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ゲームキャラバトル・ロワイアル【第二章】

838Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:07:05 ID:xcspQCuM0


 けれど、それは裏を返せば〝孤独〟である。


 知人も友人ももう存在せず、大切な人はこの世界にはいない。そんな中で地獄を生き残らなければならないのだ。
 弱音や本音を共有することもできず、本心を押し殺して悪魔のように振る舞うしかない。
 マルティナだってそのはずなのに心根にはイレブンという希望を抱え、仲間の死を嘆く人間らしさを見せつけてくる。それがまるでこの場に支えがあるかないかという決定的な違いを浮き彫りにするようで、不快感に身が捩れそうだった。
 
「私だって……っ! 好きで殺してるんじゃないのよっ!!」

 とどのつまり、嫉妬だ。
 ミリーナ自身無意識ではあったが、彼女は自分がこの会場でもっとも悲劇のヒロインだと思い込んでいた。

 唯一の知り合いを殺し、修羅の道を選んだ。
 けれど自分一人の力では敵わない相手ばかりで、同盟に選んだマルティナは自分とは対照的な存在。
 そんな地獄を生き抜いて優勝したとしても、イクスを救うという使命は残っている。当のイクス本人は己の努力を知る由もないし、ましてや労いや同情をしてくれることもないだろう。

 自分が一番可哀想だ、と。
 齢十八歳の少女という色眼鏡を抜いても、心の底からそう思い込んでしまうのも無理はなかった。


「……あれが、Nの城ね」
 

 遠目に奇抜な城が映る。
 ここまで遠くまで来るつもりはなかったのだが、どうやら相当考え込んでいてしまったらしい。
 もう少し近づいて様子を見てみよう。と、歩を進めるミリーナの鼓膜を少女の声が叩いた。
 

 ──ど、どうしようイレブン〜!!


「──っ!?」

 慌てて傍の木に身を隠す。
 恐る恐る様子を伺えば、ふたつの人影が目に映った。格好を見るに十代半ばの男女らしい。傍らには魔物らしきものも二匹見える。
 立ち上がる黒煙から見て誤って草原を燃やしてしまったようだ。そちらに気を取られているのは幸運だと言える。

(……待って。さっき、イレブンって…………)
 
 思考に余裕が出来たためか、さきほどの少女の声が蘇る。
 聞き間違いでなければ青年のことをイレブンと呼んでいた。再度彼の姿を確認するため顔だけを木から覗かせる。

 ひらりと風に舞う茶髪のサラサラヘア。
 間違いない。マルティナから聞いていたイレブンの特徴と一致する。

(────まずい。このままマルティナとイレブンを会わせるわけにはいかない……!)

 もしもありのままのことをマルティナに伝えれば是が非でも彼女はイレブンと合流しよっとするだろう。
 そうなれば同盟は解消。今ここでマルティナを手放し、あまつさえ敵に回るとなれば非常に不都合だ。

 北上をすればきっと二人は出会う。
 ならば、南下する理由を作らなければならない。


 首輪探知機を使用した結果、Nの城付近の人数が思ったよりも多かったので一度南下をする。多少強引だがこれで押し切るしかない。
 いくらエアリスを人質に取ったところで多人数に通用するビジョンが見えないのだから、よほど不自然な動きをしない限りマルティナも怪訝に思うことはないだろう。

(悪いけど、まだ利用させてもらうわよ。マルティナ)

 辻褄を合わせるために首輪探知機を使用する。予想通り城付近にはかなりの反応があり、猛スピードでこちらに近づいてくる二つの光点もあった。何かの乗り物に乗っているのだろうか。
 
 その時、ミリーナは違和感を覚える。
 自分の位置を示す光点が重なって見えたのだ。よく目を凝らせばそれが重なっていたわけではなく、そう見えるほど近距離に反応があることに気がついた。

839Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:08:04 ID:xcspQCuM0


「────え」


 ミリーナの本能が警鐘を鳴らす。
 首輪探知機は役目を終えて画面を映さなくなった。見間違いを期待して確認することもできない。
 つまり──ミリーナ自身の目で確かめなければならないのだ。


 警戒を最大限に引き上げて振り返る。
 瞬間、ミリーナが捉えたのは帽子を深く被った少年の姿だった。


「こんにちは」


 まるで気配を感じなかった。
 一目で異常だとわかる。こんな状況で気軽に挨拶をしてくる少年など格好のカモのはずなのに、逆に捕食者を前にしているかのような威圧感にミリーナは冷や汗を伝わせた。

「それじゃあ、いきますよ」
「──な……っ!?」

 有無を言わさず少年はボールを二つ取り出し、閃光とともに顕現した二体のモンスターがミリーナを睨む。
 驚愕を呑み込み咄嗟に構えるミリーナへ、翠色の刃が襲いかかった。



◾︎

840Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:09:29 ID:xcspQCuM0



「さて、と。トウヤが来るのはそろそろでしょうかね」


 イレブンたちが後にした王の部屋。
 見慣れたその一室にて椅子に座るゲーチスは左手に持つモンスターボールを指でなぞる。

「それにしても……まさかここまで強力な〝駒〟が手に入るとは。やはりワタクシが王になるべきなのでしょう」

 ギギギアルとは違うもう一匹の手持ち。
 この城内をくまなく探索した結果見つけた戦利品だ。中身の確認はもう済ませている。

「お前には存分に働いてもらいますよ、カメックス」

 カメックス。
 イッシュ地方では滅多に姿を見ないポケモンだ。使い慣れぬポケモンにゲーチスは一度落胆はしたものの、カメックスのレベルは彼の見た中でも最高峰のものだった。
 相当なバトルを潜り抜けてきたのだろう。これならば下手なタイプ相性など覆す圧倒的なレベル差で叩きのめせるはずだ。

 ギギギアルと組み合わせればあのトウヤのオノノクスにも勝てる。
 欲を言えば空のモンスターボールを持て余しているためもう一匹手持ちが欲しかったが、ベルの言うヨーテリーのような使えないポケモンを手にしたところで無意味だ。それならば保留しておいた方が合理的だろう。

(それにしても……あのイレブンという男もポケモンを知らぬ様子でしたね)

 年端もいかぬ子供からの情報などハナから期待していなかったが、予想外の成果を得られた。
 まずイレブンがポケモンを知らず、代わりにランランのような魔物と呼ばれる存在と戦っていること。エアリスのような夢見がちな妄想と切り捨てることもできたが、実際に魔法を見てしまったのだから信じざるを得ない。
 ましてや実際にゲーチスはマテリアを使用したこともあるのだから尚更に。あながちエアリスの言葉も嘘ではなかったのかもしれないが、もはやどうでもいい。

(あのウルノーガという化け物も、彼と因縁があるようですからね。……信じ難いが、事実なのでしょう)

 話し下手なイレブンから聞き出せた情報はそこまで多くはないが、主催であるウルノーガは彼が倒し損ねたから復活してしまったのだと語っていた。
 それが事実ならば余計なことを、と毒づきたいがひとまず抑える。冷静に考えるのならば、あのウルノーガでさえ危険視するほどの存在を味方につけているのだ。

 対トウヤにおいてはベルの方がよほど利用出来ると思っていたが、そうとも限らないようだ。万が一にはイレブンにトウヤをけしかけることもできる。

 完璧だ。
 高揚感に包まれたゲーチスは笑みを堪えきれず、唇の左側だけ吊り上げて歪な哄笑を響かせた。

841Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:10:12 ID:xcspQCuM0

「ハハハハハハッ!! 今に見ていなさい、トウヤ……このワタクシを侮辱した罪、その身をもって償ってもらいますよ……!」

 思わず椅子から立ち上がるゲーチス。
 彼の描く計画に滞りはない。最初こそ苦汁を舐めさせられたが、運命はこのゲーチスに傾いている。


 しかし、その笑いはすぐに中断させられた。


「──な、なんだ……この音は!?」


 地響きに似た振動と共に響き渡る重い音。
 バラバラと風を切る音は室内のはずなのに鮮明に聞こえてくる。それがNの城の上空を踊るヘリの羽だと気付くのに時間を要した。


 好調なゲーチスにただ一つ、不都合な誤算があるとすれば今まさにこの状況と言わざるを得ないだろう。
 トウヤ以外の来客だから、ではない。そのヘリに乗っている人物が────もうひとりの〝チャンピオン〟だからだ。
 



【C-2/Nの城(王の部屋)/一日目 日中】
【ゲーチス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康、高揚感
[装備]:雪歩のスコップ@アイマス+マテリア(ふうじる)@FF7、モンスターボール(ギギギアル)@ポケモンBW
[道具]:基本支給品、スタミナンX(半分消費)@龍が如く、モンスターボール(カメックス)@ポケモンHGSS、モンスターボール(空)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、野望を実現させる。
0.この音は……!?
1.Nの城を本拠地とする。
2.ポケモンやベルたちを利用して、手段は問わずトウヤに勝利する。

※本編終了後からの参戦です。
※FF7、ドラクエⅪの世界の情報を聞きました。
※ソニックのことをポケモンだと考えています。


【モンスター状態表】
【ギギギアル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[特性]:プラス
[持ち物]:なし
[わざ]:10まんボルト・ラスターカノン・はかいこうせん・きんぞくおん
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.ゲーチスに仕える

【カメックス@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:健康
[特性]:げきりゅう
[持ち物]:なし
[わざ]:ハイドロカノン・ラスターカノン・ふぶき・きあいだま
[思考・状況]
基本行動方針:???


【支給品紹介】
【カメックス@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
Nの城でゲーチスが発見したカメックス入りのモンスターボール。元の持ち主はレッド。
特性はげきりゅうで、覚えているわざはハイドロカノン・ラスターカノン・ふぶき・きあいだま。レベルは84。

※バイソン@GTAVはNの城付近に駐車してあります。




◾︎

842Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:11:25 ID:xcspQCuM0


「え、へへ…………イレブン、怒ってる?」
「…………」

 ふるふる、と力なく首を振るイレブンだがその顔はどこかやつれている。
 実際ベルに怒っているわけではない。例のごとく自分の不甲斐なさを恥じているだけだ。
 咄嗟に七宝のナイフによる海破斬で火を消し止めることは出来たが、貴重なMPを無駄にしてしまった挙句ベルを怖がらせてしまった。

 はずかしい。
 きっとあの火を前にした自分は傍から見ても慌てふためいて頼りなかっただろう。
 ベルは気にしているだろうか──伏せていた顔を上げてちらりと様子を伺う。


「ランラン、すごいねえ。前よりずっとたくましくなったかも!」


 いや、あまり気にしていなさそうだ。
 というより元からベルはイレブンを頼り甲斐のある騎士様だとは思っていないのだろう。話の合う友達だと認識しているのかもしれない。
 それはそれで嬉しいが、なんとなく複雑だ。飛び跳ねるランランを撫でるベルから視線を外し、晴天の空を見上げる。


「────……?」


 と、遠目に鳥のようなものが映った。
 しかし鳥と呼ぶには少しシルエットが大きい。おまけに羽音とは異なる風切り音が次第に近付いてきている。

「あれ、なんだろう」
「え〜? ……うわ!? ヘリコプター!?」
「ヘリコプター」

 オウム返しをするイレブン。
 ヨーテリーのようなポケモンの名前だと思い込んだイレブンは近づいてくるそれをぼうっと見つめて心からの疑問を口にした。

「ボール、届くかな」
「? ……あ、もしかしてポケモンだと思ってる? あははっ! イレブンかわいい〜!」

 え。と、噴き出す冷や汗と共に顔に熱が宿るのを感じる。
 どうやらポケモンではないらしい。ならヘリコプターとはなんなのだろう、という疑問よりも先にはずかしいという感情がイレブンの思考を蹂躙した。

「あ、顔隠した」

 実況をしないで欲しい、頼むから。
 殺し合いの場でヘリが飛んでいる。本来最大級に警戒すべきシーンだというのにまるで緊張感がない。見かねたポッドが機械音を鳴らした。

『警告:ヘリコプターに射撃機能が搭載されている可能性がある。警戒すべき』

 ハッと両手で覆っていた顔を上げる。
 見ればヘリコプターはもう自身の上空付近まで近づいていた。慌てて右手に魔力を宿す。この距離ならばライデインで迎撃できるだろう。
 少し不安げな表情を見せるベルを片腕で下がらせて空飛ぶ機械へ睥睨を飛ばす。しかし警戒とは裏腹に、予想だにしない出来事が降りかかった。



 ────うわあああ〜!!



「え、え、えっ」
「ひ、人がっ! 人が降ってきたよ!?」


 狼狽するイレブンとベル。
 無理もない。ようやく緊張感を持ってなにが来るのかと警戒していたのに、あろうことか人が降ってきたのだから。
 しかも様子を見るに自分から落ちたわけではないらしい。情けない叫び声を上げて落下する人影に、おひとよしの二人は全力で〝救助〟に思考を注いだ。

843Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:12:19 ID:xcspQCuM0

「イレブン! たすけてあげて!」
「…………!」

 とはいえ一般的な少女であるベルにできることなどない。自分よりイレブンの方が助けられる可能性があると判断したベルはそう託した。
 事前準備がある状態ならば道具を使って受け止めることもできたかもしれないが、咄嗟の判断が求められる状況では悠長にしていられない。

 身体で受け止める?
 いや、高度が高すぎてお互い無事では済まないだろう。ルーラも制限が掛けられている以上期待できない。
 バギ系の呪文なら風によって落下の衝撃を緩和できたかもしれないが自分には使えない。結果、イレブンが導き出した答えは──

「ポッド、助けてあげて……!」
『了解』

 繋がれたバトンは結果的に飛行能力を持つポッドが受け取った。
 あれ、自分は必要だったのか? なんて疑問を一瞬抱いたが気付かないふりをした。

「うわぁぁ〜〜っ!! うわ、うわっ!?」

 落下する少年へ向かうポッド。
 小さな腕で彼の服を摘みあげる。正確な動作によって突如浮遊感が消え去ったことに少年は別の悲鳴が上がるが、ゆっくりと近づく地面を見てひとまず助かったのだと理解した。
 このまま下ろしてくれるのだろうか。極限状態を乗り越え冷静になった思考。状況確認のために周囲を見渡し──
 
「ぶべっ!?」

 視界が地面と激突した。
 話が違う。丁寧に下ろしてくれることを期待したのにぞんざいな扱いだ。とはいえ命の恩人に文句を言う気も湧かず、痛む身体に鞭打ち起き上がる。
 と、不安げな……申し訳なさそうな。いたたまれない顔をしたイレブンと目が合った。

844Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:13:21 ID:xcspQCuM0

「あ、あんたが助けてくれたのか? ありがとう! 本当に死ぬかと思ったよ!!」
「う、うん……大丈夫ならよかった……」
「本当によかったよ〜! あ、ねえねえ! あなたの名前おしえて!」

 ぐい、と二人に割って入るベル。
 にこにこという擬音がこれほど似合う少女はいないだろう。そんな彼女に気圧された少年は乱れた帽子を被り直し、すぅっと息を吸った。

「俺はレッド! Nの城に用があって来たんだ。あんたらは?」
「あたしはね、ベルっていうの! こっちはイレブン!」
「…………よろしく、お願いします」

 かくして名乗りを終えた三人。
 危険人物に囲まれながらも奇跡的に合流できた彼らは、互いの情報を交わしながらNの城へと足取りを進めた。

【C-2/Nの城付近 草原/一日目 日中】
【イレブン@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:MP4/5、恥ずかしい呪い
[装備]:七宝のナイフ@ブレワイ、豪傑の腕輪@DQ11
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1個、呪いを解けるものではない)、ブルーオーブ@DQ11、ポッド153@ニーア
[思考・状況]
基本行動方針:ああ、はずかしい はずかしい
1.レッドと話をする。
2.ブルー以外の他のオーブを探す。
3.ひとまずNの城を拠点にする。

※ニズゼルファ撃破後からの参戦です。
※エマとの結婚はまだしていません。
※ポケモン世界の情報を得ました。

【ベル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:気疲れ(小)
[装備]:ランラン(ランタンこぞう)@DQ11
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:チェレンの死を受け止め、歩き出す。
1.イレブンについていく。
2.ポカポカ(ポカブ)を探す。
3.レッドって、なんか聞き覚えあるかも……。

※1番道路に踏み出す直前からの参戦です。
※ドラクエ世界の情報を得ました。

【レッド@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
[状態]:全身に火傷、疲労(大)、左腕に深い咬傷、無数の切り傷 (応急処置済み)、落下中
[装備]:モンスターボール(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、ランニングシューズ@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、モンスターボール(オーダイル)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:こんな殺し合い止める。
1.イレブンと話をし、Nの城でピカを回復させる。
2.トレバーへの警戒心。何が目的なんだ!?

※支給品以外のモンスターボールは没収されてますが、ポケモン図鑑は没収されてません。
※シロガネやまで待ち受けている時期からの参戦です。

【モンスター状態表】
【ランラン(ランタンこぞう)@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:健康、モンスターボール内
[持ち物]:なし
[わざ]:メラ・ギラ・メラミ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルについていく
1.睡眠中

※トレバーとの戦闘を経てレベルアップしました。

【ポッド153@NieR:Automata】
[状態]:健康
[持ち物]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:???

※Eエンド後からの参戦です。

【ピカ(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:HP 1/3、背中に刺し傷
[特性]:せいでんき
[持ち物]:アンティークダガー@Grand Theft Auto V(背中に刺さっています。)
[わざ]:ボルテッカー、10まんボルト、でんじは、かげぶんしん
[思考・状況]
基本行動方針:レッドと共に殺し合いの打破
1.睡眠中

【オーダイル@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:健康
[特性]:げきりゅう
[持ち物]:なし
[わざ]:かみくだく、アクアテール、きりさく、こおりのキバ
[思考・状況]
基本行動方針:シルバーが見つかるまでレッドと行動する。
1.ようやっと城についたか。
2.元のご主人(シルバー)はどこなんだ?





◾︎

845Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:14:26 ID:xcspQCuM0




「……遅いわね」

 ミリーナが出てから既に一時間以上経過している。
 軽く辺りを散策するにしては長い時間だ。ぽつりと零したマルティナに一抹の不安がよぎる。

「心配しているの?」
「ええ。彼女の身が危ういということは、私たちにも危険が迫っているということだから」

 それが本心か否か確かめる術はない。
 しかしエアリスにとってはミリーナがいないこの状況はありがたい。まだマルティナならば話を聞いてくれる可能性がある。
 実力はマルティナの方が上なのかもしれないが、隙をつけるかどうかでは話が違ってくる。画策の下、エアリスは己の腕を突き出した。

「ねぇ、これ解いてくれない?」
「……なぜ?」
「食事がしたいの。ここに来てから何も食べてないわ」

 じろりと睨むマルティナの目に一瞬どきりとしたが、少しの沈黙のあと手枷が外された。
 長らく縛られていたせいで手首が痛む。赤い跡を軽く擦りながら辺りを見渡した。

(道具は全部没収されてる……けど、マテリアはあそこね。邪気封印で動きを止めて、スリプルで眠らせれば────)

「ありがとう、マルティナは食べなくていいの?」
「私はもう済ませたわ」
「そう……悪いけど私のバッグを取ってくれない? その中にごはんがあるの」
「そうね、構わないわ」

 自分の支給品を取りに行くためマルティナが背を向ける。少なくともこの瞬間、彼女は気を弛めているはずだ。
 

 ────今だ。このタイミングしかない。


 溢れんばかりの魔力を両手に集中させ、邪気封印の狙いをマルティナの背中へと定めた。


「やめておきなさい」


 エアリスの思惑は露と消える。
 なぜ、マルティナはまだ背中を向けているはずなのに。この瞬間エアリスは彼女への認識を改めざるを得なかった。

「今の私に油断はないわ。さっきまでと違ってね」
「……っ!」

 なにがきっかけなのかわからないが、マルティナはさきほどまでの雰囲気とは一線を画している。
 自分と会話を重ねていた時間が懐かしく思えるほどだ。蛇に睨まれた蛙のように身動きを封じられたエアリスは、目前に投げられるデイバッグに視線を移すことしかできなかった。

「どうぞ」

 数瞬の静寂。
 作戦が呆気なく散ったことに落胆の色を見せるエアリスはもはや食事なんてする気にもなれず、口を噤んだ。

「あら、食べないの?」
「……ううん、いただきます」

 半ば脅される形で食料品の入ったパックに手をつける。中からは肉汁の滴る骨付き肉が出てきた。
 世間的に見れば当たりなのかもしれないが正直嬉しくはない。今は何を食べても同じ味に感じるだろうから、もっと食べやすいものがよかった。
 形式だけの食事を早めに済ませようと口元へと運ぶ。口を開いた瞬間、勢いよくドアが開かれ驚いたエアリスは骨付き肉を落としてしまった。


「────ミリーナ!?」

 
 マルティナの声に釣られるようにドアの方へ視線を向ける。ミリーナの姿を見た瞬間、マルティナが声を荒らげた理由を理解した。
 壁にもたれかかり、息を乱すミリーナの華奢な身体には幾箇所にも及ぶ切り傷が目立つ。刃物で切りつけられたような傷とは別に、必死で走ってきたせいか転んだような擦り傷が足を中心に広がっていた。

846Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:15:21 ID:xcspQCuM0

「マル、ティ……ナ……」
「誰にやられたの? とりあえずここで治療しましょう」
「……そんな、悠長なこと……言ってられないわよ!」

 肩を支えようと近寄るマルティナへ苛立ちをぶつけるような一喝を浴びせ、ミリーナはエアリスのデイバッグを乱暴に拾い上げる。
 あ、と漏らした声は届かない。慌ただしく支度を整えるミリーナへマルティナは怪訝そうに顔を顰めた。

「ミリーナ、どうしたの? ちゃんと説明をして」
「うるさい! ……いえ、ごめんなさい。……とりあえず南下しましょう。Nの城は危険よ」
「その傷も城の人間にやられたの?」

 こくり、と頷くミリーナ。
 ならば自分が行けば戦えるのではないか。人質のエアリスもいる今優位に立ち回れるはずだと申し出たが有無を言わさず却下される。
 
「私を攻撃したやつは……とても、話の通じるやつじゃなかった……! 人質なんて意味ない! それに、そいつだけじゃなくて他にも大勢いるのよ!」
「徒党を組んでいたということ?」
「……ちがうわ。首輪探知機を使ったのよ。そいつの近くにも五、六個反応があったわ」
「…………そんなに」

 具体的な数を聞いたマルティナは眉を顰める。ミリーナがこれほど言う相手がいるのに加えてそこまで多数の参加者がいるとなるとリスクが大きい。
 イシの村を目指したかったが、道のりが険しすぎる。反発する理由の見当たらないマルティナは自身も支度を整え、武器代わりのポールを手に取った。

(Nの城……ゲーチスの向かった場所ね。……そんな危険なところなんて)

 一人、支給品を再度奪われたエアリスは思考を巡らせる。Nの城は目的地のひとつとして候補に入れていたが、話を聞く限り相当危うい。
 ゲーチスの身を案じるが、もう自分の手の届く範囲にはいない。監視を緩めるつもりもないのだろう。ミリーナとマルティナに挟まれる形で民家からの退去を強制させられた。



◾︎

847Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:16:41 ID:xcspQCuM0



 南へ下る三人。
 先頭を歩くミリーナの足は落ち着かない。後続の二人のことなど考えない競歩じみた足取りだ。
 当然だ、今の彼女に他人を気遣う余裕などない。それほどまでにミリーナは心身共に消耗していた。


(────逃げるので精一杯だった……! なんなの、あの子供……っ!)


 思い返す。

 あの帽子の少年との邂逅。最初こそ反撃を試みようとしていたが、頭数でも実力でも敵わずまるで太刀打ちできなかった。
 逃走に全力を注いでこのザマ。あんな年端もいかぬ少年に蹂躙されたという揺るぎない事実がなけなしのプライドを傷つけた。
 もしかして自分が敵う相手などほとんどいないのではないか。本気でそう思わせられたことへ行き場のない怒りが暴発寸前の地雷の如く熱を帯びる。

(……まぁ、いいわ。おかげでマルティナを説得する手間が省けた……)

 そう思わないとやっていられないとばかりに負の思考を無理やり正す。
 状況的にあの少年は城を目指していると考えるのが自然だ。となれば探知機に反応した数多の参加者たちとも接触するだろう。イレブンもその中に含まれるはずだ。
 せいぜい潰し合えばいい。そうであってくれと切に願う。

(今に見てなさい……! 絶対、絶対に……生き延びてやるわ……っ!)

 もはやなにもかもが鬱陶しい。
 マルティナも、エアリスも。都合よく使い潰した挙句に切り捨ててしまおう。

 それぐらい許されるはずだ。
 自分は一番不幸な少女なのだから。
 人の心を持ち合わせていたところで価値なんてない。なにもかも利用して、生き残ってやる。


 この瞬間、ミリーナ自身も気づかなかった。
 イクスを救うためという目的が、自分を正当化するための免罪符となっていることに。




【C-2/D-2付近/一日目 日中】
【ミリーナ・ヴァイス@テイルズ オブ ザ レイズ】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、全身に擦り傷、苛立ち(大)
[装備]:魔鏡「決意、あらたに」@テイルズ、プロテクトメット@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品×2、不明支給品0〜2、首輪探知機(一時間使用不可)@ゲームロワ、王家の弓@ブレワイ、木の矢(残り二十本)@ブレワイ
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する
1.トウヤから逃げるため、そしてマルティナとイレブンを会わせないために南下する。
2.マルティナと共に他の参加者を探し、殺す。
3.エアリスを人質として利用する。
4.イレブン以外のマルティナの仲間を、マルティナに殺させる。その方法は具体的に考えておきたい。
5.マルティナのことは残り二十人前後で切り捨てる。現状は様子見。

※参戦時期は第2部冒頭、一人でイクスを救おうとしていた最中です。
※魔鏡技以外の技は、ルミナスサークル以外は使用可能です。
※春香以外のアイマス勢は、名前のみ把握しています。


【マルティナ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:ダメージ(小)、左脇腹、腹部に打撲
[装備]:ポール@現実
[道具]:基本支給品、キメラの翼@ドラクエⅪ、折れた光鱗の槍@ブレワイ、ランダム支給品(0〜1個)
[思考・状況]
基本行動方針:イレブンと合流するまでミリーナと協力し、他の参加者を排除する。
1.心を黒に染める。
2.ミリーナと共に他の参加者を探し、殺す。
3.エアリスを人質として利用する。
4.カミュや他の仲間も殺す。

※イレブンが過ぎ去りし時を求めて過去に戻り、取り残された世界からの参戦です。イレブンと別れて数ヶ月経過しています。


【エアリス・ゲインズブール@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:MP消費(小)、疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:バレットや信頼出来る人を探し、脱出の糸口を見つける。
1.マルティナとミリーナから逃げるチャンスをうかがう。
2.千早を捜索したい。カームの街とNの城は一旦後回し。
3.セフィロス、および会場にあるかもしれない黒マテリアに警戒
4.クラウド、ティファ、ザックス……。

※参戦時期は古代種の神殿でセフィロスに黒マテリアを奪われた〜死亡前までの間です。
※ゲーチスからポケモンの世界の情報を聞きました。





◾︎

848Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:17:35 ID:xcspQCuM0




「……逃げられたか」


 鬱蒼と茂る木々の中、少年の声が溶ける。
 無機質という言葉はこのために存在しているのだろうと思わせるそれは、敢えて色を付けるのであれば〝落胆〟だ。
 言うまでもなく矛先はいましがた逃したミリーナという獲物に対して。

 追う気分になれない。
 不可能だからではない。追ったところで自分を満足させられるとは到底思えなかったから。
 魔法という未知の攻撃に最初こそ興味を示したものの、冷静に見極めてしまえば脅威ではなかった。身も蓋もないことを言ってしまえばポケモンのわざに似たことを人間がしているだけなのだから。

「まぁ……少しだけ勉強になったかな。それよりも────」

 木々の隙間を縫うように向けられた視線の先には、やはりというべきか見慣れた城が鎮座している。
 戦いの影響で移動してしまったため遠ざかってしまった。どうやら目を離している間に状況が変わっているようで、城の上空にヘリコプターが飛行しているのが見えた。

 その下では人影が二つ。遠目でも片割れがベルであることに気がついた。生存していることは放送で知っていたが、まさか邂逅することになろうとは。
 とはいえ彼女にバトルセンスは期待できないし、今はポケモンの治療がしたい。視線を外そうとした瞬間、情けない叫び声が鼓膜を刺激した。

(…………あれは)

 見れば少年がヘリから落下している。
 年は自身とそう変わらないだろう。急速に地面に落ちてゆくその姿は一瞬しか見えなかったはずなのに、トウヤは確信する。

「……ふっ、……」

 思わず笑みを漏らす。
 まさか本当にこの場に集まるとは。それもほぼ同じタイミングで。これを偶然と片付けるには少し勿体なく感じる。
 間違いない────神が見たがっているのだ。チャンピオン同士の戦いを。


「先に待ってますよ、レッドさん」


 それだけを言い残し、トウヤは踵を返す。
 向かう先は当然Nの城──押し寄せる高揚感に鳥肌が立つ。こんな感覚は久しぶりだ。
 膨らむ期待が少年から落ち着きを奪う。躍る心を止める術が見当たらない。
 


 それは、荒れ狂う風のように。
 それは、燃え盛る炎のように。


 
 枯れたはずの大地は、命の芽吹きを報せた。




【トウヤ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:全身に切り傷(小)、高揚感(大)、疲労(大)、帽子に二箇所の穴
[装備]:モンスターボール(オノノクス)@ポケモンBW、モンスターボール(ジャローダ)@ポケモンHGSS、チタン製レンチ@ペルソナ4  
[道具]:基本支給品、モンスターボール(空)@ポケモンBW、カイムの剣@DOD、煙草@MGS2、スーパーリング@ドラクエⅪ
[思考・状況]
基本行動方針:満足できるまで楽しむ。
1.Nの城でポケモンを回復させ、レッドを待つ。
2.自分を満たしてくれる存在を探す。
3.ポケモンを手に入れたい。強奪も視野に。

※チャンピオン撃破後からの参戦です。
※全てのポケモンの急所、弱点、癖、技を熟知しています。
※名簿のピカチュウがレッドのピカチュウかもしれないと考えています。

【ポケモン状態表】
【オノノクス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト ♀】
[状態]:HP1/8
[特性]:かたやぶり
[持ち物]:なし
[わざ]:りゅうのまい、きりさく、ダメおし、ドラゴンテール
[思考・状況]
基本行動方針:トウヤに従う。
1.ジャローダと話がしたい。

【ジャローダ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト ♀】
[状態]HP:1/10  人形状態
[特性]:しんりょく
[持ち物]:なし
[わざ]:リーフストーム、リーフブレード、アクアテール、つるぎのまい
[思考・状況]
基本行動方針:もうどうでもいいのでトウヤの思うが儘に
1.???

849 ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:20:07 ID:xcspQCuM0
投下終了です……が、投下の最中にミスに気づいたので訂正します。
ランランの状態表なのですが、ボールから出ている状態なのに弄るのを忘れてしまいました。
wiki編集の際に以下に修正して頂けると助かります。


【ランラン(ランタンこぞう)@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:健康、MP消費(小)
[持ち物]:なし
[わざ]:メラ・ギラ・メラミ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルについていく
1.ベルに褒められて嬉しい。

850名無しさん:2024/11/28(木) 06:15:35 ID:5t.N9U260
投下乙です
トレバー殺してないことをベルが気づいてくれて何より
いちごちゃんGJ
ベルに褒められて喜んでるランランかわいい

ミリーナはだいぶ病んでるなあ
まともな状態ならマルティナもエアリスも本来は大好物なはずなのにね

いよいよ出会うだろうカントーとイッシュのチャンピオンにワクワク

851名無しさん:2024/11/28(木) 10:50:00 ID:EgvqBn8s0
乙です
緩急の緩の部分ながらそれぞれの思惑が清濁飛び交い見ごたえのある群像劇が描写されて面白かったです
あと>>844のレッドの状態表に落下中がついたままです

852 ◆NYzTZnBoCI:2024/11/28(木) 12:55:17 ID:bl0HKtBU0
感想とご指摘ありがとうございます!
すいません……このままでは落下中にレッドが高らかに自己紹介しているシュールな構図となってしまうので、こちらも修正して頂けるとありがたいです……。

853名無しさん:2024/12/06(金) 18:06:53 ID:MHcmqHWY0
ゴリラババア指すべし

854 ◆RTn9vPakQY:2024/12/18(水) 07:15:50 ID:PLaal3Yo0
>>827
感想ありがとうございます!
はい、トレバーに「ポケットモンスター」を言わせたい一心で書きました。気づいて貰えて嬉しいです。
また後ほど感想は書かせてもらいますが、レッドを落下させたパスから繋いでくださって感謝しています。

一つ報告です。今更ながら拙作「Lacquer Head」の細部を修正させてもらいました。
ヘリコプターの支給品説明に、ガンパウダーのことを追記した他は、細かい言い換えです。
レッドは既に後続の話がありますが、展開に影響を及ぼすことはありません。

そして、
ソリッド・スネーク、イウヴァルト、ルッカ、N、如月千早、ピカチュウ、
花村陽介、里中千枝、クレア・レッドフィールド、澤村遥、ソリダス・スネーク
以上を再度予約します。

855 ◆RTn9vPakQY:2024/12/24(火) 23:00:09 ID:lmaZaIoY0
予約を延長します

856 ◆RTn9vPakQY:2025/01/01(水) 23:00:00 ID:qq7xHW220
すみません、予約期限は過ぎているのですが、
明日中には投下できる見込みなのでお待ちいただければ幸いです。

857 ◆RTn9vPakQY:2025/01/03(金) 09:16:05 ID:j.OPIvNQ0
たいへん遅くなりました。予約からソリダスと遥を除外して投下します。

858クロス八十神物語 ◆RTn9vPakQY:2025/01/03(金) 09:17:56 ID:j.OPIvNQ0
 エリアE-5に位置する八十神高等学校の屋上。
 ルッカは巨竜の咆哮を耳にすると、即座に行動を開始した。

「あなた、名前は?」
「え?えっと……如月千早です」
「OK、チハヤ。私はルッカ。あと彼はN。
 話を聞きたいのはやまやまだけど、今は逃げるわよ!」

 ルッカはそう言いながら、屋上の扉を指さした。
 情報共有よりも安全確保を優先するべきだと、ルッカの勘は告げていた。

「え、でも……あの人の無事を確認しないと」
「ルッカはまずココから離れよう、と提案しているんだ。
 彼の生死については、校舎から出て確認しに行けばいい。
 それよりもこのまま屋上に居続けるのは、ハイリスクだよ」

 落ちていたデイパックを千早に押し付けながら、早口で説明するN。
 この緊急事態に、こちらの意図を汲んだ行動をしてくれるのは非常にありがたい。
 千早は全てを理解できたわけではないようだが、それでも頷いて扉へと駆け出した。
 自分も落ちているデイパックを拾い、急ぎ屋上を去ろうとした直後である。

グオオオオッ

「あっ……!」

 より間近で聞こえてきた雄叫びに、ルッカは思わずよろけて膝をついた。
 振り向いたとき、フェンスの向こう側からせり上がるように黒竜は姿を現した。
 そして黒竜の背中に騎乗しているのは、メガトンボムで吹き飛ばしたはずの男。
 男は飛び降りて屋上に着地すると、滞空している黒竜に告げた。

「ブラックドラゴン、焼き尽くせ」

 ルッカはゾッとした。
 命令を下した男の表情は、数分前に泣き叫んでいたとは思えないほど冷酷だったからだ。

(マズイ!)

 ドラゴンの口元に橙色の光を見たルッカは、次に放たれる攻撃を予測して背筋を凍らせた。
 扉までの距離を目測する。雄叫びに委縮したせいでギリギリだ。

「それなら!」

 ルッカは走りながら、ナパームボムを自身のすぐ後ろに落とした。
 その目的はドラゴンに当てることではない。巻き起こる爆風を追い風にすることだ。

(痛いのは我慢……!)

 爆発と同時に、さながらビーチフラッグを取るような前傾姿勢で、開いた扉へと飛び込む。
 迫り来る熱を背中に感じながら、転びそうになるのを耐えて階段を駆け下りると、ようやく炎は弱まりを見せた。

「はぁはぁ……」
「だ、大丈夫ですか!」

 千早とNの二人は、先行して階段を下りていたおかげで無傷らしかった。
 わずかに焦げた腰のあたりをさすりながら、ルッカは次の行動を考える。

「イタタ……平気よ、それより早くアイツから逃げないと」
「そうですね……」
「いや、焦る必要はないよ」

 その言葉をきっかけに建材が音を立てて崩れ始め、ほどなく階段は大量の瓦礫で埋まった。
 驚いている千早と対照的に、Nは予想していたかのように平然としている。

「……どうしてわかったんですか?」
「この建物の建築手法と経年劣化から、あれだけの火力を食らえば壊れると踏んだんだ」
「でも、古い建物に見せかけただけかもしれないんじゃ?」
「その可能性もあった。だから経年劣化の判断基準には音も入れたんだ。
 廊下を歩く音、ドアを開く音、壁を叩く音。これらと見た目を合わせて判断した」

 こともなげに語るN。その頭の回転の速さにルッカは舌を巻いた。
 素性は杳として知れないが、優秀な頭脳を持ち合わせていることは疑いようもない。

「とにかく。これで多少でも時間は稼げるわ」

 瓦礫のおかげで、三階から屋上へと向かう階段を通ることはできなくなった。
 ドラゴンの力を利用して瓦礫をどかすことができたとて、それ相応に時間はかかる。
 つまり今こそ絶好の逃げるチャンスなのだ。

859クロス八十神物語 ◆RTn9vPakQY:2025/01/03(金) 09:19:21 ID:j.OPIvNQ0
「二人ともすぐに――」

 しかし、ルッカの指示は壮絶な音でかき消された。
 音の発生源は下。吹き抜けになっている部分から階下を覗くと、そこにあったのは直径三メートルほどの球体。

「あれ、屋上にあった給水タンク!」

 千早の叫び声で、ルッカも屋上にあった給水タンクを思い出した。
 つまり、屋上から運んだ給水タンクを、外から勢いよく投げ入れたことになる。
 そう考えていると続けざまに、フェンスや室外機など屋上に置かれていたものが玄関に放り込まれていく。

「ドラゴンに投げ入れさせているのか。先手を取られたわけだ」
「そうみたいね」

 冷静なNの呟きに、ルッカは同意した。
 散乱したガラスの破片や倒れた下駄箱も含めて、もう気軽に下校することはできない。
 安全に玄関から脱出する道は、ほとんど閉ざされたと考えていいだろう。

「ハハハハハ!」

 出入口が埋め尽くされたあとに外から響いてきた哄笑は、もちろん男のものだ。
 ルッカたちを仕留められなかったのにもかかわらず、愉快そうに笑い声を上げている。

「まんまと逃げ果せたと、希望を見出していたか?
 残念、お前たちは閉じ込められたのと同じなんだよ!
 逃げ出そうとすれば、瞬間このドラゴンの餌食になる!」

 男の言葉に呼応するかのように咆哮が轟いた。
 あの男はドラゴンを完全に使役しているのだとルッカは確信した。

「震えろ!怯えろ!殺されるのを、指を咥えて待つといい!」

 そう告げると、男は再び哄笑した。

「……好き勝手に言ってくれるわ」

 ルッカは舌打ちをすると、脱出経路を探すために千早へ質問する。

「ねえチハヤ、この建物、玄関以外に出られる場所は?」
「えっと……わかりません。私、ほとんど屋上から動いていないので」
「はあ!?もうここに来てから十二時間も経つのよ?
 まさか、ずっと歌い続けていたなんて言うんじゃ……」
「……そうです」
「あ、じゃあもしかして、強力な魔法やアイテムが使えたりする?」
「……いいえ」

 きまりが悪そうに俯いて答える千早に、ルッカは呆れた。
 屋上にいる歌い手は実力者か、はたまた人をおびき寄せる怪物かと考えていた頃の自分に、答えを教えてあげたい。
 まさか、殺し合いに呼ばれたのに歌うことだけ考えている参加者がいるとは思うまい。

「まったく、度胸があるというべきか、命知らずというべきか」
「無謀だったのは認めます。ですが……」
「いいの、別に責めたいわけじゃないわ。
 でもそうなると、脱出する方法を探す必要があるわね」

 ルッカとNは八十神高校に来たばかりで、ロクに探索をしていない。
 つまり当然、脱出方法のアテは掴んでいないことになる。

「それならいい案がある!」

 背後からの声に振り向くと、そこには黄色いネズミがいた。
 こげ茶色の鹿撃ち帽を頭に乗せて、ルッカたちと同じ首輪をしている。
 そして、黒ずくめの服装に身を包んだ男に両腕で抱えられていた。
 ルッカはその特異な状況に困惑して、思わず曖昧な質問をした。

「あなたたち……何?」

860クロス八十神物語 ◆RTn9vPakQY:2025/01/03(金) 09:21:03 ID:j.OPIvNQ0


(我ながら間の抜けた見た目をしているんだろう)

 ソリッド・スネークは、ピカチュウを抱きながら内心でそう思う。
 校舎に潜入してピカチュウと廊下で出くわしたときから、イヤな予感はしていた。

「オレは名探偵ピカチュウ。このとおり、れっきとした参加者だ。
 もちろん、こんなふざけた殺し合いには反対だ。おっさんもそう思うだろ?」

 話を振られたので「ああ」と短く返すと、ピカチュウは満足気に頷いた。

「……ひとまず信用してみるわ。
 私はルッカ。そちらのダンディなおじさまは?」
「コイツは……えーと……」
「ソリッド・スネークだ」

 どうやら名前を忘れられていたらしい。

「そう!ソリッド・スネークだ!スネークは二人いるから紛らわしいな」
「……OK、ピカチュウとスネークね。
 ここだと外から見えて危険だから、近くの部屋に隠れない?」

 ルッカの誘導で、全員で三階の手近な教室に移動する。そこは放送室と書かれていた。
 ピカチュウからジェスチャーで頼まれたので床に降ろすと、ピカチュウは再び口を開いた。

「オレたちは別行動していて、この学校でたまたま再会したんだ。
 まさか再会を喜ぶより先に閉じ込められるとは思わなかったけどな」

 ひょいと肩をすくめるような動作をするピカチュウを見て、スネークはふと思い出した。
 数時間前の出会いの場で、ピカチュウはまるで気合を入れ直すように頬を叩いていた。
 やけに人間味のある動きをするものだと、妙に感心したのを覚えている。

(……まあ、だからどうという話ではないんだが)
「それで、ピカチュウ。いい案って?」

 大ぶりな眼鏡をかけた少女、ルッカはピカチュウに話を促した。
 背後の二人の名前を教えなかったことから察するに、まだ警戒されているようだ。

「ああ。オレはこの八十神高校で待ち合わせをしているんだ。
 悠とティファ、それに里中千枝。三人とも腕に覚えのある参加者だ」
「悠……千枝……?」
「それで?」
「三人と協力すれば、あのドラゴンを倒せる!」

 根拠に乏しい論理だ。希望的観測と言い換えてもいい。
 それだけ三名の実力を信頼しているのだろうが、ある前提を抜かしてしまっている。
 スネークは何か言いたそうにしているルッカを手で制して、ピカチュウにこう伝えた。

「じきに放送が始まる。話の続きはそのあとだ」
「おっと……そうか。もうそんな時間か」

 虚を突かれた反応をするピカチュウ。

「今回は何人呼ばれるんでしょうか……」
「人数を推定するのは難しいだろうね。ボクでさえ未来を見える気がしない」

 不安そうに眉をひそめる長髪の少女。早口で話す帽子の少年。
 この二人は立ち居振る舞いから戦場に慣れていないとスネークは判断した。

『みんなお疲れ、色々と頑張ってるみたいだねぇ』

 そして始まる放送。気怠そうな男の声による放送は、放送室の空気を重苦しいものにした。
 主催者でさえ予想外のペースだという、前回の放送より増えた死者の人数。

「残り参加者は四十人……か」
「えっと……禁止エリアはどこだっけ」

 冷静に見えた帽子の少年やルッカでさえ、態度に動揺を隠せていない。
 やはり、年相応に未熟な部分もあるということだろう。

「四条さん……萩原さん……」

 一方で、長髪の少女は知人らしき名前を呟いて、見るからにショックを受けていた。

861クロス八十神物語 ◆RTn9vPakQY:2025/01/03(金) 09:22:48 ID:j.OPIvNQ0
「なんてこった、悠……!ティファ……!」

 ピカチュウはといえば、震える小さな手を床に打ち付けていた。
 鳴上悠とティファ・ロックハート。落ち合う予定の三名のうち二名は命を落としたと宣告を受けたのだ。
 当人からするとショックだろうことはもちろん、合流する前提で脱出案を考えていた以上、その案は破綻したことになる。
 落ち込む名探偵をそのままに、スネークは全員に向けて口を開いた。

「ナーバスになるのはいいが、脱出する方法を探らなければならない。
 ここでお互いの持つアイテムを確認したいと考えているが、どうだ?」
「そうね、スネーク。Nも協力して。チハヤは大丈夫?」
「……はい。大丈夫です」

 それからは互いの支給品を確認するのと同時に、情報を共有することにした。



「なんだよ、人の顔をジロジロと」
「いや、生のピカチュウを見るのは初めてでね」
「おお!お前はポケモンを知っているんだな!」
「ああ。ボクはイッシュ地方にいたんだ。ポカブと同じさ」
「ポカポカ!」
「キミはどこから来たんだい?カントー、ホウエン、それともシンオウ?」
「ライムシティを知ってるか?人とポケモンの共存・共栄する街さ」
「へえ……それは興味深い。ぜひ行ってみたいな」



「ピカチュウさん、もしかして天城雪子って人に聞き覚えありませんか?」
「ん……そういえば悠のやつが仲間だって言ってたな。どうしてだ?」
「私、雪子……さんに屋上で助けてもらったんです。
 そこで話したとき、悠さんや千枝さんの名前を聞いていたので、もしかしたらと思って」
「そうだったのか……その、雪子は?」
「下の保健室にいます。千枝さんには、せめて会わせてあげたいですけど……」
「ああ……無事だといいんだが」



「……うーん、首輪の解析はまだ先になりそう」
「ルッカは爆弾に詳しいのか?」
「まあね。サイエンス全般は任せて。工具さえあれば、首輪を解析できそうなんだけど」
「工具……?もしかして、黄色いロボに心当たりがあるか?」
「えっ!?どうしてそれを?」
「病院でロボに襲われたんだが……そのロボの顔が描いてある工具箱が、悠に支給されていたんだ!」
「それ、私のやつ!今どこにあるの?」
「たしか……悠の荷物にあったはずだ」
「じゃあ目的地は決まりね!」
「E-4の方角にいるはずだ」



 こうした会話を耳に入れながら、スネークは黙考していた。
 待望の武器となる拳銃は手に入れたものの、状況は思わしくない。

 ソリダスやオセロット、それに警戒すべきカイム及びハンターは未だ生存している。
 オタコンの名前が呼ばれなかったのは不幸中の幸いだが、やはり今すぐにでも合流したい。

 ここでネックになるのは戦闘員の人数だ。ここにいる参加者五名のうち戦闘員と呼べるものを有しているのは二名。
 ポケモントレーナーを戦闘員に数えるかは微妙なところだが、身体能力を考慮に入れて今回は数えない。
 ドラゴンに騎乗する男は、数時間前に対峙した、主催者の手先の可能性がある相手だ。
 脱出に際して、警戒をしてし過ぎるということはない。

「……」

 いずれにせよ迅速な行動は必須だ。悠長に動いて火でも付けられたら目も当てられない。
 この閉ざされた空間から、非戦闘員含めた全員を無事に逃がすために。
 伝説の傭兵ソリッド・スネークは行動を開始する。

862クロス八十神物語 ◆RTn9vPakQY:2025/01/03(金) 09:23:30 ID:j.OPIvNQ0
【E-5/八十神高校/一日目 日中】
【ソリッド・スネーク@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:全身に軽い火傷と打撲(処置済)
[装備]:傭兵用ハンドガン(15/15)@BIOHAZARD 3
[道具]:基本支給品、音爆弾@MONSTER HUNTER X(2個)、パラセール@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド、首輪(ジャック)、ジッポー@現実
[思考・状況]
基本行動方針:マナやウルノーガに従ってやるつもりはない。
0.八十神高校から脱出する。イウヴァルトとドラゴンは……。
1.オタコンの捜索。偽装タンカーはもちろん、他の施設も確認するべきか。
2.武器(可能であれば銃火器)を調達する。装備は多いに超したことはない。
3.カイムと狩人の男。オセロット、ソリダス、セフィロスに要警戒。
4.装備が整い次第、セフィロスを倒すか?

※参戦時期は少なくとも、オセロットがソリダスも騙したことを明かした後以降です


【ピカチュウ@名探偵ピカチュウ】
[状態]:健康
[装備]:モンスターボール(ポカブ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
0.この八十神高校から脱出する。
1.脱出後はE-4でルッカの工具箱を探したい。
2.悠とティファの仲間、ポカブのパートナーを探す。
3.千枝、無事でいてくれ……。

※本編終了後からの参戦です。
※電気技は基本使えません。
※ティファからマテリアのこと、悠からペルソナのことを聞きました。


【如月千早@THE IDOLM@STER】
[状態]:焦燥
[装備]:肝っ珠@ペルソナ4、ロイヤルバッジ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜1個) 天城雪子の支給品(0〜1個)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残って、歌い続ける。
0.八十神高校から脱出する。
1.急に様子がおかしくなったイウヴァルトに違和感。
2.里中千枝を雪子と会わせたい。そして雪子の最期を伝えたい。


【ルッカ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(小)、MP消費(小)
[装備]:水の羽衣@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(工具の類は入っていません)、医療器具 図書館の本何冊か(何を借りたかは次の書き手にお任せします。)  素材(機械生命体の欠片、ネジ、金属板など)
[思考・状況]
基本行動方針:人と工具を集め、ロボを正気に戻す。
また首輪を集め、解析、あるいは景品交換用に使う。
0.八十神高校から脱出する。
1.E-4方面へと向かい工具箱を回収する。
2.多少は割り切ることも必要なのかもしれないわ……。
3.工具箱が見つかれば、この首輪の解析でもしてみようかしら。
4.首輪を集めたら、首輪景品交換所を使う。
5.Nって不思議な人……だけど優秀な頭脳なのは間違いないわ。
6.何のためにあんな機械を?

※遊園地廃墟にある、首輪景品交換所の情報を知りました。

863クロス八十神物語 ◆RTn9vPakQY:2025/01/03(金) 09:24:45 ID:j.OPIvNQ0
【N@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[装備]:モンスターボール(トンベリ)@FF7、毒牙のナイフ@DQ11(トンベリが所持)
[道具]:基本支給品 本何冊か
[思考・状況]
基本行動方針:ルッカの理想に付き合う
0.八十神高校から脱出する。
1.ルッカと共に行動をする
2.新しい理想を手に入れる。


【イウヴァルト@ドラッグオンドラグーン】
[状態]:狂気(大)
[装備]:アルテマウェポン@FF7
[道具]:基本支給品、モンスターボール(空) ゴールドオーブ@DQ11
[思考・状況]
基本行動方針:フリアエを生き返らせてもらうために、ゲームに乗る。
1.ドラゴンと共に、破壊の限りを尽くす
2.もう、帰れない

※空っぽのモンスターボールは野生のポケモンの捕獲に使えるかもしれません。


【支給モンスター状態表】
【ブラックドラゴン@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:健康
[持ち物]:なし
[わざ]:テールスイング おたけび 噛みつき はげしいほのお
[思考・状況]
基本行動方針:破壊の限りを尽くす


【トンベリ@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:健康
[持ち物]:毒牙のナイフ
[わざ]:ほうちょう みんなのうらみ 
[思考・状況]
基本行動方針:Nと行動を共にする、自分のほうちょうがほしい。


【ポカポカ(ポカブ ♂)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康、満腹
[特性]:もうか
[持ち物]:なし
[わざ]:たいあたり、しっぽをふる、ひのこ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルを探す
1.ピカチュウ達について行き、ベルを探す。
2.強くなってベルを喜ばせたい。


【支給品紹介】
【傭兵用ハンドガン@BIOHAZARD 3】
天城雪子に支給された拳銃。
モチーフはSIGPRO SP2009。装弾数15発。
U.B.C.S. が傭兵に支給しているハンドガン。ゲーム本編ではカルロスの初期装備。


【共通備考】
※八十神高校の三階から屋上に続く階段及び正面玄関は、瓦礫等が障害物となっています。
※お互いの支給品を確認して、適宜交換しました。
描写したのは、傭兵用ハンドガンを雪子からソリッド・スネークに移したのみです。



864クロス八十神物語 ◆RTn9vPakQY:2025/01/03(金) 09:25:52 ID:j.OPIvNQ0
 第二回放送からさかのぼること十数分。
 花村陽介と里中千枝の二人は、休息よりも先に作業をしていた。
 その作業とは、戦闘で命を落とした二人――鳴上悠とティファ・ロックハート――の遺体を安置することだ。
 現在は晴れているが、いつ天気が崩れるかはわからない。「これ以上遺体を傷つけたくない」という千枝の提案に、陽介も賛同した。
 とはいえ遠くまで移動するのは大変なので、付近で崩壊を免れた建物のソファへと二人を寝かせた。

「本当なら、きちんと弔ってやりたいけど……今はこれで我慢してくれよ」

 ここにいない完二や雪子、ホメロスまで含めて黙祷を捧げた陽介は、横目で千枝の様子を確認した。
 泣き腫らして赤みを帯びた目で遺体を見つめながら、小さく声を漏らす千枝。

「鳴上くん……」

 鳴上悠は、名実ともに自称特別捜査隊のリーダーだった。
 落ち着いているのに不思議と発言力はあり、メンバーの精神的支柱になっていた。
 ダンジョンの戦闘はもとより、学校生活という日常においても助けられたことは数多い。
 もちろん陽介は、千枝のプライベートこそ知らないが、千枝もまた悠に助けられたのであろうことは、常日頃の接し方から想像できた。

(大切な仲間の死を、そうそう吹っ切れるワケねーよな。
 しっかり前を向いて現実と向き合おう……か。我ながらムズイこと言うぜ)

 つい先ほど千枝に伝えた言葉は、そのまま陽介の意思表明でもある。
 陽介はその難しさを理解している。己のシャドウとの対峙、そしてもう一つの経験からだ。

(俺だって……これが初めてじゃないから、まだ冷静でいられるだけだ)

 大切な相手を喪う経験は、陽介にとって初めてではない。
 小西早紀。自分から一方通行に想いを寄せていた相手でさえ、亡くなったと聞いたときはショックを受けた。
 そのショックを、陽介は“連続殺人事件を解決する”という目標で抑え込んで行動してきた。
 現実と向き合えているかと言えば、そうではないのかもしれない。

(それでも進まなきゃいけねぇ)

 だからこそ。陽介は千枝に「一緒に進もう」と伝えたのだ。
 現実と向き合うのは難しいことで、一人では挫けてしまうから。

「里中、とりあえず休憩だ。メシ食おうぜメシ。あ、もう食った?」
「ううん」
「ってか俺の食料、ビフテキ串10本なんだけど!?正気かよ!
 なあ、そっちのデイパックには何が入ってた?肉と交換しようぜ」
「……ガム一枚ならいいよ」
「ガムかよ!レートつり合ってないっつの!」
「はぁ?肉ガムだよ?一枚で値千金だって」
「肉と肉を交換してどーすんだよ!」

 つとめて明るい振る舞いをしてみたら、千枝もいくらか調子を取り戻したらしい。
 こういう単純な部分は助かると、陽介は千枝の性格に感謝した。
 そして、改めて伝えておくべきことを口にする。

「いいか?いろいろ考えちまうかもだけど、今は生きるのが最優先だ。
 それに俺たちは、悠や完二や天城のことを伝えなきゃならないだろ?」
「うん……」
「だから、これからのことを考えるんだ。まずはお互いに情報を交換して……」
「……」
「おい、聞いてんのか里中?」
「ねぇ、何か聞こえない?バイクの音みたい」

 千枝に言われて耳をそばだてると、確かにアイドリング音らしきものが聞こえる。

865クロス八十神物語 ◆RTn9vPakQY:2025/01/03(金) 09:27:22 ID:j.OPIvNQ0
「まさか、誰か騒ぎを聞きつけて来たのか?」
「どーしよう、とにかく会ってみる?」
「いやいや、危険な相手だったらマズイだろ!まずは様子見で……」

 あれこれ話していると、聞こえてくる音はアイドリングから女性の声へと変わった。それも誰かを呼ぶ声だ。

「シェリー!シェリー!」

 屋内から外を見やると、そこには必死に声をあげるポニーテールの女性がいた。
 女性の呼んでいる“シェリー”とは名簿の“シェリー・バーキン”のことかと予測していると、別の名前を呼び出した。

「クラウド!ティファ!エアリス!」
「ソリッド・スネーク!あとは……ハル・エメリッヒ!」
「誰でもいい、誰かいないの!?」

(クラウドたちを知っている……誰だ?)

 女性の悲痛な叫びに同情して出ていくべきかどうか、陽介は思案する。
 疲労は肉体と精神ともにピークに達している。不用意に接触して戦闘になれば不利だ。

「どうするの花村?」
「……安全だと確実に思えるまでは、様子見だ」

 ここで選択を誤るわけにはいかない。
 一歩間違えば命を落とす現状への危機感が、陽介を慎重にさせた。
 そして幸運なことに、状況は思いのほか早く動き出した。

『みんなお疲れ、色々と頑張ってるみたいだねぇ』

「この声!?」
「足立の野郎……!」

 定時放送を告げたのは、陽介たちのよく知る人物だった。
 陽介は数時間前に姿を見ていたので驚きよりも怒りが先に来るが、千枝からすると驚きが大きいはずだ。
 放送で呼ばれる名前をメモしているときも、千枝を横目で見ると心ここに在らずといった様子だ。

「なんで足立さんが……?」
「足立については後で話す。それよりあの人は?」

 放送後に外を見ると、そこで女性は立ち尽くしていた。
 それは死者を告げられて呆然とした表情ではない。むしろ安堵している表情だ。

「ねえ、花村。あの人……」
「ああ……信用しても良さそうだ」

 陽介は千枝と目配せを交わして頷いた。
 この状況で、あの表情を出せるのは心の底から安堵しているからに違いない。

「あの!お姉さん、誰か探してるんですよね?」

 こちらの姿を認めた女性は、怪訝な表情で後ずさりをした。
 警戒を解くために、陽介はデイパックを地面に置いて両手をあげてから言葉を述べた。

「俺、花村陽介って言います。こっちは里中千枝」
「もちろん殺し合いには乗ってません!」
「そうなの……私はクレア。クレア・レッドフィールドよ。
 向こうのホテルから凄まじい戦闘が見えて、ここまで来たの」

 クレアは南の方角にかろうじて見えるホテルを指差した。
 陽介はクラウドとの戦闘を思い返す。あの破壊を見てここに駆け付けたくなる気持ちは理解できる。

「それで、誰を探してるんですか?」
「そうね……あなたたち、シェリーという女の子を見たりしていない?」

 クレアは疲れた表情を浮かべて、シェリーの特徴を陽介たちに伝えてきた。
 あいにく陽介には心当たりはなかったが、千枝にはあったようだ。

866クロス八十神物語 ◆RTn9vPakQY:2025/01/03(金) 09:34:00 ID:j.OPIvNQ0
「その子……橋の近くで会った子だ!」
「本当!?」
「眼鏡をかけて忍者みたいな格好をした男の人と一緒にいた!
 たしかシェリーって呼ばれてた……そう、研究所に行くって!」

 千枝の言葉で、クレアは表情をみるみる明るくした。
 そして「ありがとう」と礼を述べると、早速バイクに乗ろうとする。
 そこで陽介はあることを思いついて、バイクに駆け寄り引き留めた。

「待って!ひとつ、頼みたいことがあるんです」
「頼みたいこと?」
「コイツを八十神高校まで届けてくれませんか?」

 陽介は隣の千枝に親指を向けた。千枝は驚いた表情だ。
 同意を得るより先に、千枝のデイパックに自分の荷物を収めていく。

「ちょ、花村!?いきなり何の話?」
「さっき黄色いネズミの話してただろ。ピカチュウだっけ?
 放送で呼ばれなかったってことは、そいつはまだ生きてるってことだ」
「あ、そっか!合流した方がいいよね」
「そういうこと。クレアさん、お願いできませんか?」

 クレアはしばらく逡巡して、それでも了承した。
 渡されたヘルメットを装着しながら、千枝は花村に問いかけた。

「でも花村、アンタはどうすんの?」
「バイクは最大二人乗りだろ?俺は歩いて向かうよ」
「それなら、これを持っておくといいわ」
「これは……トランシーバー?」

 クレアから渡されたのは小型の無線機。操作方法を確認して、デイパックにしまい込む。

「もしかすると白髪の男性に会うかもしれないから、教えておくわ。
 私の名前と“サンズ・オブ・リバティ”というワードを言えば味方と伝わるはず」
「それじゃあ花村、八高でね!」
「ああ!」

 陽介は遠ざかるバイクの影を見送り、遺体を安置した建物へと戻ると、ソファに勢いよく倒れ込んだ。
 殺し合いの開始からここまでの連戦で溜まってきた疲労は、ついに限界を迎えた。
 ヘロヘロな状態で、千枝に余計な心配をかけまいと気力で耐えていたのである。
 魔術師は寝息を立てて、久方ぶりに身体を休めることにした。

【E-4/一日目 日中】
【花村陽介@ペルソナ4】
[状態]:ダメージ(大)、顔に痣、体力消耗(大)、SP消費(大)、疲労(極大)、決意、睡眠中
[装備]:グランドリオン@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品3人分、不明支給品(1〜3個)、トランシーバー@現実
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と共に死んだ人たちの仇をとる。
0.Zzz……(八十神高校へ向かう)
1.死ぬの、怖いな……。
2.足立、お前の目的は……?
3.サンズ・オブ・リバティ?


※参戦時期は足立との決着以降です。主催者陣営に足立がいることを知りました。
※鳴上悠との魔術師コミュはMAXになりました。
※クラウドの過去を知りました。
※ペルソナ『スサノオ』を覚醒しました。


【里中千枝@ペルソナ4】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、体力消耗(大)、SP消費(小)、びしょ濡れ、右掌に刺し傷、深い悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、守りの護符@MONSTER HUNTER X、女神の杖@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて、ルッカの工具箱@クロノ・トリガー、シーカーストーン@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド、モンスターボール(空)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト、シルバーオーブ・LIFE@ゲームキャラ・バトルロワイアル、クラウドの首輪、ランダム支給品(0〜1個)
[思考・状況]
基本行動方針:前を向き、現実と向き合う。
0.クレアのバイクで八十神高校へ向かい、ピカチュウ達と落ち合う。
1.鳴上くん……。錦山さん……。
2.自分の存在意義を見つけるまでは、死にたくない

※ミファーは死んだと思っています。


【クレア・レッドフィールド@BIOHAZARD 2】
[状態]:疲労(小)、不安
[装備]:サバイバルナイフ@現実、クレアのバイク@BIOHAZARD2
[道具]:基本支給品、不明支給品(確認済み 0〜1個)、パープルオーブ@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて、薬包紙(グリーンハーブ三つぶん)@BIOHAZARD 2、トランシーバー×2@現実
[思考・状況]
基本行動方針:対主催の集団を作り上げる。
0.千枝をバイクで八十神高校まで送り届けて、それから研究所へ行くため北上する。
1.シェリー・バーキンを探して保護する。
2.首輪を外す。
3.いずれ“セレナ”に寄る。

※エンディング後からの参戦です。

867 ◆RTn9vPakQY:2025/01/03(金) 09:40:09 ID:j.OPIvNQ0
以上で投下終了です。誤字脱字や指摘等あればお願いします。
重ねて予約期限の超過、大変申し訳ございませんでした。

868 ◆vV5.jnbCYw:2025/01/19(日) 14:29:04 ID:bHLxhMM20
ロボ予約します

869 ◆vV5.jnbCYw:2025/01/26(日) 11:33:20 ID:s3WrPlRc0
延長します

870 ◆vV5.jnbCYw:2025/02/02(日) 11:21:29 ID:BJbD.vLk0
投下します

871流れたオイルの先には ◆vV5.jnbCYw:2025/02/02(日) 11:22:03 ID:BJbD.vLk0

――お…おはようゴザイマス、ご主人様。ご命令を


「──シンニュウシャをハッケン。ハイジョします。」


――ワタシも、見とどけてみたいのデス。アナタ方のする事が、人間を…いえ、この星の生命を、ドコへみちびいて行くのか。


「──シンニュウシャをハッケン。ハイジョします。」


――どうでしょう。ミナサン。ワタシがココに残って、フィオナさんのオテツダイをするというのは。


「──シンニュウシャをハッケン。ハイジョします。」


――ワタシニとっては400年ハながい時間デシタ……。シカシ、クロウのかいアッテ、森ハよみがえりマシタ。


「ハイジョ、ゾッコウ。」


――■■■、ワタシも未来で元気にやっていきマス。





スネークの排除に失敗したロボは、病院内に戻った。
そんなロボの脳裏を、何かの言葉が過った。
それはロボが発したのであって、プロメテスが発してない言葉。


2階の廊下を歩いている途中に、アイセンサーが捉えたのは、錦山の死体。
ロボはその名を聞いたことは無かったが、ジョーカーとしてデータに保存されていた。
殺したのは同じジョーカーであるイウヴァルトであって、自分ではないが、殺したようなものだ。


しかし、機械の心に、プロメテスの心には何も響かない。
元の世界の仲間でさえ排除しようとするのだから、特におかしくないことだ。

872流れたオイルの先には ◆vV5.jnbCYw:2025/02/02(日) 11:23:20 ID:BJbD.vLk0

『みんなお疲れ、色々と頑張ってるみたいだねぇ。これより第二回放送をはじめるよ』



丁度その頃放送が流れ、改めてその男が死んだと言うことを告げられる。
死を見聞きしても、ロボの何かが変わることは無い。ただ、機械の足を動かし、廊下を巡回する。
ただ、内蔵のたべのこしが、ロボの受けたダメージを回復していく。
2階の巡回を終えると、階段を下りて1階に。


『カエ………ル……』


だが、次にアイセンサーが捉えたものは、鉄の心臓を大きく動かした。
そこに黒焦げになって倒れていたのは、ロボのかつての仲間。
いや、プロメテスにとって、そんなモノは関係ない。“それ”は別の誰か(ロボ)の仲間であり、自分(プロメテス)の仲間で無いからだ。


『これ以上仲間を傷つけル前ニ……』


そのはずだがプロメテスは、いや、ロボはおもむろに、自分の胸に手を伸ばした。
ベア―クローが機械の心臓に刺さろうと、いや、ベア―クローを機械の心臓に刺そうとする。
友を殺してまで、自分は生き永らえたくはない。せめてまだロボの意識が少しでもあるうちに、自らを壊そうとする。


『!?』

――ダメデスよ、プロメテス。


謎の電子音と共に、ロボの身体の自由が利かなくなる。
そして、電子頭脳に流れたのは、ロボにとって聞こえるわけがないはずの声だった。


――こうなりたいと願ったのは、アナタデスよ。


ロボの丸い頭の中に響くのは、彼の造り主、マザーブレインの声だった。
人間を皆殺しにしようとするマザーを、ロボは破壊し、彼女が管理する工場も停止したはずだった。
ゆえに、彼女がいることは、ロボがいること以上にあり得ないことだ。


『そ、そんな訳ありまセン!』


不意にロボの頭の中に流れた映像は、あの日のリーネ広場だった。
ラヴォスを倒し、未来を守り、仲間のクロノの故郷に帰った日。
クロノの罪が無実となり、王妃マールと結ばれることが許された日。
それぞれが別れの言葉と共に、元の世界に帰っていく冒険の終わりの日。
ロボの未来が変わり、彼の存在が、消えてなくなることになる日。

873流れたオイルの先には ◆vV5.jnbCYw:2025/02/02(日) 11:23:38 ID:BJbD.vLk0

その映像に紛れて、何かが聞こえた。
誰かが泣く声が。自分ではない自分を修理してくれた誰かが泣く声が。
この世界でも声を聞いたことのある誰かの泣く声が。


――■■のバカ、バカ!悲しい時はすなおに悲しむのよ!!こっちがよけい悲しくなっちゃうじゃない!!


――あの時、アナタは願いマシタ。別れたくないト。


『私ハ……確かに願いマシタ。』


本来なら、機械であるロボが何かを願うなど、おかしい話だ。
だが、あの時彼がアイセンサーから流したオイルは、確かに別れたくないという願いの顕れだった。


願いを叶えてもらう、ということは必ずしも良いことでは無い。
お金が欲しいと願えば、家族の死による保険金と言う形で得られたように、それが歪んだ形で成就することもある。
ロボが願った、未来が変わっても共に冒険した仲間といたいという願いは、最悪の形で叶えられた。


――願いを叶えて貰えたのダカラ、次は宝条博士の願いを叶えてあげる番デスヨ。


その言葉を聞いてロボは違和感を感じ取った。
未来の人間を全て殺そうとしたマザーが、人間である宝条に従うのか。
ロボは宝条とは会ったことが無い。しかし、ジョーカーとして、別世界の参加者同様データにインプットされていた。
彼は未来のロボットとは相いれることの無い人間だと。



これは宝条たち、主催陣営が理の賢者ガッシュを連れて行くために、クロノたちの世界のAD2300年に行く時のことだ。
尤もその時代は、ラヴォスによる崩壊を迎えていないため、ロボが生まれ育った時代とは似て非なるものだ。
崩壊していなかった世界は、そこにいるロボットたちも人間たちに牙をむくことは無い。
だが、その可能性までが消え去ったわけではないのだ。
宝条博士はガッシュを連れて来るついでとばかりに、マザーブレインのデータも回収した。


そして、崩壊を免れた世界のマザーブレインのデータが、崩壊した未来のロボと接触したことにより、ロボを再び支配するに至った。
当のロボ自身は、マザーブレインの本拠地たるジェノサイドームを破壊した際に、データは全て破壊したと思い込んでいた。
従って自身の電子頭脳の中核をなす部分に、人間に危害を加える回路が残っていたことは、ロボ自身にも気づいていなかった。
いや、気づいていなくても問題ないことだった。しかし、別世界からの介入という、完全にイレギュラーな事態が新たな問題となった。

874流れたオイルの先には ◆vV5.jnbCYw:2025/02/02(日) 11:24:01 ID:BJbD.vLk0
「危ない……!でも、誰が……危ないデスカ?」


爆弾で壊された壁の穴を通じて、遠くから音が響いてくる。
何か大きな建物が壊れる音。怪物の雄たけび。聞いたことのある爆音。
そして感じたのは、誰かの危機。でもそれが、誰なのか思い出せない。何かが阻害している。


外を見ようにも、ロボのアイセンサーには、病院の外は濃い霧がかかっているかのように映る。
あくまで病院の巡回のみを目的に、データを改造されているのだ。
だから、外を見ても何も見ることは出来ない。折角のエネルギー源を捉えるセンサーも、当然役には立たない。


「──シンニュウシャをハッケン。ハイジョします。」


そこには誰もいない。
だが、その言葉を境に、ロボは足を止めた。
何をする訳でもなく、見えないはずの壊れた壁の向こうを、ただじっと見る。


ロボのその言葉は、『巡回』というコマンドを中断させる効果がある。
中断させるだけだ。それ以上は何もない。
傍から見れば、まだ彼は何もしていない。
ただ、それは彼の、出来る上での僅かな反抗なのかもしれない。




【D-5/病院内部/一日目 昼】
【ロボ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)、MP消費(小)
[装備]:ベアークロー@ペルソナ4 、たべのこし@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1個
[思考・状況]
基本行動方針:病院内に侵入した敵を排除する
1.ワタシの名前はプロメテス。


※主催者によって、ジョーカーである参加者(イウヴァルト、ホメロス、ネメシス)は感知出来ないようになっています。
他にも何らかの理由で感知できない参加者、NPCがいるかもしれません。

875流れたオイルの先には ◆vV5.jnbCYw:2025/02/02(日) 11:24:12 ID:BJbD.vLk0
投下終了です

876 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:00:02 ID:WfubCnaA0
皆様投下乙です。

>>クロス八十神物語
予約面子的にかなりの大波乱になりそうと身構えていたのですが、Nの冷静な判断が千早達を救いましたね。
これまで目立たなかったキャラがこうして活躍してくれてるのを見ると、企画主としては嬉しくなります。
千早が十二時間屋上で歌い続けたという状況、改めて言葉にされてみるとルッカと同じ気持ちになるな……。

名探偵ピカチュウとスネーク、最初に出会った二人がタッグを組んでここで合流とはアツい!
作中で語られてるけど、五人集まって戦力と呼べるのがルッカとスネークくらいしかいないのが厳しい……。
千枝とクレアが向かってくれてるから、そこに期待する形になりそうかな。

オタコンが研究所に向かってることもついに他の参加者に伝達して貰えた!
ここから首輪解除に向けて本格的に舵を切り始めた感じがしてワクワクしますね。

>>流れたオイルの先には
ロボの願い事の下り、切ない……。
確かに、願いを叶えるっていうだけならそれが最悪の形でお出しされるっていうのは目から鱗でした。
死者を蘇らせてと言ったらゾンビとして蘇らせられるとか、平気でしそうな連中が主催には集まってるからな……。

マザーブレイン、こいつが原因だったのか!?
そもそもの原因は宝条なんですけどね。かなり自然な経緯で唸らされました。

「──シンニュウシャをハッケン。ハイジョします。」

この台詞がロボの抵抗の証だったという激アツ展開。
救ってあげて欲しいけど、救えるような人物が今まさに窮地に陥っているという状況。
あまりにも残酷すぎるけど、ロボ本人の意思が見えて少し安心する回でした。



さて、このゲームロワも遂に6周年を迎える形となりました。
書き手の皆様、読み手の皆様、改めてありがとうございます。

ゲリラ投下します。

877タイプ:ワイルド ──赤い炎、緑の風 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:01:24 ID:WfubCnaA0










 『────君は、とても大事にポケモンを育てているな』
             
             

             ──ロケット団首相、サカキ









◾︎

878タイプ:ワイルド ──赤い炎、緑の風 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:01:49 ID:WfubCnaA0






 ────Nの城、二階の一室。

 愛の女神と平和の女神による治療を施されるピカチュウの姿を安堵の顔で見つめるレッド。
 彼もまたイレブンの回復呪文によって傷を癒していた。
 その傍ら、キラキラと目を輝かせる少女の視線が目立つ。
 ましまじと見られることに慣れていないのか、レッドはどこかバツが悪そうに苦笑していた。

「やっぱり! レッドさんって聞き覚えあったんだ〜! 本当に本当に有名人だよお!」
「あ、はは……ありがとう。こんな場で喜んでもらえるとは思ってなかったけど…………」

 今この場にいる者に殺し合いの意思は無い。
 波乱万丈の末に行き着いたしばしの平穏は、レッドに落ち着きをもたらす。

「イレブンさん、ありがとう。やっぱり魔法って凄いんだな……俺の世界じゃそんな技使えるのポケモンだけだよ」
「…………いえ。僕より、そっちのピカさんの方が……よっぽど凄いです……」
「いや、生身で雷落とせる方がよっぽど凄いけどな……」

 喧騒から逃れ、ようやく経た情報交換はレッドにとって驚きに満ちたものだった。

「にしてもやっぱりあのトレバーってやつ、本当に危険人物だったんだな。イレブンさんやベルを殺しかけるなんて……!」
「本当だよお! でも生きててよかった! レッドさんをここまで送ってくれたんだし本当は優しいのかな?」
「いや、あれはそういうのじゃないと思う…………送ってくれたってか落とされたし」

 彼が出会ったトレバー・フィリップスがイレブン達を襲撃した事実。
 ベルやイレブンが言うには、会話すらままならなさそうな印象であったという。
 ヘリでこの城に送られたと聞いた時はかなり驚かれた。
 トレバーの読めない行動もそうだが、小屋で襲撃されてから間もなくレッドをヘリから落としたというアグレッシブさが恐ろしい。

 話に出た共通の知り合いは多くない。
 襲撃者であるトレバー、続いてイレブンが最初に出会ったダルケルという男。

 そして────

「…………ベロニカ」

 俯くイレブンの呟きを広い、レッドもまた帽子を深く被り直しながら目を伏せる。
 ベロニカの死因に自分が深く関わっている、と正直に伝えた。

「ごめん、イレブンさん。俺のせいで…………」
「……いえ、レッドさんは…………悪くない、です」

 あの時何も出来なかった罪悪感がずっと尾を引いていて、溶けない砂糖のように喉元に突っかかっていた。
 信頼出来る人物と出会えなかったからこそ、それを吐き出すことも出来ずにいて。
 ようやく巡り会えたイレブンという、ベロニカの仲間────刻まれた〝罪〟の烙印を、この人に言わずして誰に言う。

879タイプ:ワイルド ──赤い炎、緑の風 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:02:26 ID:WfubCnaA0

 当然、イレブンはレッドを責めない。
 自分がその場にいれば、と。
 植え付けられたはずかしい呪いは自責へと転じて、彼の悔しさを加速させてゆく。

「…………イレブンさん」

 こうなるから、言うべきか迷った。
 元の世界での知り合いが居ない自分とは違い、彼は仲間を喪うという悲しみを味わうことになる。
 その壮絶さたるや、人の生死に疎いレッドでもパートナーを喪えばと考えればすぐに察せた。
 
 もしや言わない方がよかったか。
 自分が楽になることを優先して先走ってしまったのではないか。
 そんなレッドの危惧とは裏腹に、イレブンは真っ直ぐに顔を上げる。

「話してくれて……ありがとうございます、レッドさん」

 強く、気高い眼差し。
 かつて邪神をも斃した勇者の光に、レッドは息を呑んだ。

 ────言わなければよかった?
 ────嘘をつけばよかった?

 一瞬でもそんな後悔をした自分を一発ぶん殴ってやりたい。
 イレブンという勇者は、仲間の死などとうに乗り越える覚悟が仕上がっていたのだ。
 ピカが居なくなったらどうしよう、と。不安な気持ちに駆られるだけであった己の未熟さにレッドは拳を震わせる。

「ありがとう、イレブンさん。もうだいぶよくなったよ!」
「そうですか…………まだ、無理しないでください」

 これ以上イレブンに負担をかけさせたくなくて、レッドは力こぶを作ってそう言う。
 正直に言えばまだ左腕の咬傷が痛むが、じっとしていたくないという気持ちが勝った。

「レッドさん! ピカ治ったって!」
「おお……! ありがとう、助かったぜふたりとも!」
 
 イレブンとの話で夢中になっていたが、ベルに言われてヘレナ達の方を振り返る。
 見れば傷口がすっかり塞がり、寝息を立てるピカチュウの姿が目を奪った。
 元の世界で幾度も目にした寝顔姿が、ノスタルジックな気持ちを宿らせる。
 もう二度と手に入らないと思っていた平穏の欠片に、感謝の涙さえ浮かび上がった。

「レッド」
「…………?」
 
 ピカチュウを抱き締めるレッドの傍ら、愛の女神──バーベナが呼びかける。
 ベルとイレブンは今後について話し合いをしているようで、まるでそれを見計らったような声掛け。
 自身にだけ向けられた透明な小声に、意を汲んだレッドは彼女へと耳を寄せた。

「あなたに伝言です」
「伝言? 誰から……?」
「……トウヤという少年から」

 最初、それを聞いた時耳を疑った。
 思わず大声で聞き返しそうになったが、視界の端に映るベルの笑顔に躊躇いを思い出す。

「トウヤって、ベルの……」
「それに答えるのは、伝言を聞いてからの方が都合がいいでしょう」
「…………わかった」

 バーベナの表情は相も変わらず、世を憂うような真剣味を帯びている。
 けれどこの瞬間は、それに増して焦燥のようなものが滲み出ていた。

「十五時、城の中庭で待っています。……と」

 その内容が〝挑戦状〟であることは言うまでもない。
 チャンピオン時代、カントーにて幾度もそんな申し出を受けてきた。
 けれどまさかそれが殺し合いの場で、ベルの幼馴染に言われるとは。
 鳩が豆鉄砲を食らったような顔を浮かべる少年は、横目でちらりとベルの姿を見やる。

880タイプ:ワイルド ──赤い炎、緑の風 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:02:58 ID:WfubCnaA0

「ねえねえイレブン、ゲーチスさんにも伝えた方がいいかなあ?」
「ここに来る前に、部屋の前に行ったけど…………なんだかすごく忙しそうにしてて、後でこの部屋に来るって…………」

 訝しむ様子はない。
 これが彼女の耳に入れば、トウヤの無事を喜ぶのではないかと。
 そんな希望はしかし、続いて浮かび上がる違和感に白く塗りつぶされた。

「トウヤは、その……この状況で〝バトル〟を優先したのか?」

 それは、杞憂であってほしい確認。
 自分の存在を認知しているのならば、十中八九トウヤにとって幼馴染であるベルの姿も見ているはずだ。
 なのに顔を合わせず、真っ先にバトルの申し出を残すなど。
 まるで〝それ〟以外を拒むように見えて、レッドは心拍に不穏を落とした。

「…………彼も以前は、ポケモンを愛する心優しいトレーナーの一人でした」

 愛の女神の口上に、レッドは「ああ」と思う。
 まるで、もう心優しいトレーナーではなくなってしまったような言い方で。
 続く彼女の言葉も、心のどこかで予想できた。

「けれど今の彼は、強者と闘うことでしか自分の在り方を認められなくなってしまった」

 ────当たった。

 トウヤは、自分の写し絵なのだと。
 高みを登り尽くして、競うものが居なくなって。
 いつしか周囲からはトウヤとしてではなく、〝王者〟として見られるようになって。
 天涯孤独の〝最強〟の道を歩かされている。そんな悲劇の少年なのだと。

「…………そう、なのか……」

 その気持ちは、よくわかる。
 レッド自身、カリンの言葉がなければその道を歩んでいたであろう〝王者〟なのだから。
 カントーを制し、文字通り無敵の存在となったレッドはなにをしても満たされなくて。
 ジョウトという新天地においてもそれは変わらず、厳選した手持ちで相手の弱点を突き、危なげない勝利を掴み取っていた。

 けれど、勝つたびに。
 喉を潤すためと海水を飲むかのように、決して満たされない〝渇き〟が付き纏った。
 そうして強さを求めるうちに自分を見失い、ジョウト最後の四天王を制して、その迷路に出口が見えた。
 

 ──強いポケモン、弱いポケモン、そんなの人の勝手。
 ──本当に強いトレーナーなら、好きなポケモンで勝てるように頑張るべき。


 その言葉を投げてくれる人は、果たしてトウヤにいただろうか。
 強くあれという〝呪い〟を解いてくれる人が現れない限り、王者という肩書きは自由を殺す。

 自分もそうだ。
 強さを追い求めるあまり、苦楽を共にした仲間たちの大切さをすっかり忘れていた。
 タイプ相性や能力値など気にせず、汗や涙を流した唯一無二の思い出はなににも勝る輝きなのに。

881タイプ:ワイルド ──赤い炎、緑の風 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:03:28 ID:WfubCnaA0

「レッド、彼を止められるのは────」
「俺しかいない、よな」

 だからこそ。
 それを知っているからこそ、迷いなく申し出た。

 返答を先読みされるとは思っていなかったのか、バーベナは分かりやすく目を丸める。
 こんな表情をするのかと意外に思うと同時に、少しだけ得意げな気持ちになった。
 片目を開けてあくびをするピカチュウの頭を撫で、右肩に乗せる。
 静電気を溜めてパチパチと鳴る頬を擦り寄せる相棒へ、燃え上がるような視線を投げた。

「ピカ、いけるか?」
「ピカッ!」

 高らかに宣言する相棒の姿。
 歯を見せて笑みを返すレッド。
 荷物を纏め、どこか懐かしい気持ちに駆られながら部屋を後にしようと立ち上がる。

「レッドさん! どこかいくの?」

 と、ベルの言葉に振り返る。
 まだ近くにトレバーが潜んでいる可能性もある以上、イレブンたちが気にかけるのは当然だ。
 不安げな二人の視線へどう言い繕うかと少し考えて、ピカチュウに頬を舐められた。

「ちょっとな、こいつと外に出てくる!」
「それなら、僕たちも…………」
「いや、いいよ! それより、そのゲーチスさんって人にもお礼言っといてくれ!」

 軽く見てくるだけだから、と付け加えるレッド。
 この場での単独行動の危険性を鑑みて、理由もなしに見逃してくれるとは思えない。
 この場にいないゲーチスの名を出すことで多少は気を逸らせただろうか、なんてらしくない考えに染まって。

「レッドさん、その…………」
「うん?」

 けれどおずおずと歩み寄るベルへ、やっぱり無理があるよなと苦笑した。
 どうやって言い訳しようかなと一瞬悩むも、次なるベルの一言に思案が遮られた。

「戻ってきたら、サインお願いしてもいいですか!?」

 え? と、思わず間の抜けた声が漏れる。
 予想外の一言に一瞬白く染まった頭を軽く振って、ごちゃついた思考を整理する。
 その仕草が拒否のものだと勘違いしたベルはガーンと涙目を浮かべるが、穏和な王者の微笑みを見て希望を取り戻した。

「ああ、もちろん!」
「やったあ〜〜〜〜っ!」

 両手を挙げ、飛び跳ねる勢いで喜びを顕にする少女。
 宝石のような無垢な彼女は、殺し合いという現実を忘れさせる。
 ぬるま湯のような心地いい感覚に入り浸っていたくなるが、だからこそ──彼女にトウヤのことは告げられない。

「レッドさん、お気をつけて…………」
「うん、イレブンさんもありがとな! すぐ戻ってくるよ」

 勇敢な言葉とは裏腹に、鼓動は煩い。
 緊張や不安ではなく、ポケモントレーナーとしての高揚感。
 異常だと笑いたいなら笑えばいい。
 こんな状況でバトルを楽しみに思うなんて、自分でもおかしいと思う。

 それでも、止められない。
 止める気なんてない。
 
 自分よりも強い相手がいると聞けば、闘争心を沸き上がらせて勝利を掴み取ろうとする。
 それが、ポケモントレーナーなのだから。
 


◾︎

882タイプ:ワイルド ──赤い炎、緑の風 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:04:04 ID:WfubCnaA0
 


 空気を切り裂き、嘶(いなな)く風が髪を揺らす。
 蔦の巻き付く幾本もの大理石の柱が、等間隔で円を描いて聳え立つ。
 中心は不自然なまでに均された芝生が生い茂り、まるでバトルコートのよう。
 よもや主催はこの状況を読んでいたのだろうか、とすら疑うほどに出来すぎている。

 けれどそんな些細なこと、この少年の邁進を止める理由にはならない。

「そろそろ、かな」

 デイパックのサブポケットから時計を取り出し、トウヤが呟く。
 時刻は十五時五十八分。愛の女神が無事に伝言を届けていたなら、そろそろレッドが姿を現すだろう。

 なぜこんな回りくどいことをしたのか。
 直接出会って言葉を交わせばいいのに、なぜそれをしなかったのかは理由がある。


 ────〝不公平〟だからだ。


 治療を先に終えた自分が、治療中のレッドと邂逅するということは。
 それはつまり、レッドの手持ちを一方的に見れてしまうということだ。
 得る情報量は統一しなければ、有利不利が出来てしまう。

 それでは面白くない。
 勝ったところで、何も満たされない。
 その尖った精神性こそがトウヤを〝王者〟たらしめる要因だ。

「…………!」

 十五時ちょうど、草を踏みしめる音がレッドの耳を通り過ぎる。
 浮き足立つような感覚に釣られて顔を上げれば、自身と同じような赤い帽子を被った少年がまっすぐにこちらを見据えていた。

「会えて嬉しいです、レッドさん」
「俺もだよ、挑戦者(チャレンジャー)」

 鳥肌が立つ。
 相見えただけで分かる、この迫力。
 炎のような双眸に射抜かれて、玲瓏さを秘めたトウヤの瞳が風のように揺らぐ。

「あなたの噂は、イッシュにも届いていますよ」
「実感はないけど……そうらしいな、さっきベルって子に会ってサインをねだられたよ」
「そうですか」

 〝ベル〟という名前を出したのにまるで耳に入らないかのような態度。
 彼女から聞いていた印象とはまるで違う、機械じみた言動にレッドは戦慄を抱く。
 本当にベルの知るトウヤなのか、と思う反面────目の前の少年が他人とは思えない。
 ひたすらに強くなることを求めていた、かつての自分がそこにいるようで。
 自然と、力が拳に伝播した。

「そんなことよりも、ほら」

 唯一生き残った幼馴染を〝そんなこと〟と切り捨て、トウヤが二つのボールを宙に投げる。
 赤い閃光と共に飛び出した二匹のポケモン──オノノクスとジャローダが、重厚な身体を芝生へ沈めた。

「出してください、あなたのポケモンを」
「へへ、言われなくてもそうするぜっ!」

 レッドにとっては初見となるイッシュ地方の二匹に臆することなく、応えるように一つのボールが弧を描く。
 緑に着地したボールから飛び出したのは、青い体色の鰐型ポケモン、オーダイル。
 続いてレッドの肩から跳躍し、姿勢を低くしてバチバチと頬袋に電気を走らせる相棒──ピカチュウ。

883タイプ:ワイルド ──赤い炎、緑の風 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:04:37 ID:WfubCnaA0

「まさかとは思いましたが、そのピカチュウを使うんですね」
「当たり前だろ、こいつは俺の最高の相棒なんだから」

 地方も、タイプも、性別も異なる四匹が睨み合う。
 至高の領域に至るトレーナーと、それに付き従うポケモンとなれば、放たれる威圧感にも納得が先に出よう。

「思い入れや愛着が、バトルに役立つとでも?」

 トウヤが言う。
 レッドはにやりと笑って、握り拳を見せつけた。

「役に立つか立たないか、なんてのに拘ってる限り前には進めないっての」

 反論にもなっていないのかもしれない。
 これはトウヤに向けた言葉というよりかは、かつての自分に向けた言葉だ。
 現にトウヤは少しだけ訝しげに眉を顰めて、理解を示そうとしない。

「これは受け売りだけどさ」

 きっとまだ、この言葉に力は持たない。
 過去との決別のため。二度とその道を歩まないという戒めのために。
 トウヤは改めて、目覚めの記憶を掘り起こす。

「強いポケモンとか、弱いポケモンとか、そんなもの人の勝手だ。本当に強いトレーナーなら、好きなポケモンで勝てるように頑張るべきだろ?」

 それを聞いて、トウヤは。
 やはり心根には届かなかったようで、冷ややかな笑みを携えていた。

「オレはそうは思いません」

 見下すような、失望するような。
 伝説と謳われた者の在り方へ、一石を投じるかのように冷徹な声色が響く。

「本当に強いトレーナーなら、好きなポケモンではなく〝勝てるポケモン〟を選ぶ覚悟が必要ですよ」

 それもまた、一理ある。
 道理として成立するし、共感を示す者も多いだろう。
 レッドもまた、そうやって最強までのし上がってきたのだから。
 それを否定することなど、たとえ嘘でも出来なかった。

「それを確かめるのは、言葉じゃないだろ」
「……そうですね。オレとしたことが、らしくなかった」

 だから、この問答に意味は無い。
 いくら言葉を交わしたところで、きっと答えは出ない。
 互いの意を汲んで、二人の王者は面持ちに険しさを宿す。
 主催の思惑も、課せられた使命も、一切合切を捨て去って炎と風が対峙する。

 四種の異なる唸り声が轟く。
 決闘の気配を感じ取って、空気が変わる。
 王者と王者、伝説と伝説。
 本来交わる筈のなかった歴史が、歪みを伝って紡がれる。

 幻は今、現実に。
 埃被った夢と誇りを抱きかかえて。
 観客のいない決戦が、幕を開ける。



「「バトル、スタート!」」
 




 ────命をかけて、かかってこい。






884タイプ:ワイルド ──赤い炎、緑の風 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:05:10 ID:WfubCnaA0



 マサラタウンに さよならバイバイ
 オレはこいつと 旅に出る
 きたえたワザで 勝ちまくり
 仲間を増やして 次の町へ

 いつもいつでも 上手くゆくなんて
 保証はどこにも ないけど
 いつもいつでも ホンキで生きてる

 こいつたちがいる
 




885タイプ:ワイルド ──金色の夢、銀色の現 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:06:51 ID:WfubCnaA0
︎◾︎









『────ポケモンにとって一番幸せなのは、好きな人のそばにいられること。
 だったらそのポケモンは、君と一緒にいるべきだ』
             
             

             ──ウツギポケモン研究所博士、ウツギ









◾︎

886タイプ:ワイルド ──金色の夢、銀色の現 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:07:24 ID:WfubCnaA0



 一瞬、ほんの一瞬の静寂。
 睨み合いの時間は即ち、相手を「視」る時間。
 ポケモンの強さを数値として見極める、神懸り的な観察眼を持ち合わせた〝王者〟同士だからこその、嵐の前の静けさ。
 互いの手持ちの二匹は、相応の相手を前に臨戦態勢。
 帽子の奥底にて潜む眼光が、鋭く見開かれた。

「ピカ、かげぶんしん! オーダイル、アクアテール!」
「ジャローダ、アクアテール! オノノクス、りゅうのまい!」

 交錯する指示。
 己の主人の声に従い、四つの影が動く。

 ピカチュウは三つの影分身を生み出し、オーダイルはその隙を補うように水流を纏った尾を放つ。
 肉薄で勢いを付けた尾の横薙を、ジャローダの靭尾が同様のワザで迎え撃つ。
 前衛をそちらに任せ、この場において最もレベルの低いオノノクスが舞踏を刻み自己強化を終えた。

 アクアテールの威力は互角。
 レベルの勝るジャローダに対して、オーダイルのアクアテールはタイプ一致により威力が五割増となる。
 逆に言えば、得意分野のワザでさえジャローダの不一致ワザと同等なのだ。
 正面から戦えば、タイプ相性から考えてもオーダイルは分が悪い。
 この場に少しでもポケモンの知識がある者が居れば、そう判断を下すだろう。

「下がれオーダイル! ピカ、十万ボルト!」
「ジャローダは地を這って前へ! オノノクスは右へ避けろ!」

 一度オーダイルを下がらせ、残影を従えたピカチュウが宙へ跳ぶ。
 分身を含めて計四つの電撃が鞭のように降り注ぐも、トウヤにそんな小手先は通用しない。
 安全地帯を見極め、後退するオーダイルへの追従をジャローダに任せてオノノクスは回避に徹する。

「ジャローダ、リーフブレード!」
「オーダイル、後ろへ跳べ!」

 身を焦がす雷撃がジャローダの数センチ上を掠めるのも構わず前進、
 肉薄を終えた翠蛇は大自然の力を宿した尾を刃に見立て、右斜め上からの袈裟斬り。
 しかしほぼ同時に繰り出されたレッドの指示により、前方の空間を抉りとるだけに終わる。

「ジャローダ、そのまま────いや、」
「ピカ、ボルテッカー!」
「一度距離を取れ! オノノクス、代わりにオーダイルの前へ!」

 次なる追撃を加える為の指示が、研鑽された〝勘〟に潰される。
 矢継ぎ早に繰り出される言葉の錯綜を前にしても、忠実な手駒であるジャローダに迷いはない。
 宙返りで距離を取るジャローダとオーダイルの間に稲妻纏う砲撃が割り込み、追撃を許さない。
 急突進から流れるように切り返し、ジャローダと見合うピカチュウ。
 その横をオノノクスが通り過ぎ、体勢を整えたオーダイルと対峙する。
 
(────読み合いをするなんて、いつぶりだ?)

 馴染みのないダブルバトル。
 思考が二倍、相手の動きを合わせれば四倍に加算されることを踏まえても──ここまで頭の中が試行錯誤で埋め尽くされるなど、忘却の遥か彼方にあった。

887タイプ:ワイルド ──金色の夢、銀色の現 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:08:05 ID:WfubCnaA0

「ピカ、十万ボルト! オーダイル、飛び込んでかみくだく!」
「ジャローダ、左へ回り込んでリーフブレード! オノノクス、右へ避けろ!」

 今こうしている間も、トウヤの余裕は表情ほどはない。
 高揚を抑えられている理由は奇しくも、思った通りの戦術が立てられない息苦しさにあった。

「残念、分身だよ!」
「…………へぇ」

 鋭利な尾がピカチュウの身体を切り裂いたかと思えば、その小柄な影は霞と消える。
 ならばあのジャローダの追撃を食い止めたボルテッカーも、実体など無かったということだ。
 では本物のピカチュウは──と、探し当てるよりも先に答えが出た。

「ピカチュウ、ボルテッカー!」
「オノノクス、回転しながらドラゴンテール!」

 トウヤから死角となる柱の裏──オーダイルと対峙する、オノノクスの右斜め後方。
 頻繁に位置を切り替えながら戦っているために気がつくのが遅れた。
 前方のオーダイルへの牽制も込めて、金色の弾丸を迎え撃つために加速を乗せた回転斬りを見舞う。

 〝りゅうのまい〟により一段階の攻撃力上昇を経たオノノクスの巨体が、その全霊をもっても尚完全には威力を殺し切れず尾が弾かれる。
 しかしドラゴンテールは対象を吹き飛ばすことに長けたワザ。
 体重差のあるピカチュウは大きく空へ投げ出されるが、着地先の柱を器用に蹴り上げて再びジャローダの前へと躍り出た。

「……そのピカチュウ、認識を改めなくちゃいけませんね」
「へへ、少しは見直したか?」
「ええ、確かに強い。ライチュウに進化していたら危なかったかもしれない」
「ったく、なんもわかってねーじゃん」

 トウヤの得意戦術とは、前半で敵の攻めを誘い、回避を織り交ぜつつほどほどの反撃を見舞う。
 これの繰り返しでペースを掴み、動揺した相手が別の手──回避や後退といった受け手に回った瞬間に、能力強化により追い詰める。
 徹底的なまでに確実性を突き詰めた、いわば究極の後攻。

 けれどレッドは毅然とした態度を崩さず、こちらの動きを冷静に見極めて攻め手と受け手を切り替える。
 一対一のシングルバトルならまだしも、二対二の乱戦を強いられるダブルバトルにおいて能力強化の暇など皆無に等しい。
 被弾覚悟で、などという甘い戯言を抜かせられるようなレベルの相手ではない。
 タイプ有利を取っているオノノクスが一段階の強化を経ても、拮抗にしかもっていけない状況がなによりの証明だ。

(ジャローダがつるぎのまいを打てれば話は早いけど……そうはいかないな)

 現状、オノノクスとオーダイルはほぼ互角。
 ピカチュウとジャローダは、レベル差を鑑みてピカチュウの方がやや上手か。

 〝つるぎのまい〟は攻撃力を二段階上昇させる強化ワザ。
 一度でもこれを発動してしまえば、機動力に長けたピカチュウはともかくタイプ有利を突けるオーダイルは問題なく下せるはずだ。
 綻び一つでも生じれば形勢が変化する。そしてそれは、レッドにとっても同じこと。
 果てのない長期戦、しかしこの場に焦りを抱く未熟者は存在しない。

「オーダイル、かみくだく! ピカ、かげぶんしん!」 
「オノノクス、きりさくで迎え撃て!」

 迫り来る巨牙を、黄金竜は同じく巨牙を以てして鍔迫り合う。
 その横で、四体の虚像を作り出すピカチュウの動きを冷静に観察するジャローダ。
 実際に数が増えたわけではないのだから、実体を見極めさえすれば脅威とは程遠い。

「ピカ、十万ボルト!」
「ジャローダ、地面に向けてアクアテール!」

 右方から二本、左方から二本、上空から一本。
 振るわれる稲妻の包囲網──しかし、その内の本物は右方の一本のみ。
 地へと尾を叩きつけ、反動で宙を舞ったジャローダは加速度を味方につけて落下する。
 大きく距離を離されたピカチュウが孤立し、今度はオーダイルの後方へ。
 オノノクスとジャローダに前後を挟まれる形となったオーダイル。一手分、二対一の状況が作られた。

888タイプ:ワイルド ──金色の夢、銀色の現 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:08:39 ID:WfubCnaA0

「リーフブレード! りゅうのまい!」
「上に跳べ、オーダイル!」

 ジャローダの鋭利な尾撃を跳躍で回避。
 しかしその一手分、オノノクスに強化の隙を与えてしまった。
 すぐさまピカチュウが割って入り再び二対二の状況が作られるが、先程とはまるで戦況が違う。

「オノノクス、ドラゴンテール!」
「オーダイル、アクアテール!」

 龍と鰐の尾が、異なる体色による残光を描いて衝突。
 競り合いはふたたび拮抗し、無益な攻防で終わるはずだった。

 ──つい、先程までは。

「オォ……ダ……!」
「グルル……!」

 力負けしたオーダイルの体勢が大きく横へ弾かれる。
 二段階の強化を経たオノノクスの膂力は、すでにオーダイルのそれを越えていた。

 レッドの額に汗が滲む。
 ここにきて顕となった僅かな綻びは、真綿で首を絞めるかのように戦況を傾けてゆく。
 パワーも俊敏性も上回るオノノクスを相手に、オーダイルの立ち回りには自然と慎重さが求められて。
 攻撃の頻度を落とした隙を付け狙うかのように、オノノクスの凶刃が襲いかかる。

「ピカ、オノノクスに十万──」
「ジャローダ、リーフブレード!」
「っ……避けろ、ピカ!」

 実力に大差がないジャローダを相手にしている分、ピカチュウのカバーにも限界がある。
 各々が眼前の相手を注視している状態、下手な行動は裏目に出るだろう。

「オノノクス、きりさく! ジャローダ、リーフブレード!」
「オーダイル、後ろに跳べ! ピカ、かげぶんしん!」

 段々と攻撃の割合がトウヤに割かれていく。
 オノノクスの自己強化という分かりやすい転換点を迎えて、二人の〝差〟がボロボロと顔を出し始めた。

(よく持ちこたえてはいるけど…………崩れるのも時間の問題かな)

 判断力、反射神経共に同格のトレーナー同士なのであれば。
 勝敗を分かつのは、知識量の差。
 
 トウヤはピカチュウとオーダイルを知っていて、レッドはジャローダとオノノクスを知らない。
 相手のタイプや覚えるワザを事前に把握しているトウヤと違い、常に未知の相手に対し〝予測〟して戦うことを強いられる。
 長期戦になればなるほど、その負担の有無が浮き彫りになっていった。

(…………やっぱり、予想は越えないか)
 
 トウヤから見たレッドは。
 確かにかなりの実力を備えているが、期待を上回る程ではなかった。
 危ない場面を迎えることなく、じわじわと勝利の兆しが見え始めているのがなによりの証拠。
 もしもステータスを数値化できるのであれば、オーダイルの体力は三分の一以上削れているであろう。
 ダブルバトルという性質上、一匹でも落ちれば勝敗は確定したも同然。
 ここから逆転される展開は──今のところ、思い浮かばない。

 しかし、トウヤは油断しない。
 ピカチュウもオーダイルも、残り一つの技を見せていない状態だ。
 ここまで温存している以上、なにか理由があるはずだと、冴える脳は忙しなく回転し続ける。

889タイプ:ワイルド ──金色の夢、銀色の現 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:09:04 ID:WfubCnaA0

「ピカ──」
「! ……オノノクス、さがれ!」
「でんじは!」

 そして、答え合わせ。
 でんじは──それは文字通り、対象に電磁波を浴びせて麻痺状態に陥れる変化技。
 トウヤはここにきて自身の油断の無さに感謝した。

 オノノクスがいた場所を電磁波が過ぎ去る。
 威力の持たないそれはしかし、ポケモンバトルにおいては下手な攻撃技では到底届かない厄介さを持ち合わせている。

「ジャローダ、リーフブレード!」
「ピカ、よけろ!」

 麻痺状態──ポケモンの身体の自由を奪う状態異常。
 りゅうのまいで積み上げた機動力も、攻撃力も。麻痺になった瞬間ゼロに等しくなる。
 目まぐるしく状況が変化するこの場において、状態異常とは即ち〝敗北〟に直結するのだ。

「へへ、そう上手くいかねぇか……!」
「…………なぜ笑っているんですか? 逆転の目が潰されたというのに」
「そんなの決まってるだろ!」

 多少驚いたとはいえ、致命的な一撃は避けた。
 レッドからすれば絶望的な状況のはずなのに、なぜこの少年は笑っているのだろうか。
 理解出来ぬ感情をぶつけるも、目の前の王者は当然のように胸を張ってみせた。
 
「────その方が、楽しいからさ!」

 少しだけ、トウヤの瞼が痙攣する。
 不愉快さから来るものか、はたまた彼の心に何か影響を与える言葉だったのか。
 既に本人でさえも自覚できないほど、何処かへ追いやってしまった勝負に不必要な感情を。
 一欠片ほど、味わったような感覚だった。

「……オノノクス、ドラゴンテール!」
「受け止めろ、オーダイル!」

 胸を覆う靄を振り払うように、次なる指示を飛ばす。
 脅威となるピカチュウの動きを制しているジャローダの横で、疾風と化したオノノクスが鋭い尾の一撃を放つ。
 回避は困難と判断し、オーダイルは両腕でそれを防御。
 急所への直撃は避けたが、ダメージを殺しきれず距離を取らされる。

「グルルル……!」
「オォダ……!」

 その時、オノノクスは。
 傷付きながらも笑みを浮かべるオーダイルを見て、目を見開いた。
 窮地に陥りながらもそれを感じさせないニヒルな笑みは、まるで勝利を確信しているかのように。
 レッドというトレーナーへの信頼を見せつけられているようで。
 まるで太陽と月のように、決して交わらない境地の違いを垣間見た。


◾︎

890タイプ:ワイルド ──金色の夢、銀色の現 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:09:34 ID:WfubCnaA0


 Nの城最上階、王の間。
 備え付けられた窓から、外の景色を見下ろす隻眼の長身痩躯──ゲーチス。
 忌々しげに歪む左目は、眼下の中庭にて繰り広げられる死闘を捉えていた。
 
(想定外だ……! まさか、トウヤが既に来ているとは……!)

 あのヘリの音を聞いて、襲撃を予想したゲーチスは王の間にて篭城することを選んだ。
 イレブン達を当て馬にして様子を見ようと、迎撃の準備を整えていた矢先にこの結果。
 まさかあのヘリに乗ってきたのがトウヤだというのか。だとしたら、とんだ挑発だ。

 更に、彼の計画を狂わせた要因はもう一つある。
 今現在トウヤと互角のバトルを繰り広げている謎の少年もまた、ゲーチスにとってのイレギュラー。

 遠目でも分かるほど、両者の戦いは一般的なポケモンバトルという枠組みを外れている。
 それこそ、伝説のポケモン同士の争いにも匹敵するような──次元の違いをひしひしと感じ取り、ゲーチスは歯噛みした。
 あんな怪物が二人もいるなど、悪夢を通り越した理不尽さに笑いすら起きる。
 カメックスとギギギアルという強力な手札を手に入れたというのに、まるで勝てるビジョンが見えない。
 ここはイレブン達ごと切り捨てて、ひとまずこの場を後にするべきか。

(…………いや、待て)

 と、受け身な思考がピタリと静止する。
 この危機的状況、むしろ利用できるのではないか。
 総帥まで上り詰めた頭脳が導き出した答えに、ゲーチスの焦燥は消え失せて笑みへと変わる。
 
「ハハハ……! やはりワタクシは天に味方されている!」

 なぜ気が付かなかったのだろう。
 トウヤも、あの少年も、自分を追い詰める脅威として訪れたわけではない。
 むしろその逆──自身が生き残るために用意された舞台装置なのだと、今この瞬間確信した。

(そうと決まれば、手筈を整えなければ……今無闇に動く必要はありませんが、迅速さが求められますね…………)

 思い至った計画をより綿密なものに変えるため、脳内でシミュレーションを繰り返す。
 幸いここはNの城。間取りや各部屋への最短経路は頭に叩き込んでいる。

 今はただ機を待つだけでいい。
 まるで溢れ落ちる砂時計を見るかのように、ゲーチスの瞳は窓の外へ注がれていた。

「ゲーチスさん!」

 と、扉が勢いよく開かれる。
 見遣ればそこにはどこか落ち着かない様子のベルとイレブンの姿。

「おや、お二人共。どうかされましたか?」
「えっと、さっきレッドさんがお城に来て、それで、どっか行っちゃって……」
「レッド?」

 しどろもどろながら状況を説明するベル。
 吐き出される言葉を掻い摘んで、頭の中で要約していく。
 子供の世話をするような感覚に嫌気を差しながらも、得られた情報はゲーチスにとって有益なものだった。

891タイプ:ワイルド ──金色の夢、銀色の現 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:10:25 ID:WfubCnaA0

「なるほど、あのヘリの音はレッドさんが乗ってきたものだと……いやはや、これはとんだ奇縁だ」
「それでその、レッドさんが見回りに行ってくるって言ってたんだけど、心配になっちゃって……」

 合点がいった。
 カントーとジョウトを制したチャンピオンの噂は、勿論ゲーチスの耳にも届いている。
 トウヤと渡り合えるトレーナーなどこの世に居るのかと疑問だったが、それがかのレッドであれば不可能ではないだろう。

 ゲーチスは逡巡する。
 ベルとイレブンは、自身の計画を遂行するには邪魔になるだろう。
 蚊帳の外でいてもらうためにはトウヤとレッドのことを隠しておくべきだろうが、逆に巻き込むことで利用する手もある。
 
「ベルさん、そのレッドさんなのですが……」

 そうして選び取ったのは、真実を打ち明けるという方向。
 ベルとイレブンの二人を窓際まで誘導し、中庭の光景を見せつける。
 イレブンは戦慄の表情で息を呑み、ベルは愕然と目を見開いていた。

「トウヤ……!?」
「え、トウヤって…………」

 彼女のこぼした名前に、イレブンも驚きの声を漏らす。
 ベルの幼馴染であり、イレブンからすれば彼女と同じく紛れもない保護対象である存在。
 それが今、巧みにポケモンを駆使してレッドと戦闘を行っている──状況整理すら追いつかず、目が回るような感覚を抱く。

 なぜトウヤとレッドが戦っているのか。
 そもそも、なぜトウヤが彼と渡り合えるほどの実力を持っているのか。
 渦巻く疑問の矛先は、この光景を見せた大人へと向けられる。

「ゲーチスさん! どうなってるの!?」
「落ち着いてください、ベルさん。ワタクシとしても状況が分からず、下手に動けませんでした。……まさか、あの二人がトウヤさんとレッドさんだとは…………」

 我ながらの名演技に心中で笑いかける。
 傍から見れば今のゲーチスの姿は、ベルやイレブンと同じく状況を掴み切れておらず焦燥する一参加者として映るだろう。

「ゲーチスさんは、ずっとここにいたんですか?」
「ええ。外から物音がしたのでこの窓から覗き込んだのですが、その時にはもう戦いが始まっていましたね」
「そんな…………!」

 嘘ではない。
 事実、事の発端は目にしていないのだから。
 しかし容易に予想はつく。あのバトルに飢えたトウヤのことだ、レッドを誘き出して先に仕掛けたのだろう。

 必要以上の情報を与える必要は無い。
 ここからの流れは、すでに掌握したも同然なのだから。

「とにかく、あの二人を止めないと……!」
「そーだよっ! トウヤもレッドさんも、なにか誤解してるだけだからっ!」

 ──ああ、やはりこうなった。
 
 あまりにも予想通りの展開。
 好都合を通り越してもはや滑稽にも思える。

「そうですね……お二人にお任せしてもよろしいでしょうか? ワタクシは周辺の様子を見てきます。あの音を聞き付けて危険な者が来ないとも限らない」
「わかりました……お願いします、ゲーチスさん…………!」

 深く一礼し、イレブンがベルを連れて外へ出る。
 その様子を見届けて、ゲーチスの顔面は遂に綻びを隠さない。

 ベルとイレブンの信頼は、彼らを山小屋から助けた事ですでに勝ち取った。
 もし万が一〝計画〟に不備があったとしても、あの二人を利用すればどうとでもなるだろう。
 トウヤとレッドの戦いにあの二人が介入するとなれば、否が応でも混乱は避けられない。
 それに乗じて自身がどんな動きをしたところで、気に掛けられる余裕などないだろう。

892タイプ:ワイルド ──金色の夢、銀色の現 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:10:54 ID:WfubCnaA0

「さて、もう少ししたら動きましょうか…………フフフ、それまでは高みの見物といきましょう……! 精々無様に踊り狂え、トウヤ……!」

 世界は自分を中心に回る。
 そう確信した男の哄笑は、まるで波瀾の序奏かのように響く。

 役者は今、足並みを揃える。
 白城を舞台にして、群像は織り成す。
 熱く燃ゆる陽の喜劇も、淡く幽かな月の悲劇も。
 如何なる結末であろうとも、目指す先は高く遠く。

 花形の腕は、藻掻くように天へ伸びる。
 




893タイプ:ワイルド ──金色の夢、銀色の現 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:11:17 ID:WfubCnaA0



 OK! 次に 進もうぜ
 OK! 一緒なら 大丈夫
 OK! 風が 変わっても
 OK! 変わらない あの夢

 ここまで来るのに 夢中すぎて
 気づかずに いたけれど
 新しい世界への 扉のカギは
 知らない内に GETしていたよ

 GOLDEN SMILE & SILVER TEARS
 よろこびと くやしさと
 かわりばんこに カオ出して

 みんなを 強くしてくれてるよ





894タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:12:16 ID:WfubCnaA0
︎◾︎










『────ポケモンはトレーナーの正しい心に触れることで物事の善悪を判断し、そして強くなる』
             
             

             ──ホウエン地方四天王、ゲンジ









◾︎

895タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:12:59 ID:WfubCnaA0


 夢物語だと思っていました。


 トレーナーとの絆こそが、何にも勝る力となる。
 そんな謳い文句を幾つも見聞きして、私もそれを信じていました。

 いいえ、きっと──信じたかっただけ。
 薄々、そんな不確かで曖昧なものよりも、合理的な取捨選択こそが力なのだと気付いていました。

 そんな現実を受け止めたくなくて。
 いつしか私は、思考を止めてトウヤの指示に従っていました。

 アイリスはどう思うか。
 本当に、これが強さなのか。

 そんな風に考えると、毒に侵されたかのような頭痛に襲われて。
 心臓を茨に巻き付かれたような、鋭い痛みに見舞われて。
 私は、己の本心から逃げ続けていました。

 部屋で、ジャローダと会話をしました。
 けれど彼女は、私よりも先に〝現実〟に気が付いていて。
 私よりもずっと実力を伴う彼女は、まるでそれが真実だと突き付けるように。
 物言わぬ、トウヤの人形と化していました。

 ああ、やっぱり。
 彼女は、私より遥か先を進んでいる。
 それを自覚した途端、全てを投げ打ちたくなりました。

 諦めていたのかもしれません。
 私やアイリスの理想は、間違いだったのだと。
 旅路の中で変わってしまったトウヤの考えこそが、強さに直結するのだと。
 そう自分自身を納得させることで、苦しみから解放されたがっていたのかもしれません。


 ──そんな時でした。


 赤い帽子を被った少年。
 トウヤに似ていて、けれど決定的に違う存在。
 彼は手持ちのピカチュウとオーダイルを、強く信頼しているようでした。

 そしてそれは、逆も然り。
 少年の期待に応えるように、持ちうる限りの力を尽くす二匹の姿を見て。
 私の心は、強く揺さぶられた。

 ああ、もしかしたら。
 この子たちなら、もしかしたら。
 夢を叶えてくれるかもしれない、なんて。

 身勝手なのは重々承知しています。
 けれどもう、トウヤを止められるのはこの世に貴方達しかいないから。
 純粋だった少年の心に火をくべられるのは、今この瞬間しかないから。

 だから、どうか。
 絆の糸よ、解けないで。




896タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:13:32 ID:WfubCnaA0


 レッドから見て、旗色は非常に悪い。
 既に優勢は目に取れるというのに、トウヤは一切油断も隙も晒す気配がない。
 一パーセントの危険すらも排除し、妥協を許さない指示は残酷とさえ思える。

 順当にいけば、トウヤの勝利は揺るがない。
 もしも観客がいればそう思うのが当然の状況。

「ピカ、かげぶんしん! オーダイル、かみくだく!」

 けれど、この少年は。
 己と、相棒達の勝利を微塵も疑わない。

「ジャローダ、リーフブレードで切り払え! オノノクスは後ろに回り込め!」

 翠色の横薙が分身を霞へ変える。
 オーダイルの巨牙はオノノクスの影を噛むだけに終わり、回り込んだ竜の反撃を警戒し横っ飛び。
 疲弊の息衝きを呑み込んで、オーダイルは再びオノノクスの鱗を噛み砕かんと迫る。

「オノノクス、下がれ」

 やはり、捉えられない。
 空振りに終わるオーダイルの隙を縫うように、ピカチュウが電撃を二匹へ放つ。
 素早さに秀でたジャローダ、強化によりそれを上回る機動力を得たオノノクスはこれを余裕を持って回避。
 体勢を立て直すオーダイルとピカチュウが、互いに背を預ける形に。

「へへ、強いなトウヤ……!」
「…………それはどうも」

 二人の王者は、戦況と相対するかのように対照的。
 窮地に立たされているレッドは心底楽しそうに笑い、勝利の兆しが見え始めたトウヤは無表情。

 単なる心境の違い、という言葉で片付けていいほど単純な話ではない。
 深い根っこの部分で繋がっている二人だからこそ、彼らが立っている舞台は、背負っているものは。
 決定的な差を紡ぎ出し、遥か遠く映し出される。

「おかしな人ですね、負けるかもしれないのに笑うなんて」

 だから思わず、問いかけた。
 バトルの最中に余計な私語を挟むなど、とっくに無駄だと思っていたのに。
 それでもこの少年は〝話す価値〟があると、そんなふとした気紛れで。
 返答なんてろくに期待していなかったけれど、レッドは笑顔を崩さずに応える。

「まだまだだな、トウヤ」

 歯を食い縛り、挑発の笑み。
 弧を描く目元の先にいるトウヤは、ぴくりと眉を顰める。

「負けそうになるくらい白熱したバトルだからこそ、勝った時の喜びが大きいんだろ!」

 ────言葉が、詰まる。

 返答する価値もないだとか、そんな理由ではなくて。
 脳裏を掠めるセピア色の残影が、喉を震わせた。
 勝負事においてなんの意味もないと、奥底に封じ込めていた懐旧の記憶。
 少年の手によって無理やり引きずり出されたそれは、風の音や景色、草原の匂いまで鮮明に再現する。

897タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:14:09 ID:WfubCnaA0


『────がんばれ、ツタージャ!』


 思い出したくもない、かつての自分。
 絆が力となり、激励が勝利に繋がると本気で信じ込んでいた未熟な青二才。
 邪魔だと切り捨てたはずのそれを、目の前の王者はさぞ大事そうに抱えていて。
 得体の知れない忌々しさが、胸を焼いた。
 
「そんな強がりも、勝たなきゃ意味がない」

 それを受けてか。
 彼にしては珍しく、勝負を急ぐ。
 水面に波紋を作り出すかのように、場の流れに手を加える。



「────ジャローダ、リーフストーム」


 
 空気が変わる。
 逆巻く強風が、ひしめく大地が。
 この場にいる生命に、極度の緊張をもたらした。

「ピカ、オーダイル! 柱の裏に隠れろ!」

 下した号令に耳にして、二匹は迅速に障害物に身を隠す。
 もしその命令がなくとも、本能で回避を選ばせたであろうと確信させる厄災。
 〝それ〟が鎖から解き放たれたのは、二匹が跳び立つのとほぼ同時であった。

「────っ……!」

 咆哮、大嵐、竜巻、暴風、鎌鼬。
 足りない。それを形容するには、どれも足りない。
 荒れ狂う翠風は螺旋を描いて、中庭の一部を抉り取り我が物顔で突き進む。

 捲り上がる地面、散る草花。
 直撃を受けた柱に穴が開き、重厚な音を立てて地へ沈む。

 もはや応戦どころではない。
 回避に全力を尽くすピカチュウ達は、もう一つの脅威を野放しにしてしまった。

「オノノクス、りゅうのまい」

 それは、冷酷な死刑宣告。
 無慈悲な指令を聞いたのは、オノノクスだけではなく。
 暴風の中でも確かに届いたその声に、レッドは戦慄を抱いた。

 三段階の強化を経たオノノクス。
 素の力では四匹の中で最も劣っていたはずの彼女は今、〝最強〟の存在と化した。


◾︎

898タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:14:52 ID:WfubCnaA0


 ────リーフストーム。

 莫大な威力と引き換えに、己の特殊攻撃力を著しく下げる大技。
 安定しない命中率とデメリット効果を鑑みて、下手な乱用は身を滅ぼすとトウヤは考えている。
 事実、無造作に振るわれた大技は一匹も仕留められず、自身の能力を下降させるだけの結果で終わった。

 しかし、それはシングルバトルでの話。

「ジャローダ、戻れ」
「え……!?」

 トウヤの手にあるボールへ、赤い閃光と共に吸い込まれるジャローダ。
 二対二のバトルの最中で、戦闘不能に陥った訳でもないポケモンを下げるなど正気の行動ではない。
 驚愕するレッドはしかし、彼の狙いをすぐに察する。

(まさか────!)

「オノノクス、ドラゴンテール」

 推察の答え合わせをするかのように、オノノクスがオーダイルへ飛び掛かる。
 もはや回避が間に合うレベルではない。
 咄嗟に防御したオーダイルの巨体を、しなる尻尾が無慈悲に吹き飛ばす。

「ピカ、十万ボルト!」
「かわせ、オノノクス」

 残るピカチュウの電撃を、オノノクスは余裕を持って回避する。
 これが、ジャローダが不在である〝一手〟で行われた攻防。

「いけ、ジャローダ」

 そして再び、森の君主が顕現する。
 森林に住まう生命を平伏させる高貴さを纏って、それは目前の敵を睨む。
 空気のざわめきと共に訪れる不穏な予感。
 当たって欲しくないと願っていた推測は、答えとなって示された。


 ────ポケモンバトルの基礎の話をしよう。


 バトルの最中に行われた〝りゅうのまい〟や〝つるぎのまい〟といった能力値の変化は、永続ではない。
 一度ボールに戻してしまえば、ポケモンのステータスは元の値に戻される仕組みだ。
 ここで重要なのは、なにも戻されるのは強化効果に限らないということだ。
 ステータスが元に戻るのであれば、逆を言えば──能力値が下がった場合、一度ボールに戻してしまえばいい。

 言うだけならば簡単だが、思いついても出来るような者はそういない。
 ダブルバトルにおいて一匹を戻すということは、残された一匹で二匹の相手を担うことが強要されるのだから。
 まともな神経をしていれば、そんな不利に直結するようなことはしない。

「ジャローダ」

 けれど、例えばそれが。
 圧倒的な能力上昇で、他の追随を許さない力を得た者が残されたのならば。
 たったの〝一手〟程度、時間を稼ぐことなど造作もないのかもしれない。


「リーフストーム」

 
 暴威が降る。
 先程のそれと全く遜色のない破壊力を伴って、潰滅の限りを尽くす大自然の奔流。
 二度目となるそれは、強制的にレッドの選択肢を奪い去った。

899タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:15:18 ID:WfubCnaA0

「ピカ、オーダイル! 避けろ!」

 回避を怠れば即座に敗北を叩き付けられる。
 大袈裟なまでの横っ飛びでリーフストームをやり過ごすが、そう何度も躱せるものではない。
 砕けた柱の破片がピカチュウの身体に衝突し、短い悲鳴を上げさせた。

「戻れジャローダ。オノノクス、ドラゴンテール」

 負傷したピカチュウを気にかける余裕もない。
 再び下げられるジャローダ、同時に襲いかかるオノノクス。
 そこからはもう先の光景の焼き直し。距離を取らされたオーダイルと、ピカチュウの反撃を躱すオノノクスの姿。

 ────戦況は絶望的。
 
 ペースが、完全に呑まれ始めている。
 トウヤの姿が遠く、遥か遠くに見える。
 眼前のオノノクスが、怪獣の如く巨大に映る。

 勝ち目などまるで見えない。
 だというのに、この少年は。
 逆境の中でこそ、熱く燃え滾る。

 風で吹き飛ぶ赤い帽子。
 鮮明に映える王者の顔。


 レッドは────笑っていた。


◾︎

900タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:15:55 ID:WfubCnaA0


 トウヤは理解できなかった。
 レッドが浮かべている笑みの正体を。

 まさか、ここから打開策でもあるというのか。
 常人では到底並び立てぬ思考力を持ってしても、答えは出せずにいて。
 再びジャローダを出そうとボールに手をかけた、まさにその瞬間。

「オーダイル!」

 強く、振り絞るような声色。
 ぴたりと嵐が止んだような、そんな〝予感〟に囚われた。


「────じわれ!」


 今度はトウヤが目を剥く番だ。
 じわれ──地割れ。その単語の意味を理解すると同時、夥しい情報量が彼の脳を埋め尽くす。

(馬鹿な、オーダイルはじわれを覚えないはず……!)

 まず最初に浮かぶ疑問はそれ。
 トウヤの知る限り、オーダイルはじわれを習得しない。
 全てのポケモンが習得するワザを死ぬ気で叩き込んだのだ、〝ほぼ〟間違いないと言っていい。

 ────要するに、断言はできない。

 この世には、なみのりやそらをとぶを覚えるピカチュウがいるという。
 通常では習得不可能なわざを、果たしてどんな理屈か、使用出来るポケモンが確かに存在するのだ。
 加えてオーダイルは、じわれこそ覚えないが同系統の〝じしん〟を習得できる事実がある。

 なにより、決め手となったのは。
 一瞬の迷いもなく片足を振り上げ、今まさに地面を蹴り抜こうとしているオーダイルの姿。


「────オノノクス、上に跳べ!」


 トウヤは、誰よりも勝利に徹底している。
 驕りや油断といった、読み負ける要因の尽くを排除してきた。
 それが例えどんなに可能性の薄いものだとしても、一切の妥協を許さない。
 戦闘特化のアンドロイドであるA2にさえ、容赦がないと称されるほどに。

 並のトレーナーであれば、目先のメリットを優先して攻撃指令を下すであろう。
 じわれは当たりさえすれば一撃必殺であるが、その命中率は恐ろしく低い。
 けれどそれはつまり、ゼロパーセントではないということだ。
 理を突き詰め続けたトウヤは勝負事において、〝天運〟というものに信頼を置くことができなかった。

901タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:16:37 ID:WfubCnaA0

 そして、それが。
 トウヤのその容赦のない性格が。
 このバトルの風向きを変えた。
 
 オノノクスが跳ぶ。
 オーダイルが地面を踏む。
 同時に起きた出来事。同時に行われた攻防。
 しかし結論から言えば、一撃必殺の地殻変動は起きなかった。


 〝起きるはずが〟なかった。


「っ──、しま────」

 しまった、と。
 口にするよりも先に、遮られる。

 力強い指差しが狙いを定めて。
 翼も持たずに宙へ投げ出され、機動力を殺されたオノノクスへ。
 少年の相棒が、目を光らせた。
 
「ピカ、でんじは!」

 黄色い円形の帯がオノノクスを包み込む。
 バチバチと、強烈な静電気が鱗を迸る。
 着地と同時に体勢を崩す竜の姿が、彼女の身に起きた異変を存分に知らしめた。

(やられた……!)

 この瞬間、オノノクスが受けてきた素早さ上昇の恩恵は無意味と化す。
 最初から狙いはこれだったのだ、と。理解した瞬間に抱いた感情は畏怖に似ている。
 よもやポケモンバトルでブラフを交えるなど、それこそ無法も無法。
 しかしトウヤが総毛立つ理由は、それではなかった。

 あの瞬間オーダイルは。
 躊躇いも逡巡もなく、覚えもしない地割れを行う〝フリ〟をしてみせた。
 どんなに忠実なポケモンであろうとも使えないわざの命令を下されれば、まず戸惑いを見せるはずなのに。
 あの一瞬で意図を汲み取る知能を持っていたのか、もしくは────よほどの信頼関係を築いていたとしか思えない。

 そう──、絆や信頼。
 トウヤが〝不要〟と切り捨てたそれが決め手となって。
 今まさに、形成を覆す要因となったのだ。

「ピカ、ボルテッカー!」
「っ、……ジャローダ! リーフブレード!」

 ノイズを振り払いジャローダを出す。
 固定砲台の役目は、相方であるオノノクスが麻痺している以上放棄するしかない。
 電撃纏う突進がオノノクスに到達する寸前、ジャローダの尾がそれを相殺する。

「オーダイル!」

 呼びかけられたオーダイルが攻撃態勢に入る。
 ペースを乱されたことに僅かに動揺の色を見せたトウヤは、オノノクスへの指示を迷う。

 今のオノノクスの機動力は皆無に等しい。下手な回避は困難だろう。
 しかし、りゅうのまいによって得た攻撃力上昇の効果はまだ潰えていない。

 オーダイルの攻撃の癖はもう見抜いた。
 顎を大きく開ける姿勢、今まで散々みせた〝かみくだく〟の予備動作だろう。
 今のオノノクスであれば十分に受け止められる。そこで反撃を見舞えばいい。


 そんなトウヤの〝妥協〟は、
 致命的なミスとなり、窮地を引き寄せる。


「こおりのキバ!」


 喉奥から息が漏れ、汗が頬を伝う。
 驚きよりも先に、己の犯した失態に血の気が引いた。
 そうだ、あの地割れはブラフ──つまりオーダイルはまだ四つ目のワザを見せていなかった。

902タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:17:04 ID:WfubCnaA0
 
「く、……オノノクス! きりさく!」
「いっけーーー! オーダイルっ!!」

 冷気を纏う巨牙がオノノクスの首筋に食らいつく。
 黄金の鱗に亀裂が走り、弱点であるこおりタイプということも相まって容易く防御を貫いた。
 苦悶の呻きを上げるオノノクス。
 勝負が決してもおかしくないダメージを負いながら、それでも応戦する彼女もまたこの死闘に参加する〝資格〟を有していると言える。

「オノノクス……!」
「オーダイルっ!」

 牙と牙が、互いの首筋へ突き立てられる。
 どちらかが倒れるまでこの拮抗は続くのだと、誰もが確信する。
 ここまで来れば互いのトレーナーが介入できることなど、なにもない。

「グルルル……」

 オノノクスが低く唸る。
 その声が届いたのは、相対するオーダイルだけだった。

 ──〝どうして、貴方は戦うのですか。〟

 竜の問いかけに、鰐が答える。

「オォダ、ァ……!」

 ──〝この人になら、従ってもいいと思ったからさ。〟

 蒼玉のような澱みのない瞳。
 濁りのない、宝石のような煌めき。

 ああ、そうか。と。
 やっぱり自分は間違っていなかったのだと。
 オノノクスは、まるで何かを掴んだかのように。
 後のことを託すかのように。
 紅玉のような瞳を、静かに閉ざした。


◾︎

903タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:17:52 ID:WfubCnaA0


 ずしんと、大きな質量が地に伏せる。
 力を失い倒れるオノノクスを、勝者であるオーダイルが見下ろして。
 誇り高さを象徴するような彼の笑みが、陽光の下で輝いた。

「へへ、やったな……オーダイル!」
「………………戻れ、オノノクス」

 オノノクスを失った今、トウヤができる事はぐんと狭まる。
 振り返るピカチュウとオーダイルの視線が、ジャローダへと向けられた。
 二匹同時の猛攻を凌げるような機動力は、今のジャローダにはない。
 オノノクスをボールに戻すと同時、焦燥と決意の入り交じった顔を浮かべた。

 背に腹はかえられない。
 未来を見据えて出し惜しみすれば、今を切り抜くことなど出来ない。
 そうしてトウヤが導き出した答えは────


「ジャローダ、リーフストーム!」


 三度目となる大技。
 異なる点は、もうデメリットを打ち消す手段がないということ。
 一度きりの大技──乱発を避けるべきと下したが、今撃たずにして〝次〟は来ないだろう。

 破壊の権化が辺りを灼き尽くす。
 避けろ、と。迷いなく下された指示は、暴風に掻き消されたのか否か。
 もしくは届いたが、それが許される余力が残されていなかったのか。

「グ、オォ……ダ…………ッ!」
 
 翠色の螺旋がオーダイルを呑み込む。
 タダでさえボロボロであった肉体が、弱点の大技を耐えることなど出来るはずもなく。
 強靭な筋肉に無数の切創を走らせ、骨が軋む音を聞きながら。
 圧倒的な推力に見舞われて、壁へと叩きつけられたオーダイルはそのまま倒れ伏した。

「オーダイル!!」
「ジャローダ、リーフブレード!」
「っ、……ピカ! 避けろ!」

 オーダイルを気遣う余裕もなく、流れざまに放たれるジャローダの一撃。
 反撃の体勢を立て直す暇もなく襲いかかる連撃。ピカチュウは大きく後方へ距離をとる。

「オーダイル、ありがとう……よくやった! ゆっくり休んでくれ!」
 
 警戒をそのままに、オーダイルをボールへと戻すレッド。
 トウヤもまた、今まで以上に慎重に相手の出方を伺う。
 顔を向かい合わせ、対峙するピカチュウとジャローダ。
 戦況もルールも一変した今、今まで以上の緊張が迸った。
 
「言っただろ、トウヤ」

 レッドの声が耳を木霊する。

「バトルは負けそうな時ほど、楽しいんだって」

 言葉のやり取りをする気など毛頭ないのに。
 この飢えを満たすのは、戦いだけだと思っていたのに。
 なぜだかその声を無視することが出来なかった。

904タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:18:36 ID:WfubCnaA0


「今のトウヤも、そんな顔してるぜ!」


 華やかで、濁りのない笑顔。
 曇天の隙間から差し込んだ陽光のように、眩しくて。

 チャンピオンという栄誉に囚われず自由に。
 未だ残影を追いかける自分を置いていくように。
 ただひたすらに前を向き続ける彼にあてられたのか、トウヤの口元には薄笑いが浮かんでいた。

「第二ラウンドです、レッドさん」
「ああ! ──のぞむところだっ!」

 ああ、もしかしたら。
 自分が本当に求めていたのは、〝勝利〟ではなく。
 敗北だったのかもしれない、なんて。
 
 ────ひどく、今更な話だ。
 

◾︎


「イレブン! あれ──って、うわっ!?」

 ベル達が中庭に辿り着いたのは少し前。
 リーフストームの余波が周囲を呑み込む瞬間。
 王の間で見た時よりも凄惨な戦場に、ベルの体を庇うイレブンは戦慄を抱いた。

「…………とめないと、」

 それは半ば、己へ発破をかけるためのまじない。
 こうして使命感を与えなければ、尻込みしてしまいそうだったから。
 死闘を広げる彼らとイレブンたちを隔てるのは、頼りない腰程の高さの鉄柵のみ。
 いつ誰が怪我をするか分からない状況に急かされ、イレブンはラリホーを撃とうと掌に魔力を宿らせる。

「まって、イレブン!」

 そして、それを止めたのは。
 潤んだ瞳で見上げるベルの一声。

「ベル…………?」
「よく見て、イレブン! 二人の顔!」

 なぜ止めたのか、と。
 そんな疑問を先読みしたかのように、ベルが述べる。

「…………あ、……」

 目を凝らす。
 我ながら、間の抜けた声を漏らす。
 イレブンが見ていたのは、ポケモン達が繰り広げる激闘という状況だけだった。
 けれど彼らの顔に注目してみれば、まるで見え方が違ってくる。

 なんのしがらみもなく。
 殺し合いという使命も忘れて。
 自分自身をぶつけ合う彼らは、まるで互いのことしか目に入っていないようで。
 想起したのは、戦いを会話とするグロッタの闘士たちだった。


「二人とも…………すごく、楽しそう」


 ベルの顔は、どこか羨ましそうで。
 テレビの中でしか見た事がなかったチャンピオン達の戦いに馳せる、一緒に巣立った幼馴染の姿を、自慢気に見ていて。
 遥か遠くにいる彼の姿を、心から祝福しているようで。

「……そう、だね」

 勇者は、見届ける道を選ぶ。
 歴史上においても、最高峰のポケモンバトルを目の当たりにするのは、たった二人の観客(オーディエンス)。

 世代を越えて、時空を越えて。
 集う彼らは、前を向き続ける。





        (次なる世代へ)
 ────アドバンス・ジェネレーション。


 

 


905タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:20:11 ID:WfubCnaA0



 勇気凛々 元気溌剌
 興味津々 意気揚々
 ポケナビ持って 準備完了!
 先手必勝 油断大敵
 やる気満々 意気投合

 遥か彼方 海の向こうの
 ミナモシティに 沈む夕陽よ
 ダブルバトルで 燃える明日
 マッハ自転車 飛ばして進もう!

 WAKU WAKU したいよ
 ぼくらの夢は 決して眠らない
 新しい街で トキメク仲間

 探していくんだよ





906タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:21:07 ID:WfubCnaA0
︎◾︎










『────ポケモンには優しく、どこまでも優しくしてあげてね。
 あなたのポケモンはあなたのために頑張るんだから!』
             
             

             ──フタバタウン、ママ









◾︎

907タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:22:29 ID:WfubCnaA0



「ピカ、かげぶんしん!」
「ジャローダ、リーフブレード!」

 一対一、シングルバトル。
 何事も介入を許さない、正真正銘混じり気のない実力勝負。
 命運を預けられた相棒は、〝全力〟という形で主人へと応える。

「ピカ、十万ボルトだ!」
「避けろジャローダ! 返しにアクアテール!」

 指示をするたびに。
 攻撃を当て、受けるたびに。
 かつて見た、旅の記憶が蘇る。

「まだまだ! ピカ、でんじは!」
「ジャローダ、柱を盾にして回り込め!」


 ──〝ねえ、ツタージャ。〟


「後ろからリーフブレード!」
「尻尾で受け止めろ! ピカ!」


 ──〝誰にも負けないぐらい、強くなろう。〟


「がんばれ! ピカ!!」
「っ──、…………」


 ──〝ボクたちなら、きっとできるよ。〟


 ジャローダが打ち負ける。
 体勢が崩れ無防備な腹を晒す蛇姫へ、鋭い電撃が振るわれた。
 苦い結果に歯噛みをしながらも、トウヤはその光景をどこか予感していた。

 なぜだろうか。
 打ち合いに関しては、体格の勝るジャローダの方が有利だというのに。
 トウヤはこの結果に、不思議と疑いを持たなかった。

「ピカ、もう一押しだ!!」
「ジャローダ、リーフブレードを地面に撃て!」

 追撃を仕掛けるため、疾駆する電気鼠。
 避けるためでもカウンターのためでもなく、縦一文字の斬撃が大地を貫いた。
 抉れた衝撃で四方八方へと繰り出される無数の礫。
 散弾となって襲いかかるそれらは、でんきタイプであるピカチュウにとって致命的な弱点となる。

「よけろ! ピカ!!」

 引き連れた影分身のうち、いくつかが身体を撃ち抜かれ霧散する。
 しかし本体であるピカチュウは、壁や倒れた柱を駆使した三次元的な動きで、掠り傷一つ負わずにやり過ごした。

「ピカ、ボルテッカーだ!」
「ジャローダ、リーフブレード!」

 着地から切り返し、迅雷と化すピカチュウ。
 ジャローダもまた翠緑の斬撃で返し、互いに衝撃で弾かれる。

 ぐるりと反転する身体。
 そのまま回転を活かして互いに尻尾を打ち付け合い、幾度目かの鍔迫り合い。

 軽快な音が鳴り渡る。
 ワザでもない純粋なフィジカル勝負。
 一瞬の拮抗の後、疲弊の差により今度はピカチュウが吹き飛ばされた。

「ジャローダ、追いかけ──っ!?」

 追従の指示を下そうとして、異変を悟る。
 蛇妃の体表にはバチバチと電気が迸り、高貴さを失わなかった顔は苦しげに歪んでいた。

「〝せいでんき〟か……っ!」
「へへ、さっすが俺の相棒!」

 ピカチュウの特性、せいでんき。
 その効果は接触技を受けた際に発揮し、低確率で相手を麻痺状態に陥れる。
 この土壇場でそれを引き当てるなど、なんという幸運の持ち主だろうか、と。
 そんな無粋な考えを浮かばせたところで、トウヤは首を振る。

 ────幸運?

 本当に、そんな言葉で片付けていいのか。
 このレッドという男は、これまで幾度も不合理な戦い方を見せつけてきた。
 それの原動力となったのは、ポケモンへの揺るぎない信頼。
 ならばこの現状も、理に囚われない力が働いたのではないのか。

「ジャローダ……ピカチュウをよく見ろ。冷静な君なら出来るだろう」

 それに気がついたところで。
 トウヤに出来ることは、理に満ちた戦法。

908タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:22:58 ID:WfubCnaA0

「ピカ! かげぶんしん!」

 ジャローダはそれに無言で従う。
 細めた瞳がピカチュウを追いかける。
 五匹の分身が撹乱のために動き回るが、冷静さを乱さないジャローダには意味を成さない。

 絶え間なく動き回るピカチュウに対し、ジャローダは最小限の動きで対応する。
 どこまでも対照的な〝静〟と〝動〟の戦い。

「ピカ! ────!」
「ジャローダ、────!」

 繰り出される電撃や突進は、蛇妃を捉えられずに時間だけが浪費される。
 しかし残像を描くほどのスピードに加え、麻痺が響いて完全には躱しきれず、チリリと焦げ跡が目立ち始めた。
 
 体力が消耗してゆく。
 精神がすり減ってゆく。

 折れぬ意志、欠けぬ理念。
 磨き上げられた宝石のように、硬く美しく。
 互いの掲げる輝きを、これでもかと見せつけ合う。

「がんばれ、ピカ──!!」
「っ、…………!」

 そこにいるのは、王者ではない。
 冠もマントも放り投げて、強敵(ライバル)と競い合う挑戦者。

「ジャローダ────」

 栄光も、過去も、彼らを縛るものは何もない。
 無垢でまっさらな一人の旅人となって、高みを目指す。
 必要なのは知識でも、技術でもなく。
 金剛のように、決して砕けない〝情熱〟。

 口にすることなど、もうないと思っていた。
 今更彼女にそれを言う資格など、ないと思っていた。

 強くならなくちゃ、と。
 そんな呪縛に囚われていた心が、熱に当てられて雪解けるように。
 風に帽子をさらわれた少年は、喉奥を震わせる。
 

 
「────がんばれ!」



 旅人の一声は、鋭く空気を切り裂いて。
 耳にした蛇妃の目には、かつての情景が広がる。

 戦って、負けて、負け越して。
 悔しさに打ち震え、誰にも負けないと臆面もなく宣言する少年を見て。
 その道を共に歩もうと誓う、自分の姿が──そこにいた。

 



909タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:23:48 ID:WfubCnaA0



 彼(トウヤ)が私を選んだ理由は、本当に些細なきっかけだったらしい。

 最初の三匹の中で、私が一番人を怖がっていたから。
 そんな意味のわからない理由に首を傾げていたけれど、彼と旅をする中でなんとなく本心が見えはじめた。

 私は、人と関わるのが怖かった。
 人間というのはポケモンよりもずっと複雑な感情を持っていて、何を考えているのかまるで分からなかったから。
 閉鎖的な世界で閉じこもることを理想としてきた私は、自然と外の世界に対して消極的になっていた。
 きっと彼は、そんな私の気持ちを見抜いていたんだと思う。

 少しでも私を前向きにさせようと。
 少しでも私に世界の広さを教えようと。
 途方もない旅の相棒として、選んだのだろう。

『ねぇ、ツタージャ』
『ジャァ?』

 何気ない会話。
 まだ彼の手持ちが私を含めて三匹しかいない頃。
 苦手なむしタイプで固めたヒウンジムのジムリーダーに、それは見事に返り討ちにされた時の記憶。
 私たちは、夕陽のよく見える丘にいた。

『ごめんね。君を勝たせられなくて』

 彼の気持ちは、分からなかった。
 負けて悔しいのは、誰よりも彼自身のはずなのに。
 口癖のように「ごめんね」と口にする彼が何を考えているのか、理解できなかった。

 けれど思い返してみれば。
 それが私の、行動理念だったのかもしれない。

『ツタージャ。ボクはね、一番にならなくてもいいと思ってたんだ』

 ぽつりと、帽子を深く被り直してトウヤが言う。
 いきなり何を言い出すんだと、訝しげな視線を向けた覚えがある。
 そうするとトウヤは少しだけ微笑んで、思い返すように目を閉じた。

『ベルもチェレンも、一緒に一歩を踏み出したから。ボクだけが先を歩く必要もないかな……なんて、そんな風に考えてたんだよ』

 知ってる。
 その光景は、ボール越しに見ていた。
 きっとそれはベルが選んだミジュマルも、チェレンが選んだポカブも同じだったはずだ。

『けれど、ね。ボクはボクが思っていたよりも、ずっと負けず嫌いだったみたいだ』

 夕陽に照らされた彼の顔が、儚げに映る。
 眉尻を下げて、唇を震わせる彼はとても悔しそうで、私はなぜだかそれを見るのが嫌だった。

『負けてもいいだなんて、そんな中途半端な気持ち……ベルもチェレンも持ってない』

 いや、きっと彼が悔しいのは。
 バトルに負けたことじゃなくて、それを受け入れていた自分自身なのだろう。
 物事を俯瞰的に見てしまう〝れいせい〟な性格だからこそ、断片的に彼の感情を読み取れてしまう。

『それに気付かせてくれたのはキミだ。ありがとう、ツタージャ』
 
 ひどく穏やかに、そう微笑むトウヤ。
 橙色の光源が横に差し、彼の顔に明暗がくっきりと浮き上がる。
 私は、控えめに頷くことしか出来なかった。


 ────うそつき。


 どうしてだろう。
 人の考えなんて、まるで分からないのに。
 私はなぜだか、トウヤの心だけは読むことができた。

910タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:24:19 ID:WfubCnaA0

 トウヤは嘘をついていた。
 まるっきりの出任せではないけど、彼が勝ちに拘るようになったのはそれだけの理由じゃない。
 本当の理由は、私にあった。

『ジャ、ァ…………』

 負けず嫌いだったのは、私。
 プライドが高くて、高飛車で、身の丈に見合わない自信に満ちていた私は。
 敗北という屈辱に耐えられなかった。
 トウヤはそんな私の性格を、誰よりも先に見抜いていたんだ。

 彼は、私よりずっと冷静だった。
 可能な限り私を傷つけないように、優しい嘘を吐き続けて。
 がむしゃらに、だけど的確に。勝利を得るため成長を遂げていった。

 ────ねぇ、トウヤ。
 ────あなたを変えてしまったのは、他でもない私なの。

 彼から純真さを奪い取ったのは、私だ。
 だからせめてその責任を取ろうとして。強くなるために、努力をした。
 〝勝利〟という結果を過程として、共依存じみた関係を築いていたのかもしれない。

 そんな私が、〝強さ〟に囚われた彼に捨てられることになったなんて。
 皮肉な話だけど、自業自得だ。
 だから私は運命に呪いをかけて、蓋をして、彼の操り人形となることで自身を保とうとした。

 なのに。
 それなのに。

 どうして今になって。
 がんばれだなんて言うの。


 勘違いしてしまう。
 自分は人形ではなく、彼のパートナーなのだと。
 そんなことを思う資格なんてないはずなのに、心のどこかで喜んでしまう。

 ああ、本当に。
 彼はなんて残酷なんだろう。
 女心を弄ぶなんて、ひどい人だ。

 けれど、トウヤ。
 私はきっと、そんな貴方のことが────





911タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:25:03 ID:WfubCnaA0



 翠色の尾が斜めに這う。
 地を抉り、目眩しとなった砂埃にピカチュウは反応が遅れて直撃。
 それは間違いなく、これまでジャローダが見せた中で最も冴え渡る一撃であった。

「ピカ!!」
 
 レッドの呼び掛けに応じ、空中で体勢を整えるピカチュウ。
 ダメージを感じさせない強気な顔で振り向いて、にやりと笑ってみせる。
 まだまだやれるぞ、と。そう伝えるように。

「行けるよな、ピカ」

 相棒の意図を汲み取り、レッドが笑う。
 対してピカチュウは、頬にバチバチと電気を走らせながら頷く。

「ジャローダ」

 名を呼ばれたジャローダは、横顔を見せる。
 紅蓮の目線はぎこちなく空を彷徨い、少ししてトウヤの目を見た。
 僅かに緊張と期待の入り交じった面持ちを浮かべて、耳を澄ます。

「いい攻撃だったよ、その調子で勝とう」

 高貴なる蛇妃は、不意に心が軽くなる。
 ひどく久方ぶりな感覚だ。緩む口元が彼女の抱くモノを物語る。

 ピカチュウは、折れない。
 レッドという少年を心から信頼しているからこそ、自分が折れてはならないと理解しているのだ。
 そしてそれは、ジャローダも同様に。
 違う点があるとすれば、彼女が折れない理由はトウヤへの信頼というよりも、過去への贖罪のためといえる。

 金剛のように砕けぬ意志が相手ならば。
 静かなる海底で目覚めを待つ、真珠の如き理念をもって応えよう。

「ピカ、ボルテッカー!!」
「ジャローダ、かわしてリーフブレード!」

 まるで落雷が水平に落ちたような白い輝き。
 その源となる小柄な身体は、触れるだけで勝負を決しかねないパワーを秘める。
 全身全霊で回避を試みるも、麻痺によって機動力の落ちた今完全に躱しきれず皮膚を掠めた。

 迸る激痛と熱に顔を歪ませる。
 気品さなど感じられない必死の形相。
 しかしここには、それを嗤う者など一人としていない。

「ジャ、ァ……ッ!」
「ピ、カ……!?」

 返しのリーフブレード。
 ピカチュウの前脚を掠め取り、苦悶の声を上げさせる。
 即座に反応してみせたが決して浅くはない。
 ジャローダほどでは無いにせよ、自由が利かない身体では闇雲な突撃は無謀。

 一度距離を取り、互いに数歩分の猶予を残して相克する。
 片や稲妻を頬に、片や翠風を尾に。
 可視化出来るほど凝縮された力を溜め込んで、主人へ目配せをする。

 いつでもいけるぞ、と。
 それを汲み取れないほど、彼らの築いた関係は浅くない。


「ピカ、十万ボルト!」
「ジャローダ、リーフストーム!」


 疾風迅雷、とはまさにこの光景。
 高密度のエネルギーが塊となり、衝突。

 迸る稲光、荒れ狂う烈風。
 あれほど圧倒的とも思えたリーフストームの破壊力も、二段階の威力低下を経て電撃を喰らうことを許されない。

 拮抗はほんの一瞬。
 異なる属性による最高峰のせめぎ合いは、爆発という結末で終わりを告げる。
 爆風に晒されて勢いよく吹き飛ばされる二匹の身体。
 二匹は鏡写しのように同時に宙返り、体勢を立て直した。

912タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:25:40 ID:WfubCnaA0

「ピカ、もう少しだ! がんばれ!!」
「ジャローダ、油断するな! 冷静に勝ちに行こう!」

 決着が近い。
 互いにそれを悟ったトウヤとレッドは、激励を飛ばす。
 ここまで来ればいい加減、もう読み合い云々ではなく、相手の考え方も分かってくる。
 良き理解者であり、良き強敵(ライバル)だからこそ────全力で受け止めてくれるだろうと、信頼していた。
 
「ピカ──」
「ジャローダ──」

 恐らくは、これで決まる。
 互いの体力量を見る限り、これを当てた者が勝利すると確信する。
 これまでに培われた絶対的な経験と洞察力は嘘をつかない。

「──……、……」
「トウヤ…………」

 空気が歪む程の圧に当てられる観客席。
 イレブンとベルも、激闘の終わりを感じ取り固唾を呑む。
 一言も声を出せず、一瞬足りとも目を離すことも許されなかった戦い。
 それが今、終わろうとしている。


「────ボルテッカー!」
「────リーフブレード!」


 稲妻のようなジグザグ走行。
 並のスポーツカーを遥かに越える神速もしかし、前脚の傷により不完全。
 しかし条件はジャローダも同等。
 麻痺により回避が困難な今、衝突の直前を見極めて居合を放つしか道はない。

 交錯は刹那。
 コンマ数秒のズレも許されない、シビアなカウンター。
 糸のようにか細く薄い勝機を、手繰り寄せんと決死を尽くす。


 電撃が迫る、まだ遠い。
 電撃が迫る、まだ遠い。
 電撃が迫る、もう少し。
 電撃が迫る、今だ。


 刀が振るわれる。
 あまりに静かに放たれたそれは、音さえ切り裂いたのではないかと錯覚させた。
 交錯が終わり、二匹は互いの傍を過ぎる。
 喧騒に溢れていたはずの中庭を、静寂がしんと呑み込んだ。

913タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:26:27 ID:WfubCnaA0




 勝負を制したのは。
 ジャローダであった。




「ピカ……っ、……!!」

 
 無音を打ち消したのは、レッドの悲痛な声。
 慣性に則った減速の後に倒れ伏すピカチュウの身体には、流れるような一筋の傷が刻まれていた。

 対するジャローダは。
 振り返り、ピカチュウからトウヤへと視線を移す。
 その顔は果たして、勝利の余韻に浸るわけでも達成感に満ち溢れるわけでもなく。
 実感の追いつかないような、戸惑いが滲んでいた。

「…………オレの勝ちです、レッドさん」

 そんな彼女を後押しするかのように、そう告げる。

 紙一重の勝利だった。
 一つでも違っていれば、負けていたのは自分だった。
 けれどこの瞬間をもって、バトルを制したのは間違いなく自分なのだと。

「何言ってんだよ」

 そんな〝間違い〟は、呆気なく否定される。

「まだ、勝負は終わってないだろ」

 何を、と。
 口にするよりも先に、鋭い悪寒が背筋を捉える。

「そんな、……ばかな……!」

 トウヤの視線はレッドからピカチュウへ。
 瞬間、彼の瞳は有り得ないものを見るかのように大きく見開かれた。

 ボロボロの体で、今にも倒れそうになりながら。
 それでも燃え上がる闘志を隠そうともせずに、瞳の奥に炎を宿して。


 ────ピカチュウは、立っていた。


 耐えるはずがない。
 残り体力から見て、リーフブレードを受け切ることなど不可能だったはずだ。
 幾千幾万の戦いを乗り越えて、対象のステータスを数値化するほどの慧眼を持つトウヤだからこそ、断言できる。

914タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:27:25 ID:WfubCnaA0



 どこかの悪の首領が言った。
 

 ────君は、とても大事にポケモンを育てているな。


 その時に見せた表情は。
 威厳と風格に、一抹の寂寥を交えたような複雑さを持っていて。
 どこか遠くに置いてきてしまったモノを見遣るような双眸が、忘れられなかった。
 

 ────そんな子供に、私の考えはとても理解できないだろう。


 確かにそうだ。
 俺はその男の思想を、理解出来なかった。
 どうしてポケモンを悪事に使うのか。どうしてポケモンを世界征服の道具にするのか。

 時に笑い、時に泣き、時に喧嘩し、時に仲直り。
 俺にとってポケモンは、かけがえのない仲間だと思っていたから。
 彼らと共に足並みを揃えることこそ、最高のポケモンマスターだと信じていたから。
 何故みんなその光を目指さないんだろう、なんて。子供だった俺は心から不思議だった。


 けれど、今思えば。
 その男もきっと、目指していたんだ。


 夢の果てへ進み続けて。
 躓いては立ち上がり、遂に手の届く所まで来た頃には。
 眩い光に当てられた世界に生まれた、影の部分に染められてしまった。

 皆が皆、幸せでいられる世界になればいい。
 そんな綺麗事を吐くだけでは、理不尽に涙する人も、ポケモンも、救えない。
 だからあの男はきっと、〝光〟でいることをやめてしまったんだと思う。

 あいつはきっと、理解して欲しくなんかなかったんだろう。
 けれど今なら、少しだけ理解出来てしまう。
 あの男とトウヤは、同じ目をしていたから。


 だったら、もう一度教えてやる。
 忘れていたなら、呼び覚ましてやる。

 どんなに世界が残酷でも。
 どんなに世界が不平等でも。

 仲間と過ごした時間は、築き上げた絆は。
 そんな闇なんて切り払う、強大な光になるんだってことを。
 あの時俺達が過ごした時間は、何にも負けない力になるんだってことを。
 


 なあ、そうだろ?



 ────トウヤ。






915タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:28:12 ID:WfubCnaA0



 おかしな話だった。

 あれほど忌避していた敗北に直面したというのに、心はこんなにも晴れやかなんて。
 ゆっくりと倒れ伏すジャローダをボールに戻し、トウヤは空を仰ぐ。
 彼の心情を表すかのような晴天。
 雲の隙間から顔を覗かせる太陽が、勝者を照らし出す。

「やった……! やったぞ、ピカ! ありがとう、よく頑張ったなピカ!!」

 満身創痍のピカチュウを抱きかかえ、惜しみない賞賛を送るレッド。
 力なく声を上げ、嬉しそうに笑顔を見せるピカチュウがレッドへ頬を擦り寄せる。
 その光景はまさしく、旅立ちから間もない無垢な少年の姿そのものであった。

(…………眩しいな)

 自分もかつては、こんな風に映っていたのかもしれない。
 けれどすっかりくすんでしまって、汚れてしまって。輝きはとうに失ってしまった。
 だというのにこうして食い入るようにレッドの姿を見つめている理由は、未練と言う他ない。

「レッドさん」

 だからこそ。
 心の奥底に仕舞い込み、見ないふりを続けてきたそれを気が付かせてくれたチャンピオンに。
 昔の自分を着せて、向き合わなければならない。

「トウヤ……」
「ありがとうございました。……とても、強かったです」

 目線を向けるレッドは、最初こそ憂慮の色を覗かせていた。
 けれど憑き物が落ちたかのようなトウヤの顔を見て、すぐに喜色が滲む。
 ゆっくり休め、と。傍らの相棒をボールに戻して、黒髪を靡かせるレッドが顔を向けた。

「俺も同じ気持ちさ! あんなに緊張感のあるバトル、本当に久しぶりだったよ!」
「こちらもです。…………レッドさん、あなたには一つ訂正しなければいけませんね」

 深く、息を吸う。
 肺に送り込まれる新鮮な空気が、乱れた思考をリセットする。
 トウヤの眼差しに当てられて、レッドもまた真剣味を乗せた面持ちを見せた。

「思い入れや愛着なんて、力にならないと思っていた」

 思い返す。
 旅を共にしてきた仲間の数々。
 勝利や敗北に一喜一憂していた、あの日々の記憶。

「けれどそれは言い訳でした。どんなに大切に育てても、負けてしまったら思い出が否定されてしまいそうだから……いつの間にか、自らそう言い聞かせていたんです」

 普段の声色よりも幾分かトーンを落として、贖罪を綴る。
 ぽつりぽつりと、自らそれを絞り出すことがいかに苦難を伴うのか。
 年頃もそう変わらないはずなのに、まるで彼の心境を知るかのように見届けるレッドの姿は、ひどく大人びて見えた。

916タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:28:39 ID:WfubCnaA0

「ありがとうございます、レッドさん」
「へへ、……どういたしまして!」

 差し伸べた手は、トウヤから。
 レッドはこれを握り、屈託のない笑顔を返す。

「トウヤ! レッドさん!」

 と、慌てた様子で駆け寄る金髪の少女。
 しかし表情には安堵の色が濃く浮かび、付き添うサラサラヘアーの青年も、緊張を交えながらも同様に警戒はない。

「ベル……久し振りだね」
「ねえねえトウヤ! さっきのバトルすごかったよ! いつの間にあんなに強くなったの!?」
「イレブンさん、黙って出てきてごめん!」
「いえ…………僕も、止められなかったので……」

 もうここに、敵意を持つ者はいない。
 誰かを殺すためではなく、矜恃と意思を持った死闘を経て。
 荒れた中庭を舞台に、四人の演者が宴を取り囲む。
 張り詰めた糸は弛み、ささやかな安らぎをこの場にもたらした。


 ──なにをしていたんだろう。


 トウヤはこれまでの半日を思い返す。
 ひたすらに戦いを求めて、飢えを凌ごうとして。
 大切なものを見落としていたのかもしれない、と。ベルの顔を見て思う。
 チェレンの死を悼むこともせず、取り憑かれたように命のやりとりに身を馳せて。
 本当に、愚かだったと思う。

 もしも赦されるのならば。
 もう一度、一歩を踏み出してみてもいいかもしれない。
 チェレンの無念を晴らす為に、ベルやレッド達と一緒に────

「トウヤっ!」
「っ…………え、……」

 その瞬間。
 レッドに視線を向けたと同時、トウヤの身体が突き飛ばされる。
 無防備に尻餅をついて、顔を上げれば。
 

「なん、で」


 突如、二階の窓から蒼い光線が放たれる。
 激流伴う瀑布を嘲笑うかの如き勢いで放たれたそれは、荒れ狂う津波を凝縮したかのようで。

 狙い澄まされた砲撃は、トウヤの居た場所を貫く。
 その矛先にあったレッドの胸には、大きな風穴が空いていた。

 



917タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:29:00 ID:WfubCnaA0



 長い長い 旅の途中にいても
 数え切れぬ バトル思い出せば
 時空を超えて 僕らは会える
 まぶしい みんなの顔

 イエイ・イエイ・イエイ・イエ!

 まだまだ未熟 毎日が修行
 勝っても負けても 最後は握手さ
 なつきチェッカー ごめんねゼロ
 ホントに CRY CRY クライネ!

 きらめく瞳 ダイヤかパール
 まずは手始め クイックボール!
 マルチバトルで バッチリキメたら
 GOOD GOOD SMILE!

 もっと GOOD GOOD SMILE!





918タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:30:03 ID:WfubCnaA0
︎◾︎










『────トウヤ、難しいね。自分と向き合うのは。
 自分のイヤなところや、嫌いな部分ばかり目につくよ』
             
             

             ──カノコタウン、チェレン









◾︎

919タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:30:48 ID:WfubCnaA0



 何が起きたのか分からなかった。
 困惑に置き去られた少年と少女は、崩れ落ちるレッドの姿を見て呆然と立ち尽くす。

「ベホマ!!」

 一番最初に動いたのはイレブンだった。
 レッドの身体を優しい光が包み込むが、焼け石に水。
 胸に空いた穴は塞がらず、中途半端な再生が止血だけを施した。

 誰がどう見ても致命傷。
 喉奥から迫り上がる血液に噎せ返り、痛々しく痙攣する彼の姿にトウヤは正気を取り戻す。

「えっ、え…………レッド、さ……ん…………?」
「ベルはここにいて! あなたはここをお願いします!」

 今にも崩れてしまいそうなベルの肩に手を置き、レッドを治療する青年の方へ視線を向ける。
 それを受けたイレブンは大きく頷き、周辺への警戒を最大限に引き上げた。

(今のはハイドロカノン……! 方角は、あそこか……!)

 先程の奇襲────ハイドロカノン。
 襲撃者はバトルが終わったあのタイミングで、トウヤだけを狙っていたように見えた。
 心臓を這う悪寒が、襲撃者の輪郭を朧げに映し出す。
 よりにもよってこの城、そして自分を強く恨む人物など察せない方がおかしい。
 レッドの手から零れ落ちたボールを手に取り、激流の放たれた方角へ走り出す。

「トウヤっ! 待って、行かないで……!」

 と、背中をベルの声が叩いた。
 悲痛な少女の声に、ほんの少しだけ次の一歩を躊躇い、けれどまた踏み出す。

 本当は、戻るべきなのかもしれない。
 チェレンを喪い、最後の幼馴染が危険に立ち向かう姿など見たくないはずだ。
 もう誰も喪いたくないと、たとえ極悪人を前にしても平気でそう言いのけるだろう。

「ごめん、ベル」

 けれど、トウヤは違う。
 あの神聖なる戦いに、文字通り水を差した〝悪人〟を許すことなど出来ない。
 自分とレッドが築き上げた誇りを、栄華を穢しておいて、むざむざと逃げ果せようとする悪を看過できない。

「トウヤっ! トウヤぁぁっ!」

 泣き崩れるベルの身体を支え、イレブンがトウヤの背中を見送る。
 その傍では数刻の猶予も残されていないレッドが、失った胸の上下運動を繰り返していた。

「…………、ぁ…………」
「え……?」

 重い息衝きに交じり、レッドが懸命に言葉を紡ごうとしている。
 もはや意味は無いと知りながらもベホマで苦痛を取り去り、イレブンは静かに耳を貸す。

 一つの単語を紡ぐのに、数秒。
 掠れた砂嵐のような声色は、彼に遺された時間を物語る。
 それでも魔力の消耗を省みず、イレブンは懸命に治療を重ねて、紡がれる言葉を拾い上げる。

920タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:31:29 ID:WfubCnaA0


 ────〝あいつを、助けてやってくれ。〟


 たったそれだけを言い残して。
 助けを乞う訳でもなく、心残りを託して。
 赤い焔は、音もなく掻き消えた。


「…………レッド、さん……」


 薄く見開かれた目元から、光が失われる。
 熱が落ちてゆくレッドの身体へ、未だ現実を受け止め切れないベルは縋り付く。
 もう一度目を覚ましてくれるのではないか、と。子供でも分かる現実に目を逸らして。

「うあ、あぁ……っ! う、あぁ……!」

 甲高い嗚咽をかき鳴らして、みっともなく泣き散らして。
 年端もいかぬ少女は、醜い現実に打ちのめされる。

「…………ベル」

 イレブンは、何も言えない。
 自分が何かを言ったところで、彼女の心を救うには酷く足りないだろう。
 穴の空いたバケツに水を注ぐように、まるで気休めにもならないとわかっているから、イレブンは立ち尽くすことしか出来ない。
 無念に満ちたレッドと目が合って、その目を閉じる最中──初めて、自分の手が震えていることに気がついた。

「イレブン」

 どれだけの時間が経っただろうか。
 涙も乾き切らない内に、ベルが口を開く。
 
「あたし、トウヤを追う」
「え……、……」

 飛び出した宣告に、イレブンは言葉を失った。
 そう、言葉が出なかった。
 本来であれば制止しなければならないのに、それすらも出てこなかったのだ。

 何故なのか、イレブン自身でも分からない。
 奇しくもその理由は、ベルの口から代弁される形となる。

「トウヤまで、喪いたくないから……!」

 そうだ。
 イレブンは、ベルの気持ちが分かってしまう。
 幼馴染が、仲間が、友人が、手の届く場所で散っていく残酷さを、イレブンはよく知っている。

 一度そうなってしまえば最後。
 どんな言葉を投げられたところで、自分を呪わなければ生きていけなくなる。
 無力な自分を心の底から嫌いになって、そんな己を騙す為になにかを成そうとする。

 それがいかに無謀でも、危険でも。
 自分がああしていればという後悔から目を逸らすために、自分を怨み傷つける。

(…………これじゃあ、まるで……)

 イレブンが〝呪い〟を掛けられたのも、あの時からだった。
 ウルノーガの手によって故郷が滅び、幼馴染のエマや家族たちが行方不明となったあの日。

 自分が故郷に残っていれば。
 デルカダール王を疑っていれば。
 もしかしたら、エマ達を助けられたかもしれない。

 そんな風に思う内に、自分を呪うようになった。
 勇者という重荷を背負うには、あまりにも無知で無力で。期待の眼差しを向けられるより、罵倒を浴びせられていた方がずっと楽だった。

 ああ、はずかしい。
 何も出来ず、誰も守れない自分が。
 どうしようもなくはずかしくて、憎かった。

「待って、ベル──!」

 そして、こうしてベルが走り出すのを止められない今も。
 レッドを喪って傷心する彼女へ、〝大丈夫〟とひと声かけることも出来ない自分が。
 
 狡猾な悪意に苛まれて、身勝手な善意に溺れて。
 何をするにも、自分の意思では動けずに責任を撮ろうとしない。
 卑屈と躊躇いに囚われて、常に後ろを歩こうとする自分が。

 はずかしくて、堪らなかった。



◾︎

921タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:32:23 ID:WfubCnaA0



「カメックス! 何をしているのです! さっさと戻りなさいッ!」

 二階の一室、ゲーチスの叫びが木霊する。
 彼の手持ちであり、レッドを殺害した下手人──カメックスは、目一杯の咆哮と共に暴れ狂っていた。
 ボールに戻そうと奮闘しようにも、床や壁を砕き暴れる巨体を前にすればロクに動けやしない。
 結果ゲーチスは、この部屋で二の足を踏むこととなっていた。

「まずい、ワタクシの計画が……! くそッ! なぜ、なぜ従わないのです!?」

 ゲーチスの計画に不備はなかったはずだ。
 周辺を警戒するという理由で王の間を離れ、手頃な部屋に籠り機を狙う。
 トウヤが消耗したところでカメックスのハイドロカノンで狙撃し、殺害。
 その後カメックスに自身を攻撃させてボールに戻し、襲撃された状況を装ってイレブン達を欺く。

 カメックスという手持ちが誰にもバレていないこと。
 イレブン達を救出したことで彼らの信頼を得ていること。
 移動ルートを熟知している城であること。
 この好条件を踏まえて、ゲーチスの作戦はかなり分のある賭けだった。

 しかし、ただ一点。
 不測の事態が全ての歯車を狂わせた。

(あのレッドという子供は、なぜトウヤを庇ったのですか……!?)

 不可解だった。
 自身の命を捨てて他人を救うなど、理解不能の自殺行為。
 レッドが異常者であるという一言で片付けてしまえばそれまでだが、そもそもとして疑問はそれだけではない。
 なぜレッドはあの奇襲を察知できたのか──破綻の終着点はそこにある。

(仕方がない、ギギギアルを使って一度戦闘不能に……)

 いくら考えたところで目前の問題は解消しない。
 〝なぜか〟自分に従わないカメックスを落ち着かせるためにギギギアルを繰り出し、十万ボルトを浴びせようとして。

「っ、……誰だ!?」

 蝶番の軋む音と共に、扉が開く。
 目を向ければそこには、幼くしてイッシュのチャンピオンとなった少年が佇んでいた。

「トウヤ…………!!」
「やっぱり貴方だったんですね、ゲーチスさん……いや、ゲーチス」
 
 体躯に見合わない重圧を伴う威容。
 思わず後ずさりそうになる片足を抑えて、冷静に状況を鑑みる。
 戦力分析を終えたゲーチスは両腕を広げ、高らかな哄笑を響かせた。

「フフ、ハハハハハ……! お前一人で何をしに来たのです!? もう手持ちのいないお前に! 何ができる!?」

 なにも焦ることはない。
 今のトウヤはレッドとの戦いに敗れ、戦えるポケモンがいないはずだ。
 対してこちらはカメックスとギギギアルの二匹を従えている。生身の人間が太刀打ちできる戦力ではない。

 トウヤは顔を俯かせて、手を挙げる。
 降参宣言かと嗤ってやろうとして、彼の手に視線をやったゲーチスの目が見開く。
 その手には、赤と白のボールが握られていた。

「────力を貸してくれ、ピカ」

 重力に従い、ボールが地に落ちる。
 少し転がった後に勢いよく上下に開き、赤い閃光が前方の床へ飛散。
 眩い光と共に顕現したポケモン──ピカチュウは、はち切れんばかりの怒りと哀しみを投影させて、ゲーチスを睨む。

922タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:33:18 ID:WfubCnaA0

「…………ハッ」

 なにが来るのかと思えば、と。
 身構えたことが馬鹿馬鹿しくなり、ゲーチスは嘲笑を飛ばす。

「そんな瀕死の雑魚一匹でどうするつもりです?」

 ゲーチスの言う通り、ピカチュウはもう戦える状態ではない。
 既に越えている限界を、気合い一つで持ちこたえている状態だ。
 かすり傷一つで意識が刈られる状態だというのに、それでも尚立ち上がる原動力は、仇敵への怨みに他ならない。

「見なさい、この戦力差を! そんなネズミ一匹で勝てるわけがない!」

 しかし、非情な現実は変わらない。
 威圧感を纏って佇むカメックスとギギギアルは、明確な敵意をその身に纏う。
 たとえ天地がひっくり返っても勝ちは揺るがない。
 多少計画は狂ったが、ここで始末する。

 そう、本気で思っていたのに。

「憐れだな、ゲーチス。お前もNのようにポケモンの言葉が分かれば、この計画も遂行出来たかもしれないのに」
「なに……!?」

 他愛もない挑発。
 しかしその真意を汲むよりも早く、ゲーチスの頭は綿が詰められたかのように真っ白に染め上げられた。

 自分があのN(バケモノ)と比べられ、あろうことか同情された。
 捨てきれないプライドに罅が入り、激情が理性を上回る。

 もはや言葉の応酬など付き合うことない。
 崇高な自身を見下した罪を、その身で償わせてやろう。

「「カメックス!」」

 名を呼んだのは同時。
 なぜトウヤが敵の手持ちであるカメックスに呼びかけたのか。
 駆け抜ける疑問に無視を決め込んで、ゲーチスは指示を飛ばす。

「ハイドロカノ──」
「そんなやつに従う必要なんてない!」

 ゲーチスの攻撃指示が掻き消される。
 トウヤは最初からゲーチスなど眼中になく、なにかに抗おうと悶え苦しむカメックスにだけ意識を向けていた。

「なにをし──」
「そいつは、レッドさんの仇なんだ!!」

 耳奥をつんざく叫び。
 それを聞き届けたカメックスは、ハッと目を見開く。
 まさか、と。今更になってトウヤの意図に気がついたゲーチスは、顔面を歪ませて焦燥を顕にする。

「カメック──」
「呑み込まれるなカメックス! 自分がどうするべきなのか、よく考えるんだ!」

 そう、最初から。
 トウヤは気がついていたのだ。
 なぜレッドはあの時、はるか遠くにいるはずのカメックスの存在に気がついたのか。
 その答えは、実に単純であった。

 この部屋に入ったその瞬間から、じたばたと暴れ狂うカメックスの瞳を見て。
 まるてなにかを訴えるかのような、悲痛な叫びを聞いて。
 トウヤは確信した。

 ────カメックスは、レッドの〝仲間〟なのだと。

 ゲーチスはとんだ思い違いをしていた。
 レッドがトウヤを庇ったことが、筋書きを狂わせた最大の〝不運〟だと思っていた。

 けれど違う。
 ゲーチスは、一度たりとも〝幸運〟であったことなどない。
 レッドの長い旅路を共にしてきたカメックスを、この計画に利用した時点で。
 一人劇に勤しむ憐れな道化の目論見は、破綻していたのだ。

923タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:34:10 ID:WfubCnaA0

「ガァァ……メェ……!!」

 そこには幸運も不運もない。
 あるのは、積み重ねた悪事への報いだけ。
 ポケモンを己の為に利用し、絆や愛情など持ち合わせず、Nのように心を通い合わせる事も出来なかった男の末路。

 空気が震える。
 悪の総帥は、あまりの悪寒に総毛立つ。
 己を護る双璧の片方が、音を立てて倒壊したような錯覚に陥って。

「ガァァメェェェエエエ────ッ!!」

 噴き出す水流が天井を打ち崩す。
 制限を越えた一度きりの〝抵抗〟により、天井の一部が瓦礫となって崩落した。
 咄嗟に腕で顔を覆うゲーチスは、自身へ接近するトウヤへの反応が送れた。

「が、…………っ!?」

 振り翳されるモンキーレンチ。
 飛び込む形ですれ違いざまに放たれた横薙ぎが、ゲーチスの頭を撃ち抜いた。
 歪な音を聞きながら、勢いよく床へと背中を打ち付けられるゲーチス。
 朧げな視界に追撃を仕掛けるトウヤの姿が見えて、声を張り上げた。

「ぐっ……ギギギアル、……十万ボルト!!」

 迸る稲妻がトウヤの行き先を封じる。
 トウヤは咄嗟に後方へ跳んで躱すが、距離を取らされる。
 額から血を流しながら立ち上がるゲーチスは、充血した瞳でトウヤを睨む。

「許、さん……! このワタクシを、ここまで、コケにしてくれるなど……! そこのネズミ諸共、地獄に落としてくれる!!」

 脳を蝕むような痛みが、逆にゲーチスに冷静さを与える。
 トウヤの肩に乗るピカチュウは動きを見せない。
 当然だ、あの傷では放てる攻撃は精々一撃。トウヤとしても下手な指示は出せないだろう。
 ならばカメックスがおらずとも十分に勝てる──と、未だに藁に縋るゲーチスへ。

「あの、ゲーチスさん……?」

 遂に、幸運の糸が垂れ落ちるかのように。
 歪む扉が開いて、第三の乱入者が現れた。


◾︎


「ベル、来ちゃダメだ!」
「え……っ?」

 位置関係の都合上、扉に一番近いのはゲーチスだ。
 駆け出すトウヤよりもゲーチスの方が早く、無我夢中で少女の身体を絡め取り、背後へ回り込む。
 声を上げる間もなく、華奢な首筋には隠し持っていたガラスの破片があてがわれた。

「ひ、……っ!?」
「動くなッ! 動けばこの子供を殺す!」

 ──形勢逆転。

 予期せぬ事態にトウヤは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ、額に汗を伝わせる。
 追い詰められた今のゲーチスはなにをするか分からない。
 ピカチュウの電撃はベルを巻き込む可能性がある上、頼みのカメックスも再び頭を抱えて苦しんでいる。
 ゲーチスはこちらを視界に捉え、いつでもギギギアルに指示を飛ばせる状態。

「トウ、ヤ…………」
「…………ベル」


 ────何を迷う。


 過去の残影が、トウヤに語りかける。
 そう、人質に取られているのは〝どうでもいい〟と切り捨てたはずの幼馴染。
 レッドの仇を取るという目的を果たす上で障壁となるのなら、今まで通り見捨てればいい。

 一緒に踏み出したはずなのに、自分は遥か先を進んでいて。
 後ろを振り返らなきゃ姿が見えない〝落ちこぼれ〟。
 ひたすらに前を進み、山を登るうちに、遂に影も踏ませなくなった。
 そんな眼中にない存在一人見捨てたところで、自分にはなんの影響もない。



『ねぇ、トウヤ! みんなで一緒に一番道路に踏み出そうよ!』



 ああ、確かにそうしたかもしれない。
 かつての自分なら、きっとそうしただろう。

 けれど今は違う。
 レッドから教えてもらったことは、そうじゃない。
 強さの代償に今まで築き上げた大切なものを切り捨てるなど、あってはならない。

「…………わかった。ベルには、手を出すな」

 警戒をそのままに、トウヤはレンチを手放す。
 肩に乗るピカチュウも同様、頬に走らせていた電気をおさめ忌々しげにゲーチスを睨む。

924タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:34:46 ID:WfubCnaA0

「それでいい……ハハ、まさかこの小娘がこうも役に立つとは…………!」
「っ……、……」

 右腕の中で囚われるベルは、目尻に涙を浮かべてトウヤを見つめる。
 恐怖と戸惑いによって声も出せず、必死になにかを伝えようとしているが届かない。
 しかし命を握られていることよりも、ベルの心を追い詰めているのは。
 彼を助けようと飛び出したのに、逆に彼の足枷となっている状況そのものだった。

「ギギギアル、ラスターカノン!」
「っ…………!」

 銀色の砲弾がトウヤへと向けられる。
 即座に横へ飛んで回避するが、爆風によって壁へ叩きつけられた。
 受け身を取ったとはいえ、疲弊した身体には無視できないダメージだ。
 よろりと立ち上がるトウヤは、服の汚れを払ってゲーチスの前へ。

「おや、外しましたか……ではもう一度、ラスターカノン!」
「────トウヤっ!!」
 
 少しずつ、小動物をいたぶるように。
 かつてバイバニラにされたことの意趣返しをするかの如く、トウヤを痛め付ける。
 衰えぬ反射神経により直撃は避け続けるが、消耗した体力が次第に身体を重くする。
 三発、四発。繰り返される乱撃が、トウヤの肌に生傷を作り上げてゆく。

「────…………はぁ、…………はぁ……」
「ほう、……存外しぶといですねぇ。ですが次で終わりですよ」

 ギギギアルの口元に銀色の粒子が集う。
 容赦のない死刑宣告を受けた囚人はしかし、ギロリと威圧を込めた眼光を飛ばす。

 次弾を躱す余裕はない。
 着弾点が分かっていても、脳内のシミュレーションで直撃している。
 困憊した足が縺れたところを狙い撃ち。
 そんなつまらない終わりが見えて、トウヤは。

「お前は、悲しい人間だ」

 精一杯の強がりを見せた。

「……ギギギアル、ラスターカノン!」

 それに誘われてか否か。
 放たれた光撃は、トウヤの腹部へ突き進み。
 ──ああ、やっぱり。回避を試みたトウヤは、足が縺れて。
 その身体に、衝撃が突き刺さる。

925タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:35:13 ID:WfubCnaA0

 ────はずだった。


「な、──キ、サマ、は……ッ!?」
 

 黄金の一閃が尾を引き、空を裂く。
 音をも遅れて辿り着くかのような、洗練された達人の剣技。
 白昼夢じみた技巧は容易くラスターカノンの炸裂を呑み込み、トウヤの身体には掻き傷一つ見えない。

「ゲーチス、さん」

 呆然と驚愕、それら各々を瞳に乗せて。
 全ての視線が集う部屋の中央に──茶髪の青年が静かに佇む。
 それは地獄に舞い降りた天使の如く場違いで、ひどく空想的だった。

「ベルを……離してください」

 ──〝勇者〟イレブン。
 目前の惨状に抱くのは、激情か哀愁か。
 眉間に皺を寄せ、眉尻を下げながらも全身から滲ませる風格に、一同は息を呑む。
 気弱さなど微塵も感じさせない精悍な顔つきはまさしく、勇者の名に相応しい。


◾︎

926タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:35:50 ID:WfubCnaA0


 遡ること、数分前。
 中庭にてレッドの最期を見届け、ベルがこの場を去ってすぐ──イレブンは人目もはばからず蹲っていた。

「う、──っ、──ぐ、ぅっ…………!」

 蘇るのは、溢れんばかりの後悔と自己嫌悪。
 目の前で誰かを喪うことを恐れる癖に、学びもせず取り返しのつかない失態を犯す男。
 イレブンはその男が嫌いで、嫌いで、大嫌いだった。

 声を押し殺して涙を流す。
 みっともない、情けない、はずかしい。
 頭は夢の中にいるような浮遊感に満ちて、身体は一向に動こうとしてくれない。
 
 ──ああ、またこれだ。
 一体何度これを繰り返せば、本当の〝勇者〟になれるのだろう。

『疑問:イレブンの心的状態』

 その時、無機質な女性の声が鼓膜を撫でる。
 くしゃくしゃに歪んだ顔面を上げればそこには、空中に漂うポッド153がこちらを覗き込んでいた。

「はずかしい……!」
『はずかしい、とは?』
「もう誰も死なせないって、そう誓ったのに……! 結局、それも破って……っ! 今も、足を踏み出せない……!」

 懺悔を絞り出す。
 唯一の告解の相手が神父ではなく、機械という数奇な光景。
 しかしそれでも、誰かに聞いてもらいたくて。
 自分を責めて欲しくて、ぽつぽつと続ける。

「僕は、勇者失格だ……!」

 それがイレブンの〝呪い〟。
 自分を否定することでしか心を保てない、残酷な神からの賜物。
 教会へ行こうとも決して克服出来ないこの呪いは、一生ついて回るだろう。

 ──ああ、はずかしい。はずかしい。

 こんなことをしている間にも、救える命はあるかもしれないのに。
 ベロニカやシルビア、グレイグという勇敢な者たちが死に、自分が〝生きる〟理由は。
 自分よりも彼らが生き残った方が、事態は好転したのではないか──なんて、無意味なたらればすら頭を巡る。

 ──ああ、はずかしい。はずかしい。

 ポッドは何を思うだろうか。
 感情を持ち合わせない機械だから、冷淡で合理的な答えを出すだろうか。
 それでもいい。最初から答えなんて求めていない。
 こんな不甲斐ない自分を叱責して、どうするべきかを指示してくれるのなら。
 
 ──ああ、はずかしい。はず──
 

『構わないではないか』

 え──と、素っ頓狂な声を洩らしてポッドを見る。
 発せられた声色は、普段の無感情なものとはどこか違う。
 どちらかといえば、落ち着き払った大人のような印象を受けた。

『生きるという事は、恥にまみれるという事だ』

 ──その言葉を受けた瞬間。
 イレブンの視界が、鮮明に色を取り戻す。
 空虚で満ちていた頭はまるで花火が上がったように活力を取り戻し、脳が思考を開始する。
 先ほどの鬱屈とした気分が嘘のように、すんなりと身体が起き上がった。

927タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:36:19 ID:WfubCnaA0

「──っ、はは」

 イレブンは思わず笑う。
 言葉一つで立ち上がる単純な自身への自嘲か。
 感情を見せなかったポッドが見せた人間らしさへの戸惑いか。
 そのどちらでもなく。あまりに簡単に示された〝答え〟への呆れに近い。

 ────ああ、そうか。

 自分が求めていたのは、〝否定〟ではなくて。
 ずっと、誰かに〝肯定〟してほしかったんだ。

 勇者だから、完璧であれ。
 勇者だから、正しくあれ。

 正義感と責任感に押し潰されて、自ら作り上げた期待の壁を越えられず。
 力不足を自分一人で抱え込み、自虐の癖を作り上げてしまったイレブンは。
 情けなくて人間臭い弱音を、〝構わない〟と言って欲しかったのだ。

 勇者とは程遠い、気弱で臆病で恥ずかしがり屋な自分を。
 そんな生き方があってもいいじゃないかと──そう、言って欲しかったのだ。

「ありがとう、ポッド」

 自分でも驚くほど、声に震えはなかった。
 七宝のナイフを手に取り、ベルが向かった先の景色を見据える。
 中庭の出入口から見えるロビー。左右に続く階段を右に昇れば、目的地へ辿り着ける。

『回答:どういたしまして』

 ポッドの声は再び機械音へ。
 イレブンは穏やかな微笑みを返し、転じて険しい視線を先刻の光線により割れた窓へ。
 瞬間、両足に力を込めて──ドン、という地鳴りじみた音と共に勇者の姿が消える。
 ぽつんと残されたポッドは一人、世話の焼ける──と、これまた人間らしい台詞を吐いた。


◾︎

928タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:37:21 ID:WfubCnaA0


 大部分の倒壊した一室に、瞬きすら許さない緊張が漂う。
 しかしその圧力が向けられる対象は、ゲーチスただひとり。
 カチカチと震える腕が目の前の青年の危険度を如実に示し出す。
 その風格たるや、かのレシラムにも匹敵するとさえ感じてしまう。

(なんだ、こいつは……!?)

 ゲーチスは、イレブンを知っている。
 山小屋で襲撃されて気絶し、その後の情報交換でもしどろもどろ。
 ベルという少女に引っ張られなければ主体性を持ち合わせない、危険性の低い人物だと認識していた。

 なのに今はどうか。
 まるで自分の知るイレブンとは別物だ。

「ゲーチスさん、お願いです……」

 懇切丁寧に、悲願とも取れる言葉遣い。
 しかし有無を言わさぬ迫力が、ゲーチスの警戒を色濃くさせる。

「あなたを、傷つけたくありません……」

 ──本気で言っているのか、この状況で。
 ゲーチスが彼の正気を疑うのも無理はない。
 ベルという替えの利かない人質を取り、カメックスとギギギアルを従えている有利な状況。
 いつ誰が殺されてもおかしくないのに、なぜ奴は〝自分を〟気に掛けることが出来る?

 侮辱されている。
 ゲーチスがそう結論付けるのに、時間は要さなかった。

「っ、まずい──」

 トウヤが声を上げる。
 ベルの首元に突き付けられた硝子の刃が、薄皮に食い込み赤い雫が落ちる。
 ゲーチスも冷静な判断を下せなくなったのか、人質という優位性に傷を付けてまで〝プライド〟を示そうとした。

「イレブン」

 痛みと恐怖を押し退けて、ゲーチスの腕の中から鈴音のような柔声が鳴る。
 いつ命を取られてもおかしくないのに、ベルは不思議と自信を持てた。

 今のイレブンは、とても頼りになるから。
 まるで絵本の中から飛び出してきた王子様みたいに。
 だから安心して、この台詞を言える。
 ずっと無理に抑え込んできた不安を、言葉にできる。



「────助けてっ!!」



 一瞬の出来事だった。
 細長い影が、宙に舞う。
 未練たらしく硝子の刃を握り締めるそれは。
 他ならぬ、ゲーチスの右腕だった。

「は、──ぇ、ぁ──?」

 疑問、そして激痛。
 獣のような雄叫びを上げながら、ゲーチスは目を剥いて膝から崩れ落ちる。
 綺麗な断面を残して消失した右肘から先。その根元を左手で支え、半狂乱になりながら叫んだ。

「カメックス、ハイドロカノンッ!! ギギギアル、はかいこうせんッ!!」

 降り注ぐ破滅の二重奏。
 青と白の光は、人体が触れればもれなく消滅するほどの破壊力を伴って暴れ狂う。
 慌ててイレブンは解放されたベルを抱きかかえ、屈み込んだ。

「うわっ、──きゃっ──!?」
「っ、──ダメだ、動けない……!」

 ロクに狙いを定められず、滅茶苦茶に放たれる予測不可能な線条はかえって対処が難しい。
 今のゲーチスは正気ではない。もはや一人でも多く殺すことが最優先なのだろう。
 自分一人の捨て身であれば話は別だが、ベルの傍を離れるわけにはいかない。
 かといってこのまま指を咥えて見ていれば、部屋が保たずに倒壊する。

「どう、すれば……!」
 
 と、思考を巡らせるイレブンの傍ら。
 一人の少年が、暴風雨の中を駆け抜ける。
 彼の右肩には、黄色い電気鼠がしがみついていた。

929タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:37:54 ID:WfubCnaA0

「トウ────駄──!」

 ベルの声が、破壊光線の慟哭に掻き消える。
 イレブンも同様に、殺されてしまう──と止めようとして。
 それが杞憂であるのだと、次の光景を見て思い知らされた。

「いけるかい、ピカ」
「ピィィカァ……!」

 少年、トウヤは。
 二つの光線が織り成す超危険地帯を、まるで微風をやり過ごすかのように進み。
 必要最低限の動きで躱し、跳び、舞踏の延長線のようにゲーチスへ距離を詰めてゆく。
 どこから攻撃が来るのか、どう動けば避けれるのか。
 まるで最初から分かっているかのように。

「な、ぜだ……ッ! なぜ、当たらないのです──!?」

 全てのポケモンの技を、癖を熟知しているトウヤにとって。
 狙いもつけずに放たれた攻撃など、当たる方が難しい。

「……本当に、いいんだね」

 瓦礫が頬の傍を通り、一筋の傷を作る。
 その傍らにてしっかりと敵を見据えるピカチュウへ、トウヤは〝最後の〟確認を。
 仇敵からライバルへ。ちらりと向けられる瞳の奥で唸る決意を見て、トウヤはふっ──と笑う。

 ────聞くまでもない。
 そう叱責されているようで、自身の無粋さを省みた。

「この──汚らしいネズミがぁぁッ!!」

 吠えるゲーチス。
 傍らに従えたギギギアルにラスターカノンの指示を飛ばし、接近するトウヤへ照準を定める。
 しかしトウヤは減速せず、寸前で滑り込む形で回避。
 後方からの爆風によってトウヤの身体が前へと投げ出されるが、これすらも〝計算〟の内。

「ピカ────」
 
 トウヤは空中で、抱きかかえていたピカチュウをゲーチスへと放り投げる。
 自由落下の勢いを付けた小柄な身体は、まるで因果律の収束の如く、真っ直ぐに総帥へと猛進して。
 トウヤは、大きく息を吸う。

 
 


「────ボルテッカー!!」



 

 その輝きは、あまりに眩く。
 今まで見せた中で、最も強い彗星となって。
 悪の総帥を、呑み込んだ。

 
 
◾︎

930タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:38:34 ID:WfubCnaA0
 


 決着が、ついた。
 倒壊を食い止められた部屋の中、遺された者にあるのは種々の感情。

「イレブン、っ──! ありっ、がとう……! こわかった、……こわかったよお!」
「ベル……ごめんね。もう、大丈夫だよ」

 部屋の片隅で、子供のように泣きじゃくるベル。
 悍ましい死線を経て、今になって実感と恐怖が湧き上がってきたのだろう。
 彼女の背中を擦るイレブンの目には、どこかやるせなさが映されていた。

「────仇、討てたね。ピカ」

 ゲーチスの遺体の傍にて。
 主を失ったカメックスとギギギアルをボールに戻し終えたトウヤ。
 やり遂げたような、誇らしげな顔のまま眠りにつくピカチュウの頭を撫でる。
 ボルテッカーの反動により、限界を迎えたピカチュウの身体は徐々に熱を失い始めていた。

 悪意の連鎖は、断ち切られた。
 その犠牲は、決して小さくはないけれど。
 長き戦いの末に得たものは、彼らにとって大きな一歩となる。

「トウヤ、少し……変わったね」

 やがて、暫くして。
 イレブンの腕の中で、目を腫らしたままベルがそう問いかける。
 含まれた感情は幼馴染の成長の喜びと、一抹の寂しさ。

「……ああ」

 トウヤは、過去に想いを馳せる。
 本当に、本当に色んなことを思い返して。
 穴の空いた天井へ手を伸ばし、忘れていた〝善意〟を掴み取る。




「────呪いが、解けたんだ」






【レッド@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー 死亡確認】
【ピカ@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー 死亡確認】
【ゲーチス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト 死亡確認】
【残り36名】





931タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:39:12 ID:WfubCnaA0



 終わらない道
 終わらない 出会いの旅
 終わって 欲しいのは
 この ドギマギ! 

 それでも なんとなく
 気づいているのかな おれたち
 そう 友だちのはじまり!

 ありがちな話
 最初どこか 作り笑い
 でも すぐホントの 笑顔でいっぱい!

 風よ運んで
 おれのこの声 おれのこの想い
 はるかな町の あのひとに

 ──〝おれは大丈夫!〟
 ──〝めっちゃ大丈夫!〟
 ──〝ひとりじゃないから〟
 ──〝仲間がいるから大丈夫!〟





932タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:40:04 ID:WfubCnaA0

【全体備考】
※ゲーチスの基本支給品、 【雪歩のスコップ@アイマス+マテリア(ふうじる)@FF7】、【モンスターボール(空)】はゲーチスの遺体の傍で放置されています。
※ピカチュウの死亡により、モンスターボールが空になりました。現在はトウヤが所持しています。

【C-2/Nの城 二階の一室/一日目 午後】
【イレブン@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:疲労(中)、MP3/5
[装備]:七宝のナイフ@ブレワイ、豪傑の腕輪@DQ11
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1個、呪いを解けるものではない)、アンティークダガー@GTA、ブルーオーブ@DQ11、ポッド153@ニーア、モンスターボール(オーダイル)@ポケモンHGSS
[思考・状況]
基本行動方針:ウルノーガを倒す。
1.トウヤと話をする。
2.ブルー以外の他のオーブを探す。
3.ひとまずNの城を拠点にする。

※ニズゼルファ撃破後からの参戦です。
※エマとの結婚はまだしていません。
※ポケモン世界の情報を得ました。
※恥ずかしい呪いを克服しました。

【ベル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:疲労(中)、気疲れ(大)
[装備]:ランラン(ランタンこぞう)@DQ11
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:チェレンの死を受け止め、歩き出す。
1.イレブンとトウヤについていく。
2.ポカポカ(ポカブ)を探す。
3.レッドさん……。

※1番道路に踏み出す直前からの参戦です。
※ドラクエ世界の情報を得ました。

【トウヤ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:全身に切り傷と打ち身、ダメージ(中)、疲労(大)
[装備]:モンスターボール(オノノクス)@ポケモンBW、モンスターボール(ジャローダ)@ポケモンBW、モンスターボール(空)@ポケモンHGSS、チタン製レンチ@ペルソナ4  
[道具]:基本支給品、モンスターボール(空)@ポケモンBW、モンスターボール(カメックス)@ポケモンHGSS、モンスターボール(ギギギアル)@ポケモンBW、カイムの剣@DOD、煙草@MGS2、スーパーリング@ドラクエⅪ
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.オレは──……。

※チャンピオン撃破後からの参戦です。
※全てのポケモンの急所、弱点、癖、技を熟知しています。

933タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:40:27 ID:WfubCnaA0

【モンスター状態表】
【ランラン(ランタンこぞう)@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:MP消費(小)
[持ち物]:なし
[わざ]:メラ・ギラ・メラミ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルについていく
1.ベルに褒められて嬉しい。

※トレバーとの戦闘を経てレベルアップしました。

【ポッド153@NieR:Automata】
[状態]:健康
[持ち物]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:???

※Eエンド後からの参戦です。

【オノノクス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト ♀】
[状態]:ひんし
[特性]:かたやぶり
[持ち物]:なし
[わざ]:りゅうのまい、きりさく、ダメおし、ドラゴンテール
[思考・状況]
基本行動方針:トウヤに従う。
1.???

【ジャローダ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト ♀】
[状態]:ひんし
[特性]:しんりょく
[持ち物]:なし
[わざ]:リーフストーム、リーフブレード、アクアテール、つるぎのまい
[思考・状況]
基本行動方針:トウヤに従う?
1.???

【オーダイル@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:ひんし
[特性]:げきりゅう
[持ち物]:なし
[わざ]:かみくだく、アクアテール、きりさく、こおりのキバ
[思考・状況]
基本行動方針:シルバーが見つかるまでレッドと行動する。
1.???

【ギギギアル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[特性]:プラス
[持ち物]:なし
[わざ]:10まんボルト・ラスターカノン・はかいこうせん・きんぞくおん
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.???

【カメックス@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:健康
[特性]:げきりゅう
[持ち物]:なし
[わざ]:ハイドロカノン・ラスターカノン・ふぶき・きあいだま
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.レッド……。

934果てなき夢 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:41:11 ID:WfubCnaA0



 シロガネ山の山頂には幽霊が出るらしい。
 ジョウト地方の一部では、その噂で持ち切りだった。
 ゴーストタイプの存在が当たり前なのだから、人間の幽霊程度で騒ぐほどのことではない。
 ならばなぜそんな〝些細な噂〟が人を惹きつけるのか。
 
 その理由は、〝強さ〟にあった。

 なんでもその幽霊は、法外に強いらしい。
 腕っ節や呪力が、ではなく。ポケモンバトルの腕前がだ。
 ただのオカルト話であれば焚き付けられなかったが、腕利きのトレーナーと聞けば話は別。
 かくして腕に覚えのある者が挑戦しては敗北し、噂に尾ひれがついてゆくのだった。

 そしてここにまた一人。
 新たなる挑戦者(チャレンジャー)が、躍り出る。

 その少年はトレードマークの金と黒のキャップを後ろに被り、吹雪の中でも闘志を燃やす。
 見据える先には、赤い帽子を目深に被った〝幽霊〟が佇んでいた。

 互いの間に言葉はない。
 けれど、掲げられたボールが何よりの会話となる。

 腕を振り上げ、ボールを投げる。
 寸分の狂いもなく同時に繰り出された動きに伴い、互いの相棒が姿を現した。

 片や、背から轟々と炎を噴き出すバクフーン。
 片や、頬にバチバチと電気を走らせるピカチュウ。

 世界においても比肩を許さない、最高峰の実力を持った相棒。
 繰り出される指示を聞き入れ、彼らは爆炎と雷鳴を撒き散らす。

 果てなき夢は、未だ終わらずに。
 雪の吹き荒ぶ山頂にて、伝説が幕を開ける。


 二人の少年は────笑っていた。




935果てなき夢 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:41:32 ID:WfubCnaA0



 マサラタウンに サヨナラしてから
 どれだけの時間 経っただろう
 擦り傷切り傷 仲間の数
 それはちょっと 自慢かな

 あの頃すっごく 流行っていたから
 買いに走った このスニーカーも
 いまでは 世界中 探しても見つからない
 最高の ボロボロぐつさ!

 いつのまにか タイプ:ワイルド!
 すこしずつだけど タイプ:ワイルド!
 もっともっと タイプ:ワイルド!
 つよくなるよ タイプ:ワイルド!


 そして いつか こう言うよ


 ──〝ハロー マイドリーム〟




【レッド@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー タイプ:ワイルド!】
【ピカ@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー タイプ:ワイルド!】

936 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:41:48 ID:WfubCnaA0
投下終了です

937 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/06(金) 22:42:58 ID:5kMVewf.0
すいません、今気づいたのですが
>>913>>914の間にコピペミスによる描写漏れがあったので、以下の本文を追加させていただきます


-


「ピカ、見せてやろうぜ! 俺たちの絆を!」

 いいや、違う。
 そんなつまらない理屈、意味などない。
 本質はもっと、もっとシンプルで────
 
 


 
 
 


 ピカは レッドを
 かなしませまいと もちこたえた!
 








 トウヤが動揺から戻るほんの僅かな時間。
 それが決定的な差となって、レッドの雄叫びが届く。

「ジャローダ、よけ──」
「──十万ボルト!!」

 それは、混沌を射抜く光。
 それは、勝利を齎す希望。
 それは、決して堕ちぬ星。

「あ、…………」

 稲妻は一筋の矢となって。
 導かれるように、大蛇を撃ち抜いた。






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