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ゲームキャラバトル・ロワイアル【第二章】

1 ◆NYzTZnBoCI:2019/11/07(木) 15:20:03 ID:SrO2rlvw0
【ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】7/8
○イレブン(主人公)/○カミュ/○シルビア/○セーニャ/○ベロニカ/○マルティナ/○ホメロス/●グレイグ

【ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】6/7
○リンク/○ゼルダ/○ミファー/○ダルケル/○リーバル/●ウルボザ/○サクラダ

【FINAL FANTASY Ⅶ】6/6
○クラウド・ストライフ/○ティファ・ロックハート/○エアリス・ゲインズブール/○バレット・ウォーレス/○ザックス・フェア/○セフィロス

【クロノ・トリガー】4/6
○クロノ/●マールディア/○ルッカ/○ロボ/●カエル/○魔王

【ポケットモンスター ブラック・ホワイト】4/5
○トウヤ(主人公)/○N/●チェレン/○ベル/○ゲーチス

【ペルソナ4】4/5
○鳴上悠(主人公)/○花村陽介/●天城雪子/○里中千枝/○久保美津雄

【METAL GEAR SOLID 2】4/5
○ソリッド・スネーク/●ジャック/○ハル・エメリッヒ/○リボルバー・オセロット/○ソリダス・スネーク

【THE IDOLM@STER】4/5
●天海春香/○如月千早/○星井美希/○萩原雪歩/○四条貴音

【BIOHAZARD 2】3/4
●レオン・S・ケネディ/○クレア・レッドフィールド/○シェリー・バーキン/○ウィリアム・バーキン

【ドラッグ・オン・ドラグーン】2/4
○カイム/○イウヴァルト/●レオナール/●アリオーシュ

【龍が如く 極】3/4
●桐生一馬/○錦山彰/○真島吾朗/○澤村遥

【NieR:Automata】2/3
○ヨルハ二号B型/○ヨルハ九号S型/●ヨルハA型二号

【MONSTER HUNTER X】2/2
○男ハンター/○オトモ(オトモアイルー)

【名探偵ピカチュウ】1/1
○ピカチュウ

【Grand Theft Auto V】1/1
○トレバー・フィリップス

【BIOHAZARD 3】1/1
○ネメシス-T型

【テイルズ オブ ザ レイズ】1/1
○ミリーナ・ヴァイス

【大乱闘スマッシュブラザーズSP】1/1
○ソニック・ザ・ヘッジホッグ

【ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】1/1
○レッド

58/70

【主催側】
マナ@ドラッグ・オン・ドラグーン
ウルノーガ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
宝条@FINAL FANTASY Ⅶ
ガッシュ@クロノ・トリガー
足立透@ペルソナ4
エイダ・ウォン@BIOHAZARD 2

2 ◆NYzTZnBoCI:2019/11/07(木) 15:24:17 ID:SrO2rlvw0
【基本ルール】

全員で殺し合いをし、最後まで生き残った一人が優勝者となる。
優勝者のみ元の世界に帰ることができる。
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。

・「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。主催者の手によってか何らかの細工が施されており、明らかに容量オーバーな物でも入るようになっている。四●元ディパック。
・「地図」 → MAPと、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
・「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
・「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
・「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。肝心の食料の内容は書き手さんによってのお楽しみ。SS間で多少のブレが出ても構わない。
・「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
・「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
・「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。

【禁止エリアについて】
放送から1時間後、3時間後、5時間に1エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。

【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。

【予約】
期限は7日間。

【支給品】
伝説のポケモンやメタルギアなど、ゲームバランスが崩壊しかねないものは支給禁止。

【書き手枠】
書き手枠として参加させられるキャラは一予約につき一名ずつ。既に名簿に記載されている作品外からの参戦も可。
また、原作がゲームの作品以外のキャラの参戦は不可。
作品が投下された時点で参戦確定となる。

【参加者名簿】
書き手枠のキャラが全て出揃った後、第一回目の放送開始時点でデイパックに転送される。
全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。ちなみにアイウエオ順で掲載。

【状態表テンプレ】
【座標(A-1など)/詳細場所/日付 時刻】
【キャラ名@作品名】
[状態]:
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
3.

【作中での時間表記】(0時スタート)
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24

3 ◆NYzTZnBoCI:2019/11/07(木) 15:25:27 ID:SrO2rlvw0

【会場全体図】
ttps://www65.atwiki.jp/game_rowa/pages/10.html

【イシの村@ドラゴンクエスト 過ぎ去りし時を求めて】
主人公が育てられた最初の村。
崩壊前の姿なので、民家などはちゃんと残っている。
探せばやくそうなどのドラクエ関連のアイテムが見つかるかも。

【ハイラル城@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
ガノンに乗っ取られた大きな城。
厄災ガノンはいないものの、怨念の沼は健在。
数は少ないものの朽ちたガーディアンなどが眠っている。
探せばハイラルダケなどのブレワイ関連のアイテムが見つかるかも。

【カームの街@FINAL FANTASY Ⅶ】
ミッドガルを脱出したクラウド達が最初に立ち寄る街。
本編での城のような外壁は撤去されており、民家が立ち並ぶ形に。
探せばポーションなどのFF関連のアイテムが見つかるかも。

【北の廃墟@クロノトリガー】
亡霊が出ると噂される廃墟。
地下にはサイラスの墓がある。
ゴースト系のモンスターが潜んでいるかもしれない。

【Nの城@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
ポケモンBWでのラストダンジョン。
中には愛の女神(バーベナ)、平和の女神(ヘレナ)がおり、頼めばポケモンの回復をしてくれる。
この二人は参加者扱いではないものの首輪が嵌められており、主催への反逆を許されていない。

【八十神高等学校@ペルソナ4】
鳴上悠達が通っている学校。
教室がある三階建ての教習棟と、二階建ての特別教室のある実習棟がある。
その他、体育館・運動場等の施設が揃っているが、プールの存在は見られない。

【偽装タンカー@METAL GEAR SOLID 2】
タンカー編の舞台となる輸送用のタンカー。
新型メタルギア、RAYを輸送するために使用されたが、本ロワではRAYは搭載されていない。
探せば止血剤などのMGS関連のアイテムが見つかるかも。

【765プロ@THE IDOLM@STER】
アイドルマスターの舞台となる芸能事務所。
外観は初期事務所の形で、雑居ビルの一階が居酒屋「たるき亭」、二階が765プロとなっている。

【ラクーン市警@BIOHAZARD 2】
バイオ2の舞台となる警察署。別名R.P.D.
元々美術館だった建物を警察署に改築したらしくあちこちに美術館時代の名残が見受けられる。
数は少ないものの、クリーチャーが潜んでいるかもしれない。
探せばハーブなどのバイオ関連のアイテムが見つかるかも。

【女神の城@ドラッグ・オン・ドラグーン】
主人公カイムの妹、フリアエの居城。本編では最初の戦いの場となった。
傍にあった女神の神殿は撤去されている。
かなり広いが、帝国軍の襲撃に遭った後のため内装は廃れている。

【セレナ@龍が如く 極】
桐生一馬、錦山彰の行きつけの高級クラブ。雑居ビルの二階に店を構えている。
マスターの麗奈はいないが酒はそのままなので、美味しいお酒が飲めるかもしれない。

【遊園地廃墟@NieR:Automata】
名前の通り遊園地の廃墟。
ジェットコースター、観覧車などのアトラクションが揃っている。
各所にNPCロボがいるが、こちらから危害を加えない限り攻撃してこない。

4名無しさん:2019/11/09(土) 21:23:29 ID:ZI8EA4U60
新スレ乙です。

>> 殺意の三角形
カイムが思ったより強かった。やっぱり最初に会ったのが幼女だったから手加減してしまったのか。
正宗振り回せてコメテオぶっ放してくるのはやばい、地味に『ふうじる』の搦め手もあるから単騎では相当強いはず、
なんだけどガス欠してエアリスとゲーチスに捕縛されてしまってるあたり、強くても油断ならんなあって思うよね。
個人的には邪気封印なら仕方ないよなあっていう納得感はあるんだけど。
カイムってしゃべれないから、説得の難易度くそ高そうだし、戦闘描写のすさまじさ見る限り本当にカーテン引きちぎってきそうなんだよね。
割とゲーチスさんは気が気じゃないのでは??

> この世界で新たに会えた存在が、悩んでいる自分の前に代替案を出してくれたからといって、ゲームに乗るのをやめるなら、イレブンへの想いもその程度ということになってしまう。
彼女の目が曇ってるように思えるのは、大体ここのせいなんだろうなあ。

生存確率については、脱出は優勝に劣らないと思うんだけど、
イレブン本人の無事というよりも自分の想いの証明に比重が偏ってるのが見え隠れしてて、あっ……と思ってしまうんだわ。
ソニックの提案には乗らないけど、ミリーナの提案には乗るのもそこらへんの差異かなあって思ったりした。

>> 流星光底長蛇を逸す
せっかくの機会、またとない機会を逃してしまうことのたとえ(意味深)
イウヴァルトがしっかり策士してるように見えるけど、まだ策士かなんちゃってなのか判断がつかないぞ。
ベロニカたちと交渉してうまくいかなかったのを踏まえた上で策を立てたのはいいところだし、
あらかじめ相手の位置や与える情報の準備をしておいたのもグッド。
名簿とかいう単語を漏らしてスネークに正体見破られたときはもうこいつダメだろと思ったけど、
これを逆利用してスネークを思いどおりに動かしたのは非常に評価高い。

> 「勝敗は……準備の差だったな……。」
> 殺し合いを制する鍵は、相手の居場所を先に特定することだと言っても過言ではない
これだけ言い切っておきながら、近くにいるセフィロスの居場所特定してなくて、策が成就するか頓挫するかがスネークの生存力に丸投げされたのほんと笑った。

セフィロスを最後に絡めてきたのを見ると、このブーメランっぽさは書き手さんが狙ったと思うんだよなあ。
あと、こっちは狙ったのかどうかは分からないけど、展望台なんていういかにも偵察のための施設を偵察対象にしてなかったのはブーメランポイント高いぞ。
仮に偵察してたらセフィロスにやられてた可能性もあるにはあるから、どっちがよかったとは言いきれないんだけどね。

>> RE:2
この話好き。
バトルロワイアルというよりバイオハザードの二次創作みたいな雰囲気で、他の話とは異質なんだけど、面白かった。
ファンタジー世界の住人が一人も登場していないことで出てくる緊張感みたいなものがある。

なんで警察署がパズルになってるんだのメタ的なツッコミに、筋の通る回答用意してるところとか、
ちゃんとクレアとネメシスでバイオハザードの再現してるところとか、色々リスペクト散りばめられててポイント高い。
ウィリアムといい、ネメシスといい、アリオーシュといい、バイオハザード勢は大暴れしてるよね。

ソリダスは初登場のときは曲者に思えたんだけど、なんか面白キャラになってるような気がする。
市警踏破する様が割と必死だった点と、ネメシスという圧倒的な脅威がいた点からそう感じるんだろうけど、ちょっと底が見えたというかなんというか……w

5名無しさん:2019/11/09(土) 21:29:06 ID:ZI8EA4U60
>> 初心に振り返って
なぜか明け方じゃなくて夕暮れっぽさを感じてしまうお話だと思う。
明け方にプラス的な、夕暮れにマイナス的な印象があるからかな。この話が向かう先はプラスっぽくは見えないので……。

大自然の描写が増えてくると放送前って感じがあるんだよね。
海に関しては、千枝は穏やかさと激情を併せ持った心を、錦山は泰然さとは正反対にある心を、それぞれ見てるのかな。
この二人のすごく微妙な距離感は、仲間ではなくてただの同行者だよね。
今のところ心が安定してるけど、どっちも放送後、名簿公開後がものすごく怖い感じがするんだよなあ。


>> Must Survive
生きねばならぬ。
前話から危ういなとは思ってたけど、この二人完全に決裂したなあ。
シェリーの瞳のハイライトは絶対消えてる。
切り捨てられる側はたまったものじゃないのは分かるんだけど、じゃあお前殺しあうのかよって言われたら言い返せない。
悪魔のニ択じゃないけど、すごいもやもやする。
一応同行はしてるみたいだけど、お互いがピンチになってもお互いを助けなさそうですらあり、敵同士よりもピリピリしてそう。


>> 魔力と科学の真価
やっぱ素でそれなりに強いキャラだと、ネメシスは強いモンスター、みたいな感じになってしまうよね。
あれに自分から話しかけにいくなんて、現実世界ベースのキャラからすれば正気じゃないんだけど、その辺は世界観の違いなんだろうなあ。
シルビアはギガンテスかメガトンケイルの親戚程度のイメージしか持ってなさそうだし、
オトモにしたってフルフルたんなんかを見知ってれば、ネメシスの見た目を怖がることはないだろう。

よくよく読んでみれば、魔王のHPをスイング一発で2/3減らしたり、シルビアに即死攻撃くらわせてたり、ファンタジー系の中盤以降から参戦した参加者に優位を取れる程度には強いのよね。
まあ、まだ第一形態を倒しただけなんだが……。

魔王はなんだかんだで馴染んでるよなあ。
戦闘前後は打算にまみれた思考してるけど、お前シルビア助けたときとかは絶対そこまで損得考えてなかったよな?
アイルーは相変わらず何もしていないように見えるw


>> 小さな一歩
これは本当に美津雄を応援したくなる。
美津雄の話ってダメ息子の成長を見守るような感覚があるんだよ。
たとえ結果が出なくても、ショボくたって、応援してあげるべきだと思うのよね。
バトロワやってんだからつまずく可能性はあちこちに転がってるけど、それひっくるめて過程を楽しみたいなって思う。


>> ALRIGHT* ――大丈夫――
このロワのトレバーは割と好きなキャラだったりする。
欲望全開なムーブもそうだし、彼の台詞回しが結構読んでて楽しいんだよ。
アメリカ著名人の発言の日本語訳みたいな言い回しとか、お前が正気とか良心とか語るなよというツッコミ満載なセリフとか大好き。
欲望のほうも、人間狩りとか女関係のゲスいところだけだとただの悪人なんだけど、
パワードスーツについて真島とロマンを語り合って、扉蹴破って侵入するあたりはなんか憎み切れないんだよなあ。

真島はダークヒーローなんだね。
トレバーと組んで大暴れしてたときも楽しそうだったけど、対主催としても頼りになりそうなキャラだなあって思ってしまう。
どんなスタンスでも状況を楽しんでるように見えるこの二人はやっぱ相性はいいのかもしれない。
しかしトレバーは放送を認識してるようだけど、どんな反応するのかまったく予想できないな。

すっごい気になるんだけど、
> 戦いの予兆が感じられればすぐさま別の場所へ”保護”されるようになっているわ
これトレバー相手に通用すんの? あいつ戦いの予兆なんてあるの?


>> アリオーシュの奇(出題編)~(回答編)
謎の人物でしかなかったオセロットを主催者のスパイにするのはうまいリレーだなって思ったよ。
キャラ付けの観点でも相当明瞭になったと思う。
ジョーカーじゃない手先だと本人言ってるけど、エイダはジョーカーだと言ってる……
これは、私は主催者どもの犬とは違うのだよ的なこだわりなんだろうか?
正体暴露した後もバレットとの関係は変わらず、もうオセロットのバレットいじりは堂に入ってきたような気がして、このコンビ好きになってきた。

アリオーシュはもっと暴れるかと思ったけど、手口とか事情知ってるキャラ相手では分が悪かったか。
ダインとリンクさせてくる着眼点にはびっくりしたなあ。言われて見ればその解釈はアリだと思えてくる。

遥は助かったことになるけど、完全に一人で取り残されて先が読めなくなったかも。

6名無しさん:2019/11/09(土) 21:35:41 ID:ZI8EA4U60
>> 第一回放送
放送回のイメージと違ってめっちゃボリュームあった。情報量多すぎ。
オセロットはリレーするのが難しい立ち位置だと思ったんだけど、一気に整理されて分かりやすくなった感じがある。
前話からたった一週間で書き上げてるけど、裏で共有してたんじゃないかって思ってしまうくらいには綺麗につながれてると思う。

マナのヒールっぷりもいいね、素でこいつウザいなって思えてくる煽り文に脱帽する。
それとは別に盗聴してるよだとか、偽名使ってるやついるよだとか、よく聞けば情報の宝庫で、これ一つで全体が大きく動きそう。

主催者サイドって、マナとウルノーガからして一枚岩ではなさそうって思ってたけど、見事に全員思惑バラバラなんだね。
主催者内の中の反抗サイドですら温度差ありそうだし……。
ガッシュは明確に反抗サイドだけど、どうも頭に血が上ってて足引っ張りそうに見えるんだよね。
それとは別に、雑兵ポジの神羅兵も一部買収済みとかいきなりガバガバじゃないか。
絶対神羅の通常業務じゃなくてパワハラ混じったサービス残業だろうし、そりゃ美人の姉ちゃんに金払ってお願いされたならそっちにつくよな。

宝条とマナは控えめに言って頭おかしいからおいといて、今回一番株が動いたのがウルノーガかな。
ホメロスに裏切られて思いっきり動揺してたり、足立やエイダと対照的にこころのセキュリティガバガバだったりと、ものすごい下押し圧力がかかってる。
セリフもブーメランが頭に刺さってるよw
これ個人的な感想だけど、ホメロスを見下してたのと同様にマナも見下してたから、マナとホメロスからしっぺ返しくらったんだろうと思ってるんだよなあ。


>> 黒の引き金
黒の衝動と一体化した引き金が『ベロニカ』の感知で、
ブラックドラゴンを呼び出す引き金としての『召喚マテリア』って感じのダブルミーニングかな……と思ったけどセーニャは名簿見てないじゃん。
双子の感覚でベロニカの存在を感知したのかな。
本文でも書かれてるけど、一周まわって思考のねじれが消えたせいで一本筋の通ったイカレかたを発揮してくれてる気がするんだよね。

イウヴァルトは、目の付け所はいいんだけど、
コマがセフィロスに突っ込むわ、セーニャに突っ込むわ、自分はロボに突っ込むわで目論見がいまいちうまくいってない気がする。
下積み期間っぽいから後でどう転がるかなんだけど、目論見が機能してカイムを窮地に追いやるのか、自分に跳ね返ってくるのかは気になるなあ。
このブラックドラゴン、DQ11のあいつは全然連想してなかった。てっきりDOD関連の何かを封じたものなのかと……。
使用特技にはげしいほのおと明記されてるから、さすがに『邪』が出てくる線は潰してたか。


>> 夢の終わりし時
クロノはマナの悪辣なささやきを見事跳ね返したね。
> 冷静に考えてみたら
のくだりでぜんぜん冷静じゃない考えを披露してるあたりで危ないんじゃないかとは思ったけれど、
この辺全部ぶん投げて、乗ってるやつは殴り飛ばして引きずって連れて行く! って決意したのは主人公の風格。
ただ、とりまく状況が厳しすぎるのがつらいのよな。

ゼルダは色々吹っ切れたせいか、他者の利用価値を冷徹に見定めて容赦ない手をどんどん打って来てるね。
ダルケルはゼルダの知己ということや、英傑の使命なんかもあって視野が狭まってるけれど、
レッドはもう少し離れた位置から冷静に物事を捉えてるような感じがあって、意外と一筋縄ではいかなそうな感じがある。
レッドっていかにも単純なお人好しっぽいキャラに見えるんで、実は考えを外から読み取りづらいキャラなのかもしれない。
そう考えるとゼルダとレッドとピカの三人組はなかなか面白い組み合わせなんじゃないかと思う。


>> 新たなる好敵手
トウヤってロボットとか目じゃない冷血人間に思ってたんだけど、少しだけ感情が見えた感じが。
ベルやゲーチス、チェレンへの塩対応からして、彼らはもう過去の人になってるんだなと思ったんだけど、
名簿に強そうなトレーナー見つけただけで心わきあがってるのはちょっとかわいい。

レッドもトウヤも当然Nの城に向かってるわけだけど、
冷静に考えてみればNの城にいさえすれば必ずポケモントレーナーは現れるし、万全の状態でバトルもできるんだよなあ。
一方でNの城に来るってことは手持ちのポケモンが弱ってるってことだから、待ち伏せにも使いやすいってことで、
ここでドンパチやってる二人、特にトレバーが生き残ると脅威になるわけだ。
Nの城のポケモン回復ルールってさ、『ポケモン』が一体何を指すのかは早い者勝ちの解釈なのよね?
どういうルールを提示されるのか楽しみに見ておこう。

7名無しさん:2019/11/09(土) 22:16:48 ID:IktdwNVI0
感想乙です!
ちなみにNの城の回復は放送でのマナ曰く『支給モンスター』なので、ポケモンに限らないみたいですよ

8名無しさん:2019/11/09(土) 22:28:31 ID:ZI8EA4U60
>>7
ご指摘どうもです。
マナの放送のほうにあったのは見落としてました。

ところでwikiへのリンクが見つからなかったので貼っておきます。
ttps://www65.atwiki.jp/game_rowa/pages/1.html

9 ◆vV5.jnbCYw:2019/11/09(土) 23:45:51 ID:svbmWmcI0
全話感想ありがとうございます。
1個1個丁寧に書いてくれているので楽しみにしていました。

>>4
私はDODをやったことがないのですが、
実況で見た時、DOD2(この作品は主人公がカイムではなく、カイムがボスとして出てくる)で実況者さんがめっちゃカイムに苦戦していたので、強キャラとして書きたくなりました。
回復とか小回りは利きずらいけど、パワーだけならイレブン、クロノ辺りとも互角以上に戦えそうな気がします。
書きながらどうにもゲーチスさんがヘタレキャラになってしまったな……って実は思ってました。
仮にもゲームならウィリアム・バーキンやセフィロスと同じラスボスポジションなので、この先活躍してほしいのですが……。

>>5
どうにも魔王のようなツンデレキャラは他のメンバーに馴染ませるか、過程を描くのが難しいんですよね。
サクラダ、魔王、シルビアはそれぞれ反撃に繋がる描写を作れましたが、オトモだけは活躍させられなかったので、是非頑張ってほしいですね

>>6
クロノ放送後の回は、「TRIGGER」の直後から温めてたネタなのですが、
見事にクロノが闇堕ちすると予想させて、正統派主人公に返り咲かせるやり方に期待を裏切られてくれたようです。
最も「今」闇堕ちしなかっただけなのかもしれませんがね(腹黒微笑)

トウヤ、チェレンとポケモンBW勢の対象年齢が高そうな気がしたので(そもそもポケモンBWのストーリー自体が他のポケモンに比べて対象年齢高めなような?)、
レッドはコ○コロコミックの主人公のようなキャラとして書いてみたかったんですよ。
勿論片手間に野生のポケモンを倒したり、ゼルダの悪意に薄々感づいたりチャンピオンとしての面も描写したつもりなのですが。

10 ◆2zEnKfaCDc:2019/11/11(月) 17:13:56 ID:f57qgGJs0
ホメロス、クラウド、花村陽介で予約します。

11 ◆RTn9vPakQY:2019/11/12(火) 16:00:06 ID:/t1ugwoY0
如月千早 予約させて頂きます。

12 ◆vV5.jnbCYw:2019/11/14(木) 00:43:00 ID:dj8drUqM0
里中千枝、錦山彰、ミファー予約します。

13 ◆GyLbXZsSPw:2019/11/14(木) 18:12:23 ID:Y.38eHS60
先日の予約の件ですが一日猶予を下さい

14 ◆EPyDv9DKJs:2019/11/15(金) 01:42:28 ID:kyPFM99Q0
投下します

15 ◆EPyDv9DKJs:2019/11/15(金) 01:43:30 ID:kyPFM99Q0
 戦場で無残な死を遂げる兵は、決して少なくない。
 華々しく死ぬことも、ベッドの上で安らかに眠ることもない。
 ファットマンの芸術は叶わないように、エマが助からなかったように。
 これもその一つ。誰だってそんな風に死んでしまうのは、誰にも起こりうる。
 特に、スネークや雷電が身を置く環境においては、そうなることが当たり前だ。
 時には、見せしめで惨たらしく死ぬ。雷電も、そのことは覚悟はしていただろう。

(この短時間で、お前が殺られるのか?)

 通りがかったところに、偶然落ちてきたわけではないはず。
 これは言うなれば薪。相手は怒り、恐怖を煽るために焼べた『挑発』。
 効果は十分だ。雷電をこの短時間で殺せる相手、生半可な実力ではできない。
 同時に、戦友を此処までされて何も思わない方が無理と言うものである。
 無意識に、戦友の死に怒りを震わせるように、拳を握り締めている程に。
 しかし、此処で向かっても勝てる確率は、決して高いとは言えないだろう。
 スネークも弱いわけではない。が、雷電とて手傷を負わせてるであろう相手は、
 その上でまだ火種を撒いてる。手練れであることは、想像するに難くない。
 満足な武装をしていない今の状態では挑むべきではない。
 潜入の際、いつも行っていることだ。必要な戦いは避けろ。
 優しさを持つスネークだが、同時に現実的な思考も併せ持つ。

(今は生存を優先しろ。)

 故に、即座にその場から離れて走りだす。
 既に気づかれているのだから、隠れて行動する意味はない。
 一先ず距離を取って、放送に備えておきたかった。



 それから暫く走り続けて辿りついた場所は、ただの草原。
 遮蔽物のない場所で、身を隠せないのが辛いものの、言い換えれば逆も同じ。
 物陰すらまともにないので、狙撃されると言う可能性も極めて低く、あっても気づける。
 ……ステルス迷彩などがあれば話は別だが、それ以上は考えても仕方がないことだ。
 身を隠せる場所を優先したかったが、包装まで時間がない。危機逃すわけにはいかず、妥協する。
 相手が追ってこないのは気まぐれか、何らかの都合で追ってこれなかったのか。
 できれば追ってこないでほしいと思いつつ、放送を待つ。
 地図は頭に入れてあるため、開かず周囲を警戒する。
 特に、展望台の方は強く意識しながら。



(十三人……いや、最初の犠牲者も考えれば十四人か。)

 放送は特に滞ることも、スネークに障害もなく、何事もないまま終わった。
 死と隣り合わせの任務をするスネークにとって、決して多い数字ではない。
 だが、あくまで少なくない、と言うのはタンカーみたいに人数が多い場合の話。
 たった数十名の人数と言う少ない中での十三人。結構なペースで被害が出ている。
 思った以上に優勝を狙う参加者は多いらしく、敵の中には潜伏するタイプも出るはずだ。

『迷う者は路を問わず、溺るる者はあさせを問わずって聞いたことある?』

 いつだったか、メイ・リンから聞いた中国のことわざ。
 道に迷ってしまうのは道を尋ねないから、何処までが浅瀬か知ってれば溺れないから。
 要は、人の話を聞かなかった結果、悲劇を招くと言うこと中国のことわざの一つ。
 この六時間、イウヴァルトぐらいしか情報を得られず、情報不足と言うツケが回ってきた。
 接触の少なさから、他人に信用されるかどうかが、少し怪しくなる可能性も出てくる。
 この舞台では疑心暗鬼もある。獅子身中の虫の如く、潜む者だっていないと断言もできない。
 先のイウヴァルトのように、危険人物を友好的な人物と騙るものもいるのだから。
 ピカチュウから、消極的と言われたことと一緒に、そのことわざを思い出す。

(蔑ろにしたつもりはないがな。)

 リスクは承知の上。待ち続けたリスクに見合ってるかどうかは、これからだ。
 そして彼が待ち続けたもの。マナの言葉通りにいつの間にか、デイバックに入ってた名簿。
 イウヴァルトの言った通りの名簿のリストで、より主催者と関係があると認識を強める材料となる。
 そして同時に、

(やはりいたか。)

 いてほしくないと同時に、いることが助かる人物の、オタコンの名はある。
 冗談交じりに体内通信を図るも、当然ながら応答はない。期待なんて欠片もしてないが。
 少なくとも、放送では呼ばれてないことから、脱出の可能性はまだ十分にあるはずだ。
 一方で、先程挙げたオセロットにソリダスの名前も揃って載っているのは好ましくないが。

(俺に関係あるのは雷電を含めて四人……いや、五人か?)

16 ◆EPyDv9DKJs:2019/11/15(金) 01:45:11 ID:kyPFM99Q0
 約一名の名前に、どこか覚えがある。
 ───ソニック・ザ・ヘッジホッグ。
 覚えがあるだけで顔も姿も、性格も思い出せない。
 唯一覚えてるのは、どうも好きになれない印象のみ。
 名前だけで好きになれないと言うのも、よくわからない話だ。
 単純に、ヘッジホッグ(針鼠)と言う生物は、蛇(スネーク)と仲が悪い。
 そのことから、縁起が悪いとでも思っているのだろうかと鼻で笑う。
 ソリダス程まだ老いたつもりはないが、まさかど忘れか。
 これ程引っかかる存在なのに思い出せないのは気掛かりだが、
 一先ず彼については保留するとした。

(しかし……なんだこの名簿は。)

 参加者の名簿に目を通してみると、奇妙なものが多い。
 魔王、ヨルハ二号B型、Nと、コードネームのような名前も多数。
 別にコードネームなら問題はないのだが、そうなると別の疑問が出てきた。
 何故、雷電やオタコンはコードネームではなく、本名で表記されてるのか。
 全員が本名で参加させられてるならば、自分もソリッド・スネークではないはず。
 オタコンやジャックは本名で、自分はコードネームで名簿に記載されており、
 参加者の情報をしっかりリサーチしているようには思えない、曖昧な名簿。

(ひょっとして、奴らは俺達を完全に把握できていないのか?)

 名簿の曖昧さで混乱を招くなんて、遠回しなことはしないだろう。
 マナ達が望むのは殺し合い。たかが名簿で疑問なんて持たせるとは思えない。
 放送も、声だけでしか状況を判断できないとあっさり口を滑らせているのもある。
 視覚による手段はない、或いは大雑把なものでしか自分達の状況を把握してないのか。
 露骨さから罠とは思うものの、元々首輪で圧倒的優位にある以上、その線は極めて低い。
 或いは、マナとウルノーガ以外に、誰か主催者に関係者がいたとして、
 此方にゲームを破綻させるべく宛てたメッセージなのかもしれない。
 マナが口を滑らせたのは、ただの事故であり、
 口を滑らせなかった時に備えての保険としてのものか。

(一枚岩ではないと言う可能性も考えておくか。)

 ソリダスとオセロットの目的の違いを見たばかりでは、
 マナ達とて思想を一つにしているとは限らないだろう。
 一方で、これは何の変哲もない、ただのミスの可能性もある。
 マナがあっさりと参加者の動きを把握してないとのカミングアウト。
 その杜撰さから、伝わる人に伝わればいい程度に、雑に作っただけかもしれない。
 事実、自分の事をデイビッドと記載して、気づける者がいるのかと言われると別だ。

(どちらにせよ、オタコンを探すとしよう。)

 オタコンがいるなら、彼こそ最優先事項だ。
 少なくとも十三人が、この舞台に立ってから命を落とした。
 それだけ甘言に乗った参加者か、元からそういうのが趣味な奴もいると言うこと。
 彼は無力と言うほど弱くはないにしても、安全と言い切れる強さも持ち合わせはない。
 残った参加者の運命を握る可能性がある以上、探すのは脱出においては必須。

(向かいそうなところは、偽装タンカー……此処以外ないか。)

 新型メタルギア、RAYの情報の為に潜入した偽装タンカー。
 自分とオタコンで共通している場所があるなら、オタコンも向かうはずだ。
 相手にしたくない二人も其方に向かう可能性から、あえて避けるのかもしれないが、
 動かなかった故に情報不足である以上、他に行き先の当ては思いつかない。

(いや、その前に、温泉か?)

 忘れてはならないのが、先の出来事で背中には、雷電の返り血を大量に浴びている。
 このまま参加者と遭遇すれば、あらぬ疑いをかけられるのは、想像するに難くはない。
 ピカチュウやオタコンのように頭の回転がよければ、背中で返り血を浴びるのは不自然、
 なんてフォローで助けてくれるかもしれないが、全員が冷静に考えられるわけではない。
 何よりただの出血ではなく、臓器からの血も浴びている今の彼は、汚臭が酷い状態にある。
 一度洗い落とさなければ、誰かと接触は勿論、潜伏なんてとてもできたものではなかった。
 偽装タンカーと温泉は反対方向だが、近くの水辺で落とすにしても、
 ヴァンプのように水辺から襲撃をかけてくる参加者もありうるはず。
 どれほどのロスがあるか、その間にオタコンが無事かどうかのリスクはあるが、
 彼も修羅場をくぐって、戦闘を避けるべき場面も弁えているだろう。
 楽観視するつもりはないが、自分の周りを疎かにするわけにもいかない。
 幸い、偶然にもイウヴァルトと遭遇したこともあって、北上したお陰で温泉は近い。

(行くか。)

 このまま行けばそう時間は取られない。
 運よくか運悪くか北上したのは、僅かながらのアドバンテージ。

17 ◆EPyDv9DKJs:2019/11/15(金) 01:45:46 ID:kyPFM99Q0
 再び走り出して、目的地へと向かう。



「!」

 向かう瞬間に、こちらにやってくる気配。
 気配の先は───先程いた展望台方角。





「───ファイガ。」

 振り返れば、同時に片翼の天使の洗礼が、スネークを襲う。





 時は少しさかのぼり、展望台で遠くを眺めるセフィロス。
 下の相手は逃げたことで、彼は暇を持て余していた。
 放送に関しても、セフィロスは大して興味はない。
 クラウドがこの程度で倒れるとは思ってなければ、
 他の参加者が呼ばれても、彼にとって大した意味はない。
 例外があるとするなら、伝言役の名前と思しきカエルの名前か。
 名前を聞いてないので確実ではないが、恐らく彼のことだろう。
 あの後、誰かに伝えていれば問題はないのだが、彼が懸念するのは其方ではない。
 ───禁止エリア。試しに地図と照らし合わせてみれば、此処はC-5。
 現在いる場所が指定されており、その上マナはこの場所を遅れて発言している。
 これはつまり、予定していたエリアとは、急遽変えて選んできたということ。
 他の二つが、殆ど人が行きそうにない場所を狙ってるので、意図的なものだ。
 要するに、これは『動いてくれなくては困る』と言う、向こう側のメッセージ。
 このまま別の場所へ待機したところで、禁止エリアによる移動を狙ってくるはず。
 期待している、とでも言いたいのだろうか。昔のことを思い出し、少しだけ笑う。
 自分を動かすために追いやってると扱いはあれだが、ソルジャーの時代を思い出す。
 カリスマと森羅カンパニーと言うバックも合わせ誰もかれもが英雄ともてはやしたあの頃を。

(混沌が望みか。)

 意図は分かったが、知ったことではない。
 退屈を満たしてくれるなら話は別だろうが、
 先の結果を見るに、余り期待はしていなかった。
 此処も五時間の猶予はあれど、時間が迫る場所で水を差されたくもない。
 仕方なく目的地を変える前に、『A-6』と書いた紙を、
 近くに転がっていた石に挟んで、テーブルに置いておく。
 一応、時間の猶予はある。此方に来る可能性も見込んでの行動だ。

 場所を変えることを決めたセフィロスは、先程の相手を追いかける。
 伝言役がいなくなった可能性もある以上、新しいのが必要だ。
 言ってしまえば、スネークとの接触はそれだけに過ぎなかったが、
 少なくとも先ほどの相手の叫び声は、悲鳴ではなく動揺。
 投げ入れた死体との知り合いだったのだと言う事は伺える。
 多少は楽しめた相手だ。さっきは逃げたことからあえて見逃したが、
 遠くの視界に見えた瞬間に、期待を込めて軽くファイガを放つ。
 伝言役として接触しようとしたのに殺す気満々の攻撃ではあるものの、
 彼からすれば、大丈夫だと言う確信はあった。
 この短時間でかなりの距離を稼いでいるので、
 それなりに鍛えた存在であると分かっているのだから。





 そして時は戻り───

「!」

 自分が熱気と輝きの中心地にいることに気づくと、
 冷静にその中心地から、脱兎のごとくスネークは走る。
 草を、土をも焼き尽くしながら四方へ散る爆炎。

「ウオオオオオォォ───ッ!」

 遮蔽物は一切ないのが逆に仇となり、完全に防ぐことができない。
 強烈な熱風がスネークを襲い、軽く吹き飛び、何度かバウンドした後に草原を転がる。
 ポカブのひのこの比ではない。あんなもの直撃すれば、即座にこの世からおさらばだ。
 寧ろ多少の打撲と全身の軽度の火傷で済んでいることの方が、十分奇跡かもしれない。
 転がりながらも、そこは伝説の英雄。無駄に時間を使わず起き上がって、相手を見やる。
 奇しくも、雷電が仕留められた丘陵をバックに、セフィロスが立つ。
 その距離、僅か五メートル。

(雷電を殺れるだけの実力は、あるようだな。)

 相手の実力を冷静に分析する。
 雷電と戦って、あの程度の軽傷。
 推測は正しく、相当な実力者であるのが伺える。
 更に今の攻撃。爆弾を用いたわけではなさそうだ。
 魔法と言ったものをまだ目の当たりにしてないのもあってか、
 相手の攻撃の仕組みが理解できず、警戒心をより強めていく。
 原理不明の攻撃、なおさら今は戦うべき相手ではない。
 一方で、逃げ切れる保証もまた、どこにもない。
 音爆弾も、転がりながらさりげに一つは取り出しておいた。
 それでも心もとない。相手は武装していて、こっちは満足に戦えない状況。
 しかも臭いと言うデメリットつき。逃げても簡単には逃げられないだろう。
 どれほど追い込まれても、その場で対処法を考慮するのはお手の物。
 スネークは諦めはしなかったが、

18 ◆EPyDv9DKJs:2019/11/15(金) 01:46:17 ID:kyPFM99Q0
「クラウド、と言う金髪の男に会ったか?」

 突然、向こうから尋ねられる。
 まさか雷電を殺した相手から、
 人について尋ねられるとは思わなかった。

「……いや、知らないな。」

 思うところは当然あるのだが、
 相手の情報を知る数少ないチャンス。
 全く知らない以上、嘘を言う理由もなく素直に答える。
 分かるのは、呼ばれた名前ではないことぐらいか。
 音爆弾を持った左手を背中にやりながら、
 戦闘に入る際の逃亡手段を常に手にしておく。

「A-6に私が、セフィロスがいる。
 クラウドにそう伝えてもらおうか。」

「伝言役か。俺は殺さないのか?
 さっきは随分派手な挨拶だったが。」

 雷電をあそこまで惨たらしく殺せるのだ。
 今更、この殺し合いで相手も躊躇う理由はないだろう。
 別に殺されたいというわけでもないのだが、少し尋ねてみる。

「強い光だが、まだ足りない。」

「……?」

 無駄のない動きですぐに復帰した冷静な動き。
 訓練された兵士とも言うべき、立ち居振る舞い。
 雷電と同じく楽しめる部類だろうが、一つ足りない。
 先の三人は揃って自分を敵と認識して戦ったが、今回は別。
 敵と認識しながら戦おうとしない……所謂、戦意がなかった。
 ファイガと言う、文字通り焚きつけるものを用意してもなお見受けられない。
 楽しめそうなのだが、楽しませてくれそうにない、と言うのが彼の見解だ。

「何が言いたいのか分からないが、
 クラウド・ストライフだな、分かった。」

 そんなセフィロスの考えを露知らず、スネークは彼の頼みを快諾する。
 今回得られた情報はありがたい。探さずに待ち構えるということは、
 相手は必要以上に動く、と言うわけではないことになる。
 オタコンと出くわさない可能性は高くなるのはとても重要だ。
 それに、会いたがってるのに待ちを選んでいることから、
 仲間ではなく、決着をつけなければならない相手かもしれない。
 敵対する者がいるなら、探すことに越したことはない。

「クラウドの行き先に、心当たりはあるのか?」

「カームの街。確実とは言わないが、
 奴も私がいることを知れば、向かう可能性はある。」

 名簿があるなら、自分の存在もすぐに気づく。
 自分がいること知れば、探すのは間違いない。
 あれだけ関わったのだから、こちらの考えも読めている筈。
 女神の城に場所を変えるのは、自分を連想できる場所として、
 自分を多少連想できる研究所が近くにあるからのも考慮していた。
 西のカームの街にはスネークを向かわせて、自分は北上していく。
 どちらかにクラウドが当たる可能性は、今までよりはあるはずだ。
 確率を少しでも上げておかねば、また禁止エリアの指定で面倒になる。

(タンカー近くか……ついでに確認はできるな。)

 タンカーのあるエリアから、そう遠くない位置にカームの街はある。
 温泉で血を流し、タンカーへ向かって(いれば)オタコンを回収。
 のちにカームの街へ向かう、一先ず暫くの方針はこれになるだろう。

「用はそれだけだ。後は好きにするといい。」

「ああ、そうさせてもらう。」

 警戒気味に距離を取っていき、スネークは走り出す。
 警戒してはいるものの、セフィロスが仕掛ける気はない。
 驚くほど何事もないまま、温泉へと向かって進む。

(雷電。悪いが、今の俺では勝てそうにない。一時撤退だ。)

 相手がろくに動こうとしないのであれば、存分に利用させてもらう。
 戦友には申し訳ないが、今だけはあの男の言うことに従うことにする。
 従う、とは言うがこれは紛れもなく自分の意志だ。
 あいつの遣いに、道具に成り下がったわけではない。
 勝てる見込みのある状況に持ち込む。それまでの辛抱だ。



「アレは戻ってくるだろう。今よりも強い光になって。」

 去り際のスネークの表情を見たセフィロスは、笑みを浮かべる。
 あの男への怒りと言う炎に、焼べることには成功したはずだ。
 次に会ったときには、戦うときが来るだろう。
 退屈しのぎ程度か、クラウドに匹敵するのか。
 少しだけ今後に期待しながら、セフイロスも目的地へと向かった。



 一つだけ、彼が気づいてないことがある。
 いや、気づいたところでどうでもいいと思うだろう。
 自分の手で殺めたエアリスが生きている、と言うことについては。

19 ◆EPyDv9DKJs:2019/11/15(金) 01:46:53 ID:kyPFM99Q0

【C―5/展望台より北の草原/一日目 黎明】

【ソリッド・スネーク@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:手に軽い火傷 全身に軽い火傷と打撲、背中から全身にジャック返り血、返り血による汚臭
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、音爆弾@MONSTER HUNTER X(2個)、不明支給品(0〜1個、あっても武器ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:マナやウルノーガに従ってやるつもりはない。
1.温泉、タンカーの順番で向かってオタコンの捜索。
2.カイムと狩人の男。オセロット、ソリダスに警戒。
3.クラウドに会って伝言を伝えるため、可能性のあるカームの街に寄る。
4.イウヴァルト、セフィロスに要警戒。
5.装備が整い次第、セフィロスを倒すか?
6.ソニックと言う名前に既視感、および不快感。だがこの際言ってられないか?

※参戦時期は少なくとも、オセロットがソリダスも騙したことを明かした後以降です

【セフィロス@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:右腕負傷(小)、毒
[装備]:バスターソード@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、武器の類ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:クラウドと決着をつける。
1.女神の城でクラウドを待つ。
2.因果かな、クラウド。
3.スネーク(名前は知らない)との再会に少し期待

※本編終了後からの参戦です。
※心無い天使、スーパーノヴァは使用できません。
※メテオの威力に大幅な制限が掛けられています。
※ルール説明の際にクラウドの姿を見ています。
※参加者名簿に目を通していません。

※C-5展望台より北の草原の周辺が焼け焦げています。
 遠くから煙とか見えるかもしれません。

 展望台真下にジャックの死体があります
 臓器が露出しているため異臭で気づきやすいです

 展望台に石に挟まれた『A-6』と書かれた紙が、テーブルの上にあります

20 ◆EPyDv9DKJs:2019/11/15(金) 01:47:12 ID:kyPFM99Q0
以上で『両雄倶には立たず』の投下を終了します

21 ◆vV5.jnbCYw:2019/11/15(金) 18:47:02 ID:bIb4p7UE0
初投下乙です!!
新たに登場した名簿をフルに使っているのがイイですね!!
スネーク、なかなか良い判断力をお持ちでいらっしゃる。
しかしセフィロスの向かう方向にはセフィロス同様最強マーダーの一人と言われるG生物がいるけどどうなるやら……。

22 ◆GyLbXZsSPw:2019/11/15(金) 20:37:46 ID:T1EKCUcM0
大変申し訳ありませんが予約を破棄します

23 ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:23:18 ID:JuENfmV20
投下します。

24そでをぬらして ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:24:49 ID:JuENfmV20
5:50【C-4 海中】


海中に身を沈めていたミファーは、周りの気配を伺っていた。
先程の戦いは武器を犠牲にして逃げられたが、武器を失ってしまったのは極めて失態だ。
確かに武器が無くても、海に引きずり込めば溺死させることが可能だろう。
腕のヒレで首を斬り裂くことも出来る。


だが、それだけで全員を殺せるほど、この殺し合いは簡単ではないことは分かっている。
どうにかして、武器を調達したい。
欲を言えば一番使い慣れている槍がベストだが、この際剣や斧でも構わない。


そう思いながら海中を巡回していると、向こうから聞いたことのない音が聞こえてきた。
音の方に泳いでみると原因はすぐに分かった。

船がすごい速さで移動していた。


速さこそは全速力のミファーと同じくらいだが、あのような技術があることに驚いた。
数人がかりでコログのうちわを振り続けたイカダでさえ、あの速さには到底及ばない。
ガーディアンの発明に尽力し、飛行型の機械を発明したハイラル王家でさえ、船型のガーディアンは作れなかった。
水に触れるとガーディアンはどうしてもショートしてしまうからだ。


ジェットマックスという、未知の存在を見たミファーは、さらに深く潜り、状況を伺い続ける。
あんな兵器がリンクに襲い掛かれば、どうなるか分からない。
だが、操縦者はどういう存在かは確定していない。

ガーディアンのように、一度動き始めれば壊れるまで活動し続けるわけでもないかもしれない。


どうにかして、船の上に敵がいれば、殺さないといけない。


ミファーは海面スレスレと水深3,4m付近の浮き沈みを繰り返し、状況を確認する。



武器を持っているかどうかは分からないが、どうにかしてチャンスが巡ってこないか伺っていた。

25そでをぬらして ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:25:12 ID:JuENfmV20


5:53【C-4 海上】


所変わって水上。錦山は突然マカロフの引き金を引いた。
「え?錦山さん?」


陸地からの狙撃を警戒していなかったわけではないが、錦山の突発的な行動と破裂音に千枝は驚く。

「気のせいか……。」
錦山は水中に敵がいるわけがないと思って、考えを改める。
だが、どこからか殺意が自分達を付き纏っていることは理解できた。


錦山はヤクザとして生きる上で、幾度となくこの殺意に対する感覚に救われてきた。
ヤクザの世界で成り上がるには、ケンカの強さや金儲けの能力以上に重要なことだということも分かっていた。
だが、それにしてもこの感覚が、海中からやってくるのはおかしい。


誰かが水中に潜って、様子を伺っているのだとしても、ジェットマックスの速さに付いていけるわけがない。
仮にそれほどの泳ぎの達人だとしても、酸素ボンベもなしに海中に居続けるなど不可能だ。


「錦山さん……。何か来るよ。」
「は!?」
ぶっきらぼうな態度で返すが、自分の感覚と似たような感覚を覚えるらしき千枝に共感を覚える。
同時に、警戒意識も。


里中千枝も、格闘を好む者としての、闘気の察知能力を持っている。
ミファーからの殺意を、共通して受け取ったのだ。


「ペルソナ!!」
千枝はトモエを召喚し、未知の敵に備える。


「トモエ、水中を凍らせて。ブフーラ!!」
殺意の正体が何なのかは分からないままだが、一つ分かったことがあった。
水中では間違いなく勝てないということ。


ペルソナを呼び出せたテレビの中は、海どころか、池や川さえなかった世界。
海の中でもペルソナが戦えるのかどうかは分からないが、水中での戦闘経験がない以上、間違いなく勝てない。


トモエから放たれる吹雪が、海の一部を凍らせていく。
ジェットマックスの進行に合わせて、海の上に氷の道が作られていった。

26そでをぬらして ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:25:57 ID:JuENfmV20
5:56【C-4 海中】


(今の音は?)
地上からの聞きなれない破裂音を聞いてミファーも驚く。
丁度自分がいた辺りの場所から、金属の弾が沈んできた。
何か爆発のような音だったが、何なのだろうか。


その後妙に寒気がすると思えば、海面部分が謎の力により凍り付いている。
神獣ルッタから放出される氷とは異なるようだ。
相手が出してくるのは氷弾ではなく、フリーズロッドから出るような吹雪だ。



問題は相手が知らない武器を使うこと以上に、自分の殺意を感じ取っていたことだ。
一時は撤退することも考えたが、すぐに考えを取り消す。


未知の技術を秘めた乗り物を操り、未知の攻撃方法を持つあの二人と、リンクが戦うことになってしまったら。
今自分が相手に殺される恐怖より、リンクが死ぬ恐怖の方が勝った。


一度船からは離れるが、水深4,5mまで潜り、船底を観察しながら泳ぐ。


1分、2分、3分。
そのまま走り続けるジェットマックスと、水底からその様子を伺うミファーの、膠着した状態が続く。


海上では、なおも二人は殺意に対し警戒をしていた。
前後左右、どこから何が来てもいいように。
だが、殺意に対する感覚は集中している時にこそ、発揮されるものだ。
一たびそれ以外の五感が集中すると、役に立たなくなる。


6:00【C-4】

『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる? 』


錦山と千枝は、殺意に向けていた集中力の方向を、放送に変える。
その刹那、チャンスを確信したミファーは、海深くから一気に加速する。

参加者全員のザックに、名簿が支給される。
だが、ミファーはそんなものはどうでもよかった。
なぜなら唯一にして一番大事な存在は、この戦いに参加していると既に知っているから。
彼女が知りたかったのは、死者の名前。
相手が動揺している間に水中から奇襲を仕掛ければ、赤子の手を捻るかのように殺せると推測し、その時を待つ。


そして、呼ばれる、死者の名。
2番目に、千枝にとって大事な人物の名前が、鼓膜に飛び込んだ。
『天城雪子』


(え!?)
千枝は大事な人の死に動揺こそすれど、激しい怒りや悲しみは表さなかった。
正確に言えば、そういった感情を表す余裕が無かったのだが。
ただ凍り付いたように放心状態になり、ジェットマックスの動きに身を任せていた。

だからこの時は、状況が一気に変わりはしなかった。

27そでをぬらして ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:26:18 ID:JuENfmV20
だが、6番目に呼ばれた名前が響いた時、状況は一変した。

『桐生一馬』


(何?)
それまで放送を聞きつつも、ジェットマックスのハンドルに意識を向けていた錦山が、その時だけ放送に集中を傾けてしまった。
『最初の時にわたしに逆らった男ね。死んで清々したわ!』

(違う。桐生の奴は、そんな簡単に片づけられるようなタマじゃねえ……桐生の奴は……。)
「前!!前!!」
若干意識を回復させた千枝が、震えた声で叫ぶ。
コントロールを失った高速で走る続ける船は、今にも岩壁にぶつかりそうになっていた。




放送の内容は、海中にも響く。
その中には、かつてミファーと同じ世界の英傑の名も含まれていた。

(ウルボザ……。)

別に驚きや悲しみに囚われたわけではない。
最初の会場でリンクを見たから、他の英傑も参加させられていると思ったし、自らの手で殺す覚悟もしていたから。


ただ、彼女ほどの実力者が死ぬとなると、自分も死ぬかもしれない。
その覚悟だけを、心に置いておく。
船の動きが急に不安定になった。


恐らく操縦者の知り合いが呼ばれたのだろう。
襲撃を仕掛けるなら、今だ。



6:01【C-4 小島付近】


「畜生!!」
錦山は怒鳴りながらブレーキを踏む。ハンドルを思いっきり捻り、急旋回させる。
咄嗟のブレーキのおかげで、間一髪で衝突の危機は逃れた。



だが、ジェットマックスを停めたということは、追跡者に追いつかれることを許してしまうということだ。


海面から飛び出したミファーが、錦山を捕まえ、そのまま海中に引きずり込んだ。


「にしきやまさ……。」
千枝が台詞を全部言い切る前に、錦山は海の中、ミファーのメインステージに飲み込まれる。

28そでをぬらして ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:26:37 ID:JuENfmV20

(離しやがれ……!!バケモノ………!!)
ゾーラ族の人間離れした見た目と、予想外の方向からの奇襲に戸惑うも、必死で抵抗する。
めったやたらと全身を動かすが、水に生きるゾーラ族相手に到底及ばない。
どうにかして敵を肘打ちするなり蹴飛ばすなりしようともがく錦山だが、全く当てることが出来ない。
逆に両足を掴まれ、更に水底へ引き込まれそうになる。


(……どうすればいい?)
そして、水上に一人残された千枝は、一人途方に暮れていた。
ペルソナを使えば、錦山まで巻き込んでしまう。
泳いであの小島の上に逃げられるかもしれないが、その間に自分も殺されるかもしれない。


(なあ、桐生、てめえも、こんな形で死んだのか?)
戦いの中に半魚人がいたなんて予想もしていなかった。
確かに研究所で、鳥人間に遭遇したが、それでも半魚人なんて錦山にとってはおとぎ話だけの存在だった。


このような予想外の力や、予想外の生物がいれば、桐生が死ぬのも納得が出来る。
だからといって、死にたくはない。
それでも沈みゆく中で、両足をばたつかせて抵抗しながら、地上へと手を伸ばした。

(同じ世界で死ぬなんて、冗談じゃねえ!!)

密着状態になったミファーに対して、銃を乱射する。
しかし、水の中で放てるとは言え、銃の威力は著しく落ちる。


ミファーは素早く弾丸を躱し、銃を持っている腕に狙いを定める。


(痛え……)
ミファーのヒレでスーツごと腕を斬られる。
命に関わるほど深く斬られてはないが、銃を手放してしまった。
錦山が銃を手放したことを確認すると、今度はミファーは深くに潜り、錦山を引きずり込もうとする。

だが、その前に上から千枝が声をかける。
「掴まって!!」


その後も、禁止エリアが呼ばれていく。
だが、彼らにとって、放送どころではなかった。


千枝は片手を水に付ける。
本当はどうすればいいのか分からない。
だが、鳴上君や、あの子ならきっとこうする。
その気持ちだけを糧に、手を伸ばした。


伸ばした手は、白いスーツに覆われた手を力強く掴んだ。
千枝は錦山を力いっぱい引き上げる。


「大丈夫?」
「一度助けたくらいで一丁前に心配してんじゃねえよ………。」

錦山は悪態をつきながらも、船に乗り込む。

29そでをぬらして ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:26:59 ID:JuENfmV20
6:02【C-4 小島付近】


錦山は船に戻り、再度ジェットマックスのエンジンを掛けようとする。
しかし、一度は海中まで退避したミファーの襲撃が再び来た。


回転しながら海から飛び出るという、ゾーラ族にしかできない動きを見せる。
今度は相手をいきなり海に突き落とす方法ではない。


「海水!?」
「ちっ、きたねえマネしやがって!!」

身体と共に昇ってきた海水を、二人の顔にめがけて放った。
塩水を使った目つぶし。
傍から見ても小技としか言えないが、生死をかけた戦いではその小技が役に立ったりする。


海水を飛ばしながら飛んだミファーは、そのままイルカのように二人を飛び越し、
背後に回り込む。

急降下する最中に、千枝を後ろから掴んで。


「え!?」
間の抜けたような声と共に、今度は千枝が海中に飲み込まれる。



(チッ、何やってんだ……!!)
先程と立場が変わった状態で、今度は錦山が船上から腕を伸ばす。
知り合ったばかりのガキ一人の命などどうでもいいが、借りは返さないと自分の面目が立たない。


すぐに錦山の伸ばした手は、千枝を掴んだ。
千枝も、それに合わせてその手を強く握る。
互いの手が、さらに強く繋ぎ止められた。




6:03【C-4 小島付近】



ミファーは千枝から奪った鬼炎のドスを、二人の手が繋がれた場所に突き刺した。


「ぐっ!?」
「!!」

二人は痛みのあまり、手を離してしまう。
再び千枝は、海に沈められることになった。


ミファーはもう一度深く潜り、片方の掌を抑えている千枝にトドメを刺しに行く。
背後へ回り込み、そのまま背中から胸まで、串刺しにしようとする。


死が目の前に迫り来る。
ゼルダとキリキザンと戦った時でさえ、ここまで死を感じなかった。
水の中で、里中千枝は心の中で叫び続けた。




死にたくない。

その6文字をひたすら叫び続けた。

30そでをぬらして ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:27:25 ID:JuENfmV20


(何!?これ!!?)




ミファーの眼には、信じられないものが映る。
もう風前の灯火のと思われた少女の背後から、巨大な戦士が現れた。
(まさか、さっきの氷の正体は……!?)

精神体であるペルソナは、人とは異なり水中で動きを制限されない。
千枝の心と同じように、トモエは海中で暴れ続ける。


6:04【C-4 水上】

「おい!!どうなってんだ!?」
刺された手を抑えていると、海中から巨大な波が起こった。


(まさか……あの森の惨状の原因は……!!)

錦山は思い出す。
夜、里中千枝が倒れていた森の荒れ様を。
そして、自分を取り巻く海が、似たように荒れ狂う。


錦山彰は確信した。
あの少女は、命の危険が迫った時、未知の力を発揮することを。
その力は、桐生や嶋野といった力で名を馳せたヤクザにも劣らない。


「ふざけんな……ふざけんなよ!!」
斬られて刺されて、痛む手を無視してジェットマックスのエンジンを全開にする。


波が、錦山を船ごと呑み込もうとする。
「うおおおおおおおお!!」
しかし、彼もまた神室町で、成り上がろうとしたヤクザの一人。
命に対する執着だけは、負けはしていない。


ゾーラ族のヒレで斬られた左腕と、鬼炎のドスで刺された右手に、海水が染みこみ、悲鳴を上げる。
そんなことも無視して、ハンドルに全力で握りしめる。

31そでをぬらして ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:27:45 ID:JuENfmV20
6:08【C-4 公園】


「ここは……!?」
気が付くと私は、陸地で目を覚ましていた。
海に落とされた後、どうなっていたか記憶がない。


あの半魚人に死の一歩手前まで追い詰められて。
それからペルソナを出して、逃げた……ような気がする。


何があったのか具体的に思い出せないのに、それがとても恐ろしいことだったとは覚えている。
普段恐ろしい思いをしたら敵からは撤退し、戦力を立て直すのだが、海の中だからそれも出来なくて。


海で襲ってきた半魚人はどうなっただろう。
もう、どうでもいいけど。

錦山さんの姿はなかった。
きっと、私を見捨てて逃げたのだろう。
それか、あの半魚人のオトリにするつもりだったのか。


今まで名簿を読むチャンスがなかったから、転送されたらしい名簿を見てみる。


いた。鳴上くん。
花村くんや、なぜか逮捕された1年生の子もいた。
そして、放送に呼ばれたあの子の名前もあった。


聞き間違えじゃなかったけど、完二くんも雪子も、この戦いに呼ばれて死んだという現実を改めて知らされる。


でも、鳴上君は生きている。
こんなおぞましい戦いに参加させられていたことを喜んではいけないが、この世界に確かにいる。
彼の名は呼ばれていなかった。
聞き逃しただけかもしれないが、そうじゃないことを信じたい。


彼に会えば、今のどうにもならない自分を、どうにか出来るかもしれない。
他人の想い人に依存し続けるのは間違っているのだろうか。


もうそんなことはどうでもいい。
自分を受け入れてくれる人間がいないと、遅かれ早かれ自分は狂ってしまうだろう。
希望が欲しい。
「自分らしさ」を見つけたい。

かつてシャドウに取り込まれそうになった時のように、鳴上君なら助けてくれるはずだから。

32そでをぬらして ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:28:04 ID:JuENfmV20

服はぐしょ濡れで、気持ち悪い。
おまけに手を刺された痛みも、全然和らがない。
でも立ち止まっている暇はない。一刻も早く鳴上君に再会しないと。
きっと八十神高校で待っている。早く行かなければ。


おぼつかない足取りで前へ進む。
視界は涙でぼやけてきた。

最初は濡れた髪の毛から、海水がしたたり落ちるのかと思ったが、それだけではなかった。


自分の弱さ、この戦いの恐怖、手の痛み、自分の心の要になっていた人の死亡、見捨てられたこと、二度の死の接近、一人になった孤独。
何が一番の原因か分からないけど、止め処なく涙は溢れてきた。


それでも、歩き続ける。
ひとりで。
ひとりきりで。



【C-4 公園 /一日目 朝】

【里中千枝@ペルソナ4】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)びしょ濡れ 右掌に刺し傷。 精神的衰弱(鳴上悠の存在により辛うじて保っている状態)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、守りの護符@MONSTER HUNTER X、ランダム支給品(0〜1個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺さないと殺される、けど今の私じゃ、殺す覚悟もない……

1.八十神高校へ向かい、鳴上君と再会する。
2.それからどうすればいいのか決める。
3. “自分らしさ”はどこにあるのか、探してみる
4.自分の存在意義を見つけるまでは、死にたくない
5.願いの内容はまだ決めていない

※錦山彰、ミファーは死んだと思っています。

33そでをぬらして ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:28:27 ID:JuENfmV20
6:09【C-5 草原】




(何とか……逃げ切ったみてえだな。)

疲れた。
煙草はぐしょ濡れで、火が付かない。
この体の重さは水がたっぷりしみ込んだスーツのせいじゃないと思う。
どこでもいいから寝っ転がりたいけど、そんなことをしたらすぐにでも殺されるだろう。
閃光弾しかない今、どうにかして武器の調達だけでもしておきたい。


そういった気持ち以上に、腕の痛みが意識をはっきりとさせた。
白いスーツの袖の染まり具合から、思ったより傷は深いことが分かった。
治療しようにも、水ぐらいしかないが、とりあえず右手と左腕の傷口にかける。


塩水を洗い流したからか、少しだけ痛みは治まった。
しかし、この世界で傷口が悪化したら面倒なことになりそうだ。

地図を見ると、近くに病院がある。
そう都合よく薬が置いてあるとは思えないが、包帯くらいはあるはずだ。
びしょ濡れでおまけに袖に血が付いたスーツもいい加減脱ぎ捨てたい。


体調は万全とは程遠いが、やらなきゃいけないことは沢山ある。



(桐生のヤツなら、あの時どうしたんだろうな……。)
あの時手を離したガキのことを思い出す。
ガキと半魚人はどうなっただろう。


流石に無事じゃいないと思うが、どっちも俺の全く知らねえチカラを持った奴等だし、死んだかどうかは分からねえ。


(どうしても美月の娘をよこさねえなら……お前でも容赦はしない)
(好きにしろ………だが遥は渡さねぇ。お前の道具なんか……させやしねぇ)

そうだろうな。
桐生、オマエなら助けを求めていた少女を、掌を突き刺されたくらいで離したりしねえんだろ。


俺は桐生と比べられるのを嫌がっていたが、これじゃ桐生と比較できるのかが怪しいくらいだ。


重い足取りで歩きだす。
桐生は死に、俺は生きている。
だけどそれがイイことのようには全く思えねえ。
むしろ、何かの罪で無理矢理生かされているような気がしてならなかった。

34そでをぬらして ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:28:55 ID:JuENfmV20
【C-5草原 /一日目朝】




【錦山彰@龍が如く 極】
[状態]:疲労 びしょ濡れ 左腕に切り傷 右掌に刺し傷 憂鬱
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 閃光玉×2@MONSTER HUNTER X
[思考・状況]
基本行動方針:人を殺してでも生き残り、元の場所に帰る。
1.病院へ向かい、傷の治療と新しい服、武器の調達を行う。


※C-5 海沿いにセブンスター@現実が捨てられています。
※C-5 海にジェットマックス@Grand Theft Auto5が停められています。



6:10【C-4 海中】


傷が痛む。
あの緑の服の少女の呼び出したらしき戦士の攻撃は、予想以上に強かった。
もう少し傷が深ければ、死んでいた。


それに自分は、放送でショックを受けた相手なら絶対に殺せるという慢心があった。
長命の種族ゆえに、大切な人の急な死に弱いゾーラ族だからこそ、思い込んでいたことだ。
たとえ、それが誰だか分からなくても。


(回復が……効いてない?)
傷の治療を行おうとして、気づいたこと。
彼女の術、ミファーの祈りは、人のために使われる力だ。
自分の為に行っても、他人に施すほど回復は出来ない。

しかし、それを踏まえても治癒力が低い。


一度海深くに潜り、休憩する。
そこでようやく、支給された名簿を読む。
気付いてしまった。


私を含めた5人の英傑。
そして、この戦いにはゼルダがいたことを。


私は、リンクを生還させることで、ゼルダと協力して、ハイラルを復興させればいいと思っていた。
けれど、そのやり方だと、ゼルダも殺してしまう。
ハイラルを蘇らせる可能性を、自分が壊してしまうことになる。


でも、私はこの戦いに乗った。
このやり方だとハイラルの復活が臨めないからといって、ゲームから脱出するなんて、都合のいいことは出来ない。
リンクを生き返らせる。そして、ハイラルではない国を復活させる。
英傑として、ではなく一人のゾーラ族として、リンクを守る。




私は幸運に生かされている。
最初に二人組の男に襲撃した時も、武器を失いながらも致命傷を負わずに逃げられた。
そしてつい先ほども、相手の未知の力が暴走したのにも関わらず、逃げ切ったし、武器も手に入った。


だから、リンクに会えるまで、殺し続けないと。
ダルケルもリーバルも、ゼルダ姫さえも。


そのために私は生きて、そして死ぬのだから。



【C-4/海中/一日目 朝】

【ミファー@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:ダメージ(中) 体にいくつかの切り傷
[装備]: 鬼炎のドス@龍が如く 極み
[道具]:基本支給品、マカロフ(残弾3)@現実 ランダム支給品(確認済み、0〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:リンクを優勝させる
1.海を移動し、不意打ちで参加者を殺して回る。


※百年前、厄災ガノンが復活した直後からの参戦です。
※治癒能力に制限が掛かっており普段よりも回復が遅いです。

35そでをぬらして ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:29:08 ID:JuENfmV20
投下終了です。

36 ◆2zEnKfaCDc:2019/11/18(月) 12:26:12 ID:oWA3ybq60
すみません、予約を破棄します。

37 ◆RTn9vPakQY:2019/11/19(火) 15:56:06 ID:5baToa0Q0
キャラ拘束申し訳ありません、予約を破棄します。

38 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:17:03 ID:uxW8jR4A0
ゲリラ投下します。

39たたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:18:34 ID:uxW8jR4A0
ふざけるな。
何故お前は、いつもいつも私の遥か前を行く。

昔からそうだった。
稽古で打ち負かされた俺に対して差し伸べたその手が、俺には遠く、遠く感じられた。
自分より前を進んでいくお前とは対照的に、俺は次第に闇に魅入られていった。
お前の隣に居られないのが怖くて。お前の後ろを歩くのが怖くて。俺はお前の対極に居ることを望んだ。

ここでもお前は、俺の隣に立つのを拒むのか?俺はいつまで、お前の背を追い続ければいい?



「……ホメロス。」

ふと、声が聞こえた気がした。

「ホメロス!」

同行者、花村陽介の一声で現実に引き戻されたホメロス。
殺し合いの世界ではあるまじき、放心状態に陥っていたようだ。

「すまない。考え事をしていた。」

「……13人も死んじまったんだよな。」

完二も含めると14人、か。
悔しげな表情で陽介は拳を握り締めていた。
陽介はホメロスの過去を全て聞いた。つまり放送で呼ばれた『グレイグ』の名がホメロスにとってどういう人物を意味しているのかを知っている。

確かにホメロスは一度ウルノーガの甘言に乗せられてグレイグを殺そうとしていたかもしれない。だが、生きてさえいれば関係なんていくらでも修復出来たはずだ。
土下座でも何でもしての謝罪でもいい。言葉で伝えられないことがあるのなら、メロスとセリヌンティウスよろしく殴り合ってでも友情を再確認すればいい。

かく言う俺だって関係をやり直したい相手がいる。
対等でありたいはずだったのに次第に見上げるだけの存在になっていった男、鳴上悠。俺にアイツを『相棒』と呼ぶ資格はあるのか?そんな疑問は次第に大きくなっていくばかりだった。

話は少し逸れたが、俺にはまだそのチャンスは残されている。
要は関係修復のプロセスを踏めるのはその相手が生きているからこそだということ。
やり直しの機会を永久に奪われた男にどう声をかければいい?
ホメロスという一度悪の道に堕ちた男にとって、グレイグとの関係の修復は元の道に戻ってくるために必要なプロセスだったはずなんだ。

40たたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:19:22 ID:uxW8jR4A0
どう言葉にしていいか分からず、声をかけかねている陽介。

「気遣いはいらん。俺たちは軍人だった。死別の覚悟くらい元より出来ていたさ。」

それに対し、澄ました顔でホメロスは話す。しかし陽介には分かった。彼の拳は、自分よりも強く握り締められ、それでもなお震えていることを。

「俺のことよりお前だ。知り合いの名は呼ばれていないだろうな?」

気が滅入っていては満足に闘えんだろう、とホメロスは一言付け加える。それはお前の方だろうが。そんな言葉を飲み込みつつ、陽介は答える。

「呼ばれたよ、ひとり。」

「……そうか。」

「俺はお前みたいに達観は出来ねえ。悔しいし、悲しいよ。」

天城雪子の名は最初の方に呼ばれた。それも、最初に呼ばれた『天海』の名を『天城』と空耳し、それが間違いであったとふと安心した瞬間に続け様に名を呼ばれた。

「だけどさ、俺以上に悔しがって、悲しがってる奴等がいるんだ。」

里中は天城と最も付き合いの長い親友だし、悠も最近天城越え──つまり天城と特別な関係になった。
天城の死を本当に弔うべきはアイツらだ。きっと、自分の分まで悔しがって、そして悲しんでくれる。

「だから俺は前を向く。アイツらがちゃんと下を向けるように。」

「そうか、それならいい。お前は大丈夫だ。」

この時、ホメロスには陽介が少し羨ましく思えた。
誰かの想いを背負うということ、それは闇の道に走った自分がずっと前に捨てたことだ。
旧友の死を悼む権利すら自分にはない。当然、自分の死を誰かに悼んでもらう権利すらも。

41たたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:20:00 ID:uxW8jR4A0





(そうか、アンタたちもここにいるんだな。)

クラウドは、エアリスの名前以外はどうでもいいと、そう思っていた。
何ならレッドXIIIやケット・シーなど、何人かの仲間が呼ばれていない事実には胸を撫で下ろしたほどだ。さすがにかつての仲間を殺すのに心が全く痛まないわけではない。

(どうやら俺は、思っていたよりもずっと色々なものをやり直さいといけないらしい。)

名簿に書いてあった、失った人の名前はエアリスだけでは無かった。
ザックス、そしてセフィロス。
清算しないといけない過去はひとつでは無かった。

神羅屋敷の地下室で、クラウドは全てを思い出した。ザックスが自分を救い出してくれてから、神羅兵に殺されるまでの経緯を。魔晄中毒で口もきけなかったため、自分を救ってくれたザックスに礼を言うことも出来なかった。

クラウドは知っている。
真に他人のために戦える人物がいるということを。
逃亡の邪魔にしかならなかったであろう、魔晄中毒に陥った自分を置いていかなかったザックス。そして先ほど自分が殺した少女、天城雪子もそんな人間だった。きっとこれから先、自分はそういった人間を何十人と殺していかなくてはならないのだろう。
もちろんザックスも例外ではない。この催しの参加者である以上は殺さなくてはならない。
ザックスとの別れをやり直すために、彼と出会って礼を言わなくてはならないのだが、その反面彼とは会いたくないと思う自分がいるのも確かだった。

そしてもうひとり、乗り越えないといけない過去の人物。

(──セフィロス。)

すべての始まりとなった人物が、この世界にいた。


『──わたし、あなたを探してる……』

その時、エアリスの言葉がクラウドの脳裏に蘇ってきた。
ザックスの人格ではない、本当の『クラウド』を、彼女には見せることなく別れることとなった。他でもない、セフィロスに殺されて。


『──あなたに逢いたい。』

あの願いを叶えるためにも。
俺は生きる。生きて、やり直す。

その決意と共に、グランドリオンに秘められたクラウドの心の闇が、よりいっそうどす黒く染まる。

この闘いに勝ってエアリスに逢えたとして、彼女は俺を受け入れてくれるだろうか。
これだけ心が闇に染まった俺を──

──否。そこはさして重要ではない。
肝心なのは、彼女との物語の続きを紡ぐこと。
例え拒絶に終わったとしても、途中で終わってしまった物語に幕を閉じられるのなら本望だ。

そのためにも、勝ち抜く。
セフィロスまでもが蘇っていると言うのなら、今度こそ奴からエアリスを護る。
それこそがエアリスとの物語を『やり直す』ということだから。


「──さあ、始めようか。」


その言葉を聞いて、たった今出会った相手──向かい合う2人の男はピクリと反応した。

42たたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:20:44 ID:uxW8jR4A0





金髪の男が告げた言葉は紛れもなく、開戦の合図だ。
おかしいだろ。戦いを苦としていないみたいな面しやがって。相手は人間なんだぞ?シャドウとは違うんだ。だってのに、何でそんな無表情で居られんだよ。

「どうすんだよ、ホメロス。」

陽介は尋ねる。
そうしないと、すぐにでも殺し合いが始まってしまいそうで不安だった。

「殺すに決まっているだろう。殺し合いの反乱分子に害しか及ぼさない相手を放っておくのか?」

そんな陽介に対するホメロスの返答は、陽介を安心させる回答からはかけ離れたものだった。

「……アンタは本当に、この殺し合いに乗ってんだな?」

次に陽介が話しかけたのは、他ならぬ対面相手のクラウド。

「ああ、既に2人殺した。」

だがクラウドの答えも、話し合いの余地はないことを示すには充分。その手に握る真っ黒に染まった聖剣が意味することを、ホメロスは理解していた。

「コイツに情けをかけるな、陽介。」

勇者の剣がウルノーガの手に渡った瞬間、その剣は黒く染まり魔王の剣へと化した。クラウドの持つグランドリオンから感じる黒いオーラも、使い手の心の現れであると分かっていた。
ホメロスは支給品の刀、『虹』を鞘から抜く。その所作ひとつでホメロスの周りの空気を七色の光が包み込む。その可憐な刀身は、本来は聖剣グランドリオンと共に闘う武器でありながらも、まるでその聖剣と対をなすかの如く美しく煌めいていた。

そんな中で陽介もまた、ミファーから奪った龍神丸を手にする。
誰もが業物を手にするその構図はまさに一触即発。いつ殺し合いが始まってもおかしくはないとその場の全員に知らしめる。事実として、ジリジリとホメロスとクラウドの距離は縮まっていく。

43たたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:21:30 ID:uxW8jR4A0
数瞬の沈黙の後、先に動いたのはホメロスだった。真っ直ぐクラウドに駆け込んで行き、虹で斬り掛かる。
その一太刀をクラウドは後方に下がりつつ弾く。

1対2。さらに手負いの状況でもある。クラウドから見れば明らかに部の悪い闘いだ。こんな小手調べの一撃で致命傷を受けるわけにはいかないため、慎重な立ち回りを意識するクラウド。その方針が読めたホメロスは攻めの比重を大きくする。相手が下がって攻撃を軽減するのなら、その分こちらが前に出ればいいだけだ。

前に出るホメロス。
後ろへ下がるクラウド。
戦場はゆっくりと移動していく。クラウドの立ち回り方のせいでお互いに致命傷を与えることも与えられることもなく拮抗する。

だがその拮抗は露よりも儚い。
ホメロスが呪文を使うだけでも、あるいは第三者が乱入するだけでも戦況は大きく動く。この拮抗が保たれているのは、この場における第三者、花村陽介が迂闊に動けないでいるからである。
ホメロスとクラウドが忙しなく動き続ける戦場に疾風魔法ガルダインを放つのは狙いが定まりにくく危険だ。さらにはこんなら小ぶりなナイフで迂闊に近寄るとより射程の長い斬撃の嵐に巻き込まれる懸念もある。

よって、ここでの陽介の行動はマハスクカジャによるサポートが精一杯であった。100%ホメロスの邪魔をしないスキルはそれしか無い。

だが消去法的に選ばれた行動であってもその機能は充分。
スキルによる補助で極限まで研ぎ澄まされたホメロスの攻撃の精度は、守りに徹するクラウドをじわじわと追い詰めていき、反撃を許さない。むしろ戦局の拮抗が続いているのは、クラウドの剣の実力の証明か。

ホメロスは魔法を織り交ぜればクラウドの守りを崩すことが出来る可能性はある。だがその詠唱時には多少の隙ができるためリスクも伴う。よってホメロスは武器のみを用いてクラウドと戦闘している。

クラウドはホメロスの攻撃を捌くのに相応の体力を要する反面、ホメロスは攻撃するだけでよい。攻める側と守る側、消耗の比重が大きいのは言うまでもなく守る側だ。戦局の拮抗が続けば続くほどホメロスは有利である。よって焦って守りを崩しにかかる必要は無いとホメロスは判断した。
それは元来軍師であるホメロスにとって、癖のようなものであった。軍師は必要に応じて前線に立つことはあるが、その場合においても絶対に死んではならない。軍師の死は隊の敗北を意味するからだ。よって攻める側に立つ場合でも最低限自分の安全は確保すべき。そんな従来の戦闘の癖は今でも抜けない。

つまり、戦局の拮抗はホメロスにとって望ましい状態であった。拮抗が続けば続くほど、体力においてアドバンテージを得られる。

だがひとつ、ホメロスの誤算があった。一方的に致命傷にならない程度のダメージを受け続ける意味はクラウドの側にもあるということ。

クラウドが受け身の戦闘を続けていたのはダメージを受けないためだけではない。渾身の一撃を叩き込むその隙を待つためでもあった。
結果として、ホメロスの軍師としてのスタンスは悪癖だったのである。

44たたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:22:06 ID:uxW8jR4A0


【LIMIT BREAK】


突如、下がりっぱなしであったクラウドが前進する。
同じく前進していたホメロスと正面から衝突する形──しかし必殺のリミット技によって太刀同士のぶつかり合いは一瞬で片がつく。グランドリオンから放たれたクライムハザードがホメロスの虹を弾き飛ばした。

「なっ……!」

なかなか崩しきれない堅固な守りと、攻めに転じた際の鋭い一撃。そして何より、闘いの中でも自分ではなくその遥か先を見ているようなその目。ホメロスの脳裏に一人の男の姿が重なった。
それと同時に、幾度となく味わった『敗北』の味をホメロスは思い出す。

好機と言わんばかりにそのまま 攻めに転じるクラウドと、虚をつかれ咄嗟に方針を守りにシフト出来ないホメロス。本来ならばここで決着はつくはずだった。


「──ペルソナッ!!」


しかしクラウドはホメロスへの追撃を断念することとなる。

先ほどまでは2人が追う・離れるの関係であったため狙いが定まらなかったが、両者が真っ向からぶつかり合うやり取りへと変わったことで場所の移動は無くなった。
よって、ここでスキルによるアシストしかしていなかった陽介が参戦した。
蛙を模した陽介のシャドウ、『ジライヤ』が横からクラウドに向かって突撃する。

陽介としても、相手が死にかねないような攻撃を行いたくはない。だがそこで動かないとホメロスが死ぬ。それはもはや、半ばやけくそとも言える攻撃だった。

しかしそれはクラウドにとって予測外の追撃。
予測の外とは、これまで説得が中心だった陽介が攻撃をしてくることではない。陽介の攻撃自体は予測の範疇。クラウドの予測を超えていたのは、陽介の攻撃の『速さ』である。
ホメロスを両断してからでも間に合うと考えていた回避を、ホメロスへの攻撃前に余儀なくされる。

45たたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:22:46 ID:uxW8jR4A0
同時に、クラウドは認めることとなる。
戦闘前に説得を試みていた陽介を、たったそれだけの理由で侮っていたことを。

不殺傷のスタンスを取っているからといって戦力が無いとは限らない、それは先ほど殺した少女、天城雪子との闘いで分かっていたはずだ。
敵の抹殺をエアリスの蘇生という目的を叶えるための手段としてしか見ていない。言い換えれば、クラウドの目は常に敵を倒した先にあった。それはそれだけの心の余裕を持てるクラウドの実力の裏打ちではあったが、同時に慢心という大きな弱みでもあった。

だが、今度こそ認めねばなるまい。
少年を守るために闘い抜いた者も。
自分で闘う力が無く、知力を駆使して支給モンスターを操るしかなかった者も。
他者の死の中に自らの生きる意味を見出した者も。
自らの命を投げ出してまで誰かを守ると決めた者も。
この世界にいる者は皆、闘う者達であると。命の数だけでなく、それぞれの本質を見据えた上で向き合っていかなくてはならない者達であると。

覚悟を入れ直し、陽介を含めた二人の敵へと向き直るクラウド。

一方ホメロスは弾かれ、地に落ちた虹を拾い上げる。
彼もまた思い知る。この場において軍師としての知識に頼った立ち回りは悪手であったと。

クラウドの用いたLIMITBREAKの概念を彼は知らない。当然、知らぬものは戦術に組み込みようがない。この世界では元の世界で取り入れていた知識など役に立たないのだ。
さらに言えば、そんなことは陽介と初めて出会った時に分かっていたはずだ。彼もまた、ペルソナという未知の力を用いていた。
それでいてなおも自らを軍師という立場に置き、自らの知識の範囲のみでリスクを避ける戦闘を続けていた、その結果がこれだ。陽介が居なければ勝負は決していた。

ホメロスもまたクラウド同様、覚悟を入れ直す。この場で要求されるのは知識ではない。ただ目の前の現実を即座に認識し、それに合わせて立ち回るこの身ひとつのみ。

こうして、闘いの中心であった二人が新たな心持ちで対峙する。

46 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:23:10 ID:uxW8jR4A0
以下、後編になります。

47更にたたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:24:34 ID:uxW8jR4A0
ホメロスとクラウドが闘いへの見方を変えたと同時に、二人が発するオーラのようなものもより一層鬼気迫るものとなっていた。
相対的に闘いへの士気で劣る陽介は、そのただならぬ雰囲気に気圧されつつあった。
陽介とて、人間の姿をした敵と闘うことは経験済みだ。だがそれは言わば護るための闘いだった。誘拐された知り合いたちを、あるいは他ならぬ相手自身を。護るために闘うのであればそれを躊躇することも無かったのが今までの闘いだ。
だが今回は今までとは違う。ただ相手を殺すために闘っている。それが陽介に踏ん切りをつけさせない要因だった。

その様子に気付いたホメロスは陽介に一言、告げる。

「陽介、お前は下がっていろ。」

「でも……!」

「心配するな。もうヘマはしない。」

陽介にとってそれは、一種の戦力外通告を受けたようなものに思えた。だがミファーによって死を目前に経験した陽介は、死というものの恐怖を知っている。
自分が死ぬのは勿論、相手をその死に追いやるのも嫌だ──そんな中途半端な思考の中でホメロスにかけられた言葉はまさに渡りに船と言わんばかり。

「……分かった。その代わり勝てよ、ホメロス。」

結果として、陽介の答えはそれを甘んじて受け入れるというもの。汚れ仕事をホメロスに押し付けて安全圏から自分の無実を主張する、何とも格好悪いものだ。
だがそんな格好悪さも、ペルソナという人の心の闇に触れ続けてきた陽介は受け入れる。受け入れることが出来てしまう。
自分への言い訳すら許さないその都合の良さの自覚は、さらに陽介の良心を苛むのだった。

「ああ、勿論だ。」

48更にたたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:25:07 ID:uxW8jR4A0
ただし、ホメロスにとって先の一言は陽介への戦力外通告などでは無かった。単にホメロスは思ったのだ──陽介はそれでいいのだと。
一度ウルノーガの配下という闇に堕ちた自分がもう一度やり直すことが出来ているのは、最初に出会った陽介が対話から入ってくれたからに他ならない。
グレイグを喪った今だからこそ分かる。友を奪った相手を──あるいはその配下を赦すことが、どれだけ心の強さを要することか。

そんな強い信念を持つ陽介は、人々の恨みや憎しみが蔓延するこの殺し合いの空気の打破には不可欠な存在だ。こんな敵のために手を汚させ、折っていいような軽い信念ではない。手を汚すのは自分だけで充分だ。デルカダールの将軍時代から汚れ仕事なら慣れている。

それは殺し合いへの反逆という目的の中で陽介の背負うべき役割に当てはめた合理的な判断であり、しかしながらそれは陽介への一種の個人的な感謝でもある。

何はともあれ、1人で闘う選択をしたからには負けるわけにはいかない。そう、ここから先はホメロスのプライドの問題。
そんなホメロスの決意に応じるように、鞘から取り出した虹の刃がさらに輝きを増した。極限まで高められた戦闘への集中力──すなわちゾーン状態への移行。死のリスクなど顧みず、ただ敵を断つことのみに専念する。

(来る……!)

ホメロスの変化を感じ取ったクラウドは、グランドリオンを再び構える。クラウドの予測通り、先手を取ったのはホメロス。空中に虹色の軌道を描きながら、クラウドの懐に潜り込む。

(先ほどよりも思い切った攻撃……。防御のみで乗り切るのは不可能か。)

LIMITBREAKを待つ戦術はもう一度は通用しない。そう察したクラウドは積極的に応戦する。
陽介にも回していた注意をホメロスのみに切り替えることで、虹の斬撃への対処は先ほどよりも正確だ。
だが、ホメロスの攻撃もまた正確にクラウドの急所を捉える。ゾーン状態によって研ぎ澄まされた様々な能力がクラウドの防御をさらに厳しくした。両者が先ほどよりも深く斬り込むことで、戦局の拮抗など起こらない。コンマ1秒単位でどちらも致命傷を受けるリスクが蔓延している。
この闘いの決着は一瞬であると、両者は予測する。両者の業物の切れ味もあって、一撃叩き込まれれば決着はつく。仮に即死は免れても、それ以降の攻撃を避ける余裕などまず生まれない。

49更にたたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:25:43 ID:uxW8jR4A0
一撃で決まる勝負であれば本来ホメロスは有利だ。それはホメロスの攻撃の密度に由来する。まずはこの臨戦において他用している特技、はやぶさ斬り。一度に二回の斬撃を振るう、速度に特化した特技である。
さらには、元々ホメロスは常人が一度の行動を起こす間に二度の行動を起こせるほどの身体能力を持っている。その点においては、かのグレイグすらも上回っていた。

そう、ホメロスの斬撃は速い。
だがクラウドは一撃の威力を以てその速度を殺す。

はやぶさ斬りの初撃を力で弾き返し、第二撃を撃たせない。
よって斬撃の威力はクラウドに軍配が上がるにもかかわらず、両者の攻撃の密度が等しくなることでクラウドが戦闘のペースを掴んでいた。

ホメロスがグレイグに模擬戦で勝てなかった原因は主にここにあった。
速さは単純な力に勝てない。

このままでは闘いの結末が分かっているホメロスは一歩引き下がる。不意に下がられたクラウドは一瞬躊躇うも、次の瞬間にはその意図に気付き接近する。しかし、その一瞬の躊躇により間に合わない。
速さが力に勝てないのなら、力に勝てる手段を用いれば良い。ホメロスはその手段を持っている。

「ドルマ!」

それは呪文という名の搦め手。
詠唱速度に優れるが威力は低いその呪文の放たれた先は、クラウドの足。
微力ながらも重力を伴う闇の力に足を奪われ、大地を強く踏みしめることが出来ない。踏み込みが足りず、クラウドの攻撃の威力は一時的に落ちることとなる。
ホメロスはその隙を逃さずはやぶさ斬りを叩き込もうとする。

高速で叩き込まれる二連撃。
しかしそれを、クラウドの三連撃、『凶斬り』が迎え撃つ。
クラウドも今のドルマでちょうどリミット技を使えるに至ったのだ。
踏み込みが足りずとも、はやぶさ斬りを相殺できるだけの威力でホメロスの攻撃を凌ぎきった。

50更にたたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:26:18 ID:uxW8jR4A0
仕留めきれなかったホメロスは再び一歩下がる。
またドルマを受けるわけにはいかないクラウドはそれを追う。

だがそれはホメロスの計算内。
下がった理由は呪文のためでは無い。『逃げる』自分を『追う』ことに神経を集中させるため。ホメロスは虹をあたかも槍のように持ち替え、クラウドに向けて"突く"。斬撃では威力を殺しにくい刺突。クラウドは咄嗟にバックステップしながら、防ぎきれなかったダメージは利き腕ではない左腕で受ける。

だが重要なのはクラウドが左腕にダメージを負ったことではない。ホメロスに対して距離を離してしまったということ。

クラウドは呪文を警戒するが、見るとホメロスの右手には、丸い何かが握られていた。

(あれは手榴弾か?)

その想像は当たらずとも遠からず。ホメロスがそれをクラウドに投げつけると、それは小規模な爆発を起こした。

「くっ……!」

神羅兵の用いる手榴弾よりも一際威力の高い『丸型リモコンバクダン』の爆風を受け、さらに下がるクラウド。その状況はホメロスにとって、極大呪文を完成させるまでの時間にはうってつけのインターバルである。
当然クラウドはホメロスに接近する。しかしそれも間に合わない。

「さあ、終わりにしよう──ドルモーア!」

ドルマよりいっそう大きな闇の塊が、クラウドに向けて放たれる。周りの光すらねじ曲げて、クラウドの命までもを吸い込まんと迫る。

だがこの世界軸のホメロスは知らない。かつて勇者たちを苦しめた『闇のバリア』は、同じく闇の力を持つ『魔王の剣』によって破られること──すなわち、闇の力はより強い闇の力によって破ることが出来るということを。

闇の力を纏ったグランドリオンによる一閃。ドルモーアは斬り裂かれ、クラウドとホメロスの間に障害は無くなった。

51更にたたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:26:50 ID:uxW8jR4A0
ドルモーアを破られたホメロスは、驚愕に目を見開きながらも虹で応戦する。その一太刀に全ての力を込めて──全身全霊斬りがクラウドに向けて振り下ろされる。

「悪いな。」

だがクラウドの圧倒的な闇の力を前に打ち勝てない。
全身全霊斬りを真っ向から弾き返したクラウドの太刀は、ホメロスの胴を斜めに裂いた。

「ぐおおっ!!」

先に語った通り、この二人の勝負は一撃で決まる。
その一太刀目を当てたのはクラウド。その威力により、ホメロスは膝をつく。もはや勝負は決したと言っても過言では無い。

「やるな……。だがっ……!」

だがそれでも、ホメロスは笑っていた。
そしてクラウドに向けて宣言する。


「──俺の勝ちだ……。」


その声に従うが如く、クラウドの背後からひとつの影が飛び出した。そう、そもそも先ほど撃ったドルモーアは囮に過ぎない。本命となる『一撃』はクラウドがドルモーアに気を取られている隙に背後に設置済みだった。



──リーフストーム。

ホメロスに支給されたポケモン、ジャローダ。ポケモントレーナーの頂点に立った男の育てたポケモンの放つ技は、その経歴にそぐわぬ威力を発揮する。

高速で放たれた幾百もの草葉がクラウドの身体を切り裂かんと迫る。それは二度目以降は威力の下がる一度きりの大技。よってホメロスは確実にその一撃のみを当てにかかっていた。クラウドがいかなる実力者であろうとも、認知していない攻撃には対処出来ない。事実、その攻撃はクラウドの認知の外より放たれた。場所は死角、そしてモンスターボールから出る時の僅かな音もドルモーアがかき消していた。

本来ジャローダほどの実力のあるポケモンであれば共に闘い、手数で相手を圧倒するのもまた道理であろう。しかしホメロスはそれを選ばない。
お互いが武器のみで闘えば自分は負けると分かっていた──というよりはむしろ、勝てる気がしなかった。クラウドにグレイグの面影を感じ取って以来、どうしても敗北のビジョンが見えてしまっていたからだ。

だからこそ決め手となる一手を下す役割をジャローダに託した。
ホメロスは知っている。カミュという人質を取ったところを背後から奇襲されたように、勝利を確信した瞬間こそが最大の隙になると。
つまりこれは、自らの敗北までを作戦に組み込んで相手の油断を誘ったある種の囮作戦。

52更にたたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:27:22 ID:uxW8jR4A0
しかしクラウドは──その背後からの攻撃を予測していた。ドルモーアが放たれた時、それが囮であると即座に想定していた。

その予測が出来たのは、クラウドの意識の変化の賜物だった。
人の心の持ち方は闘いのスタンスに影響すると、クラウドはここまでの闘いで学んできた。穏健なレオナールが正面から立ち向かってきたのに対して非力ながらも勝利に貪欲なチェレンが不意打ちという手段を選んだように。他者を護るため闘った天城雪子が自らの命を犠牲にしたように。

その意識の変化はクラウドにひとつの疑惑を与えた。
このホメロスという男は、確実な勝機も無しに勝負を挑んでくる男だろうか、と。
それは多くの人間と対立してきたクラウドだからこその疑惑。

その直感の根拠は、逃走用のヘリを用意した上で一騎打ちを挑んできたルーファウス神羅のようなホメロスの鋭い眼光だった。奴は何か、この闘いの勝利を確信するだけの奥の手を持っている。それはただの勘のようなものであったが、事実としてそれは的中していた。

そしてその何かとは、元の世界の持ち物が没収されている以上支給品しか無い。
1VS1の闘いの最中の奇襲に最も適した支給品──少なくともレオナールの末路を見たクラウドには、モンスターボールしか思い浮かばなかった。

背後からのリーフストームに対し、クラウドはリミット技で応戦する。ホメロスを剣で打ち負かすだけでなく、その切り札までもを真っ向から潰すその様は、その技の名の通り『画竜点睛』と言うに相応しく。グランドリオンより放たれた旋風がリーフストームの草葉を散らした。ポケモンのタイプに当てはめれば『ひこう』タイプである旋風はそのままジャローダへと到達し、ジャローダの身体を引き裂いた。

「ジャ……ア……」

「なっ……!く……そ……。」

身体中にこうかばつぐんの裂傷を受けて力なく倒れていくジャローダを遠目に、ホメロスもまた出血多量により気を失う。奇襲の失敗と迫る自らの死を前に、無念のままホメロスは倒れた。

クラウドの実力とホメロスの知力の衝突──本来の勝敗などもはや知る由もない。この局面で明確な勝敗を分けたのは両者の意識の変化──すなわち、この世界に来てから経験した闘いの数の差に他ならないのだから。

53更にたたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:28:06 ID:uxW8jR4A0
こうして、クラウドの前には無防備となったホメロスが横たわる。
しかし、そのまま殺すことが出来ないのをクラウドは理解していた。

「さて、次はお前の番だろう?」

再び動かざるを得なくなった陽介の妨害を、今度こそクラウドは侮らない。
既に眼前にアルカナを顕現させている陽介に、クラウドは話しかける。

「何でだよッ……!」

陽介はクラウドとホメロスの闘いを見て分かったことがあった。
両者ともに、死ぬのが怖いだとか、だから殺すのが嫌だとか、闘いへの志向はそんな段階など超越している。
ホメロスの生い立ちは既に聞いており、その境地に達しているのも納得は出来る。だが見たところ自分と同じくらいの年齢しかないであろうクラウドは、一体どんな生き方をしてきたらここまで闘いへの躊躇を無くせるんだ?

「そんだけ強いってのに、お前の中に正義ってもんはねえのかよ!」

「正義?そんなの、幻想だ。」

そんな陽介の言葉を、クラウドは切り捨てる。

「星のために、人々のために……何でわざわざ闘う理由を美化しないといけないんだ。」

「──俺は俺のために。そして俺の願いのために、闘う。それだけでいい。」

語るのはかつて仲間たちと見つけた答え。星のエネルギーを浪費する神羅側と、それを防ぐために罪も無い人々を犠牲にするアバランチ。そのどちらにも『正義』なんて無かった。その闘いは決して正当化など出来なかったし、するべきでもなかった。

「俺が生きる現実とはこういうものだ。ましてやこの世界は誰にとってもそういうところだろう。」

人はただ自分のためだけに闘えばいい。それはここでも同じだ。エアリスを生き返らせるために他の人々を皆殺しにする。決して正義などではない。
それでも仮初の正義なんかよりも余程押し付けるだけの価値がある。幻想と向き合い続けてきたクラウドは、それを棄てた先に『現実』を見た。

「ああそうかい。だがな、俺もこれだけは言わせてもらうぜ。」

だがクラウドが幻想と向き合ってきたと言うのなら、陽介とて人の心の真実、もとい現実と向き合ってきた。

「どれだけ自分が大切だろうと、どれだけ現実がクソだろうと──」

だからこそ、クラウドの心の拠り所が分かってしまう。陽介には、クラウドがかつての足立と重なって見えた。自分を評価しない世の中を呪い、自分の殺人さえ世の中の腐敗として扱っていた、足立と。

「──お前の罪はお前の罪だよ。」

「っ……!!」

そんな陽介は、クラウドの心の拠り所を真っ向から否定する。
確かにこの世界に殺し合いを肯定する要因はあるかもしれない。だけど罪は世界のものじゃなくて背負う本人のものだ。
クラウドに向けての感情を、それでいて足立への感情を叩き付けるかのように。陽介は目の前のアルカナを殴る。気持ちのいいアルカナの破裂音と同時に現れたジライヤより、烈風がクラウドに襲いかかった。

「お前はただ逃げてるだけだ。現実に、自分の罪に、目を向けたくないだけだ!」

クラウドはガルダインを下がって回避。ホメロスの保護のため陽介はクラウドに向けて接近する。その速度差により自ずと2人の位置は近付いていく。

「黙れッ!」

対するクラウドも、陽介に接近して斬り込む。計算などではなく、ただただ感情的な陽介への攻撃。
陽介の言葉は見事にクラウドの痛い所を突いていた。

強く在ることへの幻想なんて捨て去ったはずだった。自分の弱さという現実を受け入れたはずだった。
だが目の前の男は、今の自分を形成しているそれすらも否定する。
だから斬る。そうしないとクラウドがクラウドで居られないから。

そんな冷静さを欠いた一撃は、陽介には届かない。ここまでの闘いで疲弊しており動きが鈍っていることも相まって、ソニックパンチというカウンターをまともに受けて弾き飛ばされる。

(俺は……間違っていないはずだ。)

それでもクラウドは立ち上がる。
彼を突き動かすのは彼の信念。
それを否定されたからといって、元の道になど戻れるはずがない。
ミッドガルの罪も無い人々を万単位で殺したクラウドが、その罪に真っ向から目を向けて常人でいられるはずがない。

「俺は俺の……現実を生きるッ!」

「それこそが幻想だって……言ってんだろうがッ!!」

だからクラウドは、現実を求めつつも現実を否定しなくてはならない。

一方、陽介は知っている。真実から目を背けてもその先に光は無いということを。

真実と幻想。
相反するふたつの世界の衝突が、始まろうとしていた。

54更にたたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:32:35 ID:uxW8jR4A0
【E-4/一日目 朝】

【ホメロス@ドラゴンクエストXⅠ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:ダメージ(大) 気絶
[装備]:虹@クロノ・トリガー
[道具]:シーカーストーン@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド モンスターボール(ジャローダ)@ポケットモンスターブラック・ホワイト 基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:打倒ウルノーガ
1.絶対に殺してやるぞ……!
2.自分の素性は隠さずに明かす



【花村陽介@ペルソナ4】
[状態]:両手に怪我
[装備]:龍神丸@龍が如く 極
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3個
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と共に完二の仇をとる
1.クラウドを倒す
2.死ぬの、怖いな……
※参戦時期は少なくとも生田目の話を聞いて以降です
※魔術師コミュは9です(殴り合い前)

【クラウド・ストライフ@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:HP1/10  脇腹、肩に裂傷(治療済み) 所々に火傷 左腕に怪我
[装備]:グランドリオン@クロノトリガー 
[道具]:基本支給品、いのちのたま@ポケットモンスター ブラック・ホワイト シルバーオーブ@その他不明支給品1~2
[思考・状況]
基本行動方針:エアリス以外の参加者全員を殺し、彼女を生き返らせる。
1.セフィロスと決着をつける
2.ザックスに礼を言う
3.ティファは…………

※参戦時期はエンディング後

【支給モンスター状態表】

【ジャローダ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:ダメージ(大)、気絶
[特性]:しんりょく
[持ち物]:なし
[わざ]:リーフストーム、リーフブレード、アクアテール、つるぎのまい
[思考・状況]
基本行動方針:主人に従う。

55 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:32:55 ID:uxW8jR4A0
投下終了しました。

56 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/12(木) 18:05:37 ID:nMiOQlA60
イレブン、ベルで予約します。

57 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/13(金) 00:22:16 ID:E4yaK0GA0
ルッカ、N予約します。

58 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/13(金) 18:07:28 ID:E4yaK0GA0
投下します。

59不思議の国の遊園地跡 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/13(金) 18:08:43 ID:E4yaK0GA0
「さて、これからどこへ行こうか?」

Nがルッカに、行き先を問う。
「この地図で、私が気になる場所があるの。」

作業用の手袋に包まれた指は、『遊園地廃墟』を指していた。

「へえ……意外だな。そんな場所だなんて。まあ僕も遊園地はスキだけどね。
特に観覧車が好きなんだ。あの幾何学的な形がね。」


Nの言葉も他所に、ルッカは歩き出す。
この世界での遊園地とは、どのような場所なのか二人には分からない。
だが、遊園地とは、発明に適した場所なのである。


発明家である彼女が遊園地と聞いて思い出すのは、故郷であるトルース村のリーネ広場。
遊園地と呼ぶにはスケールがやや小さい。
それでも広い土地と、度々記念祭の舞台になり、多少の騒ぎを許されるその場所は、幼い頃から発明や実験の舞台になっていた。
たとえ工具箱がなくとも、新たな道具が手に入るかもしれない。
彼女、いや、彼女らの冒険の始まりも、元はと言えばあの場所から始まった。


恐らく、「廃墟」と名が付くとは言え、この世界でも首輪やロボをどうにかする手段を提供してくれると期待する。



『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる? 』

遊園地への道すがら、マナの放送が、戦いの会場全体に響いた。

(13人……!?)
その中にはルッカの仲間であるマールディアや、カエルも入っていた。

(なぜ……。)
参加させられていたことは薄々気付いていたが、それ以上に衝撃を受けた。
あの二人は、自分と違って回復魔法に長けていた。
つまり、命を守ることに関しては、自分より優れていたはず。
なのに、こんなにも短時間で殺されてしまうとは。


改めてこの戦いの恐ろしさを実感した。
確かにロボや、病院で会ったあの金髪の女性のように、殺し合いに乗っている者がいたとは分かっていた。
しかし、あの二人だけでこの時間、13人もの参加者を殺せたとは到底思い難い。
恐らく、彼女が想像している以上に、この戦いに乗っている者が多いだろう。
主催者の息がかかった参加者も、ロボ以外にもいるかもしれない。


「誰か、名前が呼ばれたの?」
ルッカの強張った表情と、冷や汗を案じてか、Nが声をかけた。

「二人呼ばれたわね。そう言うアンタは呼ばれたの?」
「……知っている人が、一人……。チェレンって人だ。」

しかし、Nはルッカとは対照的に、顔色一つ変えていない。

「それよりも、僕は聞こえるんだ。トモダチの悲鳴が。」


知り合いの死を「それよりも」で済ませ、貰ったばかりの名簿に赤線を引いていく。

60不思議の国の遊園地跡 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/13(金) 18:09:11 ID:E4yaK0GA0

「悲鳴?どこから?」
「キミは聞こえないの?この島全体に、トモダチの恐怖や痛みの籠った叫びが、流れている。
彼らを助けてあげなきゃ。」


Nの言う『トモダチ』が何者なのか知らないが、やはりこの男は何か自分達の知らない何かを感じ取れるのだとルッカは実感した。


そして、ルッカは転送されたという名簿をめくってみる。
予想通り、クロノの名前があった。当たって欲しくはなかった予想だったが。
放送で呼ばれた、カエルやマールディアの名前も。
仲間のエイラや、父や母は名簿に載っていなかったことは少し安堵したが。


(……まさかね。)
名簿の『マールディア』が書いてあった欄のすぐ近くの名前が目に入る。


『魔王』

ルッカにとって、魔王と言うと中世で戦い、古代で意外な形で再会し、その後カエルによって討たれたあの男だ。
強大な魔術を操り、凶暴な魔族を従え、ガルディアの住民を何百人も殺害した魔王。
しかし彼もまた自分と同じ、ラヴォスを滅ぼすことを目的としていた。
彼とはついぞ相容れることはなかったが、共に戦える可能性があった気がした。
この世界でもし再会出来たら、彼の力は脱出に役立てるかもしれない。


最もこの戦いには様々な世界の参加者がいることはあの図書館で分かったことだし、別の世界の「魔王」なのかもしれないが。


それを考えると、贅沢は言えたものではないが、名簿に写真がないのはどうにももどかしい。
病院で襲ってきた金髪の女性の名前も、結局分からずじまいだ。
結局少しでも多くの人と直接会わなきゃいけないのだと痛感する。


ルッカは足を速め、目的地へと向かう。


地図の示した辺りの場所へやってきた。
そこには、二人の予想を上回る光景が広がっていた。

61不思議の国の遊園地跡 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/13(金) 18:09:28 ID:E4yaK0GA0

「タのしイネ!楽しイネ!」
遊園地の入り口では、大量の機械生命体が歩き回っている。


「何……!?コイツら……!!」
未来世界にいた、自分達人間を襲うロボットを思い出したルッカは、魔法詠唱の姿勢を取る。

「喜びヲ!分かち合オウ!」
「アオウ!」

しかし、ロボット達はルッカとNを無視して、踊り続ける。
ある者は紙吹雪を散らし、ある者は風船を飛ばしている。


行動こそ違いはあるが、どれも二人との接触を行おうとする気はないようだ。
首輪を着けていないことからも、参加者と言うより一つのギミックだと伺える。


「この子たちは、トモダチと何か違うのかな?」
Nは早速、近くにいたピエロの帽子をかぶった機械生命体を一体捕まえようとする。
寸胴体型に丸い頭。どこかロボを思い出す。
上手くやれば、ロボを助ける手掛かりが見つかるかもしれない。


ルッカも紙吹雪を飛ばすロボットを、触ったり耳を傾けて電子音を聞こうとしたり、小突いたりする。

「うわっ!」
ピエロの帽子のロボットは、体を揺らし、Nを突き飛ばす。

「喜びヲ!分かち合オウ!」

それから特に攻撃をしようとはせず、別のロボットと同じように遊園地を巡回する。



「N、大丈夫?」

紙吹雪まみれになったルッカの心配も無視して、Nはロボットに話しかける。
「驚かせてゴメンね。僕らと、友達にならない?」


「タのしイネ!楽しイネ!」
ロボットはなおも我関せずという様子だ。


「……どうやらここにいる子達とは、意思疎通が難しいみたいだね。」
Nの言う通りだ。
どうやらここにいるロボット達は、敵になることはないようだが味方にもならないらしい。
解体して、データや設計方法を分析することも、工具箱が無い今では難しい。


入口のロボットとコミュニケーションを取ることを諦め、遊園地の中へと進む。

「いラッしゃイマせ!」
「アラ!こんにちは!」

空飛ぶ洗面器のような物体に乗ったロボットが、出迎える。
しかし、それより奥へ進むと、異様な光景の中に異変があった。

同じ形のロボット達が、何台か壊されていた。

「気を付けて……参加者が誰かいるかもしれない。」
「そうだね。」

Nもモンスターボールからトンベリを出し、何が起こっても良いようにする。

62不思議の国の遊園地跡 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/13(金) 18:09:46 ID:E4yaK0GA0


恐らく二人がここへ来る前にいた誰かがこれらのロボットを壊した。
そう考えるのが妥当だ。


路地裏へ入って、さらに進むと、長身の金髪の男性が倒れていた。


「もう、動かないみたいね……。」
身体を斬り裂かれ、呼吸も脈も止まっていた。
恐らく、先程の放送に呼ばれた中で、ルッカとNの知り合いではない、10人のうちの誰かだ。


「血は乾いているようね……。」
既に硬直の仕方から、殺されたのは大分前のようだ。
恐らく、もうこの場には男を殺した殺人者はいないのだろう。


「この人……何か書いてあるよ……。」
Nが注目した、男の指先に血で何かが書かれていた。


『チェレン』


恐らくいまわの際に自分を殺した相手の名前を血で書いたのだろう。
だがその殺人者の名前も放送で呼ばれてしまった。


「どうやら、チェレンは殺し合いに乗ってしまったようだね。
それより、殺人者、二人いるよ。」
知り合いが殺し合いに乗ったことに関して、Nは大してショックを受けたような顔もせず、トンベリに何かの指示を出す。


(!?)
トンベリはナイフで、スパリと男の首を切り落とした。辺りに血が飛び散る。
首輪が外れ、地面に落ちる乾いた音が聞こえる。
「ちょっ……何してるのよ!!それに、殺人者が二人いるって?」


ルッカはNと、トンベリの行動に驚く。
「ああ、槍で突かれたような傷と、剣で斬られた傷があったからね。
それと、首輪、解除するのにサンプルが必要でしょ?」

Nは瞬時に二つの疑問に答える。
「あ、ああ。そうね。
でもさ、Nは知り合いがこんな戦いに乗って、しかも死んじゃって悲しくないの?」
「悲しい……と言えばそうだけどね。彼と僕自身はそこまで仲良くもなかった。」

たとえ敵にデータを書き換えられていたとしても、ロボが襲ってきた時のショックはルッカにとって大きかった。
そして、マールやカエルが死んだときも同じくらいの精神動揺があった。
たとえ仲の良い相手ではなくても、それなりに落ち込むだろう。

どうにもNのようにドライにはなれない。

63不思議の国の遊園地跡 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/13(金) 18:10:05 ID:E4yaK0GA0




首輪を回収し、さらに遊園地の奥へ進む。
遊園地のジェットコースター乗り場へ続く道。
かつては、アンドロイドの移動を円滑にした転送装置があった場所に、異様な物が置かれていた。


「何だろうね……コレ。」
Nも不思議そうに見つめる。

だが、二人にはそれが、「元々この世界になかったもの」だということは瞬時に分かった。
他の機械は「遊園地廃墟」と名乗るだけあって、錆や埃にまみれているが、この機械は傷一つなく、まぶしいばかりの光沢を放っているからだ。

機械から見えるガラス張りのケースに、何か見慣れぬ本や機械が置いてある。
どこか自動販売機のような形をしているが、金の入れる穴はない。

代わりに頭頂部に何か物を乗せる秤のようなものが10ほど置いてある。


「何か条件を満たせば、中の道具が手に入る?」
ルッカは裏側を見る。そこには二つ紙が貼ってあった。


『おめでとう!よくこれを見つけたね!!
この機械の上に首輪を乗せたら、この戦いに有利な道具が手に入るよ!!
だからいっぱい参加者を殺してね!!』


『良く見つけたね』と書くほど、隠してあるようには見えない、とルッカは思ったが、二枚目の紙には更に予想外のことが書かれていた。


首輪×3 顔写真付き名簿
首輪×5 首輪レーダー
首輪×7 オーブ探知機
首輪×10 首輪解除キー

「N、これって……。」
首輪7つ集めれば手に入るらしい「オーブ」探知機というのも何か気になるが、10個集めれば手に入る道具。
こんなものが手に入れば、ゲーム自体が崩壊するのではないか。


「すごいな……この形、一見直方体に見えるが、頭頂部以外を薄っすらと球状にしていることで、外からの衝撃を緩和させているんだ。」

Nは謎の機械を興味深げに機械を叩いたり、さすったりしている。

64不思議の国の遊園地跡 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/13(金) 18:10:32 ID:E4yaK0GA0

とりあえずルッカは、レオナールの首輪を機械の頭頂部に乗せる。


商品が並べられているガラスの横のモニターの『0』の数字が『1』になった。
これが規定の数字になった時、アイテムが手に入るのだろう。

「ゴメンね。何か言ってた?」
「何の為にこれは作られたのかなって。」
「争いを加速させるためじゃないかな。
誰かを殺して首輪を持ってくることで、ゲームから脱出できる可能性を示唆させるんだ。
それに首輪を持って来ても、貰える物が一つだけなら、奪い合いが起こるかもしれない。」


人間は醜く、そのために他人もポケモンも何でも利用する。
それが原因で傷ついていたポケモンをNは何度も見てきた。
トウヤとの戦いで、全ての人間がそうではないと分かったが、Nにはまだ人間への猜疑心が払拭されたわけではない。

「私は、そうじゃないと思う。」
ルッカはその意見に反論する。

 
「もし、これが人を殺すための動機にするなら、「生還させる」って書くんじゃない?
それに、首輪を集めるって条件がおかしいわ。現に私達、誰も殺さずに首輪を手に入れているわよ。」

置き去りにした死体から首輪を取ることで、理論上は手を汚さずに道具を入手することが出来る。


「それと、最初に手に入るアイテムが「顔写真付き名簿」ってのもおかしくない?
明らかに襲撃側に不利な道具よ。」
「確かに。あのマナって子、『偽名を使ってる人も心配ない』って言ってたけど、その人の対処法にもなるね。」

Nと一緒に、病院で襲ってきた女性の名前を知ることも出来る。
ルッカの言う通り、あとの3つはともかく、最初のアイテムはどう考えても襲撃者に不利な道具だ。


会話の中で、主催側のスパイが、この道具を転送したのだと結論付けた。
とはいえ、今の二人には役に立たないのも事実。
この機械を使うにせよ使わないにせよ、他の参加者に出会わなければならないようだ。


そして、遊園地には二人以外には誰もおらず、ロボを修理する手がかりもないようなので、他の場所へ行くことを提案する。

「でも、ここで出来ることはないようね。」

この遊園地には、ロボットこそ多くいたが、それを分解、観察するための工具はない。
遊園施設で壊されていたロボットから回収したボルトや歯車、金属板ぐらいだ。


新たな情報や手がかりを得るために、二人は遊園地を後にする。






しかし、この時二人は気付いていなかった。
それまで二人に無関心だったロボット、いや、機械生命体のうち一台が二人の後を付けてきていることを。
それが一体何なのか、二人はまだ知らない。

65不思議の国の遊園地跡 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/13(金) 18:10:47 ID:E4yaK0GA0

【E-6 遊園地廃墟入り口/一日目 朝】


【ルッカ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(小)、MP消費(小)
[装備]:水の羽衣@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(工具の類は入っていません)、医療器具 図書館の本何冊か(何を借りたかは次の書き手にお任せします。)  素材(機械生命体の欠片、ネジ、金属板など)
[思考・状況]
基本行動方針:人と工具を集め、ロボを正気に戻す。
また首輪を集め、解析、あるいは景品交換用に使う。
1.多少は割り切ることも必要なのかもしれないわ……。
2.工具箱が見つかれば、この首輪の解析でもしてみようかしら。
3.首輪を集めたら、首輪景品交換所を使う。
3.Nって不思議な人ね……
4.何のためにあんな機械を?

※遊園地廃墟にある、首輪景品交換所の情報を知りました。


【N@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[装備]:モンスターボール(トンベリ)@FF7、毒牙のナイフ@DQ11(トンベリが所持)
[道具]:基本支給品 本何冊か
[思考・状況]
基本行動方針:ルッカの理想に付き合う
1.ルッカと共に行動をする
2.新しい理想を手に入れる。



※ED後からの参戦です。
※遊園地廃墟にある、首輪景品交換所の情報を知りました。


※【E-6】 遊園地に、首輪と引き換えに戦いに有利になる道具を支給する機械が配置されています。
機械の上に乗せた首輪の数に応じて、道具が支給されます。
※他の場所にも似たような機械があるかどうかは、次の書き手にお任せします。

【支給モンスター状態表】


【トンベリ@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:健康
[持ち物]:毒牙のナイフ
[わざ]:ほうちょう みんなのうらみ 
[思考・状況]
基本行動方針:Nと行動を共にする、自分のほうちょうがほしい。



【機械生命体@Nier Automata】
[状態]:オールグリーン
[装備]:なし
[道具]:?
[思考・状況] ?
基本行動方針:ルッカとNを追いかける。

66不思議の国の遊園地跡 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/13(金) 18:11:01 ID:E4yaK0GA0
投下終了です。

67 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/14(土) 13:27:53 ID:H12hU9Zo0
投下お疲れ様です。
首輪を集めるというシステム自体は面白いと思いますが、その中でも気になった点が2つほど。

①主催者側のスパイによるものだと結論付ける過程について
『首輪解除では積極的に殺す動機になりにくいから』、『首輪を集めるという条件は殺さなくても達成できるから』という理由だけで、マナとウルノーガ以外の主催者陣営を知らない2人がスパイを結論づけるには弱いのではないでしょうか。特にルッカはロボに対して『可能性は低いけれどゼロではない』をスタンスとしていながら、ここで真っ先に疑うべき主催者の罠の可能性を否定しているのは些か結論を急ぎすぎている気がします。

②会話の中でスパイの存在を断じていること
会話を盗聴しているマナ達に主催者側のスパイの存在を認知されてしまえば、マナ目線では(まだ登場していない人物がいる可能性はありますが)マナが心を読めない足立とエイダに絞られてしまい、シンプルに展開としてまずいのでは。仮にオセロットのジャミング機能が例の機械に搭載されていたとしても、放送から盗聴されていることを知っているNとルッカが会話でスパイの存在を指摘すること自体が迂闊すぎる気もしますし。

68不思議の国の遊園地跡 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/14(土) 15:45:24 ID:dZLjuTG20
>67

ご指摘ありがとうございます。
確かに執筆に関して不備がありました。
根底から投下を変えないとダメでもないようなので修正した作品を遅くても3日後には再び投下しようと思います。

69不思議の国の遊園地跡 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/17(火) 00:34:46 ID:vsIGd2sI0
修正案 投下します。

70不思議の国の遊園地跡:修正 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/17(火) 00:35:23 ID:vsIGd2sI0
「さて、これからどこへ行こうか?」

Nがルッカに、行き先を問う。
「この地図で、私が気になる場所があるの。」

作業用の手袋に包まれた指は、『遊園地廃墟』を指していた。

「へえ……意外だな。そんな場所だなんて。まあ僕も遊園地はスキだけどね。
特に観覧車が好きなんだ。あの幾何学的な形がね。」


Nの言葉も他所に、ルッカは歩き出す。
この世界での遊園地とは、どのような場所なのか二人には分からない。
だが、遊園地とは、発明に適した場所なのである。


発明家である彼女が遊園地と聞いて思い出すのは、故郷であるトルース村のリーネ広場。
遊園地と呼ぶにはスケールがやや小さい。
それでも広い土地と、度々記念祭の舞台になり、多少の騒ぎを許されるその場所は、幼い頃から発明や実験の舞台になっていた。
たとえ工具箱がなくとも、新たな道具が手に入るかもしれない。
彼女、いや、彼女らの冒険の始まりも、元はと言えばあの場所から始まった。


恐らく、「廃墟」と名が付くとは言え、この世界でも首輪やロボをどうにかする手段を提供してくれると期待する。



『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる? 』

遊園地への道すがら、マナの放送が、戦いの会場全体に響いた。

(13人……!?)
その中にはルッカの仲間であるマールディアや、カエルも入っていた。

(なぜ……。)
参加させられていたことは薄々気付いていたが、それ以上に衝撃を受けた。
あの二人は、自分と違って回復魔法に長けていた。
つまり、命を守ることに関しては、自分より優れていたはず。
なのに、こんなにも短時間で殺されてしまうとは。


改めてこの戦いの恐ろしさを実感した。
確かにロボや、病院で会ったあの金髪の女性のように、殺し合いに乗っている者がいたとは分かっていた。
しかし、あの二人だけでこの時間、13人もの参加者を殺せたとは到底思い難い。
恐らく、彼女が想像している以上に、この戦いに乗っている者が多いだろう。
主催者の息がかかった参加者も、ロボ以外にもいるかもしれない。


「誰か、名前が呼ばれたの?」
ルッカの強張った表情と、冷や汗を案じてか、Nが声をかけた。

71不思議の国の遊園地跡:修正 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/17(火) 00:36:06 ID:vsIGd2sI0
しかし、Nはルッカとは対照的に、顔色一つ変えていない。

「それよりも、僕は聞こえるんだ。トモダチの悲鳴が。」


知り合いの死を「それよりも」で済ませ、貰ったばかりの名簿に赤線を引いていく。

「悲鳴?どこから?」
「キミは聞こえないの?この島全体に、トモダチの恐怖や痛みの籠った叫びが、流れている。
彼らを助けてあげなきゃ。」


Nの言う『トモダチ』が何者なのか知らないが、やはりこの男は何か自分達の知らない何かを感じ取れるのだとルッカは実感した。


そして、ルッカは転送されたという名簿をめくってみる。
予想通り、クロノの名前があった。当たって欲しくはなかった予想だったが。
放送で呼ばれた、カエルやマールディアの名前も。
仲間のエイラや、父や母は名簿に載っていなかったことは少し安堵したが。


(……まさかね。)
名簿の『マールディア』が書いてあった欄のすぐ近くの名前が目に入る。


『魔王』

ルッカにとって、魔王と言うと中世で戦い、古代で意外な形で再会し、その後カエルによって討たれたあの男だ。
強大な魔術を操り、凶暴な魔族を従え、ガルディアの住民を何百人も殺害した魔王。
しかし彼もまた自分と同じで、ラヴォスを滅ぼすことを目的としていた。
彼とはついぞ相容れることはなかったが、共に戦える可能性があった気がした。
この世界でもし再会出来たら、彼の力は脱出に役立てるかもしれない。


最もこの戦いには様々な世界の参加者がいることはあの図書館で分かったことだし、別の世界の「魔王」なのかもしれないが。


それを考えると、贅沢は言えたものではないが、名簿に写真がないのはどうにももどかしい。
病院で襲ってきた金髪の女性の名前も、結局分からずじまいだ。
結局少しでも多くの人と直接会わなきゃいけないのだと痛感する。


ルッカ達は足を速め、目的地へと向かう。


地図の示した辺りの場所へやってきた。
そこには、二人の予想を上回る光景が広がっていた。


「タのしイネ!楽しイネ!」
遊園地の入り口では、大量の機械生命体が歩き回っている。

72不思議の国の遊園地跡:修正 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/17(火) 00:36:22 ID:vsIGd2sI0
「何……!?コイツら……!!」
未来世界にいた、自分達人間を襲うロボットを思い出したルッカは、魔法詠唱の姿勢を取る。

「喜びヲ!分かち合オウ!」
「アオウ!」

しかし、ロボット達はルッカとNを無視して、踊り続ける。
ある者は紙吹雪を散らし、ある者は風船を飛ばしている。


行動こそ違いはあるが、どれも二人との接触を行おうとする気はないようだ。
首輪を着けていないことからも、参加者と言うより一つのギミックだと伺える。


「この子たちは、トモダチと何か違うのかな?」
Nは早速、近くにいたピエロの帽子をかぶった機械生命体を一体捕まえようとする。
寸胴体型に丸い頭。どこかロボを思い出す。
上手くやれば、ロボを助ける手掛かりが見つかるかもしれない。


ルッカも紙吹雪を飛ばすロボットを、触ったり耳を傾けて電子音を聞こうとしたり、小突いたりする。

「うわっ!」
ピエロの帽子のロボットは、体を揺らし、Nを突き飛ばす。

「喜びヲ!分かち合オウ!」

それから特に攻撃をしようとはせず、別のロボットと同じように遊園地を巡回する。



「N、大丈夫?」

紙吹雪まみれになったルッカの心配も無視して、Nはロボットに話しかける。
「驚かせてゴメンね。僕らと、友達にならない?」


「タのしイネ!楽しイネ!」
ロボットはなおも我関せずという様子だ。


「……どうやらここにいる子達とは、意思疎通が難しいみたいだね。」
Nの言う通りだ。
どうやらここにいるロボット達は、敵になることはないようだが味方にもならないらしい。
解体して、データや設計方法を分析することも、工具箱が無い今では難しい。


入口のロボットとコミュニケーションを取ることを諦め、遊園地の中へと進む。

「いラッしゃイマせ!」
「アラ!こんにちは!」

空飛ぶ洗面器のような物体に乗ったロボットが、出迎える。
しかし、それより奥へ進むと、異様な光景の中に異変があった。

同じ形のロボット達が、何台か壊されていた。

「気を付けて……参加者が誰かいるかもしれない。」
「そうだね。」

Nもモンスターボールからトンベリを出し、何が起こっても良いようにする。

73不思議の国の遊園地跡:修正 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/17(火) 00:36:38 ID:vsIGd2sI0


恐らく二人がここへ来る前にいた誰かがこれらのロボットを壊した。
そう考えるのが妥当だ。


路地裏へ入って、さらに進むと、長身の金髪の男性が倒れていた。


「もう、動かないみたいね……。」
身体を斬り裂かれ、呼吸も脈も止まっていた。
先程の放送に呼ばれた中で、ルッカとNの知り合いではない、10人のうちの誰かだと認識する。


「血は乾いているようね……。」
既に硬直の仕方から、殺されたのは大分前のようだ。
恐らく、もうこの場には男を殺した殺人者はいないのだろう。


「この人……何か書いているよ……。」
Nが注目した、男の指先に血で何かが書かれていた。


『チェレン』


恐らくいまわの際に自分を殺した相手の名前を血で書いたのだろう。
だがその殺人者の名前も放送で呼ばれてしまった。


「どうやら、チェレンは殺し合いに乗ってしまったようだね。
それより、殺人者、二人いるよ。」
知り合いが殺し合いに乗ったことに関して、Nは大してショックを受けたような顔もせず、トンベリに何かの指示を出す。


(!?)
トンベリはナイフで、スパリと男の首を切り落とした。辺りに血が飛び散る。
首輪が外れ、地面に落ちる乾いた音が聞こえる。
「ちょっ……何してるのよ!!それに、殺人者が二人いるって?」


ルッカはNと、トンベリの行動に驚く。
「ああ、槍で突かれたような傷と、剣で斬られた傷があったからね。
それと、これ。」

Nは血で汚れた首輪をルッカに渡す。
解除するには確かにサンプルが必要だ。
Nが「首輪解除するのに必要だ」などと口にしなかったのは、盗聴を気にしていたからか。

「あ、ああ。そうね。
でもさ、Nは知り合いがこんな戦いに乗って、しかも死んじゃって悲しくないの?」
「悲しい……と言えばそうだけどね。彼と僕自身はそこまで仲良くもなかった。」

たとえ敵にデータを書き換えられていたとしても、ロボが襲ってきた時のショックはルッカにとって大きかった。
そして、マールやカエルが死んだときも同じくらいの精神動揺があった。
たとえ仲の良い相手ではなくても、それなりに落ち込むだろう。

どうにもNのようにドライにはなれない。

74不思議の国の遊園地跡:修正 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/17(火) 00:36:57 ID:vsIGd2sI0


首輪を回収し、さらに遊園地の奥へ進む。
遊園地のジェットコースター乗り場へ続く道。
かつては、アンドロイドの移動を円滑にした転送装置があった場所に、異様な物が置かれていた。


「何だろうね……コレ。」
Nも不思議そうに見つめる。

だが、二人にはそれが、「元々この世界になかったもの」だということは瞬時に分かった。
他の機械は「遊園地廃墟」と名乗るだけあって、錆や埃にまみれているが、この機械は傷一つなく、まぶしいばかりの光沢を放っているからだ。

機械から見えるガラス張りのケースに、何か見慣れぬ本や機械が置いてある。
どこか自動販売機のような形をしているが、金の入れる穴はない。

代わりに頭頂部に、何か物を乗せる秤のようなものが10ほど置いてある。


(何か条件を満たせば、中の道具が手に入る?)
ルッカは裏側を見る。そこには二つ紙が貼ってあった。


『おめでとう!よくこれを見つけたね!!
この機械の上に首輪を乗せたら、この戦いに有利な道具が手に入るよ!!
だからいっぱい参加者を殺してね!!』


『良く見つけたね』と書くほど、隠してあるようには見えない、とルッカは思ったが、二枚目の紙には更に予想外のことが書かれていた。


首輪×3 顔写真付き名簿
首輪×5 首輪レーダー
首輪×7 オーブ探知機
首輪×10 首輪解除キー

(これって……。)
首輪7つ集めれば手に入るらしい「オーブ」探知機というのも何か気になるが、10個集めれば手に入る道具。
こんなものが手に入れば、ゲーム自体が崩壊するのではないか。

75不思議の国の遊園地跡:修正 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/17(火) 00:37:25 ID:vsIGd2sI0


Nは景品には興味を持たず、謎の機械を興味深げに機械を叩いたり、さすったりしている。


とりあえずルッカは、レオナールの首輪を機械の頭頂部に乗せる。


商品が並べられているガラスの横のモニターの『0』の数字が『1』になった。
これが規定の数字になった時、アイテムが手に入るのだろう。


「ん?今何かした?」
ルッカの行動気付いたNは、声をかける。
しかし、ルッカはそれを無視して、文字が書かれた紙を近づけた。

『この機械、何の為にあると思う?』

先程の放送で、マナは『声だけでしか分からないのが残念なくらい』と言っていた。
ならば、この首輪で思考を読んだり、何をしているか視覚的に見たりすることは不可能なのだろう。
それならば、言葉が聞こえない筆談で、首輪で関することは話した方が良いとルッカは判断した。

『ゲームから脱出できる可能性を見せびらかす。
あるいは貰える物の奪い合いを起こす。』

即座にルッカの意図を理解したNは、同じように筆談で返答を行う。
その中身は、この機械を置いた物や、それに影響された参加者の悪意を予想したものだった。

人間は醜く、そのために他人もポケモンも何でも利用する。
それが原因で傷ついていたポケモンをNは何度も見てきた。
トウヤとの戦いで、全ての人間がそうではないと分かったが、Nにはまだ人間への猜疑心が払拭されたわけではない。

「ちょっと静かにしてて、この機械の欠片の観察をしたい。」
『急に黙り始めたら、盗聴する側も怪しむ。』

言葉を話しつつ、Nは急に静かになった理由付けを行う。


その間にルッカはもう1枚、新たな紙に自分の意見を記す。

『だったら、「生還させる」と1番下に書かない?』
『それは、エサとして露骨すぎない?根拠はここ。』

サラサラとペンで言いたいことを書きながら、Nは首輪をペンを持っていない指で突く。

『カギと言われても、首輪にカギ穴どころか、針一本通す穴さえ見つからない。
君に会う前に、図書館にあった鏡できちんと見た。
だから、ここに展示しているカギも、偽物だと思う。』

76不思議の国の遊園地跡:修正 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/17(火) 00:37:46 ID:vsIGd2sI0

機械の上に置かれたレオナールの首輪を見つめる。
Nの言う通り、どうやって自分達に付けたのかおかしいくらい綺麗な金属環だ。
おかしな箇所があるとすれば、首輪の裏側にある、首との接触面の僅かなスキマのみだった。

だが、ルッカも冒険の中で、カギ一つとっても、様々な形の道具を見ていた。
ペンダントに反応して開いたジール王国の扉のように、鍵穴の有無は関係なこともある。


『なら、一番上の「写真付き名簿」ってどういうこと?どちらかというと襲撃側に不利よ。
それともこれも罠?』

マナは、『偽名を使ってる人も心配ない』と言ったが、まさにその人に対処できる道具だ。
Nと一緒に、病院で襲ってきた女性の名前を知ることや、Nにロボやクロノの姿を教えることも出来る。
仮に名前と写真がバラバラであっても、元々知っている人物の顔と示し合わせればすぐに偽物だと気づく。


Nは文字で一杯になった紙を裏返して、新たに言葉を綴り初める。
『そこが、相手を誘う方法。
最初の3つまで、戦いに有利になる道具を用意しておいて、信じた所で裏切る。』


Nの言うことは、一理あるとルッカも考えた。
パンの欠片をちりばめておいて、その欠片の先にあるパンの塊に口を付けた瞬間、仕掛けが作動する。
典型的だが、知らず知らずのうちに掛かってしまいがちなワナだ。


『最初の3つまで、戦いに有利になる道具を用意しておいて、信じた所で裏切る

なら、一番下の道具を残してそれ以外を取るのは?』

だが、幸運ながら、自分達は一人も殺すことなく首輪を一つ入手出来た。
折角主催者側が送ってくれた「プレゼント」なのだ。
どうにかして有効活用する手もあるだろう。
罠だとしても、パンの塊に口を付けずに欠片だけ貰っておけばよい話だ。


『どうかな。オーブが何なのか分からないからね。』




実はNの方も仮説を断定するには証拠が少なすぎている。
たとえこの機械が渡すものが本物だろうが偽物だろうが、今は役に立たないのは事実。
この機械を使うにせよ使わないにせよ、他の参加者に出会わなければならないようだ。


そして、遊園地には二人以外には誰もおらず、ロボを修理する手がかりもないようなので、他の場所へ行くことを提案する。

「ここで出来ることはないようね。」
「そうだね。じゃあ、別の場所に行こうか。」
「ここからなら、この学校とか近いかしら?」

この遊園地には、ロボットこそ多くいたが、それを分解、観察するための工具はない。
遊園施設で壊されていたロボットから回収したボルトや歯車、金属板ぐらいだ。

77不思議の国の遊園地跡:修正 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/17(火) 00:38:05 ID:vsIGd2sI0

新たな情報や手がかりを得るために、二人は遊園地を後にする。





しかし、この時二人は気付いていなかった。
それまで二人に無関心だったロボット、いや、機械生命体のうち一台が二人の後を付けてきていることを。
それが一体何なのか、二人はまだ知らない。



【E-6 遊園地廃墟入り口/一日目 朝】


【ルッカ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(小)、MP消費(小)
[装備]:水の羽衣@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(工具の類は入っていません)、医療器具 図書館の本何冊か(何を借りたかは次の書き手にお任せします。)  素材(機械生命体の欠片、ネジ、金属板など)
[思考・状況]
基本行動方針:人と工具を集め、ロボを正気に戻す。
また首輪を集め、解析、あるいは景品交換用に使う。
1.多少は割り切ることも必要なのかもしれないわ……。
2.工具箱が見つかれば、この首輪の解析でもしてみようかしら。
3.首輪を集めたら、首輪景品交換所を使う。
4.Nって不思議な人ね……
5.何のためにあんな機械を?

※遊園地廃墟にある、首輪景品交換所の情報を知りました。


【N@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[装備]:モンスターボール(トンベリ)@FF7、毒牙のナイフ@DQ11(トンベリが所持)
[道具]:基本支給品 本何冊か
[思考・状況]
基本行動方針:ルッカの理想に付き合う
1.ルッカと共に行動をする
2.新しい理想を手に入れる。



※ED後からの参戦です。
※遊園地廃墟にある、首輪景品交換所の情報を知りました。


※【E-6】 遊園地に、首輪と引き換えに戦いに有利になる道具を支給する機械が配置されています。
機械の上に乗せた首輪の数に応じて、道具が支給されます。
※他の場所にも似たような機械があるかどうかは、次の書き手にお任せします。

【支給モンスター状態表】


【トンベリ@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:健康
[持ち物]:毒牙のナイフ
[わざ]:ほうちょう みんなのうらみ 
[思考・状況]
基本行動方針:Nと行動を共にする、自分のほうちょうがほしい。



【機械生命体@Nier Automata】
[状態]:オールグリーン
[装備]:なし
[道具]:?
[思考・状況] ?
基本行動方針:ルッカとNを追いかける。

78不思議の国の遊園地跡:修正 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/17(火) 00:39:27 ID:vsIGd2sI0
修正案投下終了です。
変更点は主に>>75と>>76のみですが。

79 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/19(木) 00:35:12 ID:jW.0XgHg0
検討ありがとうございます。そして修正案投下お疲れ様です。
自分も投下させていただきますね。

80君の分まで背負うから ◆2zEnKfaCDc:2019/12/19(木) 00:35:47 ID:jW.0XgHg0
殺し合いなんてやりたくないから。そしてそう考えているのは自分だけではないと分かったから。もしかしたらこのまま、皆で協力して殺し合いを打破することが出来るのではないか。事実、これまで出会ってきた人物は悪意の無い者ばかりだった。このままこういう人たちばかりと出会い続ければ、もしかしたら誰も死ななくていいかもしれない。

それは、1人の少年の抱いた夢。
簡単に実現しないことはうっすらと分かっていたけれど、それでも信じていたかった。現実を直視するのが怖いから、まだそれに縋っていたかった。

そんな儚くも尊い夢が──粉々に砕ける音がしたような気がした。

悪夢のような定時放送の声が告げたのは、13人の死者の名前。

その中のほとんどは知らない名前だったけれど──たったひとつ、彼のよく知る名がその中に混ざりこんでいた。

「──グレイグ……?」

少年──イレブンは耳を疑った。グレイグが死んだという、想像できる未来の中でも特に起こり得ないであろう出来事をマナは語った。

人の死は唐突に突きつけられるものであると、特にイレブンは知っている。行方の分からなくなった仲間たちがいつの間にか死んでいるようなことは起こりうるのだ。
だけど、少なくともグレイグは生きているという信頼をイレブンは置いていた。それは単に年長者であるからかもしれないし、仲間たちの居場所が分からなくなって不安だった時にも彼は最初から自分と共にいてくれたからかもしれない。とにかく彼が居なくなるというイメージが、イレブンには浮かばなかった。

81君の分まで背負うから ◆2zEnKfaCDc:2019/12/19(木) 00:36:19 ID:jW.0XgHg0
『もしかしたら、死んだ人は皆最初に出会った幽霊のような魔物に殺されたのかもしれない。』

『それなら、今までと同じように魔物さえ倒せばいい。』

もしも放送で呼ばれた名前に彼の名前が無かったら、まだそのような儚い夢に縋ることが出来ていたのかもしれない。

だけどあの程度の魔物なんかにあの人が殺されるわけが無い。紛れもなく、グレイグを殺したのは人間だ。

そして、これもまたひとつの現実──グレイグを殺せるような人間が、この世界には居るということ。

幸か不幸か、イレブンがこれまで出会った参加者はダルケルとベルの2人だけ。ライデイン1発で沈んだあの幽霊にあれだけ苦戦していたということは、ダルケルもきっとそれほど強くは無い。おそらくはパーティーの誰が戦ったとしても勝てる相手だろう──真偽のほどはともかく、ナイトゴーストに物理攻撃が効かないことを知らないイレブンはそう思っていた。

そして当然、ベルも自分や仲間たちと渡り合えるような力は持っていない。この世界の大多数はそういった者たちなのだろうとすら思っていた。

だけどこの世界には、どんな手段かは分からないがデルカダールの英雄を殺した実力者が少なくとも1人はいる。1人いるということは2人いるかもしれなくて。延長していけば5人、10人、最悪の場合は60人以上いるかもしれなくて。

命の大樹が崩壊した時、世界中の魔物がより強く生まれ変わった。邪神が復活した時、世界中の魔物がより邪悪な存在へと変わった。世界のパワーバランスが崩れることなら2度経験している。
だけどこの世界は、とにかく未知だ。
敵の強さが分からない。
誰が敵なのかも分からない。

そんな世界で僕は、ベルを守れるだろうか──

……最悪の想像を振り払うように、頭を思いっきり横に振った。

82君の分まで背負うから ◆2zEnKfaCDc:2019/12/19(木) 00:38:12 ID:jW.0XgHg0
過ぎ去りし時を求めてもなお脳裏に焼き付いて離れない、大切な人の死を目の前にした光景。
ここまで死と隣り合わせの世界だと嫌でも思い出してしまうし、ネガティブになってしまう。

もう誰にもあんな思いはして欲しくなかったから。もう誰も犠牲になって欲しくなんかなかったから。だから僕は、過ぎ去りし時を求めた。

その先の世界では、ベロニカを含む全員が笑っていられる世界なのだと信じて────


「──チェレン…………?」

その時、イレブンの隣から声が聞こえてきた。

「今の放送……呼ばれてたのは死んだ人なんだよね……?」

まるで、この世の終わりを見たかのような、か細い声。

「そんなの、うそ……だよ……ね……?」


『──お姉さま……私たちを助けるために……。』

声の主であるベルの姿が、ベロニカの最期の記憶を見たあの時のセーニャの姿と重なった気がした。そんなベルの姿を見た時、ようやく理解した。

僕は失敗したんだ。
皆が笑顔になれる未来を作れなかったんだ。
また僕は、平和な"時"を失ってしまったんだ。

83君の分まで背負うから ◆2zEnKfaCDc:2019/12/19(木) 00:38:48 ID:jW.0XgHg0
「いやだ……いやだよぉ……」

イレブンだけではなく、ベルも分かっている──あの放送は現実のものであると。そう断言出来る根拠こそ無いが、自身に嵌められた首輪の意味することくらいはベルにも分かる。

『警告:居場所を特定される危険性アリ。参加者ベルは声を抑えるべき。』

ポッドが客観的かつ的確な"正論"を下すも、ベルは黙る様子は無い。

「チェレンはまだ14歳なのに死んじゃうなんて、そんなの……!」

野生のポケモンという物理的な脅威を乗り越えるためにかがくのちからを発展させてきたベルの世界の人間は、一部のポケモンの能力が医学分野に活用出来ていることも相まって平均寿命が高い。即死で無い限り怪我も病気も基本的に治るため、寿命以外での『死』に疎いのだ。つまり、魔物の脅威に晒され続けているイレブンの世界の人間とは『死』というものへの向き合い方が根本的に異なると言える。
特にカノコタウンという、強い野生のポケモンのいない閉鎖的な町で生きてきたベルにとっては、なおさら死は無縁のものであった。

だけどそんなことはイレブンの知る話ではない。あるいは知っていても関係ない。
重要なのは、また目の前にウルノーガのせいで悲しんでいる人がいるということだ。

「ベル……」

僕は彼女に、何と声を掛ければいいのだろう。
髪を切ることを皮切りに心を一新して立ち直ったセーニャとは違う。そんな強さを持っていないベルに、僕は何が言えるのだろう。

たくさん伝えたいことはあった。だけど言葉にならない。こんな時にまではずかしいが先行する自分が、はずかしい。

そうしてベルの名前だけ呼んで何も言えなくなったイレブン。
どうすれば、彼女の涙を止めてあげられる?
どうすれば、彼女が悲しまなくていい?
どうすれば────

84君の分まで背負うから ◆2zEnKfaCDc:2019/12/19(木) 00:41:00 ID:jW.0XgHg0
それ以上考えるより先に、イレブンは動いていた。

「──ラリホー。」

イレブンの呪文を受け、ぱたりと意識を失ってその場にベルは倒れ込む。先ほどまでと同じように、また寝息をたて始めたベルは、現実のショックから悪い夢でも見ているのだろうか。その目から涙はまだ止まらない。
そんなベルの姿を見て、イレブンはただただ申し訳なくなった。

(ごめん……僕が……ウルノーガをもう1回倒しきれなかったから……)

自分が過ぎ去りし時を求めたせいでウルノーガを滅ぼしきれない世界線になってこの殺し合いが開かれたのではないか──グレイグの死とベルの悲しみを突き付けられて、イレブンは罪の意識を背負ってしまった。自分が過ぎ去りし時を求めなければ、ウルノーガが殺し合いを開くこともなくあのまま平和が訪れていたのではないか。勿論全てはたられば論に過ぎない。しかしイレブンの心に影を落とすには充分な仮説であった。

『疑問:参加者イレブンのMPは極わずかのはず。戦い以外に使うのは非効率。』

横からポッドがまた客観的な意見を述べる。イレブンは今、自然回復していたMPまでもを使い切った。確かにそれは非効率的な行いなのだろう。

「うん……。でも──」

だがポッドが何を言おうとも、イレブンにはそうするしか無かった。冷静な分析など、あの状況で出来るはずもなかった。

「たぶん、これでよかったんだと思う。」

それに──結果論ではあるがベルを眠らせたことについてイレブンは後悔していない。

『……理解不能。』

ただし、はずかしくてこれ以上の言葉を発せないイレブンの言葉ではポッドに理解させることも納得させることも出来ないようだ。

デルカダール王に化けたウルノーガによって自分が悪魔の子だと全世界に通達されていたあの時、誰が自分を狙っているのか分からなくて、罪もない人たちが自分を恐れているのが申し訳なくて、本当に不安だった。
だけどそんな中で支えてくれたのは、他ならぬ仲間たちだった。
今でも覚えている。グレイグの部隊に襲われて、海に落ちた自分を離さずにいてくれたマルティナを。彼女自身も落ちて怪我をしていたにも関わらず、気を失った自分を背負って小屋まで運んでくれた。記憶の奥底に残っているあの時のマルティナの体温はとても暖かくて、安心できた。

不安定な時くらい誰かに任せて眠っていたっていい。今はベルの分まで、僕が現実を背負うから。

85君の分まで背負うから ◆2zEnKfaCDc:2019/12/19(木) 00:43:08 ID:jW.0XgHg0

「……行こう。」

このままベルが起きるまで立ち止まっているわけにもいかないため、イレブンはベルを背中に担ぎ上げる。
童顔で小柄なイレブンの見た目とは裏腹に、ベルの身体はひょいと持ち上がりイレブンの背に収まった。

チェレンの名前が呼ばれてからはメモをする暇の無かった禁止エリアをポッドから聞いて、ベルを背負ったままイレブンは歩き始める。
目的地はイシの村。
早く仲間と合流出来そうな場所に向かいたい。ベルも落ち着いて話せる場所に連れて行きたい。

「……あっ。」

その時、イレブンは思い出した。

確かに、イレブン自身はマルティナに背負われている時、どこか安心感を覚えていた。だけどそれ以上に、強く感じた気持ちがあったことを今の今まで忘れていた。
そしてその気持ちは、背負う側・背負われる側の立場が逆転しても変わることは無いということに気付いてしまった。

『疑問:参加者イレブンの脈拍数の上昇を確認。何故?』

背負い上げたベルの身体が、イレブンの背中に密着する。よくない夢でもみているのか、時々嗚咽の混じる寝息がイレブンの髪の毛を揺らす。

イレブンは思った──この状況、かなりはずかしい、と。


【A-3/森/一日目 朝】
【イレブン@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:MP0、恥ずかしい呪いのかかった状態
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー、ポッド153@NieR:Automata
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(2個、呪いを解けるものではない)
[思考・状況]
基本行動方針:ああ、はずかしい はずかしい
1.イシの村へ向かう。
2.同じ対主催と情報を共有し、ウルノーガとマナを倒す。
3.はずかしい呪いを解く。
4.この殺し合いが開かれたのは、僕のせい……?

※ニズゼルファ撃破後からの参戦です。
※エマとの結婚はまだしていません。
※ポッドはEエンド後からの参戦です。


【ベル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[装備]:ランラン(ランタンこぞう)@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:最初の一歩を踏み出す。
1.イレブンについていく。
2.ポカポカ(ポカブ)を探す。


※1番道路に踏み出す直前からの参戦です。
※ランタンこぞうとポッドをポケモンだと思っています。


【モンスター状態表】
【ランラン(らんたんこぞう)】
[状態]:睡眠中、モンスターボール内
[持ち物]:なし
[わざ]:メラ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルについていく
1.睡眠中

【ポッド153@NieR:Automata】
[状態]:健康
[持ち物]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:???

86 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/19(木) 00:43:29 ID:jW.0XgHg0
投下終了しました。

87名無しさん:2019/12/28(土) 17:56:25 ID:PqF0WX2w0
明日毒吐き別館にてロワ語りが行われることを告知します

88 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 01:00:22 ID:q9wV2H.E0
魔王、オトモ、サクラダ、シルビア、ネメシスT型、イレブン、ベル予約します。

89 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:03:35 ID:q9wV2H.E0
投下します。

90そして、戦いは続く(前編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:04:09 ID:q9wV2H.E0
魔王達が橋を渡っている途中に、その放送は流れた。
自分達の場所とは離れた場所が禁止エリアに選ばれたため、問題はなかった。

だが、死者の名前が発表された時。
それまでのにぎやかだった3人(2人と1匹か?)は、嘘のように黙りこくってしまった。
ただシルビアもサクラダもオトモも、そして魔王も、互いの顔色のみ窺っていた。


どうにもいられず、そのまま橋の上で棒立ちになって転送されたらしき名簿をめくる。
薄っすらと魔王は予想していたが、クロノの名前が名簿に載せられていた。
おそらくサクラダやシルビアの仲間、オトモの言う旦那様とやらも参加させられているのだろう。


しかし魔王にとっては、参加名簿のことなどはさほど気にならなかった。


(グレン……。奴が、これほど短時間で倒されるか……?)
放送によると、彼は何者かの裏切りによって殺されたのだということが伺える。
だが、ラヴォスとの戦いの傷が癒えてなかったとはいえ、自分を討った相手だ。

確かに先程戦ったあの怪物のような相手なら、まだ負けてもおかしくはないだろう。
だが、裏切り程度のことであの男が死ぬとは到底思えなかった。


放送で呼ばれたその男の名前は、本名ではなく『カエル』だった。
しかし、自分の名前が『ジャキ』ではなく『魔王』として名簿に載せられていること。
そしてマナが『騎士道精神』と言ったことから、自分をかつて殺したカエルで間違いないと魔王は確信する。


そしてもう一人、魔王が思い浮かんだのはクロノのこと。
たかだか二人仲間を失ったくらいで、あの男が簡単に主催者の言いなりになるとは思えない。
だが、この13人という死者の数。そして、自分を倒した勢力が2人も死んだことを考えると、クロノも何時まで生きているか分からない。

確かにクロノと敵対しないためにも、殺し合いに乗らなかったことは正解だった。
だが、手掛かり一つ掴めない以上、目下魔王の行動方針として、今のメンバーのままでいるしかない。

「貴様たちの知り合いはいたのか。」
先程までのにぎやかな雰囲気はどうにも馴染めなかったが、この空気はそれ以上に気に入らなかった。
居ても立っても居られなかった魔王が話しかける。


「ええ。アタシの仲間のほとんどが呼ばれていたわ。」
「エノキダ達はいなかったのが良かったわ。でも、前アタシのお客さんだった人がいるのよ。」
「知り合いで呼ばれたのはご主人様だけだったニャ。」


魔王が心に引っかかったのは、もう一つあった。
名簿の中身が、てんでちぐはぐだったということ。
フルネームで書かれている名前、偽名と思しき名で書かれている名前、そして自分のように称号、呼ばれ名で書かれている名前。

それに、参加者選出方式。
知り合いが多く呼ばれている者、ほんの数人しか呼ばれていない者、ここにいるメンバーだけでも違いがある。

こうなると何の目的でこの戦いが始まったのか、まるで分からない。


「それとさ、ちょっと聞きたいことがあるのだけど。」
次に声を上げたのは、サクラダだった。

「アンタ達の知り合いに、『昔の人』は呼ばれてない?」

91そして、戦いは続く(前編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:04:30 ID:q9wV2H.E0
「確かに別の時代の人間がいたが、どういうことだ。何が言いたいのか説明しろ。」

シルビアとオトモの返答を待つより早く、魔王が問い返す。
「さっきウルボザって人が呼ばれたでしょ?その人、アタシのじいちゃんの時代、ハイラルの英傑の一人で有名な人なのよ。」


かつてハイラルを襲った大厄災の時に活躍していたゲルドの英傑、ウルボザ。
サクラダが産まれる前に、その命は果てたはずだが、この戦いに参加していたことに、驚きを隠せなかった。

「昔ではないが……5人(3人と1台と1匹か?)程、私の世界の未来から呼ばれている者がいる。」

「アタシは別の時代の人は呼ばれなかったけど、死んだ人が2人も呼ばれたわ。」
今度はシルビアが口をはさんだ。

「どんな奴等だ?」
「一人はアタシの仲間で、もう一人はウルノーガの手下で、アタシ達が前倒したはずなのよ。」

シルビアが話したのはベロニカと、ホメロスのことだった。


(仲間?ウルノーガの手下?倒したはず?)

その話を聞いて、魔王の予想が確信に至った
主催陣営に、死者を復活させる能力のみならず、時間を操る能力の持ち主がいる。


シルビアが、「ウルノーガはかつて自分達が倒した」と言っていたが、なぜ復活したのかも察しがつく。
何者かが自分と同じで、生き返らせたのか、あるいは生存している時期から呼び出したのだろう。


だとすると、この戦いを開いた人物は、予想以上に厄介な相手であると魔王は勘繰る。
よしんばこの世界で脱出し、なおかつ主催者の討伐に成功しても、時間を巻き戻されてしまう可能性があるからだ。


これは一刻も早く、クロノとの合流に成功しなければならない。
どういうカラクリか知らないが、時を渡ることが出来た奴等なら、時間を操る相手に対処できる可能性もある。


「ちょっ……昔とか、未来とかどういうことニャ?
それより、早くご主人様を探しに行くニャ!!」

オトモが急に立ち止まった三人をせかす。
「ああ、そうだな。」



短い返事で済ませ、先へ進もうとした瞬間、橋が揺れた。
地震かと一瞬魔王は思ったが、そうではなかった。

92そして、戦いは続く(前編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:04:45 ID:q9wV2H.E0



「あれは……。」
「ウソ……どうして?」

「VOOOOOOGAAAAAAAAAHHHHH!!!」
姿形こそ大きく変わっていたが、先程殺したと思っていた魔物だった。
死者に動揺する暇もなく、再び戦いに身を投じられる。


魔王の放った最強の冥属性魔法、ダークマターで、ネメシスに多大なダメージを与えたのは事実だ。
しかし、持ち前の生命力と筋力が、犠牲になったのをその防護服だけに留めた。
そして、その防護服を失ったことで、抑えられていた右腕と背中の触手が全て自由になった。


「ウソ!?どうして!?どうして生きているのよ!!」
大きく姿を変え、迫り来る追跡者の恐怖に、シルビアは恐れ慄く。


「何してるの!!早く逃げるわよ!!」
「魔王の旦那、ここは退却すべきだニャ!!」

既に橋を渡り終わったサクラダとオトモが、魔王を急かす。
しかし、巨体に似合わぬスピードでネメシスは迫り来る。
つい先ほどまで橋の向こう側にいたはずなのだが、すでに魔王達の近くまで来ている。
防護服が壊れ、むき出しになった右腕から出る無数の触手が、魔王に襲い掛かる。


「手を変えてきたか!!」
ネメシスのソリッドバズーカを持っていた右腕は、現在は無数の触手を纏っている。
単発の威力こそバズーカに劣るが、リーチや柔軟性、手数に関してはこちらが厄介だ。
魔王はダークボムで触手ごと本体を弾き飛ばす。
しかし、ネメシスは怯まずに触手の束を魔王に向けて振り回す。


「くっ……ダメージも止む無しか?」
「そうはいかないわ。ピオリム!!」

シルビアの力によって、急に体が軽くなった魔王は、ネメシスの攻撃を躱すことに成功する。

「まだよ……ボミオス!!」

今度はネメシスの体が重りでもつけられたかのように鈍くなる。
続いて魔王がアイスガをネメシスの手前に打つ。
鋭利で滑りやすい氷の塊は、ネメシスの動きを阻害するのに役立った。


細長い橋の上では攻撃を躱しにくい分、明らかに自分達が不利だ。
橋ではなく平原まで退却し、そこからネメシスを迎え撃つことにする。


ネメシスが橋から降りた所で、それぞれが散開し、新たな戦いが始まった。

93そして、戦いは続く(前編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:05:04 ID:q9wV2H.E0


「S.T.A.R.S!!」

ネメシスの触手を纏った拳が、襲い掛かる。
最初にターゲットになったのは、オトモだった。
「旦那様が来るまで、負けないニャ!!」

しかしオトモは七宝のナイフで触手を斬り付ける
「GWOOO!!」

使い手こそ凡庸だが、武器はハイラルでも特に優れた鋭さと軽さを持っているため、触手を数本斬り裂くことに成功した。
そして、彼もハンターと共に戦地を何度か経験している。
シルビアの補助魔法も相まって、ネメシスへの反撃を加えることが出来た。

その隙に魔王はネメシスの死角、片目が潰れている方に回り込み、再度ダークマターを撃つ準備をする。

しかし、いくらオトモ達が早くなり、ネメシスが遅くなっているとは言え、右腕と背中の触手全てを捌くことは出来ない。


オトモの剣も無視し、ネメシスはオトモを蹴飛ばそうとする。
「危ない!!」

シルビアはオトモを抱えて全力疾走。
間一髪で二人共蹴りの餌食にならずに済む。

追加で右腕から触手が襲い掛かる。
しかし、シルビアの曲芸で鍛えた素早さで、肩を掠めるだけに終わる。
触手の先に着いたウイルスも、星のペンダントの力で解毒される。

今度はネメシスの背中の触手が、魔王に襲い来る。
止む無く詠唱を中断し、後ろへ退く。



どうにか魔力が切れる前に、シルビア達の体力が切れる前に倒さねば。
しかし、不意を突くのも難しい中、反撃のタイミングを掴めない。

ネメシスは怯まず、触手を振り回す。


「こいつ、一体何だニャ!?」
何度かミッションに出向き、巨大なモンスターを見たことがあるオトモにさえ、ネメシスは異常な怪物だった。

「オトモちゃん!!サクラダちゃん!!危ないわ!!」
シルビアはオトモとサクラダに後ろへ下がれと指示する。


しかし、シルビア本人も、今の状況が極めて良くないことは理解していた。
自分は父のジエーゴの下で培った、騎士道の力はあるにせよ、やはり最前線で戦うのは得意ではない。
魔王もよく見ると、ベロニカのように魔法を中心とした戦術で攻めるのが得意なようだ。


一度目は不意を付けたが、二度も上手く行くとは思えない。
仮にシルビアの知らない技を知っていたとしても、武器を持っていない今は、それを使えない可能性もある。


今でこそぎりぎり均衡を保っているが、ピオリムが切れるか、体力が切れればその結末は見えている。

94そして、戦いは続く(前編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:05:29 ID:q9wV2H.E0
「S.T.A.R.S!!」
魔王は何度目か、ダークマターの詠唱を使うが、その度にネメシスの拳か、あるいは触手が襲い掛かる。

慌ててダークマターを、ほぼノータイムで使えるダークボムに切り替える。
だがそれではネメシスを怯ませることこそ出来るが、効果的なダメージは与えられない。
おまけに、今の一発で、ダークマターに必要な分の魔力まで使ってしまった。

身体が徐々に重くなるのを魔王は感じる。
体力の消耗ではない。シルビアに掛けてもらったピオリムの効果が薄れてきているのだ。


シルビアに追加の魔法をかけてもらいたい所だが、向こうもそれどころではないようだ。


八方塞がり、という所で、後方から銃弾が聞こえる。




まずい、新たな敵襲か、と思うがそうではないとシルビアの声が教えた。
「イレブンちゃん!!」


魔王達も、その男がすぐにシルビアの仲間だということが分かった。
背中で眠っている少女と、銃弾を撃ったらしい横を飛んでいる機械のようなものは何なのか説明はなかったが。

95そして、戦いは続く(前編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:05:46 ID:q9wV2H.E0
以上で前編投下終了です。

96そして、戦いは続く(後編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:06:18 ID:q9wV2H.E0

(あれは……シルビア!?)
遠くで見えたのは、かつての仲間の一人。

そして、見知らぬモンスターがいる。


「ポッド、頼む!」

(!?)
ポッドの放った弾は、全てネメシスから逸れた。
外したようには見えなかった。だが、弾は不自然な弾道を持って、敵から外れたのだ。
『推奨:退却。ネメシス・T型の周りに電磁波確認。恐らく遠距離武器全て無効。』



「そんなことするわけにはいかないだろ!!」
ポッドの勧めを無視し、鎌を片手にイレブンはネメシスに向かって行く。


魔力はない。ポッドの銃弾は何故か当たらない。従って、この鎌のみが頼れる武器になる。
いつ恥ずかしくなってしまうのかも分からない。
だが、人を襲っているモンスターを見逃すわけにはいかない。
ましてや、襲われている人の一人が、かつての仲間だ。


絶望の鎌を振り回し、ネメシスに斬りかかる。
しかし、ネメシスは後ろに飛びのいて、斬撃を躱す。

巨体らしからぬ身のこなしに驚くイレブンに、多数の触手が襲い掛かる。


(!?)
「鎌と言うのは、こう使うのだ。」

しかし、その触手はイレブンに触れることなく切り落とされた。
イレブンの鎌の使い方を見かねた魔王が、鎌を奪い、触手を即座に切り落としたのだ。


そして魔王はもう一閃。追加で何本かの触手が切り落とされ、ネメシスの胴体にも裂傷が入る。


本来草刈りや麦刈りで使われる鎌は、敵との戦いでは上手くダメージを与えるのは難しい。
だが、その反面一たび使い慣れれば、遠心力を用いて剣や槍にも劣らぬ威力を発揮する。


そして、対ネメシス勢力が優勢になったのは、魔王に新たな武器と、戦力が手に入ったことのみではなかった。

「ちょっと、そこのアナタ!!女の子をおぶって戦うなんて危険よ!!アタシに貸して!!」
「この剣、あげるニャ!!あの怪物はボクじゃとても倒せないニャ!!」

97そして、戦いは続く(後編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:06:40 ID:q9wV2H.E0

サクラダとオトモが、それぞれイレブンのアシストを行う。
ここまで視線を浴びたのは、ニズゼルファを倒し、イシの村から称賛を受けた時以来だ。
イレブンは視線を落としてしまう。


(やっぱり……恥ずかしい……。)
「イレブンちゃん、何やってるのよ!行くわよ!!」
シルビアがツッコミを入れ、イレブンを奮い立たせる。


再度戦線復帰し、魔王とイレブンが前線。シルビアが一歩引いてそのサポートを行う。


「S.T.A.R.S!!」
ネメシスの拳が魔王に襲い掛かる。
だが、イレブンがネメシスの二の腕を斬り付けたため、パンチのスピードが落ちる。
魔王は後ろへ退き、カウンターとばかりに鎌の一撃を見舞う。


シルビアが魔王が付けた裂傷の部分に青龍刀を突き刺し、傷が治る前に広げる。

今度は魔王達が、ネメシスを押し始める。
即席で作ったメンバーにしては、非常にバランスが取れた戦いだった。
魔王の鎌と、イレブンの片手剣、そしてシルビアの短剣。
それぞれリーチが異なる反面、それぞれ異なる攻撃が出来る。
加えて、魔王とイレブンにはシルビアのバイキルトがによって、攻撃力がさらに増している。

勢いに乗るイレブンとシルビアは、既にゾーン状態に入っていた。


だが、イレブンも魔王も、そしてシルビアも引っかかる所があった。

この怪物は、いつになったら倒れるのかと。
ダメージこそ着実に増やしている。
だが、ネメシスはなおも生命どころか、スタミナ切れする気配すら見せない。
常に全力、フルスイングで攻撃して来る。


「イレブンちゃん、れんけい技行くわ!!メラハリケーンよ!!」
「……わかった。」

ゾーン状態の勢いを魔力に替えたれんけい技なら魔力がない今の自分でも、破壊力に優れた攻撃を入れることが出来る。
だが、自分とシルビアが今まで使ったれんけい技は、味方を補助する技が多かった。

数少ない攻撃の中でもメラハリケーンだけでは完全に倒しきるのは難しいような気がした。

98そして、戦いは続く(後編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:07:11 ID:q9wV2H.E0

「S.T.A.R.S!!」
ネメシスが唸り声をあげて、まだ斬られていない触手を振り回す。
だが、それが当たる前に、シルビアが竜巻魔法を、イレブンが炎魔法をネメシスにぶつける。

「「焼き付くせ!!メラハリケーン!!」」
「グゥオオオOOOオオHHHH!!」

炎の竜巻が発生する。
しかし、紅蓮の渦巻きに焼かれ、引きちぎられながらも、ネメシスは反撃に出ようとする。
その姿は、さながら炎の巨人、イフリートの様だった。


「こうすれば良いのだな!」


だが、手札はもう一枚あった。
紅蓮の竜巻の色が、更に濃くなる。
魔王は古代のジール王国にいた時、魔法学者から、数人でないと使うことが出来ない魔法があると聞いていた。
そしてクロノ達が自分と戦った際に、そのような技を使っていた。
実際に魔王が使ってみるのは初めてだが、元々魔王の世界にはない、風属性の技が新たな可能性を創り出した。


炎の軌道を調節する力は、竜巻の全範囲に炎を行き渡らせ、壊すことなく火力のみを強くした。
炎の竜巻に魔王のファイガを加え、火力はネメシスを燃やし尽くすほどに広がり、竜巻もネメシスを覆い隠すほど高く、広くなる。


「スタアァァァ………ァア……ズ!!」
炎の竜に巻かれる、ネメシスの声が聞こえる。

メラハリケーン、もといファイガハリケーンが晴れる。
そこに残っていたのは巨大な消し炭と、唯一竜巻から逃れたネメシスの豪傑の腕輪が付いた片腕、そして切り落とされた触手だけだった。


「すごいニャ!!どうやったらこんな技を出せるんだニャ!?」
「アンタもイケメンだし、強いのね。」
オトモとサクラダが感心して、イレブンの方を見る。

「………!!」

イレブンは急に顔を隠した。
「…何か悪いことしたかニャ!?」
「ごめんね。このコ、ちょっと恥ずかしがり屋なのよ。」


シルビアがイレブンのことを説明する。

「ところでイレブンちゃん。しばらく見ない間に、凄く強くなってない?
見違えたみたいよ!」


「え?それってどういう……。あと、見つめられると……。」
イレブンはシルビアの言葉に疑問を抱く。
シルビアや他の仲間たちと協力して、ニズゼルファを倒して以来、特に手強い敵との戦いや集中的な鍛錬を行っていなかった。

「謙遜しなくていいわ。とりあえず、またよろしくね。」
邪神を倒した者と、倒してない者の違い。
この二人はまだ知ることが無かった。


そして、会話を通じて伝えられることもなかった。

99そして、戦いは続く(後編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:07:35 ID:q9wV2H.E0

ネメシスの唯一残された、落ちた左腕がズズ、と動く。

「危険:ネメシスの、生存反応、アリ。」

鋭利な触手を掴み、ダーツのように投げる。
この戦いの参加者を死ぬまで、否、死しても狩り続けるように指示されたネメシスの意思だろうか。
それとも、改造に改造を繰り返されたネメシスの生命力だろうか。


狙われたのは、ベルをなおも背負って、かつ反射神経が一般人レベルのサクラダ。
「!!?」

ポッドの声を聞いた後では、もう遅かった。
声にならない悲鳴を上げる。
もう遅い。
背中の少女ごと、貫かれる。


イレブンは七宝のナイフで、残されたネメシスの腕を滅多切りにする。
肉塊になったそれは、暫くビクビクと痙攣したのち、完全に動かなくなった。



「なん……で。」
「どうしてよ。」


どうしようもない量の血が流れる。
シルビアの赤い服を、更に紅く染めて行く。

「どうして、アナタが死んでるのよ!!」
あの時、触手で刺されたはずのサクラダが、そして無傷で泣きじゃくっている。
咄嗟に騎士道の力を思い出したのか、シルビアがその盾になって、攻撃を受けたのだ。

「シルビア、しっかりしてくれ!!」
「死んじゃダメだニャ!!生き返ってニャ!!」


イレブンは回復魔法が使えない中、どうにかして血を止めようとする。
だが、使えそうな道具は自分の服と水くらいしか無さそうだ。
オトモはカバンをひっくり返し、回復薬になりそうなものを探す。

「アタシ、旅芸人だからさ……。」
「喋ったらダメニャ!!傷が………。」
「皆、泣いて欲しくないわ…。」

「なあ!何か、回復魔法は覚えてないのか?」
「残念だが……。」

イレブンは、佇んでいる魔王にも声をかける。
魔王はその言葉を簡単に終わらせる。



「みんな。アタシがいなくても、がんばってね。」

もう、この場で彼を助けることは出来る者も、出来る道具もなかった。

100そして、戦いは続く(後編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:07:53 ID:q9wV2H.E0

★★★★★★★★★★★★★★


少しずつ、激痛が収まり、代わりに意識が途切れ途切れになっていったのはシルビアにも理解できた。

(諦めないでね。イレブンちゃん、みんな……。)
(あなた達なら、きっとこの殺し合いも止められるわ)


眼を開ける。
そこは、真っ暗だった。
真っ暗な空間の先に、紫色の髪の、一人の大柄な男が立っていた。


「案外、早い再会になっちゃったわね。グレイグ。」

★★★★★★★★★★★★★★

「提案:この先の行動の決意。」
ポッドがシルビアを埋葬する暇もなく、電子音を出す。

「時間がない。イレブン。これからどうするか作戦を練るぞ。」
魔王もそれに同意して冷たく言い放つ。
たった今一人の人間が死ぬ所を見せつけられた。
このような怪物が跳梁跋扈している世界では、クロノもいつまで生きているか分からない。


「イシの村に集まろうとしていた……。」
「そうか。私達はハイラル城へ向かおうとしていた。イシの村は横切っただけだが、貴様の仲間らしき者はいなかったぞ。」


時間は残酷だ。
シルビアの死を悲しむ暇も与えてくれない。
むしろこうしている間も、仲間の死の可能性が増していく。


生存している仲間の発見、凶悪な参加者の排除、首輪の解除。
やらなければならないことは山積みだ。


どうするか、どこへ向かうか考えないといけない。
サクラダを見やる。
元々疲れていたからか、今でもベルは寝息を立てている。



イレブンが唯一良かったと思ったこと。
それはベルが、目を覚まさなかったことだった。
彼女に魔物を殺す所、そして、人が死ぬ所を見せずに済んだのが、何よりの救いだった。




【ネメシスーT型@BIOHAZARD3 死亡確認】
【シルビア@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて 死亡確認】
【残り55名】

101そして、戦いは続く(後編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:08:11 ID:q9wV2H.E0

【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:HP1/3 腹部打撲 MPほぼ0
[装備]: 絶望の鎌@DQ11
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(確認済み、クロノ達が魔王の前で使っていた道具は無い。) 勇者バッジ@クロノ・トリガー
[思考・状況]
基本行動方針:クロノを探し、協力してゲームから脱出する 。もしクロノが死ねば……?
1. ハイラル城かイシの村どちらかへ向かう




※分岐ルートで「はい」を選び、本編死亡した直後からの参戦です。


【オトモ(オトモアイルー)@MONSTER HUNTER X】
[状態]:健康 疲労(中)  シルビアの死の悲しみ
[装備]: なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(確認済み) ソリッドバズーカ@FF7
[思考・状況]
基本行動方針:魔王に着いていく。
1.旦那様(男ハンター@MONSTER HUNTER X)もここにいるのかニャ?
2.他の人に着いていくよりは魔王さんに着いて行った方が安心な気がするニャ。
※人の話を聞かないタイプ


【サクラダ@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康 疲労(大) シルビアの死に悲しみ。
[装備]:鉄のハンマー@ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品  余った薪の束×2
[思考・状況]
基本行動方針: ハイラル城を目指し、殺し合いに参加しているかもしれないエノキダを探す。
1.悪趣味な建物があれば、改築していく。シルビアと行動する。



※依頼 羽ばたけ、サクラダ工務店 クリア後。




【A-3/森/一日目 朝】
【イレブン@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:MP0、恥ずかしい呪いのかかった状態
[装備]:七宝のナイフ @ブレスオブザワイルド ポッド153@NieR:Automata
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(2個、呪いを解けるものではない)
[思考・状況]
基本行動方針:ああ、はずかしい はずかしい
1.イシの村へ向かう?ハイラル城へ向かう?
2.同じ対主催と情報を共有し、ウルノーガとマナを倒す。
3.はずかしい呪いを解く。
4.この殺し合いが開かれたのは、僕のせい……?


※ニズゼルファ撃破後からの参戦です。
※エマとの結婚はまだしていません。
※ポッドはEエンド後からの参戦です。



【ベル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:眠り
[装備]:ランラン(ランタンこぞう)@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:最初の一歩を踏み出す。
1.イレブンについていく。
2.ポカポカ(ポカブ)を探す。



※1番道路に踏み出す直前からの参戦です。
※ランタンこぞうとポッドをポケモンだと思っています。



【モンスター状態表】
【ランラン(らんたんこぞう)】
[状態]:睡眠中、モンスターボール内
[持ち物]:なし
[わざ]:メラ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルについていく
1.睡眠中


【ポッド153@NieR:Automata】
[状態]:健康
[持ち物]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:???

102そして、戦いは続く(後編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:09:51 ID:q9wV2H.E0
投下終了です。
このゲームキャラ・バトルロワイヤルと言う企画で、何度も投下出来て楽しい1年でした。
同じ書き手の方も、読者の皆様も、良いお年をお迎えください。

103名無しさん:2019/12/31(火) 21:49:49 ID:i//SrZ0A0
投下乙です
シルビア…南無
残ったメンバー、数こそ多いけどほぼ非戦闘員な奴とほぼMP0の奴しかいねえのは不安だな

後、96なんですが、「そんなことするわけにはいかないだろ」の前に文章が抜けているのではないでしょうか

104 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/31(火) 22:15:26 ID:rLOdWX5E0
投下お疲れ様です。
来たる新年でも宜しくお願いします。

今年を締めくくる、白熱の戦闘回。
とにかく書き手枠の密度が高いのもあって、様々な参戦作品の要素が垣間見えるのが面白いですね。いずれドラクエとクロノトリガーで連携技を使うとは思っていましたが、メラハリケーンに気を取られて不意を突かれた気分でした。異なる世界の常識がクロスオーバーする様はいつ見ても熱い。
今回の書き手枠については『サクラダは死にそう』『オトモはサクラダほどではないけど死にそう』『ネメシスは生き残って次の話まで追っかけて来そう』という予想だったので完全にひっくり返された形でした。

そして参戦時期的に使えないはずのシルビアの『かばう』が中々深い。放送でグレイグの死について描写している限りでは反応が薄かったけれど、やっぱり昔からの友として想いを馳せていたところがあったのでは。そして騎士道を思い出せたのも、その回顧があったからでは。死亡時にグレイグと出会っているところからも死者からのメッセージのような何かを受信したかのよう。答えがハッキリと描写されていないからこそ色々と想像の余地があって面白いですね。

105そして、戦いは続く(後編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 22:20:16 ID:q9wV2H.E0
>>103
感想ありがとうございます。
確かに魔力ほとんど使い切ってしまいましたからね……。
補助役がいなくなるとゲームでもつらいですが、パロロワでも同じことになりそうです。

>96なんですが、「そんなことするわけにはいかないだろ」の前に文章が抜けているのではないでしょうか

二行抜けてました。以下、抜けていた場所を埋めた文になります。


(!?)
ポッドの放った弾は、全てネメシスから逸れた。
外したようには見えなかった。だが、弾は不自然な弾道を持って、敵から外れたのだ。
『推奨:退却。ネメシス・T型の周りに電磁波確認。恐らく遠距離武器全て無効。』

何やらポッドは、敵の情報を知っているようだが、逃げる気は全く起きなかった。
また恥ずかしくなる可能性があっても、勇者の決意が仲間を見捨てることを許さなかった。

「そんなことするわけにはいかないだろ!!」
ポッドの勧めを無視し、鎌を片手にイレブンはネメシスに向かって行く。

106 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/31(火) 22:44:04 ID:rLOdWX5E0
9S、星井美希予約します。

107名無しさん:2019/12/31(火) 22:48:16 ID:i//SrZ0A0
>>105
追記乙です
本当に抜けてる文章があったみたいですが、さっきの指摘、ポッドの「推奨:退却」の一文を見逃してた故の勘違いによる指摘でした、すみません

108そして、戦いは続く(後編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 22:53:55 ID:q9wV2H.E0
申し訳ありません。

居場所とシルビア、ネメシスの支給品の行方書いてなかったので、追加で書いておきます。

【A-2/草原/一日目 朝】

【オトモ(オトモアイルー)@MONSTER HUNTER X】
[状態]:健康 疲労(中)  シルビアの死の悲しみ
[装備]: 青龍刀@龍が如く極 星のペンダント@FF7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(確認済み) ソリッドバズーカ@FF7
[思考・状況]
基本行動方針:魔王に着いていく。
1.旦那様(男ハンター@MONSTER HUNTER X)もここにいるのかニャ?
2.他の人に着いていくよりは魔王さんに着いて行った方が安心な気がするニャ。
※人の話を聞かないタイプ


【サクラダ@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康 疲労(大) シルビアの死に悲しみ。
[装備]:鉄のハンマー@ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品  余った薪の束×2
[思考・状況]
基本行動方針: ハイラル城を目指し、殺し合いに参加しているかもしれないエノキダを探す。
1.悪趣味な建物があれば、改築していく。シルビアと行動する。



※依頼 羽ばたけ、サクラダ工務店 クリア後。





【イレブン@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:MP0、恥ずかしい呪いのかかった状態
[装備]:七宝のナイフ @ブレスオブザワイルド ポッド153@NieR:Automata  豪傑の腕輪@DQ11
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(2個、呪いを解けるものではない)
[思考・状況]
基本行動方針:ああ、はずかしい はずかしい
1.イシの村へ向かう?ハイラル城へ向かう?
2.同じ対主催と情報を共有し、ウルノーガとマナを倒す。
3.はずかしい呪いを解く。
4.この殺し合いが開かれたのは、僕のせい……?


※ニズゼルファ撃破後からの参戦です。
※エマとの結婚はまだしていません。
※ポッドはEエンド後からの参戦です。



【ベル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:眠り
[装備]:ランラン(ランタンこぞう)@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:最初の一歩を踏み出す。
1.イレブンについていく。
2.ポカポカ(ポカブ)を探す。



※1番道路に踏み出す直前からの参戦です。
※ランタンこぞうとポッドをポケモンだと思っています。



【モンスター状態表】
【ランラン(らんたんこぞう)】
[状態]:睡眠中、モンスターボール内
[持ち物]:なし
[わざ]:メラ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルについていく
1.睡眠中


【ポッド153@NieR:Automata】
[状態]:健康
[持ち物]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:???

※ネメシスの「電磁波発生装置」は崩壊しました。

109そして、戦いは続く(後編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 23:44:33 ID:q9wV2H.E0
何度も申し訳ありません。サクラダとオトモの行動方針修正し忘れてました。


【オトモ(オトモアイルー)@MONSTER HUNTER X】
[状態]:健康 疲労(中)  シルビアの死の悲しみ
[装備]: 青龍刀@龍が如く極 星のペンダント@FF7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(確認済み) ソリッドバズーカ@FF7
[思考・状況]
基本行動方針:魔王に着いていく。
1.ご主人様、今頃どうしているニャ?


【サクラダ@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康 疲労(大) シルビアの死に悲しみ。
[装備]:鉄のハンマー@ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品  余った薪の束×2
[思考・状況]
基本行動方針: ハイラル城を目指し、殺し合いに参加しているかもしれないエノキダを探す。
1.悪趣味な建物があれば、改築していく。魔王、イレブン達と行動する

110 ◆OmtW54r7Tc:2020/01/02(木) 02:04:35 ID:sN7qUQj.0
ミリーナ、マルティナで予約します

111 ◆OmtW54r7Tc:2020/01/02(木) 09:29:50 ID:sN7qUQj.0
投下します

112選ぶんじゃねえ、もう選んだんだよ ◆OmtW54r7Tc:2020/01/02(木) 09:31:08 ID:sN7qUQj.0
(セーニャ…シルビア……それにベロニカ!?)

カームの街から南下し、E-2の橋を渡っている途中で、マルティナとミリーナは放送を聞くことになった。
放送が終わり、名簿を確認したマルティナは、知った名の多さに頭を抱える。
ウルノーガが関わっている時点で、予想できてはいたが…まさか死んだベロニカの名前まであるとは。
とりあえず、ロウの名前がないことには安堵した。
しかし、ベロニカの名前があるのはどういうことだろう。
部下のホメロスはともかく、ウルノーガにとっては敵である彼女を復活させる理由などないように思うが…

(グレイグ…)

唯一知っている者で呼ばれた名前が彼であることに、悲しみと同時にどこか納得を覚えていた。
彼はデルカダールの、そして勇者の盾であった。
本当は人一倍繊細なのに、自分が傷つくのを厭わない。
自分の命すら、捨てることになろうとも前に出て、盾となる。
そんな彼にとって、殺し合いという舞台は…生き残るには厳しい場所だったのだろう。

「知り合いの名前があったの?」

声をかけられ、顔をあげる。
そこにいたのは、黒衣の女性。
現在の、同行者だ。

「…そういえば、一つ訂正しておかないといけないことがあったわ」
「なにかしら?」
「私とあなたは殺しの為に同盟を組んだけれど、私の目的はとある人を守ること。だから『彼』と合流した時点で同盟は解消。それと仲間には手を出さないで」

マルティナの言葉に、黒衣の女性―ミリーナは一瞬驚いた表情となった後、なにかを考えこんだ様子で俯いた。
そして、やがて顔をあげると言った。

113選ぶんじゃねえ、もう選んだんだよ ◆OmtW54r7Tc:2020/01/02(木) 09:32:45 ID:sN7qUQj.0
「一応聞くけど、もし断ったらどうなるのかしら?」
「同盟をこの場で解消して、あなたを殺すわ」
「…一つ忠告しておくわ」
「忠告?」
「あなたは、ほかの人間を殺してでもその『彼』を守りたいんでしょう?それなら…『彼』以外の仲間を例外とするべきではないわ」
「…彼らはずっと旅してきた仲間よ。彼らなら、信用できる」
「甘いわね」

マルティナの反論に、ミリーナはノータイムでピシャリと言い放つ。
彼女が言うことが分かっていたかのように。

「さっきの放送で、カエルという参加者についてマナが言ったこと、覚えてるかしら?」
「え、ええ…仲間に殺されたって言ってたかしら」
「そう…それがこの場所の現実よ」

ミリーナの言葉に、マルティナは言葉に詰まる。
確かにミリーナの言葉は一理あるのかもしれない。
だけど…それでも私は仲間を…

「仲間を信じてる、だから殺さない…とでも言いたいのかしら?」
「!?」
「その考えは甘いわ。現にあなたが殺し合いに乗っているのに、他の人はそうじゃないとどうして言えるの?」
「それは…でも……!」

分かってる。
分かってはいるのだ。
自分の考えが甘いことは。
イレブン以外の参加者は例外なく全員殺すと決めたのに、殺し合いに乗っていなかったソニックを襲ったのに、元の世界の仲間は見逃すなど、道理が通らない。
だが…仮に彼らに出会ったとして、自分に彼らを殺せるのか?

(ああそっか。信用できるとか信じてるとかじゃない…私の覚悟が足りないから、逃げてるだけなんだ)

114選ぶんじゃねえ、もう選んだんだよ ◆OmtW54r7Tc:2020/01/02(木) 09:33:36 ID:sN7qUQj.0
実際に仲間に出会ったとき、殺せる気がしない。
だから信用できるとか信じてるとか、都合のいい理屈を持ち出して日和っているのだ。
これじゃあ…だめだ。

「…ごめんなさい、マルティナ」

と、そんなことを考えていると、突然ミリーナが謝ってきた。

「少しイライラしてたみたい。仲間を殺すなんてこと…そう簡単に決意できるわけないのに」
「いえ、そんなことは…」
「とりあえず、『彼』については…もしその人と出会ったときは私たちは解散。次に会った時はあなたも、その人も殺す」
「次なんてないわ。その時はその場であなたを殺す」

マルティナとミリーナとの間に、一瞬火花が飛び散り緊張が走った。
しかしすぐに緊張を解いて切り替えると、ミリーナはいった。

「他の仲間については、とりあえずあなたの中で結論が出るまで保留とするわ。ただ…なにもかも守ろうなんて、甘い考えだってことは言っておくわ」
「そういえば聞いてなかったけど、あなたは仲間や知り合いは呼ばれてないの?」
「…1人だけ、いた」
「『いた』ってことはつまり…」

放送で呼ばれた、ということだろう。
つまり、この殺し合いの舞台に彼女の知り合いはもういない。
彼女は、自分と違って殺さずにすむのだ。

115選ぶんじゃねえ、もう選んだんだよ ◆OmtW54r7Tc:2020/01/02(木) 09:34:49 ID:sN7qUQj.0
そんなマルティナの考えは、しかしミリーナの次の一言で吹き飛んだ。

「ええ、死んだわ。数時間前、私に殺されてね」
「!?」
「さあ、そろそろ行きましょ」

無表情でそう言うミリーナを、マルティナは打ちのめされたような表情で見つめる。

「ま、待って!」
「どうしたの?」
「あなたは…どうして優勝を目指すの?」

気が付けば、思わずそんなことを聞いていた。
聞かずにはいられなかった。
いったい何が彼女を動かすのか。
仲間を殺してでも優勝を目指す理由はなんなのか。
マルティナの問いに、ミリーナはやはり無表情で答えた。

「あなたと同じよ。元の世界にいる大切な『彼』を救うため。守るために戦うのよ」
「私と…同じ」

違う。
彼女は、自分とは違う。
願い自体は似ているのに、同じなのに、全然違う。
自分と違って…既に覚悟ができている。

(悔しい…)

自分と、同じ願いを持っているはずなのに。
それなのに彼女は、自分よりずっと先へと進んでいる。
それが、とても悔しい。

(私も…私だって……!)

毒を以て毒を制す。
彼女、マルティナのやろうとしていることはまさにこの言葉の通りである。

毒(ミリーナ)を以て毒(他参加者)を制す。
ミリーナという毒は、彼女の精神を蝕んでいた。


(上手く焚きつけられた、かしら)

マルティナの様子をみながら、ミリーナは考える。
彼女のスタンスが優勝ではなく、特定の参加者の守護だったのは、誤算だった。
しかも、仲間という例外を作ってしまっている。
ミリーナだって春香と出会ったときは躊躇してしまったから気持ちは分かるが、彼女には自分と同じところまで堕ちてもらわないといけない。
だから、話の流れの中で春香殺害の事や自分の目的が彼女と似ていることを漏らした。
自分と同じような目的で殺し合いに乗った者が、既に仲間殺しを実現しているという話を聞いて、焦りや対抗心を抱いてくれることを期待してだ。

116選ぶんじゃねえ、もう選んだんだよ ◆OmtW54r7Tc:2020/01/02(木) 09:35:46 ID:sN7qUQj.0
(それにしても、本当に似てるわ)

マルティナの目的を知ったミリーナは、思う。
その『彼』-イレブンとの関係までは知らないが、彼女もまた大切な人を守るために戦っているのだ。
違いがあるとすれば…彼女の守るべき人はイクスと違いこの殺し合いに呼ばれているということ。
鏡の中に閉じ込められたイクスと違って、手を伸ばせば届く場所に、触れられる場所にいるのだ。

(羨ましい…な)

他の仲間はともかく、イレブンのことについては、止めるのは難しいだろうと諦めた。
大切な人を修羅の道を進んででも守ろうとするその気持ちは、痛いほどに分かるから。
だからといって、手心を加える気はないが。

(とりあえず、そのイレブンって人以外の仲間とは、遭遇したいとこね。その人たちを…マルティナに殺させる)

それは、マルティナに仲間殺しの決意を促すというのもあるが、もう一つ思惑がある。
マルティナはイレブンと出会った時点で同盟を解消すると言っていた。
しかし、実際に人を殺してしまえば、合流することに心理的抵抗を覚えるだろう。
それが仲間の命であれば、なおさらだ。
もしマルティナの方に躊躇がなかったとしても、イレブンの方が拒絶する可能性もある。
そこを、突くのだ。

それと、もう一つ。
この計画は、マルティナにも話しておく必要がある。

「あ、そうだマルティナ」
「どうしたの」
「名簿をじっくりと見て気づいたんだけど…さっき知り合いは一人って言ったけど、その知り合いの友人の名前があったの」

如月千早、星井美希、萩原雪歩、四条貴音。
いずれも、春香から同じアイドル事務所の仲間だと聞いていた。

「知り合いの知り合いってこと?それがどうしたの?」
「彼女たちはみんな戦う力を持たないはずなの。だから…彼女たちのうち一人を、人質として確保しようと思うわ」
「…あなた、考えることがエグいわね」
「勿論、戦う力を持ってなければ彼女たち以外でも構わないんだけど…彼女たちなら、私が春香の知り合いってことで、彼女たちやその同行者の油断を誘えると思うの」
「その油断を突いて、確保するってことね。分かったわ」

ミリーナの提案を、マルティナは了承する。
本音としてはこれ以上同行者を増やしたくない…とも思うのだが、ミリーナの言う通り、人質を確保しておいた方が効率はよさそうではある。
あのソニックのスピードだって、人質がいればゼロにすることが可能かもしれないのだ。
そう考えれば、悪くない。

「そろそろ行きましょう」
「ええ」

話を終えた二人は、再び橋を南下し始めた。
それぞれの大切な人を守るために。

117選ぶんじゃねえ、もう選んだんだよ ◆OmtW54r7Tc:2020/01/02(木) 09:38:23 ID:sN7qUQj.0
【E-2/橋上/一日目 朝】

【ミリーナ・ヴァイス@テイルズ オブ ザ レイズ】
[状態]:健康 カイムへの若干の恐怖
[装備]:魔鏡「決意、あらたに」@テイルズ オブ ザ レイズ  プロテクトメット
[道具]:基本支給品×2、不明支給品0~2、春香の不明支給品0~1
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する
1.マルティナと共に他の参加者を探し、殺す
2.春香の友人や、その他の非戦闘員の中から一人、人質を確保する。
3.イレブン以外のマルティナの仲間を、マルティナに殺させる


※参戦時期は第2部冒頭、一人でイクスを救おうとしていた最中です。
※魔鏡技以外の技は、ルミナスサークル以外は使用可能です。
※春香以外のアイマス勢は、名前のみ把握しています。


【マルティナ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)  腹部に打撲
[装備]:光鱗の槍@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、キメラの翼@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
ランダム支給品(1〜0個)
[思考・状況]
基本行動方針:イレブンと合流するまでミリーナと協力し、他の参加者を排除する。
1.もうあなたを失いたくない……。
2.カミュや他の仲間も、殺す?


※イレブンが過ぎ去りし時を求めて過去に戻り、取り残された世界からの参戦です。イレブンと別れて数ヶ月経過しています。

118 ◆OmtW54r7Tc:2020/01/02(木) 09:39:02 ID:sN7qUQj.0
投下終了です

119 ◆2zEnKfaCDc:2020/01/06(月) 22:43:07 ID:dprLDvu20
申し訳ありません。予約を破棄します。

120 ◆vV5.jnbCYw:2020/01/11(土) 23:15:12 ID:Xo4kZgjk0
鳴上悠、ピカチュウ、ティファ予約します。

121 ◆vV5.jnbCYw:2020/01/12(日) 23:50:41 ID:IzTUL8CE0
投下します。

122チョッカクスイチョク ◆vV5.jnbCYw:2020/01/12(日) 23:51:33 ID:IzTUL8CE0
「ったく……とんでもない目に遭ったな……。悠、ケガはないか?」
「俺は別に。ティファは?」
「私も……と言いたいけど、ちょっとキツいわね。」


悠は先程のロボとの戦いで、ティファが足を負傷したのが分かった。
しかし、ロボがティファの脚に攻撃を加えた素振りは見せなかった。
恐らく、相手がギリメカラのような物理反射のスキルを身に着けており、ティファはそのカウンターを食らったと、悠は結論付けた。


病院から抜け出し、3人は近くの空き家に避難していた。
悠のネコショウグンは脚を怪我したティファに、メディラマをかけ続けている。


「スゴイ術だな。一体どんな手品なんだ?」
ピカチュウは悠のペルソナ召喚と、その回復魔法を見て感心する。

「手品じゃない。ペルソナって言うんだ。」
「よく分からないけど、ポケモンとは違うみたいだな。」

それ以上悠は説明する気はなかった。
なにしろペルソナの力なんて、八十稲羽町に来るまでは、悠も信じてなかった。



「マテリアを媒体とした召喚とも、違うみたいね。」
「そのマテリアってのは知らないな。」
「私の手袋に付いているこれよ。」

ティファはパワー手袋の手の甲の部分に付いている紫色の宝玉を見せる。

「それで、ペルソナを出せるのか?」
「違うわ。これは自分のスピードが上がる能力があるのよ。
幻獣を召喚できるマテリアとは違うわ。」


どうやらマテリアもペルソナとどこか類似点があるようだ。
特定のスキルを持つペルソナは召喚するだけで召喚主、あるいはペルソナの強化につながる。
ネコショウグンの電撃ブースタなど、その一例だ。


「それくらいにして、そろそろ飯にするぞ。」
互いの世界の話し合いを、ピカチュウが一度制す。


「あんな惨劇を見たら食欲なんて失せるかもしれないけど、食べなきゃこの先持たないからな。」
そう言ったピカチュウはザックの中からサンドウィッチを出して、頬張り始める。

「ほーら、腹が減っただろ。沢山食べな。」
「ブーブー!!」
勿論、ポカブに食べさせることも忘れずに。

123チョッカクスイチョク ◆vV5.jnbCYw:2020/01/12(日) 23:52:02 ID:IzTUL8CE0



「おっ、カレーが入ってたな。」
ティファの支給食料も同じようにサンドウィッチだったが、悠の支給品は何故かレトルトカレーだった。
しかもご丁寧に、レトルトのご飯まで同封してある。


『ゴロンの香辛料をふんだんに使ったカレーとハイラル米100%のご飯。おいしいよ!!』

カレーのパックの裏側には、馬鹿にしたような説明が書いてあった。
(ここには電子レンジもガスもないぞ、ハズレ支給品か?)

そう思ったが、パックを開けるとは電子レンジで温められたかのように湯気を出している。
ご飯も同じようにホカホカだ。


「おっ、何か珍しいモノ食べてないか?」
「ああ。カレーを食べることが出来るなんて思わなかったな。」

幸いなことに空き家にはスプーンと皿は置いてあったため、少なくともここで食べるのに問題はなかった。

「うん。結構美味しいな。」
香辛料の辛さも適度ながら、米もレトルトとは思えない程良い味を出している。
具材も野菜だけだが、レトルト食品にありがちな貧相な味ではなく、香辛料の味が染みながらも野菜の甘みが残っている。

すぐに完食してしまった。
これを作ったのが主催側だとしたら、意外に良い腕があるのではないか、と悠は思った。


カレーを食べると、思い出してくる。
林間学校で千枝と雪子の作った、カレーとは思えない物体。
ダークマターと呼んでもおかしくなかった。


あまりにもひどい味で、本当にカレーの素材で作ったのか聞きたくなったくらいだった。
完食できた人は誰もいなくて、他の班の人に料理を分けてもらって事なきを得たのだが。


美味しいか不味いかで聞かれたら、あのカレーはどう考えても不味かった。
でも、今自分はその不味いカレーを求めているのも分かっていた。


『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる?』

そして、悠は知ることになる。


二度と食べたくなかったカレーを、二度と食べることは出来なくなってしまったことを。

「悠。」
「悠!!」


ティファとピカチュウが、声をかけた。
「しっかりしろ、悠!!」
「ああ、すまない。」

悠はどこかで思っていた。
自分達の友情は、決して壊れることはないと。
そんなことはあり得ないし、雪子の名前を呼ばれる前に、完二の首が飛んだ時に壊れたはずだった。
きっと元の世界に帰れても、二人が死んでしまった事実はずっと付き纏うだろう。
だから、どうする?
主催者が死んだ仲間を生き返らせてくれるという、針の先ほどもない可能性にかけて殺し合いに乗るのか?

124チョッカクスイチョク ◆vV5.jnbCYw:2020/01/12(日) 23:52:26 ID:IzTUL8CE0

しかし、それを行う気にはならなかった。
全てのペルソナを出せる状況ならまだしも、ヨシツネとネコショウグンのみで捌ける相手ばかりという可能性は低い。

それ以上に、人殺しの果てに再会した仲間の顔を、どうやって見ればいいか分からない。


「どういうこと……?」
転送されたとマナが言っていた、名簿をめくっていたティファが声を出した。


「誰か、知り合いがいたのか?」
知っている人も何人かいたが、それ以上にティファが気になったのは、かつての世界で死んだ人が3人もいたことだ。

「この名簿、私の世界で死んだ人がいるの。」
「「!?」」


一人目のティファが知っている死者、セフィロスがいたのはカエルの情報で既に知っていた。
だが、彼の生存報告は、初めてのことではなかったのでさほど驚きはしなかった。


セフィロスは5年前、ニブル魔晄炉でクラウドに刺されて死んだはずだった。
だが、ライフストリームの深淵の中で、再び星を手中に収めることを夢見ていた。
その後、自分やクラウド、他の仲間達と今度こそ討伐を果たした。


だがもし、何らかのはずみでまた生きていて、この戦いに参加していても、特に不思議はなかった。


それ以上にティファが驚いたのは、後の二人の死者のこと。
エアリス・ゲインズブール。
星の未来を守るために、白マテリアを操り、それが原因でセフィロスに殺害されたかつての仲間。


ザックス・フェア。
5年前のニブルヘイムに任務でやって来た青年。
そして、クラウドの幻想だった男。
任務中豹変したセフィロスとの戦いに巻き込まれ、その後死亡したらしいが、この戦いの名簿に載っている。


「俺はそもそも知り合いが呼ばれていなかった。
悠の仲間が見せしめに殺されたと聞いたから、ティムも参加しているのかと思ったけどな。」


「死んだ人はいなかったな。けど知り合いが完二以外にも3人……。
あと、以前同じ高校で、逮捕された人もいた。」
その3人の内、1人が呼ばれたのだということは、悠以外の二人にも分かった。


死者を蘇らせたということは、この戦いの主催者は予想以上に恐ろしい存在と言うことになる。

125チョッカクスイチョク ◆vV5.jnbCYw:2020/01/12(日) 23:52:56 ID:IzTUL8CE0


「悪いけど、もう私は行くわ。」
ティファは名簿を読み終わると、すぐに玄関から出ようとする。


「どういうことだよ。一人で行くつもりか?」
慌ててピカチュウは止めに入る。


「そうよ。奴との戦いに、あなた達を巻き込めない。」
そもそもカエルからセフィロスの話を聞いた直後、真っ先に向かうつもりだった。
しかし、ピカチュウが助けを求めにやってきたため、その計画を一時的に破棄することになった。
そして、病院での戦いで、脚が負傷してしまったため、今こうしている。


幸いなことに、悠のメディラマと休息によって、脚はある程度は回復した。
流石にカエルを助ける時のような動きはまだ出来ないが。


「待てよ!!そいつ、とんでもなく強い奴なんだろ!?」
ピカチュウは止めようとする。

「だからこそよ。早くセフィロスを殺さないと、死者が出るわ。
いや、もう出ているかもしれない。」

どんなカラクリで復活したのかティファも分からないが、彼が復活したのだとしたら、自分達への報復を目論んでいるはずだ。
幸いなことに、彼女の知り合いに犠牲になった者はいなかった。
今のうちに、刺し違えてもセフィロスを止めねばと、焦る気持ちがあった。


「一人だけじゃ無茶です!」




それに、この世界ではどうにも回復力が低い。
いくら中級魔法のメディラマとはいえ、回復量が少なすぎる。
まだ完治も出来ていないのに、一人で強敵に立ち向かうのは無謀としか思えなかった。


「じゃあ、奴が何処にいるのか分かるのか?」
再びピカチュウが問いかける。

「分からないわね……。」
ティファはそう答える。
セフィロスについての情報は、既に死んだカエルからのみ。
しかもカエルがセフィロスからの襲撃を受けてから、大分時間は経っているはずだ。


ティファがいる場所とは離れて行ってしまった可能性だって低くはない。
それは、ティファにも分かっていた。

「俺は仲間……陽介と千枝を探したい。」
「分かった。私の仲間探しも兼ねて、協力するわ。」

126チョッカクスイチョク ◆vV5.jnbCYw:2020/01/12(日) 23:53:18 ID:IzTUL8CE0


「それと、俺はもう一人探したい人物がいるんだ。
悠、前に持っていたって言っていた工具箱を見せてくれ。」

「……ああ、これのこと?」

話の筋が分からないまま、工具箱を出す。
ピカチュウはそれを手に取り、箱を開けるかと思いきや、側面に注目する。


「二人共ここに描いてある絵、見覚えないか?」
「それは……!!」


ドーム型の頭に、そこから二つ見えるアイセンサー。
顔だけしか描かれてないが、紛れもなくつい先程悠達が戦ったロボの絵だった。

「それと、この横に書いてある『L』って文字、恐らく持ち主のイニシャルだな。」
「そういうことか!!」

「この持ち主の『L』って人物を見つけたら、あのロボットをどうにか出来るんじゃないか?」


ピカチュウもロボのおかしな様子や支離滅裂な言動を観察して、結論を出していた。
あのロボも、凶暴化させられたポケモンのように、誰かに何らかの手段でおかしくされている。

「名簿から見ると、『L』の人物はこの辺りにいるわ。苗字か名前か分からないけど……。」
ティファが名簿に線を引いていく。


「リーバル、リボルバー・オセロット、リンク、ルッカ、レオナール、レオン・S・ケネディ、……こんなところね。」

「でもこの工具箱の持ち主が偽名だったり、既に死んでいたらどうするんだ?」
実際に先程ティファが引いた線の中で、レオン・S・ケネディとレオナールは放送で呼ばれていた。
それに、ハンター、魔王と、称号らしき名前もある。
悠の世界での直斗やクマ、りせのように参加していない可能性も加味しなければならない。


「その時はその時だ。この工具箱の持ち主を探すことは、他のヤツを探すのと一緒に出来るだろ。」


確かに、悠にとっても、ピカチュウにとっても、情報が少なすぎる。
首輪を解除するにも、ロボを助けるにも、強力なマーダーを退治するにも、他の参加者との接触が必要だろう。

127チョッカクスイチョク ◆vV5.jnbCYw:2020/01/12(日) 23:54:59 ID:IzTUL8CE0


「さて、そうと決まったら出発だな。悠、その杖を貸してくれ。」
「いいけど、何に使うんだ?」
ピカチュウは工具箱を悠に返し、代わりに女神の杖を借りる。
杖を垂直に立て、わくわくした顔でピカチュウはこう言った。


「これが倒れた方向…「この近くにある学校へ行きたいな。」
「知っている場所があるなら、先に言ってくれよ……。」

ピカチュウは少しシワっとした、落ち込んだ顔を見せた。
少し悠は悪いことをしたかな、と感じた。

「ポカ!!ポカブー!!」
「そうだな。ポカブの主人も見つけてやらねえと。」

ピカチュウに分けてもらったサンドウィッチを食べて、やる気を見せるポカブだが、一度モンスターボールに戻った。

「それじゃ、改めてよろしくね。」
ティファもそこに同行する。







我は汝……、汝は我……
汝、新たなる絆を見出したり……


絆は即ち、まことを知る一歩なり


汝、”戦車”のペルソナを生み出せし時、
我ら、更なる力の祝福を与えん……



【D-5/市街地 (空き家)/一日目 朝】

【鳴上悠@ペルソナ4】
[状態]:ダメージ(小) SP消費(中)
[装備]:女神の杖@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ルッカの工具箱@クロノ・トリガー
[思考・状況]
基本行動方針:リーダーとして相応しい行動をする。
1.八十神高校へ行く。
2.自分とティファの仲間、そして工具箱に書かれた『L』を探す。
3.完二の意志を継ぐ。

※事件解決後、バスに乗り込んだ直後からの参戦です。
※ピカチュウと絆を深めたことで"星"のペルソナを発現しました。『ネコショウグン』以外の星のペルソナを扱えるかどうかは以降の書き手さんにお任せします。
※誰とも特別な関係(恋人)ではありません。
※全ステータスMAXの状態です。
※ティファからマテリアのことを聞きました。
【ピカチュウ@名探偵ピカチュウ】
[状態]:健康
[装備]:モンスターボール(ポカブ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1.八十神高校へ行く。
2.悠とティファの仲間、そして工具箱に書かれた『L』、ポカブのパートナーを探す。

※本編終了後からの参戦です。
※電気技は基本使えません。
※ティファからマテリアのこと、悠からペルソナのことを聞きました。
【ティファ・ロックハート@FF7】
[状態]:ダメージ(小) 脚に怪我(走るのにやや難あり)
[装備]: パワー手袋@クロノトリガー+マテリア・スピード(マテリアレベル3)@FF7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0~1個)
[思考・状況]
基本行動方針:マーダーから参加者を救う
1.八十神高校へ向かう。
2.自分と鳴上悠の仲間、そして工具箱に書かれた『L』を探す。
3.仲間を集めて、セフィロスを倒す。

※ED後からの参戦です。
※ティファ・ロックハートのコミュニティ属性は"戦車"です。
※悠からペルソナのことを聞きました。

【支給モンスター状態表】
【ポカポカ(ポカブ ♂)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康  満腹
[特性]:もうか
[持ち物]:なし
[わざ]:たいあたり、しっぽをふる、ひのこ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルを探す
1.ピカチュウ達について行き、ベルを探す。
2.強くなってベルを喜ばせたい。

128チョッカクスイチョク ◆vV5.jnbCYw:2020/01/12(日) 23:55:15 ID:IzTUL8CE0
投下終了です。

129 ◆2zEnKfaCDc:2020/01/20(月) 00:16:30 ID:yKpqdRCI0
ベロニカ、リーバルで予約します。

130 ◆2zEnKfaCDc:2020/01/21(火) 00:16:45 ID:UV72uxWo0
投下します。

131見上げた空は遠くて ◆2zEnKfaCDc:2020/01/21(火) 00:17:26 ID:UV72uxWo0
朝焼けの中、殺し合いの空に影がふたつ。それはこの世界でも有数の空を飛べる者、リーバルがベロニカの肩を掴んで浮遊移動している図である。
子供の姿であるベロニカの移動速度や重量を踏まえると、それぞれが歩くよりもリーバルがベロニカを掴んで空を飛ぶ方が明らかに速いのだ。

「放送はどうだったんだい?」

第一回放送が終わると、リーバルは尋ねた。

「元の世界からの仲間はみんな無事だったわ。でも、そうね……強いて言うなら──敵でも、味方でも無いやつが死んだくらいかしら。」

『グレイグ』

ベロニカの知る者の名前はひとつだけ呼ばれていた。だが、ベロニカはそれに何の感慨も示しはしない。『敵でも、味方でも無いやつ』、それがベロニカにとってのグレイグの評価だった。

デルカダールのふたりの英雄、『双頭の鷲』はどちらも自分たちを追っていたけれど、命の大樹で闇の力を積極的に操っていたホメロスとは違ってグレイグはウルノーガに利用されているだけだったという印象だった。
あの正義感の塊のような男がウルノーガの配下だったとは思えない。

主君への忠義や命令の遂行能力などは評価する。しかし結果として悪事に加担してしまっていたことを水に流せるわけでもない。
マナがグレイグを評していた、『一人で空回って、馬鹿なやつ』という言葉を思い出す。きっとここでもあの男はそうだったのだろう。出会った相手でも間違えたか。

もしかすると、手を取り合って同じ敵に立ち向かう未来もあったのかもしれないけれど、そんな未来を知りえないベロニカは小さく悪態をついた。

132見上げた空は遠くて ◆2zEnKfaCDc:2020/01/21(火) 00:18:41 ID:UV72uxWo0
(『敵でも、味方でも無いやつ』、か……。)

ベロニカの言葉を聞き、リーバルも考え込む。

『ウルボザ』

リーバルの知る者の名前も放送には含まれていた。
かつてのリーバルにとって、『敵』はたくさん居た。厄災ガノンを初めとする魔物たちは言うまでもなくだが、リーバルの功績に嫉妬して飛行訓練中に弓矢で妨害を図ったリト族の愚か者なんかも程々にいた。勿論、そのような輩には相応の報いを受けてもらっていたのだが。
逆に、自分の実力を尊敬するリト族の民たちの多くは『味方』とカテゴライズするに相応しいのだろう。そういった者たちのためになら、リーバルは飛行訓練場を誰でも使えるように開放するなどの見返りは渋らなかった。

だけれども、ウルボザを含む英傑たちは『敵』でも『味方』でも無かった。

例えば、相応の修行を積んだ上で自分に宣戦布告して真っ向から挑んでくるようなリト族なんかは嫌いではなかった。それ以上の実力で打ち倒しはするが、彼らの栄誉を損なわせたりはしない。だがウルボザたちはそういった輩とも違う。そもそも自分と競い合うという意思すら無かったのだから。
それでいてそれぞれが違う方向に特化しており、その分野については自分が何かを施すまでもなく、自分以上の何かを持っていた。だから、『味方』と呼ぶにも気に入らなかった。

「僕もわざわざ悼むような相手は居なかったさ。1人を除いて、ね。」

その1人とは、ウルボザのことではない。
そもそも100年も昔に死に別れした相手だ。死んでいるのが摂理であり、今更その死に感慨などは湧かない。

ベロニカもリーバルも元の世界の知り合いについて放送で心を乱されることは無かった。しかし、この世界での出会いは別である。

『マールディア』

すでに放送で呼ばれることを知っていたその名前だけが、彼らの心を乱した。

ベロニカにとっては、彼女との関わりはそれほど長くも深くも無かった。だけど、彼女は自分を庇って、目の前でその命を散らした。

133見上げた空は遠くて ◆2zEnKfaCDc:2020/01/21(火) 00:19:24 ID:UV72uxWo0
彼女が死んだことだって、彼女の最後の言葉だって、わざわざ放送なんかで改めて突き付けられなくても、痛いほど知っている。
だけどベロニカは知らなかった。残される側の気持ちなんて。
心にぽっかりと空いた穴がいつまで経っても埋まらない。実は研究所に行けば平気な顔で生きているのではないかいう逃避地味た考えすら生まれてしまう。
会えるべくして会えていた人間と。話せるべくして話せていた人間と。邂逅の機会が永遠に失われたことへの実感が未だに湧かない。

あたしが死んだ時、皆もこんな気持ちだったっていうの?
死んだのはあたし?皆が助かったのならそれで良かった?冗談じゃない、そんなのはただの自己満足だ。残された側の気持ちってものを全く考えていない。

残された側にだって想いはある。
こうしてその側に立って突きつけられるまでもなく、他者の気持ちを慮ることの出来る頭を持っているのだから。そんなこと、分かっていてしかるべきだったのに。

カミュは自分が死んだことを知らなかった。それがわかった時には怒りを覚えた。パーティーも散り散りになったであろうあの命の大樹の崩壊の後、死体が発見されるまで行方不明の扱いであったであろう自分を探すこともなく旅を続けていたのか、と。

だけど自分が残された側になることで分かった。
残された彼らが、居なくなった仲間を探しもしないなんて有り得ない。仮に自分の死体が見つからなかったとしても、カミュの反応は探し求めていた行方不明の仲間とようやく出会えた時の反応では無かった。
それでは、あのカミュとの奇怪なズレは何だったのか。
ベロニカが考えることが出来た可能性は、ひとつしか無かった。

本来は、もう少し早く考えるべき可能性だった。元々この殺し合いに招かれていた人物は皆元々は死人であるとすら思っていたのだから。

134見上げた空は遠くて ◆2zEnKfaCDc:2020/01/21(火) 00:20:52 ID:UV72uxWo0
「カミュもあの崩壊で死んだのね……。それしか考えられないもの。」

きっと、それが答えなのだろう。
自分はあの時、皆を守りながら散れたと思ってはいたが、少なくともカミュは守りきれなかったのだ。おそらくは、カミュだけでなく他の皆も同じだ。放送で配られた名簿にロウの名前が無いことから、あの人だけは生き延びたと考えてもいいかもしれないが、他の勇者のパーティーは全滅し、生き返らせられた上でこの殺し合いという余興の駒に成り果てた。
そう考えれば、様々なことに辻褄が合うのだ。

ひとつ辻褄が合わないことがあるとすれば、カミュの中ではあの危機を退けたのは自分ではなくイレブンだということになっていたということだろうか。
それもおそらく、崩壊の最中に記憶の混乱か記憶喪失に陥ったというところだろう。多少強引な解釈ではあるが、少なくともカミュたちが行方不明の自分を探すことすら無かったという仮説よりはずっと信憑性がある。



「本当にそれで良いのかい?」

そんな考察をベロニカが話しているところに、リーバルは横槍を入れた。

「良いも何も、それしか無いのよ。受け入れるしかないじゃない。」

「君の話を聞いて、気になったことがあるんだけどさ……」

放送前に、リーバルはベロニカのこれまでの話を大雑把に聞いている。ベロニカが死ぬに至った経緯も、殺し合いに招かれてからの方針やカミュとの微妙な噛み合わなさも。その話を聞いて、カミュがベロニカに会う前に死んでいたという可能性が真っ先に頭を過ぎったのは事実だ。
だけど、ベロニカの『死』と自分の『死』にひとつの相違点を見出したのもまた事実。

135見上げた空は遠くて ◆2zEnKfaCDc:2020/01/21(火) 00:21:48 ID:UV72uxWo0
「どうして君は死後の記憶が無いんだい?」

そう、リーバルは死後も魂となって意識は常に在り続けた。風のカースガノンの力に囚われて100年間神獣ヴァ・メドーの体内から出ることこそ出来なかったが、ベロニカの言うように死ねばそこで意識が終わるということは無かった。

「そんなの、あるわけないでしょ。」

「生憎、僕には100年分あるんだよ。つまり僕の死と君の死は決定的に異なっているんだ。」

ここで、死者であるという2人の共通点にひとつの疑問が提示された。

「……何でよ?」

「さあね。それだけ僕の魂に素質があったのかもしれないし、君の魂が大したこと無いだけの話かもしれない。」

煽るようなリーバルの言葉に、ベロニカはムッとした顔をする。しかしベロニカを掴んだまま空を飛んで移動しているリーバルにその表情は見えない。

「……悪かったわね。」

「おや、怒ったのかい?僕と君とで差があるのは仕方の無いことなのにね。

でも、別の可能性もある。
例えば、君が死後の記憶を残すより前に。つまり君の死んだ直後に、この殺し合いが開かれたと考えればどうだい?それならばカミュが君の死を知らないことも、君が死後の出来事を把握していないことも納得出来るだろう?」

その仮説を聞いたベロニカは一瞬、縋りたくなったのは確かだ。しかし棄却せざるを得ない。自分が死んだのは、ウルノーガが勇者の力を奪った直後の話。そんな数刻にも満たない時間で首輪を用意し、参加者を募り、自分を生き返らせたなんていくら勇者の力を込みで考えても人智を超越しすぎている。

136見上げた空は遠くて ◆2zEnKfaCDc:2020/01/21(火) 00:22:44 ID:UV72uxWo0
「……そんなことが出来るのが敵だって言うのなら、むしろ絶望的でしかないわ。」

「かもしれないね。でもカミュや他の仲間が死んでいることに疑問はまだまだ挟めるってことさ。」

そう言いながら、リーバルの身体は急に下降する。5分間以上空を飛び続けていると首輪を爆発されるからだ。

着地という目的を終えて飛ぶことが再び許されたリーバルは再び空へと舞い上がる。
たったそれだけの所作が、ベロニカには羨ましく思えた。
崩壊した命の大樹から落ちていった自分は、もう二度と空を目指すことはできなかったのだから。

だけど、せめてイレブンたちの翼にはなりたかった。
彼らが再び空を目指せるよう、最後の後押しだけはできたのだと思いたかった。

「……まだ、信じていてもいいのかしら。あたしの死は無駄じゃなかったんだって……あたしは未来を守ったんだって……。」

「ああ、勝手に信じていなよ。真実は、僕が明らかにしてやるから。」

リーバルがハンターに頼まれた役目はベロニカをイシの村に連れていくことだ。ベロニカの仲間の元の世界での生死など、リーバルにとってはまったくもってどうでもいい。

だがリーバルは、自分を侮る者には相応に分からせてやらねば気が済まないタチである。
半ば戦力外通告気味にベロニカと共に自分を怪物から遠ざけたハンターに対して、言われたことのみしか遂行しないのはどこか癪だった。
ハンターの期待以上の仕事をこなして、そして次に再会した時には奴の口から言わせてやろう。『お前を戦場に残していれば、もっと早く片付いていただろう』とでも。

「……そう。頼りにしてるわ。」

そしてリーバルは、自分の実力を頼りにする者には相応の成果を返さなくては気が済まないタチでもある。
だが、自分を頼っていたマールディアは死んでしまった。人々を護る使命を授かった英傑である自分が、護れなかった。

今度こそは、護ろう。
僕の、プライドに賭けて。

137見上げた空は遠くて ◆2zEnKfaCDc:2020/01/21(火) 00:23:26 ID:UV72uxWo0
【B-4/美術館より東/一日目 朝】
【リーバル@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康、苛立ち
[装備]:アイアンボウガン@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、召喚マテリア・イフリート@FINAL FANTASY Ⅶ、木の矢×4、炎の矢×7@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[思考・状況]
基本行動方針:オオワシの弓を探す。
1.銃を持った男(錦山)を探しつつ、イシの村を目指す。
2.弓の持ち主を探す。
3.首輪を外せる者を探す。


※リンクが神獣ヴァ・メドーに挑む前の参戦です。


【ベロニカ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:MP消費(中)、不安
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:ウルノーガを倒す。
1.リーバルと共にイシの村を目指し、カミュ達と落ち合う。
2.ごめんなさい、マール……。
3.自分の死後の出来事を知りたい。
4.カミュが言っていたことと自分が見たものが違うのはなぜ?


※本編死亡後の参戦です。
※仲間たちは、自身の死亡後にウルノーガに敗北したのだと思っています。




(……それにしても。やっぱりこの殺し合いの背後には得体の知れない力が蠢いているようだね。)

リーバルは考える。
仮死状態ならまだしも、完全に死んだ者の蘇生なんて癒しの力の使い手であるミファーにも不可能だ。英傑はそれぞれ全く異なる方面に特化しているため安易に比較することは出来ないが、その地点で主催者は英傑をも超える力を持っているようだ。
また、ベロニカの死は分からないが、少なくとも自分が死んだのは100年も昔の話だ。魂こそハイラルに残ってはいたとはいえ、肉体は100年の間に原型すら分からないほどに腐り果てているはず。それが現在、身体は完全に修復されている。運動機能も100年前と比べて特に劣っているようには感じない。
一体どうすれば、100年前の身体をここまで綿密に最前できるというのだろうか。

(マールは時代を超えて戦っていたとか言ってたっけ……?)

その時、ふと自分が護ることのできなかったあの少女のことが思い出された。
もし肉体だけを100年前の世界から持ってこられるとしたら、自分の肉体が残っていることとも辻褄は合う。

(だとしたら、この殺し合いの裏には……?)

ベロニカに聞こえないように、小さく溜め息を漏らした。
本当に嫌になる。このリーバルが、敵の勢力の強大さに多少とはいえ恐れを抱くとは。

(さて、どうするんだい?リンク。今度ばかりは……君にもどうにも出来ないかもしれないよ?)

138 ◆2zEnKfaCDc:2020/01/21(火) 00:23:39 ID:UV72uxWo0
投下終了しました。

139 ◆vV5.jnbCYw:2020/01/31(金) 16:23:11 ID:cLCIEcBE0
セーニャ、セフィロス予約します。

140未知への羨望 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/02(日) 19:15:47 ID:1ILM.8wA0
聖女、いや、聖女だった存在が道を進む。


道の先から、強い死臭を感じた。
そこへ行くと、無残に切り刻まれた死体が転がっていた。
彼女は、雷電の死体を見て、苛立ちを覚える。
自分もこのように人を破壊したかった。


誰かこの展望台の上に生き残りはいないのかと、登る。
しかしその先で見たのは、机の上の一枚の紙だけだった。

【A-6】


極めてシンプルなその文面は、この展望台にいた者で、下に転がっていた金髪の男を殺した者の紙だと察しがついた。

参加者に向けた挑発を行うことが出来るということは、壊し甲斐があるということ。
すぐにでも展望台から降りようとした時、やや離れた北の方角から黒い煙が見えた。


それは、セフィロスが先程スネークに放ったファイガの跡だということを彼女は知らない。



すぐに展望台を降り、焦げた草をかき分け、より壊し甲斐のある相手への期待に胸躍らせ、足を速める。


その先に、標的としていた存在がいた。
2m近い長身に幅広の剣、そして、腰まで届くほどの長い銀髪を携えている。


自分と同じ北側に向かっているようだ。
どうやら自分に気付いていないと感じる。


しかし、それでいてなお、全身が金縛りにあったかのような威圧感を感じる。
その感覚を心臓から四肢の先まで受けたセーニャは、ある感情が湧いた。


壊したい。
獲物が強いほど、壊す快楽も比例するはずだ。
きっと姉の次ぐらいに壊し甲斐のある獲物だろう。
それこそ、最初に殺した金髪の青年や蝙蝠の魔物とは比べ物にならないほど。
出来るだけ力を使って壊そう。
全身を焼き、次いで氷漬けにしよう。
終わったら、槍で臓器の一つ一つを砕こう。


「メラゾーマ。」
ニタリと聖女らしからぬ醜悪な笑みを浮かべ、魔法の詠唱を唱えた。

141未知への羨望 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/02(日) 19:16:22 ID:1ILM.8wA0

「何だ?」
セーニャの魔法に、銀髪の男、セフィロスはようやく気付いた。
ファイガにも勝るとも劣らない巨大な火球が、目の前に迫り来る。


「煩いな……。」
しかし、最強のソルジャーと呼ばれた男は、何も動じずにファイガで弾き飛ばそうとする。
二つの火球は、セフィロスの方がやや優勢と言うくらいだった。

しかし、火炎弾はもう一つあった。


セーニャのベロニカから受け継いだ、山彦の心得の影響だ。
優勢だったファイガは、予期せぬ第二の敵弾によって、押し返される。

「………。」


セフィロスは無言で、二発のメラゾーマと、ファイガの凄まじい炎に飲み込まれた。
そのメラガイアーにも並ぶ熱さは、爆心地からやや離れていたセーニャにまで伝わる。


「やはり強い力を持っているのですね。ふふ、ふひひひひ……。」
不気味に微笑みながら、焼け跡に近づく。

「まだ、終わりません……。凍り付きなさい。」
その場所に、マヒャドの氷が降り注ぐ。
辺りはなおも見えない。
ただマヒャドの冷気が、メラゾーマとファイガに熱せられ、水蒸気がもうもうと上がっている。



霧が晴れぬまま、セーニャは槍を構え、セフィロスがいるであろう場所に近づく。
今度は、めった刺しにしようとするつもりだった。

どんな感触が手に伝わるだろうか、何度刺せば死ぬだろうか。
ただ、壊すことの楽しみのみを、胸に抱いていた。

鮮血が迸る。



セーニャの背中から。
「なっ……効いていない?」

どんなに強い炎魔法でも、炎の完全耐性があれば意味がない。
だが、そんなものではなかった。


ジェノバ細胞が持つ防御力と、セフィロスの生命力、瞬発力が3発分の巨大火炎魔法を凌いだのだ。

142未知への羨望 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/02(日) 19:17:02 ID:1ILM.8wA0
セーニャの真後ろに最強のソルジャーと呼ばれた男が佇んでいた。
常に動かぬ笑みを浮かべ、慈悲の欠片もない冷たい眼でセーニャを見つめる。


「いや、あの炎はまともに食らえば私ですらどうなっていたか分からない。」
服の左袖は焼け焦げ、そこから見える左腕からもそれなりの火傷が見えた。

しかし、それは直撃するには至らなかった。
済んでの所で躱され、結果として命中したのは左半身の、その先端のみだった。


マヒャドの詠唱の間にセフィロスは後ろに回り込み、カミュ達につけられた傷が治ったばかりの右手で持ったバスターソードで斬りかかった。
そのスピードは、後衛職であるセーニャにとても見切れるものではなかった。


しかし、血を失ってなお、黒の倨傲でセフィロスを串刺しにしようとする。
「遅い。」
「があっ……!!」


その攻撃は届かず漆黒の槍は、持ち主の右腕ごとバスターソードで斬り飛ばされた。
背中を斬りつけられた時以上の血が、手首から噴き出す。
セーニャが好んでいた緑色の服と対照的な色が、服を汚す。


「うう……私………一体何を!?」
(どういうことだ?)

セーニャの目は、破壊への羨望が抜けていた。
黒の倨傲を失ったことで、槍がもたらす破壊の衝動からも逃れられたのだ。


しかし、自分の目的を果たそうと槍に左手を伸ばす。
再び黒の衝動に正気を失うことと引き換えに、破壊を続けようとする。引き換えに


全ては、手遅れだった。
槍を握り締める時に、その腕を踏み潰す。


「あ“っ………。」
鈴の音のような美しい声の持ち主とは思えない、蛙を潰したような声が漏れた。


そのまま殺す、と思ったが、セフィロスは一つ興味が湧いた。
目の前の女性は、魔法の分野だけとはいえ、自分に打ち勝った。
破壊への願望の赴くまま、自分を殺そうとした。
今もなお、魔物のような眼光を、こちらに向けている。


しかし、槍を手放した瞬間、一瞬だが殺意の意識が消えたように思えた。
それなら槍に呪われ、いいように扱われた、と断定すればよい。

(この娘は、心に何を持っている?何を望んでいる?)
だが、再び槍を手にし、呪いを受け入れようとするとは、どうにも腑に落ちない。

143未知への羨望 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/02(日) 19:17:22 ID:1ILM.8wA0

そして、疑問はもう一つあった。
自分が目の当たりにした魔法。
どこかファイガやブリザガと異なる印象を受けた。
ライフストリームにかつて自分が落ちた時、マテリアの知識は一通り得たはずだから、知らないマテリアと言うのはおかしい。



セーニャが持っていた槍をじっくりとながめる。
マテリアやそれらしきものはどこにも見当たらなかった。


セフィロスは結論付けた。
この娘は魔晄に侵された生物と同様に、マテリアなしで魔法を紡ぐことが出来る。
もしかすると、魔晄とは異なる力なのかもしれない。




最初に展望台付近で戦った三人、そして、放送近くに会った男からは、特に興味深い力は感じなかった。
いくら見たことのない力や技術を見せられても、自分の力と並ばなければ、価値はない。


だが、セーニャに対しては興味が湧いた。
マテリアもなしに、自分のファイガさえ上回る強力な魔法を使えることに。
そして、その力を用いて何をするか。
何を思って、自ら破壊の呪いを望むのか。


だからこそ、それを知るための方法が必要だった。


行動を決めたセフィロスは、極めて迅速な動きで、自分の掌にバスターソードで傷を入れた。
そしてその血が滴る手で、セーニャの腕の切り口を握り締める。


それはなおも噴き出す血液を止め、失血死を防ぐためではない。
輸血をするためだ。
ジェノバの細胞を含んだ血液と、僅かな肉片を、聖女に流し込むためだ。
この未知なる力が渦巻いた世界で、新たな情報を提供するセフィロス・コピーを造るためだ。

かつてセフィロスは各地にばら撒かれていたジェノバの断片や、ジェノバ細胞を埋め込まれたセフィロス・コピーを操り、メテオの情報収集や黒マテリアの入手を図った。


「っっッッ!? な……に………を………!?」
セーニャの心臓が、ドグッと異常な動き方をした。
最初は僅かな違和感。
それから、神経が何かに食い荒らされていくような感覚を覚える。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!
ぁああああああああああ!!!」

鼓膜が破れんばかりの慟哭。
セーニャの頭の中で、プツンと何かが切れたような音が聞こえた。
それから、眼の中でカラフルな幾何学模様が浮かび上がる。
からくりエッグの中に入ってジャンプした時のような奇妙な浮遊感に襲われ、まともな姿勢を保っていられなくなる。


「………。」
目の前の男が静かに笑った。
先程までは殺意を放っていた男が、只の壊す対象でしかなかった男が、何故か神々しく感じる。

『星の力……マテリア……クラウド………メテオ……黒マテリア……ジェノバ……ソルジャー……魔晄……ライフストリーム……』

訳の分からない言葉が、矢継ぎ早に頭に入り込んでくる。
自分が自分でなくなってしまうような気にさえなる。
そして、形はどうであれ愛した姉の顔が、消えていきそうになる。


(私とお姉さまはきっと芽吹く時も散る時も同じですよね?)
(セーニャはいつもグズだからどうかしら。
………でも、そうだといいわね。)

144未知への羨望 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/02(日) 19:17:43 ID:1ILM.8wA0
姉と、最後に交わした言葉。
あれが、最期の言葉になるとは思わなかった。
だが、忘れない。忘れてはならない。絶対に姉様を忘れるわけにはいかない。
どんな異常な力の持ち主だろうがそれだけは譲れない。
私と姉はずっと一緒だ。
ついさっきまで槍の力に駆られていたのと、相手の怪しい力で頭が上手く回らない。
でも、これだけは言える。
一緒だから、生まれるときも死ぬときも一緒だ。


セフィロスの脚を払い、踏みつけによる拘束から脱出する。


姉のこと、ベロニカのことだけは忘れてはならない。
逃げよう。
何時かはこの男も殺す。
だが、今は場が悪すぎる。

誰かの操り人形になってたまるか。
私が求めていた破壊とは違う。こんなのは間違っている。


「何処へ行こうとしているのだ?」
しかし、その先にはセフィロスが立っていた。


頭を握られる。そのまま宙吊りにされる。
「離しな……さい………!!」
「煩いな……。」
(ほう……まだ、自我が保てるか……。)
頭蓋骨が軋む痛みと、頭の中を覗かれているような奇妙な感覚を覚える。


身体を揺するが、何の抵抗にもならない。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


―――何年もお姉さまの妹をしていますもの。ちょっとお姿が変わったくらいで間違えたりしませんわ。

―――私たちは、勇者を守る宿命を持って生まれた聖地ラムダの一族。これからは、命に代えても、あなたをお守りいたします。

―――私とお姉さまはきっと芽吹く時も散る時も同じですよね?


(これが記憶か。それからどのようにこの娘は変わる?)

セーニャの記憶を共有しながら、当初の予定だった北へと向かう。
この場所が禁止エリアになるまでは、まだ3時間と少し残っている。
だが、再び邪魔が入る可能性もあるため、出発し始める。


―――お姉さまはもういない。……どこにもいないのですね。

―――ごめんなさい。イレブンさま。やっと心の迷いが晴れました。

―――……私は、私は皆様を……救いたい……!

―――さあ、壊しましょう。過ぎ去りし時を取り戻すために……。そしたらもう一度……ぜーんぶ、壊せますもの…。

―――ふひっ……ふひひひひひひっ……奏でましょう、あくまの調べを……

145未知への羨望 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/02(日) 19:18:05 ID:1ILM.8wA0
(失った姉のために壊し、再び壊すことを望む…というわけか……くだらん。)
丁度【C-5】を出て、【B-6】に入った時、セフィロスはセーニャの情報を一通りインプットし終えた。
その後、何の面白みもないように彼女を投げ捨てた。


死んだ姉の為に心が壊れ、今度は自分が死を振り撒こうとする。
誰かの為に人は予想できないような力を発揮する。それは知っている話だ。
実際に自分はクラウドの故郷と家族を焼き払ったことで、怒りを買ってライフストリームの深淵に叩き込まれた経験がある。


だが、常に一人だったセフィロスには、到底共感できる話ではなかった。
セーニャが使っていた魔法の知識も一通り手に入れたが、知ったからと言って簡単に使えるものではないらしい。


それはそうとして、この世界で自分の知らない強い力があることも確信した。
自分がかつて求めた黒マテリア以上の破壊力を秘めた道具や魔法が見つかるかもしれない。
それは、セーニャの世界の魔法と違って、自分にも使える力かもしれない。


「今、何を……?」
セーニャは意識を取り戻し、セフィロスを見つめる。
そこからは、自分に抗っている意思を感じられた。
ジェノバ細胞を植え付けられても自我が保てる精神力の強さは、自分の仕事を全うしてくれると期待が持てた。


「安心しろ。記憶を少し見せてもらっただけだ。取って食うつもりはない。
ただ、私の願いを叶えてもらう。」


例え自分の目の届かぬ場所に行こうと、ジェノバ細胞を植え付ければ情報を共有できるし、最終的にはリユニオンし、自分の基に戻る。


「北西へ向かい、この世界にある強い力を探せ。それと忘れ物だ。」

餞別、とばかりに先程斬り落とした片手を繋げる。
予想外に綺麗に斬れていたため、ジェノバ細胞の再生力と自分の数回のケアルガの力で、簡単に癒着できた。


セーニャは自由になると、脱兎のごとく北へ向かって走り出した。
その姿はどこか滑稽に見えた。
逃げても、情報は共有されるから無駄であり、たとえ自分の命令を聞くつもりが無くても、彼女の見た者が結果的に自分の望む力になる可能性があるから。


むしろ、自分に興味のない存在を殺してくれる者としても、ありがたい存在になる。

胸の高鳴りを感じた。
当初の目的地でクラウドを待ちながら、別の者に新たな力の情報収集をさせる。
何もしないうちに、自分の目的はおのずと叶う。



セーニャの姿が見えなくなるとセフィロスも期待を胸に、同じ方向へ歩き始めた。

146未知への羨望 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/02(日) 19:18:27 ID:1ILM.8wA0

【B-6 橋/一日目 午前】

【セーニャ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】

[状態]:HP1/2 右腕に治療痕 頭痛  MP消費(大)
[装備]:黒の倨傲@NieR:Automata、星屑のケープ@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1〜2個)、軟膏薬@ペルソナ4
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して世界樹崩壊前まで時を戻し、再び破壊する。
1.北西へ向かい、一度セフィロスから逃げる
2.誰の言いなりにもならず、自分の意思で破壊を続ける。



※世界樹崩壊後、ベロニカから力を受け継いだ後からの参戦です。
※ウルノーガによってこの殺し合いが開催されたため、世界樹崩壊前まで時間を戻せば殺し合いがなかったことになると思っていました。
※ザキ系の呪文はあくまで生命力を奪う程度に留まっており、連発されない限り即死には至りません。
※放送は気に留めておらず、名簿を見ていません。

※セーニャの体内のジェノバ細胞によって、セーニャの得た情報は、セフィロスにもインプットされます。
※セフィロスからの精神的干渉を受けています。今のところは自我を保っていますが、何か精神的ダメージを受ければ、セフィロスの完全な傀儡化するかもしれません。
※ジェノバ細胞の力により、従来のセーニャより身体能力、治癒力が向上しています。
※外見は右腕の癒着痕を覗き、少なくとも現在は特に変化はありません。

【B-6 橋南側手前/一日目 午前】


【セフィロス@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:左腕火傷、服の左袖焼失 高揚感
[装備]:バスターソード@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、武器の類ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:クラウドと決着をつける。 この世界の未知の力を手に入れる。
1.女神の城でクラウドを待つ。
2.因果かな、クラウド。
3.スネーク(名前は知らない)との再会に少し期待
4.セフィロス・コピーにしたセーニャに、この世界の情報収集をさせる。

※本編終了後からの参戦です。
※心無い天使、スーパーノヴァは使用できません。
※メテオの威力に大幅な制限が掛けられています。
※ルール説明の際にクラウドの姿を見ています。
※参加者名簿に目を通していません。

147未知への羨望 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/02(日) 19:19:39 ID:1ILM.8wA0
投下終了です。
今回投下作品では、セフィロスがセーニャに体内のジェノバ細胞を移植し、セフィロス・コピーを造るという展開を入れましたが、
どこか設定に不備があれば指摘お願いします。

148名無しさん:2020/02/02(日) 19:52:05 ID:YY9zB.jo0
投下乙です
聖女を血で汚すって、背徳的な響きだな…

149 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/03(月) 20:58:52 ID:5/OM7hIk0
>>148

感想ありがとうございます。
私は物語の背徳的な展開大好き人間なので、今回の投下でそういったものを感じてくださって大変うれしいです。

150 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/12(水) 15:42:36 ID:qBNp5oBA0
ウィリアム・バーキン、ハンター、カミュ予約します。

151 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/13(木) 00:49:35 ID:DQz/Kptc0
投下します。

152Dance on the edge ◆vV5.jnbCYw:2020/02/13(木) 00:50:28 ID:DQz/Kptc0
「うわあっ!!」
「ぬおおっ!!」


研究室の特に広い場所に、金属と爪がぶつかり合う高音が、さらに一拍遅れて二人男の悲鳴が木霊する。

数秒前、更なる怪物と化したウィリアム・バーキンの爪、カミュの扇、そしてハンターの太刀がぶつかり合った。
しかし、二人をいとも簡単に、肥大化した爪が吹き飛ばした。

「カミュ殿!!くそっ!!」
二人の内、大柄ゆえに吹き飛ばされた距離が短かったハンターは、横目でカミュの無事を確認したのち、怪物を毒づく。

吹き飛ばしてすぐに、人の背丈ほどもある爪を振り回し、二人に迫り来る。

斬り裂かれる寸前で、太刀を器用に使い、巨大な爪をいなす。

「こいつ……早い!!」
どうにかハンターは反撃に出ようと画策する。
狙うは進化する前、リーバルが刺した時と同じ右肩の巨大な目玉。


いくら進化しようと、生物の弱点は1日2日で変えられるものではない。
だが、弱点を知っても、突くことが出来なければ意味がない。

早くなった攻撃は、躱すので精一杯だった。
攻撃できるチャンスも、逃げるチャンスもありそうになかった。


ぎいぎいと、爪と床がこすれ合う嫌な音が響くが、気にせずカミュは奥義を天井に向けて投げる。


「シャインスコール!!」
回転しながら飛んで行った扇子が、光を怪物の頭上に撒き散らす。

「ウオオオ!!」

しかし、なおも爪を振り回すことを止めない。
輝く雨が、怪物に降り注ぐも、動きを鈍らせただけだった。


「ハンターのおっさん!!バラけるぞ!!」
「うむ!!」


伊達に二人も死線を潜り抜けてきたわけではない。
シャインスコールが作り出したほんのわずかな時間を利用し、ハンターはウィリアムの右に、カミュは左へと走る。


ウィリアムはハンターの方に迫る。
しかし、カミュがその隙を狙ってジャンプして、頭部めがけてナイフを向けた。
一撃必殺の場合は、扇よりナイフの方が成功する可能性が高い。

そして、アサシンアタックならば、必要最低限の威力さえあれば、一撃で相手を殺せるチャンスがある。


しかし、怪物は自らをコマのように回転させた。
そして、回転の先には、例の巨大な爪。

回転斬り。
このバトルロワイヤルの参加者の、リンクやクロノが得意とする技そっくりの軌道を描いた。


ただし、それを実行したのは人間ではなく、Gウイルスによって筋肉が異常発達した怪物なのだから、単純ながらも威力は桁違い。
加えて、巨大な体躯で行われるから、攻撃範囲も相応に広い。


「しまっ……!!」
隙が多くなる空中で、カミュは後悔した。


右腕のみ巨大な反面、リーチは長くとも、体全体を動かした広範囲の攻撃は出来ないだろうという判断が失敗を招いた。

153Dance on the edge ◆vV5.jnbCYw:2020/02/13(木) 00:50:49 ID:DQz/Kptc0


受け止める範囲が狭いコンバットナイフで、器用に受け止める。
(ちくしょ……ナイフで受け止めたのに、威力を殺しきれねえ!!)
しかし、ナイフは天井に飛ばされ、カミュも吹き飛ぶ。
同様にハンターも、攻撃を剣で受け止めることは成功するが、研究室の壁際まで押される。


しかも、この状況は、マールのヘイストと、ベロニカのバイキルトが二人にかかっているからこそ、辛うじて維持されている。
従って、それらが切れる瞬間が、タイムリミットに等しい。

「「まだだぁ!!」」
圧倒的な力を目にしながらも、二人の声からは闘志は消えていない。


「ジバリーナ!!」
カミュの叫びと共に、ウィリアムの足元に魔方陣が広がる。

そんなものは無視してハンターに攻撃を仕掛けようとする。
しかし、地面の隆起が、怪物のボディーバランスを崩す。


(時間稼ぎ程度にしかならねえか……けどな!!)


攻撃の向きが逸れた瞬間、ハンターは突進した。
狙いはがら空きになったウィリアムの両足。

今の姿になる前に、脚は一度斬り落としたが、どうやら復活したようだ。


だが、すぐには再生されないから、脚を切り落としておけば少なくともその間だけは自由が奪える。

立ち位置を不安定にされながらも、ウィリアムは爪でハンターを引き裂こうとする。


ハンターは斬りかかる前にカバンから盾を取り出す。
彼自身、盾の使い方を熟知していない。
しかし、その丈夫さを活かして、本来とは別の使い方をする。


G生物の顔に向けて、円盤投げのように盾を飛ばす。
ハンターの投擲力に加えて、その盾がかつて英傑が使っていたほどの丈夫さを持つことから、目隠しには十分活躍した。


道具を想定された使い方をするのではなく、自らに合った使い方をする。
これも戦い方の一つだ。


懐に潜り込むことに成功したハンターは、姿勢を低くし、抜刀。
横一文字に怪物の両足を切断しようとする。

(!?)

しかし、予想外なことに、巨体のG生物は跳躍した。
その高さは人間より下回るが、床すれすれを狙っていたハンターの斬撃を躱すには十分だった。

(デカい図体でジャンプなどするな!!)
ハンターは強靭な上半身に比べて、あまり変化のない下半身を持つ怪物に対して心の中で悪態をつく。

「早く!!その派手な色した盾の上に乗れ!!」

しかし、すぐに作戦を組み立て、ハンターに指示を出す。

「ウウウオオオオ!!」

ジャンプしたのちに、その巨大な腕でハンターを潰そうとする。
ハンターはそれを横っ飛びに躱し、すぐ近くにあった、先程投げた盾の上に立つ。


二発目のジバリーナがここへきて発動。
既に証明されたように、巨体と並外れた生命力を持ったG生物にはほとんど効果がない。


地面からの爆発は、七宝の盾を弾き飛ばす。
上にいたハンターもろとも。

「カミュ殿、そういうことでござったか!!」
「おっさん!!頼んだぜ!!」


人間を乗せた盾は、ロケットのように上空へ飛んでいく。
天井スレスレまで飛んでいき、G生物と人間の身長差は、この瞬間だけ克服された。


いける。
この距離、この間合い、この高低差なら、いける。
チャンスは今しかない。

カミュもハンターも、同じことを考えていた。

154Dance on the edge ◆vV5.jnbCYw:2020/02/13(木) 00:51:09 ID:DQz/Kptc0

「マール殿の、仇!!」
盾を蹴飛ばし、上空から斬りかかる。

首から、右肩の巨大な目にかけて、渾身の袈裟斬り。
真っ白い床や天井の研究室を、飛び散る汚液が汚す。

「よぉし!!」
カミュがガッツポーズをする。
斬った感触から、深手を負わせたとハンターも実感した。

「グウウアアア!!」
「なっ!?」

しかし、首を失ってなお、G生物の腕は動く。
いや、斬り落としたかに見えた首は、予想外な方法で守られた。

「おっさん!!」
カミュの声も空しく、ハンターはクレーンゲームの人形のように、爪で握りしめられる。


「バ……バカな……。」
ハンターがそう言うのも無理はなかった。
何しろ、斬られた首が落ちるのを、片手で無理矢理押さえて、鋭い爪が露出した方の手で自分を捕まえているのだから。

殺した直後が最大の反撃を食らう危機。
それはマールが示したはずだった。


空中での攻撃は、従来の力や武器の強さに加えて、重力も威力に伴う反面、空を飛ぶ技術でもない限り、安定性に欠ける。
先程カミュが示したばかりだったのに。

ミスを犯した自分を呪いたくなった。


「クソ……間に合え!!会心必中!!」
背後からエネルギーを纏った、カミュの一撃が片腕に命中。

最初に展望台で共闘した金髪の青年、それにマールディア。
これ以上、仲間を死なせてたまるかと、魔力が残り少ないのにも関わらず、力の限り怪物の右手に攻撃を加えた。
締め付ける力は弱まるも、そのまま研究室の壁めがけてハンターを投げ飛ばした。


「ぐああっ!!」
「おっさん!?」



ぐしゃ、という、明らかに人で立ててはいけない音が響く。
カミュが怪物の隙間から見ると、血まみれのハンターが倒れていた。

(ウソ……だろ?)
当たり所が悪かったのだろうか。
明らかに出血量や、地面に叩きつけられた音から、無事な気がしない。


『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる?』


こんなタイミングで、放送が響き渡る。
しかし、カミュにとっては周りの状況どころではなかった。


丁度バイキルトとヘイストの力が無くなり、魔力も会心必中でほとんど無くなっている。
この状況を打開できる道具もない。


逃げ道も巨大な怪物に封鎖されている。

(なんだよこれ……。)
展望台付近で会ったあの銀髪の男もそうだ。
この世界には、どれだけ圧倒的な力を持った怪物がいるのか、想像しただけで震えが止まらなくなった。


(ニズゼルファを倒して浮かれていたオレが、バカみたいじゃねえか……。)
怪物が迫る。
凄まじい力に、全てを斬り裂く強靭な爪、巨体に似合わぬ身のこなし。
そして、不死身の生命力。

ニズゼルファが復活した時や、ネルセンの迷宮にいた魔物でさえ、ここまで異常な力を持った者はいなかった。
自慢の足を使う気も起きず、恐怖を目の当たりにしたカミュは、ただ後ずさるだけだった。

155Dance on the edge ◆vV5.jnbCYw:2020/02/13(木) 00:51:28 ID:DQz/Kptc0

怪物がトドメにと片腕を上げる。
「くっそおおおおおおおおおおおお!!!」



その叫びがカミュの最後に発した言葉になるはずだった。

「何!?」
しかし、串刺しにしようとした腕に、いつの間にかナイフが刺さっていた。
G生物の後ろには、ハンターが血に汚れながらも立っていた。

「おっさん!!無事だったのかよ!!」
「カミュ殿、良い物を頂いた。」


それは天井に引っかかっていた、カミュが持っていたコンバットナイフ。
先程ハンターが盾に乗って飛んで行った際に、回収していたのだ。


トドメを刺すのを邪魔された怪物は、攻撃の矛先をハンターに変える。


「グウアアア!!」
しかし、どうしたことか、斬り裂かれたのは、ハンターではなく、ウィリアムの巨大な爪だった。

――鏡花の構え。
敵の攻撃をいなす独特の構えから、カウンターを狙うのに特化した狩技だ。
会心必中のダメージも回復し終わっていなかった極太の腕が、ボトリと落ちる。

「貴殿の攻撃、見切らせてもらったぞ。」
そして、忘れてはならない。
ハンターの生まれつき持った嗅覚は、敵の攻撃や接近のレーダーにもなる。


G生物の放つ異臭のせいで、思うようにそれが機能しなかった。
しかし、一たび相手が自分から離れ、カミュに係りきりになったことで、臭いのわずかな違いを感知できるようになった。


相手の吐く息の臭い、感情の変化で変わる僅かな臭い。
敵が持つそれぞれの臭いを感知することで、相手の攻撃を見切ることに成功した。


「おっさん!!行くぜ!!」
「うむ!!」


敵の爪が一時的にだが折れた。
これで、最も殺傷力ある攻撃を受ける可能性が無くなる。


まずはハンターがウィリアムの胴体に袈裟斬りを入れる。
そこから、別方向から閉じた扇を構えたカミュが、持ち前の速さを活かしてその裂傷を深くする。

「シャドウアタック!!」
本来カミュと、その仲間のイレブンが初めて覚えた連携技だが、ハンターの並外れた戦闘センスが成功した。
元々敵の守りを二人の攻撃の素早さで貫通する技だったので、分厚い肉の鎧を持つ怪物にも威力を存分に発揮した。

「まだだ!!」
カミュが斬りつけた裂傷から、ハンターが怪物の肉体を串刺しにする。

「マール殿の痛み、思い知ってもらう。」
「グゴ……オ……オ………。」

暫くG生物は暴れるも、ハンターが太刀を抜くと、動かなくなった。


「やったな。つーかおっさん!!生きていたのかよ!!」
カミュは敵を倒した喜びと、ハンターが生きていた疑問を口にする。

「拙者はおっさんではない。生きていたのは、あの少女が拙者を守ってくれたからだ。」


幸運なことに、ハンターが投げ飛ばされた先で、マールディアの死体がクッションになってくれたようだ。

一時的に動けなくなっていたが、肉が潰れた音も、大量の血もマールのものだったらしい。

156Dance on the edge ◆vV5.jnbCYw:2020/02/13(木) 00:51:51 ID:DQz/Kptc0
「一先ず、助かったみたいだ……うわっ!!」
カミュとハンターの間に、蛍光灯が落ちてきた。

研究室の天井を構成していたブロックが、続けざまに落ちてくる。
怪物化したウィリアム・バーキンが、柱や天井まで斬り裂いたため、研究室そのものが限界を迎えたのだ。



「おい!!逃げないとやべえぞ!!」
カミュは散らばっていた七宝の盾を回収し、すぐに研究室を出ようとする。
リーバル達が脱出に使った天井付近の窓は、人力で届く高さではない。
早く入り口から脱出しないと、この怪物もろとも下敷きになってしまうだろう。

「言われるまでもない。カミュ殿、さっきの爆発の魔法で、あの窓へ飛べないか?」
「もう魔力はない!!つーか何してんだ!!おっさん!!」


ハンターははみ出ていた内臓を戻し、ボロ雑巾のようになった少女を抱えていた。

「死してなお、この少女が守ってくれたのだ。死体だからといって棄て置くわけにはいかん。」
「確かにそうだけど……待てよ!?」


カミュはふと閃いて、マールがまだ付けているザックを開ける。
自分の支給品こそ、脱出出来そうな道具はなかったが、もしかしたら、何かリーバルのように空を飛べる道具が出るかもしれない。
しかし、カミュの期待には彼女の支給品は答えられなかった。

「ああくそ!!何でハリセンとリンゴしかねえんだよ……つーかおっさん!!食ってんじゃねえ!!」

「食べられる時に食べるのも、生きる上で必要だぞ、それとおっさんと呼ぶなと言ってるだろう。」

イマイチずれている回答を無視して、カミュはいち早く研究室から出る。
ハンターもリンゴを頬張りながらも、その後を追う。
既にベロニカやハンターと共に入った際に、入り口までの経路は完璧に覚えている。


「畜生!!廊下が塞がれてやがる!!」
ウィリアム・バーキンが残した文字通りの爪痕は、廊下にも及んでいた。


その中で最短距離になる道が、倒れた柱によって完全に通れなくなっている。

「この程度の柱なら、拙者の太刀で……。」
「やめろ!!壊したら余計崩れてくる!!」


通り道を無理やり作ろうとするハンターを諫め、通れる廊下を走り続ける。
その先にあった場所は、第四研究室。

一番最初にウィリアム・バーキンと錦山彰、それにマールとリーバルが対面した場所だ。
そこは特に酷い有様だった。
リーバルが炎の矢を撃ったことも相まって、部屋の奥は火の海になっている。

まず扉が壊れていた時点で、怪物の被害が直接及んだ場所だと認識する。


幸いなことに、窓はある。
第一研究室とは異なり、壁に掛けられている高さからして、普通に脱出用に使えそうだ。
だが、炎に包まれているから窓の所まで行くのは難しそうだ。
どうしたものかと、カミュは辺りを物色すると、机の横にある袋を見つけた。


「これは……。」
「カミュ殿!?どうした!?」
ハンターが建物の崩れる音に負けじと大声を出す。
彼が持っていたのは、ウィリアム・バーキンの支給品袋。


元々Gウイルス以外に興味を持たなかった彼は、この場所に捨てていたのだ。
その中から、水色の杖が出てきた。
先端には雪の結晶が象ってある。

カミュはそれを手に取り、見つめる。
「なんだ?これは……?」
ハンターも疑わし気にその杖を見つめた。

「もしかして……頼む!!」


一縷の望みをその杖に託し、振り回す。

157Dance on the edge ◆vV5.jnbCYw:2020/02/13(木) 00:52:17 ID:DQz/Kptc0

その瞬間、フリーズロッドから吹雪が迸り、研究室内の炎を瞬く間に消した。

「おお!!道具を使った魔法もあるのか!!」
「オレの世界にあった、氷の杖に似てるけど、威力は段違いだな。」
ベロニカやマール、カミュが使っていた魔法とは異なる出方をした魔法に、ハンターは驚くが、急いで窓を破って脱出する。


後ろから炎の燃え盛る音と、建物の崩れる音をバックに、二人は駆け抜ける。
気が付くと、森を抜けていた。



「どうやら逃げられたようだな……。」
「まだ……終わってないぞ………。」
「そうだな……これは……?」


今になって支給された名簿を、ハンターが読む。
その中にあったのは、『オトモ』という名前。
もしかすると、幾度となく助け合ってきた、アイルーの可能性が極めて高い。


自分の名称は『男ハンター』と書いてあったから、女性や子供のハンターもいるのではないかと思ったが、本当に知り合いはオトモだけのようだ。

「オレは……まあ、予想通りだな。悪い予想だが……。」
カミュが共に旅をした仲間の内、ロウを除いた全員が参加させられていた。
そして、グレイグの旧友であり、ウルノーガの手下として暗躍したホメロスの名前もあった。

「休憩したい所だが……こうしてはおれん。一刻も早く拙者らの仲間を見つけねば。」
「そうするしかねえな。そいつを背負うの、オレも手伝うぜ。」

そうでなくても研究室の崩落を聞きつけ、危険人物がやってくる可能性があるから、ここは危険だ。

(近くで見ると、本当に綺麗な顔してるな……。)

もう動かないマールの顔を見て、カミュはそう思う。
出来ればもう少し広い場所で埋葬してあげたいし、出来るなら仲間にも合わせてあげたい。

「一先ず西の方へ移動しよう。城やら美術館やら、建物もあるし、休憩できるかもしれぬ。」



太陽は完全に登り、参加者を狩ろうと力を出す者も現れ始めるだろう。
ベロニカとリーバルの安否も分からない。
不安を胸に抱えて、二人は歩き出す。
一人の死した少女を背負って。

158Dance on the edge ◆vV5.jnbCYw:2020/02/13(木) 00:52:48 ID:DQz/Kptc0


【ウィリアム・バーキン 第二形態@BIOHAZARD2 死亡確認】
【残り54名】


【支給品紹介】
【七宝の盾@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド】
ハンターに支給された盾。英傑ウルボザが使用した盾で厳選された金属が使われ 軽さと強靭さを兼ね備えた逸品強烈な攻撃も易々と 受け止められる性能を持つ(後半原作の説明より抜粋)


【フリーズロッド@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド】
ウィリアム・バーキンに支給された杖。一振りするだけで誰でも吹雪を出せる。
原作では使い続けると魔力を使い果たしてしまうが、本ロワでは魔力の供給を行うことで、使用回数を増やせる。






【A-5/橋/一日目 朝】
【男ハンター@MONSTER HUNTER X】
[状態]:疲労(大) ダメージ(中) 全身打撲 血で汚れている
[装備]:斬夜の太刀@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜1) リンゴ×2@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド ハリセン@現実
[思考・状況]
基本行動方針:主催者の討伐、または捕獲。
1.西へ移動し、その先でマールディアを埋葬できる場所、休憩できる場所を探す。
2.ベロニカ達とイシの村で落ち合う。
3.オトモ、カミュの仲間を探す。

※第一回放送を聞き逃しています

【カミュ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:ダメージ(中)、背中に打撲、疲労(大)、MPほぼ0 ベロニカとの会話のずれへの疑問
[装備]:必勝扇子@ペルソナ4
[道具]:基本支給品、フリーズロッド@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド カミュのランダム支給品(1〜2個、武器の類ではない) ウィリアム・バーキンの支給品(0〜2)(確認済み) 七宝の盾@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド
[思考・状況]
基本行動方針:仲間達と共にウルノーガをぶちのめす。
1.西へ移動し、その先でマールディアを埋葬できる場所、休憩できる場所を探す。
2.ベロニカ達とイシの村で落ち合う。
3.仲間や武器を集め、戦力が整ったらセフィロスを倒す。
4.これ以上人は死なせない。

※第一回放送を聞き逃しています
※邪神ニズゼルファ打倒後からの参戦です。
※二刀の心得、二刀の極意を習得しています。


※【A-5】研究室は倒壊しました。



たとえ支給品の名簿が理由とは言え、二人がその場から立ち去ったのは、幸運だった。
瓦礫の山と化した研究室の一部が吹き飛ぶ。


「グウオオオオ……。」

一度目の復活よりさらに巨大化した、ウィリアム・バーキンが、そこから顔を出す。
顔を出す、と言ってもウィリアムの面影はほとんど残っていない顔なのだが。


G細胞がほとんど人間の細胞を侵食し、最早人間の姿をとどめていない怪物は、そこから歩き出した。
その姿は、墓場から出たゾンビとすら形容しがたいような、醜悪な怪物。


獲物を求めて、さらなる進化を遂げたG生物は、ノソリノソリと歩き出した。

もう一度言おう、カミュとハンターは、どんな動機であれ、その場から離れたのは幸運だった。
何故なら、消耗した二人では、どのような幸運があっても、この怪物まで倒すのは不可能だから。


【A-5/研究室跡 /一日目 朝】

【ウィリアム・バーキン@BIOHAZARD 2】
[状態]:G生物第三形態、下腹部に刺し傷(再生中)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:本能に従い生きる。
1.獲物を見つけ、殺す
2.シェエエェェリィィ……。

159Dance on the edge ◆vV5.jnbCYw:2020/02/13(木) 00:53:03 ID:DQz/Kptc0
投下終了です。

160 ◆RTn9vPakQY:2020/02/13(木) 16:20:50 ID:O2ibmHAU0
・両雄倶には立たず
雷電の死体を見ても、ファイガで攻撃されても、冷静さを保つスネークは渋い。
そんなスネークのことを、カエルやカミュ、雷電とは異なると直感するセフィロスもまた、観察眼に優れていますね。
主催者に動けと言われても余裕綽々なセフィロス、今後も敵を増やしまくりそう。


・そでをぬらして
海中ではミファーの絶対的優位かと思いきや、千枝のペルソナが大暴れ。結果は痛み分けとでも言えましょうか。
あり得ない光景ばかり見せられる錦山の胃がストレスでマッハ。
千枝は精神的に衰弱して、ミファーも悲痛な覚悟を強めて。
読み終えてからタイトルを見直すと、なんともいえない気持ちになります。


・たたかう者達&さらにたたかう者達
冒頭のホメロスの独白が、グレイグとの関係を思うと切ないです。

>この世界にいる者は皆、闘う者達であると。命の数だけでなく、それぞれの本質を見据えた上で向き合っていかなくてはならない者達であると。
クラウドが、殺し合いが開始してから出会ってきた参加者を思い返して、このような思考に到達したのですね。
クラウドとホメロスの拮抗した勝負に、この意識の変化が僅かな差をつけた、というのも構成として面白いです。

元ソルジャーという幻想に囚われ続け、今も過去をやり直すという幻想に囚われているクラウドにとって、
真実を追い求め続けた陽介(自称特別捜査隊)の言葉が強く響くのも、とても納得できます。
しかし、陽介はペルソナひとつでクラウドにどこまで対抗できるでしょうか…。


・不思議の国の遊園地跡
>「キミは聞こえないの?この島全体に、トモダチの恐怖や痛みの籠った叫びが、流れている。彼らを助けてあげなきゃ。」
どこか特殊な精神性のNも、Nのこの発言を聞いて引かないルッカもさすが。
そして遊園地に設置された首輪とアイテムの交換機…これを誰がどう活かすか、気になりますね。


・君の分まで背負うから
>どうすれば、彼女の涙を止めてあげられる?
>どうすれば、彼女が悲しまなくていい?
>どうすれば────
考え抜いて、ベルを眠らせたイレブン。この優しい選択は、しかし一時しのぎでしかないのが辛いですね。

>不安定な時くらい誰かに任せて眠っていたっていい。今はベルの分まで、僕が現実を背負うから。
これまで仲間たちに支えられてきたイレブンが、ベルを支えようとする。その強さがカッコいいです。
でも最後は、はずかしくなっちゃうのね!


・そして、戦いは続く(前編)(後編)
魔王が放送や名簿から情報を得て、柔軟な考察をしているのは意外な印象ですね。
そしてネメシスとの再戦。多数の触手でファンタジー世界の住人とも渡り合う怪物はやはり恐ろしい。
>「鎌と言うのは、こう使うのだ。」
イレブンの手から鎌を奪って使う魔王、カッコいい。
共闘により修羅場を越えたかと思いきや、シルビア…誰かを庇い倒れるのはらしいといえばらしい、けどあっけない…。
ネメシスT型はバイオ勢として充分な恐怖を振りまいてくれましたね。

161 ◆RTn9vPakQY:2020/02/13(木) 16:22:51 ID:O2ibmHAU0
・選ぶんじゃねえ、もう選んだんだよ
仲間を殺す発想ができないマルティナの甘い考えを見抜いて、誘導しようとするミリーナは地味にこわい。
改めて、二人の覚悟の差を感じました。
>(とりあえず、そのイレブンって人以外の仲間とは、遭遇したいとこね。その人たちを…マルティナに殺させる)
そしてエグいことを考えているミリーナ。現状はドラクエ勢は位置が遠いものの、実現したら面白くなりそうです。


・チョッカクスイチョク
>美味しいか不味いかで聞かれたら、あのカレーはどう考えても不味かった。
>でも、今自分はその不味いカレーを求めているのも分かっていた。
まず正気か???と言いたくなりましたが、考えてみれば殺伐とした状況で日常を思い出したくなるのは自然なことですね。

>二度と食べたくなかったカレーを、二度と食べることは出来なくなってしまったことを。
そしてこの表現が切ない。

>ピカチュウは少しシワっとした、落ち込んだ顔を見せた。
ここ笑いました。


・見上げた空は遠くて
同じ英傑の死に対しては悲しまず、けれどマールディアの死に対しては心を見出されるリーバル、好き。
>あたしが死んだ時、皆もこんな気持ちだったっていうの?
>死んだのはあたし?皆が助かったのならそれで良かった?冗談じゃない、そんなのはただの自己満足だ。残された側の気持ちってものを全く考えていない。
本編では思うことのなかったであろうベロニカの述懐も切ないです。

>「……まだ、信じていてもいいのかしら。あたしの死は無駄じゃなかったんだって……あたしは未来を守ったんだって……。」
>「ああ、勝手に信じていなよ。真実は、僕が明らかにしてやるから。」
リーバル△ 彼はプライドを守れるのか、とても楽しみです。


・未知への羨望
セフィロス、登場話では圧倒的な戦闘能力を見せつけられましたが、今回は別ベクトルの恐ろしさを感じました。
セーニャに対してジェノバ細胞を植え付けるとか、発想がすごいですよセフィロス様!
セーニャの得た情報がセフィロスに送られるというのも、地味に脅威ですよね。ますます余裕になるかも。


・Dance on the edge
出会ったばかりの男二人が、協力してマールディアの仇を倒そうとする展開、熱い。
二人の連携がうまい具合にできていて、ウィリアムとの戦闘は手に汗握りました。
>「食べられる時に食べるのも、生きる上で必要だぞ、それとおっさんと呼ぶなと言ってるだろう。」
モンハンでは回復できるときにすることが必要ですからね。当然の行為ですよね。
しかし、G生物も第三形態へ。研究所が破壊されて、野に放たれた状態なのが不安ですね。

先のレスに書き忘れましたが、皆様投下乙です。感想でした。

162 ◆2zEnKfaCDc:2020/03/12(木) 01:16:27 ID:1F0mLpc.0
ベロニカ、ゼルダ、リーバルで予約します。

163 ◆2zEnKfaCDc:2020/03/12(木) 17:28:31 ID:1F0mLpc.0
忘れてました。>>162に加えてレッドも予約します。

164 ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 01:11:56 ID:Oxg5bfcs0
すみません。2時まで予約延長をお願いします。

165 ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 01:57:46 ID:Oxg5bfcs0
遅くなりましたが、投下します。

166虚空に描いた百年の恋 ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:00:19 ID:Oxg5bfcs0
主催者であるマナとウルノーガは時を超えることができる。今しがたリーバルはその予測を立てたばかりだ。
主催者であるマナとウルノーガは死者を甦らせることができる。これは元より分かっていたことだ。

どちらの力がより恐ろしいかは 考えるだけ無駄だが、どちらも理に反している。時間は止めることはできても、逆行することはできない。傷を癒すことはできても、死を覆すことはできない。それなのにまだ生きていたかったマールディアが死んで、もう死んでいたはずの僕らが生き残っている。こんなの、不条理だ。
生と死の線引きとは、世界の理とは、こんなにも容易く覆るものであったか。僕らの直面している現実は、ともすれば厄災ガノンなんかよりもよっぽどタチの悪い何かなのかもしれない。

「まったく、シケたツラしてるわね。」

手元から、声が聴こえてきた。
何故手元なのか。それは今現在、ベロニカを腹の下に抱えて飛行中であるからだ。
よって、向こうから一方的にこちらの表情が見えている状態だ。

「……君ほどじゃないよ。さっきまで半ベソかいてた君ほどじゃ、ね。……ああ、見えないけど、もしかして今もかい?」

「ふん、何よ。心配してやってるのに。……ま、そんな軽口聞けるなら大丈夫そうね。」

死後に神獣ヴァ・メドーの体内で亡霊として囚われ続けた僕は、最低限ハイラルの実情は知っている。
ギリギリで力に目覚めたゼルダ姫がガノンを百年に渡って封じ込めていること。
リンクの奴が百年の眠りから目覚めて神獣の解放に奔走していること。

自分の死後の仲間の行方も分からず、不安なのはベロニカの方だろうに。
自分のことで手一杯な時にも他者を気遣うベロニカが、一人の少女と重なった気がした。

(だから……かな。この僕が柄にもなく他人のために、ベロニカの仲間の行方を明らかにしようとしているのは。)

とはいえ状況は絶望的。
何しろこの殺し合いを開いているのが、他でもない、ベロニカとその仲間が立ち向かってきたウルノーガなのだ。ベロニカが死んだ後に、仲間たちもウルノーガの支配を受けて殺し合わされている。答えなど分かっているようなものだけれど。それでも、真実を明らかにすると約束した。

167虚空に描いた百年の恋(前編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:01:17 ID:Oxg5bfcs0
「ほら、シャキッとしなさいよ、リーバル!前方、誰かいるわよ。」

と、考え事をしていると不意にベロニカの怒号によって現実に引き戻されるリーバル。

「うるさいな、いちいち言われなくても分かってるさ。……と、あれは……!」

その人影の片方、それは――リーバルもよく知る者であった。

ここで会ったが百年目とはよく言ったものだけれども、まさか文字通りの意味で使う日が来るとはね?

こんな殺し合いが開かれていなければ、その相手は神獣ヴァ・メドーを解放しに来るリンクだったのだろうか。ホント、待たせすぎだよね。
まあいい、そんなことよりも。
今はこの再会を喜ぼうじゃないか。

「やあ……姫。」

「ひゃあっ!?」

姫――ゼルダの前にスーッと降り立つリーバル。地上の敵ばかりを警戒していたゼルダは、唐突に目の前に現れた影に驚き飛び退く。

「なっ……カモネギがじゅくがえりしょってやって来たぁ!?!?」

「ちょっと!誰がじゅくがえりよ、誰が!!」

ついでに、ゼルダと行動を共にしていた少年――レッドの方も驚きつつ、キラキラした目をリーバルに向けていた。

「って貴方……リーバル!?」

「久しぶりだね。元気そうで何よりだ。」

百年ぶりの邂逅は、お互いにとってこの上なく望ましい形で行われた。

お互いが同行者を連れていること、それは殺し合いに乗っていないという証明といえる。――真偽のほどは別にして、ではあるが。

また、両者とも大きな怪我は負っていないこと、これも安心材料のひとつ。
ゼルダの格好はボロボロで、何か戦闘があったのだと見受けられるが、応急措置の跡も見られ、目前の命の危険などは無さそうだ。

「なあ、姫さん。こいつも姫さんの仲間なのか?」

たった今がカモネギの進化系が見つかった歴史的瞬間なのかもしれないとどこかワクワクしながら、レッドがリーバルを指さして言う。
その無礼な態度に腹を立てるも、気になるポイントは他にあったためスルーする。

「こいつ『も』とはどういうことだい?」

僕以外に姫の知り合いはこの場に居ないはずだけれども……

そこまで考えて、以前出会ってもここまで着いてきていないゼルダの知り合いの正体についてふと考えが至る。

「もしかして、ウルボザ……」

「い、いえ!違います!ダルケルですよ!」

少し気まずそうな顔をリーバルは浮かべたため、慌ててゼルダは訂正する。

「ダルケル?ここにはいないようだけど、何かあったのかい?」

不思議そうに、リーバルは尋ねる。

そんなリーバルを前に内心、ゼルダは微笑んだ。
こうも自然に、話を切り出せるタイミングが訪れてくれるとは。
ゼルダはグレイグを殺した。
それをクロノに擦り付け、さらに自分を護ってもらわなくてはならないのだ。

だが、脈絡もなく話し始めるとどうしても、その結末に持っていきたいような雰囲気が生まれる懸念がある。
ここでリーバル達に与える印象ひとつひとつが自分の生存に直結するため、ゼルダは慎重に機を伺っていたのだった。

「そうですね……それを語るにはお話しなくてはならないでしょう……。私の、ここまでの道のりについて。」

168虚空に描いた百年の恋(前編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:02:20 ID:Oxg5bfcs0




そして、ゼルダは話し始めた。
茶髪の少女(里中千枝)に襲われたところをグレイグという青年に助けられたこと。

しかしそのグレイグも他の人物に殺され、逃げている途中にダルケル、レッドの二人と合流したということ。
ダルケルはその人物と戦いに向かっているため、ここにはいないということ。

「グレイグが……ソイツ、相当な実力者ね……。一体、誰に……?」

『敵でも味方でも無い』程度の知り合いの死を突き付けられ、複雑な表情のままベロニカが問う。ここが正念場、声のトーンを落とし、ゼルダは語った。

「――クロノという、少年でした。」

ピクリと、リーバルの眉が揺れる。

――この時。そうか、と素直に頷いていればどれほど楽だっただろうか。

「……もういいよ、姫。」

「ちょっとリーバル!もういいってどういう事?まだ向こうが話してる途中でしょうが!」

君は、踏んじゃいけない地雷を踏んだんだ。でも君が悪いんじゃない。悪いのは、僕の往生際かもしれないね。

「うるさいね。茶番はもう沢山だ――そう言ったんだよ。」

「……どういう事ですか?」

「どうもこうもない。クロノに襲われた?有り得ないんだよ。」

クロノ?そんな奴会ったことないさ。僕が知っているのはそいつの名前だけ。

「クロノってのは、マールディアが生涯を賭けて信じると誓った男の名だ。だから僕も信じる。」

でも――許せないんだ。彼の名を貶めることだけは。
その名を汚すということは、『彼女』の生涯を汚すことと同義だから。

本当に僕は、往生際が悪いものだよ。こんなことしたって彼女が生き返るわけでも救われるわけでもないのにね。
クロノの無罪を信じる根拠は薄っぺらいったらありゃしない。

でもね、必要なんだよ。
信じるに値する人物が、信じたいと我が心が願う人物が、どれだけ他人を有罪と叫ぼうとも、最後まで無罪だと信じて抗える存在は。
さもないと、善人の顔をした魔物に騙されてしまうだろう?

「……貴方は長く共に過ごしてきたこの私よりも、この殺し合いで初めて出会った付き合いの浅い人物の方を信じると言うのですか?」

焦りながら、ゼルダは引き下がらない。ここでクロノが白だと断じられては、リーバルの飛行速度ですぐにでもハイラル城に向かわれ、クロノ、ダルケルと合わせた3人を敵に回すこととなる。
敵と仕立て上げるのが知らない相手だったからこそダルケルを丸め込むことができたが、相手がよく知る英傑であればミファーやリンクの説得とて難しいだろう。

だからこそ、口調が喧嘩腰になりつつもゼルダは応戦する。

「フッ……笑っちゃうね。共に過ごしてきた、だって?こりゃ傑作だ。百年前の話だろ?」

だが、口先で戦うのであれば――それは元よりリーバルの独壇場であった。

「百年も経てば人は変わるさ!僕と君に、かつての信頼関係なんて完全には残ってはいない。」

根拠は薄くともクロノは無罪でなくてはならない。マールディアの尊厳をも貶めるのは――リーバルのプライドが許さない。

マールディアというリーバルの地雷を、ゼルダは無自覚に踏み抜いたのだ。

169虚空に描いた百年の恋(前編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:03:14 ID:Oxg5bfcs0
「ほんっと、愚の骨頂だよね――」

しかし、忘れてはならない。
地雷を持つのはリーバルだけではないということを。

ゼルダもまた、特大級の地雷を抱えていた。

「――君はいつまで百年前に囚われているんだい?」

そして同じく無自覚に――リーバルはそれを踏み抜いた。

「ッ……!うるさい!!」

刹那、銀色の閃光が走る。
瞬時に、蒼い影が後方へ跳ぶ。
同時に、紅い鮮血が舞い散る。

「あれ?怒ったのかい?本性、現したね。」

「……。」

次に聴こえたのは、胴から血を流しつつ嗤うリーバルの声。相対するは、血に塗れた短刀をいつの間にか逆手に構えていたゼルダ。

「リーバル!大丈夫!?」

「勿論さ。あんなのに殺される僕じゃない。でも――」

何が起こっているのかをいち早く察知したベロニカは、リーバルの隣に付いてゼルダ達と対峙する。リーバルが反射的に下がったことで、心臓に刃を突き立てられる事態は避けられたらしい。

「――刃を向けられたからには僕も看過できない。」

リーバルは真っ直ぐにゼルダを睨み付け、アイアンボウガンを手に取って木の矢を装填する。それは『殺し合い』の開始を告げる合図であった。


(私としたことが、頭に血が上りすぎましたね……。でも……!)

『――君はいつまで百年前に囚われているんだい?』

でも、許せないんだ。私の願いを、私の生きる糧を、真っ向から否定するその一言だけは。


ゼルダの本性をいち早く察知できたリーバル。
怒りに任せた無謀な奇襲には失敗したが、元より殺し合いを勝ち抜くために様々な状況を想定していたゼルダ。
リーバルに一歩遅れを取ったが、こちらが身構える前に襲いかかって来る敵との実戦経験は多々あるベロニカ。

この時、三者はそれぞれが自分なりの現状の把握を終えた。

しかしたった一名。この場には状況を即座に理解できなかった者が存在していた。

「なあ……!一体どうしちまったんだよ!」

言うまでもなくそれはレッドである。
シロガネ山に籠る前から、悪の組織ロケット団と戦いを繰り広げてきた彼は、人の悪意というものに鈍感なわけではない。
ただし、彼の経験してきた戦いはすべて『ポケモンバトル』であった。そんな彼にとって、人が武器を用いてポケモン(リーバル)を襲う光景、それは常識を優に逸脱したものであったのである。

また、リーバルもベロニカも状況を把握し損ねていたひとつの要因があった。二人にとっては未だ、ゼルダと行動を共にしていたレッドも警戒対象であったということ。

これらの要因により、全員が全員、次のゼルダの行動に遅れを取ってしまうこととなる。

170虚空に描いた百年の恋(前編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:04:36 ID:Oxg5bfcs0
リーバルがボウガンに矢を装填する僅かな間を狙って、ゼルダは即座に走り出す。

「っ……!しまっ……」

逃げ出すにしては方向が見当違い。一瞬の思考の後、その意図にいち早くベロニカは気付く。しかしそれを阻止する手段は詠唱を必要とする呪文のみ。

「――動かないでください。」

結果、ベロニカも間に合わない。
レッドの首元に、アンティークダガーが突き付けられるという状況が作り出されてしまった。

「この、卑怯者……!」

「ええ、お察しの通りです。レッドは味方ではありません。騙して利用していただけですわ。」

ベロニカは唇を噛む。
悪でない者を悪と騙り、第三者と敵対させる手口。悪魔の子と見なされて苦しんできたのは他でもない、自分たちなのに。
同時に、思い出した 。ゼルダに関わって死んだ男グレイグの行いが、マナの放送で『空回り』と称されていたことを。
彼もまた、ウルノーガにそうされていたようにゼルダに騙されてクロノと戦わされたのかもしれない。

だとしたら、許してはいけない。
人の正義感につけ込むやり口を。人を殺し合わせ、その影で嘲笑う卑怯者の存在を。

「くっ……!離してくれ!姫さん!!」

「おっと。」

「っ……!」

この状況下で暴れる勇気は無くとも、せめて対話を――そんなレッドの思惑を真っ向から否定するかの如く、アンティークダガーを握った手に少し力を込める。レッドの首に刃が食い込み、ぽたり、と血が流れると同時にレッドは口を閉じた。

「貴方は黙っていてください。次はありませんよ。」

リーバルとベロニカの動向に意識を向けなくてはならない今、レッドの言葉にまで注意する余力は無い。支給モンスター、ピカへの指令を封じるのは必要な今、発言そのものを封じるのが最も効率的だった。

「姫……君は自分のやっていること、分かってるのかい?」

リーバルが問い掛ける。
それしか方法は無かったとはいえ、特に彼らと親交の深いわけでもないレッドを人質とするのは少し不安だった。しかし、やはり英傑かくあるべしということか。善意の少年を見殺しにできる性根は持っていなかったようだ。

「ええ、分かっています。貴方と交渉をする、最も手っ取り早い方法ですわ。」

――それならば。貴方の英傑としての資質、存分に利用させていただきましょう。

171 ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:05:25 ID:Oxg5bfcs0
以下、後編になります。

172虚空に描いた百年の恋(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:06:43 ID:Oxg5bfcs0
「……要求を言いなよ。」

「そうですね……ひとまずはそのボウガンを私の前に投げ捨てなさい。」

「……分かった、従うよ。」

歯を食いしばって、ゼルダの要求に従うリーバル。その様子を見ていられなくなったベロニカが口を開く。

「ひとつ、警告しておくわ。」

リーバルの投げ捨てたアイアンボウガンを拾おうとしたゼルダの動きがピタリと止まる。所詮負け犬の遠吠えであろうと半ば侮りつつも、注意を向ける。

「その子は確かに人質だけど、アンタにとっては唯一の命綱でもある。アンタがその子を殺した時は、あたしは即座にありったけの呪文をぶつけてやるわ。」

「……!」

一見挑発とも受け取れる警告――もとい脅迫。しかしこの言葉ひとつでゼルダの行動はかなり限られる。
人質とは、一人を不自由無く殺せる状態にある場合にのみ機能する。しかしこの状況下。レッドを殺した場合、リーバルとベロニカの武力制裁から逃れる手段がゼルダには残らず、さらに無力な少年を殺した手前、二人の手心すら期待できない。

また、所謂奉仕マーダーであるミファーなどとは異なり、ゼルダの目的は願いの成就である。
つまり優勝できない――つまり自分が死ぬのであれば、他者を殺すことは根本的に無意味である。元々ゼルダは正義の側に立つ人物。『自分の願いが叶わないのであれば誰も殺したくない』と思うのは当たり前の思考。

筋道だてて考えれば、ゼルダにレッドを殺す理由は無い。それはリーバルもベロニカも理解している。

それでもレッドがギリギリ人質として機能しているのは、単にリーバルとベロニカがレッドを見捨てる選択肢を取れないタチであるからに他ならない。ゼルダがレッドを殺せないと分かっていても、万が一を考えゼルダに従う。それで自分たちの身が危険に晒されることとなっても、だ。これは両者がすでに死んだ身であり、レッドに比べて自分たちの命の優先度なるものを下げて考えてしまう、ネガティブな思考形態にも由来していた。

そして、レッドの人質としての価値がそれだけ不安定な状態である今、ゼルダにとって最優先すべきはレッドをいつでも殺せる状況の確保である。レッドを殺してもリーバルとベロニカからの武力制裁を受けない状態――すなわちリーバルとベロニカを武力で上回る状態。そのため、手始めにリーバルのアイアンボウガンを捨てさせた。

そしてここで、ベロニカの警告に意味が生まれるのだ。

リーバルのアイアンボウガンと違い、ベロニカの呪文は『武装解除』が不可能である。仮に『魔力を使い切るまで呪文を空撃ちしろ』と要求しようとも、ゼルダにはベロニカの魔力が空であることの確認ができない。それは悪魔の証明に他ならない。

173虚空に描いた百年の恋(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:10:00 ID:Oxg5bfcs0
つまりベロニカの警告は、ゼルダの想定していた次の一手を明確に潰すものであった。
かといってレッドを殺すこともできないゼルダはいかにベロニカの呪文を封じるかに思考をシフトする。

目の前に落ちているアイアンボウガンでベロニカを撃つか?否、ボウガンを撃つには両手を用いなくてはならない。アンティークダガーを手放した瞬間レッドは自分の元を離れるだろう。そうすればボウガン1本でリーバルと、呪文を扱うベロニカ。さらにはレッドが操るピカをも相手にしなくてはならなくなる。

では、リーバルに一旦アイアンボウガンを返却して、ベロニカを殺させるか?否、殺せないレッドを人質に取っている地点でこちらは不利を負っている。武装解除ならば従わせることも可能かもしれないが、ベロニカの命を差し出させるほどの手札を自分は持っていない。

(――仕方ない、ですね。)

自分が手にするか、リーバルに使わせるか。用途が上手く定まらないアイアンボウガンを拾うことを一旦保留する。

レッドを殺せず強気な交渉がしにくい今、ベロニカの呪文を封じるのは現実的ではない。

が、目的達成の手段は敵の戦力を削ぐことだけではない。
自分の持つ戦力を増やすこと、それもまた必要だ。特に、この場を乗り切ってもここにいる三人と、そこから情報が波及した人物の協力は望めそうにない。

(とりあえず……あれを返してもらいましょうか。)

そこで戦力の補給のため、ゼルダはアンティークダガーを突きつけたまま、片手でレッドのポケットを漁る。

現在レッドは2個モンスターボールを持っているはず。
ひとつは今もボールから出ているピカチュウの『ピカ』のもの。
もうひとつは私が預けている、瀕死のキリキザンの『ナイト』の入ったものだ。

これらふたつのボールを回収できれば、この場を切り抜けた後も最悪ひとりでも戦えるだろう。

片手しか使えない都合上作業が滞ったものの、ナイトの入ったボールは回収できた。

ピカはモンスターボールに入れる習慣が無いのか、デイパックにしまい込んでいるらしく見つからない。片手だと面倒だが、レッドのデイパックを漁る必要があるようだ。


「――!?」


様々に思考を張り巡らせるこの時、唐突にゼルダの背筋に悪寒が走る。自己に迫る危機を、本能的に察知したのかもしれない。

その本能の示す先に目を向ける。そこには、完全に想定外の存在――ピカが全身に電撃を纏ってゼルダに全力の殺気を向けている光景だった。

支給されたポケモンは所有主の指示無しには動かない。レッドの発言を封じているからと、レッドの支給品に過ぎないピカはゼルダの注意対象から外れていた。それは油断でも気の緩みでもなく、自身の情報認識の限界を考慮した上での的確な情報の取捨選択であるはずだった。

ゼルダの誤算は、たったひとつ――されどそれは致命的な失敗。
それはピカとレッドの間の『絆』を知らなかったということ。
ピカを奪おうとすることはレッドにとって、これまた地雷であった――それを踏んだ組織ひとつが壊滅に追い込まれたほど、強力な。

174虚空に描いた百年の恋(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:13:05 ID:Oxg5bfcs0
(ピカ……!)


モンスターボールの制約によりレッドの指示がないと動けないため――また、動けたとしてもレッドが人質に取られているため――やむを得ず待機せざるを得なかったピカに対し、レッドは目配せした。
ゼルダがデイパックに気を取られている今、レッドの目線などに注意を向ける余力は無い。

とはいえ、いくら長く連れ添ってきたパートナーであってもアイコンタクトのみで100%意思疎通をすることは不可能。

それでも――


(俺ごと撃て……!!)


――覚悟を決めたその眼から、最低限の『命令』を、ピカは読み取ったのである。


「――!?」


レッドと、レッドを捕らえたゼルダに向けて。世界最強のピカチュウによる10まんボルトが襲い掛かる。

指示をした形跡すらもゼルダに見せない一撃に最適な反応などできるはずもなく。ゼルダはレッドの首からアンティークダガーを離し、大胆なバックステップでそれを回避する。
対象を失った電撃はされど止まらず――やむ無く矛先とされたレッドの身、ただひとつに降り注ぐ。もちろん実際に10万Vもの電圧が流れるわけではない。しかしそれでもそう喩えられるに相応しいだけの威力の電撃。それが一人の人間でしかないレッドの全身を駆け巡る。

「よく……やった……ピカ……!さすが、俺の……」

パタリと糸が切れたかのように、未だ幼い少年はその場に崩れ落ちる。


さて。10まんボルトを逃れたゼルダだが、それは同時に唯一の命綱を手放したということに他ならない。リーバルもベロニカも、ここが好機と――そして何より我が身を犠牲にしてまでゼルダの隙を作り出したレッドの想いを無駄にしてはいけないと、それぞれ動き出す。
リーバルはゼルダの足元のアイアンボウガンに向け、大地を蹴って低空飛行で加速する。
ベロニカは魔力を練って攻撃呪文を準備する。
レッドを殺した手前、手心は期待できない。先の予測は実際にゼルダに牙を剥いた。

対するゼルダ。レッドが人質として機能しなかった場合とて、最悪のパターンとして想定済み。最後の一手を使う準備は元より怠っていなかった。

バックステップで下がりつつ、グレイグから奪った『支給品』を、この後に及んでは惜しむことなく大地に叩きつける。

アイアンボウガンとほぼ同じ位置に叩きつけられたその支給品の正体は、『ケムリ玉』。
着弾と同時に発せられた白い煙が、リーバルとベロニカの視界からゼルダを消失させる。

175虚空に描いた百年の恋(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:13:58 ID:Oxg5bfcs0
「そんなので……逃げられると思っているのかい?」

ケムリ玉を視認すると同時、リーバルは右腕を天空に掲げ、勢いよく振り下ろす。
その所作ひとつで、その場に強力な上昇気流が巻き起こった。
リーバルの猛り(リーバル・トルネード)。弛まぬ努力の果てに身に付けた、英傑リーバルの奥義である。視界をケムリ玉の放出する煙が塞ぐと言うのなら、ケムリ玉ごと上空に吹き飛ばせばいい。
同時にアイアンボウガンまでもが天空に打ち上がり、装填していた木の矢も外れてしまうが、それによるタイムロスはせいぜい数秒だ。ゼルダを見失うリスクに比べれば甘んじて受けよう。

単純にして明快な理屈で放たれた『リーバルの猛り』によって、ゼルダの居場所は次第に顕わになる。


「絶対、逃がさないわよーッ!!メラミーーーッ!!」

ゼルダの姿を確認したベロニカは、殺さない程度の『手心』は見せつつも、相応の怒りを込めて火球を撃ち出す。

火球が着弾する直前。ゼルダの周りに微かに残っていたケムリ玉の煙が完全に消え、ゼルダの現状がハッキリ視認できるようになる。そしてゼルダの現状の全貌が明らかになった瞬間、ベロニカは絶句した。

「キ……キリィ…………」

「え、なに……あれ……!? 」

火球は、ゼルダを庇うようにして立っていた――否、『立てられていた』と言うべきか――ひとつの影に着弾していた。

「やっぱり、私の騎士は貴方だけです……ナイト。」

それはレッドが持っていた、瀕死のキリキザン。ケムリ玉で視界が塞がれている間に盾として配置していたのだ。
ただでさえ瀕死の大怪我をしているナイトに、さらに上乗せされた『こうかばつぐん』の火球。風前の灯火だった最後の命が焼き尽くされつつも――古の大賢者の直系の子孫にしてラムダの大魔導師、ベロニカの攻撃呪文からゼルダを守り抜いた。


【キリキザン@ポケットモンスターブラック・ホワイト 死亡確認】

176虚空に描いた百年の恋(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:16:28 ID:Oxg5bfcs0



(不覚……!あたしとしたことが、罪もない子を巻き込んでしまうなんて……!)

ベロニカは拳をわなわなと震わせる。

自分は一度死んだ身。マールディアのような、生きていたい誰かの生をこの手で奪うなどあってはならないのに。

考慮に入れておくべきだった。
瀕死のモンスターを盾にしてでも、逃げようとすることを……

(――いや、違う。)

この時、ベロニカは気付く。
キリキザンの後ろで、ゼルダは逃げる姿勢を見せていないことに。
そう、ゼルダがケムリ玉を使った意図は煙に乗じて逃げるためでも、ナイトという盾を隠すためでもなかったのだ。

「リーバル、危ないッ!」

本当の狙いは、ケムリ玉を吹き飛ばすためにリーバルの猛りを使わせ、上空に飛んだアイアンボウガンを手にするまでの数秒間を稼ぐため。そして、その間にナイトを配置するのに加えた、もうひとつの動向を探られないようにするためである。

キラリ、と。死んだナイトの身体の隙間から不穏に煌めく光に、アイアンボウガンを手にした瞬間にリーバルは気付く。

(あれは――雷の矢……!そして……オオワシの弓……!?)

やはり弓矢に最も精通したリト族の英傑、リーバル。その光の正体をすぐに見破った。しかし、だからといって時すでに遅し。何らかの対処法があるわけではない。

「最初から狙いは貴方だけですよ、リーバル。」

倒れているレッドはもちろん、ベロニカ相手であっても最初の呪文さえ防げば詠唱の隙をつけば体格差に任せ、走って逃げることは可能。ただこの場からの離脱において最大の障害となるのは空を最速で翔けるリーバルである。

既にゼルダは矢を引いている。
木の矢の装填から始めなくてはならないリーバルには止められない。

勝負を決したのは目的の違いだった。いかにベロニカとレッドが死なないよう護りながらゼルダを止めるを考えていたリーバルと、いかにリーバルのみを排除するかばかりを考えていたゼルダ。
両者の思惑は決定的に、ゼルダにとって都合よく噛み合っていたのである。

そしてゼルダが雷の矢から手を離すその直前。


「――ピィ……カァ……」


ゼルダに向かって一直線に飛んでくる影がひとつ。

「ヂュウウウ!!」

突撃してきたピカの尾から伝わる『でんじは』が、ゼルダの全身を包み込む。

(またこのポケモン……!?どうして……所有者であるレッドは先ほど倒れたはず……。命令など下せるはずもないのに……!)

ゼルダは考えるも、すぐにその無意味さに気付き思考を放棄する。何が原因であろうとも、ピカがレッドが倒れてもなお動く現実は変わらない。

しかし理由は単純明快。
10まんボルトを受けてもなお、レッドは意識を失うことなくピカに命令を下した、ただそれだけである。

レッドの身体は確かにいち人間の域を出ない。しかし、一般的な人間の域は優に超越している。
レッドはその身ひとつで全国を旅して回り、悪の組織を壊滅にまで追い込んだ――さらにはチャンピオンですら手を焼くほどの野生のポケモンがゴロゴロいる禁足地、シロガネ山をも踏破するに至った人間である。
その肉体たるや、相棒の電撃ひとつで意識を失うほどヤワでは無い。

177虚空に描いた百年の恋(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:17:09 ID:Oxg5bfcs0
不意のでんじは混じりのタックルに姿勢を崩したゼルダは懐からアンティークダガーを取り出し、握る。
そしてなお我が身に張り付くピカに向けて――真っ直ぐに振り下ろした。突き立てられた鋭利な刃先がピカの身体から鮮血を散らす。

「ああっ……!ピカァーー!!」

レッドの叫び声も虚しく、ピカはその場に倒れ込んでゼルダはピカの阻害から解放される。
そしてでんじはとピカの特性『せいでんき』によって麻痺して上手く動かない手先で、再びオオワシの弓を引こうとするも――貴重な時間の大部分をピカへの対処に費やしてしまったゼルダは、すでに手遅れであった。

「悪いね、姫。」

狙いを定めようと、何とか前を向いたゼルダを待っていた光景は、すでにボウガンを此方に向け、複雑な感情の入り交じった形相を見せるリーバルの姿。

「君は道を間違えたんだ。」

彼の自尊心を散々に凌辱し、無力な少年を人質に取るという卑劣な策を弄し、挙句の果てに少年の持つポケモンに刃を突き立て……そして現在進行形で雷の矢を放たんとしているこの状況。ここでリーバルがゼルダに気心を加える余地など有りはしない。
また、ナイトを盾として消費した。リーバルに攻撃できる唯一の瞬間をピカへの攻撃に使った。そんなゼルダに、もう残機は残っていない。

アイアンボウガンから発射された、1本の木の矢。
それは真っ直ぐにゼルダへと飛んで行き、オオワシの弓を引く暇すら与えずに額を撃ち抜く。

178虚空に描いた百年の恋(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:18:29 ID:Oxg5bfcs0








――そうなるはずだった。


弓矢の名手にしてリト族の英傑、リーバルが確かな殺意を込めて放った矢は。


狙いを定め、真っ直ぐ、ただ真っ直ぐに放った矢は。


――本来の狙いである額を大きく逸れて、ゼルダの『右肩』に命中した。

「……!?」

リーバルが矢を放ったことを認識した瞬間に自分の死を確信するも、自分が生きていることに疑問を覚えるゼルダ。
しかし考える暇は無い。顔を上げたゼルダを待っていたのは、リーバルが再び木の矢を装填している光景。

与えられた、時間にして数秒にも満たないほんの僅かな時間。

迫るタイムリミットへの焦りが早く撃てとゼルダを急かす。
しかし撃たれた肩は上がらず、でんじはの麻痺も残っている。
ふらふらと、狙いもロクに定まらないその手で、もはや本能的に弓矢を引いた。

そんな状態で放った矢がリーバルに届くはずもなく。文字通り的外れの方向に放たれた、たった一発の射撃。本来、当たる確率はほぼ皆無の一撃。しかし弓の魔力がその矢を三本に分かつ。僅かでしかない確率を三倍にまで引き上げる。 その内の、右端の一本。運命に導かれたかの如き射線を描いたその一本が。


「――えっ…………!」


後方に位置していた、一人の少女の心臓を貫いた。矢に込められた電気の魔力が、穴の空いた心臓の機能を一瞬で停止させ――言葉を言い残す余裕すら与えず、その命を奪った。


「……!!ベロニカ……!!」


力無く倒れゆく、一人の少女。
その姿が、厄災ガノンに奪われたガーディアンによって撃ち抜かれた罪なき人々の姿と重なる。

「くっ…………クソォォォォ……!!」

自分の無力を、戦いの敗北を、この上なく悟ってしまったあの日の光景――今とめどなく溢れる感情も、あの時と同じだ。


怒りのままに矢を引く。
悲しみのままに手を離す。

二度目は無かった。
一本の矢は皮肉なほどに綺麗な直線を描き、今度こそゼルダの額を貫く。

(ああ、終わりですのね。)

最初は血の色に変わったはずの世界から、次第に色まで抜け落ちて消えていく。その中に貴方の色が入り込む余地なんて無いと、思い知らされたようで。

……いいえ、違いましたね。
私を救ってくれた貴方の手を取らなかったのは、私の方。

だから消えるのは私。
それはきっと、当然の帰結。

それが在るべき結末だと、頭では納得しながらも。

(でも……それでも……もう一度、貴方に……逢いたい……)

願い虚しく現実は終わって。百年に渡り厄災を封じ込め続けたハイラルの王女はそっと、目を閉じた。


【ベロニカ@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて 死亡確認】

【ゼルダ@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド 死亡確認】

179虚空に描いた百年の恋(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:20:56 ID:Oxg5bfcs0




冷たい風が吹き抜ける中、僕は死んだベロニカに駆け寄るわけでも、死んだゼルダに駆け寄るわけでもなく、ただただ虚空を見つめていた。

あの一瞬。
ベロニカが、レッドが、ピカが、繋いだバトンの先。ゼルダを止められるのは僕だけだった。

それを僕は、外した。
弓矢の威力では限界があるウィリアム・バーキンのような敵であれば、僕が引けを取るのもまだ分かる。

でも今回僕が失敗したのは、よりにもよって射撃の精度を要求される場面。

そして、その結果がこの喪失さ。
ベロニカの命――マールディアが命を賭して護った命が――無意味に散ったんだ。ベロニカの仲間の行方を明らかにするとの約束も守れなかった。

蔑むといいさ。
ハンター。ベロニカをイシの村まで送るという君に与えられたクエストを僕は果たせなかったんだから。

怒るといいさ。
カミュ。君の大切な仲間を僕は護れなかったんだから。

怨むといいさ。
マールディア。ベロニカだけでなく君の死まで、無意味なものに貶めてしまったんだから。


背後で、のっそりと起き上がる影が在った。
それがベロニカであったなら、どれだけ報われるだろうか。
ギリギリで急所を外してたとか、肉体が完全に死亡する前であれば生命活動を維持できるミファーの癒しの力のような何かで蘇ったとか。そんな奇跡が起こっていたなら、どれほど――


――まあ、分かってたよ。

リーバルの期待も虚しく、起き上がったのは当然、レッドであった。全身を電撃に焼かれたことなど意にも介していないような顔をして、ぐったりと倒れたピカへと近付き、抱き上げる。

「……ピカ。ごめんよ……俺が……俺が未熟なせいで……!君を傷付けてしまった……!」

「ピィ……カ……。」

「待っててくれ……すぐに治療できるところに連れていくから……!」

アンティークダガーに貫かれたその小さな身体は見た目以上に鍛え抜かれているらしく、レッドに心配をかけまいと懸命に声を絞り出し返事を返していた。レッドは避難のため、ピカをモンスターボールに入れる。

「……キリキザン。埋葬もできなくてごめん……。」

そしてレッドが次に向かったのは、キリキザンの遺体の下であった。
ポケモンの死――レッドにとってそれは、直接立ち会うのも初めてではない。
元の世界にはポケモンタワーという死んだポケモンを埋葬する施設があった。だけど、ここにはそんな施設は無い。この世界では死者を弔うこともできないのに、次々と人が、ポケモンが、死んでいく。

「全部終わったらきっと、ポケモンタワーに連れていくよ……。」

足元の、キリキザンが入っていたモンスターボールを拾い上げる。野生のポケモンを捕まえられる空のボールを探していたが、こんな形での入手など望んでいなかった。


「――嗤えよ。」

一人、前を向けているレッドの様相が気に食わなくて、気が付けば僕は、ただの自嘲に彼を巻き込んでいた。はは、我ながら本当に格好悪いね。

「わざわざ姫を焚き付けておいて、結局何もできなかった僕を嗤えばいい。」

責められたら満足かい?
それとも、優しい言葉を掛けられたら救われるのかい?


「――笑わない。」


違う。違うね。
どっちも僕を満たすには程遠い。
今の僕を満たす言葉なんて、過去と未来、ありとあらゆる言葉の海を探し求めても存在しないだろうさ。
ただ、これだけは言える。


「俺は絶対に、アンタを笑わない……!」


レッドの返答は、そんなありとあらゆる言葉の海の中でも最も、僕の気に触る一言だろうと。

180虚空に描いた百年の恋(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:23:57 ID:Oxg5bfcs0
レッドは西へ向けて歩き出した。
一緒に来ないかと誘われたが、そんな気分になど到底なれず、無視で返す。僕はまだ前には進めない。ひたすらに何も無い空を見上げ続けている。


――あの一撃を外した理由なら、幾つか考えられる。

例えば、アイアンボウガンが使い慣れていない武器だったということ。
例えば、アイアンボウガンと一緒に空中に飛ばしたケムリ玉の煙が空中の視界を一部とはいえ塞いでいたということ。
例えば、主催者によって蘇らせられた際に百年前の全盛期の動きが失われていたかもしれないということ。


――はっ、馬鹿馬鹿しい。

思い浮かんだ様々な言い訳の全てを一笑に付した。
どれもこれも、僕の射撃の精度を鈍らせるには足りない。全ッ然足りないさ。

あの瞬間、僕を妨げたのは――



(――この大地に棲む生きとし生けるもの全てを厄災の魔の手から護らなければなりません……。)

百年前、英傑にスカウトされた時の姫の言葉が反芻される。
そしてそれは今だけではなく。
この百年の間にも、何度も、何度も――


(――君はいつまで百年前に囚われているんだい?)


ああ……本当にね、と。先の自分の一言を思い返し、小さく呟いた。

君は知らなかっただろうね。
僕はさ――好きだったんだよ、君のこと。


【B-3/平原/一日目 午前】

【リーバル@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康、様々な感情
[装備]:アイアンボウガン@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、召喚マテリア・イフリート@FINAL FANTASY Ⅶ、木の矢×2、炎の矢×7@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[思考・状況]
基本行動方針:……。


※リンクが神獣ヴァ・メドーに挑む前の参戦です。

【レッド@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
[状態]:全身に火傷 疲労(大)、無数の切り傷 (応急処置済み)  
[装備]:モンスターボール(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、ランニングシューズ@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、モンスターボール(空)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品
[思考・状況]  
基本行動方針:こんな殺し合い止める。
1.ピカを治すために、Nの城へ向かう。
2.野生のポケモンを捕まえる。
[備考] 支給品以外のモンスターボールは没収されてますが、ポケモン図鑑は没収されてません。

※シロガネやまで待ち受けている時期からの参戦です。


【備考】
オオワシの弓@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド がゼルダの遺体の隣に落ちています。
グレートアックス@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて がゼルダのデイパックに入っています。

ベロニカのランダム支給品(1〜2個)がベロニカのデイパックに入っています。


【モンスター状態表】

【ピカ(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
[状態]:HP 1/3 背中に刺し傷
[特性]:せいでんき
[持ち物]:アンティークダガー@Grand Theft Auto V(背中に刺さっています。モンスターボールに入った際に抜けたことにしても構いません。)
[わざ]:ボルテッカー、10まんボルト、でんじは、かげぶんしん。
[思考・状況]
基本行動方針:レッドと共に殺し合いの打破

181虚空に描いた百年の恋(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:24:47 ID:Oxg5bfcs0


これは、この殺し合いが開かれなかった場合のもしもの話。
或いは、死の間際にゼルダの見た最期の、幸せな夢。


「私のこと・・・覚えていますか?」


ええ、答えなんて分かっていました。回生の祠で眠る百年で貴方は記憶を亡くしたのだから。

貴方は何も答えない。
ただ無言で俯いて、気まずそうな表情をこちらに見せまいと振る舞うだけ。

……でも、それなら貴方はどうして助けに来てくれたのですか。

そう問い掛けたくて……しかし口にはしなかった。

答えなんて決まっていたから。
貴方がそう役割付けられていたからでしょう。厄災ガノンを倒すことができるのはシーカーストーンを操れる貴方だけだったから。

力に目覚めた私は厄災ガノンを封じ込めていたから、厄災ガノンを倒すついでに助かっただけ。私が『役立たずの姫』のままであったなら、きっと貴方は来ていない。

――それなら、貴方はお父様と。私を役立たずと罵る国民の皆様と、同じじゃないか。

『貴方』はそうではなかった。
『貴方』は私が力に目覚めなくても、最後の最後まで襲い来るイーガ団から、魔物たちから、ガーディアンから、私を護ってくれた。

「――貴方は私が恋したリンクじゃない。」

だから私は、貴方を拒んだ。
だから私は、『貴方』を取り戻す道を選んだ。

私は貴方の下から去った。
もう二度と、『貴方』が帰って来ないのだと分かってしまったから。

そしてたった一人、道を歩く。
百年ぶりに見た世界とはいえ、地形などが大きく変わっているわけでもなく、大まかには百年前とまったく同じ景色。

街と街を繋ぐ整備された道、これも百年前と同じだ。
どうせ今日も無駄なのだと半ば不貞腐れながらも真っ直ぐに知恵の泉に向かって、終われば真っ直ぐハイラル城へと帰る、そんな繰り返しの毎日は今でも思い出される。

だけどその時、不意に気付いた。
百年前とは何かが違うと。

ああ。
もう城への最短ルートであるこの道じゃなくても良いん だ。
森に寄り道してリンゴ狩りに勤しむも、海で魚取りに勤しむも、とにかく、自由なんだ。

ふと、道を外れて小さな丘へと足を運んだ。
それは些細な――されど使命に追われていた百年前には決して許されなかったであろう寄り道。

ハイラルの王女として厄災封印の力に目覚めるための修行。
厄災ガノンに抵抗するための遺物研究。
自身を縛っていたそんな使命から解放された私は――


(ああ、そうか。)


丘から見えたのは、限りなく広がる世界。
二度とブラッディムーンの登らない空は、海のように蒼く冴え渡り。魔物の消えた平原は、目を凝らしても果てが見えない。
道行く人々は、誰も武器すら持たずに屈託の無い笑顔を見せる。


――この時初めて、世界の広さを知った。


全てが終わって改めて見たハイラルは、一人で歩むにはあまりにも広大すぎた。

(これが、貴方の冒険してきた世界なのですね。)

きっと、貴方にとってもそうだったのでしょう。この見渡す限りの世界の命運を一人で抱え込むなんて荷が重すぎる。

百年前の私は、この世界の広大さを知らなくても使命に押し潰されそうになっていたというのに。記憶も無いのに唐突に使命だけ告げられて、どうしてここまで戦うことができたのですか。


……信じてもいいですか。

例え冒険の始まりに私の記憶は無かったのだとしても、どこまでも広がる世界を共に担う私が、貴方の中のどこかに居たのだと。『ハイラルの王女』でも『厄災を封じる姫』でもない私が、途方もない世界を旅する貴方を支える糧となってくれていたのだと。



「――ゼルダ……!」

その時、生命の息吹く声に混じって聞こえた。
『姫』ではなく、私の名前を呼ぶ声が。
高鳴る鼓動を抑えつつ、私は振り返る。

『貴方』はもういない。
貴方の中に百年前の私はもういない。

けれど貴方の中に、他でもない、今の私がいるのならば。

「リンク……!」

私たちはきっと一からやり直せる。

新たに紡ごう。百年前には紡げなかった、私たちと、私たちを取り巻く生命の息吹が織り成す伝説を――――

182 ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:25:18 ID:Oxg5bfcs0
以上で投下を終了します。

183名無しさん:2020/03/19(木) 20:32:59 ID:nEfyZ0fQ0
投下乙です
ゼルダとリーバルの百年前に囚われていた故の悲劇がただ悲しい

184 ◆2zEnKfaCDc:2020/04/14(火) 01:39:06 ID:U1nSNNg60
ゲリラ投下します。

185嘗テ思イ描イタ夢ノ誓イ ◆2zEnKfaCDc:2020/04/14(火) 01:41:21 ID:U1nSNNg60
「すみません。そのボール、貸していただけませんか?」

放送を間近に控えて歌うのを中断した星井美希に対し、モンスターボールを指差して要請する9S。周りにあるものの中で唯一、ハッキングできそうだと感じたのである。

「ん、いいよ。はい。」

承諾した美希は9Sにボールを手渡す。ハッキングする際にそれを手に取る必要性は無いが、他者の持ち物に勝手に触れることに抵抗を覚えたために許諾を得るというプロセスを踏む9S。そしてそういったやり取りの中で9Sはやっぱり人間のようだと感じる美希。

(かつては僕も、こんな風に誰かと……?)

相手のことを想い、歩み寄ろうとする現状にどことなく既視感を覚えつつも、9Sはモンスターボールを握り、念じる。そして次第に、意識が仮想空間へと吸い込まれていく。そんな9Sを待っていたのは──



『──ッ!?何だ、これは…………!』



四方八方をセキュリティシステムの役割を果たす『敵』に囲まれた光景であった。

(これは……何て険しいセキュリティなんだ……)

9Sのアクセスを検知するや否や、迎撃にかかるセキュリティシステム。突破が一筋縄ではいかないのは明白だった。

しかし、だからといって諦めるわけにはいかない。
これは殺し合いのために配られた支給品。つまり扱い方によっては人を殺せる道具であると考えられる。
そんな道具を、美希が使い方も分からないまま扱っていれば命にも関わる事故に繋がる可能性も否定できない。

(今度は……必ずハッキングを成功させてみせるッ!)

186嘗テ思イ描イタ夢ノ誓イ ◆2zEnKfaCDc:2020/04/14(火) 01:43:18 ID:U1nSNNg60






「なるほど、この生き物に司令を与える媒体ですか。」

モンスターボールのハッキングを終え、9Sはその機能を覗く。
本調子であればこのレベルのハッキングであっても、現実世界と電子世界の同時進行で戦うことができたのかもしれないが、今の9Sにはそこまで精密なハッキングはできそうにない。少なくともハッキングして電子世界で戦っている間の10秒ほどは無防備になるため、戦っている敵のモンスターボールをハッキングするのは現実的ではなさそうだ。

(さて。僕が操作するか、爆破するかの二通りを選べそうですね。爆破したらこの子は所有者無しの状態にでもなるのでしょうか……。)

9Sから見てもモンスターボールに用いられる技術力に多少は驚くものがあった。が、それよりも驚くべきことは、仕組みを解明しようとすれば9Sをも唸らせる小型装置を、専門知識など全く無い美希が正しく扱えている点であった。
高度な仕組みを作ることが難しいのは当然の摂理。しかし使用者が仕組みを知らずとも扱えるモノを作り出すとなるとその難しさは格段に跳ね上がる。

(――サイケこうせんを撃て。)

「……!むううん!!」

試しに外部の音声を認識する装置に情報を送り込む。
するとムンナことおはなちゃんは何も無い場に向けてその通りに攻撃する。

「面白い装置ですね。これ、僕がハッキングして扱えば僕の命令を聞かせることもできるようです。」

モンスターボールの仕組みに高揚感を覚える9S。しかし美希は少し悲しそうな顔で返す。

「でも、無理やり戦わせるのは可哀想だと思うな。」

「……確かに、そうですね。ごめんなさい、僕の配慮が足りなかったみたいです。」

己を咎める美希に、素直に謝罪する9S。
美希はこんな殺し合いに巻き込まれていいはずがない、優しい子なのだと実感する。

187嘗テ思イ描イタ夢ノ誓イ ◆2zEnKfaCDc:2020/04/14(火) 01:43:58 ID:U1nSNNg60


──そんなはずないだろ。


そして同時に。
そんな9Sの脳裏に、ふと何かが込み上げてきた。


──機--命体のくせに、悲しいはずが……


「──ぐっ!!」

突然、9Sは頭を抑えてうずくまり、美希が心配そうに駆け寄る。

「どうしたの?ナインズくん、すごく怖い顔してるよ?」

「申し訳ありません。何かを思い出しそうに……」

今、思い出しかけたものは何だ?断じて美希に対してのものでは無いが、それは憎悪と呼ばれる感情の類であったことは分かる。

だが、アンドロイドに感情などあるはずが無い。確かに、人類とのコミュニケーションに支障が出ないよう、人類が様々な状況で感じる感情に即した行動をプログラムしているのは確かだ。だがそれは、アンドロイドの感情とは呼べないはず。

『──感情を持つことは禁止されている。』

"感情"というキーワードからか、再びノイズ混じりの記憶がフラッシュバックする。

これは誰の言葉なんだ。
禁止されている?
それならばアンドロイドは感情が無いのではなく、規則によって無いように振る舞わされているだけなのか?

だったら一体、何のため?

……それを突き詰めていくと、何かを思い出せそうな気がする。



『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる?』

9Sの欠けたピースの模索は、マナの放送の声に阻害された。
一旦記憶を掘り起こすのを中断し、放送に耳を傾ける。
いつの間にか、隣にいる美希が9Sの裾を掴んでいたことに気付く。

188嘗テ思イ描イタ夢ノ誓イ ◆2zEnKfaCDc:2020/04/14(火) 01:44:58 ID:U1nSNNg60

その名は、唐突に告げられた。


『天海春香』


「っ……!」

「……美希?」

一番初めの死者の名前が呼ばれた瞬間、美希の瞳からぼろぼろと涙が零れ落ち始めた。
それは掴みどころの無いマイペースな彼女と、歌っている時の可憐な彼女しか知らない9Sには想像もつかない一面であった。
そこにいたのは先ほどまで希望とやらに満ち溢れた歌を歌っていた彼女とは違う、一人のか弱い少女だったのだ。

「……大切な友達。呼ばれちゃったの。」

美術館という人工施設の中で、最初の一時間強は眠って過ごし、さらにその後もずっと歌っていた美希。殺し合いの世界に来てからの美希はずっと日常の延長上にいた。
しかし、だからといって心の準備ができていないわけではなかった。
春香が夢に出てきた時から、生物学では凡そ解析できそうにもない虫の知らせめいた何かがずっと胸の中にあった。

(ミキ、こういうの外したことないもんね……。)

だけど、それでも。予感があったことと悲しみに耐えられることはまた別である。
良き友人であり、共に高め合うライバルでもある春香の喪失を実際に突きつけられたことは、その予兆とは比べ物にならないくらい悲しかった。

「大丈夫。」

そんな美希の頭に、9Sはそっと手を乗せる。
もっと強いと思っていた女性が、思いがけずふと見せたか弱い一面──何て愛おしいのだろう、と。9Sは不謹慎ながらにそう思った。

「僕が、美希を独りにはしませんから。」

「ん……ありがと、ね。」

美希と9Sでは美希の方が少しだけ背が高く、頭を撫でるには少しぎこちなさが生まれる身長差である。そういった所作のところどころが、やっぱり人間らしく見える。

(どこかプロデューサーみたい……安心、するの……。)

美希にはその手が、きっと人間よりも暖かく、心地良いものなのだと思えた。

189嘗テ思イ描イタ夢ノ誓イ ◆2zEnKfaCDc:2020/04/14(火) 01:47:54 ID:U1nSNNg60
少なくとも、もうひとつの名が呼ばれ、その手の温もりが離れていったその時までは。


『ヨルハA型二号』


「ヨル……ハ……?」

自分と同じ「ヨルハ」の名を冠し、アルファベットと数字で構成された名前の人物。記憶の無い自分と関係のあるアンドロイドであるのは明らかだった。

「うっ……!」

「わっ……ナインズくん!?」

そしてその名を認めた瞬間、9Sは視覚システムにまでノイズを及ぼすほどの頭痛に見舞われる。
まるでハッキングされたかのように、意識が保てなくなり、次第に闇へと沈んでいく。
そして僅か数秒。9Sの意識が戻った時、美希の頭を撫でていたはずの手は美希の両手に包まれていた。

「良かった……気がついたみたい。」

美希と目が合う。
ありがとうございます。そんな言葉を発するつもりだった。しかし、9Sの口から零れたのは別の音声。

「彼女はどうして裏切ったのだろう──」

「え?」

「最初に在ったのは、そんな疑問。」

「ナインズ……くん?一体どうしたの?」

「裏切ったのは、---だろう?──疑問の答えとなる彼女の言葉は、思考回路に一抹の不安を残した。」

ふらふらと、美希へと歩み寄る9S。

「だから僕は無断でバンカーの中枢をハッキングして……そう、知ってしまったんだ。」

そして9Sはその肩を掴む。
困惑と、多少の赤面を見せる美希を真っ直ぐ見つめる。

「そう、僕は……人類(あなた)に会いたかった……人類(あなた)に、触れたかったんだ……!!」

先ほどの美希以上に涙を流し、その場に崩れ落ちる9S。それはこの世界で志半ばで倒れた、殺し合うはずだった敵に向けて語った夢。本来は叶うことのなかった、露よりも儚い夢。

190嘗テ思イ描イタ夢ノ誓イ ◆2zEnKfaCDc:2020/04/14(火) 01:48:51 ID:U1nSNNg60
「僕は、貴方を護ります。それがヨルハ(ぼく)の生きる証だから。」

9Sは誓いを立てる。
その様子を見て、美希は思う。
きっとその瞳の先に映っているのは自分ではないのだと。

(やっぱり……ナインズくんの過去は……)

天性の直感力など無くても分かる。ナインズくんが何か闇を抱えていたこと。記憶を取り戻すことが、必ずしも幸福な結末に繋がるとは限らないということ。

「安心して。」

分からない。
ナインズくんの記憶を取り戻すのが本当にナインズくんにとって幸せなことなのか。
過去を乗り越えることは必要なことかもしれないけれど、時にそれは前に進む気力すら奪ってしまう──ちょうど、千早さんがそうだったように。

「ミキも……ナインズくんを独りにはしないよ。」

すぐに出すことの出来ない結論を頭から遠ざけるように、美希はそう語りかけた。

【B-4/美術館の廊下/一日目 朝(放送直後)】
【星井美希@THE IDOLM@STER】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:自分にできることをする。
1.ナインズくんが記憶を取り戻す手伝いを……?


【ヨルハ九号S型@NieR:Automata】
[状態]:記憶データ欠如
[装備]:マスターソード@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、0〜2個)、モンスターボール(ムンナ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[思考・状況]
基本行動方針:記憶を取り戻す。
1.僕は一体何者なんだろう。


※Dエンド後、「一緒に行くよ」を選んだ直後からの参戦です。
※ゴーグルは外れています。
※記憶データの大部分を喪失しており、2BやA2との記憶も失っていますが、なにかきっかけがあれば復活する可能性はあります。
※元の世界で人類が絶滅していたことを思い出しました。
※まだ名簿は見ていません。


【ムンナ ♀】
[状態]:健康、ピンク色の煙を出している
[特性]:よちむ
[持ち物]:なし
[わざ]:あくび、サイケこうせん、ふういん、つきのひかり
[思考・状況]
基本行動方針:美希についていく。

※所有者は星井美希のままですが、モンスターボールをハッキング済みのため9Sがモンスターボールに情報を送ることで遠隔操作に近い指令ができます。

191 ◆2zEnKfaCDc:2020/04/14(火) 01:49:09 ID:U1nSNNg60
投下終了します。

192 ◆vV5.jnbCYw:2020/04/15(水) 01:09:19 ID:pf.gqiys0
投下乙です。
>虚空に描いた百年の恋
リーバルに君を守るって言わせておいて次の回でベロニカを殺すなんてあんたサイコパスだよ!
ゼルダも原作ではほとんど戦闘描写が無いキャラクターながら、千枝、グレイグ、リーバル、レッド、ベロニカとよく戦った。
生きているうちは救われなかったと思い込んでいたゼルダだけど、最後は救われたのかな。

> 嘗テ思イ描イタ夢ノ誓イ
この二人、今の所あんまり活躍してないけど、どっちもよい子でほっこりする。
ただ事じゃない状況に置かれながら、自分を保っている感じがしてスゴイ好き。
ムンナを原作にない方法で使役し、美術館から出た先で、何が起こるのか気になります。

では私も自己リレーになりますが、カイム、エアリス、ゲーチス予約しますね。

193 ◆vV5.jnbCYw:2020/04/16(木) 14:25:59 ID:4AEbHrYA0
投下します。

194拘束が緩むときは ◆vV5.jnbCYw:2020/04/16(木) 14:26:29 ID:4AEbHrYA0
長い、長い時間が流れた。
それはこのバトルロワイヤル全体から見ればほんの数分だが、その場にいる男にとっては何時間にも感じた。
男の名はゲーチス。
元プラズマ団の総帥にして、全てのポケモンの力を手中に収めようとした。
その長い時間、みじめさを噛みしめていた。
かつての身分が高ければ高いほど、堕ちた時の惨めさも増す。
そしてそれは、動けないときに、一層強くなる。
壁の穴から流れ込む太陽が、屋内にいる男の顔を照らす。
しかし、その顔がじっとりと汗で濡れている理由は、太陽の熱ではなさそうだ。
その理由は、恐らく目の前の相手にある。


一人の女性が、ゆっくり、ゆっくりと硬直した男の腕を拘束する。
つい先ほどまでは、男の両足を縛っていた。
相手は硬直効果の力を受けた状態なので、動かすのに苦労しているのが傍から見ても分かる。
彼女はかつてのミッドガルのスラムの花売りにして、白マテリアの使用を許された少女、エアリス。
見た目は可憐な女性であるが、つい最近まではスラムで生活していたこともあって、戦闘能力、防衛術は身に着けている。
しかし、その彼女をもってしても、目の前の男は脅威であった。


二人の目の前で、硬直している男。
亡国カールレオンの王子にして、赤き竜との契約者カイム。
最愛の女性にして、妹のフリアエの自決を唆した宿敵にして、この戦いの主催者であるマナを殺すことを目指す。
そのために、この戦いの参加者のせん滅を望む。
目の前の二人の顔を強張らせている原因も、この男が一因である。
先刻前、エアリス達を襲撃し、反撃を受け身体と魔法の自由を奪われた。
だが、拘束されたところで、脅威は消えない。
エアリスが放った邪気封印によって身動きこそ封じられているが、残された意識で反撃のチャンスを伺い続けている。
そのような男が目の前にいれば、相当の強者でない限り穏やかな心を保つことは難しいだろう。


太陽の顔は、エアリスとゲーチスのみならず、部屋の端に座っているカイムの顔も照らした。
それは、長い間太陽刺すことなき赤い空の下で戦い続けたカイムにとって、久しぶりに見た太陽だった。
だからといって、久しぶりに見た、という感情しか思わなかった。
彼の心にあるのは、マナへの怒りと、殺戮への喜びのみ。


袖越しとはいえ、カイムの腕にひんやりとした女性の手の感触が伝わる。
人の手が触れるのは、また久方ぶりの感触だった。
とはいえ、カイムの腕にエアリスが触れた理由は、拘束の為だったが。

195拘束が緩むときは ◆vV5.jnbCYw:2020/04/16(木) 14:26:49 ID:4AEbHrYA0

カイムはカーテンの紐らしきもので、動きを止めてくる光を放った少女に、後ろ手を縛られる。
身体は全く動かないのに、こうして動かされたり、人の手の感触を汲み取ったりできることに奇妙なものを感じた。
しかし抵抗はあるものの、次第に硬直していた筋肉の動きが戻ってくる。


彼は体の動きを確認しようと、指をもぞもぞと動かす。
その時、硬直状態が切れたことにエアリスも気付いた。


「気が付いたのね。」

徐々に自由になり始めた男は、体を芋虫のようにもぞもぞさせる。
ただし、返事はない。
彼は紅き竜との契約による生命力と引き換えに、言葉を失っているのだ。


「動かないで。怪我しているわ。」
そう言いながらエアリスは室内の引き出しに合った布を千切り、支給された水に浸して手や顔の汚れを拭う。

顔を歪めはするも、カイムは言葉を発さない。

「ねえ……あの町で何があったの?」
それでも、返事はない。
(おかしいわね。ストップ状態が解除されつつあることは、沈黙も解けているはずだけど。)


「あれほど大それた行為をやっておいて、ワタクシ達に言葉の一つも出せないのですか!!」

後ろにいたゲーチスが声を荒げる。
しかしそれは、未知の力に対する恐怖を紛らわそうと叫んでいるに過ぎなかった。
怖いものを寄せ付けまいと周りの物を振り回している子供に過ぎなかった。

「ゲーチス、この人は私が話を付けるわ。それよりカーテンの紐とか、他に拘束できそうな物はない?」
「……。」
その男を宥め、エアリスは再度カイムと話をし始める。


「あなたは、どうして私達を襲ったの?」
当然のことながら、返事はない。
しかし、ただ自分を無視しているようには思えなかったエアリスは、話の趣旨を変える。

「もしかしたら、何かの理由で言葉が話せないの?」
エアリスが花売りをやっていた、スラムでも似たような人がいた。
目の前にいるカイムのように、言葉を紡げないわけではないが、呻き声しか上げられない男のことを思い出した。

コクリと、カイムは頷いた。

196拘束が緩むときは ◆vV5.jnbCYw:2020/04/16(木) 14:27:16 ID:4AEbHrYA0
しかし、何が原因で言葉を話せないのかは分からないが、意思疎通が厄介な相手だと改めて感じた。

伍番街スラムの土管にいた男のように、精神そのものに異常をきたしているかもしれないし、解決方法も分からない。
筆談ならやりとりが出来るかもしれないが、そのためには両手の拘束を解かないといけない。

「水、飲める?」
エアリスが支給された水差しを出すと、普通に口を付けて飲み始めた。
食事や自分の意思の受諾は可能なようだが、やはり殺し合いに乗った相手なら説得を彼女は求める。

「エアリスさん!!そんな薄気味悪い男は放っておいて、早く先へ進みましょう!」
何度目か、ゲーチスが先を急ぐ言葉を発する。
「ごめん……もう少しだけ……。」

ゲーチスの言葉は、エアリスにとってもその通りだと感じた。
マーダーはこの男だけではないし、説得できるかも不明だ。
そして何より、その言葉を発したゲーチス本人も、安全な人物かどうか保証がない。
どちらかと言うと、ブラック寄りのグレーな人物だ。
最初に出会ったポケモン使いの少年や目の前の男に怯えているが、脅威がなくなれば何をやり始めるか分からない。


更に、エアリスにとってはカームの街の中も見てみたいという願望があった。
カイムと戦っていた相手が、ティファや、他のマナに立ち向かった蒼髪や白スーツの男の可能性もあった。
そして、誰かがカイムから隠れて、街の中に身を隠しているという可能性もある。


その時、部屋の時計が6時を指した。

『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる?』

音源はどこからか不明だが、放送で少女特有の甲高い声が響き渡る。
エアリスとゲーチスは静かな場所からの大音量に驚き、カイムは声が聞こえる方を忌々し気に睨みつけていた。


「エアリスさん……少し、席を外して良いですか?」
上ずった声で、ゲーチスはエアリスの承諾を得ないまま空き家の外へ出て行った。


ゲーチスは恐らく、死んだ知り合いに想いを馳せたいのだろう、少なくとも彼女はそう思った。
放送で呼ばれた知り合いの名がなかったこと、そして、ゲーチスはそっとしておこうという気持ちから、転送されたという名簿を読む。

197拘束が緩むときは ◆vV5.jnbCYw:2020/04/16(木) 14:27:33 ID:4AEbHrYA0

(そんな……!!)
最初のページで目に留まったのは自分の名。
それからすぐに、クラウドの名前。そして、かつて彼女が好きだった青年、ザックスの名前。
それから名簿を読み進めるうちに、彼女が一番恐れていた名前を見つけた。

(セフィロスまで……?)

禁断の黒魔法、メテオを司る黒マテリアを手中にし、星と一つになろうとしている男。
彼までも自分達の手中に収めたこの戦いの主催者を、改めて脅威に感じた。


そして、脅威を感じたのは主催者のみではない。
カイムに出会う少し前に、街に降り注いだ隕石を思い出した。
元々あの隕石を見て、黒マテリアの存在を危惧したからこそ、ゲーチスの提案を無視してカームへ行こうとしたのだった。
当初警戒した黒マテリアこそ見つからないが、カイムの武器は、エアリスも知っている逸品だった。


(この武器……やはり、間違いないわ。)
正宗。セフィロスが持っていた、並の長剣を遥かに超す長さと強さを持った名刀。
実際に彼女らがいた世界でも伝説のソルジャー、セフィロスに肖った正宗の贋作が多くあったし、そっくりな武器だという可能性も考慮した。
しかし、いざ持ち主から取り上げて、近くで見るとやはり本物だと分かる。
その剣がこんな所にあるということは、持ち主であるセフィロスが呼ばれてもおかしくはないということだ。


恐らく、写真付きの名簿ではないので、確定事項ではないが、残念ながら同姓同名の人物ではないのだろう。
セフィロスがいるというのなら、一刻も早く彼の居場所を突き止め、刺し違えても止めなければならない。

エアリスの顔には先程までとは比べ物にならない程、焦燥の念が現れていた。


最初はゲーチスの言う通りNの城へ向かい、その途中でカームの街へ行き、知っている仲間を探そうと思っていた。
しかし、状況は彼女の思った以上にひっ迫していた。


すぐにでも仲間、クラウド達を集めて、セフィロスを倒さねばならない。
だが、カイムとゲーチスの存在も同様に気になった。
仲間集めをするなら、カームの街が近くにあるし、同様にカイムの見張りも出来る。
ゲーチスを見張るなら、本人の希望に沿ってNの城へ向かうべきだ。


ここでエアリスは、一度ゲーチスと共にカームの街へ行くことにした。
街を見回して隠れている者を探し、協力を求める。
信頼できる協力者を近くで集まることが先決だと感じていた。


しかし、セフィロスという新たな存在を知ることで、僅かながら既存の脅威の警戒をないがしろにしていた。
少しずつだが、カイム両手両足の拘束が、千切れてきていた。

198拘束が緩むときは ◆vV5.jnbCYw:2020/04/16(木) 14:27:58 ID:4AEbHrYA0
そんなことも気付かず、エアリスは外にいるはずのゲーチスを呼びに行く。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



半分だけだが、口をがちがちと震わせる。
変えたくなる表情を、じっと抑えている。
その様子は、にらめっこに負けじと顔を震わせている子供の様だった。
しかし、それは幼い子供がやってこそ愛苦しいものになるのだが、大の大人が見せる表情としては、ただただ不気味だった。
そして、その表情は従来人が「顔」と認める部分の丁度半分で作られているから、一層薄気味悪さを醸し出していた。


エアリスはゲーチスの声が上ずっていたのを、知り合いが呼ばれた悲しみだと解釈したが、実際はその逆だった。

「クククク……ハハハハハハハハ!!!」
たまらず、声を漏らしてしまう。
こんな状況で高笑いするなど、殺し合いに乗った者を呼びかけたり、対主催からの危険人物への認定とされがちなので、口を両手で押さえるが。


ゲーチスが笑った理由は二つ。
一つは、チェレンという自分を連行した忌々しい眼鏡のガキが死んだこと。


(いいザマですね。おおかた自分の力を過信していたんでしょうが。)
自分をアデクと共に連行した時の、忌々しい顔を彼は今でも覚えていた。
あの時の、「正しいこと」をしていると思い込んでいた顔を。


そして、もう一つは13人という死者の多さ。
今自分が生殺与奪の権を握っている人を合わせると、14人。
既に5分の1がこの殺し合いから脱落しているようなものだ。
自らの手でたいした成果は上げられなくとも、自分がステルスマーダーのスタンスを貫く考えは正しかったようだ。


暫く経って気持ちを落ち着かせ、口への拘束を緩めエアリス達の元へ戻ろうとする。
その瞬間、空から煌めく何かが落ちてきた。


(ん?これは一体……。)
その装飾豊かなデザインはすぐにエアリスが持っていた弓だと気づく。
だとしたら、なぜそれが空から降ってくるかが疑問になった。

199拘束が緩むときは ◆vV5.jnbCYw:2020/04/16(木) 14:28:23 ID:4AEbHrYA0

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

(アリオーシュ……レオナール………。)
マナの不愉快な哂いと共に呼ばれた旅の仲間。
自分が呼ばれていることは、彼らも呼ばれているとは思っていた。


(どちらでもいい。奴等の分まで、マナに返すのみだ。)
カイムの心の中で燃え盛っていた炎が、さらに勢いを増す。
ゆっくり、ゆっくりと縛られた後ろ手が、拘束を引きちぎっていく。


エアリスはただ何も考えずにカイムの手足を縛ったわけではない。
彼女もまた、神羅兵やスラムのごろつきに襲われた経験があり、クラウドやバレットに比べたら非力なものの、それなりな護身術には長けている。
ゆえに、彼女の施した拘束は簡単には解けない作りになっている。

だが問題は、相手が神羅兵やごろつきとは比べ物にならない程の力を持っていたことだ。


目の前の女が名簿を読んでから、焦燥に駆られた表情を伺えた。
今がチャンスだと思い、すぐに腕の拘束を引き千切り、自由になって腕で手刀をつくり、脚の拘束も引き裂く。


エアリスはまだそれに気づかず、ゲーチスを呼びに部屋から出る。
それをチャンスとばかりに、カイムもエアリスを追いかける。
魔法使いタイプの相手の攻略は極めてシンプル。
厄介な魔法を食らう前に懐に飛び込み、力でねじ伏せる。


この戦いに呼ばれる前から帝国軍の魔術師と戦っていたカイムは、颯爽と走り出した。
一度目の戦いは長剣の正宗に頼り過ぎた戦い方をしたため、魔法を食らってしまった。
だが、今度はそれを食らう前に始末すると決めた。


(!!)
家を出てすぐに、エアリスはカイムが拘束を解いたことに気付く。
エアリスはカイムを黙視するや否や、王家の弓を引く。
だが、弓が引き終わる前に、カイムは距離を詰める。


姿勢を低くして突進する様は、さながら獣のよう。

(!!!)

そのまま足を高く上げて、王家の弓を天高くまで蹴り飛ばした。
蹴飛ばされた弓は、エアリスの背後、市街地の建物を隔ててかなり遠くに落ちた。
弓の脅威を排除すると、今度は地面に押さえ込み、首に手を掛けようとする。

魔法の出し方とは、カイムが知る限り3つあった。

1つ目は、自分がやるように、媒体となる武器に魔力を注ぎ込み、放出するやり方。
2つ目は、王国軍の神官ヴェルドレがやったように、言霊を利用して魔力を紡ぐやり方
3つ目は、帝国軍の魔法使いや怪物がやったように、念動力を基に魔法を放つやり方。


それぞれ、武器、言葉を発する器官、動きを封じてしまえば、魔封じの術などを用いなくても魔法を封じられる。

200拘束が緩むときは ◆vV5.jnbCYw:2020/04/16(木) 14:28:42 ID:4AEbHrYA0

彼女がカイムの動きを封じたリミット技は、魔法とは僅かに異なるものだったが、同様に致命的な弱点があった。
それは、発動条件が受けたダメージに起因する。
逆に、体力が全快のまま、一撃で、あるいは反撃の暇なく即死級の攻撃を受ければ、使うことは出来ない。


「―――――ッ!!!」
首を掴まれ、声にならない叫びを上げるエアリス。

しかし、言葉を紡がなくともその目は訴えている。

(やめろ……そんな目で見るな………!!)
急に手の力が弱まる。
女がまた何か違う魔法をかけてきたのかと思ったが、そうでもないようだ。


今こうして見つめられている相手は、最初に出会った少女のような無力な存在ではない。
自分の知らない力を持っている相手だ。
なのに、なぜ殺せない。
今殺さなければ、また見知らぬ魔法で動きを止められるかもしれない。



力がどうにも入らないが、歯を食いしばって指を動かす。
ぶちりと引き千切れる音が聞こえる。





もし彼が赤き竜と契約しておらず、声を失ってなければ、うめき声を上げていただろう。



カイムは市街地をすぐに抜け出し、山岳地帯へ入った。
どうにも、あの女性のことが分からなかった。
自分を殺せる千載一遇のチャンスだったのに、殺さなかった。


あの女性のヒスイ色の瞳を見ると、どうにも人殺しのための力が入らなくなってしまう。
そして殺せるチャンスだったのに殺せなかったのは、自分も同じだ。

もし、言葉が話せたら、なんて考えが一瞬頭をよぎったが、すぐに消えた。
たとえ言葉を話せても、それを上手く使えなければ意味がない。

殺人鬼を捕まえておきながらみすみす逃がしてしまう人間など、いつかは死ぬ。
隣にいた男もヴェルドレと同じ、周りの状況に右往左往するだけで生かしておいても問題ないだろう。


いつだったか、この戦いが始まって最初に少女を逃がした時と似たようなことを思いながら、奪ったカバンから正宗を取り出し、そのままさらに走った。

自らの心への拘束を憎みながら。


【D-3市街地→D-3北 山岳地帯/一日目 朝】

【カイム@ドラッグ・オン・ドラグーン】
[状態]:ダメージ(中)魔力消費(中)
[装備]:正宗@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品 エアリスの基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、マナを殺す。
1.自分よりも弱い存在を狙い、殲滅する……つもりだったが?
2.雷を操る者(ウルボザ)のような強者に注意する。
3.子供は殺したくない。


※フリアエがマナに心の中を暴かれ、自殺した直後からの参戦です。
※契約により声を失っています。
※正宗に自分の魔力を纏わせることで、魔法「コメテオ」が使用できます。

201拘束が緩むときは ◆vV5.jnbCYw:2020/04/16(木) 14:29:00 ID:4AEbHrYA0

★★★★★★★★★★★★★★★★


「私のバッグが……!」
結局彼が出来たのは、奪われた武器を奪い返すことだけだった。
幸いなことに、支給品は食料や水以外は、全て外に出していた。名簿も大体目を通しての出、彼女には問題ない。


しかし、カイムはエアリスに傷を負わせることなく、逃走した。

「これは……どういうことですか……?」
ゲーチスの高揚した気分は、目の前に飛び込んできた風景によって、瞬く間に冷めた。
力無くエアリスに弓を返す。
ハイラルの頑丈な鉄と宝石を混ぜ合わせて作った王家の弓は、壊れてはなかった。


「どうやら拘束が甘かったようね……。仕方がないわ。もう一度追いかけるわよ。」


「いえ、もう止めましょう。ヤツは放っておくべきです。」
どちらにせよ、ゲーチスが目的としているNの城は、ここから北西にあるため、カイムと同じ方向に行かねばならないのだが。

「そんなこと言っている場合じゃないわ、それにゲーチスさんが目指していたNの城も、あの方向じゃない?」

そう言われて、追いつけそうにないのだが、カイムを追いかける。
あの時、確かに自分を殺そうと思えば殺せたはず。
きっと彼が心のどこかで殺戮を拒んでいる気持ちがあるのではないかという彼女の推測は、確信に変わった。
だからこそ、殺しをさせてはいけないと感じた。



しかし一つゲーチスにも、疑問に思う所があった。

Nの城へ向かうと、持っているポケモンの体力を回復できるらしい。
そして、最初に出会ったトウヤは、傷ついたバイバニラを自分から奪った。


ひょっとすると、その先でバイバニラを回復させに来たトウヤと、再会するのではないかと思い始めた。
最も、今はNの城にしか向かう場所が無いので、北へ向かうしか方法が無いのだが。


【D-3市街地 /一日目 朝】

【ゲーチス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:ダメージ小、無力感、苛立ち
[装備]:雪歩のスコップ@THE IDOLM@STER
[道具]:基本支給品、スタミナンX@龍が如く 極
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、野望を実現させる。
1.エアリスを利用し対主催を演じる。
2.早くNの城へ行きたい
3.カイムを追いかける


※本編終了後からの参戦です。
※エアリスからFF7の世界の情報を聞きましたが、信じていません。


【エアリス・ゲインズブール@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:ダメージ小 MP消費(小)
[装備]:王家の弓@ゼルダの伝説+マテリア ふうじる@FINAL FANTASY Ⅶ ブレス オブ ザ ワイルド、木の矢(残り二十本)@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:なし(装備品 除く) 
[思考・状況]
基本行動方針:仲間(クラウド、バレット、ティファ、ザックス)を探し、脱出の糸口を見つける。
1.カイムをどうにかして止める。
2.今はゲーチスに付いて行き仲間を探す。もし危なくなったら……。
3.カームの街で、人探し、および黒マテリアの捜索をしたい。
4.ゲーチスの態度に不信感。
5.セフィロス、および会場にあるかもしれない黒マテリアに警戒


※参戦時期は古代種の神殿でセフィロスに黒マテリアを奪われた〜死亡前までの間です。
※ゲーチスからポケモンの世界の情報を聞きました。

202拘束が緩むときは ◆vV5.jnbCYw:2020/04/16(木) 14:29:14 ID:4AEbHrYA0
投下終了です

203 ◆2zEnKfaCDc:2020/04/17(金) 00:39:06 ID:WCGq8IDU0
投下お疲れ様です。
カイム、仮にもFF勢であるエアリスを一瞬でなぎ倒すの恐ろしすぎる
でもDQ11表クリア後のマルティナが適わなかった辺り、FF7途中退場のエアリスが手も足も出ないのも納得なんだよな……

>>「どうやら拘束が甘かったようね……。仕方がないわ。もう一度追いかけるわよ。」
やっぱりエアリスは雰囲気に似合わずたくましい。こういうとこがエアリスの魅力だよなあ。
反面、ゲーチスのスネ夫ポジが板についてきた気もする。

ところでDoD勢はFF7の仲間メンバーと戦う宿命でもあるのだろうか?
イウヴァルトも南下していけばティファと戦うことになりそうだし

204<削除>:<削除>
<削除>

205 ◆2zEnKfaCDc:2020/07/15(水) 01:45:50 ID:O1HsMvY60
ホメロス、クラウド・ストライフ、トウヤ、花村陽介で予約します

一見おかしな組み合わせに見えますが、トウヤがNの城方面に向かってることは把握してます

206 ◆vV5.jnbCYw:2020/07/21(火) 19:10:10 ID:9CUhbyZk0
リンク、2B、雪歩、美津雄、ザックス、カイム予約します。

207 ◆2zEnKfaCDc:2020/07/21(火) 21:01:26 ID:HVFgJ93o0
前半のみになりますが、投下します。
後半部分については予約を延長させてください。

208……and REMAKE(前半) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/21(火) 21:02:44 ID:HVFgJ93o0
 たくさんのものを手に入れた。
仲間との絆。宿命の終焉。そして、新羅カンパニーやメテオの脅威の去った、平和な星。

 しかしその結末を迎えるために、零れ落ちたものがあった。その時に生まれた哀しみも怒りも、前に進むためには必要なものだった。星の命に比べれば、きっと誰もが多少の犠牲は仕方ないと言って吐き捨てるのだろう。

 だけど俺には、その零れ落ちたものが何よりも大切だったんだ。
誰かにとっての多少の犠牲は、俺にとっては星よりも重かったんだ。

 闘いの中で、答えを見つけた。
人はそれぞれ現実を持っていて、それぞれが己の現実を守るために闘っている。アバランチも新羅もその芯は正義でも悪でもなく、己の望む現実を通そうとしていただけに過ぎない。

 でもそれでいい。正義も悪も自分の現実を邪魔しない。するべきじゃないんだ。邪魔をしていいのは自分の現実を妨げる敵だけ。

「俺は俺の……現実を生きるッ!」

 それならばこれは、現実の奪い合いだ。自分の望む現実を生きるために、相手の望む現実を奪う。殺し合いを命じられたというのは、そういうことなんだろう?

 ザックスの人格ではなく自分自身の人格で、エアリスとの物語をやり直すんだ。それが誰にとっての正義でなくても構わない。自分にとって、それが正義であるならば。それが俺の願う現実だ。

 変わらぬ信念を胸に、クラウドは闇を纏った聖剣―――もはや魔剣と化したグランドリオンを振るう。

「それこそが幻想だって……言ってんだろうがッ!」

 その信念を、花村陽介はたった一言吐き捨てた。

 闘いの中で、答えを見つけた。

 現実は辛い。理不尽な暴力によって失われるものは数知れずあるし、自分は自分のなりたい理想像にまったく届いちゃいねえ。届くビジョンも見えやしねえ。

 だけど、それでいいんだ。目を背けてさえいなければ、いくらでも前には進める。虚飾を拒み、真実を追究する意志。それさえあれば自分を見失うことだけは絶対に無い。自分の生きる在り方、その全てが現実なのだから。

 陽介もまた、その信念は変わらない。変わらないからこそ、陽介のシャドウ『ジライヤ』は陽介と同じように前を向き、クラウドに真っ向から立ち向かう。

 クラウドの今は他人の犠牲の上に成り立っている。目的のための犠牲は必要なものだと割り切っていながらも、だけどたった一つ、そう割り切りたくない犠牲があった。クラウドは今、その自己矛盾から目を逸らして闘っている。目を逸らさねば、多くの犠牲を正当化できないから。

 一方で、陽介が今ここにいるのは自分と向き合い、真実から目を逸らさなかったからだ。久保のように己のシャドウを否定し続けていれば。あるいは真実を見極めようとせずにあの時に生田目を殺してしまっていれば。人々は霧の中でシャドウへと化していたはずだ。

209……and REMAKE(前半) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/21(火) 21:03:33 ID:HVFgJ93o0
 両者ともに、相手の主張は己の旅路で得た答えを否定するものだった。棄却し、ねじ伏せなくてはならないものだった。

ㅤそれならば当然、その主張の行先は衝突する未来のみである。そして此処が殺し合いを生業とする世界なればこそ、そこに武力衝突をも伴うもまた摂理。

ㅤ心の準備はできている。ホメロスが闘っているのを観ている間、ホメロスが死ぬという最悪の事態の想像は常に胸に付きまとっていた。現状、ホメロスが気絶しているだけで生きていることがその想像との唯一の差異であり、しかしその差異こそが陽介から逃走の選択肢を奪っていた。

ㅤクラウドが先に動いても、陽介は落ち着いてその動きを見据え、いつものようにジライヤを顕現させる。

ㅤ拳と刀の鈍い衝突音が響き渡る。二度、三度、その数が増していくにつれてジライヤへの負荷が増していく。

ㅤ堪らずジライヤを下がらせると、クラウドの視線はジライヤから陽介へと移った。当然、それはターゲットの変更を意味する。

「俺の願いの邪魔となるのなら、俺はお前を斬るだけだ。」

ㅤクラウドは明確な、殺害の意思を示す。そしてそれは同時に、動機の提示でもあった。

ㅤクラウドが言った、願いという単語。おそらくは優勝者への何でも願いを叶える権利とやらだろう。あんなの、基本的に楽観主義的な思考の陽介から見ても眉唾ものだ。それならば当然、クラウドから見ても100%信頼出来るものなどではないはず。クラウドの願いとは、それでも縋ってしまうようなものなのだろう。そんな願いの内容なんて分からない。だけどただ一つだけ、言えることがある。

「あんな奴らの手を借りなきゃ叶わない願いなんて、間違ってる!」

ㅤそれがどれだけ至高な願いであろうとも、自分の手で掴み取れず、マナやウルノーガのような悪しき存在無しには叶わない願いであれば、叶うべきでは無い。悪魔のような催しで叶えた願いに、価値など見出してはならないのだ。

 しかしその言葉は伝わらず、真っ直ぐに斬り込むクラウドとジライヤが再び衝突する。ジライヤの『突撃』に対し、魔剣グランドリオンの一閃。先ほどまでの応戦よりも一際大きな衝撃を受けたクラウドは陽介へと到達することが出来ずに下がらされる。

「俺の世界は、あの時から止まったままなんだ。」

「それでも! 俺たちは前を向いて生きていくしかねえんだよ!」

ㅤ次に先手を打ったのは陽介だった。クラウドが距離を置くのを許さず、威力よりも速度に重きを置いたソニックパンチによる追撃でクラウドの防御の手を休ませない。先ほど、クラウドに唯一まともにダメージを通した技でもある。

「詭弁だな。」

ㅤそして今度も、ジライヤによる攻撃は確かにクラウドの元に届いた。しかし手応えがほとんど感じられない。

ㅤクラウドからすればそれは一度見た技。『てきのわざ』マテリアが無いためラーニングまでは出来ないが、その軌道をハッキリ見切るには充分であった。グランドリオンを縦に構えて最低限の負荷で受け流す。

「お前に俺の願いの何が分かる?」

ㅤジライヤをやり過ごし、陽介に斬り掛かるクラウド。

ㅤ対する陽介が図るのはペルソナを戻すまでの時間稼ぎだ。しかし、下がって距離を取る選択肢は無い。後方数メートルの地点でホメロスが気絶しているため、下がりすぎると巻き添えにしてしまう。

210……and REMAKE(前半) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/21(火) 21:04:07 ID:HVFgJ93o0
「分からねえよ。」

ㅤ斬撃を回避しながら、陽介は反論する。

ㅤ陽介が選んだのは、その場から大きく動かないままの回避。ホメロスが闘っていた時に使ったマハスクカジャの効力がまだ残っていたことが幸いし、クラウドの斬撃は空を切った。陽介の右手に握られた龍神丸の刺突を警戒し、追撃せずに一歩引き下がった。

「話し合って分かり合えるんならいつでも大歓迎なんだがな。」

「興味ないね。」

 停戦の申し入れを突っぱね、地を蹴って再び斬り掛かる。しかし戻ってきたジライヤが邪魔をし、グランドリオンの射程内には陽介を捉えられない。

「そこだっ!」

「甘いっ!」

 クラウドの上空から放ったパワースラッシュはブレイバーで相殺される。クラウドは深く斬り込めず、陽介もまたクラウドに決定打を決められない闘いが続いていた。

ㅤしかしこの状況、不利な状態であることに陽介は気付いている。

 業物のリーチの差であれば長剣と短刀、クラウドに分がある。だが陽介のペルソナが、そのリーチ差を逆転させる。これだけならば陽介が有利だ。

 しかしペルソナの顕現は体力の消耗を伴う。リーチの有利な局面を維持している限り陽介の方が消耗が激しいということだ。

 ただでさえホメロスとの闘いで傷を負っているにもかかわらずほぼ無傷の陽介と互角に渡り合っているクラウド。もし、長期戦になってペルソナを多用することで互いのコンディションの差が埋まっていけば、陽介に待つのは死だ。

(いや……それでも、闘うしかねえんだ。)

 首を振って浮かんでくる不安を押し殺す。結局、逃げるという選択肢は無いのだ。逃げれば少し離れて気絶しているホメロスが今度こそ殺されてしまう。

「ペルソナッ!」

 考えるのを辞め、半ば自暴自棄的にアルカナを砕く。質より数と言わんばかりに、クラウドの上方に顕現させたジライヤがガルを連射する。結局のところ、逃げないのなら突撃あるのみだ。ごちゃごちゃ考える方が面倒臭い。

 そしてそれは、意外にも有効に働いた。陽介の見据える敵はクラウドのみであるのに対して、クラウドは陽介を殺した後も他の参加者と衝突し続けるのだ。小さいダメージであっても可能な限り避けたいと考え、ガルのひとつひとつをグランドリオンで弾く。

「今だッ!」

 ガルへの対処にクラウドが気を取られているその間は、龍神丸のリーチまで接近する絶好のチャンス。陽介はここぞとばかりに飛びかかろうとする。

「お前も、ペルソナとやらの使い手なのか。」

 しかし次の瞬間、陽介は凍りつくような殺気を感じ取った。咄嗟に攻撃を中断し後ずさる。そしてその直後、自身の感覚に誤りが無かったことを認識した。陽介の飛び込もうとしていた先の地点ではガルを弾き飛ばしながら形成された"凶"の字の斬撃が陽介を待ち構えていた。もし、あのまま攻撃していれば今ごろの陽介は細切れになっていただろう。想像し、悪寒が走ると同時に冷えた頭にクラウドの言葉への疑問も湧いてきた。

211……and REMAKE(前半) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/21(火) 21:05:08 ID:HVFgJ93o0
「どういう意味だよ。ペルソナを知ってんのか?」

「……ああ。お前もペルソナとやらで俺の道を阻むのなら……」

 クラウドの頭に浮かぶのは、命を賭けた決意を見せた少女、天城雪子。

 いのちのたまを用いてでも他人を守ろうとした彼女を、羨ましいと思った。その命と引き換えに星に希望を残したエアリスと彼女を、重ねずにはいられなかった。

「俺はただ、お前を払い除けるだけだ。」

「そうかよ……」

 クラウドはその言葉の意味をハッキリとは語らなかった。しかし、暗示されたことを陽介は理解できた。放送で呼ばれた天城は、コイツに殺されたのだと。

 そう認識した次の瞬間、目の前の景色が歪んで見えるほどの激しい怒りが陽介の脳内を支配していた。

 完二に続いて天城まで。自称特別捜査隊から大切なピースがひとつひとつ零れ落ちていく。灰色の日々に彩りをくれた奴らが、こんな馬鹿げた企画のために殺されていく。

 どうすれば、大切な人が殺されるのが終わるんだ?どうすれば、大切な居場所を守ることができる?そんなの決まってる。

――コイツを、殺すんだ。

「ああああああああ!!!!」

 陽介の脳がその答えに至った瞬間、雄叫びを上げる。

 それに対し、次に来るであろう攻撃にカウンターを仕掛けるべくクラウドは構える。『怒り』に任せた攻撃は、その精度を鈍らせる。同じペルソナの能力を持っているため、知り合いであると考えた天城雪子の殺害を陽介に伝えたのは、スクカジャにより一撃一撃が正確にクラウドを捉える陽介の攻撃の精度を落とすための、クラウドの挑発だった。

「もう、うんざりなんだよ!」

 しかし、陽介から怒りに任せた特攻が来ることはなかった。その代わり、その目は『悲しみ』に満ちているように見えた。

「誰が殺しただとか、何を願うかだとか、何でそんなことを考えなくちゃいけねえんだよ!」

 陽介を止めたのは、ホメロスに対する怒りをも抑え込んだ鳴上悠の声だった。

ㅤ感情は本質を見失わせる。あの波乱の一年間を超えてなお感情で動くのならば、自称特別捜査隊で学んできたことがすべて無に帰してしまう。それを、完二や天城が望んでいるわけがない。チリチリする指先も、口の中がカラカラに乾いた感覚も、目の奥から込み上げてくる熱も、そのすべてを強さへと昇華する強さを、陽介は持っている。それは、クラウドの現状の否定だった。

「お前もそんなに強いのなら、この状況打ち破って脱出できる可能性だって考えただろ!ㅤ皆で協力すれば誰も殺さなくていいとは思わなかったのかよ!」

ㅤクラウドも、陽介の語る可能性を考えなかったわけではない。少なくともいま、エアリスは生きている。それならばエアリスと、そしてティファ、バレット、ザックス等の有志と、再び手を取ってこの殺し合いからの脱出に向けて闘えたのなら、全員が生き残れる世界も有り得るのではないか、と。

ㅤ考えて、それでもなお否定した。人と人は立場が変われば闘うしかないものだと知っているから。

「そんなの……綺麗事だ!」

ㅤクラウドは一言吐き捨てる。

ㅤ雪子の殺害を告げることは、陽介の信念を挫く一手であるはずだった。一度、たった一度だけでも、陽介が明確な殺意を以て感情的に自分を殺そうとしたならば、陽介の語る正義は完全に説得力を失う。

ㅤクラウドは陽介を否定しなくてはならない。しかし、それを否定する言葉をクラウドは持たない。

ㅤだからこそ、斬り掛かる。しかし半ば感情的に振るわれた刀に殺意は篭れど精度は伴わず。

212……and REMAKE(前半) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/21(火) 21:05:51 ID:HVFgJ93o0
「綺麗事で何が悪い!」

ㅤ冷静にグランドリオンの到達点を分析したジライヤの拳はそれを真っ向から弾き返し、更に追撃の蹴りが受け身も許さずクラウドを平らな大地に叩き付けた。

(ダウンを取った……。今ならッ!)

ㅤそれを隙と見た陽介は飛びかかる。地上に全身を打ち付け、揺れた視界が明瞭さ取り戻した時にクラウドが見たのは、龍神丸を掲げた陽介の姿。

ㅤしかしペルソナを除いた単純な身体能力で競えば、そこはクラウドの独壇場だった。咄嗟に突き出した脚が陽介の腹を打ち、蹴飛ばす。

「がはっ……」

ㅤ飛ばされた陽介は今度は逆に背を打ち付けられる。腹部に受けた強烈な蹴りも含め、平和な現代日本ではそうそう味わうことのない痛みだ。悶絶してもし足りない、闘いの痛み。

「綺麗事を並べても、俺には響かない。」

「だったら響かせてみせるさ。言霊使いも黙りこくる俺の伝達力を舐めんなよ?」

ㅤそれでも、立ち上がる。陽介もまた、クラウドを否定しなくてはならないのだから。

 両者が主張だけでなく、根本的な倫理観から噛み合わないのも当然の帰結だった。何せ、互いに互いを知らないのだから。

 陽介やその仲間たちが、命を尊ぶ日本という平和な世界を生きてきたことも。クラウドやその仲間たちが、人の命の価値が霞むほどに理不尽な死と身近すぎる世界を生きてきたことも。どちらも相手には伝達されない。陽介にとってのクラウドは人を殺すというその一点のみを見ても悪であり、テロリズムが横行する世界を生きてきたクラウドにとっての陽介はただの偽善である。

 だからこそ精神力の面でクラウドに軍配が上がるのも明白だった。いつも戦っていたシャドウという異形の怪物とは違い、生身の人間を相手にしている陽介。それに対し、元々多くの人間と衝突してきたクラウドの闘いは普段と何も変わらない。

 さらに陽介は先ほど、ミファーとの闘いで死というものを目前にしたばかりである。冷たい海の中で、仲間も誰もいない、絶対的な孤独。瞳を一度閉じてしまえばもう二度と光を取り込むことはないように思えてしまい、刃が迫る光景をじっと見つめていた。

 あの時の感覚は今でもハッキリ思い出せる。きっと生きている限り、それが消えてくれることはないのだろう。そんなトラウマを植え付けるほどの『死』が、一瞬の攻防の中でも何度も陽介の脳裏を掠めるのだ。逃げれば気絶しているホメロスが殺されると分かっていても。それを受け入れてでも逃げたいと、塵ほども思わずにいられようか。去年までは命懸けの闘いというものと完全に無縁だった陽介は、決して強い人間ではない。

「俺は絶対、お前を認めない! ペルソナァッ!」

 それでも。強くなかったとしても。強くありたい人間。それが、花村陽介である。

――『ガルダイン』

 素早く体制を持ち直し、クラウドが次の動作を開始するよりも速くアルカナを砕いた。それに伴って顕現したジライヤの両の腕から二重のブースタがかかった風の刃が放たれる。

「……俺は、負けない。」

 持ち前の速さと『素早さの心得』に凝縮された命中精度から繰り出される、最速の風の刃。元より浅くない傷を負ったクラウドを追い詰めるには充分すぎる威力。

「負けられないんだ!」

 だが、クラウドは天城雪子を殺してここに立っている。いのちのたまを用いた彼女の魔法は更に強力なものだった。それならば、彼女の決意を叩き潰した自分はそれに劣るもので死ぬわけにはいかない。その決意が、持ち主の心を映し出す剣に纏われる闇をいっそう重く、そして深くした。魔剣グランドリオンのひと薙ぎ。たったそれだけの所作で迫るガルダインを消滅させるほどに。

 障害となる風の刃が消えたことで、クラウドは陽介に向かって駆ける。一方の陽介、ガル系のスキルが時間稼ぎにもならないことは証明済み。ホメロスが倒れているため大掛かりな回避も選択肢の外。すなわち取れる行動は、たったひとつ。

213……and REMAKE(前半) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/21(火) 21:06:26 ID:HVFgJ93o0
「迎え撃て、ジライヤ!」

 迫りくる死を回避するための半ば反射的な攻撃だった。しかしそれは決定的な悪手となってしまう。

 クラウドは雪子との闘いで理解していた。陽介も用いている『ペルソナ』という能力によって顕現した影は、その存在自体が操り手の死角を作り出してしまうことを。

 クラウドの前進はフェイント。ジライヤが陽介の前に出た瞬間、クラウドは大地にグランドリオンを突き刺して強引にその歩みを一瞬止める。ジライヤ自体が死角となり 、直前までクラウドを捉えていたはずの拳は空を切った。その横を、グランドリオンを引き抜き、その勢いでクラウドは通り抜けて行く。

 ジライヤをやり過ごしたクラウドは狙いを陽介に絞る。すでにクラウドはLIMITBREAK状態。クラウドの中でも最速の斬撃、破晄撃を陽介に向けて放つ。

 ジライヤの速度であれば対処できても、陽介本人はそうはいかない。

(くっ……避けられねえ……!)

 陽介の心臓に向けて一直線に斬撃が迫る。

 驚く暇も与えられずに迫ってきた、ミファーの振りかざした刃よりも。クラウドとの闘いの最中、何度も潜り抜けてきた多くの死線の中のどれよりも。

 それは、明確な『死』の確信だった。

(すまねえ、天城。仇……とれなかった……!)

 悔しさに打ち震えながら、陽介は迫る死を静かに待つことしかできなかった。

(……?)

 だが、待てど暮らせど死は訪れない。

「ボーッとするな、陽介!」

 背後から聴こえた声が、夢現だった陽介の意識を半強制的に覚醒させた。

「うおっ!ㅤ何だこれ!?」

 目の前に見えたのは、空中で静止した破晄撃。そして背後には、シーカーストーンを構えるホメロスの姿。

「お前の綺麗事は、絵空事のままでいいのか?」

 シーカーストーンの数ある機能のひとつ、ビタロックによって陽介への斬撃は止められた。それが再び動き出す前に陽介は慌てて射線上から離れ、そして敵を見据える。

 クラウドは、陽介の綺麗事を否定した。だがかつて闇を生きたホメロスには分かる。綺麗事とは、その名の通り綺麗なものなのだと。濁った者にとって、羨望の目でしか見られないものなのだと。クラウドの否定の言葉は、己の濁りから目を背けているに過ぎない。その心の隙間から生まれる自己嫌悪は、この上ない隙となる。

「綺麗事ならば、濁った言葉など跳ね返せ!ㅤお前にはその力があるだろう!」

「ああ……やってやらあァ!」

 そうだよな。闘ってるのは俺一人じゃねえ。

 人ってのは弱い。簡単に迷うし、簡単にくじけたくなる。一人でできることなんて、たかが知れてるんだ。

 そしてだからこそ、人は手を取り合うこともできる。

 それは簡単なことのようで、だけど見栄とか、感情とかが邪魔をする。俺だって最初、ホメロスを殺そうとした。完二を殺したウルノーガの配下なんて、許したくなかった。手を取り合う、たったそれだけのことなのに、この世界では特にそれが難しいんだ。

 俺一人じゃこんな化け物、勝てる気がしねえよ。ちょっとの攻防の間に何度死にかけたか分からねえ。

 だけど、俺には仲間がいる。同じ敵を見据えて共に闘う仲間が。

214……and REMAKE(前半) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/21(火) 21:07:03 ID:HVFgJ93o0
「俺たちの決意を、この一撃に込めて!」

 カッと見開かれた瞳の捉える先に、一枚のアルカナが浮き上がる。その先にある倒すべき敵、クラウドの姿を見据えたまま拳を握り込み、砕く。

(この気迫……相殺は困難か……?)

 対して、クラウドは剣を斜めに構えて攻撃を逸らした上での返しの一撃を狙う。陽介の全身全霊の一撃、ただこの局面だけを耐え抜けば、陽介にクラウドの反撃を躱す余裕は生まれない。

 アルカナの破砕音が響くと同時、ジライヤが姿を現す。そのタイミングも位置も何もかも、クラウドの予測の範囲内。意識を集中し、グランドリオンを握る手に力が籠ったその時。

――『リーフストーム』

 側面より撃ち出された高速の草葉の刃がグランドリオンに向けて真っ直ぐに注ぎ込まれた。

「しまっ……!」

 ホメロスと同時に意識を取り戻したジャローダによる援護射撃。二度目であったためにその威力はがくっと落ちている。しかし、それを受けたグランドリオンは勢いのままにクラウドの手を離れ、地に落ちる。

「届け! ブレイブ…………ザッパァーーーーッ!」

 様々な想いが込められたその右腕を、妨げるものは何も無い。

「エアリス……俺は……まだ……」

 ここで、終わるのか?

 そう感じた瞬間、己の願いのために切り捨ててきた数多くの命が脳裏に過ぎった。

 明日が来ることを疑わずに眠っていただけのミッドガルの人々。

 新羅に立ち向かったアバランチの同胞たち。

 チェレンを護るために闘ったレオナール。

 志を同じくして共闘したチェレン。

 居場所を守りたかった天城雪子。

――そして、目の前でその背を貫かれたエアリス。

 その誰もが願いを持っていた。そしてその誰もが、犠牲となった。

 ここで負けるのならば、彼らの願いを、彼らの死を、ただただ無意味なものだったと貶めることに他ならない。

 それならば、答えはひとつ。

「……終わりたく……ない……!」

 クラウドの叫びに呼応するように、ザックの中の何かがキラリと光り輝いた。

「っ……!ㅤこの、光は……!!」

 ホメロスはその光の正体を知っていた。だが、それを防ぐ一切の手段は無かった。

「嘘……だろ……」

 ホメロス、ジャローダ、そして花村陽介。その場にいるクラウド以外の全員を包み込むように、銀色に輝く稲妻が辺り一面に降り注いだ。

 弱点である雷属性の特技を受けてアルカナへと還っていくジライヤ。その衝撃により陽介は地に倒れ込み、元から意識を消失するだけの傷を負っていたホメロスとジャローダは再び意識を落としていった。

――『シルバースパーク』

ㅤその雷撃は、そう呼ばれていた。ザックの中に眠っていた、シルバーオーブに封じられし特技の名。

 願いへのクラウドの執念。それはかつての持ち主、ホメロスの持っていたそれに決して劣らず、ザックの中に眠っていたシルバーオーブの魔力を解き放つトリガーとなったのである。

ㅤ間もなくして稲妻は消えていく。気がつけば、その場に立っているのはクラウドのみであった。

215 ◆2zEnKfaCDc:2020/07/21(火) 21:08:10 ID:HVFgJ93o0
前半の投下を終了します。

216 ◆2zEnKfaCDc:2020/07/25(土) 14:20:59 ID:Yt9Epgks0
申し訳ありません。タイトル訂正します。上記の投下のタイトルの括弧内、正しくは(前編)でした。

そして中編投下します。

217……and REMAKE(中編) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/25(土) 14:22:32 ID:Yt9Epgks0
(勝った……のか……?)

 思いもよらぬシルバーオーブの効力に惚けていたクラウドは次の瞬間には正気に戻る。

 見下ろせば、敵が倒れていた。
否定しなくてはならない、自分の敵。その生殺与奪を、たった今クラウドは握っている。

 如月千早とは違う、明確に実力を持つ者。必ずや自分の優勝を阻む敵として立ち塞がる陽介を、生かしておける理由など存在しない。それなのに、何かが心の中に引っかかっていた。

(……コイツは敵だ。自分の願いのため、そして信念のため、排除しなくてはならない。)

 殺すのならば、勝たなくてはならない。さもなくばこれまで殺してきたことの意味が失われてしまうから。

 だが、たった今自分は負けかけていた。シルバーオーブという、最初から支給されていたものではない、運良く拾えたに過ぎない要素がなければ完全に敗北していた。そんな俺が本当に、これからも勝ち続けられるのか?

 首を横に振って、己のネガティブ感情を抑え込む。どの道レオナールと天城雪子を殺した自分には、もう後戻りの余地など残っていないのだ。黒い感情を可視的に映し出していたグランドリオンが手元に無いというだけで、これほどまでに迷いが生まれるものなのか。

 見回せば、落としたグランドリオンは探すまでもなく見つかった。陽介にトドメをさすための武器として回収に向かう。

「俺……だってなぁ……」

 クラウドが魔剣を拾い上げる、ほんの一瞬。クラウドの注意はそちらに逸れた。

「負ける……わけには……いかねえんだよ……!」

 声と物音に、反射的に振り返る。しかし、遅い。すでにクラウドの視界いっぱいに陽介の拳が主張していた。

 顔面に、精一杯の拳が突き刺さる。いかなる武具であろうとも、いかなる能力であろうとも、シンプルさという土俵で右に出るものはない、単純明快な暴力。それ故に、クラウドは最も警戒が遅れてしまった。

 アルカナを顕現させて割るという、ペルソナを発動する一連の流れを取らせる隙までもを陽介に与えたわけではない。ホメロスやジャローダが動き出す可能性も考えれば、陽介といういちペルソナ使いに割く注意力のリソースとしては合理的で、かつ充分だったはずだ。けれども、その合理性のみでは説明できないほどに、陽介自らが殴りに来るという可能性が完全に抜け落ちていた。

 天城雪子の強さを目の当たりにしたクラウドは、無意識にペルソナという能力に対する恐れ――あるいは畏れを、抱いていた。花村陽介よりも、ペルソナであるジライヤへの警戒が先行していた。敢えて名前をつけるのなら、それは死してなお己の居場所だった者たちを守り続けようとする、天城雪子の亡霊。

218……and REMAKE(中編) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/25(土) 14:23:32 ID:Yt9Epgks0
 唐突に振るわれた拳に、グランドリオンを拾い切ることが出来ない。カランと音を立てて地に落ちた剣の行方を気にする暇もなく、第二撃がクラウドの顔面を打ち据える。二度では終わらず、三度、四度。

「ぐっ……!ㅤいい加減に……」

 陽介の殴打は止まず、クラウドは一旦グランドリオンの回収を諦める。シルバースパークの際に龍神丸を落としており、陽介も素手。それならば条件は同じだ。

「……しろッ!」

 まるでバーサク状態のようにただ無心でクラウドを殴り付ける陽介。そのような相手と1VS1で闘う場合、防御は無意味だ。クラウドが打てる手はひとつだった。同じく本能のままに、反撃の拳を突き出すことのみ。

――ガッ!

 陽介の顔面にも、クラウドの拳が突き刺さる。それでも一歩も引くことなく、更に拳を突き出し、応戦を選んだ以上はもう引く選択肢の無いクラウドも後に続く。互いに互いの拳を防ぐ術は無く、いつの間にか殺し合いは、殴り合いへと形を変えていた。

 業物は用いられておらずとも、一切の躊躇無く振り抜かれる拳は、互いの意識を――そして命を、着実に削り取っていく。両者ともにすでに気を失っていてもおかしくないほどのダメージを負って、それでもなお、もはや無意識で相手に殴りかかっていた。それはまるで、殴るのを辞めてしまえばもう二度と立ち上がれなくなるかのように。

 殴り、殴られ。それを繰り返している中で、次第に痛みというものが消えていく。目に映る景色も、現実のものではなくなっていく。





――もし、走馬灯とやらを見るのなら。そこに在るのは大好きな人の姿であって欲しかった。

 いや、そんな資格もないか。俺は小西先輩の本心、聞いちまったんだから。

 それでも、出来れば良い思い出を見たかった。百歩譲って、悪い思い出だったとしても最期に見れれば良い思い出に変わるかもしれない。

 何にせよ、最期に見るのが全く覚えのない景色であるとは、まったく思わなかったものだ。

 まるで海底のように蒼く澄み渡った空間の中、ただ静かに時間だけが流れていく。辺りを照らし出す光は、太陽よりも暖かく自分を包み込んでくれているように思えた。この風景を敢えて言い表すのならば、幻想的とでも言ったところか。天上楽土にも似たその雰囲気からは、すでに俺が天国にいるのかとすら思ってしまう――ただ一つ、天国に似つかわしくない光景を除いて。

 それは、終わりの光景だった。天から降り立った男に、ひとりの少女が背後から胸を貫かれ、その命を散らす瞬間だった。胸から咲いた刀は流れるようにスルスルと抜けていき、飛び散った紅い鮮血が景色を上塗りしていく。

 気が付くと周りの風景は変わり、物語が進行していく。程なくして、これはクラウドの見てきた世界なのだと気付いた。ホメロスの過去にも勇者だとか魔王だとか、半信半疑なワードがいっぱい出てきたが、それにも負けず劣らずのファンタジーの世界を、陽介は見た。
殺し合いの世界にいる奴らは本当に、自分とは異なる世界を生きてきたのだと実感せずには居られなかった。

 しかし物語が幾ら進行していっても、まるで瞼の裏に貼り付けられているかのように、あの瞬間が離れない。仲間と共に星を救っても、ずっとあの光景に苦しめられ続けている。

(アンタも、こういうタチなのかよ……。)

 思い出したのは、『彼』のためと称して自分に刃を向けたミファー。想い人のために、何ができるか。その結果が殺人に向いてしまうのは、許してはいけないことなんだと思う。

 だけど、この気持ちだけは尊重しなくてはならないものなのだと、ふと俺はそう思った。

(まだ、終わっていられない……。そうだよな。)

219……and REMAKE(中編) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/25(土) 14:24:38 ID:Yt9Epgks0




 陽介とクラウド。
二人の意識が現実へと引き戻された。

 クラウドの体内に残るジェノバ細胞の見せた、幻想のように淡い夢。陽介にはクラウドの記憶が、そしてクラウドには陽介の記憶が見えていた。それは幻想でありながら、しかし相手にとっては紛れもない真実でもあった。

 殴り合い、そして殺し合う現実もまだ終わっていない。目が醒めたのなら、次の行動は決まっていた。

 崩れ落ちた身体を持ち上げ、よろよろと敵を見据える。ペルソナを顕現させる体力も、ザックの中から道具を取り出す労力も惜しい。あと一発、ただ相手の顔面にぶちかましてやれればいい。両者ともに、それを本能が理解していた。この結末に、小細工は要らぬと。

「……お前は、俺の理想だった。」

 想起する。何も無い田舎町。大型スーパーの店長の息子として商店街の人たちから疎まれながら生きる、灰色の日々。特別な何かになることはできず、世界は自分以外の何かを中心に回っている。

「好きな人のために闘うヒーロー、そういうのにずっと憧れてたよ。」

 何かになりたかった。
自己の存在に意味を与えられる、何かに。

「いや、それだけじゃねえ。」

 追体験したクラウドの記憶。悲しみも苦しみも、数えきれないほど流れ込んできて、決して幸福な物語とは言えないものだったけれど。

 だけど、それでもクラウドは主人公だった。

 誰かの物語の脇役ではなく、紛れもなく自分の物語の中を生きていた。そう感じた時に芽生えたこの気持ちは、言うなれば鳴上悠に向けるものと同じものだ。劣等感、或いは羨望。

「お前は星を救った英雄で、皆の中心で……"特別"だった。」

 ここまでぶつかってきた相手の過去を知り、憧憬を覚えた。たったそれだけの話だ。クラウドが敵であることも、和解の道などとうに絶たれていることも、何も変わっていない。

「俺はお前が、羨ましいと思ったんだ。」

 だけど、たったそれだけが陽介を立ち上がらせる。

 悠と同じものをクラウドに感じ取った。その上で負けて、一矢報いることもできずに死んだのなら。俺はきっと、二度と悠を相棒とは呼べない。もう、アイツの背中を追いかけるだけの、アイツを見上げているだけの俺でいたくないんだ。

 立ち上がれ。クラウドが立ち上がる限り、何度でも。アイツと対等な俺であるために、こんな感情なんかに負けるな。

 ただその一心で、陽介は前に進む。

「違うッ!」

 そんな陽介の叫びを、クラウドは真っ向から否定した。陽介の言葉への苛立ちを隠せないほど、感情的な一言だった。その裏にある想いは、ただ一つ。

「俺の在りたい姿こそ、お前だったんだ……!」

 大切な人の喪失。その事象のみを語れば、エアリスを失ったクラウドと小西早紀を失った陽介の間に大きな差はありはしない。

 だけど、陽介はその喪失を糧に前を向いていた。己の弱さを受け入れ、灰色の世界を脱却した。それは、クラウドには成せなかった境地。仮にエアリスの死を前に進む契機とすることが出来たなら、目の前に広がる景色は何色だっただろう。

 だからこそ、陽介が羨ましく思えて――だからこそ負けられないとも思った。仲間を殺してでも望む世界を掴み取る己の選択を、幻想と吐き捨てた陽介。お前ごときに俺が分かるものかと否定しなくてはならないのに、彼もまた同じ境遇に立っているのだと知ってしまった。もはや陽介を棄却するには、殺すしか残っていないのだ。それほどまでに、陽介の生き方は正しいのだ。それなのに、何故お前は羨望の眼を向ける。灰色の世界を生きることしかできない俺を、何故お前が見上げているんだ。

220……and REMAKE(中編) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/25(土) 14:25:19 ID:Yt9Epgks0




 陽介とクラウド。
二人の意識が現実へと引き戻された。

 クラウドの体内に残るジェノバ細胞の見せた、幻想のように淡い夢。陽介にはクラウドの記憶が、そしてクラウドには陽介の記憶が見えていた。それは幻想でありながら、しかし相手にとっては紛れもない真実でもあった。

 殴り合い、そして殺し合う現実もまだ終わっていない。目が醒めたのなら、次の行動は決まっていた。

 崩れ落ちた身体を持ち上げ、よろよろと敵を見据える。ペルソナを顕現させる体力も、ザックの中から道具を取り出す労力も惜しい。あと一発、ただ相手の顔面にぶちかましてやれればいい。両者ともに、それを本能が理解していた。この結末に、小細工は要らぬと。

「……お前は、俺の理想だった。」

 想起する。何も無い田舎町。大型スーパーの店長の息子として商店街の人たちから疎まれながら生きる、灰色の日々。特別な何かになることはできず、世界は自分以外の何かを中心に回っている。

「好きな人のために闘うヒーロー、そういうのにずっと憧れてたよ。」

 何かになりたかった。
自己の存在に意味を与えられる、何かに。

「いや、それだけじゃねえ。」

 追体験したクラウドの記憶。悲しみも苦しみも、数えきれないほど流れ込んできて、決して幸福な物語とは言えないものだったけれど。

 だけど、それでもクラウドは主人公だった。

 誰かの物語の脇役ではなく、紛れもなく自分の物語の中を生きていた。そう感じた時に芽生えたこの気持ちは、言うなれば鳴上悠に向けるものと同じものだ。劣等感、或いは羨望。

「お前は星を救った英雄で、皆の中心で……"特別"だった。」

 ここまでぶつかってきた相手の過去を知り、憧憬を覚えた。たったそれだけの話だ。クラウドが敵であることも、和解の道などとうに絶たれていることも、何も変わっていない。

「俺はお前が、羨ましいと思ったんだ。」

 だけど、たったそれだけが陽介を立ち上がらせる。

 悠と同じものをクラウドに感じ取った。その上で負けて、一矢報いることもできずに死んだのなら。俺はきっと、二度と悠を相棒とは呼べない。もう、アイツの背中を追いかけるだけの、アイツを見上げているだけの俺でいたくないんだ。

 立ち上がれ。クラウドが立ち上がる限り、何度でも。アイツと対等な俺であるために、こんな感情なんかに負けるな。

 ただその一心で、陽介は前に進む。

「違うッ!」

 そんな陽介の叫びを、クラウドは真っ向から否定した。陽介の言葉への苛立ちを隠せないほど、感情的な一言だった。その裏にある想いは、ただ一つ。

「俺の在りたい姿こそ、お前だったんだ……!」

 大切な人の喪失。その事象のみを語れば、エアリスを失ったクラウドと小西早紀を失った陽介の間に大きな差はありはしない。

 だけど、陽介はその喪失を糧に前を向いていた。己の弱さを受け入れ、灰色の世界を脱却した。それは、クラウドには成せなかった境地。仮にエアリスの死を前に進む契機とすることが出来たなら、目の前に広がる景色は何色だっただろう。

 だからこそ、陽介が羨ましく思えて――だからこそ負けられないとも思った。仲間を殺してでも望む世界を掴み取る己の選択を、幻想と吐き捨てた陽介。お前ごときに俺が分かるものかと否定しなくてはならないのに、彼もまた同じ境遇に立っているのだと知ってしまった。もはや陽介を棄却するには、殺すしか残っていないのだ。それほどまでに、陽介の生き方は正しいのだ。それなのに、何故お前は羨望の眼を向ける。灰色の世界を生きることしかできない俺を、何故お前が見上げているんだ。

221……and REMAKE(中編) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/25(土) 14:26:00 ID:Yt9Epgks0




 気がつくと、真っ暗な世界の中にいた。
前はまったく見えず、無限に広がっているようにすら思えてしまうほどの、果てしない世界。
一つだけ分かることは、その世界には血の匂いばかりが充満しているということ。鼻の奥に直接響いてくるような刺激が喉まで焼き尽くしてしまいそうなほどに熱く、きっとこの延長上に地獄の苦しみとやらがあるのだろうとすら思えた。

 何故か、理解していた。これは俺の殺してきた者たちの全員分の血なのだと。

 これは呪いか、それとも罰か。どちらにしても、この血は一生俺を捉えて離さないのだろう。万単位の人々を殺してきた俺にはお似合いの末路というもの。死後の安寧への期待など、とうに捨て去っていた。このままこの世界で終わりも見えないまま苦しみ続けるのなら、それでも構わない。それが、自分の罪の代償であるのなら。

『ようやく自覚したのか?』

 暗闇の先に、一人の人影が照らし出される。
金色の髪、そして特徴的な黒の戦闘服。ぼんやりとしたその影は、俺と完全に瓜二つの姿をしていた。

『それはお前が今まで、ずっと目を逸らし続けてきた血だ。』

「……お前は、誰なんだ。」

 鏡を見ているような気分に陥りながら、問い掛ける。

『俺か?ㅤ俺はお前だ。そして、お前は俺でもある。』

 "クラウド"はそっと、クラウドに手を伸ばす。次の瞬間には、真っ暗だった背景が血の海へと変わる。ドス黒い紅色の中で、前方を見通すことすらできない。肺に流入してくるその血液はクラウドの呼吸を阻害し、その中で溺れかける。

 "クラウド"が手を離すと、そんな景色が元に戻った。そしてニヤリと口角を上げながら言葉を紡ぐ。

『見ただろう。お前の心の底には、常にこの世界が広がっていた。切り捨ててきた他者の血で溢れたこの世界。これらは全て、お前の罪の意識の現れなのさ。』

「俺が……罪の意識を?」

『そう。お前は、本当は誰も殺したくなんてなかった。』

「それがどうした。」

 くだらないと、クラウドは吐き捨てた。

「猟奇趣味は無い。それでも、星のためにはやむを得ない犠牲だった。」

 新羅カンパニーという、最高峰の権力を握っている者たちが相手であったのだ。暴力を伴わない主張など、殊更聞き遂げられることは無かった。それを特に好まずとも、それでも殺さなくてはいけない局面は数多くあったのだ。

『ああ、そうだ。』

 対する"クラウド"は静かに、されど荘厳に、口を開いた。

『その理論でお前は多くの犠牲を正当化してきた。』

『全部許された気持ちになってたよなァ?ㅤ一方的に"全部"を奪われた者たちの悲鳴は聞こえないフリ。それを咎める声にも臭いものとして蓋をする。』

『星の危機だからやむを得ない、誰も反対しない、俺は悪くない、と。』

『でも、殺し合いの世界でその"大義名分"は使えなかった。』

『エアリスを生き還らせ、思い出をやり直す。そのために、参加者を皆殺しにする。やむを得ない事情でもなく、誰にも受け入れられず、ただただお前が悪者なだけの願いだ。何なら、蘇らせたい彼女自身までもがそれを望まない性格なのも分かっている。』

「……やめろ。」

『真実を、教えよう。』

「やめろッ!!」

ㅤその言葉に対してピタリ、と"クラウド"は口を止める。そして一呼吸を置いた後、ニヤリと揶揄うような笑みを見せ、再び口を開いた。

222……and REMAKE(中編) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/25(土) 14:26:43 ID:Yt9Epgks0
『お前は、止めてほしかったんだ。願いを叶える、エアリスとの思い出をやり直すなどと豪語しながら、心の底では自分を負かしてくれる相手を探していたんだ。』

「――違うッ!!」

 それは、認めてはいけない事実だった。罪悪感から途中で殺戮を思い留まり、立ち止まること。それ自体は何ら悪性のものではない。しかし、クラウドはすでにレオナールを、天城雪子を。殺していた。その上で願いを諦めるなど、寧ろ彼らへの冒涜だ。なればこそ、立ち止まるのは許されなかった。

 しかしながら罪悪感は次第に増していって――逃げ場を失ったクラウドは、無意識的に敗北を求めた。この上なく非合理的でありながら、この上なく人間的な心の動きだ。

「アンタなんか……」

 そして――突きつけられた己の本性を認めぬもまた、人間である。

「――アンタなんか、俺じゃないッ!!」

 それは、禁句であった。

『クク……ククク……クックック……』

 その言葉を受けた"クラウド"から感じる力が、一気に大きくなっていく。グランドリオンに纏われた闇など比較にならない大きさの、負のオーラがクラウドにも伝わってきた。

 そして。





















「――なぁーんちゃって。」









 そのオーラは消滅した。

223……and REMAKE(中編) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/25(土) 14:27:23 ID:Yt9Epgks0
ㅤ何が起こったか理解する暇もなく。金髪の青年の姿だった"クラウド"は、殺し合いの主催者である金髪の少女、マナへと姿を変えた。

「ペルソナごっこ、似てた?ㅤ似てたよね?ㅤあ、あなたはペルソナとかシャドウとか知らないんだっけ?」

 驚愕に目を見開くクラウドに顔を近付け、挑発するような目を向けるマナ。抵抗の意思を見せるも、身体が思うように動かない。

「ああ、無駄よ、無駄無駄。私、実態じゃないもん。あなたがさっき映画館で見た映像にちょっと精神魔法を、ね。」

 紅く輝くその瞳が、クラウドの目に映る。クラウドが口を開こうとしても声は出ない。

「それにしても、おっかしい!ㅤあんなにムキになっちゃって。あなたの心の中なんて、ぜーんぶ、お見通しなのにね。」

ㅤクスクスとマナは笑う。不快な笑い声を撒き散らしながら、ゆっくりとクラウドに近付いていく。

「死にたかったんでしょ?ㅤあなたの心、叫んでたもの。殺して!ㅤ私を殺して!ㅤ殺せー!ㅤって。」

 声の出ないクラウドは反論も許されず、対するマナの声は野太いものへと次第に変わっていく。

「でもあなたはそれを否定した。じゃあまだまだ止まりたくないってことでいいのよね?」

 そして、クラウドの正気すら、次第に失われていった。

「いいわ。物語の続きを見せてあげる。あはっ……あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」

 いつの間にか、マナの笑い声だけが脳内にこだましていた。




224……and REMAKE(中編) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/25(土) 14:31:23 ID:Yt9Epgks0

「ホメロス!」

 クラウドが倒れて動かなくなったのを確認すると、陽介は大急ぎでホメロスの介抱に向かう。
 元々大怪我を負っていたのに加え、さらにあのシルバースパークを受けたのだ。もしかしなくてもすでに死んでいるのでは――戦闘中は意識の外に無理やり追いやっていた考えがどっと押し寄せ、取り留めのない不安へと変わっていた。

 (良かった、呼吸はしている……。)

 まだ予断を許さない状況ではあるものの、現状死んでいないことに気付いた陽介は一安心する。

 陽介には知り得ないことであるが、かつてシルバーオーブの力をその身に宿していたホメロスは、雷属性に多少の耐性を持っている。ギリギリでホメロスの命を繋いだのは、たったそれだけの要因だった。

『ディアラマ』

 ジライヤが覚える範囲の、なけなしの回復スキルは普段よりも効きが悪い。一刻を争う状況なのは医療に対して素人の陽介にも分かるほどの傷なのに、なかなか治る様子がない。
 こんな時に天城がいてくれたら、と、もう叶わない願望が頭の中にチラつく。

「……くそっ。」

 やれる限りの回復はやったはずだ。言わずもがな、陽介自身の傷も治療がすぐにでも必要なレベルで深い。ペルソナの酷使による精神力の負担で倒れてしまってもおかしくない。治療に裂けるリソースとしては、すでに潮時であった。

 だけど心無しか、ホメロスの呼吸は安定してきたような気がする。生田目に誘拐された菜々子ちゃんのように、意識の回復に時間がかかるのかもしれない。あとは天命を待つばかり、か。

 とりあえずは地面に落ちていたグランドリオンを回収し、次にクラウドの死体からザックを回収した。

 ザックを開くと、そこには白桃の実、ただひとつのみが入っていた。こんな大物を倒した報酬としてはあまりにも小さいものだ、と肩を竦めながらそれを口に入れる。

「はぁ、疲れた……。」

 どさり、と倒れ込む。まだ殺し合いは終わっていない。他の奴らと協力し、マナとウルノーガを倒すという目的には、まだほとんど近付けていない。だけど、天城の仇を討ったこと、それだけは自称特別捜査隊の前進だと思う。だから今は、少し休息を求めても、我儘とは言われない、よな?



「――俺の幻想は、終わった。」

 そんな陽介の願望を嘲笑うかのように、死んだはずのクラウドが、スっと立ち上がった。

「なっ……!」

 それに気付いた陽介は、ここまでの経緯と、現実として目の前に在る光景のギャップに順応できず、咄嗟の反応が出来なかった。

「――それなら、物語を創り替えてしまえばいい。」

 クラウドの肌は生気を感じないほど薄紫色に染まり、腕は獣の如き剛腕へと変わっている。それが人間に起こる現象ではないとさらに明確に示すかの如く、その背に宿した翼によって、クラウドの両の足は宙に浮いている。そして胸には――存在を主張するかのように、シルバーオーブが光り輝いていた。

ㅤクラウドの様子、それひとつをとっても初めてペルソナ能力に覚醒した時に劣らない驚愕ぶりだ。しかしこの時、陽介を驚かせたのはクラウドのみに留まらなかった。
「お前は……!」

「私のジョーカーは、とんだ期待外れだったものでな……。」

ㅤクラウドの背後に、ひとつの影があった。その姿は忘れもしない。この殺し合いの主催者にして現状を招いた元凶の一人。

「ウルノーガ!」

紛れもなく、本物の。魔道士ウルノーガの姿だった。

225 ◆2zEnKfaCDc:2020/07/25(土) 14:32:19 ID:Yt9Epgks0
中編投下終了です。

226 ◆2zEnKfaCDc:2020/07/25(土) 15:04:06 ID:Yt9Epgks0
あああ>>220>>219と同じのを投下してました……。>>220を以下のものに差し替えます……。




「俺とお前の、何が違った!ㅤ何故、お前は前に進めるんだ!」

 互いが互いへ向けた感情と共に、両者の拳が振り抜かれる。直後に響くは、これまでのどの闘いよりも鋭い打撃音。一瞬の交錯の中で僅かに早く、クラウドの右ストレートが陽介の顔面へと炸裂した。

 相手に向けた感情が、羨望という属性を同じくするものであるならば、この勝負を決定する要因はたった一つ、積み上げてきた経験値のみである。

 今年度に入り、初めて闘いというものを意識した陽介。それに対し、数年前から新羅兵として実戦経験を少なからず積み、不意打ちであったとはいえ伝説のソルジャー、セフィロスと刺し違えるだけの才能も見せたクラウド。雪子がいのちのたまを用いなくては上回ることが出来なかったように、基礎能力が根本的に違うのだ。


――それでもただ一つ、その差を埋めるものがあるならば。


(まだ……倒れるもんか……!)


――それは或いは、"特別"な繋がり。


 渾身の一撃が入っても、まだ陽介は倒れない。意識が消え去るギリギリで"食いしばる"。

「――教えてやるよ。俺と、お前の違いってやつ。」

 大地を強く踏みしめてクラウドと目の高さを同じくし、そして返しの一撃を見舞う。全身全霊を込めたその一撃は外れるはずもなく、その衝撃にクラウドはゆっくりと倒れ込んでいく。

 とっくに答えには辿り着いていた。俺だって、すでに誰かの"特別"なんだと。

「お前は、たった一人の特別にしか目を向けて来なかった。お前の周りには、たくさん人がいたはずなのに。」

 里中も、天城も、クマも、完二も、りせも、直斗も、そして――相棒も。俺にとっては皆が特別で、その代わりなんざ誰にも務まらない。だったらその逆もまた然り、俺の立ち位置だって誰にも譲ってはやれねえ。

「お前にはできたはずなんだ。仲間にとってのお前は特別だったんだから。」

 記憶の中のクラウドだって、周りにはエアリスだけじゃない。たくさん、人が集まっていたはずなのに。クラウドは気付けなかった。周りを"特別"だと、思っていなかった。それがただひとつ、クラウドの敗因だった。

(そう、か。)

 ジェノバ細胞が読み取った陽介の記憶が蘇ってくる。元々灰色だった日常を僅かに彩っていた想い人を亡くした陽介の世界を、明るいものにしたのは何だったのか。陽介は、常にある男の背中を見ていた。その背に、手は届かない。だけどその背が、陽介を前へ前へと導いてくれていたのなら。

(――俺、ソルジャーになりたいんだ。セフィロスみたいな最高のソルジャーに。)

 すべての始まりとなった、七年前の約束。前を向ける気持ちは、間違いなく俺の中にあったのだ。

 それを思い出したクラウドは、霞む意識の中、そっと笑ったような気がした。

227 ◆vV5.jnbCYw:2020/07/28(火) 16:12:46 ID:FrjyBy.Y0
予約延長します。

228 ◆vV5.jnbCYw:2020/07/30(木) 21:30:25 ID:rgxnUANc0
すいません。間に合いそうにないので破棄します。

229 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/01(土) 12:25:52 ID:4Fg9ySn60
予約延長します。

230 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/07(金) 01:19:43 ID:Z3P5g7Ns0
後編投下します。

231……and REMAKE(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/08/07(金) 01:20:30 ID:Z3P5g7Ns0
 かつて、命の大樹から命のエネルギーを奪ったことで絶大な魔力を手に入れた魔王ウルノーガは、そのエネルギーを6つのオーブに注ぎ、『六軍王』と呼ばれる精鋭部隊に分配した。この殺し合いの各地に配置してあるオーブも、それと同じものである。

 しかしかつてシルバーオーブを与えられた男ホメロスは異形へと変わったのに対し、クラウドをはじめとするこの世界でオーブを手にした者たちはそうならなかった。両者の差は、たったのふたつだ。

 一つは、オーブとの融合を受け入れるかどうか。そしてもう一つは、体内に宿す命のエネルギーの量である。

 ホメロスはウルノーガに与えられたオーブの力を受け入れ、自らの力とする意思があった。また、命の大樹崩壊時にウルノーガに同行し、闇のオーブを介して命のエネルギーを相応量吸収していた。この二つの要素を持っていたからこそ、ホメロスは魔物として勇者の前に立ち塞がった。

 そして今、クラウドにもその両要素が与えられていた。

 自らの死を望むシャドウを模した精神体のマナを拒絶し、クラウドはまだ終わらずに闘う道を選んだ。また、シルバーオーブ自体が共にザックに入れられていたもう一つの宝珠、『いのちのたま』と融合することで大量の命のエネルギーを吸収していた。

 その結果生まれたのが――陽介の眼前に立ち塞がる、一体の魔物であった。全身に纏った禍々しいオーラが、先ほどまでのクラウドとは全く性質を異とするものであると、理解させられざるを得なかった。それに加えて、殺し合いの主催者ウルノーガまでもがこの場に存在している。今のクラウドと同じく、絶対的な敵対者。見ようによっては最終目標である主催者の一人を討つこの上ないチャンスなのかもしれないが、クラウドまでもを前にしてもそう言えるほど楽観的ではなかった。

232……and REMAKE(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/08/07(金) 01:21:00 ID:Z3P5g7Ns0
「さあ、クラウド……否、『魔軍兵士クラウド』とでも呼ぶとしようか。どこぞの出来損ないに代わり、今からお前が我のジョーカーだ。さて、まずは手始めに……」

 ジョーカー。この殺し合いにおけるその単語の意味は、すでにホメロスから聞いている。主催者の息がかかった刺客であり、殺し合いを円滑に進める役割を背負った参加者だ。つまり、ホメロスは切り捨てられたということ。ドラマとかだったら、そんな奴と、そしてそんな奴に手を貸していた奴の末路はもう分かっている。

「……奴らを殺せ。」

 ウルノーガがたった一言、命ずる。そりゃそうなるか、と確定的な未来に納得すると共に、それに伴う死への絶望が襲ってきた。アメノサギリに身体を乗っ取られた足立とて、魔物そのものになったわけではなかった。クラウドはそれほどまでに陽介の常識を超えた存在であり、そんな存在を前にした陽介はもはやペルソナも出せないほど体力も精神力も消耗している。勝ち目なんてゼロに等しかった。

 鋭い爪を備えたクラウドの腕が、陽介へと伸びる。



「――ペルソナッ!」



 次の瞬間、掛け声と共にアルカナを割る音が響き渡った。

 陽介の前に躍り出た黒い影が、クラウドの剛腕とぶつかり合い、そして弾き合う。黒い影は消滅して持ち主のアルカナへと帰り、クラウドはその身に生えた翼をはためかせて空中に留まった。

「何で……アンタが……」

 それは、陽介が顕現させたペルソナではない。矢継ぎ早に起こり続けるハプニングに、もはや驚くことしかできなかった。

 そしてそれは、見物していたウルノーガにとっても意外な出来事だったようで、珍しく不快感を顕にしながら口を開いた。

「何のつもりだ?ㅤ……足立。」

 足立透。八十稲羽市で起きた連続殺人事件の真犯人であり、陽介にとってはかつての想い人の仇でもある人物。そんな奴があろうことか自分を庇うようにしてそこに立っていたのだ。

233……and REMAKE(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/08/07(金) 01:22:27 ID:Z3P5g7Ns0
「あのさぁ、何のつもりってそれこっちの台詞。なに勝手に参加者の魔改造してくれちゃってるワケ?」

 ウルノーガよりもさらにいっそう不機嫌そうに足立は返す。

「僕ね、フェアじゃないゲームが嫌いなんだよ。」

「フェアだとも。ジョーカーは参加者を殺さねばならぬ。代わりを任命し、この役立たずを退場させることこそが本来の形だ。」

 両者の主張を、ただ眺めていることしかできなかった陽介。聞きたいことは幾つもある。しかし、そもそも参加者名簿に足立の名前は載っていなかった上、足立の首には参加者の証である首輪もない。そして現在交わされている、ウルノーガと付き合いがあるかのようなやり取り。導き出される答えはもはやひとつしかなかった。足立は、この殺し合いの主催者側にいるのだ。

 ぽつぽつと怒りが湧き上がってくる。コイツらのせいで、完二も天城も死んだのだ。しかし満身創痍の陽介には怒りをぶつける手段はなく、そもそも足立に助けられたという事実もある。結果的に冷静にならざるを得なかった。

「クラウド!ㅤ元凶はウルノーガじゃねえか!ㅤまんまと言いなりになって、お前はそれでいいのか!?」

 よって会話の対象は変わる。互いの過去を見たクラウドは、陽介にとっては足立よりも相互理解が望める人間だからだ。

「どっちだっていい。」

 しかし、少なからず、クラウドのことを理解しているからこそ。

「俺の願いを叶えてくれるのなら、俺は悪魔にさえ祈ってみせる。」

 それが確かにクラウドの言葉であることに、納得できてしまう。姿かたちが変わったからといって、人格そのものが大きく変わったわけではないのだと理解する。

234……and REMAKE(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/08/07(金) 01:23:11 ID:Z3P5g7Ns0
「……まあ良いだろう。本来なら整合のため首輪を爆破してやるところだが……今回は貴様がそれを助けたことは不問にしてやろう。」

 そして、ウルノーガは妥協を見せる。マナにも底が読めない足立と敵対するのは後々面倒だと感じたか。

「しかし、だ。ホメロスは助からぬ。手駒の分際で我に逆らった愚か者はこのゲームから排除するのみだ。」

――或いは、折衷案として譲れぬ主張を通すためか。

 陽介はウルノーガの初めて見せた殺意に凍りつくような恐怖を覚え、恫喝など慣れたものとばかりに足立は深い溜め息で返した。

「……そもそもが君の人選ミスだろ。典型的なクソだな。」

「黙れ。貴様の"お気に入り"もこうなりたいか?」

 強行とばかりにウルノーガが杖を掲げると、地に伏していたホメロスの身体がふわりと浮き上がり、ウルノーガの眼前へと移動していく。陽介は動けず、足立も動こうとしない。当然、クラウドも黙って見ているのみ。ホメロスに明確に死が迫っているというのに、何も出来ない。

(ちくしょう……)

「死ぬがいい。」

 ウルノーガはゆっくりと、手にした杖を振り上げた。

235……and REMAKE(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/08/07(金) 01:24:10 ID:Z3P5g7Ns0




(俺は……死んだのか……?)

 気が付けばホメロスは、不思議な空間にいた。しかし当人の予測に反し、死んではいない。陽介のディアラマで死を回避して、現実の意識は戻らずとも夢の中で思考している状態。強いて名付けるのなら、精神世界とでも言うべきか。そしてそこには、あの男の姿があった。薄紫の長髪をなびかせ、黒色の鎧をその身に纏った男、グレイグ。ずっとホメロスが劣等感を覚え続けて止まなかった彼との関係は、死の間際にして遂に、ひとつの決着を迎えたはずだった。グレイグはずっと自分を認めていたのだと実感し、心の闇は晴れたはずだった。

 それなのに精神世界のグレイグはこちらを見ようともせず、ホメロスの眼には背格好しか映らない。まるで、ホメロスのことは眼中に無いと言わんばかりに。

「グレイグッ!」

 声を荒らげて叫ぶ。何度も、何度も。それでもグレイグは振り返らず、ホメロスの声にならない声が精神世界に木霊するばかりだった。

 そして同時、理解する。結局、何年もかけて蓄積した鬱屈は、死ぬ直前にグレイグにかけられたたった一つの言葉だけでは完全には晴れなかったのだと。グレイグが前を行き、自分はその背中に羨望の眼差しを向け続ける、その関係に終わりはないのだと。

 何故こうなったのか、答えはもう出ている。デルカダール王の立場を利用したウルノーガの手駒を得るための策によって劣等感を植え付けられたからだ。もしも運命の乱数が僅かにズレていたならば、コインの裏と表のように、始まりが違えばグレイグがウルノーガの配下に成り下がる未来だってあったかもしれない。この雪辱は、在るべくしてあったものでは無い。ただ理不尽に与えられ、押し付けられたものなのだ。

 そして、だからこそ自分は復讐の道を選んだのだ。グレイグへの消えない劣等感の行き場を、全ての始まりである奴にぶつけることにしか生きがいを見出せなかったのだ。

 憎い。ウルノーガが、憎い。

 その感情を認めたその時、ホメロスは直感する。現実の、まさに眼前に、復讐の対象であるウルノーガがいることに。

 憎しみに焦がれたホメロスの意識が、現実へと戻っていく。





「ウルノーガアアアッ!!」

 鬼気迫る叫びと共に、ホメロスは意識を取り戻した。
真っ先に視界に飛び込んできたのは、杖を振り上げたウルノーガが驚き戸惑っている姿。ホメロスの一手分、隙が生まれていた。

 ホメロスの腰には『虹』が納まっている。それはかの勇者の剣にも劣らぬであろう名刀だ。

 仮にも相手は魔王。その一閃のみで殺すことは出来ないだろう。しかし、されど一太刀。無傷でいられるはずはなく、最期に大きい傷跡を残してやることくらいは出来る。元より無謀な復讐劇には充分過ぎる結果だろう。

 居合い抜きの一撃に己の力の全てを込めるため、虹の柄を握り込む。

 そしてウルノーガの身体に狙いを澄まし――

236……and REMAKE(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/08/07(金) 01:24:43 ID:Z3P5g7Ns0

「…………ッ!」

――ホメロスはその手を止めた。

 実際に復讐の対象であるウルノーガを前にして気付いた。自分の中の憎しみは、ウルノーガに対してさほど向いていないと。

 湧かない。湧かないのだ。
仮にウルノーガが配下に選んでいたのがグレイグであったとしても。アイツが自分を超えるために追いかけて来るイメージが全く湧かない。

 グレイグの目は常に民の方を向いていた。彼らを守るべく戦っていた。仮にどのような環境に置かれたとしても、それが民のためであるならば道を外すことはなかっただろう。自分が選ばれ、グレイグが選ばれなかったのはただそれだけのことだったのだ。

 本当は分かっていた。本当に憎いのが誰なのか。どれほどウルノーガの策略が進行していようと。それがウルノーガに植え付けられた劣等感であろうと。最終的にウルノーガの囁きに耳を貸し、その身体を闇に堕としたのはホメロス自身なのだ。

 その責任を、原因に過ぎないウルノーガに擦り付け、復讐に走る。それは何て滑稽なのだろう。グレイグを見る目も変わるわけがない。自己嫌悪に陥る自分の本心からも目を逸らしていたのだから。ああ、それならばまさに道化だ。本当に殺したかった相手は最初からここに居たというのに。

 ウルノーガへの復讐という目的が失われ、この世への未練なるものが完全に無くなったと思えたその時。しかしホメロスは、気が付いた。もう一つ、たった一つだけ、守りたいものはあったのだと。

 一度闇に堕ちた自分が、光の道を進めたのは何故だったか。考えるまでもなく、その闇を受け入れてくれた者がいたからだ。自分の築き上げてきた屍ではなく、自分という人間を、真っ直ぐに見てくれた者がいたからだ。何もかもを失い、遂に自尊心までもを失ったホメロスに、唯一残っていたのがその心。そしてそれこそが、グレイグにあって、自分になかったものだというのか。

(まさかこの俺に……)

 もはや必要の無い虹から手を離す。その重みから解放されたホメロスはもう一度、ウルノーガの眼を真っ直ぐに見据えた。許された行動は一手のみ。その一手の猶予を利用し、或る"呪文"の術式を組み立てる。

("これ"を使う日が来ようとはな。)

 ホメロスの身体に激しく輝く光が現れる。それは怒りや憎しみとはほど遠く、優しく温かい光だった。



『――メガザル』



 ホメロスが身に纏った光がバラバラに砕け散る。光の粒子が満身創痍の陽介と、瀕死のジャローダを包み込み、そして消えていく。何事か不思議に思う暇もなく、両者の負っていた傷は消え去っていた。

 しかしその代償として、ウルノーガが手を下すまでもなくホメロスの命は失われた。結果だけを見れば、まさしくウルノーガの選定通りのホメロスの死。そしてウルノーガに見下されながら崩れ落ちていくその様は、まるで過ぎ去りし時を求めた後の彼の末路のようで――しかし一つだけ、決定的に異なる箇所があった。

 ウルノーガの配下ではなく、一人の聖騎士として散れたこと。それはホメロスの本望であり、同時に自己嫌悪を晴らせる唯一の終わり方だった。なればこそ、最後を飾る言葉は憎しみなどではなく、守りたい誰かの盾となる聖騎士の心を思い出させてくれたことへの、率直な想いを込めた一言で締めよう。消えゆく意識の中、ホメロスは誰にも聴こえないほど小さく、呟いた。

(……■■■■■。)

 それを口にした瞬間、ずっと背中しか見えなかったはずの男が、心なしか振り返ったような気がした。


【ホメロス@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めてㅤ死亡確認】

237……and REMAKE(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/08/07(金) 01:27:32 ID:Z3P5g7Ns0



「……つまらぬ。」

 ウルノーガが吐き捨てる。自身の手で刑を執行することも叶わず、己の手駒であったことをも否定するような大往生に、ウルノーガの鬱憤が晴れるはずもなかった。

「もうよい。行くぞ、足立。」

「……はいはい。ってことだからさ、陽介くん。せいぜい頑張ってよ。」

「待てッ!ㅤまだ話は――」

 まだ聞きたいことはたくさんある。ここで帰してはならないと、陽介は手を伸ばす。しかし足立が掲げたカエレールは陽介も知る通りに効果を発揮する。

「……真実を知りたければ、生き残ってみせなよ。」

 最後にそう言い残して、足立はここではない何処かへ行ってしまった。ウルノーガの方も、陽介の知らない呪文で飛んで行ったようだ。

「くっそ……。」

 足立を捕まえられなかったことに悔しがり地団駄を踏むも、その暇も無いことを思い出す。まだ何も終わっていない。それどころか、これまでに無い強敵が、まさに目の前に迫っている。

「クラウド……お前……心まで魔物になったわけじゃないんだよな……?」

 見るに堪えない異形と化してもなお理性があるように見える目の前の敵に、対話を試みる。

「そうかもしれないし、違うかもしれない。」

 クラウドは返す。

「俺は元々、心に魔物を買っていた。それだけはハッキリしている。」

 クラウドの意識からは、深層心理で否定したそとによって殺しへの罪悪感というものが消えていた。そしてその罪悪感を担っていたのは、かつて取り戻した本来のクラウドとしての心だった。

「言ったよな。俺、お前が羨ましかったんだって。」

 そして本来のクラウドというものを、陽介は知っている。星を救ったクラウドの周りには、たくさんの人がいて、その中心でクラウドは笑っていて。夢の中。そんなクラウドを陽介は、羨ましく思っていた。

「今のお前を、俺は羨ましいとは思わねえ。」

 そして今。その感情は"リバース"した。ただただ冷淡に、先ほどにも増して人間味の欠片も見えなくなったクラウド。あの本来のクラウドの人格を失っていることは、本来の自分というものにずっと向き合ってきた陽介だからこそ分かった。

「俺は本当のお前に会ってきたんだ。今のお前は本当のお前じゃない。」

「……だったら全てを終わらせた後でもう一度俺を取り戻せばいい。」

 クラウドはその場に落ちている『虹』を拾い上げる。リカームドラのような呪文を使って死んだホメロスが遺した武器。まさかクラウドに使われることになるとは思っていなかった。

238……and REMAKE(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/08/07(金) 01:28:28 ID:Z3P5g7Ns0

「今の俺には、その力があるんだ。」

 何度も命を救ってくれたホメロスの支給品、シーカーストーンの入ったザックもホメロスの遺体と一緒にクラウドの傍に置いてある。でもジャローダはモンスターボールから出てこっち側にいる。それならば、一緒に戦ってくれるはず――



――などということはなく。

 ジャローダはその場から、トラフーリばりのスピードで一目散に逃走を始めた。

「えっ……えええええっ!?」

 その変わり身の早さに唖然とする陽介。ホメロスと共に行動していたことで自分にも何かしらの協調が生まれたような気がしており、肩透かしをくらったような気分だった。

 しかしジャローダが逃げたのには、明確な理由があった。ジャローダの所有者であったホメロスが死んだ今、ジャローダの所有者は居ない状態――つまり、野生のポケモンである。しかしホメロスの身体が先ほどまでウルノーガの居た場所に引き寄せられたことで、ホメロスの支給品もクラウドのすぐ近くに落ちている。クラウドがそれを手にした瞬間に自分を捕まえていたモンスターボールは持ち主の譲渡が成立し、クラウドが所有者となってしまう。

 先ほどの闘いで自分の奇襲を読んでいたクラウドは、少なくともモンスターボールの仕組みを最低限以上理解しているようだった。それがどこまでかは分からないが、もしホメロスのザックの中のモンスターボールをその手に取られれば、今度は自分が陽介に牙をむくこととなる。クラウドのような強者に着いていく方がトウヤへの復讐は果たしやすいのかもしれないけれど、それでもホメロスの仲間だった陽介だけは傷付けたくないから。

 だからこそ、逃げ出した。所有者が変わる前に、モンスターボールの効力のある範囲から離れられるように。頑張って、と。ジャローダは陽介に伝わらない言葉を発した。

 ジャローダが離脱した今、今度こそ陽介とクラウドは一騎打ちだ。クラウドの能力が強化されていることも、ホメロスやジャローダの支援が期待できないことも、先ほどまでと比べて大きく不利になっているはず。

「……何でだろうな。今のお前には、負ける気がしねえ。」

 だけど、人間だった頃のクラウドの方が怖いと思った。今のクラウドは、独りだ。

(なあ、みんな。)

 陽介は独りではない。たくさんの別れと共に、幾つもの想いを背負っている。

(俺、戦うよ。)

 その言葉の先は、完二であり、天城であり、ホメロスであり、そして、先輩でもあった。

 望まずして命を絶たれ、その先の物語を紡げなくなってしまった者たち。

(だから……応援しててくれ。)

 俺が今立っているこの地は、彼らの立てなかった場所だから。俺が生きる今日は、彼らが迎えられなかった一日だから。負けられない理由としては、充分すぎるものだよな。

 その答えを見出した次の瞬間、身体中から力が湧き出てくるのに気付いた。

――弱さを受け入れ、乗り越えた強い意志が、新たな力を呼び覚ます……

「ペルソナァッ!!」

 そして顕現したアルカナを力いっぱい、叩き付ける。同時に生じた破砕音は、この闘いの開戦の合図となった。

239……and REMAKE(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/08/07(金) 01:29:18 ID:Z3P5g7Ns0






 Nの城を目指すトウヤは、特に急いではいなかった。ランニングシューズも無しに無闇に走ると足への負担が大きい。先のアンドロイドとの戦いのように、相手がポケモンではなくトレーナーである自分を直接狙ってくることもあるこの世界。体力を温存しておくに越したことはない。

 確かに、この世界にはレッドやN、更にはレッドの手持ちかもしれないピカチュウなど、心躍るかもしれない相手が数多く存在する。もちろん、仮に彼らが死に瀕する事態が発生するとして、自分が急ぐことでそれに先立って彼らと戦える可能性はあるにはある。しかしその場合も、彼らを殺すに足る実力の持ち主と出会えることにはなり、それはそれで本望である。

 そもそも、殺し合いというシステム上後になればなるほど強い相手ばかりが残ることになるのだ。それならばわざわざ急ぐこともあるまい。と、トウヤの思考はスタンスに照らせば合理的で、そして、或いは冷淡とも称されるものであった。

(後になればなるほど強い相手ばかりが残る……。つまり、弱いものほど先に死ぬということ。)

 強い弱いというのも、実力の有無のみで語れるものではない。例えば先ほど殺したアンドロイドは、実力でいえば相当な強者だったが第一回放送を待たずして死んでしまった。生死を分けたのは、自分の勧誘への返答だった。あの時の選択次第では、まだ生き延びており共に戦いに身を投じていたはず。つまり、局面ごとに妥当な選択ができるかどうか、それもまた強さのひとつなのだ。

(そういう意味で言うなら、ベルなんかは真っ先に死にそうなものですが……)

 かつての旅で、ベルは実力もないのにプラズマ団の悪行を止めにかかったことは何度もあった。悪を許せない彼女のタチは嫌いではなかったが、少なくともこの殺し合いにおいては賢いとは言えないものなのだろう。ここでは実力がないまま他者と対立した者に待つのは死だ。

(まあ、どうでもいいですね。)

 と、考えをやめたその時。

――もし、もう少し速く目的地を目指していたならば、出会えなかったかもしれない。

 背後より、ひとつの影がトウヤに高速接近しているのを感じ取った。

「――!!」

 参加者の襲撃か、それとも野生のポケモンか。トウヤにとってはどちらでもよかった。前者ならば楽しみであるし、後者であれば新戦力として期待できる。ダイケンキが死んだために空のモンスターボールがひとつ余っており、現在トウヤはポケモンの捕獲に挑める状態である。

 答え合わせと、背後の影に向き直る。同時に、それはトウヤに攻撃を加えてきた。

(速い……!ㅤだが……)

 トウヤは率直な感想を抱くが、決して見切れない速度ではない。

「オノノクス!」

 ドラゴンテールで応戦。敵の放ったリーフブレードと真っ向から衝突し、弾き合う。オノノクスの巨体が、こうかはいまひとつの技で押し勝てない点のみを見ても、敵がかなり強いのは明らかだ。

「……!ㅤまさか……。」

 トウヤは敵の姿を確認し――そしてこの殺し合いの世界に来てからいちばんの驚愕の表情を見せた。そして次の瞬間には迷いなく、モンスターボールを足元に投げて瀕死のバイバニラを前に出す。そして一言、指示を出す。

「オノノクス。バイバニラに"きりさく"だ。」

 その突拍子もない指示に、オノノクスは驚く。瀕死のポケモン――それも敵ではなく味方に牙を剥く行為など、かつての主であったアイリスの下でも行ったことがない。しかしモンスターボールの効力には逆らえず、その指示は一切の躊躇なく遂行される。瞬きするほどの間に両断されたバイバニラは無色透明が血液をその場に撒き散らすも、トウヤはそれを意にも介さず、空となったモンスターボールを手に目の前のポケモンと視線を合わせる。そして、かつて長く連れ添ったパートナーに告げる第一声としてはとても希薄かつ空虚な、"捕獲対象"への一言を投げかけた。

「あなた相手にボールひとつでは心許ないですからね。」


【バイバニラ@ポケットモンスター ブラック・ホワイトㅤ死亡確認】

240……and REMAKE(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/08/07(金) 01:29:53 ID:Z3P5g7Ns0



 全ての存在は、滅びるようにデザインされている。誰もがいずれ訪れる終わりに向けて歩み始め、その物語を遂げていく。

(――ありがとう。)

 それらは全て、かつて一度は終わった物語。

「吼えろ――スサノオ!」

 しかし、終わりに続きを求める者がいる限り。

「さて。久しぶりですね――ジャローダ。」

 彼らの物語はやり直され、生まれ変わって。

「もしこれが幻想だとしても、俺は俺の現実を創ってみせる。」

……そして、リメイクされていく。

【E-4/一日目 午前】

【花村陽介@ペルソナ4】
[状態]:健康
[装備]:龍神丸@龍が如く 極
[道具]:基本支給品2人分、不明支給品1〜3個、グランドリオン@クロノ・トリガー
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と共に完二の仇をとる
1.魔軍兵士クラウドを倒す
2.死ぬの、怖いな……
3.足立、お前の目的は……?
※参戦時期は足立との決着以降です。主催者陣営に足立がいることを知りました。
※鳴上悠との魔術師コミュは9です(殴り合い前)
※クラウドの過去を知りました。
※ペルソナ『スサノオ』を覚醒しました。


【魔軍兵士クラウド(クラウド・ストライフ@FINAL FANTASY Ⅶ)】
[状態]:HP1/2
[装備]:虹@クロノトリガー シルバーオーブ・LIFE@ゲームキャラ・バトルロワイアル
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:優勝してエアリスを蘇生する。
1.「……。」

※参戦時期はエンディング後です。
※花村陽介の過去を知りました。
※シルバーオーブ・LIFEと融合しています。


※クラウドの近くに、基本支給品、シーカーストーン@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド、空のモンスターボール@ポケットモンスター ブラック・ホワイトが入ったザックがホメロスの遺体と共に放置されています。



【E-3/草原/一日目 午前】

【トウヤ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:虚無感(僅かに回復) 疲労(小) 帽子に穴
[装備]:モンスターボール(オノノクス)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト、チタン製レンチ@ペルソナ4  
[道具]:基本支給品、モンスターボール(空)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト×2、カイムの剣@ドラッグ・オン・ドラグーン、煙草@METAL GEAR SOLID 2、スーパーリング@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[思考・状況]
基本行動方針:満足できるまで楽しむ。
1.ジャローダを捕獲する。
2.Nの城でポケモンを回復させる。
3.自分を満たしてくれる存在を探す。
4.ポケモンを手に入れたい。強奪も視野に。

※チャンピオン撃破後からの参戦です。
※全てのポケモンの急所、弱点、癖、技を熟知しています。
※名簿のピカチュウがレッドのピカチュウかもしれないと考えています。


【ポケモン状態表】
【オノノクス ♀】
[状態]:HP1/2
[特性]:かたやぶり
[持ち物]:なし
[わざ]:りゅうのまい、きりさく、ダメおし、ドラゴンテール
[思考・状況]
基本行動方針:トウヤに従う。
1.トウヤに従い、バトルをする。

【ジャローダ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[特性]:しんりょく
[持ち物]:なし
[わざ]:リーフストーム、リーフブレード、アクアテール、つるぎのまい
[思考・状況]
基本行動方針:トウヤを殺す。

※現在は野生のポケモンの扱いです

【支給品紹介】
【シルバーオーブ・LIFE@ゲームキャラ・バトルロワイアル】
シルバーオーブがいのちのたまと融合し、魔軍司令ホメロスがその身に宿していた時のオーブの状態が擬似的に再現されたもの。現在はクラウドの身体と融合している。原作のシルバーオーブ同様、クラウドを倒した時にドロップする。

241 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/07(金) 01:34:35 ID:Z3P5g7Ns0
投下完了しました。

足立の存在を参加者側に通達したかったので主催者側も結構動かしましたが、もし>>1氏の構想とズレてしまうという申し立てが、この話のリレー先が予約される前に出てくるようでしたら、大筋は変えずウルノーガと足立が出てこないように調整して投下し直そうと思います。

242 ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:02:17 ID:GLuPxMxc0
予約破棄した分を投下します。

243一難去って…… ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:03:19 ID:GLuPxMxc0
リンクと雪歩の二人を乗せたチョコボが、丁度【D-2】に入ったあたりで、マナの放送が流れた。

その瞬間、それぞれの何かが壊れた。
決して壊れてはいけないはずの何かが。

一番最初に呼ばれたのは、雪歩の大切な仲間。
それからすぐに、リンクのかつての仲間。


リンクの背中を握る力が急に強くなったことで。
そして、背中が急に濡れていたことで、後ろに座っていた雪歩に何があったかは彼にも判断出来た。

「雪歩。」
リンクが言葉を発するより先に、2Bが彼女に声をかける。
しかし、彼女もその先にどう言葉をかけていいか分からなかった。

彼女自身は、この世界に来る前に何度も仲間の死を目の当たりにし、訃報を耳にした。
だが、それはあくまで捨て石のように扱われていたアンドロイドのみ。
こうして人間の死を心から涙する人間に、どうやって言葉が正しいのか分からなかった。


「……はるか………。」
涙と共に、雪歩は死んだ仲間の言葉を発す。
765プロにいたとき、前のめりながらもアイドルへと進もうとしていた、大切な仲間。
でも、それが嘘じゃないことは、自ずと認めなければならなかった。
彼女も銃口を突き付けられ、一度死を目の前にしたからだ。

「……すまない。」
リンクは一言こぼす。
雪歩という今の仲間に、そして、ウルボザというかつての仲間に謝罪の言葉を。



雪歩の親友、天海春香の死は、リンクに非があるわけではない。
だが、もしも自分達がNの城を素通りしていれば。
Nの城で眼帯男たちを相手にするのに苦労してなければ。


両方は無理でも、春香かウルボザ、どちらかでも救えたんじゃないか。
そんな後悔の念が、渦となってやってくる。

(まだ修業が足りないのか……。)

悲しさからか、自分への怒りからか知らないが、チョコボの手綱を握る力が強くなっていた。

244一難去って…… ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:03:48 ID:GLuPxMxc0

(A2……なぜ……!?。)
雪歩の仲間、そしてすぐにリンクの仲間が呼ばれた後、間の抜けたようなタイミングで、2Bの知り合いが呼ばれた。


――裏切ったのは、司令部だろう?


ヨルハ部隊を裏切り、一人で機械生命体を狩り続けていたA2。

2Bにとって彼女は、間違いなく敵であった。
しかし、どこかで自分にとって大切な役割を果たしてくれる。
そんな存在であった。
もし自分が役目を果たせなくなれば、
もし自分が志半ばで動かなくなれば、その時は彼女が役目を担ってくれる。そう思っていた。



(何だろうな。この気持ち。ソウシツカン……とかいう物なのか?)
アンドロイドは感情を持つことは禁止されている。
だが、言葉で表せない、胸に穴が出来たような気持ちは何なのだろうか疑問に思った。
結局、考えても分からないことを考えるのは止めた。

何にせよ、彼女が死んだということは、自分もいつ死ぬか分からない。
実際に、Nの城での戦いで眼帯男が禿げ頭の男を止めてくれなければ、雪歩が死んでいたかもしれない。
今度こそ雪歩を守ろうと改めて誓う彼女だった。



しかし、すぐに二人は守るべき相手が、雪歩だけでないことに気づく。





「動くな!!」

放送が終わってすぐに、木の影から三人の知らない声が響いた。
リンクはチョコボを止め、2Bもその足を止めて、声の場所を観察する。

「それ以上近づくと……撃つぞ!!」
よく見ると、高校生くらいの少年が銃を構えていた。
しかし、その手は震えており、声は上ずっていた。
まるで無力な子供が怖いものを遠ざけようとするあまりに、玩具を振り回しているような様子だった。
少年との距離はそこまで近づいてなかったが、リンクにも2Bにも共通してその様子は伝わってきた。

「リンクさん……2Bさん……。」
またも銃を突きつけられて、雪歩は不安そうに二人の様子を見る。
リンクはただ、「大丈夫だ」という言葉をその眼だけで送る。


「私たちはゲームに乗っていない。ましてやキミを殺すつもりなんてさらさらない。」
2Bは地面に剣を突き刺し、敵意がないことを示す。
自分があの小さな銃程度で死ぬとは思わないが、リンクと雪歩はそうでない可能性が高いことを考えると、迂闊に刺激しない方が良いと判断した。


「その通りだ。だから君も銃を捨ててくれ。」
リンクはチョコボから降り、同じように真島からもらった刀を地面に刺す。



「ほ、本当なんだな!?お、オレ、お前たちを信用していいんだな!?」
二人の言葉に、幾ばくかの安堵を覚えた。
少年、久保美津雄はウェイブショックをホルダーに収め、足を震わせながらリンク達に近づく。
彼の本心としては、銃を撃たずに済んだ安心感の方が強かった。
最初の頃に考えていた、この時点で戦いに優勝しようという気持ちは、完全に消えてしまっていた。

245一難去って…… ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:04:28 ID:GLuPxMxc0

銃を持った自分を何の苦労もなくねじ伏せたザックスが致命傷を負い、何の悩みも持ってなさそうな片思いの相手の訃報を簡単に聞く。
襲い始めた現実の恐怖に、彼は動けなくなっていた。


「頼む、オレの仲間を助けてくれ!!」
美津雄は思い切って、3人にザックスを助けてくれるように懇願する。
銃を突き付けておいて、勝手極まりないのは重々承知の上だ。
でも、自分は恐怖で身がすくんで、薬の素材を探すことさえできない。


「何があった?」
リンクが一番最初に問う。
「オレをかばった仲間が死にそうで……知らない女からかばって刺されて、
……あと、殺されて……いや、その仲間じゃなくて俺の知り合いが、いや、あとそれと、薬のキノコを………。」


最早恐怖と、言いたいことが多すぎるあまり、言葉が文章を作っていなかった。


「落ち着いて話してほしい。私達も君や君の仲間を助けたいと思っている。」
今度は2Bが質問する番だった。

美津雄は言われた通り一つずつ説明した。
ザックスという人物と行動していたが、知らない女性に突然襲われたこと。
彼が自分をかばい、女性は逃げ出したが、ザックスはケガで動けないこと。
自分は彼を助けるために、傷薬の材料を探していること。
そして、つい先ほどの放送で片想いの相手が呼ばれて、恐怖で動けなくなっていたこと。

大切な人がこの戦いで死んでしまって、恐怖で動けなくなっている様子は、二人にとっては雪歩も美津雄も同じだった。
「私達も手伝おう。何が必要なんだ?」

「じゃ、じゃあ、このキノコを知っているか?無いなら探して欲しいんだ。」
美津雄は鞄から分厚い図鑑を出し、回復薬を作るためのレシピが載っているページを見せた。
(こんな図鑑、9Sが読んだら大喜びするだろうな……)
かつての仕事仲間を思い出しながら、2Bはそのページの詳細を眺める。


「どうにか薬草は見つけたんだ。あとはそのアオキノコさえあれば……。」
2Bは美津雄が持っていた薬草を見て、その話を聞くや否や、すぐに走り出した。
「私が探しに行く。」
「マ、マジで助けてくれるのか?」

「リンク、雪歩とその子を頼む。」


リンクに二人の護衛を任せ、いち早く素材を見つけに行く。
ヨルハ舞台で活動していた時から、依頼されていた素材の採取をしていた彼女にとって、キノコ探しなど容易だった。

246一難去って…… ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:04:59 ID:GLuPxMxc0

2Bこそは人類のために作られたはずのアンドロイドだったが、直接人間が見える場所で戦ったことはなかった。
勿論Nの城で雪歩のために守って戦ったが、彼女は狩猟や採取能力にも長けていた。


(キノコ狩りくらい、俺も出来るのにな……。)
半ば強制的に二人の護衛をすることになったリンクは、そう思いながら美津雄に声をかける。

「なあ、あの女の人、大丈夫なのかよ?」
「分からない。」

ウソでも大丈夫だと言ってほしかった美津雄にとって、その返答は驚きだった。

「なんだよそれ!!」
安心できるとはいいがたいリンクの言葉を聞いて、美津雄は不安から来る怒りをリンクにぶつける。

「絶対に無事だって保証はない。」
リンクとしては、城での戦いで警戒心を強めていた。
城での奇妙な鎧をまとった禿げ頭の男や、美津雄の仲間を刺した女性、はたまた別の敵が襲いに来る可能性も否定できない。

雪歩こそ、今は落ち着いているが、まだ気持ちは不安定なままだろう。


「けど、君の望みをかなえてくれる力を持っているのは事実。」
それから一拍置いて、こう答えた。
自分が眼帯男と戦っている間にも、雪歩を守ってくれる力はあった。
それは彼にも知っていたことだった。

そう言われると美津雄は、わずかながら表情を緩めた。
リンクは美津雄と、チョコボの上に座っている雪歩、不安定な二人を繰り返し見る。


「一つ聞くが、その仲間って何て名前なんだ?」

リンクとしては、美津雄の知り合いが、自分と同じハイラルの英傑ではないかという疑問があった。
ウルボザが放送で呼ばれたことから、ほかの英傑も参加していると思った。
その仲間は彼をかばって刺されたとのことだが、かつてのハイラルの英傑も、誰もが自分より他者の命を優先するような所がある。
彼らと共に戦った記憶は朧気だが、きっと頼りになる仲間になれるし、瀕死ならば助けねばならない。

美津雄は今度は鞄から名簿を取り出し、名前欄を指でなぞる。
「このザックスって奴だ。知ってるのか!?」
「ごめん……俺の、知り合いじゃない。」
「でも、知り合いじゃないからって、オレのこと見捨てたりしないよな?」
「知り合いとか、そうじゃないとか、関係ない。」

その言葉で、美津雄の不安をわずかだけ取り除く。
しかし、リンクにとっては気がかりになる名前が、『ザックス・フェア』の少し下にあった。

247一難去って…… ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:05:22 ID:GLuPxMxc0

(ゼルダ姫まで……!?)
薄々嫌な予感はしていたが、ゼルダまでがこの戦いに呼ばれていたとは。
ハイラル城で厄災ガノンを封印しているはずのゼルダが、どうしてこの場所にいるのかわからない。
だが、一つリンクが分かることは、ゼルダの死、それがハイラルの滅亡にもつながるということだ。
たとえ自分だけが生きて帰っても、厄災を封印する姫がいなければ、ガノンは復活し、ハイラルは闇に飲み込まれてしまう。


そして、リンクに思っていたことがもう一つあった。
今、彼女、ゼルダ姫はどうしているのだろう。
やはり彼女はハイラル城にいるんじゃないか。

こんなところでこうしているうちに、彼女もまたウルボザと同じようなことになるんじゃないか。


本当に、今自分はこうしているべきなのか?




リンクが気づくと、雪歩も自分に支給された名簿を覗いている。


一番最初に、既に死んだ天海春香の名前を見た。
そして、彼女が改めて死んでしまったことを実感する。
次に見つけた名前は、「如月千早」。そして、「四条貴音」、「星井美希」
「誰か、知り合いはいたか?」
雪歩の手の震えから、リンクと美津雄にも、幾分かは察することが出来たが。


「ええ。この如月………。」
雪歩が言葉をすべて話し終える前に、美津雄が大声を上げた。

「オマエ、あの女と知り合いなのか!!?」
「え………!?」
突然の大声で、元々気弱な雪歩は言わずもがな、リンクでさえも驚く。
「雪歩の友達と、何かあったのか?」


リンクは美津雄をなだめようとする。
「アイツが、ザックスを刺しやがったんだ!!」


(どうして……!?)
その言葉は、雪歩の心を折る、最後の藁だった。



銃を突き付けられたことより、春香の死を知らされたことより、その事実は雪歩の心を大きく傷つけた。
雪歩にとっては、仲間が人殺しをしようとするなんて、殺される以上にありえないことだった。

248一難去って…… ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:05:49 ID:GLuPxMxc0

どうしてザックスを刺したのか、本当に刺したのは千早なのか。
細かいことを考える間もなく、折れた心の隙間から何かが零れていく。


それは決して零れてはいけないものだった。
でも、掬う暇もなく、零れていく。
やがて、掬うこともできないほど、下へ下へと零れていく。





「なあ!!あの人殺しと知り合いって、どういうことだよ!?」
「落ち着け!!雪歩の友達が人殺しなわけないだろ!!」
リンクが大声で美津雄を咎める。

「オレが聞いた幻聴を聞いたとでもいうのかよ!アイツは「如月千早」って名乗ってたんだぞ!!」
「……!!」

そう言われると、事情を見ていないリンクは黙ってしまった。


雪歩は答えに詰まった。
答えられない。
元の世界で知っている千早が、人殺しをするような人ではないから……というわけではない。
最早思考する余裕がないからだ。
言葉は出ず、口からは荒い呼吸しか出ない。

その時に取れた行動はただ一つ。


「私をここから逃がして!!!!!!」
ただ力いっぱいチョコボの手綱を引っ張った。


「クエエッ!?」
急な命令にいささか驚きつつも、言われた通り全力で南へ向かって走る。
勿論、二人の足ではとてもじゃないが追いつけない。
2Bの全速力なら、まだ追いつけるかもしれないが、彼女は今いない。


「雪歩!!待ってくれ!!」
「おい!待てよ!!」
リンクと美津雄がそれぞれ叫ぶも、瞬く間にチョコボの黄色い尾羽は小さくなってしまった。

「な、なあ、オレ、悪くないからな?それとも、オレが見たものを疑っているのかよ!?」
「誰もそんなことは言っていない。」
美津雄はリンクの顔色をうかがいながら、自分の無実を主張する。
しかし、リンクとしても問題があった。
2Bならともかく、自分はとてもじゃないが全力疾走のチョコボには追い付けない。


「リンク、一体これは!?」
ちょうどその時、2Bが戻ってきた。

「2B、雪歩が南へ逃げて……」
「分かった。リンクはその子を頼む。」
リンクの話をすべて聞く前に、2Bは全速力で雪歩を乗せたチョコボを追いかける。
残された二人の手には、アオキノコが5個ほど渡された。


「ザックスがどこにいるか案内してくれ。」
「……分かった。」

249一難去って…… ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:06:42 ID:GLuPxMxc0
リンクと美津雄は、山を下り、ザックスがいた場所へと向かい始めた。










(無事でいろよ…ザックス……!!)
ザックスが治る可能性こそはつかめたが、心拍数はより一層増している。
自分がいない間に、誰かに殺されていないか、不安を胸に走る。
たとえザックスが殺されていなくても、薬で治るか分からない。
彼としては雪歩のことも気にならないわけではないが、ザックスの方が遥かに心配していた。


場所は市街地に移り、美津雄がリンクを、ザックスがいる場所へと案内する。
放送までは付いていた街灯が、辺り一面消えていたことに、一瞬だけ美津雄は奇妙な感覚を覚えた。
朝になって多少様子が変わりながらも、急いで街を走る。

「ザックス!いるか!?今から薬、作るぞ!!」
特徴的なデザインの黒髪と、特徴的な大きさの武器が見える前に、美津雄は大声を出す。


「よお、美津雄じゃねえか……。どこ行ったのかと思ったぞ。」
すぐに見えたザックスの顔は、放送前に美津雄が見た時よりも青白かった。
それでもは生きていたことに安堵する美津雄。
だが、喋りながらも口から血が零れていることから、治療をしないと長くはないことが、二人に伝わってきた。

「そんなこと言っている場合じゃねえよ!!薬の材料探してたんだ!!」
「マジかよ……嬉しいぜ。その青い服の兄ちゃんが、薬の材料なのか?」
「なわけないだろ!ったく、心配かけさせんなよな。」


冗談を飛ばしながらも彼が刺された短剣オオナズチの猛毒が、今もなお彼を蝕んでいることは、彼らは知らない。
彼がまだ生き延びていたのは、ただソルジャーゆえの生命力があったからである。


「リンク……早速……え!?」
イシの村から拝借した鍋に、支給品の水と、ランタンの火で湯を沸かす。
「美津雄、薬草。」
「お、おう。」
そう言いながら共和刀で瞬時にみじん切りにしたキノコを熱湯に入れ、さらに美津雄が取った薬草を千切って混ぜる。

250一難去って…… ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:07:10 ID:GLuPxMxc0

リンクは料理の腕のみならず、薬の調合の腕も長けていたことは、この場では誰も知らない。
グロテスクなトカゲや虫、果てには怪物の骨や肝などでも、彼にかかれば瞬く間に有益な薬になってしまう。


「え!?スゴイな……医者とか……薬剤師だったのか?」
驚くほどの手際の良さに、美津雄は驚く。
「どれもちがう。」
「じゃあ、モグリってことか?」
「……どういうことだ?」

薬を作るのに免許がいる世界と、そうじゃない世界で違和感を覚えつつも、リンクの作業は続く。

すぐにかきまぜる鍋からどろりとした手ごたえが現れ、表面に青緑の膜が張ってきた。
鼻歌交じりで作れる状況じゃないが、キノコも薬草も素材が柔らかいため、薬を作るのは簡単だった。


その薬がザックスを助けてくれることを信じて、祈ることしか美津雄は出来なかった。

251一難去って…… ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:07:51 ID:GLuPxMxc0

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


走る。
黄色い鳥は少女を乗せてどこまでも。
途中で雪歩は振り落とされそうになるも、両手で必死で手綱を握る。


元々男性が苦手な所が雪歩にはあるが、その男性から大声で仲間を人殺しと咎められ、ただ逃げることしか考えられなくなった。

しかし、これまでとは比べ物にならない恐怖がその目の前に立っていた。


「……クエ…」
「………!!!!」

突然、走っていたチョコボの首が飛んだ。







【チョコボ@FINAL FANTASY Ⅶ 死亡確認】







頭を落とされ、生命活動を許されなくなったチョコボは、雪歩を振り落とし、動かなくなる。


チョコボの血の汚れも、体を地面にぶつける痛みも、更なる恐怖に感じなくなった。
目の前に、チョコボの首を切り落とした男、カイムが立っていた。

カイムは笑みを浮かべて、雪歩にゆっくりと歩み寄る。
何の問題もなく一刀の下に切り裂かれて、かつてアイドルだった死骸の出来上がり。


そんな風になるはずだった。

「雪歩、逃げて。」
間一髪、駆け付けた2Bがカイムの正宗を止める。
予想外の力に2Bでさえも押されたが、彼女も陽光をカイムに向ける。

「この子を傷つけるなら容赦しない。」
言葉を失った青年は、彼女のセリフを返さず、さらに斬りかかる。


協力者であるリンクは来れるかどうかわからない。
今度の相手は、あの禿げ頭の男と同じくらい好戦的で、そしてそれ以上の力を持っている。
だが、彼女は人間のために作られたアンドロイドとして、その剣を振るう。

252一難去って…… ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:08:26 ID:GLuPxMxc0

【D-2/市街地(西側)/一日目 朝】


【リンク@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:胸上に浅い裂傷、決意 治療薬調合中
[装備]:民主刀@METAL GEAR SOLID 2、デルカダールの盾@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品(残り食料5/6)、ナベのフタ@現実 残ったアオキノコ×2
[思考・状況] :ゼルダはどうしているだろう?
基本行動方針:守るために戦う。
1.ザックスの怪我を治す薬を作る
2.美津雄、雪歩を守る。
3.ゼルダや他の英傑に関する情報を探す。
4.首輪を外せる者を探す。
※厄災ガノンの討伐に向かう直前からの参戦です。
※ニーアオートマタ、アイマスの世界の情報を得ました。
※美津雄の調合所セット(入門編)から薬に関する知識を得ました。

D-2/市街地(西側)/一日目 早朝】
【久保美津雄@ペルソナ4】
[状態]:疲労(大)、困惑、恐怖、雪歩がいなくなったことへの罪の意識
[装備]:ウェイブショック@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品(水少量消費)、ランダム支給品(治療道具の類ではない、1〜2個)、調合書セット@MONSTER HUNTER X
[思考・状況]
基本行動方針:
1.ザックスを助けたい。

※本編逮捕直後からの参戦です。
※ペルソナは所持していませんが、発現する可能性はあります。
※四条貴音の名前を如月千早だと思っています。


【ザックス・フェア@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:腹部に深い刺し傷、猛毒、
[装備]:巨岩砕き@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜1個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いをぶっ壊し、英雄になる。
1.美津雄のこと、しっかり守ってやらなきゃな。
2.千早(貴音)が気がかり。

※クラウドとの脱走中、トラックでミッドガルへ向かう最中からの参戦です。
※四条貴音の名前を如月千早だと思っています。


【D-2 山岳地帯/一日目 朝】


【ヨルハ二号B型@NieR:Automata】
[状態]:両腕に銃創(行動に支障なし)、決意
[装備]:陽光@龍が如く 極
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破壊。
1.カイムを倒す
2.D-2、765プロへ向かう。
3.雪歩を守る。
4.首輪を外せる者を探す。9S最優先。
5.遊園地廃墟で部品を探したい。

※少なくともAルートの時間軸からの参戦です。
※ルール説明の際、9Sの姿を見ました。
※ブレスオブザワイルド、アイマスの世界の情報を得ました。

【萩原雪歩@THE IDOLM@STER】
[状態]:恐怖
[装備]:モンスターボール(リザードン)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー
[道具]:基本支給品、ナイフ型消音拳銃@METAL GEAR SOLID 2(残弾数1/1)
[思考・状況]
基本行動方針:???


【カイム@ドラッグ・オン・ドラグーン】
[状態]:ダメージ(小)魔力消費(中)
[装備]:正宗@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品 エアリスの基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、マナを殺す。

253一難去って…… ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:08:40 ID:GLuPxMxc0
投下終了です。

254 ◆RTn9vPakQY:2020/08/18(火) 01:30:22 ID:3wUU73Qk0
投下乙です!まだ書いていなかった作品も含めて感想をば。

・虚空に描いた百年の恋
喜ばしいものであるはずの百年ぶりの邂逅、なぜこうなってしまったのか。
リーバルとベロニカの二人と対等以上に立ち回るゼルダから、前話までにも増して精神の強さを感じました。
特に後編の展開は、実力者たちの駆け引きもさることながら、信頼関係を元にしたレッドとピカの行動が光りますね。
そしてラスト、「ハイラルの王女」と「騎士」としてではなく「ゼルダ」と「リンク」としての物語のはじまり。
>新たに紡ごう。百年前には紡げなかった、私たちと、私たちを取り巻く生命の息吹が織り成す伝説を――――
ゲームのエンディングを思い出して、二人の物語に思いを馳せました。


・嘗テ思イ描イタ夢ノ誓イ
モンスターボールを分析して高揚するのが、9Sらしくていいですね。
前回はアイドルとしての強さが出ていた美希でしたが、今回は春香の死に悲しむ弱い姿が見られましたね。
9Sと美希の関係性も少し深まったようでなにより。
今後、9Sの記憶のデータが蘇ることがあるのか。気になるところです。


・拘束が緩む時は
マーダーのカイムとステルスのゲーチス、二人を相手にして落ち着き払っているエアリスの胆力がすごい。
それでも名簿でセフィロスの存在を知って焦り出すあたり、セフィロスを相当な脅威と捉えているのが分かりますね。
そしてチェレンの死を知って笑うゲーチス。こ、小物〜!地味に今後が気になる参加者です。
カイムはどこか精神的に不安定に見えますが、意思疎通が難しいし改心とかしなさそうなんですよね……。
拘束を解かれて、なおもカイムを追いかけようとするエアリス。この選択が吉と出るか凶と出るか。


・……and REMAKE
前編。お互いに長い旅路を越えて来た、陽介とクラウド。バトルロワイアルにおける二人の選択、その対比が見事です。
住む世界から何から異なる、主張を違えた二人。それがぶつかるのは説得力がありましたし、戦闘シーンの緊迫感も合わせてドキドキしました。

中編。やっぱり、互いにボロボロになりながらグーパンで殴り合うシーンは最高だぜ……。
二人の共通点、そして決定的な相違点。前を向いた陽介と、後を向いたクラウド。その差が戦闘中に現れるという展開も興奮しました。
そしてシャドウ登場!?――と思いきや。マナの悪辣さにニヤリとさせられました。

後編。主催者介入!からの、まさかの助け舟。
ホメロス……原作ではどこか報われないイメージのある人物でしたが、ここでは憎悪から解放された姿を見せてくれましたね。
本人はささやかな満足を得て、それがウルノーガに対しては意趣返しになったというのも面白いですね。
オーブの力を得た魔軍兵士クラウド、ペルソナを覚醒させた陽介、かつてのパートナー同士で邂逅したトウヤとジャローダ。
これらを「リメイク」でくくるあたりが、格好よくて好きです。

>「だったら響かせてみせるさ。言霊使いも黙りこくる俺の伝達力を舐めんなよ?」
>渾身の一撃が入っても、まだ陽介は倒れない。意識が消え去るギリギリで"食いしばる"。
>ジャローダはその場から、トラフーリばりのスピードで一目散に逃走を始めた。
また、こうした文章表現も含めて、原作の要素を上手く拾っているなぁと思いました。


・一難去って……
放送を聞いて、それぞれ思うところのあるリンクたち。
美津雄との初対面は悪いものではありませんでしたが、ザックスを刺した「如月千早」の存在がある種の地雷に。
ネガティブな面のある雪歩が、現実逃避を図るのもさもありなんですね。
その上、目の前でチョコボの首が飛ぶとか、雪歩じゃなくてもトラウマものですよこれ……。
落ち着きのない美津雄が美津雄らしくて良いです。

255 ◆2zEnKfaCDc:2020/10/10(土) 02:11:14 ID:v5l9U4ys0
里中千枝、シェリー・バーキン、ハル・エメリッヒで予約します。

256 ◆2zEnKfaCDc:2020/10/16(金) 23:52:13 ID:qoROv2aQ0
投下します。

257差し込む陽光、浮かぶ影 ◆2zEnKfaCDc:2020/10/16(金) 23:53:50 ID:qoROv2aQ0
ㅤ朝日が昇った世界は、数刻前の暗闇から一転、光に満ち溢れていた。

ㅤ毎朝訪れる朝日なんて、特段珍しいものでもない。闇に紛れる忍びの衣装を全身に纏っている身としては、むしろ明るさは生き残るのに邪魔になる。これが人生最後に見る曙光であるかもしれないというのに、それを視る僕――オタコンの目はどこか、冷めきっていた。

ㅤ燦然と輝く陽光は、少なくとも希望の光と呼べる代物で無いのは確かだ。現実逃避を引き剥がし、何もかも、白日の元に晒してしまう。

ㅤ無表情の仮面を貼り付けたように感情を表に出さなくなった同行者の少女、シェリー・バーキン。多感な時期にあるはずの彼女をそうさせてしまったのは紛れもなく僕であって。朝の光で彼女の表情がはっきり見えるようになり、それだけでどうもやり切れない気分だ。

ㅤそして、そんな僕らへの追い討ちとなる情報を、この朝は運んできた。

『桐生一馬』

ㅤ朝6時に行われた定時放送による死亡者の発表。彼の死は何となく感じ取ってはいた。襲撃者の女の動きはやはり人智を越えていたし、ダイケンキを奪っていった少年も桐生のいる方向へ向かって行ったからだ。でも、放送で確定されてさえいなければ、まだ彼が生きている可能性に縋ることもできていたはずだ。

ㅤだけど、こうして結果は確定してしまった。箱の中の猫は、死んでいたのだ。

ㅤ悲しいかというと、少し違う。本当に悲しい死別というものは、こんな世界に来るまでもなく経験している。それに冷たいようだが、桐生とは出会って数時間程度しか経っていない。まだ、同じく死んでいた雷電の方が思い入れは強いくらいだ。

ㅤあえて、桐生の死に思うところがあるとすれば、自分が彼を見捨てて逃げたことだろうか。間違った選択であったとは思わない。あの場に残っていても、せいぜい一緒に死ぬことくらいしかできなかっただろう。

ㅤだから正しいのは僕だ。誰にも責められる言われなんてない。だけど、シェリーに正しさばかりを突きつけるのは、きっと間違いなのだ。

ㅤ本来なら、桐生の死を共に悲しむべき相手であるシェリーに、僕は何と声をかければいいのだろう。

ㅤ謝るのは違う。僕が間違っていないのは、幼いながらに彼女も理解している。しかし、かといって開き直って励ますのもまた違う。彼女の信用を失ってしまった僕にその資格はもうない。

ㅤ堂々巡り。この状況で何を言っても間違いだ。そもそも、非情になれない奴らを集めての殺し合いなんてものが間違っているのだから、完璧な正解なんてどこにもないのだ。

「シェリー。」

ㅤだから、僕が発すべきは謝罪でも激励でもない。

「君はまだ、僕に着いてきてくれるのかい?」

ㅤこの上なく淡白な、事実の確認。彼女の意思を無視して『合理的選択』に走った僕にできるのは、してもいいのは、合理的であることを曲げないことだけだ。それを曲げてしまえばそれこそ、合理的選択の犠牲となった者たちに示しがつかないだろう。

258差し込む陽光、浮かぶ影 ◆2zEnKfaCDc:2020/10/16(金) 23:55:35 ID:qoROv2aQ0
ㅤシェリーは何も言わずにただ一度、コクリと頷く。その返事に、嬉しいとも悲しいとも思えなかった。彼女が逃げ出さなかったことへの安心も彼女から解放されなかったことへの苦々しさも、そのどちらもが心の中に存在していた。

ㅤ早朝に吹き抜ける風がやけに冷たく、体の芯まで染み渡る。互いを労るでも罵るでもない、この奇妙な同行関係は、まだ続くようだ。



ㅤニアミスの余地の無い一本橋の上。それは、必然の邂逅だった。

ㅤ全身を濡らしたショートヘアの少女――里中千枝が、よろよろと歩み寄って来る。その様子から、海から上がってきたのは容易に想像がついた。

「大丈夫なのかい?」

ㅤオタコンが思わずかけた第一声はそれだった。敵意が無いことを伝えるという目的よりも、思わず口をついて出てしまった一言。無意識下でも相手を労る余裕が今の自分にあったことに少し驚く。

ㅤ対する千枝。ゼルダやミファーのように真っ向から殺し合うでもなく。錦山のように咎められるでもなく。この世界で初めて向けられた、出会い頭の優しさ。どこか戸惑うような様相を表に出し――そして僅かな間を空けて思い直したかのように構えを取り、警戒を見せる。

「随分と、余裕あるんだね。あたしが乗ってないとでも思った?」

ㅤ返ってきたのは、闊達そうな風貌からは想像もつかないような、棘をびっしりと纏った言葉だった。海に落ちていたことも踏まえると、この殺伐とした世界でどんな目にあったのか、推定できる。

「乗ってたら困るんだけどね。どの道、逃げ場はないんだ。」

ㅤ桐生に拳銃を渡し、ダイケンキまでもを失った今、オタコンは武力といえるものを持っていない。千枝が何かしらの武器を所持しているのならおそらく勝ち目は無い。ひとまず問答無用で襲ってくる相手ではないようだ。刺激しないよう慎重に、相手の出方を伺う。

「どこへ向かっているのか、良かったら聞かせてほしい。」

ㅤオタコンの問いに、怯む千枝。目的地――八十神高等学校を目指す理由は、そこに仲間たちがいるかもしれないからだ。しかし、そこには少なからず正しいとは言えない動機が混ざっている。今は亡き親友の恋人を、心の拠り所としているという自覚。誰にも知られたくないし、知られ得る要素を与えたくない。

「……別に。そっちはどうなのよ。」

ㅤよって、千枝は口を閉ざした。それを、具体的な目的地は特に無いと受け取ったオタコンは、好機とばかりに、支給された紙に簡潔な情報を走らせる。そして、盗聴対策に会話を成立させるだけの言葉を添えながら、唐突に何かを書き始めたオタコンに少し困惑している千枝に、その内容を突き付ける。

259差し込む陽光、浮かぶ影 ◆2zEnKfaCDc:2020/10/16(金) 23:56:35 ID:qoROv2aQ0
『首輪を調べるㅤ研究所を目指す』

(……!)

ㅤそれは唐突に差し伸べられた、この殺し合いの中での希望だった。

ㅤもし誰も殺さずとも帰れるのなら、多くの者の他者を殺す動機がなくなって、殺される心配も無くなるということ。もちろん、他人を殺すことに特別感を抱いていた久保美津雄のような者もいるかもしれず、不安要素が消え去るわけではない。それでも、常に心を締め付けているこの不安や恐怖の大部分からは解放されることだろう。

ㅤ目の前の男は、見るからに科学者といった風貌の、頭の良さそうな人。専門知識なんて持ち合わせていない高校生の集まりでしかない自称特別捜査隊には絶対に辿り着けない角度から、この殺し合いへの対抗策を見出すことができるのかもしれない。

ㅤ縋りたい。そう思わずにはいられなかった。

「良かったら、ついてきてくれないかな。君が戦えるのなら身を守れるし、大人数でいるだけでも危険は減るだろう。」

ㅤ盗聴されても不自然には思われない程度の会話の流れを作り、オタコン自身の声で勧誘する。その話術からも、オタコンの頭の良さは何となく伝わってきて。首輪を調べるというのも、現実的に可能なのかもしれない。

ㅤそんなことを考えながら次に提示された紙には、簡潔な一言だけが書かれていた。

『みんなを救いたいんだ』

ㅤそれは弱々しくも、オタコンの確かな意志だった。

ㅤオタコンは、皆が助かる道を提示してくれている。ここはもちろん、首を縦に振るべきだ。正義っていうのが何なのかはまだ分からないけれど。少なくとも、命令通り殺し合うよりは正義に近いものだと思う。完二にだってわかる、簡単な理屈。

「うん……」

260差し込む陽光、浮かぶ影 ◆2zEnKfaCDc:2020/10/16(金) 23:57:29 ID:qoROv2aQ0
ㅤいいよ――そう言おうとした口は、しかし次の瞬間には止まっていた。まるで幽霊を見たかのような驚愕の色に表情を染めて、ただただ立ち尽くす千枝。

「……?ㅤどうしたんだい?」

ㅤ心配そうに、声をかけるオタコン。しかし、返事はない。

ㅤ千枝の目の先には、オタコンの背後に佇むシェリーの姿があった。

ㅤ望んでもいない旅館の跡を継ぐことが生まれつき決まっていて、その修行のためにやりたいことを我慢するしかなくて、そんなレールの敷かれた運命というものを諦観していた、かつての雪子。シェリーは、その時の雪子と同じ表情をしていた。悲しいとか、苦しいとか、そんな感覚とも違う。願いが叶うのを諦めているような表情だ。雪子のそんな顔を見るのも少なからず辛かったが、無垢な子供が浮かべているそれはまた違う心苦しさがあった。

ㅤ同時に、オタコンの知力に依存する道が希望であるなどとは到底、思えなくなってしまった。

ㅤみんなを救う――聞こえはとってもいい言葉だけど。それを謳ってた奴で、根本的にやり方を間違っていた奴だって、いたじゃないか。雪子に始まり、最終的に菜々子ちゃんまで危険な目に合わせて。その全員を助けられたのが本当に奇跡だと思えるくらい、生田目は色んなものを掻き乱していた。

「救いたいって言ってもさ……」

ㅤ生田目の救いたいっていう気持ちは、自分たち自称特別捜査隊と同じだったはずなのに。結果的に方法が合っていたか間違っていたかの違いでしか無かったのに。正しい気持ちが正しい結果を招く保証なんて、どこにもないんだ。

ㅤ例えば、盗聴だけでなく、監視もされているとしたら?下手に首輪に手を出して、それが主催者の怒りを買って爆発させられたら?

ㅤただの失敗ならまだいい。でも、それどころか最悪の方向に向かってしまう要因もたくさん考えられる。オタコンが希望だなんて、断定できたものではない。

261差し込む陽光、浮かぶ影 ◆2zEnKfaCDc:2020/10/16(金) 23:58:37 ID:qoROv2aQ0
ㅤでも、たったひとつ、言えることがある。

「……少なくとも、さ。その子は、救われてるようには見えないんだよ。」

ㅤモヤモヤするし、イライラする。壊れそうなくらいにぐちゃぐちゃになった気持ちを、全部ぶつけるように。

「――ペルソナッ!!」

ㅤ思い切り、アルカナを蹴りつけた。パリン、と何処か心地良い音を奏で、千枝の心の影『トモエ』が顕現する。本人の荒ぶった心を映し出すかの如く、トモエは乱雑な軌道を描き――シェリーへと、向かっていく。

「え……?」

「……シェリー!」

ㅤ驚愕の混じったオタコンの声が、明るい空に響き渡った。





ㅤ振り上げられたトモエの薙刀は、シェリーの頭部を砕く直前に、ピタリとその動きを止めていた。

「あ……あ……」

ㅤ眼前まで迫った死に、腰を抜かして動けなくなったシェリー。藁をも掴む想いで、助けを乞うように視線を動かした先にあったのは、オタコンの姿だった。シェリーを庇おうとするでも、助けようとするでもなく。向けられたトモエという暴力から、少しでも離れようとするかのように、海に落ちるギリギリまで橋の端まで離れていた。

「……ほら。冷たい関係だね。」

ㅤ千枝の口が、冷徹な言葉を紡ぐ。

「あたし、心の底から信じられるような人はもうひとりしかいないけどさ。一緒にいるのなら、せめて表面上だけでも信じたいじゃんか。」

ㅤ人に、醜い部分があることは知っている。自分の心も、他人の心も、ある程度を割り切って、受け入れなくては関係を築けないことも、知っている。

ㅤ例えば、先ほどまで同行していた錦山さんはヤクザだし、自分が考えている以上に黒い一面も持っているんだってのは想像がついた。だけど、あの人の語る命への真っ直ぐな向き合い方だけは、信用に足るのだと思えたのも確かだ。だから海上の戦いでもお互いを助け合いながら立ち回れたし、そのおかげであの死線を自分は生き抜けたのだとも思っている。

「あたし、あんたには協力できないね。」

ㅤぶっきらぼうにそう言い放つと、千枝はオタコンとシェリーを横目に、そのまま南へと歩いていく。その歩みを止められる者は、その場にはいなかった。

262差し込む陽光、浮かぶ影 ◆2zEnKfaCDc:2020/10/17(土) 00:00:00 ID:LyR/6GAM0
「……。」

「……。」

ㅤそして、その場には沈黙だけが残された。本当に危ない時、オタコンはシェリーを見捨てるということが証明された今、オタコンが何を語っても説得力を持たなかった。

ㅤシェリーも分かっている。それが正解なのだと。首輪なんて自分には調べられないし、それができるオタコンは誰よりも率先して生き延びるべきなのだと。でないと、誰か1人を残して皆が死ぬことになるのだと。

ㅤだけど、理屈じゃない。切り捨てられる側は、たまったもんじゃない。みんなが助かるための礎にされるのは嫌だ。

ㅤだけど、オタコンから離れて生きていられるようなアテがあるわけでもなく。

「……逃げないよ。分かってるから。」

ㅤ運命を悟ったかのようなシェリーの言葉が、オタコンの心にただただ突き刺さる。あの時身体が動かなかったのは紛れもない事実で、正当化できる理論も存在しない。

(みんなを救いたい、か……。)

ㅤあの言葉は、本当に自分の心の底から出た言葉だったのだろうか。それとも、ただあの少女を味方に――自分の盾にするための、ただの薄っぺらな甘言だったのだろうか。

ㅤ今となっては分からない。分かりたくも、ないのかもしれない。

【D-4 橋/一日目 午前】

【ハル・エメリッヒ@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:疲労(大)、無力感
[装備]:忍びシリーズ一式@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、765インカム@THE IDOLM@STER
[思考・状況]
基本行動方針:首輪を外すために行動する。
1.首輪解除の手がかりを探すため、研究所へ向かう。
2.武器や戦える人材が欲しい。
3.もっと非情にならなければならないのかもしれない。
4.生きなくてはならない。

※本編終了後からの参戦です。


【シェリー・バーキン@BIOHAZARD 2】
[状態]:不安
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない。
1.オタコンについていく。
2.カズマ……。
3.オタコンに強い怒り。


※本編終了後からの参戦です


【里中千枝@ペルソナ4】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)びしょ濡れ 右掌に刺し傷。 精神的衰弱(鳴上悠の存在により辛うじて保っている状態)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、守りの護符@MONSTER HUNTER X、ランダム支給品(0〜1個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺さないと殺される、けど今の私じゃ、殺す覚悟もない……

1.八十神高校へ向かい、鳴上君と再会する。
2.それからどうすればいいのか決める。
3. “自分らしさ”はどこにあるのか、探してみる
4.自分の存在意義を見つけるまでは、死にたくない
5.願いの内容はまだ決めていない

※錦山彰、ミファーは死んだと思っています。

263名無しさん:2020/10/18(日) 03:18:28 ID:YgvTeFGE0
投下乙です
ますます険悪に…オタコンとシェリー、この二人はもうどうしようもないのだろうか

264 ◆RTn9vPakQY:2020/10/18(日) 09:53:24 ID:jYqXoNy20
投下乙です!
交渉の展開次第では協力できたかもしれない、と思えるのが余計にもどかしいですね。
オタコンは有能な人材なのですが、ここまで悩みすぎて潰れてしまわないか心配。

如月千早 ゲリラ投下します

265 ◆RTn9vPakQY:2020/10/18(日) 09:56:04 ID:jYqXoNy20

「ねえ、千早ちゃんは、どうしてアイドルを目指しているの?」
「私には、歌しかないんです。
 歌っている時だけは、自分自身の存在を感じることができる。
 だから、私は歌い続けるんです。そして、いずれは高みへ到達できればと」
「そうなんだ……」





 八十神高等学校の保健室は、教室棟一階、下駄箱の近くにある。
 室内には、怪我をした生徒を手当てするためのベンチや相談事を聞くためのテーブル、身体測定のための器具などが置かれている。
 保健室という場所が持つ清潔なイメージよりも、すすけた壁や年季が入った調度品が目について、古びたイメージが先行するような部屋だ。
 そんなことを思いながら、私は保健室へと足を踏み入れた。
 その両腕に、天城雪子の遺体を抱えて。

「これで平気かしら……」

 雪子を白いベッドの上に寝かせた私は、そう呟いた。
 遺体を保健室に運んできたのは、命の恩人を放置しておけないと考えたからだ。屋上に倒れたままでは、風雨にさらされてしまいかねない。
 そこで、学校の保健室ならベッドがあると思い付いたのだ。
 しばらく歌い続けたことで、いくらか冷静さを取り戻してきたのだろう。

「夢じゃ、ないのよね」

 血の気の無い雪子の顔を見ながら、ぽつりと呟いた。
 屋上で見た光景は、まるで夢のようだった。雪子の召喚するペルソナ、眼鏡の少年がボールから出した猛獣、金髪の青年が降らせた隕石。
 常識とはかけ離れた出来事の数々は、夢のようでありながら、しかし現実なのだ。
 いくつもの破壊の痕跡や血痕、それに燃え尽きた少年の遺体は、屋上に残されたままだ。

「……」

 ベッドの近くに置かれた丸椅子に腰掛けて、目を閉じる。
 殺し合いが進行している現状が怖い。首輪によって生死の自由を奪われている現状が恐ろしい。
 そして、私自身がそうした現状を飲み込み始めているらしいことに、嫌気が差した。
 しばらく自分の肩をきつく抱きしめても、身体の震えは治まらなかった。

『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる?』

 そのとき、放送が私の鼓膜を振るわせた。
 私は思わず立ち上がり、両手を握りしめて天井を仰いだ。
 殺し合いが開始してから、もう六時間も過ぎていたのだ。

『こっちはすごーっく楽しませてもらってるわ! 声だけでしか分からないのが残念なくらいにね』

 無邪気な声に神経を逆なでされながら、それでも放送に耳を澄ませた。
 何か重要なことを伝えていて、それを聞き逃したから死んでしまう、という事態は回避したい。
 その発想も、現状に適応している証拠だということに気づき、また嫌気が差した。
 そうしている内に、参加者の名簿の話が始まった。

「名簿……?あっ!」

 私は周囲を見渡して、ハッとした声を上げた。
 雪子を運ぶことに気を取られて、支給品の入ったデイパックを屋上に置いてきたことに気づいたのだ。
 このままでは名簿を確認することができない。
 すぐに屋上に向かうか、それとも放送を聞き終えてから屋上に向かうか。逡巡する間にも放送は進んでいく。

『これでお友達がどれくらいいるのかとか、どれくらいの人が参加してるかとかも分かるでしょ?』
「くっ」

 その言葉に触発されて、私は保健室を飛び出した。
 この殺し合いに誰が参加しているのか、気にならないわけがない。
 もしかしたら知り合いがいるかもしれない、という不安を解消するために、階段を駆け上がる。

『それじゃあ、死者の名前を発表するわ――』

 胸がずきりと痛む。雪子の名前が呼ばれることが予想できたからだ。

「……え?」

 しかし、その数秒後。
 階段の踊り場で、私は足を止めた。
 あまりにも耳馴染みのある――と同時に言い慣れた――名前を聞いたからだ。

266 ◆RTn9vPakQY:2020/10/18(日) 09:57:52 ID:jYqXoNy20
「嘘……」
 

 放送が終わり、静寂が訪れる。
 私はふらふらと階段を上がっていき、屋上の扉を開けた。

 マナの放送を嘘だと決めつけてしまえるほど、私は楽観的ではない。
 事実として命を落としている雪子の名前も聞こえた以上、放送で呼ばれたのは死者の名前なのだと、認めざるを得ない。

「……でも、聞き間違いの可能性も」

 それでも、素直に受け止めるには、その事実は重すぎた。
 おぼつかない足取りのままデイパックへと近づき、震える手で名簿を取り出す。
 そうして藁にも縋る思いで開いた名簿は、私に逃れられない現実を突きつけた。

 天海春香。
 その名前を見た瞬間、何かがストンと抜け落ちた気がして、私はその場にへたり込んだ。
 そうして数秒後、頬を伝っている温かいものが涙だと気付いて、私は嗚咽をもらした。

 天海春香はもうこの世にいない。
 その事実が、理由も判然としないままに、どうしようもなく心を刺激する。
 これがいわゆる“心が折れる”という状況なのだろうか。

「……だめ」

 ついさっき、雪子の遺体を前にして、生き続けることを誓ったばかりだ。
 そう、私は生きて歌い続けなければならないのだ。
 優のためにも、雪子のためにも、そして春香のためにも。
 どうにかして殺し合いから脱出して、765プロの事務所に戻る。
 そして、そして、そして。

――だけで、いいんだよ――

「え?」

 混濁する脳内に、声が響く。
 聞き覚えのあるその声が、私の中にあるいくつかの記憶を呼び覚ました。





 およそ一年前、とあるオーディション会場に私はいた。
 長机と椅子があるだけの簡素な部屋で、五名の審査員と十数名の新人アイドルが対面していた。

「――趣味はお菓子作りです!!よろしくお願いします!」
「はい、オッケーです」

 参加者はデビューして間もない新人ばかり。
 誰も彼もが笑顔を振りまき、審査員の質問にハキハキと答えていた。
 ただ一人、私だけが真顔のままだった。

「では次の方、自己紹介をお願いします」
「はい」

 私の態度には理由があった。
 もともとは、ドラマ主題歌の歌手を選抜するオーディションに応募するはずが、プロデューサーの手違いで、キャストを選抜するオーディションに登録されてしまっていたのだ。
 当然のように私は不服を伝えたが、せっかくの機会だからとプロデューサーに懇願されて、しぶしぶ会場を訪れた。
 つまり、不本意な仕事を、プロデューサーの不手際で押し付けられたのだ。
 そんなオーディションへの意欲は、無いに等しい。

「765プロダクションから来ました、如月千早です。
 歌には自信があります。ロックから民謡まで、どのようなジャンルでも歌います」

 それゆえに、私は審査員に対して淡々と答えた。
 媚びるような猫なで声のアイドルも大勢いる中で、その声は室内によく響いた。

「えっと、如月さんはアイドルだよね?
 歌も良いけど、演技をする上でのアピールポイントとかあるかな?」
「私はいわゆる『アイドル』になるつもりはありません。
 プロの歌手、ボーカリストとしての高みを目指したいと考えています」
「そ、そう……オッケー」

 審査員たちは当惑する表情を見せて、それからひそひそと言葉を交わした。
 ここまでの応答で、審査員からの印象が悪くなったことを感じながら、けれども余計に言葉を紡ぐこともせず、そのまま促されて座席についた。

「……なにあれ、何様のつもり?」
「ボーカリストって……来るところ間違えてるでしょ」

 周囲からは、嫌悪感を含ませた小声が聞こえた。
 現代は、戦国時代と称されるほどアイドルの人数が増えており、代わりはいくらでもいる状況だ。
 小さな仕事でも貰えればありがたい、そうした環境に身を置く新人たちにとって、オーディションは命懸け。
 そんな場で、まるで意欲のない態度が悪目立ちするのは当然だった。
 私自身もそのことは理解していた。

267 ◆RTn9vPakQY:2020/10/18(日) 09:59:34 ID:jYqXoNy20
「呼び名には意味はない。アイドルとして活動しながら、歌い手の頂点を目指すこともできる」

 かつてプロデューサーは私にそう話した。それは歌以外の仕事に意欲のない私を乗せるための方便だったかもしれないが、一理あると納得したのも事実だ。
 それでも、私は他のアイドルがそうするように、表情や態度を作ろうとはしなかった。私が目指すのはあくまで“アイドル”ではなく“歌手”だったからだ。
 自らの目標を変えるという考え方は、少しもなかった。





 日が傾き始めた街中。
 私はオーディション会場を後にして、足早に事務所への帰路を歩いていた。
 審査の結果は一週間以内に事務所に郵送されると伝えられたが、芳しい評価は得られないだろう。
 そのこと自体には何の感傷もない。ただ、プロデューサーに説明をするのが面倒だ。
 説教とまではいかないまでも、オーディションに臨む姿勢について注意くらいされるはずだ。
 とはいえ、そもそも望まないオーディションを押し付けてきたのが発端ではないか。再びふつふつと不満が湧き出る。
 これを機にもう一度、私自身のスタンスをはっきり伝えておくべきだろうか。

「あの、如月千早……ちゃん、だよね?」
「!?」

 そう声をかけられたのと同時に、視界に少女の姿が現れた。
 どうやら、考え事をしながら歩いていたせいで、気付かなかったようだ。
 軽い思考停止に陥り、返答に詰まる。

「……」
「あっ、驚かせてゴメン!」
「いえ……それより、どなたですか?」
「え?えーっと……覚えてない?」

 質問を質問で返されて、私は眉根を寄せて相手を観察した。
 とはいえ、服装も体型も普通の女子で、目につくのは頭の赤いリボンくらい。
 どこかで出会っても、翌日には忘れてしまいそうな特徴の無さだった。

「……すみません」
「あう、そっかぁ……あはは、プロデューサーに聞いてたとおりだ」

 プロデューサー。耳慣れた単語が少女の口から出た。
 そして、ふと思い当たる。この声はついさっき――オーディション会場で――聞いた覚えがある。
 しかも、自己紹介で直前だった声だ。確か名前は――

「もしかして、天海……さん?」
「うんっ!気づいてくれたんだぁ……よかった〜!」

 そういえば、と記憶が連鎖的によみがえる。
 このオーディションには765プロの他のアイドルも応募していると、プロデューサーが話していた。
 その話をしているときには既に意欲が失せていたので、今まで完全に忘れていたが。

「私もこれから事務所に行くんだ。いっしょに戻らない?」
「別に構いませんけど……」
「えへへっ。それじゃ、れっつごー!」

 これが、私と春香の出会いだった。
 いかにも同年代の女子らしい、底抜けに明るいお人好し。
 私が春香に対して最初に抱いた印象は、そんなものだった。





「あ、千早ちゃん!今レッスン終わり?」
「はい。これから事務所に戻ってミーティングです」
「そっかー、もう一息だね!じゃあ、これ!」
「これって、マドレーヌですか?」
「うん!事務所のみんなに配ってるの。なかなか好評なんだよ、えへへ」
「天海さんって、器用なんですね」
「え?いやぁ、そんなことないよ。レシピ通り作ってるだけだもん」
「それでも、お菓子を配る発想がまず凄いと思います」
「そう……かな?」
「プロデューサーに聞きました。始発で事務所に通っているそうですね。
 それなのに、お菓子作りなんて手間のかかること……どうしてそんなに時間をかけられるんですか?」
「うーん……笑顔がみたいから、かなぁ?
 お菓子を食べると、みんな笑顔になってくれるの」
「笑顔……」
「もしかしたら、自分も周りも笑顔になれるから、お菓子作りが好きなのかも。……って、いい子ぶってるみたいかな?」
「……いえ、そんなことは」
「あぁっ、私のレッスンが始まっちゃう!
 それじゃ、後で食べた感想、聞かせてねー!」
「……」





 付き合いが長くなり、話す時間が増えるにつれて、春香への印象は変わり始めた。
 ただの明るいお人よしではない。周囲の様子や雰囲気をよく見て、考えながら行動している。
 少なくとも、自分を着飾ることと噂話にしか興味のない学校のクラスメイトとは違っていた。




268 ◆RTn9vPakQY:2020/10/18(日) 10:02:30 ID:jYqXoNy20

「天海さん、事務所の備品の買い出しに行くんじゃなかったんですか?ここ、どう見てもカフェですよね?」
「まぁまぁ。たまには息抜きも必要だよ!」
「あっ、春香!こっちこっち!」
「よかったぁ、千早さんも来てくれたんですね……!」
「菊地さんに、萩原さん?」
「えへへ、私が呼んだんだ。
 千早ちゃん、いつもレッスン終わりはすぐに帰っちゃうから、たまには一緒にご飯でもと思って」
「そうそう。同じアイドル候補生同士、ね。ボクたち、よくこのカフェに来るんだ。」
「あの……やっぱり余計でしたか?」
「……いえ、そんなことは」
「良かった!じゃあほら、とりあえず座って座って」
「……あの、天海さん?」
「“春香”でいいよ」
「え?」
「私も“千早ちゃん”って呼んでるし。ね?」
「あっ、ボクのことももちろん呼び捨てでいいからね!」
「えっと、じゃあ私も……で、でもほとんど初対面なのにそれは……うぅ〜」
「ね、千早ちゃん!これからは名前で呼ぶこと!」
「そんな、急に言われても……」
「ほらほら、メニュー見よっ!」
「……ええ」





 春香と出逢い、私の生活は変化し始めた。
 それまでは、独りで家とレッスン場を往復するだけだったのに、春香に付き合ってレッスン後にカフェで休憩したり、事務所で年下のアイドルの勉強を見たりと、他人と過ごすことが増えた。
 歌を練習する時間が減って、これでいいのかと自問することもあった。
 しかし、誰かと共有する時間が心地いいのも、また事実だった。
 プロデューサーには、笑顔が増えたと言われた。





「千早ちゃん、聞いた?私たち、ついにソロCDデビューだね!
 私の『太陽のジェラシー』と、千早ちゃんの『蒼い鳥』!デモテープも明後日には届くって、小鳥さんが!」
「ええ。二人同時にCD発売らしいわね。
 話題作りのためとはいえ、新人相手にプロデューサーも思い切ったことをするわ」
「ほんとビックリしたよね。それに、作曲家の先生も!」
「ええ……かなりの大御所の先生ね。
 技巧的な曲を書く人で、歌い手の技量が問われるって評判だわ」
「ぎ、技量?うぅ、プレッシャーだなぁ……」
「大丈夫よ、最近は春香も音を外さなくなってきているし、これから特訓を積めば」
「え、ちょっと待って千早ちゃん?
 “外さなくなってきている”って、私、まだ音を外してるってこと……だよね?」
「まあ、そういうことになるわね」
「うぅ……」
「……レッスンなら、いくらでも付き合うわ」
「本当!?よろしくお願いします、千早先生!」
「もう、調子がいいんだから」
「えへへ……」





 季節は移ろい、アイドルとしてのメディアへの露出も増えていった。
 ふと気が付くと、春香や事務所のみんなに――まるで仲の良い家族のように――自然体で接している私がいた。
 こんなに素直な気持ちで自分自身をさらけ出せる人が、今まで何人いただろうか。
 そう、かつて、たったひとりだけ。




269 ◆RTn9vPakQY:2020/10/18(日) 10:04:21 ID:jYqXoNy20
「千早ちゃん、いる?春香だけど……」
「……何か用?」
「よかった、いたんだね。
 ファンの人たちも、765プロのみんなも心配してるよ」
「……」
「プロデューサーさんも、小鳥さんも、社長も。
 みんな、みんな千早ちゃんが戻ってくるのを待ってる」
「……私は、もう歌えないから」
「……弟さんのこと、だよね。
 如月優くん、千早ちゃんの歌が大好きだった、って」
「っ!」
「ごめんね、たまたま千早ちゃんのお母さんから聞いたの」
「……だったら、分かるでしょ。
 私は“弟を見殺しにしたアイドル”なの」
「あんな記事、気にしなくていいよ!
 たまたま事故現場に居合わせただけだって、お母さんも……」
「……」
「ねぇ、またいっしょにライブに出ようよ。
 それとも、歌うのが嫌いになっちゃった……?」
「そんなこと!
 ……でも、歌えない。歌わなくちゃいけないのに歌えないなら……意味がないの」
「千早ちゃんのお母さん、言ってたよ。
 弟さんにせがまれて歌う千早ちゃん、とっても楽しそうだった、って」
「……優」
「ね、千早ちゃん。千早ちゃんは、どうしたい?」
「え?」
「もちろん、誰かのために歌うのも大切なことだけど……。
 でもね、歌を“歌わなければいけない”なんてこと、ないと思うんだ。
 もっと単純に、歌が好きだから、自分が歌いたいから歌う、じゃダメなのかな?」
「……」
「私はね。千早ちゃんと、また一緒に歌いたい」
「春香……」
「また来るね。それじゃ」
「……」




 アイドルランクもAランクに近づいてきた頃。
 私はとあるゴシップ雑誌の記事にショックを受けて、歌えなくなっていた。
 そんな私に春香がくれた言葉は、冷たく閉ざされていた私の心を、穏やかな気持ちで満たした。
 まるで春の陽射しに当てられて、根雪がじんわりと融けていくように。
 そして、私は再び舞台に立った。





「おめでとう、千早ちゃん」
「……ありがとう、春香。私、あなたのおかげで――」





「おめでとう、千早ちゃん」
「……ありがとう、春香。私、あなたのおかげで――」





 私にとって、天海春香とはどんな存在か。
 765プロで活動するアイドルの仲間であり、競い合うライバルでもあり。
 家庭や学校で他人との距離を置いていた私に、久しぶりにできた気兼ねなく話せる相手でもある。

「春香……あなたがいなかったら、私は歌うのを止めていたと思う」

 その前向きな姿勢は、後ろ向きに考えがちな私とは正反対だった。
 いつからか“優のために歌う”ことに囚われていた私に、“自分のために歌う”ことの大切さを気づかせてくれた。
 暗闇の中に沈んでいた私を、春香が救ってくれたのだ。
 そして、今もまた。

「また、私は同じ轍を踏むところだった」

 この会場に来てからの私を思い返す。
 自分の存在意義のために歌うのは間違いではない。
 誰かのために歌うというのも、一つの正当な理由だ。
 ただ、“歌わなければならない”と、自分自身の根底に責任感だけを抱えて歌うのは、自分の歌に枷を掛けることと同じ。かつて歌えなくなったときのように、いずれ歪みを生んでしまう。
 私は、殺し合いという異常な状況に置かれて、そのことを忘れかけていた。

「あなたが教えてくれたことよね。
 私が“どうしたいか”、それだけでいい」

 皮肉にも、喪うことで改めて気づくことができた。
 優。雪子。そして春香。みんなの分まで生きて歌い続ける。
 これから先、たくさんの人に最高の歌を届けるためにも生き続ける。
 そして何よりも。

「私は、もっと歌いたい」

 それだけでいい。
 ゆっくりと顔を上げると、そこには明るく輝く太陽があった。

270 ◆RTn9vPakQY:2020/10/18(日) 10:04:40 ID:jYqXoNy20
【E-5/八十神高校・屋上/一日目 朝】
【如月千早@THE IDOLM@STER】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残って、歌い続ける。
1. これからのことを考える。

※雪子の支給品(1〜2個)が屋上に放置されています。
※チェレンの支給品、リザルの所持品は焼失しました。


「そういえば、春香はどうしてアイドルを目指したの?」
「えっ、どうしたの突然?」
「ずいぶん前、私に聞いたでしょう?
 そのとき、春香の理由は聞いていなかったと思って」
「うーん、そうだなぁ……。
 最初のきっかけは、歌うのが好きだから、かな」
「歌が?」
「そう、千早ちゃんと同じだね!えへへ」
「……ふふっ、そうね」

271 ◆RTn9vPakQY:2020/10/18(日) 10:06:04 ID:jYqXoNy20
投下終了です。
タイトルは 私が歌う理由 です。

272 ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:47:53 ID:DJj9O2SQ0
ゲリラ投下しますね。

273劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:48:26 ID:DJj9O2SQ0
何だ……これ。」
錦山彰の目の前にある病院には、壁に大きな穴が開いていた。
森の中、海上、海中と立て続けに超常的な現象に見舞われて、今更こんな壁の穴など、どうということもないと言いたいが、そうもいかない。


(ダイナマイトを支給された奴でもいるのか?あるいは……。)

壁の周りが黒焦げになっていることから、爆弾関係の何か、あるいは爆発を起こせるくらいの超能力の持ち主が関係者だと彼は推理した。
そして、病院からの音が聞こえてこないこと、壁周りが黒くなっているのに煙が出てないことから、病院に今のところ人はいないと結論付けた。

(行くか。)
爆発が起こったのはだいぶ前だとしても、病院に潜伏者が静かに手ぐすね引いて待っていないという保証はない。
だが、それはこの試合会場のどの場所とて同じこと。
意を決して、病院の中へと入りこんだ。


明かりを付けず、手探りで待合室を進む。
電灯は付いていなかったが、窓から差し込む太陽の光のおかげで、視界に困ることなく待合室全体を見渡せた。


待合室の中心部が、吹き抜けになっており、その中央部を瓦礫の山が鎮座している。
その場所を素通りして、廊下を進む。


(病院……か。)
彼が思い出したのは、最愛の妹、由美のこと。
彼女の病の治療のため、あちこちから資金を集めた。
そのためには、部下にも目上の者にも頭を深く下げることを厭わなかった。
治療費を集めることこそ叶ったが、その先で待っていたことは、由美の主治医が賭博に失敗して逃走したという事件と、彼女の死だった。


(一体、他の奴等はこの病院を見て、どう思うんだろうな。)

外の光で照らされた病院の一階は、殺し合いの会場にあるとは思えない、極めてどこにでもありそうなデザインだった。
それゆえ、この戦いの参加者の多くに、病院であったことを連想させてしまう作りになっていた。

しかし、ここはすぐにいつもと違う病院であることに気づかされる
待合室から、診察室の扉を静かに開けると、その違いはすぐに判明した。


(どういうことだ……これは。)
そこは、またしてもどこにでもありそうな、診察室だった。
しかし、診察室にあるはずの聴診器を始めとする医療器具が、一つもなかった。
いや、それだけではない。診察記録も、その記録を書くための筆記用具さえ無かった。


(白衣さえもねえ……か。主催の奴等が抜き取っていたのか?)
医療器具の一部は、この病院を訪れた人物がいくつか持っていったのだが。
いずれにせよ、びしょ濡れになった服の代用品を手に入れられるという希望が、大きく損なわれた。

274劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:48:43 ID:DJj9O2SQ0

その時だった。
病院の廊下を、カツンカツンと、何者かが歩く音が聞こえた。

(誰だ……?)
こちらから話しかけに行くべきか、それともやり過ごすか。
自分は今、丸腰だ。
腕に覚えはないわけではないし、ともすれば診察室の椅子や机を凶器にすればいいのだが、人ならざる者や超能力者が相手なら、どうにも分が悪い。


「そこにいるだろう。」
ノックの音と共に、侵入者が自分を呼ぶ声がした。

「返事しなくても分かるぞ。床が濡れている。」
(ちっ……)

全身が濡れていることは、体が重かったり冷えやすいなど、身体的ディスアドバンテージだけではないことを、ようやく気付いた。
濡れた靴でリノリウムの廊下を歩けば、足跡などすぐに分かってしまう。

「ああ、その通りだ。俺を呼び出して、何をしたい?」
いきなり侵入せずに、話しかけてくることから、一応話し合いは出来ると判断した。

「協力だ。ある人物を探すことを手伝ってほしい。」
(人探し……か。)
歌い手でもやっていたのか、良い声をした男性らしき声が紡ぐ内容は、極めてありふれたものだった。
スタンスだけを聞けば、特に悪人のようには思えない。
だが、声の主が悪人で、更なる悪との合流を目指している者である可能性もないわけではない。

「なるほどな。俺がお前の要求に応えたら、何か見返りはあるのか?逆に俺が断った場合はどうする?」

錦山としては、けちな強請りや脅しをかけるつもりはなかった。
ただ、妹を助けるために人に頭を下げ続け、その結果何も残せなかった記憶がある以上、見知らぬ他人に協力を求める人間というものが理解できなかった。


この戦いで何かのはずみで同行を求められた緑ジャージの少女を連れて行くことになったが、案の定途中で襲われて死んでしまった。
やはり、みんなで仲良く協力して、ゴールを目指すというのは、与太話でしかないという意識が彼にあった。

「少なくともそいつが見つかるまでの間、協力してやろう。おまえはその濡れた靴に代わる何か別の靴が欲しいんじゃないか?」

「どちらも一人で出来ることだ。違うか?」

舌打ち混じりに返す。しかし、扉の前からの声以外に、もう一つ聞きなれない音が耳に入った。
ガチャ、ガチャと、機械の塊が歩いているかのような重たげな足音だ。


「おい、誰だ?」
扉の外の男は、錦山ではない誰かに声をかけている。
察するに、男も知らない存在のようだった。

しかしもう一人の何者かは、声を出さない。出す音は、重たげな足音だけだ。
「誰だと聞いているのだ!答えろ!!」
男の呼びかけに、なおも答えない。

275劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:49:02 ID:DJj9O2SQ0

(何があった……?)

錦山は扉の外の状況に理解できず、扉を少し開けて、様子だけでも伺おうとする。
だが、それが失敗だった。


診察室の外にいたのは、オールバックの赤髪の男と、そして、人間の両目に該当する部分にアイセンサーを携えた、機械人形だった。
眼光とは程遠い、無機質な緑の光が、白のスーツを照らす。


「──シンニュウシャをハッケン。ハイジョします。」


そして、機械音声と共に、それは腕を伸ばして攻撃を仕掛けた。

(!!)
慌てて扉を閉め、その攻撃の盾代わりにする。
しかし、機械の腕から繰り出されるパンチは重く、一撃で扉を砕いた。


「ハイジョ、ゾッコウ。」
「玩具の兵隊ごときに、殺されてたまるか!!」

ジョーカーとして索敵範囲に入った者の殺害を目論むロボは、扉を壊して診察室の中に入ってくる。
錦山は診察室で残された数少ない武器、長机を手に取る。

「つりゃあ!!」
どこにでもありそうな長机は、攻撃を防ぐ盾にも、相手を叩く武器にもなった。


机こそ錦山の勢いよく振るった一撃で、武器や防具として扱えない大きさまで砕けるが、その一撃はロボを大きく後退させた。
ヤクザならではのアウトローな戦い方には、ロジックに従って戦うロボには対応しきれなかった。


この機を逃さず、ポケットに入れておいた閃光弾を出して、ロボ目掛けて投げつけた。
すぐに強い光が明かりのない病院を照らす。


すぐに扉の前に陣取っている相手の横を通り抜け、振り切ろうとする。

「っ!?これは……!!」
錦山の全身が、急な熱気に包まれ、続く爆風が吹き飛ばした。
ロボの至近距離に入った相手のみに使われる、サークルボムだ。

スーツが湿っていたため、幾分かダメージは抑えられたが、それでもスーツから出ている顔や手の火傷は抑えられなかった。
ケンカという形で、人間との戦いは慣れていた錦山だが、そうでない者との戦いにはどうにも不向きであった。

「鳥人に半魚人ときて、今度はロボットかよ……!!」

リノリウムの床で一度身体をバウンドさせ、二度背中を打つ。
「セイゾンカクニン。ハイジョ、ゾッコウ。」

今度はロボの両目に光が集まり、レーザー発射の体勢になる。


「くそ……まだ、死ねねえ!!」
生きて、成り上がる。
そうでなければ、これまで積み上げてきたものは全て無駄だ。
少なくとも、こんな所で人ですらない存在に殺されて、終わるわけにはいかない。


横に転がっていた、病院に設置されていた消火器を掴んで、ロボに投げつける。
レーザーが飛んできたそれを破壊する。
結局鈍器としてロボにダメージを与えることはなかったが、レーザーが錦山に当たることもなく、廊下に白い煙が漂うだけに終わった。

276劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:49:31 ID:DJj9O2SQ0

火傷をした手で物を投げたりしたため、激痛が走るも、そんなことは気にせずに逃げる。
どんどん入り口からは離れていくことに不安を覚えつつも、階段を上り二階へ。


1階と2階の間、踊り場から姿が見える位置にいたのは、何の因果か錦山と同じ、オールバックの髪形をした男だった。
同じ声の持ち主という点から、診察室の前にいた男に相違ないことは簡単に理解できた。
ただし髪の色は彼とは異なる、燃えるような赤色だったが。


「逃げるぞ!」
ロボはレーザーを放ちながら階段を上ってくる。
錦山は質問への回答も他所に、診察室の前にいたらしき男に逃走を呼びかける。


丁度踊り場と2階の真ん中あたりを走った時、ふいに錦山の体が重くなった。
胸か、肩のあたりがどういうわけか重くなる。
まるで階段が逆向きに進むエスカレーターに変わったかのように、逃走者の歩みが遅くなる。


「お前は死ね」


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


ロボが暴れ出してからすぐのこと。
イウヴァルトは真っ先にその機械の目が届かない病院の2階まで逃げた。

具体的に何が起こっているか細かくは分からずじまいだが、階下の音で、錦山とロボが戦っていることは理解できた。
そして階段を駆け上る音から、男の方が逃げてきたことも。


カイム討伐のための協力者になり得そうにない錦山がどうなろうと知ったことではない。
だが、自分と同じ方向に逃げられて、巻き添えを食らうのはごめんだ。

そのため、脚を怪我させて逃げられないようにし、機械人形の囮にするのが彼の算段だった。
必要ないと思いながらも、どういうことか


「っぶねえ……」
襲撃者が機械人形だけだと思っていた相手に攻撃を当てるなど容易だ、と思っていたイウヴァルトは、相手が急にスピードを落としたため、虚を突かれた。
ヤクザとして生きている以上、殺意に対しどこまでも敏感な錦山は、咄嗟に足を遅めて、敵の攻撃のタイミングをずらした。


しかし、逃げる速さを落としたということはすなわち、追手との距離を縮めるということ。
結果的にロボが追い付いてきたため、階段上ジョーカーの目論見は成功したことになる。
だが、白服と黒のオールバックの男は、隠し玉、言うならば隠し弾を持っていた。


何かポケットから出したと思いきや、その何かが凄まじい光を出した。
イウヴァルトとしては、階下で錦山がロボの攻撃を振りきって逃げたことは分かっていたが、如何にして逃げたのか、過程は知らなかった。


視神経まで刺すかのような光に耐えられず、必死で目を抑える。
閃光弾は強い光を出すが、大きな音を出さない道具のため、どんな道具か分からなかったのも失敗であった。

277劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:49:48 ID:DJj9O2SQ0

ロボも同様に、両目を抑えた。
熱源や動きに感知して、敵を捉える機種も同時代にはあるのだが、彼が属するRシリーズは人間と同じ視覚を持つ。
従って、強い光や視界を覆う攻撃に人間と同じように影響を受ける。
さらに、ロボの攻撃手段の一つである、アイレーザーが自分で目を抑えたことで、ほんの一時的にだが使えなくなった。


最後の閃光弾で二人の隙を作った錦山は、二階の廊下を走る。
イウヴァルトはそれを追いかける。
自分の目的を知っているか否かに関係なく、危険人物であることを他者に広められたら困るからだ。
そして、ロボからは逃げる。
そのような存在がいるなら、前もって伝えておいてほしいと思いながら。


そして、先頭を走っていた錦山は、またも足を遅めた。

「なッ!?」
またも走る速さをずらして、機械人形の攻撃のタイミングをずらそうとするのかと思いきや、それは大きな間違いだった。
錦山は急にUターンし、姿勢を低くしてイウヴァルトの下腹部へタックルを仕掛けた。
不意の攻撃をくらい、驚きの声を出す。

しかも、最後尾のロボの攻撃は、イウヴァルトが盾になる位置関係になるため、錦山は安全で、イウヴァルトは圧倒的に危険な状況に追い込まれることになる。


「対象ノ接近ヲ確認。」

ロボは拳を飛ばす。
彼のみならず、Rシリーズのロボットならどの機種も覚えている、一番基礎的な技だ。
故に、外すことはない。



機体に何らかの異常がなければ、だが。


「なぜ……?」
その言葉を発したのは、錦山の方だった。
ロボが放ったロケットパンチは、イウヴァルトに当たる寸前で軌道を変え、錦山の脇腹に鋭く刺さった。
まさにクリティカルヒットとも言える、完全に予期していなかった一撃。

当たると思っていなかった攻撃の勢いに自由を奪われ、そのままイウヴァルトを離して飛んでいく。
廊下の端に意味ありげに置いてあった棚に、背中がぶつかってその動きは止まった。
木片が背中に刺さるが、そんなことはどうでもいい。


「危ないところだった。どうやら、この機械人形は俺の味方のようだな。」
「ハイジョ、ゾッコウ。」
朝日が差し込む病院の中でも分かる赤の眼光と、緑の眼光が、錦山に迫ってくる。

「そうか……」
まだ立ててすらいない男は、ここでようやく気付いた。

「お前ら、グルだったんだろ!!」
黒い瞳で、一人と一台のジョーカーを睨みつける。

278劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:50:06 ID:DJj9O2SQ0
攻撃できるチャンスがあったのにも関わらず、錦山のみを狙った点。
そして、眼をよく見ればさらに分かる。
イウヴァルトは、最初に会場でいた少女と、同じ血のように真っ赤な目つきをしている。


すなわち、イウヴァルト、ロボ、そして主催は味方同士だった。
錦山がそのセリフを吐き終わった直後、ロボがタックルを仕掛けた。
鈍重な機械の全体重がかかったタックルをその身に受け、悲鳴を上げずに血のみを口から吐き出す。


「ああ、そうさ。最も俺自身も知らなかったんだがね。」
立てない錦山を、赤目が見下ろす。


辺りは、赤で覆われている。
差し込む光の赤。
ヤクザの口から零れる血の赤
そして、その無様な姿を見下ろす眼光の赤。


既に白くなくなっているスーツの男にとって、状況は最悪だった。
肋骨のほとんどが折られ、目の前にジョーカーが二人。
逆転のための仲間も、道具もない。


ふと、手元にコロリと何か丸いものが、手に落ちた。
どうやら病院の棚の中に隠されていたようである。

そんなことは気にせず、もう一度ロボがタックルを仕掛けてくる。
投げたところで、良くて負傷だろうが、このまま殺されたくないと思って、ミファー
刺されて痛む右手でしっかりと掴んだ。

「何か」は黄金の光を出す。
先ほどの閃光弾の類かと思い、慌ててイウヴァルトは両目を抑える。
しかし、目くらましの道具ではなかった。

「「!?」」
気が付くと、ロボがタックルの姿勢で、硬直していた。
全身を金色に包まれて。


病院の、何の変哲もない棚に隠されていたそれは、別の世界で「ゴールドオーブ」と呼ばれたもの。
オーブから放たれる「ゴールドアストロン」は相手を一時的に何者も受け付けない黄金像へと変えてしまう力を持つ。

鉄の兵隊を金の人形に変えた瞬間、錦山を虚脱感が襲う。
黄金の宝玉を掲げる力さえ、もう残っていなかった。
そして、ロボが動けなくなっても、彼の敵はいなくなったわけではない。


「中々面白いものを見せてもらった。勉強にもなったよ。」
勝利を確信したイウヴァルトは、冷たい目で虚ろな瞳を見つめる。
そして、アルテマウェポンを掲げ、トドメを刺そうとする。


「フリアエのためだ。死んでくれ。」
この戦いで直接の人殺しをするのは初めてだが、恋人の名を口にすることで、その胸に優勝への決意を固める。


「ははは……。」
死を目前にしたヤクザの口元は、力なくだが吊り上がっていた。

「何が可笑しい?」
すぐにでも殺されるような状況で、それでいてなお笑みを浮かべていた。


最後に一つだけ理解した。
自分を殺そうとする男は、自分と同じ、大切な人間を失った存在なのだと。

279劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:50:26 ID:DJj9O2SQ0
フリアエというのが、何者なのかは分からないが、自分にとっての由美のような存在なのだと。
だが、その失った存在のために、誰かの言いなりになる男が、たまらなく滑稽に見えた。


「たまには、自分の意思で動いたらどうだ。」
それが、何一つ思い通りにならなかった男の、最後の言葉だった。


【錦山彰@龍が如く 極 死亡】             
【残り51名】



アルテマウェポンを胸から引き抜いた所で、金箔からロボは解き放たれた。
「助かったぞ。マナとはどういう関係なんだ?」

ロボは返事をすることなく、病院の巡回を続ける。
彼はイウヴァルトの敵にこそならないが、味方にもならない。
主催者の息がかかったもの同士で潰しあわないために、動く壁としか感知しない。
宝条にそのようなメモリーを埋め込まれているだけだ。


「どうやら、マナは俺にも伝えていないことがあるみたいだな。」
もう一つ、存在が謎のオーブを手に取り、病院を後にする。
いまだにこびりついて離れない男の言葉を頭に残しながら。






【イウヴァルト@ドラッグオンドラグーン】
[状態]:健康 多少の戸惑い
[装備]:アルテマウェポン@FF7、召喚マテリア(ブラックドラゴン@DQ11)
[道具]:基本支給品、モンスターボール(空) ゴールドオーブ@DQ11
[思考・状況]
基本行動方針:フリアエを生き返らせてもらうために、ゲームに乗る。
1. 参加者を誘導して、強者(特にカイム、ハンター)を殺すように仕向ける。
2. 残った人間を殺して優勝し、フリアエを生き返らせてもらう。
3.カイムと戦うこととなった時のために戦力はなるべく温存しておく。

※召喚マテリアの中身を【ブラックドラゴン@ドラッグ・オン・ドラグーン】と勘違いしています。
※空っぽのモンスターボールは野生のポケモンの捕獲に使えるかもしれません。



【ロボ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)、MP消費(大)
[装備]:ベアークロー@ペルソナ4 、たべのこし@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1個
[思考・状況]
基本行動方針:病院内に侵入した敵を排除する
1.ワタシの名前はプロメテス。

※主催者によって、ジョーカーである参加者(イウヴァルト、ホメロス、ネメシス)は感知出来ないようになっています。
他にも何らかの理由で感知できない参加者、NPCがいるかもしれません。



【支給品紹介】
ゴールドオーブ@DQ11
命の大樹に近付くのに必要な6つのオーブの1つ。
MP、SP、気力などの何かしらと引き換えに、対象を一定時間、無敵の黄金に変える『ゴールドアストロン』を使うことが出来る。
黄金になった相手は、動けない代わりにすべての攻撃を無効化する。

※他のオーブも対応する特技を使用することが出来ます。
※他のオーブも会場内のどこかに隠されています。

280劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:50:38 ID:DJj9O2SQ0
投下終了です。

281劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:54:03 ID:DJj9O2SQ0
現在地忘れてました。
【D-5/病院/一日目 午朝】です。

282 ◆RTn9vPakQY:2020/12/29(火) 02:23:13 ID:d66pWjZ20
投下乙です!
イウヴァルト、ロボにやられないかな…と軽く心配していましたが杞憂。
錦山にとっては運が悪いというか間が悪いというか……ただ、それでも生きる意志を見せたのは熱くて良かったです。
長机をぶんまわし、消火器を投げつける姿はどこか桐生一馬を想起してしまい、描写が利いているなと思いました。
そして最期の言葉は、劣等感という共通点をもつ錦山だからかけられた言葉だと思うと、粋ですね。

ソニック・ザ・ヘッジホッグ、四条貴音、エアリス・ゲインズブール、ゲーチス 予約します

283 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/29(火) 03:25:15 ID:rdioI89Y0
投下お疲れ様です。

>>私が歌う理由
春香と雪子、開幕から千早の精神を抉る気満々の放送でしたが、春香の死からアイドルとなった原点を思い出し、何とか生きる理由を見出すことができた展開は胸熱ですね。オープニングを除き一話退場となった春香ですが、皆の心の中で生き続け、希望を残していく様はまさにアイドル。

>>劣等感の果てに残ったもの
このロワで度々言われていた、劣等感を抱えたキャラが多い問題。その中でも錦山とイウヴァルトは、その報われなさも相まってかなり共通項のある2人だったと思います。だからこそ、最後の一言は刺さるはず。
それにしてもイウヴァルト、今回もなかなか軍事ムーヴしてるはずなのに、偶然(ロボもJOKERだったこと)に助けられた感がどこか拭えず、カイムに勝てるビジョンが見えないのはどうして……

クロノ、ダルケル予約します。

284 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:41:58 ID:55OUh4YY0
年内に完成してちょっと嬉しい。
投下します。

285亡き王女の為の英雄裁判 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:42:59 ID:55OUh4YY0
【被告人:クロノ】

「くそっ……!ㅤ俺が一体、何をやったって言うんだよッ!」

ㅤこの裁判に証拠はない。敢えて提出する者がいないからだ。

【原告側:ダルケル】

「姫さんから聞いたぜ。お前が……グレイグって奴を殺して姫さんも殺そうとしていたってな!」

ㅤこの裁判に証人はいない。それと成りうる者の全員が、その命を失っているからだ。

「俺じゃねえ!ㅤグレイグを殺したのはゼルダだ!」

ㅤそれでも己の無罪を貫き通す覚悟があるのなら。

「姫さんがンなこと……するわけねえだろうがッ!」

ㅤそれでも相手の有罪を判ずる信念があるのなら。

ㅤ古来より、用いられてきた手段はただ一つ――決闘である。客観的要素によって判示することができない事例の判決を、両当事者の戦いに委ねる儀式。

ㅤこの決闘の立会人となるのは他でもない、あなたたちだ。どうか、見届けてほしい。彼らの覚悟を。彼らの信念を。



ㅤクロノが手にするのは『白き加護』の力によってその本領を発揮する太刀、白の約定。対するダルケルは、本来は両手に抱えるべき武器である鉄塊を、自慢の腕力に任せて片手で振り回す。両者ともに、攻撃力は十二分に宿している。

ㅤ同時に、彼らがもう一方の腕に備えるのは同じ世界で造られた盾。片や、物理攻撃に対する堅固さに特化した『ハイリアの盾』。片や、厄災に乗っ取られ人々の脅威と化した古代兵器との戦いに特化した『古代兵装・盾』。両者ともに、防御力もまた申し分無い。

ㅤそしてこの戦いを白熱させるのは、武具の強力さに違わぬ実力を持つ二人だ。一瞬の隙が致命傷に繋がり得る攻防一体の戦闘を、何度も何度も繰り広げる。

「俺とグレイグは、森でゼルダを助けたんだ。だというのに、アイツは……」

「姫さんを知らない奴なら騙せていたかもしれねえが、俺はそうはいかねえぜ。」

ㅤ対話については、まさに取り付く島もないという様子だ。ダルケルの中のクロノ像は、自身を騙そうとする殺人者でしかない。対立する二人の主張が食い違うのなら、信頼に値する者を無条件に信じるのはダルケルに限らず人の性だ。

ㅤそれなら、無力化した上で話を聞かせる。この上なく単純な方針をクロノは定める。生殺与奪を握った上で対話を仕掛けるのは、殺意がないことのこの上ない証明であり、一定の信頼を得られるだろう。

286亡き王女の為の英雄裁判 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:43:42 ID:55OUh4YY0
ㅤしかし何にせよ、どの道ダルケルに勝たないことには始まらない。そしてそれは、容易ではないとこの応酬が示している。半端な攻撃は両者の持つ盾が吸収するのだ。

「うらぁ!」

「うおっ!」

ㅤダルケルのフルスイングを回避。速さではクロノが優っている。だが、ダルケルが攻めと守りの両面で微かに優位にあるため、クロノも攻めあぐねている状態だ。

(あの盾が厄介だな……。)

ㅤクロノは思考する。守りの強固な敵はまずは守りを剥がす――強敵と戦う時の鉄則だ。かのラヴォスも、外殻を破壊せずには本体であるコアの下にはたどり着けなかった。世界は変われど、戦いの本質は得てして変わらない。

「何をボーッとしてやがる!」

「っ!」

ㅤしかし、クロノがダルケルの盾を破る方針を打ち立てるより先に、ダルケルはクロノの持つ盾の脅威を認識していた。ハイラルの盾の堅牢さを、ダルケルは知っている。その排除に乗り出すのもダルケルが一瞬、早かった。

ㅤ回避されるのも覚悟の上の大振りの一撃。しかし盾への対処の思考に追われていたクロノは回避ができず、身につけたハイラルの盾で受ける。当然、普段は盾を使わないクロノにジャストガードの技術などなく、かのハイラルの盾越しでも左腕に衝撃が走り、着実にクロノの体にダメージを蓄積させていく。

(くっ……やはり、強い……!)

ㅤ大きな体躯をしたダルケルの攻撃がただの質量の暴力であれば、ラヴォスに遠く及ばない。だがダルケルは鉄塊を時に振り下ろし、時にぶん回し、時に突く。単純な攻防を単調でなくする様々な技術を駆使してクロノの逃げ道を無くしていく。『英傑』を名乗るのは決して名ばかりではないのだと、クロノは実感する。

(それでも……負けてたまるか!)

ㅤしかし、クロノもまた『英雄』と呼ばれた――否、"呼ばせた"男である。王女誘拐の冤罪をさらなる功績で塗り潰し、身分の違うマールとの結婚を大々的に認めさせるために。

ㅤ世界の脅威の排除が称号に先んじているという点で、クロノとダルケルは大きく異なっている。少なくとも、クロノは世界の敵に勝利したのだ。その経験値の差は、僅かに、されど確実に戦局に影響を与える。

「はぁっ!」

「なッ!?」

ㅤ続くダルケルの一撃が繰り出されるまでの一瞬の間を付いた一閃。古代兵器を討つために造られた盾は、遥か遠い未来の武器によって弾き飛ばされる。

「くッ……!」

ㅤ咄嗟に鉄塊をぶん回して乱れ斬りへの接続を防ぐダルケル。だが不運にも、吹き飛ばされた盾は城の周囲に張り巡らされた怨念の沼に落ち、回収が不可能となった。

「それはグレイグが使っていた盾だ。お前が使っていいものじゃない。」

「ああ。グレイグって奴から姫さんに託され、俺が受け継いだ大切な盾だ。なのに、使えなくしちまうなんてヨォ……」

ㅤ盾を先に突破したことにより、戦いの流れは間違いなくクロノの側に傾いている。

「……まったく情けねえぜ、ちくしょう。」

ㅤしかし、盾を使わないのはダルケル本来の戦闘スタイルだ。両腕で振るう鉄塊はより速度を増し、それに比例して破壊力も大きくなる。さらには、今の一撃でクロノの実力をダルケルはハッキリ認識した。生き残ってゼルダを護るために防御を優先するのではなく、刺し違えてでも倒さなくてはならないと意識をシフトした。

287亡き王女の為の英雄裁判 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:44:14 ID:55OUh4YY0
ㅤ両腕で鉄塊を振り回してのの攻撃――まさしく捨て身とも取れる特攻。クロノの剣術ならばカウンターを叩き込むのも不可能ではないが、リスクが高い上に、相手の勢いを利用する以上手加減ができず殺しかねない。

「サンダガ!!」

ㅤしたがって、直接の応酬を避ける選択肢を取るクロノ。ダルケルの進む先の足場に牽制のごとく雷を降らせる。それを受け、電気を通す金属を所持したままの特攻を辞めるダルケル。

(リンクのような正統派の太刀筋だけでなく、ウルボザのような搦め手まで使えるのかよ……)

ㅤダルケルはその雷から、もうこの世界でも会えなくなったかつての戦友の名が脳裏を掠める。

(ウルボザ……オマエもコイツみてーなヤツに殺されたんだよな?ㅤ俺と違って頭のいいオマエは、騙されて殺られるようなことはねえもんな。)

ㅤ許せねえ。英傑にも引けを取らないだけの実力がありながら、それを他者を傷付けるために行使する奴らが、許せねえ。その犠牲となったであろう亡き戦友を思い返し、ダルケルはさらに決意を重ねた。そして、冷静になった頭で今一度戦局を俯瞰する。

ㅤ魔法を用いて接近戦を拒絶したクロノはダルケルが雷に怯んだ隙に距離を置いている。

ㅤ逆に考えると、応戦を拒否されたということは、それが相手にとって都合が悪い証だ。刺し違えてでも倒すと決意した自分とは違い、クロノは優勝のために自分をなるべく無傷で突破したいのだろう。

ㅤそしてあの雷も、ウルボザのチカラと同質のものならば何度も何度も続けざまに撃ち続けられるようなシロモノではないはず。それならば、攻めるが吉だ。

「ゴロオオオオォッ!」

ㅤそう分析したダルケルは、再び特攻をするために急速接近する。ダルケルほどの巨躯で速度を確保するためのその手段とは――回転。その身を丸め、大地を転がって一気に前進する。

「ッ!」

ㅤカエルの舌に、ロボのロケットアーム。人間の常識を優に超えた接近手段はこれまでの仲間たちから見慣れているクロノも、その人間離れした移動方法に面食らわざるを得ない。サンダガを詠唱する間もなく、射程内への接近を許してしまう。

「がァッ!」

ㅤ元の剛腕に合わせて勢いまで 付いたその一撃を半端な攻撃で迎撃できるはずもなく、クロノが選び取った行動は再び、盾を前方に構えての防御。予定調和とばかりに振り下ろされた鉄塊は、それがハイラルの盾でなければ即座に盾ごと粉砕されていたであろう強打となってクロノを襲う。

ㅤ盾越しにクロノを今までで最も大きな衝撃が襲うも――やはり真なる英傑が果てしない冒険の果てに掴み取るに相応しい、最強の盾だった。ダルケルの渾身の一撃の大部分が軽減されたのだ。普段は盾を使わないダルケルは、ハイラルの盾の強固さを知識として知ってこそいれど、ここまでであるとは思っていなかった。

「ちっ……!」

「いい加減に……」

ㅤ皮肉にも、ゼルダに騙されたことで手に入れた盾が、クロノを護ったこととなった。その事実にクロノは僅かに苛立ちを覚え、顔をしかめる。そんな彼の視界に映るのは、大振りの攻撃を防いだことで大きく隙が生まれたダルケルの姿。

「……しろよッ!」

「ぐおっ!」

ㅤクロノは太刀に風の刃を纏わせて薙ぎ払う。それをまともに受けたダルケルは吹き飛ばされ、ハイラル城の城門にその身を打ち付ける。

「はぁ……はぁ……」

ㅤクロノの放った『かまいたち』は、ダルケルほどの実力者を殺す威力はない。立ち上がってくることは分かっている。

288亡き王女の為の英雄裁判 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:44:51 ID:55OUh4YY0
「……なァ、赤髪の兄ちゃん。」

(はぁ……それでもコイツ……さすがにタフすぎんだろ……。)

ㅤクロノの想像以上に、ダルケルはその身に受けたダメージを意に介していないようだった。

「アンタ、そんなに強いのにヨォ……何で人殺しなんかに手を染めたんだ。」

ㅤしかし、クロノにとっては悪くない状況だ。まだ決着こそ付いていないが、両者ともに戦闘への疲れが見えてきた頃合――そんな状況下でようやく訪れた、僅かな対話の余地。

「俺はやってねぇ……アンタ、ゼルダの奴に騙されてんだよ。」

ㅤクロノからすれば、それは謂れの無い非難でしかない。そう言い返すのは当然であり、ダルケルもまたそれを素直に聞き入れるはずがない。

「そんなハズがねえ!」

「どうしてそう言いきれる!」

「だってヨォ……姫さんは……姫さんは……」

ㅤここで、どちらも白を主張し、泥沼化するかと思われた話し合いは、思わぬ展開を見せることとなる。続くダルケルの言葉に、ぴくりとクロノの眉が動いた。

「……逃げなかったんだ。」

ㅤゼルダの人物像なんてこの際何も関係がないはずであるのに、クロノはその続きを聞かずにはいられなかった。

「姫の責務に追われようと、心無い奴らに無才と罵られようと、逃げなかったんだ。何でだと思う?」

「……知らねぇよ。」

「……姫さんは……国の皆が……ハイラルの民が大好きだから……だから逃げなかったんだ!ㅤ周りを息巻く環境がどれだけ息苦しくても最後まで諦めずに、あの小さい背中に背負った責務を全うしたんだ!ㅤそんな姫さんが……一体、誰を殺したって言うんだオメェは!?」

ㅤダルケルのその気迫は、語る言葉に一切の謀を含まぬ真実であると物語っている。ゼルダがどれほど偉大な人物で、彼女の世界に必要な存在なのかはクロノに対して十分に伝達された。

ㅤしかし、だとしても聞くに値しない理屈だ。ゼルダがどう評価されている人物であっても、彼女がグレイグを殺し、今なお彼女のせいで自分がダルケルと殺し合っている現状を甘受できる道理は無いのだから。

289亡き王女の為の英雄裁判 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:45:22 ID:55OUh4YY0
「……逃げなかったら、偉いのかよ。」

ㅤそして――それとは別に、クロノは彼女の生き様を肯定してはならないのだ。それは自らの矜恃、そしてマールとの出会いに、真っ向から反する在り方だったから――

「生まれつきの運命だったら、はいそうですかと受け入れるのが美徳なのかよ……!」

ㅤダルケルにとっては、耳を貸す意義もない言葉だった。ゼルダの役目がハイラルの平和にどれだけ貢献するのか、それを果たせないことに対し、本人も周りもどれだけ痛ましく思っていたのか、それら一切を知らないクロノだからこそ言えてしまう残酷な言葉だ。

「うるせぇッ!」

ㅤだが、ダルケルには少なからず自覚があった。神獣の操作を早々に習得し、与えられた役目を充分に果たしていた自分たち英傑の存在は、少なからずゼルダを追い詰めていたと。誰が悪いというものでもない。だが、100年間、心の端にずっと引っかかっていた何かを刺激したクロノに対し、言い返さずにはいられない。

「オメェが奪った命もな……生きていたかったんだ!」

ㅤダルケルはグレイグを知らない。だが、ゼルダを逃がしてクロノに一人立ち向かった騎士であるとは聞いている。そんな忠義心の塊のような彼は、この世界に別の仲間を残し退場するハメになったことが、きっと無念であったに違いない。神獣の中に取り残され、炎のカースガノンに破れ散り行くこととなった、かつての己を想起する。姫さんも、他の英傑もまだ戦っているというのに、自分だけがその戦場を去らねばならぬ屈辱。その時の想いを脳内に反芻させ、歯を食いしばったまま再びクロノに向かって走る。

『――この子が最期に言った言葉、知ってる? 死にたくない、だって!』

ㅤそして――ダルケルの、己の屈辱と共にグレイグについて言い放った言葉は偶然にも、クロノには放送で聞いたマールの最期と重ね合わされた。ただでさえ無実の罪を被せられているこの状況下。マールの死まで、自分の所為として被せられたような心持ちにさせられて。

「――罪に汚れた口で、姫さんの生き方を否定すんじゃねえッ!」

「――ッ!ㅤ黙れええぇぇッ!」

ㅤクロノの心の奥に、今までずっと差していた黒い影が、そっと浮かび上がった。

「これ以上……俺たちの旅路を……マールの生きた証を……否定、すんなああああッ!!」

ㅤ朝の光に照らされながら、ふたつの影が交錯する。

ㅤこの時、クロノの、愛する者の喪失をこの上なく痛感しながら振るった刃は、宿る白き加護によりいっそう練磨され――

290亡き王女の為の英雄裁判 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:46:08 ID:55OUh4YY0


「へっ……本性、現しやがったな。」



――そしてそれ故に、ダルケルには一切通用しなかった。


『ダルケルの護り』


ㅤクロノの放った全身全霊の一撃は、ダルケルの身体にかすり傷ひとつ付けることなく弾かれた。

(なん……だ……これ……身体が……動かねえッ!)

ㅤそもそも、ダルケルに盾など必要なかったのだ。彼の身は瞬間的に、ハイラルの盾とて超える最強の鎧を纏うことができるのだから。

ㅤしかし、今の今までダルケルの心の底にはひとつの疑問があった。

――何故、クロノは命を取りに来ない?

ㅤ盾を弾いた時の一撃も、サンダガを牽制にしか用いなかった時もそうだ。クロノはダルケルの命を直接狙うような攻撃を一切仕掛けてこなかった。そのため、ダルケルの護りを使うかどうか、判断に迷わされる局面ばかりだった。

ㅤ実際に見たクロノは、ゼルダの語ったクロノの人物像とどこか一致しない。このまま戦いを続けるのは、本当に正しいのか?

ㅤそれは外れていて欲しいと願わずにはいられない直感だった。クロノが無罪であるということは、グレイグを殺したのはゼルダであるという、クロノの主張が通ることと等しい。

ㅤだが、今の一撃に込められていたのは紛うことなき殺意であった。それはある意味では待ち構えていた一撃。クロノが殺しにかかってくれるだけで、ダルケルにとってはゼルダの無罪を心から信じるに足るのだ。

ㅤそして――もはやダルケルに、クロノを皆の驚異と見なし排除することに躊躇いは無い。和解の余地を僅かに残していた決闘は今、紛うことなき殺し合いと化したのである。


『――■■。』


ㅤ反動でその場で硬直したクロノに、返しの鉄塊が叩き付けられる。重力を味方に付けた鉄の塊をまともに受けては、星の英雄たるクロノも無事では済まない。視界が大きくぐらりと揺れ動き、滲む血の色に染まっていく。


『――■■。』


ㅤダルケルの護りの反動が消えても、痛みで身体が動かない。腕の力が抜け、白の約定をその場に落としてしまう。クロノを無力化できるこの上ないタイミングであるにも関わらず――ダルケルはもはや止まれなかった。クロノの本気の殺意を認識してしまったから。ダルケルの護りを持つ自分でなければ、まず死んでいたであろう一撃――それがゼルダや、他の仲間たちに向けられるかもしれないのを黙認することはできなかった。クロノを殺す覚悟を決め、鉄塊を大きく振りかざす。


『――■■。』


ㅤ俺が何をしたんだよ――そんな気持ちは、とっくにクロノの中から消えていた。多分、こういうのよくある事なんだろ。宿命やら仇やらが誤解に始まって、最終的に後戻りできないくらいに拗れてしまうことなんて。ラヴォスの復活を巡って人類と長らく争ってきたあの魔王が。最終的にカエルと化した勇者によって討たれたあの人類の敵が。実は俺と同じように、愛する人のためにラヴォスの復活を阻止しようとしていたなんてさ、今さら誰が信じるよ?


『――■■。』


ㅤ結局、誤解の余地を大いに残した俺は英雄の器じゃなかったってことだ。そもそも英雄になりたかったのも、マールに釣り合う身分になりたかったからで、だけどもうマールはいない。幸せな夢は終わったんだ。それならもう、今さら英雄になんてならなくたっていいじゃないか。


『――■■。』


ㅤそう――これは、幾つもある物語の結末の中の、たったひとつ。


『――■罪。』


――なぁ、それでいいだろ?


『――有罪。』

291亡き王女の為の英雄裁判 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:46:45 ID:55OUh4YY0











「――いいわけ、ねぇだろ。」

ㅤ突如、クロノの目に光が点る。怒りや悲しみに任せて戦っていた先ほどまでとはどこか違う、吹っ切れたようにその目は澄んでいて。

ㅤその突然の変貌に驚愕するダルケルの方へと向き直り。

「悪ぃな。」

ㅤそして一言、呟いた。

「俺はもう、自由にやらせてもらうよ。」



『――シャイニング』



ㅤ辺り一面を、神々しく煌めく極光が包み込んだ。





ㅤ終わりを覚悟した瞬間、走馬灯というものがクロノの脳内を駆け巡った。



ㅤ千年祭で、マールと出会った時。今思えば、あれが全ての始まりだったんだよな。

ㅤ中世で、マールの姿が突然消えてしまった時。情けねえことに俺、パニックになっちまった。ルッカがいなかったら、何が起こったのかも分からずじまいだっただろうな。

ㅤ未来の世界で、星の滅亡の運命を変えようと、マールが言い出した時。あの時からだっけ、英雄ってもんを目指し始めたのは。マールと生きるべき世界で俺は王女誘拐の大罪人。そのくらいしねえと、誰も王家との結婚なんざ認めてくれねえよ。

ㅤそれからも、太古の世界、古代文明の世界、色々な所の記憶を垣間見て行った。楽しい記憶も悲しい記憶も、どっちが多いとかじゃねえ。どっちもたくさん入り交じっていたけどさ。

――全部、そこにはマールがいたんだ。

ㅤいつか、ロボが言ってた。走馬灯ってのは、『あの時にもどりたい』、『あの時ああしていれば』という、強い想いの現れだって。マールを失った俺は、後悔していたんだ。どうすれば、この結末を避けられていたのか、そればっかり考えていたんだ。

ㅤでも、俺は知ってるはずさ。結末なんて、過去も未来も問わず、如何様にも変えられるってことを。実際に俺、1回死んだことあるんだぜ?ㅤでも今はこうやって、ちゃんと生きてる。だからマールのことだって、まだ諦めるには早い。やれることを全部やってからじゃねえと、終わるにも終わり切れねえよ。

ㅤだから、さ。

292亡き王女の為の英雄裁判 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:47:23 ID:55OUh4YY0
「いいよ、掴んでやるよ。優勝者に与えられる、"願い"ってやつを。」

ㅤそれは、修羅の道だ。されど、マールと再び会える可能性が僅かにでも残された希望の道でもある。

「ぐっ……!ㅤ待て……!ㅤやっ……ぱり……オメェ……が……グレイグって……奴を……!」

ㅤその時足元では、ダルケルの護りを使う暇もなくシャイニングの閃光に焼かれたダルケルが、クロノに向けて手を伸ばしていた。

ㅤ心の奥底に潜んでいたクロノの影をその目に焼き付けたダルケルは、クロノへの誤解がもはや確信へと変わっていた。そして、僅かにでもゼルダを疑ってしまったことを恥じ、後悔した。

「ああ、俺が殺した。」

ㅤそんな様々な感情が入り交じるダルケルの想いを悟ったクロノは、吐き捨てる。今さら過去の冤罪のことなんざ、どうだっていいよ。

ㅤそれよりもコイツは俺に、俺の本当に大切なものを気付かせてくれた。

――せめて、信念だけは間違っていなかったと、そう思いながら逝ってくれ。

「ちく……しょ……」

ㅤ拾い上げた白の約定で、ダルケルの身体を両断する。自分の決意を確かめるように。時を遡ろうとも消えない罪を、己の手に刻み付けるように。

ㅤこうして、在る英雄を巡る決闘裁判は幕を閉じた。判決は、無罪。しかし、ひとつの罪がその身に刻まれることとなる。

ㅤ罪も悪も受け入れて、ある英雄の、新たな夢が始まる。

【ダルケル@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルドㅤ死亡確認】

【残り 50名】

【A-4/ハイラル城 入口一日目 午前】

【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:白の約定@NieR:Automata
[道具]:基本支給品、ハイリアの盾(耐久消費・小)(@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド)、ランダム支給品(1個)
[思考・状況]
基本行動方針: 優勝し、マールを生き返らせる。
1.そのためには仲間も、殺さないとな。

※マールの死亡により、武器が強化されています。
※名簿にいる「魔王」は中世で戦った魔王だとは思ってません。

※ED No.01 "時の向こうへ"後からの参戦です。このルートでは魔王は仲間になっていません。
※元の世界の仲間が参加していることを知りません。
※グレイグからドラクエ世界の話を聞きました。


※ダルケルの持っていた支給品は、シャイニングにより焼失しました。

※周囲の怨念の沼の中に、古代兵装・盾@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルドが落ちているかもしれません。

293 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:47:55 ID:55OUh4YY0
以上で投下を終了します。

294 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:07:24 ID:MmWUg2AQ0
お久しぶりです。
ゲリラ投下します。

295誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:08:47 ID:MmWUg2AQ0

先に動き出したのは当然、真島吾朗だった。

朝陽ですら捉えられない速度でトレバーの懐に潜り込んだ真島はがら空きな腹部に向かって四発の拳と二発の蹴りを叩き込む。計六発の打撃を受けてからトレバーは初めて自分が攻撃されたのだと気づいた。
だがそれに気付いたところでトレバーの行動は変わらない。大幅に軽減された衝撃はこの男を止めるにはあまりにも役不足で、左手の共和刀が白い線を描いた。
確実に命を奪うつもりで放たれたそれは結果的に真島の髪の毛一本すら断ち切ることも出来ず、大きく後退した狂犬へ追い討ちをかけるように右手のショットガンをぶっ放す。
凄まじい炸裂音はしかし肉を穿つ音が混じらない。床、壁と連続で蹴りいつの間にか三角飛びの要領でトレバーへと飛び込んでいた真島はそのまま膝蹴りを側頭へと叩き込んだ。

「ちッ……」

舌打ち。しかしそれは蹴りを受けたトレバーのものだけではなく、床に着地した真島も同じだった。

296誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:09:26 ID:MmWUg2AQ0

「やっぱ手応えが薄いのォ〜、なんで殴ってる方が痛いねん」
「だから言ったろ? 俺はアイアンマンなんだよ」
「はッ、アイアンマンの素顔ってこないな不細工やったんか」

軽口を返しながらも真島は内心どうしたものかと思考を巡らせていた。
自分が負けるとは微塵も思っていない。だが攻撃が通らないのならば勝つこともできない。顔面になら攻撃が通ると思ったがネックガードが頚部への衝撃を軽減させているようで、目立ったダメージが見受けられなかった。

と、考えている間に共和刀の刺突が先程まで真島の額があった空間を貫いた。
大きく背中を反らしそれをやり過ごした真島はそのまま流れるようにバク宙キック。ネックガード越しの軽い衝撃がトレバーの顎を揺らした。が、相変わらずダメージにはならない。

「これで分かったろ? マジマ。てめぇがどんだけ速く動けようが、武装の差は埋められねぇんだよ」
「……お前、なんか勘違いしとらんか?」
「あァ?」

心底理解できない、という風に首を傾げるトレバーの視界は次の瞬間、飛来する瓦礫によって埋められる。
ガン、と額を打つ衝撃に思わず目を閉じすぐさま開く。と、そこには既に真島の姿は無かった。
迷わずに背後を振り向くトレバー。と、その右のこめかみを何かが勢いよく打ち抜き、陶器の割れる音を間近で聞いた。

297誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:10:06 ID:MmWUg2AQ0

「武器なんざそこら中にありふれとんのや」

真島の手に握られていたのは割れた花瓶。まるでワインボトルでも握るかのように手に収まるそれは真島にとって立派な刃物。ここに来て初めてトレバーの表情に戦慄が垣間見えた。

「ヒィィィヤッ!!」

狂気的な叫びと共に放たれる花瓶の刺突はスーツの繊維の隙間を縫いトレバーの腹部に突き刺さる。苦悶の声を上げるトレバーに追い討ちをかけるように、突き刺さる花瓶へと膝蹴りを叩き込んだ。
肉に刃物が食い込む感覚が気持ち悪い。トレバーはこの場で初めて覚える痛覚に未だ囚われたままだった。

真島にとって無手であることはさほど問題にならない。何故ならば彼にとっては周囲の環境全てが"武器"なのだから。
それは今さっき戦ったリンクや、かつて数え切れないほど拳を交わした桐生も同じだ。何も武器とは生物を傷つける用途に作られた物だけに限らないのだ。
銃や刃物を武器として見ていたトレバーは自分の知らない世界をむざむざと見せ付けられた。

「トドメやァ!!」

終了宣言。同時、真島の足刀が花瓶に叩き込まれる。深く、深く突き刺さるそれはやがて負荷に耐えきれなくなり粉々に砕け散った。
腹部から赤い染みを滲ませるトレバーはしかし倒れ込む寸前で踏みとどまり、憤怒に満ちた顔を上げろくに狙いも定めずに銃弾を放つ。
しつこい奴や。そんな悪態を叩ける程には余裕を持ってそれを回避する。が、立て続けに二発目の鉛玉が風を切った。

ヤケになったのか、その銃弾はやはり真島を穿つことは無い。続く三発目。これも真島は危なげなく回避する。
懲りずに四度目、銃口を向けるトレバーに一種の哀れみを抱きながら真島は引き金が引かれる寸前に右へのスウェー回避を取った。

急速に体一つ分右側へ移される視界。その端で、真島は信じられぬものを見た。
回っていた、トレバーが。

「あ────?」

それに気付いた瞬間、真島の脳が大きく揺さぶられると共に視界が明滅する。
コマのような回転により遠心力を付けたショットガンでの横薙ぎ。三発目の時点で既に弾切れだったそれは鈍器として真島の頭を叩き割ったのだ。

298誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:10:53 ID:MmWUg2AQ0

「く、ッ……そが……!!」

トレバーの怪力にパワードスーツの人工筋肉が加わったその一撃は如何に真島が頑丈といえど関係ない。頭から血を流し膝を付ける真島をトレバーが見下ろす。
その顔には愉しげに、心底愉しげに笑っていた。

「さァ〜て、どう拷問してやっかなァ? 楽には殺さねぇぞ。まずはその残った右目を抉って次に指全部一本一本切り取って次に腕切り落として──」
「──なんでや」
「あァ?」
「なんで俺の動きが分かったんや」

恍惚としたトレバーは如何に真島を苦しめようかという至福の時間を邪魔されたことにより不機嫌なものに変わる。
確かにほしふるうでわを装着した真島の動きはおよそトレバーが反応出来る速度ではなかった。

「簡単な事だ。てめぇの左側には壁があった。真正面からの銃弾避けるんなら右側しかねェだろ」

しかし、その理屈は思ったよりも単純なものだった。

「自分の速度に自惚れちまったか〜? なぁ、マジマ。てめぇはゴキブリと同じなんだよ。カサカサ動き回ってるだけで人間様に勝てると思ったのか? えぇ? いい勉強になったろ。虫如きじゃこれが限界だってな」
「……ああ」
「おーおー、すっかり潔くなっちまって。気が変わった、これ以上マジマが苦しむ姿見たくねぇから楽に殺してやるよ」

項垂れる真島の脳を貫かんと切っ先が死の音を立てて迫る。トレバーは酷く悲しそうに、愉しそうに口角を釣り上げた。


「──おかげさまで、鬱陶しい目眩も無くなったわ」

299誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:11:32 ID:MmWUg2AQ0


鳴り渡る金属音。窓の外へ弾き飛ぶ共和刀。
痺れの残る左手を呆然と見つめるトレバーは何が起こったのか理解出来ていないようだった。

──ドス弾きの極み──

相手の刺突に合わせて回し蹴りを叩き込む事で刃物を弾き飛ばす真島の得意技。
トレバーの長ったらしい演説により稼いだ時間で目眩から立ち直った真島。障害を取り除いた彼にとって片膝をついた状態からその行動に移すのはそう難しいことではなかった。

「てめッ──」
「喋んなや、人間様。虫のど根性見せたるわ」

武器を失い激昴するトレバーの口を文字通り塞いだのは真島の足。口内を切ったのかトレバーの口から赤い唾液が飛び散る。
体勢を立て直そうとするトレバーだが、まるで踊りの延長かのような華麗な蹴りを連続で叩き込まれるせいで身動きが取れない。

「ぐッ、ぅ……お、ぇ……!」

ダメージはない。ない、が……連続で腹部に衝撃が走るせいで内蔵が絶え間なく揺らされ、激しい吐き気に見舞われる。恐らくは二日酔いのせいもあるのだろう。加えて先程花瓶の刺さった箇所に響いて傷口が開くのが分かる。
そうして脱力した体は真島の蹴りの衝撃に導かれ、少しずつ後退を余儀なくされる。そうしてトレバーの体は窓際へと追い詰められた。

「構えろや」

空気が変わる。
トレバーは言葉を発することなく、凹んだショットガンを盾代わりに己の眼前へと突き出した。
ぐわんぐわんと気持ち悪く揺れる視界はそれでもくっきりと映し出す。自身へ背中を向ける寸前、凶悪過ぎる笑みを浮かべる真島吾朗の姿を。

300誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:12:20 ID:MmWUg2AQ0


「ヒイィィィィ────ヤァッ!!」


世界が破裂するかのような錯覚を覚えた。
真島吾朗という狂犬が振り絞った全力の後ろ回し蹴り。
それはショットガンを叩き割り、スーツでも防ぎ切れない衝撃を体全体に伝え、トレバーの意識を呆気なく刈り取りその巨体を窓外へと吹き飛ばした。

──蹴り落としの極み──

喧嘩における勝利とはなにも相手を殴り倒すことに限ったわけじゃない。試合ならばそうなのだろうがなんでもありの喧嘩においてそれは愚直。
如何なる形でも戦闘不能に追い込んでしまえば勝ちは勝ちなのだ。現に真島はそういう戦いをして生き残ってきたのだから。

窓から顔を出し悠然と広がる光景を見下ろす。
城を囲うように生えた木々に遮られトレバーの様子は確認出来なかったが、恐らくは死んでいないだろう。真島としてはどちらでも良いが。
時計を確認する。時刻は五時五十七分──放送までの時間は三分。

「参ったのぉ。俺とした事が、二分もオーバーしてもうたわ」

適当に引きちぎった布を頭に巻いて止血しながら真島が気だるそうに呟く。
本来そんなことを気にする場合じゃないのだが、それを指摘してくれる存在は周りにいない。
とにもかくにも放送まで残り三分。腹が減ったし何か食べるかとデイパックから引っ張り出したおにぎりに齧り付いた。

「なんや、勝利の味にしちゃ随分しけとるわ」

そうしてあっという間におにぎりをひとつ食べ終える。そのまま二つ目のおにぎりを取りだした真島はぴたりとその手を止めた。

301誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:12:58 ID:MmWUg2AQ0

「「こんにちは、真島吾朗」」

透き通った二つの声が響く。
真島がちらりとその方向へ目を向けると、騒動の終わりを感じ取ったバーベナとヘレナの姿があった。
敵かと一瞬身構えるも、微塵も敵意が感じられないことに気が付けばそのまま何事も無かったかのように食事を再開する。
二人の女神はそれを止める気もなくぽつぽつと語り始めた。

「貴方は脅威を一つ払い除けた。参加者でもない私達が言うのもおかしな話だけれど、ありがとう」
「別に感謝されるためにやったわけちゃうわ。それにお前ら運営側やろ。そんなこと堂々と言ってええんか?」
「言葉の自由は許されています。もっとも、彼らにとって都合の悪いことを除けばの話ですが」
「ほ〜、気に入らんもんは即爆破っちゅうわけやないんやな」

揃えてぺこりと頭を下げるヘレナとバーベナを真島は見向きもせず、鬱陶しそうにひらひらと手を払わせる。
首輪をしていないことから彼女達が運営側だということは容易に察せた。が、ここまで露骨に協力的ではない態度を見せるとは予想外だった。
とはいえ真島にとっては毒にも薬にもならない。先程真島が言ったように感謝される筋合いなど微塵もないのだから。

「はじまったか」

放送開始を示すチャイムが鳴る。
顔を引き締め耳を澄ます。最初こそ放送などどうでもいいと思っていたが、雪歩達のような一般人が巻き込まれていると知った今は状況が違う。
この六時間で何人死んだか、そしてリンク達が生存しているかを確かめなければならない。
放送は情報の宝庫だ。仮にも組長という立場に所属している真島はそれを弁えていた。

が、そんな彼の思考は放送が始まってすぐに弾け飛ぶことになる。

302誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:13:37 ID:MmWUg2AQ0


──桐生一馬


「は?」

疑問符。
動揺よりも先に頭の中をハテナマークが埋め尽くす。
きりゅうかずま、キリュウカズマ、桐生一馬──酷く聞き覚えのある名前だ。
その名を持つのは伝説の男、堂島の龍に他ならない。真島にとって最大の好敵手であると言っても過言ではない存在だ。

そんな彼の名が放送で呼ばれた。
その事実が示唆することに気付くのに数瞬かかり、嫌に鮮明に聞こえるマナの声に再び耳を傾ける。

名簿の支給、禁止エリア、Nの城の役割、支給モンスターの存在、そして運営は参加者の声しか確認出来ない。
それらの内容を頭の中で整理し、記憶する。その間、まるで真島は別人になったかのように冷静だった。

耳障りな少女の声が消え失せ、放送が終わる。
そうして張り詰めた糸が切れたかのように真島は項垂れ、目いっぱいの力で床を叩いた。

「……これが筋を通した結果かい、桐生チャン」

放送の内容が嘘だなんて理想で現実逃避する気は毛頭ない。彼のような猛者が死ぬはずないと過信するつもりもない。
どんな化け物じみた人間も鉛玉を額に受ければ死ぬ。真島が生きてきたのはそういう世界なのだ。

「どうせお前は誰かを守って死んだんやろな」

やっと紡いだ声は自分でも驚くくらい震えていた。
桐生一馬はそういう人間だ。超人じみたその力を迷いなく他人の為に使い、いつだって守るべき存在の為に命を張る。
だからって、仕方がないと感情を呑み込み平然とすることはどうしても出来なかった。

「…………はぁ」

深い深いため息。様々な感情を乗せたそれを吐き出した真島は力なく立ち上がる。立ち上がるという動作にこれほど労力を感じたのは初めてだった。
続いて新たに支給された名簿に目を通し、澤村遥と錦山彰の名前を確認する。錦山はともかく、遥の名まである事に真島は怒りを示した。

303誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:14:18 ID:MmWUg2AQ0

「とことん腐っとるわ、このゲーム」

彼にしては酷く冷たい声で吐き捨てる。
澤村遥。桐生一馬が命を懸けて守るべき存在。
本来真島にその少女を救う義理はない。けれど桐生亡き今、その役目を代わってやるぐらいはしてやりたかった。

「真島吾朗」

不意に名を呼ぶのは既に存在を忘れかけていたバーベナ。なんや、と冷たい声のまま振り返る真島の前へとヘレナが歩み出た。

「貴方はここで留まるべきではありません。貴方はきっと何人もの命を救える力と心を持っている。この残酷な運命を変えられる数少ない存在なのです」

淀みないヘレナの言葉には願望も込められていた。
そう、何もゲームの破壊を望んでいるのは真島だけではない。運営側であるヘレナとバーベナもそうであるし、リンク達のような未だ生存している参加者にも同じ意志を持つ人間は多数いるだろう。
ヘレナの言い分は随分と勝手だ。けれど彼女にはそうして託すことしか出来ないのだ。真島は知らずのうちに握り拳に力を込め、無理矢理に心の靄を払う。

「行きなさい、真島吾朗」

全ての思いを込めたバーベナの言葉を受けて真島吾朗の目は鋭利さを取り戻す。

「──言われんでもそうするわ! こないな悪趣味な殺し合い、この真島吾朗様がぶっ壊したるでぇ!!」

力強い宣言。城外へと駆け出す彼の姿を見て二人の女神は安堵した。
真島吾朗は狂人だ。けれどそれ以前に人間なのだ。それも桐生に匹敵する力を持ったこの殺し合いにおいても希少な存在。
狂犬の名を欲しいままにするその勢いで彼が城外へと飛び出したのを確認すれば、二人の女神は再び次なる存在を待つだけの駒に成り下がる。
ただ一つだけ変わったとすれば、彼女達の思いを受け取った者が現れたことだ。


【C-2/Nの城付近/一日目 朝】
【真島吾朗@龍が如く 極】
[状態]:頭部出血(止血済み)、疲労(中)、焦燥
[装備]:ほしふるうでわ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームをぶっ壊す。
1.とりあえず動かないと気が済まない。
2.遥を探し出し保護する。
3.桐生を探す(死体でも)。
4.錦山はどうしよか……。
5.雪歩が気がかり。

※参戦時期は吉田バッティングセンターでの対決以前です。
※運営が盗聴していることに気付きました。

304誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:14:56 ID:MmWUg2AQ0






「い、ッてて……畜生、最悪な気分だ……」

Nの城付近、意識を取り戻したトレバーが緩慢な様子で上体を起こす。直後今更になって猛烈に込み上げる不快感に抗えず嘔吐した。
それが収まり気分が晴れるかと思えばそうでもないようで、むしろ一度吐き出してしまったせいか体調はすこぶる悪い。おまけに腹部の刺傷が痛む。
それでもまるで寝起きの酔っぱらいかように立ち上がる彼の姿を見れば、今さっき六階の高さから落とされたと説明しても信じる者はいないだろう。それほどまでにトレバーの纏うスーツは常軌を逸していた。
しかし流石に無傷という訳では無いようで、バチバチと時折不穏な音を鳴らし電気を散らしている。今のところ問題なく動くようだが以前のような無茶な運用はするべきではないだろう。

「……マジマの野郎、やってくれやがったなぁ!! おかげで放送も聞きそびれたしよぉ!!」

時計は既に六時を過ぎている。つまり彼が眠りこくっている間に放送は終わってしまったのだ。
トレバーのような者が放送を重要視するとは思えないという感想を抱く者は多いだろう。しかし彼は見た目よりもずっと頭が切れる人物だ。
人死んだかという情報や禁止エリアの場所から大方参加者の場所を割り出すことも出来る。もっともその目的はその参加者を殺すことなのだが。

「俺様ぐらいになりゃあ禁止エリアなんかで死ぬようなヘマはしねぇだろうけど、知るに越したことはねぇよな」

酔いが覚めたお陰か冴える頭で思考を巡らせる。
彼の場合、最初のルール説明も聞き逃してしまっている。ざっとは真島から聞いたものの、断片的にしか覚えていない。
力よりも情報を持つ者が勝つ世界なのは彼の住む裏の世界でも同じだ。ならば──

「……さて、駒でも探すかな。待ってろよ、かわい子ちゃん達ィ〜〜!」

そういった情報源は利用するに限る。
先程出会った雪歩のような弱者は力をチラつかせれば簡単に従うだろう。そうでなくてもいくらでも嘘をついて取り込めばいい話だ。

楽しくなってきた──下品な舌なめずりに言いようのない狂気を宿したトレバーは、傍らに落ちていた共和刀を拾い上げアテもない旅に身を委ねた。

【トレバー・フィリップス@Grand Theft Auto V】
[状態]:腹部に軽い刺傷、大きな不快感、興奮、怒り、殺意
[装備]:パワードスーツ(損傷率25%)@METAL GEAR SOLID 2、共和刀@METAL GEAR SOLID 2
[道具]:基本支給品(水1日分消費)
[思考・状況]
基本行動方針:好き勝手に行動する。ムカつく奴は殺す。
1.マジマを筆頭にムカつく奴を殺して回る。
2.使えそうな奴は駒にする。
3.マイケル達もいるのか?

※参戦時期は「Cエンド」でのストーリー終了後です。
※ルール説明時のことをほとんど記憶していません。
※放送の内容を聞き逃しました。

305 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:15:16 ID:MmWUg2AQ0
投下終了です。

306 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:16:05 ID:MmWUg2AQ0
続けてゲリラ投下します。

307夢追い人の────(前編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:18:19 ID:MmWUg2AQ0

──自分に力が無いことなんて分かっていた。

2Bさんもリンクさんも凄く強くて、かっこよくて、この二人と一緒にいれば大丈夫だって心のどこかで安堵していた。
けどそれは甘えでしかなかった。だって現に今、必死に走る私の後ろで2Bさんが命を懸けて戦っているんだから。
2Bさんは強いけど無敵じゃない。アニメや漫画のヒーローなら負けなんてないけれど、これは現実なんだ。もしA2さんが負けてしまったらきっと──殺されてしまう。

「はッ、はッ、は……ッ! げほ、ッはぁ……!」

そんなの嫌だ。
2Bさんは私を守る為に戦ってくれているんだ。私が原因で友達が死ぬなんて絶対に駄目なんだ。
私は確かに弱い。きっとここに呼ばれた人達の中でも遥かに下の立場にいる。

けれど、けれど──!
力が無くても、友達を守ることは出来るはずなんだ!

「私、が……ここにいる、理由は──!」

走る、走る、走る、走る。
来た道を真っ直ぐに走る。
伝えなければならないから。
2Bさんの危機を彼らに伝えられるのは私だけなのだから。




308夢追い人の────(前編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:19:10 ID:MmWUg2AQ0


「──お、おい……大丈夫、なのかよ?」

震えた声の主、久保美津雄。
彼の視線の先にはリンクに上体を起こされ先程完成した回復薬を少しずつ飲まされているザックスの姿があった。
ゆっくりと嚥下を繰り返すザックスはお世辞にも"大丈夫"とは言い難い。けれどその問いから暫く、回復薬を飲み終えた頃にはザックスは歯を見せて笑いこう言った。

「大丈夫だ、元気元気!」

そんなザックスを見て美津雄は呆れたように溜息を吐く。その溜息に安堵のものが含まれていることも知らずに。
グレートでもない回復薬の回復量などたかが知れている。今のザックスの怪我の具合を考えると動くことが出来ない状態から辛うじて歩く事ができる状態になった程度だろう。
勿論そんなことはハンターでもない美津雄には分からず、それを察したリンクも余計な口出しを控えザックスの笑顔を崩さぬようにしているのだから彼の空元気を指摘出来る者はここにはいなかった。

「とりあえず、今できることはした。他にも薬がないか探したいけれど、君達を置いていく訳にはいかない。2B達が戻ってくるまで辛抱してくれ」
「……そ、そうか、わかった。聞いたかザックス!? お前、絶対安静にしてろよな!!」
「はいはい……ったく、耳元で怒鳴らなくたって聞こえてるよ」

リンクという頼れる大人から指示を受けた為か、ザックスに怒鳴り散らす美津雄にはどこか生気と希望が宿っていた。
まだ問題は山積みだ。さっき走り去って行ってしまった雪歩のこともあるし、その原因を作ってしまったのは自分にある。
状況が状況だったとはいえ、あの時の美津雄は冷静じゃなかった。リンクやザックスが自分に対してそうであったように、まずは落ち着いて話をしなければならない。
今まで自分中心に世界が回っているという思考を持っていた美津雄がそんな風に省みる事が出来るのはひとえにザックスとの出会いに他ならないだろう。

309夢追い人の────(前編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:20:08 ID:MmWUg2AQ0

「ザックス」
「んー?」
「ああ、その……えーっと……あ、ありがとな。庇ってくれて」

それは美津雄の口が初めて紡いだ感謝の言葉だった。
他人に感謝するなんて考えたこともなかった。そんな機会も二度と訪れないと思っていたし、そうならないように生きるつもりだった。
ゆえに彼がそれを発するには彼が思う以上の勇気が必要で、それを言い切っただけでも言いようのない感情がせりのぼり泣きそうになった。

「はは、ガラじゃねぇな」
「なっ……お前なぁ!!」

しかしそれは半笑いで返される。
思わぬザックスの反応に赤面しながら怒りをぶつける美津雄。そんな彼と目線を合わせたザックスは静かに、けれど感情の隠せぬ声色を風に乗せる。

「けど、嬉しいぜ。 まさか美津雄からそんなこと言われるなんてな」
「え……いや、まぁ……こんな状況なんだから、仕方ないだろ」
「照れるなって。可愛いやつだな〜」

相変わらずふざけた口調を崩さないザックスに美津雄は再びなんとも言えぬ表情を作り、すぐにむくれたように顔を背ける。
そんな彼らのやり取りをどこか微笑ましく思いながらも、リンクの心中は不安に溢れていた。

310夢追い人の────(前編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:20:45 ID:MmWUg2AQ0

(……2B達、遅いな)

2Bが雪歩を追ってから決して短くはない時間が経過している。杞憂で終われば良いが、どうにも嫌な予感が拭えない。
果たして自分はこうしていていいのか?
何度目になるかも分からない疑問に突き動かされ、休息を拒む身体に従い立ち上がったその時。

「──リンクさんッ!!」
「雪歩!?」

2Bが向かった先からまるで入れ違ったかのように此方へ走り寄る雪歩の姿が映る。
その様子はとても穏やかなものではない。こんな時、勘のいい自分をリンクは恨んだ。

「助けて……ください……!! 2Bさん、がっ、2Bさんが……っ!!」
「──!!」

事情も聞かず、状況が未だ掴めず困惑する美津雄とザックスを置いて雪歩の元へ駆けるリンク。
2Bに何かあったのだということは察した。そして雪歩の必死な様子からして自体は深刻、一分一秒すら無駄にすることは出来ない。
しかしリンクの脳に一瞬の迷いが生じる。その原因は彼の向けた視線の先にあった。

「リ、リンク……何があったんだよ?」

震えた声でそう聞く美津雄の顔は恐怖に歪んでいた。当然だ、雪歩が戻ってきたということは近くに危険人物がいるということ。
もしリンクがここを離れたら美津雄と瀕死のザックスを守る存在はいなくなる。それはつまり二人を危険に晒すということだ。
目に映るもの全てを守るつもりで生きてきた英傑は足を止める。しかしその背中を押すようにザックスが穏やかな顔付きでリンクと視線を交わした。

「行け、兄ちゃん。大丈夫だ、こいつは俺が守るからよ」

なっ──と驚愕の声を上げる美津雄。
一切冗談の混じらない本気の言葉にリンクは迷いを捨て、強い頷きと共に雪歩の手を引いて山岳地帯へと奔走する。遠ざかる背中に美津雄は焦燥を、ザックスは安堵を覚えた。




311夢追い人の────(前編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:21:36 ID:MmWUg2AQ0


戦況は絶望的だった。
一度打ち合う度に2Bは思い知らされる。自分はこの男には勝てないと。
アンドロイドを凌ぐ怪力と二メートルに達する得物のおかげで打ち合いという体裁を成すことでさえ精一杯だ。
刀身が衝突し、刀が手元から離れないように柄を握り直す。これが先程から何度も何度も続いている。
拮抗の糸はとっくに解けている。そうして遂にギリギリの綱渡りは終わりを迎えた。

「──ッ!!」

幾度と打ち合い限界を迎えた手から陽光が弾き飛ばされ、続く二振り目で右の太腿を深く斬りつけられた。
舞う血飛沫と火花に力が抜けるのを感じ、右足から崩れ落ちる。しまった、と思う頃にはもう遅かった。
理不尽じみたリーチは2Bの間合いの遥か遠くからでも届いてしまう。仮に今の状態で逃げに徹しても両断されるのがオチだろう。
正宗を持ち直し振りかぶる死神、カイムの狂喜が鮮明に映し出される。次の瞬間には首が飛んでいるだろう。

(──ごめんなさい。雪歩、リンク……9S)

そうして振り下ろされるはずの刃はその役目を果たさずに終わる。
その原因を目にした2Bはまさかと驚愕の表情を宿し、今しがたカイムの手を打ち抜いたブーメラン状の枝が半円を描きながら持ち主の手に収まるのを目で追う。
木漏れ日に民主刀の白光を際立たせ、疾風のようにカイムと2Bの間に割り込む金髪の青年。思わぬ乱入にカイムの表情が警戒のものへと変わった。

「リンク……!?」

2Bの声と同時、リンクの振るう剣戟によりカイムが後方へと飛び退く。
互いに間合いの外へと出た状態。殺意を滲ませるカイムの睥睨に決意を込めた双眸を返しながらリンクは高らかに宣言した。


「お前の相手は俺だ」



【D-2 山岳地帯/一日目 朝】

【リンク@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:胸上に浅い裂傷、決意
[装備]:民主刀@METAL GEAR SOLID 2、デルカダールの盾@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて ブーメラン状の木の枝@現実
[道具]:基本支給品(残り食料5/6)、ナベのフタ@現実 残ったアオキノコ×2
[思考・状況] :ゼルダはどうしているだろう?
基本行動方針:守るために戦う。
1.2Bを守る。
2.美津雄、雪歩を守る。
3.ゼルダや他の英傑に関する情報を探す。
4.首輪を外せる者を探す。

※厄災ガノンの討伐に向かう直前からの参戦です。
※ニーアオートマタ、アイマスの世界の情報を得ました。
※美津雄の調合所セット(入門編)から薬に関する知識を得ました。

【ヨルハ二号B型@NieR:Automata】
[状態]:両腕に銃創(行動に支障なし)、右太腿に深い裂傷、決意
[装備]:陽光@龍が如く 極
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破壊。
1.リンク……!?
2.D-2、765プロへ向かう。
3.雪歩を守る。
4.首輪を外せる者を探す。9S最優先。
5.遊園地廃墟で部品を探したい。

※少なくともAルートの時間軸からの参戦です。
※ルール説明の際、9Sの姿を見ました。
※ブレスオブザワイルド、アイマスの世界の情報を得ました。

【カイム@ドラッグ・オン・ドラグーン】
[状態]:ダメージ(小)、魔力消費(中)
[装備]:正宗@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品 エアリスの基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、マナを殺す。
1.目の前の敵を殺す。
2.自分よりも弱い存在を狙い、殲滅する……つもりだったが?
3.雷を操る者(ウルボザ)のような強者に注意する。
4.子供は殺したくない。

※フリアエがマナに心の中を暴かれ、自殺した直後からの参戦です。
※契約により声を失っています。
※正宗に自分の魔力を纏わせることで、魔法「コメテオ」が使用できます。




312夢追い人の────(前編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:22:18 ID:MmWUg2AQ0

(リンクさん、2Bさん……)

カイム達が居る場所から少し離れた茂みの中、そこには震える身体を懸命に縮める雪歩がいた。
2Bの元へリンクを連れていくという役目を終えた雪歩は当然戦いの場に赴くような真似はできない。ゆえにここで待機するように、とリンクから指示された。
幸い緑の多いこの地帯で、茂みの中ならばそう簡単に見つかることはないだろう。リンク達の状況を確認できない不安やもし見つかってしまった場合の恐怖を考えるとキリがないが。

(きっと、大丈夫……ですよね……?)

それでも雪歩は信じる。
すぐにまたリンクと2Bが自分を迎えに来てくれると信じている。
そうすることが彼女にとっての戦いなのだから。

そんな彼女の腰元にて、提げられた赤と白のボールが揺れる。
まるで自分の活躍を待ち望むかのように。


【D-2 山岳地帯 離れの茂み/一日目 朝】

【萩原雪歩@THE IDOLM@STER】
[状態]:不安、恐怖
[装備]:モンスターボール(リザードン)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー
[道具]:基本支給品、ナイフ型消音拳銃@METAL GEAR SOLID 2(残弾数1/1)
[思考・状況]
基本行動方針:自分の無力さを受け止め、生きる。
1.D-2、765プロへ向かう。
2.2Bとリンクへの信頼。
3.協力してくれる人間を探す。他に765プロの皆がいるなら合流したい。

※ブレスオブザワイルド、ニーアオートマタの世界の情報を得ました。

【モンスター状態表】
【リザードン ♂】
[状態]:健康
[特性]:もうか
[持ち物]:なし
[わざ]:エアスラッシュ、フレアドライブ、りゅうのはどう、ブラストバーン
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.そろそろ暴れたい

313夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:23:03 ID:MmWUg2AQ0





「お、おいザックス……」

行かせてよかったのか。そう喉まで出かかったところで美津雄は言葉を呑み込んだ。
事態の優先順位を考えればリンクを行かせるのは当然なのだろう。それでも自分達が危険な目に遭遇した場合のことを考えると恐怖で体が震える。

「心配すんなって。言っただろ、お前は俺が守るって」
「つ、強がり言うなよ! お前だってそんなボロボロなんだから、戦えるわけないだろ!」
「大丈夫、俺はそんなヤワじゃねぇよ」

半ば意地になっている美津雄の制止も虚しく、まともな休息も得ないままザックスは立ち上がる。
怪我の具合を考えればそれだけで辛いはずなのだ。座るように促そうとした美津雄の行動はしかし叶わずに終わることとなる。


「──あんたらもそう思うだろ?」


え、という美津雄の声を空を切る音が掻き消す。
呆ける美津雄の額に飛来する透き通った氷刃を目にも止まらぬ速さで打ち落とし、ザックスはその飛来源へと睨みを利かせる。

「まさか気付かれていたなんてね」

古いコンクリートビルの陰から姿を現す二人組の女性。朝陽を浴びてくっきりと顔を映し出す彼女らの表情はひどく冷淡で、美津雄は「ひっ」と情けない声を漏らし腰を抜かした。

「いつから気付いていたの?」
「生憎と殺気には敏感なんでね。リンクが行ったタイミングで仕掛けて来ると思ったけど……当たっちまったか」
「……そう、そこまで分かっているのね」

長い黒髪を縛ったスレンダーな女性、マルティナは目を伏せる。出来れば一瞬で終わらせたかったが、この男がいる限りそれは叶わないだろう。
ザックスの容態は見るからに重傷だ。それでもこれ程の闘志を燃やせる人間には──全力で掛からなければならない。

314夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:23:37 ID:MmWUg2AQ0


◆ ◆ ◆

「──反応してる、しかも三つ。更にもう一つがそっちの方向に向かってる」
「そんなに?」

時は少し遡る。
橋を南下する途中、ミリーナは自身の──正確に言えば天海春香の支給品を取り出した。
ストップウォッチのような形状のそれは、説明書を見る限り範囲内の参加者の首輪に反応し居場所を知らせる装置らしい。
一度使用したら一時間のクールタイムが必要らしいが、橋を渡っている最中に襲撃されれば無傷では済まないと安全確認の為に使用したものだった。

しかし、その安全確認は予想外の結果を得た。
一つの場所に計四つの反応。これは言わずもがな集団を築いているということだろう。
そして考える限り、これほどの集団を築くのは甘い考えを持った対主催の存在しか当てはまらない。

「……これは、上手くいけば使えるかもしれないわね」
「使える……?」
「さっき言ったでしょう、人質を取るって。これだけ集まっているのだから一人くらいは春香のような一般人が居てもおかしくないわ。……暫く様子を伺って、隙を狙えば大人数が相手でも立ち回れるはずよ」

それに、貴方の言うイレブンが見つかるかもしれないしね。そう付け加えるミリーナにマルティナは唖然とした。
マルティナは良くも悪くも真っ直ぐな人間だ。ゆえにこの殺し合いでもミリーナがいなければ出会った者と真っ向から戦い、殺害するという手段を取っていただろう。
改めて"殺し"に懸けるミリーナの本気を見せ付けられたような気がして、マルティナはそれに頷くことしか出来なかった。

「攻めるにしても逃げるにしても判断は迅速にしましょう、ミリーナ」
「ええ、そうね」

人数はこちらの二倍。危険も相応。
しかしこんな甘い蜜を前にして、ミリーナ達は北上という選択肢を取る他なかった。


◆ ◆ ◆

315夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:24:13 ID:MmWUg2AQ0

「ミリーナ、瀕死だからって油断しないで。あの男は危険よ」
「言われなくてもわかってるわ。……雪風をあんなに簡単に防がれるなんて」

光鱗の槍を構え直すマルティナに続き、ミリーナも術技を放つ準備をする。
明確に向けられる殺意。貴音の時よりも濃密なそれを前に美津雄はひたすら絶望することしか出来ず、ばたばたと地を這う形でザックスの裾を引いた。

「に、逃げようザックス!! このままじゃ、こ、殺されるって!!」
「美津雄、お前はそこでじっとしてろ。……そんで、俺の活躍をよーく見とけよ」
「な、何言って……なんで、なんでそうまでして戦おうとすんだよ!!」

美津雄の反論もそのままにザックスは一歩、ミリーナ達の方向へ踏み出す。
重傷の身でありながら微塵も退く様子を見せないザックスに威圧され、ミリーナは顔を顰めた。

そして、ザックスは静かに巨岩砕きを顔の前に掲げ祈るように目を閉じる。
なにかの詠唱かと警戒するミリーナとマルティナをよそに、彼の思考は過去を辿っていた。

(お前ならこうするよな、アンジール)

思い浮かぶは自身に全てを託した仲間の顔。
夢も、誇りも、それらを受け継いだ自分は彼の背中を追い続けなければならない。追いつかないと知っていても、ずっと。
この剣はアンジールのものではないけれど、何となく分かる。この剣の持ち主は強い意志と優しさの持ち主だと。
なら、この剣に"誓う"のも悪くない。

316夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:24:55 ID:MmWUg2AQ0



「────夢を抱き締めろ。そしてどんな時でも、ソルジャーの誇りは……手放すなぁっ!!」


英雄の道は険しく、遠い。
だけど絶対に足は止めない。

「いらっしゃいませぇぇぇぇ!!!!」

後ろで美津雄がザックスの名を叫ぶ。
けれど止まらない。目の前の敵を手厚く出迎えなければならないのだから。

「雪風!」

自身の全力よりも遥かに速く向かってくるザックスにミリーナが術を放つ。氷の結晶が刃となりザックスの身体を貫かんと迫るが、それは巨岩砕きの一振りに砕け散る。

「鏡陽! 花霞!」

一つで駄目ならば数を増やせばいいとばかりに光の粒子を放射状に、飛び上がり花の粒子をそれぞれ五つずつ放つ。
高速で飛来するそれらを大剣で叩き落とすが、それでも全てに対処する事は出来ずザックスの身体に痛々しい裂傷が亀裂のように走る。
だが止まらない。

「っ……ウィンドカッター! シェルブレイズ!!」

地面から生える風の刃がザックスの足を傷つけ、炎の塊が腕を焦がす。それなのに彼は足を止めないどころか、僅かにもスピードを緩めない。
今までミリーナが放った術は敵を怯ませる為の小手先の技でも、ましてや瀕死の相手への牽制の技でもない。明確に殺意を伴い、無傷の人間を殺す技なのだ。

(なんで……っ!? なんで止まらないの!?)

だからこそミリーナは恐怖する。
今にも倒れそうなほどの傷を負った人間が自分の術をまともに受けながら向かってくるなんて初めてだ。
未知は脳から冷静さを奪い取る。遂に肉薄を許されたミリーナは咄嗟に迎撃しようと近接の術技に頼った。

「舞かぐ──」
「悪ぃな」

ドンッ、という衝撃がミリーナの首元に走ったかと思えば彼女の意識はそこで闇に落ちた。
もし彼女に記憶があるのならば、手負いのザックスに自分が加減されるという屈辱的な光景が目に焼き付けられただろう。彼は剣ではなく、手刀で彼女を沈めたのだから。

317夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:26:00 ID:MmWUg2AQ0

「ザックス!! 危ない!!」
「──っ!!」

瞬間、ザックスの脇腹を狙い鋭い刺突が放たれる。
美津雄の注意によりなんとか身を捻り回避するも、傷に響き灼熱のような激痛が迸った。

「敵は一人じゃないということを忘れないで」
「……ああ、そうだったな!!」

体制を立て直し刺突の主、マルティナと向き合うザックス。
今のザックスに時間は残されていない。ゆえに力任せの斬撃をマルティナに放つ。万全な状態ならまだしもこの攻撃を躱せないほどマルティナは落ちぶれていない。

油断はしていなかった。
けれどここまでの力を発揮するとは思っていなかったのが事実だ。この男は今、全力で潰さなければならない。
ミリーナを使って彼の力量を測ったからこそそう断言出来る。
出し惜しみしている暇はない。一撃で倒せる技を放つ──!



「──雷光一閃突きッ!!」



回避から流れるように穂先をザックスの方へ定め、雷光の如く迸る一突きが大気を抉る。
それは正確に、無慈悲に、ザックスの腹部を貫いた。

318夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:26:40 ID:MmWUg2AQ0

「ザックスーーーーーー!!!!」

美津雄が雄叫びを上げると同時、マルティナは心の中に湧き上がる罪悪感を振り払うかのように槍を引き抜こうと力を込める。

「……え」

しかし、引き抜くことはできなかった。
見れば既に死んだはずのザックスが槍の柄を掴んでいた。それだけで十分にゾッとしたが、信じられないのはその握力。
ピクリとも動かない。槍を手放すという選択肢がマルティナの脳に浮かぶよりも先に、顔を上げたザックスと視線が重なった。

「おわらせ、ねぇ……」

命の灯火を瞳に燃やす彼は、まだ──死んでいない。

「あいつの、ゆめは……おわらせねぇ……!!」

瞬間、マルティナの全細胞が警鐘を鳴らす。
体が金縛りにあったかのように動かない。
未来予知などというふざけた芸当ができるわけではないが、自分の運命が鮮明に見えたような気がした。
それは今まさにマルティナを討たんと巨岩砕きを横に構えるザックスが訴えている。マルティナは逡巡の中で走馬灯のように記憶が想起されるのが分かった。


『灰色の心じゃ、オレの速さにはついてこれない』


ああ、そうか。
白にも黒にも染まれない、中途半端な心の末路がこれか。
眩しいぐらいの白の心を掲げる目の前の男に負けるのは当然なのかもしれない。

(────けれど、私は……!!)

死ぬわけにはいかない。
彼を助けるためにも今死ぬわけにはいかないんだ。
灰色の心で敵わないのならば完全な黒に染まろう。そうでなければどちみち、未来などないのだから。

319夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:27:23 ID:MmWUg2AQ0


「私だって────貴方のようになりたかった!!」


涙を瞳の縁に溜めながらザックスへ、もう二度と叶わない夢を言い放つマルティナの肌が薄青紫色に染めあがる。
心の黒を表現するかのような衣装を身に纏ったまま、デビルモードにより上昇した腕力に縋り遂に光鱗の槍を引き抜いた。
それでもザックスの攻撃は止まらない。反撃を諦めたマルティナは槍を盾代わりに防御の姿勢を取った。

「うおおおおぉぉぉぉぉ────ッ!!」
「──あああああぁぁぁぁぁッ!!」

衝突。瞬間、衝撃波が辺りの瓦礫を浮かす。
互いの喉から咆哮がのぼる。或いは守る為に、或いは殺す為に。絞り出した声を余すこと無く力に変える。

光鱗の槍と巨岩砕き──それらの武器は共鳴し合うかのように輝きを放つ。
遠い世界に住む英傑の愛武器同士の競り合い。どちらも業物でありその質に一切の優劣はない。

けれど、先に亀裂が走ったのは光鱗の槍だった。

それは武器のせいではない。英傑の武器は等しく業物なのだから。
考えられるとすれば持ち主の覚悟の差。
目に見えぬそれが形となり、拮抗の糸を断ち切ったのだ。

320夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:29:15 ID:MmWUg2AQ0


一瞬、辺りが無音に包まれる。
少し遅れてマルティナの体が砲弾のような勢いで吹き飛ばされ、崩れる瓦礫の山に埋もれた。


勝利を収めたザックスは糸が切れた人形のように仰向けに倒れ込み、青い空を見上げる。
もう殆ど目が見えなかったが、太陽の眩しさはよくわかった。

「ザックス……ザック、ス……!!」
「……よぉ、美津雄……怪我、ねぇか?」
「ああ、ああ!! オレは、大丈夫……だよ。ザックスが、守ってくれた……から、……」

太陽を覆い、ザックスの顔を覗き込む美津雄の顔は涙でぐしゃぐしゃに歪んでいた。
ぼんやりとしか見えなかったが、声の震え方でわかる。ザックスはひどく穏やかに微笑んで、美津雄の頭を抱き寄せた。

「ザッ、クス……? なに、してんだよ!! 早く、治療しなきゃ……!!」
「……ダメだ」
「なんでだよ……!! なぁ、頼むから死なないでくれよザックス!! 守ってやるって言っただろっ!? 約束、破るのかよ!?」

堰を切ったように浮かぶ限りの言葉をぶつける美津雄。それに対してザックスは少しだけ困ったように笑った。

「ごめんな」

息が詰まる。
違う、こんな言葉が聞きたかったんじゃない。
自分はまだザックスに何も返せていない。
最後まで我儘を突き通そうとする自分が酷く惨めに思えて、美津雄は嗚咽を繰り返すことしか出来なかった。

321夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:30:23 ID:MmWUg2AQ0

「なぁ、美津雄……お前、夢ってあるか?」
「ないよ、そんなのない……!! オレには、なんにもないんだ……」
「そっ、か」

嘘でもあると言うべきだったのかもしれない。けれど、ザックスの目を見ると嘘をつくことなどできなかった。
夢なんてなかった。ただ空っぽの毎日を送り藻掻くように生きてきて、夢を見る余裕なんてなかった。
いつからか、自分はそんなものには囚われない自由な人間なんだと言い訳をするようになってしまったんだと思う。

「オレには……夢を持つ、資格もないよ……」
「ばー、か。夢を、持つのに……資格、なんて、いらねぇよ」

そっ、と頬を撫でられた。
ザックスの手はとても冷たかったけど、なぜか撫でられた頬がとても暖かく感じる。
段々と光を失っていくザックスの瞳と視線が重なる。背けたくなるほど真っ直ぐなそれを、同じように見つめ返した。


「夢を持て、美津雄。そしたらちっとは、世界が楽しく見えるかもしれないぜ」


頬を撫でる手が落ちる。
ザックスはゆっくりと目を閉じて、そのまま……死んだ。

「あ、あ……あぁ……!!」

ボクは────オレは、
その時初めて、大切な人を目の前で失う辛さを知った。

「うああああああぁぁぁぁ──っ!!!!」

堪えていた涙が溢れる。
息が苦しい。喉から苦いものが込み上がる。
オレはただ憎らしいくらい晴れた空を見上げて──泣いた。




322夢追い人の遺しもの ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:31:08 ID:MmWUg2AQ0

「……ぐっ、……」

一体どのくらい気絶していただろうか。
はっきりとしない意識のまま、イクスを助けなければというはっきりとした目的のままに身体を起こす。
状況把握のために辺りを見渡せば、そこには大剣を背負っていた男の遺体に縋り泣く少年の姿があった。
マルティナの姿が見当たらない理由は分からないが、あの大剣の男を殺したのは彼女だろう。

「あの、男……よくもやってくれたわね」

あの大剣の男は強かった。瀕死の身であれなのだからもし万全な状態だったら、と考えるだけでおぞましい。
そしてその脅威も消失した今、あの無力な少年を人質として利用するのは簡単な事だった。
ザックスという頼れる人間が死んだ今、彼は自分達に従うしかないだろう。少なくともミリーナはそう確信しながら、美津雄達の元へ近寄った。

「──来るなぁッ!!」
「っ……!?」

予想だにしない怒号と向けられる銃口がミリーナの足を止める。
何故──あの少年は春香と同じくなんの力もないはずだ。それなのにどうして立ち向かおうとするのか。
あの少年だって勝ち目がないと分かっているはずだ。現に、がたがたと震える銃口がそれを物語っている。

323夢追い人の遺しもの ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:32:00 ID:MmWUg2AQ0

「それ以上──"俺達"に近寄るんじゃねぇッ!!」

ああ、そうか。
ミリーナは美津雄への認識を改める。この少年はもはや人質として利用は出来ないだろう。どう脅したところできっと自分には従わない。

「……悪いわね。一瞬で終わらせるわ」

ならばもう、殺すしかない。
美津雄に利用価値の無くなった今、彼はただの殺すべき参加者に過ぎないのだから。
春香を殺したものと同じ花霞を放つ予備動作を見せる。銃声と共に放たれたエネルギー弾がミリーナの遥か横を過ぎ、彼女の術を止めるには至らなかった。



イレギュラーが入るまでは。


「────マルティナ?」


今まさに術を放たんとするミリーナの腕を、ボロボロになったマルティナが掴んでいた。
一体いつの間に、そんな疑問よりも先に何故止めるのかという怒りにも近い感情が浮かぶ。
マルティナは静かに首を横に振り、ぽつりと紡ぐ。

324夢追い人の遺しもの ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:33:42 ID:MmWUg2AQ0

「退きましょう、分が悪いわ」
「な……」

マルティナの言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
本気で言っているのか。そう問い詰めたくなるも美津雄を見つめるマルティナの横顔は真剣そのもので、どこか威圧的に感じる。
まるで自分が意見するのを拒むかのような雰囲気を前に、ミリーナは苦い顔で一つだけ訊ねる。

「貴方の覚悟はそんなものなの?」

マルティナは言葉を返さない。
そのまま続く静寂こそが回答なのだと判断したミリーナは呆れたように踵を返す。ここで無理に美津雄を殺し、マルティナと敵対するのは避けたいと考えたからだ。
そしてミリーナに新たにマルティナをいつか切り捨てるべきだという考えが浮上したのは言うまでもない。マルティナだってそれを覚悟の上で撤退を選んだのだ。

結果をいえば、マルティナはザックスに勝った。けれどそれはマルティナ本人の意志を無視した結果の話だ。
もしあの一撃を槍の防御で軽減出来ていなければ自分は死んでいただろう。ゆえにマルティナからすればあの勝利は仮初のものだと言える。

ならば、美津雄を見逃したのは敗北したからなのか?
勝者に対して敗者が逆らう事は許されない、そんな弱肉強食の思念の為なのか?

いいや、違う。
重ねてしまったのだ。死も顧みずに美津雄を護り抜いたザックスの姿を。
赤ん坊のイレブンを己に託し、魔物の囮となる道を選んだエレノア王妃と。

今のマルティナにはどうしてもそれを────夢追い人の遺しものを殺す事が出来なかった。

「…………」
「な、んだよ……早くどっか行けよ!!」

美津雄の姿を一瞥し、既に離れたミリーナを追ってマルティナがその場を去る。

これまでだ。
灰色の心でいるのはこれで最後だ。
次は完全な黒となり、誰であろうとも容赦なく殺す。




────決意、あらたに。




【ザックス・フェア@FINAL FANTASY Ⅶ 死亡確認】
【残り49名】

【D-2/市街地(西側)/一日目 朝】
【ミリーナ・ヴァイス@テイルズ オブ ザ レイズ】
[状態]:首筋に痣、TP消費(小)
[装備]:魔鏡「決意、あらたに」@テイルズ オブ ザ レイズ、プロテクトメット@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品×2、不明支給品0~2、首輪探知機(一時間使用不可)@ゲームロワ
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する
1.マルティナと共に他の参加者を探し、殺す
2.春香の友人や、その他の非戦闘員の中から一人、人質を確保する。
3.イレブン以外のマルティナの仲間を、マルティナに殺させる
4.マルティナを切り捨てることも視野に入れる。

※参戦時期は第2部冒頭、一人でイクスを救おうとしていた最中です。
※魔鏡技以外の技は、ルミナスサークル以外は使用可能です。
※春香以外のアイマス勢は、名前のみ把握しています。

【マルティナ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、左脇腹、腹部に打撲
[装備]:折れた光鱗の槍@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、キメラの翼@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
ランダム支給品(1〜0個)
[思考・状況]
基本行動方針:イレブンと合流するまでミリーナと協力し、他の参加者を排除する。
1.心を黒に染める。
2.カミュや他の仲間も殺す。

※イレブンが過ぎ去りし時を求めて過去に戻り、取り残された世界からの参戦です。イレブンと別れて数ヶ月経過しています。

【支給品紹介】
【首輪探知機@ゲームロワ】
天海春香の支給品。
大きなストップウォッチのような見た目をしており、半径500m以内にある首輪を表示する。
一度使用すれば一時間のクールタイムが必要。

325夢追い人の遺しもの ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:34:12 ID:MmWUg2AQ0




「はぁ……っ! はぁ……!」

あいつらが居なくなったあと、オレは安心してへたりこんだ。
殺されるかと思った。あの時は必死だったから勝手に体が動いたけど、今になって恐怖がやってくる。

死ぬのが怖いんじゃない。
ザックスが遺してくれた言葉を叶えられないまま終わるのがたまらなく怖かった。

オレは、あいつの生きた証だから。
オレが死んだらザックスの最期を語れる人間が居なくなってしまうんだ。

そんなのは────絶対にダメだ。

オレが生きて、夢を見つけて、ザックスを安心させなきゃいけない。
きっとそれが、今オレのやるべき事なんだ。

「ザックス、オレ……夢を探すよ。お前に負けないくらい、大きな夢をさ」


だから────もう少しだけ泣かせてくれ。

【D-2/市街地(西側)/一日目 朝】
【久保美津雄@ペルソナ4】
[状態]:疲労(大)、悲しみ、決意、雪歩がいなくなったことへの罪の意識
[装備]:ウェイブショック@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品(水少量消費)、ランダム支給品(治療道具の類ではない、1〜2個)、調合書セット@MONSTER HUNTER X
[思考・状況]
基本行動方針: 夢を探す。
1.ザックス……。

※本編逮捕直後からの参戦です。
※ペルソナは所持していませんが、発現する可能性はあります。
※四条貴音の名前を如月千早だと思っています。

【全体備考】
※ザックスの支給品は遺体の傍に放置されています。

326夢追い人の遺しもの ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:35:22 ID:MmWUg2AQ0





「──さっきの音の方向は……こっちか?」

市街地を駆ける一陣の風。
厳つい顔に眼帯を携えたいかにもな風貌。もし初対面の人間が彼と出会えば第一印象で殺し合いに乗っていると思ってしまうのは仕方がないことだろう。
現に男も数時間前まではその方針でいたのだが、今彼が足を動かしている理由は別にある。

(今度は泣いとるな……急いだ方が良さそうやな)

Nの城を抜けた真島は特に理由もなく南の方角を目指した。
その途中、建造物が壊れるような激しい音を耳にし明確な目的地を指定した。そうして走っている内に、その方向から僅かに叫喚じみた少年の声を聞く。

「ええい、誰だか知らんが待っとれや!! この真島吾朗が助けたるわ!!」

時間はそう残されていない。
今までの遅れを取り戻すためにも、真島はそう高らかに宣言し美津雄がいる市街地へと急いだ。

【D-2/一日目 朝】
【真島吾朗@龍が如く 極】
[状態]:頭部出血(止血済み)、疲労(中)、焦燥
[装備]:ほしふるうでわ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームをぶっ壊す。
1.音の方向へと向かう。
2.遥を探し出し保護する。
3.桐生を探す(死体でも)。
4.錦山はどうしよか……。
5.雪歩が気がかり。

※参戦時期は吉田バッティングセンターでの対決以前です。
※運営が盗聴していることに気付きました。

327 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:35:48 ID:MmWUg2AQ0
投下終了です。
連続ゲリラ失礼しました。

328名無しさん:2021/01/02(土) 08:16:17 ID:/dGG89Cs0
すみません、まだちゃんと読めてないのですが気になったことがひとつ
ミリーナは原作ではTP制でなくCC制だけど、このロワではTP制を適用するということでしょうか

329 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 11:34:08 ID:MmWUg2AQ0
>>328
気付きませんでした。
wiki編集の際にCCの方に修正して頂けると幸いです。

330 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 11:34:21 ID:MmWUg2AQ0
>>328
気付きませんでした。
wiki編集の際にCCの方に修正して頂けると幸いです。

331名無しさん:2021/01/02(土) 16:25:06 ID:KyHpjITc0
>>330
すみません、CC制ってのは連携が途切れれば数秒で0から全快まで自然回復するものなので、そもそも消耗という概念がないのですが…
いわゆる連続で技を繋ぐための気力残値なので、連続で技を使わなければすぐに回復するものです
なので後衛のミリーナにはあまり関係ない要素ではあります
ですから差支えなければwikiのCC消費(小)自体を消しますが、どうしましょうか

332 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 16:32:56 ID:MmWUg2AQ0
>>331
それならばそのようにお願いします。
知識不足で申し訳ありません。

333 ◆RTn9vPakQY:2021/01/06(水) 00:12:23 ID:p3DIXM9Y0
皆様投下乙です。
遅れてしまいましたが自分も投下します。

334花と風と ◆RTn9vPakQY:2021/01/06(水) 00:16:17 ID:p3DIXM9Y0
 喫茶店の店内には、二つの影があった。

「……Seriously?」

 マナによる放送を聞き終えたソニック・ザ・ヘッジホッグは、呆然と呟いた。
 十三人もの参加者が命を落としたという情報は、殺し合いの打破を目指す身としてはショックであった。
 放送で知り合いの名前は呼ばれなかったが、そこは問題ではない。
 呆けたように支給された名簿をめくる。テイルスやナックルズといった友達の名前は見当たらない。
 しかし、放送から受けたショックが大きすぎて、とても安堵はできなかった。

「ウソだろ?」

 殺し合いが始まってから、たった六時間。
 その六時間で、ビルディングの一室で殺されていた少女のように、無惨に命を奪われた者が十三人もいる。
 つまり、このバカげたパーティーを勝ち抜こうと目論む者が少なからず出てきているということだ。
 殺し合いを打破するためには、そうした連中を放置しておけない。

「もたもたしてる場合じゃなさそうだ……けどなぁ」

 声に焦りを滲ませながら、店内の椅子に凭せ掛けた少女を見やる。
 如月千早と名乗った少女は、もう一時間以上も目を覚ましていない。
 もちろん息はある。よほど当たりどころが悪かったのだろうか。
 いずれにしても、意識を取り戻した千早に話を聞くまでは、この場を離れられない。
 ――と、最初はそう考えていたが、あまりに時間が経ちすぎた。

「それに、近くに危険なヤツがいるのは間違いないんだ」

 放送が流れる少し前、ソニックは遠くの爆音らしきものを耳にしていた。
 断続的に聞こえたそれは、激しい戦闘が行われていることを示していた。
 すぐにでも駆けつけたかったが、千早を担いだ状態であったため躊躇ってしまい、そうこうしている内に音は止んでいた。
 あの爆音で犠牲者が出ていた可能性も大いにあり得る。
 足踏みすることなく向かっていれば、あるいは――。

「切り替えろ。オレらしくないぜ」

 パシッと軽い音を立てて、両手で頬を叩く。
 過ぎ去ったことを思い返してクヨクヨしている時間はない。

「出遅れたけど、ここから再スタートだ」

 とにかく行動あるのみ。
 友好的な参加者を探して、千早のことを伝える。
 そして、その参加者に千早を保護してもらう。
 その後のことは、そのときに考えればいい。

「それじゃあ行くとするか!」

 喫茶店のドアに付けられた鈴が、チリンと鳴る。
 その瞬間、店内からソニックの姿は消えていた。





 各自の目的のためにエリアを北上していた二人。
 ずんずんと前を歩くエアリス。その少し後ろを大股で追うゲーチス。
 会話らしい会話もない状態のところに、一陣の風が吹いたかと思うと、もう一つの影が現れた。

「よう!アンタら殺し合いには乗ってないな?」
「なっ!?」
「ちょ、ちょっと……あなた、誰?」

 エアリスとゲーチスの二人は、唐突に出現したソニックを前に戸惑いを隠せない。
 人間の言葉を話す青いハリネズミが、いきなり話しかけて来たのだから無理もない。
 なんとゲーチスは、声を上げてからおよそ十五秒制止していた。
 一方、そんな反応も慣れているようで、ソニックは言葉を続けた。

335花と風と ◆RTn9vPakQY:2021/01/06(水) 00:17:24 ID:p3DIXM9Y0
「オレはソニック。ソニック・ザ・ヘッジホッグ。
 この殺し合いを潰すつもりだ。アンタらの名前を教えてくれないか?」
「な、なんだと……?」
「エアリスよ。こっちはゲーチス。
 殺し合いに乗るつもりなんて、ぜんぜんないよ」

 疑問を投げかけるのが精一杯なゲーチスの代わりに、エアリスが返答する。
 レッドXIIIやケット・シーといったメンバーとも一緒にパーティーにいただけあって、エアリスの適応力はゲーチスより高い。

「OK!それじゃエアリス、いきなりだけど頼みがある」
「頼み?」

 ソニックがエアリスたちに伝えたのは、市街地のとある喫茶店に千早という銀髪の少女が気絶していること、千早が殺人に手を染めているかもしれないこと、そして千早を保護して欲しいこと。

「あなたはどうするの?」
「オレは知り合いを探しながら、このパーティーに乗り気のヤツを止める。
 この辺りでドンパチ騒いでいた参加者がいるはずだから、まずはそいつからだ」

 ソニックの発言に、エアリスとゲーチスは思わず顔を見合わせた。
 つい先程まで拘束しており、逃げられた男のことを言っているのだと、二人とも理解した。

「その男なら、さっきまでワタクシたちといましたよ。
 地図にある“カームの街”で暴れていたところを捕らえたのですが、逃げられてしまいましてね」
「ちょうど今、追いかけていたところなの」
「へえ、そりゃ話が速い。どんなヤツだった?」
「不気味な男でしたよ。一言も喋らず、とても長い刀を振り回していました」
「でも……殺さなかったの」
「だから、それはたまたまだと言っているでしょう?」
「うーん……」

 立て板に水とばかりに話すゲーチスに対して、どこか歯切れの悪いエアリス。
 二人の話を聞いたソニックは、グッと親指を立てて宣言した。

「OK、それじゃあソイツをオレが止めてやるぜ」
「その代わりに、ワタクシたちに少女を保護しろとでも?」
「そうしてくれると助かるね。
 正直なところ、千早は人殺しを喜ぶタイプじゃないと思ってる」
「なぜ言い切れるのですか?」

 ソニックを問い詰めるゲーチスの態度を見て、エアリスは眉をひそめた。
 当のソニックは意に介していない様子で、神妙な面持ちをして答えた。

「オレが見つけたとき、震えてたからさ」

 その意見に、ゲーチスは苛立ったように反論を唱えた。

「そんなもの!何の根拠にも……」

 しかし、その反論は途中で遮られた。
 誰あろう、同行者のエアリスに。

「わかったわ、ソニック。喫茶店の場所を教えて」
「な……!?」
「そうこなくっちゃ!」

 嬉しそうに親指を立ててグッドポーズをするソニック。
 それを見てエアリスは微笑みを浮かべ、ゲーチスは僅かに渋い表情を浮かべた。
 そしてまた、一陣の風が吹いた。


【D-2/市街地/一日目 朝】
【ソニック・ザ・ヘッジホッグ@大乱闘スマッシュブラザーズSP】
[状態]:健康
[装備]:スマッシュボール×2@大乱闘スマッシュブラザーズSP
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜1個) 、双剣オオナズチ(短剣)@MONSTER HUNTER X
基本支給品、双剣オオナズチ(長剣)@MONSTER HUNTER X、貴音のデイパック
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルの打破。もたもたしてると置いてくぜ?
1.周辺を探索する。
2.マルティナや長い刀の男(カイム)のような、殺し合いに乗り気の参加者を見つけて止める。
3.千早のことはエアリスたちに任せる。
※灯火の星でビームに呑まれた直後からの参戦です。
※リンクやクラウドやスネークと面識があり、基本的な情報を持っていますが、リンク達はソニックを知りません。でも「こいつスッゲー見覚えあるな…」くらいは感じるでしょう。





 ソニックが走り去った後、エアリスとゲーチスは喫茶店を目指し歩き出した。
 道中の会話は、ごく自然な流れでソニックの話題になる。

336花と風と ◆RTn9vPakQY:2021/01/06(水) 00:20:16 ID:p3DIXM9Y0
「エアリスさん、あのハリネズミの話を信用するのですか?」
「してもいいと思う。嘘をつくような性格じゃなさそうだもの」

 かなりの実力者なのも見て取れたしね、と続けるエアリス。
 ゲーチスは納得できないといった態度を取り、食い下がろうとする。

「しかし……」
「それとも、ソニックが心配していたように、千早って子が誰かに殺されてもいいの?」

 ゲーチスは心中で舌打ちをした。
 そう質問されてしまうと、表向きは対主催者を演じる身としては否定できない。
 適当に会話を濁すと、沈黙しながら歩く時間が続いた。

(まったく、理解に苦しみます。
 会話ができるのは驚きましたが、あれは間違いなくポケモン。
 たかがモンスターごときの意見を簡単に受け入れるなどと……)

 ゲーチスはソニックのことをポケモンだと認識していた。
 これまで姿を見たことがないことから、イッシュ地方には生息しないポケモンであると推測できる。
 自然な会話ができることには驚いた。とはいえ、過去の文献を紐解けば、ポケモンと人間が心を通わせたという例は少なからず存在する。
 所詮は戯言と笑い飛ばしていたが、そこだけは考えを改める必要がありそうだ。

(……いや、そんなことはどうでもいい。
 こんなことをしている時間はないというのに……!)

 一刻も早くNの城に向かいたいゲーチスにとって、少女を保護するために時間をかけるのは望ましくなかった。
 それゆえに、頼みを断る方向へと話を誘導しようと試みたが、あえなく失敗。

(エアリスさん、アナタという人は……。
 利用するとしても、その方法はよく考えなければなりませんね)

 ゲーチスは前を歩くエアリスを、冷ややかな目で見つめた。
 急襲してきたカイムに対して説得を試みたあたりで、驚嘆するほどのお人よしだとは感じていた。
 それと今回の一件を合わせて考えると、ありえないくらいのお人よし、と言えるだろう。
 行動原理は単純であるものの、思い通りに動かせるかどうかは別の話だ。

(とはいえ、新たな手札を得られたのは運が良い)

 ソニックから譲り受けて、懐に収めたモンスターボールをそっと撫でる。
 頼みを聞く条件として、何らかの武器になるアイテムを要求したところ、ソニックがこれを渡してきたのだ。
 中身は時間がなく未確認のままだが、強力な手札であることを祈らずにはいられない。

「あっ、あれじゃない?ソニックの話していた喫茶店」
「外観は一致していますね。ではあの中に少女が?」
「行ってみよう!」

 そうして二人は、喫茶店の店内へと足を踏み入れた。

「……誰もいない?」
「……そのようですね」


【D-2/市街地にある喫茶店/一日目 朝】
【ゲーチス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:ダメージ小、無力感、苛立ち
[装備]:雪歩のスコップ@THE IDOLM@STER、モンスターボール(中身不明)
[道具]:基本支給品、スタミナンX@龍が如く 極
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、野望を実現させる。
0.千早という銀髪の少女を探す?
1.エアリスを利用し対主催を演じる。
2.早くNの城へ行きたい
3.カイムのことはソニックに任せてみる。同士討ちでもすればいい。
※本編終了後からの参戦です。
※エアリスからFF7の世界の情報を聞きましたが、信じていません。
※ソニックのことをポケモンだと考えています。

【エアリス・ゲインズブール@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:ダメージ小、MP消費(小)
[装備]:王家の弓@ゼルダの伝説+マテリア ふうじる@FINAL FANTASY Ⅶ ブレス オブ ザ ワイルド、木の矢(残り二十本)@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:なし(装備品 除く) 
[思考・状況]
基本行動方針:仲間(クラウド、バレット、ティファ、ザックス)を探し、脱出の糸口を見つける。
0.千早という銀髪の少女を探す?
1.カイムのことはソニックに任せてみる。
2.今はゲーチスに付いて行き仲間を探す。もし危なくなったら……。
3.カームの街で、人探し、および黒マテリアの捜索をしたい。
4.ゲーチスの態度に不信感。
5.セフィロス、および会場にあるかもしれない黒マテリアに警戒

【支給品紹介】
【モンスターボール(中身不明)】
ソニック・ザ・ヘッジホッグに支給。中身は未だ確認されていない。



337花と風と ◆RTn9vPakQY:2021/01/06(水) 00:21:28 ID:p3DIXM9Y0
 市街地を歩く四条貴音。その姿は百合の花の如くたおやかだ。
 このような非常時においても、洗練された身のこなしが現れてしまうのは、幼い頃より受けた教育の賜物だろう。
 日に照らされているためか、その顔色も先程までと比べると落ち着いていた。

「私は運が良いのでしょうね」

 ソニックと名乗るハリネズミに嘘を見抜かれて気絶させられたものの、拘束されることもなく喫茶店に放置された。
 おそらく、ソニックにとって貴音よりも優先するべき事象ができたに違いなかった。
 そのお陰でこうして逃げることができたのだから、まず幸運である。

「とはいえ、いささか心細い状態です……」

 支給品はデイパックごと没収され、名簿すら確認できていない。
 この状態で強者に襲われればひとたまりもない、と誰より理解していた。
 いくらか精神が落ち着いてくると、冷静さから生じる恐怖心に苦しめられることになる。
 命のやり取りなど経験したことのない貴音が、思考の悪循環に陥るのも自然の道理であった。

「っ、いけません……」

 自然と目元が潤み、袖口で目元を拭う。
 泣いている余裕はない。行動をしなければ、生き残ることもできない。
 考えるのだ。生き残る道を選んだ上は、最適な行動を取り目的を達成することが本懐。

「それが、地獄への道だとしても」

 決意を新たに、少女は凛と歩き出す。
 しかし、貴音は未だ知らない。そして想像も及んでいない。
 この会場に、貴音に憧憬のまなざしを向ける仲間がいることを。
 その仲間――萩原雪歩――が、すぐ近くのエリアに来ていることを。

「いざとなれば、この手で再び――」

 その言葉は最後まで紡がれないまま、風にかき消された。
 握りしめた小さな果物ナイフが、キラリと陽光を反射した。


【D-2/市街地/一日目 朝】
【四条貴音@THE IDOLM@STER】
[状態]:強い罪悪感、恐怖、不安
[装備]:果物ナイフ@現実
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。どんな手を使ってでも。
1.如月千早の名を驕り、参加者に紛れながら殺していく。
2.春香……!
3.ザックスが生きているかどうか不安
※如月千早と名乗っています。
※ルール説明の際に千早の姿を目撃しています。

【果物ナイフ@現実】
喫茶店の厨房に放置されていた。刃渡り8cm程度の小ぶりなナイフ。

338 ◆RTn9vPakQY:2021/01/06(水) 00:21:46 ID:p3DIXM9Y0
投下終了です。

339 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/06(水) 00:35:57 ID:kfXmtrAU0
投下お疲れ様です。
貴音はソニックという拘束具を失った代わりに、同時に自分を守ってくれる存在も支給品も失ってしまいましたね。
彼女のいるD-2はカイムやマルティナ達がいる激戦区なので先行きが不安です。そして雪歩や美津雄と出会ってしまった際も一悶着ありそうだからなお怖い。
マーダーというスタンスでありながらここまでか弱く、感情移入させられるのは彼女くらいでしょうね。

340 ◆s5tC4j7VZY:2021/01/19(火) 23:17:51 ID:WE0OFxv.0
投下お疲れ様です!
微力ながらお役に立ちたいと思っております。
ウィリアム・バーキン、セーニャ、セフィロスで予約します。

341セフィィィィィロォォォォォス!!! ◆s5tC4j7VZY:2021/01/21(木) 05:46:22 ID:MzJ8M0ic0
完成したので、投下します。

342セフィィィィィロォォォォォス!!! ◆s5tC4j7VZY:2021/01/21(木) 05:51:12 ID:MzJ8M0ic0
「はぁ…はぁ…はぁ…」

走るーーー走るーーー走るーーー

《探せ…》

走るーーー走るーーー走るーーー

《強い力を…》

「うるさいッ!…ですわ…私は…言いなりになど…」

セーニャは走る。そうしないと意識を奪われる気がするからだ。
(先ほどの…銀髪の男…私に…何を…!?)
セーニャは、植え付けらえたジェノバ細胞に必死に抗っている。
(あれは、城…?…一度休憩をしましょうか…)
視線の先に見えた女神の城へ向かったーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

「オォォォオオ……」
うねり声を上げるのはウィリアム。
研究所にてハンターとカミュとの死闘に敗れたウィリアムだが、驚異的な回復力を宿すGウイルスは斃れずに更なる進化を遂げた。

ウィリアムにとってハンターとカミュは執着する対象ではない……
生物としての本能…「生きる」そして繁殖をするために適合候補を探すウィリアムは崩壊した研究所を去り、人がいる場所を目指した。
数刻後、下腹部の刺し傷もすっかり回復したウィリアムは女神の城へ辿り着く。
人の気配を感じ2Fに上がるとウィリアムに視線に映るのは傷を癒すセーニャ。
獲物を見つけたウィリアムが起こす行動は一つーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

「ここなら安全ね…ゔゔッ!?」
城内へ入り、2Fに上がると武器庫に辿り着いた。
傷と頭痛にぐらつくと近くにある手ごろな壁に寄りかかるセーニャ。
ズキンッ!ズキンッ!とジェノバ細胞が存在をアピールする。
「…ゔゔ、たしか…ありましたわ…まほうのせいすいのような効果なの…ね…」
セーニャは支給品の一つ、ハイエーテルの説明書を読んだあと、摂取する。

「〜〜〜〜んはぁああああ💗…メラゾーマ三発分MPが回復した感じですわ…」

度重なる戦闘によりMPが残り少なかったが、程よく回復できたようだ。

「ふふ…・これなら、まだ私は壊すことができる…ふひひひひひひっ……」

「グウオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!」

城内に響き渡る咆哮ッ!!
「ッ!!??何?…はッ!!」
セーニャは咆哮の正体に気付く!!

343セフィィィィィロォォォォォス!!! ◆s5tC4j7VZY:2021/01/21(木) 05:54:56 ID:MzJ8M0ic0
「ほう…」
ジェノバ細胞を通してインプットされたセーニャが休息している女神の城の内部を眺めつつ女神の城へ歩いていた。

「いいだろう…ここなら、クラウドと心行くまで闘うことができるな…」

C-5の代わりとして合格のようだ。
「ん?…あれは…」
どうやら、女は気づいてないようだが、勘が鋭いセフィロスは気付いた。

☆彡 ☆彡 ☆彡

「ッ!?メラゾー…ゔぁッ!?」

「グウオオオオ!!!」
突如現れた化け物にメラゾーマを詠唱するセーニャだが……
詠唱よりも早くウィリアムは跳躍力で近づく!!!
そして、ウィリアムに生えた左肩の鋭い爪がセーニャの右肩を貫くッ!!!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!??」
セーニャの激痛の叫び声……
しかし…

「グウオオオオオオオ!!!???」

セーニャの叫び声だけでない…貫いたウィリアムも叫びだした。

貫いた爪を引き抜くと右肩に生えた腕でセーニャを掴み、セーニャの眼を見つめる。
「…ォォォォ」

「ヒヒ…みんな破壊ですわ…黒マテリア…クラウド…お姉さま…」

「……」
ビュッッ!!!
「ゔえ゛ッ!!??」
なんと、ウィリアムはセーニャの口内に胚を植え付けたのだーーーーー
「ゔェェェェェ!!??」
頭痛が頭の中に響き、吐き気を催すーーーーー

胚を植え付けたのを見届けたウィリアムは掴んだセーニャを放り棄てるーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

2Fから放り棄てられ地面に叩きつけられたセーニャ。
常人なら即死だが、体内のジェノバ細胞とGウイルスの力により命を繋いでいる。

起き上がるとブツブツと独り言を発する。
「強い力…ヴヴヴ…あっち…ね…」

セフィロスに命じられた「強い力を探せ」
それは皮肉にもGウイルスの記憶にあるハンターとカミュを示した。

セーニャは二人の足取りを追う……

【A-6 女神の城周辺/一日目 昼】

【セーニャ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
状態]:HP1/2 右腕に治療痕 右肩負傷(回復中) 頭痛 吐き気  MP消費(小)
[装備]:黒の倨傲@NieR:Automata、星屑のケープ@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1個)、軟膏薬@ペルソナ4
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して世界樹崩壊前まで時を戻し、再び破壊する。
1.ハンター・カミュのいる方角へ向かう。
2.誰の言いなりにもならず、自分の意思で破壊を続ける。
※世界樹崩壊後、ベロニカから力を受け継いだ後からの参戦です。
※ウルノーガによってこの殺し合いが開催されたため、世界樹崩壊前まで時間を戻せば殺し合いがなかったことになると思っていました。
※ザキ系の呪文はあくまで生命力を奪う程度に留まっており、連発されない限り即死には至りません。
※放送は気に留めておらず、名簿を見ていません。
※セーニャの体内のジェノバ細胞によって、セーニャの得た情報は、セフィロスにもインプットされます。
※セフィロスからの精神的干渉を受けています。今のところは自我を保っていますが、何か精神的ダメージを受ければ、セフィロスの完全な傀儡化するかもしれません。
※ジェノバ細胞の力により、従来のセーニャより身体能力、治癒力が向上しています。
※外見は右腕の癒着痕を覗き、少なくとも現在は特に変化はありません。
※体内に胚を植え付けられてGウイルスに感染しました。
※現在はジェノバ細胞の力により適合できています。また、ジェノバ細胞との共存により外見に変化は見られませんが肉体ダメージによりGウイルスが暴走するかもしれません。

344セフィィィィィロォォォォォス!!! ◆s5tC4j7VZY:2021/01/21(木) 05:56:28 ID:MzJ8M0ic0
☆彡 ☆彡 ☆彡

「まだ、利用価値はあるようだ」
よろよろとしながらも強い力を求めて走りだしたセーニャの姿をジェノバ細胞を通して確認した。

「それにしても…知能もないただのモンスターだな。クラウドとは程遠い」

セフィロスにとって強い力とは闘う戦闘力もそうだが、意志の力も重要視される。
ウィリアムはセフィロスにとってただのモンスターにしか価値を見いだせない。

「まぁいい…クラウドとの闘いの前に掃除をしておくか」

セフィロスは悠然と女神の城のウィリアムの元へ向かう。

セフィロスの体内のジェノバ細胞はGウイルスを歯牙にもかけないーーーーー

【A-6 女神の城城門前/一日目 昼】
【セフィロス@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:左腕火傷、服の左袖焼失 高揚感
[装備]:バスターソード@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、武器の類ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:クラウドと決着をつける。 この世界の未知の力を手に入れる。
1.女神の城にいるモンスター(ウィリアム)を掃除する。
2.女神の城でクラウドを待つ。
3.因果かな、クラウド。
4.スネーク(名前は知らない)との再会に少し期待
5.セフィロス・コピーにしたセーニャに、この世界の情報収集をさせる。

345セフィィィィィロォォォォォス!!! ◆s5tC4j7VZY:2021/01/21(木) 05:57:40 ID:MzJ8M0ic0
☆彡 ☆彡 ☆彡

なぜ、ウィリアムはセーニャを殺さなかったのかーーーーーー
答えはセーニャの体内の【ジェノバ細胞】

G生物は驚愕したのだ。
未知なる細胞の強大な力に!!

この女なら適合するーーーーージェノバ細胞を有するセーニャならGウイルスを耐えきると直感したため、ウィリアムはセーニャにGウイルスを植え付けたのだ。

そもそもGウイルスはウィリアム・バーキンの【劣等感】により開発された源である。
恩師であったジェームズ・マーカスをライバルであり友人のアルバート・ウェスカーと共謀して謀殺後、任された幹部養成所再利用計画が頓挫した苦い屈辱。
わずか10歳の少女が南極研究所の主任となって自身が持つ最年少記録を塗り替えられるという嫉妬心。
そんな虚栄心が強く屈折したウィリアムが産みだしたのが【Tウイルス】とそれを上回る【Gウイルス】だ。
【Gウイルス】はウィリアムの研究の極み。

そのウイルスが細胞…他のウイルスに負けてはならぬのだ。
第三形態となり既にウィリアムとしての自我はないーーーーーしかし、セーニャの体内にあるジェノバ細胞がウィリアムの矜持を呼び起こす!!

こうなったら、Gことウィリアムがやるべきことは一つーーーーーー

「セフィィィィィロォォォォォス!!!」

コピーではないリユニオンとしてジェノバ細胞を持つセフィロスをこの身に取り込み更なる進化しかない。

【A-6/女神の城1F /一日目 昼】

【ウィリアム・バーキン@BIOHAZARD 2】
[状態]:G生物第三形態、
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:ジェノバ細胞を取り込み、更なる進化をする
1.セフィロスを見つけ、吸収する。どこまでも追いかけて。
2.セフィロォォォス……。
3.シェエエェェリィィ……。

346セフィィィィィロォォォォォス!!! ◆s5tC4j7VZY:2021/01/21(木) 05:57:55 ID:MzJ8M0ic0
投下終了します。

347名無しさん:2021/01/21(木) 10:52:25 ID:sZjBZMIQ0
投下乙です。
この三人を会わせる時点でやな予感はしていたけど、こんなことになるとは……。
登場回から思っていたけど、もうセーニャ楽にさせてやってくれ……。

348 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/21(木) 15:26:20 ID:INaXB07s0
投下乙です。
やはりウィリアムとセフィロスは戦う運命なんですね。どちらも作品のラスボスであり、凶悪マーダーなので邂逅が楽しみです。
備考がとんでもないことになってるセーニャはカミュ達の元へ向かったようですね。一応精神汚染のラインである体力はクリアしているので、カミュと出会った時の反応がどうなるか。

349 ◆s5tC4j7VZY:2021/01/22(金) 00:34:23 ID:rK3CcAPc0
感想ありがとうございます。
「セフィィィィィロォォォォォス!!!」
ジェノバ細胞を植え付けられたセーニャの方角にはウィリアムがいたので、Gウイルスも追加で!とセーニャには「すまぬ…」と思いつつこのような流れにしました。
G生物のウィリアムの顔の部分をセフィロスに置き換えた姿が天啓というのでしょうか、思い浮かびまして…
闘いの果てにどうなるかは不透明ですが、私もウィリアムとセフィロスの邂逅が楽しみです。

精神汚染のラインである体力はクリアしていたのを見落としておりました。申し訳ございません。
セーニャの台詞を修正したのを投下いたします。

350 ◆s5tC4j7VZY:2021/01/22(金) 00:36:34 ID:rK3CcAPc0
「はぁ…はぁ…はぁ…」

走るーーー走るーーー走るーーー

《探せ…》

走るーーー走るーーー走るーーー

《強い力を…》

「嫌っ!…ですわ…私の目的は……皆様を救うこと……」

セーニャは走る。そうしないと意識を奪われる気がするからだ。
(先ほどの…銀髪の男性は…私に…何を…!?)
セーニャは、植え付けらえたジェノバ細胞に必死に抗っている。
一度は黒の倨傲の黒い衝動により破壊衝動に囚われていたセーニャだがセフィロスとの戦闘中に意識を取り戻した。
(あれは、城…?…一度休憩をしましょうか…)
視線の先に見えた女神の城へ向かったーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

「オォォォオオ……」
うねり声を上げるのはウィリアム。
研究所にてハンターとカミュとの死闘に敗れたウィリアムだが、驚異的な回復力を宿すGウイルスは斃れずに更なる進化を遂げた。

ウィリアムにとってハンターとカミュは執着する対象ではない……
生物としての本能…「生きる」そして繁殖をするために適合候補を探すウィリアムは崩壊した研究所を去り、人がいる場所を目指した。
数刻後、下腹部の刺し傷もすっかり回復したウィリアムは女神の城へ辿り着く。
ウィリアムに視線に映るのは傷を癒すセーニャ。
獲物を見つけたウィリアムが起こす行動は一つーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

「ここなら安全ですね…ゔゔッ!?」
城内へ入り、2Fに上がると武器庫に辿り着いた。
傷と頭痛にぐらつくと近くにある手ごろな壁に寄りかかるセーニャ。
ズキンッ!ズキンッ!とジェノバ細胞が存在をアピールする。
「…ゔゔ、たしか…ありましたわ…まほうのせいすいのような効果なの…ね…」
セーニャは支給品の一つ、ハイエーテルの説明書を読んだあと、摂取する。
「〜〜〜〜んはぁああああ💗…メラゾーマ三発分魔力が回復した感じですわ…」
度重なる戦闘により魔力が残り少なかったが、程よく回復できたようだ。
「……」
一度、休憩に入るとセーニャは装備している黒の倨傲を眺める……
(私は皆さまを救うためにも殺して破壊しなければなりません」
レオン・ケネディを殺めたときにセーニャは自分の進む道をケツイしたのだ。
黒の倨傲を強く握りしめるッ!
「ふふ…これなら、まだ私は壊すことができる…ふひひひひひひっ……なんてね」
しばらく時がたち、セーニャは移動を開始しようとするがーーーーー
「グウオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!」
城内に響き渡る咆哮ッ!!
「ッ!!??何?…はッ!!」
セーニャは咆哮の正体に気付く!!

351 ◆s5tC4j7VZY:2021/01/22(金) 00:38:23 ID:rK3CcAPc0
「ほう…」
ジェノバ細胞を通してインプットされたセーニャが休息している女神の城の内部を眺めつつ女神の城へ歩いていた。
「いいだろう…ここなら、クラウドと心行くまで闘うことができるな…」
C-5の代わりとして合格のようだ。
「ん?…あれは…」
どうやら、女は気づいてないようだが、勘が鋭いセフィロスは気付いた。

☆彡 ☆彡 ☆彡

「ッ!?メラゾー…ゔぁッ!?」
「グウオオオオ!!!」
突如現れた化け物にメラゾーマを詠唱するセーニャだが……
詠唱よりも早くウィリアムは跳躍力で近づく!!!
そして、ウィリアムに生えた左肩の鋭い爪がセーニャの右肩を貫くッ!!!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!??」
セーニャの激痛の叫び声……
しかし…
「グウオオオオオオオ!!!???」
セーニャの叫び声だけでない…貫いたウィリアムも叫びだした。

貫いた爪を引き抜くと右肩に生えた腕でセーニャを掴み、セーニャの眼を見つめる。
「…ォォォォ」
「放しなさい…ゔッ!?黒マテリア…クラウド…お姉さま…」
「……」
ビュッッ!!!
「ゔえ゛ッ!!??」
なんと、ウィリアムはセーニャの口内に胚を植え付けたのだーーーーー
「ゔェェェェェ!!??」
頭痛が頭の中に響き、吐き気を催すーーーーー

胚を植え付けたのを見届けたウィリアムは掴んだセーニャを放り棄てるーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

2Fから放り棄てられ地面に叩きつけられたセーニャ。
常人なら即死だが、体内のジェノバ細胞とGウイルスの力により命を繋いでいる。

起き上がるとブツブツと独り言を発する。
「強い力…ヴヴヴ…カミュさん?…あっち…ね…」
セフィロスに命じられた「強い力を探せ」
それは皮肉にもGウイルスの記憶にあるハンターとカミュを示した。

セーニャは二人の足取りを追う……

【A-6 女神の城城周辺/一日目 昼】

【セーニャ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
状態]:HP1/2 右腕に治療痕 右肩負傷(回復中) 頭痛 吐き気  MP消費(小)
[装備]:黒の倨傲@NieR:Automata、星屑のケープ@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1個)、軟膏薬@ペルソナ4
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して世界樹崩壊前まで時を戻し、再び破壊する。
1.ハンター・カミュのいる方角へ向かう。
2.誰の言いなりにもならず、自分の意思で破壊を続ける。
※世界樹崩壊後、ベロニカから力を受け継いだ後からの参戦です。
※ウルノーガによってこの殺し合いが開催されたため、世界樹崩壊前まで時間を戻せば殺し合いがなかったことになると思っていました。
※ザキ系の呪文はあくまで生命力を奪う程度に留まっており、連発されない限り即死には至りません。
※放送は気に留めておらず、名簿を見ていません。
※セーニャの体内のジェノバ細胞によって、セーニャの得た情報は、セフィロスにもインプットされます。
※セフィロスからの精神的干渉を受けています。今のところは自我を保っていますが、何か精神的ダメージを受ければ、セフィロスの完全な傀儡化するかもしれません。
※ジェノバ細胞の力により、従来のセーニャより身体能力、治癒力が向上しています。
※外見は右腕の癒着痕を覗き、少なくとも現在は特に変化はありません。
※体内に胚を植え付けられてGウイルスに感染しました。
※現在はジェノバ細胞の力により適合できています。また、ジェノバ細胞との共存により外見に変化は見られませんが肉体ダメージによりGウイルスが暴走するかもしれません。

352 ◆s5tC4j7VZY:2021/01/22(金) 00:39:34 ID:rK3CcAPc0
修正の投下終了します。
読み込みが甘く失礼しました。

353 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:46:54 ID:QDRj4hJM0
ゲリラ投下します。

354No One is Alone(第一ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:47:47 ID:QDRj4hJM0

「──ペルソナァ!!」
「無駄だ」

号令と共に繰り出されるスサノオのソニックパンチを虹の刃が受け流す。続くガルダインによる旋風もクラウドは容易く躱し地を滑るように陽介の元へ肉薄する。
鋭い悪寒に導かれるまま後方へ飛び退けば先程まで陽介の顔があった場所を刃が切り裂いた。あまりの威力に空間が陽炎の如く歪んでいるのが目に見える。

(冗談だろ!? あんなもん食らったらひとたまりもねぇ……!)

クラウドは何も技を使っていない。
だというのにまるで異次元な強さだ。
先程から陽介はスキルを使っているのにも関わらずクラウドはただの斬撃でそれらを迎え撃ち、冷徹なまでに対処している。このままではジリ貧だ。

(けど────)

刃を返し追撃を行うクラウドの動きは決して見切れないものではない。オーブと融合する前と比べて洗練さが見られないのだ。
今のクラウドは以前戦った際の歴戦の兵士ではなくオーブの魔力に取り込まれた魔物なのだ。まだ己の力を扱い切れていない。
ならばクラウドがそれに慣れるよりも先に決着を付ければ勝機はある。髪を掠る虹の刃に冷や汗を垂らしながら陽介は龍神丸を横薙ぎに払った。

「頼むぜ、スサノオッ!」
「くッ……」

パリンとカードの砕ける音と共にスサノオの両手から圧縮された空気の螺旋が放たれる。
マハガルーラ──ガルダインより威力は劣るものの範囲の大きなそれは回避などという甘い選択を許さない。
クラウドの体が僅かに風に押される。が、それまで。やはり彼を追い込むには威力が圧倒的に不足している。数秒の足止め程度が限界だ。

「捉えたぜ──ソニックパンチ!!」

けれどその数秒は次の一手を繰り出すには十分な時間だ。
風に紛れたスサノオがクラウドの眼前に躍り出た瞬間、疾風を纏った拳が胸板に突き刺さる。苦悶の顔を見せて数歩後ずさるクラウドの顎へアッパーカットをお見舞いし数センチ分身体を浮かせる。
自由を失ったクラウドに追撃を止める手立てはない。チャクラムによる強烈な斬撃をその身に受けたクラウドはそのまま後方へと吹き飛ばされる。

355No One is Alone(第一ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:48:59 ID:QDRj4hJM0

「はぁ、はぁ……っ、ちったぁ効いたか馬鹿野郎!!」

消耗を物語る息遣いを乗せた叫びがただの願望で終わる事など陽介自身も理解している。現にクラウドは空中で体勢を立て直し、着地と同時に落ち着いた足取りで歩みを進めていた。

「これだけやっても、まだ全然余裕ってか……」
「無駄だと言ったはずだ」
「まだ──わかんねぇだろッ!」

気合いと共にカードを割る陽介だが、その瞳に映る現実はあまりにも無情。命懸けでクラウドに付けた傷は既に塞がり始めまるでダメージが見られない。
吹き荒ぶ暴風を前にクラウドは同じ轍を踏まんとばかりに無視し、風圧をも押し返す勢いでスサノオへと接近する。
真正面からの接近戦となればスサノオに勝ち目はない。素早く身を引くスサノオだが僅かに離れた距離は気休めにもならない。
二撃、三撃と前進を兼ねた斬撃をなんとかやり過ごすも続く斬り下ろしを遂にチャクラムで受け止める形になる。余りの威力にスサノオの足がずんと沈み、チャクラムにピシリと亀裂の線が走った。

「ぐ……お、っもいな……!」

ペルソナが受けた感覚は陽介にも共有される。両腕にかかる重圧が暴力的なまでに強化された彼の腕力を物語っていた。
このままではいずれ押し負ける──しかし逆に言えば今のクラウドは行動を封じられていることになる。弾かれるように飛び出した陽介はクラウドの左側へ潜り込んだ。

「──っ!?」
「俺もいるって忘れんな、よッ!」

競り合いの最中に振るわれる龍神丸の剣戟。止むを得ずチャクラムの刃に沿って滑らせるようにそのまま龍神丸の側面を打ち払う。幸い業物であるため刀身は無事だったが、手に走る痺れに耐えきれず陽介の手から遠くへと離れた。

「っ……普通見切るかよ、これ!?」
「生憎俺は普通じゃない」

確かにそうだったな──なんて悠長な相槌はクラウドの重い蹴りが許さない。咄嗟に両腕で防御したもののそんなの関係ないとばかりに陽介の体が吹き飛ばされた。
言いようのない浮遊感と口の中に交じる鉄の味が一時現実を忘れさせる。地面が身体を打つ衝撃に無理やり意識を引き戻され、痛む身体に鞭打ちなんとか起き上がった。

356No One is Alone(第一ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:50:25 ID:QDRj4hJM0

「くっ、そ……やっぱ、つえぇな……」

クラウドが強いということは戦う前から知っていた。しかしここまで実力の壁が聳えているとは──絶望感さえ覚えかねない状況でも陽介の瞳は輝きを失わない。

足りない、足りないのだ。
ホメロスの加護を受け、戦う覚悟を決めスサノオを覚醒させた陽介を絶望させるには至らない。防戦一方ではあるもののこうして生きていられるのが何よりの証だ。
人間である頃のクラウドが相手ならばきっとこうはいかなかっただろう。

「いくぜ、スサノオぉ!!」

可能性がある限り諦めない。
嵐を象徴する逆巻くスサノオの髪が風圧に逆らえず荒ぶ。再び足止めに成功したのを見ればそれを好機と空を駆け上空からクラウドの脳天へ向けて拳を振り下ろした。



「諦めろ」



可能性というのは残酷で、あっさりとひっくり返ってしまう。
特にそれが闘いにおける勝ち負けならば尚更に。些細な行動一つが決め手となる場合もあるのだ。
それを今、陽介は残酷にも突き付けられる形となる。

「────え?」

スサノオの胸に刻まれた「凶」の文字。虹色の輝きを帯びてはっきりと浮かび上がるそれはやがてスサノオの身体を粒子に変え、遅れてやってくる痛覚が主の陽介に襲いかかる。
耐え難い激痛に声を上げることすら叶わず膝から崩れ落ちた。

357No One is Alone(第一ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:51:31 ID:QDRj4hJM0

いつ斬られたんだ──それにすら気付くことが出来なかった事実に混乱と恐怖が入り交じる。
これがクラウドの技なのだ。今までの通常攻撃とは速度も威力もまるで比にならない。防御も回避も迎撃も、その悉くの可能性を捻り潰す無慈悲なる裁き。

「が、……っ、は……!」

無防備だったスサノオが受けたダメージは大きく、それをそのままフィードバックさせたとなれば立ち上がれる状態ではない。
もがくように地を這いながら辛うじて動く首を動かし視線を地面から地上へと向ければ、そこには処刑人のように悠々と迫る魔軍兵士の姿があった。

「アンタじゃ俺を止められなかったな」

その言葉は聞く者が聞けば勝利宣言と捉えるだろう。
当然だ、この状況下に於いてはそれ以外考えられない。クラウドは敗者に向けて最後の言葉と共に刃を振り下ろす──どこかで見物しているウルノーガもそのシナリオを描いただろう。
けれどただ一人、吃驚に眉を顰める陽介は違った。

「なんだよ、それ……」

陽介の声が震える。
逃れられぬ死の恐怖から? 無力を突きつけられた憤りから?

──否、そのどちらでもない。


「まるで──止めて欲しかったみたいな口振りじゃねぇか」


ぴたり、と。
進むしかなかったクラウドの足が止まる。

358No One is Alone(第一ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:52:44 ID:QDRj4hJM0

「クラウド、お前はやっぱ……心まで魔物になっちまった訳じゃねぇんだな」

震えの理由は"喜び"だ。
どんな姿になってもクラウドの奥底には紛い物ではない、人間の記憶と心が眠っている。それが知れただけで陽介は希望を見いだせた。

「今のお前の目には何が映ってんだ? 俺か? ウルノーガか? ──ちげぇだろ!?」

喉奥から声を振り絞る。
痛くて仕方がない身体を立ち上がらせる。
無防備に陽介の言葉を浴びるしかないクラウドは虚ろな目を僅かに見開いた。

「お前はいつだってエアリスって人を見てた! 心まで完全にウルノーガに染められちまったらそれも見失っちまうんだぞ!? いつか願い事も忘れて、ただ人を殺すだけの怪物になっちまう!! ──そんなの望んじゃいねぇだろ!!」
「────っ、」

陽介の言葉が耳に入る度ノイズのようなものが走り頭痛に苛まれる。暗黒に染まり始めた視界に潜在意識が生み出した記憶の静止画が一枚、また一枚と捲られていく。

「クラウド、アンタは一人じゃなかった……仲間がいたんだ! エアリスだけじゃない、いっぱい……居たんだよ! これ以上見て見ぬふりするんじゃねぇ!!」
「うるさい、黙れ……!」
「黙らねぇ!! アンタが目を覚ますまでな!!」

止まぬ頭痛にクラウドは頭を抱える。明らかに今までの様子と比べて異常だ。仮にも戦闘中であるのにこれだけ大きな隙を晒すなど魔軍兵士としてありえない。
ならば今のクラウドは、人間としてのクラウドなのだろう。

359No One is Alone(第一ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:53:36 ID:QDRj4hJM0

「俺の記憶を見たんなら、花村陽介がどんだけ諦めの悪い人間か分かってんだろ。この戦いは……負けられねぇんだ。自分の為にも、そしてクラウド──あんたの為にも!」
「……なら、今度こそ立ち上がれなくしてやる」
「へっ、上等だぜ……かかってこい!!」

大喝を轟かせる陽介、雑音の源へ飛翔するクラウド。
戦況は決して仕切り直しではない。オーブの力に順応し始めたクラウドと痛手を負った陽介ではまず勝負になるか否かという段階から考えなければならない。
だというのに陽介が怯まないのは唯ひとつのシンプルな理由──男の意地だ。


「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!!!」


──吼える。
例え一歩とて引くことは許されない。
ここで逃げては駄目だ。そんな命を省みないどうしようもないプライドが力を湧かせる。

「来いッ! スサノオぉッ!!」

スサノオを眼前に立たせ迎撃の準備を整える。この一撃を防ぎさえすれば必ずクラウドは隙を見せるはずだ。勝ちを狙うのならばその一点を突くしかない。
可能性など塵に等しい。虹色の刃に付き纏う空間の揺れがそれを正面から受け止めるのがどれだけ無謀なのか物語っていた。

けれど。
それでも。






「────ペルソナッ!!」






奇跡は、起こる。




360No One is Alone(第一ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:54:27 ID:QDRj4hJM0

人は誰しも心の底にもう一人の自分を飼っている。
ペルソナとはそれを実体化させたものである。
己の中の自分を受け入れられる人物にのみ発現を許される、いわば精神力の塊。それを駆使し超常じみた力を扱う者がペルソナ使いと呼ばれる。

その力に理屈はない。
理屈がないからこそ無限の可能性を持ち得る。持ち主の覚悟や気持ち次第でどこまでも進化できるのだ。

「今のって、……まさか……!」

だとしたら、これもまた理屈のない力が働いた結果なのだろう。
今この瞬間、この場へ、"彼"が導かれたのは──!


「──よく頑張ったな、陽介」


見慣れた学ランに身を包み人を安心させる笑顔を浮かべる青年。
どこまでも太陽が似合う彼の姿を見た瞬間、陽介はへらりと口元を緩ませた。

「悠ッ!!」

青年、鳴上悠は力強く頷き今しがたネコショウグンのジオンガを食らい地に落ちたクラウドの姿を見据える。
窮地を救ってくれた親友との再会に喜ぶ時間は少ない。ゆらりと立ち上がるクラウドは新たに襲来するペルソナ使いへと的を絞った。

361No One is Alone(第一ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:55:29 ID:QDRj4hJM0

「お前が……鳴上悠、か」
「? 何故俺の名前を……いや、どうやらそれどころじゃないな」

クラウドの前に立ちはだかる存在の顔は初対面だというのに酷く馴染みがあった。
陽介の記憶を通して眺めていた彼の背中はとても大きくて、遠くて──陽介にとって追うべき存在だったから。その立場をクラウドに言い換えればかつてのセフィロスに当たるだろう。
もっとも今のクラウドはその背中を見失ってしまったが故に鳴上悠はただの敵でしかないが。

「悠! 詳しい話は省くけど、あいつはウルノーガに怪物にされちまったんだ! 元は人間だ!」
「!? 本当なのか!?」
「ああ! だから出来れば殺さず、元に戻してやりてぇ……!」

駆け寄る陽介の言葉に悠は驚きを示す。この敵はウルノーガ──つまり主催の息がかかった存在となる。あまりに突拍子のない話に目を剥くが陽介の話を疑う理由などない。
この怪物の強さは今の手応えの無さで嫌でも理解した。ただでさえイザナギとネコショウグンだけでは心許ないのに殺さないように加減しろなど、無茶な事を言ってくれる。

「──わかった!」

けれど不可能だとは思わない。
ペルソナ使いとは仲間がいてこそ真価を発揮するのだ。陽介と悠の実力を合わせてもクラウドには及ばないかもしれないが、連携や戦略次第でそれは何倍にも引き上がる。

「何人来ようと一緒だ。俺は止まらない」
「いいや、止めてやる。ひとりきりのお前じゃ俺達には勝てねぇさ!」

隣に仲間がいる事で陽介のその叫びは虚勢ではなくなる。一拍置いて彼等の目の前にアルカナカードが顕現した。

「「ペルソナッ!」」

ネコショウグンとスサノオが青い軌跡を描きクラウドへ翔ける。手数が増えた事に対してもクラウドは努めて冷静に、否──そもそも何の感情も抱けずに虹を袈裟に構えた。

362No One is Alone(第一ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:56:22 ID:QDRj4hJM0



「────クラウドッ!!」



初めてクラウドの瞳が揺れる。
虚無を抱えた顔は動揺に。鋭利な牙を覗かせる口はぽかんと呆けたように開いて。
彼の視線は陽介と悠の背後にある少女に囚われた。

「なっ、ティファ……!? ピカチュウと八十神高校に行ってろと──」
「ごめんなさい、悠を一人で行かせちゃいけないって予感がして。……それより貴方、クラウドなんでしょ? その姿どうしたの!?」

陽介と悠の間に割って入る少女はそのまま包帯が巻かれた右脚を引き摺りながら駆け足気味にクラウドの方へ向かう。
悠も陽介も動揺からそれを止める事が出来ない。正確に言えば止めるべきか否か判断が出来なかった。
クラウド──それは悠にとって酷く耳馴染みのある名前だ。数時間前にティファからは元の世界の仲間であると伝えられていた。
自分が陽介と再会したばかりというのもあり彼等の出会いを邪魔してはならないと、そんな甘い思考が身体を硬直させたのだ。

(あの人が、ティファ……!)

一方の陽介は悠とはまた別の情報に驚愕を余儀なくされている。
クラウドの記憶が見せた仲間達の中に彼女の姿があった。恐らくはクラウドにとってはかつての仲間たちの中でも最も馴染み深い存在のはずだ。
事実ティファも一目見ただけであの魔物がクラウドだと気が付いていた。彼女の中にあるクラウドとはまるで容姿が異なるはずなのに、だ。それは彼女達の絆が紛い物ではないと断じるに値する証拠。

彼女ならクラウドを止められるかもしれない。
直感的な希望はされど最善手。陽介は逡巡する悠の肩を軽く掴み、静かに彼女の背中を見送った。

363No One is Alone(第一ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:57:08 ID:QDRj4hJM0

「っ、ティ……ファ……?」
「クラウド。貴方に何があったのか分からない……けど、折角出会えたんだからそんな顔しないで。クラウドらしくないよ」
「……俺、らしく……?」

アスファルトに血の雫を滴らせ遂にクラウドへ手が届く距離まで近付いたティファはそ、っと彼の頬に触れ穏やかな声色を喉から滲ませる。
クラウドは動かない。この場の誰もが知る由もないが丁度ジェノバに精神を乗っ取られた時のような廃人じみた状態だ。
少なくともそこに敵意はない──やはり、と陽介は声を荒らげた。

「ティファさん! クラウドはウルノーガに魔物にさせられちまってるんだ! 頼む、そいつを救ってやってくれ!!」
「……! ええ、任せて」

陽介へ向けた視線を再びクラウドへ戻す。濡れたガラス玉のように曇るクラウドの瞳を見詰めながらティファは小さく唇を開いた。

「ねぇ、クラウド。覚えてる? 私がピンチの時に助けてくれるヒーローになるって、約束したよね。……大人になった後も覚えててくれて、本当に助けてくれて……嬉しかった」

少なくとも今この瞬間、二人を邪魔するものは何一つなかった。
ティファの脳裏に蘇る記憶は果たしてクラウドとも共有出来ているのだろうか──それは一瞬覗かせたクラウドの悲痛な表情が答える。
彼の人間らしい顔は久しく見た。今にも泣き出しそうな位に歪んだ彼の表情はしかしすぐに冷然としたものへ変貌する。
まるでそうすることしか出来ないように。

364No One is Alone(第一ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:58:14 ID:QDRj4hJM0

「どうでもいいよ、もう」

心なしか口調に幼さを残しながら。

「自分を見失わないで、クラウド」
「俺らしさなんて誰が決めたんだ」

クラウドは鬱陶しいノイズを振り払う。

「今のクラウドはヒーローじゃないよ」
「俺の誇りも、夢も────俺のものだ」

そうして魔軍兵士は。
音もなく虹を振り上げて。

「──やべぇ! 逃げろティファさん!!」

過去(オサナナジミ)に刃を振るった。





人影が崩れる。
無防備な身体に突き刺さる明確な攻撃に気が付いたのは痛みよりも後だった。

「え──?」

予期せぬ出来事に息を漏らす。
そうしてゆっくりと見上げた先には──痛い程決意に満ちた"ティファの"顔があった。

「分かってるよ、クラウド」

聖母じみた穏やかな声色。迷い無く紡がれるそれはクラウドの頭を急速に冷やしてゆく。
人を安心させる声とは裏腹に見慣れたファイティングポーズを魅せるティファ。凡そ自分に向けられる事のなかった姿に不思議と懐かしさを覚えた。

「クラウドは強いから、これだって道を決めたら止まれないんだよね。例えその道が間違ってたとしても、自分一人じゃ止められないんだよ。良くも悪くもそういうところ頑固なんだから」

それは紛れもない仲間の言葉。
数多の苦楽を共にし、一番傍で彼を見てきた者にしか語ることの許されないクラウド・ストライフという人間への所感。
クラウド自身を含めこの場の誰よりもクラウドを知っているのは彼女だから。

365No One is Alone(第一ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:58:51 ID:QDRj4hJM0

「私ね、今でも後悔してるんだ。クラウドが偽物の記憶に囚われていた時、それを指摘してあげられなかったのを。クラウドが遠くに行ってしまうのが怖くて……事実を確かめる事から逃げてたんだ」

懺悔をするには遅すぎた。
だから過去を悔やむなんてことしない。今この瞬間描かれてゆく現実を生きると共に誓ったのだから。

「けどもう逃げない。クラウドにはずっと守られっぱなしだったもんね」

後ろを向くのはやめた。
けれどひとつ思い返すのはやはりあの時の約束。
少年少女が描いた年相応の夢。万人が下らないと笑い飛ばすような憧れを叶えてくれた大切な記憶。
かけがえのないものは時に絶大な力となる。


「だから今度は、私がクラウドを助けるヒーローになるよ」


控え目な彼女が珍しく見せた勝気な笑顔。
混じり気のない覚悟を晒されたクラウドは無機質に、けれど確かに声を返す。

「やってみろ」

いつの間にか、クラウドが自分を見ている気がした。
己を納得させるような口振りが消えて初めて会話らしい応答を聞けたからだろうか。いずれにせよティファは首を縦に振った。

「ティファ! 大丈夫か!?」
「ええ。それよりも……ごめんなさい、クラウドを説得する事が出来なかった」
「いや、いいさ。──今度こそ止めてやろうぜ。俺達は独りじゃないんだから」

大きく広げた翼をはためかせ大きく距離を取るクラウドと相対的に二人のペルソナ使いがティファの元へ駆け寄る。
彼女を中心に横に並ぶ陽介と悠。住まう世界は違えど志は同じ。ただ目の前の存在を救いたいというシンプルな願望は強く共鳴する──!

「俺の願いとアンタたちの願い。どっちが上にいくか、確かめてやる」

戦いは今度こそ仕切り直される。
辛い現実を乗り越え確かな絆を携える三人の戦士と幻想に囚われた一匹の魔物。
それはまるで彼らが幼い頃によく読んだ陳腐な絵本のようで。願わくばそれがありふれたハッピーエンドで終わらんことを。


第二ラウンド────開始。




366No One is Alone(第二ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:00:17 ID:QDRj4hJM0


「ペルソナッ!」

悠の号令と共に顕現。同時に天高く片腕を突き上げるネコショウグンがマハタルカジャを唱える。
攻撃力上昇の効果を持つ魔法は伊達ではなく奥底から力が湧き上がるのを感じる。駆け出すティファとそれに付き添う形でスサノオがクラウドへ先攻を仕掛けた。

「はッ! せりゃッ!」
「外さねぇ……ペルソナッ!」

目にも止まらぬ拳打を並外れた瞬発力でやり過ごし、隙を縫うように繰り出されるチャクラムの斬撃を虹で受け止める。
無駄の感じられない一連の流れからいよいよクラウドがオーブの力に適合し始めたのだと理解させられる。競り合いにすら発展せずスサノオの身体ごと弾き返させた事からそれは確信に変わった。

「陽介、無理に攻めようとするな! 奴の反撃を食らうのはまずい!」
「ああ……ペルソナァ!!」
「……! ありがとう!」

二人からやや離れた場所にいる悠の指示を受け陽介は次の手を攻撃から支援へと変更する。
アルカナを叩き割ると同時にマハスクカジャが発動し陽介達の身体が身軽さを得た。前線に立つティファは特にその恩恵が大きく、俊敏性が増したおかげで辛うじてクラウドの反撃をかわす。

「せいッ!」
「ッ……!」

横薙ぎを屈んで回避したティファはそのまま研ぎ澄まされた動きでアッパーカット、ジャブ、正拳突きの三連撃を叩き込む。
マハタルカジャにより強化された拳の威力はさしものクラウドといえど無視できない。体勢を崩した隙を狙われることを警戒したクラウドは本能のままにオーブの力を解き放つ。
全身に駆け巡る電流のような魔力はクラウドの体を抜けて紫色の閃光となり暴走する。

「うわッ!?」
「きゃああああっ!!」

辛うじて陽介はシルバースパークの奔流を躱したが反応の遅れたティファが避け切れずに悲鳴を上げる。
その時間を利用し追撃を仕掛けんとするクラウドの身体を電撃が射抜いた。シルバースパークの弊害か──その疑問は此方を睨む悠の姿により解消する。

「下がれティファ! 陽介、少しの間時間を稼いでくれ!」
「ああ、わかった!」
「……ごめんなさい」

苦い顔でクラウドの間合いから逃れるティファ。クラウドは既に彼女を標的としておらず、痺れの残る身体でスサノオの身体を穿たんと刺突を放つ。
それを受け止めるような馬鹿な真似はしない。回避に専念したスサノオはマハスクカジャのおかげか紙一重で身を捩る。
稼いだ一瞬は大きい。メディラマを重ねがけすることでティファは勿論元々クラウドによりダメージを与えられていた陽介の傷が癒えていく。

メディラマに限らず回復能力の効果は著しく制限させられている。本来ならば数度重ねがけした程度で癒える傷ではないだろう。
しかしネコショウグンには回復魔法の能力を1.5倍にまで引き上げる効果がある。制限下においても発動されるその特性はサイクルを回してゆく戦いで強く輝く。

367No One is Alone(第二ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:01:00 ID:QDRj4hJM0

「いい加減……邪魔だ」
「がッ!?」

防戦一方でありながら時間を稼がれる事に鬱陶しさを覚えたクラウドは虹の刃に紫電を纏わせて文字通り疾風迅雷が如く斬りかかる。
電撃によりリーチが増したそれを躱し切ることは困難だ。直撃こそ避けたものの伸びた稲妻がスサノオの腕を焼く感覚に陽介は濁った悲鳴を上げた。
耐性のない電撃属性を食らった陽介は身体機能を一時的に封じられる。迸る雷撃と見紛うほど鋭い一太刀は陽介の首を刈り取らんと迫った。

「させない!」
「ペルソナッ!」

しかしそれは同時に放たれる二つの攻撃に遮られる。
ティファの膝蹴りを左腕で防御し、ネコショウグンの黒点撃を右手の虹で受け止めたクラウドはそのまま力任せに両腕を振るい強引に二人を弾き飛ばす。
体勢を立て直し、瞬時に懐へ潜り込み掌打ラッシュを仕掛けるティファ。その全てを防がれダメージこそ与えられないが陽介の回復分の時間は稼いだ。

「──ペルソナァ!!」

持ち直した陽介が加わった事によりようやく攻撃のターンが回った。
足元へ水面蹴りが離れた事により僅かに体勢が崩れたクラウドへガルダインが大口を開けて迫る。
味方さえ巻き込みかねないそれはしかし事前に陽介の意図を汲み取ったティファが場を離れた事によって遠慮は無くなった。最大級の風魔法の直撃はここに来て一番のダメージとなる。

「よし、このまま攻めるぞ!!」
「おう!」
「ええ!」

大きく吹き飛ばされ片膝をつくクラウド。紛れもない総攻撃チャンスだ。
走り出す悠に倣い他の二人も一斉攻撃を仕掛かける。この機を逃せば勝ちは一気に遠のく。なればこの瞬間に全てを賭ける他ない。
雄叫びと共に繰り出される彼らの攻撃を避ける術はない。迫り来る三人をクラウドはどこかぼうっと眺めていた。

368No One is Alone(第二ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:01:31 ID:QDRj4hJM0


────ああ、俺は負けるのか。


何故だろうか、不思議と悔しいという感情は湧かない。
それどころか寧ろ雨上がりの晴れ模様のような清々しい気持ちだ。

彼らは強かった。
単騎では自分に遠く及ばないというのに全員が支え合い、実力の差を補い合う。各々の役割を理解し一人も欠けないよう動いていた。
仲間がいることの強さを知り、そして自分も以前はそうしてセフィロスを打ち破ったのだと思い出す。

ならばあの時のセフィロスのように自分が淘汰されるのは当然の事だ。強大な闇でも小さな光が集えば敵うのだと過去に証明したのだから。
クラウドは静かに目を瞑る。他者に掻き乱され、惑わされ続けた運命に終止符を打つように。






────そして破滅は訪れる。





369No One is Alone(第二ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:02:20 ID:QDRj4hJM0


「ぐ……っ、あれ…………俺、なんで……」

重力が何倍にも引き上げられたような感覚の身体を両腕で支え、なんとか起き上がる陽介は信じられない光景を目にする。


──地獄だった。


アスファルトのあちこちは焼け焦げ、災害が通った後かのように建築物の悉くが崩壊している。
一体何が起きたんだ。朧気な思考の中記憶を整理する途中でふと黒い物体を目にする。
丁度人間大の大きさのそれに陽介はドクンと心臓の警鐘を聞く。恐る恐る、という言葉すら軽く思えるほど覚束無い所作でそれを覗き込んだ。

「あ────」

間違いない。
真っ黒に焦げ所々焼け爛れた肉を露出するその物体の正体は。
ティファ・ロックハートの亡骸だった。


陽介は全てを思い出す。


総攻撃を仕掛ける瞬間、クラウドが目を閉じたかと思えば凄まじい速さで回転斬りを放ったのだ。まるで何かに取り憑かれたかのような無理やりな動きで。
異変に気が付いたティファは陽介を身を呈して庇った。刹那、剣の軌跡から生じた竜巻とそれに伴う電撃が辺りを呑み込んだ。その巨大過ぎる厄災の名残がこの惨状なのだ。

災害の理屈は簡単。クラウドのリミット技、画竜点睛とシルバースパークの同時発動。
それぞれでさえ魔物を屠るのに十分過ぎる威力を持つそれらが合わさればどんな事態が起きるか──最早、語るまでもあるまい。

「くそ、くそッ! 悠!! 悠は!?」

胸に潜む焦燥を隠そうともせず陽介は辺りの瓦礫の山を掻き分けて行方知れずとなった親友の姿を探す。
電撃と疾風の混合技──どちらかに耐性があり幾ら片方を無効化出来たところで甚大な被害は避けられない。事実陽介もティファが盾になってくれなければ意識は戻らなかっただろう。

370No One is Alone(第二ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:03:16 ID:QDRj4hJM0

枯れた喉は絶え間なく彼の名を呼び、破片によって手が切れるのも厭わずに辺りを探し回る。
そうして陽介が見付けたのは呆然と立ち尽くす"魔物"の姿だった。

「クラウド……!」

散らばる瓦礫の丁度その中心。台風の目のように穏やかな円状の大地でクラウドは天を仰ぐ。
陽介はそんな彼の姿を見て心の奥底から憤りに支配されるのを感じた。かつての仲間であるティファを呆気なく殺した血も涙もない男を前に冷静で居られるはずもない。

「やっぱり──」

ぽつり。
こちらを見るクラウドの顔を見て陽介は息が詰まる。

「現実は幻想に勝てないんだな」

彼の瞳はあまりにも悲しそうだったから。
薄く浮かべた自嘲は酷く人間臭くて。取り返しのつかない想い出に浸るかのように儚げで。
そんな彼の姿は助けを求めているように感じた。

歯を食いしばる。
力一杯拳を握る。

震える激情の矛先はクラウドからウルノーガへ。終わらせたいと願う彼の気持ちを踏み躙り、あまつさえティファを殺させた悪魔は地獄へ落としても事足りない。
やり場のない怒りを力に変えて。強く大地を踏み締める陽介はクラウドと見合う。

「アンタの言う現実がこんな結果なら、確かに幻想に逃げたくなる気持ちも分かるよ。辛い現実なんて見たくねぇよな」

現実は辛い。誰だって嫌になる時はある。
無慈悲な言葉だけがデタラメに街に溢れている。そんな曇り空に陽介だって嫌気が差す事があった。

「けどな、それじゃダメなんだ。形のない幻想を追い求めて、精一杯現実を生きる奴らの未来を奪うなんて……やっちゃいけねぇんだよ」

だけどクラウドと陽介は違う。
前に進むことを恐れ道を踏み外したクラウドには、陽介の存在はあまりにも眩し過ぎた。
それはまるで雲の隙間から顔を覗かせた太陽のように。

「だから俺が終わらせてやる。アンタの幻想を」

バッグから取り出されたグランドリオンが陽介の魂と木霊し本来の輝きを取り戻す。
穢れない純白の光はまさしく太陽。二重の光輝に目を細めたクラウドは同じように虹を構え、目の前の現実を迎え撃つ。


「────ペルソナァ!!」


爆ぜるアルカナ。走る電撃。
それぞれの想いを乗せ闘う者達。
空っぽな幻想の囚人は飛び交う光の中にひとときの夢を見た。


『俺の誇りや夢、全部やる』

『私はいつでもおまえのそばにいる』

『オレたちの乗っちまった列車はよ! 途中下車はできねぇぜ!』

『じゃあねぇ、デート一回!』



第三ラウンド────開始。






『あのね、クラウドが有名になってその時私が困ってたら……』

『クラウド、私を助けに来てね』

『私がピンチのときにヒーローがあらわれて助けてくれるの』

『──一度くらい経験したいじゃない?』



◆ ◇ ◆ ◇ ◆

371No One is Alone(第三ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:04:21 ID:QDRj4hJM0


ここはどこだ?

混濁する意識の中で周囲を見渡す。
辺り一面の真っ暗だった。無限に広がるような闇の前に足が竦む。
けど立ち止まっている場合じゃない。俺にはやるべき事があるはずだ。
漠然としか思い出せないけれど、そんな使命感に駆られて俺は足を進めていく。

そうしている内に遠くに二つの人影が見えた。辺りの暗さの中でも不自然なほどくっきりと輪郭を浮かばせていることからそれが男女のものだとわかる。
丁度いい、道を尋ねよう──やけに気怠い足を動かして歩み寄ろうとしたけれど、それは二人の声に止められた。

「鳴上先輩!」
「鳴上君、こっちに来ちゃダメ」

聞き覚えのある声だった。
何故か二度と聞けないと思っていたような、そんな感じがする。言いようのない安心感に包まれる中で俺は何故かと尋ねた。
すると二人はどこか言いづらそうに顔を伏せて、やがて俺の元へやってくる。

距離が縮まったことでより顔が鮮明に見えた。見覚えのある──けれど霞がかった記憶に身体が震える。
そんなもどかしさの中で俺は自分が泣いていることに気が付いた。なぜ泣いているのか分からず俺は二人に視線を戻す。
金髪の男はどこか苦い笑いを見せて、軽く黒髪の少女と視線を交わす。そうして何かを促すように彼女の背中を軽く押したかと思えば、暖かな温もりが俺の身体を包んだ。

372No One is Alone(第三ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:05:09 ID:QDRj4hJM0

「鳴上君……お願い、死なないで……!」

強く、強く俺を抱き締める彼女の言葉がとても重く感じる。震えた涙声はいつまでも耳に残って離れない。
俺は──その言葉に頷くことが出来なかった。

「先輩」

顔を俯かせて泣き続ける彼女へ金髪の男が声を掛ける。うん、と返した少女は改めて濡れた宝石のような瞳を俺に向けた。


「鳴上君、千枝や花村君を……お願い」


──ああ、そうか。


「里中先輩も花村先輩も無理しがちな性格スからね。まぁ……俺が言えたことじゃないかもしんないスけど」


二人の言葉を聞いて俺は全てを思い出す。
溢れ返る記憶の波の中でもみんなとの記憶は色褪せない。そして今俺がやるべきことも。
なんでこんな大切なことを忘れていたんだ。絶対に忘れちゃいけないはずなのに。


「──ああ、任せろ。雪子、完二」


もう忘れたりしない。
かけがえのない思い出はいつまでも胸に。
雪子と完二の意思は俺が受け継いだ。だから安心してくれ二人とも。

雪子と完二が安心したように笑顔で頷く。
急速に闇が晴れて辺りが光に包まれてゆく。やがて段々と雪子と完二の姿も見えなくなる。

そして俺は────目を覚ました。




373No One is Alone(第三ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:06:43 ID:QDRj4hJM0


それを戦いと呼ぶにはあまりに一方的過ぎた。

当然だ。ただでさえ疲労が溜まっている状態に加えスキルの連発による体力消耗により今の陽介は限界に近い。そんな状態でクラウドの相手をするなどとても無理な話だ。
仰向けで倒れ伏す陽介はノッキングじみた呼吸を繰り返しながらクラウドを見上げる。未だ悲しみに囚われたその顔に陽介は悔恨の念に駆られた。

(畜生……このまま、クラウドを助けられずに終わるのかよ……)

結局、救うことは出来ないのか。
現実は幻想に勝てないのか。

死ぬのが怖かった。
死んでしまったらそこで終わりだから。ティファがそうだったように救える存在を前にして終わってしまうのが堪らなく怖い。
命とはそんなに容易く、無意味に奪われていいものじゃない。そう心で分かっているのに身体が動かない。

「ごめんな、クラウド……お前を助けてやれなくてさ」

ようやく紡げた言葉はそれだった。
今更そんな謝罪をしたところで陽介の命は延びない。オーブに呑まれたクラウドはただ淡々と、死神めいた仕草で剣を振り下ろした。



「────ロクテンマオウッ!!」



神からの贈り物だなんて少しクサいかもしれない。
けど陽介にとってそれは間違いなく天の恵に他ならなくて。雷神の威厳を見せ付けるが如くクラウドの身を射抜く雷柱はまさしく天罰。

陽介はそのペルソナを知っている。
けれどそのペルソナは、その持ち主はもう居ないはずだ。一瞬覚えた疑問はしかしすぐに打ち消されることとなる。
理屈ではなく、熱く燃える魂で。

374No One is Alone(第三ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:08:02 ID:QDRj4hJM0



「────アマテラスッ!!」



癒しの風が陽介の身体を撫でる。
ネコショウグンのものよりもずっと強力な回復魔法に包まれた陽介は自然と涙を伝わせた。

知っている。知らないはずがない。
テレビの中で繰り広げられた大冒険には必ず彼らの姿があった。何度も何度も、数え切れないくらい助けられた。

「すまない、少し遅れた」

そう言って隣に並ぶ彼の横顔はいつもよりも頼もしくて。まるでもう二人傍にいるような────そんな気がした。

「おせぇよ、相棒」

だから安心して笑えた。
一人じゃないということはこんなにも安心出来る事なんだと実感出来て、力の入らなかった身体が勇気づけられる。

「それがペルソナの真の力か」

ジオダインの電撃から立ち直るクラウドが感情の籠らない声を漏らす。オーブの影響か、もはや並大抵の電撃は受け付けない肉体を持ち始めていた。

「もう友情ごっこを見せられるのは飽きた。今度こそ俺が破壊してやる」

ゾッとするほど冷たい殺気が膨れ上がる。
しかし陽介と悠は怯まない。それどころか二人は足並みを揃えて一歩分踏み出す。

「させねぇよ」
「ああ、させない」

クラウドの瞳は何を見るのか。
勇む二人に付き添うように金髪の男と黒髪の少女が並んでいる。幻だと分かっているのに何度目を凝らしてもそれは消えない。
自分の血塗れた手ではもう掴む事は出来ないそんな光景が────ひどく妬ましかった。



「「────ペルソナァッ!!」」



一斉に顕現する二体のペルソナ。スサノオとロクテンマオウ。
巻き起こる暴風に気を取られれば即座にロクテンマオウの巨体がクラウドに肉薄する。故にそれをさせんと稲妻を纏う虹の鋒を地面に突き刺した。

375No One is Alone(第三ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:09:26 ID:QDRj4hJM0

「──ジゴスパーク」

死刑宣告と共に辺りに迸る紫電の大蛇。
地を這うように迫るそれは陽介が喰らえばタダでは済まない。故に雷属性に完全耐性を持つロクテンマオウが陽介を庇い、その悉くを無効化する。

「いくぜ──ペルソナァ!!」

ならばペルソナごと斬り伏せる、と振るう刃はロクテンマオウの巨体によって隠されていたスサノオのソニックパンチによって逸らされる。隙を補うようにオーブの力を解放するがそれを意に介さずロクテンマオウの拳がクラウドの身体を打ち抜いた。

「まだだ、デッドエンド!!」

決定打にはならないと踏み赤熱した拳が振り抜かれる。威力こそ立派だが大振りなそれは冷静な飛翔に躱される。
しかしそれは布石──いつの間にか背後に回っていたスサノオの存在に気がついた頃にはもう遅い。

「おせぇ! ペルソナッ!!」
「ぐ……!!」

スサノオの両手から放たれる怒涛の烈風が空を裂く。咄嗟に横へ飛んだものの右翼の一部が巻き込まれ飛翔能力が失われる。
落下しながらも体勢を整えクライムハザードの要領で大地に向かい凄まじい勢いで剣を振り下ろす。遅れて生じた衝撃波が悠の身体を吹き飛ばした。

「悠!!」

クラウドの着地を許してしまった事実は容易に覆せない。地面を抉りながら振り上げられた最速の斬撃、破晄撃が悠の身体を切り裂かんと迫る。

「くっ……!」

避けられない。そう判断した悠はせめて受けるダメージを減らそうと防御の姿勢を取る。が、それはすぐに無駄となった。
己を庇うスサノオの身体によって。

「なに……?」
「へへ、思い付きだったけど……上手くいったみてぇだな」

スサノオの身体には傷一つ見当たらない。
彼の言う思い付きの内容は極めてシンプル。破晄撃が風属性であればスサノオの耐性で無効化出来る、と。そしてその予想は的中した。

376No One is Alone(第三ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:10:14 ID:QDRj4hJM0

「助かった、陽介」
「お互い様だ。さぁ、仕掛けるぜ!」

──なんなんだ、こいつらは。

互いの弱点を補い合い、どちらかが隙を生んでもどちらかがそれを潰す。まるで思考を共有しているかのような迅速にして的確な判断力は凡そ年相応とは言えない。
ならば何が彼らをそうしているのか。それは信頼というありふれた言葉に他ならない。

仲間を自らの手で殺した自分への当てつけか。
そんな歪な思考が浮かんでしまうほどにはクラウドも疲弊していた。魔物となった肉体は元のクラウドを凌駕する体力を兼ね備えているが、無尽蔵ではない。
単純な消耗戦ではクラウドに分があるだろう。けれどそんな不確定要素の多い戦い方は些細な物事で敗北を招きかねない。

──故に、クラウドは時を待つ。

「アマテラスッ!!」

マハタルカジャとマハスクカジャにより極限にまで研ぎ澄まされた二人の斬撃がクラウドの剣戟とかち合い、相殺を重ねてゆく。
それでも殺し切れない余波により生じた傷は即座にメディアラハンで治療。距離を取ってシルバースパークや破晄撃を放とうものならどちらかがそれを防ぐ。

飛行能力があれば攻撃のバリエーションを増やし拮抗を崩す事が出来るかもしれないが片翼の再生にはまだ時間が必要だ。
ならばそれがクラウドの待っていることなのか──否。自然治癒で回復する頃には決着などとうに付いていよう。
対する陽介と悠には手札が溢れている。初見で対処しきれない攻撃が来たのならばそれは確実な隙となるだろう。互角のように見える戦いは悠の覚醒によりその実クラウドが押されている。

「──はぁッ!」
「ロクテンマオウッ!」
「スサノオッ!」

クラウドの電撃を纏った二連撃──はやぶさ斬りをロクテンマオウのキルラッシュで迎え撃つ。三連撃を繰り出す赤い装甲に覆われた拳に微かにヒビが入るが相殺に成功する。
ロクテンマオウに気を取られた瞬間を縫って肉薄したスサノオのチャクラムがクラウドの体に裂傷を刻む。咲く血飛沫に反して手応えが薄い。
ほぼ反射的に行ったバックステップの恩恵だ。培われた戦闘経験により鍛え上げられた反射神経の賜物と言える。事実彼が多人数相手に戦えているのは魔物の基礎能力よりも反射神経や判断力による要因が大きい。
だからこそ長期戦で失われていくそれらが切れる前に決着をつけなければならない。


「────限界を越える」


そして、時は来た。
リミットブレイク状態に加えてオーブの力が極限まで肉体と融合した状態。名付けるのであればそれはスーパーリミットブレイク。
恐らくはこの状態になれるのは今この瞬間が最後だ。次にリミットブレイクになるようなダメージを受けた時には己も技を放てるような状態ではないだろう。

377No One is Alone(第三ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:11:15 ID:QDRj4hJM0

「まずい──あいつ、またあれをやる気だ!!」
「止めるぞ、陽介ッ!!」

だからこそこれがクラウドの『最後の切りふだ』だ。
ティファを殺め、悠を瀕死に追い込んだ技。画竜点睛の竜巻とシルバースパークの電撃を併せ持った魔軍兵士の集大成。
それの発動を許してしまえば待っているのは逃れよう無い全滅のみ。
腰を深く捻り低く虹を構えるクラウド。数瞬の静寂の後、爆発に似た轟音と共に破壊の剣が振り抜かれる────!


「ブレイブ……ザッパァーーーーッ!!」
「イノセントタック……っ!!」


虹の進行を塞き止めるは悠と陽介の全身全霊の攻撃。
クラウドのそれが切り札ならば悠と陽介の技もまた切り札。己の持つ最大の物理攻撃を寸分の狂いもなく同時に解き放ち、終焉を遅らせる。

「うおおおおぉぉぉぉぉッ!!」
「っ……、ああああああああッ!!」

究極技の衝突は凄まじい衝撃波を撒き散らし、辺りの瓦礫や街路樹を吹き飛ばす。この破壊の連鎖ですら技の発動前であると聞けば誰もが戦慄を抱くだろう。
その隕石が如き威力を秘める剣を一身に受け止めるスサノオとロクテンマオウの両腕は今にも押し潰されそうで。感覚を共有する悠と陽介もその激痛と重圧に悲痛なまでの叫びを上げた。

痛い、重い、辛い、苦しい──!
今にも腕がはち切れそうだ。過度に張り詰められた血管がぶちぶちと切れてゆくような錯覚を覚え、腕だけではなく両足もガクガクとと笑い始める。
立っているだけでも、呼吸をするだけでもこんなに辛いなんて初めてだ。けれど今ここで膝を折ってしまえばこれまでの努力が無に帰す。

「ぐ、ッ……おおおおおおおおおおォォォォッ!!」
「な、めんなあああああああァーーーーッ!!」

退かない。
一歩も退いてなるものか。
技の衝突は拮抗している。拮抗出来ているのだ。あの絶対的な力を持ったクラウドと互角にまでもっていけている。

あと一つ、あと一つ足りない。
これを打ち破るにはあと一つ必要だ。
どんな些細な事でもいい。力を貸してくれ。
奇跡よ、舞い降りろ──!

378No One is Alone(第三ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:12:02 ID:QDRj4hJM0





「────ペルソナッ!!」





それは決して奇跡ではない。
神が、因果が、運命が──彼らの声に傾いている!
まるで最初からそう描かれていたかのように。夢見る少年少女が抱いた儚くも綺麗な憧憬のように。
彼らが望んだ"力"はこの場に導かれた──!

「──っ!?」

吹き荒ぶ氷の風。
死角から放たれた魔法は瞬時にクラウドの両足を凍てつかせる。予期せぬ襲撃に気を取られたほんの一瞬。その一瞬が長い均衡を打ち崩した。

「ぐ、ぅ……っ!?」

スサノオとロクテンマオウの体が押し進む。ギリキリと鳴り渡る虹の刃はついに弾かれ、凄まじい反動がクラウドの体ごと大きく吹き飛ばす。
数度地面にバウンドし、片手で地面を押さえブレーキを踏んだクラウドは新たなる襲撃者を睨んだ。


「本当はさ、迷ってたんだ。いくら助けて欲しいってお願いされたって、死にたくなんてなかったから。こんな暴れ回ってる化け物相手に勝つなんて馬鹿じゃないのって、そう思ってたから」


視線は瓦礫の山のその頂きに集う。
片足を山頂に乗せて逆行を浴びる姿からは勇猛ささえ感じられて。気弱な口上とは裏腹な豪胆さを見せ付ける。

「けどさ」

人影が少しだけ首を傾げる。
覆われていた太陽が顔を出し思わず目を細める。と、晴れた視界に映し出された顔立ちは悠と陽介の心を打ち震わせる。


「──里中!!」
「千枝っ!」


繰り返そう。
それは決して奇跡ではない。

今ここに"全ての"ペルソナ使いが集うのは必然なのだ──!


「二人を見てたら、そういう馬鹿になってみたくなっちゃった」



第四ラウンド────開始。




379No One is Alone(第四ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:13:12 ID:QDRj4hJM0


「ポカ! ポカブー!」
「分かってる! 大丈夫だ、あいつらの強さは知ってるだろ?」

それは悠とティファが大きな音の方向へ向かって暫く後のこと。時間で言えば丁度クラウドがティファを殺害した頃だ。
八十神高校で待っててくれという悠の言葉に従いその方向を突き進むポカブとピカチュウだったが、その心中は不安で溢れていた。

「あの二人に限って最悪な事態は無いと思うが……なんだ、この胸のざわめきは。くそ、探偵の勘ってやつか? 不吉だぜ」

出来るのならば病院での戦いのように自分も助けに行きたい。けれどあんなに重い音が鳴るような戦場に向かえば足手まといなるのは目に見えている。てだすけのつもりが悠達を引き連れてじばくするなんて笑えない。

「ん? あれは……もしかして、悠が言ってたやつか!?」

そうして街道を進む内、短髪の少女が目に入った。緑色のジャージに茶色の髪……悠から教えられた里中千枝の特徴と一致する。
不安げな足取りを見るに彼女もこの殺し合いという状況に惑わされているのだろう。それによく見ればびしょ濡れだ。何者かに襲われた可能性が高い。
ならば警戒されぬよう第一声は選ばなければならない──そう考えたピカチュウはぶんぶんと手を振りながら彼女へ声を掛けた。

「おーい! あんた、里中千枝だな!?」
「!? ……え、シャドウ!? なに!? ってか何であたしの名前……」

ダンディな声色に似つかわしくないピカチュウの容姿と、己の名を呼ばれた事への驚きが合わさり千枝が硬直する。

「驚かせて悪い。俺は鳴上悠の友達のピカチュウだ!」
「え、鳴上君を知ってんの!?」
「ああ、アンタの特徴も悠から聞いてる。信頼出来る仲間だって言ってたぜ」

ピカチュウが放つその言葉に千枝は嬉しさと同時に心臓が軋むような心苦しさを覚える。
信頼出来る仲間──果たして彼は今の自分を見てもそう言ってくれるだろうか。自分は一度大して年も変わらなそうな少女を殺そうとしたのに。

「そう…………そっか、……」

自然と握られた拳が小刻みに震え始める。
この場に悠が居るなんて分かっていたのに。彼への距離が一気に近まるのを感じるとどうしようもない不安に苛まれる。
鳴上悠と出会い、『自分らしさ』を見つける。それを頼りになんとか歩けていたのに、途端に彼と出会う事を恐れ始めてしまっている。

380No One is Alone(第四ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:14:05 ID:QDRj4hJM0

もしも悠が自分を受け入れてくれなかったら。
自分にとって彼が希望たる存在になり得なかったのなら。
思い浮かぶ最悪なイメージは千枝から思考の余裕を奪い去る。

「なぁ、頼む! 悠のやつを助けてやってくれ!」
「え……」

だから、ピカチュウの懇願に迷いが生まれた。

「俺達には悠ともう一人仲間がいたんだが……二人ともあっちの市街地の方へ様子を見に行ったんだ。でかい音がしたから、誰かが襲われてるんじゃないかってな。音の規模からしてあれは普通じゃない」
「……それ、本当なの?」
「嘘なんかつくもんか!」

立て続けに、しかし簡潔に伝えられる近況は千枝の心を揺らがせる。悠のピンチと、そして彼の居る場所が明らかになった事で逃げ道が塞がれたからだ。
何かと自分に言い訳をして悠と出会う事を避けたい、なんて気持ちがなかったと言えば嘘になる。けれど確実に出会う術と理由を手にしてしまったのなら、その算段も霞と消えよう。

「あんたも色々と大変だったんだろう。様子を見ればわかる。けどな、今あいつを救えるのは千枝だけなんだ! 頼む!!」

一頻り捲し立てたピカチュウはぺこりと深く頭を下げる。
彼の言い分はなんとも勝手なものだ。この有様を見てなにか察せるものがあるのならば休ませてくれたっていいじゃないか。
疲労は抜けず、掌には刺傷。おまけにずぶ濡れで精神的にも参っている状態だ。そんな人間に助けてくれだなんて一方的にも程がある。

けれど、


「──鳴上君達はそこにいるんだよね?」


分かっている。
そんな状態の人間に縋らなければならないほどピカチュウは、悠は追い詰められているのだと。

疲れている?
掌が痛い?
服が濡れている?

──そんなの、今悠が味わっているであろう苦しみと比べれば些細なものなのだ。

381No One is Alone(第四ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:14:52 ID:QDRj4hJM0

「わかったよ、助けに行く」
「本当か!!」

バッと顔を上げるピカチュウの表情は歓喜に満ちていた。どこかクマを思わせる調子の良さが少しだけ可笑しくて、千枝は小さな笑みを浮かべた。

「俺達は八十神高校で待ってる。後で落ち合おう! ……くれぐれも無理はすんなよ!」
「あー、やっぱりあそこ? 鳴上君の考えそうな事だわ」

去り際、そう言い残すピカチュウに千枝は再び笑みを浮かべた。
奇しくも八十神高校という同じ場所を目的地としていた。ここでも鳴上悠という人間は変わらないのだと分かったような気がして、不安定な心を持ち直す。

「さてと、行きますか」

パチンッと両頬を叩き気合いを入れ直す。
この数分で彼女の顔は別人のように強く、気丈な調子を取り戻した。


「──あたしらしさを見つけに、ね」




382No One is Alone(第四ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:15:46 ID:QDRj4hJM0


「よ、っと」

持ち前の身軽さで瓦礫の山から悠達がいる地面へ飛び移る千枝。当の悠達は未だ驚きと、そして湧き上がる感動に声が出せない。

「何驚いてんのよ、二人とも! ほら、立って立って。こういう戦いは慣れっこでしょ?」
「……フッ。ああ、そうだな」
「ったく、遅れてやってきたくせに一丁前に仕切りやがって……ま、里中らしいけどよ」

まさかまたこうして三人並んで戦うことが出来るなんて思わなかった。
懐かしい。そして心地良い。今ならばどんな敵にだって勝てるような、熱く滾る自信が奥底から湧き上がる。

「……また、ペルソナ使いか……」

辟易の声を上げるクラウドは──孤独だ。
陽光を浴び立ちはだかる三人と日陰に佇むクラウドはまさしく光と影のように。
一度地に落ちた気持ちは二度と這い上がれない。渦巻く負の思考に囚われたクラウドはただただ目の前の三人に憎悪を膨らませる。

「いくよ、鳴上君! 花村!」
「ああ!」
「──ペルソナッ!」

もううんざりだ。
いい加減にしてくれ。
お前達の絆とやらは十分にわかった。そんなに俺の惨めさを浮き彫りにしたいのか。
誰かが追い詰められても必ず誰か一人が踏み止まりギリギリのところで死を回避する。俺はもう、それが出来ないのに。

「ぐっ……!」
「一度下がれ、陽介!」
「鳴上君、回復お願い! あたしが時間稼ぐ!」

ペルソナとは困難に立ち向かう為の人格の鎧。それを得られる者はほんの一握りだ。
けれどクラウドはこの決して長くない時間の中で雪子、陽介、足立、悠、千枝、と──この場にいる全てのペルソナ使いの力に触れてきた。
ペルソナ使いとは自分の全てを認められた強い者達。己を受け入れられず、本当の自分を見ようとしなかったクラウドとは対照的な存在だ。

(──本当に、残酷な世界だ)

もし神が本当に居るのならば、つくづくそいつは性格が悪いのだろうと思う。
自分を騙し、ウルノーガの傀儡となり、ティファを殺し。何を得ることも無く自ら希望を零し続けた自分がこんな奴らの相手をするなんて。

「ペルソナぁッ!」

──ああ、わかったよ。
だったらその絆とやらを利用してやろう。
お前達は仲間がいなければ何も出来ないのだから。一人でも殺してしまえば立っていられなくなるんだろう?

383No One is Alone(第四ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:16:29 ID:QDRj4hJM0

「う……、くそ……!」
「はぁ、はぁ……っ!」

千枝が加わった事で戦況は良くなったはずだ。けれど一向に勝利の兆しは見えない。
先程の奥義のぶつかり合いにより陽介と悠の身体は悲鳴を上げていた。それだけではない、体力もSPも底が見え始めてきたせいか大胆な攻め方が出来ないのだ。
となれば主力は幾分か余裕のある千枝だが、ペルソナが進化していないこともありクラウドとまともに打ち合う事は難しい。

「──! ロクテンマオウ!」
「くそっ、スサノオッ!」
「トモエッ!」

クラウドの斬撃も以前は悠と陽介の二人で相殺出来ていたのに今ではそれも厳しい。二人では押され、三人がかりでようやく押し返せる。
絶え間ない連撃のせいで合間に反撃を挟む隙がない。おまけに電撃や疾風といった搦手を交えてくる為些細なミスが命取りになる。
しかしそれはクラウドも同じだ。悠達が攻撃に移れない理由はクラウドがその場その場で最適解の攻撃を行っているから。つまりそれが崩れてしまえば三人からの一斉攻撃が飛ぶことになる。

「う……っ!」
「! 花村!!」

我慢比べに先に根を上げたのは陽介だった。
四人の中で最も激戦に激戦を重ね、体力の消耗が激しい彼が膝をつきほんの数瞬スサノオの消失を許してしまうのも無理はない。
だがその僅かなほつれはクラウドにとっては砂漠のオアシスのようなものだ。

「はぁッ!!」
「う、ぐっ!?」

二対一となった一瞬、威力よりも速度を重視したはやぶさ斬りを最も近い位置にいるトモエに叩き込む。幾ら威力を抑えたといえどクラウドの膂力から放たれるそれは千枝からダウンを奪うには十分だ。

「里な──」
「危ない、陽介!!」

狼狽する陽介へクラウドは電撃を放つ。即座にロクテンマオウが庇い出てそれを無効化する。しかし予めそれを読んでいたクラウドはロクテンマオウへ急接近。
斬撃に備え防御の姿勢を取るロクテンマオウへクラウドは跳躍という不測の行動を取る。巨体を踏み台に空へ舞い上がったクラウドはそのまま空中から陽介へシルバースパークの狙いを定めた。

「があああああああああああッ!!」
「陽介っ!!」

身を焦がす電流に絶叫が轟く。やがて倒れ伏す陽介の後方、片翼での不安定な着地を決めたクラウドはトドメを刺すため地を砕き疾風の如く迫る。

384No One is Alone(第四ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:17:24 ID:QDRj4hJM0

「ペルソナッ!!」

クラウドの追撃は目前に広がる巨大な拳に遮られる。イノセントタック──クラウドであれど被弾は絶対に避けなくてはならない一撃だ。全身全霊斬りでそれを迎え撃ち、相殺する。

「ペルソナ……!!」

またしても迫る破壊の拳。奥義であるそれを連発されるとは予想外だ。しかし対処出来ない訳では無い。はやぶさ斬りで威力を殺したそれを屈んで掻い潜る。

「ペルソナアアァァ──ッ!!」

そして三発目。
さしものクラウドもこれをやり過ごす事は出来ない。極限まで身を固め、虹の剣身を盾代わりにそれを防ぐ。
無論イノセントタックを防ぎ切る事など不可能。故に直前で後方へ跳躍し少しでも受け流そうと試みた結果、凄まじい衝撃に撃ち抜かれ後方へ弾き飛ばされるだけに留まった。

「アマテラスッ!!」
「……っ、悪い、悠……! ペルソナァ!!」

ようやく出来たクラウドの隙は一瞬足りとも無駄にできない。即座にアマテラスへチェンジしディアラハンを陽介にかける。戦線復帰を果たした陽介は再度スサノオを君臨させた。

決着の時は近い。語らずとも戦士達は確信する。
双方共に限界だ。これ以上の戦いの継続は望み薄──故に、互いが最後の一撃。
陽介と悠の視線が重なる。相棒の意図を汲み取った二人は同時にアルカナを出現させた。

「っ!?」
「やべ、速──」

しかしそれを割るよりも先にクラウドは駆ける。ただ肉薄という過程に全力を注いだ結果生まれた速度は脅威的だった。
このままではアルカナを割るよりも先にクラウドの剣が彼らの身体を両断するだろう。
技が発動する前に妨害してしまえばいい。邪道だが効果的なその作戦はこれ以上なく実を結んだ。


「──ペルソナッ!!」


横から伸びた巨大な拳がクラウドの握る虹を弾き飛ばす。
訳も分からぬまま突如得物を失ったクラウドは攻撃の方向へ顔を向ける。と、うつ伏せのままにやりと不敵な笑みを浮かべた千枝と目が合った。
ゴットハンドの反動により千枝は再び意識を失う。けれど勝利を確信した笑みはそのままに。
何故ならば──信じているから。




「「ペルソナァッ!!」」




マハガルダインの旋風がマハアギダインの劫火と融合し、灼熱を纏う竜巻が誕生する。
触れるもの全てを呑み込み邁進するその熾烈さたるや、まるで顎を開けた龍のよう。
膨大な力を持つ龍に武器を失ったクラウドは立ち向かうことさえ許されない。筆舌に尽くし難い美しさを目に焼き付けた青年はぽつりと、穏やかな独言を零した。


「────綺麗だな」


そして龍は、
彼を呑み込んだ。




385No One is Alone(第四ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:18:17 ID:QDRj4hJM0


「終わった、のか……?」

陽介が口を開くまで辺りには無音が続いていた。
先程までの死闘が嘘のような静まり返った世界。陽介は最初それが何かの前兆なのではないかと不安に陥ったが、いつまでも崩れることの無い穏やかな空気の流れに当てられて歓喜に酔った。

「やった……やったぞ相棒! 俺達、勝ったんだっ!! クラウドに勝てたんだ!!」
「……ああ、そうだな」

高らかな勝利宣言。
長く激しい死闘の勝利を噛み締め、溢れ出る達成感と喜びを身体で表現する陽介。が、疲弊した肉体がついていかずがくんと糸の切れた人形のように膝から崩れ落ちた。

「うおっ!? ……はは、はしゃぎすぎた……かな」
「フッ……相変わらずだな、陽介」
「わり、相棒。へへ、なんか力抜けちまってさ」

差し伸べられた悠の手を握り重い体を起こす。なんとなく格好がつかないような気がして照れ臭そうに笑った。
ふと悠を見れば柔和な微笑みを携えながら右手を顔の横まで上げていた。彼の思いを汲んだ陽介は同じように右手を上げ、すれ違うように悠の横を歩く。

──パチィンッ!

軽やかなハイタッチの音が響く。
久し振りの感触だ。強敵を打ち破った時はいつもこうして喜びを分かち合っていた。
域な事してくれるもんだ。彼らしい計らいが堪らなく嬉しくて。陽介は振り返る。

そこにはゆっくりと倒れ込む悠の姿があった。

386No One is Alone(第四ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:19:02 ID:QDRj4hJM0

「悠?」

呼び掛ける。返事はない。
傍に座り込んだ陽介は軽く彼の身体を揺さぶる。

「おい、悠」

悠は動かない。
いくら呼んでも答えが返ってくることはない。
やり遂げたような微笑みを残したまま、悠は──事切れていた。

「なぁ、悠! 冗談よせよ!! 嘘だ……嘘だ!! ここまできてそんな事あるかよっ!?」

認めたくない。認められるはずない。
ボロボロと零れ落ちる涙で制服を濡らしながらただ一心に彼の身体を揺さぶる。けれど無抵抗に揺れる悠に現実を突き付けられるばかりだった。

それは、当然の結果だった。
悠の肉体はとうに限界を越えていた。本来ならば立っている事すら苦痛だったのに、仲間を護らなければという強い意志が彼の身体を限界以上に動かしていたのだ。
だからこそ、命を削る奥義であるイノセントタックの連発による反動を受け止め切れなかった。

「悠っ!! 悠ぅぅーーーーッ!!」

悲しい程の静寂の中で陽介の叫びが木霊する。そして、後に残ったのは咽び泣く声だけだった。

387No One is Alone(第四ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:19:28 ID:QDRj4hJM0




ガラリ、


瓦礫が崩れる音が陽介の嗚咽を搔き消す。
視線をやった先には幽鬼のように立ち上がる人影の姿があった。

「もう、いいだろ……」

人影──魔軍兵士クラウドはぎこちなく身体をよろめかせながら近づく。一歩進む度に皮膚の一部が焼け落ち、ズタボロになった羽がひらひらと枯れ落ちる。
まるで壊れた操り人形が無理やり動かされているような地獄じみた光景は、胸を抉るような悲痛を陽介に訴えかけた。

「もういいだろっ!!」

クラウドの肉体はもう死んでいる。今彼を動かしているのはオーブの支配力と参加者を殺して回れというウルノーガから与えられた使命のみ。
そこにクラウド・ストライフという人間の意思はない。空っぽの依代に入り込まれ、死ぬことすら許されず望まぬ戦いを強いられる。
どれだけ生命を侮辱すれば気が済むんだ。湧き上がる憐れみと強い憤りが陽介を立ち上がらせる。

「分かってるよ、クラウド。アンタが何を望んでるのか」

涙を拭い、クラウドを見据える。
ペルソナを出せる力はもう残っていない。最後に頼るのは己の拳。それは武器を失い、技を放つ心をも奪われたクラウドもまた同じだ。


「終わりにしようぜ、クラウド。これが本当の……最後の戦いだ」


複雑に絡み合う因果が齎した死闘。
数多の異能が飛び交い、最大規模の破壊を繰り返したその戦いの終幕はシンプルな殴り合い。
駆けろ青年達。目の前の幻想を討て。
未来を掴み、現実(いま)を乗り越えるために。


最終ラウンド────開始。




388No One is Alone(最終ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:20:53 ID:QDRj4hJM0


「うおおおおぉぉ──!!」

気合いと共に振るわれた陽介の拳がクラウドの頬を殴り抜く。
大きく後退するクラウドを追うように今度は逆の拳が肋に突き刺さる。血を吐くクラウドはしかし怯まずに反撃の蹴りを腹に叩き込んだ。

重い咳で空気を吐き出し陽介はがむしゃらに掴みかかる。そのまま頭突きを繰り出し、屈み込んでがら空きになった腹へ膝蹴りを浴びせ、突き飛ばした。
尻餅をつくクラウドへ追い討ちを決めようとふらつく足を掲げるが、これより先にクラウドが転がり陽介の足は瓦礫を崩すだけに終わる。
反撃を警戒し咄嗟に両腕を交差させ顔の前に持っていく。が、形のなっていないクラウドのローキックが陽介の左腿を打ち抜き無意味と化す。
苦悶の呻きを上げ足を押さえる陽介の右脇腹に大振りなボディブローが直撃した。白飛びする視界の中、踏み込みと共に右肩を引いて拳を振り抜こうとするクラウドの姿を捉え、反射的にそのパンチを頭突きで受け止める。

何かが砕ける音がした。
既に崩壊寸前だったクラウドの右手は血飛沫を散らし、競り合いに打ち勝った陽介はそのままクラウドを巻き込んで倒れ込み、馬乗りになる。

鈍い音が何度も、何度も響く。
十発近い殴打を受けたクラウドの顔面は膨れ、斑な青痣が生まれる。無抵抗でそれを受け入れていたクラウドは不意に弾かれるように陽介の体を蹴り飛ばし、がくがくと震えながら立ち上がる。

血混じりの唾を吐き捨て、陽介は全力疾走でクラウドへ近付く。傍から見れば牛歩のように遅いそれをクラウドはいなせず、放たれたテレフォンパンチに頬を殴り抜かれた。
ぐらりと大きく揺れたクラウドは体勢を立て直すこともせず不格好な反撃の拳をお見舞する。

389No One is Alone(最終ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:21:37 ID:QDRj4hJM0

「こ、の──!」
「…………っ!」

そこからはもう、ノーガードの殴り合いだった。
一発殴っては殴り返され、殴られては殴り返し──腕が持ち上がらなくなるのは同時だった。
がくんと両膝を着き、お互い前のめりに倒れようとしたせいで奇しくも身体同時で支え合う形となる。そのまま数秒経ち、やがて同時に頭を後ろに引き強烈な頭突きがぶつかり合う。

今度は二人とも後ろへ倒れ込んだ。
満開に広がる青空を見上げ、朦朧とする意識に無理を言って身体を起こす。たっぷり時間を費やして立ち上がれば何も言わず拳を握り締める。もう手の感覚なんてないけれど、確かに握れていると信じた。


「う、おおおおおおおぉぉぉぉ──!!」
「あああああああああぁぁぁぁ──!!」


全てを込めて殴り掛かる。
正真正銘全力の拳が相手を狙う。
時同じく放たれた攻撃は鈍重な音を一つ立てる。即ち、当たったのはどちらかだけ。

暫しの静寂の後、ゆっくりと倒れ伏す影。
それを見下ろす青年は果たしてどんな表情を浮かべているのか。悲哀とも、歓喜とも、達成感ともつかぬ感情が絡み合った複雑な面持ちで空を見上げる。


「悠、天城、ティファさん、ホメロス……」


死闘の勝者、陽介は静かに散っていった仲間達の名を連ねる。
祈りを捧げるように。天に還る彼らへ伝えるように。
空を仰ぐ青年は少しだけ微笑んだ。


「──俺、勝ったよ…………」


声よ届け。想いよ伝われ。
失われた命は無駄ではない。みんなが道を繋いでくれたから今がある。

だから安心して眠ってくれ。
これから先の未来は、俺達が繋ぐから。



戦いは──終わった。





390No One is Alone(最終ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:22:18 ID:QDRj4hJM0


ああ、負けたのか。
まるで地の底まで落とされるような意識の漂流の中、どこか他人事のように思う。

もうどうでもよかったから。
全てを取り零し、生ける死体となった時点でそれはクラウド本人ではなかったから。
だからなんの感情も湧かない。湧かせないのだ。ただ自分のような何かが絆とやらに敗北したと、俯瞰じみた視点でしか見ることが出来ない。


けれど、ただ一つ思うことがあるのならば。
当然だな──という自嘲に似たなにか。


救いの手を跳ね除け、自ら絶望の渦を撒き散らし続けた醜い怪物にはお似合いの最後だ。
最初から勝てるはずなど無かったのだ。自分は最後まで一人で力も偽りのもの。けれど彼らは多くの仲間と共に真なる力で立ち向かった。

ならば、自分も仲間がいれば結果は違ったのだろうか。
そんな後悔をする資格なんてない。共に旅してきた彼女達を仲間と呼ぶことは許されないのだから。

「俺、は……」

今更許してもらおうだなんて思わない。
だからせめて彼女達との繋がりは地獄まで持っていかないように。想い出は綺麗なまま終わらせたくて。
改めてそれを口にする事で憐れな人生に終止符を打つ。


「ひとりぼっち……だった……」


瞳を閉じる。
魂の行く末に身を任せ、死へと落ちてゆく。
こうしてクラウド・ストライフという男が抱いた幻想は終わりを迎えた。

391No One is Alone(最終ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:22:55 ID:QDRj4hJM0






『────違うよ』


不意に聞き慣れた声が響く。
落下し続けるかと思われた身体はふわりと浮き上がり、両足が地に着く感覚に見舞われる。
顔を上げたクラウドの瞳にはこちらを見て微笑む黒髪の少女の姿が映し出された。

『ひとりじゃない。クラウドには仲間がいるよ』

これは、幻なのか。
揺蕩う意識が見せた想い出ならそれでもいい。目を逸らさず、向き合わなければならない。

「同情も、深い悲しみもいらない。……ただ一つだけティファ、お前に問いたい」

勇気を出して少女へ声を掛ける。
彼女は静かに、ただじっとクラウドの瞳を見つめている。

「お前はまだ……俺を仲間と呼んでくれるのか?」

孤独が嫌いだった。
けれどあの道を進むからには孤独にならなければいけなかった。
すべてが終わったあとにこんな事を聞くなんて都合がいいかもしれない。拒絶されるかもしれない。
それでも、もし許されるのならば────


『勿論。クラウドは私の大切な仲間だよ』


俺はずっと、その言葉を待っていたのかもしれない。


「──ありがとう」


魔軍兵士としての彼は死んだ。
魔物の肉体は輝きと共にクラウド・ストライフ本来の姿を取り戻す。
見つめ合う男女は穏やかな笑顔を浮かべ、光の粒子となりやがてゆっくりと消えた。






  誰も一人ではない
──No One is Alone──






392No One is Alone(最終ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:23:37 ID:QDRj4hJM0


「……ぅ、……」

意識を取り戻した千枝が呻きと共に身体を起こす。辺りを見渡し、戦闘の様子が見られないことから彼らが終わらせてくれたのだと安堵する。

「いつから気絶してたんだろ……かっこわるいなぁ」

格好つけて参戦したはいいものの一番最初に意識を失う事になるとは。結果オーライとはいえどことなく気恥ずかしい気持ちに駆られる。
けれど時間と共に思考が冷えてゆき、そんな些細な感情を吹き飛ばした。

「──そだ、鳴上君と花村探さないと!」

いつまでも寝ていられない。
疲労を残した身体を引きずって瓦礫の山を駆け下り、悠達を探し回る。

「あ、いた! おーい!! 鳴上君、花む──」

彼らを見つけるのに時間は掛からなかった。
仰向けに倒れる悠を介抱するように寄り添う陽介の姿が遠目に移る。ぶんぶんと片手を振りながら急いで駆け寄る最中、千枝の声は途切れる事となる。

「……え?」

姿がはっきりと見える距離まで近付いて異常に気がつく。ぴくりとも動かない悠と、その傍でじっと目を瞑る陽介の姿。
それはまるで死者へ黙祷へ捧げているかのようで、不吉な予感に速まる鼓動に息を荒らげては次の瞬間にそれが事実なのだと知らされる。

「悠は俺達の為に死んだ。最後まで戦い抜いたんだ」

淡々と紡がれる陽介の言葉。
それを聞いた瞬間内蔵が凍てつくような感覚が襲い掛かり、抑えるものを無くした涙がとめどなく溢れ出す。

393No One is Alone(最終ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:24:10 ID:QDRj4hJM0

「嫌、嫌──!!」

頭が目の前の現実を否定する。
脳味噌がぐちゃぐちゃにかき混ぜられるような気持ち悪さに吐き気を覚える。
悠が動かないのも、陽介が嫌に落ち着いているのも受け入れられなくて、どうしようもない恐怖を誤魔化すように早口で捲し立てた。

「嘘だよ、鳴上君が死ぬはずない!! だって鳴上君、あんなに強いんだから!! 鳴上君の強さは花村だって知ってるでしょ!? 全く、こんな時につまんない冗談やめてよ花村……ほら、起きて鳴上君。一緒に八十神──」
「里中っ!!」

悠の身体に触れようとした瞬間に陽介の荒い声が響き、肩を跳ね上げる。
振り返る陽介の顔は先程までの落ち着きようが嘘のようにくしゃくしゃに歪んでいて、今にも泣き出しそうだった。

「認めたくねぇのも分かる、受け入れられねぇのもわかる! でもな、目を逸らしちゃダメなんだ! 辛い現実にうちのめされたって、挫けそうになったって!! 俺達は進まなきゃいけねぇんだ!!」
「っ!? ……は、花村……」

堰を切ったように大粒の涙を零しながら訴える陽介の懸命さに千枝の喉奥が熱を帯びる。
そこで初めて陽介が決して無感情だった訳では無いと気が付いた。彼は、現実を受け入れていただけなのだ。
悠との付き合いが最も長く、相棒の死の瞬間を目にしている分千枝よりも辛いはずなのに。その感情を抑え込んで前に進む事を選んだのだ。

「だから里中……一緒に進もう。しっかり前を向いて、現実と向き合おうぜ」
「……現実と、向き合う……」

強い感情を節々に滲ませる震え声で語りかける陽介に抱くのは羨望。
自分はそんな強い人間じゃない。なのに陽介は悠の死を乗り越え、迷わずに前を進んでゆく。
今の陽介はまるでぐんぐんと自分を追い越しているようで、その背中が悠と並んだような──そんな気がした。

394No One is Alone(最終ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:25:01 ID:QDRj4hJM0


分かっていたんだ。
いつまでも立ち止まってなんかいられないって。彼の想いを継がなくちゃいけないんだって。
違う、鳴上君だけじゃない。人知れず死んでしまった雪子の分も生きなくちゃいけない。
もう生きれない人達に代わってこの殺し合いをぶち壊す──きっとそれが本当の『あたしらしさ』なんだ。

「鳴上君……鳴上、くん……うっ、ああ……うわああああああぁぁぁぁ────!!!!」

けど、ごめんね。もう少しだけ待ってて。
これも『あたしらしさ』だからさ。
だから、お願い。今はただ二人の死を悲しむ女の子でいさせて。
そしたらちゃんと、現実と向き合うから。


(……辛いだろうな、里中)

悠の名を呼び慟哭する千枝を眺めながら、釣られるように陽介も行き場を失った涙を零す。
この戦いで失ったのは悠だけではない。自分の為に命を懸けてくれたホメロスやティファのこともしっかりと弔いたかった。

(ありがとな、皆。それと……見ててくれ。こんな殺し合い、絶対に止めてみせるから)

ウルノーガに振り回され命を落としてしまった彼らがせめて安らかに眠れるように願い、目を瞑る。
蘇る大切な想い出。二度と戻ることのないあの日々を胸に、残された自称特別捜査隊は前へ進む決意を固めた。





忘れないよ大事な みんなと過ごした毎日
NEVER MORE 暗い闇も一人じゃないさ

見つけ出すよ大事な なくしたものを
NEVER MORE キミの声がきっとそう

──ボクを導くよ



【鳴上悠@ペルソナ4 死亡確認】
【ティファ・ロックハート@FINAL FANTASY Ⅶ 死亡確認】
【クラウド・ストライフ@FINAL FANTASY Ⅶ 消滅】
【残り46名】

※E-4の一部の区域が崩壊しました。
※龍神丸、虹、ティファの支給品はE-4のどこかに放置されています。
※シルバーオーブ・LIFEは生命エネルギーを使い果たしました。
※クラウドの遺体は消滅しました。

395No One is Alone(最終ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:25:47 ID:QDRj4hJM0


【E-4/一日目 昼】
【花村陽介@ペルソナ4】
[状態]:ダメージ(大)、顔に痣、体力消耗(大)、SP消費(大)、疲労(極大)、決意
[装備]:グランドリオン@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品3人分、女神の杖@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて、ルッカの工具箱@クロノ・トリガー、シーカーストーン@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド、モンスターボール(空)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト、シルバーオーブ・LIFE@ゲームキャラ・バトルロワイアル、クラウドの首輪、不明支給品(1〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と共に完二の仇をとる
1.悠、ティファ、ホメロスを弔う。
2.死ぬの、怖いな……。
3.足立、お前の目的は……?

※参戦時期は足立との決着以降です。主催者陣営に足立がいることを知りました。
※鳴上悠との魔術師コミュはMAXになりました。
※クラウドの過去を知りました。
※ペルソナ『スサノオ』を覚醒しました。

【里中千枝@ペルソナ4】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、体力消耗(大)、SP消費(小)、びしょ濡れ、右掌に刺し傷、深い悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、守りの護符@MONSTER HUNTER X、ランダム支給品(0〜1個)
[思考・状況]
基本行動方針:前を向き、現実と向き合う。
1.鳴上くん……。
2.陽介と共に八十神高校でピカチュウ達と落ち合う。
3.自分の存在意義を見つけるまでは、死にたくない

※錦山彰、ミファーは死んだと思っています。


【E-4東側/一日目 昼】
【ピカチュウ@名探偵ピカチュウ】
[状態]:健康
[装備]:モンスターボール(ポカブ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1.八十神高校へ行く。
2.悠とティファの仲間、そして工具箱に書かれた『L』、ポカブのパートナーを探す。
3.悠、ティファ、無事でいてくれ……。

※本編終了後からの参戦です。
※電気技は基本使えません。
※ティファからマテリアのこと、悠からペルソナのことを聞きました。

【支給モンスター状態表】
【ポカポカ(ポカブ ♂)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康、満腹
[特性]:もうか
[持ち物]:なし
[わざ]:たいあたり、しっぽをふる、ひのこ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルを探す
1.ピカチュウ達について行き、ベルを探す。
2.強くなってベルを喜ばせたい。

396 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:26:08 ID:QDRj4hJM0
投下終了です。

397 ◆OmtW54r7Tc:2021/01/30(土) 21:05:35 ID:A5R03RPk0
ゲリラ投下します

398回想:彼の求める強さ ◆OmtW54r7Tc:2021/01/30(土) 21:07:22 ID:A5R03RPk0
「…私の負けよ」
「…ありがとうございました」

フスベシティジムリーダー、イブキは負けを認め、頭を下げる。
そんな彼女を、少年―レッドはつまらなそうにしながらも、一応礼を言う。
レッドの態度にイブキはムッとするも、しかし相手はあのワタルすら倒したチャンピオンである。
渡さないなんて失礼なこと、さすがにできない。

「これがこのジムのバッジ、クリムゾンバッジよ」
「これでジョウトのジムも、制覇か…」

レッドはチャンピオンとなった後、更なる強さを求めて修行の日々を送っていた。
そして、新たなる強敵を求めてジョウトのジムに挑んだ。
しかしこれもまた、難なく制覇してしまった。
今回のフスベジムも、氷タイプやドラゴンタイプのポケモンを中心に編成し、あっさり倒してしまった。

(…なんだろうな、このモヤモヤは)

相手によって手持ちを変えるのは、当然のことだ。
そこに卑怯もなにも、ない。
それは分かっているのに…何故だか、釈然としないものを感じていた。

「あ、そうだ、君」
「なんですか?」
「ワタルが言ってたわよ、チャンピオンなんだから、たまにはポケモンリーグに顔を出せって」
「…ポケモンリーグか、久しぶりに顔出してみようかな」

399回想:彼の求める強さ ◆OmtW54r7Tc:2021/01/30(土) 21:08:41 ID:A5R03RPk0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

「ファファファ!久しぶりであるなレッド殿」
「キョウ!?」

ポケモンリーグにやってきて、久しぶりに四天王と顔を合わせたレッドは、見知った顔に驚く。
彼の名はキョウ。
セキチクジムのジムリーダー…だった男だ。

「リーグの方から推薦を受けてな。ジムは娘に任せておる」
「へえ…数年経てば色々変わるもんだ」

「レッドくん。久しぶりだ」
「ワタル…」
「君がいない間に四天王も入れ替わりがあってね、新顔もいることだし、せっかくだし我々四天王に、挑戦してみないか?」
「ああ…そうだな」

そうしてレッドは、四天王に挑戦することになった。
一人目のキョウ、二人目のシバを倒し、そして三人目。
四天王の中では唯一初顔合わせの、カリンだ。
あくタイプの使い手で、シバ対策に入れてたエスパータイプがお荷物になってしまったものの、難なく勝つことができた。

「ありがとうございました」
「……………」

戦いを終えて、レッドはお辞儀して礼を言う。
しかし、カリンの方は何も言わず、こちらを睨みつけていた。

「…あの、なにか」
「…あなた、つまらないわ」
「え?」
「あなたのポケモン、よく鍛えられているけど…なんていうか、バトルしてて面白くない」

随分はっきりと物を言う女性だな、と思った。
実際のとこ、同じように感じてるのは彼女だけではないと、レッドは思っている。
キョウも、シバも、バトルが終わった後、何かいいたげな微妙な顔をしていた。

「あなた、わたし達四天王やジムリーダーが、どうしてタイプを統一した編成にしてると思う?」
「え、ええと……す、好きだから、とか…?」
「その通り。私はあくタイプが好き。だからあくタイプを極めるために、そういうポケモンばかりを使っているの」
「タイプを統一しない俺みたいなのは、半端ものだっていいたいんですか?」

少しムッとしつつ、レッドは尋ねる。
それに対してカリンは、首をふる。

「そうは言わないわ。だけどね、私、思うのよ」



「強いポケモン、弱いポケモン、そんなの人の勝手。本当に強いトレーナーなら、好きなポケモンで勝てる様に頑張るべき」



「あ…」

ドクン。
心臓が高鳴った。
カリンの言葉は、レッドに大きな衝撃となって襲い掛かってきたのだ。

400回想:彼の求める強さ ◆OmtW54r7Tc:2021/01/30(土) 21:09:29 ID:A5R03RPk0
「好きな、ポケモンで…?」
「ええ、そう。強いポケモンを持てば誰だって強くなれる。そんな誰にだってできること、本当の強さとは、私は思わない」

目が覚めたような気分だった。

強くなるために、手持ちを厳選して。
その為に弱いポケモンを切り捨てる。
相手に合わせて、手持ちを変える。
それは決して悪ではない。
強くなろうと思えば、高みを目指そうと思えば、当然の選択だ。

(だけど、違うんだ…それは『強くなるための方法』ではあっても、『俺の欲しかった強さ』じゃなかった…!俺の、俺が欲しかった強さは…!)



「レッド、どういうことだ!?チャンピオンをやめるって!?」

レッドの突然の申し出に、ワタルは困惑する。
それに対してワタルは、ニッと笑って言う。

「修行をしたいんだ。本当の強さを手に入れるために。だからワタル、君が繰り上げでチャンピオンをやってくれないか」
「そんな勝手な…!」
「頼むよ!」

ズイっと身を乗り出してレッドは懇願する。
その目は、少し前までのなにかに悩んでいるような暗いものではなく、メラメラと燃え盛るような輝きを放っていた。

「…まったく、そんな目をされちゃ断れないじゃないか」
「それじゃあ!」
「ああ、強くなって来い、レッド」
「勿論さ!」

401回想:彼の求める強さ ◆OmtW54r7Tc:2021/01/30(土) 21:11:53 ID:A5R03RPk0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

シロガネ山の入り口にて、レッドは6匹のポケモンたちと向き合う。

「フシギバナ」

ハナダシティで貰ったフシギダネを進化させたポケモン。

「リザードン」

ハナダシティの近くの道路にいたトレーナーからもらったヒトカゲを進化させたポケモン。

「カメックス」

クチバシティで警察に捕まってたゼニガメを進化させたポケモン。

「ラプラス」

シルフカンパニーの会長からもらったポケモン。

「カビゴン」

道を塞いでいたのを、ポケモンの笛で起こしてゲットしたポケモン。

「ピカ」

そして、マサラタウンで出会った相棒、ピカチュウ。


彼らは、カントーのジムに挑み、ロケット団を倒し、そして初めてポケモンリーグを制覇したパーティ。

「ごめんな、俺、強さを追い求める中で、大好きなお前たちのことを、蔑ろにしてた。本当にごめん」

頭を下げるレッドに対し、ポケモンたちは複雑な表情を見せていた。
彼らは、いわゆる旅パというやつだった。
厳選も何もあったものではない彼らは、レッドが強さを追い求める中で、ピカ以外、忘れ去られ、ボックスの中で主人を待ち続ける身となっていた。

「俺、気づいたんだ…!俺が欲しかった強さは…大好きなポケモンたちと紡いでいくものだったんだって!」

「俺は、苦楽を共にしたお前たちと、もう一度旅をしたい!一緒に強くなりたいんだ!その為に…力を貸してくれないか!」

そういって、レッドは頭を下げて手を差し出す。
しばらく、沈黙が続いた。

「…ピカ」

最初にその手を取ったのは、唯一無二の相棒だった。
ピカも、最近のレッドには少し不満があった。
しかし今の彼は、自分の大好きだったレッドに戻ったと、感じていた。
だから、彼に協力しようと決めた。

ピカチュウが手を取ると、続くように他のポケモンたちも手を取る。
フシギバナも、リザードンも、カメックスも、ラプラスも、カビゴンも。
みんな、笑顔でレッドの手を取ったのだった。

「ありがとう…みんな!」

そんな彼らに、レッドもまた笑顔を向ける。

「みんな…強くなろう!誰にも負けない、厳選パーティなんかにも勝てる…そんな『最強のパーティ』に、俺たちはなるんだ!」

そうして彼らはシロガネ山にて特訓を始めた。
他とは比べ物にならない野生ポケモンが現れるその山での修業は、非常に厳しいものだった。
しかし、レッドに苦痛はなかった。
大好きな彼らと強くなるのは…厳選したパーティを作業的に鍛えるそれとは比べ物にならないくらい、楽しいものだったから。

やがて、レッドのもとに、とある一報が届いた。
ポケモンリーグに、新チャンピオンが現れたというのだ。
そいつはジョウトのバッジを集めてポケモンリーグに挑戦し、ワタルを倒してチャンピオンになると、今度はカントーのジムに挑戦しているらしい。
復活を目指していたロケット団も、そいつによって壊滅させられたらしい。

「きっと、そう遠くないうちに、ここにやってくるだろうな」

そして、自分とバトルをする。
そんな予感が、レッドにはあった。

「追ってこい、新チャンピオン。俺たちの、『最強パーティ』が、お前を倒す!」

402 ◆OmtW54r7Tc:2021/01/30(土) 21:15:27 ID:A5R03RPk0
投下終了です
今回、回想オンリーなので状態表はナシです

403名無しさん:2021/02/14(日) 11:01:24 ID:fd2Zm4qA0
いつも乙です。

>> 両雄倶には立たず
名簿の考察なんかは結構読み応えあって好き。
知り合いに名前が伝われば最低限の役割は果たすのだから雑に作ってもいいのよね。
そのうえで、雑に作っただけか、本当に主催者が参加者を把握できていないのか、ここの差はでかいよなあ。
もっとも、現時点ではそれ以上の考察はできないわけだけれども。

スネークもセフィロスもあらゆる事態をよく想定したうえで動いてるなあってのがありありと分かる。
考察も方針も二重三重に選択肢を用意しておいて、事が起きれば直ちに切り替えられるようにするというのは正しく強者だと思うのだわ。

そしてセフィロスってほっとけばそんなに危険ではないのではくらいに思ってたけど、
伝言役にしようとする相手に対して、楽しむためだけに躊躇なくファイガを打ち込むのはやっぱり災厄だったわ。


>> そでをぬらして
袖を濡らす:涙を流して泣く。涙で袖をぬらす。
平仮名書きでもある以上、絶対タイトルになんかあるはずなんだけどたどり着けず。

前話からして錦山と千枝の関係が心配だなあって思ってたけど、案の定というかなんというか。
放送まではまだ関係性は悪くなかったのに、悪い知らせと襲撃、そこからの事故で誰も望まない形で決裂したって感じだなあ。
一方でミファーのほうも襲撃は及第点に届かない感じで、三者ともに陰鬱な方向に転がっていった感じ。
誰も死んでないけれど誰か死ぬよりも後味悪くて、いわばマイルドな良鬱話。


>> たたかう者達〜更にたたかう者達
前哨戦、決戦の二本仕立て。
実際に前半は『たたかう』を交互にやってるだけの様子見だし、
後半はあらゆる手を使って本気で戦ってるしで、状況がよく書かれてると思った。
ちょうど通常戦闘曲→ボス戦とBGM変遷してる感じもある。
(たたかう者達自体がボス戦に負けず劣らずカッコいいのはおいとく)

この一話の間、ホメロスの株の乱高下が激しくて、
あのホメロスがグレイグの死を聞いたのに気をしっかり持ってるところで株が上がり、
ゾーン知ってるのに悠長に攻撃してリミットブレイク引き出しちゃうところで株が下がり、
ジャローダを決着に抜擢して完全に意識外から不意打ち仕掛けたところで軍師の面目躍如させて、
でもホメロスの策略は結局クラウドに真っ向から打ち破られてしまっているので……と、とにかく激しいのです。
クラウドは堅実だなあって印象。悪堕ちしてるけど彼って基本まじめだよね。

404名無しさん:2021/02/14(日) 11:02:55 ID:w1yZLuXU0
>> 不思議の国の遊園地跡
ある意味メインの首輪数でご褒美もらえる機械、これ主催者内の殺し合い促進側の設置なのか、それとも反逆側の設置なのか、まずそこが謎よね。
景品についても、どっちの勢力がかかわったとしてもおかしくない品揃え。
オーブとか、単体は有用な戦闘用アイテム、全部集めると…?、みたいなのあるしね。
なんなら最後についてきてるように見える謎の機械も、どっちかの勢力の息がかかっているのでは、と思わなくもない。
ひとまず首輪レーダーがあれば残りの首輪集めは相当捗るはずで、景品狙いなら五枚までが一番の山な感じがありそうだなあ。

ところで首輪載せるだけでカウントされるなら、頭いいやつなら首輪カウント横からかすめ取ってしまうのでは? とか思ったり


>> 君の分まで背負うから
毎回ちゃんとオチをつけてくれるけど、恥ずかしい呪い持ちの割になかなか男前じゃない?
ポッドがどこまでも冷血に合理的なこと言ってくれるから、その分好青年が引き立ってるとは思うの。
一個不穏なのは、過ぎ去りし時を求めたことを後悔しているような描写だなあ。
イレブンが個人で秘めておく程度ならともかく、この心境で元の仲間とかかわった時にどうするよ、みたいなのもあってここが一点の曇りって感じ。
お前マルティナさんのクソ重感情もちゃんと背負っていけるか? はどうしても気になってしまう。


>> そして、戦いは続く
魔王さん、ここでいきなり新連携編み出すとか、やはりデレてますね?

ネメシスが正体不明の化け物というより強豪モンスターみたいな感じになってて、
現代世界舞台の住人がファンタジー世界住人とファンタジー舞台でクロスオーバーすると自然とそうなるんだなって。
ネメシスが割とあっさり脱落したように思えるけれど、でもこのパーティ相手ならおかしくないかな。
そして非戦闘員の多いこのパーティにて、シルビアが最初に落ちるのはそうだろうなあって納得してしまう。
騎士道スキルないはずのシルビアがかばうを使えたり、魔王が新連携編み出したり、原作を昇華した部分多いけど、
わりかし解像度が高くてすんなりと情景が入ってくるイメージ。


>> 選ぶんじゃねえ、もう選んだんだよ
ミリーナさんエグいです。
勝負好きな性分の子に対して、共感度上げてからのプライド煽りはいけない……。
マルティナさん、あなたが一番信用してはいけないやつは目の前にいるその子だぞw
一皮剥けないとここぞというところで始末されるかヘタすりゃイレブン殺しの下手人にされそうだし、
逆に一皮剥けるともう戻れないし、なんか詰みそう。
二人とも踏んだ場数に大差はないと思うんだけれど、覚悟の差が残酷に現れていることはひしひし感じる。
ミリーナさんってジョーカー以上にジョーカーらしい言動しててマーダーの中ではトップクラスに悪辣な女郎なんだけど、
一生懸命やってるのがはっきりと分かるんで割と好み。

405名無しさん:2021/02/14(日) 11:03:44 ID:w1yZLuXU0

>> チョッカクスイチョク
間違いなくまじめな作品なのに、どこかコメディっぽさがあるような気がする。
ついにこのバトロワにもカレー出たなあとか、ギリメカラってペルソナでも物理反射すんの?? とか、どうも横道に逸れてしまうような情報が色々と……。

セフィロスと戦うのを目標にティファは動いたわけだけど、いまいちお互いの認識がずれているような気がしてしまう。
確かに死者は出てるし、また復活もしてるけど、セフィロスってクラウド以外あんまり気にしてないぞっと。

> だが、彼の生存報告は、初めてのことではなかったのでさほど驚きはしなかった。
この認識持ってるのは笑わざるを得ない


>> 見上げた空は遠くて
リーバルの株価上昇が止まらない。
理想の上司ランキングでいいとこいけそう。
中身が伴わない自信ってただの慢心だし、実際に最初は慢心キャラだと思ってたけど、
彼の場合は心技体全部そろってるってのが分かって、自信に満ちた本物の英雄なんだって見る目が変わった感じがする。
彼のプライドが結実しようと打ち砕かれようと、どちらに転がってもいい話見れそうなんで楽しみ。


>> 未知への羨望
セフィロス相手に正面からケンカ売った時点で、あーこりゃ南無ですわ乙乙って思うし、
上級の炎魔法三発+上級の氷魔法受けて余裕のセフィロス見てご愁傷様って思うし、
セフィロスがチカラを求めるのはどこでもそうなんだなって思うとちょっと親近感と安心が生まれてしまうし、
セーニャがほぼほぼ詰んでる気がするし、
でも一番のみどころは、

セフィロスコピー化きたあぁぁぁ!

ってとこだよね。

G細胞S細胞とかリユニオンとか、ジェノバ細胞まわり書くのめっちゃ大変だから書き手さんがんばって!
あとせっかく主催者が展望台から追い出したのにまたしても同じ場所にとどまる気満々なのは草
このままではセフィロスが歩く禁止エリア呼び込み人になりそう

406名無しさん:2021/02/14(日) 11:04:34 ID:0WQCCdRA0
>> Dance on the edge
刃上の舞闘、かな?
盾を円月輪みたいに使ったり、盾とジバリーナをジャンプ台の代わりにしたり、天井のナイフをサブ武器にしたりと、持ち物舞台スキルあらゆる手を出し尽くした戦いは読みごたえがあった。
林檎食べてたりマール連れて行ったりする、ハンター独特の価値観をカミュがいちいちツッコんでくれるような軽妙さが混じってるのも好き。
ネメシス戦が割と余裕はあった分、こっちは余計にやれること全部やった感が際立つ。

これだけやり尽くしてしれっと第三形態になって出てきた上に、
原作的にはその変身を俺はあと二回以上残している、となるのはちょっとこいつどうやって倒せばいいの感が……。


>> 虚空に描いた百年の恋
書き手さんリーバルに厳しいね……。
いうても彼の人となりは正しく情に厚い英雄であるがために、ゼルダに失点付けられるのは仕方ないよなあと思うところもあり。
ゼルダを即死させられなかった原因が彼の心の迷いにあるというのもきついのだけれど、
ベロニカが死んだのが完全に偶然だったってのもきついよなあ。
たまたま流れ矢に当たって死にましたって結果は、ベロニカ絶対殺す!で殺されるよりも、よっぽどプライドへし折られると思うんだよ。

ただ、なんかリーバルに失望するみたいなのはあんまりなくて、雑草魂じゃないけど、より強靭に立ち直れるんじゃないかみたいな希望もある。
レッドの絶対に嗤わないという宣言は突き刺さるし、かっこよかったなあ。

あと、情に揺さぶられたリーバルとそれを最大限利用しようとするゼルダの駆け引きも面白いのだけれど、
生き残るための選択を間違わないレッドがいい味出してるって思う。
彼にとってははじめての形態のバトルだろうに、そこで最善・次善の選択を取り続けられるのが彼が紛れもない猛者だって証明になってる。

くっそどうでもいいことなんだけど、そしてカモネギの進化系がいることをレッドに教えてあげたい。


>> 嘗テ思イ描イタ夢ノ誓イ
モンスターボールを一生懸命ハッキングする9S君のコミカルさとか、放送の陰鬱さとか、いろんなことやってるけど、
それらの出来事を9Sの過去の記憶への足掛かりとして、落としどころをつけていく構成の妙。
で、全体的に陰鬱な雰囲気を出してるためか、記憶を取り戻すことへの危うさが透けて見えるような気がする。
何かの拍子で崩れ去りそうな、そんな繊細な緊張感が感じ取れるような作品だと思うのです。


>> 拘束が緩む時は
意外とカイムはコミュニケーション取ろうとしてくれるんだな、と……。
一応無差別だし好戦的だけど、相手とのコミュ戦では虚実混ぜて有利に立ち回ってやろうとする気概は薄い気がする。
そう考えると説得から始めるエアリスの気持ちも分かるんだけど、でもその人殺人狂でもあると考えるとなんともはや。

ゲーチスは今のところいいとこないよなあ。
カイムにこいつほっといていんじゃねって思われてるのは惨めだし、
エアリスとの考え方の相性がめちゃくちゃ悪そうだし、けど実力なくて別れられないしですごく窮屈そう。
ステルスマーダー気取ってるけど、ヘタに欲を出したら破滅一直線な危うさがあるんでどうすんのみたいな感想になる。

エアリスも説得が通じないとカイムに襲われたときのように成す術なしになりそうだし、
ぶっちゃけると、エアリスとゲーチスってあっさり死にそうな危ういコンビなんで読んでてひやひやして好きです。

407名無しさん:2021/02/14(日) 11:05:27 ID:0WQCCdRA0

>> ……and REMAKE
ホメロスは毎回ポカしたりファインプレーしたりで評価定まらなかったけれど、今回は上がる要素しかなかった。
陽介への的確な鼓舞、ジャローダ使った不意打ち、どっちもファインプレーだけどこれは前座。
メガザルなんて彼の対極にあるような呪文なのに、その手段を取るのが納得できるというのはこれまでの積み重ねの冥利に尽きると思う。
そして一番救われたように思うのは、復讐心を振り払って、最期にグレイグに並び立てたというところかなあ。
グレイグに先に死なれたときは彼の鬱屈どうやったら晴れるんだろうと思ったけれど、すごく後味のいい結末に落ち着いたんじゃないかと思う。


バトルは主にクラウドVS陽介なわけだけど、
同類が口喧嘩で決着つかなくなって殴り合い始めるの、長いバトルのクライマックス感あっていいよね。
クラウドの身体能力なら絶対に殴り合い破棄して武器取りに行く程度のことはできると思うんで、
彼なりに思うところあったんじゃないかな、むしろ色々つけてる理屈は後付けだろうって思うのさ。
ところで次話が出来てるから書くんだけど、陽介が主人公すぎて魔軍兵士クラウドに負けるところが想像できないあたり、リレーのハードル高いよなあって思ったりはした。


>> 一難去って……
姫ちんの毒がじわじわと効いてきたなあ。これ千早本人よりも別のキャラへの影響がでかくなりそう。
ここでは美津雄応援したくなるキャラなんで、雪歩とすれ違いが発生してるのは素直に悲しい。
一方でちゃんと薬持ってザックスのところに戻れてるの、きちんと役割を果たせてるんだなあって思うとうれしい。
これ地味なんですけど、二つの材料のうち、片方は自力で見つけて採取してるのが何気にポイント高い。
がんばってるの分かるんで報われてほしいと思う。

一方で雪歩はここ数時間、悪いことばっかり起こってるよなあ。
人質とレイプ未遂くらって心ボロボロになった後に、人相悪い大男に乗ってるチョコボの首飛ばされるとか心折れてもおかしくないっしょ。
カイムって情に訴えると見逃してくれそうだけど、失敗すると即殲滅されそうな怖さがあるんで、ここをどうやって切り抜けられるのかどうかは興味深い。


>> 差し込む陽光、浮かぶ影
こ、この二人の話読みたくない……。
世間の冷たさを身にしみて分からされている……。
世界そのものがオタコンとシェリーの敵になって、お前らはむごたらしく死ねって言ってきてるような絶望感しかない。

オタコンが生きづらくなってるのって、彼に優しさがあって、倫理と常識にできるだけ沿おうとしているからだよなあ。
この関係が続くくらいなら、シェリーはウィリアムに魔改造施されて大暴れするほう救われるんかもしれないとすら思えてきた。
オタコンはオタコンで、シェリーてめー足引っ張りやがったら犬のエサにしてやるからなって開き直るくらいがまだ健全なのでは??

現実的なところだとオタコンとシェリーは別れて、シェリーを誰かに引き取ってもらうのが最善なんだろうなあって思うんだけど、
研究所までの道のりを考えると、どんだけマーダーと野生のポケモンいるんだよ? 無理ぽ

408名無しさん:2021/02/14(日) 11:06:54 ID:0WQCCdRA0
>> 私が歌う理由
千早の生きる理由が他者依存だったのが、自分の中にもあることに気づいたことで、メンタル面はだいぶ改善された感じ?
この子見てて大丈夫そうだなって思えてくるもの。
悪質なデマがバラまかれて広まってるけど、なんとか切り抜けられるかなあって。

それにしても、一話落ちキャラとは思えないほど、春香の存在感が大きい気がする……。
過去編に出てくる重要キャラみたいな立ち位置になってない??
死んでなお、人に前を向かせることができる人間力は過去編から見ても将来のトップアイドルの貫禄って感じ。


>> 劣等感の果てに残ったもの
この話は単純にキャラの動かし方がすごく好き。
イウヴァルトと錦山の敵でも味方でもない関係、それも人間不信気味のキャラと裏で暗躍しようとするキャラの邂逅ってすごく面白い。
出会いから終始貫いてる、おてて繋いで仲良くやっていけるわけねーだろを体現してるこの関係、見ていて先が読めないし、
一方の合理的な行動をもう一方から見たときの訳の分からなさとそのネタばらしがほんと面白かった。
ロボを振り切るために錦山を突き飛ばすその自分本位の合理性は痺れるね。
イウヴァルトは偶然だよりなのは相変わらずだけど、ちゃんとキルスコア付けたんで仕事はちゃんとできたっていうなんとも評価しづらい楽しい位置にいるよね。


>> 亡き王女の為の英雄裁判
あー、あの裁判は胸糞だった。
あっちは最初から殺しに来てただけだけど、今回の裁判は判事が正義を信じて判決くだそうとしてるんでより胸糞悪い感じ。
ダルケル本人は情に厚くていいやつなんだろうけど、冤罪かけられた側から見たらこれ以上理不尽な存在はそうそういないもん。判事絶対向いてない。
グレイグの実直さをダルケルは信用してるわけだけど、これクロノから見たらグレイグまでもがクロノを追い詰めてきてるように思えてしまうんじゃないかなあ。
そう考えると彼は出会った人すべてに裏切られたわけで、やけっぱちになるのは分からなくもない。
ただ、ルッカとロボがちょっとかわいそうではある。
ぶっちゃけ、今回のホメロスの遺した影響と比べると、今回のグレイグの遺した影響って割とロクでもないので
あいつ冥界でホメロスに慰めてもらってんじゃないかって思わなくもない。


>> 誓って殺しはやってません!
裁判回のあとにこのタイトルつけてるのは一覧で見ると笑えてくる。
この二人ガチバトルやってる割には掛け合い楽しくて好き。
ステーキとか酒とかの豪勢な食事の合間に軽いデザートを食べたくなるのと同じで、
アツい展開とか鬱展開とかメンタル抉る展開の合間に、単純に娯楽として気楽に読めるバトルを演出してくれるので、この二人は好き。
トレバーは言い回しがクスっとくるし、ブーメラン刺さりまくってるし、でクソ野郎なの間違いないのに生き残ると楽しいよなって思うんだよ。

そして、真島がいい感じに存在感を出してきたなあ。
彼本人にユーモアがあってスピリットが熱くて、
しかもNの城まわりはマーダーと危険人物大量発生中という実においしい状況で、楽しみになる引きだと思った。

409名無しさん:2021/02/14(日) 11:07:49 ID:0WQCCdRA0

>> 夢追い人の遺しもの
うん、ザックスはこうするだろうなあ。
予想だとか期待だとかじゃなくて、必然と納得しかないって感じ。
そりゃ『いらっしゃいませぇぇぇぇ!!!!』ってセリフが出た時点でどうなるかも分かってしまうもの。
美津雄にジェノバ細胞埋め込まれてたらそのままクラウド二号が完成しそうな勢い。

ミリーナは立ち回りうまいはずなのに、ザックスに手加減されてマルティナに実は当て馬にされてて、
なのにその状況をいまいち把握できてなくて、と今回いいとこなくて悲しい。
このコンビもシェリー・オタコンに次ぐくらいには空気悪そう。
前話まではマルティナが使い捨てられそうに思ってたのだけれど、これは先が読めなくなってきた感じがある。
そして人質探してて近くにいるの誰よと考えると、ねえ。

結構この先の展開考えると不安感あるんだけど、リンクと真島はすごいな。
彼らが到着したという事実だけで、そういう要素がまったく見えなくなってるのは見事だわ。


>> 花と風と
ゲーチスがもはやただのクダまいてるだけのおじさんになってるw
エアリスはゲーチスの事どう見てるんだろうなあ。
マーダーにも主催者打倒にも踏み切れない、守るべき一般人のおじさんくらいにしか思ってないのでは?

ただ、ゲーチスは同じくステルスな貴音に対して、どう動くのかは割と重要そう。
単純に合流しないまま別の勢力と接触するのか、
対主催として貴音に接するか、ステルスと見抜いたならどちらをエアリスと貴音のどちらを利用するのか、色々選択できて夢が広がりそうだ。
ソニックはソニックで、この辺は人口密度高いんで誰に接触するかは重要そうだなあ。
次の話が広がりそう。


>> セフィィィィィロォォォォォス!!!
セーニャが状態表TASやってんのかってくらいひどいことに……。
精神ダメージ受けるとジェノバ細胞がハッスルして、肉体ダメージ受けるとGウイルスがハッスルしだすという一人火薬庫なのがまたひどい。
しかもこれ向かっていく方向にカミュやイレブンいそうじゃない? 同作品の仲間巻き込んで盛大に爆発しそうで怖すぎる。

セフィロスとウィリアムの頂上対決もやばいよなあ。
言い換えるなら、ジェノバ細胞 VS G細胞でしょ?
今まではただ暴れて撃破されるくらいの立ち位置だったウィリアムが、ここに来ていい味出してきたと思うの。
お互いに因縁ゼロなのにいきなりベストマッチが降ってきたみたいになってるのがおかしおもしろい。

410名無しさん:2021/02/14(日) 11:08:42 ID:0WQCCdRA0
>> No One is Alone
前話の陽介とクラウドの因縁はそのままに、ティファと残りのペルソナキャラ全員集合して大バトルとかもう山場いくつあるのよ。
前話の殴り合いとかクライマックスだと思ったのに、クライマックス二段構えだった心境。

クラウドが終始優勢だけど、メンタル面では沈んで沈んで沈み切って、最期に引き上げられる、
逆に陽介は終始劣勢だけど、メンタル面では常に圧倒しててここしかないという肝心なところで間違わない。
色々起こる奇跡がクラウドにとってはどこまでも自分の理不尽なパワーアップで、陽介にとっては仲間が助けに来ることでの劣勢の逆転で、
そんな二人の描き方が見事だと思う。

クラウドから見ると第一ラウンドあたりは圧倒してるけど、なんか陽介を倒せるイメージ浮かばない。
淡々と動いてるさまが無機質さとか非情さというより、本当に諦観してるだけなんだって思えて、そのまま擦り減って終わりそうな感じがあって。
第二ラウンドだと成仏できそうだったのに、意味の分からない主催者の介入で絶望して。
第三ラウンド、第四ラウンドではペルソナの3人の眩しさに焼き尽くされて。
最終ラウンドについては、
前話で陽介と拳で殴り合って打ち倒されて、目を向けてくれる仲間がいたのに一人にしか目を向けなかったということを知らされたけれど、
今話でもう一度陽介と拳で殴り合って打ち倒されて、目を向けてくれる仲間から救われて逝く、その構成がとてつもなく綺麗にまとまってると思う。

魔軍兵士になった時点で最初から最後までクラウドは救いを求めていて、陽介が手を変え品を変え、それを結実させていく、ってやつなのかなあ。
そこにペルソナキャラ全員集合とティファを折り入れてきて、そりゃ盛り上がる。
ペルソナ勢はどこまでも眩しく描かれてて、立ちはだかる壁の高さなんて感じさせないくらい安心して見ていられるし、
死に際までとんでもなく眩しくて、こんなのクラウドじゃなくても羨ましいくらい。

これさ、ウルノーガと足立の代理戦争でもあるわけだけど、ウルノーガは癇癪起こして、足立はめちゃくちゃ嬉しそうにしてるんだろうなって思った。


>> 回想:彼の求める強さ
今までの描写だけだと、それでもレッドよりトウヤのほうが強いのでは? くらいに見えたんだけど、
この回想が挟まることで一気にレッドの魅力が上がってきた。
会場自体には全然影響ないながら、ものすごく重要な話だと思う。
トウヤがレッドのIFになってて、強いトレーナーとはいったい何かを余さず描くためのナイスなパスを投げてくれた感じ。

別にこの二人が対決するのかどうかも分からない上にバトロワにめっちゃ関係なさそうなんだけど、そう思うくらいに先が楽しみ。
某有名なセリフも、ここできたかーって思うくらいには見事な使い方されてると思う。

ところで御三家の来歴、20年以上前にアニメで見たことあるんですが? そのカメックス絶対サングラスかけてたでしょ?

411 ◆OmtW54r7Tc:2021/02/14(日) 17:00:48 ID:hio1KNxI0
>>410
感想乙です。ありがとうございます
レッド回想回の御三家はピカチュウ版での入手方法をもとにしてるんですが、あのゲーム自体アニメを意識した改変してるのである意味ではその通りかもしれないですね

412 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/11(木) 14:46:07 ID:qcNQVfGs0
感想ありがとうございます。
イレブン、ベル、サクラダ、オトモ、魔王予約します。

413青の光に導かれ ◆vV5.jnbCYw:2021/03/11(木) 18:09:47 ID:qcNQVfGs0

「あ〜ダメダメ!お鍋が吹きこぼれてる!」
火元から鍋を遠ざけたのは、サクラダだった。

「あの……すいません。」
顔を真っ赤にし、謝るイレブン。


ことの発端は、以下の通りだ。
ネメシスを倒し、シルビアの遺体を埋葬してから、残ったメンバーはイシの村に残った。
メンバーこそは豊富だが、この中で魔法を使える者が今おらず、戦闘要員も限られる中で、動き回るのは難しいと判断し、一度近辺のイシの村にて休憩を取ることにした。


その地が第二の故郷であるイレブンは、自宅に他の仲間を招き入れ、彼らの支給食料も合わせた料理を作ることにした。
本当は集団でいると恥ずかしいため、一人でできる料理を進んでやっていたのだが。


しかし、支給食料の固形スープや、家に置いてあった野菜・薬草などでスープを作っていると、ふと思い浮かぶ。
自分はキャンプで仲間たちと話すのが苦手だったため、良く一人で食事を作る役を担っていた時のことを。
作った料理は、確かに仲間の中で評判は良かった。
だが、それは仲間内でのみ美味しかった料理なのではないか。
ここのメンバーの口に合わないんじゃないか。
そもそも支給品と僅かな野菜や干し肉だけで、美味しい料理が作れるのか。


そう思うと、料理中ながらも恥ずかしくなってしまった。


大丈夫かと料理を心配しに来たサクラダの予想は、当たってしまった。

「謝らなくていいわよイレブンちゃん。それと助けてくれてうれしかったわ。
そうそう、火の後始末お願いね。」
そう言いながら鍋を、他のメンバーがいる方に持っていくサクラダ。

まだ立ちぼうけていたイレブンの目線に、あるものが映りこんだ。

414青の光に導かれ ◆vV5.jnbCYw:2021/03/11(木) 18:10:07 ID:qcNQVfGs0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


一方で、イレブン宅の2階。
イレブンに睡眠魔法をかけられていたベルは、久々に目を覚ました。

「あ、目を覚ましたニャ?」
隣でオトモが立っていた。

「え?君……だれ?」

ポケモンのような、そうでもないような風貌のオトモに話しかけられ、驚くベル。

「ボクはオトモ、それでここはイレブンの旦那のお宅ニャ。イレブンの旦那は、キミを運んでくれたニャ。」
「そう……。」
相手に敵意がないことで安堵するも、ベルはその表情を曇らせる。


「ねえ、オトモって言ったね。お供って言うことは、トレーナーもいるの?」
「旦那様のことかニャ?この戦いにいるみたいだニャ。」
「もしも……もしもよ。その旦那様がいなくなっちゃったら?」
「……それは、難しい質問ニャ。長い事オトモを務めていたから、大切な旦那様のいない生活なんて考えたことないニャ。」


首を傾げ、考えるオトモ。
一瞬、ベルは自分がまずい質問をしてしまったのではないかと焦る。

「きっと、ボクは悲しんで、それでも生きていくニャ。
ご主人様がこう言ってたニャ。「人のみならず、どの生き物でもいつかは死ぬ。だからこそ、命の受け止める方が重要なのだ」って。」
「かっこいいね、その人。」
「だから、ボクは付いていくと決めたニャ。」

自分が従えるのではなく、ポケモン自身が付いていきたくなるような、共に戦いたいようなトレーナーになる。
『どんなトレーナーになりたいか』と聞かれればそう答える人は多いが、実際にそうなれるトレーナーは少ない。
ご主人というのはどの人か分からないし、オトモはポケモンでもあるし、そうでもないようにも見えるが、尊敬されるべき人物であると分かった。


「じゃあ、私も決めた。チェレンのこと、もう悲しまない。」
チェレンが何で死んだのかは分からないが、いつまでも悲しんでいれば周りの人も暗い気持ちになってしまう。
それに死別ではなくても、いくつもの別れを経て、それでも先へ進むのがトレーナーのはずだから。

(きっと、チェレンも私のこと、忘れないよね。)


「そうと決まれば、腹ごしらえニャ。下でイレブンの旦那たちが、ご飯を作っているニャ。」
下の階からいい匂いが漂ってきた。
それにつられて、オトモとベルは下へと急ぐ。


「あら、起きたのね!心配したわ〜。」
「………。」
「…………。」

ねじり鉢巻きに、禿げ頭の男は気さくに話しかけてくれるが、イレブンと、顔色の悪い長身の男は黙ったままだ。

「んもう、せっかくベルちゃんが起きたのに、みんな愛想悪いわね〜。さ、このスープをおあがり!!」
机に鍋を置いた後、人数分の皿にスープを配るサクラダ。
元々二人だけの家だったため食器が不足してるかと思いきや、コップや瓶にもにも注いでいく。

支給されていたパンも忘れず千切っては配り、千切っては配り。

415青の光に導かれ ◆vV5.jnbCYw:2021/03/11(木) 18:10:32 ID:qcNQVfGs0


「ありがとう、私、ベルって言うの。ポケモントレーナーよ。」
「アタシは、大工のサクラダ、こっちはイレブンちゃん、さっきまで見張りをしてくれたこっちは……。」
「魔王だ。皆まで言うな。」
「え?魔王って、あのおとぎ話の魔王!?」
ベルは目をきらめかせながら魔王に聞く。
その顔には怯えなどの負の感情はない。

「何のことかはわからないが、そちらの判断に任せる。」
そう言いながら魔王はパンの一かけらをスープに付け、食べ始めた。
同調するかのように他のメンバーも食べていく。

「うん、美味しいわね。」
「イレブンちゃんも中々料理上手なのね。モテるわ。」
「この素朴な味、ご主人様が作ってくれた料理にも似てるニャ。」
「………。」
「…………。」


つい先ほど、厳しい戦いと離別に晒された後でもあったため、5人の間に張りつめていた空気が、僅かながら解れた。
体力も完全ではないとはいえ回復出来て、これならば再び外にも出られそうだ。

「あの………。」
長いこと沈黙を貫いていたイレブンが、声を出していた。


「首輪をどうにかする方法、あるかもしれません。」
しばらくイレブンを除いて話をしていたメンバーが、全員黙り込んだ。

「誰かに話を聞かれているかもしれん、イレブン、ここに書け。」
魔王は家の中に会った本を一冊渡し、空白のページを向ける。


『このオーブの力で、首輪を解除できるかも。』
右手で書きながら、左手でポケットから出したのは、青い宝玉だった。


「キレイね!!何それ!!」
「んま〜、イイ男に似合いそうな、海のように蒼い宝石ね〜。」
「それで武器でも作るのかニャ?」

『このオーブ、あらゆる魔力を解除できる力があります。何故か僕の家のキッチンにありました。』
ざわざわ、と空気がどよめく。

かつてはクレイモラン王国の宝であった、ブルーオーブ。
イレブンが受け取ってから、命の大樹へと向かう道標として、働いたオーブの一つだ。
だが旅の途中で奪われてしまい、再び目にしたのは魔王ウルノーガと戦う直前。
彼の親衛隊の一人、邪軍竜王ガリンガが、自分達にかかった強化魔法を解除する道具として使っていた。

『だが、奴らがそんなものを転がしておくほど、マヌケにも見えない。』
魔王が沸き上がった空気を冷ますような内容を書き綴る。

『僕もそう思う、だからこれだけでは、解除は出来ない』
「ちぇっ、結局無理なのかニャ……。」
「待って待って、イレブンちゃん、アナタ今「これだけ」って言ったわね?
というとまだ話は終わってないってこと?」

だが、サクラダだけはイレブンの話をまだ聞こうとしていた。

『はい。このオーブ、6つ集めると、1つより凄い力があります』

6色のオーブを集めて天空の祭壇で掲げると命の大樹への通路となる虹の橋が現れる。
首輪の解除のみならず、脱出のための架け橋を作られるかもしれない。

416青の光に導かれ ◆vV5.jnbCYw:2021/03/11(木) 18:10:56 ID:qcNQVfGs0

「似た色の宝珠があるということ?そうだ、いちごちゃん、いる?」
『否定:私の名前ではない。』

再びイレブンのザックから出て来るポッド153。
「これ、鑑定してくれる?」
『承認。』

何度か点滅するも、結果は分からなかった。

『不可:解析出来ない力あり』
残念ながらポッドのCPUを用いても出来なかった。
だが裏を返せば、それだけ未知の可能性があるということだ。


「ならば、再び出発する時か。これ以外の宝玉を手分けして探すことにしよう。」
魔王が提案した。
ここから先は、東と南、二つの方向がある。
5人まとめて同じ方向へ行くのも非効率だし、危険な相手に狙われやすくもなる。


「僕と……魔王さん……分かれた方が……。」
特に戦闘能力の高いイレブンと魔王が、それぞれリーダーとして、先導することにした方がいいだろう。
そうした認識は全員に伝わった。


「ボクは魔王の旦那と行くニャ!」
「勝手にしろ。」
「アタシは、ハイラル城にも向かいたいから、そっちの方向にするわ。イレブンちゃんも魔王ちゃんもイケメンだし。」
「うーん。私はイレブンの方かな〜。」


結局、南へ向かうのがイレブン、ベルと支給品であるランラン、ポッド。
北の廃墟、ハイラル城を見たいため、東へ向かうのが魔王、オトモ、サクラダ。
ネメシス戦の前の組み合わせになってしまったが、組み合わせも決まった以上、イシの村を後にする。


「皆さん……危なくなったら……逃げて。」
イレブンはなおも恥ずかしがりながら、消えゆくように呟く。

「そうだな、それと、合流する時も合わせておくべきではないか?」
「じゃあ、日が沈むまでね。収獲があってもなくても、ここに戻るのよ。」


5人は、共に過ごした村を後にした。
いずれまた、再開できる時を願いつつ。



【A-1/イシの村 外/一日目 午前】



【オトモ(オトモアイルー)@MONSTER HUNTER X】
[状態]:健康  
[装備]: 青龍刀@龍が如く極 星のペンダント@FF7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(確認済み) ソリッドバズーカ@FF7
[思考・状況]
基本行動方針:魔王に着いていく。
1.ご主人様、今頃どうしているニャ?


【サクラダ@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康
[装備]:鉄のハンマー@ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品  余った薪の束×2
[思考・状況]
基本行動方針: ハイラル城を目指し、殺し合いに参加しているかもしれないエノキダを探す。
1.悪趣味な建物があれば、改築していく。魔王、オトモと共に東へ向かう(優先度は北の廃墟>ハイラル城)



【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:HP2/3  MPほぼ1/2
[装備]: 絶望の鎌@クロノトリガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(確認済み、クロノ達が魔王の前で使っていた道具は無い。) 勇者バッジ@クロノ・トリガー
[思考・状況]
基本行動方針:クロノを探し、協力してゲームから脱出する 。もしクロノが死ねば……?
1.オーブを探す
2. サクラダ、オトモと共に東へ向かう(優先度は北の廃墟>ハイラル城)



【イレブン@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:MP0、恥ずかしい呪いのかかった状態
[装備]:七宝のナイフ @ブレスオブザワイルド ポッド153@NieR:Automata  豪傑の腕輪@DQ11
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(2個、呪いを解けるものではない) ブルーオーブ@DQ11
[思考・状況]
基本行動方針:ああ、はずかしい はずかしい
1.ブルー以外の他のオーブを探す
2.ベルと共に、南へ向かう


※ニズゼルファ撃破後からの参戦です。
※エマとの結婚はまだしていません。
※ポッドはEエンド後からの参戦です。

417青の光に導かれ ◆vV5.jnbCYw:2021/03/11(木) 18:11:15 ID:qcNQVfGs0



【ベル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康 気疲れ(小)
[装備]:ランラン(ランタンこぞう)@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:チェレンの死を受け止め、歩き出す。
1.イレブンについていく。
2.ポカポカ(ポカブ)を探す。



※1番道路に踏み出す直前からの参戦です。
※ランタンこぞうとポッドをポケモンだと思っています。



【モンスター状態表】
【ランラン(らんたんこぞう)】
[状態]:睡眠中、モンスターボール内
[持ち物]:なし
[わざ]:メラ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルについていく
1.睡眠中


【ポッド153@NieR:Automata】
[状態]:健康
[持ち物]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:???

418青の光に導かれ ◆vV5.jnbCYw:2021/03/11(木) 18:11:25 ID:qcNQVfGs0
投下終了です

419青の光に導かれ ◆vV5.jnbCYw:2021/03/11(木) 22:56:46 ID:qcNQVfGs0
イレブンの状態表間違えてました
誤:MP0、恥ずかしい呪いのかかった状態

正:MP1/2、恥ずかしい呪いのかかった状態


【支給品紹介】
ブルーオーブ@DQ11

命の大樹に近付くのに必要な6つのオーブの1つ。
凍てつく波動のように、敵にかかってある良い効果を無効化する「青のしょうげき」を使える。

420 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/21(日) 18:32:03 ID:8muVcwVw0
ゲリラ投下します

421 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/21(日) 18:32:24 ID:8muVcwVw0
「──放送の時間だ。」
『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる? こっちはすごーっく楽しませてもらってるわ! 声だけでしか分からないのが残念なくらいにね』


オセロットの言葉と共に、マナの声が辺りに響く。
言われた通りに、鞄を開けてみるとさっきまではなかったはずの名簿が入っていた。

名簿を全部読み終わらないまま、死者の名前が呼ばれる。


バレットの知り合いは一人も呼ばれていなかったが、とても安堵するどころではなかった。
何しろ、自分の仲間のみならず、かつて自分達が命を懸けて倒した宿敵セフィロスと、そのセフィロスに殺された少女エアリスが名簿に載っていたから。


続いて流れるのは禁止エリアの発表。


几帳面に地図に禁止エリアをメモし、引き続き名簿を見つめる。
オセロットはその様子を、死んだ獲物を見る禿鷹のようにじっと見つめていた。
一方でその目線の先にいる男の顔はアリオーシュと対峙した時以上に引き攣っていた。

「なあ……どういうことだよ……。」
「どういうこととはどういうことだ?キミは何について疑問に思っている?」


オセロットの表情は変わらぬまま。本気で質問に答える機なのかそうでないのかも分からない表情で答える。

「死んだ奴が、生きているってことだよ!!アンタも知っているんだろ?」
「いくらキミより頭がいい人物が目の前にいるからと言って、考えるのを怠るのはよくないぞ。」

こんな時に常識言ってんじゃねえ、と言いたくなる気持ちを抑えながら、経験から推測しようとする。

(痛てえ……。)
丁度その時、肩の傷が痛み始めた。
先程、アリオーシュに噛み付かれた痛みだ。


(君もゾンビにはなりたくないだろう?)

オセロットに言われた言葉を思い出す。
(もしや、さっきの女、はたまたあの二人も?)


あのアリオーシュという女性は、明らかに力や身のこなし、言動がおかしかった。
とてもではないが正気とは思えなかった。

「さっき戦った女も、エアリスもセフィロスもゾンビとして生き返ったのか?」
ゾンビと戦ったことはないが、バレットはそれに似た存在と戦ったことがある。
ジェノバ細胞に適応できず、自我を失った神羅屋敷の怪物。
死してなお、命ある者を襲い続けたギ族の亡霊。
アリオーシュの躊躇いのない攻撃性は、そういったモンスター達を連想させた。


「いや、違うな。アリオーシュはゾンビとして生き返ったのではなく、この世界でゾンビになったのだ。」


しかし、バレットが過去の出来事と照らし合わせて出した回答を、こともなげに一蹴する。
「知っているなら勿体ぶるんじゃねえっつってんだろ!……で、後の二人はどうなんだ?」
「知らないな。」


オセロットはにべもなく答える。

422これまでではなく、これから ◆vV5.jnbCYw:2021/03/21(日) 18:32:55 ID:8muVcwVw0
「は?」

散々勿体ぶられた先に、知らないと言う回答は、バレットも予想していなかった。

「聞こえなかったのか?知らないと言ったのだ。」
「何だよそれ、知らないってふざけてんのか?」
「いいや。私は大マジメだよ。知らないことを知ってるってウソをつけというのか?」
「………ウソを付けとは言ってねえよ!!ただ、すっとぼけずに知ってること全部話しやがれってんだ!!」


大声を出すバレットとは対照的に、オセロットは静かだった。
「やれやれ、参ったな。」
「はあ?自分がスパイだって発表して、参ったってどういうことだよ。」
「私がスパイだと一つ明かせば、後は知りたいこと何でも答えてくれると思う、君の頭にだよ。」

「なん……」
何だと、という間もなく、オセロットの右腕が、バレットの首に伸びる。
「君は何か勘違いしているようだ。」
100キロはあるバレットの体格が、片手でいとも簡単に持ち上げられる。
「この際だから言おう。私はスパイであるが、君の味方になった覚えはない。従って、黙秘権はあるはずだよ。私はこれまで様々な人間の口を割ってきたが、私自身が話したくないことや知らないことは話す気はないのでな。」

「は……な……」
気道が確保できない状態でいてなお、バレットは抵抗しようとする。

「それとも、ここでゾンビになる前に打ち抜かれて、終わることにするかね?」
バレットを宙づりにしておらず、銃を握った方の手が上がる。
足が地に付かない状態では、睨むぐらいがせいぜいだ。

「なんてな。君がこんな所で死ぬのは、私の方も忍びない。」

しかし、すぐにオセロットはバレットを地面に降ろし、殺す気はないというアピールをする。

「どうしたんだねバレット君、共にラクーン市警に向かうのではなかったかな?
もしかすると、『あやつる』の副作用かね?」

「ああ、そうだったな。」
何とも言えない、例えるなら絶品と評判のレストランの料理で、不味くはないがさほど旨くない料理を口にした時のような顔で、バレットは歩き始めた。


「先ほどは乱暴を失礼した。だが、君に私が味方ではないってことを、知っておいてほしくてね。」
「……テメエが今何だろうと関係ねえ。これからどうなるか、だ。」

かつて自分達のスパイから、やがて味方になった仲間もいる。
思えば彼にとって、元ソルジャーなどと宣う金髪の男やら、実験サンプルやら、ギルやマテリアを盗む謎の忍者やら、仲間というのは最初は得体のしれない者がほとんどだった。

だから、彼は今オセロットが味方じゃないと言っても、行動を共にする。
これまでのことは分からないし、教えてくれるような相手でもないが、これから味方になる可能性はあるから。



丁度高い建物が見え始めた頃、再びバレットに付いた噛み跡が痛んだ。



【E-3/草原 /一日目 早朝】

【バレット@FF7】
[状態]: 左肩にダメージ(中) T-ウイルス感染(?) オセロットに不信感
[装備]:バタフライエッジ@FF7 神羅安式防具@FF7
[道具]: デスフィンガー@クロノ・トリガー 基本支給品 ランダム支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本行動方針: ティファを始めとした仲間の捜索と、状況の打破。
1.リボルバー・オセロットを警戒
2.よく分からないがラクーン市警に向かうらしい
3.タンカーへ向かい、工具を用いて手持ちの武器を装備できるか試みる

※ED後からの参戦です。


【リボルバー・オセロット@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:健康
[装備]:ピースメーカー@FF7(装填数×2) ハンドガンの弾×12@バイオハザード2
[道具]:マテリア(あやつる)@FF7 基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.バレットのT-ウイルスを除去するため、ラクーン市警でハーブを入手する。


※リキッド・スネークの右腕による洗脳なのか、オセロットの完全な擬態なのかは不明ですが、精神面は必ずしも安定していなさそうです。

※主催者と何らかの繋がりがあり、他の世界の情報を持っています。

423これまでではなく、これから ◆vV5.jnbCYw:2021/03/21(日) 18:33:06 ID:8muVcwVw0
投下終了です。

424 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/21(日) 18:59:33 ID:8muVcwVw0
リンク、2B、カイム、ソニック、雪歩、貴音、ミファー 予約します。

425 ◆RTn9vPakQY:2021/03/22(月) 22:40:00 ID:fG2kSSe20
ttps://w.atwiki.jp/game_rowa/pages/174.html

426 ◆RTn9vPakQY:2021/03/22(月) 22:41:55 ID:fG2kSSe20
途中送信してしまいました。失礼。
これまでの支給品・現地調達品を出典となった作品別にまとめました。
何かの参考になれば幸いです。

427 ◆RTn9vPakQY:2021/03/22(月) 22:42:53 ID:fG2kSSe20
それと感想をば。皆様投下乙です。

・亡き王女の為の英雄裁判
英雄VS英傑。
ゼルダ姫を尊敬し、また負い目に似たものを感じていたダルケルの視点に立つと、「ゼルダが人を殺した」という言葉を頭から否定したくなる気持ちも分かります。
一方のクロノも、ゼルダの生き方を肯定することができず……ぶつかり合いは避けられなかったでしょうが、もし冷静な仲裁役がいたら、と思わずにはいられません。
二人の意思のぶつかり合いを“決闘裁判”という形で描くのが面白かったです。

・誓って殺しはやってません!
桐生チャンの名言、好き。
周囲の環境すべてを武器とするスタイルに加えて、ほしふるうでわにより速度が強化された真島。
パワードスーツにより強化されたトレバーの猛攻をいなして、極み技の連続で退ける実力は流石の風格といったところ。
そして桐生一馬の死を知った反応も、極道の世界に生きてきたが故のドライさだけではなく、情の厚さも感じられる、真島らしいものでした。
しかしタイトル通り殺しはしていないので、トレバーはまだヤル気マンマン。どうなるかは未知数ですね。

・夢追い人の────(前編)/(後編)/夢追い人の遺しもの
自分の弱さを理解して、それでも友達の危機を救おうと動く雪歩。
中途半端な覚悟がわずかな差となり敗北を喫したものの、覚悟完了したマルティナ。
弱さゆえに守られてばかりで、けれどそのおかげで目標ができた美津雄。
キャラクターにそれぞれの弱さがあって、それが印象に残る話でした。
それだけに、夢追い人ことザックスの強さが際立ちますね。

・セフィィィィィロォォォォォス!!!
セーニャ、ことごとくツイていない……。
>G生物は驚愕したのだ。未知なる細胞の強大な力に!!
>第三形態となり既にウィリアムとしての自我はないーーーーーしかし、セーニャの体内にあるジェノバ細胞がウィリアムの矜持を呼び起こす!!
既に怪物となり果てても、ウィリアムの中に研究者としての矜持が残っているというのは説得力があり、かつグッとくる描写ですね。

・No One is Alone
〇第一ラウンド
いかに陽介でも強化されたクラウドとのタイマンは分が悪いか……と思わせてからの相棒の増援!こんなのテンション上がるの不可避。
幼馴染の説得を振り払わんとするクラウドは、どこか可哀想に見えてしまいました。
〇第二ラウンド
ペルソナシリーズと、その源流となるメガテンシリーズではバフ・デバフの存在が非常に大きいのですが、この回でも拮抗した展開を演出していると思いました。
>現実は辛い。誰だって嫌になる時はある。
>無慈悲な言葉だけがデタラメに街に溢れている。そんな曇り空に陽介だって嫌気が差す事があった。
NeverMoreの歌詞を引用しつつ、その現実を曇り空と表現するところがとても好きです。
そして幻想に逃げながら、過去の“現実”を想起するクラウドは切ない。
〇第三ラウンド
喪われた仲間に背中を押されて覚醒する鳴上はまさに主人公。
しかし覚醒を経てもなお、勝負は拮抗状態。スーパーリミットブレイクを解放し、戦況が傾くかと思われた矢先。
「千枝きた!!!」
〇第四ラウンド
これだ、この軽快な雰囲気がペルソナ4の持ち味なんだ、と思わせる、主人公たち三人のやり取り。
言葉もなく互いの意図を汲み取りながら、補い合い戦う三人。アツい(語彙力)
そして、そして、言葉を失いました。
〇最終ラウンド
このロワでここまで(一時的な共闘はありつつ)独りの戦いを続けてきたクラウド。
彼が最期に見たもの、得た答えが、彼の救いになったなら。独りではないと思えたのなら。とても綺麗な終わらせ方だと思いました。
そして、鳴上の死を受け入れようとする陽介。
原作でも最初に知人の死を経験し、心を乱されたであろう彼が、今度は鳴上の死を受け入れて、千枝に現実と向き合うことを諭した。
とても成長を感じさせました。状態表で鳴上とのコミュがMAXになっているのも、良い演出でした。

長くなりましたが、大作の投下乙でした。

428 ◆RTn9vPakQY:2021/03/22(月) 22:44:50 ID:fG2kSSe20
・回想:彼の求める強さ
かの有名なカリンのセリフを引用して、手段を問わず勝ちにこだわっていたレッドの目を覚まさせる、という巧みな展開。
「旅パで最強になる」 タイプ相性や種族値、厳選といった要素を知ってしまうと意外と難しい、この願い。
ポケモンと心を通わせてバトルすることの大切さに気づけた、ターニングポイント的な話ですね。

・青き光に導かれ
激しい戦闘後には穏やかな料理風景。
>「人のみならず、どの生き物でもいつかは死ぬ。だからこそ、命の受け止め方が重要なのだ」
ハンターさんの株がオトモにより上がっていく…!
オーブを集めるという目標も定まり、仲間としての連帯も深まり。安定した対主催ですね。

・これまでではなく、これから
>「私がスパイだと一つ明かせば、後は知りたいこと何でも答えてくれると思う、君の頭にだよ。」
し、辛辣……!バレットは比較的短慮な印象はありますが、それにしたって。
オセロットの得体の知れなさがよく出ていて、こいつをスパイにしたエイダの真意が改めて気になりだしました。
>思えば彼にとって、元ソルジャーなどと宣う金髪の男やら、実験サンプルやら、ギルやマテリアを盗む謎の忍者やら、仲間というのは最初は得体のしれない者がほとんどだった。
ここ笑いました。それはそう。

429 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 01:23:28 ID:jHryT3sc0
投下します。

430壊レタ世界ノ歌 序 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 01:24:19 ID:jHryT3sc0

ゾーラ族の少女は、水面から音を察知した。
遠くながら、その音は確かに聞こえることが出来た。
不規則ながら、キン、キンと金属をぶつけあう音だ。
しかもかなりのハイテンポで。
あのような音を出せるのは、相当な剣の達人。

そう、例えば自分が探しているリンクのような。


それまで体力の回復も兼ねて、水面スレスレを緩やかに泳いでいたミファーは、急にスピードを上げ、音の方向に向かう。

(ここから先は、泳ぐことは難しそうね……。)
【D-2】の市街地の、波止場のような場所から陸に上がり、その先を目指そうとする。


音のした方向は、2つに分かれている。
市街地側と、山岳地帯。
ミファーはとりあえず、市街地方面を目指そうとした。
音がした方向(ザックスとマルティナが戦っている方向)に行こうとすると、一人だけで銀髪の少女が歩いていたのが見えた。


すぐに殺そうか?と思うも、放送直後に襲った短髪の少女のように、意外な力を持っているかもしれない。
まだ気づいていないようなので、後ろからひっそりと付けることにする。

向かう方角は、市街地方面から離れていく。
どちらかというと、山岳地帯から聞こえてきた音の方向に近づくぐらいだ。





剣を打ち合う2人は、全員が口数の多い方ではない。
加えて内一人は、ドラゴンと交わした「契約」の代償で言葉を話す力を失っている。
だが、金属の音しか聞こえてこないのは、それだけではない。
言葉を発さないのではなく、発せないのだ。
1文字発する余裕させない。


そこへ脚を傷つけられ、後退していた戦士が、すぐに戦線へ復帰する。
彼女もまた、口数が多い方ではない。
ただ、金属と金属をぶつけ合う音の種類が、増えただけだ。



この場所は、闘気の炎が充満しており、集中力か闘気、どちらかが途切れた瞬間、3人分の炎が纏めて襲い掛かる。
言ってしまえば、緊張の糸を切ってしまった瞬間、命の糸も切ってしまう。
それが分かっていたから、何か一つでも集中の妨げになるようなことが出来ない。
持ちうるエネルギーを全て戦いに注ぐ。
それでいてなお、相手は勝てるかどうかだ。


ここにいるのは、3匹の獣。
しかも、滅多なことで嘶くことは無い、戦いに特化した猛獣だ。
青い風を纏った金の虎、リンク
黒の激流と化した白の雌豹、2B
そして、黒炎となり果てた、黒獅子、カイム

3匹は、互いの喉笛か心臓に、牙を突き立てんと必死で攻撃を繰り返す。
それが、手足の一本ぐらい傷つけられていたとしても。


何度目か、金属と金属がぶつかり合う音が、山岳地帯に木霊する。
既に十陣が重ねられており、そう遠くなく二十陣に達する。
そして、片側の限界も、遠くはない。

431壊レタ世界ノ歌 序 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 01:24:36 ID:jHryT3sc0


いつまでも続くように見えた、金属を持った獣同士の戦いは、突如中断を迎えることになる。


ガァン!!

力に押され、3人のうち誰かが闘志の集合場所から弾き出された。
リンクだ。
彼が弾き飛ばされた先は、まるで車が走った土の道のような跡が出来ている。
力づくで、しかもデルカダールの盾のような頑丈な防具ごと吹き飛ばされるなど、誰が予想できようか。

しかし、なおも剣を振りかぶり、追加攻撃を加えようとするカイム。
その間に2Bが割って入り、横薙ぎに一閃。
ほんの一瞬だが、攻撃を中断させた。
だが、リンクが参戦する前、攻撃を何度も受けたため、その限界はリンクよりも近い。


何とか鍔迫り合いに持ち込むも、それだけで電流でも流れたかのような圧力が、鉄製の両手に伝わる。
既に片足に力が入らなくなっているため、猶更限界が早い。
両手の感覚がマヒしかかっている。2Bの体に安全装置でも付いていれば、とっくにアラームを鳴らしていただろう。

しかし、2Bが稼いでくれた一瞬の時間が、リンクにとって戦線復帰と、反転攻勢の時間をもたらしてくれた。
得物を下段に構え、鍔迫り合うことでがら空きになった下腹部に、剣を構える。
密着状態をキャンセルして後ろに飛びのき、リンクの斬撃を躱すことに集中するカイム。
否、回避のみが彼の目的ではない。
リンクの横切りが空を切った直後に、反撃の一撃をリンクにお見舞いしようとした。


(今だ!!)
直撃ならば、軽く人間の刺身が作られる一撃を前に、盾を構える。


何発かリンクは盾でカイムの攻撃を受けたのは、反撃の糸口をつかむためだ。
一撃一撃を食らうたび、頑丈な盾を持っていてなお、死線を何度もくぐる羽目になったが、それでも成果はあった。
一見隙が全く無さそうなカイムだが、攻撃は意外とワンパターンだということを、リンクは見抜けた。
10のうち7.8は武器を、大きく横に薙ぐ攻撃になっている。
いくら動きが早かろうと、タイミングがほぼ同じならば、受け続ければ次第にタイミングが読める。
そして、力が強すぎるため、ガードしてもその手に幾分かダメージ受けるが、リンクのジャストガードは関係なしに相手を崩すことが出来る。


パリィ――ンッ!

気持ちのいい音が炸裂!
正宗は無人の天を突く形になった。
競り合った際に、鉄の人形と戦っているような気持ちにさせられる相手でさえ、これを食らえば隙が出来るはず。

これにてカイムの最恐の剣にして、最凶の防具たる正宗は、一瞬だが無力になった。
だが、一瞬で充分。
民主刀の切っ先から、白い光が煌めく。
リンクの体軸を中心にした、風車のごとき一撃を防御の空いたカイムに見舞う。
二重円を描く、回転斬りを決めて敵を大きく怯ませ、とどめの一撃を2Bに入れてもらう。


「てえやぁぁぁ!!」
剣が大風を乗せて弧を描いた。

「!!?」
しかし、弧は突然別の箇所から加わった衝撃のせいで、大きく乱れる。

間違いなく当たるはずだった。
この一撃で殺すことは出来ないにせよ、当たることは間違いないと思っていたリンクの渾身の一撃は、下部から剣を襲った衝撃によって、空を切ることになった。

432壊レタ世界ノ歌 序 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 01:25:20 ID:jHryT3sc0
(あの状態から、剣で弾けるはずが……?)

正宗が飛ばされた方向から鑑みて、一番ありえない方向から斬撃を弾かれ、戸惑いながらも反撃を恐れ、距離を離すリンク。

(まさか……蹴り!?)
金属ではなく、なめし皮の塊で思いっきり得物を叩かれたような衝撃を片手に受けたことから、納得いく事実ではある。
しかし、それを受け入れると、別の事実に驚愕せねばならなくなってしまう。

すなわち、思いっきり振られた剣の腹を、正確に蹴とばす反射神経と、不安定な体勢でなお、蹴りを打てるバランス感覚。
そうした人間離れした力を持っているという事実を受け入れなければならない。

「ったああああああ!!」
2Bがカイムの足を上げた方向から、突撃する。
足技というのは、殴撃より威力があるが、概して弱点もある。
それは、足を開くため、敵に懐に潜り込ませやすくなることだ。

これ以上戦いを続けることは危険だと判断した2Bは、特攻をかける。
狙うは、カイムの内腿。
例え死ぬことになっても脚を傷つけることが出来れば、少しでも猛攻を止めることが出来る。

(なっ!?足一本で!?)
しかし、カイムは片足立ちの状態でバック宙を決め、2Bの剣撃から逃れるという、またも離れ業をやってのけた。
地面に着地する前に、隙の出来たアンドロイドの首目掛けて、正宗を一閃。

「まだだ!!」
それでもリンクが、大盾でその斬撃から仲間を守る。
その一撃はただでは抑えきれず、リンクはまたも2Bごと押されることになる。

そして、正宗の最大のメリットは、攻撃範囲。
無理矢理密着しようとしていた2人を、強引に距離を離し、最も攻撃力が活かされる距離に置いたのだ。
一番正宗が距離を発揮する距離から、強烈な一撃が放たれる。

(ならば!!)
その一撃を、済んでの所、バック宙で回避する。
2Bの一撃を回避したカイムのようにノーダメージとはいかず、正宗によって飛ばされた風の刃で、幾分かダメージを受けるも、関係ない。
その瞬間、時間が止まったかのような空気に包まれる。
否、時間が止まったのではなく、リンクが隼のごとき速度で戦える瞬間が訪れたのだ。

この状態なら、正宗を搔い潜り、強引にカイムにラッシュを浴びせることが出来る。
地面を蹴り、姿勢を極限まで低くし、いざ突撃せんとしたその瞬間。
猛烈な頭突きが、リンクを襲った。

「ぐあああ!!」
「リンク!!」
何という事か、カイムも姿勢を低くし、さながら猪のように突撃してきた。
ジャスト回避で、時を作れた直後でも、リンクは無敵になったという訳ではないので、何らかの攻撃を受ければ、ダメージもあるし、ラッシュもキャンセルされる。

相手の速度が急に増したことを察知したカイムは、シンプルな2動作だけで出来る対策を、瞬時に練った。
すなわち、姿勢を低くすることと、そのまま地面を蹴りつけること。
ダイビングヘッドバッド。
リンクの斬撃を蹴りで弾き飛ばしたことと同様、反射神経とスピード、それに筋力さえあれば出来る、これまたシンプルな対処法だ。
しかし、シンプルゆえに、即興で戦略に組み込みやすくもある。

(剣だけじゃなく、体術まで……?)
元来カイムは1対多の戦いの経験の方が多かったため、1対1、もしくは1対数名の戦い向けの体術を発揮する機会はほとんどなかった。
だが、竜との契約を交わしたことに手に入れた力、そして契約無き時期から大剣を軽々と振り回せる筋力や膂力は、体術に回しても存分に発揮する。

433壊レタ世界ノ歌 序 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 01:25:36 ID:jHryT3sc0

リンクの迫る勢いに、カイムの運動エネルギーがプラスされ、抵抗できずにゴロゴロと岩場の地面を転がっていく。
この機を逃さず、正宗を上段に構え、斬りかかるカイム。

「リンク!!」
陽光を構え、2Bはリンクを守ろうとする。
しかし、ダメージを追った2B一人で彼の突撃は止められず、一撃を貰うと共に、いとも簡単に名刀・陽光は太陽へと飛ぶ。
そのまま黒獅子は雌豹目掛けて走り、その長すぎるほどの牙を喉に建てようとする。


ようやく立ち上がったばかりのリンクは、カイムの猛攻を止めることは出来ず、ただ剣が振り下ろされる瞬間を、眺めることしか出来ない。
剣で打ち返すことも、盾で受け止めることも間に合わない。


「Hey,こいつを食らいな。スピンダッシュ!!」
青い砲弾のような何かが、カイムの顔面に命中した。
目の前の敵に力を込めていた人間が、横からの衝撃に対応できるわけもなく、地面を転がった。

「町の外まで探索を広げたことがluckyだったようだな。無事でよかったぜ、リンク。キーラとの戦い以来だな!!」

「助かった。でもあんたは……」
一時的にとはいえ、絶体絶命の危機を救われたリンクは、その正体に驚く。
さらに驚くことは、なぜその生き物が自分を知っていたということだ。
あんたはなぜ自分のことを知っているのだ、と聞こうとした時、砲弾は球体から、人型に変わり、サムズアップを二人に見せた。

「長い話は無用だぜ、Speech is silver but silence is golden.でもオレが助けに来てくれたから、安心だぜ。」
「助かった。ありがとう。」

2Bも感謝の言葉を告げた。

434壊レタ世界ノ歌 序 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 01:26:02 ID:jHryT3sc0

「Be careful!! 来るぜ!!」
だが、カイムはあの一撃で倒せるほどヤワな相手ではない。
なおも闘志を滾らせる1匹の獣の前に、2匹の獣と、新たに参戦したハリネズミは、身構える。

何度見たことか、カイムが正宗を横薙ぎに一閃。
それをリンクと2Bが同時に剣を下段に構え、受け止める。
その瞬間、ソニックがカイムの顔面に、ミドルキックを見舞う。

「何だコイツ……スーパーアーマーでも付けているくらい、hardな奴だな。」

大木か鉄の塊でも蹴ったかのような感触を覚え、相手の異様なまでの頑丈さに畏怖するソニック。

先程は不意を突かれただけで、速さに特化したソニックの蹴り一つでは、動かすことも難しい。
そして、カイムの本領発揮は、1対多の集団戦。
いくら敵が増えようと、さほど関係なく動き回ることが出来る。

続けざまに弾丸と化した体当たりで、背中に更に一発。
もう一発方向を変え、肩にミドルキックを打ち込もうとした瞬間、ソニックの頭に丸太のような衝撃が襲った。
確かにソニックの最高速度は、カイムをしてなお、追い切れない。
だが、鍔迫り合いの状態のまま、方向転換した際に失速した一瞬のすきを狙って、音速の貴公子に頭突きを当てたのだ。
スピードこそは劣るものの、ドラゴンと共に空中戦を繰り返したカイムの、鍛え上げられた動体視力による技だ。

咄嗟に身をよじり、衝撃を受け流すも、大きく飛ばされていく。

「ソニック、そいつ、体術も化け物並みだ!!」
(Shit……アイクみたいなタイプかと思ったら、それだけじゃないのか……。)
2Bの言葉を、その身で感じるソニックは貴音から奪った短剣オオナズチをザックから出す。

(ナイフは得意じゃないんだがな……)
しかし、得意じゃないとはいえ、小ぶりな短刀がソニックのスピードをフルに活かすこともが出来るのもまた事実。
一瞬ナイフが三本に増えたかのように見えるほどの速さを見て、まずはナイフを排除しようと正宗を振るう。
だが、それをぐるりとUターンして躱すソニック。


すかさず、剣を振りかざしてと飛びかかるは、リンクと2B。
「うわっ!!」
正宗は地面を薙ぎ、その土塊を二人は浴びせられた。
だが、追撃が振るわれる前に頭上からナイフが付いた球体になり、迫りくるのはソニック。

435壊レタ世界ノ歌 序 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 01:26:27 ID:jHryT3sc0

慌てて長剣を頭上へと振りかざすも、弾き飛ばせたのはナイフだけ。
そのまま、もろに頭部にソニックの蹴りを受けてしまう。

(ナイフを囮にして、やっと一撃か……)
相手の耐久力と攻撃力にソニックでさえもうんざりする。


3人がかりで、やっと互角の状況。
この膠着状態を打破する役割を担った援軍は、予想外の存在だった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



(リンク……さん……2B……さん……。)
場所はリンク達がカイムと戦っている場所から、少し離れた茂み。
いくら戦いが長引こうと、勝利を祈るしか方法がなかった。
銃という武器は持っていたが、自分は全く撃ち方など知らないので、真っすぐ飛ぶかさえも分からない。
下手に打っても、足手まといになってしまいそうなので、使えなかった。
そんな最中だった。
彼女が持っていたモンスターボールが、作動した。
それは彼女が無意識のうちに押したのか、はたまた完全なる偶然かは分からない。


「グゴオオオォォォン!!」
「!!」
出てきたのは、とある地方の伝説のポケモントレーナーが従えしポケモン。

なんで自分は忘れていたのだろうか。
この状況で、少しでも役に立つことしたい。
それなのに、肝心なことを忘れていた。
「リ……リザードン、さん。向こうのリンクさん達を、助けてください!!!」
雪歩は自分の身も案じず、数少ない護衛を敵の下へ行かせる。

本来ならポケモンは、トレーナーと共にいないと、戦うのは難しいのだが、その支持を平然と承ったのは、伝説のトレーナーと共に冒険したからであろうか。


任せろ、と笑みを浮かべ、リザードンは空へと飛んでいく。
だが、このポケモンが空を飛んだことが、彼女にとっての災難になるとは、まだ誰も知らなかった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

(あの竜は?)
市街地を彷徨っていた四条貴音が、空き家の二階から見たのは、少し離れた場所から飛び立つドラゴンだった。
元の世界ならば、アドバルーンか何かだと思い、さほど興味のひかれる対象ではないだろう。
だが、一度ソニックという、二本足で歩き人語を話すハリネズミに出会ったこともあり、その方向へ向かうことにした。

ドラゴンは山岳地帯の方で見えた。
今頃ソニックが自分を探し回っているはずだから、広範囲を移動するのは悪手でしかない。
だが、向こうへ行けば竜の飼い主と会えるかもしれない。


ソニックから逃走したのにも関わらず、
殺すにしろ、協力するにしろ、ナイフ一本だけでは心もとない。
だから、ドラゴンの協力者に近づこうとした。
正確には、その飼い主が持っている支給品を目当てに。
その時から、彼女を察知し、近づこうとしている者がいることも気づかず。


市街地から出て、周囲が人工的な色から自然の緑や茶色の方が多く目に入るようになった頃、その先にいたのは、彼女が良く知る少女だった。



この悲劇を奏でる曲は、急転直下。
一つの再会によって、大きく変わっていく。

436壊レタ世界ノ歌 序 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 01:26:40 ID:jHryT3sc0
前半部分を投下しました。

437壊レタ世界ノ歌 序 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 17:55:06 ID:jHryT3sc0
続き投下します。

438壊レタ世界ノ歌 破 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 17:55:40 ID:jHryT3sc0

カイムがリンクを両断せんと、正宗を袈裟懸けに振り下ろす。
只の一撃が、人間離れした腕力と、圧倒的な剣の威力で、必殺級の一撃になる。

「Hey,そう簡単に振らせないぜ!?」
しかしソニックがカイムの腕に蹴りを入れ、軌道を逸らす。
盾を持ったリンクは敵目掛けて走り、ジャンプして一回転。

まるで盾でサーフボードにした曲芸をしているかのような状態で飛びかかる。
単純に防御のみならず、敵の視界を防ぐために即興で考えた技だ。

「2B、頼む!!」
そして新手の攻撃にカイムが惑わされている間、最後の2Bに任せる。
しかし、敵もさらに予想外な攻撃をしてきた。

まずは腰を深く落とし、そのまま正宗をホームランバットのように振りかぶり、飛んで来たリンクをボールのように打ち飛ばした。
ソニックがまたも正宗握る両手に蹴りを入れるも、膨張した筋肉の鎧を纏った手を動かすことも出来ない。

「うわあ!!」
「くそっ!!」
ただリンクを打ち飛ばすだけではない。
持ち手のグリップを回転させ、即興の弾を2Bめがけて飛ばした。
地面でクラッシュが起こる。
慌てて2Bが陽光を下げたため、飛んで行ったリンクが串刺しになるという、最悪の状況こそ回避できたも、旗色が悪いのは変わらない。


「ホーミングアタック!!」
剣を下段に振り下ろしたすきを見計らって、顔面目掛けて回転体当たりを仕掛けるソニック。
続けざまに青い弾丸は2,3度カイムにぶつかる。

(時間稼ぎにしかならねえか…)
しかし、顔を歪ませながらも、なおも攻撃が止む様子はない。
スピードは確かに自分の方が勝っているはずだが、それでも減速になる瞬間を見計らって、執拗に攻撃をしてくる。


「行けるか?2B。」
「正直、厳しい。」

速さが確実に上回っているソニックの援護のおかげで、一瞬のスキが死に直結することは無くなった。
だが、なおも戦況は芳しくない。
そんな状況を打破するかのように、4人の頭上から咆哮が響いた。


「グオオオオオン!!」
大きく口を開くと共に、衝撃波をカイム目掛けて飛ばす。
初見の技を受け、正宗で弾き飛ばす間もなく、吹き飛ばされ、何度かバウンドする。

「リザードンじゃねえか!!ところで、トレーナーはどうしているんだ?」
ソニックは新たに参戦した、かつてのライバルの一人にサムズアップを見せる。
最も、この場にいるリザードンと、彼の知っているリザードンは、個体もトレーナーも違うのだが、そんなことは気にしている暇はなかった。

439壊レタ世界ノ歌 破 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 17:56:07 ID:jHryT3sc0

雪歩のポケモンとまで知り合いとは、ソニックは一体何者だ、と後の二人も疑問に思うが、話を聞いている時間は無いのは、全員共通で分かっていた。

リザードンが翼をはためかせる。
エアスラッシュで起こした真空の刃によって、カイムを引き裂こうとする。
しかし、カイムは正宗で思いっ切り地面を打ち上げ、見えない刃が土くれと合わさって可視化すると、最低限の動きで躱し、3人に迫る。


(4対1……。これでやっと互角か……。)
「リンク、それに白黒のレディー、1つ案がある。オレに少しの間、時間を稼がせてくれ。」
二人はコクリと頷き、それだけで承諾する。

2人が斬りかかる瞬間、カイムは上空へ高く飛ぶ。
狙いは真っ先に、リザードンに決めた。
上空からの援護射撃が厄介だからではない。
新たに自分を襲ってきた相手が、まるで元の世界の相棒のような姿に見え、自分のやり方が否定されているような気がしてならないからだ。


普通は人間の攻撃は、銃か矢、あるいは魔法でも使わない限り、飛竜に届かない。
だが、人間離れした跳躍力と、武器の範疇を超える長さの武器が、攻撃を可能にする。

剣が目と鼻の先まで近づき、歴戦の赤竜も驚く。
だが、その攻撃が当たることは無かった。


「でやあああ!!」
リンクもその場までやって来たからだ。

(2B、助かる。)
先程、2Bと協力して放った斬撃を外すや否や、リンクは再び盾サーフィンの姿勢になった。
今度その状態のままぶつかるのは、カイムではなく、味方の2B。
勿論、攻撃のためではない。
反動をつけて跳び、空へと逃げた敵を上空のリザードンと共に、挟み撃ちにするためだ。


盾の回転を使った新技、盾サーフィン回転斬りが、カイムを捉えた。
ぶしゅりと脇腹から、鮮血が迸る。
そこへリザードンの追加攻撃、フレアドライブが襲う。
炎を身に纏ったまま赤竜は敵へ激突。

空中で爆発が起き、そのままカイムは地面へと堕ちていく。

だが、それでも闘志の権化と化した男は、剣を振るうのをやめない。
とどめを刺しに来る2Bを、空中でマサムネを振り回すことで近づかせない。


「Thanks!!皆、これでFinishだ!!」
他のメンバーが稼いだ時間でソニックが行っていたのは、スマッシュボールの破壊だ。
割ればファイターの更なる力や技を引き出せる虹色のボールは、ここぞという時に中々割れなくて苦労する。
そして、見えやすい場で割ろうとすれば、最悪の場合敵に割られて、戦況を悪化させてしまう。
だからこそ、一人でさり気なく破壊するのに集中していた。
いつも戦っていた時と同様、全身に力は湧き上がり、身体が綿のように軽くなる。


後は、その力で黄金のスーパーソニックとなり、カイムに攻撃を加え、後は全員でトドメを刺すだけ。
3人と1匹の勝利は、目前まで迫っていた。

440壊レタ世界ノ歌 破 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 17:56:30 ID:jHryT3sc0
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「四条さん!無事で良かった!」
足音に気付き、悪人に見つかったかと一瞬ドキリとするも、その姿が同じ事務所の友達だということに喜ぶ雪歩。


「雪歩殿も、無事で何よりです。誠、嬉しい事この上ありません。」
貴音も、ナイフを後ろに隠しながら、友への再会の喜びを告げる。
殺し合いに乗っていたとしても、友と再会できたのが嬉しいことは、事実だからだ。
だが、問題はこの先のこと。
優勝するためには、自分が殺しをしようとしていると夢にも思っていない友までも、手にかけねばいけない。
持っている小さなナイフのみでも殺せるような相手だ。
だからといって、殺す決断はそう簡単に出来ない。


「どうしたの?四条さん、顔が真っ青……。」
元々シミ一つない白い肌と、流麗な銀髪を持った貴音だが、それでいてなお顔色は血の気を失っていた。

「こんな時だから無理はないけど、ここに隠れていようよ。もうすぐしたら他の人たちも来るし、その時は千早ちゃんを探しに行こうよ」
小声ながらも、友の再会を喜んでか、話し続ける雪歩。
「千早がどうかなさったのですか?」
「聞いただけだけど、千早ちゃん、人を刺しちゃったらしいんだ。でも、きっと皆で一緒に話せば……。」


思い出した。
自分は最初に出会ったザックスと美津雄という二人組を襲撃した時、千早の名前を騙ったことを。
まだその事実を雪歩は知っていないようだが、近いうちにバレる可能性が高い。
だから、まだ真実を知らない雪歩を殺し、すぐに逃げなければ。


「大丈夫だよ……リンクさんと、2Bさんと、リザードンさんがきっと勝ってくれるよ。だから、四条さん、そんな顔しないで………!?」

「ごめんなさい……」

貴音は手を震わせ、後ろに隠していたナイフを突きつけた。
「え!?」
雪歩の愛くるしい両目は、光を失い、ただ自分を見つめるだけになった。


きっと、あの世で一生怨まれることは間違いない。
だが、目を固く閉じ、ナイフを振るう。
最初の一撃は、雪歩の上着を裂くだけだった。

441壊レタ世界ノ歌 破 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 17:57:00 ID:jHryT3sc0

決意が足りなかったと貴音は実感する。
次は、もっと力を、何より決意を込めて刺さないと。
けれど、相手は最初に刺した相手とは違う。

苦楽を共にした、同じ事務所の仲間だ。


貴音は、決意する。
彼女たちの心と同じくらい細く脆いその刃で友をーーーーーーー


→殺す
殺さない






殺す
→殺さない





→殺す
殺さない




殺す
→殺さない



→殺す
殺さない


→殺す
殺さない

殺す
→殺さない
→殺す
殺さない
殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない――――――――――――――――――――――――


「四条さん……やめてよ。」
涙ながらに訴えようとした時、胸から刃が現れ、見た目麗しい美女は、倒れた。







四条貴音の命が、この場で終わりを告げた。




貴音の後ろに立っていたのは、ゾーラ族の少女、ミファー。
彼女が投げた鬼炎のドスが、貴音の胸を背中から貫いたのだ。


「あ……あなたは……。」
雪歩は動かなくなった友達と、見慣れぬ姿をした少女を交互に見つめる。

「ごめんね。けれど私に教えて欲しいの。リンクはどこにいるの?
あなたはリンクの仲間だし、教えてくれたら命だけは取らないわ。」

半魚人のような姿をしているが、その瞳は魚のように慈悲の無いものだった。
黒点だけで、輝きの無い瞳で見つめられ、雪歩の前身は震えが止まらなかった。

442壊レタ世界ノ歌 破 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 17:57:46 ID:jHryT3sc0

しかし、彼女の心に、恐怖に代わる何かが現れ始めた。
それは、怒りだ。
殺されそうになったとはいえ、友を殺された怒りだ。

「よくも……四条さんを………!!」
「!!」
「許さない!!」
彼女は気弱な性格をしていると思われがちだが、いざという時は誰よりも勇気を出す性格である。
加えて、仲間に不幸があると見逃せないほど、友達想いな萩原雪歩という人間が、目の前で友達を殺されて、何もできないわけがなかった。
雪歩はポケットに入れていた最後の武器、ナイフ型消音拳銃を出す。
使い方は、既に支給品の説明書で読んで知っていた。
今まで使う機会と、勇気が出なかっただけだが、今こそこの武器の出番だと決め、安全装置をに手を描ける。

戦闘経験がほとんど無さそうな少女が持ったナイフなど、恐るるに足らないと割り切っていたミファーだが、それは彼女の見慣れたナイフではない。

殺意に気付いたミファーは、ザックに手を入れ、2つ目の武器である拳銃を出すが、もう遅い。

ナイフ形の、小型拳銃だ。
柄の側面の安全装置を開く。
これで後は引き金さえ引けば、いつでも撃てる。
大切な一発に想いを込めて、ミファー目掛けて発砲した。



銃声が戦場に、響いた。




そして、銃声と共に、戦いの姿をしたこの音楽は、文字通り最終「曲」面へ。

443壊レタ世界ノ歌 破 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 17:58:09 ID:jHryT3sc0
後半投下します。

444壊レタ世界ノ歌 急 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 17:58:30 ID:jHryT3sc0

「そんな……。」
怒りに任せて撃った銃は、ミファーの心臓には命中しなかった。
命中したのは肩のあたり。
ただでは済まないが、相手を殺すのには到底至らなかった。

確かに雪歩の決意は漲っていたはず。
だが、手元の震えか、殺人への恐怖か、未知の世界の空気のせいか、銃を撃つのは初めてだからか、反動のせいか、はたまた最後に躊躇ったか。
理由こそは不明だが、友の仇を殺害するには至らなかった。


そして、急所に当てることが出来ずに、放心した雪歩の隙を、歴戦の英傑である彼女が見落とすわけがない。
右肩の怪我も厭わず、そのまま雪歩に詰め寄り、今度は至近距離で彼女が銃の引き金を引いた。

火薬の爆ぜる音が、戦場から離れた場所で響く。
ただ真っすぐにミファーが放った弾は、雪歩の心臓を打ち抜く。

口を開けて、声を出さずに血のみを零し、開いていた瞳孔が完全に開ききった状態で、ぐらり揺らめいたと可憐な少女は、草原の上に倒れる。
それはまるで、雪の上でも可憐に咲いていた萩の花の命が、雪解けの洪水によって無残に刈り取られたように見えた。
最も飛び散ったのは、紅紫色の花びらではなく、曼珠沙華のように赤い色なのだが。

消音式の銃とは異なるマカロフが火薬の音を出し、反動で彼女の左肩の関節と両の鼓膜を痛めつけるが、それでも二人目の敵の殺害に成功した。


動かなくなった、二人の少女の死体を眺める。
彼女らに対して、これといった同情を抱くこともなく、片方の胸に刺さったナイフを引き抜いた。

(待っていて……リンク……。)
関節の痛みと、銃の痛み2つを受けながらも、彼女は最愛の男の下へ進む。
リンクの仲間が死んだことを聞けば、彼はきっと悲しむ、それは分かっていた。
でも、彼女としてはそれでもよかった。


場所の方は聞けずじまいだったが、音だけは聞こえる。
その音の方へと、ただ静かに向かう。
彼女が起こしたことが、どういった災害を呼び起こしたのかもつゆ知らず。




★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


地上は3人で囲み、上空には1匹。
勝利は目前に迫ってきた。

だが、ゆめゆめ忘れるなかれ。
いくら目の前の敵が強かれど、目の前の存在のみがすべての敵では無いことを。

ここは決められた数の敵とだけ戦う場所では断じてない。
ソニックがかつて戦っていた場所で例えるなら、ポケモンスタジアムのように、時間経過で外部から状況が変わったりすることもある。


(銃声!?)
丁度雪歩が隠れていた辺りで、火薬の破裂する音が響いた。
一番不幸なことは、リンクが既にトレバーと戦っていたことだ。
トレバーとの戦いで、初めて銃声を聞いていたリンクは、方向的にあり得ないにしろ、またあの禿げ頭の男が雪歩を狙ってきたのかと思い込んでしまう。


そして、後の二人は過去の戦いで何度も銃の音を聞いていた。
すなわち、この一瞬だけ、3人共カイムから集中力を逸らしてしまった。
ならばリザードンは銃声に惑わされなかったのかというと、これも否である。
竜のポケモンは、別の出来事に心を乱されていたからだ。
すなわち、持ち主の喪失である。

445壊レタ世界ノ歌 急 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 17:58:48 ID:jHryT3sc0

不幸中の幸いながら、モンスターボールの効力のある範囲のギリギリで戦っていたこと、ミファーがモンスターボールの仕組みを知らなかったことで、主導権が雪歩からミファーにすぐさま譲渡されることは無かった。
だがそれでいて、突然所持者が死んだことは、一匹のポケモンとして、十分に精神を搔きまわした。


参加者だけでなく、支給ポケモンのリザードンでさえ銃声に耳を傾けた中で、戦闘に身を委ねたカイムのみが最適な行動を選ぶことが出来た。


この一瞬のスキをついて、誰か一人を攻撃しても、その瞬間他の誰かに纏めて攻撃される。
攻撃をしてくる敵の場所も、タイミングもバラバラなので、一太刀で全員を殺すのは難しい。

だが、カイムの攻撃には、もう一つ技があった。
正宗に魔法を纏わせることで使う技、コメテオ。


「うわっ!!」
「!!」
カイムはリンクの回転斬りを真似したかのように、正宗を低い方向に思いっ切り振るった。
誰にも当たらなかったが、地を這う風の刃は3人の脚に傷を負わせた。
切り落とされることは無かったが、ズボンに赤黒い染みが広がり、顔を歪めるリンク。
2Bに至っては、既に負傷していた片足に大きなダメージを受け、金属片が散らばった。
そしてソニックの脚にも同様に裂傷が走る。
2人に比べて傷は浅いが、ダメージを受けた際にスマッシュボールの力を手放してしまった。


一度リンクがやったかのように、2Bの頭を踏み台に飛び上がり、再び空高くへ。
しかし一瞬の精神の乱れから回復したリザードンが、翼をはためかせカイムに襲い掛かる。

「グア!?」

しかし、あわてず騒がず、カイムはリザードンの片羽を、あるもので斬り裂いた。
それは、ソニックが落とした、短剣オオナズチ。
先程、リンクとリザードンの波状攻撃により地面に撃墜された時、地面に転がっていたそれを拾って、サブウェポンとして用いた。

翼を傷つけられ、空の支配権を手放してしまう。

2Bに加え、更にリザードンを踏み台に、更に天高く上る。
この瞬間、空の支配権は、一気に飛竜からカイムへと渡った。


(くそ……でも今やるしかねえ!!)
ソニックは、完全にとどめのタイミングを逃したことで、悔しさに歯を食いしばる。
だが、翼を持つ者がいない以上、自分が切り札を切ることで、飛行能力を得るしかない。

再びスマッシュボールを破壊する。
離れたはずのその力が、ソニックに集まる。

「決めてやる!!」
体が黄金に包まれ、そして重力の鎖と、空気摩擦の鎖を断ち切り、限界を超えたスピードを得る。

だが、スタートが1日遅れたアキレスが、スタートが1日早かった亀に勝てなかったように、いくら速さで勝っていても、開始時間で後れを取れば、間に合わないこともある。


カイムは無人の空で手に入れた時間を使い、正宗を上空で一回転。
その瞬間、4つの隕石が地上の者と空の者目掛けて落とされた。


(何だ……これは……。)
地上にいたリンクは、ただ圧倒的な力を、見つめるしか出来なかった。
流れ星は何度か見たことがあるが、自分の所にその命刈り取らんと迫る星は初めてだった。
逃げようにも、足を怪我している以上は走るのも難しい。


(ここまでやって、まだ奥の手があったと……?)
2Bは今まで見たことのない隕石を、リンクと同じように見つめている。


唯一、スーパーソニックのみが、そのメテオに逆らうことが出来た。

446壊レタ世界ノ歌 急 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 17:59:21 ID:jHryT3sc0

音速、いや、光速ともいえる目に見えないほどの連続攻撃を巨大な岩に繰り出す。
隕石を一つ貫き砕き、カイムもまとめて貫こうとした時、急いで方向転換した。
(No,違うぜ。)
カイムよりも、残された人とアンドロイド、そしてポケモンに降り注ぐ残り三個の隕石を地面に落ちる前に止めようとする。

「ファイターが誰もいなくならない限り、平和への戦いも終わらねえ!!」
2個目をぶつかりに行った時、その姿は金から青に戻り、それでもなお隕石へと目掛けて弾丸となり襲い掛かった。

「Burning……でもオレの魂も、まだ燃え尽きちゃいないぜ。」
空から降り注ぐ、炎岩の炎に焼かれてもなお、連続してぶつかり続け、一つでも砕こうとする。

「「ソニック……」」
地上に残された二人は、ソニックを必死で止めようと言葉を発す。
持ち前の速さを使えば、一人だけ逃げることも出来たはずだ。
だが、それでも仲間を守るため、1つでも隕石を破壊するためにその速さと力を使った。


「リンク…リザードン……皆…たのんだ……ぜ……。」
ソニックは焼き尽くされる瞬間、地面に置いてきた鞄を指さし、もう片方の手で2個目の隕石を破壊し、それから体を動かなくなり、地面に堕ちていった。
彼の速さは、仲間と自分、両方を守ることは出来なかった。
だからこそ、共に戦ったファイターを守った。


だが、隕石は残り2個。
地上に落とされたリザードンと、2B、リンクを殺すには十分な数だ。
デルカダールの盾では、英傑だとしても身を守るには余りに心もとない。


「リンク。」
そう一言アンドロイドが呟くと思うと、機械の両腕でリンクを掴み、思いっきり投げ飛ばした。
既に片足はボロボロだったのにも関わらず、激しい運動をしたため、投げた瞬間に負傷していた脚が落ちた。


「2B……!!何を!!」
「私はもう、戦えない。」


隕石が迫りくる中、一人だけその場所から放す。


「グゴオオオオン!!」
毒を受け、翼を動かなくされてなお、リザードンの口から強烈な炎を吐き、隕石の1つを破壊しようとする。


「リザードン、付き合ってくれるのか、悪いな。」
それを見ていた2Bは、どこか申し訳なさそうにする。
どうせなら、リザードンも外に投げ飛ばしたかったが、片足だけではどうにも難しい。

(ああ、これで終わりか。)
あっけなく、突きつけられた死。
だが、一つだけ満たされたことはあった。
今まで司令官から聞いたことしかなかった存在であった、人間。
人類を守ることが自分たちアンドロイドの命令だとしても、一度も会うことは無かった。


だが、初めてこの世界で機械生命体ではない人間に出会い、その人間を守り、そして終わることが出来る。
こんな戦いに勝手に巻き込まれたのは癪だが、それだけは主催にも感謝しないといけない。

447壊レタ世界ノ歌 急 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 17:59:48 ID:jHryT3sc0

彼女は、自らが戦い無くなり無価値になっても叫んだ。
壊れた敵を目の前にして。
脚を失い、戦えなくなってしまっても。
アンドロイドとはいえ、笑顔が眩しいままの仲間たちに、想いを残すために。

(みんなをお願いするね…リンク、ナインズ。)
地面に堕ちた隕石が、爆発する。
広がった灼熱の爆風と、砕け散った石の欠片が、アンドロイドとポケモンの全身を貫いた。



「2B!!リザードン!!!」

直撃点からは離れていたものの、それでも隕石の欠片と爆風は襲い来る。
それを盾で守りながら、叫ぶが、どちらの返事も帰ってこない。

「2B!!!!!リザードン!!!!!!!」
叫び続けるが、耳に響くのは爆音のみだ。


燃え盛る炎の中に立っていたのは、地面に着地した、カイムだけだった。
戦い続けてなお、残された獲物であるリンクを殺すために、正宗を振りかざす。

しかし、何かの力がカイムを拘束し、大剣を振りかぶった状態のままにする。


「ふざけるな。」
そう呟いたリンクの目は怒りが現れ、そして輝いていた。
それは決して比喩表現ではなく、スマッシュボールで手に入れたエフェクトだ。
一太刀の下で、ソニックに託された最後のスマッシュボールを砕いた時から、光に満ちていた。


言葉を発せないカイムは、表情を歪め、身を捩って抵抗するも、もう遅い。
リンクの片手に浮かぶトライフォースの痣が光る。
三つ連なった光り輝く正三角形が、戦いに身を委ねた男を完全に拘束し、さらにまた光り輝く。



「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
野生の加護を得た獣のような怒声と共に、動かなくなった敵を斬る。
斬って、斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬りつけた。

腕の筋肉の限界も、脚の痛みも、何もかもを気にせず、斬り続けた。
トライフォースラッシュ。
別の世界の彼が、そう名付けていた技だ。

「でぇやあああああああああああああああああ!!!!!」
慟哭と共に放たれた最後の一撃は、カイムを遥か彼方に吹き飛ばした。



生者はリンクを除いて誰もいなくなり、そのリンクも体力を使い過ぎ、がっくりと膝をつく。
(まだだ……奴に……とどめを………。)
動こうとしない体に鞭打って、立ち上がろうとする。
人間離れした敵のことだから、死体を見ない限りは安心できない。



「リンク!!」
そこへ、ある英傑の記憶のかなたで、聞いた声が響いた。

448壊レタ世界ノ歌 急 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 18:00:44 ID:jHryT3sc0

「大丈夫!?」
「君……は……。」
そこにいたのは、ゾーラ族の少女。
朧げな記憶だが、確かに知っている相手だった。


全身ボロボロなリンクを見て、涙ながらに回復の術を施す。
リンクは僅かながらの安堵と共に、同じように傷ついた彼女の手当てを受け入れた。
それが、自分達の戦いの厄災になった相手と知らずに。


【四条貴音@@THE IDOLM@STER 死亡確認】
【萩原雪歩@THE IDOLM@STER 死亡確認】
【ソニック・ザ・ヘッジホッグ@大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL 死亡確認】
【ヨルハ二号B型@Nier Automata 死亡確認】
【リザードン@ポケットモンスターポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー 死亡確認】
【残り42名】




【D-2 山岳地帯/一日目 昼】

【リンク@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(特大)胸上に浅い裂傷、両脚に怪我、軽い火傷、失意
[装備]:民主刀@METAL GEAR SOLID 2、デルカダールの盾@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて ブーメラン状の木の枝@現実
[道具]:基本支給品(残り食料5/6)、ナベのフタ@現実 残ったアオキノコ×2
[思考・状況] :ゼルダはどうしているだろう?
基本行動方針:守るために戦う。
1.それでも生きる
2.カイムの生死を確認したい

※厄災ガノンの討伐に向かう直前からの参戦です。
※ニーアオートマタ、アイマスの世界の情報を得ました。
※美津雄の調合所セット(入門編)から薬に関する知識を得ました。




【ミファー@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:ダメージ(中)  右肩に銃創 体にいくつかの切り傷
[装備]: 鬼炎のドス@龍が如く極
[道具]:基本支給品、マカロフ(残弾2)@現実 ランダム支給品(確認済み、0〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:リンクを優勝させる
1.不意打ちで参加者を殺して回る。
2. 今はリンクを回復させる


※百年前、厄災ガノンが復活した直後からの参戦です。
※治癒能力に制限が掛かっており普段よりも回復が遅いです。

【???/一日目 昼】

【カイム@ドラッグ・オン・ドラグーン】
[状態]:ダメージ(少なくとも特大)、魔力:ほぼ0、気絶、全身に裂傷
[装備]:正宗@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品 エアリスの基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、マナを殺す。
1.目の前の敵を殺す。
2.自分よりも弱い存在を狙い、殲滅する……つもりだったが?
3.雷を操る者(ウルボザ)のような強者に注意する。
4.子供は殺したくない。

※生死は不明です。
※D-2の半径1マス以内のどこかにいます。
※フリアエがマナに心の中を暴かれ、自殺した直後からの参戦です。
※契約により声を失っています。
※正宗に自分の魔力を纏わせることで、魔法「コメテオ」が使用できます。

449壊レタ世界ノ歌 急 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 18:00:54 ID:jHryT3sc0
投下終了です。

450 ◆NYzTZnBoCI:2021/03/24(水) 23:25:50 ID:woeCrs2g0
セフィロス、ウィリアムで予約します

451 ◆RTn9vPakQY:2021/03/25(木) 01:24:19 ID:7VlYtWug0
投下乙でした!

・壊レタ世界ノ歌 序破急
DODにおいて多人数戦ばかりしてきたカイムゆえに、人数の差をものともしないというのは説得力がありました。
リンクに次いでソニックも戦闘に参加したのに、戦況はほとんど変わらず……恐ろしい。
それまでの三人がほとんど喋らなかったのに対して、軽口を叩くソニックは戦場の雰囲気を緩和させていたように思います。
最期の切り札であるスーパーソニックを使い、いよいよ場が動くか――と思わせてからの急展開。

バトルロワイアルにおいて対照的な立場となってしまった二人のアイドル、その切ないやり取り。
決意を新たにしたはずが非情になりきれず、仲間を殺すことを躊躇う間に襲う一撃。
これまでのミファーは相手が常人離れしていたのもあり、仕損じていましたが、相手がただの小娘となればこの結果は必然。
そしてこの銃声に、三人ともが集中力を逸らしてしまったという展開が巧みでした。

>参加者だけでなく、支給ポケモンのリザードンでさえ銃声に耳を傾けた中で、戦闘に身を委ねたカイムのみが最適な行動を選ぶことが出来た。
ここで「あっ、やべっ」と思いました。
制空権を得てコメテオを放つカイム、そしてこれを撃ち落とさんとするソニック。
>「ファイターが誰もいなくならない限り、平和への戦いも終わらねえ!!」
>「Burning……でもオレの魂も、まだ燃え尽きちゃいないぜ。」
ここのセリフは熱すぎですね。

そして、ソニックだけでなく2Bとリザードンも餌食としたカイムに対して、烈火のごとき怒りを向けるリンク。
別の世界の彼が使った技を使うという演出も、終曲部分に相応しかったと思います。
はたしてリンクとミファーはどうなるのか……厄災という言葉で〆ているのも粋です。

ここからは個人的に気になった点を述べます。
雪歩と貴音のやりとりの部分における、雪歩のセリフです。
雪歩から貴音に対しては、基本的に敬語(丁寧語)で話すことが多いのです。
なので、例えば>>440
>「どうしたの?四条さん、顔が真っ青……。」
であれば、少し丁寧にして、
>「どうしたんですか四条さん、顔が真っ青ですぅ……」
などとした方が、より再現度が高いと思った次第です。
短いシーンですが、ここの再現度が上がれば、更に切ない状況に仕上がるかと思います。
修正を要求するのが失礼なのは承知の上ですが、もしよろしければ検討いただけると幸いです。

452 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/25(木) 09:27:20 ID:r1CJRGO20
>451
長文感想ありがとうございます。
ここまで丁寧に書いてくださって、書き手冥利に尽きるというものです。
口調に関しては、そのような形に編集させていただきます。

453 ◆NYzTZnBoCI:2021/03/25(木) 19:57:04 ID:.ak8.pjo0
投下します。

454片翼の堕天使 ◆NYzTZnBoCI:2021/03/25(木) 19:57:59 ID:.ak8.pjo0

──地獄とは。

地獄とは本来、生前に罪を犯した者が死して辿り着く場所だ。
しかしそんな段階を踏まずともそこへ行ける方法がある。

その方法は──この二体の生物と出会う事だ。


艶やかな銀髪を靡かせる長身の男と、それを前に身の毛もよだつ唸りを響かせる怪物。
まるで対照的。片や一級品の彫刻の如く完璧な美しさと気品を兼ね備え、片や失敗作の陶器の如く不格好で見苦しい。

それらは丁度城門に立ち並ぶ像のように。あまりに正反対であるのに奴らは惹かれ合う。
運命、だなんて耽美な言葉は似合わない。これはそう、言うなれば────因縁。それも細胞レベルでの話まで遡る。

「醜いな」

先に口を開いたのは長身の男だった。
男は心から嘲るように目の前の怪物へ率直な評価を下す。それは果たして外面へのものか、それとも別のものが見えているのか。
怪物は自分が蔑まれた事すら分からない。けれど、けれど。本能が目の前の敵を殺せと叫びをあげる。
お前はなんのために生まれてきたのだ。完璧になるのだろう。ならばこいつの細胞を吸収し、神に等しき存在となれ。

「セフィィィィロォォォォォォオオオオオオオスッ!!!!!!」

雷鳴よりも強く、遠くにまで轟く咆哮。
踏み締めた石床を瓦礫に変えながら、大型トラックを思わせる速度で駆けるウィリアムは四つの剛腕の内一つを横薙ぎに払う。
酷く大振りでありながら的確に命を奪わんとするそれは吸い込まれるようにセフィロスの右腹に突き刺さり、砲弾の如く彼の身体を城壁へ叩き付けた。

455片翼の堕天使 ◆NYzTZnBoCI:2021/03/25(木) 19:58:44 ID:.ak8.pjo0

あまりにも呆気ない幕切れだ。と、思う愚か者はここにはいない。
セフィロスを知らぬ者でも未だ途絶えぬビリビリとした空気の振動から感じ取るだろう。彼は今の一撃をわざと受けたのだと。
穿たれた城壁から溢れる塵煙。セフィロスの行方を隠していたそれはすぐさま消滅する。セフィロス自身の腕によって。

「……なるほど。どうやらただの獣という訳じゃないらしい」

興味を唆られ笑う彼の口元に一筋の血が伝う。この殺し合いが始まって以来最大のダメージと言っていい。腕が直撃した箇所には久しく痛みが走っている。
今の一撃で理解した。目の前の存在は並のモンスターを遥かに凌駕している。それも元々ただの人間であるのに、だ。

彼は試したかった。G-ウイルスというジェノバとは異なる可能性を。
最初こそは人を獣に変えるだけの単純なウイルスだと思っていた。しかしその実、ジェノバにも届くやもしれない底知れぬ成長力を秘めている。
ジェノバ細胞を取り込んだソルジャーでもセフィロスにダメージを与えられるのは極一部に限られる。そう言えばG-ウイルスの強大さが伝わるだろう。
その上で──このG生物は尚も成長段階なのだ。

「お前には過ぎた力だな」

だからこそ、セフィロスは心から憐れむ。
ウィリアムに対してではなく、ウィリアムの身体を支配するウイルスに対して。

「オオオオオオオォォォォォォ────ッ!!!!」

いつの間にか肉薄していたウィリアムが丸太の如き腕を振るう。
背面は城壁。逃げ場はないと思われたセフィロスはそれをバスターソードで受け止める。鋭い火花が散ると同時、それすらも読んでいたとばかりに異なる腕でセフィロスの肉体を貫かんとする。

456片翼の堕天使 ◆NYzTZnBoCI:2021/03/25(木) 19:59:59 ID:.ak8.pjo0


ぼと、ぼとり。


両断された二本の腕が地に落ち、汚れた血溜まりを作る。
怒号か悲鳴か、ウィリアムはけたたましい叫びをあげながらジェノバ細胞を取り込まんと残った二本の腕を振るう。
しかしそれが届く前にセフィロスの剣戟が腕を切り飛ばした。全ての腕を失ったG生物はそれでも歪な牙で噛み砕こうと首を有り得ない勢いで引き伸ばす。

ざりッ、と嫌な音がした。

バスターソードの一撃により頭を失ったG生物はゆっくりと膝を折り、やがて倒れ伏す。
セフィロスはそんな光景をどこか虚しそうに見下ろしていた。

「言っただろう、お前には過ぎた力だと」

所詮はこの程度なのだ。
ソルジャーのように元々鍛えられた人間がこのウイルスを手にし適合していたのならばいざ知れず。何の変哲もない一般人の成れの果てがこれだ。

だからこそ、自分が手にしてやろう。
恵まれぬ主の元を離れ、セフィロスという完全体に取り込まれる事で初めてこのウイルスは完成する。
奇しくもG生物の思考と対立する形の目的の下、セフィロスは残骸に宿る血を取り込もうと腕を伸ばす。

刹那、瞬時に身を仰け反らせた。
遅れてセフィロスの胸に浅い鉤爪のような傷跡が刻まれ、少量の血飛沫が飛ぶ。
セフィロスは初めて瞠目した。首を失ったはずの怪物の腕はみるみる内に再生され、やがて醜悪な顔面も取り戻したのだ。

「セェェェェフィィィィロォォォォオオオオスッ!!!!!!」
「……驚いたな。よもやここまでの再生力を秘めていたとは」

セフィロスがそれを言い切る頃には、G生物は五体満足の姿で彼の前に立ち塞がっていた。
身体を構成する筋肉は質量を増し、より堅牢な姿となっている。圧倒的な巨躯を前に長身など意味を持たない。
存外、吸収するのも手こずりそうだ。ここまでの再生力を誇る相手だ、剣技だけで仕留めるのは難しいだろう。

「────だからこそ、欲しい」

ぽつりと漏らした言葉は紛れもない本音だ。
ジェノバ細胞にここまでの再生力も構成力もない。故にジェノバ細胞にG-ウイルスの不死性を組み合わせれば──セフィロスは己の思考に思わず笑いが溢れる。

何故だろうか。何故こんなにも自分は力を欲しているのだろうか。
クラウドに勝つ為、と言ってしまえばそれまでだ。しかしそれだけではないような気がする。
この胸のざわめきは何だ。何かが失われるような予感がしてならない。込み上げる得体の知れない感情に囚われたままセフィロスは目の前の怪物へ思い出を乗せた刃を振るった。


■ ■ ■

457片翼の堕天使 ◆NYzTZnBoCI:2021/03/25(木) 20:01:09 ID:.ak8.pjo0


セフィロスが絶技を放ち、魔法を放ち、その度に怪物は体の一部を失い再生する。
そうして何度も、何度も姿を変えて進化を遂げ、遂には剣や魔法への耐性を得る形態まで手に入れた。

──しかし、Gの凄まじい成長速度は更に凄まじいセフィロスの猛攻に削り取られてゆく。

細切れ、丸焦げ、圧潰。持ちうる全ての技を試され、実験された挙句にG生物の進化は段々と緩慢さを増してゆく。
最終的にはもぞもぞと動くだけの肉の塊となり、それすらも時を待たずして止まり、Gは完全に沈黙した。

「……これが、G-ウイルスか」

落胆ではない。純粋な感嘆を乗せた呟きを落としてセフィロスは肉塊の中へ腕を掻き入れる。
鈍い脈動が伝わる。この状態を持って尚も"これ"は生きているのだ。死なないのではなく、死ねない──もはや一種の呪い。

暫くしてセフィロスは肉塊から腕を引っ込めた。その手にはどくどくと脈打つ赤黒い物体が乗っていて、規則的に蠢くそれは見る者に生命の根源を思わせる。
その塊は──心臓。G生物の肉体を形成する中枢(コア)。
セフィロスは暫しその脈動を見つめ口角を吊り上げたかと思えば、



食べた。



なんの躊躇もなく、そうするのが当然だと言わんばかりに。
まるでそれはりんごを食べるアダムのように優雅に、美しく。Gの心臓という禁断の果実を口にする姿はどの絵画よりも心惹かれる。
一口、二口、そして三口目で完全にそれを飲み込んでしまえば瞬間、セフィロスの目が勢いよく開かれた。

458片翼の堕天使 ◆NYzTZnBoCI:2021/03/25(木) 20:02:48 ID:.ak8.pjo0

「クックックッ……ハハハハハハハ……」

もがき苦しむように片手で頭を抱えながら、しかしセフィロスの口からは哄笑が溢れて止まらない。
全身を苛む異物感が心地いい。身体を芯から作り替えられるような気味の悪い感覚が生きる実感を与えてくれる。
セフィロスの内部に取り込まれたG-ウイルスはすぐさまジェノバ細胞を侵そうと凄まじい勢いで進行していった。が、ジェノバ細胞の力はG-ウイルスの予想を越える。

ならばG-ウイルスはジェノバに殲滅されたのか? ──否。ジェノバ細胞とG-ウイルスは共存の道を歩むことを選んだ。
すなわち、融合。細胞内に寄生するG-ウイルスは支配する形ではなく、生かされる形で繁殖する。

「これが、究極の力か」

言葉の綾でも比喩表現でもない。
セフィロスはたった今、究極の細胞を手に入れた。
神の如き力を与えるというG-ウイルスの野望は叶ったと言える。セフィロスという依代をもって。
色素の薄いセフィロスの瞳はいつの間にか血のように紅く染まり、今まで与えられてきた傷が緩やかに再生を始めている。完全に適合さえすればこの程度の傷一瞬で治るだろう。

しかし、セフィロスの表情に喜びはない。
どこまでも虚しそうに。どこまでも寂しそうに。
空を這う雲へ視線をなぞらせる究極は、静かに唇を開いた。


「────さよなら、クラウド」


G-ウイルスと融合し感覚が研ぎ澄まされたせいか、はっきりと確信した。
クラウドは死んだ。それも、ついさっきに。
皮肉なものだ。怪物の力を取り入れてまで越えたいと願っていた存在は、既に討ち倒されていたのだから。
彼との決着だけを生き甲斐にしてきたセフィロスの心にはぽっかりと穴が空く。そしてその空間を埋めるように新たなる衝動が瀑布の如く湧き上がる。

「そうだな、クラウド。お前のいない世界など価値はない。この力で全てを終わらせよう」

絞り出すように紡がれた終焉の言葉。
セフィロスは、本気だ。仮にも首輪という生殺与奪の権を運営に握られているというのに、それすらも厭わずに世界を終わらせようと宣言する。
運営すらも彼の進化は予想外だった。ならば何が起きてもおかしくはない。この世に絶対などないのだから。

いや、一つだけある。その言葉を当てはめてもいい存在は──いる。
それこそが今この場に君臨した絶対(セフィロス)なのだ。


「さぁ、埋めつくそう。私という絶望で」


目の前の城壁を破壊し、セフィロスは女神の城を後にする。
行先はセーニャの元。いや、正確に言えばセーニャが感じ取った力の波動。強い力を屠ってこそ究極の証明となる。
もはやセーニャという手駒も必要ない。纏めて始末するのもいいだろう。どのみち全て殺戮して回るのだから。

時刻は丁度第二回放送を迎える。
たった半日。この十二時間の中で物語は激動に激動を重ねてきた。
その中でも特に、彼の進化は最大のイレギュラー。築き上げてきた盤面をひっくり返す異常事態。

踊れ、参加者達よ。
抗え、希望よ。

真なる絶望は、歩き出した。



【ウィリアム・バーキン@BIOHAZARD 2 死亡確認】
【残り41名】


【A-6 女神の城城門前/一日目 昼(放送開始)】
【セフィロス@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:G-ウイルス融合中、左腕火傷、服の左袖焼失、胸に浅い裂傷、右腹に痛み(中)、傷再生中、MP消費(小)、高揚感
[装備]:バスターソード@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、武器の類ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:全てを終わらせる。
1.全ての生物を殺害し、究極を証明する。
2.セーニャが感じ取った力の方向へ向かう。
3.スネーク(名前は知らない)との再会に少し期待

※本編終了後からの参戦です。
※心無い天使、スーパーノヴァは使用できません。
※メテオの威力に大幅な制限が掛けられています。
※ルール説明の際にクラウドの姿を見ています。
※参加者名簿に目を通していません。
※セーニャが手に入れた情報を共有できます。
※G-ウイルスを取り込んだ事で身体機能、再生能力が上昇しています。

459 ◆NYzTZnBoCI:2021/03/25(木) 20:03:05 ID:.ak8.pjo0
投下終了です。

460名無しさん:2021/03/25(木) 22:13:48 ID:omYMfVGI0
投下乙…っていやいやいやいやいや!

こんな化け物、どうやって倒すんだ…
やべえよ…やべえよ

461名無しさん:2021/03/28(日) 01:04:56 ID:VoohenJs0
皆様執筆及び投下お疲れ様です

あちこちで起こる激戦で対主催達が落ちていく一方で、エリアの端で文字通り究極の厄災が誕生してドエラい事になってきましたなぁ

462名無しさん:2021/03/31(水) 18:22:52 ID:nYoZuc5E0
突然失礼致します
八十神高等学校・日中・如月千早、ミリーナ・ヴァイス、マルティナで予約出来ますでしょうか?

463 ◆NYzTZnBoCI:2021/03/31(水) 20:12:25 ID:ka4aWg5k0
質問ありがとうございます。
現状マルティナ、ミリーナがD-2に居り、千早がE-5にいるので、その組み合わせで予約する場合はワープアイテムなどが必要となります。
そして日中の場合、第二回放送を経た後の時間となるので放送が投下されていない状態で話を書くのは矛盾が生じてしまうかと思います。
なので何らかの移動アイテムがあり、時間を日中から昼に変えて頂ければ予約しても問題ないという返答をさせて頂きます。

464名無しさん:2021/03/31(水) 21:20:29 ID:qGDRK6Bo0
ご回答ありがとうございます。
申し訳ありません。ルールと位置を失念しておりました。
また、参考までにお聞きしておきたい( ・ω・)∩シツモーンがいくつかあります。
○マップの1コマは移動にどの程度時間がかかるか
○THE IDOL M@STERの別シリーズに登場するアイテムは使用可能か
○スマブラに登場するアイテムであれば、この作品に参戦しないゲームのものでも使用可能か
どれも回答できる範囲で構いません。
本筋と関係のない長文失礼いたしました。

465名無しさん:2021/03/31(水) 21:22:05 ID:qGDRK6Bo0
>>464
スマホからなもので予測変換で顔文字が出てしまいました
侮辱等の意図はありません
申し訳ございません

466 ◆NYzTZnBoCI:2021/04/01(木) 00:17:40 ID:KFgzovXQ0
質問へ答えさせていただきます。
○一コマの移動にかかる時間は、移動を目的とした徒歩での移動の場合およそ三十分〜一時間程度と認識しています。例外的にソニックやミファーなど優れた速度を持つ参加者はある程度短時間で進めることも可能です。
○アイマスシリーズからは基本的に使用可能ですが、ゼノグラシアのような世界線がまるで違う作品からの登場は御遠慮下さい。
○スマブラに登場するものならば基本登場可能です。伝説のポケモンが出てくるマスターボールやアシストフィギュアのような強力な支給品には相応の制限をつけて頂けると助かります。

納得のいく回答が出来たのならば幸いです。

467 ◆RTn9vPakQY:2021/04/01(木) 11:49:26 ID:Xf/sqXWk0
澤村遥 予約します

468◇qGDRK6Bo0:2021/04/01(木) 21:59:18 ID:Qu5LqQnA0
ご回答ありがとうございます。
改めて、E-5八十神高等学校・昼・如月千早で予約させて頂きます。

469◇qGDRK6Bo0:2021/04/06(火) 01:32:56 ID:NlzNZRNg0
投下します

470◇qGDRK6Bo0:2021/04/06(火) 01:36:15 ID:NlzNZRNg0
如月千早の腹の音が鳴ったのは、「青い鳥」を少なくとも100回は歌った頃であった。
「こんな状況でも、お腹は空くのね。」
そう独り言ちた彼女は、デイパックの中へと手を伸ばした。
おにぎり、ラーメン、お茶...
この殺し合いに参加した仲間を想起させる物を避け、
『アイドル2人のレシピを使用! 秘伝のカレーうどん!』
と書かれた支給食料を手に取る。
「カレー...Jupiterのセンターにいた彼を思い出すわね。」
カレーだけに。
思い浮かんだ寒いギャグでひとしきり笑った後、彼女は麺を口に入れる。
うどんのコシと、香辛料とダシが効いたカレーの組み合わせに彼女は感嘆した。
しかし、空腹が満たされた事によって、かえって不安が襲ってくる。
名簿にいた仲間達が死んでいないかどうか。
そんな恐れが、彼女の表情に浮かぶ。
「美希...四条さん...雪歩...っ」
生きているか分からない三人の名前を呟く。
これは夢ではないか?
この夢が覚めれば、765プロがいつものようにあって、アイドルの皆が揃っていて...
そんな現実逃避めいた考えを巡らせているうち、彼女は少し顔をしかめた。
「765プロのアイドルって、何人だったかしら?」
考えるまでもなく13人だと分かる。
だが、彼女の思考の隅には違和感が付き纏う。
「いけないわ... 色々な事があって、疲れているのね。」
マイナスな考えを絶ち切るように、彼女はうどんをすすり───

───その汁が、服に飛び散った。
「...くっ!」

471◇qGDRK6Bo0:2021/04/06(火) 01:37:01 ID:NlzNZRNg0
『起動』

『アイドル』×『劇場で』×『デュオ』×『公演』

『再生しますか?』

○はい
○いいえ

【E-5/八十神高校・屋上/一日目 昼】
【如月千早@THE IDOLM@STER】
[状態]:健康、
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1~3個)

[思考・状況]
基本行動方針:生き残って、歌い続ける。
1.皆に歌声を届かせる。
2.拭くものを探す。
※雪子の支給品(1~2個)が屋上に放置されています。

472◇qGDRK6Bo0:2021/04/06(火) 01:41:09 ID:NlzNZRNg0
『Precious×Rakshasa』でした。
創作という物にあまり慣れていないので、稚拙な文章と思われる方もいらっしゃると思います。
言葉遣いの間違いや、設定の齟齬等がありましたら教えていただければ修正致します。

473名無しさん:2021/04/06(火) 06:53:44 ID:J8PQN22g0
投下乙です。初投下お疲れさまです。
まず予約の時点で気になってたのですが、トリップのつけ方が間違ってるように思います
#〇〇〇〇(〇の部分は適当な文字。これより多くてもいい)と入力するとトリップがつけれますので

次に内容についてですが、よく分からない点がいくつかあったので指摘させてもらいます

・千早の違和感について
これがなんなのかが分からないです
なんとなくニュアンス的に春香を忘れてるように見えますが、前回の流れ的に不自然ですし、そもそもなぜ忘れたのかが不明です

・最後の描写
これが何を意味する描写なのかがよく分からないです

・食べ物関連
カレーの寒いギャグがどういうギャグなのかが分からなかったです
後、ラーメンやカレーうどんが完成品の状態でデイバックに入ってるのもちょっと気になりました(まあこれについては四次元空間だからってことで説明つかなくもないかもしれませんが)


長々と書きましたが以上です
これらについて説明していただけるとありがたいです

474 ◆0dyJfVAKPw:2021/04/06(火) 14:11:56 ID:vNtDuIM20
ご指摘ありがとうございます。
○カレーうどんについて
こちらは『チョッカクスイチョク』にてカレーが調理された状態で出てきた、という描写があり、これを二度書くのは野暮だと判断しました。
○カレーのギャグについて
これは『彼』と『カレー』をかけたギャグになります。
○千早の違和感について
こちらは忘れているのは春香ではありません。
『THE IDOL M@STER』は2からは765プロのアイドルの人数は13人です。
『THE IDOL M@STER』というゲームからの参戦ですが千早の過去がアニメ版であることから、そして『THE IDOL M@STER』シリーズからはゼノグラシア等の全くの別世界線でなければOKというルールから『MILLION LIVE!』と『SHINY COLORS』を絡めてこのような事を書きました。
○最後の描写について
こちらは『THE IDOL M@STER』シリーズからの
『THE IDOL M@STER SHINY COLORS』に出てきたアイテムに関連する事象です。
トリップについても教えていただきありがとうございます。
この回答でご満足出来ないようでしたらこの文は無効という事で進行して頂いて構いません。

475 ◆vV5.jnbCYw:2021/04/06(火) 16:52:14 ID:2T.bR2Pk0
投下乙です。
後半へ続く中ヤバイ雰囲気の話が連投されている中で、清涼剤になる話でした。
しかしもうじきイウヴァルト、ルッカ、Nなど濃いメンツがやってきそうなのでどうなるか気になりますね。


私はアイドルマスター未把握という訳ではないですが、漫画版しか読んでないので
詳細については他の書き手様・読み手様にお任せします。
それと私の過去作品を読んでいただいたのは嬉しいです。
今回採用となるか否かは分かりませんが、いずれにしてもまたこのロワを書いてくださるといいなと思います。

476 ◆NYzTZnBoCI:2021/04/06(火) 17:05:27 ID:tRuIgk2g0
企画主です。
まずは投下ありがとうございます。
過去の作品を読んでくださっていたことを嬉しく思い、ところどころに散りばめられた要素にアイマス作品への愛を感じました。

千早が少し情緒不安定のように見えますが、雪子の死体がすぐ側にあるという極限状態であれば説明がつきます。
それ以外は特段目立った問題は無いので、千早の状態表を以下に変えた上で採用させて頂きたいと思うのですが、如何でしょうか。

【E-5/八十神高校・屋上/一日目 昼】
【如月千早@THE IDOLM@STER】
[状態]:健康、精神消耗(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1~3個)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残って、歌い続ける。
1.皆に歌声を届かせる。
2.拭くものを探す。
※雪子の支給品(1~2個)が屋上に放置されています。

477名無しさん:2021/04/06(火) 17:22:23 ID:J8PQN22g0
>>474
回答ありがとうございます
食べ物関連に関しては了解です
他の二つについては、自分がアイマスにそこまで詳しくないこともあり、ちょっと回答しがたいです、すみません

改めて、投下乙です

478 ◆0dyJfVAKPw:2021/04/07(水) 03:04:42 ID:F6bybmPE0
すみません。
やはり私の文章は強引な点が多く、無効とさせて頂きたいです。
色々なご指摘や、質問への回答等をしていただきありがとうございました。

479 ◆RTn9vPakQY:2021/04/09(金) 22:34:04 ID:Eeh4dIyI0
・Precious×Rakshasa
投下乙でした。アイマス関連の小ネタが散見され、他の方のコメントにもありましたが愛を感じました。
何より千早をリレーしようとしていただけたのが嬉しいです!
「作品を知っている人には分かるネタ」は書き手と読み手で共有できると嬉しいものですが、その描写やバランスによっては◆0dyJfVAKPw氏がご自身で仰る強引な点につながってしまうのかもしれませんね。
自分も気をつけたいと思います。
今回は無効にとのことですが、また機会があれば、どしどし投下してみてください。

遅れましたが投下します。

480偽装タンカーを探検しよう ◆RTn9vPakQY:2021/04/09(金) 22:35:12 ID:Eeh4dIyI0
 ウルボザと別れてからしばらくして、遥は偽装タンカーへと辿り着いた。
 タンカーは、かつて遥が芝浦の埠頭で見た客船と比べて、一回り以上は大きく、それでいて無骨であった。
 船体に近づいて入口を探す遥だったが、ほどなくして気づく。
 沿岸に横付けされたタンカーの、船首と船尾に、タラップが配置されていた。

 階段状のタラップをのぼり、船首側の甲板に着いた遥はその場にへたり込んだ。
 ひとり恐怖に怯えながら走って逃げて来たことで、精神的にも肉体的にも消耗していた。

「ウルボザさん、大丈夫かな……」

 遥を逃がして女性と対峙したウルボザを心配し、遥は手すりにつかまって立ち上がると、自分が走ってきた方角に目を向けた。
 しかし、空は白んできたが、誰の姿も見えない。タンカー付近に参加者はいなかった。
 悪い想像が遥の頭をよぎる。
 ウルボザは、女性に食べられてしまったのではないか、という想像。
 背後で風に揺られたロープが軋む音がして、遥はびくりと体を震わせた。

「……隠れなきゃ」

 もしウルボザが生きていたなら、このタンカーにいる遥を目指すはずだ。
 そう確信して、遥はタンカー内に留まることにした。
 甲板を船首から船尾まで一周し、身を隠すのに適した場所を探していく。
 円筒形の揚錨機やワイヤーで固定された積荷、それにコンテナと、背丈の小さい遥を隠してくれる場所はたくさんあった。
 それでも、屋外というだけで不安は募る。

「タンカーの中も、見たほうがいいよね」

 船内の構造は未知数であり、安全かどうかも判断できない。
 それでも遥は、自分自身に言い聞かせるようにしながら、船内を探索することを決意した。
 ハンドルを回すタイプのドアを、力を振り絞って開けると、灰色の廊下へと進む。
 どうしても開かないドアは素通りして、廊下を道なりに歩いていく。
 すると、開けた場所にたどり着いた。

 リフレッシュルーム。
 タンカーの乗組員が休憩する場所として作られた、ホールのような場所だ。
 部屋にはテーブルやソファが配置され、部屋の一角には簡単な飲み物を出すカウンターもある。
 人が居ないか慎重になりつつ、ソファへと辿り着き腰掛けた。
 ここを今は安全な場所だと認識した途端に、遥の身体を気だるさが襲う。

「……あれ」

 多大な消耗と過度な緊張。年齢不相応な部分のある遥とはいえ、それらによる疲労には敵わない。
 ゆっくりと、そのまぶたは閉じられていった。





 遥の意識が覚醒したのは、第一回放送が始まってからのこと。
 船内に反響するマナの声をぼんやりとした頭で認識しながら、いつの間にか横向きに寝ていた体を起こす。

『それじゃあ、死者の名前を発表するわ』

 目をこすりながら放送を半ば聞き流していると、名前が呼ばれ始めた。
 そして、それが今までに死んだ参加者の名前なのだと理解した直後に、その名前は呼ばれた。

「え……」

 さほど間を置かずに呼ばれた二人の名前。
 ウルボザ、そして桐生一馬が死んだことを示していた。
 ぼんやりしていた頭を、ガツンと殴られたような衝撃があった。
 信頼していた二人を同時に喪い、冷静な頭で考えられない。
 放送が終わるまで、遥は呆然としていた。

『――それじゃあみんな、頑張ってね。健闘を祈ってるわ!』

481偽装タンカーを探検しよう ◆RTn9vPakQY:2021/04/09(金) 22:38:06 ID:Eeh4dIyI0
 マナによる放送が終わったとき、遥は名簿を握りしめていた。

「ひどい……」

 ぽつりと呟いたのは、遥の純粋な気持ちだ。
 どこまでも参加者を小馬鹿にして笑うマナは、いつか見たチンピラたちを思い出させた。
 道端の仔犬に石を当てて、痛がる姿を見てげらげら笑っていた彼らと、やっていることは変わらないように思えた。
 マナは、人が死ぬ姿を見て、この上なく喜んでいる。
 そう思うと、遥の心中にある感情が溢れてきた。

「許せない……!」

 それは“正義感”や“義憤”と呼ぶべき感情。
 そこに、ウルボザや桐生一馬という信頼できる存在を喪った悲しみも加わり、感情は膨らんでいく。
 混乱もある。不安もある。
 それでも遥の中では、マナを許せないという感情が強く生まれていた。

「でも、これからどうしよう」

 呟きは虚空へと消える。
 遥は自分の弱さを自覚していた。
 ひとりではマナに反旗を翻すことはおろか、自分の身を守ることも難しい。
 タンカーに来るはずだったウルボザも既にいない以上は、誰か人と合流する必要がある。
 それも、信頼できる味方になってくれる人と。

「誰かいないかな……」

 数少ない知人を思い浮かべながら、遥は名簿をめくっていった。
 例えば、東城会の百億円を巡る争いにおいて、桐生一馬の味方であった人物。

「伊達さん……柏木さん……花屋、さん?」

 そういえば“サイの花屋”の本名を知らないな、と余計なことを考えつつ。
 期待した名前は見つからず、かわりにあったのは桐生一馬と敵対していた二人の名前。

「真島吾朗、さん」

 真島吾朗について、遥は深く知らない。
 遥を誘拐し、バッティングセンターの部屋に閉じ込めたこと。
 遥と桐生が訪れていた桃源郷に、トラックで突入したこと。
 どちらの騒動も、目的は遥や百億円ではなく、桐生と勝負することだった。

「たぶん悪い人じゃない」

 桐生は真島に何度も喧嘩を挑まれたと聞いた。
 そのときの話しぶりと、桃源郷で見た振る舞いから、真島は単に血の気が多い、喧嘩したがりの人であり、野心や悪意はないと遥は判断した。
 もしかすると味方になってくれるかもしれない。
 確信はないものの、遥は真島を合流したい人として据えた。

「あと、錦山さん……」

 もう一つの見知った名前について、遥は半信半疑でいた。
 遥の記憶に間違いがなければ、錦山彰は命を落としたはずなのだ。
 ミレニアムタワーの最上階、桐生との決闘を終えたあと、爆弾を自ら撃ち抜いた。
 同姓同名の他人かもしれないし、ウルボザのように生き返ったのかもしれない。
 とはいえ、仮に後者だったとしても、遥には錦山を信用するべきかどうかが分からない。
 錦山は東城会の百億円を狙い、積極的に騒動を起こしたと聞いている。
 その一方で、桐生は錦山のことを親友と呼んでいた。

「おじさんの親友なら、信頼できるのかな……」

 最期を思い返すと、錦山も悪人ではないように思えてくる。
 しかし、明確に善悪を判断するだけの材料が、今の遥にはなかった。
 そのため何分か考えてみても結論は出ず、錦山については保留とした。





 放送から二時間が過ぎた。
 その間に遥は、支給品の確認とタンカー内の探索をしていた。
 どちらもすんなりとはいかなかったが、特に前者は時間がかかった。
 ウルボザから受け取った支給品はもちろん、遥自身に支給されたものも、まだ確認していなかったためだ。

「よく分からないものも多いけど……このお守りは持っておこうっと」

 拳銃やマイク、それに子供向けの本。
 拳銃は使えそうになく、マイクは使い方が不明。本は言わずもがな。
 よく分からない支給品ばかりの中で、遥はウルボザに支給されたお守りを首から掛けた。
 鬼子母神のお守り。柔和な笑みをたたえた女性が描かれているそれは、遥の心をわずかばかり落ち着けたのだ。

「とりあえず、ここから出よう」

 そして、船内の探索も、遥の足ではたっぷり三十分以上かかった。
 開かない扉が数か所にあり、全てのエリアを探したわけではないのだが、ひとまず誰もいないと判断することにした。
 これからするべきなのは、信頼できる味方となる参加者を探すこと。
 自分にできることをやる。そう決心して、遥はタンカーを降りた。

482偽装タンカーを探検しよう ◆RTn9vPakQY:2021/04/09(金) 22:38:33 ID:Eeh4dIyI0
【E-3/偽装タンカー/一日目 午前】
【澤村遥@龍が如く 極】
[状態]:健康、恐怖、不安、マナへの憤り
[装備]:鬼子母神の御守り@龍が如く 極
[道具]:基本支給品、M9@METAL GEAR SOLID 2、魔女探偵ラブリーン@ペルソナ4、魔鏡「かがやくために」@テイルズ オブ ザ レイズ
[思考・状況]
基本行動方針:自分の命の価値を見つける。
1. 人が集まりそうな場所に行き、信頼できる味方を探す。(候補→真島吾朗)
2. 錦山彰については保留。
※本編終了後からの参戦です。
※偽装タンカーの大まかな構造を把握しました。

【支給品紹介】

【鬼子母神の御守り@龍が如く 極】
ウルボザに支給されたお守り。
装備すると「敵の囲みが緩くなる」効果が得られる。

【M9@METAL GEAR SOLID 2】
澤村遥に支給されたピストル。
麻酔弾を発射するために改造されており、手動で一発ずつ装弾する必要がある。
完全に発射音を消すサプレッサー付き。麻酔弾の弾薬は15発。

【魔女探偵ラブリーン@ペルソナ4】
澤村遥に支給された本。
低年齢向けの作品。自室で読むと「根気」と「寛容さ」が上昇する。

【魔鏡「かがやくために」@テイルズ オブ ザ レイズ】
澤村遥に支給された魔鏡。
魔鏡技「ToP!!!!!!!!!!!!!」を使えるようになる。
原作ではコラボイベントで登場した天海春香が使用。この場で他の参加者が使えるかどうかは不明。
本ロワでの設定として、形状はマイクの持ち手部分に魔鏡が埋め込まれているものとする。


【偽装タンカーの備考】
※偽装タンカーは沿岸に横付けされており、乗降口は二か所あります。どちらも甲板につながる階段式のタラップです。
※タンカー内には開かない扉があります。これらの扱いについては後続の書き手さんにお任せします。

483 ◆RTn9vPakQY:2021/04/09(金) 22:39:49 ID:Eeh4dIyI0
投下終了です。

484 ◆RTn9vPakQY:2021/04/13(火) 16:15:51 ID:NJ9HK6p.0
カミュ、ハンター、ヨルハ九号S型、星井美希 予約します

485 ◆RTn9vPakQY:2021/04/20(火) 12:06:19 ID:6a0CvS9Q0
予約を延長します。

486 ◆RTn9vPakQY:2021/05/01(土) 23:37:39 ID:m6hZMVjQ0
予約期限を超過した上、何の連絡もなく申し訳ありません。
同じことを繰り返してばかりですが、ひとまず投下します。

487Androidは眠らない? ◆RTn9vPakQY:2021/05/01(土) 23:39:36 ID:m6hZMVjQ0
 星井美希とヨルハ九号S型は、美術館入口のソファに腰掛けていた。
 ずっと周囲に漂い続けるムンナを撫でながら、美希が9Sへと問いかける。

「これからどうするの?」

 もとより感覚的に生きてきた美希にしてみれば、冷静に物事を考える9Sに行動方針を委ねるのも無理からぬ話だ。
 問いかけられた9Sも、これまでの会話で美希の性質は理解し始めていた。

「そうですね、同じヨルハである2Bとは合流したいところですが……」
「うんうん」
「ただ、現在地が分からない以上、難しいでしょうね」

 とはいえ、答える9Sも歯切れはよくない。
 名簿に記載されており脱落していない、もう一体のヨルハとの合流。
 この広い会場で、当てもなくそれを実現するのは、かなり低い確率である。

「その2B、さんが行きそうな場所ってないの?」
「どうでしょう……戦闘に特化した型ですから、情報収集を積極的にするとも思えません。
 美希にとっての765プロのように、慣れ親しんだ施設があるなら、そこに行く可能性は高いと推測できますけど」

 アンドロイドにも個性はある。
 任務を淡々とこなす個体もいれば、地上に深い興味関心を抱く個体もいる。
 それぞれの個性から、行動のパターンを予測することは可能だろう。

「せめて2Bの情報があれば……つっ」

 再びノイズが走り、9Sは頭を押さえた。
 自身の置かれた状況は不透明。加えて記憶データの欠如とハッキングに課せられた制限。
 現段階の適切な行動を判断しようにも、情報が不足しているというのが正直なところだ。

「……それはそうと、美希は765プロに行かなくていいんですか?」
「うーん、今はいいの」
「どうして?」
「……なんとなく、かな。
 千早さんも貴音も……雪歩はちょっと心配だけど……大丈夫だと思うの」

 遠くを見ながら、三人のアイドル仲間の名前を呼ぶ美希。
 明確な根拠のない美希の言葉を、9Sは完全には理解できない。

「その2B、さんは強いんでしょ?なら大丈夫だよ、きっと」
「そう、ですね……」

 それでも、9Sは美希の言葉にどこか納得していた。
 美希がアイドル仲間を信頼していることは、その話し方から感じ取れたからだ。

(仲間への無条件の信頼か……)

 また少し、ノイズが走った。





 研究所での激闘を終えて、カミュとハンターは地図の西側へと進んでいた。
 その歩みが遅い理由としては、マールディアの遺体を背負っていることが挙げられる。
 二人はマールディアについてほとんど何も知らない。研究所で言葉を交わしたとはいえ、ごく短い時間であり、それも情報交換に終始していたためだ。
 それでも、身を挺してベロニカを庇い倒れた姿は、二人の脳裏に焼き付いていた。
 そんな彼女の遺体を放置する選択肢は、もとより二人の頭にはない。

「そろそろ代わるぜ、おっさん」
「……おっさんと呼ぶな。それはそれとして、交代は頼もう」

 お互いに疲労を滲ませた声で応答する。
 人ひとりを背負いながら長時間移動するのは、鍛え上げられた男性でも困難だ。

「それにしても、なかなか休めそうな場所がないな」
「うむ……美術館までは辿り着きたいところだ」

 二人が今いるエリアは、その地形から、小島を移動しようとすると必然的に通過することになるエリアだ。
 その上、周囲は海で、建造物や森林といった遮蔽物もほとんど存在しない。
 落ち着いて休憩なり埋葬なりをするには、不向きな場所だ。
 マールディアを背負い、カミュはハンターを見やる。

「よし、行けるか?」
「すまぬ、水だけ飲ませて欲しい」
「あぁ、もちろんいいぜ」

 デイパックから水筒を取り出し、ぐびぐびと飲み干すハンター。
 口元を腕で拭いながら、ぷはぁと息をついた。

488Androidは眠らない? ◆RTn9vPakQY:2021/05/01(土) 23:41:07 ID:m6hZMVjQ0
「本音を言えば強走薬か、元気ドリンコが欲しいところだが、仕方ない」
「なんだそりゃ?聞いたことないな」
「あぁ、疲労やスタミナを回復する飲料だ。これがなかなか効く。
 特に強走薬は、“ずっと走り続けられる”ようになるという優れものでな。
 数時間に及ぶ可能性もある狩りには、必ず何本か携行することにしている」
「マジか。ヤバイ薬なんじゃねーのか、それ?」

 その効能と語り口に、眉をひそめてカミュは問いかける。
 しかし、ハンターは不敵な笑みを返した。

「ふっ、カミュ殿も飲めばわかる。ぜひ強走薬の感覚は試して欲しい。
 にが虫とハチミツ、それに生焼け肉があれば拙者も作れるのだが……」
「なんだそのレシピ……オレは御免だぜ」

 手をひらひらと振りながら、カミュはハンターに出発を促した。
 ほどなくして建造物が視界に入り、二人は歩みを早めた。





「これ、ナインズくんに似合うと思うの!」
「……シッ。誰か来ます」

 二人で美希の支給品を確認していた最中、9Sは気配を察知した。
 ビクリとした様子で口を閉じる美希に、物陰に隠れるよう指示をして、自らはマスターソードを手に取る。

(この物音、一人じゃない。二人か?)

 気配の主が一人でないと判断し、9Sは警戒を強めた。
 二人以上だからといって、殺し合いに乗り気でないことの証明にはならない。
 そして、二人で協力してバトルロワイアルを勝ち残ろうとしている参加者であった場合、戦闘は必至。一般人の美希を守りながらの戦闘は不利になる。

(どうする?戦闘か、逃走か……)

 選択肢を迫られる9Sが決断するよりも早く、ドアが開き参加者の姿が現れた。
 数メートルの距離を置いて、9Sと二人の参加者が対面する形になった。

「くっ……」
「おっと、先客がいたか」

 その姿を見た9Sは、いよいよマスターソードを構えた。
 何故ならば、二人の男はともに血に汚れていたからである。
 警戒心は最大まで引き上げられる。既に他人の返り血を浴びている殺人者が、眼前にいるのだ。

「っと、どうやら警戒されているみたいだな」
「少年、拙者たちは主催者を討伐するために動いている。剣を下ろしてはくれまいか」

 青髪の青年はため息をつき、体格のいい男性は武器を収めさせようとしてきた。
 もちろんその言葉に、素直に従う9Sではない。

「口では何とでも言えます」
「まあ、そうなるわな……ん?」

 チラリと9Sの背後を見て、何かに気が付いたような反応をする青髪の青年。

「おっさん、コイツには護りたい相手がいるらしい」
「……なるほど。そういうことか」

 小声で会話をする男たちに、9Sは焦りを感じた。
 背後に隠れている美希のことに気づかれたのかと、不安が生まれる。
 しかし、男たちの行動は予想外のものだった。

「オレの名前はカミュ。
 こっちのおっさんは……ハンター。お前の名前は?」
「……?」

 青髪の青年に名前を問われた理由が分からず、9Sは困惑した。

「おいおい、名前も言えないのか?」
「……」

 こちらに近づいてくるカミュと名乗った男に向けて、マスターソードを向けた。
 油断してはならないと、柄を握りしめる。

「待って、ナインズくん!」
「美希!?」

 声とともに、物陰にいたはずの美希が、9Sの背後に飛び出してきていた。
 そして、ハンターと呼ばれた男を指差す。

「その人、誰か背負ってるの!」
「え……」

 そう言われて背中を見ると、角度的に見えにくかったが、確かにハンターは金髪の少女を背負っていた。
 それも、かなりぐったりとしている。おそらく息絶えているだろう。

「その子、大丈夫じゃないよね……」
「あ、あぁ。もう息をしてない」
「この子を弔いたいのだ。手を貸してはくれないだろうか」

 どこか動揺した様子を見せる二人からの申し出に、9Sの中に迷いが生じる。
 弔いという行為は、殺し合いに乗り気な参加者であれば、全く意味のない行為だ。
 それは逆説的に、カミュとハンターが殺し合いに否定的であることを示している。

489Androidは眠らない? ◆RTn9vPakQY:2021/05/01(土) 23:43:12 ID:m6hZMVjQ0
「ナインズくん。手伝おう?」
「ですが……」

 美希の瞳に見つめられて、9Sの迷いがゆっくりと霧消する。
 これまで短い時間ではあるが、美希の性格や性質はどことなく理解し始めていた。
 アンドロイドの自分にはいまひとつ理解が及ばない、人間にあるらしい直感や天性の勘と呼ぶべきものが、美希には備わっている。
 その美希が信用したのだ。9Sはマスターソードを下ろした。

「……そうですね。疑ってばかりでも始まらない。
 お二人とも、付いて来てください。埋葬に適していると思われる場所があります」
「ホント?さすがなのナインズくん!」
「偶然です。美希が起きる前、館内を見て回りましたから」
「かたじけない」

 ハンターとカミュを改めて観察すると、衣服も肌も全身が傷だらけであった。
 ここに至るまでに、過酷な戦闘を終えてきたのだろうか。

「そうだ、名前を尋ねられていましたね。
 名簿にはヨルハ九号S型とありますが……9S、もしくはナインズと呼んでください」
「ああ、よろしくな」

 カミュに微笑みを向けられて、9Sはつい顔を背けた。





 美術館の裏手に位置する人工庭園。
 マールディアを埋葬したハンターは、ゆっくりと周囲を見渡した。
 丁寧に刈り込まれた草木や整えられた花壇は、綺麗ではあるがそれ以上の感想をもたらさない。
 隣にいたカミュが問いかけてくる。

「どうした?」
「作られた自然は、むしろ不自然に映るものでござるな」

 ハンターは自然と共に生きる者。
 春は桜花。夏は蛍火。秋は紅葉。冬は淡雪。
 風光明媚な景色をいくつも見て来た身としては、人間の手が加えられた自然には違和感がある。

「ふーん、そういうもんか」
「もちろん芸術を貶める気はござらん。技術的に洗練されていることは間違いない。
 マールディア殿も、このような場所であれば、少しでも心安らかに過ごせるであろうよ」
「ああ……と、そうだ」

 それまで相槌を打っていたカミュが、ふと思い出したように話題を振る。

「さっきは驚いたよな。おっさんもそうだろ?」
「ん?あぁ、そうだな……。正直なところを申せば――」
「何の話してるの?」
「どわあっ!」

 背後から急に掛けられた声に、カミュとハンターは思わずのけ反った。
 声こそ上げていないが、ハンターも心中は魂消る気持ちだ。

「お、おぉ、美希殿。少しばかり歴史の話をな……」
「歴史……?へんなの。ねえ、板ってこれでいいかな?」

 首を傾げながら、美希は9Sが持つ板を指差した。
 それを見て、ハンターは美希へ感謝の意を込めて頷いた。
 ハンターたちが埋葬を始めるより前に、探して欲しいと頼んでおいたのだ。

「かたじけない。それでは少し離れていてくれ」
「うん。わかったの」

 何の変哲もないベニヤ板を、ハンターはその場に立てて置かせた。
 そして、三人を充分に下がらせてから、斬夜の太刀を腰だめに構える。

「はあああっ!」

 次の瞬間、気合と同時に連続で斬撃を浴びせかけた。
 木が削れる鈍い音がして、木片がぱらぱらと飛び散る。

「おぉ……」
「すっごーい!」

 感嘆の声を上げるカミュと美希。
 板には「マールディア 安らかにここに眠る」と刻まれていた。

「すごい腕前だな、おっさん」
「なに、この程度はハンターであれば誰でもできること」

 一流のハンターは手先が器用だとされる。
 アイテムを調合して、狩りに役立つアイテムを作成する作業は極めて繊細だ。
 討伐したモンスターから素材を剥ぎ取る際には、丁寧かつ大胆な手際が求められる。
 それを幾度となくこなしたハンターは、自然と手先が器用になるのだ。
 閑話休題。

490Androidは眠らない? ◆RTn9vPakQY:2021/05/01(土) 23:50:58 ID:m6hZMVjQ0
「叶うことなら、すべての犠牲者を弔いたいが……。
 この広い地図上では難しいだろう。せめて冥福を祈ろう」

 ハンターの作り出した墓標を前に、四人は黙祷をささげた。
 その後、最初に目を開けたハンターがちらと横を見ると、9Sと目が合った。

「大事な人はいるのでござるか」

 わずかに考え込む様子を見せてから、首を横に振る9S。
 それを見たハンターは、複雑な事情がありそうだと感じて押し黙る。
 踏み込むにはまだ早いと、ハンターはそのまま館内へと戻ることにした。





 その後、9Sたち四人は情報交換をした。
 名簿と地図を広げ、参加者と施設の情報を挙げていく。

「やはり美希殿も友人が呼ばれていたでござるか。外道め……」
「でも、9Sは知り合いがいない……っていうか、記憶がないんだろ?なんか変だよな」
「そうですよね……」
「ナインズくん……」

 戦闘能力もない少女が複数名集められていることに、憤りを感じているハンター。
 ここに呼ばれた時点で記憶がない9Sの境遇に、疑問を持つカミュ。
 そうした感情の明確な着地点は定まらず、それでも話は進んでいく。

「研究所が崩落!?」
「あぁ……もしかして、行くつもりだったか?」
「候補のひとつでした。情報がありそうな場所は限られているので」
「情報か……その考え方はなかったな、クソッ」
「ただ、あの場で化け物を放置するわけにはいかなかったのだ」

 9Sに衝撃を与えたのは、研究所の崩落。
 行動方針を考える中で、首輪の解除ないし主催者に関する情報が得られる可能性を見出し、密かに目的地に定めていた施設。
 もちろん崩落したからといって無価値になったわけではないが、瓦礫の下から情報を探るのは、通常の状態で探すのと比べても時間と労力がかかる。
 それゆえに、9Sにとって研究所の優先順位は下がった。

「むー、ミキもおにぎりがよかったの」
「ん?美希殿は握り飯が好きなのか。ならばこれを渡そう」
「やったーなの!ありがとう、ハンターさん!」

 同時並行して、四人は食事休憩を取ることにした。
 ごく平均的な家庭であれば、今は朝食の時間である。

「よかったら、かわりに僕の食料を」
「おお、骨付き肉とは豪華な。よいのか9S殿?」
「おっさん、さっき話してたろ、コイツは……」
「主催者は何を考えて、僕のようなアンドロイドに食事を与えたのか。理解に苦しみますね」

 おにぎりをほおばる美希を見ながら、9Sは自嘲的な発言をしたことを後悔した。
 異常な状況下とはいえ、この六時間に過酷な状況を経験していないであろう美希は、未だに普通の感覚を持つことができているのだろう。
 そのことについて、緊張感がないと責めるつもりはない。護るべき対象なのだから。
 深く考えてしまう前に、カミュが今後について9Sに問いかけてきた。

「それで、二人はこれからどこへ向かうつもりなんだ?」
「そうですね……決定的な要素はないのですが。
 研究所が崩落したとなると、美希の仲間がいる可能性がある765プロに行くか、参加者が集まりそうな病院に行くか、のどちらかが現実的ですね」
「つまり、オレたちとイシの村に行くのもアリってわけだな?」
「そうなりますね」

 カミュからの提案を蹴る選択肢は、9Sにはない。
 情報交換によれば、カミュたちはリーバルとベロニカという参加者と合流するために、イシの村に向かうそうだ。
 765プロを目的地と定めるのであれば、同行者は多い方がいいだろう。
 自身が戦闘用ではないため、ハンターとカミュの二人は戦力的にも心強い。

「どうしますか、美希?」
「うーん……その、銀髪の……つよい人ってさ。
 どれくらい強いの?鬼とか、ドラゴンとか、それくらい?」
「いや、鬼やドラゴンなんてかわいいもんだぜ……。
 強いだけじゃない。恐ろしいヤツだよ、あいつは……」

 対峙したときのことを思い出したのか、身震いするカミュ。
 それを見た美希は、まぶたを閉じてしばらく考え込む様子を見せてから、言った。

「じゃあ、一緒にいた方がいいって思うな」
「では、そうしましょうか」
「そうとなればすぐにも行動……と言いたいのはやまやまだが。
 正直なところ拙者は休憩を取りたい。もうしばらくは各自で休憩して、十一時を目安に動くこととしよう」
「そうだな、そうしよう。
 ひっつかんできたデイパックの中身も確認しねえとだし……」

 時計を見ながら、ハンターとカミュはその場から立ち上がろうとした。
 時刻はもうすぐ十時。9Sは二人に声をかけた。

491Androidは眠らない? ◆RTn9vPakQY:2021/05/01(土) 23:53:06 ID:m6hZMVjQ0
「お二人とも、少なくとも血は落としておいた方がいいですよ。勘違いのもとです」
「む、すっかり忘れていた。モンスターの血を浴びるのも日常茶飯事でな」
「そういやそうだったか……わり、水場で落としてくるぜ」

 ゆっくりと水道のあるトイレへと向かう二人の後ろ姿を見ながら、9Sは美希に話しかけた。
 ランダムに配られた支給品の確認も、まだ済んではいないのだ。
 時間はあるとはいえ、しておくべきことも沢山ある。

「美希も、動く準備をはじめましょう」
「ミキ、食べたらちょっと眠くなってきたの……」
「最初の二時間くらいも寝てましたよね!?」
「むぅ〜ん」
「あははっ、おはなちゃん、あくびしてるみたい」
「むぅ〜ん!」

 その瞬間、ムンナが何らかの技を使用した。
 数時間前にモンスターボールをハッキングした9Sは、そのことを理解した。

「!?今のは――」

 しかし、攻撃は放たれていない。つまりサイケこうせんではない。
 その他の三つ、ムンナが覚えていた技を、ハッキングの記憶を頼りに思い出そうとして。

「むにゃ……」
「ぐう……」
「あふぅ……」

 その場にいた9S以外の三人が、ほとんど同時にその場に倒れた。
 襲撃ではない。なぜなら三人とも、一様に寝息を立てているからだ。

「あくび、ですか……」
「むううん」

 つい今しがた、三人を睡魔に襲わせたムンナを見つめる。その瞳は澄んでいた。
 持ち主の命令に忠実なのも困りものだと、9Sは肩をすくめた。

「……というか、これ僕が起こさないといけないんですかね」

 やれやれと呟いて、9Sは誰から起こすべきか思案し始めた。


【B-4/美術館内/一日目 午前】
【男ハンター@MONSTER HUNTER X】
[状態]:疲労(大) ダメージ(中) 全身打撲 血で汚れている 睡眠中
[装備]:斬夜の太刀@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜1) リンゴ×2@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド ハリセン@現実
[思考・状況]
基本行動方針:主催者の討伐、または捕獲。
0.Zzz…
1.四人でイシの村へと向かい、ベロニカ達と落ち合う。
2.オトモ、カミュ、美希の仲間を探す。


【カミュ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:ダメージ(中)、背中に打撲、疲労(大)、MPほぼ0 ベロニカとの会話のずれへの疑問
[装備]:必勝扇子@ペルソナ4
[道具]:基本支給品、フリーズロッド@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド カミュのランダム支給品(1〜2個、武器の類ではない) ウィリアム・バーキンの支給品(0〜2)(確認済み) 七宝の盾@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド
[思考・状況]
基本行動方針:仲間達と共にウルノーガをぶちのめす。
0.Zzz…
1.四人でイシの村へと向かい、ベロニカ達と落ち合う。
2.仲間や武器を集め、戦力が整ったらセフィロスを倒す。
3.これ以上人は死なせない。

※邪神ニズゼルファ打倒後からの参戦です。
※二刀の心得、二刀の極意を習得しています。


【星井美希@THE IDOLM@STER】
[状態]:健康、睡眠中
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜2個)(確認済み)、モンスターボール(ムンナ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[思考・状況]
基本行動方針:自分にできることをする。
0.Zzz…
1.四人でイシの村へと向かう。
2.ナインズくんが記憶を取り戻す手伝いを……?


【ヨルハ九号S型@NieR:Automata】
[状態]:記憶データ欠如
[装備]:マスターソード@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、0〜1個)、H.M.D@THE IDOLM@STER
[思考・状況]
基本行動方針:記憶を取り戻す。
0.三人を起こす。
1.四人でイシの村へと向かう。その後は未定。
2.僕は一体何者なんだろう。

※Dエンド後、「一緒に行くよ」を選んだ直後からの参戦です。
※ゴーグルは外れています。
※記憶データの大部分を喪失しており、2BやA2との記憶も失っていますが、なにかきっかけがあれば復活する可能性はあります。
※元の世界で人類が絶滅していたことを思い出しました。

492Androidは眠らない? ◆RTn9vPakQY:2021/05/01(土) 23:54:06 ID:m6hZMVjQ0
【ムンナ ♀】
[状態]:健康、ピンク色の煙を出している
[特性]:よちむ
[持ち物]:なし
[わざ]:あくび、サイケこうせん、ふういん、つきのひかり
[思考・状況]
基本行動方針:美希についていく。

※所有者は星井美希のままですが、モンスターボールをハッキング済みのため9Sがモンスターボールに情報を送ることで遠隔操作に近い指令ができます。

【H.M.D@THE IDOLM@STER】
ヨルハ九号S型に支給されたアイテム。
ヘッドマウントディスプレイ。頭部に装着するディスプレイ装置……の見た目をしたアクセサリー。
アイドルはこれを装着して踊れるので、視界は確保されているはず。

【備考】
※美術館の裏手の庭園に、マールディアが埋葬され、墓標が立てられました。
※カミュと男ハンターは第一回放送の内容を把握しました。
※四人は情報交換を行いました。どの程度の情報まで共有されたかは、後続の書き手さんにお任せします。

493 ◆RTn9vPakQY:2021/05/01(土) 23:55:43 ID:m6hZMVjQ0
以上で投下終了です。
重ねて予約期限の超過をお詫びいたします。
再発防止に努めます。

494 ◆vV5.jnbCYw:2021/05/02(日) 01:04:08 ID:yna3c1q60
投下乙です!
ここんとこ殺伐とした話が続く中で、この4人の話は凄く落ち着きますね!!
ハンターの自然に対する考えとか、美術館の庭園とかどこか戦いを忘れさせてくれる描写が面白かったです!!
もうじき最凶マーダーのアイツがやってきそうなので、今だけでも休息を楽しんでほしいです!!

495 ◆vV5.jnbCYw:2021/06/13(日) 17:53:52 ID:6usF2hII0
クロノ、リーバル予約します。

496 ◆vV5.jnbCYw:2021/06/19(土) 21:28:57 ID:Y5CHuKLE0
投下します

497それは最後の役目なのか ◆vV5.jnbCYw:2021/06/19(土) 21:29:45 ID:Y5CHuKLE0

空は、今までに起きた惨劇が嘘であるかのように穏やかだった。
雲一つなく、元の世界の様に太陽が輝いている。
いや、ガノンが蘇って瘴気に包まれた元の世界の方が悍ましい空の色をしていた。
ただ風が鳴き、知らない生き物が空を舞う姿がたびたび目に入る。
それを綺麗だと思わない。苛立たしいとも思わない。
何も思わず、ただ胸の内にある感情を放し飼いにして眺めるのみだった。


レッドがいなくなり、少し空の色が変わり、どれほど経ったのかは分からない。
飽きたという訳ではないが、空を見る気も次第に失せてきて、リーバルはつい数刻前殺した主の姿を見る。


その顔は、憑き物が落ちたかのように安らかだった。
心臓と肩に刺さっている矢を見なければ、まるで眠っているかのように見えた。
既に命を手放したゼルダの表情からは、戦っていた時の刺々しさも、この世界に呼ばれる前に見せていた不安も消えていた。
彼女は、最期の最期で解放されていた。
元の世界で長きに渡り付き纏われていたハイラルの姫としての義務から。そして、この世界で短い間だが深く心に巣くっていた誰かを殺さないといけないという義務から。
少なくともかつての英傑だったリーバルはそう解釈した。


それからすぐのことだった。
ハイラル城の方角から、強い光が放たれた。
その光は、城で戦っているクロノとダルケルの戦いによって起こされたものだと、彼自身にも容易に分かった。
そして、ダルケルは遠くまでいても見えるほど強い光を起こせる魔力を持っていない。
従って、その戦いは極めてダルケルの旗色が悪いということだ。
しかし、彼自身は助けに行かなかった。
自分達の守り手に良いように利用された仲間のことさえ、最早どうでも良かった。
この戦いが始まってから9時間と少し、彼には守れなかった者が多すぎた。
言ってしまえば、彼は疲れ切ってしまったのだ。


それからしばらくして、赤髪の青年が城の方から走ってきた。
彼は自分より、少し離れた場所にいた姫の亡骸に驚いていた。

「無駄だよ。僕が殺した。彼女はもう動かない。」
言葉をかけても、表情が読めないものから読めないものへ変わるだけだった。
自分を陥れた者への復讐心が、行き場を失ったやるせなさか。
はたまた、先程まで生きていた者が少し目を離した間に死んだことへの事実への驚愕か。


「アンタは……。」
ようやく青年は言葉を紡いだ。
「ボクはリーバル。姫を守る英傑だったリト族さ。うちの姫さんが、迷惑かけたようだね。」
「そのことはもういいんだ……アンタまで背負う必要はないさ。」
軽い言葉で気にするなと受け流される。
だがその言葉に人を励ますための明るさなどは一切含まれていなかった。



短い返答が終わると、クロノは剣を抜いた。



その僅かな動作で気付いた。
もう、この男は自分と同じで「諦めた」のだと。
否。自分と同じで「全てを」諦めたのではない。
ただ、英雄として道を貫くことを諦めただけ。

言ってしまえば、ゼルダと同じ。
悪意に振り回され、義務感に振り回され、挙句の果てに拠り所を無くし、この男もそうするしかなくなったのだろう。

498それは最後の役目なのか ◆vV5.jnbCYw:2021/06/19(土) 21:31:19 ID:Y5CHuKLE0

だが、リーバルはまだ言わなければならないことがあった。
ここでクロノにかけなければいけない言葉は、姫が行ったことの謝罪ではない。


「僕は、君の恋人と……マールディアと共にいた。」
「……!」
「彼女はね、僕にも話してくれたよ。クロノという大切な人がきっと助けてくれるってね。」


伽藍の穴でしかなかったクロノの瞳に、一筋の輝きが宿った。
言ってどうするつもりなのかは分からない。何を目的に言うのかさえ分からない。
だが、自分がマールといたという事実だけは、この男に言っておかないとならない気がした。
それは、自分の残り数少ないやれることで、やらなければいけないことだった。


「……マールは、どうして?」

抱いても意味のないはずの恐れを抱きながら、その出来事を語る。

「仲間を庇って怪物に殺された。僕は間に合わなかった。」
「……そうか」

例え死んだとしても、全くの無駄死にではなく、誰かのために命を尽くしたと聞けば、この男にとって少しの救いになるだろうか。
最も、その時彼女によって救われた命もまた、失われたのだが。


「すまない。彼女を君の下に届けられなかったのは僕のせいだ。」
「アンタは悪くない。こんな世界じゃ、仕方ないことだ。たから、俺は好きにさせてもらうことにしたよ。」

クロノは剣を振りかぶる。
リーバルは一点の曇りもないほど輝く剣を見た時、少しだけ安心した。
思ったよりかは早かったが、もうすぐまたあの世で主に仕えることが出来るから。
無為に使い続けた時間を、ようやく終わらせることが出来るから。
別にこの男に殺されることは、さほど怖い事でもない。
既に一度死んだ以上、死とは未知の存在でもないから。



それに何より、諦め切った者が諦め切ってない者を止めようとするなど、ただの贅沢な行為でしかないから。


誰かといても何も出来ないが、一人で何もしないのも持て余すだけで。
それならば、どんな形であれ希望を抱いている者の踏み台になった方が良いと思っていた。
ゼルダを止めようとしても、状況を悪化させただけでしかなかったから、もうこの男に何かする意味はないと思っていた。


クロノは剣を掲げて一歩一歩近づいて。
そして振り下ろした。


弓を引かず、翼を広げることもなく。
ただそのトサカの付いた頭は、静かに刃を受け入れようとする。
それが永遠のように感じ、一瞬のようにも感じた。


これで自分は斬り伏せられ、目の前の男の踏み台になる。
それで終わりにするはずだった。
ただ、最後の最後でリーバルは気づいてしまった。
自分の勘の良さがここまで嫌になった時は無かった。
それでも、気付いた以上は言わざるを得なかった。


「………。」

リーバルは生きていた。
羽1枚欠けることなく、五体満足で。
白銀の剣はリーバルを避け、地面に刺さっていた。


「どうしたんだい!?大切な人を蘇らせるために、僕を殺すんじゃなかったのか?」
「避けたのはアンタだろうが。」
クロノの剣がリーバルに刺さる直前、翼を広げて空へ逃れた。
下からクロノがリーバルを見つめている。

499それは最後の役目なのか ◆vV5.jnbCYw:2021/06/19(土) 21:31:39 ID:Y5CHuKLE0
「君さあ、さっき躊躇ったよね?」

その通りだった。
クロノが剣を振り上げてから降ろすまで、動きがぴたりと止まった。
それはほんの一秒あるか無いかのこと。
だが、リーバルが見抜いて躱すには十分すぎる時間だった。


「違う!!」
「違わないさ。曲がりなりにもダルケルを倒せるくらいの剣の腕なら、今の僕なんか一瞬で斬り殺せるはずだ。
『やりたいようにやるだけだ』って言ったね?スジが通って無くない?」



言葉は、さっきまでの消沈した気分が嘘であるかのようにすらすらと出た。


「あくまで自分から殺される気は無いってことか……サンダー!!」
さっきまでは澄んでいたはずの空に黒雲が集まり、雷が襲い掛かる。
だが、空を舞うリーバルにとって、金属製の武具でも付けてない限りは余裕を持って躱せる。

「その程度で僕を殺せると思った?さっきの光の魔法でも使ってみなよ。」


本当は、一思いに殺されるつもりだった。
だが、殺すか殺さないかの葛藤に悩んでいるような相手に殺されるつもりはなかった。
殺したくない気持ちが僅かでも残っているのに、殺さざるを得ないから殺すのは、ゼルダと同じだから。


「そんなものを使うまでもない。サンダガ!!」
今度はドーム状に光が広がり、辺り一面に雷が落ち続ける。
しかしジグザグに飛行を続け、降り注ぐ光の槍を全て躱していく。


「僕は君の親じゃないからね。選択を決める権利なんてないさ。けれど、そんな半端な気持ちで優勝すると思うなんて、愚の骨頂だね。」

そして、そのような気持ちの相手に命を渡すつもりだったら、ベロニカという守らねばならない相手が死んだとき、弓を引く必要はなかった。
同行者の恋人とは言え、昨日今日知り合った相手に命を託すくらいなら、英傑としてゼルダに命を渡すべきだったから。


「僕を殺すのは勝手だけど、殺した相手にウジウジ悩まれるなんて、まっぴらごめんだね。」

そのままクロノがいた場所から飛び去ろうとする。

「待ってくれ!!アンタは……!!」
走り寄ろうとするクロノを翼で拒む。

「殺そうとした相手と話をしようだなんて、随分身勝手だね。これから食べるコッコと話をしようと思ったことはあるかい?」


言葉を全て言い放つと、今度こそリーバルはクロノの下から消えた。

500それは最後の役目なのか ◆vV5.jnbCYw:2021/06/19(土) 21:32:09 ID:Y5CHuKLE0




単純な速さと、精神的な足かせ
二重の理由でリーバルを追いかけることが出来ず、クロノは立ち尽くした。

そのまま、白銀の剣を地面に叩きつける。

(俺は……まだ振り切れていねえのか……。)
ダルケルを殺したあの時、気持ちは優勝の方に向いていたはずだった。
だが、リーバルの言う通り、目の前にいた鳥人がゼルダにいいようにされた被害者だと分かると、ほんの一瞬であるが剣を振るのを躊躇ってしまった。
「シャアア!!」

そこへ、先程の雷を聞きつけたのか、紫色の魔物が現れる。
レパルダス、というクロノの知らない世界の魔物だったが、首輪を付けていないので参加者では無いとすぐに分かった。

剣を拾い、襲い掛かってきたその魔物を一刀両断にする。
だが、そのようなことをしても意味がない。
殺すならば、首輪をつけた者を殺すべきだ。

剣をヒュっと振り、付いた血を払う。



マールディアの顔を繰り返し、繰り返し思い描く。
今は亡き恋人の顔を、再び見るために。
しかしその顔が、何度思い返しても泣き顔しか脳裏に映らなかった。


出来るのだろうか。
例えルッカやロボを殺してでも、英雄どころか殺人鬼になってでも、マールを蘇らせ、思い描いていた未来を築けるのだろうか。
脳裏に浮かんだ恋人の表情と同調したのか、その頬に最後の一滴の雫が伝った。


「行くか……。」
そのままリーバルが向かった方とは別の方角へ歩き出す。
目指す先はイシの村。
恐らく人がいるであろう場所へ向けて歩き出す。


この殺し合いを止めることと、マールを取り戻すことは相反する。
だが、あらゆる人にとっての英雄であることよりも、マールにとっての英雄でありたいと気づいてしまった。
それが最後の役割だとしても、彼女が本当に望んでいないことだとしても、自分が本当にしたいことをするためにその足を動かす。



【B-3/平原/一日目 早朝】

【リーバル@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康、様々な感情
[装備]:アイアンボウガン@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、召喚マテリア・イフリート@FINAL FANTASY Ⅶ、木の矢×2、炎の矢×7@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[思考・状況]
基本行動方針:ここではないどこかへ


※リンクが神獣ヴァ・メドーに挑む前の参戦です。



【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:白の約定@NieR:Automata
[道具]:基本支給品、ハイリアの盾(耐久消費・小)(@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド)、ランダム支給品(1個)
[思考・状況]
基本行動方針: 優勝し、マールを生き返らせる。
1.そのためには仲間も、殺さないとな。
2:まずは人が集まってそうな場所へ向かう。

※マールの死亡により、武器が強化されています。
※名簿にいる「魔王」は中世で戦った魔王だとは思ってません。

※ED No.01 "時の向こうへ"後からの参戦です。このルートでは魔王は仲間になっていません。
※グレイグからドラクエ世界の話を聞きました。

501それは最後の役目なのか ◆vV5.jnbCYw:2021/06/19(土) 21:32:20 ID:Y5CHuKLE0
投下終了です。

502それは最後の役目なのか ◆vV5.jnbCYw:2021/06/22(火) 16:23:11 ID:2VRganJM0
すいません。時間帯を間違えてました。
【B-3/平原/一日目 昼】です

503 ◆RTn9vPakQY:2021/06/22(火) 17:24:44 ID:AlKQWJ1I0
投下乙です!感想をば

・片翼の堕天使
あのセフィロスをも瞠目させるG-ウイルスの再生力。元は人間の身で伝説の英雄に拮抗したと考えると恐ろしい。
そして、それを圧倒的な力でねじ伏せたセフィロスもやっぱり格が違う。
これでウィリアムは幕切れか……と思った矢先に食べるとは驚き。
参加者、そして主催者にとっても絶望的な存在が生まれてしまいましたが、どうなることやら。

>まるでそれはりんごを食べるアダムのように優雅に、美しく。Gの心臓という禁断の果実を口にする姿はどの絵画よりも心惹かれる。
>それこそが今この場に君臨した絶対(セフィロス)なのだ。
あと、こういう洒落た表現に憧れます。

・それは最後の役目なのか
リーバルとクロノのやり取り。互いに諦念を抱えた者同士、どこか共感する部分もあったのでしょうか。

>「僕は君の親じゃないからね。選択を決める権利なんてないさ。けれど、そんな半端な気持ちで優勝すると思うなんて、愚の骨頂だね。」
>「殺そうとした相手と話をしようだなんて、随分身勝手だね。これから食べるコッコと話をしようと思ったことはあるかい?」
これこれ〜!この軽妙な喋りがリーバルの調子だよね〜!となるセリフ回し。
さて、クロノはマールにとっての英雄になれるのか……気になるところです。


感想は以上です。そして拙作の「Androidは眠らない?」について、wikiにていくつか修正を加えたことを報告します。
・タイトルの「?」を消して「Androidは眠らない」へ
>>490 の情報交換のパートで、放送の内容への反応を数行追加。
・その他、細かい文章や状態表の修正。展開に違いはありません。
以上、よろしくお願いいたします。

504 ◆vV5.jnbCYw:2021/08/07(土) 11:15:44 ID:sNh.l74E0
リンク、ミファー、真島吾郎、美津雄予約します

505 ◆vV5.jnbCYw:2021/08/08(日) 21:26:28 ID:gE6c6cNI0
投下します

506それでも残る想い ◆vV5.jnbCYw:2021/08/08(日) 21:26:57 ID:gE6c6cNI0

ともだち。


はじめてのともだちをうしなった。


なにもできなかった。


とめられなかった。


すくってやれなかった。



いまいる市街地が、戦場でなくなった後も、ずっと慟哭は続いた。
声が枯れるまで亡骸の傍らで叫び続けた。
零れ落ちた涙が、もう動かないザックスに落ち、火傷を冷やし、凍傷を温めるかのように濡らした。


――――……なんだ、子供じゃねーか。こんな物騒なもん子供が持っちゃダメだろー?
――――……よくわかんねーけど、気ぃ悪くしたなら謝るよ。な? えっと、立てるか?


彼と共にいたのは、ほんのわずかな時間、半日すらない。
1人で薬草を探し続けていた時間を除くと、その時間はもっと短くなる


――――わかんね。でもま、その辺歩いてれば他の奴らと会えるだろ。もし危ないやつが来てもしっかり守ってやっから安心しろよ、美津雄!
――――じゃ、行こーぜ美津雄。こんなふっざけたゲーム、ちょちょいとぶっ壊してやろうぜ!


それでも、かげがえのない友達だった。
初めてできた、心から友達と言えるし、ザックスの方も自分のことを友達と認めていた。


――――じゃ、ここらで休むか。座れよ美津雄、結構シンドそうだぞ?
――――へへ、バテバテじゃんか。ほれ水、水分補給は大切だぜ


友達なんて下らないもの。
ゲームの世界で仲間になって、共に一人ではとても倒せないような敵を倒したり、何か大事なものを分かち合ったりするなんて現実では出来ないものだと思っていた。
現実の友達なんて、薄っぺらで全くと言っていいほど意味のないもの。
そんなものを作るぐらいなら、実際に存在しなくても、ゲームで裏切らないし、困ったときには助け合える友達を作ればいいと思っていた。


――――そりゃ、話したいからに決まってるだろ。……あ! そういややっと話してくれたな! いやぁ、結構嬉しいもんだなぁ〜
――――水、こぼしてるぞ。具合でも悪いのか?


でも、間違っていた。
今なら分かる。
欲しくて欲しくてしょうがないのにどうやっても手に入らないものを、手に入れなくてもいいものだと酸っぱいブドウ理論で誤魔化していた。


――――ああ、美津雄……怪我、ねぇか?
――――なんで、かぁ……難しいこと聞くなよ。一々んなこと考えてないって……
――――頼りにしてるぜ、美津雄


アイツは間違ってなかった。バカでもなかった。
大切な仲間であり、尊敬する人であり、誇りでもあった。
あの生き方が正しいか、間違っていたかなんてわからないけど、自分以外の全ての人間がアイツは間違っていると言っても、正しさを証明したかった。

507それでも残る想い ◆vV5.jnbCYw:2021/08/08(日) 21:27:21 ID:gE6c6cNI0


――――心配すんなって。言っただろ、お前は俺が守るって
――――なぁ、美津雄……お前、夢ってあるか?
――――夢を持て、美津雄。そしたらちっとは、世界が楽しく見えるかもしれないぜ


僅かな時間、それでも竹馬の友の様に思えた男の言葉を何度も反芻する。
今はっきりと覚えていても、いずれあやふやになり、最後に忘れてしまうのが怖かったからだ。


忘れない。
決して忘れない。


「………おーーーい。」
自分を呼ぶ声が突然聞こえた。

「よしよし、怖かったな〜。お兄さんは悪人ちゃうで〜。」
「うわああああ!!!」
後ろを振り向くと、眼帯に趣味の悪い柄の服と、刺青が印象的な男が立っていた。
そのインパクトに、思わず悲鳴を上げてしまう。


「おいおいおいおい、いくら俺がイケメンだからって言うて、そうビビることは無いやろ。」
おどけた口調で男ははぐらかそうとする。
しかしそれとは思えない凄みが、目の前の男には会った。


「……来るなら来いよ!!オレは死んでも生き延びてやる!!」
勝てる見込みは薄いが、それでも美津雄は銃を男に向けた


「わーーーーーーっ!!タンマタンマ!!俺、そういう人ちゃうねん!!ちょっと前まで、好き放題暴れたろうと思ってたけど、今はちゃうねん!!
つーか死んでも生きるって矛盾しとるやろ!!死んだらアカンやん!!」
「え……?」

不可解なリアクションを取る男に対して、向けていた銃を降ろしてしまう。
(でも、オレを騙そうとしていたら、『ちょっと前まで好き放題暴れる』なんてこと……言わないよな?)

ほんの少し冷静さを取り戻し、思考を巡らせると、殺意が無いという可能性も見いだせてきた。

「分かってくれたか!!いや〜、嬉しいで。行けども行けども誰もおらんし、寂しかったところで、お前の悲鳴が聞こえたんや。……ソイツ、お前の友達か?」

眼帯男はちらりと動かなくなったザックスの方を見やる。
それに対して美津雄は黙って頷く。

「そうか。誰だって、大切な人を失うのは辛いものやからな。
よし、お兄さんと一緒に、近くの墓場にこの人を埋めに行こうや。」

言うが早いか、男はザックスを背負い始める。

508それでも残る想い ◆vV5.jnbCYw:2021/08/08(日) 21:27:37 ID:gE6c6cNI0

「夢……。」
「ん?どうした?」
「夢って……どうやったら見つけられると思う?」

ザックスには夢を持てと言われた。
でも、美津雄には、そんなものはない。
この男は、何か持っているのか聞いてみようと思った。


「脈絡もなく難しいことを聞くなあ〜。いかにもお前ぐらいのガキんちょが考えそうなことや。
でも、俺にもこれだけは分かるで。」
おどけていた眼帯男は、急に神妙な顔つきになって語り始めた。

「夢ってのはな、探そうと思って見つけるものじゃないねん。生きて悩んでまた生きて、そうしていたらきっと探さんでも夢の方から来てくれるものやと思うわ。」

眼帯男の言葉を聞き、何故か涙が出た。
先の涙とはまた違うものだった。

「だから、死ぬなや。悩んでも立ち止まってもええ。お前一人になっても、生きや。」
優しく男は美津雄の肩をポンと叩く。
そう言えば、長らく人肌は感じたことが無かったな、と割とどうでもいいことを思ってしまった。

「な〜んてな。これは、この年まで好き放題やっていた、俺のただの持論や。
テストに出るわけでもないのに、そんなアホみたいに真剣な顔して聞いてどないすんねん。」

それからまたおどけた顔に戻った。

「せやせや、名前忘れとったな。俺は真島吾郎、気さくに真島の兄さんとでも呼んでくれや。」
「俺は久保美津雄……。真島さんの夢って、どんなものなんだ?」
「いきなり呼び方無視かい!?まあええわ。俺の夢はな、桐生ちゃんを喧嘩でぶちのめすことや。」
「………。」

喧嘩好きそうな男だとは思っていたが、そこは見た目通りなんだな、と美津雄は思った。
しかし、その口調は、どこかさっきまでの勢いがないのは伝わってきた。
もう朧気でしかないが、その桐生ちゃんとやらは、最初の放送で呼ばれた桐生一馬のことだろうと察しがついてしまった。


「その人って……。」
そう思っていた言ったところで、東の方、ここからそう遠くない場所から、轟音が響いた。

「な、なんやアレは……。」
驚嘆の声を上げる真島吾郎に対し、美津雄は言葉を発することさえ出来なかった。
彼等がみたのは、隕石だった。
真っ赤なエネルギーの塊が、その場所に落ちていった。


信じられなかった。
例えシャドウの力を使っていても、あんな芸当はきっと出来ないと分かっていた。
あの方向は、リンク達が向かっていった場所。
だから、逃げるわけにはいかない。


会って、あの少女にも、仲間を咎めたことを謝らないといけない。


「よっしゃ、あの場所目掛けて出発進行や!!美津雄の友達ちゃんはちょっと待っててな。」
美津雄が向かおうとする前に、真島はすでに走り始める。
走るのが苦手なのは変わらないが、その後ろを追いかけ始めた。

509それでも残る想い ◆vV5.jnbCYw:2021/08/08(日) 21:28:02 ID:gE6c6cNI0

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「何が起こっているというんや……。」
最初に見つけたのは、折り重なって死んでいる茶髪と銀髪の二人の少女だった。
2人とも胸を打ち抜かれて死んでいた。

美津雄は2人共知っていた。
片方は放送前、ザックスを刺した千早と名乗った少女。
もう片方はその仲間で、自分が謝ろうとしていた少女だった。



「おい!!大丈夫か!!しっかりしいや!!」
真島の呼びかけにも答えはない。
4つの瞳孔はどれも開ききり、手足は既に青みが掛かった死人の色をしていた。
彼とて死者を見てないわけではない。
むしろ人一倍は見てきたぐらいだ。
それでも、そう声をかけずにはいられなかった。


「ふざけんなや……。」
もう見つめてくれない、萩原雪歩の瞳を見て、真島は呟いた。
その罵倒は、誰に対してか。


「何のためにあの時助けたと思っとんねん……」

その言葉は、死者に向けているとは思えないほど辛辣だった。
だが、そこには言葉のトゲが決して見られなかった。

「この腐ったゲームをぶっ潰す俺の計画が、台無しやないか……。」
Nの城で折角助けたというのに。
その彼女が、こんなにも早く死んでしまうのは、死者を見続けた彼でさえもいたたまれなかった。



「何なんだよこれ……。」
美津雄も声を漏らす。
わずか数時間前は死の予兆など無かった者が、こうも救いようがなく死んでいる。

2人いる少女のうち、片方は殺し合いに乗っていた。
命を狙われたし、仲間を傷つけられた。
だからといって、こんな結果で死んでしまうのを美津雄は望んでいなかった。


しかし、美津雄にも真島にも分かっていた。
いや、分かってしまった。
この場所は先ほど隕石が落ちた場所から少し離れている。
そのため、ここはまだ地獄の1丁目でしかないということだ。


市街地から離れたその場所は、文字通り地獄のような風景だった。
惨劇という言葉をそのまま体現したような景色が広がっていた。
地面は焼け焦げ、いくつもクレーターを作り、いかなる生き物も住むことを許さないようになっていた。


焼け死んでいる青いハリネズミ
同じく焼け死んでいる上に、翼が片方ない赤竜
壊れた白黒のアンドロイド

犠牲者たちが、その場に転がっていた。

510それでも残る想い ◆vV5.jnbCYw:2021/08/08(日) 21:28:23 ID:gE6c6cNI0


その近くで、半魚人の少女が必死で青い服の金髪の男を呼びかけていた。
真島は男の方に見覚えがあった。
Nの城で戦い、自分の剣を一本渡した相手だ。

「おい!助けに来たで!!」
「……!!あなたたちは!?」
突然やって来た真島と美津雄に半魚人は驚くも、すぐに持っているナイフを構える。



「わーーーーーーっ!!だから何でこんなナイスミドルなお兄さんを敵だと思うねん!!」
「ミファー……。その人は……敵じゃない。」
「え?」

言葉を紡ぐのでやっとのようだったが、リンクは辛うじてミファーに攻撃を止めるように頼んだ。

「あんたは……無事……だったんだな。」
「久し振りやなあ、リンクちゃんだっけ?
早速戦いたいところだが、ちょっとそれどころじゃないみたいやな。ちょっと場所変えるぞ。こんな所におったら、怖い怖いおじさんに見つかって殺されるかもしれへん。」


「っしょ。意外と重いな。」

真島はリンクを背負い、市街地に戻ろうとする。
ミファーはその間でも、両手を光らせ、1つでも多くリンクの傷をふさごうとしていた。

「ぴちぴちギャルの嬢ちゃん、凄い手品やな〜。何食ったらそんなこと出来るん?」
「…………。」

ミファーは真島の言葉を無視して、リンクに再生の術をかけ続けた。


「なあ、リンク。仲間のことごめんな。」
もう死んでしまったが、美津雄はリンクの仲間を咎めたことを謝罪する。
リンクは首を横に振って、気にするなと無言で言う。


「ザックスはどうなった。」
「………死んだよ。俺を庇って、戦い抜いた。何も出来なかった。」
「すまなかった。最後まで居てやれなくて。」

来た道を戻るが、その途中に雪歩と貴音の死体がまた目に入る。
銃声からして察しは付いていたが、雪歩とその仲間が助からなかったことは、リンクにも分かってしまった。


冷たい空気が辺りを漂う。
2B、雪歩、貴音、ソニック、リザードン、そしてザックス。
わずか数時間で、この近くにいた半分近くの参加者が死んでしまうのは、誰にも予想出来なかった。
これまでの思い出も、友情も、硬い決意でさえも、この場では守ってくれない。



「真島さん、オレ、代わろうか?」
「アホぬかせ。お前らみたいな若造に心配される程耄碌しとらんわ。」
それからも死の空気は4人にずっと付き纏っていた。

511それでも残る想い ◆vV5.jnbCYw:2021/08/08(日) 21:28:46 ID:gE6c6cNI0

しかし、その空気は外からによるものだけではなかった。

(う〜ん、あのぴちぴちギャルの嬢ちゃん、何がしたいんや?)
その空気に紛れてしまい、美津雄は分からなかった。
しかし、ヤクザという職業柄、殺意に対して敏感な真島のみが、それを察していた。


(さっきからチラチラ俺らのこと見とるけど、あれは俺のこと好きって視線やあらへん。
アイツが送ってるのは、覚悟キメた奴の視線や。)

「これ以上俺は誰も悲しませへん。生き抜いてやるで。この腐ったゲームをぶっ壊すまではな。」
それは自分の決意表明か、ミファーに対して放った言葉なのか。


誰が言ったか。
あなたは生きていない。死んでないだけと。
死は誰にも決めようがないし、逃れようがないことだ。
このような殺し合いに巻き込まれずとも、殺す者がいなくても、寿命や病気や怪我でいずれ死ぬことになる。
だが、生きるか生きないかを決めるのは自分自身だ。


だから、失っても最後の最後まで生き続けよう。
それが他者に依存する形になっても。
まだ生きるのを辞めるにはまだ早い。



【D-2 山岳地帯と市街地の間/一日目 昼】

【リンク@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)胸上に浅い裂傷、両脚に怪我、軽い火傷、失意
[装備]:民主刀@METAL GEAR SOLID 2、デルカダールの盾@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて ブーメラン状の木の枝@現実
[道具]:基本支給品(残り食料5/6)、ナベのフタ@現実 残ったアオキノコ×2、ソニックのランダム支給品(0〜1個)双剣オオナズチ(長剣)@MONSTER HUNTER X、貴音のデイパック
[思考・状況] :ゼルダはどうしているだろう?
基本行動方針:守るために戦う。
1.それでも生きる
2.カイムの生死を確認したい

※厄災ガノンの討伐に向かう直前からの参戦です。
※ニーアオートマタ、アイマスの世界の情報を得ました。
※美津雄の調合所セット(入門編)から薬に関する知識を得ました。




【ミファー@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:ダメージ(中)  右肩に銃創 体にいくつかの切り傷
[装備]: 鬼炎のドス@龍が如く極
[道具]:基本支給品、マカロフ(残弾2)@現実 ランダム支給品(確認済み、0〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:リンクを優勝させる
1.不意打ちで参加者を殺して回る。
2. 今はリンクを回復させる
3.真島吾郎、久保美津雄に警戒


※百年前、厄災ガノンが復活した直後からの参戦です。
※治癒能力に制限が掛かっており普段よりも回復が遅いです。


【久保美津雄@ペルソナ4】
[状態]:疲労(大)、悲しみ、決意
[装備]:ウェイブショック@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品(水少量消費)、ランダム支給品(治療道具の類ではない、1〜2個)、調合書セット@MONSTER HUNTER X
[思考・状況]
基本行動方針: 夢を探す。
1.生きる

※本編逮捕直後からの参戦です。
※ペルソナは所持していませんが、発現する可能性はあります。
※四条貴音の名前を如月千早だと思っています。

【全体備考】
※ザックスの支給品は遺体の傍に放置されています。


【真島吾朗@龍が如く 極】
[状態]:頭部出血(止血済み)、疲労(大)、決意
[装備]:ほしふるうでわ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームをぶっ壊す。
1.まずは市街地で休憩できそうな場所を探す
2.美津雄を守る
3.ミファーに警戒
4.遥を探し出し保護する。
5.桐生を探す(死体でも)。
6.錦山はどうしよか……。

※参戦時期は吉田バッティングセンターでの対決以前です。
※運営が盗聴していることに気付きました。

512それでも残る想い ◆vV5.jnbCYw:2021/08/08(日) 21:29:00 ID:gE6c6cNI0
投下終了です

513 ◆RTn9vPakQY:2021/08/09(月) 23:02:51 ID:Hjqa7qvU0
投下乙です。
ザックスの死を受けて、かけられた言葉をかみしめるように反芻して忘れまいとする美津雄の姿は、悲しみの中にも決意が感じられますね。
>「夢ってのはな、探そうと思って見つけるものじゃないねん。生きて悩んでまた生きて、そうしていたらきっと探さんでも夢の方から来てくれるものやと思うわ。」
比較的若者が多いこのロワにおいて、人生経験豊富な真島の兄さんは若者の先導役になりそうな予感ですね。
そして、ひょうひょうとしていながらミファーをしっかり警戒する真島の兄さん。頼もしいけど相手は英傑、一触即発もあり得るので怖いですね。

残された者たちの「生きる」という意思が感じられて、静かながら滾る話でした。


リボルバー・オセロット、バレット・ウォーレス、ソリダス・スネーク、クレア・レッドフィールド 予約します

514 ◆RTn9vPakQY:2021/08/15(日) 21:04:47 ID:TB3ETlgg0
予約を延長します。

515名無しさん:2021/08/30(月) 21:59:16 ID:3BHYlSWo0
投下乙です。

>> 青の光に導かれ
イレブン、恥ずかしい呪いを患わっていながら本当にひとりで料理できたのか? というところには大いに疑問がw

やっぱり料理シーン〜全員で飯を囲むって流れがあると、安心感あるね。
犠牲者少なからず出ていながら、ベルもオトモも前向きな考え方を曲げてなくて、とても穏やかな雰囲気でほっこりする。
このパーティに一服落ち着いた感が出てて、朝なのに夕暮れの就寝前イメージがある作品。
オーブにはまだまだ謎が多いのだけれども、希望が見える雰囲気。


>> これまでではなく、これから
この話、オセロットに名言多いしバレットとの掛け合いがとても面白い。

> 「いくらキミより頭がいい人物が目の前にいるからと言って、考えるのを怠るのはよくないぞ。」

これ、さらっと流してきてるけどかなりの名言だと思うんだよ。
この一言だけでキャラが立ってるのが分かるんで、高いセンスしてるなあって思う。


> 「私がスパイだと一つ明かせば、後は知りたいこと何でも答えてくれると思う、君の頭にだよ。」
この発言も、読み手側としてもこの二人は面白い関係だと思ってたから、側頭部から殴られた感じがあって好き。
そして、ちょっと険悪になりかけたところからさらっと関係を元に戻す話術にとても味がある。

> 思えば彼にとって、元ソルジャーなどと宣う金髪の男やら、実験サンプルやら、ギルやマテリアを盗む謎の忍者やら、仲間というのは最初は得体のしれない者がほとんどだった。
> だから、彼は今オセロットが味方じゃないと言っても、行動を共にする。
> これまでのことは分からないし、教えてくれるような相手でもないが、これから味方になる可能性はあるから。
ここ、クスっと笑えると同時にバレットの仲間観が凝縮されてるのがポイント高い。
バレット自身が環境テロリストの親玉という人のこと言えない立場だったからめっちゃブーメラン刺さってると思うけど、
でもそんな曲者たちが固く結ばれた仲間になったのを鑑みると、
バレットとオセロットの関係はもっと続いてほしいと思ってしまう。


>> 壊レタ世界ノ歌

ぐらぐらの心理描写が好きです。

殺す
殺さない

の二択で下ボタン押しっぱなしでカーソルループさせてる演出が好きです。
眼球や口腔の粘膜がカラカラに焼け付いて腔内が乾ききってるあの情態が感じられるのが好きです。

貴音は自分の意志だけで雪歩を殺害することは終ぞできなかったんじゃないかなあ、と思う。
きっと雪歩の視点では説得の余地が見えてて、だからこそミファーに刺殺される場面の無情度が高い。
そして雪歩がミファーと敵対したのは勇気は勇気でも蛮勇のほうだったなあ。
雪歩の勇気がまわりまわってリンクたちに最悪の結果として降りかかったのは本当にやりきれない。
アイマス勢三人脱落したけど、全員が全員、殺し合いの場に染まり切れずに脱落した感じがあって、ほんとバトロワに向いてない人たちよな。

あと、カイムが強いね。
攻撃が意外とワンパターンとか言われてたけど、増援来ても崩れる気配がなくて、この人どうやれば倒せるんだろうって印象だった。
それでいて今回の惨状の引き金ひいたのは間違いなくミファーだなあ。
カイム瀕死、リンク以外死亡、リンクの怪我は中等症とはいえ、ミファーにとって理想に近いの結果。
厄災と言われるのもむべなるかな、と。

516名無しさん:2021/08/30(月) 22:00:25 ID:7P4wfawU0

>> 片翼の堕天使

知 っ て た 。

予想通りだし期待通り、けれどもそれで面白い。
女神の城というステージ、散りばめられている彫刻とか絵画とか禁断の果実とかの単語、
登場人物の片方は美丈夫、片方は悍ましい怪物というコントラストの映え、
このあたりがうまいこと情景を広げてくれて、神話時代の戦いみたいなイメージが浮かんでくる。
いっそ神秘的な光景を思い浮かべるのだけれども、そこに冒頭の地獄の定義が効いてきて、強烈な印象を残してくるわけですよ。
ウィリアムはこの直近の二話だけで、なんかやりきった感じすら出てしまったなあ。
ということで、セフィロスが勝って全参加者の敵になった。

大事なことなのでもう一度。

知 っ て た 。


>> 偽装タンカーを探検しよう
置いて行かれた感がある遥ちゃん。
外ではセフィロスが究極生物になってたり、D2で死にまくったりしている中、偽装タンカーだけ世界に取り残されてしまった。
アリオーシュが怖すぎたんで仕方ないとはいえ、相応に消耗してて結構厳しい状態。
絡みのあった人間はほぼ脱落し、元の世界の顔見知りも真島しかいなくて、やれることをやってみたけど大きな収穫はないという厳しい状況。
全体的に無力感満載で、ひとりでは何にもできないという評価が残酷なまでに正鵠を得てる。がんばれ。

周囲の参加者の動向を見るに、直近で出くわしそうな危険人物はマルティナとミリーナ程度。
東側は穏健な参加者が多くて、曲者はいれど信頼できる人を探すの行動方針は今なら大きく間違ってはいないはず。ほんと、がんばれ。


>> Androidは眠らない
ハンターおじさま頼りになりすぎる……。彼ほんと情に厚くてなんでも作れて頼れるキャラだよ。
もはや本人がどんなに否定しようもおじさまの風格が隠せない。
少し前まで少々危うかった9Sくん、なんか今回マイペースな美希とムンナ、頼れるけど価値観が独特なハンターにはさまれて、常識人の苦労人ポジションへと猛進していませんか?
余計なこと考えるヒマがないくらいにまわりに気遣いしてれば逆に安定してくるのでは、とすら思えてきた。
カミュと一緒に仲良く振り回されてほしいw

517名無しさん:2021/08/30(月) 22:02:48 ID:pfFhNf9w0

>> それは最後の役目なのか
すべてを諦めたと言いながら、プライドはまだ残っているらしいリーバル。
どうせ踏み台になるなら、一本筋の通った相手の踏み台になりたい、なんてのはプライド以外の何物でもないか、と。
彼にとっての慢心=プライド=誇りってアイデンティティみたいなものに見えるから、
プライドがある=まだ底をついていない、と解釈してしまった。
図らずもクロノを導いている構図にすらなってて、本人の意志に反してまだまだ仕事振られそうな気がする。
クロノへの小気味よい煽りが味わい深くて好きです。

>> それでも残る想い
美津雄はザックスから誇りを受け継いで目に見えて成長してると分かるのがうれしい。
真島も包容力のある大人だし、もう一皮二皮剥けるのかもしれんね。
真島が美津雄に警戒されて慌ててるシーン、赤ちゃんに泣かれて慌てる筋者みたいなコミカルさがw
真島もコミカルとシリアスを違和感なく切り替えられるおいしいキャラだよなあ。

てな感じで前半はいい感じにほんわかするんだけど、後半の鬱っぷりはすさまじいね。というかリンクが鬱。

ミファーはお前、真島よりも先にカイムをなんとかしようや?
今の真島はファッション危険人物だから。外見が不審人物なだけだから。ホントに危険な人物近くにわんさかいるから。
チラチラ様子うかがってるって、この局面で導火線に火のついた爆弾ムーブはやばいでしょ。

で、こうなると一番危ういのリンクなんだよなあ。
同行者が全滅した局面で、ミファーが助けに来てくれたとなれば、切なる想いに目が曇りかねない。
このタイミングでミファーがなんかやらかしたとして、それを受け入れるにしろ拒絶するにしろ、選択を迫られればなかなか酷。
彼だけ明らかに空気が重いので、今後が大変心配ですわ。

518 ◆vV5.jnbCYw:2021/09/03(金) 19:59:10 ID:5kFmKSqs0
毎回全話感想ありがとうございます。
バレットとオセロットのやり取りを気に入ってくださったようで非常に何よりです。

エアリス、ゲーチス予約します。

ところで
>>514
の予約はどうなったのでしょうか?

519 ◆RTn9vPakQY:2021/09/03(金) 21:46:58 ID:R2RzSOHg0
予約期限が切れたのにも関わらず、何の連絡もせずに申し訳ありませんでした。自分の怠惰が原因です。
長期間のキャラ拘束はもちろん、それ以前にこういった行為そのものが企画の停滞につながることも理解していました。
しばらく参加は自重します。もし参加する場合も、必ずルールに則ります。

期限は切れていますが、ソリダス、クレア、オセロット、バレットで投下します。

520 ◆RTn9vPakQY:2021/09/03(金) 21:48:52 ID:R2RzSOHg0
 ラクーン市警のエントランスを背にして、ソリダス・スネークは葉巻を取り出した。
 警察署内の押収物倉庫で発見した品物だ。サバイバルナイフで頭を切り落とし、古びたマッチで着火したそれを、ゆっくりと口に運ぶ。

「ふむ」

 逸品だ。満足した声が漏れた。
 そのままゆるゆると紫煙を味わいながら黙考する。
 さきほど襲撃してきた怪物の素性、分身を作り出すことができる紫色の球の原理、そしてクレアが意識を取り戻した後の方針について。

「……チッ」

 苛立ちまじりの舌打ちが漏れる。
 どれひとつとして明確な答えに至らない。
 それもそのはず、情報が圧倒的に不足しているのだ。
 この殺し合いが開始して六時間近く、ソリダスはクレアと怪物以外の参加者に遭遇していない。
 参加者と出会い情報交換をすることの重要性は、もともと予想はしていたが、クレアとの邂逅を経てなかば確信していた。
 クレアがラクーン市警の構造を把握していたように、地図に記載された固有名詞らしき施設には、参加者の誰かと関係があるのだ。

「となると、やはり偽装タンカーは……」

 二年前、ハドソン川を航行中に沈没したタンカー。
 地図の偽装タンカーとは、海兵隊が極秘裏の演習のため偽装していた船のことだろう。
 ソリダス自身はそのタンカーに乗船こそしていないが、なじみ深いものが載せられていた。

「メタルギアRAYが、ここに?」

 水陸両用型二足歩行戦車、メタルギアRAY。
 海兵隊の主導により試作された、メタルギアの亜種のひとつ。
 その圧倒的な火力を持つ武装と、非常に高い索敵能力から、開発当初は空母の戦略価値が低下するとまで評された代物だ。
 しかし、それがこの地図の偽装タンカーで入手できるとは考えにくい。もしメタルギアが操縦可能な参加者の手に渡ってしまえば、その瞬間から殺し合いは成立しなくなるからだ。
 対処法を知るソリダスならいざ知らず、そうでない一般人が太刀打ちすることは不可能。十中八九ワンサイドゲームになる。
 もちろん、主催者が強者による蹂躙を望んでいるとすれば別だが――

「――やめだ。妄想ばかり膨らませても仕方ない」

 半分ほど燃えた葉巻を思い出したように咥えて直した。
 そもそもの話をすれば、偽装タンカーは二年前にマンハッタン沖で沈んだはず。
 主催者がどういうつもりで用意したのかは、現状では想像の域を出ないといえよう。

『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる?』

 いよいよクレアを叩き起こすことも考え始めたとき、放送が流れ始めた。
 何が楽しいものかと毒づきながら、デイパックから名簿を取り出して眺める。
 そのほとんどは知らない名前だ。しかし、いくつかは目に留まる名前があった。

 ――ハル・エメリッヒ。メタルギアの開発に携わっていた技術者で、シャドー・モセス島事件の後には反メタルギア財団を設立した人物。現在は偽装タンカー沈没事件の首謀者のひとりとして指名手配されている。

 ――リボルバー・オセロット。KGBやGRUなどの特殊部隊を渡り歩いてきた、拳銃の名手であり拷問のスペシャリストでもある人物。シャドー・モセス島事件以降は、ソリダスの指揮下で活動している。

「そして……」

 ――ソリッド・スネーク。元FOXHOUND隊員にして伝説の英雄。
 アウターヘヴン蜂起、ザンジバーランド騒乱、そしてシャドー・モセス島事件。複数の事件で単独の潜入任務を行い、激闘の末に解決に導いたとされる歴戦の兵士だ。
 そして、伝説的な兵士ビック・ボスのクローンのひとり――すなわちソリダスの兄弟――でもある。
 二年前のタンカー沈没事件の首謀者であり、タンカーと一緒にハドソン川に沈んで遺体も回収されたはずだが、この名簿が真実なら生還していたことになる。

「そうか」

 ソリダスはどこか納得したように頷く。
 その口元は、マナへの苛立ちなど忘れたように緩んでいた。
 同一の遺伝子を持つ蛇が二匹、同じ殺し合いの場に呼び出されている。
 その意味は何か。

「どちらがよりビッグ・ボスに近い優れた兵士か、この戦場で明らかになる」

 戦場では常に弱い者から死んでいく。
 殺し合いというイレギュラーな状況下だが、それでも戦場には違いない。
 それならば、ここでどちらの蛇が優れているか、はっきりさせるのも面白い。
 残り香だけになった葉巻を落とす。

「スネーク、貴様はどう動く?」

 これまでソリダスは、主催者に踊らされている感覚があった。
 しかし、ソリッド・スネークの存在を知り、確固たる目的が生まれた。
 その瞳が活き活きとしだしたことに、おそらく本人も気づいてはいない。

521Discussion in R.P.D. ◆RTn9vPakQY:2021/09/03(金) 21:50:32 ID:R2RzSOHg0
「ソリダス!」

 背後から掛けられた声に、ソリダスは振り向く。
 先程まで疲労で寝ていたクレアが、エントランスから顔を出していた。

「ふん、ようやくお目覚めか」
「放送は聞けたわ。……あなたの知り合いはいた?」
「知り合いはいたが死んではいない。お前は違うのか?」
「……ええ」

 わずかに沈痛な面持ちを作るクレアだったが、すぐに切り替える。
 そして名簿を取り出すと、いくつかの名前にチェックを付けた。

「私の知り合いは三人。ひとりはレオン……放送で呼ばれたわ。
 二人目は一緒にゾンビから逃げた、シェリー・バーキン。あとはシェリーの父親のウィリアム。
 この三人よ。シェリーはまだ十二歳の女の子なのに、こんなことに巻き込むなんて……正気じゃないわ!」
 憤慨して語気が荒くなるクレア。
 その様子を冷ややかな目で見て、ソリダスは問うた。

「まさかそのシェリーを探しに行く、などと言わんだろうな?」
「ええ、そのつもりだけど?」
「今は戦力を集めて、主催者に対抗する集団を作り上げることが先決だ」
「……だったら?」
「無力な子供を探している余裕はない」
「そんな言い方……!」

 反駁するクレアの声は、どこか力が無い。
 それは内心で、残酷な現実を理解しているからだろう。
 六時間で十三人が死んだ。多くの参加者が殺し合いを肯定している証拠だ。
 このままのペースで進行していけば、一両日中には終了しかねないとすら思えるほど。
 現在位置のわからない参加者を捜索するのがどれほど困難かは、想像に難くない。
 ソリダスはラクーン市警の建物を見上げた。

「ここで武器を調達してから動くつもりだったが、時間が惜しい。
 まずは頭数からだ。移動しながら、主催者に対抗できるだけの人数を集める」
「だったらそのついでにシェリーを探したっていいでしょう?」

 食い下がるクレア。
 しかしソリダスは呆れたように溜息を吐いた。

「私の考えがじゅうぶんに伝わっていないようだな」

 それも無理はない。ソリダスとクレアが邂逅してからわずか数時間。
 当然ながら、お互いの思考や思想を把握する段階には至らない。
 そう理解しつつ、ソリダスは自らのスタンスを伝える。

「“無力な子供”は“戦力”にはならない」
「なっ……」

 絶句するクレア。
 ソリダスの言葉は、無力な存在を切り捨てる宣言だ。

「お前の話では、シェリーは銃も握ったことのない、か弱い子供なんだろう?」

 念を押すように問いかける。
 少年兵として武器を持ち、戦場を駆けまわる子供も存在する。
 それゆえに、子供だから無力という先入観が危険であるのは確かだ。
 しかし、子供をそれ相応の兵士になるまで育成するのには、時間がかかる。
 兵士や工作員として育てられ、また自らも少年兵を育て上げてきたソリダスは、その労苦が身に染みている。

「戦場を経験していない無力な子供がいたところで、邪魔になるだけだ。
 必要なのは戦力、情報、そして首輪を解析して外す能力。それは理解できるだろう?」
「……」

 沈黙を肯定と受け取って、ソリダスは続ける。

「あらためて言おうか?既に死者が何人も出ている。
 この状況で小娘を捜索して、かつ保護するとなれば、かなりのリスクだ。
 ここでシェリーのことは一度忘れて、今は戦力と情報の確保に動くべきだ」

「……それなら私は」

 クレアの口から言葉が紡がれようとした瞬間。

「――それは早計かもしれませんよ、キング」

 介入する第三者の声。
 加齢により枯れ始めたその声に、ソリダスは聞き覚えがあった。

「オセロットか」
「ご無事でなによりです」

 うやうやしく頭を下げる老人がそこにいた。
 いや、見た目は老人だが、その実は優秀な軍人だ。
 肩口まで伸ばした白髪、ダスターコートに拍車付きのブーツ。
 そして、左手にはSAA(シングル・アクション・アーミー)。
 その名はリボルバー・オセロット。ソリダスの同志がそこにいた。

522Discussion in R.P.D. ◆RTn9vPakQY:2021/09/03(金) 21:52:50 ID:R2RzSOHg0
「無事なものか。首輪で命を握られて、まともな武器すらもない」
「ならば、ここで会えたのは僥倖でしたね」

 不敵な笑みを浮かべるオセロット。発言の真意が分からず、ソリダスは目を眇めた。

「強力な兵器でも支給されたのか?」
「いえ。私が持つのは、使い方次第で強力な武器となり得るものです」
「……情報か」
「ええ。さっそく話を……と言いたいところですが」

 背後にいる黒人男性をちらと見るオセロット。
 いかにも力自慢という風貌の男だが、その顔色は優れない。

「まずはこの男の傷の処置をしておきたいのです。情報交換はその後に」
「なら、私が手当てをするわ。その間に話していたら?」
「そうか。手早く済ませることだ」
「ではキング、まずは名簿から――」

 ソリダスはオセロットの手腕を買っていた。
 有益な情報を与えてくれることに、わずかほどの疑いもなかった。





 無事な照明が少なく、薄暗いラクーン市警のホール。
 そこで、クレア・レッドフィールドはバレットの肩に包帯を巻いていた。
 バレットの肩の傷は、怪物に噛まれたものらしく、何らかの毒かウイルスに感染した危険性もあるという。
 そこでクレアは、怪物の特徴を聞き出し、それをラクーンシティに出現したゾンビに似た個体だと判断。
 まずは署内に点在していたブルーハーブを集め、すり潰して粉末状にすると、バレットに飲ませた。
 その流れで、署内に置かれていた包帯で簡単な処置を施していたのだ。

「嬢ちゃん、ずいぶん手際がいいな」
「傷の手当てなら何度もしたもの。主に自分のね」
「それもだが、ハーブの調合も手慣れたもんだ」

 クレアはソリダスが集めていた分のグリーンハーブやレッドハーブも調合していた。
 ラクーンシティでの事件の際に何度もした作業であるがゆえに、片手間でもできる。
 しかし、その事実を知らないバレットからすれば、異質に見えたかもしれない。

「あぁ……たまたま兄に教わってたの。
 また活きる日が来るとは思ってなかったけど」

 クレアは兄、クリス・レッドフィールドのことを思い出す。
 ラクーン市警の特殊部隊『S.T.A.R.S.』に所属しており、護身のためにと沢山の知識と技術を与えてくれた、頼れる存在だ。
 その過程で教わっていたハーブの調合方法が、今またこうして活きるとは。

「いい兄貴を持ったんだな」
「そうね」

 たとえ初対面の相手でも、兄を褒められて悪い気はしない。
 それだというのに、クレアは手当ての最中ずっと、複雑な面持ちを浮かべていた。
 その原因はバレットではなく、今もエントランスの近くで情報交換を続けている、二人の男性だ。
 耳をすませると、二人の会話が途切れ途切れに聞こえてくる。

「この名簿……奴ら……まで……」
「……ええ……かなり……でしょう……」
「だが……何を……タンカー……メタル……」
「もしかすると……かも……」

 お互いを“キング”と“オセロット”と呼び合う二人。
 どうやら知り合いのようだが、会話には親しげな雰囲気や気安い応酬は見られない。
 どちらかと言えば、主従関係やビジネスライクな関係性といったところだろうか。
 オセロットのもたらす情報が、ソリダスの行動方針を決定する可能性もある。
 そのため、クレアとしては会話内容が気になるのだった。

「うさんくせえ」
「え?」
「そう思ってるんだろ?わかるぜ。
 身のこなしも態度も、耄碌したジイさんじゃねえ。
 少なくとも戦闘に関しては玄人だ。これだけは保証するぜ」

 オセロットの実力を認める発言に、否定的な意見が飛び出すとばかり思っていたクレアは面食らう。
 バレットの言葉には、単なる予測や推理を越えた実感が込められていた。
「……オセロットは信頼できるの?」

 クレアは核心を突くために問う。
 これまでの会話で、クレアはバレットの直情径行を察していた。
 そしてどうやら、バレットたちが信頼し合って同行していたわけではないということも。

「信頼?これっぽっちもしてねえよ!」
「しっ!声が大きいわ」

 激昂するバレット。遠巻きのソリダスとオセロットが、会話を止めてこちらを見た。
 やはり直情的だと、クレアは内心で溜息をついた。

「そっちこそ、ソリダス……だったか?
 あいつは信頼するに足る人間なのかよ?」
「……ソリダスがマナを打倒しようとしているのは、間違いないわ」
 クレアは自分でも煮え切らない言い方だと感じた。
 案の定、バレットにも怪訝な顔をされる。

「なんだ?ヘンな言い方だな」
「弱者を切り捨てる、そのやり方が気にくわないだけ」

523Discussion in R.P.D. ◆RTn9vPakQY:2021/09/03(金) 21:54:15 ID:R2RzSOHg0
 クレアはつい先程のソリダスの態度を思い出して歯噛みした。
 ラクーンシティで出会い、守り抜いたシェリーが、今また危険な事態に巻き込まれている。
 まったくもって看過することのできない問題だ。

「あの白髪男となにかあったのか?」
「そうね……」

 クレアは滔々と話した。
 シェリーのことやソリダスとの会話、そしてソリダスと自分の行動方針の違い。
 全てを語り終えたとき、腕組みをしたバレットがにやりとした笑顔を向けてきた。

「……なるほどな。嬢ちゃんは信用できそうだ」
「嬢ちゃんなんて呼び方はやめて。私はクレアよ」
「ああ、悪かったな」

 笑顔のまま続けるバレット。
 痛みでわずかに顔をしかめながら、ゆっくりと告げた。

「もし俺がクレアと同じ立場なら、同じことをすると思うぜ」

 そう前置きして、バレットは娘のマリンのことを話し始めた。
 友から託された一人娘は、バレットにとって戦場を駆け抜ける原動力であったという。
 その愛情の込められた話しぶりから、クレアはバレットのことを信頼してもいいと感じた。

「これからどうしようかしら……」
「手当ては終わったか?」

 いつの間にか近くにいたソリダスが、クレアへと問いかける。

「ええ。傷自体は深くないわ。ハーブがどれだけ効くかはわからないけど」
「そうか。ひとまず様子見だな」

 口ではそう言いながら、バレットに視線を向けようともしないソリダス。
 まるで心配していないかのような対応に、クレアは不信感を強めた。

「それはそうとクレア、今は何年だ?」
「え?1998年でしょう?」
「……なるほど」

 わずかに息を呑むような表情を見せたソリダス。
 殺し合いと関係なさそうな質問に困惑していると、続いてソリダスの背後にいたオセロットがバレットに問いかけた。

「バレット、君にとって今は“西暦”何年だ?」
「セイレキ?なんだそれ」
「そうか……」

 腕組みをして考え込むソリダス。その眉間には深いシワが刻まれている。
 まるで難しい議題について考える、大学教授のようだ。

「どうでしょうか、キング」
「ふむ……信じるしかあるまい」

 傍らのオセロットに促されて、軽い溜息と同時に呟くソリダス。
 その口から出て来た単語に、クレアは自身の耳を疑った。

「タイムマシンの存在を」





 ソファに腰掛けたバレット・ウォーレスは、ゆっくりと左肩を回した。
 調合されたハーブのおかげか、痛みはずいぶん和らいできたが、まだ違和感が残る。
 ふとしたときにズキリと響く痛みに集中が切れそうになりながら、ソリダスの話に耳を傾ける。

「情報を整理するとこうだ。
 この殺し合いに参加させられている人間は、違う時代から集められている。
 クレアは今が1998年だと言ったが、私とオセロットにとって今は2009年だ」
「2009年!?」
「それだけではない。バレットは西暦が通じなかった。
 あり得るのかわからないが、西暦が存在しない時代から来たと考えるほかない」
「なんの話をしてるかサッパリだ」

 聞きなれない単語に疑問を投げたバレットは、ソリダスに睨まれて口を噤んだ。
 余計な時間を取らせるな、と言わんばかりの眼光だ。

「……つまり、今この場にいる数名だけでも、過ごしている時間にズレがある。
 全員が本当のことを話しているとすると、この矛盾を解消する答えはひとつしかない。
 殺し合いの主催者は、いわゆるタイムマシンのような、時間を移動する手段を持っている」
「デロリアンは実在した、ってわけね」
「にわかには信じがたいが、そういうことだ」

 デロリアンが何者か分からないが、質問したところで再び睨まれるだけだと察して問うことはやめた。

524Discussion in R.P.D. ◆RTn9vPakQY:2021/09/03(金) 21:55:17 ID:R2RzSOHg0
「納得がいっていないようだな、バレット」
「……当然だろ。タイムマシンだかなんだか知らねえけどよ」
「例えば私のいた時代では、タイムマシンは実現していない。
 お前はどうだ?バレット・ウォーレス。過去や未来に行き来できる手段に、心当たりはあるか?」

 ソリダスからいきなり意見を求められて、バレットは面食らった。
 これまで冒険をしてきて、不思議な出来事にいくつも出くわしたが、時間を移動するとなるとかなり壮大だ。
 大都市ミッドガルの巨大企業である神羅カンパニーであれば、そうした実験をしていても不思議ではないが、あいにくと噂のひとつも聞いたことがない。
 実際に潜入したときも、そのような実験や資料は目にしなかったはずだ。

「……いや、ピンと来ねえな」
「そうか。だがこう尋ねたらどうだろうな。
 参加者の名簿に、死んだはずの知り合いがいないか?」
「…………まさか」

 バレットはしばらく考え込み、やがて気づいた。
 時間を移動するタイムマシンは、過去や未来を行き来できる。
 クレアにとってオセロットやソリダスは未来の人間だ。その反対も然り。
 主催者たちがタイムマシンを利用して、参加者を誘拐しているのだとすれば。

「死んだ奴が生き返ったんじゃなくて……」
「エアリス・ゲインズブールやセフィロスは、お前にとっての過去から集められた、ということだ」
「マジかよ……」

 バレットは口をへの字にした。
 死者が生き返った仮説よりは、信憑性があるように思えてしまうからだ。
 それと同時に、さきほどのオセロットへの怒りがふつふつと湧いてきた。

「テメエ、わかってたんなら言いやがれ!もったいぶりやがってよ!」
「君は今の話を私からされて、素直に信じたか?」
「ぐ……」

 バレットは立ち上がりオセロットに詰め寄るも、問いに即答できずに黙り込む。
 そのまま口を開かず、再びソファへと腰を下ろした。

「どうやら納得したようだな。……では続きだ。
 この殺し合いを主催している連中は、一枚岩ではない」
「どういうこと?」
「まず、この殺し合いを開催した主催者には、明確な目的がある。
 単なる見世物がしたいだけなら、適当な人間を金で釣って殺し合わせればいい。
 だがこの殺し合いでは、わざわざ年齢も国籍も異なる多くの人間を“誘拐”している。
 裏返せば、大きなリスクを負ってまでも、実現したい明確な目的があると考えるのが妥当だろう」
「たしかに、リスクが高すぎるわな」

 バレットはソリダスの意見に得心した。
 バレットとて裕福な暮らしをしているわけではない。生活に困窮して、金のために動く人間がいくらでもいるのは理解している。
 そうした人間を集めて、金銭を報酬に殺し合わせることは、難しくないように思える。
 しかし、そうではない。バレットは望んでここに来たつもりは毛頭ないのだから。
 それは仲間たちも、クレアも同様だろう。

「それがどうして、一枚岩じゃないことになるの?」
「まあ待て、結論を急ぐな。
 ……参加者が明確な目的のもと、異なる時代から集められているとする。
 そうだとすれば、主催者の連中も異なる時代から集まったと考えた方が自然だ。
 これには推測も含まれるが、根拠はある。最初に集められたとき、主催者同士で意思疎通ができていない素振りを見せていたのがそれだ」
「そういえばそうね。勝手なことするなとかなんとか……」

 バレットは、少女が異形の男に諫められていたことを思い出した。
 諫め方も冗談めかしたそれではなく、冷酷な声であったのを覚えている。

「この殺し合いが異常に大掛かりな計画なのは間違いない。
 それを計画した主催者の中で、意思疎通ができていないなんてことがありえるか?」
「いろんな時代から集められたから、一枚岩になっていないんだろうってことね」
「そうだ。おそらくは目的も微妙に異なるのだろう。
 先程の放送からも、マナが殺し合いを楽しむ異常者であるのは間違いない。
 しかし、動機がそれだけなら、やはり大勢の人間を誘拐するリスクを選ぶ必要はない」
「じゃあ他の動機って?」
「そこまでは不明だ。情報が足りない。
 せめてウルノーガと呼ばれていたあの男を知る者がいれば、情報も手に入るだろうが」
「結局のところは、情報が足りていないのが現状ですな」

 これまで沈黙していたオセロットが、突如として介入する。
 その言葉に頷いてから、仰々しく腕を振り上げて語り出すソリダス。

「さて、ここからが本題だ。
 われわれは主催者に対抗するための集団を作り上げる。
 改めて告げるが、必要なのは戦力、情報、そして首輪を解析して外す能力。
 そして先程までは“無力な子供”は“戦力”にならないと考えていたが、認識を改める必要がある」

 そこで一呼吸おいて、クレアを一瞥するソリダス。

525Discussion in R.P.D. ◆RTn9vPakQY:2021/09/03(金) 21:58:51 ID:R2RzSOHg0
「この殺し合いの参加者が主催者の目的を叶えるために集められたのだとしよう。
 そうだとするならば、参加者ひとりひとりに、集められた理由があると考えるべきだ」
「つまり?」
「すべての参加者が重要な“鍵”になり得るということだ」
「“鍵”ねえ……」

 バレットは考える。ソリダスの例えは抽象的で不明瞭だ。
 しかし、言わんとすることは理解できた。にやりと笑みを向ける。

「ようするに“無力な子供”も見捨てずに助けるってことだろ?」

 その態度を見て、ソリダスは肩をすくめた。

「あくまで合理的な思考の下にな」
「それならうだうだ議論するより、サッサと動こうぜ」

 一言余計だと鼻を鳴らして、バレットはソファから立ち上がる。
 クラウド、ティファ、そしてエアリス。
 仲間たちはまだ生きている。彼らと合流できれば、心強いことこの上ない。

「俺の仲間が行きそうな場所なら心当たりがある。
 D-3エリアのカームの街だ。橋を渡るのはリスクだが、誰かいるはずだ」

 仲間の誰かがそこにいる。バレットは言葉とは裏腹に、強い確信を抱いていた。
 最初は橋を渡る危険性を考えて躊躇していたが、名簿を見て行く理由が強まったのだ。
 どうしてもそこに行きたいと、語気も荒めに提案をしていると、ソリダスが溜息をついた。

「話に聞いたとおりだな、バレット」
「あん?」
「下手な鉄砲も数撃てば、とは言うが……むしろ百発百中の魔弾であって欲しいものだ」
「……なにが言いてえ」

 バレットはソリダスを睨みつけたが、その視線は自然に受け流される。
 代わりに返答したのはオセロットだ。

「キングは下手を打つなと言っているんだ。
 バレット、キミはいささか感情的に動くフシがあるからな」
「まあ、わかる気がするわ」
「んなっ……!」

 クレアからも短絡的と言われ、バレットは動揺で言葉を詰まらせる。

「まずはその腕を取り付けることだな。
 タンカーには行けなかったが、ここでも簡単な工具はあるかもしれないぞ」
「簡単に言ってくれるぜ……」

 オセロットの無責任だが的を射た発言に、バレットは舌打ちしたい気持ちになった。
 アリオーシュとの戦闘でも、両腕が使えていればより有利に立ち回れたはずだ。
 とはいえ、ここから工具を探して取り付けるには、時間がかかりすぎる。
 考えあぐねるバレットに、思わぬ援護が来た。

「それなら、私に任せてくれないかしら。
 正直なことを言うと、最初に見たときから気になっていたのよね」

 クレアがデスフィンガーをまじまじと見ていたのだ。
 続けてバレットの右腕をじっくりと観察する。その眼はどこか輝いていた。

「任せるって、どういうことだ?」
「こう見えても、バイクいじりが趣味なの」

 同世代の女子よりは機械に詳しい、と語るクレア。
 十数分後、クレアの手つきに怯えながらも、どうにかデスフィンガーを装着できたバレットは、安堵していた。
 流石にピッタリではなかったが、動かす内に慣れる程度の違和感しかない。

「任せてよかったでしょう?」
「……まあな」

 得意気なクレアと対照的に、バレットはどこか生返事だ。
 義手の接続が上手くいくかどうか、最後まで神経を張り詰めていた反動だった。

「話が逸れたな。続きだ」

 冷静というよりむしろ冷酷なソリダスの声に、バレットは現実に引き戻された。
 軽く右手を動かす。無骨な見た目をしたデスフィンガーから、わずかに軋む音がした。




526Discussion in R.P.D. ◆RTn9vPakQY:2021/09/03(金) 22:00:50 ID:R2RzSOHg0
 リボルバー・オセロット。
 この殺し合いの破壊を、秘密裏にエイダ・ウォンから依頼されたジョーカー。
 簡単な任務ではないと理解していたが、それにしても難易度が高いと、六時間以上経過して痛感していた。
 まずは対主催者の集団を作り上げるのが順当だと考えていたが、死者が出るペースが予想以上に高いのが現状だ。わずか六時間で十三人。仮に同様のペースで死者が増えるとすれば、正午までに参加者は六割近くにまで減少する。
 殺し合いを円滑に進めるための『ジョーカー』が存在することは知らされていたが、充分すぎるほど機能しているようだ。
 それでも、ラクーン市警で既知の参加者であるソリダス・スネークと合流できたのは僥倖であった。
 ソリダスはかりそめとはいえ合衆国大統領を務めた男であり、ビッグ・シェルを武力制圧する際には、ロシアの私兵部隊と対テロ演習仮想敵部隊デッドセルとの混成部隊『サンズ・オブ・リバティ』をまとめ上げていた。
 主催者を打倒するための集団、その先頭に立つには適任だ。

「参加者の情報は覚えたな?」
「ええ、なんとかね」
「とにかくセフィロスには気をつけろ!」

 三人が話している情報とは、もともとの知り合いについての情報のみだ。
 オセロットがエイダから与えられた参加者の情報は、「名前と元の世界での素性」という限定的なもの。
 アリオーシュに『みやぶる』のマテリアを使用したと偽装したときも、名前と外見から判断できる内容だけを話していた。
 オセロットは、バレットやソリダスには直接スパイであることを伝えたが、全ての参加者の情報までは与えていない。
 その理由の一つは、首輪のジャミング装置の範囲が狭いためだ。
 ソリダスとオセロットが別れたあとで、不自然な発言が盗聴された場合、スパイの存在を主催者に疑われる危険性がある。

「やはり首輪は盗聴されている可能性が高い。
 主催者を打倒する宣言くらいでは、即首輪を爆破とはならなかったが……
 反抗の具体的な計画や核心的な情報については、筆談をした方がいいだろうな」

 そしてもう一つは、参加者がこの舞台において、どのように動くかまでは分からないためだ。
 不確定な情報は思い込みを誘発する。そして、思い込みはミスの原因となる。
 この舞台においてミスは命取りだ。

「そして次は目的地を決める」

 すっかり場をコントロールしているソリダス。
 そのカリスマ性は、遺伝子に刻み込まれたものなのだろう。
 まるで戦場の指揮官のように、広げた地図に手を乗せて今後の行動を指示する。

「探索のため二方向に分かれる。北西の島へ向かう組と、東へ向かう組だ。
 北西の島へ向かう組はバレットとオセロット。“カームの町”を中心に探索をしてもらおう」
「またコイツとかよ……」

 バレットの愚痴を、オセロットは聞き流した。
 もとよりカームの町を目指そうとしていたバレットからは、もちろん反論は出ない。

「そして、私とクレアは東側へ向かう。
 最終的な目標は“八十神高等学校”。道中は二手に分かれるぞ。
 私はこの“偽装タンカー”に立ち寄って確認しておきたいことがある」

 ソリダスの目的はメタルギアRAYに違いない。
 その推論は妥当だ。事実、オセロットもその考えが頭をよぎった。
 しかし、あまりにも強力な兵器を、主催者が簡単に手渡すとは思えなかったため、その発想は捨て置いた。
 ソリダスも期待半分といったところだろうが、確認をしておくのは損ではない。

「クレアは地図の南端を移動して、この“セレナ”と“ホテル”を見て回れ」
「それはいいけど……かなり時間がかかるわよ?」
「安心しろ、移動手段は見つけておいた」

 ソリダスは懐から取り出したものを、クレアに向けて放り投げた。
 受け止めたクレアの顔は驚きに染まる。

「これって……私のバイクの鍵!」
「警察署の裏手に置いてある。動作には問題ない」
「……ありがとう。助かるわ」

 反応を見るに、クレアはソリダスのことを信用しきってはいないようだ。
 とはいえ、指示に異を唱えるほどの不信感でもなく、微妙なところか。

「欲を言えば、連絡を取り合うための無線機が欲しいところだな。
 それも含めて、探索及び参加者との接触、そして情報の共有だ。
 人員は多いに越したことはない。できる限り戦力を集めるように」

 バレットとクレアの二人も、無言で頷いた。
 強権的な態度のソリダスだが、その提案は妥当なものだ。
 目的を同じくする以上は、二人が裏切るメリットもない。

527Discussion in R.P.D. ◆RTn9vPakQY:2021/09/03(金) 22:01:56 ID:R2RzSOHg0
「いいな、我々は主催者を打倒する!
 我々は“サンズ・オブ・リバティ(自由の息子達)”。
 このふざけた殺し合いを破壊し、自由を手に入れるのだ!」

 熱のこもったソリダスの号令を最後に、エントランスは空になる。
 オセロットは表面上で冷静を装いながら、全く安心していなかった。
 主催者に対抗するための集団を作り上げるまでには、かなりの時間がかかる。
 死者が出ているペースを考えると、あまり悠長ではいられまい。
 考えれば考えるほどに、達成不可能に思えるミッション。
 あの伝説の男ならば、どう対処するのだろうか。
 オセロットは銃把の感触を確かめた。


【F-3/ラクーン市警/一日目 午前】

【バレット・ウォーレス@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:左肩にダメージ(処置済)、T-ウイルス感染(?)
[装備]:デスフィンガー@クロノ・トリガー、神羅安式防具@FF7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間の捜索と、状況の打破。
1.北西の島へ向かい、対主催の仲間を集める。
2.リボルバー・オセロット、ソリダス・スネークを警戒。

※ED後からの参戦です。
※ブルーハーブの粉末を飲みました。T-ウイルスの発症がどうなるかは後続にお任せします。


【リボルバー・オセロット@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:健康
[装備]:ピースメーカー@FF7(装填数×2)、ハンドガンの弾×22@BIOHAZARD 2、替えのマガジン2つ@METAL GEAR SOLID 2
[道具]:基本支給品、マテリア(あやつる)@FF7
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを破壊する。
1. 北西の島へ向かい、対主催の仲間を集める。
2.時間的な余裕はあまりない。別の手段も考えておくべきか。

※リキッド・スネークの右腕による洗脳なのか、オセロットの完全な擬態なのかは不明ですが、精神面は必ずしも安定していなさそうです。
※主催者側(エイダ・ウォン)との繋がりがあり、他の世界の情報(参加者の外見・名前・元の世界での素性)です。


【クレア・レッドフィールド@BIOHAZARD 2】
[状態]:疲労
[装備]:サバイバルナイフ@現実、クレアのバイク@BIOHAZARD2
[道具]:基本支給品、不明支給品(確認済み 0〜1個)、パープルオーブ@ドラゴンクエストXI 失われし時を求めて、薬包紙(グリーンハーブ三つぶん)@BIOHAZARD 2
[思考・状況]
基本行動方針:対主催の集団を作り上げる。
1.“八十神高等学校”へと向かう。道中で“ホテル”と“セレナ”にも寄る。
2.シェリー・バーキンを探して保護する。
3.首輪を外す。

※エンディング後からの参戦です。


【ソリダス・スネーク@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:健康
[装備]:バタフライエッジ@FF7
[道具]:基本支給品、壊れたステルススーツ@METAL GEAR SOLID 2、薬包紙(グリーンハーブ三つぶん)@BIOHAZARD 2
[思考・状況] 基本行動方針:バトルロワイアルの打破と主催の打倒。
1.主催者に対抗するための集団“サンズ・オブ・リバティ”を作り上げる。
2.“八十神高等学校”へと向かう。道中で“偽装タンカー”にも寄る。
3.殺し合いに乗った者は殺す。
4.首輪を外す。
5.ソリッド・スネークよりも優れた兵士であることを証明する。

※主催者を愛国者達の配下だと思っています。
※ビッグ・シェル制圧して声明を出した後からの参戦です。
※地図上の固有名詞らしき施設は、参加者の誰かと関係があると考えています。

【共通備考】
※ソリダス、クレア、バレット、オセロットの四人で、参加者の情報を共有しました。
※支給品の譲渡を行いました。
バタフライエッジ:バレット→ソリダス、弾薬:クレア・ソリダス→オセロット、サバイバルナイフ:ソリダス→クレア
※主催者はタイムマシンのような時間を移動する手段を持っており、また主催者たちが異なる時代から参加者を集めたのには、何らかの目的や理由があると考えています。

【クレアのバイク@BIOHAZARD 2】
現地設置品。ラクーン市警内に設置されていた。
クレア・レッドフィールドの私物である大型バイク。車体は赤。
ガソリン満タン。リメイク版では「ハーレー・ダビッドソン」のロゴが書かれている。

【薬包紙(グリーンハーブ三つぶん)@BIOHAZARD 2】
現地調達品。
クレアがグリーンハーブを三つ調合して作成した回復薬。
ちなみに、ラクーンシティの住民のほとんどが、ハーブを調合できるらしい。

528 ◆RTn9vPakQY:2021/09/03(金) 22:07:10 ID:R2RzSOHg0
投下終了です。誤字脱字・矛盾点等ありましたら、ご指摘お願いいたします。
予約期限の超過と連絡の不徹底について、重ねてお詫び申し上げます。

529 ◆vV5.jnbCYw:2021/09/03(金) 22:56:41 ID:5kFmKSqs0
投下お疲れ様です。
頭脳面で立つオセロットとソリダス、短絡的なバレットに、逸般人代表のクレアと、
それぞれのキャラの違いがはっきりしていたのが見事でした。
西ではカイム、北ではセフィロス、東ではイウヴァルト+ドラゴンがいる中、新たに結成されたドリームチームには期待が持てますね。

530 ◆vV5.jnbCYw:2021/09/07(火) 16:43:09 ID:das02p0w0
投下します

531エレクトリック・オア・トリート ◆vV5.jnbCYw:2021/09/07(火) 16:43:42 ID:das02p0w0

「罠があるか確認してください。」
喫茶店が無人の場所だと分かって、最初に発したゲーチスのセリフはそれだった。

「どういうこと?」
発言の意図が分からなかったエアリスが尋ねる。
今更言うまでもないが、未知の場所において、罠の存在に注意するのは重要なことだ。
それが命のやり取りをする場なら猶更である。
だが、どうしてこのタイミングでそんな注意喚起を始めるのかは分からなかった。


「分からないのですか?あの獣人が罠を仕掛けて、ワタクシ達をこの場所に誘導した可能性もあるのですよ。
ここに入った時の鈴の様な音はそのトリガーかもしれません。」

声を殺してエアリスに注意を喚起するゲーチス。
ゲーチスが言っていたことは、整合性が取れていると言えば取れている。
殺し合いに乗った者を軟禁しているというのは真っ赤な嘘で、代わりにその場所に罠を張り、優しい人物を嵌めようとするということだ。

「そんな感じには思えないけどなあ……。」
エアリスはソニックを悪だとは思っていない。
千早と言う少女が隙を突いて逃げ出したのだと思う。
だが、ゲーチスの考えが正しい、あるいは第三者の襲撃の可能性を考慮し、弓矢を構える。
その予想は杞憂に終わり、喫茶店の奥に入っても何も変化はなかった。
だが、喫茶店内をくまなく探してみると、1つ異変が見つかった。


フライパン、鍋、コーヒーメーカー、まな板、冷蔵庫、それにお洒落な食器。
喫茶店の台所を構成する道具のほとんどがあったが、肝心なものが1つだけ無くなっていた。


「きっとここにあったはずの包丁を持ち出して逃げたのよ。」
包丁が立てかけてあるはずの場所を指さす、
しかし、殺傷力がある武器が持ち出されたとなると、是が非でも逃げた千早という女性を探さねばならなくなる。
ナイフを持ったせいで傷付けられる者が現れる可能性は言わずもがな、千早が素人だという前提を踏まえると使い方を誤って怪我をしてしまう可能性だって十分ある。

護身用の武器を持っていないと、安心して眠るのも難しいミッドガルのスラム出身の彼女だからこそ、悪いケースをいくつも思い付く。


「どこへ行くつもりですか?」
早速喫茶店から出ようとするエアリスを、ゲーチスが呼び止める。

「どこって……とにかく逃げた千早を追いかけないといけないでしょ!」
「その必要がありだと、本気で思っているのですか?」
「そうに決まっているでしょ?こうしている間にも千早って子が誰かを襲ったりしたらどうなるか分かってるの?」

またもゲーチスの発言の意図が分からぬまま、エアリスは行方不明の少女を探すことを提案する。

「ワタクシたちは『喫茶店にいる千早を』保護して欲しいと言われました。従ってそれ以外の場所にいても、知ったことではないということです。」
「そんなの暴論よ!」

ゲーチスは自分達の管轄外の問題には、関わる必要がないと、ソニックの言葉を曲解する。
勿論エアリスは、そんな主張を良しとするわけがなかった。
ソニックが戻ってきた時、「既に千早はいなかった」とでも言えば仕方が無かったことになるかもしれないが、頼まれたことを放棄するのは彼女の道理に反していた。

「暴論?ならばこれからどこへ居るとも分からない少女をどう探せと?」
「場所が分からないからこそ、探さないといけないんじゃないの?」

532エレクトリック・オア・トリート ◆vV5.jnbCYw:2021/09/07(火) 16:44:04 ID:das02p0w0

なおも根負けせずに追いかけなければと言い続けるエアリスに対して、ゲーチスは突然諦めたような表情を浮かべた。

「……わかりました。ですが、少々お待ちを。」
懐からモンスターボールを取り出す。
「それは……」
紅白のボールは、エアリスが初めて見たものでは無かった。
この殺し合いが始まった直後、ゲーチスがバイバニラというポケモンが入ったボールを見ていた。
しかし、それはトウヤに奪われてしまったため、どうして持っているのかと疑問に思った。

「あの獣人から受け取った物です。ナイフを持った相手である以上、使える道具は1つでも多い方が良いでしょう。」
相も変わらずポケモンを道具扱いする態度は気に食わなかったが、千早を探すのに協力してくれる意思を見せてくれたことで安堵した。


「!?」

眩しい光を放って、現れたのは、奇怪な姿をした生き物だった。
以前エアリスが見た、バイバニラは辛うじて生き物だと解釈できる姿だったが、このポケモンは極めて生き物だと判断するのが難しい姿をしていた。


何しろ、大きな歯車とその横に2つの小さな歯車が連なったような姿をしているのだから。
注意深く観察してみれば、両の目らしき部位はある。
だがそれを考慮しても、魔晄の力で変貌したモンスターと言うより、神羅が作った機械兵に近い姿をしていた。

そして歯車の無機質な音が静かに響くも、バイバニラの時の様に鳴き声を発さず、平静を保っていた。
それは元のトレーナーの影響を受けたものだったが、2人は知る由もない。

「このモンスター、ゲーチスは知ってるの?」
「知っているも何も、ギギギアルはワタクシの世界のポケモンです。」

ゲーチスはモンスターボールに付いていた説明を見ながら答える。


「頼りになれるポケモンもいたことだし、探しに行くわよ。」
「申し訳ありません。もう1つ用事がありまして。」
エアリスが呼びかけ、喫茶店を出ようとすると、またしてもゲーチスが呼び止めた。

533エレクトリック・オア・トリート ◆vV5.jnbCYw:2021/09/07(火) 16:44:41 ID:das02p0w0

「いい加減にしてよ……」
中々喫茶店から出ようとしないゲーチスに辟易しながら振り向く。
そんな彼女に対し、ゲーチスは静かに呟いた。


「じゅうまんボルト」


エアリスの失敗は3つ。
まずは前方にある危険のことを気に掛け過ぎて、後方からの危険に対する警戒が弱まっていたこと。
彼女はゲーチスを警戒していなかったわけではない。
しかし、今のなお行方不明のカイムに、同じく行方不明の千早と、気にしなければならない人物が増えると、相対的に1人の警戒心は弱まる。
第二に、ギギギアルという、エアリスにとっては未知の、ゲーチスにとってはどこまでも詳しく知っている存在が介入していたということ。


「くっ……!」
後ろから響いていた機械音が激しくなったと思いきや、完全に不意打ちと言う形で電気攻撃を受け、蹲るエアリスの前で、ゲーチスが仁王立ちしている。

「やはりアナタとは共に行動は出来ない。そんなに千早とかいう女を探したいなら、自分1人で探しなさい。」


少なくともギギギアルだけでも無力化させようとするも、思うように体が動かない。

第三に、彼女の世界の「麻痺」とポケモンのもたらす「麻痺」の違いだ。
彼女の世界のまほうマテリアや召喚マテリアから繰り出される雷を受けても、ダメージこそはあるが、身体がまひすることは無い。
更に言うと、彼女の世界で麻痺の力を持つモンスターも、電気ではなく、「にらみ」を使う魔物ぐらいだ。
少なくとも、神羅兵の機械が麻痺攻撃をしてくることは無かった。


そのままゲーチスはエアリスが上手く動けないまま、彼女が持っていた弓に手を伸ばす。
興味があるのは豪奢なデザインが印象的な弓ではない。
絢爛な装飾の中でも、ヒスイ色に美しく輝くマテリアだ。


それをすぐさま自分のスコップに付け替える。
「スリプル!」
放送前、エアリスがカイムに対して行ったことを、見様見真似でやった。


「ゲーチ……ス………。」
抵抗の意思を見せようとするが、むなしく眠りに落ちてしまった。

「ハハハ……そのままそこでじっとしていれば良いです……痛………。」
同時にゲーチスにも虚脱感と頭痛が襲う。
元来魔力を持ち合わせていない彼には、マテリアは代償として体力を著しく奪った。
とは言え、歩くのに差し支えるほどではない。

534エレクトリック・オア・トリート ◆vV5.jnbCYw:2021/09/07(火) 16:45:45 ID:das02p0w0

そのままエアリスを放っておいて、喫茶店から出て行った。
とどめを刺しておけば、自分が危険人物であることを吹聴してくる人物は1人減る。
だが、ゲーチスが恐れたのは、追い詰めた時による手痛い反撃だ。

ポケモンには、追い詰められると本来とは比べ物にならないほどの力を出す者は少なくない。
人もまた同じことが言える。
現にエアリスは放送前にカイムから攻撃を受けたのち、リミット技で動きを止めた所を目の当たりにしたのだから猶更それを恐れた。
加えて慣れぬ魔法を使い、体調は良いとは言えないので、中途半端な攻撃で反撃を許してしまう可能性がある。


だからギギギアルを連れてその場を後にした。
出る時の喫茶店特有のカランコロンという音を気にせず、かつて手ごまとしていた人間が持っていたポケモンと共に、目的地のNの城へと向かう。
エアリスが追いかけてこないことが分かると、虚脱感と頭痛を解消するために、支給品のスタミナンXを半分ほど呷った。
身体がどこか軽くなったような気がして、頭痛やカイムから受けた痛みも消えて行った。

一応、この辺りにナイフを持った千早や、大剣を持った男がいる可能性を警戒し、辺りを伺いながら北へ向かう。

丁度その時、北東の方角から、先刻目撃した火球が飛んでいた。
あの辺りに男はいるのだと思い、その場所に近づくことなく足を速めた。



【C-2/山岳地帯/一日目 黎明】



【ゲーチス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康 高揚感 
[装備]:雪歩のスコップ@THE IDOLM@STER+マテリア ふういん@FF7、モンスターボール(ギギギアル@ポケットモンスターBW)
[道具]:基本支給品、スタミナンX(半分消費)@龍が如く 極
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、野望を実現させる。
1.早くNの城へ行きたい
2.カイムのことはソニックに任せてみる。同士討ちでもすればいい。
3.ギギギアルを上手く利用する
※本編終了後からの参戦です。
※エアリスからFF7の世界の情報を聞きましたが、信じていません。
※ソニックのことをポケモンだと考えています。

※ゲーチスのみならず、魔力を持たない者(例:龍が如くやアイドルマスター出典キャラ)が魔法マテリアを使うと、虚脱感や頭痛に襲われます。
それでも回復なしで過剰に使うと、原作の魔晄中毒の様な状態になります。


【モンスター状態表】
【ギギギアル@ポケットモンスターBW】
[状態]:健康
[特性]:プラス
[持ち物]:なし
[わざ]:10まんボルト・ラスターカノン・はかいこうせん・きんぞくおん
[思考・状況]
基本行動方針
1.ゲーチスに仕える


【D-2/市街地にある喫茶店/一日目 黎明】

【エアリス・ゲインズブール@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:ダメージ小、MP消費(小) 睡眠
[装備]:王家の弓@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド、木の矢(残り二十本)@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:なし(装備品 除く) 
[思考・状況]
基本行動方針:仲間(クラウド、バレット、ティファ、ザックス)を探し、脱出の糸口を見つける。
0.Zzz……
1.カイムのことはソニックに任せてみる。
2.ゲーチスを追いかける
3.カームの街で、人探し、および黒マテリアの捜索をしたい。
4.セフィロス、および会場にあるかもしれない黒マテリアに警戒



【支給品紹介】

【ギギギアル@ポケットモンスター ブラックホワイト】
ソニックに支給されたポケモン。元の持ち主はN。
特性はプラスで、覚えているわざは10まんボルト・ラスターカノン・はかいこうせん・きんぞくおん。

535エレクトリック・オア・トリート ◆vV5.jnbCYw:2021/09/07(火) 16:46:20 ID:das02p0w0
投下終了です

536エレクトリック・オア・トリート ◆vV5.jnbCYw:2021/09/07(火) 19:12:07 ID:das02p0w0
すいません。時間帯は黎明ではなく、午前です。

537 ◆vV5.jnbCYw:2021/11/03(水) 21:02:39 ID:k.2.mQ3.0
セーニャ、9S予約します。

538 ◆vV5.jnbCYw:2021/11/07(日) 19:17:12 ID:Xlvvmxlo0
投下します。

539崩壊の序曲 ◆vV5.jnbCYw:2021/11/07(日) 19:18:18 ID:Xlvvmxlo0
    “Wenn ein Löwe sprechen könnte, wir könnten ihn nicht verstehen.”
もしライオンがしゃべることができたとしても、 私たちは彼らが話していることを理解できないだろう。

ウィトゲンシュタイン

   

「ちょっと、起きてくださいよ!」
周りにいた人間達が次々夢の世界を楽しんでいる中、9Sは1人だけアンドロイドという理由で現実世界に取り残されていた。
しかし、叫んでも揺り起こしても3人は起きる様子を見せない。

「美希!起きてください!!さっき寝たばっかりじゃないですか!!」
「あふぅ……。」
「カミュさん!起きてください!!」
「ぐう……」
「ハンターさん!起きてください!!」
「むにゃ……。」



どの世界でも言えることだが、睡眠というのは大まかに分けて2種類ある。
一つは、生理的欲求の一つである、睡眠欲に従った睡眠。
もう一つは、個人的な欲求とは関係なく、睡眠薬や睡眠魔法など、外的要因から来る睡眠。
ムンナの力による3人の睡眠は勿論後者に該当し、中々目覚めるのが難しいのもまた後者であった。
星井美希は仲間を失ったという精神的な疲労、ハンターとカミュはウィリアムとの戦いという肉体的な疲弊があり、簡単に目覚めることは無かった。
3人の人間の寝顔を見て、どこか無いはずの胸の内が暖かくなるような気分になる。
人の気持ちで例えるなら「愛くるしい」という表現が適切だろう。
人間を守ることが義務のアンドロイドだった9Sだったが、この世界に来るまでは本物の人間に出会うことは無かった。
少なくとも記憶にあるうちでは、人間と触れ合ったことは無かった。


人間はアンドロイドと異なる点は多々ある。
その中の一つは、精神や肉体の回復のために睡眠をとることだ。
1人で寝ることもあるが、より深いやすらぎを得るために時には「家族」や「仲間」のような、集団で眠ることもあるという。
それならば9Sは知っている。
電子頭脳のデータとして知っているだけで、眠りにつく人間どころか、人間そのものをこの殺し合いに参加するまでは見てなかった。
だが、知っているだけの事柄を、実際に見てみると、どこか説明しようのない、それでも満たされた感覚を覚えた。
共に寝て、死者が現れれば埋葬して、歌や踊りのような必ずしも生命の維持には必要ないことに全力を尽くし、腹が減れば物を食べる。
何より、別の人とのつながりをこの上なく愛し、離別を必要以上に悲しむ。
これが自分が守ることになっていた人間なのだと、改めて実感した。
まるでがらんどうだった入れ物に、清く温かい湯が入ってくるような感覚だった。
彼、彼女らをどうにかして起こすのが良いはずだが、それを良しとしなかった。


――――これ、ナインズくんに似合うと思うの!

そう言って美希から渡された、ヘッドマウントディスプレイの形をしたアクセサリーを顔に付けてみる。
彼女の言う「似合う」姿とやらが、自分にどういった印象を抱かせるのか分からなかったが、自分の姿がどう変わったのか気になった。
(そうそう、鏡が無かったですね……。)
既に確認していた、自身の支給品の鏡を覗き込む。
そこに映った姿はーーーーー。


そこには、9Sが知っていて、9Sが知らない姿の自分が映っていた。
鏡が実際に移したのは、今の姿の、美希から承ったアクセサリーを付けた9Sだ。
決して本当の姿を見せつける鏡などではない。
今付けているアクセサリーとは似て非なるゴーグルを付けて、戦っている瞬間を思い出した。


「っ!!!」
脳裏からその姿は消える。
それ以上、ノイズが走るばかりで、記憶が戻ることは無かった。
顔から不快な思いをさせるH.M.Dをむしり取り、投げつけようとする。

(仕方ないですね。)
だが、振りかぶった所でやめた。
この装飾品は、星井美希という守りたい人間が渡してくれた物だ。
それを捨てるどころか、壊したくはない。

(鏡を見なければ良いだけじゃないですか。)
鏡を支給品袋に入れる。


「さて、僕はこれからどうしましょうか。」
少し考えた末に、9Sは1人で美術館の外へ出た。
彼女らを見捨てた訳ではなく、見回りだ。
星井美希といた、美術館の中こそ平和そのものだったが、外はどうなっているか分からない。
そうでもなければ、6時間の間で人が10人以上死ぬことは無い。
実際に9Sはマールディアという死人を見ている。

540崩壊の序曲 ◆vV5.jnbCYw:2021/11/07(日) 19:18:43 ID:Xlvvmxlo0

しかし、外もまた静かだった。
「本当に殺し合いが行われているのでしょうか?」
思わず独り言をつぶやく。
カミュやハンターの言葉を信じてない訳ではない。
しかし、この場所は殺し合いの会場というには静かすぎた。
記憶が失った9Sは、戦争や殺し合いがどのようなものなのかは分からない。
だが、自ずと違うものだとは察しがついた。


美術館の入り口と、3人が寝ている場所を2度ほど往復する。
そうすると、美術館の外の風景に異変が現れた。
天然物だけの風景にケープと金色の短髪の女性が入り込んだ。
美しい女性だった。
もしも9Sがアンドロイドでは無く、年相応の少年ならば胸をときめかせていただろう。
しかし、身に纏ったケープはボロボロで、至る所に血や泥、正体不明の液体が付いていた。
そして彼女は、倒壊したという研究所の方向からやって来ていた。

「大丈夫ですか!?痛む箇所はありますか?」
9Sはカミュからセーニャのことを聞いていたのだが、カミュは「金髪の長髪の女性」と言っていたのに対し、彼女は短髪だったため、セーニャだとは気づかなかった。
最も、気付いた所で事態が好転したとは限らないが。

「私は良いのです……。」
(………?)
9Sの電子信号は、異変を伝えた。
確かに姿は人間の女性だ。彼のデータにある人間と、おおむねどころか完全に一致している。
しかし、両目のセンサーでは、細胞上、人間と一致していないという情報を電子頭脳に送っていた。
勿論、人間じゃないからと言って、邪険に扱うつもりはない。
だが、視覚と情報の不一致で固まった9Sに、確実に隙を与えた。


「邪魔です。」
ヒュッ、と風を斬り裂く音。

「………!!」
9Sは慌ててマスターソードを抜き、セーニャの槍を弾き返した。
アンドロイドである彼は、ある程度の不意打ちにも対応できる。
しかし、彼の電子頭脳をもってしても、分からないことだらけだった。
目の前の女性はなぜ襲い掛かって来たのか。
彼も知らない訳ではない。
人間は他者とつながることのみを愛する生き物では無いと。
つながりを愛する分だけ、否応なく拒絶をし、その結果何度も地球上で人間達の戦争が繰り広げられてきたのだとデータで知っていた。
だが、彼女がしているのはそういった、「誰かを想った反動による拒絶」では無いような気がした。


「カミュさん……ハンターさん、どこ?」
人間の為に作られ、人間の為に生き、人間に尽くすアンドロイドは、人間からの質問に対してウソを付くことなど到底許されない。
だが、データが彼女を人間と認識しない以上は、ウソを付くことも可能だった。
むしろ、星井美希達を守る手段という方法の選択だった。

541崩壊の序曲 ◆vV5.jnbCYw:2021/11/07(日) 19:18:59 ID:Xlvvmxlo0
「知りません。」
9Sは冷静に答える。
彼女を止めねば、美術館の中にいる3人に危機が及ぶ。
「メラゾーマ」

巨大な炎の玉が9S目掛けて飛んで来た。
「くっ……!!」
刺突と同様、これも躱す。
しかし、電子頭脳内には、未知の力を見たことにより、ノイズが走っていた。
魔法というシステムは、カミュとのやり取りでデータにインプットされた。
なぜこの女性が、自分に目掛けて魔法らしき術を使って来たのか理由が分からなかった。
(戦うしかない!!)


これまで守りに徹していた9Sはセーニャに向かっていく。
生物特有の迷いが無い以上は、すぐに攻撃に転じることが出来た。
横薙ぎ、袈裟斬り、袈裟返し。
速く確実な一撃をセーニャへと打ち込む。
記憶を失ったアンドロイドでありながら、迷うことなく戦うことが出来るのは、雛鳥が理屈で分からなくても生命維持のために口を開いて、食物を嚥下するようなものだ。


初手の横薙ぎはセーニャが後退したことで躱され、二撃目の袈裟斬りは槍で受け止められる。
しかし、三撃目の袈裟返しで、相手の守りを崩した。
黒の倨傲は角度を変えられ、無人の天を突く。
隙が出来たことを見抜いた9Sは、そのまま勢いよく四撃目の袈裟斬りで、セーニャの腕を斬りつけた。


(まだ浅い……!!)
片腕を斬り落とすことで、両手武器であった槍を事実上使えなくさせようとした。
しかし、腕を落とすには至らなかった。
彼女が装備している星屑のケープの防御力に加えて、彼女の体内に蠢いているジェノバ細胞とGウイルスによる身体能力の向上もあった。
それ以上に、9Sが目を見張ったのは、彼女の腕に出来たばかりの傷跡だった。
(何でしょうか……アレは……)
ぐにゅぐにゅと、斬られた肉が蠢き、切断部を結合させようとしている。
「ベホマ」
セーニャの回復魔法による後押しもあって、簡単に傷は塞がってしまった。


「あなたはどうしてこんなことをするのですか?」
いよいよ人間なのかそれ以外の生き物なのか、分からなくなってきた。
だが、未知の存在を目の当たりにするたびにそれを調べたくなる9Sの好奇心が、攻撃では無く質問という選択肢を選ばせた。


「どうして?お姉さまのため……カミュさん……ハンターさん……クラウド……ああははははは殺すはハハはは黒マテリアははハハハハは殺すハひひひひひひ!!!」
言葉を話しているのに、まるで話がかみ合っていない。
とても人間と話しているようには思えなかった。
それなのに人間のような姿をしており、人間の言葉を話しているからこそ、余計気味悪く感じた。
そして、セーニャの瞳は、9Sを見ていない。
どこを見ているか焦点が合わず、ぎょろぎょろと量の目玉がばらばらな動きをしている。


「ひひひひ。壊れなさい。マヒャド。」
突然、攻撃を始めた。
行動の一致し無い所も、覚束ない口調もまるで壊れた機械だ。
自分で考えるのもなんだが、アンドロイドで自分の方がはるかに人間らしい。
9Sにはそう感じた。

542崩壊の序曲 ◆vV5.jnbCYw:2021/11/07(日) 19:19:25 ID:Xlvvmxlo0

だが、そんなつまらない比較をしているどころではない。
上空から白銀の刃が雨あられと降ってくる。
それを9Sは躱し、避け切れないものはマスターソードで砕いていく。

「たああああ!!」
しばらくして氷の雨が止むと、すぐに攻撃を仕掛けた。
「ベギラゴン。」
今度は左右から炎の波が襲い掛かる。
9Sはそれを跳び越え、聖剣による一撃を打ち込もうとする。
その動きは、ただの偶然だが元のマスターソードの持ち主が使っていたジャンプ斬りに酷似していた。
(よし、このまま一気に……)


しかし、空中で2発目のベギラゴンが9Sに襲い掛かる。
「なっ……」
ただで受けることはせず、空中で身を捩って剣を振り回し、閃熱魔法を吹き飛ばそうとする。
完全には無効化できず、服の一部が焼け焦げた。


彼女が魔法を唱えた後、一定のタイムラグがあるのは見抜いていた。
カウンターをされた際に、回避するのに難がある空中からの攻撃を選択した理由も、一瞬の間魔法が来ないと計算したからだ。
ゆえに、セーニャのやまびこの心得による二重連撃には対応しきれなかった。


「ふふふひひひああああははははあはああひゃひゃ、死んで!壊れて!死んじゃってください!!」
9Sが着地してからも、壊れた音声機械が漏らすノイズのような笑みを浮かべ、槍を振り回して襲い来る。
動きそのものは大したことは無い。だが、疲れることを知らないかのようにフルスイングで迫られると、十分脅威である。
それでも、9Sは恐れることなく踏み込んだ。


懐に踏み込むと、すかさず聖剣をセーニャの腹部に突き刺す。
中距離では槍で襲ってきて、遠距離からでは手の内が掴めない魔法の餌食になる以上、超至近距離で戦うのが一番安全だと9Sは判断した。
「どうだ!!」
「イオナズン。」
(……!!まずい!!)


慌てて刺した剣を抜き、後方に退避しようとする。
しかし手遅れだった。
セーニャと9Sが密集した地点で、黄金色の光をまとった爆発が起こる。

543崩壊の序曲 ◆vV5.jnbCYw:2021/11/07(日) 19:20:02 ID:Xlvvmxlo0

「うわああああ!!!」
アンドロイドと言えども、極大爆発魔法の直撃を受ければただでは済まなかった。
一発でバラバラになってはいないのだが、美希から貰ったアクセサリーは吹き飛ばされ、いくつか体の破片が零れ落ちた。
普通の神経の魔法使いなら決して起こさない、超至近距離での大爆発は、彼女自身にもダメージがあった。
星屑のケープで覆われていない両手や、顔などはそれなりな火傷を負っている。
だが、彼女は攻撃の手を休めない。
9Sに刺された腹から見せた肉は、ブルブルと脈打ち、そこから現れた真紅の蛇のような生き物が、傷口を防いだ。
その姿は、データ上にある人間の回復方法では無かった。


「まだだ!!」
自分の怪我も厭わず、セーニャに向かっていく。

この女性の正体は何者なのか分からないが、少なくとも人間ではないと判断した。
9Sにとって人間とは星井美希やカミュ、ハンターのような生き物だ。
それに引きかえこの女性は、人間達が愛していたものを拒絶し、壊し、破壊をまき散らしている。
こんな生き物を人間だと認めるわけにはいかない。
こんな生き物に、美希達を傷付けさせるわけにはいかない。


「早く死んでください。メラゾーマ。」
飛んでくる大火球を聖剣で両断し、スピードと決断力に物を言わせて、目の前の怪物を滅多切りにする。
セーニャに幾つか裂傷が出来るが、その度にジェノバ細胞が、Gウイルスが彼女を治癒していく。

しかし、相手に自然回復を考えに入れても、9Sが与えるダメージの方が多い。
このまま攻め続ければ、勝てる。
そう、このまま攻め続けられれば。
敵がまだどれだけ未知の手札を持っているか分からないのだ。
手札の内容がこれまでのもの以上に厄介ならば、勝機は薄い。


(そうだ……!)
9Sがザックから出したのは、先程自分の姿を見るのに鏡だった。

「メラゾーマ。」
何発目か、魔法が放たれる。
「これでどうだ!!」
9Sの支給品に会った鏡は、ただの鏡に非ず。
味方1人に魔法属性攻撃を反射するバリアを張る「魔反鏡」だ。
綺麗な鏡は輝いた瞬間、紅蓮の魔弾のベクトルを逆向きに変えた。


「……!?ぎゃああああああああ!!!」


反対にセーニャが炎に包まれる。
星屑のケープで魔法のダメージを抑えられていても、直撃すればダメージは多大だ。
それでも、破壊するために立ち上がる。
トドメとばかりに振りかざした9Sの一撃を、槍で止める。


(これでも倒しきれないのか……)

544崩壊の序曲 ◆vV5.jnbCYw:2021/11/07(日) 19:20:04 ID:Xlvvmxlo0

「うわああああ!!!」
アンドロイドと言えども、極大爆発魔法の直撃を受ければただでは済まなかった。
一発でバラバラになってはいないのだが、美希から貰ったアクセサリーは吹き飛ばされ、いくつか体の破片が零れ落ちた。
普通の神経の魔法使いなら決して起こさない、超至近距離での大爆発は、彼女自身にもダメージがあった。
星屑のケープで覆われていない両手や、顔などはそれなりな火傷を負っている。
だが、彼女は攻撃の手を休めない。
9Sに刺された腹から見せた肉は、ブルブルと脈打ち、そこから現れた真紅の蛇のような生き物が、傷口を防いだ。
その姿は、データ上にある人間の回復方法では無かった。


「まだだ!!」
自分の怪我も厭わず、セーニャに向かっていく。

この女性の正体は何者なのか分からないが、少なくとも人間ではないと判断した。
9Sにとって人間とは星井美希やカミュ、ハンターのような生き物だ。
それに引きかえこの女性は、人間達が愛していたものを拒絶し、壊し、破壊をまき散らしている。
こんな生き物を人間だと認めるわけにはいかない。
こんな生き物に、美希達を傷付けさせるわけにはいかない。


「早く死んでください。メラゾーマ。」
飛んでくる大火球を聖剣で両断し、スピードと決断力に物を言わせて、目の前の怪物を滅多切りにする。
セーニャに幾つか裂傷が出来るが、その度にジェノバ細胞が、Gウイルスが彼女を治癒していく。

しかし、相手に自然回復を考えに入れても、9Sが与えるダメージの方が多い。
このまま攻め続ければ、勝てる。
そう、このまま攻め続けられれば。
敵がまだどれだけ未知の手札を持っているか分からないのだ。
手札の内容がこれまでのもの以上に厄介ならば、勝機は薄い。


(そうだ……!)
9Sがザックから出したのは、先程自分の姿を見るのに鏡だった。

「メラゾーマ。」
何発目か、魔法が放たれる。
「これでどうだ!!」
9Sの支給品に会った鏡は、ただの鏡に非ず。
味方1人に魔法属性攻撃を反射するバリアを張る「魔反鏡」だ。
綺麗な鏡は輝いた瞬間、紅蓮の魔弾のベクトルを逆向きに変えた。


「……!?ぎゃああああああああ!!!」


反対にセーニャが炎に包まれる。
星屑のケープで魔法のダメージを抑えられていても、直撃すればダメージは多大だ。
それでも、破壊するために立ち上がる。
トドメとばかりに振りかざした9Sの一撃を、槍で止める。


(これでも倒しきれないのか……)

545崩壊の序曲 ◆vV5.jnbCYw:2021/11/07(日) 19:20:33 ID:Xlvvmxlo0

「おい!!何があったんだ……」
その時、美術館の中から声が聞こえた。
走って来たのは、カミュだった。

「カミュさん!?」
「あの美希って女とムンナってモンスターは、ハンターのおっさんが守っている。安心しろ!」
予想外の援軍に安堵する9S。
しかしその一方で、カミュの顔は引き攣っていた。


「おまえ……」
セーニャの姿を知らず、説明でしか聞いてない9Sは、カミュが話した「セーニャ」が目の前の女性のことだと知らなかった。

「ふふ。」
「セーニャ、なのか?」
ボロボロになって、どういう訳か髪型が違う。
だが、セーニャと共に旅をして、破壊神を倒したカミュならば、少しぐらい姿が変わっていても彼女だと安易に分かった。


「ふひひひははははは」
「どういうことです……?」
9Sは全く理解が出来なかった。
目の前の化け物が、人間で、カミュと仲間だったという事実に。

(どうして……?)


その矛盾が発覚した時、頭脳にこれまでで一番大きなノイズが走った。



【B-4/美術館内/一日目 昼(放送直前)】



【ヨルハ九号S型@NieR:Automata】
[状態]:ダメージ(大) 記憶データ欠如 混乱(小)
[装備]:マスターソード@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:記憶を取り戻す。
1.目の前の女性(セーニャを倒す
2.人間を守る
3.休憩後、四人でイシの村へと向かう。その後は未定。
4.僕は一体何者なんだろう。

※Dエンド後、「一緒に行くよ」を選んだ直後からの参戦です。
※ゴーグルは外れています。
※記憶データの大部分を喪失しており、2BやA2との記憶も失っていますが、なにかきっかけがあれば復活する可能性はあります。
※元の世界で人類が絶滅していたことを思い出しました。
※自分が戦っていたことを思い出しました。




【カミュ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(小)、MPほぼ0、ベロニカとの会話のずれへの疑問
[装備]:必勝扇子@ペルソナ4
[道具]:基本支給品、フリーズロッド@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド カミュのランダム支給品(1〜2個、武器の類ではない) ウィリアム・バーキンの支給品(0〜2)(確認済み) 七宝の盾@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド
[思考・状況]
基本行動方針:仲間達と共にウルノーガをぶちのめす。
0:セーニャ……!?
1.休憩後、四人でイシの村へと向かい、ベロニカ達と落ち合う。
2.仲間や武器を集め、戦力が整ったらセフィロスを倒す。
3.これ以上人は死なせない。

※邪神ニズゼルファ打倒後からの参戦です。
※二刀の心得、二刀の極意を習得しています。


【セーニャ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
状態]:HP1/10 右腕に治療痕 自然回復 頭痛 吐き気 全身に火傷  MP消費(中)
[装備]:黒の倨傲@NieR:Automata、星屑のケープ@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1個)、軟膏薬@ペルソナ4
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して世界樹崩壊前まで時を戻し、再び破壊する。
1.壊す。まずは目の前の9Sとカミュから。
2.誰の言いなりにもならず、自分の意思で破壊を続ける。

※世界樹崩壊後、ベロニカから力を受け継いだ後からの参戦です。
※ウルノーガによってこの殺し合いが開催されたため、世界樹崩壊前まで時間を戻せば殺し合いがなかったことになると思っていました。
※ザキ系の呪文はあくまで生命力を奪う程度に留まっており、連発されない限り即死には至りません。
※放送は気に留めておらず、名簿を見ていません。
※セーニャの体内のジェノバ細胞によって、セーニャの得た情報は、セフィロスにもインプットされます。
※セフィロスからの精神的干渉を受けています。今のところは自我を保っていますが、何か精神的ダメージを受ければ、セフィロスの完全な傀儡化するかもしれません。
※ジェノバ細胞の力により、従来のセーニャより身体能力、治癒力が向上しています。
※外見は右腕の癒着痕を覗き、少なくとも現在は特に変化はありません。
※体内に胚を植え付けられてGウイルスに感染しました。
※現在はジェノバ細胞の力により適合できています。また、ジェノバ細胞との共存により外見に変化は見られませんが肉体ダメージによりGウイルスが暴走するかもしれません。


※9Sの付近に、半壊したH.M.D@THE IDOLM@STERが落ちています。

【支給品紹介】
【魔反鏡@ペルソナ4】
ヨルハ9号S型に支給されたアイテム。
使うと味方に魔法を反射するバリアを張ることが出来る。一度使うと無くなる。

546崩壊の序曲 ◆vV5.jnbCYw:2021/11/07(日) 19:20:45 ID:Xlvvmxlo0
投下終了です

547 ◆RTn9vPakQY:2021/11/09(火) 23:30:01 ID:m.Rf/nlw0
投下乙です!
ソリッド・スネーク予約します。

548 ◆RTn9vPakQY:2021/11/17(水) 07:13:16 ID:1qKJfE0s0
すみませんん、予約を破棄します。

549 ◆vV5.jnbCYw:2022/03/11(金) 17:43:10 ID:80U2a3XQ0
千早、イウヴァルト、ルッカ、N予約します。

550Magical Singer 風と空と太陽と ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:31:01 ID:6e.eMJ9c0

学校で起こった出来事や、私の傷心を嘲笑うかのように、空は綺麗に晴れ渡っていた。
夏の都会に見られるような、ギラギラした獰猛な光ではない。
この世界に四季はあるのか分からないが、5月の初頭のように、優しい光が屋上を照らしている。
今日は事務所のレッスンに出ずに、町の人が少ない公園で歌の練習をしようか。
この世界に人の命を平気で摘み取ろうとする者がいないなら、そんなことを考えてしまうほど良い天気だった。
屋上からフェンス越しに広がる市街地に草原、そして海。
それらが全て優しい光を反射し、それぞれ異なる光を放っていた。
心地よく私の頬を撫でる風。
挨拶でもするかのようにきらきらと輝く景色。
この世界もまた、残酷なまでに美しかった。
美しいものは残酷だと聞いたことがあるが、この景色を見るとそれが良く分かる。


そう言えば、と私は思い出したことがあった。
弟の優を失った後も、私が住む町の景色は崩れることは無かった。
太陽が出れば日光が街を照らし、大人も子供もあわただしく歩道を歩き始め、夜になれば街灯が、ビルの明かりが街を照らす。
如月家が壊れた後も、それは変わらなかった。一つの家族が壊れた後でも、同情の顔一つ向けることない。


13人の人間が死んだこの世界の景色もまた綺麗なままだ。
何かを喪うと景色がモノクロになるとも聞いたことがあるが、それは人が変わったのであり、景色が変わった訳ではない。
美しい景色は、喪った人に寄り添うことも無く、どこまでも残酷に美しいままだ。


けれど、私はここで歌い続ける。
それが、私の生きる理由であり、この世界で生きる第一歩だからだ。



「スウゥゥゥゥゥ………」

澄んだ空気を肺に、胸に、そして腹の奥へ吸い込み、口を開ける。
この場所は、音源はなく、共に歌ってくれる仲間もいない。
先程まで居た歌を聞いてくれる仲間も、死んでしまった。
違う。
生きている者だけが、歌を聞くことが出来る訳ではない。
少なくとも私はそう信じたい。
例えば『しゃぼん玉』のように、死者を想って作られた歌は数えきれないほどある。
他にも神や精霊のような、いたのかさえ定かではない者に捧げる歌だって少なくない。
もし歌が生者にしか伝わらないのなら、見えている者にしか伝わらないのなら、それほど多くの死者を想った歌は作られなかったはずだ。

「あーーー……あーあーーー…アーーー……。」

まずは、観客に聴かせることをイメージして、調律を合わせる。
歌と自分の想いを結び、どこかで聞いているはずの春香や雪子の心に届けるために。
それだけじゃない。弱い私を奮い立たせるために。
そうだ、あの曲にしよう。
本当は死者を想う歌にしようと考えたけど、その歌は無事に帰ってからでいい。
あの曲はかつてアカペラで歌うことが出来たし、そう言ったものが無いこの場所で歌うにも向いている。

551Magical Singer 風と空と太陽と ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:32:39 ID:6e.eMJ9c0

頭の中で、1,2,3,4と拍子を取る。


   ずっと眠っていられたら
   この悲しみを忘れられる
   そう願い 眠りについた夜もある

   ふたり過ごした遠い日々
   記憶の中の光と影
   今もまだ心の迷路 彷徨(さまよ)う


   あれは 儚(はかな)い夢
   そう あなたと見た 泡沫(うたかた)の夢
   たとえ100年の眠りでさえ
   いつか物語なら終わってく
   最後のページめくったら


だから、私は歌う。
生きることを許してくれなかった残酷な世界にいてなお、笑顔を絶やさなかった優のために、春香のために、雪子のために。
理不尽に耐え切れず、誰かに理不尽を押し付けようとしていたあの眼鏡の少年のために。
この世界で会ったことも無い、他の11人の死者のために。
理不尽に離別を突き付けられた、56人の生きている人たちの為に。



   眠り姫 目覚める 私は今
   誰の助けも借りず
   たった独りでも
   明日へ 歩き出すために
   朝の光が眩しくて涙溢れても
   瞳を上げたままで


そして、私が王子様の力を借りながらも目覚め、歩き続けることが出来た眠り姫のように、自分の足で前へ進めるようになるために。


私は、この残酷な景色をバックに、歌い続けた。
今度は聞いてくれる者は1人もいない。
違う。いるはずだ。
幽霊などは信じたつもりは無いが、私の見えない場所から聞いているはず。



   どんな茨の道だって
   あなたとならば平気だった
   この手と手 つないでずっと歩くなら
   気づけば傍にいた人は
   遥かな森へと去っていた
   手を伸ばし 名前を何度呼んだって
   悪い夢ならいい
   そう 願ってみたけど
   たとえ100年の誓いでさえ
   それが砂の城なら崩れてく
   最後のkissを想い出に


理不尽にとらわれることこそあれど、私は童話の眠り姫と違い、白馬に乗った王子様が助けに来てくれることはない。
いや、王子様ではないにせよ、私の目を覚まさせてくれた仲間がいた。
この世界で、かつての世界で。
だから私はきっと一人でも歌い続けることが出来る。
違う。一人じゃない。見えていないだけで、きっとすぐ近くに仲間はいるはず。



   眠り姫 目覚める 私は今
   都会の森の中で
   夜が明けたなら
   未来 見つけるそのため
   蒼き光の向こうへと涙は拭って
   あの空見上げながら
   誰も明日に向かって生まれたよ
   朝に気づいて目を開け
   きっと涙を希望に変えてくために
   人は新たに生まれ変わるから



でも、私は茨の包む城で眠り続ける姫ではなく、危険を冒してでも姫を助けに行った王子様のような決意が欲しい。

552Magical Singer 風と空と太陽と ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:33:12 ID:6e.eMJ9c0


   眠り姫 目覚める 私は今
   誰の助けも 今は要らないから
   独りでも明日へただ
   歩き出すために
   そう 夜が明けたなら
   未来 見つけるそのため
   蒼き光の向こうへと涙は拭い去り
   あの空見上げて



歌い終わった時特有の心地よさが、身体中を駆け巡る。
歌は胸の内に泥のように溜まった悪いものを浄化してくれる。
私が歌が好きな理由の1つは、この歌った後の満ち足りたような気持ちがあるからだ。
元の世界の仲間を失い、この世界で出会った仲間を失った今でも、それは変わらないようで嬉しかった。




その時、ひゅうと風が私の頬を撫でた。
風は金網のフェンスから入り、私の髪をふわりとさせ、またフェンスへと抜けて行く。
それは私を吹き飛ばそうとするほど強いものではなく、小春日和の川沿いのような、心地よくて涼し気な風だった。
まるで歌い終わった自分に、天が祝福をくれたように感じた。
god bless(神の祝福)もとい、god breath(神の息吹)というものだろうか。
そんな雪子が聞いたら吹き出しそうな、正確には雪子ぐらいしか吹き出さなさそうなことを思い浮かべてしまう。


友達の名前が呼ばれてから、沈み切っていた私の心が、少しだけ軽くなった気がした。
その時、感じることは無いと思っていた空腹を感じたため、休憩も兼ねて食事を摂ることにする。
もっともっと歌いたいのだが、休みなく歌い過ぎて喉を潰してしまえば本末転倒だ。
ザックを開けて、食べられるものを取り出す。


中にあったのは、ビスケットと水。
満腹には程遠いが、歌を紡ぐためのエネルギーが確保できればいいため、問題はない。
辛い物や炭酸飲料のように、喉を傷める飲食物が無かっただけでも喜ぶべきだ。


屋上に座って、ビスケットを食べる。
味も素っ気も無いが、栄養はあるらしく、6時間以上ものを食べていない私の身体に、血管を通して栄養が巡って来るのを感じる。
少し口の中に噛み砕いたビスケットが残ってしまう気持ち悪さが残るが、水で流す。
食べている間に今思ったことだが、この学校の屋上は涼しく、過ごしやすい。
私がかつていた学校は、屋上に立ち入り禁止だったので、学校の屋上というのはこれが初めてだったが、降り注ぐ日光と穏やかなそよ風が、どこか受け入れてくれる優しさを感じた。
座るっていることで視線が落ちたため、私の目に屋上のコンクリートの隙間に生えていた雑草が映りこんだ。
これも元居た世界にあったものだろうか。
だとすれば、実に拘ったコピーだろう。
そんなどうでもいいことを考えてしまった。

553Magical Singer 風と空と太陽と ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:33:30 ID:6e.eMJ9c0

今目の前にある、名前も知らない草が本物なのかどうかは分からない。
この草も私と同じで、仲間がいなくても、こんな恐ろしい場所でも生きようとしているのだろうか。
またそんなどうでもいいことを考えてしまった。
考えてもどうにもならないことを考えてしまうのは私の孤独か、それとも弱さか。
例え拍手を送ることが出来ない生き物だったり、作り物だったとしても、歌を聞いてくれるのならばそれでいい。


支給された食料を取り出したついでに、自分のそれ以外の支給品を調べてみる。
マイクや音源は期待する方がおかしいが、護身用の武器だってあるかもしれない。
最もあったとしても使えるかどうか分からないし、あの金髪の男と戦えるかと言われれば首を横に振らざるを得ないが。
あったのは、宝玉のような首飾りに、バッジ。
残念ながら使えそうにないが、アイドルが身に着けるアクセサリーの感覚で身に付けておく。


私は前へと歩き続けるために、再び『眠り姫』を歌い始めた。
もう一度風が吹いた。



♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪




病院を後にしたイウヴァルトは、参加者を探して当て所なく歩いた。
胸に何とも言えない苛立ちを押し込んで。
殺し合いに乗るからには、どんな呪詛の言葉とて自分に届かないと思ってた。
そもそも『呪ってやる』、『地獄へ堕ちろ』と言ったありふれた呪詛は、ブラックドラゴンと共に連合兵を殺し回っていた時に飽きるほど聞いた。
既に自分は呪われてるし、いずれは地獄へ堕ちると、言われなくても分かっていた。


―――たまには、自分の意思で動いたらどうだ。


病院でガタイのいい男に言われた言葉。
振り払おうとしても窓にへばりついた虫のように脳裏から離れず、何度も木霊する。
そしてその言葉は、彼に苛立ちを加速させた。
腹いせにアスファルトの道路にぺっと唾を吐いた。
それで怒りが収まる訳では無いが、何かせずにはいられなかった。



何度目か市街地の角を曲がった時に、不意に耳に柔らかい何かが入り込んできた。


――――――――♪


かすかに聞こえて来たのは歌だった。
まるで光に誘われる蛾のように、ふらふらと音の方向へ向かって行く。



――――――――♪

それは、歌い手の優しさと寂しさが表明されているかのような歌だった。
異なる国の曲だからか、彼が良く知っている曲とは旋律や音階がだいぶ異なっている。
だが、それでも悲しさがありながらも、力強さが伝わる歌だとはっきり分かった。


歌声が聞こえてくる方向に、両の足をしっかりと踏みしめて歩く。
彼にとっては、歌の上手い下手、歌が伝えようとしていることは関係なく、歌い手そのものが憎らしくて仕方が無かった。
なぜこの緊迫した状況で歌なんか歌っている奴が生きていて、フリアエ死んでしまったんだという憎悪。

554Magical Singers 風と空と太陽と ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:34:10 ID:6e.eMJ9c0
どんな歌を歌っても、変えられるものはないという侮蔑。
そして、この先にいる相手が、自分が契約によって失ったものを持っているという妬み。


歩いていくと、歌声の主は高い建物の屋上にいることが分かった。
鞘に納めた剣の柄を握りしめる力が、自然と強まる。
イウヴァルトの世界は、元々戦火に晒されていたため歌える機会などそう無かった。
残された僅かな機会も、ブラックドラゴンとの契約によって完全に失ってしまった。


校門から彼にとっては見慣れない建物の中に入り、校舎の中から屋上への階段を探す。
人がいない学校特有の、ひんやりとした空気が彼の頬を撫でる。
だが、その程度の冷気で彼の怒りの炎を消すことは出来ない。


彼には命よりも大切なものが、2つだけあった。
1つは、彼を彼たらしめることが出来る歌。
無口だが剣でも学問でも何でもできた幼馴染に、唯一勝つことが出来た歌。
だが、それはもう1つの大切なものを取り戻すために、捨ててしまった。


1階の廊下を曲がり、階段を見つけ、2段飛ばしで登っていく。
実は歌は参加者をおびき寄せるための餌だとか、歌う者の周りに護衛がいるとか、そのようなことを考えられる余裕は怒りの波に沈んでしまった。


黙らせたかった。
あの歌を止めたくて仕方が無かった
自分が未来へ進むために失ってしまったものをなおも持っている人間を殺したかった。
殺し合いに乗るとは決意したが、ここまで個人に対して殺意を抱いて殺しに向かうのは初めてだった。
2階と3階の間辺りで、大剣を抜く。
段々と音に近づいて行く。



♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪


「歌が聞こえるわね。」

首輪解除の手掛かりを探して、八十神高校を目指していたルッカとNは、異変に気が付いた。
屋上から、どこか優し気であり、悲し気なメロディーの歌が聞こえて来た。
その旋律にルッカは酒場で流れるピアノの演奏を思い出し、Nは幼少期に過ごした部屋で流れた曲を思い出した。


あの歌をもっと近くで聞きたい、どんな人が歌っているか会ってみたいと気持ちは逸るが、ルッカは一度考える。
なぜこんな場所で歌っているのか、と。
これほど長い時間、自分の居場所を知らせるようなことをしながら、誰にも襲われていないというのも不自然に感じた。
屋上にいる歌い手が、凄まじい力を持っている、あるいは護衛がいるというケースを想定してみる。
ルッカの仮説が真であるとすると、歌い手が殺し合いに否定的ならば、交渉次第で強い味方が出来る可能性が高い。


だがもし、歌い手が殺し合いに乗っていて、この歌も罠ならば?
ふと彼女が幼い頃、サイエンスに目覚める前に読んだ、美しい歌で人間をおびき寄せて食い殺す怪物のことを思い出した。
屋上にいるのは、人を殺すために歌を歌い、人の命を糧としてまた歌う怪物。
そんなものはサイエンスの世界にはあり得ないと言いたいが、これまでの冒険でも未知の敵はいた。


警戒すべきだが、あの歌は誰かを呼ぶために命を懸けて歌っているものだったら、殺し合いに乗った者に命を奪われる危険性がどんどん高くなる。

555Magical Singer 風と空と太陽と ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:34:38 ID:6e.eMJ9c0

(恐れている場合じゃないわ。答え合わせを怖がっていれば、永久にサイエンスの道は開かれない。)

意を決して、校舎に乗り込もうとする。
ふとNはどうしているのかとなりを見ると、何かに憑りつかれたようにぼんやりと校舎を見つめていた。


「何を見ているの?あの歌の所へ行かないと。」
「不思議なつくりの建物だなと思ってね。」


ルッカの世界では公教育のシステムは未発達なので、学校という建物を知らなかった。
サイエンスの技術は広い家を使って、専ら独学で磨き上げてきたものだ。
だが、学校という建物に不思議なものを感じたことは無かった。


「分からない?この無機質と有機質が混ざり合ったデザイン……
一切の円を拒絶した、直方体だけで作られながらも、どこか命を感じる……。」

(やっぱり、この人は何考えてるか分からないな……)

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!あの歌の所へ行かないと!!」
ルッカはNの手を引き、校舎の中に入って行く。


八十の神の名を冠す学校に、歌に惹かれた3人が集う。
彼らが齎すのは救いか災いか。
はたまた、救われるのは歌い手か聞き手か。

556Magical Singer 風と空と太陽と ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:35:02 ID:6e.eMJ9c0
前半投下終了です。後半投下します。

557Magical Singer 盗めない心 ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:35:32 ID:6e.eMJ9c0

「あなたは……?」
屋上の扉が開かれる。
舞台に立って歌う前とは違う緊迫した雰囲気。

平和な国に産まれて、真っ当な人生を歩めていれば生涯感じることのない感覚を、千早は数時間前に覚えていた。


「その歌をやめろ。」
屋上に現れた男は、刃を千早の方に向ける。
今度は天城雪子のように自分を守ってくれる者はいない。使える武器もないし、あった所でうまく使えない可能性の方が高い。
傍から見ればどう考えても、ここで最期を迎え、春香や雪子の下へ行くことになるしかない。
僅かな生存の可能性に欠けて、歌うことをやめて、イウヴァルトに許しを請うしかない。
だが、千早にとってイウヴァルトの言葉は、『殺す』という言葉以上に抗わねばならぬ言葉だった。
歌は如月千早という少女にとっては命と同じか、それ以上に価値のあるものだった。


だからといって、今の千早がこの場から生き延びる可能性は限りなく低い。
目の前は敵、それ以外の三方向はフェンス。
仮に逃げ道があった所で、戦争の経験があり、契約者で人間の身体能力を大きく超えているイウヴァルトを振り切れる可能性は、限りなく低い。



「分かりました。ですが、最後に1度だけ歌わせていただけませんか?」
彼女がなぜこう言ったのかは、彼女自身にも分からなかった。
最期の1曲で満足する訳もなく、もっともっと歌いたい。
歌には様々な奇跡を起こしてきたと言われているが、それはあくまでおとぎ話の世界だ。
そして千早は自分が目の前の男を改心させるような奇跡を起こせると思ってるほど、自惚れているわけではない。
時間稼ぎだとしても、もう少しマシな言い訳があるはずだ。


「……良いだろう。」
気でも狂ったのか、と一瞬思うも、こんな状況ならば仕方がないと考えた。
彼が千早に垂らしたのは救いの糸ではない。
歌い終わるその直前で胸を突き刺し、自分がしてきたことがいかに無駄なのか思い知らせるつもりだった。
歌では誰も救えないし、誰も守れない。
戦場で役に立つのは、如何なる時も絶対的な力だけだ。
それはフリアエを守れなかったイウヴァルト自身が悲しいぐらい分かっていることだった。
だからこそ彼は契約で歌を失ったとしても、誰かの歌を汚すような真似をしても悔いはなかった。

558Magical Singer 盗めない心 ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:36:36 ID:6e.eMJ9c0

彼の言葉を聞いて、千早は少し安堵した。
本当は死にたくないし、刃を向けられているだけで怖気が止まらない。
彼女だって職業柄ナイフを向けられるアイドルのニュースは聞いてない訳では無いが、いざその状況を目の当たりにしてみると、恐ろしいな、と改めて思った。



(でも、私はまだ歌える。しかも観客もいてくれた。
そうだ、次に歌う曲はあの歌にしよう。)


――――これが、私に出来る戦いだ。


気を集中させて、恐怖を押し殺した。
彼女がつけたペンダントは『肝っ珠』と呼ばれていた。
この高校で眠る雪子が知っていたそのアクセサリーは、恐怖心を抑え、戦えなくなる状況を防ぐ。
勿論、それはあくまでほんの一押しなだけ。
だが、覚悟を決めた彼女にとって、その一押しで十分。


この時、彼女はこの世界の闇を、彼女の過去を乗り越えた。
目の前の男の狂気に毒されず、彼の真っ赤な目から感じ取った僅かな悲しみまでも糧にして、歌い始めた。



   ねえ今 見つめているよ
   離れていても
   Love for you 心はずっと
   傍にいるよ

   もう涙を拭って微笑って
   一人じゃない どんな時だって
   夢見ることは生きること
   悲しみを超える力


歌声は響く。
どこまでも、響き続ける。
人の悲鳴、魔物の足音、竜の咆哮
連合軍として、帝国軍として様々な轟音を聞いてきたイウヴァルトだったが、どんな音よりも心に強く残った。
そして、広葉から滴り落ちる朝露のようにやさしく、彼の鼓膜に染み渡る歌だった。



   歩こう 果てない道
   歌おう 天を超えて
   想いが届くように
   約束しよう 前を向くこと
   Thank you for smile



何を思っているんだ自分は、とイウヴァルトの剣を握りしめる手が強くなる。
自分の持っていないものを持って、それを生き甲斐にしている人間なんて、カイムと同じ不快な人間だ。
そう言い聞かせ、もう動かないはずの心を叱咤する。

(俺は殺すことが出来る!殺して、フリアエを生き返らせてもらう!!俺は出来るはずだ!!)

559Magical Singer 盗めない心 ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:37:50 ID:6e.eMJ9c0

   ねえ目を閉じれば見える
   君の笑顔
   Love for me そっと私を
   照らす光

   聞こえてるよ君のその声が
   笑顔見せて 輝いていてと
   痛みをいつか勇気へと
   想い出を愛に変えて


その時、屋上の扉が再び開けられた。
「これは?」

思わずルッカは声をあげてしまう。
歌を歌っている少女に、男が刃を向けているのだ。
ただ事では無いと思わない方がおかしい。


ルッカは早速片手に炎を纏わせ、男に投げかけようとした。


(!!)


ルッカが気圧されたのは、剣を持った男ではない。
歌っている少女の方だ。
決して鋭くない、しかし、確固とした決意を含んだその視線を受け、「ここでは騒ぐな」と怒鳴られたかのような感覚を覚えた。
Nがポンとルッカの肩を後ろから叩く。
それは、「ここでは僕達の出る幕ではないよ」と言っているかのようだった。


今この場所で、一番戦う力を持っていないのは誰か?
それは満場一致で如月千早だと言われるだろう。
だが、それはどういった根拠で答えているのか?


少なくとも、八十神高校屋上という舞台の上、この瞬間だけは、如月千早という少女が一番の力を持っていた。
黒竜との契約者も、かつてのプラズマ団の王も、世界変革に貢献した科学少女も、彼女の歌の前では言葉1つ出すことさえできない。



   歩こう 戻れぬ道
   歌おう 仲間と今
   祈りを響かすように
   約束するよ 夢を叶える
   Thank you for love

   あどけないあの日のように
   両手を空に広げ
   夢を追いかけてゆく
   まだ知らぬ未来へ



歌は続く。
『約束』はかつて声を無くした千早が、立ち直った後に歌った曲だ。
彼女のことを心配した仲間が、想いを伝えるために作られた曲だ。
その歌は、再び歌を失った者の胸の内を響かせた。


歌を失った男は、我慢できずに歌うのをやめろ、と叫ぼうとした。
だが、口を開けることも、剣を振り回すことも出来なかった。


   歩こう 果てない道
   歌おう 天を超えて
   想いが届くように
   約束しよう 前を向くこと
   涙拭いて

   歩いて行こう 決めた道
   歌って行こう
   祈りを響かすように
   そっと誓うよ 夢を叶える
   君と仲間に
   約束

560Magical Singer 盗めない心 ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:38:14 ID:6e.eMJ9c0

歌い終えた千早は、3人の観客に向き直り、ぺこりとお辞儀をする。
彼女は狂気も理不尽も飲み込み、ただ決意だけを見せつけた。






静寂。


時間と共に、歌の余韻が消えて行く。
千早も、イウヴァルトも、Nも、ルッカも何も言わない。動かない。
ただ優しく吹いた風が、4人の間を通り抜けて行った。


その時、イウヴァルトは剣を落とし、崩れ落ちた。
「うわあああああああああ!!!!!」
耳をつんざくような慟哭。


「違うんだ!僕は!フリアエのために!!フリアエの為に、殺さなきゃいけないんだ!!」
そう言いながら、弱い男はイウヴァルトは叫んだ。


「もう、やめなさいよ。」
ルッカは崩れ落ちた男を見て、そう呟いた。

「フリアエ……フリアエ……ああっ……う……。」
最早この男から、殺意は感じられなかった。
泣き叫び、充血しているはずのその目は、最初に千早に出会った時より赤くなくなっていた。
赤目の病から、彼は解き放たれたのだ。


歌には呪いを解く力があるとは様々な伝承で語られているが、千早にそんな能力があるわけではない。
魔法も解呪の知識も備えていない彼女が、なぜ彼から赤目の厄災を取り払えたのか。
それは彼女が付けていたロイヤルバッジの力だ。
王家の盾のようなデザインのバッジは、付けた者の回復魔力や攻撃魔力を増幅させる効果を持つ。
本来ならば魔法を使えない千早がそんなものを付けても、防御力を僅かながら伸ばすしかない。
しかし、彼女の歌が人を救う力を強くするという形で、そのバッジは作用したのだ。
歌は人を幸せにする魔法とは言われているが、彼女の決意が奇跡を起こした。


「僕は……。」
これからどうすべきか、フリアエがいない世界でどう生きるか、それは彼自身には分からなかった。
だが、少なくともマナの言いなりになるつもりはもう無かった。


蹲る弱い人間の男に、千早は手を差し伸べた。
その姿は、迷える男を救おうとする聖女のように見えた。
彼女とて、完璧な人間ではない。
何度も立ち止まって、時に迷って来た。
だが、そんな彼女を支えてくれたのは、仲間やプロデューサー達だ。


「最後まで聞いてくださって、ありがとうございます。」
ただ、千早は彼にそのお礼だけを言った。

561Magical Singer 盗めない心 ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:38:37 ID:6e.eMJ9c0

「僕は、どうすればいい?」
「それをこれから決めればいいんじゃないかな。」
Nがそっと、イウヴァルトに答えを投げた。

「そうか……。」
彼は混乱していた。
だが、マナの言いなりになって生きる道からは離れようと決意した。






―――あはははははははははははははははははははははははは!!
「お前は……!!」

その時、イウヴァルトの耳にだけ、良く知っている声が響いた。
「マナ……!!」

「落ち着いてください!!どうしたのですか!?」
マナの声は他の3人には聞こえない。
だが、ただ事ではない様子に、千早は声をかける。
「ねえ、どうしたっていうの!?」
ルッカも状況を察し、声をかけた。

だが、その声は届かないようだった。


―――ふふふっ、残念でした。あなたが戻れる道なんて、何処にもないのよ。ナイ。ない。ナイ……。

高い声と、重厚な声が、イウヴァルトの心の内側のみで響いた。
意識が塗り替えられていく。
少女の両目から流れる、ルビーのように真っ赤な光に飲み込まれていく。
―――あなたが歌で「壊れた」というなら、「治す」歌を聞かせてあげる。
―――大好きな人が、歌っていた歌だよ。


忘れるなかれ。
人を呪いから解き放ち、祝福する歌あれば、人を呪い、壊す歌だってある。


紅い夜 鳥眠る

   夢の窓 空写す
   わらべ唄 口ずさみ
   漫ろ行く 草原を


「やめろおおおおおおお!!!!」
彼の両目が、再び血のような真紅に染まっていく。


―――何を言っているの?望んでいるのは、これなんでしょ?

562Magical Singer 盗めない心 ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:39:20 ID:6e.eMJ9c0


   祈りは貴方の
   面影やどし
   魂いろどる
   想いをはこぶ
   翼を生やし
   愛から逃げて
   天使が割った
   奇妙な皿の上で燃えて
   尽きる
   尽きる


イウヴァルトは千早を突き飛ばし、地面に落ちてあったアルテマウェポンを握りしめた。


「危ない!!」
ルッカが叫ぶ。
魔法の籠ったメガトンボムを、イウヴァルト目掛けて投げつけた。
轟音とともに、大爆発が起こり、弱い男は吹き飛ぶ。
フェンスを大きく超えて。


「こ、殺してしまったんですか?」
千早はルッカの能力よりも、男を屋上から吹き飛ばした事実に驚いていた。

「………。」
ルッカの表情は強張っていた。
千早にではない。
この学校に充満する、異様な魔力の高まりだ。


屋上から落ちるイウヴァルトを受け入れたのはグラウンドの砂ではない。
墜落死する直前、彼の大剣に填めてあった紅蓮のマテリアが輝く。
そして、呼び出された黒の巨竜が、男の背中を受け止めた。



竜の咆哮が木霊する。
この八十神高校は、学問の場としても、アイドルのライブ会場の役割も放棄した。
今、この場所は戦場に変わる。

563Magical Singer 盗めない心 ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:39:59 ID:6e.eMJ9c0

   黒い朝 時告げる

   汚れ血よ 森帰れ
   闇を掘る どこまでも
   たどりつく
   断頭台
   祈りは貴方の
   面影やどし
   魂いろどる
   想いをはこぶ 
   翼を生やし
   愛から逃げて
   天使が割った
   奇妙な皿の上で燃えて
   尽きる
   尽きる






【E-5/八十神高校・屋上/一日目 昼】
【如月千早@THE IDOLM@STER】
[状態]:焦燥
[装備]:肝っ珠@ペルソナ4 ロイヤルバッジ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜1個) 天城雪子の支給品(1〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残って、歌い続ける。
1. 黒竜から逃げる
2. 急に様子がおかしくなったイウヴァルトに違和感

※雪子の支給品(1〜2個)が屋上に放置されています。



【ルッカ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(小)、MP消費(小)
[装備]:水の羽衣@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(工具の類は入っていません)、医療器具 図書館の本何冊か(何を借りたかは次の書き手にお任せします。)  素材(機械生命体の欠片、ネジ、金属板など)
[思考・状況]
基本行動方針:人と工具を集め、ロボを正気に戻す。
また首輪を集め、解析、あるいは景品交換用に使う。
1.千早を連れて、イウヴァルトとドラゴンから逃げる
2.多少は割り切ることも必要なのかもしれないわ……。
3.工具箱が見つかれば、この首輪の解析でもしてみようかしら。
4.首輪を集めたら、首輪景品交換所を使う。
5.Nって不思議な人ね……
6.何のためにあんな機械を?

※遊園地廃墟にある、首輪景品交換所の情報を知りました。


【N@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[装備]:モンスターボール(トンベリ)@FF7、毒牙のナイフ@DQ11(トンベリが所持)
[道具]:基本支給品 本何冊か
[思考・状況]
基本行動方針:ルッカの理想に付き合う
1.ルッカと共に行動をする
2.新しい理想を手に入れる。

564Magical Singer 盗めない心 ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:40:18 ID:6e.eMJ9c0
【イウヴァルト@ドラッグオンドラグーン】
[状態]:狂気(大)
[装備]:アルテマウェポン@FF7
[道具]:基本支給品、モンスターボール(空) ゴールドオーブ@DQ11
[思考・状況]
基本行動方針:フリアエを生き返らせてもらうために、ゲームに乗る。
1. ドラゴンと共に、破壊の限りを尽くす
2. もう、帰れない

※空っぽのモンスターボールは野生のポケモンの捕獲に使えるかもしれません。



【ブラックドラゴン@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて 】
[状態]:健康
[持ち物]:なし
[わざ]:テールスイング おたけび 噛みつき はげしいほのお
[思考・状況]
基本行動方針:破壊の限りを尽くす


【トンベリ@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:健康
[持ち物]:毒牙のナイフ
[わざ]:ほうちょう みんなのうらみ 
[思考・状況]
基本行動方針:Nと行動を共にする、自分のほうちょうがほしい。



【支給品紹介】
ロイヤルバッジ@DQ11
如月千早に支給されたバッジ。装備すると防御力、攻撃魔力、回復魔力が大きく上がる


肝っ珠@ペルソナ4
如月千早に支給されたペンダント。装備するとステータス異常「恐怖」から身を守ることが出来る。







もう一つ、忘れてはならないことがある。
この学校には如月千早の歌によって呼び寄せられた三人が集ったが、一人、いや、一台だけ例外がいた。
真っ先に屋上へ向かった3人とは違い、それは歌に引き寄せられることも無く、高校を徘徊している。
黒竜から逃げ惑う3人が彼に気付くのは、いつのことになるだろうか。



【機械生命体@Nier Automata】
[状態]:オールグリーン
[装備]:なし
[道具]:?
[思考・状況] ?
基本行動方針:ルッカとNを追いかける。

565名無しさん:2022/03/13(日) 23:18:10 ID:rkPFI.FI0

投下乙です。

>> Discussion in R.P.D.
ソリダスは合理性の塊で、バレットとクレアはどちらかというと感情的、そこをオセロットがうまく結合させている感じ。
ここでもオセロットがいい感じにキーマンになってるなあ。なかなかに味のある一向だと思う。

タイムマシンという単語が出てきたけど、合っているような微妙にずれているような?
クロノトリガー世界あるしそういう概念はありそうだけど、まだピースが欠けている感じはあるかも。
現代世界を舞台にしたゲームの参加者が大半を占めてるから、こうなるのは必然なのかな。

ソリダスは偽装タンカーに向かうようだけど、遥ちゃんは明らかに無力な子供キャラなので、どういう絡みになるのかは気になるところ。


>> エレクトリック・オア・トリート
ゲーチスとエアリスが決裂するのは予定調和。
なんか悪党のはずのゲーチスに感情移入してしまった。
元々のスタンスの違いもあるけど、エアリスはちょっと同行者のことを考えなさすぎたようなきらいがあったので。
いい加減にしてよはこっちのセリフだとか思ってそうだもんなあ。
マヒと睡眠って結構な攻撃だと思うんだけど、この二人の別れ方にしてはかなり穏当だなあとは思ってしまう。


>> 崩壊の序曲
9sは記憶の喪失と復活が吉と出るか凶と出るかの分水嶺にいそう。
状況についていけてなくていろいろノイズがはしってるけど、ここはこれまで交流してきた人たちを信じてあげて欲しいなあと思う。
そして、ついにカミュがセーニャに再会してしまったか。
もうその人セーニャでも、人間ですらないと思ったほうがいいんだけど、これは動揺大きいよなあ。
セーニャだけでも厄ネタなのに、後ろから確実にセフィロス来るのはヤバすぎて、本当に崩壊がやってきそう。


>>Magical Singer
そうか、千早とイウヴァルトってこんなにも共通項と対比があったのか。
歌も意思も失った男に、失声から立ち直った直後の歌を響かせて、意思を取り戻させるという導きの構図。
そうして取り戻した意思に対して、大切な人の歌を響かせて、再び壊してしまう逆行の構図。

全編通してすごく澄み切ってキラキラしていた印象が、マナが歌い出した途端に場が一気に濁りだしてきたし、
千早が歌っている間は千早が主役だったのが、マナが歌い出した瞬間にイウヴァルトが主役っぽくなったと感じる。

全編通して、歌をテーマというのは一貫していて、そのテーマの上での文章構成とシナリオ設計がすごい話だと思った。

566名無しさん:2022/04/11(月) 14:54:53 ID:VeGyPx1E0
初書き込み失礼します。ROM専の予定でしたが素晴らしい企画なので
どの作品どのキャラも立たせ方や絡ませ方が非常に上手く、作家さん達のレベルの高さや元ネタへのリスペクトを実感しながら拝読しています。
自分が注目しているのは、個人的に1番好きなキャラでもあるソリダス、オセロットの動向ですね。
MGS本編中の彼は、真の目的のために何重にも演技を重ねる男かつ、その演技も自己暗示や薬物で自分自身を文字通り洗脳して、その都度仮初の人格を刷り込んでいると言う設定ですので、参加時期からみても扱い辛いキャラの1人かもなあと思います…w
彼やソリダスだけでなく、このロワ全体がどう動くのか、皆さんの作品を全て堪能しながら熱視させてもらいます。応援しています。
長文失礼しました。

567 ◆RTn9vPakQY:2022/06/16(木) 22:15:39 ID:M8v59ayo0
ソリッド・スネーク 予約します。

568 ◆vV5.jnbCYw:2022/06/22(水) 22:19:28 ID:X96QqEwc0
トウヤ予約します

569 ◆RTn9vPakQY:2022/06/23(木) 02:06:53 ID:1pR6HZV20
投下します。

570 ◆RTn9vPakQY:2022/06/23(木) 02:09:13 ID:1pR6HZV20
 スネークは展望台から北上して、B-5の温泉に辿り着いた。
 建物のぐるりを見回ると、表にある玄関とは別に、通用口らしきドアがあった。
 呼吸を整える。かつて新米の工作員であった頃に仕込まれた、スニーキングの手法を反芻する。
 潜入する場の気配と自分の気配とを同化させることにより、場の気配を乱す“異物”を感知する手法だ。
 いわば空気と同化するようなもの。これがビッグボスとその師であるザ・ボスが練り上げた、スニーキングの極意だった。

 意識を集中させながら、並列して思考を回転させる。
 放送で死者を告げられた状況下で、呑気に入浴を楽しむ輩はいまい。
 そう仮定すると、参加者がここを訪れる理由はおのずと限定されてくるだろう。
 例えば、スネークのように返り血を洗い流すため。または、他の参加者を探すため。
 あるいは物資の類を求めて訪れる可能性もあるが、無論それは想像の域を出ない。
 いずれにしても、普段のミッションと同様に、警戒しながら進む必要がある。
 神経を研ぎ澄ませながら、スネークはドアノブに手をかけた。





 結果的に、温泉の内部には誰の姿もなかった。
 そもそも風呂場と脱衣所があるだけの施設であり、身を隠せるような場所も少ない。
 探索は十数分ほどで終わり、戦利品と呼べるものは備え付けの救急箱くらいのもの。それも中身は乏しい。
 飲料の空き瓶が捨てられていることから、参加者の誰かはここを訪れていたようだが、それ以外の痕跡は残っていなかった。
 めぼしい情報は得られそうにないことを察して、思考を切り替える。早急にメインの目的を果たして、別の場所へ移動するべきだ。

 装備をすべて脱ぎ去って、生まれたままの姿へと戻る。
 背中を中心に浴びた血液は既に乾いており、臭いも相まって不快感を与えていた。
 使い込んだスニーキングスーツにも大量に付着していたが、それは後で洗うことにする。
 スーツの速乾性は、何度か経験している海中からの潜入任務で実証済みだ。
 荷物を脱衣所のカゴに入れると、風呂場に続く引き戸を開けた。

「ほう……」

 あたりに満ちた硫黄のにおいに、感嘆の声が漏れた。
 立ちのぼる湯気に歓迎を受けながら、足を踏み入れる。
 最低限の警戒心は忘れずに、石張りの床をゆっくりと歩いていく。
 シャワーが並ぶ壁際に到達してカランを回すと、頭上のシャワーヘッドから湯が慈雨のごとく降り注ぐ。
 温度を調節して冷水にすると、それを火傷と打撲の患部にそれぞれ当てた。冷えた筋肉が縮むのを感じる。
 ごく軽度とはいえ火傷をした肌に長く当てると痛むため、時間はほどほどに。
 こびりついていた血液をぬぐい去ると、嫌悪感もいくらかはマシになった。
 そうして全身を流し終えて振り向くと、木製の湯船が鎮座している。

「……」

 初めて目にする温泉。スネークの胸中には期待と困惑が入り混じる。
 スネークの生まれ過ごしたアメリカでは、そもそも日本式の入浴はなじみが薄い。
 欧米において主流なのは、湯をためた浴槽の中で体を洗い、最後にシャワーで流すという形式。
 日本において主流である、入浴して体をリラックスさせる形式は、世界的に見ると珍しいものだ。
 偏りはあるものの日本文化に詳しいオタコンから、ジャパニーズが風呂好きということは聞き及んでいた。
 しかし、知識と体験は往々にして異なるもの。実際に温泉を目の当たりにして、少なくない好奇心が生まれていた。

 スネークの理性は、湯に浸かる必要はないと告げている。
 外傷の種類に応じた応急処置。「RICEの法則」と呼ばれるそれを、熟知しているためだ。
 RICEとは安静(REST)、冷却(ICING)、圧迫(COMPRESSION)、拳上(ELEVATION)の四つのこと。
 これらのうち、一般的に打撲に対してはすべての処置が、火傷に対しては冷却の処置が重要であるとされている。
 では、入浴がその処置につながるかと言えば、答えはノーである。むしろ体温の上昇による血行の促進は、打撲の程度によっては内出血や炎症が悪化する要因となる。
 血行の促進には自然治癒力を高める効果もあるとされるが、それを推奨されるのは、打撲の内出血や炎症にともなう腫れや痛みが引いた後のこと。
 セフィロスの炎による一撃で跳ね飛ばされてから、まだ数時間しか経過していない。医者に訊いたなら苦い顔をするだろう。
 幸いにもダメージは軽微で、痛みや腫れがないことは確認しているとはいえ、不要なリスクは避けたいところだ。
 もちろん長湯はできまい。入浴するとしても、五分以内が限度だ。

「……」

571SPA! ◆RTn9vPakQY:2022/06/23(木) 02:11:25 ID:1pR6HZV20
 二十秒ばかり立ち尽くしただろうか。
 ひとつ息をのみ、意を決すると温泉に足を入れ、そして全身を湯へと委ねていく。
 熱により刺激された体が、瞬間的に強張る。それから次第に熱に反応して、筋肉が弛緩する感覚が全身に行きわたる。
 ゆっくりと、長く息を吐く。熱いシャワーを浴びるだけでは味わえない快感が、スネークを満たしていた。
 すると、あまりにも自然に、スネークの口から賞賛の言葉が漏れた。

「いい湯だな」





 数分後、スネークはふたたび患部を冷やしてから風呂場を出た。
 脱衣所に戻ると、デイパックからペットボトルを取り出して開ける。
 そして一気に水を飲み干すと、空になったペットボトルに水道から水を汲む。
 この先どういった状況になるか不明なため、携行しやすい容器を捨てるのは賢明でないと判断したのだ。
 もののついでと、水道でスニーキングスーツに付着した血液を洗い流すことにした。

 スーツを洗濯しながら、今後の行動方針について考える。
 目下のところ、工学的な知識と技術を持つ、相棒のオタコンを捜索することが最優先だ。
 殺し合いにおける枷である首輪。それを解除することは、マナたちへの反逆の第一歩となる。
 できるかぎり早急に、首輪を解析してもらう。そう考えたときに、オタコンと同等に重要なものがある。

「首輪のサンプルが必要だ」

 いくら優秀な研究者でも、サンプルなしで解析はできまい。どこかで調達して渡す必要がある。
 スネークは渋面を作る。脳裏にサンプルを入手する方法が浮かんだ――浮かんでしまった――からだ。
 そう、さきほど通過した展望台の近くには、セフィロスに殺害されて落とされた雷電の遺体がある。
 遺体の損傷はかなり酷く、首もかろうじてつながっている状態だった。首輪の回収は容易だろう。

「たしか、C-5は放送で禁止エリアに指定されていたが……」

 口にしながら、壁掛け時計を確認する。時刻は八時半。
 ここから南のC-5が禁止エリアになるのは十一時。時間的な猶予は、そう多くない。
 すぐに動き出したいのをこらえて、救急箱の中から軟膏のチューブを出して塗り広げていく。
 チューブの残量はわずかであり、すべての火傷に塗ることは叶わなかったが、気休めにはなる。
 同じく残り少ない包帯を、こちらは打撲の患部に、きつすぎず緩すぎない程度に巻きつけておいた。
 手早く処置を終えると、洗い終えたスニーキングスーツを装着。バンダナを締めなおして、出口へと向かう。
 通用口からではなく表の玄関から出ると、あらためて施設の外観を眺めた。

「温泉か。悪くなかった」

 次があるなら、こんな殺し合いの最中ではなく、落ち着いた環境で入りたいものだ。
 無論、安全な環境に身を置ける立場ではないことは、理解しているつもりだが。
 自嘲気味に鼻を鳴らして、スネークは施設に背を向けた。





 異臭をたどり到着した展望台の下には、数時間前と同じ状態の雷電がいた。
 見るも無惨な姿だ。落下の衝撃で両腕と左脚はちぎれ、残る脚もあらぬ方向へと曲がっている。
 ちぎれかけた頭部を見る。血で汚れたブロンド、だらしなく開いた口許、そして光の失われた両の瞳。

572SPA! ◆RTn9vPakQY:2022/06/23(木) 02:12:32 ID:1pR6HZV20
「せっかくの美形が台無しだな」

 掌をかざして、そっと雷電の目蓋を閉じる。
 そしてスネーク自身も、目を伏せて黙祷を捧げた。

「……」

 一分ほどの黙祷を終えて、スネークは作業を開始した。
 雷電の首を観察して、切断するべき場所を的確に見極める。
 ちぎれかけではあるが、腕力だけで首輪を取ることは難しい。
 そう判断して、温泉で調達した救急箱の中から小型のハサミを取り出す。
 数センチの刃を、首の肉へと当てる。筋肉を断ち切る感覚が手元へと伝わる。
 行為自体は、肉や魚をさばくのと似たようなもの。スネークは手早く作業を終えた。

 その流れで展望台内部に雷電の遺体を運びこみ、バスタオルで上から覆い隠した。このバスタオルも温泉で調達したものだ。
 必要な行為ではない。しかし、セフィロスへと立ち向かい殺された戦友を、そのままにしておくのは忍びない。
 ついでに首輪に付着した血液をバスタオルでぬぐってから、黒光りする首輪を観察する。

「このサイズで首を飛ばすだけの威力。
 かなり強力なシロモノなのは間違いない」

 しげしげと見ても、判断できることはその程度であった。
 スネークは、ひととおり銃火器は使いこなせるものの、専門家というわけではない。
 ゆえに解析となると、オタコンやナスターシャのような兵器に精通した人物には及ばない。
 やはりオタコンとの合流を急ぐべきだと結論づけて、首輪をデイパックへとしまい込む。
 サンプルを回収する目標は達成できた。ひとまずC-5エリアから出ることだ。

「さて、次の目的地は……」

 スネークは地図を眺めながら、方針の一部を更新していた。
 これまでは、スネークとオタコンは互いに合流しようとしており、そのため両者が知識として共有している場所を、互いに第一の目的地に定めると考えていた。
 だからこそ“マンハッタン沖タンカー沈没事件”における偽装タンカーに向かうことを最優先としていたのだ。
 しかし、オタコンの性格上、他の参加者と友好的な関係を築いて、同行している可能性も充分にある。
 勇気と慈悲を備えているオタコンだが、あいにく武力はない。生存優先で協力体制を組むのは自然だ。
 もしオタコンに同行者がいた場合、偽装タンカー以外の場所を目的地に定める可能性も出てくる。
 そのため、他の施設も捜索のために寄るべきだというのが、今のスネークの思考だ。

「ここから近いのは、D-5の病院か」

 以上の思考をもとにして、スネークが次の目的地に定めたのは病院。
 地図上の施設を虱潰しに捜索するとなると非効率的だが、地図の中心に近いので大幅なタイムロスにはなるまい。
 また、オタコン以外の参加者に対しては、情報の共有をはかる。相手によってはオタコンの捜索を頼むことも想定しておく。
 取り急ぎの行動方針を決めると、スネークは展望台を後にした。





「ん?」

 病院へと南下していたスネークは、道中であるものに目を留めた。
 市街地の道路のアスファルトが、ある一部分だけが黒く変色している。
 屈みこんで地面を調べると、直径三センチほどの黒いかけらが落ちていた。

「これは……金属だ。首輪のかけらか?」

 所持している首輪と比較すると、たしかにその形状は似ている。
 かけらの端は奇妙に歪んでおり、高熱が加えられて融解したように見える。
 黒く焦げたアスファルトと合わせて考えると、この場所で何者かが燃やされたとするのが自然だ。
 すでに“ひのこ”や“ファイガ”を目にしている以上、炎による攻撃方法は想定の範囲内だが、それが金属を溶かす火力となると、あらためて緊張感が走る。
 自衛手段として武器の類――可能ならば使い慣れた銃火器――を所持しておきたいという心情が増した。
 これまでよりも警戒しながら、遮蔽物の多い市街地を進んでいくと、やがて病院へと辿り着いた。
 少し離れた場所から観察を開始した直後、スネークは眉をひそめた。

573SPA! ◆RTn9vPakQY:2022/06/23(木) 02:13:34 ID:1pR6HZV20
「なんだ、あれは?」

 ガラス窓越しに見えたのは、黄色いロボットだった。
 さながら巡回中の兵士のように、一定のスピードで動いている。
 遠巻きに見てもわかる複数の破壊の痕跡と、無関係ではないだろう。
 戦闘行為か、それに準ずる破壊行為が可能なロボットと考えるべきだ。
 加えて、ロボットの動きが外から見えることも、スネークの不安を煽る。
 ロボットは隠れようとしていない。つまり発見されることを恐れていない。
 その動き方が、積極的に病院への侵入者を探しているように見えてしまう。

「……ここでは非現実的なことも起こりうる。それを念頭に置いたほうがよさそうだ」

 特殊部隊の“FOXHOUND”や“デッドセル”にも、常識から逸脱した存在はいた。
 この島に連れてこられてから、スネークは人語を話すウサギや炎を放つ銀髪の男性を目撃している。
 そして今度はロボットときた。常識から逸脱した存在がうようよいる殺し合いなのだと再認識させられる。
 スネークは自問する。正体不明のロボットがいる病院に入るか、ここは諦めて他の施設へと向かうか。
 兵は拙速を尊ぶ。指揮官のいない兵士としての、スネークの決断はいかに。



【D-5/病院付近/一日目 午前】
【ソリッド・スネーク@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:全身に軽い火傷と打撲(処置済)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、音爆弾@MONSTER HUNTER X(2個)、不明支給品(0〜1個、あっても武器ではない)、首輪(ジャック)
[思考・状況]
基本行動方針:マナやウルノーガに従ってやるつもりはない。
0.病院を探索するか、他の施設へと向かうか、あるいは……。
1.オタコンの捜索。偽装タンカーはもちろん、他の施設も確認するべきか。
2.武器(可能であれば銃火器)を調達する。
3.クラウドに会って伝言を伝えるため、可能性のあるカームの街に寄る。
4.カイムと狩人の男。オセロット、ソリダス、イウヴァルト、セフィロスに要警戒。
5.装備が整い次第、セフィロスを倒すか?
6.ソニックと言う名前に既視感、および不快感。だがこの際言ってられないか?
※参戦時期は少なくとも、オセロットがソリダスも騙したことを明かした後以降です



 蛇が病院を観察している間も、ロボは巡回を続けている。
 主催者陣営から下された命令を従順にこなす姿は、まさしくロボット。
 燃料の供給は不要。何もせずとも、埋め込まれた“たべのこし”は機能している。
 その脅威を知らぬ参加者も未だにいる現状で、ロボットは次第に回復していくのだ。
 非常に強力なこの兵器を前にして、参加者たちはどのような対処を試みるのだろうか。


【D-5/病院内部/一日目 午前】
【ロボ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)、MP消費(中)
[装備]:ベアークロー@ペルソナ4 、たべのこし@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1個
[思考・状況]
基本行動方針:病院内に侵入した敵を排除する
1.ワタシの名前はプロメテス。

※主催者によって、ジョーカーである参加者(イウヴァルト、ホメロス、ネメシス)は感知出来ないようになっています。
他にも何らかの理由で感知できない参加者、NPCがいるかもしれません。


【救急箱@現実】
温泉に放置されていた使いかけの救急箱。
軟膏や包帯、包帯を切るための小型のハサミが入っていた。

【バスタオル@現実】
温泉に備え付けられていた白いバスタオル。


【共通備考】
※C-5展望台内部に、ジャック(雷電)の遺体が安置されました。バスタオルで覆われている遺体の周辺に、救急箱@現実が放置されています。

574 ◆RTn9vPakQY:2022/06/23(木) 02:15:39 ID:1pR6HZV20
投下終了です。
ソリッド・スネークのみ予約していましたが、分かりやすくするためにロボも登場させました。

誤字脱字や気になる点などありましたら、ご指摘お願いします。

575 ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:15:33 ID:7gBKfjIk0
投下します

576革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:16:12 ID:7gBKfjIk0

あの時永遠に分かれたはずの1人と1匹が、狂った運命の歯車を経て、再び出会った。




あれは、窓から差し込む日差しが眩しい日だった。
ずっとモンスターボールの中に入れられていた私は、初めてトレーナーと出会うことになる。
――ツタージャ、君に決めた。
帽子の裏から煌めく瞳が印象的な少年が、最初にかけてくれた言葉だった。
それからはトウヤという少年と共に、野生のポケモンと戦いを繰り返した。
戦いは最初は好きではなかった。
それでも、段々と強くなるのは嬉しかったし、何より強くなった私を見て嬉しそうにしているトウヤを見るのが好きだった。





「では、始めましょうか。」
戦いが始まる前とはとても思えぬほど、静かな空間だった。
そして、戦いが始まる前としか思えぬほど、冷たくて張りつめていた空気が充満していた。


トウヤの目の前にいるのは、かつては捨てたポケモン。
だが、必要になったのだから再び捕まえて使う。
一度捨てたポケモンを再び使うような行為に対する、良心の呵責などは彼は持ち合わせてはいない。
ただ必要だから捕まえる。それだけの話だ。


トウヤは元の世界では、理想のメンバーを作るために厳選に厳選を重ね、タマゴから念入りに育て上げていた。
だが、この世界では配られたカードと己が能力だけで勝負するしかないため、それは許されざる行為だ。
ただ、世界の違いを理由に「トウヤ自身にとって必要なもの」をアップデートさせただけ。
そこに善も悪も見出さない。


出会ってなお、そのような態度を貫くトウヤが、ジャローダはどうしようもなく憎かった。
悪いことをしたと謝罪するわけでもなく、仕方が無いことだと正当化する訳でもない。
ただこの場で必要だからという理由で彼女を捕まえようとする元トレーナーが、ただひたすらに憎かった。


「オノノクス、『りゅうのまい』」
トウヤの指示に則り、再び舞い始める。
それに対してジャローダもまた、『つるぎのまい』で自身の攻撃力を上げる。


2体のポケモンが舞う。
その瞬間、草原は両者を彩る舞台に変わる。
どちらも大柄なポケモンだというのに、ドタドタした不細工さを感じさせない。
洗練されてなければ決して作れない、流麗さを見せる。

577革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:16:34 ID:7gBKfjIk0

初手は互いの強化だけに終わる。
ここまでは普通にあることだ。
問題は次のターンから。


先陣を切ったのは、ジャローダの方だ。
元々レベル差があることに加えて、速さに定評のあるポケモンだ。
1段階素早さが上がったオノノクスを以てしても、その速さには勝てない。
そして素早さが高いということは、相手が戦術を練る間もないまま、一気に攻め潰すことだって出来るということだ。
ジャローダは、一気に最強の技でオノノクスを打ち倒そうとする。
千を越える戦術を編み出し、万を超えるバトルを乗り越えたトウヤに勝つ方法は1つ。


思考させる間もなく、攻撃力を上げて速攻で叩き潰す。
トウヤの戦略を一番近くで最も多く見て来たジャローダだからこそ、見出した回答だ。



ふとオノノクスの周囲に、尖った形の葉っぱが現れたと思いきや、風が強くなり始める。
くさタイプの物理技の中でも、特に強力な『リーフブレード』だ。
ジャローダが身体を鞭のように振るうと共に、緑の刃がつむじ風に乗ってオノノクスに襲い掛かる。


ジャローダの判断は正しい。
だが、正しいのはあくまで元の世界の話。
この世界でも正しいとは限らない。


「右へ飛んでそのまま回避しろ」

結論から言うと、ジャローダの放った新緑の刃は、オノノクスに決定打を与えることは無かった。
リーフブレードはその威力だけではなく、命中率にも定評のある技だ。
相手が『かげぶんしん』などを使わない限りは、不発に終わるのを期待するのは無理なことだ。
だが、その一撃を凌いだのは、トウヤの運によるものではない。


「オノノクス、まっすぐ突進して『きりさく』。」
トウヤは回避を指示すると思いきや、その逆。
ギリギリまで近づき、ジャローダに攻撃を加えた。
鋭い牙が、その顔を走る。
攻撃が命中するかと思いきや、逆に攻撃を食らってしまうジャローダ。


既にトウヤは、A2との戦いでこの世界の戦いと元の世界の戦いの違いを見抜いていた。
1つは、攻撃の躱し方。

578革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:16:55 ID:7gBKfjIk0

かつてトウヤがいた世界では、ポケモンとの戦いはほとんど決まったフィールドや室内で行われた。
従って、回避する方法も限られる。
だがこの世界ではバトルの境界線などあってないようなものだ。
地形の高低差をバトルに応用するなど、じめんタイプやひこうタイプを除いて普通は行わないことだ。
だが、この世界は平たんな地形の方が少ない。


リーフブレードは直線的な攻撃だと知っていたトウヤは、姿勢を低くして横に躱すことを指示した。
もともとドラゴンタイプには威力が半分になる技だということもあり、ほとんどそのダメージは通らなかった。



比較的シンプルな草原でさえ、攻撃のかわし方、フィールドの使い方の多様性は元の世界とは比べ物にならない。
地面の傾斜や茂みなども、戦いを有利にするために使うことが出来る。


放送前のA2との戦いでは、それを学びきれていなかった。
だからトウヤは街灯を使った攻撃に戸惑わされた。
だが、1度の戦いの身でルールを軒並みマスターできるのは、最強のトレーナーといった所か。



「そのまま突進して『きりさく』

ジャローダの額から身体にかけて、綺麗な一本線が走る。
(片目を狙ったつもりだったが、上手く行かないな……)

オノノクスは粒ぞろいのドラゴンの中でも、攻撃力に優れるポケモンだ。
とはいえ、タイプ一致の技でない『きりさく』で、攻撃力も1段階しか強化されてない中、レベルが上のジャローダを倒すことは出来ない。
それぐらいはトウヤも分かっている。


トウヤの狙いは、攻撃だけではない。
彼が接近した理由に、ジャローダの技の中で、1番厄介な『リーフストーム』を使わせないことだ。
狙いは成功し、密着状態では、すぐ近く以外を薙ぎ払う竜巻が撃てない。
それでもジャローダは怯まず、密着状態でオノノクスに『アクアテール』を打ち込もうとする。
「オノノクス、『ドラゴンテール』。」
二匹のポケモンが、くるりと回転して、互いにシッポを打ち合い、バチンと高い音が響く。


洗練されたポケモン同士でしか作り出すことが出来ない、美しい回転だった。
大柄なポケモンだというのに、不細工さを感じさせないしなやかな円運動。
美しいのみならず、竜巻のような激しさも伴う旋回。
超一流のバレリーナもかくやという動きだった。
もしここが観客の集うポケモンコンテストの会場ならば、止むことのない歓声と万雷の拍手が鳴り響いていただろう。
だが、ここにはそのような反応を示す観客はいない。
唯一の観客であるトウヤは、その様子を観察しながら、次の手を考える。

579革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:17:18 ID:7gBKfjIk0

しかし、みずタイプの技であるアクアテールはドラゴンタイプのオノノクスには半減されてしまう。
対して、ドラゴンテールは素通しだ。
元々の威力に加えて、本来敵を大きく吹き飛ばすことに特化した技。
シッポのぶつかり合いを制したのは、オノノクスの方だ。
翡翠の大蛇は大きく吹き飛ぶ。黄金の巨竜も無傷では無いが、蛇に比べるとダメージは少ない。


2つ目の違いは、技の効果。
本来なら野生のポケモンにドラゴンテールを打てば、はるか遠くに吹き飛ばされてしまい、その時点で戦闘は終了になる。
トレーナーにいるポケモンがいても、ボールに戻さざるを得ず、少なくとも1ターンはそのポケモンと戦う必要は無くなる。


だが、憎しみと殺意をぶつけ合うこの戦いは別。
戦いは継続される。
なので『ドラゴンテール』は戦闘中止ではなく、1ターン猶予を作るために使った。

「オノノクス、『りゅうのまい』」
ゲーチスやA2と戦った時と同様、オノノクスは美しく舞い始める。


「オレの目的の為に協力してくれないのか。残念だ。」





あの時は、静かな町に響く噴水の音が、妙に印象的だった。
最初のジムリーダーのポッドを倒した次の日のこと。
突然トウヤが私に声をかけた。


――ボクには夢があるんだ。
おもむろに駆け出しのトレーナーは、人間の言葉を話せない私に対して、夢を語りだした。
――イッシュのチャンピオンになってみたいし、その間に君たちポケモンのことを沢山知りたい。それがボクの生まれた意味だと思うんだ。
キミはしたいこととかあるのか?なんて言っても、分からないか。


悪戯っぽく笑みを浮かべるトウヤ。
私は彼の言葉にずっと耳を傾けていた。
あの声はとても穏やかで、でも力強かった。
その時、私にも初めて夢が出来た。
初めて出会った仲間として、彼が見る夢の果てを見届けるということだ。





鳴き声一つ上げず、それでも冷たい怒りを胸に抱き、ジャローダは迫って来る。

580革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:17:35 ID:7gBKfjIk0


「オノノクス、『きりさく』」
ジャローダが戻ってくると、トウヤは早速自分のポケモンに指示を出す。
密着状態ではなくなったので、全身を震わせ、リーフストームを撃つ構えを取る。
クラウドと戦った時と同様、緑の竜巻が吹き荒れー――無かった。


ジャローダはトウヤの戦術を読んでいた。
最初に能力を上げたのち、牽制攻撃を入れて相手を崩し、敵トレーナーが第二撃に備えてカウンターを狙ってくる。
だがトウヤは相手の誘いに乗らず、トドメを刺す直前に能力が上がる技を使い、勝利への道を確実にする。
カウンターが不発に終わり、動揺したトレーナーが最も強い技を出そうとする瞬間、技を食らう前に高速の一撃を当てる。


ジャローダには知らぬことだが、トウヤのオノノクスと、ゲーチスのバイバニラとの戦いは、まさにその戦術を体現したようなやり方だった。
『りゅうのまい』を使って強化し、『きりさく』をバイバニラに入れて、トドメを刺す前に『りゅうのまい』でオノノクスをさらに固める。
そして動揺したゲーチスが『ふぶき』を撃たせようとした瞬間、その隙を狙って確実にトドメを刺した。


だからジャローダは、『リーフストーム』を撃とうとすればその前に『きりさく』が来ると読んだ。
そのため彼女が撃ったのは、二度目の『リーフブレード』。
威力よりも命中率を重視した一撃を選んだ。
刃を纏ったエメラルドの光線が、オノノクスを貫こうとする。
同じ技を2度使うという、裏をかいた戦術を取った。
だが、トウヤはそれさえも読んでいた。


砂埃が舞い上がる。
高速の刃が砂煙の中に浮かび上がり、回避が容易になる。
オノノクスはじめんタイプの技を備えていないのに、どういうことか。
答えは簡単だ。
トウヤは最初からジャローダにではなく、地面に目掛けて『きりさく』を撃つよう指示を出した。
この地面の土は粒が軽く、技の一つでも打てば簡単に煙幕が起こるとトウヤは踏んでいた。
フィールドの多様性は、元の世界とは比べ物にならない。
フィールドごとに最適解が変わる戦いの条件を、トウヤは活かしきっていた。


「右から回り込んで、『ドラゴンテール』」
自然の恵みを借りた斬撃が砂煙に飲まれた頃には、既にオノノクスは近づいていた。
ジャローダはあくまでトウヤに野に放されるまでの間しか、彼の戦術を知らない。
言い方を変えれば、彼女の知っている最強のトレーナーは、さらに実力を上げていた。

581革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:17:55 ID:7gBKfjIk0

今度はアクアテールで対抗する間もなく、大きく吹き飛ばされる。





――おめでとう。これも君が頑張ったからだ。
――これからもよろしく頼むよ。ツタージャ。いや、ジャノビーだったか。


あれは、今みたいにすなあらしが激しい場所だった。
これほど砂埃が舞う場所など生まれて初めてだったので、粒子の鋭い砂が襲い来る痛みよりも、4ばんどうろのその光景に見とれていた。


その頃には経験を積み、ジャノビーへと姿を変えた。
段々とトウヤの腕も上がり、ジムリーダーのバッジも増えて行った。
だけど、その時私は1つの不安がよぎった。


進化して、姿が変わった私を、トウヤはこれまでのように受け入れてくれるのだろうか。
私はトウヤを信頼していたし、彼も私を信頼していたからこそ、それが怖かった。
だが、それがすぐに杞憂だったことだと分かる。



――ベル、僕はね、成長するってのは、変わることだって思うんだ。ポケモンも人間も…いつまでも同じじゃいられないし、子供のままじゃいられない
――子供のままじゃ…いられない
――だけど、どれだけ成長したってベルはベルだし、フタチマル…いや、ラッコくんはラッコくんだよ
――ありがとう、トウヤ。そうだよね…変わることを怖がってちゃ…だめだよね



その後すぐに戦った、トウヤの幼馴染の言葉を、私はモンスターボール越しに聞いていた。
あの時の言葉だけで、彼は進化した私を、変わった私を受け入れてくれているのだと知った。
嬉しかった。たとえ私より強いポケモンを彼が捕まえたとしても、ずっとそばに居たいと思った。





「オノノクス、『りゅうのまい』」
吹き飛ばされ、攻撃範囲の外に追いやった瞬間、自分のポケモンを強化させる。
余裕を見せつける訳ではない。
トウヤは常に、確実に勝つ手法を練り続ける。
そのため彼を相手にしたトレーナーもポケモンも、徐々に追い詰められていく。
まるで羽をむしられ、足を切り落とされ、逃げる手段を1つずつ削がれてから料理される鳥のように。

582革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:18:15 ID:7gBKfjIk0

この真綿で首を絞められているような状況を打破するには、とにかく攻撃するしかない。
たとえそれが読まれている行動だとしても。


ジャローダが身体を居合抜きのような軌道で振る。
辺りに、鋭い葉を纏ったつむじ風が巻き起こる、
葉の量も、風の勢いも、2度打ったリーフブレードとは比べ物にならない。ジャローダのとくせい『しんりょく』と、彼女の性格『れいせい』により、さらに威力は上がる。
それを最強まであと一歩の所まで育てられたポケモンが使うのだ。
当たれば、威力半減の壁など簡単に破り、オノノクス程度簡単に倒してしまうだろう。


辺りに凄まじい風が吹き始める
100キロ以上の体重を持つオノノクスはともかく、トウヤは立っているのでやっとだ。
吹き始めの風でさえこの威力だから、もう数秒まてば全てを吹き飛ばす台風のような攻撃になる。
あくまで技を出し切ればの話だが。


「オノノクス、『きりさく』」
それでも表情一つ変えず、帽子を押さえながら指示を出す。
3段階素早さを増したオノノクスの牙は、ジャローダを技名通り切り裂く。


惨めなものだ。
どんな技でも、相手に届かなければ意味が無い。
リーフストームもはっぱカッターも、命中する前に押し切られてしまえば、実質的な威力は同じゼロなのだ。
トウヤでなくても分かる、単純ゆえに覆せない道理。
素早さの3段階上がったオノノクスが、軍配を上げる。
これこそが、トウヤがジャローダに見切りをつけた理由。


素早さが取り柄のジャローダなのだが、彼女の本来の性格により、どうしても肝心の素早さが落ちてしまう。
もしそれがなければ、いくら素早さが底上げされたからとは言え、オノノクスに後れを取ることは無かった。
いや、そもそもの話それがなければ、この戦いが起こることは無かったのだが。


「ダメだ。いくら追い詰められたからと言って、何も考えずに大技を出したら。」
崩れ落ちたジャローダの前で、冷たい声が響いた。
何も考えずに大技を出してはいけないとは分かっていても、それしか打開策が見いだせなかったのだから仕方がない。
超一流のプレイヤーとは、得てして戦いにおいて、『してはいけないこと』を相手にさせる技術に長けている。


嵐が止むと、トウヤは近づきモンスターボールを投げる。
そこから光が出て、ジャローダが吸い込まれる。


(嫌だ!!嫌だ!!一度捨てられた相手なんかに、仕えたくない!!)

583革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:18:44 ID:7gBKfjIk0




どこで道を間違えたのだろう。
どこで私達の関係は壊れ始めたのだろう。
どこで私の思い通りにならなくなったのだろう。


私がジャノビーからジャローダへと進化してからだろうか。
Nとゲーチスを倒して、プラズマ団を倒壊させてからだろうか。
トウヤが新しい物を見ても歓声を上げなくなったからだろうか。
いつからかは分からないが、私とトウヤの間の亀裂は広がって行った。
いつからかは分からないが、トウヤの一人称『ボク』から『オレ』に変わり、戦いに出してもらえる回数がだんだん減って行った。
それからだろうか。
周りのポケモンたちに、きらきらした瞳の者が減って来て、何かに怯えていたり諦めていたりした目をする者が増えてきたのは。


それでも、私はあの言葉を信じた。


――だけど、どれだけ成長したってベルはベルだし、フタチマル…いや、ラッコくんはラッコくんだよ


信じようとした。
初めて出会った時からどれだけ変わっても、トウヤは私の信じるトウヤだということを。
決して私の目の前からいなくなったりしないと。
決して私をバトルから外すことはあっても、野に放すことなどありはしないと。
変わることを恐れてはいけないと教えてくれたのはトウヤなのだから。





モンスターボールは揺れ、吸い込まれたかと思ったジャローダは出てくる。


(まあ、仕方ないか……)
トウヤが持っているのは、ハイパーボールのような成功率が上がるものではなく、一番ありふれた赤白のボール。
1手でゲットすることが出来るとは思わない。
むしろ簡単に捕まえてしまえば、態々バイバニラを捨てた意味が無くなる。


ジャローダはその想いに応えるかのように痛む体を鞭打ち、立ち上がった。
「オノノクス、『きりさく』。ただし直撃はさせるな。」
竜の鋭い牙が、蛇の身体を掠める。


ジャローダが躱したからではない。トドメを刺さぬよう、ギリギリまで削ろうとしている。
勝利を確実なものにするために、少しずつ、少しずつ逃げ道を潰していっているのだ。
嘗められたものだと思い、同時に嘗められても仕方がないほどに追い詰められていると自覚する。
技も弱点も全て見切られ、相手の手の内はいまだに未知数。
はっきり言って、ジャローダはどうしようもなく詰んでいる。
20以上のレベルの差など、あってないようなものだ。

584革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:19:06 ID:7gBKfjIk0

残っているものは、かつてのトレーナーへの復讐心。
愛してくれたはずなのに、何のためらいもなく野に返した恨み。
トウヤに対する激しい敵意。


だが、そんなものには意味が無いとジャローダというポケモンは分かった。
どんな感情でも受け止める相手がいなければ、けだものの遠吠えと変わらない。
事実、トウヤはジャローダの敵意も憎しみも分かっているが、心には届いていない。
たとえポケモンがどう思っていようと、必要だから捕まえる。それだけしかない。


そして、ジャローダにはもう1つ分かったことがあった。
トウヤのことばかり考えても、勝てないということ。
事実、彼女の一時の主であったホメロスは、自分を捨てた相手であるウルノーガへの恨みを抱き続けた。
だが、かつての主への憎しみを募らせるあまり、己を鑑みることを気付かず、その怨嗟の刃を届けることが出来なかった。
だが、最後の最後でそれに気付けたことで、「道化のホメロス」でもなく「魔軍司令ホメロス」でもなく、初めて「聖騎士ホメロス」としてその手を動かせた。



何度目か、オノノクスの牙がジャローダを裂こうとする。
その時だった。
竜の水月に、彼女の尾が刺さったのは。


(分かったわ。ありがとう。)

ほんの一時、愛情なんて無かったはずだが、トウヤ以外に何かを教えてくれた主人へ感謝の言葉を告げる。

「グルルル……」
タイプ相性の悪い一撃とは言え、急所に当たったためオノノクスはうめき声を上げる。
ジャローダは『カウンター』は使えない。
だが、彼女がトウヤではなく、ホメロスのポケモンとして戦った時に、クラウドから似たような技を受けた。


トウヤに勝つには、トウヤから学んだことではなく、この世界で学んだことを使わねばならない。
それを分かった彼女が、即興で編み出した技だ。

585革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:19:38 ID:7gBKfjIk0

「オノノクス、『ドラゴンテール』。」
ジャローダが使わないはずのカウンターを、しかも合わせ技で撃ったことに、トウヤは僅かながら驚く。
目の色が僅かながら変わったトウヤが、シッポ攻撃を出すように指示する。
それをジャローダは、姿勢を低く、さらに低くさせて躱す。


彼女にとって、ホメロスは信頼したトレーナーなどではない。
ホメロスにとって彼女はウルノーガを殺すための道具でしかなかったし、それは使役される側にとっても同様だった。
それでも、短い間に確かに学んだことはあった。
その経験は、確かに彼女の物になっていた。


常に敵を観察し続け、死角を、弱点を探ること。
ホメロスはミファーの、クラウドの隙を突くためにそれを怠らなかった。
頭の上を、竜の尾が走ったのをトサカの感触だけで確認した瞬間、さらに技を撃つ。


「右へかわせ、オノノクス。」
トウヤはジャローダが超低姿勢の超至近距離でリーフブレードを撃って来ることを察知し、右へ飛び退くように指示する。
だが、『きりさく』と『リーフストーム』のぶつかり合いの時とは逆に、トウヤの指示の方が一手遅れた。
直撃とは言い難いが、緑色の光線がオノノクスの脇腹を掠める。
最初に使った『つるぎのまい』の効果はもう切れていたが、それでも威力を発揮した。


――それでも! 俺たちは前を向いて生きていくしかねえんだよ!


敵の竜巻を食らい、朦朧とした意識の中でも、覚えている言葉。
ホメロスの仲間の人間が言っていた。
トウヤ1人だけに目を向けていては、復讐は成功することは出来ない。
だから決めた。
だから目標の敵ではなく、前に向かって走ることを。
復讐の対象ではなく、空へ向かって飛ぶことを。


「オノノクス、『きりさく』。」
動きが変わったジャローダ相手でも、トウヤは攻撃を加えることを忘れない。
しかし、ジャローダは分かっていた。
トウヤの目的が自分にトドメを刺すことではなく、削ることにあることを。
逆に言えば、防御しなくともこの攻撃で戦闘不能になることはないということだ。

586革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:19:55 ID:7gBKfjIk0

無抵抗のまま、牙の攻撃を受ける。
ジャローダの目論見通り、それで勝負が決することは無かった。
その間に、リーフブレードを撃つ。
オノノクスにではない。地面にだ。


技を撃った反動で、天高く舞う。
クラウドが撃った竜巻で巻き上げられた感覚を思い出し、身体をしならせ高く高く高く。
くさタイプのジャローダが、ひこうタイプでもあるかのような戦術をとって来るのは、トウヤとしても予想外だった。
ジャローダは分かっていた。
トウヤとの戦いでは、安全地帯は無い。
何処へ逃げてもその攻撃を当ててくる。
ならば、自分から安全地帯を作れば良いだけだ。



オノノクスの技に、ここまで飛んだ相手を倒せる技は無い。
今度は一転してジャローダの攻撃のチャンスだ。


トウヤとオノノクスがいる場所に、尖った葉が舞い始める。
彼女は地面に落ちた後のことなど考えてない。
ただ、この一撃を成功させればいい。
否。たとえこの一撃を外したとしても、地面に落ちる前に自らの尾を頭に刺し、自決するつもりだ。


天空から、身体を回転させ『リーフストーム』の構えを取る。
一度撃ってしまったために、攻撃力は減退しているが、それはとくせいの『しんりょく』でカバーする。
今度はオノノクスが『きりさく』で反撃できる位置にはジャローダはいない。
彼女の、回答の時間だ。

587革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:20:13 ID:7gBKfjIk0




――ここでお別れだ、ジャローダ。オレに着いてきても、オレはお前をもう二度とボックスから出さない。


私が恐れていたトレーナーの変化は、最悪の形で現実のものになった。
人間にしろポケモンにしろ、既存の関係を次々に切って行き、ついには旅の初めから繋がり続けた私との縁まで切った。
あの時は心の底から、裏切られたと思ってトウヤを憎んだ。
その意図は分かっていたからこそ、猶更許さなかった。
でも、こうしてみると分かった。


私は、トウヤを怨み切れていないのだと。
一番憎かったのは、変化を恐れて内側から変わり切ることが出来なかった自分自身なのだと。
クラウドとの戦いだってそうだ。
もし変われていたら、ホメロスは負けずに済んだかもしれない。


こんな世界で、道具として使わせたマナ達は許せないが、私が変わるチャンスをもう一度くれたことだけは感謝しよう。
これで、私の物語を終わらせる。






「ジャアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアァァァ!!!!!!」


天まで轟くほどの雄たけびと共に、リーフストームが撃たれた。
今、ジャローダは進化ではなく、変化した。
さなぎが蝶へと変わるのではなく、蝶が飛べる高さをさらに上げた。
太陽を背にし、天空を手にした深緑の蛇は、さながらケツアルコアトルといった所か。
とくこうが減ったとはとても思えないほど、凄まじい竜巻が吹き荒れる。
それは台風のごとく、既に荒れ果てていた草原を巻き上げる。


モンスターボールも、オノノクスの攻撃も届かない。
ただ1人と1匹は、翡翠の嵐に飲み込まれるのを待つだけ。

588革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:20:40 ID:7gBKfjIk0

「オノノクス」
風と擦れ合う葉がうるさい中でも、彼の声は静かに響いた。
オノノクスが頭を垂れた。
天まで飛ぶという奇跡の蛇を前に、諦めの姿勢を見せているかのように見えた。


突然、項垂れている竜は首を上に振り上げる。
その勢いで、すぐ近くにいたトウヤをはるか上空に飛ばした。


ジャローダは気づいていなかった。否、忘れていた。
ポケモンはただ戦いをするために使われるばかりではない。
人間の足では登りにくい崖や、渡ることのできない海を通るための乗り物としてもポケモンは使われる。
今トウヤは、オノノクスを戦闘用ではなく、竜巻を突破するための道具として使った。


普通ならあり得ないことだ。
一歩間違えれば、竜巻に切り裂かれるか、地面に叩きつけられるかして、命を落としてもおかしくない。
勿論、並のトレーナーが決して為せる技ではない。
発想力とポケモンへの知識、どんな状況でも揺るがない度胸。それと人間離れした身体能力を兼ね揃えるトウヤだけが、空を飛ぶジャローダに近づけた。
事実、彼の服のあちこちが小さな裂け目が走っていた。




「ありがとう。ジャローダ。」
竜巻を越えて、目の前に来たトウヤが口にしたのは、礼の言葉だった。
礼儀だから言うのではなく、心から感謝を込めた礼の言葉だった。


彼女が殻を破ったことで、越えた壁を、トウヤはことも無く乗り越えた。


ジャローダは首に尖った尾を刺して、自決しようとする。
だが、その時間など、今さらトウヤが与えてくれるはずもない。
モンスターボールを投げたトウヤは、満面の笑みを浮かべていた。
その笑みはひどく歪んでいたが。


「俺に生きる喜びを教えてくれて、ありがとう。
強いポケモンを工夫して捕らえる喜びを思い出させてくれて、ありがとう。」

(――憎い!!私はあなたが憎い!!骨まで憎い!!!!!
そこまで命を懸けて捕まえようとするなら!!!!なぜあの時逃がした!!!!!!
嫌だ!!!嫌だ!!!!!私を一度捨てたトレーナーに道具として扱われるなんて!!!!!!)



「■■■■■■■■■■■■■■――――――――!!!!!!!!」
吸い込まれながら、最後の悲鳴を上げた。
モンスターボールは僅かに揺れた後、静かに光り、ポケモンをゲットしたというサインを示した。

589革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:20:59 ID:7gBKfjIk0





久し振りの感覚だった。
モンスターボールの中の、暑すぎず寒すぎず、持て余すほど広くも無く、窮屈なほど狭くも無く。
でも、そう感じる気持ちでさえ、今の私には煩わしかった。
どんな恨みを募らせても、未来への願望を抱いても、結局どうにもならないのなら。



ココロカラドウグニナレバイイ。





久し振り感覚だった。
かつてレシラムを捕まえた時に感じたような、胸が熱くなる高揚感。
だが、それでもトウヤの胸の内には、煮え切らない感覚があった。
それが何なのか、彼は勝手に解釈した。


恐らくジャローダで、出会ったことも無い強者と戦えば、もっと気分が高揚すると考えた。
(後はこの2匹を回復させれば良いか…。)


地面に叩きつけられる寸前に、オノノクスがトウヤをキャッチする。

「じゃあ行こうか。」
トウヤはオノノクスをボールに戻す。
勝つには勝ったが、オノノクスのダメージも少なくは無かった。
A2との傷も残っているため、今度はモンスターボールの中で待機させることにした。


ジャローダを捕まえたモンスターボールを、鞄の中にしまい込む前に、一言口にした。


「ジャローダ。あなたの気持ちは分かる。でもオレに必要なのは過去じゃなくて未来なんだ。
オレが生きる未来のために、また協力してもらうよ。」

590革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:21:25 ID:7gBKfjIk0

最後にジャローダが吸い込まれた時、トウヤとジャローダは目が合った。
その視線からは、言いようもない怨嗟と憎悪が伝わって来た。
彼女が放ち続けた感情は、最後の最後でトウヤに届いていた。
最も、届いただけだが。





【E-3/草原/一日目 昼】

【トウヤ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:全身に切り傷(小)高揚感(小) 疲労(大) 帽子に穴
[装備]:モンスターボール(オノノクス)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト、モンスターボール(ジャローダ@ポケットモンスター ブラック・ホワイトチタン製レンチ@ペルソナ4  
[道具]:基本支給品、モンスターボール(空)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト×1、カイムの剣@ドラッグ・オン・ドラグーン、煙草@METAL GEAR SOLID 2、スーパーリング@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[思考・状況]
基本行動方針:満足できるまで楽しむ。
1.Nの城でポケモンを回復させる。
2.自分を満たしてくれる存在を探す。
3.ポケモンを手に入れたい。強奪も視野に。

※チャンピオン撃破後からの参戦です。
※全てのポケモンの急所、弱点、癖、技を熟知しています。
※名簿のピカチュウがレッドのピカチュウかもしれないと考えています。


【ポケモン状態表】
【オノノクス ♀】
[状態]:HP1/8
[特性]:かたやぶり
[持ち物]:なし
[わざ]:りゅうのまい、きりさく、ダメおし、ドラゴンテール
[思考・状況]
基本行動方針:トウヤに従う。
1.トウヤに従い、バトルをする。

【ジャローダ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]HP:1/10  人形状態
[特性]:しんりょく
[持ち物]:なし
[わざ]:リーフストーム、リーフブレード、アクアテール、つるぎのまい
[思考・状況]
基本行動方針:もうどうでもいいのでトウヤの思うが儘に

591革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:21:43 ID:7gBKfjIk0
投下終了です

592 ◆RTn9vPakQY:2022/07/11(月) 20:16:08 ID:8B/C06tU0
投下乙です。感想です。

エレクトリック・オア・トリート
千早を心配するエアリスと、屁理屈で捜索をやめようとするゲーチス。
扱いなれたポケモンで背後から不意打ちをかまし、マテリアを奪って眠らせる。
もはや手段を選ばない、選んでいられないゲーチスの小物感が存分に出ていて良いですね。
エアリスを警戒しすぎてとどめを刺さずに去ったのが、後ほど響いてこないといいのですが…。


崩壊の序曲
9Sは睡眠という観点から人間とアンドロイドの差異を感じ、守るべき人間について再認識する。
それから健気にも人間を守ろうと周囲を巡回していたところで、人間を逸脱したセーニャと邂逅するという不運。
状況が上手く把握できずノイズが走る、という演出は、9Sの特異性が現れてて好きです。

セーニャもいよいよ人間をやめてきていて、高威力の魔法を自分の身体もいとわずバンバン撃つのがシンプルに脅威すぎる。
>「どうして?お姉さまのため……カミュさん……ハンターさん……クラウド……ああははははは殺すはハハはは黒マテリアははハハハハは殺すハひひひひひひ!!!」
ここほんと可哀想。


Magical Singer 風と空と太陽と
Magical Singer 盗めない心
美しい世界をみとめて歌い出す千早。「眠り姫」を歌わせるのは好きな演出です。
現実を正しく受け止めた上で、前へと進もうとする決意というものは、美しいものです。

全員を“歌”に絡めている部分が好きです。
イウヴァルトは、錦山の最期の言葉が響いている中で“歌”を耳にして、暗い感情に支配されてしまう。
ルッカもNも、なにかしら“歌”を耳にして思うところがある。
そして、千早にとって“歌”はかけがえのないもの。だからこそ、凶刃を前にして堂々とした発言ができた。

“歌の力”なんて言葉にすると陳腐に聞こえます。
しかし、歌は歌そのものだけではなく、歌い手の姿や聞き手の内心などが相互に干渉することで、作用をもたらすものだと思います。
ロイヤルバッジにより奇跡が起きたのも、充分に納得できるものでした。
それでも、イウヴァルトは呪いから逃れられない。戦場と化した高校の今後が楽しみですね。


革新的に生まれ変われ
かつて共に旅をした相手だからこそ、ジャローダはトウヤの戦術を読み、裏をかこうと試みる。
しかし、それ以上にトウヤは成長していた。このままでは倒せない。
そこからの、ホメロスや陽介の姿を糧にして“変化”をし、空高く跳び上がるジャローダ。その姿は、想像すると美しいものでした。
それでも!それでも、なお届かないトウヤの成長性が何より恐ろしい。

>「俺に生きる喜びを教えてくれて、ありがとう。強いポケモンを工夫して捕らえる喜びを思い出させてくれて、ありがとう。」
本当に喜んでいそうなのもあって、非常に恐ろしいと思いました。

593 ◆RTn9vPakQY:2022/07/11(月) 20:17:43 ID:8B/C06tU0
星井美希 予約します。

594 ◆RTn9vPakQY:2022/07/18(月) 11:54:38 ID:OlDjBoDc0
予約を延長します。

595 ◆RTn9vPakQY:2022/07/25(月) 21:43:56 ID:86esDh7M0
遅れて申し訳ありません、前編を投下します。

596夢見る少女じゃいられない(前編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/25(月) 21:45:24 ID:86esDh7M0
「――ちゃん、起きて」
「……」
「――美希ちゃん!」
「……あふぅ」
「よかったぁ……おはよう、美希ちゃん」
「ん……雪歩……おやすみなの」
「寝ちゃダメだよ、美希ちゃん!?
 もうレッスン場が閉まっちゃうから、出ないと……」
「む〜、もうそんな時間なの?」
「はう!ご、ごめんね、待たせちゃって……。
 私ばかり何度もレッスンし直したから……。
 結局、終盤はほとんど私のソロレッスンみたいになっちゃって……。
 美希ちゃんはどの振りも一発オッケーだったのに、私本当にダメダメですぅ……」
「まったくなの」
「うぅ……」

「それにしても、ミキと雪歩のユニットなんて珍しいよね」
「そうだね……で、でも、私と美希ちゃんだと不釣り合いだし、やっぱり辞退した方がいいかな……」
「ミキは楽しみだよ?」
「えっ、楽しみ?」
「うん。ミキは気づいたの。765プロのみんな、それぞれ個性があるって」
「個性……」
「ミキ、勉強もスポーツも、なんでもやればできるって、学校の先生に言われたことがあるんだ。
 でもそうじゃないの。同じ歌は歌えても、ミキは雪歩にはなれないし、他のみんなにもなれない」
「……」
「それが、個性。その個性をかけあわせたとき、もっとドキドキするんだ」
「かけあわせる……ユニット、ってことだよね」
「ピンポーン!だから、雪歩とのユニット、楽しみなの」
「美希ちゃん……。私も個性を出せるように……あと足をひっぱらないように、がんばるね!」
「がんばるの!」





「ふあぁ……よく寝たの。やっぱり事務所のソファは最高なの」
「おや、美希。いま帰るところですか?」
「うん。貴音は屋上に用?」
「ええ。今宵は月がよく見えるので、少し見ていこうかと」
「ふーん……」
「美希もどうです?」
「じゃあ、せっかくだし行ってみるの」
「ふふっ……では、行きましょう」

「うわぁ、本当に月がおっきいの。
 そういえばお姉ちゃん、今日はスーパームーンだって言ってたかも」
「月は古来より、多くの人の心を捉えてきました。
 かぐや姫の伝承しかり、ウサギが住むという言い伝えしかり」
「十五夜のお団子もそうだよね」
「ええ。では、どうしてそれほど月は魅力的なのだと思いますか?」
「うーん……キレイだからかな」
「それもあるでしょう。しかし、それだけではないと私は考えています」
「じゃあ、どうして?」
「月を見る人は、月に自分自身を重ねているのです」
「自分自身を重ねる?どういうこと?」
「月はみずから光ることはできず、太陽の光を反射して光っています。
 すなわち、他者の力がなければ輝くことのできない存在ということなのです」
「……言われてみると、そうかもね」
「ええ。この私も、プロデューサーをはじめ多くの方々に助けられて、アイドルをしている」
「そっかー。だから月に自分自身を重ねているんだね」
「そう……ただ、中には特別な人もいると思います」
「特別な人?」
「みずから強い光を発して、周囲を光らせる……太陽のような人です」
「ふーん……」
「ふふっ。小難しい話をしてしまいましたね」
「ううん。なんとなく、わかる気がするの」




597夢見る少女じゃいられない(前編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/25(月) 21:47:10 ID:86esDh7M0



 静謐な空気に包まれた美術館の、入口から近い展示室にて。
 眠りから目覚めた美希はゆっくりと、床から上半身を起こした。
 カメラのピントが合うように、ぼんやりとした視界がクリアになっていく。
 そうして、ここがレッスン場でも事務所でもなく、美術館であることを思い出す。

「さっきまでの、夢?ってコトは……」

 先程まで見ていた光景は、それを夢だと認識したとたんに、美希に悪い想像をもたらした。
 雪歩や貴音が夢に出てきたのは、いわゆる予知夢のようなもので、何かの予兆ではないか。
 最初の放送で春香の名前が呼ばれたように、雪歩や貴音にも良くないことが起きているのではないか。

「そんなの、やなの!」

 これまで美希は、大切な存在を喪う経験などしたことがなかった。
 家族は両親も姉も健在で、そもそも“死”に触れた経験自体ゼロに等しいのだ。
 加えて、天海春香を喪ったからこそ、仲間を喪いたくないという気持ちが何より強い。
 ただの夢であってほしいと思いながら、周囲を見渡す。カミュとハンターの二人は床で寝ていた。
 誰かに相談したかったが、ナインズくんの姿はなかった。ケータイも無いから、メールを送ることもできない。

「……ううん、悩んでもしかたないの。
 たしか亜美と真美もそんなカンジで歌ってたよね」

 美希は双海亜美と真美ふたりの持ち歌を脳内で再生して、不安な気持ちを紛らわせる。
 生まれつきのマイペースさもあって、悪い想像を抑え込むことに成功する。
 そのとき、近くで落ち込んだ声がした。

「むううん」
「あれ?おはなちゃん、しょんぼりしてるの」

 おはなちゃんことムンナは、美希の近くでふわふわと浮いていた。
 その頭から出ている煙は、これまでのピンク色とは微妙に異なっている。
 煙はわずかに黒みを帯びており、その表情にも陰りが見える。

「うーん。どうしたんだろ?」
「むうぅん……」

 美希はムンナの頭部をやわらかく撫でた。しかし、反応は鈍い。
 全身をくまなく観察してみても、わかりやすい怪我の傷や病気の兆候は見られない。
 こうなると美希には判断がつかない。なぜなら美希には、ポケモンどころか一般的な動物の知識もろくにないのだから。
 それでも頭をひねって考えると、あるひとつの可能性に思い至る。

「あ!もしかしたら、イヤな夢でも見たのかも。どう?おはなちゃん」

 美希と同様、悪夢を見てしまったせいで落ち込んだのではないか。
 そう問いかけても、ムンナの表情は変わらない。
 どう対処したものかと、美希は首を傾げる。

「そうだ、こんなとき響なら……!」

 美希はふと、同じアイドル仲間の我那覇響がしていた話を思い出した。
 響は何匹もの動物たちと暮らしており、普段は仲がいいが、たまにケンカをすることもあるという。
 ケンカのあとはどうしても、響自身も動物たちも、気分が落ち込んでしまう。
 そんなときに、響はいつも得意の歌やダンスの力を借りるのだそうだ。
 浮いているムンナに手招きをしながら、美希は口ずさむ。

598夢見る少女じゃいられない(前編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/25(月) 21:51:54 ID:86esDh7M0
「MOONY GOOD NIGHT 真夏に光る〜♪」

 いわく、楽しい雰囲気を好むのはヒトもイヌも変わらない。
 歌やダンスを楽しむことで、自分自身も周囲の動物たちも楽しい気分になるのだと。

「お月様 お願い良い夢を〜♪」

 表情に陰りがあるのは落ち込んでいるからだと、美希は判断した。
 ムンナを膝の上に置いて、頭部を撫でながら、やさしく語りかけるように歌う。
 選んだのは、美希の楽曲のレパートリーの中でも、とくに穏やかであり、夢見心地になれる曲だ。

「むううん!」
「おはなちゃんもいっしょに歌うの!」
「むぅ〜ん♪」
「あはっ!」

 膝の上のムンナは美希の歌に合わせて、ぴょこぴょこと身体を左右に揺らしはじめた。
 目を細めながら調子外れな音を出すさまを見て、美希もつられて笑顔になる。
 それからまるまる一曲、美希はムンナと心ゆくまで歌を楽しんだ。





 ふむ、あの娘以外の二人は眠り、もう一人は美術館の外。
 しばらく頃合いを見計らっていたが、この好機を逃す手はあるまい。


 あのとき塗料にし損ねた人間が現れたときには驚いたが……。
 わらわに気づいた様子もない。今度は確実にまる飲みにしてくれよう。


 それにしても……この身はいちど消滅したはず。
 それを復活させていただき、ふたたびお役に立てるとは、まさに無上の喜び。


 あの方からは「首輪をはめた人間を吸収しろ」と命じられた。
 その理由まではわからないが……もとより、偉大なるあの方を疑う必要などない。


 あの方の寛大なお心遣いは、わらわへの信頼あってこそ。
 そうであるならば、その信頼に応えることで感謝の意を示すべきだろう。


 さて、まずは能天気な娘からだ。
 寝ている男どもに比べれば、まだいい色になりそうだ。


 カカカ……ひとりずつ塗料にしてくれる。
 この美術館を訪れたのが、貴様らの運のツキよ。





「ふう……」

 美術館の女子トイレの洗面台で、美希は一息ついた。
 ひとまず、ムンナのテンションを元通りに戻せたことに安堵していた。
 ムンナには美希がトイレに行く間、カミュとハンターの様子を見てもらっている。

「それにしても、カミュもハンターさんも、ぐっすり寝てたの」

 二人の寝顔を思い出しながら、蛇口をぐいと回す。
 美希とムンナの歌声を聞いても、起きるそぶりを見せなかった二人。
 彼ら二人はこの美術館に来るまでに、激しい戦闘を繰り広げたと話していた。

「ほんとうに疲れてたんだね。ご飯モリモリ食べてたし。
 あ、ちゃんとセッケン付けないと、律子…さんに叱られちゃう」

 備え付けのハンドソープのポンプを押す。
 765プロの事務所では、体調管理の一環として手洗いの習慣化を促されていた。
 面倒で適当に済ませてしまう美希は、ルールを決めた秋月律子から説教されることもしばしばあった。
 たあいのない日常のひとコマを思い出して、美希は笑みをこぼした。

「そうだ、ナインズくんどこ行ったんだろ。眠くないのかな。
 あれ?アンドロイドは寝なくても平気、って言ってたっけ?」

 しっかりと泡立ててこすり、流水で泡をすすぐ。
 美希たち三人が寝ていた部屋に、9Sの姿はなかった。
 さきほどまでの会話の流れからすれば、三人を放置して去るとは考えにくい。
 それに、9Sから美希へとされた宣言のこともある。

599夢見る少女じゃいられない(前編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/25(月) 21:53:49 ID:86esDh7M0
「貴方を護ります、かぁ……。
 そんなこと言われたの、はじめてかも」

 ゆっくり流れて消えていく泡を、じっと見つめる。
 数時間前、美希と9Sの二人は互いに約束を交わした。
 独りにしない。その言葉に込められた感情は異なるとしても。

「ナインズくんは、ウソはつかないって思うな」

 その言葉に嘘偽りは無いことだけ、美希は確信している。
 ただし、不安要素もある。9Sの精神は安定しているとは思えない。

「……いなくなったり、しないよね」

 ヨルハとは何なのか。
 9Sは何を抱えているのか。
 記憶を取り戻すことで、何が起こるのか。
 どれも、美希には見当もつかないことだった。

「……あっ」

 備え付けのハンドペーパーで濡れた手を拭いて、ゴミ箱に投げ入れる。
 丸めたペーパーはゴミ箱のふちに当たり、床にぽとりと落ちた。

「……」

 無言のままそれをひょいと拾い上げて、あらためてゴミ箱へと入れる。
 ただそれだけのことなのに、美希の手は震えていた。疲労ではない。
 脳裏に浮かんできた9Sの言葉が、美希の不安を噴出させたのだ。

「とにかく、このままだとダメ」

 美希はそう呟いて、洗面台の鏡にうつる自分を見つめた。
 胸元にチョウの模様をあしらったグリーンのキャミソールと、紺色のスカート。
 いつもとまるで変わらない、そのままの星井美希がそこにいる。

「今のままだと、なにかあったときに動けないの」

 このまま、9Sに護られているだけの状況ではいけない。
 互いに大切な約束を交わしたのだから、美希も9Sの力になりたい。
 美希の心には、これまでに交わした約束よりも能動的な感情が芽生え始めていた。

「ミキもナインズくんを護りたい。
 でも、そのためには戦えないといけない……」

 ぽつりぽつりと呟いて、美希自身のするべきことを確認する。
 目標のオーディションに合格するためには、レッスンが必要不可欠。
 アイドル活動を初めたての頃の美希は、そんな当たり前のことも知らなかった。
 しかし、初の単独ライブを終え、プロデューサーから新人卒業と評された今の美希は違う。
 目標達成のためには行動が必要だと身に染みて知っている。だからこそ、するべき行動を導ける。
 現状の美希にとって、目標とは護ること、そして行動とは戦うことだ。

「だから、ナインズくんには止められたけど、これを……」

 ゆえに、美希は行動を選択する。
 洗面台のそばに置いた、とある支給品を見つめる。
 支給品を確認した9Sからは使用を控えるように言われたアイテム。
 いずれ使用することになるかもしれないそれを握りしめて、美希は再び鏡へと視線を移した。
 すると、知らない幼女が鏡に――しかも美希の背後に――写り込んでいた。

「わっ、びっくりしたー」

 少し驚いて振り向くと、トイレの入口付近に幼女が佇んでいる。
 服装は洋風で、低身長の高槻やよいと比べても背が低い。年齢は十歳にも満たないだろう。
 とつぜん現れた相手に、どう対応しようかと逡巡している間に、幼女の方から声をかけてきた。

「お姉ちゃん。わたしのパパとママ、知らない?」
「パパとママ?……キミもここに連れてこられたの?」
「え?ええと……よくおぼえてない。
 この美術館にパパとママといっしょに来たんだけど、はぐれちゃって」

 目元を拭うしぐさをするメルを見て、美希は弱ってしまう。
 小学生の女の子から告白されたこともある美希だが、励ましたり慰めたりするのは不得意だ。
 もし三浦あずさならどうするか。美希はあずさのことを思い浮かべながら、言葉をかけることにした。

「……迷子になっちゃったんだね。キミ、名前は?」
「わたし、メル……ぐすっ」
「メル……かわいい名前なの」

 両親とはぐれて、いつの間にかここに辿り着いていたと、涙声で話すメル。
 そんなメルの様子を眺めた美希は、わずかながら違和感を覚えた。

「……?」

 メルの話によると、メルは美術館にパパとママと来て、いつの間にかはぐれたという。
 しかし、ずっと美術館にいたのにもかかわらず、美希は誰の姿も確認していない。
 そして他の三人も、誰一人として親子の話などしていない。

600夢見る少女じゃいられない(前編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/25(月) 21:55:51 ID:86esDh7M0
「お姉ちゃん、おねがい。パパとママを探して!
 きっとこの美術館のどこかにいるはずなの……」
「うーん、そう言われても……」

 美希は当惑を隠さずに口ごもる。
 わずかな違和感は疑惑へと変わりつつある。
 それに、言葉だけではなく、見た目にも違和感がある。
 このままメルという幼女を素直に信じるべきか否か、美希は決めかねた。

「……あっ!思い出した!」
「え?」
「パパとママがいなくなる前、きれいな絵を見てたよ」
「きれいな絵って、どんなやつ?」
「えっと、ろうかにあった美人さんの絵」
「廊下……ああ、そういえばあった気がするの」

 美希は古めかしい女性の絵画のことを思い出した。
 横を通り過ぎたとき、視線のようなものを感じたことも。
 そのときに抱いた率直な感想を、つい口にしてしまった。

「ミキ的にはあの絵、あんまりイケてないって感じ」
「…………」
「美人ではないと思うの」
「ねぇ、パパとママのこと、探してくれないの?」

 小首をかしげて尋ねてくるメル。
 その雰囲気に剣呑さが増したことを、美希は肌で感じていた。

「ううん。でも、いちどナインズくんに尋ねてから……」
「もういい!」
「あっ、メル!?」

 慎重な策を取ろうとした美希の言葉を遮って、メルはトイレを飛び出した。
 そして、カミュとハンターの寝ている部屋とは反対方向、女性の絵画のある廊下へと向かう。
 まるで美希の態度に業を煮やしたように。

「……」

 美希は考える。メルが虚偽の発言をしている疑惑はある。
 しかし、本当にメルが両親とはぐれている可能性も否定はできない。
 その場合、メルの両親には姿を現わせない理由があることになる。監禁されているのか、さもなければ――。

「――それは、ダメなの!」

 メルの両親は殺害されている可能性がある。そのことに思い至り、美希は駆け出した。
 独りになったメルが、もし危険な人物と遭遇してしまったら。美希は絶対に後悔する。
 ほどなくして、女性の絵画のある廊下へと辿り着く。付近には誰もいない。

「これ、だよね……」

 あらためて目にした女性の絵画は、やはり美希のセンスとは相容れない。
 解説文によると、壁画の模写らしい。そのためデザインや配色はシンプルだ。
 美希にしてみれば、面白味のない絵画だという、その評価は変わらなかった。
 それよりも、と美希は周囲を見回す。メルも近くにいるはずだった。

「お姉ちゃん、来てくれたんだね」

 すると背後から、幼い声をかけられた。
 メルの無事を確認して、美希はひとまず安堵する。

「メル!よかったの……」

 振り向いた美希。その安堵は即座に警戒心へと変化する。
 メルが悠然と構えていた。怯えた態度など、毛ほども感じられない。

「あはは……ははは……」
「!?」

 とつぜん笑い出したメルを、美希は理解できずにいた。
 このときの美希に不足していたもの、それは何よりも経験である。
 これまでに異常事態を経験してきた者であれば、あるいはその場から離れることもできたかもしれない。
 そう、カミュやハンター、あるいは9Sであれば。

「カカカ……カカカカカ……!」

 しかし、美希は態度を急変させたメルに意識を割いてしまった。
 そのせいで、絵画から――正確には女性の胸元にあるカギから――放たれた怪しい光に反応するのが遅れた。
 哄笑しながら雲散霧消していくメルと、驚愕する美希。

「えぇっ――!?」

 そして思考よりも速く、まばゆい光は美希を飲み込んだ。




601夢見る少女じゃいられない(前編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/25(月) 21:57:46 ID:86esDh7M0
「うっ……ここは……?」

 気がつくと美希は奇妙な場所に倒れ込んでいた。
 そこは石造りの歩道のようで、ただし中空に浮いていた。

「不気味なところなの……」

 恐怖心に身震いして、美希は周囲を見渡す。
 まっすぐ伸びた歩道には、等間隔で炎が揺らめいているものの、それでも暗い。
 そして、歩道以外の周囲の空間は、その上下左右すべてが暗雲に包まれていた。

「ナインズくん!カミュ!ハンターさん!」

 大声で名前を呼んでも、返事は無い。
 目を凝らすと、前方に人影らしきものが見えた。
 美希は駆け出した。今は誰かと合流するのが最善だ。
 ゆっくりと近づいてくる人影。その輪郭と容姿が次第に明瞭になる。

「ひっ……!な、なにコレ!?」

 土気色の肌。ぎょろりと飛び出た眼球。開いた口の隙間から垂れるよだれ。
 リビングデッド。それは生者を呪うために墓場よりよみがえった、ゾンビである。
 美希の全身に怖気が走る。嫌悪感はもちろん、強い悪意に触れること自体、初体験だった。

「こいつら、何匹もいる!?」

 リビングデッドは背後を向いて手招きのような動きをした。
 すると、地中から同じリビングデッドが這い出てきた。
 その数は二体、三体と次第に増殖していく。

「近寄らないで欲しいの……っ!」

 リビングデッドの動きは緩慢ではあるものの、明確に美希を追跡している。
 このまま歩道に留まっていても、体力が尽きて捉えられてしまうことは容易に想像がついた。
 なおも増え続けているリビングデッドを遠巻きに見て、美希はひとつ息をついた。

「もう……ぶっつけ本番だけど、やるしかないの!」

 美希は震える手で、あるアイテムを髪に装着した。
 それは“シルバーバレッタ”と呼ばれる銀の髪飾り。
 その穴には既に、マテリアがひとつセットされている。

「……」

 マテリアの使用方法は、解析した9Sから説明を受けていた。
 目を閉じて、9Sの説明を思い出す。曰く、精神を集中させるのだと。

(集中……集中するの……)

 美希は魔力という概念を知らない。
 それでも、アニメや漫画で魔法を使うときのイメージを脳裏に浮かべる。
 相手に魔法を命中させる。その一心で、精神を極限まで集中させていく。

「いっけー!サンダー!」

 そうして放たれた雷の魔法は、リビングデッドの群れへと降り注いだ。
 ほとばしる光は、死体の精神と肉体を駆け巡り、電気信号を遮断する。
 リビングデッドの動きは止まり、そのまま崩れ落ちた。

「ハァ……ハァ……」

 一方の美希は、肩で息をしていた。
 魔力を持たない人間にとって、魔法の行使は体力を消耗する行為だ。
 サンダーは下位の魔法であるが、それでも美希の体力の消耗は著しい。

「でも、なんとか……」
「カカカ、無駄な抵抗よ」

 リビングデッドを一掃できた、その事実に安堵したのも束の間。
 天から不気味な声が降る。その笑い方に、美希は聞き覚えがあった。

「メル……!」
「カカカ、ただの人間かと思えば魔法を使えるとは。
 驚かせてくれる……しかし、威勢がいいのもここまでよ」

 指パッチンのような音と同時、歩道の向こうからモンスターが現れた。
 美希は息をのむ。リビングデッドには嫌悪感を抱いたが、このモンスターには違う感情を抱いた。
 それは暴力への恐怖。四本の腕はどれも丸太と見間違うほどの剛腕で、トゲつきのグローブを嵌めている。
 マッスルガード。頑丈な肉体を活かした攻撃を主とするモンスターである。

「そんな……」
「おぬしの首であれば、掴んだだけでへし折れるであろうな」

602夢見る少女じゃいられない(前編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/25(月) 21:59:10 ID:86esDh7M0
美希はへたり込む。その目には絶望が浮かんでいた。
体力的に、もういちど雷の魔法を唱えることはできない。
なまじできたとしても、その場で体力が尽きて倒れてしまうのは確実だ。

「もうダメ、なの……?」
「カカカ……」

 勝利を確信した笑い声を、どこか遠くに感じながら、美希は目を閉じた。
 マッスルガードの装着した鎖から鳴る、ガチャガチャという音が近づいてくる。

(これじゃあ、ぜんぶ中途半端になっちゃうね……。
 ナインズくんとの約束も……おはなちゃんのことも……)

「むううん!」

「――え?」

 美希は聞き覚えのある声に、驚いて目を開けた。
 するとそこには、サイケこうせんを真正面から食らい、仰向けに倒れ込むマッスルガードの姿があった。
 勢いよく振り向く。そこにはおはなちゃんことムンナの姿があった。
 美希は満面の笑みを浮かべて、ムンナへと駆け寄った。

「むううん」
「おはなちゃん!助けに来てくれたんだ!」
「むう〜ん」
「ありがとーなの!本当に……」

 涙目の美希はムンナをぎゅっと抱きしめた。
 その頭上から、ふたたび不気味な声がかけられた。

「ほう。モンスターをそこまで飼い馴らしていたか。
 つくづく貴様は予想外の存在よ。ならば、わらわみずから吸収してくれる!」

 美希は頭上を仰ぎ見た。今は警戒を緩めるべきときではない。
 天の不気味な声は、まだ余裕綽々の態度を崩していないのだ。
 魔力と呼ぶべきエネルギーが、その空間に凝縮していく。

「わらわは美と芸術の化身メルトア!
 貴様はこの場所で、わらわの塗料となり果てるのだ!」

 宣言の直後、絵画の女性に似た雰囲気の、緑髪の巨大な女性が空中に出現した。
 青と紫を基調とした西洋風ドレスに、黄金の王冠と胸元に光るカギ。
 さながら王女のような佇まいで、見るものに威圧を与えている。
 メルトアの深紅に光る双眸が、美希とムンナをじっとにらんだ。

「しかし残念だ、メインディッシュが控えているのでな……。
 ゆっくり味わうことはできそうにない。すぐに吸収してやるわ」
「メインディッシュ……?ナインズくんたちのこと!?」
「カカカ!さて、どうかな?」
「そんなこと、絶対させないの!」
「むううん!」

 美希はメルトアに対して毅然と言い放つ。
 ムンナと合流できたことで、絶望感は和らいでいた。
 圧倒的な大きさの敵に対しても、立ち向かえるくらいには。

「カカカ。子供とはいえ愚かよのう。
 よいか?わらわに吸収されることで、貴様は絵の塗料となるのだ。
 わらわという至高の芸術を彩れることこそ、すばらしい幸福と知れ!」

 そう言い放ち、メルトアは深紅の瞳を閉じた。

「むううん……!!!」
「うん、なにか来る……!」

 美希はムンナの声に応じて、メルトアをじっと見つめた。
 ムンナは特性の“よちむ”で、美希は直感的に、メルトアから危険を感じ取る。
 しかし、それに対応するよりも、メルトアの瞳が開かれる方が、圧倒的に早かった。

「むううん!」
「マズいの!」

 メルトアの瞳から高熱のレーザーがほとばしった!

603 ◆RTn9vPakQY:2022/07/25(月) 22:01:12 ID:86esDh7M0
以上を前編といたします。
後編は推敲の上、明日7/26日中に投下いたします。
大変お待たせすることになってしまいますが、ご容赦ください。

現時点で、誤字脱字・気になる点などございましたら、ご指摘お願いいたします。

604 ◆RTn9vPakQY:2022/07/26(火) 23:27:15 ID:9NW5E1Lw0
すみません、もう一日お時間延長いただきたいです。

605夢見る少女じゃいられない(後編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/27(水) 23:58:19 ID:gVk1Zg8U0
後編投下します!

606夢見る少女じゃいられない(後編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/28(木) 00:01:37 ID:OUX/e6k20



「あっ、みつけた!」

「わわわっ、ごめんねえ!おどろかすつもりはなかったの」

「怖がらなくてもいいよ。ほら、きずぐすり」

「これで回復してあげるね!……うん、これでよし!」

「よかったら、これもどう?ミックスオレ」

「甘くてすっごくおいしいよ!」

「はい、どうぞ!」

「……ねえねえ、あたしのポケモンにならない?」

「あたし、こないだ旅をはじめたばかりだし、おっちょこちょいだし」

「まだやりたいこともみつかってないけど……」

「でも、あなたと一緒に旅したいって、思ったの!」

「夢をみせるってステキだし、それにカワイイんだもん!」

「あっ、ごめんね。あたしばっかり話しちゃって」

「……どうかな?」





「おはなちゃん!おはなちゃん!」

 ぐったりと地面に転がるムンナと、その名前を呼ぶ美希。
 メルトアから放たれた高熱のレーザーは、ムンナに当たっていた。
 ムンナの肌が火傷のようにただれているのを見て、美希はくちびるを噛みしめた。
 美希を護るために、ムンナが身を挺してレーザーをその身に受けたのだと理解したからだ。

「カカカ……飼い主の盾となったか。けなげなことよ」

 言葉とは裏腹に、あざけるような声色のメルトア。
 きっとにらみつける美希だが、メルトアは意に介した様子もない。

「正面から食らったのだ。無事ではあるまい……なに!?」
「……むう」
「おはなちゃん!」

 悠然と構えていたメルトアの表情が揺らぐ。
 ムンナは傷を負いながらも、ふたたびメルトアと対峙していた。

「おはなちゃん、大丈夫なの……!?」
「むううん」

 心配して声をかける美希。ムンナの返事は先程よりも弱い。
 かなり無理をしていることは、誰の目から見ても明らかだった。

「……小癪なモンスターめ!」

 いうが早いか、メルトアのレーザーがムンナを襲う。
 二度目の直撃に、ムンナは苦しげな声とともに吹っ飛ばされた。

「おはなちゃん!」
「……む……むう」

 ムンナへと駆け寄り、息をのむ美希。
 美希は惨たらしい傷跡を見たわけではない。
 ムンナの身体が、ほのかな光を帯びていたのだ。

「これが、つきのひかり……?」

 美希は数時間前に9Sから聞かされていたことを思い出す。
 9Sはモンスターボールを解析した際、ついでにとムンナの覚えている技も分析していた。
 ボールと同梱の説明書に書かれていた技のうち、サイケこうせん以外は用途が不明だった。
 その技のひとつが、つきのひかりである。体力回復のための技だと9Sから説明を受けた。
 たしかに月光のように柔らかい光だと、実際に目にしてすなおに感じた。
 最初のレーザーの直撃後にも、この技を使用したのだろう。

「……むううん!」

 よろよろとしながらも、メルトアへと近づくムンナ。
 その姿を見て、気持ちを察して、美希は拳をギュッと握りしめた。
 どれだけ体力を回復したとしても、痛みを感じなくなるわけではない。
 レーザーに吹っ飛ばされて地面に転がって、痛くないはずがないのだ。

607夢見る少女じゃいられない(後編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/28(木) 00:05:33 ID:OUX/e6k20
「……」

 三度目のレーザーは、もはや言葉もなく放たれた。
 ムンナの意地か、わずかに直撃したその場で耐えたものの、結局は数メートル飛ばされてしまった。

「む……う……」
「……おはなちゃんっ!」

 起き上がろうとして、いよいよ力尽きたように倒れるムンナ。
 美希はムンナのもとへと駆け寄ると、その身体をやさしく抱き上げる。
 ひどく傷ついたムンナ。その呼吸は浅く、危険な状態だと直感した。

(とにかく、ここから逃げないとなの!)

 美希とムンナは、互いにかなり消耗している。
 この状況を打開する方法は、今の美希にはない。
 それならば、取るべき手段はひとつ。逃げの一手である。

(でも、どうする?すなおに逃がしてくれるワケないし……)

 美希は弱々しいムンナを撫でると、周囲をチラッと見た。
 石造りの歩道は遠くまで続いており、道中に人影らしきものが複数ある。
 歩道を進んでいく場合は、人影らしきもの、つまりモンスターへと対処することになる。

(……ううん、逃げるのは難しい。なら時間を稼ぐしかないの。
 ナインズくん、カミュ、ハンターさん……誰かは異変に気づいてくれるはず)

 考えた末、美希は時間稼ぎという消極的な手段を取ることにした。
 手負いのムンナを抱えた上では、思い切った行動も取りづらいからだ。
 悪意をむき出しにしたメルトアを相手にして、どれだけ時間を稼げるかが勝負だ。
 ゆっくりと深呼吸して、美希はメルトアと対峙する。

「カカカ。ずいぶん手のかかるモンスターだ。
しかしそれだけが原因でもあるまい。あの方より頂いたチカラも万全ではないか……」
「……あの方?」

 余裕の態度を見せつけるメルトアの発言に、美希は違和感を抱いた。
 その違和感の詳細について詳しく考えるよりも速く、口をついて質問が出た。

「……ねぇ!あの方って誰?」
「カカカ、知る必要もないことだ」

 けんもほろろなメルトアの応対に、美希は食い下がる。

「……きっと、かなりスゴイ人なんだね」
「そうだとも。この世でもっとも偉大な、わらわの愛しき方よ……」

 褒められて気をよくしたのか、メルトアは語り出した。
 もとは単なる美女の壁画であったが、あの方に生命を与えられ造り出されたこと。
 あの方から賜った「次元を超えて人間を吸収するチカラ」を用いて暗躍したこと。
 かつて栄華を誇ったプワチャット王国を滅亡させるあの方の策略に協力したこと。
 美希は話に適当な相槌を打つことで、時間稼ぎをはかる。

「しかもあの方は、いちど消滅したわらわを、ふたたびこうして――」
「うんうん」

 それまで調子よく話していたメルトアが、我に返ったように言葉を切る。
 わずかに恥じるように、コホンとひとつ咳払いをするメルトア。

「……少々、話しすぎたようだ」

 眼光には冷徹さが戻り、美希は射竦められる心地がした。
 そのメルトアから美希に対して、無慈悲な宣告が行なわれる。

「さあ、神への祈りは済ませたか?」
「……するつもりはないの!」

 美希は毅然と反論したものの、未だに打開の手立てはない。
 ほほに一筋の汗が垂れる。いよいよとなれば、体力が枯渇するのを覚悟でサンダーを放つしかない。
 美希の胸に抱かれたムンナのことを一瞥し、メルトアがあざ笑う。

「その盾も、もはや使えまい」
「これはおはなちゃん!盾じゃないの!」
「カカカ……最期までおろかな小娘よ。では……おや?」
「えっ!?」

608夢見る少女じゃいられない(後編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/28(木) 00:07:50 ID:OUX/e6k20
 メルトアの深紅の瞳が、攻撃のために閉じられようとしたとき。
 美希とメルトアは、ほとんど同時に気づいた。ムンナの様子がおかしい。
 身体全体が、奇妙に震えているのだ。

「……むうっ!」

 傷ついていたムンナが、ひとつ鳴き声を上げる。
 すると、ムンナの身体が発光し始めた。

「なにこれ!?」

 美希は驚き、抱いていた手を離してしまう。
 ムンナは空中に浮遊した状態で、光り続ける。
 つきのひかりとも違う、それよりも強力な輝き。

「……なんだ?」

 メルトアは警戒したのか、瞳を閉じるのを止めていた。
 ムンナの身体は、発光しながら風船のように膨張していく。
 やがて、まばゆい光が収まるにつれて、ふたたび姿が現れる。

「むしゃあ!」

 ムンナはムシャーナに進化した!





 いったいなぜ、おはなちゃんことムンナは、このタイミングで進化を遂げたのか。
 その疑問を解消し得る推論を提示するためには、まずポケモンの進化の条件を紐解く必要がある。

 ポケモンの進化の条件は、長年にわたり研究され続けている。
 現状における進化の条件は大きく分けて三種類。レベルアップ、進化専用の道具、通信交換である。
 この三種類は、さらに条件を細分化することが可能である。レベルアップであれば、特定の場所に赴いた上でのレベルアップや特定の技を習得した上でのレベルアップ、ポケモンがトレーナーに対して充分になついた上でのレベルアップ、などが挙げられる。
 これ以外にも、数年に一度の周期で新たな進化の条件が発見されていることから、ポケモンの進化の条件には無限の可能性があるといっても、過言ではない。

 それでは、問題となるムンナの進化の条件は何か。
 それはもちろん、進化専用の道具である石のひとつ、“つきのいし”を使用することである。
 有識者の研究によれば、“つきのいし”をはじめとする進化の石は放射線を発している。そして、その放射線がポケモンの遺伝子に働きかけて進化を促すとされている。
 しかし、当該のムンナに対して“つきのいし”は使用されていない。となれば、別の要因によって進化したことになる。
 その要因たりえるものとは何か。ずばり、メルトアのレーザーである。

 レーザーとは、光を発生させる装置、またその装置を用いた光線のことを指す。
 レーザーは通常の光とは異なり、指向性と収束性に優れた、ほぼ単一波長の電磁波である。
 専門用語の詳細はさておき、ここでは“レーザーは電磁波である”という事実を重要視する。
 メルトアのレーザーは、当該のムンナの体表に接触し、焼け焦げたような傷を負わせている。
 このことから、メルトアのレーザーは高エネルギーを有していることは明らかだ。

 さて、高エネルギーと聞いて思い当たる人もいるだろう。そう、放射線である。
 放射線にはさまざまな種類が存在しており、その性質から電磁放射線と粒子放射線に大別される。
 そして、電磁放射線は読んで字のごとく、高エネルギーの電磁波であり、ガンマ線やX線がこれに該当する。
 ここでも専門用語はさておき“一部の放射線は電磁波である”という事実を重要視する。
 補足として、進化の石から出る放射線の種類は解明されていない。

 これまでに示した、端的な二つの事実から、ある推論を導き出せる。
 「メルトアのレーザーと進化の石の放射線は、ともに高エネルギーの電磁波であり、それがムンナの進化に関係している」というものだ。
 レーザーと放射線。この二つが同質であったため、当該のムンナはレーザーをその身体に受けたことで“つきのいし”を使用したときと同様に進化したと考えられるのだ。
 とはいえ、メルトアのレーザーの性質も進化の石の放射線の性質も、現実世界と同じ尺度で語れるものとは限らない。そして実測不可能である以上、この推論は机上の空論に過ぎない。
 ゆえに、これは不思議で満ちた世界の現象を、現実の世界に即して理解しようとしたときの、ひとつの可能性だ。

609夢見る少女じゃいられない(後編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/28(木) 00:09:33 ID:OUX/e6k20
 ここで、もうひとつの推論を挙げる。
 それは「星井美希がムンナの進化に関係している」というものだ。
 トレーナーを含めた周囲の環境が、ポケモンの生態および進化に対して影響を及ぼすことは珍しくない。
 前述したトレーナーに対するなつき度合いや、特定の時間帯ないし場所に起因する進化は、複数観測されている。
 あるいは、ポケモンの進化中には意図的な進化キャンセルを行なえるように、直接的な影響の及ぼし方もある。

 そして、ムンナの生態を見るに、周囲の環境から影響を受けやすいことは明白だ。
 ムンナとその進化系のムシャーナは、人やポケモンの見る夢を食べることで知られている。
 ムンナが夢を食べたあとは頭部から煙を吐き出すのだが、その色は夢の性質によって変化する。
 食べた夢が楽しい夢ならばピンク色の煙を、悪夢ならば黒っぽい煙を、それぞれ吐き出すのだ。
 これはムンナが実体のない現象であるところの“夢”に、多大な影響を受けていることの証拠だ。

 一方の星井美希は、ムンナと対照的に、周囲の環境に影響を与えるタイプの人間である。
 こう考える根拠には、星井美希がアイドルとして大勢の観客の感情を動かしてきた、という事実も当然ある。
 しかし、それだけではない。それ以前に、星井美希という人間には、スター性と呼ぶべきものが備わっているのだ。
 学校では男女問わず人気があり、とくに男子からは毎月数十人単位で告白を受けているとは本人の談だ。
 この数が問題で、数人ならまだしも数十人となると、単にルックスや性格が優れているというだけでは説明がつかない。
 すなわち、存在するだけで周囲の人間を惹きつけ虜にしてしまう、天賦の魅力。すなわちスター性が、星井美希にはある。

 無論、当該のムンナと星井美希とは、現状ポケモンとトレーナーの関係にはない。
 とはいえ、当該のムンナは星井美希から夢を摂取したり、歌やダンスを見て気分を良くしたりしている。
 このことから、本来のトレーナーに近しい雰囲気の星井美希に対して好感情を抱いていると推測することができる。
 これらの状況を総合すると、星井美希の歌声などに対して、当該のムンナの遺伝子が反応を見せた可能性も充分にあるといえる。

 閑話休題。





 目を閉じて空中に浮遊する、ピンクのモンスター。
 姿を変えたムンナ――ムシャーナに、美希はおそるおそる声をかけた。

「……おはなちゃん、なの?」
「むしゃあ」

 するとムシャーナは、くるりと振り向いてひと鳴き。
 会話や意思疎通は可能だと分かり、美希は胸をなでおろした。

「……驚いた。姿を変えるモンスターとは」

 メルトアの声は、苛立ちからか鋭さが増していた。
 何度レーザーをお見舞いしても復活してくるモンスターは鬱陶しいに違いない。
 それでいて、詳細不明のためうかつに攻撃をしかけられないことも、苛立ちを増幅させるだろう。
 これまでのメルトアの行動から、しばらくは様子見をするはずだと美希は判断した。

「おはなちゃん、ここから逃げるの!」
「むにゃ?」

 逃げるチャンスは今だと確信して、美希はムシャーナを抱きかかえた。
 そして、脱兎のごとくメルトアから離れようとする。

「させぬ……!」

 さすがにそれを看過するわけはなく、メルトアの指パッチンが鳴りひびく。
 集合してきた三体の屈強なマッスルガードに、美希は行く手を阻まれてしまう。

「くっ……」
「むしゃあ!」

 ムシャーナが意気を込めて鳴くと、マッスルガードたちは即座に入眠した。
 あくびよりも命中率は劣るが即効性の高い技、さいみんじゅつによる眠りだ。

「やったの!」
「むしゃ」

 美希は抱きかかえたムシャーナに声をかける。
 ムシャーナもそれに応える。目を閉じていてもちゃんと見えているようだ。
 この調子なら逃げ出せるかもしれない、という希望が美希の中に生まれる。

610夢見る少女じゃいられない(後編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/28(木) 00:11:57 ID:OUX/e6k20
(このまま走り抜けるの……!)

 勢い込んで、美希は歩道の先へと目線を向けた。
 そして歩を進めようとした美希の眼前を、レーザーが通り過ぎる。

(……!)

 美希はその場に立ち尽くした。
 一歩先にいたら、レーザーに貫かれていた。
 その恐怖で、両脚がすくんで動くことができない。

「調子に乗るでない、小娘ども。
 わらわの手からやすやすと逃げられると思うな」
「むしゃあ……」

 メルトアの威圧に対して、ムシャーナが鳴いた。

「なに!?」

 メルトアの驚愕の声に、美希は振り向いた。
 すると、メルトアの真正面に、暗い靄らしきものが浮かんでいる。
 驚いているということは、メルトア本人の仕業ではないと思われる。

(何が起こるの……?)

 漆黒の靄から現れたのは、奇妙な姿をした人影だった。
 しかし、それが人ではないことを、美希は即座に直感した。
 死人と見間違うほど青白い肌、トサカのような赤髪、側頭部の角。
 そして何より人間離れしているのは、全身から放たれる威圧的な気である。

「おお……ウルノーガ様!」

 頭を下げて畏まるメルトアの言葉で、美希は現れた人影の正体を理解した。
 同時に、ぼやけた記憶を取り戻す。この殺し合いを宣言したマナと、ともにいた人物だ。

(これは、本当にマズいの……)

 新たな来訪者に、美希の心から希望が消えていく。
 この殺し合いを主催している存在が目の前に現れれば、誰しも死を覚悟する。
 しかし、ウルノーガは美希たちには目もくれずに、メルトアの方へと向き、ひとことこう告げた。

「この小娘を逃がせ」
「えっ?」
「な……しかし、ウルノーガ様……!?」

 わかりやすく困惑しているメルトア。
 当事者の美希も、同じくらいに困惑していた。
 ウルノーガは無表情のまま、その大柄に見合う重低音を鳴らした。

「我の命令が聞けぬか?」
「……まさか!偉大なるウルノーガ様は絶対」

 ひどく恐縮したメルトアを見て、美希は思い至る。
 このウルノーガが、メルトアの話していた、あの方なのだろうと。

「そうだ。ならばわかるな?」

 有無を言わさないウルノーガの言葉。
 言葉をかけられていない美希でさえ、緊張で喉が渇ききっていた。
 メルトアの感じている重圧がどれほどのものかは、推して知るべし。
 その圧に、メルトアはそれ以上の口答えをせず、美希へと向き直る。
 そして、不満そうな表情をいっさい隠さずに、ゆっくりと重々しく口を開いた。

「……ウルノーガ様の命令だ。この場は見逃そう。
 しかし、わらわの美しさを侮辱したこと、忘れはせぬぞ」

 メルトアの胸元のカギが再び怪しく光る。
 暗い感情の込められたメルトアの声を聞きながら、美希は光に包まれた。





 女性の絵画の前で、美希は目を覚ました。
 身体を起こすと、美希の隣でムシャーナが寝息を立てていた。
 美希はクスリと笑って、ムシャーナをゆっくりと抱え上げる。

「お疲れ様なの」

 美希はムシャーナにねぎらいの言葉をかけた。
 ムシャーナがいなければ、おそらく美希の将来は断たれていた。
 命の恩人であるムシャーナの身体を撫でながら、もといた場所に戻る。

「あれ、カミュもハンターさんも、まだ寝てるの」

611夢見る少女じゃいられない(後編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/28(木) 00:18:02 ID:OUX/e6k20
 時計の針は十時四十五分を指していた。そろそろ動き出す予定のはずだ。
 とはいえ、モンスターから悪意を向けられたり、初めて魔法を使用したりと、美希自身の疲れもかなり蓄積していた。

「あはは……もっとスタミナをつけておけばよかったの。
 元の世界に戻ったら、真くんにトレーニング教わろうかな」

 美希は水を飲みながら、菊地真の顔を思い浮かべた。
 卓越した体力の持ち主である真であれば、おそらくここまで疲弊はしていない。
 モンスター相手にも空手で立ち向かい、激闘の末に倒すことができるかもしれない。

「……ミキ、いままでラッキーだったんだね」

 美希はポツリと呟いた。
 この殺し合いが開始してから十時間以上、敵意や悪意と無関係に過ごしてきた。
 それは、放送で呼ばれた人数やカミュとハンターの話、そして先程の出来事を総合して考えると、かなり幸運だったのだ。
 敵意や悪意を向けられるのは、かなりしんどい。美希はすなおにそう思う。

「雪歩も貴音も、それに千早さんも……ラッキーだといいな」

 そう呟きながら、美希はとくに如月千早のことを想った。
 降りかかる辛さを内にしまい込む性質の千早にとって、この場所はストレス過多だ。
 誰か信頼できる人間と合流して、ストレスを軽減できていることを願うしかない。

「でも、これでミキも戦える。ナインズくんに護られるだけじゃなくなるの。
 サンダーも使えたし……疲れるけど。でこちゃんが見たら、きっといい反応するの……」

 美希の脳内に、魔法を見て困惑しきる水瀬伊織のビジョンが明確に見えた。
 それ以外も、取り留めのない思考が、美希の脳内に生まれては消える。

「そういえば、なんでウルノーガって人、ミキを見逃したんだろ……?」

 美希からすると、それがいちばんの謎であった。
 殺し合いを命じておきながら、メルトアが美希を殺そうとするのを止めたことになる。
 あれこれ考えてみても思考がまとまらないので、あとで9Sに尋ねてみようと結論づけた。

「あれ、今……」

 ふと、美術館の外から爆発のような音が聞こえたような気がした。
 何が起きたのか確かめなければ、とぼんやり思いながら、美希の意識は飛んだ。





 星井美希はもう、夢見る少女じゃいられない。



【B-4/美術館内/一日目 昼】
【星井美希@THE IDOLM@STER】
[状態]:疲労(中)、気絶
[装備]:シルバーバレッタ@FINAL FANTASY Ⅶ、マテリア(いかずち)@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品、モンスターボール(ムンナ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[思考・状況]
基本行動方針:自分にできることをする。
0.……(気絶中)
1.休憩後、四人でイシの村へと向かう。
2.ナインズくんを護りたい。記憶を取り戻す手伝いについては……?
3.メルトアの危険性と、ウルノーガを見たことを伝える。


【ムシャーナ ♀】
[状態]:HP1/3、ねむり
[特性]:よちむ
[持ち物]:なし
[わざ]:サイケこうせん、ふういん、つきのひかり、さいみんじゅつ
[思考・状況]
基本行動方針:美希についていく。
※所有者は星井美希のままですが、モンスターボールをハッキング済みのため9Sがモンスターボールに情報を送ることで遠隔操作に近い指令ができます。
※レベル20になりました。


【全体備考】
※美術館のとある廊下の絵画は、メルトア@ドラゴンクエストⅪのいる世界とつながっています。
 メルトアのいる世界は、壁画世界@ドラゴンクエストⅪと同じ性質のものとします。

612 ◆RTn9vPakQY:2022/07/28(木) 00:18:41 ID:OUX/e6k20
投下終了です。
誤字脱字・矛盾・指摘等ありましたら、お気軽にお願いします。

613 ◆RTn9vPakQY:2022/11/28(月) 20:28:57 ID:sNkuMtX.0
お疲れ様です。
拙作「夢みる少女じゃいられない」を読み返して、説明不足な点があると感じたため、追記をします。
具体的には、「絵画世界で登場したウルノーガについて」です。
以下に、「該当するレス番号」及び「追記した部分の周辺の文章」を載せます。

>>610
メルトアの威圧に対して、ムシャーナが鳴いた。
おでこからは黒っぽい煙が出ている。

「なに!?」

メルトアの驚愕の声に、美希は振り向いた。
すると、メルトアの真正面にも、暗い煙らしきものが浮かんでいる。
驚いているということは、メルトア本人の仕業ではないと思われる。

(何が起こるの……?)

煙の中から現れたのは、奇妙な姿をした人影だった。

>>611
ムシャーナの悪夢を見せる力により、窮地を脱した美希。
しかし、未だ悪夢のような殺し合いは終わらない。
星井美希はもう、夢見る少女じゃいられない。


「絵画世界で登場したウルノーガについて」の追記は以上です。
この他にも、細かい表現を修正したい部分について、wikiで直接修正します。
また、支給品紹介を忘れていたため、以下に載せます。

【シルバーバレッタ@FINAL FANTASY Ⅶ】
星井美希に支給された髪飾り。
FF7本編ではレッドXIIIの専用武器。マテリア穴は4つ。
これに限らず、髪飾り系統の武器は、人間の使用するものと同じ形である。

【マテリア(いかずち)@FINAL FANTASY Ⅶ】
星井美希に支給されたマテリア。
魔法マテリアのひとつ。FF7本編ではクラウドが最初から装備している。
これを手に持っているか、装備している武器・防具に装着することで魔法が使用可能。
魔法の使用には、魔力かそれに準ずるものを消費する。

614 ◆RTn9vPakQY:2022/11/28(月) 20:38:14 ID:sNkuMtX.0
ハル・エメリッヒ、シェリー・バーキン 予約します

615 ◆RTn9vPakQY:2022/12/05(月) 23:46:51 ID:FAKwpyXQ0
投下します

616ハル・エメリッヒの憂鬱と驚愕 ◆RTn9vPakQY:2022/12/05(月) 23:48:26 ID:FAKwpyXQ0
 僕とシェリーの二人は、公園に到着した。
 いつ襲撃されるかわからない状況での行軍は、かなり精神にくる。
 兵士にしばしば発生するというストレス障害への解像度は、高くなるばかりだ。

「そろそろ朝食にしようか」

 僕は振り向いて、つとめて明るくシェリーに話しかけた。
 しかし、シェリーはわずかに頷いただけで、それ以上の反応はなかった。
 ショートヘアの少女に同行を断られてからこれまで、会話らしい会話をしていない。

「ほら、あそこに座ろう」

 返事を待たないまま、僕はこげ茶色のベンチへと早足で近づいた。
 ついでに公園内を見回す。視界を遮るものは、遊具とトイレくらいのものだ。
 追いついてきたシェリーは、キョロキョロしていた僕に不信感を抱いたようだ。

「……?」
「ああ、なんでもないよ」

 安全確認だと事実を伝えることもできたが、要らぬ心配を与えまいと適当に濁した。
 そのままシェリーをベンチへと誘導して、デイパックから食料を取り出した。

「そういえば、食料はなにが入っていたんだい?」
「えっと、カロリーなんとか」
「ああ!栄養調整食品か。いいものだよ、アレは」

 日本製の某食品について力説するも、シェリーの反応は鈍い。
 箱を開けて、袋からショートブレッドに似た形状のブロックを取り出したところで、その手は静止していた。

「シェリー?どうしたんだい、ぼんやりして。
 あ、もしかして苦手だった?それなら僕のハンバーガーと交換――」
「ちがうよ!」

 シェリーから明確に否定されて、僕はビクッとした。

「カズマはもう、ご飯も食べられないんだって……そう思っただけ」

 それだけ言うと、シェリーは栄養調整食品を口に運んだ。
 返す言葉のない僕は、ハンバーガーの包み紙を剥き、ひと口かじる。
 慣れ親しんでいるはずなのに、なんの味もしない。僕はぐいと水を飲んだ。
 しばらくして、ハンバーガーを胃に流し込んだ僕は、ベンチから立ち上がった。

「まわりの様子を見てくるよ。なにかあればすぐ呼んで」

 隠れている参加者がいるかもしれない。有用な道具が落ちているかもしれない。
 もそもそと口を動かしているシェリーを横目に見ながら、それらしい理由を並べていく。

「時間があれば、名簿を見ておくといい。
 ゆっくりチェックする暇もなかっただろう?」

 本当の理由は、この空間から離脱したかったからだ。
 シェリーは聡明だ。いつヒステリーを起こしてもおかしくない状況なのに、落ち着きを保っている。
 その、いつでも切り捨てられる可能性を理解した上での落ち着きこそが、僕の身を苛んだ。

「……もし、僕のことを信じられないなら、逃げてくれて構わない」

 僕の情けない念押しに、返答はなかった。
 おそらく、こう伝えたとしてもシェリーは逃げないだろう。
 しかし、逃げないのは僕を信じているのと同義ではないのだ。

「それじゃあ、また後で」

 シェリーは聡明であり、同時に純粋でもある。
 ダイケンキと戯れていた姿も、まぎれもなくシェリーの一面だろう。
 いたいけな少女からの信頼を失い、しかもそれを回復できる見込みがない。
 僕はそんな真綿で首を締められるような重苦から、解放されることを望んでいた。
 これはその場しのぎでしかない。それでも僕は、束の間の休息を求めていた。



617ハル・エメリッヒの憂鬱と驚愕 ◆RTn9vPakQY:2022/12/05(月) 23:51:02 ID:FAKwpyXQ0
 ほんとうは、オタコンに返答することもできた。
 でも、私はそれをしなかった。もぐもぐと、ただ口を動かした。
 ちらりと見たときのオタコンは、とてもさびしそうな笑顔をしていた。

 ベンチに残された私は、名簿を読むことにした。
 そこにはレオンやクレア、そしてパパと私の名前があった。
 ラクーンシティでも会えずじまいだったパパのことは心配だ。
 それと同じくらい、レオンとクレアの名前はショックだった。

「レオン……」

 放送で流れたレオンの名前は、聞き間違いでも別人でもなかったのだ。
 あの日、ラクーンシティから脱出したその後のことは、よく覚えていない。
 きっとあれからすぐ、ここに連れてこられたはず。そこで殺されてしまった。
 レオンにもう会えないと思うと、自然と私の視界はにじんだ。

「クレアに会いたい」

 レオンと同じく、私を助けてくれた恩人だ。
 クレアなら、ここでも私のことを見捨てずにいてくれる。
 化物に襲われそうになったときも、クレアは庇ってくれた。
 オタコンとは違う。本当に危ないときでも、クレアなら――。

(――ここから離れて、クレアを探しに行く?)

 ふと、そんな考えが浮かんだ。
 オタコンはジャングルジムを見ていた。
 ベンチにいる私のことを、気にしているそぶりはない。
 なにより、オタコンが自分で「逃げても構わない」と話していた。

(……でも)

 しばらく考えて、私は思いなおした。
 そもそも、どこに行けばクレアに会えるのかわからない。
 それ以上に、ここでオタコンと離れていいのか、わからない。
 オタコンはクレアとは違う。危ないときは他人を見捨てる人だ。
 だけど、私のことをだまそうとしていたとは、とても思えなかった。

 初めて会ったときの穏やかな話し方。
 カズマとの会話の中で見せた、ほがらかな表情。
 そして、私に「逃げても構わない」と話したときの、さびしそうな笑顔。
 あれがぜんぶウソだとは思えない。ウソだとは思いたくない。

 オタコンへの怒りは完全には消えていない。
 カズマやダイケンキ、そして私を見捨てたオタコンのことは信用できない。
 それでも、逃げるかどうかの話になると、私の頭はぐるぐる回って決められない。

 やがて、私はあることを決めた。



「オタコン、話があるの」

 しばらく公園内をぶらついてからベンチに戻ると、シェリーから声をかけられた。
 また沈黙に支配される時間のスタートだと考えていた僕は、面食らった。
 シェリーはまごつく僕を不思議に思ったのか、首を傾げていた。

「名簿に知っている名前があって」

 それって、と途中まで出かけた名前を、僕は飲み込んだ。
 僕も名簿を確認して、シェリーと同じファミリーネームの人物を見つけていたからだ。
 正直、偶然を期待していた。肉親の参加という事実は、あまりに過酷だ。

「ひとりはパパのウィリアム」
「そうか……」

 期待もむなしく、僕は主催者の非道をあらためて憎んだ。
 しかし、予想以上にシェリーの反応は淡泊だった。

「それと――」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。その……なんだ。
 君のお父さんなんだろう?もっと、こう……心配とかは?」

 僕はシェリーの話を思わず中断した。
 父親まで殺し合いに巻き込まれているのに、どうして淡泊でいられるのかという疑問を言外に込めた。
 冷静に考えると失礼だが、このときは物事を突き詰めたい欲求に駆られていた。
 シェリーはその問いに対して、うつむいて答えた。

「もちろん心配よ。だけど……。
 パパはいつも仕事……なにかの研究をしていたみたい。
 めったに帰ってこなかったし、いたとしてもイライラしてた」

 その言葉で、僕はシェリーの態度に合点がいった。
 父娘の関係ではあるものの、お互いに干渉していなかったがゆえに、詳細に語る言葉を持たなかったのだ。
 そうした様子を、僕は淡泊だと捉えてしまったということだろう。
 同時に僕は奇妙な符合を感じた。偏屈な研究者の父親を持ち、孤独な幼少期を過ごしたという点で、僕とシェリーは似ていた。

「ごめん、話を戻していいよ」
「うん。それと、名簿にあったのはレオンとクレア」

618ハル・エメリッヒの憂鬱と驚愕 ◆RTn9vPakQY:2022/12/05(月) 23:52:43 ID:FAKwpyXQ0
 レオン・S・ケネディとクレア・レッドフィールド。
 前者は放送で呼ばれていた。シェリーも理解しているのか、悲痛な面持ちだ。
 知り合いの死を受け止めるのは大人でも辛い。それでもシェリーは健気に言葉を続けた。

「私のことを、命がけで救ってくれた二人」
「命がけで?」
「そう。二人がいたおかげで、ラクーンシティから逃げられたのよ」

 ラクーンシティという都市は聞いたことがなかった。
 命がけとなると、都市規模での災害かなにかが起きたのだろうか。

「二人は、シェリーと同い年くらいの子かい?」
「違うわ。二人とも私より大人よ」
「大人?そうか……」
「たぶん、オタコンよりは若いと思うけど」

 僕は首をひねった。災害時に大人たちに助けられた、それ自体に違和感はない。
 ただ、二人の呼び方からは気安い、もっと言えば親密な雰囲気を感じた。それで二人は同年代だと勘違いしたのだ。
 そんな些末な思考をしていると、それでね、とシェリーが言葉をつないだ。

「さっきまで、ラクーンシティでのことを思い出してた。
 こんなときに、私を助けてくれた二人ならどうするんだろうって」
「それで?」
「わからない。二人とも、私よりずっと大人だから」

 大人と子供の差、というわけではないだろう。
 付き合いの長い僕でさえ、この状況でスネークがどう動くのかは読めない。
 他人の思考をトレースするのは、簡単なことではないのだ。

「でも、これだけはわかるの。あの二人なら、こう言うわ」

 すう、と息を吸い、シェリーは顔を上げた。
 シェリーの瞳はまっすぐと、僕のことを見ていた。

「どんなに大変なときも、あきらめちゃダメなんだ、って」

 シェリーは僕と視線を交わしたまま、こう宣言した。

「だから、オタコン。私はあきらめない。生き残ることを、あきらめない」
「うん……うん。僕もだ、シェリー」

 目の前にいるのは少女のはずなのに、眩しいものを見ている気分だった。
 とても陳腐な表現をするなら、僕は胸を打たれていた。
 シェリーは逃げることも選べたのに、結局は逃げなかった。
 逃げを選んだ僕なんかより、よほどシェリーの方が大人だった。



「シェリー、そろそろ行こうか」
「うん」
「もしよければ、教えてもらえるかい」
「なにを?」
「君を助けたっていう、レオンとクレアについてさ」
「わかったわ!なにから話そうかしら……」


【C-4/公園/一日目 昼】
【ハル・エメリッヒ@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:疲労(中)、無力感
[装備]:忍びシリーズ一式@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、765インカム@THE IDOLM@STER
[思考・状況]
基本行動方針:首輪を外すために行動する。
1.首輪解除の手がかりを探すため、研究所へ向かう。
2.武器や戦える人材が欲しい。候補はスネークやクレア。
3.もっと非情にならなければならないのかもしれない。
4.生きなくてはならない。

※本編終了後からの参戦です。
※シェリーから情報を得ました。詳細な内容は後の書き手にお任せします。


【シェリー・バーキン@BIOHAZARD 2】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:生き残ることをあきらめない。
1.オタコンについていく。
2.カズマ……レオン……。
3.クレアやパパ(ウィリアム)に会いたい。

※本編終了後からの参戦です

619 ◆RTn9vPakQY:2022/12/05(月) 23:52:59 ID:FAKwpyXQ0
投下終了です。

620 ◆RTn9vPakQY:2022/12/06(火) 00:01:41 ID:dM/bQ8fI0
レスを分けてしまいすみません。
誤字脱字等ありましたら、ご指摘お願いいたします。

また、自分は「バイオハザード2」本編でのシェリーは父親のウィリアムと”それがウィリアムだと認識した上では”出会っていないと考えており、
今回の拙作はその考えを踏まえて書いています。一応確認はしたつもりですが、矛盾等あればご指摘ください。

621 ◆RTn9vPakQY:2022/12/06(火) 11:55:55 ID:dM/bQ8fI0
連レスすみません。
拙作「ハル・エメリッヒの憂鬱と驚愕」のタイトルを変更したいと思います。
「Partial Remission」とします。ご迷惑おかけしますが、よろしくお願い致します。

622 ◆RTn9vPakQY:2022/12/10(土) 13:37:33 ID:9FSCc76I0
イレブン、ベル、トレバー・フィリップス、ゲーチス 予約します

623 ◆RTn9vPakQY:2022/12/15(木) 20:11:34 ID:HY1WchxU0
予約を延長します

624 ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:14:38 ID:GPRdMMKc0
たいへん遅くなりました。
まずゲリラでクレア・レッドフィールドを投下します。

625Claire can’t stop worrying. ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:21:12 ID:GPRdMMKc0
(ここがホテルね)

 クレア・レッドフィールドは、なにごとも無くホテルに到着していた。
 バイクから降りて外観を眺めると、窓の数からして十五階以上あるとわかる。
 ヘルメットを置いて、慣れ親しんだ動物に対してそうするように、愛車のサドルを撫でた。
 駐車を任せる係員は出てこない。バイクはひとまず物陰に隠しておくことにした。

(警戒しすぎたかしら)

 クレアはラクーン市警を出てから、誰とも遭遇せずにいた。
 エンジン音を聞きつけた参加者と接触する可能性を考えていたのも、取り越し苦労だ。
 回転ドアを通過してフロントへと進む。派手すぎないインテリアからは、品の良さが感じられた。
 人の気配はしない。すこし警戒を緩めながら、歩を進めた。

「こんなときでなければ、ぜひ泊まりたいわね」

 軽口を叩きながら、クレアはフロントの台に両手をついて跳び越えた。
 そうしてフロントの内側に入り込むと、予想していたものを見つけて口角を上げた。
 トランシーバーだ。
 ホテルでは従業員同士の連絡手段として小型の無線機を用いるところもある。
 そのことを思い出したクレアは、まず無線機を探すことにしたのだ。
 トランシーバーの動作確認をしてから、デイパックにしまう。

「これでソリダスも不満は言わないはず。
 それにしても、我ながらカンの良さに驚くわ」

 再びデイパックを担いだクレアは、呆れたように呟いた。
 求めていた道具をピンポイントで入手できたのは、ラクーンシティでの経験のたまものだ。
 ゾンビに追われた経験は無駄ではない。そうレオンに話す想像をして、クレアは目を伏せた。

「レオン……」

――魔法を知らない人間が魔法に殺される瞬間って結構面白いのね。思わず笑っちゃったわ!

 第一回放送で、マナはレオンについてこう話していた。
 この内容から想像できるのは、レオンは状況を理解する間もなく殺されたということだ。
 魔法。パープルオーブを手にしたクレアは、もはやその存在を否定できない。
 しかし、レオンはそうではなかった。それを受け入れて飲み込むより先に、命を絶たれたのだろう。

 せめて遺体を弔いたいと思うも、現状では容易なことではない。
 クレアは思考を転換させるために、深く息を吐いた。

「それじゃあ、次はカメラね」

 クレアはホテルの監視室を探すことにした。
 ホテルの全室を回ることは、かなり時間のかかる行為である。
 しかし、シェリーを捜索して保護したいクレアとしては、時間をかけたくなかった。
 そのため、監視カメラを確認して、異常の見受けられた場所に向かおうと考えたのだ。

 フロントに設置されていた案内図をもとに監視室へ。
 監視室内には複数のモニターが置かれ、光を発していた。
 テレビをザッピングするように、映像を切り替えていく。
 ほとんどのカメラには、人影はおろか何の異常も映らない。

「あら?」

 ふと、クレアはモニターを操作する手を止めた。
 映し出されたものに、明確な違和感を抱いたからである。

「ここは……展望レストラン?」

 ホテルの最上階に位置する展望レストラン。
 そのフロアの中央に、木の箱が置かれていた。
 わずかな違和感を抱きつつも、それを一旦スルーしておく。

「どうしたものかしら」

 カメラを全てチェックし終えたとき、クレアの頭には二つの可能性が浮かんでいた。
 ひとつは“有用なアイテムが入っている”可能性。そしてもうひとつは“トラップである”可能性だ。

626Claire can’t stop worrying. ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:22:53 ID:GPRdMMKc0
「……とりあえず、行くしかないわね」

 パープルオーブという前例もある。ここはリスクを取るべきだ。
 そう結論づけて、クレアは展望レストランに向かうことを決めた。

 エレベーターに乗り込み、十五階のボタンを押す。
 ほどなくして開いたドアの先に見えたのは、気品に満ちたレストラン。
 そして、中央に鎮座ましましている、雰囲気に似つかわしくない木製の箱だ。

 近づいて観察しても、箱である以上の情報は得られない。
 クレアは覚悟した面持ちで、フタに両手をかけて持ち上げた。
 木と金属のきしむ音をさせながら開いた箱を、おそるおそる覗き込む。
 すると、そこには『ハズレ』と書かれた紙だけがあった。

「はあ?」

 クレアは脱力した。肩透かし以外の何物でもなかった。
 これに込められた意図を推し量ろうとして、すぐに止めた。

「あのお子様の遊び心ってことかしら。下手なジョークよりもお粗末だけど」

 自然と乱暴な言葉づかいになりながら、クレアは窓際へと近づいた。
 せめて何か情報は得られないかと、眼下に広がる景色を見ようとした。

「あら、あれは――」

 その直後、クレアは愕然とした。
 紫色の閃光と同時に、眼下の建築物が崩壊したのだ。
 ひとつではない。いくつもの建物が、まるで積み木の家のように簡単に崩れた。
 もしあの場所に参加者がいたとしたら、まず無事ではないと確信できる規模だった。

(なんてこと……)

 クレアは窓ガラスに手を当てて、崩壊した区域を見つめた。
 あの規模の崩壊を起こすには、一般的な爆弾のひとつやふたつでは足りない。
 兄からの教えで銃火器の扱いを心得ているクレアはその分析に至り、戦慄した。

(あの崩壊にシェリーが巻き込まれていたら)

 そんな最悪の想像をしてしまい、クレアはぞっとした。
 すぐさま窓に背を向け、エレベーターへと駆け込んで、一階のボタンを押した。
 冷静さを欠いていることは自覚していた。あの場所に向かうのは予定外であることも。
 しかし、それでもクレアは止まれない。止まることはない。
 行動力という名のエンジンは、もう点火していた。


【F-4/ホテル/一日目 昼】
【クレア・レッドフィールド@BIOHAZARD 2】
[状態]:疲労(小)、不安
[装備]:サバイバルナイフ@現実、クレアのバイク@BIOHAZARD2
[道具]:基本支給品、不明支給品(確認済み 0〜1個)、パープルオーブ@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて、薬包紙(グリーンハーブ三つぶん)@BIOHAZARD 2、トランシーバー×3@現実
[思考・状況]
基本行動方針:対主催の集団を作り上げる。
0.E-4エリアの崩壊が起きた区域へと向かう。
1.E-4エリアの後、“八十神高等学校”へと向かう。いつか “セレナ”に寄る。
2.シェリー・バーキンを探して保護する。
3.首輪を外す。

※エンディング後からの参戦です。

【トランシーバー@現実】
現地設置品。
ホテル等で使用される、小型の携帯用無線機。乾電池式。
サイズは成人男性の手のひらに収まるくらい。色は黒。

627 ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:23:26 ID:GPRdMMKc0
続けて、予約分を投下します。

628これから毎日小屋を焼こうぜ? ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:25:46 ID:GPRdMMKc0
 イレブンはベルとともに、イシの村から南下していた。
 これまでと変化したことといえば、ベルが言葉少なになったことだ。
 放送の前後――より正確にはラリホーをかける前後――でベルの口数は減少していた。
 それをイレブンは、ベルが気丈にふるまおうと無理をしているせいだと判断した。
 親しい者の喪失による涙は、簡単には乾かない。
 覆い隠そうとしても、心にほころびが生じてしまう。

(こうならないために、ラリホーをかけたのに)

 イレブンは悔しさから唇をかんだ。
 ベルが無理をしているということは、イレブンはベルの精神的な支えになれていないということだ。
 穏やかな夢は、その場しのぎにしかならなかった。

(僕には……どうしようもないのか)

 イレブンはベルの不安を払拭する方法を考えたが、答えは出ない。
 なにしろ“はずかしい呪い”のせいで、ろくにコミュニケーションを図れないのだ。
 これまでの会話で恥ずかしさは軽減されていたとはいえ、消極的から積極的へと呪いが反転したわけではない。
 自分自身から話しかけることに抵抗さえなければと、もどかしくなる。

(――ああ、恥ずかしい)

 せめて悔しさを表には出すまいと、イレブンは足元の石畳を見つめながら己を恥じた。
 そのときだ。隣のベルから、トントンと肩を叩かれた。

「ねえ、あれ!」

 ベルが指し示した先には、小さい犬がいた。
 石畳の上で寝ころんでいた犬は、イレブンたちに気づくと、森の中へ駆けて行った。

「あれは……?」
「ポケモンだよお!テレビで見たことある気がする。えっと、名前はね……」

 あごに手を当てて、うんうんと唸るベル。
 しばらく考えるそぶりをしてから「思い出した!」と叫んだ。

「ヨーテリー!」
「ヨーテリー」

 ベルに圧倒されて、イレブンはオウム返しをしてしまう。
 すると、それに気をよくしたのか、ベルは笑顔のまま話を続けた。

「うん。とてもかしこいポケモンらしいんだ。
 あまり吠えないから飼うのにピッタリです!って、テレビで紹介してたっけ」
「そうなんだね」
「ねえ、つかまえに行かない?」
「えっ?」
「もしかしたら、オーブを探すのに力を貸してくれるかも!」
「……」

 イレブンは即座に同意するのをためらった。
 「はい」と答えたら、南下を中断して森へと入ることになる。ベルは意気軒高だ。
 「いいえ」と答えたら、南下を続けて施設を巡ることになる。ベルは意気消沈だ。
 つまり天秤にかけるのは“ベルのテンション”と“探索の時間”である。
 二つの選択肢に悩んだ結果、イレブンは前者を選んだ。

「……そうだね。力を、貸してもらおう」
「うん!それじゃあ追いかけよう!」

 イレブンは意気軒高とするベルを見て、ほっとしていた。
 ベルに無理をさせたくない気持ちはありつつも、その方法は考えつかないのが現状だ。
 もし森に行くことを反対したら、ベルの気丈なふるまいさえ否定してしまうことになる。
 それを避けたかった、というのが理由のひとつだ。
 そして、理由はもうひとつ。

(ルキみたいに、頼れる犬かもしれない)

 いわゆる野生の勘は、バカにしたものではない。
 かつて犬に助けられたことを思い出して、イレブンは懐かしさをおぼえた。

「おうい!どこー?」
「ベル、あまり大声は……」

 ベルに注意を促しながら、イレブンはきょろきょろと視線を動かした。
 森は草木が生い茂っており、小さい犬の隠れる場所はごまんとありそうだ。
 向こうから姿を現してくれたら。そんな期待をしながら、ヨーテリーを捜した。




629これから毎日小屋を焼こうぜ? ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:27:58 ID:GPRdMMKc0
 その頃、ゲーチスはNの城を視認していた。

「おお!あれは間違いなく我が城!」

 最初から目的地に選んでいたのに、到着までかなりの時間を要した。
 すべては空想好きな女をはじめとする、無知で低能な参加者たちのせいだ。
 無益な時間を過ごした苛立ちは、アジトに戻れた安心感で帳消しにできた。
 しかし、扉へと近づいたゲーチスは、予想外のことに目を見開くことになる。

「なんだ、これは!?」

 長い階段の先にあったはずの扉が、凹んだ状態で転がっていたのだ。
 ゲーチスは唾を呑み込んだ。この扉を強引に開けた者がいることになる。

「誰かいないのですか!」

 破壊された各部屋を早足で見回りながら、ゲーチスは叫んだ。
 そうしていると、六階にてバーベナとヘレナの二人に遭遇した。
 二人とも首輪を嵌められており、ここに連行されたのだとわかる。

「アナタがたがいるということは……ダークトリニティは?」
「わかりません、ゲーチス様」

 使えない、と内心で愚痴をこぼしてから、ゲーチスは別の問いを二人に投げかけた。
 その問いに対する答えを聞いて、ゲーチスは次の行動を決めた。





「もう十時なのか……」

 ふと時計を見ると、第二回目の放送までおよそ二時間。
 時間を使いすぎるのは得策ではないと考えて、イレブンはベルの背中に呼びかけた。

「ベル、そろそろ……」
「ヨーテリー見つかった?」
「いや……ぜんぜん」
「あっ、ねえ!こっちに小屋があるよ!」

 背の低い草をかきわけて、ベルが森の奥へと向かう。
 その後ろを焦って追いかけると、すこし開けた場所に出た。
 そこには、なんの変哲もない木造りの山小屋がぽつんと建っている。

『推奨:山小屋内部の警戒』
「あの、あまり迂闊に……」
「すごく新しいみたい。誰もいないよ?」

 ベルがためらいなくドアを開けたため、イレブンは肝が冷えた。
 どうやらベルにとっては、警戒心よりも好奇心のほうが勝るようだ。

『……』
「……まあ、これでいいのかも」

 かたわらにいるポッドの忠告は、完全に無視したことになる。
 とはいえ、マイペースを取り戻しているのなら歓迎するべきだと、イレブンは自分を納得させた。

「イレブンもみてみて!くつろげそうだよ!」
『推奨:大声を出すことの危険性について、再度説明』
「……そうだね」

 ポッドの無機質な声にあきれた様子を感じて、イレブンは苦笑いした。
 それから手招きするベルにしたがって、山小屋の中へと足を踏み入れる。
 室内の広さはそこそこで、ベルの言うとおり、くつろげるように設えられた内装だ。

「ここ、まだ新しい……と思う」
「え?どうしてわかるの?」
「……木のにおい」
「そっかー!すごいやイレブン!」

 自慢したみたいで恥ずかしい、と思った矢先。
 ベルからの素直な賞賛に、イレブンは顔が熱くなるのを感じた。
 二重三重の恥ずかしさに耐えていると、ベルが思いついたように言った。

「ねえイレブン、ここで休んでなよ!」
「えっ?」
「その間に、あたしがヨーテリーをつかまえてくるから!」
「でも……」

 屈託のない笑顔を見せるベル。
 これが善意からくる提案なのは、ベルの裏表のない性格からして確実だ。
 いつもなら流れで了承してしまうが、ここでのイレブンは毅然とした態度でベルに告げた。

「それはダメだ。危険すぎる……!」
「そうかなあ?」
「どこに誰がいるかも……」
「ううん……でも、まだ回復しきってないんでしょ?」

630これから毎日小屋を焼こうぜ? ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:30:57 ID:GPRdMMKc0
 食い下がるベルを前に、イレブンは言葉に詰まった。
 ベルの提案は、イシの村で魔王たちと交わした会話を根拠としている。
 MP(マジック・パワー)は通常時の半分くらいまで回復したものの、満タンではない。
 今後は使うタイミングを見極めないと、ガス欠を起こしてしまう。
 そのような会話を交わしたことを、覚えられていたのだ。

「えっと……」
「それに、ランランもいるから平気だよお!
 だいじょうぶ、小屋から遠くにいったりはしないから!」

 ベルによる提案は理に適うものではある。
 ひとりは休息を取り、もうひとりはオーブを探すための準備をする。
 とても効率的だ――ここが殺し合いの場所であるというリスクを考慮から外せば。
 正直なところ、イレブンは困惑していた。
 緊張感に欠けるところがあるのは理解していたが、別行動を提案されるとは思わなかった。

(……いや、違うのかも)

 それとも、と別の可能性に思い至る。
 イレブンはこの提案を善意からくるものだと判断していた。
 しかし、そうではないとしたら。それだけではないとしたら。

(やっぱり、ベルは無理をしているのかな……?)

 この提案もまた、気丈にふるまおうとする意思からくるものだとしたら。
 どうしても、イレブンはそれを否定できない。

「……それならせめて、ポッドを」
「いちごちゃんを?」
「うん。もし危険な……モンスターに、襲われたら助けてくれる」

 イレブンはポッド153を信用して、その同行を妥協点とした。
 そして、いちど言葉を区切ると、すこし俯きながら「それに」と続けた。

「なにかあったら、僕も助けに行く」

 言い終えてから、一瞬の沈黙。
 ベルの顔がわずかにキョトンとして、それからニッコリとほころんだ。
 イレブンは思った。これは呪いなんて関係なく、恥ずかしい。





 ベルは「いってくるね!」とイレブンに声をかけて、山小屋から出た。
 ドアを閉めたところで立ち止まり、小屋の中には聞こえないくらいの声で呟く。

「イレブンくん……」

 ベルはイシの村で食卓を囲んでいたとき、緊張を感じ取っていた。
 マイペースをチェレンから何回も指摘されてきた自分でさえ感じたのだ。
 イレブンや魔王から発されていた緊張感は、かなりのものだったと言える。

「ちょっと違うけど……朝のママみたい」

 いつも身支度を整えていると、急かしてくるママ。
 ベルはそれと似たものをイレブンや魔王から感じた。
 つまりは、余裕のない様子ということだ。

「きっと、あまり時間がないんだよね」

 名簿によると参加者は七十人。
 放送で呼ばれたのはチェレンも含めて十三人。
 単純に考えると、七人に一人以上が命を落としている。
 いつ、自分も危機に見舞われるかわからない。
 ベルは身体を突き上げる恐怖心に襲われた。

「……でも」

 ベルはぎゅっと両手を握りしめた。
 先へと進むと決めたからには、恐怖に支配されている場合ではない。

「イレブンもがんばってるんだから、あたしも……!」

 せめてイレブンの手助けをしよう。
 そう考えて、ベルは単独でヨーテリーを探すことを提案した。
 イレブンには万全の状態でいて欲しかったからだ。
 周囲に浮いているランタンこぞうとポッドに、それぞれに視線を向ける。

「ようし、ランラン、いちごちゃん!はりきってつかまえようねえ!」
『……了解』

 ポッドの無機質な返答も、今はとてもありがたく感じた。




631これから毎日小屋を焼こうぜ? ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:34:54 ID:GPRdMMKc0
 山小屋に残されたイレブンは、ある支給品を前に首をかしげていた。
 未使用のアイテムであるそれの扱いをどうしたものか、決めかねていたのだ。
 説明書によると、ジェリカンという軍用の燃料携行缶らしい。

「うーん……なにに使うんだろう?」

 眺めていてもピンとこないので、イレブンは中身を覗いてみることにした。
 ジェリカンのフタを開けて、顔を近づけてみると、その瞬間。

「うわ!」

 イレブンは鼻を刺激するにおいに、顔をしかめて後ずさりした。
 すぐにフタを閉めたものの、ゴホゴホとむせてしまう。これは嗅ぐものではない。
 これによって、油に近いものだと理解できたが、それでも用途はピンとこなかった。
 扱いについては一旦保留しておこう、と考えた矢先である。

「よう、探してるものがあるんだ。手伝ってくれるか?」

 背後からの声にイレブンはドキリとした。
 ふり向くと、山小屋の入口に見知らぬ男がいた。
 黒い鎧らしきものを着て、デイパックを背負った男だ。

「ドラゴン退治のためのエモノ。
 それと酒だ……ハッパか、あるいはガソリンでもいい」

 ずかずかと入り込んできた男を見て、イレブンは警戒を強めた。
 ひどく乱暴な態度は、これまであまり出会ったことのないタイプだ。
 とはいえ殺し合いに積極的かどうかまでは、判断できない。

「おい、どうした。難聴か?。
 デカイ声なら出すのも出させるのも得意だぜ。
 オットセイみたいに鳴けるかどうか、試してやろうか」

 変なことを言いながら、男は小屋の中を物色し始めた。
 態度は粗野であるものの、すぐにイレブンを殺害しようとは考えていないようだ。
 あるいは、凶器となるものを持っていないのかもしれない。

(……いや、まだ決めつけられない)

 真意を判断するにはまだ早いと、静観することにした。
 山小屋に凶器が置いていないことは確認していたので、イレブンはその選択ができた。
 そうして、しばらく沈黙していると、また男から声をかけられた。

「おい、どうした。口にソーセージでも詰まってるのか?」

 その手には紙コップが握られていた。もちろん山小屋に置かれていたものだ。
 問いに返答しないままでいると、男はあきれたように肩をすくめた。

「オーケイ、俺ばかり話して悪かった。
 こんなときにナーバスになるのは誰でもそうだ」

 歌うように話しながら、男はジェリカンへと歩み寄る。
 そして、缶の中身を紙コップに注いで、それを口もとに近づけた。

「えっ!?」

 とても自然な動作に、イレブンは困惑を隠せなかった。
 そのイレブンの目の前で、男の表情は次第にしまりがなくなっていく。
 声とも呼べない音を口から漏らしながら、男は頭を押さえてふらふらと歩き回った。
 そして、数十秒後。

「あぁー……クソッ」

 水浴びをした後の動物のように身体を震わせた男は、紙コップをイレブンに差し出した。
 まるで「お前もどうだ」と言わんばかりの自然な動作だった。
 このとき、イレブンは得体のしれない恐怖を感じていた。
 そのせいで手が震えて、紙コップを受けとるときに落としてしまった。

「あっ……」

 軽い音を立てて床に転がる紙コップ。
 それを拾おうとして、イレブンは再び刺激臭で顔をしかめた。
 小屋の中に満ちていた木のにおいは、こぼれた液体のにおいで上書きされてしまった。

「ドラゴンを見た」
「……え?」

 不意に、男はそう切り出した。
 椅子に座る男の表情は、これまでとは違う神妙な顔つきだった。

632これから毎日小屋を焼こうぜ? ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:38:11 ID:GPRdMMKc0
「ここから南東の山岳地帯で、ドラゴンが飛び回っていた」

「それだけじゃない!カートゥーンみたいに火を吹いていたんだ」

「最初は夢か幻覚だと思ったさ」

「だけど、夢でも幻覚でもない」

「マジマのクソにやられた傷はそのままだし、ここに来てからはハッパのハの字も見てねえ」

「俺は俺の見たものを信じる」

「この島には!マジモンのドラゴンがいるんだ!」

「そこで俺は考えたのさ」

「あのドラゴンを退治してやる」

「そのためにはエモノが必要だ」

「だから、ここまで来たんだ!」

 言い終えた男の顔は興奮で赤らんでいた。
 この時点で、イレブンはある判断を下していた。
 発言の真偽はともかく、この男は精神的に不安定であると。
 もし本当にドラゴンがいたとしても、退治を任せることはできない。
 そのことを伝えて理解してもらうべきだと、イレブンはそう考えた。

「あの……武器は渡せません」

 言葉の意味を理解した男の顔色が、みるみる変化していく。
 それを見て、イレブンは自身の失敗を悟った。





「やったー!ヨーテリーをつかまえたよ!」

 森の捜索を開始してからおよそ十五分。
 ヨーテリーを抱いたベルは、喜びの声をあげた。
 かたわらのランタンこぞうも全身で喜びを表現している。

『推奨:モンスターボールによる確実な捕獲』
「ボールがあればそうしたいんだけどねえ」

 ポッドの指摘に、ベルはやんわりと返答した。
 もしボールがあれば、バトルでヨーテリーを弱らせて捕獲することも選べた。
 しかし、ベルはそうしなかった。
 ヨーテリーと真正面から向き合い、協力を頼んだのだ。
 その結果として、ベルはヨーテリーを抱き上げていた。

「それじゃあ戻ろうか!」

 ベルは仲間たちを促して、山小屋へと戻ることにした。
 足取りは軽い。喜ぶイレブンの顔を想像すると、自然と笑顔になる。

「あれ?」

 遠目に山小屋が見えたとき、ベルは違和感を抱いた。
 ピタリと足を止めて、目を凝らして観察する。

「ドアがあいてる……」

 山小屋のドアが、大きく開かれていた。
 イレブンが勝手にどこかに行くとは思えない。
 イヤな予感がして、ベルは山小屋へと走った。

「イレブン!」

 名前を呼びながら、ベルは山小屋へと駆け込んだ。
 わずかに遅れてランタンこぞうとポッドもやってくる。

633これから毎日小屋を焼こうぜ? ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:42:39 ID:GPRdMMKc0
「ああ?」

 そこにいたのは、イレブンとは似ても似つかない男だった。
 ドアに背を向けていたその男が、ベルの声に気づいて振り向く。
 すこし頭の薄い、人相の悪い男だった。

「えっ……」

 ベルはショックで言葉を失った。
 山小屋の中は荒れていた。ほとんどの家具は倒れ、壊されているものもあった。
 それ以上の衝撃は、男の足元にイレブンが横たわっていたことだ。

「イレブン……?」
「ああ、コイツのお友達か?」

 イレブンの頭をつま先で小突きながら、吐き捨てるように男は告げた。
 男の頬には血が付着している。それが誰の血かは、簡単に想像できてしまう。

「ちょうど殺すところだった」

 その発言を聞いた瞬間、ベルはなにも考えられなくなった。
 これまで生きてきた中で、まったく抱いたことのない感情に襲われた。
 抱きかかえていたヨーテリーを、つい放してしまった。
 そして感情のまま、無我夢中である言葉を唱えていた。

「――――!!!」

 その直後、ベルは気絶した。





「……イレブン!?」

 ベルは悪夢にうなされて飛び起きた。
 イレブンが殺されてしまい、ベルはそれを見ていながら、どうすることもできない。
 まさに悪夢だった。心臓はいつもの倍くらい激しく動いていた。

「ここって……?」

 いくらか落ち着いてきて、いまいる場所が山小屋ではないことに気づいた。
 そこは自動車の後部座席で、周囲を見回すと、隣にイレブンが寝ていた。
 イレブンの服はところどころ焼け焦げて、頬にはアザができている。

「イレブン!イレブン!?」
「彼は無事ですよ。いまは気を失っているようですが」

 不意に声をかけられて、ドキリとする。
 前方を見ると、バックミラー越しに片目を隠した男と目が合った。
 運転手は穏やかに「安心してください」と言い、それから話し始めた。

「まず……そうですね。ワタクシはゲーチスという者です。
 この殺し合いには反対しています。ここまではよろしいですか?」
「……はい」

 ベルがうなずくと、ゲーチスは頷いて続けた。

「ワタクシは殺し合いを打破する方法はないかと、車を走らせていました。
 そしてたまたま森の近くを通りがかり、爆発音を耳にしたので山小屋へ近づいた。
 すると、山小屋の入口あたりで気絶していたお二人を見つけた、というわけです。
 そこの……イレブンさんですか?彼がアナタを火元から遠ざけようとしたのでしょう」

 爆発。その単語を聞いて、ベルはある光景を思い出した。

「そうだ、あのとき……」

 山小屋の中で、男がイレブンを殺そうとしていた。
 なんとしてでもイレブンを助けなければいけない。
 ただ、その感情に支配されて、ベルは叫んでいた。

――ランラン、メラ!

 そばにいたランタンこぞうに、火の球を飛ばすように指示した。
 あくまで牽制のつもりだったそれは、予想外に燃え広がり、爆発を引き起こした。
 そのいきおいで飛ばされて、ベルは気絶してしまったのだ。

634これから毎日小屋を焼こうぜ? ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:48:29 ID:GPRdMMKc0
「そうだ!ランランといちごちゃんと、ヨーテリーは?」
「転がっていたモンスターと箱なら、お二人の荷物に入れておきましたよ。ヨーテリーはわかりませんが……」
「……それじゃあ、あの男の人は?」

 イレブンとベル、それにランタンこぞうたちも生きていた。
 それでは、残る一人――イレブンを殺そうとした男――は、どうなったのか。
 おそるおそる、ベルは運転中のゲーチスに聞いてみた。
 沈黙の後、ゲーチスから放たれたのは衝撃の一言。

「フム。ワタクシはお二人以外を見ていません。
 もしあの山小屋に参加者がいたのなら、非常に残念ですが……」
「……そんな!」

 言葉を濁す態度から、ベルはゲーチスの言わんとすることを察した。
 あの男は、爆発に巻き込まれて命を落としたということだ。

「ワタクシからも、ひとつ質問させてもらいます。
 あの山小屋でなにがあったのでしょう……アナタはなにをしたのですか?」

 穏やかな声の問いかけに、ベルは答えることができなかった。





 ゲーチスは車を運転しながら、内心でほくそえんでいた。

 Nの城を訪れたゲーチスは、バーベナとヘレナの二人にこう問いかけた。
 「この城を訪れたポケモントレーナーはいたか」と。
 すると答えはノー。訪れたのはポケモンを知らない参加者だけだという。
 主催者が放送でNの城を紹介したのは、ポケモンバトルをしている参加者への救済処置であることは明白だ。
 つまり、いずれ仇敵のトウヤはNの城へと訪れる。ゲーチスはそう確信した。
 そうであるならば、するべきことはひとつ。
 ゲーチスにとって有利な状況を作り出すことだ。

 そうした思考のもと、ゲーチスは城の内部を探索して、モンスターボールを手にしていた。
 ひとつは空で、もうひとつは利用価値のあるポケモンだ。
 ギギギアルと合わせれば、トウヤのバイバニラに対抗することも可能だろう。
 しかし、それだけでは不足だ。勝利するためには、より周到な準備をしなければ。

 そこで、ゲーチスは次の手段を講じることにした。
 エアリスにしてきたのと同様に、対主催者を演じることだ。
 他の参加者とコミュニケーションを図り、信用を勝ち取り利用する。
 無論、エアリスのように我の強い参加者は選ばないことが前提だ。
 そう思考を締めくくり、ゲーチスは城から北上することにしたのだった。

(これほどの成果は嬉しい誤算というものです)

 その結果が、車という移動手段と、利用価値のある参加者の確保だった。
 バックミラーをちらりと見る。ベルという少女は顔面蒼白で、身体を縮こまらせていた。
 山小屋に参加者がいたら死んだはずだ、という推測を伝えただけで、これである。

(なにがあったかは知りませんが、おかげで苦労せず手駒を手に入れられた)

 ゲーチスはウソを吐いていない。山小屋付近で姿を確認したのは二人だけだ。
 爆発の原因はまだ聞けていないが、おそらくベルの行動がトリガーとなったのだろう。
 そうでなければ、男の死という推測に動揺するはずもない。

(どうやらワタクシのことは知らない様子。せいぜい利用させてもらいましょう)

 ゲーチスはベルと直接の面識はないが、一方的に認識していた。
 ダークトリニティの張り巡らせた情報網で、トウヤやチェレンと同様マークしていたのだ。
 マークといっても、トウヤやチェレンと比較すると目立つ行動はなかったという程度の印象しかない。
 しかし、この状況においては、充分すぎるほど利用価値がある。
 なにしろ、あのトウヤやチェレンの幼馴染なのだから。

(さて、ひとまず城へ戻るとしましょう)

 己の中の高揚感を抑え込みながら、ゲーチスはアクセルを踏んだ。

635これから毎日小屋を焼こうぜ? ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:50:56 ID:GPRdMMKc0
【C-2/Nの城付近/一日目 昼】
【ゲーチス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康、高揚感、運転中
[装備]:雪歩のスコップ@THE IDOLM@STER+マテリア(ふうじる)@FF7、モンスターボール(ギギギアル@ポケットモンスターBW)、バイソン@Grand Theft Auto V
[道具]:基本支給品、スタミナンX(半分消費)@龍が如く 極、モンスターボール(???@ポケットモンスター)、モンスターボール(空)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、野望を実現させる。
1.Nの城を本拠地とする。
2.ポケモンやベルたちを利用して、手段は問わずトウヤに勝利する。
3.カイムのことはソニックに任せてみる。同士討ちでもすればいい。

※本編終了後からの参戦です。
※エアリスからFF7の世界の情報を聞きましたが、信じていません。
※ソニックのことをポケモンだと考えています。


【イレブン@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:MP1/2、恥ずかしい呪いのかかった状態、疲労(小)、気絶
[装備]:七宝のナイフ@ブレスオブザワイルド、豪傑の腕輪@DQ11
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1個、呪いを解けるものではない)、ブルーオーブ@DQ11、ポッド153@NieR:Automata
[思考・状況]
基本行動方針:ああ、はずかしい はずかしい
0.――(気絶中)
1.ブルー以外の他のオーブを探す
2.ベルと共に、南へ向かう

※ニズゼルファ撃破後からの参戦です。
※エマとの結婚はまだしていません。
※ポッドはEエンド後からの参戦です。


【ベル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:疲労(小)、気疲れ(大)
[装備]:ランラン(ランタンこぞう)@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:チェレンの死を受け止め、歩き出す。
0.あたしのせい……?
1.イレブンについていく。
2.ポカポカ(ポカブ)を探す。

※1番道路に踏み出す直前からの参戦です。
※ランタンこぞうとポッドをポケモンだと思っています。
※男(トレバー)は死んだと思っています。


【モンスター状態表】
【ランラン(ランタンこぞう)】
[状態]:モンスターボール内
[持ち物]:なし
[わざ]:メラ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルについていく
1.睡眠中


【ポッド153@NieR:Automata】
[状態]:健康
[持ち物]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:???


【ギギギアル@ポケットモンスターBW】
[状態]:健康
[特性]:プラス
[持ち物]:なし
[わざ]:10まんボルト・ラスターカノン・はかいこうせん・きんぞくおん
[思考・状況]
基本行動方針
1.ゲーチスに仕える

636これから毎日小屋を焼こうぜ? ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:55:20 ID:GPRdMMKc0
【支給品紹介】
【ジェリカン@Grand Theft Auto V】
イレブンに支給された軍用の燃料携行缶。中身はガソリン。
ガソリンに発砲するなどして点火すると炎上する。
また、移動しながらガソリンを撒くと、その跡を導火線とすることができる。

【バイソン@Grand Theft Auto V】
現地設置品。
建築業者仕様の白いバン。
ドアは四枚、乗車定員は六人。車載ワイヤーが載せられている。
ゲーム中では「ミッション:夫婦カウンセリング」にて登場する。

【モンスターボール(空)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
現地設置品。
Nの城に置かれていた。空のモンスターボール。

【モンスターボール(???)@ポケットモンスター】
現地設置品。
Nの城に置かれていた。ポケモンの入ったモンスターボール。





 ときはゲーチスがイレブンとベルを回収し終えた頃までさかのぼる。
 山小屋で起きた爆発は、幸いにも周囲の森林には延焼せず、山小屋のみを焦がしていた。
 その燃えている山小屋の壁が、強烈な力で吹き飛んだ。

「この……クソッタレがぁ!」

 ガラガラと崩れる山小屋から現れたのは、誰あろうトレバーだ。
 爆発の衝撃でしたたかに頭を打ちつけた彼は、そのまま炎の中で気絶していた。
 途中、一旦意識を取り戻したイレブンがトレバーを持ち上げようとしていたものの、重さのせいで断念されていた。
 つまり着用していたパワードスーツのせいで救出されなかったのだが、皮肉なことにトレバーを助けたのもそのパワードスーツだった。
 パワードスーツによって過剰な火傷から身を守れて、さらに増強された筋力で壁を破壊することができたのだ。

「クソ!誰もいやがらねえ」

 トレバーは地団駄を踏みながら、さんざん罵倒の言葉を並べた。
 エモノをよこさないガキ、爆発を起こしたガキ、腹を刺したマジマ、ついでに旧友。
 溜まるばかりのフラストレーションを、周囲の木や地面に八つ当たりするトレバー。
 おまけに調達した車も盗まれていたので、何本もの木が犠牲となった。

「ちくしょう!あのドラゴンを倒してえのによ!」

 ドラゴンとは、山岳地帯で戦闘していたリザードンのことである。
 火を吹くドラゴン。そんな物語のような光景に、トレバーは魅せられた。
 その時点で、手駒を見つけるという考えはどこかへ飛び去ってしまった。
 そしてイレブンに話したとおり、エモノを求めて山小屋を訪れたわけである。
 その成果はゼロ。とんだ骨折り損のくたびれ儲けだ。

「クソ野郎ども!」

 どこまでも好き勝手に生きるトレバー。
 その本心をわずかでも理解できる知人は、あいにくこの殺し合いに呼ばれていない。
 治まることも抑えられることもない狂気は、ひたすらに膨張していく。


【B-1/山小屋跡/一日目 昼】
【トレバー・フィリップス@Grand Theft Auto V】
[状態]:腹部に軽い刺傷、大きな不快感、興奮、怒り、殺意、顔に火傷
[装備]:パワードスーツ(損傷率50%)@METAL GEAR SOLID 2、共和刀@METAL GEAR SOLID 2
[道具]:基本支給品(水1日分消費)
[思考・状況]
基本行動方針:好き勝手に行動する。ムカつく奴は殺す。
1.マジマを筆頭にムカつく奴を殺して回る。
2.ドラゴン(リザードン)を退治する。
3.使えそうな奴は駒にする。
4.マイケル達もいるのか?

※参戦時期は「Cエンド」でのストーリー終了後です。
※ルール説明時のことをほとんど記憶していません。
※放送の内容を聞き逃しました。
※リザードンを遠目に目撃しました。

【備考】
※B-1の山小屋が全焼しました。
※ヨーテリーはどこかへ行きました。

637 ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:55:46 ID:GPRdMMKc0
投下終了です。
誤字脱字・指摘等ありましたら、よろしくお願い致します。

638 ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 14:57:36 ID:ZoUTAOs.0
皆さん沢山の投稿と感想、ありがとうございます。
のちほど纏めて感想を述べたいと思います。

拙作ですが正月休みにポケモンをしながら作り上げた作品をゲリラ投下させて頂きます。

639ゴールデンサン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 14:58:34 ID:ZoUTAOs.0

──自慢じゃねぇが、おいらはそれなりに腕が立つ。

野生のポケモンに負けることなんざまずないし、熟練トレーナーのポケモン相手にだって相性さえ悪くなければ自慢の顎で一撃だ。
もちろん最初っからそうだったわけじゃねぇさ。ご主人の影響っていうのかな、そいつがえらく負けず嫌いで努力家だったおかげでこの通りよ。
なんでも、ご主人が言うには「絶対に負けたくない相手がいる」とのこと。そいつは俺もよく知るヤツで、のちのちチャンピオンになっちまう男だ。
ま、チャンピオンって言葉で察してもらえただろうが──結果的には負けちまった。ギリギリの戦いだったぜ、マジにな。そのバトルのエースはもちろんおいらで、相手は……いや、これは言わなくてもいいか。

なにが言いたいかっていうと、おいらは世界でも指折りの実力者ってことだ。
だってあのチャンピオンのポケモンと張り合ったんだぜ? そのくらい言っても許されるってもんだろ。なぁ?
もうそんじょそこらのやつじゃ相手にもなりゃしねぇから退屈ささえ感じてたぜ。


けどな、そんな強ぇ強ぇおいらだからこそ気づいちまった。
ああ──こいつは、違う。ってな。


そいつに会ったのは昼過ぎ頃か?
突然こんな場所に飛ばされて最初こそビビったが、どうせ退屈してた身だ。やること変わらず水辺でだらだら寝転がり、時々来る野生のポケモンを追っ払い、腹が減ったら魚を捕まえて過ごしてた。
そんな中だぜ。ふと足音が聞こえたもんでそっちに目線を移したら、なんともまぁ必死な様子で走ってるトレーナーがいたんだよ。

640ゴールデンサン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 14:59:15 ID:ZoUTAOs.0

おいらは喜んだ。めちゃくちゃな。
ちょいとした退屈しのぎにバトルでもしかけてやるか。そう思ったおいらはそれまでのなまけっぷりが嘘みてぇな速度でそいつの前に立ち塞がった。
目が合ったらバトル──ま、それはおいらたちじゃなくて人間同士の決まりらしいが。でもおめぇさんもいっぱしのトレーナーなら、こんだけヤル気満々なポケモン相手にしてその意味がわからねぇことねぇだろう?

帽子に隠れてたそいつの目がおいらの目と合った。
その瞬間、おいらの身体は緊張で強ばった。

まるでへびにらみされたような感覚だったぜ。
そいつの目は今にも泣きそうで、切羽詰まってて、そしてなによりも──鋭かった。
ありゃあ普通じゃあねぇ。いったいどんだけの修羅場を越えたらあんな目が出来んだ? よく見りゃあ確かに、身体中がまるで電撃でも受けたみてぇにぼろぼろだった。並のポケモンでもひんしもんだ。人間ってのはこんな頑丈だったか?

喧嘩を売る相手を間違えた、なんて微塵も思わねぇ。
それどころかおいらはわくわくしてたぜ。久しぶりの好敵手、それも下手すりゃあ格上かもわからねぇ相手だ。心躍らないわけがねぇ。
さぁ、あんたはいったいどんなポケモンを出してくれるんだい?




「──頼む、道を開けてくれ」




そんなおいらの期待を裏切るようにそいつはそう言い放った。
呆れたぜ。まさかボロボロに負けて帰る道中だってのか? さっきの目はただのこけおどしただったのか?


なぁ、ちげぇだろ。


おいらの目はごまかせねぇ。てめぇは実力者だ、さっきの威圧感は今のチャンピオンに勝るとも劣らない。
出し惜しみか? 手持ちの体力を消費させる手間が惜しくて野生を相手にしないって話はよく聞く。
けどな、それは格下相手への対応だ。そっちの真意がどうあれ、大人しく雑魚扱いされるほどおいらは優しくないぜ。

641ゴールデンサン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:00:10 ID:ZoUTAOs.0

試しにおいらは地を駆け飛びかかる。ポケモンがいないからその矛先はトレーナーだ。
本気でやるんならそこで首元にでもかみついてやるところだが、あくまで様子見だ。軽く叩きつける程度のつもりだった。
身の危険を感じりゃいやでもポケモンを出すはずだ。仮に本当に手持ちがひんしだったとしたらびびって逃げ帰るくらいはするだろ。

けれどそいつはどれとも違った。
顔面を叩きつけるつもりで振るった俺の右手を交差した両腕で受け止めて、数歩後ずさる。そして逃げるでもなく、戦うわけでもなく、ただおいらの目を見ていた。


こいつ、何考えてやがんだ。


もちろんおいらの攻撃は本気じゃなかった。けどそれを受け止めようだなんて人間、いわタイプでもなけりゃありえねぇ。
狼狽えるおいらの目を真っ直ぐ捉えてそいつは言う。「頼む、退いてくれ」ってな。
柄にもなくおいらはキレた。何を考えてんのか知らねぇがその化けの皮を剥がしてやる。じゃねぇとまるでおいらが小物みてぇじゃねぇか。


「オォォォダァァーーーーーッ!!」


雄叫びをあげる。いわばこれは合図だ。
さっきまでの加減はナシだ。今度は本気でいくぜ。
ガチガチと鳴らした歯をそいつに向ける。狙うはもちろん首元だ。
土が捲れる勢いで両脚をバネにし距離を詰める。おいらは空中、跳ねる視界の中であいつがモンスターボールを右手を握り締めているのを見た。


へっ、ようやく戦う気になったか。
ならおいらの牙がその首に突き刺さる前にボールを────


そこまで考えたところでおいらは気づいた。
野郎、ボールを抱え込みやがった。握り締めた右手を服の下に隠して、申し分程度に左腕を盾代わりにおいらの眼前に構えた。


────バカヤロウっ!!


なにしてやがる、戦えよ!
じゃなきゃ避けるなり逃げるなりしろよ!

もう速度は落とせねぇ、空中のせいで俺自身でも軌道を変えられない。
だからよ、当たり前なんだ。どうしたって止めようがなかったんだ。おいらの牙がそいつの左腕に食い込んだのは。

嫌な感触だった。
柔らかい肉に歯が突き刺さる。口の中に血の味が広がって、ぶちりと音が聞こえた気がした。
完全な野生のポケモンじゃねぇおいらは本能で口を離そうとした。が、離せなかった。そいつの口から声が聞こえたからだ。


「……なぁ、頼むよ……。俺は、こいつを……連れて、いかなきゃ……いけないんだ……」


喉を震わせて絞り出したようなか細い声だった。
けど、そいつはどんな咆哮よりも鋭く深くおいらの耳を貫いた。おいらが噛み付いた腕が下ろされたせいで地に足がつき、おいらが見上げる形になる。

642ゴールデンサン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:01:14 ID:ZoUTAOs.0
そいつの目はまっすぐだった。こんな状況なのに恐怖なんかねぇ。おいらの心に訴えかけるように深く、深く見つめていた。

「お前が怒るのも、わかるよ……俺も、こんな状況じゃ……なければ……お前と戦って、ゲット……したかった……」

左腕から滴り落ちる血が草を赤く染める。
相当な激痛のはずだ。なのにこいつは自分の怪我よりも、おいらを説得することを優先していた。

「……けど、今は……だめ、なんだ…………」

呆気に取られて半ば思考を放棄してたが、そこでようやくおいらは気がついた。
こいつはなんでボールを服の下に隠したのか。──あれはまるで、自分を犠牲にしてでも手持ちのポケモンを守るみたいな動きだった。

まさか──いや、でも……ありえねぇだろ、そんなの……。
戦えるポケモンを戦えない人間が身を挺して守るなんて……そんなの、しらねぇ。少なくともおいらは見たことねぇ!

否定の方が先に出るのはよ、おいらの中に刷り込まれた常識のせいだ。
ポケモンは戦うもの。人間はポケモンが守るもの。そういう世界を生きてきたんだからよ、こいつの行動を認めちまったらおいらたちポケモンの根底を否定することになっちまうじゃねぇか。


わかってんだよ。
なぁ、あんた。おいらの考えは間違ってんだろ?
じゃないと説明がつかねぇじゃねぇか。こんなに、こんなにまっすぐおいらを見つめることにさ。

認めるぜ。
けどな、あんただけだ。あくまでおかしいのはあんたで、この世の理は変わりゃしねぇ。こいつはおいらのポケモンとしてのプライドの問題だ。
命を賭けてポケモンを守り、野生相手でも対話を試みる。そんな命知らずなトレーナー、いちゃあいけねぇんだよ。



「────ありがとな、オーダイル」



ゆっくり、これ以上肉を傷つけねぇように牙を引き抜いたおいらに穏やかな声が掛かった。
おいらはそれがたまらなく嬉しくて、さっきまでの闘争心はそっくりそのまま別の感情に移り変わっちまった。

643ゴールデンサン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:02:00 ID:ZoUTAOs.0

認めたくねぇが、わかる。
おいらはこいつに──この人に、惹かれちまったんだ。
バトルをしたわけでもねぇのに、ボールを投げられたわけでもねぇのに、この人についていきてぇって気持ちで溢れてる。

おいらに戦う気がなくなったことを察したその人は背中を向けて立ち去ろうとする。
急いでおいらは立ち塞がった。これで二度目だ。けどな、一度目の時とは目的がまるでちげぇ。
口を閉じ、爪を引っ込め、頭を垂れる。そいつはおいらに出来る最大限の忠誠の証だった。

「俺に……ついてきて、くれるのか……?」
「オォダァ」

ついてきてくれる、だぁ?
そんなボロボロの姿で何言ってやがる。そのままだとポケモンを回復させる前にくたばっちまうぜ。
逆だよ、逆。おいらがつれてってやるんだよ。

「へへ、……ありがとなオーダイル! 俺はレッド、よろしくな!」

そう言ってその人──レッドは俺に手を差し伸べる。モンスターボールを腰に提げ直して右手をだ。その行動がおいらを信頼してくれたみたいで、嬉しかった。
おいらはその手を握る──わけじゃなくて、軽くはたいた。呆気に取られるレッドを前においらは背中を見せ、軽く頷いてみせる。

「オォダ……!」

なにしてんだ、早く乗れよ。
こう見えてもスピードにはそれなりに自信があるんだぜ。
おいらの行動の意味を理解したレッドは一気に表情を明るくして、勢いよくおいらの背中に飛び乗った。人を乗せて走るのなんか久しぶりだぜ。乗り心地は悪いかもしれねぇが我慢してくれよな。


「よぉし、頼んだ! オーダイル!」
「──オォォォダァァ!!」


弾かれるように四足で駆け出す。
それがおいらと変わり者のトレーナー、レッドの出会いだった。


【A-2/一日目 昼】
【レッド@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
[状態]:全身に火傷、疲労(大)、左腕に深い咬傷、無数の切り傷 (応急処置済み)  
[装備]:モンスターボール(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、ランニングシューズ@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、モンスターボール(オーダイル)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:こんな殺し合い止める。
1.ピカを治すために、Nの城へ向かう。
2.オーダイル、ありがとう……。
[備考] 支給品以外のモンスターボールは没収されてますが、ポケモン図鑑は没収されてません。

※シロガネやまで待ち受けている時期からの参戦です。


【モンスター状態表】

【ピカ(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:HP 1/3、背中に刺し傷
[特性]:せいでんき
[持ち物]:アンティークダガー@Grand Theft Auto V(背中に刺さっています。)
[わざ]:ボルテッカー、10まんボルト、でんじは、かげぶんしん
[思考・状況]
基本行動方針:レッドと共に殺し合いの打破
1.睡眠中

【オーダイル@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:健康
[特性]:げきりゅう
[持ち物]:なし
[わざ]:かみくだく、アクアテール、きりさく、こおりのキバ
[思考・状況]
基本行動方針:シルバーが見つかるまでレッドと行動する。
1.レッドを乗せて目的地へ向かう。
2.元のご主人(シルバー)はどこなんだ?


【支給品紹介】

【オーダイル@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
野生として配置されていたオーダイル。元の持ち主はシルバー。
覚えているわざはかみくだく、アクアテール、きりさく、こおりのキバ。
レベル60、ようきな性格。

644 ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:03:12 ID:ZoUTAOs.0
以上となります。

続けてもう一作品投下させていただきます。

645シルバームーン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:04:04 ID:ZoUTAOs.0


『もう、キバゴ〜! 髪の毛噛んじゃダメだって言ってるでしょ〜!?』


それは、雲のように遠くも陽光のように鮮明な記憶。
困ったように叱りながらも気持ちのいい笑顔を向けてくれる彼女のことが大好きでした。私がよく噛んでいた髪も、私を呼ぶ声も、無邪気な顔も。全てが愛おしくてたまらなかった。
それは、一緒の恋情に近かったのかもしれません。性別も種族も、決して壊せぬ壁に阻まれているのであくまで私の一方的な気持ちですけどね。

『ほら、キバゴ! 髪の毛なんかじゃなくてポケモンフーズ食べよ!』

ようやく口を離した私をアイリスはとても優しい手つきで撫で、頬ずりをした後にそう投げかける。私はそれに一鳴き返して──そこで懐かしい夢は終わりを告げました。


◾︎ ◾︎ ◾︎


「──オノ…………」

目を開けたらそこは無機質なモンスターボールの中。疲弊していたからなのか、かなりの時間眠っていたようです。
いつ戦場に駆り出されるか分からない状態なので、休息はほどほどにしなければいけません。まだ瞼の重い目を擦り、次なる戦いに備え気を引き締めました。

今の持ち主──トウヤは、強い少年です。
以前ジムで打ち倒された際に見せた彼の的確な指示には敵ながら感動さえ覚えました。私の攻撃なんてほとんど不発に終わり、逆にあちらの攻撃は避けるどころか受け止めることすら出来ない。まさしく圧倒的という言葉がぴたりと当てはまっていたでしょう。

戦いの終わったアイリスは悔しそうにしながらも大変楽しそうにしていて、今度バトルを教えて欲しいと少年に頼み込んでいたのを覚えています。
私も彼女と同じ気持ちでした。
勝ちたかった、などという願望を抱くことすら恐れ多い勝負。アイリスのためにもトウヤという少年の戦いからは得られるものが多く、成長出来ると思っていました。

その時のトウヤは快く承諾してくれましたが、それ以降彼とバトルしたことはありませんでした。
プラズマ団との戦いを考えればそんな暇はなかったのが当然です。なのでさほど気にしておらず、いつかはまた再戦できるだろうと気長に待つつもりでした。

そんな中です、この殺し合いに参加させられたのは。

646シルバームーン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:05:19 ID:ZoUTAOs.0

私の持ち主はトウヤ。
対戦相手としてではなく手持ちとしてではあるもののまた彼と共に戦えることに不謹慎ながら私は昂りを感じていました。
彼と行動を共にすることで今以上の自分となり、アイリスの元に戻った際に彼女を喜ばせられるというのが主な理由です。


けれど──彼の戦いは私が予想していたようなものではなかった。


トレーナーが指示を下し、ポケモンがそれに従う。
ポケモンバトルの根底とはその単純な行動にあり、そこに搦手や読み合いなどが絡み込んで奥深いものとなる。一種のパフォーマンスのようなものだと私は──いえ、私とアイリスは思っていました。
なのでそれで人を傷つけようとするプラズマ団こそ異質な存在であり、本来バトルとは互いを磨き上げ己やトレーナーを楽しませる行為なのだと無意識の内に常識へ刷り込まれていたのです。

そんな考え、トウヤは既に捨て去っていた。

そう、私は幼い頃からアイリスに育てられたから気付かなかっただけなのです。野生のポケモンにとってバトルとは生き残るための戦い。命懸けの日々の中での一つに過ぎないのだと。

この場に来て初めてのバトルとなるゲーチスのバイバニラ戦。あれはまさしくそれでした。楽しむためのものではなく、勝利するための戦い。果ては──ポケモンの争奪という生命を取り扱った争い。
その戦での私は不気味なほどに洗練された動きを取っていて、今までとは比にならない実力を発揮することが出来ました。いえ──正しくは私の実力ではなく、トウヤの実力です。

この場では信頼度に関わらずトレーナーの指示が絶対という条件。最初こそ不服ではありましたが、持ち主がトウヤであることは幸いだと最初は思っていました。
彼の指示ならば聞くのも苦ではない。その程度の認識でしたが……違いました。その理不尽なまでの条件はトレーナーの力量を遺憾無く発揮させるためのお膳立てだったのです。

レベルもタイプ相性も不利だったバイバニラ相手に勝利できたのは私が強かったからではなく、彼が強かったから。
むしろ彼は弱い私で相手にどう勝つかという算段を整え、その過程を楽しんでいた。私は自分が思っていたよりも弱く、彼は自分が思っていたよりも遥か先を進んでいたのです。

アイリスとは全く違う戦い方、自分の身体とは思えない動きでもぎ取った勝利に達成感や高揚など微塵も湧きませんでした。
それは次の銀髪の女性との戦いでも同じこと。もしも私の持ち主がトウヤではなく別のトレーナーであったならばダイケンキだけではなく私も命を落としていたでしょう。
それほどまでに私の強さは彼に依存している。彼の一声が私の力を本来以上のものに変え、それに信頼や絆、果てには愛など必要なかったのです。

647シルバームーン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:06:34 ID:ZoUTAOs.0

それを突きつけるかのように、ひんしのバイバニラをこの手で殺めるよう指示をされました。
抵抗などできるはずもなく無抵抗な命を奪う。初めて他者を殺めたショックよりも先に、私はこの世界の摂理を思い知らされたことに動揺していました。
ここを生き抜くためには力が全て。不要な存在は切り捨てるもの。トウヤはそれにいちはやく気がついたのでしょう。


世界の広さを知らない未熟者の私が言うのは馬鹿馬鹿しいというのは承知しています。けれど、だけれど……酷く悲しいことだと思います。
バトルとはトレーナーとポケモンの絆を試す場だと思っていたから。突然突きつけられた残酷な現実は私の胸を抉りました。今思えばトウヤがアイリスとの再戦を避けたのは時間の無駄だと判断した結果なのでしょう。
それほどまでに、アイリスとトウヤの間には埋めがたい知識の差があったのです。


私が強い必要なんてなかった。
きっと私でなくとも、私以上に力のないポケモンだとしてもトウヤはこれまでの戦いに勝利していたでしょう。
所詮彼にとって私は駒に過ぎない。ならばいっそ、このままアイリスの元に戻れるまで彼に従い続けるのが最適解なのでしょう。例えそれが道理に反することであろうとも。


そんな中、ジャローダとの戦いがありました。
彼女は私に気づいていなかったようですが、こちらは一目で気づきました。ジャローダはトウヤのパートナーだったのです。彼女も私と同じくここに連れられ、別の方の元に配られ何かが起こり再び野生に帰る形になったのでしょう。

彼女は強かった。
過去に一戦交えた頃とは段違いの強さでした。遥か格上の存在。レベルに関してはバイバニラもそうでしたが、ジャローダはそれに加えて経験においても私より数段上を行っていました。
正攻法で行けば負けるのは間違いなく私。けれどあのトウヤが加われば──いいえ、それでも不安を感じる程の実力差。事実、私はここにきて一番のダメージを受けることとなりました。

今思えば私は、自分が敗北することに期待していたのかもしれません。
完全な傀儡と化した私が、実力を伴い己の判断で戦うジャローダに敗北する。そうなればポケモンバトルに必要なのはトレーナーの実力ではなくもっと別にあると証明出来る気がしたからです。


────勝ったのは私でした。
驚かされることさえあれど脅かされることはないような終始こちらが有利に運んでいた展開でした。
けれど私は希望を見いだしました。事実捕獲が目的とはいえあの戦いは今までで最も長引くものとなり、私のダメージも決して少なくはなかったからです。
被弾することさえ珍しかったのにそれが野生の相手でこの追い詰められよう──それは私の諦念を揺さぶるには十分過ぎるものでした。


あの打ち合いの中、ジャローダの気持ちはほんの少しだけですが伝わってきました。
彼女はトウヤに勝たなければならない理由があったのでしょう。黒い感情に触れる機会の少なかった私では完全に汲み取ることは出来ませんでしたが、ただならぬ事情が含まれていたことは分かりました。
だから敗北した瞬間のジャローダの悲鳴を聴いた私は呼吸が止まり、きゅっと心臓が引き締まるような感覚に襲われたのです。
なまじ希望のあるバトルだったばかりに絶望感も大きかったのでしょう。モンスターボールに吸い込まれる直前に見たジャローダの姿からは生気なんて感じられませんでした。


「オノ……!」


私は未熟者だ。
トウヤという絶対的強者の力を借りて仮初の強さを発揮できているだけに過ぎない。
私よりも遥かに強いジャローダを手にした今、もうトウヤはいつでも私を切り捨てるつもりなのでしょう。

そんな私でも、出来ることがある。
同じ女性として、そして同じポケモンとしてジャローダを元気づけること。きっと一朝一夕で解決できるような問題ではないのだろうけれど、それでも私は彼女を助けたい。

あなたもきっとそうするでしょう?
──アイリス。



◾︎

648シルバームーン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:08:12 ID:ZoUTAOs.0



「──さて、バッグを捨てて両手を上げてくれるかな?」


Nの城へ向けて足を運んでいたトウヤは進行を中断せざるを得なくなった。
その原因は彼の二十メートルほど先にいる男性、オセロットの向ける拳銃にある。その隣に佇むバレットは少年に銃を向けるという行為に不服を示しながらも何が起こるかも分からない状況故に口は出さなかった。

「さすがに銃を向けられるのは初めてです。バトルとは違う緊張感がありますね」
「そうか、貴重な経験が出来て良かったじゃないか。……さて、私は君と長話をする余裕はないのだが」
「わかっています、バッグを捨てるんでしたね」

言葉の余韻もほどほどにトウヤは驚くほどあっさりとバッグを投げ捨てた。
その行動にバレットは呆気に取られる。ちらりとオセロットに視線を向けるが、拳銃の照準は依然少年を捉えておりその奥の眼光は粒ほどの油断も見せない。

「その『ボール』もだよ、少年」
「……へぇ。『これ』がなにか分かるんですね、あなたは」

言いながらトウヤは腰に提げたボールに手を添える。
トウヤはこの世界で学んだことがある。それはA2のようにポケモンを知らない存在がおり、そういった存在はまた別の戦う術を持っているということ。
トウヤはまだそういった外部の力を把握出来ていない。しかしそれは逆も然り、ポケモンを知らない相手にとってはモンスターボールを見てもそれが凶悪な武器だと思うはずがないのだ。

トウヤはこの場を適当に切り抜けるつもりでいた。
バッグを捨てて油断した二人組にジャローダとオノノクスを繰り出し反撃。そして隙を作ったあとにNの城へ疾走するのが第一の計画だった。
しかしこの老人はボールの危険性を知っていた。となると彼はポケモンという存在に触れる機会があったのだろう。ボールがないところを見るに彼や隣の筋肉達磨がトレーナーだという線は薄そうだ。
もっともトウヤの読みは少し違っており、事実はオセロットが運営側のエイダに事前情報を与えられていたことにあるのだが──そんなことまで推察するなど不可能だろう。

「おい、オセロット。あのボールに……」
「静かに。後で説明しよう」

バレットの方を一切見ずに答えるオセロットからは余裕が感じられなかった。その凄みに圧されバレットは息を呑み、少年へ目を向ける。
確かに彼の胆力は相当なものだった。銃を向けられているのに一切動じることのない、どころかボールという単語を出してから光のない眼差しに期待が宿っているのがわかる。
セフィロスとはまた違う異質な雰囲気──バレットはその程度に感じていたが、オセロットはそれ以上に少年を警戒していた。

649シルバームーン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:09:04 ID:ZoUTAOs.0


(────この少年がトウヤ、か……なるほど。一筋縄ではいかないな。)


エイダからの事前知識は多くは無い。
逆に言えばそんな些細な情報でも目の前の存在が警戒に値するということだ。それもそうだろう、エイダは彼を『世界最強のトレーナー』と伝えたのだから。
外見的特徴の一致、そうして銃を向けられていながら主導権を握れない状況。なるほど、たしかに世界最強というのも誇張表現ではないのだろう。

「なら、戦いましょう。銃を相手にどう戦えばいいのか、オレも学ぶことが多い戦いになりそうだ」
「残念だがそれは叶わない。私がキミの頭を撃ち抜いて終わりだ。そんなつまらない結果になりたくないだろう?」
「それはどうでしょう。少なくとも貴方は警告もなしにオレを撃つことは出来ていない。そっちの男の人もオレに銃を向けることに賛成はしていなさそうですしね」

──頭が回る少年だ。

そう、オセロットは今無闇にトウヤを射殺することは出来ない。もしここで無抵抗の少年を撃ち殺したとなれば隣のバレットは必ず抗議の声を上げ、運営の打倒に大きな支障をきたすことだろう。メリットとデメリットが釣り合わないのだ。
逆に言えばトウヤが味方についてくれるのであれば大きな戦力になる。だからこそ今こうして対話を試みているのだが、事態は芳しくないらしい。

「……どうやらキミは我々の目的を察しているようだ。ならば大人しく頷いてくれると嬉しいのだが、どうかな?」
「協力者が欲しいんでしょう? ──残念ですがお応え出来ません。従わせたいのなら、実力で従わせればいい」
「やれやれ……とんだバトルジャンキーだな、キミは」

二人のやり取りを聞いていたバレットは堪らず苛立ち混じりに地面を殴り付ける。
左腕のデスフィンガーにより抉られた土は轟音を上げて小規模な煙幕をつくり、それが晴れた頃にバレットが怒鳴りをあげた。

「──いい加減にしろよッ! こっちはそれどころじゃねぇんだ! 戦いなんかよりもテメェが生き残ることを考えろ!! 死んじまったら元も子もねぇだろうが!!」

バレットが憤慨するのも当然だ。
自分が生き残るよりも戦闘を優先する思考なんて理解できない。それもただの戦闘狂ならまだしも、相手は年端もいかない少年なのだ。ここで潰えていい存在ではなく、未来がある。
なのにトウヤは傍から見れば自殺志願者に近い。だからこそ、この中では一番"まとも"な感性を持つバレットが声をあげざるを得なかった。

「……あの方はああ言っていますが、あなたはどうですか?」
「失礼、少々激情家でね。だが彼の言うことは正しい。私もこんな形で若い芽を摘みたくない。……という言い方では不満かな? 君を戦力として陣営に加えたい。これは命令ではなくお願いだ」
「お願い、ですか。……話して間もないオレが言うのもなんですが、あなたにそんな言葉は似合わない」

交渉決裂。
それを突きつけるようにトウヤは腰に提げた一つのボールを右手で掴み、地に落とす。
それと全く同時に左手で帽子を深く被り直した。瞬間、オセロットの銃弾が炸裂する。吸い込まれるようにそれは帽子ごとトウヤの額に突き刺さり、スローモーションのようにその小柄な体を仰向けに沈めた。

650シルバームーン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:10:23 ID:ZoUTAOs.0

「オセロットッ!!!!」

危惧していた最も恐るべき事態である少年を撃ち殺すという行為に怒号を上げるバレットに対し、オセロットは即座に走り出す。憤慨する彼から逃げているのかと言われればそうではない。しかしそう捉えたバレットは彼の後を追いかけようと足を踏み出した瞬間、彼の巨体に衝撃が走った。

「が……ッ!?」

ちょうどオセロットの方向へ吹き飛ばされたバレットはうつ伏せのまま襲撃の原因を辿ろうと視線を向ける。
と、そこには地に伏せるトウヤを守るように立ちはだかる翠色の大蛇の姿があった。先程の衝撃は水流を纏う尾の一撃によるものなのだろう。その威圧感たるや、並のモンスターのそれではない。

「撤退するぞ、バレット君」
「あぁ!? ……くそっ、なにがなんなんだよ!」

いつの間にか傍に駆け寄っていたオセロットがバレットの肩を叩き、撤退を促す。状況も掴めぬまま起き上がった巨漢はトウヤの亡骸へ一瞥をやり、その後本来の目的地である北西へ姿を消した。


二人分の不揃いな足音が遠ざかる。
そうして最後に残ったのは額を撃ち抜かれたトウヤと、それに寄り添うジャローダだけだった。



────
──





「……ああ、起きてるよ。戻れ、ジャローダ。」



彼らが去って五分ほど経った頃だろうか。
死んだはずのトウヤが呻くように声をあげ、仰向けのままジャローダをボールに戻す。
そうして上体を起こしたトウヤはコキコキと首を鳴らし、身体に異常がないか確かめるように肩を回した。

651シルバームーン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:10:53 ID:ZoUTAOs.0

「はは、……やっぱり銃弾を躱すなんて芸当、無理だったか」

いけるとおもったんだけどな、と。まるで木登りにでも失敗した少年を思わせる口振りで続けるトウヤ。
銃弾により穴が空いた帽子を取ると、中から金属製のレンチが覗かせる。その柄には焦げた弾痕が刻まれていた。

そう、彼は死んでなどいなかった。
オセロットが銃弾を放ったまさにその瞬間、帽子の中に忍ばせていたレンチで弾を受ける為に帽子の鍔を持って深く被る──そんな一歩間違えれば即死していたであろう賭けを、さも当然のようにやってのけたのだ。
そして、トウヤは生き残った。数え切れないほどの高速戦闘を間近で見て培ってきた反射神経がもたらしたそれは、とても常人にはなし得ない。

いや、例え考えついたとしてもそれを実行しようと思うなど──特大の狂気を持つ者にしか許されないだろう。

「っ……、……さすがに痛いね」

とはいえトウヤも完全に銃弾の勢いを殺せた訳では無い。
固いレンチ越しに脳を揺さぶられたことにより数分意識を刈り取られた。その間に続く銃弾が飛んでいたら問答無用でトウヤは死んでいただろうが、そうならなかったのは単に彼の運が良かっただけではない。

彼は事前にジャローダに指示を出していたのだ。
ボールから出す前に。もっと言えば、オセロットたちと出会う前に。

『オレがNの城に着く前にボールからキミを出した瞬間、アクアテールを撃て』

元々トウヤはNの城までジャローダを戦闘に出すつもりは無かった。だからこそ彼女を出す瞬間があるとすればそれは先程のように緊急性が迫られる時。指示をする暇なく先手を取らなければいけない時をトウヤは見越していたのだ。
モンスターボール越しにそれを聞いていたジャローダがまず目に付いたバレットに尾を振るったのは至極当然のこと。だが、それ以上の指示は与えられていないため二人に追撃することはなかった。

それが、いまの一覧のからくり。
オセロットとバレットという実力者を相手に生き残ることができた理由だ。

「さて──Nの城に行こうか。なんだか、楽しくなる予感がするよ」

緩慢な所作で起き上がったトウヤの顔はどこか満足気だった。
久々に感じた命の危険。ジャローダとの戦いの中でもそうだったが、やはり生死を懸けた戦いほどのスリルはない。

不敵な笑みを浮かべたトウヤは、再び城へと歩き出した。


【E-2/橋近くの草原/一日目 昼】
【トウヤ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:全身に切り傷(小)、高揚感(小)、疲労(大)、軽い脳震盪、帽子に二箇所の穴
[装備]:モンスターボール(オノノクス)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト、モンスターボール(ジャローダ@ポケットモンスター ブラック・ホワイトチタン製レンチ@ペルソナ4  
[道具]:基本支給品、モンスターボール(空)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト×1、カイムの剣@ドラッグ・オン・ドラグーン、煙草@METAL GEAR SOLID 2、スーパーリング@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[思考・状況]
基本行動方針:満足できるまで楽しむ。
1.Nの城でポケモンを回復させる。
2.自分を満たしてくれる存在を探す。
3.ポケモンを手に入れたい。強奪も視野に。

※チャンピオン撃破後からの参戦です。
※全てのポケモンの急所、弱点、癖、技を熟知しています。
※名簿のピカチュウがレッドのピカチュウかもしれないと考えています。


【ポケモン状態表】
【オノノクス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト ♀】
[状態]:HP1/8
[特性]:かたやぶり
[持ち物]:なし
[わざ]:りゅうのまい、きりさく、ダメおし、ドラゴンテール
[思考・状況]
基本行動方針:トウヤに従う。
1.ジャローダと話がしたい。

【ジャローダ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト ♀】
[状態]HP:1/10  人形状態
[特性]:しんりょく
[持ち物]:なし
[わざ]:リーフストーム、リーフブレード、アクアテール、つるぎのまい
[思考・状況]
基本行動方針:もうどうでもいいのでトウヤの思うが儘に
1.???





◾︎

652シルバームーン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:11:57 ID:ZoUTAOs.0




「おい、いい加減止まれよ!」
「……そうだな、この辺りならいいだろう」

トウヤの元を去って暫く走り、橋を越えた頃。併走するバレットの呼び声に従ってオセロットが足を止める。
説明が欲しかった。何故あの少年を撃ったのか。そして撃った後に駆け出したのはなぜか。矢継ぎ早に質問を投げようとするも、先読みしていたオセロットによってバレットの口は噤むことになる。

「あの少年は危険だ。……恐らく、あの銃撃も防がれている。長居していたらやられていたのは我々だったかもしれない」
「……! ……さっきのモンスターか」
「ああ、見たところ彼はボールを二つ持っていた。一匹ならまだしもあんな怪物が二匹相手となると負担が大きい」

息を整える老人の言葉にバレットはジャローダの姿を思い浮かべる。確かに、あのレベルの相手二匹となると無事では済まないだろう。未だに痛む背中を右手で擦りながらバレットは歯噛みする。
続けて、気になっていた点を問いかけた。

「お前、あのボールについて知ってたのかよ」
「……ああ。君ならばわざわざ説明することもないだろうがね」
「はっ、そういうことかよ。……けどな、そういうのはもっと早く言うもんだぜ」

モンスターボールが支給されておらず、その存在を知らなかったバレットはあの紅白の球体を見て武器だと判断できなかった。
けれどオセロットはあれの危険性を知っていた。内通者であるからそういった情報も貰っていたのだと判断したバレットは愚痴混じりに睥睨する。
それを受けたオセロットは肩を竦めてみせる。伝えようがない、とでも言いたげだった。

「とにかく……あいつは生きてんだな?」
「十中八九そうだろう。あれで殺せる相手ならばここまで一人で生き残っていない」
「……たしかにな。銃を前にしても余裕だったし、あの帽子になんか仕込んでたのかもしれねぇ」

もちろんそれは確定では無い。本当にトウヤが死んだ可能性もあるが、今はそう納得しておくことにした。
どのみち死体を確認するために戻り、また同じことを繰り返す気にもなれない。あれはそう簡単に味方に加わってはくれないだろう。

「出鼻をくじかれたが、まだ時間はある。気落ちするな、バレット君」
「はっ、言ってくれるぜ……次は俺が交渉してやろうか?」
「君でも冗談が言えるんだな、今のは面白かったよ」

かくして両者は遂に激戦区である北西の島へ足を踏み入れた。




【バレット・ウォーレス@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:左肩にダメージ(処置済)、背中に痛み、T-ウイルス感染(?)
[装備]:デスフィンガー@クロノ・トリガー、神羅安式防具@FF7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間の捜索と、状況の打破。
1.北西の島へ向かい、対主催の仲間を集める。
2.リボルバー・オセロット、ソリダス・スネークを警戒。

※ED後からの参戦です。
※ブルーハーブの粉末を飲みました。T-ウイルスの発症がどうなるかは後続にお任せします。

【リボルバー・オセロット@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:健康
[装備]:ピースメーカー@FF7(装填数×2)、ハンドガンの弾×22@BIOHAZARD 2、替えのマガジン2つ@METAL GEAR SOLID 2
[道具]:基本支給品、マテリア(あやつる)@FF7
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを破壊する。
1.北西の島へ向かい、対主催の仲間を集める。
2.時間的な余裕はあまりない。別の手段も考えておくべきか。
3.トウヤとの再会は避けるべきか。

※リキッド・スネークの右腕による洗脳なのか、オセロットの完全な擬態なのかは不明ですが、精神面は必ずしも安定していなさそうです。
※主催者側との繋がりがあり、他の世界の情報(参加者の外見・名前・元の世界での素性)を得ています。

653 ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:13:30 ID:ZoUTAOs.0
以上となります。

未だこの作品を応援し続けてくださる皆さんに大きな感謝を伝えたいです。
遅れましたがあけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

654 ◆RTn9vPakQY:2023/01/06(金) 18:59:53 ID:EEGIov9U0
投下乙です!

>ゴールデンサン
ポケモン視点からトレーナーを描く手法によって、効果的にレッドの強さを表せていると思いました。
オーダイルからすればありえない行動を目の当たりにして、それでもなお惹かれてしまう。
レッドもまた、チャンピオンまで昇りつめた、別格のトレーナーなんだと再認識しました。
あとオーダイルの話し方が好き。

>シルバームーン
トウヤ、コイツおかしいよ(褒めてる)
こちらもポケモン視点から始まるものの、口調などからオーダイルとは違う印象を受けます。
「革新的に生まれ変われ」の内容を拾いつつ、ポケモンのキャラも立てているのがすごいです。
そして銃を向けられても一切ひるまずに相対するトウヤ。やはりネジが外れている……。

ポケモントレーナーを対比的に描きつつ、その強さ(あるいは異常性)を再確認させてくれる二作品でした。

最後に細かいことで恐縮ですが、wiki収録の際に、
・オセロットのピースメーカーの装填数を1減らす
・オセロットとバレットは橋を越えたので、現在位置等を【D-3/橋近くの草原/一日目 昼】などとする
以上の二つだけ確認いただければ幸いです。

655 ◆RTn9vPakQY:2023/04/08(土) 01:15:13 ID:.o6K0wAs0
ミリーナ、マルティナ、エアリス 予約します。

656 ◆RTn9vPakQY:2023/04/14(金) 18:38:01 ID:kUAiP7yA0
予約を延長します。

657 ◆RTn9vPakQY:2023/04/22(土) 01:00:21 ID:WlzqUC8g0
お疲れ様です。もうすぐ予約期限ですが、遅れそうです。
申し訳ない。本日の内には投下させてもらいます。

658 ◆RTn9vPakQY:2023/04/22(土) 20:08:47 ID:WlzqUC8g0
投下します。

659強い女 ◆RTn9vPakQY:2023/04/22(土) 20:11:00 ID:WlzqUC8g0
 ミリーナはマルティナを連れてD-1エリアへと移動していた。
 消耗したマルティナを休ませる場所として、テーブル席のある飲食店を選んだ。
 そして、念のため首輪探知機を確認してから、ようやく緊張を緩めて、かたわらのマルティナに声をかけた。

「近くに参加者はいないみたい」
「ひとまず安心というわけね」

 そう口にしたマルティナは、先んじて入口近くの座席に腰掛けると、身体をソファの背もたれに預けて深く息をついた。緩慢な挙動からは、相当に消耗していることが想像できた。

「……必要なら手当てをするけど」

 あえて険のある言い方をしたのは、先ほど少年を見逃したマルティナを非難する気持ちからだ。
 一方のマルティナは、それほど気にした様子もなく「そうね」と首肯した。
 その態度には苛立ったものの、追及したところで適当にいなされる予感がしたので、我慢してマルティナの隣に立ち、術を行使することにした。
 術を唱えながら、ミリーナは思案する。

(いつマルティナを切り捨てるか、決めておかないと)

 マルティナとの同盟関係は、具体的な期限を定めていない。
 もともとミリーナは、単独では敵わない強者――マルティナや、長刀を振り回して隕石を降らせていた男――を見たからこそ共闘を持ちかけた。
 つまり期限どうこうという問題ではなかった。強いて言えば、敵わない強者が存在しなければ共闘は不要になる。
 しかし、同盟関係を結んでから六時間も経たないうちにミリーナの思考は変化していた。
 その理由は、ひとえにマルティナへの信用が低下したからである。

(マルティナは、きっと弱者を殺せない。
 だって、あの少年を殺せなかったのだから)

 マルティナは、イレブンをはじめとする仲間を喪うことに抵抗を覚えていた。
 その抵抗を失わせようとして、ミリーナはわざわざ春香を殺した事実や自身の目的を伝えた。
 しかし、マルティナは簡単に殺せたはずの少年を見逃した。こちらに敵意を向けており、利用することもできない相手なのにもかかわらずだ。
 このことから、マルティナは情に流される性質(タイプ)の人間だと確信した。
 そして、その性質は殺し合いにおいては弱点なのだ。

(もし情を捨てられないようなら、見切りをつける。
 そうじゃなくても、残り人数で決めておいた方がいいわね)

 ミリーナとしては、弱点を抱えた人物を信用しきれない気持ちがある。
 それゆえに、マルティナを切り捨てるタイミングを熟慮しているのだ。

(半数で三十五人。三割で二十人ちょっと。
 まだ多い?……いえ、それくらいにしましょう)

 そして、残り二十人前後で切り捨てると決めた。
 放送によると、六時間で十三人の脱落者が出ている。もしこのままのペースで殺し合いが続くならば、二十四時間足らずで三割程度になるはずだ。
 おそらくその頃には、弱者はもちろんのこと、強者も多かれ少なかれ消耗しているだろう。そこを狙う戦略を立てる。
 それまではマルティナとの同盟を維持して、気力と体力を温存しておきたい。

(あとはマルティナの仲間と出会ったときにどうするか、だけど……)

 口約束の上では、イレブンと遭遇したときに、同盟は解消することになっている。
 ミリーナとしては、そうなる前にイレブン以外の仲間をマルティナに殺させたいところではあるが、事がそう上手く運ぶとは限らない。
 ひとまず、マルティナの仲間たちと遭遇したときのことは別に考えておくべきだ。

「ミリーナ?」
「えっ!?」

 思考に集中していたミリーナは、マルティナの声でハッと我に返る。
 回復術の行使は、途中で停止してしまっていた。

「もう終わりでいいの?」
「あぁ、ごめんなさい。あと少しだけ」

 これまでの思考を声に出していないだろうかと、冷や汗をかいた。
 当座は同盟関係を続けるのだから、まだまだ前衛として働いてもらいたい、という願いを込めて体力を回復させる。

「大丈夫?」
「……ええ」

 ひとまず疑われた雰囲気のないことに胸をなでおろしつつ。
 しかし、術を終えるまでマルティナの目を見ることはできなかった。



(人を殺した。何の罪もない人を)

660強い女 ◆RTn9vPakQY:2023/04/22(土) 20:12:16 ID:WlzqUC8g0
 ザックスとの戦闘を終えてから、マルティナは暗い感情を漲らせていた。
 マルティナは参加者の命を奪った。人を襲う魔物を倒すのとはわけが違う。明確に一線を越えたのだ。

(もう、私は覚悟を決めた)

 マルティナの願いは、中途半端な心のままでは成し遂げられないものだ。
 その事実は、ソニックと戦闘したときや、ミリーナの口から覚悟を聞いたときに思い知らされた。
 しかし、もう心を黒く染める覚悟は完了した。ザックスとの戦闘を通じて、マルティナの決意は固くなったと言える。

(これで、ミリーナと同じ位置に立てたかしら)

 かたわらで回復術を行使しているミリーナを見やる。
 自分と同じ志を持ち、自分よりも早い段階で覚悟を決めていた相手。
 共闘する相手と同じ立場になれたと感じて、マルティナはどこか安堵する気持ちがあった。

「これで多少は回復した?」
「ええ、ありがとう」

 マルティナはミリーナに微笑んだ。ミリーナのおかげで、受けたダメージはだいぶ和らいだ。戦闘にも支障はないだろう。
 呪文を習得していないマルティナにとって、回復術はありがたい。

「あとは……食事も済ませておいた方がいいかしら。
 探知機をまた使えるようになるまでは、各自で動くことにしましょう」
「わかったわ」

 その提案に同意して、マルティナはデイパックを開けた。
 食料と水を取り出し、それらを口に運ぶ。三分くらいで手早く食事を終えて席を立つと、近くにいたミリーナに驚かれた。

「あら、ずいぶん早いのね」
「そう?きっと旅をしていたせいね」
「旅をしていると、食べるのが早くなるの?」
「何が起きてもいいように、外では早く済ませなさいって教えられたの」

 マルティナは十六年以上、ロウと二人旅を続けていた。
 そしてその過程で、野営を何度となく経験してきたのだ。
 ロトゼタシア大陸に点在する女神像の加護によって、キャンプ中は基本的に魔物の心配はない。
 とはいえ、いつも女神像のある場所で休めるとは限らない。また、盗賊や異常気象などに対して即応を求められることもある。
 それゆえに常に警戒心を持つべきだと、幼少期から教育されてきたのだ。

「もちろん、安全な場所ならゆっくり食べるけど、今はそうじゃないでしょう?」
「ふうん……」

 ミリーナはどこか釈然としない返事をした。
 とはいえ、それ以上に説明することはなかったので、マルティナは改めて席を離れた。

「一時間後に再集合でいいのよね?」
「ええ。私はここで待機しているから」
「わかったわ」

 ミリーナを置いて店を出たマルティナは、まず店頭に立ててあった幟(のぼり)を手にした。
 幟の旗を外してポールのみの状態にすると、それを槍のように扱おうと試みる。
 ポールをかまえて、突き、薙ぎ、振り下ろす。流れに身を任せて動いていると、余計なことを考えずに済んだ。
 しばらく同じ動作を繰り返してから、ふうと一息ついた。

「これは軽すぎるわね」

 ポールで地面を叩くと、コンコンと音が鳴る。中は空洞のようで、長さはともかく、強度は英雄の名槍とは比べものにもならない脆さだ。
 これではマルティナの得意とする“一閃突き”の威力も半減してしまう。

「無いよりはマシかしら」

 それでも、マルティナはそのポールをデイパックに収めた。
 先程の戦闘で、光鱗の槍は折れて使用不可能になってしまった。
 マルティナには格闘の心得もあるが、殺傷能力のより高い武器攻撃を優先したいところだ。

「近くに武器屋でもあればいいけど……」

 ささやかな期待をしつつ、マルティナは近隣へと歩を進めた。
 それからしばらく市街地を探索するも、芳しい結果は得られなかった。
 期待外れの結果に肩を落としながら、マルティナは集合場所へと戻った。

「あら、マルティナ。時間ピッタリね。
 ちょうど今、探知機を使えるようになったところよ」

 店内に入ると、ミリーナから声をかけられた。それに適当な返事をして、ミリーナの対面の席に座る。
 どうやらお茶を淹れていたようで、店内には茶葉の香りが充満していた。

「茶葉が支給されていたから淹れてみたの。
 もし苦手じゃなかったら、あなたも飲んでみる?」
「……遠慮しておくわ」

 お茶にはリラックス効果があると聞いたことを思い出して、マルティナは誘いを遠慮した。
 今はこの緊張感を維持しておきたい、と考えたからだ。

661強い女 ◆RTn9vPakQY:2023/04/22(土) 20:14:03 ID:WlzqUC8g0
「そう?それなら、今後の話をしましょう」
「ええ。これからどうするの?」
「あなたさえ平気なら、D-2に戻ろうと思うけど」

 ミリーナは地図を広げて、D-2エリアを指し示した。
 C-1は禁止エリアになったので進めない。また、E-1は海が近いので、あえて訪れる参加者はいないと予想できる。
 そのため実際のところ、選択肢は東に向かう一択である。
 つまり、ミリーナがマルティナに対して尋ねたのは、進行方向ではなく覚悟についてだと、マルティナは察した。

「私は問題ないわ。もう迷わない」
「……ならいいわ」

 ミリーナがマルティナの返事に納得したのかどうかは分からない。
 ただ、少なくともこの場では、これ以上追及するつもりはないようだった。
 マルティナは胸をなでおろして、今後の話をすることにした。



 エアリスは、教会の中央に佇んでいた。
 差し込む日光と、そのおかげで育つ美しい草花。
 平穏な風景を眺めていると、教会の扉がきしんで音を立てた。
 その向こう側にいたのは、エアリスのよく知る人物。

「ザックス!?」

 無骨な服装にツンツン頭、そして空に似た青色の瞳。
 どれだけ時間が経とうとも、忘れることはない相手だ。
 エアリスはすぐに駆け寄ろうとして、しかし立ち止まった。
 そして、小首を傾げて問いかけた。

「ザックス、だよね?」

 ザックスは答えない。驚いたような表情で、教会の中を見ていた。
 どうやらエアリスのことは見えていないらしい。
 立ち尽くすエアリスの横を通り過ぎて、ザックスは花畑の近くに屈みこんだ。
 そして、床に仰向けに寝転ぶと、ひとつ微笑んで目を閉じた。

「ザックス!」

 これに似た光景を、前にも見たことがある。
 脳裏に思い浮かんだ悪い予感を振り払おうと、エアリスはザックスの名前を呼んだ。
 すると、いきなり世界が暗転して、景色が変化した。
 どこかの市街地。開けた場所に横たわるザックスと、その傍らに見知らぬ少年の姿。

「なぁ、美津雄……お前、夢ってあるか?」
「ないよ、そんなのない……!! オレには、なんにもないんだ……」
「そっ、か」
「オレには……夢を持つ、資格もないよ……」
「ばー、か。夢を、持つのに……資格、なんて、いらねぇよ」

 息も絶え絶えに話すザックスと、嗚咽しながら話す美津雄。
 エアリスは二人に対して必死に呼びかけるも、一向に届く様子はない。

「夢を持て、美津雄。そしたらちっとは、世界が楽しく見えるかもしれないぜ」

 その言葉を最後に、ザックスは目を閉じた。
 号泣する少年を見ながら、エアリスはその場に膝をついた。
 この光景が何を意味しているのか、自ずと理解できてしまったからだ。
 そして、世界は再び暗転した。



「……そろそろD-2ね」
「ミリーナ、探知機に反応は?」
「複数人で固まっているか、動き続けているか……いえ、待って」
「どうしたの?」
「ここ、二人いたのに一人だけ北上しているわ」
「わざわざ単独行動を選んだのかしら。それとも、戦えないから置いて行かれたとか」
「あるいは殺害したか……」
「その可能性もあるわね。どうする?」
「行ってみましょう。人質に取れるかもしれないわ」
「……そうね」
「不服かしら?マルティナ」
「いいえ。いい考えだと思う」



 エアリスが目を開くと、そこには喫茶店の天井があった。
 身体に異常はない。むしろ、ダメージは回復したくらいだ。
 直前まで見ていた光景は忘れていない。おそらくザックスはどこかで倒れている。

「ううん、倒れているだけじゃない。きっと……」

 脳裏に浮かんだ予感を、口にすることはできなかった。
 口にすることで、それが真実だと確定してしまう気がしたからだ。

662強い女 ◆RTn9vPakQY:2023/04/22(土) 20:15:37 ID:WlzqUC8g0
「それより、ゲーチスは!?」

 エアリスを眠らせた張本人のゲーチスは、姿を消していた。
 店内の時計を見ると、一時間はゆうに過ぎていた。もう近くにはいないだろう。
 ゲーチスの行き先は十中八九“Nの城”だ。何度も口にしていたあたり、よほど大事な場所に違いない。

「どうしよう?」

 エアリスは水道水で喉を潤してから、喫茶店の椅子に腰掛けた。
 そして、ひとつひとつ指折り数えながら、今後の方針を考える。
 一つ目。ゲーチスを追う。つまりNの城に行くということだ。
 二つ目。如月千早を探す。これはソニックから頼まれたことである。
 三つ目。カームの街を探索する。同じことを考えた仲間や、あるいは黒マテリアを発見できるかもしれない。

「うーん。どうしよう?」

 本音を言えば、正宗を振り回す男(カイム)やセフィロスのことも気にかかる。
 しかし、前者はソニックに任せており、後者はエアリス一人で対抗するのは困難だ。この状況では先送りにせざるを得ない。
 となると、先に挙げた三つの中から決めるのが妥当なように思われる。
 そうしたエアリスの思考は、鈴の音で打ち切られた。

「あら……よかった」

 そこにいたのは、背丈よりも長い棒を携えた女性だった。
 何がよかったのだろう、と疑問符を浮かべつつ、エアリスはコミュニケーションを取ることにした。

「私、エアリス。あなたは?」
「エアリス……そう」
「あ、もしかして、あなたが千早?
 でも、ソニックは銀髪って言ってたっけ……」

 ソニックの名前を聞いた女性は、わずかに両方の眉を上げた。
 明らかにソニックのことを知っている反応だったが、マルティナは特に言及しないまま、別の話を始めた。

「私はマルティナ。エアリス、ひとつ頼みたいのだけど」
「頼み?」
「手荒な真似をするつもりはないわ。ただ、しばらく人質になってほしいの」
「人質、って……」

 人質という単語を聞いて、エアリスは過去の記憶を思い出して動揺してしまう。
 勝手に話を進めるマルティナを不審に思ったこともあり、身構えようとした瞬間、エアリスは足払いを受けて尻もちをついた。
 そして直後に、ひんやりとした棒の先端を喉元に突きつけられた。

「あなたが選べるのは、利用されるか、ここで殺されるかの二択よ」
「……あなたも、殺し合いを肯定するのね」

 エアリスは悲痛な思いでマルティナを見た。
 正宗を振り回す男(カイム)、ゲーチス、そしてマルティナ。
 これまでに遭遇してきたのは、殺し合いを肯定する人物ばかりだ。

(とにかく、逃げないと……!)

 この場で簡単に殺されるのも、人質として利用されるのも、お断りだ。
 そう決めて、マルティナを無力化するために魔力を練る。

「邪気封い――」
「フォトン!」

 リミット技を行使しようとした直前、マルティナとは異なる声が店内に響いた。
 いくつかの光弾がエアリスの周囲に飛来し、そして破裂する。

「うあっ!」

 破裂した衝撃で壁にぶつかり、エアリスは悲鳴を上げた。

「ミリーナ!何を……?」
「油断しないで、マルティナ。たぶんエアリスは、私と同じ術士タイプよ」
「術士……そういうこと」
「ええ。今も何かの術を使おうとしていた」

 視線を上げると、喫茶店の入口近くに、金髪の女性が立っていた。
 ミリーナと呼ばれた女性は、エアリスにこう告げた。

「さあ、エアリス。“私たち”の頼み、もういちど説明した方がいいかしら?」

 エアリスは歯噛みした。マルティナとミリーナは組んでいるのだ。
 リミット技を不発にされた以上、この状況を打破する方法は、現状では思いつかない。
 しばらく無言のにらみ合いを続けた後、エアリスは静かにうなだれた。

「わかったわ」

 武器を没収され、後ろ手に縛られながらも、エアリスの戦意は失われていない。
 どこかで逃げるチャンスは生まれるはずだと、そう信じているからだ。

663強い女 ◆RTn9vPakQY:2023/04/22(土) 20:17:23 ID:WlzqUC8g0
【D-2/市街地にある喫茶店/一日目 昼】
【ミリーナ・ヴァイス@テイルズ オブ ザ レイズ】
[状態]:首筋に痣
[装備]:魔鏡「決意、あらたに」@テイルズ オブ ザ レイズ、プロテクトメット@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品×2、不明支給品0〜2、首輪探知機(放送まで使用不可)@ゲームロワ、王家の弓@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド、木の矢(残り二十本)@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する
1.マルティナと共に他の参加者を探し、殺す。
2.エアリスを人質として利用する。
3.イレブン以外のマルティナの仲間を、マルティナに殺させる。その方法は具体的に考えておきたい。
4.マルティナのことは残り二十人前後で切り捨てる。現状は様子見。

※参戦時期は第2部冒頭、一人でイクスを救おうとしていた最中です。
※魔鏡技以外の技は、ルミナスサークル以外は使用可能です。
※春香以外のアイマス勢は、名前のみ把握しています。


【マルティナ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、左脇腹、腹部に打撲
[装備]:ポール@現実
[道具]:基本支給品、キメラの翼@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて、折れた光鱗の槍@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド、ランダム支給品(0〜1個)
[思考・状況]
基本行動方針:イレブンと合流するまでミリーナと協力し、他の参加者を排除する。
1.心を黒に染める。
2.ミリーナと共に他の参加者を探し、殺す。
3.エアリスを人質として利用する。
4.カミュや他の仲間も殺す。

※イレブンが過ぎ去りし時を求めて過去に戻り、取り残された世界からの参戦です。イレブンと別れて数ヶ月経過しています。


【エアリス・ゲインズブール@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:MP消費(小)、後ろ手に縛られた状態
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:仲間(クラウド、バレット、ティファ、ザックス)を探し、脱出の糸口を見つける。
1.マルティナとミリーナから逃げるチャンスをうかがう。
2.ゲーチスを追うor千早を探すorカームの街を探索する。
3.セフィロス、および会場にあるかもしれない黒マテリアに警戒
4.カイムのことはソニックに任せてみる。

※参戦時期は古代種の神殿でセフィロスに黒マテリアを奪われた〜死亡前までの間です。
※ゲーチスからポケモンの世界の情報を聞きました。


【ポール@現実】
現地設置品。
店頭にある幟から旗の部分を取ったもの。ステンレス製で全長2メートル程度。

664 ◆RTn9vPakQY:2023/04/22(土) 20:18:01 ID:WlzqUC8g0
投下終了です。
誤字脱字、その他気になる点などありましたら、コメントよろしくお願いします。

665もうあの場所には帰れない ◆vV5.jnbCYw:2023/07/22(土) 00:06:39 ID:J2EjjrnU0

イシの村を後にして30分と少しして、魔王たちがたどり着いたのは、廃墟だった。
外からの見た目は、城を彷彿とさせるほど大きい。
魔王が拠点としていた城や、サクラダの知るハイラル城に比べればそこまでは大きくない。
だが、少なくとも町の屋敷よりかは土地を広く占めているだろう。


「ンマ〜、ボロボロの建物ね。何か争いでもあったのかしら?」


だが、城に見られるような荘厳さはない。
壁は苔むしており、所々が崩れている。
屋根もボロボロになっており、よほどの廃墟マニアでなければ、紹介すべき建物でもない。


「いや、この場所は元の世界でもこのような有様だった。」


魔王が元の世界で、この場に来たのは10年ほど前。
自分に挑んだ英雄サイラスの遺体を運び込んだ時のことだ。
だが、彼が目当てにしているのは、彼に関係することではない。
廃墟の奥にある、封印された宝箱だ。
現在魔王たちが探している、6色のオーブ。
全て集めることで、新しい可能性が開かれるという。


「うわっ、かび臭いニャ〜。」
「辛気臭い建物ね〜。これを直そうとする大工はいなかったのかしら?」
「直すぐらいなら、新しい建物を作った方が手っ取り早いだろう。」


人を集めるに至っては、お世辞にも向いているとは言えない場所だ。
だが来訪者たちを追い返そうとするのは、臭いや雰囲気だけではない。


「ここってオバケとかが……で、出たニャ!!」


階段を登り2階の広間に出た所、突然オトモが大声で叫んだ。
どこからともなく、武器を持った骸骨の魔物が現れる。
動いているだけではなく、骨の色が赤や紫の時点で、ただの骸骨ではないことが伺える。
槍を持った骨の魔物、ボーンナムに、鎌を持って空を飛ぶ骸骨、アナトミー。
生ある者を自分たちの仲間に加えようと、一斉に襲い掛かって来る。


「消えろ。」


魔王がパチンと指を鳴らすと、辺りに爆炎のドームが出来る。
侵入者を排除しようとする者達が、皮肉なことに魔王の領域への侵略者となってしまった。
炎の空間に無断で入った不埒物は、瞬く間に炎の洗礼を受けることになる。
勿論、中心部にいる3人は巻き添えを食わない。
1体を除いて、骨の魔物たちは全て火葬される。
勿論、1体殺さなかったのは魔王がドジを踏んだわけではなく、考えあってのものだ。
その圧倒的な強さに、オトモとサクラダはただただ息を飲むしか無かった。

666もうあの場所には帰れない ◆vV5.jnbCYw:2023/07/22(土) 00:06:58 ID:J2EjjrnU0

「さあ、私に従ってもらおうか。」


魔王がその手を、一匹のボーンナムに伸ばす。
彼は中生に飛ばされてきてから、大きいものや小さいもの、いくつもの怪物を力で従えて来た。
だが、骸骨は魔王の言葉を無視して襲い掛かって来る。
最後まで戦う事しか知らぬ骨の魔物は、鎌で両断された。


「………。」


事もなく魔物の一団を殺した魔王の表情は、どこか物憂げだった。
元々明るい表情ではない彼だが、眉間の皴がいつもの3倍は寄っているので、嫌でも察することが出来る。


「魔王の旦那、さっきのヤツに何かやられたかニャ?」


彼の表情を慮ったオトモが、心配そうに声をかける。


「気にするな。考え事ぐらい、好きにさせろ。」
「ねえ、ちょっとちょっと。」


不意にサクラダが、話を切り替える。
彼の視線の先に会ったのは、床に大きく空いた穴だ。
しかもいやらしいことに、丁度扉の近くに広がっている。
これでは、次の部屋に行くことは不可能だろう。


「魔王ちゃん、ずっと空を飛んでいるでしょ?アナタ一人で行けないの?」
「無理だ。そもそも飛んでいるのではない。魔法で床より少し上を浮いているだけだ。それに……。」


お前達2人だけの時にまた奴等が出たらどうする、と言おうと考えたが、自分の言葉ではないと思い、口をつぐんだ。


「よく分からないけど、アタシがすぐに修理するわ。」
「出来るのか?」
「うん。さすがにここまで大きい建物を全部改築することはムリだけど、これぐらいなら出来るわよ。」


そう言うとサクラダは、意気揚々と作業を始めた。
オトモは手伝おうとするが、彼は名前の最後に『ダ』が付いていないので、彼の仕事には手伝えないと言われた。


(………願いを叶えてもらうのは、不可能かもしれんな。)

667もうあの場所には帰れない ◆vV5.jnbCYw:2023/07/22(土) 00:07:27 ID:J2EjjrnU0

魔王が考えていたのは、この世界の杜撰さだ。
元の世界にあった北の廃墟に眠っていた武具を手に入れなかったのは、理由がある。
それは廃墟の宝箱の多くが、強力な魔力によって封印されていたのもあるが、それだけではない。
廃墟に現れるありふれた魔物達が、どうにも強すぎるのである。
自分や3大将軍のソイソーやマヨネーを以てすれば1体や2体ぐらいは倒すことは可能だ。
それでも、高い身分であった自分らが辺境の地で時間を使い潰すことは出来ないし、適当な雑兵を送ればあっさり返り討ちに遭う。
だから、自分に挑んだ英雄の死体置き場にして、以降は北の廃墟には手つかずだった。


だというのに、この手ごたえのなさは、否定できない違和感があった。
魔法一発で、一瞬で消えていく魔物達。
勿論、会場に巣食う怪物たちよりも、参加者同士で戦って欲しいということだと解釈できる。
だが、魔王は別の角度から、この場にいる敵が弱い理由を考えていた。
それは、『主催者の能力の不足』という理由だ。


マナやウルノーガ、はたまた彼女らの協力者は、幾つもの異なる世界から参加者を呼び寄せた。
そして、様々な世界をつなぎ合わせた殺し合いの会場も創設した。
凡愚、否、相当の才に溢れた者でさえ出来ないことを、平然とやってのけた。
死者の蘇生に新たな世界の創設。神に見紛う行為といっても過言ではない。一見は。


しかし、ブルーオーブのような、本来あるはずのない場所にある道具。
姿形は同じなのに、妙に実力のない魔物。
各世界の細かい所に目を配れば、辻褄の合わない所が少なからず存在する。
尤も、オトモやサクラダ、凡百の参加者にとっては、そうだとしても然程問題はないだろう。
だが、魔王にとっては、主催者によって2度目の命を貰った者には、問題なのだ。


(……私は、私なのか?)


一見、哲学か何かのような問いかけ。
しかし、不完全な世界同様、見知らぬ所で不都合が生じている可能性が高い以上が、気になって仕方がない。
当然、クロノが死んだ場合の、優勝して彼を生き返らせるという話も、不可能に近くなって来る。
よしんばそれが出来たとしても、生き返らせた相手が、ある日突然土くれに変わっていても何ら不思議ではない。


「魔王ちゃん!オトモちゃん!終わったわよ!!」


一人で彼がそんなことを考えていると、不意にサクラダが声をかけた。
先程まであった穴はすっかり鳴りを潜め、代わりに木材で作られた木の床が敷かれている。


「すごいニャ!これなら通れそうだニャ!!」

「う〜ん。素材が足りなかったってのもあったけど、あまりいいデザインではないわね〜。
またここに来て、本格的に修繕したいわ。」

「私はそんなものに拘るつもりはない。こんな床など、通ることが出来ればいいのだ。」


魔王がそう言ったのは、建築物に拘らないといった性格だからではない。
この北の廃墟が、巧妙に作られた偽の建物だと考えたからだ。
同時に、サクラダが魔王と同じ世界の出身者でないことに、多少の勿体なさを感じた。
大工という職業に精通している者ならば、建物の細かい所から、元の世界とこの場所の齟齬を感じ取れるかもしれないからだ。

668もうあの場所には帰れない ◆vV5.jnbCYw:2023/07/22(土) 00:07:45 ID:J2EjjrnU0

「恐らく、この先に何かがあるはずだ。」


北の廃墟の最奥は、魔王にしても未開の地。
もしも彼がカエルと戦うことを拒否し、彼らと共に旅に出れば話は変わったかもしれないが、今となっては関係ない話だ。


最後の部屋は、これまでの場所と何ら変わりはなく、ただ辛気臭い部屋だった。
ただ長い階段が続いており、それらが奥に何かありますよと、暗に示しているようだった。


「ここに何かあるのかニャ?」
「分からん。それより、また現れたぞ。」


先の部屋と同じように、何体かのアンデッドが現れる。
そして魔王もまた同じように、ファイガを放った。
いともたやすく、火葬されていく。今度は骸骨の魔物ではなく、人魂の魔物も混ざっていたが、特に変わりはない。
1体を除けば。


「ま、魔王ちゃん、まだ一匹残っているわよ!!」
「分かっている。しかし何だヤツは…?」


天井近くで、シャンデリアに似たモンスターが、青々と炎を放っていた。
表現として間違っているのではない。魔王とは別世界のモンスター、シャンデラは青白い炎を身にまとっていた。
そして炎が集まると、魔王目掛けてその塊を撃って来る。


(初見の魔物だ…シャンデリアを模しているだけに、炎は効きにくいのか?ならば……)


「アイスガ!!」


炎が効きにくいならば、氷で攻めればいい。
だが魔法の吹雪は、炎を吹き飛ばすことが出来ても、シャンデラに大した効果は発揮しなかった。
炎の力を持つ怪物に、氷が効きやすいのは魔王の世界のルール。
ポケモンの世界に通じるルールではない。


「あ、あんまり効いてないみたいだニャ!!」
「うるさい。ならば別の方法を試せばいいだけだ。」


魔王としても、参加者でもないモンスター相手に魔力を浪費するのは間抜けの所業だと思っている。
だが、目の前にいるのは、別世界を知るためのカギになるかもしれない怪物。


「これでどうだ?」


続けざまに魔王は、冥属性の魔法、ダークボムを放つ。
重力の歪みに飲み込まれ、魔王に対して高みの見物を決めていたシャンデラは、あっさりと地面に落ちる。
シャンデラの世界にとってあくタイプ、あるいはゴーストタイプに該当する魔法は、てきめんな効果を齎した。


「この怪物ちゃんは、この場所を守っていたのかしら?」


明らかに、他の魔物達に比べて手ごたえのある相手だった。
言葉が通じるならば話の1つもしたいところだが、残念ながら話は出来そうにない。

669もうあの場所には帰れない ◆vV5.jnbCYw:2023/07/22(土) 00:08:06 ID:J2EjjrnU0

「そう考えるのが妥当だ。」

(そう言えば……このモンスター、あのベルという少女が持っていた生き物に似ているな……。)


サクラダと話をする片手間に、魔王が思い出したのは、ランタンこぞうのことだ。
まだ死んでは無いようだし、使えるのではないかと一瞬考えるが、すぐにその考えを捨てた。
ベルは見たことの無い、赤白のボールを使っていた。
仕組みは聞くことは無かったが、あの道具を使うことで自由に使役できるのだとは察した。


「魔王の旦那!これは一体何か知ってるニャ?」


オトモは倒れているシャンデラを無視し、階段の一番上に上がる。
そこにあったのは、金色の紋が印象的な、黒い宝箱が2つ。
箱の模様は、魔王にとって馴染みのある物だった。


「……これはダメだ。」

「どういうことだニャ?」

「ジールの魔術を使わねば開かん。」

「え?開いたわよ?」


ジール王国の発展のきっかけになり、破滅のきっかけにもなったのはラヴォスの力。
その力で封印された箱は、当然強大な魔力を含んだ道具でなければ開かない。
だが、サクラダは何の問題もなく開けることが出来た。


「でも、このボールは何かしら?確かベルちゃんが持っていたような……。」
「貸せ。」
「ああ!何するのよ?」


すぐにボールを、地面に寝転がっているシャンデラ目掛けて投げる。
ボールが光ったと思ったら、水色の光線を出し、ポケモンを包み込んだ。
瞬く間にシャンデラは吸い込まれていく。


(まさかこのような形で、再び魔物を使役することになるとはな…)


明らかにシャンデラより小さいボールをまじまじと見つめる。
ピンクとクリーム色、明らかにベルのボールより豪華な装飾、変な例え方をすれば女の子見向きなデザインのボールを見ながら考える。



「あったニャ!これ、イレブンの旦那の家にあったものじゃないかニャ?」
「模様からしても恐らく、同じ物だろうな。」


オトモが手に取ったのは、赤いオーブだった。
色は違えど、どこか神秘的な魔力を放っているのは、あのブルーオーブと同じだ。
魔法の王国で生まれ、魔力に対して敏感な魔王ならばよく分かることだ。


「何だかアタシ達、順調に進んでない?」


来た道を戻る途中、サクラダが嬉しそうに話した。
検討を付けた場所に、目当ての品があり、予想外の戦力増強まで出来た。
彼の言うことは間違ってはいない。

670もうあの場所には帰れない ◆vV5.jnbCYw:2023/07/22(土) 00:08:32 ID:J2EjjrnU0


「ねえったら、目当ての品が見つかったんだから、少しぐらい仏頂面やめなさいよ。」
「………。」
「人には向いてることとそうじゃないことがあるのを察するのも、必要なことだと思うニャ。」
「いらぬ気遣いをするな。」


今の所順調なのは間違ってはいない。
だからこそ、あれこれと不自然が生じている今の状況を、懸念していた。
そしてその不自然を気づかぬまま放置していれば、最悪な状況を呼び起こす。
ラヴォスという常軌を逸した力に頼り始め、そして滅亡を迎えたジール王国を知っている彼だからこそだ。


北の廃墟を出ると、魔王の気持ちを体現したかのような暗雲が、彼らを迎え入れた。


「あら?嫌あね…雨でも降るのかしら……」


先に出たサクラダが呟く。
雨というのは、大工が特に忌み嫌う気候だ。
作業に支障が出るのは勿論のこと、素材が乾きにくかったり工具が劣化しやすくなったりする。
だが、魔王はそれどころではないことに気付いた。
暗雲は天気によるものではなく、人為的に魔法で作られたものだと分かったからだ。


すぐにダークボムを放ち、雷光を闇の力で書き消そうとする。
空が歪み、爆発と共に更なる闇に包まれた。
だが、一手遅れた。


言葉にならない悲鳴が闇の中で響く。


闇が晴れた時、無事でいたのは1人と一匹。
守れたのは後ろにいた魔王のみで、サクラダは雷の矢に串刺しにされ、黒焦げになって倒れていた。
その原因は、彼が金属製のハンマーを持っていたのもある。
彼の世界の金属製の武器は、他の者達の世界の金属武器より雷を呼び寄せやすい。


「お前か……魔王とは聞いてまさかとは思っていたがな……。」


雷が止むと、魔王にとって聞き覚えのある声が聞こえた。
そして目の前にいるのは、赤髪とハチマキが印象的な男。
勇者グレンと共に、自分を一度負かした相手。


「クロノ………!!」


風向きが、完全に変わった。
しかもそよ風からつむじ風に。
魔王の目の前にいたのは、魔王の同行者を殺したのは。
彼が生き返らせようと思っていた者だった。

671もうあの場所には帰れない ◆vV5.jnbCYw:2023/07/22(土) 00:09:32 ID:J2EjjrnU0
もう、あの頃には戻れない。
風は向かい風というのに、あの場所に戻してくれることは無い。












【サクラダ@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド 死亡確認】
【残り40名】




【B-2/北の廃墟入り口/一日目 昼】


【オトモ(オトモアイルー)@MONSTER HUNTER X】
[状態]:健康  
[装備]: 青龍刀@龍が如く極 星のペンダント@FF7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(確認済み) ソリッドバズーカ@FF7
[思考・状況]
基本行動方針:魔王に着いていく。
1.ご主人様、今頃どうしているニャ?
2.サクラダの旦那……


【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:HP2/3  MP1/3
[装備]: 絶望の鎌@クロノトリガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(確認済み、クロノ達が魔王の前で使っていた道具は無い。) 勇者バッジ@クロノ・トリガー シャンデラ ヒールボール(シャンデラ)@ポケットモンスター ブラックホワイト レッドオーブ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[思考・状況]
基本行動方針:クロノを探し、協力してゲームから脱出する 。もしクロノが死ねば……?
1.オーブを探す
2.これは……まさか!?


【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:白の約定@NieR:Automata
[道具]:基本支給品、ハイリアの盾(耐久消費・小)(@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド)、ランダム支給品(1個)
[思考・状況]
基本行動方針: 優勝し、マールを生き返らせる。
1.そのためには仲間も、殺さないとな。
2:まずは人が集まってそうな場所へ向かう。

※マールの死亡により、武器が強化されています。
※名簿にいる「魔王」は中世で戦った魔王だとは思ってません。

※ED No.01 "時の向こうへ"後からの参戦です。このルートでは魔王は仲間になっていません。
※グレイグからドラクエ世界の話を聞きました。




【ポケモン状態表】
【シャンデラ ♀】
[状態]:HP1/5
[特性]:ほのおのからだ
[持ち物]:なし
[わざ]:シャドーボール サイコキネシス だいもんじ しっぺがえし
[思考・状況]
基本行動方針:魔王に従う。
1.魔王に従い、バトルをする。


【支給品紹介】
【レッドオーブ@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて】
命の大樹に近付くのに必要な6つのオーブの1つ。
MP、SP、気力などの何かしらと引き換えに、『クリムゾンミスト』を使うことが出来る。


【ヒールボール(シャンデラ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
北の廃墟の宝箱にあったバイバニラが入ったモンスターボール。元の持ち主はシキミ。
またボールには特別な力があり、中にいるモンスターは徐々に体力が回復していく。







ところで、ジール王国生まれの魔王でさえ知らぬことだが。
封印されし宝箱の中には、ペンダントの力を吹き込むことにより、中身をさらにグレードアップさせる方法がある。
ホワイトベストをホワイトプレートに、鬼丸を朱雀に。
ただでさえ強かった力を持つ武具を、魔力の熟成によりさらに強化できる。
魔王たちが北の廃墟で見つけた宝箱は、ペンダントの力無しでも開けられたものだったが。
もしも、ペンダント、あるいはそれに近しい魔力がある道具を使って開ければ、どうなったのだろうか?

672もうあの場所には帰れない ◆vV5.jnbCYw:2023/07/22(土) 00:16:19 ID:J2EjjrnU0
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