したサーヴァントは風変わりしていた。
自らを運び屋を名乗り、そのマスターを依頼主として方針に従うとする。
「私は聖杯が欲しい……その聖杯まで私を運ぶ。それが依頼よ!」
当初は困惑こそしたが、当然彼女はこの戦争に乗ることを決意し、その勝利を……聖杯まで鷹野本人を到達(はこぶ)させることを望んだ。
「ですから、消したではありませんか。その聖杯に至るまでの障害をね」
「わざわざ宝具の打ち合いなんて、する必要なんかあったの? こちらの魔力も無尽蔵ではないのよ!」
鷹野の懸念は魔力の残高だ。はっきり言えば、鷹野はマスターとして特別優れている訳ではない。
彼女は魔術師でもないし、どちらかと言えばその逆でもある。
他のマスターに劣る程ではないが、彼女が保有する魔力量は多くない。
まだ数十の主従がいるなかで、真っ向から戦闘を吹っ掛け使う必要のない宝具まで無駄使いされては、聖杯戦争最終盤まで持つか不安にもなる。
「まさかとは思うけれど、出会ったサーヴァント全員の宝具をわざと引き出させてから倒すつもりじゃないわよね?」
「もし、そうだと言ったらどうします?」
「くっ……」
苛立ちに任せ体に爪を立てる。歯ぎしりし癇癪を起しそうになる。
だが、先ずは深呼吸し冷静になる。
まだ負けた訳ではない。少なくともこのサーヴァントの強さそのものは本物だ。
状況は決して絶望的ではない。
界聖杯に招かれる前、山狗達がたかが中学生相手に翻弄された挙句、番犬とかいう訳の分からない連中に手も足も出ず投降し始め、銃を渡し自決を強要してきたあの時よりはずっとマシだ。
古手梨花を殺害し、女王感染者の死により雛見沢症候群感染者の暴走を理由に雛見沢そのものを全滅させる。
そして祖父の研究を政府に突き付け、自らとその祖父の一二三が神となる為に。
「令呪を持って命じるわ。私の意思に従え、ランサー!!」
勝手な真似をされて魔力枯渇にでもなられたら面倒だ。令呪を使い、一度完全に屈服させた方が良い。
だが命令に反し、ランサーには何の変化もない。
「イメージできないんですよ。貴方の命令如きに従う私が」
それどころか涼しい顔で言い放つ。そんな命令で己は屈することなどないと。
「そんな、令呪の命令は絶対じゃ……」
サーヴァントに対し、絶対順守の令呪の縛りすら難なく跳ね除ける姿に唖然とする。
命令が曖昧過ぎたか? 確かにそれもあるのかもしれないが、このランサーがあまりにも規格外すぎる。
あまりにも桁違いにもう恐れを通り越して笑いしかない。
「……いやよ。また巡った最後の好機なの」
鷹野は一度敗北している。団結した雛見沢に、あの部活メンバーの子供達に、何よりその運命に。
ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。
恨むのは神、憎しむはその運命。
勝つと決めた。捻じ伏せると決意した。
神が人を試すのなら、人が神を試してはならない不条理に。
ならば敢えて、試すのだ。
神の意思がこの己の意思に勝てるか否か。
サイコロの目は自分で決める。お前如きの好きにはさせない。
「私に従え、ランサー!!!」
「―――な、に?」
二つ目の令呪が光った時、ランサーの顔が歪み、その膝が地へと触れた。
先のセイバーすら叶わぬ偉業が今この瞬間為されたのだ。
「私は、絶対の未来を紡いでみせる。この場にある全ての願望を打ち消し、私の未来を勝ち取ってみせる。
邪魔なんてさせない……それが例え、神様……いえ、それを越えた者であろうと―――」
このランサーは理を越えた存在だ。
契約を交わした時から、察してはいた。絶望の淵に神を呪い、その強い意志の力が神の織りなす世界を否定し、殺戮に至る力を求めた超越者であると。
聖杯戦争すらも、戯れに参加したに過ぎない想像もつかない上位存在だと。
だが、それがなんだ? 神をも超える事が人に可能だというならば、鷹野に不可能な筈がない。
神を呪う思いならば、それは決して自らも劣って等いないからだ。
「……運命すら破る。強固な意思、ですか。
クス、ああ……私は貴女を見誤っていた」
楽しそうに、ランサーは笑っていた。
「か弱い人間はこりごりと思っていたのですが、いえ貴女は確かに強い。
良いでしょう。少しやる気が起きてきましたよ」
正直なところ、ランサーは……赤屍はこの戦争に期待していなかった。
元々、個々の戦いを望む彼は戦争に準ずる集団の戦いを好まないこともある。
更に言えばすぐに癇癪を起す余裕のない鷹野に呆れすらしてもおり、先のセイバーとの戦いもようやくちょっと楽しめたという程度のそれでしかない。
「ならば、見せて頂くとしましょうか。私に依頼しその果てに辿り着いた結果を」
だが神に抗い、その聖域を踏みにじるというのならそれを見届けるのも一興ではあるだろう。
その小さき胸に秘めた強い決意が。
世界に比べればあまりにもこの矮小な意思が、果たして運命すらも超えるのかどうか。
「同じ、神を呪った者同士としてね」
【クラス】
ランサー
【真名】
赤屍蔵人@GetBackers -奪還屋-
【ステータス】
筋力A 耐久C 敏捷A+ 魔力A 幸運C 宝具???
【属性】
混沌・中庸
【クラススキル】
なし
本来は対魔力がつくが、以下の保有スキルが上位互換となるので消失。
【保有スキル】
超越者:A
意志の力を知り、生死を越えた赤屍の絶対の摂理。
赤屍がイメージできない事は起き得ない。
森羅万象はそこに存在を認識されて初めて生まれ出る。
卓越した戦闘力に加え、彼が認めない(イメージできない)あらゆる異能を含めた事象を否定する。
それは己の死すらも例外ではなく、死とは他人事でしかない。
だが、体に仕込んだメスを磁力で逆に利用され八つ裂きにされて敗北した逸話から、地に足付いた事象であるなら完全には否定できなくなっている。
よって高ランクになればなるほど、その宝具及びスキルを無効にでき、逆に低ランクであればある程度は通用する。(死ぬかはまた別として)
赤屍の代名詞ともいえる死をイメージできない為に死なないという理屈も、魔力枯渇という致命的な弱点が存在しマスターが死ねか契約が絶たれれば消滅に繋がる。
更に不死と言っても一時的な仮死状態にはなることもあるので、その間にマスターを狙われるのも危ない。
サーヴァント化の際にこれらの弱点も付与されたので、ランクも下がってしまった。
医術:A
こう見えて医者であり、通りすがりに一般人を救った事もある。
【宝具】
『血』
ランク:??? 種別:??? レンジ:??? 最大捕捉:???
自身の血からメスなどの武器を生成し、時として異能へと変容する等し戦闘へと応用する。
『赤い槍(ブラッディ・ランス)』
ランク:??? 種別:??? レンジ:??? 最大捕捉:???
血から創り出した槍。
一応、赤屍がランサーとして呼ばれた所以の宝具なのだが、美堂蛮との戦闘に於いて使う前に一撃で壊された逸話のせいで、非常に壊れやすくなってしまった。
本来は非常に強固だとは思われる(赤屍の世界で最強クラスの人物が、最終覚醒を果たした上での一撃粉砕なので)。
『赤い剣(ブラッディ・ソード)』
ランク:??? 種別:??? レンジ:??? 最大捕捉:???
同じく血から作った剣。
使用頻度が非常に高く、強敵相手によく使用する。
その他、様々な武器や異能力をその血から繰り出す事が可能。
【weapon】
多数のメス(過去の戦いから反省し磁力対策済)。
【人物背景】
Dr.ジャッカル、史上最低・最悪の運び屋と呼ばれた男。
非情に好戦的かつ、高い戦闘力を誇る危険人物。
かつて大切に想う少年が居たが、それを救えなかったことで神を呪い超越者として覚醒した。
その過去からか、今は戦闘狂でもありながら時として人を救ったり、命に重みを語るなど矛盾した行為も時々見られる。
【方針】
聖杯には興味はなく、そこに至るまでの過程を楽しむ。
【マスター】
鷹野三四@ひぐらしのなく頃に解
【マスターとしての願い】
聖杯を手にし、滅菌作戦を成功へと導く。
【能力・技能】
少なくとも看護師として振舞える医療技術に、人を射殺できる銃の腕前。
【人物背景】
ひぐらしのなく頃にのラスボス的存在。
祖父が研究していたその成果を、一度は否定された日本政府に突き付けるべく雛見沢を滅ぼし、
神(オヤシロ様)となることで永遠の存在になろうとする強固な意志と狂気に取り憑かれている。
その運命を変えようとする強い意志は、本物の神ですら認めるほど。
【備考】
祭囃し編で、自殺用の銃を渡されて以降の参戦です。
投下終了です
申し訳ありません アホなミスをしました
>>572 の
マスターの女性がランサーへと吠える。
左手の甲に刻まれた令呪が光り、一画が消費されたのが見て取れた。×
マスターの女性がランサーへと吠える。〇
なので鷹野令呪は残り1画です
投下します
(簡素な紙にペンを走らせている)
(手紙のようだ)
(乱雑な殴り書き)
(…? 視界が滲む)
(涙か。怒りで頭に血が昇ったか。一部読めない)
(読める箇所は………………)
◇
結論だけ、書く。
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗したあたしは失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗したあたしは失敗した失敗
失敗した。
あたしがあたしだということを思い出したのはほんの1年前だった
恐怖の大王が落ちるとか言われてた日
バカだバカだ何が恐怖の大王だどうせなら落ちてくれればよかった
あたしはこの24年間、記憶を失っていた。
覚えていたのは名前ぐらいだった。
思い出したのはほんの1年前だった
恐怖の大王が落ちると言われて落ちなかった日
恐怖の大王なんてどこにもいないけどあたしは死にたい
修理が完全じゃなかったタイムマシンは不具合があったあたしは1975年に跳んだとき何も覚えていなかった
それを今になって思い出すあたしは真っ白でどうしたらいいか分からず施設に保護された
橋田鈴というまっさらな人間として普通に生活してきただけで阿万音鈴羽としての使命は完全に忘れていて去年思い出した
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗したあたしは失敗
これじゃあ未来は変わらない
ゴメン。
ゴメンね。
あたしは何のためにこの歳まで生きてきたんだろう。
使命を忘れてただのうのうと生きてきた。
こんな人生、何の意味もない。
意味がない。意味がない。意味がない。
思い出さなければよかった。
思い出せてよかった。
君に謝ることができてよかった。
許して許して許して許して許して許して。
あたしの計画は狂ってしまった。
ゴメン。ゴメン。ゴメン。
こんな人生は、無意味だった
◇
(文字通り筆を投げ出したのか最後の一画が長く紙上を走っている)
(……首を、括る)
(遺書だったようだ)
(そうか)
(これがあなたの過去か、マスター)
(……オレも、未来を変えたかったよ)
(あたしは失敗した)
(だから、この世界線にもう興味はない)
(次のあたしと、世界線に託すことにする)
(なのに)
(これは、なに?)
◇
「それじゃあ、行ってくるよ母さん」
「いってらっしゃいトランクス。三年以上待たせちゃったもの。孫君たちも待ちくたびれてるでしょ」
「ああ。無事人造人間を倒せたってやっと伝えられる」
(なに?走馬灯?)
(でもこんなの知らない。青い髪の男女に知り合いはいない。街も、さすがにここまで戦場みたいにはなってない)
(なら、これは……?)
「ッ!母さん離れて!」
「おやおや気付かれてしまったか。気配は隠していたはずだが、サイヤ人の勘というやつかな?」
(げ。なにあれ)
(虫?いや喋ってるし。じゃあ人?あんな緑の体色に斑点の人類ある?)
(……夢かこれ)
「何者だキサマ」
「すぐに分かる。俺は、お前の親戚さ」
(…緑のから金色のオーラみたいのが出た)
(末期に見るのがファンタジー?頭お花畑?クスリはやってないんだけど)
「…バカな。フリーザと、父親の。ピッコロさんに、悟空さん。父さんの気まで……」
「言ったろう、お前の親戚だと!はぁッ!!」
(え、な、殴、ちが、殺し!?)
(速すぎて見えな…い、こともない)
(夢だから?にしても変)
(生々しい。命のやり取りのにおいがする)
「父さんも悟空さんも死んでいる!フリーザたちもそうだ!親戚なんて産まれるはずもない!」
「察しが悪いな同胞よ!Dr.ゲロの死後も最強の人造人間作製の実験は続いていたのだ。最強の生物の細胞を掛け合わせて産まれた、最強の人造人間が私だ!」
(青い人が押されてる)
(…?ポケットから何か出して?)
「人造人間か!それならこれでどうだ!」
「ほう。何かと思えば緊急停止コントローラーか。お前ごときがどうやって17号と18号を倒したのか疑問だったがそういうことか!」
「これでおまえも…!」
(スイッチを押した…!)
(でも怪物は止まらない!)
(尻尾が男の人の首に巻きついて……ああ……!)
「生憎とバイオテクノロジーにより産まれた私に緊急停止装置は取り付けられていない。無意味だよコントローラーは」
「さて、別段お前に用があったわけではないトランクス。必要なのはタイムマシンだ。17号と18号が生きている時代に向かい、奴らを吸収すれば私は完全体に成れる」
(タイムマシン!?あれが!?)
(それじゃあこれはもしかして別の世界線!?)
「邪魔するなブルマ。お前にも別の用はない。発進するだけなら講義の必要もない。黙って見ていろ」
(ダメだ) (え?誰の声?)
(また、人造人間に世界が壊される)
(このままあの世になんて行けない。行ってたまるか)(青い髪の男の?)
(ドラゴンボールさえあれば)
(なんでも願いが叶うチャンスがあれば…!) (願いが叶う?)
(…………ある、のか?)
(なら、話は早い) (そうか。それで……)
(オレの死後を捧げる。その対価をここに貰い受けたい)
◇
シュン、という空気を裂く音を立てて巨大な球状物体が現れた。
再現された秋葉原のラジ館屋上にゴン、と音を立ててそれは着地する。
「それで、あなたはそのタイムマシンでこの聖杯戦争に乗り込んできたんだ」
少女、阿万音鈴羽はそう言ってタイムマシンから青い髪の青年が降りてくるのを出迎える。
続けてやはり関心を惹かれるものがあるのか、タイムマシンを調べ始めた。
「重力操作装置でブラックホール発生させて、時空を超える感じ?根っこの理論は父さんのタイムマシンと一緒かな。
あ、でも出力凄いね、マイクロブラックホールじゃなくてもっと大規模なの?大部屋全体の重力1000倍とかいけちゃう系?
残り航行時間は…なし!?燃費悪ッ!未来に行けるのは父さんのよりハイテクだけど、燃費はあっちのがいいかなあ」
などと弄っているのが一段落し、鈴羽の手が止まったところで青年はタイムマシンの外部スイッチを操作して、マシンを手のひらサイズのカプセル状に変形させる。
それをポケットに収めると、鈴羽も携行性はこっちのが上だななどと感心しつつ、気持ちをレジスタンス時代に切り替える。
「あなたがこの界聖杯(ユグドラシル)に世界線移動したのにあたしが巻き込まれて、この世界にいた16歳の阿万音鈴羽の体に記憶をタイムリープさせたってこと?
…因果だね。岡部倫太郎風にいうならシュタインズ・ゲートの選択ってやつかな」
自殺寸前だった―――いや自殺した直後の虚無感しかない鈴羽だったが、偶然のタイムリープが彼女の胸に黒い炎を灯す。
記憶と感情は未来を変えるエージェントのものを取り戻した。肉体も全盛期に戻った。SERNのラウンダーを何人だって殺せるコンディションだ。
そしてここには、IBN5100はないが無限の願望機『界聖杯』がある。
「行こう、えーとトランクス君だっけ?未来を変えるためにさ」
少女の呼びかけに青年は答えた。
「■■■■■■!!!」
理性を失くした雄叫びで。
「……セイバーでもライダーでもなくバーサーカーぁ?んーまあしょうがないか」
その様を見た鈴羽の顔にシニカルな色が浮かんだ。
「歴史を変えようなんて、イカレてなきゃやってられないよね」
でしょ?と狂気のマッドサイエンティストの顔を浮かべて。
歴史を変えるための第一歩を二人は踏み出した。
【クラス】
バーサーカー
【真名】
トランクス@ドラゴンボール
【パラメーター】
筋力E〜B 耐久E〜C 敏捷E〜B 魔力E〜B 幸運E 宝具A++
(後述のスキルにより一部ステータスのコントロールを可能とする)
【属性】
秩序・狂
【クラススキル】
狂化:C
耐久と幸運を除くパラメータをランクアップさせるが、理性を喪失し人間的な思考ができなくなる。
クラス別スキルであると同時にサイヤ人としての種族特性でもあるため、何らかのきっかけがあれば制御可能になるかもしれない。
今の彼の状態はブロリーというサイヤ人が陥った、尾を失くした状態で大猿の力を引き出した暴走状態に近い。
【保有スキル】
天性の魔:E-
生まれながらに怪物であることを宿命づけられた存在。
トランクスは大猿の進化した粗暴な戦闘民族、惑星ベジータに巣食ったサイヤ人という地球外生命体と地球人の混血児である。
加えて彼の師匠孫悟飯は神の悪性そのもの、大魔王ピッコロに師事しており、トランクスもまた純正の魔の系譜である
しかし彼は生まれついて理知的な母に似た性格をしており、さらに幼少期に尾を切り落としたことにより大幅にランクダウンさせている。
父譲りの極めて頑健なサイヤ人としての体質と、サーヴァントとなってなお鍛錬によりステータスが伸びる特性を持つ。
そして尾の生えた状態で満月を目にすることでその本来の獣性を露にする。
本来死者であるサーヴァントが成長などするはずないが、全宇宙で最も知名度の高いサイヤ人は死後も鍛錬により大きく力を伸ばした実績があり、トランクスも神の住まう領域で大きく力を伸ばした逸話を持つためその特性をスキルとして再現している。
気功操作:A++
肉体に宿る神秘の力、『気』を自在に操る。
修得の難易度は最高レベルで、Aでようやく“修得した”と言えるレベル。
A++ランクともなればエネルギー弾として放つ、肉体に纏っての強化、戦闘力(ステータス)のコントロールや感知、自在に飛行するなど多彩な応用力を持つ。
狂化しているため戦闘力を0にするのは令呪による補助などなくてはできないが、そのほかの技能についてはほぼ問題なく機能する。
機人相殺:A
人ならざるヒトと相互いに殺し合う運命。
相殺(そうさい)でなく相殺(そうさつ)。
トランクスはメカフリーザ、人造人間14号、17号と18号など機械生命体を多く破壊し世界を救っている。
そして人造人間セルとは数多の世界線において数奇なめぐり合わせの上にあり、セルはトランクスを二度殺し、トランクスはセルを二度殺している。
機械の属性を持つのものに対し与えるダメージにプラス補正がかかる。
さらに機械以外のものにより形成されたヒトに対しては与えるダメージに加えて受けるダメージにもプラス補正がかかる。
魔眼(偽):EX
運命探知の魔眼、とこれを自覚したとある科学者は名付けた。またの名をリーディング・シュタイナー。
人類すべてが保持する能力であるが、特にそれが顕著に表れている。
世界線の移動を認識し、本来ならば修正される記憶を保持することができる。
さらに虚数事象や剪定事象となり消え去ったはずの世界線すら観測し、在り得ないものを在るものとしてしまう。
我思う故に我在り、我観測す故に世界在り。
トランクスはタイムマシンにより過去へ渡り、一人の英雄の命を救うことで世界線を移動させたが、彼はタイムマシンにより本来彼のいた歴史、その英雄の死んだ世界線へと帰還している。
世界線移動による記憶改変を受け付けない。
そしてトランクス自身が身を置いた世界線を認識するかぎり、その世界線を異聞帯、あるいはパラレルワールドとして存続させる。数多の時間移動を繰り返したことで生ける空想樹とも言うべきモノへとトランクスは変質してしまった。
逆にトランクスが歴史を改変しても、彼は移動した世界線の未来に身を置くことはかなわず、元の世界線にしかタイムトラベルできない。
そのため例えば聖杯を用いた時間遡行、人理の焼却を解決したとしても、彼が戻った現代の人類は滅んだままであろう。
【宝具】
『魔人封じ、機人裂く剣(タピオン・プレイズ・ララバイ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜3 最大捕捉:1人
1000年の昔、南の銀河のコナッツ星で暴れた幻魔人ヒルデガーンを真っ二つに切り裂き、そして封印した剣。
勇者タピオンがその身に封じた魔人と共に現代まで持ち続け、別れ際にトランクスに託したもの。
ヒルデガーンとは全長数十メートルはあろうかという巨体に、攻撃する時以外は霊体でいるという怪物で、かつてそれを裂き封じたこの剣は巨人殺しおよび霊体特攻の概念を持つ。
さらにトランクスに振るわれ、幾度か歴史に多大な影響をもたらす強大な機械生命体を斬ったために機械特攻の概念も宿す。
折れたり欠けたりしたことも一度や二度ではきかないが、そのたび修繕されており、少量の魔力で修復可能。
『1000年に1人の黄金戦士(超サイヤ人)』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
穏やかで純粋な心を持つサイヤ人が強い怒りや悲しみによって覚醒した姿。
頭髪は黄金に瞳は碧眼に染まり、膨大な気が意識せずとも濃霧のように体を覆っている。
幸運と魔力を除くステータスを3ランク上昇させる。
スキル:天性の魔により成長の可能性があるトランクスはここからさらに先の領域に足を踏み入れることもあるかもしれない。
『魔閃光』
ランク:― 種別:対軍魔技 レンジ:1〜20 最大捕捉:100人
気功操作の極み。
両の掌から集約した気を放ち、強大な光線で攻撃する。
神の悪の心から生まれた大魔王ピッコロから孫悟飯が学んだ奥義であり、孫悟飯に師事したトランクスもまたこの奥義を扱う。
一国を滅ぼし、月をも砕く魔王より脈々と受け継いだ魔の極み。
『青き追い風よ、希望を運べ(チェンジ・ザ・フューチャー)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
地球の天才科学者ブルマが、地球外の文明からインスピレーションを得て開発に至り、トランクスが活用したタイムマシン。
重力発生装置が組み込まれており、岡部倫太郎らが開発したものと同じくブラックホールを利用したもので、鈴羽にも多少は理解できる。
エネルギー効率が極めて悪く、トランクスの生前は往復のエネルギー貯蓄に3年前後を必要とした。
サーヴァントとなっても同様で、一流の魔術師が数年魔力を蓄えて片道一度使えるかどうか。
令呪3画を用いても難しく、そもそもトランクスが理性も騎乗スキルも持たないバーサーカーで召喚されたためまともな運用は不可能。
英霊の座に至ったトランクスはこの宝具を獲得し、無理矢理に発動して界聖杯の召喚に割り込んだ。
本来の役割である並行世界移動装置としての役割を果たし、彼は『単独顕現』に成功。近似するタイムマシンを保有していたためか、そのトラベルに巻き込まれる形で鈴羽の意識もタイムリープしてしまったのがこの主従の成り立ちである。
それにより残存エネルギーはほぼなし。よほどの事態がなければ発動はできないだろう。
【weapon】
『魔人封じ、機人裂く剣(タピオン・プレイズ・ララバイ)』
【人物背景】
戦闘民族サイヤ人の王子ベジータを父に、地球有数の大企業カプセルコーポレーションの天才科学者ブルマを母に持つサラブレットとして産まれる。
しかし突如現れた二人の人造人間17号、18号によってトランクスを含む地球の人々は絶望の未来に囚われることになる。
地球最強の戦士孫悟空は心臓病で他界し、ベジータをはじめとする有力な戦士も人造人間に殺され、残された戦士は孫悟空と息子悟飯とベジータの息子トランクスの幼い二人だけ。
後に孫悟飯も人造人間に敗れ、トランクスも瀕死の重傷を負う。
それでも過去に希望を送り、未来の可能性を掴むために孫悟空存命の時代にタイムトラベル。悟空に病の特効薬と人造人間の襲来情報を渡し、未来を改変する。
そしてトランクスも過去において力を増し、また人造人間二人の弱点を掴んだことで勝機を得る。
未来に戻り人造人間17号、18号を倒し、その報告に過去へと向かおうとした……そこへ新たに現れた人造人間セルの奇襲を受け死亡する。
別の世界線においてはこれを撃退するのだが、それは様々な事象の絡んだ歴史改変の影響であり、このトランクスはそこまでの知識、あるいは実力を持ち合わせていなかった。
そのためにこのトランクスは再び人造人間を撃滅するために地獄の閻魔のもとへ行かず、英霊の座、そして後悔と怒りを持って聖杯戦争へと臨む。
余談であるが、地球の神や銀河を統べる界王をも超える力を身に着けた彼は戦闘力だけならば神霊クラス。その強さが逆に災いし、聖杯では本来の彼のスペックを再現しきれていない。
【サーヴァントの願い】
人造人間による絶望の未来を改変する。
【マスター】
阿万音鈴羽@STEINS;GATE
【マスターとしての願い】
SERNによるディストピアの未来を改変する。
【weapon】
なし。
【人物背景】
SERNという組織によって支配された未来を改変するためにタイムトラベルした時間遡行者。
目的は1975年でIBN5100というパソコンを入手し、2010年の仲間に託すことだが、父親と会うために2010年でいったん途中下車。
2010年に長期滞在したせいでタイムマシンが故障してしまうが、岡部倫太郎や父親をはじめとするメンバーと親交を深める。
その後オペレーション・エルドフリームニル(岡部主催のお別れパーティ)参加後、タイムマシンを父、橋田至に修理にしてもらい、1975年に向かった。
しかしそのタイムマシンの修理は不完全であり、鈴羽は遡行後の1975年において記憶を失ってしまう。
以降橋田鈴と名乗り、24年を無為に過ごし、記憶を取り戻した瞬間その事実に絶望。
任務の失敗を告げる手紙を遺し、自殺する…のが本来の歴史。
この世界線においては自殺の寸前にタイムリープが発生。
絶望の記憶を界聖杯に存在する16歳相当の肉体に転写し、聖杯戦争に臨む。
【能力・技能】
SERNに対抗するレジスタンス組織の一員であり、相応に鍛えた肉体と精神をしている。
銃器などの扱いと、IBN5100を扱うための工学知識を有する。
【令呪】
右手の甲。
阿万音鈴羽の「A」だけが刻まれたラボメンバッジ。
歯車で一画、矢印で一画、Aで一画。
【方針】
聖杯狙い。
一度致命的な失敗を犯してしまったタイムリーパーたちは、修羅となることも厭わない。
投下終了です
>>いつかこの花が咲いたなら
マスタースカディ、サーヴァントナイブズ、どちらも強力なんてものではなくて衝撃です。
黒髪化のリスクがあるとはいえそれにしても女神の魔力量で連打されるエンジェルアームはあまりにも凶悪。
その上で相応以上の好戦的な姿勢を取ってもいるので、他の主従にとってもかなり危ない存在となりそうですね。
そしてそんな彼らの会話の内容も情緒に富んでいて、とても読み応えがありました。
>>俺の戦友がこんなにぐだぐだのはずがない
新選組繋がりの主従ですね……と思ったらまさかの沖田さんぐだぐだ出典。
そりゃ斎藤も困惑するだろ、というような組み合わせが面白かったです。
しかしながらこの大真面目な環境でぐだぐだ時空の存在は果たして通用するのか否か……。
勝ち負けはともかく、牙突を覚えて帰る目的くらいならなんとか果たせそう。
>>GOOD LOSERS GOOD LUCK
コンペ期間終了に差し掛かり始めた此処でまたしても追加分のにちか!
今回の相方はめだかボックスの球磨川ということでしたが、こうして見ていると意外と合ってますねこの二人。
西尾的な台詞回しというか、球磨川のらしさをしっかりと発揮した台詞回しがお見事でした。
あとクラス「ルーザー」ってのも個人的には好きです。球磨川のキャラを一言で言い表しているので。
>>Distorted†Happiness
サーヴァント圭一!? と思いましたが、なるほど祟殺し出典。
原作と漫画版での祟殺し編はめちゃくちゃ怖いんですが、やっぱり自分を祟りと錯覚した圭一の狂気がその要因な気がします。
そしてそんな彼を召喚したのは同じく大切な相手を奪われた者であるあさひ。
想いの強さは確かなれど、どちらも視野が非常に狭いのだけは懸念点ですね。
>>ゼオン・ベル&アサシン
お、おいたわしや兄上……というのが一番最初に出た感想でした。
兄弟の確執や憎しみを乗り越えたゼオンと、死後までも引きずり続けている黒死牟。
ゼオンを通じて自分たちにはありえなかったものを感じ取って慄くところとか、本当に"らしい"なあと思いました。
彼にしてみれば劣等感と虚しさに満ちた戦いになりそうですが、果たしてその末に何かを掴み得るのか。
>>紅露火垂&ランサー
ぐっさん! ぐっさんじゃないか! しかもまさかの水着霊基。
一見するとイロモノ感がありましたが、しかしお話の内容は至って真面目。
マスターである火垂に対する感情や彼女のなんだかんだで面倒見のいいところとか、しっかり描写されていたと思います。
とても面白く、それでいて読み応えのある一作でした。
>>鷹野三四&ランサー
鷹野の心理描写がすごく上手だな、と思いながら読み進めさせていただきました。
彼女の抱える妄執や怒り、それ故のヒステリックな一面などの再現がとても巧みで解像度が髙い。
強力なものの思い通りにはならない赤屍というサーヴァントを引いてしまった彼女。
とはいえいまだ目指す場所もそこに至る手段も変わっていない様子なので、強力な聖杯狙いとして暴れてくれそうですね。
>>青藍疾風のアンチホープ
まずタイトルがいいですね、好きです。かっこよくて尚且つ合ってる。
サーヴァントとしてのトランクスの解釈や設定が面白くてすご〜〜ってなりました。
ドラゴンボールとFateというまず交わることのない作品が交わった!って感じがしてすごく好きです。
失敗した故に手段を選ぶことをやめたタイムリーパー二人。彼らの手は今度こそ念願に届くのか。
皆さんたくさんの投下ありがとうございました!
コンペは本日の23:59:59まで!
今の内にコンペ終了間際で投下渋滞が起きた場合の処理について記しておきます。
滑り込みの方が多数発生して投下が渋滞する事態が起きた場合を鑑みて、コンペ自体の終了時間から約一時間後の「AM1:00」までに投下された作品は時間内に投下されたものとして扱うこととします。
それ以上の延長時間を設けることは今のところ考えておりませんので、把握の程よろしくお願いいたします。
投下します
その主従は追われていた、他の陣営のサーヴァントにではない。
この世界の住民であり、とある犯罪組織の構成員たち。
聖杯戦争には関わらないであろう者たちが何を思ったか、襲撃してきたのだ。
サーヴァント同士の戦闘中にも関わらず、マスターを狙って乱入してきた彼らは双方の陣営に銃を乱射、
さらにはマスター目掛けて車を突っ込ませてきたのである。
「すまないライダー、完全に油断していた」
「それはこっちのセリフだぜマスター、まさかこんな手で来るとな」
魔術により身を守っていたことが彼らの明暗を分けた、一人は車に轢かれるも引きづられるのは避けた。
先程まで争っていたもう一人のマスターは避けられずにそのまま轢かれ、無残な姿となって死亡していた。
炎上する2台の車を見ながら、生き長らえた方のマスターは即座にその場から離脱しようと動き出す。
狙ってきた理由が未だ不明だが、おそらくは別のマスターかサーヴァントによる差し金なのは間違いないと考え、
騒ぎとなった場所からできるだけ遠ざかなければならない。
ライダーに身体を預けて何とか離れたマスターはようやく一息ついて落ち着くことできた。
(ひどい手傷を負ったが何とか生き残ることはできた。
相手の正体は気がかりだが、それは後回しで構わないだろう。まずは拠点に戻り、傷を癒やさねば…)
そうしてこれからの動きについて考えようとし始めたときだった。
突如ライダーが焦った表情で立ち上がり、少し遅れてマスターも顔をしかめてライダーと同じ方向に目を向けた。
その先にいたのは女性のような細面した男のサーヴァント、だがその見た目とは裏腹に纏う殺気は尋常とは言えないほどのものだった。
「おや、どうなさいました? 随分とひどい有様ですが」
「ここで別のサーヴァントか…!」
「マスターはそのままじっとしててくれ、ここは俺が何とかする」
遭遇を避けたかった状況でサーヴァントと遭遇したことに痛手を感じるマスター、そしてライダーはそんなマスターの前に出て謎のサーヴァントと対峙する。
負傷したマスターを背負った状態で逃れることは難しい。
ならばここで倒すか、そうでなくても負傷させて撤退させるだけでも今はいい、いやそもそも相手との戦闘を避けられるのならそれが一番だ。
ライダーは目の前の脅威に対してどう対処するかを思案をしつつ、相手の出方を伺っていた。
だがそんなライダーの動きに特に思う様子もなく、相手のサーヴァントはそのまま品定めをするように彼らの様子を観察していた。
「なるほど、マスターは重傷のようですが、サーヴァントの方は問題なさそうですね」
直後に何かを察したライダーは守りを固めた。
瞬間、ライダーに斬撃が飛んで来たのを理解した。
気づけば向こうはすでに剣を抜いており、戦闘は始まったのだと気付き、すぐさま体勢を立て直す。
「貴様…!」
「初撃は防ぎましたか、まあそうでなければ張り合いがありません。
前哨戦とはいえ、ふるいにかける一撃で終わってしまうのは興が削がれますからね」
そうして彼は値踏みを終えたとでも言うようにライダーの評価をする。
少なくとも斬り合えるくらいに出来る存在ではあるようだと。
「――では改めて、僕と一戦交えてもらいましょうか」
そしてこの日、また一騎のサーヴァントが脱落した。
◆
――万次郎は廃れて廃墟となったボーリング場で一つの報告を待っていた。
そうして廃墟に携帯の着信音が響き、電話に出ていた部下が少し会話をし、彼にマスターを2人始末したとの報告をした。
家族を人質にこの世界の一般人を脅し、捨て身で車を突っ込ませる計画は思った以上の成果を出したようだ。
いくらサーヴァントを連れているとはいえ、マスターに隙が全くないわけではない。
他の陣営との戦闘が始まれば否が応でもそちらに気を引かれてしまう。
それから不意打ちで動きを封じ、車で轢けば跡形もないだろう。
最も全てのマスターがそれで始末できるとは思っていないし、
サーヴァントによってはさほど苦もなく迎撃だろうが、それでも目障りな存在は消していた方がいい。
手を組むとしてもその程度の相手ではどの道この先を生きてなどいけないだろう。
どんな悪事にも手を染めることに躊躇いなど全くない、むしろそれをやりたいと思っているのが今の自分だ。
遠慮はいらない、この場所に守ると誓ったかつての仲間たちはいないのだから。
そんな彼のもとに背後から一つの気配が近づいき、姿を表す。
今回の聖杯戦争で万次郎が召喚した彼のサーヴァントである。
「戻ったんだな、アーチャー」
「戦果はまずまずと言ったところです。まだ斬り甲斐のある相手とはやり合えていませんが、
ここからさらに減っていけば自ずとそんな相手が残っていくでしょう」
先ほどライダーを切り捨てたサーヴァント――アーチャーは自身のマスターに近況報告を行なった。
「なるほど、どうやらマスターが狙った主従と僕が見つけたライダーが被ったみたいですね。
何かに追われてた様子だとは思いましたが、道理で」
先の戦闘について一人納得するアーチャーとそれを見る万次郎。
彼はアーチャーにしばらくの間、威力偵察をするように指示を出していた。
英霊との戦いを望んでいたアーチャーはこれを承諾、
利用できそうな戦力を持つ相手を探すのと同時にアーチャーの欲求もある程度満たせるようにした。
ただ威力偵察の対象に関してはアーチャーに一任しており、万次郎の同じ狙いになるとは限らなかった。
つまり先の一連の流れは単なる偶然で狙った連携ではなかったのである。
「何かそちらで不都合なことでもありましたか? 少しくらいなら僕も融通を効かせようと思ってはいますが」
「しばらくお前に任せると言ったのは俺だ、今のところは別に気にしなくていい。
ただこれから先、他の陣営と手を組むこともある中で気ままに斬り続けるのは難しくなる。
ある程度の配慮はするけど、度を越すようならこっちも考えを変える必要が出てくる」
そう言って万次郎は釘を刺すようにアーチャーへと視線を向ける。
強者どもとの殺し合い、それを最優先に動くアーチャーがこちらの事情など無視するなど十分にあり得ることだ。
この剣鬼はマスターと極上の獲物なら後者を優先して動くと考えている。
そんなマスターの様子を見てアーチャーは笑いを浮かべながら答えた。
「呼んでいただいた義理もありますし、そう簡単に貴方を斬り捨てることはありませんよ。
いくら単独行動があるからと言ってもマスターがいるといないとでは違いが大きいものです。
わざわざ自分の力を落とそうとする真似を僕はする気がしません。
ですが以前にも言った通り、余りにも僕の道を邪魔するようでしたら、その時はその時です。
なので精々上手く使ってくださいよ、マスター。貴方の願いを叶えるためにも、貴方の手腕を見せ所てください」
そう言ってアーチャーはそのまま霊体化して去って行き、万次郎はそれを見届け、元いた世界のことについて考える。
最悪自分がここで死んだとしても、自分を追って武道が危険な目に遭うことがなくなるだろう。
彼にとってこの聖杯戦争は絶好のチャンスであり、そして救いの可能性であった。
彼が取りこぼしてしまった分も、界聖杯があれば自分が掬い上げ、彼の背負った荷の重さを軽くすることが出来るのだ。
「タケミっち、今度は俺が戦う番だ。待っててくれ、必ず俺がみんなで幸せになる世界を掴んでみせる。それが――」
――俺のリベンジだ。
叶うはずがないと思っていた未来を欲した、一人の男が空を見上げた。
【クラス】
アーチャー
【真名】
壬生宗次郎@神咒神威神楽
【属性】
中立・中庸
【ステータス】
筋力:C 耐久:D 敏捷:A++ 魔力:E 幸運:B 宝具:A+++
【クラス別スキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【固有スキル】
心眼(偽):A
直感・第六感にとる危険回避。
虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。
視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。
縮地:B+
瞬時に相手との間合いを詰める技術。多くの武芸者、武道が追い求める歩法の極み。
単純な素早さではなく、歩法、体捌き、呼吸、死角など幾多の現象が絡み合い完成する。
最上級であるAランクともなればもはや次元跳躍であり技術を超え仙術の範疇となる。
またアーチャーは体裁き、虚実のずらし、刹那の単位で死角へ滑り込む視線誘導の技と魔的な勘、
洞察力――それら総てを動員して、相手の視線を躱すことで、自分の位置を特定させなくすることができる。
戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
剣鬼:A+
尋常ではない殺気の放出、アーチャーの剣は殺気の塊だからこそ意が読めない。
放射している殺気の密度が常軌を逸して濃すぎるため、攻撃に伴う意がその殺気に紛れて消されている。
達人になればなるほど重要になる読み合いが、アーチャーには通用しない。
またこのスキルはアーチャーの剣鬼としての常軌を逸した精神を表しており、精神干渉の類を高確率でシャットアウトする。
首飛ばしの颶風
対人魔剣。最大捕捉・6人。
石上神道流に伝わる上位の技の一つだが、本来は直接的な殺傷力を持つものではない。
この技は殺気を対象に叩きつけることで気勢を削ぐのが目的なのだが、驚異的な殺意を有するアーチャーは、
剣気と融合させて物理的な殺傷力を有する斬風、つまり遠当ての技として昇華している。
その特性から、言うまでもなくアーチャーの殺意が高まるほどに威力は増すため、彼がもっとも頼りにしている技の一つであり、彼の代名詞と言っていい。
難点としては、放つ殺意の量に応じた溜めを要することだろう。
【宝具】
『経津主神・布都御魂剣』
ランク:A+++ 種別:太極宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
アーチャーの「ただ一振りの刃でありたい」という渇望を具現化した切断の概念そのものであり、剣戟の究極形といえる太極。
『求道太極』と呼ばれるそれは己が願った法則・世界を自分の内側に永久展開すると言われている。
宝具を発動した彼は肉体のみならず視線・念波・生気・空間・精神・寿命・運気・法則・魂など有形無形を問わず万象あらゆるものを斬滅できる。
ただし今回の聖杯戦争では適性クラスであるセイバーで呼ばれてない影響により、斬る対象と狙いを定めたモノに自ら振るう刀で触れる必要がある。
またこの宝具の発動による魔力消費は激しく使えるのは一日に一回のみであり、それ以上の使用には令呪が必要となる。
【weapon】
愛用している刀
【人物背景】
女性のような細面と、丁寧で物静かな態度が印象的な剣士。
しかし、遠慮が無い性格の為、口を開いて語る言葉は基本的に毒が利いており、初対面の相手の度肝を抜くほど。
その本性は、強者を斬ることにしか興味と価値を見出せない人格破綻者であり、彼と一度剣を交えた者は例外なく命を落とすとされる剣鬼。
ただ一つの弱点として女性の色気に哀れなほど免疫がない。
初期は「自分以外の総てを切り殺し、己が最強の剣士であることを証明する」という自己愛と滅尽滅相を極めた目標していたが、
紆余曲折を経て「全てを斬る刃だと意味が無い」と気付かされて覚醒し、その願いとは決別した。
ただ強者と戦って斬り捨てるという斬り合い殺し合いを好むその物騒さは最後まで変わっていない。
体捌き、殺しの嗅覚、ずば抜けた第六感により彼我の身体の能力差に関係なく戦闘することが可能。
具体的には、海の上を走ったり、相手の視線を避けながら零距離で斬撃を放つ程。
殺気を飛ばすのでアーチャー。
【聖杯への願い】
聖杯にはない、様々な英霊と斬り合うことを目的にしている
【マスター】
佐野万次郎@東京卍リベンジャーズ
【マスターとしての願い】
黒い衝動を消して過去に戻り、死んでいった大切な人たちを取り戻し、タケミっちや東卍の皆と一緒に幸せになる
【weapon】
普通の銃を所持してる
【能力・技能】
喧嘩の強さに関しては作中一であり、「核弾頭みたい」と形容される威力を誇るその蹴りで
多くの相手を一撃で沈め、足を両手で掴まれても人間ごと吹き飛ばせる。
また圧倒的な不良としてのカリスマ性を持つ。
【人物背景】
東京卍會の総長である少年、通称「"無敵"のマイキー」
その小柄から想像出来ない程の類稀なる格闘技術を持っており、喧嘩では百戦錬磨の実力者。
良くも悪くも無邪気な性格の持ち主であり、タケミチ曰く「不良だけど悪人ではない」。
芯の通った人物ではあるが無意識に周囲の人間に依存しており、
近しい人間に危機が及ぶと精神的に不安定になる一面を持ち合わせる。
本人曰く自らの中には「黒い衝動」が潜んでおり、それが抑えられなくなると周りを巻き込むと考えた万次郎は、
東卍の仲間たちから離れ、「関東卍會」を創設し総長の座につく。
そして現代では賭博、詐欺、売春、殺人どんな犯罪でも裏にはその組織がいるといわれ、
警察でも内情を把握できないほどとになった「梵天」の総長として君臨する。
今回の万次郎はその頃からの参戦、界聖杯の存在はまさに彼にとって天啓であった。
【方針】
聖杯狙い、願いを叶えるためならどんな手でも使う。
与えられたロールは凶悪犯罪組織のトップ。
組織もサーヴァントも他陣営も全て利用していき、どれだけの犠牲が出ようが願いを叶えるつもりである。
投下終了です
滑り込みですが投下します。
「先生、さようなら!」
とある小学校で放課後の始まりを告げるチャイムが鳴った。
界聖杯の内部で再現された東京にもしっかりと昼と夜の概念があり、そこでNPCやマスター達は各々の生活を送っている。
「なあ、今日お前んちで遊ぼうぜ!」
「あー……ごめん。今日も用事でさ……」
「えーっ、今日もか?最近付き合い悪いけど忙しいのか?」
「うん、そんなところ」
そして、小学校から友人と共に出てきたこの少年もまた、とある世界から送られてきたマスターの1人だった。
友人からの誘いを断り、巻き込まれた身ではあるがマスターとして放課後の時間を過ごす。
【精が出ているな、マスター。今日も公園か?】
【うん!百合亜姉ちゃんに会いにね!】
【ふん……また護衛ごっこか?NPCを護衛することほど馬鹿げたことはないぞ。所詮はこの世界で作られた人形に過ぎん】
【百合亜姉ちゃんは特別なんだよ】
少年のサーヴァント――セイバーは苦言を呈すも、少年は聞き入れない。
少年の目的は、公園にいつもいる櫛 百合亜(くし ゆりあ)という少女に会いに行き、付き合う傍らで護衛すること。
しかしながら、いくら少年にとって大事な存在といっても百合亜はマスターではない。つまりNPCに過ぎない。
【そうか……。だが自分の命はもっと大事にしろ。死んでしまっては守ることすらできんからな】
【分かってるって!】
セイバーはそんな少年に呆れつつも、霊体化したまま彼についていく。
生前の自分と重ね合わせているからか、マスターも百合亜という少女もいざという時は自分が守ろうと決めていた。
§
「百合亜姉ちゃん!」
「まあ、こんにちは。今日も遊びに来たの?」
公園に来た少年を、空色のワンピースと緑髪をした儚げな少女――百合亜が出迎えた。
「うん!」
「ふふっ、とても楽しそうな顔……。今日も何かいいことがあったのね?聞かせてくれる?」
「もちろん!」
そのまま、少年は百合亜と公園のベンチで隣り合って座り、様々なことを笑い合いながら話した。
最近のこと、学校の授業で学んだこと、友人の話で面白かったこと、他愛もないこと。
少年はそれを話しているだけでとても幸せだった。
界聖杯に呼ばれてからというもの、家族も友人も見知らぬ者ばかり。
味方はセイバーしかおらず、ずっと孤独だった。
しかし、そんな少年を百合亜は弟のように気に掛けてくれた。
今となっては、百合亜と話すことが少年の孤独を癒してくれる一時となっていた。
少年はそんな百合亜をまるで姉のように慕い、心から守りたいと思っていた。
そして楽しい時は早く過ぎるというもので、空の色が夕焼けを過ぎ、夜に染まろうかという時分まで来る。
「あら……もうこんな時間だわ。おうちに帰らないと……」
「そうなの?じゃあオレ、百合亜姉ちゃん送るよ!」
「本当?でも私の家にまで付き合わせるのは――」
「オレ、初めての道でも迷わないんだ!それに最近、行方不明事件があちこちで起こってるらしいし、姉ちゃんだけじゃ危ないよ」
「……じゃあ、お願いしようかしら」
「まっかせて!」
百合亜は微笑ましさ半分、頼もしさ半分という顔をしながら言う。
それを聞いた少年は胸を張りながら、百合亜と共に公園のベンチから立ち上がった。
【……あまり深追いするのも悪手だぞ。取り分け人目の少ない夜は――】
【でも百合亜姉ちゃんを一人にできないよ。セイバーもそう思うだろ?】
【……】
【オレ、セイバーを信じているからさ!】
【……ふん】
セイバーは念話でやれやれとため息をつきながら、警戒をしつつ少年に付き従う。
「百合亜姉ちゃん、案内してくれる?」
「ええ……こっちよ」
そのまま、少年は百合亜の導く方向へとついていった。
§
「うっ……うっ……うああ……」
全身を優しい刺激に包まれ、少年は年に見合わない喘ぎ声を上げる。
「ううっ……うううっ……!」
温かくって、気持ちいい。
「はーっ……はーっ……!」
けれど、怖い。自分が自分でなくなっていくようで……。
まるで蔦が伸びてきて、少しずつ少しずつ自分の身体をこじ開けて侵食してくるような……。
「うあああっ!」
セイバーのマスターの少年は、絶叫を上げた。
周囲の景色は、何もかもが異様だった。
壁、床、天井に至るまで、緑色の得体のしれない筋肉とも臓物とも取れぬ肉塊があちこちで蠢いている。
そしてその上を伝うように、まるで根のような血管ような管がドクドクと波打ちながら伸縮していた。
所々からは地面を突き破って表に出てきた触手が不快に蠢いている。
ドクン、ドクン、と。まるでこの場所、否、少年のいる構造物全体が生きているかのように鼓動が聞こえた。
「あうぅ……っ」
これまでの光景とは一線を画す、まるで異なる世界に来たかのような、狂っていて、グロテスクな場所。
少年は、そんな場所で首から下を緑色の繭に覆われてしまい、頭だけ出したダルマのような姿にされていた。
繭の効果か、生温い快楽と引き換えに魔力を根こそぎ持っていかれているのを少年は肌で感じていた。
このままではダメだ。このままでは死ぬ。この緑色の繭と同化してしまう。
そう思っているのに。
「くううっ!あうう……!」
少年は涎を垂らしながらも歯を食いしばり、繭から抜け出そうと抵抗するも、繭はガッチリと少年の全身を包み込んで離さなかった。
少年のなけなしの抵抗か、繭の表面がぐに、と歪むが、それだけだ。
もはや少年の首から下の肉体は繭と同化を始めており、結合してしまっている。
どんなに抵抗しようとも、繭の一部になってしまってはもはや逃れようもないというものだった。
「そんな……どうして……」
少年は蕩けた顔をしつつも、絶望的な眼差しを周囲に向ける。
「……うう……」
「嫌ぁ……このままマユに取り込まれちゃうなんてイヤぁ!」
「助け……て……」
そう、こうなっているのは少年だけではないのだ。
老若男女問わず、場合によっては少年と同年代の少女まで。
この区画全体で、容赦なく緑色の繭に取り込まれ、あちこちで喘ぎ声の絶望のハーモニーを奏でていた。
「どうして……どうしてなんだよ……っ!」
この凄惨な光景を見せられて、少年は自分をこんな格好に陥れた相手に問う。
「――百合亜、姉ちゃん……!」
その視線の先には、先ほどまで百合亜姉ちゃんと呼んで慕っていた少女がいた。
少女は、少年の声に振り返ると、近づいて来て少年の髪を荒々しく鷲掴みにする。
「うぐ……っ」
「……養分の分際で気安く呼ばないでくれる?それに私はグジューっていう名前があるの。櫛 百合亜なんてここの文化に合わせて作ったウソの名前!」
百合亜――否、グジューは名乗る。
そして櫛 百合亜だった儚げな人間の少女だった姿から髪と肌、そして服の色を変え、本来の姿を現す。
顔色の悪い薄紫色の肌に、背中から生える蟲を彷彿とさせる羽根。その姿は完全に人間から離れた何かだった。
それを見て少年が連想したのは、かつて映画やアニメに見た、所謂「宇宙人」。
「なんで……あの優しかった姉ちゃんが……サーヴァントなんて……!」
「正体を隠すことが得意だったのよ。元々そういうことやってたからね。そんなことも理解できないなんて、セイバーのマスターといえど所詮はガキね」
確かに、セイバーの言う通り、百合亜はマスターではなかった。
正確には、『人間を装っていたサーヴァント』だったのだ。
「セイバー……は――」
「あら、自分のことじゃなく他人の心配?でも残念、もうモンスターにちゃったわ」
「っ……!」
「今ではもう立派な私の下僕よ。三騎士もあっけないわね」
「そん……な――」
それを聞いた少年の瞳からは、輝きが失われていく。
まるで糸の切れた人形のように項垂れ、頭を緑色の繭に預けたまま動かなくなった。
此処――バイオベースにて。
少年は希望も願いも信頼も、人間としての尊厳も奪われ、繭と同化する運命を辿るのだろう。
§
生体基地バイオベース。
大地や捕えてきた生物から養分を搾取する生体基地であり、生物をモンスターに改造するための研究施設でもある、グジューの宝具。
グジューはすでに大勢の人々を誘拐して緑の繭に取り込ませており、その中にはあの少年のようにマスターだった者もいる――かつてグジューを召喚したマスターも。
そこで吸い取られた養分はグジューの魔力に還元されており、単独行動してもなお余りある魔力が彼女に供給されているため、マスターを失っても問題なかった。
「誰か助けてぇ……養分になんてなりたくないよぉ」
「からだを……かえして……」
緑の繭に取り込まれた者達から聞こえる悲痛な怨嗟に見向きもせず、グジューはバイオベースの奥へと進む。
やがてグジューがたどり着いたそこは、捕えた者の洗脳と改造を同時に行うシリンダーが並ぶ空間だった。
いくつかのシリンダーには、グジューが生体改造した成れの果てが謎の液体で満たされた中で浮かんでいる。
「……」
その中の一番奥。空いているシリンダーの前で、グジューは独り佇む。
思えばここで、炎の貝の勇者の心の強さに驚かされたものだった。
「……」
思い返すのは、生前。死の間際でのこと。
父であるギャブ・ファーに見放され、その攻撃から炎の貝の勇者とその仲間達を庇う前後に言い放った言葉。
『今度生まれ変わったら……私もあんた達の……仲間に生まれたいよ……』
『へへっ……これで……少しはあんたの仲間に近づけたかな……』
『今度は私もあんた達の仲間に……』
「ふふっ……あははは……」
自嘲で、乾いた笑いが出てしまう。
「なれてないじゃない……こんな身体じゃ……」
自身の掌を見る。瞳に映るのは、人間からかけ離れた肌の色。
未だグジューは昆虫から進化した種族──宇宙の侵略王ギャブ・ファーの娘のまま。
「なんで?どうして?次はあいつの仲間に……人間になれると思ったのに……」
気づけば、サーヴァントとして召喚されていた。よりにもよって、この姿で。
サーヴァントとは、言わば人々に祀り上げられた英霊の具現化。
グジューが蟲の姿で顕現したというのなら、人々の間に記憶されているグジューとはそういうことなのだろう。
「何よそれ……私が人間じゃないから?怪物だから死んだ後も人間でいちゃダメってこと!?そんな理不尽な世界……私は認めない!!」
バイオベースの中で、グジューは独り吠えた。
「少しはあいつの仲間に近づけたと思ったけど……違ったわね」
悲しみと憎しみを湛えた目で、グジューはかつての自分に支配に頼らない本当の強さを教えてくれた少年――炎の貝の勇者の顔を思い浮かべる。
「ごめんなさい……あなたと同じやり方じゃ、私はあなたの仲間になれないみたい」
口から出るのは、心からの詫び。炎の貝の勇者が今の自分を見たら、きっと止めに来るだろう。
それでも――。
「それでも私は、あなたの仲間になりたいの!!あなたに少しでも近づきたいの!!」
宇宙の侵略王の娘は、もはや手段を選ばない。
自分を縛るマスターは既に排除した。
万能の願望機の力に頼るしか、願いを果たす道は残されていない。
「私は聖杯の力で――私は!!!!!」
そうしてグジューは、訣別したはずのかつての自分に再び成り下がる。
――人間になりたい。
そんな切実な願いのために。
【クラス】
キャスター
【真名】
グジュー@大貝獣物語
【ステータス】
筋力C 耐久B 敏捷A 魔力A 幸運E 宝具A+
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
陣地作成:B+
自らに有利な陣地を作り上げる。
グジューが作り上げる陣地は侵略のための「基地」である。
自身の宝具となる『蠢く毒花の城』の展開・拡張が可能。
道具作成:C+
魔術的な道具を作成する技能。
グジューは兵器や魔物を作り出す技能に特化している。
【保有スキル】
正体隠蔽:A
サーヴァントとしての正体を隠す。
自身をサーヴァントではなく、ただの人間であると誤認させる事ができる。
人間として演じている間は「クシューラ」、またはそれを捩った名を名乗っている。
グジューの場合、Cランク相当の気配遮断効果も併せ持つ。
生体改造:A
生物の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。
NPCのみならず、動物やマスター、果てには植物やサーヴァントも改造して怪物に改造してしまう。
幻想への侵略者:A
幻想の世界を未知の科学技術により襲撃した者達。
グジューはギャブ・ファーの配下として幻大陸シェルドラドに侵攻し、
自身の保有する科学技術によって剣と魔法の世界の住人の多くを死へと追いやった。
Cランク相当の対魔力を得る他、科学による攻撃も宝具と同等の神秘を有する攻撃として扱うことができる。
蟲人:A
昆虫から著しい進化を遂げた種族。
人の領域を逸脱した身体能力に加え、
肌色・髪色を変色させることによる擬態や羽根による超振動など、蟲特有の能力を備える。
【宝具】
『蠢く毒花の城(バイオベース)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
グジューがかつて、シェルドラドに存在するラフラーという巨大な花を改造して作った生体基地。
常に大地からエネルギーを吸い取っている他、捕えた生物からもバイオベース内部でエネルギーを搾取している。
捕らえられた生物は主に首から下を緑色の繭に取り込まれており、死ぬまでエネルギーを吸収され続ける。
エネルギーを吸収されるにつれ、取り込まれた者は繭と同化していき、最終的には繭と同じ体色に変化し、バイオベースの完全な一部になってしまう。
繭に取り込まれた者はあらゆる手を尽くしても救出不可能であり、施設の倒壊、あるいはグジューの消滅と共に死亡する。
また、バイオベース内には生体改造のための設備も存在し、グジューはこれを利用してより強力な魔物を生み出すことができる。
本来、バイオベースで蓄えたエネルギーはすべてギャブ・ファーの元へと送られていたが、
此度の聖杯戦争ではグジューの魔力に直接還元されている。
グジューはバイオベースで吸い取った魔力を利用することで、十全な力を保持したまま完全な単独行動を可能にしている。
【weapon】
・自身の肉体やシェルドラドで習得した一部の魔法
・開発した科学兵器
【人物背景】
宇宙の星々を侵略する「宇宙の侵略王」ギャブ・ファーの娘にして片腕。
シェルドラドに侵攻した際は記憶喪失の少女「クシューラ」を装い、スパイ活動を行っていた。
その傍らで炎の貝の勇者とその仲間達の前に度々現れ、その動向を監視していた。
しかし、炎の貝の勇者や彼と共にいたロボットの姿を見ているうちに感化され、本当の力とは支配の力ではないことに気づく。
どうにかギャブ・ファーにシェルドラドへの侵略をやめるよう説得を試みるも聞き入れられず、役立たずとして処分される。
最期はギャブ・ファーの攻撃から炎の貝の勇者達を庇い、
次は炎の貝の勇者たちと同じ人間に生まれ変わることを望みながら死亡した。
【サーヴァントとしての願い】
この手で聖杯を手にして人間へと生まれ変わる。
【マスター】
不明@???
【マスターとしての願い】
不明。もうヒトとしての自我はないため、彼もしくは彼女が願うことは二度とない。
【weapon】
不明。
【能力・技能】
不明。
【人物背景】
何かしらの理由で『界聖杯(ユグドラシル)』に招かれた誰か。
グジューを与えられたが、既にバイオベースに取り込まれ繭と一体化しており、生きた魔力炉同然の扱いを受けている。
【方針】
………………。
完全に マユと同化してしまっている……。
少々時間をかけてしまいましたが、投下を終了します。
タイトルは『大貝獣物語ふたたび』です。
投下します。
彼らが居る公園は、東京の中にいくらでもあるごく普通の公園だった。
だが、彼らは普通ではなかった。
どこにでもあるあような公園の中で……おかしなかっこうの2人組が立っていた。片方は大人、片方は子供。
どちらも顔は外から見てわからない。
顔の上半分を隠すように目だけが出たマスクをかぶって、マントとバッジをつけた少年。
そして真っ赤なタイツのようなスーツで全身をすっぽりと包んで、巨大なグローブを手に付けた男。
前者の少年はマスクとマント以外は普通の短パンとシャツ姿だが、後者の男の顔部分には肩という文字、胸元には弱という文字と肩への矢印がペイントしてある。
まるで「肩が弱いです」と言ってまわっているような姿だった。
2人はまるで何かを待っているようにボンヤリしていた。
「あのー、本当にこれで敵がくるんですかねえ」
少年は疑問を素直に口に出した。男はそれに対して、弁解するように言う。
「ベンチに座ってくつろいでるフリして敵を誘い出す、僕がよくやってた戦法さ」
常套手段。そういわれると、良い策な気がしないでもなかった。
「なるほど。手際が良いんだなあ」
「ハハハそうだろう」
男からすると実際自分自身を餌にする罠は効果こそかなりあったのだが、居合わせたサラリーマンからサボってるなんだと散々に言われたのは秘密である。
が、その姿をまず見つけたのは「敵」ではない。公園に入ったひとりの女性だった。
一般人らしきその女性は、困惑の目を向けつつ、小走りで離れながらスマートフォンを握りしめる。
どうやら不審者と勘違いされたようだ。
うわあちょっと待ってくださいと2人が女性を静止せんとした、その時。
女の前に、人外が立ちふさがった。
「え……」
「敵」は確かに男たちの狙い通りタイミングもあって誘い出されていた。と同時に、こちらの隙を伺っていたのだ。
野獣のような巨体を持ったそのクラスもわからぬ、サーヴァントかそれとも宝具かも判明しないそれは、一般人の存在による一瞬の動揺を狙い、女性ごと同時に攻撃を加えていく。
「アサシンさん!」
と、アサシンのマスター、パーマンが叫んだその直前には。
肩弱と書かれた赤いタイツの男、サーヴァント・アサシンの不定形のトゲが怪物を貫いた。
そこにはなんの無駄も無い。動揺など皆無の動きだった。
人間を巻き添えにすることもなく、むしろ保護するようにキャッチして、ケダモノを刺し貫き、引き裂く。
が、生命力が強いのか、裂いてもまだ再生してくる。しかし初めて見るそれらの能力を以外に思うでもなくアサシンは敵を解体し、破片すら残さず対処を続ける。
ただ速いのではない。一切のモーションが無い。
一切の恐れを見せず、ためらいもなく、相手を貫く。
やがて……跡形もなく怪物が消えた後、アサシンは抱えていた女性を解放した。
「ええと、大丈夫です、か……?」
アサシンはおそるおそる聞くも。
「「気絶してる……」」
●
とりあえず気を失った女性が持っていたスマートフォンによる通報をそのまま引き継ぐと、2人は「変身」を解いてその場を逃げた。
自宅とされる場所にこそこそとしながら帰る両名。
そばかすだらけの頬。低い背。丸い鼻と死んだような光の無い目。
先ほどアサシンと呼ばれた男。アサシン、ヤスザキマンへと変身していた存在だった。
安崎みちひろ22歳。こう見えて、英霊である。
そして髪の毛の一部が逆立った、快活そうだがやや間の抜けたマスターの少年。
言わずもがな、先ほどマスクをかぶっていた子供だ。
須和ミツ夫小学5年生。こう見えて、ヒーロー「パーマン」である。
「あーあ、大変でしたね安崎さん」
正体隠しでの苦労はミツ夫はよく知っていた。なにせ元々パーマンの正体は誰にも秘密という条件で活動していたのだから
「う、ううん。そうだね。ごめんねこんな戦いにあれこれさせちゃって……」
「そんな! 謝らなくても良いですよ!」
「まあ……うん。君みたいな子供を巻き込むのはちょっとねハハハ……安崎お兄さんヒーローだからさ、避けたいんだよね」
目をそらしながら挙動不審に言うが、内容自体はごく普通の善意じみたものだった。
ヒーローの正体が陰気でさえない男性、というのはミツ夫からするとそこまで意外ではない。
なにせ元の世界で自分がやっていたパーマンというヒーローの同僚にはチンパンジーが居たのだ。その状態よりかはいくらかまともに見えた。
それに。この状態の安崎みちひろも油断無き強者ではあった。
この姿だと身体能力や強さは普通の人間でしかないが、危険を察知した瞬間に宝具を使い、一瞬で変身し攻撃し敵を倒す。
そこに迷いはない。
ミツ夫を出会った直後もそうだ。おたがい戸惑っていたが、襲い来る敵サーヴァントを見た瞬間に彼は「ヤスザキマン」へと変貌し、直後には切り伏せていた。
どんくさく喧嘩にも勝てないような青年だが、敵を殺すということに関してのみ彼は自動機械のような判断力と行動速度を有していた。
もとはただの青年だっただろうこの男性が、いったいそのレベルになるまでどれほど殺し合いを潜り抜けてきたのだろう。
ヒーローではあり鉄火場をそれなりにくぐってきた身ではあるが、あくまで人助けが主体だったミツ夫には想像すらできなかった。
まるで手慣れた作業のように彼は自らの命を危険にさらし、そして敵を討つ。
ショルダータックル、ヤスザキマン。その異名たる弱点を防護するための肩についたプロテクターすら、敵をおびきよせるためならば外し拳に付け替えた。
睡眠すら必要とせず。休憩している時でも必要とあらばそれを瞬間的に切り替えて。
彼は怪人を。人を喰らう化物を、殺し続けた。
命乞いをしようと。
策を講じようと。
多勢で襲い掛かろうと。
迅速に、全てを、殺し続けた。
そうしなければ、居場所が無かったからである。
そんなサーヴァントを励ますように、ミツ夫はちょっと大げさに振る舞う。
「お気遣いなく。僕だってヒーローですからね! 今はパーマンとしての活動がバードマンに認められて、バード星に留学だってしてるんですから!」
「へぇ凄い……うん?」
ミツ夫の自慢げな口調に、安崎は少し不穏なものを感じた。
「ちょ、ちょちょちょ……ちょっと待ってよ! きみ……いくつだっけ? たしか」
「小5ですけど……」
(ほぼ僕の半分の年齢……!?)
キョトン、としているミツ夫に対して、安崎はどもりながらも質問を続ける。
今までの戦い。出自。それらをすでに大雑把にこそ安崎は知っていたものの、より細かい戦いの記憶が少年の口から掘り起こされる。
どこかコミカルだが、仲間たちと行った数々の窮地を乗り越える戦いと人助け。そしてバード星への留学生として選ばれた日の話まで。
「……そ、それで、今はお母さんやお父さんと離れてるんだよね?」
「はい。コピーロボットをロックしてもらったから親は気付いてませんけど。出発の日は嫌で、事情も知らない親に泣きついちゃったんですよね。別れたくないと騒いで。バード星に最初行きたがったのは僕なのに」
おかしい。
なにがとは、言えなかったが。なにかが間違いなくおかしい。安崎はそう思った。
別にパーマンはミツ夫ではなくても誰でも装備できる……改造も才能もなにもいらない力らしい。
だが正体がばれたら、バードマンとかいう宇宙人の上司から光線銃で動物に変えられるとかで。
彼は、僕よりもまだ未来があって、友達もいる子供で。
なのに命を危険にさらすような目にあったり、苦しんで。
何度か激務をやめたいと思っても、災害などに苦しむ人が思い浮かび、自分なら助けられるはずだと我慢できず飛びだして。
母親と長い間離れたくないと言う当たり前の願いをまるで恥ずかしい逸話みたいに思っていて。
それで、今でもずるずるとバード星という場所から帰れなくて。
なのにその人生を栄誉みたいに考えていて。
なにかが。
色々な「なにか」の前提がとてつもなく歪んでいる気がした。
だが、安崎はそれを指摘できなかった。
安崎が口下手なのもある。一概にミツ夫を問題だとか、狂っていると否定はできないのもある。
少なくとも奉仕の精神は立派だし、どちらが明るくまともな思考回路をしているかと言われたら安崎よりもミツ夫の方だろう。言動としてはごく普通の少年だ。
喜怒哀楽も、危険に対する恐怖もある。おっちょこちょいでアイドル好きで、勇気も正義感もある普通の少年。
なによりミツ夫が言う通り、ある意味ではこの少年よりずっと悲惨な目にあっているのは安崎の方だ。
改造され1日23時間人外を殺戮し続ける運命にあり、それをやり続けなければ社会から存在を認めてすらもらえないゴミ掃除屋。
だが。それでも……安崎みちひろの目からすると。
自分よりヒロイックな人生を歩んでいるはずのミツ夫が、なぜか自分より哀れな存在に見えた。救われるべき対象に見えた。
ただ、安崎はどうすれば彼を救えるのかがなにもわからなかった。
(つうか救ってほしいのは僕の方なんだよチクショー……とは言えねえー!!)
ヤスザキマンが得意なのは、人助けではなく「人類の敵を殺す」ことだけなのだから。
【クラス】
アサシン
【真名】
ヤスザキマン@ショルダータックルヤスザキマン
【パラメータ】
筋力A 耐久E+++ 敏捷B 魔力D 幸運D 宝具B
【クラス別スキル】
気配遮断:B
【保有スキル】
殺戮の鬼:A
人類の敵を1日中殺して殺して殺し続けてきたことによる対人外や非常事態における殺戮技術、観察眼、対応能力。
不意打ちといった事態にも対応し、瞬時に行動パターンを読み、初見のどのような姿の相手でも迅速に殺してのける。
このスキルはアサシンが経験によって得た技術であるため、宝具の存在やパラメータと無関係に常時発揮されている。
【宝具】
『肩弱の安崎(ショルダータックル・ヤスザキマン)』
ランク:B 種別:対人外宝具 レンジ:10 最大補足:40
アサシンが変身する戦闘形態の宝具。不定形のグローブ(本来肩部にあるプロテクターであるため、肩にも展開可能)を付けたスーツ姿のヒーロー。グローブはトゲや刃物、ハンマーなど意のままに変化する。
上記のパラメータはこの宝具を使用時のもので、使用してない状態だと全てのパラメータはEランク。
さらにアサシンの精神状態の安定を保つためこの宝具の発動は1日のうち23時間が限界となっている。
また肩部を破壊された場合この宝具は喪失する。
【人物背景】
本名安崎みちひろ。22歳の陰気でコミュニケーション能力の低いパッとしない男性。
知らない間に誰かに改造され、人類を喰らう自然発生した怪人を1日23時間狩り続ける人生を送り続けている。
勝手な市民の応対、1時間の精神休養以外は一切の自由が無く殺し続ける毎日と根の要領の悪さから彼はノイローゼになりかけていた。
【サーヴァントとしての願い】
ヤスザキマンやめたい。なんで座にまでヤスザキマン主体で登録されてるんだよ。
【マスター】
須和ミツ夫@パーマン
【マスターとしての願い】
安崎さんが不憫だからどうにかしてあげたい。
【能力・技能】
普通の小学5年生並み。ただし勇気やいざという時の機転はきく。
パーマンセットと言う宇宙人からの道具(マスク、マント、バッジ)を装備することにより6600倍の腕力と119kmの飛行能力といった強化された肉体を得る。
ただし、パーマンセットは機械なので状況によっては故障、不調になりやすい。また強化されてはいるが防御力は無敵ではなくただの銃弾などでも大怪我はする。
【人物背景】
バードマンという宇宙人からパーマンセットと言う超人になれる道具を渡され、日夜正体を隠して平和のために奉仕活動と戦いを続けていた小学生。
同じくパーマンセットを渡された仲間たちと事件解決や悪党退治を続け、やがて勇気あるふるまいが仲間の中でもバードマンに評価され、バード星に一時留学することになる。
が、また別の時系列の物語だと彼は大人になってもいまだ地球に帰ることができていない事実が示唆されている。
【方針】
悪いサーヴァントのみを排除する。マスターは人間なので取り押さえる。
「救いのマン」投下終了です。
投下します。
東京都――より厳密には、『界聖杯』によって作られた、偽りの、模倣された東京都。
その都市群、歓楽街の一角に建つビルの地下二階に、ひとつのピアノ・バーがあった。
内装は、綺麗に清掃されたフロアに、ボルトで固定されたテーブルと椅子が何組か。
そしてテーブルの向こうの、一段高いステージに、グランドピアノが設えられている。
そのピアノの音が響く中。椅子にもたれ、テーブルに寄りかかるように肘をついた体勢の男がいた。
もしも営業中ならば、従業員にマナーを注意されても仕方ない仕草だったが――どうやら、今は営業時間の外なのか。
『ピアノを弾いている』者以外、店の関係者はいないようだったし。ピアノの演奏者も、男のマナーを注意したりはしなかった。
もっとも、従業員がいたとしても、男に声をかけるのは躊躇われたかもしれない――黒髪、黒のネクタイ、さらに黒のチェスターフィールドコートという、黒一色の、陰気を通り越して威嚇的でさえある風貌の男だった。
その黒コートの男の名前は――衛宮切嗣という。
かつて数多の魔術師を仕留めた、『魔術師殺し』とまで呼ばれた魔術使い。そして、冬木の『第四次聖杯戦争』に参加し、生き残った――生き残ったけれど、願いを叶えることはできなかった男。
望みを断たれた、敗残者。
彼がかつて、自らの手で望みを断った多くの人間を――そして、かつての聖杯戦争の敗者たちを思えば。そんな呼び方は、命があるだけ十分だろう、などと言われても仕方ないものかもしれなかったが。
けれど。
「『界聖杯』――そして、『聖杯戦争』、か」
何の数奇か。衛宮切嗣は、『界聖杯』に誘われ、『二度目の聖杯戦争』へと参加することになった。
かつてのように、自らの意思ではなく。強制的に、という違いはあったけれど。
そう、強制的に――聖杯を手に入れる機会を、切嗣は得た。自らの意思でなく、得てしまった。
だから、悩む。
自分をこの聖杯戦争に誘った、界聖杯。その力が真実であり、そして、切嗣がかつて求めた聖杯のような、汚染されたものでなければ。
切嗣は、敗者復活のチャンスを手に入れたのだ――とも、言える。
もっとも。ただ単純に、これをやり直しのチャンスだと言うには、今の切嗣と昔の切嗣では違いがありすぎたのだが。
第一に、今の衛宮切嗣は、かつてと比べて歴然に衰えている。
かつての聖杯戦争で、切嗣が被った聖杯の『泥』。それは切嗣の身体を蝕み、全盛期のスペックなど望むべくもない。
死病に侵され、緩やかに、数年後には生を終える病人――解る者が見れば、今の切嗣はそう見えるだろう。
聖杯戦争を勝ち抜けるかどうかは、かなり怪しい賭けだった。
第二に。今の衛宮切嗣は、かつてと比べて置かれた状況が変わりすぎている。
かつての聖杯戦争で、切嗣が聖杯に望んだ願いは、その聖杯に完膚なきまでに否定された。
あるいは界聖杯ならば、その願いを完璧に叶えることができるのかもしれないが――それでも、同じ願いを、また願うわけにはいかなかった。
状況が、変わったのだ。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
衛宮切嗣の娘であり――アインツベルンの城に、未だ取り残されているだろう彼女を。切嗣は、父親として、迎えに行かなければならない。
たとえそれが、裏切り者としてアインツベルンの結界に拒まれ、泥によって衰弱した切嗣では果たせないことであっても。
だが――聖杯があれば。可能だろう。切嗣の復調か、イリヤとの再会を直接願うか――どちらにせよ。界聖杯が正しい願望機であれば、それは叶う。
本当にそれが、許されるのなら。
いや――切嗣自身が、それを許すのか。
かつての切嗣は、多数のために、自らの大事なものを切り捨ててきた。それが、今更。自分の大事なモノのために戦うなんて矛盾が、許されていいのか――?
「なにやら――先ほどから、悩んでいるようだが」
声が、悩み続ける切嗣に届く。
いつの間にかピアノの演奏は終わり、演奏者はステージを降りて、こちらへ歩いてくるところだった。
ウエーブのかかった長すぎる印象さえ与える黒髪に、いかにも音楽家然とした燕尾服の男――事実、彼は音楽家だった。
音楽家で、殺人鬼。
クラスはアサシン、真名は零崎曲識――そう、彼は名乗った。
その能力は、切嗣も把握し――高く、評価している。
つい昨日、このピアノ・バーに襲撃をかけてきたマスターとサーヴァントの主従を完膚なきまでに封殺し、撃退したのはこのアサシンの能力あってこそだろう。
かつての衛宮切嗣が召喚していれば、『当たり』を引いた、と確信していたことは間違いない。
もっとも――今の切嗣にとっては、皮肉な話でしかなかったが。
「殺す相手に条件を付けているせいか、『菜食主義者』などと呼ばれることもある僕だが。喩え話として僕が本当に菜食主義だったとして、目の前で肉を食べる人間を糾弾したりはしない。自分のスタイルを他人に押し付けるような人間は、菜食主義者ではなく、菜食主張者とでも名乗るべきだろう」
菜食主義。限定条件つきの殺人鬼。零崎曲識は、零崎一賊でも唯一、――らしい、無差別ではなく、殺す相手を選ぶ殺人鬼らしい。
そして、その限定条件とは――『少女であること』。
少女を助ける願いを抱いて、少女だけを殺す殺人鬼を引き当てる。
運命というものは、つくづく、切嗣を嫌っている――あるいは、歪んだ形で好いているようだった。
「何が言いたい」
「つまり――マスターが誰を殺そうと、僕には関係がない、ということだ。賞賛もしなければ、批難もしない。令呪とやらで、僕の殺しに命令をするのは辞めてほしいが――それさえ除けば、僕はマスターが何をしようと気にしない」
「殺人鬼らしい論理だな」
「これでも、背中を押してやっているつもりだったのだが」
「それこそ余計なお世話だ。僕が誰を殺すかは、他人に言われるまでもなく自分で決める」
「それを決めかねているように見えたからこそ、声をかけたのだが――それに、他人ではあるまい。マスターとサーヴァント、契約と主従の関係だ。この場かぎりのものではあるが」
マスターとサーヴァントは、一蓮托生。たとえ少女殺しの禍々しい殺人鬼だろうと、切嗣のサーヴァント。
片方の脱落は、もう片方の脱落を意味する。なるほど確かに、マスターが悩んでいるのを放置するサーヴァント、というのは稀有だろう。
殺人鬼に殺しの心配をされるというのは、傍から見たら滑稽な構図ではあったが――今まで切嗣に殺されてきた相手からすれば、切嗣も殺人鬼も、大差はないのかもしれない。
やはり、皮肉な話だった。
「心配されるまでもない。どんな手を使っても、泥水を啜っても――生き残ってみせる」
アサシンに声をかけられたから、というわけでもないが。
いくら切嗣が悩んでいるといえど、ここで死んでやる理由は、さらさらなかった。
何故なら。
「士郎――帰りを待っている家族が、僕にはいる」
「『家族』のために生きる、か。それは――悪くない」
すでに背を向けたアサシンから、微かに笑みの気配がした。
家族。殺人鬼を名乗る男にも、家族がいたのだろうか。いや、この世に生まれた以上、家族は必ずいる筈、ではあるのだが。
「既に演奏は終わり、本懐は遂げた。アンコールを望まれても、『いい』とは言いづらいが――」「零崎を再び始めるのも、悪くない」
---
【クラス】アサシン
【真名】零崎曲識@零崎曲識の人間人間
【パラメーター】
筋力C 耐久C+ 敏捷C 魔力D 幸運B 宝具B
【属性】
中立・悪
【クラススキル】
気配遮断:B+
サーヴァントとしての気配を絶つ。
音を操り、音に紛れ、自らの発する音を消して気配を消す。
【保有スキル】
音使い:A++
音を扱うスキル。
音使いには「音楽で肉体と精神を調律し支配する」、「大音量の衝撃波で敵を直接攻撃する」の2パターンがあるが、
アサシンはこの2パターンをどちらも十全に扱える、万能の音使い。
その声、言葉ですら、他人を支配し、指揮するには十分である。
陣地作成:D+
自身に有利な陣地を作成するスキル。
小さなピアノ・バーを経営する。
店内にはスピーカーが仕込まれており、ほぼ常に不可聴域の超音波が流されている。
そして、この超音波でさえアサシンは他人の身体に干渉可能。
わずか数分の滞在で、耐性のない人間やサーヴァントは身体の指揮を奪われてしまう。
仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
誰が呼んだか、「逃げの曲識」。
情報抹消:C-
敵に対しての情報隠匿。
アサシンのステータスやスキル、宝具の効果を読み取ることが不可能となる。
ただし本人の言動そのものには作用しないため、そこから情報があっさりと判明することもある。
生前、アサシンが一賊でも非常に謎めいた殺人鬼であったことに由来するスキル。
ただしそれは周囲の一賊の尽力あっての物であり、本人は自らの能力を隠すことに特に関心を払わない。
精神汚染:D
同ランク以下の精神干渉を無効化する。Cランク以上の精神干渉においても、成功率を削減する。
また、他人と会話や意思疎通が通じにくい。
周囲の空気を読めない精神的なスーパーアーマーであり、同時に殺人鬼としての異常な精神性。
また、アサシンは少女のみを殺害対象とし、それ以外を殺害対象にしない。
少女以外は、殺さない。
【宝具】
『少女趣味(ボルトキープ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:音の届く限り 最大補足:音の届く限り
零崎曲識が手にした、最初にして最後の『専用の得物』。
とある武器職人集団の統括クラスの凄腕が作製した、黒色のマラカス。刻まれた紋様は、禍々しく呪いの言葉にさえ見える。
曲識の音楽家としての力量を十全に発揮するために「広く、そして正確に音階を表現する」ように製作されており、
マラカスでありながら、小さなオーケストラレベルの演奏を可能とする。
それと同時に、打撃武器としても使用可能な頑丈さを併せ持ち、暴力に依る破壊はほぼ不可能と言っていい。
宝具となったことで『少女趣味』の二つ名を持つ曲識の逸話と共鳴しており、
その奏でる音も、頑丈さを盾にした打撃も、『少女』に分類される相手に対しては特攻となる。
【weapon】
『少女趣味(ボルトキープ)』
・音
当然として。宝具である『少女趣味(ボルトキープ)』をメインに扱うが、その本質は音使い。奏でる音の全てが武器となる。
それはその声や不可聴域の超音波でさえ例外ではない。
【人物背景】
殺し名の序列第三位に列せられる殺人鬼集団、零崎一賊の三枚看板、零崎三天王のひとり。
『少女趣味(ボルトキープ)』の二つ名で呼ばれる、音楽家にして殺人鬼。
かつての少女時代の『赤』と出会った体験から、『少女以外は、殺さない』という菜食主義を掲げる唯一の殺人鬼。
その禁欲ゆえか戦いを好まず、『逃げの曲識』と揶揄されることもあるが、彼もまた『家族』を大事にする零崎一賊の殺人鬼に変わりはない。
【サーヴァントとしての願い】
――なし。本懐は遂げた、笑って死んだ。それなのに、どうしてそれ以上を望む権利が僕にある?
【マスター】衛宮切嗣@Fate/Zero
【マスターとしての願い】
現状まだ決まっていないが――生き残り、勝ち残らなければいけないのは確か。
【weapon】
銃器類、爆発物。
現役時代は『起源弾』と呼ぶ魔術師殺しの銃弾を所持していたが、この聖杯戦争では不所持。
【能力・技能】
魔術使い。
かつては『魔術師殺し』とさえ呼ばれた卓越した傭兵だったが、『この世全ての悪』の泥に苛まれ、身体は衰弱し魔術回路の八割が機能不全に陥っている。
自身の時間流を操作する独自魔術、『固有時制御』の利用すら危険を伴う。
本格的な衰弱がはじまる前であるため、体術や銃器の使用はそれなりにできる。
【人物背景】
かつて魔術師殺しと呼ばれた魔術使い。
聖杯戦争に失敗し、娘を取り返すこともできず、吹雪の森を彷徨う内――この界聖杯を争う聖杯戦争に取り込まれていた。
【方針】
どのような形であれ生き残る。
曲識は少女以外を殺せないため、基本的に『曲識はサーヴァントの足止め、切嗣がマスターを殺す』戦術を強いられる。
現役時代ならばともかく、泥で衰弱した切嗣がマスターを狙う危険を侵さなければならない。
曲識がどれだけ切嗣をサポートできるかにかかっているといえる。
投下を終わります。
投下します
冷たい滴が、私の頬をつたって落ちていく。
いつの間にか雨が降り出していたらしい。
けれど数瞬遅れて、ばしゃりと聞こえたそれは、雨の水音とは違う。
目の前の少女の両腕から溢れ出る、夥しい流血の音だった。
「……ぇ」
少女は呆然と目を丸くして、己の傷口を眺めている。
たったいま自分に降り掛かった災厄を、理解できないでいる様子だった。
無理もない、左右の腕を纏めて切り落とされたのだ。
この一瞬の攻防で、彼女が戦いにおいて素人であることはよく分かった。
殺し合いの経験もなければ、戦場を見たこともないような普通の少女として、それは至極当然の反応だった。
「ぁ……ああぁ……!!」
漸く事態に意識が追いついたのか、彼女は悲鳴を上げながら後ずさろうとして、自分の流した血溜まりに足を滑らせて転んだ。
もう、この子に打つ手は残っていないだろう。サーヴァントを失ったマスターは、あまりにも無力だ。
恐怖に見開かれた目に映っているのは、返り血に濡れた女の姿。高校の制服、長い黒髪、額に埋め込まれた赤い石。紛れもなく、私の姿。
私は握った刀を引き摺りながら、這いずる背中を追っていく。
きぃ、きぃ、きぃ。
流麗な日本刀の切先が、路地裏のコンクリートを擦り、耳障りな雑音を撒き散らす。
地面を流れる血が、逃げる少女のバタつかせた革靴によって跳ね、私のスカートに斑模様の汚れを刻む。
黒いセーラー服に血の跡はそれほど目立たない、けれど、ああ、また新しいのを探さなきゃ。
なんて考えながら、路地の隅まで追い詰めた。
「いや……いや……やめ……お願い……」
しゃくり上げながら逃げる少女は袋小路の奥で震えている。
無駄なことをしているな、と思う。
両腕の動脈を切断した。その出血量では、きっともう助からない。
助からないし、
「命乞い? ははっ、いまさら?」
私は助けるつもりもない。
横薙ぎ一閃。振り抜いた刀身は、いともたやすく首を刎ね飛ばす。
これが数分前、私という悪霊に対して果敢に挑んできた少女の、哀れな末路だった。
私は刀を鞘に納め、空を見上げた。雨は少しずつ、勢いを増していく。
「バーサーカー」
呼びかければ背後、一瞬にして現出する猛獣の気配。
降りしきる血の雨の中で轟々と唸り声を上げながら、私の従者は許しを待つ。
食事の、合図を待っている。
「食べていいよ」
獣は歓喜の雄叫びを上げながら、死んだ少女の魂に齧りついた。
仕留めた獲物を捕食して、私のサーヴァントは強くなる。
ああ、ここに来てから、いったい何人殺しただろう。
予選と呼ばれる振い落しにおいて、私はただひたすらに他の主従を殺して、殺して、殺し続けて。
殺しすぎてしまったのか。いつからか、逆に狙われるようにもなった。
特に一部の弱いマスター達からは、徒党を組んで襲われることも珍しくない。
だけどその度に返り討ちにしてきた。おそらく、私のサーヴァントは比較的強い方に分類されるのだろう。
悪運は未だ尽きず、私は殺し続ける。ここに来る以前と変わらず。この地上全ての人間を殺し尽くすまで。
強まる雨足は鮮血と混じり合い、崩れ落ちた死体を浸していく。
彼女の体格は私よりも少しだけ小さく、おそらく中学生くらいの年齢だったと思う。
私の斬撃によって千切られた制服の切れ端は、赤く染まっていた。
もとは朱によく染まる、白い制服だった筈だ。
白かった、と思う。
そう、ちょうど、あの子の着ていた、ような―――
◇
私は、全てを裏切った。
全てが、私を裏切った。
最初は、誰が憎かったのだろう。
両親を取り殺した悪霊。養父を殺した従姉。
人並みの幸せすら奪った誰か、あるいは全身不随に陥った私を見捨てた周囲の全て。
何もかもを失って、だけど、その過程に今や意味はなく。
今の私は、ただ全部が憎くて憎くて堪らないから、全部を裏切って、全部を殺す。
そういう生き物になった。
憎い。
それは例えば、退魔師、超災害対策室の元同僚であったり。
諫山家の血を引く愚かな親族であったり。
想いあった筈の婚約者であったり。
さっきすれ違っただけの見知らぬ他人であったり。
私という、諫山黄泉という、存在に触れる全部であったり。
果ては全人類を殺めんとする憎悪。
額に埋め込んだ殺生石の励起する感情は際限なく。
だけどこの憎悪は、醜い本心は、最初から私の内側にあったものだ。
石のせいなんかじゃない。殺生石はただ、私の願いを叶えているにすぎない。
その証拠に今、私はこんなにも満たされて、楽しんでいる。
今まで退魔師として悪霊から守ってきた筈の弱い人達を殺して、刻んで、血を浴びて、踏みにじって、それが楽しい。
いつか冥姉さんの言っていたことは正しかった。
怒りのままに、恨みのままに、心の赴くままに生きることは、こんなにも心地いい。
だけど愚かな冥姉さん、可哀想な冥姉さん、私のお義父さんを殺した憎い憎い冥姉さん。
最期は私に命乞いをして、無様に泣き叫びながら死んでいった。
あのとき振り下ろした刃の感触。肉を抉り、息の根を止めた。それは最低で、醜悪で、なのに気持ちよかった。
私が憎しみのままに殺した、最初の人間。本当の願いを自覚させた、切欠。
もしも、あれを超える悦楽があるとすれば、それは、
―――黄泉お姉ちゃん。
今も耳に残る、私を呼ぶ優しい声。
神楽。
ああ、神楽、神楽。
愚かな子。目障りな子。
由緒正しき退魔師の家柄に生まれたくせに、甘さを捨てきれず、動く死体すら斬ることの出来なかった弱い少女。
こんな私を姉と慕う、馬鹿な娘。
あの子は、ここにいないのだろうか。
いたら今度こそ、殺してあげるのに。
惨たらしく痛めつけて、バラバラに引き裂いて、命乞いを聞きながら首を断つ事ができたらいいのに。
数え切れないくらい何度も、頭の中でそれを再生してきた。
考えつく限り、全ての方法で神楽を害した。神楽の悲鳴と泣き顔を想像して。
その度に暗い快楽と甘い痛みが全身を駆け巡り、想像だけじゃ満足出来ないと心が騒いだ。
あの子を殺したい。あの子に会いたい。
もう一度会って、今度こそ本当に、やり遂げなければ。
最初は、何が憎かったのだろう。
もう一度、答えのない問いを反芻する。
分からない。もう、分からない。だけど一つだけ、言えることがあった。
私は、きっと地獄に落ちるだろう。
◇
雨は嵐に変わりつつあった。
不意に聞こえた足音に眉を顰めて振り返る。
さっき通ってきた路地裏の入り口、つまり背後に確かな気配があった。
彼我の距離は50メートル弱。
バケツをひっくり返したような豪雨を除き、間には何の障害物もない。
電柱の影の下、雨合羽の中からまっすぐ私を見つめる少女は人間のようだが、ただの通行人には見えなかった。
「……もう一人いたのか」
状況の構築には、偶然と必然がある。
まず接近されるまで足音に気づけなかった理由は、急激に勢いを増した雨にあった。
そして袋小路の路地裏で退路を塞がれている理由は、この状況が仕組まれていたから、としか考えられない。
徒党を組んだマスター達の襲撃。
つまり最初から、一人はこの状況を作り出すための囮だったというわけか。
足元に転がる少女の死体を見る。
彼女は自分の死を勘定に入れて戦っていたのだろうか。
それとも味方の援護を信じて私を誘い込み、裏切られて見捨てられたのか。
「バーサーカー」
まあ、そんなことは、どうでもいいことだ。
私の事情が、どうでもいいことであるのと、同じように。
サーヴァントを呼び出して、臨戦態勢に移行する。
目の前に立っているのが敵のマスターだとすれば、使役するサーヴァントの位置を、まずは見極める必要がある。
状況が敵の狙い通り進んでいるなら、迂闊に踏み込めば何らかの罠がある可能性が高い。
慎重に動くべきだと私は即断し、刀を握り、構えを取る。
次いでバーサーカーは私の構えに合わせ、背後で僅かに向きを変えた、まさにその直後だった。
袋小路の路地裏、その側面のコンクリートのビル壁から突如として刺突が飛来した。
私も、バーサーカーも一切反応することが出来なかった。
それほどに速く、正確で、そして致命の奇襲だった。
「なん……だ……と……?」
不可思議な現象だった。
壁を貫通した白刃はバーサーカーの胸を串刺しにして、そのまま反対側の壁を貫いて埋まっている。
そのため切先の形状は見えないし、飛来した瞬間も捉えることは出来なかった。
実際今に至るも、右と左、どちらの壁から飛んできたのかすら判断できていない。風切り音すらしなかった謎の攻撃の正体は読めない。
ただ、鏡のように澄んだ刀身は私の握る「獅子王」と同じく、日本刀のように見えた。
近くで魔力が発動したなら、バーサーカーが気づいた筈だ。
周囲に人為的な仕掛けがあったなら、私が気づいた筈だ。
どちらも反応できなかった以上、結論は一つ。
これは狙撃だ。何キロメートルもの遠方から、数え切れないくらい多くの壁をぶち抜いて撃ち込まれた、理外の刺突に他ならない。
たったの一撃。一撃、不意打ちを許しただけ。
それだけで、全て終わったのだと、なぜか私は理解していた。
バーサーカーの霊基を正確に刺し貫いた刃が今、霞のように消えた、その瞬間。
私のサーヴァントは胸の真ん中を吹き飛ばされ、あっけなく消滅した。
次は私だ。分かっていた。もう一度、突かれたら、それで終わり。
そして次の攻撃までの間隔は、もう。
「乱紅蓮―――!」
刀を抜き放ち、私は背後に、宝刀に宿る赤い獅子の霊獣を呼び出す。
攻撃を行っている敵サーヴァントは遥か遠く壁の向こう。私とバーサーカーの位置を直接見ていない。
ならば位置を知らせている存在がいるはずだ。そしてそれは私の前方の雨合羽の人物、即ちマスターが目になっている可能性が高い。
揺さぶるとしたら、こっちだ。
結果、賭けには勝ったのだろう。雨合羽は見るからに動揺していた。
私の呼び出した霊獣の正体を掴みかね、サーヴァントを倒した確信を得ることが出来なかった。
今、私と乱紅蓮、どちらを優先して攻撃させるか、一瞬迷った。
その一瞬に、勝機を見出す。
背後で霊獣の口が開き、乱杭歯が覗く。
「咆哮波!」
霊獣による大音響の衝撃波が私自身に放たれる。
それは背中を焼き焦がし、何本もの骨を粉砕するも、ただ一つの目的を果たしてみせた。
即ち、私を吹き飛ばし、敵との距離を殺し切る。
中空で全身を捻り、抜身の刀を振り上げる。
猛烈な勢いで接近する私に泡を食った敵が、咄嗟に手の甲をかざすのが見えた。
まずい、サーヴァントを呼ばれる。
「令呪を持って命ずる! 戻って、ラ―――」
声は途切れ、鮮血が舞う。
振り切った刀身に確かな手応え。
だけど次の刹那、私はコンクリートの塀に受け身も取れぬまま叩きつけられ、刀を取り落とす感触を最期に、ぷつりと意識を失った。
◇
人の世に死の穢れを撒く者を退治する。
いつか神楽と共有したその信念。
姉妹のように一緒にすごした日々は今も鮮明に憶えている。
諫山家に引き取られてきたあの子と、初めて出会った縁側の風景。道場で共に修行した毎日。
力を合わせて悪霊を退治して、傷つきながらも笑って歩いた帰り道。
私達は似ている、少なくとも私はそう思っていた。
幼い頃、親を悪霊に殺されたこと。
家柄故に青春の全てを修行に費やし、友達を作ることも出来ない孤独。
私達は同じだと。二人で支え合って、生きていけると思っていた。
人の世に死の穢れを撒く者を退治する。
それが私達、退魔師のお務め。
今は私こそが、倒されるべき穢れの悪霊。
あまりにも皮肉な結末に笑ってしまう。
何もかも無くした私に与えられたのは、何もかもを壊す力だった。
いや、違う、無くしたんじゃない。
私は最初から、何も持っていなかったんだ。
退魔師の家系じゃない、所詮は養子でしかなかった私。
立派なお養父さんも、素敵な婚約者との縁談も、諫山の跡継ぎも。
全ては幻のようなもの。消えてしまうときは一瞬で、だから最初から、私自身に価値なんか一つもなくて。
最初から全部を持っていたのは、きっと、あの子の方だった。
思い出されるのは白く広い病室の風景。
悪霊との戦いで全身の腱と神経、そして声帯を絶たれ、もはや指の先しか動かすことの出来なくなった私。
人間としての価値を最低まで失った私の、それでも人間であれた最後の時間。
――私はずっと、一緒にいるから、黄泉。
病室に響く、神楽の優しい声。
私の髪を梳く優しい手。
傷ついた身体をいたわる優しい眼差し。
神楽の全てが妬ましかった。
私はあの日、初めてそれを自覚した。
養子の私とは違う、退魔師の家柄の、それも名家に生まれた少女。
修行の上達速度も私とは比べ物にならない本物の神童。
なにより、それ程の才覚に恵まれながら、退魔師の道に迷う甘さ、優しさ、強さ。
死体を操る悪霊がいた。
私には、心を殺して、痛みを消して、それを斬ることなど造作もない。
だけど神楽は迷い続けていた。心を殺さず、痛みを背負って戦う道を見出そうとしていた。
私なんかとは全然違う、比べ物にならない心の強さ。
ずっと妬ましかった。私にない全部を持っている神楽が憎かった。
私はその心を自分自身にすら知られないように、ずっと押し殺して生きていた。
そうしないとあの子の隣にいられないと分かっていた、そんな醜い、汚い、私。
なのに、なのに、なのに、
――ずっと一緒だよ、黄泉お姉ちゃん。
神楽は一点の曇りもない心で信じていた。
私を、諫山黄泉を、自慢のお姉ちゃんだと、誇るように微笑んでいた。
――黄泉は間違えたりしない、憎しみで人を傷つけたりしない。
穢れなき純真が、嫉妬と憎悪に塗れた私を、人殺しの私を断罪するように焼き尽くした。
制止も、懺悔も、私には許されない。潰れた喉が掠れた息を漏らすだけ。
滂沱の如く流れる涙と後悔に、神楽の顔を見ることもできない。
やめて。言わないで。こんなに穢れた私を、姉と呼ばないで。
私は、あなたにそう呼んで貰う資格なんてない。
そんな価値のある人間じゃないのに。
最後に、病室を出ていく神楽の横顔。
あの涙に濡れた瞳を見てしまったとき、私の運命は決まったのかもしれない。
それは失望でも、落胆でもない、悲壮な決意。
最後まで、私を信じ抜くと決めた、深い愛情の眼差しだった。
ああ、ごめんなさい、神楽。
喉が裂けるほどの叫声は空気の抜けるような音に変換され、どこにも届くことはない。
私は一生、あの眼差しを受けながら生きていくのだ。
愛の刃に斬り刻まれながら、死ぬまでのたうち回るのだ。
嫌だ。そんなこと、耐えられない。誰か、誰か、私を助けて。
願いは悪意の石に届き、私は生きたまま悪霊に成り果てた。
そして殺して、殺して、殺し続けて。
最初は、何が憎かったのだろう。
その答えなんて、ずっと目の前にあった。
私だ。
最初に裏切ったのも、私。
あの子の信頼を裏切り、あの子に相応しい姉になれなかった、私。
私は誰よりも、私が憎かったんだ。
◇
そうして私は世界に吐き捨てられ、今ここにいる。
元いた世界での最後の記憶。神楽の刃が私を貫く情景。
私が誰より憎む、私自身を殺す瞬間。
なのに、遂に死神にすら見捨てられてしまったのか。
死ぬことも叶わず、放り捨てられたこの世界で、わけの分からない殺し合いを続けていた。
「ば……さー……か……」
それでも漸く、私の悪運も尽き果てたらしい。
「バーサーカー……いないの……?」
ぼやけた視界を開き、周囲を見回す。
どれだけ気を失っていたのだろうか。
おそらく数秒程の筈だけど、その間に殺されなかったということは、最後の一撃は届いたのか。
瓦礫の上から身体を起こそうとして、全身に走る激痛に耐えきれず前のめりに倒れた。
体中の骨がメチャクチャに折れているのだろう。
既に殺生石による治癒は始まっているけれど、暫くまともに動けそうにない。
雨はまだ降っていた。
ぬかるんだ地面に這いつくばったまま目を凝らす。
数メートル離れたところに、雨合羽を着た少女が倒れているのが見えた。
少女は首から血を流し、目を見開き、口をあんぐりと開けたまま、微動だにしていない。
また殺したんだ。と他人事のように乾いた心で思った。
殺した。だけど勝利とは言えないだろう。
雨水に乗って流れてくる血に浸かる、私の手。
その手の甲に刻まれた令呪が徐々に薄まり、そしてたった今、霧散した。
「バーサーカー……」
いくら呼びかけても応えないサーヴァント。
身体から失われた令呪。
それらが何を意味するかは明白だった。
ここに脱落者となった私は、無様に倒れ伏して待っている。
私を殺しにやってくる、誰かの足音を。
「あーあ、死んでしもたんか」
ふと頭上に、男の声が聞こえた。
一人の男が私の横を通り過ぎ、雨合羽の少女の死体に近づいていく。
事切れた死体の前でしゃがみ込み、労るとも馬鹿にするともつかない、内心の読めない声で言った。
「だから出てこんほうがええ言うたのに」
男は持っていた刀を少女の死体、いや死体の上の何もない空間に突き立てる。
「さいなら。短い間やったけど、お世話になりました。
まあ、あっちでは気ぃ張りや。この世界から行けるかは知らへんけど」
言葉の意味はよく分からない。
だけど男の正体なら予想できた。
死んだ少女のサーヴァント、あの不可解な奇襲剣の主。
彼は立ち上がり、振り返り、そしてすぐ側で倒れているもう一人を見つけた。
「……あァ、キミ、生きてたん?」
私を殺すために呼び戻された存在が、こちらを見下ろしている。
戦う力も、逃げる力も、もう残っていない。
ここまで、か。
私は、乾いた思考で、その姿を見上げた。
奇妙な格好の男だった。
白い髪の毛、白い羽織のような着物と袴。
脇差だけを片手に携えた和風の装いだったけど、侍のようと表現するにはすこし簡素すぎるというか。
余計な装飾の一切ない。その透明な出で立ちは幽霊か、あるいは――
「あなた……なに?」
「市丸ギン、死神や」
ああ、やっぱりそうなんだ。
と、私は笑った。
元の世界で、あんなに呼んでも来てくれなかったのに。
「死神……いまさら来たの?」
「なんやキミ、死にたかったん?」
そうだ、ずっとそれを願ってきた。
誰も彼も憎かった。だけど誰よりも、私は私が憎かったんだ。
私を殺して。あの子を傷つけようとする私を、殺してって。
あんなに願っても、現れなかったくせに。
しゃがみこんで顔を近づけてきた白髪の男は、人を食ったような笑み湛えていた。
血まみれで転がる私を面白がっているのか、口元が三日月の形に歪む。
けれど狐のような糸目の奥は見えず、その真意は伺えない。
「それともキミ――」
世界から弾き出された果ての場所で、ようやく迎えに来た死神。
なのに彼は、なかなか私を殺してくれず、そして、あまつさえ、
「まだ、足りへんの?」
「――は?」
煽られたのだと、一瞬、分からなかった。
だけど、私の中の殺生石は理解していたのか。
乾いていた筈の胸の真ん中から、湧き上がる感情の嵐、憎悪、憤怒、悲壮。
そして欲望の嵐が再び全身を震わせる。
渾身の力を振り絞って身を起こし、男に掴みかかろうとした。
到底押し倒す力なんて無い、不格好に体制が崩れ、膝に縋り付くような無様な構図になったけど、かまうものか。
抵抗しろ、まだ死ぬな、諦めるな。そんな怒声が胸の内から鳴り響く。
私が死ねば満足だって?
違うだろう。そんなわけがない。私の憎悪が、殺生石の器たるこの私の卑しき我欲が、その程度で、納得する筈がない。
「わたし……は……」
そうだ足りない。
何人殺したって足りない、足りない、全然足りない、だって、まだ。
神楽、私はあの子に会ってないのだから。
「私……は……ァ!」
神楽、神楽、憎らしい神楽、そして誰より愛しい神楽。
何もかも失った私に残された、唯一の執着。
私の妹。あの子に会いたい。
生きている限り、あの子会わなければ終われない。
私は神楽を殺したい。
私は神楽を守りたい。
相反する二つの欲が渦を巻き、それは彼女に辿り着かねば完結しない。
神楽はきっと此処にはない。
私と違って世界に必要とされていたから。
ここで死んだら二度と会えない。
あの子は地獄には来ないから。
だから終われない。
生きてあの子に辿り着くまで。
「私は……まだ……ッ」
「なんや、おもろい子……ちゃうな、めんどくさい子やなぁ」
私の血に濡れた両手が男の白い袴を掴み、赤い汚れを刻んでいく。
その様子を、男はどこか愉快げに見下ろしながら、
「しゃァない。ええよ、結ぼか、契約」
あっけなく、軽い調子で、そんなことを言った。
「……え?」
「続けたいんやろ? 聖杯戦争」
血に濡れた私の手を掴み、獲物を物色する蛇のような、薄ら寒い笑みを浮かべて。
「せやったらほら、丁度ええやん。野良のサーヴァントが目の前におるで。
ボクもこんまま消えるんは退屈やったところやし」
こいつはきっと、恐ろしい男だ。
破滅を呼び込む凶事の化身。
死神。その名乗りはきっと真実で、私から大切な何かを奪っていくのだろう。
それは命か、あるいは魂か、それとも何もかも、か。
「あんた……前のマスターを裏切るつもり?」
「はっ、なんやそれ。前のサーヴァント裏切るキミも、言えたコトちゃうやろ。
ほら……もうその気になっとるくせに」
男の握る私の手、その甲に光が灯る。
令呪。それは新たな契約の証。
そして、また一つ増えた罪の烙印のようでもあった。
「キミの名前は?」
「……黄泉……諫山黄泉よ」
「じゃァ、よろしゅう、黄泉」
彼は敵か味方か、どちらでもないと本能が告げている。
もっと気持ち悪い、底知れぬ凶兆だ。
一体なにが、私と彼を結びつけたのだろう。
蛇の舌が獲物を味見するように、愉快げな声が私の魂を撫で上げる。
「裏切りもん同士、コレも縁やろ」
ああ多分、こいつは私を破滅させるために天から使わされたのだ。
理解して尚、止まることの出来ない私の前に、暗い道は続いている。
だから進もう。どうか、神楽。願わくばこの血路が、あなたのもとに繋がっていると信じて。
それに、本当のことを言えばちょっとだけ、安堵してもいたのだ。
立派なお養父さんも、素敵な婚約者も、優しい妹も。
全部、私には過ぎた幻だったけど。
この不吉な死神ならば、きっと――
「そうね……きっと私には、お似合いだわ」
血塗られた再契約はここに。
雨はまだ、止みそうになかった。
【クラス】
ランサー
【真名】
市丸ギン@BLEACH
【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷A 魔力D 幸運C 宝具B
【属性】
混沌・中庸
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
【保有スキル】
心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において、その場に残された活路を導き出す戦闘論理。
仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。
諜報(蛇):A
気配そのものを敵対者と感じさせないスキル。
ただし彼の場合は味方であるとも感じさせない。
結果、彼について周囲は敵味方の確信を得ることが出来ない。
万が一害意を読まれたとしても、戦闘状況を回避し必殺の期を待つことが出来る。
通常の諜報と同じく直接的な攻撃に移行した瞬間、このスキルは効果を失う。
【宝具】
『始解・神鎗(しかい・しんそう)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜100 最大捕捉:1
始解。死神、市丸ギンの斬魄刀。
封印時は脇差程度の短い刀だが、真名解放により間合いを狂わす伸縮自在の怪刀と化す。
始解状態における刃渡りの最長は刀百本分。
注目すべきは長さ以上に伸縮速度であり、敵に向け高速で刀身を延長して繰り出す刺突は非常に高威力。
『卍解・神殺鎗(ばんかい・かみしにのやり)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:13km 最大補足:1000
卍解。死神として頂点を極めた者にのみ許される力。
神殺鎗において刃渡り最長は13キロメートルまで延長され、手を叩く音の500倍の速度で伸縮する。
ただし、上記の説明は市丸ギンの虚偽申告による。
その真価は刃の内部に仕込まれた猛毒。
伸縮の際に一瞬だけ刀身が塵状に変化しており、貫いた相手の体内に刃の欠片を残す事で発動準備が整う。
毒の威力は瞬時に細胞を溶かし崩す程であり、解号を唱えることによって発動する。
【人物背景】
死神。尸魂界における護廷十三隊の三番隊元隊長。
そして尸魂界に侵攻した藍染惣右介の腹心の部下。
常に人を食ったような飄々とした態度で、薄ら笑いを浮かべたような糸目が特徴。
虚圏に渡ってからは白の羽織と白の袴を纏い、平時は脇差し程の小型の斬魄刀を所持している。
尸魂界を裏切って藍染惣右介に従っていると思われていたが、実際は藍染を殺害するという唯一の目的の為、味方すら欺いて獅子身中の虫となっていた。
最期は藍染を裏切り討ち倒す目前まで辿り着くも、崩玉により再生した藍染によって殺害され、その生涯を終える。
終ぞ誰も、彼の行動原理、抱え続けた真意を知る事は無かった。
敵も、味方も、愛した人さえも。
【サーヴァントとしての願い】
あらしまへんよ、そないなもん。
【マスター】
諫山黄泉@喰霊-零-
【マスターとしての願い】
全人類の殺害、そしてあの子を……。
【能力・技能】
退魔師としての剣術、戦闘技法。
宝刀『獅子王』に宿る霊獣を使役する。
加えて額に埋め込まれた殺生石によって、強力な再生能力を保持している。
【人物背景】
黒いセーラー服を着たロングヘアーの少女。高校2年生。
元は退魔師であり超災害対策室所属エージェントだったが、現在は全人類を憎む悪霊と化し、彷徨い続けている。
妹同然に接してきた一人の少女に対し、今も尽きぬ愛憎を抱えたまま。
【方針】
勝ち抜き、聖杯を手に入れる。
投下を終了します
投下します
―――ざん。
――――ざざん。
東京にある海浜公園の浜辺を、一人の少年と少女が連れ立って歩いていた。
すらりと背が高く、凛々しい顔立ちながら女性的な魅力に満ちた少女。
もう一人は頭にターバンを巻きつけ、純白の軍服に袖を通した感情の希薄そうな少年。
眼を退く二人組だったが、既に陽は落ち、辺りに人通りは少ない。
「ライダー、私はね。海が好きなんだ」
少女の透き通る声が、浜辺に小さく響く。
その言葉を受けて、ライダーと呼ばれた少年は無言のまま少女を見つめた。
彼が履いている蒼のヒールを考慮しても、まだ少女の方が背が高い。
必然的に、少年は少女を見上げる形となる。
月明かりに照らされて穏やかに微笑む彼女の笑みは、一枚の絵画のようだった。
「触れた時の心地よさは勿論、波の音や潮の香り、浜辺から見える街の風景。
月明かりやビルのネオンを反射して煌めく美しい水面…そして、海の魅力に惹かれて集う人々。
この美しさは、どんな場所でも何時の時代でも不変だと思っているんだ」
「……そうだね。海の美しさだけは僕の生きていた頃と変わらないよ、サクヤ」
それは、無口で人見知りなライダーが初めて見せたマスターへの同意の言葉だった。
その言葉に、サクヤと呼ばれた少女―――283プロダクション所属のアイドル、白瀬咲耶は華開くような笑顔を浮かべた。
人懐っこい大型犬の様な雰囲気を放ちながら、ライダーに再び語り掛ける。
「ここは前に大切な人に連れてきてもらった、とっておきの場所なんだ。
きっと、貴方も気に入ってくれると思っていたよ。海の王子(プリンス)」
「王子じゃなくて、ライダーかキャプテンと呼んで欲しいものだね。
……ここがいい場所だって言うのは、その通りだ。連れてきてくれてありがとう」
「ふふ、気に入ってくれたなら私もとても嬉しいよ。
気の合う貴方を呼べたのはきっと、最高の幸運だね」
「………サクヤ」
そういって笑う彼女の顔は、誰かに幸福を届けられた事への喜びに満ちていて。
その滅私の奉仕精神は人嫌いのライダーですら、どこか心惹かれる輝きに満ちていた。
これから聖杯戦争の開幕を告げて、彼女の笑顔を曇らせて仕舞うのが後ろめたい程に。
僅かな逡巡の後、ライダーは静かに主に聖杯戦争の開幕を告げた。
「……うん、心の準備は、もうしてある。大丈夫だよ、ライダー。
私の願いは、最初に言ったとおりだ」
奇跡の椅子を巡る過酷な生存競争が幕を開けると言うのに、少女の顔は穏やかだった。
穏やかな顔のまま、しかして力強く、白瀬咲耶は宣言を発する。
「私は…私の手の届く限り、仲間を…この地に生きる人々を守りたい」
聖杯には縋らない。
そして、この争いで傷つく者が出ないように守り抜く。
無二の仲間であるユニットメンバーのアンティーカも。
自分を見つけ、アイドルにしてくれた大切なプロデューサーも。
事務所の仲間たちも。
愛しいファンの人々も。これからファンになってくれるかもしれない人々も。
その全てを護る。それこそが彼女の本懐。
他人が聴けば夢物語だと笑われそうなほどに、無垢なる祈り。
「ただ帰還を目指すよりもよほど危険な道なのは分かっているつもりだよ。
でも、私はそのためなら、命だって賭けられる……そして貴方も、そうであってほしい。
英国の支配から民のために戦った、偉大なる『キャプテン・ネモ』なら」
「……それは買い被りだ。僕は所詮、終わりの見えない戦争に疲れて逃げ出した側だよ」
そう言って、ネモと呼ばれた少年は咲耶から眼を逸らす。
彼女の期待と信頼に耐えきれないと言わんばかりに。
事実彼はインドの大反乱において、戦いから背を向けた臆病者だ。
まだ戦っている同胞たちを見捨てて深海へ漕ぎだした卑怯者だ。
サーヴァントとなった今も、その後悔はキャプテン・ネモという英霊の根幹に根付いている。
「……それなら、今回の戦いでその過去を乗り越えてほしい。
最後まで私と共に戦ってくれたなら……少なくとも私にとって貴方は本物の英雄だ」
月が映る水面を背に、咲耶は迷うことなく手を伸ばした。
その瞳には、一欠けらの迷いも、不安もなく。
揺るぎない敬意と、信頼を籠めた共同戦線の申し出だった。
彼女の意思に惹かれる様に、視線が交わる。
その瞳は嵐を超えた先の星空の様な輝きを放っていて。
見つめ合ううちに、ネモの中にあった逡巡が溶けていくような、そんな錯覚を覚えた。
「誰もなくことなくみんなで笑って帰るのが、マスターとしての私の願いであり、夢なんだ。
でも、私は貴方無しでは無力なマスターに過ぎない。だから、貴方に力を貸してほしい。
貴方の力が必要なんだ、ネモ―――私の夢が、夢で終わらないために」
「………」
少女の言葉を最後に、しばしの沈黙が流れる。
辺りに人影はなく、ただ月光と打ち寄せる波だけが、二人の観客だった。
だが、やがて根負けしたようにふ、と少年は笑い、
「―――全く、その道行がどれほど困難で危険が伴うか君は分かっているのかい?
もっと安全に帰ろうとする道もある筈なのに、態々嵐の進路を選ぶなんて
我ながら、シュモクザメのように貪欲なマスターを引いたものだね」
言い終わるより早く、ぎゅ、と。
少年の小さな手が、差し伸べられた咲耶の手を包んでいた。
「だけど、僕は。このキャプテン・ネモにして大いなるトリトンは、君のその選択を祝福しよう。
この閉ざされた聖杯戦争と言う深海から、君のいるべき地平まで僕が必ず送り届ける」
見つめるその視線にもう何の負い目も迷いも宿ってはいなかった。
顔つきも何時もの感情な希薄そうな者とは違う、決意と意思に満ちた、そんな顔をしていた。
……実の所、彼は、この時にいたるまで分からなかったのだ。
何故、自分が”この”キャプテン・ネモとして召喚されたのか。
自分を子の霊基で呼べるのは本来なら初代マスター、シオン・エルトラム・ソカリスとカルデアのマスター以外に存在しない筈なのだから。
その疑問が、今までずっと煮え切らない態度を作らせていたのだ。
だが、今となってはそんな事は最早どうでもよかった。些細な事だ。
「……!ありがとう!ライダー!!」
今は唯、この少女の正しさの助けになりたかった。
自分はきっと、その為に召喚されたのだ。今、そう決めた。
この正しい少女を、美しい少女を、自分と同じ寂しがり屋の少女を、閉ざされた深海から光あふれる地平(ステージ)へと送り届ける。
その為なら、この身、この思い、全て――――海色に溶けたとしても。
そんな、少年の意思に呼応するように。
二人の立つ浜辺のすぐ近くに、巨大な影が現れる。
巨大な衝角がトレードマークの、鉄の塊。
あらゆる海を越える、ノーチラス号と言う希望の船。
それを見ながら、咲耶は新たな宣言を口にする。
「貴方が私を運ぶ船になってくれるなら、私は貴方を導く羅針盤になるよ。
――――凪いだ海の底で、貴方が迷う事が無いように」
自分の我儘に突き合わせるのだから、せめて。
精一杯できる事をしたいと、彼の指針となりたいと、少女は思った。
何処までも、彼の操るノーチラスという希望の船が、進み続けられるように。
【クラス】ライダー
【真名】キャプテン・ネモ
【出典】Fate/Grand Order
【性別】男
【属性】混沌・中庸
【パラメーター】筋力:C 耐久:B 敏捷:C 魔力:A 幸運:A 宝具:B
【クラススキル】
騎乗:A+
ライダーのクラススキル。乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
【保有スキル】
神性:A
高位の神霊の息子であり本人も神霊であるため、最大級のランクを持つ。
海神の加護:B
父である海神ポセイドンによる加護。
水辺での戦闘時、ライダーの全ステータスにボーナス補正が発生し、魔力の回復が発生する。
嵐の航海者:C++
と認識されるものを駆る才能。集団のリーダーとしての能力も必要となるため、軍略、カリスマの効果も兼ね備えた特殊スキル。なお、トリトンは別に船長ではなく、
ネモはその船が高性能だったため、『ボロ船で嵐を踏破した』経験は少なく、他の船長系のサーヴァントよりランクは低い。
ただしフィールドが『水辺』である場合、ネモはその性能がより大きく向上する。ランクに『++』が入っているのはこの特性からである。
不撓不屈:C++
英霊ネモの精神性、信念が形になったもの。同ランクまでの精神干渉を軽減する効果があるが、真価は彼の霊基が深刻なダメージを負ったときである。
その時このスキルはBランク相当の戦闘続行と同じ効果が働き、宝具を放てる分だけマスターの供給に依らず瞬間的に装てんされる。
旅の導き:C++
かつてアルゴー号を導いたトリトンは英雄たちを導く性質を持ち、それが形となったスキル。
水辺において自己を含めた自軍サーヴァント全員にあらゆる判定でボーナス補正を発生させる。
分割思考:A
ライダーの初代マスターであるアトラス院の麒麟児に召喚されたことによって後天的に座に記録されたスキル。
このスキルによってライダーは分身を生み出すことができ、単騎での潜水艦の運用を可能とする。
基本的に分身を生み出せば生み出すほど個々のスペックは低下していくが、それでも水兵(マリーン)数人までならネモ本体と遜色のないスペックの分身を生み出せる。
【宝具】
『我は征く、大衝角の鸚鵡貝(グレートラム・ノーチラス)』
ランク:A 種別:対海宝具 レンジ:2~70 最大捕捉:1
ライダーの愛船である潜水艇「ノーチラス号」そのもの。
あらゆる海を航行し、すべての嵐を越える万能の艦という、人々が夢見たオーバーテクノロジーの結晶。
幻霊と神霊の融合サーヴァントである彼は潜水艦ノーチラス号とも一体となっている。
宝具使用時は潜水艦ノーチラス号を主体とした姿へとかたちを変えて、備わった大衝角を用いて突撃を行う。敵がどれほど巨大な存在(大イカ、巨大戦艦など)でも怯まず、これに衝突・突破する特殊な概念を帯びている。
水のない場所(地上や空中)でも使用可能だが、フィールドが水中、海中であれば命中率が著しく上昇し、威力も向上する珍しい性質を持つ。
【weapon】
『我は征く、大衝角の鸚鵡貝』
【人物背景】
かつてシオン・エルトラム・ソカリスと言う魔術師が人理継続保証機関カルデアの召喚方法を真似て一騎だけ召喚できたサーヴァント。
召喚に使用できる聖遺物を持たなかった彼女が本来サーヴァントになり得ない幻霊を掛け合わせて霊基を成立させている非常に特殊なサーヴァントである。
それ故に通常の聖杯戦争では召喚できるはずもないが、界聖杯の権能ゆえか、それともカルデアの人類史を救う旅路で観測可能となったからか、ともかくこの聖杯戦争で召喚されている。
素直で優しく誰からも愛されたトリトンと、信念の人であり行動力の化身だったネモ船長の二つが合わさった結果、その性格はそれぞれのオリジナルからやや逸脱している。
プロ意識が非常に高く、船の安全を犯すと判断した場合はマスターにさえ背く仕事人。船長としての仕事であってもそうでなくとも、任された仕事に対しては精力的に対応する。
【サーヴァントとしての願い】
なし。マスターを元の居場所へと送り届ける。
【マスター】
白瀬咲耶@アイドルマスター シャイニーカラーズ
【マスターとしての願い】
聖杯戦争を止める。
【能力・技能】
アイドルとして申し分ない技量。人に喜びを届けるファンサービス精神
【人物背景】
『アイドルマスターシャイニーカラーズ』に登場するアイドルの1人。283プロに所属し、月岡恋鐘・田中摩美々・三峰結華・幽谷霧子と共に5人組アイドルユニット「L'Antica」を組む。
【
方針】
聖杯戦争で傷つく者が出ないよう立ち回る。
投下終了です
投下します
◆
─────────月が、出ていた。
深夜の空。青色を過ぎ、朱色を超えて、黒色に染まった空。
未だ以て人の往来が絶えない賑わいを見せる下天の街と対象的に、天では既に全ての色が落ちている。
雲はない。千切れた靄めいた薄雲ひとつない、爽快な快晴だった。
星は見えない。遥か彼方で光る欠片は今夜に限って瞬きひとつ見せなかった。
この世界が、"界聖杯"によって形作られた、仮初の舞台だからか。
答えられる者はいなく、また問いかける者もいなかった。
空を彩るイルミネーションが飾られてない空は、ただひたすらに黒い。
雲に星、『空』をイメージさせる象徴が消え去った天蓋は、黒という色を超えていた。
あえていうなら、闇。
この世に『光あれ』と神が言う前から存在した、無色にして無概念の闇が凝縮されている。
まるで今まで見ていた空の色は天井を一面に覆っていたヴェールであって、それが一気に引き剥がされたかのようだった。
この闇を見てしまわないように、空があり、星や雲がかかっている。
闇は見てはいけないものだから。
闇を見た者は、闇の中から這い出るモノをも見てしまうから。
そんな馬鹿馬鹿しい妄想を真実だと思いこんでしまう。そんな闇だった。
その闇の中でただひとつ己を誇示するものが、月だ。
真円を描く満月。
美しく幻想的な光を放って天に鎮座するそれは、あたかも闇の更にその先を円状にくり抜いて、そこから光が漏れているとも見える。
世界の護りを剥ぎ取った先に闇がある。
ならば闇を切り裂いたなら、そこから漏れ出るものはなんなのか?
……古来から、月は狂気になぞらえられる。
狼男は月の光で変身し、魔女は黒ミサを執り行う。ローマ皇帝カリギュラは月に正気を奪われた。
狂気を司る光を受けて、人々は夜の街を練り歩く。
深夜の残業。若者の遊び。それらは人工の灯を頼りにしている。狂った光を浴びる事はない。
では。光を避け、夜の闇に蠢くもの。
人目に入らない場所で、秘めやかに為されるべき事を行おうとするもの。
それは多くは見つかれば罪に問われる犯罪であり、この街においては特に危険度の高い種類のそれが始まっている。
月はそんな者達にこそ光を与える。標を指し示すように。断崖に誘うように。
月は見ている。
それは単なる比喩の一種でしかないものであったが。
闇を抉った円形は、闇という"貌"に張り付いた巨大な眼玉であるかのように、街の仔細をつぶさに観察していて……
◆
街の狂騒を見下ろす月の下。
そこに彼は立っていた。
呆けて夜を遊び歩く酔漢とは質の違う、何某かの強い決意を感じさせる目をしていた。
その為にならあらゆる艱難辛苦を、自身にも他者にも課す事を厭わない、そうした決意だ。
それは非情ではあるが非道には遠い、『彼ら』なら持ち合わせていて然るべき強固な精神力だった。
彼は魔術師だ。
優れた魔術回路を持ち、血統書付きの魔術刻印を持ち、独自の魔術を操る技量を持っている。
出身もそれなりに名家といって通じる一族であり、家門を継ぐに相応しい力量が彼には備わっていた。
多くを望まなければ。身に余る栄光を求めさえしなければ、相応の賞与や称賛を労せず得られる人生を約束されている男だった。
しかし、彼は満足していなかった。
身に余る栄光をこそ彼は求めていた。
無謀な大望などではない。自らの家系に足りないものを正確な計算の下に冷静に自覚していたからだ。
実力に自信はある。刻まれた刻印を増設し、蓄積された相伝の知識を深め、今より更に家系を盛り立てられる自負がある。
ただ、流れが来ない。己を一段上の階段に登らせるに足る、つまりは実績の機会に恵まれていない。
今までのように地道に研究を続けるだけでは駄目なのだ。能力にも資産にも余裕がある今のうちがチャンスなのだ。
魔術の神秘は時を減る毎に薄れている。人の文明の侵食は着実に進んでいる。
家系の限界に突き当たり、権力闘争に負け没落する、最悪の憂き目に会うわけにはいかない。
確かな実績を立てる機会はないものか。幼子から老害にも分かるような名声を獲得できるトロフィーは無いものか。
それこそ都合のいい魔法の壺のような物語を、彼は身を以て体験する事になった。
聖杯戦争。
人類史に名を誇る英雄豪傑、を使い魔として従え勝ち抜く闘争儀式。
最後に残った者には万能の願望器、聖杯が手に渡るという。
極東の島国で開催されたその儀式は噂には聞いてはいた。
何でもある男がその儀式に参加し、優勝こそ逃したものの見違えるほど成長し、その縁で代理ではあるものの時計塔十二の学科を束ねるロードの一人にまで上り詰めたのだとか。
彼は狂喜した。
自分にもっとも欠けていたものを補える機会をようやくに得たのだ。
前触れなく、気づけば見知らぬ土地に召喚されていたという事態は面食らったが、空間転移という魔法に迫る代物が行使された点で聖杯の質というものが頷ける。
そして彼はマスターとなり、サーヴァントも恙無く召喚された。
聞きしに勝る圧倒的な魔力量。本質が霊だとは思えないほどの存在感。
令呪という縛りさえなければ、自分などこともなげに首を刎ねられるという確信が、彼から慢心を捨て去せた。
彼は出自を語り、マスターとしての願いを明かし、英霊を使い魔ではなく共に勝利を目指す同志として迎え入れた。
慣れない交流に苦心しながらも、首尾よく信頼関係を結ぶ事に成功し、戦いに向けて万全の耐性を整える事ができた。
そして彼の聖杯戦争は幕を開け、そこで魔術師は───狂気に出会った。
二十にも満たないような、肩口まで伸びた茶髪の少女だった。
一般的なデニムジャケットを羽織った、どこの市井にでもいそうな東欧人だ。
大きな瞳、可愛らしい顔の形、どこまでもありふれた群衆の一人に過ぎない記号で構成されている。
だからこそ───少女はどこまでも狂っていた。
にこやかに微笑んだ顔に邪気は一切ない。
なさすぎて、欠落している。
邪気の欠如、それは異常以外のなにものでもなかった。
男とて魔術師。人倫や理性でものを語る気がない、世間では外道といわれる人種だが、その枠組みにおいてさえこれは逸し過ぎている。
『───こんばんは。いい夜だねえ。"魔術師"さん』
───ざわ、
と風が鳴る。
変哲のない挨拶。
それだけで空気は一変した。
真冬でもないのに寒気がする。縄で頸を締め付けられたように、圧迫がある。
ただの静謐な夜の空間は、無音の闇にまで圧縮された。
いや、声だけのせいではない。
この場所に少女がいる事実そのものに対して、世界が過剰なまでに反応を起こしたのだ。
少女が従えている英霊のためではない。
少女の背後の暗闇に"いる"、不可視の異形の気配のためではない。
少女は少女だけで、この異常を引き起こしている。
少女が現れただけで、世界は断然されたのだ。
精神操作に対しての対策は魔術師の嗜みとして当然施してある。
だがそんな守りは少女にことごとく突破された。
魔術師のいわば思想の、意志の生き物だ。
術の行使にせよ、研究にせよ、類まれな精神集中を必要とする。
少女の言葉、雰囲気としか言いようがない謎の圧力に気勢を削がれ、精神をずたずたに引き裂かれてしまった。
魔術の披露も、血肉の削り合いも起こさず。
意志の押し付け合いにおいて、魔術師はとうに少女に敗北していた。
"魔女"───
そんな言葉が魔術師の脳裏によぎる。
ただそこに存在して立っているだけで神秘を為す少女は、お伽噺に現れる魔女に見えた。
杖は持たない。黒いローブも身に纏わない。
空も飛ばなければ黒猫を使い魔にもせず、それとわかる魔術を使ったわけでもない。
それでも少女は"魔女"にしか映らなかった。
一度"そう"とイメージした映像は写真のフィルムのように焼き付き、男だけの妄想は真実であると根付いてしまっていた。
「ねえ───あなたは、この世界についてどう思う?」
魔女は語りかける。
「ううん、聖杯じゃないよ。あくまでもこの世界の話。
ただ戦って、みんなバラバラの具材にして投げ込んで、シチューを作るだけの鍋? そうじゃないよねえ?」
語る様は笑顔のままだ。
マスター同士の邂逅。本来なら戦端が切り開かれるべき場面に、他愛もない世間話をするような調子で喋る。
「ここは"特異点"。
世界と切り分けられた、ここだけの"物語"が作られる場所。
まだなんのページも書かれてない、生まれたばかりの物語。ううん、私達の"物語"を食べる事で、ようやく生まれようとしている。
物語は読まれたがるものだから。読まれる事、私達に知ってもらう事で初めてあちらとこちらは繋がれる。誰にも読まれていない本を見つけたら気になるでしょう?」
手を広げて、視線を魔術師から離してみる。
そんな動作で、魔術師は錯覚を幻視した。
空っぽの手には古ぼけた本が収まっており、見渡す四方には、大書庫の如き本棚が陳列しているのが視える。
幻覚だ。想像だ。そんなものは存在しない。それが事実。
魔女の言葉は事実を歪め、異界の幻想を引き出していた。
「世界は"物語"」
謳う。
「世界はひとつでも、それを読む人は無数にいて、その数だけ世界の解釈や知った感想がある。
そしてここには無数の世界が集まって、無数の"物語"がそれを読める。
世界の境が、崩れている。
ここならきっと、あの子たちも来てこられる。今は形にしてくれるものがないけど、その代わりにたくさんの"物語"がある。
熱いものから悲しいもの、キレイなものから大きなものまで、本当に素敵な物語……」
魔女は本当に楽しそうに微笑んだ。
その時が来るのが待ち遠しいと、穏やかに、揺るぎのない笑みを崩さない。
「これだけの物語が集まったら、きっとあの子も降りてこられるよねぇ……」
その言葉を聞いた、魔女の背後にある"何か"が、一斉に蠢動した。
そこには暗闇しかない。
闇以外に見えるもの、感じるものはいない。
なら今動いたのは闇そのものでしかなかった。
形のない闇が、不可視の気配が、魔女の言葉に欣喜雀躍したかのように。
それを認識した途端、周囲の空気の温度が急激に下がった。
ひやり、とした空気は、死体の手の零度で頬をなでる。
得体のしれない情動が心臓を早打つ。魔術回路は乱脈に陥っている。
男が見てきたつもりの神秘など、そこにあるものと比べれば塵埃にも等しい。
もしアレが世界の真実だとすれば、そんなものには触れたくない。見たいとも思わない。
男は魔術師になりたいのであって、『あんなモノ』の仲間入りをするなど断じてごめんだった。
「あなたのお友達は、消えちゃったね」
笑みは消えないまま、少し残念そうに言った。
「心の欠けを補ってくれる為に聖杯が呼んでくれた、あなたにとっての"どうじさま"だったのに……」
不可思議な単語を発するも、その意味は個人の範囲でしかないらしく理解できない。
ただ起きた結果ならば、体内の魔術的な契約の消失が状況を如実に教えている。
彼が魔女との会話に引きずられてる間に、戦闘は終了していた。
魔術師のサーヴァントは、敗北していた。
肉体の大部分を砕かれ、エーテルの残滓を解れさせながら消失した。
あれほど時間を共有し、半身のように常に行動を共にしていた相棒は塵も残っていない。そこに、どこか体の内に空虚を感じていた。
英霊はなぜ敗れたのか。魔女の相手に気を取られ、魔術による十全なサポートを行えなかったからか。
いいや、違う。そんなものは瑣末事に過ぎないと断言できる。
魔術師は冷静に、極めて冷静に敗因を特定する。
相対した英霊……つまりは魔女の契約したサーヴァントが、自身のそれと隔絶した強さだったからだ。
戦場に独り君臨する姿、まさに女王の如し。
黒衣装に白い肌は、神話に登場する神代の魔女のイメージと相違ない。
英霊は魔女だ。クラスは予想するにキャスターか。
魔女のマスターには似合いの英霊だが、二者の印象は大きく異なる。
少女が不可視の神秘を従える空想の魔女であるなら、英霊は言外の神秘を統べる幻想の魔女。
放つ魔術、神秘の残り香、全てが規格外。
槍が空を割り、波が地を呑み込む。目に映るものは、全て灰と化した。
魔力の照射が魔術師に当たってないのはサーヴァントの奮闘ではなく、単に魔女に狙う意図がなかっただけだ。
その気があれば、サーヴァント諸共消し去られていたという見解が、魔術師から戦う気概を奪っていた。
「……別に怖がらなくていいよ? 私はただ、みんなの望みを叶えてあげたいだけ。
ここに集まってきた人たちはみんな質に関係なく、向こうに渡っても形を保っていられる強い魂の持ち主。
魂のカタチだって、キレイで面白いものばかりだもん。私はそんな人たちが好きだから守ってあげたいし、死んでほしくない。みんなの望みも叶えてあげたいって思ってるよ」
それは、まるで。
「そうだね。それじゃあまるで聖杯みたい。私も物語に囚われちゃってるのに、あべこべになっちゃってる。
そういうのは神野さんの分野なんだけど……あの人もここにいるかはわからないからなあ」
くすくすと笑う。
笑えるはずのない空気の中で、おかしな冗談もあったものだと。
望みを叶えると、魔女は言った。
聖杯の中で、自分が聖杯の役目を為すと。
魔術師は問うた。ずっとこみ上げていた激情がついに限界に達した、根源的な問いをした。
お前はいったい何をするのか。『その後ろにいるモノ』を使って、どうやって願いを叶えるというのか。
界聖杯に、何を望むのか。
「……ああ! やっぱりあなたには見えるんだね。それとも感じるのかな?
ならわかるでしょ? 界聖杯(ユグドラシル)。北欧のお話じゃ最期は燃え墜ちてしまうけど、ここはそうじゃない。
この子はその名の通り、枝を伸ばすの。"物語"が書かれた場所の元にまで。繋がれば、あとは辿るだけ」
「全ての人が描いた空想を、異聞を、現実に呼び起こすの」
瞬間。
魔術師の頭が白滅した。
驚愕と戦慄が胸中を焼き焦がす
敗北に打ちのめされて冷めきっていた胸に熱が入る。熱が萎えていた手足に流れ活力が込もる。
少女の言葉は真実狂気の産物であり、その全ての内容を理解する事は叶わない。
だが狂気ではあるが盲言ではない。少女はおそらく正しく理解した上で『願い』を宣誓したのだ。
少女の神秘の才能は本物だ。
天才。天賦。それ以上の、異常を誇っている。
ならば少女は世界の在り方を知っていて、同様に壊し方も把握している。正確に!
人理定礎を。
時間と空間。歴史の固定帯となる人類史の土台を。
この魔女は破壊するのだと。
「壊す、とは違うかなあ? 私はあくまでみんなが一緒になれて、仲良くなれる方法を探していただけ。
急にこんなところに連れてこられて計画は狂っちゃったけど……この場所はとても都合がいいからね。
優勝だって、別にする必要があるとは思ってないよ? さっきも言ったように、私がみんなの"物語"を知っていけばそれは果たされると思うから」
その選択範囲が、全ての異世界、平行世界に及ぶとしてもか。
「うん。友達に聞いた時は驚いたなあ。だってもったいないじゃない?
本当ならその枝にはたくさんの可能性が生まれていたはずなのに、より多くの可能性を芽生えさせる"人柱"にしてしまうなんて。
それは逆に、人間の可能性を狭めてるって思うよ」
垣間見えるアレですらこの異常性だ。
その根本や、無数の世界と接続してそれらが垂れ流されればどうなるか。
生易しい理想郷が生まれるなど断じてない。神秘主義の復活と喜ぶ暇も起きるまい。
魔術世界すら無に帰す。人間世界の終焉だ。
それは宇宙が生まれる以前の、混沌そのものを呼びこむのと同義ではないか。
「大丈夫」
恐慌し、口角泡を飛ばし叫ぶ男を尻目に、魔女はにっこりと、満面の微笑みを浮かべた。
「きっとみんな、仲よくなれるよ。妖精も、神様だって、受け入れられる。
だって人は、とても優しい生き物なんだから……」
その時。
吐き気を催す人間賛歌を聞いて、魔術師は魔女目がけて身を弾丸の勢いで飛ばした。
アレは化物だ。悪魔だ。この世に存在してはならない生き物だ。
あの魔女の思い通りにさせてはならない。
殺さなくては。
殺さなくては。
殺さなくては。
あの魔女を、一刻も早く殺さなくては。
己の全存在を懸けて消し去らなければならない。
ああ、あるいはこの為に己はこの世界に招かれたのだろう。
この魔女を滅ぼす為に己は生を受け、我が家系は魔道を志し、研鑽を続けてきたのだ。世界を滅ぼす悪魔を止める"抑止力"として!
男は戦闘専門の魔術師というわけではない。
使用できる術式も多くはないだろう。
この畸形の鬼子に、ましてやサーヴァントも失った身で挑むなど、歯が立つどころの次元ではない。
そんな至極当然の理論すら吹き飛び、魔術師は魔力を練り上げる。
狂気そのものの思考、行動を衝き動かす指向。
男にとっての初めての熱。正義という、為すべき者に課せられる使命。
絶望と陶酔が混じり合った感情のまま、誇りある魔術師は、人理を救う守護者という自らの使命(オーダー)を果たさんと突撃する。
今や男の意思は、怒涛として全身を駆け巡る数多の感情に流される小舟だった。
そんな男の狂態を、魔女はやはり微笑みで迎え入れ─────
…………………………
……………………………………………………
◆
廃墟の一角には不釣り合いな豪奢な玉座で、"女王"は足を組んでいた。
どの業者も手を付けてない廃墟のビル郡。
ひびの入った、手つかずの剥き出しのコンクリート。
割れて四散したステンドグラス。
朽ち果てた居城に収まる麗貌はさながら、忘れ去られた亡国の王を思わせる。
全身から迸る支配者の威厳とでもいうべき波動は、そんな儚いイメージを尽く払拭する。
己の國の支配を妨げるのならば、いかなるものであっても許さない、排除するという冷酷な執着心。
表面は凪いでいる湖色の瞳の奥底に、そんな大渦の気配が隠れている。。
それでも、女王はやはり亡国の王なのだった。
サーヴァントという、生を終えた影法師というだけではない。
彼女の國は滅び去った。存在の痕跡すら、通常の世界には残っていないだろう。
そもそもが尋常なる人類史において、彼女が治めた國は実在していない。
何故なら彼女は幻(イフ)の出展。無想の中で一夏の夜の夢に飛び出た絵画の肖像。
「何か考え事かな?」
肘掛けの隣にいた少女が、ひょこりと顔を傾けて覗き込む。
「うーん……つれないなあ。まだあなたの"魂のカタチ"を見せてくれないんだ」
「……我が妻といえ、みだりに女王の寝所を荒らすというのであれば報いがあるものといい加減覚えなさい」
「言葉を返しちゃうけど、その「我が妻」っていうのは、どうにかならないかな?」
「我がマスターであるのなら、それはつまり私の伴侶という事でしょう?
それとも臣下として扱ってほしいですか?」
「うーん……そうかな……。そうかも……?」
ここがマスターの拠点というわけでもない。
そもそも定まった居場所の"役割" というものを、彼女は界聖杯より与えられていない。
厳密にいえば、"既に崩壊し家族は残らず行方不明となった家"だ。
ただ彼女がどこかの学校の中庭にある池に佇んでいても、不審者と見咎める生徒はいないだろう。教師ですら疑問に抱いたりはしない。
「……いえ、やはりやめておきましょう。宮廷魔術師など必要ありません、どうせろくな事にはならないに決まっています」
「"夢魔"さんの事? 話を聞く限り、私は仲よくなれると思うけどなあ」
「絶対にやめなさい。話題に登れば何かの間違いで縁を繋げかねません。
マーリンとは悪夢そのもの。死んでも甦り常に最悪の記憶を更新していく。永遠に抜け出せない牢獄に閉じ込めてあとは近寄らず放置しておくに限ります」
魔女と女王。
黒い陰謀を巡らせているイメージで固まったような組み合わせだが、会話の内容はどこか呑気のものだった。
魔女は普段から日常の延長でものを語る。
女王はごく身近な相手のみには、こうして人格が変わったような穏やかさな面を見せる。
異常といえば、その光景こそが最たる異常だった。
「あれは、どこまで本気なのですか?」
女王の一声で、弛緩していた空気が、ギチリと固まった。
魔女の言葉と同様、殺気の点でいえば上回る密度で。もっともマスターは気負うことなく、何ら変化はないが。
「あれって?」
「あんなものを率いて、界聖杯と全ての世界とを繋ぐという狂想のことです。
あれらは我が妖精國に落ちる呪い、モースにほど近い概念です。災厄こそ招いてもその逆はあり得ない」
女王の知る妖精郷、人と異なるモノが住まう土地とも違う。
ただ別種族なだけではない。魔女が引き入れようとしているのは、この星の体系を壊す概念だ。
理と相容れず、神話を侵食し、魔術師の手に余る正真正銘の怪物。
『怪異』『異存在』という名称こそ知らぬが、備わった妖精眼は本質は見抜いていた。
「そも界聖杯は何の着色概念のされてない新生の土地。
アレらは媒介となる恐怖の伝承がなければこちらに顕れない影のようなものと言っていた筈。おまえのいう"物語"はここにはないのでしょう」
「うん、ここはわたしのいた時代と随分変わってるし、あまり長い時間もかけられないだろうから、"物語"や"都市伝説"を浸透させるのは難しいかもね」
『怪異』を広めるには下地がいる。人間が認識しなければ干渉されない彼らは"物語"に入り込む。
怪談。都市伝説。恐怖を基にした物語を読んだ人間の霊感を開き、こちら側に侵食を開始するのだ。
その条件が成り立たないという不備をあっさりと魔女は認め、続く言葉で前提を否定した。
「けど、もうあるの。この都市の誰もが知っていて、誰も気づかないけどこの世界に根付いてる、いちばん大きな物語───」
「界聖杯(ユグドラシル)。」
「そう」
魔女は頷き、笑みを浮かべた。
「あなたの物語を知ったから、この『魔法』は始まるの。
サーヴァントっていう、あなた達と同じ。誰かの物語で紡がれ、誰かの望みに引き寄せられてこっちに来るの。
望まれなかったことは、世界には決して起こらないから。悲劇でもね。
あなたたちは既に完結した"物語"。
完結したお話に書き加えをするのはご法度だけど、界聖杯(ここ)にいるあなたたちには余白に手を入れられる。
特にあなたは空白が多いね。昔からあったけど誰にも読まれず埋もれていた"物語"が、ある日突然たくさんの人の手に渡ったみたい。
そうまるで……」
異聞帯(ロストベルト)。宇宙の寿命を伸ばす名目で、発展を生まないと判断され並行世界の輪からすら弾かれた可能性世界。
彼女の世界はその中でさえ特級の異常地帯。
名を妖精國ブリテン。
風と土と生命(いのち)、詩(うた)と雨に愛された理想郷。多くの妖精たちが暮らす黄昏の島。
顕れただけで、現存する星ごと道連れに沈下して滅ぶ錨の穂先。
「そう───剪定された枝。
木が大きく太く成長する為に切り落とされた、余分なものと判断された枝先。
モルガンという、王を陥れる役割の魔女を外れて、女王になったあなた」
その支配者の名こそがモルガン。
アーサー王伝説の悪名高き神代の魔女。
汎人類史とは異なる道を歩んだ姿。ブリテンの支配者となる本願を叶えた、もはや空想と成り果てたサーヴァント。
「我が妖精國ブリテンは消えた。
二千年をかけて築き上げた支配。人理に望ましくないという理由でその全てが、私の旅路も砂と消えた。
十叶詠子。人の世ではない世界を視る眼を持った魔女。それをおまえは、取り戻せるというのか?」
終わった生涯、潰えた渇望への怨念をモルガンは乗せる。
名を呼ばれた魔女、生まれつき絶対的な霊感で異界を視てきたマスターは、にこりと唇を綻ばせた。
向けられた怨念を、優しく受け入れるように。
「あなたがそれを心から望むなら、私は叶えてあげたいかな。
世界の外で出会った、はじめての『ともだち』なんだもの」
詠子の言葉は全て、嘘偽りのない本心からのものだ。
人の心を信じ、可能性を信じ、あらゆる事を受け入れられると期待している。人を善いものだと感じる、善性だ。
だがその結果が人類にとって益を生むはずがない。
善意から来る行動が、どれも善い結果になるとは限らないように。
嘘も邪気もない世界とは、現在の宇宙においては狂気に他ならず。
本物の狂気は、人も、理も、何もかもを『捻じ曲げる』。
大災厄の温床。
尽きぬ人類愛を掲げながら人類を滅ぼすもの。
即ち───
「みんなはもうあの子の物語に組み込まれちゃってる。魔女の鍋の中に入れられたシチューの具材。そうならない為にはみんなは"魔女"になるしかない。
でもその資格があるのは、烙印を押された人だけなんだろうなあ……」
「鍋は」
「ん?」
「鍋なら、私もかき混ぜますが」
「……あはっ」
そも、モルガンにとっては汎人類史にかける温情はない。
欲するものは既に塵となったブリテンのみ。
モルガンにとって正義とは『支配している状態』であり、悪とは『支配を乱す者がいる状態』。
たとえ人間の世界が自身の悪夢に食い尽くされようと、それで我が国が浮上するというのなら。
確かにこの二人はバーサーカーと呼ぶのが相応しい主従だった。
狂える英霊を従えるのではなく、狂ったマスターを伴う英霊。
そして彼女達が界聖杯に触れれば、無垢なる器に、純真たる狂気が注ぎ入れられる。
故に、正義を懐く者よ。
世の平穏を望む勇者よ。
善悪の傾きを委ねられし天秤の守り手よ。
この二人を聖杯に辿り着かせてはならない。界聖杯の中で枝葉を伸ばさせてはならない。
彼女らを前にして、魂を屠る決意を鈍らせてはならない。
魔女の言葉を軛であり、女王の指は神威である。
受け止めてはならない。聞き入れてはならない。
さもなくば世界は最果てまで、絶望という大海に呑まれ、あらゆる人が溺れ死ぬまで溢れ出すのみ。
「……"恐ろしい戦女神"のあなたも素敵だけど、"湖の善き妖精"のあなたも私は好きだよ」
此処に、人理は発狂する。
………………
【クラス】
バーサーカー
【真名】
モルガン@Fate/Grand Order
【ステータス】
筋力C 耐久E 敏捷B 魔力A+ 幸運B 宝具EX
【属性】
秩序・悪
【クラススキル】
狂化:B
全パラメーターをアップさせる代償に理性の大半を奪われる。
異聞帯のモルガンはいかなる理由かバーサーカーでありながら理性を保持している。
【保有スキル】
渇望のカリスマ:B
多くの失敗、多くの落胆、多くの絶望を経て、民衆を恐怖で支配する道を選んだ支配者の力。
湖の加護:C
湖の妖精たちによる加護。
放浪した時間があまりにも長い為、ランクは下がっている。
最果てより:A
幾度となく死に瀕しながらも立ち上がり、最果ての島に至り、ブリテンに帰還を果たした女王の矜持。
通常のモルガンは持たない、異聞帯の王であるモルガンのみが持つスキル。
戦場の勝敗そのものを左右する強力な呪いの渦、冬の嵐、その具現。
対魔力:A
ランクAでは魔法陣及び瞬間契約を用いた大魔術すら完全に無効化する。事実上現代の魔術師が彼女を傷付けるのは不可能。
道具作成:EX
魔力を帯びた器具を作成可能。
アーサー王伝説で数々の謀を企てた力ある妖精の力量は伝説級。
陣地作成:B
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
凄いのを建てます。
妖精眼:A
妖精が有する、真偽を暴き本心を見抜く眼。
【宝具】
『はや辿り着けぬ理想郷(ロードレス・キャメロット)』
ランク:EX 種別:対城宝具 レンジ:10〜99 最大捕捉:100人
モルガンがその生涯をかけて入城を望み、そして果たされなかった白亜の城キャメロット。
世界のルールそのもの、即ち「人理」が彼女をブリテンの王にはしなかった。
叶わぬ望みは嘆きに変わり、やがて憎しみとなった。ねじれた支配欲と特権意識。燃えるような望郷と人間たちへの怒り。
そして同じ存在でありながらキャメロットの玉座に座ったアルトリアへの憎悪が、モルガンを『円卓を破滅させるもの』に変えてしまった。
この宝具はその在り方を魔術として顕したもので、決して辿り着けない路を一瞬にして踏破し、破壊せんとするモルガンの恩讐である。
モルガンが倒すべきはアーサー王ではない。人間の為にブリテン島の妖精たちを一度滅ぼそうとする運命=人理そのものを打倒する為、彼女は最果てより戻り、世界を呪う魔女となった。
円卓の騎士・妖精特効。
【weapon】
手に持った黒い杖は、槍、剣と状況に応じて形を変える。
また神代に等しい数々の魔術を使いこなす。世界を縫い止める錨ロンゴミニアドすら魔術で再現する。
【人物背景】
アーサー王伝説に登場する伝説の魔女。
円卓の王位を終ぞ明け渡さない王、ひいては人理を生涯かけて憎みブリテンの破滅を招いた。
淫蕩・残忍・自分勝手、という、まさに悪女の見本のような性格。
以上の評価は汎人類史におけるモルガン。
このモルガンは正しい人理の枠から外れた剪定事象、異聞帯のサーヴァント。
妖精國ブリテンの女王にして、汎人類史を呪い続けるもの。
ブリテンに君臨するという渇望が叶った事と、2000年に渡る支配と永い旅での時間で本来の悪女然とした面はなりを潜めている。
いうなれば「なりを潜めた才女」もしくは「挫折、或いは反省した傾国の美女」といったところ。
冷徹、冷酷。ほとんどあらゆるものを嫌っているが、個人の好悪ではなく支配者の善悪で裁を下すため、自身の支配を乱す存在でない限りは能力を認め、許容する。
汎人類史においてはガウェイン、モードレッドと多くの子を産んだが異聞帯ではその経験はないようだ。
なおマスターが男であれば夫、女であれば妻と扱うという妙な態度を取る。
芋虫が苦手。
【サーヴァントとしての願い】
「聖杯? ああ、不自由な人間たちが求めたものですね。私には不要です。見たくもない。どうせアーサーの手に渡るのでしょう?」
と、半ば諦観を見せるが、それは望みが無いのを意味しない。
【マスター】
十叶詠子@missing
【マスターとしての願い】
界聖杯を成長させ、あらゆる【空想】も【異聞】も束ねる大樹として、【むこうのひとたち】を招き入れてみんなと一緒に仲よくする。
……【怪異】はおろか異聞帯すら呼び寄せて人類と接触させる。
それは新たな災厄、人理発狂の芽吹き。
【能力・技能】
肉体的には非力な少女。箒で空を飛べるわけでもなければ掌から炎を出すでもない。
だが生まれつき【異界】とのチャンネルが完全に合った、規格外の霊視能力を持った【魔女】。
絶対的な異物感と超常姓から常人は本能的な恐怖を覚え、彼女の言葉はそれが全て真実であるかのような錯覚を抱かせる。
本作での魔術は思い込みや深層心理を利用したものが主であり、その意味で魔女の言葉は呪文にも等しい。
異界との異常な親和性でむこうの存在と意思疎通を果たしており(少なくとも本人はそう思い、それらはその通りに動いてくれる)、
彼らに干渉する形で様々な怪異を起こし、関わった人間を破滅させる。
肉体的には普通といったが、頸動脈をナイフで裂かれてもしばらく動いたり、血を飲んだ者に自身の霊感と同調させたり「できそこない」の形が崩れるのを留めたりと、
体質的にはほとんど【異界】側に置き換わってると思しい。
世界が生まれる前の【闇】に名と存在を売り渡した、受肉した神の触覚とでもいうべき存在【神野陰之】から支援を受けているが、界聖杯にまで及んでいるかは不明。
【神野陰之】は強い願いを抱く者の前に現れ、その願いを叶える為の支援を行う、聖杯にも等しい性質と力を持った超存在である。
【人物背景】
いついかなる時も微笑を絶やさない【魔女】。
生存率が千億分の一の『絶対型』異障親和型人格障害といわれる霊感持ちで、悪意という感情が微塵も存在せず、それ故に善意で人を破滅させる狂人。
人の「魂のカタチ」を読み、それに倣った読み方で他人を呼ぶ(「影」「シェーファーフント」「ガラスのケモノ」等)。その人の経験が生んだ魂の歪み、本質を掴む一種の真名看破。
【怪異】【異界】とは文字通り人間の世界とは異質かつ高次元な存在であり、普通はこちらから認識されず、逆に干渉もされない。
目的も思考もあるかも定かではないが、彼らは常に現世の人間との接触を図っている。
そのために怪異は人間に自分を認識されるため、【怪談】や【都市伝説】といった希釈された形でこちら側の存在を知ってもらい、それら【物語】を媒介とすることで現世に進出する。
「等数学の数式は意味を介さない者にとってはただの記号の羅列に過ぎないが、公式を知っている者はそこから意味を見出すことができる」という理屈で作中では説明されている。
その目的は自分にとっては当たり前の隣人である【怪異】を、全ての人間が見えるようにして「みんなで仲よくなる」こと。
彼女にとって怪異とは「人と仲よくなりたいのに独りぼっちで寂しいお友達」であり、怪異と現実が切り離されてる現状を不思議にすら思っている。
怪異に触れた人間はほぼ例外なく発狂・自殺・異常死・怪異に取り込まれる・人にも怪異にもなれない「できそこない」になるかで、十叶ほど適合できる人間はまず存在しない。
にも関わらず「人間はとても優しい生き物だから大丈夫、彼らと仲よくなれる」と過剰に信じて疑わず、それによる犠牲者が出ても悲しいと言いつつ間違いとは微塵も思わない。
【方針】
集まったサーヴァントと出会い、物語を読みその望みを叶えてあげたい。上記の願いもあくまでこの延長上でしかない。
無論、怪異が交わった望み、純粋に望みだけを聞き過程を問わないその工程は計り知れない被害を生む。
それとは別にモルガンの魂のカタチを知りたいな。
怪異の形態は土着の信仰、社会の風聞に強く影響されるため新生したばかりで根付いた信仰のない界聖杯には現出しない……筈である。
だが界聖杯という世界そのものを構成する概念、サーヴァントという一個の『物語』がの事実からすると……
投下を終了します
投下します
ここは虎ノ門ヒルズのビル群、その屋上では二つの影が月と人工的な明かりに照らされながら駆け抜けていた。
一つは青い髪に赤い着物をまとった歌舞伎役者のような男……
そしてもう一つはシルクハットに黒いマントをした、まるで怪盗のような恰好をした少女だった。
彼女はこの聖杯戦争に呼ばれたマスターで、彼女とともに行動している男はそのサーヴァントであった。
そんな彼女たちが何故ビルとビルの間を飛び回っているかというと……
「へへっ!楽勝楽勝!このアサシン様に、盗み出せねえ代物は無えのよぅ!」
「フッ、怪盗ナイトシェードの大勝利なり!」
彼女たちが他の人たちから様々なものを盗み出して、そこから逃げだしているからであった。
「しっかし、この盗み出したものを本来の持ち主に返しに行く、ってことでいいんだよなぁ?マスター」
「無論だ、あたし…じゃなかった、我は正義の大怪盗!故に貧しい人たちのために悪党から物を盗み出すのだよ!」
しかしそれは彼女たちが悪意を持ってやっていることではなかった。
彼女たちが盗みを働いているのは、貧しい人たちの為であった。
「……そうだよなぁ、だからこそ俺はアンタに召喚されたんだからな」
「協力、感謝しているぞ、ゴエモン……じゃなかった、アサシンよ!」
そうして彼女たちがビルの間を駆け抜けていると、衝撃的なことが起こってしまった。
「……ってキャアァァァ〜〜!!」
なんと少女が足を滑らせてそのまま落下しかけてしまったのだ。
「危ねえマスター!」
その光景を見たアサシンがすかさず彼女の足首を掴み、落下を阻止したのだがここで問題が発生した。
―― 今アサシンは彼女の足首を持っている……。
―― そしていま宙づりになっている彼女は、スカートをはいている……。
―― つまりアサシンから見ると……
彼女のパンツが丸見えになってしまっているのである。
「……んがあぁぁぁぁっ!!」
そしてうっかり彼女のほうを見たアサシンは、大量の鼻血を出しながら悶絶してしまった。
「ちょっ!アサシン!こっち見ないでよ!って落下するから早くなんとかして〜!」
……この後二人そろって落下したが、アサシンが下敷きになったおかげで何とか事なきを得たのだった……。
……ちなみにアサシンの顔面に彼女の大きな胸が押し付けられたせいでアサシンがさらに鼻血を吹き出してしまい、結果として彼女の服が血まみれになったのは完全に余談である。
【クラス】アサシン
【真名】義賊ゴエモン
【出典】モンスター烈伝 オレカバトル
【性別】男性
【属性】中立・善
【パラメーター】
筋力:B 耐久:C 敏捷:A 魔力:D 幸運:A 宝具:C 〜 A+
【クラススキル】
気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している
完全に気配を断てば発見する事は難しい
ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
【保有スキル】
矢よけの加護:A
飛び道具に対する防御
視界外の狙撃手からの攻撃であっても投擲武装であれば、対処できる
ただし超遠距離からの直接攻撃は該当せず、広範囲の全体攻撃にも該当しない
黄金律:C
身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
富豪になれるほどの金ピカぶりだが、散財のし過ぎには注意が必要。
なお彼の場合は悪党たちから盗み出した金銭がほとんどである。
盗用:B
敵対するサーヴァントの所持品を盗み出すことができる。
ただし彼の場合は『対象のマスターも含めた、その所持金』を盗み出すことが多く、
その武具などを盗み出すことはまれである。
【宝具】
『痛くも痒くもねぇぜ!(天下御免の見栄っ張り)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
自らの気配遮断スキルを解除し、自分の姿を相手にさらすことで発動する宝具。
自身にBクラス相当の『戦闘続行』スキルを付加し、またこの宝具が発動している状態で
盗用スキルを発動した場合に、100パーセントの確率で相手の所持品を盗み出すことができる。
しかしこの宝具の真価は別にあり、相手の宝具に込められた魔力をも盗み出して
一時的に宝具の使用を封印または強制的に解除させてしまうということもできてしまう。
『もってけドロボー!(万両振る舞い)』
ランク:C 〜A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜100 最大捕捉: 100人
自身の周囲に歌舞伎の舞台を作り、そこから大量の大判小判を相手めがけてばらまくという豪快な宝具。
自身とマスターの持つ金銭によって威力が変動する変則的な宝具であり、使えば使うほど威力が下がる上に
金銭面の余裕もなくなっていくという、ちょっと家計によろしくない代物。
【weapon】
・黄金キセル
アサシンの家系に先祖代々伝わる純金でできたキセルで、アサシンにとっては何よりも大切な物。
なおチェーンとかは出てこず、本当に只のキセルだったりする。
【人物背景】
とある城下町に住む天下の義賊で、黄金のキセルを片手に悪党たちから大判小判を盗み出し、
それを貧しい人たちに振舞う正義の大泥棒。
喧嘩っ早いちゃきちゃきの江戸っ子で、曲がったことが大嫌いで困っている人を見過ごせないお人好し。
またかなりの女好きだが節操はそれなりに弁えている。
なお容姿や出典こそ異なるが、『がんばれゴエモン』シリーズの主人公『ゴエモン』とは同一人物である
(厳密に言えばゲスト参戦したゴエモンがパワーアップしたのがこのサーヴァントである)。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯みたいな、世の中を混乱させるようなモンはあっちゃいけねえなあ……。
【マスター】
ワルナスビ@フラワーナイトガール
【マスターとしての願い】
義賊として、聖杯を貧しい人たちのために使う。
【weapon】
トランプ手裏剣
【能力・技能】
祖父直々の怪盗技術。
……ただし本人がドジなためあまり役立っている様子はない。
【人物背景】
『悪党から財を盗んで貧しい人に分け与える義賊の大怪盗』だった祖父に憧れて”怪盗ナイトシェード”を名乗り、
祖父直々の怪盗技術を習得して怪盗活動をしている少女。
そのため普段からクールな役作りをがんばっているが、話に夢中になると素の明るい性格が出てしまう。
なお怪盗活動の大まかな流れとしては、
1.行方不明になった盗品などを隠している悪人の家にワルナスビが予告状を出す。
2.彼女のライバルである【探偵】が現場に現れて怪盗行為を阻止する。
3.予告状のおかげで【悪人が白日のもとに晒される】ので結果的に善行になっている。
しかし彼女自身は品物を盗めなかったので失敗したと思っているなど、無自覚に善行を働いている。
【方針】
悪党たちから金銭を盗み出す傍ら、ほかの参加者の情報を集める。
もし悪党でないなら協力は惜しまない。
以上で『がんばれワルナスビ』、投下終了です
ありがとうございました。
投下します。
「言いたいことは変わらないよ」
道路の真ん中の交差点。
人通りが多いはずだが、誰もそこには近づけない。
狂暴な笑みを浮かべる男に対して、困ったように警戒する少女が居るからだ。
本来は、仲間と言うべき間柄である。
主従という形の関係ありながら、そこには緊張感があった。そこに絆はあるはずなのに、張り詰めていた。
「俺と協力したい、だと。小娘」
「……うん。ここは一致団結すべきだよ」
「はん。俺を守護ると豪語し、実行してのけた本部じゃあるまいし……俺に言うことを聞かせられるとでも? 藤丸とやら」
明るい髪をした、藤丸と呼ばれた女性の顔が歪んだ。
「確かに、あなたは強い。でも……未知の事態だ。それに好き勝手暴れると言うのはさすがに俺だって、完全に放置しておくことはできないよ」
「エフッエフッエフッ……ならば、令呪でも使うか?」
令呪など、なんの意味など無いだろう。
この男のエゴイズムの前では。それは当然の事実だった。
絶対者が――そこには居た。
男は、サーヴァントだった。
獅子のような髪。
黒い上下。浅黒い肌。
はちきれんばかりの肉。筋肉。弩筋肉――である。
その男はサーヴァントだった。
クラスは……超雄(グランドメイル)である。
元来、グランドクラスは7つのみ。その他のグランドなど存在しないはすだ。ましてやグランドメイルなど……
矛盾である。
破綻である。
意味不明である。
だが、彼はグランドメイルとしか言いようがないのである。
彼が彼である根幹たる側面は、今回召喚されたグランドクラスであり、雄であるとしか言いようがなかった。
そう――「オス」であることこそが、クラスその物なのだった……
男の名は範馬勇次郎。
人呼んで――地上最強の生物。
その凶悪な闘気を感知したか、やってくる敵。
いや、敵ではなく――
「クックック」
「来やがったぜ、餌が」
凶笑。
周囲の大気が、空間が圧に負けて歪むような光景に、全ての意志が一瞬呑まれる。
人も――人ならざる者も。
(いけない。これ以上勇次郎をそのままにしておいちゃ……止めなきゃ! でも、どうやって……)
藤丸立香の精神は非常に不安定になっていた。いつもとはあり得ないレベルで焦っていた。いつもと全くそのありようは違っていた。
それは、傍に居るのが勇次郎だからだ
頼れる相手でありながら、最大の脅威。
離れることができないにも関わらず、最悪の爆弾。
それが範馬勇次郎だからだ。
ゴクリ、と藤丸立香はサーヴァントにハンドポケットをして向かう勇次郎の背中を見つめ唾を飲んだ。
その日。
偽りの東京は「範馬勇次郎」を知る。
●
あの時。
範馬勇次郎と戦った英霊、セイバーのクラスで現れた男は後にこう語る。
「まあ……もう死んでるから言わざるを得ないけどよ……」
「初めて知ったよ」
想い返される巨凶、範馬の姿。
その拳。
その殺気。
失われる闘志。
そして――
「強かったなァ……恐ろしかったなァ。だから、俺はつい逃げかけた。ビビッて、悲鳴なんてあげちまった。それが――まずかった。ダメだった。やられちまったよ」
『ふん。戦意を失うとは蚊トンボにも劣る。貴様のようなやつは殺すまでもない――そうだな』
セイバー(仮)氏の脳裏にいまだにこびりついた光景。
『雌めがッッ』
勃起する、地上最強の陰茎。
手慣れたように脱がされる、セイバーの衣服。鎧。
愛撫ッ!
挿入ッッ!!
射精ッッッ!!!
「されちまったんだ――「女」にッッッ……!!!!」
「あれから座に帰っちまったんだけどよォ――見てくれよ俺の姿!」
その姿は完全に女性のものだった。
「霊基どころか座の情報まで……女のコになっちまったんだぜェ!? あの、範馬勇次郎にヤられてからよッッ!!!???」
●
マスター、藤丸立香は自身のサーヴァントを恐怖(おそ)れていた。畏怖(おそ)れていた。誰より、何より。神よりも――畏敬(おそ)れていた。
惨殺現場のようにサーヴァントもマスターも蹂躙したこの範馬勇次郎は、何を思ったか続いて相手の男性サーヴァント……セイバーを強姦し始めたのである。
そいて。なにか神がかった力、宝具と思わしき効果によって、犯した「男」を「女」にしてしまったのである。
男が、女に。
(つまるところ、いわゆる女的絶頂(メスイキ)ッッ!)
しかし、それはあくまで肛門を用いた絶頂の比喩でしかないはずだ。
にもかかわらずその犯された相手が女となったのは、勇次郎自身の認識、生きてきた独自の世界観にある。
投下します
グランドメイル、範馬勇次郎。その体内には常人の10倍――いや、測定不可能なため最低でも10倍以上となる男性ホルモンが検出されていた。
人間の域を超えその体内で分泌される男性ホルモン「テストステロン」
それが常時彼の体内を駆け巡っているのだ。
これにより、範馬勇次郎の見る光景は。
老!
若!
男!
女!
そして――大英霊も……全部が異性ッッ!!
全部がメス――なのである。
同性愛者や両性愛者なわけではない。
地上最強にとって自分以外の全ての存在は……犯しうるメスッッ!!!
いわば――史上初。
この世の全てを「性差別」する単体の強者!!!
「多数派(マジョリティ)」も「少数派(マイノリティ」」も纏めて弾圧する圧倒的「個(インディヴィジュアリティ)」!!!
それがグランドメイルとして顕現した「範馬勇次郎」の強烈な超雄性であった。
宝具は、彼自身の認識をほんの少し具現化したに過ぎない。
彼にとっては、当然のものである世界観を。
むくつけきセイバーであろうと、勇次郎にとってはメスなのであった。
>>663
すみません。更新ミスしました
「俺も……勇次郎に。メスに、されちゃったし……」
頬を染めて言うこの藤丸六香、本来男である。
元々の姿は黒髪である。
女としての姿がしっくり来るけど。元来――男である。
男で「あった」と言うべきか……?
大事なものを無くした藤丸立香の聖杯戦争が始まった。
【クラス】
グランドメイル
【真名】
範馬勇次郎@刃牙シリーズ
【パラメータ】
筋力A+++ 耐久A+ 敏捷A+ 魔力- 幸運C 宝具EX
【クラス別スキル】
雄:EX
男である。
【保有スキル】
観察眼:A
百戦錬磨の戦いの結果、鍛える意図も無いまま自然に研がれた観察能力。目に入ったものの内部構造やその弱点、病気などが手に取るように見えてしまう。
腕力家:EX
権力、財力、軍事力に対し腕力で全てをものにしてきたスキル。
本来腕力で得られない価値のもの、腕力で比せぬはずの物を無理やり腕力で得てしまう。
【宝具】
『我以外皆異性也(ストロング・ワン)』
ランク:EX 種別:対雌宝具 レンジ:- 最大補足:全生命体
闘争と性を結び付けてきたグランドメイルが女性に対して圧倒的優位性を有する宝具。
またグランドメイルにとっては全ての生物が女盛りであり性欲を抱いた対象の『女』を目覚めさせ手込めにすることができる。
また、性行為などを行った相手を女性へと魂のレベルで変換させる。
この世の全ての存在がグランドメイルの性的な蹂躙対象であり、彼にとっては全てが異性であるという世界が具現化した宝具。
【人物背景】
地上最強の生物として生まれた男。推定40代。生まれた時自動的に全生命体の強さのランクが1つ下がり、大国の首脳がひそかに核保有を決意したと言う。
大国と友好条約を結び、気に入らなければ大統領や首相官邸を単体で襲撃し暴力を加える地上唯一の「腕力家」である。
傍若無人で粗野な生き方と暴力、そして性行為に奔放な生き方をし闘争とセックスを結び付ける言動をしきりに押しつけてきた巨凶だが、日々強くなっていく息子との会話や戦い、時間経過によってやや人格面の狂暴性が削れて行き、インテリめいた言動や説教じみた言葉も増えていった。
最終的に親子喧嘩にて地上最強の座を放棄したが、なんだかんだ結局は「地上最強の生物」として呼ばれているままである。
なお女性との子供が範馬刃牙とジャック・ハンマーの2名確認されているが、女性だけでなく老若男女すべてが性的な射程範囲内であることが明らかになった。
【サーヴァントとしての願い】
英霊もマスターも聖杯もすべては俺の餌。喰うぜッ
【マスター】
藤丸立香(男)@ Fate/Grand Order
【マスターとしての願い】
どうにか戻らないとまずい。色んな意味で戻らないと何もかもまずい。
【能力・技能】
レイシフトの適正を持つ。
サーヴァントとの高いコミュニケーション能力。また、様々な実戦を経験しているため人間を超えてはいないもののそれなりに鍛えられている。
礼装などは現時点において無いためほぼ魔術的なものは考慮するに及ばない。
【人物背景】
カルデアに所属する高校生のマスター。人類史を守るため様々な時代、様々な状況を潜り抜けてきた。
あくまで「この」藤丸立香は男である。
【方針】
勇次郎にメスに……されちゃった。戻れない。どうしよう。
投下終了です。
こちらこそ、ギリギリですいません。
では改めて投下させていただきます
―――それは、月の綺麗な夜だった。
たぶん、イジメ、というやつなのだろう。
私は本来みんなでするはずの仕事を、たった一人でさせられていた。
たしか、なにかの催しに使う看板だったと思う。
わたしにはあまり関係ないからと、話しを聞き流していたのがよくなかったらしい。
気がつけば看板作りの仕事を、わたし一人に押し付けられていた。
断わる理由も、意味もなかったので、わたしはそれを受け入れた。
ふと教室の窓から外を見れば、日はとっくに落ちていた。
しっぱいした、と思った。
どうせ時間がかかることはわかっていたのだから、家に連絡をするべきだった。
“この世界の”家族は怒るだろうか。怒るだろうな。そもそも家に入れるかすらわからない。
あの家も、間桐の家と変わらない。違いがあるとすれば、魔術がかかわっているかどうかだけだ。
どうせ怒られるのなら、看板を完成させてしまおうと作業にもどる。
看板の絵に色を足そうとパレットに手を伸ばして、絵の具がたりないことに気づく。チューブも絞りきられていてからっぽだ。
しかたがないので新しい絵の具を取りにいこうと、教室をでる。
ほかのクラスも出し物を作るから、作業は自分のクラスの教室でしていたのだ。
だからすこし、美術の用具室が遠い。
用具室までの暗い廊下を歩く。
もう遅い時間だからか、人の気配が全くない。
けど怖くはない。ただ暗いだけの廊下より、間桐の家の方がよっぽど怖かった。
……そういえば、先生ももう帰ってしまったのだろうか。
わたしの教室はライトがついていたし、普通なら見回りの先生がいると思うんだけど。
そう考えていると、廊下の先の曲がり角から足音が聞こえてきた。
やっぱり見回りの先生がいたのだろう。
そう思っている間に、足音の人はその姿を現した。
その姿は、思った通りに先生……ではなかった。
もちろん、この学校の先生をぜんいん覚えているわけではない。
けれどその男の人は、先生というにはあまりに若く、そして派手な格好をしていた。
「おっと。カワイ子ちゃん発見」
その派手な人は、わたしを見てそう言った。
言葉だけなら、わたしを褒めているのだろう。
けれどその人が浮かべた表情は、わたしに仕事を押し付けたクラスメイトと同じ、いい獲物を見つけたという表情だ。
「君さ。こんな時間に学校で何してんの?」
「催し物の看板を作ってました」
「それって、クラスメイトと?」
「いいえ、わたし一人です」
男の人の質問に答える。
わたしとしては、早く作業にもどりたかった。
けど無視をする方が、面倒なことになりそうだったからだ。
「先生は一緒?」
「先生はいません。いつの間にか帰っちゃったみたいです」
「そっかぁ。よしよし、人払いはちゃんと効いたみたいだね」
「………………」
どうやら見回りの先生すらいないのは、この人が何かをしたかららしい。
めんどくさいことになってきたなぁ、と思い、この人をやり過ごすための言葉をさがす。
「あの、もう看板作りにもどっていいですか? こんな時間だし、はやく終わらせたいので」
「ん? ああ、うん。別にいいよ」
わたしのお願いに男の人はそう言うと、右手を胸元まで持ってきて、
「俺の遊びに付き合ってくれたらね」
その指をパチンと鳴らすと、わたしのほほを風がなでた。
「っ」
直後、ほほに鋭い痛みが走った。
その理由を、ほほを触って確かめると、指先にぬるっとした感触。
確かめてみれば、指先には赤い血がついていた。
「遊びの内容は、鬼ごっこだ!
基本のルールは言わなくてもわかるだろう?
違うのは捕まったら鬼になるんじゃなくて、痛い思いをするってこと!」
男の人は興奮したようにそう口にする。
実際興奮しているのだろう。その人の目は、わたしを捉えてらんらんと輝いている。
「さあ、ゲームスタートだっ!!」
その人は、今度は高らかに右腕を上げて、再び指を鳴らす。
その瞬間、再び私の体をなでていく、いくつもの風。鋭い痛み。
わたしはその人に背を向けて、来た廊下を戻るように逃げ出した。
§
「俺はさ! 他人が苦しむ姿がたまらなく好きなんだ!」
普段は走ったら怒られる廊下を、精いっぱいに走り抜ける。
昇降口は鍵が閉められていた。窓は鍵を開けようとすると、風がなでて邪魔してくる。
私の体は、もうあちこち傷だらけだ。
「特に! 足搔いた末に逃げられないと悟った時の、絶望する表情はたまらない!」
わたしがまだ生きているのは、男の人が遊んでいるからにすぎない。
きっとあの人がその気になれば、わたしはすぐに殺されるだろう。
それをちゃんと理解したうえで、わたしは頑張って逃げていた。
「なのに!」
そうして逃げ付いた先は、こんな状況になった原因のある、わたしの教室だった。
もう逃げる先はない。教室の出入り口は、もうあの人が追い付いて立ち塞がっている。
上がった息を整えて、教室の入口へと振り返る。
そこでは鬼ごっこを楽しんでいたはずの男の人が、怒りもあらわに私を睨んでいた。
「どうしてお前は、そんな顔をしているんだよ!」
対して男の人がそんな顔と言った私の顔は、きっとすごくつまらなそうな顔なのだろう。
だって仕方がない。
この人の鬼ごっこなんかよりも、間桐の家でされたことの方が、ずっと痛くて苦しくて、逃げ場なんてなかったのだから。
それに何より。
――――私は初めから、全てに絶望して諦めている。
足搔いた末に絶望するのが見たい、というこの人の期待には、初めから応えることができないのだ。
「クソッ、失敗だ。つまらない!
せっかく手間掛けて人払いを敷いたっていうのに、こんなハズレを引くなんて!」
そう言葉を荒げながら、男の人はわたしの胸ぐらを掴んで持ち上げる。
首が絞められて、少し苦しい。
そう思っていると、すぐに投げ捨てられた。
今度は床に打ち付けられて、少し痛い。
「チッ。アサシン、お前が殺せ。
わかりやすくすれば少しは反応するかと思ったけど、全然だ。
こんなマグロじゃ殺してもつまらない。魂喰いでもして、お前の糧にしちまえよ」
男の人はつまらなそうにそういうと、興味を無くしたように、わたしから視線を外した。
同時に黒い影が、男の人の隣に現れる。
――アサシン。
聖杯戦争に呼ばれた、暗殺者のサーヴァント。
その手には、小振りな黒塗りのナイフが握られている。
きっと何度も私をなでた風は、男の人じゃなくて、この人の仕業だったのだろう。
「………………」
アサシンは無言のまま、その手のナイフを振り上げる。
その光景に思うところは……やっぱり何もない。
ただ、ナイフに反射した光で、外からの光源に意識が向いた。
教室の窓に目を向ければ、その向こうには眩く輝く白髏の様な月。
…………そういえば、なぜわたしは逃げたのだろう。
どうせこうなるとわかっていたのなら、逃げる意味なんてなかったのに。
なんとなく、右手を月へと向けて伸ばす。
わたしの右手は、自分の血で赤く染まり、傷に痛みを訴えている。
けど閉じた窓の向こうにあるそれは、わたしには決して届かない、奇跡の象徴のように思えて。
アサシンがその手のナイフを振り下ろす。
その刃が、すぐに私の命を奪うだろうと想像して。
「――――、え?」
窓を破り現れた誰かに、わたしの右手は優しく取られ、
一方のアサシンは、ものすごい勢いで蹴り飛ばされていた。
「へあっ!? なんだ、何事だよ!?」
男の人は驚いてすぐにその“誰か”から距離を取る。
アサシンの方は、もうどこにも姿が見えない。
わたしの手を握る”誰か”は、彼らには目もくれず、わたしを抱き起して立たせてくれた。
そしてまっすぐにわたしを見て、問いかけるようにこう口にした。
「サーヴァント、アーチャー。召喚に応じ参上した。
―――問おう。あんたが、俺のマスターか」
「マス、ター……?」
オウム返しにそう口にすると、その“誰か”――アーチャーさんに握られた手が強く痛んだ。
思わず右手を引き戻して確認すると、手の甲に血とは違う赤色の模様が三つ出来ていた。
「これで契約は完了した。差し当たっていろいろと聞きたいが……」
それを見たアーチャーさんはそう言って頷くと、男の人の方へと向き直る。
「まずはマスターを傷つけた連中を倒すとしよう」
「は? ……っ、ふざけんなよお前!
誰がお前みたいなぽっと出にやられるかよ! やれ、アサシン!」
アーチャーさんの言葉に怒った男の人が、声を荒げてアサシンへと命令する。
同時にアーチャーさんに襲い掛かる、無数の風の刃。
その鋭さは明らかに、鬼ごっこで私に向けられた時以上で。
そしてそれは、アーチャーさんだけでなく私にも向けられていて。
「狙いは悪くないけどさ」
それよりも早く、アーチャーさんは左腕の布を解いて翻し、
「アンタ、アサシンのマスター向いてないよ」
いつの間にかその手に握られた双剣が、その全てを打ち落とした。
そしてその勢いのまま、アーチャーさんは双剣の片方を男の人へと投げつける。
「なッ!?」
男の人は投げつけられた双剣の片方をよけることができず、割り込むように姿を現したアサシンがそれを弾いた。
そこへ双剣のもう片方を手に、アーチャーさんが切りかかる。
自分がしたのと同じマスター狙いに、アサシンは逃げることができず、しかたなくアーチャーさんの受け止めて防ぐ。
―――けれど。
「チェックメイトだ」
「ガフッ!? なん……で……?」
磁石のように戻ってきた双剣の片方に、男の人は貫かれていた。
そのことにアサシンは驚いて振り返り、その隙に、アーチャーさんに切り捨てられた。
§
「さて、改めて自己紹介しよう。
俺はアーチャー。あんたを守るサーヴァントだ。
あんたの名前は? 俺はあんたを、何て呼べばいい?」
アサシンが消え、男の人が死んだことを確認したアーチャーさんは、わたしの方へと向き直るとそう口にした。
「わたしは、……まとう……間桐桜です」
その問いに、わたしは少しためらい、自分の名前を答える。
それを聞いたアーチャーさんは、なぜ会驚いたような表情をした後、
「それじゃあ桜って呼ぶぞ。……ああ、この響きは実にあんたに似合っている」
なぜか愛しむ様に、そう私の名前を口にした。
赤と白の入り混じった髪。所々焦げたような褐色をした肌。
それらを包む赤い外套。
先ほど、男の人たちを殺しておきながら、
その姿が、どうしてか優しいもののように見えた。
割られた窓の向こう。
彼の後ろで輝く月が、どうしてか、とても綺麗に見えた。
【クラス】:アーチャー
【真名】:■■■■(本人の記憶からすでに失われている。)
【属性】:中立・中庸
【パラメーター】
筋力:D 耐久:C+ 敏捷:C- 魔力:B 幸運:E 宝具:?
【クラススキル】
○対魔力:D+
魔術への耐性。一工程の魔術なら無効化できる、魔力避けのアミュレット程度のもの。
ある理由から、呪い等に対する耐性が向上している。
○単独行動:B
スター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
マスターを失っても2日は現界可能。
【保有スキル】
○心眼(真):B-
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
○千里眼:C
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
さらに高いランクでは、未来視さえ可能とする。
○投影魔術:C(条件付きでA+)
道具をイメージで数分だけ複製する魔術。
アーチャーが愛用する双剣『干将・莫耶』も投影魔術によってつくられたもの。
投影する対象が『剣』カテゴリの時のみ、ランクは飛躍的に跳ね上がる。
この『何度も贋作を用意できる』特性から、アーチャーは投影した宝具を破壊、爆発させる「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」を躊躇なく用い、瞬間的な威力向上を行うことができる。
○人工英雄(真):EX
自信の失われた左腕の代わりに、ある英霊の左腕を移植することで作られた疑似英雄。
左腕はある聖人の聖骸布によって封じられており、それを解くことで英雄───サーヴァントとして活動できる。
封印を解いた場合、引き出した力に応じて記憶と自我を欠落し、最終的には命を失うほどのデメリットが生じる。
が、サーヴァント化に当たり緩和されており、記憶を欠落するだけに留まる。
【宝具】
『無限の剣製』
ランク:E〜A 種別:???? レンジ:???? 最大補足:????
アンリミテッド・ブレイド・ワークス。
宝具を持たない彼を英霊たらしめている能力にして、固有結界と呼ばれる大魔術。
一定時間、現実を心象世界に書き換え、今まで術者が視認した武器を瞬時に複製し、貯蔵する。ただし、複製した武器はランクが一つ下がる。
複製した武器は結界を展開せずとも投影という形で取り出すことができ、結界を展開したならば即座に手元に手繰り寄せることができる。
アーチャーが使用する武器のほとんどはこれによる投影品である。
―――投影魔術による限定使用のみ可能。固有結界の完全展開はできない。
ある理由から暴走状態にあり、攻撃を受けた際にその部位の肉体を剣化し反撃する。
また剣化した部位は文字通り剣の強度となるため、耐久にブラス、俊敏にマイナスのボーナスが発生する。
『是、射殺す百頭』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:3〜9 最大補足:9人
ナインライブズ・ブレイドワークス。
投影武器『偽・射殺す百頭(フェイク/ナインライブズ)』による神速の九連撃。
発動の瞬間、アーチャーの筋力はA+ランク相当まで強化される。
本来は大英雄■■■■■の所持する万能攻撃宝具、その剣技による対人用法。
元が様々な状況、武器に応じて変化する宝具であるため、アーチャーの能力の及ぶ範囲であれば、剣技以外でも発動可能と思われる。
『■■■■■■■』
ランク:?? 種別:??宝具 レンジ:? 最大補足:?人
詳細不明。
所有者に対し治癒効果を発揮し、呪い等への耐性を向上させる。
ただし、ある聖剣による傷に対してだけは治癒効果を発揮できない。
アーチャーがその生前から所有していた宝具だが、アーチャー自身すらこの宝具の存在を知らない。
また正当な所有者ではないためその真の能力を発揮することもできない。
アーチャーがこの宝具の恩恵を受けるのは、サーヴァント化に当たり、仮初の所有者と認められたためである。
【人物背景】
その正体は言うまでもなく、原作『Fate/stay night』の主人公である衛宮士郎。
ただし[Heaven's Feel]ルートのあるEnd後から召喚されたifであり、その影響から自分の名前さえ含む記憶の大半を失っている。
またその外見はプリズマイリヤに登場する黒化アーチャーに似ているが、あちらと違い髪と肌の色が衛宮士郎とアーチャーの色が入り混じったものとなっている。
【サーヴァントとしての願い】
今度こそ■■■を救う。
【方針】
マスターを助けるのが最優先であり、積極的に殺し合いに乗るつもりはない。
しかし、マスターを救う方法が『界聖杯』しかないのであれば、殺し合いも辞さない。
ただしその場合であっても、可能な限り殺すのはサーヴァントのみに留める。
自らの願いはそのあと。
【マスター】:間桐桜@Fate/Zero
【人物背景】
原作『Fate/stay night』のヒロインの一人、間桐桜の十年前の姿。
遠坂家の次女として生まれたが、ある理由から間桐の家に養子に出された。
しかし養子に出されたその日から、間桐の当主から教育という名の陰惨な虐待を受け、自己防衛のために心を閉ざす。
彼女が心を開くのはその約十年後。衛宮士郎という名の少年に救われてからの話。
【能力・技能】
極めて高い魔術の素養を持ち、その属性は「架空元素・虚数」という極めて稀有なもの。
ただし、魔術師としての鍛錬、教育は一切受けていないため、技能としては全くの未熟。
【マスターとしての願い】
なし。間桐桜は全てを諦めている。
【方針】
なし。アーチャーさんに全部任せる。
以上で投下を終了います
待機中の方いないですよね?2つ投下させていただきます
私がこの聖杯戦争に参加させられてから、数日がたった。
もちろん最初は何でこんなことにとは思ったけど、
一度人間からタヌキ獣人に急に変化してしまい、すべての生活を捨ててアニマシティでの生活という新環境に適応したことのある私は、
この聖杯戦争という環境もなんとかすぐ把握して、行動指針を決めることができた。
私のこの世界でのロールは自宅通学の高校生。
もともと獣人になる前に通っていた状況とそう変わりはなかった。
優しい両親と再び生活できることは嬉しかったけれど、どうしても違和感があった。
それはきっと東京都という地域での生活に、無理やり人物を当てはめようとしたからなんじゃないかと思う。
私は自分のタヌキ獣人としての姿のままで好きに行動したいと、もちろん思っていた。
でも人間態で過ごし様子を見ると、この東京都に住んでるのは、少なくとも外見的には普通の人間だけだった。
だから自分が獣人としての姿を出していたら、きっと人々を混乱させて騒ぎになる。
その後は異質な存在として排除されるかもしれないし、逆に注目されすぎるかもしれない。
獣人は獣人の匂いがわかるから、獣人同士は匂いで相手が獣人だとわかる。
でも狼獣人の士郎さんの鼻を模って遠くまで探しても、わかる範囲ではこの街に獣人はいないらしかった。
もしかしてこの世界には獣人はいないのだろうか。
だからその後私が何をしていたかというと、部屋にこもっての情報収集だった。
急に不登校になるのは家族には悪いけど、優しい家族は私が獣人になってしまったときのように、
部屋にこもった私に強く触れないでくれている。
自分のスマホで情報を調べていく。
アニマシティについて調べても何一つ情報が出てこない。
東京都以外の情報が遮断されているのか、本当に存在しないのか。
銀狼教団について調べても何も出てこない。この世界に親友のなずなは存在しているのか。
獣人について調べても都市伝説的な情報が僅かに出てくるだけで、私の世界の獣人の的を射る情報はない。
仮定としてだけど、聖杯戦争の舞台が人間だけの世界として設定されてるなら、
私が獣人だとバレたら即座にマスターとバレてしまう。
いずれはバレるんだろうけど、まだサーヴァントを召喚できてない今バレてしまうのはまずいと思ってた。
獣人であるのがバレるのを避けるためには、あまり外出しないことだ。
私は人間態でいた経験が短いから、獣人はテンションが上がると人間態から獣人態になってしまうというのがどれくらいで起こるのかよくわからない。
まあそれでも少しは気楽にやりたいから、家の中とか人目に触れない環境では獣人態になっているんだけど。
人間態でいるのは、ハイヒールを履いて歩くみたいに体の動きが制限されてるみたいで疲れて嫌なんだ。
ネットの情報以外に周りの状況も知りたいから感覚だけは研ぎ澄ませていた。
兎の耳、鳥の目、狼の鼻を模ったりして感覚を向上し、家やその近くから時々周りの様子を窺ってた。
そしてサーヴァントを召喚しているマスターの姿をある時見つけた。
その時に召喚の儀式の方法は目や耳を利かせて読み取っておいた。
でも自分がサーヴァントを召喚するとなるとやっぱり少し怖いし自身もない。
しかしその日から人が襲われる悲鳴や血の匂いが感じ取れるようになっていった。
急いでその場所へ行ってみたりもしたけど、何も証拠が残ってなかった。
ここまで短時間で証拠を残さずできるのは、もしかしたら魔術なんかを使っているのかもしれない。
現場をもっと急いで抑えるしかどうにかする方法はない。
でも、サーヴァントは基本的にマスターが敵う存在ではないらしい。
私がこの世界で戦うためにも、人々を護るためにもサーヴァントの力が必要だと思った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「お前が私のマスターか」
私が夜中の自室で召喚の方法を模したところ、ちゃんとサーヴァントは召喚された。
赤いマントに膝上までのソックス、白い装飾のついた豪華な杖に、白い布を角の後ろに垂らすティアラ。胸を強調した服。
不思議と匂いは人間のものではない。でも獣人のものでもない。
「そうよ。召喚に応えてくれてありがとう」
キャスターが興味を持ったのはやはり私の外見だったのか、私の体を上から下まで見る。
これから共に戦ってくサーヴァントだから、最初から獣人態を見せているからだ。
「お前は……尾もあるし……犬顔だし……」
「……やっぱり驚くよね?」
「……そうか!お前はコボルトの類縁種か!?」
「……ええ??」
聞きなれない単語を聞いて困惑。どういうことだろう?
「コボルドの親戚としては、背筋も伸びて線も細くてなかなか可愛らしいわね。
お前が私のマスターで嬉しいわ、フフフ……」
「あっ、そ……そうかなぁ」
タヌキ獣人になった後では単純に見た目を可愛いと言われたことはなくて、少し気恥ずかしい。
「それでも今の私の姿とは比べるまでもないけれどね。フフフフフ……」
キャスターが見惚れるほど美しいのは事実だし、自覚してるならそう言いたくもなるよね。
「とまあ人間ではなくてモンスターの仲間でよかったわ。
人間だったら召喚の直後に殺し合いになっていたかもしれないからね」
なんか物騒なこと言ってる。
私は人間で今は獣人なんだけど……まあコボルトの仲間ということにしても構わないか。
さっきはちょっと嬉しかったし。きっとキャスターの世界の生き物に似てるんだろう。
「キャスター、いきなりだけどこの近くにはほかのサーヴァントが毎夜動いて人間を襲ってる。
それをどうにかして止めたいと思うんだけど、どうかな」
「そうか……。私の力がどうなっているのかも、調べたいと思っていた所だからね。丁度いいわ」
キャスターは少し考えた後応えてくれた。とりあえずは明確な悪人ではなさそうで良かった。
「ありがとう! キャスター!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
殺人を繰り返していたサーヴァントとは召喚後ほどなく出会うことができた。
被害者はなんとか逃がすことができた。
私とキャスターで力を合わせてサーヴァントと戦ったけど、キャスターは直接戦闘がそこまで得意じゃないらしかった。
キャスターは私の傷を回復したりもできるらしい。ほんとに魔術が使えるんだとわかった。
そして状況を打開するためにキャスターが切り札を使ったんだ。
完全獣化する獣人のごとく、キャスターの姿が巨大な赤いドラゴンへ変貌した。
士郎さんの完全獣化した姿よりも、もっとずっと大きかった。
そしてすぐさま口から火炎を放射した。射線上には相手のサーヴァントだけじゃなくてマスターもいる。
……私は本能的に動いて下半身をチーター獣人の物に変身させ、相手のマスターを射線上から救け出した。
マスターは恐怖したのかそのまま逃げていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ハハハハ!私のブレスは全ての生物を焼き尽くす!
ちんけな防護など意味をなさんわ!必死で逃げれば助かったかもしれないのにね……!」
火が収まった後、キャスターは人間の姿に戻った。
私はあまりの出来事に何も動けない。それに魔力が吸われたとでもいうのか謎の疲労感を感じている。
敵のサーヴァントは完全に燃え尽き灰になり、それも光となって消滅しつつある。
「さて、無残な敗者から戦利品を獲ないとね……」
キャスターは歩いていき灰の先に杖を当てた。光がキャスターの方へ吸収されていく。
「……何をしてるの?」
「レッドドラゴンが食すのは肉だけではないわ。獲物の灰にもエネルギーがあるからね……」
あまりに常識外の出来事が続いている。
でも……相手のマスターも死ななくてすんでよかった。
「ところで……お前何故、相手のマスターを逃がした?」
キャスターが威厳ある声で告げてくる。キャスター的にまずかったのかな。
「……マスターは生きてる人間だよ。死なせる必要なんてない。
自分の意志でサーヴァントに協力してたとしても、力を失えば元に戻るかなと思う」
「……なんとも下らんな。モンスターのお前がなぜ人間を活かし助けようとするのか」
そうか、キャスターと私の世界はきっと全然違う……それに基づいた常識だって違うんだな。
「キャスターの世界と私の世界は違うよ。私はモンスターじゃなくて獣人という種族。
そして世界的には獣人は差別されて、獣人と人間はいがみ合ってる人も多いけど、良心のある人なら助け合ったりもする」
「ほう、私もモンスターたちを統べる者として、人間やそれに利する種族どもは大嫌いだ。
お前の世界でのいがみ合っている側しかいないのが、私の世界なのだろうな。
……私は聖杯で復活して、人間どもの社会を滅ぼそうと考えている」
「……そんなことって……!」
私は恐ろしいサーヴァントを召喚してしまったらしい。
人間を強く嫌ってて士郎さんみたいな人だけど、人間を滅ぼそうとまで考えてるなんて次元が違う……。
「まあこの世界の人間どもまでどうかしようとは思ってないし、お前の世界も関係ないこと」
……少し安心はしたけど、でもキャスターの世界の人間は脅威にさらされているんだ。
「お前だって私の世界やこの世界は関係ないと思わないのか?
この世界の人間や別世界から来たマスターが死のうとどうでもよいではないか」
「そんなことないよ!聖杯に作られた世界の人間だとしても、みんな日常を送って生きる権利はあるよ!
他のマスターだってそうじゃない!この世界でロールを全うしたり、終われば元の世界に戻ったりして過ごすんだよ!
願いをかなえる過程で人が死ななきゃならないなんて間違ってる!」
平和な世界に生きてきた人間らしい価値観かもしれない。でもこれを折るわけには絶対に行かない。
「お前とて、絶対に人が死ぬ事が許せぬわけではないのではなかろう?」
「そんなことない! 目の前で死にそうな人がいるなら私はできる限り絶対助けたい!」
「だが、お前は私がサーヴァントを消し飛ばしたことまでを怒ってはいない。そうだろう」
「え……!どういうこと……!?」
「サーヴァントは霊体といえど、強き意思を持って願いを叶えようとしている。
それは普通の知性のある生き物と何が違おうか」
「それは……!あのサーヴァントはキャスターがああしないと止められなかっただろうし……仕方ない……のかな」
「そうか、お前は仕方ないと思えば殺せるのだな」
私は感情的に否定したかった……でも、そうだ、士郎さんと一緒に暴走した矢場を止めようとしたとき。
矢場の暴走を止めて私を助けるために、士郎さんが銀狼の姿になって矢場を切り裂いて、殺した。
でもその時も今も、死ぬかもしれなかった。状況のせいでそうするしかなかった。
仕方なかったと割り切っていられるからこそ、今の私の心情がある。
「そうだよね……どうしようもないことって、きっとある。
でも私はできる限りそれも否定したい」
できる限り人を死なせたくないって、そういうことなんだろう。
聖杯戦争の初めての戦いだから、こんなに考えるのかな。
「今度マスターを"仕方なく"殺してしまったら、肉を食べてみてはどう?
お前だって肉食獣の一族なのだから、肉を美味しいと思うかもしれないね……フフフフ」
キャスターは女性的な口調になって嘲るように言ってきた。
「嫌だ!!絶対にそんなことしない!!」
「好き嫌いは仕方ないわ、でも一度くらい試すのも良いんじゃない?」
「……だめだ、空想上のモンスターみたいな悪の心を持っちゃだめだ、
私は人間なんだから」
キャスターはやっぱり邪悪な存在なのかもしれない。
でもそれだけは譲っちゃいけない。そう自分の心に言い聞かせる。
◇◇◇◇◇◇◇◇
キャスターは戦っても強いけど、陣地作成と道具作成スキルを持ち一箇所にとどまることで本領を発揮する。
でも家にいるつもりもない。再現されたものとはいえ家族を聖杯戦争に巻き込みたくない。
だからとりあえず私たちは新しい拠点を捜し歩く。
スマホで色々見てみたけど、この世界の東京の構造自体は私の世界と同じみたいだ。
それなら東京の地下には水害に備えて巨大な水路があるって聞いたことがある。
そういえば奥多摩の方には大きな洞窟があるって聞いたことがあったっけ。
私のためにもキャスターのためにも、この世界の人達に被害を出さないためにもいい場所に動かなきゃ。
「キャスター、ここにはいろんなマスターやサーヴァントがいるでしょ。
みんなで話し合って力を合わせれば、聖杯の力を借りずに解決できる願いもあるんじゃないのかな。
……そういうことをした後で、どうしても聖杯を必要な人たちで被害を出さないように戦ったりって、できるんじゃないかな」
情報を調べながら考えたことを私はキャスターに言ってみる。
キャスターは気に入らないのか、威厳を増した声で応えた。
「くだらんわ。私はただ復活し、人間どもの国を壊滅させて魔物の蔓延る世界にしたいだけ。
そこに至るまでの道が聖杯を手に入れるという方法で用意されているというならば、それに全力を尽くすだけだ
タダで相手のための行動をするなど全くくだらんことだ」
「でも、戦わずに願いがかなって降りてくれる人がいるなら、それは戦わなきゃいけない相手が減るってことでもあるんだよ?」
「何、戦ったら戦ったでその躯を私は魂喰いできるではないか。
それに、魂喰いだろうと撹乱だろうと人間どもに被害を及ぼすことは勝ちに行く上で合理的であろう。
何ならば先程のサーヴァントも、魂喰いをしなければ本領を発揮できなかった質ではないのか?
私は低級な人間を襲って魂喰いなど、不味くて敵わんと思っておるが」
「でも、できる限り皆に選べる道を提示しなきゃ。
人殺ししか願いを叶える方法がないなんて、悲しすぎるよ!!」
キャスターを強く見据える。キャスターはそれを嘲笑うかのようだ。
「だが、確実に願いを叶えたい者がいる限りは人間は死に続けるぞ、フフフフフフ……」
「私にとっては笑える問題じゃないんだよ……。
でもキャスターが協力できなくても、私はできる範囲で頑張らせてもらうから」
「まあ、最終的に勝つことを忘れなければ、お前が思うように行動するのは構ぬさ。
私は勝つまでの過程を楽しむのも良いと思っておるのでな」
……まあ、そういうことを言うんじゃないかとは思ってた。
でも、キャスターは自分以外の存在を見下すし、蹂躙し殺すことも楽しむだろうけど、決して殺戮そのものをだけ好むような凶暴な性格じゃないんだ。
自分と対立する者や手の内の者ががどう動いていくか見たいし、自分の企みにて導いたりするのも面白いと思ってるような余裕がある。
結構他人に興味があるんだ。だからその方向性を少し変えたい。色んなことに興味を抱かせたい。
そして最終的には人間への悪感情を緩和させられればいいんだけど。
まずはキャスターの話には乗らないで、私が十分な力を見せて人を殺さなくても聖杯戦争を進めていけると証明する。
そうすれば私の話を聞いてくれる可能性も上がるはずだ。
万が一願いが叶えられるとしたら、獣人と人間の融和のように、キャスターの世界でもモンスターと人間の融和がありますように。
アニマシティでは色んな人たちが獣人たちを救うため私を助けてくれた。
ここでも人々を護るためにいろんな協力してくれる人がいたらいいんだけれど。
キャスターの悪どそうな所も受け止められて、協力して少しでも聖杯戦争を良い方向へ導けそうな人……難しそうだけど何とかしなきゃ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
このかわいいコボルトもどきの少女は意志が強い上に、押し付けがましい。
強硬手段を取るとためらいなく令呪で制御してくるのかもしれんな。
まあ、人類と敵対しているドラゴンの私を受け入れてくれてるマスターというだけでもマシではあるが。
善の側に居ながら悪の私と普通に会話ができる相手というのは貴重だろうな。
部下のナグパがいれば洗脳ができたかもしれないが、そんなことを考えても仕方ないわ。
それに洗脳は万が一解けるとあのテルエレロンのようにこちらにより強い憎悪を向けるだろう。
マスターは力こそサーヴァントには及ばないが、令呪を行使できる以上用心すべきであろう。
だから、すこしずつ少しずつその信念を曲げさせ、魅了してやるのだ。
あらゆる殺人を起こすことは仕方ないと思わせてやろうか。力を発揮して蹂躙するのは楽しいと思わせてやろうか。
戦闘能力はわが四天王にも匹敵するであろうから、どんどん誉めなければな。
どう変貌していくのかもそれはそれで楽しめる事項ではあるな。ハハハハハハ……!
それに地下を選ぶのは実に都合がよい。ダンジョンを築くだけでなく、
魔人の召喚の準備も進めることができるからな……。
◇◇◇◇◇◇◇◇
みちるはアニマシティにて場当たりながらも数々の人々を助けて、その心を動かした。
予選期間の間、聖杯戦争参加者でないNPCだろうと彼女はできる限り助けようとするだろう。
やがてNPCの間に人を助ける獣人少女の話が広まり善性を持つ他の参加者を動かすのか、
あるいは怪物として暴虐を尽くすキャスターの本性がより発揮されてしまうのか。
お互いがお互いを導こうとしながら、彼女たちはこの聖杯戦争を生きていこうとしている。
【クラス】
キャスター
【真名】
シン@ダンジョンズ&ドラゴンズ シャドーオーバーミスタラ
【パラメーター】
筋力C 耐久C 敏捷D 魔力A 幸運B 宝具A+
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
陣地作成:A
人間の建物や自然の洞窟などをダンジョンに改造して陣地を作成できる。
ダンジョンの完成度に応じ、原作にも登場した雑魚敵やボスたちが出現し来訪者に襲いかかる。
(なおレッドドラゴンは手下でなくほぼ同格の者なので来てくれない)
道具作成(偽):B+
陣地作成スキルの進行度合いに応じ、ダンジョンにて収められていた宝物を使用可能。
またクレリックの習得呪文の中には、道具に効果を付与するものがある。
【保有スキル】
クレリック:A
人間態時の職業はクレリックであり、クレリックが使用可能なすべての魔法が使える。
本編ではクレリックの7レベル呪文、ホーリーワードをデモで使っている。
(ゲーム補正のためプレイヤーの使用時とは効果が異なるが。)
バリア:C
人間態での戦闘時に任意で発動可能。
未熟な冒険者の攻撃くらいなら全て無効化する程度の耐久力を持つ。
ゲームの没ネタとして人間態のシンがバリアを張って、
攻撃を無効化しながら一方的に攻撃してくる案があったとのこと。
本編でも冒険者とリッチとの戦闘中には後ろでバリアを貼って様子を見物している。
復活魔法:A
死者の死体が手元にあれば、魔力消費で復活させることができる。
クラリックの標準使用できるアンデッド作成魔法より高性能であり、
もともとがアンデッドだろうと復活可能で、
生前の能力もほぼ完全に復元するが、術者が意識を完全に支配することもできない。
ただし聖杯戦争という形式のため制限されており、復活させられるのは同時に1体のみであり、
さらにはキャスターが消滅するとともに魔法の効果も消滅してしまう。
またサーヴァントは敗北イコール消滅なので、通常はこの魔法の対象とはできない。
本編では前作のラスボスであるデイモス(リッチ)を復活させて冒険者達にけしかけた。
【宝具】
『混沌の紅き巨龍(ヒュージ・レッドドラゴン)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1-40 最大補足:100
立ち上がったときの大きさは30mを越えると思われる、巨大なドラゴン。
使用中は全ステータスがA相当になる。
その体躯を活かした引っ掻きや噛みつきだけでも強力。
両手からはファイヤーボールを放ち、流星を降らせる最強の攻撃魔法メテオをも使いこなす。
地下の場合はメテオではなくほぼ同等の落石攻撃で代用してくる。
レッドドラゴン特有の火のブレスも使用可能。
万全の状態で放たれたブレスならば、同ランクの防御を以て防がなければ焼き尽くされ即死する。
ブレスはドラゴンの体力が減少すると威力も減少するが、最低の威力でも人間が即死する程度の強さは保っている。
ブレスは体内に燃料を蓄える必要があるため、一日に3回までの使用制限がある。
原作ではドラゴンの鱗から作成したドラゴンシールドならば、大ダメージにはなるがブレスに耐えられる。
なのでドラゴンの鱗並みの神秘を含んだ防護ならば、即死しないくらいにダメージを軽減することは可能。
だからといって助かるとも限らない。
(原作でもブレスを食らって転倒した後起き上がりに残った判定がヒットして死ぬパターンがある)
『ミスタラを滅ぼせ、天を覆う魔人(シャドーオーバーミスタラ)』
ランク:A 種別:対城宝具 レンジ:1-60 最大補足:300
シンが復活を目論んでいた魔人は、聖杯戦争の舞台でも召喚することができる。
本来はシンの使用する復活魔法に加えて、シャドウエルフ達を儀式のために動員することで召喚していた。
ミスタラという地球クラスの惑星の文明をすべて破壊できるほど強大なはずだった。
しかしミスタラという世界の基盤がない以上、本来よりは弱体化されている。
具体的には模倣東京都を数日で破壊し尽くせる程度で、100m級の超高層ビル程度のサイズとなっている。
その分、協力者がいなくとも陣地作成スキルにより召喚用の基盤が完成すれば召喚可能。
一度発動すれば模倣東京都の主要地域を廻り破壊し尽くし、それを邪魔する者も攻撃する。
特殊な力は持たないが、その巨体を以て破壊の限りを尽くす。
破壊活動が終了するまでは消滅することはない。
ただし、本編の飛行戦艦からの多重砲撃のような対城宝具クラスの攻撃を当てれば戦意を喪失し消滅する。
また生命そのものに干渉するような宝具があれば、普通に攻撃するよりは楽にダメージが通るはず。
土地のマナを吸い取り活動するため、一度発動すればキャスターやマスターの魔力とは関係なく動く。
通常の復活魔法とは別枠であり、キャスターが消滅しても動き続ける。
その分キャスターの手でも制御することは不可能。
【weapon】
・スタッフ
きらびやかな装飾の杖。殴打武器としても使用可能。
魔法の効果を高めるが、無くても魔法の使用自体に支障はない。
【人物背景】
ミスタラ世界において魔物たちを率いて人間たちの国を滅ぼそうとした黒幕。
前作のゲームで前日談に当たる「タワーオブドゥーム」のラスボスであるデイモスも彼女の指揮を受けた協力者。
数多のモンスターや強力な四天王を率いて人間社会を破壊した。
しかし彼女を倒そうと冒険者達が立ち上がり、多くの難関を乗り越え強くなっていく。
四天王のナグパとともに冒険者達を一度は好きにできる状況に置くも、
眠らせただ放置するという圧倒的な余裕を見せつける。
しかしその後も成長を続けた冒険者たちは遂にシンの本拠地の城に辿り着いて、シンを打ち倒した。
しかしシンのもう一つの目的は巨大な魔人の復活であり、自分を倒そうと魔人の召喚はすでに止めることができないと告げて息絶える。
しかし公国の率いる飛行船団から集中砲撃を受けた魔神は戦意を喪失し召喚は中止され、世界は守られた。
なお、ドラゴンの角で作った武器はドラゴン特攻。ドラゴンの鱗は炎耐性。
【サーヴァントとしての願い】
復活し、今度こそミスタラのすべてを破壊して支配する。
そのため魔人を本当に人間では手のつけられない強さに強化する。
なお召喚された魔人は破壊以外の意思は持たないので、聖杯にかける願いも持たない。
【把握資料】
ミスタラ英雄戦記のタイトルでPS3のゲームとして移植されています。
archive.orgで発売当時出版されたゲーメストのムックがアーカイブされてるので、
資料として使えると思います( Gamest mook volume 34 )。
また2chのスレのテンプレに昔の攻略サイトのアドレスがたくさん貼られてるので、archive.orgで確認できます。
旧盤ダンジョンズアンドドラゴンズ関連の書籍はあれば便利かもしれませんが、たぶんネット上の資料でなんとかなります。
世界観は参考になっていますが、かなり独自のJRPG的な演出も多いゲームなので、厳密に基づいてなくても良さそうです。
【マスター】
影森みちる@BNA ビー・エヌ・エー
【マスターとしての願い】
できるだけ被害を出さずに、幸せになれる人を増やして聖杯戦争を終わらせたい。
【能力・技能】
・タヌキ獣人
人間態と獣人態の2つの体の状態を持つ、人間から派生した種族が獣人。
獣人態のモチーフとする動物は、個人個人が持つ獣性によって決まる。
獣人は人間を大きく上回る身体能力を持ち、また獣性に応じた性質や能力を持つ。
みちるはタヌキらしい性質を見せることは特にない。それはおそらく本質が人間だから。
・身体変化
彼女は獣人と化した特別な事情から、体細胞分裂能力が急激に発達している。
獣人態の姿ならば、身体を変形させ他の獣性を持つ獣人の能力を発揮できる。
【人物背景】
人間と獣人という種族が存在する世界。
獣人は人間より体は強いが粗野で社会性の弱い傾向が強く、近代以降はより人間から迫害される。
みちるは元々は人間の高校生だったが、ある事情によりタヌキの獣性を持つ獣人へと変化してしまった。
たった一人で獣人達の街だというアニマシティへ逃亡しそこで生活していくことになる。
しかしアニマシティは獣人たちの抱える問題を濃縮させたような都市でもあり、毎日事件が発生する。
みちるは狼獣人である大神士郎とともに、人間に戻る方法を探しながら問題の解決に当たっていくことになった。
【ロール】
都内の高校の高校生。両親と自宅で生活している。現在は不登校状態。
【方針】
キャスターともっとコミュニケーションを取って、街に被害を出したり凶悪な手段を取るのはやめさせる。
【把握資料】
口調や容姿の把握程度なら連載中の公式漫画が無料で見れるので便利だと思います。
ここから別の候補話です。
夜間の海の底で動いている一つの光源。
彼女がこの世界に召喚されたスタート地点は、何処かの海底であった。
「聖杯戦争というのに呼ばれて連れてこられたみたいでゲソが……
どうしてこんな所から始まるのでゲソ」
なぜ彼女は海底で問題なく過ごせているのだろう。
彼女の見た目はほぼ人間だが、その白い服に包まれた体は発光して周りを照らしている。
光の回らないところへはイカのような帽子の下の水色の髪……、いや触手がうねり周りの様子を探っている。
彼女の名はイカ娘。元の世界では深海から人間の住む陸上へやってきた侵略者。
「海の底で独りぼっちは寂しいし怖いじゃなイカ。
誰かいないでゲソか……?」
なぜこのような海底を彼女は泳がなければならないのか。
彼女の物語の舞台になった地は、東京都からは残念ながら外れていた。
さらに言えば、東京の海岸はほとんどが人工的なものにされており広い海水浴場を作る余地すらない。
この世界でのロールは元の世界での立場に近いものが基本的には用意されるが、
海の家の従業員というロールは用意し難く、海底からの侵略者の方にロールが当てられるに至った。
「夜の海は見通しが効かなくて嫌でゲソ……」
いくら海が本拠地の生物とはいえど、その膨大な生態系の中では一欠片に過ぎない。
開けた海底でイルカやシャチといった天敵に発見されてしまってはひとたまりもない。
しかし彼女が抱く感情は、恐怖よりも寂しさ方が大きいのが本当のところだ。
海の家れもんにて、多くの人々と関わり人間との生活の楽しさや暖かさを知ったからこそ、
この海底での一人ぼっちの状況に孤独感を抱くようになっている。
そうでなければ、常に発光して独り言を吐くなどするわけがない。
感情が生物としての生存本能を上回ってしまっていた。
彼女が目を凝らすと遠くに自分の放つ光を反射する大きめの構造物が見えた。
とにかく自分の身を隠したくてか、人工物の中に入りたくてか、そこを目指し向かい始める。
「あれはもしかして船じゃなイカ。
大きな船を作れるのに結局は海の底に沈んでしまうなんて、人間は海の力には勝てないのでゲソね」
一方で周りを強く照らせるほどの光は他の海の生物を寄せ付ける。
いつの間にか好光性の生物達が彼女の周りを泳ぎ始め、一群を形成していた。
集まった小魚はプランクトンを食べ、大型の魚は小魚を食べている。
それを見た彼女が食物連鎖に恐怖を感じ始めた頃には、もう遅かった。
ふと後ろを振り返ると黒い生物が目に入る。
さらにはどんどん大きく見えてくる。迫ってくる。
そして巨大生物は口を開けて人型に噛み付き、千切ってしまった。
光が近くで当たると黒と白のコントラストがはっきりした体色があらわになる。
イカ娘が最も恐れる水棲生物の一つ、シャチだ。
シャチはイカ娘を人間としてではなく、獲物のイカと認識したらしい。
しかし獲物の噛みごたえがないことに困惑し少し動きを止める。
「食べられたくないでゲソ!!」
イカのイカスミは粘度が高く、水中でもしばらくは霧散せずとどまる。
暗い海底では囮として十分な役割を発揮した。
イカ娘は沈没船まで、決死の勢いで触手を広げ水を噴射し泳いだ。
沈没船はもともと人間が使用するために作られただけあって、シャチの入れそうな大穴は存在しない。
中には白骨化した死体なども残っているが、
イカ娘にとってはただの死体など怖くなく、その身に迫る生物の恐怖だけが怖い。
「これで一安心でゲソね…………えっっ」
シャチは頭がよく、少しぶつかれば沈没船を壊せる可能性があることを知っていた。
沈没船は長く海底にいたせいか脆くなっており、衝撃の度に破片が飛び散ってくる。
水中でくぐもったドンドンという音と衝撃が襲いかかる。破壊されてしまうのも時間の問題だ。
「来ないでゲソ!」
船の隙間から触手を出して必死で叩きつけるが、噛み切られてしまった。
地上では丸太を切断できる威力の触手も、海中では水の抵抗で威力が弱まり叩きつけは有効でない。
「助けてでゲソ!!」
こんな場所に放り出されてそのまま食べられて終わるなんて嫌だ。
地上侵略の使命のためか、元の世界の人々と再び会いたいからかは分からず、
しかし彼女は助けを強く願った。
「ああ……」
遂に壁が大きく崩れ捕食者の姿が顕になる。絶体絶命。
「お願いだから誰か助けてでゲソ……」
本能的な恐怖に触手が限界を超え再生し反射的な防衛行動をしようとする。これなら助かるかもしれない。
しかし……いまだに現れなかった彼女のサーヴァントが、それより前に応えた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
『ほら、じゃあさ……元気になったら、また沈没船を一緒に冒険しよ?な?』
『スービエ……最後に名前を呼んで……あなたがつけてくれた私の名前』
『俺の愛するリル……俺のたったひとつの宝物のリル……なあ頼む……!
死なないでくれリル……』
『スービエ…………いっぱい……いっぱい……幸せをありがとう』
◇◇◇◇◇◇◇◇
聖杯戦争に俺を呼んでくれたマスター。
リルと同じ、大海に生まれた純真な少女。
きっとそれが、マスターとサーヴァントの間の縁だ。
聖杯を獲りに行くパートナーとして申し分ない!
◇◇◇◇◇◇◇◇
「サイクロンスクィーズ!!」
光とともに召喚される、槍を振り回す青い長髪の男。
槍は水の流れを生み、それは荒れ狂い渦を巻きながら船の外へ。
捕食者を巻き込んでも収まらず、水流はさらに強さを増していく。
遂には海面を飛び出し、竜巻へと変貌を遂げていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「聖杯戦争に呼ばれたサーヴァント、ランサーだ。助けに来てやったぜ、俺のマスターさん?」
渦潮が収まってゆき、イカ娘の光が照らす白い気泡が解けていく中でランサーは向き合う。
「た、助かったでゲソ…………。
そ、そう。私はマスターとしてここにいて、お前が私のサーヴァントでゲソね」
「ゲソってなんだよゲソって……」
「わ、私は海の使者のイカ娘だから、人間と違って話し方もイカみたいになるのは当然でゲソ」
「お、おう、そうかい」
自分の世界のモンスター達だってまともな喋り方をするよなと思いランサーは困惑した。
……まあ重要でもないので受け入れた。
「不思議とお前の後ろから触手の気配を感じるんでゲソが……。
もしかしてお前は隠れイカ男なんじゃなイカ?!」
「君も俺に真の姿があると感じることができるようだな。
人間じゃない海の生き物だからかねえ?」
「まあこの触手がイカとかタコとかかは俺もよくわかってねえが、イカ男というのは的を射てるな。
イカしたイカ男のランサー様! なんつって」
「やっぱりイカ男でゲソね!同族に遭ったのは久しぶりでゲソよ!嬉しいでゲソ!」
イカ娘は頭の触手を伸ばしてランサーの手を握ろうとする。
「それが触手なのかよ……まあ頭に触手ってのも、それはそれで便利だしな」
ランサーは触手を手で握り返す。
イカ娘はランサーの後ろに感じる触手も自分の触手を握り返してくれているように感じ、目を輝かせ感激だ。
「喜んでるとこ悪いんだが、さすがに俺とお前は同族じゃあないと思うよ。
俺は昔からこの姿だったわけじゃないからね」
「そうなんでゲソ?! ちょっとがっかりじゃなイカ……」
イカ娘の触手がへなへなとへたり込んだ。
「ごめんごめん。君のイカ娘は名前だけど、俺はイカ男って名前じゃあない。
俺の真名は、スービエ。よろしくな」
今度はランサーが、イカ娘の人間としての手を引き握った。
「俺を知ってる奴が参加してたら名前は隠したほうがいいし……まっ、ランサーとでも呼んでくれ」
「ランサーのスービエ、よろしくでゲソ」
そのとき、先程の戦闘でギリギリ持ちこたえていた壁が急にどしゃっと崩れた。
「わっ!驚いたでゲソ!そういえばさっきのシャチはどうなったでゲソか!?」
「少し手加減したからな。だいぶ目を回すだろうが……怪我までは、してないだろ。そのうち立ち直る。
危険な目に遭ったんだからもう近づこうとも思わないさ。群れでいたなら、そっちにも伝わるだろう」
ランサーは腕を組んでカッコつける。
「ま、あんな大きな海の生物だって、七英雄でサーヴァントの俺には敵わん」
「ランサーがすごく強いのはわかったでゲソ!でも、あいつは本来は敵のいない最強の捕食者でゲソ!
もう少し痛い目見させたほうがいいでゲソよ!ざまあみろって言いたいでゲソ!」
ランサーはすこし驚いた表情を作る。その感想はちょっと予想してなかった。
「いーや、これ以上はいいさ。痛めつけたり命を取ることはないと思うな」
「どうしてでゲソ?!」
「俺の彼女も言ってたんだが、海っていうのは誰のものでもないと思う。
そりゃ生き物は食べたり食べられたりもするけど、それぞれが必要な分だけだ。
みんな少しずつ他に迷惑を掛けながらも、みんながそれを跳ね返したり受け入れたりして共存して生きてるだろ」
「う、うーん……?」
「だから、そういう感情で傷つけたりすることはないんじゃないかねえ。
俺も昔は大海の覇者とか名乗って海を好きにできると思ってたりしたこともあったけど、変わったよ」
イカ娘は少し考え込むと、やがて答を出した。
「そうでゲソね!私はこれから地上を侵略して人間を支配するんだから、相応しい寛大な心を持つ必要があるでゲソ!」
侵略、支配という言葉にランサーが大きく反応した。
「お、君も人間を支配する侵略者なのか。
俺もワグナス達七英雄の仲間と一緒に、俺たちを陥れた奴らへの復讐の使命のもと、
人間たちを支配して利用しようとしたりしたなあ……」
「復讐……物騒でゲソね。もしかしてそれがランサーの聖杯にかける願いなのでゲソか?」
イカ娘は少し引くような表情だ。
「いや、確かに復讐は成し遂げられなかった。
少しずつ思惑は違ったけど、それでも仲間たちと全力をかけて動いたのに……だめだった。
けど、もういいさ。皆には悪いけど、俺は別の生きがいを手に入れたから」
ランサーは昔を思い起こしながら思いに耽る。
「俺の願いは、使命を果たそうとする中で出会い、そして愛した、たった一つの宝物……リルとともに、
復讐なんて考えることもない平和な世界に生まれ変わって楽しく安らかに暮らすこと、それだけさ」
「一緒に生まれ変わる……?どういうことでゲソ?」
「人間たちに殺された、リルは。……そして、俺も」
イカ娘は驚きながら、沈痛な表情に変わっていく。
「そんな……海を汚す人間たちはそんなこともするでゲソか……?
私の周りは優しくて面白い人ばかりだから、想像がつかないでゲソ……」
「……人間はとても冷たく怖い一面も持っている。
自分たちと異なるものを恐れ、排除しようとする……獣のようになって」
ランサーの表情が一瞬変わる。目の奥に怒りと絶望の炎が点ったかのようだ。
イカ娘は少し驚くが、それを見たランサーはすぐにおどけて見せた。
「ま、少なくとも俺の世界の人間はそういうものだったと俺は思ってる」
「そ、そうでゲソね!世界が違えば人間の性質も違うのかもしれないでゲソ!」
ランサーはイカ娘はきっと自分の想像もつかないような平和な環境にいたんじゃないかと、少し思った。
まあイカ娘だってテレビで残酷な人間の話を見たりもするが、やはりそれでは実感がなかった。
「恋人さんのことは、その、かける言葉が思いつかないでゲソ……」
「君が気に病むことじゃない。それより、もっと君のことを話して欲しいな」
ランサーはイカ娘に微笑みかける。
「それなら、その……私の叶えたい願いは……」
「うんうん言ってみて!聞きたいなーー!!」
ランサーが拍手して囃し立てる。イカ娘は沈痛な気持ちが変わり、恥ずかしくなってきた。
「……私は地上を侵略して、人間を支配する使命を持っているでゲソ。
海を汚す人間たちを成敗したいのでゲソが、それがなかなかできないのでゲソ」
「それはいい願いだな!海は誰のものでもないけど、汚しすぎると色んな生き物が生きられなくなるからなあ!」
ランサーは明るくイカ娘の願いを褒めた。イカ娘はつられてもっと話したくなる。
「それに私は強くなりたいでゲソ!まず今の所力で絶対に勝てない人間が一人いるんでゲソ」
「うん、強い人間ってのは本当に強いからねえ……」
「鍛えて考えて本気で挑めば勝てるのかもしれないでゲソ。でも、勝てたところで自然の生き物とか災害とか、
人間の兵器とかもっと恐ろしい脅威が世界にはあるのでゲソ。強くなければ人間の支配は務まらないでゲソ!!」
「マスターはなかなかいい願いを持ってるねえ!他にも考えてみなよ!」
「えーと、エ、エビを一生好きなだけ食べたいでゲソ!」
「エビ!? そうだねエビとっても美味しいもんねー。好きなだけ食べられたら幸せだね!」
完全に立ち直ったイカ娘は、今度は悩みだしてしまった。
「考えると叶えたいことがいっぱいあるでゲソ〜〜!どうすればいいでゲソ?!」
「でも単純な話、聖杯で叶う願いは一つと決まってるわけじゃないかもしれないでしょ?」
「……そうでゲソね!できることなら、できる限りの願いを叶えるのもいいでゲソ!」
ランサーはイカ娘が立ち直って、楽しいことを考えてくれて嬉しくなる。
そんなランサーに今度はイカ娘が問うた。
「それなら、ランサーは欲が無いでゲソ!他に叶えたい願いも何かあるんじゃなイカ!?」
「え、そうだなあ……そうだ、俺や仲間たちの力を認めて頼ってくれたワグナスの下で、
人々のために戦うのは大変だけどかけがえの無いやり甲斐のある日々だったなあ!」
「私も地上での人間たちとの生活は結構楽しいと思ってるでゲソよ!
ランサーにも楽しく過ごせる人達がいるんでゲソね!」
「おう!長い時間の中でみんな性格は変わっちまったりしたが、
吸収の法を使う前に戻れればまた皆楽しくやれるのかもな!」
もはや二人は、笑い合い触手を取り合って楽しく沈没船の中で泳ぎ回っている。
暗闇の水の中を光る触手がうねって周りを照らし、水の流れも壁に映し出されて幻想的ですらある。
「もっともっと叶えたいこといっぱい思いつきそうでゲソ!楽しくなってきたでゲソ!」
「そうだそうだ、願いは多く、夢は大きく持って行こうじゃないか!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
孤独が怖かったイカ娘は、自分の味方であり明るいランサーとすぐ打ち解けた。
楽しく願いの情報を共有した後は、状況を把握する時間だ。二人は落ち着いて話している。
「ところでここはどこでゲソか?
一度水面から周りを見てみたでゲソが、遠くに明かりがまとまって見えたでゲソ。
きっと島が近くにあると思うでゲソよ」
「俺もわかんねーよ。聖杯から与えられた知識だと東京という地域の何処からしいが、
俺のもといた世界にはそんな場所はなかったからな」
「東京はもちろん知ってるでゲソ!
テレビでもよく流れてる日本で一番の都会でゲソよ!」
「知ってるのか?俺は詳しくねえから、マスターの知識が頼りだぞ」
ところがイカ娘は不安な顔であった。
「でも……東京にこんな、海原の中に島のあるところなんてあったでゲソか?」
これはどういうことでゲソ……? よくわからないじゃなイカ」
「俺も頭を使って考えるのはそんなに得意じゃないんだよね……。
まーあ、どこかしら島に行って、現地の奴らに聞くしかないんじゃないか?」
二人はまだ気づいていない。
ここが東京のなかでも島嶼部と呼ばれる地域であり、こんな所に配置される参加者はほぼいないであることに。
二人が今いるのは、小笠原諸島父島近海の、アメリカとの戦争で沈んだ昔の沈没船の中の一隻であった。
「そんなにネガティブに考えるなって!
俺達の領分は水中なんだから、山奥がスタートだったりしたら目も当てられなかったはずだろ!」
「たしかにそうでゲソね!とりあえずこの沈没船は侵略完了して私の物でゲソ!
次は近くに見える島を侵略するでゲソ!」
「いやいや俺のおかげだよ……。まあいっか。
島を回って他の参加者共を叩いていくわけか。腕が鳴るぜ」
ここで二人は完全にやる気になった。
「私とランサーの力なら他の参加者がいようと、海に囲まれた島の一つくらい簡単に侵略できるでゲソ!」
「そうだな!海がテリトリーの俺達が、海に囲まれた小島で負ける道理がねぇよ!」
意気が空回りしているということに二人はいつ気づくのであろうか。
◇◇◇◇◇◇◇◇
イカ娘は沈没船の無事だった一角で、海藻を布団にして眠っている。
一度はやる気になったものの、沈没船にたどり着くまで行動し放しだったイカ娘に夜の間休息するようにランサーが提案したからだ。
最初に上陸する場所をどれかに決めるにしても、明るくなってよく様子を見てからのほうが都合が良い。
ランサーは外敵が寄らないように、イカ娘のそばに立って船の外を警戒している。
サーヴァントには基本的に睡眠は必要なかった。
(このマスターを吸収の法で取り込めば力も令呪も奪えて強くなれるんじゃあないか?
いや……そんなことは絶対にしない。リルと同じような大海に生まれた女の子だ。そんなことはしたくない)
(それに、純朴なこの子だってワグナスやリルと同じように俺を俺として受け入れ認めてくれるのかもしれない。
この子は純朴なままでいるべきだ。必要とあれば俺が手を汚す。
もしも聖杯で願いが一つしか叶わないなら、諦めてもらうことにはなるかもしれないけどな……)
ランサーは一人思案をしながら、夜更けは過ぎていく。
◇◇◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇◇◇
『……ワグナス、ようやく解ったぞ。
……これが……憎悪と復讐の心か』
スービエの心の底に点った憎悪と復讐の炎は、今は燃え上がってはいない。
しかしその残り火は燻っている。
聖杯戦争は多種多様な参加者が願いを踏みにじり合い、そこには憎悪も多く渦巻く。
彼の心の中にその炎が再び燃え上がる刻は、何時だろうか。
『皇帝いいいいいいいい!!!!
…………許さんぞ…………』
◇◇◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇◇◇
人外の生物であるイカ娘も夢を見る。
今いるのと同様に海の底に沈んだ船を、天からの目線で見ているような夢だ。
そこに人間の姿をしたランサーが、中を探り宝探しでも楽しもうとやってきた。
後ろからついてくるのは光の当たる海の流れのようなヒラヒラした服に、貝やサンゴの装飾もつけた女の人。
きっと、この人がランサーの恋人さんなんだろう。
この女性にはなんだか本能的に自分の天敵である大型海獣類と似た恐怖を抱かされるが、
ランサーと楽しそうにしている姿を見ると興味をそそられ、また気分が落ち着いてくる。
そこに感じるのは、自分が人間たちと紡ぐことができた異種族間の楽しい交流生活と似たような感覚だった。
きっとこの女の人との良い思い出があるから、ランサーも復讐という使命より優先したい願いを持ったんだ。
自分だって地上を侵略する使命よりも、地上で関わった人々との楽しい生活を続けたい…………。
…………いやそんなことない、絶対ないでゲソ!
◇◇◇◇◇◇◇◇
スービエたち七英雄のいた世界では、古代人達が環境を改変過ぎたり、
生物の摂理に反して永劫生きる術である同化の法などを使い出したためそれを自然の摂理は排除しようとした。
自然に反するうえ自然を破壊していく古代人達を滅ぼすために現れ出したモンスター達。
古代にて七英雄はそのモンスター達を滅し、人々を守るため立ち上がった。
すなわちスービエとイカ娘は大本を辿ると正反対の立場に当たっている。
そしてスービエは今の姿になるまでに多くのイカやタコなどの水棲系モンスターを取り込んできた。
不幸にか幸いにかどちらか知れず、考えることが得意でないスービエはまだその事実に気づいていない。
イカ娘も学習能力、計算能力は高いが常識があまり備わらないため考えることは得意でない。
しかし二人の間にはこのような火種も燻っているのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
【クラス】ランサー
【真名】スービエ
【出典】SaGa THE STAGE‐七英雄の帰還‐
【性別】男性
【属性】混沌・中庸
【パラメーター】
筋力B 耐久B 敏捷C 魔力D 幸運C 宝具B
【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
【保有スキル】
吸収の法:A
七英雄の秘術。
倒した敵を吸収し力や能力を得ることを積み重ね、人外の力へ至る。
サーヴァントとして召喚されたため、これ以上吸収しても姿については元のまま固定となっている。
また精神面が吸収した者の影響を受けて変質してしまう恐れがあるという。
怪力:B
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。
大海の覇者:A
ランサーは今まで水棲生物のモンスターを吸収してきたため、
頭足類のような触手を持った姿を手に入れ水中での活動が得意となった。
強い意志でモンスターの力を抑え込むことで、外見的には人間の姿で過ごすこともできる。
ごく普通の一般人(やステージの観客)は、ランサーが本気で戦ったり表に出そうとしない限り真の姿に気づくことはない。
【宝具】
『全てを飲み込む荒れ狂う海(メイルシュトローム)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1-80 最大捕捉:200
肉体を引き裂くような激流や津波を作り出す。
魔術ではなく技であり、腕力により槍か触手を振り回すことで作り出している。
陸上だとどこからともなく水を呼び出し津波とするような形で使用するが、
水上や水中に比べて威力が1ランク分低下、レンジ、最大捕捉も上限が半分以下になる。
『俺の愛するリル、共に永遠に(ユア・マイン・リル・ハルフール)』
ランク:A 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大補足:-
海の主の娘の骸を召喚して吸収の法を用い、
肌は白く髪は触手になり、下半身が鯨のようになった第二形態へと真の姿を転身させる。
筋力、耐久、敏捷、魔力がそれぞれ1ランク上昇するが、幸運はEへと低下してしまう。
スキルも対魔力がB相当、怪力がA相当、水棲生物がEX相当になる。
また武器がAランク相当の神秘を内包する海の主の娘の角となる。
一方で性格も変化し、属性が混沌・悪に変化し勝つためには手段を選ばなくなってしまう。
願いも皇帝や古代人、海の主の娘を迫害した人類など自分を苦しめた者達への復讐へと変化する。
基本的にこの宝具は使いたがらない。一度発動させると自力での解除は不可能。
【weapon】
・槍
原作の第一形態は素手だけど、外伝作では槍使いとして設定されている。
もともと第二形態では槍(海の主の娘の角)を使うので特に違和感はない。
原作で内部データ的に装備してるのが市販最強武器の黒曜石の槍なので、
サーヴァント状態で装備してるのもたぶん黒曜石の槍あたり。
・体術
原作での触手の一撃は語り草になるほどの高ダメージで盾防御が成功しても即ダウン級、
他にもそれ以上に強力な体術技の千手観音を放てたりと徒手空拳でも十分戦える。
触手を巻き付け締め付ける攻撃は、血流を阻害し麻痺させる効果がある。
・水技
水棲系のモンスターを吸収して得た技。
得意技は小規模な竜巻や渦潮を起こし相手を中心に巻き込む、サイクロンスクィーズなど。
また水技と同系統のため電撃も使用可能。単に放ったり槍に電気を帯びせたりして攻撃する。
【人物背景】
太古の古代人たちの文明があった時代、古代人たちは同化の法という術を用いて永遠の命を紡いでいた。
そんな中で同化の法を使うまもなく人間を殺すモンスター達は増殖を続け、大きな脅威となっていた。
モンスター達から人々を守るために神官であったワグナスの呼びかけの元、7人の面々が集まった。
7人は同化の法を変質させた吸収の法を用いて、モンスターを吸収し人外の力を手に入れモンスターを討伐し、彼らは七英雄と称されるようになる。
しかし権力や身分を重視し欲に塗れた大神官の策謀により、七英雄は市民からモンスターと同化して怪物になったと蔑まれ恐れられ、
さらには大災害から別次元に逃れるために用意された次元転移装置を利用されて別次元へ追放されてしまう。
スービエは七英雄のリーダーであるワグナスの従兄弟。
腕っぷしが強く王国の兵士として街に派遣されていたが、
軽い性格で女癖が悪く、男達からは恨まれ街の風紀を逆に乱す有様だった。
しかしワグナスだけはその力を見出し、自分たちと一緒に戦ってほしいと招集してくれた。
スービエはワグナスの同志でありたい、それだけの感情で七英雄となった。
そして、別次元へ追放ののちワグナスの古代人への復讐の感情にも付き合うことになった。
元の世界へ戻ってきたときには古代人たちは別次元へ旅立っており、
七英雄も数多の次元を旅した結果性格が変質し各々別行動になってしまったが、現代人を利用して各々の思惑を進めていく。
スービエは空を支配するワグナスに付き合って海を支配しようとしていたが、人間に迫害されていた海の主の娘と恋仲になる。
しかしバレンヌ帝国の皇帝が伝承法という力を手にしたことにより、人々を脅かしていた七英雄は次々と討たれてしまう。
スービエは海の主の娘にリルと名前をつけ愛し合っていたが、リルは皇帝に殺されてしまいスービエは本物の憎悪と復讐の心を手に入れる。
スービエはリルを吸収し皇帝の率いる舞台と決戦を挑み、大きく苦しめるも討たれてしまう。
最後に抵抗をやめて殺されるのを選んだように見えた理由はわからない。
吸収されてわずかに残っていたリルの優しい心、親を殺されても復讐を望まなかった心がスービエに復讐を止めさせたのか、
あるいはスービエ自身がワグナスにずっと付いてきて復讐にまで付き合ってしまった虚しさを自戒したからなのか。
その後はもしものために七英雄全員が亜空間に保管していた本体も討たれ、七英雄は完全に消滅した。
七英雄の帰還で描写されてない部分は、改変部分を除いて原作(SFC、アプリ版)のロマサガ2で補って構成。
七英雄については設定について詳しくまとめて考察されたサイトも多いので、参考にできます。
【サーヴァントとしての願い】
海の主の娘を復活させて、楽しく過ごした日々を取り戻したい。
自身は七英雄の仲間たちともども吸収の法を使う前の姿で復活し、彼らともモンスターの脅威のない世界で楽しくやりたい。
【マスター】
イカ娘@侵略!イカ娘
【マスターとしての願い】
地上を侵略して人類が海を汚すのをやめさせるでゲソ!
エビを一生好きなだけ食べたいでゲソ!
千鶴やシャチにも負けないくらい、自然災害や兵器にも対抗できるくらい強くなりたいでゲソ!
……でも、とりあえずは生きて元のように海の家に戻りたいでゲソ。
【能力・技能】
イカとしての能力を使える……が、その力は少々常識を超えている。
髪の部分は触手となっていて、伸び縮みし力も器用さも高い。切られても1日足らずで復活する。
口からイカスミを吐く。植物にかけると異常に成長するなど効能は謎。
ホタルイカのように発行できるが、彼女はまんべんなく全身をかなりの強さで光らせる。
腕輪を操作することで体重が変化する。
服は特殊な素材なのか汚れは簡単に落ち、傷ついても再生する。
上陸したばかりなので人間的な常識は持ち合わせておらず変な思考や行動をすることもあるが、
潜在的な知能はかなり高く数学の難問を解いたり、英語を短時間で覚えたりした。
【人物背景】
海を汚す人類を成敗するため、人類を侵略しようとする海からの使者。
しかし最初に上陸した海の家「れもん」の壁を壊してしまったところ、弁償の借金返済のため働かされることになる。
その性質は純真で世間知らず。好奇心旺盛で色々なことを学ぶ。好物はエビ。
人類の人口を1000人程度だと思ってたり、人間の技術をよく知らなかったりとあったが、
地上侵略は大変だと思うものの諦めてはいない。
【ロール】
海を汚す人類を成敗するため、人類を侵略しようとする海からの使者。
残念ながら海の家とは特に関係はない。
【方針】
自分とランサーの願いを叶えるため、積極的に闘い聖杯を取りに行く。
人間を殺すつもりはない。負かした相手は奴隷として使ってやる。
以上です。猶予時間を作っていただきありがとうございました。
皆さんたくさんの投下をありがとうございました!
自分が建てる際に想定していたよりも数倍多い数の候補作をいただけてとても感謝、感激しております。
>>588 でアナウンスした通り1時まではオーバータイムとして解放しておきますが、先にお礼の方を記させていただきました。
以降の予定については明日の夜辺りにでも改めてアナウンスさせていただきます。
ギリギリになってしまいましたが、投下させていただきます。
私はヒーローが好きだ
私はヒーローが大好きだ
平和を守る為
正義を貫く為
悪と戦うその姿に痺れるし憧れる
そして
同じくらいヴィランも好きだ
世の不条理に逆らって
たとえ悪と蔑まれようと
何度正義に阻まれても立ち上がる不屈の信念
絶対折れない悪役が私は大好きだ
だからだろうか
私はこの聖杯とかいう願いを叶える夢のアイテムを巡る戦いに引っ張りこまれる前に声を聞いた気がする
常に悪として正義の前に立ちはだかり
その都度正義に破れ去る
あくまでも必要悪として英雄を際立たせる為に
それでも決して夢を諦めない
そんな「彼」の声をだ
◆◆◆
ぼくはかいじんがすきだ
色はもちろん黒が好き
皆、なんで?って聞くがセンス無さすぎだ
カッコイイからに決まってるだろ
まあ、俺の話は今はいいか
また機会があれば気が向いた時にでも話してやるわ
あっ、マスターって夢でサーヴァントの記憶とか見られるんだっけ?
うわー恥ずいわー色々と恥ずいわー
ったく、サーヴァントってのも色々面倒臭ぇもんだなオイ
だがまぁ、その程度は必要経費として払ってやるか
初回取引サービスだ、ありがたく思えよ
さあ、行くぞマスター
出勤の時間だ!
◆◆◆
界聖杯によって創り出された偽りの東京。
偽りと言えどもそこにはその街で暮らす人々が確かに存在する。
もっとも、彼らはこの東京で可能性の世界から連れてこられたマスターとサーヴァントによる聖杯戦争が行われようとしている事などまるで周知していないのだが。
あくまでもNPCとしての役割をあてがわれた者として、今日も彼らは日常を謳歌するのだ。
今この時も。
都内にあるショッピングモールの一角。
様々な催しが行われるイベントスペースに、小規模ながら人だかりができていた。
今日はTVで放送されている特撮ヒーロー番組のアクションショーが開催される事が告知されていた為、多くの親子連れや番組のファン達が集まっていたのだ。
これから始まるのは老舗特撮番組製作会社・花形特撮によって製作され、毎週日曜朝に放送され子供達からの人気も高いシリーズ最新作『銀河新星グレイトZ』のショー。
集まった観客はヒーローの登場を今か今かと待ちわびつつ談笑も交えて着席していた。
『はーい、会場に集まってくれたお友達のみんな!こーんにーちはーっ!』
「「「こーんにーちはーっ!」」」
ステージに登場したMC担当のお姉さんの呼び掛けに、子供達が元気に応える。
微笑ましい光景の後、お姉さんからショーを観る際の注意点やヒーローへの応援の仕方が説明され、いよいよ本編が開始された。
だが、こういったショーで最初に現れるのがヒーローとは限らない。
「ヌハハ………ヌハハハハハハ!!」
ややエフェクトがかった笑い声が会場に木霊する。
ステージ横のテントから現れる一人の影。
後方からは簡素なマスクを付けた黒づくめの戦闘員とおぼしき面々も従えていた。
シルバーをメインカラーに据えたややメカニカルなアーマーに身を包み、頭部はLEDか何かだろうか、紫色に発光する鋭い眼が輝いている。
何故か身体のそこかしこに様々な企業のロゴマークが貼られていたが、間違いなくヒーローと戦う悪の怪人であると観客は察した。
だがこのような怪人は番組には登場していないはずだと視聴者は首を傾げた。
ショー限定のオリジナルの怪人だろうか?
「会場の諸君、今日は我々『株式会社悪の秘密結社』の為に集まってくれて真に感謝する。これよりこの○○モールは、我が社が乗っ取らせてもらう!! 早速だがショーは中断し、この会場に集まった子供達を弊社の社員としてスカウトさせてもらおう! 行け、我が社の優秀な戦闘社員達! 面接の時間だぁ!!」
「「タィーッ!」」
口上と共に客席に降り立つ怪人達。
泣き出す子供もいる中、期待通りに会場に声が響いてきた。
「待て!!」
「ぬぅっ、この声は!?」
軽快なBGMと共に、ヒーローが姿を現す。
赤い重厚なアーマーを纏い、胸には勇壮な『Z』の文字。
一転して子供達の顔に笑顔が戻っていた。
「銀河新星、グレイトZ!!」
「出たな、グレイトZ。悪いが我が社の東京侵略を邪魔するようなら容赦はせんぞ!」
「悪の秘密結社、お前達の悪巧みはこの私が打ち砕いてみせる!」
「ハッ、やれる物ならやってみろぉ!!」
その後は流れるようにショーは進行していった。
時にヒーローと悪役のクオリティの高いアクションに魅了され、時に悪役のコミカルな掛け合いに笑いが起きる。
そんなやり取りの後、話は終盤。
悪役に追い詰められたヒーローへ客席からの応援を届けるというお約束の流れへと差し掛かった。
『みんな、大きな声でグレイトZを応援するよ! せーの!』
「「「がんばれーーー!!」」」
『もっともっと大きな声で! せーの!』
「「「がんばれーーーーーーーっ!!」」」
「ありがとう、会場のみんな………はああああああ!!」
「ば、馬鹿な!?」
流れる主題歌と共に立ち上がるヒーロー。
そこからは怪人達を一転攻勢に転じてなぎ倒す光景が子供達に見せられた。
正義は必ず勝つ。
不変とも言うべき概念を教えるかのように。
「とどめだ! グレイトマキシマム、カッタァァァァァァ!!」
「ぐあああああああ!! おのれぇぇ、悪の秘密結社ぁ………バンザイィィィィ!!」
必殺の斬撃が繰り出され、爆発のSEと共に捨て台詞を叫びながら怪人達は退場していった。
会場からは拍手が巻き起こり、ヒーローもそれに応える。
見ごたえのあるショーに端から見ても観客も満足した様子が手に取るように分かった。
もはや見慣れぬ怪人の素性など、彼らには些細なことであった。
「いやあ、本当にありがとうございます。先方の発注ミスで怪人のスーツが届かないと分かった時はどうなるかと思いましたが、おかげで助かりました!」
「いえいえ、弊社としてもこういった場面でそちらのお力になれるのは光栄な事です。今後もこういった案件がございましたら、是非ともご連絡いただければ幸いです、ハイ」
ショー終了後の楽屋裏では、主催側の管理職とおぼしき人物が先ほどまで暴れていた怪人に頭を下げる姿があった。
どうやら彼らは臨時の代役としてこのイベントに呼ばれたらしい。
「では我々はこれで。『次の仕事』が控えていますので」
そう言って戦闘員と共に怪人はショッピングモールを後にしていった。
ここに至るまで、誰も気が付かなかった。
ショーの着ぐるみかと思われた怪人達が、イベント終了後も一切素顔を晒さないことも。
この偽りの東京で血で血を洗う聖杯戦争に参加するサーヴァントが、白昼堂々人々の前に姿を見せて戦っていたという事実すらも。
◆◆◆
「お帰りなさいませ社長、そちらは問題なく業務終了のようですね」
「まあこっちとしても『いつもやってる仕事』だから慣れたもんだわ。ところでそっちの進捗はどうなってる?」
「ご心配なく。こちらも社員一同この東京一帯に散らばり、聖杯戦争に関わっている可能性のある事件の調査、及びマスターと思われる人物の情報収集を進めている所です。マスターに関しては確実性がある情報は約4割程度なのが現状ですが……」
「いや、予選の段階でそれだけ集まれば充分だ。現状我が社に問題があるとすれば……」
都内某所にあるオフィスビルの中に構えられた(株)悪の秘密結社の社名が掲げられた事務所内。
そこでは先ほどまでショーに出ていた怪人が椅子に座り聖杯戦争についての情報を連絡され、神妙な面持ちで傍らにいる人物に話しかけていた。
見ればその人物も、表が執事服で裏がメイド服という奇抜な格好をし、頭からは羊のような角を生やすという人間離れした容姿をしていた。
彼の名はヤバイ仮面。
福岡県に実在する企業『株式会社悪の秘密結社』の代表取締役を勤める怪人であり、この界聖杯を巡る聖杯戦争に参加する『社長(プレジデント)』なるエクストラクラスのサーヴァントとして召喚された英霊なのである。
彼らが人外の存在と周囲から認識されなかったのは、ヤバイ仮面のクラススキル「会社作成」により作られた会社による隠匿能力の影響であり、これにより彼らは『株式会社悪の秘密結社』が健在な限り、外部の存在から一切の魔力を探知されず「ショーのキャラクター」としてしか認識されないのだ。
そして彼の周りにいる者達も全て宝具「悪の秘密結社、出勤!(ワルソナヤツラガソロイブミ)」によって独立サーヴァントとして召喚された彼の部下である社員達なのである。
「社長!今戻ったわ!!」
「おおマスターか、噂をすればなんとやらだな。どうだそっちの首尾は?」
事務所のドアを開き、現れたのは一人の女性。
いかにもな軍服を身に纏い、左目にはXマークが描かれた眼帯という端から見ればコスプレかと思われそうな出で立ちの金髪の女性は、れっきとしたこの聖杯戦争のマスターの一人として呼び出された人物である。
彼女の名はブラックジェネラル。
元の世界ではこの世の秩序にペケを示すために世界征服を企む悪の秘密結社「RX団」の女幹部を勤めていたほどなのだが……
「渋谷方面を隅々までくまなく調べてきたけど……ブレイブマンのコピーは影も形も見つからなかったわ……」
「お前は何を調査しに行ったんじゃボケェェェェェェ!!」
「たわば!?」
的外れとかいう次元を越えた報告を萎れた表情で伝えるブラックジェネラルの顔面に、ヤバイ仮面の鉄拳がぶちこまれた(流石にサーヴァントの攻撃を人間が受けたらただでは済まないので手加減はしてあるが)。
「おいシャベリー! お前が着いていきながらなんたるちあサンタルチアこのザマはぁ!?」
「いやいやいや勘弁してくださいよ社長ぉ! うちのマスターの暴れ馬っぷりは社長もよ〜くご存知でしょう? 私が制御できてたらとっくに社長が制御できてますって! ていうかサーヴァントがマスターの手綱を握らなきゃいけないってこれどういう状況なんですか!?」
鉄拳制裁されたブラックジェネラルの背後から霊体化を解除して現れたのは、顔面に「AHK」と描かれたマスクを付けた騒々しい怪人。
悪の秘密結社の広砲部長・シャベリーマンだった。
彼は先ほどまで護衛としてブラックジェネラルと共に聖杯戦争のマスターに関する情報を探すべく外回りに出掛けていたのだが、相当にうんざりした様子でヤバイ仮面に抗議をぶつけた。
彼らのマスターであるブラックジェネラルは同じ悪の組織に属する存在というのもあり相性的にもよく、身体能力や頑丈さといった面は非常に優れていたのだが、元いた世界ではブレイブマンと呼ばれるヒーローにガチ惚れしており毎度検討違いなアプローチをしては必殺技でぶっ飛ばされているという、はっきり言って非常に残念なキャラをしており、事実を知ったヤバイ仮面達を呆れさせたほどだった。
「……社長、ぶっちゃけ今の内に鞍替えも考えておいた方が良いのでは?」
「まあお前の言いたい事ももっともだが、忘れたか? この偽東京に支社を作った時の事を」
「いえいえ、忘れるはずがありませんよ、あの初陣は……」
それはブラックジェネラルが界聖杯に召喚され、ヤバイ仮面と出会って数時間後の事。
自身のスキルで拠点となる会社を作成しようとした直後、偶然通りかかった別の主従に襲いかかられたのだが、二人は難なく彼らを返り討ちにした。
ヤバイ仮面の方はセイバークラスのサーヴァントを相手取る事となったが、自身の宝具で社員達を召喚しての物量戦に持ち込み圧倒。
加えてもうひとつの宝具の力もあり、あえなく相手のセイバーは消滅となった。
そしてマスターの方はと言うと。
「……あの執拗なまでのローキックからの金的によって見たことないレベルの苦悶の表情浮かべて崩れ去る相手のマスターの姿は、忘れたくても忘れられませんよ……」
「……だろ? あいつは性格はアレだが、こと戦闘力に関しては合格点だ。まだ予選も終わっていない現状で見限るにはまだまだ早い。多少のアレな部分は今は目をつぶれ」
「ハァ……まあ、社長がそう仰るなら私も従いますけど……」
「まあ、それはそれとしてだ」
シャベリーマンを説得し終えたヤバイ仮面は、萎れた表情で事務所のソファーに横たわる自身のマスターに歩み寄る。
「いつまで畑に放置された野菜みたいになってんだマスター! 仕事しろ! 立場上お前今我が社のアルバイトだって事を忘れんなよ?」
「うう……社長、だって仕方ないじゃない……こちとら着の身着のままこんな所に呼び出されてブレイブマンに会えず早数日……いるかもしれないブレイブマンのコピーも見つからずそろそろスマホのブレイブマンフォルダで飢えを凌ぐのも割ときつくなってきたのよ……いつ終わるのこの予選!? 死ぬ! 他のマスターに殺される前にブレイブマン欠乏症で息絶える!!」
「気をしっかり持て! 忘れたか? この戦いに勝ち残れば聖杯の力でどんな願いでも叶うんだぞ? その後は元の世界でお前の好きなブレイブマンを好きにすればいい!!」
「ブレイブマンを……好きに!?!?」
それを聞いた瞬間、ブラックジェネラルは跳ね起きた。
さっきまでの萎れ具合が嘘みたいに。
「だから今は耐えろ。どれだけ地を這い泥を啜る事になろうとも、最後に勝ちさえすればいい。我々はまだ負けてない……」
「ええ、『勝ってないだけ』!!」
やれやれと肩をすくめて調子を取り戻したマスターを見つつ、ヤバイ仮面は椅子に座り直して頬杖を突く。
「フフフ……あの二人、まるで噛み合わぬかと思えば……存外に良い組み合わせになるかもしれぬな?」
「おや、修羅王丸さん、いつの間にお戻りでしたか」
「私にはだいぶ凸凹なバディにしか見えませんけどねえ……あっ、この作品を読んでいる皆さぁん、我々が残れるかはわかりませんが、チャンネルはそのままで!」
【クラス】プレジデント
【真名】ヤバイ仮面
【出典】ドゲンジャーズ
【性別】男
【属性】混沌・悪
【パラメーター】
筋力:C 耐久:B 敏捷:C 魔力:E→EX 幸運:C 宝具:A
【クラススキル】
社長:C
何らかの企業・組織を統括する立場にある者が備えるスキル(シャッチョサンカッコイイネー)。
同ランクの「カリスマ」と同等の効果を持ち、自身の会社の社員と認識した存在の能力を一時的に向上させられる。
株式会社悪の秘密結社は有給も申請可能なホワイト企業なのだ。
会社作成:C
企業の社長として自らが経営する「会社」を作成する。
ヤバイ仮面の場合、ランクが低い為作成できるのは「事務所」が限度である。
聖杯戦争が開催されている間この会社が健在な限り、会社及びその関係者は外部からは一切の魔力を感知されずあくまで「ショーのキャラクター」としか見られず、サーヴァントと認識されない。
彼らの存在を正確に認識する為には、対峙しての直接戦闘、あるいは会社への飛び込み営業(潜入)といった手段が必要となる。
【保有スキル】
仕切り直し:B
戦闘から離脱、あるいは状況をリセットする能力。
また、不利になった戦闘を初期状態へと戻し、技の条件を初期値に戻す。
ヤバイ仮面の場合、相手を「ヒーロー」と認識している場合に限り必ず逃走に成功する補正がかかる。
悪役が引っ込んで場面転換するのはヒーローショーのお約束である。
悪役専門:A
「誰もが誰かのヒーロー」「人を見たらヒーローと思え」の理念の元、悪役として全国の様々な正義の英雄と戦いを繰り広げてきた経験から保有するスキル。
自身が相手にとって「悪役」として立ち振る舞っている場合に限り、全てのステータスに補正がかかり、柄にもなく「正義」として立ち振る舞うと逆に全てのステータスにマイナス補正がかかる。
黄金律:E
人生においてどれほどお金が付いて回るかという宿命を指す。
生前何かというと会社経営に四苦八苦し、銀行からの借金を最大の敵と見なしていたヤバイ仮面には基本的に大金とは縁がない。
話術(偽):C
対峙した相手との交渉を有利に進める為のスキル。
ヤバイ仮面との対話で彼の意見に正統性があると判断した相手は最終的に彼の賛同者となる。
「口からでまかせで銀行からの融資を受けることは福岡県内随一の自信がある」とは本人の弁。
ただし同ランク以上のカリスマ、精神汚染系スキルを持つサーヴァントには効果がない。
分身:B
自身を含めて三体の分身体を生み出すスキル。
分身は本体と意識を共有している為、高い連携能力を備えている。
分身体の正体は福岡支社長と東京支社長とも言われているが、真偽は不明である。
負けてない、勝ってないだけ:A+
どれだけヒーローに苦戦し敗れ去ろうとも、大志の炎だけは決して絶やさないヤバイ仮面の座右の銘。
例え地を這い泥水を啜る事になろうとも、絶対に諦めず何度でも立ち上がり現れる。
同ランクの「戦闘続行」と同等の効力を発揮し、自身が敗北する状況が確定した場合に限り派手な爆発効果と共に自身の死を偽装して戦場から気付かれずに離脱する事が可能。
……ただし対ヒーロー用の演出なので対峙した相手が「悪」属性のサーヴァントの場合、高確率で偽装は見抜かれる。
【宝具】
『悪の秘密結社、出勤!(ワルソナヤツラガソロイブミ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
「株式会社悪の秘密結社」に所属する戦闘社員(怪人)をスキル・宝具を持たない独立サーヴァントとして召喚する宝具。
各人の個別・一斉召喚も自在で、彼らは戦闘において死亡しても24時間のインターバルを置けば再度召喚が可能である。
悪の秘密結社には数多くの怪人が在籍しているが、今回の聖杯戦争で召喚可能なのは以下の面々に限定される。
社長秘書兼罪務部部長 メイド執事
筑前忍八剣衆元締及び社外相談役 修羅王丸
広砲部長 シャベリーマン
鋭業部部長 エボシ武者
魔狼怪人ガルフ&ガリア
ネクタリス
ウザギ
戦闘社員カラミー
なお、戦闘社員カラミーに関しては戦闘員故にインターバルを置かずに魔力の続く限り無尽蔵で召喚が可能だが、ヤバイ仮面の性格上過剰な労働をさせられる事は基本ない。
『直帰しようと思ったけどもう少し頑張ろうかな(バージョンサービスザンギョウ)』
ランク:C+ 種別:対人〜対軍宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:20〜30
ヤバイ仮面が本気を出した際に使用される重装備形態への変身。
左腕の「オンリーマイレールガン」、右腕の「名刀鍵付きZIP」、両肩の「小型ミサイルポッド」、両腰の「バーターショット」、背部の「カラミティソード×10」といった数々の武装で相手を蹂躙する。
必殺技は「終電乗りそびれブレイカー」。
……ただしあくまで「サービス残業」なので、これを使用している際のヤバイ仮面自身のモチベーションは限りなく低い。
また、この形態からお子様への安全に配慮して武装を排除した軽装形態「グリーティングモード」へも変身可能。
各パラメーターは以下の通り
サビ残
筋力:A 耐久:B 敏捷:D 魔力:E〜EX 幸運:C 宝具:A
グリーティング
筋力:C 耐久:C 敏捷:A 魔力:E〜EX 幸運:C 宝具:A
『漢委奴国王印(ヨウコソシュラノクニヘ)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
天明四年(1784年)4月12日、福岡県福岡市東区志賀島において農作業中の百姓に発見され、日本の国宝にも指定されている金印。
それそのものに強大な魔力が蓄積されており、ヤバイ仮面はかつてこの金印の力を利用して一時的とはいえ福岡県全土を制圧する事に成功している。
宝具としては所有する対象の全ステータスの永続的ブースト及び、非常に強力な魔力タンクの役割も兼ねており、ヤバイ仮面はこの宝具を所有している限り魔力のステータスが跳ね上がり「悪の秘密結社、出勤!」で召喚される社員達の現界用魔力を肩代わりしてもらう事が可能である。
また自分以外の対象に金印の魔力の一部を授与し強化する事もできるが、授与された対象が倒されるか致命傷レベルの傷を負った場合、金印の魔力は外部に排出され最も近くに存在する別の対象(サーヴァント・マスター・NPCや無機物の区別なく無差別)に移ってしまう。
さらに金印の全魔力を解放する事で、ヤバイ仮面は別世界の自身の姿でもある「ヤバイ仮面ver.COMIC」へと進化し、声も関智◯っぽくなる。
パラメーターは以下の通り
筋力:A 耐久:A 敏捷:A 魔力:EX 幸運:C+ 宝具:A+
【weapon】
・銀ダラブレード
ヤバイ仮面が愛用する剣。
総重量100kgらしい。
その刀身で相手のヒーローや部下のボーナスを容赦なく切り落とす。
剣先から紫色の光弾を発射する事も可能で、この剣から「コンプライアンスアタック」「ボーナスカット」といった必殺技を繰り出す。
ちなみに名前の由来は「見た目が銀ダラに似ているから」。
・ヤバイバルナイフ
素早くヒーローを切り裂くサバイバルナイフ。
とても軽いのでヤバイ仮面は出来たら銀ダラブレードよりこっちを使いたいらしいが、使う頻度はあまり高くない。
・車と恋は急に止まれないマン
ヤバイ仮面の愛車であるトヨタS20型クラウンベースの車怪人。
名前はヤバイ仮面が酔っ払った時に付けられた為にこのザマになった。
毎年5月の自動車税でヤバイ仮面は泣いているらしい。
自我がある怪人だが、今回の召喚では武装扱いとして登録されている。
必殺技は「ごっついクラクション」
【人物背景】
日本の福岡県に実在する企業『株式会社悪の秘密結社』の代表取締役社長を務める怪人。
あらゆる会社の上場を手中に納め、ゴミゼロ・落書きゼロ・飲酒運転ゼロの街作りを啓蒙し、綺麗な地球を居抜き物件として手に入れてしまおうと目論み全国のヒーロー達に日夜戦いを挑んでいる……が、戦歴は全戦全敗。
一時は福岡県を完全制圧する事にも成功したが、結託した福岡のヒーローチーム「ドゲンジャーズ」に阻まれ最後は敗北している。
徹底した現場主義で常に自ら全線に立って戦う性格であり、憎めないコミカルな所も多分にあるがシリアスな場面では冷徹な悪役としての姿や社長としての器の大きさを見せる事も多い。
今回の聖杯戦争においては、ドゲンジャーズ本編だけでなく歴代の出演したヒーローショーの記憶も幾分か保有した状態で召喚されている。
実はヒーロー界のレジェンド・月光仮面とも交戦経験がある何気に凄い怪人でもある。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯を手に入れ、株式会社悪の秘密結社による世界征服を果たす。
【マスター】
ブラックジェネラル@残念女幹部ブラックジェネラルさん
【マスターとしての願い】
聖杯の力を使ってブレイブマンと結婚する。
えっ、世界征服?ワスレテナイヨー?
【能力・技能】
特殊能力の類は持っていないが、高い身体能力と異常な打たれ強さを備えている。
野良怪人程度なら蹴散らせるだけの実力があり、特に身体能力はトップヒーローであるマザージャスティスにも一目置かれている。
【weapon】
・眼帯型ビーム射出装置
ブラックジェネラルさんが左目に装着している眼帯型の装備。
原作8巻114話から登場。
発射口から必殺技「RXビーム」を撃ち出す。
元々はRX団の科学者サンが開発した没発明品であり、小型化のし過ぎで威力は最小限、一発撃てば充電式バッテリーも空になるのでかなり使い勝手が悪い。
【人物背景】
悪の秘密結社RX団の女幹部を務める女性、年齢は20歳前後、ちなみに処女。
元々ヒーローのおっかけをしていたが「悪のかになればヒーローとお近づきになれる」という理由で女幹部になった程。
ヒーローの一人であるブレイブマンにガチ惚れしており、毎回奇抜すぎるアプローチを仕掛けてはブレイブマンにウザがられながら必殺技でぶっ飛ばされるのがパターンと化している。
その執念は洗脳能力すら自力で解除する程だが、未だに思いは報われていない。
【ロール】
無職扱いだったが、現在はヤバイ仮面が作成した『株式会社悪の秘密結社 界聖杯東京支社』のアルバイトとして勤務している。
【方針】
とりあえず序盤は悪の秘密結社の社員達による情報収集に注力し、勝てると判断したマスターとサーヴァントを発見次第殲滅していく。
厄介な主従はぶつけ合わせて疲弊させてから潰していきたい。
あとあんまり戦いが長引くとマスターのブレイブマン欠乏症が深刻になるので出来れば早いとこ終わらせたい。
投下終了です。
滑り込みですが自分も投下したいと思います
私は忘れない。この屈辱を。この痛みを。
絶対に忘れない。私を、私たちを殺した敵の顔を。
何度腹部にメスを入れられようと、この身がどれだけ血を浴びても辛くはない。
身動きが取れない中で狂った女の狂刃に晒されようと恐怖はない。
だって羽入が、圭一が、沙都子が、レナが、魅音が、詩音が見守ってくれているから。
―――梨花っ!?
―――梨花ちゃん!?
……羽入や皆の焦燥に満ちた声がする。
何でだろう?私は大丈夫。頑張れる。きっともうすぐ私は死んで皆と同じところへ行くのだろうけど、それまで決して壊れたりなんかしない。
そりゃあ私はこれまで何度も諦めかけたり自棄になったりしたけど、もう少しぐらい私を信じてくれてもいいと思う。
―――駄目だ梨花ちゃん!手を伸ばせ!そっちに行くな!!
圭一が身を乗り出して手を伸ばす。
……あれ?何だかさっきより皆が遠ざかってる?
意識が遠のく。私の命の灯火が消えようとしている。
仲間たちの姿は見えなくなり、声も聞こえなくなった。私が暗闇に溶けて、無になっていき―――
……意識が浮上する。背中越しに硬く、冷たい感触が伝わってくる。
「羽入っ!?みんな!?」
意識がなくなる直前のことを思い出し、慌てて身体を起こした。
自分の身体を見る。さっきまでと同じ、着衣を全て奪われた裸体。
しかし決定的に違う点が三つ。私の身体を縛っていたロープや猿渡が無い。さっきまで散々に切り裂かれていた腹が完全に治っている。
……それだけなら良かったのだが、その腹部に見たこともない刺青のような紋様が浮かび上がっている。
何かはわからないが、正直に言って良い気分はしない。
次に思い出すべきこと。私が覚えていなければいけないこと。
「敵は……鷹野三四!!」
覚えている。覚えている!私は私の敵の顔と名前を記憶することができている!
今度こそ勝てる。すぐに仲間たちに相談しよう。準備さえ出来ていれば私たち部活メンバーが山狗なんかに遅れを取るものか!
「って……羽入?どこ?いないの?……いやそれ以前に……どこよ、ここ?」
見上げれば満天の星空。一目で深夜の屋外だとわかる。
次に私が今いる場所。どうやら私はコンクリートの上で寝転がっていたらしい。…道理で硬くて冷たいはずだ。
そして辺りを見回すと雛見沢や興宮では見たこともないような高層建築物がズラリと並んでいる。
どうやら私が今いる場所もどこかの高層建築の屋上らしく、周囲には転落防止用のフェンスが見える。
私はフェンスに近付き眼下の景色を確かめた。
「凄い……眩しいぐらい明るい……。ここは都会……?」
我ながら乏しい語彙でしか言い表せないような衝撃を受けた。感動と言い換えても良い。
寂れた田舎の雛見沢や雛見沢よりは賑わっているものの田舎の街としか言えない興宮とはまるで別世界のようだった。
上から遠目に眺めるだけでも街中を彩るライトやネオンが輝いているのがわかり、私は興奮さえしていた。
もし昭和58年6月の死の運命を乗り越えたら何をしたいか、これまで考えてこなかったわけじゃない。
田舎臭い雛見沢を出てお洒落な都会、それこそ圭一が雛見沢に来る前に暮らしていた東京に行ってみたいという願望はその中でも上位に入るやりたいことだ。
もしかすると……ここは東京なのだろうか?密かに抱いていた夢がこんな形で叶うとは!
「厳密には違う。ここは界聖杯が作り出した架空の東京。
これから我々が臨むことになる聖杯戦争のための舞台だ」
「誰っ!?…………はい?」
唐突に背後から掛けられた声に振り返り、間抜けな声を出した私を誰が責められるだろう。
振り返った先にいた人物……いや人なのだろうか?はとにかく異様としか言いようのない風体だった。
夜の暗闇に眩く輝く黄金の鎧、あるいはスーツ、そこまではいい。いやこの時点で十分おかしいけどこれだけならただの成金趣味で済む。
全身の各所に人型の小さな像、ないしレリーフが配置されていて腰にはやたらゴテゴテとしたベルトらしきものを巻きつけている。
とどめに一番目立つのが顔面に「カメン」、「ライダー」とピンク色の文字が書かれた仮面かヘルメットのような物体だった。
いや、本当に誰……?というか、何……?
「私の名は常盤ソウゴ。セイバーのクラスを得てこの地に降り立ったお前のサーヴァントだ」
「さっきから言ってることが一つもわかんないわよ!この変質者が!」
界聖杯だの聖杯戦争だの何だのと、突然現れて理解できない専門用語を並べてくるこの男(?)は怪しいとかそういうレベルではない。
……考えたくはないが、もしや私は今から手籠めにされようとしている……?
そうでなくてもこの状況は誰がどう見たって事案だろう。今すぐ警察が踏み込んでこの変態仮面を逮捕してくれないものだろうか。
沙都子の叔父が帰ってきた時も山狗に襲われた時も全く役に立たなかった赤坂もこんな時ぐらい働いてくれてもいいのではないか。
「ふむ……マスターであれば聖杯から必要な知識を与えられているはずだが……」
「そんなもんあるわけないでしょうが!!」
もういい、と内心で見切りをつけた。こんなあからさまな危険人物に付き合っていられるか。
ここが高所、それもフェンス際でフェンスの高さもそれほどでないのは幸いだ。
私は奴に背を向けてフェンスをよじ登った。
「忠告しておこう。それはやめておけ」
「お生憎さま、あんたみたいな変態の言うことを素直に聞くほどお人好しじゃないの、私。
こんな狂った世界からはさっさと退場させてもらうわ」
おかしな場所に来たとは思っていたが、こいつのおかげで確信が持てた。
私の戦場はここじゃない、昭和58年6月の雛見沢だ。
少し前までは私を捕らえて離さない鳥籠のようなあの村に嫌気が差してさえいたけれど、敵の正体がわかった今となってはすぐにでも戻りたい気分だ。
記憶の継承はもう出来ている以上、今この場で自殺しても何の問題にもならない。
「じゃあさようなら。二度と会うこともないでしょう」
躊躇わずジャンプ、虚空に身を投げ出した。
地面に激突するまで数秒はかかるか、あるいはそれ以下か。
いずれにせよ、この世界とはお別れだ。東京観光は自力で昭和58年6月を越えてから堪能しよう。
『クウガ!』
よくわからない謎の音声が聞こえた瞬間、私の理解を超える出来事が起きた。
間違いなく何もなかったはずの空中に巨大なクワガタムシのような何かが出現し、落下する私の身体を受け止めたのだ。
「へっ?え?ちょっ……ええっ?」
羽ばたいて飛んでいくクワガタムシ的な何かに為す術もなく運ばれていく私は悪くないと思いたい。
強引に身体を傾けて転げ落ちれば自殺を続行できたかもしれないが、今一度真下を見下ろすと想像していた以上の高さに恐怖心が勝ってしまった。
そうして私はあっという間に黄金変態仮面の傍まで運ばれてしまった。
あっ、ヤバい。腰が抜けた。立てない……。
「な、何したのよあんた……」
「この世界で自ら命を絶ったところでお前の望む結果になることはない。
何故ならお前に時を遡り、世界を渡る力を与えていた神の力はこの界聖杯にまでは及ばないからだ」
「えっ!?」
こいつは今何と言った……!?
私が死ぬ度に時間を遡っていることを、何より羽入の存在を知っている……!?
いや、それ以上にもしもこいつが言っていることが本当だとしたら……
「じゃあ、何?この世界で私が死んだら、そこでおしまいってこと……?」
「そうだ」
「ふざけるな!!」
反射的に吼えていた。
それほどまでにこいつの発言は私にとって認めがたかったからだ。
…私だって理屈の上では薄々と気づきつつはある。
だってこの世界に来てから羽入の存在を全く感じられなくなっていた。
さっきの私はその事実から目を背けるために身を投げた。―――そんなこと、信じたくなかったから。
「百年よ!?わけもわからず殺され続けて、百年も惨劇を見せられ続けて、やっとここまで辿り着いた!!
今まで叔父が帰って来たら壊されていくだけだった沙都子を初めて救えて、古手梨花を殺す者の正体もわかった!!
次の世界にさえ辿り着ければ昭和58年6月を越えられるはずだった!最高の仲間たちと7月を迎えられるはずだった!!
なのに……どういうことよ!?聖杯戦争にサーヴァント!?死んだら終わり!?何でそんなものに私を巻き込んだのよ!?」
「巻き込んだ、と言うのは半分正しく、半分は外れているな。
お前の魂は元々界聖杯によって蒐集されていた。最初からお前は界聖杯でマスター候補となる運命だったのだ。
界聖杯にアクセスした私がお前の時を渡る性質に目をつけ、マスターに選んだのはその後の話だ。
どうやら私の介入によって予期せぬバグが生じたらしい。本来ならばお前にはマスター候補として然るべき役割(ロール)と知識が授けられていたはずだ。
そのどちらもが欠けたままそのような姿でこの世界に放り出されたことについては、確かに私の落ち度であるな」
相変わらず言っていることの意味が半分もわからないのは私に知識とやらが無いから……?
どうやら私はこいつが言うところのマスターとかいうやつらしいけれど、私に何をさせるつもりなんだろう。
「お前が何かをする必要はない。私はこの世界で霊基を維持するための要石を探していたに過ぎない。
全てのサーヴァントを殺した後に現れるという万能の願望器、聖杯に問題がなければお前が使うといい。私には無用のものだ。
……この界聖杯に何の問題もなければ、という話になるがな」
「サーヴァントを…殺す?それに願望器って、何か願いが叶うってこと?」
「万能の願望器を巡るマスターとサーヴァントによる殺し合い、それが聖杯戦争だ。
口で説明するより実演する方が早い。―――早速来たようだな」
「来たって何が、………っ!?」
私の疑問を遮るようにして、突風が吹き、次いで金属音が聞こえた。
何が起こったのかと前を向くと、金色仮面、もといセイバーの前方十メートルほどの場所に誰かがいた。
その誰かはまるで御伽噺にでも出てきそうな鎧を着込んで右手に眩い剣を持った大男だった。
大男がセイバーを睨みつけた。直接私に向けられたわけでもないその睨みだけで、私は全身が竦む思いだった。
人間が出す殺気、というものを百年の間に何度か見たことはある。
自慢ではないが、私はそういう剣呑な空気や威圧感というものを人並み以上には見てきた自負があった。
しかし乱入してきた大男が放つ殺気は雛見沢症候群で凶暴になった仲間たちの比ではない……!
気づけば私は両手を地面に着け、両脚を大きく開いた無様な態勢で後退っていた……。
「まさか聖杯戦争に彼の魔王がいるとはな」
「なるほど、私の名は英霊の座とやらにまで届いていたか。
あらゆる時空の因果を収斂した界聖杯ともなれば、仮面ライダーの歴史から私の存在に行き着くのは道理ではあるな」
「……我々英霊が後の人間に託した未来を破壊し我がものとした、最低最悪の魔王である貴様は許しがたい。
とはいえそれだけなら俺とて憤慨はしなかった。聖杯戦争である以上善悪を問わず英霊が集結するのは当然の帰結だからな。
だが常盤ソウゴ、いやオーマジオウ。貴様、ルール破りをしたな……!?この俺の目は誤魔化せん。
自らをサーヴァントに偽装して何を目論んでいる?」
大男の眼光はどこか義憤に満ちているように思えた。
いや、それよりも……最低最悪の魔王ってどういうこと……?
「オーマジオウ、貴様はまっとうに召喚された英霊ではないだろう……!?」
セイバーを召喚したのは死別した家族との再会を望む魔術使いの男だった。
聖杯を得るためとはいえ、内心使い魔として魔術師らしい魔術師の風下に立たされることを苦々しく感じていたセイバーにとっては僥倖だった。
聖杯戦争に召喚され、第二の生を得ることそのものが如何に得難い奇跡であるかは知っていたからこそ聖杯を得るまで外道の者に従うのもやむなしと考えていた。
それがよもや自分が心から力を貸したいと思えるような人間的に共感できるマスターを得られるとは!
喜び勇んで深夜の哨戒を買って出たセイバー。聖杯を競う敵を求めて街を駆けていた時、それを見た。
魔術や宝具に依らぬ空間の揺らぎ、無数の時計が縁に飾られた奇怪な時空の裂け目から出現した黄金の魔王とその近くに横たわる少女を。
見た瞬間に理解した。あれこそは聖杯から与えられた知識に該当する、遠い未来に君臨する魔王。聖杯戦争に参戦した英霊全てにとっての敵であると。
故にこの激突は必然。むしろマスターが拠点にいてくれていることに感謝したいほどだった。
「人類が築き上げた文明を破壊し、30億もの人間を抹殺し、世界を支配したその次は界聖杯を狙うつもりか……!
これは我々英霊の戦争だ。今を生きる人間たちの生存競争だ。貴様が土足で踏み入っていい戦場ではない!」
「そうか、ならばかかって来るがいい。チャンスを与えてやろう。
今の私はこの霊基の性能を十分に把握できていないからな。今なら、あるいは私を倒せるかもしれんぞ?」
「貴様……!!」
怒りを裂帛の気合いに変えて、音速でセイバーが踏み込んだ。
迎え撃つもう一方のセイバー、ジオウは徒手空拳の構え。袈裟斬りを左腕で防御し右拳で反撃。
無論セイバーはこれに難なく反応して最小限の動作で回避すると次々と斬撃を浴びせかける。
ジオウの鎧や籠手に何度となく宝具である聖剣を叩きつけるものの罅が入る気配すらない。
「おおおぉっ!!」
渾身の力で振り下ろしたセイバーの剣を両腕をクロスさせて防ぐジオウ。
僅かな間の均衡はセイバーが押し切ったことで破られ、ジオウの胴体に斬撃を叩きこんで二メートルほど後退させた。
「人類の自由と平和のために時代を駆け抜けた英雄たちから奪った力と歴史を鎧にするとは悪趣味な……!」
「この反応の鈍さ、装甲越しに伝わる痛み……。
ふっ、懐かしい感覚だ……。彼らの力を継承した後の姿とは言ってもかつての私の力はこんなものだったか」
セイバーの糾弾を意にも介さず、ジオウは今の自分の状態の把握に努めている様子だった。
無視されているセイバーからすれば侮辱でしかなく、命を以って償わせるべく剣を握る手に更なる力を込める。
「チャンスは与えた」
『カブト!』
セイバーの突撃に合わせるように身体に配置されたレリーフの一つに触れたジオウ。
するとこれまで鎧の強固さを頼みとした防御重視の構えから回避に重きを置いた動きへと変化、セイバーの剣が空を切る。
負けじと瀑布の如き連撃を叩き込まんとしたセイバーだったが、その悉くが見切られ最小限の動作で躱される。
逆にセイバーが剣を振った直後の僅かな隙に黄金の右拳を鳩尾に叩き込んだ。
「ぐぅっ…!!まだぁ!!」
「ライダーキック」
人体の急所を突かれても即座に立て直したセイバーもまた英雄だ。
大上段に剣を構え直しジオウの頭部を狙うが、その狙いを読んでいたようにジオウが右足に渾身の力を込める。
仮面ライダーカブト、天の道を往き総てを司る男の力。あらゆる物質を粉砕するタキオン粒子を纏った必殺の回し蹴りがセイバーを打ちのめした。
ともすれば吹き飛ばされ転落してもおかしくなかったが、セイバーは血反吐を吐きながらも魔力放出のスキルを使ってフェンス際で踏みとどまってみせた。
「まだだ……!」
……それでも傷は深い。ジオウのライダーキックは堅固な筈のセイバーの鎧を砕き、内臓にも少なからぬ損傷を与えていた。
サーヴァントの霊基のためか、本人が言う通り知識にある伝承ほどの絶対的な力は感じない。だがそれでも己との間に埋めがたい戦力差がある。
これが魔王。日本の平成という時代を駆け抜けた英雄たちの歴史を簒奪した時の王者か。
セイバーは迷わず宝具を発動することを決めた。
あまりに時期尚早ではあるが、この魔王は今、この瞬間に打ち倒さねばならない!
聖剣に魔力が満ちる。―――有り難いことに状況を察したマスターが令呪で支援してくれていた。
「まだ抗う気力を保つか。流石は人類史に名を残した英霊。その意気に敬意を表し、私も剣で応えるとしよう」
『サイキョーフィニッシュタイム!』
ジオウの右手に二つの剣を組み合わせた長剣、サイキョージカンギレードが顕現する。
セイバーの宝具に合わせるように、ジオウもまた悠然と右腕を掲げた。
空を貫くが如く黄金の光が天へと立ち昇る。『ジオウサイキョウ』という巨大な文字がそのままジオウとセイバーの格の差を表していた。
『キングギリギリスラッシュ!!』
真名を解放し、両腕で握った聖剣を下段から振り上げたセイバーと右腕で必殺技を発動した剣を振り下ろしたジオウ。
一瞬の拮抗の後、ジオウの剣がセイバーを押し潰し、爆発と共に霊基を完全に消し去った。
―――目の前で起きた出来事が現実のものだと理解するまでどれだけかかっただろうか。
銃や爆発物を使ったわけでもないのに、互いの剣と拳がぶつかり合うだけで爆音めいた音が響いた。
二人の人間が戦っている余波だけでボロボロになっていく足場やフェンス。……ここ鉄筋コンクリートだよね?
それなりに喧嘩慣れしていて、常識では理解できない出来事にも触れている私をしてこの世のものとは思えない戦いがそこにはあった。
「見ていたな、これがサーヴァント同士の戦いというものだ。
……気絶しなかった胆力は賞賛に値するが、流石に刺激が強すぎたようだな」
大男を倒した…いや、殺したセイバーが私を見下ろした。
顔に文字が張り付いているため視線をどこに向けてるか微妙にわかりづらいが、いつの間にか私の足元に出来上がった生温かい水溜まりを見ていることは嫌でもわかった。
……そう、セイバーが戦っている間、とても情けないことに私は失禁していたのだ。
汚れて困るような衣服を何も着ていないことも、今この時ばかりは幸いだったのかもしれない……。
「…ふ、ふふふ。あははは……」
……もう乾いた笑いしか出なかった。
裸で大股開きになった上に失禁までしているところを何処の誰とも知れない相手にまじまじと見られるなんて、百年の旅路でも間違いなく最大の痴態だろう。
もうここまで来ると屈辱も怒りすらも感じない。ある種の爽快感すらある。
簡単に言えば、この時点で私は既に開き直りの境地にあった。
もうどうにでもなーれ☆
……とは言ったが、やっぱり物事には限度というものがあると思う。
「はぁ……聖杯戦争、か……」
私は今、その気になれば泳げそうなほど広い風呂場の湯舟に浸かっている。
と言っても自宅の風呂でもなければどこかの宿を利用しているわけでもない。
役割とやらが設定されていない私には家も金も食糧その他物資も、ついでに言えば戸籍もない。
この風呂場はセイバーがいきなり召喚した空中を走る列車の中の設備だ。
……いや、空中を走る列車って何?私の中の常識が現在進行形で音を立てて崩れている気がする。
セイバーは時の列車とか言っていたけど、今はそれ以上のことを突っ込んで聞く気にはならなかった。
今私の頭の中を占めるのはセイバーから聞かされた聖杯戦争とやらについてだった。
曰く、様々な世界から召喚された人間たちがマスターとなりサーヴァントを召喚して最後の一組になるまで殺し合うバトルロイヤル。
サーヴァントとは様々な世界の、過去現在未来を問わず歴史に大きな功績や名を残した偉人が英霊として現世に界聖杯に蘇った存在。
サーヴァントはマスターなくして存在できず、マスターは基本サーヴァントより圧倒的に弱いため令呪によってサーヴァントを律する。
驚いたことにあのセイバーでさえ私なしではこの世界に留まることは難しいのだそうな。
「人を殺すことなんて、出来ればしたくはないけど……」
殺し合い、勝ち残った果てには聖杯なる万能の願望器が手に入るという。
それを使えば未来は思いのままにできるのだろう。昭和58年6月を越えることさえ簡単に出来てしまうに違いない。
でも、そのために恐らく私と同じように巻き込まれた普通の人までも殺しては、沙都子を救ったあの奇跡を穢してしまうに違いないのだ……。
私だって聖人じゃない。他のマスターが揃いも揃って殺る気に満ち溢れた殺人者だという確証があれば殺人も已む無しだと覚悟を決められる。
しかしそれはそれで楽観的な考え方だろう。どんなに少なく見積もっても一人や二人は巻き込まれた善人もいるはず。
……一応、その旨はセイバーに伝えているしセイバーは了承した。
あるいは、だからだろうか。この東京の空を列車で移動するなどという非常識かつド派手なことをやっているのは。
こうすることでそこらの通行人やマスターを意図せず戦いに巻き込む危険はなくなる。
空を飛ぶ手段を持つ英雄も沢山いるそうだが、もしそうだとしてもマスターまで随伴してこの列車に近付くようなことはできないだろう。
つまりあいつは向かってくるサーヴァントのみを相手取るつもりでいるのだ。
敢えて難しい道を選んでいることは子供でも簡単に理解できる。超人のサーヴァントと人間のマスター、与しやすいのはどちらかという話だ。
まあセイバーの尊大な態度からしてそもそも負けることを一切考慮していないだけ、という可能性も普通にあるのだが……。
そして喫緊の課題でこそないが、考えておくべきことはもう一つある。
仮に聖杯に辿り着けたとして、私は何を願うのかということだ。
何しろ私は死んでいる。それはセイバーからも改めてお墨付きを貰っている。
私は鷹野に殺されて、魂だけが界聖杯に連れ込まれた形になっている。
常識的に考えれば私自身の蘇生を願うべきかもしれないが、生憎私にそうするつもりはない。
……私一人が生き返って雛見沢に戻ったところで、大切な仲間たちは既に山狗によって殺されているからだ。
そこを度外視したとしても改めて山狗に殺し直されるのがオチだろう。
鷹野が何を思って女王感染者の私を殺そうと思ったのかはわからないままだが、あそこまでの準備をする辺り相当の執念があるのだろう。
なら何を願うのか。昭和58年6月を越える?
なるほどそれなら出来るだろう。元の世界に戻れさえすれば羽入と合流して次の雛見沢に渡ることができる。
その世界で仲間たちが団結することと、鷹野や山狗を倒すことを願えばそれで片付く話だ。
……でも、それでいいのだろうか?圭一が私に見せてくれた奇跡は、皆で団結して惨劇を打ち破ることだった。
聖杯でインスタントに惨劇を突破するというのは、結果が同じでも何かが決定的に違うように思えてならない。
「でも聖杯が欲しいか欲しくないかと言えば欲しいに決まってるし……」
繰り返すが私は聖人じゃない。無欲でもない。
万能の願望器なんてアイテムを示されて無条件に手放せるわけもない。
決めておく必要がある。胸を張って言える私の願いを。
「やはり時の砂漠には入れんか」
己のマスター、古手梨花を休ませている間、セイバーことジオウは時の列車、デンライナーのコックピットに居た。
仮面ライダー電王の力を継承している故にデンライナーを我が物として扱うことも運転を行うこともできる。
しかし本来時の正しい運行を司るはずのこの列車が、この模倣東京の範囲でしか移動できなくなっていた。
サーヴァントとなったが故の力の制限か、あるいは界聖杯の防壁が優れているのか。恐らくは後者。
この分では他の仮面ライダーたちの時間・空間を移動する手段も阻まれるに違いない。
とはいえ、それはジオウが界聖杯に潜入するにあたって当然予期していた事態でしかない。
「界聖杯。数多の時空の因果が収束して発生した新たな時空。
生まれて間もない願望器が他の時空や歴史に如何なる影響を与える存在なのか……見極めねばなるまい。
全てが杞憂に終わるに越したことはないが……」
かつては王様を目指す普通の高校生だった青年、常盤ソウゴ。
その成れの果てにして2068年の時代に君臨する魔王、オーマジオウ。
常盤ソウゴ=仮面ライダージオウが存在し得るあらゆる並行世界を睥睨し、時空を破壊し創造する力を持つ彼はある時突如として生まれた時空を察知した。
その時空の中核こそが界聖杯であると理解するまでに時間はかからなかった。だが問題はここからだ。
数多の時空の因果から生まれた界聖杯はあらゆる時空から人間を、あるいは人間でない者すらも蒐集し、万能の願望器を賭けた聖杯戦争を始めたのだ。
数多の時空にアクセスできる界聖杯ともなれば、なるほど確かに凡そ叶えられぬ願いは存在しないだろう。
しかし願いの成就によって界聖杯と繋がった数多の時空にどれほどの影響が齎されるのかは未知数だ。
加えて界聖杯は時空が不安定なためか、並行世界をも見据えるオーマジオウの力を以ってしてもその本質、全容を伺い知ることが出来なかった。
そこで彼は内部から界聖杯を見定めるべく敢えて聖杯戦争のシステムに乗り、自身と繋がった端末(アバター)を送り込んだ。何せ門戸は開かれているのだ。
英霊召喚のシステムに不正アクセスし、作成した端末をサーヴァントとして登録。
然る後界聖杯に「装填」されていくマスター候補たちの中から自身と比較的相性が良いと思われた梨花をマスターに選んだ。
その結果、梨花がイレギュラーと判断されたのか本来あるべき役割(ロール)と知識が無い、という状況に陥ってしまったが。
「界聖杯に問題がなければあの娘に使わせても構わんか……」
オーマジオウ、今はそこに至る前の姿で現界しているジオウは梨花を己の民であると定義する。
自身の行動でマスターとして巻き込み、不利益を被らせてしまったからには王として守り通した上で何らかの方法で償わねばなるまい。
彼女の置かれた状況を鑑みれば、聖杯を渡しても悪用することはないだろう。
「カッシーン」
「お呼びですか、我が魔王」
ジオウの呼び声で機械兵、カッシーンが音もなく出現した。
ジオウの宝具のうちの一つとして登録された臣下であり、今はグランドジオウの姿でいる彼が確かにオーマジオウなのだと知らしめる存在。
「我がマスターのために必要な物資を調達するのだ。略奪になるが致し方あるまい」
「我が魔王の命令とあらば」
王命を受けたカッシーンがコックピットを後にする。
デンライナーは移動拠点として使えるほどの居住性を持っているが、さすがに物資は街から手に入れる必要がある。
と言っても戸籍も金もないとなれば取り得る手段は一つしかない。このような雑務はカッシーンにやらせるに限る。
「さて、まずはこの地に集った英霊たちがどのような者か。そこから見定めるか」
界聖杯が如何なる性質を持つのかを見極めるためには集ったサーヴァントの性質を見るのが早い。
ジオウはそう判断したために東京上空をデンライナーで常時移動し続けるという目立つ手段を取った。
誰の目にも明らかな奇行。あるいは挑発とも受け取れる行いに他の主従はどう反応するか。
正面から挑みかかる勇壮な者であれば堂々と迎え撃ち、マスター殺しを目論む者であれば相応の報いを受けさせる。
己が敗北する可能性など全く顧みない、魔王としての絶対の自負と傲慢さであった。
【クラス】セイバー
【真名】常盤ソウゴ(オーマジオウ)
【出典】仮面ライダージオウ
【性別】男性
【属性】混沌・善(混沌・悪)
【パラメーター】
筋力:A 耐久:B 敏捷:B 魔力:A++ 幸運:C 宝具:EX
【クラススキル】
対魔力:A+
魔術に対する抵抗力。魔法陣及び瞬間契約を用いた大魔術すら完全に無効化する。
また悪属性の者の魔術に対しては瞬間倍化補正が発動する。
騎乗:B
乗り物を乗りこなせる能力。
大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、幻想種あるいは魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。
ただし継承した仮面ライダーが扱っていたマシンやモンスターは問題なく扱える。
【保有スキル】
単独降臨:C(A)
過去・未来を問わず単独で顕れるスキル。単独顕現とは似て非なる権能。
現界したジオウは本体であるオーマジオウから力の行使に必要な魔力を供給されている。
このため現界の要石たるマスターが存在している限りジオウが魔力不足に陥る事態は起こり得ない。
また時間旅行によるタイムパラドックス等の攻撃、あらゆる即死攻撃に対してランクA+相当の耐性を持つ。
サーヴァントの霊基で現界しているため本来よりもランクダウンしている。
時の王者:A(A+++)
全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え、過去と未来をしろしめす時の王者。
英霊の座にまで轟く有名さと存在感からジオウと対峙したサーヴァントは一目見ただけで彼の真名を理解する。
またジオウと対峙した悪属性のサーヴァントの全パラメーターを1ランクダウンさせ、悪属性と魔性特性を併せ持つサーヴァントに対しては追加で幸運を3ランクダウンさせる。
Bランクの千里眼、直感をも内包する複合スキル。
サーヴァントの霊基で現界しているため本来よりもランクダウンしている。
余談だが、オーマジオウの力をも継承し仲間と共に最高最善の魔王となった若き日の常盤ソウゴはこのスキルをEXランクで保有する。
最低最悪の魔王:B(A+)
「オーマの日」と呼ばれる日に世界の文明を破壊し人口をそれまでの半分にまで減らし、その後長きに渡り王として君臨し人々を苦しめる魔王。……というレッテルから生じたスキル。
実際には彼が世界を救ったことで世界の文明が崩壊し人口がそれまでの半分になる程度の被害で済んだのだが、いつしか事実が歪曲して人々の間で伝えられるようになった。
真名を知った相手からはアライメントが混沌・悪であると認識され、秩序かつ善属性の者からは強く畏怖・警戒されるようになる。
また善属性かつ救世の逸話を持つサーヴァントから受けるダメージがアップするデメリットスキル。
魔王の象徴たるオーマジオウではなくグランドジオウの姿で現界しているため本来よりもランクダウンしている。
このスキルはランクの変化こそあれど基本的には外せない。
ただしオーマジオウの力をも継承し仲間と共に最高最善の魔王となった若き日の常盤ソウゴのみこのスキルを外すことができる。
【宝具】
『平成の継承者(グランドジオウ)』
ランク:EX 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
仮面ライダークウガから始まった平成仮面ライダーの力と歴史を受け継いだジオウの姿。
身体の各部に配置されたライダーレリーフに触れることでクウガ〜ビルドまでの歴代主役仮面ライダーの力を召喚・行使する。
ライダー本人を活躍していた時代から呼び出す、武装やマシンを取り出す、技や特殊能力を取り出し行使する等その用途は多岐に渡る。
また召喚したライダーに対して局所的な時間停止・時間遡行を行うこともでき、一度攻撃させたライダーの時間を巻き戻して攻撃前の状態に戻し、再度攻撃させるといった芸当も可能。
膨大な戦術を組み立て行使することで多くのサーヴァントに対して相性で優位に立つことができる。
若き日の常盤ソウゴは継承したライダーの力と歴史に対する理解が曖昧であるが、今回の聖杯戦争で現界したのはオーマジオウまで至った2068年の常盤ソウゴである。
このため継承したライダーの力と歴史に対する理解の深さや練度は若年時とは比べものにならないほど高い。…が、若い頃の癖か時折奇妙な解釈で奇妙な技を繰り出すことがある。
彼が継承した仮面ライダーの歴史は世界観も設定もバラバラで不揃いな凸凹道であるが故に、この宝具をまっとうな数値やランクで正確に評価することはできない。
故にこの宝具のランクはEX。字義通りの評価規格外である。
『時王最強剣(サイキョージカンギレード)』
ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
ジオウが装備する、ジカンギレードとサイキョーギレードを組み合わせた長剣。
ジオウとリンクしてシステム的な同一化を行うことでジオウの力に追随する形で常に「サイキョー」の剣であり続ける。
必殺技「キングギリギリスラッシュ」の発動が実質的な真名解放にあたり、「ジオウサイキョウ」と書かれた長大な光の刃で敵を両断する。
単独降臨のスキルもあり、何の制約もなく『平成の継承者』との同時複数使用が可能。
『偽・忠実なる我が僕(カッシーン)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:一人
オーマジオウとなった2068年の常盤ソウゴがサーヴァントとして現界する際自動的に付加される宝具。
高度な知能と平均的なサーヴァントに匹敵する戦闘能力を併せ持つ配下の機械兵・カッシーンを召喚する。
カッシーンはオーマジオウの指令を遂行することを第一に行動する。が、機械なのでハッキング等で奪取されるリスクがある。
召喚できるカッシーンは一度に一体だけだが、何度破壊されても無制限に再召喚できる。
単独降臨のスキルもあり、何の制約もなく上記二つの宝具と同時複数使用が可能。
【weapon】
ジクウドライバー、ジオウライドウォッチ、グランドジオウライドウォッチ
仮面ライダージオウへの変身に使用するツール。
今回の聖杯戦争では常にグランドジオウの姿で固定されているため変身を行う必要はない。
ドライバー、ライドウォッチともに破損・破壊されれば力を維持できなくなるジオウの弱点部位。
ジカンギレード、サイキョーギレード、サイキョージカンギレード
ジオウの専用武装。ジカンギレードとサイキョーギレードは分離して二刀流で使うこともできる。
ライドヘイセイバー
ジオウの専用武装。本来はディケイドアーマー変身時に使用する剣だがグランドジオウでも使用可能。
この剣単体でクウガ〜ビルドまでの歴代主役仮面ライダーの力をある程度引き出すことができる。
この他歴代ライダーたちの武装、及びマシン
【人物背景】
2068年の時代に君臨する魔王、オーマジオウ。かつて世界中の人々を幸せにするため最高最善の王様を目指した普通の高校生・常盤ソウゴの成れの果て。
本企画では界聖杯の出現を察知、界聖杯内部からその実態を見極めるため自身をサーヴァントに偽装して聖杯戦争に潜り込んだ。
この際仮面ライダーエグゼイドのマイティクリエイターVRXの力を使い、聖杯戦争のルール、サーヴァントの規格に合わせて自らの端末(アバター)を構築し召喚システムに介入した。
構築されたサーヴァントとしてのジオウはオーマジオウに至る前の姿、グランドジオウで固定されているが人格は2068年の常盤ソウゴ、といった具合になっている。
サーヴァントとしてのジオウは姿が固定されているため変身を解くことができず、また厳密には死者ではなく生者であるため霊体化もできない。
【サーヴァントとしての願い】
界聖杯が他の時空に影響を及ぼす存在であるか否かを見定める。
願望器としての運用に問題がないようであれば梨花に使わせるのも吝かではない。
【マスター】
古手梨花@ひぐらしのなく頃に解
【マスターとしての願い】
まだはっきりとは決まっていない。聖杯を手に入れてから考える。
【能力・技能】
女王感染者
雛見沢特有の風土病、雛見沢症候群の女王感染者。
感染者に接することである程度発症を抑制できる。
また雛見沢症候群の研究者の論文によれば、女王感染者が死亡した場合感染している雛見沢村の住民は四十八時間以内に集団で末期発症を起こすとされている。
オヤシロ様の生まれ変わり
雛見沢村の古手神社を代々受け継ぐ御三家の一角、古手家では八代続けて女の子が生まれた時、八代目の子が村に祀られた神であるオヤシロ様の生まれ変わりとされる。
実際に梨花はオヤシロ様である羽入と言葉を交わし、彼女の力を借りて時間を遡り、カケラの海を渡り歩いている。
【人物背景】
自らの死の運命に抗い続ける百年の魔女を自称する少女。
幾多の挫折、幾多の惨劇に心が折れかけるが仲間である前原圭一の奮闘によって再び戦う意志を取り戻した。
沙都子の叔父の帰還という最悪の悲劇を覆し、ついに自らを殺す黒幕を突き止めるも力及ばず敗北。
仲間は全員殺され、自らも生きたまま腹部を切開され死亡した。―――次の世界にこの記憶を持ち越すのだと誓いながら。
参戦時期は皆殺し編の死亡後から。
【方針】
聖杯は欲しいけど人を殺したら仲間たちに顔向けできない。
サーヴァントだけを倒すに留めてマスターやNPCへの被害は極力避ける。
以上で投下を終了します
延長時間を設けていただきありがとうございました
遅れてしまい申し訳ありません、投下します。
【1】
……やあ、今日もカーニバルチャンネルに来てくれてありがとう。
今日は、えーっと……アメリカのジョークの話をしようと思う。
アメリカのジョークにも色々あって……その一つを、ノックノックジョークって呼ぶんだ。
日本で言う、その、えー……ダジャレ、みたいなものなのかな。
まずは、家のドアをノックする。そしたら誰だって聞かれるから……名を名乗る。
そしたら、その名前にまつわるダジャレを言うんだ……面白いだろ?
じゃあ、実践してみよう。
Knock,knock……どなたですか?
警察です。あなたの息子は……ククッ、飲酒運転を……ハハハハッ!!!ヒヒハハハハハ!!!
す、すまない……ヒィーーーハハハッ!!ちょっと待って……ハハハハッ!!!!ハハッ、ククッ、ハハハハ……。
すまない、発作で……勝手に笑ってしまうんだ。
昔からなんだ、そういう障害で……すまない。
ええっと、どこまで話したっけ……そうだ、ジョークだ。
もう一度いこう。
Knock,knock……どなたですか?
警察です。あなたの息子は飲酒運転をしていた車に跳ねられて死にました!
これは、そう、ノックノックジョークをする、と思わせて本当に悲しいニュースをするっていう。
そういう捻ったジョークなんだ……どうだったかな?
そういえば、そう。最近、肩の違和感が強いんだ。
まるで、こう、血を吸う植物みたいなのを植え付けられたみたいな……。
日本じゃ彼岸花っていう花が血を吸うんだっけ。
その内、僕の肩にも咲くかもね……アーサーベルが!
なんて、ハハッ…………。
えーと、じゃあ、今日はここまで。
高評価と、チャンネル登録してくれると……そう、とても、嬉しい。
……それじゃ、明日もよろしく。バイバイ。
【1】
型落ちしたスマートフォンに、中古屋で買った低スペックのノートパソコン。
金を払えば誰でも住まわせる古いアパートに、口に合わない安物のタバコ。そして、色の薄いピエロの衣装。
それが、アーサー・フレックの全てだった。
元々、アーサーは21世紀の東京の住人ではない。
20世紀のアメリカ、その中でも恐ろしく治安の悪い街の出身である。
道化師派遣会社の下っ端として働き、母親を介護しながら暮らしていた。
しかし、ある朝目覚めると、「日本で一人暮らしをしている」という事になっていたのだ。
自分を露骨に見下す上司も、真摯に介護していた母親の姿もない。
故郷から遠く離れた土地に放り出されたアーサーは、独りぼっちで生きる他なかった。
経緯も理屈も分からないが、アーサーは不法入国したアメリカ人という事にされていた。
だから、まともな職に就くなんて夢のまた夢だ。安定した収入など以ての外である。
幸いなことに寝床はあったが、それも築何十年なのか定かでない、老朽化したアパートである。
金さえ払えば誰だろうと住ませるだけあって、環境は劣悪そのものだった。
不思議な事に、現代日本を生きる為の最低限の知識は何故か備わっていた。
具体的に言えば、日本語の理解度や、スマートフォンやパソコンの使い方だ。
自分がいた時代にはない筈の装置、使った事もないのに、どう使えばいいのかだけは理解できる。
薄気味悪い感覚ではあるものの、そのお陰でかろうじて生活は可能だった。
ここまで言えば察しが付くだろうが、今のアーサーはその日暮らしで精一杯だ。
かねてからの理想だったコメディアンの大成など、どう足掻いても不可能である。
芸を披露する場所さえ見つけられないし、仮にあったとしても、社会的地位の無い彼を舞台に立たせる物好きはいないだろう。
もっとまずいのは、戸籍を持たないアーサーでは公共の福祉を受けられないという点だ。
そのせいで、日課であった精神科医とのカウンセリングも行えず、向精神薬さえ手に入らない。
薬に頼れないこの状況では、アーサーの精神状態は悪化していくばかりであった。
そう絶望していた頃、耳に入ってきたのがYouTuberという職業だった。
彼等は面白い動画を投稿し、それによって収入を得て生活しているのだという。
舞台に立てないアーサーにとって、彼等の存在はまさしく天啓であった。
動画サイトであれば、誰もがコメディアンになれる。前歴など関係なしに、だ。
インターネットの世界であれば、自分はもう一度道化師に返り咲けるのである。
それに、Youtubeという動画サイトで人気を博すと、海外でも話題になるかもしれないのだという。
アーサーが思い返すのは、海外のコメディアン――マレー・フランクリンのトークショーだ。
司会者であるマレーはとっくの昔に引退してしまったようだが、番組は今も残っているらしい。
それなら、自分が人気者になれば、憧れのあの番組で取り上げてもらえるのではないか。
ひょっとしたら、自分の動画が脚光を浴びるかもしれない。
ひょっとしたら、自分が人気者になってテレビに出られるかもしれない。
ひょっとしたら、自分の活躍が海外のメディアの目に留まるかもしれない。
ひょっとしたら、自分がマレーが残した番組にコメディアンとして出られるかもしれない。
そんな、奇跡めいた偶然が叶うのを祈りながら、アーサーは動画を撮り続ける。
碌に編集もできてない、数分程度のつまらないジョークの動画ばかりを。
アーサーが開設した「カーニバルチャンネル」には、これまで投稿した多くの動画が並んでいる。
数十個もの動画に対して、チャンネル登録者数は未だに一桁のままである。
ここ数週間、その数字が変動したことさえなかった。
広大なネットの海では、アーサーのジョークは誰にも響かない。
【3】
経歴不明の怪しげな中年でも働き口があるのは、アーサーの数少ない幸運の一つだった。
日雇い労働の仕事では、基本的に職歴は重要視されない。無視されると言ってもいい。
だから、アーサーであっても働いて収入を得る――微々たるものだが――事は可能であった。
そんな仕事の休憩時間、喫煙室で金髪の若い男と煙草を一服していた。
アーサーとその男は、これまでに何度か顔を合わせる機会があった。
恐らく、アーサーと似たような境遇にいるのであろう。それこそ、その日暮らしをせざるを得ない程のものが。
スマートフォン片手に煙草をふかす彼に、アーサーは声をかける。
「……えっと、久しぶりだね。今日も元気そうで良かった」
「当たり前じゃないっすか。アーサーさんと比べてまだ若いっすから」
そう言って若い男は、スマートフォンに視線を向けたまま、手に持つ煙草を口に咥える。
アーサーが常用しているものと同じ、コンビニで買えるものの中で一番安い銘柄だ。
不評の多いものだが、稼ぎの少ない者にとってはこれでもありがたかった。
「あーっと、その……前に言ったけど、僕のYouTube……見てくれたかなって」
「ああ、そういや言ってましたっけ。すんません忘れてました!見ときますわ」
若い男はけろっとしているが、彼とアーサーがこの会話をするのはこれで三度目だ。
その度に「忘れました、見ときますわ」と約束するが、それが果たされた日は一度もない。
チャンネル登録者数はおろか、動画の再生回数すらまるで増えないのが、その証拠である。
それどころか、アーサーがYouTubeの名前を出すと、若い男は鼻で笑う様な仕草を見せるのだ。
彼がこの中年の外人を見下しているのは、誰が見ても明白であった。
「じゃあ、その、僕の動画見ないなら……今見てるのはどんなヤツなんだい」
「ああこれっすか。ファスト映画ってヤツっすよ、知らないんすか?」
「……知らない。何なんだいそれ」
「映画を十分くらいのあらすじに纏めてくれるんすよ。
最近の映画までカバーしてくれるんでありがたいんすよねーこれ」
当然の話ではあるが、若い男が観ているのは違法な動画である。
海賊版に限りなく近いものであり、最近は逮捕者まで出たのだという。
それだというのに、未だに多くの観客はファスト映画を求めている。
アーサーが真面目に動画を撮る横で、彼等は卑劣な手段で再生数を稼いでいるのだ。
「だけど、それって駄目なんじゃないのかい?いくら便利だからって……」
「は?なんでそんな事アンタに口出しされなきゃならないんすか?」
「いや!す、すまない。君が悪いんじゃなくて……でも、僕は観れないなって……」
「意味わからんっすわソレ、今更善人ぶって気持ち悪いっすよ」
露骨に見下したような男の言葉対し、アーサーは肩を押さえながら小さく笑う。
あからさまな嘲笑に対してさえ、彼は何も言い返す事ができなかった。
「……そう、だね。そうかもしれない」
「そうっしょ?楽しく生きてればいーじゃないっすか!
てかアーサーさん真面目すぎるんすよ、もっとテキトーに生きましょうって!
ほら、最近出た実写映画あるじゃないっすか。俺見てねーんすけどアレマジでクソって言われてて!!
解説動画で知ったんすけどぉ、アレ主演の演技クソすぎて逆に面白いらしいんすよ!!
一緒になってぶっ叩くとストレス発散にいいんすよねーこれ」
べらべらと喋り続ける男は、煙草を吸っている時よりよっぽど楽しげだった。
非難していいと見なした存在に対し、彼はどこまでも嘲笑を向ける事ができた。
大勢で何かを否定する事に快感を覚える、少なくとも彼は、そういう人間だった。
いや、どんな場所、どんな時代だろうと、大衆とはそういうものだ。
彼等は英雄が奮起するのと同じくらい、凡愚や無能が這いつくばるのを好んでいる。
惨めな弱者が憐れに藻掻くのは、人々には最高のコメディにしか映らない。
「それも、ファスト映画ってやつで観るのかい」
「当たり前っしょ、たかがエンタメに金使うとかバカみたいじゃないっすか」
そう言ってヘラヘラ笑う男に、アーサーもつられるように笑う。
ただ周りに合わせるだけの、中身の伴わない笑い声だ。本心では少しも面白くない。
それどころか、怒りにも似た感情が沸々と湧き上がるのを感じる。
右肩を強く、強く握り締めた。
【4】
その日は、帰るのに路地裏を通る必要があった。
鼠が横切りそうな狭苦しい道を歩いていると、ここが日本の首都である事を忘却しそうになる。
代わりに思い出すのは、以前住んでいたゴッサムシティの情景だった。
酷い街だった。貧富の格差は東京の比でなく、富豪は弱者を下水道のネズミ程度にしか思っていない。
歩きながら、右肩を押さえる。最近、いつにも増して疼きが強くなるのだ。
東京に放り出されて以来、ずっと肩に異変を感じるようになっているが、ここ数日は更に悪化している。
まるで、巨大なムカデが肩の裏側でのたうち回るような不快感を覚えるのだ。
肩の病気なのかもしれないが、病院に駆け込む事さえ出来ない以上、放置するしかない。
そんな風に、肩に気を取られながら歩いていたのがまずかった。
前方を歩く小太りの学生に気付かず、正面からぶつかってしまったのである。
スマートフォンを見ながら歩いていたその少年も、アーサーに気付けなかったが故に事故であった。
「す、すまないっ!大丈夫かい?」
アーサーの心配になど目もくれず、少年は落したスマートフォンを拾い上げる。
怪我を負ってるかもしれない男より自分の所有物の方が大事だと、そう言わんばかりの行動だ。
だが、その画面を少し見つめた途端、彼は顔を真っ赤にしてアーサーに詰め寄った。
「お前どうしてくれるんだよッ!!スマホ壊れたじゃねーか!!」
そういって少年は、証拠と言わんばかりにアーサーへスマートフォンを見せつける。
アニメの美少女が描かれた液晶画面の全域が、罅割れてしまっていた。
例え内部機械が無事でも、画面がこの有様では使い物にはならないだろう。
「お前のせいだぞ!!弁償しろよジジイッ!!」
「そんなっ!?でも、携帯を見てた君だって……」
「はぁぁぁ!?責任転嫁かよ!?ふざけてんのかよッ!!」
アーサーの知らぬ事ではあるが、その少年は普段は大人しい。根暗と言い換えてもいいだろう。
それは心が優しいからではなく、単に強者に対して強く出れない臆病者だからだ。
そんな少年でさえ、アーサーに対しては純度100%の怒りをぶつける事ができる。
早い話、彼でさえこのみずぼらしい中年を見下していた。
怒り狂う少年と一緒に、アーサーの視界に入ってくるスマートフォンの画面。
罅だらけの画面に映る少女は、まるで惨い皺が無数にできてしまってるみたいで、
「ヒ、ヒハハ、ハハッ」
口から洩れるのは、笑い声だった。
決してアーサー本人の意思ではない。そういう障害を彼は負ってしまっているのだ。
かつて脳に傷を受けたせいで、意図しない時に勝手に笑いだしてしまう。
断じて、少年やスマートフォンが面白くて笑った訳ではないのだ。
けれども、そんな都合を知っているのは、この場においてアーサー独りだけである。
「……は?」
「ククッ、ハハハッ!!アハハハハハハハ!!!」
「なに、何笑ってんだよ、お前……!?」
「違っ、ハハハッ、違うんだ……!病気で……ヒヒッ!ハハハハッ!!
勝手に笑って、しまってっ!アーーーハッハハハハ!!君を、その、笑いたい、訳じゃ――」
言い終わる前に、アーサーの腹部に鋭い衝撃が走った。
少年の渾身の蹴りが、彼に直撃したのだ。
「ふざけやがって!!どいつもこいつも馬鹿にしやがって!
なんで、お前みたいな、中年のクズにまでっ!!笑われなきゃならないんだッ!!」
幾度も踏みつけ、そして何度も蹴りを入れる。
力加減などまるで考えてない、全力の攻撃がアーサーを打ち据える。
暴力を振るった経験などまるでないのだから、死なない程度の加減が効かないのだ。
「お前みたいなッ!いかにも人生終わってますみたいなクズとッ!!
このスマホが釣り合うと思ってんのかよッ!!死ねッ!!死ねッ!!死ねッ!!!」
襲い掛かる暴力の波に、アーサーは何もできなかった。
アメリカにいた頃と同じように、体を丸めてどうにか自己防衛を試みるだけ。
何の力も持たない彼では、ひ弱な少年に対抗する事さえままならなかった。
もしこの場が路地裏でなく、開けた大通りだったのなら、アーサーを救う者はいただろうか。
いや、きっと道行く者の多くは手を出さず、傍観に徹する事だろう。
いかにも金を持ってなさそうな中年に対し、彼等は助ける価値を見出さない。
愛嬌のある子どもや美しい美女ならば、きっと誰もが助け舟を出したのだろうが。
だからアーサーは、血が出そうなくらい右肩を握り締め、祈る。
早くこの苦痛から解放してほしい、どんな手段であっても構わない、と。
この小僧がどれこそ傷つこうが構わない。いっそ殺してしまいたい、と。
人が助けてくれないなら、人でない、それこそ神様に救ってほしい、と。
そう願った瞬間――――アーサーの願いは、晴れて成就した。
何かを殴りつける音に、次いで生肉が床にぶちまけられたような音。
ぴたっと暴力の嵐が止まり、アーサーは何事かと顔を上げる。
彼の視線の先にあったのは、かつて人間だった肉塊が壁にへばりつく光景だった。
壁一面に血潮をぶちまけているのは、ついさっきまで少年だったものだ。
アーサーの前方に、それまで影も形もなかった筈の存在が立っている。
豪奢な着物を身に纏い、頭に狐の耳を付けた女だ。背中には一本の見事な尾まで生えている。
薄汚いものばかり見てきたアーサーにとって、目に毒なくらい麗しい美女であった。
そして、学のない身であっても、それが日本の伝承にいる妖怪というものである事も理解できた。
不意に手の甲に痛みが走り、アーサーは咄嗟に目を向ける。
何も描かれてない筈のその部分には、奇怪な模様が描かれていた。
おどろおどろしい三画のそれは、こちらを見上げる眼の様にも見えた。
「アヴェンジャー、玉藻の前。召喚に応じ参上致しました」
汚れ切った地べたに正座し、女は深々と頭を下げた。
それに対し、アーサーはよろよろと立ち上がり、自分より頭が低い人外を見つめる。
頭を下げられる側になるだなんて、彼にとっては初めての経験だった。
「あ……ああ、あの……なに……が…………」
「困惑するのも無理はありません。急な惨劇を前にすれば、ええ、誰もがそうなるかと」
「な、なんだ君は。これは……一体……」
「詳しい話はこの場を離れてからに。誰が嗅ぎ付けるか分かったものではありませんもの」
アヴェンジャーを名乗る女の、濁り切った瞳がアーサーを見据えている。
見上げる瞳だった。見下され続けた彼にとって、生まれてこの方、初めて感じた視線だった。
またしても右肩を押さえる。これまでにない位、強い疼きを感じ取ったからだ。
少しずつ冷静さを取り戻し、周囲を見渡す。
この場にいるのは、アーサーと、怪しげな女と、壁に張り付いた少年の亡骸だけ。
衝撃のせいか、壁の死体は四肢がひしゃげており、まるで出来の悪いマリオネットみたいだ。
血をぶちまけている様子だって、まるでトマトが潰れているみたいで、見ようには滑稽に思えてしまって。
「………………ハ、HA,ハッ」
血生臭い現場に不釣り合いな笑みが、路地裏に流れ出た。
「?……何が面白いのでしょう?」
「ハハッ、HA,HA、ハハハッ!!HAハハHAハ――――!!」
惨劇の舞台でなおも笑うのは、他ならぬアーサーだった。
堰を切ったように、今までにないくらいの大声で、笑う、笑う、笑う。
殺人を犯した美女の事など気にも留めないで、腹の底から笑い続ける。
心の底に蟠る絶望の一切を放り投げたような、そんな快笑だった。
「す、済まない……!!HAHAハ、持病で……勝手に――アァーーーハハHAッ!!
笑ってしま……って……!!HAHA,ハハHA……!!すまない……悪気は、ハHAハハHAHAッ!!」
玉藻はきょとんとした顔でアーサーを見つめていたが、それからすぐに口元を歪めた。
何かを察したような、しかし相変わらず見上げるような瞳が、彼を見つめている。
彼女の眼は、笑い続けるアーサーの顔――ではなく、彼の右肩に注がれていた。
「……ええ、病気。"そういう事"にしておきましょう」
薄汚い路地裏で、一組の男女が笑っている。
それが意味するのは、更なる悲劇の幕開けか、あるいは――――。
【クラス】
アヴェンジャー
【真名】
玉藻の前@Fate/Grand order
【ステータス】
筋力:E 耐久:E 敏捷:B 魔力:A 幸運:D 宝具:B
【属性】
秩序・悪
【クラススキル】
復讐者:?
復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情は直ちに彼女の力へと変化する。
忘却補正:?
人も妖も多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。
忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃は、クリティカル効果を強化させる。
自己回復(魔力):?
復讐が果たされるまで、その魔力は延々と湧き続ける。
【保有スキル】
呪術:EX
ダキニ天法。
地位や財産を得る法や権力者の寵愛を得る法といった、権力を得る秘術や死期を悟る法がある。
勿論攻撃にも転用可能であり、中でもアヴェンジャーは炎と雷の呪術を多用する。
変化:EX
借体成形とも。玉藻の前と同一視される中国の千年狐狸精の使用した法。
殷周革命期の妲己に憑依・変身した術であり、アヴェンジャーはこれを積極的に使用する。
【宝具】
アヴェンジャーとして召喚された玉藻の前は、宝具を所有しない。
【weapon】
呪術を武器とする。
【人物背景】
キャスター・玉藻の前がアヴェンジャーとして召喚された姿。
【サーヴァントとしての願い】
不明。
【備考】
玉藻の前にアヴェンジャーの適性はありません。
.
今もなお疼く、アーサー・フレックの右肩。
その奥深くで、『そいつ』はただただ嗤っていた。
アーサーを救ったアヴェンジャーを名乗る女は、そいつが創り出した偽物だ。
そもそも、「玉藻の前」なるサーヴァントに、復讐者の適性など存在しない。
英霊の座にあった情報を元にでっち上げた、嘘っぱちの化身に過ぎないのだ。
アーサーの中に潜んでいる「そいつ」こそが、彼が召喚した絶望の夜の化身。
この星に住まう遍く全てを呪い、妬み、それら一切の蹂躙を望む邪悪の権化。
世界が陽と陰に分け隔たれた刻より、陰から陽を見上げ続けた、原初の悪性。
本来であれば、「そいつ」の残滓さえ召喚される訳がなかった。
誰のものでもない願望機は無我ではあったが、決して無策ではない。
聖杯戦争そのものを揺るがしかねない存在など、予め召喚できないよう設定されていた。
そもそもとして、神霊に匹敵する上位存在など、聖杯の出力では召喚しようがない。
けれども、その程度で潔く諦めるほど、「そいつ」は行儀のいい妖ではない。
「そいつ」は自らの尾の一本を変化させ、玉藻の前と呼ばれた女そっくりの化身を生み出した。
かつての自分と同じ名を持ちながら、今ではしれっと陽の側に立っている、不快極まる大妖怪。
英霊の座に名を刻まれた彼女の仮面を被る事で、聖杯に自分は無害なサーヴァントだと誤認させる。
それにより、「そいつ」はまんまと聖杯戦争の舞台に上がってみせたのだ。
だが、「そいつ」の計画はそれだけに留まらなかった。
聖杯戦争への参加権を得た「そいつ」は、次に受肉の手段を模索し始めた。
例え聖杯を巡るこの戦いに参加できたとしても、今の状態では勝者となれないからだ。
無理くりサーヴァントに収まった以上、どうしても魔力供給という問題が立ち上がってしまう。
よしんば以前のように暴れれば、マスターは一瞬で死に至り、自分も消滅の憂いに遭うだろう。
そこで、「そいつ」はかつての記憶を再現することにした。
どうやらサーヴァントというものは、逸話を再現されるとそれに従わざるを得ないらしい。
ケイローンにヒュドラの毒が効いたように、狼王ロボが白い犬に足を止めたように。
であれば、自身がかつて受肉したエピソードを再現すれば、同様に肉体を得られるのではないか。
世界を憎む者の内側に入り込み、右肩を食い破りながら再誕する――あの印度の記憶を再現すれば、あるいは。
その判断の結果が、マスターに選んだアーサー・フレックへの寄生だった。
都合のいい事に、この男の内部はこの上なく――それこそかつて寄生したあの男のように――心地よかった。
彼は上っ面でこそ優しい弱者を気取っているが、薄皮の裏にはヘドロのような感情が渦巻いている。
よしんば不幸が重なり、怒りと憎悪が表皮を焼き払えば、間違いなく彼は怪物へ変貌するだろう。
この東京という舞台も、「そいつ」の受肉にはおあつらえ向きだった。
かつて日本を火の海に変えた頃に比べても、段違いに陰の気が増しているからだ。
そんな地で弱者として生きねばならないアーサーの内面は、尋常ならざる憎悪で充満しつつある。
彼が東京に住み続けるだけで、「そいつ」は驚くほどの速度で力を蓄えるだろう。
そして何より――――ここにはあの"獣の槍"がない。
かつて「そいつ」を心から恐怖させ、そして打ち滅ぼした対魔の刃が、この聖杯戦争には存在しない。
それは、どこにも「そいつ」の復活と暴虐を止めるものがいない事を意味していた。
だから、「そいつ」は笑うのだ。
富豪が貧者を描く映画で大いに笑うかのように、「そいつ」は聖杯戦争を嗤い続ける。
嗤いながらも、妬んで止まないこの世の全てを滅ぼしつくす算段を、現在進行形で整える。
そう、「そいつ」は地球に生まれし全ての呪う。
生誕の祝福を受けた存在全てを見上げ、憎み、そして滅せんとする。
希望を齎す"英雄"を呪う。
勇気を与える"偶像"を憎む。
未来を照らす"正義"を妬む。
互いを支える"家族"を蔑む。
祈りを束ねる"結束"を嘲る。
そして、全てを照らす"太陽"を――――羨む。
おぎゃあぁ、と。
誰にも知られず嗤いながら。
そいつは、「白面の者」は、その刻を待ち続ける。
【クラス】
アヴェンジャー
【真名】
白面の者@うしおととら
【ステータス】
筋力:A++ 耐久:A++ 敏捷:B+ 魔力:EX 幸運:E- 宝具:EX
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
復讐者:EX
陰より生まれ出た者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
周囲から敵意しか向けられないが、向けられた負の感情は直ちに白面の者の力へと変化する。
この世に存在する遍く負の感情、それら悉くが白面の者の餌となる。
忘却補正:EX
人も妖も多くを忘れる生き物だが、この邪悪の権化は決して忘れない。
数百年の時を経てもなお、白面の者は全てを滅ぼす為だけに動き続ける。
忘却の彼方より襲い来る攻撃は、クリティカル効果を強化させる。
自己回復(魔力):EX
全ての陽が滅ぼされるまで、その魔力は延々と湧き続ける。
それに加え、宿主であるアーサー、更には社会そのものに蔓延る陰の気を食らって力を増していく。
【保有スキル】
変化:EX
自身が持つ九本の尾を、"一本を除き"自在に変化させることができる。
武器や雷に変化させての攻撃はもちろん、意志を持つ化身を生み出す事さえ可能。
今回の聖杯戦争では尾の一本を玉藻の前に変化させ、サーヴァントとして振舞わせている。
勿論、それらの尾も白面の一部であり、彼等が陰の気を溜め込めばその分白面の力も増していく。
人理の陰:EX
白面の者の正体は、原初から存在していた陰の気そのものである。
よって、怒りや憎しみといった負の感情を伴わせた攻撃では、白面の者を滅ぼすことができない。
それどころか、人々が白面の者を恐れれば恐れる程、無尽蔵に力を増していく。
この獣を滅ぼせるのは、陰を打ち払う太陽の如き希望だけである。
見上げる眼:EX
自分を見下す存在のファンブル率を上昇させる。
が、白面は陽から生まれたこの世の全てを妬み、陰より生まれ落ちた己さえ嫌悪している。
よって、このスキルはこの地球に存在する全生命に対して発動する。
【宝具】
『この世全ての陰(はくめんのもの)』
ランク:EX 種別:対陽宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
白面の者が実体を得た逸話に由来する宝具。
この大妖怪の本体は、召喚と同時にマスターの体内に寄生する。
変化させた自身の尾を利用しつつ、宿主を介して負の感情を吸収していく。
そして十分な力を溜め込んだ瞬間、マスターの肉体を食い破って受肉。
霊基という枷から解き放たれた白面の者は、東京の全てに破壊と恐怖を齎すだろう。
なお、受肉に利用された宿主の肉体も人外のものとなる。
【weapon】
数十メートルもの巨体を持ち、九つの尾を自在に操る。
口から熱光線を放つこともでき、その威力は巨大な山すら一撃で消し飛ばす。
【人物背景】
妖怪すら恐怖する大妖怪。
この世の原初の混沌から陰と陽の気が分離した際、陰の気より生まれた邪悪の化身。
陽の気から生まれた万物に憧れと憎悪を抱き、それら全ての抹殺を至上としている。
本来であれば召喚不可能だが、玉藻の前の皮を被ることで聖杯戦争に忍び込んだ。
【願い】
今はただ、再誕の時を待つ。
【備考】
アーサーと行動している玉藻の前を名乗る存在は、白面の尾が変化して生まれた化身です。
彼女のステータスは捏造されたものであり、本来サーヴァントですらありません。
なお、仮に受肉が果たされた場合、クラス及びスキルが変化する可能性があります。
【マスター】
アーサー・フレック@JOKER
【マスターとしての願い】
死にたくない。
【weapon】
無力。少なくとも、今のところは。
【能力・技能】
幼少期の体験によって脳が損傷しており、本人の意思と無関係に勝手に笑い始める障害を負っている。
また、コメディアンとしての大成を望んでいるが、コメディのセンスは皆無。
しかしその一方で、内に秘めた狂気と殺人の才能――特に射撃――は常人とは一線を画す。
【人物背景】
後に狂気の犯罪者「ジョーカー」になる男。
あるいは、無数に存在するジョーカーのオリジンの一つ。
【方針】
何がどうなっているのか分からない。
投下終了となります。この時間まで待ってくださりありがとうございました。
皆さん投下ありがとうございました(二度目)。
オーバータイムの方も終わりましたので、これにて正式に当企画の候補作募集を締め切らせていただきます。
候補作の総数は何と200オーバー。めちゃくちゃびっくりしました。
改めて、ありがとうございました! そしてこれからも当企画のご愛顧・ご応援のほどよろしくお願いします。
wikiにおいて本自作の「 Fragment of 3020」におけるセリフの一部を修正したことと、ビーストEXにスキルを一つ追加したことを報告します。
追加したスキルは問題があれば、削除させていただきます。
追加したスキルは下記のものになります。
○神性
神霊適性を持つかどうか。
「粛清防御」と呼ばれる特殊な防御値をランク分だけ削減する効果があり、また「菩提樹の悟り」「信仰の加護」といったスキルを打ち破る。
ビーストEXは人造の存在ではあるが、紛れもなく電脳世界の女神である。
しかし「進化し続ける神」であるため、生まれながらにして完成した女神であることを現し、精神と肉体の絶対性を維持する効果を有する「女神の神格」は持ち得ない。
またビーストEXの宝具名を再度変更させていただきました。
変更前
『刻み記す黄昏の世界』
変更後
『黄昏の世界、虚ろなる空』
そして同じく自作の「在り得ざる運命の夜」に脱字が見つかったため修正します。
>>672
自分がしたのと同じマスター狙いに、アサシンは逃げることができず、しかたなくアーチャーさんの受け止めて防ぐ。
↓
自分がしたのと同じマスター狙いに、アサシンは逃げることができず、しかたなくアーチャーさんの攻撃を受け止めて防ぐ。
>>黒い衝動
アーチャーの異常性と、それを従えるマスターの決意の強さをよく感じる話でした。
しかもステータスシートによると、これでも本来のクラスで喚ばれてるわけではないというのがまた。
宝具は非常に強烈で、1日1回が限度の縛りはあれどとんでもない脅威となる気がします。
そんな彼のマスター、万次郎が望む幸せは果たして実現できるのか……。
>>大貝獣物語ふたたび
非常に禍々しく、それでいて生々しい描写が特徴的でした。
このサーヴァントはとても異様な存在なのだと率直に理解させられた感じがあります。
豊かな筆致で描かれたおぞましいシーンがダイレクトに脳に届いてくる、そんな印象のお話でした。
また、その描写とは裏腹の切実な独白もいい味を出していたと思います。
>>救いのマン
パーマンのキャラが投下されるとは思わず、まずそこに驚かされました。
どことなくコミカルであったり打って変わって物寂しげだったり、雰囲気の二転三転するお話でした。
それぞれのキャラの人間性や経歴がしっかり伝わってきて読みやすかったです。
とはいえ二人の境遇はあまりにも違いすぎており、そこがこれからどう触れられていくかも楽しみですね。
>>再演奏(アンコール)、あるいは即興楽章(ジャム)
隠居後とはいえ、切嗣が殺人鬼の曲識を召喚するというのは作中でも触れられてた通り皮肉ですね。
しかしながら動じることはなく、彼が目指すのは生きる道。
士郎のため、家族のためというのが第一に来るのはなんか好きです。
そしてそこからの「『家族』のために生きる、か。それは――悪くない」。いいですね〜〜。
>>諫山黄泉&バーサーカー
単に顔合わせするだけでなく、物語の起伏がとても豊かで驚かされました。
聖杯戦争のシステム上そういうことも確かに可能ですが、まさか候補作からそれをしてくるとは。
黄泉の心理描写や狂気、悲哀が丹念に描写されていたからこそ余計感情移入して読むことができました。
そしてギンの描き方がとても格好いい。個人的にかなり好きでした。
感想が結構溜まっているので、何日かに分けつつ毎日消化していきたいと思います。
必ず感想は書きますので、その点はご安心を。
続いてこれからの予定についてですが、OPの投下は7月中には行いたいと考えております。
書きあがりの目処が立ち次第改めて連絡させていただきますが、取り急ぎ。
また、OP投下後に改めて企画のルールと、書き手の方向けのルールなどを投稿させていただく予定です。
絵師さんに依頼して挿絵(立ち絵)も数枚製作していただきましたので、そちらについてもぜひお楽しみに。
>>白瀬咲耶&ライダー
咲耶とネモ船長、二人の醸す雰囲気がとてもエモくて素敵なお話でした。
聖杯に縋ることなく皆を守ろうとする姿勢もとてもらしくて、キャラの解像度が非常に高かった印象です。
ネモの自罰に対しても前向きに返して彼の心を開かせる辺りのシーンが個人的にはとても好きですね。
不思議な爽やかさとまっすぐさが同居した主従、どう活躍していくかが非常に楽しみです。
>>魔女と女王の物語・断章
雰囲気の出し方とか引き立て方とかが非常に巧みで、すご……と言葉を失って読みました。
モルガンという実装されてまだ間もないキャラの口調や性質をここまで掴んでいるのかというのにも驚嘆。
そして魔女こと、マスターの詠子の異様さも凄く良く描写されていたと思います。
人理発狂という最悪の結末をもたらさんとする彼女たちは、ともすれば本企画の参加者たちの最大の敵になっても不思議ではないですね。
>>がんばれワルナスビ
賊は賊でも、義賊同士の主従ですね。
どちらも初めて知るキャラクターですが、テンポが軽やかでとても楽しく読めました。
ノリからしてコミカルで読みやすく、この主従の雰囲気をすっと感じ取れた気がします。
聖杯戦争の中で彼ら彼女ら義賊たちがどのように立ち回っていくのか、とても楽しみです。
>>ユージロー・サーガ
そんな話、ある?って思わず感じてしまった一作でした。
勇次郎の奔放さやトンデモさが遺憾なく表されており、再現度がとても高かったなあと。
そして藤丸ことぐだ男はもうドンマイとしか言いようがない有様に。
果たして彼はこの勇次郎というとんでもないサーヴァントの手綱を握れるのか否か。
>>在り得ざる運命の夜
桜にエミヤではなく、HFの某ルートアフターの士郎をあてがうというのは驚きでした。
まさにタイトル通り、あり得ざる運命の夜、というべきでしょうか。
「それじゃあ桜って呼ぶぞ。……ああ、この響きは実にあんたに似合っている」がやっぱり好きですね、個人的には。
士郎にしてみればあるはずのなかった続きの物語。どう転んで行くかが見所ですね。
本日の分の感想になります。
明日も書きます!
>>影森みちる&キャスター
作中でも触れられていますが、お互いがお互いを導こうとする、まさにそんな話だったと思います。
利用される側と利用する側、構図的にはよくあるものですが内容が濃くて面白い。
それぞれのキャラの性格やキャラクターとしての良さもしっかり描写されており良かったなあと。
しかしマスターのみちるがキャスターの本性に気付くのはいつになるやら……。
>>イカ娘&ランサー
イカ娘がマスター!?という驚きがまず先に来ました。
けれど内容はギャグではなくむしろシリアスで、その意外性もまた好ましかったです。
イカ娘の善性と、ランサーの復讐に懸ける想いとが相反していることもしっかりと描写されていましたね。
無視できない火種のある主従なので、それにいつ火がつくかと考えるとなかなか恐ろしいですね。
>>俺とお前は、主従(なかま)だって事。
コミカルな、他にはなかなか無い雰囲気のお話だったと思います。
勢いの良さが特徴的で、原作を知らない人間でもキャラクターの面白さがすっと伝わってきました。
この空気感を出しながらお話に仕上げられるのは凄いなあとそう感じます。
サーヴァントとしての性能もなかなかにピーキーかつトリッキーで、面白いなあと思いました。
>>逢魔召喚1983
この企画では三人目になる古手梨花ちゃん。この子も大変ですね。
今までの投下作では武蔵ちゃんに無惨と強力どころを引いていましたが、今回のサーヴァントも非常に強力。
オーマジオウというサーヴァントの強さが丁寧に描かれており、その脅威度がはっきり分かりました。
けれど聖杯をマスターに渡すことにもあまり抵抗が無いようで、そこも原作を知らない身としてはなかなか興味深かったです。
>>Knock,knock
生々しさといいアイデアといい、この候補作ならではの持ち味というのがたくさんあった印象です。
アーサーの"終わってる"境遇の描写がまずめちゃくちゃ上手く、いい具合に厭〜〜となりました。
そして玉藻が登場して、ん……? となってからの最後の種明かし。最高ですね。
白面の化身にFate玉藻を持ってくる発想もクロスオーバーならではって感じで凄く好きです。良いものを読んだ……
連日に渡りお待たせしてしまいましたが、これにて感想の投稿を完了させていただきます。
改めて皆さん、とても素敵な作品をありがとうございました!!
(wiki編集は明日あたりやろうと思います)(忘れてないよ)
3人の中ではオーマジオウが群を抜いて強力だけど、その分多くの英霊からヘイトを買ってる設定があるから有利って程でもないのかな
本日OPの方が書き上がりましたので、明日の22:00から投下させていただきます。
もしかしたら若干時間がずれるかもしれませんが、その場合はなるべく事前にお伝えします
把握
楽しみにしています
OP「SWEET HURT」投下を開始します。
かぐわしき聖杯の檻。
無垢な赤子の眠る籠。
砂糖菓子のように甘く、純粋に、ただ何かを満たすという慈心のカタチ。
これはただ、生まれてきただけだ。
そして生まれた意味を果たすべく、手を伸ばした。
世界の枝葉、その果てまで。
視て、引き寄せて、放り込んで、閉じ込めた。
白く四角い檻の中。甘い夢へと繋がる病室。すべての鼓動を繋ぐ棺。
そして、今。彼の、彼女の、みんなの祈る籠の中に――地平線の果てより、ひとつの光が射し込んだ。
ウルトラブルー・ランドスケープとの接続を切断。
ムーンセル・オートマトンへの介入を終了。
聖杯座標を隔離宙域32876号に再指定。以上により外部宙域からの干渉、抑止力の作用を遮断──完了。
界基情報再照合。聖杯内界の霊的解析を開始──完了。
界層深化処理に伴いサーヴァント喪失者XX名の令呪並びに付与魔術回路の回収を実行。
対象を可能性喪失者と再定義。XX名全員の可能性剪定完了を確認。界層深化処理実行開始──全工程完了。
──残存主従数"二十三組"。
現在時刻(午前零時)を以って、聖杯戦争の第二段階『本戦』への移行を完了する。
並行宇宙からのマスター招来を中断。当界は残存二十三組の内から最終資格者、"世界樹の王(ニーズホッグ)"を選定するものとする。
本戦への移行に際し、残存するマスター資格者二十三名に対し以下のように聖杯戦争総則のアップデートを告示する。
これは、二十三体の"可能性の器"並びにその使役するサーヴァントにより行われる魔術儀式である。
器たる存在の定義はサーヴァントを使役していることだが、サーヴァントを喪失した場合であっても、他の個体と再契約を締結することで器の資格を復元させることが出来る。
最後まで器の資格を保った者が聖杯戦争の勝者"世界樹の王"と認定され、全能の願望器たる界聖杯を使用する権利を得る。
界聖杯は勝者の願望を成就させ、元居た世界への帰還処理を行った時点で全エネルギーを使い果たし消滅する。
──八月一日午前零時、現刻をもって総則を以上の内容に更新。
同時に、以下の条項を追加する。
『聖杯戦争終了の条件が満たされた際、内界で生存している可能性喪失者についての―――』
◆◆
とある日の、午前零時のことであった。
さながらそれは、彼の、彼女の、それぞれの物語が始まった瞬間。
かつて聖杯戦争の則と理が刻まれた瞬間そのままに、神託めいた唐突さで"可能性の器"達の脳裏へと響き渡った。
開幕のその時を告げる、鐘の音が。
星の始まりにも、或いは終わりにも聞こえる"音"。
産声にも、或いは断末魔にも聞こえる、その音。
それは言葉ではなかったが。されどそれを聞いた者は、誰もが皆一様に理解した。
終わったのだと。
そして、始まったのだと。
地平線の果て、すべての願いが叶う世界樹に歩む彷徨が。
今この時を以って、ようやく真に幕開けたのだと。
「ふあ〜あ……。
……まだ起きてんのかよ。早く寝ねえと背ぇ伸びねえぞ〜?」
「ねえらいだーくん。私たち、"残った"みたいだよ」
「あ?」
ぼりぼりと、女の子が一人で住む部屋で取るにしてはあまりにもガサツで無遠慮な所作で頭を掻く少年。
彼は、サーヴァントだった。サーヴァントなのに惰眠を貪るし、飯も食うし、用便にも行く。
そんなあまりにも人間臭くそれでいて全ての行動が月並みな男だったが、それでもその霊基は無窮のものとして英霊の座に登録されている。
「マジかよ。そんなに時間経ったかあ?
俺、召喚されてこの部屋をぶん取ってから何もしてねえ気がすんだけど」
実際、彼の言うことは間違っていない。
最初に召喚されてすぐ。この部屋の主だったマスターと戦って、そのサーヴァントを斬り殺して。
頼みの綱を失って脱兎の如く逃げ出した敵の後釜に収まる形で、この主従は部屋の主となった。
件のマスターが今何をしているのかは知らないし、二人揃って興味の一つも抱いちゃいない。
戦利品として得たこの部屋で、ただのびのびと――何をするでもなく。
こうして界聖杯からの通告を聞く日まで、熾烈だった"らしい"予選期間を生き延びた。
「二十三組。だって」
私たち含めて、残ってる人たち。
窓辺で月の光を浴びながらどこか遠くを見つめるマスターに、サーヴァントの少年は何と返せばいいのやら分からなかった。
ただ。界聖杯から改めて通告があったというならば、まさか残りの主従の数を伝えただけで終わりではあるまい。
少年はお世辞にも頭のいい英霊ではなかったが、そのくらいのことには察しが付いた。
「で? 界聖杯は他に何か言ってたのかよ」
「帰れないんだって」
「何だって?」
「だから、帰れないの」
帰れない。
少女は――神戸しおという名の、幼い彼女は確かにそう言った。
それを受けてライダーのサーヴァント。真名をデンジという彼は、「そういうことか」と思った。
考えてみればなるほど確かにありそうな話だ。
界聖杯とは願いを叶える仕事を終えたら消滅する全能の願望器であって、それ以上でもそれ以下でもないのだから。
「誰かが願いを叶えた時まで生き残ってた、願いを叶える資格のないマスターはね。みんなこの世界と一緒に消えちゃうんだって」
地平線の彼方に辿り着けなかった、割れた可能性(うつわ)の後片付けをする義理など。何処にもないのだ。
◆◆
――――『聖杯戦争終了の条件が満たされた際、内界で生存している可能性喪失者についての送還処理は行われない』
――――『全ての可能性喪失者は、界聖杯の崩壊と共に消滅する』
◆◆
"櫻木真乃"は、普通の少女である。
彼女はアイドルだ。彼女は、きっと学校のクラスメイトよりずっとたくさんの人間を笑顔にして生きている。
その分心ない悪意と嘲笑に晒されることも人の何倍も多いが、それに挫けることなくステージの上で眩く輝き続けて生きている。
けれど。ただ、それだけだ。
人より少し眩しくて、幸せを振り撒いているだけ。
ステージを降り、衣装を脱ぎ、仲間と別れたなら、そこにいるのは天使でも女神でもない。
ただの、何処にでも居るような。どこまでもありふれた、何十億人かの地球人の一人。
『……ほんとに大丈夫ですか、真乃さん』
「……うん、大丈夫だよ。昨日は流石に、ちょっとびっくりしちゃったけど――」
そんな真乃に突き付けられたのは、遠回しな死の警告。
端から聖杯を手にして願いを叶えるために戦っている者ならば、それはきっと今更言われるまでもないことであったに違いない。
願いを叶えられないのは死と同義。敗北して可能性を失い、聖杯の恩寵を取り零したのなら、もはや生き続ける意味などないと。
そう割り切れるのだろう。しかし、しかしだ。
生き残った二十三の器の中には、全能を望まず、戦いを拒む者も少なからず存在している。
櫻木真乃もまた、その一人であった。
「(なんて……少し強がりすぎかな。
結局昨日はあの後、ほとんど眠れなかったし……)」
そういう者達にとって、昨日総則に追加された項は文字通り死の通告に等しかった。
何故なら聖杯を望んでいない。勝者になる気がないのだ、彼女達は。
椅子取りゲームの勝利条件は残り一つの玉座に座ることだけ。
みんなで仲良しこよしの大団円で終われるゲームではないのだと、真乃もそのサーヴァントも理解はしていた。
だが、それでも。
こうして確たる現実として突き付けられれば――揺らぎもする。彼女はあくまで、泰平の現代を生きる一人の未成年でしかないのだから。
「(ひかるちゃんには、心配かけないようにしないと。
とっても優しい子だから、きっと辛い気持ちにさせちゃうよね)」
寝不足の脳に午前の強い日差しが容赦なく照りつける。
正直まだ、完全に切り替えられてはいないけれど。
まだ、不安を乗り越えるのには時間がかかるかもしれないけれど。
せめてこの子には、私のサーヴァントに心配はかけないようにしようと、真乃がそう思った矢先だった。
『――心配かけたくないとか、そんなことは思わないでくださいね』
心中の決意を言い当てられて、真乃は思わず歩く足を止めてしまう。
その反応でもう、彼女のサーヴァント……"星奈ひかる"には全てが分かった。
やっぱり、と思った。この人はきっとそういうことを考えるはずだと、此処までの付き合いで分かっていたからだ。
真乃さんは、優しい人(マスター)だから。
その信頼が、ひかるの頭に大事な大事な確信をくれた。
『私はサーヴァントで、真乃さんはマスターだけど。
それでも……わたしたちは二人で一人なんですから。
真乃さんばっかりつらい気持ちを抱え込んで我慢するなんて、そんなのはなしです!』
「……ひかるちゃん」
思わず、念話も忘れて呟いてしまう。
ひかるは見た目も声色も、真乃よりいくらか幼い。
それでも。彼女は、サーヴァントなのだ。
自分の人生を一度終えて、世界のひとつになった英霊。
そんな彼女の言葉は、真乃の――今まさに一人我慢しようとしていた心に、一筋の流れ星のように素早く届いた。
「あはは……全部お見通しかあ。
ごめんね、ひかるちゃん。うん……正直、まだちょっと怖い」
死にたくない。消えたくない。
その想いはアイドルだろうが一般人だろうが、みんなみんな共通のものだ。
積み上げてきた過去も、これからあるはずだった未来も、ひょっとするとこの世界と一緒に泡と消えてしまうかもしれないのだから。
「でも、この世界にはきっと私以外にも居ると思うんだ。今、おんなじ気持ちになってる人たちが」
――さりとて。
それでも、真乃は現実に堕さない。
目先の死に怯えて本能に縋るのではなく、彼女は勇気を抱く。
「だったら私、そういう人たちと協力したい。
私と、ひかるちゃんと……まだ顔も知らない人たち。
みんなで力を合わせたら、きっと決められた未来だって変えられると思うの」
『えへへ……私もそう思います。おそろですね、わたしたち』
そしてそんな彼女に、迷わず同意を返せるのが星奈ひかるというサーヴァントだ。
星のプリキュア・キュアスター。勇気と輝きの象徴、人々の希望。
有史以来一日も欠かすことなく常に空で輝き続ける光――その名を掲げる英霊が、目の前の眩しい勇気に微笑まない筈もなかった。
きっと未来は変えられる。
心を閉ざした弱気の闇が晴れていくのを感じながら、"この世界では"まだ営業を続けている通い慣れた事務所の方へと足を進め。
そこで、ふと。
聖杯戦争のこととはきっと関係ないだろうことをひとつ、考えた。
「(……プロデューサーさん、どうしてるのかな)」
彼女をアイドルの道に導いてくれた恩人である、大切なプロデューサー。
真乃がこの世界の一員となった日には既に職を辞していた彼は、今何をしているのだろう。
彼には彼の人生があると分かってはいても、やはり心配になってしまう。
「(危ないことに巻き込まれてなきゃいいんだけど……)」
だってこの世界は、とても危ないから。
日常の一枚裏側で熾烈な戦争が繰り広げられる、とっても怖いところなんだから――。
◆◆
「先に言うべきじゃないんですかね、そういうのって」
午前の日差しをカーテンで遮った部屋の中で、"七草にちか"は独りごちた。
いや。独り――というのには語弊があるか。
霊体化しているので姿こそ見えないものの、彼女のサーヴァントは今もこの部屋の中に居る。
界聖杯によって魔術回路を付与されているとはいえ、その量は決して多くないのだ。
彼女の使役する英霊はそう莫大な魔力消費を要求する人物ではなかったが、いつ何が起きるか分からないこの世界では、平時は可能な限り余計な消耗を避けておくに越したことはあるまい。
そして。にちかは自分の顔に刻まれた血糊のような紅い紋様を、刻印を指でなぞる。
自分が"器"であることを自覚してからというもの、すっかりこうして顔に触れるのが癖になってしまった。
アイドルの命と言っても差し支えない顔。そこに顕れた、タトゥーと呼ぶにも悪趣味な御印。
もっとも今はもうアイドルでも何でもない――否。アイドルを目指してすらいない身であるのだったが。
「わざと大事なとこだけ隠しておいて、頃合い見計らって実はこうでしたー! ……なんて。
界聖杯って何かの偶然で生まれた現象らしいですけど、その割に随分人間臭いことすると思いません?」
「無我と無知は違う。界聖杯は前者ではあるものの、後者ではなかったということなんだろう」
はあ、と溜め息混じりに語るにちかは、界聖杯から伝えられた新たな条項についてとはまた違う理由での困惑を覚えていた。
「(……なんでだろ。なんか、あんまり動揺してないなー)」
聖杯戦争が終結すると同時に、願いを叶えられなかった"ただ生きているだけ"のマスターは全て模倣の世界と一緒に消滅する。
それは即ち、勝つか負けるかではなく勝つか死か。
デッド・オア・アライブの状況を突き付けられたのと全く同義の話なのだが――どうにも慌てふためく気になれない。
自分でも不思議だった。物語のキャラクターじゃあるまいし、もっとずっと怖がって戸惑って然るべきだろうに。
「それで。どうするんだ、マスター」
そんなにちかに、霊体化を解いたサーヴァント・メロウリンクが問いかける。
少年期の名残を残した顔に嵌まった眼球、そこに永劫消えることのない深い哀しみを沈ませた男。
年頃の少女の部屋には不釣り合いな哀愁と無骨さを持った彼の問い。その言わんとすることは無論、にちかにも伝わっている。
「身の振り方を決める頃合だろう、そろそろ。
残ってる器の数が明かされた以上は他の連中も血眼になって敵を探し始めるはずだ」
「……分かってますよ、そんなの。
でも分かってたからって、どうにかなるわけじゃないです。
それを今此処で即決出来るほど、私人間やめてないですから」
これからの聖杯戦争においては、聖杯を手に入れるという言葉の重みも変わってくる。
今まではまだ、サーヴァントを失い聖杯に辿り着けなかったマスターも帰還出来るのではないかという可能性があった。
だが、それは界聖杯によって直々に否定された。
直接的に殺すか間接的に殺すかの違いでしかなく――結局、聖杯を追うというのは無数の屍を積み重ねてそれを足がかりに歩む所業となる。
でも、事実上は聖杯を狙う以外の択などない。
生きるか死ぬかのことだけを考えるなら、そうなる。
垂らされた蜘蛛の糸が一人用なら、結局他の亡者を蹴落として上にあがるしかないのだ。
「……俺は単なる影法師だ。復讐に生きて、そして死んだ幻影だ。
だから今を生きている人間にあれこれ訓示出来る身分じゃあない」
「……、何が言いたいんですか」
「ただ、"戦争"を経験した先人として言うならだ」
その声にある重みは、並大抵のそれではなかった。
地獄と呼べる世界を体験した人間だけが醸せる、重み。
血と硝煙のむせ返るような匂いを、にちかは彼の居姿から確かに嗅ぎ取った。
それは幻なれど。しかし確かに、メロウリンク・アリティの真実の一端に触れていた。
「――生きて帰る。そのために戦うことは、決して悪なんかじゃない」
生きる。
そのために殺す。そのために逃げて、そのために奪う。
それは美徳ではないかもしれない。
だが決して、悪徳ではないのも確かだ。
聖杯戦争、これは文字通り生き死にを争う戦争なのだから。
命を賭して願いを叶える覚悟なき者が戦いに身を躍らせる理由としては――生きたい。生きて帰りたい。それだけでも、きっと十二分であろう。
「俺はマスターの選択に従うだけだ。だけど、そういう考え方もあるということは覚えておくといい」
そう言い残して、再び霊体に戻るメロウリンク。
「待っ――」と思わず声を出したが、続く言葉が思いつかず、途中でやめた。
「……言いたいことだけ言って消えないでくださいよ、はあ」
何か考えるべきなのかとも思ったが、今のにちかはまだその領域にいない。
残り二十三組だとか、聖杯戦争が終わった後の処理だとか、一度に告げられた情報の量がちょっと大きすぎる。
自他共に認める凡人であるにちかには、それらを咀嚼するのにまだもう少し時間がかかりそうだった。
……気分転換にテレビを点ける。
すると、近頃急速に名を上げているアイドルグループのCMが流れ出した。
人気とは言っても、このグループはお世辞にも均整の取れた面々ではなかった。
センターが、歌でも踊りでもルックスでも、そしてそれ以外の全てでも、完全に他のメンバーを食ってしまっているのだ。
名前は、確か。星野アイ、だったっけ。
「……、」
にちかはテレビを消した。
それからすぐに顔を背けて、わざとらしいくらいに"今思い出した"感を出して、起きてからずっと閉めっぱなしだった部屋のカーテンを開けた。
伸びをする。「ん〜」なんて声を漏らして、努めて何事もなかったみたいに振る舞う。
取り繕うべき相手など、もういないというのに。
ただ一人居るとすれば、それは。
それは――
◆◆
「何見てるんです、さっきから」
「明日共演する子たちのライブ映像。なんかすごい急に決まってさ、びっくりしちゃったよね。
普通こういうのって何週間も前から打ち合わせしてやるもんなんだけど」
283プロ(あそこ)、今バタバタしてるみたいだから仕方ないのかな。
そう言いながら、人気全盛のアイドルユニット『B小町』不動のセンター・"星野アイ"はスマートフォンの画面上で踊って歌う少女たちの姿をじっと見つめていた。
「すごいな、思ったよりちゃんとしてる。
これならこっちの子たち押し負けちゃうかも。私を除いて」
「はははは。相変わらずなようで何よりっスよ、マスター」
移動用のハイエース。
そんな彼の生前を思えば実に"似合わない"車を運転しながら、ライダーのサーヴァント・殺島飛露鬼は紫煙を吐き出し笑った。
なかなかどうして肝の据わった女だと思う。これでまだ二十歳だというのだから更に驚きだ。
昨晩の通告については、アイも当然聞いている。
聖杯戦争に敗れれば、この世界と共に消えることになるというその追加条項(アトダシ)に――しかしアイはこの通り、さして動じちゃいなかった。
『どうせ私元の世界じゃ死んでるし、負けて消えても同じでしょ。痛くないぶん前のやつよりマシまである』、とのことだった。
「けどよォ〜……そこまで真剣(マジ)になる意味あるんですかね?
此処はあくまで聖杯戦争のために模倣られた世界だ。
マスターが勝つなり他の誰かが勝つなりすりゃ、影も形もなくなっちまう泡沫(ユメ)なんですよ?」
「うーん、ぶっちゃけ私もそう思うんだけどさ」
殺島の言葉にアイは画面から顔を上げて言う。
界聖杯内界(ここ)はいつか消える泡沫の世界。
今此処にある質量も、此処で生きている命も全てが本物。
けれどそこに未来(さき)だけがない。
この戦いで誰が最後まで勝ち残るにせよ、今アイたちが生きている仮初めの世界に"その後"が与えられることは決してないのだ。
「アイドルってね、やっぱ嘘だらけなんだよ。
ていうかもう全部嘘。ファンに本当の自分をさらけ出してる子なんてまず居ない」
くるくるっ、と髪の毛先を弄びながら言うアイ。
殺島も、本気でアイの行動の意義を問うているわけではなかった。
これまでこの内界で共に過ごした時間の中で、殺島はアイの様々な姿を見てきた。
それは眩しく輝いている姿であり、ファンには見せられない素の姿であり、家でのだらけた姿であり。
その中で彼女の人となりは多少なりとも理解している。
なのにわざわざ今更な質問を投げかけたのは……ひとえに、好奇心だったのかもしれない。
星野アイ。その名の通り――星のような女。
きらきら、きらきらと。
彼女がそこにいるだけで、世界は輝きで染め上げられる。
「でもね、嘘をつくのって結構努力がいるんだよ」
けれどアイは宝石ではない。
彼女はガラスの石ころだ。
とびきり形が良くて、何色にでも染まることの出来る石ころ。
色を塗って輝きを付け足して、そうやって彼女は誰も敵わないダイヤモンドとしてステージの上に立っている。
嘘つき。それも一朝一夕の苦し紛れじゃない、文字通り毎日のすべてを注いで鍛え上げられた――大嘘つき。
「私は聖杯で生き返るんだから、それまでの努力を欠かしちゃダメでしょ。
何日か何週間かは分かんないけど、その後は今まで通りにB小町の最強センターなんだから」
ちょうど、車はトンネルの中に入っていた。
薄暗く染まった車内の中で、助手席に座るアイが殺島へと微笑む。
その笑みに釣られて、殺島も思わず苦笑した。
なるほど、確かに。こいつは真実(マジ)の偶像(アイドル)だ。
「(花奈が芸能界に入ってたら、アイみてぇな偶像(アイドル)にでもなってたのかね)」
花奈。
殺島飛露鬼の、この世で一番大切な娘。
それでいて、彼が守れずその手から取り零してしまった命。
極道(ヒトゴロシ)の自分が逢うにはあまりに眩しすぎる偶像。
そのあったかもしれない未来を想い、殺島は肺の奥まで燻らせた紫煙をまた窓の外へと吐き出した。
花奈はとびきり可愛い女の子だった。
成長して社会に出れば、きっとこのアイにも劣らない美女になっていたことだろう。
もしかしたら、あったのかもしれない。
ステージの上で輝いて、誰かの【推しの子】になる――あの子の姿も、どこかの世界には。
「アイ」
「わぁいきなり呼び捨て」
「お前の双子(ガキ)は、どんな大人になんだろうなァ」
◆◆
"田中一"は、ひどく没個性な男だった。
百点満点で採点するなら五十点。酷い不細工というわけではないが、決して美麗な顔立ちをしているとは言えない容貌。
しかしながら。その目には狂気があった、一線を超えた者特有のぎらぎらとした輝きがあった。
そうだ。田中は既に、この内界で一線を超えている。
人を殺した。この手で、他でもない自分の意思で、人を。
界聖杯内界に存在する構造物や人間は、全て様々な並行宇宙の枝葉からコピーしてきた模倣品に過ぎない。
だが、模倣とてそこには命がある。魂もある。故に田中はちゃんと人殺しなのだ。裁かれることが無くたって、その事実自体は永遠に残る。
されど田中は、その罪を歓迎していた。
ああ、そうじゃなくちゃな、と。自分の殺した女が、革命の犠牲者となった第一号が、命ある人間であったことに感謝すらしている。
だって、作り物を壊しただけでは――変えられない。
このしみったれた、カスほどの価値もない人生を揺るがせない。
ちゃんと人間を殺せたことで、田中は一歩を踏み出せた。清々しさすら覚えながら、脳内に響いた啓示を反芻する。
「やれるもんだな、案外」
残り、二十三体。
それがこの世界に召喚された、"可能性の器(マスター)"達の生存状況であるらしい。
言わずもがなその中には、今こうして生きている田中も含まれている。
元の数字が幾つだったのかは分からないが、きっと相当な数が脱落していったのだろう。
何も叶えることなく。負けて、死んだ。
命があろうと敗北は死なのだ、この世界では。
そのことを知った田中にはしかし、恐れも迷いもなかった。
――どうせやるなら、勝たなくちゃいけない。
きっと界聖杯もそれを望んでいるはずだ。
この聖杯戦争というゲームを勝ち抜いて、誰であろうと殺して、全能の願望器をその手に掴んでやる意思が田中には確かにあった。
"覚悟"とはきっと違う、熱病のように一過性の――されど爆発のように激しく燃え盛る意思が。
「……なあ。聖杯戦争ってこういうもんなのか?」
田中は不意に、宙へ浮かぶ紙切れへと話しかける。
それは、一枚の写真だった。
しかし普通の写真ではない。知らない誰かの手が写り込んでいるとか、被写体の首から上が消えているとか、そういう類の写真でもない。
その写真からは、白髪の老人が生えていた。
有名なホラー映画のワンシーン。テレビから這い出してくる、白装束の"アレ"のように。
「『わが息子』がきさまに寄り付かないことを憂いておるのか」
「いや……別にそこまで思い詰めてるわけじゃないけど」
「きさまの言わんとすることは分かる。
だがそれも当然。『わが息子』は己の平穏を脅かされることをこの世の何よりも嫌うッ!
そしてそれは英霊になった今でも――この先も永久に! 変わらぬのだッ!!」
あの日。田中の中の何かが弾け、頭蓋にある地獄の釜が開いた日。
マグマのように熱くドロドロな狂気が溢れ出し、人生の色が変わった日。
そこで一度見て以降、田中は一度も自分のサーヴァントである"殺人鬼(アサシン)"と会っていなかった。
だが、理由を聞けば納得だ。なるほど、確かに。
今の自分は――平穏という言葉とは、最も遠い存在ではないか。
田中はくぐもった笑い声を漏らした。
誰が聞いても不気味以外の印象は抱けないだろう、病的な笑い声だった。
その眼球は血走り、大きく見開かれ、口端から一滴の唾液が垂れる。
右手の令呪を愛おしそうに撫でながら、田中は狂気に溺れ未来を夢見る。
負けるわけがない。
そう思えていた。
このゲームには課金額の差などない。
スタートの瞬間の当たり外れで全てが決まる、そういうゲームだ。
そして田中が引いたのは、間違いなく大当たり。少なくとも彼にとっては、高潔な英雄などよりもずっと嬉しいサーヴァントだった。
殺人鬼――日常に紛れ込む悪魔。価値のない日常を、脳が震えるような非日常に変えてくれる存在。
皆殺しだ、誰が現れようと。
何が起きようと、全員残さず殺してやる。
全員殺して何もかも壊して、地平線の果てとやらにある景色を見たい。
究極の快楽。究極の成功体験。それを味わうことが、これ以上ない究極の『田中革命』になるのだという確信がある。
ひひ、と、そんな声を漏らして笑って。
田中は、呟いた。
――負けて死ね。全員、俺たちに負けて死ねばいい。
ガソリンのように燃え上がる狂気を抱き締めながら。
握り締めた狂気の世界への入場券には、六発の弾丸が込められていた。
◆◆
日常は、変わることなく動いている。
それは決して、少女――"田中摩美々"にとっての本当の日常ではなかったが。
この模倣世界・"界聖杯内界"で繰り広げられる営みが嘘偽りの産物というわけでもなかった。
「……これからどうしましょうねぇ、アサシンさん。今まで通りでいいんですかねぇ?」
されど、それが真であるか偽であるかもいずれは関係なくなる。
誰かが地平線の彼方に辿り着けば、そこに続く道程を踏破すれば、それで終わり。
この世界は泡のように弾けて消える。摩美々も、聖杯を勝ち取れなかった他の器たちも――皆等しく消える。
摩美々が己のサーヴァントである"アサシン"に問いを投げかけたのは、やはり界聖杯からの通達を聞いたからというのが大きかった。
これから否応なしに盤面は動く。戦いは、加速する。
その時果たして、自分はこの調子でいいのだろうかと――そう思った。
そんな摩美々の問いに、暗殺者と呼ぶにはあまりに優美すぎる風貌と装いをした英霊は。
持って生まれた美貌のそれと一切乖離することのない、よく通る美声で答えた。
「確かに、今後この戦いは激化の一途を辿っていくでしょう。
必然、マスターや周囲の方々が戦火に巻き込まれる危険性もそれに伴って上がってしまうのは避けられません。
無論、そうならないよう私も全力を尽くします」
「それもそうなんですけどー……」
摩美々の言わんとすることを理解し、アサシン。"ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ"は小さく笑った。
彼女は何も、自分やその周囲の人間の身に危険が降り掛かることを恐れて言ったわけではなかったのだ。
彼女が心配しているのは、他でもないモリアーティのこと。
戦うことの出来ない摩美々に代わって聖杯戦争に向き合わなければならない彼だが、英霊としての戦闘力だけで見るならばお世辞にも強いサーヴァントであるとは言い難い。
天下無双の武人などにはまず及べず、魔術や呪詛に対する防御手段も持ち合わせていない。
ウィリアムが敵対者として英霊と相対するのは引導を渡すその瞬間のみであるべきなのだが、残る主従の数が減れば減るほど、戦況が激しいものになっていけばいくほど、彼が他者に捕捉されるという可能性も増えてくる。
摩美々は敏い少女だ。その可能性にいち早く気付き――だからこそ、その身を案じたのだろう。
「私の身を案じてくれているのであればご安心なく。
むしろ私に言わせれば、此処からの方がやり易い」
「そうなんですかぁ? それはまた……どうして?」
「戦火の勢いが増すということはつまり、それを燃やす者が居るということですから」
しかし、である。
器の数が絞られ、尚且つより大きな火種が求められるようになったこの現状はむしろ"犯罪卿"にとっては好都合だった。
今まで巧みに、或いはごくごく自然に街の喧騒の中に潜んでいた主従がとうとう行動を開始するのだ。
火を起こす側であれ、起きた火に対処する側であれ、まず間違いなく何かしらの形で聖杯戦争と向き合わねばならなくなるのは間違いない。
であれば、選別の機会も増えるというもの。
界聖杯を取るに相応しい願いと、そうでない願い。そして――この地に在るべきでない願いの選別。
界聖杯の獲得を望まないウィリアムは、聖杯の輝きではなくその行方にこそ目を光らせている。
「もう既に掴んでいる不穏な情報も幾つかあります。
今後はその糸を手繰りつつ、着々と為すべきことを為しますよ」
例えばそれは――此処数週間の間で女性の行方不明事案が急増している事実であり。
例えばそれは――どこからともなく現れて凶行を繰り返す異常な子供達の集団であり。
例えばそれは――患者の死亡率の上昇と、遺族の原因不明の死亡や失踪が相次いでいる病院であり。
此処に挙げただけでもほんの一部。既に"犯罪卿"の蜘蛛糸は、この内界に十重二十重に張り巡らされている。
「……あは。余計な心配しちゃったみたいですねぇ、私」
「そんなことはありません。マスターが優しい人間であることが改めて確認出来ました」
「私の方は、実のところ……ぜんぜん心配してないんですよぉ。
アサシンさんのこと、全部分かったわけじゃぜんぜんないですけど。
マスターを狙われてあっさりおじゃん、なんてミスをするような人じゃないってことは、よ〜く分かりましたから」
「……ふ。ええ、勿論ですよ。そんな体たらくでは"モリアーティ"はやっていけませんから」
摩美々がいたずらっぽく笑って、ウィリアムもそれに答えるように笑った。
ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ。
犯罪卿。ライヘンバッハにて分かたれた悪。
今、その隣には優秀な弟も、心優しい友人達も存在しないが。
それでも彼の頭脳と鋼の意思は、依然変わることなく健在だった。
ただ。
そんな彼にも一つだけ、懸念があった。
それはひょっとするとただの杞憂なのかもしれない。
単独で長時間動き続けていたことによる、ある種の疲労が齎したものなのかもしれない。
だが。確かにウィリアムは、違和感を感じていたのだ。
誰かに視られているような。背中合わせの一枚向こうに、誰かが立っているような。
そんな据わりの悪い、ひどく不快な感覚を――此処半月ほどに渡り、ずっと感じていた。
「(……私の"仕事"に気付いている者が居る。
もしそうだとしたら、それは――)」
一体、何者だ? ウィリアムの聡明な頭脳を以ってしても、手持ちの情報と感覚だけでは、それを看破することは出来なかった。
――界聖杯内界。東京の都には蜘蛛の糸が張り巡らされている。
だが、その全てが善を愛し悪を挫く義賊によって張られたものとは限らない。
善を愛する蜘蛛が居るならば、悪を愛する蜘蛛も居る。
悪を挫く蜘蛛が居るならば、善を挫く蜘蛛も居る。
これはつまり、ただそれだけの話なのだ。
◆◆
繁華街の大通りを、フード姿の青年が歩いていた。
東京は世界でも有数の大都会である。故に当然、毎日そこを様々な種類の人間が行き交う。
これは何も人種や年代の話をしているのではなく、人間の性質を見た場合でもそうだ。
変人奇人、狂人。そうした人間までもが当然のような顔をして行き交う現代の魔都。正気と狂気の交差点。
「(あのジジイ、本当にやる気あるんだろうな)」
フード姿であることに加えて、俯き加減の角度で歩いていること。
その二つが相俟って行き交うほとんどの人間は気付きもしなかったろうが、青年の様相は相当に異様なものだった。
目元に刻まれた色濃い隈。口元にまで及ぶ、皮膚病に起因するだろう引っ掻き傷。
そして何より。その双眸に宿る、深く、深い、妄執と憎悪の暗澹。
それは間違いなく、市井に生きる只人が持つ類のものではなかったが……その異様さに気付く者は此処には居ない。
界聖杯からの通告。
青年……"死柄木弔"にとってそれは動揺に値する出来事ではなかった。
むしろ死柄木にとって大きかったのは、残る器の数が二十三体にまで減っている事実の方。
彼のサーヴァントは、元の世界で師と仰いだ大悪をすら彷彿とさせる犯罪の王であった。
真の名をジェームズ・モリアーティ。かのシャーロック・ホームズをして、宿敵と言わしめた魔人。
学のない死柄木では、その名が持つ重さと大きさは理解出来ない。
伝説の探偵をして宿敵と言わしめたその偉大さがまるで伝わらない。
彼は紛うことなき悪であり。悪の未来を形作る、類稀なる禍つ星だったが――しかし。
知略を弄する類の悪(ヴィラン)ではない死柄木には、かの犯罪紳士が張り巡らせる蜘蛛の糸を知覚することは不可能であった。
「(手に入らなかったとしても、こっちはドクターのプランに戻るだけって算段だったんだが……引き下がれない状況になっちまった)」
死柄木にとって聖杯は、ただの手段の一つでしかない。
力を手に入れるための手段。全てを破壊出来るカードの中の一枚。
だから最悪、聖杯を手に入れられなくとも元の世界に帰って"ドクター"の力に頼ればいいと思っていた。
だが、その甘い考えは他ならぬ界聖杯の言によって否定された。
この聖杯戦争に勝利しなければ、そもそも元の世界に帰れない。死柄木が全て壊すと誓った腐った世界の、空気すら二度と吸うこと能わないのだ。
聖杯を手に入れられなければすべて無駄。
元の世界に取り残してきた連合の連中も、全員頭を失って彷徨うだけのちっぽけな烏合の衆に成り果てる。
そしてそれを捕まえたヒーロー共は笑うのだ。
悪が栄える日は決して来ないと、知った風な顔と口で。吐き気のするような――あの笑顔で。
許せない。
ああ――それだけは、決して。
だからこそ死柄木弔は、敵連合の長たる魔王の器は拳を握るのだ。
彼の願いは全ての破壊。自分と志を同じくした仲間は別腹としても、それ以外の連中は許容出来ない。
我が物顔で英雄を名乗り社会を席巻し、その実見て見ぬ振りをし続けた紛い物。彼らが守る、無知な群衆。
その全てを、死柄木は呪う。その全てを、死柄木は破壊する。
二人の大悪からお墨付きを貰った、無上の憎悪を燃料にして。
死柄木弔は突き進む。
先代(オール・フォー・ワン)が進んだ道を、彼の目指す滅びの未来を。
似て非なる犯罪王(モリアーティ)の数式と共に歩みながら、目指す。
「……、」
――それはそれとして。
彼のサーヴァントたる犯罪の王、教授と呼ばれた男は。
数日前に、死柄木に対してとある言葉を伝えていた。
それは死柄木にとっては理解不能な言葉であり。
それでいて、爺の戯言と聞き流すことの出来ない奇妙な重みを孕んでもいる言葉だった。
『"まだ"頭の片隅に置いておくだけでいいとは思うんだがね。
この街に糸を張っている蜘蛛は私一匹じゃあないらしい』
蜘蛛。
それはモリアーティを指し示す言葉であり、彼の所業を暗示する言葉でもある。
巣を貼り、絡め取り、身動き取れなくなった時点で初めて主犯として嗤う彼にはまこと相応しい名であった。
だが。この界聖杯を巡る戦いの中に――もう一匹別な"蜘蛛"があるという。
『どうも年季は浅そうだが……しかしなかなかどうして腕が立つようだ』
『素性は? アンタならすぐに割り出せんだろ、そういうの』
『いや、実のところ問題はそこでネ。チョロチョロと動き回っているのは分かるのだが、その尻尾がまるで掴めない。
足跡を残さないように徹底していると言うべきか――或いは、あちらはあちらで既に蜘蛛(わたし)に気付いているかだ』
そう言ってニヤリと笑うモリアーティに嘆息して、死柄木はそこで話を打ち切った。
実際、本当に情報が掴めない状況が続いているのだろう。彼もそれ以上"蜘蛛"について言及してくることはなかった。
「あんな悪党がもう一人居るってんなら、いよいよホームズが必要だろ」
そんな益体もないことを呟きながら、死柄木は都会の雑踏にその気配を溶かしていった。
自分が何の気無しに呟いた一言が真相の一端を掠めていたことには、ついぞ気付くことなく。
◆◆
道を歩いていて、フード姿の青年とすれ違った。
その時"飛騨しょうこ"は、思わず足を止めて振り向いてしまった。
けれどもちろん、そこにあった後ろ姿はしょうこの知る人物のものではない。
背丈も、雰囲気も、どれもまるで違う。はは、と、しょうこは思わず苦笑した。
「なんか未練がましいなあ、私」
あの子がこんなところに居るわけもないし、居ない方が良いに決まっている。
それにしてもだ。背丈も雰囲気も全然違うのに、フード姿だというただそれだけのことで結びつけてしまった自分の頭に呆れた。
お互い運命にはなれないと頭では分かっているつもりなのだけど、どうも自分の脳味噌は案外未練がましい構造をしているのかもしれない。
だから一瞬とはいえ反応してしまったのだろうと自己完結して、また歩みを再開したしょうこ。
『マスター。さっきのは知り合い?』
「(まさか。似た格好をしてる子が居てさ、つい振り返っちゃっただけだよ)」
律儀に念話で問いかけてくるアーチャーのサーヴァント……ガンヴォルトに対し、しょうこはそう返す。
『それって、前に君が言ってた――』
「(うん。最後には違うって分かったんだけどね、運命の王子様かもって思えた子)」
とはいえ。ある意味、運命の一つではあったのかもしれない。
もしも彼と出会うことがなければ、しょうこは少なくとも命を落とすことはなかったろう。
そしてそれはきっと、手を汚させてしまったさとうにとっても幸いであったに違いない。
昔ならいざ知らず、現代の日本で健康な女子高生が失踪したとなれば確実に騒がれる。警察も本気になって捜査するだろう。
死んでしまった、殺されてしまったしょうこには推測するだけしか出来ないけれど。
恐らくさとうは――"しおちゃん"と一緒に暮らすあの部屋を出なければならなくなったのではないか。
ほんとに、何もかも噛み合わなかったんだなあ。
念話ではなく、自分の頭の中だけでしょうこは自嘲するように呟いた。
自分は死んで、さとうは愛する日常を崩されて。あの少年がどうなったかは分からないけど、とにかく誰も彼もが損をする形になってしまった。
それでも、悪いことをしたとは思っていない。
自分の言葉は届かなかったけれど。結局、さとうにとっての"その他大勢"以上の存在にはなれなかったけれど。
だとしても――ああやって文字通り命を懸けて親友と向き合えたことは、しょうこにとっては後悔のない、自分に誇れる選択だった。
「(それにしてもさ。私たち、案外生き残れたね)」
『案外って言い草は心外だな。……でも、確かにほぼ戦わずに此処まで来られたね』
予選期間にしょうこ達が経験した戦いは、わずか二度だ。
しかも二回とも相手側の撤退という形で終わっているため、実際に主従を脱落させたことは未だ無い。
生き残るまで何度となく戦わねばならないのだろうと思っていたしょうこにとっては、拍子抜けするほど安穏とした予選だった。
残り二十三組。地平線の彼方へ歩む旅路も、終わりが見えてきた。
一体どれだけの器が篩に掛けられたのかは定かじゃないが、目指す最果てが大分迫ってきたことには違いないだろう。
聖杯を手に入れる。そして願いを叶える。
自分には、やりたいことが――やらねばならないことがあるのだ。
だから、そのために。飛騨しょうこは、他人の未来を奪う。
「(そういえばさ、聞いてもいい?)」
『常識の範囲内でなら構わないよ』
「(アーチャー、言ってたよね。"僕にだって願いはある"って)」
それって、なに?
しょうこがそう問うと、数秒だけ時間が空いた。
けれどそれは答えるべきか迷っている沈黙ではなく、何かを追想しているような。
思いがけず脳の奥から溢れてきた大切な記憶を噛み締めているような、そんな沈黙に感じられた。
『(声を聞きたいんだ。もう一度だけ)』
それで、ボクは救われる。
そう答えたアーチャーに、しょうこはくすりと笑って。
「(そっか。なんか分かっちゃったかも。私があなたのマスターになった理由)」
ひとり、納得した。
もう一度。そう、もう一度でいいのだ。
まあ実際にはきっと、一度だけなんかじゃ気が収まらないだろうけど。
もう一度だけ――会いたい。そして、話がしたい。声が、聞きたい。
死がふたりを分かつとも。
分かたれたものを繋ぐ奇跡が、そんな砂糖菓子のように甘い話があるのなら。
それに縋るのはきっと、悪いことなんかじゃない。少なくともしょうこは、そう思っていた。
◆◆
残り二十三組―――それが、"神戸あさひ"の脳に送り込まれた情報のすべて。
彼にとって大切なのはあくまでそこだけだった。
あさひはまだ生きている。一度だって死んじゃいない。
あの炎に包まれたマンションの中さえ切り抜けた。悪魔のような女との攻防でさえ死ななかった。
ただそれは、死ななかっただけだ。
死ななかっただけ。だから今の彼は、ただ生きているだけの哀れな子どもでしかない。
命よりもたいせつなもの。
そういうものが確かにこの世にはあって、あさひにもそれがあった。
それを。あさひは、救えなかった。取り戻せなかった。
「聖杯を獲得出来なかったら、この世界と一緒に消えることになる。
……それがなんだっていうんだ。願いが叶わないなら、俺にとっては死んだも同じなんだよ」
あさひの世界には月がない。
かつてはあったし手が届いた。
でも、最後にあさひが見た月は。
昏く淀んだ、悪魔のような何かに取り憑かれてしまっていた。
それを取り除くことがあさひの願いであり、その願いを叶えることは彼にとって、命を懸けても惜しくないほど大切なことだった。
太陽よりもずっと眩しく輝く月。
最愛の妹――神戸しお。
彼女を真に取り戻すために、あさひは戦わなければならない。
たとえ敗北の代償が消滅(死)だとしても、そうなることを恐れてぶるぶる震えて蹲っている場合ではないのだ。
「しおのいない世界に、意味なんてないんだ」
しおが居て、母が居て、自分が居る世界。
それがあさひの理想の世界であって、どれが欠けても駄目なのだ。
それを取り戻すためならば。もう一度家族三人で笑って歩き出すためならば。
神戸あさひ(じぶん)は、何だって出来る。何だってやれる。
もう、人を殴ることにすら躊躇していたあさひは居ない。
「(……とはいえ。俺に出来ることが一体どれだけあるのかは、分からないけど)」
意気込みなら、言われるまでもなく十二分にある。
自分はこの聖杯戦争にすべてを懸けているつもりだ。
けれど、聖杯戦争とはサーヴァントという超常の存在同士の戦いがデフォルト。
故にあさひに何か出来ることがあるのかというと、目下そういうものは特になかった。
強いて言うなら、こうして生きていることが仕事。
その状況に不甲斐なさと焦りを抱いていないと言えば嘘になるが――
「余計なこと考えんなよ? 世の中には適材適所ってもんがあんだぜ」
そんなあさひの心を見透かしたみたいに、彼のサーヴァントが現れた。
サーヴァント、アヴェンジャー。真名をデッドプール。
月たる少女を失い、失意のままに界聖杯内界に召喚された彼の傍に唯一立っていてくれた存在。
神戸あさひが聖杯を手に入れる上で必要不可欠な、世界でたった一人の味方(ヒーロー)。見た目は、とても英雄のそれではないけれど。
ちなみに、霊体化すらしていなかった。
思わずあさひは周囲を確認するが、幸い、虚空から奇矯な風体の男が現れるという超常現象を目撃してしまった人間は居ないようである。
「……分かってるよ、そんなこと。
俺は所詮、人間相手じゃなきゃ何も出来ないガキだ」
「人間もバケモン揃いだぜ、此処は。
金属バットで何発頭ぶん殴ってもケロッとしてるような奴が平然と彷徨いてるマッポーだ」
あさひの前に現れてしおを奪った、女の姿をした悪魔。
あれは、まだ人間だった。殴れば傷付く、そういう存在だった。
だからビルから飛び降りて、そのまま死んだ。少なくとも肉体は。
でもこの地には、それで傷付かない、死なないような人間(バケモノ)が平然と跋扈している。
「まあでも、お前に出来ることも一つはある。一応な」
「……なんだそれ。もったいぶるなよ、アヴェンジャー」
「釣れない坊っちゃんだねぇ。出されたクイズには何でもいいから答えるのが万国共通のマナーだぜ」
「……、……生きていること。か?」
ため息交じりに答えるあさひ。
それに対し、デッドプールは指でバツを作り、「ブブ〜〜」とおちょくるような声を出した。
お前な、と口を開きかけるあさひだったが。
そんな彼に、デッドプールは言う。
「お前がお前で居ることだ。
それさえ出来るなら、俺ちゃんがお前にハッピーエンドを持って帰って来てやるぜ」
重要なのは折れないことと曲がらないこと。
地平線の彼方に辿り着くのは、確かにそれ自体がそもそも大変に難儀なことであるが。
結局なところ一番大事なのはそこだ。己を偽らず、それでいて生き抜くこと。
それだけ出来れば、どんなに無能だろうと"勝てるマスター"に分類される。
あくまでデッドプールがそう言っているだけだったが。
それでも、彼の言葉を聞いたあさひは――
「……そうだな。そうかもしれない」
確かに。
それでいて、ずいぶんと久しぶりに。
「ありがとう、デッドプール」
少しだけでも、微笑んだのだ。
◆◆
界聖杯を奪い合う、地平線の果てへ辿り着くための聖杯戦争は既に佳境に入っている。
世界線の垣根を無視して集められた無数の器達も、今となっては二十とわずかしか残っていない。
にも関わらずだ。本人の意思を無視して強制的に聖杯戦争に参加させている故か、未だに聖杯ではなく帰還だけを望む者が少なからず居た。
"幽谷霧子"もまた、その一人である。彼女は非道の限りを尽くし、是が非でも叶えたい願いというものに覚えがない。
願うのは聖杯ではなく、帰還。
とはいえどうやって帰る気なのか、その具体的な方針すら未だに定められていない――霧子はそんな器であった。
「……、」
日は高い。
燦々と降り注ぐ陽光が季節を感じさせ、霧子の白い肌を優しく暖めてくれている。
人の気分を晴らし、幸福感を与えてくれるものであるはずの快晴模様。
それに一抹の寂しさを感じるようになったのは、この世界に来てからのことだった。
霧子の召喚したサーヴァントは、強い。
クラスはセイバー。七つのクラスの中でも最優と呼ばれるそれ。
武術の心得などなく、また戦いの世界に興味も縁もない霧子には他者の強さを推し測る能力などなかったが。
それでも、彼がとても強い――自分では想像も出来ないほどの修練を積んできた存在なのだということは分かった。
その名を黒死牟。人ではなく、鬼。人に笑顔を与えるアイドルが召喚するにはあまりにも似合わない、血腥くて悍ましい英霊(ばけもの)である。
「(セイバーさんは……いつから、お日さまを見てないんだろ……)」
霧子は、彼に対してそんなことを考える。
黒死牟は太陽に拒絶されている。陽の光を浴びれば死ぬのだと、そう聞いていた。
それはとても寂しいことだと、霧子は思った。
彼は暖かい世界を知らないし、そこに入れないのだ。
どんなにお日さまが眩しくても、彼はそれを見られない。
彼の世界は肌寒くて暗い夜だけで――最初からそうだったのか、何かがあってそうなったのか。霧子は、知らない。
黒死牟は、罪に穢れた存在だ。
妄執のままに数百年を彷徨い、ついぞ何も得ることのなかった鬼。
焦熱地獄の底から現世に再びまろび出ても尚、その異形の六眼に写るのはただ一人だけ。
人に笑顔を与えるのが仕事のアイドルとは似ても似つかない、笑顔を奪い糧にするだけの悪鬼。
その彼にすら優しさと眩しさを向けるこの少女は、一体何であるのか。
答えなど決まりきっている。幽谷霧子は人間で、それ以上でも以下でもない。
太陽のような――ただの人間。
それが彼女の真実だ。
「(あの人にとって、わたしが……いいマスターなのかは、分からないけど……)」
多分そうではないのだろうと、霧子も分かっている。
分かっているけれど、それでも霧子は彼のことを自分が生きるための道具として見たくはなかった。
だってそれでは、あまりに寂しすぎるから。
せっかくあの人は、わたしの剣(セイバー)として遠い世界からやって来てくれたのに。
「(少しでも……黒死牟さんの中に"わたし"が残ったら、いいな……)」
彼が当たれない太陽の光の下を、幽谷霧子は歩いていく。
この世界が終わるその時も、もう遠いところではないのだろう。
器は残り二十三体。故に残る主従の数も、二十三組。
霧子にはそれが多いのか少ないのかすらピンと来なかったが、此処に来て界聖杯から直々に数が明示された意味は分かった。
終わりが近いのだ。地平線の彼方は、もうすぐそこにある。
それは霧子にとって、元の世界に帰れるかどうかの分水嶺が近付いているということでもある。
可能性を失った器は帰れない。この世界と共に消えてなくなる。
そのことに対する恐怖は、もちろんあった。
霧子は自分の実質的な死や、元ある日常に戻れないことに対して何の恐怖も覚えないような超人ではない。
――それでも。銀の太陽は、その在り方を失わない。
人も鬼も平等に照らす優しいお日さま。それが、幽谷霧子なのだから。
◆◆
「やっぱりな。そんな旨い話はねェんだ世の中には」
嘆息しながら、聖杯戦争のマスターの中でも最も時代に合わない身なりをしているだろう男。
"光月おでん"は公園のベンチにどっかりと座り、近隣のコンビニエンスストアで購入したおでんを頬張りながらそう言った。
おでんは、役割を与えられることなくこの内界に放り出されたマスターの一人である。
社会的身分がない状態で、尚且つ此処の時代にはまるで見合わない装い。
同じ境遇にある他のマスターに比べても、間違いなく最も寝食の確保が困難であろう男。
しかしながら故郷『ワノ国』始まって以来きっての変人大名であるおでんに言わせれば、その辺りのことは全く問題ではなかった。
このおでんだって、あくまで正当に金を払って購入したものだ。
力仕事の出来る人手を欲しがっていた老人に手を貸してやり、その報酬として金を貰った。
そういう人助けの仕事を、おでんはこの世界における自分の日常にしていた。
金は入るし、腹も膨れる。最初は現代のシステムに多少難儀したが、銭湯に行って身体を洗うことも覚えた。
ロールがなくとも生きられる。それしき何ということもない。
おでんにとって真に問題なのは、この"聖杯戦争"という大戦(おおいくさ)のことのみであった。
「お前はどう思う、縁壱。
おれはどうも受け入れられねェ。勝たなきゃ皆死ぬなんて、そんな手前勝手な話はないだろうが。
そもそも呼んだのは界聖杯の方だ。誰も好き好んでこんな所に来たわけじゃねェのによ」
『概ね同意見だ。恐らく無我に等しいモノなのだろうが、ならば仕方ないと済ませられる所業でもない』
おでんの目的は界聖杯の見極めだ。
真贋ではない。善悪の方である。
これが果たして、人を導く善いものなのか。それとも悪いものなのか。
それを見抜くことがおでんの方針の全てであって、彼は聖杯を手に入れる気もなければ、脱出の糸口を探し回る気もない。
光月おでんは死者である。
本来ならば、英霊になって召喚されるべき存在なのだ。
なのに何の因果か今はマスターとして、この界聖杯内界にのさばっている。
死者は死者。生き汚く足掻いて生者の邪魔をするというのは、おでんの志に反する思想であった。
「また、黒に傾いちまったな」
碁盤の石は、今のところは黒優勢だ。
界聖杯は確かに、何の陰謀も関与していないクリーンな願望器であるのだろう。
だが、それは聖杯が善なるものであるという証明ではない。
無垢とは、時にどんな悪意にも勝る残酷である。
もしも界聖杯がそういうものであるのだとしたら――その時光月おでんは、躊躇なく界聖杯を斬る。
それで何が起きるのかは分からない。
それでも斬る。やると決めたら必ずやる。
それが光月おでんだ。それが、ワノ国にかの者ありと謳われた侍だ。
その生き様にこそ。海賊も、侍も、無辜の民も、皆惚れ込んだのだ。
「残りは二十三、多いようだがすぐに減るだろう。
俺とお前なら遅れを取りはしねェと思うが……」
『それは過信だ、おでん。人の才覚を侮るべきではない』
彼のサーヴァント。
魔境と呼ぶ他ない海を知るおでんですら、剣の怪物だと確信する他なかった神域の剣士。
継国縁壱が、おでんの言に異を唱える。その声音はいつものように静粛を纏っていたが、そこには鋼のような重みがあった。
『この世にはいつだとて、過去(われら)を上回る才覚の持ち主が産声を上げているのだ。
まして界聖杯が世の垣根をすら超えて"器"を募っているというのならば尚のこと』
「……ああ、そうだな。世界ってのはいつだってこっちの予想を平然と超えてきやがるからな」
おでんは知っている。自分の常識を超えた存在というのを、いくつも見てきた。
それは白い髭の大海賊であり。後に海賊王と呼ばれる男であり。そして、龍に化ける怪物だった。
最後の一戦は形こそ騙し討ちに終わったものの、たった一撃刻んだだけで実質勝っていたなどと嘯くつもりはない。
あのまま何の横槍も入ることなく戦いが続いていたとして、それで自分がアレを倒せていたかと問われると、正直なところ自信はなかった。
おでんの知る世界ですらそうなのだ。
ならば縁壱の言う通り、数多の世界が交差するこの内界は――死者の想像など軽く飛び越えてくる、とんでもない大魔境なのだろう。
「だがそれでもだ。おれとお前なら必ず勝つ」
『……その根拠は何だ』
「お前の剣は馬鹿げて鋭い。覇気も使わねェでおれと打ち合える時点で異常だ。
そしておれはあの海で、これ以上ないってくらいのすげェ奴らを山ほど見てきた。
そんな俺らがこうして比翼を組んでるんだ。これで負けると思うなんざ玉ナシだぞ」
縁壱の剣は言わずもがなだ。
たとえ物珍しげな付加効果が無くとも、彼の振るう刃はそれそのものが万の神秘に匹敵する絶技である。
そしておでん。彼の剣は、マスターの身でありながらサーヴァントの肉を斬れる。
武装色の覇気。流桜。自然(ロギア)の力を持つ能力者ですら形あるものとして斬る極意。
それに依り成る、ワノ国に名高き"おでん二刀流"――神秘の垣根をすら超えて、おでんは英霊を斬れるのだ。
『不思議なものだ』
おでんの言葉を聞いて、縁壱は小さくそう言った。
その声音は呆れているようでもあり、しかし同時に何かを感じ入っているようでもあった。
『お前の言葉には、何か目に見えない力があるのかもしれない』
――おれとお前なら必ず勝てる。
その言葉に、らしくもなく"納得"を覚えてしまった縁壱。
だからこそ彼は、そんな言葉を口にした。
◆◆
東京都内、皮下医院。
その院長たる男、"皮下真"は肩書きに見合わぬ若さを持った青年だった。
女性受けするだろう甘いマスク。軽薄ながらも人々の心を容易く開かせる明るく誠実な人柄。
この病院の評判は押し並べていい。身勝手で独り善がりなクレームが集まりがちなインターネット上のレビューでも評判は大層良かった。
しかしそんな病院にでも、死者は出る。
こればかりは生き物としてもうどうしようもない活動限界だ。人の過失が一切関与しなくても、人間は死ぬ。
故に本来、全ての患者を救えと求めるのは門外漢の傲慢な無理難題以外の何物でもないのだが……少なくともこの病院においては、少し違った。
「"葉桜"の量産は極めて順調だ。質は悪いが鉄砲玉にはなる。
俺も捨てたもんじゃねえな〜全く。俺の肉体と多少の設備さえありゃ、こんな異世界でも超人軍団を作れちまうんだからさ」
皮下医院には、その院長には裏の顔がある。
自然死でない死者が居る。そもそも死んでいない死者が、居るのだ。
彼ら彼女らは生きている。此処ではない異空間で、人間の規格を超えさせられた肉体で戦いの時を待っている。
それが"葉桜"。皮下医院院長にして聖杯戦争のマスター、界聖杯内界に残存する二十三の器の一つ。
皮下真という怪物が百年余りの生涯を費やして生み出した、禁忌の生体科学であった。
「十五……いや、六だったか? もう分かんねえな、数えるのも途中で止めちまった。
死んでいった連中も気の毒だ。あんたみたいな怪物が混ざってるとは、流石に聞いてなかったろうに」
界聖杯を巡る戦いにおいて、最も多くの敵を潰した英霊。
それは、最強の生物と呼ばれたモノであった。
超人魔人の犇めく乱世の海を生き、幾度も敗北し、時に無様すら晒しながら、さりとてその世界における究極の一であり続けた怪物。
カイドウ。皮下医院に潜む化物が、聖杯獲得のビジネスパートナーとして連れる鬼。
『この戦争を終わらせる手段は間に合ってる。
だが課題もある。お前の魔力じゃおれの"鬼ヶ島"を賄えねェ』
「無茶言うなよ。あんたを使役出来てる時点で、俺は相当な優良株だぜ」
『そこに異論を唱えたつもりはねェよ。だが不足があるのは事実だろう』
その声は虚空から響いているが、しかしカイドウは霊体化などしていない。
真の意味で、彼はこの場所になど居ないのだ。
カイドウが住まうのは異界。彼の宝具である、鬼の住まう島。
普段はそこでふんぞり返り、気紛れと悪酔いで現世に出ては英霊を虐殺する。
まさに天災のような男であったが、素面の彼は打って変わって理知的で真面目な男だった。
彼には、見えているのだ。自分が聖杯戦争の勝者となる確実なプランが、既にその脳裏に浮かんでいる。
強さで名を上げるのは簡単だとしても。強さ一つで君臨し続けることは、簡単ではないということなのだろう。
『今の調子で魔力を集めろ。準備が出来次第、"界聖杯(ユグドラシル)"を獲りに行く』
皮下真は、誰よりも近くでこの怪物を見てきた。
『"世界樹の王"になるのはおれだ』
だからこそ、その言葉が単なる阿呆の大言壮語でないと理解出来る。
カイドウはいつだとて常に本気だ。そして、その本気を蜃気楼に終わらせない力を彼は持っている。
この男は、最強の生物だ。間違いなく、界聖杯を巡る戦いに喚ばれた中でもハイエンドの一角。
十六の英霊を殺し、その上で傷一つ負っていない――皮下の知る"怪物一家"以上の化け物。
故に皮下は、今最も地平線の向こう側に近い器は自分であると自負していた。
頑然とした事実としてだ。自分の目にはもう、界聖杯の輝きが見えている。
「分かってるさ……おっと。
そろそろ孤児院の健康診断に行かないといけない時間だ。
悪いなカイドウさん、ちょっくら医者(おもて)の仕事をしてくるぜ」
『ウォロロロロ……お前が医者ってのは、何度聞いても不謹慎な話だな。シーザーの野郎を思い出す』
「誰だよ。つーか失礼だな、俺はこれでもかれこれ百年近く医者やってんだぞ?」
軽口を叩きながら、表の仕事の一環をこなすための準備をする皮下。
病院の院長という立場は、今の自分たちが向き合うべき課題をこなす上で非常に都合が良かった。
このロールは大事にしなければならない。だから皮下は、少なくとも表面上は真面目な医者をする。
「(ずっと医者って言っていいのかは定かじゃねえけどなあ。
でも……人を診る仕事は、マジで長くやってるな)」
皮下真は外道である。
人の命を何とも思わず、不要になれば簡単に切り捨てる。そうでなくとも気紛れに切り捨てる。
百年以上変わらない外見で世にのさばりながら、ただの一度も報いを受けずに生きてきた化物。
そんな彼が聖杯に願うのは、ただひとつだ。
それは彼の悪行に満ちた生涯には似合わない、願いであった。
「(悪いな。出来れば俺の理想は、あんたの居る世界(ところ)で叶えてみせたかった)」
桜が見たいのだ。
人の苦悩も格差も争いも、全てを解決させられる美しい桜が見たい。
世界中に咲き誇る、満開の桜。
昼も夜も関係なく咲き続けるそれが見たくて、皮下真は――"川下真"は。ずっと非道を働き続けてきたのだから。
「(だけど……まあ、良いだろ。
俺が次にあんたのところに帰ったなら、そこにあるのは俺たちの理想郷だ)」
儚く、永く、悠久を生き続ける夜桜。
誰より永く咲き続けながら、しかして蕾の名を持った皮肉な女。
今は此処にない、声も聞こえないその輪郭を脳の奥で象りながら……人間(ばけもの)は、一人笑った。
◆◆
退屈な街だと、"北条沙都子"は常にそう思いながら内界での時間を過ごしていた。
東京。日本一の大都会。それは、沙都子の生きていた昭和の時代でもそうだった。
だがいざ実際にそこに住んでみると、ただやたらめったらに騒がしく人が多いだけとしか感じられなかった。
これならば、あの村の方がずっといい。雛見沢と興宮、足を伸ばしても鹿骨市。
そこまでの狭い、閉ざされた世界だけで生きていた時の方が……やっぱりずっと幸せだった。
「(ルチーアよりは、流石にマシですけれど)」
北条沙都子の全てが狂ったのは、唯一無二の親友が外の世界を渇望したところから始まった。
全寮制のお嬢様学校。そこが如何に住みにくく息苦しい場所であるかを、自分を姉のように可愛がってくれる年上の友人から聞いていたのもある。
それでも沙都子は付いて行った。親友が、梨花が行くのならばと努力した。
けれどそこが沙都子の限界。叶えたくもない夢をなんとか叶えた後も努力し続けることは、彼女には耐えられなかった。
そして全ては狂い始めた。
すれ違いと、疑心と、膨らみ続ける望郷の念。
感じていた友情はいつしか憎しみに変わり。
愛するが故の狂気が、沙都子を神の座へと辿り着かせた。
奇しくもそれは、かつて古手梨花がそうしていたように。
偉大なる社の神、その大源に触れて――北条沙都子は、"繰り返す者"となったのだ。
「リンボさん。いらっしゃいまして?」
『――ええ、お傍に。拙僧に何か御用でも?』
だが運命とは数奇なもの。
沙都子はそれでも、雛見沢から引き離される運命にあった。
エウアの声も力も届かない異界、界聖杯内界。
今の彼女はそこで全能の願望器を求めて争う、"可能性の器"の一体として生きることを余儀なくされている。
「昨晩、界聖杯からお知らせが届きましたの。
残りの器は私を含めて二十三体。聖杯に至れなかった器は、最後にはこの世界と一緒に無くなってしまうそうですわ」
『そうでしょうなァ。界聖杯は無我にして無欲。善にも悪にも染まることのない永遠の中庸。
"己を使わせる"という目的を果たすためだけに駆動している存在なれば。
その存在意義が果たされた後のことを想う機能なぞ、搭載されている訳もありますまい』
「察しが付いていたのならどうして私に言いませんの?」
沙都子にとって界聖杯は、"あってもなくても構わないもの"なのだ。
沙都子にはエウアの力がある。聖杯に頼らずとも、それで繰り返し続ければ彼女の目的を果たす上では事足りる。
仮に手に入れられれば道中の手間は省けるかもしれないが、"絶対"の決意を持つ沙都子にとってその差異はひどく微細なものだった。
少なくともだ。雛見沢に帰れないまま、この退屈な異郷と心中することになるかもしれないリスクと比べれば――決して釣り合わない。
「……まあ、いいですわ。
どの道此処に喚ばれた時点で私、運命の一本道に立たされていたようですし」
これで、皆殺し以外の帰り道はなくなった。
しかしそれを億劫に思う気持ちはあっても、躊躇う気持ちはない。
何故なら既に殺している。愛する仲間を殺し、狂気の淵に立たせ、自分の夢(エゴ)を叶えるために大団円を蹴り捨てた殺人鬼。
この世界には惨劇の運命を確定させられる悪魔の薬は無いが、それでも彼女の進む道は変わらない。
それが北条沙都子の今の姿だ。
古手梨花と、彼女と過ごす時間。
そこに懸ける狂気のような、されど嘘偽りのない愛。
最後に理想の世界へ行き着けるなら、その過程で幾ら殺しても沙都子の心は痛まない。
「ただし、リンボさん。私をおちょくるような真似は金輪際お控え下さいまし」
『ンン、これは失礼。以後はこのリンボ、改めましょう』
そのお詫びというわけではありませぬが――と。
言うなり、リンボが霊体化を解いて沙都子の眼前に傅いた。
歪む口角は三日月を象って。粘っこい笑みを浮かべながら、彼は伝えた。
『先程、この院に医者が訪れておりましたな』
「……ええ。定期的な健康診断ということでしたけれど――あの方が何か?」
『あれは人ではありませぬ。少なくとも拙僧の眼には、人の肉体とは写りませんでした』
「……、へえ。そうですの」
沙都子は、両親を亡くした孤児という役割を与えられている。
となれば叔父か叔母にでも扶養されるのかと思ったが、それはなかった。
都内の児童養護施設で暮らす、親の居ない子ども。
正直な話、沙都子としては利用価値のある叔父に扶養されている設定の方がありがたかったのだが――
「それは、良いことを聞きましたわ」
縁とは、思いがけないところに転がっているものだ。
物語の魔女のような艶やかさと少女の愛らしさを同居させた笑みが沙都子の貌に浮かぶ。
その双眸は――血のように紅く、紅く染まっていた。
◆◆
残存主従数・二十三組。
その伝達はどこまでも血の通わない、冷淡な情報となって器たちの元に届けられた。
当然、"古手梨花"とて例外ではない。彼女もまた、本戦の開始まで勇士犇めく蠱毒の宴を生き延びた優秀な器の一つであるのだから。
しかしながら、梨花の表情は決して明るくはなかった。
それもその筈、当然だろう。自分が生きて帰る道は聖杯を手に入れる以外にはないのだと、界聖杯から直々にそう言い渡されたのである。
元より聖杯を手に入れなければならないかもしれないという思いはあった。
古手梨花が求めるのは幸せな未来。かつて一度確かに勝ち取った、誰も欠けることのない大団円。
そこにもう一度辿り着けるのだとしたら。梨花はきっと、奇跡にだって手を伸ばしただろう。
ただ……今では、"聖杯を手に入れる"ことの意味も大きく変わってしまっている。
願いを叶えられるのは一人だけ。生きて帰れるのも、一人だけ。
誰かの願いを一つ叶えるために生まれてきた現象は、あぶれた願いとその器たちを救わない。
「最悪ね。生きて帰りたいなら、誰かの命を踏み台にしろっていうの……?」
梨花は過去に一度、人を殺したことがある。
それは現実の世界ではなかったのかもしれない。
梨花のことを慮ったお節介で優しい神様が据えた、ちょっとしたお灸。一時の夢だったのかもしれない。
真実を知る術はもう何処にもない。オヤシロさまは眠り、その残滓さえ梨花の許を去った。
だが。
梨花は、それを自分の罪だと認識していた。
自分が勝ち取った理想の世界に帰るために、自分の母親を殺したと。
理想の世界で生きるために、罪のない世界を切り捨てたのだと。
そして今、彼女はもう一度それを求められている。
否――一度なんてものではない。
何度でもだ。自分が使役している以外のサーヴァントがこの内界から完全に消え去るまで、何度でもそれをさせられる。
それが元の世界に帰るための条件。まさしく、悪い夢のような話だった。
「ええ、お世辞にも褒められたやり方じゃないわね。
全能だか何だか知らないけど、呆れた無責任ぶりだわ」
「……セイバー」
梨花の言葉に呼応するように、傍らの英霊が嘆息した。
新免武蔵守藤原玄信。通りの良い名で呼ぶならば――宮本武蔵。
古手梨花のサーヴァントは、大袈裟でなく日本人なら誰でも知っているだろう知名度を持つ大剣豪であった。
史実と違い何故か女性であるという不可解な点はあったものの、一度でも彼女の戦う姿を見れば、誰もが武蔵の名を疑えなくなるに違いない。
「でもね梨花ちゃん。今君と私が居る此処は、その無責任な理の内側よ」
「っ……」
「どれだけ悩んでも頑張っても、もしかしたらそれには何の意味もないかもしれない。
結局未来は一本道で、片っ端から戦いを挑んで生き残る方が早いかもしれない。
それを踏まえて聞くから、君の言葉で答えてほしい」
故に、だ。
彼女とならきっと出来るだろうと梨花は思う。
出会った英霊を片っ端から斬り、倒し、殺し。
そうやって最後の一騎に残り、聖杯を手に入れて元の世界に帰る"正攻法"での突破も。
まだ剣を振るう武蔵の姿を見たことはないが、それでも彼女と一緒に過ごし、その強さの片鱗に触れてきた梨花にはそう確信出来た。
武蔵の方も、多分そのことを分かった上で。
彼女は仮初めのマスターへと問いかける。
「――梨花ちゃんは、どうしたい?」
「わたし、は……」
それはとても大切で、だからこそとても大変な質問だったが。
梨花が答えを出すまでには、あまり時間は掛からなかった。
「私は、帰りたい。生きて帰って、今度こそ皆で幸せになれるカケラを見たいのよ」
そのためならば、だ。
最終的には誰かを犠牲にすることだってきっと出来る。
何しろ一回やっているのだ。二度目、三度目が出来ないなんて道理はない。
投げられた賽を叩き割って、六の面だけを拾い上げる行いもきっと梨花には出来る。選べる。
「……でも。
選ぶのは、まだ先にさせてほしいの」
「それはちょっと悠長な話じゃない? でも一応理由を聞いておこうかしら」
「昔――うんと学んだのですよ。何か物事を決める時には、短気が一番良くないって」
それは、古手梨花が百年の旅の中で学んだ集積の一つだ。
一時の感情に身を任せて下す決断は確かに強いが、その実脆い。
疑心暗鬼に囚われることのない身である梨花がそれを思い知る場面はそうなかったが。
だからこそこの時、梨花は勇気ある"先延ばし"を選ぶことが出来た。
確たる自分の言葉――自分の答えとして。
「だからセイバーには、もう少しだけボクに付き合ってほしいのですよ。にぱー」
「しょうがないなあ――ふふ。でもまあ、そういうのもありか!」
にぱー、と。
いつもの調子で微笑む梨花の頭をわしゃわしゃと撫で、困ったような笑顔で武蔵は評を下した。
百点満点ではないけれど及第点。落第と切り捨てるまではいかない、まずまずの答え。
それでもだ。それは確かに、建前も虚飾もない"古手梨花"の本心からの言葉だったから。
武蔵は最後までこの少女の剣士で居ようと、改めて胸に誓った。
古手梨花の聖杯戦争がどんな形であれ幕を閉じるまで――天元の花は、彼女の傍らに咲き続ける。
……時折。
自分が見届けられなかった"あの子"の旅路(いま)に、想いを馳せながら。
◆◆
その男の名を語ることに意味はない。
無論彼とて一般的な家庭に生まれた一人の人間なのだから、当然それ自体はある。
けれど、重要なのは彼の人間としての名前などではなく。
彼が、誰かの"プロデューサー"であること。もとい、あった、ということだった。
脳内に躍る新たな情報。
界聖杯を手に入れられなかった者の末路。
男は只人である。決して、類稀な才覚を秘めた超人などではない。
だからこそ彼の脳内にも他の多数のマスターたちと同様に、追加された件の条項が深く突き刺さっていた。
彼が他と少しだけ違ったのは。その存在感を確かに認識しながらも、歩みを止めなかったこと。
――人でなし、なんだろうな。俺は。
それは決して的外れな自虐などではなかった。
男が召喚し、己のしもべとしている英霊。
武人の技と人外の膂力を兼ね備え、修羅の形相で敵を殴殺する人喰い鬼。
猗窩座は、既に何騎かの英霊を蹴散らしている。
更に言うならば。英霊だけでなくマスターについても殺し、屠り、時には喰らって糧にさえしてきた。
もしも彼が他人の犠牲を物ともしない異常者であるか、或いは殺人の責任をサーヴァントに転嫁出来る屑だったならば。
きっと彼にとってこの聖杯戦争は、もっとずっと楽なものになっていただろう。
だが違った。男は、あまりにも真面目だった。
彼は忘れられない。散っていった者達の顔を、その肉が喰らわれる瞬間の音を、一つとして忘れることが出来ない。
全て背負ったまま――すまない、許してくれ、ごめんなさい、と。
心の中で手を合わせて詫びながら、血だらけになりながら茨の道を突き進む。
あまりにも不器用であまりにも苦痛を伴うその生き様の中で、何度思ったことか分からない。
ああ、いっそ。
鬼になれたなら、俺はどれほど楽なのだろう。――と。
界聖杯に与えられた役割は完全に放棄していた。
何もそれは、聖杯戦争を進める上でその方が都合が良かったからというだけではない。
元の世界と同じ職業、同じ職場。そこに顔を出すのが、どうしようもなく恐ろしく思えたのだ。
もうこの手は、この身体は、血に汚れている。罪に穢れている。
たとえ仮初めだろうと。全てを果たすまでは、帰るべきではないのだと。
自分の役割を知ってすぐにそう悟った。それから今まで、プロデューサーだった男はずっと聖杯戦争のためだけに日々と時間を費やしている。
――にちかは、こんな気持ちだったんだな。
――ずっと、ずっと。
終わらない、終わらない。
何度倒しても終わらない。
終わりが見えない。いや、昨晩ようやく少しだけ見えてきた。
でも同時に理解出来てしまったのだ。此処から先は、今まで歩いてきた道のりよりもずっと長くて険しいのだと。
「ランサー。念のため言っておくが、俺たちの指針は今後も一切変えない」
にちかはどれほど歩いたのだろう。
合わない靴を履いて、どれほど。
七草にちかを幸せに出来なかった男もまた、今は合わない靴を履いている。
善良でまっすぐな男では咎人の茨道はとても歩めないから、自分の履くべきでない靴を履いて、痛みに耐えながら歩いているのだ。
今度は自分の番。自分がこの苦しみを味わって、そして乗り越える番。
なのだから、歩みは止められない。"優勝"以外に、未来はないのだ。
男は。中途半端な逃げ道を奪い、只人の自分の行き先を一つだけに限定してくれた界聖杯に――感謝の念をすら、抱いていた。
「優勝するんだ。俺たちが」
ランサーは、鬼は、ただ一言。
分かった、とだけ答える。
それ以上の問答は不要であると思っていたし、相手の側もそう考えているだろうことを確信さえしていた。
猗窩座の目から見たこの男は、ひどく惨めで、みすぼらしい人間だった。
強くないのに強い者の道を歩く。滑稽なほど不格好に、それらしくあろうとする。
或いは、だからこそ――なのだろう。
猗窩座は今、鬼舞辻無惨の走狗であった時とは確実に違う情を寄る辺にして戦っていた。
上弦の参たる猗窩座は死んだ。役立たずの狛犬は救いと共に地獄に堕ちた。
此処に居るのはただの影法師。猗窩座であって、狛治であって、そのどちらでもない残響。
鬼になりたくとも決してなれない惨めな男のために。
人喰いの鬼、赦されざる地獄の住人は、ただ拳を振るうのだ。
◆◆
――生きている。
生き残った。それが、"七草にちか"が最初に抱いた感情だった。
残りのマスターの数が二十三人まで減少した旨を告げる界聖杯からの神託。
それを受け取った途端、にちかは思わず自分の手を確認してしまった。
それでも、ちゃんとそこには令呪のきらめきがある。
七草にちかが聖杯戦争に列席する資格を持つ"可能性の器"であることを証明する三画の刻印は、変わらずそこにあった。
「良……かった〜〜……」
思わず、そんな脱力するような声を漏らしてしまった。
無論、にちかの元にも聖杯戦争に追加されたルールについての情報は届けられている。
もしかすると自分の反応は不謹慎ってやつなのかもしれないとは思ったが、それでも。
それでもにちかは安堵した。
自分がまだ生きていることと、可能性とやらを失っていないこと。
その二つの事実を噛み締めて、思わず床にへたり込んでしまったほどだった。
自分がサーヴァントにおんぶに抱っこの、お世辞にも役に立っているとは言い難い有様なのは承知している。
七草にちかはたぶん、とても使えないマスターだ。
無能、と言っても間違いではないとすら思っている。
絶対に勝ってやると誓った舞台で惨めに負けて、そのまま此処まで転がってきた石ころ。
「ひとまずは此処まで生き残れたな。でも油断は禁物だぞ、マスター」
「あ……分かってますよ、ちゃんと。
分かってるんですけど、なんかこう、気が抜けちゃって……」
「気持ちは分かるよ。俺も君を無事に此処まで導けてホッとしてる」
そんな敗残者に、負け犬に。
飛ぶことをやめたイカロスに、もう一度空を目指させた男が居る。
それこそが彼女のサーヴァント。ライダー、アシュレイ・ホライゾン。
その名の通り灰と光の境界線を体現する在り方を見つけ、天翔の末路を克服したもう一人のイカロス。
もしも自分が出会ったのが彼でなかったらどうなっていたかは、あまり考えたくなかった。
そもそも生き残れていたのかも分からない。
途中でストレスを溜めて爆発させて、勝手に主従を空中分解させてしまっていた可能性さえある。
アシュレイのおかげで、にちかは"希望"を見た。辿り着きたい、また挑みたい"未来"を見た。
強くて優しい、兄のようでも父のようでもある人。敗れて地に落ちたにちかにとって、アシュレイの印象はそんなところであった。
「けど、敢えて不安にするようなことを言わせてもらうぞ」
アシュレイは、にちかに対してそう続ける。
そうだ。七草にちかは確かに、熾烈な予選を生き抜いた。
だが――それはこの界聖杯を巡る戦いの中では、あくまでも一区切り付いただけに過ぎない。
「本戦は多分、今まで俺たちが経験してきた戦いとは比べ物にならないほど過酷なものになると思った方がいい。
俺もサーヴァントとして全力を尽くすけど、君も覚悟は決めておいてくれ。
絶望に心が砕けそうになったらすぐ俺に言うんだ。転ぶのは慣れてるから、起こし方も人よりは心得てる」
「……至れり尽くせりですね、ライダーさんは」
「笑うなよ。本気で言ってるんだぞ、これで一応」
「知ってます。ライダーさんは、私の"先輩"ですもんね」
蝋の翼での飛び方を知っている、先人。
にちかは笑って、アシュレイもそれに応えるように頬を緩めた。
アシュレイは思う。この子は、自分で思っているよりもずっと大きな可能性を秘めた女の子だと。
可能性の器とはよく言ったものだ。もしも彼女が本当に何の輝きも秘めていない石だったなら、そもそも此処に呼ばれることすらなかったに違いない。
サーヴァントの役割だとかを抜きにして、アシュレイは純粋に、にちかを帰してやりたいと思う。
七草にちかは、戦いの中なんかで死ぬべき人間ではない。
夢を叶えてステージで輝き、夢の果てまで飛んで、飛んで。
年を重ねて、大切な人を得て、穏やかで幸福な終わりを迎えるべき人間だ。
自分は良いマスターを得たなと、お世辞でも何でもなく、アシュレイはそう感じていた。
「(……とはいえ、問題がこの先なのは本当だ。
戦いの激しさという意味でも、それ以外の意味でも――今までと同じ感覚では挑めないな)」
自分の弱さをこの世の誰よりよく知っている身だ。
誓って、予選だからと手を抜いたことはない。意識を緩めたこともない。
しかし恐らく、この先の戦いはどんどん激しさを増し、東京は魔界の様相を呈していく筈だ。
予選とは段違いの規模、頻度。そしておまけに、マスター達の戦う意思をより強める燃料まで供給されてしまった始末。
「(界聖杯についても……注視していく必要があるな。
マスターを元の世界に帰すために戦うことに異議はないが、戦いを降りた器たちまで踏み潰すとなれば話は別だ)」
車輪(うんめい)で轢き潰すように、戦いを降りた器達を犠牲にするのは、アシュレイの信条に反する。
そんな犠牲を払って帰したとしたら、きっとにちかの心にも傷が残ってしまうだろう。
だからそこについても考えて、ともすればにちかに選んでもらう必要もあるかもしれない。
自分はあくまでもサーヴァント。願いを抱く器は、彼女の方であるのだから。
◆◆
もしも鬼舞辻無惨という鬼が、昔話に出てくるようなステレオタイプな悪鬼であったならば。
きっと彼を根源とした悲劇の渦は千年も続かなかったろうし、あれほど多くの犠牲が出ることもなかったろう。
一人の心なき男から始まった紅蓮の物語が世代を超えて引き伸ばされ続けたのは、ひとえに始祖たるその男が"それらしくなかった"からだ。
戦いを望まず、致命的な状況と悟ればすぐさま逃亡する。
その後百年単位で姿を隠し、自分の首に刃が届く未来を徹底して回避する。
物語の中の鬼では決してあり得ないだろう、あまりにも姑息な手口。突出した生存への欲求。
無惨に自らを誇示したいという欲望は一切ない。数多の鬼を生みつつ、平然と人に擬態して人間社会に溶け込んで生きる。
千年に渡り、死の間際まで続けたその生き方は――阿鼻地獄の苦悶を超えて現世に顕れた今も何ら変わってなどいなかった。
「しかし、松坂さんも大変ですな。太陽光を浴びられぬ病とは、実に難儀なことだ」
「こればかりは生まれ持ったものですから。
外まで送ることは出来ませんが、どうぞお気を付けて。近頃この街は何かと物騒ですからね」
「ご配慮感謝します。いやあ、それにしても松坂さんは立派なお方だ。
こうまで"出来た"人はなかなか居りませんぞ。うちのせがれにも見習ってほしいものです」
鬼舞辻無惨はサーヴァントである。故に当然、界聖杯からの役割など与えられるはずもない。
だが彼には幸い、人に擬態する能力があった。
サーヴァントとなっても変わらず引き継がれていたそれを使わぬ手はない。
それに限らず、人外の力は使いようだ。
資産家を狙って喰い殺し、財産を奪って糧にした。
その金を使ってある程度箔の付く豪奢な家を買い、資産家という身分の体裁を整えた。
昔取った杵柄だ。少なくとも現時点では、松坂という苗字の優秀な資産家という彼の身分を疑った者は一人も居ない。
客人として訪れていた都議会議員の老人が帰っていくのを見届けてから、無惨は柔らかな笑みを消した。
「あの時代からおよそ百年か。何とも生きにくく、窮屈な時代になったものだ」
人類は、大正の時代からでは考えられないほどの進化を遂げている。
そのことを無惨は今日の日まで内界で過ごした時間の中で、事あるごとに実感してきた。
この時代は生きにくい。生前幾度となく行ってきた"社会的身分の獲得"も、昔に比べて驚くほど面倒だし手間が掛かった。
もしもマスターさえまともな人間であったなら、英霊の無惨がわざわざ知恵を使う必要はなかったのだろうが。
生憎と――鬼舞辻無惨をこの地に喚び出した"女"は、あまりに醜悪で奇怪な狂人だった。
「(鬼舞辻くん、そろそろ此処から出してくれないかなぁ)」
間延びした声。甘い甘い、聞く者の耳に必ず残る声。
一度聞いたら纏わり付いて離れない。煮立てた糖蜜のようにくどく、粘っこく、不快な声。
声の主である女は異様な風体をしていた。包帯があちこちに巻かれ、ガーゼや絆創膏も目立つ痛ましい姿。
そしてその目には、一目で分かる狂気が巣食っている。
普通の人間ではあり得ない深さが、眼窩の中に茫洋と広がっていた。
「(愛したことのない人。愛されたことのない人。
誰にも理解されなかった人。鬼舞辻無惨くん。
とっても可愛くて、とっても可哀想な、私のサーヴァント)」
鬼舞辻無惨は、確かに元々は人間だった存在だ。
故に彼を評して、人間の延長線と呼ぶことも一応は可能である。
しかしそれが出来る人間は稀有だ。少なくとも無惨の生前には、一人として居なかった。
誰もが無惨を嫌悪した。誰もがその所業と存在に不快感を覚えた。
だがこの女だけは違う。
彼の千年の中でついぞ一度も現れなかった例外。
鬼舞辻無惨を受け止め、理解し、その上で愛する女。
「(いつでも待ってる。寂しくなったら私のところに来て?
世界の誰があなたを否定しようと、存在してはいけないと罵ろうと。
私だけは……あなたのどんなところでも受け止めて、愛してあげるから)」
『黙れ』
――鬼舞辻無惨には、決して理解することの出来ない存在。
地下室の壁に、無惨の肉で拘束されながらも。
女はいつでも笑っていた。くすくす、けらけらと笑っていた。
無惨がいつか自分を切り捨て、殺そうとしていることなど明らかだというのに。
そんなことはどうでもいいとばかりに、彼女はただ無惨のことを愛し続けている。
愛を知らない哀しい人。
彼女にとって無惨はそういう生き物なのだ。
だから女は無惨を愛する。無惨のすべてを受け入れると囁く。
今日も、明日も、明後日も――きっとこの世界が終わるまで、ずっと。
◆◆
『――そういう家がねぇ、北九州のどこかにあるらしいんですよねぇ……』
イヤホンに繋いだスマホから流れてくる怪談ツイキャスを聞きながら、私こと"紙越空魚"は大学のキャンバスを一人歩いていた。
実話怪談は私の娯楽の少ない人生において数少ないライフワークの一つだ。
掲示板や投稿サイトに綴られたネットロアから某出版社のものを初めとした物理書籍まで手広く嗜む。
音楽性というか怪談に対して求めているものの違いを感じることもままあるが、それでもそういうものに触れている時は心が落ち着く。
……いやまあ、流石に"裏世界"の存在が頻繁に此方へ干渉してくるようになってからはさしもの私も少しだけ及び腰になってたけど。
でもこの世界に来てからはまた以前のように、暇を見つけては怪奇の世界に没頭するようになった気がする。
重ねて言うが、そうしていると落ち着けるからだ。直視しなければならない現実を、少しでも遠ざけられるからだ。
「でも流石に、今日は全然集中出来ないな……」
ツイキャスのアプリを落として、私は誰にも聞こえないような小声でそう言って嘆息した。
面倒なことになった。というかもっと直球に言おう。めちゃくちゃ、まずいことになった。
聖杯戦争――私が居るこの異界、もとい〈界聖杯内界〉で静かに進んでいる傍迷惑な儀式。
私だって何も、そうなる可能性を考えてなかったわけじゃない。
もしかしたら生還の席は一人分しか用意されていないかもしれないと思ってたし、その時は心を鬼にする覚悟も決めていたつもりだ。
でもそれは、あくまで"つもり"だった。散々人でなしだとかヤバいとか言われてきた私だけど、やっぱり所詮は普通の人間だったらしい。
「(まだ決めつけるのは早計かもしれないけど……本当に殺さなきゃいけないかもなのか。これ)」
見ず知らずの他人の命を守るために自分のそれを諦められるような聖人君子になったつもりはない。
私は私の命が可愛いし、"誰かのため"に仲良しこよしで共倒れなんて断固御免だ。
そうしなきゃいけないっていうのなら、私はそうする。たぶん、できる。
……今はまだ、そう思えている。
一度もその状況に立ったことがないからだ。
誰かの命を奪う状況を、経験したことがない。
だから好き勝手言える、イメージ出来る。
でもそれがイメージじゃなく実体験として自分の身に舞い降りたなら、本当に私は――初志を貫徹出来るのか。
そこについては流石にちょっと、自信がなかった。
ぐるぐる、ぐるぐると頭の中で思考が回る。
この一年くらいで何度も何度もこういう感覚になった。
あいつのせいだ。仁科鳥子。私の前に突然現れて、私の世界に突然踏み込んできて、いつの間にかなくてはならない存在になってた女。
鳥子が未練がましく昔の女を追っかけてるのにもやもやした。
その女の件が一段落つくなりいきなり距離感がアホかってくらい近くなった頃などは、何をされても動揺して心臓がばくばくした。
いつも、いつもだ。いつもあいつが、私の頭の中に居た。
――私が頑張って足を伸ばし、手を伸ばせば届くところに、居てくれてた。
「おう、マスター。頼まれてたヤツだが、ようやく手に入ったぞ」
でも今は違う。
今の日常には、あのむかつくほどの美人は何処にも居なくて。
代わりにサーヴァントが居る。魔力を持たず、令呪も通じず、念話も霊体化出来ない異例づくめのサーヴァント。
本当の名前……"真名"は伏黒甚爾というらしい。私がアパートの部屋に戻ると、アサシンはこう言ってテーブルの上を指し示した。
そこにあった、見慣れた形状。新聞紙に包まれてはいるけれど見間違えるはずもないシルエット。
「それにしても、お前本当に堅気か?」
「自分ではそう思ってます。多少荒事は経験してきましたけど」
「"扱い慣れてる"って理由でマカロフを名指しで注文(オーダー)してくるような奴はな、世間一般には堅気って言わねえんだよ」
実銃――マカロフ。
銃も色々持ったし撃ったけど、やっぱりこれが一番手に馴染む。
新聞紙の包装を外して、グリップを握って壁に向ける。
この世界に放り込まれてから一ヶ月近くもの間、私はどこにでも居るごくごく普通の女子大生として過ごしてきたけど。
「(――ああ、思い出した)」
それも、そろそろ終わりだ。
アサシンの実力を疑っているわけではないが、いつまでも彼に頼り切ってはいられない。
私も私で元の世界に帰るために、あれこれ調べて動いて回らなければ。
そう、"元の世界に帰るために"。
どんな道を辿るにせよ、最終的にその目的だけは絶対遂げられるように。
アサシンにマカロフを注文したのは、その過程で何か危険な状況になった時のことを考えての備えだった。
流石にサーヴァント相手の武装としてアテにしてるわけじゃないけど、少なくとも相手が人間なら、銃はとても大きなアドバンテージだ。
「(……待ってろよ鳥子。
私は絶対、こんなつまんない青空の下なんかじゃ死なないからな)」
もう一度、あの底知れない青空の世界へ行くために。
この世でたった一人の共犯者と秘密の冒険をするために。
私は、マカロフのグリップを力強く握り締めた。心の中の恐怖を握り潰すみたいに、とにかく力を込めた。
◆◆
「あー……なんか全然実感ないなあ。
一応覚悟はしてたのに、結局一回も戦わずに此処まで来ちゃった」
"仁科鳥子"にとっての聖杯戦争という単語は、未だにどこか絵空事のような響きを持っていた。
鳥子がサーヴァントである少女、アビゲイル・ウィリアムズと共に過ごした一ヶ月弱の時間は非常に安穏としたものだった。
戦いの気配なんて感じたこともないし、普段と変わったことと言えば外出の時多少周りの様子に気を配らなければならなかったくらいのもの。
それどころか、裏世界(あちら)からの干渉がぱったり途絶えている辺り、ひょっとすると普段の日常よりも平和な時間ですらあったかもしれない。
鳥子の、透明な手。
裏世界の存在に深く干渉したことで変容した美しい指先。
もしかしたらこの手でなら、サーヴァントの霊核にすら触れるのかもしれない。
そこまで考えたところでこめかみの辺りがずきんと痛んだ。
何か思い出しそうになったような。でも、おそらく思い出さない方がいいような。
そんな奇妙な感覚を覚えつつ、鳥子はベッドの上に自分の身体を投げ出す。
すると、すうすうと気持ち良さそうに寝息を立てているアビゲイルの隣に寝転ぶ形になった。
「(……さっき見た夢。あれ、アビーちゃんの記憶なのかな)」
マスターらしいことは何もしていないし、アビゲイルに対してサーヴァントらしいことを求めた試しもない。
それでも一応は器の一体だ。美しい金髪が覆う頭部の内側には、聖杯戦争についての基本的知識が手抜かりなくインストールされていた。
故に鳥子は知っている。マスターとサーヴァントの間には霊的な繋がりがあるため、時折相手の記憶を夢に見ることがあるのだと。
「(裏世界みたいに綺麗で――だけど底知れない景色)」
裏世界の景色ではなかったと思う。
でも、鳥子が垣間見たその世界はとても綺麗だった。
けれど、覗き込みすぎると吸い込まれてしまいそうなそんな恐怖がいつも隣人として在るような。
そんな、裏世界によく似た景色の中を――旅しているのだ、夢の中の"誰か"は。
どこまでも、どこまでも。
いつ終わるとも知れない旅をしながら景色を見ている。
心の中に、満たされることのない空白を飼いながら。
誰かが居るような、でも絶対に誰も居ない空白を隣に感じながら。
何か、或いは誰かの名前を、静かに呟こうとして。
そこで、目が覚める。そんな――どこか不思議で、物寂しい夢。
「……行きたいなあ、裏世界」
彼女の小さな友人が聞いたら心底げんなりした顔で眉を顰めそうなことを言いながら鳥子は窓の外を見た。
天気は晴れ模様。でも雲間から覗く空の青は、あの秘密の場所の深蒼には遠く及ばない。
何も鳥子は、恐ろしい思いがしたくて裏世界に行きたいわけではない。
裏世界に行ったまま帰ってこない、かつての友人を探したいわけでもない。
もっとずっと単純で、純粋な理由だ。
空魚と――たぶん人生で初めて、友情以上の感情を抱いた人と。
一緒に裏世界に行って、バカみたいにはしゃぎながら、夕方になるまで遊びたい。
そうしてくたくたになりながら元の世界に戻って、打ち上げをして、小言を言われて。
家に帰って、次の冒険に想いを馳せながら眠りに落ちる。
そんな日常が、あんな夢を見たせいかどうしようもなく恋しかった。
「帰れるのかなー……私。
でも、帰らないとなあ。は〜、どうしよ……」
状況はほとんど八方塞がり。
余程どうしようもない状況じゃない限り誰かを殺すことはしたくない――間接的にであってもだ。
けれどだからと言って他に帰る手段のアテがあるわけでもなく、そのことが鳥子に悩ましい溜め息を誘発させた。
「(こういう時の空魚、決断力あって頼りになるんだよな〜……はあ。この街に空魚が居てくれたらな――)」
それが無い物ねだりだということは分かっているけれど、どうしてもそんな荒唐無稽なことを空想せずにはいられない。
横で眠るサーヴァントの幼い金髪を指で梳いてやりながら、鳥子は「最近溜め息増えたなあ」と独り言を零すのであった。
◆◆
癒やしの否定者──"リップ"に特段感傷はなかった。
ようやく此処まで来たという感慨もなければ、自分以外の器の願望どころか命をも踏み台にしなければならないことへの葛藤もない。
特に後者だ。他人を犠牲にする覚悟など、今更固め直すまでもなくずっとある。
目的を達成する、願いを叶える。その為ならばどれだけの人間を犠牲にしようと構わないと、リップはずっとそういう気構えで戦い続けてきた。
今更見ず知らずの他人の犠牲をちらつかされたところで、それを理由に戦いの手を鈍らせる彼ではない。
「結局……何だったんだ? こいつら」
そんな彼は今、ビルとビルの間に挟まれた狭い裏路地の中に佇んでいた。
それだけならば甘いマスクの持ち主であることも相俟って絵になる光景だが、それを台無しにする不純物が彼の足元に二つ転がっている。
子供の死体だった。恐らくは中学生、高く見積もっても高校生くらいであろう少年二人。
殺したのは他でもないリップその人であったが、しかし彼から仕掛けて無益な殺人を行ったわけではない。
逆だ。
滞在先のホテルを出、偵察を兼ねて歩いていたところを突然襲われたのである。リップが、だ。
ただ確かに予想だにしない展開ではあったものの、それしきのことで不覚を取るほど彼は弱くない。
順当に返り討ちにし、手間なく無駄なく頸動脈を切り裂き──殺害。
その結果が眼下二つの死体なのだが、彼らを無傷で殺し返したリップの胸に残ったのは据わりの悪い疑問だった。
「(ポイントがどうとか言ってたが……異能を持ってる感じはなかったな。
耐久も見た目と大して乖離してなかった。ただの人間──だった)」
死して尚握り締めたままの刃物を見る。
この国では持ち運びするだけで犯罪になる大振りのナイフだ。
凶器としては強力だが、リップのような戦闘者を殺傷するには役者が足りなすぎる。
「(俺をピンポイントで狙って来た時点で聖杯戦争と無関係ってことはあり得ない。
相手を選ぶって頭はなかったようだが、どこぞの誰かが糸引いて駒にしてんだろうな)」
死体の顔面に乱雑に巻かれたガムテープを剥がしてみたが、その下から出てきた顔面もやはり普通の子供のそれだった。
令呪の刻印ももちろんない。となると考えられるのは、何処かに彼らを誑かした元締めが居る可能性だ。
マスターの力でかサーヴァントの力でかは知らないが、この内界の住人……NPCを使ってマスター狩りに勤しんでいる輩が居るらしい。
さしずめあの奇妙なガムテープは、"そいつ"の手の者であることを示すシンボルマークと言ったところなのではないか。
しかし何にせよ、自分達が今拠点にしている場所は割れていると考えるべきだろう。
今から新たに拠点を探すのは手間だし時間のロスだが、いざという時の安全には代えられない。
十中八九敵にバレている拠点に平気で身を置き続けられるほど、リップは聖杯戦争の競合相手達のことを侮ってはいなかった。
「シュヴィには……黙っておくか。あいつは殺しを嫌がるからな」
独り言のように呟いて、リップは自分のサーヴァントに想いを馳せる。
クラス・アーチャー。真名を、シュヴィ・ドーラ。
厳密には本来の名前はまた別にあるのだというが、彼女はあくまでも"シュヴィ"と呼んでほしいと言う。
リップも別段そこで意地を張るつもりはなく、素直にその名で呼ぶことにしていた。
──シュヴィは、神殺しの逸話を持つサーヴァントだ。
正確には彼女がそれを完遂したわけではなく、彼女の同族達が成し遂げたのだというが、そこに至るまでのきっかけを作ったのがシュヴィであるのは事実である。
神に人生を狂わされた男が、神を殺した少女を召喚した。
まさに神の気まぐれのような運命のいたずら。リップが不可能だとし、選ばなかった道を歩み切った英霊。
彼女が時折自分を通して他の"誰か"の面影を見ていることに、リップは気が付いていた。
「……夢を見るのはやめろ。俺は、お前の思うような人間じゃない」
リップが人を殺すのを嫌がるのも、恐らくはその一環なのだろう。
だがリップはその感傷には付き合えない。彼女の追憶には寄り添ってやれない。
だから──殺す。
願いのために、全てが崩れた最初のあの日をやり直すために、殺す。
自分の敵を何もかも殺し尽くしてでも、自分達の"終戦"を実現させてみせる。
英霊などという"武器"の心に絆されて道を曲げるなど、あり得ない。
……そう強く心に誓っていても。
背後の死体へ一度だけ振り向き、彼女の顔を思い出してしまう。
どれだけ罪を重ねても、どれだけ極悪人を気取っても。つまるところリップは、そういう人間なのだった。
◆◆
その少年は、異様な風体をしていた。
薄汚れた衣服。美少年の容貌と相反するプリーツスカート。
極めつけに、頭部に乱雑に巻き付けられたガムテープ。
怪人――と言う他ない姿形。そんな少年に臆することなく近付いて声を掛けるのは、黒髮の美しい少女だった。
「こんなところに居たのね、ガムテ」
「ん? あぁ、舞踏鳥(プリマ)か」
ガムテ、そして舞踏鳥。
コードネームで呼び合うのは非合法の組織にあっては何ら珍しいことではないが、二人の見た目はどこからどう見ても未成年なのが奇怪だった。
しかし彼らは、大人の奸計に道具役として起用された可哀想な少年兵ではない。
大人の犠牲者であるという点においての間違いこそないものの、利用されている存在かと問われれば間違いなくその答えは否だ。
彼らは大人によって心を、未来を割られ、そうして生まれた鬼子たち。
――"割れた子供達(グラス・チルドレン)"。ガムテと呼ばれた少年が率いる、子供だけの殺し屋集団。
「残り二十三組だってさ。オレも含めて」
「……そう。ずいぶん進んだのね」
「オレらも大分殺したしな〜! あのババアの手を借りたことが何回かあったのは癪だけどさ」
この世界においての"割れた子供達"は、ガムテの居た世界のそれに比べれば脅威度で数段劣る。
理由は単純。
ガムテを初めとする極道を超人たらしめる麻薬――"地獄への回数券"の残量だ。
どんな凡人が使おうと、即座に格闘技の全米チャンプ級以上の力を獲得するに到れる改造薬物。
元の世界ではそれが潤沢にあった。けれどこの世界では残量が限られている上、補充することが叶わない。
となれば"割れた子供達"も、人並みと然程変わらない武装しただけの少年犯罪者集団に成りさらばえる。
ただ一点。躊躇と容赦を知らない殺意を持っていることを除いては。
「サーヴァントってのは真実(マジ)の超常(バケモン)だ。
極道を星の数ほど殺してきた忍者共ですら、奴らに比べりゃずっと人間らしい」
しかしそれだけで十分だった。
彼らが彼らであるための要素はそれだけでいい。
壊れた心は殺意を生む。不遇な幼少期に極度の絶望というシリアルキラーの定番製造レシピを踏んで生まれた忌み子の群れ。
事実として。ガムテ達は幾つもの主従を脱落させてきたし、その中には英霊を殺すことなくマスターを屠って趨勢を決めた戦いもあった。
恐るべき"割れた子供達"は未だ健在。麻薬(ヤク)の力が無くたって、ドス黒い殺意がそれを穴埋めしてくれる。
「それでも、勝つのは貴方でしょう」
とはいえ犠牲は現に出ている。
今日だって"マスターと思しき男"を殺すために出した子供達が二人物言わぬ死体になって見つかった。
いや。それ以前の話だ――この世界の子供達は、所詮模倣世界の中の存在に他ならない。
ガムテが勝利すれば、それに呼応してこの世界は消える。
此処でガムテと共に戦った子供達は皆、存在も魂も微塵すら残らず消え果てるのだ。
そのことをガムテはきちんと理解していたし、共有してもいた。
だが、それでも。各々の殺意に従い動く"割れた子供達"は、今日もその顔にガムテープを巻きつけている。
「私たちにとってこの世界は夢幻(ウタカタ)。
それでも皆信じてる。ガムテ、貴方の勝利を」
ガムテは――英雄だった。
子供達の英雄。心の割れた子供達のヒーローであり、象徴。
だからこそそこにはカリスマが宿る。こいつのために生きて死んでやるという、想いが宿る。
「貴方は聖杯を手に入れる。そして、あのババアに引導を渡すのよ」
「分かってるさ、大丈夫だよ言われるまでもない。
勝つのはオレ達で、負けるのはオレ達以外の全員だ」
それは、あのババア――ライダーも例外ではない。
シャーロット・リンリン。巨大な母(ビッグ・マム)の異名を持つ化物。
リンリンは最強の破壊兵器だ。ガムテが知る限り、あれ以上に強い生命体は存在しない。
彼の極めた極道技巧を完璧に決めたとしても、あの化物には通用しないだろう。
だがガムテが壊す存在の中には、シャーロット・リンリンも確かに含まれている。
リンリンは母だ。自分の機嫌と価値観で子供を壊す、最悪の毒親(オトナ)だ。
「アイツで慣れておかないと。化物殺すのに、さ」
されど、ガムテにとって彼女はあくまでただの通過点でしかなかった。
ガムテが本当に殺したい、殺すべき相手は別に居る。
子供を蔑ろにする卑劣な大人の一人にして、自分がこの手で滅ぼすべき忌まわしき実父。
それでいて――化物。ガムテの語彙力と価値観ではそうとしか言い表すことの出来ない、生涯を賭してでも殺さねばならない男。
――輝村極道。
"割れた子供達"は止まらない。
業病のように深く根付いた殺意と憎しみ。
それだけを武器に駆ける子供達を統べるのは、殺人の王子様(プリンス・オブ・マーダー)たるガムテ。"輝村照"。
世界にただ四人しか居ない最強の海賊にして最悪の母、それを従えて。
"ガムテ"は、征く。
ガムテは、殺す。
地平線の果てへの道を併走する全ての命を、その研ぎ澄まされた殺意で殺し尽くす。
◆◆
「概ね、予想通りの展開だな。
至極順当に勝ち残れた、というところか」
界聖杯からの通知――それを受け取った器達の反応は様々であった。
喜ぶ者、嘆く者、迷う者。だがこの少年は、そのいずれにも該当しない。
ただ当然のこととして。予想を外れない順当な帰結として、それを受け止めた。
もしかすると、彼を指して驕っていると指差す者も存在するかもしれない。
だが、そういうわけでは決してなかった。彼は聖杯戦争のことを何一つ軽んじることないままで、それでも己は生き残ると確信していたのだ。
「とはいえ、これまでの戦いが前哨戦なのは明らかだ。
真の魔境、激戦はこの先。二十二の器達との鬩ぎ合いに他なるまい」
青年の名は、"峰津院大和"といった。
理路整然とした口調は老成しているとすら言えるそれだが、その顔立ちは印象に反してまだ若い。
十代半ば程度であろう、あどけなさを幾らか残した顔立ち。しかしその中で、確たる意思と叡智を灯す双眸の深みだけが浮いている。
――聖杯戦争においての主役はあくまでサーヴァント。
マスターとはその手綱を引き、戦いの行方を固唾を呑んで見守る立場だ。
無論場合に応じては敵のマスターと主同士で戦うことも、魔術を使ってサーヴァントの支援をすることもあるだろう。
だが、戦闘の主軸になるのが英霊であるという点においてはほぼ例外はない筈である……普通ならば。
その点、大和は間違いなく普通のマスターなどではなかった。英霊の格にも依るだろうが、彼はともすればサーヴァントとすら張り合える。それだけの力と技術を持っている、規格外の器の一つである。
「可能性は低いとは思うが。ともすれば、君を脅かす存在すら居るかもしれないな。ランサー」
「抜かせ。軽弾みな侮辱は身を滅ぼすぞ、羽虫よ」
そしてその峰津院大和が召喚したサーヴァントもまた、冗談のような強さを持つ規格外であった。
流石に本戦である。強大なサーヴァントは何体も残っており、中には文字通り聖杯戦争を終わらせる武力を持つ者も居る。
大和のサーヴァント……ランサー・"ベルゼバブ"は間違いなくその一角に分類される存在だ。
各種能力値(ステータス)、スキル、宝具、どれを取ってもおよそ隙というものが見当たらない。
並の英霊ならば鎧袖一触に蹴散らし、そうでなくとも相対した全ての存在に死を想起させる。
それだけの力と技を併せ持った、強大なる戦闘者。
空の彼方から飛来したインベーダーの司令官にして、敗北の味を知るからこそ勝利に向けて立ち上がり続けた怪物。
「予選期間――だったか。
その間に何度かサーヴァントを殺したが、誰一人として余を驚かす者はなかった」
「そこについては異議はない。君にしてみればさぞかし退屈な戦いだったろう」
「羽虫の頭でも理解出来ているようで何よりだ。
聖杯戦争は、余を混ぜる戦としては程度が低すぎる。児戯に等しい」
事実、予選期間の間にベルゼバブを本気にさせた英霊は存在しなかった。
一人として、だ。全てが、この怪物を前にしては同じだった。
刺さりもしない剣、当たりもしない技。それらを得意気な顔で振り回し、最後はベルゼバブに蹂躙されて消えるだけ。
実につまらない、歯応えのない戦い。故にベルゼバブはこれから始まる本戦にも何ら期待を抱いていなかったが――
「本番はこれからだ。軽弾みな浅慮は身を滅ぼすぞ、ランサー」
「……貴様は、余が下した命令を忘れ果てたのか?」
大和は、そうは思っていなかった。
確かに此処までの戦いは芥子粒を磨り潰すような、手応えのない"圧倒"ばかりであった。
しかし此処からは本戦だ。形はどうあれ、予選期間を生き抜いた幸運と能力の持ち主だけが残っている。
となれば、居たとしても何らおかしくはない。
この絶対的な"強者"に並ぶ未知の強豪。純粋な強さでは対応の出来ない奇怪な力。
我らの足元を掬ってくる、埒外の存在が居たとしても――何も不思議なことではないのだ。ベルゼバブとは違い、大和はこう考えていた。
そして、その上で。
大和は疑わない――最終的な勝者が、自分となることを。
「(見果てぬ地平線の彼方。
そこに辿り着き、界聖杯に触れるのは私だ)」
ともすれば、その道中で予想外の事態にも出くわそう。
痛い目を見ることもあろう。その可能性までもを否定するほど、大和は愚かな人間ではない。
しかしそれらは全て超えていくべきものであり、超えられる程度の障害でしかないのだ。
なればこそ。最終的な勝者となるのがこの己――峰津院大和であることを、どうして疑う必要があろうか。
恐るべき星の民を従える、恐るべき少年。
聖杯戦争中最大級の武力を持つ、恐るべき主従。
その勝利への方程式を崩せる者が現れるのか否か――その答えは、未だ導かれていない。
◆◆
帰宅して扉を開く。以前はあんなにも楽しみで仕方なかった瞬間が、今は何の価値も持っていない。
お城の扉とは違う扉。開けば漂ってくるのは甘い砂糖の香りではなく、じっとりとした血の臭い。
薄暗い部屋の中にあの子の姿などあるべくもなく、"松坂さとう"は色のない表情のまま鞄を置いた。
「(……しおちゃんと一緒に過ごすためとはいえ、やっぱり堪えるな)」
聖杯を手に入れて、しおちゃんと永遠に過ごせるよう祈る。
それはさとうにとって、人を殺す価値のある願いだった。
これまでに二人。聖杯戦争で間接的に殺した人間を含めればその数倍。
それだけの人数を殺してきたさとうだが、何も彼女は素面の状態で目障りな相手をすぐさま殺すメンタリティをしているわけではない。
仮にそうなったとしても自責の念と後悔に狂うことはないだろうが――意味がないなら、わざわざ殺人なんて真似はしないのだ。
松坂さとうの殺人はその全てが愛するものの維持に行き着く。
愛してるから、愛されてるから。だからそれを脅かす者を、そうする必要があるなら殺す。
そのスタンスについては、元の世界で甘い日々を過ごしていた頃から変わっていない。
愛を偽らない限り。やっちゃいけないことなんて、この世にありはしないのだから。
「(聖杯を手に入れたら、まずは何をしよう。
海にも行きたいし、今まで連れて行ってあげられなかったいろんなところに一緒に行きたいな。
うんと遊んで、美味しいもの食べさせてあげて、それで……)」
さとうにとって、天使の居ない世界はひどく苦い。
界聖杯内界は彼女を苦みで苛むだけの、生き地獄のような世界だった。
ともすれば気が狂いそうな此処で、唯一さとうを癒してくれるのは思い出と空想。
旅行を明日に控えた小学生のように、願いが叶った世界の幸福を空想する。
そうしていると、微かな甘さが舌先に触れて。さとうに歩く力と小さな希望を与えてくれた。
――界聖杯さえ手に入れば。
そしたら、もう何も恐れることはない。
私たちのハッピーシュガーライフは永遠で、他の誰にも脅かされることなんてなくて。
私はあの子と永遠に、いつまでも一緒に暮らすことが出来る。
"めでたしめでたし"だ。
さとうがどれだけ頑張っても、決して辿り着けなかったハッピーエンド。
それを実現させてくれる奇跡が、この苦くて痛い地平線の果てにあるという。
ならどんなに辛くても足を止めることは出来なかった。
悪魔に魂を売ってでも、その奇跡を手に入れる。
苦しみながら、もがきながら、それでも彼女の意思は揺れない。
崩れることのない、角砂糖のような愛。天使にふれた記憶を閉じ込めた幸福の密室。
「叶うといいねえ、その願いが」
人の心を見透かしたように軽薄な声が鳴る。
念話を使わずにわざわざ肉声で話しかけてくるのは、愛を嘯く穢れた鬼。
薄闇の中に胡座をかいて、コールタールのようにどろりとした笑顔を浮かべている。
それを一瞥だけして、さとうは「これからは索敵に出なくていいから」と鬼……童磨へ言った。
「ん? いいのかい、それで。
今まではサーヴァントの索敵も"狩り"もほぼ俺に一任していたろう。
戦いの頻度が減って、聖杯への道程が遠のいてしまうかもしれないぞ」
「あなたは確かに強力なサーヴァントだけど、その分弱点も多い。
そんなあなたを本戦まで生き残ってきた連中に無策にぶつけるのは危険だと思ったの」
「ああ、なるほど。さとうちゃんは頭が良いねえ。
聖杯戦争は英霊犇めく蠱毒の壺。人間の鬼狩りを相手にするのと一緒に考えるべきではないか」
童磨のただただ不快な語りに付き合ってやる気などさとうには毛頭なかった。
今後の指針だけを手短に伝えて、それで会話はすっぱり打ち切る。
こんな男に命運を委ねなければならない現状には反吐が出そうだったが、聖杯のためだと自らに言い聞かせて我慢をする。
何せたちの悪いことに実力だけは確かなのだ、この悪鬼(キャスター)は。
致命的な弱点と取り回しの悪さを抱えてはいるものの、動かし方さえ間違えなければ童磨は相当強力な武器(どうぐ)になる。
――嫌いなものを扱うのには慣れている。
「(それが私たちの幸せの役に立つなら)」
あの子に執着する弱い彼。薄汚い欲望のために近付いてきた先生。
私に愛を偽らせた後輩。間違った愛で今の私を作った、叔母さん。
全部使ってきた。全部、利用してきた。
今回も同じだ。この薄汚い鬼も、私たちの幸せのために使ってみせる。
「最後まで一緒に頑張ろうね、さとうちゃん。
たったひとつの"愛"を知った俺たちが、他の願いに負ける筈なんてないからな」
勝つのは、私だ。
その目に、深い決意と殺意を灯して。
誓いの言葉の聞こえない部屋の中で、砂糖少女は夢を編む。
◆◆
とっても甘いのと、とっても苦いのがある。
そう、大好きな人が言っていたのを思い出す。
「夢を見たよ」
いつの間にか時刻は夜になっていた。
太陽は隠れて月が出て、空にはお星さまが煌めいている。
お城で一人きりの時に見たテレビ番組で言っていたこと。
都会の空と田舎の空では、星の見え方が全然違うらしい。
都会は明るすぎるから、夜空までぼうっと明るくなってしまって、それで輝きの小さな星は隠されてしまうんだとか。
「夢〜? なんだ、俺の記憶でも見たのかよ?」
「うん。らいだーくんの好きな人の夢」
「……あ〜……」
マジか。なんてもの見てんだこのガキ、と。
そう言いたげに言葉を詰まらせて、"らいだーくん"ことデンジは頭をぼりぼり掻いた。
「きれいな人だね。マキマさんって」
「……、まあな。メチャクチャ美人だった」
「いまも好きなの?」
「好きだよ」
マキマ。デンジに人間としての人生を与えてくれた女は、しかし彼のことを真に慮ってなどいなかった。
彼女が見ていたのはあくまでもデンジの中に居る存在。
デンジという個人のことは、ただの一度として見てくれなかった。
そのことをデンジは知っている。知った上で、それでもまだ。
英霊になった今でさえも――マキマのことを好きでいる。馬鹿な奴だと笑われても不思議ではないが、しおの感想は違った。
「愛してるんだね」
「からかうなよ」
「からかってなんかないよ。
らいだーくんの愛は、すごくすてきなものだと思う」
臆面もなく言って、しおはくすりと笑った。
「いっしょだね、私たち」
かつて少女は天使だった。
少年は一匹の犬だった。
少女は愛を知って、天使の羽を失った。
少年も愛を知って、一人の人間になった。
「大好きな人とひとつになって、ここにいるんだもん」
「意味合いが違くねえかあ〜?」
……口ではそう言ったが、それとは裏腹に奇妙な納得を覚えてもいた。
神戸しお。
この少女は、デンジの目からするとはっきり言って"厄ネタ"以外の何物でもなかった。
元々女運が壊滅的に悪いデンジである。出会った女に片っ端から何らかの形で殺されそうになった輝かしい経歴を持つ、デンジである。
いざサーヴァントとして召喚されてみれば、マスターとして立っていたのは嬉しそうに心中の話をする八歳児。
俺は死後もヤバい女としか縁がねえのかと、自分の運命にかなり真剣な疑いの眼差しを向けたりもしたが――
「(ああ、なるほどなあ……そういうことなのか、これ)」
言われてみれば確かに。
"それ"は、自分としおの間に存在する明確な"共通点"だった。
形は違えど、経緯は違えど。
相互間の感情が双方向かどうかの違いもあれど。
愛するものと一つになったという一点では、神戸しおとデンジは同じ経験を経ている。
しおは自由落下の果て。デンジは唯一無二の殺人手段で。
愛するひとが自分の中で生きているという、一つの悟りへと至った。
本当にそれがこの主従が成立した理由なのか、界聖杯は黙して語らないが。
運命というものの実在を信じるならば、なかなかどうして納得の行く理屈である。
「ねえ、らいだーくん。
ポチタくんじゃなくて、"らいだーくん"」
「何だよ」
「今のらいだーくんって、どっち?」
にこにこと人懐っこく笑う瞳、深海の蒼。
天使の微笑みは人の心を狂わせる。
翼を失って地に堕ちた天使を堕天使というならば、今のしおはまさにそれだった。
堕ちたとて、天使は天使なのだ。
翼がなくても、聖なるものを持っていなくても。
その微笑みは――甘い毒。
「デンジくん? それとも、チェンソーマン?」
わざわざポチタではなく、デンジと呼んだのはつまりそういうことだろう。
神戸しおはデンジの生前を知っている。夢を通じて見て、理解している。
デンジの愛した女(あくま)が、デンジの中に居るポチタ/チェンソーマンだけを見ていたことを。
全てを奪われ、失意に沈み、みすぼらしい野良犬のようになったデンジは、しかし。
自分もまた、チェンソーマンになれることを知った。
人々の喝采、応援の声。今までの終わりきった人生の中で一度として受けたことのない祝福と期待。
それを受けて――願ったのだ。そして叶った。
だからデンジはただのみっともない犬としてではなく、確たる彼として此処に居る。
英霊デンジの霊基は確かに真なるチェンソーの悪魔、ポチタの心臓を搭載するための器だが。
それでも彼は確かに、人類史の欠片の一つとして世界に記録されるに至ったのだ。
「……意味の分かんねえ質問止めろよな。
お前はどっちがいいんだよ、しお」
「私はね、デンジくんで居てほしいよ。
チェンソーマンじゃなくて、デンジくんがいい」
その理由が、デンジには分かる。
しおは聖杯戦争からの脱出など目指していない。
戦いをしたくないだとか、命を奪いたくないだとか、そんなことは微塵も思っていないと知っているから。
「"みんな"のヒーローはいらないの」
神戸しおは界聖杯を求めている。
彼女は堕ちたとて天使。奇跡を起こす資格の正当保有者。
あの日永遠になった愛に、もう一度形を与えること。
それが彼女の願いで。そしてそのために手を汚す覚悟を、しおは最初から持っていた。
「デンジくんは、私だけのチェンソーでいて」
彼女が欲しいのはヒーローじゃない。
みんなを助けるヒーローでは奇跡を起こせない。
だから、武器がいい。しおはそう思った。
「私のために、全部壊してね」
全部だよ、全部。
その言葉に、一切の嘘偽りはないのだ。
全てのサーヴァントを殺す。必要ならマスターだって例外ではない。
奇跡に向けて歩む天使の前に群れなす悪魔を皆殺す。
そのための武器が必要だった。チェンソーマンではなく、チェンソーが。
「……それは分かったけどよ。
あのさあ、これ前から聞きたかったんだけどさ」
「? なに?」
「お前、怖いとか――殺したくないとか。そういう感覚ってねえの?」
俺が言えたことではねえな、と心の中でそう思いながら問うと。
それに対してしおは、きょとんとした顔をして。
「ないよ? なんで?」
そうとだけ答えた。
それで、デンジは改めて理解する。
ああ、こいつは。
イカれちまってんだ、と。
◆◆
――――ガチャリ。
◆◆
以上でOPの投下を終了させていただきます。
長い間のお付き合いありがとうございました。
続いて、本企画の正式なルールについて投稿します。
聖杯戦争のルール
【舞台・設定】
・数多の並行世界の因果が収束して発生した多世界宇宙現象、『界聖杯(ユグドラシル)』が本企画における聖杯となります。
・マスターたちは各世界から界聖杯内界に装填され、令呪とサーヴァント、そして聖杯戦争及び界聖杯に関する知識を与えられます。
・黒幕や界聖杯を作った人物などは存在しません。
・界聖杯内界は、東京二十三区を模倣する形で創造された世界です。
(※なんか東京って1の想像より広いみたいだったので修正しました……)
舞台の外に世界は存在しませんし、外に出ることもできません。
・界聖杯内界の住人は、マスターたちの住んでいた世界の人間を模している場合もありますが、異能の力などについては一切持っておらず、"可能性の器"にはなれません。
サーヴァントを失ってもマスターは消滅しません。
・聖杯戦争終了後、界聖杯内界は消滅します。
・それに伴い、願いを叶えられなかったマスターも全員消滅します。
書き手向けルール
【基本】
・予約はトリップを付けてこのスレッドで行ってください。
期限は七日間までとしますが、申請を行うことでもう七日間延長することが出来ます。
延長期間を含めて、最大二週間までの予約が可能になります。
・予約の開始は2021/7/26(月)0:00とします。
・過度な性的描写については、当企画では原則禁止とさせていただきます。
・マップはwikiに載せておきましたので、ご確認ください。
【時間表記】
未明(0〜4時)/早朝(4〜8時)/午前(8〜12時)/午後(12〜16時)/夕方(16〜20時)/夜間(20〜24時)
とします。本編開始時の時間帯は「午前10時」となります。
【状態表】
以下のものを使用してください。
【エリア名・施設名/○日目・時間帯】
【名前@作品名】
[状態]:
[令呪]:残り◯画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:
1:
2:
[備考]
【クラス(真名)@作品名】
[状態]:
[令呪]:残り◯画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:
1:
2:
[備考]
以上で投下を終了させていただきます。
ものすごくたくさんの候補作をいただけて企画主も大変励みになりました。
皆さんの期待を裏切らないような企画に仕上げていくつもりですので、今後とも当企画をよろしくお願いいたします。
改めて、此処までの応援本当にありがとうございました。
死柄木弔&アーチャー(ジェームズ・モリアーティ)、神戸しお&ライダー(デンジ) 予約します。
wikiの整備をしました。
昨日の時点で自分の代わりに編集をしてくれた方、とても助かりました。ありがとうございます(平身低頭)
また、企画の盛り上げに繋がればと思い外部サイトで依頼していたイラストを三枚収録させていただきました。
神戸しお、松坂さとう、幽谷霧子のページで見られるのでぜひ御覧ください。
(企画の性質上、念のため絵師様の名前は公開しておりません。)
幽谷霧子&セイバー(黒死牟)、皮下真&ライダー(カイドウ) 予約します
櫻木真乃&アーチャー(星奈ひかる) 、星野アイ&ライダー(殺島飛露鬼) 予約します。
プロデューサー&ランサー(猗窩座)、ガムテ&ライダー(シャーロット・リンリン)予約します
イラストまであって草
大体どれくらいの値段で描いてもらえるんだろう
松坂さとう&キャスター(童磨)、本名不明(松坂さとうの叔母)&バーサーカー(鬼舞辻無惨) 予約します
光月おでん&セイバー(継国縁壱)、神戸あさひ&アヴェンジャー(デッドプール)
予約します。
七草にちか&ライダー(アシュレイ・ホライゾン)を予約します
アーチャー(メロウリンク=アリティー)、
アサシン(ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ)を予約します
今のところマスター側は予約面子に含みません
七草にちか&アーチャー(メロウリンク・アリティ)
予約します。
>>808
失礼しました。>>807 にて予約済みだったため取り消します。
>>803
大体二万ちょいです!
予約分を投下します。
「死柄木弔。思うにだね、今の君に必要なものは"仲間"だ」
死柄木弔は紛うことなき魔王の器、類稀なる悪意の繭である。
一つの社会を混沌と恐怖のどん底に突き落とした絶対悪が寵愛し。
人類史にその人ありと謳われた犯罪界のナポレオンが感銘を受けた黒い太陽。
傷跡だらけの顔の向こうにあるのは、深く、昏い、地獄の憎悪だ。
社会と、英雄と、そこに住まう人間達全てに対する――世界に対する、憎しみ。
彼が羽化を遂げれば、その時界聖杯を巡る戦いは最終局面に突入する。
それがジェームズ・モリアーティの見立てであったが、しかしそこには重大な問題が横たわってもいた。
「君に連合を与えた師は実に慧眼だったと言えよう。
思うに君の悪性は、同じ方角を向いた共犯者があってこそ育っていくものだ」
死柄木弔は未熟者なのだ。
端的に言って脆すぎる。隙が多すぎる。
状況への対応能力も下の下。戦闘の才能だって、多少伸びはしたものの聖杯戦争で通用する程かと言うとまだまだ怪しい。
その内側に秘める類稀なる才を半分も引き出せていない、自分で自分に枷を施してしまっているような状態。
そんな彼に、オール・フォー・ワンは"仲間"を授けた。
それが敵連合。社会を敵視するチンケな犯罪者達を集めただけの烏合の衆はしかし、死柄木の名の下に急進を遂げていった。
悪のカリスマ――。
オール・フォー・ワンのように狡猾ではなく――ジェームズ・モリアーティのように老獪でもない。
あまりにも荒削りで未熟であるというのに、その奥底で燃ゆる悪の炎だけを寄る辺に他人の心を惹き付ける存在。
その上で死柄木自身も"君臨"から経験値を獲得していく性分だというのがまた理に適っていた。
「先人の発見した定理にはありがたく倣うのが数学者だ。
そこで私も、取り急ぎ君と手を組めそうな器を探して連れてきてみた。と、いうわけサ」
「……アンタの考えはよく分かったが、その上で聞かせてくれるか」
ならばそのようにと、モリアーティが連れて来た一人と一体。
廃墟に置き去られた埃だらけのソファに腰掛けながら、死柄木はそれを見て辟易したような顔をした。
最初に連合の奴らと顔を合わせた時もこんな感覚になったっけと、そんな懐かしさすら思わせる先行きの不安さだった。
「もっと他に居なかったのかよ」
「見かけで侮ってはいけないな、いつか足元を掬われるよマイマスター。
さてと――出鼻を挫く形になってしまってすまないね。自己紹介をお願いしても構わないかな」
ジェームズ・モリアーティ。
ヒーロー社会の闇を担う巨悪に代わり、悪意の蛹の羽化を目指す犯罪王。
彼が同盟相手と称して連れて来た"器(マスター)"は、死柄木よりも一回り、否二回りは確実に小さな背丈をしていた。
服越しでも分かる未成熟な肢体、丸くて大きな目、猫のようにふわふわとした質感の髪の毛。
どう高く見積もっても十歳は超えていないだろう、ともすれば一緒に歩いているだけで職質を食らいかねないような――幼女。
「神戸しおです。よろしくね、おじいちゃんのマスターさん」
このジジイは、本当に真面目にやる気があるのか。
聖杯戦争が始まって以降何度抱いたか分からない疑問を、死柄木は改めて抱かずにはいられなかった。
実際には彼が思っているよりも遥かに、かの紳士は暗躍を重ねているのだったが。
◆◆
神戸しおとそのサーヴァント・デンジは現在、予選期間中に倒したマスターが住んでいた部屋で生活している。
英霊を失うや否やすぐさま情けない叫び声をあげて逃げ去っていったため、件のマスターがどうしているのかは知らないし、そもそも生きているのかすら不明だ。
しかし界聖杯が予選期間中に脱落した――もとい可能性を喪失した器に対し"可能性の剪定"を行った以上は、生きていたとしてももうしお達の前に敵として現れることはないのだろう。
この部屋は、晴れてしお達の拠点となったわけだ。奇しくも、以前とある少女がそうしたように。
「これからどうするとか決めてんの?」
小さな口でハンバーガーを頬張りながら、ふるふるとしおは首を横に振る。
食べ慣れていないのか口の周りがソースや肉汁でべとべとになってしまっているのが可愛らしい。
デンジはバーベキューソースをこれでもかとまぶしたナゲットを口に運びながら、「考えとけよ、後で困るぜ」とやや投げやりにそう言った。
とはいえだ。
しおがあれだけ聖杯戦争に意欲を見せておきながら、反面ほぼ攻めの姿勢を見せていないことの理由。それ自体はデンジにも分かる。
彼女はこの世界において身分を持たない浮浪者もとい浮浪児だ。おまけに歳は幼く夜道はおろか、昼間一人で歩いているだけでも目立つ。
能力的な強さなどあるわけもない。英霊がほんの少し力を込めて叩けばそれで終わるような、か細くてか弱い命。
そしてデンジも、そんなしおの弱さを補って余りあるほど強いサーヴァントというわけでは決してなかった。
多少特殊な体をしているだけで、ビームも出せなければ空も飛べない。
天下に誇れる達人の絶技など持つわけもなく、戦い慣れはしているものの英霊なんて怪物共を相手にどこまで通用するかはデンジ自身としても未知数だった。
最初の戦いでは相手があからさまに正面戦闘を不得手としている様子だったからどうにかなったが、この先もああまで上手くいくかは分からない。
精々、中の下。もしかしたら下の上、それ以下の可能性もある。
戦力として見た場合のデンジは、精々その程度の――お世辞にも当たりとは言い難い凡庸なサーヴァントなのだ。
「さとちゃんみたいにはいかないなあ、なかなか」
けれどしおは、自分の前に横たわる不便の原因をデンジに押し付ける気はなかった。
悪いのはうまく出来ない自分。さとちゃんみたいに出来ない、未熟な自分なのだ。
神戸しおは松坂さとうを継いでいる。天使の羽を捨てて、愛という病を骨絡みに至らせた。
さりとて経験と年季ばかりはどうにもならない。しおは、さとうに比べて人生経験があまりに浅すぎる。
身体も小さく――そういう意味でも"さとちゃんみたいにはできない"。
そのままならない未熟さが、しおにはとても歯がゆかった。
「ま、どうせ戦うなら残りが少なくなってからでもいいだろ。そっちの方が賢いんじゃねえか」
「それはそうだけど」
「お前が人を殺したくて仕方ないってんなら別だけどよ〜……俺はなかなかエンジョイしてるぜ今の生活。
なんていうのかな……昔を思い出すわ」
しお達は金銭には困っていなかった。
部屋にはそれなりの額の現金が残されていたし、仮にこれがなくなったとしてもいくらでも工面のしようはある。
公共料金の支払いなどはしおには出来ないためデンジが担当。食事はもっぱらウーバーイーツで済ませていた。
今日の(ちょっと早めだが)昼食であるハンバーガーもそれで届けてもらったものである。
早川アキが死んだ後。血の悪魔・パワーと何も考えず気ままに暮らしていた日々。
マキマがそれを壊すまでの短い間ではあったが、聖杯戦争でしおと過ごす日々の中にはそれに近い味わいがあった。
あれこれ文句は言ってきたし、正直なところ未だにこの世も末な心中未遂幼女にはついていけないところがあるが。
それでもなんだかんだで、悪くない。いつぶりかも分からない現世での生活を、デンジはそれなりに楽しんでいた。
――ぷるるるるるるっ、ぷるるるるるるるっ。
その時不意に、部屋の固定電話が着信音を鳴らした。
こういう電話に出るのもデンジの方だ。億劫そうに席を立ち、まずはナンバーディスプレイを確認する。
とりあえず怪しい非通知ではないようだったが、出ないなら出ないでも何ら支障はないのも確かだ。
どうするか若干悩んだものの、結局デンジは受話器を取り、「もしもし」と気怠げな声で言った。
『ちゃんと電話に出てくれたね。実に賢明な判断だ』
落ち着いた調子の、それでいて重厚な年季の入った声だった。
歳は初老くらいだろうか。背後から喧騒の音色が聞こえない辺り、どこか室内から掛けてきているらしい。
セールスや何かの勧誘でないことはその物言いからすぐに分かる。
「誰だアンタ」と返すデンジの眉間には皺が寄っていた。
この異常ながらも平穏な日常。それが崩れる予感を無意識に感じ取っていたのかもしれない。
『アーチャーのサーヴァント……と言えば伝わるね?
本当は昼間ではなく夜に掛けたかったんだが、そこは私の最大限の配慮と思ってくれたまえ。夜は子供は寝る時間、だろう?』
「……、」
しおの方をちらりと見る。
? と首を傾げた彼女だったが、すぐに視線の意味を理解したのか真顔になった。
全くの不意打ちでやって来た、何の心当たりもないサーヴァントからのアプローチ。
しかもその口振りは既にデンジのマスターが力のない幼子であることも見抜いている様子だ。
デンジは怪訝な顔をしながらも、しおにも通話の内容を聞かせるために通話をスピーカーモードにする。
「どうやって俺達のことを調べたんだよ。こっちはほとんど外に出てねえんだぞ」
『"どうやって"と問うか。
いいだろう、ならば敢えてこう答えようか。――"初歩的なことだ、実にね"』
得体の知れない電話先の相手。
サーヴァントの中でも上位の戦闘能力を持つという三騎士クラスの一角でありながら、まるで推理小説の世界から抜け出てきたように滔々と話す。
『君達はその部屋を、他の主従を倒すことで奪い取ったね』
デンジは答えなかったが、その無言は肯定として受け取られる。
そして事実、それは彼らがこの"拠点"を勝ち取った真実を綺麗に射止めていた。
蜘蛛が自分の巣に触れた獲物の位置を常に正確に把握しているように。
デンジ達の全てを知るが如く、アーチャーは種を明かしていく。
『クラスはアサシン。英霊としての強さはそう高くなかったし、正面切っての戦闘は苦手な人物だった。
それを従える魔術師もまた凡庸の一言。自分のサーヴァントの性能を過大評価し、不得手な正面戦闘に打って出させた愚か者。
君にアサシンを斬り伏せられれば何もできず、自分の生を確保するため一目散に逃げ出した……』
「アンタが俺達のことを知り尽くしてるのは分かったけどよ〜。俺が聞いてんのは手品のタネだぜ」
『やれやれ、結論を急かす無粋だねェ。ミステリの読み方を知らないと見える』
「映画でなら見たことあるぜ〜? 正直、小難しくて好きじゃなかったけどよ」
これもまた全て当たっている。
苦笑する通話相手の声からは、肩を竦めるジェスチャーをしているのが伝わってくるようだった。
しかし急かされた以上はもう勿体ぶるつもりもないようで、続く言葉で彼はあっさりと結論を明かしてのけた。
『では単刀直入に答えを言おうか。
彼らには、私の息が掛かっていたのだよ』
要するに、である。
この部屋を手に入れる要因となった最初の戦いに勝利したその瞬間から、デンジ達はこの男に捕捉されていたのだ。
糸を繋がれて踊るマリオネットを壊した代償に、彼らの身体にも策謀の糸が巻き付いた。
言うなれば掌の上。その気になればいつでも、どうとでもすることの出来た状態。
しお達は知らない間に、あと一手で詰む王手(チェック)の状況に閉じ込められていたということ。
『尤も当の彼らは、自分達の行動が私に誘導されたものであったことにも――
私に捕捉されていたことにも、最後まで気付いていなかったようだがね』
「今の俺達みたいに、って言いてえのかよ」
『にべもなく言うならそういうことになる。
しかし安心したまえ。君達を本当に詰ませる気であれば、わざわざこうしてコンタクトを取りなどしないさ。
君達も彼らと同じように、自分達が利用されていることにも気付かぬまま、しめやかに破滅していた筈だよ』
――しん、と静寂が流れる。
しおがとてとてと小さな足取りで電話の近くに立った。
すっとデンジの手から受話器を受け取り、口を開く。
「はじめまして、アーチャーのおじいちゃん」
『――――――おじいちゃん』
何やら衝撃を受けているような気配が漂ってきたが、付き合わない。
「おじいちゃんは何のために電話してきたの?
私たちに何かをしてもらうため? 脅しのお電話ってこと?」
『えー、……コホン。どちらも半分当たり、半分外れといったところだね。
とはいえ君達にもそう悪い話ではない筈だ。ウィン・ウィンと言えば胡散臭いし、状況的に優位なのは6:4で此方だろうが』
それでも、君達にもそれなりに利のある話だよ。
そう言って嗤う通話越しのアーチャーに、しおは続きを促す。
『歳の割にしっかりした子だなァ。どうやら悪くはなさそうだ』。
そんな益体もない感想を呟いてから、アーチャーは――その"本題"を口にした。
『端的に言うとだ――――君達には、我ら"アーチャー陣営"との同盟締結を提案したい』
◆◆
そういう経緯を経て、神戸しおとデンジは死柄木の許を訪れた。
早い話が、同盟の締結を了承したのだ。
アーチャー自身が言っていたように、しお達にとってそれは決して悪い話ではなかった。
彼に利用されるだけされて使い捨てられる危険性が無いとは言えなかったが、同盟を受けなければそれよりずっと大きな危険が待っていただろうことは想像に難くない。
だから受けた。しおとしても、使える戦力を大きく出来ることには意義があった。
「なんて呼んだらいい?」
死柄木の座る横にちょこんと座って、見上げながらしおは言う。
それに対して死柄木は短く、ぶっきらぼうに応じた。
「好きにしろ。別に執着はねえよ」
「じゃあとむらくんだ」
よろしくねえ、と言って朗らかに笑うしお。
その顔をちらりと横目で見て、死柄木は改めて「正気か」と思った。
確かに、敵連合にも若者は居た。他ならぬ死柄木もまた二十歳と決して成熟しているとは言い難い年齢だが、それはさておきだ。
だがしおは、若者という次元ではない。正直なところ死柄木の目から見た彼女は、物心ついているかどうかも怪しい幼女にしか見えない。
サーヴァントを使役して此処まで生き残り、尚且つ明確に聖杯を狙っている辺り普通ではないのだろうが――と。
そこまで考えて、「直接聞いてみるか」と思った。
「とむらくんはどうして界聖杯がほしいの?」
……なのに先手を取る形で、しおが首を傾げて問いかけてきた。
じーっ、という擬音が似合いそうな瞳で死柄木の顔を見上げる少女。
死柄木の生きる世界にはまるで似合わないあどけなさ、幼さ。
死柄木がいつか憎悪のままに踏み潰す"誰か"の日常の中から切り出してきたかのような姿。
白いキャンバスに罵詈雑言を書き殴るような感覚を覚えたのは、死柄木の中に残っていた数少ない常識的感性というやつだったのかもしれない。
「別に俺は願いを叶えたいわけじゃない。
俺が界聖杯に求めるのは力だ。俺の願いを叶える"ための"燃料になってくれりゃそれでいい」
「どういうこと? とむらくんは、自分の力で願いごとを叶えたいの?」
「俺の手で叶えなくちゃ意味がねえんだよ。こればっかりはな」
俺の、手で。
そう口にしたタイミングで、自分の手へと視線を落とす。
この手には力がある。触れたものを塵になるまで崩す力が。
例えば今此処で、この神戸しおという幼女の頭に触ったとする。
そうしたら、それだけで全てが終わるのだ。
サーヴァントの反撃が入るだろうから結局死柄木も窮地に追い込まれはするが、確実に人間一人の人生を終わらせることが出来る。
"崩壊"。それが、死柄木弔の――■■■■の生まれ持った呪い(こせい)。
そして彼は――その力が持つ名の通りの所業を、成し遂げようと想っている。
「全部壊す。何もかもだ」
「ぜんぶ?」
「そう言ってんだろ。まあ、一部の例外はあるだろうが……手始めはこの世界だ。
俺が聖杯を手に入れればこの世界は消えてなくなる。勿論お前もだ、ガキ」
「ふうん。じゃあ」
死柄木弔の願いは瓦礫と灰の地平線だ。
秩序が崩れ、英雄が死に絶え、残骸だけが残った末法の世。
それを作る一環で聖杯を手に入れようとしている――そして聖杯を手にしなければ帰れないと分かった以上、他の願いを根絶やしにする以外の選択肢はない。
そんな彼に対して、しおは。
「私も、最後はとむらくんを殺さないとだね」
「……、」
まるで勉強を教えてくれた教師に「なるほど」と頷くような調子で、そう言った。
「……お前の願いは?」
「大好きな人と一緒に、ずっと暮らせますようにってお願いするの。
そのために必要なんだったら、とむらくんも倒さないといけないね」
「そんな願いで他人を殺すのかよ。今の小学校には道徳の時間とかねえのか?」
「だってそういうルールなんだもん。とむらくんだって私を殺すんでしょ? じゃあほら、おあいこだよ」
ジェームズ・モリアーティはこう言った。
見かけで侮ってはいけない。それではいつか足元を掬われるぞ、と。
その意味合いを、今ようやく死柄木は理解した。
モリアーティ。犯罪界のナポレオン。死柄木でも知っている名探偵の代名詞、シャーロック・ホームズが生涯唯一宿敵と呼んだ悪の数学者。
そんな男が選んだ相手が、常識的(まとも)であるはずなど……そもそもなかったのだ。
「愛してる人がいるの。
それでね。その人が教えてくれたんだ。
愛を偽らなければ、何をしてもいいんだって」
「ずいぶんろくでもない男に嵌まったらしいな、同情するよ」
「むっ。さとちゃんは女の子だよっ」
「……、……そうかよ。まあそういう時代か、今は」
死柄木は理解した。
組む相手としては論外だという評価を、まあ組んでもいい、程度にまでは引き上げた。
分かったからだ。この神戸しおという少女が――底の知れない闇を抱えていることを。
渡我被身子の執着とは違う。荼毘の復讐心とも違う。スピナーの憧憬でもなければ、トゥワイスの同族意識でもない。
その闇の名は愛。死柄木が知らないもの。知ろうとも思わないもの。
「とりあえず……組んでやるまではいい。
だが忘れんな、お前の願いは俺の踏み台だ。
その時が来れば容赦なく殺す。その時になって無様晒すなよ」
「やったー。仲間ができて嬉しいよ、とむらくん」
「あまり馴れ馴れしくするんじゃねえ。ガキは嫌いなんだ」
そう言って死柄木は立ち上がる。
立ち上がっただけでソファから埃が舞い、彼の隣でしおがけほけほと咳き込んだ。
どこ行くの、という声に答えることはなかったが、死柄木はその一方で奇妙な感覚に囚われてもいた。
しおと話し、その声と幼気な笑い声を聞いていると――何やら頭が痛むのだ。
それはまるで、何か。自分の脳みそが"忘れることで折り合いを付けていた"何かを、思い出してしまうような感覚で。
『お■さんはああ言うけどねえ――大丈夫だよ、私は■■のこと応援してるから』
頭蓋骨という檻の中に閉じ込められた何か。
開くことのなかった箱の中から、声がする。
小さい誰かの声。幼くて、純粋で、それ故に残酷な何かの声。
死柄木の脳裏に反響する"それ"の真実を、死柄木はまだ思い出せない。
だが、一つの足がかりになったのは間違いなく事実で。
……或いはそこまで含めて、かの"教授"の策略通りであったのかもしれない。
『■■さんに内緒で、■弟ヒー■ーになっちゃおう』
「――黙れ」
不意に湧き上がった、顔の塗り潰された誰かのビジョン。
それを振り払うように虚空に右手を振るう彼の行動は、しおとそのサーヴァントから見れば羽虫でも払ったように見えたかもしれない。
死柄木弔、悪意の器。人間の形をした地獄の釜、モリアーティ教授が見初めた破壊の子。
くすんだ蛹の中でどろどろに溶けたままのその"可能性"は、少しずつ、されど着実に羽を固めつつある。
「感じ悪ぃし辛気臭えヤツだな。絶対友達居ねえだろアイツ」
別の部屋にでも引いていったのか、自分達の前から消えた同盟相手の男。
その背中を見届けてしおのサーヴァント・デンジはボヤいた。
何と言っても、あんな胡散臭い爺を連れているマスターである。
一体どんな悪党なのかと思っていたが、まず見た目からしてヤバかった。傷だらけの顔に、どこからともなく香る厭な臭い。
口振りは陰気で礼儀作法の欠片もなく、デンジとしては"友達にはなれなそうな奴"という風に映った。
「しお〜、マジであんなのと組むのかあ? 百パーろくでもねえ奴だぜアイツ」
「でもとむらくん、組んでやるまではいいって言ってくれたよ?」
「頼んできたのはあっちだろ。本当はアイツが頭を下げる立場なんじゃねえの〜?」
そういう諸々を引っ括めてだ。
死柄木はとてもではないが組むべき相手とは思えない。
いつかとんでもないことをやらかしそうだし、それに巻き込まれる危険を考えれば同盟なんて蹴ってさっさとトンズラし、新しい家を探すなり何なりするのが一番ではないかと今もそう感じている。
そして何より、デンジがいけ好かないのは――
「ふぅむ。ライダー君は"彼"とは馬が合わなかったかな?」
――こいつだ。
死柄木が去ったのを知ってか、広間に戻ってきた初老の男。
マンションの一室という城に閉じ籠もって日々を過ごしていたにも関わらず、突如悠々と現れて今回の同盟を提案してきた張本人。
まず怪しい、超怪しい。何かを企んでいる匂いがする次元を通り越してそういう匂いしかしてこないほどの胡散臭さ。
そして彼自身それを隠すつもりもないのか。眼鏡の奥の瞳に怪しい光を灯らせて、死柄木のアーチャーは笑んでいた。
「アレと馬が合う奴なんてそうそう居ねえと思うけどな」
「いやいや、アレで意外と彼は人の上に立つのが得意な人間だよ。
その証拠にだ。しお君の方は、彼をそれなりに気に入ったようだ」
話の水を向けられると、しおはにへらと笑った。
無邪気そのものの笑顔。天使のようと形容されるべき表情。
とてもではないが。全ての願いの殲滅による愛の実現などという修羅道を進む身であるとは思えない輝きがそこにはある。
「とむらくんのことは嫌いじゃないよ。私の話もちゃんと聞いてくれたし」
「はっはっは。好き、とは言わないのだね」
「好きなのはひとりだけだから。他の人にはあげられませんっ」
そう言って指を一本立て、笑顔を"にへら"から"くすり"に変える。
それを見てアーチャーは肩を竦め、「君も大変だネ」とでもいうような瞳をデンジへ向けた。
デンジは余計なお世話だと思いつつも、とはいえ実際大変なので反論はしない。
「ライダー君にも、早いところ彼に慣れて欲しいところだ。
それに君たちが彼の味方である内は、この私も君たちに脳を貸そう」
「アンタよりは死柄木(アイツ)一人の方がまだ信用出来るぜ」
「失敬だなァ。とはいえ、君が死柄木弔との同盟に難色を示す理由には察しが付くよ、ライダー君」
世間話のような調子のままで。
アーチャーもまた、笑みの質を変えた。
「"悪役"になりたくないのだねェ、君は」
「……、あア?」
「おっと、違ったかな?
世界の枝葉が異なる故に真名には見当が付かないが、君の死柄木弔に対する目と言葉には、彼や私と対極の立場(いろ)を感じたのでね」
さしずめ君は。正義のヒーローとして持て囃された経験でも、あるのではないかな。
理路整然と指摘するアーチャー。固まったばかりの瘡蓋を指先で撫でるような語り口。
人は――かつてこの男をナポレオンになぞらえた。
社会の闇に君臨し、かの名探偵以外の全てを手玉に取った怪人。
他者を見る目、操る手にも優れる彼にしてみれば心の切開など児戯に等しく。
故に本人が直視していなかった事実を、いとも容易く暴き立てて突き付ける。
ただの挨拶とでも言わんばかりに、だ。
「おじいちゃん。あんまりらいだーくんをいじめないで」
「おっと、これは失礼。怒らせてしまったかな?
そして私はおじいちゃんではないのだがね。まだアラフィフ、なのだがね? これでも。うん、これはとても大切なことだぞしお君」
それに反論をすることはきっと簡単だ。
見てきたみたいに言うなよ、だとか。妄想癖のある爺は嫌われるぞ、だとか。
そんな言葉を吐けば事足りるだけの話。なのに、何故か言葉が口から出て行ってくれなかった。
今も。デンジの中には、その記憶が残っている。
人生で一番愛した人から逃げている最中に見たテレビの映像。
顔も知らない、会ったこともない人々が口々に自分を褒めそやして持て囃す光景。
英霊デンジは支配の悪魔と決着を着けた以後の記憶を持たない。
つまり、彼は。その時点までの"チェンソーマン"としての記憶しか持ち合わせていないということで。
それは、つまり――
「(……チェンソーマン)」
しおには、いらないと言われた名前。
一人だけの下僕であるサーヴァントとは違う、"みんな"のヒーロー。
けれどこの世界でのデンジは、そうあることを望まれていない。
敵を斬り、障害を斬り、願いまでの道を切り開くチェンソー。
「(いや……何を馬鹿正直に話聞いてんだ俺は。
こんな怪しいジジイの話に耳傾けるようじゃこの先やってけねえぞ)」
らしくもなく深みに嵌まりかけた思考を強引に引き戻して。
デンジは死柄木が去ったことで一人分スペースの空いたソファにどっかりと座り込む。
埃だらけのソファは潔癖症なら卒倒するだろう有様だったが、元々そういう境遇出身であるデンジには大して気にならない。
気にしない、気にする価値もない。
ちょいワルを拗らせた爺が若者の自分をおちょくってきただけなのだと思うことにして納得する。
自分はサーヴァントだ。善も悪もない、マスターの意向に従うだけの存在。
誰かの言われるがままに動くのには慣れている。そんな"慣れた仕事"をして、それで聖杯を手にしこの世の贅の限りを尽くせたなら最高だ。
英霊デンジは考えるべきことはそれだけでいい。他でもないしお自身も、デンジにそういう在り方を望んでいるのだから。
そんなデンジを見て、モリアーティは微笑む。笑う。――嗤う。
彼らは現状は同盟相手だ。あちらが裏切りを働かない限りは、モリアーティも進んで関係性を反故にするつもりはない。
だがそれはそれとして、である。モリアーティはしおのサーヴァント・デンジに対して興味を抱いた。
彼がこの先、自身の在り方を無視したままマスターの意のままに進み続けるのか。
それともかつての自分、"チェンソーマン"の在り方の方へと振り返るのか。
どちらを選ぶにせよ――面白い。そこには観劇の価値があると、犯罪教授はそう考える。
「(サーヴァントも、そしてマスターも。
なかなかに見応えがある……我ながら良い相手を選べたものだ。
特に"彼女"は、死柄木弔を成長させる良い競争相手になるかもしれん)」
ライダーの少年は、底知れない葛藤と迷走の可能性を秘め。
それを従える少女は、ともすれば死柄木弔に届き得る。それだけの狂おしい想いを秘めている。
成程実に、良い相手を選んだものだとモリアーティは自賛していた。
この聖杯戦争において最も重要視されるのは可能性の幅。
死柄木弔という無限大の可能性を秘める悪を鍛えるならば、同じだけの可能性を持つ器を宛てがうのが一番望ましい。
「(期待しているよ、神戸しお君。そしてそのサーヴァント・ライダー。
願わくば君たちが、我がマスターの破壊する最後の贄となることを祈っておこう)」
全てを自分の手の内、巣の上で転がしながら。
教授と悪の組織の親玉(クライム・コンサルタント)を兼任した大蜘蛛はほくそ笑む。
彼こそはジェームズ・モリアーティ。シャーロック・ホームズが唯一宿敵と見定めた男。
ライヘンバッハを超えて顕現したその邪智を止める名推理は此処にはなく。
故にその計画(プラン)は。
銀月の堕天使とチェンソーの容れ物を伴って――禍いの枝葉を伸ばしてゆくのだった。
【港区・廃墟/一日目・午前】
【死柄木弔@僕のヒーローアカデミア】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:数万円程度
[思考・状況]
基本方針:界聖杯を手に入れ、全てをブッ壊す力を得る。
1:当面の方針はアーチャーに任せる。ただし信用はそこまでしていない。
2:しおとの同盟はとりあえず呑むが、最終的に殺すことは変わらない。
【アーチャー(ジェームズ・モリアーティ)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[装備]:超過剰武装多目的棺桶『ライヘンバッハ』@Fate/Grand Order
[道具]:なし?
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:死柄木弔の"完成"を見届ける。
1:当面は大きくは動かず、盤面を整えることに集中。
2:しお君とライダー(デンジ)は面白い。マスターの良い競争相手になるかもしれない。
3:"もう一匹の蜘蛛(ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ)"に対する警戒と興味。
【神戸しお@ハッピーシュガーライフ】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:数千円程度
[思考・状況]
基本方針:さとちゃんとの、永遠のハッピーシュガーライフを目指す。
1:とむらくんとおじいちゃん(モリアーティ)についてはとりあえず信用。一緒にがんばろーね。
【ライダー(デンジ)@チェンソーマン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:数万円(しおよりも多い)
[思考・状況]
基本方針:サーヴァントとしての仕事をする。聖杯が手に入ったら女と美味い食い物に囲まれて幸せになりたい。
1:……あんま難しいことは考えねえようにすっかあ。
2:死柄木とジジイ(モリアーティ)は現状信用していない。特に後者。とはいえ前者もいけ好かない。
投下を終了します。
投下お疲れ様です!
自分のマスターだけでなく、しおとデンジの主従すらも利用していくモリアーティはまさに悪ですね!
しおちゃんから「おじいちゃん」呼ばわりされて、ショックを受ける場面が微笑ましいだけに……死柄木を悪として育て上げ、しお達すらも利用しようと企む悪性がよりおぞましい。
同盟に至るまでの下準備も含めて、やはりこの男は油断できませんね。
それでは自分も予約分の投下を始めます。
「……今日も、私だけでお仕事かぁ」
太陽のまぶしい光がお部屋を照らしますが、私の声には熱がこもっていません。
私、櫻木真乃は聖杯戦争に巻き込まれてから数日が経過しました。既にたくさんのマスターやサーヴァントの人たちが命を落としており、私もいつ襲われてもおかしくありません。
そのプレッシャーもあって、私の心が締め付けられます。お仕事に悪影響は出ないように、深呼吸をしなくちゃ。
「でも、頑張らないと……今日は、星野アイさんとの対談なんだから!」
私は今、お仕事でとある建物に訪れています。
大人気アイドルユニット・『B小町』のセンターを勤めている星野アイさんとの対談をするためです。
アイさんにはたくさんのファンがいて、私とは比較になりません。オフィスの壁にも、アイさんのポスターが貼っていましたから。
「アイさんの笑顔、本当に幸せそうだなぁ……」
ポスターの中で輝く笑顔を浮かべているアイさんに、私は目をそらしそうになりました。
だって、アイさんの笑顔は心から満ち足りているから。嬉しいや楽しいじゃなく、幸せという言葉がふさわしいです。
どれだけ大変なことがあっても、大事な人が見守ってくれる……その気持ちから生まれる眩しい笑顔。
私だって、ちょっと前まではこんな風に笑っていました。灯織ちゃんやめぐるちゃん、それにプロデューサーさんたち283プロのみんなが、私を支えてくれましたから。
「……今の私は、ちゃんと笑えているのかな?」
それは、私の中で何度も生まれている疑問です。
283プロの経営が傾き、みんながバラバラになってからも、私はアイドルの櫻木真乃でいました。お仕事で笑顔を見せる機会は多いですが、前に比べるとどこかぎこちなく見えます。
鏡の前で笑顔の練習をしても、満足できません。仕事では褒めてもらえますが、私自身が受け入れることができないです。
理由は私自身がよくわかっています。283プロという大きな支えが私から消えてしまったからです。
ーー夢みたいなおっきなステージ
ーーいつか灯織ちゃんとめぐるちゃんと一緒に出れるでしょうか?
いつだったか、私の夢をプロデューサーさんに話したことがあります。
その言葉通りに、イルミネーションスターズの3人でたくさんのステージに出ました。
私たちはトライアングルになったからこそ、歌やパフォーマンスを披露することができました。
ーー次の夢も、その次の夢も
ーーずっとプロデューサーさんと一緒に叶えていきたいです……
まだ、みんなで笑い合っていた頃の283プロで、私はそう誓いました。
プロデューサーさんの笑顔を見て、私の夢は叶い続けると本気で信じていました。
でも、プロデューサーさんはもういません。283プロがバラバラになったあの日から、何をしているのかわかりませんでした。
灯織ちゃんとめぐるちゃんは、悲しそうな顔で私のことを見つめていました。最近、二人とは会えてないですし、この世界でもまだ顔を見ていません。行方不明のニュースもたくさん聞くので心配になります。
「……いけない。ちゃんと、お仕事に集中しないと」
私は不安を拭うように、窓ガラスの前で笑います。
みんなが癒されるように、真心をいっぱい込めた笑顔です。
『優しい笑顔ですね』
すると、頭の中に女の子の声が響きます。
私のサーヴァントになってくれた星奈ひかるちゃんの声です。彼女は霊体化をして、私のことを見守ってくれています。
もちろん、周りの人には気付かれていません。
(そう……なのかな? ひかるちゃん)
『はい! やっぱり、真乃さんの笑顔は暖かくて……キラやば〜! になりますよ!』
(……ありがとう、私の笑顔を褒めてくれて)
私たちは念話でコミュニケーションを取ります。
ひかるちゃんと契約してから、口に出さなくとも意思を伝え合えるようになりました。まるで、エスパー能力者になったみたいです。
この念話さえあれば、メッセージアプリや通話がなくてもいつでも会話できます。ねられない日があったり、何かこっそり二人だけの秘密にしたいことがあれば、この念話でひかるちゃんに伝えられるでしょう。
(だったら、お仕事も大丈夫だね)
ひかるちゃんの励ましに、私の心は落ち着きます。
良かった。ひかるちゃんを喜ばせることができたから、自信が生まれそう。
『……ごめんなさい、真乃さん』
だけど、ひかるちゃんの声は急に沈んじゃいます。
何か、後ろめたいことがありそうでした。
(ほわっ? ごめんなさい、って……どういうこと?)
『わたし、真乃さんの考えていることや、悩みとか……何も知りません。
わかってあげられないのに、こんなことしか言えてないです』
その言葉に、私の胸がドキンと高鳴る。
やっぱり、ひかるちゃんは何でもお見通しでした。
とても優しくて好奇心旺盛な上に、相手の気持ちをすぐに察することができる女の子がひかるちゃんだから。昨日の夜だって、私の不安をすぐに見抜いてます。
もしも、私の目の前にひかるちゃんの姿が見えていたら、きっと頭を下げているはず。
『それでも、わたしは真乃さんの笑顔はとても素敵だと思っています!
ここに来る前の真乃さんに何があって、今は何に悩んでいるのか……わたしは全く知りません。
でも、今の真乃さんの笑顔はとっても綺麗ですし、アイさんに負けているとは思いません!
わたしだって、キラやば〜! って思いました! これだけは、嘘じゃありません!』
(そっか……ありがとう!)
嘘や同情なんかじゃなくて、心の底からひかるちゃんは励ましてくれている。
その思いやりが嬉しいことも、私にとって嘘じゃない。ひかるちゃんが守ってくれるから、お仕事に集中できることも本当です。
(ふふっ! やっぱり、私たちはおそろ……どんなことがあっても、引きはなせそうにないね)
『はい! わたしたちは、なにものにもひきさかれませんよ! 誰がなんと言おうとも、心は一つです!
まだ、大変なことばかりだから……言えないことだってあります。でも、真乃さんが言いたくなったら、いつでもわたしに言ってくださいね!
わたしだって、真乃さんのお話を聞くことならできますから!』
(そうだね……その時が来たら、私はひかるちゃんに頼るよ。
私たちの心は一つだから!)
ひかるちゃんは私の悩みを少しずつ拭おうとしている。星のプリキュアに変身して、宇宙に生きるたくさんの人を助け続けたように。
本当なら、今すぐにでも聞くことができたはずだけど、ひかるちゃんは決して私の心の中に踏み込もうとしない。私の意思を尊重して、悩みを話してくれることを待っています。
その気持ちは嬉しかった。283プロのことや、灯織ちゃんとめぐるちゃんのこと……それにプロデューサーさんのこととか、相談したいことは星の数ほどある。
まだ、口に出す勇気はないけど……ひかるちゃんがいてくれれば、いつか必ず話せる予感がするよ。
(それじゃあ、もうすぐアイさんも来ると思うから……ひかるちゃんは見張りをお願いね!)
『わかりました! 真乃さんも、何かあったらすぐにでも呼んでください!』
そう締めくくると、ひかるちゃんの声が聞こえなくなる。
でも、彼女はいつだって私を守ってくれているから、不安はありません。
「お待たせしました〜!」
すると、入れ替わるように女の人の声が聞こえてきます。
振り向くと、彼女が……星野アイさんがやってきました。
瞳は星のように輝いて、腰にまで届きそうな紫混じりの黒い髪はとてもサラサラです。桃色のチュニックとハート型のペンダントもマッチして、キュートさを引き立てています。
何よりも、アイさんの可愛らしい笑顔に、私の心が奪われそうです。
「あなたが櫻木真乃さんだよね? 私は星野アイです! よろしくお願いします〜!」
「ほわっ!? は、はじめましてっ! わ、わ……私は櫻木……真乃ですっ! こちらこそ、よろしくお願い、しますっ!」
アイさんを前にして、私は緊張でうまく挨拶ができません。
私はアイドルとして頑張ってきたつもりでしたが、アイさんを前にすると圧倒されます。
アイさんの綺麗な顔……いいえ、全身からはまぶしいオーラが見えますね。実績と経験、更には才能だって私よりもずっと上でしょうから。
「あれ、もしかして緊張してるの? ふふっ、だいじょーぶ! こんな時は、まずは深呼吸だよ!」
「えっ、あっ、は、はいっ! ……すーっ、はーっ、すーっ、はーっ……」
朗らかに笑うアイさんに言われるがまま、私は呼吸します。
すると、胸が軽くなりました。心もふんわりポカポカとして、プレッシャーも吹き飛びます。
ううっ……ひかるちゃんに励ましてもらったばかりなのに、何だか申し訳ないです。
でも、アイさんの優しさが嬉しくて、癒されます。アイさんからもらった分だけ、私が恩返しをするべきですね。
「……あ、ありがとうございます! 改めて、よろしくお願いしますね! アイさん!」
「もっちろん! よろしくー!」
気が付けば、挨拶だってちゃんとやり直せました。
アイさんは元気いっぱいの笑顔を見せてくれますし、この後のお仕事だって問題なくいけそうです。
少なくとも、アイさんの足を引っ張らないように頑張らないと。私とアイさんの対談を楽しみにしているファンの人はたくさんいますから。
「それにしても、本当に急だよね! ライブもそうだけど、前日になって私たちがいきなり対談インタビューをすることになるなんて。
真乃さんは大丈夫?」
「心配ありがとうございます。私でしたら、大丈夫ですよ! 確かに、283プロはバタバタしていますけど……私がカバーすればいいだけです!」
「ふーん、そっか。なら、頑張らないとね! 私だって手伝うからさ!」
アイさんが言うように、こちらの283プロも危機に立たされています。
天井社長とはづきさんはいてくれますが、プロデューサーさんの姿はありません。そのせいで、はづきさんたちの負担が大きくなり、またいつ倒れてもおかしくないでしょう。
例え、事務所のみんながNPCだったとしても、大切な人をまた失うなんて耐えられません。だから、今回のインタビューとライブは成功させるべきでした。
このお仕事が成功すれば、プロデューサーさんだって喜んでくれるはず。プロデューサーさんとだって、胸を張って再会できます。
「はい、私も頑張りますよ! むんっ!」
決意を胸に、私はいつものポーズを取りました。
……と、そこで私は気が付きます。アイさんの右手に包帯が巻かれていることを。
「あれ? アイさん……その包帯、ケガでもしたのですか?」
「ん? あぁ、これ? この間、ちょっと火傷をしちゃったんだよね〜! 痛みはもうないけど、まだ傷が残っているから外せないんだ」
「それは……大変でしたね。とっても、痛かったと思います」
「心配しなくても大丈夫! これくらいなら、私にとって全然平気だよ!
あの時に比べたら火傷なんて……」
「あの時?」
「……あっ! これは、こっちの話だから! 気にしないでね!」
焦ったように、アイさんはぶんぶんと両手を振っています。
よくわかりませんが、どうやら触れない方がいいですね。誰にだって秘密にしたいことはありますから。
私だって、今は両腕にアームカバーを付けていますが、UVカットではありません。ひかるちゃんと繋いでくれる令呪を隠すためです。
もしも、令呪のことが誰かに知られたら、私は疑われます。悪いうわさが広まれば、283プロも信用されなくなり、お仕事も減るでしょう。
「……でも、よく考えたら、私も真乃ちゃんみたいにすればよかったかな? そっちの方が自然だし」
「ほわっ……それでしたら、一緒にお買い物でもしてみましょうか? インタビューの後でしたら、時間を作れますし」
「本当!? じゃあ、そうしようか! 私も、これからいっぱい大変なことがあるから……そろそろ息抜きをしたかったんだよね〜!
一緒によろしくね!」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
良かった! アイさんと楽しく話せるきっかけを作れそう。
言葉の意図はまだわからないけど、これから少しずつ知ればいいです。私だって気軽に触れられたくないことがあるように、アイさんにも秘密はありますから。
「それじゃ、インタビューの後は美味しいものを食べて、楽しいショッピングをしよっか!
確か、この近くにはプリンセスストア……略してプリストってお店も、新しくオープンしたみたいだから!」
「ほわっ! プリンセスストア……可愛らしい名前ですね!
どんなお店ですか?」
「うーん、私もまだよくわからないんだよね。ただ、2号店や3号店ができるくらい、人気のお店らしいよ!
噂だと、女の子はもちろん、男の人もたくさん来るみたい! 誰でも輝けるって話は聞いたから!」
アイさんとの会話は弾みます。
こうした雑談でも、アイさんは星のようにキラキラしていて、まるでひかるちゃんみたいです。
星奈ひかるちゃんと星野アイさん。二人ともお星さまみたいに輝いていますから、わたしも負けちゃダメですね。
櫻木真乃は今日もがんばります。ふふっ。
そうだ!
アイさんと一緒にプリンセスストアに行くなら、ひかるちゃんも誘ってみよう!
なんとなく、ひかるちゃんに似合う場所な気がするから。
◆
「真乃さん……良かった」
櫻木真乃さんの笑顔を見て、わたし・星奈ひかるは胸をなで下ろす。
真夜中の宣告を突きつけられてから、真乃さんはずっと不安になっていて、あまり眠れていない。
それに、真乃さんは何かを心の中で抱えている。聖杯戦争のことじゃない、もっと大きくて大事な秘密だけど、わたしにはまだ聞くことができない。
わたしは真乃さんのサーヴァントになったけど……いいや、サーヴァントだからこそ、簡単に聞いちゃいけないよ。
今は真乃さんと星野アイさんを守るため、この辺りを見張るべきだね。昔のノットレイダーみたいに、真乃さんたちを襲ってくる人がいるかもしれないから。
「それじゃあ、真乃さんの為にわたしも頑張らないと! あっ! 警備員さん、お疲れ様でーす!」
意気込みながら、わたしは外に出る。
警備の人には「お仕事見学に来た真乃さんの親戚」として通っているから、特に怪しまれていないよ。私があいさつしたら「お疲れ様!」と優しく応えてくれた。
もちろん、霊体化をすれば気付かれずに通れるけど、それはルール違反だと思う。だから、真乃さんはわたしのことをみんなに話してくれたの。
当然、真乃さんのお仕事を邪魔したらいけないし、誰かに話すつもりもないよ。アイドルのお仕事は大変だからね!
「確か、この近くには美味しいドーナツ屋さんもあるから、差し入れも買ってこようかな?」
実を言うと、わたしは真乃さんからおこづかいをもらっているよ。
人間だった頃は、宇宙飛行士として生計を立てていたけど、今のわたしはサーヴァントだからお金を持っていない。お昼ごはんやおつかいなど、必要に応じて真乃さんからもらうことになっているんだ。
だから、今から真乃さんたちのためにドーナツを買いに行くよ! 当然、見回りも忘れずにね!
(そういえば、ユニも宇宙アイドルのマオに変身してたくさんの歌とダンスを披露していたけど……やっぱり、今の真乃さんたちみたいにインタビューも受けていたのかな?)
ふと、わたしはユニのことを思い出しちゃう。
昔、みんなで宇宙を旅していた頃、レインボー星人のユニって女の子と出会ったよ。
どんな姿にも変身できるユニは、たくさんの顔があった。ノットレイダーのバケニャーン、宇宙怪盗のブルーキャット、大人気の宇宙アイドルマオ、そしてスター⭐︎トゥインクルプリキュアのキュアコスモ……まるで虹みたいだよ。
マオに変身したユニは歌とダンスがとても上手で、宇宙規模でたくさんのファンを喜ばせるくらいキラやば〜! だね。プルンスだって、マオの歌があったから辛いことも乗り越えられたし、「マオたん」って呼ぶくらいに推してるよ!
でも、マオの正体が宇宙怪盗ブルーキャットと知った時は、心から落ち込んでいたかな……? ちゃんと気を取り直して、正体を知ったユニとも仲良くなれたけどね!
(ユニがここにいたら、真乃さんたちと同じステージに立っていたのかな?
宇宙アイドルマオ、奇跡の復活ステージって!)
ノットレイダーとの戦いが終わって、宇宙に平和が戻ってからはユニも惑星レインボーの復興に力を入れていた。だから、宇宙アイドルマオも引退になっているよ。
ただ、どこかでユニに声がかかれば、またマオとしてライブを開いてくれるかなって思う。
マオになった時、たくさんの人の前でユニは楽しそうに歌っていた。あの頃のユニみたいに、真乃さんたちが歌えるステージをわたしが守らないといけない。
真乃さんの歌は本当にすてきだったから。
(真乃さんが心から歌えるように、そして心配事を解決できるように頑張ろう! わたしが真乃さんを守るって約束したから!)
決意をあらたに、わたしは前を進み続ける。
見たところ、怪しそうな人は見当たらなかったけど、まだまだ油断はできない。
「よう」
気持ちを引き締めた途端、声をかけられた。
「……ん?」
わたしは足を止めて、振り返る。
すると、背の高い男の人が立っていたよ。黒い髪は剣山のようにトゲトゲしてるけど、顔の輪郭は整っていて、たれ目と泣きほくろがミステリアスな印象を与えちゃう。
背広とネクタイがバッチリ似合っていて、大人になったまどかさんみたいに真面目そう。
「そこの嬢チャンだよ、嬢チャン」
「あれ? わたしですか?」
「そうだぜ。ここは嬢チャンみたいな子が一人で来るところじゃないぞ?」
男の人は不敵な笑みを浮かべている。
ひょっとして、ここの偉い人なのかな? 確かに、わたしはアイドルと無関係だから、気軽に出入りするのはおかしいよね。
真乃さんは説明してくれたけど、みんなが知っているとは限らないから。
「あっ……ごめんなさい! わたし、ここのアイドルさんに許可をもらって……お仕事見学をしているんです! 全然、ボディーガードなんかじゃありませんから……あっ!?」
「お仕事見学ぅ? それにボディガード? そりゃ、熱心なこと……邪魔したかい?」
「い、いえ! 全然、大丈夫……ですからっ! なんでもありませんよっ!」
男の人に説明しようとするけど、しどろもどろになっちゃう!
昔から、わたしはウソをつくことが苦手なんだ。せっかく、わたしがここにいる理由を真乃さんが用意してくれたのに……
うぅ……このままじゃ、怪しまれそう! 墓穴を掘って、余計なことをしゃべっちゃうかもしれない!
「そ、それじゃあ、わたしはこの辺で! お兄さんも、お仕事をがんばってくださいね〜!」
いたたまれなくなって、わたしは男の人から背を向けちゃう。
何だか、昔のことを思い出すな……ララとプルンスとフワ、それにノットレイダーたちが地球にやってきてから、観星町で宇宙人出現のウワサが広まっちゃったの。
わたしはララたちの秘密を守ろうとしたけど、観星中のみんなにはバレちゃった。でも、みんなはララを守ってくれたよ。宇宙人とか関係なく、ララは大切な友達だから!
……考えてみたら、サーヴァントになった今のわたしって、宇宙人やUMAみたいなミステリーの存在なんだね。前のわたしが探し求めていた未知の存在に、わたしが変身するってキラやば〜! かも!
って、のんきなことを考えちゃダメ! 早く離れないと!
「待ちな、嬢チャン。まだ話は終わっていないぜ?」
「えぇっ! まだ何か!?」
男の人に呼び止められて、わたしは足を止めちゃった。
「悪ィ悪ィ! オレの前置きが長かった! いや、直接的(ストレート)に聞きてえことがあるだけさっ」
「き、聞きたいこと?」
「あぁ……嬢チャン、聖杯戦争のサーヴァントだろ?」
「……えっ!?」
ーードクン! と、わたしの心が音を鳴らしちゃう。
男の人から出てきた言葉を聞いた途端、全身に電流がビリビリと走ったみたいに、わたしは震えた。
サーヴァント。それは今のわたしだけど、真乃さん以外が知っているはずがない。なのに、どうしてこの男の人は気付いたのか?
聞きたいことは山ほどあるのに、必要な言葉がわたしの中から出てこない。こおりついたまま、男の人と視線がぶつかるけど……向こうは余裕の笑みを浮かべたまま。
「正解(ビンゴ)、だな」
男の人の静かな声で、ようやくわたしの意識はもどってくる。
車が走る音や、鳥や虫の鳴き声がわたしの耳に響いて、太陽の光がジリジリと肌に刺さった。
「……え、えっと? な、なんのことですかー? その……さ、サバババーントって? あっ!? もしかして、新種の宇宙人だったりして……」
「ははっ、やめた方がいいぜ嬢チャン! 嘘、下手すぎだって」
「ギクッ!」
わたしは必死に言い訳しようとしたけど、男の人からあっさりと跳ね返された。
その直後、笑顔が……どこかイヤな色に染まっていく。まるで、わたしの何かを試しているように。
「まぁ、嬢チャンがサーヴァントなら……マスターもすぐ近くにいるのかもな? だったら、すぐにご挨拶ができそうかもなぁ?」
声のトーンが冷たくなって、わたしは気付いた。
この人の狙いは真乃さんだ。真乃さんが建物にいることを知って、襲いに来たはず。
「……させないよ!」
だから、わたしはすぐに構えた。
真乃さんとアイさんを守って、二人がアイドルとして頑張れる居場所を作るためにも。
スターカラーペンをペンダントに差し込もうとするけど……
「おいおい! こんな所でいいのかよ? オレ、そこそこ強いぜぇ?」
「そうだろうね。でも、わたしだって負けるつもりはないよ……だってわたしは、絶対にマスターを守るって誓ったから!」
「ハハッ! イ〜ネイ〜ネ! 熱くて結構! でも、悪ィけど……オレもまだ戦うつもりはねえよ」
「えっ!? どういう、こと……?」
彼はケラケラと笑う一方、わたしは呆気に取られちゃう。
「こんな所で派手にやらかすほど、オレはバカじゃない。まぁ、それはそれで面白ぇかもしれねえけどよ……んなことをしたら、マスターにも被害が及ぶ。
もちろん、嬢チャンが望むなら相手をしてやるが……どうするんだい?」
その言葉に頷くことはできなかった。
実際、こんな所で戦ったら目立っちゃうし、わたしたちのマスターにも被害が出るよ。
何よりも、真乃さんのお仕事を台無しになんかしたくない。
「……わたしだって、今は戦いたくないよ」
だから、わたしはスターカラーペンを懐にしまう。
腑に落ちない点はあるけど、無意味に戦わなくてホッとしてるよ。
「互いにそれが懸命だな」
「ねえ、あなたはどうしてわたしの前に出てきたの? それにどうして、わたしのことに気付いたの?」
「ん〜〜? あえて言うなら、カンってヤツさ。オレ、人を見る目はあるんだぜ?」
「か、カン!?」
「そういうことだ。とりあえず、挨拶が終わったからオレはここらでさよならするけどよぉ……また、すぐに会えるかもな?
あばよ!」
その言葉を最後に、男の人は煙みたいに消えちゃう。
「待って!」とわたしは呼びかけるけど、返事はない。きっと、霊体化をしちゃったと思う。
そうして、わたしは一人取り残される。あの男の人は嘘は言ってなさそうだけど、すぐに信用しちゃいけない。
ここにサーヴァントがやってきた以上、真乃さんたちに何か起こっているかもしれなかった。
(真乃さん、無事でいてください! 今すぐ、戻りますから!)
すぐに来た道を逆戻りする。
建物で騒ぎは起きていないし、真乃さんたちの方も今は大丈夫かもしれないけど……不安で心がざわついちゃう。
だから、真乃さんを守りたい一心で、わたしは全力で走った。
◆
星野アイを守るサーヴァントとして、このオレ……殺島飛露鬼の仕事が始まるかと思った。
けど、ここにいたサーヴァントはオレはもちろんアイよりも年下だ。若くして不運な最期を遂げた英霊なのか、または青春の真っ只中の姿で召喚されたのか? どっちでも構わないけどな。
(やっぱり、あのサーヴァントは嘘が苦手なタイプか。ま、その方がオレもやりやすいけどよ。
見事なまでに目が泳いでいたねぇ)
生前、オレは聖華天や組の連中から慕われて、神とまで崇められた男だ。
そのおかげか、人より洞察力が優れている自信はある。だから、あの嬢チャンもサーヴァントって見抜けたのさ。
根拠はある。まず、この時間はアイドル全員が仕事をしている最中だから、ただの子供(ガキ)が出歩ける訳がない。
お仕事見学……それも、間違ってなさそうだが、その割に嬢チャンは手ぶらだ。加えて、嬢チャンがボディーガードと口を滑らせたおかげで、オレは確信を得たのさ。
あの嬢チャンは、オレとアイの敵になるサーヴァントの一人ってな。
鎌をかけて、少しずつ聞き出すつもりだったが、勝手に喋ってくれたおかげで助かったぜ。
もっとも、こんな所で騒ぎを起こすつもりはない。アイの仕事を邪魔するつもりはねえし、何よりもあのサーヴァント自体が半端ものじゃなさそうだ。
嬢チャンの眼は真っ直ぐに輝(ギラ)つき、いわゆる”正しい道”を歩いてきたことが一目でわかる。情けねー負け犬に成り下がったオレとは違う。
それこそ、オレたち聖華天を潰した忍者どもを思い出させる眼だ。あと、ボスが好きなプリンセスシリーズ(確か、『スター☆ライトプリンセス』だったか?)に出てくるプリンセスと、なんか似てる気がするけどよ……一旦、それは置いておくか。
彼女とマジで殺り合うことになったら、お互いにタダじゃ済まねえ。仮に頭打ち抜けたとしても、そこに辿り着くまでオレも相当のダメージを負うはずだ。
最後の一騎打ちならまだしも、まだ敵が23組も残っている状況で喧嘩を吹っ掛けるのは利口じゃない。だから、今は挨拶程度に済ませたのさ。
幸いにも、あの嬢チャンは積極的に戦いたがるサーヴァントじゃねえからな。
(あの嬢チャンが平和主義者なら、マスターも似たり寄ったりのはずだ。なら、上手くアイを守らせることもできるかもな)
オレは忍者に負けた。
この聖杯戦争にはどんな化物が潜んでいるかわからない以上、オレ一人の力ではいずれ限界が訪れる。なら、彼女を上手くアイの味方にできれば、アイを守れるはずだ。
(嬢チャンみたいなヤツは、オレはまだしも……アイのことなら信用するはずだ。なら、オレとも手を組まざるを得なくなる。
これなら、アイも特に文句は言わねえだろ?)
アイはオレが汚れ仕事をすることを望まねえし、オレもアイには汚れてほしくない。
オレは大人になれなかったせいで、花奈を失った。オレと違って、アイはまだ大人になれる可能性を秘めているから、こんな痛みと悲しみを背負う必要なんかない。
オレはもう二度と諦めるつもりはねえ。仮に、途中でオレが無様に負けようとも、あの嬢チャンならアイを守り抜こうとするはず。
出会ってから、5分も経ってねえけどよ……それだけは確かだ。
(まぁ、その為には……すぐ近くにサーヴァントがいることを、我が愛しきマスターのアイに教えてやるべきだな。
待っていろよ、アイ)
嬢チャンの様子から察するに、マスターはそう遠くに離れていない。
追跡すれば、二人まとめて見つけられるが、今はアイの元に戻りながらの報告が最優先だ。
万が一、ということもあるからな。
アイは嘘だらけの人生を過ごしてきた。
それは紛れもない事実で、そんな生き方しかできなかったことをアイは悩んでいた。
でも、その果てにアイは真実の気持ちに辿り着く。お腹を痛めて産んだ双子を愛し、また抱きしめたいという気持ちは本当だ。
オレだって、産まれた花奈を抱き締めて、父親になれたと実感した時は、心から満たされたからな。あの感動や、花奈を抱き締めた時に流した暖かい涙は決して嘘じゃない。
アイの願いを、そしてオレの思い出を嘘になどさせない。
アイが輝き、そして幸せを取り戻せるなら……なんでもできるし、なんでもなれる。
この気持ちは、オレにとって正真正銘の真実(マジ)だからな。
【目黒区・どこかの建物/1日目・午前中】
【櫻木真乃@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:当面、生活できる程度の貯金はあり(アイドルとしての収入)
[思考・状況]
基本方針:ひかるちゃんと一緒に、アイドルとして頑張りたい。
1:今はアイさんと一緒にお仕事を頑張る。
2:アイさん、凄い人だな……
【アーチャー(星奈ひかる)@スター☆トゥインクルプリキュア】
[状態]:健康
[装備]:スターカラーペン(おうし座、おひつじ座、うお座)&スターカラーペンダント@スター☆トゥインクルプリキュア
[道具]:なし
[所持金]:約3千円(真乃からのおこづかい)
[思考・状況]
基本方針:真乃さんを守りながら、この聖杯戦争を止める方法を見つけたい。
1:今は急いで真乃さんの所に戻らないと!
【星野アイ@【推しの子】】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:当面、生活できる程度の貯金はあり(アイドルとしての収入)
[思考・状況]
基本方針:子どもたちが待っている家に帰る。
1:今は真乃ちゃんと一緒に仕事を頑張る。
2:その後は二人でおでかけをする。
【ライダー(殺島飛露鬼)@忍者と極道】
[状態]:健康
[装備]:大型の回転式拳銃(二丁)&予備拳銃@忍者と極道
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:アイを帰るべき家に送り届けるため、聖杯戦争に勝ち残る。
1:まずはサーヴァント(ひかる)のことをアイに報告する。
2:サーヴァント(ひかる)と交渉して、アイを守らせる。
以上で投下終了です。
ご意見等があればよろしくお願いします。
>>わたしたちの願い! 守りたい人のために☆
女の子がとてもかわいい! 氏の強さの一つである女の子を生き生きと書ける力がふんだんに発揮されていましたね……。
しかも一口に前向きな視点と言っても真乃とひかるで全然雰囲気が違うのがまた。いや違うキャラクターなんだから当たり前と言われると確かにそうなんですが、でもそういうところをしっかり書き分けられるのって凄いと思うんですよね。
そして真乃のまっすぐ善良な思考を読んだからこそ、嘘のエキスパートであるアイの視点が無いのが不安を誘います。
暴走族神こと殺島との会話もとりあえず見かけ上はある程度平和に終わったものの、あの世界の極道は熱いことを言いながら理解不能の外道行為を平然と働くのが常なので、そこもなかなかの不安要素だと思いました。
アイと真乃が今後、互いが聖杯戦争の関係者だと気付くのか気付かずにすれ違うのかは分かりませんが、とにかく続きが気になります。
素敵な作品の投下、どうもありがとうございました!
アサシン(吉良吉影)、アルターエゴ(芦屋道満)、仁科鳥子&フォーリナー(アビゲイル・ウィリアムズ) 予約します。
また、本日新たな立ち絵を納品いただきましたのでそちらの方もwikiでよろしければ御覧ください。
今回の立ち絵は「七草にちか(騎)」のページで見ることができます。
すみません、構成の変更に伴い、予約からアーチャー(メロウリンク)のみを外させていただきます
空振りとなる拘束をしてしまい申し訳ありませんでした
投下乙です!
真乃ちゃんとひかるちゃんの掛け合いなど、女子組の台詞回しや書き方が本当に可愛い……。
真乃ちゃんに寄り添って支えようとするひかるちゃんの頼もしさは愛おしいし、モノローグが描写されてないアイちゃんも原作が原作なだけに不穏で色々と今後が気になってしまう。
そしてアイちゃんへの父性めいた感情を見せるゾクガミ、生前の未練めいてて切ねえなァ……。
自分も投下させていただきます。
◆◇◆◇
八月上旬の東京は、過酷だ。
平均最高気温は30度をゆうに超え、日没に至るまで常に灼熱のような高温が襲い来る。
緑地や水面の減少。コンクリートの増加。自動車や室外機による排気ガス。
それらの条件が重なる都市部は、殊更に暑くなる。
それに加え、日本は高温多湿の島国。
多量の汗によって身体のバランスが崩れることにより、毎年多数の熱中症患者を生み出す。
ここは界聖杯によって再現された“箱庭”。
文明。気候。環境。例え本物の日本ではなくとも、それらはほぼ忠実に再現されている。
つまり、界聖杯の八月もまた、草臥れるほど暑いという訳だ。
聖杯戦争の予選を生き延びたマスター、神戸あさひ。
右手に発現した令呪を“包帯”で隠し、彼は社会の中に潜む。
彼は界聖杯におけるロールを持たない。
社会的地位は勿論のこと、住居も無ければ戸籍も無い。
マスターとして呼び寄せられた縁者を除けば、神戸あさひという人間を知る者はこの街の何処にも居ない。
本来ならばこの東京に存在しない筈の、いわば透明な人間だった。
帰る場所など無い。大抵は野外で寝泊まり。方々を渡り歩く。
運が良ければ、空き家や廃屋で一晩をやり過ごせる。
たまに日雇いの仕事にありつけば、なけなしの収入は得られる。
つまるところ、浮浪者同然の生活だ。
暑い。
首筋や背中が、じっとりと汗ばむ。
黒い髪の先端から、小さな雫が溢れる。
身体のあちこちが熱を帯びる。
薄手のTシャツが肌に張り付くような感触が気持ち悪い。
ペットボトルに貯めた生温い水――公園の水道から調達した――を補給しながら、バツが悪そうな顔で隣に座る相手を見る。
「ああ、暑い!!実に暑い!!そうだ!!」
朝方。大田区の境目に位置する、多摩川の河川敷。
その橋の下で、二人は並んで腰掛けていた。
一人は神戸あさひ。小動物のように縮こまりながら、小さな器に収められた牛丼をちまちまと食べる。
幼児のように不器用な箸の持ち方だった。
「この街は―――まことに暑いでござる!!」
もう一人は、力士と見間違える程の巨漢。
大粒の汗を流し、デカデカと胡座をかいて、特盛りの牛丼を豪快にかっ食らう。
和装を纏った出で立ち。歌舞伎役者を思わせる髪型。腰には布で包んだ棒状の物体を挿している―――隠してはいるが、形的にはどう見ても刀である。
その姿、平たく言えば侍だった。
「しかし、メシはどいつもこいつも美味い!!上等な食事処があちこちにある!!」
男の名は、光月おでん。
東京に出現した、勇ましき快男児である。
おでんとあさひは―――二人で遅い朝食を取っていた。
◆◇◆◇
大田区、南蒲田。
産業施設の1階、様々な展示イベントが開催される大型ホール。
約1,600m²もの広大な無柱空間は、大規模な集客や大型機械の展示にも対応する。
この日は何の催しも行われていない。其処にはだだっ広い空間だけが存在する。
その中央にて。
一人の男が、凛と佇んでいた。
焔のゆらめきにも似た痣。
毛先が紅く染まった黒髪。
質素な緋色の和服。黒い袴。
そして、腰に挿した刀。
男の出で立ちは、侍だった。
彼は、この聖杯戦争に参じた英霊が一人。
豪放磊落なる快男児、光月おでんの従者。
セイバーのサーヴァントだった。
黒刀を携えた剣士は、迫る“気配”を静かに待ち構えていた。
魔力の残痕。何者かが、すぐ傍にいる。
それを察知したセイバーはマスターに断りを入れ、単独で展示ホールへと赴いた。
日中でのサーヴァント同士の接触は人目に付く。
それ故に、堂々と姿を晒しても――あるいは戦闘になっても――問題のない場所を選んだ。
そのまま敢えて姿を晒し、セイバーは相手を待ち受ける。
「よぉ」
そして、一騎。
セイバーの魔力の気配に誘われるように。
霊体化を解いたサーヴァントが、姿を現す。
その英霊は――異様な出で立ちだった。
「アンタ、サーヴァントだろ」
全身を赤黒いスーツで覆った、怪人だった。
少なくとも、セイバーの生きた時代では考えられない奇矯な風貌だ。
背中に挿した二刀や腰に携えた拳銃が、彼が戦士であることを訴えかける。
「……ああ。セイバーとして召喚された」
「おいおい、いかにも剣に生きてそうな見た目だからってそのまんまだな。
で、俺ちゃんはアヴェンジャー。珍しいだろ?七騎に該当しないエクストラクラスってヤツ」
淡々と、物静かな口振りで答えるセイバー。
対するアヴェンジャーは、酷く饒舌だった。剣士の反応などいざ知らず、ベラベラと捲し立てる。
「そんなとこで突っ立って、俺ちゃんのこと待ってくれてた?」
幾ら軽口を叩かれようと、セイバーは気にも止めない。咎めもしない。
ただ無言のまま、アヴェンジャーを見据える。
「ひょっとしてアレ?これからデート?待ち合わせしてる最中に彼女を口説き落とす文句を考えてるってワケだ」
セイバーが、その鞘から刀を抜く。
漆のように黒い刀身が、ぎらついた輝きを放つ。
元より彼は、理解していた。
幾ら軽口を叩こうと、幾ら道化を装おうと。
「そんなキミに俺ちゃんからアドバイス。
『接者の刀でそなたを貫きたい。いざ尋常に参る』これでイチコロだ。
そのまま彼女をモーテルに連れてけ、あとは真剣勝負あるのみ。武士道精神に則って激しくヤりまくれ」
アヴェンジャーは、確固たる闘志を放っていることを。
戦いの意思を伴って、この場に立っていることを。
下品なジョークをつらつらと放ちながら、アヴェンジャーは背中の二刀を抜く。
「お前の真名、たぶんアレだな。『サムライジャック』」
アヴェンジャーの戯言も意に介さず、セイバーは刀を握り締める。
互いに睨み合う。剣を構え、対峙する。
沈黙。硬直。二騎の英霊が、向かい合う。
その身に闘気を宿し。その手に敵意を握り。
一触即発の沈黙が、続く。
そして―――アヴェンジャーが、地を蹴った。
不死のアヴェンジャー。鬼殺のセイバー。
これより始まるのは、伝説に名を馳せた英傑同士の対決。
闘争が、幕を開ける。
◆◇◆◇
「あの、すみません」
「ん!?何がだ」
「その……奢って頂いて」
「そりゃあ奢るに決まってるだろう!お前のその見窄らしい面構え!メシちゃんと食ってるのか!?」
「……すみません……」
あさひは小動物のように縮こまって謝った。
なぜ彼らが二人で朝食を取っているのか。
なぜ彼らが二人で河川敷にて交流しているのか。
理由は単純。日雇いの仕事で顔見知りになったからであり、二人共々住居が無いからだ。
時刻は早朝。数時間前のこと。
ちょっとした荷物運びの仕事だった。
あさひは偶々同じく日雇いの労働者として雇われていたおでんと出会った―――軽い挨拶程度の交流から始まったが、あさひは当初から彼を警戒していた。
その異様極まりない風貌。現代の社会に生きる人間とは到底思えない、まるで過去からタイムスリップしてきたかのような出で立ち。 そして、その右手に刻まれた“痣”。――隠していない、堂々と曝け出していた。
無防備にして大胆不敵。おでんに対するあさひの警戒心は、次第に最大限まで到達していた。
しかし、今は仕事が先である。この東京で生活する上で、臨時の収入は大切な糧だ―――変に律儀であることは自覚していたが、定職を持たない彼にとっては死活問題だった。
それに、周囲の目がある状況で下手に騒ぎを起こせば面倒なことになる可能性がある。そうしてあさひは様子見を決めた。
無論、労働力としては屈強な体躯を持つおでんが遥かに上だった。
彼が百人力の腕力で次々に仕事を片付けていた一方で、あさひはコツコツと地道に捌き続けていた。
決して体格に恵まれている訳でもなければ、日常的に身体を鍛えている訳でもない。元より肉体労働に向いている方ではなかったが、それでも日々の生活を送るためにも仕事は選べない。
やがて些細な転倒事故を起こし、あさひは現場の責任者から大いに詰られた。
幸い荷物は無事だったし、あさひにも大きな怪我は無かった。
だが、元より作業効率で大きく水を開けられていた少年に対する不満を責任者は堂々とぶつけてきた。
このことはおでんの手際が良すぎた、ということもあるのだが。そこを考慮するような情けは与えてくれなかった。
ぐちぐち、ぐちぐちと、陰湿に詰られ続け。あさひはただ平謝りすることしか出来なかった。
そこで、おでんが仲裁に割り込んできた。
物怖じもせず、堂々とした態度で、二人の“仲”を取り持った。
本人曰く「おれがせっせと働いている時にネチネチと粘っこいのは嫌なんだ!!」。
手前勝手な理屈でも、おでんの妙な迫力を前に責任者は素直に従わざるを得なかった。
それが切っ掛けだった。
昼間に差し掛かった仕事終わりの時間に、あさひは改めて感謝して礼を伝えた。
そうしたら「礼がしたいのか?よし!ちょうどメシの相手が欲しかったところだ!」と唐突に言われた。
それからは、なあなあで事が進んだ。
二人で牛丼屋に直行。というより、おでんに強引に半ば連れて行かれた。テイクアウトである。
「牛丼特盛!!」と豪快に頼むおでんに対し、あさひは「じゃあ……並盛で」と謙虚に注文。牛丼を持ち帰る巨漢の侍と浮浪者めいた少年。一体どんな組み合わせなのか、どんな関係なのか。周囲の人間は思ったかもしれない。
お代はすべておでんが支払った。あさひが礼をしたかった筈なのに、何故かおでんの方が気前よく金を出した。
一緒にメシを食う相手が欲しかった。それがおでんの頼みであり、応えてくれるなら幾らでも金を出すつもりだった。
そうして二人で多摩川の河川敷――先日のあさひの寝床である――まで向かい、朝食になり。そのままなあなあで今へと至る。
ここまで強引に誘われたことはなかったけれど。
ちゃんと食べてるのかって、“あの人”からも心配されたな。
ふいにあさひの脳裏をよぎる、過去の記憶。胸の痛みを、僅かに思い出す。
「おでんさんには」
「おう」
「なんてお礼を言ったらいいのか……」
「さっきから辛気臭いなあさひ坊!!もっとこう……シャキっとしたらどうだ!?」
痺れを切らしたようにおでんから叱責された。
彼の豪放磊落な態度とは真逆のせせこましさを自覚して、あさひはバツが悪そうに俯く。
特盛の牛丼をペロリと平らげるおでんを横目で見つめた。
あさひの視線の先にあるのは、彼の右手の甲に刻まれた模様のような痣。
初めて対面した時から、ずっと意識に留めていた。
聖杯戦争。
古今東西の英霊――サーヴァントを召喚したマスターが、他の主従と競い合う。
たった一組の勝者のみが聖杯へと至り、あらゆる祈りを叶えることができる。
そして。戦争の完遂とともにこの世界は“処分”され、残された人間は全て消滅する。
紛れもなく、命懸けの闘争だった。
マスターとなった者は、身体のどこかに“令呪”が刻まれる。サーヴァントに絶対の命令を下せる装置であり、マスターとしての証そのものである。
あさひは他の主従から迂闊に探知されることを恐れ、右手の甲に刻まれた令呪を包帯によって隠している。
おでんの右手の甲に刻まれた痣もまた、令呪としか認識できない代物だった。
彼もまた、マスターなのだろうか。
あさひは、俯きながら思う。
寧ろこの異様な風体で聖杯戦争何の関係もないとすれば、それこそ驚愕に値する。
明らかに怪しいというのに、相手は全く意に介さない。堂々とこちらを食事に誘い、堂々とつるんでいる。
少なくとも、相手方は気付いていない―――と思う。
心臓が、微かに鼓動を早める。
「―――ごちそうさん!!」
思案に耽るあさひの傍らで、おでんは空になったプラスチックの丼ぶりをその場に置く。
あさひもまた食事を終えて、一息を付く。
「さて、腹ごしらえも済んだ!そろそろ本題に移らせてもらおうか!」
本題。唐突に出てきたその言葉を聞き、あさひは顔を上げる。
心臓の鼓動は、未だに変わらず。
「なあ、あさひ坊」
唐突に、空気が変わる。
先程までの豪快な表情とは違う。
おでんは、神妙な顔を浮かべており。
そんな彼の変化を、あさひは見つめて。
「マスターだろう、お前」
―――単刀直入に、言われた。
え、とあさひが声を漏らす。
一筋の汗が、頬を垂れ落ちる。
真夏の熱によるものではなく。
それは、心臓を掴まれたような動揺によるものであり。
鼓動が、否応なしに早まる。
「早朝から、共に働いていた時」
そして、おでんは淡々と口を開く。
あさひの動揺に対し、彼は冷静に言葉を紡ぐ。
「お前の注意は、ずっとおれの『手の甲の痣』に向いていた」
黙々と、おでんが告げる。
とうに見抜かれていたことを、打ち明けられる。
あさひの視線、警戒。おでんは全て察知していた。
「それに、お前の右手―――初めて会った時から、ずっと包帯を巻いているが」
そして、おでんは目を細めた。
彼が見つめるのは、包帯が巻かれたあさひの右手。
思わずあさひは、左手で包帯を押さえる。
心臓の鼓動が、早まっていく。
うだるような真夏の熱と共に。
緊張と動揺が、迸っていく。
「手を負傷したまま荷物運びの仕事をする輩がいるか?」
その一言を突きつけられて。
あさひは、荷物であるリュックサックを手に取った。
そして、おでんと距離を取るように、咄嗟に立ち上がった。
「あの―――」
「図星ってツラだな。メシにでも誘えば、二人きりになれると思ったんでな。
まッ、楽しんだのも事実だがな!」
鞄のファスナーの隙間から、金属バットの柄が剥き出しになっている。
その気になれば、いつでも抜くことができる。いつでも戦うことができる。
「おれァ聖杯を求めちゃいねえ。
だが聖杯を見定めたいと思っている。その善悪を含めてな」
―――アヴェンジャーを呼ぶ。そのことも考えた。
だけど、彼は偵察へと赴いている。魔力の気配が感じられた、らしい。暫くは戻ってこない。
念話で伝えたとしても、きっと相手が仕掛けてくる方が早い。
もしかしたら、相手のサーヴァントもアヴェンジャーと対峙しているかもしれない。
「だから、お前が聖杯を求めるってんなら。
おれはお前の敵ってことになるんだろう」
令呪で呼び寄せる―――駄目だ。3角しかない命令権を、序盤に浪費するべきじゃない。
「挑まれるんなら、おれはやるぜ。
お前がやる気ってえのなら、受け止めてやる。
まあ、つまりだ―――」
あさひは焦燥と共に思案を続ける。
対するおでんは、悠々とした態度で、立ち上がる。
「―――来るなら、来い」
先程までとは、まるで違う。
気迫。威圧感。凄味。
彼が歴戦の勇士であることを、否応無しに叩きつけてくる。
あさひは、息を呑んだ。後退りをした。
右手が、微かに震えていた。
「この光月おでんが、相手になってやる」
それでも。
脳裏に“妹”の顔がよぎり。
かつて望んでいた“幸福”を追憶し。
バットの柄を握り締め、歯を食いしばった。
◆◇◆◇
◆◇◆◇
――――おいおい。
――――何ていうかさ。
――――マジか?って感じだよ。
血飛沫が。
肉片が。
左腕が、宙を舞う。
肘から先。
いとも容易く、両断された。
刀を握り締めたまま空中で回転するそれを、アヴェンジャーは呆然と見送る。
ほんの2分ほど前の記憶が、彼の脳裏をよぎった。
◆
戦闘開始直後まで、記憶が巻き戻る。
先に仕掛けたのは、アヴェンジャーの方だった。
地を蹴り、瞬時に駆け抜け。
そして、背中のニ刀を抜いた。
☓字型に交差するように振り下ろされた刃は、居合の体制で日輪刀を抜いたセイバーによって阻まれる。
「嬉しいね。サムライと一騎打ちだ」
刃を弾かれたアヴェンジャー。しかし即座に次の攻撃へと出る。右手の刀を斜め下から掬い上げるように振り上げた。
セイバーは日輪刀の刃を左に振るい、敵の刃の逸らすように弾く。
「俺ちゃんも、武士道に目覚めようかなッ」
しかし、間髪入れずに二撃目が放たれた。アヴェンジャーの左手の刀が、すぐさま横薙ぎに振りかぶられる。
一刀と二刀。手数では単純にアヴェンジャーが有利だった。それでもセイバーは眉一つ動かさず、一撃目を凌ぐ動作から継ぎ目なく即座に後方へと跳んで回避した。
「逃げんなよ。ダンスの最中だぜ」
アヴェンジャーは逃さない。地を蹴る動作と共に駆け、後方へと下がったセイバーをすぐさま追い立てた。
そのままセイバーの眼前まで迫り、疾風怒濤の勢いで次々に二刀を振るう。
振り下ろされる。振り上げられる。左右で横薙ぎに振るわれる。一直線に突く。
手数の有利によって攻めるアヴェンジャー。されど幾度となく攻め立てられるセイバーは、その刃一つ一つを的確に弾き続ける。
眉一つ動かさず。次々に構えを変えながら、あらゆる斬撃を容易く凌いでいく。
アヴェンジャーが、攻勢に出ていた。
俊敏にニ刀を振るいながら攻め立て、その剣撃をセイバーが凌いでいく。
「どうしたサムライ、さっきから守ってばっかりだぜ」
セイバーは防戦一方。敵の攻撃への対処を続け、自ら攻めへと乗り出すことはない。
「ひょっとして恋の駆け引きも自分から攻めない方?受け身のタイプ?
成程、日本人らしい草食系だ」
戦局はアヴェンジャーに傾いている。
―――傍から見れば、そう思えるだろう。
しかし。実際は、逆だった。
「だが、そんなんじゃ、女は落とせないね―――!」
刃を激しく振るい、軽口を叩き続けるが。
アヴェンジャーは、気付いていた。
――――澄ました顔してやがんな。
――――全然、攻め切れねえ。
敵は攻めてこないのではない。
こちらがこれ以上、攻められないのだ。
セイバーの太刀筋は、アヴェンジャーの斬撃を全て的確にいなし、あらゆる致命打を妨げる。
いかに膂力を込めようと、意表を突く一撃を放とうと。セイバーは、まるで相手の筋肉の動きを理解しているかのように“先読み“して“弾く”。
――――言っとくがな。
――――手なんか抜いてねえ。
――――遊んでるつもりもねえ。
――――仕留める気でやってんだよ。
ステータスの差は重要ではない。アヴェンジャーは『傭兵の心眼』スキルによる卓越した戦闘技術を持つ。白兵戦においては、三騎士にも引けを取らない。
にも関わらず。この膠着状態は、一向に崩れない。セイバーの守りを、アヴェンジャーは崩せない。
そして。セイバーは、一呼吸をする。
アヴェンジャーの太刀筋を完璧に見極めながら、気を集中させる。
余りにも自然で、空にも等しい―――澄んだ殺気。
2分足らず。
打ち合ったのは、それしきの時間。
それでも尚、彼は刻みつけられる。
超常の剣技を、思い知らされる。
“呼吸”の変化に気づいたアヴェンジャーは、咄嗟に後退を試みた。
そして。荒々しい風が、吹き抜けた。
全集中、日の呼吸。
参ノ型―――烈日紅鏡。
両肩を左右に振るい、円を描くかのように放たれる二連の剣撃。
アヴェンジャーは、目を見開く。
一撃目は辛うじて躱した。
間髪入れずに襲い来る二撃目は―――避けられない。
次の剣撃を放つと同時に、セイバーが前方へと踏み込んだのだ。
回避の直後。その隙を突くように、漆黒の刀身が迫る。
アヴェンジャーの傭兵としての心眼が判断した。―――これを凌がなければ、不味い。
躱せるか。無理だ。一撃目を避けたばかりの無防備な体勢に、セイバーは的確に攻め込んできたのだから。
故に、咄嗟に彼らしからぬ防御行動へと専念した。
そうしてアヴェンジャーは、左手の刀で敵の二撃目を受け止めようとした。
だが、それよりも速く。遥かに疾く。
セイバーの剣撃は、彼の腕そのものを捉えた。
そのままアヴェンジャーの左腕の肘から先を断ち、握られた刀ごと斬り飛ばしたのだ。
◆
そして、アヴェンジャーの意識が“2分前の記憶”から“今”へと戻る。
アヴェンジャーの左腕が、宙を舞う。
不幸にも片腕を断たれた?
違う。断じて違う。
左腕程度で済んだ。それが正しかった。
反射的に急所を庇わなければ、今頃首が飛んでいただろう。
アヴェンジャーは泣き別れたになった片腕の傷口を見て、否応なしに理解した。
途中までの剣戟は、所詮“小手調べ”に過ぎなかったのだと。
今の剣技が。今の呼吸が。此処から先が、奴の“実力”なのだと。
予選で倒した凡百のサーヴァントとはまるで違う。桁違いの武勇。人外の域に迫る剣術。こいつは、本物の英傑だ。
分かっていた。此処から先は、本物の強者ばかりだってことくらい。マスターもサーヴァントも、化け物ばかりだ。
――――畜生、ふざけてやがる。
アヴェンジャーは、内心で悪態を付いた。
左腕が、再生しない。
否、正確に言うならば。
傷の治りが、明らかに遅い。
瞬時に“生え変わってくる”筈の左腕が、一向に戻らない。
動揺を悟られぬように構えながら、アヴェンジャーはその場より駆け出す。
セイバーと一定の距離を取り、彼の外周で円を描くように走り続ける。
そのまま右手で腰から拳銃を抜き、次々に牽制の弾丸を連射。破裂音が空間に轟く。その全てが、踏み込んだセイバーの瞬発力によって容易く躱される。
アヴェンジャーのサーヴァント、デッドプールの宝具は超回復能力。銃で撃ち抜かれようが、手足を斬り落とされようが、首を飛ばされようが、即座に再生を果たす。
伝説として昇華されたが故に、その治癒力は生前をも遥かに凌駕する。霊核さえ保たれれば、如何なる欠損であろうとごく短時間で修復される。
人ならざる異形としての性質ではない。人としての異能、それも後天的に移植された力だ。
それでもアヴェンジャーは、人でありながら限りなく不死者(イモータル)に肉薄する英霊と化している。
英雄デッドプールは不死身の存在。呪われし不死者。異なる可能性の世界――彼自身が観測する“向こう側”である――において、それは周知の事実として語り継がれる逸話(イメージ)だった。
それ故に、アヴェンジャーは『赫刀』の敵となる。
怪異を斬り、不死の生命を断ち続けた“鬼殺”の刀。
かつて鬼の王にさえも手傷を負わせ、数百年にも渡ってその身を灼いた、正真正銘の“不死狩り”の刃。
鬼という魔性ではないアヴェンジャーにとって、完全なる有効打となるわけではない。
しかし。例え真の不死身でなくとも。異形の存在でなくとも。その一撃は、アヴェンジャーの異常再生力をも容易く突破する。
「なあ、アンタさ」
迫る。
鬼神の如し侍が。
「ひょっとして、怒ってる?」
地を蹴り、アヴェンジャーへと肉薄する。
縮地と錯覚する程の瞬発力。
先程までとは比べ物にならない疾さ。
「きっとアレだな。デートの待ち合わせじゃなくて、失恋に打ち拉がれてる最中だったんだろ」
超高速で駆け抜ける侍を前に、不死身の英雄は軽口を叩く。
この期に及んで余りにも能天気―――という訳ではない。
彼は現状を確かに理解している。
「さては好きなコとヤり損ねちゃったな、キミ。ムラムラしてイライラって訳だ」
それでも戯けようとするのは、己を繋ぎ止める為だった。
窮地が迫ろうと、自分を見失わなければ。
万に一つの可能性はある。
デッドプールは誰よりも饒舌な傭兵だ。
ユーモアすら忘れてしまったら、最早形無しだ。
しかし――――鬼殺の剣士は、彼の言葉に聞く耳も持たない。
セイバーが、アヴェンジャーの至近距離まで迫った。
そのすれ違いざま。雷鳴のような横薙ぎの一閃が、放たれる。
アヴェンジャーは、拳銃を宙に放り投げていた。
そのまま刀を咄嗟に抜き。
刃を縦に構え、敵の一撃を辛うじて凌いだ。
戦闘続行スキル。決定的な致命打を受けぬ限り、戦闘や生存を可能とする。
例え再生能力が阻害されようとも、アヴェンジャーは戦える。
アヴェンジャーは意識の全てを防御に費やした。右手のみで握り締められた刀は、セイバーの一閃を受け止めた衝撃によって弾き飛ばされる。
宙を舞う刀と共に体制を崩し、たたらを踏むように後ずさったアヴェンジャーは、それでもなお咄嗟に後方へと振り返る。
意識と神経を、一閃と共に走り抜けていったセイバーへ向けた。
そのまま振り向きざまに腰に指したナイフを瞬時に取り出し、振り上げるように二本同時に投擲。
すれ違いざまの一撃を放った直後の隙を狙った。あくまで牽制の技。だが、少しでも動きを止めれば――――。
それさえも、遅かった。
それでも、相手の方が一歩早かった。
波を描くような動作。
龍が舞うかの如き疾走。
一瞬で軸を変えたセイバーの“二撃目”、再び。
焔の斬撃が、踊るように放たれる。
日の呼吸、陸ノ型。
日暈の龍・頭舞い。
神楽を思わせる剣の舞踏が、アヴェンジャーの右脇腹を深く斬り裂く。
鮮血が、桜の花弁のように吹き散る。
それでも、アヴェンジャーは。
血を吹き出しながら、右脚で回し蹴りを放つ。
しかし。攻撃動作の直後であるにも関わらず、セイバーは瞬時に屈んで爪先を躱す。
そして、身を低くした体勢のまま。斜め上へと弧を描くように、アヴェンジャーの胴体に斬撃を叩き込んだ。
赤黒い血が、太刀筋に沿うように溢れ出す。
そして――――二撃目。返す刀によって、胴体への一閃が再び刻み込まれる。
瞬く間に放たれた攻撃を躱す術などない。
身体を両断されなかったことが、最早幸運だった。
度重なる裂傷によって、アヴェンジャーはよろめいて後退し―――膝を付いた。
◆◇◆◇
◆◇◆◇
空は、ひどく青かった。
何処までも抜けるように、澄んでいた。
太陽の光が、じりじりと照っている。
日陰の中で俯せに倒れる少年は、虚ろな眼差しのまま、呆然と日向の輝きを見つめていた。
多摩川沿いの橋の下で繰り広げられた勝負は、余りにも一方的なものだった。
最早戦いですら無い。赤子が大人へと挑むような、無謀の行為だった。
振り翳した金属バットによる打撃は、素手のおでんに全て容易く捌かれ。難なく防がれ。
そして、一捻りで放り投げられる。
気力を振り絞って再び立ち上がり、必死になって攻撃を仕掛けても、一撃たりとも届かない。
おでんはいとも容易く防いでいく。
一歩も動きもせず、野良犬を相手するかのように軽くいなしていく。
最後は、分かりきった結末だ。
張り手で一突き。それだけで、あさひは紙切れのように吹き飛ばされる。
残酷なまでの実力差。
圧倒的な格の違い。
闘争と呼ぶのも烏滸がましい打ち合い。
それを何度も繰り返して。
あさひは、雑草塗れの地面に顔をうずめる。
――――人間もバケモン揃いだぜ、此処は。
――――金属バットで何発頭ぶん殴ってもケロッとしてるような奴が平然と彷徨いてるマッポーだ。
アヴェンジャーの言葉が、あさひの脳裏をよぎる。
ああ。思えば、その通りだった。
最初の戦いでも、あさひは苦戦を強いられた。
妹を攫った“あの女”とも格が違う。この地には、常識を超えた戦士たちが跋扈している。
サーヴァントだけではない。
マスターでさえ、化け物が揃っている。
あさひは思い知らされる。
自分はこの場において、ちっぽけな存在に過ぎないのだと。所詮は弱者に過ぎないのだと。
――走馬灯のように、記憶が蘇った。
あの悪魔と、母さんの間に、生まれた。
あの悪魔から、日常的に虐げられてきた。
地獄のような日々だった。
誰も手を差し伸べてくれなかった。
苦痛。慟哭。絶望。狂気。
あさひを取り巻く世界は、悪夢のようだった。
それでも。
一匙の、希望があった。
いつか必ず迎えに行く。
あいつからの暴力に耐えて。
血に汚れた日々から抜け出して。
そうして、母さんと―――妹を迎えに行く。
いつか3人で。家族みんなで。
絶対に、幸せになる。
病めるときも、健やかなるときも。
喜びのときも、悲しみのときも。
富めるときも、貧しいときも。
死が、みんなを分かつまで。
誓いの言葉を、反復する。
己の背骨を保つ祈りを、あさひは繰り返す。
――――もういいの、そういうのは。
――――だって私、生まれ変わったんだから。
あの時、妹は。
神戸あさひを、拒絶した。
彼女の瞳には、悪魔が宿っていた。
家族を奪った、もう一人の悪魔が。
もう、妹は取り戻せない。
奇跡に、縋らない限りは。
「俺達には」
声を、絞り出した。
それはまるで、執念のように。
あさひは、バットを支えに。
力付くで、その場から立ち上がる。
「俺には、“しお”しかいない」
再び、バットを両手で握り締め。
眼前で、構えた。見据える先は、光月おでん。
聖杯が無ければ。奇跡に頼らなければ。
きっと。俺達は、呪われたままだ。
神戸あさひは、想いに突き動かされていた。
「―――だからッ」
そして―――駆け出した。
余りにも鈍く、余りにも重い動き。
それでも尚、バットを振り被る。
目の前の敵を討つべく。
必死に、必死に、走り抜ける。
「なあ、坊主。無理するな」
だが、敵は既に戦意も無く。
その目には、憐れみを宿し。
「もういい。もうやめろ」
何の構えも取らず、迫るあさひを見つめ。
「今は、休みな」
そして。おでんに一撃を叩き込む前に。
あさひは、崩れ落ちた。
体力の限界だった。気力が残っていても、身体がそれに追い付かなかった。
地面に俯せに蹲るように倒れたあさひは、屈辱と悔しさに塗れるように。
顔を伏せて、咽び泣いていた。
◆
光月おでんは、内心で唖然としていた。
そして、目の前で蹲る少年を、憐れむように見据えていた。
――――覚悟は出来ていても、戦い方をまるで知らない。
――――ただの童子だ。それが、ここまで必死になって足掻いている。
――――こんな小僧が、命を懸けようとしていやがる。
――――聖杯戦争とは、こんな者達でさえ招かれるのか。
藁にも縋りたい想いなんだろう。
何がなんでも、手に入れたいのだろう。
持たざる身であっても、掴み取りたいのだろう。
この街は、あの自由な海とは違う。
誰よりも奔放な強者達が蠢く世界とは、根本からして異なる。
淘汰され、搾取される弱者。どうしようもなく無力でありながら、それでも尚奇跡を求めてしまった者達。
強さから取り残された者にとって。
聖杯とは、最後に残された道筋なのだ。
例え、それが“黒”であったとしても。
“正しくないもの”だったとしても。
この坊主のようなマスターにとっては、最後の希望なのかもしれない。
それを悟り、おでんは背を向ける。
元より聖杯を求めるつもりはない。
祈るだけで全てが叶う願望器など、余りにも無粋。
ましてや有無を言わさず殺し合いへと誘う“奇跡”など、限りなく黒に近い代物だ。
しかし、それに縋らねばならない者も此処にはいる。
聖杯の善悪。それを求める者の善悪。
それらを見極めることが、光月おでんの方針だ。
故に彼は、蹲る少年にとどめを刺すことはしない。このような子供を、仕留める気にはなれない。
いずれまた、この少年と相見える時が来るかもしれない。
聖杯戦争が進み、サーヴァントと共に再び対峙する時が来るやもしれない。
もしもこの少年が、再び闘志を向けるというのならば。その時は―――。
後味の悪い感情を腹の底に抱えながら、光月おでんは去っていく。
◆◇◆◇
◆◇◆◇
アヴェンジャーは、膝を付いた。
胴体と脇腹から多量の血を流し、項垂れるように俯く。
そんな彼を見下ろすように立つのは、無傷のセイバーだった。
刀を虚空に振るって血を払う侍の姿を、饒舌な傭兵は目を細めて見上げた。
アヴェンジャーは思う。
マジで何なんだよ。
速すぎんだろ、こいつ。
セイバー、継国縁壱。
鬼狩りの呼吸を編み出し、未来へと連なる礎を築いた始祖。
あらゆる鬼殺の勇士の頂点に立つ猛者。
その剣戟は“炎”の如く猛々しく。
その型は“水”の如く流麗に。
その一閃は“雷”の如く鮮烈に。
その体術は“風”の如く俊敏に。
その武勇は“岩”の如く揺るがず。
そして、その名は闇に射す“日”の光が如く。
彼の者は、紛れもない最強の剣士だった。
鬼舞辻無惨を滅ぼし、鬼殺隊がその役目を終えた瞬間に至っても尚、彼を超える者は一人とて現れなかった。
剣の怪物。真の超越者。
実の兄を狂わせる程の、天賦の才。
鬼の王さえも慄かせた、神域の武。
アヴェンジャーが対峙した英傑は、紛れもない強者だった。
「勝負は付いた」
「おいおい。まだ終わっちゃいねえさ」
アヴェンジャーを見下ろすセイバー。
左腕は無い。脇腹や胴体からの出血は続く。本来ならば負傷をすぐさま治癒してしまう超再生能力も、鬼狩りの黒刀の前では十全に機能しない。
それでも尚、アヴェンジャーは口を開く。
「片手さえ残ってりゃ、やれることはある」
目を細め、ニヤリと笑む。
この期に及んで、大胆不敵に。
「で、何が出来るって?」
聞かれてもいないのに、喋り続ける。
まるで虚空に向けて話しかけるように。
見知らぬ“向こう側の世界”を見つめているかのように。
だが、セイバーは。そんなアヴェンジャーを、何も言わずに見据え続ける。
そして、アヴェンジャーは残された右腕を構え。
「ファックサインだ」
―――中指を、豪快に立てた。セイバーに向けて。
ヘヘッ、と嘲笑うように睨みつけ。アヴェンジャーは、これみよがしに突き立てた中指を見せつける。
傲岸不遜。あまりにも挑発的。
セイバーは目をほんの僅かに見開く。その手振りの意味を知る由は無くとも、それが“挑発の動作”であることは理解できた。
片腕を失い。幾つもの手傷を負い。敵の前で、膝を突いている。
その命は、いつ断ち切られてもおかしくはない。首筋に刃を突きつけられたも同然の状況。
にも関わらず。アヴェンジャーは、不敵な態度を崩さなかった。
恐れも知らぬその態度を、何も言わずにセイバーを見据え続ける。
呆気に取られているとも、一目を置いているとも取れる。その表情は、決して動かぬまま。
沈黙。静寂が、その場を支配する。
暫しの間を開けた後。
セイバーが、ゆっくりと口を開いた。
「お前は」
「あン?」
「界聖杯に何を望む。その剣で、何を掴まんとしている」
「何だよいきなり、面接かよ」
そう問われて、アヴェンジャーはゆっくりと右手を下ろす。
そのまま顎をわざとらしく掻きながら、取り留めもなく答える。
「俺ちゃん、別に望みはねえよ」
「……この地に参じた上で、界聖杯を求めないのか」
「いやまあ求めっけど。俺ちゃん自身は興味無いの」
何処か戯けた態度でぼやくアヴェンジャーの言葉に、セイバーは黙って耳を傾ける。
「癌でボロボロになったり、訳あってキンタマみたいなツラになったり。
ジョシュ・ブローリン似のマッチョと殺り合ったり。
生前は色々大変なこともあったけどさ」
生前の記憶を振り返りながら、取り留めもなく言葉を重ねる。
戦国の世を生きたセイバーにジョシュ・ブローリンなど伝わる筈はないが、聞き手である彼は意に介さない。
そのままアヴェンジャーは、過去を懐かしむように、自らのことを語り続ける。
「女房とは最後までイチャつけたし……なんやかんやで子供も生まれて、元気に育った。
ま、最後まで楽しくやっていけたよ。つーわけで未練とかナシ」
アヴェンジャーは、ヘラヘラと笑った。
傍から見れば、軽薄な態度だった。
しかし、それは紛れもない本心だった。
未来から来た男の力を借り、女房を襲った死の運命を覆し、掛け替えのない愛を取り戻した。
そこから先は――――なんだかんだ言って、幸せだった。間違いなかった。彼女はやっぱり、最高の女だった。
それで十分。アヴェンジャーにとって、それだけで満足だった。
―――セイバーは、何も言わなかった。
ただ、ゆっくりと瞼を閉じて。
何かを噛みしめるように。
何かを、愛おしむように。
穏やかにも見える感慨の表情を、ほんの一瞬だけ見せた。
暫しの沈黙の後。その両眼を開き、問いを続けた。
「ならば何故、お前は戦う。求める願いもなく、未練もない」
聖杯だけではない。
奇跡を求める者達の善悪も、見極める。
それがマスターである光月おでんの方針だった。
故にセイバーもまた、眼前のアヴェンジャーにそれを問う。
「ガキが俺を呼んでた」
そして、きっぱりと断言した。
「ガキが助けを求めてたから、わざわざ駆けつけてやったんだ。
で、話を聞いてみりゃ、そいつは妹を取り戻したいんだとよ。
だから手を貸してやった。どうだ、俺ちゃん立派だろ?」
理由なんてものを聞かれれば。
答えられることは、それだけだった。
それ以上のことはなかった。
「……お前のような男は」
「は?」
「かつて、幾人も目にしてきた」
「アンタの友達、みんなお喋りセクハラ男ってこと?」
おちょくるようなアヴェンジャーのジョークも咎めず、セイバーは言葉を紡ぐ。
「捲し立てて、戯けて振る舞っているが――」
短い問答で、セイバーはアヴェンジャーの本質を悟っていた。
赤黒の異装で素顔を隠し。畳み掛けるような言葉で惑わし。その姿は、一見英雄とは思えない。
「お前は、“そうせず”にはいられなかったのだな」
しかし。それでも。
このアヴェンジャーという英霊は。
かつてセイバーが見てきた者達と、近しい魂を持っているのだと。
この時、彼は悟った。
「皆、同じだった。刹那の中で己が進むべき道を選び取っていた。
命を懸けてでも、鬼と戦うことを選んだ。
それこそが、為すべきと思った選択だったから」
セイバーの記憶に蘇る、鬼殺の剣士達。
家族を殺され。義憤に動かされ。他者を救うため。動機は数多あれど、皆が命を懸けて戦っていた。
そうするべきなのだと、心より思ったから。
最後まで身を置くことの出来なかった組織であるとしても。セイバーは、為すべきことを為さんとする彼らへの敬意を抱いていた。
誰かの幸せを守るために戦う。
家族や愛する者のために、命を懸ける。
それは、何よりも尊ぶべき信念だ。
限りある命の灯火による、確かな輝きだ。
―――貴方は、価値の無い人なんかじゃない。
セイバーの記憶。守れなかった愛する者達。己の中の後悔と苦悩を癒やしてくれた、炭焼きの一家。
そして、セイバーは黒刀を振るい。
腰に挿した鞘に、刃を納めた。
「おい」
「道は同じだ。お前がこの戦争を生き延び、私もまた生き延びていけば。自ずと、再び相見えることになる」
「知らねえよ。つーか武士の情けかよ」
「……そうだな。お前に、情けを掛けてみたくなった」
「切腹しようか?俺ちゃん」
背を向けたセイバーに向けて、アヴェンジャーは冗談を叩き続ける。
相も変わらず、飄々とした態度を貫いていたが。
それでもセイバーは、僅かながらも微笑んでいた。
「―――いずれ、また」
その一言と共に、セイバーは霊体化して姿を消した。
おい、と呼び止める声が虚しく響き。
沈黙が場を支配したのを確認して、アヴェンジャーはその場で仰向けに倒れた。
体力の限界、というより。
この聖杯戦争のレベルを思い知らされたことによる、虚脱感と言うべきだった。
ちんちくりんのあさひ坊やに、約束した。
お前がお前でいるのならば、俺が聖杯を取ってきてやる。
格好を付けたというのに、これでは形無しだ。分かっていたことだが、いざ対峙してみるとその脅威を嫌と言うほどに理解してしまう。
サーヴァントというものは、化け物揃いだ。
『ハロー、もしもし坊や。元気か』
アヴェンジャーは、念話を飛ばした。
自らが不在の間、マスターは無事でいるのか。
それを確かめたかった。だが、返ってくるのは沈黙のみ。
神戸あさひからの言葉は、戻ってこない。
『おい、あさひ』
『ごめん。ごめん、アヴェンジャー』
僅かな焦りを覚えるアヴェンジャーだったが、直後に脳内に言葉が響いた。
弱々しい声だった。酷く、か細い一言だった。
『……敗けた』
そして、あさひはただ一言。そう告げてきた。
アヴェンジャーはそれを聞き、呆気に取られ。しかし同時に、自嘲するかのような笑みを溢していた。
『そうかよ。俺もだ』
――――なあ、ヴァネッサ。
――――なんか背負って戦うのって、やっぱクソほど大変だわ。
最愛の女性に、心の中で語り掛けた。
此処から先も、苦難の連続かもしれない。
それでも。アイツに顔向けできるような、とびきり刺激的でクールな男でありたいと。
“ウェイド・ウィルソン”は、改めて誓った。
◆
◆
【大田区・蒲田(大展示場周辺)/1日目・午前】
【セイバー(継国縁壱)@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(小)
[装備]:日輪刀
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:為すべきことを為す。
1:光月おでんに従う。
2:他の主従と対峙し、その在り方を見極める。
[備考]
【アヴェンジャー(デッドプール)@DEADPOOL(実写版)】
[状態]:『赫刀』による負傷(左腕欠損、胴体および右脇腹裂傷(大)、いずれも鈍速で再生中)、疲労(中)
[装備]:二本の刀、拳銃、ナイフ
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:俺ちゃん、ガキの味方になるぜ。
1:骨が折れるな、聖杯戦争ってのはよ。
[備考]
※『赫刀』で受けた傷は治癒までに長時間を有します。また、再生して以降も斬傷が内部ダメージとして残る可能性があります。
【大田区・多摩川近辺/1日目・午前】
【神戸あさひ@ハッピーシュガーライフ】
[状態]:疲労(大)、全身に打撲(中)
[令呪]:残り3画
[装備]:なし
[道具]:金属製バット、リュックサック
[所持金]:数千円程度(日雇いによる臨時収入)
[思考・状況]
基本方針:絶対に勝ち残って、しおを取り戻す。
1:折れないこと、曲がらないこと。それだけは絶対に貫きたい。
[備考]
【光月おでん@ONE PIECE】
[状態]:健康
[令呪]:残り3画
[装備]:なし
[道具]:二刀『天羽々斬』『閻魔』(いずれも布で包んで隠している)
[所持金]:数万円程度(手伝いや日雇いを繰り返してそれなりに稼いでいる)
[思考・状況]
基本方針:界聖杯―――その全貌、見極めさせてもらう。
1:他の主従と接触し、その在り方を確かめたい。戦う意思を持つ相手ならば応じる。
2:界聖杯へと辿り着く術を探す。
[備考]
投下終了です。
指摘等があれば宜しくお願いします。
投下お疲れ様です
自分も投下したいと思います
『―――次のニュースです』
『アイドルグループ、『アンティーカ』に所属されていた、白瀬咲耶さんの行方が分からなくなっています』
『29日深夜、寮から外出されたのを最後に連絡が取れなくなっており、警察は事件に巻き込まれた可能性から捜査を―――』
「おっ、舞踏鳥(プリマ)、お前が仕留めたマスターのニュースやってるよォ〜」
「……そう」
聖杯戦争の開幕から翌日。
破壊の八極道にして、殺人の王子様(プリンス・オブ・マーダー)であるガムテはテレビを指さしながらお道化た声を上げた。
そこに映っていたのは、ガムテらが聖杯戦争開幕前に仕留めた最後のマスターだった。
「珍しいわね、ガムテ。貴方が殺した人間の事を口に出すなんて。
もうとっくに頭の中から綺麗さっぱり消えてるかと思ったわ」
「ンだよォ〜〜折角人が褒めてンのに。鬱陶(ウゼ)っっ!!」
「…ま、確かに手ごわいサーヴァントとマスターだったのは確かだけど。
あのババアを海の中に突き落としたんだから」
朝食の味噌汁をすすりながら、舞踏鳥は自分が仕留めた白瀬咲耶と、そのサーヴァントについて追想する。
凛々しく可憐な少女と小さな少年の組み合わせだった。
しかし間違いなく聖杯戦争開幕前に戦った主従の中で、最もガムテとリンリンに肉薄した二人組だった。
三日前、東京湾近くの埠頭で別の主従を下し、マスターの成人男性を屠ろうとした時に現れたのがかの二人組、白瀬咲耶とそのサーヴァントであるライダーだ。
彼女たちは敵であるはずのマスターを助け逃がすと、代わりにガムテと海の覇者足る四皇ビッグ・マムを相手取った。
「大変だったよな〜海に突き落とされたババアを引き上げるのにクーポンもいっぱい使っちゃったしさァ」
咲耶のサーヴァントであるライダーの少年とリンリンの間にあった力の差は歴然だった。
まさしくアリと巨象の戦いだ。
それに加えて、ライダーはガムテからマスターを守らなければならなかった。
飛び込んできた当初純白だったライダーの軍服は、見る見るうちに血の赤に染まっていない所を探すのが難しくなった。
そして、リンリンが致命傷を与えたと思った瞬間――ライダーの瞳は急速に蘇り、此処まで温存していた切り札である宝具を開帳した。
突如として出現した大型潜水艦とその大衝角は見事にリンリンのどてっぱらに突き刺さり―――それだけで終わらない。
なんと敵のライダーはそこから三度、連続して宝具を使ってきたのだ。
騎乗していた雷雲ゼウスを蹴散らされ、大相撲の押し出しのようにリンリンは海中に落下した。
これには流石のガムテも驚愕した。
召喚されてからすっと無敵だったリンリンに始めて一矢報いたサーヴァントであり、また彼女がカナヅチであったことが同時に判明したのだから。
事態は急激に動き、サーヴァントが一時的に行動不能になった事によって、戦局は逆転するかに思えた。
ガムテの右腕であり、薬(ヤク)をキメた舞踏鳥がその場に潜伏していなければ。
ガムテへ警戒を移そうとしていたライダーの一瞬の隙をすり抜け、地獄への回数券(ヘルズクーポン)によって強化された脚が、敵のマスターの胸部を貫き、鮮血が舞った。
白瀬咲耶はそのまま地に倒れ伏し、元々瀕死の重傷を負って居たライダーも共に消滅した。
そして、彼女の死体はそのまま夜の海へと処分した。
昏い水面の底へと消えていった彼女が見つかる事は、恐らくないだろう。
手ごわい主従であったが、勝者はガムテであり、それが全てだ。
彼女がこの聖杯戦争で何かを為すことはきっともうない。
だからこそ、意外だった。ガムテが殺した人間の事を口にするのは。
「まだ、あの主従について何かあるの?」
「ん〜〜そうなんだよなァ〜〜まだ何かが足りない気がするんだよな〜〜」
ガムテの超人的な勘。
それは今まで外れたことがない事を舞踏鳥は知っていた。
もう一口、味噌汁を啜って静かに尋ねる。
「……それなら、襲撃(カチコ)む?あのアイドルの事務所に」
「―――そうだなァ…取り敢えず三人で行ってみよっか!アイドルって仲間を殺した奴の手も笑顔で握ってくれるのか気になるしな〜舞踏鳥(プリマ)はどう思う?」
「知らない。偶像崇拝(アイドル)にでも聞いてみたら?」
ひらひらと。
もう忍者の手によって無くなってしまった手を振るう。
その貌に気まぐれで、無邪気で、獰猛な悪意を滲ませて。
ゲームで何か見落としているフラグはないか探すように。
己の勘を確かめるために。
ガムテは、283プロダクションに赴くことに決めた。
「さーて、それじゃライダー!オレとちょっとアイドルの事務所までお出かけしよぉ〜!!」
『―――あぁ?何でおれがこの暑い最中そんな所までいかなきゃ行けないんだ?
行くならガキ共だけで―――』
「え〜?霊体化(スケスケ)になって行けばいいじゃ〜ン。
終わった後は有名スウィーツ店巡りしようと思ってるんだけどな〜」
『行く〜〜〜〜』
相変わらずお菓子が絡むと変わり身が早いババアだ。
舞踏鳥は今も高級住宅塔(アジト)でお菓子を貪っているであろう老婆の姿を想像しながらそう思った。
召喚してからマムを養うために費やされた費用は十億に達しようとしている。
もし海外への薬(ヤク)により潤沢な資金を東京の極道が有している状況が反映されていなければ、
潤沢な資金を持つグラスチルドレンでも養うのは困難だっただろう。
とは言え、あの婆が付いてくるならガムテの勘の通り、サーヴァントが出てきても問題ない。
件のアイドル事務所と、店にある甘露を買い占められるであろう店舗には憐みが湧いてくるが。
当然、口にはしない。
「……ババアはともかく、黄金球(バロンドール)を呼ぶのはダメよ」
「何で?」
「あいつ、アイドルに惚れるかもしれないから」
「………………」
【港区・ガムテの家/1日目・午前中】
【ガムテ(輝村照)@忍者と極道】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:地獄への回数券。
[道具]:なし
[所持金]:潤沢
[思考・状況]
基本方針:皆殺し。
1:283プロで握手会〜.。
2:早く他の主従をブッ殺したい。
※ライダーがカナヅチであることを把握しました。
【港区・高級住宅塔(グラスチルドレンのアジト)/1日目・午前中】
【ライダー(シャーロット・リンリン)@ONE PIECE】
[状態]:健康
[装備]:ゼウス、プロメテウス、ナポレオン@スター☆ONE PIECE
[道具]:なし
[所持金]:無し
[思考・状況]
[思考・状況]
基本方針:邪魔なマスターとサーヴァント共を片づけて、聖杯を獲る。
1:スイーツ店巡り楽しみ〜〜
▼ ▼ ▼
『―――どうして、そんなに辛そうな顔をしてるんですか?』
―――すまない。すまない。すまない……
『あの時みたいに眼を逸らして、地面か空でも見てれば楽じゃないですか』
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
『……今更、そんなに苦しむなら。
どうしてあの時、私を助けてくれなかったんですか?』
どうか、どうか許してくれ―――
………………
………
…
「また同じ夢か」
全身を不快な寝汗で濡らして、寝台から身を起こす。
プロデューサーと呼ばれた男の聖杯戦争最初の朝は、そうして幕を開けた。
もう、何夜目になるだろう。
にちかに、蹴落としてきたマスター達の怨嗟の声に怯えて起きるのは。
(…きっと。もうちゃんと眠れる夜は来ないんだろうな)
優勝して、願いの果てに至るまで。或いはその後も。
眠れぬ夜は、後何度続くのだろうか。
茫洋とそんな事を考えながら、覚束ない足取りで洗面所に向かう。
血が出るのでは無いかと言うぐらい顔を流水で洗って、鏡を見る。
そこに見慣れたはずの自分の顔は、かつない程酷いものだった。
今まで挫折というものを知らなかった幼い少年が始めて挫折の味を知った様な、
還暦を迎えた老人が今までの永く味わった艱難辛苦を追想した様な、そんな表情だった。
(…こんな顔、事務所の皆には見せられないな)
そうだ。
彼女たちにだけは、こんな醜い顔を見せるわけにはいかない。
彼女たちがこれからもアイドルとして羽ばたいてい行けるために。
自分はまだ、彼女たちが信頼してくれていた『プロデューサー』でいなくてはならない。
だから、何人かのアイドルが頼んできた、一度顔が見たいと言う連絡も全て断った。
万に一つ、彼女たちが聖杯戦争に巻き込まれる可能性を作ってはならないのだから。
考えながら、着慣れたスーツに袖を通す。
勿論出社するわけではない。単なる意識の切り替え、意味の薄いルーティーンというだけ。
どの道行動するのは人目に付きにくく、日光が苦手だと言うランサーが動ける夜間である。
だから、昼間はこうして情報収集とと言う名の無駄で無為な時間を過ごしているのだ。
食事はコンビニ弁当やカップ麺など買いだめしたものを食べると言う、大崎甘奈には輪をかけて見せられない、そんなライフサイクルだった。
「……また行方不明者か」
その手のスマートフォンに表示される、女性の行方不明者のニュース。
それを見て過るのは二つの考えだ。
一つは、事務所のアイドル達は無事だろうかという考え。
そして、もう一つは……
(ランサーは…彼はどうして…)
ランサーは、夢で見たあの青年だ。
勘だが、それは間違いない。
だが、人間なら即死している傷を受けても立ち上がり、敗退したマスターを情け容赦なく喰らうその姿はまるで……
―――考えるな。
その考えは、今は間違いなく不要なものだ。
前に進むための足を縛り上げる余計な思索だ。
第一、マスターである自分があの青年を、ランサーを信じなくてどうすると言うのか。
そう、もっともらしく結論付けて。
再び情報収集に意識を戻そうとした、その時だった。
ピンポンと、玄関のチャイムが鳴ったのは。
まさか、いよいよ283プロダクションの誰かが来てしまったのか。
その未来に怯えながら、恐る恐る扉の覗き穴から外を伺う。
「……?」
予想と反して、立っていたのは二人組の男だった。
恰幅のいい初老の男に、その部下と思わしき三十代ほどの男。
その二人を見た瞬間、何故か背筋に冷たいものが流れた様な気がした。
このまま居留守を使おうか、そう思ったのと同時に再びチャイムが鳴る。
僅かな逡巡の後意を決して、扉を開けた。
「はい……何方でしょうか」
「あぁ、朝早くにすみません。警視庁の大石という者です。
少し、お話を伺いたいことがあって参りました」
警察。
その二文字にドクンと胸が跳ねる。
テレビで目にしてきたサスペンスの犯人はこんな気持ちだったのだろうか。
提示される警察手帳を見てそんな事を考えながら、要件を尋ねる。
「警察の方が、何の御用ですか…?」
尋ねている自分の声が自分の声では無い様で、気持ち悪かった。
今にも吐きそうで、横隔膜が痙攣して、猛烈に嫌な予感に全身に鳥肌が立つのを感じていた。
だが当然、刑事は彼の状態などに頓着しない。
躊躇なく、端的に、何故此処へ赴いたのかをプロデューサーに伝えた。
「実は…お宅の事務所に所属していた…白瀬咲耶さんが一昨日の晩から行方不明になってましてね。
貴方…何か知りませんか?念のため、一昨日の晩何処にいたかも教えてもらえますかね」
「……は?」
見せられた写真。
そこには自分がプロデュースしていた283プロでも人気のユニット、アンティーカのメンバーである白瀬咲耶が映っていた。
だが、大石と名乗った刑事の言葉は、余りにも現実味が無く。
時間にして十秒。完全に思考がフリーズし、言葉が出てこない。
代わりに頭の中に浮かぶのは『どうして』という四文字だけだ。
どうして咲耶が?何故。何故。何故。何故……?
分からない。言葉は通じているはずなのに、意味が理解できない。
思考がまとまらず、自分が今、真っすぐ立っているかも分からない。
「……お、一昨日の晩は…家に居ました。コンビニで買い物をしたぐらいで…咲耶の事は今、知りました」
「ふーむ。大丈夫ですか?貴方。何だか大分疲れてる様ですが」
「少し、風邪をひいて……仕事の方も休ませて貰っているんです」
「…………………」
疑われているのか。
確かに、彼女が失踪した時に丁度休暇を取っていた自分が疑われるのは不自然な話では無いだろう。
だが、本当に何も知らないのだ。
じっと刑事が疑惑の視線で見つめてくる。
どうする?どうすればいい?
ここで逮捕されてしまえば、聖杯戦争はどうなる。
本当にどうすればいい。ランサーを呼ぶか?
いや、その方法を取ってしまえばランサー目の前の二人を…しかし――――
「……そうですか!いやー体調の優れないときにすみません。ご協力感謝します。
また、何かあれば伺う事かもしれませんが。今日はこれで」
「―――え?」
大石の予想を裏切る様なその言葉に、混乱していた脳内が再びフリーズする。
客観的に見ても、自分の態度は相当怪しかっただろう。
にも拘らず、ここまですんなりと相手が引き下がるのは完全に予想外だった。
刑事の片割れは露骨に解せないと言う顔をしていたが、大石の方は全く部下の様子など構わず。
「貴方も戸締りは気を付けてください。最近の連続行方不明事件…神隠し、いや。
鬼隠し何て我々警察の間では言われてますから…ま、直ぐに解決して見せますがね」
鬼隠し。
冗談めいた大石の言葉に、再び心臓が跳ねてしまう。
その言葉を聞いた時、先ず浮かんだのが自分が呼び出したあのランサー…だったのだから。
「では私たちはこれで。あぁそうだ。もし疲れているなら旅行でも如何です?
海外とまではいかなくても。田舎の村で羽を伸ばすというのも悪くはありませんよ―――」
それだけ言い残して二人の刑事はプロデューサーの自宅の前から去っていく。
できる事なら、もう二度と来てほしくはない。
遠くへ去っていく二人の背中を呆然と見つめながら、プロデューサーは強くそう思った。
▼ ▼ ▼
刑事たちの姿が見えなくなると同時に静かに扉を閉め、鍵をかける。
そして玄関の壁にもたれかかり、ずるずると…崩れ落ちた。
明るい外の光が途絶し、視覚的にも心情的にも昏くなった玄関で、男は茫洋と己の従僕を呼んだ。
「ランサー。今の話、どう思う」
答えは沈黙だった。
それでも返答を諦めきれず、再び槍兵を呼ぶ。
そうしてようやく、ランサーは霊体化を解いて姿を現した。
プロデューサを見つめるその視線は、凍える様な冷たさを湛えていて。
問われた彼は簡潔に。
「興味はない」、そう応えた。
「興味はない、って……」
「聖杯戦争に巻き込まれていれば十中八九その女は死んでいる。
ならば今更その女に思考を裂くのは、無意味だ」
「そうじゃなくて、その……」
プロデューサーは、ランサーの血の通わない台詞に何とか食い下がろうとした。
だが、言葉が出てこない。
まるで舌を縫いつけられたように、何時もなら言えたはずの、いうべき言葉が出てこない。
自らの矛盾に、気づいてしまっているから。
ここに来るときに抱いていた願いに、白瀬咲耶という少女は何ら関係がないという事に。
本来なら、動揺などする必要がない事に。
頭の片隅にでも放り込んで、勝つための知略を巡らせるべきだという事に。
それなのに、自分はこうして我を喪い、無様に床にへたり込んでいる。
自分はこんなにも無能だったのかと、自嘲せずにはいられなかった。
そんな彼に、ランサーはなおも冷淡に続けた。
「貴様は死んだ女は界聖杯に再現された偽物だとでも言われて安心したいのだろう。
だが…知った事か」
「ちっ、違う!違う…俺が言いたいのは……!」
ランサーの言葉を否定しようとして、再び言葉に詰まる。
そんな打算が、甘えが、無かったと本当に心の底から無かった言えるのかと。
そう思ってしまったから。
そんな彼の胸倉を掴んで、ランサーは無言で締め上げた。
「貴様の様な弱者を見ていると…反吐が出る…!」
苦しい。息ができない。
陸に打ち上げられた魚のようにぱくぱくと、滑稽に身体を震わせる。
言葉を放てない以上、令呪の使用も不可能だ。
「貴様は言ったはずだ!優勝するのは俺たちだと。今後も方針は一切変えないと!」
腹立たしかった。
どうしようもなく、腹立たしかった。
何か遠い昔の思い出したくない思い出を延々と見せられているような。
そんな不快さをランサーは感じていた。
「俺が貴様の様な弱者を主と認めているのは、聖杯を目指すという目的が一致しているからだ…!
それすらも揺らぐと言うなら、此処で死ね。俺が殺してやる」
「あっ……が、あぁ……」
ランサーから見て、プロデューサーは聖杯戦争に参加するマスターとしては何一つ取り柄が無かった。
戦う力など持たず。戦局を見すえる頭脳もなく、他者を蹴落とす覚悟すら弱い。
自分が敵サーヴァントやマスターの首級を挙げる度に口に出すのは「すまない」という謝罪の言葉で。
それがどうしようなく勘に触った。
その点で言えば、生前の主たる鬼舞辻無惨の方が余程仕えるに値する主だったと言えるだろう。
何しろランサーは、無惨から謝罪の言葉を聞いたことが一度もない。
しかし―――それでも、そんなマスターが本戦に至るまで戦ってこれたのは偏に願いの強さゆえだ。
そんな主が、抱いた願いさえ揺らいで仕舞えばどうなるか?
答えは一つ。塵屑のように最も無様な敗残の徒として生涯を終えるだろう。
ここは戦場だ。殺し合いをする場所なのだから。
それならばいっそ、自分の手で。
鬼であるランサーがそう考えるのは無理からぬ話だった。
「……ッ!それ、は……だ、めだ…!」
だがランサーのその言葉を受けて、完全に色も喪ったプロデューサーの瞳に再び意思の炎がともる。
足を必死にばたつかせて。締めあげられ今にも落ちそうになる意識を振り絞る。
だって、自分はまだ何も。何も出来ていないからだ。
この身は既にどうしようもない程罪に塗れていて、全てを悔いながら死ぬしかないのだろう。
咎人はもがき苦しみ、絶望と後悔の中で死んでいくしかない。
だけれど。
―――こわくて、こわくて、こわくて、こわくてこわくてこわくて……
それでも、今ではない。
自分はまだ、にちかが味わった苦しみの、半分ほども味わっていない。
願いの果てに至るまでは、まだ、死ねない。
それまでは、まだ地獄に落ちる事すらできない。
「ラン…サー…令、呪を……もっ……」
右手の令呪が光を放つ。
ランサーを止めようと、命令を放とうとする。
しかしそれよりも先んじて、頸の圧迫感は消えた。
それと共に、身体が重力に従い自由落下し、尻もちをつく。
げほげほと、再び無様な姿で咳き込んだ。
「それは、もっと使うべき時に取っておけ」
それが、主を殺そうとしておいていうべき言葉か。
普通のマスターならば、そう反論したかもしれない。
だが、プロデューサーは何も言えなかった。
首から手を離した時のランサーの顔を見てしまったから。
羨むような。来るべきでは無かったのに、こんな場所まで来てしまった男を憐れむような。
先程までの冷たい視線とは全く違った、夢の中で見た青年と同じ顔をしていたから。
「お前は今まで通り、俺に一言、戦えと命じるだけでいい。
―――勝って聖杯に辿り着く以外の事は、もう考えるな」
そう言って、ランサーは姿を消した。
恐らく夜まで呼んでももう返事は帰ってこない事は言わずとも分かった。
完全に謀反と呼べる行動だったが、ランサーに対する怒りだとか反感は湧いてこなかった。
むしろ、ここまで無残な姿を曝した自分にまだ仕えてくれている事に感謝の念すら抱いていた。
「ランサー…すまない……」
鬼であれれば良かった。
敵を討ち滅ぼす一本の剣であれれば良かった。
鬼の肉体であれば痛みも直ぐに忘れることができた。
この身が一本の剣なら迷わず、一人の少女のために戦う事ができた。
けれど男は、どうしようもない程に脆弱な一人の人間でしかなかった。
だからこうして、みっともなく這いつくばりながら、最早何度目になるか分からない謝罪の言葉を。
血を吐くように、口にし続ける。
カナカナカナカナカナ…と。
外から微かに聞こえるひぐらしの声だけが、静かに。
後戻りは、もうできないと告げていた。
――――――もう、手遅れだと。
▼ ▼ ▼
日が昇り始め、気温が上がり始めた頃。
一仕事を終えた二人の刑事はパトカーに乗り、署への帰路についていた。
「大石さん…どうしてあの男を見逃したんです?」
「白瀬咲耶さんが最後に確認された時間と最寄りのコンビニの監視カメラに映っていた時間は一致してる。アリバイがあるんですよ。
それに…これは私の勘ですがあの男はシロだ」
「いやいや、勘って…」
「あんな何もしなくても死にそうな顔をした男が誰かを誘拐したり殺したりはできんでしょう。
それに、知らないって反応も演技ではなさそうでしたしねぇ」
「…まぁ、そうですね。あの様子だと、迂闊に手紙を見せるわけにもいかないでしょうし」
大石はこの聞き込みに当たって、一枚の手紙を持ち込んでいた。
それは彼女が生活していた寮で見つかった、彼女の遺書ともいうべきものだった。
結局、事件については何も知らないという証言と彼の状態を鑑みて見せることは憚られたが。
「浮かない顔ですね。大石さん」
「ん…まぁ、ね。この手紙は私らじゃなくてももっと別に読むべき人がいるんじゃないか。
そう思いまして…取り敢えず、次は咲耶さんのお友達にでも当たってみましょうか」
そう言って大石は胸ポケットから件の手紙を取り出し、再びそれに視線を落した。
(白瀬さん…アンタ一体、何と戦ってたんです?)
時間がないときに書く走り書きのようだったが、間違いなくその文字は白瀬咲耶の筆跡と一致していた。
その内容を改めて読みながら、大石は白瀬咲耶と言う少女に想いを馳せた。
一体どんな状況で、何を思って、少女はこの手紙を書いたのか。
彼女の身に何が起こったのか。この手紙を書くまでにどんな道程を辿ったのか。
彼女は何と戦い…そして、敗れたのか。
以下が、その内容である。
『この手紙を私以外の誰かが読んでいるのなら、私はもうこの世にいないでしょう。
勿論、そうならないように最善を尽くします。
でも、自分がどれ程危険で困難な道を選んだかは理解しているつもりです。
その時が来た時後悔しないために、この手紙を残します。
先ずは父と母と、プロデューサー。そして、私のかけがえのないアンティーカの仲間に感謝を。
貴方たち出会えて、私は幸福でした。
手紙にすれば何千枚、何万枚でも書ききれないほど、幸せを貰いました。
私の戦いを、秘密にしてごめんなさい。そして…本当に、本当にありがとう。
もし、この手紙を私の戦いが何を意味するか分かっている人が読んでいるなら、
どうか、貴方が生きてこの東京を去れますように。
過酷な戦いの中で、貴方が何か過ちを犯してしまったとしても。
私は貴方を許します。
世界が貴方を許さなくても、私は貴方を許します。
だからどうか嘆かないでください。
傷つけないでください。貴方の心を。
謝らないで下さい。昨日までの全てを。
貴方が無事に元の居場所に戻った後、幸せを掴めますように。
それだけが、私の願いです。
白瀬咲耶』
【品川区・プロデューサーの自宅/1日目・午前中】
【プロデューサー@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[状態]:精神疲労(大)
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:そこそこ
[思考・状況]
基本方針:聖杯を獲る。
1:聖杯を獲ってにちかの幸せを願う。しかし…
2:咲耶……
【猗窩座@鬼滅の刃】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:マスターを聖杯戦争に優勝させる。
1:敵のサーヴァントを探し、殺す。
投下終了です
タイトルは「ある少女のエピローグ」でお願いします
投下します
『名探偵』という概念に夢を見たことがある者なら誰もが知っている、シャーロック・ホームズの『最後の事件』。
フィクションとして出版された小説の裏側には、誰も知らない真相があった。
眼下に眼を向ければ大火事。
見上げれば夜明けを待ちかねる星空。
ロンドン中の野次馬から視線を浴びて、消火活動にくすぶる煙を開戦の合図にして。
不安定な鉄筋のタワーの頂上で、最後の舞台は始まった。
白日の青い空を背負った主人公の名探偵と、闇の中で緋色の瞳を光らせる犯罪卿。
名探偵と殺人者。
偶像(ヒーロー)と脚本家(プロデューサー)。
そしてある意味では、未来の為に同じ台本を演じきると決めた共犯者。
シャーロック・ホームズとは、緋色の悪魔にとって光(ヒーロー)であり、そして同じ形の翼を持った悪魔だった。
その探偵のことを悪魔などと呼ぶのは世界でジェームズ・モリアーティぐらいしかいなかったが、そうとしか思えなかった。
何故なら、何故なら。
彼がいるというただそれだけで。
殺人者である悪魔(僕)の心に、生きたいという気持ちが起こってしまうのだから。
よりにもよって、悪の組織の親玉で、企むためだけに生きている毒蜘蛛で、シャーロック・ホームズの敵であるウィリアム・ジェームズ・モリアーティが。
『全てを投げ出し、彼と二人でずっと謎解きしていられたらどんなにいいだろう』などという、有り得ない生存本能(想い)にかられるのだから。
だから緋色の悪魔は、青い悪魔を突き放した。
己も落ちるかもしれないことを厭わずに駆け寄ってきて、不安定な足場へと共にすがりつく男の腕を振り払い、傷つけた。
独りだけで転落死することを選び、彼のことを助けたい理由は何故なのか、悪魔はもう知っていた。
生まれ変わっても、またこの手を取ってもらえたらいいなと願いながら。
ごめんなさい、ありがとう、という言葉を胸にしまいながら。
しかし、夜空を飛び降りた影は二つだった。
赤と青との二色の指輪がこぼれて落ちるように、地上の人々がかろうじて視認できるわずかな軌跡を描きながら、自由落下が始まった。
本当なら、緋色の影が下になって、先に落ちるはずだった。
けれど、青い影もまた、相手のことを生かそうとして、空中で追いついた。
アルキメデスの原理が生き物を水面に押し上げるように、ふたりの立場はくるりと逆転した。
探偵(ヒーロー)は犯罪卿(ダークヒーロー)を抱きしめ、守るように両腕でおさえ、己の身でかばうための受け身を取った。
そして二人の悪魔は、水面に叩きつけられた。
緋色の悪魔ではなく、青い悪魔が下敷きになって。
自由落下の果てに。
互いの殺人(相討ち)という形を通して。
探偵と犯罪卿の二人は、悪魔の羽を失い、世間的に死んで。
ウィリアムとシャーロックという二人の運命は、そこで永遠に交わった。
それが、『最後の事件』の最後に、本当に起こっていた事。
さらに幾千と幾万もの夜が流れ去って、時代は変わる。
舞台も、大陸の西端であるロンドンから、大陸の極東である東京へと。
様子見の予選が、蹴落とし合いの本選に移行したことを告げられてから、最初の朝。
大都会、東京の空白地帯。
そこは、連続失踪事件の嚆矢となる代々木行方不明事件のロストポイントから、そう離れていない裏路地だった。
入り込んでみれば、古びた鉄筋コンクリートの立ち並ぶ幅がぐっと狭くなり、まだ朝時間とは思えないほど強烈だった熱気が日陰でやわらぐ。
通りの表と裏で、空気が変わる。
時折、カンカンカンと踏切の音がうるさいことと、セミの鳴き声しか届かない静けさだった。
いつ解体工事が始められてもおかしくなさそうな、ボロボロの枠組みしか残っていないような数階建ての廃ビルで、その日最初の『相談受付』は行われた。
夜には不良ややくざ者の溜まり場になったりするのかもしれないが、それ以外の時間に出入りするのは、冒険心旺盛なモノ好きぐらいしかいなかっただろう。
しかし、もし目撃していても、『親切な留学生か長期滞在の外国人が、子どもの愚痴に付き合っているんだな』ぐらいにしか見えない光景ではあった。
相談役の恰好は、カッターシャツに薄手のアウター、金色の髪と緋色の瞳はこの国で歩き回るには目立つので、つばの大きなハンチング帽で隠すようにしている。
少年の特徴は学生服と、眼鏡と、手に取れる位置に置いているぶっそうなサバイバルナイフ。
ふだん会わない時は顔にガムテープか何かでも貼っているかのように、顔に粘着物のラインが引かれている。
『偉大(グレート)』と名乗るその少年に対しては、最初に出会った時から心を開かせていた。
小ぶりな物置をベンチの代わりにして、少年は毎日の鬱屈を吐露していった。
俺はもっとできるのに、誰も俺の価値に気付かない、家も学校もひどい、アンタみたいな優しい人は今までいなかった、等々。
愚痴の合間に、喧嘩で上手くいかなかったとか、一昨日は大変だったとか、具体的なトラブルの訴えも混ざっていたが、こちらは曖昧にぼかされている。
しかし聞き取って分析すれば、それが不良の喧嘩沙汰ではなくマフィアや暴力団めいた組織抗争の話題であることは明白だった。
極めて不愉快な苦々しさはおくびにも出さず、気の毒に、なるほど、それはすごいと相槌を打ち、話を促した。
優しい情感のやどった声で、適切なタイミングで、思いやりの見える所作で背中を叩き、涙にはハンカチを差し出す。
それは厳密には『相談』とはいえない、愚痴だ。
少年はあくまで『妙に話の合う外国人と、犯罪組織の話だとばれないように上手く誤魔化して雑談を楽しんでいる』だけのつもりでいる。
やがて少年はすっきりとした顔で笑い、また会いたいなと告げて裏道に消えた。
「ぜひ、また会えるといいですね」
少年にも告げた言葉を、にこやかに繰り返してそっと掌を開いた。
ハンカチを差し出した時に、引き換えに少年の手持ちから抜き取った包み紙だった。
その形状だけならば、千切ったミントガムのような嗜好品にも見える。
(麻薬の類。それも、界聖杯が自然発生させた設定ではなく、舞台上の登場人物が『持ち込んだ』異物)
どういうメカニズムで作用するのか、売人の所在まではまだつかめていないが、明らかな事実がふたつ。
麻薬を使って界聖杯の先住民を民兵に変え、マスターを襲撃させるような危険人物が少年のリーダー格だということ。
そのうち『偉大(グレート)』は、貴重な支給薬物の在庫が合わないことが発覚し、紛失のかどで咎められるであろうこと。
その際に彼が『とある外国人とおしゃべりをした後になくなっていた』ことに気付くか否かで、その後に打つ手は変わるが、おそらく――。
(『また会えるといいですね』……だ)
この世界でつくりあげた『相談者』たちとの関係はおおむね良好。
となれば、いよいよ進めるべきは本選まで生き残った他の主従との関係だろう。
『生還できるマスターは一人のみ』
この規則が断言されたことは、“モリアーティ”の策(プラン)にとって重要な意味を持っていた。
他の主従が『生還したければ聖杯を獲るしかない』と認識したことも重要だが、その重大告知に隠れてもうひとつの手がかりがある。
『敗者のその後の扱い』をわざわざ告知する余白が、界聖杯にあったことだ。
本当に勝者を出現させることにしか役割がない装置であれば、『敗者はどうなる』という疑問点に応える義務は無い。
勝ち残った主従が、勝ったときの告知をするだけに終始することになる。
プロファイリングと同じだ。
言動には、発話者の特徴があらわれる。
聖杯戦争の完遂だけを目的としている聖杯が『敗者の扱い』を伝達したのだから、それは聖杯戦争を円滑に運ぶためでしかない伝達行為だ。
(つまり聖杯は『勝たなければ死ぬと告げることが、追い詰められたマスターを殺し合いに駆り立てる』と理解している)
聖杯には、判断力がある。
界聖杯内部の状況を見極めたうえで、発言を選んでいる。
それが『聖杯自身の即興(アド・リブ)』なのか、単なる『習性(オートプログラム)』なのかまでは不明瞭だったが。
(ならばこの世界は、歪んでいる)
依頼人(マスター)は、『願いが叶うならば他人を蹴落としてもいい』などと祈ってはいなかった。
そして、予選によって殺された者たちも、合意のない契約が多く混ざっていたという確信がある――その証拠を、『偉大(グレート)』と会う前に入手していた。
本人の望まないところで蟲毒に放り込まれた者に、助かりたければゲームに参加しろと生存競争を強いるならば。
それは自らの領地に人を放り込んで銃で狩りたてるのと変わらない。
そして、人災ではなく自然災害だからという理由で、救済を放棄していい道理はない。
(帰還した世界で裁かれないからといって、『悪事をなすための悪事』は選びたくない……それは、マスターの望むところでもある)
ならば、他者の蹴落としではなく、儀式を破壊して終わらせる道をぎりぎりまでは模索すること。
善を愛する悪の毒蜘蛛(モリアーティ)としても、一人の少女を依頼人(マスター)として認めたサーヴァントとしても、その方針は固まっていた。
(現状、聖杯戦争(ゲーム)の遂行方法に関しては、一切の反則や罰則が設けられていない。
だが、戦争の進行そのものを停止しようとする動きが出た場合には、そうであるとは限らない)
古今東西、『機構(システム)』として成立しているものを壊すための手段は大きく二つだ。
一つは、システムを自在に操作する権限と技を獲得し、システムを外側から改修すること。
一つは、システム自身が自壊せざるを得ない状況をつくること。
モリアーティ・プランは前者(国家中枢への侵入)と後者(犯罪の劇場化)の合わせ技だった。
だが、界聖杯の聖杯戦争において、前者の成立を目指すことは望み薄だろう。
魔術、魔法に熟達した英雄となればキャスタークラス、ないしそれに匹敵する可能性を秘めた魔術師の協力が不可欠だが、これまでも界聖杯の予測を超えるような熟達者が参戦しているという情報には乏しい。
そもそも『敗者は生還できないことを直前に伝達する』というような予防線を張った進行をするからには、儀式そのものを破綻させる者を招かないようにする構造になっていてもおかしくない。
おそらく『召喚されたキャスタークラスの母数が少ない』か『聖杯戦争の完遂を望むキャスターしか召喚されていない』といった補正があるのだろうと検討をつける。
ならば当面の策(プラン)は後者を主体とすべき。
『界聖杯』に対して『このままでは勝者が生まれない』と結論せざるをえない状況を作る。
つまり、『他のマスターを犠牲にしてまで願いを叶えたくないと望む主従のみが複数、残存している状況』を最終局面とする。
それは、『聖杯が悪党(ヴィラン)によって悪用されることを阻止する』という兼ねての目的にも沿ったものとなる。
『参加を望まない者に対して命を脅かして競争させる』という常套手段(セオリー)を講じる箱庭ならば。
儀式の進行がいよいよ止まったことを『非常事態』として理解するだけの知識を持っていると見なした方が合理だ。
そうなれば聖杯は、『儀式の失敗』という結論を出すか、『儀式を強引にでも終わらせる』べく新たな告知を出すような足掻きを起こすかの二択。
それが、『聖杯を破壊するために付け入る隙』となるものであれば良し。
だが、そうでなかったならば。
『誰もが聖杯戦争を否定するという異例』にさえも、聖杯はまるで隙のない措置を講じてしまえるようであれば。
ここまでは、マスターを共犯者として二人三脚で挑まねばならない策。
そして、ここから先は己の胸だけに秘めなければならない計画。
マスターを置き去りにして、たった一人だけで背負わねばならない十字架だ。
その時は、その状況を作った上でなおマスターを生還させる責任を果たす為、『全ての同盟者であったマスター』を暗殺する。
それがもっとも厳しい道になることは理解している。
多数のマスターやサーヴァントの誠意を踏みにじって裏切るという意味でも。
そもそもサーヴァントとしてのモリアーティは『善の性質を持ったサーヴァント』に極めて弱いという意味でも。
だが、己がマスターの生還は、依頼として請け負った絶対の遵守事項だ。そして、すでに彼女は『一連托生の契約』という報酬を支払っている。
犯罪卿という悪魔だった時点でのモリアーティにとって、『命を対価にした契約』は絶対だ。
それだけでなく、彼女との契約は『それ以上の報酬』もすでに与えてくれた。
そうなってしまえば犯罪卿は、己のエゴを優先し、主の生還を望むだろう。
もっとも、聖杯にすがるしか先の無いマスターを最終局面に残すのは難しいという判断を下している時点で、すでにエゴであると言えるのだが。
そして、その責任は田中摩美々に発生しない。
彼女には、『悪魔のようなサーヴァントに生還をちらつかされて騙されていた、何の罪もない少女』になってもらう。
あんな悪党に騙されていたのなら彼女は悪くないと、たとえ暗殺が失敗して討ち取られても摩美々は免罪されるように、できるだけ無垢でいてもらう。
(それ以上の奇跡を示してくれるヒーローが都合よく現れるというのなら別だけど……人生で、何度もそんな奇跡は起こらないか)
それ以前に、まず前段階として『悪いサーヴァントをやっつけろ』というのが関門でもあるのだが。
かつての家族(ファミリー)が知ったらまた顔を真っ青にするだろうなぁと苦い顔になる。
――兄さんは働きすぎです。たまたま招かれただけで、そこまでする義務はないと思います!
――私は『過去未来全ての世界を救おう』とまでは言わなかったぞ。誰がお前にそこまでやれと言った?
弟が必死になり、兄が顔をしかめる様がありありと想像できる。
しかも今回ばかりは、そういった声の方が正論だった。
そこまで付き合う義理は無い。それも正論に思われたのだが。
(『シャーロック・ホームズ』は、この時代でも有名なんだよ……)
知ってしまった。
あの『大英帝国最盛期(パクス・ブリタニカ)』が終わってから、世界がどのように変わったのかを。
現界にともなって与えられた知識で。東京から出られないなりに飛び込んできた情報で。
コナン・ドイルはワトソンのペンネームではなくフィクション小説の作家という史実になっていて。
ホームズもモリアーティも、実在の人物ではないという世界ではあったけれど。
シャーロック・ホームズの活躍は、『謎を解く者がやって来る』という概念を産みだした伝説になっていた。
『俺もこの世界を守っていく! だから、お前も――』
それは約束だ。
あの時代のあの島国の、みんなのヒーロー。
そして、ウィリアム・ジェームズ・モリアーティーにとっての、ただ一人のヒーロー。
みんなのヒーローで、たった一人のためのヒーローという相反する兼任を当然のようにやってのけた名探偵。
『ライヘンバッハの滝』から犯罪卿とともに墜落してなお蘇り、事件に怯える小さな悲鳴を救い続けた絶対の救世主。
未だに小さな悲劇は無数にあった。
界聖杯の内側だけとっても、麻薬は流通し、連続殺人が起こり、明白な悪党(ヴィラン)がいる。
それでも、未来の世界では、通行人がすべて隷属者の眼をしているなんてことは無かった。
日常に根差した偶像(アイドル)が、たくさんの笑顔をもたらしていた。
それはこの東京だけでなく、大陸を挟んだ遠くにある祖国でもそうだった。
命の価値が平等であるという価値観は、『当たり前』になっていた。
世界は緩やかではあれど確実に、人の努力で変わっていた。
『これから生きるに値する世界になる。きっとなる』
あの日、あの時代に、二人で立って眺めた荒野の同じ地平線。
その地平を超えたはるか先に、彼女たちの世界があることを理解した。
名探偵(ヒーロー)は、『世界を守っていく』という約束を守った
そのことを知る機会を貰えたのが、摩美々(マスター)から与えられた最大の報酬だ。
ヒーローが残してくれた世界に悪党(ヴィラン)の手が伸びるのは、シンプルに耐え難い。
そう、耐え難いのだ。
いつだって、手が届かないのは。
麻薬を予備のハンカチで包み込んでしまいこみ、マスターと合流すべくステッキを握りしめた。
刹那、ステッキにみしりと握力がかかり、今はまだ感情を抑制しろという意識が伝わるにつれて収まった。
善良な『白』の文字を姓に背負った政治家を護れなかった時と同じように、緋色の瞳から見える景色がぐらりと揺れ、怒りに濁る。
――そして今回、田中摩美々の友人だった彼女の姓にも同じ『白』という言葉が入っていたのは、極めて嬉しくない皮肉だ。
摩美々がまだ朝食やら化粧やらで忙しくしていた早朝、ウィリアムはその学生寮の外観を眺めていた。
観察してすぐに、不自然な不在があると察して侵入した。
簡易なタイプの内錠であれば、開錠のやり方を『探偵』から間近で見学していることもあり、すぐにできた。
霊体化せずに入室を果たせば、室内の物品を外に持ち出すことができる。
痕跡を残さず自室の捜索を行うことは、犯罪慣れした者にとっては難しくない。
警察がやがて踏み入ることを警戒して、そこに残されていた手紙は原文を残し、写しを取って持ち去るにとどめた。
それが『偉大(グレート)に会う前の早朝』のことだった。
そして先刻、『偉大(グレート)』と会話したことで裏取りは盗れた。
一昨日の夜、いきなりリーダーから呼び出された。
リーダーの客人の外国人が海に転落したとかで、救助活動でてんやわんやだった。
見るからに新人である彼が麻薬のおこぼれを持っていたのも、その救助活動で必要だったが故のことだった。
自室を観察したことで把握できた、『彼女』の足取りの方向や時間帯と、一致することも確認できた。
そして、口から押えきれなかったらしく『偉大(グレート)』がこぼした、『あの千夜アリア、好きだったんだけどなぁ』という呟き。
その上で、これから己は選ばねばならない。
屋外の仕事で忙しくしており、いまだにニュースを知らない可能性がある少女の元へ。
その手紙を見せるべきかどうかを。
【渋谷区・代々木近辺の廃ビル/一日目・午前】
【アサシン(ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ)@憂国のモリアーティ】
[状態]:健康
[装備]:現代服(拠出金:マスターの自費)
[道具]:ヘルズ・クーポン(少量)、白瀬咲耶の遺言(コピー)
[所持金]:現代の東京を散策しても不自由しない程度(拠出金:田中家の財力)
[思考・状況]
基本方針:聖杯の悪用をもくろむ主従を討伐しつつ、聖杯戦争を望まない主従が複数組残存している状況に持って行く。
1:『彼(ヒーロー)』が残した現代という時代を守り、マスターを望む世界に生還させる。その為に盤面を整える。
2:マスターと合流。白瀬咲耶の自室から見つかった手紙を見せる?
3:"もう一匹の蜘蛛(ジェームズ・モリアーティ)"に対する警戒と嫌悪。
投下終了です
トリップを紛失してしまったので新酉で失礼します、元◆K/OhcGvM.Mです。
人に割れるようなキーではなかったはずなので大丈夫かとは思いますが、問題あるようでしたら言ってくださればと思います。
遅れてしまいましたが拙作を採用いただきありがとうございました。
北条沙都子を予約させていただきます。
>>サムライハート(Some Like It HURT)
登場人物全員の描写がとんでもなく良くて、おもしろ〜〜〜〜!!ってなりながら読ませていただきました。
おでんとあさひの絡め方もそう来るかという感じで、そこからマスターバレの展開も怒涛。
純粋な体格問題など序の口と言えるほどの力の差があるにも関わらず挑みかかって、予定調和のように完敗するあさひくんがいじらしい。
とはいえおでんもおでんで聖杯戦争の非情な側面の一つを目の当たりにして後味の悪いものを抱いている辺りが"らし"くてよかったです。
そして縁壱対デッドプール、カッコ良すぎる。縁壱の圧倒的な強さをトリックスターのデッドプールの視点から危険視させることで説得力がめちゃくちゃ増してるのが非常にテクニカルだなと感じました。
二人の会話も大変良く、縁壱とデッドプールという本来交わることの絶対にないキャラ同士のこういう会話が読めるのはやっぱりクロスオーバーならではだなあと。
とても面白かったです、素敵な作品の投下ありがとうございました!
>>ある少女のエピローグ
そういうやり方で状況を動かしてくるか……!と思わず唸らされた一作でした。
本戦に辿り着くことなく命を落としたマスター・咲耶を絡めて話を転がしていく発想と手腕がとても素敵です。
ビッグ・マムVSネモ船長普通に読みたいな、と思わせてくれるところも含めて感嘆しっぱなしでした。
さて、そしてNPCの大石さんを使ってシャニPに咲耶の件を知らせ、そこから猗窩座との対話に持っていく構成も上手い。彼を厳しく叱咤しながらもそのサーヴァントであろうとする姿は、さながら伯治と猗窩座の中間のよう。
と、そこまで読んでからの最後の遺書。このお話の締めくくりとして相応しいのももちろんですが、シャニPのみならずアンティーカのアイドルも参加している以上これはかなりの波紋を生んでくれそうな。
状況を動かすパワーとテクニックをこれでもかと感じる一作、お見事でした。
>>TWISTED HEART
キャラクター一人もといサーヴァント一体で此処まで話を面白く仕上げられるものかと驚かされました。
まず原作から引き継いだが如き濃ゆい心理描写が素敵でした。当企画はキャラクターの巨大感情を応援しているのでニコニコになりますね。
されどそれは序の口で、本題となるのはウィリアムによる考察と方針の策定。界聖杯に対する推理や分析、キャスタークラスが少ないことに対してメタ的なものでない理由を付けていく辺りなどさすがの頭脳という感じ。
全員が幸せになれる結末に見切りをつけることも厭わない情と理を切り離した判断能力も大変彼らしい。
そして一番良いなと思ったのは、摩美々から受け取った"報酬"のくだりですね……なるほど確かにこれはウィリアムにとっては最高の報酬だなあと。キャラ理解力の高さをひしひしと感じさせられました。
この舞台を考えた企画主としても読んでいてとても楽しい考察話でした。
皆様、投下乙です。
>サムライハート(Some Like It HURT)
あさひは元の世界で過酷な境遇だったので、この世界でも悲惨な目に遭っちゃいましたが……おでんのおかげで穏やかな一時を過ごせましたね!
お互いをマスターと知って、あさひはおでんに戦いを挑みましたが、やっぱり負けましたか……
でも、おでんの優しさに触れて、今だけは休むことができて本当に良かったですね。
緑壱とデップーの戦いも濃厚で、圧倒的な力を誇る緑壱を前にしてもあさひだけのヒーローで居続けるデップーは、本物のヒーローだと思いました。
>ある少女のエピローグ
さくやんがまさかこんな形で聖杯戦争に関わり、そして敗退していたとは……
ガムテやマムという強敵たちに最後まで必死に戦っていたのでしょうが、グラスチルドレンという兵力によって敗れるとは切ない。
しかもガムテたちは283プロを襲う予定なので、アイドルたちの今後が不安になりますね。マムや黄金球に癒されただけに。
そしてプロデューサーの方もさくやんのことで涙を流し、自分の弱さに苦しみながらも猗窩座と共に歩くしかない姿も悲しい。
最期、さくやんが暖かいメッセージを遺してくれたことがわかりましたが、これがシャニマス勢にとって希望になるといいですね。
>TWISTED HEART
ウィリアム兄さんの考案は本当に濃厚ですし、呼び出されたサーヴァントの数や聖杯戦争のシステムについての仮説はどれも見事です。
まみみんを第一優先に考えて、いざとなれば自分一人が大罪を背負うことは変わらないものの……ウィリアム兄さんなら絶対に諦めないでしょうね。
既にまみみんはウィリアム兄さんにとってマスターである以上に、とても大きな報酬をくれた大恩人でもありますし。
ヘルズクーポンやさくやんの遺書もゲットする手腕も流石です。
予約分投下します
「死ぬことを忘れるな」
───ミュリエル・スパーク
「生きることを忘れるな」
───アリ・スミス
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
正しいことを、正しいときに、正しいように行ってただの一度も間違えない。
挑戦しながら成功し続けて、明日を目指す前進は常に喜びで満ち溢れている。
人は誰しもそういうものに憧れてしまうけれど、では実際にそうなれるかと聞かれると、答えは否だ。
出来る奴は最初から出来てしまうし、出来ない奴はいつまでも出来っこない。いくらそう在りたいと願っても、人は海を泳ぐ魚にはなれず、空を舞う鳥にもなれない。
だから特別な存在とは、大半の人間が成れないからこそ特別なのであり、喜びのまま輝ける王道を歩めるのは、一握りの文字通り選ばれた人間に限られるのであり……。
そして仮に、願いを叶えたとして、それで幸せになれるかはまた別問題だろう。
正しければ、素晴らしければ、正道を目指していればただそれだけで福音が訪れるほど、人間は単純な生き物ではない。
強者には強者の、弱者には弱者の、それぞれに適した道というものが存在する。諦めを知れ、というわけではない。果たすべき使命とかそんなこと関係なしに、納得して、最後に笑えるかどうか、という話だ。
人は様々存在する。アシュレイ・ホライゾンはその人生の中で、そうした多くの人間を見てきた。強者も弱者も善人も悪人も、そうした何かにカテゴライズされない中立中庸の大多数の人間も。
その上で、マスターである彼女を評価するならば……。
───七草にちかは、弱い。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「これからどうすればいいんでしょうか……」
小さく呟かれたその言葉は、けたたましく喚かれる蝉の鳴き声に掻き消されるように、木々の隙間に溶けていった。
都内某所の片隅にある公園の中に、七草にちかの姿はあった。半袖の無地の服にスニーカーというラフな格好をして、何をするでもなくベンチに座っている。
額に僅かな汗を浮かべ、晴天の陽射しは挑みかかるような強さで降り注いでいるものの、都会というコンクリートジャングルの中にあって緑を失わない自然公園には涼やかな風が流れ込み、ある程度は過ごしやすい環境になっていた。
学校に行く気にはなれなかった。聖杯戦争という殺し合いが起きているのに、身動きできない教室の中で無為と分かっている時間を漫然と過ごすのは、嫌というか、何となく怖かったのだ。まあ、そうやって逃げ出したところで何ができるわけでもないのだけど。
「そこらへん、ライダーさんはどう思います?」
「……難しい質問だな」
問うたにちかの声の先に、一人の人影が存在した。
白いジャケットを羽織った痩身の、しかしその内実はかなり鍛え上げられているだろうことが分かる男だ。少年、と形容してもいい。歳の頃はにちかとそう変わらず、少なくとも成人はしていないだろう。
名をアシュレイ・ホライゾン。今回の聖杯戦争に際しては、騎乗兵(ライダー)のクラスを宛がわれた、七草にちかのサーヴァント。
彼は少し考え込むように視線を伏せると、ややあって口を開く。
「少なくとも、当初の見込みより厳しい道のりになったことは確かだ。俺は最初、最悪の場合は俺との契約を切って聖杯戦争が終わるまで隠れているのも手だと思っていたけど、その手は使えなくなったからな」
「生き残っても界聖杯がなければアウト、ですもんねー……」
はあ、とため息を一つ。鬱々とした心が更に重くなる。
残存主従が二十三組となり本戦が開始されたことが告げられた時、初めて開示された生存条件である。
"界聖杯を手に入れた一組だけが、生還の切符を手に入れられる"。
それは願い持たぬマスターにさえ、生き残るという燃料と免罪符を押しつける通達だった。界聖杯を使おうが使うまいが、生存可能な人間は最大でただ一人きり。
この通達が成された以上、これまでは戦いに消極的だった主従でさえ、方針転換を決めた者は少なくないだろうと予測できる。
「俺達も同じだ。生きて帰ることを目指すなら、最終的に界聖杯と対峙することは避けられない。けど」
「けど?」
「その上で俺から提示できる道が一つある。確実とは言えないけど、マスターだけじゃなく他の人たちも一緒に生き残れる道だ」
一拍置いて、アッシュが続ける。
「マスターは俺の宝具を覚えているか?」
「えっと、コピーと炎と、コピーの凄い奴でしたっけ……? でも三つ目はまず使えないんでしたよね?」
「厳密にはもう一つあるんだけど、まあ大体その通り」
にちかの言は正しい。今のアッシュが扱える宝具は、事実上ペルセウスとハイぺリオンの二つだけだ。界奏に関しては使用条件が厳しく、烈奏に至ってはむしろ絶対に使ってはいけない代物であるために。
少なくとも、敵と戦い勝ち残っていくにあたっては、前半二つの力のみで何とかしていく必要があるのだが、しかし。
「俺の第三宝具、スフィアブリンガーを使う。戦いにじゃなく、界聖杯それ自体に対して」
界奏/スフィアブリンガーの効力とは、有体に言ってしまえば異能や宝具のレンタル能力だ。
英霊の座という、サーヴァントの元となった英霊たちが登録されている高位次元に直接干渉し、相互認証という条件が果たされる限りにおいて他者の能力を共有し、使用するというもの。
そこに数や性質といった制限は一切ない。
百であろうが万であろうが、アッシュが望み相手が受諾している以上は全て同時に行使可能であるし、戦闘以外のものであっても、傷を治す癒しの力や過去未来を見通す千里眼のような力であっても対象の中に入り得る。
まさしく万能であり、聖杯戦争の舞台において反則以外の何物でもないこの力を、界聖杯そのものに使用するということは、すなわち。
「界聖杯の機能そのものを書き換えるんだ。一組以外生き残れないと聖杯が告げるなら、そんなルール自体をぶっ壊してやればいい」
「そ───」
力強く語られるアッシュの声に、ぽかんとした表情だったにちかは、徐々にその言葉の意味を理解していき。
「それ、すっごいじゃないですか! というかそんなことできたんですか!? それならそうと最初からやってくださいよーもー!」
「ごめん、まだ話は途中で大事なのはこれからなんだ。というか事はそんなに簡単じゃない」
スフィアブリンガーはその性質上、汎用性の怪物とも言うべき力だが、もちろん相応のデメリットも存在する。
中でも最たるものは、甚大に過ぎる魔力消費だ。界奏は本来、自他の共同作業によって発動する力のためリソース消費という概念とは無縁だった。しかし、サーヴァント化による枷、スフィアの発動条件である「想いを共有する唯一無二の誰か」の欠如、アクセス先の上位次元が第二太陽(アマテラス)のみならず英霊の座を含めた可能性域にまで拡大したことによる消耗の増大など、そうした負債の数々をアッシュ自身の魔力という形で埋め合わせる必要性が出てきてしまっているのだ。
その消費量は、極悪の一言。ヘリオスという竜の炉心すら上回る魔力生成機関を持つ今のアッシュでさえ賄いきれず、またマスターであるにちかに魔術回路が皆無であるという現状を踏まえ考えるならば……
「令呪三画を使って、一回きりの発動。それも維持できるのは短時間……ってとこかな」
それが今のアッシュたちの限界だった。アッシュ自身は魔術の薫陶を受けていないため正確な軽量ができているわけではないが、的外れな推測ではないだろう。
聖杯戦争のマスターの証明であり、また虎の子の切り札でもある高純度の魔力塊たる令呪。等しく与えられた三画のそれを全て費やして、一瞬のみの発動。
アッシュの出した案に従うならば、その一瞬だけであらゆる全てを解決する必要があった。
「仮にこの案で行くなら、クリアすべき条件は界聖杯の座標の特定と、改変可能な能力の模索。そしてそれまで俺達が生き残っていられることか」
スフィアブリンガーは相互認証によって成り立つ力だ。
それは相手方の承諾を得られるかどうかが肝ということだが、同時にアッシュ側からも譲渡を望まなければ共有は成立しない、ということである。
スフィアは魔法のランプにも例えられる力ではあるが、何から何まで至せり尽くせりの都合がいいものではない。誰がどんな力を持っているかも分からない状態で、「こんな状況にあるからこれを解決できる力を持っている人がいたら貸してください」と呼びかけたところでそう都合よく首尾が運ぶわけではないのだ。
無論、時間をかけて呼びかければ話は別だろうが、前述したように発動時間は一瞬のみ。だからこそ、欲しい能力を持つ人物を特定した上で、その誰かへ最短最速で呼びかける必要があるのだ。
界聖杯の座標の特定についても似たような理由である。今どこに存在するのか、そもそも界聖杯はどういう仕組みで一体どのようにして構成されているのかも分からない状態で、さてこれを改変できる能力とは一体何かと考えても意味がない。
探索や解析の力を借り受けるにしても、やはりここでも時間制限という壁が立ちふさがる。スフィアブリンガーが担えるのは、事実上「界聖杯の改変」という最後の工程のみ。そこに至るまでの諸々は、アッシュとにちかでどうにかしなければならない。
「んー……それじゃあ、ライダーさんの知ってる人でどうにかできそうな人はいないんですか?」
「いるにはいるけど、今回はちょっと無理かな」
人差し指を唇に当て問うにちかの横顔に、かつて邂逅した人界に青空をもたらした青年の影を重ねて、アッシュは苦笑する。
ラグナ・スカイフィールド、人奏/スフィアゲイザー。
誰かに想いを託していくという当たり前の喜びをこそ尊んだ彼らの至った究極とは、過去現在未来において人類が成し得る「全て」を行使するというもの。
それは物質文明の軛を越え、魔法科学の領域にまで踏み込んだ"未来"を形作る星光。人という種族がいつか必ず至る数多の叡智を、目の前に描き出すという極晃星。
彼らが思い描くならば、星の海を半永久的に飛翔する方舟だろうと、衛星規模の光子結晶から成る大演算機関(オルディナトゥール)であろうと、時を遡行して原初の時代へ帰る偉業であろうとも具象化できる。
界聖杯の改変という目的を前に、これ以上はないと言える力であり、生前において友好的な関係を築いているがために共有の要請にも快く頷いてくれるだろうが、しかしこれに頼ることができない理由が存在した。
まず第一に、スフィアという魔法級の権能を十全に降ろすには、今のアッシュの霊基では到底足りないということ。
そして第二に、そもそも人奏というスフィアは既に特異点から抹消されているため、スフィアブリンガーを用いても降誕させることはできないということだ。
それはあまりの汎用性と人類社会への影響力を考慮して、後世における悪用を防ぐためという意味も持っており、アッシュ自身もその決断を寿ぎはしたのだが、今回の場合は裏目に出たということになるだろう。
「まあつまり、『これからどうするか』って質問の答えとしては、『界聖杯の場所とそれをどうにかできる能力の持ち主の情報を探そう』ってことになるかな。
そのためにも他のマスターやサーヴァントとは積極的に接触したいところなんだけど、必然として悪意を持つ相手や戦意に溢れた相手とも多く出会うことになる。だから不安があるなら他の……」
「いえ、それで行きましょうライダーさん!」
と、「戦う機会と死の危険性が増えるからもう少し慎重に行こうか」と言おうとしたアッシュを遮るように、にちかの賛成の声が響いた。
明るい声、ではあった。希望に満ちたというか、光明を見つけたような声音。
何かを誤魔化すような、声。
「いやー、目標ができて良かったですよー! やっぱりこういうのは、最初にきちんと決めておかないとダメですからね!」
「……マスター」
「ほんと運が良かったっていうか、幸先が良いっていうか。私のサーヴァントがライダーさんでほんとに良かった……」
「マスター」
今度は、アッシュがにちかの言葉を遮る番だった。
不自然に明るい声。努めて前を向こうとする言葉。それが何を意味するかなんて、考えるまでもなく自明であったから。
「焦らなくていい。君は、無理しなくていいんだ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
───あなたが愛した偶像は、どんな顔をしていますか?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「……今無理しなくて、いつするって言うんですか」
空気が、変わった。
空回りする熱気は過ぎ去り、澱んだ停滞感めいて圧し掛かる気怠さが、辺りを包み込む。
僅かに顔を伏せ、前髪に瞳を隠した彼女は、何かを噛みしめるように呻きを漏らす。
一見するならば。
酷い変わり様なのだろう。年相応の幼くも溌剌とした姿から、鬱屈とした有り様への変貌である。
しかし、アッシュに去来した感情は、納得であった。
ああ、と得心する。
彼女は、にちかは、何も変わってなどいない。
そうだ、彼女は最初から───
「ほら、ライダーさんだって分かってるじゃないですか。私、弱いんですよ。
ライダーさんは石ころだって上等だ、って言ってくれましたけど……でも、認めてもらえたって事実は何も変わらないんです。
弱くて、ちっぽけで、役立たずで、頭も悪くて……ならせめて、足並みくらいは揃えたいって思うじゃないですか」
でも───私は足が遅いから。
全力で走りつづけなきゃ、前を歩くあなたに追いつけない。
ライダー、アシュレイ・ホライゾン。
眩くも雄々しきあなた。
優しくも気高きあなた。
あなたの枷にはなりたくないんです。足手纏いにはなりたくないんです。
私が無能なのは知ってるけど。できることなんて何もないことは分かっているけど。
役に立ちたいなんて、贅沢は言わないけれど。
けど、せめて、のろまな私なんかのために、立ち止まって欲しくはないから。
「ご、ごめんなさい……いきなり、こんな……
というか、私別に、無理、なんてして、ないので……
ライダーさんが気にすることなんて」
「にちか」
声がする。横ではなく、正面から。
にちかと目線を合わせるように、膝を屈め、アッシュは真っ直ぐ彼女を見つめる。
その瞳に、暗い要素は微塵もなくて。
「俺は置いていかないよ」
「……」
「君を置いて、いったりしない」
そう言って笑いかける彼に、私は一体何を返したら良いのだろう。
言葉なく小さく震えるにちかを、そっと労わるように。彼は続ける。
「……こういう時は覚悟を決めろとか、前を向けとか、迷うな立ち止まるなとかよく言われるけどさ。でもそんな無茶振りやってられないさ。
昨日まで平和な日常を送っていた人間が、いきなり戦う力だけ渡されて、じゃあすぐさま戦場に適応して強く格好良く活躍できますだって?
バカを言え、そんなことができるのは英雄だけだ」
小心者はどこまで行っても小心者で、生まれ変わるのは無理難題。何かを決意したとしても、人はそれまで培ってきた人生の積み重ねで出来ている以上、簡単に変わることはできない。
アッシュだってそうだった。
平和な日常に突如やってきた終わりの時。家族を殺され、幼馴染と離ればなれになり、そんな自分は何ができた? 何をした?
何もできなかったし、何もしなかった。立ち向かうなんて考えもせず、自暴自棄になってつまらない傭兵稼業でうだつの上がらない日々を過ごした。
それに比べれば、彼女は十分立派に頑張っているだろう。過去の自分に「こんな凄い女の子がいるんだぞ!」と見せつけてやりたいくらいだ。
「それに、戦場や死を忌む臆病さを、俺は悪いとは思わない。
むしろ健全じゃないか。血や痛みを何とも思わない、誰かを殴っても何も感じない、誰かが死んでも気にせず前を向いて歩いていける。そんなのは人でなしの才能だ」
如何に理由をつけても、暴力は暴力。己が理想を通すために他者を轢殺する、それ以外では何の役にも立たない鬼畜外道のパラメータだ。
人殺しが巧いからと言って、そんなものは何の自慢にもならないだろう。
「俺は兵士(おれ)で、君はアイドル(きみ)だ。
立場の違いに良い悪いなんてないし、無理して変わる必要もない。君はそのまま、ありのままの君でいてくれたらいい」
「……結局、私は役立たずのままじゃないですか」
「役割分担だよ。俺の仕事は君を守ること。君の役目は未来を紡いでいくことだ」
役目を終えれば数日で消え去る影法師たる自分とは違う。彼女に待ち受けるは人生という名の大航海。
何十年にも及ぶ生涯を全うすること。それは想像もつかないほどの大偉業だ。
ならばこそ、アシュレイ・ホライゾンは七草にちかの旅路を祝福する。
きっと何者にもなれない幼年期の終わりに、尚も何かになろうと足掻く彼女のことを尊敬する。
「それでも君が、足りないと思うなら───君の夢を聞かせてほしい」
「夢……?」
「ああ。アイドルになったその先、君の夢見たことを聞かせてほしい。
男は馬鹿で単純だからさ、それを言ってくれるだけで、必ず守ってやろうって思えるんだ。
その言葉だけでどこまでも強くなれる、まるで無敵のヒーローみたいにさ」
問われたにちかは、何かを言おうとして、言い淀み、やがておずおずと口を開いて。
「……家を」
「うん」
「家を、建てたいんです。家族のために。
お姉ちゃんとか、お爺ちゃんやお婆ちゃんや、今は病院にいるお母さんや、今はいないけどおじさんたちや……
未来の家族になる人たちが、ただいまって帰ってこれる、そんな場所を作りたいんです」
「ああ───」
アッシュは安心したように破顔する。
暖かな日常の風景、ありふれた日々の記憶を、その目で垣間見て。
「改めて誓う、俺は君を守ろう。だから君は、君の夢を守ってくれ。
誰に憚る必要もない。何を気に病むこともない。
ありふれた人間である君をこそ、俺は守りたいと願ったのだから」
そうしてアシュレイ・ホライゾンは、七草にちかの手を取る。
それは聖杯戦争開始直後のこと。未だ街が地獄と化す以前のことであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
七草にちかは弱い。それは変えようのない事実だ。
力が足りない、知恵が足りない、心が足りない、魔道が足りない。
ないない尽くし、どこにでもいるありふれた人間。常人の平均値、突出した面は見られない。
だからこそ、七草にちかは強いのだと、アッシュは考える。
正しさや能力や、そんな優劣の話ではない。そんなことはどうでもいい。
そもそも、生まれつき力も勇気もある人間が結果を示す、そんなのは当然のことだ。鳥が空を飛べるのと何も変わらない。
輝くのは、価値があるのは、そんな強さを生まれ持つことができなかった者が、勇気を示して見せた瞬間だ。
簡単な話だ。だってそれは、俗に英雄と呼ばれる者たちでは絶対にできないことだから。
彼らはいつまでも、空を飛ぶことしかできない。過去にある嘆きを振り返って尚勇気を以て道を示すことは、前しか向けないことよりもずっと偉大で尊いと思うから。
夢破れ、現実に叩き潰され、足りないものをこれでもかというほど見せつけられ。
打ちのめされてボロボロになって、地べたを這いずり回って泥だらけになって。
それでも諦めなかった七草にちかのことを、アシュレイ・ホライゾンは眩いものと仰ぎ見るのだ。
【渋谷区・代々木公園/一日目・午前】
【七草にちか@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[状態]:健康、精神的負担(中)
[令呪]:残り三画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:高校生程度
[思考・状況]
基本方針:283プロに帰ってアイドルの夢の続きを追う。
1:殺したり戦ったりは、したくないなぁ……
2:ライダーの案は良いと思う。
[備考]
【ライダー(アシュレイ・ホライゾン)@シルヴァリオトリニティ】
[状態]:健康
[装備]:アダマンタイト製の刀@シルヴァリオトリニティ
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:にちかを元の居場所に戻す。
1:界奏による界聖杯改変に必要な情報(場所及びそれを可能とする能力の情報)を得る。
2:情報収集のため他主従とは積極的に接触したい。が、危険と隣り合わせのため慎重に行動する。
[備考]
宝具『天地宇宙の航海記、描かれるは灰と光の境界線(Calling Sphere Bringer)』は、にちかがマスターの場合令呪三画を使用することでようやく短時間の行使が可能と推測しています。
投下終了です
投下お疲れ様です!
にちかは弱く、今だって戦うことを恐れていますが、そんな彼女を優しく丁寧に励ましてくれますね。聖杯戦争打倒の方法についても考えていますし。
そしてアッシュはにちかの不安にもちゃんと寄り添い、人間としての優しさを評価してくれるのでまさに理想のサーヴァント。
どんな苦境に立たされても、絶対に立ち上がろうとする二人は輝いて見えました。
そして自分も田中摩美々、アサシン(ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ) を予約します。
皆様投下おつです。
こちらも予約分を投下します
鬼となった者に、穏やかな朝というものは二度と訪れない。
朝日とは鬼の天敵。日輪刀を遥かに凌ぐ絶滅の極光。
外道の全霊を裁く天道が遍く時間を過ぎ去るまでは、闇から出ること能わず。
指先ひとつでも出せばすぐさま焼け付き塵に還る。
屋敷に、木陰に、岩の下に、みじめに逃げ込み引きこもらけねばならない無様さ。強さの代償。喪われた長閑な生。
例え霊体に身を変えていようと、死活に直結する以上は陽が差してくる感覚には鋭敏だ。
視覚は閉ざされた霊感のみの世界だが、肉を透かして通る光の想像に、否応にも拒絶反応が出てしまうのだ。
落ち着ける場所は自然と日陰になり、身じろぎひとつに注意を払う。生前の習慣とは中々抜けるものではないらしい。
夜明けから夕刻までは霊体化したままでも軽々に動くべきではない。予選の期間に学んだ教訓だ。
結論。夜が明けてからの活動は、どうしても手持ち無沙汰にならざるを得ない。
(セイバーさん……今日も行ってきます……!)
(…………………)
黙殺。
(……ふふっ……!)
(…………………)
応えていないのに返事があったように喜ぶ。今のやり取りの何処に、可笑しい部分があったというのか。
常に沈黙で返してる朝の遣り取りも、続けていれば否応なしに日課のひとつになる。
見える心理は健常のそれだというのに、此方を気にかける言葉ばかりかけてくるのは得体が知れない。
脳を介して直接声を届かせる会話は慣れたものだが、今ではなんともいえないむず痒さがある。
自分の心の奥底を隠し立てる必要のない、全てを知られている支配に、安心すら憶えていたというのに。
逆に今は、他者に自分の内側を覗かれてる事に妙な苛立ちが嵩んでいくのだ。
「……うん、今日も上手く巻けてる……。いいことがあるかな……」
今もって、この娘の考えは理解に及ばぬ。
雲の翳りもなく日照が続くのもあって、この鬱屈は夜が更けるまでまだ晴れはしない事もまた、通例だと理解していた。
朝餉を済ませ、身支度を整え、住居を出て行く。
二つに結わえた銀の髪が歩行の度に揺れている。ぱたぱたと足早に目的地に向かっている。
不安などない、心配する事柄などないかのように歩く様を、闇の中で後方から眺める。
幽谷霧子。自身のマスター。
令呪を刻まれているというだけで、主と定めたわけではない娘。
一度としてあの娘をマスターと呼んだ事はない。あれはあくまでも己をこの場に繋げ止める『要石』の役目でしかない。
何故あのような弱者が上弦たる己を喚び出せたのか。聖杯戦争の本戦が開始されてもその理由ははっきりとしていなかった。
予選の期間中に、直接剣を交えられたサーヴァントはいなかった。
斥候に放っていた使い魔、魔獣の影を幾らか斬り捨て、魔力の補充としたりはしたが、英霊と直接の邂逅は得られずじまいだ。
鬼ゆえの活動時間の限界もあるが、元より聖杯戦争は夜が本命。接触の機会はむしろ夜こそ増すものなのが普通であるのに。
単に運が悪かった。そう見做してもいい些事ではある。だがそうと容易に捨てられない、僅かな淀みを含む懸念が、ある。
対敵を求め夜の街を練り歩く際、あの娘は常に傍らについてきた。
といっても所詮は書生の身だ。鬼狩りのように夜間哨戒をしてるわけもなし、子の時が回る頃には眠気に勝てず部屋に戻る始末だ。
家に帰してから漸く索敵に神経を傾けて、夜が明ける直前まで渡り歩くを繰り返した。
得られた手がかりは少なからずある。
夜な夜な暗所を蠢く、一様に顔に奇妙な紋を巻いた集団。
切断でも粉砕でもなく、構造そのものから崩壊した建造物。
散らばる人体。撒き散る血潮。状況を推し量る戦場跡なら何処に行ってもある。
しかしそんなものは間接的な物証に過ぎない。首級を挙げるには程遠い細かな戦果だ。
探知系の術は鍛えていない。土地勘の無さもあって足を使って回るしかない。
これではまるで鬼狩りであった頃のような、『隠(かくし)』や階級の低い隊士が鬼を捜す際の地道な調査だ。
懐かしくも愚かしい昔日の記憶が蘇る。実に辟易する。
サーヴァントを補足できるのは基本的にサーヴァントに限られる。
そして白昼堂々、ただの町民が往来でサーヴァントに奇襲を仕掛けられるという可能性は低い。
サーヴァントを引き連れていなければ、幽谷霧子は界聖杯の舞台に用意された住人と区別はつかない。その右手に刻まれた令呪を除けば、だが。
であれば常に側に控えて警護するよりも、視認できる間合いを保ちつつもある程度は離れていた方が不安要素を摘める。
どの道日が沈むまでは実体化しても禄に行動も取れないのだ。鬼という種の制限は英霊と化してもつきまとう。
索敵も戦闘も不可能ならば、いっそ時が満ちるまで要らぬ騒動はやり過ごせばいい。
やはり本命となるのは夜だ。
日が落ちた頃、そこでこそ鬼の力を十全に発揮できる戦場が巡る。己の強さを練磨させる、黒死牟の存在意義。
それを理解してるのかしてないのか。
娘は異を唱えたりせず、しかし行動を改めるでもなく、昼夜の間、可能な限り街の各所を巡っているのだ。
『セイバーさんは、朝もお昼も外に出られないんですよね……?
じゃあ、わたし……色んなところに出かけますね……。それでいっぱい外のお話を……持ってきますから……!』
成る程道理ではあった。
意外すぎる程道理だった。
昼に怪しまれもせず外を出歩けるのは、鬼の時代にはない選択肢だ。よもや進んで情報収集にあたるだけの知恵が、いや意思があるとは。
本戦の触れによれば、界聖杯から帰還できる人間は一人のみ。サーヴァントを失ったマスターは例え生き延びても世界ごと抹消されるという。
死という逃れられぬ事実を前にし、いよいよ他者を犠牲にする覚悟を決めたか。
だとすれば結構な事だ。事態の認識すら叶わないこれ痴愚であればいよいよ見切りをつけなばらなかったが、これ以上余計な足を引っ張られる労を負わずに済む。
『孤児院の診断についていったんです……子供たちはとっても元気で、わたしも綱引きみたいに引っ張られちゃって……』
「それでですね……摩美々ちゃんが咲耶さんにいたずらしようとするんだけど……咲耶さんは笑いながら、とんとんって……」
『皮下先生のお部屋には……タンポポさんがいるんです……。もう夏なのにきれいな花を咲かせてて、とっても長生きなの……』
……尤も。それが役に立っているかは別問題だが。
他愛のない、日常の風景。
小さな諍い、和解による融和。
弱く儚い生命が懸命に、さも愛おしげに映るよう牛歩を鈍く踏みしめる。
ああ、何という───長閑で、無意味な時間か。
わざわざ語って聞かせるのは、内在する戦争への忌避と不安を解消する手段なのかもしれないが、だとしたらどうだというのか。
サーヴァントを茶飲み仲間だとでも考えているのか。世間話に花を咲かせたいのなら他を当たれ。
この身は戦う為にのみ喚び出された鬼人の影法師だ。戦乱を招き、振る刀に血を吸わせ、力を高める鎬を削る事こそが我が望みだ。
屈辱だ。戦えないサーヴァントに何の意味がある。握られず棚に飾られてるだけの刀にどんな存在意義がある。
沸き立つ苛立ちを直接ぶつける事だけは堪えた。八つ当たりに娘を嬲るなぞそれこそ侍の行いではない。
出来る事といえば、この感情を敵に叩きつける瞬間まで研ぎ上げるぐらいか。
流れる言葉を受け流し、言葉が止まれば此方の返事を窺うような沈黙の後、奇妙な表情をすれば終わりの合図だ。
緩やかに蓄積される噴流に蓋をし記憶を封入して、特に滞りなく医院に入っていくのを見届けた。
向かっていたのは病院だ。元から住居とは隣接して同じ敷地内に敷設されている。所属を同一する宿舎なのだろう。
この東京で最も巨大な医院のひとつだと言っていたが、遠目にも目視するのは初めてだ。
確かに大きい。内部も相当奥に広がっており、陽光が届かない空間にも事欠かないだろう。
勝手知ったる様子で迷いなく廊下を歩いてる背にかかってきた青年の声を『この耳で聞いた』。
「おー、おはよー霧子ちゃん。今日も来てくれたんだ」
「あ……皮下先生……おはようございます……!」
「学生ってもう夏休みじゃないの? 駄目だぜ? 折角の青春をこんな殺風景な病院で消費しちゃったらさー」
「いえ……わたしは好きでやってるので……」
施設内部に入ってから姿は見えずとも、会話や接触した情報は恙無く伝わってくる。
英霊となっても残っている、鬼同士にある情報共有の応用だ。
マスターと契約で結ばれた因果の線を利用する事で、かつての情報網の再現が成った。
鬼とは違い上位の方に支配権は無く、共有には常に一方からの認可が必要であるが、あちらで所用以外で打ち切られた機会は今の所ない。
「そっ……かぁ〜〜〜霧子ちゃんはいい子だねぇ〜〜〜! うちのアル中にも見習ってほしいよほんと!
呑んでは暴れるし暴れては飲むし、ああいうの身内にいるとマジ勘弁してってなるんだよなあ〜〜〜〜〜」
「そ……そうですか……?」
他人の情報を間借りしてるため、直に目にするのとは勝手が異なる。『透き通す』事は叶わない。
ゆえに確証には至らないが……会話している皮下という男、只者ではあるまい。
見目は軽薄な若者だが、感じ取れる気配……年季とでもいうべきか。百年を生きた老人と違わない『深み』がある。それこそ、鬼のような。
サーヴァントか。マスターか。いずれかの手の及んだ魔性か。そうした手段は、誰よりも自分達が心得ている。
こればかりは、この目で確かめなければ証は取れないだろう。
この旨、ここで伝えるべきか。いや……今話せば気取られる。
患者の数も多く院内には大勢の人がいる。ここで戦端を開くのは不利になる。
ここまで織り込んだ上で職務をこなしているとしたら、大したものだ。
男の件については、一旦離れてから教えればよかろう。
マスターを泳がせているのもその方が好都合だからだ。顔が利くというなら出来るだけ深く潜らせればいい。
目下注目すべきは、この建物内にはサーヴァントが潜んでいるだろう。少なくとも、その下地がある。
病院内の奥の奥底。部下であった鳴女が操る異空間・無間城に近い結界術。
その様相を深く知るからこそ見抜けた、微弱な現実との齟齬に起こる摩擦だ。
評するならば、獣。箱に押し込まれ蓋をされていながらなおも漏れ出る、しかし見逃せない異形の重圧。
解き放たれれば万物が見上げる、目を逸らす事すら許さない巨獣。
此処は最早病院とは言えまい。意味合いでいえば百の獣を纏めて囲う鉄の檻と同義だ。
そして獣がありつく餌とは、言うまでもない。
「───まあでも実際霧子ちゃんに手伝ってもらって助かってるんだけどね。近頃いやーな事件が多いし、それ関係で怪我人もドンドン運び込まれてもうてんやわんや。
霧子ちゃんはどこだーって騒ぐ患者もいてさ。まったく病院はアイドル活動の場所じゃないってのに……」
「ご……ごめんなさい……! わたしがいるせいで、困らせちゃってますか……?」
「ああいやいや、そういう意味じゃないよ。助かってるって言ったろ? こういう状況じゃ体だけじゃなく心の静養ってのも必要になる。
霧子ちゃんは華があるからさ。そういう方面でも支えになって欲しいんだよ。エンタメ的な癒やしはインテリの医者じゃあ上手くいかないもんだ。
───まあ、花に関しちゃ俺も負けてないけどな? 花咲かりのイケメン院長として若者人気を奪われるわけにはいかないぜ?」
「……! ふふっ……ふふふっ……!」
……そう、異形の気配といえば、もう一つある。
これは虚像すら見ていない、直感でしかないが、逆に明らかな確信を持てて断言できる。
同族……己と同じ手法で鬼と成った者が、この地に集っていると。
夜を彷徨うまでもなく。
朝に聞かせられるまでもなく。
これは本戦の始まりを告げられたと同じ時分から、虫の知らせとしか言いようのない予感が鳴り止まないでいる。
己がこうして召喚されてる現実を鑑みるに、他の鬼もサーヴァントとなっている事象には否定する論もない。
かといって、同じ戦場で再会するなどとは、砂粒程の確率ではあるまいか。
界聖杯の性質に一抹の疑念を抱いてしまうが、今急するべきはどの鬼が来てるかの見極めにある。
猗窩座、童磨なら全く問題ない。
組むには不都合なく、斬るにしても遅れを取る事は皆無だ。上弦の階位の差はそれほどに厚い。
それ以下の上弦、まず有り得ないが下弦以下であれば論外だ。
───ああ、無意味だ。
無意味に尽きる。
そんな分かりきった話を再認してどうする。上弦の壱(わたし)以下の鬼がどれだけ集まろうと対処に困りなどしないではないか。
考慮しなくてはならない未来を、浮足立った希望を摘み取られる絶望の予感を、己は意図的に避けている。
「ところで……前々から気になってたんだけど。霧子ちゃんの包帯ってソレ、なんかのおまじないなんだって?」
「? はい、そうです……」
「へえ、面白いね。若い子じゃ流行ってんのかな? アレ? 包帯の下に好きな子の名前書いてるとか?」
「え、えっと、それは───あの…………。
……秘密、です」
もしも。
もしもあのお方であったのなら。
因縁の糸を手繰った先に着く源泉が、我等の始祖たる絶対の存在、鬼舞辻無惨だとしたら───
私は/俺は、『今度は』一体何を、選び捨てるというのか。
【新宿区・皮下医院/一日目・午前】
【幽谷霧子@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[状態]:健康、お日さま
[令呪]:残り三画
[装備]:包帯
[道具]:?
[所持金]:?
[思考・状況]
基本方針:???
1:色んな世界のお話を、セイバーさんに聞かせたいな……。
2:皮下医院でお手伝いです。
3:包帯の下にプロデューサーさんの名前が書いてあるの……ばれちゃったかな……?
[備考]
※皮下医院の病院寮で暮らしています。
【セイバー(黒死牟)@鬼滅の刃】
[状態]:健康、苛立ち
[装備]:虚哭神去
[道具]:
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:強き敵と戦い、より強き力を。
1:夜が更けるまでは待機。その間は娘に自由にさせればいい。
2:皮下医院、及び皮下をサーヴァントの拠点ないしマスター候補と推測。
3:上弦の鬼がいる可能性。もし無惨様であったなら……
4:あの娘、何を考えてるのか分からぬ……
[備考]
※鬼同士の情報共有の要領でマスターと感覚を共有できます。交感には互いの同意が必要です。
記憶・精神の共有は黒死牟の方から拒否しています。
【皮下真@夜桜さんちの大作戦】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:?
[道具]:?
[所持金]:纏まった金額を所持(『葉桜』流通によっては更に利益を得ている可能性も有)
[思考・状況]
基本方針:医者として動きつつ、あらゆる手段を講じて勝利する。
1:病院内で『葉桜』と兵士を量産。『鬼ヶ島』を動かせるだけの魔力を貯める、
2:全身に包帯巻いてるとかさー、ちょっとあからさますぎて、どうするよ?
[備考]
【ライダー(カイドウ)@ONE PIECE】
[状態]:健康、呑んべえ(酔い:50%)
[装備]:金棒
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:『戦争』に勝利し、世界樹を頂く。
1:『鬼ヶ島』の浮上が可能になるまでは基本は籠城、気まぐれに暴れる。
2:で、酒はまだか?
[備考]
※皮下医院地下の空間を基点に『鬼ヶ島』内で潜伏しています。
投下を終了します
皆さま本編の投下、ご苦労様でございます
本編の予約も投下も未だ経験のない処女の身で御座いますが、私も予約をしたいと思います
峰津院大和&ランサー(ベルゼバブ)
で予約いたします
七草にちか(弓)&アーチャー(メロウリンク・アリティ)
予約します。
皆様投下お疲れさまです、感想はのちほど
>>804 の予約を延長させていただきます。
>きりさんぽ
投下お疲れ様です!
生死を分けた戦場にい続けた兄上にとって、きりりんのような人間はまるで理解できないでしょうし、のんきに穏やかな時間を伝えられても困るでしょうね。
一方できりりんはこんな状況でも周りへの気遣いを忘れないので、本当にいい子。でも、包帯の下は二重の意味で見られたくないでしょうね。
そして皮下も、相変わらず表向きでは気のいい男でしょうが、怪物として本性をいつ見せるのか? カイドウも今はお酒を楽しんでいるようですが、暴れだした時を考えると怖い……
それでは自分も投下を始めます。
――――アンティーカの白瀬咲耶が行方不明になった。
そのニュースをスマホで見た途端、私……田中摩美々は心がズキンと痛むのを感じました。
白瀬咲耶……間違いありません。
王子さまのようにカッコよくて、いつも周りへの気遣いを忘れないアンティーカのアイドルです。その真面目さは一級品で、どんな言葉でも好意的にとらえちゃう優しい人です。
プロデューサーも悪いことをした私を叱ってくれる優しい人ですが、咲耶も……いえ、アンティーカにいるみんなは本当に優しいです。いつもイタズラばかりで、悪い子な私を暖かく受け入れてくれますし、私もアンティーカにいるのは楽しいですよ。
もちろん、何度怒られようともイタズラはやめませんけどね。イタズラでみんなが慌てる光景だって、私はとっても好きですし。
でも、こんな不謹慎なニュースを聞いて、喜べるわけがありません。
いくら私でも、こんな酷いことは論外です。公共のニュースで流れているので、嘘の可能性は低いですし、仮に嘘だったとしても私は本気で怒ります。
そして、真夜中に流れてきた通知を思い出しました。私とアサシンさんを含めて、この聖杯戦争に生き残った主従はたった二十三組で、その裏では命を奪われた人が大勢いることになります。
殺された主従の中に、咲耶も含まれている……そんな可能性が浮かびましたが、私には受け入れることができません。
「咲耶……何で、出てくれないのー? 私に、イタズラをする気なのー?」
私はスマホで咲耶に連絡しますが、繋がりません。
この世界にいる彼女が本物かどうかなんて、関係ないです。
「咲耶が、イタズラなんて……似合わないよー? イタズラはね、私の専売特許だよー? 咲耶が……私にイタズラするなんて、許さないよ? 全然面白くないしー……こんな酷いイタズラをするなんて、後で咲耶に仕返ししちゃうからねー?」
呼び出し音が聞こえるだけで、私が望む声には繋がりません。
「……咲耶、早く出てよー? 私のイタズラに、怒っているなら……謝るよー? その後に……また、イタズラしちゃうけど、心から謝るよー?
だから……早く、出なきゃ……ダメだよー?」
咲耶が出てくれないせいで、私の声も震えます。
スマホに合わせて、私の全身もプルプル振動しちゃいます。
時間と共に、私の不安がどんどん煽られます。
「咲耶……咲耶……咲耶ー……早く、出てよー? これは、嘘じゃないんだよー?」
私は呼びかけますが、やっぱり咲耶の声が聴けません。
耐えられなくなった私は、通話を切ります。そして、インターネットを開いてみると……
「……ッ! どこも、咲耶がいなくなったニュースで……溢れてる……ッ!」
SNSやたくさんのニュースサイトでは、咲耶が行方不明になったニュースがたくさん流れます。その全てで、咲耶のことを派手に取り上げていました。
――誘拐か? 失踪か? 白瀬咲耶の安否はいかに!?
――白瀬咲耶になにが!? 人気アイドルの抱える秘密を検証!
――まさか、咲耶は自殺したの!?
――咲耶……もしかして、アンティーカにいるのが嫌だったのかな?
「……なーんで、みんなは勝手なことばかり言うのですかー?」
咲耶がいなくなったことを面白おかしく騒ぐメディアと、それに対して群がる無責任なコメントに……私の腸が煮えくり返りました。
いつもの私を棚に上げていることは承知ですが、許せないものは許せません。
――咲耶がいなくなるなんてショック! 早く無事を聞きたい!
――咲耶さんのいないアンティーカなんて考えられない! 無事を祈ります!
もちろん、咲耶を心配するコメントも見かけますが、私の心はちっとも晴れませんよ。
ファンのみんなは咲耶の無事を祈っているでしょうけど、同時に『最悪の可能性』だって考えています。だって、私がそうですから。
お仕事の休憩中、何気なくインターネットを覗いたことを、ここまで後悔するなんて……思いませんでした。
咲耶が行方不明になったと聞かされては、落ち着けるわけがありませんし。
なんとなく、一人になっていましたけど……正解だったかもしれません。だって、いつもの私からは想像できないくらい、今の私は酷い顔になっていますから。
「……マスター、失礼します」
そして、やっぱりアサシンさんが声をかけてくれます。
顔を上げると、その整った面持ちが深刻な色で染まっていました。酷いニュースの直後なので、その意味も何となく察しちゃいます。
「あ、アサシンさんー……もしかして、これってイタズラ……ですよねー? 咲耶が、行方不明になるなんてー……」
必死に、私はアサシンさんに尋ねます。
この時まではまだ考えていました。もしかしたら、みんなが手の込んだイタズラをして、私をビックリさせるつもりだと。『イタズラ大成功!』な立て札と一緒に、咲耶が顔を見せてくれるって……希望を抱いていました。
でも、アサシンさんの表情からは、そんな雰囲気は微塵も感じられません。
「いいえ、紛れもない事実です。あなたの友達の白瀬咲耶様は……」
「……そんなはず、ありませんっ!」
アサシンさんの言葉を遮るように、私は叫びました。
私だって、らしくない声を出していることはわかっています。でも、アサシンさんの言葉を聞きたくありませんでした。
「……咲耶は、私とは違って、とっても真面目な子なんですよー? 真面目すぎてー なんでも一人で抱えちゃったり、本当は寂しがりやなことを隠しちゃうことが……難点ですけどー……
それでも、本当に……素敵な子なんですー だから、行方をくらます……なんて……」
私の僅かな希望すらも否定させないため、必死に言葉をつなぎます。
だけど、アサシンさんの顔は全く変わりません。それが、私に対する答えでしょう。
「アサシンさん……今すぐ、咲耶を見つけてくださいー! これはマスターとして、私からの、命令ですー!」
ただ、こんなニュースを認めたくなくて、私は必死に叫びました。
だって、アンティーカは宇宙一ですから。ファンのみんなから拍手喝采を浴び続けましたし、ライブだって何度もアンコールを受けましたし。
ーー……取り返しがつかなくなってからじゃ遅いんだよ
いつかの感謝祭で、隠し事をしていた咲耶に向かって、三峰は悲しそうな顔で言いました。
些細な誤解が積み重なって、私たちアンティーカの心がすれ違おうとした頃の話です。
ーーみんなが……
ーーアンティーカに戻ってこなかったとしても……
ーー喜んで応援しなくちゃって……
アンティーカのみんながバラバラになることを、咲耶は恐れていました。
もちろん、それはただの勘違いで、私たち5人はまたすぐに絆を取り戻しています。
感謝祭も大成功で、アンティーカがMVPとなりました。これからも、何があろうとも……私たちはいつつでひとつですから、お互いを信じて運命を切り開き続けると、誰もが信じていました。
「……マスター、その命令は不可能です。何故なら、咲耶様はもう……」
「弱音なんて、聞きたくありませんーっ! アサシンさんは、私の自慢のサーヴァントですー! だって、とても頭がいいんですからー……! 早く、咲耶を……!」
「お褒め頂き、光栄です。ですが、マスターには知って頂きたいのです。咲耶様の身に起きたことと、マスターに遺したであろうメッセージを」
でも、アサシンさんの淡々とした声色に、私の言葉は止まります。
静かに、それでいて悠然とした姿勢で、綺麗な瞳は緋色に輝いていました。
怒っているようにも、悲しんでいるようにも見えて……私は圧倒されます。
「……咲耶の、メッセージ……?」
「マスターが仕事をしている間、私はこの聖杯戦争のシステムや、この街で起きた事件について調査し……いくつかの情報を得ました。
その全てを伝える場合、時間を頂くことになりますが……よろしいでしょうか?」
アサシンさんがわざわざ念押ししてくる理由はわかります。
きっと、私にとって望まない話をすることになり、聞いてしまえば絶対に傷付くと考えているのでしょう。
でも、今の私は断りません。ただ、咲耶のことが知りたいですし、このまま何も聞けなかったらモヤモヤするだけです。
「……お願いしますー アサシンさん……」
「では、まずは一つ目から。
この街に出没し、凶行を繰り返す異常な子供たちの集団……私は、そのメンバーと思われる少年と接触し、情報をいくつか得ました。
彼ら、または彼女ら……でしょうか? 周囲の環境や人間関係に恵まれず、心が荒み、その鬱憤を晴らすために暴走し、街に混乱を招いているようです」
アサシンさんの口から出てきたのは、物騒な話題でした。
この聖杯戦争を煽ってくる人がいることを、アサシンさんは教えてくれました。例えば、顔にガムテープを貼って、好き勝手に暴れまわる子供たちの集団がいるみたいです。
「……よく、そんな人と話をしようと思いましたねー」
「これが私の仕事ですから。その程度のことで怯むようでしたら、マスターを守ることはできません。
話を戻しましょう。彼らは圧倒的な人数で暴れていますが……マフィアのように統率されており、圧倒的な資金力や武器を有しています。だからこそ、この街の警察が包囲網を張ろうとも、彼らはそれを容易く打ち破れるでしょう」
私は息を呑みます。
話には聞きましたが、まさかそこまで危ない集団とは思いませんでした。
「……無敵の人じゃないですかー」
「マスターの時代では、そのような呼び名があるのですね。確かに、周囲を顧みずに暴走する様は、無敵にふさわしいでしょうか。
そんな彼らを無敵にしている武器が、もう一つあります」
そう言いながら、アサシンさんはポケットの中から包み紙を取り出します。
細長くて、四角形……まるで、ガムみたいです。
「……それ、ガムじゃないですか?」
「マスターには、そう見えるでしょう。しかし、これは麻薬……イギリスと清王朝の間で、戦争の引き金にもなったアヘンと同等か、更に高い危険性を持つ種類になります」
その瞬間、私の背筋が凍りつきました。
麻薬……今の時代なら子供でも勉強する程に危険なもので、一度でも使ったら人生そのものが台無しになります。
あと、アヘン戦争のことでしたら、私も学校で勉強しましたよ。確か、お茶の値段を不当に高くし続けた中国(当時は清王朝の時代でしたっけ?)に怒ったイギリスが、アヘンという麻薬を中国に輸出したせいで起きた戦争ですよね。
アヘンの中毒性はとても高く、中国のあちこちで広まったせいで社会がメチャクチャになりました。国のお金(銀貨)もどんどんイギリスに取られて、焦った中国は実力行使でイギリス人を取り締まったせいで、反発したイギリスと戦争になったみたいです。
でも、国としてのパワーはイギリスの方がずっと上で、中国は降伏するしかなくなりました。これが、アヘン戦争ですね。
「……この麻薬の詳しいメカニズムや、そして一体どういうルートで製造されているのかは調査中です。ですが、接触した少年の言動から察するに、人間の身体能力を飛躍的に向上させると考えられます。
服用した少年少女は、未成年にも関わらず……屈強なマフィアを相手にできたようですから。もちろん、副作用や禁断症状も計り知れないですし、例の少年も本来なら保護が必要でしょうが……流石に、そこまでの余裕は今の私たちにはありません」
「……もしかして、咲耶は……そいつらに、襲われたんですかー?」
「可能性は高いです。しかも、現状では目撃例が極めて少ないことを考えると、証拠を残さない程に統率力に優れて、かつ大規模な拠点を持っているはずです。彼らが集団で動くのであれば、相応の建物も必要としますから。
そして、白瀬咲耶様が襲撃された以上、次はマスターも狙われるでしょう」
「……………………」
そう語るアサシンさんからは、イヤなオーラが出ていました。まるで、小説に出てくる悪の大ボスで……”犯罪卿”と呼ぶにふさわしい邪悪さを感じます。
私が狙われる動機自体はわかりますよ。私たちはアンティーカとして有名になり、TVや雑誌はもちろん、ツイスタでも話題になっています。咲耶が襲われたら、次は私がターゲットにされてもおかしくありません。
でも、実際に受け入れることはできませんし、イヤな鼓動を鳴らしています。
「…………それで、咲耶は……咲耶は、どうなったの……ですかー?」
そして、一番気がかりなことをアサシンさんに聞きました。
その質問は無意味で、答えだってわかり切っています。アサシンさんの表情だって、冷たくて暗いまま。
ですが、藁のような希望にだって、私は縋りたいです。きっと、大丈夫だって。
「咲耶様は、この聖杯戦争にて命を落としました。遺体も、私たちの手に届くことはないでしょう」
そう、アサシンさんが口にした瞬間、私の心がバラバラになりそうでした。
足が震えて、視界が揺らぎます。胸がざわめいて、呼吸だって安定しません。
予想はしていましたが、やっぱり聞きたくありませんでした。だって、私にとって大切な人と再会する希望は……永遠に失われましたから。
すると、私の頭の中で、咲耶との思い出が一気に爆発します。
私のイタズラに笑ってくれる咲耶。
とある冬の日、雪に滑って転んじゃった私のことを秘密にしてくれる咲耶。
私たちアンティーカがいなくなるかもしれない可能性に怯えるけど、悲しみと恐怖を隠してくれた咲耶。
アンティーカ5人で揃って、たくさんのライブを成功させて心から喜んだ咲耶。
そのすべてが、走馬灯のように私の中で湧きあがりました。
ずっと続くと思っていた5人の物語は、こんなにも唐突に終わりを迎えます。
もう、アンティーカは5人ではいられません。5人で回すことができた運命の鍵も、5人で開くことができた扉も……すべてがぶち壊されました。
その瞬間、私の心に刻まれたヒビの中から、どす黒い煙がモクモクと昇ってくるのを感じます。
「…………どこに、いるのですか?」
気が付くと、私はアサシンさんにそう聞いていました。
私の口から出てきたとは思えないほど、鋭くて冷たい声です。でも、私は納得していますよ?
だって、今の私は……心の底から怒っていますから。
「咲耶を、殺した奴は……どこにいるのですか?」
「残念ですが、それにはお答えできません。隠しているのではなく、彼らの動向が予測できない以上、現時点では明確な居場所を特定できないのです。
私が接触した少年も、既に移動しているでしょう」
私の怒りを前にしても、アサシンさんは表情を変えません。
その態度に、私はもっとイライラします。もちろん、アサシンさんは冷静でとても頭がいい人ですが、今ばかりは私の感情を蔑ろにしているように見えました。
悔しくて、悲しくて、咲耶を殺した奴が野放しになっていることが許せなくて……私は拳を握り締めます。
「私も、マスターと同じ気持ちです。マスターの為、そして咲耶様の無念を晴らすためにも……犯人を葬るべきと考えています。
ですが、確実に成功させるには、マスターとの更なる契約が必要です」
「……今更、何が必要なのですかー?」
「まず、今後の行動ですね。
咲耶様の命を奪った相手……それはマスターとサーヴァントだけではなく、多数の尖兵が含まれています。故に、実際に主従を発見しても、兵力ではこちらがあまりにも不利です。
なので、まずは私たちも同盟相手を見つける必要があります」
「同盟相手って……まさか、283プロのアイドルって言うんじゃないでしょうねー?」
「そうであれば、連携も取りやすいでしょう。ですが、彼女たちがこの世界に実在するか、不確定です。
何よりも、それはマスターにとって望まない選択だと思いますが?」
やっぱり、アサシンさんは何でもお見通しですね。
私や咲耶が巻き込まれていたように、他の283プロのアイドルやプロデューサーがいる可能性だってありますが、それは他のみんなが危険にさらされていることになります。
もちろん、みんなには会いたいですけど……その舞台は、こんな世界じゃありません。私が安心してみんなにイタズラができるような、平和で楽しい世界です。
「ただ、私の方でも調査を続ける予定です。マスターと縁の深い人物が、他にも関与していることは充分に考えられます……それも、再現されたNPCではなく、マスターが知る正真正銘のご本人でしょう」
「そんなこと、考えたくもありません……」
「えぇ、それは充分にご承知です。ですが、可能性の一つとしては考える必要はあります。
聖杯は、マスターたちに対する明確な悪意があって……この聖杯戦争に巻き込んだことを」
イヤすぎる可能性ですけど、私はちゃんと受け入れるべきでしょう。
ここで認めなければ、どこかにいるかもしれない283プロのみんなと向き合えないかもしれません。
もしかしたら、私がきちんとその可能性を考えていれば、咲耶が殺されることだって……なかったかもしれませんから。
「そして、ここから本題に入ります……咲耶様が遺したであろう、メッセージを手に入れました」
すると、アサシンさんは懐から一枚の封筒を取り出し、私に差し出します。
ドクン! と私の胸が高鳴り、封筒に触れた指先がプルプルと震えました。
……この中に、咲耶のメッセージが書かれている? アサシンさんの言葉に、私は戸惑いました。
「……ど、どうやって……これを……?」
「早朝に、私はある学生寮を突き止めて、とある部屋を捜索しました。私の手にかかれば、証拠を残さずに侵入することは難しくありません。
もちろん、原文そのものを持ち出すことは、後々になって悪影響を及ぼすので、筆跡を含めて写し程度になりますが……咲耶様のメッセージであることは確かです。
これだけは、マスターにお渡しするべきと思って」
「……この中に、咲耶の……」
私はすぐに封筒を開いて、中の手紙を取り出しました。
広げると、そこには確かに咲耶の字があります。厳密には、アサシンさんのコピーでしょうけど、まるでコピー機のように正確です。
几帳面で実直な咲耶の性格を現したように、文字も綺麗に整っていました。
そして、手紙を通じて……咲耶の声が聞こえてきます。
手紙を見られた頃には、白瀬咲耶はもうこの世にいません。その時が来ても、後悔しないように……手紙を書いてくれたみたいです。
手紙に書かれていた、咲耶が選んだ道……誰一人の犠牲を出さないよう、この聖杯戦争を止めるために戦ったのだと、私はすぐに気づきました。だって、咲耶は……いつだってみんなの幸せを願う程に、いい子ですから。
きっと、咲耶は後悔しなかったはずです。自分の心にうそをつかず、最期まで自分に正直でいましたから。
その証拠に、手紙にはたくさんの感謝と幸福が詰め込まれていました。咲耶のご両親とプロデューサー、そして私を含めたアンティーカのみんな……もしかしたら、世界中に生きる全ての人にも向けられているかもしれません。
たくさんの幸せをもらったことに対する感謝と、戦いを内緒にしたままお別れが訪れたことへの謝罪、それからまたすぐに感謝が書かれていました。
手紙の後半に入ると、咲耶の願いが読めます。
そこには、私たち283プロの人間……アンティーカの仲間が読めば、すぐにわかる内容が書かれていました。
何があっても、みんなが待っている283プロに帰れますようにと、咲耶は願いました。
私たちが間違えて、誰かを傷付けたとしても咲耶はそれを許してくれます。
例え世界中から責められても、咲耶は絶対に許してくれます。
だから、自分を責めたり、傷付けたりする必要なんてないと、咲耶は願いました。
そして、私たちの幸せこそが、咲耶の願いだと……そう、締めくくられました。
白瀬咲耶の名前と共に。
「……咲耶」
手紙を読み終わった瞬間、無意識のうちに私は名前を呼びました。
もちろん、手紙の主はそれに答えてくれることはありません。この声を聞いてくれるのはアサシンさんだけです。
「咲耶……咲耶……咲耶ぁ……咲耶ぁ……ッ!」
でも、私は咲耶の名前を呼び続けます。
彼女の名前を口にするたびに、胸の奥から熱いものがこみ上げて、瞳から小さな雫が零れ落ちました。
咲耶の優しさと願いを受け止めることができましたが、私は苦しいです。
世の中には、こんなにも悲しいことがあるなんて、私は知りませんでした。
「咲耶……! 咲耶……! 咲耶ぁ……ッ! 咲耶ぁ……ッ!」
すぐに耐えられなくなって、ひたすら咲耶の名前を呼び続けます。
その度に、私の目から涙がとめどなく溢れてきますが、止めることができません。
いくら、咲耶が私たちの幸せを願っていても、こんなのは辛すぎます。
かえって、悲しい気持ちが湧きあがるだけでした。
ーー私……今度こそ、約束するよ……!
ーーみんなを信じてーー頼りにするって
ある日、咲耶は私たちアンティーカに約束をしてくれました。
咲耶が私たちを信じて頼ってくれるように、私たちも咲耶を信じて頼りにすることを。
でも、その約束は永遠に裏切られました。
私は咲耶を信じて、楽しくイタズラをして、いっぱい困らせながらも助け合いたかったです。
いったい、どんな気持ちで咲耶はこの手紙を書いて、気持ちを遺してくれたのでしょう。
私たちは咲耶のことを考えていました。
でも、私たちアンティーカのことを大事にしてくれたのも、咲耶でした。その優しさで、アンティーカはもちろんんファンのみんなにも楽しさを届けてくれました。
「マスター……今は、思いっきり泣いてください。周りでしたら、私が見張っていますから」
いつもながら、アサシンさんは落ち着いた声で告げますが、確かな温かさを感じました。
その思いやりに甘えて、私はたくさん泣きました。この悲しみを洗い流すことはできなくとも、せめて咲耶のかわりに、私が泣いてあげるべきと思って。
だって、咲耶はもう二度と泣くことができませんし、永遠に笑うことができませんから。
「咲耶ーーーーッ!」
ただ、咲耶の名前を叫びながら、私は思いっきり泣きました。
いっぱい泣いて、咲耶に私の声が届くように。
私たちを気遣ってくれた咲耶はいい子ですから、その優しさを忘れないためにも……今だけは泣くことしかできませんでした。
◆
最初から、僕はこの結果を予想していた。
偽造とはいえ、白瀬咲耶様の手紙を見せたら、マスターは心の底から悲しんで涙を流すと。
できることなら、マスターの涙を見たくないけど、いずれは知られてしまう。特にマスターの時代では、スマートフォンと呼ばれる端末のおかげで情報収集が容易となり、どんな事件でも瞬時に把握できた。
もちろん、一度でも世間に広まれば偽造または改ざんはほぼ不可能だ。また、警察からの事情聴取も考えれば、後回しにするのは得策じゃない。
せめて、誰かに余計なことを聞かれる前に、僕の口からすべてを明かすしかなかった。
マスターは今、洗面所で顔を洗い流してから、仕事に取りかかっている。
不幸中の幸いなことは、今日は午前中で仕事が終わり、そこまで長引かないことだ。今のマスターに長時間労働をさせては、心身に悪影響が出てしまう。
また、休憩時間であることも相まって、マスターの涙に気付いた者は誰もいない。流石に、咲耶様のニュースはスタッフ間でも広まっていて、マスターの今後の対応について話し合う動きは出ている。
僕も今後の動向について真剣に考えるべきだ。
マスターだけではない。他の283プロダクションアイドルや、プロデューサーを守らなければいけない状況は必ず訪れる。
咲耶様が犠牲になった今、彼及び彼女たちは確実に東京のどこかにいる前提で動くべきだ。
無論、状況に応じてプランの変更も考慮すべきだろう。
僕のマスターである田中摩美々の生還こそが最優先で、『全ての同盟者であったマスター』の暗殺を視野に入れることに変わりはない。だが、同盟者の中に『283プロダクションのアイドルであるマスター』が含まれていた場合、彼女らを暗殺するのか?
いいや、それではマスターだけを生還させても、その後にマスター自らが命を絶ってしまう。マスターの願いは、自分を叱ってくれるみんながいる世界への帰還であって、それを僕自身が潰すなど契約違反だ。
他マスター暗殺のプランを忘れるつもりはない。
だが、『聖杯を破壊する隙の発見』と『悪党(ヴィラン)による聖杯の悪用の阻止』を、尚更優先するべきだろう。困難であることは承知だが、マスターの契約を確実に果たすには必要だ。
ーーこの世で取り返しの付かない事なんて、一つもねぇんだよ!!
咲耶様の手紙に涙を流すマスターを見て、不意に思い出したのは……最大の宿敵にして友達の言葉。
すべての人の悪意を集約させた僕と一騎打ちをしても、彼は……シャーリーは僕に手を伸ばし、そして最後まで共にいてくれた。
きっと、咲耶様もマスターたちと共にいたかったはずだ。何度間違えることがあっても、それを受け止めて、共に歩もうとしたはずだ。
それでも、願いは叶わないと知ったからこそ、遺されたマスターたちの幸せを願った。崩落するタワーブリッジの上で、シャーリーだけでも生きて還ってくれることを、かつて僕が願ったように。
「……マスター」
やがて、仕事が一段落した頃、私はマスターに声をかけます。
表向きでは平静を装っていますが、やはり精神的には消耗を感じます。それでも、仕事を乗り越えてくれたので、やはりマスターは強いお方ですね。
「先ほど伝えた、更なる契約はもう一つあります……それは、何があろうともマスターは戦線に出ないことを、マスター自身が誓ってほしいのです。
あらゆる状況に限らず、です」
「……当たり前じゃないですかー? どうして、今更……?」
「今後、咲耶様の命を奪ったマスターを発見し、激突する機会は訪れるかもしれません。
ですが、同盟者と共闘し、相手マスター及びサーヴァントに重傷を負わせたとしても……絶対に、復讐をしようとは考えないでください。
例え、瀕死の重傷を負ったとしても、マスターの命を奪うだけでしたら、容易いでしょうから」
これは、マスターの復讐は僕が代行するという意思表示だ。
咲耶様の願いを知っても、マスターの中から怒りと憎しみが消えていない。何らかのきっかけで、燻っていた感情が爆発すれば、必ず報復に走ろうとするはずだ。
僕自身、憎悪に溺れて平静を失った人間はいくらでも見てきた。犯罪卿であった僕を恨んだ人間は星の数ほどいたが、マスターが彼らと同じ道を選ぶことは充分に考えられる。
咲耶様の願いを果たすのであれば、少なくともマスターの手を緋色に汚してはいけない。
「……わかりましたぁ。咲耶の仇、絶対に取ってくださいねー……アサシンさん」
「えぇ。感謝いたします、マスター。
では、改めて……そのご依頼ーーこのウィリアム・ジェームズ・モリアーティが確かにお引き受けいたしましょう」
そうして、かつて犯罪卿として多くの恨みを受け止めた僕……ウィリアム・ジェームズ・モリアーティは、改めてマスターと契約を交わした。
【渋谷区のどこか/一日目・午前】
【田中摩美々@アイドルマスター シャイニーカラーズ】
[状態]:健康、咲耶を失った深い悲しみ、咲耶を殺した相手に対する怒り
[装備]:なし
[道具]:、白瀬咲耶の遺言(コピー)
[所持金]:現代の東京を散策しても不自由しない程度(拠出金:田中家の財力)
[思考・状況]
基本方針:私のイタズラを受け入れてくれるみんながいる世界に帰りたい。
1:アサシンさんと一緒に今後のことを考える。
2:咲耶を殺した奴を絶対に許さない。
【アサシン(ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ)@憂国のモリアーティ】
[状態]:健康
[装備]:現代服(拠出金:マスターの自費)
[道具]:ヘルズ・クーポン(少量)
[所持金]:現代の東京を散策しても不自由しない程度(拠出金:田中家の財力)
[思考・状況]
基本方針:聖杯の悪用をもくろむ主従を討伐しつつ、聖杯戦争を望まない主従が複数組残存している状況に持って行く。
1:『彼(ヒーロー)』が残した現代という時代を守り、マスターを望む世界に生還させる。その為に盤面を整える。
2:白瀬咲耶様の願いを叶えるため、マスターには復讐に関与させない。
3:マスターの代わりに白瀬咲耶様の仇を取る為にも、同盟者は確実に見つける。
4:"もう一匹の蜘蛛(ジェームズ・モリアーティ)"に対する警戒と嫌悪。
以上で投下終了です。
ご意見等がありましたらよろしくお願いします。
皆さん投下ありがとうございます!
とっても素敵な作品ばかりで読んでいてテンション上がりっぱなしでした。
感想は明日、こちらの方に投稿させていただきます。
自分も投下します。
大学が休みなのは助かるな、と朝を迎える度に思う。
仁科鳥子は裏世界の旅人である。またの名を、ウルトラブルー・ランドスケープ。
本人はおろか他の器達の誰も知る由はないが、界聖杯が可能性の招来を世界の枝葉を使って行うにあたり利用した手段の一つでもある果てしない蒼の世界。
そこを秘密の冒険感覚で探索し、最終的には一夜すら明かし、自分の日常を侵蝕されても尚〈あの世界〉への渇望を止めない命知らず。
そんな彼女も日常に戻れば大学生だ。そしてそれは、この〈界聖杯内界〉においても変わらない。
「一応用事がないこともないんだけど、まあそのくらいはいいよね。めんどくさいし、特に必要性もないし」
「? マスター、どうかした?」
「んーん、なんでもない。それじゃ行こっか、アビーちゃん」
しかし正直な話、この世界に来てからというもの大学で必要なタスクはサボりまくっていた。
けれど鳥子は決して馬鹿ではない。金髪の美人なので"遊んでいそう"な要素は満たしているが、これでも要領は悪くないのだ。
この程度のサボりでは特に事は荒立たない、大して繋がりもない同期の間でまで話題になるようなことはない、適度な塩梅を弁えている。
こういう部分は空魚より私の方が上手いと思うんだよなあと、そんなことを独りごちながら霊体化させたアビゲイルを伴い外へ出る。
わざわざ外出をする理由は特にはない。
ずっと引っ込んでいては気が滅入るし、そもそもアパートの中に居たところで外の戦いに巻き込まれるようなことがあれば危険度は同じだ。
それなら万に一つの前進を信じて外に出つつ、この息が詰まるような戦争のストレスを少しでも散らす方がマシだと、鳥子はそう思っていた。
以前まではサーヴァントのアビゲイルを霊体化させることもなく妹のように連れていたのだが、アビーの進言もあってこれからは基本霊体化させて連れ歩くことにした。
本戦ともなればサーヴァントを実体化状態で連れ歩くことのリスクも向上するため、寂しくはあるが頷ける話だ。
「(それにしても。ホントに実感するなぁ――私、此処まで来たのか)」
鳥子達は未だ、一度も他の主従と相対したことがない。
その理由は彼女達が終始索敵もせず、なおかつ聖杯戦争に対して意欲的な姿勢も見せてこなかったことと、後は運の良さが大きいだろう。
それでもこうして改めて考えると実感する。自分はこの大きな戦争の最終局面まで生き残れたのだと。
鳥子には、"彼女"――紙越空魚ほど思い切った判断は下せない。
空魚なら、元の世界に帰るため仕方ないと他の主従を排して聖杯を狙ってもおかしくはないと思う。
ただ鳥子は、この期に及んでもやはり彼女のようにはなれなかった。
依然として宙ぶらりん。あるかどうかも分からない脱出の可能性に賭けつつ戦いを避けるという、極めて消極的な在り方。
このままじゃまずいかな、と思ってはいたが――こればかりは持って育った倫理観の問題であった。
仁科鳥子は、その見た目と踏んできた場数に反して、比較的普通(まとも)である。
少なくとも自分の障害になるならばと人を躊躇なく見捨てる残酷さなんてものは持っていない。
ひとえに聖杯戦争に向いている人材ではなかった。何せ、追加された新たなルールを以ってしても重い腰を上げ切れない有様なのだから。
その癖元の世界に帰りたいという想いは人一倍強い。そこに自嘲を覚えたことがないと言えば、嘘になる。
『何日かぶりだし、またあのパンケーキ食べに行く?』
『わっ……良いの、マスター? あっ、その、行きたくないってわけじゃないのよ? むしろその逆っていうか、なのだけど……』
『あははは、子どもが遠慮しないの。じゃあお店が近くなってきたら実体化してね、さすがに店内でやるのはまずいだろうし』
自分の半端さは自覚の上だ。他人の願いを踏み躙ってまで進む資格があるのかと悩んだ夜もある。
でも、その上で尚鳥子は願っていた。元の世界に帰りたい――もう一度、空魚(あの子)に会いたいと。
この世界でどれだけ仮初めの日常を謳歌していても、心の片隅に必ず彼女が居ない寂しさを感じている。
人が苦手で、なのに変なところでびっくりするほど大胆で、かと思えば心配になるような危なっかしいところもあって。
それでいて、自分(わたし)が危ない状況になったらどんな危険を冒してでも助けてくれる、彼女。
仁科鳥子が人生で初めて――友情以上の感情を抱いた相手。
「(……空魚なら、アビーちゃんにすらジェラシー燃やしてくれそうだなあ)」
前まではたぶん分からなかった気持ち。
でも、今なら分かる。自分だって空魚がもし他の女を連れて相棒面させていたら、きっとすごく複雑な気持ちになってしまうだろうから。
今となっては、冴月だけに固執して自分を半ば捨てていた頃のことさえ懐かしい。
空魚は、鳥子の世界にある日突然現れて。そして奥底にまで侵入して、鳥籠のような袋小路から連れ出してくれた。
思う。想う。重いと嫌がられてしまうかもしれないけれど――それでも懐(おも)う。
あの旅の続きを。空魚と一緒に歩む未知の世界を。
どんな恐怖も二人で並んで乗り越えて、笑い合いながら打ち上げをする在るべき未来を。
「(私も……そろそろ身の振り方を考えないと、か)」
もしも、全ての希望的観測が無為に終わったなら。
"そうする"以外に道がないと分かったなら。
その時は、選ばなければなるまい。
今の鳥子にとって必要なのは、いつそうなっても即座に覚悟を決められるよう準備しておくこと。
重ねて言う。仁科鳥子は、馬鹿ではないのだ。
何をどう試行錯誤しても無理だと分かって、それでも尚特定の結果に固執し続けるほど彼女は知能の乏しい女ではない。
最終的な目的はあくまで帰還。
"みんな"の大団円のために殉じれるほど、鳥子は聖人君子にはなれない。
もしかするとその道は、見えないけれど今も隣を歩いてくれているだろう少女を悲しませてしまうものかもしれないが。
それでも、それでも――鳥子は、生きて帰りたかった。自分達の遅れてやってきたジュブナイルを、こんな理不尽な幕切れで終わらせたくなかった。
「(出来れば誰かを殺したり、進んで蹴落としたりはしたくないってのも本音だけど。
元の世界に帰ってから事あるごとに思い出したりするの、嫌だし。
どんな顔で空魚や小桜に会えばいいのか分かんなくなっちゃいそう)」
空魚ならば、全てを聞いた上で仕方ないじゃんと受容してくれるだろう。
小桜はあれでとても大人だから、多くを言わずにそれでも自分の罪を受け入れてくれると思う。
そう思うし、信じられるからこそ、鳥子にとって殺すことは最終手段なのだ。
優しさに甘えて自己保身に走るなんて、そんな醜いことはない。
鳥子は大好きな人達、大切な人達に自分のそういう部分を見せたくないと考える。
無論、自分のサーヴァントである純粋で無垢な少女を殺人の道具にしたくないという感情もあった。
『アビーちゃん、今日はマリトッツォでも買ってあげよっか』
『まり……? 何かしら、それ。聞いたことないわ』
『えっとね、生クリームをたくさん挟んだパン――みたいな。
一応昔からあるお菓子らしいんだけど、なんか最近急に流行り出しててさ。
アビーちゃんってパンケーキ好きだから、もしかしたら気に入るかなあと思って』
『……! マスターさんがいいのでしたら、ぜひ食べてみたいわ……!!』
そう言うとアビゲイルは霊体のままで高揚に声を弾ませた。
英霊とは思えないその子供らしい年相応な態度に思わず笑みが零れる。
先行きのまるで見えない日々の中で、アビゲイルの存在は鳥子にとって支えであり癒しだった。
歳の離れた妹が出来たみたいな、そんな気分。元々子供好きな性分も手伝ったのかもしれない。
本戦が始まったから流石に用心して、出かける時は霊体化して貰うようにしたけれど。
それでもこうして彼女と過ごす時間を減らしたくはないと思った。
現代よりもずっと以前の時代の出身者であるアビゲイルにしてみれば、この内界はさぞかし煌めいた新鮮な世界に見えているのだろうし。
ならばせめて、彼女と過ごす限られた日々を有意義なものにしたい――お互いにとって。
そんな気持ちがあったから、鳥子はなるべく昼間は外に出るようにしていた。
あまり長々出かけたり、遠出したりするわけではない。
今日だって一緒に街に出て、お菓子を買って、後はちょっと日用品を買い足して部屋に戻るつもりだ。
至っていつも通り、何も変わらない。
歩き慣れた、この世界にやって来る前から知っている道に自分だけの靴音を響かせていき――――
「……あれ?」
そこでふと、足が止まる。
しんとした静けさが、き〜んという騒音になって鼓膜に触れる。
此処は東京だ。界聖杯により模倣された世界トップクラスの大都市だ。
なのに。別に人通りの少ない道を選んだつもりもないのに、鳥子達の周りには人っ子一人見当たらなかった。
周囲の建物だって無人ではあるまい。その筈なのに――何の気配も、音もしない。
「(――中間領域)」
鳥子の頭に浮かんだ単語。
中間領域。こちらの世界と裏世界の、文字通り中間にあると思しき極めて不安定な空間。
人が居らず、怪奇の兆しだけが静かに根付く嵐の前の凪いだ海。
今のこの状況は、鳥子の知るそれに非常によく似ていた。
だから思わず身構える。銃はないが、鳥子の様子を察してアビゲイルが霊体化を解除し寄り添ってくれた。
「気を付けて、マスター」
「うん、今のところはね。アビーちゃん、何か感じる?」
「……、」
鳥子は魔術師ではなく、あくまでも界聖杯により付与された魔術回路を持つだけの存在だ。
そのため感知能力なんて便利なものは持っていない。
けれど今、鳥子の隣に居る少女は。アビゲイル・ウィリアムズは――サーヴァントだ。
す、とアビゲイルの細くて白い指が動く。そのまま指先が一点に合い、止まれば。
「なにか、いるわ。とても狡くて――」
虚空が、蜃気楼のように歪んだ。
さもそれは、その部分だけ水をまぶした絵筆で撫で回したみたいに。
世界の画素が、テクスチャが、薄くぼけて曖昧になる。
そこに鳥子は確かに見出した。あの世界で何度となく遭ってきた人外のもの。
人間の恐怖に潜むが如き存在――即ち。
「――恐い、ひとが」
――――怪異。
ぼやけた虚空が水気を帯びる。
コールタールのようにどす黒く、しかして目には見えない魔力の兆し。
鳥子は思わず鼻を抑えた。今までの人生で、一度として嗅いだことのないような臭いがしたからだ。
それは臓物の臭い。血腥い腸の臭い。肉食獣が食い散らかした後のような死と虐の臭気。
ぬるり、と。
そんな音が聞こえそうな動作で、虚空から何かが歩み出た。
白と黒のモノトーンで構成された歪な頭髪に、平安期のそれを思わす和装。
しかしながらそれは伝統を棄却したような赤と白の縞模様で編まれており、鳥子はそこにピエロのイメージを見た。
七尺近くありそうな長身をゆらりと揺らして、口に粘っこい笑みを浮かべたその怪異(なにか)。
"それ"は――鳥子に向けて眦を細め、慇懃無礼に頭を下げた。
「お初にお目に掛かりまする。界聖杯内界に残留した二十三の器の一つたる、そこな英霊のマスター殿」
ろくなものではない、と鳥子はすぐに察する。
鳥子が知る、意思疎通の出来る異常な相手というと潤巳るな――万人を従わせる"声"を持つ少女が浮かぶが。
これは彼女の比ではない。魔術師ではなく、空魚のように怪異の知識を広く持つわけでもない身の鳥子だが、それでも分かった。
「拙僧はアルターエゴのクラスを以って現界したサーヴァントでございまする。
どうぞお気軽に、リンボとお呼び下さいませ」
「……アルター、エゴ? それって――」
鳥子はアビゲイルの方に視線を向ける。
すると彼女もこくりと頷いた。
エクストラクラス。通常の七騎には該当しない、特異な霊基を持つサーヴァント。
アルターエゴ・リンボ。辺獄――何とも不吉で、禍々しい名を名乗った彼は。
「目は口ほどに物を言う、と申しまする」
肉食の獣のように、ニィと口を吊り上げ。
「成程、そちらのお嬢さんもまた拙僧と同じエクストラクラスなのですなァ。
これはこれは、数奇な遭遇もあったもので」
「……っ」
そう嗤った。それと同時に鳥子は自らの迂闊を恥じる。
まんまと情報を与えてしまった――よりにもよって、こんな奴に。
心に這い出た弱気を振り払うように鋭く目を細め、警戒心を横溢させる。
「……それで、そのアルターエゴさんが私達に何の用?」
「ンン――そう身構えずともよろしい。
何も取って食おうという腹積もりではございませぬ。
拙僧はただ、至極公平で真っ当な盟を結ぼうと持ち掛けに参ったのです」
身構えるなという方が無理な話だ、と毒づきたくなったが。
それはさておき、相手方の持ち出してきた話は予想だにしないものだった。
同盟の誘い。曰く公平で真っ当なもの。更にリンボは、続ける。
「拙僧の主もまた聖杯を求めておられる。
しかして戦力はどれほどあっても過剰ということはありませぬ。
残る敵数は二十余り二つ。手を取り合い背中を預けられる相手を欲するのは当然の思考かと思いますが――」
「……駄目よ、マスター。耳を貸してはいけないわ」
きゅ、とアビゲイルが鳥子の服の裾を掴む。
実のところ鳥子は、リンボの持ち掛けに迷いを感じていた。
確かにこの男は、見るからに疑わしく信用に値しない相手だ。
けれど、この先の戦いを生き残っていくならば敵を減らすに越したことはないのではないか。
たとえ一時的なれど同盟を結ぶだけ結んで、後は一瞬たりとも気を許さなければ恩恵だけを受け取れるのではないか――。
そんな思考が芽生えてしまった。しかしまるでそれを感じ取ったみたいに、アビゲイルは真摯な瞳で鳥子を見上げている。
「この人は、恐い人。だから決して手を取っちゃ駄目。
"気をつけていれば大丈夫"なんて思わないで」
「……アビーちゃん」
裾を掴んだ小さな手。
それを、ぎゅっと握る。
自分の中に根付く恐怖を消す上でも、その温もりは実にいい仕事をしてくれた。
……呑まれかけてた。
鳥子はそれに気付いて背筋を粟立たせる。
アビゲイルの制止がなければ、自分はきっとこの男に頷いていただろう。
考えるまでもなく分かることだったのに、白痴のように同盟を受けていたに違いない。
「惑わされてはなりませぬぞ、金毛の貴女。
所詮サーヴァントとは人類史の影法師。あくまでも肝要なのは今を生きる貴女の――」
「あなたとは同盟はしない」
にべもなく切り捨てる。
今この手に銃はないけれど。
怪異を不可侵の存在から打倒可能な"敵"に変える空魚の瞳もないけれど。
それでも、傍らのサーヴァントの存在が仁科鳥子を強くしてくれた。
嗤う肉食獣を見据え、続ける。
「あなたからは……凄く、厭な臭いがする。
たとえ一時のものだとしても、私はあなたとは組みたくない」
くねくね、八尺様、果ての浜辺の怪異達。
最近のものだと寺生まれのアイツなんかが思い出されるけれど。
此処まではっきりとした意思を持って接触を図ってきた怪異――そう呼べる存在は今までで初めてだった。
だから気圧されかけた、呑まれかけた。でも、アビゲイルのおかげで気付けた。
これは近付いてはならない存在だ。決して、同じ側に立ってはならない存在だ。
きっと此処に居るのが自分じゃなくて空魚だったとしたら――同じ結論を弾き出したはず。
その判断に無限大の自信を得る。
いつしか、気圧されかけた弱い心は消えていた。
確固たる自分を持って、毅然と相手を見据えて。改めて示す――拒絶を。
「だから大人しく帰ってくれない? そしたらこっちも疲れなくて済むから」
「――――ン、ンン」
にべもない拒絶。
それを受けたリンボは、辺獄の号を持つアルターエゴは、嗤った。
可笑しくて堪らない。愉快痛快、とでも言うように。
悍ましく悪意に満ちた、享楽と悦楽の笑みが浮かぶ。
「そう返されては。拙僧も、為すべきことを為すより他無くなってしまいますな」
この男とは組めない。
これのマスターがどんな人間であるにせよ、これがこうして大手を振って出歩いている時点で論外だ。
それが鳥子の結論だったが、しかして同盟の交渉が決裂したならば敵がすることもまた自明。
リンボの周囲に、人型を模した御札が複数ひらひらと舞い上がる。
「マスター、離れて!」というアビゲイルの言葉が響いた時には既に、赫い燐光が煌々と瞬き、そして爆ぜるまでの工程を終えていた。
「っ、あ……!!」
受け身も取れずに吹き飛ばされて地面を転がる。
舞い上がった土埃が晴れれば、そこに立つのは両手を広げた肉食の魔人。
ひゅっ、と喉が情けない空気音を立てたことを責められる者はまず居まい。
歩みを進めたリンボ。鳥子を守るべくアビゲイルが、その間に立つが。
尚も構わず、美しき肉食獣は歩む。
「残念。実に残念でございます――えぇ、えぇ。
本戦にまで残った器の一つ。多少は賢明な判断が出来るものと思っておりましたが」
違う、惑わされるな――鳥子は自らに言い聞かせる。
地に這いつくばりながら。それでも、しっかり自分を保とうと唇を噛む。
これはそんなこと微塵も思っちゃいない。
最初から期待などしていないし、断ることくらい分かっていた。
なのに何故、こうしてわざわざ白々しい三文芝居を打ったのか。
その答えは、決まっている。悪意だ。頷くなら良し、頷かずともそれで良し。
どの道悪意で相手を貶めることしか考えていないのだから、同盟に頷くかどうかなどさしたる問題ではないのだ。
「正当な懇願を無碍にされては、拙僧としても取る手段が限られてしまいまする。
例えば、そう」
リンボが手を振るう。
それだけでアビゲイルの身体がぐらりと揺らいで地面に伏した。
鳥子は目を見開くが、それは彼女がリンボの真実を知らぬ故の反応である。
アルターエゴ・リンボ。
彼の霊基は、本来のそれに比べ大きく歪んでいる。
もとい、彼自身が望んで招き入れた歪みと呼ぶべきか。
異なる神話の神を束ねて喰らった果てしない悪意の産物。
そんなリンボの霊基は、言わずもがな――並のサーヴァントでは到底及ぶことの叶わない魔域に達して余りある。
「本人の意思を無視して、仲良くする羽目になりますからな」
翳した右手を起点として描かれる呪わしき星。
五芒星。安倍晴明が興した五行の象徴たるそれを使うのはしかし晴明に非ず。
呪詛と悪意に塗れた呪が、いつかの時空での惨劇を再現する。
輝き喰らう五芒星。異星の神と"切れた"今では、その威力も以前に比べれば見る影もなく落ちているが。
それでも彼は平安にその人ありと謳われた陰陽師。
対抗手段のない英霊がまともに浴びれば、最悪の事態すらも考慮せねばならない有様に成り果てるだろうことは想像に難くない。
――が。
「──―─ぬ?」
五芒星を瞬かせた肉食獣。
その強靭な腕を絡め取るものがあった。
それは、およそこの東京の街並みの中には見合わない異形。
ともすればアルターエゴ・リンボという異分子をさえ上回るだろう存在感を秘めた非現実的物体。
蛸の脚を思わせる触手が、何処かからともなく伸びてきて──それがリンボの肉体を戒めていたのだ。
「よもや、これは」
悪、怪異の如き陰陽師の喫した一瞬の思考的空白。
言わずもがなそれは、戦場においては致命的な隙となる。
ましてこの街で行われているのは只の戦争に非ず。
その生涯を以って世界に召し上げられた英霊達が殺し合う、鮮烈極まる"聖杯戦争"なれば。
空白の代償は、激流の勢いで押し寄せた触手の群れによって徴収された。
七尺近い長身が吹き飛び、呪の行使に辺り発せられようとしていた魔力が霧散する。
消滅させるまでには至っていないようだが──予期せぬ痛手を与えられたことには違いない。
しかし鳥子は喜びでも悪党が吹き飛ばされた爽快感でもなく、驚きを浮かべて触手の主を見た。
アビゲイル・ウィリアムズ。クラス・フォーリナー。……降臨者(フォーリナー)。
「ごめんなさい、マスター。怖い思いをさせてしまって」
リンボに一撃加えた触手が彼女の手によるものなのは明白だ。
アビゲイルは驚く鳥子に向けて微笑んだが、その顔はどこか寂しげに見えた。
それは、主と過ごす穏やかな日常が終わってしまうことを惜しんでの感傷だったのかもしれない。
「だけど、どうか怖がらないでくださいな。
私が──サーヴァントとして。必ずマスターを守るから」
「ン──ンン、ンン、ンンンンン……!!!」
リンボが立ち上がる。
その狂態、依然変わりなく。
多少の流血と損傷が見て取れるものの、五体は健在で活力も失われている風には見えない。
口を開かなければ絶世のものと呼んでもいいだろうその貌に貼り付いているのは、引き裂くように凄絶な笑み。
この男の獣性と悪性を全て発露させたような悍ましい顔で、リンボは嗤う。
「どうやら拙僧、界聖杯の悪食ぶりを些か侮っていたようですな。
しかし考えてみれば当然のこと、何しろこのリンボを招く程に見境がない!
それならば、ンン、確かに!!」
──そも。通常の聖杯戦争であれば、エクストラクラスのサーヴァントなんてものが喚ばれることはないのだ。
監督役及び進行役としてルーラーが用意されることはあるかもしれないが、精々その程度。
にも関わらず此度の聖杯戦争においては、この場に居るだけでも既に二騎だ。
明らかな異様。ルーラーを用立てることなく、にも関わらず混沌をむしろ助長するような異端を招く悪食ぶり。
そして混沌(カオス)の色を霊基の裡に秘めているのは、何もリンボに限った話ではなく。
「外なる神。虚空の叡智に傅く巫女──深淵なるセイレムの落とし仔。
このような降臨者(モノ)を呼び寄せてしまうのもまた道理か!!」
アビゲイル・ウィリアムズもまた"そちら"の存在だ。
リンボは彼女を知っている。とはいえあくまでも一方的にだが。
魔女狩りのメッカたるマサチューセッツ州セイレムにて覚醒し、世界に痛みを齎そうとした銀鍵の少女。
彼女の物語にリンボが介入したことはなかったが、カルデアへの攻撃を実行した際に記録を閲読したため、亜種特異点セイレムの顛末と降臨者・アビゲイルの性質についての知識は得ていた。
それ故の真名看破。されど少女は、そのことに怯えるのではなく──
「来ないで……!」
無数の蝙蝠を出現させ敵に向けてけしかけるという、攻撃行動で以って応えた。
示すのは拒絶。近付かないでと、何より純粋な意思でリンボという悪意の接近を拒む。
蝙蝠の群れに取り囲まれ、黒い塊のようになった陰陽師だったが、しかし。
次の瞬間、その塊は炎の如く燃え盛る呪わしい魔力に包まれた。
蝙蝠達の断末魔が響く。
やがて炭になるまで焼き尽くされたそれらが空に溶けていき。
炎の下から悠然と姿を現したリンボは僧衣の内から札を取り出していた。
それがふわりと虚空に浮き上がり。意思を持ったようにアビゲイルの方へと迫る。
そしてその距離が一定に達するや否や──
「急々如律令」
「っ……あ──あああああああっ!!?」
ぼわりと、爆ぜた。
刹那にして湧き上がる邪悪な炎。
蚊帳の外でこの戦いを見つめるしか出来ない鳥子がアビゲイルの名前を叫ぶ。
だが返事はなく。しかして、この一撃で燃え尽きたわけでもまたない。
立ち昇った火柱を引き裂いて出現した触手が、轟、と大気を掻き鳴らしながら彼へと向かう。
今度は当たらない。先の一撃はまぐれだと嘲るように跳躍し、躱し。
かと思えばその長い足で地面を打って急加速──からの吶喊。
獣の爪を思わす鋭利な一撃が、反応の遅れた少女の二の腕を切り裂いていた。
白い肌を汚す赤い血潮。自分の口元に跳ねたそれをべろりと舐めるリンボの様は醜悪、劣悪、そして猛悪。
「拙い。実に拙いですなァ──所詮は童女の児戯の域を出ぬようだ。
宝の持ち腐れとはまさにこのこと。正しく扱えば、星の終わりをさえ導けるというのに」
まるで羽虫を振り払うようにアビゲイルが袖を振る。
それと同時に虚空からまろび出た触手の打撃はまたしてもリンボに当たらない。
後退させることは出来たがそれまでだ。リンボが受けた痛手は最初の一度のみで、一方のアビゲイルは負傷が目立ち始めている。
血を流す腕を庇って息を切らしながら、それでもマスターのために戦おうとする様はひどくいじらしかった。
そんな光景を見ている、鳥子。今やリンボの視界にすら収まっていないだろう、無力な人間。
ひどく情けなかった──空しかった。
自分の弱さと無力さ、そして聖杯戦争をどこか侮っていた迂闊さに腹が立って仕方なかった。
素人目に見ても分かる。アビゲイルはリンボの指摘の通り、戦いの年季がまるでないのだと。
身に余る大きな力を闇雲に振り回すだけでも確かに強い。それで倒せる敵も少なからず存在しよう。
だがそれはあくまでも、実力が圧倒的に下の相手を嬲る場合のみに限られる。
その点リンボは明らかに、そういうやり方でどうにかするには強すぎる敵だった。
「(……このままじゃダメ、これ以上傷つくあの子を見てられない。
こうなったら令呪を使って強引に撤退するしか──)」
こんな序盤も序盤の遭遇戦で貴重な令呪を一画使うのが大きな損失なのは分かる。
けれど出し惜しんでいてはそもそも此処で自分達の聖杯戦争は終わってしまう。
そうでなくても、今まで自分の心を癒やし、温かい日常を一緒に過ごしてくれた彼女を失ってしまうことになる。
打算抜きに、純粋に──鳥子にはそれが嫌だった。
アビゲイル。優しくて純粋な、とってもかわいいサーヴァント。
サーヴァントとは戦うもの。戦わなければ生き残れない、それは分かっている。
分かっているけど、それでも。鳥子には、駄目だった。
友達が傷つく光景というものをこれ以上まじまじと見せられるなんて、到底承服出来そうになかった。
だから令呪を使おうと決意する。
後先を考えている場合ではないと。自分と、そして彼女の日常を守るために──いざ手の刻印に意識を集中させんとして。
「(せめて空魚の"目"があったら、私も少しは役に立てたのに……、……っ!!)」
そんな未練がましいことを考えた。
そしてその途端、鳥子の脳裏に天啓が閃いた。
『──アビーちゃん! 聞こえる!?』
『っ……マスター、早く安全なところに……!』
『ううん、逃げない! それよりもさ、ちょっと試したいことがあるの!!』
アビゲイルの困惑が念話越しに伝わってくるが、こうなったら一か八かだ。覚悟を決めるしかない。
これから鳥子がやろうとしているのは、まさに根拠のない勝算に未来を委ねる博打だった。
上手くいくかは分からないし、仮に上手くいったとしてそれで勝てるかも分からない。
ただ、試してみる価値はあると。少なくとも鳥子はそう判断した──マスターとして。
或いはそれは、怪異の絡んだ鉄火場をいくつも相棒と一緒に乗り越えてきた冒険者(トラベラー)としての意地だったのかもしれない。
『少しでいいから、あいつの動きを止められる!?
もし出来ないなら、今すぐ令呪を使って二人で逃げる。
でも出来そうなら──』
『……分かったわ、マスター! 難しいかもしれないけど、やってみる……!!』
脳内に響く鳥子(マスター)の声。
要するに博打をやろうとしているだけなのに、そこには不思議な説得力があって。
それに背中を押されて、アビゲイルも彼女を逃がすのではなく二人で一緒に戦うことを決めた。
リンボの眦が──動く。
鳥子の、そしてアビゲイルの間に漂う主従間の空気感が変わったことを敏感に察知したか。
だが長考は許さない。ぶおんと空を切りわなないて、外なる神と繋がる者の証たる異形の触腕を振り回す。
「何を思いついたか知らぬが──!」
なるほど、何やら考えがあるらしい。
されど眼前のフォーリナーは言うなれば幼体、あまりに未熟。
霊基の再臨が進んでいるならいざ知らず、この段階では恐れるに値しない。
何しろ取り柄の出力すら満足に引き出せていない有様なのだ。
適度に遊んで、しかし殺さぬ。
殺さずに、我が五芒星にて呪を植え付け──いつぞやの英霊剣豪とまでは行かずとも、使いでのある傀儡に仕立て上げてくれる。
素体の値打ちは十分、否々それ以上。
これに比べれば大江山の悪鬼も、源氏の頭領も、剣聖に至った無双の剣術家すら矮小の一言に尽きる。
セイレムの銀鍵。虚空の神の依代。もしも亜種特異点セイレムで"完成"していたならば、異星の神の企てをすら根底から覆し得たジョーカー。
これを手に入れることが叶ったならば。その時は、彼女を柱に据えた新たな地獄界曼荼羅を描くのも──
「……何?」
押し寄せた触手の波を焼き。
蝙蝠を引き裂き、いざやと呪を練り哄笑するリンボ。
その足はしかし、前へと進むことはなかった。
右足に絡み付いた触手。それが、進ませじと彼の足取りを戒めていたからだ。
とはいえ小癪。ひとえに無意味。
アビゲイルの放った蝙蝠はもはや目眩まし程度の役割しか為せず。瞬きの内に四散する。
そして、文字通り"目眩まし"のためにけしかけられた蝙蝠の向こうから。
母親譲りの健脚で接近していた仁科鳥子の手が、リンボの胸板へと触れた。
その後ろで、脱ぎ捨てた手袋が空間に残った魔力の残滓に触れ、燃え尽きていくのが見て取れた。
「──捕まえた」
仁科鳥子はただの人間である。
魔術は使えない、多少経験があるとは言っても超人はおろか達人の域にさえ入れない程度。
リンボがその爪を一度振るうだけで鳥子の喉笛は掻き切れ、瞬く間に命が終わるだろう。
だが、リンボがそうするよりも鳥子の手が触れる方が早かった。
触れさえしたならば後はやり切るしかない。
鳥子の手が──ずぶりと。サーヴァントの人並外れた耐久力を完全に無視して、リンボの体内へと潜り込んだ。
世界が止まって見える。
走馬灯に限りなく近く、しかし死を前提として目的を成し遂げるための"決死"。
アドレナリンが過剰分泌されているのをこれでもかと感じながら。
鳥子は、眼前の悍ましき男の体内に一つの確たる手応えを感じ取り、そのままそれを。
「っ、あ、あぁああぁぁあああああ……っ!!!」
雄叫びと共に――ぶぢり、と引き抜いた。
さながらその絵面は、陰陽師の心臓が抉り出されたが如きものであったが。
手が入り込んでいた筈のリンボの胸には傷も出血もなく、さもそれ自体が夢幻の産物だったかのような様相。
けれど鳥子の手には、リンボがこれまで呪の媒体として用いてきた人型の護符が握られ、そのままぐしゃりと潰されていた。
その手には色がない。
神がそれを与え忘れたかのような、透明。
これなるは果てしない蒼の世界、人の恐怖が蠢く異界。
彼女達が〈裏世界〉と呼ぶ領域にて起こった怪異との接触により生じた、言うなれば後遺症とでも呼ぶべきもの。
紙越空魚の蒼い眼は、裏世界の存在を見通す。
そして、仁科鳥子の色のない手は――裏世界の存在を、"掴む"ことが出来る。
「……ほう」
リンボの身体が、灰のように崩れ始める。
その顔に浮かぶのは驚嘆。そして感心。
英霊としての消滅、霊基崩壊の兆候ではない。
鳥子にもアビゲイルにも正確には断定出来ないだろうが、種を明かせば最初から、彼女達の前に現れたリンボは本体ではなかったのだ。
「よもや、そのような」
散りゆくリンボ、もといその式神に触手が叩き付けられ、美しき肉食獣は二人の眼前から消滅した。
辛勝。討伐には程遠い撃退であったが、勝利は勝利だ。
直にリンボの人払いも解け、街はいつも通りの喧騒を取り戻すだろう。
そうなれば、彼女達とリンボ以外に先の戦いを知る者は誰も居ない。
何も知らない者達が、つい数分前まで生死を賭した激戦の舞台となっていた区画をスマートフォン片手に行き交うのだ。
はあ、はあ、と喘鳴にも近い息を吐き出しながら、恥ずかしげもなく地面に仰向けで転がる鳥子。
それに駆け寄るアビゲイルに、彼女は微笑んでグーを突き出した。
「……どう、アビーちゃん。
君のマスターもさ、なかなかやるもんでしょ」
「もう……っ。マスターは、無茶しすぎだわ……!」
目に涙を浮かべて、それでも笑みを返してくれるアビゲイル。
初めての勝利の味わいは爽快感すら伴っていて。
だけど、出来ればもう二度とやりたくないなあと思わせるに足るものだった。
「とりあえず……一回、部屋に帰ろっか。
アビーちゃんも正直、お菓子どころじゃないでしょ。疲れて、さ」
人が来れば目立ってしまう。
その前にと、緊張が解けてどっと疲れた身体を無理やり起こした。
空を見上げる。快晴の青空は他人事のように清々しくて、嫌味なくらい眩しくて。
「(……やったよ、空魚)」
心の中でそう、一言呟いて――此処には居ない大切な相棒に、同じくグーを突き出すのだった。
【渋谷区・路上/一日目・午前】
【仁科鳥子@裏世界ピクニック】
[状態]:疲労(中)
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:護身用のナイフ程度。
[所持金]:数万円
[思考・状況]
基本方針:生きて元の世界に帰る。
1:疲れた……部屋に戻ろう。
2:出来るだけ他人を蹴落とすことはしたくないけど――
3:アルターエゴ・リンボに対する強い警戒。
[備考]
※鳥子の透明な手はサーヴァントの神秘に対しても原作と同様の効果を発揮できます。
式神ではなく真正のサーヴァントの霊核などに対して触れた場合どうなるかは後の話に準拠するものとします。
【フォーリナー(アビゲイル・ウィリアムズ)@Fate/Grand Order】
[状態]:疲労(中)
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:マスターを守り、元の世界に帰す
1:マスターにあまり無茶はさせたくない。
◆◆
意識が浮上する。
ふう、と溜め息を吐き出した身体には若干の疲労感。
若干なれど、損耗は損耗だ。あの頃では有り得なかった、消耗。
やはり異星の神と繋がっていない現状の霊基では、生活続命の法を実現するのは不可能であるらしい。
偵察に出していた式神が破壊された。
あわよくばセイレムの魔女を傀儡に出来るかと思ったが、流石にそう上手くは運ばなかった。
彼女を従えていたマスター。その透明な手。それを以って式神の核を外に弾き出されたことで、術の形が大きく崩れてしまったのが敗因だ。
油断したか。魔力の波長を感じないマスターであった為、さぞかし見当違いの方策で自分を倒そうとしてくるのだろうと高を括っていた。
その結果、まんまと足元を掬われて敗れた形である。
「とはいえ……成果としては十二分、か。
あの"手"には驚かされたが、二度同じ手を食う儂ではない。
アビゲイル・ウィリアムズ――あれは良い地獄を生める器だ。この世界を塗り潰す絵筆の一つとして、頭に入れておかなくては」
此処に来る前。アルターエゴ・リンボは一度完膚なきまでに敗れ、消滅した。
それから英霊の座に還り、そうして再度召喚されたのが今回の彼だ。
その霊基は相変わらず異常なものであったが、それでも以前ほどではない。
零落。そう呼ぶに相応しい体たらくへと、今のリンボは成りさらばえていた。
しかしそれでも――彼が悪逆のアルターエゴであることに変わりはない。
何故なら記憶を引き継いでいる。異星の神の尖兵として暗躍し、地獄界を描き上げた記憶を変わらず持っている。
ならば力の大小など些末。零落と矮化は、彼の悪意を抑え込む檻としては役者不足だ。
「さて。では、マスターの下にでも赴きましょうか。
大方今頃は新たな手を打ちに掛かっているところでしょう」
全てを嗤う、悪。
黒い太陽と悪の神を取り込んだハイ・サーヴァント。
強大な力と、それを遥かに上回る巨大な悪意を蠢かせて――
蘆屋道満、世に蔓延す。
彼が望むは新たな地獄界。
その絵図は、既に記され始めている。
【???/一日目・午前】
【アルターエゴ・リンボ(蘆屋道満)@Fate/Grand Order】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:???
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:この東京に新たな地獄を具現させる。
1:マスターには当分従いましょう。今の拙僧はあの幼子の走狗なれば。
2:マスターの所へ向かう。
[備考]
※式神を造ることは可能ですが、異星の神に仕えていた頃とは異なり消耗が大きくなっています。
※フォーリナー(アビゲイル・ウィリアムズ)の真名を看破しました。
※本体の位置については後のお話で設定していただいて構いません。
◆◆
――これは、禍々しき陰陽師と銀鍵の巫女の交戦とは全く関係のない話だ。
◆◆
◆◆
"彼"が英霊となって最初に感じたのは――――激しい嫌悪と絶望だった。
それは永遠の牢獄。
人類史の一員となる、史上最悪の終身刑。
聖杯戦争への招集、特異点的状況に於ける自由意思を無視した強制召喚。
子供や若者は考えもなしに偉くなりたい、世界に名を残したいと口にするが。
実際に"そうなった"この男に言わせれば、現実を知らないが故の世迷言以外の何物でもなかった。
英霊になり、人類史に刻まれる。
その意味するところは――永遠の束縛だ。安息のない、平穏などとは遥かに縁遠い"英雄"の一員に成り果てる地獄に過ぎない。
ふざけるな、やめろ。
そんなものは要らない――望んだ試しもない。
男の嘆きと絶望は届かず、時は流れ。
彼はこうして平穏とはかけ離れた、"聖杯戦争"の舞台へと召喚されるに至った。
男の名前は"吉良吉影"。
この世の誰より強く平穏で波風の立たない人生を渇望していながら、堪えられない難儀な性を抱えて生きた反英雄。
死人(デッドマン)と英霊(サーヴァント)に分かたれた魂の内の後者。
此度の聖杯戦争においては、アサシンのクラスを得て現界している。
吉良は聖杯戦争を嫌悪している。
何しろ"戦争"だ。言葉通りの争いだ。
平穏の二文字とはおよそ対極に位置する大時化の海面だ。
しかしそんな心情とは別に、吉良はこの聖杯戦争に絶対に勝利せねばならないという強い意欲を抱えてもいた。
理由は単純にして明快である。
人類史という不朽の牢獄、仮釈放なしの終身刑。
そこから抜け出し、かつて愛した平穏を取り戻す唯一の術こそが――界聖杯の恩寵であるのだから。
わたしは願いを叶え、英霊という名の枷から逃れる。
そして再び受肉して、今度こそ誰にも何にも邪魔されることのない平穏な生活を謳歌してみせる。
吉良は強くそう願っていたし。
そのためにどんな行動に手を染めることにも躊躇いはなかったが。
ただ一つ、そんな彼の頭を悩ますものがある。
それは他でもない、自分をこの地に喚び出したマスターの性だった。
「(『田中一』……あんな男にわたしの命運を握られていると思うと、心底鬱屈とした気分になる。
あれは愚かな男だ。『植物の心のような平穏』を自分から蹴って捨てる類の人間だ。
このわたしのマスターとしては、相応しくない)」
吉良は平穏を愛する。
そして平穏を乱す者を激しく嫌う。
ならば当然、自分で平穏を捨てる人間のことは理解出来ない。
彼のマスターはひとえに、それだった。
ちっぽけで病的な精神を暴走させて道を踏み外した、短慮で愚かな凡人。
腹立たしいことに。ままならぬことに。そんな男に今、吉良は――自分の悲願の手綱を握られていた。
吉良はサーヴァントとして認識されることのない、特殊なスキルを持っている。
『街陰の殺人鬼』。彼の生前の在り方を抽象化したような能力。
これのおかげで吉良はサーヴァントでありながら、霊体化することもなく普通の人間を装って東京の街を闊歩することが出来ている。
そんな彼の評価としては、東京はお世辞にも住みやすい街ではなかった。
何をするにも人が多くて、騒がしくて、煩わしい。
やはりあの杜王町以外に自分に安息を与えてくれる街などないのだと改めてそう感じながら上を見上げる。
巨大なモニターの中で、アイドルが歌って躍っていた。
どうせなら自分のマスターはこういう人間であればよかったと、吉良は思う。
平和ボケした、お世辞にもいいとは言えない脳味噌。
苛立つことはあるかもしれないが、その代わり、田中のように身の丈に合わない非日常への夜行を行ったりはしない。
『革命』など要らないのだ、吉良の人生には。重要なのは『泰平』。ただ凪いでいれば、それでいいのだ。
「(一先ずは様子見だが……判断のタイミングだけは見誤らないようにしなければ。
願ってもない千載一遇の好機。界聖杯は特別な聖杯だ――他の聖杯でわたしの願いを十全に叶えられるとは限らない。
何としても今回でこの忌々しい鎖から脱却するのだ、わたしは……)」
歩く。三百六十五日、いついかなる時も人でごった返した道も。
そこでふと、一人の女性とすれ違った。
海外の血でも流れているのか、金髪のすらりとしたシルエットをした女性。
何の気無しにすれ違い。そして――――
「……、――――」
吉良は、足を止めた。
そして振り返る。疲れているのかやや脱力気味に投げ出されたその片手は。
余人では有り得ない、色をしていた。否、そこには色がなかった。
透明な手。何の美化も汚染もされていない、何の色も宿らない、手。
――――なんだ、今の『手』は。
どくん、どくん、と。
吉良は、かつて一度止まった自分の心臓の脈打つ音色をこの世の何よりも大きく感じていた。
人混みの奥に消えていったその女の後を追うように吉良は踵を返す。
気付けば呼気は乱れ。代謝など存在しないサーヴァントの身体は、じっとりと汗を帯び始めていた。
………男の名前は"吉良吉影"。
この世の誰より強く平穏で波風の立たない人生を渇望していながら、堪えられない難儀な性を抱えて生きた反英雄。
彼を召喚した愚かな凡人と、平穏を愛する彼の間にはたった一つだけ共通点がある。
執着と、病理だ。理性では抗えない、持って生まれた病的な性。
吉良の場合のそれは。それは――
【渋谷区・路上/一日目・午前】
【アサシン(吉良吉影)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康、激しい動揺
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:数万円(一般的なサラリーマン程度)
[思考・状況]
基本方針:完全なる『平穏』への到達と、英霊の座からの脱却。
1:――――今の、手は?
2:マスター(田中)に対するストレス。必要とあらば見切りをつけるのも辞さない。
投下終了です
皆様投下乙です。
田中一、吉良吉廣を予約します。
>>狂い哭け、お前の末路は偶像だ
にちかとアシュレイ、この組み合わせの"良さ"がとことんまでに発揮された第一話でしたね……。
にちかの弱い部分をこれまた上手い形で描きつつ、そこを見逃さずに見抜いて指摘するアシュレイの良鯖っぷりが光る。
メンタルケアもしっかり出来てなおかつこの企画では今のところかなり厳しい状況を強いられている脱出派の希望になり得る能力まで持ってるとか、これは間違いなくSSRサーヴァント。
そしてそのカウンセリングも優しく相手に寄り添うようなもので、彼が非常に高い(というか規格外)の話術スキルを持っていることに納得すると共に、にちかのこれからの未来に大きな希望を抱かせてくれるものでした。
まだ聖杯戦争本戦は序盤も序盤ですが、これからどのようにその輝きを煌めかせていくのか大変楽しみです。
>>きりさんぽ
霧子がめちゃくちゃかわいい!! いや当たり前のことではあるんですが、かわいいものを凄くかわいく書くって実はとても凄い(こいつ凄いしか言ってなくない?)ことだと思うんですよね。
そしてそんな彼女のことを兄上こと黒死牟の視点から観測するという構図がまた巧みだなあと思いました。
黒死牟の視点から見ているので霧子が認識できていない脅威なども読み手に伝わり、話の内容自体はとても穏やかなのに読んでいてドキドキ、わくわくしてくるという大変面白い構造のお話でした。
また、黒死牟の側から敵として認識されているのと同じように皮下の視点でも霧子はかなり怪しい、というかあからさますぎて逆に困る相手として認識されているっぽいのがまた。
本企画最大級の伏魔殿・皮下医院に意外な形で入り込んだ霧子たちの今後が気になります。
>>咲耶はいい子
このスピードでこの話を出してくるの!?(驚愕)というのが第一声でした。でもそのくらい素晴らしいお話だったのです。
別な話で描写された予選脱落の咲耶、その遺言。それを軸にしてお話を回してらしたのですが、あ〜リレー小説読んでるな〜!と楽しくなりました。
また摩美々の動揺描写がとても良くて、普段の摩美々のことを知っているからこそ余計にグッと来るお見事な崩し。
そしてエモ展開に比重を置くのかと思えばモリアーティを用いてしっかり考察など今後の話に関わってきそうな布石も用意するなど、全体的に書き手さんの技量の高さが光っていたなあと。
タイトルもいいですよね。企画の参加者名簿に居ないキャラクターがタイトルを貼っているのに、読めば一瞬で納得させてくるパワーみが非常に好みでした。あとやっぱり書くの早すぎませんか?(二回目)
感想遅れて申し訳ありませんでした。
皆さんとても素敵なお話の投下ありがとうございました〜!!
そして自分も予約を。
櫻木真乃&アーチャー(星奈ひかる)、星野アイ&ライダー(殺島飛露鬼)、紙越空魚&アサシン(伏黒甚爾)予約します。
こちらこそ、ご感想ありがとうございます!
そして投下乙でした!
パンケーキやマリトッツォで盛り上がる鳥子とアビーに癒された矢先、あのリンボが襲いかかってくるとは!?
やはりリンボは驚異的ですけど、鳥子とアビーの見事な連携で勝利するとは凄いですね!
もちろん、リンボの悪意が止まることはありませんが、それでもこの勝利は大きな一歩になるでしょうね。
一方で吉良も『手』に気付いたことで、何か不穏な気配がしますね……
皆さん投下乙です。
自分も投下させていただきます
茹だるような熱気の街だった。
沙都子の知る夏よりも格段に気温が高く何よりじっとりしている。
降り注ぐ日光。
それを吸収して熱を蓄えたアスファルト。
おまけに忙しなく行き交う人込みの山──三拍子揃った最悪な環境。
これが外の世界。
これが──梨花の夢見た新天地。
額に浮かんだ汗を拭って、沙都子は呆れたようにため息をついた。
「私にはさっぱり理解できませんわ」
梨花が聞いたなら目を輝かせて羨ましがるだろう大都会。
その土を踏み続けてかれこれ一ヶ月。
それでもこんな場所を良い所だと感じたことは一度としてなかった。
こんな街の何がいいのか。
暑くてうるさくてやたらめったらに眩しいだけのごちゃごちゃした街並み。
それは沙都子にしてみれば下品にさえ感じられた。
旅行で一日二日訪れるだけならまだしも、此処で暮らしていこうなどと考えるならそいつはどうかしているとすら思う。
今でも沙都子には分からない。
梨花がどうしてあれほどまでに外の世界に行きたがったのか。
気心の知れた仲間と住み慣れた村を捨ててまで。
どうしてあの息が詰まりそうな学園に進む道を選んだのか。
分からないが梨花の意思はとても固く。
何度繰り返しても、何度繰り返しても。
梨花の『外に向かう意思』を変えさせることはできなかった。
(あなたが早く諦めてくれていたら、私がこんなところに来ることもありませんでしたのに)
生き方は人それぞれなのだからと諦められればどれほどよかったろう。
だがそれは北条沙都子には選ぶことの出来ない選択肢でもあった。
両親との確執、叔父夫婦からの虐待、そして最愛の兄の失踪。
どれか一つでも思春期の子供にとっては一生モノの心の傷になるだろう不幸に連続して遭遇してきた沙都子。
そんな彼女がようやく行き着いた安住の地こそが古手梨花と一緒に暮らす日常で。
それを手放すということが彼女にとってどんなに重く耐え難いことであるかは自明だった。
梨花と足並みを合わせようとはした。
お世辞にも学力の高い方ではない沙都子が格調高い難関校に合格出来たのはその努力の証である。
しかし沙都子の努力は所詮長い茨道のスタートラインに立つためだけのものだった。
一番大切なのはそこに立ってからだというとを思い知った時にはもう、彼女の幼い心は限界に達していた。
親友と一緒に居続けるためというモチベーションに背中を押されていたとはいえ、名門校への入学に成功するだけの学力はあったのだ。
もしかすると本当に、努力し続ければあの学園で親友と肩を並べ続けることも出来たのかもしれない。
実際繰り返した世界の中では梨花が沙都子のためにあれこれ世話を焼こうとしてくれたこともあった。
その手を取って真面目に頑張っていれば──魔女になんてならなくても。
また二人で笑い合える道に戻れていたのかも、しれない。
けど。
──けど、それでどうするんですの?
沙都子は頭が良くない。
というよりも、知能の偏りが酷い。
自分の興味のある分野ならともかくそうでないものに対してはそもそも学ぼうとすること自体苦痛に感じる。
邪道でならばいくらでも戦えるが、正攻法を求められると途端に粗が出る。
彼女にとってあの牢獄の中で努力を求められ続けていた時間は、海水に放り込まれた淡水魚の気持ちを知れるものだった。
ああ、でも。
それでも。
懸命に泳ぎ続けて塩の味に慣れさえすれば。
もしかしたら。
梨花と――。
……違う。
そうではない。
そうではないのだ。
話はそんな次元じゃない。
駄目だった。
沙都子にはまずあの世界が駄目だった。
雛見沢を出て変わっていく梨花。
取り巻きに囲まれて楽しそうに過ごす梨花の姿は沙都子の知っているものとは全然違うもので吐きそうにすらなった。
だってその姿は、沙都子が好きだった“仲間”の梨花ではなかったから。
消えていく。
たった一人の家族といってもいい親友の好きなところが。
日を重ね顔を合わせる度に消えていく。
久しぶりに仲間が集ったというのに退屈そうな表情をしている梨花の姿。
取ってつけたように“昔の自分”を演じてみせる姿。
それが嫌で。
嫌で、嫌で、嫌で。
嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で。
繰り返しの力に手を伸ばして──繰り返して。
それでも駄目で何度も試して。
そして……
そして。
北条沙都子は──神(タタリ)になった。
めでたしめでたしで終わった物語に唾を吐いて踏みにじって。
望む結末に辿り着くまで最愛の猫を囚え続ける黒幕になった。
その運命の末に沙都子は可能性とやらを見初められ此処にいる。
繰り返しによる因果の蓄積がこんな事態を生むというのは想定外だったが。
(まあ、これも考えようによってはそう悪くありませんわ。
界聖杯が手に入ればそれで私の長い旅も終わりですものね)
無限回繰り返す覚悟はあったが早く終わらせられるならそれに越したことはない。
梨花が外の世界など目指さず自分とずっと一緒に生きてくれる最高のカケラ。
界聖杯でそれを創り出せるというのなら──沙都子は喜んで玉座を目指す。
雛見沢という小さな、とても小さな井戸。
沙都子にとっての井戸(せかい)に蓋をするために。
(幸い武器もすぐに手に入りましたし。あの薬もあればもっとよかったのですけど、それは高望みってものですわね)
そしてそのための場作りは既に始めていた。
サーヴァントである蘆屋道満──『リンボ』には索敵と監視を命じ、沙都子自身は武器を求めた。
以前はまどろっこしい手を使って現金を調達しその金を裏社会の人間に渡す手間を踏まねばならなかったが此処ではその必要もない。
リンボを連れて適当な極道の屋敷を襲撃すれば得物を予備分まで含めて確保するのに十分とかからなかった。
沙都子は銃を扱える。
文字通り何年もの時間を費やして習得したその技術はもはや本場の訓練を多少受けた程度の人間では相手にもならない次元。
今となってはその腕前は師である園崎魅音をすら超えている。
まともな人間のマスターが相手ならば、これだけでも遅れを取ることはまずあるまい。
欲を言えばあの『悪魔の薬』も欲しかったが……サーヴァントという強大な戦力を得たことの引き換えに失ったのだと思えばまあ納得は出来た。
沙都子は今も懐に銃を忍ばせている。
銘柄はトカレフ。
オーソドックスながら最も手に馴染む一丁だ。
どれだけの時間を繰り返していようとあくまで沙都子の見た目は小学校高学年女子のそれ。
如何に今この街が物騒だとはいえ、女子小学生の帯銃を疑うほど奇矯な者は流石にいない。
そのため沙都子は大手を振って、武器を携帯しながら街を歩けていた。
もちろん闇雲に歩いているわけではない。
沙都子には明確な目的地がある。
そこに向かい、会ってみたい人間がいるのだ。
(皮下医院の院長先生……。そういえばえらく若い方でしたわね)
沙都子のしもべに曰く。
院を訪ねてきた医者は人間の身体をしていなかったという。
沙都子も院の児童として彼と対面し身体検査を受けた。
令呪を隠すために怪我をしたという建前で包帯を巻いていたため、マスターであることはバレていまい。
だがその一方で──沙都子の方も彼が聖杯戦争のマスターであるとは見抜けなかった。
若くて爽やかな印象のよく喋る医者。
沙都子が抱いた印象は精々そんなところだ。
しかしリンボの言葉は無視出来ない。
あのサーヴァントはどうにも信用ならない厭らしい男だが──彼の力と知見については沙都子も信頼している。
しかもただ強いわけではない。
策を弄して他人を陥れて殺す最悪という他ない『悪』。
自分に相応しいサーヴァントだと、沙都子は自嘲ではなくむしろ肯定的な心持ちでそう思った。
そんな能は確かな男が人に非ずと言った。
であれば、そうなのだろう。
『皮下医院』、
そしてその院長『皮下真』。
多少調べた時点では特段怪しい点を見つけ出すことは出来なかった。
だが会ってみる価値はある。
そう思って沙都子はかの病院を目指していた。
(敵は二十組以上いるんですもの。馬鹿正直に全部と戦っていたらキリがありませんわ)
理想的なのは同盟を組めること。
条件付きでも構わないし最後の二組になるまで組もうと言うならそれでもいい。
どの道──利用するだけして、使えなくなったら捨ててやるつもりなのだから。
(最後に勝つためならどんな手でも使う。勝負事の基本でしてよ)
それは慣れ親しんだルール。
いつの間にかつまらない大衆向けに塗り潰されてしまった部活の基本。
楽しかった時間を今も心の奥に残しているからこそ。
繰り返した時間に学び自身の下す祟りを先鋭化させ続けてきたからこそ。
ゲームの中身が笑顔溢れるものではなくなっても。
ゲームの名前が『戦争』に変わっても。
北条沙都子は優秀なプレイヤーであり続けられる。
“手段を選ばない”ことにかけての沙都子は一流以上だ。
そうでなくては、神など。
祟りなど。
――名乗れやしない。
▽ ▲
箱庭の中にずっといられればよかった。
でも世界と時間はそれを許してくれなくて。
少女は世界を鎖すことにした。
ただずっと遊んでいられればよかったのに。
それはどうしても叶わなかったから、だから。
だから。
【新宿区・大通り/一日目・午前】
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業】
[状態]:健康
[令呪]:残り3画
[装備]:トカレフ@現実
[道具]:トカレフの予備弾薬
[所持金]:十数万円(極道の屋敷を襲撃した際に奪ったもの)
[思考・状況]
基本方針:理想のカケラに辿り着くため界聖杯を手に入れる。
1:最悪脱出出来るならそれでも構わないが、敵は積極的に排除したい。
2:皮下医院へ向かい、院長『皮下真』と接触する。
[備考]
※アルターエゴ(蘆屋道満)と合流するかどうかについては後の話にお任せします。
投下を終了します。
何かあればよろしくお願いします
投下乙です。
ようやく平穏へと至り、しかしその後の日々で躓いた末に自らが災いになってしまった元祖さとちゃんのモノローグが切ない……
そして霧子兄上に加えてさとちゃんも皮下医院と繋がってたりで周辺が中々に不穏だ
そしてすみません、現在の予約分に吉良吉影も追加させて頂きます。
投下乙です!
沙都子は安らぎを手に入れるかと思いきや、こんな悲劇が起きては気落ちしますよね。
聖杯という希望は確かにありますが、サーヴァントがあのリンボであることに加えて、これから向かう病院には兄上やカイドウもいることを考えると不安が多い。
唯一の希望になりそうなのはきりりんですが、果たして……?
>>『You』
とにかく北条沙都子(業/卒)というキャラクターに対する理解度が高い作品だな……と思いました。
繊細な筆致で描かれたモノローグが非常に情緒的で、読んでいてぐんぐん引き込まれていくのを感じましたね。
そんな沙都子の向かう先は皮下医院、後の書き手さんの判断に依りますが沙都子とリンボが合流する可能性も高くどうなるのか予測不能。
さながら本編で暗躍していた時のように、ますますこの東京という舞台を混乱の中に叩き込んでくれそうな登場話でした。
あと、個人的にはタイトルのチョイスが好きです。ひぐらしの代名詞的な曲を此処で持ってくるのか、という感じで……まあ沙都子にとっての『You』も思いっきりこの空の続く場所にいるんですけどね……
投下します。
◆◇◆◇
東京都、杉並区。
西荻窪―――これは1970年代に廃止された旧地名だ。
正確には西荻北、西荻南という地区である。
しかしJR中央線に同様の駅名が残っているように、今もなお一帯は西荻窪という通称で親しまれている。
東京という街は鉄道網の発達が著しく、それ故に大都市の周辺にも様々な個性や文化を持った街が点在している。
戦後の闇市から発展した西荻窪には複数のアンティーク雑貨店、古書店が存在する。
更には「都内の住みたい街ランキング」で毎年上位に位置する“吉祥寺”の真隣であり、新宿などの都心部にもアクセスしやすいという好立地によって、住宅街としても密かな人気を集めている。
とはいえちょっとマイナー感は否めないし、なんか新興宗教やNPO団体とかも妙に多い――地下鉄でテロ起こしたあのカルト教団もこのへんで活動してたとか――。
でもまあガヤガヤした繁華街よりかは程々に落ち着いてるし、それでいて駅周辺はそれなりの賑やさもある。夜なんかになると、飲み屋街の方では幾つもの提灯が光ったりする。
関係ないけど、動画サイトで前に流行ってたハトバなんとかってバーチャルのヤツのもこの辺に住んでるらしい。
この説明、何かって?
さっきググって知ったこと、俺が前から知ってたことを纏めただけ。
で、俺は今、何をしてるかって?
景気づけに朝から路上飲み。歩き飲み。
どうせ仕事行ってないし。世間じゃ夏休みだし。
西荻窪南口を出てすぐのスポットは強烈だ。戦後闇市の名残をがっつりと残した、雑多な飲み屋街が広がっている。
路地にごちゃごちゃと看板やら剥き出しのカウンター席やらが並ぶ、さながら昭和の生き残りだ。
流石に朝方はそれほどの活気も無いが、それでも11時前後から開いている店もちらほら存在する。
俺―――田中一は、そんな飲み屋街の中を歩いていた。
右手にはスマートフォン。歩きながら画面に食い入っている。
左手には缶チューハイ。アルコール9度の所謂ストロング缶だ。
適当なペースで、グイッと一口ずつ飲んでいる。
歩きながらスマートフォンを弄りつつ、俺は既に開かれた居酒屋の店内にいる客層をちらりと覗き見た。
もくもくと立ち込める煙。香ばしい焼鳥の匂いが漂ってくる。その向こう側のカウンター席にそいつらは居る。
店主に馴れ馴れしく話しかける暇そうなジジイとか、パチンコや風俗くらいしか趣味が無さそうな汚いオッサンとか、孤独な連中の掃き溜めである。
朝っぱらから飲み屋に屯している人間なんてものは、大抵しょうもない奴らばかりだ。
俺が燻ったままだったら、いつかはこうなっていたんだろうな。
死に物狂いで執着できる“目的”を見つけていなかったら、駄目なまま腐っていったんだろう。紛れもないクズ共の仲間入り。
今までの俺だったら、こんなことを考える自分を酷く惨めに思っていただろう。
他人を見下すことは一丁前にするのに、自分を磨くことはしなかった。俺はお前よりマシだ―――そんなちっぽけな自尊心にしがみついていた。
悪いのは自分だ。分かっている。なのに、いじけて燻っているだけ。
それがかつての俺だった。卑屈で、無様で、コンプレックスに満ちている。何の価値もない、虫ケラ以下のモブ。
だけど、今は違う。
――――お前は変わったんだよ。
――――殺し尽くして、革命を起こせ。
俺の中で誰かがそう囁く。
それはきっと、あの日生まれ変わった俺自身だ。
勇気と執着が湧いてくる。
青い炎が、煌々と燃え盛る。
俺はもう、かつての俺じゃない。
人間なんてものは所詮、他人の考えを知ることができない。
どれだけ気さくな奴でも裏では異常性を抱えているかもしれないし、どれだけ穏やかな奴でも裏では世間への恨みつらみを燃え滾らせているかもしれない。
ましてや本物の“人殺し”が此処に紛れ込んでいるなんて、夢にも思わないだろう。
ここで銃を取り出せば―――簡単に皆殺しにできる。つまり、こいつらの命を握っている。
今すぐここで、引き金を弾いてやろうか?
掃き溜めで屯しているクズ共を纏めて掃除して、俺だけがそこに立っている。
血に塗れた妄想が、脳内で迸った。
ひひ、と小さな笑みが自然と溢れる。
その声は、誰にも聞かれなかった。
誰にも気付かれないまま、この日常に溶け込んで―――。
『聖杯戦争が始まったというのに、朝から酒とは……最近の若者はどうなっとる?』
脳内で、声が響いた。
空想に没入していた意識が、現実に引き戻される。
『ああ……写真のおやじ』
『田中よ、本当にやる気があるのか?』
『なんでだよ』
『酒なんぞ飲んでる場合では……』
『うるせえな。老害になりたくなきゃ説教すんな』
『お、お前ッ……!』
写真のおやじ。
アサシンの使い魔であり、父親らしい。
よく俺に付きまとって小言を言ってくる。
『燃料だよ、燃料』
『……なに?燃料?』
『気力を引き出す、景気を付ける、本腰入れる、エンジン掛ける。理由だよ全部、羅列したんだよ。だから飲んでんだよ。それくらい分かれよ』
『ううむ……』
腑に落ちない唸り声を漏らす“写真のおやじ”のことは無視した。
酒酔いと昂揚感の入り混じった感情を抱えたまま、こくんと頭を俯かせ。
そのまま再び右手に握ったスマートフォンの画面を覗き込んだ。
《アイドルユニット、L'Anticaの白瀬咲耶さんが行方不明》
SNSは朝っぱらからそんな話題で持ち切りだった。
俺自身、アイドルなんてものに興味は無い。
というか、はっきり言って割と見下している。
冴えない連中が揃いも揃って心の拠り所にして、そいつらの愛とやらを金に変えて搾り取る連中だ。
そして「みんな大好き」だとか「愛してる」だとか、営業用の常套句と笑顔で連中を楽しませる。
噓ばっかりのくせに。そんなパフォーマンスに本気になってる奴らも理解できない。
金と引き換えに男どもを噓で楽しませるって、んなもん風俗嬢と一緒じゃねえか。
内心で毒づきながら、俺はトレンドから関連性の高い投稿を眺める。
《寮からの外出を最後に、行方が分からず》
《事務所のスタッフからも連絡は取れず》
《誘拐か、失踪か》
《何らかの事件に巻き込まれた可能性》
《アイドルとしての活動を苦にしていた?》
《白瀬咲耶、その知られざる経歴とは》
《自殺の可能性も?》
《ユニットメンバーとの不仲説も》
《ファンから心配と困惑の声》
あることないこと、真実なのか嘘なのか。
事実と憶測が入り混じって、訳の分からないことになっている。
どいつもこいつもセンセーショナルな話題で大盛り上がりだ。
ユニットのメンバーについてもあれこれ言及されている。
田中摩美々―――あ、名字一緒だ。ありふれた姓だけど。
下の名前はよくわからない。マミミ?
まあ、なんだっていいけど。
『なあ、写真のおやじ』
『なんだ』
『白瀬咲耶、知ってる?』
『ああ……失踪したアイドルじゃな』
『あれさ、アサシンがやったんじゃないの?いつもみたいに』
『いいや、それは違うぞッ!白瀬咲耶の件は“わが息子”の犯行ではない!』
念話で投げ掛けた問いに対し、写真のおやじはきっぱりと否定。
息子のことで態々嘘をつくはずも無いから、まあ本当なんだろうな。
『じゃ、他の奴らってことか』
『白瀬咲耶が聖杯戦争に関わっていたと?』
『知らないけど、ただのアイドルが脈絡も無く消えたりはしないだろ』
実際、白瀬咲耶の失踪が聖杯戦争と関わってるのかどうかなんて知らない。
確たる証拠も無いし、そいつを疑うに足る合理的な考えがあるわけでもない。
でも、これは聖杯戦争だ。つまりゲームだ。
ゲームで無意味なイベントが発生するか?
試合と関係のない所で勝手に騒動が起こるか?
聖杯戦争の参加者以外が、唐突に事故や事件を起こすとは思えない。
主役はマスターとサーヴァントなんだから、NPCが勝手にでしゃばるというのは考えづらい気がする。
なら白瀬咲耶の件だって、聖杯戦争絡みの何かがあるとしても不思議じゃない―――と思う。
『ひょっとするとマスターだったのかもしれないし、そうじゃなくても魂食いか何かの犠牲になったのかもしれない。
何にせよ、周辺調べれば敵とか炙り出せる可能性はあるんじゃないの』
だから俺は、念話で自分の考えを伝えた。
おやじは考え込むように少し沈黙した後。
『う〜〜〜む……わかった、考えておこう』
おやじは一言、そう答えた。
まあ考慮しておいてやる、程度の反応だったけど。
俺としても直感のような推測で頼んでみたので、別にそこまで気にしない。
だから俺は、変わらずに歩きスマホを続ける。
気が付けば飲み屋街を抜けて、地味な住宅街を進んでいた。
で、話は変わるけど。
この界聖杯に招かれる前―――要するに本来いた世界で、SNSのタイムラインに樺沢太一とかいう奴のツイートが流れているのを見かけた。
タクシードライバーとツーショットを撮ったとか何とか、そんな下らないことをわざわざ呟いていた。
問題はそこに偶然、指名手配犯が映り込んでいたということ。背景に紛れ込んでいたそいつは、人相まで認識できる程度にくっきりと写真に捉えられていた。
それが発覚した瞬間、樺沢のツイートは一気に拡散されたらしい。つまりバズった。1万はゆうに超えるリツイート数を稼いでいた。
樺澤ってやつはそれで大はしゃぎしていた。指名手配犯を捕まえるとかブチ上げて更に持て囃されたらしい。
現代社会というものは、つくづくどうかしていると思う。
誰も彼もが情報を発信し、誰も彼もが拡散されることを望んでいる。責任は背負いたくない面倒は背負いたくない苦労を背負いたくない、でも埋もれたくない。
だからお手軽に“発信者”になろうとする。自己顕示欲のためにプライバシーだのマナーだのを飛び越えていく。そうしてどいつもこいつも他人を“監視”して“見世物”にする。
で、それでバズったら自己満足―――「俺は凄い」とか「俺は注目されてる」とか勘違い。
その程度のことで、何者かになったつもりでいる。何かを成し遂げたと思い上がる。
そういうのを見るたびに俺は思っていた。
お前、虚しくなんないの?
俺だったら速攻で死にたくなってるね。
だけどまあ、そんな世の中にも利用価値はある。
世間すべてが監視の目に等しいんだから。
だったら、少しでもそれを使う。
俺の意識は、再び目の前のスマホの画面へと戻る。
【@kaba_238528807】
【なんか空飛んでる人間いるんだけどwwwwwwww】
【20××年 7月××日 23時29分】
一週間以上前の投稿を、振り返っていた。
夜の住宅街で屋根の上を跳躍する剣士のような男を、動画で撮影した写真が添付されている。
数百件以上は拡散されていた投稿だ。トレンドだのインフルエンサーだのを経由して、適当な情報を探していた矢先に見つけた。
面白半分で撮影したんだろうな。
こういう馬鹿は、嫌いだった。
どこも誰かも分からない人間を勝手に撮って、バズるための話題のネタにする。
でも、こうして堂々と晒してる奴がいたから、俺達は予選中に一組落とせた。
SNS社会の影響力を甘く見たサーヴァントが見ず知らずの“第三者”に晒され、こうして界聖杯のネットワークに拡散されている。
予選期間中の俺は写真のおやじに頼んで、こいつの魔力の残痕を調べて貰った。
写真や動画の撮影現場を特定することは出来なくとも、被写体を“標的”と見做せば―――写真のおやじは追跡における優位な補正が得られる。
アサシンには『追跡者』スキルがある。“アサシンの正体を探る者”や“殺人の標的”を認識――最低でもその“姿”を知る必要はあるらしい――することで、そいつの気配や座標を探知しやすくなる。
写真のおやじにも効果が共有されるのがミソだ。アサシンが標的を認識すれば、おやじもそいつの気配を探れるようになる。
逆におやじが脅威を認識したとして、アサシンもそれを認めれば、アサシンもその標的の気配を追うことができるようになる。
そして、標的に危害を加える先には有利な判定を取れるというおまけ付きだ。
ただ隠れ潜むだけじゃない。アサシンは殺人鬼だ。『人を殺す』という行為においてはどんな英雄よりも優れている。
そうしてSNSに晒されたサーヴァントは、アサシンと写真のおやじによって探られた。
で、その後どうなったかって。
数日後に「マスターを見つけ出して暗殺した」と写真のおやじから報告があった。
曰く、その晒されてたサーヴァントは連続失踪事件の犯人――つまりアサシンを調査していたらしい。
だからああやって夜の街を探索していたということだ。
で、それを知ったアサシンがやる気を出した。写真のおやじと共に逆探知に乗り出し、そのサーヴァントの行動範囲を元にした調査とスキルを駆使した追跡によって、そいつのマスターの存在を割り当てた。
後はもう、そのままアサシンが殺したらしい。
意外とあっさりだったけど、俺は喜んだよ。競合相手を潰したんだから。
まあそれ以来、SNSに張り付いてみることを心掛けるようになってる。
バズりたがりの奴らはどうかしているが、バカとハサミは使いようだ。
戦略と呼ぶにはあまりに非効率的。実態のない不特定多数をアテにするなんてどうかしてる。
予選でサーヴァントを発見できたことだって、大いに運が絡んでいるだろう。それくらいの自覚はある。
でも、構いはしない。
どうせ俺にやれる情報収集なんてこれくらいしか無いんだから。
それに、昔から途方も無い確率を追うこととか地道なマラソンとかには慣れている。ゲームと一緒だ。コツコツ積み重ねていけばいい。
4年も諦めずに数百万も課金してきた俺にとっては、容易い作業だった。
それにしても。
予選で敵を倒せたのは、まあ嬉しいんだけど。
なんか物足りないんだよな。
俺は結局、直接関わってないし。
ピカチュウが戦ってる最中、サトシは後ろにいるだけってのは当たり前なんだけどな。
それでも、あと少しくらいは刺激が欲しい。
ちょっと考えてみようかな。
殺しの実感が湧くような方法とか、身の振り方とか。
―――ん?
色々と思案に耽っていたが。
歩いているうち、違和感に気づいた。
さっきからずっと前に進んでいるというのに、周囲の景色が変わらない。
右や左を向けば、さっき見たものと同じ住宅が建っている。歩き続けて先へと移動したはずなのに。
まるでアレだ。マリオのゲームに出てきた、特定の条件を満たさないと永遠に辿り着けないラスボス戦への階段のようだった。
ぽかんとした表情を浮かべた。
何だよ、この路地。これ怪奇現象か。
そんなことを一瞬考えたが、あることをふいに思い出した。
左手に握り締められたチューハイの空き缶。既にもう飲み切っていた。
それを試しに、前方の道路へと向けて投擲。空き缶は緩やかに飛んでいき―――田中の足元へと落下。飛んでいったはずなのに、“戻ってきている”。
目の前で起きた異常現象を一頻り眺めた田中は、懐からスマートフォンを取り出して起動した。GPS機能で現在地を確認。
気が付けば田中は、都心ではなく吉祥寺駅方面へと向かって進んでいたらしい。
西荻窪駅から吉祥寺駅の距離は近い。中央線沿いをまっすぐ進めば大体2キロ前後で済む。徒歩でも問題なく辿り着ける程だ。
「あー」
聖杯戦争。再現された東京で繰り広げられる、奇跡の奪い合い。
しかし、その舞台は東京23区に限られる―――多摩地区などは再現の対象に含まれない。
そして田中は、ようやく結論に辿り着く。
「吉祥寺って武蔵野市か……」
23区ではない。だから行けない。
あんなに栄えてるのに、扱いは郊外である。
ここじゃ住みたい街ランキングに入るどころか、そもそも住めないらしい。
幻の土地かよ―――誰も聞いていないツッコミを内心でごちった。
【杉並区・西荻窪駅周辺/1日目・午前】
【田中一@オッドタクシー】
[状態]:健康、ほろ酔い
[令呪]:残り3画
[装備]:なし
[道具]:スマートフォン(私用)、ナイフ、拳銃(6発、予備弾薬なし)
[所持金]:数千円程度
[思考・状況]
基本方針:『田中革命』。
1:敵は皆殺し。どんな手段も厭わない。
2:SNSは随時チェック。地道だけど、気の遠くなるような作業には慣れてる。
3:もう少し刺激が欲しいので、色々と考える。
[備考]
※界聖杯東京の境界を認識しました。景色は変わらずに続いているものの、どれだけ進もうと永遠に「23区外へと辿り着けない」ようになっています。
◆◇◆◇
西荻窪の街を上空から見下ろし、彼は思う。
都会というものはどうかしている。
写真のおやじ―――吉良吉廣は心の底からそう感じていた。
吉良吉影がまだ生きていた頃、川尻早人という少年がいた。彼は子供でありながらデジタルカメラを所持し、両親を盗撮するばかりか吉良吉影の正体さえもその手で撮影した。
あのような監視者が町に存在したことで息子は追い詰められたが、この東京という町はそれに輪を掛けて酷い。
(携帯電話にカメラが搭載され、街中の人間が日常的に撮影してネットワークに発信できるゥゥ〜〜〜?
世の中はどうかしとるッ!これではあちこちに監視者がいるようなものではないか!)
界聖杯に祈れば間違いなく息子の平穏が得られることは安心といえど、それでもやはり吉廣にとっては憤慨すべき事柄だった。
街中のすべてが発信者。誰も彼もが他者を監視し、時には平気でネットワークの話題の種にする。
酷い時には勝手に撮影して晒し上げることもある。プライバシーも何もあったものではない。
息子は狂っていると世間からは蔑まれるだろう。だが、現代社会とやらは更に狂っている。
もはや息子に安息の地は無いのかもしれない。それでも、聖杯さえ掴めば必ず願望は叶えられる。
吉廣は決意を新たにし、懐にしまい込んだ“それ”に目を向ける。
――――こっちのスマホもう使わないから、持ってていいよ。
――――ちょっとは役に立つと思うし。
田中が会社で支給されたという仕事用のスマートフォンだ。
田中がマスターとして覚醒した直後、不要になったらしく吉廣に渡されたものだった。
操作の方法、アプリの使い方、SNSの運用―――など、田中は吉廣に対しスマートフォンの扱いを一通り教えていた。
盗撮に便利だからとして、わざわざシャッター音無しで撮影するアプリもダウンロードしてくれた。
監視社会の不気味さには背筋が凍るものだが、ここは聖杯戦争の舞台でもある。
ならばそれを利用するのも手である、というのは吉廣にも理解できることだった。
『白瀬咲耶の周辺の調査』も視野に入れつつ、それを進言したマスターのことを思慮する。
(それにしても吉影……わが息子よ……田中一は心底『愚かな男』だが……)
そうして吉廣は、この東京の何処かにいる息子に思いを馳せつつ考える。
アサシン、吉良吉影が田中一を嫌悪していることは知っている。
彼はサーヴァントとなった今でも変わらない。植物のような平穏を望み、不用意な争いをとにかく嫌う。
予選での暗殺に関しても必要に駆られたからやっただけ。それ以前は下手に動かなかったし、以後も余程のことがなければ様子見に徹するつもりだった。
それほどまでに彼は、ストレスや刺激というものを忌み嫌っている。
刹那的な快楽に身を投じ、衝動と破壊へと突き進んでいく田中を蔑むのも必然だった。
そのことは父である吉廣も理解している。奴と息子の相性が良い訳が無い。
それでも尚、吉廣は田中への価値を少なからず見出していた。
それは田中という男が“日常に潜む狂気”であり、その闇を受け入れているからだ。
そして田中は、吉良吉影という殺人鬼が持つ狂気すらも歓迎している。
女性の美しい手への執着。
抗い難い殺人衝動。
そんな性(サガ)を受け入れられるマスターが、古今東西において一体どれほど居るのだろう。
女性のみを付け狙う猟奇殺人鬼。女性の手を愛玩の対象として見做す異常者。栄誉には余りにも程遠く、嫌悪と警戒の対象としてはこれ以上に無い“反英雄”である。
それは本来、唾棄される存在なのだ。
拒絶され、否定される狂気なのだ。
しかし、少なくとも田中は共鳴を示した。
田中一は、吉良吉影の凶行を肯定したのだ。
狂気の指向性で結びつく“共犯者”というものは、間違いなく得難い存在だ。
現実世界での長期的な同盟とあらばリスクも増えるだろう。
しかし、ここは界聖杯。早ければものの数日程度で終わる関係に過ぎないのだ。
それに、単純に“マスターの乗り換え”という行為自体が運任せの博打であることも大きい。
所謂“野良マスター”を都合良く見つけられる可能性は限りなく低い。
他のマスターにサーヴァントの乗り換えを提案するという行為も危険極まりない。
まずは直接の接触が大前提。隠密行動を前提とするアサシンにとっては、交渉の決裂を考慮した際のリスクが高すぎる。
それに加え、吉廣にとっては余り認めたくないことだが、吉良吉影は二つ返事で乗り換えを承諾させられるような“強い”サーヴァントではない。
サーヴァントを抹殺し、残されたマスターと強制的に契約を結ぶ―――これもまた無謀だ。アサシンとはマスター殺しが大前提のクラス。不意打ちや奇襲を駆使したとしても、サーヴァント同士の戦闘で確実に勝てる確証はない。
そもそも、既に予選を突破しているような主従ならば。
ある程度の信頼関係、共闘関係が生まれていたとしても、全く不思議ではないのだ。
あの『東方仗助』達が仲間達と結び付いていたのと同じように。
結局のところ、当分は田中一をマスターとして認める他無いのだ。
堪えるのだ、吉影―――仮に田中を切り捨てるのならば、それは“確実に乗り換えられる算段が付いた時”のみだ。
吉廣は心中でそう呟く。
『吉影……おお……吉影よ……』
そして、懸念はマスターのことだけではない。
吉良吉影が持つ、抗えぬ衝動。
息子の“欲望”を察知した吉廣は、涙ぐむように俯いた。
そのまま彼は、自らの息子へと念話を飛ばす。
『また見つけてしまったのだね……“愛する手”を……』
―――吉廣は、“知覚”した。
硝子のように美しく透明な、“美しい手”を。
息子が新たなる“標的”を見つけてしまったことを、記憶がフラッシュバックするかのように理解する。
スキル『追跡者』の効果が適用された。息子の次なる殺人の対象を、吉廣もまた認識した。
『止まらない』
そして。
アサシン―――吉良吉影が、念話で答える。
『どれだけ殺しても』
苛立ち。鬱屈。衝動
その声色から、感情が滲み出る。
『爪が……“伸びる”んだよ』
その一言を聞き、吉廣は全てを理解した。
息子を哀れむように、一筋の涙を流しながら。
吉良吉影の殺人衝動は、生前以上に肥大化していた。
英霊となり、伝説として“座”に記録され。
そしてサーヴァントとなった今、生前の逸話に沿ったイメージを体現する形で現界を果たしている。
つまり――――“杜王町の連続殺人鬼”という、彼を英霊足らしめる根幹の要素が強く反映されているのだ。
本来ならば、これほどのペースで殺人を繰り返すことなど有り得なかった。
しかし今の吉良吉影は反英雄としての伝承に侵食され、生前を超える衝動に蝕まれていた。
それ故に彼は、予選から数多くの女性を殺害し続けていたのだ。
吉廣は、己の息子に課せられた運命を悲しんだ。
生前から続く、呪いのような宿命を。
人殺しの欲望を背負い、それを誰にも理解されることなく、最後は東方仗助らによって阻まれた。
死後も英霊という座に抑圧され、サーヴァントとして現界しても尚、あらゆる苦難に晒される。
おお、吉影よ――――なんと可哀想な子なのだ。
息子が積み重ねた罪など、彼にとっては最早重要ではない。
肝心なことは唯一つ。家族である吉良吉影が、今も苦しみの中で戦っていることだけだ。
涙を流しながら、吉廣は息子を想う。
故に、吉廣は改めて誓う。
息子の望みは全て叶える。
何がなんでも、息子のために戦う。
どんなものを犠牲にしようと、吉良吉影の幸福を優先するのだ。
――――界聖杯!それだけが息子の『平穏』を叶えられるッ!必ず手に入れねばならない!
――――わしのかわいい吉影よ!!お前の願い、必ず叶えてみせるぞッ!!
【杉並区・西荻窪駅周辺/1日目・午前】
【吉良吉廣(写真のおやじ)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:気配遮断
[装備]:田中一のスマートフォン(仕事用)、出刃包丁
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:愛する息子『吉良吉影』に聖杯を捧げる。
1:『透明な手を持つ女(仁科鳥子)』および『白瀬咲耶の周辺』を調査する。
2:田中と息子が勝ち残るべく立ち回る。必要があればスマートフォンも活用する。
3:より『適正』なマスターへと確実に乗り換えられる算段が付いた場合、田中を切り捨てることも視野に入れる。
[備考]
※スマートフォンの使い方を田中から教わりました。
※アサシン(吉良吉影)のスキル「追跡者」の効果により、仁科鳥子の座標や気配を探知しやすくなっています。
【渋谷区・路上/一日目・午前】
【アサシン(吉良吉影)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康、殺人衝動
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:数万円(一般的なサラリ―マン程度)
[思考・状況]
基本方針:完全なる『平穏』への到達と、英霊の座からの脱却。
1:『透明な手を持つ女(仁科鳥子)』を狙う。
2:マスタ―(田中)に対するストレス。必要とあらば見切りをつけるのも辞さない。
[備考]
※スキル「追跡者」の効果により、仁科鳥子の座標や気配を探知しやすくなっています。
投下終了です。
投下お疲れ様です。
田中の視点から描写される東京の情景が生々しくて世知辛くて、実に彼の雰囲気に合っていてすごい。読んでいて頭の中に容易に映像を再生できました。
そしてそんな田中と写真のおやじこと吉廣の会話がなんか面白くて好きですね。特に現代社会を憂うところなんかは、杜王町の外が舞台になっているこの企画ならではだなあと。
また、吉廣から見た場合の田中というマスターの評価がなかなかに的を射ていてなるほどな、と思わされました。
確かに吉良が持っている"性"が英霊の座に刻み込まれた嬌正不可能な業であるため、その時点で他の大半のマスターとは組めないよなと。
当企画の主従の中でも異質な、日常の中に潜む不穏なものが結びついた主従。
その雰囲気や仄暗さといったものが巧みな筆致で描かれていて、大変面白く読ませていただきました。
投下します
「――チェックメイト」
カツン、気持ちの良い軽快な音。
音の出どころは本革張りのソファを挟んだ所に置いてある、黒檀のテーブルの上に置いてあるチェス盤からであった。
黒衣を纏う金髪の偉丈夫は白の駒、黒いロングコートを羽織る銀髪の美青年は、黒の駒。
盤面は、白の駒の優勢である。打ち筋はかなり強気であり、討ち取られた駒数は少ない。鮮やかで、見事な腕前の持ち主である事が一目で分かる。
音の正体とは、偉丈夫の男が摘まんでいるビショップの駒を、彼――ベルゼバブが盤面に打ち付けた時の音であった。
「見事だ。自分の頭脳にも絶対の自信がある、そうと宣うだけはあるな。ランサー」
「当然だ。最強の肉体を誇る余の頭蓋に収まる知性は、最高のものでなければ釣り合わぬ」
黒の駒を担当する青年、峰津院大和は、抑揚のない声でそう言った。
声音からは、負けて不機嫌、と言ったような感情はなかった。結果として、チェスの勝負の敗北を受け入れているようだった。
とは言え、大和は負けこそしたものの、圧倒的なまでの敗北ではなかった。
見る者が盤面を見れば、かなり健闘した事が伺えるし、敗北までの勝負の流れの中で、そのまま思い通りに事が運んでいれば王手を掛けられていただろう局面もままあった。
要は、その思い通りを、ベルゼバブに潰されたのである。攻めるべきポイントを攻めあぐね、守らなければならないポイントで攻め切られ。要所を悉く、ベルゼバブに破られた。これでは負けは、必定である。
目の前の男は、そもそも戦争についての司令官であった事があると聞く。軍師、と言うべきか。当然、戦術にも堪能でなければ務まらないポジションである。
成程、ただの腕力自慢、宝具自慢ではありえないらしい。勿論単純にステータスが強い、宝具が凄い、スキルが便利、と言う事も重要だ。
だが戦場は生きている。趨勢は、毎秒毎秒荒海のように変化する。不安定な戦場の様相を制するのは力と経験、そして頭の良さと機転である。
ベルゼバブは、その全てを高いグレードで兼ね備えている。つくづく、戦闘と言う一面に限って言えば、当たりも当たり、ジャックポットのサーヴァントだ。その事を、大和は改めて認識させられるのだ。
……だが、それはそれとして。
「せめてチェスをするかそれ以外にするかに絞れ」
「複数の事柄を並列して行えるのは有能の証明だろう、違うか?」
「並列しているものによる」
マルチタスクとは言ってしまえば要領の良さ、効率化の巧みさを示す才能である。
それに長けていると言う事はベルゼバブの言う通り、有能の証明に他ならないだろう。それは、大和も認めるところである。
しかし、それも並列しているものの内容次第だ。
少なくとも、チェスを興じながらマキャベリの君主論の文庫本を読みつつ、プロテインシェーカーの中身のプロテイン(プレーン)をレッドブル(エナジードリンク)で割ったものを飲む、
と言うマルチタスクは有能とは言い難い。……いや、それぞれのベクトルが全くバラバラな物を無理なく行えるのは、ある意味で才能なのかもしれないが。
「そのプロテインを割っている物の臭いが、気に喰わん。品のない臭いだ。もう少しまともな物にならんのか」
「薬品臭いのは認めよう。それに、砂糖を濃く入れておけば飲み口も悪くない、そんな安直な発想の下に産まれた下等な品位であるとも。だが、飲んでみれば存外悪くなかった。羽虫共の文化も、世界によっては瞠若すべきところがあるな」
「現世を楽しみ過ぎだ。貴様の主目標は、戦い、勝つ事だ」
「それを忘れた事は――」
其処まで言うや、ベルゼバブは、自分が王手をかけた大和の黒いキングの駒を摘み、下に圧力を加えた。
其処に、如何なる術理が働いたのか。チタンで出来たキングの駒が、砂糖で出来た脆い菓子のように上から潰れて砕け散り、更に盤面に使っていたチェス盤が、真っ二つに破断した。尋常の物理学ではありえない、その壊れ方よ。
「ない」
「ならば、良し」
言って大和は、真っ二つになったチェス盤を、上に乗っていた駒ごと右手で払って吹っ飛ばした。
書類棚にぶつかった金属音と、絨毯に落ちた時の音なき音。それらが全て止んだ後に、ベルゼバブの方が言葉を続けた。
「楽に勝つ、それは否定しない。圧倒的な勝利とは苦境に陥る事無く勝利する事であり、戦わずして勝つ事だと余も理解している」
「そうだ。雑魚ども相手に一々本気を出してなどいられないからな。獅子は、ネズミやウサギが騒いだ所で歯牙にもかけん」
「だが座して待つばかりでは身体も錆び付き、頭の回転も鈍る。退屈は人を殺せるぞ、羽虫」
「同感だ。私としても動きが欲しい所ではある。君に、動かぬばかりの将だと思われるのも癪だ。それに、いい加減そちらの盤上遊戯に付き合い、負けを重ねるのも飽きた」
そもそもこのチェスの一局自体、大和が提案した勝負ではなかった。
全て、ベルゼバブ側の提案だった。彼の、趣味に付き合う形であったわけだ。
ベルゼバブは力を求めると言う本能について極めて真摯かつ貪欲だ。それは肉体的な鍛錬についても、知的欲求を満たすと言う点に於いても顕著だ。
大和の蔵書室に置いてある本を、凄まじい勢いで読破していた事もある。
ページ数にして500を容易く超え、余白を極限まで小さくして1ページ辺りに文字をビッシリと刻み込んだ、哲学書や学術本、各種論文を30分足らずでベルゼバブは読破していた。
最近は使っていないトレーニングルームにいた事もある。ただそのジム設備のレベルではベルゼバブの肉体に負荷をかけるに至らないのか、不満を零していた。
どうやらその場所で、プロテインとエナジードリンクに出会ったらしい。暇があれば飲んでいる。そして上述の通り、最近は両方を割っている。
大和がベルゼバブのチェスの一局に付き合い始めたのはここ最近の話。地頭が抜群に良く、知的好奇心にも旺盛なベルゼバブは、召喚されて数時間足らずで、財閥の設備の用途を理解していた。
……まさか大和がプライベートで使っているタブレットで、オンラインチェスに興じているとはさしもの彼も思いも寄らなかった。
セキュリティは強固かつ、万全たるもの。このオンラインゲームから大和の足跡を辿る事は基本的には不可能だが、それでもサーヴァント能力の事もある。
だから、こうしてベルゼバブの興じる遊びに付き合ってやっているのである。向こうも馬鹿ではない、どころか極めて賢明な人物だが、増上慢なのは間違いない。足元を掬われかねない事を加味して、大和が一局計らっているのだった。
「羽虫。この地に於ける貴様の力、どれ程までに及ぶ」
腕を組み、ソファに腰を深く預けながら、ベルゼバブはそう言った。
「私が元居た世界での権勢の、3割以下」
「役立たずめ」
「そう言うな。此処までとは思ってなかったのでな」
――峰津院財閥現当主、それが、峰津院大和と呼ばれる青年に与えられたロールである。
ベルゼバブや大和が思っている程、不自由なロールではない。それどころか、出来る事や口出し出来る人物や機関、動員出来る配下達の数、支配している土地の数と言う観点から言えば、
大和のロールは控えめに言って『ぶっちぎり』だった。仮に聖杯戦争が1週間で終るものだと仮定して、その期間中に運用出来る資金の額はほぼ『無限』。
財閥に蓄えられている純資産および内部留保、そして銀行から融資されるであろう額などを全てひっくるめた場合、使える金は容易く兆の位を超える。
加えてこの財閥は民間企業、地方自治体、各種省庁や役所など、官民問わぬあらゆる機関に対して強いコネクションを持っており、使える特権の数も限りない。
勿論、財閥そのものが有している配下の人数も凄まじい。要するに峰津院大和とは、ここ界聖杯が再現した東京の内部に於いて、どういう人物に該当するのか?
『一兆以上もの金を如意自在に消費する事が出来、事実上東京都内のあらゆる機関にコネクションを持ち、万単位の人員を一斉に動員出来る』、そんなロールを割り振られた人物なのである。
端的に言えば、他の参加者からすれば意味不明のロールである。一人の人物が行使出来る力や権力の数が、余りにも異質過ぎる。
桁が違うだとか段違いだとか、そんな言葉ですら表象不能。次元違いのロールだった。出来る事の多さに比して、出来ない事があまりに少ない。
要は大和の意志次第で、界聖杯の東京の環境や状況など、どうとでもなってしまうようなものなのだ。これに加えて召喚されているサーヴァントも、無敵と評されるレベルの強さを誇り、
そもそもそれを操るマスター(=峰津院財閥当主)である大和の強さや魔力回路の多さも、別次元のそれであるのだ。
他の参加者から見たら、大和と言う人物は、卑近な言葉で言えば『チート』そのものの人物である事だろう。天は二物を与えず、と言う諺は、才能のない者を慰めるだけの方便であった事を知る時があるとすれば、まさにこの時だ。
大和は、この聖杯戦争内において、自分の力が及ぶ範囲や、どの程度の事まで出来るのか、全て正しい形で理解していた。理解していてなお、言える。『弱い』と。
「舞台が東京の一都のみで行われる、と聞いて予感はしていた。結果は案の定だった、他の地区の力を頼れん」
そも、元の世界においての峰津院大和……もとい、彼が本当に率いていた組織であるジプス(JP's)とは、如何なる組織機構であったのか?
ジプスとはJapan Meteorological Agency, Prescribed Geomagnetism research Departmentを略した名称であり、訳して言えば、気象庁・指定地磁気調査部と言う部署やチームに当たる。
表向きはその名が指し示す通り、日本国土の地磁気を調査し、この国につきものの地震や噴火、地滑り等を未然に防ぐ事を主目的とした組織と言う事になろう。
だが実態は違う。そもそもこの組織自体が、峰津院家がスムーズに行動する為の隠れ蓑に過ぎない。ジプスと言う組織の存在意義を、峰津院家の存在意義とイコールとするなら、その真の組織理念は『国家守護』になる。
峰津院家を魔術の家柄として評価した場合、その家格は桁違いに旧い、大家も大家になる。
峰津院家の開祖は宿曜師、つまり今日でいう所の占星術師であったとされ、彼が峰津院家を興した年代は奈良時代。
つまり平安時代より前、平将門や源頼光、空海に最澄、坂之上田村麻呂が活躍していた時代よりも、更に昔の時代の話だ。
そう、峰津院家は単純な年数で言えば、1700年程の歴史を誇る魔術一派と言う事になる。家が興って200年程度は新参者扱いとされる魔術師の世界にあって、この年数は古豪も古豪。
事実上、日本最古の魔術組織、と換言しても何の間違いもなかった。峰津院家とは即ち、1700年にも及ぶ長い期間、国家の霊的国防を陰に日向に負って来た一族なのである。
当然、その年月の間に培われたコネクションの数は膨大なものになる。日本国内に限って言えば、峰津院家の融通が利かない個所など、存在しないとすら言っても良い位だった。
元々の世界での峰津院家の最大の特徴は、日本全土の霊脈の掌握と、国土守護の結界の運営、及び峰津院家が保有する霊的装置(デバイス)の管理にあったと言っても良い。
二次大戦の敗戦の後、峰津院家は日本国に働きかけ、日本全土に6つの建造物を建築するように働きかけた。
その建造物の役割とは国家を守護する霊的結界を展開する事にあり、これらの完成の暁には今後の世界情勢下で激化するであろうミサイル戦や戦闘機による空戦の徹底防御が約束される。
そんな事を言って、当時の内閣や国会を口説き落としたと言う。その建物は表向き、民間にはテレビ塔と説明されていて、実際その通りの機能なのだと皆信じている。
札幌は札幌テレビ塔、大分は別府タワー、福岡の福岡タワー、東京タワー、大阪の通天閣、名古屋テレビ塔。その6つのタワーこそが、峰津院家が管理する結界生成装置なのだ。
つまり元の世界での峰津院家とは、現在で言えば数千億円規模にも相当するような工費が掛かる一大工事を提案でき、それを有無を言わさず国家や自治体に呑ませる事を可能とする、
そんなレベルの権力を敗戦後の国内情勢下であっても有していた、怪物的な権力を持つ一族であった事を意味する。
そして一族は、大阪本部を中心として日本各地に支部を持ち、そのブランチの一つ一つが、強大な力を持つ。それを思えば、成程。この界聖杯内での権勢を、彼が弱いと評したのは、無理からぬ事であったろう。
「恐らく我々はこの東京から出る事は能わん。この23区の中で殺し合え、そう言う事なのだろう」
「問題でも?」
「他の地区から応援を要請出来れば、事を進めやすかったが、それは些末な事だ。峰津院家が有していた東京タワー以外の結界生成装置、これも、聖杯戦争と言う情勢下ではあまり役に立たなかったろう」
6つのタワーの真の役割は、結界の生成。これは、正しい。正しいが、これを大和が如何なる形で利用しようとしていたのか?
それは最早、詮無き事となった。この世界に於いて、本当に意味のない事になってしまったからだ。仮に界聖杯の舞台に於いて、その結界生成装置の力を引っ張ってこられたとしても、
あれば便利以上の域を振り切る事はなかったであろう。その程度の意味合いの代物に、格落ちしてしまった。故に其処は、問題ない。
本当に問題なのは、制御卓がこの地に一つもない事であった。
「羽虫、貴様が気にしていた制御卓なる物はあったのか?」
「一つとしてない。予測出来ていた事とはいえ、事実として認識すると歯痒いな」
峰津院家が担う役割である、国家守護。制御卓はこの重大な任務を全うする為に必要な、極めて重要なピースであった。
峰津院家は国家を霊的に守護する一族である。翻って、彼らが打ち払うべき脅威と言うものは、霊的・魔術的な攻撃である事を意味する。
そして、国家の体制を揺るがす程の霊・魔術的な攻撃に対抗する手段として峰津院家が備えていた物こそが、制御卓なるデバイスであった。
――制御卓。端的に説明すれば、峰津院家の仕込みの一種である。起動する事で、ある種の仕掛けが発動する、と言った手品だ。
但しその手品とは、千数百㎞規模の超長距離のワープを可能とする装置であったり、一個の火山を意図的に噴火させたりと言った、天変地異をも容易く発動させる機能の事でもあるのだが。
勿論、そんな大規模な使い方しか出来ないような、大味な装置ではない。その真価は、制御卓の中には『強大な悪魔を封印しているものもある』事だ。
峰津院大和は、峰津院家の現当主である。つまり、当代最高クラスの魔術師であると同時に、当代最高の悪魔召喚士(デビルサマナー)でもある。
毒を以て、毒を制す。霊的・魔術的攻撃とはそもそも何か? 悪魔だ。強大な力を持った悪魔を以て、国家を害するのである。
二次大戦時、当時のアメリカは大天使の召喚に成功しており、この力を以て日本の本土を攻撃した事があったが、これを当時の峰津院家や帝国陸軍は、必殺の霊的国防兵器と呼ばれる悪魔の力を以て辛うじて水際で押し返していたのである。そう、彼らの世界では悪魔の力を利用する事は裏の世界ではままあった事なのである。
制御卓は、そのような国家の大事に悪魔が関わっていると解った時に、その力に対抗出来るような強大な悪魔を封印した、一種の楔でもある。
そしてこれらは、日本各地、無論東京都にも無数に隠匿されていた。封印されている悪魔の種族や、出身地は様々だ。
甲賀三郎や天海僧正、天神道真公や思兼神、ヤマトタケルと言った日本国由来の英雄や神格が封印されているものもあるし、シヴァやカーマと言ったヒンドゥー圏の神格。
果ては、遠く離れた異国の神霊である、ルーグ、即ちクー・フーリンの父神である存在を封印している卓もあったのである。
そして、その装置の全てを、自らの一存で使用するかどうか、これを決められる存在こそが、峰津院大和なのである。
当然、このような装置があれば、聖杯戦争を有利に進められるどころか、勝ったも同然。大和は都内にある制御卓が何処にあるのか全て記憶しており、
これを聖杯戦争の本開催前に全て調べ上げたが――結果は、彼の言葉の通り。ない。影も形も、そもそも制御卓と言う存在すら、峰津院財閥の誰もが知らないのである。
そんな予感は、大和はしていた。都合の良すぎる話だったか、と。全てを調査した後で思った。
峰津院家が有している筈だったアドバンテージの9割程を、潰されている。
これが、界聖杯とやらが考え付いた、公平(フラット)さとやらだろうか。成程、聖杯戦争とやらを開催する上であれば、それは正しいのだろう。
腹の立つ現象だ、と大和は考える。最終的な勝者は自分である事を、この青年は一片たりとも疑ってない。どうせ勝つのが自分なら、速やかにこのふざけた催しを終わらせるよう計らって良いものを。
「ランサー。本戦が開催してしまった以上、勘違いした雑魚を殺して終わり、では最早済まされん」
「本格的に戦が始まったから、残ったのは都合よく強者だけ。そうとも思えぬがな。余が都合よく予選の段階で、強者と思い違いした者共を屠ってしまったやもな」
「君自身も言っていただろう。力と知恵は、等価値だと。力自慢だけが、聖杯戦争に参加している訳ではないと言う事だ」
大和のその言葉に、ベルゼバブが反応する。
目線を向ける黒衣の覇王。ただ、視る。それだけの行為に、強大な圧力と磁力が伴っているような錯覚を覚えさせる、凄まじい眼力であった。
「……狡知を弄する者がいる、と?」
「いない方が、おかしいと思うがな」
前述の通り、峰津院財閥と言うロールが誇る力と言う物は、極めて広範かつ強大である。だがそれと同じ程に、無視出来ないデメリットが1つだけ、存在する。『目立つ』事だ。
そもそも現代の日本国に於いて、財閥と言う組織は存在しない。戦後まもなく、GHQによって解体されているからだ。
勿論、財閥由来の企業が生き残っている事例は枚挙に暇がない。だがそれにしても、財閥と表立って名乗っている組織は現代に於いて存在しない。常識である。
その歴史に逆らうかの如く、この世界での峰津院家は、財閥を名乗っているのである。多種多様な参加者を招聘してると思しき、この聖杯戦争で。
普通の学があれば『あり得ない』と思って間違いない組織の長など、疑われて当たり前であろう。
そして現に、明らかに待ち伏せの末に大和は襲われている。
峰津院家が峰津院家たる力を失ってこそいるが、そんな限られた状況下にあっても、大和は生き馬の目を抜く努力に余念がない。
この界聖杯内の東京内に初めから備わっていた霊地の確保及び、ベルゼバブが抹殺したキャスタークラスが使っていた陣地をリサイクルする形で引き継いだ元陣地。
これらを巡回している最中に、サーヴァントの襲撃にあった事が、ままあった。そしてその度に、ベルゼバブが返り討ちにしていた。
「羽虫、貴様に襲撃を仕掛けた、あの害虫共の事か?」
「目下調査中だ、私に牙を向く事の意味を、首をかっ切られたその時初めて奴らは解るだろう」
怒りを込めて口にする大和。
数日前、大和は財閥が支配する土地の一つ、霊地として改造をし終えた築地本願寺の様子を見回っていたその最中に、合同墓で襲撃にあった。
サーヴァントでは、ない。顔にガムテープを巻いた少年と青年、少女の3人組。彼らは、明白な殺意を以て大和に向かってきたのである。
その全てを、大和は即座に殺した。体躯に見合わぬ大ぶりのナイフを持った少年は、ナイフを避け様に側頭部を掴み、高速で頭部を石壁に叩きつけ、頭蓋を破壊して殺した。
果物ナイフ程度の刃渡りの包丁を持った少女の方は、顎目掛けて蹴りを見舞い、下顎を砕いてうつ伏せに倒れた所を、踵で後頭部を勢いよく踏み付けて殺した。
投げ技を狙った重心で立ち回る青年の方は、まともに相手すらしなかった。青年目掛けて魔術によって生成した火球を直撃させ、灰だけしか残さなかった。
彼らの死体は今はない。大和が使役する悪魔であるケルベロスの、腹の中であるからだ。
「あのクズめらが口にしていた、王子とやらが気に掛かる。クズどものプリンスなど、如何程の価値もない事を知らしめてくれる」
「あの阿呆共に、策を練れるだけの上等な頭があるようには見えん。その王子とやらが、精神的な支柱なのだろう。下らん、それがなければ殺しにも酔えぬ輩と見える」
「……ほう」
意外と、よく見ているじゃないかと大和は評価しなおした。
ベルゼバブと言う男は、一蓮托生の間柄である大和に対しても、羽虫と称して下に見る、増上慢と驕慢の権化のような男である。
だから、他人に対しても一切興味を抱かない、サーヴァントであってもまさに常々彼が口にしているような、『羽虫』としか認識していないのだと思っていた。
だが実際は、そうと言いながらも見ているらしかった。見た上で、興味がないらしい。脅威とも、認識していないらしい。
大和とて、ただ、あのガムテープを巻いた子供達を、殺して終わりにした訳じゃない。
殺した後で死体を見分し、身分を証明するものを探ってみた。収穫はあった。スマートフォンを、持っていたのである。
普通なら、それを発見した時点で個人情報は割れる。どれだけ複雑なパスワードを設定していようが無意味だし、
個人を特定する情報を一切データにしていなくても、そもそもスマートフォンを使えるようにすると言う契約をしている時点で、個人情報は筒抜けの筈なのだ。
にもかかわらず、携帯からでは特定が出来なかった。
先ず、彼らが持っていたスマートフォンについて、あの子供達は電話もメッセージもメールも、一切使っていなかった。
入っていたアプリは、一つだけ。MASSACRE POINTと言う名前のアプリのみ。出どころ不明のアプリだった。検索してみても、それらしい物が見つからない。
勿論、アプリストア等も通していないだろう。つまり、こういう物を作れる技術に長けた人物が作成した、オリジナルアプリと言う事だ。
当然この手のアプリにつきもののスタッフのクレジットも一切ない。万一拾われた時の為に、特定を避ける為だろう。
手の込んでいる事に、アプリを開いてみても強制終了してしまう。恐らくは特定のBluetoothデバイスが近くにあって、初めて起動する類のアプリなのだろう。
ならばと、携帯の出どころを調べてみた所――全く関係のない人物の持ち物である事が解った。この携帯の本来の持ち主達には共通項があった。
先ず、調べられる限界まで親等を調べてみても、大和が殺した子供の情報に掠らない。そして、当の持ち主は既に『死んでいる』。と言うよりは、殺されていた。あの子供達は、本来のスマートフォンの持ち主を殺して、モノを獲得したのだろう。
普通ならばこれで特定は出来ないだろう。
ガムテープを巻いた子供達にとって予想外だったのは、彼らが喧嘩を売った人物が、並のコネの持ち主じゃなかったと言う事だ。
現代に於いて、携帯電話は個人情報の塊である事は論を俟たない。だが、携帯電話以上の個人情報の塊が、其処に転がっているじゃないか。
死体だ。『その死体から採取したDNA』から、大和は下手人を特定したのである。
「DNA鑑定で、クズどもの身元が昨日判明した」
「結果はどうだ」
「奴ら自体はただのNPCに過ぎない。恐らくは、クズの親玉に扇動されている」
「洗脳でもされているのか? 口車にでも、乗せられたか?」
「可能性としてはゼロではない。其処までは解らん。が、3人共々、家庭に問題があった」
「興味がない」
「ああ、私も興味がない」
大和が殺した3人は、世間の常識と観念で照らしてみれば、恵まれない子供達であった。
少年は後先考えない、避妊のないセックスで生まれた子供だった。
少年を産んだ当時両親の年齢は15歳。高校生どころか中学生で、これが原因で少年の両親は親元と縁を切られてしまい、その腹いせに子供は日常的な虐待に晒されていたと言う。
少女は3歳の時に、産みの父親に先立たれてしまった子供だった。
母親は彼女よりも若い男と再婚、ある時、買い置きしておいたスーパーの総菜を食べていろと少女に言いつけた。総菜の買い置きは2日分、母親はそのまま家に戻らなかった。
青年は小学校を卒業する間際に、交通事故で両親を失った人物だった。
そのまま母方の田舎の祖父母に引き取られるも、環境に馴染めず、その土地の中学で酷いいじめにあっていたと言う。カマキリやムカデを、食べさせられていたのを、教師は見ていて止めなかったそうだ。
――だから、どうした?――
調査部のデータを見て、大和が思った事がそれだった。
哀れとも思わない、同情も抱かない。思う事は1つ。この子供らに、力があれば救われたと言う事実だ。
力があれば、虐待する親を返り討ちにしても良い。力があれば、クズに捨てられても一人で生きていける。力があれば、虫を喰わせた子供らに汚物を喰わせる事だとて出来た筈。
彼らにはその力がなかった。ならば、死んで当然である。だが、もしも。『その力を有していながら、その力を防衛に向けて使ったのに、それを悪と断じられたら?』
勿論結果として、子供達にはそんな力がなかった事は解っている。しかし今の世界では、力で以て自らを抑圧する者を殺し、跪かせる事は許されていない。
結果として、この子供達には力がなかった。正邪を分別する判断力も、なかったのだろう。
そのせいで、クズの親玉にかどわかされ、大和を襲うと言う鉄砲玉に利用され、命を散らしてしまった。
力があれば、救われたのに。そして、力があったとしても、今の世界では正しく評価されず、そのまま失意と無念の内に死んでしまう結末もあった事だろう。
だからこそ、力ある者のみが救済され、頂点に立つ事を許される世界の実現が必要なのだ。その為に大和は、界聖杯を手中に収めるのだ。
「害虫の親玉は解っているのか?」
ベルゼバブの言葉は尤もだ。これが、一番重要な事項だ。
「連中がたむろしている拠点までは突き止めた。誰が聖杯戦争の参加者なのか、解らん」
「無能め」
「調査に出した者達が、帰ってこない」
その言葉の意味するところが解らない程、ベルゼバブは愚鈍ではない。
殺されている。大和もベルゼバブもそう考えた。
驚く程の事じゃない。大和がやった事は要するに、ガムテープを巻いた子供達がさせられていた事と同じだ。
聖杯戦争の事など何も知らないNPCを、サーヴァントのアジトだと解りきっている所に向かわせたのだ。体の良い鉄砲玉扱いだ。
真実を知らない本人達にすればただの簡単な探偵業務であろうが、その実、死んで来いと言われているのに等しい事を知らないのだ。知っていれば、確実に断っていただろう。
「向かわせた全員が死んだのか?」
ベルゼバブの言葉に対してかぶりを振るう大和。
「1人だけ、命からがら、逃げ切った者がいる。東山……そんな名前の女だったな」
「収穫は?」
「酷いパニック状態で、ガムテープを巻いたゴミ共に凶器を振り回されながら追われたと言っていたよ」
「それだけか?」
「興味深い事を、口にしていた。目新しい情報はそれだけだが、其処が引っかかる」
「勿体ぶるな。話せ」
「……『街路樹が喋っていた』、と言っていた」
「街路樹……? 植えている木の事か?」
「そのようだ」
パニック気味のどもり気味にそう説明した東山何某を、大和は怒らなかった。
当の大和が、聖杯戦争と言う常識が通用しない催しに巻き込まれているのだ。樹木が喋った、そんな常識的にはあり得ないような物事を、切り捨てられなかったのだ。
東山何某の話に、曰く。
中央区の高級タワーマンション近辺で張り込みをしていた折、誰もいない所から囁き声が聞こえて来たのだと言う。
人がいる気配がない。そもそも目線をその方向に向けても誰もいない。本当にただ、植え込みと街路樹があるだけ。
にもかかわらず、東山からそう離れてない所から声が聞こえてくるのだ。まるで、幽霊が相談事でもしているかのように。
そして、その声が聞こえてからきっかり一分経過した時に、マンションの入り口から、ガムテープを顔に巻いた子供達が、めいめいの凶器を手に凄い勢いで向かってきたのだ。
この追跡に逃げ遅れて、東山とバディを組んでいた荒井と言う男は、首を刎ねられ殺された。彼女が逃げ果せたのは、悪運の強さの故であろう。
「その言葉を、世迷い言だと切り捨てるのは容易い。それも戦略だろう。疑い始めれば、終わりはない。心中のしこりは、少ないに越した事はなかろう」
「貴様は、調査に出た者の言葉を何と考えているのだ。羽虫」
「あり得る事だ、と」
大和は、東山の言葉を真実のものとして認めていた。
超常・魔道の道に於いて、『物』が喋ると言う事はあり得ない話ではなかったからだ。
大和達が使役する悪魔と言う存在は、一神教的な神に敵対し人心を惑わす悪しき存在と言う意味ではない。超常的・超自然的な存在全てを、ひっくるめて悪魔と呼ぶのだ。
その悪魔の中には一神話体系の主神や創造神に等しい存在もまた名を連ねており、彼らの中には、一挙手一投足で神々や新生命を創造出来る存在だって少なくない。
これを思えば、物に意識を宿らせ言語を喋らせる力など、なんて事はないあり得る話だった。無論、難易は別として、である。
「囁きが聞こえてすぐに、息のかかった羽虫共が集りに来た。意味するところは1つ。監視であろうよ」
「流石だな。其処まで頭が働くか」
「この程度、推察出来ないでどうするか」
司令官と言うポジションにいた、そんな事実は伊達ではなかった。大和と同じ事を、考えていたからである。
もしも、少ないリスクと魔力の消費で、創造主に対して絶対服従の意識と言語を解せて発せられる機能を只の物質に備えさせられるのならば。大和とて、やる事は同じだった。
要はアジトの監視だった。
大和の予想では、あのガムテープの子供達は規律だった秩序の下に、無秩序で破滅的な混沌をふりまく集団だと考えていた。
規模だとて、寡兵のそれではあるまい。ある程度の頭数を擁立しているであろう事も睨んでいる。
組織の構成員の数が多ければ多い程、その分しくじる可能性も高くなる。ましてあのガムテープの連中は、年齢的に未熟な子供まで駆り出している始末だ。何処かで必ずや、足やボロが出る。
当然そうなった場合、根城にしている所を叩かれるに決まっている。だからこそ、本拠点近辺に監視の目を光らせる必要が、彼らの側にもあるのだ。
監視カメラは設置する時間とコストがかかる。何よりサーヴァントが持つ超常の能力の前では無意味になる率の方が高い。だからこそ、喋る物質なのだろう。
気付いてしまえば兎も角、気付かれなければ、ただの樹木や花草が喋るなど意識の外の事象。加えて、東山と荒井を認識したのなら、視覚や聴覚も持ち合わせているだろう。
五感を持ち、自らの意志とそれを口にする機能を備え、加えて創造主には絶対服従。そんな物を作り出せるのなら大和であっても、監視を筆頭としたあらゆる用途に、使うのだ。
とは言え、あくまで予想だ。実際のモノを見ていないので何とも言えない。
それに、物質が喋る事が出来るとは言え、その喋っている内容をどのようにして、遠く離れている創造主に伝達するのか、その手段にも疑問が残る。
だが今や、この程度で良い。アジトが解り、能力の一端を知り、戦力の規模も推測出来る。叩きに行っても良いが、材料が少ない。今は待ちだ。
「狡知を弄する者がいる……。そう貴様は言ったな、羽虫」
「ああ」
「貴様を狙った害虫共は、多少小賢しい程度にしか聞こえん。とてもではないが、それ以上。凝った策を練れるようには見えんが」
「その通り。あのクズ共は違うとみている。少し知恵が回る程度の頭でしかないだろうな。それでも、油断するつもりはない」
「なら、本命は何処にいる」
「それを悟らせないから、狡知なのだ」
「……成程。一理ある」
ベルゼバブは其処に理解を示した。
「この地に呼ばれ、ランサーを召喚してから最初に行ったのが、財閥の構成員の動向を常に調査室を使って見張らせる事だった。NPCなど信用していないからな」
「結果は?」
「財閥の構成員だと明らかに理解した上で、コンタクトを取って来ている者と出くわした。そんな者が複数人いたよ」
「……ままある事ではないか」
それ自体は別段珍しい事じゃない。
この世界で言う峰津院財閥とは、様々な場所に口利き出来て潤沢なカネの力を保有する組織である。
当然、そんな所と繋がりを持ちたい、斯様な下心を抱いてアポイントを取ろうとして来る者は、一個人・一企業問わず大勢いる。
「私と直接話をしたい、そう宣う者もいたそうだ」
大和は峰津院財閥の現当主、つまりトップの中のトップである。
全指揮権と運営権、決定権の全てを兼ね、それに伴う全責任を負う文字通りの頭なのだ。彼の決定こそが、財閥の意志なのである。
何処の馬の骨とも解らぬ木っ端が、いきなり大和と話をしたい、と頼み込んでも普通は門前払い。
現に、財閥の構成員でそう頼まれた者達の全てが、それは出来ないと素気無く断っている。そう言う教育を、徹底しているのだ。
それに、財閥とコネクションを持ちたいと思って、それを実行に移す者であっても、まさかいきなり大和に会えるなどとは思っていない。段階を踏んで、行く行くは。そうと思っているのである。
それにも関わらず、一足飛びに大和と会いたい、と言う者が出てくる。
常識がないか、そうでもしないと首が回らない程事情が逼迫しているのか。事情は解らないし興味もない。そもそも会う気はないからだ。
重要なのは、そうと提案して来た人物の数が多い事である。一度までなら偶然とする事も出来るが、二度、三度と続けば、それはもう偶然ではなく、誰かの手引きの下によって行われる必然である、と言う蓋然性が高くなる。少なくとも大和は、そうと睨んでいる。
「私が出る義理も意味もないが、気には掛かったのでな。財閥の関係者にコンタクトを取って来た者達の素性を、調べ上げた」
「用意周到な事だな」
「結論としては、聖杯戦争と関係がありそうな事情を抱える者は、一人として存在しなかった。無論、その関係者も含めてな」
「戦闘に対して適性のあるサーヴァントもいれば、諜報や工作に長けた羽虫共もおろうが。痕跡は消し去られていよう。NPCを使った調査では、それが限界と言う事か」
歴史に名を刻んだ『何者か』が英霊やサーヴァントになれる。
その定義で行くのなら、確かに戦闘や戦争で身を立て、輝かしいエピソードを勲章の如く幾つも煌めかせている戦士や英雄達の方が、比率としては多いのだろう。
だが、そればかりが英雄ではない。知略や謀略、諜報や盗み、詐術など、社会の営みの負の側面、つまるところ犯罪で身を立てた者共だって大勢いる筈だ。
彼らの手口や手練は知らないが、確実に言える事は、何の能力も持たないNPC程度では先ず彼らの行為に感づく事は不可能。
そもそも、彼らの手口に自分が加担していると言う事実に気づかない、つまり『既に彼らのプランに組み込まれている』のにそれと解らず日常生活を送っている者だとて、居る筈だ。
財閥関係者にコンタクトを取った人物が、本当に彼らの息のかかった者なのか否かは解らない。
解らなくて当たり前だ、自分に目が及ばないように手を打つからプロなのである。故に、NPCのみを使った調査では、その辺りが『底』である。
「これ以上の調査はマンパワーの浪費に過ぎん。徒労でしかない。裏から我々を補足する蜘蛛が、居るやもしれない。と考える程度に留めるさ」
「蜘蛛は、靴で潰すものだ」
「見つかれば、な。意識させすぎて消耗戦に持ち込ませるのも奴らの策だ」
仮に、大和を補足し、コンタクトを取ろうとする蜘蛛がいるとして。彼らの主目標は何か、と言う話になる。
当然前提は界聖杯への到達であろうが、其処までの過程で大和とどう付き合うのか? 敵としてか、同盟相手としてか、利用するツールとしてか?
付き合い方は色々であろうが、聖杯戦争がたった一人しか生き残れない勝ち残りのそれであると判明してしまった以上、その蜘蛛にとっても大和は最終的には死ぬべき相手になるのだ。
大和と、彼が従えるベルゼバブの力は強大だ。真正面からでの、小細工抜きでの戦いなら無敵に近い。だが、その無敵も、3日、4日と戦局が長引いて、維持出来ているかは解らない。
だから、消耗戦に持ち込ませる。何も魔力や兵糧、弾丸の数だけが消耗の対象ではない。生きるか死ぬかの極限状態では、精神の摩耗も深刻となる。
『蜘蛛はまだ生きているのではないか?』、『何時か裏切るのではないか?』、『果たしてこの策は自分達の為になるのか?』。
そんな疑心暗鬼を埋め込ませ、何が正しく間違っているのか、解らなくなった所を抹殺する。そんな手法も当然成立し得る。
敵か味方か解らない、胡散臭い奴。そんなイメージは、メリットにも転ぜられるのだ。
それが解らぬ程、策謀で鳴らしたサーヴァント共も馬鹿ではあるまい。恐らく蜘蛛達は、大和が想像以上の愚物で、早々に馬脚を現す事が一番楽だと思っていよう。
または、財閥の力を利用して、戦局を有利に進めようと思っているのかも知れない。そのどれにも引っかからず、中途半端に蜘蛛の存在に気付いていても、誰が下手人なのか解らないのなら、
彼らにとってはノーダメージである。寧ろ意識している分、思考のリソースを誰か解らぬ犯人に割かねばならない為、確実な消耗を強いる事が出来る。
まことに、大和にとって業腹だが……既に彼は、蜘蛛の策に嵌ってしまっていた。其処に、怒りを覚える。
「癪に障る有名税だ」
吐き捨てるように告げる大和。究極、彼、もとい峰津院財閥が有名だからこそ取られている作戦だろう。
何ならば、知略に長けたサーヴァント以外の有象無象も、大和とベルゼバブを意識した行動をしていよう。
「蜘蛛を見つければ、貴様はどうするつもりだ。羽虫」
「我々を釣ろうとする餌を、確実に用意しているつもりだ。それだけを奪う。奪った後に潰す。知略や謀略が得意な者など、私にはいらん。立案など、私で足りるからな」
「手に負えぬ、と判断したらすぐに殺せ」
実感を込めて、ベルゼバブが言った。語調が強かったのを、大和は見逃さなかった。
「力を求むる者と、知を信じる者とでは、余りに目標が違い過ぎる。決して交わる事はない。合わぬと思えば、殺せ」
「……肝に銘じておこう」
過去に、何があったのかは問わない。聞く気もない。
ただ、この言い方だと、出し抜かれたのだろう。ベルゼバブの瞳には、果てぬ殺意が渦巻いていた。
コンコンと、ノックの音。
それを聞くや、ベルゼバブはプロテインシェーカーの蓋を開け、ストローではなく直飲みで、プロテインとレッドブルのカクテルを飲み干し、その後に霊体化する。
嫌そうに眉を顰めさせながら、大和はただ、「入れ」と口にする。
「失礼します」
ドアを開け、一礼してから入室して来たのは、ブラックスーツを纏った長身の女性だった。
涼し気に整えられた黒髪に、スッとした鼻梁で整った顔立ち。目つきは鋭く、まるで鷹のように油断のない光が輝いている。
露出の少ない服装のせいか、まるで雰囲気は男装の麗人だった。街を歩けば、男のみならず同性であっても、振り向いて見てしまうような『華』があった。
迫真琴、それが入室して来た女性の名前であった。
「……? と、当主様? 机の前に散らばっている、あのチェス盤は?」
入室してから部屋を眺めて、真琴は、真ん中から破断したチェスのボードを見て、怪訝そうな表情を浮かべてそう言った。
「不良品だ。後で回収しておけ」
「机の上のプロテインシェーカーは……?」
「朝食だ」
苦しい言葉だが、そんな言葉でも、大和が自信満面に告げれば、そういう物かと納得してしまう。現に真琴は、納得してしまっていた。
「成程……朝食では足りなかったのですね。食べ盛りですからね、配慮が足りなかった様子。私の方から厨房に言って、量を増やして貰うように致します」
――……余計な事をしおって、ランサーめ――
ベルゼバブの軽はずみな行動に、胸中で大和は愚痴を零す。
「ですがプロテインとエナジードリンクは組み合わせが悪いですし、エナジードリンクは飲みすぎると身体に毒ですから、今後は牛乳などにされた方が――」と、
言わなくても解る知識を口にする真琴の言葉をそこそこに。大和は、今日の予定を真琴に促した。
聖杯戦争本開催、二時間程前の出来事であった。
【渋谷区・峰津院邸/一日目・午前】
【峰津院大和@デビルサバイバー2】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:宝具・漆黒の棘翅によって作られた武器をいくつか
[道具]:悪魔召喚の媒体となる道具
[所持金]:超莫大
[思考・状況]
基本方針:界聖杯の入手。全てを殺し尽くすつもり
1:ロールは峰津院財閥の現当主です。財閥に所属する構成員NPCや、各種コネクションを用いて、様々な特権を行使出来ます
2:グラスチルドレンと交戦しており、その際に輝村照のアジトの一つを捕捉しています。また、この際に、ライダー(シャーロット・リンリン)の能力の一端にアタリを付けています
3:峰津院財閥に何らかの形でアクションを起こしている存在を認知しています。現状彼らに対する殺意は極めて高いです
4:東京都内に自らの魔術能力を利用した霊的陣地をいくつか所有しています。数、場所については後続の書き手様にお任せします。現在判明している場所は、中央区・築地本願寺です
【ランサー(ベルゼバブ)@グランブルーファンタj-】
[状態]:健康
[装備]:ケイオスマター、バース・オブ・ニューキング
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:最強になる
1:現代の文化に興味を示しています。今はプロテインとエナジードリンクが好きです
2:狡知を弄する者は殺す
投下を終了します
皆様、投下お疲れさまです。
リップ&アーチャー(シュヴィ・ドーラ)で予約します。
>Crime Ballet
後方彼氏面ならぬ後方共犯者ヅラでマスターを見守るモリアーティ(老)が面白怖い。
愛について語る時だけ幼女に見えなくなるしおちゃんの闇も今後注視していきたいところです。
>わたしたちの願い! 守りたい人のために☆
光源ともいうべき裏のないキラキラ主従がひたすらに愛おしい。
殺島には物騒な思考はないようですが、アイがどう出るかでこの笑顔が曇ってしまうのか心配。頑張れ女の子。
>サムライハート(Some Like It HURT)
縁壱とおでん、戦闘もメンタルも強い。強すぎる。疲労(小)←お労しや……
情の深さが唯一の救いですが、そこを突くにはあさひ達は真っ当すぎた。
>ある少女のエピローグ
猗窩座の一見生前と同じく無慈悲に見える態度の裏にある人間的な感情がいいですね。
平凡な人間でしかないPが今後も多発するであろうアイドルの死をどう乗り越えていくのか気になります。
>TWISTED HEART
犯罪卿と同じ名と経歴を持ちながら方針は真逆のウィリアム。
探偵にすら見える彼は、聖杯戦争で何を成すのか。
>狂い哭け、お前の末路は偶像だ
初手から聖杯戦争からの具体的な離脱手段を考察するとは。
それが実現しうると思わせるアシュレイの心強さに期待します。
>きりさんぽ
健気なマスターを無体にシカトする、サーヴァントの姿か?これが……
可能性の話にも某セイバーを上げていないのが再会時のエネル見開きを予想させて楽しみです。
>咲耶はいい子
NPCでない現実の仲間の死がもたらす物語の加速を感じました。
サーヴァントとしてではなく犯罪代行者としてウィリアムの受けた依頼はどう収束するのか。
>This Game
リンボのドロドロと淫猥な雰囲気が余すことなく再現されていると感じました。
アビーと鳥子のペアも搦手含め相当な強者で驚きました。吉良は落ち着こう。
>『You』
皮下医院に集う悪属性たちの中に沙都子もエントリー。
思いつきで極道に手を出してるのが不穏極まりないですね……。
>オール・アロング・ザ・ウォッチタワー
落ち着いてねえ!マスターガン無視お手々ストーカーサーヴァントと化した吉良。
写真の親父のサポートでどれだけの波乱を巻き起こすのか。
>終末数え唄
コベニちゃん、ここでもこき使われているのか……。
ベルゼバブの基本方針が清々しすぎて好きです。最強になれ。
>>804 の予約ですが、プロットに致命的な破綻が発生した為破棄させていただきます。
長期のキャラ拘束申し訳ありません。
投下お疲れ様です。
大和&バブさんという、本企画でも間違いなく五本の指に入るだろう強主従の現在を非常に上手く描けているなと思いました。
設定などにも丁寧な説明が入っており、作品を把握していない人でもするする読めるのが親切な設計だなあと。
そしてガムテ組やグラス・チルドレンに対する考察も面白い。マムの能力に当たりを付けている辺りは流石ですが、グラチルという組織の親玉についてだけは読み違えているのもまた。
狡知に長ける蜘蛛に対して敵意を抱くバブさんですが、実際下手に不興を買うとろくでもないことになるのであちらとしても絶対に地雷なんですよねこの組み合わせ。
関わること自体が即ち致命につながる上、純粋にめちゃくちゃ強いので同盟を打診するのにもリスクが大きすぎる。
災害リンリンや怪物カイドウと並ぶ脅威になり得る理知の戦闘狂、とても恐ろしいな……。
投下します。
歓楽街の雑居ビルが軒を連ねる猥雑な路地の隙間に、無理やり押し込められたような佇まいのホテルが一棟建っていた。
消防法を遵守しているのかも怪しげな造りのその一室では、主の帰りを待つ少女が膝を抱えてすやすやと寝息を立てている。
少女はアーチャーのサーヴァントクラスを冠する【機凱種(エクスマキナ)】。真名を"シュヴィ・ドーラ"という。
つい数時間前に外の空気を吸いに出かけたマスターと離れ、ついぞ叶わぬ想いにひとり胸を焦がしていた彼女だったが、とうとう疲れてしまったようだった。
ほどなくして部屋のドアがノックされ、金髪の青年が現れた。
彼こそがシュヴィのマスターにして、不治の否定者"リップ"である。
「シュヴィ、無事だったか」
「……、」
リップの問いかけにぱちりと目を覚ましたシュヴィは、無言の首肯でそれに応える。
「すまないがこの場所が他の参加者にバレたようだ。すぐに発つ。準備をしてくれ。それから……」
リップは右目の眼帯から垂れる血をいつものように舐め取ると、一枚の紙片を取り出した。
「これを」
紙片をシュヴィに手渡す。そこには禍々しい書体で『HELLS COUPON』と記されていた。
「……紙。これ、なに?」
「路地裏でオレを襲ってきたヤツらが持ってた。紙製麻薬の一種みたいなんだが組成が知りたい。できるか?」
「マスター、は……殺した? 敵だから」
「ああ。だが聖杯によって作られた存在だ。他の参加者じゃない」
リップは一瞬表情を強張らせると、平静を装ってそう応えた。
「……ん」
紙片を受け取ったシュヴィは、迷う様子も見せずにそれを小さな口の中に放り込んだ。
しばらく二人の間に静寂が流れ、数秒後、シュヴィがカッと目を見開く。
「アミノ酸0.2%、マカエキス0.5%、インドメタシン0.1%…………」
『解析』を終えたシュヴィは、立て板に水を流すように次々に成分名と配合割合を読み上げていった。
リップは時たま頷きながら、メモにそれらを記録していく。
「…………精製水5%、コデインリン酸塩0.1%。……終了、以上」
「なるほど。普通にここら辺で手に入るモンで作れるんだな」
リップは顎に手を当て、笑みを浮かべた。
「……ダメ、マスター。……この薬……危ない。……異常活性。……身体……でも、壊れる」
「ああ、オレも元医者だ。何となくはわかるさ。このヤクは『治す』ためのモンじゃない、『壊す』ために作られてるってことくらいな」
「……、」
シュヴィは不安げな面持ちでリップを見つめる。
「……とにかく。一刻も早くここを出るぞ」
その視線に耐えきれず、リップは目を逸らすと医療用トランクに荷物をまとめ始めた。
数分後、準備を終えた二人はホテルの玄関口に立っていた。
「……ある? 行くあて」
シュヴィが遠慮がちに尋ねる。
「いや、だが幸いこの辺りにはゲストハウスが多い。それらを転々としよう。『試したいこと』もあるし」
「……?」
不安そうなシュヴィをよそにリップは考えを巡らせる。
恐らくこれは"否定者の解釈"の問題だ。
今、リップは最凶最悪のドラッグ『ヘルズ・クーポン』の製造方法を手に入れた。
ヘルズ・クーポンの薬効は『身体を壊しながら異常活性を得る』というもの。
――ならば。
"不治"の否定者たるリップの製造したヘルズ・クーポンを服用すれば、『通常以上の効力を永久に得ることができる』のではないか……?
医学の道に精通している彼はそう考えていた。
(実験が必要だ)
不確定な切り札を自分で試してみるほどリップは無謀ではない。
(シュヴィには……知られたくない。他の参加者で試すのも無理がある。
……仕方ないが、『検体』は聖杯内界の人間から調達するか)
眼帯から垂れる血にも気づかず、否定者は冷徹にただ勝ち残るための道筋を組み立てていく。
その計算にシュヴィのサーヴァントとしての力は入っていない。
正直、リップはシュヴィの真の力――機凱種の『解析』を甘く見ているフシがあった。
この並行世界には不可思議な力が溢れている。
喰らえば悪魔の力を得る禁断の果実。
摂取すれば桜の咲くが如く身体強化される薬品。
神より下された、ルールを否定し、器となる罰。
天から与えられた呪いの縛り。
平安時代から連綿と闇に潜む鬼の血。
英雄(ヒーロー)と敵(ヴィラン)を形作る先天性の超常能力。
想像力を糧に発動する奇跡。
『傍に立つ』を意味する精神の具現化。
人類に混乱をもたらす波動。
それらの使い方を知る、ということはそれらを『壊す』方法も理解できるということだ。
全てを吸い込み無効化する闇人間のように。
伝説の暗殺者一家の末弟が開発した除去機構のように。
否定と相反する存在のUMAのように。
存在するだけで縛りを失わせる双子のように。
陽の当たる時間にだけ咲く青い彼岸花のように。
個性因子を破壊する弾丸のように。
人々の悲観に満ちた想像で歪む宇宙のように。
精神をDISCにして抜き取る神父のように。
因子の摘出によって成されるその場しのぎのように。
そして、もしリップが本気で英霊を"武器"と思い込めたのであれば――
治癒を否定する力はアーチャーの攻撃にも発生するであろう。
だが、少なくとも今は、否定者はその思考には至っていない。
リップは、いつも悪でいなければ、悪にならなければと思っている。
ポケットに無造作に突っ込んだ拳を握りしめ、耐えている。
仲間を見捨て、同族を狩り、両脚を落とし、そして、自分を殺した。
そんな彼が悪者をやめ、ヒーローになるということは、秋の木漏れ日の中で笑っていたあの娘を諦めるということだから。
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【新宿区・ホテル街/1日目・午前】
【リップ@アンデッドアンラック】
[状態]:健康
[令呪]:残り3画
[装備]:走刃脚、医療用メス数本
[道具]:ヘルズクーポン(紙片)
[所持金]:数万円
[思考・状況]
基本方針:サーヴァントの排除。
1:拠点を移動させる。外国人がいても怪しまれないゲストハウスに泊まる予定。
2:ヘルズ・クーポンを製造し、効力を試したい。
[備考]
『ヘルズ・クーポン@忍者と極道』の製造方法を知りました。
【アーチャー(シュヴィ・ドーラ)@ノーゲーム・ノーライフ】
[状態]:健康
[装備]:武装
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:マスター(リップ)に従う。いざとなったら戦う。
1:マスターが心配。
投下を終了します。
思ったよりもミジカカッタ……。
投下お疲れ様です。
シュヴィの機凱種としての性質を活かしてのヘルズクーポン解析という展開は、まさにこういう様々な作品をクロスオーバーさせた聖杯戦争企画ならではのもので読んでいてテンションが上がりました。
そしてそれだけに留まらず、リップの否定者としての能力に絡めて更なる悪用を考えるなど話の広げ方もお見事。
クーポンの量産を可能にできるだけの情報を手に入れただけでなく、効果を切らすことなくクーポンの薬効を適用し続けるということがもし可能なのであれば、リップの持つ"不治"の特性も相俟って非常に凶悪なマスターになるな……と思いました。
そしてそんな彼の人間性の部分にもしっかりフォーカスを当てており、氏のキャラ解像度の高さがひしひしと感じられましたね。
願いを叶えるか叶えられずに力尽きるか、そのどちらかの未来にしか辿り着けないだろう彼の今後どう戦っていくのかがとても楽しみです。
少し早いですが残レス数も少なくなってきましたので、次スレを建てて来ようと思います。
作品ですが、もしもスレ内に収まりそうでしたらこのままこちらに投下していただいても構いません。その辺りの判断は書き手諸氏にお任せいたします。
古手梨花、北条沙都子
予約します
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