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ゲームキャラバトル・ロワイアル【第二章】

1 ◆NYzTZnBoCI:2019/11/07(木) 15:20:03 ID:SrO2rlvw0
【ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】7/8
○イレブン(主人公)/○カミュ/○シルビア/○セーニャ/○ベロニカ/○マルティナ/○ホメロス/●グレイグ

【ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】6/7
○リンク/○ゼルダ/○ミファー/○ダルケル/○リーバル/●ウルボザ/○サクラダ

【FINAL FANTASY Ⅶ】6/6
○クラウド・ストライフ/○ティファ・ロックハート/○エアリス・ゲインズブール/○バレット・ウォーレス/○ザックス・フェア/○セフィロス

【クロノ・トリガー】4/6
○クロノ/●マールディア/○ルッカ/○ロボ/●カエル/○魔王

【ポケットモンスター ブラック・ホワイト】4/5
○トウヤ(主人公)/○N/●チェレン/○ベル/○ゲーチス

【ペルソナ4】4/5
○鳴上悠(主人公)/○花村陽介/●天城雪子/○里中千枝/○久保美津雄

【METAL GEAR SOLID 2】4/5
○ソリッド・スネーク/●ジャック/○ハル・エメリッヒ/○リボルバー・オセロット/○ソリダス・スネーク

【THE IDOLM@STER】4/5
●天海春香/○如月千早/○星井美希/○萩原雪歩/○四条貴音

【BIOHAZARD 2】3/4
●レオン・S・ケネディ/○クレア・レッドフィールド/○シェリー・バーキン/○ウィリアム・バーキン

【ドラッグ・オン・ドラグーン】2/4
○カイム/○イウヴァルト/●レオナール/●アリオーシュ

【龍が如く 極】3/4
●桐生一馬/○錦山彰/○真島吾朗/○澤村遥

【NieR:Automata】2/3
○ヨルハ二号B型/○ヨルハ九号S型/●ヨルハA型二号

【MONSTER HUNTER X】2/2
○男ハンター/○オトモ(オトモアイルー)

【名探偵ピカチュウ】1/1
○ピカチュウ

【Grand Theft Auto V】1/1
○トレバー・フィリップス

【BIOHAZARD 3】1/1
○ネメシス-T型

【テイルズ オブ ザ レイズ】1/1
○ミリーナ・ヴァイス

【大乱闘スマッシュブラザーズSP】1/1
○ソニック・ザ・ヘッジホッグ

【ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】1/1
○レッド

58/70

【主催側】
マナ@ドラッグ・オン・ドラグーン
ウルノーガ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
宝条@FINAL FANTASY Ⅶ
ガッシュ@クロノ・トリガー
足立透@ペルソナ4
エイダ・ウォン@BIOHAZARD 2

252一難去って…… ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:08:26 ID:GLuPxMxc0

【D-2/市街地(西側)/一日目 朝】


【リンク@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:胸上に浅い裂傷、決意 治療薬調合中
[装備]:民主刀@METAL GEAR SOLID 2、デルカダールの盾@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品(残り食料5/6)、ナベのフタ@現実 残ったアオキノコ×2
[思考・状況] :ゼルダはどうしているだろう?
基本行動方針:守るために戦う。
1.ザックスの怪我を治す薬を作る
2.美津雄、雪歩を守る。
3.ゼルダや他の英傑に関する情報を探す。
4.首輪を外せる者を探す。
※厄災ガノンの討伐に向かう直前からの参戦です。
※ニーアオートマタ、アイマスの世界の情報を得ました。
※美津雄の調合所セット(入門編)から薬に関する知識を得ました。

D-2/市街地(西側)/一日目 早朝】
【久保美津雄@ペルソナ4】
[状態]:疲労(大)、困惑、恐怖、雪歩がいなくなったことへの罪の意識
[装備]:ウェイブショック@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品(水少量消費)、ランダム支給品(治療道具の類ではない、1〜2個)、調合書セット@MONSTER HUNTER X
[思考・状況]
基本行動方針:
1.ザックスを助けたい。

※本編逮捕直後からの参戦です。
※ペルソナは所持していませんが、発現する可能性はあります。
※四条貴音の名前を如月千早だと思っています。


【ザックス・フェア@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:腹部に深い刺し傷、猛毒、
[装備]:巨岩砕き@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜1個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いをぶっ壊し、英雄になる。
1.美津雄のこと、しっかり守ってやらなきゃな。
2.千早(貴音)が気がかり。

※クラウドとの脱走中、トラックでミッドガルへ向かう最中からの参戦です。
※四条貴音の名前を如月千早だと思っています。


【D-2 山岳地帯/一日目 朝】


【ヨルハ二号B型@NieR:Automata】
[状態]:両腕に銃創(行動に支障なし)、決意
[装備]:陽光@龍が如く 極
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破壊。
1.カイムを倒す
2.D-2、765プロへ向かう。
3.雪歩を守る。
4.首輪を外せる者を探す。9S最優先。
5.遊園地廃墟で部品を探したい。

※少なくともAルートの時間軸からの参戦です。
※ルール説明の際、9Sの姿を見ました。
※ブレスオブザワイルド、アイマスの世界の情報を得ました。

【萩原雪歩@THE IDOLM@STER】
[状態]:恐怖
[装備]:モンスターボール(リザードン)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー
[道具]:基本支給品、ナイフ型消音拳銃@METAL GEAR SOLID 2(残弾数1/1)
[思考・状況]
基本行動方針:???


【カイム@ドラッグ・オン・ドラグーン】
[状態]:ダメージ(小)魔力消費(中)
[装備]:正宗@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品 エアリスの基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、マナを殺す。

253一難去って…… ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:08:40 ID:GLuPxMxc0
投下終了です。

254 ◆RTn9vPakQY:2020/08/18(火) 01:30:22 ID:3wUU73Qk0
投下乙です!まだ書いていなかった作品も含めて感想をば。

・虚空に描いた百年の恋
喜ばしいものであるはずの百年ぶりの邂逅、なぜこうなってしまったのか。
リーバルとベロニカの二人と対等以上に立ち回るゼルダから、前話までにも増して精神の強さを感じました。
特に後編の展開は、実力者たちの駆け引きもさることながら、信頼関係を元にしたレッドとピカの行動が光りますね。
そしてラスト、「ハイラルの王女」と「騎士」としてではなく「ゼルダ」と「リンク」としての物語のはじまり。
>新たに紡ごう。百年前には紡げなかった、私たちと、私たちを取り巻く生命の息吹が織り成す伝説を――――
ゲームのエンディングを思い出して、二人の物語に思いを馳せました。


・嘗テ思イ描イタ夢ノ誓イ
モンスターボールを分析して高揚するのが、9Sらしくていいですね。
前回はアイドルとしての強さが出ていた美希でしたが、今回は春香の死に悲しむ弱い姿が見られましたね。
9Sと美希の関係性も少し深まったようでなにより。
今後、9Sの記憶のデータが蘇ることがあるのか。気になるところです。


・拘束が緩む時は
マーダーのカイムとステルスのゲーチス、二人を相手にして落ち着き払っているエアリスの胆力がすごい。
それでも名簿でセフィロスの存在を知って焦り出すあたり、セフィロスを相当な脅威と捉えているのが分かりますね。
そしてチェレンの死を知って笑うゲーチス。こ、小物〜!地味に今後が気になる参加者です。
カイムはどこか精神的に不安定に見えますが、意思疎通が難しいし改心とかしなさそうなんですよね……。
拘束を解かれて、なおもカイムを追いかけようとするエアリス。この選択が吉と出るか凶と出るか。


・……and REMAKE
前編。お互いに長い旅路を越えて来た、陽介とクラウド。バトルロワイアルにおける二人の選択、その対比が見事です。
住む世界から何から異なる、主張を違えた二人。それがぶつかるのは説得力がありましたし、戦闘シーンの緊迫感も合わせてドキドキしました。

中編。やっぱり、互いにボロボロになりながらグーパンで殴り合うシーンは最高だぜ……。
二人の共通点、そして決定的な相違点。前を向いた陽介と、後を向いたクラウド。その差が戦闘中に現れるという展開も興奮しました。
そしてシャドウ登場!?――と思いきや。マナの悪辣さにニヤリとさせられました。

後編。主催者介入!からの、まさかの助け舟。
ホメロス……原作ではどこか報われないイメージのある人物でしたが、ここでは憎悪から解放された姿を見せてくれましたね。
本人はささやかな満足を得て、それがウルノーガに対しては意趣返しになったというのも面白いですね。
オーブの力を得た魔軍兵士クラウド、ペルソナを覚醒させた陽介、かつてのパートナー同士で邂逅したトウヤとジャローダ。
これらを「リメイク」でくくるあたりが、格好よくて好きです。

>「だったら響かせてみせるさ。言霊使いも黙りこくる俺の伝達力を舐めんなよ?」
>渾身の一撃が入っても、まだ陽介は倒れない。意識が消え去るギリギリで"食いしばる"。
>ジャローダはその場から、トラフーリばりのスピードで一目散に逃走を始めた。
また、こうした文章表現も含めて、原作の要素を上手く拾っているなぁと思いました。


・一難去って……
放送を聞いて、それぞれ思うところのあるリンクたち。
美津雄との初対面は悪いものではありませんでしたが、ザックスを刺した「如月千早」の存在がある種の地雷に。
ネガティブな面のある雪歩が、現実逃避を図るのもさもありなんですね。
その上、目の前でチョコボの首が飛ぶとか、雪歩じゃなくてもトラウマものですよこれ……。
落ち着きのない美津雄が美津雄らしくて良いです。

255 ◆2zEnKfaCDc:2020/10/10(土) 02:11:14 ID:v5l9U4ys0
里中千枝、シェリー・バーキン、ハル・エメリッヒで予約します。

256 ◆2zEnKfaCDc:2020/10/16(金) 23:52:13 ID:qoROv2aQ0
投下します。

257差し込む陽光、浮かぶ影 ◆2zEnKfaCDc:2020/10/16(金) 23:53:50 ID:qoROv2aQ0
ㅤ朝日が昇った世界は、数刻前の暗闇から一転、光に満ち溢れていた。

ㅤ毎朝訪れる朝日なんて、特段珍しいものでもない。闇に紛れる忍びの衣装を全身に纏っている身としては、むしろ明るさは生き残るのに邪魔になる。これが人生最後に見る曙光であるかもしれないというのに、それを視る僕――オタコンの目はどこか、冷めきっていた。

ㅤ燦然と輝く陽光は、少なくとも希望の光と呼べる代物で無いのは確かだ。現実逃避を引き剥がし、何もかも、白日の元に晒してしまう。

ㅤ無表情の仮面を貼り付けたように感情を表に出さなくなった同行者の少女、シェリー・バーキン。多感な時期にあるはずの彼女をそうさせてしまったのは紛れもなく僕であって。朝の光で彼女の表情がはっきり見えるようになり、それだけでどうもやり切れない気分だ。

ㅤそして、そんな僕らへの追い討ちとなる情報を、この朝は運んできた。

『桐生一馬』

ㅤ朝6時に行われた定時放送による死亡者の発表。彼の死は何となく感じ取ってはいた。襲撃者の女の動きはやはり人智を越えていたし、ダイケンキを奪っていった少年も桐生のいる方向へ向かって行ったからだ。でも、放送で確定されてさえいなければ、まだ彼が生きている可能性に縋ることもできていたはずだ。

ㅤだけど、こうして結果は確定してしまった。箱の中の猫は、死んでいたのだ。

ㅤ悲しいかというと、少し違う。本当に悲しい死別というものは、こんな世界に来るまでもなく経験している。それに冷たいようだが、桐生とは出会って数時間程度しか経っていない。まだ、同じく死んでいた雷電の方が思い入れは強いくらいだ。

ㅤあえて、桐生の死に思うところがあるとすれば、自分が彼を見捨てて逃げたことだろうか。間違った選択であったとは思わない。あの場に残っていても、せいぜい一緒に死ぬことくらいしかできなかっただろう。

ㅤだから正しいのは僕だ。誰にも責められる言われなんてない。だけど、シェリーに正しさばかりを突きつけるのは、きっと間違いなのだ。

ㅤ本来なら、桐生の死を共に悲しむべき相手であるシェリーに、僕は何と声をかければいいのだろう。

ㅤ謝るのは違う。僕が間違っていないのは、幼いながらに彼女も理解している。しかし、かといって開き直って励ますのもまた違う。彼女の信用を失ってしまった僕にその資格はもうない。

ㅤ堂々巡り。この状況で何を言っても間違いだ。そもそも、非情になれない奴らを集めての殺し合いなんてものが間違っているのだから、完璧な正解なんてどこにもないのだ。

「シェリー。」

ㅤだから、僕が発すべきは謝罪でも激励でもない。

「君はまだ、僕に着いてきてくれるのかい?」

ㅤこの上なく淡白な、事実の確認。彼女の意思を無視して『合理的選択』に走った僕にできるのは、してもいいのは、合理的であることを曲げないことだけだ。それを曲げてしまえばそれこそ、合理的選択の犠牲となった者たちに示しがつかないだろう。

258差し込む陽光、浮かぶ影 ◆2zEnKfaCDc:2020/10/16(金) 23:55:35 ID:qoROv2aQ0
ㅤシェリーは何も言わずにただ一度、コクリと頷く。その返事に、嬉しいとも悲しいとも思えなかった。彼女が逃げ出さなかったことへの安心も彼女から解放されなかったことへの苦々しさも、そのどちらもが心の中に存在していた。

ㅤ早朝に吹き抜ける風がやけに冷たく、体の芯まで染み渡る。互いを労るでも罵るでもない、この奇妙な同行関係は、まだ続くようだ。



ㅤニアミスの余地の無い一本橋の上。それは、必然の邂逅だった。

ㅤ全身を濡らしたショートヘアの少女――里中千枝が、よろよろと歩み寄って来る。その様子から、海から上がってきたのは容易に想像がついた。

「大丈夫なのかい?」

ㅤオタコンが思わずかけた第一声はそれだった。敵意が無いことを伝えるという目的よりも、思わず口をついて出てしまった一言。無意識下でも相手を労る余裕が今の自分にあったことに少し驚く。

ㅤ対する千枝。ゼルダやミファーのように真っ向から殺し合うでもなく。錦山のように咎められるでもなく。この世界で初めて向けられた、出会い頭の優しさ。どこか戸惑うような様相を表に出し――そして僅かな間を空けて思い直したかのように構えを取り、警戒を見せる。

「随分と、余裕あるんだね。あたしが乗ってないとでも思った?」

ㅤ返ってきたのは、闊達そうな風貌からは想像もつかないような、棘をびっしりと纏った言葉だった。海に落ちていたことも踏まえると、この殺伐とした世界でどんな目にあったのか、推定できる。

「乗ってたら困るんだけどね。どの道、逃げ場はないんだ。」

ㅤ桐生に拳銃を渡し、ダイケンキまでもを失った今、オタコンは武力といえるものを持っていない。千枝が何かしらの武器を所持しているのならおそらく勝ち目は無い。ひとまず問答無用で襲ってくる相手ではないようだ。刺激しないよう慎重に、相手の出方を伺う。

「どこへ向かっているのか、良かったら聞かせてほしい。」

ㅤオタコンの問いに、怯む千枝。目的地――八十神高等学校を目指す理由は、そこに仲間たちがいるかもしれないからだ。しかし、そこには少なからず正しいとは言えない動機が混ざっている。今は亡き親友の恋人を、心の拠り所としているという自覚。誰にも知られたくないし、知られ得る要素を与えたくない。

「……別に。そっちはどうなのよ。」

ㅤよって、千枝は口を閉ざした。それを、具体的な目的地は特に無いと受け取ったオタコンは、好機とばかりに、支給された紙に簡潔な情報を走らせる。そして、盗聴対策に会話を成立させるだけの言葉を添えながら、唐突に何かを書き始めたオタコンに少し困惑している千枝に、その内容を突き付ける。

259差し込む陽光、浮かぶ影 ◆2zEnKfaCDc:2020/10/16(金) 23:56:35 ID:qoROv2aQ0
『首輪を調べるㅤ研究所を目指す』

(……!)

ㅤそれは唐突に差し伸べられた、この殺し合いの中での希望だった。

ㅤもし誰も殺さずとも帰れるのなら、多くの者の他者を殺す動機がなくなって、殺される心配も無くなるということ。もちろん、他人を殺すことに特別感を抱いていた久保美津雄のような者もいるかもしれず、不安要素が消え去るわけではない。それでも、常に心を締め付けているこの不安や恐怖の大部分からは解放されることだろう。

ㅤ目の前の男は、見るからに科学者といった風貌の、頭の良さそうな人。専門知識なんて持ち合わせていない高校生の集まりでしかない自称特別捜査隊には絶対に辿り着けない角度から、この殺し合いへの対抗策を見出すことができるのかもしれない。

ㅤ縋りたい。そう思わずにはいられなかった。

「良かったら、ついてきてくれないかな。君が戦えるのなら身を守れるし、大人数でいるだけでも危険は減るだろう。」

ㅤ盗聴されても不自然には思われない程度の会話の流れを作り、オタコン自身の声で勧誘する。その話術からも、オタコンの頭の良さは何となく伝わってきて。首輪を調べるというのも、現実的に可能なのかもしれない。

ㅤそんなことを考えながら次に提示された紙には、簡潔な一言だけが書かれていた。

『みんなを救いたいんだ』

ㅤそれは弱々しくも、オタコンの確かな意志だった。

ㅤオタコンは、皆が助かる道を提示してくれている。ここはもちろん、首を縦に振るべきだ。正義っていうのが何なのかはまだ分からないけれど。少なくとも、命令通り殺し合うよりは正義に近いものだと思う。完二にだってわかる、簡単な理屈。

「うん……」

260差し込む陽光、浮かぶ影 ◆2zEnKfaCDc:2020/10/16(金) 23:57:29 ID:qoROv2aQ0
ㅤいいよ――そう言おうとした口は、しかし次の瞬間には止まっていた。まるで幽霊を見たかのような驚愕の色に表情を染めて、ただただ立ち尽くす千枝。

「……?ㅤどうしたんだい?」

ㅤ心配そうに、声をかけるオタコン。しかし、返事はない。

ㅤ千枝の目の先には、オタコンの背後に佇むシェリーの姿があった。

ㅤ望んでもいない旅館の跡を継ぐことが生まれつき決まっていて、その修行のためにやりたいことを我慢するしかなくて、そんなレールの敷かれた運命というものを諦観していた、かつての雪子。シェリーは、その時の雪子と同じ表情をしていた。悲しいとか、苦しいとか、そんな感覚とも違う。願いが叶うのを諦めているような表情だ。雪子のそんな顔を見るのも少なからず辛かったが、無垢な子供が浮かべているそれはまた違う心苦しさがあった。

ㅤ同時に、オタコンの知力に依存する道が希望であるなどとは到底、思えなくなってしまった。

ㅤみんなを救う――聞こえはとってもいい言葉だけど。それを謳ってた奴で、根本的にやり方を間違っていた奴だって、いたじゃないか。雪子に始まり、最終的に菜々子ちゃんまで危険な目に合わせて。その全員を助けられたのが本当に奇跡だと思えるくらい、生田目は色んなものを掻き乱していた。

「救いたいって言ってもさ……」

ㅤ生田目の救いたいっていう気持ちは、自分たち自称特別捜査隊と同じだったはずなのに。結果的に方法が合っていたか間違っていたかの違いでしか無かったのに。正しい気持ちが正しい結果を招く保証なんて、どこにもないんだ。

ㅤ例えば、盗聴だけでなく、監視もされているとしたら?下手に首輪に手を出して、それが主催者の怒りを買って爆発させられたら?

ㅤただの失敗ならまだいい。でも、それどころか最悪の方向に向かってしまう要因もたくさん考えられる。オタコンが希望だなんて、断定できたものではない。

261差し込む陽光、浮かぶ影 ◆2zEnKfaCDc:2020/10/16(金) 23:58:37 ID:qoROv2aQ0
ㅤでも、たったひとつ、言えることがある。

「……少なくとも、さ。その子は、救われてるようには見えないんだよ。」

ㅤモヤモヤするし、イライラする。壊れそうなくらいにぐちゃぐちゃになった気持ちを、全部ぶつけるように。

「――ペルソナッ!!」

ㅤ思い切り、アルカナを蹴りつけた。パリン、と何処か心地良い音を奏で、千枝の心の影『トモエ』が顕現する。本人の荒ぶった心を映し出すかの如く、トモエは乱雑な軌道を描き――シェリーへと、向かっていく。

「え……?」

「……シェリー!」

ㅤ驚愕の混じったオタコンの声が、明るい空に響き渡った。





ㅤ振り上げられたトモエの薙刀は、シェリーの頭部を砕く直前に、ピタリとその動きを止めていた。

「あ……あ……」

ㅤ眼前まで迫った死に、腰を抜かして動けなくなったシェリー。藁をも掴む想いで、助けを乞うように視線を動かした先にあったのは、オタコンの姿だった。シェリーを庇おうとするでも、助けようとするでもなく。向けられたトモエという暴力から、少しでも離れようとするかのように、海に落ちるギリギリまで橋の端まで離れていた。

「……ほら。冷たい関係だね。」

ㅤ千枝の口が、冷徹な言葉を紡ぐ。

「あたし、心の底から信じられるような人はもうひとりしかいないけどさ。一緒にいるのなら、せめて表面上だけでも信じたいじゃんか。」

ㅤ人に、醜い部分があることは知っている。自分の心も、他人の心も、ある程度を割り切って、受け入れなくては関係を築けないことも、知っている。

ㅤ例えば、先ほどまで同行していた錦山さんはヤクザだし、自分が考えている以上に黒い一面も持っているんだってのは想像がついた。だけど、あの人の語る命への真っ直ぐな向き合い方だけは、信用に足るのだと思えたのも確かだ。だから海上の戦いでもお互いを助け合いながら立ち回れたし、そのおかげであの死線を自分は生き抜けたのだとも思っている。

「あたし、あんたには協力できないね。」

ㅤぶっきらぼうにそう言い放つと、千枝はオタコンとシェリーを横目に、そのまま南へと歩いていく。その歩みを止められる者は、その場にはいなかった。

262差し込む陽光、浮かぶ影 ◆2zEnKfaCDc:2020/10/17(土) 00:00:00 ID:LyR/6GAM0
「……。」

「……。」

ㅤそして、その場には沈黙だけが残された。本当に危ない時、オタコンはシェリーを見捨てるということが証明された今、オタコンが何を語っても説得力を持たなかった。

ㅤシェリーも分かっている。それが正解なのだと。首輪なんて自分には調べられないし、それができるオタコンは誰よりも率先して生き延びるべきなのだと。でないと、誰か1人を残して皆が死ぬことになるのだと。

ㅤだけど、理屈じゃない。切り捨てられる側は、たまったもんじゃない。みんなが助かるための礎にされるのは嫌だ。

ㅤだけど、オタコンから離れて生きていられるようなアテがあるわけでもなく。

「……逃げないよ。分かってるから。」

ㅤ運命を悟ったかのようなシェリーの言葉が、オタコンの心にただただ突き刺さる。あの時身体が動かなかったのは紛れもない事実で、正当化できる理論も存在しない。

(みんなを救いたい、か……。)

ㅤあの言葉は、本当に自分の心の底から出た言葉だったのだろうか。それとも、ただあの少女を味方に――自分の盾にするための、ただの薄っぺらな甘言だったのだろうか。

ㅤ今となっては分からない。分かりたくも、ないのかもしれない。

【D-4 橋/一日目 午前】

【ハル・エメリッヒ@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:疲労(大)、無力感
[装備]:忍びシリーズ一式@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、765インカム@THE IDOLM@STER
[思考・状況]
基本行動方針:首輪を外すために行動する。
1.首輪解除の手がかりを探すため、研究所へ向かう。
2.武器や戦える人材が欲しい。
3.もっと非情にならなければならないのかもしれない。
4.生きなくてはならない。

※本編終了後からの参戦です。


【シェリー・バーキン@BIOHAZARD 2】
[状態]:不安
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない。
1.オタコンについていく。
2.カズマ……。
3.オタコンに強い怒り。


※本編終了後からの参戦です


【里中千枝@ペルソナ4】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)びしょ濡れ 右掌に刺し傷。 精神的衰弱(鳴上悠の存在により辛うじて保っている状態)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、守りの護符@MONSTER HUNTER X、ランダム支給品(0〜1個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺さないと殺される、けど今の私じゃ、殺す覚悟もない……

1.八十神高校へ向かい、鳴上君と再会する。
2.それからどうすればいいのか決める。
3. “自分らしさ”はどこにあるのか、探してみる
4.自分の存在意義を見つけるまでは、死にたくない
5.願いの内容はまだ決めていない

※錦山彰、ミファーは死んだと思っています。

263名無しさん:2020/10/18(日) 03:18:28 ID:YgvTeFGE0
投下乙です
ますます険悪に…オタコンとシェリー、この二人はもうどうしようもないのだろうか

264 ◆RTn9vPakQY:2020/10/18(日) 09:53:24 ID:jYqXoNy20
投下乙です!
交渉の展開次第では協力できたかもしれない、と思えるのが余計にもどかしいですね。
オタコンは有能な人材なのですが、ここまで悩みすぎて潰れてしまわないか心配。

如月千早 ゲリラ投下します

265 ◆RTn9vPakQY:2020/10/18(日) 09:56:04 ID:jYqXoNy20

「ねえ、千早ちゃんは、どうしてアイドルを目指しているの?」
「私には、歌しかないんです。
 歌っている時だけは、自分自身の存在を感じることができる。
 だから、私は歌い続けるんです。そして、いずれは高みへ到達できればと」
「そうなんだ……」





 八十神高等学校の保健室は、教室棟一階、下駄箱の近くにある。
 室内には、怪我をした生徒を手当てするためのベンチや相談事を聞くためのテーブル、身体測定のための器具などが置かれている。
 保健室という場所が持つ清潔なイメージよりも、すすけた壁や年季が入った調度品が目について、古びたイメージが先行するような部屋だ。
 そんなことを思いながら、私は保健室へと足を踏み入れた。
 その両腕に、天城雪子の遺体を抱えて。

「これで平気かしら……」

 雪子を白いベッドの上に寝かせた私は、そう呟いた。
 遺体を保健室に運んできたのは、命の恩人を放置しておけないと考えたからだ。屋上に倒れたままでは、風雨にさらされてしまいかねない。
 そこで、学校の保健室ならベッドがあると思い付いたのだ。
 しばらく歌い続けたことで、いくらか冷静さを取り戻してきたのだろう。

「夢じゃ、ないのよね」

 血の気の無い雪子の顔を見ながら、ぽつりと呟いた。
 屋上で見た光景は、まるで夢のようだった。雪子の召喚するペルソナ、眼鏡の少年がボールから出した猛獣、金髪の青年が降らせた隕石。
 常識とはかけ離れた出来事の数々は、夢のようでありながら、しかし現実なのだ。
 いくつもの破壊の痕跡や血痕、それに燃え尽きた少年の遺体は、屋上に残されたままだ。

「……」

 ベッドの近くに置かれた丸椅子に腰掛けて、目を閉じる。
 殺し合いが進行している現状が怖い。首輪によって生死の自由を奪われている現状が恐ろしい。
 そして、私自身がそうした現状を飲み込み始めているらしいことに、嫌気が差した。
 しばらく自分の肩をきつく抱きしめても、身体の震えは治まらなかった。

『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる?』

 そのとき、放送が私の鼓膜を振るわせた。
 私は思わず立ち上がり、両手を握りしめて天井を仰いだ。
 殺し合いが開始してから、もう六時間も過ぎていたのだ。

『こっちはすごーっく楽しませてもらってるわ! 声だけでしか分からないのが残念なくらいにね』

 無邪気な声に神経を逆なでされながら、それでも放送に耳を澄ませた。
 何か重要なことを伝えていて、それを聞き逃したから死んでしまう、という事態は回避したい。
 その発想も、現状に適応している証拠だということに気づき、また嫌気が差した。
 そうしている内に、参加者の名簿の話が始まった。

「名簿……?あっ!」

 私は周囲を見渡して、ハッとした声を上げた。
 雪子を運ぶことに気を取られて、支給品の入ったデイパックを屋上に置いてきたことに気づいたのだ。
 このままでは名簿を確認することができない。
 すぐに屋上に向かうか、それとも放送を聞き終えてから屋上に向かうか。逡巡する間にも放送は進んでいく。

『これでお友達がどれくらいいるのかとか、どれくらいの人が参加してるかとかも分かるでしょ?』
「くっ」

 その言葉に触発されて、私は保健室を飛び出した。
 この殺し合いに誰が参加しているのか、気にならないわけがない。
 もしかしたら知り合いがいるかもしれない、という不安を解消するために、階段を駆け上がる。

『それじゃあ、死者の名前を発表するわ――』

 胸がずきりと痛む。雪子の名前が呼ばれることが予想できたからだ。

「……え?」

 しかし、その数秒後。
 階段の踊り場で、私は足を止めた。
 あまりにも耳馴染みのある――と同時に言い慣れた――名前を聞いたからだ。

266 ◆RTn9vPakQY:2020/10/18(日) 09:57:52 ID:jYqXoNy20
「嘘……」
 

 放送が終わり、静寂が訪れる。
 私はふらふらと階段を上がっていき、屋上の扉を開けた。

 マナの放送を嘘だと決めつけてしまえるほど、私は楽観的ではない。
 事実として命を落としている雪子の名前も聞こえた以上、放送で呼ばれたのは死者の名前なのだと、認めざるを得ない。

「……でも、聞き間違いの可能性も」

 それでも、素直に受け止めるには、その事実は重すぎた。
 おぼつかない足取りのままデイパックへと近づき、震える手で名簿を取り出す。
 そうして藁にも縋る思いで開いた名簿は、私に逃れられない現実を突きつけた。

 天海春香。
 その名前を見た瞬間、何かがストンと抜け落ちた気がして、私はその場にへたり込んだ。
 そうして数秒後、頬を伝っている温かいものが涙だと気付いて、私は嗚咽をもらした。

 天海春香はもうこの世にいない。
 その事実が、理由も判然としないままに、どうしようもなく心を刺激する。
 これがいわゆる“心が折れる”という状況なのだろうか。

「……だめ」

 ついさっき、雪子の遺体を前にして、生き続けることを誓ったばかりだ。
 そう、私は生きて歌い続けなければならないのだ。
 優のためにも、雪子のためにも、そして春香のためにも。
 どうにかして殺し合いから脱出して、765プロの事務所に戻る。
 そして、そして、そして。

――だけで、いいんだよ――

「え?」

 混濁する脳内に、声が響く。
 聞き覚えのあるその声が、私の中にあるいくつかの記憶を呼び覚ました。





 およそ一年前、とあるオーディション会場に私はいた。
 長机と椅子があるだけの簡素な部屋で、五名の審査員と十数名の新人アイドルが対面していた。

「――趣味はお菓子作りです!!よろしくお願いします!」
「はい、オッケーです」

 参加者はデビューして間もない新人ばかり。
 誰も彼もが笑顔を振りまき、審査員の質問にハキハキと答えていた。
 ただ一人、私だけが真顔のままだった。

「では次の方、自己紹介をお願いします」
「はい」

 私の態度には理由があった。
 もともとは、ドラマ主題歌の歌手を選抜するオーディションに応募するはずが、プロデューサーの手違いで、キャストを選抜するオーディションに登録されてしまっていたのだ。
 当然のように私は不服を伝えたが、せっかくの機会だからとプロデューサーに懇願されて、しぶしぶ会場を訪れた。
 つまり、不本意な仕事を、プロデューサーの不手際で押し付けられたのだ。
 そんなオーディションへの意欲は、無いに等しい。

「765プロダクションから来ました、如月千早です。
 歌には自信があります。ロックから民謡まで、どのようなジャンルでも歌います」

 それゆえに、私は審査員に対して淡々と答えた。
 媚びるような猫なで声のアイドルも大勢いる中で、その声は室内によく響いた。

「えっと、如月さんはアイドルだよね?
 歌も良いけど、演技をする上でのアピールポイントとかあるかな?」
「私はいわゆる『アイドル』になるつもりはありません。
 プロの歌手、ボーカリストとしての高みを目指したいと考えています」
「そ、そう……オッケー」

 審査員たちは当惑する表情を見せて、それからひそひそと言葉を交わした。
 ここまでの応答で、審査員からの印象が悪くなったことを感じながら、けれども余計に言葉を紡ぐこともせず、そのまま促されて座席についた。

「……なにあれ、何様のつもり?」
「ボーカリストって……来るところ間違えてるでしょ」

 周囲からは、嫌悪感を含ませた小声が聞こえた。
 現代は、戦国時代と称されるほどアイドルの人数が増えており、代わりはいくらでもいる状況だ。
 小さな仕事でも貰えればありがたい、そうした環境に身を置く新人たちにとって、オーディションは命懸け。
 そんな場で、まるで意欲のない態度が悪目立ちするのは当然だった。
 私自身もそのことは理解していた。

267 ◆RTn9vPakQY:2020/10/18(日) 09:59:34 ID:jYqXoNy20
「呼び名には意味はない。アイドルとして活動しながら、歌い手の頂点を目指すこともできる」

 かつてプロデューサーは私にそう話した。それは歌以外の仕事に意欲のない私を乗せるための方便だったかもしれないが、一理あると納得したのも事実だ。
 それでも、私は他のアイドルがそうするように、表情や態度を作ろうとはしなかった。私が目指すのはあくまで“アイドル”ではなく“歌手”だったからだ。
 自らの目標を変えるという考え方は、少しもなかった。





 日が傾き始めた街中。
 私はオーディション会場を後にして、足早に事務所への帰路を歩いていた。
 審査の結果は一週間以内に事務所に郵送されると伝えられたが、芳しい評価は得られないだろう。
 そのこと自体には何の感傷もない。ただ、プロデューサーに説明をするのが面倒だ。
 説教とまではいかないまでも、オーディションに臨む姿勢について注意くらいされるはずだ。
 とはいえ、そもそも望まないオーディションを押し付けてきたのが発端ではないか。再びふつふつと不満が湧き出る。
 これを機にもう一度、私自身のスタンスをはっきり伝えておくべきだろうか。

「あの、如月千早……ちゃん、だよね?」
「!?」

 そう声をかけられたのと同時に、視界に少女の姿が現れた。
 どうやら、考え事をしながら歩いていたせいで、気付かなかったようだ。
 軽い思考停止に陥り、返答に詰まる。

「……」
「あっ、驚かせてゴメン!」
「いえ……それより、どなたですか?」
「え?えーっと……覚えてない?」

 質問を質問で返されて、私は眉根を寄せて相手を観察した。
 とはいえ、服装も体型も普通の女子で、目につくのは頭の赤いリボンくらい。
 どこかで出会っても、翌日には忘れてしまいそうな特徴の無さだった。

「……すみません」
「あう、そっかぁ……あはは、プロデューサーに聞いてたとおりだ」

 プロデューサー。耳慣れた単語が少女の口から出た。
 そして、ふと思い当たる。この声はついさっき――オーディション会場で――聞いた覚えがある。
 しかも、自己紹介で直前だった声だ。確か名前は――

「もしかして、天海……さん?」
「うんっ!気づいてくれたんだぁ……よかった〜!」

 そういえば、と記憶が連鎖的によみがえる。
 このオーディションには765プロの他のアイドルも応募していると、プロデューサーが話していた。
 その話をしているときには既に意欲が失せていたので、今まで完全に忘れていたが。

「私もこれから事務所に行くんだ。いっしょに戻らない?」
「別に構いませんけど……」
「えへへっ。それじゃ、れっつごー!」

 これが、私と春香の出会いだった。
 いかにも同年代の女子らしい、底抜けに明るいお人好し。
 私が春香に対して最初に抱いた印象は、そんなものだった。





「あ、千早ちゃん!今レッスン終わり?」
「はい。これから事務所に戻ってミーティングです」
「そっかー、もう一息だね!じゃあ、これ!」
「これって、マドレーヌですか?」
「うん!事務所のみんなに配ってるの。なかなか好評なんだよ、えへへ」
「天海さんって、器用なんですね」
「え?いやぁ、そんなことないよ。レシピ通り作ってるだけだもん」
「それでも、お菓子を配る発想がまず凄いと思います」
「そう……かな?」
「プロデューサーに聞きました。始発で事務所に通っているそうですね。
 それなのに、お菓子作りなんて手間のかかること……どうしてそんなに時間をかけられるんですか?」
「うーん……笑顔がみたいから、かなぁ?
 お菓子を食べると、みんな笑顔になってくれるの」
「笑顔……」
「もしかしたら、自分も周りも笑顔になれるから、お菓子作りが好きなのかも。……って、いい子ぶってるみたいかな?」
「……いえ、そんなことは」
「あぁっ、私のレッスンが始まっちゃう!
 それじゃ、後で食べた感想、聞かせてねー!」
「……」





 付き合いが長くなり、話す時間が増えるにつれて、春香への印象は変わり始めた。
 ただの明るいお人よしではない。周囲の様子や雰囲気をよく見て、考えながら行動している。
 少なくとも、自分を着飾ることと噂話にしか興味のない学校のクラスメイトとは違っていた。




268 ◆RTn9vPakQY:2020/10/18(日) 10:02:30 ID:jYqXoNy20

「天海さん、事務所の備品の買い出しに行くんじゃなかったんですか?ここ、どう見てもカフェですよね?」
「まぁまぁ。たまには息抜きも必要だよ!」
「あっ、春香!こっちこっち!」
「よかったぁ、千早さんも来てくれたんですね……!」
「菊地さんに、萩原さん?」
「えへへ、私が呼んだんだ。
 千早ちゃん、いつもレッスン終わりはすぐに帰っちゃうから、たまには一緒にご飯でもと思って」
「そうそう。同じアイドル候補生同士、ね。ボクたち、よくこのカフェに来るんだ。」
「あの……やっぱり余計でしたか?」
「……いえ、そんなことは」
「良かった!じゃあほら、とりあえず座って座って」
「……あの、天海さん?」
「“春香”でいいよ」
「え?」
「私も“千早ちゃん”って呼んでるし。ね?」
「あっ、ボクのことももちろん呼び捨てでいいからね!」
「えっと、じゃあ私も……で、でもほとんど初対面なのにそれは……うぅ〜」
「ね、千早ちゃん!これからは名前で呼ぶこと!」
「そんな、急に言われても……」
「ほらほら、メニュー見よっ!」
「……ええ」





 春香と出逢い、私の生活は変化し始めた。
 それまでは、独りで家とレッスン場を往復するだけだったのに、春香に付き合ってレッスン後にカフェで休憩したり、事務所で年下のアイドルの勉強を見たりと、他人と過ごすことが増えた。
 歌を練習する時間が減って、これでいいのかと自問することもあった。
 しかし、誰かと共有する時間が心地いいのも、また事実だった。
 プロデューサーには、笑顔が増えたと言われた。





「千早ちゃん、聞いた?私たち、ついにソロCDデビューだね!
 私の『太陽のジェラシー』と、千早ちゃんの『蒼い鳥』!デモテープも明後日には届くって、小鳥さんが!」
「ええ。二人同時にCD発売らしいわね。
 話題作りのためとはいえ、新人相手にプロデューサーも思い切ったことをするわ」
「ほんとビックリしたよね。それに、作曲家の先生も!」
「ええ……かなりの大御所の先生ね。
 技巧的な曲を書く人で、歌い手の技量が問われるって評判だわ」
「ぎ、技量?うぅ、プレッシャーだなぁ……」
「大丈夫よ、最近は春香も音を外さなくなってきているし、これから特訓を積めば」
「え、ちょっと待って千早ちゃん?
 “外さなくなってきている”って、私、まだ音を外してるってこと……だよね?」
「まあ、そういうことになるわね」
「うぅ……」
「……レッスンなら、いくらでも付き合うわ」
「本当!?よろしくお願いします、千早先生!」
「もう、調子がいいんだから」
「えへへ……」





 季節は移ろい、アイドルとしてのメディアへの露出も増えていった。
 ふと気が付くと、春香や事務所のみんなに――まるで仲の良い家族のように――自然体で接している私がいた。
 こんなに素直な気持ちで自分自身をさらけ出せる人が、今まで何人いただろうか。
 そう、かつて、たったひとりだけ。




269 ◆RTn9vPakQY:2020/10/18(日) 10:04:21 ID:jYqXoNy20
「千早ちゃん、いる?春香だけど……」
「……何か用?」
「よかった、いたんだね。
 ファンの人たちも、765プロのみんなも心配してるよ」
「……」
「プロデューサーさんも、小鳥さんも、社長も。
 みんな、みんな千早ちゃんが戻ってくるのを待ってる」
「……私は、もう歌えないから」
「……弟さんのこと、だよね。
 如月優くん、千早ちゃんの歌が大好きだった、って」
「っ!」
「ごめんね、たまたま千早ちゃんのお母さんから聞いたの」
「……だったら、分かるでしょ。
 私は“弟を見殺しにしたアイドル”なの」
「あんな記事、気にしなくていいよ!
 たまたま事故現場に居合わせただけだって、お母さんも……」
「……」
「ねぇ、またいっしょにライブに出ようよ。
 それとも、歌うのが嫌いになっちゃった……?」
「そんなこと!
 ……でも、歌えない。歌わなくちゃいけないのに歌えないなら……意味がないの」
「千早ちゃんのお母さん、言ってたよ。
 弟さんにせがまれて歌う千早ちゃん、とっても楽しそうだった、って」
「……優」
「ね、千早ちゃん。千早ちゃんは、どうしたい?」
「え?」
「もちろん、誰かのために歌うのも大切なことだけど……。
 でもね、歌を“歌わなければいけない”なんてこと、ないと思うんだ。
 もっと単純に、歌が好きだから、自分が歌いたいから歌う、じゃダメなのかな?」
「……」
「私はね。千早ちゃんと、また一緒に歌いたい」
「春香……」
「また来るね。それじゃ」
「……」




 アイドルランクもAランクに近づいてきた頃。
 私はとあるゴシップ雑誌の記事にショックを受けて、歌えなくなっていた。
 そんな私に春香がくれた言葉は、冷たく閉ざされていた私の心を、穏やかな気持ちで満たした。
 まるで春の陽射しに当てられて、根雪がじんわりと融けていくように。
 そして、私は再び舞台に立った。





「おめでとう、千早ちゃん」
「……ありがとう、春香。私、あなたのおかげで――」





「おめでとう、千早ちゃん」
「……ありがとう、春香。私、あなたのおかげで――」





 私にとって、天海春香とはどんな存在か。
 765プロで活動するアイドルの仲間であり、競い合うライバルでもあり。
 家庭や学校で他人との距離を置いていた私に、久しぶりにできた気兼ねなく話せる相手でもある。

「春香……あなたがいなかったら、私は歌うのを止めていたと思う」

 その前向きな姿勢は、後ろ向きに考えがちな私とは正反対だった。
 いつからか“優のために歌う”ことに囚われていた私に、“自分のために歌う”ことの大切さを気づかせてくれた。
 暗闇の中に沈んでいた私を、春香が救ってくれたのだ。
 そして、今もまた。

「また、私は同じ轍を踏むところだった」

 この会場に来てからの私を思い返す。
 自分の存在意義のために歌うのは間違いではない。
 誰かのために歌うというのも、一つの正当な理由だ。
 ただ、“歌わなければならない”と、自分自身の根底に責任感だけを抱えて歌うのは、自分の歌に枷を掛けることと同じ。かつて歌えなくなったときのように、いずれ歪みを生んでしまう。
 私は、殺し合いという異常な状況に置かれて、そのことを忘れかけていた。

「あなたが教えてくれたことよね。
 私が“どうしたいか”、それだけでいい」

 皮肉にも、喪うことで改めて気づくことができた。
 優。雪子。そして春香。みんなの分まで生きて歌い続ける。
 これから先、たくさんの人に最高の歌を届けるためにも生き続ける。
 そして何よりも。

「私は、もっと歌いたい」

 それだけでいい。
 ゆっくりと顔を上げると、そこには明るく輝く太陽があった。

270 ◆RTn9vPakQY:2020/10/18(日) 10:04:40 ID:jYqXoNy20
【E-5/八十神高校・屋上/一日目 朝】
【如月千早@THE IDOLM@STER】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残って、歌い続ける。
1. これからのことを考える。

※雪子の支給品(1〜2個)が屋上に放置されています。
※チェレンの支給品、リザルの所持品は焼失しました。


「そういえば、春香はどうしてアイドルを目指したの?」
「えっ、どうしたの突然?」
「ずいぶん前、私に聞いたでしょう?
 そのとき、春香の理由は聞いていなかったと思って」
「うーん、そうだなぁ……。
 最初のきっかけは、歌うのが好きだから、かな」
「歌が?」
「そう、千早ちゃんと同じだね!えへへ」
「……ふふっ、そうね」

271 ◆RTn9vPakQY:2020/10/18(日) 10:06:04 ID:jYqXoNy20
投下終了です。
タイトルは 私が歌う理由 です。

272 ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:47:53 ID:DJj9O2SQ0
ゲリラ投下しますね。

273劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:48:26 ID:DJj9O2SQ0
何だ……これ。」
錦山彰の目の前にある病院には、壁に大きな穴が開いていた。
森の中、海上、海中と立て続けに超常的な現象に見舞われて、今更こんな壁の穴など、どうということもないと言いたいが、そうもいかない。


(ダイナマイトを支給された奴でもいるのか?あるいは……。)

壁の周りが黒焦げになっていることから、爆弾関係の何か、あるいは爆発を起こせるくらいの超能力の持ち主が関係者だと彼は推理した。
そして、病院からの音が聞こえてこないこと、壁周りが黒くなっているのに煙が出てないことから、病院に今のところ人はいないと結論付けた。

(行くか。)
爆発が起こったのはだいぶ前だとしても、病院に潜伏者が静かに手ぐすね引いて待っていないという保証はない。
だが、それはこの試合会場のどの場所とて同じこと。
意を決して、病院の中へと入りこんだ。


明かりを付けず、手探りで待合室を進む。
電灯は付いていなかったが、窓から差し込む太陽の光のおかげで、視界に困ることなく待合室全体を見渡せた。


待合室の中心部が、吹き抜けになっており、その中央部を瓦礫の山が鎮座している。
その場所を素通りして、廊下を進む。


(病院……か。)
彼が思い出したのは、最愛の妹、由美のこと。
彼女の病の治療のため、あちこちから資金を集めた。
そのためには、部下にも目上の者にも頭を深く下げることを厭わなかった。
治療費を集めることこそ叶ったが、その先で待っていたことは、由美の主治医が賭博に失敗して逃走したという事件と、彼女の死だった。


(一体、他の奴等はこの病院を見て、どう思うんだろうな。)

外の光で照らされた病院の一階は、殺し合いの会場にあるとは思えない、極めてどこにでもありそうなデザインだった。
それゆえ、この戦いの参加者の多くに、病院であったことを連想させてしまう作りになっていた。

しかし、ここはすぐにいつもと違う病院であることに気づかされる
待合室から、診察室の扉を静かに開けると、その違いはすぐに判明した。


(どういうことだ……これは。)
そこは、またしてもどこにでもありそうな、診察室だった。
しかし、診察室にあるはずの聴診器を始めとする医療器具が、一つもなかった。
いや、それだけではない。診察記録も、その記録を書くための筆記用具さえ無かった。


(白衣さえもねえ……か。主催の奴等が抜き取っていたのか?)
医療器具の一部は、この病院を訪れた人物がいくつか持っていったのだが。
いずれにせよ、びしょ濡れになった服の代用品を手に入れられるという希望が、大きく損なわれた。

274劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:48:43 ID:DJj9O2SQ0

その時だった。
病院の廊下を、カツンカツンと、何者かが歩く音が聞こえた。

(誰だ……?)
こちらから話しかけに行くべきか、それともやり過ごすか。
自分は今、丸腰だ。
腕に覚えはないわけではないし、ともすれば診察室の椅子や机を凶器にすればいいのだが、人ならざる者や超能力者が相手なら、どうにも分が悪い。


「そこにいるだろう。」
ノックの音と共に、侵入者が自分を呼ぶ声がした。

「返事しなくても分かるぞ。床が濡れている。」
(ちっ……)

全身が濡れていることは、体が重かったり冷えやすいなど、身体的ディスアドバンテージだけではないことを、ようやく気付いた。
濡れた靴でリノリウムの廊下を歩けば、足跡などすぐに分かってしまう。

「ああ、その通りだ。俺を呼び出して、何をしたい?」
いきなり侵入せずに、話しかけてくることから、一応話し合いは出来ると判断した。

「協力だ。ある人物を探すことを手伝ってほしい。」
(人探し……か。)
歌い手でもやっていたのか、良い声をした男性らしき声が紡ぐ内容は、極めてありふれたものだった。
スタンスだけを聞けば、特に悪人のようには思えない。
だが、声の主が悪人で、更なる悪との合流を目指している者である可能性もないわけではない。

「なるほどな。俺がお前の要求に応えたら、何か見返りはあるのか?逆に俺が断った場合はどうする?」

錦山としては、けちな強請りや脅しをかけるつもりはなかった。
ただ、妹を助けるために人に頭を下げ続け、その結果何も残せなかった記憶がある以上、見知らぬ他人に協力を求める人間というものが理解できなかった。


この戦いで何かのはずみで同行を求められた緑ジャージの少女を連れて行くことになったが、案の定途中で襲われて死んでしまった。
やはり、みんなで仲良く協力して、ゴールを目指すというのは、与太話でしかないという意識が彼にあった。

「少なくともそいつが見つかるまでの間、協力してやろう。おまえはその濡れた靴に代わる何か別の靴が欲しいんじゃないか?」

「どちらも一人で出来ることだ。違うか?」

舌打ち混じりに返す。しかし、扉の前からの声以外に、もう一つ聞きなれない音が耳に入った。
ガチャ、ガチャと、機械の塊が歩いているかのような重たげな足音だ。


「おい、誰だ?」
扉の外の男は、錦山ではない誰かに声をかけている。
察するに、男も知らない存在のようだった。

しかしもう一人の何者かは、声を出さない。出す音は、重たげな足音だけだ。
「誰だと聞いているのだ!答えろ!!」
男の呼びかけに、なおも答えない。

275劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:49:02 ID:DJj9O2SQ0

(何があった……?)

錦山は扉の外の状況に理解できず、扉を少し開けて、様子だけでも伺おうとする。
だが、それが失敗だった。


診察室の外にいたのは、オールバックの赤髪の男と、そして、人間の両目に該当する部分にアイセンサーを携えた、機械人形だった。
眼光とは程遠い、無機質な緑の光が、白のスーツを照らす。


「──シンニュウシャをハッケン。ハイジョします。」


そして、機械音声と共に、それは腕を伸ばして攻撃を仕掛けた。

(!!)
慌てて扉を閉め、その攻撃の盾代わりにする。
しかし、機械の腕から繰り出されるパンチは重く、一撃で扉を砕いた。


「ハイジョ、ゾッコウ。」
「玩具の兵隊ごときに、殺されてたまるか!!」

ジョーカーとして索敵範囲に入った者の殺害を目論むロボは、扉を壊して診察室の中に入ってくる。
錦山は診察室で残された数少ない武器、長机を手に取る。

「つりゃあ!!」
どこにでもありそうな長机は、攻撃を防ぐ盾にも、相手を叩く武器にもなった。


机こそ錦山の勢いよく振るった一撃で、武器や防具として扱えない大きさまで砕けるが、その一撃はロボを大きく後退させた。
ヤクザならではのアウトローな戦い方には、ロジックに従って戦うロボには対応しきれなかった。


この機を逃さず、ポケットに入れておいた閃光弾を出して、ロボ目掛けて投げつけた。
すぐに強い光が明かりのない病院を照らす。


すぐに扉の前に陣取っている相手の横を通り抜け、振り切ろうとする。

「っ!?これは……!!」
錦山の全身が、急な熱気に包まれ、続く爆風が吹き飛ばした。
ロボの至近距離に入った相手のみに使われる、サークルボムだ。

スーツが湿っていたため、幾分かダメージは抑えられたが、それでもスーツから出ている顔や手の火傷は抑えられなかった。
ケンカという形で、人間との戦いは慣れていた錦山だが、そうでない者との戦いにはどうにも不向きであった。

「鳥人に半魚人ときて、今度はロボットかよ……!!」

リノリウムの床で一度身体をバウンドさせ、二度背中を打つ。
「セイゾンカクニン。ハイジョ、ゾッコウ。」

今度はロボの両目に光が集まり、レーザー発射の体勢になる。


「くそ……まだ、死ねねえ!!」
生きて、成り上がる。
そうでなければ、これまで積み上げてきたものは全て無駄だ。
少なくとも、こんな所で人ですらない存在に殺されて、終わるわけにはいかない。


横に転がっていた、病院に設置されていた消火器を掴んで、ロボに投げつける。
レーザーが飛んできたそれを破壊する。
結局鈍器としてロボにダメージを与えることはなかったが、レーザーが錦山に当たることもなく、廊下に白い煙が漂うだけに終わった。

276劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:49:31 ID:DJj9O2SQ0

火傷をした手で物を投げたりしたため、激痛が走るも、そんなことは気にせずに逃げる。
どんどん入り口からは離れていくことに不安を覚えつつも、階段を上り二階へ。


1階と2階の間、踊り場から姿が見える位置にいたのは、何の因果か錦山と同じ、オールバックの髪形をした男だった。
同じ声の持ち主という点から、診察室の前にいた男に相違ないことは簡単に理解できた。
ただし髪の色は彼とは異なる、燃えるような赤色だったが。


「逃げるぞ!」
ロボはレーザーを放ちながら階段を上ってくる。
錦山は質問への回答も他所に、診察室の前にいたらしき男に逃走を呼びかける。


丁度踊り場と2階の真ん中あたりを走った時、ふいに錦山の体が重くなった。
胸か、肩のあたりがどういうわけか重くなる。
まるで階段が逆向きに進むエスカレーターに変わったかのように、逃走者の歩みが遅くなる。


「お前は死ね」


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


ロボが暴れ出してからすぐのこと。
イウヴァルトは真っ先にその機械の目が届かない病院の2階まで逃げた。

具体的に何が起こっているか細かくは分からずじまいだが、階下の音で、錦山とロボが戦っていることは理解できた。
そして階段を駆け上る音から、男の方が逃げてきたことも。


カイム討伐のための協力者になり得そうにない錦山がどうなろうと知ったことではない。
だが、自分と同じ方向に逃げられて、巻き添えを食らうのはごめんだ。

そのため、脚を怪我させて逃げられないようにし、機械人形の囮にするのが彼の算段だった。
必要ないと思いながらも、どういうことか


「っぶねえ……」
襲撃者が機械人形だけだと思っていた相手に攻撃を当てるなど容易だ、と思っていたイウヴァルトは、相手が急にスピードを落としたため、虚を突かれた。
ヤクザとして生きている以上、殺意に対しどこまでも敏感な錦山は、咄嗟に足を遅めて、敵の攻撃のタイミングをずらした。


しかし、逃げる速さを落としたということはすなわち、追手との距離を縮めるということ。
結果的にロボが追い付いてきたため、階段上ジョーカーの目論見は成功したことになる。
だが、白服と黒のオールバックの男は、隠し玉、言うならば隠し弾を持っていた。


何かポケットから出したと思いきや、その何かが凄まじい光を出した。
イウヴァルトとしては、階下で錦山がロボの攻撃を振りきって逃げたことは分かっていたが、如何にして逃げたのか、過程は知らなかった。


視神経まで刺すかのような光に耐えられず、必死で目を抑える。
閃光弾は強い光を出すが、大きな音を出さない道具のため、どんな道具か分からなかったのも失敗であった。

277劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:49:48 ID:DJj9O2SQ0

ロボも同様に、両目を抑えた。
熱源や動きに感知して、敵を捉える機種も同時代にはあるのだが、彼が属するRシリーズは人間と同じ視覚を持つ。
従って、強い光や視界を覆う攻撃に人間と同じように影響を受ける。
さらに、ロボの攻撃手段の一つである、アイレーザーが自分で目を抑えたことで、ほんの一時的にだが使えなくなった。


最後の閃光弾で二人の隙を作った錦山は、二階の廊下を走る。
イウヴァルトはそれを追いかける。
自分の目的を知っているか否かに関係なく、危険人物であることを他者に広められたら困るからだ。
そして、ロボからは逃げる。
そのような存在がいるなら、前もって伝えておいてほしいと思いながら。


そして、先頭を走っていた錦山は、またも足を遅めた。

「なッ!?」
またも走る速さをずらして、機械人形の攻撃のタイミングをずらそうとするのかと思いきや、それは大きな間違いだった。
錦山は急にUターンし、姿勢を低くしてイウヴァルトの下腹部へタックルを仕掛けた。
不意の攻撃をくらい、驚きの声を出す。

しかも、最後尾のロボの攻撃は、イウヴァルトが盾になる位置関係になるため、錦山は安全で、イウヴァルトは圧倒的に危険な状況に追い込まれることになる。


「対象ノ接近ヲ確認。」

ロボは拳を飛ばす。
彼のみならず、Rシリーズのロボットならどの機種も覚えている、一番基礎的な技だ。
故に、外すことはない。



機体に何らかの異常がなければ、だが。


「なぜ……?」
その言葉を発したのは、錦山の方だった。
ロボが放ったロケットパンチは、イウヴァルトに当たる寸前で軌道を変え、錦山の脇腹に鋭く刺さった。
まさにクリティカルヒットとも言える、完全に予期していなかった一撃。

当たると思っていなかった攻撃の勢いに自由を奪われ、そのままイウヴァルトを離して飛んでいく。
廊下の端に意味ありげに置いてあった棚に、背中がぶつかってその動きは止まった。
木片が背中に刺さるが、そんなことはどうでもいい。


「危ないところだった。どうやら、この機械人形は俺の味方のようだな。」
「ハイジョ、ゾッコウ。」
朝日が差し込む病院の中でも分かる赤の眼光と、緑の眼光が、錦山に迫ってくる。

「そうか……」
まだ立ててすらいない男は、ここでようやく気付いた。

「お前ら、グルだったんだろ!!」
黒い瞳で、一人と一台のジョーカーを睨みつける。

278劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:50:06 ID:DJj9O2SQ0
攻撃できるチャンスがあったのにも関わらず、錦山のみを狙った点。
そして、眼をよく見ればさらに分かる。
イウヴァルトは、最初に会場でいた少女と、同じ血のように真っ赤な目つきをしている。


すなわち、イウヴァルト、ロボ、そして主催は味方同士だった。
錦山がそのセリフを吐き終わった直後、ロボがタックルを仕掛けた。
鈍重な機械の全体重がかかったタックルをその身に受け、悲鳴を上げずに血のみを口から吐き出す。


「ああ、そうさ。最も俺自身も知らなかったんだがね。」
立てない錦山を、赤目が見下ろす。


辺りは、赤で覆われている。
差し込む光の赤。
ヤクザの口から零れる血の赤
そして、その無様な姿を見下ろす眼光の赤。


既に白くなくなっているスーツの男にとって、状況は最悪だった。
肋骨のほとんどが折られ、目の前にジョーカーが二人。
逆転のための仲間も、道具もない。


ふと、手元にコロリと何か丸いものが、手に落ちた。
どうやら病院の棚の中に隠されていたようである。

そんなことは気にせず、もう一度ロボがタックルを仕掛けてくる。
投げたところで、良くて負傷だろうが、このまま殺されたくないと思って、ミファー
刺されて痛む右手でしっかりと掴んだ。

「何か」は黄金の光を出す。
先ほどの閃光弾の類かと思い、慌ててイウヴァルトは両目を抑える。
しかし、目くらましの道具ではなかった。

「「!?」」
気が付くと、ロボがタックルの姿勢で、硬直していた。
全身を金色に包まれて。


病院の、何の変哲もない棚に隠されていたそれは、別の世界で「ゴールドオーブ」と呼ばれたもの。
オーブから放たれる「ゴールドアストロン」は相手を一時的に何者も受け付けない黄金像へと変えてしまう力を持つ。

鉄の兵隊を金の人形に変えた瞬間、錦山を虚脱感が襲う。
黄金の宝玉を掲げる力さえ、もう残っていなかった。
そして、ロボが動けなくなっても、彼の敵はいなくなったわけではない。


「中々面白いものを見せてもらった。勉強にもなったよ。」
勝利を確信したイウヴァルトは、冷たい目で虚ろな瞳を見つめる。
そして、アルテマウェポンを掲げ、トドメを刺そうとする。


「フリアエのためだ。死んでくれ。」
この戦いで直接の人殺しをするのは初めてだが、恋人の名を口にすることで、その胸に優勝への決意を固める。


「ははは……。」
死を目前にしたヤクザの口元は、力なくだが吊り上がっていた。

「何が可笑しい?」
すぐにでも殺されるような状況で、それでいてなお笑みを浮かべていた。


最後に一つだけ理解した。
自分を殺そうとする男は、自分と同じ、大切な人間を失った存在なのだと。

279劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:50:26 ID:DJj9O2SQ0
フリアエというのが、何者なのかは分からないが、自分にとっての由美のような存在なのだと。
だが、その失った存在のために、誰かの言いなりになる男が、たまらなく滑稽に見えた。


「たまには、自分の意思で動いたらどうだ。」
それが、何一つ思い通りにならなかった男の、最後の言葉だった。


【錦山彰@龍が如く 極 死亡】             
【残り51名】



アルテマウェポンを胸から引き抜いた所で、金箔からロボは解き放たれた。
「助かったぞ。マナとはどういう関係なんだ?」

ロボは返事をすることなく、病院の巡回を続ける。
彼はイウヴァルトの敵にこそならないが、味方にもならない。
主催者の息がかかったもの同士で潰しあわないために、動く壁としか感知しない。
宝条にそのようなメモリーを埋め込まれているだけだ。


「どうやら、マナは俺にも伝えていないことがあるみたいだな。」
もう一つ、存在が謎のオーブを手に取り、病院を後にする。
いまだにこびりついて離れない男の言葉を頭に残しながら。






【イウヴァルト@ドラッグオンドラグーン】
[状態]:健康 多少の戸惑い
[装備]:アルテマウェポン@FF7、召喚マテリア(ブラックドラゴン@DQ11)
[道具]:基本支給品、モンスターボール(空) ゴールドオーブ@DQ11
[思考・状況]
基本行動方針:フリアエを生き返らせてもらうために、ゲームに乗る。
1. 参加者を誘導して、強者(特にカイム、ハンター)を殺すように仕向ける。
2. 残った人間を殺して優勝し、フリアエを生き返らせてもらう。
3.カイムと戦うこととなった時のために戦力はなるべく温存しておく。

※召喚マテリアの中身を【ブラックドラゴン@ドラッグ・オン・ドラグーン】と勘違いしています。
※空っぽのモンスターボールは野生のポケモンの捕獲に使えるかもしれません。



【ロボ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)、MP消費(大)
[装備]:ベアークロー@ペルソナ4 、たべのこし@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1個
[思考・状況]
基本行動方針:病院内に侵入した敵を排除する
1.ワタシの名前はプロメテス。

※主催者によって、ジョーカーである参加者(イウヴァルト、ホメロス、ネメシス)は感知出来ないようになっています。
他にも何らかの理由で感知できない参加者、NPCがいるかもしれません。



【支給品紹介】
ゴールドオーブ@DQ11
命の大樹に近付くのに必要な6つのオーブの1つ。
MP、SP、気力などの何かしらと引き換えに、対象を一定時間、無敵の黄金に変える『ゴールドアストロン』を使うことが出来る。
黄金になった相手は、動けない代わりにすべての攻撃を無効化する。

※他のオーブも対応する特技を使用することが出来ます。
※他のオーブも会場内のどこかに隠されています。

280劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:50:38 ID:DJj9O2SQ0
投下終了です。

281劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:54:03 ID:DJj9O2SQ0
現在地忘れてました。
【D-5/病院/一日目 午朝】です。

282 ◆RTn9vPakQY:2020/12/29(火) 02:23:13 ID:d66pWjZ20
投下乙です!
イウヴァルト、ロボにやられないかな…と軽く心配していましたが杞憂。
錦山にとっては運が悪いというか間が悪いというか……ただ、それでも生きる意志を見せたのは熱くて良かったです。
長机をぶんまわし、消火器を投げつける姿はどこか桐生一馬を想起してしまい、描写が利いているなと思いました。
そして最期の言葉は、劣等感という共通点をもつ錦山だからかけられた言葉だと思うと、粋ですね。

ソニック・ザ・ヘッジホッグ、四条貴音、エアリス・ゲインズブール、ゲーチス 予約します

283 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/29(火) 03:25:15 ID:rdioI89Y0
投下お疲れ様です。

>>私が歌う理由
春香と雪子、開幕から千早の精神を抉る気満々の放送でしたが、春香の死からアイドルとなった原点を思い出し、何とか生きる理由を見出すことができた展開は胸熱ですね。オープニングを除き一話退場となった春香ですが、皆の心の中で生き続け、希望を残していく様はまさにアイドル。

>>劣等感の果てに残ったもの
このロワで度々言われていた、劣等感を抱えたキャラが多い問題。その中でも錦山とイウヴァルトは、その報われなさも相まってかなり共通項のある2人だったと思います。だからこそ、最後の一言は刺さるはず。
それにしてもイウヴァルト、今回もなかなか軍事ムーヴしてるはずなのに、偶然(ロボもJOKERだったこと)に助けられた感がどこか拭えず、カイムに勝てるビジョンが見えないのはどうして……

クロノ、ダルケル予約します。

284 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:41:58 ID:55OUh4YY0
年内に完成してちょっと嬉しい。
投下します。

285亡き王女の為の英雄裁判 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:42:59 ID:55OUh4YY0
【被告人:クロノ】

「くそっ……!ㅤ俺が一体、何をやったって言うんだよッ!」

ㅤこの裁判に証拠はない。敢えて提出する者がいないからだ。

【原告側:ダルケル】

「姫さんから聞いたぜ。お前が……グレイグって奴を殺して姫さんも殺そうとしていたってな!」

ㅤこの裁判に証人はいない。それと成りうる者の全員が、その命を失っているからだ。

「俺じゃねえ!ㅤグレイグを殺したのはゼルダだ!」

ㅤそれでも己の無罪を貫き通す覚悟があるのなら。

「姫さんがンなこと……するわけねえだろうがッ!」

ㅤそれでも相手の有罪を判ずる信念があるのなら。

ㅤ古来より、用いられてきた手段はただ一つ――決闘である。客観的要素によって判示することができない事例の判決を、両当事者の戦いに委ねる儀式。

ㅤこの決闘の立会人となるのは他でもない、あなたたちだ。どうか、見届けてほしい。彼らの覚悟を。彼らの信念を。



ㅤクロノが手にするのは『白き加護』の力によってその本領を発揮する太刀、白の約定。対するダルケルは、本来は両手に抱えるべき武器である鉄塊を、自慢の腕力に任せて片手で振り回す。両者ともに、攻撃力は十二分に宿している。

ㅤ同時に、彼らがもう一方の腕に備えるのは同じ世界で造られた盾。片や、物理攻撃に対する堅固さに特化した『ハイリアの盾』。片や、厄災に乗っ取られ人々の脅威と化した古代兵器との戦いに特化した『古代兵装・盾』。両者ともに、防御力もまた申し分無い。

ㅤそしてこの戦いを白熱させるのは、武具の強力さに違わぬ実力を持つ二人だ。一瞬の隙が致命傷に繋がり得る攻防一体の戦闘を、何度も何度も繰り広げる。

「俺とグレイグは、森でゼルダを助けたんだ。だというのに、アイツは……」

「姫さんを知らない奴なら騙せていたかもしれねえが、俺はそうはいかねえぜ。」

ㅤ対話については、まさに取り付く島もないという様子だ。ダルケルの中のクロノ像は、自身を騙そうとする殺人者でしかない。対立する二人の主張が食い違うのなら、信頼に値する者を無条件に信じるのはダルケルに限らず人の性だ。

ㅤそれなら、無力化した上で話を聞かせる。この上なく単純な方針をクロノは定める。生殺与奪を握った上で対話を仕掛けるのは、殺意がないことのこの上ない証明であり、一定の信頼を得られるだろう。

286亡き王女の為の英雄裁判 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:43:42 ID:55OUh4YY0
ㅤしかし何にせよ、どの道ダルケルに勝たないことには始まらない。そしてそれは、容易ではないとこの応酬が示している。半端な攻撃は両者の持つ盾が吸収するのだ。

「うらぁ!」

「うおっ!」

ㅤダルケルのフルスイングを回避。速さではクロノが優っている。だが、ダルケルが攻めと守りの両面で微かに優位にあるため、クロノも攻めあぐねている状態だ。

(あの盾が厄介だな……。)

ㅤクロノは思考する。守りの強固な敵はまずは守りを剥がす――強敵と戦う時の鉄則だ。かのラヴォスも、外殻を破壊せずには本体であるコアの下にはたどり着けなかった。世界は変われど、戦いの本質は得てして変わらない。

「何をボーッとしてやがる!」

「っ!」

ㅤしかし、クロノがダルケルの盾を破る方針を打ち立てるより先に、ダルケルはクロノの持つ盾の脅威を認識していた。ハイラルの盾の堅牢さを、ダルケルは知っている。その排除に乗り出すのもダルケルが一瞬、早かった。

ㅤ回避されるのも覚悟の上の大振りの一撃。しかし盾への対処の思考に追われていたクロノは回避ができず、身につけたハイラルの盾で受ける。当然、普段は盾を使わないクロノにジャストガードの技術などなく、かのハイラルの盾越しでも左腕に衝撃が走り、着実にクロノの体にダメージを蓄積させていく。

(くっ……やはり、強い……!)

ㅤ大きな体躯をしたダルケルの攻撃がただの質量の暴力であれば、ラヴォスに遠く及ばない。だがダルケルは鉄塊を時に振り下ろし、時にぶん回し、時に突く。単純な攻防を単調でなくする様々な技術を駆使してクロノの逃げ道を無くしていく。『英傑』を名乗るのは決して名ばかりではないのだと、クロノは実感する。

(それでも……負けてたまるか!)

ㅤしかし、クロノもまた『英雄』と呼ばれた――否、"呼ばせた"男である。王女誘拐の冤罪をさらなる功績で塗り潰し、身分の違うマールとの結婚を大々的に認めさせるために。

ㅤ世界の脅威の排除が称号に先んじているという点で、クロノとダルケルは大きく異なっている。少なくとも、クロノは世界の敵に勝利したのだ。その経験値の差は、僅かに、されど確実に戦局に影響を与える。

「はぁっ!」

「なッ!?」

ㅤ続くダルケルの一撃が繰り出されるまでの一瞬の間を付いた一閃。古代兵器を討つために造られた盾は、遥か遠い未来の武器によって弾き飛ばされる。

「くッ……!」

ㅤ咄嗟に鉄塊をぶん回して乱れ斬りへの接続を防ぐダルケル。だが不運にも、吹き飛ばされた盾は城の周囲に張り巡らされた怨念の沼に落ち、回収が不可能となった。

「それはグレイグが使っていた盾だ。お前が使っていいものじゃない。」

「ああ。グレイグって奴から姫さんに託され、俺が受け継いだ大切な盾だ。なのに、使えなくしちまうなんてヨォ……」

ㅤ盾を先に突破したことにより、戦いの流れは間違いなくクロノの側に傾いている。

「……まったく情けねえぜ、ちくしょう。」

ㅤしかし、盾を使わないのはダルケル本来の戦闘スタイルだ。両腕で振るう鉄塊はより速度を増し、それに比例して破壊力も大きくなる。さらには、今の一撃でクロノの実力をダルケルはハッキリ認識した。生き残ってゼルダを護るために防御を優先するのではなく、刺し違えてでも倒さなくてはならないと意識をシフトした。

287亡き王女の為の英雄裁判 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:44:14 ID:55OUh4YY0
ㅤ両腕で鉄塊を振り回してのの攻撃――まさしく捨て身とも取れる特攻。クロノの剣術ならばカウンターを叩き込むのも不可能ではないが、リスクが高い上に、相手の勢いを利用する以上手加減ができず殺しかねない。

「サンダガ!!」

ㅤしたがって、直接の応酬を避ける選択肢を取るクロノ。ダルケルの進む先の足場に牽制のごとく雷を降らせる。それを受け、電気を通す金属を所持したままの特攻を辞めるダルケル。

(リンクのような正統派の太刀筋だけでなく、ウルボザのような搦め手まで使えるのかよ……)

ㅤダルケルはその雷から、もうこの世界でも会えなくなったかつての戦友の名が脳裏を掠める。

(ウルボザ……オマエもコイツみてーなヤツに殺されたんだよな?ㅤ俺と違って頭のいいオマエは、騙されて殺られるようなことはねえもんな。)

ㅤ許せねえ。英傑にも引けを取らないだけの実力がありながら、それを他者を傷付けるために行使する奴らが、許せねえ。その犠牲となったであろう亡き戦友を思い返し、ダルケルはさらに決意を重ねた。そして、冷静になった頭で今一度戦局を俯瞰する。

ㅤ魔法を用いて接近戦を拒絶したクロノはダルケルが雷に怯んだ隙に距離を置いている。

ㅤ逆に考えると、応戦を拒否されたということは、それが相手にとって都合が悪い証だ。刺し違えてでも倒すと決意した自分とは違い、クロノは優勝のために自分をなるべく無傷で突破したいのだろう。

ㅤそしてあの雷も、ウルボザのチカラと同質のものならば何度も何度も続けざまに撃ち続けられるようなシロモノではないはず。それならば、攻めるが吉だ。

「ゴロオオオオォッ!」

ㅤそう分析したダルケルは、再び特攻をするために急速接近する。ダルケルほどの巨躯で速度を確保するためのその手段とは――回転。その身を丸め、大地を転がって一気に前進する。

「ッ!」

ㅤカエルの舌に、ロボのロケットアーム。人間の常識を優に超えた接近手段はこれまでの仲間たちから見慣れているクロノも、その人間離れした移動方法に面食らわざるを得ない。サンダガを詠唱する間もなく、射程内への接近を許してしまう。

「がァッ!」

ㅤ元の剛腕に合わせて勢いまで 付いたその一撃を半端な攻撃で迎撃できるはずもなく、クロノが選び取った行動は再び、盾を前方に構えての防御。予定調和とばかりに振り下ろされた鉄塊は、それがハイラルの盾でなければ即座に盾ごと粉砕されていたであろう強打となってクロノを襲う。

ㅤ盾越しにクロノを今までで最も大きな衝撃が襲うも――やはり真なる英傑が果てしない冒険の果てに掴み取るに相応しい、最強の盾だった。ダルケルの渾身の一撃の大部分が軽減されたのだ。普段は盾を使わないダルケルは、ハイラルの盾の強固さを知識として知ってこそいれど、ここまでであるとは思っていなかった。

「ちっ……!」

「いい加減に……」

ㅤ皮肉にも、ゼルダに騙されたことで手に入れた盾が、クロノを護ったこととなった。その事実にクロノは僅かに苛立ちを覚え、顔をしかめる。そんな彼の視界に映るのは、大振りの攻撃を防いだことで大きく隙が生まれたダルケルの姿。

「……しろよッ!」

「ぐおっ!」

ㅤクロノは太刀に風の刃を纏わせて薙ぎ払う。それをまともに受けたダルケルは吹き飛ばされ、ハイラル城の城門にその身を打ち付ける。

「はぁ……はぁ……」

ㅤクロノの放った『かまいたち』は、ダルケルほどの実力者を殺す威力はない。立ち上がってくることは分かっている。

288亡き王女の為の英雄裁判 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:44:51 ID:55OUh4YY0
「……なァ、赤髪の兄ちゃん。」

(はぁ……それでもコイツ……さすがにタフすぎんだろ……。)

ㅤクロノの想像以上に、ダルケルはその身に受けたダメージを意に介していないようだった。

「アンタ、そんなに強いのにヨォ……何で人殺しなんかに手を染めたんだ。」

ㅤしかし、クロノにとっては悪くない状況だ。まだ決着こそ付いていないが、両者ともに戦闘への疲れが見えてきた頃合――そんな状況下でようやく訪れた、僅かな対話の余地。

「俺はやってねぇ……アンタ、ゼルダの奴に騙されてんだよ。」

ㅤクロノからすれば、それは謂れの無い非難でしかない。そう言い返すのは当然であり、ダルケルもまたそれを素直に聞き入れるはずがない。

「そんなハズがねえ!」

「どうしてそう言いきれる!」

「だってヨォ……姫さんは……姫さんは……」

ㅤここで、どちらも白を主張し、泥沼化するかと思われた話し合いは、思わぬ展開を見せることとなる。続くダルケルの言葉に、ぴくりとクロノの眉が動いた。

「……逃げなかったんだ。」

ㅤゼルダの人物像なんてこの際何も関係がないはずであるのに、クロノはその続きを聞かずにはいられなかった。

「姫の責務に追われようと、心無い奴らに無才と罵られようと、逃げなかったんだ。何でだと思う?」

「……知らねぇよ。」

「……姫さんは……国の皆が……ハイラルの民が大好きだから……だから逃げなかったんだ!ㅤ周りを息巻く環境がどれだけ息苦しくても最後まで諦めずに、あの小さい背中に背負った責務を全うしたんだ!ㅤそんな姫さんが……一体、誰を殺したって言うんだオメェは!?」

ㅤダルケルのその気迫は、語る言葉に一切の謀を含まぬ真実であると物語っている。ゼルダがどれほど偉大な人物で、彼女の世界に必要な存在なのかはクロノに対して十分に伝達された。

ㅤしかし、だとしても聞くに値しない理屈だ。ゼルダがどう評価されている人物であっても、彼女がグレイグを殺し、今なお彼女のせいで自分がダルケルと殺し合っている現状を甘受できる道理は無いのだから。

289亡き王女の為の英雄裁判 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:45:22 ID:55OUh4YY0
「……逃げなかったら、偉いのかよ。」

ㅤそして――それとは別に、クロノは彼女の生き様を肯定してはならないのだ。それは自らの矜恃、そしてマールとの出会いに、真っ向から反する在り方だったから――

「生まれつきの運命だったら、はいそうですかと受け入れるのが美徳なのかよ……!」

ㅤダルケルにとっては、耳を貸す意義もない言葉だった。ゼルダの役目がハイラルの平和にどれだけ貢献するのか、それを果たせないことに対し、本人も周りもどれだけ痛ましく思っていたのか、それら一切を知らないクロノだからこそ言えてしまう残酷な言葉だ。

「うるせぇッ!」

ㅤだが、ダルケルには少なからず自覚があった。神獣の操作を早々に習得し、与えられた役目を充分に果たしていた自分たち英傑の存在は、少なからずゼルダを追い詰めていたと。誰が悪いというものでもない。だが、100年間、心の端にずっと引っかかっていた何かを刺激したクロノに対し、言い返さずにはいられない。

「オメェが奪った命もな……生きていたかったんだ!」

ㅤダルケルはグレイグを知らない。だが、ゼルダを逃がしてクロノに一人立ち向かった騎士であるとは聞いている。そんな忠義心の塊のような彼は、この世界に別の仲間を残し退場するハメになったことが、きっと無念であったに違いない。神獣の中に取り残され、炎のカースガノンに破れ散り行くこととなった、かつての己を想起する。姫さんも、他の英傑もまだ戦っているというのに、自分だけがその戦場を去らねばならぬ屈辱。その時の想いを脳内に反芻させ、歯を食いしばったまま再びクロノに向かって走る。

『――この子が最期に言った言葉、知ってる? 死にたくない、だって!』

ㅤそして――ダルケルの、己の屈辱と共にグレイグについて言い放った言葉は偶然にも、クロノには放送で聞いたマールの最期と重ね合わされた。ただでさえ無実の罪を被せられているこの状況下。マールの死まで、自分の所為として被せられたような心持ちにさせられて。

「――罪に汚れた口で、姫さんの生き方を否定すんじゃねえッ!」

「――ッ!ㅤ黙れええぇぇッ!」

ㅤクロノの心の奥に、今までずっと差していた黒い影が、そっと浮かび上がった。

「これ以上……俺たちの旅路を……マールの生きた証を……否定、すんなああああッ!!」

ㅤ朝の光に照らされながら、ふたつの影が交錯する。

ㅤこの時、クロノの、愛する者の喪失をこの上なく痛感しながら振るった刃は、宿る白き加護によりいっそう練磨され――

290亡き王女の為の英雄裁判 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:46:08 ID:55OUh4YY0


「へっ……本性、現しやがったな。」



――そしてそれ故に、ダルケルには一切通用しなかった。


『ダルケルの護り』


ㅤクロノの放った全身全霊の一撃は、ダルケルの身体にかすり傷ひとつ付けることなく弾かれた。

(なん……だ……これ……身体が……動かねえッ!)

ㅤそもそも、ダルケルに盾など必要なかったのだ。彼の身は瞬間的に、ハイラルの盾とて超える最強の鎧を纏うことができるのだから。

ㅤしかし、今の今までダルケルの心の底にはひとつの疑問があった。

――何故、クロノは命を取りに来ない?

ㅤ盾を弾いた時の一撃も、サンダガを牽制にしか用いなかった時もそうだ。クロノはダルケルの命を直接狙うような攻撃を一切仕掛けてこなかった。そのため、ダルケルの護りを使うかどうか、判断に迷わされる局面ばかりだった。

ㅤ実際に見たクロノは、ゼルダの語ったクロノの人物像とどこか一致しない。このまま戦いを続けるのは、本当に正しいのか?

ㅤそれは外れていて欲しいと願わずにはいられない直感だった。クロノが無罪であるということは、グレイグを殺したのはゼルダであるという、クロノの主張が通ることと等しい。

ㅤだが、今の一撃に込められていたのは紛うことなき殺意であった。それはある意味では待ち構えていた一撃。クロノが殺しにかかってくれるだけで、ダルケルにとってはゼルダの無罪を心から信じるに足るのだ。

ㅤそして――もはやダルケルに、クロノを皆の驚異と見なし排除することに躊躇いは無い。和解の余地を僅かに残していた決闘は今、紛うことなき殺し合いと化したのである。


『――■■。』


ㅤ反動でその場で硬直したクロノに、返しの鉄塊が叩き付けられる。重力を味方に付けた鉄の塊をまともに受けては、星の英雄たるクロノも無事では済まない。視界が大きくぐらりと揺れ動き、滲む血の色に染まっていく。


『――■■。』


ㅤダルケルの護りの反動が消えても、痛みで身体が動かない。腕の力が抜け、白の約定をその場に落としてしまう。クロノを無力化できるこの上ないタイミングであるにも関わらず――ダルケルはもはや止まれなかった。クロノの本気の殺意を認識してしまったから。ダルケルの護りを持つ自分でなければ、まず死んでいたであろう一撃――それがゼルダや、他の仲間たちに向けられるかもしれないのを黙認することはできなかった。クロノを殺す覚悟を決め、鉄塊を大きく振りかざす。


『――■■。』


ㅤ俺が何をしたんだよ――そんな気持ちは、とっくにクロノの中から消えていた。多分、こういうのよくある事なんだろ。宿命やら仇やらが誤解に始まって、最終的に後戻りできないくらいに拗れてしまうことなんて。ラヴォスの復活を巡って人類と長らく争ってきたあの魔王が。最終的にカエルと化した勇者によって討たれたあの人類の敵が。実は俺と同じように、愛する人のためにラヴォスの復活を阻止しようとしていたなんてさ、今さら誰が信じるよ?


『――■■。』


ㅤ結局、誤解の余地を大いに残した俺は英雄の器じゃなかったってことだ。そもそも英雄になりたかったのも、マールに釣り合う身分になりたかったからで、だけどもうマールはいない。幸せな夢は終わったんだ。それならもう、今さら英雄になんてならなくたっていいじゃないか。


『――■■。』


ㅤそう――これは、幾つもある物語の結末の中の、たったひとつ。


『――■罪。』


――なぁ、それでいいだろ?


『――有罪。』

291亡き王女の為の英雄裁判 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:46:45 ID:55OUh4YY0











「――いいわけ、ねぇだろ。」

ㅤ突如、クロノの目に光が点る。怒りや悲しみに任せて戦っていた先ほどまでとはどこか違う、吹っ切れたようにその目は澄んでいて。

ㅤその突然の変貌に驚愕するダルケルの方へと向き直り。

「悪ぃな。」

ㅤそして一言、呟いた。

「俺はもう、自由にやらせてもらうよ。」



『――シャイニング』



ㅤ辺り一面を、神々しく煌めく極光が包み込んだ。





ㅤ終わりを覚悟した瞬間、走馬灯というものがクロノの脳内を駆け巡った。



ㅤ千年祭で、マールと出会った時。今思えば、あれが全ての始まりだったんだよな。

ㅤ中世で、マールの姿が突然消えてしまった時。情けねえことに俺、パニックになっちまった。ルッカがいなかったら、何が起こったのかも分からずじまいだっただろうな。

ㅤ未来の世界で、星の滅亡の運命を変えようと、マールが言い出した時。あの時からだっけ、英雄ってもんを目指し始めたのは。マールと生きるべき世界で俺は王女誘拐の大罪人。そのくらいしねえと、誰も王家との結婚なんざ認めてくれねえよ。

ㅤそれからも、太古の世界、古代文明の世界、色々な所の記憶を垣間見て行った。楽しい記憶も悲しい記憶も、どっちが多いとかじゃねえ。どっちもたくさん入り交じっていたけどさ。

――全部、そこにはマールがいたんだ。

ㅤいつか、ロボが言ってた。走馬灯ってのは、『あの時にもどりたい』、『あの時ああしていれば』という、強い想いの現れだって。マールを失った俺は、後悔していたんだ。どうすれば、この結末を避けられていたのか、そればっかり考えていたんだ。

ㅤでも、俺は知ってるはずさ。結末なんて、過去も未来も問わず、如何様にも変えられるってことを。実際に俺、1回死んだことあるんだぜ?ㅤでも今はこうやって、ちゃんと生きてる。だからマールのことだって、まだ諦めるには早い。やれることを全部やってからじゃねえと、終わるにも終わり切れねえよ。

ㅤだから、さ。

292亡き王女の為の英雄裁判 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:47:23 ID:55OUh4YY0
「いいよ、掴んでやるよ。優勝者に与えられる、"願い"ってやつを。」

ㅤそれは、修羅の道だ。されど、マールと再び会える可能性が僅かにでも残された希望の道でもある。

「ぐっ……!ㅤ待て……!ㅤやっ……ぱり……オメェ……が……グレイグって……奴を……!」

ㅤその時足元では、ダルケルの護りを使う暇もなくシャイニングの閃光に焼かれたダルケルが、クロノに向けて手を伸ばしていた。

ㅤ心の奥底に潜んでいたクロノの影をその目に焼き付けたダルケルは、クロノへの誤解がもはや確信へと変わっていた。そして、僅かにでもゼルダを疑ってしまったことを恥じ、後悔した。

「ああ、俺が殺した。」

ㅤそんな様々な感情が入り交じるダルケルの想いを悟ったクロノは、吐き捨てる。今さら過去の冤罪のことなんざ、どうだっていいよ。

ㅤそれよりもコイツは俺に、俺の本当に大切なものを気付かせてくれた。

――せめて、信念だけは間違っていなかったと、そう思いながら逝ってくれ。

「ちく……しょ……」

ㅤ拾い上げた白の約定で、ダルケルの身体を両断する。自分の決意を確かめるように。時を遡ろうとも消えない罪を、己の手に刻み付けるように。

ㅤこうして、在る英雄を巡る決闘裁判は幕を閉じた。判決は、無罪。しかし、ひとつの罪がその身に刻まれることとなる。

ㅤ罪も悪も受け入れて、ある英雄の、新たな夢が始まる。

【ダルケル@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルドㅤ死亡確認】

【残り 50名】

【A-4/ハイラル城 入口一日目 午前】

【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:白の約定@NieR:Automata
[道具]:基本支給品、ハイリアの盾(耐久消費・小)(@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド)、ランダム支給品(1個)
[思考・状況]
基本行動方針: 優勝し、マールを生き返らせる。
1.そのためには仲間も、殺さないとな。

※マールの死亡により、武器が強化されています。
※名簿にいる「魔王」は中世で戦った魔王だとは思ってません。

※ED No.01 "時の向こうへ"後からの参戦です。このルートでは魔王は仲間になっていません。
※元の世界の仲間が参加していることを知りません。
※グレイグからドラクエ世界の話を聞きました。


※ダルケルの持っていた支給品は、シャイニングにより焼失しました。

※周囲の怨念の沼の中に、古代兵装・盾@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルドが落ちているかもしれません。

293 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:47:55 ID:55OUh4YY0
以上で投下を終了します。

294 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:07:24 ID:MmWUg2AQ0
お久しぶりです。
ゲリラ投下します。

295誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:08:47 ID:MmWUg2AQ0

先に動き出したのは当然、真島吾朗だった。

朝陽ですら捉えられない速度でトレバーの懐に潜り込んだ真島はがら空きな腹部に向かって四発の拳と二発の蹴りを叩き込む。計六発の打撃を受けてからトレバーは初めて自分が攻撃されたのだと気づいた。
だがそれに気付いたところでトレバーの行動は変わらない。大幅に軽減された衝撃はこの男を止めるにはあまりにも役不足で、左手の共和刀が白い線を描いた。
確実に命を奪うつもりで放たれたそれは結果的に真島の髪の毛一本すら断ち切ることも出来ず、大きく後退した狂犬へ追い討ちをかけるように右手のショットガンをぶっ放す。
凄まじい炸裂音はしかし肉を穿つ音が混じらない。床、壁と連続で蹴りいつの間にか三角飛びの要領でトレバーへと飛び込んでいた真島はそのまま膝蹴りを側頭へと叩き込んだ。

「ちッ……」

舌打ち。しかしそれは蹴りを受けたトレバーのものだけではなく、床に着地した真島も同じだった。

296誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:09:26 ID:MmWUg2AQ0

「やっぱ手応えが薄いのォ〜、なんで殴ってる方が痛いねん」
「だから言ったろ? 俺はアイアンマンなんだよ」
「はッ、アイアンマンの素顔ってこないな不細工やったんか」

軽口を返しながらも真島は内心どうしたものかと思考を巡らせていた。
自分が負けるとは微塵も思っていない。だが攻撃が通らないのならば勝つこともできない。顔面になら攻撃が通ると思ったがネックガードが頚部への衝撃を軽減させているようで、目立ったダメージが見受けられなかった。

と、考えている間に共和刀の刺突が先程まで真島の額があった空間を貫いた。
大きく背中を反らしそれをやり過ごした真島はそのまま流れるようにバク宙キック。ネックガード越しの軽い衝撃がトレバーの顎を揺らした。が、相変わらずダメージにはならない。

「これで分かったろ? マジマ。てめぇがどんだけ速く動けようが、武装の差は埋められねぇんだよ」
「……お前、なんか勘違いしとらんか?」
「あァ?」

心底理解できない、という風に首を傾げるトレバーの視界は次の瞬間、飛来する瓦礫によって埋められる。
ガン、と額を打つ衝撃に思わず目を閉じすぐさま開く。と、そこには既に真島の姿は無かった。
迷わずに背後を振り向くトレバー。と、その右のこめかみを何かが勢いよく打ち抜き、陶器の割れる音を間近で聞いた。

297誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:10:06 ID:MmWUg2AQ0

「武器なんざそこら中にありふれとんのや」

真島の手に握られていたのは割れた花瓶。まるでワインボトルでも握るかのように手に収まるそれは真島にとって立派な刃物。ここに来て初めてトレバーの表情に戦慄が垣間見えた。

「ヒィィィヤッ!!」

狂気的な叫びと共に放たれる花瓶の刺突はスーツの繊維の隙間を縫いトレバーの腹部に突き刺さる。苦悶の声を上げるトレバーに追い討ちをかけるように、突き刺さる花瓶へと膝蹴りを叩き込んだ。
肉に刃物が食い込む感覚が気持ち悪い。トレバーはこの場で初めて覚える痛覚に未だ囚われたままだった。

真島にとって無手であることはさほど問題にならない。何故ならば彼にとっては周囲の環境全てが"武器"なのだから。
それは今さっき戦ったリンクや、かつて数え切れないほど拳を交わした桐生も同じだ。何も武器とは生物を傷つける用途に作られた物だけに限らないのだ。
銃や刃物を武器として見ていたトレバーは自分の知らない世界をむざむざと見せ付けられた。

「トドメやァ!!」

終了宣言。同時、真島の足刀が花瓶に叩き込まれる。深く、深く突き刺さるそれはやがて負荷に耐えきれなくなり粉々に砕け散った。
腹部から赤い染みを滲ませるトレバーはしかし倒れ込む寸前で踏みとどまり、憤怒に満ちた顔を上げろくに狙いも定めずに銃弾を放つ。
しつこい奴や。そんな悪態を叩ける程には余裕を持ってそれを回避する。が、立て続けに二発目の鉛玉が風を切った。

ヤケになったのか、その銃弾はやはり真島を穿つことは無い。続く三発目。これも真島は危なげなく回避する。
懲りずに四度目、銃口を向けるトレバーに一種の哀れみを抱きながら真島は引き金が引かれる寸前に右へのスウェー回避を取った。

急速に体一つ分右側へ移される視界。その端で、真島は信じられぬものを見た。
回っていた、トレバーが。

「あ────?」

それに気付いた瞬間、真島の脳が大きく揺さぶられると共に視界が明滅する。
コマのような回転により遠心力を付けたショットガンでの横薙ぎ。三発目の時点で既に弾切れだったそれは鈍器として真島の頭を叩き割ったのだ。

298誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:10:53 ID:MmWUg2AQ0

「く、ッ……そが……!!」

トレバーの怪力にパワードスーツの人工筋肉が加わったその一撃は如何に真島が頑丈といえど関係ない。頭から血を流し膝を付ける真島をトレバーが見下ろす。
その顔には愉しげに、心底愉しげに笑っていた。

「さァ〜て、どう拷問してやっかなァ? 楽には殺さねぇぞ。まずはその残った右目を抉って次に指全部一本一本切り取って次に腕切り落として──」
「──なんでや」
「あァ?」
「なんで俺の動きが分かったんや」

恍惚としたトレバーは如何に真島を苦しめようかという至福の時間を邪魔されたことにより不機嫌なものに変わる。
確かにほしふるうでわを装着した真島の動きはおよそトレバーが反応出来る速度ではなかった。

「簡単な事だ。てめぇの左側には壁があった。真正面からの銃弾避けるんなら右側しかねェだろ」

しかし、その理屈は思ったよりも単純なものだった。

「自分の速度に自惚れちまったか〜? なぁ、マジマ。てめぇはゴキブリと同じなんだよ。カサカサ動き回ってるだけで人間様に勝てると思ったのか? えぇ? いい勉強になったろ。虫如きじゃこれが限界だってな」
「……ああ」
「おーおー、すっかり潔くなっちまって。気が変わった、これ以上マジマが苦しむ姿見たくねぇから楽に殺してやるよ」

項垂れる真島の脳を貫かんと切っ先が死の音を立てて迫る。トレバーは酷く悲しそうに、愉しそうに口角を釣り上げた。


「──おかげさまで、鬱陶しい目眩も無くなったわ」

299誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:11:32 ID:MmWUg2AQ0


鳴り渡る金属音。窓の外へ弾き飛ぶ共和刀。
痺れの残る左手を呆然と見つめるトレバーは何が起こったのか理解出来ていないようだった。

──ドス弾きの極み──

相手の刺突に合わせて回し蹴りを叩き込む事で刃物を弾き飛ばす真島の得意技。
トレバーの長ったらしい演説により稼いだ時間で目眩から立ち直った真島。障害を取り除いた彼にとって片膝をついた状態からその行動に移すのはそう難しいことではなかった。

「てめッ──」
「喋んなや、人間様。虫のど根性見せたるわ」

武器を失い激昴するトレバーの口を文字通り塞いだのは真島の足。口内を切ったのかトレバーの口から赤い唾液が飛び散る。
体勢を立て直そうとするトレバーだが、まるで踊りの延長かのような華麗な蹴りを連続で叩き込まれるせいで身動きが取れない。

「ぐッ、ぅ……お、ぇ……!」

ダメージはない。ない、が……連続で腹部に衝撃が走るせいで内蔵が絶え間なく揺らされ、激しい吐き気に見舞われる。恐らくは二日酔いのせいもあるのだろう。加えて先程花瓶の刺さった箇所に響いて傷口が開くのが分かる。
そうして脱力した体は真島の蹴りの衝撃に導かれ、少しずつ後退を余儀なくされる。そうしてトレバーの体は窓際へと追い詰められた。

「構えろや」

空気が変わる。
トレバーは言葉を発することなく、凹んだショットガンを盾代わりに己の眼前へと突き出した。
ぐわんぐわんと気持ち悪く揺れる視界はそれでもくっきりと映し出す。自身へ背中を向ける寸前、凶悪過ぎる笑みを浮かべる真島吾朗の姿を。

300誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:12:20 ID:MmWUg2AQ0


「ヒイィィィィ────ヤァッ!!」


世界が破裂するかのような錯覚を覚えた。
真島吾朗という狂犬が振り絞った全力の後ろ回し蹴り。
それはショットガンを叩き割り、スーツでも防ぎ切れない衝撃を体全体に伝え、トレバーの意識を呆気なく刈り取りその巨体を窓外へと吹き飛ばした。

──蹴り落としの極み──

喧嘩における勝利とはなにも相手を殴り倒すことに限ったわけじゃない。試合ならばそうなのだろうがなんでもありの喧嘩においてそれは愚直。
如何なる形でも戦闘不能に追い込んでしまえば勝ちは勝ちなのだ。現に真島はそういう戦いをして生き残ってきたのだから。

窓から顔を出し悠然と広がる光景を見下ろす。
城を囲うように生えた木々に遮られトレバーの様子は確認出来なかったが、恐らくは死んでいないだろう。真島としてはどちらでも良いが。
時計を確認する。時刻は五時五十七分──放送までの時間は三分。

「参ったのぉ。俺とした事が、二分もオーバーしてもうたわ」

適当に引きちぎった布を頭に巻いて止血しながら真島が気だるそうに呟く。
本来そんなことを気にする場合じゃないのだが、それを指摘してくれる存在は周りにいない。
とにもかくにも放送まで残り三分。腹が減ったし何か食べるかとデイパックから引っ張り出したおにぎりに齧り付いた。

「なんや、勝利の味にしちゃ随分しけとるわ」

そうしてあっという間におにぎりをひとつ食べ終える。そのまま二つ目のおにぎりを取りだした真島はぴたりとその手を止めた。

301誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:12:58 ID:MmWUg2AQ0

「「こんにちは、真島吾朗」」

透き通った二つの声が響く。
真島がちらりとその方向へ目を向けると、騒動の終わりを感じ取ったバーベナとヘレナの姿があった。
敵かと一瞬身構えるも、微塵も敵意が感じられないことに気が付けばそのまま何事も無かったかのように食事を再開する。
二人の女神はそれを止める気もなくぽつぽつと語り始めた。

「貴方は脅威を一つ払い除けた。参加者でもない私達が言うのもおかしな話だけれど、ありがとう」
「別に感謝されるためにやったわけちゃうわ。それにお前ら運営側やろ。そんなこと堂々と言ってええんか?」
「言葉の自由は許されています。もっとも、彼らにとって都合の悪いことを除けばの話ですが」
「ほ〜、気に入らんもんは即爆破っちゅうわけやないんやな」

揃えてぺこりと頭を下げるヘレナとバーベナを真島は見向きもせず、鬱陶しそうにひらひらと手を払わせる。
首輪をしていないことから彼女達が運営側だということは容易に察せた。が、ここまで露骨に協力的ではない態度を見せるとは予想外だった。
とはいえ真島にとっては毒にも薬にもならない。先程真島が言ったように感謝される筋合いなど微塵もないのだから。

「はじまったか」

放送開始を示すチャイムが鳴る。
顔を引き締め耳を澄ます。最初こそ放送などどうでもいいと思っていたが、雪歩達のような一般人が巻き込まれていると知った今は状況が違う。
この六時間で何人死んだか、そしてリンク達が生存しているかを確かめなければならない。
放送は情報の宝庫だ。仮にも組長という立場に所属している真島はそれを弁えていた。

が、そんな彼の思考は放送が始まってすぐに弾け飛ぶことになる。

302誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:13:37 ID:MmWUg2AQ0


──桐生一馬


「は?」

疑問符。
動揺よりも先に頭の中をハテナマークが埋め尽くす。
きりゅうかずま、キリュウカズマ、桐生一馬──酷く聞き覚えのある名前だ。
その名を持つのは伝説の男、堂島の龍に他ならない。真島にとって最大の好敵手であると言っても過言ではない存在だ。

そんな彼の名が放送で呼ばれた。
その事実が示唆することに気付くのに数瞬かかり、嫌に鮮明に聞こえるマナの声に再び耳を傾ける。

名簿の支給、禁止エリア、Nの城の役割、支給モンスターの存在、そして運営は参加者の声しか確認出来ない。
それらの内容を頭の中で整理し、記憶する。その間、まるで真島は別人になったかのように冷静だった。

耳障りな少女の声が消え失せ、放送が終わる。
そうして張り詰めた糸が切れたかのように真島は項垂れ、目いっぱいの力で床を叩いた。

「……これが筋を通した結果かい、桐生チャン」

放送の内容が嘘だなんて理想で現実逃避する気は毛頭ない。彼のような猛者が死ぬはずないと過信するつもりもない。
どんな化け物じみた人間も鉛玉を額に受ければ死ぬ。真島が生きてきたのはそういう世界なのだ。

「どうせお前は誰かを守って死んだんやろな」

やっと紡いだ声は自分でも驚くくらい震えていた。
桐生一馬はそういう人間だ。超人じみたその力を迷いなく他人の為に使い、いつだって守るべき存在の為に命を張る。
だからって、仕方がないと感情を呑み込み平然とすることはどうしても出来なかった。

「…………はぁ」

深い深いため息。様々な感情を乗せたそれを吐き出した真島は力なく立ち上がる。立ち上がるという動作にこれほど労力を感じたのは初めてだった。
続いて新たに支給された名簿に目を通し、澤村遥と錦山彰の名前を確認する。錦山はともかく、遥の名まである事に真島は怒りを示した。

303誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:14:18 ID:MmWUg2AQ0

「とことん腐っとるわ、このゲーム」

彼にしては酷く冷たい声で吐き捨てる。
澤村遥。桐生一馬が命を懸けて守るべき存在。
本来真島にその少女を救う義理はない。けれど桐生亡き今、その役目を代わってやるぐらいはしてやりたかった。

「真島吾朗」

不意に名を呼ぶのは既に存在を忘れかけていたバーベナ。なんや、と冷たい声のまま振り返る真島の前へとヘレナが歩み出た。

「貴方はここで留まるべきではありません。貴方はきっと何人もの命を救える力と心を持っている。この残酷な運命を変えられる数少ない存在なのです」

淀みないヘレナの言葉には願望も込められていた。
そう、何もゲームの破壊を望んでいるのは真島だけではない。運営側であるヘレナとバーベナもそうであるし、リンク達のような未だ生存している参加者にも同じ意志を持つ人間は多数いるだろう。
ヘレナの言い分は随分と勝手だ。けれど彼女にはそうして託すことしか出来ないのだ。真島は知らずのうちに握り拳に力を込め、無理矢理に心の靄を払う。

「行きなさい、真島吾朗」

全ての思いを込めたバーベナの言葉を受けて真島吾朗の目は鋭利さを取り戻す。

「──言われんでもそうするわ! こないな悪趣味な殺し合い、この真島吾朗様がぶっ壊したるでぇ!!」

力強い宣言。城外へと駆け出す彼の姿を見て二人の女神は安堵した。
真島吾朗は狂人だ。けれどそれ以前に人間なのだ。それも桐生に匹敵する力を持ったこの殺し合いにおいても希少な存在。
狂犬の名を欲しいままにするその勢いで彼が城外へと飛び出したのを確認すれば、二人の女神は再び次なる存在を待つだけの駒に成り下がる。
ただ一つだけ変わったとすれば、彼女達の思いを受け取った者が現れたことだ。


【C-2/Nの城付近/一日目 朝】
【真島吾朗@龍が如く 極】
[状態]:頭部出血(止血済み)、疲労(中)、焦燥
[装備]:ほしふるうでわ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームをぶっ壊す。
1.とりあえず動かないと気が済まない。
2.遥を探し出し保護する。
3.桐生を探す(死体でも)。
4.錦山はどうしよか……。
5.雪歩が気がかり。

※参戦時期は吉田バッティングセンターでの対決以前です。
※運営が盗聴していることに気付きました。

304誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:14:56 ID:MmWUg2AQ0






「い、ッてて……畜生、最悪な気分だ……」

Nの城付近、意識を取り戻したトレバーが緩慢な様子で上体を起こす。直後今更になって猛烈に込み上げる不快感に抗えず嘔吐した。
それが収まり気分が晴れるかと思えばそうでもないようで、むしろ一度吐き出してしまったせいか体調はすこぶる悪い。おまけに腹部の刺傷が痛む。
それでもまるで寝起きの酔っぱらいかように立ち上がる彼の姿を見れば、今さっき六階の高さから落とされたと説明しても信じる者はいないだろう。それほどまでにトレバーの纏うスーツは常軌を逸していた。
しかし流石に無傷という訳では無いようで、バチバチと時折不穏な音を鳴らし電気を散らしている。今のところ問題なく動くようだが以前のような無茶な運用はするべきではないだろう。

「……マジマの野郎、やってくれやがったなぁ!! おかげで放送も聞きそびれたしよぉ!!」

時計は既に六時を過ぎている。つまり彼が眠りこくっている間に放送は終わってしまったのだ。
トレバーのような者が放送を重要視するとは思えないという感想を抱く者は多いだろう。しかし彼は見た目よりもずっと頭が切れる人物だ。
人死んだかという情報や禁止エリアの場所から大方参加者の場所を割り出すことも出来る。もっともその目的はその参加者を殺すことなのだが。

「俺様ぐらいになりゃあ禁止エリアなんかで死ぬようなヘマはしねぇだろうけど、知るに越したことはねぇよな」

酔いが覚めたお陰か冴える頭で思考を巡らせる。
彼の場合、最初のルール説明も聞き逃してしまっている。ざっとは真島から聞いたものの、断片的にしか覚えていない。
力よりも情報を持つ者が勝つ世界なのは彼の住む裏の世界でも同じだ。ならば──

「……さて、駒でも探すかな。待ってろよ、かわい子ちゃん達ィ〜〜!」

そういった情報源は利用するに限る。
先程出会った雪歩のような弱者は力をチラつかせれば簡単に従うだろう。そうでなくてもいくらでも嘘をついて取り込めばいい話だ。

楽しくなってきた──下品な舌なめずりに言いようのない狂気を宿したトレバーは、傍らに落ちていた共和刀を拾い上げアテもない旅に身を委ねた。

【トレバー・フィリップス@Grand Theft Auto V】
[状態]:腹部に軽い刺傷、大きな不快感、興奮、怒り、殺意
[装備]:パワードスーツ(損傷率25%)@METAL GEAR SOLID 2、共和刀@METAL GEAR SOLID 2
[道具]:基本支給品(水1日分消費)
[思考・状況]
基本行動方針:好き勝手に行動する。ムカつく奴は殺す。
1.マジマを筆頭にムカつく奴を殺して回る。
2.使えそうな奴は駒にする。
3.マイケル達もいるのか?

※参戦時期は「Cエンド」でのストーリー終了後です。
※ルール説明時のことをほとんど記憶していません。
※放送の内容を聞き逃しました。

305 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:15:16 ID:MmWUg2AQ0
投下終了です。

306 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:16:05 ID:MmWUg2AQ0
続けてゲリラ投下します。

307夢追い人の────(前編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:18:19 ID:MmWUg2AQ0

──自分に力が無いことなんて分かっていた。

2Bさんもリンクさんも凄く強くて、かっこよくて、この二人と一緒にいれば大丈夫だって心のどこかで安堵していた。
けどそれは甘えでしかなかった。だって現に今、必死に走る私の後ろで2Bさんが命を懸けて戦っているんだから。
2Bさんは強いけど無敵じゃない。アニメや漫画のヒーローなら負けなんてないけれど、これは現実なんだ。もしA2さんが負けてしまったらきっと──殺されてしまう。

「はッ、はッ、は……ッ! げほ、ッはぁ……!」

そんなの嫌だ。
2Bさんは私を守る為に戦ってくれているんだ。私が原因で友達が死ぬなんて絶対に駄目なんだ。
私は確かに弱い。きっとここに呼ばれた人達の中でも遥かに下の立場にいる。

けれど、けれど──!
力が無くても、友達を守ることは出来るはずなんだ!

「私、が……ここにいる、理由は──!」

走る、走る、走る、走る。
来た道を真っ直ぐに走る。
伝えなければならないから。
2Bさんの危機を彼らに伝えられるのは私だけなのだから。




308夢追い人の────(前編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:19:10 ID:MmWUg2AQ0


「──お、おい……大丈夫、なのかよ?」

震えた声の主、久保美津雄。
彼の視線の先にはリンクに上体を起こされ先程完成した回復薬を少しずつ飲まされているザックスの姿があった。
ゆっくりと嚥下を繰り返すザックスはお世辞にも"大丈夫"とは言い難い。けれどその問いから暫く、回復薬を飲み終えた頃にはザックスは歯を見せて笑いこう言った。

「大丈夫だ、元気元気!」

そんなザックスを見て美津雄は呆れたように溜息を吐く。その溜息に安堵のものが含まれていることも知らずに。
グレートでもない回復薬の回復量などたかが知れている。今のザックスの怪我の具合を考えると動くことが出来ない状態から辛うじて歩く事ができる状態になった程度だろう。
勿論そんなことはハンターでもない美津雄には分からず、それを察したリンクも余計な口出しを控えザックスの笑顔を崩さぬようにしているのだから彼の空元気を指摘出来る者はここにはいなかった。

「とりあえず、今できることはした。他にも薬がないか探したいけれど、君達を置いていく訳にはいかない。2B達が戻ってくるまで辛抱してくれ」
「……そ、そうか、わかった。聞いたかザックス!? お前、絶対安静にしてろよな!!」
「はいはい……ったく、耳元で怒鳴らなくたって聞こえてるよ」

リンクという頼れる大人から指示を受けた為か、ザックスに怒鳴り散らす美津雄にはどこか生気と希望が宿っていた。
まだ問題は山積みだ。さっき走り去って行ってしまった雪歩のこともあるし、その原因を作ってしまったのは自分にある。
状況が状況だったとはいえ、あの時の美津雄は冷静じゃなかった。リンクやザックスが自分に対してそうであったように、まずは落ち着いて話をしなければならない。
今まで自分中心に世界が回っているという思考を持っていた美津雄がそんな風に省みる事が出来るのはひとえにザックスとの出会いに他ならないだろう。

309夢追い人の────(前編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:20:08 ID:MmWUg2AQ0

「ザックス」
「んー?」
「ああ、その……えーっと……あ、ありがとな。庇ってくれて」

それは美津雄の口が初めて紡いだ感謝の言葉だった。
他人に感謝するなんて考えたこともなかった。そんな機会も二度と訪れないと思っていたし、そうならないように生きるつもりだった。
ゆえに彼がそれを発するには彼が思う以上の勇気が必要で、それを言い切っただけでも言いようのない感情がせりのぼり泣きそうになった。

「はは、ガラじゃねぇな」
「なっ……お前なぁ!!」

しかしそれは半笑いで返される。
思わぬザックスの反応に赤面しながら怒りをぶつける美津雄。そんな彼と目線を合わせたザックスは静かに、けれど感情の隠せぬ声色を風に乗せる。

「けど、嬉しいぜ。 まさか美津雄からそんなこと言われるなんてな」
「え……いや、まぁ……こんな状況なんだから、仕方ないだろ」
「照れるなって。可愛いやつだな〜」

相変わらずふざけた口調を崩さないザックスに美津雄は再びなんとも言えぬ表情を作り、すぐにむくれたように顔を背ける。
そんな彼らのやり取りをどこか微笑ましく思いながらも、リンクの心中は不安に溢れていた。

310夢追い人の────(前編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:20:45 ID:MmWUg2AQ0

(……2B達、遅いな)

2Bが雪歩を追ってから決して短くはない時間が経過している。杞憂で終われば良いが、どうにも嫌な予感が拭えない。
果たして自分はこうしていていいのか?
何度目になるかも分からない疑問に突き動かされ、休息を拒む身体に従い立ち上がったその時。

「──リンクさんッ!!」
「雪歩!?」

2Bが向かった先からまるで入れ違ったかのように此方へ走り寄る雪歩の姿が映る。
その様子はとても穏やかなものではない。こんな時、勘のいい自分をリンクは恨んだ。

「助けて……ください……!! 2Bさん、がっ、2Bさんが……っ!!」
「──!!」

事情も聞かず、状況が未だ掴めず困惑する美津雄とザックスを置いて雪歩の元へ駆けるリンク。
2Bに何かあったのだということは察した。そして雪歩の必死な様子からして自体は深刻、一分一秒すら無駄にすることは出来ない。
しかしリンクの脳に一瞬の迷いが生じる。その原因は彼の向けた視線の先にあった。

「リ、リンク……何があったんだよ?」

震えた声でそう聞く美津雄の顔は恐怖に歪んでいた。当然だ、雪歩が戻ってきたということは近くに危険人物がいるということ。
もしリンクがここを離れたら美津雄と瀕死のザックスを守る存在はいなくなる。それはつまり二人を危険に晒すということだ。
目に映るもの全てを守るつもりで生きてきた英傑は足を止める。しかしその背中を押すようにザックスが穏やかな顔付きでリンクと視線を交わした。

「行け、兄ちゃん。大丈夫だ、こいつは俺が守るからよ」

なっ──と驚愕の声を上げる美津雄。
一切冗談の混じらない本気の言葉にリンクは迷いを捨て、強い頷きと共に雪歩の手を引いて山岳地帯へと奔走する。遠ざかる背中に美津雄は焦燥を、ザックスは安堵を覚えた。




311夢追い人の────(前編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:21:36 ID:MmWUg2AQ0


戦況は絶望的だった。
一度打ち合う度に2Bは思い知らされる。自分はこの男には勝てないと。
アンドロイドを凌ぐ怪力と二メートルに達する得物のおかげで打ち合いという体裁を成すことでさえ精一杯だ。
刀身が衝突し、刀が手元から離れないように柄を握り直す。これが先程から何度も何度も続いている。
拮抗の糸はとっくに解けている。そうして遂にギリギリの綱渡りは終わりを迎えた。

「──ッ!!」

幾度と打ち合い限界を迎えた手から陽光が弾き飛ばされ、続く二振り目で右の太腿を深く斬りつけられた。
舞う血飛沫と火花に力が抜けるのを感じ、右足から崩れ落ちる。しまった、と思う頃にはもう遅かった。
理不尽じみたリーチは2Bの間合いの遥か遠くからでも届いてしまう。仮に今の状態で逃げに徹しても両断されるのがオチだろう。
正宗を持ち直し振りかぶる死神、カイムの狂喜が鮮明に映し出される。次の瞬間には首が飛んでいるだろう。

(──ごめんなさい。雪歩、リンク……9S)

そうして振り下ろされるはずの刃はその役目を果たさずに終わる。
その原因を目にした2Bはまさかと驚愕の表情を宿し、今しがたカイムの手を打ち抜いたブーメラン状の枝が半円を描きながら持ち主の手に収まるのを目で追う。
木漏れ日に民主刀の白光を際立たせ、疾風のようにカイムと2Bの間に割り込む金髪の青年。思わぬ乱入にカイムの表情が警戒のものへと変わった。

「リンク……!?」

2Bの声と同時、リンクの振るう剣戟によりカイムが後方へと飛び退く。
互いに間合いの外へと出た状態。殺意を滲ませるカイムの睥睨に決意を込めた双眸を返しながらリンクは高らかに宣言した。


「お前の相手は俺だ」



【D-2 山岳地帯/一日目 朝】

【リンク@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:胸上に浅い裂傷、決意
[装備]:民主刀@METAL GEAR SOLID 2、デルカダールの盾@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて ブーメラン状の木の枝@現実
[道具]:基本支給品(残り食料5/6)、ナベのフタ@現実 残ったアオキノコ×2
[思考・状況] :ゼルダはどうしているだろう?
基本行動方針:守るために戦う。
1.2Bを守る。
2.美津雄、雪歩を守る。
3.ゼルダや他の英傑に関する情報を探す。
4.首輪を外せる者を探す。

※厄災ガノンの討伐に向かう直前からの参戦です。
※ニーアオートマタ、アイマスの世界の情報を得ました。
※美津雄の調合所セット(入門編)から薬に関する知識を得ました。

【ヨルハ二号B型@NieR:Automata】
[状態]:両腕に銃創(行動に支障なし)、右太腿に深い裂傷、決意
[装備]:陽光@龍が如く 極
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破壊。
1.リンク……!?
2.D-2、765プロへ向かう。
3.雪歩を守る。
4.首輪を外せる者を探す。9S最優先。
5.遊園地廃墟で部品を探したい。

※少なくともAルートの時間軸からの参戦です。
※ルール説明の際、9Sの姿を見ました。
※ブレスオブザワイルド、アイマスの世界の情報を得ました。

【カイム@ドラッグ・オン・ドラグーン】
[状態]:ダメージ(小)、魔力消費(中)
[装備]:正宗@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品 エアリスの基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、マナを殺す。
1.目の前の敵を殺す。
2.自分よりも弱い存在を狙い、殲滅する……つもりだったが?
3.雷を操る者(ウルボザ)のような強者に注意する。
4.子供は殺したくない。

※フリアエがマナに心の中を暴かれ、自殺した直後からの参戦です。
※契約により声を失っています。
※正宗に自分の魔力を纏わせることで、魔法「コメテオ」が使用できます。




312夢追い人の────(前編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:22:18 ID:MmWUg2AQ0

(リンクさん、2Bさん……)

カイム達が居る場所から少し離れた茂みの中、そこには震える身体を懸命に縮める雪歩がいた。
2Bの元へリンクを連れていくという役目を終えた雪歩は当然戦いの場に赴くような真似はできない。ゆえにここで待機するように、とリンクから指示された。
幸い緑の多いこの地帯で、茂みの中ならばそう簡単に見つかることはないだろう。リンク達の状況を確認できない不安やもし見つかってしまった場合の恐怖を考えるとキリがないが。

(きっと、大丈夫……ですよね……?)

それでも雪歩は信じる。
すぐにまたリンクと2Bが自分を迎えに来てくれると信じている。
そうすることが彼女にとっての戦いなのだから。

そんな彼女の腰元にて、提げられた赤と白のボールが揺れる。
まるで自分の活躍を待ち望むかのように。


【D-2 山岳地帯 離れの茂み/一日目 朝】

【萩原雪歩@THE IDOLM@STER】
[状態]:不安、恐怖
[装備]:モンスターボール(リザードン)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー
[道具]:基本支給品、ナイフ型消音拳銃@METAL GEAR SOLID 2(残弾数1/1)
[思考・状況]
基本行動方針:自分の無力さを受け止め、生きる。
1.D-2、765プロへ向かう。
2.2Bとリンクへの信頼。
3.協力してくれる人間を探す。他に765プロの皆がいるなら合流したい。

※ブレスオブザワイルド、ニーアオートマタの世界の情報を得ました。

【モンスター状態表】
【リザードン ♂】
[状態]:健康
[特性]:もうか
[持ち物]:なし
[わざ]:エアスラッシュ、フレアドライブ、りゅうのはどう、ブラストバーン
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.そろそろ暴れたい

313夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:23:03 ID:MmWUg2AQ0





「お、おいザックス……」

行かせてよかったのか。そう喉まで出かかったところで美津雄は言葉を呑み込んだ。
事態の優先順位を考えればリンクを行かせるのは当然なのだろう。それでも自分達が危険な目に遭遇した場合のことを考えると恐怖で体が震える。

「心配すんなって。言っただろ、お前は俺が守るって」
「つ、強がり言うなよ! お前だってそんなボロボロなんだから、戦えるわけないだろ!」
「大丈夫、俺はそんなヤワじゃねぇよ」

半ば意地になっている美津雄の制止も虚しく、まともな休息も得ないままザックスは立ち上がる。
怪我の具合を考えればそれだけで辛いはずなのだ。座るように促そうとした美津雄の行動はしかし叶わずに終わることとなる。


「──あんたらもそう思うだろ?」


え、という美津雄の声を空を切る音が掻き消す。
呆ける美津雄の額に飛来する透き通った氷刃を目にも止まらぬ速さで打ち落とし、ザックスはその飛来源へと睨みを利かせる。

「まさか気付かれていたなんてね」

古いコンクリートビルの陰から姿を現す二人組の女性。朝陽を浴びてくっきりと顔を映し出す彼女らの表情はひどく冷淡で、美津雄は「ひっ」と情けない声を漏らし腰を抜かした。

「いつから気付いていたの?」
「生憎と殺気には敏感なんでね。リンクが行ったタイミングで仕掛けて来ると思ったけど……当たっちまったか」
「……そう、そこまで分かっているのね」

長い黒髪を縛ったスレンダーな女性、マルティナは目を伏せる。出来れば一瞬で終わらせたかったが、この男がいる限りそれは叶わないだろう。
ザックスの容態は見るからに重傷だ。それでもこれ程の闘志を燃やせる人間には──全力で掛からなければならない。

314夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:23:37 ID:MmWUg2AQ0


◆ ◆ ◆

「──反応してる、しかも三つ。更にもう一つがそっちの方向に向かってる」
「そんなに?」

時は少し遡る。
橋を南下する途中、ミリーナは自身の──正確に言えば天海春香の支給品を取り出した。
ストップウォッチのような形状のそれは、説明書を見る限り範囲内の参加者の首輪に反応し居場所を知らせる装置らしい。
一度使用したら一時間のクールタイムが必要らしいが、橋を渡っている最中に襲撃されれば無傷では済まないと安全確認の為に使用したものだった。

しかし、その安全確認は予想外の結果を得た。
一つの場所に計四つの反応。これは言わずもがな集団を築いているということだろう。
そして考える限り、これほどの集団を築くのは甘い考えを持った対主催の存在しか当てはまらない。

「……これは、上手くいけば使えるかもしれないわね」
「使える……?」
「さっき言ったでしょう、人質を取るって。これだけ集まっているのだから一人くらいは春香のような一般人が居てもおかしくないわ。……暫く様子を伺って、隙を狙えば大人数が相手でも立ち回れるはずよ」

それに、貴方の言うイレブンが見つかるかもしれないしね。そう付け加えるミリーナにマルティナは唖然とした。
マルティナは良くも悪くも真っ直ぐな人間だ。ゆえにこの殺し合いでもミリーナがいなければ出会った者と真っ向から戦い、殺害するという手段を取っていただろう。
改めて"殺し"に懸けるミリーナの本気を見せ付けられたような気がして、マルティナはそれに頷くことしか出来なかった。

「攻めるにしても逃げるにしても判断は迅速にしましょう、ミリーナ」
「ええ、そうね」

人数はこちらの二倍。危険も相応。
しかしこんな甘い蜜を前にして、ミリーナ達は北上という選択肢を取る他なかった。


◆ ◆ ◆

315夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:24:13 ID:MmWUg2AQ0

「ミリーナ、瀕死だからって油断しないで。あの男は危険よ」
「言われなくてもわかってるわ。……雪風をあんなに簡単に防がれるなんて」

光鱗の槍を構え直すマルティナに続き、ミリーナも術技を放つ準備をする。
明確に向けられる殺意。貴音の時よりも濃密なそれを前に美津雄はひたすら絶望することしか出来ず、ばたばたと地を這う形でザックスの裾を引いた。

「に、逃げようザックス!! このままじゃ、こ、殺されるって!!」
「美津雄、お前はそこでじっとしてろ。……そんで、俺の活躍をよーく見とけよ」
「な、何言って……なんで、なんでそうまでして戦おうとすんだよ!!」

美津雄の反論もそのままにザックスは一歩、ミリーナ達の方向へ踏み出す。
重傷の身でありながら微塵も退く様子を見せないザックスに威圧され、ミリーナは顔を顰めた。

そして、ザックスは静かに巨岩砕きを顔の前に掲げ祈るように目を閉じる。
なにかの詠唱かと警戒するミリーナとマルティナをよそに、彼の思考は過去を辿っていた。

(お前ならこうするよな、アンジール)

思い浮かぶは自身に全てを託した仲間の顔。
夢も、誇りも、それらを受け継いだ自分は彼の背中を追い続けなければならない。追いつかないと知っていても、ずっと。
この剣はアンジールのものではないけれど、何となく分かる。この剣の持ち主は強い意志と優しさの持ち主だと。
なら、この剣に"誓う"のも悪くない。

316夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:24:55 ID:MmWUg2AQ0



「────夢を抱き締めろ。そしてどんな時でも、ソルジャーの誇りは……手放すなぁっ!!」


英雄の道は険しく、遠い。
だけど絶対に足は止めない。

「いらっしゃいませぇぇぇぇ!!!!」

後ろで美津雄がザックスの名を叫ぶ。
けれど止まらない。目の前の敵を手厚く出迎えなければならないのだから。

「雪風!」

自身の全力よりも遥かに速く向かってくるザックスにミリーナが術を放つ。氷の結晶が刃となりザックスの身体を貫かんと迫るが、それは巨岩砕きの一振りに砕け散る。

「鏡陽! 花霞!」

一つで駄目ならば数を増やせばいいとばかりに光の粒子を放射状に、飛び上がり花の粒子をそれぞれ五つずつ放つ。
高速で飛来するそれらを大剣で叩き落とすが、それでも全てに対処する事は出来ずザックスの身体に痛々しい裂傷が亀裂のように走る。
だが止まらない。

「っ……ウィンドカッター! シェルブレイズ!!」

地面から生える風の刃がザックスの足を傷つけ、炎の塊が腕を焦がす。それなのに彼は足を止めないどころか、僅かにもスピードを緩めない。
今までミリーナが放った術は敵を怯ませる為の小手先の技でも、ましてや瀕死の相手への牽制の技でもない。明確に殺意を伴い、無傷の人間を殺す技なのだ。

(なんで……っ!? なんで止まらないの!?)

だからこそミリーナは恐怖する。
今にも倒れそうなほどの傷を負った人間が自分の術をまともに受けながら向かってくるなんて初めてだ。
未知は脳から冷静さを奪い取る。遂に肉薄を許されたミリーナは咄嗟に迎撃しようと近接の術技に頼った。

「舞かぐ──」
「悪ぃな」

ドンッ、という衝撃がミリーナの首元に走ったかと思えば彼女の意識はそこで闇に落ちた。
もし彼女に記憶があるのならば、手負いのザックスに自分が加減されるという屈辱的な光景が目に焼き付けられただろう。彼は剣ではなく、手刀で彼女を沈めたのだから。

317夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:26:00 ID:MmWUg2AQ0

「ザックス!! 危ない!!」
「──っ!!」

瞬間、ザックスの脇腹を狙い鋭い刺突が放たれる。
美津雄の注意によりなんとか身を捻り回避するも、傷に響き灼熱のような激痛が迸った。

「敵は一人じゃないということを忘れないで」
「……ああ、そうだったな!!」

体制を立て直し刺突の主、マルティナと向き合うザックス。
今のザックスに時間は残されていない。ゆえに力任せの斬撃をマルティナに放つ。万全な状態ならまだしもこの攻撃を躱せないほどマルティナは落ちぶれていない。

油断はしていなかった。
けれどここまでの力を発揮するとは思っていなかったのが事実だ。この男は今、全力で潰さなければならない。
ミリーナを使って彼の力量を測ったからこそそう断言出来る。
出し惜しみしている暇はない。一撃で倒せる技を放つ──!



「──雷光一閃突きッ!!」



回避から流れるように穂先をザックスの方へ定め、雷光の如く迸る一突きが大気を抉る。
それは正確に、無慈悲に、ザックスの腹部を貫いた。

318夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:26:40 ID:MmWUg2AQ0

「ザックスーーーーーー!!!!」

美津雄が雄叫びを上げると同時、マルティナは心の中に湧き上がる罪悪感を振り払うかのように槍を引き抜こうと力を込める。

「……え」

しかし、引き抜くことはできなかった。
見れば既に死んだはずのザックスが槍の柄を掴んでいた。それだけで十分にゾッとしたが、信じられないのはその握力。
ピクリとも動かない。槍を手放すという選択肢がマルティナの脳に浮かぶよりも先に、顔を上げたザックスと視線が重なった。

「おわらせ、ねぇ……」

命の灯火を瞳に燃やす彼は、まだ──死んでいない。

「あいつの、ゆめは……おわらせねぇ……!!」

瞬間、マルティナの全細胞が警鐘を鳴らす。
体が金縛りにあったかのように動かない。
未来予知などというふざけた芸当ができるわけではないが、自分の運命が鮮明に見えたような気がした。
それは今まさにマルティナを討たんと巨岩砕きを横に構えるザックスが訴えている。マルティナは逡巡の中で走馬灯のように記憶が想起されるのが分かった。


『灰色の心じゃ、オレの速さにはついてこれない』


ああ、そうか。
白にも黒にも染まれない、中途半端な心の末路がこれか。
眩しいぐらいの白の心を掲げる目の前の男に負けるのは当然なのかもしれない。

(────けれど、私は……!!)

死ぬわけにはいかない。
彼を助けるためにも今死ぬわけにはいかないんだ。
灰色の心で敵わないのならば完全な黒に染まろう。そうでなければどちみち、未来などないのだから。

319夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:27:23 ID:MmWUg2AQ0


「私だって────貴方のようになりたかった!!」


涙を瞳の縁に溜めながらザックスへ、もう二度と叶わない夢を言い放つマルティナの肌が薄青紫色に染めあがる。
心の黒を表現するかのような衣装を身に纏ったまま、デビルモードにより上昇した腕力に縋り遂に光鱗の槍を引き抜いた。
それでもザックスの攻撃は止まらない。反撃を諦めたマルティナは槍を盾代わりに防御の姿勢を取った。

「うおおおおぉぉぉぉぉ────ッ!!」
「──あああああぁぁぁぁぁッ!!」

衝突。瞬間、衝撃波が辺りの瓦礫を浮かす。
互いの喉から咆哮がのぼる。或いは守る為に、或いは殺す為に。絞り出した声を余すこと無く力に変える。

光鱗の槍と巨岩砕き──それらの武器は共鳴し合うかのように輝きを放つ。
遠い世界に住む英傑の愛武器同士の競り合い。どちらも業物でありその質に一切の優劣はない。

けれど、先に亀裂が走ったのは光鱗の槍だった。

それは武器のせいではない。英傑の武器は等しく業物なのだから。
考えられるとすれば持ち主の覚悟の差。
目に見えぬそれが形となり、拮抗の糸を断ち切ったのだ。

320夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:29:15 ID:MmWUg2AQ0


一瞬、辺りが無音に包まれる。
少し遅れてマルティナの体が砲弾のような勢いで吹き飛ばされ、崩れる瓦礫の山に埋もれた。


勝利を収めたザックスは糸が切れた人形のように仰向けに倒れ込み、青い空を見上げる。
もう殆ど目が見えなかったが、太陽の眩しさはよくわかった。

「ザックス……ザック、ス……!!」
「……よぉ、美津雄……怪我、ねぇか?」
「ああ、ああ!! オレは、大丈夫……だよ。ザックスが、守ってくれた……から、……」

太陽を覆い、ザックスの顔を覗き込む美津雄の顔は涙でぐしゃぐしゃに歪んでいた。
ぼんやりとしか見えなかったが、声の震え方でわかる。ザックスはひどく穏やかに微笑んで、美津雄の頭を抱き寄せた。

「ザッ、クス……? なに、してんだよ!! 早く、治療しなきゃ……!!」
「……ダメだ」
「なんでだよ……!! なぁ、頼むから死なないでくれよザックス!! 守ってやるって言っただろっ!? 約束、破るのかよ!?」

堰を切ったように浮かぶ限りの言葉をぶつける美津雄。それに対してザックスは少しだけ困ったように笑った。

「ごめんな」

息が詰まる。
違う、こんな言葉が聞きたかったんじゃない。
自分はまだザックスに何も返せていない。
最後まで我儘を突き通そうとする自分が酷く惨めに思えて、美津雄は嗚咽を繰り返すことしか出来なかった。

321夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:30:23 ID:MmWUg2AQ0

「なぁ、美津雄……お前、夢ってあるか?」
「ないよ、そんなのない……!! オレには、なんにもないんだ……」
「そっ、か」

嘘でもあると言うべきだったのかもしれない。けれど、ザックスの目を見ると嘘をつくことなどできなかった。
夢なんてなかった。ただ空っぽの毎日を送り藻掻くように生きてきて、夢を見る余裕なんてなかった。
いつからか、自分はそんなものには囚われない自由な人間なんだと言い訳をするようになってしまったんだと思う。

「オレには……夢を持つ、資格もないよ……」
「ばー、か。夢を、持つのに……資格、なんて、いらねぇよ」

そっ、と頬を撫でられた。
ザックスの手はとても冷たかったけど、なぜか撫でられた頬がとても暖かく感じる。
段々と光を失っていくザックスの瞳と視線が重なる。背けたくなるほど真っ直ぐなそれを、同じように見つめ返した。


「夢を持て、美津雄。そしたらちっとは、世界が楽しく見えるかもしれないぜ」


頬を撫でる手が落ちる。
ザックスはゆっくりと目を閉じて、そのまま……死んだ。

「あ、あ……あぁ……!!」

ボクは────オレは、
その時初めて、大切な人を目の前で失う辛さを知った。

「うああああああぁぁぁぁ──っ!!!!」

堪えていた涙が溢れる。
息が苦しい。喉から苦いものが込み上がる。
オレはただ憎らしいくらい晴れた空を見上げて──泣いた。




322夢追い人の遺しもの ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:31:08 ID:MmWUg2AQ0

「……ぐっ、……」

一体どのくらい気絶していただろうか。
はっきりとしない意識のまま、イクスを助けなければというはっきりとした目的のままに身体を起こす。
状況把握のために辺りを見渡せば、そこには大剣を背負っていた男の遺体に縋り泣く少年の姿があった。
マルティナの姿が見当たらない理由は分からないが、あの大剣の男を殺したのは彼女だろう。

「あの、男……よくもやってくれたわね」

あの大剣の男は強かった。瀕死の身であれなのだからもし万全な状態だったら、と考えるだけでおぞましい。
そしてその脅威も消失した今、あの無力な少年を人質として利用するのは簡単な事だった。
ザックスという頼れる人間が死んだ今、彼は自分達に従うしかないだろう。少なくともミリーナはそう確信しながら、美津雄達の元へ近寄った。

「──来るなぁッ!!」
「っ……!?」

予想だにしない怒号と向けられる銃口がミリーナの足を止める。
何故──あの少年は春香と同じくなんの力もないはずだ。それなのにどうして立ち向かおうとするのか。
あの少年だって勝ち目がないと分かっているはずだ。現に、がたがたと震える銃口がそれを物語っている。

323夢追い人の遺しもの ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:32:00 ID:MmWUg2AQ0

「それ以上──"俺達"に近寄るんじゃねぇッ!!」

ああ、そうか。
ミリーナは美津雄への認識を改める。この少年はもはや人質として利用は出来ないだろう。どう脅したところできっと自分には従わない。

「……悪いわね。一瞬で終わらせるわ」

ならばもう、殺すしかない。
美津雄に利用価値の無くなった今、彼はただの殺すべき参加者に過ぎないのだから。
春香を殺したものと同じ花霞を放つ予備動作を見せる。銃声と共に放たれたエネルギー弾がミリーナの遥か横を過ぎ、彼女の術を止めるには至らなかった。



イレギュラーが入るまでは。


「────マルティナ?」


今まさに術を放たんとするミリーナの腕を、ボロボロになったマルティナが掴んでいた。
一体いつの間に、そんな疑問よりも先に何故止めるのかという怒りにも近い感情が浮かぶ。
マルティナは静かに首を横に振り、ぽつりと紡ぐ。

324夢追い人の遺しもの ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:33:42 ID:MmWUg2AQ0

「退きましょう、分が悪いわ」
「な……」

マルティナの言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
本気で言っているのか。そう問い詰めたくなるも美津雄を見つめるマルティナの横顔は真剣そのもので、どこか威圧的に感じる。
まるで自分が意見するのを拒むかのような雰囲気を前に、ミリーナは苦い顔で一つだけ訊ねる。

「貴方の覚悟はそんなものなの?」

マルティナは言葉を返さない。
そのまま続く静寂こそが回答なのだと判断したミリーナは呆れたように踵を返す。ここで無理に美津雄を殺し、マルティナと敵対するのは避けたいと考えたからだ。
そしてミリーナに新たにマルティナをいつか切り捨てるべきだという考えが浮上したのは言うまでもない。マルティナだってそれを覚悟の上で撤退を選んだのだ。

結果をいえば、マルティナはザックスに勝った。けれどそれはマルティナ本人の意志を無視した結果の話だ。
もしあの一撃を槍の防御で軽減出来ていなければ自分は死んでいただろう。ゆえにマルティナからすればあの勝利は仮初のものだと言える。

ならば、美津雄を見逃したのは敗北したからなのか?
勝者に対して敗者が逆らう事は許されない、そんな弱肉強食の思念の為なのか?

いいや、違う。
重ねてしまったのだ。死も顧みずに美津雄を護り抜いたザックスの姿を。
赤ん坊のイレブンを己に託し、魔物の囮となる道を選んだエレノア王妃と。

今のマルティナにはどうしてもそれを────夢追い人の遺しものを殺す事が出来なかった。

「…………」
「な、んだよ……早くどっか行けよ!!」

美津雄の姿を一瞥し、既に離れたミリーナを追ってマルティナがその場を去る。

これまでだ。
灰色の心でいるのはこれで最後だ。
次は完全な黒となり、誰であろうとも容赦なく殺す。




────決意、あらたに。




【ザックス・フェア@FINAL FANTASY Ⅶ 死亡確認】
【残り49名】

【D-2/市街地(西側)/一日目 朝】
【ミリーナ・ヴァイス@テイルズ オブ ザ レイズ】
[状態]:首筋に痣、TP消費(小)
[装備]:魔鏡「決意、あらたに」@テイルズ オブ ザ レイズ、プロテクトメット@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品×2、不明支給品0~2、首輪探知機(一時間使用不可)@ゲームロワ
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する
1.マルティナと共に他の参加者を探し、殺す
2.春香の友人や、その他の非戦闘員の中から一人、人質を確保する。
3.イレブン以外のマルティナの仲間を、マルティナに殺させる
4.マルティナを切り捨てることも視野に入れる。

※参戦時期は第2部冒頭、一人でイクスを救おうとしていた最中です。
※魔鏡技以外の技は、ルミナスサークル以外は使用可能です。
※春香以外のアイマス勢は、名前のみ把握しています。

【マルティナ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、左脇腹、腹部に打撲
[装備]:折れた光鱗の槍@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、キメラの翼@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
ランダム支給品(1〜0個)
[思考・状況]
基本行動方針:イレブンと合流するまでミリーナと協力し、他の参加者を排除する。
1.心を黒に染める。
2.カミュや他の仲間も殺す。

※イレブンが過ぎ去りし時を求めて過去に戻り、取り残された世界からの参戦です。イレブンと別れて数ヶ月経過しています。

【支給品紹介】
【首輪探知機@ゲームロワ】
天海春香の支給品。
大きなストップウォッチのような見た目をしており、半径500m以内にある首輪を表示する。
一度使用すれば一時間のクールタイムが必要。

325夢追い人の遺しもの ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:34:12 ID:MmWUg2AQ0




「はぁ……っ! はぁ……!」

あいつらが居なくなったあと、オレは安心してへたりこんだ。
殺されるかと思った。あの時は必死だったから勝手に体が動いたけど、今になって恐怖がやってくる。

死ぬのが怖いんじゃない。
ザックスが遺してくれた言葉を叶えられないまま終わるのがたまらなく怖かった。

オレは、あいつの生きた証だから。
オレが死んだらザックスの最期を語れる人間が居なくなってしまうんだ。

そんなのは────絶対にダメだ。

オレが生きて、夢を見つけて、ザックスを安心させなきゃいけない。
きっとそれが、今オレのやるべき事なんだ。

「ザックス、オレ……夢を探すよ。お前に負けないくらい、大きな夢をさ」


だから────もう少しだけ泣かせてくれ。

【D-2/市街地(西側)/一日目 朝】
【久保美津雄@ペルソナ4】
[状態]:疲労(大)、悲しみ、決意、雪歩がいなくなったことへの罪の意識
[装備]:ウェイブショック@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品(水少量消費)、ランダム支給品(治療道具の類ではない、1〜2個)、調合書セット@MONSTER HUNTER X
[思考・状況]
基本行動方針: 夢を探す。
1.ザックス……。

※本編逮捕直後からの参戦です。
※ペルソナは所持していませんが、発現する可能性はあります。
※四条貴音の名前を如月千早だと思っています。

【全体備考】
※ザックスの支給品は遺体の傍に放置されています。

326夢追い人の遺しもの ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:35:22 ID:MmWUg2AQ0





「──さっきの音の方向は……こっちか?」

市街地を駆ける一陣の風。
厳つい顔に眼帯を携えたいかにもな風貌。もし初対面の人間が彼と出会えば第一印象で殺し合いに乗っていると思ってしまうのは仕方がないことだろう。
現に男も数時間前まではその方針でいたのだが、今彼が足を動かしている理由は別にある。

(今度は泣いとるな……急いだ方が良さそうやな)

Nの城を抜けた真島は特に理由もなく南の方角を目指した。
その途中、建造物が壊れるような激しい音を耳にし明確な目的地を指定した。そうして走っている内に、その方向から僅かに叫喚じみた少年の声を聞く。

「ええい、誰だか知らんが待っとれや!! この真島吾朗が助けたるわ!!」

時間はそう残されていない。
今までの遅れを取り戻すためにも、真島はそう高らかに宣言し美津雄がいる市街地へと急いだ。

【D-2/一日目 朝】
【真島吾朗@龍が如く 極】
[状態]:頭部出血(止血済み)、疲労(中)、焦燥
[装備]:ほしふるうでわ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームをぶっ壊す。
1.音の方向へと向かう。
2.遥を探し出し保護する。
3.桐生を探す(死体でも)。
4.錦山はどうしよか……。
5.雪歩が気がかり。

※参戦時期は吉田バッティングセンターでの対決以前です。
※運営が盗聴していることに気付きました。

327 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:35:48 ID:MmWUg2AQ0
投下終了です。
連続ゲリラ失礼しました。

328名無しさん:2021/01/02(土) 08:16:17 ID:/dGG89Cs0
すみません、まだちゃんと読めてないのですが気になったことがひとつ
ミリーナは原作ではTP制でなくCC制だけど、このロワではTP制を適用するということでしょうか

329 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 11:34:08 ID:MmWUg2AQ0
>>328
気付きませんでした。
wiki編集の際にCCの方に修正して頂けると幸いです。

330 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 11:34:21 ID:MmWUg2AQ0
>>328
気付きませんでした。
wiki編集の際にCCの方に修正して頂けると幸いです。

331名無しさん:2021/01/02(土) 16:25:06 ID:KyHpjITc0
>>330
すみません、CC制ってのは連携が途切れれば数秒で0から全快まで自然回復するものなので、そもそも消耗という概念がないのですが…
いわゆる連続で技を繋ぐための気力残値なので、連続で技を使わなければすぐに回復するものです
なので後衛のミリーナにはあまり関係ない要素ではあります
ですから差支えなければwikiのCC消費(小)自体を消しますが、どうしましょうか

332 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 16:32:56 ID:MmWUg2AQ0
>>331
それならばそのようにお願いします。
知識不足で申し訳ありません。

333 ◆RTn9vPakQY:2021/01/06(水) 00:12:23 ID:p3DIXM9Y0
皆様投下乙です。
遅れてしまいましたが自分も投下します。

334花と風と ◆RTn9vPakQY:2021/01/06(水) 00:16:17 ID:p3DIXM9Y0
 喫茶店の店内には、二つの影があった。

「……Seriously?」

 マナによる放送を聞き終えたソニック・ザ・ヘッジホッグは、呆然と呟いた。
 十三人もの参加者が命を落としたという情報は、殺し合いの打破を目指す身としてはショックであった。
 放送で知り合いの名前は呼ばれなかったが、そこは問題ではない。
 呆けたように支給された名簿をめくる。テイルスやナックルズといった友達の名前は見当たらない。
 しかし、放送から受けたショックが大きすぎて、とても安堵はできなかった。

「ウソだろ?」

 殺し合いが始まってから、たった六時間。
 その六時間で、ビルディングの一室で殺されていた少女のように、無惨に命を奪われた者が十三人もいる。
 つまり、このバカげたパーティーを勝ち抜こうと目論む者が少なからず出てきているということだ。
 殺し合いを打破するためには、そうした連中を放置しておけない。

「もたもたしてる場合じゃなさそうだ……けどなぁ」

 声に焦りを滲ませながら、店内の椅子に凭せ掛けた少女を見やる。
 如月千早と名乗った少女は、もう一時間以上も目を覚ましていない。
 もちろん息はある。よほど当たりどころが悪かったのだろうか。
 いずれにしても、意識を取り戻した千早に話を聞くまでは、この場を離れられない。
 ――と、最初はそう考えていたが、あまりに時間が経ちすぎた。

「それに、近くに危険なヤツがいるのは間違いないんだ」

 放送が流れる少し前、ソニックは遠くの爆音らしきものを耳にしていた。
 断続的に聞こえたそれは、激しい戦闘が行われていることを示していた。
 すぐにでも駆けつけたかったが、千早を担いだ状態であったため躊躇ってしまい、そうこうしている内に音は止んでいた。
 あの爆音で犠牲者が出ていた可能性も大いにあり得る。
 足踏みすることなく向かっていれば、あるいは――。

「切り替えろ。オレらしくないぜ」

 パシッと軽い音を立てて、両手で頬を叩く。
 過ぎ去ったことを思い返してクヨクヨしている時間はない。

「出遅れたけど、ここから再スタートだ」

 とにかく行動あるのみ。
 友好的な参加者を探して、千早のことを伝える。
 そして、その参加者に千早を保護してもらう。
 その後のことは、そのときに考えればいい。

「それじゃあ行くとするか!」

 喫茶店のドアに付けられた鈴が、チリンと鳴る。
 その瞬間、店内からソニックの姿は消えていた。





 各自の目的のためにエリアを北上していた二人。
 ずんずんと前を歩くエアリス。その少し後ろを大股で追うゲーチス。
 会話らしい会話もない状態のところに、一陣の風が吹いたかと思うと、もう一つの影が現れた。

「よう!アンタら殺し合いには乗ってないな?」
「なっ!?」
「ちょ、ちょっと……あなた、誰?」

 エアリスとゲーチスの二人は、唐突に出現したソニックを前に戸惑いを隠せない。
 人間の言葉を話す青いハリネズミが、いきなり話しかけて来たのだから無理もない。
 なんとゲーチスは、声を上げてからおよそ十五秒制止していた。
 一方、そんな反応も慣れているようで、ソニックは言葉を続けた。

335花と風と ◆RTn9vPakQY:2021/01/06(水) 00:17:24 ID:p3DIXM9Y0
「オレはソニック。ソニック・ザ・ヘッジホッグ。
 この殺し合いを潰すつもりだ。アンタらの名前を教えてくれないか?」
「な、なんだと……?」
「エアリスよ。こっちはゲーチス。
 殺し合いに乗るつもりなんて、ぜんぜんないよ」

 疑問を投げかけるのが精一杯なゲーチスの代わりに、エアリスが返答する。
 レッドXIIIやケット・シーといったメンバーとも一緒にパーティーにいただけあって、エアリスの適応力はゲーチスより高い。

「OK!それじゃエアリス、いきなりだけど頼みがある」
「頼み?」

 ソニックがエアリスたちに伝えたのは、市街地のとある喫茶店に千早という銀髪の少女が気絶していること、千早が殺人に手を染めているかもしれないこと、そして千早を保護して欲しいこと。

「あなたはどうするの?」
「オレは知り合いを探しながら、このパーティーに乗り気のヤツを止める。
 この辺りでドンパチ騒いでいた参加者がいるはずだから、まずはそいつからだ」

 ソニックの発言に、エアリスとゲーチスは思わず顔を見合わせた。
 つい先程まで拘束しており、逃げられた男のことを言っているのだと、二人とも理解した。

「その男なら、さっきまでワタクシたちといましたよ。
 地図にある“カームの街”で暴れていたところを捕らえたのですが、逃げられてしまいましてね」
「ちょうど今、追いかけていたところなの」
「へえ、そりゃ話が速い。どんなヤツだった?」
「不気味な男でしたよ。一言も喋らず、とても長い刀を振り回していました」
「でも……殺さなかったの」
「だから、それはたまたまだと言っているでしょう?」
「うーん……」

 立て板に水とばかりに話すゲーチスに対して、どこか歯切れの悪いエアリス。
 二人の話を聞いたソニックは、グッと親指を立てて宣言した。

「OK、それじゃあソイツをオレが止めてやるぜ」
「その代わりに、ワタクシたちに少女を保護しろとでも?」
「そうしてくれると助かるね。
 正直なところ、千早は人殺しを喜ぶタイプじゃないと思ってる」
「なぜ言い切れるのですか?」

 ソニックを問い詰めるゲーチスの態度を見て、エアリスは眉をひそめた。
 当のソニックは意に介していない様子で、神妙な面持ちをして答えた。

「オレが見つけたとき、震えてたからさ」

 その意見に、ゲーチスは苛立ったように反論を唱えた。

「そんなもの!何の根拠にも……」

 しかし、その反論は途中で遮られた。
 誰あろう、同行者のエアリスに。

「わかったわ、ソニック。喫茶店の場所を教えて」
「な……!?」
「そうこなくっちゃ!」

 嬉しそうに親指を立ててグッドポーズをするソニック。
 それを見てエアリスは微笑みを浮かべ、ゲーチスは僅かに渋い表情を浮かべた。
 そしてまた、一陣の風が吹いた。


【D-2/市街地/一日目 朝】
【ソニック・ザ・ヘッジホッグ@大乱闘スマッシュブラザーズSP】
[状態]:健康
[装備]:スマッシュボール×2@大乱闘スマッシュブラザーズSP
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜1個) 、双剣オオナズチ(短剣)@MONSTER HUNTER X
基本支給品、双剣オオナズチ(長剣)@MONSTER HUNTER X、貴音のデイパック
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルの打破。もたもたしてると置いてくぜ?
1.周辺を探索する。
2.マルティナや長い刀の男(カイム)のような、殺し合いに乗り気の参加者を見つけて止める。
3.千早のことはエアリスたちに任せる。
※灯火の星でビームに呑まれた直後からの参戦です。
※リンクやクラウドやスネークと面識があり、基本的な情報を持っていますが、リンク達はソニックを知りません。でも「こいつスッゲー見覚えあるな…」くらいは感じるでしょう。





 ソニックが走り去った後、エアリスとゲーチスは喫茶店を目指し歩き出した。
 道中の会話は、ごく自然な流れでソニックの話題になる。

336花と風と ◆RTn9vPakQY:2021/01/06(水) 00:20:16 ID:p3DIXM9Y0
「エアリスさん、あのハリネズミの話を信用するのですか?」
「してもいいと思う。嘘をつくような性格じゃなさそうだもの」

 かなりの実力者なのも見て取れたしね、と続けるエアリス。
 ゲーチスは納得できないといった態度を取り、食い下がろうとする。

「しかし……」
「それとも、ソニックが心配していたように、千早って子が誰かに殺されてもいいの?」

 ゲーチスは心中で舌打ちをした。
 そう質問されてしまうと、表向きは対主催者を演じる身としては否定できない。
 適当に会話を濁すと、沈黙しながら歩く時間が続いた。

(まったく、理解に苦しみます。
 会話ができるのは驚きましたが、あれは間違いなくポケモン。
 たかがモンスターごときの意見を簡単に受け入れるなどと……)

 ゲーチスはソニックのことをポケモンだと認識していた。
 これまで姿を見たことがないことから、イッシュ地方には生息しないポケモンであると推測できる。
 自然な会話ができることには驚いた。とはいえ、過去の文献を紐解けば、ポケモンと人間が心を通わせたという例は少なからず存在する。
 所詮は戯言と笑い飛ばしていたが、そこだけは考えを改める必要がありそうだ。

(……いや、そんなことはどうでもいい。
 こんなことをしている時間はないというのに……!)

 一刻も早くNの城に向かいたいゲーチスにとって、少女を保護するために時間をかけるのは望ましくなかった。
 それゆえに、頼みを断る方向へと話を誘導しようと試みたが、あえなく失敗。

(エアリスさん、アナタという人は……。
 利用するとしても、その方法はよく考えなければなりませんね)

 ゲーチスは前を歩くエアリスを、冷ややかな目で見つめた。
 急襲してきたカイムに対して説得を試みたあたりで、驚嘆するほどのお人よしだとは感じていた。
 それと今回の一件を合わせて考えると、ありえないくらいのお人よし、と言えるだろう。
 行動原理は単純であるものの、思い通りに動かせるかどうかは別の話だ。

(とはいえ、新たな手札を得られたのは運が良い)

 ソニックから譲り受けて、懐に収めたモンスターボールをそっと撫でる。
 頼みを聞く条件として、何らかの武器になるアイテムを要求したところ、ソニックがこれを渡してきたのだ。
 中身は時間がなく未確認のままだが、強力な手札であることを祈らずにはいられない。

「あっ、あれじゃない?ソニックの話していた喫茶店」
「外観は一致していますね。ではあの中に少女が?」
「行ってみよう!」

 そうして二人は、喫茶店の店内へと足を踏み入れた。

「……誰もいない?」
「……そのようですね」


【D-2/市街地にある喫茶店/一日目 朝】
【ゲーチス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:ダメージ小、無力感、苛立ち
[装備]:雪歩のスコップ@THE IDOLM@STER、モンスターボール(中身不明)
[道具]:基本支給品、スタミナンX@龍が如く 極
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、野望を実現させる。
0.千早という銀髪の少女を探す?
1.エアリスを利用し対主催を演じる。
2.早くNの城へ行きたい
3.カイムのことはソニックに任せてみる。同士討ちでもすればいい。
※本編終了後からの参戦です。
※エアリスからFF7の世界の情報を聞きましたが、信じていません。
※ソニックのことをポケモンだと考えています。

【エアリス・ゲインズブール@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:ダメージ小、MP消費(小)
[装備]:王家の弓@ゼルダの伝説+マテリア ふうじる@FINAL FANTASY Ⅶ ブレス オブ ザ ワイルド、木の矢(残り二十本)@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:なし(装備品 除く) 
[思考・状況]
基本行動方針:仲間(クラウド、バレット、ティファ、ザックス)を探し、脱出の糸口を見つける。
0.千早という銀髪の少女を探す?
1.カイムのことはソニックに任せてみる。
2.今はゲーチスに付いて行き仲間を探す。もし危なくなったら……。
3.カームの街で、人探し、および黒マテリアの捜索をしたい。
4.ゲーチスの態度に不信感。
5.セフィロス、および会場にあるかもしれない黒マテリアに警戒

【支給品紹介】
【モンスターボール(中身不明)】
ソニック・ザ・ヘッジホッグに支給。中身は未だ確認されていない。



337花と風と ◆RTn9vPakQY:2021/01/06(水) 00:21:28 ID:p3DIXM9Y0
 市街地を歩く四条貴音。その姿は百合の花の如くたおやかだ。
 このような非常時においても、洗練された身のこなしが現れてしまうのは、幼い頃より受けた教育の賜物だろう。
 日に照らされているためか、その顔色も先程までと比べると落ち着いていた。

「私は運が良いのでしょうね」

 ソニックと名乗るハリネズミに嘘を見抜かれて気絶させられたものの、拘束されることもなく喫茶店に放置された。
 おそらく、ソニックにとって貴音よりも優先するべき事象ができたに違いなかった。
 そのお陰でこうして逃げることができたのだから、まず幸運である。

「とはいえ、いささか心細い状態です……」

 支給品はデイパックごと没収され、名簿すら確認できていない。
 この状態で強者に襲われればひとたまりもない、と誰より理解していた。
 いくらか精神が落ち着いてくると、冷静さから生じる恐怖心に苦しめられることになる。
 命のやり取りなど経験したことのない貴音が、思考の悪循環に陥るのも自然の道理であった。

「っ、いけません……」

 自然と目元が潤み、袖口で目元を拭う。
 泣いている余裕はない。行動をしなければ、生き残ることもできない。
 考えるのだ。生き残る道を選んだ上は、最適な行動を取り目的を達成することが本懐。

「それが、地獄への道だとしても」

 決意を新たに、少女は凛と歩き出す。
 しかし、貴音は未だ知らない。そして想像も及んでいない。
 この会場に、貴音に憧憬のまなざしを向ける仲間がいることを。
 その仲間――萩原雪歩――が、すぐ近くのエリアに来ていることを。

「いざとなれば、この手で再び――」

 その言葉は最後まで紡がれないまま、風にかき消された。
 握りしめた小さな果物ナイフが、キラリと陽光を反射した。


【D-2/市街地/一日目 朝】
【四条貴音@THE IDOLM@STER】
[状態]:強い罪悪感、恐怖、不安
[装備]:果物ナイフ@現実
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。どんな手を使ってでも。
1.如月千早の名を驕り、参加者に紛れながら殺していく。
2.春香……!
3.ザックスが生きているかどうか不安
※如月千早と名乗っています。
※ルール説明の際に千早の姿を目撃しています。

【果物ナイフ@現実】
喫茶店の厨房に放置されていた。刃渡り8cm程度の小ぶりなナイフ。

338 ◆RTn9vPakQY:2021/01/06(水) 00:21:46 ID:p3DIXM9Y0
投下終了です。

339 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/06(水) 00:35:57 ID:kfXmtrAU0
投下お疲れ様です。
貴音はソニックという拘束具を失った代わりに、同時に自分を守ってくれる存在も支給品も失ってしまいましたね。
彼女のいるD-2はカイムやマルティナ達がいる激戦区なので先行きが不安です。そして雪歩や美津雄と出会ってしまった際も一悶着ありそうだからなお怖い。
マーダーというスタンスでありながらここまでか弱く、感情移入させられるのは彼女くらいでしょうね。

340 ◆s5tC4j7VZY:2021/01/19(火) 23:17:51 ID:WE0OFxv.0
投下お疲れ様です!
微力ながらお役に立ちたいと思っております。
ウィリアム・バーキン、セーニャ、セフィロスで予約します。

341セフィィィィィロォォォォォス!!! ◆s5tC4j7VZY:2021/01/21(木) 05:46:22 ID:MzJ8M0ic0
完成したので、投下します。

342セフィィィィィロォォォォォス!!! ◆s5tC4j7VZY:2021/01/21(木) 05:51:12 ID:MzJ8M0ic0
「はぁ…はぁ…はぁ…」

走るーーー走るーーー走るーーー

《探せ…》

走るーーー走るーーー走るーーー

《強い力を…》

「うるさいッ!…ですわ…私は…言いなりになど…」

セーニャは走る。そうしないと意識を奪われる気がするからだ。
(先ほどの…銀髪の男…私に…何を…!?)
セーニャは、植え付けらえたジェノバ細胞に必死に抗っている。
(あれは、城…?…一度休憩をしましょうか…)
視線の先に見えた女神の城へ向かったーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

「オォォォオオ……」
うねり声を上げるのはウィリアム。
研究所にてハンターとカミュとの死闘に敗れたウィリアムだが、驚異的な回復力を宿すGウイルスは斃れずに更なる進化を遂げた。

ウィリアムにとってハンターとカミュは執着する対象ではない……
生物としての本能…「生きる」そして繁殖をするために適合候補を探すウィリアムは崩壊した研究所を去り、人がいる場所を目指した。
数刻後、下腹部の刺し傷もすっかり回復したウィリアムは女神の城へ辿り着く。
人の気配を感じ2Fに上がるとウィリアムに視線に映るのは傷を癒すセーニャ。
獲物を見つけたウィリアムが起こす行動は一つーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

「ここなら安全ね…ゔゔッ!?」
城内へ入り、2Fに上がると武器庫に辿り着いた。
傷と頭痛にぐらつくと近くにある手ごろな壁に寄りかかるセーニャ。
ズキンッ!ズキンッ!とジェノバ細胞が存在をアピールする。
「…ゔゔ、たしか…ありましたわ…まほうのせいすいのような効果なの…ね…」
セーニャは支給品の一つ、ハイエーテルの説明書を読んだあと、摂取する。

「〜〜〜〜んはぁああああ💗…メラゾーマ三発分MPが回復した感じですわ…」

度重なる戦闘によりMPが残り少なかったが、程よく回復できたようだ。

「ふふ…・これなら、まだ私は壊すことができる…ふひひひひひひっ……」

「グウオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!」

城内に響き渡る咆哮ッ!!
「ッ!!??何?…はッ!!」
セーニャは咆哮の正体に気付く!!

343セフィィィィィロォォォォォス!!! ◆s5tC4j7VZY:2021/01/21(木) 05:54:56 ID:MzJ8M0ic0
「ほう…」
ジェノバ細胞を通してインプットされたセーニャが休息している女神の城の内部を眺めつつ女神の城へ歩いていた。

「いいだろう…ここなら、クラウドと心行くまで闘うことができるな…」

C-5の代わりとして合格のようだ。
「ん?…あれは…」
どうやら、女は気づいてないようだが、勘が鋭いセフィロスは気付いた。

☆彡 ☆彡 ☆彡

「ッ!?メラゾー…ゔぁッ!?」

「グウオオオオ!!!」
突如現れた化け物にメラゾーマを詠唱するセーニャだが……
詠唱よりも早くウィリアムは跳躍力で近づく!!!
そして、ウィリアムに生えた左肩の鋭い爪がセーニャの右肩を貫くッ!!!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!??」
セーニャの激痛の叫び声……
しかし…

「グウオオオオオオオ!!!???」

セーニャの叫び声だけでない…貫いたウィリアムも叫びだした。

貫いた爪を引き抜くと右肩に生えた腕でセーニャを掴み、セーニャの眼を見つめる。
「…ォォォォ」

「ヒヒ…みんな破壊ですわ…黒マテリア…クラウド…お姉さま…」

「……」
ビュッッ!!!
「ゔえ゛ッ!!??」
なんと、ウィリアムはセーニャの口内に胚を植え付けたのだーーーーー
「ゔェェェェェ!!??」
頭痛が頭の中に響き、吐き気を催すーーーーー

胚を植え付けたのを見届けたウィリアムは掴んだセーニャを放り棄てるーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

2Fから放り棄てられ地面に叩きつけられたセーニャ。
常人なら即死だが、体内のジェノバ細胞とGウイルスの力により命を繋いでいる。

起き上がるとブツブツと独り言を発する。
「強い力…ヴヴヴ…あっち…ね…」

セフィロスに命じられた「強い力を探せ」
それは皮肉にもGウイルスの記憶にあるハンターとカミュを示した。

セーニャは二人の足取りを追う……

【A-6 女神の城周辺/一日目 昼】

【セーニャ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
状態]:HP1/2 右腕に治療痕 右肩負傷(回復中) 頭痛 吐き気  MP消費(小)
[装備]:黒の倨傲@NieR:Automata、星屑のケープ@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1個)、軟膏薬@ペルソナ4
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して世界樹崩壊前まで時を戻し、再び破壊する。
1.ハンター・カミュのいる方角へ向かう。
2.誰の言いなりにもならず、自分の意思で破壊を続ける。
※世界樹崩壊後、ベロニカから力を受け継いだ後からの参戦です。
※ウルノーガによってこの殺し合いが開催されたため、世界樹崩壊前まで時間を戻せば殺し合いがなかったことになると思っていました。
※ザキ系の呪文はあくまで生命力を奪う程度に留まっており、連発されない限り即死には至りません。
※放送は気に留めておらず、名簿を見ていません。
※セーニャの体内のジェノバ細胞によって、セーニャの得た情報は、セフィロスにもインプットされます。
※セフィロスからの精神的干渉を受けています。今のところは自我を保っていますが、何か精神的ダメージを受ければ、セフィロスの完全な傀儡化するかもしれません。
※ジェノバ細胞の力により、従来のセーニャより身体能力、治癒力が向上しています。
※外見は右腕の癒着痕を覗き、少なくとも現在は特に変化はありません。
※体内に胚を植え付けられてGウイルスに感染しました。
※現在はジェノバ細胞の力により適合できています。また、ジェノバ細胞との共存により外見に変化は見られませんが肉体ダメージによりGウイルスが暴走するかもしれません。

344セフィィィィィロォォォォォス!!! ◆s5tC4j7VZY:2021/01/21(木) 05:56:28 ID:MzJ8M0ic0
☆彡 ☆彡 ☆彡

「まだ、利用価値はあるようだ」
よろよろとしながらも強い力を求めて走りだしたセーニャの姿をジェノバ細胞を通して確認した。

「それにしても…知能もないただのモンスターだな。クラウドとは程遠い」

セフィロスにとって強い力とは闘う戦闘力もそうだが、意志の力も重要視される。
ウィリアムはセフィロスにとってただのモンスターにしか価値を見いだせない。

「まぁいい…クラウドとの闘いの前に掃除をしておくか」

セフィロスは悠然と女神の城のウィリアムの元へ向かう。

セフィロスの体内のジェノバ細胞はGウイルスを歯牙にもかけないーーーーー

【A-6 女神の城城門前/一日目 昼】
【セフィロス@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:左腕火傷、服の左袖焼失 高揚感
[装備]:バスターソード@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、武器の類ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:クラウドと決着をつける。 この世界の未知の力を手に入れる。
1.女神の城にいるモンスター(ウィリアム)を掃除する。
2.女神の城でクラウドを待つ。
3.因果かな、クラウド。
4.スネーク(名前は知らない)との再会に少し期待
5.セフィロス・コピーにしたセーニャに、この世界の情報収集をさせる。

345セフィィィィィロォォォォォス!!! ◆s5tC4j7VZY:2021/01/21(木) 05:57:40 ID:MzJ8M0ic0
☆彡 ☆彡 ☆彡

なぜ、ウィリアムはセーニャを殺さなかったのかーーーーーー
答えはセーニャの体内の【ジェノバ細胞】

G生物は驚愕したのだ。
未知なる細胞の強大な力に!!

この女なら適合するーーーーージェノバ細胞を有するセーニャならGウイルスを耐えきると直感したため、ウィリアムはセーニャにGウイルスを植え付けたのだ。

そもそもGウイルスはウィリアム・バーキンの【劣等感】により開発された源である。
恩師であったジェームズ・マーカスをライバルであり友人のアルバート・ウェスカーと共謀して謀殺後、任された幹部養成所再利用計画が頓挫した苦い屈辱。
わずか10歳の少女が南極研究所の主任となって自身が持つ最年少記録を塗り替えられるという嫉妬心。
そんな虚栄心が強く屈折したウィリアムが産みだしたのが【Tウイルス】とそれを上回る【Gウイルス】だ。
【Gウイルス】はウィリアムの研究の極み。

そのウイルスが細胞…他のウイルスに負けてはならぬのだ。
第三形態となり既にウィリアムとしての自我はないーーーーーしかし、セーニャの体内にあるジェノバ細胞がウィリアムの矜持を呼び起こす!!

こうなったら、Gことウィリアムがやるべきことは一つーーーーーー

「セフィィィィィロォォォォォス!!!」

コピーではないリユニオンとしてジェノバ細胞を持つセフィロスをこの身に取り込み更なる進化しかない。

【A-6/女神の城1F /一日目 昼】

【ウィリアム・バーキン@BIOHAZARD 2】
[状態]:G生物第三形態、
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:ジェノバ細胞を取り込み、更なる進化をする
1.セフィロスを見つけ、吸収する。どこまでも追いかけて。
2.セフィロォォォス……。
3.シェエエェェリィィ……。

346セフィィィィィロォォォォォス!!! ◆s5tC4j7VZY:2021/01/21(木) 05:57:55 ID:MzJ8M0ic0
投下終了します。

347名無しさん:2021/01/21(木) 10:52:25 ID:sZjBZMIQ0
投下乙です。
この三人を会わせる時点でやな予感はしていたけど、こんなことになるとは……。
登場回から思っていたけど、もうセーニャ楽にさせてやってくれ……。

348 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/21(木) 15:26:20 ID:INaXB07s0
投下乙です。
やはりウィリアムとセフィロスは戦う運命なんですね。どちらも作品のラスボスであり、凶悪マーダーなので邂逅が楽しみです。
備考がとんでもないことになってるセーニャはカミュ達の元へ向かったようですね。一応精神汚染のラインである体力はクリアしているので、カミュと出会った時の反応がどうなるか。

349 ◆s5tC4j7VZY:2021/01/22(金) 00:34:23 ID:rK3CcAPc0
感想ありがとうございます。
「セフィィィィィロォォォォォス!!!」
ジェノバ細胞を植え付けられたセーニャの方角にはウィリアムがいたので、Gウイルスも追加で!とセーニャには「すまぬ…」と思いつつこのような流れにしました。
G生物のウィリアムの顔の部分をセフィロスに置き換えた姿が天啓というのでしょうか、思い浮かびまして…
闘いの果てにどうなるかは不透明ですが、私もウィリアムとセフィロスの邂逅が楽しみです。

精神汚染のラインである体力はクリアしていたのを見落としておりました。申し訳ございません。
セーニャの台詞を修正したのを投下いたします。

350 ◆s5tC4j7VZY:2021/01/22(金) 00:36:34 ID:rK3CcAPc0
「はぁ…はぁ…はぁ…」

走るーーー走るーーー走るーーー

《探せ…》

走るーーー走るーーー走るーーー

《強い力を…》

「嫌っ!…ですわ…私の目的は……皆様を救うこと……」

セーニャは走る。そうしないと意識を奪われる気がするからだ。
(先ほどの…銀髪の男性は…私に…何を…!?)
セーニャは、植え付けらえたジェノバ細胞に必死に抗っている。
一度は黒の倨傲の黒い衝動により破壊衝動に囚われていたセーニャだがセフィロスとの戦闘中に意識を取り戻した。
(あれは、城…?…一度休憩をしましょうか…)
視線の先に見えた女神の城へ向かったーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

「オォォォオオ……」
うねり声を上げるのはウィリアム。
研究所にてハンターとカミュとの死闘に敗れたウィリアムだが、驚異的な回復力を宿すGウイルスは斃れずに更なる進化を遂げた。

ウィリアムにとってハンターとカミュは執着する対象ではない……
生物としての本能…「生きる」そして繁殖をするために適合候補を探すウィリアムは崩壊した研究所を去り、人がいる場所を目指した。
数刻後、下腹部の刺し傷もすっかり回復したウィリアムは女神の城へ辿り着く。
ウィリアムに視線に映るのは傷を癒すセーニャ。
獲物を見つけたウィリアムが起こす行動は一つーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

「ここなら安全ですね…ゔゔッ!?」
城内へ入り、2Fに上がると武器庫に辿り着いた。
傷と頭痛にぐらつくと近くにある手ごろな壁に寄りかかるセーニャ。
ズキンッ!ズキンッ!とジェノバ細胞が存在をアピールする。
「…ゔゔ、たしか…ありましたわ…まほうのせいすいのような効果なの…ね…」
セーニャは支給品の一つ、ハイエーテルの説明書を読んだあと、摂取する。
「〜〜〜〜んはぁああああ💗…メラゾーマ三発分魔力が回復した感じですわ…」
度重なる戦闘により魔力が残り少なかったが、程よく回復できたようだ。
「……」
一度、休憩に入るとセーニャは装備している黒の倨傲を眺める……
(私は皆さまを救うためにも殺して破壊しなければなりません」
レオン・ケネディを殺めたときにセーニャは自分の進む道をケツイしたのだ。
黒の倨傲を強く握りしめるッ!
「ふふ…これなら、まだ私は壊すことができる…ふひひひひひひっ……なんてね」
しばらく時がたち、セーニャは移動を開始しようとするがーーーーー
「グウオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!」
城内に響き渡る咆哮ッ!!
「ッ!!??何?…はッ!!」
セーニャは咆哮の正体に気付く!!

351 ◆s5tC4j7VZY:2021/01/22(金) 00:38:23 ID:rK3CcAPc0
「ほう…」
ジェノバ細胞を通してインプットされたセーニャが休息している女神の城の内部を眺めつつ女神の城へ歩いていた。
「いいだろう…ここなら、クラウドと心行くまで闘うことができるな…」
C-5の代わりとして合格のようだ。
「ん?…あれは…」
どうやら、女は気づいてないようだが、勘が鋭いセフィロスは気付いた。

☆彡 ☆彡 ☆彡

「ッ!?メラゾー…ゔぁッ!?」
「グウオオオオ!!!」
突如現れた化け物にメラゾーマを詠唱するセーニャだが……
詠唱よりも早くウィリアムは跳躍力で近づく!!!
そして、ウィリアムに生えた左肩の鋭い爪がセーニャの右肩を貫くッ!!!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!??」
セーニャの激痛の叫び声……
しかし…
「グウオオオオオオオ!!!???」
セーニャの叫び声だけでない…貫いたウィリアムも叫びだした。

貫いた爪を引き抜くと右肩に生えた腕でセーニャを掴み、セーニャの眼を見つめる。
「…ォォォォ」
「放しなさい…ゔッ!?黒マテリア…クラウド…お姉さま…」
「……」
ビュッッ!!!
「ゔえ゛ッ!!??」
なんと、ウィリアムはセーニャの口内に胚を植え付けたのだーーーーー
「ゔェェェェェ!!??」
頭痛が頭の中に響き、吐き気を催すーーーーー

胚を植え付けたのを見届けたウィリアムは掴んだセーニャを放り棄てるーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

2Fから放り棄てられ地面に叩きつけられたセーニャ。
常人なら即死だが、体内のジェノバ細胞とGウイルスの力により命を繋いでいる。

起き上がるとブツブツと独り言を発する。
「強い力…ヴヴヴ…カミュさん?…あっち…ね…」
セフィロスに命じられた「強い力を探せ」
それは皮肉にもGウイルスの記憶にあるハンターとカミュを示した。

セーニャは二人の足取りを追う……

【A-6 女神の城城周辺/一日目 昼】

【セーニャ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
状態]:HP1/2 右腕に治療痕 右肩負傷(回復中) 頭痛 吐き気  MP消費(小)
[装備]:黒の倨傲@NieR:Automata、星屑のケープ@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1個)、軟膏薬@ペルソナ4
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して世界樹崩壊前まで時を戻し、再び破壊する。
1.ハンター・カミュのいる方角へ向かう。
2.誰の言いなりにもならず、自分の意思で破壊を続ける。
※世界樹崩壊後、ベロニカから力を受け継いだ後からの参戦です。
※ウルノーガによってこの殺し合いが開催されたため、世界樹崩壊前まで時間を戻せば殺し合いがなかったことになると思っていました。
※ザキ系の呪文はあくまで生命力を奪う程度に留まっており、連発されない限り即死には至りません。
※放送は気に留めておらず、名簿を見ていません。
※セーニャの体内のジェノバ細胞によって、セーニャの得た情報は、セフィロスにもインプットされます。
※セフィロスからの精神的干渉を受けています。今のところは自我を保っていますが、何か精神的ダメージを受ければ、セフィロスの完全な傀儡化するかもしれません。
※ジェノバ細胞の力により、従来のセーニャより身体能力、治癒力が向上しています。
※外見は右腕の癒着痕を覗き、少なくとも現在は特に変化はありません。
※体内に胚を植え付けられてGウイルスに感染しました。
※現在はジェノバ細胞の力により適合できています。また、ジェノバ細胞との共存により外見に変化は見られませんが肉体ダメージによりGウイルスが暴走するかもしれません。


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