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ゲームキャラバトル・ロワイアル【第二章】

1 ◆NYzTZnBoCI:2019/11/07(木) 15:20:03 ID:SrO2rlvw0
【ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】7/8
○イレブン(主人公)/○カミュ/○シルビア/○セーニャ/○ベロニカ/○マルティナ/○ホメロス/●グレイグ

【ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】6/7
○リンク/○ゼルダ/○ミファー/○ダルケル/○リーバル/●ウルボザ/○サクラダ

【FINAL FANTASY Ⅶ】6/6
○クラウド・ストライフ/○ティファ・ロックハート/○エアリス・ゲインズブール/○バレット・ウォーレス/○ザックス・フェア/○セフィロス

【クロノ・トリガー】4/6
○クロノ/●マールディア/○ルッカ/○ロボ/●カエル/○魔王

【ポケットモンスター ブラック・ホワイト】4/5
○トウヤ(主人公)/○N/●チェレン/○ベル/○ゲーチス

【ペルソナ4】4/5
○鳴上悠(主人公)/○花村陽介/●天城雪子/○里中千枝/○久保美津雄

【METAL GEAR SOLID 2】4/5
○ソリッド・スネーク/●ジャック/○ハル・エメリッヒ/○リボルバー・オセロット/○ソリダス・スネーク

【THE IDOLM@STER】4/5
●天海春香/○如月千早/○星井美希/○萩原雪歩/○四条貴音

【BIOHAZARD 2】3/4
●レオン・S・ケネディ/○クレア・レッドフィールド/○シェリー・バーキン/○ウィリアム・バーキン

【ドラッグ・オン・ドラグーン】2/4
○カイム/○イウヴァルト/●レオナール/●アリオーシュ

【龍が如く 極】3/4
●桐生一馬/○錦山彰/○真島吾朗/○澤村遥

【NieR:Automata】2/3
○ヨルハ二号B型/○ヨルハ九号S型/●ヨルハA型二号

【MONSTER HUNTER X】2/2
○男ハンター/○オトモ(オトモアイルー)

【名探偵ピカチュウ】1/1
○ピカチュウ

【Grand Theft Auto V】1/1
○トレバー・フィリップス

【BIOHAZARD 3】1/1
○ネメシス-T型

【テイルズ オブ ザ レイズ】1/1
○ミリーナ・ヴァイス

【大乱闘スマッシュブラザーズSP】1/1
○ソニック・ザ・ヘッジホッグ

【ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】1/1
○レッド

58/70

【主催側】
マナ@ドラッグ・オン・ドラグーン
ウルノーガ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
宝条@FINAL FANTASY Ⅶ
ガッシュ@クロノ・トリガー
足立透@ペルソナ4
エイダ・ウォン@BIOHAZARD 2

2 ◆NYzTZnBoCI:2019/11/07(木) 15:24:17 ID:SrO2rlvw0
【基本ルール】

全員で殺し合いをし、最後まで生き残った一人が優勝者となる。
優勝者のみ元の世界に帰ることができる。
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。

・「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。主催者の手によってか何らかの細工が施されており、明らかに容量オーバーな物でも入るようになっている。四●元ディパック。
・「地図」 → MAPと、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
・「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
・「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
・「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。肝心の食料の内容は書き手さんによってのお楽しみ。SS間で多少のブレが出ても構わない。
・「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
・「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
・「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。

【禁止エリアについて】
放送から1時間後、3時間後、5時間に1エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。

【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。

【予約】
期限は7日間。

【支給品】
伝説のポケモンやメタルギアなど、ゲームバランスが崩壊しかねないものは支給禁止。

【書き手枠】
書き手枠として参加させられるキャラは一予約につき一名ずつ。既に名簿に記載されている作品外からの参戦も可。
また、原作がゲームの作品以外のキャラの参戦は不可。
作品が投下された時点で参戦確定となる。

【参加者名簿】
書き手枠のキャラが全て出揃った後、第一回目の放送開始時点でデイパックに転送される。
全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。ちなみにアイウエオ順で掲載。

【状態表テンプレ】
【座標(A-1など)/詳細場所/日付 時刻】
【キャラ名@作品名】
[状態]:
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
3.

【作中での時間表記】(0時スタート)
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24

3 ◆NYzTZnBoCI:2019/11/07(木) 15:25:27 ID:SrO2rlvw0

【会場全体図】
ttps://www65.atwiki.jp/game_rowa/pages/10.html

【イシの村@ドラゴンクエスト 過ぎ去りし時を求めて】
主人公が育てられた最初の村。
崩壊前の姿なので、民家などはちゃんと残っている。
探せばやくそうなどのドラクエ関連のアイテムが見つかるかも。

【ハイラル城@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
ガノンに乗っ取られた大きな城。
厄災ガノンはいないものの、怨念の沼は健在。
数は少ないものの朽ちたガーディアンなどが眠っている。
探せばハイラルダケなどのブレワイ関連のアイテムが見つかるかも。

【カームの街@FINAL FANTASY Ⅶ】
ミッドガルを脱出したクラウド達が最初に立ち寄る街。
本編での城のような外壁は撤去されており、民家が立ち並ぶ形に。
探せばポーションなどのFF関連のアイテムが見つかるかも。

【北の廃墟@クロノトリガー】
亡霊が出ると噂される廃墟。
地下にはサイラスの墓がある。
ゴースト系のモンスターが潜んでいるかもしれない。

【Nの城@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
ポケモンBWでのラストダンジョン。
中には愛の女神(バーベナ)、平和の女神(ヘレナ)がおり、頼めばポケモンの回復をしてくれる。
この二人は参加者扱いではないものの首輪が嵌められており、主催への反逆を許されていない。

【八十神高等学校@ペルソナ4】
鳴上悠達が通っている学校。
教室がある三階建ての教習棟と、二階建ての特別教室のある実習棟がある。
その他、体育館・運動場等の施設が揃っているが、プールの存在は見られない。

【偽装タンカー@METAL GEAR SOLID 2】
タンカー編の舞台となる輸送用のタンカー。
新型メタルギア、RAYを輸送するために使用されたが、本ロワではRAYは搭載されていない。
探せば止血剤などのMGS関連のアイテムが見つかるかも。

【765プロ@THE IDOLM@STER】
アイドルマスターの舞台となる芸能事務所。
外観は初期事務所の形で、雑居ビルの一階が居酒屋「たるき亭」、二階が765プロとなっている。

【ラクーン市警@BIOHAZARD 2】
バイオ2の舞台となる警察署。別名R.P.D.
元々美術館だった建物を警察署に改築したらしくあちこちに美術館時代の名残が見受けられる。
数は少ないものの、クリーチャーが潜んでいるかもしれない。
探せばハーブなどのバイオ関連のアイテムが見つかるかも。

【女神の城@ドラッグ・オン・ドラグーン】
主人公カイムの妹、フリアエの居城。本編では最初の戦いの場となった。
傍にあった女神の神殿は撤去されている。
かなり広いが、帝国軍の襲撃に遭った後のため内装は廃れている。

【セレナ@龍が如く 極】
桐生一馬、錦山彰の行きつけの高級クラブ。雑居ビルの二階に店を構えている。
マスターの麗奈はいないが酒はそのままなので、美味しいお酒が飲めるかもしれない。

【遊園地廃墟@NieR:Automata】
名前の通り遊園地の廃墟。
ジェットコースター、観覧車などのアトラクションが揃っている。
各所にNPCロボがいるが、こちらから危害を加えない限り攻撃してこない。

4名無しさん:2019/11/09(土) 21:23:29 ID:ZI8EA4U60
新スレ乙です。

>> 殺意の三角形
カイムが思ったより強かった。やっぱり最初に会ったのが幼女だったから手加減してしまったのか。
正宗振り回せてコメテオぶっ放してくるのはやばい、地味に『ふうじる』の搦め手もあるから単騎では相当強いはず、
なんだけどガス欠してエアリスとゲーチスに捕縛されてしまってるあたり、強くても油断ならんなあって思うよね。
個人的には邪気封印なら仕方ないよなあっていう納得感はあるんだけど。
カイムってしゃべれないから、説得の難易度くそ高そうだし、戦闘描写のすさまじさ見る限り本当にカーテン引きちぎってきそうなんだよね。
割とゲーチスさんは気が気じゃないのでは??

> この世界で新たに会えた存在が、悩んでいる自分の前に代替案を出してくれたからといって、ゲームに乗るのをやめるなら、イレブンへの想いもその程度ということになってしまう。
彼女の目が曇ってるように思えるのは、大体ここのせいなんだろうなあ。

生存確率については、脱出は優勝に劣らないと思うんだけど、
イレブン本人の無事というよりも自分の想いの証明に比重が偏ってるのが見え隠れしてて、あっ……と思ってしまうんだわ。
ソニックの提案には乗らないけど、ミリーナの提案には乗るのもそこらへんの差異かなあって思ったりした。

>> 流星光底長蛇を逸す
せっかくの機会、またとない機会を逃してしまうことのたとえ(意味深)
イウヴァルトがしっかり策士してるように見えるけど、まだ策士かなんちゃってなのか判断がつかないぞ。
ベロニカたちと交渉してうまくいかなかったのを踏まえた上で策を立てたのはいいところだし、
あらかじめ相手の位置や与える情報の準備をしておいたのもグッド。
名簿とかいう単語を漏らしてスネークに正体見破られたときはもうこいつダメだろと思ったけど、
これを逆利用してスネークを思いどおりに動かしたのは非常に評価高い。

> 「勝敗は……準備の差だったな……。」
> 殺し合いを制する鍵は、相手の居場所を先に特定することだと言っても過言ではない
これだけ言い切っておきながら、近くにいるセフィロスの居場所特定してなくて、策が成就するか頓挫するかがスネークの生存力に丸投げされたのほんと笑った。

セフィロスを最後に絡めてきたのを見ると、このブーメランっぽさは書き手さんが狙ったと思うんだよなあ。
あと、こっちは狙ったのかどうかは分からないけど、展望台なんていういかにも偵察のための施設を偵察対象にしてなかったのはブーメランポイント高いぞ。
仮に偵察してたらセフィロスにやられてた可能性もあるにはあるから、どっちがよかったとは言いきれないんだけどね。

>> RE:2
この話好き。
バトルロワイアルというよりバイオハザードの二次創作みたいな雰囲気で、他の話とは異質なんだけど、面白かった。
ファンタジー世界の住人が一人も登場していないことで出てくる緊張感みたいなものがある。

なんで警察署がパズルになってるんだのメタ的なツッコミに、筋の通る回答用意してるところとか、
ちゃんとクレアとネメシスでバイオハザードの再現してるところとか、色々リスペクト散りばめられててポイント高い。
ウィリアムといい、ネメシスといい、アリオーシュといい、バイオハザード勢は大暴れしてるよね。

ソリダスは初登場のときは曲者に思えたんだけど、なんか面白キャラになってるような気がする。
市警踏破する様が割と必死だった点と、ネメシスという圧倒的な脅威がいた点からそう感じるんだろうけど、ちょっと底が見えたというかなんというか……w

5名無しさん:2019/11/09(土) 21:29:06 ID:ZI8EA4U60
>> 初心に振り返って
なぜか明け方じゃなくて夕暮れっぽさを感じてしまうお話だと思う。
明け方にプラス的な、夕暮れにマイナス的な印象があるからかな。この話が向かう先はプラスっぽくは見えないので……。

大自然の描写が増えてくると放送前って感じがあるんだよね。
海に関しては、千枝は穏やかさと激情を併せ持った心を、錦山は泰然さとは正反対にある心を、それぞれ見てるのかな。
この二人のすごく微妙な距離感は、仲間ではなくてただの同行者だよね。
今のところ心が安定してるけど、どっちも放送後、名簿公開後がものすごく怖い感じがするんだよなあ。


>> Must Survive
生きねばならぬ。
前話から危ういなとは思ってたけど、この二人完全に決裂したなあ。
シェリーの瞳のハイライトは絶対消えてる。
切り捨てられる側はたまったものじゃないのは分かるんだけど、じゃあお前殺しあうのかよって言われたら言い返せない。
悪魔のニ択じゃないけど、すごいもやもやする。
一応同行はしてるみたいだけど、お互いがピンチになってもお互いを助けなさそうですらあり、敵同士よりもピリピリしてそう。


>> 魔力と科学の真価
やっぱ素でそれなりに強いキャラだと、ネメシスは強いモンスター、みたいな感じになってしまうよね。
あれに自分から話しかけにいくなんて、現実世界ベースのキャラからすれば正気じゃないんだけど、その辺は世界観の違いなんだろうなあ。
シルビアはギガンテスかメガトンケイルの親戚程度のイメージしか持ってなさそうだし、
オトモにしたってフルフルたんなんかを見知ってれば、ネメシスの見た目を怖がることはないだろう。

よくよく読んでみれば、魔王のHPをスイング一発で2/3減らしたり、シルビアに即死攻撃くらわせてたり、ファンタジー系の中盤以降から参戦した参加者に優位を取れる程度には強いのよね。
まあ、まだ第一形態を倒しただけなんだが……。

魔王はなんだかんだで馴染んでるよなあ。
戦闘前後は打算にまみれた思考してるけど、お前シルビア助けたときとかは絶対そこまで損得考えてなかったよな?
アイルーは相変わらず何もしていないように見えるw


>> 小さな一歩
これは本当に美津雄を応援したくなる。
美津雄の話ってダメ息子の成長を見守るような感覚があるんだよ。
たとえ結果が出なくても、ショボくたって、応援してあげるべきだと思うのよね。
バトロワやってんだからつまずく可能性はあちこちに転がってるけど、それひっくるめて過程を楽しみたいなって思う。


>> ALRIGHT* ――大丈夫――
このロワのトレバーは割と好きなキャラだったりする。
欲望全開なムーブもそうだし、彼の台詞回しが結構読んでて楽しいんだよ。
アメリカ著名人の発言の日本語訳みたいな言い回しとか、お前が正気とか良心とか語るなよというツッコミ満載なセリフとか大好き。
欲望のほうも、人間狩りとか女関係のゲスいところだけだとただの悪人なんだけど、
パワードスーツについて真島とロマンを語り合って、扉蹴破って侵入するあたりはなんか憎み切れないんだよなあ。

真島はダークヒーローなんだね。
トレバーと組んで大暴れしてたときも楽しそうだったけど、対主催としても頼りになりそうなキャラだなあって思ってしまう。
どんなスタンスでも状況を楽しんでるように見えるこの二人はやっぱ相性はいいのかもしれない。
しかしトレバーは放送を認識してるようだけど、どんな反応するのかまったく予想できないな。

すっごい気になるんだけど、
> 戦いの予兆が感じられればすぐさま別の場所へ”保護”されるようになっているわ
これトレバー相手に通用すんの? あいつ戦いの予兆なんてあるの?


>> アリオーシュの奇(出題編)~(回答編)
謎の人物でしかなかったオセロットを主催者のスパイにするのはうまいリレーだなって思ったよ。
キャラ付けの観点でも相当明瞭になったと思う。
ジョーカーじゃない手先だと本人言ってるけど、エイダはジョーカーだと言ってる……
これは、私は主催者どもの犬とは違うのだよ的なこだわりなんだろうか?
正体暴露した後もバレットとの関係は変わらず、もうオセロットのバレットいじりは堂に入ってきたような気がして、このコンビ好きになってきた。

アリオーシュはもっと暴れるかと思ったけど、手口とか事情知ってるキャラ相手では分が悪かったか。
ダインとリンクさせてくる着眼点にはびっくりしたなあ。言われて見ればその解釈はアリだと思えてくる。

遥は助かったことになるけど、完全に一人で取り残されて先が読めなくなったかも。

6名無しさん:2019/11/09(土) 21:35:41 ID:ZI8EA4U60
>> 第一回放送
放送回のイメージと違ってめっちゃボリュームあった。情報量多すぎ。
オセロットはリレーするのが難しい立ち位置だと思ったんだけど、一気に整理されて分かりやすくなった感じがある。
前話からたった一週間で書き上げてるけど、裏で共有してたんじゃないかって思ってしまうくらいには綺麗につながれてると思う。

マナのヒールっぷりもいいね、素でこいつウザいなって思えてくる煽り文に脱帽する。
それとは別に盗聴してるよだとか、偽名使ってるやついるよだとか、よく聞けば情報の宝庫で、これ一つで全体が大きく動きそう。

主催者サイドって、マナとウルノーガからして一枚岩ではなさそうって思ってたけど、見事に全員思惑バラバラなんだね。
主催者内の中の反抗サイドですら温度差ありそうだし……。
ガッシュは明確に反抗サイドだけど、どうも頭に血が上ってて足引っ張りそうに見えるんだよね。
それとは別に、雑兵ポジの神羅兵も一部買収済みとかいきなりガバガバじゃないか。
絶対神羅の通常業務じゃなくてパワハラ混じったサービス残業だろうし、そりゃ美人の姉ちゃんに金払ってお願いされたならそっちにつくよな。

宝条とマナは控えめに言って頭おかしいからおいといて、今回一番株が動いたのがウルノーガかな。
ホメロスに裏切られて思いっきり動揺してたり、足立やエイダと対照的にこころのセキュリティガバガバだったりと、ものすごい下押し圧力がかかってる。
セリフもブーメランが頭に刺さってるよw
これ個人的な感想だけど、ホメロスを見下してたのと同様にマナも見下してたから、マナとホメロスからしっぺ返しくらったんだろうと思ってるんだよなあ。


>> 黒の引き金
黒の衝動と一体化した引き金が『ベロニカ』の感知で、
ブラックドラゴンを呼び出す引き金としての『召喚マテリア』って感じのダブルミーニングかな……と思ったけどセーニャは名簿見てないじゃん。
双子の感覚でベロニカの存在を感知したのかな。
本文でも書かれてるけど、一周まわって思考のねじれが消えたせいで一本筋の通ったイカレかたを発揮してくれてる気がするんだよね。

イウヴァルトは、目の付け所はいいんだけど、
コマがセフィロスに突っ込むわ、セーニャに突っ込むわ、自分はロボに突っ込むわで目論見がいまいちうまくいってない気がする。
下積み期間っぽいから後でどう転がるかなんだけど、目論見が機能してカイムを窮地に追いやるのか、自分に跳ね返ってくるのかは気になるなあ。
このブラックドラゴン、DQ11のあいつは全然連想してなかった。てっきりDOD関連の何かを封じたものなのかと……。
使用特技にはげしいほのおと明記されてるから、さすがに『邪』が出てくる線は潰してたか。


>> 夢の終わりし時
クロノはマナの悪辣なささやきを見事跳ね返したね。
> 冷静に考えてみたら
のくだりでぜんぜん冷静じゃない考えを披露してるあたりで危ないんじゃないかとは思ったけれど、
この辺全部ぶん投げて、乗ってるやつは殴り飛ばして引きずって連れて行く! って決意したのは主人公の風格。
ただ、とりまく状況が厳しすぎるのがつらいのよな。

ゼルダは色々吹っ切れたせいか、他者の利用価値を冷徹に見定めて容赦ない手をどんどん打って来てるね。
ダルケルはゼルダの知己ということや、英傑の使命なんかもあって視野が狭まってるけれど、
レッドはもう少し離れた位置から冷静に物事を捉えてるような感じがあって、意外と一筋縄ではいかなそうな感じがある。
レッドっていかにも単純なお人好しっぽいキャラに見えるんで、実は考えを外から読み取りづらいキャラなのかもしれない。
そう考えるとゼルダとレッドとピカの三人組はなかなか面白い組み合わせなんじゃないかと思う。


>> 新たなる好敵手
トウヤってロボットとか目じゃない冷血人間に思ってたんだけど、少しだけ感情が見えた感じが。
ベルやゲーチス、チェレンへの塩対応からして、彼らはもう過去の人になってるんだなと思ったんだけど、
名簿に強そうなトレーナー見つけただけで心わきあがってるのはちょっとかわいい。

レッドもトウヤも当然Nの城に向かってるわけだけど、
冷静に考えてみればNの城にいさえすれば必ずポケモントレーナーは現れるし、万全の状態でバトルもできるんだよなあ。
一方でNの城に来るってことは手持ちのポケモンが弱ってるってことだから、待ち伏せにも使いやすいってことで、
ここでドンパチやってる二人、特にトレバーが生き残ると脅威になるわけだ。
Nの城のポケモン回復ルールってさ、『ポケモン』が一体何を指すのかは早い者勝ちの解釈なのよね?
どういうルールを提示されるのか楽しみに見ておこう。

7名無しさん:2019/11/09(土) 22:16:48 ID:IktdwNVI0
感想乙です!
ちなみにNの城の回復は放送でのマナ曰く『支給モンスター』なので、ポケモンに限らないみたいですよ

8名無しさん:2019/11/09(土) 22:28:31 ID:ZI8EA4U60
>>7
ご指摘どうもです。
マナの放送のほうにあったのは見落としてました。

ところでwikiへのリンクが見つからなかったので貼っておきます。
ttps://www65.atwiki.jp/game_rowa/pages/1.html

9 ◆vV5.jnbCYw:2019/11/09(土) 23:45:51 ID:svbmWmcI0
全話感想ありがとうございます。
1個1個丁寧に書いてくれているので楽しみにしていました。

>>4
私はDODをやったことがないのですが、
実況で見た時、DOD2(この作品は主人公がカイムではなく、カイムがボスとして出てくる)で実況者さんがめっちゃカイムに苦戦していたので、強キャラとして書きたくなりました。
回復とか小回りは利きずらいけど、パワーだけならイレブン、クロノ辺りとも互角以上に戦えそうな気がします。
書きながらどうにもゲーチスさんがヘタレキャラになってしまったな……って実は思ってました。
仮にもゲームならウィリアム・バーキンやセフィロスと同じラスボスポジションなので、この先活躍してほしいのですが……。

>>5
どうにも魔王のようなツンデレキャラは他のメンバーに馴染ませるか、過程を描くのが難しいんですよね。
サクラダ、魔王、シルビアはそれぞれ反撃に繋がる描写を作れましたが、オトモだけは活躍させられなかったので、是非頑張ってほしいですね

>>6
クロノ放送後の回は、「TRIGGER」の直後から温めてたネタなのですが、
見事にクロノが闇堕ちすると予想させて、正統派主人公に返り咲かせるやり方に期待を裏切られてくれたようです。
最も「今」闇堕ちしなかっただけなのかもしれませんがね(腹黒微笑)

トウヤ、チェレンとポケモンBW勢の対象年齢が高そうな気がしたので(そもそもポケモンBWのストーリー自体が他のポケモンに比べて対象年齢高めなような?)、
レッドはコ○コロコミックの主人公のようなキャラとして書いてみたかったんですよ。
勿論片手間に野生のポケモンを倒したり、ゼルダの悪意に薄々感づいたりチャンピオンとしての面も描写したつもりなのですが。

10 ◆2zEnKfaCDc:2019/11/11(月) 17:13:56 ID:f57qgGJs0
ホメロス、クラウド、花村陽介で予約します。

11 ◆RTn9vPakQY:2019/11/12(火) 16:00:06 ID:/t1ugwoY0
如月千早 予約させて頂きます。

12 ◆vV5.jnbCYw:2019/11/14(木) 00:43:00 ID:dj8drUqM0
里中千枝、錦山彰、ミファー予約します。

13 ◆GyLbXZsSPw:2019/11/14(木) 18:12:23 ID:Y.38eHS60
先日の予約の件ですが一日猶予を下さい

14 ◆EPyDv9DKJs:2019/11/15(金) 01:42:28 ID:kyPFM99Q0
投下します

15 ◆EPyDv9DKJs:2019/11/15(金) 01:43:30 ID:kyPFM99Q0
 戦場で無残な死を遂げる兵は、決して少なくない。
 華々しく死ぬことも、ベッドの上で安らかに眠ることもない。
 ファットマンの芸術は叶わないように、エマが助からなかったように。
 これもその一つ。誰だってそんな風に死んでしまうのは、誰にも起こりうる。
 特に、スネークや雷電が身を置く環境においては、そうなることが当たり前だ。
 時には、見せしめで惨たらしく死ぬ。雷電も、そのことは覚悟はしていただろう。

(この短時間で、お前が殺られるのか?)

 通りがかったところに、偶然落ちてきたわけではないはず。
 これは言うなれば薪。相手は怒り、恐怖を煽るために焼べた『挑発』。
 効果は十分だ。雷電をこの短時間で殺せる相手、生半可な実力ではできない。
 同時に、戦友を此処までされて何も思わない方が無理と言うものである。
 無意識に、戦友の死に怒りを震わせるように、拳を握り締めている程に。
 しかし、此処で向かっても勝てる確率は、決して高いとは言えないだろう。
 スネークも弱いわけではない。が、雷電とて手傷を負わせてるであろう相手は、
 その上でまだ火種を撒いてる。手練れであることは、想像するに難くない。
 満足な武装をしていない今の状態では挑むべきではない。
 潜入の際、いつも行っていることだ。必要な戦いは避けろ。
 優しさを持つスネークだが、同時に現実的な思考も併せ持つ。

(今は生存を優先しろ。)

 故に、即座にその場から離れて走りだす。
 既に気づかれているのだから、隠れて行動する意味はない。
 一先ず距離を取って、放送に備えておきたかった。



 それから暫く走り続けて辿りついた場所は、ただの草原。
 遮蔽物のない場所で、身を隠せないのが辛いものの、言い換えれば逆も同じ。
 物陰すらまともにないので、狙撃されると言う可能性も極めて低く、あっても気づける。
 ……ステルス迷彩などがあれば話は別だが、それ以上は考えても仕方がないことだ。
 身を隠せる場所を優先したかったが、包装まで時間がない。危機逃すわけにはいかず、妥協する。
 相手が追ってこないのは気まぐれか、何らかの都合で追ってこれなかったのか。
 できれば追ってこないでほしいと思いつつ、放送を待つ。
 地図は頭に入れてあるため、開かず周囲を警戒する。
 特に、展望台の方は強く意識しながら。



(十三人……いや、最初の犠牲者も考えれば十四人か。)

 放送は特に滞ることも、スネークに障害もなく、何事もないまま終わった。
 死と隣り合わせの任務をするスネークにとって、決して多い数字ではない。
 だが、あくまで少なくない、と言うのはタンカーみたいに人数が多い場合の話。
 たった数十名の人数と言う少ない中での十三人。結構なペースで被害が出ている。
 思った以上に優勝を狙う参加者は多いらしく、敵の中には潜伏するタイプも出るはずだ。

『迷う者は路を問わず、溺るる者はあさせを問わずって聞いたことある?』

 いつだったか、メイ・リンから聞いた中国のことわざ。
 道に迷ってしまうのは道を尋ねないから、何処までが浅瀬か知ってれば溺れないから。
 要は、人の話を聞かなかった結果、悲劇を招くと言うこと中国のことわざの一つ。
 この六時間、イウヴァルトぐらいしか情報を得られず、情報不足と言うツケが回ってきた。
 接触の少なさから、他人に信用されるかどうかが、少し怪しくなる可能性も出てくる。
 この舞台では疑心暗鬼もある。獅子身中の虫の如く、潜む者だっていないと断言もできない。
 先のイウヴァルトのように、危険人物を友好的な人物と騙るものもいるのだから。
 ピカチュウから、消極的と言われたことと一緒に、そのことわざを思い出す。

(蔑ろにしたつもりはないがな。)

 リスクは承知の上。待ち続けたリスクに見合ってるかどうかは、これからだ。
 そして彼が待ち続けたもの。マナの言葉通りにいつの間にか、デイバックに入ってた名簿。
 イウヴァルトの言った通りの名簿のリストで、より主催者と関係があると認識を強める材料となる。
 そして同時に、

(やはりいたか。)

 いてほしくないと同時に、いることが助かる人物の、オタコンの名はある。
 冗談交じりに体内通信を図るも、当然ながら応答はない。期待なんて欠片もしてないが。
 少なくとも、放送では呼ばれてないことから、脱出の可能性はまだ十分にあるはずだ。
 一方で、先程挙げたオセロットにソリダスの名前も揃って載っているのは好ましくないが。

(俺に関係あるのは雷電を含めて四人……いや、五人か?)

16 ◆EPyDv9DKJs:2019/11/15(金) 01:45:11 ID:kyPFM99Q0
 約一名の名前に、どこか覚えがある。
 ───ソニック・ザ・ヘッジホッグ。
 覚えがあるだけで顔も姿も、性格も思い出せない。
 唯一覚えてるのは、どうも好きになれない印象のみ。
 名前だけで好きになれないと言うのも、よくわからない話だ。
 単純に、ヘッジホッグ(針鼠)と言う生物は、蛇(スネーク)と仲が悪い。
 そのことから、縁起が悪いとでも思っているのだろうかと鼻で笑う。
 ソリダス程まだ老いたつもりはないが、まさかど忘れか。
 これ程引っかかる存在なのに思い出せないのは気掛かりだが、
 一先ず彼については保留するとした。

(しかし……なんだこの名簿は。)

 参加者の名簿に目を通してみると、奇妙なものが多い。
 魔王、ヨルハ二号B型、Nと、コードネームのような名前も多数。
 別にコードネームなら問題はないのだが、そうなると別の疑問が出てきた。
 何故、雷電やオタコンはコードネームではなく、本名で表記されてるのか。
 全員が本名で参加させられてるならば、自分もソリッド・スネークではないはず。
 オタコンやジャックは本名で、自分はコードネームで名簿に記載されており、
 参加者の情報をしっかりリサーチしているようには思えない、曖昧な名簿。

(ひょっとして、奴らは俺達を完全に把握できていないのか?)

 名簿の曖昧さで混乱を招くなんて、遠回しなことはしないだろう。
 マナ達が望むのは殺し合い。たかが名簿で疑問なんて持たせるとは思えない。
 放送も、声だけでしか状況を判断できないとあっさり口を滑らせているのもある。
 視覚による手段はない、或いは大雑把なものでしか自分達の状況を把握してないのか。
 露骨さから罠とは思うものの、元々首輪で圧倒的優位にある以上、その線は極めて低い。
 或いは、マナとウルノーガ以外に、誰か主催者に関係者がいたとして、
 此方にゲームを破綻させるべく宛てたメッセージなのかもしれない。
 マナが口を滑らせたのは、ただの事故であり、
 口を滑らせなかった時に備えての保険としてのものか。

(一枚岩ではないと言う可能性も考えておくか。)

 ソリダスとオセロットの目的の違いを見たばかりでは、
 マナ達とて思想を一つにしているとは限らないだろう。
 一方で、これは何の変哲もない、ただのミスの可能性もある。
 マナがあっさりと参加者の動きを把握してないとのカミングアウト。
 その杜撰さから、伝わる人に伝わればいい程度に、雑に作っただけかもしれない。
 事実、自分の事をデイビッドと記載して、気づける者がいるのかと言われると別だ。

(どちらにせよ、オタコンを探すとしよう。)

 オタコンがいるなら、彼こそ最優先事項だ。
 少なくとも十三人が、この舞台に立ってから命を落とした。
 それだけ甘言に乗った参加者か、元からそういうのが趣味な奴もいると言うこと。
 彼は無力と言うほど弱くはないにしても、安全と言い切れる強さも持ち合わせはない。
 残った参加者の運命を握る可能性がある以上、探すのは脱出においては必須。

(向かいそうなところは、偽装タンカー……此処以外ないか。)

 新型メタルギア、RAYの情報の為に潜入した偽装タンカー。
 自分とオタコンで共通している場所があるなら、オタコンも向かうはずだ。
 相手にしたくない二人も其方に向かう可能性から、あえて避けるのかもしれないが、
 動かなかった故に情報不足である以上、他に行き先の当ては思いつかない。

(いや、その前に、温泉か?)

 忘れてはならないのが、先の出来事で背中には、雷電の返り血を大量に浴びている。
 このまま参加者と遭遇すれば、あらぬ疑いをかけられるのは、想像するに難くはない。
 ピカチュウやオタコンのように頭の回転がよければ、背中で返り血を浴びるのは不自然、
 なんてフォローで助けてくれるかもしれないが、全員が冷静に考えられるわけではない。
 何よりただの出血ではなく、臓器からの血も浴びている今の彼は、汚臭が酷い状態にある。
 一度洗い落とさなければ、誰かと接触は勿論、潜伏なんてとてもできたものではなかった。
 偽装タンカーと温泉は反対方向だが、近くの水辺で落とすにしても、
 ヴァンプのように水辺から襲撃をかけてくる参加者もありうるはず。
 どれほどのロスがあるか、その間にオタコンが無事かどうかのリスクはあるが、
 彼も修羅場をくぐって、戦闘を避けるべき場面も弁えているだろう。
 楽観視するつもりはないが、自分の周りを疎かにするわけにもいかない。
 幸い、偶然にもイウヴァルトと遭遇したこともあって、北上したお陰で温泉は近い。

(行くか。)

 このまま行けばそう時間は取られない。
 運よくか運悪くか北上したのは、僅かながらのアドバンテージ。

17 ◆EPyDv9DKJs:2019/11/15(金) 01:45:46 ID:kyPFM99Q0
 再び走り出して、目的地へと向かう。



「!」

 向かう瞬間に、こちらにやってくる気配。
 気配の先は───先程いた展望台方角。





「───ファイガ。」

 振り返れば、同時に片翼の天使の洗礼が、スネークを襲う。





 時は少しさかのぼり、展望台で遠くを眺めるセフィロス。
 下の相手は逃げたことで、彼は暇を持て余していた。
 放送に関しても、セフィロスは大して興味はない。
 クラウドがこの程度で倒れるとは思ってなければ、
 他の参加者が呼ばれても、彼にとって大した意味はない。
 例外があるとするなら、伝言役の名前と思しきカエルの名前か。
 名前を聞いてないので確実ではないが、恐らく彼のことだろう。
 あの後、誰かに伝えていれば問題はないのだが、彼が懸念するのは其方ではない。
 ───禁止エリア。試しに地図と照らし合わせてみれば、此処はC-5。
 現在いる場所が指定されており、その上マナはこの場所を遅れて発言している。
 これはつまり、予定していたエリアとは、急遽変えて選んできたということ。
 他の二つが、殆ど人が行きそうにない場所を狙ってるので、意図的なものだ。
 要するに、これは『動いてくれなくては困る』と言う、向こう側のメッセージ。
 このまま別の場所へ待機したところで、禁止エリアによる移動を狙ってくるはず。
 期待している、とでも言いたいのだろうか。昔のことを思い出し、少しだけ笑う。
 自分を動かすために追いやってると扱いはあれだが、ソルジャーの時代を思い出す。
 カリスマと森羅カンパニーと言うバックも合わせ誰もかれもが英雄ともてはやしたあの頃を。

(混沌が望みか。)

 意図は分かったが、知ったことではない。
 退屈を満たしてくれるなら話は別だろうが、
 先の結果を見るに、余り期待はしていなかった。
 此処も五時間の猶予はあれど、時間が迫る場所で水を差されたくもない。
 仕方なく目的地を変える前に、『A-6』と書いた紙を、
 近くに転がっていた石に挟んで、テーブルに置いておく。
 一応、時間の猶予はある。此方に来る可能性も見込んでの行動だ。

 場所を変えることを決めたセフィロスは、先程の相手を追いかける。
 伝言役がいなくなった可能性もある以上、新しいのが必要だ。
 言ってしまえば、スネークとの接触はそれだけに過ぎなかったが、
 少なくとも先ほどの相手の叫び声は、悲鳴ではなく動揺。
 投げ入れた死体との知り合いだったのだと言う事は伺える。
 多少は楽しめた相手だ。さっきは逃げたことからあえて見逃したが、
 遠くの視界に見えた瞬間に、期待を込めて軽くファイガを放つ。
 伝言役として接触しようとしたのに殺す気満々の攻撃ではあるものの、
 彼からすれば、大丈夫だと言う確信はあった。
 この短時間でかなりの距離を稼いでいるので、
 それなりに鍛えた存在であると分かっているのだから。





 そして時は戻り───

「!」

 自分が熱気と輝きの中心地にいることに気づくと、
 冷静にその中心地から、脱兎のごとくスネークは走る。
 草を、土をも焼き尽くしながら四方へ散る爆炎。

「ウオオオオオォォ───ッ!」

 遮蔽物は一切ないのが逆に仇となり、完全に防ぐことができない。
 強烈な熱風がスネークを襲い、軽く吹き飛び、何度かバウンドした後に草原を転がる。
 ポカブのひのこの比ではない。あんなもの直撃すれば、即座にこの世からおさらばだ。
 寧ろ多少の打撲と全身の軽度の火傷で済んでいることの方が、十分奇跡かもしれない。
 転がりながらも、そこは伝説の英雄。無駄に時間を使わず起き上がって、相手を見やる。
 奇しくも、雷電が仕留められた丘陵をバックに、セフィロスが立つ。
 その距離、僅か五メートル。

(雷電を殺れるだけの実力は、あるようだな。)

 相手の実力を冷静に分析する。
 雷電と戦って、あの程度の軽傷。
 推測は正しく、相当な実力者であるのが伺える。
 更に今の攻撃。爆弾を用いたわけではなさそうだ。
 魔法と言ったものをまだ目の当たりにしてないのもあってか、
 相手の攻撃の仕組みが理解できず、警戒心をより強めていく。
 原理不明の攻撃、なおさら今は戦うべき相手ではない。
 一方で、逃げ切れる保証もまた、どこにもない。
 音爆弾も、転がりながらさりげに一つは取り出しておいた。
 それでも心もとない。相手は武装していて、こっちは満足に戦えない状況。
 しかも臭いと言うデメリットつき。逃げても簡単には逃げられないだろう。
 どれほど追い込まれても、その場で対処法を考慮するのはお手の物。
 スネークは諦めはしなかったが、

18 ◆EPyDv9DKJs:2019/11/15(金) 01:46:17 ID:kyPFM99Q0
「クラウド、と言う金髪の男に会ったか?」

 突然、向こうから尋ねられる。
 まさか雷電を殺した相手から、
 人について尋ねられるとは思わなかった。

「……いや、知らないな。」

 思うところは当然あるのだが、
 相手の情報を知る数少ないチャンス。
 全く知らない以上、嘘を言う理由もなく素直に答える。
 分かるのは、呼ばれた名前ではないことぐらいか。
 音爆弾を持った左手を背中にやりながら、
 戦闘に入る際の逃亡手段を常に手にしておく。

「A-6に私が、セフィロスがいる。
 クラウドにそう伝えてもらおうか。」

「伝言役か。俺は殺さないのか?
 さっきは随分派手な挨拶だったが。」

 雷電をあそこまで惨たらしく殺せるのだ。
 今更、この殺し合いで相手も躊躇う理由はないだろう。
 別に殺されたいというわけでもないのだが、少し尋ねてみる。

「強い光だが、まだ足りない。」

「……?」

 無駄のない動きですぐに復帰した冷静な動き。
 訓練された兵士とも言うべき、立ち居振る舞い。
 雷電と同じく楽しめる部類だろうが、一つ足りない。
 先の三人は揃って自分を敵と認識して戦ったが、今回は別。
 敵と認識しながら戦おうとしない……所謂、戦意がなかった。
 ファイガと言う、文字通り焚きつけるものを用意してもなお見受けられない。
 楽しめそうなのだが、楽しませてくれそうにない、と言うのが彼の見解だ。

「何が言いたいのか分からないが、
 クラウド・ストライフだな、分かった。」

 そんなセフィロスの考えを露知らず、スネークは彼の頼みを快諾する。
 今回得られた情報はありがたい。探さずに待ち構えるということは、
 相手は必要以上に動く、と言うわけではないことになる。
 オタコンと出くわさない可能性は高くなるのはとても重要だ。
 それに、会いたがってるのに待ちを選んでいることから、
 仲間ではなく、決着をつけなければならない相手かもしれない。
 敵対する者がいるなら、探すことに越したことはない。

「クラウドの行き先に、心当たりはあるのか?」

「カームの街。確実とは言わないが、
 奴も私がいることを知れば、向かう可能性はある。」

 名簿があるなら、自分の存在もすぐに気づく。
 自分がいること知れば、探すのは間違いない。
 あれだけ関わったのだから、こちらの考えも読めている筈。
 女神の城に場所を変えるのは、自分を連想できる場所として、
 自分を多少連想できる研究所が近くにあるからのも考慮していた。
 西のカームの街にはスネークを向かわせて、自分は北上していく。
 どちらかにクラウドが当たる可能性は、今までよりはあるはずだ。
 確率を少しでも上げておかねば、また禁止エリアの指定で面倒になる。

(タンカー近くか……ついでに確認はできるな。)

 タンカーのあるエリアから、そう遠くない位置にカームの街はある。
 温泉で血を流し、タンカーへ向かって(いれば)オタコンを回収。
 のちにカームの街へ向かう、一先ず暫くの方針はこれになるだろう。

「用はそれだけだ。後は好きにするといい。」

「ああ、そうさせてもらう。」

 警戒気味に距離を取っていき、スネークは走り出す。
 警戒してはいるものの、セフィロスが仕掛ける気はない。
 驚くほど何事もないまま、温泉へと向かって進む。

(雷電。悪いが、今の俺では勝てそうにない。一時撤退だ。)

 相手がろくに動こうとしないのであれば、存分に利用させてもらう。
 戦友には申し訳ないが、今だけはあの男の言うことに従うことにする。
 従う、とは言うがこれは紛れもなく自分の意志だ。
 あいつの遣いに、道具に成り下がったわけではない。
 勝てる見込みのある状況に持ち込む。それまでの辛抱だ。



「アレは戻ってくるだろう。今よりも強い光になって。」

 去り際のスネークの表情を見たセフィロスは、笑みを浮かべる。
 あの男への怒りと言う炎に、焼べることには成功したはずだ。
 次に会ったときには、戦うときが来るだろう。
 退屈しのぎ程度か、クラウドに匹敵するのか。
 少しだけ今後に期待しながら、セフイロスも目的地へと向かった。



 一つだけ、彼が気づいてないことがある。
 いや、気づいたところでどうでもいいと思うだろう。
 自分の手で殺めたエアリスが生きている、と言うことについては。

19 ◆EPyDv9DKJs:2019/11/15(金) 01:46:53 ID:kyPFM99Q0

【C―5/展望台より北の草原/一日目 黎明】

【ソリッド・スネーク@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:手に軽い火傷 全身に軽い火傷と打撲、背中から全身にジャック返り血、返り血による汚臭
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、音爆弾@MONSTER HUNTER X(2個)、不明支給品(0〜1個、あっても武器ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:マナやウルノーガに従ってやるつもりはない。
1.温泉、タンカーの順番で向かってオタコンの捜索。
2.カイムと狩人の男。オセロット、ソリダスに警戒。
3.クラウドに会って伝言を伝えるため、可能性のあるカームの街に寄る。
4.イウヴァルト、セフィロスに要警戒。
5.装備が整い次第、セフィロスを倒すか?
6.ソニックと言う名前に既視感、および不快感。だがこの際言ってられないか?

※参戦時期は少なくとも、オセロットがソリダスも騙したことを明かした後以降です

【セフィロス@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:右腕負傷(小)、毒
[装備]:バスターソード@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、武器の類ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:クラウドと決着をつける。
1.女神の城でクラウドを待つ。
2.因果かな、クラウド。
3.スネーク(名前は知らない)との再会に少し期待

※本編終了後からの参戦です。
※心無い天使、スーパーノヴァは使用できません。
※メテオの威力に大幅な制限が掛けられています。
※ルール説明の際にクラウドの姿を見ています。
※参加者名簿に目を通していません。

※C-5展望台より北の草原の周辺が焼け焦げています。
 遠くから煙とか見えるかもしれません。

 展望台真下にジャックの死体があります
 臓器が露出しているため異臭で気づきやすいです

 展望台に石に挟まれた『A-6』と書かれた紙が、テーブルの上にあります

20 ◆EPyDv9DKJs:2019/11/15(金) 01:47:12 ID:kyPFM99Q0
以上で『両雄倶には立たず』の投下を終了します

21 ◆vV5.jnbCYw:2019/11/15(金) 18:47:02 ID:bIb4p7UE0
初投下乙です!!
新たに登場した名簿をフルに使っているのがイイですね!!
スネーク、なかなか良い判断力をお持ちでいらっしゃる。
しかしセフィロスの向かう方向にはセフィロス同様最強マーダーの一人と言われるG生物がいるけどどうなるやら……。

22 ◆GyLbXZsSPw:2019/11/15(金) 20:37:46 ID:T1EKCUcM0
大変申し訳ありませんが予約を破棄します

23 ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:23:18 ID:JuENfmV20
投下します。

24そでをぬらして ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:24:49 ID:JuENfmV20
5:50【C-4 海中】


海中に身を沈めていたミファーは、周りの気配を伺っていた。
先程の戦いは武器を犠牲にして逃げられたが、武器を失ってしまったのは極めて失態だ。
確かに武器が無くても、海に引きずり込めば溺死させることが可能だろう。
腕のヒレで首を斬り裂くことも出来る。


だが、それだけで全員を殺せるほど、この殺し合いは簡単ではないことは分かっている。
どうにかして、武器を調達したい。
欲を言えば一番使い慣れている槍がベストだが、この際剣や斧でも構わない。


そう思いながら海中を巡回していると、向こうから聞いたことのない音が聞こえてきた。
音の方に泳いでみると原因はすぐに分かった。

船がすごい速さで移動していた。


速さこそは全速力のミファーと同じくらいだが、あのような技術があることに驚いた。
数人がかりでコログのうちわを振り続けたイカダでさえ、あの速さには到底及ばない。
ガーディアンの発明に尽力し、飛行型の機械を発明したハイラル王家でさえ、船型のガーディアンは作れなかった。
水に触れるとガーディアンはどうしてもショートしてしまうからだ。


ジェットマックスという、未知の存在を見たミファーは、さらに深く潜り、状況を伺い続ける。
あんな兵器がリンクに襲い掛かれば、どうなるか分からない。
だが、操縦者はどういう存在かは確定していない。

ガーディアンのように、一度動き始めれば壊れるまで活動し続けるわけでもないかもしれない。


どうにかして、船の上に敵がいれば、殺さないといけない。


ミファーは海面スレスレと水深3,4m付近の浮き沈みを繰り返し、状況を確認する。



武器を持っているかどうかは分からないが、どうにかしてチャンスが巡ってこないか伺っていた。

25そでをぬらして ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:25:12 ID:JuENfmV20


5:53【C-4 海上】


所変わって水上。錦山は突然マカロフの引き金を引いた。
「え?錦山さん?」


陸地からの狙撃を警戒していなかったわけではないが、錦山の突発的な行動と破裂音に千枝は驚く。

「気のせいか……。」
錦山は水中に敵がいるわけがないと思って、考えを改める。
だが、どこからか殺意が自分達を付き纏っていることは理解できた。


錦山はヤクザとして生きる上で、幾度となくこの殺意に対する感覚に救われてきた。
ヤクザの世界で成り上がるには、ケンカの強さや金儲けの能力以上に重要なことだということも分かっていた。
だが、それにしてもこの感覚が、海中からやってくるのはおかしい。


誰かが水中に潜って、様子を伺っているのだとしても、ジェットマックスの速さに付いていけるわけがない。
仮にそれほどの泳ぎの達人だとしても、酸素ボンベもなしに海中に居続けるなど不可能だ。


「錦山さん……。何か来るよ。」
「は!?」
ぶっきらぼうな態度で返すが、自分の感覚と似たような感覚を覚えるらしき千枝に共感を覚える。
同時に、警戒意識も。


里中千枝も、格闘を好む者としての、闘気の察知能力を持っている。
ミファーからの殺意を、共通して受け取ったのだ。


「ペルソナ!!」
千枝はトモエを召喚し、未知の敵に備える。


「トモエ、水中を凍らせて。ブフーラ!!」
殺意の正体が何なのかは分からないままだが、一つ分かったことがあった。
水中では間違いなく勝てないということ。


ペルソナを呼び出せたテレビの中は、海どころか、池や川さえなかった世界。
海の中でもペルソナが戦えるのかどうかは分からないが、水中での戦闘経験がない以上、間違いなく勝てない。


トモエから放たれる吹雪が、海の一部を凍らせていく。
ジェットマックスの進行に合わせて、海の上に氷の道が作られていった。

26そでをぬらして ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:25:57 ID:JuENfmV20
5:56【C-4 海中】


(今の音は?)
地上からの聞きなれない破裂音を聞いてミファーも驚く。
丁度自分がいた辺りの場所から、金属の弾が沈んできた。
何か爆発のような音だったが、何なのだろうか。


その後妙に寒気がすると思えば、海面部分が謎の力により凍り付いている。
神獣ルッタから放出される氷とは異なるようだ。
相手が出してくるのは氷弾ではなく、フリーズロッドから出るような吹雪だ。



問題は相手が知らない武器を使うこと以上に、自分の殺意を感じ取っていたことだ。
一時は撤退することも考えたが、すぐに考えを取り消す。


未知の技術を秘めた乗り物を操り、未知の攻撃方法を持つあの二人と、リンクが戦うことになってしまったら。
今自分が相手に殺される恐怖より、リンクが死ぬ恐怖の方が勝った。


一度船からは離れるが、水深4,5mまで潜り、船底を観察しながら泳ぐ。


1分、2分、3分。
そのまま走り続けるジェットマックスと、水底からその様子を伺うミファーの、膠着した状態が続く。


海上では、なおも二人は殺意に対し警戒をしていた。
前後左右、どこから何が来てもいいように。
だが、殺意に対する感覚は集中している時にこそ、発揮されるものだ。
一たびそれ以外の五感が集中すると、役に立たなくなる。


6:00【C-4】

『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる? 』


錦山と千枝は、殺意に向けていた集中力の方向を、放送に変える。
その刹那、チャンスを確信したミファーは、海深くから一気に加速する。

参加者全員のザックに、名簿が支給される。
だが、ミファーはそんなものはどうでもよかった。
なぜなら唯一にして一番大事な存在は、この戦いに参加していると既に知っているから。
彼女が知りたかったのは、死者の名前。
相手が動揺している間に水中から奇襲を仕掛ければ、赤子の手を捻るかのように殺せると推測し、その時を待つ。


そして、呼ばれる、死者の名。
2番目に、千枝にとって大事な人物の名前が、鼓膜に飛び込んだ。
『天城雪子』


(え!?)
千枝は大事な人の死に動揺こそすれど、激しい怒りや悲しみは表さなかった。
正確に言えば、そういった感情を表す余裕が無かったのだが。
ただ凍り付いたように放心状態になり、ジェットマックスの動きに身を任せていた。

だからこの時は、状況が一気に変わりはしなかった。

27そでをぬらして ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:26:18 ID:JuENfmV20
だが、6番目に呼ばれた名前が響いた時、状況は一変した。

『桐生一馬』


(何?)
それまで放送を聞きつつも、ジェットマックスのハンドルに意識を向けていた錦山が、その時だけ放送に集中を傾けてしまった。
『最初の時にわたしに逆らった男ね。死んで清々したわ!』

(違う。桐生の奴は、そんな簡単に片づけられるようなタマじゃねえ……桐生の奴は……。)
「前!!前!!」
若干意識を回復させた千枝が、震えた声で叫ぶ。
コントロールを失った高速で走る続ける船は、今にも岩壁にぶつかりそうになっていた。




放送の内容は、海中にも響く。
その中には、かつてミファーと同じ世界の英傑の名も含まれていた。

(ウルボザ……。)

別に驚きや悲しみに囚われたわけではない。
最初の会場でリンクを見たから、他の英傑も参加させられていると思ったし、自らの手で殺す覚悟もしていたから。


ただ、彼女ほどの実力者が死ぬとなると、自分も死ぬかもしれない。
その覚悟だけを、心に置いておく。
船の動きが急に不安定になった。


恐らく操縦者の知り合いが呼ばれたのだろう。
襲撃を仕掛けるなら、今だ。



6:01【C-4 小島付近】


「畜生!!」
錦山は怒鳴りながらブレーキを踏む。ハンドルを思いっきり捻り、急旋回させる。
咄嗟のブレーキのおかげで、間一髪で衝突の危機は逃れた。



だが、ジェットマックスを停めたということは、追跡者に追いつかれることを許してしまうということだ。


海面から飛び出したミファーが、錦山を捕まえ、そのまま海中に引きずり込んだ。


「にしきやまさ……。」
千枝が台詞を全部言い切る前に、錦山は海の中、ミファーのメインステージに飲み込まれる。

28そでをぬらして ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:26:37 ID:JuENfmV20

(離しやがれ……!!バケモノ………!!)
ゾーラ族の人間離れした見た目と、予想外の方向からの奇襲に戸惑うも、必死で抵抗する。
めったやたらと全身を動かすが、水に生きるゾーラ族相手に到底及ばない。
どうにかして敵を肘打ちするなり蹴飛ばすなりしようともがく錦山だが、全く当てることが出来ない。
逆に両足を掴まれ、更に水底へ引き込まれそうになる。


(……どうすればいい?)
そして、水上に一人残された千枝は、一人途方に暮れていた。
ペルソナを使えば、錦山まで巻き込んでしまう。
泳いであの小島の上に逃げられるかもしれないが、その間に自分も殺されるかもしれない。


(なあ、桐生、てめえも、こんな形で死んだのか?)
戦いの中に半魚人がいたなんて予想もしていなかった。
確かに研究所で、鳥人間に遭遇したが、それでも半魚人なんて錦山にとってはおとぎ話だけの存在だった。


このような予想外の力や、予想外の生物がいれば、桐生が死ぬのも納得が出来る。
だからといって、死にたくはない。
それでも沈みゆく中で、両足をばたつかせて抵抗しながら、地上へと手を伸ばした。

(同じ世界で死ぬなんて、冗談じゃねえ!!)

密着状態になったミファーに対して、銃を乱射する。
しかし、水の中で放てるとは言え、銃の威力は著しく落ちる。


ミファーは素早く弾丸を躱し、銃を持っている腕に狙いを定める。


(痛え……)
ミファーのヒレでスーツごと腕を斬られる。
命に関わるほど深く斬られてはないが、銃を手放してしまった。
錦山が銃を手放したことを確認すると、今度はミファーは深くに潜り、錦山を引きずり込もうとする。

だが、その前に上から千枝が声をかける。
「掴まって!!」


その後も、禁止エリアが呼ばれていく。
だが、彼らにとって、放送どころではなかった。


千枝は片手を水に付ける。
本当はどうすればいいのか分からない。
だが、鳴上君や、あの子ならきっとこうする。
その気持ちだけを糧に、手を伸ばした。


伸ばした手は、白いスーツに覆われた手を力強く掴んだ。
千枝は錦山を力いっぱい引き上げる。


「大丈夫?」
「一度助けたくらいで一丁前に心配してんじゃねえよ………。」

錦山は悪態をつきながらも、船に乗り込む。

29そでをぬらして ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:26:59 ID:JuENfmV20
6:02【C-4 小島付近】


錦山は船に戻り、再度ジェットマックスのエンジンを掛けようとする。
しかし、一度は海中まで退避したミファーの襲撃が再び来た。


回転しながら海から飛び出るという、ゾーラ族にしかできない動きを見せる。
今度は相手をいきなり海に突き落とす方法ではない。


「海水!?」
「ちっ、きたねえマネしやがって!!」

身体と共に昇ってきた海水を、二人の顔にめがけて放った。
塩水を使った目つぶし。
傍から見ても小技としか言えないが、生死をかけた戦いではその小技が役に立ったりする。


海水を飛ばしながら飛んだミファーは、そのままイルカのように二人を飛び越し、
背後に回り込む。

急降下する最中に、千枝を後ろから掴んで。


「え!?」
間の抜けたような声と共に、今度は千枝が海中に飲み込まれる。



(チッ、何やってんだ……!!)
先程と立場が変わった状態で、今度は錦山が船上から腕を伸ばす。
知り合ったばかりのガキ一人の命などどうでもいいが、借りは返さないと自分の面目が立たない。


すぐに錦山の伸ばした手は、千枝を掴んだ。
千枝も、それに合わせてその手を強く握る。
互いの手が、さらに強く繋ぎ止められた。




6:03【C-4 小島付近】



ミファーは千枝から奪った鬼炎のドスを、二人の手が繋がれた場所に突き刺した。


「ぐっ!?」
「!!」

二人は痛みのあまり、手を離してしまう。
再び千枝は、海に沈められることになった。


ミファーはもう一度深く潜り、片方の掌を抑えている千枝にトドメを刺しに行く。
背後へ回り込み、そのまま背中から胸まで、串刺しにしようとする。


死が目の前に迫り来る。
ゼルダとキリキザンと戦った時でさえ、ここまで死を感じなかった。
水の中で、里中千枝は心の中で叫び続けた。




死にたくない。

その6文字をひたすら叫び続けた。

30そでをぬらして ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:27:25 ID:JuENfmV20


(何!?これ!!?)




ミファーの眼には、信じられないものが映る。
もう風前の灯火のと思われた少女の背後から、巨大な戦士が現れた。
(まさか、さっきの氷の正体は……!?)

精神体であるペルソナは、人とは異なり水中で動きを制限されない。
千枝の心と同じように、トモエは海中で暴れ続ける。


6:04【C-4 水上】

「おい!!どうなってんだ!?」
刺された手を抑えていると、海中から巨大な波が起こった。


(まさか……あの森の惨状の原因は……!!)

錦山は思い出す。
夜、里中千枝が倒れていた森の荒れ様を。
そして、自分を取り巻く海が、似たように荒れ狂う。


錦山彰は確信した。
あの少女は、命の危険が迫った時、未知の力を発揮することを。
その力は、桐生や嶋野といった力で名を馳せたヤクザにも劣らない。


「ふざけんな……ふざけんなよ!!」
斬られて刺されて、痛む手を無視してジェットマックスのエンジンを全開にする。


波が、錦山を船ごと呑み込もうとする。
「うおおおおおおおお!!」
しかし、彼もまた神室町で、成り上がろうとしたヤクザの一人。
命に対する執着だけは、負けはしていない。


ゾーラ族のヒレで斬られた左腕と、鬼炎のドスで刺された右手に、海水が染みこみ、悲鳴を上げる。
そんなことも無視して、ハンドルに全力で握りしめる。

31そでをぬらして ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:27:45 ID:JuENfmV20
6:08【C-4 公園】


「ここは……!?」
気が付くと私は、陸地で目を覚ましていた。
海に落とされた後、どうなっていたか記憶がない。


あの半魚人に死の一歩手前まで追い詰められて。
それからペルソナを出して、逃げた……ような気がする。


何があったのか具体的に思い出せないのに、それがとても恐ろしいことだったとは覚えている。
普段恐ろしい思いをしたら敵からは撤退し、戦力を立て直すのだが、海の中だからそれも出来なくて。


海で襲ってきた半魚人はどうなっただろう。
もう、どうでもいいけど。

錦山さんの姿はなかった。
きっと、私を見捨てて逃げたのだろう。
それか、あの半魚人のオトリにするつもりだったのか。


今まで名簿を読むチャンスがなかったから、転送されたらしい名簿を見てみる。


いた。鳴上くん。
花村くんや、なぜか逮捕された1年生の子もいた。
そして、放送に呼ばれたあの子の名前もあった。


聞き間違えじゃなかったけど、完二くんも雪子も、この戦いに呼ばれて死んだという現実を改めて知らされる。


でも、鳴上君は生きている。
こんなおぞましい戦いに参加させられていたことを喜んではいけないが、この世界に確かにいる。
彼の名は呼ばれていなかった。
聞き逃しただけかもしれないが、そうじゃないことを信じたい。


彼に会えば、今のどうにもならない自分を、どうにか出来るかもしれない。
他人の想い人に依存し続けるのは間違っているのだろうか。


もうそんなことはどうでもいい。
自分を受け入れてくれる人間がいないと、遅かれ早かれ自分は狂ってしまうだろう。
希望が欲しい。
「自分らしさ」を見つけたい。

かつてシャドウに取り込まれそうになった時のように、鳴上君なら助けてくれるはずだから。

32そでをぬらして ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:28:04 ID:JuENfmV20

服はぐしょ濡れで、気持ち悪い。
おまけに手を刺された痛みも、全然和らがない。
でも立ち止まっている暇はない。一刻も早く鳴上君に再会しないと。
きっと八十神高校で待っている。早く行かなければ。


おぼつかない足取りで前へ進む。
視界は涙でぼやけてきた。

最初は濡れた髪の毛から、海水がしたたり落ちるのかと思ったが、それだけではなかった。


自分の弱さ、この戦いの恐怖、手の痛み、自分の心の要になっていた人の死亡、見捨てられたこと、二度の死の接近、一人になった孤独。
何が一番の原因か分からないけど、止め処なく涙は溢れてきた。


それでも、歩き続ける。
ひとりで。
ひとりきりで。



【C-4 公園 /一日目 朝】

【里中千枝@ペルソナ4】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)びしょ濡れ 右掌に刺し傷。 精神的衰弱(鳴上悠の存在により辛うじて保っている状態)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、守りの護符@MONSTER HUNTER X、ランダム支給品(0〜1個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺さないと殺される、けど今の私じゃ、殺す覚悟もない……

1.八十神高校へ向かい、鳴上君と再会する。
2.それからどうすればいいのか決める。
3. “自分らしさ”はどこにあるのか、探してみる
4.自分の存在意義を見つけるまでは、死にたくない
5.願いの内容はまだ決めていない

※錦山彰、ミファーは死んだと思っています。

33そでをぬらして ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:28:27 ID:JuENfmV20
6:09【C-5 草原】




(何とか……逃げ切ったみてえだな。)

疲れた。
煙草はぐしょ濡れで、火が付かない。
この体の重さは水がたっぷりしみ込んだスーツのせいじゃないと思う。
どこでもいいから寝っ転がりたいけど、そんなことをしたらすぐにでも殺されるだろう。
閃光弾しかない今、どうにかして武器の調達だけでもしておきたい。


そういった気持ち以上に、腕の痛みが意識をはっきりとさせた。
白いスーツの袖の染まり具合から、思ったより傷は深いことが分かった。
治療しようにも、水ぐらいしかないが、とりあえず右手と左腕の傷口にかける。


塩水を洗い流したからか、少しだけ痛みは治まった。
しかし、この世界で傷口が悪化したら面倒なことになりそうだ。

地図を見ると、近くに病院がある。
そう都合よく薬が置いてあるとは思えないが、包帯くらいはあるはずだ。
びしょ濡れでおまけに袖に血が付いたスーツもいい加減脱ぎ捨てたい。


体調は万全とは程遠いが、やらなきゃいけないことは沢山ある。



(桐生のヤツなら、あの時どうしたんだろうな……。)
あの時手を離したガキのことを思い出す。
ガキと半魚人はどうなっただろう。


流石に無事じゃいないと思うが、どっちも俺の全く知らねえチカラを持った奴等だし、死んだかどうかは分からねえ。


(どうしても美月の娘をよこさねえなら……お前でも容赦はしない)
(好きにしろ………だが遥は渡さねぇ。お前の道具なんか……させやしねぇ)

そうだろうな。
桐生、オマエなら助けを求めていた少女を、掌を突き刺されたくらいで離したりしねえんだろ。


俺は桐生と比べられるのを嫌がっていたが、これじゃ桐生と比較できるのかが怪しいくらいだ。


重い足取りで歩きだす。
桐生は死に、俺は生きている。
だけどそれがイイことのようには全く思えねえ。
むしろ、何かの罪で無理矢理生かされているような気がしてならなかった。

34そでをぬらして ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:28:55 ID:JuENfmV20
【C-5草原 /一日目朝】




【錦山彰@龍が如く 極】
[状態]:疲労 びしょ濡れ 左腕に切り傷 右掌に刺し傷 憂鬱
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 閃光玉×2@MONSTER HUNTER X
[思考・状況]
基本行動方針:人を殺してでも生き残り、元の場所に帰る。
1.病院へ向かい、傷の治療と新しい服、武器の調達を行う。


※C-5 海沿いにセブンスター@現実が捨てられています。
※C-5 海にジェットマックス@Grand Theft Auto5が停められています。



6:10【C-4 海中】


傷が痛む。
あの緑の服の少女の呼び出したらしき戦士の攻撃は、予想以上に強かった。
もう少し傷が深ければ、死んでいた。


それに自分は、放送でショックを受けた相手なら絶対に殺せるという慢心があった。
長命の種族ゆえに、大切な人の急な死に弱いゾーラ族だからこそ、思い込んでいたことだ。
たとえ、それが誰だか分からなくても。


(回復が……効いてない?)
傷の治療を行おうとして、気づいたこと。
彼女の術、ミファーの祈りは、人のために使われる力だ。
自分の為に行っても、他人に施すほど回復は出来ない。

しかし、それを踏まえても治癒力が低い。


一度海深くに潜り、休憩する。
そこでようやく、支給された名簿を読む。
気付いてしまった。


私を含めた5人の英傑。
そして、この戦いにはゼルダがいたことを。


私は、リンクを生還させることで、ゼルダと協力して、ハイラルを復興させればいいと思っていた。
けれど、そのやり方だと、ゼルダも殺してしまう。
ハイラルを蘇らせる可能性を、自分が壊してしまうことになる。


でも、私はこの戦いに乗った。
このやり方だとハイラルの復活が臨めないからといって、ゲームから脱出するなんて、都合のいいことは出来ない。
リンクを生き返らせる。そして、ハイラルではない国を復活させる。
英傑として、ではなく一人のゾーラ族として、リンクを守る。




私は幸運に生かされている。
最初に二人組の男に襲撃した時も、武器を失いながらも致命傷を負わずに逃げられた。
そしてつい先ほども、相手の未知の力が暴走したのにも関わらず、逃げ切ったし、武器も手に入った。


だから、リンクに会えるまで、殺し続けないと。
ダルケルもリーバルも、ゼルダ姫さえも。


そのために私は生きて、そして死ぬのだから。



【C-4/海中/一日目 朝】

【ミファー@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:ダメージ(中) 体にいくつかの切り傷
[装備]: 鬼炎のドス@龍が如く 極み
[道具]:基本支給品、マカロフ(残弾3)@現実 ランダム支給品(確認済み、0〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:リンクを優勝させる
1.海を移動し、不意打ちで参加者を殺して回る。


※百年前、厄災ガノンが復活した直後からの参戦です。
※治癒能力に制限が掛かっており普段よりも回復が遅いです。

35そでをぬらして ◆vV5.jnbCYw:2019/11/17(日) 17:29:08 ID:JuENfmV20
投下終了です。

36 ◆2zEnKfaCDc:2019/11/18(月) 12:26:12 ID:oWA3ybq60
すみません、予約を破棄します。

37 ◆RTn9vPakQY:2019/11/19(火) 15:56:06 ID:5baToa0Q0
キャラ拘束申し訳ありません、予約を破棄します。

38 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:17:03 ID:uxW8jR4A0
ゲリラ投下します。

39たたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:18:34 ID:uxW8jR4A0
ふざけるな。
何故お前は、いつもいつも私の遥か前を行く。

昔からそうだった。
稽古で打ち負かされた俺に対して差し伸べたその手が、俺には遠く、遠く感じられた。
自分より前を進んでいくお前とは対照的に、俺は次第に闇に魅入られていった。
お前の隣に居られないのが怖くて。お前の後ろを歩くのが怖くて。俺はお前の対極に居ることを望んだ。

ここでもお前は、俺の隣に立つのを拒むのか?俺はいつまで、お前の背を追い続ければいい?



「……ホメロス。」

ふと、声が聞こえた気がした。

「ホメロス!」

同行者、花村陽介の一声で現実に引き戻されたホメロス。
殺し合いの世界ではあるまじき、放心状態に陥っていたようだ。

「すまない。考え事をしていた。」

「……13人も死んじまったんだよな。」

完二も含めると14人、か。
悔しげな表情で陽介は拳を握り締めていた。
陽介はホメロスの過去を全て聞いた。つまり放送で呼ばれた『グレイグ』の名がホメロスにとってどういう人物を意味しているのかを知っている。

確かにホメロスは一度ウルノーガの甘言に乗せられてグレイグを殺そうとしていたかもしれない。だが、生きてさえいれば関係なんていくらでも修復出来たはずだ。
土下座でも何でもしての謝罪でもいい。言葉で伝えられないことがあるのなら、メロスとセリヌンティウスよろしく殴り合ってでも友情を再確認すればいい。

かく言う俺だって関係をやり直したい相手がいる。
対等でありたいはずだったのに次第に見上げるだけの存在になっていった男、鳴上悠。俺にアイツを『相棒』と呼ぶ資格はあるのか?そんな疑問は次第に大きくなっていくばかりだった。

話は少し逸れたが、俺にはまだそのチャンスは残されている。
要は関係修復のプロセスを踏めるのはその相手が生きているからこそだということ。
やり直しの機会を永久に奪われた男にどう声をかければいい?
ホメロスという一度悪の道に堕ちた男にとって、グレイグとの関係の修復は元の道に戻ってくるために必要なプロセスだったはずなんだ。

40たたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:19:22 ID:uxW8jR4A0
どう言葉にしていいか分からず、声をかけかねている陽介。

「気遣いはいらん。俺たちは軍人だった。死別の覚悟くらい元より出来ていたさ。」

それに対し、澄ました顔でホメロスは話す。しかし陽介には分かった。彼の拳は、自分よりも強く握り締められ、それでもなお震えていることを。

「俺のことよりお前だ。知り合いの名は呼ばれていないだろうな?」

気が滅入っていては満足に闘えんだろう、とホメロスは一言付け加える。それはお前の方だろうが。そんな言葉を飲み込みつつ、陽介は答える。

「呼ばれたよ、ひとり。」

「……そうか。」

「俺はお前みたいに達観は出来ねえ。悔しいし、悲しいよ。」

天城雪子の名は最初の方に呼ばれた。それも、最初に呼ばれた『天海』の名を『天城』と空耳し、それが間違いであったとふと安心した瞬間に続け様に名を呼ばれた。

「だけどさ、俺以上に悔しがって、悲しがってる奴等がいるんだ。」

里中は天城と最も付き合いの長い親友だし、悠も最近天城越え──つまり天城と特別な関係になった。
天城の死を本当に弔うべきはアイツらだ。きっと、自分の分まで悔しがって、そして悲しんでくれる。

「だから俺は前を向く。アイツらがちゃんと下を向けるように。」

「そうか、それならいい。お前は大丈夫だ。」

この時、ホメロスには陽介が少し羨ましく思えた。
誰かの想いを背負うということ、それは闇の道に走った自分がずっと前に捨てたことだ。
旧友の死を悼む権利すら自分にはない。当然、自分の死を誰かに悼んでもらう権利すらも。

41たたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:20:00 ID:uxW8jR4A0





(そうか、アンタたちもここにいるんだな。)

クラウドは、エアリスの名前以外はどうでもいいと、そう思っていた。
何ならレッドXIIIやケット・シーなど、何人かの仲間が呼ばれていない事実には胸を撫で下ろしたほどだ。さすがにかつての仲間を殺すのに心が全く痛まないわけではない。

(どうやら俺は、思っていたよりもずっと色々なものをやり直さいといけないらしい。)

名簿に書いてあった、失った人の名前はエアリスだけでは無かった。
ザックス、そしてセフィロス。
清算しないといけない過去はひとつでは無かった。

神羅屋敷の地下室で、クラウドは全てを思い出した。ザックスが自分を救い出してくれてから、神羅兵に殺されるまでの経緯を。魔晄中毒で口もきけなかったため、自分を救ってくれたザックスに礼を言うことも出来なかった。

クラウドは知っている。
真に他人のために戦える人物がいるということを。
逃亡の邪魔にしかならなかったであろう、魔晄中毒に陥った自分を置いていかなかったザックス。そして先ほど自分が殺した少女、天城雪子もそんな人間だった。きっとこれから先、自分はそういった人間を何十人と殺していかなくてはならないのだろう。
もちろんザックスも例外ではない。この催しの参加者である以上は殺さなくてはならない。
ザックスとの別れをやり直すために、彼と出会って礼を言わなくてはならないのだが、その反面彼とは会いたくないと思う自分がいるのも確かだった。

そしてもうひとり、乗り越えないといけない過去の人物。

(──セフィロス。)

すべての始まりとなった人物が、この世界にいた。


『──わたし、あなたを探してる……』

その時、エアリスの言葉がクラウドの脳裏に蘇ってきた。
ザックスの人格ではない、本当の『クラウド』を、彼女には見せることなく別れることとなった。他でもない、セフィロスに殺されて。


『──あなたに逢いたい。』

あの願いを叶えるためにも。
俺は生きる。生きて、やり直す。

その決意と共に、グランドリオンに秘められたクラウドの心の闇が、よりいっそうどす黒く染まる。

この闘いに勝ってエアリスに逢えたとして、彼女は俺を受け入れてくれるだろうか。
これだけ心が闇に染まった俺を──

──否。そこはさして重要ではない。
肝心なのは、彼女との物語の続きを紡ぐこと。
例え拒絶に終わったとしても、途中で終わってしまった物語に幕を閉じられるのなら本望だ。

そのためにも、勝ち抜く。
セフィロスまでもが蘇っていると言うのなら、今度こそ奴からエアリスを護る。
それこそがエアリスとの物語を『やり直す』ということだから。


「──さあ、始めようか。」


その言葉を聞いて、たった今出会った相手──向かい合う2人の男はピクリと反応した。

42たたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:20:44 ID:uxW8jR4A0





金髪の男が告げた言葉は紛れもなく、開戦の合図だ。
おかしいだろ。戦いを苦としていないみたいな面しやがって。相手は人間なんだぞ?シャドウとは違うんだ。だってのに、何でそんな無表情で居られんだよ。

「どうすんだよ、ホメロス。」

陽介は尋ねる。
そうしないと、すぐにでも殺し合いが始まってしまいそうで不安だった。

「殺すに決まっているだろう。殺し合いの反乱分子に害しか及ぼさない相手を放っておくのか?」

そんな陽介に対するホメロスの返答は、陽介を安心させる回答からはかけ離れたものだった。

「……アンタは本当に、この殺し合いに乗ってんだな?」

次に陽介が話しかけたのは、他ならぬ対面相手のクラウド。

「ああ、既に2人殺した。」

だがクラウドの答えも、話し合いの余地はないことを示すには充分。その手に握る真っ黒に染まった聖剣が意味することを、ホメロスは理解していた。

「コイツに情けをかけるな、陽介。」

勇者の剣がウルノーガの手に渡った瞬間、その剣は黒く染まり魔王の剣へと化した。クラウドの持つグランドリオンから感じる黒いオーラも、使い手の心の現れであると分かっていた。
ホメロスは支給品の刀、『虹』を鞘から抜く。その所作ひとつでホメロスの周りの空気を七色の光が包み込む。その可憐な刀身は、本来は聖剣グランドリオンと共に闘う武器でありながらも、まるでその聖剣と対をなすかの如く美しく煌めいていた。

そんな中で陽介もまた、ミファーから奪った龍神丸を手にする。
誰もが業物を手にするその構図はまさに一触即発。いつ殺し合いが始まってもおかしくはないとその場の全員に知らしめる。事実として、ジリジリとホメロスとクラウドの距離は縮まっていく。

43たたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:21:30 ID:uxW8jR4A0
数瞬の沈黙の後、先に動いたのはホメロスだった。真っ直ぐクラウドに駆け込んで行き、虹で斬り掛かる。
その一太刀をクラウドは後方に下がりつつ弾く。

1対2。さらに手負いの状況でもある。クラウドから見れば明らかに部の悪い闘いだ。こんな小手調べの一撃で致命傷を受けるわけにはいかないため、慎重な立ち回りを意識するクラウド。その方針が読めたホメロスは攻めの比重を大きくする。相手が下がって攻撃を軽減するのなら、その分こちらが前に出ればいいだけだ。

前に出るホメロス。
後ろへ下がるクラウド。
戦場はゆっくりと移動していく。クラウドの立ち回り方のせいでお互いに致命傷を与えることも与えられることもなく拮抗する。

だがその拮抗は露よりも儚い。
ホメロスが呪文を使うだけでも、あるいは第三者が乱入するだけでも戦況は大きく動く。この拮抗が保たれているのは、この場における第三者、花村陽介が迂闊に動けないでいるからである。
ホメロスとクラウドが忙しなく動き続ける戦場に疾風魔法ガルダインを放つのは狙いが定まりにくく危険だ。さらにはこんなら小ぶりなナイフで迂闊に近寄るとより射程の長い斬撃の嵐に巻き込まれる懸念もある。

よって、ここでの陽介の行動はマハスクカジャによるサポートが精一杯であった。100%ホメロスの邪魔をしないスキルはそれしか無い。

だが消去法的に選ばれた行動であってもその機能は充分。
スキルによる補助で極限まで研ぎ澄まされたホメロスの攻撃の精度は、守りに徹するクラウドをじわじわと追い詰めていき、反撃を許さない。むしろ戦局の拮抗が続いているのは、クラウドの剣の実力の証明か。

ホメロスは魔法を織り交ぜればクラウドの守りを崩すことが出来る可能性はある。だがその詠唱時には多少の隙ができるためリスクも伴う。よってホメロスは武器のみを用いてクラウドと戦闘している。

クラウドはホメロスの攻撃を捌くのに相応の体力を要する反面、ホメロスは攻撃するだけでよい。攻める側と守る側、消耗の比重が大きいのは言うまでもなく守る側だ。戦局の拮抗が続けば続くほどホメロスは有利である。よって焦って守りを崩しにかかる必要は無いとホメロスは判断した。
それは元来軍師であるホメロスにとって、癖のようなものであった。軍師は必要に応じて前線に立つことはあるが、その場合においても絶対に死んではならない。軍師の死は隊の敗北を意味するからだ。よって攻める側に立つ場合でも最低限自分の安全は確保すべき。そんな従来の戦闘の癖は今でも抜けない。

つまり、戦局の拮抗はホメロスにとって望ましい状態であった。拮抗が続けば続くほど、体力においてアドバンテージを得られる。

だがひとつ、ホメロスの誤算があった。一方的に致命傷にならない程度のダメージを受け続ける意味はクラウドの側にもあるということ。

クラウドが受け身の戦闘を続けていたのはダメージを受けないためだけではない。渾身の一撃を叩き込むその隙を待つためでもあった。
結果として、ホメロスの軍師としてのスタンスは悪癖だったのである。

44たたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:22:06 ID:uxW8jR4A0


【LIMIT BREAK】


突如、下がりっぱなしであったクラウドが前進する。
同じく前進していたホメロスと正面から衝突する形──しかし必殺のリミット技によって太刀同士のぶつかり合いは一瞬で片がつく。グランドリオンから放たれたクライムハザードがホメロスの虹を弾き飛ばした。

「なっ……!」

なかなか崩しきれない堅固な守りと、攻めに転じた際の鋭い一撃。そして何より、闘いの中でも自分ではなくその遥か先を見ているようなその目。ホメロスの脳裏に一人の男の姿が重なった。
それと同時に、幾度となく味わった『敗北』の味をホメロスは思い出す。

好機と言わんばかりにそのまま 攻めに転じるクラウドと、虚をつかれ咄嗟に方針を守りにシフト出来ないホメロス。本来ならばここで決着はつくはずだった。


「──ペルソナッ!!」


しかしクラウドはホメロスへの追撃を断念することとなる。

先ほどまでは2人が追う・離れるの関係であったため狙いが定まらなかったが、両者が真っ向からぶつかり合うやり取りへと変わったことで場所の移動は無くなった。
よって、ここでスキルによるアシストしかしていなかった陽介が参戦した。
蛙を模した陽介のシャドウ、『ジライヤ』が横からクラウドに向かって突撃する。

陽介としても、相手が死にかねないような攻撃を行いたくはない。だがそこで動かないとホメロスが死ぬ。それはもはや、半ばやけくそとも言える攻撃だった。

しかしそれはクラウドにとって予測外の追撃。
予測の外とは、これまで説得が中心だった陽介が攻撃をしてくることではない。陽介の攻撃自体は予測の範疇。クラウドの予測を超えていたのは、陽介の攻撃の『速さ』である。
ホメロスを両断してからでも間に合うと考えていた回避を、ホメロスへの攻撃前に余儀なくされる。

45たたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:22:46 ID:uxW8jR4A0
同時に、クラウドは認めることとなる。
戦闘前に説得を試みていた陽介を、たったそれだけの理由で侮っていたことを。

不殺傷のスタンスを取っているからといって戦力が無いとは限らない、それは先ほど殺した少女、天城雪子との闘いで分かっていたはずだ。
敵の抹殺をエアリスの蘇生という目的を叶えるための手段としてしか見ていない。言い換えれば、クラウドの目は常に敵を倒した先にあった。それはそれだけの心の余裕を持てるクラウドの実力の裏打ちではあったが、同時に慢心という大きな弱みでもあった。

だが、今度こそ認めねばなるまい。
少年を守るために闘い抜いた者も。
自分で闘う力が無く、知力を駆使して支給モンスターを操るしかなかった者も。
他者の死の中に自らの生きる意味を見出した者も。
自らの命を投げ出してまで誰かを守ると決めた者も。
この世界にいる者は皆、闘う者達であると。命の数だけでなく、それぞれの本質を見据えた上で向き合っていかなくてはならない者達であると。

覚悟を入れ直し、陽介を含めた二人の敵へと向き直るクラウド。

一方ホメロスは弾かれ、地に落ちた虹を拾い上げる。
彼もまた思い知る。この場において軍師としての知識に頼った立ち回りは悪手であったと。

クラウドの用いたLIMITBREAKの概念を彼は知らない。当然、知らぬものは戦術に組み込みようがない。この世界では元の世界で取り入れていた知識など役に立たないのだ。
さらに言えば、そんなことは陽介と初めて出会った時に分かっていたはずだ。彼もまた、ペルソナという未知の力を用いていた。
それでいてなおも自らを軍師という立場に置き、自らの知識の範囲のみでリスクを避ける戦闘を続けていた、その結果がこれだ。陽介が居なければ勝負は決していた。

ホメロスもまたクラウド同様、覚悟を入れ直す。この場で要求されるのは知識ではない。ただ目の前の現実を即座に認識し、それに合わせて立ち回るこの身ひとつのみ。

こうして、闘いの中心であった二人が新たな心持ちで対峙する。

46 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:23:10 ID:uxW8jR4A0
以下、後編になります。

47更にたたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:24:34 ID:uxW8jR4A0
ホメロスとクラウドが闘いへの見方を変えたと同時に、二人が発するオーラのようなものもより一層鬼気迫るものとなっていた。
相対的に闘いへの士気で劣る陽介は、そのただならぬ雰囲気に気圧されつつあった。
陽介とて、人間の姿をした敵と闘うことは経験済みだ。だがそれは言わば護るための闘いだった。誘拐された知り合いたちを、あるいは他ならぬ相手自身を。護るために闘うのであればそれを躊躇することも無かったのが今までの闘いだ。
だが今回は今までとは違う。ただ相手を殺すために闘っている。それが陽介に踏ん切りをつけさせない要因だった。

その様子に気付いたホメロスは陽介に一言、告げる。

「陽介、お前は下がっていろ。」

「でも……!」

「心配するな。もうヘマはしない。」

陽介にとってそれは、一種の戦力外通告を受けたようなものに思えた。だがミファーによって死を目前に経験した陽介は、死というものの恐怖を知っている。
自分が死ぬのは勿論、相手をその死に追いやるのも嫌だ──そんな中途半端な思考の中でホメロスにかけられた言葉はまさに渡りに船と言わんばかり。

「……分かった。その代わり勝てよ、ホメロス。」

結果として、陽介の答えはそれを甘んじて受け入れるというもの。汚れ仕事をホメロスに押し付けて安全圏から自分の無実を主張する、何とも格好悪いものだ。
だがそんな格好悪さも、ペルソナという人の心の闇に触れ続けてきた陽介は受け入れる。受け入れることが出来てしまう。
自分への言い訳すら許さないその都合の良さの自覚は、さらに陽介の良心を苛むのだった。

「ああ、勿論だ。」

48更にたたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:25:07 ID:uxW8jR4A0
ただし、ホメロスにとって先の一言は陽介への戦力外通告などでは無かった。単にホメロスは思ったのだ──陽介はそれでいいのだと。
一度ウルノーガの配下という闇に堕ちた自分がもう一度やり直すことが出来ているのは、最初に出会った陽介が対話から入ってくれたからに他ならない。
グレイグを喪った今だからこそ分かる。友を奪った相手を──あるいはその配下を赦すことが、どれだけ心の強さを要することか。

そんな強い信念を持つ陽介は、人々の恨みや憎しみが蔓延するこの殺し合いの空気の打破には不可欠な存在だ。こんな敵のために手を汚させ、折っていいような軽い信念ではない。手を汚すのは自分だけで充分だ。デルカダールの将軍時代から汚れ仕事なら慣れている。

それは殺し合いへの反逆という目的の中で陽介の背負うべき役割に当てはめた合理的な判断であり、しかしながらそれは陽介への一種の個人的な感謝でもある。

何はともあれ、1人で闘う選択をしたからには負けるわけにはいかない。そう、ここから先はホメロスのプライドの問題。
そんなホメロスの決意に応じるように、鞘から取り出した虹の刃がさらに輝きを増した。極限まで高められた戦闘への集中力──すなわちゾーン状態への移行。死のリスクなど顧みず、ただ敵を断つことのみに専念する。

(来る……!)

ホメロスの変化を感じ取ったクラウドは、グランドリオンを再び構える。クラウドの予測通り、先手を取ったのはホメロス。空中に虹色の軌道を描きながら、クラウドの懐に潜り込む。

(先ほどよりも思い切った攻撃……。防御のみで乗り切るのは不可能か。)

LIMITBREAKを待つ戦術はもう一度は通用しない。そう察したクラウドは積極的に応戦する。
陽介にも回していた注意をホメロスのみに切り替えることで、虹の斬撃への対処は先ほどよりも正確だ。
だが、ホメロスの攻撃もまた正確にクラウドの急所を捉える。ゾーン状態によって研ぎ澄まされた様々な能力がクラウドの防御をさらに厳しくした。両者が先ほどよりも深く斬り込むことで、戦局の拮抗など起こらない。コンマ1秒単位でどちらも致命傷を受けるリスクが蔓延している。
この闘いの決着は一瞬であると、両者は予測する。両者の業物の切れ味もあって、一撃叩き込まれれば決着はつく。仮に即死は免れても、それ以降の攻撃を避ける余裕などまず生まれない。

49更にたたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:25:43 ID:uxW8jR4A0
一撃で決まる勝負であれば本来ホメロスは有利だ。それはホメロスの攻撃の密度に由来する。まずはこの臨戦において他用している特技、はやぶさ斬り。一度に二回の斬撃を振るう、速度に特化した特技である。
さらには、元々ホメロスは常人が一度の行動を起こす間に二度の行動を起こせるほどの身体能力を持っている。その点においては、かのグレイグすらも上回っていた。

そう、ホメロスの斬撃は速い。
だがクラウドは一撃の威力を以てその速度を殺す。

はやぶさ斬りの初撃を力で弾き返し、第二撃を撃たせない。
よって斬撃の威力はクラウドに軍配が上がるにもかかわらず、両者の攻撃の密度が等しくなることでクラウドが戦闘のペースを掴んでいた。

ホメロスがグレイグに模擬戦で勝てなかった原因は主にここにあった。
速さは単純な力に勝てない。

このままでは闘いの結末が分かっているホメロスは一歩引き下がる。不意に下がられたクラウドは一瞬躊躇うも、次の瞬間にはその意図に気付き接近する。しかし、その一瞬の躊躇により間に合わない。
速さが力に勝てないのなら、力に勝てる手段を用いれば良い。ホメロスはその手段を持っている。

「ドルマ!」

それは呪文という名の搦め手。
詠唱速度に優れるが威力は低いその呪文の放たれた先は、クラウドの足。
微力ながらも重力を伴う闇の力に足を奪われ、大地を強く踏みしめることが出来ない。踏み込みが足りず、クラウドの攻撃の威力は一時的に落ちることとなる。
ホメロスはその隙を逃さずはやぶさ斬りを叩き込もうとする。

高速で叩き込まれる二連撃。
しかしそれを、クラウドの三連撃、『凶斬り』が迎え撃つ。
クラウドも今のドルマでちょうどリミット技を使えるに至ったのだ。
踏み込みが足りずとも、はやぶさ斬りを相殺できるだけの威力でホメロスの攻撃を凌ぎきった。

50更にたたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:26:18 ID:uxW8jR4A0
仕留めきれなかったホメロスは再び一歩下がる。
またドルマを受けるわけにはいかないクラウドはそれを追う。

だがそれはホメロスの計算内。
下がった理由は呪文のためでは無い。『逃げる』自分を『追う』ことに神経を集中させるため。ホメロスは虹をあたかも槍のように持ち替え、クラウドに向けて"突く"。斬撃では威力を殺しにくい刺突。クラウドは咄嗟にバックステップしながら、防ぎきれなかったダメージは利き腕ではない左腕で受ける。

だが重要なのはクラウドが左腕にダメージを負ったことではない。ホメロスに対して距離を離してしまったということ。

クラウドは呪文を警戒するが、見るとホメロスの右手には、丸い何かが握られていた。

(あれは手榴弾か?)

その想像は当たらずとも遠からず。ホメロスがそれをクラウドに投げつけると、それは小規模な爆発を起こした。

「くっ……!」

神羅兵の用いる手榴弾よりも一際威力の高い『丸型リモコンバクダン』の爆風を受け、さらに下がるクラウド。その状況はホメロスにとって、極大呪文を完成させるまでの時間にはうってつけのインターバルである。
当然クラウドはホメロスに接近する。しかしそれも間に合わない。

「さあ、終わりにしよう──ドルモーア!」

ドルマよりいっそう大きな闇の塊が、クラウドに向けて放たれる。周りの光すらねじ曲げて、クラウドの命までもを吸い込まんと迫る。

だがこの世界軸のホメロスは知らない。かつて勇者たちを苦しめた『闇のバリア』は、同じく闇の力を持つ『魔王の剣』によって破られること──すなわち、闇の力はより強い闇の力によって破ることが出来るということを。

闇の力を纏ったグランドリオンによる一閃。ドルモーアは斬り裂かれ、クラウドとホメロスの間に障害は無くなった。

51更にたたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:26:50 ID:uxW8jR4A0
ドルモーアを破られたホメロスは、驚愕に目を見開きながらも虹で応戦する。その一太刀に全ての力を込めて──全身全霊斬りがクラウドに向けて振り下ろされる。

「悪いな。」

だがクラウドの圧倒的な闇の力を前に打ち勝てない。
全身全霊斬りを真っ向から弾き返したクラウドの太刀は、ホメロスの胴を斜めに裂いた。

「ぐおおっ!!」

先に語った通り、この二人の勝負は一撃で決まる。
その一太刀目を当てたのはクラウド。その威力により、ホメロスは膝をつく。もはや勝負は決したと言っても過言では無い。

「やるな……。だがっ……!」

だがそれでも、ホメロスは笑っていた。
そしてクラウドに向けて宣言する。


「──俺の勝ちだ……。」


その声に従うが如く、クラウドの背後からひとつの影が飛び出した。そう、そもそも先ほど撃ったドルモーアは囮に過ぎない。本命となる『一撃』はクラウドがドルモーアに気を取られている隙に背後に設置済みだった。



──リーフストーム。

ホメロスに支給されたポケモン、ジャローダ。ポケモントレーナーの頂点に立った男の育てたポケモンの放つ技は、その経歴にそぐわぬ威力を発揮する。

高速で放たれた幾百もの草葉がクラウドの身体を切り裂かんと迫る。それは二度目以降は威力の下がる一度きりの大技。よってホメロスは確実にその一撃のみを当てにかかっていた。クラウドがいかなる実力者であろうとも、認知していない攻撃には対処出来ない。事実、その攻撃はクラウドの認知の外より放たれた。場所は死角、そしてモンスターボールから出る時の僅かな音もドルモーアがかき消していた。

本来ジャローダほどの実力のあるポケモンであれば共に闘い、手数で相手を圧倒するのもまた道理であろう。しかしホメロスはそれを選ばない。
お互いが武器のみで闘えば自分は負けると分かっていた──というよりはむしろ、勝てる気がしなかった。クラウドにグレイグの面影を感じ取って以来、どうしても敗北のビジョンが見えてしまっていたからだ。

だからこそ決め手となる一手を下す役割をジャローダに託した。
ホメロスは知っている。カミュという人質を取ったところを背後から奇襲されたように、勝利を確信した瞬間こそが最大の隙になると。
つまりこれは、自らの敗北までを作戦に組み込んで相手の油断を誘ったある種の囮作戦。

52更にたたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:27:22 ID:uxW8jR4A0
しかしクラウドは──その背後からの攻撃を予測していた。ドルモーアが放たれた時、それが囮であると即座に想定していた。

その予測が出来たのは、クラウドの意識の変化の賜物だった。
人の心の持ち方は闘いのスタンスに影響すると、クラウドはここまでの闘いで学んできた。穏健なレオナールが正面から立ち向かってきたのに対して非力ながらも勝利に貪欲なチェレンが不意打ちという手段を選んだように。他者を護るため闘った天城雪子が自らの命を犠牲にしたように。

その意識の変化はクラウドにひとつの疑惑を与えた。
このホメロスという男は、確実な勝機も無しに勝負を挑んでくる男だろうか、と。
それは多くの人間と対立してきたクラウドだからこその疑惑。

その直感の根拠は、逃走用のヘリを用意した上で一騎打ちを挑んできたルーファウス神羅のようなホメロスの鋭い眼光だった。奴は何か、この闘いの勝利を確信するだけの奥の手を持っている。それはただの勘のようなものであったが、事実としてそれは的中していた。

そしてその何かとは、元の世界の持ち物が没収されている以上支給品しか無い。
1VS1の闘いの最中の奇襲に最も適した支給品──少なくともレオナールの末路を見たクラウドには、モンスターボールしか思い浮かばなかった。

背後からのリーフストームに対し、クラウドはリミット技で応戦する。ホメロスを剣で打ち負かすだけでなく、その切り札までもを真っ向から潰すその様は、その技の名の通り『画竜点睛』と言うに相応しく。グランドリオンより放たれた旋風がリーフストームの草葉を散らした。ポケモンのタイプに当てはめれば『ひこう』タイプである旋風はそのままジャローダへと到達し、ジャローダの身体を引き裂いた。

「ジャ……ア……」

「なっ……!く……そ……。」

身体中にこうかばつぐんの裂傷を受けて力なく倒れていくジャローダを遠目に、ホメロスもまた出血多量により気を失う。奇襲の失敗と迫る自らの死を前に、無念のままホメロスは倒れた。

クラウドの実力とホメロスの知力の衝突──本来の勝敗などもはや知る由もない。この局面で明確な勝敗を分けたのは両者の意識の変化──すなわち、この世界に来てから経験した闘いの数の差に他ならないのだから。

53更にたたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:28:06 ID:uxW8jR4A0
こうして、クラウドの前には無防備となったホメロスが横たわる。
しかし、そのまま殺すことが出来ないのをクラウドは理解していた。

「さて、次はお前の番だろう?」

再び動かざるを得なくなった陽介の妨害を、今度こそクラウドは侮らない。
既に眼前にアルカナを顕現させている陽介に、クラウドは話しかける。

「何でだよッ……!」

陽介はクラウドとホメロスの闘いを見て分かったことがあった。
両者ともに、死ぬのが怖いだとか、だから殺すのが嫌だとか、闘いへの志向はそんな段階など超越している。
ホメロスの生い立ちは既に聞いており、その境地に達しているのも納得は出来る。だが見たところ自分と同じくらいの年齢しかないであろうクラウドは、一体どんな生き方をしてきたらここまで闘いへの躊躇を無くせるんだ?

「そんだけ強いってのに、お前の中に正義ってもんはねえのかよ!」

「正義?そんなの、幻想だ。」

そんな陽介の言葉を、クラウドは切り捨てる。

「星のために、人々のために……何でわざわざ闘う理由を美化しないといけないんだ。」

「──俺は俺のために。そして俺の願いのために、闘う。それだけでいい。」

語るのはかつて仲間たちと見つけた答え。星のエネルギーを浪費する神羅側と、それを防ぐために罪も無い人々を犠牲にするアバランチ。そのどちらにも『正義』なんて無かった。その闘いは決して正当化など出来なかったし、するべきでもなかった。

「俺が生きる現実とはこういうものだ。ましてやこの世界は誰にとってもそういうところだろう。」

人はただ自分のためだけに闘えばいい。それはここでも同じだ。エアリスを生き返らせるために他の人々を皆殺しにする。決して正義などではない。
それでも仮初の正義なんかよりも余程押し付けるだけの価値がある。幻想と向き合い続けてきたクラウドは、それを棄てた先に『現実』を見た。

「ああそうかい。だがな、俺もこれだけは言わせてもらうぜ。」

だがクラウドが幻想と向き合ってきたと言うのなら、陽介とて人の心の真実、もとい現実と向き合ってきた。

「どれだけ自分が大切だろうと、どれだけ現実がクソだろうと──」

だからこそ、クラウドの心の拠り所が分かってしまう。陽介には、クラウドがかつての足立と重なって見えた。自分を評価しない世の中を呪い、自分の殺人さえ世の中の腐敗として扱っていた、足立と。

「──お前の罪はお前の罪だよ。」

「っ……!!」

そんな陽介は、クラウドの心の拠り所を真っ向から否定する。
確かにこの世界に殺し合いを肯定する要因はあるかもしれない。だけど罪は世界のものじゃなくて背負う本人のものだ。
クラウドに向けての感情を、それでいて足立への感情を叩き付けるかのように。陽介は目の前のアルカナを殴る。気持ちのいいアルカナの破裂音と同時に現れたジライヤより、烈風がクラウドに襲いかかった。

「お前はただ逃げてるだけだ。現実に、自分の罪に、目を向けたくないだけだ!」

クラウドはガルダインを下がって回避。ホメロスの保護のため陽介はクラウドに向けて接近する。その速度差により自ずと2人の位置は近付いていく。

「黙れッ!」

対するクラウドも、陽介に接近して斬り込む。計算などではなく、ただただ感情的な陽介への攻撃。
陽介の言葉は見事にクラウドの痛い所を突いていた。

強く在ることへの幻想なんて捨て去ったはずだった。自分の弱さという現実を受け入れたはずだった。
だが目の前の男は、今の自分を形成しているそれすらも否定する。
だから斬る。そうしないとクラウドがクラウドで居られないから。

そんな冷静さを欠いた一撃は、陽介には届かない。ここまでの闘いで疲弊しており動きが鈍っていることも相まって、ソニックパンチというカウンターをまともに受けて弾き飛ばされる。

(俺は……間違っていないはずだ。)

それでもクラウドは立ち上がる。
彼を突き動かすのは彼の信念。
それを否定されたからといって、元の道になど戻れるはずがない。
ミッドガルの罪も無い人々を万単位で殺したクラウドが、その罪に真っ向から目を向けて常人でいられるはずがない。

「俺は俺の……現実を生きるッ!」

「それこそが幻想だって……言ってんだろうがッ!!」

だからクラウドは、現実を求めつつも現実を否定しなくてはならない。

一方、陽介は知っている。真実から目を背けてもその先に光は無いということを。

真実と幻想。
相反するふたつの世界の衝突が、始まろうとしていた。

54更にたたかう者達 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:32:35 ID:uxW8jR4A0
【E-4/一日目 朝】

【ホメロス@ドラゴンクエストXⅠ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:ダメージ(大) 気絶
[装備]:虹@クロノ・トリガー
[道具]:シーカーストーン@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド モンスターボール(ジャローダ)@ポケットモンスターブラック・ホワイト 基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:打倒ウルノーガ
1.絶対に殺してやるぞ……!
2.自分の素性は隠さずに明かす



【花村陽介@ペルソナ4】
[状態]:両手に怪我
[装備]:龍神丸@龍が如く 極
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3個
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と共に完二の仇をとる
1.クラウドを倒す
2.死ぬの、怖いな……
※参戦時期は少なくとも生田目の話を聞いて以降です
※魔術師コミュは9です(殴り合い前)

【クラウド・ストライフ@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:HP1/10  脇腹、肩に裂傷(治療済み) 所々に火傷 左腕に怪我
[装備]:グランドリオン@クロノトリガー 
[道具]:基本支給品、いのちのたま@ポケットモンスター ブラック・ホワイト シルバーオーブ@その他不明支給品1~2
[思考・状況]
基本行動方針:エアリス以外の参加者全員を殺し、彼女を生き返らせる。
1.セフィロスと決着をつける
2.ザックスに礼を言う
3.ティファは…………

※参戦時期はエンディング後

【支給モンスター状態表】

【ジャローダ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:ダメージ(大)、気絶
[特性]:しんりょく
[持ち物]:なし
[わざ]:リーフストーム、リーフブレード、アクアテール、つるぎのまい
[思考・状況]
基本行動方針:主人に従う。

55 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/10(火) 09:32:55 ID:uxW8jR4A0
投下終了しました。

56 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/12(木) 18:05:37 ID:nMiOQlA60
イレブン、ベルで予約します。

57 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/13(金) 00:22:16 ID:E4yaK0GA0
ルッカ、N予約します。

58 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/13(金) 18:07:28 ID:E4yaK0GA0
投下します。

59不思議の国の遊園地跡 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/13(金) 18:08:43 ID:E4yaK0GA0
「さて、これからどこへ行こうか?」

Nがルッカに、行き先を問う。
「この地図で、私が気になる場所があるの。」

作業用の手袋に包まれた指は、『遊園地廃墟』を指していた。

「へえ……意外だな。そんな場所だなんて。まあ僕も遊園地はスキだけどね。
特に観覧車が好きなんだ。あの幾何学的な形がね。」


Nの言葉も他所に、ルッカは歩き出す。
この世界での遊園地とは、どのような場所なのか二人には分からない。
だが、遊園地とは、発明に適した場所なのである。


発明家である彼女が遊園地と聞いて思い出すのは、故郷であるトルース村のリーネ広場。
遊園地と呼ぶにはスケールがやや小さい。
それでも広い土地と、度々記念祭の舞台になり、多少の騒ぎを許されるその場所は、幼い頃から発明や実験の舞台になっていた。
たとえ工具箱がなくとも、新たな道具が手に入るかもしれない。
彼女、いや、彼女らの冒険の始まりも、元はと言えばあの場所から始まった。


恐らく、「廃墟」と名が付くとは言え、この世界でも首輪やロボをどうにかする手段を提供してくれると期待する。



『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる? 』

遊園地への道すがら、マナの放送が、戦いの会場全体に響いた。

(13人……!?)
その中にはルッカの仲間であるマールディアや、カエルも入っていた。

(なぜ……。)
参加させられていたことは薄々気付いていたが、それ以上に衝撃を受けた。
あの二人は、自分と違って回復魔法に長けていた。
つまり、命を守ることに関しては、自分より優れていたはず。
なのに、こんなにも短時間で殺されてしまうとは。


改めてこの戦いの恐ろしさを実感した。
確かにロボや、病院で会ったあの金髪の女性のように、殺し合いに乗っている者がいたとは分かっていた。
しかし、あの二人だけでこの時間、13人もの参加者を殺せたとは到底思い難い。
恐らく、彼女が想像している以上に、この戦いに乗っている者が多いだろう。
主催者の息がかかった参加者も、ロボ以外にもいるかもしれない。


「誰か、名前が呼ばれたの?」
ルッカの強張った表情と、冷や汗を案じてか、Nが声をかけた。

「二人呼ばれたわね。そう言うアンタは呼ばれたの?」
「……知っている人が、一人……。チェレンって人だ。」

しかし、Nはルッカとは対照的に、顔色一つ変えていない。

「それよりも、僕は聞こえるんだ。トモダチの悲鳴が。」


知り合いの死を「それよりも」で済ませ、貰ったばかりの名簿に赤線を引いていく。

60不思議の国の遊園地跡 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/13(金) 18:09:11 ID:E4yaK0GA0

「悲鳴?どこから?」
「キミは聞こえないの?この島全体に、トモダチの恐怖や痛みの籠った叫びが、流れている。
彼らを助けてあげなきゃ。」


Nの言う『トモダチ』が何者なのか知らないが、やはりこの男は何か自分達の知らない何かを感じ取れるのだとルッカは実感した。


そして、ルッカは転送されたという名簿をめくってみる。
予想通り、クロノの名前があった。当たって欲しくはなかった予想だったが。
放送で呼ばれた、カエルやマールディアの名前も。
仲間のエイラや、父や母は名簿に載っていなかったことは少し安堵したが。


(……まさかね。)
名簿の『マールディア』が書いてあった欄のすぐ近くの名前が目に入る。


『魔王』

ルッカにとって、魔王と言うと中世で戦い、古代で意外な形で再会し、その後カエルによって討たれたあの男だ。
強大な魔術を操り、凶暴な魔族を従え、ガルディアの住民を何百人も殺害した魔王。
しかし彼もまた自分と同じ、ラヴォスを滅ぼすことを目的としていた。
彼とはついぞ相容れることはなかったが、共に戦える可能性があった気がした。
この世界でもし再会出来たら、彼の力は脱出に役立てるかもしれない。


最もこの戦いには様々な世界の参加者がいることはあの図書館で分かったことだし、別の世界の「魔王」なのかもしれないが。


それを考えると、贅沢は言えたものではないが、名簿に写真がないのはどうにももどかしい。
病院で襲ってきた金髪の女性の名前も、結局分からずじまいだ。
結局少しでも多くの人と直接会わなきゃいけないのだと痛感する。


ルッカは足を速め、目的地へと向かう。


地図の示した辺りの場所へやってきた。
そこには、二人の予想を上回る光景が広がっていた。

61不思議の国の遊園地跡 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/13(金) 18:09:28 ID:E4yaK0GA0

「タのしイネ!楽しイネ!」
遊園地の入り口では、大量の機械生命体が歩き回っている。


「何……!?コイツら……!!」
未来世界にいた、自分達人間を襲うロボットを思い出したルッカは、魔法詠唱の姿勢を取る。

「喜びヲ!分かち合オウ!」
「アオウ!」

しかし、ロボット達はルッカとNを無視して、踊り続ける。
ある者は紙吹雪を散らし、ある者は風船を飛ばしている。


行動こそ違いはあるが、どれも二人との接触を行おうとする気はないようだ。
首輪を着けていないことからも、参加者と言うより一つのギミックだと伺える。


「この子たちは、トモダチと何か違うのかな?」
Nは早速、近くにいたピエロの帽子をかぶった機械生命体を一体捕まえようとする。
寸胴体型に丸い頭。どこかロボを思い出す。
上手くやれば、ロボを助ける手掛かりが見つかるかもしれない。


ルッカも紙吹雪を飛ばすロボットを、触ったり耳を傾けて電子音を聞こうとしたり、小突いたりする。

「うわっ!」
ピエロの帽子のロボットは、体を揺らし、Nを突き飛ばす。

「喜びヲ!分かち合オウ!」

それから特に攻撃をしようとはせず、別のロボットと同じように遊園地を巡回する。



「N、大丈夫?」

紙吹雪まみれになったルッカの心配も無視して、Nはロボットに話しかける。
「驚かせてゴメンね。僕らと、友達にならない?」


「タのしイネ!楽しイネ!」
ロボットはなおも我関せずという様子だ。


「……どうやらここにいる子達とは、意思疎通が難しいみたいだね。」
Nの言う通りだ。
どうやらここにいるロボット達は、敵になることはないようだが味方にもならないらしい。
解体して、データや設計方法を分析することも、工具箱が無い今では難しい。


入口のロボットとコミュニケーションを取ることを諦め、遊園地の中へと進む。

「いラッしゃイマせ!」
「アラ!こんにちは!」

空飛ぶ洗面器のような物体に乗ったロボットが、出迎える。
しかし、それより奥へ進むと、異様な光景の中に異変があった。

同じ形のロボット達が、何台か壊されていた。

「気を付けて……参加者が誰かいるかもしれない。」
「そうだね。」

Nもモンスターボールからトンベリを出し、何が起こっても良いようにする。

62不思議の国の遊園地跡 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/13(金) 18:09:46 ID:E4yaK0GA0


恐らく二人がここへ来る前にいた誰かがこれらのロボットを壊した。
そう考えるのが妥当だ。


路地裏へ入って、さらに進むと、長身の金髪の男性が倒れていた。


「もう、動かないみたいね……。」
身体を斬り裂かれ、呼吸も脈も止まっていた。
恐らく、先程の放送に呼ばれた中で、ルッカとNの知り合いではない、10人のうちの誰かだ。


「血は乾いているようね……。」
既に硬直の仕方から、殺されたのは大分前のようだ。
恐らく、もうこの場には男を殺した殺人者はいないのだろう。


「この人……何か書いてあるよ……。」
Nが注目した、男の指先に血で何かが書かれていた。


『チェレン』


恐らくいまわの際に自分を殺した相手の名前を血で書いたのだろう。
だがその殺人者の名前も放送で呼ばれてしまった。


「どうやら、チェレンは殺し合いに乗ってしまったようだね。
それより、殺人者、二人いるよ。」
知り合いが殺し合いに乗ったことに関して、Nは大してショックを受けたような顔もせず、トンベリに何かの指示を出す。


(!?)
トンベリはナイフで、スパリと男の首を切り落とした。辺りに血が飛び散る。
首輪が外れ、地面に落ちる乾いた音が聞こえる。
「ちょっ……何してるのよ!!それに、殺人者が二人いるって?」


ルッカはNと、トンベリの行動に驚く。
「ああ、槍で突かれたような傷と、剣で斬られた傷があったからね。
それと、首輪、解除するのにサンプルが必要でしょ?」

Nは瞬時に二つの疑問に答える。
「あ、ああ。そうね。
でもさ、Nは知り合いがこんな戦いに乗って、しかも死んじゃって悲しくないの?」
「悲しい……と言えばそうだけどね。彼と僕自身はそこまで仲良くもなかった。」

たとえ敵にデータを書き換えられていたとしても、ロボが襲ってきた時のショックはルッカにとって大きかった。
そして、マールやカエルが死んだときも同じくらいの精神動揺があった。
たとえ仲の良い相手ではなくても、それなりに落ち込むだろう。

どうにもNのようにドライにはなれない。

63不思議の国の遊園地跡 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/13(金) 18:10:05 ID:E4yaK0GA0




首輪を回収し、さらに遊園地の奥へ進む。
遊園地のジェットコースター乗り場へ続く道。
かつては、アンドロイドの移動を円滑にした転送装置があった場所に、異様な物が置かれていた。


「何だろうね……コレ。」
Nも不思議そうに見つめる。

だが、二人にはそれが、「元々この世界になかったもの」だということは瞬時に分かった。
他の機械は「遊園地廃墟」と名乗るだけあって、錆や埃にまみれているが、この機械は傷一つなく、まぶしいばかりの光沢を放っているからだ。

機械から見えるガラス張りのケースに、何か見慣れぬ本や機械が置いてある。
どこか自動販売機のような形をしているが、金の入れる穴はない。

代わりに頭頂部に何か物を乗せる秤のようなものが10ほど置いてある。


「何か条件を満たせば、中の道具が手に入る?」
ルッカは裏側を見る。そこには二つ紙が貼ってあった。


『おめでとう!よくこれを見つけたね!!
この機械の上に首輪を乗せたら、この戦いに有利な道具が手に入るよ!!
だからいっぱい参加者を殺してね!!』


『良く見つけたね』と書くほど、隠してあるようには見えない、とルッカは思ったが、二枚目の紙には更に予想外のことが書かれていた。


首輪×3 顔写真付き名簿
首輪×5 首輪レーダー
首輪×7 オーブ探知機
首輪×10 首輪解除キー

「N、これって……。」
首輪7つ集めれば手に入るらしい「オーブ」探知機というのも何か気になるが、10個集めれば手に入る道具。
こんなものが手に入れば、ゲーム自体が崩壊するのではないか。


「すごいな……この形、一見直方体に見えるが、頭頂部以外を薄っすらと球状にしていることで、外からの衝撃を緩和させているんだ。」

Nは謎の機械を興味深げに機械を叩いたり、さすったりしている。

64不思議の国の遊園地跡 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/13(金) 18:10:32 ID:E4yaK0GA0

とりあえずルッカは、レオナールの首輪を機械の頭頂部に乗せる。


商品が並べられているガラスの横のモニターの『0』の数字が『1』になった。
これが規定の数字になった時、アイテムが手に入るのだろう。

「ゴメンね。何か言ってた?」
「何の為にこれは作られたのかなって。」
「争いを加速させるためじゃないかな。
誰かを殺して首輪を持ってくることで、ゲームから脱出できる可能性を示唆させるんだ。
それに首輪を持って来ても、貰える物が一つだけなら、奪い合いが起こるかもしれない。」


人間は醜く、そのために他人もポケモンも何でも利用する。
それが原因で傷ついていたポケモンをNは何度も見てきた。
トウヤとの戦いで、全ての人間がそうではないと分かったが、Nにはまだ人間への猜疑心が払拭されたわけではない。

「私は、そうじゃないと思う。」
ルッカはその意見に反論する。

 
「もし、これが人を殺すための動機にするなら、「生還させる」って書くんじゃない?
それに、首輪を集めるって条件がおかしいわ。現に私達、誰も殺さずに首輪を手に入れているわよ。」

置き去りにした死体から首輪を取ることで、理論上は手を汚さずに道具を入手することが出来る。


「それと、最初に手に入るアイテムが「顔写真付き名簿」ってのもおかしくない?
明らかに襲撃側に不利な道具よ。」
「確かに。あのマナって子、『偽名を使ってる人も心配ない』って言ってたけど、その人の対処法にもなるね。」

Nと一緒に、病院で襲ってきた女性の名前を知ることも出来る。
ルッカの言う通り、あとの3つはともかく、最初のアイテムはどう考えても襲撃者に不利な道具だ。


会話の中で、主催側のスパイが、この道具を転送したのだと結論付けた。
とはいえ、今の二人には役に立たないのも事実。
この機械を使うにせよ使わないにせよ、他の参加者に出会わなければならないようだ。


そして、遊園地には二人以外には誰もおらず、ロボを修理する手がかりもないようなので、他の場所へ行くことを提案する。

「でも、ここで出来ることはないようね。」

この遊園地には、ロボットこそ多くいたが、それを分解、観察するための工具はない。
遊園施設で壊されていたロボットから回収したボルトや歯車、金属板ぐらいだ。


新たな情報や手がかりを得るために、二人は遊園地を後にする。






しかし、この時二人は気付いていなかった。
それまで二人に無関心だったロボット、いや、機械生命体のうち一台が二人の後を付けてきていることを。
それが一体何なのか、二人はまだ知らない。

65不思議の国の遊園地跡 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/13(金) 18:10:47 ID:E4yaK0GA0

【E-6 遊園地廃墟入り口/一日目 朝】


【ルッカ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(小)、MP消費(小)
[装備]:水の羽衣@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(工具の類は入っていません)、医療器具 図書館の本何冊か(何を借りたかは次の書き手にお任せします。)  素材(機械生命体の欠片、ネジ、金属板など)
[思考・状況]
基本行動方針:人と工具を集め、ロボを正気に戻す。
また首輪を集め、解析、あるいは景品交換用に使う。
1.多少は割り切ることも必要なのかもしれないわ……。
2.工具箱が見つかれば、この首輪の解析でもしてみようかしら。
3.首輪を集めたら、首輪景品交換所を使う。
3.Nって不思議な人ね……
4.何のためにあんな機械を?

※遊園地廃墟にある、首輪景品交換所の情報を知りました。


【N@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[装備]:モンスターボール(トンベリ)@FF7、毒牙のナイフ@DQ11(トンベリが所持)
[道具]:基本支給品 本何冊か
[思考・状況]
基本行動方針:ルッカの理想に付き合う
1.ルッカと共に行動をする
2.新しい理想を手に入れる。



※ED後からの参戦です。
※遊園地廃墟にある、首輪景品交換所の情報を知りました。


※【E-6】 遊園地に、首輪と引き換えに戦いに有利になる道具を支給する機械が配置されています。
機械の上に乗せた首輪の数に応じて、道具が支給されます。
※他の場所にも似たような機械があるかどうかは、次の書き手にお任せします。

【支給モンスター状態表】


【トンベリ@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:健康
[持ち物]:毒牙のナイフ
[わざ]:ほうちょう みんなのうらみ 
[思考・状況]
基本行動方針:Nと行動を共にする、自分のほうちょうがほしい。



【機械生命体@Nier Automata】
[状態]:オールグリーン
[装備]:なし
[道具]:?
[思考・状況] ?
基本行動方針:ルッカとNを追いかける。

66不思議の国の遊園地跡 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/13(金) 18:11:01 ID:E4yaK0GA0
投下終了です。

67 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/14(土) 13:27:53 ID:H12hU9Zo0
投下お疲れ様です。
首輪を集めるというシステム自体は面白いと思いますが、その中でも気になった点が2つほど。

①主催者側のスパイによるものだと結論付ける過程について
『首輪解除では積極的に殺す動機になりにくいから』、『首輪を集めるという条件は殺さなくても達成できるから』という理由だけで、マナとウルノーガ以外の主催者陣営を知らない2人がスパイを結論づけるには弱いのではないでしょうか。特にルッカはロボに対して『可能性は低いけれどゼロではない』をスタンスとしていながら、ここで真っ先に疑うべき主催者の罠の可能性を否定しているのは些か結論を急ぎすぎている気がします。

②会話の中でスパイの存在を断じていること
会話を盗聴しているマナ達に主催者側のスパイの存在を認知されてしまえば、マナ目線では(まだ登場していない人物がいる可能性はありますが)マナが心を読めない足立とエイダに絞られてしまい、シンプルに展開としてまずいのでは。仮にオセロットのジャミング機能が例の機械に搭載されていたとしても、放送から盗聴されていることを知っているNとルッカが会話でスパイの存在を指摘すること自体が迂闊すぎる気もしますし。

68不思議の国の遊園地跡 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/14(土) 15:45:24 ID:dZLjuTG20
>67

ご指摘ありがとうございます。
確かに執筆に関して不備がありました。
根底から投下を変えないとダメでもないようなので修正した作品を遅くても3日後には再び投下しようと思います。

69不思議の国の遊園地跡 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/17(火) 00:34:46 ID:vsIGd2sI0
修正案 投下します。

70不思議の国の遊園地跡:修正 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/17(火) 00:35:23 ID:vsIGd2sI0
「さて、これからどこへ行こうか?」

Nがルッカに、行き先を問う。
「この地図で、私が気になる場所があるの。」

作業用の手袋に包まれた指は、『遊園地廃墟』を指していた。

「へえ……意外だな。そんな場所だなんて。まあ僕も遊園地はスキだけどね。
特に観覧車が好きなんだ。あの幾何学的な形がね。」


Nの言葉も他所に、ルッカは歩き出す。
この世界での遊園地とは、どのような場所なのか二人には分からない。
だが、遊園地とは、発明に適した場所なのである。


発明家である彼女が遊園地と聞いて思い出すのは、故郷であるトルース村のリーネ広場。
遊園地と呼ぶにはスケールがやや小さい。
それでも広い土地と、度々記念祭の舞台になり、多少の騒ぎを許されるその場所は、幼い頃から発明や実験の舞台になっていた。
たとえ工具箱がなくとも、新たな道具が手に入るかもしれない。
彼女、いや、彼女らの冒険の始まりも、元はと言えばあの場所から始まった。


恐らく、「廃墟」と名が付くとは言え、この世界でも首輪やロボをどうにかする手段を提供してくれると期待する。



『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる? 』

遊園地への道すがら、マナの放送が、戦いの会場全体に響いた。

(13人……!?)
その中にはルッカの仲間であるマールディアや、カエルも入っていた。

(なぜ……。)
参加させられていたことは薄々気付いていたが、それ以上に衝撃を受けた。
あの二人は、自分と違って回復魔法に長けていた。
つまり、命を守ることに関しては、自分より優れていたはず。
なのに、こんなにも短時間で殺されてしまうとは。


改めてこの戦いの恐ろしさを実感した。
確かにロボや、病院で会ったあの金髪の女性のように、殺し合いに乗っている者がいたとは分かっていた。
しかし、あの二人だけでこの時間、13人もの参加者を殺せたとは到底思い難い。
恐らく、彼女が想像している以上に、この戦いに乗っている者が多いだろう。
主催者の息がかかった参加者も、ロボ以外にもいるかもしれない。


「誰か、名前が呼ばれたの?」
ルッカの強張った表情と、冷や汗を案じてか、Nが声をかけた。

71不思議の国の遊園地跡:修正 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/17(火) 00:36:06 ID:vsIGd2sI0
しかし、Nはルッカとは対照的に、顔色一つ変えていない。

「それよりも、僕は聞こえるんだ。トモダチの悲鳴が。」


知り合いの死を「それよりも」で済ませ、貰ったばかりの名簿に赤線を引いていく。

「悲鳴?どこから?」
「キミは聞こえないの?この島全体に、トモダチの恐怖や痛みの籠った叫びが、流れている。
彼らを助けてあげなきゃ。」


Nの言う『トモダチ』が何者なのか知らないが、やはりこの男は何か自分達の知らない何かを感じ取れるのだとルッカは実感した。


そして、ルッカは転送されたという名簿をめくってみる。
予想通り、クロノの名前があった。当たって欲しくはなかった予想だったが。
放送で呼ばれた、カエルやマールディアの名前も。
仲間のエイラや、父や母は名簿に載っていなかったことは少し安堵したが。


(……まさかね。)
名簿の『マールディア』が書いてあった欄のすぐ近くの名前が目に入る。


『魔王』

ルッカにとって、魔王と言うと中世で戦い、古代で意外な形で再会し、その後カエルによって討たれたあの男だ。
強大な魔術を操り、凶暴な魔族を従え、ガルディアの住民を何百人も殺害した魔王。
しかし彼もまた自分と同じで、ラヴォスを滅ぼすことを目的としていた。
彼とはついぞ相容れることはなかったが、共に戦える可能性があった気がした。
この世界でもし再会出来たら、彼の力は脱出に役立てるかもしれない。


最もこの戦いには様々な世界の参加者がいることはあの図書館で分かったことだし、別の世界の「魔王」なのかもしれないが。


それを考えると、贅沢は言えたものではないが、名簿に写真がないのはどうにももどかしい。
病院で襲ってきた金髪の女性の名前も、結局分からずじまいだ。
結局少しでも多くの人と直接会わなきゃいけないのだと痛感する。


ルッカ達は足を速め、目的地へと向かう。


地図の示した辺りの場所へやってきた。
そこには、二人の予想を上回る光景が広がっていた。


「タのしイネ!楽しイネ!」
遊園地の入り口では、大量の機械生命体が歩き回っている。

72不思議の国の遊園地跡:修正 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/17(火) 00:36:22 ID:vsIGd2sI0
「何……!?コイツら……!!」
未来世界にいた、自分達人間を襲うロボットを思い出したルッカは、魔法詠唱の姿勢を取る。

「喜びヲ!分かち合オウ!」
「アオウ!」

しかし、ロボット達はルッカとNを無視して、踊り続ける。
ある者は紙吹雪を散らし、ある者は風船を飛ばしている。


行動こそ違いはあるが、どれも二人との接触を行おうとする気はないようだ。
首輪を着けていないことからも、参加者と言うより一つのギミックだと伺える。


「この子たちは、トモダチと何か違うのかな?」
Nは早速、近くにいたピエロの帽子をかぶった機械生命体を一体捕まえようとする。
寸胴体型に丸い頭。どこかロボを思い出す。
上手くやれば、ロボを助ける手掛かりが見つかるかもしれない。


ルッカも紙吹雪を飛ばすロボットを、触ったり耳を傾けて電子音を聞こうとしたり、小突いたりする。

「うわっ!」
ピエロの帽子のロボットは、体を揺らし、Nを突き飛ばす。

「喜びヲ!分かち合オウ!」

それから特に攻撃をしようとはせず、別のロボットと同じように遊園地を巡回する。



「N、大丈夫?」

紙吹雪まみれになったルッカの心配も無視して、Nはロボットに話しかける。
「驚かせてゴメンね。僕らと、友達にならない?」


「タのしイネ!楽しイネ!」
ロボットはなおも我関せずという様子だ。


「……どうやらここにいる子達とは、意思疎通が難しいみたいだね。」
Nの言う通りだ。
どうやらここにいるロボット達は、敵になることはないようだが味方にもならないらしい。
解体して、データや設計方法を分析することも、工具箱が無い今では難しい。


入口のロボットとコミュニケーションを取ることを諦め、遊園地の中へと進む。

「いラッしゃイマせ!」
「アラ!こんにちは!」

空飛ぶ洗面器のような物体に乗ったロボットが、出迎える。
しかし、それより奥へ進むと、異様な光景の中に異変があった。

同じ形のロボット達が、何台か壊されていた。

「気を付けて……参加者が誰かいるかもしれない。」
「そうだね。」

Nもモンスターボールからトンベリを出し、何が起こっても良いようにする。

73不思議の国の遊園地跡:修正 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/17(火) 00:36:38 ID:vsIGd2sI0


恐らく二人がここへ来る前にいた誰かがこれらのロボットを壊した。
そう考えるのが妥当だ。


路地裏へ入って、さらに進むと、長身の金髪の男性が倒れていた。


「もう、動かないみたいね……。」
身体を斬り裂かれ、呼吸も脈も止まっていた。
先程の放送に呼ばれた中で、ルッカとNの知り合いではない、10人のうちの誰かだと認識する。


「血は乾いているようね……。」
既に硬直の仕方から、殺されたのは大分前のようだ。
恐らく、もうこの場には男を殺した殺人者はいないのだろう。


「この人……何か書いているよ……。」
Nが注目した、男の指先に血で何かが書かれていた。


『チェレン』


恐らくいまわの際に自分を殺した相手の名前を血で書いたのだろう。
だがその殺人者の名前も放送で呼ばれてしまった。


「どうやら、チェレンは殺し合いに乗ってしまったようだね。
それより、殺人者、二人いるよ。」
知り合いが殺し合いに乗ったことに関して、Nは大してショックを受けたような顔もせず、トンベリに何かの指示を出す。


(!?)
トンベリはナイフで、スパリと男の首を切り落とした。辺りに血が飛び散る。
首輪が外れ、地面に落ちる乾いた音が聞こえる。
「ちょっ……何してるのよ!!それに、殺人者が二人いるって?」


ルッカはNと、トンベリの行動に驚く。
「ああ、槍で突かれたような傷と、剣で斬られた傷があったからね。
それと、これ。」

Nは血で汚れた首輪をルッカに渡す。
解除するには確かにサンプルが必要だ。
Nが「首輪解除するのに必要だ」などと口にしなかったのは、盗聴を気にしていたからか。

「あ、ああ。そうね。
でもさ、Nは知り合いがこんな戦いに乗って、しかも死んじゃって悲しくないの?」
「悲しい……と言えばそうだけどね。彼と僕自身はそこまで仲良くもなかった。」

たとえ敵にデータを書き換えられていたとしても、ロボが襲ってきた時のショックはルッカにとって大きかった。
そして、マールやカエルが死んだときも同じくらいの精神動揺があった。
たとえ仲の良い相手ではなくても、それなりに落ち込むだろう。

どうにもNのようにドライにはなれない。

74不思議の国の遊園地跡:修正 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/17(火) 00:36:57 ID:vsIGd2sI0


首輪を回収し、さらに遊園地の奥へ進む。
遊園地のジェットコースター乗り場へ続く道。
かつては、アンドロイドの移動を円滑にした転送装置があった場所に、異様な物が置かれていた。


「何だろうね……コレ。」
Nも不思議そうに見つめる。

だが、二人にはそれが、「元々この世界になかったもの」だということは瞬時に分かった。
他の機械は「遊園地廃墟」と名乗るだけあって、錆や埃にまみれているが、この機械は傷一つなく、まぶしいばかりの光沢を放っているからだ。

機械から見えるガラス張りのケースに、何か見慣れぬ本や機械が置いてある。
どこか自動販売機のような形をしているが、金の入れる穴はない。

代わりに頭頂部に、何か物を乗せる秤のようなものが10ほど置いてある。


(何か条件を満たせば、中の道具が手に入る?)
ルッカは裏側を見る。そこには二つ紙が貼ってあった。


『おめでとう!よくこれを見つけたね!!
この機械の上に首輪を乗せたら、この戦いに有利な道具が手に入るよ!!
だからいっぱい参加者を殺してね!!』


『良く見つけたね』と書くほど、隠してあるようには見えない、とルッカは思ったが、二枚目の紙には更に予想外のことが書かれていた。


首輪×3 顔写真付き名簿
首輪×5 首輪レーダー
首輪×7 オーブ探知機
首輪×10 首輪解除キー

(これって……。)
首輪7つ集めれば手に入るらしい「オーブ」探知機というのも何か気になるが、10個集めれば手に入る道具。
こんなものが手に入れば、ゲーム自体が崩壊するのではないか。

75不思議の国の遊園地跡:修正 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/17(火) 00:37:25 ID:vsIGd2sI0


Nは景品には興味を持たず、謎の機械を興味深げに機械を叩いたり、さすったりしている。


とりあえずルッカは、レオナールの首輪を機械の頭頂部に乗せる。


商品が並べられているガラスの横のモニターの『0』の数字が『1』になった。
これが規定の数字になった時、アイテムが手に入るのだろう。


「ん?今何かした?」
ルッカの行動気付いたNは、声をかける。
しかし、ルッカはそれを無視して、文字が書かれた紙を近づけた。

『この機械、何の為にあると思う?』

先程の放送で、マナは『声だけでしか分からないのが残念なくらい』と言っていた。
ならば、この首輪で思考を読んだり、何をしているか視覚的に見たりすることは不可能なのだろう。
それならば、言葉が聞こえない筆談で、首輪で関することは話した方が良いとルッカは判断した。

『ゲームから脱出できる可能性を見せびらかす。
あるいは貰える物の奪い合いを起こす。』

即座にルッカの意図を理解したNは、同じように筆談で返答を行う。
その中身は、この機械を置いた物や、それに影響された参加者の悪意を予想したものだった。

人間は醜く、そのために他人もポケモンも何でも利用する。
それが原因で傷ついていたポケモンをNは何度も見てきた。
トウヤとの戦いで、全ての人間がそうではないと分かったが、Nにはまだ人間への猜疑心が払拭されたわけではない。

「ちょっと静かにしてて、この機械の欠片の観察をしたい。」
『急に黙り始めたら、盗聴する側も怪しむ。』

言葉を話しつつ、Nは急に静かになった理由付けを行う。


その間にルッカはもう1枚、新たな紙に自分の意見を記す。

『だったら、「生還させる」と1番下に書かない?』
『それは、エサとして露骨すぎない?根拠はここ。』

サラサラとペンで言いたいことを書きながら、Nは首輪をペンを持っていない指で突く。

『カギと言われても、首輪にカギ穴どころか、針一本通す穴さえ見つからない。
君に会う前に、図書館にあった鏡できちんと見た。
だから、ここに展示しているカギも、偽物だと思う。』

76不思議の国の遊園地跡:修正 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/17(火) 00:37:46 ID:vsIGd2sI0

機械の上に置かれたレオナールの首輪を見つめる。
Nの言う通り、どうやって自分達に付けたのかおかしいくらい綺麗な金属環だ。
おかしな箇所があるとすれば、首輪の裏側にある、首との接触面の僅かなスキマのみだった。

だが、ルッカも冒険の中で、カギ一つとっても、様々な形の道具を見ていた。
ペンダントに反応して開いたジール王国の扉のように、鍵穴の有無は関係なこともある。


『なら、一番上の「写真付き名簿」ってどういうこと?どちらかというと襲撃側に不利よ。
それともこれも罠?』

マナは、『偽名を使ってる人も心配ない』と言ったが、まさにその人に対処できる道具だ。
Nと一緒に、病院で襲ってきた女性の名前を知ることや、Nにロボやクロノの姿を教えることも出来る。
仮に名前と写真がバラバラであっても、元々知っている人物の顔と示し合わせればすぐに偽物だと気づく。


Nは文字で一杯になった紙を裏返して、新たに言葉を綴り初める。
『そこが、相手を誘う方法。
最初の3つまで、戦いに有利になる道具を用意しておいて、信じた所で裏切る。』


Nの言うことは、一理あるとルッカも考えた。
パンの欠片をちりばめておいて、その欠片の先にあるパンの塊に口を付けた瞬間、仕掛けが作動する。
典型的だが、知らず知らずのうちに掛かってしまいがちなワナだ。


『最初の3つまで、戦いに有利になる道具を用意しておいて、信じた所で裏切る

なら、一番下の道具を残してそれ以外を取るのは?』

だが、幸運ながら、自分達は一人も殺すことなく首輪を一つ入手出来た。
折角主催者側が送ってくれた「プレゼント」なのだ。
どうにかして有効活用する手もあるだろう。
罠だとしても、パンの塊に口を付けずに欠片だけ貰っておけばよい話だ。


『どうかな。オーブが何なのか分からないからね。』




実はNの方も仮説を断定するには証拠が少なすぎている。
たとえこの機械が渡すものが本物だろうが偽物だろうが、今は役に立たないのは事実。
この機械を使うにせよ使わないにせよ、他の参加者に出会わなければならないようだ。


そして、遊園地には二人以外には誰もおらず、ロボを修理する手がかりもないようなので、他の場所へ行くことを提案する。

「ここで出来ることはないようね。」
「そうだね。じゃあ、別の場所に行こうか。」
「ここからなら、この学校とか近いかしら?」

この遊園地には、ロボットこそ多くいたが、それを分解、観察するための工具はない。
遊園施設で壊されていたロボットから回収したボルトや歯車、金属板ぐらいだ。

77不思議の国の遊園地跡:修正 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/17(火) 00:38:05 ID:vsIGd2sI0

新たな情報や手がかりを得るために、二人は遊園地を後にする。





しかし、この時二人は気付いていなかった。
それまで二人に無関心だったロボット、いや、機械生命体のうち一台が二人の後を付けてきていることを。
それが一体何なのか、二人はまだ知らない。



【E-6 遊園地廃墟入り口/一日目 朝】


【ルッカ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(小)、MP消費(小)
[装備]:水の羽衣@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(工具の類は入っていません)、医療器具 図書館の本何冊か(何を借りたかは次の書き手にお任せします。)  素材(機械生命体の欠片、ネジ、金属板など)
[思考・状況]
基本行動方針:人と工具を集め、ロボを正気に戻す。
また首輪を集め、解析、あるいは景品交換用に使う。
1.多少は割り切ることも必要なのかもしれないわ……。
2.工具箱が見つかれば、この首輪の解析でもしてみようかしら。
3.首輪を集めたら、首輪景品交換所を使う。
4.Nって不思議な人ね……
5.何のためにあんな機械を?

※遊園地廃墟にある、首輪景品交換所の情報を知りました。


【N@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[装備]:モンスターボール(トンベリ)@FF7、毒牙のナイフ@DQ11(トンベリが所持)
[道具]:基本支給品 本何冊か
[思考・状況]
基本行動方針:ルッカの理想に付き合う
1.ルッカと共に行動をする
2.新しい理想を手に入れる。



※ED後からの参戦です。
※遊園地廃墟にある、首輪景品交換所の情報を知りました。


※【E-6】 遊園地に、首輪と引き換えに戦いに有利になる道具を支給する機械が配置されています。
機械の上に乗せた首輪の数に応じて、道具が支給されます。
※他の場所にも似たような機械があるかどうかは、次の書き手にお任せします。

【支給モンスター状態表】


【トンベリ@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:健康
[持ち物]:毒牙のナイフ
[わざ]:ほうちょう みんなのうらみ 
[思考・状況]
基本行動方針:Nと行動を共にする、自分のほうちょうがほしい。



【機械生命体@Nier Automata】
[状態]:オールグリーン
[装備]:なし
[道具]:?
[思考・状況] ?
基本行動方針:ルッカとNを追いかける。

78不思議の国の遊園地跡:修正 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/17(火) 00:39:27 ID:vsIGd2sI0
修正案投下終了です。
変更点は主に>>75と>>76のみですが。

79 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/19(木) 00:35:12 ID:jW.0XgHg0
検討ありがとうございます。そして修正案投下お疲れ様です。
自分も投下させていただきますね。

80君の分まで背負うから ◆2zEnKfaCDc:2019/12/19(木) 00:35:47 ID:jW.0XgHg0
殺し合いなんてやりたくないから。そしてそう考えているのは自分だけではないと分かったから。もしかしたらこのまま、皆で協力して殺し合いを打破することが出来るのではないか。事実、これまで出会ってきた人物は悪意の無い者ばかりだった。このままこういう人たちばかりと出会い続ければ、もしかしたら誰も死ななくていいかもしれない。

それは、1人の少年の抱いた夢。
簡単に実現しないことはうっすらと分かっていたけれど、それでも信じていたかった。現実を直視するのが怖いから、まだそれに縋っていたかった。

そんな儚くも尊い夢が──粉々に砕ける音がしたような気がした。

悪夢のような定時放送の声が告げたのは、13人の死者の名前。

その中のほとんどは知らない名前だったけれど──たったひとつ、彼のよく知る名がその中に混ざりこんでいた。

「──グレイグ……?」

少年──イレブンは耳を疑った。グレイグが死んだという、想像できる未来の中でも特に起こり得ないであろう出来事をマナは語った。

人の死は唐突に突きつけられるものであると、特にイレブンは知っている。行方の分からなくなった仲間たちがいつの間にか死んでいるようなことは起こりうるのだ。
だけど、少なくともグレイグは生きているという信頼をイレブンは置いていた。それは単に年長者であるからかもしれないし、仲間たちの居場所が分からなくなって不安だった時にも彼は最初から自分と共にいてくれたからかもしれない。とにかく彼が居なくなるというイメージが、イレブンには浮かばなかった。

81君の分まで背負うから ◆2zEnKfaCDc:2019/12/19(木) 00:36:19 ID:jW.0XgHg0
『もしかしたら、死んだ人は皆最初に出会った幽霊のような魔物に殺されたのかもしれない。』

『それなら、今までと同じように魔物さえ倒せばいい。』

もしも放送で呼ばれた名前に彼の名前が無かったら、まだそのような儚い夢に縋ることが出来ていたのかもしれない。

だけどあの程度の魔物なんかにあの人が殺されるわけが無い。紛れもなく、グレイグを殺したのは人間だ。

そして、これもまたひとつの現実──グレイグを殺せるような人間が、この世界には居るということ。

幸か不幸か、イレブンがこれまで出会った参加者はダルケルとベルの2人だけ。ライデイン1発で沈んだあの幽霊にあれだけ苦戦していたということは、ダルケルもきっとそれほど強くは無い。おそらくはパーティーの誰が戦ったとしても勝てる相手だろう──真偽のほどはともかく、ナイトゴーストに物理攻撃が効かないことを知らないイレブンはそう思っていた。

そして当然、ベルも自分や仲間たちと渡り合えるような力は持っていない。この世界の大多数はそういった者たちなのだろうとすら思っていた。

だけどこの世界には、どんな手段かは分からないがデルカダールの英雄を殺した実力者が少なくとも1人はいる。1人いるということは2人いるかもしれなくて。延長していけば5人、10人、最悪の場合は60人以上いるかもしれなくて。

命の大樹が崩壊した時、世界中の魔物がより強く生まれ変わった。邪神が復活した時、世界中の魔物がより邪悪な存在へと変わった。世界のパワーバランスが崩れることなら2度経験している。
だけどこの世界は、とにかく未知だ。
敵の強さが分からない。
誰が敵なのかも分からない。

そんな世界で僕は、ベルを守れるだろうか──

……最悪の想像を振り払うように、頭を思いっきり横に振った。

82君の分まで背負うから ◆2zEnKfaCDc:2019/12/19(木) 00:38:12 ID:jW.0XgHg0
過ぎ去りし時を求めてもなお脳裏に焼き付いて離れない、大切な人の死を目の前にした光景。
ここまで死と隣り合わせの世界だと嫌でも思い出してしまうし、ネガティブになってしまう。

もう誰にもあんな思いはして欲しくなかったから。もう誰も犠牲になって欲しくなんかなかったから。だから僕は、過ぎ去りし時を求めた。

その先の世界では、ベロニカを含む全員が笑っていられる世界なのだと信じて────


「──チェレン…………?」

その時、イレブンの隣から声が聞こえてきた。

「今の放送……呼ばれてたのは死んだ人なんだよね……?」

まるで、この世の終わりを見たかのような、か細い声。

「そんなの、うそ……だよ……ね……?」


『──お姉さま……私たちを助けるために……。』

声の主であるベルの姿が、ベロニカの最期の記憶を見たあの時のセーニャの姿と重なった気がした。そんなベルの姿を見た時、ようやく理解した。

僕は失敗したんだ。
皆が笑顔になれる未来を作れなかったんだ。
また僕は、平和な"時"を失ってしまったんだ。

83君の分まで背負うから ◆2zEnKfaCDc:2019/12/19(木) 00:38:48 ID:jW.0XgHg0
「いやだ……いやだよぉ……」

イレブンだけではなく、ベルも分かっている──あの放送は現実のものであると。そう断言出来る根拠こそ無いが、自身に嵌められた首輪の意味することくらいはベルにも分かる。

『警告:居場所を特定される危険性アリ。参加者ベルは声を抑えるべき。』

ポッドが客観的かつ的確な"正論"を下すも、ベルは黙る様子は無い。

「チェレンはまだ14歳なのに死んじゃうなんて、そんなの……!」

野生のポケモンという物理的な脅威を乗り越えるためにかがくのちからを発展させてきたベルの世界の人間は、一部のポケモンの能力が医学分野に活用出来ていることも相まって平均寿命が高い。即死で無い限り怪我も病気も基本的に治るため、寿命以外での『死』に疎いのだ。つまり、魔物の脅威に晒され続けているイレブンの世界の人間とは『死』というものへの向き合い方が根本的に異なると言える。
特にカノコタウンという、強い野生のポケモンのいない閉鎖的な町で生きてきたベルにとっては、なおさら死は無縁のものであった。

だけどそんなことはイレブンの知る話ではない。あるいは知っていても関係ない。
重要なのは、また目の前にウルノーガのせいで悲しんでいる人がいるということだ。

「ベル……」

僕は彼女に、何と声を掛ければいいのだろう。
髪を切ることを皮切りに心を一新して立ち直ったセーニャとは違う。そんな強さを持っていないベルに、僕は何が言えるのだろう。

たくさん伝えたいことはあった。だけど言葉にならない。こんな時にまではずかしいが先行する自分が、はずかしい。

そうしてベルの名前だけ呼んで何も言えなくなったイレブン。
どうすれば、彼女の涙を止めてあげられる?
どうすれば、彼女が悲しまなくていい?
どうすれば────

84君の分まで背負うから ◆2zEnKfaCDc:2019/12/19(木) 00:41:00 ID:jW.0XgHg0
それ以上考えるより先に、イレブンは動いていた。

「──ラリホー。」

イレブンの呪文を受け、ぱたりと意識を失ってその場にベルは倒れ込む。先ほどまでと同じように、また寝息をたて始めたベルは、現実のショックから悪い夢でも見ているのだろうか。その目から涙はまだ止まらない。
そんなベルの姿を見て、イレブンはただただ申し訳なくなった。

(ごめん……僕が……ウルノーガをもう1回倒しきれなかったから……)

自分が過ぎ去りし時を求めたせいでウルノーガを滅ぼしきれない世界線になってこの殺し合いが開かれたのではないか──グレイグの死とベルの悲しみを突き付けられて、イレブンは罪の意識を背負ってしまった。自分が過ぎ去りし時を求めなければ、ウルノーガが殺し合いを開くこともなくあのまま平和が訪れていたのではないか。勿論全てはたられば論に過ぎない。しかしイレブンの心に影を落とすには充分な仮説であった。

『疑問:参加者イレブンのMPは極わずかのはず。戦い以外に使うのは非効率。』

横からポッドがまた客観的な意見を述べる。イレブンは今、自然回復していたMPまでもを使い切った。確かにそれは非効率的な行いなのだろう。

「うん……。でも──」

だがポッドが何を言おうとも、イレブンにはそうするしか無かった。冷静な分析など、あの状況で出来るはずもなかった。

「たぶん、これでよかったんだと思う。」

それに──結果論ではあるがベルを眠らせたことについてイレブンは後悔していない。

『……理解不能。』

ただし、はずかしくてこれ以上の言葉を発せないイレブンの言葉ではポッドに理解させることも納得させることも出来ないようだ。

デルカダール王に化けたウルノーガによって自分が悪魔の子だと全世界に通達されていたあの時、誰が自分を狙っているのか分からなくて、罪もない人たちが自分を恐れているのが申し訳なくて、本当に不安だった。
だけどそんな中で支えてくれたのは、他ならぬ仲間たちだった。
今でも覚えている。グレイグの部隊に襲われて、海に落ちた自分を離さずにいてくれたマルティナを。彼女自身も落ちて怪我をしていたにも関わらず、気を失った自分を背負って小屋まで運んでくれた。記憶の奥底に残っているあの時のマルティナの体温はとても暖かくて、安心できた。

不安定な時くらい誰かに任せて眠っていたっていい。今はベルの分まで、僕が現実を背負うから。

85君の分まで背負うから ◆2zEnKfaCDc:2019/12/19(木) 00:43:08 ID:jW.0XgHg0

「……行こう。」

このままベルが起きるまで立ち止まっているわけにもいかないため、イレブンはベルを背中に担ぎ上げる。
童顔で小柄なイレブンの見た目とは裏腹に、ベルの身体はひょいと持ち上がりイレブンの背に収まった。

チェレンの名前が呼ばれてからはメモをする暇の無かった禁止エリアをポッドから聞いて、ベルを背負ったままイレブンは歩き始める。
目的地はイシの村。
早く仲間と合流出来そうな場所に向かいたい。ベルも落ち着いて話せる場所に連れて行きたい。

「……あっ。」

その時、イレブンは思い出した。

確かに、イレブン自身はマルティナに背負われている時、どこか安心感を覚えていた。だけどそれ以上に、強く感じた気持ちがあったことを今の今まで忘れていた。
そしてその気持ちは、背負う側・背負われる側の立場が逆転しても変わることは無いということに気付いてしまった。

『疑問:参加者イレブンの脈拍数の上昇を確認。何故?』

背負い上げたベルの身体が、イレブンの背中に密着する。よくない夢でもみているのか、時々嗚咽の混じる寝息がイレブンの髪の毛を揺らす。

イレブンは思った──この状況、かなりはずかしい、と。


【A-3/森/一日目 朝】
【イレブン@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:MP0、恥ずかしい呪いのかかった状態
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー、ポッド153@NieR:Automata
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(2個、呪いを解けるものではない)
[思考・状況]
基本行動方針:ああ、はずかしい はずかしい
1.イシの村へ向かう。
2.同じ対主催と情報を共有し、ウルノーガとマナを倒す。
3.はずかしい呪いを解く。
4.この殺し合いが開かれたのは、僕のせい……?

※ニズゼルファ撃破後からの参戦です。
※エマとの結婚はまだしていません。
※ポッドはEエンド後からの参戦です。


【ベル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[装備]:ランラン(ランタンこぞう)@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:最初の一歩を踏み出す。
1.イレブンについていく。
2.ポカポカ(ポカブ)を探す。


※1番道路に踏み出す直前からの参戦です。
※ランタンこぞうとポッドをポケモンだと思っています。


【モンスター状態表】
【ランラン(らんたんこぞう)】
[状態]:睡眠中、モンスターボール内
[持ち物]:なし
[わざ]:メラ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルについていく
1.睡眠中

【ポッド153@NieR:Automata】
[状態]:健康
[持ち物]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:???

86 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/19(木) 00:43:29 ID:jW.0XgHg0
投下終了しました。

87名無しさん:2019/12/28(土) 17:56:25 ID:PqF0WX2w0
明日毒吐き別館にてロワ語りが行われることを告知します

88 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 01:00:22 ID:q9wV2H.E0
魔王、オトモ、サクラダ、シルビア、ネメシスT型、イレブン、ベル予約します。

89 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:03:35 ID:q9wV2H.E0
投下します。

90そして、戦いは続く(前編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:04:09 ID:q9wV2H.E0
魔王達が橋を渡っている途中に、その放送は流れた。
自分達の場所とは離れた場所が禁止エリアに選ばれたため、問題はなかった。

だが、死者の名前が発表された時。
それまでのにぎやかだった3人(2人と1匹か?)は、嘘のように黙りこくってしまった。
ただシルビアもサクラダもオトモも、そして魔王も、互いの顔色のみ窺っていた。


どうにもいられず、そのまま橋の上で棒立ちになって転送されたらしき名簿をめくる。
薄っすらと魔王は予想していたが、クロノの名前が名簿に載せられていた。
おそらくサクラダやシルビアの仲間、オトモの言う旦那様とやらも参加させられているのだろう。


しかし魔王にとっては、参加名簿のことなどはさほど気にならなかった。


(グレン……。奴が、これほど短時間で倒されるか……?)
放送によると、彼は何者かの裏切りによって殺されたのだということが伺える。
だが、ラヴォスとの戦いの傷が癒えてなかったとはいえ、自分を討った相手だ。

確かに先程戦ったあの怪物のような相手なら、まだ負けてもおかしくはないだろう。
だが、裏切り程度のことであの男が死ぬとは到底思えなかった。


放送で呼ばれたその男の名前は、本名ではなく『カエル』だった。
しかし、自分の名前が『ジャキ』ではなく『魔王』として名簿に載せられていること。
そしてマナが『騎士道精神』と言ったことから、自分をかつて殺したカエルで間違いないと魔王は確信する。


そしてもう一人、魔王が思い浮かんだのはクロノのこと。
たかだか二人仲間を失ったくらいで、あの男が簡単に主催者の言いなりになるとは思えない。
だが、この13人という死者の数。そして、自分を倒した勢力が2人も死んだことを考えると、クロノも何時まで生きているか分からない。

確かにクロノと敵対しないためにも、殺し合いに乗らなかったことは正解だった。
だが、手掛かり一つ掴めない以上、目下魔王の行動方針として、今のメンバーのままでいるしかない。

「貴様たちの知り合いはいたのか。」
先程までのにぎやかな雰囲気はどうにも馴染めなかったが、この空気はそれ以上に気に入らなかった。
居ても立っても居られなかった魔王が話しかける。


「ええ。アタシの仲間のほとんどが呼ばれていたわ。」
「エノキダ達はいなかったのが良かったわ。でも、前アタシのお客さんだった人がいるのよ。」
「知り合いで呼ばれたのはご主人様だけだったニャ。」


魔王が心に引っかかったのは、もう一つあった。
名簿の中身が、てんでちぐはぐだったということ。
フルネームで書かれている名前、偽名と思しき名で書かれている名前、そして自分のように称号、呼ばれ名で書かれている名前。

それに、参加者選出方式。
知り合いが多く呼ばれている者、ほんの数人しか呼ばれていない者、ここにいるメンバーだけでも違いがある。

こうなると何の目的でこの戦いが始まったのか、まるで分からない。


「それとさ、ちょっと聞きたいことがあるのだけど。」
次に声を上げたのは、サクラダだった。

「アンタ達の知り合いに、『昔の人』は呼ばれてない?」

91そして、戦いは続く(前編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:04:30 ID:q9wV2H.E0
「確かに別の時代の人間がいたが、どういうことだ。何が言いたいのか説明しろ。」

シルビアとオトモの返答を待つより早く、魔王が問い返す。
「さっきウルボザって人が呼ばれたでしょ?その人、アタシのじいちゃんの時代、ハイラルの英傑の一人で有名な人なのよ。」


かつてハイラルを襲った大厄災の時に活躍していたゲルドの英傑、ウルボザ。
サクラダが産まれる前に、その命は果てたはずだが、この戦いに参加していたことに、驚きを隠せなかった。

「昔ではないが……5人(3人と1台と1匹か?)程、私の世界の未来から呼ばれている者がいる。」

「アタシは別の時代の人は呼ばれなかったけど、死んだ人が2人も呼ばれたわ。」
今度はシルビアが口をはさんだ。

「どんな奴等だ?」
「一人はアタシの仲間で、もう一人はウルノーガの手下で、アタシ達が前倒したはずなのよ。」

シルビアが話したのはベロニカと、ホメロスのことだった。


(仲間?ウルノーガの手下?倒したはず?)

その話を聞いて、魔王の予想が確信に至った
主催陣営に、死者を復活させる能力のみならず、時間を操る能力の持ち主がいる。


シルビアが、「ウルノーガはかつて自分達が倒した」と言っていたが、なぜ復活したのかも察しがつく。
何者かが自分と同じで、生き返らせたのか、あるいは生存している時期から呼び出したのだろう。


だとすると、この戦いを開いた人物は、予想以上に厄介な相手であると魔王は勘繰る。
よしんばこの世界で脱出し、なおかつ主催者の討伐に成功しても、時間を巻き戻されてしまう可能性があるからだ。


これは一刻も早く、クロノとの合流に成功しなければならない。
どういうカラクリか知らないが、時を渡ることが出来た奴等なら、時間を操る相手に対処できる可能性もある。


「ちょっ……昔とか、未来とかどういうことニャ?
それより、早くご主人様を探しに行くニャ!!」

オトモが急に立ち止まった三人をせかす。
「ああ、そうだな。」



短い返事で済ませ、先へ進もうとした瞬間、橋が揺れた。
地震かと一瞬魔王は思ったが、そうではなかった。

92そして、戦いは続く(前編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:04:45 ID:q9wV2H.E0



「あれは……。」
「ウソ……どうして?」

「VOOOOOOGAAAAAAAAAHHHHH!!!」
姿形こそ大きく変わっていたが、先程殺したと思っていた魔物だった。
死者に動揺する暇もなく、再び戦いに身を投じられる。


魔王の放った最強の冥属性魔法、ダークマターで、ネメシスに多大なダメージを与えたのは事実だ。
しかし、持ち前の生命力と筋力が、犠牲になったのをその防護服だけに留めた。
そして、その防護服を失ったことで、抑えられていた右腕と背中の触手が全て自由になった。


「ウソ!?どうして!?どうして生きているのよ!!」
大きく姿を変え、迫り来る追跡者の恐怖に、シルビアは恐れ慄く。


「何してるの!!早く逃げるわよ!!」
「魔王の旦那、ここは退却すべきだニャ!!」

既に橋を渡り終わったサクラダとオトモが、魔王を急かす。
しかし、巨体に似合わぬスピードでネメシスは迫り来る。
つい先ほどまで橋の向こう側にいたはずなのだが、すでに魔王達の近くまで来ている。
防護服が壊れ、むき出しになった右腕から出る無数の触手が、魔王に襲い掛かる。


「手を変えてきたか!!」
ネメシスのソリッドバズーカを持っていた右腕は、現在は無数の触手を纏っている。
単発の威力こそバズーカに劣るが、リーチや柔軟性、手数に関してはこちらが厄介だ。
魔王はダークボムで触手ごと本体を弾き飛ばす。
しかし、ネメシスは怯まずに触手の束を魔王に向けて振り回す。


「くっ……ダメージも止む無しか?」
「そうはいかないわ。ピオリム!!」

シルビアの力によって、急に体が軽くなった魔王は、ネメシスの攻撃を躱すことに成功する。

「まだよ……ボミオス!!」

今度はネメシスの体が重りでもつけられたかのように鈍くなる。
続いて魔王がアイスガをネメシスの手前に打つ。
鋭利で滑りやすい氷の塊は、ネメシスの動きを阻害するのに役立った。


細長い橋の上では攻撃を躱しにくい分、明らかに自分達が不利だ。
橋ではなく平原まで退却し、そこからネメシスを迎え撃つことにする。


ネメシスが橋から降りた所で、それぞれが散開し、新たな戦いが始まった。

93そして、戦いは続く(前編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:05:04 ID:q9wV2H.E0


「S.T.A.R.S!!」

ネメシスの触手を纏った拳が、襲い掛かる。
最初にターゲットになったのは、オトモだった。
「旦那様が来るまで、負けないニャ!!」

しかしオトモは七宝のナイフで触手を斬り付ける
「GWOOO!!」

使い手こそ凡庸だが、武器はハイラルでも特に優れた鋭さと軽さを持っているため、触手を数本斬り裂くことに成功した。
そして、彼もハンターと共に戦地を何度か経験している。
シルビアの補助魔法も相まって、ネメシスへの反撃を加えることが出来た。

その隙に魔王はネメシスの死角、片目が潰れている方に回り込み、再度ダークマターを撃つ準備をする。

しかし、いくらオトモ達が早くなり、ネメシスが遅くなっているとは言え、右腕と背中の触手全てを捌くことは出来ない。


オトモの剣も無視し、ネメシスはオトモを蹴飛ばそうとする。
「危ない!!」

シルビアはオトモを抱えて全力疾走。
間一髪で二人共蹴りの餌食にならずに済む。

追加で右腕から触手が襲い掛かる。
しかし、シルビアの曲芸で鍛えた素早さで、肩を掠めるだけに終わる。
触手の先に着いたウイルスも、星のペンダントの力で解毒される。

今度はネメシスの背中の触手が、魔王に襲い来る。
止む無く詠唱を中断し、後ろへ退く。



どうにか魔力が切れる前に、シルビア達の体力が切れる前に倒さねば。
しかし、不意を突くのも難しい中、反撃のタイミングを掴めない。

ネメシスは怯まず、触手を振り回す。


「こいつ、一体何だニャ!?」
何度かミッションに出向き、巨大なモンスターを見たことがあるオトモにさえ、ネメシスは異常な怪物だった。

「オトモちゃん!!サクラダちゃん!!危ないわ!!」
シルビアはオトモとサクラダに後ろへ下がれと指示する。


しかし、シルビア本人も、今の状況が極めて良くないことは理解していた。
自分は父のジエーゴの下で培った、騎士道の力はあるにせよ、やはり最前線で戦うのは得意ではない。
魔王もよく見ると、ベロニカのように魔法を中心とした戦術で攻めるのが得意なようだ。


一度目は不意を付けたが、二度も上手く行くとは思えない。
仮にシルビアの知らない技を知っていたとしても、武器を持っていない今は、それを使えない可能性もある。


今でこそぎりぎり均衡を保っているが、ピオリムが切れるか、体力が切れればその結末は見えている。

94そして、戦いは続く(前編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:05:29 ID:q9wV2H.E0
「S.T.A.R.S!!」
魔王は何度目か、ダークマターの詠唱を使うが、その度にネメシスの拳か、あるいは触手が襲い掛かる。

慌ててダークマターを、ほぼノータイムで使えるダークボムに切り替える。
だがそれではネメシスを怯ませることこそ出来るが、効果的なダメージは与えられない。
おまけに、今の一発で、ダークマターに必要な分の魔力まで使ってしまった。

身体が徐々に重くなるのを魔王は感じる。
体力の消耗ではない。シルビアに掛けてもらったピオリムの効果が薄れてきているのだ。


シルビアに追加の魔法をかけてもらいたい所だが、向こうもそれどころではないようだ。


八方塞がり、という所で、後方から銃弾が聞こえる。




まずい、新たな敵襲か、と思うがそうではないとシルビアの声が教えた。
「イレブンちゃん!!」


魔王達も、その男がすぐにシルビアの仲間だということが分かった。
背中で眠っている少女と、銃弾を撃ったらしい横を飛んでいる機械のようなものは何なのか説明はなかったが。

95そして、戦いは続く(前編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:05:46 ID:q9wV2H.E0
以上で前編投下終了です。

96そして、戦いは続く(後編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:06:18 ID:q9wV2H.E0

(あれは……シルビア!?)
遠くで見えたのは、かつての仲間の一人。

そして、見知らぬモンスターがいる。


「ポッド、頼む!」

(!?)
ポッドの放った弾は、全てネメシスから逸れた。
外したようには見えなかった。だが、弾は不自然な弾道を持って、敵から外れたのだ。
『推奨:退却。ネメシス・T型の周りに電磁波確認。恐らく遠距離武器全て無効。』



「そんなことするわけにはいかないだろ!!」
ポッドの勧めを無視し、鎌を片手にイレブンはネメシスに向かって行く。


魔力はない。ポッドの銃弾は何故か当たらない。従って、この鎌のみが頼れる武器になる。
いつ恥ずかしくなってしまうのかも分からない。
だが、人を襲っているモンスターを見逃すわけにはいかない。
ましてや、襲われている人の一人が、かつての仲間だ。


絶望の鎌を振り回し、ネメシスに斬りかかる。
しかし、ネメシスは後ろに飛びのいて、斬撃を躱す。

巨体らしからぬ身のこなしに驚くイレブンに、多数の触手が襲い掛かる。


(!?)
「鎌と言うのは、こう使うのだ。」

しかし、その触手はイレブンに触れることなく切り落とされた。
イレブンの鎌の使い方を見かねた魔王が、鎌を奪い、触手を即座に切り落としたのだ。


そして魔王はもう一閃。追加で何本かの触手が切り落とされ、ネメシスの胴体にも裂傷が入る。


本来草刈りや麦刈りで使われる鎌は、敵との戦いでは上手くダメージを与えるのは難しい。
だが、その反面一たび使い慣れれば、遠心力を用いて剣や槍にも劣らぬ威力を発揮する。


そして、対ネメシス勢力が優勢になったのは、魔王に新たな武器と、戦力が手に入ったことのみではなかった。

「ちょっと、そこのアナタ!!女の子をおぶって戦うなんて危険よ!!アタシに貸して!!」
「この剣、あげるニャ!!あの怪物はボクじゃとても倒せないニャ!!」

97そして、戦いは続く(後編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:06:40 ID:q9wV2H.E0

サクラダとオトモが、それぞれイレブンのアシストを行う。
ここまで視線を浴びたのは、ニズゼルファを倒し、イシの村から称賛を受けた時以来だ。
イレブンは視線を落としてしまう。


(やっぱり……恥ずかしい……。)
「イレブンちゃん、何やってるのよ!行くわよ!!」
シルビアがツッコミを入れ、イレブンを奮い立たせる。


再度戦線復帰し、魔王とイレブンが前線。シルビアが一歩引いてそのサポートを行う。


「S.T.A.R.S!!」
ネメシスの拳が魔王に襲い掛かる。
だが、イレブンがネメシスの二の腕を斬り付けたため、パンチのスピードが落ちる。
魔王は後ろへ退き、カウンターとばかりに鎌の一撃を見舞う。


シルビアが魔王が付けた裂傷の部分に青龍刀を突き刺し、傷が治る前に広げる。

今度は魔王達が、ネメシスを押し始める。
即席で作ったメンバーにしては、非常にバランスが取れた戦いだった。
魔王の鎌と、イレブンの片手剣、そしてシルビアの短剣。
それぞれリーチが異なる反面、それぞれ異なる攻撃が出来る。
加えて、魔王とイレブンにはシルビアのバイキルトがによって、攻撃力がさらに増している。

勢いに乗るイレブンとシルビアは、既にゾーン状態に入っていた。


だが、イレブンも魔王も、そしてシルビアも引っかかる所があった。

この怪物は、いつになったら倒れるのかと。
ダメージこそ着実に増やしている。
だが、ネメシスはなおも生命どころか、スタミナ切れする気配すら見せない。
常に全力、フルスイングで攻撃して来る。


「イレブンちゃん、れんけい技行くわ!!メラハリケーンよ!!」
「……わかった。」

ゾーン状態の勢いを魔力に替えたれんけい技なら魔力がない今の自分でも、破壊力に優れた攻撃を入れることが出来る。
だが、自分とシルビアが今まで使ったれんけい技は、味方を補助する技が多かった。

数少ない攻撃の中でもメラハリケーンだけでは完全に倒しきるのは難しいような気がした。

98そして、戦いは続く(後編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:07:11 ID:q9wV2H.E0

「S.T.A.R.S!!」
ネメシスが唸り声をあげて、まだ斬られていない触手を振り回す。
だが、それが当たる前に、シルビアが竜巻魔法を、イレブンが炎魔法をネメシスにぶつける。

「「焼き付くせ!!メラハリケーン!!」」
「グゥオオオOOOオオHHHH!!」

炎の竜巻が発生する。
しかし、紅蓮の渦巻きに焼かれ、引きちぎられながらも、ネメシスは反撃に出ようとする。
その姿は、さながら炎の巨人、イフリートの様だった。


「こうすれば良いのだな!」


だが、手札はもう一枚あった。
紅蓮の竜巻の色が、更に濃くなる。
魔王は古代のジール王国にいた時、魔法学者から、数人でないと使うことが出来ない魔法があると聞いていた。
そしてクロノ達が自分と戦った際に、そのような技を使っていた。
実際に魔王が使ってみるのは初めてだが、元々魔王の世界にはない、風属性の技が新たな可能性を創り出した。


炎の軌道を調節する力は、竜巻の全範囲に炎を行き渡らせ、壊すことなく火力のみを強くした。
炎の竜巻に魔王のファイガを加え、火力はネメシスを燃やし尽くすほどに広がり、竜巻もネメシスを覆い隠すほど高く、広くなる。


「スタアァァァ………ァア……ズ!!」
炎の竜に巻かれる、ネメシスの声が聞こえる。

メラハリケーン、もといファイガハリケーンが晴れる。
そこに残っていたのは巨大な消し炭と、唯一竜巻から逃れたネメシスの豪傑の腕輪が付いた片腕、そして切り落とされた触手だけだった。


「すごいニャ!!どうやったらこんな技を出せるんだニャ!?」
「アンタもイケメンだし、強いのね。」
オトモとサクラダが感心して、イレブンの方を見る。

「………!!」

イレブンは急に顔を隠した。
「…何か悪いことしたかニャ!?」
「ごめんね。このコ、ちょっと恥ずかしがり屋なのよ。」


シルビアがイレブンのことを説明する。

「ところでイレブンちゃん。しばらく見ない間に、凄く強くなってない?
見違えたみたいよ!」


「え?それってどういう……。あと、見つめられると……。」
イレブンはシルビアの言葉に疑問を抱く。
シルビアや他の仲間たちと協力して、ニズゼルファを倒して以来、特に手強い敵との戦いや集中的な鍛錬を行っていなかった。

「謙遜しなくていいわ。とりあえず、またよろしくね。」
邪神を倒した者と、倒してない者の違い。
この二人はまだ知ることが無かった。


そして、会話を通じて伝えられることもなかった。

99そして、戦いは続く(後編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:07:35 ID:q9wV2H.E0

ネメシスの唯一残された、落ちた左腕がズズ、と動く。

「危険:ネメシスの、生存反応、アリ。」

鋭利な触手を掴み、ダーツのように投げる。
この戦いの参加者を死ぬまで、否、死しても狩り続けるように指示されたネメシスの意思だろうか。
それとも、改造に改造を繰り返されたネメシスの生命力だろうか。


狙われたのは、ベルをなおも背負って、かつ反射神経が一般人レベルのサクラダ。
「!!?」

ポッドの声を聞いた後では、もう遅かった。
声にならない悲鳴を上げる。
もう遅い。
背中の少女ごと、貫かれる。


イレブンは七宝のナイフで、残されたネメシスの腕を滅多切りにする。
肉塊になったそれは、暫くビクビクと痙攣したのち、完全に動かなくなった。



「なん……で。」
「どうしてよ。」


どうしようもない量の血が流れる。
シルビアの赤い服を、更に紅く染めて行く。

「どうして、アナタが死んでるのよ!!」
あの時、触手で刺されたはずのサクラダが、そして無傷で泣きじゃくっている。
咄嗟に騎士道の力を思い出したのか、シルビアがその盾になって、攻撃を受けたのだ。

「シルビア、しっかりしてくれ!!」
「死んじゃダメだニャ!!生き返ってニャ!!」


イレブンは回復魔法が使えない中、どうにかして血を止めようとする。
だが、使えそうな道具は自分の服と水くらいしか無さそうだ。
オトモはカバンをひっくり返し、回復薬になりそうなものを探す。

「アタシ、旅芸人だからさ……。」
「喋ったらダメニャ!!傷が………。」
「皆、泣いて欲しくないわ…。」

「なあ!何か、回復魔法は覚えてないのか?」
「残念だが……。」

イレブンは、佇んでいる魔王にも声をかける。
魔王はその言葉を簡単に終わらせる。



「みんな。アタシがいなくても、がんばってね。」

もう、この場で彼を助けることは出来る者も、出来る道具もなかった。

100そして、戦いは続く(後編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:07:53 ID:q9wV2H.E0

★★★★★★★★★★★★★★


少しずつ、激痛が収まり、代わりに意識が途切れ途切れになっていったのはシルビアにも理解できた。

(諦めないでね。イレブンちゃん、みんな……。)
(あなた達なら、きっとこの殺し合いも止められるわ)


眼を開ける。
そこは、真っ暗だった。
真っ暗な空間の先に、紫色の髪の、一人の大柄な男が立っていた。


「案外、早い再会になっちゃったわね。グレイグ。」

★★★★★★★★★★★★★★

「提案:この先の行動の決意。」
ポッドがシルビアを埋葬する暇もなく、電子音を出す。

「時間がない。イレブン。これからどうするか作戦を練るぞ。」
魔王もそれに同意して冷たく言い放つ。
たった今一人の人間が死ぬ所を見せつけられた。
このような怪物が跳梁跋扈している世界では、クロノもいつまで生きているか分からない。


「イシの村に集まろうとしていた……。」
「そうか。私達はハイラル城へ向かおうとしていた。イシの村は横切っただけだが、貴様の仲間らしき者はいなかったぞ。」


時間は残酷だ。
シルビアの死を悲しむ暇も与えてくれない。
むしろこうしている間も、仲間の死の可能性が増していく。


生存している仲間の発見、凶悪な参加者の排除、首輪の解除。
やらなければならないことは山積みだ。


どうするか、どこへ向かうか考えないといけない。
サクラダを見やる。
元々疲れていたからか、今でもベルは寝息を立てている。



イレブンが唯一良かったと思ったこと。
それはベルが、目を覚まさなかったことだった。
彼女に魔物を殺す所、そして、人が死ぬ所を見せずに済んだのが、何よりの救いだった。




【ネメシスーT型@BIOHAZARD3 死亡確認】
【シルビア@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて 死亡確認】
【残り55名】

101そして、戦いは続く(後編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:08:11 ID:q9wV2H.E0

【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:HP1/3 腹部打撲 MPほぼ0
[装備]: 絶望の鎌@DQ11
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(確認済み、クロノ達が魔王の前で使っていた道具は無い。) 勇者バッジ@クロノ・トリガー
[思考・状況]
基本行動方針:クロノを探し、協力してゲームから脱出する 。もしクロノが死ねば……?
1. ハイラル城かイシの村どちらかへ向かう




※分岐ルートで「はい」を選び、本編死亡した直後からの参戦です。


【オトモ(オトモアイルー)@MONSTER HUNTER X】
[状態]:健康 疲労(中)  シルビアの死の悲しみ
[装備]: なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(確認済み) ソリッドバズーカ@FF7
[思考・状況]
基本行動方針:魔王に着いていく。
1.旦那様(男ハンター@MONSTER HUNTER X)もここにいるのかニャ?
2.他の人に着いていくよりは魔王さんに着いて行った方が安心な気がするニャ。
※人の話を聞かないタイプ


【サクラダ@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康 疲労(大) シルビアの死に悲しみ。
[装備]:鉄のハンマー@ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品  余った薪の束×2
[思考・状況]
基本行動方針: ハイラル城を目指し、殺し合いに参加しているかもしれないエノキダを探す。
1.悪趣味な建物があれば、改築していく。シルビアと行動する。



※依頼 羽ばたけ、サクラダ工務店 クリア後。




【A-3/森/一日目 朝】
【イレブン@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:MP0、恥ずかしい呪いのかかった状態
[装備]:七宝のナイフ @ブレスオブザワイルド ポッド153@NieR:Automata
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(2個、呪いを解けるものではない)
[思考・状況]
基本行動方針:ああ、はずかしい はずかしい
1.イシの村へ向かう?ハイラル城へ向かう?
2.同じ対主催と情報を共有し、ウルノーガとマナを倒す。
3.はずかしい呪いを解く。
4.この殺し合いが開かれたのは、僕のせい……?


※ニズゼルファ撃破後からの参戦です。
※エマとの結婚はまだしていません。
※ポッドはEエンド後からの参戦です。



【ベル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:眠り
[装備]:ランラン(ランタンこぞう)@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:最初の一歩を踏み出す。
1.イレブンについていく。
2.ポカポカ(ポカブ)を探す。



※1番道路に踏み出す直前からの参戦です。
※ランタンこぞうとポッドをポケモンだと思っています。



【モンスター状態表】
【ランラン(らんたんこぞう)】
[状態]:睡眠中、モンスターボール内
[持ち物]:なし
[わざ]:メラ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルについていく
1.睡眠中


【ポッド153@NieR:Automata】
[状態]:健康
[持ち物]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:???

102そして、戦いは続く(後編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 19:09:51 ID:q9wV2H.E0
投下終了です。
このゲームキャラ・バトルロワイヤルと言う企画で、何度も投下出来て楽しい1年でした。
同じ書き手の方も、読者の皆様も、良いお年をお迎えください。

103名無しさん:2019/12/31(火) 21:49:49 ID:i//SrZ0A0
投下乙です
シルビア…南無
残ったメンバー、数こそ多いけどほぼ非戦闘員な奴とほぼMP0の奴しかいねえのは不安だな

後、96なんですが、「そんなことするわけにはいかないだろ」の前に文章が抜けているのではないでしょうか

104 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/31(火) 22:15:26 ID:rLOdWX5E0
投下お疲れ様です。
来たる新年でも宜しくお願いします。

今年を締めくくる、白熱の戦闘回。
とにかく書き手枠の密度が高いのもあって、様々な参戦作品の要素が垣間見えるのが面白いですね。いずれドラクエとクロノトリガーで連携技を使うとは思っていましたが、メラハリケーンに気を取られて不意を突かれた気分でした。異なる世界の常識がクロスオーバーする様はいつ見ても熱い。
今回の書き手枠については『サクラダは死にそう』『オトモはサクラダほどではないけど死にそう』『ネメシスは生き残って次の話まで追っかけて来そう』という予想だったので完全にひっくり返された形でした。

そして参戦時期的に使えないはずのシルビアの『かばう』が中々深い。放送でグレイグの死について描写している限りでは反応が薄かったけれど、やっぱり昔からの友として想いを馳せていたところがあったのでは。そして騎士道を思い出せたのも、その回顧があったからでは。死亡時にグレイグと出会っているところからも死者からのメッセージのような何かを受信したかのよう。答えがハッキリと描写されていないからこそ色々と想像の余地があって面白いですね。

105そして、戦いは続く(後編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 22:20:16 ID:q9wV2H.E0
>>103
感想ありがとうございます。
確かに魔力ほとんど使い切ってしまいましたからね……。
補助役がいなくなるとゲームでもつらいですが、パロロワでも同じことになりそうです。

>96なんですが、「そんなことするわけにはいかないだろ」の前に文章が抜けているのではないでしょうか

二行抜けてました。以下、抜けていた場所を埋めた文になります。


(!?)
ポッドの放った弾は、全てネメシスから逸れた。
外したようには見えなかった。だが、弾は不自然な弾道を持って、敵から外れたのだ。
『推奨:退却。ネメシス・T型の周りに電磁波確認。恐らく遠距離武器全て無効。』

何やらポッドは、敵の情報を知っているようだが、逃げる気は全く起きなかった。
また恥ずかしくなる可能性があっても、勇者の決意が仲間を見捨てることを許さなかった。

「そんなことするわけにはいかないだろ!!」
ポッドの勧めを無視し、鎌を片手にイレブンはネメシスに向かって行く。

106 ◆2zEnKfaCDc:2019/12/31(火) 22:44:04 ID:rLOdWX5E0
9S、星井美希予約します。

107名無しさん:2019/12/31(火) 22:48:16 ID:i//SrZ0A0
>>105
追記乙です
本当に抜けてる文章があったみたいですが、さっきの指摘、ポッドの「推奨:退却」の一文を見逃してた故の勘違いによる指摘でした、すみません

108そして、戦いは続く(後編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 22:53:55 ID:q9wV2H.E0
申し訳ありません。

居場所とシルビア、ネメシスの支給品の行方書いてなかったので、追加で書いておきます。

【A-2/草原/一日目 朝】

【オトモ(オトモアイルー)@MONSTER HUNTER X】
[状態]:健康 疲労(中)  シルビアの死の悲しみ
[装備]: 青龍刀@龍が如く極 星のペンダント@FF7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(確認済み) ソリッドバズーカ@FF7
[思考・状況]
基本行動方針:魔王に着いていく。
1.旦那様(男ハンター@MONSTER HUNTER X)もここにいるのかニャ?
2.他の人に着いていくよりは魔王さんに着いて行った方が安心な気がするニャ。
※人の話を聞かないタイプ


【サクラダ@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康 疲労(大) シルビアの死に悲しみ。
[装備]:鉄のハンマー@ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品  余った薪の束×2
[思考・状況]
基本行動方針: ハイラル城を目指し、殺し合いに参加しているかもしれないエノキダを探す。
1.悪趣味な建物があれば、改築していく。シルビアと行動する。



※依頼 羽ばたけ、サクラダ工務店 クリア後。





【イレブン@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:MP0、恥ずかしい呪いのかかった状態
[装備]:七宝のナイフ @ブレスオブザワイルド ポッド153@NieR:Automata  豪傑の腕輪@DQ11
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(2個、呪いを解けるものではない)
[思考・状況]
基本行動方針:ああ、はずかしい はずかしい
1.イシの村へ向かう?ハイラル城へ向かう?
2.同じ対主催と情報を共有し、ウルノーガとマナを倒す。
3.はずかしい呪いを解く。
4.この殺し合いが開かれたのは、僕のせい……?


※ニズゼルファ撃破後からの参戦です。
※エマとの結婚はまだしていません。
※ポッドはEエンド後からの参戦です。



【ベル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:眠り
[装備]:ランラン(ランタンこぞう)@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:最初の一歩を踏み出す。
1.イレブンについていく。
2.ポカポカ(ポカブ)を探す。



※1番道路に踏み出す直前からの参戦です。
※ランタンこぞうとポッドをポケモンだと思っています。



【モンスター状態表】
【ランラン(らんたんこぞう)】
[状態]:睡眠中、モンスターボール内
[持ち物]:なし
[わざ]:メラ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルについていく
1.睡眠中


【ポッド153@NieR:Automata】
[状態]:健康
[持ち物]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:???

※ネメシスの「電磁波発生装置」は崩壊しました。

109そして、戦いは続く(後編) ◆vV5.jnbCYw:2019/12/31(火) 23:44:33 ID:q9wV2H.E0
何度も申し訳ありません。サクラダとオトモの行動方針修正し忘れてました。


【オトモ(オトモアイルー)@MONSTER HUNTER X】
[状態]:健康 疲労(中)  シルビアの死の悲しみ
[装備]: 青龍刀@龍が如く極 星のペンダント@FF7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(確認済み) ソリッドバズーカ@FF7
[思考・状況]
基本行動方針:魔王に着いていく。
1.ご主人様、今頃どうしているニャ?


【サクラダ@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康 疲労(大) シルビアの死に悲しみ。
[装備]:鉄のハンマー@ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品  余った薪の束×2
[思考・状況]
基本行動方針: ハイラル城を目指し、殺し合いに参加しているかもしれないエノキダを探す。
1.悪趣味な建物があれば、改築していく。魔王、イレブン達と行動する

110 ◆OmtW54r7Tc:2020/01/02(木) 02:04:35 ID:sN7qUQj.0
ミリーナ、マルティナで予約します

111 ◆OmtW54r7Tc:2020/01/02(木) 09:29:50 ID:sN7qUQj.0
投下します

112選ぶんじゃねえ、もう選んだんだよ ◆OmtW54r7Tc:2020/01/02(木) 09:31:08 ID:sN7qUQj.0
(セーニャ…シルビア……それにベロニカ!?)

カームの街から南下し、E-2の橋を渡っている途中で、マルティナとミリーナは放送を聞くことになった。
放送が終わり、名簿を確認したマルティナは、知った名の多さに頭を抱える。
ウルノーガが関わっている時点で、予想できてはいたが…まさか死んだベロニカの名前まであるとは。
とりあえず、ロウの名前がないことには安堵した。
しかし、ベロニカの名前があるのはどういうことだろう。
部下のホメロスはともかく、ウルノーガにとっては敵である彼女を復活させる理由などないように思うが…

(グレイグ…)

唯一知っている者で呼ばれた名前が彼であることに、悲しみと同時にどこか納得を覚えていた。
彼はデルカダールの、そして勇者の盾であった。
本当は人一倍繊細なのに、自分が傷つくのを厭わない。
自分の命すら、捨てることになろうとも前に出て、盾となる。
そんな彼にとって、殺し合いという舞台は…生き残るには厳しい場所だったのだろう。

「知り合いの名前があったの?」

声をかけられ、顔をあげる。
そこにいたのは、黒衣の女性。
現在の、同行者だ。

「…そういえば、一つ訂正しておかないといけないことがあったわ」
「なにかしら?」
「私とあなたは殺しの為に同盟を組んだけれど、私の目的はとある人を守ること。だから『彼』と合流した時点で同盟は解消。それと仲間には手を出さないで」

マルティナの言葉に、黒衣の女性―ミリーナは一瞬驚いた表情となった後、なにかを考えこんだ様子で俯いた。
そして、やがて顔をあげると言った。

113選ぶんじゃねえ、もう選んだんだよ ◆OmtW54r7Tc:2020/01/02(木) 09:32:45 ID:sN7qUQj.0
「一応聞くけど、もし断ったらどうなるのかしら?」
「同盟をこの場で解消して、あなたを殺すわ」
「…一つ忠告しておくわ」
「忠告?」
「あなたは、ほかの人間を殺してでもその『彼』を守りたいんでしょう?それなら…『彼』以外の仲間を例外とするべきではないわ」
「…彼らはずっと旅してきた仲間よ。彼らなら、信用できる」
「甘いわね」

マルティナの反論に、ミリーナはノータイムでピシャリと言い放つ。
彼女が言うことが分かっていたかのように。

「さっきの放送で、カエルという参加者についてマナが言ったこと、覚えてるかしら?」
「え、ええ…仲間に殺されたって言ってたかしら」
「そう…それがこの場所の現実よ」

ミリーナの言葉に、マルティナは言葉に詰まる。
確かにミリーナの言葉は一理あるのかもしれない。
だけど…それでも私は仲間を…

「仲間を信じてる、だから殺さない…とでも言いたいのかしら?」
「!?」
「その考えは甘いわ。現にあなたが殺し合いに乗っているのに、他の人はそうじゃないとどうして言えるの?」
「それは…でも……!」

分かってる。
分かってはいるのだ。
自分の考えが甘いことは。
イレブン以外の参加者は例外なく全員殺すと決めたのに、殺し合いに乗っていなかったソニックを襲ったのに、元の世界の仲間は見逃すなど、道理が通らない。
だが…仮に彼らに出会ったとして、自分に彼らを殺せるのか?

(ああそっか。信用できるとか信じてるとかじゃない…私の覚悟が足りないから、逃げてるだけなんだ)

114選ぶんじゃねえ、もう選んだんだよ ◆OmtW54r7Tc:2020/01/02(木) 09:33:36 ID:sN7qUQj.0
実際に仲間に出会ったとき、殺せる気がしない。
だから信用できるとか信じてるとか、都合のいい理屈を持ち出して日和っているのだ。
これじゃあ…だめだ。

「…ごめんなさい、マルティナ」

と、そんなことを考えていると、突然ミリーナが謝ってきた。

「少しイライラしてたみたい。仲間を殺すなんてこと…そう簡単に決意できるわけないのに」
「いえ、そんなことは…」
「とりあえず、『彼』については…もしその人と出会ったときは私たちは解散。次に会った時はあなたも、その人も殺す」
「次なんてないわ。その時はその場であなたを殺す」

マルティナとミリーナとの間に、一瞬火花が飛び散り緊張が走った。
しかしすぐに緊張を解いて切り替えると、ミリーナはいった。

「他の仲間については、とりあえずあなたの中で結論が出るまで保留とするわ。ただ…なにもかも守ろうなんて、甘い考えだってことは言っておくわ」
「そういえば聞いてなかったけど、あなたは仲間や知り合いは呼ばれてないの?」
「…1人だけ、いた」
「『いた』ってことはつまり…」

放送で呼ばれた、ということだろう。
つまり、この殺し合いの舞台に彼女の知り合いはもういない。
彼女は、自分と違って殺さずにすむのだ。

115選ぶんじゃねえ、もう選んだんだよ ◆OmtW54r7Tc:2020/01/02(木) 09:34:49 ID:sN7qUQj.0
そんなマルティナの考えは、しかしミリーナの次の一言で吹き飛んだ。

「ええ、死んだわ。数時間前、私に殺されてね」
「!?」
「さあ、そろそろ行きましょ」

無表情でそう言うミリーナを、マルティナは打ちのめされたような表情で見つめる。

「ま、待って!」
「どうしたの?」
「あなたは…どうして優勝を目指すの?」

気が付けば、思わずそんなことを聞いていた。
聞かずにはいられなかった。
いったい何が彼女を動かすのか。
仲間を殺してでも優勝を目指す理由はなんなのか。
マルティナの問いに、ミリーナはやはり無表情で答えた。

「あなたと同じよ。元の世界にいる大切な『彼』を救うため。守るために戦うのよ」
「私と…同じ」

違う。
彼女は、自分とは違う。
願い自体は似ているのに、同じなのに、全然違う。
自分と違って…既に覚悟ができている。

(悔しい…)

自分と、同じ願いを持っているはずなのに。
それなのに彼女は、自分よりずっと先へと進んでいる。
それが、とても悔しい。

(私も…私だって……!)

毒を以て毒を制す。
彼女、マルティナのやろうとしていることはまさにこの言葉の通りである。

毒(ミリーナ)を以て毒(他参加者)を制す。
ミリーナという毒は、彼女の精神を蝕んでいた。


(上手く焚きつけられた、かしら)

マルティナの様子をみながら、ミリーナは考える。
彼女のスタンスが優勝ではなく、特定の参加者の守護だったのは、誤算だった。
しかも、仲間という例外を作ってしまっている。
ミリーナだって春香と出会ったときは躊躇してしまったから気持ちは分かるが、彼女には自分と同じところまで堕ちてもらわないといけない。
だから、話の流れの中で春香殺害の事や自分の目的が彼女と似ていることを漏らした。
自分と同じような目的で殺し合いに乗った者が、既に仲間殺しを実現しているという話を聞いて、焦りや対抗心を抱いてくれることを期待してだ。

116選ぶんじゃねえ、もう選んだんだよ ◆OmtW54r7Tc:2020/01/02(木) 09:35:46 ID:sN7qUQj.0
(それにしても、本当に似てるわ)

マルティナの目的を知ったミリーナは、思う。
その『彼』-イレブンとの関係までは知らないが、彼女もまた大切な人を守るために戦っているのだ。
違いがあるとすれば…彼女の守るべき人はイクスと違いこの殺し合いに呼ばれているということ。
鏡の中に閉じ込められたイクスと違って、手を伸ばせば届く場所に、触れられる場所にいるのだ。

(羨ましい…な)

他の仲間はともかく、イレブンのことについては、止めるのは難しいだろうと諦めた。
大切な人を修羅の道を進んででも守ろうとするその気持ちは、痛いほどに分かるから。
だからといって、手心を加える気はないが。

(とりあえず、そのイレブンって人以外の仲間とは、遭遇したいとこね。その人たちを…マルティナに殺させる)

それは、マルティナに仲間殺しの決意を促すというのもあるが、もう一つ思惑がある。
マルティナはイレブンと出会った時点で同盟を解消すると言っていた。
しかし、実際に人を殺してしまえば、合流することに心理的抵抗を覚えるだろう。
それが仲間の命であれば、なおさらだ。
もしマルティナの方に躊躇がなかったとしても、イレブンの方が拒絶する可能性もある。
そこを、突くのだ。

それと、もう一つ。
この計画は、マルティナにも話しておく必要がある。

「あ、そうだマルティナ」
「どうしたの」
「名簿をじっくりと見て気づいたんだけど…さっき知り合いは一人って言ったけど、その知り合いの友人の名前があったの」

如月千早、星井美希、萩原雪歩、四条貴音。
いずれも、春香から同じアイドル事務所の仲間だと聞いていた。

「知り合いの知り合いってこと?それがどうしたの?」
「彼女たちはみんな戦う力を持たないはずなの。だから…彼女たちのうち一人を、人質として確保しようと思うわ」
「…あなた、考えることがエグいわね」
「勿論、戦う力を持ってなければ彼女たち以外でも構わないんだけど…彼女たちなら、私が春香の知り合いってことで、彼女たちやその同行者の油断を誘えると思うの」
「その油断を突いて、確保するってことね。分かったわ」

ミリーナの提案を、マルティナは了承する。
本音としてはこれ以上同行者を増やしたくない…とも思うのだが、ミリーナの言う通り、人質を確保しておいた方が効率はよさそうではある。
あのソニックのスピードだって、人質がいればゼロにすることが可能かもしれないのだ。
そう考えれば、悪くない。

「そろそろ行きましょう」
「ええ」

話を終えた二人は、再び橋を南下し始めた。
それぞれの大切な人を守るために。

117選ぶんじゃねえ、もう選んだんだよ ◆OmtW54r7Tc:2020/01/02(木) 09:38:23 ID:sN7qUQj.0
【E-2/橋上/一日目 朝】

【ミリーナ・ヴァイス@テイルズ オブ ザ レイズ】
[状態]:健康 カイムへの若干の恐怖
[装備]:魔鏡「決意、あらたに」@テイルズ オブ ザ レイズ  プロテクトメット
[道具]:基本支給品×2、不明支給品0~2、春香の不明支給品0~1
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する
1.マルティナと共に他の参加者を探し、殺す
2.春香の友人や、その他の非戦闘員の中から一人、人質を確保する。
3.イレブン以外のマルティナの仲間を、マルティナに殺させる


※参戦時期は第2部冒頭、一人でイクスを救おうとしていた最中です。
※魔鏡技以外の技は、ルミナスサークル以外は使用可能です。
※春香以外のアイマス勢は、名前のみ把握しています。


【マルティナ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)  腹部に打撲
[装備]:光鱗の槍@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、キメラの翼@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
ランダム支給品(1〜0個)
[思考・状況]
基本行動方針:イレブンと合流するまでミリーナと協力し、他の参加者を排除する。
1.もうあなたを失いたくない……。
2.カミュや他の仲間も、殺す?


※イレブンが過ぎ去りし時を求めて過去に戻り、取り残された世界からの参戦です。イレブンと別れて数ヶ月経過しています。

118 ◆OmtW54r7Tc:2020/01/02(木) 09:39:02 ID:sN7qUQj.0
投下終了です

119 ◆2zEnKfaCDc:2020/01/06(月) 22:43:07 ID:dprLDvu20
申し訳ありません。予約を破棄します。

120 ◆vV5.jnbCYw:2020/01/11(土) 23:15:12 ID:Xo4kZgjk0
鳴上悠、ピカチュウ、ティファ予約します。

121 ◆vV5.jnbCYw:2020/01/12(日) 23:50:41 ID:IzTUL8CE0
投下します。

122チョッカクスイチョク ◆vV5.jnbCYw:2020/01/12(日) 23:51:33 ID:IzTUL8CE0
「ったく……とんでもない目に遭ったな……。悠、ケガはないか?」
「俺は別に。ティファは?」
「私も……と言いたいけど、ちょっとキツいわね。」


悠は先程のロボとの戦いで、ティファが足を負傷したのが分かった。
しかし、ロボがティファの脚に攻撃を加えた素振りは見せなかった。
恐らく、相手がギリメカラのような物理反射のスキルを身に着けており、ティファはそのカウンターを食らったと、悠は結論付けた。


病院から抜け出し、3人は近くの空き家に避難していた。
悠のネコショウグンは脚を怪我したティファに、メディラマをかけ続けている。


「スゴイ術だな。一体どんな手品なんだ?」
ピカチュウは悠のペルソナ召喚と、その回復魔法を見て感心する。

「手品じゃない。ペルソナって言うんだ。」
「よく分からないけど、ポケモンとは違うみたいだな。」

それ以上悠は説明する気はなかった。
なにしろペルソナの力なんて、八十稲羽町に来るまでは、悠も信じてなかった。



「マテリアを媒体とした召喚とも、違うみたいね。」
「そのマテリアってのは知らないな。」
「私の手袋に付いているこれよ。」

ティファはパワー手袋の手の甲の部分に付いている紫色の宝玉を見せる。

「それで、ペルソナを出せるのか?」
「違うわ。これは自分のスピードが上がる能力があるのよ。
幻獣を召喚できるマテリアとは違うわ。」


どうやらマテリアもペルソナとどこか類似点があるようだ。
特定のスキルを持つペルソナは召喚するだけで召喚主、あるいはペルソナの強化につながる。
ネコショウグンの電撃ブースタなど、その一例だ。


「それくらいにして、そろそろ飯にするぞ。」
互いの世界の話し合いを、ピカチュウが一度制す。


「あんな惨劇を見たら食欲なんて失せるかもしれないけど、食べなきゃこの先持たないからな。」
そう言ったピカチュウはザックの中からサンドウィッチを出して、頬張り始める。

「ほーら、腹が減っただろ。沢山食べな。」
「ブーブー!!」
勿論、ポカブに食べさせることも忘れずに。

123チョッカクスイチョク ◆vV5.jnbCYw:2020/01/12(日) 23:52:02 ID:IzTUL8CE0



「おっ、カレーが入ってたな。」
ティファの支給食料も同じようにサンドウィッチだったが、悠の支給品は何故かレトルトカレーだった。
しかもご丁寧に、レトルトのご飯まで同封してある。


『ゴロンの香辛料をふんだんに使ったカレーとハイラル米100%のご飯。おいしいよ!!』

カレーのパックの裏側には、馬鹿にしたような説明が書いてあった。
(ここには電子レンジもガスもないぞ、ハズレ支給品か?)

そう思ったが、パックを開けるとは電子レンジで温められたかのように湯気を出している。
ご飯も同じようにホカホカだ。


「おっ、何か珍しいモノ食べてないか?」
「ああ。カレーを食べることが出来るなんて思わなかったな。」

幸いなことに空き家にはスプーンと皿は置いてあったため、少なくともここで食べるのに問題はなかった。

「うん。結構美味しいな。」
香辛料の辛さも適度ながら、米もレトルトとは思えない程良い味を出している。
具材も野菜だけだが、レトルト食品にありがちな貧相な味ではなく、香辛料の味が染みながらも野菜の甘みが残っている。

すぐに完食してしまった。
これを作ったのが主催側だとしたら、意外に良い腕があるのではないか、と悠は思った。


カレーを食べると、思い出してくる。
林間学校で千枝と雪子の作った、カレーとは思えない物体。
ダークマターと呼んでもおかしくなかった。


あまりにもひどい味で、本当にカレーの素材で作ったのか聞きたくなったくらいだった。
完食できた人は誰もいなくて、他の班の人に料理を分けてもらって事なきを得たのだが。


美味しいか不味いかで聞かれたら、あのカレーはどう考えても不味かった。
でも、今自分はその不味いカレーを求めているのも分かっていた。


『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる?』

そして、悠は知ることになる。


二度と食べたくなかったカレーを、二度と食べることは出来なくなってしまったことを。

「悠。」
「悠!!」


ティファとピカチュウが、声をかけた。
「しっかりしろ、悠!!」
「ああ、すまない。」

悠はどこかで思っていた。
自分達の友情は、決して壊れることはないと。
そんなことはあり得ないし、雪子の名前を呼ばれる前に、完二の首が飛んだ時に壊れたはずだった。
きっと元の世界に帰れても、二人が死んでしまった事実はずっと付き纏うだろう。
だから、どうする?
主催者が死んだ仲間を生き返らせてくれるという、針の先ほどもない可能性にかけて殺し合いに乗るのか?

124チョッカクスイチョク ◆vV5.jnbCYw:2020/01/12(日) 23:52:26 ID:IzTUL8CE0

しかし、それを行う気にはならなかった。
全てのペルソナを出せる状況ならまだしも、ヨシツネとネコショウグンのみで捌ける相手ばかりという可能性は低い。

それ以上に、人殺しの果てに再会した仲間の顔を、どうやって見ればいいか分からない。


「どういうこと……?」
転送されたとマナが言っていた、名簿をめくっていたティファが声を出した。


「誰か、知り合いがいたのか?」
知っている人も何人かいたが、それ以上にティファが気になったのは、かつての世界で死んだ人が3人もいたことだ。

「この名簿、私の世界で死んだ人がいるの。」
「「!?」」


一人目のティファが知っている死者、セフィロスがいたのはカエルの情報で既に知っていた。
だが、彼の生存報告は、初めてのことではなかったのでさほど驚きはしなかった。


セフィロスは5年前、ニブル魔晄炉でクラウドに刺されて死んだはずだった。
だが、ライフストリームの深淵の中で、再び星を手中に収めることを夢見ていた。
その後、自分やクラウド、他の仲間達と今度こそ討伐を果たした。


だがもし、何らかのはずみでまた生きていて、この戦いに参加していても、特に不思議はなかった。


それ以上にティファが驚いたのは、後の二人の死者のこと。
エアリス・ゲインズブール。
星の未来を守るために、白マテリアを操り、それが原因でセフィロスに殺害されたかつての仲間。


ザックス・フェア。
5年前のニブルヘイムに任務でやって来た青年。
そして、クラウドの幻想だった男。
任務中豹変したセフィロスとの戦いに巻き込まれ、その後死亡したらしいが、この戦いの名簿に載っている。


「俺はそもそも知り合いが呼ばれていなかった。
悠の仲間が見せしめに殺されたと聞いたから、ティムも参加しているのかと思ったけどな。」


「死んだ人はいなかったな。けど知り合いが完二以外にも3人……。
あと、以前同じ高校で、逮捕された人もいた。」
その3人の内、1人が呼ばれたのだということは、悠以外の二人にも分かった。


死者を蘇らせたということは、この戦いの主催者は予想以上に恐ろしい存在と言うことになる。

125チョッカクスイチョク ◆vV5.jnbCYw:2020/01/12(日) 23:52:56 ID:IzTUL8CE0


「悪いけど、もう私は行くわ。」
ティファは名簿を読み終わると、すぐに玄関から出ようとする。


「どういうことだよ。一人で行くつもりか?」
慌ててピカチュウは止めに入る。


「そうよ。奴との戦いに、あなた達を巻き込めない。」
そもそもカエルからセフィロスの話を聞いた直後、真っ先に向かうつもりだった。
しかし、ピカチュウが助けを求めにやってきたため、その計画を一時的に破棄することになった。
そして、病院での戦いで、脚が負傷してしまったため、今こうしている。


幸いなことに、悠のメディラマと休息によって、脚はある程度は回復した。
流石にカエルを助ける時のような動きはまだ出来ないが。


「待てよ!!そいつ、とんでもなく強い奴なんだろ!?」
ピカチュウは止めようとする。

「だからこそよ。早くセフィロスを殺さないと、死者が出るわ。
いや、もう出ているかもしれない。」

どんなカラクリで復活したのかティファも分からないが、彼が復活したのだとしたら、自分達への報復を目論んでいるはずだ。
幸いなことに、彼女の知り合いに犠牲になった者はいなかった。
今のうちに、刺し違えてもセフィロスを止めねばと、焦る気持ちがあった。


「一人だけじゃ無茶です!」




それに、この世界ではどうにも回復力が低い。
いくら中級魔法のメディラマとはいえ、回復量が少なすぎる。
まだ完治も出来ていないのに、一人で強敵に立ち向かうのは無謀としか思えなかった。


「じゃあ、奴が何処にいるのか分かるのか?」
再びピカチュウが問いかける。

「分からないわね……。」
ティファはそう答える。
セフィロスについての情報は、既に死んだカエルからのみ。
しかもカエルがセフィロスからの襲撃を受けてから、大分時間は経っているはずだ。


ティファがいる場所とは離れて行ってしまった可能性だって低くはない。
それは、ティファにも分かっていた。

「俺は仲間……陽介と千枝を探したい。」
「分かった。私の仲間探しも兼ねて、協力するわ。」

126チョッカクスイチョク ◆vV5.jnbCYw:2020/01/12(日) 23:53:18 ID:IzTUL8CE0


「それと、俺はもう一人探したい人物がいるんだ。
悠、前に持っていたって言っていた工具箱を見せてくれ。」

「……ああ、これのこと?」

話の筋が分からないまま、工具箱を出す。
ピカチュウはそれを手に取り、箱を開けるかと思いきや、側面に注目する。


「二人共ここに描いてある絵、見覚えないか?」
「それは……!!」


ドーム型の頭に、そこから二つ見えるアイセンサー。
顔だけしか描かれてないが、紛れもなくつい先程悠達が戦ったロボの絵だった。

「それと、この横に書いてある『L』って文字、恐らく持ち主のイニシャルだな。」
「そういうことか!!」

「この持ち主の『L』って人物を見つけたら、あのロボットをどうにか出来るんじゃないか?」


ピカチュウもロボのおかしな様子や支離滅裂な言動を観察して、結論を出していた。
あのロボも、凶暴化させられたポケモンのように、誰かに何らかの手段でおかしくされている。

「名簿から見ると、『L』の人物はこの辺りにいるわ。苗字か名前か分からないけど……。」
ティファが名簿に線を引いていく。


「リーバル、リボルバー・オセロット、リンク、ルッカ、レオナール、レオン・S・ケネディ、……こんなところね。」

「でもこの工具箱の持ち主が偽名だったり、既に死んでいたらどうするんだ?」
実際に先程ティファが引いた線の中で、レオン・S・ケネディとレオナールは放送で呼ばれていた。
それに、ハンター、魔王と、称号らしき名前もある。
悠の世界での直斗やクマ、りせのように参加していない可能性も加味しなければならない。


「その時はその時だ。この工具箱の持ち主を探すことは、他のヤツを探すのと一緒に出来るだろ。」


確かに、悠にとっても、ピカチュウにとっても、情報が少なすぎる。
首輪を解除するにも、ロボを助けるにも、強力なマーダーを退治するにも、他の参加者との接触が必要だろう。

127チョッカクスイチョク ◆vV5.jnbCYw:2020/01/12(日) 23:54:59 ID:IzTUL8CE0


「さて、そうと決まったら出発だな。悠、その杖を貸してくれ。」
「いいけど、何に使うんだ?」
ピカチュウは工具箱を悠に返し、代わりに女神の杖を借りる。
杖を垂直に立て、わくわくした顔でピカチュウはこう言った。


「これが倒れた方向…「この近くにある学校へ行きたいな。」
「知っている場所があるなら、先に言ってくれよ……。」

ピカチュウは少しシワっとした、落ち込んだ顔を見せた。
少し悠は悪いことをしたかな、と感じた。

「ポカ!!ポカブー!!」
「そうだな。ポカブの主人も見つけてやらねえと。」

ピカチュウに分けてもらったサンドウィッチを食べて、やる気を見せるポカブだが、一度モンスターボールに戻った。

「それじゃ、改めてよろしくね。」
ティファもそこに同行する。







我は汝……、汝は我……
汝、新たなる絆を見出したり……


絆は即ち、まことを知る一歩なり


汝、”戦車”のペルソナを生み出せし時、
我ら、更なる力の祝福を与えん……



【D-5/市街地 (空き家)/一日目 朝】

【鳴上悠@ペルソナ4】
[状態]:ダメージ(小) SP消費(中)
[装備]:女神の杖@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ルッカの工具箱@クロノ・トリガー
[思考・状況]
基本行動方針:リーダーとして相応しい行動をする。
1.八十神高校へ行く。
2.自分とティファの仲間、そして工具箱に書かれた『L』を探す。
3.完二の意志を継ぐ。

※事件解決後、バスに乗り込んだ直後からの参戦です。
※ピカチュウと絆を深めたことで"星"のペルソナを発現しました。『ネコショウグン』以外の星のペルソナを扱えるかどうかは以降の書き手さんにお任せします。
※誰とも特別な関係(恋人)ではありません。
※全ステータスMAXの状態です。
※ティファからマテリアのことを聞きました。
【ピカチュウ@名探偵ピカチュウ】
[状態]:健康
[装備]:モンスターボール(ポカブ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1.八十神高校へ行く。
2.悠とティファの仲間、そして工具箱に書かれた『L』、ポカブのパートナーを探す。

※本編終了後からの参戦です。
※電気技は基本使えません。
※ティファからマテリアのこと、悠からペルソナのことを聞きました。
【ティファ・ロックハート@FF7】
[状態]:ダメージ(小) 脚に怪我(走るのにやや難あり)
[装備]: パワー手袋@クロノトリガー+マテリア・スピード(マテリアレベル3)@FF7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0~1個)
[思考・状況]
基本行動方針:マーダーから参加者を救う
1.八十神高校へ向かう。
2.自分と鳴上悠の仲間、そして工具箱に書かれた『L』を探す。
3.仲間を集めて、セフィロスを倒す。

※ED後からの参戦です。
※ティファ・ロックハートのコミュニティ属性は"戦車"です。
※悠からペルソナのことを聞きました。

【支給モンスター状態表】
【ポカポカ(ポカブ ♂)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康  満腹
[特性]:もうか
[持ち物]:なし
[わざ]:たいあたり、しっぽをふる、ひのこ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルを探す
1.ピカチュウ達について行き、ベルを探す。
2.強くなってベルを喜ばせたい。

128チョッカクスイチョク ◆vV5.jnbCYw:2020/01/12(日) 23:55:15 ID:IzTUL8CE0
投下終了です。

129 ◆2zEnKfaCDc:2020/01/20(月) 00:16:30 ID:yKpqdRCI0
ベロニカ、リーバルで予約します。

130 ◆2zEnKfaCDc:2020/01/21(火) 00:16:45 ID:UV72uxWo0
投下します。

131見上げた空は遠くて ◆2zEnKfaCDc:2020/01/21(火) 00:17:26 ID:UV72uxWo0
朝焼けの中、殺し合いの空に影がふたつ。それはこの世界でも有数の空を飛べる者、リーバルがベロニカの肩を掴んで浮遊移動している図である。
子供の姿であるベロニカの移動速度や重量を踏まえると、それぞれが歩くよりもリーバルがベロニカを掴んで空を飛ぶ方が明らかに速いのだ。

「放送はどうだったんだい?」

第一回放送が終わると、リーバルは尋ねた。

「元の世界からの仲間はみんな無事だったわ。でも、そうね……強いて言うなら──敵でも、味方でも無いやつが死んだくらいかしら。」

『グレイグ』

ベロニカの知る者の名前はひとつだけ呼ばれていた。だが、ベロニカはそれに何の感慨も示しはしない。『敵でも、味方でも無いやつ』、それがベロニカにとってのグレイグの評価だった。

デルカダールのふたりの英雄、『双頭の鷲』はどちらも自分たちを追っていたけれど、命の大樹で闇の力を積極的に操っていたホメロスとは違ってグレイグはウルノーガに利用されているだけだったという印象だった。
あの正義感の塊のような男がウルノーガの配下だったとは思えない。

主君への忠義や命令の遂行能力などは評価する。しかし結果として悪事に加担してしまっていたことを水に流せるわけでもない。
マナがグレイグを評していた、『一人で空回って、馬鹿なやつ』という言葉を思い出す。きっとここでもあの男はそうだったのだろう。出会った相手でも間違えたか。

もしかすると、手を取り合って同じ敵に立ち向かう未来もあったのかもしれないけれど、そんな未来を知りえないベロニカは小さく悪態をついた。

132見上げた空は遠くて ◆2zEnKfaCDc:2020/01/21(火) 00:18:41 ID:UV72uxWo0
(『敵でも、味方でも無いやつ』、か……。)

ベロニカの言葉を聞き、リーバルも考え込む。

『ウルボザ』

リーバルの知る者の名前も放送には含まれていた。
かつてのリーバルにとって、『敵』はたくさん居た。厄災ガノンを初めとする魔物たちは言うまでもなくだが、リーバルの功績に嫉妬して飛行訓練中に弓矢で妨害を図ったリト族の愚か者なんかも程々にいた。勿論、そのような輩には相応の報いを受けてもらっていたのだが。
逆に、自分の実力を尊敬するリト族の民たちの多くは『味方』とカテゴライズするに相応しいのだろう。そういった者たちのためになら、リーバルは飛行訓練場を誰でも使えるように開放するなどの見返りは渋らなかった。

だけれども、ウルボザを含む英傑たちは『敵』でも『味方』でも無かった。

例えば、相応の修行を積んだ上で自分に宣戦布告して真っ向から挑んでくるようなリト族なんかは嫌いではなかった。それ以上の実力で打ち倒しはするが、彼らの栄誉を損なわせたりはしない。だがウルボザたちはそういった輩とも違う。そもそも自分と競い合うという意思すら無かったのだから。
それでいてそれぞれが違う方向に特化しており、その分野については自分が何かを施すまでもなく、自分以上の何かを持っていた。だから、『味方』と呼ぶにも気に入らなかった。

「僕もわざわざ悼むような相手は居なかったさ。1人を除いて、ね。」

その1人とは、ウルボザのことではない。
そもそも100年も昔に死に別れした相手だ。死んでいるのが摂理であり、今更その死に感慨などは湧かない。

ベロニカもリーバルも元の世界の知り合いについて放送で心を乱されることは無かった。しかし、この世界での出会いは別である。

『マールディア』

すでに放送で呼ばれることを知っていたその名前だけが、彼らの心を乱した。

ベロニカにとっては、彼女との関わりはそれほど長くも深くも無かった。だけど、彼女は自分を庇って、目の前でその命を散らした。

133見上げた空は遠くて ◆2zEnKfaCDc:2020/01/21(火) 00:19:24 ID:UV72uxWo0
彼女が死んだことだって、彼女の最後の言葉だって、わざわざ放送なんかで改めて突き付けられなくても、痛いほど知っている。
だけどベロニカは知らなかった。残される側の気持ちなんて。
心にぽっかりと空いた穴がいつまで経っても埋まらない。実は研究所に行けば平気な顔で生きているのではないかいう逃避地味た考えすら生まれてしまう。
会えるべくして会えていた人間と。話せるべくして話せていた人間と。邂逅の機会が永遠に失われたことへの実感が未だに湧かない。

あたしが死んだ時、皆もこんな気持ちだったっていうの?
死んだのはあたし?皆が助かったのならそれで良かった?冗談じゃない、そんなのはただの自己満足だ。残された側の気持ちってものを全く考えていない。

残された側にだって想いはある。
こうしてその側に立って突きつけられるまでもなく、他者の気持ちを慮ることの出来る頭を持っているのだから。そんなこと、分かっていてしかるべきだったのに。

カミュは自分が死んだことを知らなかった。それがわかった時には怒りを覚えた。パーティーも散り散りになったであろうあの命の大樹の崩壊の後、死体が発見されるまで行方不明の扱いであったであろう自分を探すこともなく旅を続けていたのか、と。

だけど自分が残された側になることで分かった。
残された彼らが、居なくなった仲間を探しもしないなんて有り得ない。仮に自分の死体が見つからなかったとしても、カミュの反応は探し求めていた行方不明の仲間とようやく出会えた時の反応では無かった。
それでは、あのカミュとの奇怪なズレは何だったのか。
ベロニカが考えることが出来た可能性は、ひとつしか無かった。

本来は、もう少し早く考えるべき可能性だった。元々この殺し合いに招かれていた人物は皆元々は死人であるとすら思っていたのだから。

134見上げた空は遠くて ◆2zEnKfaCDc:2020/01/21(火) 00:20:52 ID:UV72uxWo0
「カミュもあの崩壊で死んだのね……。それしか考えられないもの。」

きっと、それが答えなのだろう。
自分はあの時、皆を守りながら散れたと思ってはいたが、少なくともカミュは守りきれなかったのだ。おそらくは、カミュだけでなく他の皆も同じだ。放送で配られた名簿にロウの名前が無いことから、あの人だけは生き延びたと考えてもいいかもしれないが、他の勇者のパーティーは全滅し、生き返らせられた上でこの殺し合いという余興の駒に成り果てた。
そう考えれば、様々なことに辻褄が合うのだ。

ひとつ辻褄が合わないことがあるとすれば、カミュの中ではあの危機を退けたのは自分ではなくイレブンだということになっていたということだろうか。
それもおそらく、崩壊の最中に記憶の混乱か記憶喪失に陥ったというところだろう。多少強引な解釈ではあるが、少なくともカミュたちが行方不明の自分を探すことすら無かったという仮説よりはずっと信憑性がある。



「本当にそれで良いのかい?」

そんな考察をベロニカが話しているところに、リーバルは横槍を入れた。

「良いも何も、それしか無いのよ。受け入れるしかないじゃない。」

「君の話を聞いて、気になったことがあるんだけどさ……」

放送前に、リーバルはベロニカのこれまでの話を大雑把に聞いている。ベロニカが死ぬに至った経緯も、殺し合いに招かれてからの方針やカミュとの微妙な噛み合わなさも。その話を聞いて、カミュがベロニカに会う前に死んでいたという可能性が真っ先に頭を過ぎったのは事実だ。
だけど、ベロニカの『死』と自分の『死』にひとつの相違点を見出したのもまた事実。

135見上げた空は遠くて ◆2zEnKfaCDc:2020/01/21(火) 00:21:48 ID:UV72uxWo0
「どうして君は死後の記憶が無いんだい?」

そう、リーバルは死後も魂となって意識は常に在り続けた。風のカースガノンの力に囚われて100年間神獣ヴァ・メドーの体内から出ることこそ出来なかったが、ベロニカの言うように死ねばそこで意識が終わるということは無かった。

「そんなの、あるわけないでしょ。」

「生憎、僕には100年分あるんだよ。つまり僕の死と君の死は決定的に異なっているんだ。」

ここで、死者であるという2人の共通点にひとつの疑問が提示された。

「……何でよ?」

「さあね。それだけ僕の魂に素質があったのかもしれないし、君の魂が大したこと無いだけの話かもしれない。」

煽るようなリーバルの言葉に、ベロニカはムッとした顔をする。しかしベロニカを掴んだまま空を飛んで移動しているリーバルにその表情は見えない。

「……悪かったわね。」

「おや、怒ったのかい?僕と君とで差があるのは仕方の無いことなのにね。

でも、別の可能性もある。
例えば、君が死後の記憶を残すより前に。つまり君の死んだ直後に、この殺し合いが開かれたと考えればどうだい?それならばカミュが君の死を知らないことも、君が死後の出来事を把握していないことも納得出来るだろう?」

その仮説を聞いたベロニカは一瞬、縋りたくなったのは確かだ。しかし棄却せざるを得ない。自分が死んだのは、ウルノーガが勇者の力を奪った直後の話。そんな数刻にも満たない時間で首輪を用意し、参加者を募り、自分を生き返らせたなんていくら勇者の力を込みで考えても人智を超越しすぎている。

136見上げた空は遠くて ◆2zEnKfaCDc:2020/01/21(火) 00:22:44 ID:UV72uxWo0
「……そんなことが出来るのが敵だって言うのなら、むしろ絶望的でしかないわ。」

「かもしれないね。でもカミュや他の仲間が死んでいることに疑問はまだまだ挟めるってことさ。」

そう言いながら、リーバルの身体は急に下降する。5分間以上空を飛び続けていると首輪を爆発されるからだ。

着地という目的を終えて飛ぶことが再び許されたリーバルは再び空へと舞い上がる。
たったそれだけの所作が、ベロニカには羨ましく思えた。
崩壊した命の大樹から落ちていった自分は、もう二度と空を目指すことはできなかったのだから。

だけど、せめてイレブンたちの翼にはなりたかった。
彼らが再び空を目指せるよう、最後の後押しだけはできたのだと思いたかった。

「……まだ、信じていてもいいのかしら。あたしの死は無駄じゃなかったんだって……あたしは未来を守ったんだって……。」

「ああ、勝手に信じていなよ。真実は、僕が明らかにしてやるから。」

リーバルがハンターに頼まれた役目はベロニカをイシの村に連れていくことだ。ベロニカの仲間の元の世界での生死など、リーバルにとってはまったくもってどうでもいい。

だがリーバルは、自分を侮る者には相応に分からせてやらねば気が済まないタチである。
半ば戦力外通告気味にベロニカと共に自分を怪物から遠ざけたハンターに対して、言われたことのみしか遂行しないのはどこか癪だった。
ハンターの期待以上の仕事をこなして、そして次に再会した時には奴の口から言わせてやろう。『お前を戦場に残していれば、もっと早く片付いていただろう』とでも。

「……そう。頼りにしてるわ。」

そしてリーバルは、自分の実力を頼りにする者には相応の成果を返さなくては気が済まないタチでもある。
だが、自分を頼っていたマールディアは死んでしまった。人々を護る使命を授かった英傑である自分が、護れなかった。

今度こそは、護ろう。
僕の、プライドに賭けて。

137見上げた空は遠くて ◆2zEnKfaCDc:2020/01/21(火) 00:23:26 ID:UV72uxWo0
【B-4/美術館より東/一日目 朝】
【リーバル@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康、苛立ち
[装備]:アイアンボウガン@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、召喚マテリア・イフリート@FINAL FANTASY Ⅶ、木の矢×4、炎の矢×7@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[思考・状況]
基本行動方針:オオワシの弓を探す。
1.銃を持った男(錦山)を探しつつ、イシの村を目指す。
2.弓の持ち主を探す。
3.首輪を外せる者を探す。


※リンクが神獣ヴァ・メドーに挑む前の参戦です。


【ベロニカ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:MP消費(中)、不安
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:ウルノーガを倒す。
1.リーバルと共にイシの村を目指し、カミュ達と落ち合う。
2.ごめんなさい、マール……。
3.自分の死後の出来事を知りたい。
4.カミュが言っていたことと自分が見たものが違うのはなぜ?


※本編死亡後の参戦です。
※仲間たちは、自身の死亡後にウルノーガに敗北したのだと思っています。




(……それにしても。やっぱりこの殺し合いの背後には得体の知れない力が蠢いているようだね。)

リーバルは考える。
仮死状態ならまだしも、完全に死んだ者の蘇生なんて癒しの力の使い手であるミファーにも不可能だ。英傑はそれぞれ全く異なる方面に特化しているため安易に比較することは出来ないが、その地点で主催者は英傑をも超える力を持っているようだ。
また、ベロニカの死は分からないが、少なくとも自分が死んだのは100年も昔の話だ。魂こそハイラルに残ってはいたとはいえ、肉体は100年の間に原型すら分からないほどに腐り果てているはず。それが現在、身体は完全に修復されている。運動機能も100年前と比べて特に劣っているようには感じない。
一体どうすれば、100年前の身体をここまで綿密に最前できるというのだろうか。

(マールは時代を超えて戦っていたとか言ってたっけ……?)

その時、ふと自分が護ることのできなかったあの少女のことが思い出された。
もし肉体だけを100年前の世界から持ってこられるとしたら、自分の肉体が残っていることとも辻褄は合う。

(だとしたら、この殺し合いの裏には……?)

ベロニカに聞こえないように、小さく溜め息を漏らした。
本当に嫌になる。このリーバルが、敵の勢力の強大さに多少とはいえ恐れを抱くとは。

(さて、どうするんだい?リンク。今度ばかりは……君にもどうにも出来ないかもしれないよ?)

138 ◆2zEnKfaCDc:2020/01/21(火) 00:23:39 ID:UV72uxWo0
投下終了しました。

139 ◆vV5.jnbCYw:2020/01/31(金) 16:23:11 ID:cLCIEcBE0
セーニャ、セフィロス予約します。

140未知への羨望 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/02(日) 19:15:47 ID:1ILM.8wA0
聖女、いや、聖女だった存在が道を進む。


道の先から、強い死臭を感じた。
そこへ行くと、無残に切り刻まれた死体が転がっていた。
彼女は、雷電の死体を見て、苛立ちを覚える。
自分もこのように人を破壊したかった。


誰かこの展望台の上に生き残りはいないのかと、登る。
しかしその先で見たのは、机の上の一枚の紙だけだった。

【A-6】


極めてシンプルなその文面は、この展望台にいた者で、下に転がっていた金髪の男を殺した者の紙だと察しがついた。

参加者に向けた挑発を行うことが出来るということは、壊し甲斐があるということ。
すぐにでも展望台から降りようとした時、やや離れた北の方角から黒い煙が見えた。


それは、セフィロスが先程スネークに放ったファイガの跡だということを彼女は知らない。



すぐに展望台を降り、焦げた草をかき分け、より壊し甲斐のある相手への期待に胸躍らせ、足を速める。


その先に、標的としていた存在がいた。
2m近い長身に幅広の剣、そして、腰まで届くほどの長い銀髪を携えている。


自分と同じ北側に向かっているようだ。
どうやら自分に気付いていないと感じる。


しかし、それでいてなお、全身が金縛りにあったかのような威圧感を感じる。
その感覚を心臓から四肢の先まで受けたセーニャは、ある感情が湧いた。


壊したい。
獲物が強いほど、壊す快楽も比例するはずだ。
きっと姉の次ぐらいに壊し甲斐のある獲物だろう。
それこそ、最初に殺した金髪の青年や蝙蝠の魔物とは比べ物にならないほど。
出来るだけ力を使って壊そう。
全身を焼き、次いで氷漬けにしよう。
終わったら、槍で臓器の一つ一つを砕こう。


「メラゾーマ。」
ニタリと聖女らしからぬ醜悪な笑みを浮かべ、魔法の詠唱を唱えた。

141未知への羨望 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/02(日) 19:16:22 ID:1ILM.8wA0

「何だ?」
セーニャの魔法に、銀髪の男、セフィロスはようやく気付いた。
ファイガにも勝るとも劣らない巨大な火球が、目の前に迫り来る。


「煩いな……。」
しかし、最強のソルジャーと呼ばれた男は、何も動じずにファイガで弾き飛ばそうとする。
二つの火球は、セフィロスの方がやや優勢と言うくらいだった。

しかし、火炎弾はもう一つあった。


セーニャのベロニカから受け継いだ、山彦の心得の影響だ。
優勢だったファイガは、予期せぬ第二の敵弾によって、押し返される。

「………。」


セフィロスは無言で、二発のメラゾーマと、ファイガの凄まじい炎に飲み込まれた。
そのメラガイアーにも並ぶ熱さは、爆心地からやや離れていたセーニャにまで伝わる。


「やはり強い力を持っているのですね。ふふ、ふひひひひ……。」
不気味に微笑みながら、焼け跡に近づく。

「まだ、終わりません……。凍り付きなさい。」
その場所に、マヒャドの氷が降り注ぐ。
辺りはなおも見えない。
ただマヒャドの冷気が、メラゾーマとファイガに熱せられ、水蒸気がもうもうと上がっている。



霧が晴れぬまま、セーニャは槍を構え、セフィロスがいるであろう場所に近づく。
今度は、めった刺しにしようとするつもりだった。

どんな感触が手に伝わるだろうか、何度刺せば死ぬだろうか。
ただ、壊すことの楽しみのみを、胸に抱いていた。

鮮血が迸る。



セーニャの背中から。
「なっ……効いていない?」

どんなに強い炎魔法でも、炎の完全耐性があれば意味がない。
だが、そんなものではなかった。


ジェノバ細胞が持つ防御力と、セフィロスの生命力、瞬発力が3発分の巨大火炎魔法を凌いだのだ。

142未知への羨望 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/02(日) 19:17:02 ID:1ILM.8wA0
セーニャの真後ろに最強のソルジャーと呼ばれた男が佇んでいた。
常に動かぬ笑みを浮かべ、慈悲の欠片もない冷たい眼でセーニャを見つめる。


「いや、あの炎はまともに食らえば私ですらどうなっていたか分からない。」
服の左袖は焼け焦げ、そこから見える左腕からもそれなりの火傷が見えた。

しかし、それは直撃するには至らなかった。
済んでの所で躱され、結果として命中したのは左半身の、その先端のみだった。


マヒャドの詠唱の間にセフィロスは後ろに回り込み、カミュ達につけられた傷が治ったばかりの右手で持ったバスターソードで斬りかかった。
そのスピードは、後衛職であるセーニャにとても見切れるものではなかった。


しかし、血を失ってなお、黒の倨傲でセフィロスを串刺しにしようとする。
「遅い。」
「があっ……!!」


その攻撃は届かず漆黒の槍は、持ち主の右腕ごとバスターソードで斬り飛ばされた。
背中を斬りつけられた時以上の血が、手首から噴き出す。
セーニャが好んでいた緑色の服と対照的な色が、服を汚す。


「うう……私………一体何を!?」
(どういうことだ?)

セーニャの目は、破壊への羨望が抜けていた。
黒の倨傲を失ったことで、槍がもたらす破壊の衝動からも逃れられたのだ。


しかし、自分の目的を果たそうと槍に左手を伸ばす。
再び黒の衝動に正気を失うことと引き換えに、破壊を続けようとする。引き換えに


全ては、手遅れだった。
槍を握り締める時に、その腕を踏み潰す。


「あ“っ………。」
鈴の音のような美しい声の持ち主とは思えない、蛙を潰したような声が漏れた。


そのまま殺す、と思ったが、セフィロスは一つ興味が湧いた。
目の前の女性は、魔法の分野だけとはいえ、自分に打ち勝った。
破壊への願望の赴くまま、自分を殺そうとした。
今もなお、魔物のような眼光を、こちらに向けている。


しかし、槍を手放した瞬間、一瞬だが殺意の意識が消えたように思えた。
それなら槍に呪われ、いいように扱われた、と断定すればよい。

(この娘は、心に何を持っている?何を望んでいる?)
だが、再び槍を手にし、呪いを受け入れようとするとは、どうにも腑に落ちない。

143未知への羨望 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/02(日) 19:17:22 ID:1ILM.8wA0

そして、疑問はもう一つあった。
自分が目の当たりにした魔法。
どこかファイガやブリザガと異なる印象を受けた。
ライフストリームにかつて自分が落ちた時、マテリアの知識は一通り得たはずだから、知らないマテリアと言うのはおかしい。



セーニャが持っていた槍をじっくりとながめる。
マテリアやそれらしきものはどこにも見当たらなかった。


セフィロスは結論付けた。
この娘は魔晄に侵された生物と同様に、マテリアなしで魔法を紡ぐことが出来る。
もしかすると、魔晄とは異なる力なのかもしれない。




最初に展望台付近で戦った三人、そして、放送近くに会った男からは、特に興味深い力は感じなかった。
いくら見たことのない力や技術を見せられても、自分の力と並ばなければ、価値はない。


だが、セーニャに対しては興味が湧いた。
マテリアもなしに、自分のファイガさえ上回る強力な魔法を使えることに。
そして、その力を用いて何をするか。
何を思って、自ら破壊の呪いを望むのか。


だからこそ、それを知るための方法が必要だった。


行動を決めたセフィロスは、極めて迅速な動きで、自分の掌にバスターソードで傷を入れた。
そしてその血が滴る手で、セーニャの腕の切り口を握り締める。


それはなおも噴き出す血液を止め、失血死を防ぐためではない。
輸血をするためだ。
ジェノバの細胞を含んだ血液と、僅かな肉片を、聖女に流し込むためだ。
この未知なる力が渦巻いた世界で、新たな情報を提供するセフィロス・コピーを造るためだ。

かつてセフィロスは各地にばら撒かれていたジェノバの断片や、ジェノバ細胞を埋め込まれたセフィロス・コピーを操り、メテオの情報収集や黒マテリアの入手を図った。


「っっッッ!? な……に………を………!?」
セーニャの心臓が、ドグッと異常な動き方をした。
最初は僅かな違和感。
それから、神経が何かに食い荒らされていくような感覚を覚える。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!
ぁああああああああああ!!!」

鼓膜が破れんばかりの慟哭。
セーニャの頭の中で、プツンと何かが切れたような音が聞こえた。
それから、眼の中でカラフルな幾何学模様が浮かび上がる。
からくりエッグの中に入ってジャンプした時のような奇妙な浮遊感に襲われ、まともな姿勢を保っていられなくなる。


「………。」
目の前の男が静かに笑った。
先程までは殺意を放っていた男が、只の壊す対象でしかなかった男が、何故か神々しく感じる。

『星の力……マテリア……クラウド………メテオ……黒マテリア……ジェノバ……ソルジャー……魔晄……ライフストリーム……』

訳の分からない言葉が、矢継ぎ早に頭に入り込んでくる。
自分が自分でなくなってしまうような気にさえなる。
そして、形はどうであれ愛した姉の顔が、消えていきそうになる。


(私とお姉さまはきっと芽吹く時も散る時も同じですよね?)
(セーニャはいつもグズだからどうかしら。
………でも、そうだといいわね。)

144未知への羨望 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/02(日) 19:17:43 ID:1ILM.8wA0
姉と、最後に交わした言葉。
あれが、最期の言葉になるとは思わなかった。
だが、忘れない。忘れてはならない。絶対に姉様を忘れるわけにはいかない。
どんな異常な力の持ち主だろうがそれだけは譲れない。
私と姉はずっと一緒だ。
ついさっきまで槍の力に駆られていたのと、相手の怪しい力で頭が上手く回らない。
でも、これだけは言える。
一緒だから、生まれるときも死ぬときも一緒だ。


セフィロスの脚を払い、踏みつけによる拘束から脱出する。


姉のこと、ベロニカのことだけは忘れてはならない。
逃げよう。
何時かはこの男も殺す。
だが、今は場が悪すぎる。

誰かの操り人形になってたまるか。
私が求めていた破壊とは違う。こんなのは間違っている。


「何処へ行こうとしているのだ?」
しかし、その先にはセフィロスが立っていた。


頭を握られる。そのまま宙吊りにされる。
「離しな……さい………!!」
「煩いな……。」
(ほう……まだ、自我が保てるか……。)
頭蓋骨が軋む痛みと、頭の中を覗かれているような奇妙な感覚を覚える。


身体を揺するが、何の抵抗にもならない。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


―――何年もお姉さまの妹をしていますもの。ちょっとお姿が変わったくらいで間違えたりしませんわ。

―――私たちは、勇者を守る宿命を持って生まれた聖地ラムダの一族。これからは、命に代えても、あなたをお守りいたします。

―――私とお姉さまはきっと芽吹く時も散る時も同じですよね?


(これが記憶か。それからどのようにこの娘は変わる?)

セーニャの記憶を共有しながら、当初の予定だった北へと向かう。
この場所が禁止エリアになるまでは、まだ3時間と少し残っている。
だが、再び邪魔が入る可能性もあるため、出発し始める。


―――お姉さまはもういない。……どこにもいないのですね。

―――ごめんなさい。イレブンさま。やっと心の迷いが晴れました。

―――……私は、私は皆様を……救いたい……!

―――さあ、壊しましょう。過ぎ去りし時を取り戻すために……。そしたらもう一度……ぜーんぶ、壊せますもの…。

―――ふひっ……ふひひひひひひっ……奏でましょう、あくまの調べを……

145未知への羨望 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/02(日) 19:18:05 ID:1ILM.8wA0
(失った姉のために壊し、再び壊すことを望む…というわけか……くだらん。)
丁度【C-5】を出て、【B-6】に入った時、セフィロスはセーニャの情報を一通りインプットし終えた。
その後、何の面白みもないように彼女を投げ捨てた。


死んだ姉の為に心が壊れ、今度は自分が死を振り撒こうとする。
誰かの為に人は予想できないような力を発揮する。それは知っている話だ。
実際に自分はクラウドの故郷と家族を焼き払ったことで、怒りを買ってライフストリームの深淵に叩き込まれた経験がある。


だが、常に一人だったセフィロスには、到底共感できる話ではなかった。
セーニャが使っていた魔法の知識も一通り手に入れたが、知ったからと言って簡単に使えるものではないらしい。


それはそうとして、この世界で自分の知らない強い力があることも確信した。
自分がかつて求めた黒マテリア以上の破壊力を秘めた道具や魔法が見つかるかもしれない。
それは、セーニャの世界の魔法と違って、自分にも使える力かもしれない。


「今、何を……?」
セーニャは意識を取り戻し、セフィロスを見つめる。
そこからは、自分に抗っている意思を感じられた。
ジェノバ細胞を植え付けられても自我が保てる精神力の強さは、自分の仕事を全うしてくれると期待が持てた。


「安心しろ。記憶を少し見せてもらっただけだ。取って食うつもりはない。
ただ、私の願いを叶えてもらう。」


例え自分の目の届かぬ場所に行こうと、ジェノバ細胞を植え付ければ情報を共有できるし、最終的にはリユニオンし、自分の基に戻る。


「北西へ向かい、この世界にある強い力を探せ。それと忘れ物だ。」

餞別、とばかりに先程斬り落とした片手を繋げる。
予想外に綺麗に斬れていたため、ジェノバ細胞の再生力と自分の数回のケアルガの力で、簡単に癒着できた。


セーニャは自由になると、脱兎のごとく北へ向かって走り出した。
その姿はどこか滑稽に見えた。
逃げても、情報は共有されるから無駄であり、たとえ自分の命令を聞くつもりが無くても、彼女の見た者が結果的に自分の望む力になる可能性があるから。


むしろ、自分に興味のない存在を殺してくれる者としても、ありがたい存在になる。

胸の高鳴りを感じた。
当初の目的地でクラウドを待ちながら、別の者に新たな力の情報収集をさせる。
何もしないうちに、自分の目的はおのずと叶う。



セーニャの姿が見えなくなるとセフィロスも期待を胸に、同じ方向へ歩き始めた。

146未知への羨望 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/02(日) 19:18:27 ID:1ILM.8wA0

【B-6 橋/一日目 午前】

【セーニャ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】

[状態]:HP1/2 右腕に治療痕 頭痛  MP消費(大)
[装備]:黒の倨傲@NieR:Automata、星屑のケープ@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1〜2個)、軟膏薬@ペルソナ4
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して世界樹崩壊前まで時を戻し、再び破壊する。
1.北西へ向かい、一度セフィロスから逃げる
2.誰の言いなりにもならず、自分の意思で破壊を続ける。



※世界樹崩壊後、ベロニカから力を受け継いだ後からの参戦です。
※ウルノーガによってこの殺し合いが開催されたため、世界樹崩壊前まで時間を戻せば殺し合いがなかったことになると思っていました。
※ザキ系の呪文はあくまで生命力を奪う程度に留まっており、連発されない限り即死には至りません。
※放送は気に留めておらず、名簿を見ていません。

※セーニャの体内のジェノバ細胞によって、セーニャの得た情報は、セフィロスにもインプットされます。
※セフィロスからの精神的干渉を受けています。今のところは自我を保っていますが、何か精神的ダメージを受ければ、セフィロスの完全な傀儡化するかもしれません。
※ジェノバ細胞の力により、従来のセーニャより身体能力、治癒力が向上しています。
※外見は右腕の癒着痕を覗き、少なくとも現在は特に変化はありません。

【B-6 橋南側手前/一日目 午前】


【セフィロス@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:左腕火傷、服の左袖焼失 高揚感
[装備]:バスターソード@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、武器の類ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:クラウドと決着をつける。 この世界の未知の力を手に入れる。
1.女神の城でクラウドを待つ。
2.因果かな、クラウド。
3.スネーク(名前は知らない)との再会に少し期待
4.セフィロス・コピーにしたセーニャに、この世界の情報収集をさせる。

※本編終了後からの参戦です。
※心無い天使、スーパーノヴァは使用できません。
※メテオの威力に大幅な制限が掛けられています。
※ルール説明の際にクラウドの姿を見ています。
※参加者名簿に目を通していません。

147未知への羨望 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/02(日) 19:19:39 ID:1ILM.8wA0
投下終了です。
今回投下作品では、セフィロスがセーニャに体内のジェノバ細胞を移植し、セフィロス・コピーを造るという展開を入れましたが、
どこか設定に不備があれば指摘お願いします。

148名無しさん:2020/02/02(日) 19:52:05 ID:YY9zB.jo0
投下乙です
聖女を血で汚すって、背徳的な響きだな…

149 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/03(月) 20:58:52 ID:5/OM7hIk0
>>148

感想ありがとうございます。
私は物語の背徳的な展開大好き人間なので、今回の投下でそういったものを感じてくださって大変うれしいです。

150 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/12(水) 15:42:36 ID:qBNp5oBA0
ウィリアム・バーキン、ハンター、カミュ予約します。

151 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/13(木) 00:49:35 ID:DQz/Kptc0
投下します。

152Dance on the edge ◆vV5.jnbCYw:2020/02/13(木) 00:50:28 ID:DQz/Kptc0
「うわあっ!!」
「ぬおおっ!!」


研究室の特に広い場所に、金属と爪がぶつかり合う高音が、さらに一拍遅れて二人男の悲鳴が木霊する。

数秒前、更なる怪物と化したウィリアム・バーキンの爪、カミュの扇、そしてハンターの太刀がぶつかり合った。
しかし、二人をいとも簡単に、肥大化した爪が吹き飛ばした。

「カミュ殿!!くそっ!!」
二人の内、大柄ゆえに吹き飛ばされた距離が短かったハンターは、横目でカミュの無事を確認したのち、怪物を毒づく。

吹き飛ばしてすぐに、人の背丈ほどもある爪を振り回し、二人に迫り来る。

斬り裂かれる寸前で、太刀を器用に使い、巨大な爪をいなす。

「こいつ……早い!!」
どうにかハンターは反撃に出ようと画策する。
狙うは進化する前、リーバルが刺した時と同じ右肩の巨大な目玉。


いくら進化しようと、生物の弱点は1日2日で変えられるものではない。
だが、弱点を知っても、突くことが出来なければ意味がない。

早くなった攻撃は、躱すので精一杯だった。
攻撃できるチャンスも、逃げるチャンスもありそうになかった。


ぎいぎいと、爪と床がこすれ合う嫌な音が響くが、気にせずカミュは奥義を天井に向けて投げる。


「シャインスコール!!」
回転しながら飛んで行った扇子が、光を怪物の頭上に撒き散らす。

「ウオオオ!!」

しかし、なおも爪を振り回すことを止めない。
輝く雨が、怪物に降り注ぐも、動きを鈍らせただけだった。


「ハンターのおっさん!!バラけるぞ!!」
「うむ!!」


伊達に二人も死線を潜り抜けてきたわけではない。
シャインスコールが作り出したほんのわずかな時間を利用し、ハンターはウィリアムの右に、カミュは左へと走る。


ウィリアムはハンターの方に迫る。
しかし、カミュがその隙を狙ってジャンプして、頭部めがけてナイフを向けた。
一撃必殺の場合は、扇よりナイフの方が成功する可能性が高い。

そして、アサシンアタックならば、必要最低限の威力さえあれば、一撃で相手を殺せるチャンスがある。


しかし、怪物は自らをコマのように回転させた。
そして、回転の先には、例の巨大な爪。

回転斬り。
このバトルロワイヤルの参加者の、リンクやクロノが得意とする技そっくりの軌道を描いた。


ただし、それを実行したのは人間ではなく、Gウイルスによって筋肉が異常発達した怪物なのだから、単純ながらも威力は桁違い。
加えて、巨大な体躯で行われるから、攻撃範囲も相応に広い。


「しまっ……!!」
隙が多くなる空中で、カミュは後悔した。


右腕のみ巨大な反面、リーチは長くとも、体全体を動かした広範囲の攻撃は出来ないだろうという判断が失敗を招いた。

153Dance on the edge ◆vV5.jnbCYw:2020/02/13(木) 00:50:49 ID:DQz/Kptc0


受け止める範囲が狭いコンバットナイフで、器用に受け止める。
(ちくしょ……ナイフで受け止めたのに、威力を殺しきれねえ!!)
しかし、ナイフは天井に飛ばされ、カミュも吹き飛ぶ。
同様にハンターも、攻撃を剣で受け止めることは成功するが、研究室の壁際まで押される。


しかも、この状況は、マールのヘイストと、ベロニカのバイキルトが二人にかかっているからこそ、辛うじて維持されている。
従って、それらが切れる瞬間が、タイムリミットに等しい。

「「まだだぁ!!」」
圧倒的な力を目にしながらも、二人の声からは闘志は消えていない。


「ジバリーナ!!」
カミュの叫びと共に、ウィリアムの足元に魔方陣が広がる。

そんなものは無視してハンターに攻撃を仕掛けようとする。
しかし、地面の隆起が、怪物のボディーバランスを崩す。


(時間稼ぎ程度にしかならねえか……けどな!!)


攻撃の向きが逸れた瞬間、ハンターは突進した。
狙いはがら空きになったウィリアムの両足。

今の姿になる前に、脚は一度斬り落としたが、どうやら復活したようだ。


だが、すぐには再生されないから、脚を切り落としておけば少なくともその間だけは自由が奪える。

立ち位置を不安定にされながらも、ウィリアムは爪でハンターを引き裂こうとする。


ハンターは斬りかかる前にカバンから盾を取り出す。
彼自身、盾の使い方を熟知していない。
しかし、その丈夫さを活かして、本来とは別の使い方をする。


G生物の顔に向けて、円盤投げのように盾を飛ばす。
ハンターの投擲力に加えて、その盾がかつて英傑が使っていたほどの丈夫さを持つことから、目隠しには十分活躍した。


道具を想定された使い方をするのではなく、自らに合った使い方をする。
これも戦い方の一つだ。


懐に潜り込むことに成功したハンターは、姿勢を低くし、抜刀。
横一文字に怪物の両足を切断しようとする。

(!?)

しかし、予想外なことに、巨体のG生物は跳躍した。
その高さは人間より下回るが、床すれすれを狙っていたハンターの斬撃を躱すには十分だった。

(デカい図体でジャンプなどするな!!)
ハンターは強靭な上半身に比べて、あまり変化のない下半身を持つ怪物に対して心の中で悪態をつく。

「早く!!その派手な色した盾の上に乗れ!!」

しかし、すぐに作戦を組み立て、ハンターに指示を出す。

「ウウウオオオオ!!」

ジャンプしたのちに、その巨大な腕でハンターを潰そうとする。
ハンターはそれを横っ飛びに躱し、すぐ近くにあった、先程投げた盾の上に立つ。


二発目のジバリーナがここへきて発動。
既に証明されたように、巨体と並外れた生命力を持ったG生物にはほとんど効果がない。


地面からの爆発は、七宝の盾を弾き飛ばす。
上にいたハンターもろとも。

「カミュ殿、そういうことでござったか!!」
「おっさん!!頼んだぜ!!」


人間を乗せた盾は、ロケットのように上空へ飛んでいく。
天井スレスレまで飛んでいき、G生物と人間の身長差は、この瞬間だけ克服された。


いける。
この距離、この間合い、この高低差なら、いける。
チャンスは今しかない。

カミュもハンターも、同じことを考えていた。

154Dance on the edge ◆vV5.jnbCYw:2020/02/13(木) 00:51:09 ID:DQz/Kptc0

「マール殿の、仇!!」
盾を蹴飛ばし、上空から斬りかかる。

首から、右肩の巨大な目にかけて、渾身の袈裟斬り。
真っ白い床や天井の研究室を、飛び散る汚液が汚す。

「よぉし!!」
カミュがガッツポーズをする。
斬った感触から、深手を負わせたとハンターも実感した。

「グウウアアア!!」
「なっ!?」

しかし、首を失ってなお、G生物の腕は動く。
いや、斬り落としたかに見えた首は、予想外な方法で守られた。

「おっさん!!」
カミュの声も空しく、ハンターはクレーンゲームの人形のように、爪で握りしめられる。


「バ……バカな……。」
ハンターがそう言うのも無理はなかった。
何しろ、斬られた首が落ちるのを、片手で無理矢理押さえて、鋭い爪が露出した方の手で自分を捕まえているのだから。

殺した直後が最大の反撃を食らう危機。
それはマールが示したはずだった。


空中での攻撃は、従来の力や武器の強さに加えて、重力も威力に伴う反面、空を飛ぶ技術でもない限り、安定性に欠ける。
先程カミュが示したばかりだったのに。

ミスを犯した自分を呪いたくなった。


「クソ……間に合え!!会心必中!!」
背後からエネルギーを纏った、カミュの一撃が片腕に命中。

最初に展望台で共闘した金髪の青年、それにマールディア。
これ以上、仲間を死なせてたまるかと、魔力が残り少ないのにも関わらず、力の限り怪物の右手に攻撃を加えた。
締め付ける力は弱まるも、そのまま研究室の壁めがけてハンターを投げ飛ばした。


「ぐああっ!!」
「おっさん!?」



ぐしゃ、という、明らかに人で立ててはいけない音が響く。
カミュが怪物の隙間から見ると、血まみれのハンターが倒れていた。

(ウソ……だろ?)
当たり所が悪かったのだろうか。
明らかに出血量や、地面に叩きつけられた音から、無事な気がしない。


『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる?』


こんなタイミングで、放送が響き渡る。
しかし、カミュにとっては周りの状況どころではなかった。


丁度バイキルトとヘイストの力が無くなり、魔力も会心必中でほとんど無くなっている。
この状況を打開できる道具もない。


逃げ道も巨大な怪物に封鎖されている。

(なんだよこれ……。)
展望台付近で会ったあの銀髪の男もそうだ。
この世界には、どれだけ圧倒的な力を持った怪物がいるのか、想像しただけで震えが止まらなくなった。


(ニズゼルファを倒して浮かれていたオレが、バカみたいじゃねえか……。)
怪物が迫る。
凄まじい力に、全てを斬り裂く強靭な爪、巨体に似合わぬ身のこなし。
そして、不死身の生命力。

ニズゼルファが復活した時や、ネルセンの迷宮にいた魔物でさえ、ここまで異常な力を持った者はいなかった。
自慢の足を使う気も起きず、恐怖を目の当たりにしたカミュは、ただ後ずさるだけだった。

155Dance on the edge ◆vV5.jnbCYw:2020/02/13(木) 00:51:28 ID:DQz/Kptc0

怪物がトドメにと片腕を上げる。
「くっそおおおおおおおおおおおお!!!」



その叫びがカミュの最後に発した言葉になるはずだった。

「何!?」
しかし、串刺しにしようとした腕に、いつの間にかナイフが刺さっていた。
G生物の後ろには、ハンターが血に汚れながらも立っていた。

「おっさん!!無事だったのかよ!!」
「カミュ殿、良い物を頂いた。」


それは天井に引っかかっていた、カミュが持っていたコンバットナイフ。
先程ハンターが盾に乗って飛んで行った際に、回収していたのだ。


トドメを刺すのを邪魔された怪物は、攻撃の矛先をハンターに変える。


「グウアアア!!」
しかし、どうしたことか、斬り裂かれたのは、ハンターではなく、ウィリアムの巨大な爪だった。

――鏡花の構え。
敵の攻撃をいなす独特の構えから、カウンターを狙うのに特化した狩技だ。
会心必中のダメージも回復し終わっていなかった極太の腕が、ボトリと落ちる。

「貴殿の攻撃、見切らせてもらったぞ。」
そして、忘れてはならない。
ハンターの生まれつき持った嗅覚は、敵の攻撃や接近のレーダーにもなる。


G生物の放つ異臭のせいで、思うようにそれが機能しなかった。
しかし、一たび相手が自分から離れ、カミュに係りきりになったことで、臭いのわずかな違いを感知できるようになった。


相手の吐く息の臭い、感情の変化で変わる僅かな臭い。
敵が持つそれぞれの臭いを感知することで、相手の攻撃を見切ることに成功した。


「おっさん!!行くぜ!!」
「うむ!!」


敵の爪が一時的にだが折れた。
これで、最も殺傷力ある攻撃を受ける可能性が無くなる。


まずはハンターがウィリアムの胴体に袈裟斬りを入れる。
そこから、別方向から閉じた扇を構えたカミュが、持ち前の速さを活かしてその裂傷を深くする。

「シャドウアタック!!」
本来カミュと、その仲間のイレブンが初めて覚えた連携技だが、ハンターの並外れた戦闘センスが成功した。
元々敵の守りを二人の攻撃の素早さで貫通する技だったので、分厚い肉の鎧を持つ怪物にも威力を存分に発揮した。

「まだだ!!」
カミュが斬りつけた裂傷から、ハンターが怪物の肉体を串刺しにする。

「マール殿の痛み、思い知ってもらう。」
「グゴ……オ……オ………。」

暫くG生物は暴れるも、ハンターが太刀を抜くと、動かなくなった。


「やったな。つーかおっさん!!生きていたのかよ!!」
カミュは敵を倒した喜びと、ハンターが生きていた疑問を口にする。

「拙者はおっさんではない。生きていたのは、あの少女が拙者を守ってくれたからだ。」


幸運なことに、ハンターが投げ飛ばされた先で、マールディアの死体がクッションになってくれたようだ。

一時的に動けなくなっていたが、肉が潰れた音も、大量の血もマールのものだったらしい。

156Dance on the edge ◆vV5.jnbCYw:2020/02/13(木) 00:51:51 ID:DQz/Kptc0
「一先ず、助かったみたいだ……うわっ!!」
カミュとハンターの間に、蛍光灯が落ちてきた。

研究室の天井を構成していたブロックが、続けざまに落ちてくる。
怪物化したウィリアム・バーキンが、柱や天井まで斬り裂いたため、研究室そのものが限界を迎えたのだ。



「おい!!逃げないとやべえぞ!!」
カミュは散らばっていた七宝の盾を回収し、すぐに研究室を出ようとする。
リーバル達が脱出に使った天井付近の窓は、人力で届く高さではない。
早く入り口から脱出しないと、この怪物もろとも下敷きになってしまうだろう。

「言われるまでもない。カミュ殿、さっきの爆発の魔法で、あの窓へ飛べないか?」
「もう魔力はない!!つーか何してんだ!!おっさん!!」


ハンターははみ出ていた内臓を戻し、ボロ雑巾のようになった少女を抱えていた。

「死してなお、この少女が守ってくれたのだ。死体だからといって棄て置くわけにはいかん。」
「確かにそうだけど……待てよ!?」


カミュはふと閃いて、マールがまだ付けているザックを開ける。
自分の支給品こそ、脱出出来そうな道具はなかったが、もしかしたら、何かリーバルのように空を飛べる道具が出るかもしれない。
しかし、カミュの期待には彼女の支給品は答えられなかった。

「ああくそ!!何でハリセンとリンゴしかねえんだよ……つーかおっさん!!食ってんじゃねえ!!」

「食べられる時に食べるのも、生きる上で必要だぞ、それとおっさんと呼ぶなと言ってるだろう。」

イマイチずれている回答を無視して、カミュはいち早く研究室から出る。
ハンターもリンゴを頬張りながらも、その後を追う。
既にベロニカやハンターと共に入った際に、入り口までの経路は完璧に覚えている。


「畜生!!廊下が塞がれてやがる!!」
ウィリアム・バーキンが残した文字通りの爪痕は、廊下にも及んでいた。


その中で最短距離になる道が、倒れた柱によって完全に通れなくなっている。

「この程度の柱なら、拙者の太刀で……。」
「やめろ!!壊したら余計崩れてくる!!」


通り道を無理やり作ろうとするハンターを諫め、通れる廊下を走り続ける。
その先にあった場所は、第四研究室。

一番最初にウィリアム・バーキンと錦山彰、それにマールとリーバルが対面した場所だ。
そこは特に酷い有様だった。
リーバルが炎の矢を撃ったことも相まって、部屋の奥は火の海になっている。

まず扉が壊れていた時点で、怪物の被害が直接及んだ場所だと認識する。


幸いなことに、窓はある。
第一研究室とは異なり、壁に掛けられている高さからして、普通に脱出用に使えそうだ。
だが、炎に包まれているから窓の所まで行くのは難しそうだ。
どうしたものかと、カミュは辺りを物色すると、机の横にある袋を見つけた。


「これは……。」
「カミュ殿!?どうした!?」
ハンターが建物の崩れる音に負けじと大声を出す。
彼が持っていたのは、ウィリアム・バーキンの支給品袋。


元々Gウイルス以外に興味を持たなかった彼は、この場所に捨てていたのだ。
その中から、水色の杖が出てきた。
先端には雪の結晶が象ってある。

カミュはそれを手に取り、見つめる。
「なんだ?これは……?」
ハンターも疑わし気にその杖を見つめた。

「もしかして……頼む!!」


一縷の望みをその杖に託し、振り回す。

157Dance on the edge ◆vV5.jnbCYw:2020/02/13(木) 00:52:17 ID:DQz/Kptc0

その瞬間、フリーズロッドから吹雪が迸り、研究室内の炎を瞬く間に消した。

「おお!!道具を使った魔法もあるのか!!」
「オレの世界にあった、氷の杖に似てるけど、威力は段違いだな。」
ベロニカやマール、カミュが使っていた魔法とは異なる出方をした魔法に、ハンターは驚くが、急いで窓を破って脱出する。


後ろから炎の燃え盛る音と、建物の崩れる音をバックに、二人は駆け抜ける。
気が付くと、森を抜けていた。



「どうやら逃げられたようだな……。」
「まだ……終わってないぞ………。」
「そうだな……これは……?」


今になって支給された名簿を、ハンターが読む。
その中にあったのは、『オトモ』という名前。
もしかすると、幾度となく助け合ってきた、アイルーの可能性が極めて高い。


自分の名称は『男ハンター』と書いてあったから、女性や子供のハンターもいるのではないかと思ったが、本当に知り合いはオトモだけのようだ。

「オレは……まあ、予想通りだな。悪い予想だが……。」
カミュが共に旅をした仲間の内、ロウを除いた全員が参加させられていた。
そして、グレイグの旧友であり、ウルノーガの手下として暗躍したホメロスの名前もあった。

「休憩したい所だが……こうしてはおれん。一刻も早く拙者らの仲間を見つけねば。」
「そうするしかねえな。そいつを背負うの、オレも手伝うぜ。」

そうでなくても研究室の崩落を聞きつけ、危険人物がやってくる可能性があるから、ここは危険だ。

(近くで見ると、本当に綺麗な顔してるな……。)

もう動かないマールの顔を見て、カミュはそう思う。
出来ればもう少し広い場所で埋葬してあげたいし、出来るなら仲間にも合わせてあげたい。

「一先ず西の方へ移動しよう。城やら美術館やら、建物もあるし、休憩できるかもしれぬ。」



太陽は完全に登り、参加者を狩ろうと力を出す者も現れ始めるだろう。
ベロニカとリーバルの安否も分からない。
不安を胸に抱えて、二人は歩き出す。
一人の死した少女を背負って。

158Dance on the edge ◆vV5.jnbCYw:2020/02/13(木) 00:52:48 ID:DQz/Kptc0


【ウィリアム・バーキン 第二形態@BIOHAZARD2 死亡確認】
【残り54名】


【支給品紹介】
【七宝の盾@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド】
ハンターに支給された盾。英傑ウルボザが使用した盾で厳選された金属が使われ 軽さと強靭さを兼ね備えた逸品強烈な攻撃も易々と 受け止められる性能を持つ(後半原作の説明より抜粋)


【フリーズロッド@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド】
ウィリアム・バーキンに支給された杖。一振りするだけで誰でも吹雪を出せる。
原作では使い続けると魔力を使い果たしてしまうが、本ロワでは魔力の供給を行うことで、使用回数を増やせる。






【A-5/橋/一日目 朝】
【男ハンター@MONSTER HUNTER X】
[状態]:疲労(大) ダメージ(中) 全身打撲 血で汚れている
[装備]:斬夜の太刀@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜1) リンゴ×2@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド ハリセン@現実
[思考・状況]
基本行動方針:主催者の討伐、または捕獲。
1.西へ移動し、その先でマールディアを埋葬できる場所、休憩できる場所を探す。
2.ベロニカ達とイシの村で落ち合う。
3.オトモ、カミュの仲間を探す。

※第一回放送を聞き逃しています

【カミュ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:ダメージ(中)、背中に打撲、疲労(大)、MPほぼ0 ベロニカとの会話のずれへの疑問
[装備]:必勝扇子@ペルソナ4
[道具]:基本支給品、フリーズロッド@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド カミュのランダム支給品(1〜2個、武器の類ではない) ウィリアム・バーキンの支給品(0〜2)(確認済み) 七宝の盾@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド
[思考・状況]
基本行動方針:仲間達と共にウルノーガをぶちのめす。
1.西へ移動し、その先でマールディアを埋葬できる場所、休憩できる場所を探す。
2.ベロニカ達とイシの村で落ち合う。
3.仲間や武器を集め、戦力が整ったらセフィロスを倒す。
4.これ以上人は死なせない。

※第一回放送を聞き逃しています
※邪神ニズゼルファ打倒後からの参戦です。
※二刀の心得、二刀の極意を習得しています。


※【A-5】研究室は倒壊しました。



たとえ支給品の名簿が理由とは言え、二人がその場から立ち去ったのは、幸運だった。
瓦礫の山と化した研究室の一部が吹き飛ぶ。


「グウオオオオ……。」

一度目の復活よりさらに巨大化した、ウィリアム・バーキンが、そこから顔を出す。
顔を出す、と言ってもウィリアムの面影はほとんど残っていない顔なのだが。


G細胞がほとんど人間の細胞を侵食し、最早人間の姿をとどめていない怪物は、そこから歩き出した。
その姿は、墓場から出たゾンビとすら形容しがたいような、醜悪な怪物。


獲物を求めて、さらなる進化を遂げたG生物は、ノソリノソリと歩き出した。

もう一度言おう、カミュとハンターは、どんな動機であれ、その場から離れたのは幸運だった。
何故なら、消耗した二人では、どのような幸運があっても、この怪物まで倒すのは不可能だから。


【A-5/研究室跡 /一日目 朝】

【ウィリアム・バーキン@BIOHAZARD 2】
[状態]:G生物第三形態、下腹部に刺し傷(再生中)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:本能に従い生きる。
1.獲物を見つけ、殺す
2.シェエエェェリィィ……。

159Dance on the edge ◆vV5.jnbCYw:2020/02/13(木) 00:53:03 ID:DQz/Kptc0
投下終了です。

160 ◆RTn9vPakQY:2020/02/13(木) 16:20:50 ID:O2ibmHAU0
・両雄倶には立たず
雷電の死体を見ても、ファイガで攻撃されても、冷静さを保つスネークは渋い。
そんなスネークのことを、カエルやカミュ、雷電とは異なると直感するセフィロスもまた、観察眼に優れていますね。
主催者に動けと言われても余裕綽々なセフィロス、今後も敵を増やしまくりそう。


・そでをぬらして
海中ではミファーの絶対的優位かと思いきや、千枝のペルソナが大暴れ。結果は痛み分けとでも言えましょうか。
あり得ない光景ばかり見せられる錦山の胃がストレスでマッハ。
千枝は精神的に衰弱して、ミファーも悲痛な覚悟を強めて。
読み終えてからタイトルを見直すと、なんともいえない気持ちになります。


・たたかう者達&さらにたたかう者達
冒頭のホメロスの独白が、グレイグとの関係を思うと切ないです。

>この世界にいる者は皆、闘う者達であると。命の数だけでなく、それぞれの本質を見据えた上で向き合っていかなくてはならない者達であると。
クラウドが、殺し合いが開始してから出会ってきた参加者を思い返して、このような思考に到達したのですね。
クラウドとホメロスの拮抗した勝負に、この意識の変化が僅かな差をつけた、というのも構成として面白いです。

元ソルジャーという幻想に囚われ続け、今も過去をやり直すという幻想に囚われているクラウドにとって、
真実を追い求め続けた陽介(自称特別捜査隊)の言葉が強く響くのも、とても納得できます。
しかし、陽介はペルソナひとつでクラウドにどこまで対抗できるでしょうか…。


・不思議の国の遊園地跡
>「キミは聞こえないの?この島全体に、トモダチの恐怖や痛みの籠った叫びが、流れている。彼らを助けてあげなきゃ。」
どこか特殊な精神性のNも、Nのこの発言を聞いて引かないルッカもさすが。
そして遊園地に設置された首輪とアイテムの交換機…これを誰がどう活かすか、気になりますね。


・君の分まで背負うから
>どうすれば、彼女の涙を止めてあげられる?
>どうすれば、彼女が悲しまなくていい?
>どうすれば────
考え抜いて、ベルを眠らせたイレブン。この優しい選択は、しかし一時しのぎでしかないのが辛いですね。

>不安定な時くらい誰かに任せて眠っていたっていい。今はベルの分まで、僕が現実を背負うから。
これまで仲間たちに支えられてきたイレブンが、ベルを支えようとする。その強さがカッコいいです。
でも最後は、はずかしくなっちゃうのね!


・そして、戦いは続く(前編)(後編)
魔王が放送や名簿から情報を得て、柔軟な考察をしているのは意外な印象ですね。
そしてネメシスとの再戦。多数の触手でファンタジー世界の住人とも渡り合う怪物はやはり恐ろしい。
>「鎌と言うのは、こう使うのだ。」
イレブンの手から鎌を奪って使う魔王、カッコいい。
共闘により修羅場を越えたかと思いきや、シルビア…誰かを庇い倒れるのはらしいといえばらしい、けどあっけない…。
ネメシスT型はバイオ勢として充分な恐怖を振りまいてくれましたね。

161 ◆RTn9vPakQY:2020/02/13(木) 16:22:51 ID:O2ibmHAU0
・選ぶんじゃねえ、もう選んだんだよ
仲間を殺す発想ができないマルティナの甘い考えを見抜いて、誘導しようとするミリーナは地味にこわい。
改めて、二人の覚悟の差を感じました。
>(とりあえず、そのイレブンって人以外の仲間とは、遭遇したいとこね。その人たちを…マルティナに殺させる)
そしてエグいことを考えているミリーナ。現状はドラクエ勢は位置が遠いものの、実現したら面白くなりそうです。


・チョッカクスイチョク
>美味しいか不味いかで聞かれたら、あのカレーはどう考えても不味かった。
>でも、今自分はその不味いカレーを求めているのも分かっていた。
まず正気か???と言いたくなりましたが、考えてみれば殺伐とした状況で日常を思い出したくなるのは自然なことですね。

>二度と食べたくなかったカレーを、二度と食べることは出来なくなってしまったことを。
そしてこの表現が切ない。

>ピカチュウは少しシワっとした、落ち込んだ顔を見せた。
ここ笑いました。


・見上げた空は遠くて
同じ英傑の死に対しては悲しまず、けれどマールディアの死に対しては心を見出されるリーバル、好き。
>あたしが死んだ時、皆もこんな気持ちだったっていうの?
>死んだのはあたし?皆が助かったのならそれで良かった?冗談じゃない、そんなのはただの自己満足だ。残された側の気持ちってものを全く考えていない。
本編では思うことのなかったであろうベロニカの述懐も切ないです。

>「……まだ、信じていてもいいのかしら。あたしの死は無駄じゃなかったんだって……あたしは未来を守ったんだって……。」
>「ああ、勝手に信じていなよ。真実は、僕が明らかにしてやるから。」
リーバル△ 彼はプライドを守れるのか、とても楽しみです。


・未知への羨望
セフィロス、登場話では圧倒的な戦闘能力を見せつけられましたが、今回は別ベクトルの恐ろしさを感じました。
セーニャに対してジェノバ細胞を植え付けるとか、発想がすごいですよセフィロス様!
セーニャの得た情報がセフィロスに送られるというのも、地味に脅威ですよね。ますます余裕になるかも。


・Dance on the edge
出会ったばかりの男二人が、協力してマールディアの仇を倒そうとする展開、熱い。
二人の連携がうまい具合にできていて、ウィリアムとの戦闘は手に汗握りました。
>「食べられる時に食べるのも、生きる上で必要だぞ、それとおっさんと呼ぶなと言ってるだろう。」
モンハンでは回復できるときにすることが必要ですからね。当然の行為ですよね。
しかし、G生物も第三形態へ。研究所が破壊されて、野に放たれた状態なのが不安ですね。

先のレスに書き忘れましたが、皆様投下乙です。感想でした。

162 ◆2zEnKfaCDc:2020/03/12(木) 01:16:27 ID:1F0mLpc.0
ベロニカ、ゼルダ、リーバルで予約します。

163 ◆2zEnKfaCDc:2020/03/12(木) 17:28:31 ID:1F0mLpc.0
忘れてました。>>162に加えてレッドも予約します。

164 ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 01:11:56 ID:Oxg5bfcs0
すみません。2時まで予約延長をお願いします。

165 ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 01:57:46 ID:Oxg5bfcs0
遅くなりましたが、投下します。

166虚空に描いた百年の恋 ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:00:19 ID:Oxg5bfcs0
主催者であるマナとウルノーガは時を超えることができる。今しがたリーバルはその予測を立てたばかりだ。
主催者であるマナとウルノーガは死者を甦らせることができる。これは元より分かっていたことだ。

どちらの力がより恐ろしいかは 考えるだけ無駄だが、どちらも理に反している。時間は止めることはできても、逆行することはできない。傷を癒すことはできても、死を覆すことはできない。それなのにまだ生きていたかったマールディアが死んで、もう死んでいたはずの僕らが生き残っている。こんなの、不条理だ。
生と死の線引きとは、世界の理とは、こんなにも容易く覆るものであったか。僕らの直面している現実は、ともすれば厄災ガノンなんかよりもよっぽどタチの悪い何かなのかもしれない。

「まったく、シケたツラしてるわね。」

手元から、声が聴こえてきた。
何故手元なのか。それは今現在、ベロニカを腹の下に抱えて飛行中であるからだ。
よって、向こうから一方的にこちらの表情が見えている状態だ。

「……君ほどじゃないよ。さっきまで半ベソかいてた君ほどじゃ、ね。……ああ、見えないけど、もしかして今もかい?」

「ふん、何よ。心配してやってるのに。……ま、そんな軽口聞けるなら大丈夫そうね。」

死後に神獣ヴァ・メドーの体内で亡霊として囚われ続けた僕は、最低限ハイラルの実情は知っている。
ギリギリで力に目覚めたゼルダ姫がガノンを百年に渡って封じ込めていること。
リンクの奴が百年の眠りから目覚めて神獣の解放に奔走していること。

自分の死後の仲間の行方も分からず、不安なのはベロニカの方だろうに。
自分のことで手一杯な時にも他者を気遣うベロニカが、一人の少女と重なった気がした。

(だから……かな。この僕が柄にもなく他人のために、ベロニカの仲間の行方を明らかにしようとしているのは。)

とはいえ状況は絶望的。
何しろこの殺し合いを開いているのが、他でもない、ベロニカとその仲間が立ち向かってきたウルノーガなのだ。ベロニカが死んだ後に、仲間たちもウルノーガの支配を受けて殺し合わされている。答えなど分かっているようなものだけれど。それでも、真実を明らかにすると約束した。

167虚空に描いた百年の恋(前編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:01:17 ID:Oxg5bfcs0
「ほら、シャキッとしなさいよ、リーバル!前方、誰かいるわよ。」

と、考え事をしていると不意にベロニカの怒号によって現実に引き戻されるリーバル。

「うるさいな、いちいち言われなくても分かってるさ。……と、あれは……!」

その人影の片方、それは――リーバルもよく知る者であった。

ここで会ったが百年目とはよく言ったものだけれども、まさか文字通りの意味で使う日が来るとはね?

こんな殺し合いが開かれていなければ、その相手は神獣ヴァ・メドーを解放しに来るリンクだったのだろうか。ホント、待たせすぎだよね。
まあいい、そんなことよりも。
今はこの再会を喜ぼうじゃないか。

「やあ……姫。」

「ひゃあっ!?」

姫――ゼルダの前にスーッと降り立つリーバル。地上の敵ばかりを警戒していたゼルダは、唐突に目の前に現れた影に驚き飛び退く。

「なっ……カモネギがじゅくがえりしょってやって来たぁ!?!?」

「ちょっと!誰がじゅくがえりよ、誰が!!」

ついでに、ゼルダと行動を共にしていた少年――レッドの方も驚きつつ、キラキラした目をリーバルに向けていた。

「って貴方……リーバル!?」

「久しぶりだね。元気そうで何よりだ。」

百年ぶりの邂逅は、お互いにとってこの上なく望ましい形で行われた。

お互いが同行者を連れていること、それは殺し合いに乗っていないという証明といえる。――真偽のほどは別にして、ではあるが。

また、両者とも大きな怪我は負っていないこと、これも安心材料のひとつ。
ゼルダの格好はボロボロで、何か戦闘があったのだと見受けられるが、応急措置の跡も見られ、目前の命の危険などは無さそうだ。

「なあ、姫さん。こいつも姫さんの仲間なのか?」

たった今がカモネギの進化系が見つかった歴史的瞬間なのかもしれないとどこかワクワクしながら、レッドがリーバルを指さして言う。
その無礼な態度に腹を立てるも、気になるポイントは他にあったためスルーする。

「こいつ『も』とはどういうことだい?」

僕以外に姫の知り合いはこの場に居ないはずだけれども……

そこまで考えて、以前出会ってもここまで着いてきていないゼルダの知り合いの正体についてふと考えが至る。

「もしかして、ウルボザ……」

「い、いえ!違います!ダルケルですよ!」

少し気まずそうな顔をリーバルは浮かべたため、慌ててゼルダは訂正する。

「ダルケル?ここにはいないようだけど、何かあったのかい?」

不思議そうに、リーバルは尋ねる。

そんなリーバルを前に内心、ゼルダは微笑んだ。
こうも自然に、話を切り出せるタイミングが訪れてくれるとは。
ゼルダはグレイグを殺した。
それをクロノに擦り付け、さらに自分を護ってもらわなくてはならないのだ。

だが、脈絡もなく話し始めるとどうしても、その結末に持っていきたいような雰囲気が生まれる懸念がある。
ここでリーバル達に与える印象ひとつひとつが自分の生存に直結するため、ゼルダは慎重に機を伺っていたのだった。

「そうですね……それを語るにはお話しなくてはならないでしょう……。私の、ここまでの道のりについて。」

168虚空に描いた百年の恋(前編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:02:20 ID:Oxg5bfcs0




そして、ゼルダは話し始めた。
茶髪の少女(里中千枝)に襲われたところをグレイグという青年に助けられたこと。

しかしそのグレイグも他の人物に殺され、逃げている途中にダルケル、レッドの二人と合流したということ。
ダルケルはその人物と戦いに向かっているため、ここにはいないということ。

「グレイグが……ソイツ、相当な実力者ね……。一体、誰に……?」

『敵でも味方でも無い』程度の知り合いの死を突き付けられ、複雑な表情のままベロニカが問う。ここが正念場、声のトーンを落とし、ゼルダは語った。

「――クロノという、少年でした。」

ピクリと、リーバルの眉が揺れる。

――この時。そうか、と素直に頷いていればどれほど楽だっただろうか。

「……もういいよ、姫。」

「ちょっとリーバル!もういいってどういう事?まだ向こうが話してる途中でしょうが!」

君は、踏んじゃいけない地雷を踏んだんだ。でも君が悪いんじゃない。悪いのは、僕の往生際かもしれないね。

「うるさいね。茶番はもう沢山だ――そう言ったんだよ。」

「……どういう事ですか?」

「どうもこうもない。クロノに襲われた?有り得ないんだよ。」

クロノ?そんな奴会ったことないさ。僕が知っているのはそいつの名前だけ。

「クロノってのは、マールディアが生涯を賭けて信じると誓った男の名だ。だから僕も信じる。」

でも――許せないんだ。彼の名を貶めることだけは。
その名を汚すということは、『彼女』の生涯を汚すことと同義だから。

本当に僕は、往生際が悪いものだよ。こんなことしたって彼女が生き返るわけでも救われるわけでもないのにね。
クロノの無罪を信じる根拠は薄っぺらいったらありゃしない。

でもね、必要なんだよ。
信じるに値する人物が、信じたいと我が心が願う人物が、どれだけ他人を有罪と叫ぼうとも、最後まで無罪だと信じて抗える存在は。
さもないと、善人の顔をした魔物に騙されてしまうだろう?

「……貴方は長く共に過ごしてきたこの私よりも、この殺し合いで初めて出会った付き合いの浅い人物の方を信じると言うのですか?」

焦りながら、ゼルダは引き下がらない。ここでクロノが白だと断じられては、リーバルの飛行速度ですぐにでもハイラル城に向かわれ、クロノ、ダルケルと合わせた3人を敵に回すこととなる。
敵と仕立て上げるのが知らない相手だったからこそダルケルを丸め込むことができたが、相手がよく知る英傑であればミファーやリンクの説得とて難しいだろう。

だからこそ、口調が喧嘩腰になりつつもゼルダは応戦する。

「フッ……笑っちゃうね。共に過ごしてきた、だって?こりゃ傑作だ。百年前の話だろ?」

だが、口先で戦うのであれば――それは元よりリーバルの独壇場であった。

「百年も経てば人は変わるさ!僕と君に、かつての信頼関係なんて完全には残ってはいない。」

根拠は薄くともクロノは無罪でなくてはならない。マールディアの尊厳をも貶めるのは――リーバルのプライドが許さない。

マールディアというリーバルの地雷を、ゼルダは無自覚に踏み抜いたのだ。

169虚空に描いた百年の恋(前編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:03:14 ID:Oxg5bfcs0
「ほんっと、愚の骨頂だよね――」

しかし、忘れてはならない。
地雷を持つのはリーバルだけではないということを。

ゼルダもまた、特大級の地雷を抱えていた。

「――君はいつまで百年前に囚われているんだい?」

そして同じく無自覚に――リーバルはそれを踏み抜いた。

「ッ……!うるさい!!」

刹那、銀色の閃光が走る。
瞬時に、蒼い影が後方へ跳ぶ。
同時に、紅い鮮血が舞い散る。

「あれ?怒ったのかい?本性、現したね。」

「……。」

次に聴こえたのは、胴から血を流しつつ嗤うリーバルの声。相対するは、血に塗れた短刀をいつの間にか逆手に構えていたゼルダ。

「リーバル!大丈夫!?」

「勿論さ。あんなのに殺される僕じゃない。でも――」

何が起こっているのかをいち早く察知したベロニカは、リーバルの隣に付いてゼルダ達と対峙する。リーバルが反射的に下がったことで、心臓に刃を突き立てられる事態は避けられたらしい。

「――刃を向けられたからには僕も看過できない。」

リーバルは真っ直ぐにゼルダを睨み付け、アイアンボウガンを手に取って木の矢を装填する。それは『殺し合い』の開始を告げる合図であった。


(私としたことが、頭に血が上りすぎましたね……。でも……!)

『――君はいつまで百年前に囚われているんだい?』

でも、許せないんだ。私の願いを、私の生きる糧を、真っ向から否定するその一言だけは。


ゼルダの本性をいち早く察知できたリーバル。
怒りに任せた無謀な奇襲には失敗したが、元より殺し合いを勝ち抜くために様々な状況を想定していたゼルダ。
リーバルに一歩遅れを取ったが、こちらが身構える前に襲いかかって来る敵との実戦経験は多々あるベロニカ。

この時、三者はそれぞれが自分なりの現状の把握を終えた。

しかしたった一名。この場には状況を即座に理解できなかった者が存在していた。

「なあ……!一体どうしちまったんだよ!」

言うまでもなくそれはレッドである。
シロガネ山に籠る前から、悪の組織ロケット団と戦いを繰り広げてきた彼は、人の悪意というものに鈍感なわけではない。
ただし、彼の経験してきた戦いはすべて『ポケモンバトル』であった。そんな彼にとって、人が武器を用いてポケモン(リーバル)を襲う光景、それは常識を優に逸脱したものであったのである。

また、リーバルもベロニカも状況を把握し損ねていたひとつの要因があった。二人にとっては未だ、ゼルダと行動を共にしていたレッドも警戒対象であったということ。

これらの要因により、全員が全員、次のゼルダの行動に遅れを取ってしまうこととなる。

170虚空に描いた百年の恋(前編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:04:36 ID:Oxg5bfcs0
リーバルがボウガンに矢を装填する僅かな間を狙って、ゼルダは即座に走り出す。

「っ……!しまっ……」

逃げ出すにしては方向が見当違い。一瞬の思考の後、その意図にいち早くベロニカは気付く。しかしそれを阻止する手段は詠唱を必要とする呪文のみ。

「――動かないでください。」

結果、ベロニカも間に合わない。
レッドの首元に、アンティークダガーが突き付けられるという状況が作り出されてしまった。

「この、卑怯者……!」

「ええ、お察しの通りです。レッドは味方ではありません。騙して利用していただけですわ。」

ベロニカは唇を噛む。
悪でない者を悪と騙り、第三者と敵対させる手口。悪魔の子と見なされて苦しんできたのは他でもない、自分たちなのに。
同時に、思い出した 。ゼルダに関わって死んだ男グレイグの行いが、マナの放送で『空回り』と称されていたことを。
彼もまた、ウルノーガにそうされていたようにゼルダに騙されてクロノと戦わされたのかもしれない。

だとしたら、許してはいけない。
人の正義感につけ込むやり口を。人を殺し合わせ、その影で嘲笑う卑怯者の存在を。

「くっ……!離してくれ!姫さん!!」

「おっと。」

「っ……!」

この状況下で暴れる勇気は無くとも、せめて対話を――そんなレッドの思惑を真っ向から否定するかの如く、アンティークダガーを握った手に少し力を込める。レッドの首に刃が食い込み、ぽたり、と血が流れると同時にレッドは口を閉じた。

「貴方は黙っていてください。次はありませんよ。」

リーバルとベロニカの動向に意識を向けなくてはならない今、レッドの言葉にまで注意する余力は無い。支給モンスター、ピカへの指令を封じるのは必要な今、発言そのものを封じるのが最も効率的だった。

「姫……君は自分のやっていること、分かってるのかい?」

リーバルが問い掛ける。
それしか方法は無かったとはいえ、特に彼らと親交の深いわけでもないレッドを人質とするのは少し不安だった。しかし、やはり英傑かくあるべしということか。善意の少年を見殺しにできる性根は持っていなかったようだ。

「ええ、分かっています。貴方と交渉をする、最も手っ取り早い方法ですわ。」

――それならば。貴方の英傑としての資質、存分に利用させていただきましょう。

171 ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:05:25 ID:Oxg5bfcs0
以下、後編になります。

172虚空に描いた百年の恋(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:06:43 ID:Oxg5bfcs0
「……要求を言いなよ。」

「そうですね……ひとまずはそのボウガンを私の前に投げ捨てなさい。」

「……分かった、従うよ。」

歯を食いしばって、ゼルダの要求に従うリーバル。その様子を見ていられなくなったベロニカが口を開く。

「ひとつ、警告しておくわ。」

リーバルの投げ捨てたアイアンボウガンを拾おうとしたゼルダの動きがピタリと止まる。所詮負け犬の遠吠えであろうと半ば侮りつつも、注意を向ける。

「その子は確かに人質だけど、アンタにとっては唯一の命綱でもある。アンタがその子を殺した時は、あたしは即座にありったけの呪文をぶつけてやるわ。」

「……!」

一見挑発とも受け取れる警告――もとい脅迫。しかしこの言葉ひとつでゼルダの行動はかなり限られる。
人質とは、一人を不自由無く殺せる状態にある場合にのみ機能する。しかしこの状況下。レッドを殺した場合、リーバルとベロニカの武力制裁から逃れる手段がゼルダには残らず、さらに無力な少年を殺した手前、二人の手心すら期待できない。

また、所謂奉仕マーダーであるミファーなどとは異なり、ゼルダの目的は願いの成就である。
つまり優勝できない――つまり自分が死ぬのであれば、他者を殺すことは根本的に無意味である。元々ゼルダは正義の側に立つ人物。『自分の願いが叶わないのであれば誰も殺したくない』と思うのは当たり前の思考。

筋道だてて考えれば、ゼルダにレッドを殺す理由は無い。それはリーバルもベロニカも理解している。

それでもレッドがギリギリ人質として機能しているのは、単にリーバルとベロニカがレッドを見捨てる選択肢を取れないタチであるからに他ならない。ゼルダがレッドを殺せないと分かっていても、万が一を考えゼルダに従う。それで自分たちの身が危険に晒されることとなっても、だ。これは両者がすでに死んだ身であり、レッドに比べて自分たちの命の優先度なるものを下げて考えてしまう、ネガティブな思考形態にも由来していた。

そして、レッドの人質としての価値がそれだけ不安定な状態である今、ゼルダにとって最優先すべきはレッドをいつでも殺せる状況の確保である。レッドを殺してもリーバルとベロニカからの武力制裁を受けない状態――すなわちリーバルとベロニカを武力で上回る状態。そのため、手始めにリーバルのアイアンボウガンを捨てさせた。

そしてここで、ベロニカの警告に意味が生まれるのだ。

リーバルのアイアンボウガンと違い、ベロニカの呪文は『武装解除』が不可能である。仮に『魔力を使い切るまで呪文を空撃ちしろ』と要求しようとも、ゼルダにはベロニカの魔力が空であることの確認ができない。それは悪魔の証明に他ならない。

173虚空に描いた百年の恋(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:10:00 ID:Oxg5bfcs0
つまりベロニカの警告は、ゼルダの想定していた次の一手を明確に潰すものであった。
かといってレッドを殺すこともできないゼルダはいかにベロニカの呪文を封じるかに思考をシフトする。

目の前に落ちているアイアンボウガンでベロニカを撃つか?否、ボウガンを撃つには両手を用いなくてはならない。アンティークダガーを手放した瞬間レッドは自分の元を離れるだろう。そうすればボウガン1本でリーバルと、呪文を扱うベロニカ。さらにはレッドが操るピカをも相手にしなくてはならなくなる。

では、リーバルに一旦アイアンボウガンを返却して、ベロニカを殺させるか?否、殺せないレッドを人質に取っている地点でこちらは不利を負っている。武装解除ならば従わせることも可能かもしれないが、ベロニカの命を差し出させるほどの手札を自分は持っていない。

(――仕方ない、ですね。)

自分が手にするか、リーバルに使わせるか。用途が上手く定まらないアイアンボウガンを拾うことを一旦保留する。

レッドを殺せず強気な交渉がしにくい今、ベロニカの呪文を封じるのは現実的ではない。

が、目的達成の手段は敵の戦力を削ぐことだけではない。
自分の持つ戦力を増やすこと、それもまた必要だ。特に、この場を乗り切ってもここにいる三人と、そこから情報が波及した人物の協力は望めそうにない。

(とりあえず……あれを返してもらいましょうか。)

そこで戦力の補給のため、ゼルダはアンティークダガーを突きつけたまま、片手でレッドのポケットを漁る。

現在レッドは2個モンスターボールを持っているはず。
ひとつは今もボールから出ているピカチュウの『ピカ』のもの。
もうひとつは私が預けている、瀕死のキリキザンの『ナイト』の入ったものだ。

これらふたつのボールを回収できれば、この場を切り抜けた後も最悪ひとりでも戦えるだろう。

片手しか使えない都合上作業が滞ったものの、ナイトの入ったボールは回収できた。

ピカはモンスターボールに入れる習慣が無いのか、デイパックにしまい込んでいるらしく見つからない。片手だと面倒だが、レッドのデイパックを漁る必要があるようだ。


「――!?」


様々に思考を張り巡らせるこの時、唐突にゼルダの背筋に悪寒が走る。自己に迫る危機を、本能的に察知したのかもしれない。

その本能の示す先に目を向ける。そこには、完全に想定外の存在――ピカが全身に電撃を纏ってゼルダに全力の殺気を向けている光景だった。

支給されたポケモンは所有主の指示無しには動かない。レッドの発言を封じているからと、レッドの支給品に過ぎないピカはゼルダの注意対象から外れていた。それは油断でも気の緩みでもなく、自身の情報認識の限界を考慮した上での的確な情報の取捨選択であるはずだった。

ゼルダの誤算は、たったひとつ――されどそれは致命的な失敗。
それはピカとレッドの間の『絆』を知らなかったということ。
ピカを奪おうとすることはレッドにとって、これまた地雷であった――それを踏んだ組織ひとつが壊滅に追い込まれたほど、強力な。

174虚空に描いた百年の恋(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:13:05 ID:Oxg5bfcs0
(ピカ……!)


モンスターボールの制約によりレッドの指示がないと動けないため――また、動けたとしてもレッドが人質に取られているため――やむを得ず待機せざるを得なかったピカに対し、レッドは目配せした。
ゼルダがデイパックに気を取られている今、レッドの目線などに注意を向ける余力は無い。

とはいえ、いくら長く連れ添ってきたパートナーであってもアイコンタクトのみで100%意思疎通をすることは不可能。

それでも――


(俺ごと撃て……!!)


――覚悟を決めたその眼から、最低限の『命令』を、ピカは読み取ったのである。


「――!?」


レッドと、レッドを捕らえたゼルダに向けて。世界最強のピカチュウによる10まんボルトが襲い掛かる。

指示をした形跡すらもゼルダに見せない一撃に最適な反応などできるはずもなく。ゼルダはレッドの首からアンティークダガーを離し、大胆なバックステップでそれを回避する。
対象を失った電撃はされど止まらず――やむ無く矛先とされたレッドの身、ただひとつに降り注ぐ。もちろん実際に10万Vもの電圧が流れるわけではない。しかしそれでもそう喩えられるに相応しいだけの威力の電撃。それが一人の人間でしかないレッドの全身を駆け巡る。

「よく……やった……ピカ……!さすが、俺の……」

パタリと糸が切れたかのように、未だ幼い少年はその場に崩れ落ちる。


さて。10まんボルトを逃れたゼルダだが、それは同時に唯一の命綱を手放したということに他ならない。リーバルもベロニカも、ここが好機と――そして何より我が身を犠牲にしてまでゼルダの隙を作り出したレッドの想いを無駄にしてはいけないと、それぞれ動き出す。
リーバルはゼルダの足元のアイアンボウガンに向け、大地を蹴って低空飛行で加速する。
ベロニカは魔力を練って攻撃呪文を準備する。
レッドを殺した手前、手心は期待できない。先の予測は実際にゼルダに牙を剥いた。

対するゼルダ。レッドが人質として機能しなかった場合とて、最悪のパターンとして想定済み。最後の一手を使う準備は元より怠っていなかった。

バックステップで下がりつつ、グレイグから奪った『支給品』を、この後に及んでは惜しむことなく大地に叩きつける。

アイアンボウガンとほぼ同じ位置に叩きつけられたその支給品の正体は、『ケムリ玉』。
着弾と同時に発せられた白い煙が、リーバルとベロニカの視界からゼルダを消失させる。

175虚空に描いた百年の恋(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:13:58 ID:Oxg5bfcs0
「そんなので……逃げられると思っているのかい?」

ケムリ玉を視認すると同時、リーバルは右腕を天空に掲げ、勢いよく振り下ろす。
その所作ひとつで、その場に強力な上昇気流が巻き起こった。
リーバルの猛り(リーバル・トルネード)。弛まぬ努力の果てに身に付けた、英傑リーバルの奥義である。視界をケムリ玉の放出する煙が塞ぐと言うのなら、ケムリ玉ごと上空に吹き飛ばせばいい。
同時にアイアンボウガンまでもが天空に打ち上がり、装填していた木の矢も外れてしまうが、それによるタイムロスはせいぜい数秒だ。ゼルダを見失うリスクに比べれば甘んじて受けよう。

単純にして明快な理屈で放たれた『リーバルの猛り』によって、ゼルダの居場所は次第に顕わになる。


「絶対、逃がさないわよーッ!!メラミーーーッ!!」

ゼルダの姿を確認したベロニカは、殺さない程度の『手心』は見せつつも、相応の怒りを込めて火球を撃ち出す。

火球が着弾する直前。ゼルダの周りに微かに残っていたケムリ玉の煙が完全に消え、ゼルダの現状がハッキリ視認できるようになる。そしてゼルダの現状の全貌が明らかになった瞬間、ベロニカは絶句した。

「キ……キリィ…………」

「え、なに……あれ……!? 」

火球は、ゼルダを庇うようにして立っていた――否、『立てられていた』と言うべきか――ひとつの影に着弾していた。

「やっぱり、私の騎士は貴方だけです……ナイト。」

それはレッドが持っていた、瀕死のキリキザン。ケムリ玉で視界が塞がれている間に盾として配置していたのだ。
ただでさえ瀕死の大怪我をしているナイトに、さらに上乗せされた『こうかばつぐん』の火球。風前の灯火だった最後の命が焼き尽くされつつも――古の大賢者の直系の子孫にしてラムダの大魔導師、ベロニカの攻撃呪文からゼルダを守り抜いた。


【キリキザン@ポケットモンスターブラック・ホワイト 死亡確認】

176虚空に描いた百年の恋(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:16:28 ID:Oxg5bfcs0



(不覚……!あたしとしたことが、罪もない子を巻き込んでしまうなんて……!)

ベロニカは拳をわなわなと震わせる。

自分は一度死んだ身。マールディアのような、生きていたい誰かの生をこの手で奪うなどあってはならないのに。

考慮に入れておくべきだった。
瀕死のモンスターを盾にしてでも、逃げようとすることを……

(――いや、違う。)

この時、ベロニカは気付く。
キリキザンの後ろで、ゼルダは逃げる姿勢を見せていないことに。
そう、ゼルダがケムリ玉を使った意図は煙に乗じて逃げるためでも、ナイトという盾を隠すためでもなかったのだ。

「リーバル、危ないッ!」

本当の狙いは、ケムリ玉を吹き飛ばすためにリーバルの猛りを使わせ、上空に飛んだアイアンボウガンを手にするまでの数秒間を稼ぐため。そして、その間にナイトを配置するのに加えた、もうひとつの動向を探られないようにするためである。

キラリ、と。死んだナイトの身体の隙間から不穏に煌めく光に、アイアンボウガンを手にした瞬間にリーバルは気付く。

(あれは――雷の矢……!そして……オオワシの弓……!?)

やはり弓矢に最も精通したリト族の英傑、リーバル。その光の正体をすぐに見破った。しかし、だからといって時すでに遅し。何らかの対処法があるわけではない。

「最初から狙いは貴方だけですよ、リーバル。」

倒れているレッドはもちろん、ベロニカ相手であっても最初の呪文さえ防げば詠唱の隙をつけば体格差に任せ、走って逃げることは可能。ただこの場からの離脱において最大の障害となるのは空を最速で翔けるリーバルである。

既にゼルダは矢を引いている。
木の矢の装填から始めなくてはならないリーバルには止められない。

勝負を決したのは目的の違いだった。いかにベロニカとレッドが死なないよう護りながらゼルダを止めるを考えていたリーバルと、いかにリーバルのみを排除するかばかりを考えていたゼルダ。
両者の思惑は決定的に、ゼルダにとって都合よく噛み合っていたのである。

そしてゼルダが雷の矢から手を離すその直前。


「――ピィ……カァ……」


ゼルダに向かって一直線に飛んでくる影がひとつ。

「ヂュウウウ!!」

突撃してきたピカの尾から伝わる『でんじは』が、ゼルダの全身を包み込む。

(またこのポケモン……!?どうして……所有者であるレッドは先ほど倒れたはず……。命令など下せるはずもないのに……!)

ゼルダは考えるも、すぐにその無意味さに気付き思考を放棄する。何が原因であろうとも、ピカがレッドが倒れてもなお動く現実は変わらない。

しかし理由は単純明快。
10まんボルトを受けてもなお、レッドは意識を失うことなくピカに命令を下した、ただそれだけである。

レッドの身体は確かにいち人間の域を出ない。しかし、一般的な人間の域は優に超越している。
レッドはその身ひとつで全国を旅して回り、悪の組織を壊滅にまで追い込んだ――さらにはチャンピオンですら手を焼くほどの野生のポケモンがゴロゴロいる禁足地、シロガネ山をも踏破するに至った人間である。
その肉体たるや、相棒の電撃ひとつで意識を失うほどヤワでは無い。

177虚空に描いた百年の恋(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:17:09 ID:Oxg5bfcs0
不意のでんじは混じりのタックルに姿勢を崩したゼルダは懐からアンティークダガーを取り出し、握る。
そしてなお我が身に張り付くピカに向けて――真っ直ぐに振り下ろした。突き立てられた鋭利な刃先がピカの身体から鮮血を散らす。

「ああっ……!ピカァーー!!」

レッドの叫び声も虚しく、ピカはその場に倒れ込んでゼルダはピカの阻害から解放される。
そしてでんじはとピカの特性『せいでんき』によって麻痺して上手く動かない手先で、再びオオワシの弓を引こうとするも――貴重な時間の大部分をピカへの対処に費やしてしまったゼルダは、すでに手遅れであった。

「悪いね、姫。」

狙いを定めようと、何とか前を向いたゼルダを待っていた光景は、すでにボウガンを此方に向け、複雑な感情の入り交じった形相を見せるリーバルの姿。

「君は道を間違えたんだ。」

彼の自尊心を散々に凌辱し、無力な少年を人質に取るという卑劣な策を弄し、挙句の果てに少年の持つポケモンに刃を突き立て……そして現在進行形で雷の矢を放たんとしているこの状況。ここでリーバルがゼルダに気心を加える余地など有りはしない。
また、ナイトを盾として消費した。リーバルに攻撃できる唯一の瞬間をピカへの攻撃に使った。そんなゼルダに、もう残機は残っていない。

アイアンボウガンから発射された、1本の木の矢。
それは真っ直ぐにゼルダへと飛んで行き、オオワシの弓を引く暇すら与えずに額を撃ち抜く。

178虚空に描いた百年の恋(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:18:29 ID:Oxg5bfcs0








――そうなるはずだった。


弓矢の名手にしてリト族の英傑、リーバルが確かな殺意を込めて放った矢は。


狙いを定め、真っ直ぐ、ただ真っ直ぐに放った矢は。


――本来の狙いである額を大きく逸れて、ゼルダの『右肩』に命中した。

「……!?」

リーバルが矢を放ったことを認識した瞬間に自分の死を確信するも、自分が生きていることに疑問を覚えるゼルダ。
しかし考える暇は無い。顔を上げたゼルダを待っていたのは、リーバルが再び木の矢を装填している光景。

与えられた、時間にして数秒にも満たないほんの僅かな時間。

迫るタイムリミットへの焦りが早く撃てとゼルダを急かす。
しかし撃たれた肩は上がらず、でんじはの麻痺も残っている。
ふらふらと、狙いもロクに定まらないその手で、もはや本能的に弓矢を引いた。

そんな状態で放った矢がリーバルに届くはずもなく。文字通り的外れの方向に放たれた、たった一発の射撃。本来、当たる確率はほぼ皆無の一撃。しかし弓の魔力がその矢を三本に分かつ。僅かでしかない確率を三倍にまで引き上げる。 その内の、右端の一本。運命に導かれたかの如き射線を描いたその一本が。


「――えっ…………!」


後方に位置していた、一人の少女の心臓を貫いた。矢に込められた電気の魔力が、穴の空いた心臓の機能を一瞬で停止させ――言葉を言い残す余裕すら与えず、その命を奪った。


「……!!ベロニカ……!!」


力無く倒れゆく、一人の少女。
その姿が、厄災ガノンに奪われたガーディアンによって撃ち抜かれた罪なき人々の姿と重なる。

「くっ…………クソォォォォ……!!」

自分の無力を、戦いの敗北を、この上なく悟ってしまったあの日の光景――今とめどなく溢れる感情も、あの時と同じだ。


怒りのままに矢を引く。
悲しみのままに手を離す。

二度目は無かった。
一本の矢は皮肉なほどに綺麗な直線を描き、今度こそゼルダの額を貫く。

(ああ、終わりですのね。)

最初は血の色に変わったはずの世界から、次第に色まで抜け落ちて消えていく。その中に貴方の色が入り込む余地なんて無いと、思い知らされたようで。

……いいえ、違いましたね。
私を救ってくれた貴方の手を取らなかったのは、私の方。

だから消えるのは私。
それはきっと、当然の帰結。

それが在るべき結末だと、頭では納得しながらも。

(でも……それでも……もう一度、貴方に……逢いたい……)

願い虚しく現実は終わって。百年に渡り厄災を封じ込め続けたハイラルの王女はそっと、目を閉じた。


【ベロニカ@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて 死亡確認】

【ゼルダ@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド 死亡確認】

179虚空に描いた百年の恋(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:20:56 ID:Oxg5bfcs0




冷たい風が吹き抜ける中、僕は死んだベロニカに駆け寄るわけでも、死んだゼルダに駆け寄るわけでもなく、ただただ虚空を見つめていた。

あの一瞬。
ベロニカが、レッドが、ピカが、繋いだバトンの先。ゼルダを止められるのは僕だけだった。

それを僕は、外した。
弓矢の威力では限界があるウィリアム・バーキンのような敵であれば、僕が引けを取るのもまだ分かる。

でも今回僕が失敗したのは、よりにもよって射撃の精度を要求される場面。

そして、その結果がこの喪失さ。
ベロニカの命――マールディアが命を賭して護った命が――無意味に散ったんだ。ベロニカの仲間の行方を明らかにするとの約束も守れなかった。

蔑むといいさ。
ハンター。ベロニカをイシの村まで送るという君に与えられたクエストを僕は果たせなかったんだから。

怒るといいさ。
カミュ。君の大切な仲間を僕は護れなかったんだから。

怨むといいさ。
マールディア。ベロニカだけでなく君の死まで、無意味なものに貶めてしまったんだから。


背後で、のっそりと起き上がる影が在った。
それがベロニカであったなら、どれだけ報われるだろうか。
ギリギリで急所を外してたとか、肉体が完全に死亡する前であれば生命活動を維持できるミファーの癒しの力のような何かで蘇ったとか。そんな奇跡が起こっていたなら、どれほど――


――まあ、分かってたよ。

リーバルの期待も虚しく、起き上がったのは当然、レッドであった。全身を電撃に焼かれたことなど意にも介していないような顔をして、ぐったりと倒れたピカへと近付き、抱き上げる。

「……ピカ。ごめんよ……俺が……俺が未熟なせいで……!君を傷付けてしまった……!」

「ピィ……カ……。」

「待っててくれ……すぐに治療できるところに連れていくから……!」

アンティークダガーに貫かれたその小さな身体は見た目以上に鍛え抜かれているらしく、レッドに心配をかけまいと懸命に声を絞り出し返事を返していた。レッドは避難のため、ピカをモンスターボールに入れる。

「……キリキザン。埋葬もできなくてごめん……。」

そしてレッドが次に向かったのは、キリキザンの遺体の下であった。
ポケモンの死――レッドにとってそれは、直接立ち会うのも初めてではない。
元の世界にはポケモンタワーという死んだポケモンを埋葬する施設があった。だけど、ここにはそんな施設は無い。この世界では死者を弔うこともできないのに、次々と人が、ポケモンが、死んでいく。

「全部終わったらきっと、ポケモンタワーに連れていくよ……。」

足元の、キリキザンが入っていたモンスターボールを拾い上げる。野生のポケモンを捕まえられる空のボールを探していたが、こんな形での入手など望んでいなかった。


「――嗤えよ。」

一人、前を向けているレッドの様相が気に食わなくて、気が付けば僕は、ただの自嘲に彼を巻き込んでいた。はは、我ながら本当に格好悪いね。

「わざわざ姫を焚き付けておいて、結局何もできなかった僕を嗤えばいい。」

責められたら満足かい?
それとも、優しい言葉を掛けられたら救われるのかい?


「――笑わない。」


違う。違うね。
どっちも僕を満たすには程遠い。
今の僕を満たす言葉なんて、過去と未来、ありとあらゆる言葉の海を探し求めても存在しないだろうさ。
ただ、これだけは言える。


「俺は絶対に、アンタを笑わない……!」


レッドの返答は、そんなありとあらゆる言葉の海の中でも最も、僕の気に触る一言だろうと。

180虚空に描いた百年の恋(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:23:57 ID:Oxg5bfcs0
レッドは西へ向けて歩き出した。
一緒に来ないかと誘われたが、そんな気分になど到底なれず、無視で返す。僕はまだ前には進めない。ひたすらに何も無い空を見上げ続けている。


――あの一撃を外した理由なら、幾つか考えられる。

例えば、アイアンボウガンが使い慣れていない武器だったということ。
例えば、アイアンボウガンと一緒に空中に飛ばしたケムリ玉の煙が空中の視界を一部とはいえ塞いでいたということ。
例えば、主催者によって蘇らせられた際に百年前の全盛期の動きが失われていたかもしれないということ。


――はっ、馬鹿馬鹿しい。

思い浮かんだ様々な言い訳の全てを一笑に付した。
どれもこれも、僕の射撃の精度を鈍らせるには足りない。全ッ然足りないさ。

あの瞬間、僕を妨げたのは――



(――この大地に棲む生きとし生けるもの全てを厄災の魔の手から護らなければなりません……。)

百年前、英傑にスカウトされた時の姫の言葉が反芻される。
そしてそれは今だけではなく。
この百年の間にも、何度も、何度も――


(――君はいつまで百年前に囚われているんだい?)


ああ……本当にね、と。先の自分の一言を思い返し、小さく呟いた。

君は知らなかっただろうね。
僕はさ――好きだったんだよ、君のこと。


【B-3/平原/一日目 午前】

【リーバル@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康、様々な感情
[装備]:アイアンボウガン@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、召喚マテリア・イフリート@FINAL FANTASY Ⅶ、木の矢×2、炎の矢×7@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[思考・状況]
基本行動方針:……。


※リンクが神獣ヴァ・メドーに挑む前の参戦です。

【レッド@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
[状態]:全身に火傷 疲労(大)、無数の切り傷 (応急処置済み)  
[装備]:モンスターボール(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、ランニングシューズ@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、モンスターボール(空)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品
[思考・状況]  
基本行動方針:こんな殺し合い止める。
1.ピカを治すために、Nの城へ向かう。
2.野生のポケモンを捕まえる。
[備考] 支給品以外のモンスターボールは没収されてますが、ポケモン図鑑は没収されてません。

※シロガネやまで待ち受けている時期からの参戦です。


【備考】
オオワシの弓@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド がゼルダの遺体の隣に落ちています。
グレートアックス@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて がゼルダのデイパックに入っています。

ベロニカのランダム支給品(1〜2個)がベロニカのデイパックに入っています。


【モンスター状態表】

【ピカ(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
[状態]:HP 1/3 背中に刺し傷
[特性]:せいでんき
[持ち物]:アンティークダガー@Grand Theft Auto V(背中に刺さっています。モンスターボールに入った際に抜けたことにしても構いません。)
[わざ]:ボルテッカー、10まんボルト、でんじは、かげぶんしん。
[思考・状況]
基本行動方針:レッドと共に殺し合いの打破

181虚空に描いた百年の恋(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:24:47 ID:Oxg5bfcs0


これは、この殺し合いが開かれなかった場合のもしもの話。
或いは、死の間際にゼルダの見た最期の、幸せな夢。


「私のこと・・・覚えていますか?」


ええ、答えなんて分かっていました。回生の祠で眠る百年で貴方は記憶を亡くしたのだから。

貴方は何も答えない。
ただ無言で俯いて、気まずそうな表情をこちらに見せまいと振る舞うだけ。

……でも、それなら貴方はどうして助けに来てくれたのですか。

そう問い掛けたくて……しかし口にはしなかった。

答えなんて決まっていたから。
貴方がそう役割付けられていたからでしょう。厄災ガノンを倒すことができるのはシーカーストーンを操れる貴方だけだったから。

力に目覚めた私は厄災ガノンを封じ込めていたから、厄災ガノンを倒すついでに助かっただけ。私が『役立たずの姫』のままであったなら、きっと貴方は来ていない。

――それなら、貴方はお父様と。私を役立たずと罵る国民の皆様と、同じじゃないか。

『貴方』はそうではなかった。
『貴方』は私が力に目覚めなくても、最後の最後まで襲い来るイーガ団から、魔物たちから、ガーディアンから、私を護ってくれた。

「――貴方は私が恋したリンクじゃない。」

だから私は、貴方を拒んだ。
だから私は、『貴方』を取り戻す道を選んだ。

私は貴方の下から去った。
もう二度と、『貴方』が帰って来ないのだと分かってしまったから。

そしてたった一人、道を歩く。
百年ぶりに見た世界とはいえ、地形などが大きく変わっているわけでもなく、大まかには百年前とまったく同じ景色。

街と街を繋ぐ整備された道、これも百年前と同じだ。
どうせ今日も無駄なのだと半ば不貞腐れながらも真っ直ぐに知恵の泉に向かって、終われば真っ直ぐハイラル城へと帰る、そんな繰り返しの毎日は今でも思い出される。

だけどその時、不意に気付いた。
百年前とは何かが違うと。

ああ。
もう城への最短ルートであるこの道じゃなくても良いん だ。
森に寄り道してリンゴ狩りに勤しむも、海で魚取りに勤しむも、とにかく、自由なんだ。

ふと、道を外れて小さな丘へと足を運んだ。
それは些細な――されど使命に追われていた百年前には決して許されなかったであろう寄り道。

ハイラルの王女として厄災封印の力に目覚めるための修行。
厄災ガノンに抵抗するための遺物研究。
自身を縛っていたそんな使命から解放された私は――


(ああ、そうか。)


丘から見えたのは、限りなく広がる世界。
二度とブラッディムーンの登らない空は、海のように蒼く冴え渡り。魔物の消えた平原は、目を凝らしても果てが見えない。
道行く人々は、誰も武器すら持たずに屈託の無い笑顔を見せる。


――この時初めて、世界の広さを知った。


全てが終わって改めて見たハイラルは、一人で歩むにはあまりにも広大すぎた。

(これが、貴方の冒険してきた世界なのですね。)

きっと、貴方にとってもそうだったのでしょう。この見渡す限りの世界の命運を一人で抱え込むなんて荷が重すぎる。

百年前の私は、この世界の広大さを知らなくても使命に押し潰されそうになっていたというのに。記憶も無いのに唐突に使命だけ告げられて、どうしてここまで戦うことができたのですか。


……信じてもいいですか。

例え冒険の始まりに私の記憶は無かったのだとしても、どこまでも広がる世界を共に担う私が、貴方の中のどこかに居たのだと。『ハイラルの王女』でも『厄災を封じる姫』でもない私が、途方もない世界を旅する貴方を支える糧となってくれていたのだと。



「――ゼルダ……!」

その時、生命の息吹く声に混じって聞こえた。
『姫』ではなく、私の名前を呼ぶ声が。
高鳴る鼓動を抑えつつ、私は振り返る。

『貴方』はもういない。
貴方の中に百年前の私はもういない。

けれど貴方の中に、他でもない、今の私がいるのならば。

「リンク……!」

私たちはきっと一からやり直せる。

新たに紡ごう。百年前には紡げなかった、私たちと、私たちを取り巻く生命の息吹が織り成す伝説を――――

182 ◆2zEnKfaCDc:2020/03/19(木) 02:25:18 ID:Oxg5bfcs0
以上で投下を終了します。

183名無しさん:2020/03/19(木) 20:32:59 ID:nEfyZ0fQ0
投下乙です
ゼルダとリーバルの百年前に囚われていた故の悲劇がただ悲しい

184 ◆2zEnKfaCDc:2020/04/14(火) 01:39:06 ID:U1nSNNg60
ゲリラ投下します。

185嘗テ思イ描イタ夢ノ誓イ ◆2zEnKfaCDc:2020/04/14(火) 01:41:21 ID:U1nSNNg60
「すみません。そのボール、貸していただけませんか?」

放送を間近に控えて歌うのを中断した星井美希に対し、モンスターボールを指差して要請する9S。周りにあるものの中で唯一、ハッキングできそうだと感じたのである。

「ん、いいよ。はい。」

承諾した美希は9Sにボールを手渡す。ハッキングする際にそれを手に取る必要性は無いが、他者の持ち物に勝手に触れることに抵抗を覚えたために許諾を得るというプロセスを踏む9S。そしてそういったやり取りの中で9Sはやっぱり人間のようだと感じる美希。

(かつては僕も、こんな風に誰かと……?)

相手のことを想い、歩み寄ろうとする現状にどことなく既視感を覚えつつも、9Sはモンスターボールを握り、念じる。そして次第に、意識が仮想空間へと吸い込まれていく。そんな9Sを待っていたのは──



『──ッ!?何だ、これは…………!』



四方八方をセキュリティシステムの役割を果たす『敵』に囲まれた光景であった。

(これは……何て険しいセキュリティなんだ……)

9Sのアクセスを検知するや否や、迎撃にかかるセキュリティシステム。突破が一筋縄ではいかないのは明白だった。

しかし、だからといって諦めるわけにはいかない。
これは殺し合いのために配られた支給品。つまり扱い方によっては人を殺せる道具であると考えられる。
そんな道具を、美希が使い方も分からないまま扱っていれば命にも関わる事故に繋がる可能性も否定できない。

(今度は……必ずハッキングを成功させてみせるッ!)

186嘗テ思イ描イタ夢ノ誓イ ◆2zEnKfaCDc:2020/04/14(火) 01:43:18 ID:U1nSNNg60






「なるほど、この生き物に司令を与える媒体ですか。」

モンスターボールのハッキングを終え、9Sはその機能を覗く。
本調子であればこのレベルのハッキングであっても、現実世界と電子世界の同時進行で戦うことができたのかもしれないが、今の9Sにはそこまで精密なハッキングはできそうにない。少なくともハッキングして電子世界で戦っている間の10秒ほどは無防備になるため、戦っている敵のモンスターボールをハッキングするのは現実的ではなさそうだ。

(さて。僕が操作するか、爆破するかの二通りを選べそうですね。爆破したらこの子は所有者無しの状態にでもなるのでしょうか……。)

9Sから見てもモンスターボールに用いられる技術力に多少は驚くものがあった。が、それよりも驚くべきことは、仕組みを解明しようとすれば9Sをも唸らせる小型装置を、専門知識など全く無い美希が正しく扱えている点であった。
高度な仕組みを作ることが難しいのは当然の摂理。しかし使用者が仕組みを知らずとも扱えるモノを作り出すとなるとその難しさは格段に跳ね上がる。

(――サイケこうせんを撃て。)

「……!むううん!!」

試しに外部の音声を認識する装置に情報を送り込む。
するとムンナことおはなちゃんは何も無い場に向けてその通りに攻撃する。

「面白い装置ですね。これ、僕がハッキングして扱えば僕の命令を聞かせることもできるようです。」

モンスターボールの仕組みに高揚感を覚える9S。しかし美希は少し悲しそうな顔で返す。

「でも、無理やり戦わせるのは可哀想だと思うな。」

「……確かに、そうですね。ごめんなさい、僕の配慮が足りなかったみたいです。」

己を咎める美希に、素直に謝罪する9S。
美希はこんな殺し合いに巻き込まれていいはずがない、優しい子なのだと実感する。

187嘗テ思イ描イタ夢ノ誓イ ◆2zEnKfaCDc:2020/04/14(火) 01:43:58 ID:U1nSNNg60


──そんなはずないだろ。


そして同時に。
そんな9Sの脳裏に、ふと何かが込み上げてきた。


──機--命体のくせに、悲しいはずが……


「──ぐっ!!」

突然、9Sは頭を抑えてうずくまり、美希が心配そうに駆け寄る。

「どうしたの?ナインズくん、すごく怖い顔してるよ?」

「申し訳ありません。何かを思い出しそうに……」

今、思い出しかけたものは何だ?断じて美希に対してのものでは無いが、それは憎悪と呼ばれる感情の類であったことは分かる。

だが、アンドロイドに感情などあるはずが無い。確かに、人類とのコミュニケーションに支障が出ないよう、人類が様々な状況で感じる感情に即した行動をプログラムしているのは確かだ。だがそれは、アンドロイドの感情とは呼べないはず。

『──感情を持つことは禁止されている。』

"感情"というキーワードからか、再びノイズ混じりの記憶がフラッシュバックする。

これは誰の言葉なんだ。
禁止されている?
それならばアンドロイドは感情が無いのではなく、規則によって無いように振る舞わされているだけなのか?

だったら一体、何のため?

……それを突き詰めていくと、何かを思い出せそうな気がする。



『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる?』

9Sの欠けたピースの模索は、マナの放送の声に阻害された。
一旦記憶を掘り起こすのを中断し、放送に耳を傾ける。
いつの間にか、隣にいる美希が9Sの裾を掴んでいたことに気付く。

188嘗テ思イ描イタ夢ノ誓イ ◆2zEnKfaCDc:2020/04/14(火) 01:44:58 ID:U1nSNNg60

その名は、唐突に告げられた。


『天海春香』


「っ……!」

「……美希?」

一番初めの死者の名前が呼ばれた瞬間、美希の瞳からぼろぼろと涙が零れ落ち始めた。
それは掴みどころの無いマイペースな彼女と、歌っている時の可憐な彼女しか知らない9Sには想像もつかない一面であった。
そこにいたのは先ほどまで希望とやらに満ち溢れた歌を歌っていた彼女とは違う、一人のか弱い少女だったのだ。

「……大切な友達。呼ばれちゃったの。」

美術館という人工施設の中で、最初の一時間強は眠って過ごし、さらにその後もずっと歌っていた美希。殺し合いの世界に来てからの美希はずっと日常の延長上にいた。
しかし、だからといって心の準備ができていないわけではなかった。
春香が夢に出てきた時から、生物学では凡そ解析できそうにもない虫の知らせめいた何かがずっと胸の中にあった。

(ミキ、こういうの外したことないもんね……。)

だけど、それでも。予感があったことと悲しみに耐えられることはまた別である。
良き友人であり、共に高め合うライバルでもある春香の喪失を実際に突きつけられたことは、その予兆とは比べ物にならないくらい悲しかった。

「大丈夫。」

そんな美希の頭に、9Sはそっと手を乗せる。
もっと強いと思っていた女性が、思いがけずふと見せたか弱い一面──何て愛おしいのだろう、と。9Sは不謹慎ながらにそう思った。

「僕が、美希を独りにはしませんから。」

「ん……ありがと、ね。」

美希と9Sでは美希の方が少しだけ背が高く、頭を撫でるには少しぎこちなさが生まれる身長差である。そういった所作のところどころが、やっぱり人間らしく見える。

(どこかプロデューサーみたい……安心、するの……。)

美希にはその手が、きっと人間よりも暖かく、心地良いものなのだと思えた。

189嘗テ思イ描イタ夢ノ誓イ ◆2zEnKfaCDc:2020/04/14(火) 01:47:54 ID:U1nSNNg60
少なくとも、もうひとつの名が呼ばれ、その手の温もりが離れていったその時までは。


『ヨルハA型二号』


「ヨル……ハ……?」

自分と同じ「ヨルハ」の名を冠し、アルファベットと数字で構成された名前の人物。記憶の無い自分と関係のあるアンドロイドであるのは明らかだった。

「うっ……!」

「わっ……ナインズくん!?」

そしてその名を認めた瞬間、9Sは視覚システムにまでノイズを及ぼすほどの頭痛に見舞われる。
まるでハッキングされたかのように、意識が保てなくなり、次第に闇へと沈んでいく。
そして僅か数秒。9Sの意識が戻った時、美希の頭を撫でていたはずの手は美希の両手に包まれていた。

「良かった……気がついたみたい。」

美希と目が合う。
ありがとうございます。そんな言葉を発するつもりだった。しかし、9Sの口から零れたのは別の音声。

「彼女はどうして裏切ったのだろう──」

「え?」

「最初に在ったのは、そんな疑問。」

「ナインズ……くん?一体どうしたの?」

「裏切ったのは、---だろう?──疑問の答えとなる彼女の言葉は、思考回路に一抹の不安を残した。」

ふらふらと、美希へと歩み寄る9S。

「だから僕は無断でバンカーの中枢をハッキングして……そう、知ってしまったんだ。」

そして9Sはその肩を掴む。
困惑と、多少の赤面を見せる美希を真っ直ぐ見つめる。

「そう、僕は……人類(あなた)に会いたかった……人類(あなた)に、触れたかったんだ……!!」

先ほどの美希以上に涙を流し、その場に崩れ落ちる9S。それはこの世界で志半ばで倒れた、殺し合うはずだった敵に向けて語った夢。本来は叶うことのなかった、露よりも儚い夢。

190嘗テ思イ描イタ夢ノ誓イ ◆2zEnKfaCDc:2020/04/14(火) 01:48:51 ID:U1nSNNg60
「僕は、貴方を護ります。それがヨルハ(ぼく)の生きる証だから。」

9Sは誓いを立てる。
その様子を見て、美希は思う。
きっとその瞳の先に映っているのは自分ではないのだと。

(やっぱり……ナインズくんの過去は……)

天性の直感力など無くても分かる。ナインズくんが何か闇を抱えていたこと。記憶を取り戻すことが、必ずしも幸福な結末に繋がるとは限らないということ。

「安心して。」

分からない。
ナインズくんの記憶を取り戻すのが本当にナインズくんにとって幸せなことなのか。
過去を乗り越えることは必要なことかもしれないけれど、時にそれは前に進む気力すら奪ってしまう──ちょうど、千早さんがそうだったように。

「ミキも……ナインズくんを独りにはしないよ。」

すぐに出すことの出来ない結論を頭から遠ざけるように、美希はそう語りかけた。

【B-4/美術館の廊下/一日目 朝(放送直後)】
【星井美希@THE IDOLM@STER】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:自分にできることをする。
1.ナインズくんが記憶を取り戻す手伝いを……?


【ヨルハ九号S型@NieR:Automata】
[状態]:記憶データ欠如
[装備]:マスターソード@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、0〜2個)、モンスターボール(ムンナ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[思考・状況]
基本行動方針:記憶を取り戻す。
1.僕は一体何者なんだろう。


※Dエンド後、「一緒に行くよ」を選んだ直後からの参戦です。
※ゴーグルは外れています。
※記憶データの大部分を喪失しており、2BやA2との記憶も失っていますが、なにかきっかけがあれば復活する可能性はあります。
※元の世界で人類が絶滅していたことを思い出しました。
※まだ名簿は見ていません。


【ムンナ ♀】
[状態]:健康、ピンク色の煙を出している
[特性]:よちむ
[持ち物]:なし
[わざ]:あくび、サイケこうせん、ふういん、つきのひかり
[思考・状況]
基本行動方針:美希についていく。

※所有者は星井美希のままですが、モンスターボールをハッキング済みのため9Sがモンスターボールに情報を送ることで遠隔操作に近い指令ができます。

191 ◆2zEnKfaCDc:2020/04/14(火) 01:49:09 ID:U1nSNNg60
投下終了します。

192 ◆vV5.jnbCYw:2020/04/15(水) 01:09:19 ID:pf.gqiys0
投下乙です。
>虚空に描いた百年の恋
リーバルに君を守るって言わせておいて次の回でベロニカを殺すなんてあんたサイコパスだよ!
ゼルダも原作ではほとんど戦闘描写が無いキャラクターながら、千枝、グレイグ、リーバル、レッド、ベロニカとよく戦った。
生きているうちは救われなかったと思い込んでいたゼルダだけど、最後は救われたのかな。

> 嘗テ思イ描イタ夢ノ誓イ
この二人、今の所あんまり活躍してないけど、どっちもよい子でほっこりする。
ただ事じゃない状況に置かれながら、自分を保っている感じがしてスゴイ好き。
ムンナを原作にない方法で使役し、美術館から出た先で、何が起こるのか気になります。

では私も自己リレーになりますが、カイム、エアリス、ゲーチス予約しますね。

193 ◆vV5.jnbCYw:2020/04/16(木) 14:25:59 ID:4AEbHrYA0
投下します。

194拘束が緩むときは ◆vV5.jnbCYw:2020/04/16(木) 14:26:29 ID:4AEbHrYA0
長い、長い時間が流れた。
それはこのバトルロワイヤル全体から見ればほんの数分だが、その場にいる男にとっては何時間にも感じた。
男の名はゲーチス。
元プラズマ団の総帥にして、全てのポケモンの力を手中に収めようとした。
その長い時間、みじめさを噛みしめていた。
かつての身分が高ければ高いほど、堕ちた時の惨めさも増す。
そしてそれは、動けないときに、一層強くなる。
壁の穴から流れ込む太陽が、屋内にいる男の顔を照らす。
しかし、その顔がじっとりと汗で濡れている理由は、太陽の熱ではなさそうだ。
その理由は、恐らく目の前の相手にある。


一人の女性が、ゆっくり、ゆっくりと硬直した男の腕を拘束する。
つい先ほどまでは、男の両足を縛っていた。
相手は硬直効果の力を受けた状態なので、動かすのに苦労しているのが傍から見ても分かる。
彼女はかつてのミッドガルのスラムの花売りにして、白マテリアの使用を許された少女、エアリス。
見た目は可憐な女性であるが、つい最近まではスラムで生活していたこともあって、戦闘能力、防衛術は身に着けている。
しかし、その彼女をもってしても、目の前の男は脅威であった。


二人の目の前で、硬直している男。
亡国カールレオンの王子にして、赤き竜との契約者カイム。
最愛の女性にして、妹のフリアエの自決を唆した宿敵にして、この戦いの主催者であるマナを殺すことを目指す。
そのために、この戦いの参加者のせん滅を望む。
目の前の二人の顔を強張らせている原因も、この男が一因である。
先刻前、エアリス達を襲撃し、反撃を受け身体と魔法の自由を奪われた。
だが、拘束されたところで、脅威は消えない。
エアリスが放った邪気封印によって身動きこそ封じられているが、残された意識で反撃のチャンスを伺い続けている。
そのような男が目の前にいれば、相当の強者でない限り穏やかな心を保つことは難しいだろう。


太陽の顔は、エアリスとゲーチスのみならず、部屋の端に座っているカイムの顔も照らした。
それは、長い間太陽刺すことなき赤い空の下で戦い続けたカイムにとって、久しぶりに見た太陽だった。
だからといって、久しぶりに見た、という感情しか思わなかった。
彼の心にあるのは、マナへの怒りと、殺戮への喜びのみ。


袖越しとはいえ、カイムの腕にひんやりとした女性の手の感触が伝わる。
人の手が触れるのは、また久方ぶりの感触だった。
とはいえ、カイムの腕にエアリスが触れた理由は、拘束の為だったが。

195拘束が緩むときは ◆vV5.jnbCYw:2020/04/16(木) 14:26:49 ID:4AEbHrYA0

カイムはカーテンの紐らしきもので、動きを止めてくる光を放った少女に、後ろ手を縛られる。
身体は全く動かないのに、こうして動かされたり、人の手の感触を汲み取ったりできることに奇妙なものを感じた。
しかし抵抗はあるものの、次第に硬直していた筋肉の動きが戻ってくる。


彼は体の動きを確認しようと、指をもぞもぞと動かす。
その時、硬直状態が切れたことにエアリスも気付いた。


「気が付いたのね。」

徐々に自由になり始めた男は、体を芋虫のようにもぞもぞさせる。
ただし、返事はない。
彼は紅き竜との契約による生命力と引き換えに、言葉を失っているのだ。


「動かないで。怪我しているわ。」
そう言いながらエアリスは室内の引き出しに合った布を千切り、支給された水に浸して手や顔の汚れを拭う。

顔を歪めはするも、カイムは言葉を発さない。

「ねえ……あの町で何があったの?」
それでも、返事はない。
(おかしいわね。ストップ状態が解除されつつあることは、沈黙も解けているはずだけど。)


「あれほど大それた行為をやっておいて、ワタクシ達に言葉の一つも出せないのですか!!」

後ろにいたゲーチスが声を荒げる。
しかしそれは、未知の力に対する恐怖を紛らわそうと叫んでいるに過ぎなかった。
怖いものを寄せ付けまいと周りの物を振り回している子供に過ぎなかった。

「ゲーチス、この人は私が話を付けるわ。それよりカーテンの紐とか、他に拘束できそうな物はない?」
「……。」
その男を宥め、エアリスは再度カイムと話をし始める。


「あなたは、どうして私達を襲ったの?」
当然のことながら、返事はない。
しかし、ただ自分を無視しているようには思えなかったエアリスは、話の趣旨を変える。

「もしかしたら、何かの理由で言葉が話せないの?」
エアリスが花売りをやっていた、スラムでも似たような人がいた。
目の前にいるカイムのように、言葉を紡げないわけではないが、呻き声しか上げられない男のことを思い出した。

コクリと、カイムは頷いた。

196拘束が緩むときは ◆vV5.jnbCYw:2020/04/16(木) 14:27:16 ID:4AEbHrYA0
しかし、何が原因で言葉を話せないのかは分からないが、意思疎通が厄介な相手だと改めて感じた。

伍番街スラムの土管にいた男のように、精神そのものに異常をきたしているかもしれないし、解決方法も分からない。
筆談ならやりとりが出来るかもしれないが、そのためには両手の拘束を解かないといけない。

「水、飲める?」
エアリスが支給された水差しを出すと、普通に口を付けて飲み始めた。
食事や自分の意思の受諾は可能なようだが、やはり殺し合いに乗った相手なら説得を彼女は求める。

「エアリスさん!!そんな薄気味悪い男は放っておいて、早く先へ進みましょう!」
何度目か、ゲーチスが先を急ぐ言葉を発する。
「ごめん……もう少しだけ……。」

ゲーチスの言葉は、エアリスにとってもその通りだと感じた。
マーダーはこの男だけではないし、説得できるかも不明だ。
そして何より、その言葉を発したゲーチス本人も、安全な人物かどうか保証がない。
どちらかと言うと、ブラック寄りのグレーな人物だ。
最初に出会ったポケモン使いの少年や目の前の男に怯えているが、脅威がなくなれば何をやり始めるか分からない。


更に、エアリスにとってはカームの街の中も見てみたいという願望があった。
カイムと戦っていた相手が、ティファや、他のマナに立ち向かった蒼髪や白スーツの男の可能性もあった。
そして、誰かがカイムから隠れて、街の中に身を隠しているという可能性もある。


その時、部屋の時計が6時を指した。

『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる?』

音源はどこからか不明だが、放送で少女特有の甲高い声が響き渡る。
エアリスとゲーチスは静かな場所からの大音量に驚き、カイムは声が聞こえる方を忌々し気に睨みつけていた。


「エアリスさん……少し、席を外して良いですか?」
上ずった声で、ゲーチスはエアリスの承諾を得ないまま空き家の外へ出て行った。


ゲーチスは恐らく、死んだ知り合いに想いを馳せたいのだろう、少なくとも彼女はそう思った。
放送で呼ばれた知り合いの名がなかったこと、そして、ゲーチスはそっとしておこうという気持ちから、転送されたという名簿を読む。

197拘束が緩むときは ◆vV5.jnbCYw:2020/04/16(木) 14:27:33 ID:4AEbHrYA0

(そんな……!!)
最初のページで目に留まったのは自分の名。
それからすぐに、クラウドの名前。そして、かつて彼女が好きだった青年、ザックスの名前。
それから名簿を読み進めるうちに、彼女が一番恐れていた名前を見つけた。

(セフィロスまで……?)

禁断の黒魔法、メテオを司る黒マテリアを手中にし、星と一つになろうとしている男。
彼までも自分達の手中に収めたこの戦いの主催者を、改めて脅威に感じた。


そして、脅威を感じたのは主催者のみではない。
カイムに出会う少し前に、街に降り注いだ隕石を思い出した。
元々あの隕石を見て、黒マテリアの存在を危惧したからこそ、ゲーチスの提案を無視してカームへ行こうとしたのだった。
当初警戒した黒マテリアこそ見つからないが、カイムの武器は、エアリスも知っている逸品だった。


(この武器……やはり、間違いないわ。)
正宗。セフィロスが持っていた、並の長剣を遥かに超す長さと強さを持った名刀。
実際に彼女らがいた世界でも伝説のソルジャー、セフィロスに肖った正宗の贋作が多くあったし、そっくりな武器だという可能性も考慮した。
しかし、いざ持ち主から取り上げて、近くで見るとやはり本物だと分かる。
その剣がこんな所にあるということは、持ち主であるセフィロスが呼ばれてもおかしくはないということだ。


恐らく、写真付きの名簿ではないので、確定事項ではないが、残念ながら同姓同名の人物ではないのだろう。
セフィロスがいるというのなら、一刻も早く彼の居場所を突き止め、刺し違えても止めなければならない。

エアリスの顔には先程までとは比べ物にならない程、焦燥の念が現れていた。


最初はゲーチスの言う通りNの城へ向かい、その途中でカームの街へ行き、知っている仲間を探そうと思っていた。
しかし、状況は彼女の思った以上にひっ迫していた。


すぐにでも仲間、クラウド達を集めて、セフィロスを倒さねばならない。
だが、カイムとゲーチスの存在も同様に気になった。
仲間集めをするなら、カームの街が近くにあるし、同様にカイムの見張りも出来る。
ゲーチスを見張るなら、本人の希望に沿ってNの城へ向かうべきだ。


ここでエアリスは、一度ゲーチスと共にカームの街へ行くことにした。
街を見回して隠れている者を探し、協力を求める。
信頼できる協力者を近くで集まることが先決だと感じていた。


しかし、セフィロスという新たな存在を知ることで、僅かながら既存の脅威の警戒をないがしろにしていた。
少しずつだが、カイム両手両足の拘束が、千切れてきていた。

198拘束が緩むときは ◆vV5.jnbCYw:2020/04/16(木) 14:27:58 ID:4AEbHrYA0
そんなことも気付かず、エアリスは外にいるはずのゲーチスを呼びに行く。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



半分だけだが、口をがちがちと震わせる。
変えたくなる表情を、じっと抑えている。
その様子は、にらめっこに負けじと顔を震わせている子供の様だった。
しかし、それは幼い子供がやってこそ愛苦しいものになるのだが、大の大人が見せる表情としては、ただただ不気味だった。
そして、その表情は従来人が「顔」と認める部分の丁度半分で作られているから、一層薄気味悪さを醸し出していた。


エアリスはゲーチスの声が上ずっていたのを、知り合いが呼ばれた悲しみだと解釈したが、実際はその逆だった。

「クククク……ハハハハハハハハ!!!」
たまらず、声を漏らしてしまう。
こんな状況で高笑いするなど、殺し合いに乗った者を呼びかけたり、対主催からの危険人物への認定とされがちなので、口を両手で押さえるが。


ゲーチスが笑った理由は二つ。
一つは、チェレンという自分を連行した忌々しい眼鏡のガキが死んだこと。


(いいザマですね。おおかた自分の力を過信していたんでしょうが。)
自分をアデクと共に連行した時の、忌々しい顔を彼は今でも覚えていた。
あの時の、「正しいこと」をしていると思い込んでいた顔を。


そして、もう一つは13人という死者の多さ。
今自分が生殺与奪の権を握っている人を合わせると、14人。
既に5分の1がこの殺し合いから脱落しているようなものだ。
自らの手でたいした成果は上げられなくとも、自分がステルスマーダーのスタンスを貫く考えは正しかったようだ。


暫く経って気持ちを落ち着かせ、口への拘束を緩めエアリス達の元へ戻ろうとする。
その瞬間、空から煌めく何かが落ちてきた。


(ん?これは一体……。)
その装飾豊かなデザインはすぐにエアリスが持っていた弓だと気づく。
だとしたら、なぜそれが空から降ってくるかが疑問になった。

199拘束が緩むときは ◆vV5.jnbCYw:2020/04/16(木) 14:28:23 ID:4AEbHrYA0

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

(アリオーシュ……レオナール………。)
マナの不愉快な哂いと共に呼ばれた旅の仲間。
自分が呼ばれていることは、彼らも呼ばれているとは思っていた。


(どちらでもいい。奴等の分まで、マナに返すのみだ。)
カイムの心の中で燃え盛っていた炎が、さらに勢いを増す。
ゆっくり、ゆっくりと縛られた後ろ手が、拘束を引きちぎっていく。


エアリスはただ何も考えずにカイムの手足を縛ったわけではない。
彼女もまた、神羅兵やスラムのごろつきに襲われた経験があり、クラウドやバレットに比べたら非力なものの、それなりな護身術には長けている。
ゆえに、彼女の施した拘束は簡単には解けない作りになっている。

だが問題は、相手が神羅兵やごろつきとは比べ物にならない程の力を持っていたことだ。


目の前の女が名簿を読んでから、焦燥に駆られた表情を伺えた。
今がチャンスだと思い、すぐに腕の拘束を引き千切り、自由になって腕で手刀をつくり、脚の拘束も引き裂く。


エアリスはまだそれに気づかず、ゲーチスを呼びに部屋から出る。
それをチャンスとばかりに、カイムもエアリスを追いかける。
魔法使いタイプの相手の攻略は極めてシンプル。
厄介な魔法を食らう前に懐に飛び込み、力でねじ伏せる。


この戦いに呼ばれる前から帝国軍の魔術師と戦っていたカイムは、颯爽と走り出した。
一度目の戦いは長剣の正宗に頼り過ぎた戦い方をしたため、魔法を食らってしまった。
だが、今度はそれを食らう前に始末すると決めた。


(!!)
家を出てすぐに、エアリスはカイムが拘束を解いたことに気付く。
エアリスはカイムを黙視するや否や、王家の弓を引く。
だが、弓が引き終わる前に、カイムは距離を詰める。


姿勢を低くして突進する様は、さながら獣のよう。

(!!!)

そのまま足を高く上げて、王家の弓を天高くまで蹴り飛ばした。
蹴飛ばされた弓は、エアリスの背後、市街地の建物を隔ててかなり遠くに落ちた。
弓の脅威を排除すると、今度は地面に押さえ込み、首に手を掛けようとする。

魔法の出し方とは、カイムが知る限り3つあった。

1つ目は、自分がやるように、媒体となる武器に魔力を注ぎ込み、放出するやり方。
2つ目は、王国軍の神官ヴェルドレがやったように、言霊を利用して魔力を紡ぐやり方
3つ目は、帝国軍の魔法使いや怪物がやったように、念動力を基に魔法を放つやり方。


それぞれ、武器、言葉を発する器官、動きを封じてしまえば、魔封じの術などを用いなくても魔法を封じられる。

200拘束が緩むときは ◆vV5.jnbCYw:2020/04/16(木) 14:28:42 ID:4AEbHrYA0

彼女がカイムの動きを封じたリミット技は、魔法とは僅かに異なるものだったが、同様に致命的な弱点があった。
それは、発動条件が受けたダメージに起因する。
逆に、体力が全快のまま、一撃で、あるいは反撃の暇なく即死級の攻撃を受ければ、使うことは出来ない。


「―――――ッ!!!」
首を掴まれ、声にならない叫びを上げるエアリス。

しかし、言葉を紡がなくともその目は訴えている。

(やめろ……そんな目で見るな………!!)
急に手の力が弱まる。
女がまた何か違う魔法をかけてきたのかと思ったが、そうでもないようだ。


今こうして見つめられている相手は、最初に出会った少女のような無力な存在ではない。
自分の知らない力を持っている相手だ。
なのに、なぜ殺せない。
今殺さなければ、また見知らぬ魔法で動きを止められるかもしれない。



力がどうにも入らないが、歯を食いしばって指を動かす。
ぶちりと引き千切れる音が聞こえる。





もし彼が赤き竜と契約しておらず、声を失ってなければ、うめき声を上げていただろう。



カイムは市街地をすぐに抜け出し、山岳地帯へ入った。
どうにも、あの女性のことが分からなかった。
自分を殺せる千載一遇のチャンスだったのに、殺さなかった。


あの女性のヒスイ色の瞳を見ると、どうにも人殺しのための力が入らなくなってしまう。
そして殺せるチャンスだったのに殺せなかったのは、自分も同じだ。

もし、言葉が話せたら、なんて考えが一瞬頭をよぎったが、すぐに消えた。
たとえ言葉を話せても、それを上手く使えなければ意味がない。

殺人鬼を捕まえておきながらみすみす逃がしてしまう人間など、いつかは死ぬ。
隣にいた男もヴェルドレと同じ、周りの状況に右往左往するだけで生かしておいても問題ないだろう。


いつだったか、この戦いが始まって最初に少女を逃がした時と似たようなことを思いながら、奪ったカバンから正宗を取り出し、そのままさらに走った。

自らの心への拘束を憎みながら。


【D-3市街地→D-3北 山岳地帯/一日目 朝】

【カイム@ドラッグ・オン・ドラグーン】
[状態]:ダメージ(中)魔力消費(中)
[装備]:正宗@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品 エアリスの基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、マナを殺す。
1.自分よりも弱い存在を狙い、殲滅する……つもりだったが?
2.雷を操る者(ウルボザ)のような強者に注意する。
3.子供は殺したくない。


※フリアエがマナに心の中を暴かれ、自殺した直後からの参戦です。
※契約により声を失っています。
※正宗に自分の魔力を纏わせることで、魔法「コメテオ」が使用できます。

201拘束が緩むときは ◆vV5.jnbCYw:2020/04/16(木) 14:29:00 ID:4AEbHrYA0

★★★★★★★★★★★★★★★★


「私のバッグが……!」
結局彼が出来たのは、奪われた武器を奪い返すことだけだった。
幸いなことに、支給品は食料や水以外は、全て外に出していた。名簿も大体目を通しての出、彼女には問題ない。


しかし、カイムはエアリスに傷を負わせることなく、逃走した。

「これは……どういうことですか……?」
ゲーチスの高揚した気分は、目の前に飛び込んできた風景によって、瞬く間に冷めた。
力無くエアリスに弓を返す。
ハイラルの頑丈な鉄と宝石を混ぜ合わせて作った王家の弓は、壊れてはなかった。


「どうやら拘束が甘かったようね……。仕方がないわ。もう一度追いかけるわよ。」


「いえ、もう止めましょう。ヤツは放っておくべきです。」
どちらにせよ、ゲーチスが目的としているNの城は、ここから北西にあるため、カイムと同じ方向に行かねばならないのだが。

「そんなこと言っている場合じゃないわ、それにゲーチスさんが目指していたNの城も、あの方向じゃない?」

そう言われて、追いつけそうにないのだが、カイムを追いかける。
あの時、確かに自分を殺そうと思えば殺せたはず。
きっと彼が心のどこかで殺戮を拒んでいる気持ちがあるのではないかという彼女の推測は、確信に変わった。
だからこそ、殺しをさせてはいけないと感じた。



しかし一つゲーチスにも、疑問に思う所があった。

Nの城へ向かうと、持っているポケモンの体力を回復できるらしい。
そして、最初に出会ったトウヤは、傷ついたバイバニラを自分から奪った。


ひょっとすると、その先でバイバニラを回復させに来たトウヤと、再会するのではないかと思い始めた。
最も、今はNの城にしか向かう場所が無いので、北へ向かうしか方法が無いのだが。


【D-3市街地 /一日目 朝】

【ゲーチス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:ダメージ小、無力感、苛立ち
[装備]:雪歩のスコップ@THE IDOLM@STER
[道具]:基本支給品、スタミナンX@龍が如く 極
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、野望を実現させる。
1.エアリスを利用し対主催を演じる。
2.早くNの城へ行きたい
3.カイムを追いかける


※本編終了後からの参戦です。
※エアリスからFF7の世界の情報を聞きましたが、信じていません。


【エアリス・ゲインズブール@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:ダメージ小 MP消費(小)
[装備]:王家の弓@ゼルダの伝説+マテリア ふうじる@FINAL FANTASY Ⅶ ブレス オブ ザ ワイルド、木の矢(残り二十本)@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:なし(装備品 除く) 
[思考・状況]
基本行動方針:仲間(クラウド、バレット、ティファ、ザックス)を探し、脱出の糸口を見つける。
1.カイムをどうにかして止める。
2.今はゲーチスに付いて行き仲間を探す。もし危なくなったら……。
3.カームの街で、人探し、および黒マテリアの捜索をしたい。
4.ゲーチスの態度に不信感。
5.セフィロス、および会場にあるかもしれない黒マテリアに警戒


※参戦時期は古代種の神殿でセフィロスに黒マテリアを奪われた〜死亡前までの間です。
※ゲーチスからポケモンの世界の情報を聞きました。

202拘束が緩むときは ◆vV5.jnbCYw:2020/04/16(木) 14:29:14 ID:4AEbHrYA0
投下終了です

203 ◆2zEnKfaCDc:2020/04/17(金) 00:39:06 ID:WCGq8IDU0
投下お疲れ様です。
カイム、仮にもFF勢であるエアリスを一瞬でなぎ倒すの恐ろしすぎる
でもDQ11表クリア後のマルティナが適わなかった辺り、FF7途中退場のエアリスが手も足も出ないのも納得なんだよな……

>>「どうやら拘束が甘かったようね……。仕方がないわ。もう一度追いかけるわよ。」
やっぱりエアリスは雰囲気に似合わずたくましい。こういうとこがエアリスの魅力だよなあ。
反面、ゲーチスのスネ夫ポジが板についてきた気もする。

ところでDoD勢はFF7の仲間メンバーと戦う宿命でもあるのだろうか?
イウヴァルトも南下していけばティファと戦うことになりそうだし

204<削除>:<削除>
<削除>

205 ◆2zEnKfaCDc:2020/07/15(水) 01:45:50 ID:O1HsMvY60
ホメロス、クラウド・ストライフ、トウヤ、花村陽介で予約します

一見おかしな組み合わせに見えますが、トウヤがNの城方面に向かってることは把握してます

206 ◆vV5.jnbCYw:2020/07/21(火) 19:10:10 ID:9CUhbyZk0
リンク、2B、雪歩、美津雄、ザックス、カイム予約します。

207 ◆2zEnKfaCDc:2020/07/21(火) 21:01:26 ID:HVFgJ93o0
前半のみになりますが、投下します。
後半部分については予約を延長させてください。

208……and REMAKE(前半) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/21(火) 21:02:44 ID:HVFgJ93o0
 たくさんのものを手に入れた。
仲間との絆。宿命の終焉。そして、新羅カンパニーやメテオの脅威の去った、平和な星。

 しかしその結末を迎えるために、零れ落ちたものがあった。その時に生まれた哀しみも怒りも、前に進むためには必要なものだった。星の命に比べれば、きっと誰もが多少の犠牲は仕方ないと言って吐き捨てるのだろう。

 だけど俺には、その零れ落ちたものが何よりも大切だったんだ。
誰かにとっての多少の犠牲は、俺にとっては星よりも重かったんだ。

 闘いの中で、答えを見つけた。
人はそれぞれ現実を持っていて、それぞれが己の現実を守るために闘っている。アバランチも新羅もその芯は正義でも悪でもなく、己の望む現実を通そうとしていただけに過ぎない。

 でもそれでいい。正義も悪も自分の現実を邪魔しない。するべきじゃないんだ。邪魔をしていいのは自分の現実を妨げる敵だけ。

「俺は俺の……現実を生きるッ!」

 それならばこれは、現実の奪い合いだ。自分の望む現実を生きるために、相手の望む現実を奪う。殺し合いを命じられたというのは、そういうことなんだろう?

 ザックスの人格ではなく自分自身の人格で、エアリスとの物語をやり直すんだ。それが誰にとっての正義でなくても構わない。自分にとって、それが正義であるならば。それが俺の願う現実だ。

 変わらぬ信念を胸に、クラウドは闇を纏った聖剣―――もはや魔剣と化したグランドリオンを振るう。

「それこそが幻想だって……言ってんだろうがッ!」

 その信念を、花村陽介はたった一言吐き捨てた。

 闘いの中で、答えを見つけた。

 現実は辛い。理不尽な暴力によって失われるものは数知れずあるし、自分は自分のなりたい理想像にまったく届いちゃいねえ。届くビジョンも見えやしねえ。

 だけど、それでいいんだ。目を背けてさえいなければ、いくらでも前には進める。虚飾を拒み、真実を追究する意志。それさえあれば自分を見失うことだけは絶対に無い。自分の生きる在り方、その全てが現実なのだから。

 陽介もまた、その信念は変わらない。変わらないからこそ、陽介のシャドウ『ジライヤ』は陽介と同じように前を向き、クラウドに真っ向から立ち向かう。

 クラウドの今は他人の犠牲の上に成り立っている。目的のための犠牲は必要なものだと割り切っていながらも、だけどたった一つ、そう割り切りたくない犠牲があった。クラウドは今、その自己矛盾から目を逸らして闘っている。目を逸らさねば、多くの犠牲を正当化できないから。

 一方で、陽介が今ここにいるのは自分と向き合い、真実から目を逸らさなかったからだ。久保のように己のシャドウを否定し続けていれば。あるいは真実を見極めようとせずにあの時に生田目を殺してしまっていれば。人々は霧の中でシャドウへと化していたはずだ。

209……and REMAKE(前半) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/21(火) 21:03:33 ID:HVFgJ93o0
 両者ともに、相手の主張は己の旅路で得た答えを否定するものだった。棄却し、ねじ伏せなくてはならないものだった。

ㅤそれならば当然、その主張の行先は衝突する未来のみである。そして此処が殺し合いを生業とする世界なればこそ、そこに武力衝突をも伴うもまた摂理。

ㅤ心の準備はできている。ホメロスが闘っているのを観ている間、ホメロスが死ぬという最悪の事態の想像は常に胸に付きまとっていた。現状、ホメロスが気絶しているだけで生きていることがその想像との唯一の差異であり、しかしその差異こそが陽介から逃走の選択肢を奪っていた。

ㅤクラウドが先に動いても、陽介は落ち着いてその動きを見据え、いつものようにジライヤを顕現させる。

ㅤ拳と刀の鈍い衝突音が響き渡る。二度、三度、その数が増していくにつれてジライヤへの負荷が増していく。

ㅤ堪らずジライヤを下がらせると、クラウドの視線はジライヤから陽介へと移った。当然、それはターゲットの変更を意味する。

「俺の願いの邪魔となるのなら、俺はお前を斬るだけだ。」

ㅤクラウドは明確な、殺害の意思を示す。そしてそれは同時に、動機の提示でもあった。

ㅤクラウドが言った、願いという単語。おそらくは優勝者への何でも願いを叶える権利とやらだろう。あんなの、基本的に楽観主義的な思考の陽介から見ても眉唾ものだ。それならば当然、クラウドから見ても100%信頼出来るものなどではないはず。クラウドの願いとは、それでも縋ってしまうようなものなのだろう。そんな願いの内容なんて分からない。だけどただ一つだけ、言えることがある。

「あんな奴らの手を借りなきゃ叶わない願いなんて、間違ってる!」

ㅤそれがどれだけ至高な願いであろうとも、自分の手で掴み取れず、マナやウルノーガのような悪しき存在無しには叶わない願いであれば、叶うべきでは無い。悪魔のような催しで叶えた願いに、価値など見出してはならないのだ。

 しかしその言葉は伝わらず、真っ直ぐに斬り込むクラウドとジライヤが再び衝突する。ジライヤの『突撃』に対し、魔剣グランドリオンの一閃。先ほどまでの応戦よりも一際大きな衝撃を受けたクラウドは陽介へと到達することが出来ずに下がらされる。

「俺の世界は、あの時から止まったままなんだ。」

「それでも! 俺たちは前を向いて生きていくしかねえんだよ!」

ㅤ次に先手を打ったのは陽介だった。クラウドが距離を置くのを許さず、威力よりも速度に重きを置いたソニックパンチによる追撃でクラウドの防御の手を休ませない。先ほど、クラウドに唯一まともにダメージを通した技でもある。

「詭弁だな。」

ㅤそして今度も、ジライヤによる攻撃は確かにクラウドの元に届いた。しかし手応えがほとんど感じられない。

ㅤクラウドからすればそれは一度見た技。『てきのわざ』マテリアが無いためラーニングまでは出来ないが、その軌道をハッキリ見切るには充分であった。グランドリオンを縦に構えて最低限の負荷で受け流す。

「お前に俺の願いの何が分かる?」

ㅤジライヤをやり過ごし、陽介に斬り掛かるクラウド。

ㅤ対する陽介が図るのはペルソナを戻すまでの時間稼ぎだ。しかし、下がって距離を取る選択肢は無い。後方数メートルの地点でホメロスが気絶しているため、下がりすぎると巻き添えにしてしまう。

210……and REMAKE(前半) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/21(火) 21:04:07 ID:HVFgJ93o0
「分からねえよ。」

ㅤ斬撃を回避しながら、陽介は反論する。

ㅤ陽介が選んだのは、その場から大きく動かないままの回避。ホメロスが闘っていた時に使ったマハスクカジャの効力がまだ残っていたことが幸いし、クラウドの斬撃は空を切った。陽介の右手に握られた龍神丸の刺突を警戒し、追撃せずに一歩引き下がった。

「話し合って分かり合えるんならいつでも大歓迎なんだがな。」

「興味ないね。」

 停戦の申し入れを突っぱね、地を蹴って再び斬り掛かる。しかし戻ってきたジライヤが邪魔をし、グランドリオンの射程内には陽介を捉えられない。

「そこだっ!」

「甘いっ!」

 クラウドの上空から放ったパワースラッシュはブレイバーで相殺される。クラウドは深く斬り込めず、陽介もまたクラウドに決定打を決められない闘いが続いていた。

ㅤしかしこの状況、不利な状態であることに陽介は気付いている。

 業物のリーチの差であれば長剣と短刀、クラウドに分がある。だが陽介のペルソナが、そのリーチ差を逆転させる。これだけならば陽介が有利だ。

 しかしペルソナの顕現は体力の消耗を伴う。リーチの有利な局面を維持している限り陽介の方が消耗が激しいということだ。

 ただでさえホメロスとの闘いで傷を負っているにもかかわらずほぼ無傷の陽介と互角に渡り合っているクラウド。もし、長期戦になってペルソナを多用することで互いのコンディションの差が埋まっていけば、陽介に待つのは死だ。

(いや……それでも、闘うしかねえんだ。)

 首を振って浮かんでくる不安を押し殺す。結局、逃げるという選択肢は無いのだ。逃げれば少し離れて気絶しているホメロスが今度こそ殺されてしまう。

「ペルソナッ!」

 考えるのを辞め、半ば自暴自棄的にアルカナを砕く。質より数と言わんばかりに、クラウドの上方に顕現させたジライヤがガルを連射する。結局のところ、逃げないのなら突撃あるのみだ。ごちゃごちゃ考える方が面倒臭い。

 そしてそれは、意外にも有効に働いた。陽介の見据える敵はクラウドのみであるのに対して、クラウドは陽介を殺した後も他の参加者と衝突し続けるのだ。小さいダメージであっても可能な限り避けたいと考え、ガルのひとつひとつをグランドリオンで弾く。

「今だッ!」

 ガルへの対処にクラウドが気を取られているその間は、龍神丸のリーチまで接近する絶好のチャンス。陽介はここぞとばかりに飛びかかろうとする。

「お前も、ペルソナとやらの使い手なのか。」

 しかし次の瞬間、陽介は凍りつくような殺気を感じ取った。咄嗟に攻撃を中断し後ずさる。そしてその直後、自身の感覚に誤りが無かったことを認識した。陽介の飛び込もうとしていた先の地点ではガルを弾き飛ばしながら形成された"凶"の字の斬撃が陽介を待ち構えていた。もし、あのまま攻撃していれば今ごろの陽介は細切れになっていただろう。想像し、悪寒が走ると同時に冷えた頭にクラウドの言葉への疑問も湧いてきた。

211……and REMAKE(前半) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/21(火) 21:05:08 ID:HVFgJ93o0
「どういう意味だよ。ペルソナを知ってんのか?」

「……ああ。お前もペルソナとやらで俺の道を阻むのなら……」

 クラウドの頭に浮かぶのは、命を賭けた決意を見せた少女、天城雪子。

 いのちのたまを用いてでも他人を守ろうとした彼女を、羨ましいと思った。その命と引き換えに星に希望を残したエアリスと彼女を、重ねずにはいられなかった。

「俺はただ、お前を払い除けるだけだ。」

「そうかよ……」

 クラウドはその言葉の意味をハッキリとは語らなかった。しかし、暗示されたことを陽介は理解できた。放送で呼ばれた天城は、コイツに殺されたのだと。

 そう認識した次の瞬間、目の前の景色が歪んで見えるほどの激しい怒りが陽介の脳内を支配していた。

 完二に続いて天城まで。自称特別捜査隊から大切なピースがひとつひとつ零れ落ちていく。灰色の日々に彩りをくれた奴らが、こんな馬鹿げた企画のために殺されていく。

 どうすれば、大切な人が殺されるのが終わるんだ?どうすれば、大切な居場所を守ることができる?そんなの決まってる。

――コイツを、殺すんだ。

「ああああああああ!!!!」

 陽介の脳がその答えに至った瞬間、雄叫びを上げる。

 それに対し、次に来るであろう攻撃にカウンターを仕掛けるべくクラウドは構える。『怒り』に任せた攻撃は、その精度を鈍らせる。同じペルソナの能力を持っているため、知り合いであると考えた天城雪子の殺害を陽介に伝えたのは、スクカジャにより一撃一撃が正確にクラウドを捉える陽介の攻撃の精度を落とすための、クラウドの挑発だった。

「もう、うんざりなんだよ!」

 しかし、陽介から怒りに任せた特攻が来ることはなかった。その代わり、その目は『悲しみ』に満ちているように見えた。

「誰が殺しただとか、何を願うかだとか、何でそんなことを考えなくちゃいけねえんだよ!」

 陽介を止めたのは、ホメロスに対する怒りをも抑え込んだ鳴上悠の声だった。

ㅤ感情は本質を見失わせる。あの波乱の一年間を超えてなお感情で動くのならば、自称特別捜査隊で学んできたことがすべて無に帰してしまう。それを、完二や天城が望んでいるわけがない。チリチリする指先も、口の中がカラカラに乾いた感覚も、目の奥から込み上げてくる熱も、そのすべてを強さへと昇華する強さを、陽介は持っている。それは、クラウドの現状の否定だった。

「お前もそんなに強いのなら、この状況打ち破って脱出できる可能性だって考えただろ!ㅤ皆で協力すれば誰も殺さなくていいとは思わなかったのかよ!」

ㅤクラウドも、陽介の語る可能性を考えなかったわけではない。少なくともいま、エアリスは生きている。それならばエアリスと、そしてティファ、バレット、ザックス等の有志と、再び手を取ってこの殺し合いからの脱出に向けて闘えたのなら、全員が生き残れる世界も有り得るのではないか、と。

ㅤ考えて、それでもなお否定した。人と人は立場が変われば闘うしかないものだと知っているから。

「そんなの……綺麗事だ!」

ㅤクラウドは一言吐き捨てる。

ㅤ雪子の殺害を告げることは、陽介の信念を挫く一手であるはずだった。一度、たった一度だけでも、陽介が明確な殺意を以て感情的に自分を殺そうとしたならば、陽介の語る正義は完全に説得力を失う。

ㅤクラウドは陽介を否定しなくてはならない。しかし、それを否定する言葉をクラウドは持たない。

ㅤだからこそ、斬り掛かる。しかし半ば感情的に振るわれた刀に殺意は篭れど精度は伴わず。

212……and REMAKE(前半) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/21(火) 21:05:51 ID:HVFgJ93o0
「綺麗事で何が悪い!」

ㅤ冷静にグランドリオンの到達点を分析したジライヤの拳はそれを真っ向から弾き返し、更に追撃の蹴りが受け身も許さずクラウドを平らな大地に叩き付けた。

(ダウンを取った……。今ならッ!)

ㅤそれを隙と見た陽介は飛びかかる。地上に全身を打ち付け、揺れた視界が明瞭さ取り戻した時にクラウドが見たのは、龍神丸を掲げた陽介の姿。

ㅤしかしペルソナを除いた単純な身体能力で競えば、そこはクラウドの独壇場だった。咄嗟に突き出した脚が陽介の腹を打ち、蹴飛ばす。

「がはっ……」

ㅤ飛ばされた陽介は今度は逆に背を打ち付けられる。腹部に受けた強烈な蹴りも含め、平和な現代日本ではそうそう味わうことのない痛みだ。悶絶してもし足りない、闘いの痛み。

「綺麗事を並べても、俺には響かない。」

「だったら響かせてみせるさ。言霊使いも黙りこくる俺の伝達力を舐めんなよ?」

ㅤそれでも、立ち上がる。陽介もまた、クラウドを否定しなくてはならないのだから。

 両者が主張だけでなく、根本的な倫理観から噛み合わないのも当然の帰結だった。何せ、互いに互いを知らないのだから。

 陽介やその仲間たちが、命を尊ぶ日本という平和な世界を生きてきたことも。クラウドやその仲間たちが、人の命の価値が霞むほどに理不尽な死と身近すぎる世界を生きてきたことも。どちらも相手には伝達されない。陽介にとってのクラウドは人を殺すというその一点のみを見ても悪であり、テロリズムが横行する世界を生きてきたクラウドにとっての陽介はただの偽善である。

 だからこそ精神力の面でクラウドに軍配が上がるのも明白だった。いつも戦っていたシャドウという異形の怪物とは違い、生身の人間を相手にしている陽介。それに対し、元々多くの人間と衝突してきたクラウドの闘いは普段と何も変わらない。

 さらに陽介は先ほど、ミファーとの闘いで死というものを目前にしたばかりである。冷たい海の中で、仲間も誰もいない、絶対的な孤独。瞳を一度閉じてしまえばもう二度と光を取り込むことはないように思えてしまい、刃が迫る光景をじっと見つめていた。

 あの時の感覚は今でもハッキリ思い出せる。きっと生きている限り、それが消えてくれることはないのだろう。そんなトラウマを植え付けるほどの『死』が、一瞬の攻防の中でも何度も陽介の脳裏を掠めるのだ。逃げれば気絶しているホメロスが殺されると分かっていても。それを受け入れてでも逃げたいと、塵ほども思わずにいられようか。去年までは命懸けの闘いというものと完全に無縁だった陽介は、決して強い人間ではない。

「俺は絶対、お前を認めない! ペルソナァッ!」

 それでも。強くなかったとしても。強くありたい人間。それが、花村陽介である。

――『ガルダイン』

 素早く体制を持ち直し、クラウドが次の動作を開始するよりも速くアルカナを砕いた。それに伴って顕現したジライヤの両の腕から二重のブースタがかかった風の刃が放たれる。

「……俺は、負けない。」

 持ち前の速さと『素早さの心得』に凝縮された命中精度から繰り出される、最速の風の刃。元より浅くない傷を負ったクラウドを追い詰めるには充分すぎる威力。

「負けられないんだ!」

 だが、クラウドは天城雪子を殺してここに立っている。いのちのたまを用いた彼女の魔法は更に強力なものだった。それならば、彼女の決意を叩き潰した自分はそれに劣るもので死ぬわけにはいかない。その決意が、持ち主の心を映し出す剣に纏われる闇をいっそう重く、そして深くした。魔剣グランドリオンのひと薙ぎ。たったそれだけの所作で迫るガルダインを消滅させるほどに。

 障害となる風の刃が消えたことで、クラウドは陽介に向かって駆ける。一方の陽介、ガル系のスキルが時間稼ぎにもならないことは証明済み。ホメロスが倒れているため大掛かりな回避も選択肢の外。すなわち取れる行動は、たったひとつ。

213……and REMAKE(前半) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/21(火) 21:06:26 ID:HVFgJ93o0
「迎え撃て、ジライヤ!」

 迫りくる死を回避するための半ば反射的な攻撃だった。しかしそれは決定的な悪手となってしまう。

 クラウドは雪子との闘いで理解していた。陽介も用いている『ペルソナ』という能力によって顕現した影は、その存在自体が操り手の死角を作り出してしまうことを。

 クラウドの前進はフェイント。ジライヤが陽介の前に出た瞬間、クラウドは大地にグランドリオンを突き刺して強引にその歩みを一瞬止める。ジライヤ自体が死角となり 、直前までクラウドを捉えていたはずの拳は空を切った。その横を、グランドリオンを引き抜き、その勢いでクラウドは通り抜けて行く。

 ジライヤをやり過ごしたクラウドは狙いを陽介に絞る。すでにクラウドはLIMITBREAK状態。クラウドの中でも最速の斬撃、破晄撃を陽介に向けて放つ。

 ジライヤの速度であれば対処できても、陽介本人はそうはいかない。

(くっ……避けられねえ……!)

 陽介の心臓に向けて一直線に斬撃が迫る。

 驚く暇も与えられずに迫ってきた、ミファーの振りかざした刃よりも。クラウドとの闘いの最中、何度も潜り抜けてきた多くの死線の中のどれよりも。

 それは、明確な『死』の確信だった。

(すまねえ、天城。仇……とれなかった……!)

 悔しさに打ち震えながら、陽介は迫る死を静かに待つことしかできなかった。

(……?)

 だが、待てど暮らせど死は訪れない。

「ボーッとするな、陽介!」

 背後から聴こえた声が、夢現だった陽介の意識を半強制的に覚醒させた。

「うおっ!ㅤ何だこれ!?」

 目の前に見えたのは、空中で静止した破晄撃。そして背後には、シーカーストーンを構えるホメロスの姿。

「お前の綺麗事は、絵空事のままでいいのか?」

 シーカーストーンの数ある機能のひとつ、ビタロックによって陽介への斬撃は止められた。それが再び動き出す前に陽介は慌てて射線上から離れ、そして敵を見据える。

 クラウドは、陽介の綺麗事を否定した。だがかつて闇を生きたホメロスには分かる。綺麗事とは、その名の通り綺麗なものなのだと。濁った者にとって、羨望の目でしか見られないものなのだと。クラウドの否定の言葉は、己の濁りから目を背けているに過ぎない。その心の隙間から生まれる自己嫌悪は、この上ない隙となる。

「綺麗事ならば、濁った言葉など跳ね返せ!ㅤお前にはその力があるだろう!」

「ああ……やってやらあァ!」

 そうだよな。闘ってるのは俺一人じゃねえ。

 人ってのは弱い。簡単に迷うし、簡単にくじけたくなる。一人でできることなんて、たかが知れてるんだ。

 そしてだからこそ、人は手を取り合うこともできる。

 それは簡単なことのようで、だけど見栄とか、感情とかが邪魔をする。俺だって最初、ホメロスを殺そうとした。完二を殺したウルノーガの配下なんて、許したくなかった。手を取り合う、たったそれだけのことなのに、この世界では特にそれが難しいんだ。

 俺一人じゃこんな化け物、勝てる気がしねえよ。ちょっとの攻防の間に何度死にかけたか分からねえ。

 だけど、俺には仲間がいる。同じ敵を見据えて共に闘う仲間が。

214……and REMAKE(前半) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/21(火) 21:07:03 ID:HVFgJ93o0
「俺たちの決意を、この一撃に込めて!」

 カッと見開かれた瞳の捉える先に、一枚のアルカナが浮き上がる。その先にある倒すべき敵、クラウドの姿を見据えたまま拳を握り込み、砕く。

(この気迫……相殺は困難か……?)

 対して、クラウドは剣を斜めに構えて攻撃を逸らした上での返しの一撃を狙う。陽介の全身全霊の一撃、ただこの局面だけを耐え抜けば、陽介にクラウドの反撃を躱す余裕は生まれない。

 アルカナの破砕音が響くと同時、ジライヤが姿を現す。そのタイミングも位置も何もかも、クラウドの予測の範囲内。意識を集中し、グランドリオンを握る手に力が籠ったその時。

――『リーフストーム』

 側面より撃ち出された高速の草葉の刃がグランドリオンに向けて真っ直ぐに注ぎ込まれた。

「しまっ……!」

 ホメロスと同時に意識を取り戻したジャローダによる援護射撃。二度目であったためにその威力はがくっと落ちている。しかし、それを受けたグランドリオンは勢いのままにクラウドの手を離れ、地に落ちる。

「届け! ブレイブ…………ザッパァーーーーッ!」

 様々な想いが込められたその右腕を、妨げるものは何も無い。

「エアリス……俺は……まだ……」

 ここで、終わるのか?

 そう感じた瞬間、己の願いのために切り捨ててきた数多くの命が脳裏に過ぎった。

 明日が来ることを疑わずに眠っていただけのミッドガルの人々。

 新羅に立ち向かったアバランチの同胞たち。

 チェレンを護るために闘ったレオナール。

 志を同じくして共闘したチェレン。

 居場所を守りたかった天城雪子。

――そして、目の前でその背を貫かれたエアリス。

 その誰もが願いを持っていた。そしてその誰もが、犠牲となった。

 ここで負けるのならば、彼らの願いを、彼らの死を、ただただ無意味なものだったと貶めることに他ならない。

 それならば、答えはひとつ。

「……終わりたく……ない……!」

 クラウドの叫びに呼応するように、ザックの中の何かがキラリと光り輝いた。

「っ……!ㅤこの、光は……!!」

 ホメロスはその光の正体を知っていた。だが、それを防ぐ一切の手段は無かった。

「嘘……だろ……」

 ホメロス、ジャローダ、そして花村陽介。その場にいるクラウド以外の全員を包み込むように、銀色に輝く稲妻が辺り一面に降り注いだ。

 弱点である雷属性の特技を受けてアルカナへと還っていくジライヤ。その衝撃により陽介は地に倒れ込み、元から意識を消失するだけの傷を負っていたホメロスとジャローダは再び意識を落としていった。

――『シルバースパーク』

ㅤその雷撃は、そう呼ばれていた。ザックの中に眠っていた、シルバーオーブに封じられし特技の名。

 願いへのクラウドの執念。それはかつての持ち主、ホメロスの持っていたそれに決して劣らず、ザックの中に眠っていたシルバーオーブの魔力を解き放つトリガーとなったのである。

ㅤ間もなくして稲妻は消えていく。気がつけば、その場に立っているのはクラウドのみであった。

215 ◆2zEnKfaCDc:2020/07/21(火) 21:08:10 ID:HVFgJ93o0
前半の投下を終了します。

216 ◆2zEnKfaCDc:2020/07/25(土) 14:20:59 ID:Yt9Epgks0
申し訳ありません。タイトル訂正します。上記の投下のタイトルの括弧内、正しくは(前編)でした。

そして中編投下します。

217……and REMAKE(中編) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/25(土) 14:22:32 ID:Yt9Epgks0
(勝った……のか……?)

 思いもよらぬシルバーオーブの効力に惚けていたクラウドは次の瞬間には正気に戻る。

 見下ろせば、敵が倒れていた。
否定しなくてはならない、自分の敵。その生殺与奪を、たった今クラウドは握っている。

 如月千早とは違う、明確に実力を持つ者。必ずや自分の優勝を阻む敵として立ち塞がる陽介を、生かしておける理由など存在しない。それなのに、何かが心の中に引っかかっていた。

(……コイツは敵だ。自分の願いのため、そして信念のため、排除しなくてはならない。)

 殺すのならば、勝たなくてはならない。さもなくばこれまで殺してきたことの意味が失われてしまうから。

 だが、たった今自分は負けかけていた。シルバーオーブという、最初から支給されていたものではない、運良く拾えたに過ぎない要素がなければ完全に敗北していた。そんな俺が本当に、これからも勝ち続けられるのか?

 首を横に振って、己のネガティブ感情を抑え込む。どの道レオナールと天城雪子を殺した自分には、もう後戻りの余地など残っていないのだ。黒い感情を可視的に映し出していたグランドリオンが手元に無いというだけで、これほどまでに迷いが生まれるものなのか。

 見回せば、落としたグランドリオンは探すまでもなく見つかった。陽介にトドメをさすための武器として回収に向かう。

「俺……だってなぁ……」

 クラウドが魔剣を拾い上げる、ほんの一瞬。クラウドの注意はそちらに逸れた。

「負ける……わけには……いかねえんだよ……!」

 声と物音に、反射的に振り返る。しかし、遅い。すでにクラウドの視界いっぱいに陽介の拳が主張していた。

 顔面に、精一杯の拳が突き刺さる。いかなる武具であろうとも、いかなる能力であろうとも、シンプルさという土俵で右に出るものはない、単純明快な暴力。それ故に、クラウドは最も警戒が遅れてしまった。

 アルカナを顕現させて割るという、ペルソナを発動する一連の流れを取らせる隙までもを陽介に与えたわけではない。ホメロスやジャローダが動き出す可能性も考えれば、陽介といういちペルソナ使いに割く注意力のリソースとしては合理的で、かつ充分だったはずだ。けれども、その合理性のみでは説明できないほどに、陽介自らが殴りに来るという可能性が完全に抜け落ちていた。

 天城雪子の強さを目の当たりにしたクラウドは、無意識にペルソナという能力に対する恐れ――あるいは畏れを、抱いていた。花村陽介よりも、ペルソナであるジライヤへの警戒が先行していた。敢えて名前をつけるのなら、それは死してなお己の居場所だった者たちを守り続けようとする、天城雪子の亡霊。

218……and REMAKE(中編) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/25(土) 14:23:32 ID:Yt9Epgks0
 唐突に振るわれた拳に、グランドリオンを拾い切ることが出来ない。カランと音を立てて地に落ちた剣の行方を気にする暇もなく、第二撃がクラウドの顔面を打ち据える。二度では終わらず、三度、四度。

「ぐっ……!ㅤいい加減に……」

 陽介の殴打は止まず、クラウドは一旦グランドリオンの回収を諦める。シルバースパークの際に龍神丸を落としており、陽介も素手。それならば条件は同じだ。

「……しろッ!」

 まるでバーサク状態のようにただ無心でクラウドを殴り付ける陽介。そのような相手と1VS1で闘う場合、防御は無意味だ。クラウドが打てる手はひとつだった。同じく本能のままに、反撃の拳を突き出すことのみ。

――ガッ!

 陽介の顔面にも、クラウドの拳が突き刺さる。それでも一歩も引くことなく、更に拳を突き出し、応戦を選んだ以上はもう引く選択肢の無いクラウドも後に続く。互いに互いの拳を防ぐ術は無く、いつの間にか殺し合いは、殴り合いへと形を変えていた。

 業物は用いられておらずとも、一切の躊躇無く振り抜かれる拳は、互いの意識を――そして命を、着実に削り取っていく。両者ともにすでに気を失っていてもおかしくないほどのダメージを負って、それでもなお、もはや無意識で相手に殴りかかっていた。それはまるで、殴るのを辞めてしまえばもう二度と立ち上がれなくなるかのように。

 殴り、殴られ。それを繰り返している中で、次第に痛みというものが消えていく。目に映る景色も、現実のものではなくなっていく。





――もし、走馬灯とやらを見るのなら。そこに在るのは大好きな人の姿であって欲しかった。

 いや、そんな資格もないか。俺は小西先輩の本心、聞いちまったんだから。

 それでも、出来れば良い思い出を見たかった。百歩譲って、悪い思い出だったとしても最期に見れれば良い思い出に変わるかもしれない。

 何にせよ、最期に見るのが全く覚えのない景色であるとは、まったく思わなかったものだ。

 まるで海底のように蒼く澄み渡った空間の中、ただ静かに時間だけが流れていく。辺りを照らし出す光は、太陽よりも暖かく自分を包み込んでくれているように思えた。この風景を敢えて言い表すのならば、幻想的とでも言ったところか。天上楽土にも似たその雰囲気からは、すでに俺が天国にいるのかとすら思ってしまう――ただ一つ、天国に似つかわしくない光景を除いて。

 それは、終わりの光景だった。天から降り立った男に、ひとりの少女が背後から胸を貫かれ、その命を散らす瞬間だった。胸から咲いた刀は流れるようにスルスルと抜けていき、飛び散った紅い鮮血が景色を上塗りしていく。

 気が付くと周りの風景は変わり、物語が進行していく。程なくして、これはクラウドの見てきた世界なのだと気付いた。ホメロスの過去にも勇者だとか魔王だとか、半信半疑なワードがいっぱい出てきたが、それにも負けず劣らずのファンタジーの世界を、陽介は見た。
殺し合いの世界にいる奴らは本当に、自分とは異なる世界を生きてきたのだと実感せずには居られなかった。

 しかし物語が幾ら進行していっても、まるで瞼の裏に貼り付けられているかのように、あの瞬間が離れない。仲間と共に星を救っても、ずっとあの光景に苦しめられ続けている。

(アンタも、こういうタチなのかよ……。)

 思い出したのは、『彼』のためと称して自分に刃を向けたミファー。想い人のために、何ができるか。その結果が殺人に向いてしまうのは、許してはいけないことなんだと思う。

 だけど、この気持ちだけは尊重しなくてはならないものなのだと、ふと俺はそう思った。

(まだ、終わっていられない……。そうだよな。)

219……and REMAKE(中編) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/25(土) 14:24:38 ID:Yt9Epgks0




 陽介とクラウド。
二人の意識が現実へと引き戻された。

 クラウドの体内に残るジェノバ細胞の見せた、幻想のように淡い夢。陽介にはクラウドの記憶が、そしてクラウドには陽介の記憶が見えていた。それは幻想でありながら、しかし相手にとっては紛れもない真実でもあった。

 殴り合い、そして殺し合う現実もまだ終わっていない。目が醒めたのなら、次の行動は決まっていた。

 崩れ落ちた身体を持ち上げ、よろよろと敵を見据える。ペルソナを顕現させる体力も、ザックの中から道具を取り出す労力も惜しい。あと一発、ただ相手の顔面にぶちかましてやれればいい。両者ともに、それを本能が理解していた。この結末に、小細工は要らぬと。

「……お前は、俺の理想だった。」

 想起する。何も無い田舎町。大型スーパーの店長の息子として商店街の人たちから疎まれながら生きる、灰色の日々。特別な何かになることはできず、世界は自分以外の何かを中心に回っている。

「好きな人のために闘うヒーロー、そういうのにずっと憧れてたよ。」

 何かになりたかった。
自己の存在に意味を与えられる、何かに。

「いや、それだけじゃねえ。」

 追体験したクラウドの記憶。悲しみも苦しみも、数えきれないほど流れ込んできて、決して幸福な物語とは言えないものだったけれど。

 だけど、それでもクラウドは主人公だった。

 誰かの物語の脇役ではなく、紛れもなく自分の物語の中を生きていた。そう感じた時に芽生えたこの気持ちは、言うなれば鳴上悠に向けるものと同じものだ。劣等感、或いは羨望。

「お前は星を救った英雄で、皆の中心で……"特別"だった。」

 ここまでぶつかってきた相手の過去を知り、憧憬を覚えた。たったそれだけの話だ。クラウドが敵であることも、和解の道などとうに絶たれていることも、何も変わっていない。

「俺はお前が、羨ましいと思ったんだ。」

 だけど、たったそれだけが陽介を立ち上がらせる。

 悠と同じものをクラウドに感じ取った。その上で負けて、一矢報いることもできずに死んだのなら。俺はきっと、二度と悠を相棒とは呼べない。もう、アイツの背中を追いかけるだけの、アイツを見上げているだけの俺でいたくないんだ。

 立ち上がれ。クラウドが立ち上がる限り、何度でも。アイツと対等な俺であるために、こんな感情なんかに負けるな。

 ただその一心で、陽介は前に進む。

「違うッ!」

 そんな陽介の叫びを、クラウドは真っ向から否定した。陽介の言葉への苛立ちを隠せないほど、感情的な一言だった。その裏にある想いは、ただ一つ。

「俺の在りたい姿こそ、お前だったんだ……!」

 大切な人の喪失。その事象のみを語れば、エアリスを失ったクラウドと小西早紀を失った陽介の間に大きな差はありはしない。

 だけど、陽介はその喪失を糧に前を向いていた。己の弱さを受け入れ、灰色の世界を脱却した。それは、クラウドには成せなかった境地。仮にエアリスの死を前に進む契機とすることが出来たなら、目の前に広がる景色は何色だっただろう。

 だからこそ、陽介が羨ましく思えて――だからこそ負けられないとも思った。仲間を殺してでも望む世界を掴み取る己の選択を、幻想と吐き捨てた陽介。お前ごときに俺が分かるものかと否定しなくてはならないのに、彼もまた同じ境遇に立っているのだと知ってしまった。もはや陽介を棄却するには、殺すしか残っていないのだ。それほどまでに、陽介の生き方は正しいのだ。それなのに、何故お前は羨望の眼を向ける。灰色の世界を生きることしかできない俺を、何故お前が見上げているんだ。

220……and REMAKE(中編) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/25(土) 14:25:19 ID:Yt9Epgks0




 陽介とクラウド。
二人の意識が現実へと引き戻された。

 クラウドの体内に残るジェノバ細胞の見せた、幻想のように淡い夢。陽介にはクラウドの記憶が、そしてクラウドには陽介の記憶が見えていた。それは幻想でありながら、しかし相手にとっては紛れもない真実でもあった。

 殴り合い、そして殺し合う現実もまだ終わっていない。目が醒めたのなら、次の行動は決まっていた。

 崩れ落ちた身体を持ち上げ、よろよろと敵を見据える。ペルソナを顕現させる体力も、ザックの中から道具を取り出す労力も惜しい。あと一発、ただ相手の顔面にぶちかましてやれればいい。両者ともに、それを本能が理解していた。この結末に、小細工は要らぬと。

「……お前は、俺の理想だった。」

 想起する。何も無い田舎町。大型スーパーの店長の息子として商店街の人たちから疎まれながら生きる、灰色の日々。特別な何かになることはできず、世界は自分以外の何かを中心に回っている。

「好きな人のために闘うヒーロー、そういうのにずっと憧れてたよ。」

 何かになりたかった。
自己の存在に意味を与えられる、何かに。

「いや、それだけじゃねえ。」

 追体験したクラウドの記憶。悲しみも苦しみも、数えきれないほど流れ込んできて、決して幸福な物語とは言えないものだったけれど。

 だけど、それでもクラウドは主人公だった。

 誰かの物語の脇役ではなく、紛れもなく自分の物語の中を生きていた。そう感じた時に芽生えたこの気持ちは、言うなれば鳴上悠に向けるものと同じものだ。劣等感、或いは羨望。

「お前は星を救った英雄で、皆の中心で……"特別"だった。」

 ここまでぶつかってきた相手の過去を知り、憧憬を覚えた。たったそれだけの話だ。クラウドが敵であることも、和解の道などとうに絶たれていることも、何も変わっていない。

「俺はお前が、羨ましいと思ったんだ。」

 だけど、たったそれだけが陽介を立ち上がらせる。

 悠と同じものをクラウドに感じ取った。その上で負けて、一矢報いることもできずに死んだのなら。俺はきっと、二度と悠を相棒とは呼べない。もう、アイツの背中を追いかけるだけの、アイツを見上げているだけの俺でいたくないんだ。

 立ち上がれ。クラウドが立ち上がる限り、何度でも。アイツと対等な俺であるために、こんな感情なんかに負けるな。

 ただその一心で、陽介は前に進む。

「違うッ!」

 そんな陽介の叫びを、クラウドは真っ向から否定した。陽介の言葉への苛立ちを隠せないほど、感情的な一言だった。その裏にある想いは、ただ一つ。

「俺の在りたい姿こそ、お前だったんだ……!」

 大切な人の喪失。その事象のみを語れば、エアリスを失ったクラウドと小西早紀を失った陽介の間に大きな差はありはしない。

 だけど、陽介はその喪失を糧に前を向いていた。己の弱さを受け入れ、灰色の世界を脱却した。それは、クラウドには成せなかった境地。仮にエアリスの死を前に進む契機とすることが出来たなら、目の前に広がる景色は何色だっただろう。

 だからこそ、陽介が羨ましく思えて――だからこそ負けられないとも思った。仲間を殺してでも望む世界を掴み取る己の選択を、幻想と吐き捨てた陽介。お前ごときに俺が分かるものかと否定しなくてはならないのに、彼もまた同じ境遇に立っているのだと知ってしまった。もはや陽介を棄却するには、殺すしか残っていないのだ。それほどまでに、陽介の生き方は正しいのだ。それなのに、何故お前は羨望の眼を向ける。灰色の世界を生きることしかできない俺を、何故お前が見上げているんだ。

221……and REMAKE(中編) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/25(土) 14:26:00 ID:Yt9Epgks0




 気がつくと、真っ暗な世界の中にいた。
前はまったく見えず、無限に広がっているようにすら思えてしまうほどの、果てしない世界。
一つだけ分かることは、その世界には血の匂いばかりが充満しているということ。鼻の奥に直接響いてくるような刺激が喉まで焼き尽くしてしまいそうなほどに熱く、きっとこの延長上に地獄の苦しみとやらがあるのだろうとすら思えた。

 何故か、理解していた。これは俺の殺してきた者たちの全員分の血なのだと。

 これは呪いか、それとも罰か。どちらにしても、この血は一生俺を捉えて離さないのだろう。万単位の人々を殺してきた俺にはお似合いの末路というもの。死後の安寧への期待など、とうに捨て去っていた。このままこの世界で終わりも見えないまま苦しみ続けるのなら、それでも構わない。それが、自分の罪の代償であるのなら。

『ようやく自覚したのか?』

 暗闇の先に、一人の人影が照らし出される。
金色の髪、そして特徴的な黒の戦闘服。ぼんやりとしたその影は、俺と完全に瓜二つの姿をしていた。

『それはお前が今まで、ずっと目を逸らし続けてきた血だ。』

「……お前は、誰なんだ。」

 鏡を見ているような気分に陥りながら、問い掛ける。

『俺か?ㅤ俺はお前だ。そして、お前は俺でもある。』

 "クラウド"はそっと、クラウドに手を伸ばす。次の瞬間には、真っ暗だった背景が血の海へと変わる。ドス黒い紅色の中で、前方を見通すことすらできない。肺に流入してくるその血液はクラウドの呼吸を阻害し、その中で溺れかける。

 "クラウド"が手を離すと、そんな景色が元に戻った。そしてニヤリと口角を上げながら言葉を紡ぐ。

『見ただろう。お前の心の底には、常にこの世界が広がっていた。切り捨ててきた他者の血で溢れたこの世界。これらは全て、お前の罪の意識の現れなのさ。』

「俺が……罪の意識を?」

『そう。お前は、本当は誰も殺したくなんてなかった。』

「それがどうした。」

 くだらないと、クラウドは吐き捨てた。

「猟奇趣味は無い。それでも、星のためにはやむを得ない犠牲だった。」

 新羅カンパニーという、最高峰の権力を握っている者たちが相手であったのだ。暴力を伴わない主張など、殊更聞き遂げられることは無かった。それを特に好まずとも、それでも殺さなくてはいけない局面は数多くあったのだ。

『ああ、そうだ。』

 対する"クラウド"は静かに、されど荘厳に、口を開いた。

『その理論でお前は多くの犠牲を正当化してきた。』

『全部許された気持ちになってたよなァ?ㅤ一方的に"全部"を奪われた者たちの悲鳴は聞こえないフリ。それを咎める声にも臭いものとして蓋をする。』

『星の危機だからやむを得ない、誰も反対しない、俺は悪くない、と。』

『でも、殺し合いの世界でその"大義名分"は使えなかった。』

『エアリスを生き還らせ、思い出をやり直す。そのために、参加者を皆殺しにする。やむを得ない事情でもなく、誰にも受け入れられず、ただただお前が悪者なだけの願いだ。何なら、蘇らせたい彼女自身までもがそれを望まない性格なのも分かっている。』

「……やめろ。」

『真実を、教えよう。』

「やめろッ!!」

ㅤその言葉に対してピタリ、と"クラウド"は口を止める。そして一呼吸を置いた後、ニヤリと揶揄うような笑みを見せ、再び口を開いた。

222……and REMAKE(中編) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/25(土) 14:26:43 ID:Yt9Epgks0
『お前は、止めてほしかったんだ。願いを叶える、エアリスとの思い出をやり直すなどと豪語しながら、心の底では自分を負かしてくれる相手を探していたんだ。』

「――違うッ!!」

 それは、認めてはいけない事実だった。罪悪感から途中で殺戮を思い留まり、立ち止まること。それ自体は何ら悪性のものではない。しかし、クラウドはすでにレオナールを、天城雪子を。殺していた。その上で願いを諦めるなど、寧ろ彼らへの冒涜だ。なればこそ、立ち止まるのは許されなかった。

 しかしながら罪悪感は次第に増していって――逃げ場を失ったクラウドは、無意識的に敗北を求めた。この上なく非合理的でありながら、この上なく人間的な心の動きだ。

「アンタなんか……」

 そして――突きつけられた己の本性を認めぬもまた、人間である。

「――アンタなんか、俺じゃないッ!!」

 それは、禁句であった。

『クク……ククク……クックック……』

 その言葉を受けた"クラウド"から感じる力が、一気に大きくなっていく。グランドリオンに纏われた闇など比較にならない大きさの、負のオーラがクラウドにも伝わってきた。

 そして。





















「――なぁーんちゃって。」









 そのオーラは消滅した。

223……and REMAKE(中編) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/25(土) 14:27:23 ID:Yt9Epgks0
ㅤ何が起こったか理解する暇もなく。金髪の青年の姿だった"クラウド"は、殺し合いの主催者である金髪の少女、マナへと姿を変えた。

「ペルソナごっこ、似てた?ㅤ似てたよね?ㅤあ、あなたはペルソナとかシャドウとか知らないんだっけ?」

 驚愕に目を見開くクラウドに顔を近付け、挑発するような目を向けるマナ。抵抗の意思を見せるも、身体が思うように動かない。

「ああ、無駄よ、無駄無駄。私、実態じゃないもん。あなたがさっき映画館で見た映像にちょっと精神魔法を、ね。」

 紅く輝くその瞳が、クラウドの目に映る。クラウドが口を開こうとしても声は出ない。

「それにしても、おっかしい!ㅤあんなにムキになっちゃって。あなたの心の中なんて、ぜーんぶ、お見通しなのにね。」

ㅤクスクスとマナは笑う。不快な笑い声を撒き散らしながら、ゆっくりとクラウドに近付いていく。

「死にたかったんでしょ?ㅤあなたの心、叫んでたもの。殺して!ㅤ私を殺して!ㅤ殺せー!ㅤって。」

 声の出ないクラウドは反論も許されず、対するマナの声は野太いものへと次第に変わっていく。

「でもあなたはそれを否定した。じゃあまだまだ止まりたくないってことでいいのよね?」

 そして、クラウドの正気すら、次第に失われていった。

「いいわ。物語の続きを見せてあげる。あはっ……あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」

 いつの間にか、マナの笑い声だけが脳内にこだましていた。




224……and REMAKE(中編) ◆2zEnKfaCDc:2020/07/25(土) 14:31:23 ID:Yt9Epgks0

「ホメロス!」

 クラウドが倒れて動かなくなったのを確認すると、陽介は大急ぎでホメロスの介抱に向かう。
 元々大怪我を負っていたのに加え、さらにあのシルバースパークを受けたのだ。もしかしなくてもすでに死んでいるのでは――戦闘中は意識の外に無理やり追いやっていた考えがどっと押し寄せ、取り留めのない不安へと変わっていた。

 (良かった、呼吸はしている……。)

 まだ予断を許さない状況ではあるものの、現状死んでいないことに気付いた陽介は一安心する。

 陽介には知り得ないことであるが、かつてシルバーオーブの力をその身に宿していたホメロスは、雷属性に多少の耐性を持っている。ギリギリでホメロスの命を繋いだのは、たったそれだけの要因だった。

『ディアラマ』

 ジライヤが覚える範囲の、なけなしの回復スキルは普段よりも効きが悪い。一刻を争う状況なのは医療に対して素人の陽介にも分かるほどの傷なのに、なかなか治る様子がない。
 こんな時に天城がいてくれたら、と、もう叶わない願望が頭の中にチラつく。

「……くそっ。」

 やれる限りの回復はやったはずだ。言わずもがな、陽介自身の傷も治療がすぐにでも必要なレベルで深い。ペルソナの酷使による精神力の負担で倒れてしまってもおかしくない。治療に裂けるリソースとしては、すでに潮時であった。

 だけど心無しか、ホメロスの呼吸は安定してきたような気がする。生田目に誘拐された菜々子ちゃんのように、意識の回復に時間がかかるのかもしれない。あとは天命を待つばかり、か。

 とりあえずは地面に落ちていたグランドリオンを回収し、次にクラウドの死体からザックを回収した。

 ザックを開くと、そこには白桃の実、ただひとつのみが入っていた。こんな大物を倒した報酬としてはあまりにも小さいものだ、と肩を竦めながらそれを口に入れる。

「はぁ、疲れた……。」

 どさり、と倒れ込む。まだ殺し合いは終わっていない。他の奴らと協力し、マナとウルノーガを倒すという目的には、まだほとんど近付けていない。だけど、天城の仇を討ったこと、それだけは自称特別捜査隊の前進だと思う。だから今は、少し休息を求めても、我儘とは言われない、よな?



「――俺の幻想は、終わった。」

 そんな陽介の願望を嘲笑うかのように、死んだはずのクラウドが、スっと立ち上がった。

「なっ……!」

 それに気付いた陽介は、ここまでの経緯と、現実として目の前に在る光景のギャップに順応できず、咄嗟の反応が出来なかった。

「――それなら、物語を創り替えてしまえばいい。」

 クラウドの肌は生気を感じないほど薄紫色に染まり、腕は獣の如き剛腕へと変わっている。それが人間に起こる現象ではないとさらに明確に示すかの如く、その背に宿した翼によって、クラウドの両の足は宙に浮いている。そして胸には――存在を主張するかのように、シルバーオーブが光り輝いていた。

ㅤクラウドの様子、それひとつをとっても初めてペルソナ能力に覚醒した時に劣らない驚愕ぶりだ。しかしこの時、陽介を驚かせたのはクラウドのみに留まらなかった。
「お前は……!」

「私のジョーカーは、とんだ期待外れだったものでな……。」

ㅤクラウドの背後に、ひとつの影があった。その姿は忘れもしない。この殺し合いの主催者にして現状を招いた元凶の一人。

「ウルノーガ!」

紛れもなく、本物の。魔道士ウルノーガの姿だった。

225 ◆2zEnKfaCDc:2020/07/25(土) 14:32:19 ID:Yt9Epgks0
中編投下終了です。

226 ◆2zEnKfaCDc:2020/07/25(土) 15:04:06 ID:Yt9Epgks0
あああ>>220>>219と同じのを投下してました……。>>220を以下のものに差し替えます……。




「俺とお前の、何が違った!ㅤ何故、お前は前に進めるんだ!」

 互いが互いへ向けた感情と共に、両者の拳が振り抜かれる。直後に響くは、これまでのどの闘いよりも鋭い打撃音。一瞬の交錯の中で僅かに早く、クラウドの右ストレートが陽介の顔面へと炸裂した。

 相手に向けた感情が、羨望という属性を同じくするものであるならば、この勝負を決定する要因はたった一つ、積み上げてきた経験値のみである。

 今年度に入り、初めて闘いというものを意識した陽介。それに対し、数年前から新羅兵として実戦経験を少なからず積み、不意打ちであったとはいえ伝説のソルジャー、セフィロスと刺し違えるだけの才能も見せたクラウド。雪子がいのちのたまを用いなくては上回ることが出来なかったように、基礎能力が根本的に違うのだ。


――それでもただ一つ、その差を埋めるものがあるならば。


(まだ……倒れるもんか……!)


――それは或いは、"特別"な繋がり。


 渾身の一撃が入っても、まだ陽介は倒れない。意識が消え去るギリギリで"食いしばる"。

「――教えてやるよ。俺と、お前の違いってやつ。」

 大地を強く踏みしめてクラウドと目の高さを同じくし、そして返しの一撃を見舞う。全身全霊を込めたその一撃は外れるはずもなく、その衝撃にクラウドはゆっくりと倒れ込んでいく。

 とっくに答えには辿り着いていた。俺だって、すでに誰かの"特別"なんだと。

「お前は、たった一人の特別にしか目を向けて来なかった。お前の周りには、たくさん人がいたはずなのに。」

 里中も、天城も、クマも、完二も、りせも、直斗も、そして――相棒も。俺にとっては皆が特別で、その代わりなんざ誰にも務まらない。だったらその逆もまた然り、俺の立ち位置だって誰にも譲ってはやれねえ。

「お前にはできたはずなんだ。仲間にとってのお前は特別だったんだから。」

 記憶の中のクラウドだって、周りにはエアリスだけじゃない。たくさん、人が集まっていたはずなのに。クラウドは気付けなかった。周りを"特別"だと、思っていなかった。それがただひとつ、クラウドの敗因だった。

(そう、か。)

 ジェノバ細胞が読み取った陽介の記憶が蘇ってくる。元々灰色だった日常を僅かに彩っていた想い人を亡くした陽介の世界を、明るいものにしたのは何だったのか。陽介は、常にある男の背中を見ていた。その背に、手は届かない。だけどその背が、陽介を前へ前へと導いてくれていたのなら。

(――俺、ソルジャーになりたいんだ。セフィロスみたいな最高のソルジャーに。)

 すべての始まりとなった、七年前の約束。前を向ける気持ちは、間違いなく俺の中にあったのだ。

 それを思い出したクラウドは、霞む意識の中、そっと笑ったような気がした。

227 ◆vV5.jnbCYw:2020/07/28(火) 16:12:46 ID:FrjyBy.Y0
予約延長します。

228 ◆vV5.jnbCYw:2020/07/30(木) 21:30:25 ID:rgxnUANc0
すいません。間に合いそうにないので破棄します。

229 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/01(土) 12:25:52 ID:4Fg9ySn60
予約延長します。

230 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/07(金) 01:19:43 ID:Z3P5g7Ns0
後編投下します。

231……and REMAKE(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/08/07(金) 01:20:30 ID:Z3P5g7Ns0
 かつて、命の大樹から命のエネルギーを奪ったことで絶大な魔力を手に入れた魔王ウルノーガは、そのエネルギーを6つのオーブに注ぎ、『六軍王』と呼ばれる精鋭部隊に分配した。この殺し合いの各地に配置してあるオーブも、それと同じものである。

 しかしかつてシルバーオーブを与えられた男ホメロスは異形へと変わったのに対し、クラウドをはじめとするこの世界でオーブを手にした者たちはそうならなかった。両者の差は、たったのふたつだ。

 一つは、オーブとの融合を受け入れるかどうか。そしてもう一つは、体内に宿す命のエネルギーの量である。

 ホメロスはウルノーガに与えられたオーブの力を受け入れ、自らの力とする意思があった。また、命の大樹崩壊時にウルノーガに同行し、闇のオーブを介して命のエネルギーを相応量吸収していた。この二つの要素を持っていたからこそ、ホメロスは魔物として勇者の前に立ち塞がった。

 そして今、クラウドにもその両要素が与えられていた。

 自らの死を望むシャドウを模した精神体のマナを拒絶し、クラウドはまだ終わらずに闘う道を選んだ。また、シルバーオーブ自体が共にザックに入れられていたもう一つの宝珠、『いのちのたま』と融合することで大量の命のエネルギーを吸収していた。

 その結果生まれたのが――陽介の眼前に立ち塞がる、一体の魔物であった。全身に纏った禍々しいオーラが、先ほどまでのクラウドとは全く性質を異とするものであると、理解させられざるを得なかった。それに加えて、殺し合いの主催者ウルノーガまでもがこの場に存在している。今のクラウドと同じく、絶対的な敵対者。見ようによっては最終目標である主催者の一人を討つこの上ないチャンスなのかもしれないが、クラウドまでもを前にしてもそう言えるほど楽観的ではなかった。

232……and REMAKE(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/08/07(金) 01:21:00 ID:Z3P5g7Ns0
「さあ、クラウド……否、『魔軍兵士クラウド』とでも呼ぶとしようか。どこぞの出来損ないに代わり、今からお前が我のジョーカーだ。さて、まずは手始めに……」

 ジョーカー。この殺し合いにおけるその単語の意味は、すでにホメロスから聞いている。主催者の息がかかった刺客であり、殺し合いを円滑に進める役割を背負った参加者だ。つまり、ホメロスは切り捨てられたということ。ドラマとかだったら、そんな奴と、そしてそんな奴に手を貸していた奴の末路はもう分かっている。

「……奴らを殺せ。」

 ウルノーガがたった一言、命ずる。そりゃそうなるか、と確定的な未来に納得すると共に、それに伴う死への絶望が襲ってきた。アメノサギリに身体を乗っ取られた足立とて、魔物そのものになったわけではなかった。クラウドはそれほどまでに陽介の常識を超えた存在であり、そんな存在を前にした陽介はもはやペルソナも出せないほど体力も精神力も消耗している。勝ち目なんてゼロに等しかった。

 鋭い爪を備えたクラウドの腕が、陽介へと伸びる。



「――ペルソナッ!」



 次の瞬間、掛け声と共にアルカナを割る音が響き渡った。

 陽介の前に躍り出た黒い影が、クラウドの剛腕とぶつかり合い、そして弾き合う。黒い影は消滅して持ち主のアルカナへと帰り、クラウドはその身に生えた翼をはためかせて空中に留まった。

「何で……アンタが……」

 それは、陽介が顕現させたペルソナではない。矢継ぎ早に起こり続けるハプニングに、もはや驚くことしかできなかった。

 そしてそれは、見物していたウルノーガにとっても意外な出来事だったようで、珍しく不快感を顕にしながら口を開いた。

「何のつもりだ?ㅤ……足立。」

 足立透。八十稲羽市で起きた連続殺人事件の真犯人であり、陽介にとってはかつての想い人の仇でもある人物。そんな奴があろうことか自分を庇うようにしてそこに立っていたのだ。

233……and REMAKE(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/08/07(金) 01:22:27 ID:Z3P5g7Ns0
「あのさぁ、何のつもりってそれこっちの台詞。なに勝手に参加者の魔改造してくれちゃってるワケ?」

 ウルノーガよりもさらにいっそう不機嫌そうに足立は返す。

「僕ね、フェアじゃないゲームが嫌いなんだよ。」

「フェアだとも。ジョーカーは参加者を殺さねばならぬ。代わりを任命し、この役立たずを退場させることこそが本来の形だ。」

 両者の主張を、ただ眺めていることしかできなかった陽介。聞きたいことは幾つもある。しかし、そもそも参加者名簿に足立の名前は載っていなかった上、足立の首には参加者の証である首輪もない。そして現在交わされている、ウルノーガと付き合いがあるかのようなやり取り。導き出される答えはもはやひとつしかなかった。足立は、この殺し合いの主催者側にいるのだ。

 ぽつぽつと怒りが湧き上がってくる。コイツらのせいで、完二も天城も死んだのだ。しかし満身創痍の陽介には怒りをぶつける手段はなく、そもそも足立に助けられたという事実もある。結果的に冷静にならざるを得なかった。

「クラウド!ㅤ元凶はウルノーガじゃねえか!ㅤまんまと言いなりになって、お前はそれでいいのか!?」

 よって会話の対象は変わる。互いの過去を見たクラウドは、陽介にとっては足立よりも相互理解が望める人間だからだ。

「どっちだっていい。」

 しかし、少なからず、クラウドのことを理解しているからこそ。

「俺の願いを叶えてくれるのなら、俺は悪魔にさえ祈ってみせる。」

 それが確かにクラウドの言葉であることに、納得できてしまう。姿かたちが変わったからといって、人格そのものが大きく変わったわけではないのだと理解する。

234……and REMAKE(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/08/07(金) 01:23:11 ID:Z3P5g7Ns0
「……まあ良いだろう。本来なら整合のため首輪を爆破してやるところだが……今回は貴様がそれを助けたことは不問にしてやろう。」

 そして、ウルノーガは妥協を見せる。マナにも底が読めない足立と敵対するのは後々面倒だと感じたか。

「しかし、だ。ホメロスは助からぬ。手駒の分際で我に逆らった愚か者はこのゲームから排除するのみだ。」

――或いは、折衷案として譲れぬ主張を通すためか。

 陽介はウルノーガの初めて見せた殺意に凍りつくような恐怖を覚え、恫喝など慣れたものとばかりに足立は深い溜め息で返した。

「……そもそもが君の人選ミスだろ。典型的なクソだな。」

「黙れ。貴様の"お気に入り"もこうなりたいか?」

 強行とばかりにウルノーガが杖を掲げると、地に伏していたホメロスの身体がふわりと浮き上がり、ウルノーガの眼前へと移動していく。陽介は動けず、足立も動こうとしない。当然、クラウドも黙って見ているのみ。ホメロスに明確に死が迫っているというのに、何も出来ない。

(ちくしょう……)

「死ぬがいい。」

 ウルノーガはゆっくりと、手にした杖を振り上げた。

235……and REMAKE(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/08/07(金) 01:24:10 ID:Z3P5g7Ns0




(俺は……死んだのか……?)

 気が付けばホメロスは、不思議な空間にいた。しかし当人の予測に反し、死んではいない。陽介のディアラマで死を回避して、現実の意識は戻らずとも夢の中で思考している状態。強いて名付けるのなら、精神世界とでも言うべきか。そしてそこには、あの男の姿があった。薄紫の長髪をなびかせ、黒色の鎧をその身に纏った男、グレイグ。ずっとホメロスが劣等感を覚え続けて止まなかった彼との関係は、死の間際にして遂に、ひとつの決着を迎えたはずだった。グレイグはずっと自分を認めていたのだと実感し、心の闇は晴れたはずだった。

 それなのに精神世界のグレイグはこちらを見ようともせず、ホメロスの眼には背格好しか映らない。まるで、ホメロスのことは眼中に無いと言わんばかりに。

「グレイグッ!」

 声を荒らげて叫ぶ。何度も、何度も。それでもグレイグは振り返らず、ホメロスの声にならない声が精神世界に木霊するばかりだった。

 そして同時、理解する。結局、何年もかけて蓄積した鬱屈は、死ぬ直前にグレイグにかけられたたった一つの言葉だけでは完全には晴れなかったのだと。グレイグが前を行き、自分はその背中に羨望の眼差しを向け続ける、その関係に終わりはないのだと。

 何故こうなったのか、答えはもう出ている。デルカダール王の立場を利用したウルノーガの手駒を得るための策によって劣等感を植え付けられたからだ。もしも運命の乱数が僅かにズレていたならば、コインの裏と表のように、始まりが違えばグレイグがウルノーガの配下に成り下がる未来だってあったかもしれない。この雪辱は、在るべくしてあったものでは無い。ただ理不尽に与えられ、押し付けられたものなのだ。

 そして、だからこそ自分は復讐の道を選んだのだ。グレイグへの消えない劣等感の行き場を、全ての始まりである奴にぶつけることにしか生きがいを見出せなかったのだ。

 憎い。ウルノーガが、憎い。

 その感情を認めたその時、ホメロスは直感する。現実の、まさに眼前に、復讐の対象であるウルノーガがいることに。

 憎しみに焦がれたホメロスの意識が、現実へと戻っていく。





「ウルノーガアアアッ!!」

 鬼気迫る叫びと共に、ホメロスは意識を取り戻した。
真っ先に視界に飛び込んできたのは、杖を振り上げたウルノーガが驚き戸惑っている姿。ホメロスの一手分、隙が生まれていた。

 ホメロスの腰には『虹』が納まっている。それはかの勇者の剣にも劣らぬであろう名刀だ。

 仮にも相手は魔王。その一閃のみで殺すことは出来ないだろう。しかし、されど一太刀。無傷でいられるはずはなく、最期に大きい傷跡を残してやることくらいは出来る。元より無謀な復讐劇には充分過ぎる結果だろう。

 居合い抜きの一撃に己の力の全てを込めるため、虹の柄を握り込む。

 そしてウルノーガの身体に狙いを澄まし――

236……and REMAKE(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/08/07(金) 01:24:43 ID:Z3P5g7Ns0

「…………ッ!」

――ホメロスはその手を止めた。

 実際に復讐の対象であるウルノーガを前にして気付いた。自分の中の憎しみは、ウルノーガに対してさほど向いていないと。

 湧かない。湧かないのだ。
仮にウルノーガが配下に選んでいたのがグレイグであったとしても。アイツが自分を超えるために追いかけて来るイメージが全く湧かない。

 グレイグの目は常に民の方を向いていた。彼らを守るべく戦っていた。仮にどのような環境に置かれたとしても、それが民のためであるならば道を外すことはなかっただろう。自分が選ばれ、グレイグが選ばれなかったのはただそれだけのことだったのだ。

 本当は分かっていた。本当に憎いのが誰なのか。どれほどウルノーガの策略が進行していようと。それがウルノーガに植え付けられた劣等感であろうと。最終的にウルノーガの囁きに耳を貸し、その身体を闇に堕としたのはホメロス自身なのだ。

 その責任を、原因に過ぎないウルノーガに擦り付け、復讐に走る。それは何て滑稽なのだろう。グレイグを見る目も変わるわけがない。自己嫌悪に陥る自分の本心からも目を逸らしていたのだから。ああ、それならばまさに道化だ。本当に殺したかった相手は最初からここに居たというのに。

 ウルノーガへの復讐という目的が失われ、この世への未練なるものが完全に無くなったと思えたその時。しかしホメロスは、気が付いた。もう一つ、たった一つだけ、守りたいものはあったのだと。

 一度闇に堕ちた自分が、光の道を進めたのは何故だったか。考えるまでもなく、その闇を受け入れてくれた者がいたからだ。自分の築き上げてきた屍ではなく、自分という人間を、真っ直ぐに見てくれた者がいたからだ。何もかもを失い、遂に自尊心までもを失ったホメロスに、唯一残っていたのがその心。そしてそれこそが、グレイグにあって、自分になかったものだというのか。

(まさかこの俺に……)

 もはや必要の無い虹から手を離す。その重みから解放されたホメロスはもう一度、ウルノーガの眼を真っ直ぐに見据えた。許された行動は一手のみ。その一手の猶予を利用し、或る"呪文"の術式を組み立てる。

("これ"を使う日が来ようとはな。)

 ホメロスの身体に激しく輝く光が現れる。それは怒りや憎しみとはほど遠く、優しく温かい光だった。



『――メガザル』



 ホメロスが身に纏った光がバラバラに砕け散る。光の粒子が満身創痍の陽介と、瀕死のジャローダを包み込み、そして消えていく。何事か不思議に思う暇もなく、両者の負っていた傷は消え去っていた。

 しかしその代償として、ウルノーガが手を下すまでもなくホメロスの命は失われた。結果だけを見れば、まさしくウルノーガの選定通りのホメロスの死。そしてウルノーガに見下されながら崩れ落ちていくその様は、まるで過ぎ去りし時を求めた後の彼の末路のようで――しかし一つだけ、決定的に異なる箇所があった。

 ウルノーガの配下ではなく、一人の聖騎士として散れたこと。それはホメロスの本望であり、同時に自己嫌悪を晴らせる唯一の終わり方だった。なればこそ、最後を飾る言葉は憎しみなどではなく、守りたい誰かの盾となる聖騎士の心を思い出させてくれたことへの、率直な想いを込めた一言で締めよう。消えゆく意識の中、ホメロスは誰にも聴こえないほど小さく、呟いた。

(……■■■■■。)

 それを口にした瞬間、ずっと背中しか見えなかったはずの男が、心なしか振り返ったような気がした。


【ホメロス@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めてㅤ死亡確認】

237……and REMAKE(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/08/07(金) 01:27:32 ID:Z3P5g7Ns0



「……つまらぬ。」

 ウルノーガが吐き捨てる。自身の手で刑を執行することも叶わず、己の手駒であったことをも否定するような大往生に、ウルノーガの鬱憤が晴れるはずもなかった。

「もうよい。行くぞ、足立。」

「……はいはい。ってことだからさ、陽介くん。せいぜい頑張ってよ。」

「待てッ!ㅤまだ話は――」

 まだ聞きたいことはたくさんある。ここで帰してはならないと、陽介は手を伸ばす。しかし足立が掲げたカエレールは陽介も知る通りに効果を発揮する。

「……真実を知りたければ、生き残ってみせなよ。」

 最後にそう言い残して、足立はここではない何処かへ行ってしまった。ウルノーガの方も、陽介の知らない呪文で飛んで行ったようだ。

「くっそ……。」

 足立を捕まえられなかったことに悔しがり地団駄を踏むも、その暇も無いことを思い出す。まだ何も終わっていない。それどころか、これまでに無い強敵が、まさに目の前に迫っている。

「クラウド……お前……心まで魔物になったわけじゃないんだよな……?」

 見るに堪えない異形と化してもなお理性があるように見える目の前の敵に、対話を試みる。

「そうかもしれないし、違うかもしれない。」

 クラウドは返す。

「俺は元々、心に魔物を買っていた。それだけはハッキリしている。」

 クラウドの意識からは、深層心理で否定したそとによって殺しへの罪悪感というものが消えていた。そしてその罪悪感を担っていたのは、かつて取り戻した本来のクラウドとしての心だった。

「言ったよな。俺、お前が羨ましかったんだって。」

 そして本来のクラウドというものを、陽介は知っている。星を救ったクラウドの周りには、たくさんの人がいて、その中心でクラウドは笑っていて。夢の中。そんなクラウドを陽介は、羨ましく思っていた。

「今のお前を、俺は羨ましいとは思わねえ。」

 そして今。その感情は"リバース"した。ただただ冷淡に、先ほどにも増して人間味の欠片も見えなくなったクラウド。あの本来のクラウドの人格を失っていることは、本来の自分というものにずっと向き合ってきた陽介だからこそ分かった。

「俺は本当のお前に会ってきたんだ。今のお前は本当のお前じゃない。」

「……だったら全てを終わらせた後でもう一度俺を取り戻せばいい。」

 クラウドはその場に落ちている『虹』を拾い上げる。リカームドラのような呪文を使って死んだホメロスが遺した武器。まさかクラウドに使われることになるとは思っていなかった。

238……and REMAKE(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/08/07(金) 01:28:28 ID:Z3P5g7Ns0

「今の俺には、その力があるんだ。」

 何度も命を救ってくれたホメロスの支給品、シーカーストーンの入ったザックもホメロスの遺体と一緒にクラウドの傍に置いてある。でもジャローダはモンスターボールから出てこっち側にいる。それならば、一緒に戦ってくれるはず――



――などということはなく。

 ジャローダはその場から、トラフーリばりのスピードで一目散に逃走を始めた。

「えっ……えええええっ!?」

 その変わり身の早さに唖然とする陽介。ホメロスと共に行動していたことで自分にも何かしらの協調が生まれたような気がしており、肩透かしをくらったような気分だった。

 しかしジャローダが逃げたのには、明確な理由があった。ジャローダの所有者であったホメロスが死んだ今、ジャローダの所有者は居ない状態――つまり、野生のポケモンである。しかしホメロスの身体が先ほどまでウルノーガの居た場所に引き寄せられたことで、ホメロスの支給品もクラウドのすぐ近くに落ちている。クラウドがそれを手にした瞬間に自分を捕まえていたモンスターボールは持ち主の譲渡が成立し、クラウドが所有者となってしまう。

 先ほどの闘いで自分の奇襲を読んでいたクラウドは、少なくともモンスターボールの仕組みを最低限以上理解しているようだった。それがどこまでかは分からないが、もしホメロスのザックの中のモンスターボールをその手に取られれば、今度は自分が陽介に牙をむくこととなる。クラウドのような強者に着いていく方がトウヤへの復讐は果たしやすいのかもしれないけれど、それでもホメロスの仲間だった陽介だけは傷付けたくないから。

 だからこそ、逃げ出した。所有者が変わる前に、モンスターボールの効力のある範囲から離れられるように。頑張って、と。ジャローダは陽介に伝わらない言葉を発した。

 ジャローダが離脱した今、今度こそ陽介とクラウドは一騎打ちだ。クラウドの能力が強化されていることも、ホメロスやジャローダの支援が期待できないことも、先ほどまでと比べて大きく不利になっているはず。

「……何でだろうな。今のお前には、負ける気がしねえ。」

 だけど、人間だった頃のクラウドの方が怖いと思った。今のクラウドは、独りだ。

(なあ、みんな。)

 陽介は独りではない。たくさんの別れと共に、幾つもの想いを背負っている。

(俺、戦うよ。)

 その言葉の先は、完二であり、天城であり、ホメロスであり、そして、先輩でもあった。

 望まずして命を絶たれ、その先の物語を紡げなくなってしまった者たち。

(だから……応援しててくれ。)

 俺が今立っているこの地は、彼らの立てなかった場所だから。俺が生きる今日は、彼らが迎えられなかった一日だから。負けられない理由としては、充分すぎるものだよな。

 その答えを見出した次の瞬間、身体中から力が湧き出てくるのに気付いた。

――弱さを受け入れ、乗り越えた強い意志が、新たな力を呼び覚ます……

「ペルソナァッ!!」

 そして顕現したアルカナを力いっぱい、叩き付ける。同時に生じた破砕音は、この闘いの開戦の合図となった。

239……and REMAKE(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/08/07(金) 01:29:18 ID:Z3P5g7Ns0






 Nの城を目指すトウヤは、特に急いではいなかった。ランニングシューズも無しに無闇に走ると足への負担が大きい。先のアンドロイドとの戦いのように、相手がポケモンではなくトレーナーである自分を直接狙ってくることもあるこの世界。体力を温存しておくに越したことはない。

 確かに、この世界にはレッドやN、更にはレッドの手持ちかもしれないピカチュウなど、心躍るかもしれない相手が数多く存在する。もちろん、仮に彼らが死に瀕する事態が発生するとして、自分が急ぐことでそれに先立って彼らと戦える可能性はあるにはある。しかしその場合も、彼らを殺すに足る実力の持ち主と出会えることにはなり、それはそれで本望である。

 そもそも、殺し合いというシステム上後になればなるほど強い相手ばかりが残ることになるのだ。それならばわざわざ急ぐこともあるまい。と、トウヤの思考はスタンスに照らせば合理的で、そして、或いは冷淡とも称されるものであった。

(後になればなるほど強い相手ばかりが残る……。つまり、弱いものほど先に死ぬということ。)

 強い弱いというのも、実力の有無のみで語れるものではない。例えば先ほど殺したアンドロイドは、実力でいえば相当な強者だったが第一回放送を待たずして死んでしまった。生死を分けたのは、自分の勧誘への返答だった。あの時の選択次第では、まだ生き延びており共に戦いに身を投じていたはず。つまり、局面ごとに妥当な選択ができるかどうか、それもまた強さのひとつなのだ。

(そういう意味で言うなら、ベルなんかは真っ先に死にそうなものですが……)

 かつての旅で、ベルは実力もないのにプラズマ団の悪行を止めにかかったことは何度もあった。悪を許せない彼女のタチは嫌いではなかったが、少なくともこの殺し合いにおいては賢いとは言えないものなのだろう。ここでは実力がないまま他者と対立した者に待つのは死だ。

(まあ、どうでもいいですね。)

 と、考えをやめたその時。

――もし、もう少し速く目的地を目指していたならば、出会えなかったかもしれない。

 背後より、ひとつの影がトウヤに高速接近しているのを感じ取った。

「――!!」

 参加者の襲撃か、それとも野生のポケモンか。トウヤにとってはどちらでもよかった。前者ならば楽しみであるし、後者であれば新戦力として期待できる。ダイケンキが死んだために空のモンスターボールがひとつ余っており、現在トウヤはポケモンの捕獲に挑める状態である。

 答え合わせと、背後の影に向き直る。同時に、それはトウヤに攻撃を加えてきた。

(速い……!ㅤだが……)

 トウヤは率直な感想を抱くが、決して見切れない速度ではない。

「オノノクス!」

 ドラゴンテールで応戦。敵の放ったリーフブレードと真っ向から衝突し、弾き合う。オノノクスの巨体が、こうかはいまひとつの技で押し勝てない点のみを見ても、敵がかなり強いのは明らかだ。

「……!ㅤまさか……。」

 トウヤは敵の姿を確認し――そしてこの殺し合いの世界に来てからいちばんの驚愕の表情を見せた。そして次の瞬間には迷いなく、モンスターボールを足元に投げて瀕死のバイバニラを前に出す。そして一言、指示を出す。

「オノノクス。バイバニラに"きりさく"だ。」

 その突拍子もない指示に、オノノクスは驚く。瀕死のポケモン――それも敵ではなく味方に牙を剥く行為など、かつての主であったアイリスの下でも行ったことがない。しかしモンスターボールの効力には逆らえず、その指示は一切の躊躇なく遂行される。瞬きするほどの間に両断されたバイバニラは無色透明が血液をその場に撒き散らすも、トウヤはそれを意にも介さず、空となったモンスターボールを手に目の前のポケモンと視線を合わせる。そして、かつて長く連れ添ったパートナーに告げる第一声としてはとても希薄かつ空虚な、"捕獲対象"への一言を投げかけた。

「あなた相手にボールひとつでは心許ないですからね。」


【バイバニラ@ポケットモンスター ブラック・ホワイトㅤ死亡確認】

240……and REMAKE(後編) ◆2zEnKfaCDc:2020/08/07(金) 01:29:53 ID:Z3P5g7Ns0



 全ての存在は、滅びるようにデザインされている。誰もがいずれ訪れる終わりに向けて歩み始め、その物語を遂げていく。

(――ありがとう。)

 それらは全て、かつて一度は終わった物語。

「吼えろ――スサノオ!」

 しかし、終わりに続きを求める者がいる限り。

「さて。久しぶりですね――ジャローダ。」

 彼らの物語はやり直され、生まれ変わって。

「もしこれが幻想だとしても、俺は俺の現実を創ってみせる。」

……そして、リメイクされていく。

【E-4/一日目 午前】

【花村陽介@ペルソナ4】
[状態]:健康
[装備]:龍神丸@龍が如く 極
[道具]:基本支給品2人分、不明支給品1〜3個、グランドリオン@クロノ・トリガー
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と共に完二の仇をとる
1.魔軍兵士クラウドを倒す
2.死ぬの、怖いな……
3.足立、お前の目的は……?
※参戦時期は足立との決着以降です。主催者陣営に足立がいることを知りました。
※鳴上悠との魔術師コミュは9です(殴り合い前)
※クラウドの過去を知りました。
※ペルソナ『スサノオ』を覚醒しました。


【魔軍兵士クラウド(クラウド・ストライフ@FINAL FANTASY Ⅶ)】
[状態]:HP1/2
[装備]:虹@クロノトリガー シルバーオーブ・LIFE@ゲームキャラ・バトルロワイアル
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:優勝してエアリスを蘇生する。
1.「……。」

※参戦時期はエンディング後です。
※花村陽介の過去を知りました。
※シルバーオーブ・LIFEと融合しています。


※クラウドの近くに、基本支給品、シーカーストーン@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド、空のモンスターボール@ポケットモンスター ブラック・ホワイトが入ったザックがホメロスの遺体と共に放置されています。



【E-3/草原/一日目 午前】

【トウヤ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:虚無感(僅かに回復) 疲労(小) 帽子に穴
[装備]:モンスターボール(オノノクス)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト、チタン製レンチ@ペルソナ4  
[道具]:基本支給品、モンスターボール(空)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト×2、カイムの剣@ドラッグ・オン・ドラグーン、煙草@METAL GEAR SOLID 2、スーパーリング@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[思考・状況]
基本行動方針:満足できるまで楽しむ。
1.ジャローダを捕獲する。
2.Nの城でポケモンを回復させる。
3.自分を満たしてくれる存在を探す。
4.ポケモンを手に入れたい。強奪も視野に。

※チャンピオン撃破後からの参戦です。
※全てのポケモンの急所、弱点、癖、技を熟知しています。
※名簿のピカチュウがレッドのピカチュウかもしれないと考えています。


【ポケモン状態表】
【オノノクス ♀】
[状態]:HP1/2
[特性]:かたやぶり
[持ち物]:なし
[わざ]:りゅうのまい、きりさく、ダメおし、ドラゴンテール
[思考・状況]
基本行動方針:トウヤに従う。
1.トウヤに従い、バトルをする。

【ジャローダ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[特性]:しんりょく
[持ち物]:なし
[わざ]:リーフストーム、リーフブレード、アクアテール、つるぎのまい
[思考・状況]
基本行動方針:トウヤを殺す。

※現在は野生のポケモンの扱いです

【支給品紹介】
【シルバーオーブ・LIFE@ゲームキャラ・バトルロワイアル】
シルバーオーブがいのちのたまと融合し、魔軍司令ホメロスがその身に宿していた時のオーブの状態が擬似的に再現されたもの。現在はクラウドの身体と融合している。原作のシルバーオーブ同様、クラウドを倒した時にドロップする。

241 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/07(金) 01:34:35 ID:Z3P5g7Ns0
投下完了しました。

足立の存在を参加者側に通達したかったので主催者側も結構動かしましたが、もし>>1氏の構想とズレてしまうという申し立てが、この話のリレー先が予約される前に出てくるようでしたら、大筋は変えずウルノーガと足立が出てこないように調整して投下し直そうと思います。

242 ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:02:17 ID:GLuPxMxc0
予約破棄した分を投下します。

243一難去って…… ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:03:19 ID:GLuPxMxc0
リンクと雪歩の二人を乗せたチョコボが、丁度【D-2】に入ったあたりで、マナの放送が流れた。

その瞬間、それぞれの何かが壊れた。
決して壊れてはいけないはずの何かが。

一番最初に呼ばれたのは、雪歩の大切な仲間。
それからすぐに、リンクのかつての仲間。


リンクの背中を握る力が急に強くなったことで。
そして、背中が急に濡れていたことで、後ろに座っていた雪歩に何があったかは彼にも判断出来た。

「雪歩。」
リンクが言葉を発するより先に、2Bが彼女に声をかける。
しかし、彼女もその先にどう言葉をかけていいか分からなかった。

彼女自身は、この世界に来る前に何度も仲間の死を目の当たりにし、訃報を耳にした。
だが、それはあくまで捨て石のように扱われていたアンドロイドのみ。
こうして人間の死を心から涙する人間に、どうやって言葉が正しいのか分からなかった。


「……はるか………。」
涙と共に、雪歩は死んだ仲間の言葉を発す。
765プロにいたとき、前のめりながらもアイドルへと進もうとしていた、大切な仲間。
でも、それが嘘じゃないことは、自ずと認めなければならなかった。
彼女も銃口を突き付けられ、一度死を目の前にしたからだ。

「……すまない。」
リンクは一言こぼす。
雪歩という今の仲間に、そして、ウルボザというかつての仲間に謝罪の言葉を。



雪歩の親友、天海春香の死は、リンクに非があるわけではない。
だが、もしも自分達がNの城を素通りしていれば。
Nの城で眼帯男たちを相手にするのに苦労してなければ。


両方は無理でも、春香かウルボザ、どちらかでも救えたんじゃないか。
そんな後悔の念が、渦となってやってくる。

(まだ修業が足りないのか……。)

悲しさからか、自分への怒りからか知らないが、チョコボの手綱を握る力が強くなっていた。

244一難去って…… ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:03:48 ID:GLuPxMxc0

(A2……なぜ……!?。)
雪歩の仲間、そしてすぐにリンクの仲間が呼ばれた後、間の抜けたようなタイミングで、2Bの知り合いが呼ばれた。


――裏切ったのは、司令部だろう?


ヨルハ部隊を裏切り、一人で機械生命体を狩り続けていたA2。

2Bにとって彼女は、間違いなく敵であった。
しかし、どこかで自分にとって大切な役割を果たしてくれる。
そんな存在であった。
もし自分が役目を果たせなくなれば、
もし自分が志半ばで動かなくなれば、その時は彼女が役目を担ってくれる。そう思っていた。



(何だろうな。この気持ち。ソウシツカン……とかいう物なのか?)
アンドロイドは感情を持つことは禁止されている。
だが、言葉で表せない、胸に穴が出来たような気持ちは何なのだろうか疑問に思った。
結局、考えても分からないことを考えるのは止めた。

何にせよ、彼女が死んだということは、自分もいつ死ぬか分からない。
実際に、Nの城での戦いで眼帯男が禿げ頭の男を止めてくれなければ、雪歩が死んでいたかもしれない。
今度こそ雪歩を守ろうと改めて誓う彼女だった。



しかし、すぐに二人は守るべき相手が、雪歩だけでないことに気づく。





「動くな!!」

放送が終わってすぐに、木の影から三人の知らない声が響いた。
リンクはチョコボを止め、2Bもその足を止めて、声の場所を観察する。

「それ以上近づくと……撃つぞ!!」
よく見ると、高校生くらいの少年が銃を構えていた。
しかし、その手は震えており、声は上ずっていた。
まるで無力な子供が怖いものを遠ざけようとするあまりに、玩具を振り回しているような様子だった。
少年との距離はそこまで近づいてなかったが、リンクにも2Bにも共通してその様子は伝わってきた。

「リンクさん……2Bさん……。」
またも銃を突きつけられて、雪歩は不安そうに二人の様子を見る。
リンクはただ、「大丈夫だ」という言葉をその眼だけで送る。


「私たちはゲームに乗っていない。ましてやキミを殺すつもりなんてさらさらない。」
2Bは地面に剣を突き刺し、敵意がないことを示す。
自分があの小さな銃程度で死ぬとは思わないが、リンクと雪歩はそうでない可能性が高いことを考えると、迂闊に刺激しない方が良いと判断した。


「その通りだ。だから君も銃を捨ててくれ。」
リンクはチョコボから降り、同じように真島からもらった刀を地面に刺す。



「ほ、本当なんだな!?お、オレ、お前たちを信用していいんだな!?」
二人の言葉に、幾ばくかの安堵を覚えた。
少年、久保美津雄はウェイブショックをホルダーに収め、足を震わせながらリンク達に近づく。
彼の本心としては、銃を撃たずに済んだ安心感の方が強かった。
最初の頃に考えていた、この時点で戦いに優勝しようという気持ちは、完全に消えてしまっていた。

245一難去って…… ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:04:28 ID:GLuPxMxc0

銃を持った自分を何の苦労もなくねじ伏せたザックスが致命傷を負い、何の悩みも持ってなさそうな片思いの相手の訃報を簡単に聞く。
襲い始めた現実の恐怖に、彼は動けなくなっていた。


「頼む、オレの仲間を助けてくれ!!」
美津雄は思い切って、3人にザックスを助けてくれるように懇願する。
銃を突き付けておいて、勝手極まりないのは重々承知の上だ。
でも、自分は恐怖で身がすくんで、薬の素材を探すことさえできない。


「何があった?」
リンクが一番最初に問う。
「オレをかばった仲間が死にそうで……知らない女からかばって刺されて、
……あと、殺されて……いや、その仲間じゃなくて俺の知り合いが、いや、あとそれと、薬のキノコを………。」


最早恐怖と、言いたいことが多すぎるあまり、言葉が文章を作っていなかった。


「落ち着いて話してほしい。私達も君や君の仲間を助けたいと思っている。」
今度は2Bが質問する番だった。

美津雄は言われた通り一つずつ説明した。
ザックスという人物と行動していたが、知らない女性に突然襲われたこと。
彼が自分をかばい、女性は逃げ出したが、ザックスはケガで動けないこと。
自分は彼を助けるために、傷薬の材料を探していること。
そして、つい先ほどの放送で片想いの相手が呼ばれて、恐怖で動けなくなっていたこと。

大切な人がこの戦いで死んでしまって、恐怖で動けなくなっている様子は、二人にとっては雪歩も美津雄も同じだった。
「私達も手伝おう。何が必要なんだ?」

「じゃ、じゃあ、このキノコを知っているか?無いなら探して欲しいんだ。」
美津雄は鞄から分厚い図鑑を出し、回復薬を作るためのレシピが載っているページを見せた。
(こんな図鑑、9Sが読んだら大喜びするだろうな……)
かつての仕事仲間を思い出しながら、2Bはそのページの詳細を眺める。


「どうにか薬草は見つけたんだ。あとはそのアオキノコさえあれば……。」
2Bは美津雄が持っていた薬草を見て、その話を聞くや否や、すぐに走り出した。
「私が探しに行く。」
「マ、マジで助けてくれるのか?」

「リンク、雪歩とその子を頼む。」


リンクに二人の護衛を任せ、いち早く素材を見つけに行く。
ヨルハ舞台で活動していた時から、依頼されていた素材の採取をしていた彼女にとって、キノコ探しなど容易だった。

246一難去って…… ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:04:59 ID:GLuPxMxc0

2Bこそは人類のために作られたはずのアンドロイドだったが、直接人間が見える場所で戦ったことはなかった。
勿論Nの城で雪歩のために守って戦ったが、彼女は狩猟や採取能力にも長けていた。


(キノコ狩りくらい、俺も出来るのにな……。)
半ば強制的に二人の護衛をすることになったリンクは、そう思いながら美津雄に声をかける。

「なあ、あの女の人、大丈夫なのかよ?」
「分からない。」

ウソでも大丈夫だと言ってほしかった美津雄にとって、その返答は驚きだった。

「なんだよそれ!!」
安心できるとはいいがたいリンクの言葉を聞いて、美津雄は不安から来る怒りをリンクにぶつける。

「絶対に無事だって保証はない。」
リンクとしては、城での戦いで警戒心を強めていた。
城での奇妙な鎧をまとった禿げ頭の男や、美津雄の仲間を刺した女性、はたまた別の敵が襲いに来る可能性も否定できない。

雪歩こそ、今は落ち着いているが、まだ気持ちは不安定なままだろう。


「けど、君の望みをかなえてくれる力を持っているのは事実。」
それから一拍置いて、こう答えた。
自分が眼帯男と戦っている間にも、雪歩を守ってくれる力はあった。
それは彼にも知っていたことだった。

そう言われると美津雄は、わずかながら表情を緩めた。
リンクは美津雄と、チョコボの上に座っている雪歩、不安定な二人を繰り返し見る。


「一つ聞くが、その仲間って何て名前なんだ?」

リンクとしては、美津雄の知り合いが、自分と同じハイラルの英傑ではないかという疑問があった。
ウルボザが放送で呼ばれたことから、ほかの英傑も参加していると思った。
その仲間は彼をかばって刺されたとのことだが、かつてのハイラルの英傑も、誰もが自分より他者の命を優先するような所がある。
彼らと共に戦った記憶は朧気だが、きっと頼りになる仲間になれるし、瀕死ならば助けねばならない。

美津雄は今度は鞄から名簿を取り出し、名前欄を指でなぞる。
「このザックスって奴だ。知ってるのか!?」
「ごめん……俺の、知り合いじゃない。」
「でも、知り合いじゃないからって、オレのこと見捨てたりしないよな?」
「知り合いとか、そうじゃないとか、関係ない。」

その言葉で、美津雄の不安をわずかだけ取り除く。
しかし、リンクにとっては気がかりになる名前が、『ザックス・フェア』の少し下にあった。

247一難去って…… ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:05:22 ID:GLuPxMxc0

(ゼルダ姫まで……!?)
薄々嫌な予感はしていたが、ゼルダまでがこの戦いに呼ばれていたとは。
ハイラル城で厄災ガノンを封印しているはずのゼルダが、どうしてこの場所にいるのかわからない。
だが、一つリンクが分かることは、ゼルダの死、それがハイラルの滅亡にもつながるということだ。
たとえ自分だけが生きて帰っても、厄災を封印する姫がいなければ、ガノンは復活し、ハイラルは闇に飲み込まれてしまう。


そして、リンクに思っていたことがもう一つあった。
今、彼女、ゼルダ姫はどうしているのだろう。
やはり彼女はハイラル城にいるんじゃないか。

こんなところでこうしているうちに、彼女もまたウルボザと同じようなことになるんじゃないか。


本当に、今自分はこうしているべきなのか?




リンクが気づくと、雪歩も自分に支給された名簿を覗いている。


一番最初に、既に死んだ天海春香の名前を見た。
そして、彼女が改めて死んでしまったことを実感する。
次に見つけた名前は、「如月千早」。そして、「四条貴音」、「星井美希」
「誰か、知り合いはいたか?」
雪歩の手の震えから、リンクと美津雄にも、幾分かは察することが出来たが。


「ええ。この如月………。」
雪歩が言葉をすべて話し終える前に、美津雄が大声を上げた。

「オマエ、あの女と知り合いなのか!!?」
「え………!?」
突然の大声で、元々気弱な雪歩は言わずもがな、リンクでさえも驚く。
「雪歩の友達と、何かあったのか?」


リンクは美津雄をなだめようとする。
「アイツが、ザックスを刺しやがったんだ!!」


(どうして……!?)
その言葉は、雪歩の心を折る、最後の藁だった。



銃を突き付けられたことより、春香の死を知らされたことより、その事実は雪歩の心を大きく傷つけた。
雪歩にとっては、仲間が人殺しをしようとするなんて、殺される以上にありえないことだった。

248一難去って…… ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:05:49 ID:GLuPxMxc0

どうしてザックスを刺したのか、本当に刺したのは千早なのか。
細かいことを考える間もなく、折れた心の隙間から何かが零れていく。


それは決して零れてはいけないものだった。
でも、掬う暇もなく、零れていく。
やがて、掬うこともできないほど、下へ下へと零れていく。





「なあ!!あの人殺しと知り合いって、どういうことだよ!?」
「落ち着け!!雪歩の友達が人殺しなわけないだろ!!」
リンクが大声で美津雄を咎める。

「オレが聞いた幻聴を聞いたとでもいうのかよ!アイツは「如月千早」って名乗ってたんだぞ!!」
「……!!」

そう言われると、事情を見ていないリンクは黙ってしまった。


雪歩は答えに詰まった。
答えられない。
元の世界で知っている千早が、人殺しをするような人ではないから……というわけではない。
最早思考する余裕がないからだ。
言葉は出ず、口からは荒い呼吸しか出ない。

その時に取れた行動はただ一つ。


「私をここから逃がして!!!!!!」
ただ力いっぱいチョコボの手綱を引っ張った。


「クエエッ!?」
急な命令にいささか驚きつつも、言われた通り全力で南へ向かって走る。
勿論、二人の足ではとてもじゃないが追いつけない。
2Bの全速力なら、まだ追いつけるかもしれないが、彼女は今いない。


「雪歩!!待ってくれ!!」
「おい!待てよ!!」
リンクと美津雄がそれぞれ叫ぶも、瞬く間にチョコボの黄色い尾羽は小さくなってしまった。

「な、なあ、オレ、悪くないからな?それとも、オレが見たものを疑っているのかよ!?」
「誰もそんなことは言っていない。」
美津雄はリンクの顔色をうかがいながら、自分の無実を主張する。
しかし、リンクとしても問題があった。
2Bならともかく、自分はとてもじゃないが全力疾走のチョコボには追い付けない。


「リンク、一体これは!?」
ちょうどその時、2Bが戻ってきた。

「2B、雪歩が南へ逃げて……」
「分かった。リンクはその子を頼む。」
リンクの話をすべて聞く前に、2Bは全速力で雪歩を乗せたチョコボを追いかける。
残された二人の手には、アオキノコが5個ほど渡された。


「ザックスがどこにいるか案内してくれ。」
「……分かった。」

249一難去って…… ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:06:42 ID:GLuPxMxc0
リンクと美津雄は、山を下り、ザックスがいた場所へと向かい始めた。










(無事でいろよ…ザックス……!!)
ザックスが治る可能性こそはつかめたが、心拍数はより一層増している。
自分がいない間に、誰かに殺されていないか、不安を胸に走る。
たとえザックスが殺されていなくても、薬で治るか分からない。
彼としては雪歩のことも気にならないわけではないが、ザックスの方が遥かに心配していた。


場所は市街地に移り、美津雄がリンクを、ザックスがいる場所へと案内する。
放送までは付いていた街灯が、辺り一面消えていたことに、一瞬だけ美津雄は奇妙な感覚を覚えた。
朝になって多少様子が変わりながらも、急いで街を走る。

「ザックス!いるか!?今から薬、作るぞ!!」
特徴的なデザインの黒髪と、特徴的な大きさの武器が見える前に、美津雄は大声を出す。


「よお、美津雄じゃねえか……。どこ行ったのかと思ったぞ。」
すぐに見えたザックスの顔は、放送前に美津雄が見た時よりも青白かった。
それでもは生きていたことに安堵する美津雄。
だが、喋りながらも口から血が零れていることから、治療をしないと長くはないことが、二人に伝わってきた。

「そんなこと言っている場合じゃねえよ!!薬の材料探してたんだ!!」
「マジかよ……嬉しいぜ。その青い服の兄ちゃんが、薬の材料なのか?」
「なわけないだろ!ったく、心配かけさせんなよな。」


冗談を飛ばしながらも彼が刺された短剣オオナズチの猛毒が、今もなお彼を蝕んでいることは、彼らは知らない。
彼がまだ生き延びていたのは、ただソルジャーゆえの生命力があったからである。


「リンク……早速……え!?」
イシの村から拝借した鍋に、支給品の水と、ランタンの火で湯を沸かす。
「美津雄、薬草。」
「お、おう。」
そう言いながら共和刀で瞬時にみじん切りにしたキノコを熱湯に入れ、さらに美津雄が取った薬草を千切って混ぜる。

250一難去って…… ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:07:10 ID:GLuPxMxc0

リンクは料理の腕のみならず、薬の調合の腕も長けていたことは、この場では誰も知らない。
グロテスクなトカゲや虫、果てには怪物の骨や肝などでも、彼にかかれば瞬く間に有益な薬になってしまう。


「え!?スゴイな……医者とか……薬剤師だったのか?」
驚くほどの手際の良さに、美津雄は驚く。
「どれもちがう。」
「じゃあ、モグリってことか?」
「……どういうことだ?」

薬を作るのに免許がいる世界と、そうじゃない世界で違和感を覚えつつも、リンクの作業は続く。

すぐにかきまぜる鍋からどろりとした手ごたえが現れ、表面に青緑の膜が張ってきた。
鼻歌交じりで作れる状況じゃないが、キノコも薬草も素材が柔らかいため、薬を作るのは簡単だった。


その薬がザックスを助けてくれることを信じて、祈ることしか美津雄は出来なかった。

251一難去って…… ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:07:51 ID:GLuPxMxc0

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


走る。
黄色い鳥は少女を乗せてどこまでも。
途中で雪歩は振り落とされそうになるも、両手で必死で手綱を握る。


元々男性が苦手な所が雪歩にはあるが、その男性から大声で仲間を人殺しと咎められ、ただ逃げることしか考えられなくなった。

しかし、これまでとは比べ物にならない恐怖がその目の前に立っていた。


「……クエ…」
「………!!!!」

突然、走っていたチョコボの首が飛んだ。







【チョコボ@FINAL FANTASY Ⅶ 死亡確認】







頭を落とされ、生命活動を許されなくなったチョコボは、雪歩を振り落とし、動かなくなる。


チョコボの血の汚れも、体を地面にぶつける痛みも、更なる恐怖に感じなくなった。
目の前に、チョコボの首を切り落とした男、カイムが立っていた。

カイムは笑みを浮かべて、雪歩にゆっくりと歩み寄る。
何の問題もなく一刀の下に切り裂かれて、かつてアイドルだった死骸の出来上がり。


そんな風になるはずだった。

「雪歩、逃げて。」
間一髪、駆け付けた2Bがカイムの正宗を止める。
予想外の力に2Bでさえも押されたが、彼女も陽光をカイムに向ける。

「この子を傷つけるなら容赦しない。」
言葉を失った青年は、彼女のセリフを返さず、さらに斬りかかる。


協力者であるリンクは来れるかどうかわからない。
今度の相手は、あの禿げ頭の男と同じくらい好戦的で、そしてそれ以上の力を持っている。
だが、彼女は人間のために作られたアンドロイドとして、その剣を振るう。

252一難去って…… ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:08:26 ID:GLuPxMxc0

【D-2/市街地(西側)/一日目 朝】


【リンク@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:胸上に浅い裂傷、決意 治療薬調合中
[装備]:民主刀@METAL GEAR SOLID 2、デルカダールの盾@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品(残り食料5/6)、ナベのフタ@現実 残ったアオキノコ×2
[思考・状況] :ゼルダはどうしているだろう?
基本行動方針:守るために戦う。
1.ザックスの怪我を治す薬を作る
2.美津雄、雪歩を守る。
3.ゼルダや他の英傑に関する情報を探す。
4.首輪を外せる者を探す。
※厄災ガノンの討伐に向かう直前からの参戦です。
※ニーアオートマタ、アイマスの世界の情報を得ました。
※美津雄の調合所セット(入門編)から薬に関する知識を得ました。

D-2/市街地(西側)/一日目 早朝】
【久保美津雄@ペルソナ4】
[状態]:疲労(大)、困惑、恐怖、雪歩がいなくなったことへの罪の意識
[装備]:ウェイブショック@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品(水少量消費)、ランダム支給品(治療道具の類ではない、1〜2個)、調合書セット@MONSTER HUNTER X
[思考・状況]
基本行動方針:
1.ザックスを助けたい。

※本編逮捕直後からの参戦です。
※ペルソナは所持していませんが、発現する可能性はあります。
※四条貴音の名前を如月千早だと思っています。


【ザックス・フェア@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:腹部に深い刺し傷、猛毒、
[装備]:巨岩砕き@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜1個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いをぶっ壊し、英雄になる。
1.美津雄のこと、しっかり守ってやらなきゃな。
2.千早(貴音)が気がかり。

※クラウドとの脱走中、トラックでミッドガルへ向かう最中からの参戦です。
※四条貴音の名前を如月千早だと思っています。


【D-2 山岳地帯/一日目 朝】


【ヨルハ二号B型@NieR:Automata】
[状態]:両腕に銃創(行動に支障なし)、決意
[装備]:陽光@龍が如く 極
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破壊。
1.カイムを倒す
2.D-2、765プロへ向かう。
3.雪歩を守る。
4.首輪を外せる者を探す。9S最優先。
5.遊園地廃墟で部品を探したい。

※少なくともAルートの時間軸からの参戦です。
※ルール説明の際、9Sの姿を見ました。
※ブレスオブザワイルド、アイマスの世界の情報を得ました。

【萩原雪歩@THE IDOLM@STER】
[状態]:恐怖
[装備]:モンスターボール(リザードン)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー
[道具]:基本支給品、ナイフ型消音拳銃@METAL GEAR SOLID 2(残弾数1/1)
[思考・状況]
基本行動方針:???


【カイム@ドラッグ・オン・ドラグーン】
[状態]:ダメージ(小)魔力消費(中)
[装備]:正宗@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品 エアリスの基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、マナを殺す。

253一難去って…… ◆vV5.jnbCYw:2020/08/09(日) 23:08:40 ID:GLuPxMxc0
投下終了です。

254 ◆RTn9vPakQY:2020/08/18(火) 01:30:22 ID:3wUU73Qk0
投下乙です!まだ書いていなかった作品も含めて感想をば。

・虚空に描いた百年の恋
喜ばしいものであるはずの百年ぶりの邂逅、なぜこうなってしまったのか。
リーバルとベロニカの二人と対等以上に立ち回るゼルダから、前話までにも増して精神の強さを感じました。
特に後編の展開は、実力者たちの駆け引きもさることながら、信頼関係を元にしたレッドとピカの行動が光りますね。
そしてラスト、「ハイラルの王女」と「騎士」としてではなく「ゼルダ」と「リンク」としての物語のはじまり。
>新たに紡ごう。百年前には紡げなかった、私たちと、私たちを取り巻く生命の息吹が織り成す伝説を――――
ゲームのエンディングを思い出して、二人の物語に思いを馳せました。


・嘗テ思イ描イタ夢ノ誓イ
モンスターボールを分析して高揚するのが、9Sらしくていいですね。
前回はアイドルとしての強さが出ていた美希でしたが、今回は春香の死に悲しむ弱い姿が見られましたね。
9Sと美希の関係性も少し深まったようでなにより。
今後、9Sの記憶のデータが蘇ることがあるのか。気になるところです。


・拘束が緩む時は
マーダーのカイムとステルスのゲーチス、二人を相手にして落ち着き払っているエアリスの胆力がすごい。
それでも名簿でセフィロスの存在を知って焦り出すあたり、セフィロスを相当な脅威と捉えているのが分かりますね。
そしてチェレンの死を知って笑うゲーチス。こ、小物〜!地味に今後が気になる参加者です。
カイムはどこか精神的に不安定に見えますが、意思疎通が難しいし改心とかしなさそうなんですよね……。
拘束を解かれて、なおもカイムを追いかけようとするエアリス。この選択が吉と出るか凶と出るか。


・……and REMAKE
前編。お互いに長い旅路を越えて来た、陽介とクラウド。バトルロワイアルにおける二人の選択、その対比が見事です。
住む世界から何から異なる、主張を違えた二人。それがぶつかるのは説得力がありましたし、戦闘シーンの緊迫感も合わせてドキドキしました。

中編。やっぱり、互いにボロボロになりながらグーパンで殴り合うシーンは最高だぜ……。
二人の共通点、そして決定的な相違点。前を向いた陽介と、後を向いたクラウド。その差が戦闘中に現れるという展開も興奮しました。
そしてシャドウ登場!?――と思いきや。マナの悪辣さにニヤリとさせられました。

後編。主催者介入!からの、まさかの助け舟。
ホメロス……原作ではどこか報われないイメージのある人物でしたが、ここでは憎悪から解放された姿を見せてくれましたね。
本人はささやかな満足を得て、それがウルノーガに対しては意趣返しになったというのも面白いですね。
オーブの力を得た魔軍兵士クラウド、ペルソナを覚醒させた陽介、かつてのパートナー同士で邂逅したトウヤとジャローダ。
これらを「リメイク」でくくるあたりが、格好よくて好きです。

>「だったら響かせてみせるさ。言霊使いも黙りこくる俺の伝達力を舐めんなよ?」
>渾身の一撃が入っても、まだ陽介は倒れない。意識が消え去るギリギリで"食いしばる"。
>ジャローダはその場から、トラフーリばりのスピードで一目散に逃走を始めた。
また、こうした文章表現も含めて、原作の要素を上手く拾っているなぁと思いました。


・一難去って……
放送を聞いて、それぞれ思うところのあるリンクたち。
美津雄との初対面は悪いものではありませんでしたが、ザックスを刺した「如月千早」の存在がある種の地雷に。
ネガティブな面のある雪歩が、現実逃避を図るのもさもありなんですね。
その上、目の前でチョコボの首が飛ぶとか、雪歩じゃなくてもトラウマものですよこれ……。
落ち着きのない美津雄が美津雄らしくて良いです。

255 ◆2zEnKfaCDc:2020/10/10(土) 02:11:14 ID:v5l9U4ys0
里中千枝、シェリー・バーキン、ハル・エメリッヒで予約します。

256 ◆2zEnKfaCDc:2020/10/16(金) 23:52:13 ID:qoROv2aQ0
投下します。

257差し込む陽光、浮かぶ影 ◆2zEnKfaCDc:2020/10/16(金) 23:53:50 ID:qoROv2aQ0
ㅤ朝日が昇った世界は、数刻前の暗闇から一転、光に満ち溢れていた。

ㅤ毎朝訪れる朝日なんて、特段珍しいものでもない。闇に紛れる忍びの衣装を全身に纏っている身としては、むしろ明るさは生き残るのに邪魔になる。これが人生最後に見る曙光であるかもしれないというのに、それを視る僕――オタコンの目はどこか、冷めきっていた。

ㅤ燦然と輝く陽光は、少なくとも希望の光と呼べる代物で無いのは確かだ。現実逃避を引き剥がし、何もかも、白日の元に晒してしまう。

ㅤ無表情の仮面を貼り付けたように感情を表に出さなくなった同行者の少女、シェリー・バーキン。多感な時期にあるはずの彼女をそうさせてしまったのは紛れもなく僕であって。朝の光で彼女の表情がはっきり見えるようになり、それだけでどうもやり切れない気分だ。

ㅤそして、そんな僕らへの追い討ちとなる情報を、この朝は運んできた。

『桐生一馬』

ㅤ朝6時に行われた定時放送による死亡者の発表。彼の死は何となく感じ取ってはいた。襲撃者の女の動きはやはり人智を越えていたし、ダイケンキを奪っていった少年も桐生のいる方向へ向かって行ったからだ。でも、放送で確定されてさえいなければ、まだ彼が生きている可能性に縋ることもできていたはずだ。

ㅤだけど、こうして結果は確定してしまった。箱の中の猫は、死んでいたのだ。

ㅤ悲しいかというと、少し違う。本当に悲しい死別というものは、こんな世界に来るまでもなく経験している。それに冷たいようだが、桐生とは出会って数時間程度しか経っていない。まだ、同じく死んでいた雷電の方が思い入れは強いくらいだ。

ㅤあえて、桐生の死に思うところがあるとすれば、自分が彼を見捨てて逃げたことだろうか。間違った選択であったとは思わない。あの場に残っていても、せいぜい一緒に死ぬことくらいしかできなかっただろう。

ㅤだから正しいのは僕だ。誰にも責められる言われなんてない。だけど、シェリーに正しさばかりを突きつけるのは、きっと間違いなのだ。

ㅤ本来なら、桐生の死を共に悲しむべき相手であるシェリーに、僕は何と声をかければいいのだろう。

ㅤ謝るのは違う。僕が間違っていないのは、幼いながらに彼女も理解している。しかし、かといって開き直って励ますのもまた違う。彼女の信用を失ってしまった僕にその資格はもうない。

ㅤ堂々巡り。この状況で何を言っても間違いだ。そもそも、非情になれない奴らを集めての殺し合いなんてものが間違っているのだから、完璧な正解なんてどこにもないのだ。

「シェリー。」

ㅤだから、僕が発すべきは謝罪でも激励でもない。

「君はまだ、僕に着いてきてくれるのかい?」

ㅤこの上なく淡白な、事実の確認。彼女の意思を無視して『合理的選択』に走った僕にできるのは、してもいいのは、合理的であることを曲げないことだけだ。それを曲げてしまえばそれこそ、合理的選択の犠牲となった者たちに示しがつかないだろう。

258差し込む陽光、浮かぶ影 ◆2zEnKfaCDc:2020/10/16(金) 23:55:35 ID:qoROv2aQ0
ㅤシェリーは何も言わずにただ一度、コクリと頷く。その返事に、嬉しいとも悲しいとも思えなかった。彼女が逃げ出さなかったことへの安心も彼女から解放されなかったことへの苦々しさも、そのどちらもが心の中に存在していた。

ㅤ早朝に吹き抜ける風がやけに冷たく、体の芯まで染み渡る。互いを労るでも罵るでもない、この奇妙な同行関係は、まだ続くようだ。



ㅤニアミスの余地の無い一本橋の上。それは、必然の邂逅だった。

ㅤ全身を濡らしたショートヘアの少女――里中千枝が、よろよろと歩み寄って来る。その様子から、海から上がってきたのは容易に想像がついた。

「大丈夫なのかい?」

ㅤオタコンが思わずかけた第一声はそれだった。敵意が無いことを伝えるという目的よりも、思わず口をついて出てしまった一言。無意識下でも相手を労る余裕が今の自分にあったことに少し驚く。

ㅤ対する千枝。ゼルダやミファーのように真っ向から殺し合うでもなく。錦山のように咎められるでもなく。この世界で初めて向けられた、出会い頭の優しさ。どこか戸惑うような様相を表に出し――そして僅かな間を空けて思い直したかのように構えを取り、警戒を見せる。

「随分と、余裕あるんだね。あたしが乗ってないとでも思った?」

ㅤ返ってきたのは、闊達そうな風貌からは想像もつかないような、棘をびっしりと纏った言葉だった。海に落ちていたことも踏まえると、この殺伐とした世界でどんな目にあったのか、推定できる。

「乗ってたら困るんだけどね。どの道、逃げ場はないんだ。」

ㅤ桐生に拳銃を渡し、ダイケンキまでもを失った今、オタコンは武力といえるものを持っていない。千枝が何かしらの武器を所持しているのならおそらく勝ち目は無い。ひとまず問答無用で襲ってくる相手ではないようだ。刺激しないよう慎重に、相手の出方を伺う。

「どこへ向かっているのか、良かったら聞かせてほしい。」

ㅤオタコンの問いに、怯む千枝。目的地――八十神高等学校を目指す理由は、そこに仲間たちがいるかもしれないからだ。しかし、そこには少なからず正しいとは言えない動機が混ざっている。今は亡き親友の恋人を、心の拠り所としているという自覚。誰にも知られたくないし、知られ得る要素を与えたくない。

「……別に。そっちはどうなのよ。」

ㅤよって、千枝は口を閉ざした。それを、具体的な目的地は特に無いと受け取ったオタコンは、好機とばかりに、支給された紙に簡潔な情報を走らせる。そして、盗聴対策に会話を成立させるだけの言葉を添えながら、唐突に何かを書き始めたオタコンに少し困惑している千枝に、その内容を突き付ける。

259差し込む陽光、浮かぶ影 ◆2zEnKfaCDc:2020/10/16(金) 23:56:35 ID:qoROv2aQ0
『首輪を調べるㅤ研究所を目指す』

(……!)

ㅤそれは唐突に差し伸べられた、この殺し合いの中での希望だった。

ㅤもし誰も殺さずとも帰れるのなら、多くの者の他者を殺す動機がなくなって、殺される心配も無くなるということ。もちろん、他人を殺すことに特別感を抱いていた久保美津雄のような者もいるかもしれず、不安要素が消え去るわけではない。それでも、常に心を締め付けているこの不安や恐怖の大部分からは解放されることだろう。

ㅤ目の前の男は、見るからに科学者といった風貌の、頭の良さそうな人。専門知識なんて持ち合わせていない高校生の集まりでしかない自称特別捜査隊には絶対に辿り着けない角度から、この殺し合いへの対抗策を見出すことができるのかもしれない。

ㅤ縋りたい。そう思わずにはいられなかった。

「良かったら、ついてきてくれないかな。君が戦えるのなら身を守れるし、大人数でいるだけでも危険は減るだろう。」

ㅤ盗聴されても不自然には思われない程度の会話の流れを作り、オタコン自身の声で勧誘する。その話術からも、オタコンの頭の良さは何となく伝わってきて。首輪を調べるというのも、現実的に可能なのかもしれない。

ㅤそんなことを考えながら次に提示された紙には、簡潔な一言だけが書かれていた。

『みんなを救いたいんだ』

ㅤそれは弱々しくも、オタコンの確かな意志だった。

ㅤオタコンは、皆が助かる道を提示してくれている。ここはもちろん、首を縦に振るべきだ。正義っていうのが何なのかはまだ分からないけれど。少なくとも、命令通り殺し合うよりは正義に近いものだと思う。完二にだってわかる、簡単な理屈。

「うん……」

260差し込む陽光、浮かぶ影 ◆2zEnKfaCDc:2020/10/16(金) 23:57:29 ID:qoROv2aQ0
ㅤいいよ――そう言おうとした口は、しかし次の瞬間には止まっていた。まるで幽霊を見たかのような驚愕の色に表情を染めて、ただただ立ち尽くす千枝。

「……?ㅤどうしたんだい?」

ㅤ心配そうに、声をかけるオタコン。しかし、返事はない。

ㅤ千枝の目の先には、オタコンの背後に佇むシェリーの姿があった。

ㅤ望んでもいない旅館の跡を継ぐことが生まれつき決まっていて、その修行のためにやりたいことを我慢するしかなくて、そんなレールの敷かれた運命というものを諦観していた、かつての雪子。シェリーは、その時の雪子と同じ表情をしていた。悲しいとか、苦しいとか、そんな感覚とも違う。願いが叶うのを諦めているような表情だ。雪子のそんな顔を見るのも少なからず辛かったが、無垢な子供が浮かべているそれはまた違う心苦しさがあった。

ㅤ同時に、オタコンの知力に依存する道が希望であるなどとは到底、思えなくなってしまった。

ㅤみんなを救う――聞こえはとってもいい言葉だけど。それを謳ってた奴で、根本的にやり方を間違っていた奴だって、いたじゃないか。雪子に始まり、最終的に菜々子ちゃんまで危険な目に合わせて。その全員を助けられたのが本当に奇跡だと思えるくらい、生田目は色んなものを掻き乱していた。

「救いたいって言ってもさ……」

ㅤ生田目の救いたいっていう気持ちは、自分たち自称特別捜査隊と同じだったはずなのに。結果的に方法が合っていたか間違っていたかの違いでしか無かったのに。正しい気持ちが正しい結果を招く保証なんて、どこにもないんだ。

ㅤ例えば、盗聴だけでなく、監視もされているとしたら?下手に首輪に手を出して、それが主催者の怒りを買って爆発させられたら?

ㅤただの失敗ならまだいい。でも、それどころか最悪の方向に向かってしまう要因もたくさん考えられる。オタコンが希望だなんて、断定できたものではない。

261差し込む陽光、浮かぶ影 ◆2zEnKfaCDc:2020/10/16(金) 23:58:37 ID:qoROv2aQ0
ㅤでも、たったひとつ、言えることがある。

「……少なくとも、さ。その子は、救われてるようには見えないんだよ。」

ㅤモヤモヤするし、イライラする。壊れそうなくらいにぐちゃぐちゃになった気持ちを、全部ぶつけるように。

「――ペルソナッ!!」

ㅤ思い切り、アルカナを蹴りつけた。パリン、と何処か心地良い音を奏で、千枝の心の影『トモエ』が顕現する。本人の荒ぶった心を映し出すかの如く、トモエは乱雑な軌道を描き――シェリーへと、向かっていく。

「え……?」

「……シェリー!」

ㅤ驚愕の混じったオタコンの声が、明るい空に響き渡った。





ㅤ振り上げられたトモエの薙刀は、シェリーの頭部を砕く直前に、ピタリとその動きを止めていた。

「あ……あ……」

ㅤ眼前まで迫った死に、腰を抜かして動けなくなったシェリー。藁をも掴む想いで、助けを乞うように視線を動かした先にあったのは、オタコンの姿だった。シェリーを庇おうとするでも、助けようとするでもなく。向けられたトモエという暴力から、少しでも離れようとするかのように、海に落ちるギリギリまで橋の端まで離れていた。

「……ほら。冷たい関係だね。」

ㅤ千枝の口が、冷徹な言葉を紡ぐ。

「あたし、心の底から信じられるような人はもうひとりしかいないけどさ。一緒にいるのなら、せめて表面上だけでも信じたいじゃんか。」

ㅤ人に、醜い部分があることは知っている。自分の心も、他人の心も、ある程度を割り切って、受け入れなくては関係を築けないことも、知っている。

ㅤ例えば、先ほどまで同行していた錦山さんはヤクザだし、自分が考えている以上に黒い一面も持っているんだってのは想像がついた。だけど、あの人の語る命への真っ直ぐな向き合い方だけは、信用に足るのだと思えたのも確かだ。だから海上の戦いでもお互いを助け合いながら立ち回れたし、そのおかげであの死線を自分は生き抜けたのだとも思っている。

「あたし、あんたには協力できないね。」

ㅤぶっきらぼうにそう言い放つと、千枝はオタコンとシェリーを横目に、そのまま南へと歩いていく。その歩みを止められる者は、その場にはいなかった。

262差し込む陽光、浮かぶ影 ◆2zEnKfaCDc:2020/10/17(土) 00:00:00 ID:LyR/6GAM0
「……。」

「……。」

ㅤそして、その場には沈黙だけが残された。本当に危ない時、オタコンはシェリーを見捨てるということが証明された今、オタコンが何を語っても説得力を持たなかった。

ㅤシェリーも分かっている。それが正解なのだと。首輪なんて自分には調べられないし、それができるオタコンは誰よりも率先して生き延びるべきなのだと。でないと、誰か1人を残して皆が死ぬことになるのだと。

ㅤだけど、理屈じゃない。切り捨てられる側は、たまったもんじゃない。みんなが助かるための礎にされるのは嫌だ。

ㅤだけど、オタコンから離れて生きていられるようなアテがあるわけでもなく。

「……逃げないよ。分かってるから。」

ㅤ運命を悟ったかのようなシェリーの言葉が、オタコンの心にただただ突き刺さる。あの時身体が動かなかったのは紛れもない事実で、正当化できる理論も存在しない。

(みんなを救いたい、か……。)

ㅤあの言葉は、本当に自分の心の底から出た言葉だったのだろうか。それとも、ただあの少女を味方に――自分の盾にするための、ただの薄っぺらな甘言だったのだろうか。

ㅤ今となっては分からない。分かりたくも、ないのかもしれない。

【D-4 橋/一日目 午前】

【ハル・エメリッヒ@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:疲労(大)、無力感
[装備]:忍びシリーズ一式@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、765インカム@THE IDOLM@STER
[思考・状況]
基本行動方針:首輪を外すために行動する。
1.首輪解除の手がかりを探すため、研究所へ向かう。
2.武器や戦える人材が欲しい。
3.もっと非情にならなければならないのかもしれない。
4.生きなくてはならない。

※本編終了後からの参戦です。


【シェリー・バーキン@BIOHAZARD 2】
[状態]:不安
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない。
1.オタコンについていく。
2.カズマ……。
3.オタコンに強い怒り。


※本編終了後からの参戦です


【里中千枝@ペルソナ4】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)びしょ濡れ 右掌に刺し傷。 精神的衰弱(鳴上悠の存在により辛うじて保っている状態)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、守りの護符@MONSTER HUNTER X、ランダム支給品(0〜1個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺さないと殺される、けど今の私じゃ、殺す覚悟もない……

1.八十神高校へ向かい、鳴上君と再会する。
2.それからどうすればいいのか決める。
3. “自分らしさ”はどこにあるのか、探してみる
4.自分の存在意義を見つけるまでは、死にたくない
5.願いの内容はまだ決めていない

※錦山彰、ミファーは死んだと思っています。

263名無しさん:2020/10/18(日) 03:18:28 ID:YgvTeFGE0
投下乙です
ますます険悪に…オタコンとシェリー、この二人はもうどうしようもないのだろうか

264 ◆RTn9vPakQY:2020/10/18(日) 09:53:24 ID:jYqXoNy20
投下乙です!
交渉の展開次第では協力できたかもしれない、と思えるのが余計にもどかしいですね。
オタコンは有能な人材なのですが、ここまで悩みすぎて潰れてしまわないか心配。

如月千早 ゲリラ投下します

265 ◆RTn9vPakQY:2020/10/18(日) 09:56:04 ID:jYqXoNy20

「ねえ、千早ちゃんは、どうしてアイドルを目指しているの?」
「私には、歌しかないんです。
 歌っている時だけは、自分自身の存在を感じることができる。
 だから、私は歌い続けるんです。そして、いずれは高みへ到達できればと」
「そうなんだ……」





 八十神高等学校の保健室は、教室棟一階、下駄箱の近くにある。
 室内には、怪我をした生徒を手当てするためのベンチや相談事を聞くためのテーブル、身体測定のための器具などが置かれている。
 保健室という場所が持つ清潔なイメージよりも、すすけた壁や年季が入った調度品が目について、古びたイメージが先行するような部屋だ。
 そんなことを思いながら、私は保健室へと足を踏み入れた。
 その両腕に、天城雪子の遺体を抱えて。

「これで平気かしら……」

 雪子を白いベッドの上に寝かせた私は、そう呟いた。
 遺体を保健室に運んできたのは、命の恩人を放置しておけないと考えたからだ。屋上に倒れたままでは、風雨にさらされてしまいかねない。
 そこで、学校の保健室ならベッドがあると思い付いたのだ。
 しばらく歌い続けたことで、いくらか冷静さを取り戻してきたのだろう。

「夢じゃ、ないのよね」

 血の気の無い雪子の顔を見ながら、ぽつりと呟いた。
 屋上で見た光景は、まるで夢のようだった。雪子の召喚するペルソナ、眼鏡の少年がボールから出した猛獣、金髪の青年が降らせた隕石。
 常識とはかけ離れた出来事の数々は、夢のようでありながら、しかし現実なのだ。
 いくつもの破壊の痕跡や血痕、それに燃え尽きた少年の遺体は、屋上に残されたままだ。

「……」

 ベッドの近くに置かれた丸椅子に腰掛けて、目を閉じる。
 殺し合いが進行している現状が怖い。首輪によって生死の自由を奪われている現状が恐ろしい。
 そして、私自身がそうした現状を飲み込み始めているらしいことに、嫌気が差した。
 しばらく自分の肩をきつく抱きしめても、身体の震えは治まらなかった。

『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる?』

 そのとき、放送が私の鼓膜を振るわせた。
 私は思わず立ち上がり、両手を握りしめて天井を仰いだ。
 殺し合いが開始してから、もう六時間も過ぎていたのだ。

『こっちはすごーっく楽しませてもらってるわ! 声だけでしか分からないのが残念なくらいにね』

 無邪気な声に神経を逆なでされながら、それでも放送に耳を澄ませた。
 何か重要なことを伝えていて、それを聞き逃したから死んでしまう、という事態は回避したい。
 その発想も、現状に適応している証拠だということに気づき、また嫌気が差した。
 そうしている内に、参加者の名簿の話が始まった。

「名簿……?あっ!」

 私は周囲を見渡して、ハッとした声を上げた。
 雪子を運ぶことに気を取られて、支給品の入ったデイパックを屋上に置いてきたことに気づいたのだ。
 このままでは名簿を確認することができない。
 すぐに屋上に向かうか、それとも放送を聞き終えてから屋上に向かうか。逡巡する間にも放送は進んでいく。

『これでお友達がどれくらいいるのかとか、どれくらいの人が参加してるかとかも分かるでしょ?』
「くっ」

 その言葉に触発されて、私は保健室を飛び出した。
 この殺し合いに誰が参加しているのか、気にならないわけがない。
 もしかしたら知り合いがいるかもしれない、という不安を解消するために、階段を駆け上がる。

『それじゃあ、死者の名前を発表するわ――』

 胸がずきりと痛む。雪子の名前が呼ばれることが予想できたからだ。

「……え?」

 しかし、その数秒後。
 階段の踊り場で、私は足を止めた。
 あまりにも耳馴染みのある――と同時に言い慣れた――名前を聞いたからだ。

266 ◆RTn9vPakQY:2020/10/18(日) 09:57:52 ID:jYqXoNy20
「嘘……」
 

 放送が終わり、静寂が訪れる。
 私はふらふらと階段を上がっていき、屋上の扉を開けた。

 マナの放送を嘘だと決めつけてしまえるほど、私は楽観的ではない。
 事実として命を落としている雪子の名前も聞こえた以上、放送で呼ばれたのは死者の名前なのだと、認めざるを得ない。

「……でも、聞き間違いの可能性も」

 それでも、素直に受け止めるには、その事実は重すぎた。
 おぼつかない足取りのままデイパックへと近づき、震える手で名簿を取り出す。
 そうして藁にも縋る思いで開いた名簿は、私に逃れられない現実を突きつけた。

 天海春香。
 その名前を見た瞬間、何かがストンと抜け落ちた気がして、私はその場にへたり込んだ。
 そうして数秒後、頬を伝っている温かいものが涙だと気付いて、私は嗚咽をもらした。

 天海春香はもうこの世にいない。
 その事実が、理由も判然としないままに、どうしようもなく心を刺激する。
 これがいわゆる“心が折れる”という状況なのだろうか。

「……だめ」

 ついさっき、雪子の遺体を前にして、生き続けることを誓ったばかりだ。
 そう、私は生きて歌い続けなければならないのだ。
 優のためにも、雪子のためにも、そして春香のためにも。
 どうにかして殺し合いから脱出して、765プロの事務所に戻る。
 そして、そして、そして。

――だけで、いいんだよ――

「え?」

 混濁する脳内に、声が響く。
 聞き覚えのあるその声が、私の中にあるいくつかの記憶を呼び覚ました。





 およそ一年前、とあるオーディション会場に私はいた。
 長机と椅子があるだけの簡素な部屋で、五名の審査員と十数名の新人アイドルが対面していた。

「――趣味はお菓子作りです!!よろしくお願いします!」
「はい、オッケーです」

 参加者はデビューして間もない新人ばかり。
 誰も彼もが笑顔を振りまき、審査員の質問にハキハキと答えていた。
 ただ一人、私だけが真顔のままだった。

「では次の方、自己紹介をお願いします」
「はい」

 私の態度には理由があった。
 もともとは、ドラマ主題歌の歌手を選抜するオーディションに応募するはずが、プロデューサーの手違いで、キャストを選抜するオーディションに登録されてしまっていたのだ。
 当然のように私は不服を伝えたが、せっかくの機会だからとプロデューサーに懇願されて、しぶしぶ会場を訪れた。
 つまり、不本意な仕事を、プロデューサーの不手際で押し付けられたのだ。
 そんなオーディションへの意欲は、無いに等しい。

「765プロダクションから来ました、如月千早です。
 歌には自信があります。ロックから民謡まで、どのようなジャンルでも歌います」

 それゆえに、私は審査員に対して淡々と答えた。
 媚びるような猫なで声のアイドルも大勢いる中で、その声は室内によく響いた。

「えっと、如月さんはアイドルだよね?
 歌も良いけど、演技をする上でのアピールポイントとかあるかな?」
「私はいわゆる『アイドル』になるつもりはありません。
 プロの歌手、ボーカリストとしての高みを目指したいと考えています」
「そ、そう……オッケー」

 審査員たちは当惑する表情を見せて、それからひそひそと言葉を交わした。
 ここまでの応答で、審査員からの印象が悪くなったことを感じながら、けれども余計に言葉を紡ぐこともせず、そのまま促されて座席についた。

「……なにあれ、何様のつもり?」
「ボーカリストって……来るところ間違えてるでしょ」

 周囲からは、嫌悪感を含ませた小声が聞こえた。
 現代は、戦国時代と称されるほどアイドルの人数が増えており、代わりはいくらでもいる状況だ。
 小さな仕事でも貰えればありがたい、そうした環境に身を置く新人たちにとって、オーディションは命懸け。
 そんな場で、まるで意欲のない態度が悪目立ちするのは当然だった。
 私自身もそのことは理解していた。

267 ◆RTn9vPakQY:2020/10/18(日) 09:59:34 ID:jYqXoNy20
「呼び名には意味はない。アイドルとして活動しながら、歌い手の頂点を目指すこともできる」

 かつてプロデューサーは私にそう話した。それは歌以外の仕事に意欲のない私を乗せるための方便だったかもしれないが、一理あると納得したのも事実だ。
 それでも、私は他のアイドルがそうするように、表情や態度を作ろうとはしなかった。私が目指すのはあくまで“アイドル”ではなく“歌手”だったからだ。
 自らの目標を変えるという考え方は、少しもなかった。





 日が傾き始めた街中。
 私はオーディション会場を後にして、足早に事務所への帰路を歩いていた。
 審査の結果は一週間以内に事務所に郵送されると伝えられたが、芳しい評価は得られないだろう。
 そのこと自体には何の感傷もない。ただ、プロデューサーに説明をするのが面倒だ。
 説教とまではいかないまでも、オーディションに臨む姿勢について注意くらいされるはずだ。
 とはいえ、そもそも望まないオーディションを押し付けてきたのが発端ではないか。再びふつふつと不満が湧き出る。
 これを機にもう一度、私自身のスタンスをはっきり伝えておくべきだろうか。

「あの、如月千早……ちゃん、だよね?」
「!?」

 そう声をかけられたのと同時に、視界に少女の姿が現れた。
 どうやら、考え事をしながら歩いていたせいで、気付かなかったようだ。
 軽い思考停止に陥り、返答に詰まる。

「……」
「あっ、驚かせてゴメン!」
「いえ……それより、どなたですか?」
「え?えーっと……覚えてない?」

 質問を質問で返されて、私は眉根を寄せて相手を観察した。
 とはいえ、服装も体型も普通の女子で、目につくのは頭の赤いリボンくらい。
 どこかで出会っても、翌日には忘れてしまいそうな特徴の無さだった。

「……すみません」
「あう、そっかぁ……あはは、プロデューサーに聞いてたとおりだ」

 プロデューサー。耳慣れた単語が少女の口から出た。
 そして、ふと思い当たる。この声はついさっき――オーディション会場で――聞いた覚えがある。
 しかも、自己紹介で直前だった声だ。確か名前は――

「もしかして、天海……さん?」
「うんっ!気づいてくれたんだぁ……よかった〜!」

 そういえば、と記憶が連鎖的によみがえる。
 このオーディションには765プロの他のアイドルも応募していると、プロデューサーが話していた。
 その話をしているときには既に意欲が失せていたので、今まで完全に忘れていたが。

「私もこれから事務所に行くんだ。いっしょに戻らない?」
「別に構いませんけど……」
「えへへっ。それじゃ、れっつごー!」

 これが、私と春香の出会いだった。
 いかにも同年代の女子らしい、底抜けに明るいお人好し。
 私が春香に対して最初に抱いた印象は、そんなものだった。





「あ、千早ちゃん!今レッスン終わり?」
「はい。これから事務所に戻ってミーティングです」
「そっかー、もう一息だね!じゃあ、これ!」
「これって、マドレーヌですか?」
「うん!事務所のみんなに配ってるの。なかなか好評なんだよ、えへへ」
「天海さんって、器用なんですね」
「え?いやぁ、そんなことないよ。レシピ通り作ってるだけだもん」
「それでも、お菓子を配る発想がまず凄いと思います」
「そう……かな?」
「プロデューサーに聞きました。始発で事務所に通っているそうですね。
 それなのに、お菓子作りなんて手間のかかること……どうしてそんなに時間をかけられるんですか?」
「うーん……笑顔がみたいから、かなぁ?
 お菓子を食べると、みんな笑顔になってくれるの」
「笑顔……」
「もしかしたら、自分も周りも笑顔になれるから、お菓子作りが好きなのかも。……って、いい子ぶってるみたいかな?」
「……いえ、そんなことは」
「あぁっ、私のレッスンが始まっちゃう!
 それじゃ、後で食べた感想、聞かせてねー!」
「……」





 付き合いが長くなり、話す時間が増えるにつれて、春香への印象は変わり始めた。
 ただの明るいお人よしではない。周囲の様子や雰囲気をよく見て、考えながら行動している。
 少なくとも、自分を着飾ることと噂話にしか興味のない学校のクラスメイトとは違っていた。




268 ◆RTn9vPakQY:2020/10/18(日) 10:02:30 ID:jYqXoNy20

「天海さん、事務所の備品の買い出しに行くんじゃなかったんですか?ここ、どう見てもカフェですよね?」
「まぁまぁ。たまには息抜きも必要だよ!」
「あっ、春香!こっちこっち!」
「よかったぁ、千早さんも来てくれたんですね……!」
「菊地さんに、萩原さん?」
「えへへ、私が呼んだんだ。
 千早ちゃん、いつもレッスン終わりはすぐに帰っちゃうから、たまには一緒にご飯でもと思って」
「そうそう。同じアイドル候補生同士、ね。ボクたち、よくこのカフェに来るんだ。」
「あの……やっぱり余計でしたか?」
「……いえ、そんなことは」
「良かった!じゃあほら、とりあえず座って座って」
「……あの、天海さん?」
「“春香”でいいよ」
「え?」
「私も“千早ちゃん”って呼んでるし。ね?」
「あっ、ボクのことももちろん呼び捨てでいいからね!」
「えっと、じゃあ私も……で、でもほとんど初対面なのにそれは……うぅ〜」
「ね、千早ちゃん!これからは名前で呼ぶこと!」
「そんな、急に言われても……」
「ほらほら、メニュー見よっ!」
「……ええ」





 春香と出逢い、私の生活は変化し始めた。
 それまでは、独りで家とレッスン場を往復するだけだったのに、春香に付き合ってレッスン後にカフェで休憩したり、事務所で年下のアイドルの勉強を見たりと、他人と過ごすことが増えた。
 歌を練習する時間が減って、これでいいのかと自問することもあった。
 しかし、誰かと共有する時間が心地いいのも、また事実だった。
 プロデューサーには、笑顔が増えたと言われた。





「千早ちゃん、聞いた?私たち、ついにソロCDデビューだね!
 私の『太陽のジェラシー』と、千早ちゃんの『蒼い鳥』!デモテープも明後日には届くって、小鳥さんが!」
「ええ。二人同時にCD発売らしいわね。
 話題作りのためとはいえ、新人相手にプロデューサーも思い切ったことをするわ」
「ほんとビックリしたよね。それに、作曲家の先生も!」
「ええ……かなりの大御所の先生ね。
 技巧的な曲を書く人で、歌い手の技量が問われるって評判だわ」
「ぎ、技量?うぅ、プレッシャーだなぁ……」
「大丈夫よ、最近は春香も音を外さなくなってきているし、これから特訓を積めば」
「え、ちょっと待って千早ちゃん?
 “外さなくなってきている”って、私、まだ音を外してるってこと……だよね?」
「まあ、そういうことになるわね」
「うぅ……」
「……レッスンなら、いくらでも付き合うわ」
「本当!?よろしくお願いします、千早先生!」
「もう、調子がいいんだから」
「えへへ……」





 季節は移ろい、アイドルとしてのメディアへの露出も増えていった。
 ふと気が付くと、春香や事務所のみんなに――まるで仲の良い家族のように――自然体で接している私がいた。
 こんなに素直な気持ちで自分自身をさらけ出せる人が、今まで何人いただろうか。
 そう、かつて、たったひとりだけ。




269 ◆RTn9vPakQY:2020/10/18(日) 10:04:21 ID:jYqXoNy20
「千早ちゃん、いる?春香だけど……」
「……何か用?」
「よかった、いたんだね。
 ファンの人たちも、765プロのみんなも心配してるよ」
「……」
「プロデューサーさんも、小鳥さんも、社長も。
 みんな、みんな千早ちゃんが戻ってくるのを待ってる」
「……私は、もう歌えないから」
「……弟さんのこと、だよね。
 如月優くん、千早ちゃんの歌が大好きだった、って」
「っ!」
「ごめんね、たまたま千早ちゃんのお母さんから聞いたの」
「……だったら、分かるでしょ。
 私は“弟を見殺しにしたアイドル”なの」
「あんな記事、気にしなくていいよ!
 たまたま事故現場に居合わせただけだって、お母さんも……」
「……」
「ねぇ、またいっしょにライブに出ようよ。
 それとも、歌うのが嫌いになっちゃった……?」
「そんなこと!
 ……でも、歌えない。歌わなくちゃいけないのに歌えないなら……意味がないの」
「千早ちゃんのお母さん、言ってたよ。
 弟さんにせがまれて歌う千早ちゃん、とっても楽しそうだった、って」
「……優」
「ね、千早ちゃん。千早ちゃんは、どうしたい?」
「え?」
「もちろん、誰かのために歌うのも大切なことだけど……。
 でもね、歌を“歌わなければいけない”なんてこと、ないと思うんだ。
 もっと単純に、歌が好きだから、自分が歌いたいから歌う、じゃダメなのかな?」
「……」
「私はね。千早ちゃんと、また一緒に歌いたい」
「春香……」
「また来るね。それじゃ」
「……」




 アイドルランクもAランクに近づいてきた頃。
 私はとあるゴシップ雑誌の記事にショックを受けて、歌えなくなっていた。
 そんな私に春香がくれた言葉は、冷たく閉ざされていた私の心を、穏やかな気持ちで満たした。
 まるで春の陽射しに当てられて、根雪がじんわりと融けていくように。
 そして、私は再び舞台に立った。





「おめでとう、千早ちゃん」
「……ありがとう、春香。私、あなたのおかげで――」





「おめでとう、千早ちゃん」
「……ありがとう、春香。私、あなたのおかげで――」





 私にとって、天海春香とはどんな存在か。
 765プロで活動するアイドルの仲間であり、競い合うライバルでもあり。
 家庭や学校で他人との距離を置いていた私に、久しぶりにできた気兼ねなく話せる相手でもある。

「春香……あなたがいなかったら、私は歌うのを止めていたと思う」

 その前向きな姿勢は、後ろ向きに考えがちな私とは正反対だった。
 いつからか“優のために歌う”ことに囚われていた私に、“自分のために歌う”ことの大切さを気づかせてくれた。
 暗闇の中に沈んでいた私を、春香が救ってくれたのだ。
 そして、今もまた。

「また、私は同じ轍を踏むところだった」

 この会場に来てからの私を思い返す。
 自分の存在意義のために歌うのは間違いではない。
 誰かのために歌うというのも、一つの正当な理由だ。
 ただ、“歌わなければならない”と、自分自身の根底に責任感だけを抱えて歌うのは、自分の歌に枷を掛けることと同じ。かつて歌えなくなったときのように、いずれ歪みを生んでしまう。
 私は、殺し合いという異常な状況に置かれて、そのことを忘れかけていた。

「あなたが教えてくれたことよね。
 私が“どうしたいか”、それだけでいい」

 皮肉にも、喪うことで改めて気づくことができた。
 優。雪子。そして春香。みんなの分まで生きて歌い続ける。
 これから先、たくさんの人に最高の歌を届けるためにも生き続ける。
 そして何よりも。

「私は、もっと歌いたい」

 それだけでいい。
 ゆっくりと顔を上げると、そこには明るく輝く太陽があった。

270 ◆RTn9vPakQY:2020/10/18(日) 10:04:40 ID:jYqXoNy20
【E-5/八十神高校・屋上/一日目 朝】
【如月千早@THE IDOLM@STER】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残って、歌い続ける。
1. これからのことを考える。

※雪子の支給品(1〜2個)が屋上に放置されています。
※チェレンの支給品、リザルの所持品は焼失しました。


「そういえば、春香はどうしてアイドルを目指したの?」
「えっ、どうしたの突然?」
「ずいぶん前、私に聞いたでしょう?
 そのとき、春香の理由は聞いていなかったと思って」
「うーん、そうだなぁ……。
 最初のきっかけは、歌うのが好きだから、かな」
「歌が?」
「そう、千早ちゃんと同じだね!えへへ」
「……ふふっ、そうね」

271 ◆RTn9vPakQY:2020/10/18(日) 10:06:04 ID:jYqXoNy20
投下終了です。
タイトルは 私が歌う理由 です。

272 ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:47:53 ID:DJj9O2SQ0
ゲリラ投下しますね。

273劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:48:26 ID:DJj9O2SQ0
何だ……これ。」
錦山彰の目の前にある病院には、壁に大きな穴が開いていた。
森の中、海上、海中と立て続けに超常的な現象に見舞われて、今更こんな壁の穴など、どうということもないと言いたいが、そうもいかない。


(ダイナマイトを支給された奴でもいるのか?あるいは……。)

壁の周りが黒焦げになっていることから、爆弾関係の何か、あるいは爆発を起こせるくらいの超能力の持ち主が関係者だと彼は推理した。
そして、病院からの音が聞こえてこないこと、壁周りが黒くなっているのに煙が出てないことから、病院に今のところ人はいないと結論付けた。

(行くか。)
爆発が起こったのはだいぶ前だとしても、病院に潜伏者が静かに手ぐすね引いて待っていないという保証はない。
だが、それはこの試合会場のどの場所とて同じこと。
意を決して、病院の中へと入りこんだ。


明かりを付けず、手探りで待合室を進む。
電灯は付いていなかったが、窓から差し込む太陽の光のおかげで、視界に困ることなく待合室全体を見渡せた。


待合室の中心部が、吹き抜けになっており、その中央部を瓦礫の山が鎮座している。
その場所を素通りして、廊下を進む。


(病院……か。)
彼が思い出したのは、最愛の妹、由美のこと。
彼女の病の治療のため、あちこちから資金を集めた。
そのためには、部下にも目上の者にも頭を深く下げることを厭わなかった。
治療費を集めることこそ叶ったが、その先で待っていたことは、由美の主治医が賭博に失敗して逃走したという事件と、彼女の死だった。


(一体、他の奴等はこの病院を見て、どう思うんだろうな。)

外の光で照らされた病院の一階は、殺し合いの会場にあるとは思えない、極めてどこにでもありそうなデザインだった。
それゆえ、この戦いの参加者の多くに、病院であったことを連想させてしまう作りになっていた。

しかし、ここはすぐにいつもと違う病院であることに気づかされる
待合室から、診察室の扉を静かに開けると、その違いはすぐに判明した。


(どういうことだ……これは。)
そこは、またしてもどこにでもありそうな、診察室だった。
しかし、診察室にあるはずの聴診器を始めとする医療器具が、一つもなかった。
いや、それだけではない。診察記録も、その記録を書くための筆記用具さえ無かった。


(白衣さえもねえ……か。主催の奴等が抜き取っていたのか?)
医療器具の一部は、この病院を訪れた人物がいくつか持っていったのだが。
いずれにせよ、びしょ濡れになった服の代用品を手に入れられるという希望が、大きく損なわれた。

274劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:48:43 ID:DJj9O2SQ0

その時だった。
病院の廊下を、カツンカツンと、何者かが歩く音が聞こえた。

(誰だ……?)
こちらから話しかけに行くべきか、それともやり過ごすか。
自分は今、丸腰だ。
腕に覚えはないわけではないし、ともすれば診察室の椅子や机を凶器にすればいいのだが、人ならざる者や超能力者が相手なら、どうにも分が悪い。


「そこにいるだろう。」
ノックの音と共に、侵入者が自分を呼ぶ声がした。

「返事しなくても分かるぞ。床が濡れている。」
(ちっ……)

全身が濡れていることは、体が重かったり冷えやすいなど、身体的ディスアドバンテージだけではないことを、ようやく気付いた。
濡れた靴でリノリウムの廊下を歩けば、足跡などすぐに分かってしまう。

「ああ、その通りだ。俺を呼び出して、何をしたい?」
いきなり侵入せずに、話しかけてくることから、一応話し合いは出来ると判断した。

「協力だ。ある人物を探すことを手伝ってほしい。」
(人探し……か。)
歌い手でもやっていたのか、良い声をした男性らしき声が紡ぐ内容は、極めてありふれたものだった。
スタンスだけを聞けば、特に悪人のようには思えない。
だが、声の主が悪人で、更なる悪との合流を目指している者である可能性もないわけではない。

「なるほどな。俺がお前の要求に応えたら、何か見返りはあるのか?逆に俺が断った場合はどうする?」

錦山としては、けちな強請りや脅しをかけるつもりはなかった。
ただ、妹を助けるために人に頭を下げ続け、その結果何も残せなかった記憶がある以上、見知らぬ他人に協力を求める人間というものが理解できなかった。


この戦いで何かのはずみで同行を求められた緑ジャージの少女を連れて行くことになったが、案の定途中で襲われて死んでしまった。
やはり、みんなで仲良く協力して、ゴールを目指すというのは、与太話でしかないという意識が彼にあった。

「少なくともそいつが見つかるまでの間、協力してやろう。おまえはその濡れた靴に代わる何か別の靴が欲しいんじゃないか?」

「どちらも一人で出来ることだ。違うか?」

舌打ち混じりに返す。しかし、扉の前からの声以外に、もう一つ聞きなれない音が耳に入った。
ガチャ、ガチャと、機械の塊が歩いているかのような重たげな足音だ。


「おい、誰だ?」
扉の外の男は、錦山ではない誰かに声をかけている。
察するに、男も知らない存在のようだった。

しかしもう一人の何者かは、声を出さない。出す音は、重たげな足音だけだ。
「誰だと聞いているのだ!答えろ!!」
男の呼びかけに、なおも答えない。

275劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:49:02 ID:DJj9O2SQ0

(何があった……?)

錦山は扉の外の状況に理解できず、扉を少し開けて、様子だけでも伺おうとする。
だが、それが失敗だった。


診察室の外にいたのは、オールバックの赤髪の男と、そして、人間の両目に該当する部分にアイセンサーを携えた、機械人形だった。
眼光とは程遠い、無機質な緑の光が、白のスーツを照らす。


「──シンニュウシャをハッケン。ハイジョします。」


そして、機械音声と共に、それは腕を伸ばして攻撃を仕掛けた。

(!!)
慌てて扉を閉め、その攻撃の盾代わりにする。
しかし、機械の腕から繰り出されるパンチは重く、一撃で扉を砕いた。


「ハイジョ、ゾッコウ。」
「玩具の兵隊ごときに、殺されてたまるか!!」

ジョーカーとして索敵範囲に入った者の殺害を目論むロボは、扉を壊して診察室の中に入ってくる。
錦山は診察室で残された数少ない武器、長机を手に取る。

「つりゃあ!!」
どこにでもありそうな長机は、攻撃を防ぐ盾にも、相手を叩く武器にもなった。


机こそ錦山の勢いよく振るった一撃で、武器や防具として扱えない大きさまで砕けるが、その一撃はロボを大きく後退させた。
ヤクザならではのアウトローな戦い方には、ロジックに従って戦うロボには対応しきれなかった。


この機を逃さず、ポケットに入れておいた閃光弾を出して、ロボ目掛けて投げつけた。
すぐに強い光が明かりのない病院を照らす。


すぐに扉の前に陣取っている相手の横を通り抜け、振り切ろうとする。

「っ!?これは……!!」
錦山の全身が、急な熱気に包まれ、続く爆風が吹き飛ばした。
ロボの至近距離に入った相手のみに使われる、サークルボムだ。

スーツが湿っていたため、幾分かダメージは抑えられたが、それでもスーツから出ている顔や手の火傷は抑えられなかった。
ケンカという形で、人間との戦いは慣れていた錦山だが、そうでない者との戦いにはどうにも不向きであった。

「鳥人に半魚人ときて、今度はロボットかよ……!!」

リノリウムの床で一度身体をバウンドさせ、二度背中を打つ。
「セイゾンカクニン。ハイジョ、ゾッコウ。」

今度はロボの両目に光が集まり、レーザー発射の体勢になる。


「くそ……まだ、死ねねえ!!」
生きて、成り上がる。
そうでなければ、これまで積み上げてきたものは全て無駄だ。
少なくとも、こんな所で人ですらない存在に殺されて、終わるわけにはいかない。


横に転がっていた、病院に設置されていた消火器を掴んで、ロボに投げつける。
レーザーが飛んできたそれを破壊する。
結局鈍器としてロボにダメージを与えることはなかったが、レーザーが錦山に当たることもなく、廊下に白い煙が漂うだけに終わった。

276劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:49:31 ID:DJj9O2SQ0

火傷をした手で物を投げたりしたため、激痛が走るも、そんなことは気にせずに逃げる。
どんどん入り口からは離れていくことに不安を覚えつつも、階段を上り二階へ。


1階と2階の間、踊り場から姿が見える位置にいたのは、何の因果か錦山と同じ、オールバックの髪形をした男だった。
同じ声の持ち主という点から、診察室の前にいた男に相違ないことは簡単に理解できた。
ただし髪の色は彼とは異なる、燃えるような赤色だったが。


「逃げるぞ!」
ロボはレーザーを放ちながら階段を上ってくる。
錦山は質問への回答も他所に、診察室の前にいたらしき男に逃走を呼びかける。


丁度踊り場と2階の真ん中あたりを走った時、ふいに錦山の体が重くなった。
胸か、肩のあたりがどういうわけか重くなる。
まるで階段が逆向きに進むエスカレーターに変わったかのように、逃走者の歩みが遅くなる。


「お前は死ね」


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


ロボが暴れ出してからすぐのこと。
イウヴァルトは真っ先にその機械の目が届かない病院の2階まで逃げた。

具体的に何が起こっているか細かくは分からずじまいだが、階下の音で、錦山とロボが戦っていることは理解できた。
そして階段を駆け上る音から、男の方が逃げてきたことも。


カイム討伐のための協力者になり得そうにない錦山がどうなろうと知ったことではない。
だが、自分と同じ方向に逃げられて、巻き添えを食らうのはごめんだ。

そのため、脚を怪我させて逃げられないようにし、機械人形の囮にするのが彼の算段だった。
必要ないと思いながらも、どういうことか


「っぶねえ……」
襲撃者が機械人形だけだと思っていた相手に攻撃を当てるなど容易だ、と思っていたイウヴァルトは、相手が急にスピードを落としたため、虚を突かれた。
ヤクザとして生きている以上、殺意に対しどこまでも敏感な錦山は、咄嗟に足を遅めて、敵の攻撃のタイミングをずらした。


しかし、逃げる速さを落としたということはすなわち、追手との距離を縮めるということ。
結果的にロボが追い付いてきたため、階段上ジョーカーの目論見は成功したことになる。
だが、白服と黒のオールバックの男は、隠し玉、言うならば隠し弾を持っていた。


何かポケットから出したと思いきや、その何かが凄まじい光を出した。
イウヴァルトとしては、階下で錦山がロボの攻撃を振りきって逃げたことは分かっていたが、如何にして逃げたのか、過程は知らなかった。


視神経まで刺すかのような光に耐えられず、必死で目を抑える。
閃光弾は強い光を出すが、大きな音を出さない道具のため、どんな道具か分からなかったのも失敗であった。

277劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:49:48 ID:DJj9O2SQ0

ロボも同様に、両目を抑えた。
熱源や動きに感知して、敵を捉える機種も同時代にはあるのだが、彼が属するRシリーズは人間と同じ視覚を持つ。
従って、強い光や視界を覆う攻撃に人間と同じように影響を受ける。
さらに、ロボの攻撃手段の一つである、アイレーザーが自分で目を抑えたことで、ほんの一時的にだが使えなくなった。


最後の閃光弾で二人の隙を作った錦山は、二階の廊下を走る。
イウヴァルトはそれを追いかける。
自分の目的を知っているか否かに関係なく、危険人物であることを他者に広められたら困るからだ。
そして、ロボからは逃げる。
そのような存在がいるなら、前もって伝えておいてほしいと思いながら。


そして、先頭を走っていた錦山は、またも足を遅めた。

「なッ!?」
またも走る速さをずらして、機械人形の攻撃のタイミングをずらそうとするのかと思いきや、それは大きな間違いだった。
錦山は急にUターンし、姿勢を低くしてイウヴァルトの下腹部へタックルを仕掛けた。
不意の攻撃をくらい、驚きの声を出す。

しかも、最後尾のロボの攻撃は、イウヴァルトが盾になる位置関係になるため、錦山は安全で、イウヴァルトは圧倒的に危険な状況に追い込まれることになる。


「対象ノ接近ヲ確認。」

ロボは拳を飛ばす。
彼のみならず、Rシリーズのロボットならどの機種も覚えている、一番基礎的な技だ。
故に、外すことはない。



機体に何らかの異常がなければ、だが。


「なぜ……?」
その言葉を発したのは、錦山の方だった。
ロボが放ったロケットパンチは、イウヴァルトに当たる寸前で軌道を変え、錦山の脇腹に鋭く刺さった。
まさにクリティカルヒットとも言える、完全に予期していなかった一撃。

当たると思っていなかった攻撃の勢いに自由を奪われ、そのままイウヴァルトを離して飛んでいく。
廊下の端に意味ありげに置いてあった棚に、背中がぶつかってその動きは止まった。
木片が背中に刺さるが、そんなことはどうでもいい。


「危ないところだった。どうやら、この機械人形は俺の味方のようだな。」
「ハイジョ、ゾッコウ。」
朝日が差し込む病院の中でも分かる赤の眼光と、緑の眼光が、錦山に迫ってくる。

「そうか……」
まだ立ててすらいない男は、ここでようやく気付いた。

「お前ら、グルだったんだろ!!」
黒い瞳で、一人と一台のジョーカーを睨みつける。

278劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:50:06 ID:DJj9O2SQ0
攻撃できるチャンスがあったのにも関わらず、錦山のみを狙った点。
そして、眼をよく見ればさらに分かる。
イウヴァルトは、最初に会場でいた少女と、同じ血のように真っ赤な目つきをしている。


すなわち、イウヴァルト、ロボ、そして主催は味方同士だった。
錦山がそのセリフを吐き終わった直後、ロボがタックルを仕掛けた。
鈍重な機械の全体重がかかったタックルをその身に受け、悲鳴を上げずに血のみを口から吐き出す。


「ああ、そうさ。最も俺自身も知らなかったんだがね。」
立てない錦山を、赤目が見下ろす。


辺りは、赤で覆われている。
差し込む光の赤。
ヤクザの口から零れる血の赤
そして、その無様な姿を見下ろす眼光の赤。


既に白くなくなっているスーツの男にとって、状況は最悪だった。
肋骨のほとんどが折られ、目の前にジョーカーが二人。
逆転のための仲間も、道具もない。


ふと、手元にコロリと何か丸いものが、手に落ちた。
どうやら病院の棚の中に隠されていたようである。

そんなことは気にせず、もう一度ロボがタックルを仕掛けてくる。
投げたところで、良くて負傷だろうが、このまま殺されたくないと思って、ミファー
刺されて痛む右手でしっかりと掴んだ。

「何か」は黄金の光を出す。
先ほどの閃光弾の類かと思い、慌ててイウヴァルトは両目を抑える。
しかし、目くらましの道具ではなかった。

「「!?」」
気が付くと、ロボがタックルの姿勢で、硬直していた。
全身を金色に包まれて。


病院の、何の変哲もない棚に隠されていたそれは、別の世界で「ゴールドオーブ」と呼ばれたもの。
オーブから放たれる「ゴールドアストロン」は相手を一時的に何者も受け付けない黄金像へと変えてしまう力を持つ。

鉄の兵隊を金の人形に変えた瞬間、錦山を虚脱感が襲う。
黄金の宝玉を掲げる力さえ、もう残っていなかった。
そして、ロボが動けなくなっても、彼の敵はいなくなったわけではない。


「中々面白いものを見せてもらった。勉強にもなったよ。」
勝利を確信したイウヴァルトは、冷たい目で虚ろな瞳を見つめる。
そして、アルテマウェポンを掲げ、トドメを刺そうとする。


「フリアエのためだ。死んでくれ。」
この戦いで直接の人殺しをするのは初めてだが、恋人の名を口にすることで、その胸に優勝への決意を固める。


「ははは……。」
死を目前にしたヤクザの口元は、力なくだが吊り上がっていた。

「何が可笑しい?」
すぐにでも殺されるような状況で、それでいてなお笑みを浮かべていた。


最後に一つだけ理解した。
自分を殺そうとする男は、自分と同じ、大切な人間を失った存在なのだと。

279劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:50:26 ID:DJj9O2SQ0
フリアエというのが、何者なのかは分からないが、自分にとっての由美のような存在なのだと。
だが、その失った存在のために、誰かの言いなりになる男が、たまらなく滑稽に見えた。


「たまには、自分の意思で動いたらどうだ。」
それが、何一つ思い通りにならなかった男の、最後の言葉だった。


【錦山彰@龍が如く 極 死亡】             
【残り51名】



アルテマウェポンを胸から引き抜いた所で、金箔からロボは解き放たれた。
「助かったぞ。マナとはどういう関係なんだ?」

ロボは返事をすることなく、病院の巡回を続ける。
彼はイウヴァルトの敵にこそならないが、味方にもならない。
主催者の息がかかったもの同士で潰しあわないために、動く壁としか感知しない。
宝条にそのようなメモリーを埋め込まれているだけだ。


「どうやら、マナは俺にも伝えていないことがあるみたいだな。」
もう一つ、存在が謎のオーブを手に取り、病院を後にする。
いまだにこびりついて離れない男の言葉を頭に残しながら。






【イウヴァルト@ドラッグオンドラグーン】
[状態]:健康 多少の戸惑い
[装備]:アルテマウェポン@FF7、召喚マテリア(ブラックドラゴン@DQ11)
[道具]:基本支給品、モンスターボール(空) ゴールドオーブ@DQ11
[思考・状況]
基本行動方針:フリアエを生き返らせてもらうために、ゲームに乗る。
1. 参加者を誘導して、強者(特にカイム、ハンター)を殺すように仕向ける。
2. 残った人間を殺して優勝し、フリアエを生き返らせてもらう。
3.カイムと戦うこととなった時のために戦力はなるべく温存しておく。

※召喚マテリアの中身を【ブラックドラゴン@ドラッグ・オン・ドラグーン】と勘違いしています。
※空っぽのモンスターボールは野生のポケモンの捕獲に使えるかもしれません。



【ロボ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)、MP消費(大)
[装備]:ベアークロー@ペルソナ4 、たべのこし@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1個
[思考・状況]
基本行動方針:病院内に侵入した敵を排除する
1.ワタシの名前はプロメテス。

※主催者によって、ジョーカーである参加者(イウヴァルト、ホメロス、ネメシス)は感知出来ないようになっています。
他にも何らかの理由で感知できない参加者、NPCがいるかもしれません。



【支給品紹介】
ゴールドオーブ@DQ11
命の大樹に近付くのに必要な6つのオーブの1つ。
MP、SP、気力などの何かしらと引き換えに、対象を一定時間、無敵の黄金に変える『ゴールドアストロン』を使うことが出来る。
黄金になった相手は、動けない代わりにすべての攻撃を無効化する。

※他のオーブも対応する特技を使用することが出来ます。
※他のオーブも会場内のどこかに隠されています。

280劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:50:38 ID:DJj9O2SQ0
投下終了です。

281劣等感の果てに残ったもの ◆vV5.jnbCYw:2020/12/29(火) 01:54:03 ID:DJj9O2SQ0
現在地忘れてました。
【D-5/病院/一日目 午朝】です。

282 ◆RTn9vPakQY:2020/12/29(火) 02:23:13 ID:d66pWjZ20
投下乙です!
イウヴァルト、ロボにやられないかな…と軽く心配していましたが杞憂。
錦山にとっては運が悪いというか間が悪いというか……ただ、それでも生きる意志を見せたのは熱くて良かったです。
長机をぶんまわし、消火器を投げつける姿はどこか桐生一馬を想起してしまい、描写が利いているなと思いました。
そして最期の言葉は、劣等感という共通点をもつ錦山だからかけられた言葉だと思うと、粋ですね。

ソニック・ザ・ヘッジホッグ、四条貴音、エアリス・ゲインズブール、ゲーチス 予約します

283 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/29(火) 03:25:15 ID:rdioI89Y0
投下お疲れ様です。

>>私が歌う理由
春香と雪子、開幕から千早の精神を抉る気満々の放送でしたが、春香の死からアイドルとなった原点を思い出し、何とか生きる理由を見出すことができた展開は胸熱ですね。オープニングを除き一話退場となった春香ですが、皆の心の中で生き続け、希望を残していく様はまさにアイドル。

>>劣等感の果てに残ったもの
このロワで度々言われていた、劣等感を抱えたキャラが多い問題。その中でも錦山とイウヴァルトは、その報われなさも相まってかなり共通項のある2人だったと思います。だからこそ、最後の一言は刺さるはず。
それにしてもイウヴァルト、今回もなかなか軍事ムーヴしてるはずなのに、偶然(ロボもJOKERだったこと)に助けられた感がどこか拭えず、カイムに勝てるビジョンが見えないのはどうして……

クロノ、ダルケル予約します。

284 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:41:58 ID:55OUh4YY0
年内に完成してちょっと嬉しい。
投下します。

285亡き王女の為の英雄裁判 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:42:59 ID:55OUh4YY0
【被告人:クロノ】

「くそっ……!ㅤ俺が一体、何をやったって言うんだよッ!」

ㅤこの裁判に証拠はない。敢えて提出する者がいないからだ。

【原告側:ダルケル】

「姫さんから聞いたぜ。お前が……グレイグって奴を殺して姫さんも殺そうとしていたってな!」

ㅤこの裁判に証人はいない。それと成りうる者の全員が、その命を失っているからだ。

「俺じゃねえ!ㅤグレイグを殺したのはゼルダだ!」

ㅤそれでも己の無罪を貫き通す覚悟があるのなら。

「姫さんがンなこと……するわけねえだろうがッ!」

ㅤそれでも相手の有罪を判ずる信念があるのなら。

ㅤ古来より、用いられてきた手段はただ一つ――決闘である。客観的要素によって判示することができない事例の判決を、両当事者の戦いに委ねる儀式。

ㅤこの決闘の立会人となるのは他でもない、あなたたちだ。どうか、見届けてほしい。彼らの覚悟を。彼らの信念を。



ㅤクロノが手にするのは『白き加護』の力によってその本領を発揮する太刀、白の約定。対するダルケルは、本来は両手に抱えるべき武器である鉄塊を、自慢の腕力に任せて片手で振り回す。両者ともに、攻撃力は十二分に宿している。

ㅤ同時に、彼らがもう一方の腕に備えるのは同じ世界で造られた盾。片や、物理攻撃に対する堅固さに特化した『ハイリアの盾』。片や、厄災に乗っ取られ人々の脅威と化した古代兵器との戦いに特化した『古代兵装・盾』。両者ともに、防御力もまた申し分無い。

ㅤそしてこの戦いを白熱させるのは、武具の強力さに違わぬ実力を持つ二人だ。一瞬の隙が致命傷に繋がり得る攻防一体の戦闘を、何度も何度も繰り広げる。

「俺とグレイグは、森でゼルダを助けたんだ。だというのに、アイツは……」

「姫さんを知らない奴なら騙せていたかもしれねえが、俺はそうはいかねえぜ。」

ㅤ対話については、まさに取り付く島もないという様子だ。ダルケルの中のクロノ像は、自身を騙そうとする殺人者でしかない。対立する二人の主張が食い違うのなら、信頼に値する者を無条件に信じるのはダルケルに限らず人の性だ。

ㅤそれなら、無力化した上で話を聞かせる。この上なく単純な方針をクロノは定める。生殺与奪を握った上で対話を仕掛けるのは、殺意がないことのこの上ない証明であり、一定の信頼を得られるだろう。

286亡き王女の為の英雄裁判 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:43:42 ID:55OUh4YY0
ㅤしかし何にせよ、どの道ダルケルに勝たないことには始まらない。そしてそれは、容易ではないとこの応酬が示している。半端な攻撃は両者の持つ盾が吸収するのだ。

「うらぁ!」

「うおっ!」

ㅤダルケルのフルスイングを回避。速さではクロノが優っている。だが、ダルケルが攻めと守りの両面で微かに優位にあるため、クロノも攻めあぐねている状態だ。

(あの盾が厄介だな……。)

ㅤクロノは思考する。守りの強固な敵はまずは守りを剥がす――強敵と戦う時の鉄則だ。かのラヴォスも、外殻を破壊せずには本体であるコアの下にはたどり着けなかった。世界は変われど、戦いの本質は得てして変わらない。

「何をボーッとしてやがる!」

「っ!」

ㅤしかし、クロノがダルケルの盾を破る方針を打ち立てるより先に、ダルケルはクロノの持つ盾の脅威を認識していた。ハイラルの盾の堅牢さを、ダルケルは知っている。その排除に乗り出すのもダルケルが一瞬、早かった。

ㅤ回避されるのも覚悟の上の大振りの一撃。しかし盾への対処の思考に追われていたクロノは回避ができず、身につけたハイラルの盾で受ける。当然、普段は盾を使わないクロノにジャストガードの技術などなく、かのハイラルの盾越しでも左腕に衝撃が走り、着実にクロノの体にダメージを蓄積させていく。

(くっ……やはり、強い……!)

ㅤ大きな体躯をしたダルケルの攻撃がただの質量の暴力であれば、ラヴォスに遠く及ばない。だがダルケルは鉄塊を時に振り下ろし、時にぶん回し、時に突く。単純な攻防を単調でなくする様々な技術を駆使してクロノの逃げ道を無くしていく。『英傑』を名乗るのは決して名ばかりではないのだと、クロノは実感する。

(それでも……負けてたまるか!)

ㅤしかし、クロノもまた『英雄』と呼ばれた――否、"呼ばせた"男である。王女誘拐の冤罪をさらなる功績で塗り潰し、身分の違うマールとの結婚を大々的に認めさせるために。

ㅤ世界の脅威の排除が称号に先んじているという点で、クロノとダルケルは大きく異なっている。少なくとも、クロノは世界の敵に勝利したのだ。その経験値の差は、僅かに、されど確実に戦局に影響を与える。

「はぁっ!」

「なッ!?」

ㅤ続くダルケルの一撃が繰り出されるまでの一瞬の間を付いた一閃。古代兵器を討つために造られた盾は、遥か遠い未来の武器によって弾き飛ばされる。

「くッ……!」

ㅤ咄嗟に鉄塊をぶん回して乱れ斬りへの接続を防ぐダルケル。だが不運にも、吹き飛ばされた盾は城の周囲に張り巡らされた怨念の沼に落ち、回収が不可能となった。

「それはグレイグが使っていた盾だ。お前が使っていいものじゃない。」

「ああ。グレイグって奴から姫さんに託され、俺が受け継いだ大切な盾だ。なのに、使えなくしちまうなんてヨォ……」

ㅤ盾を先に突破したことにより、戦いの流れは間違いなくクロノの側に傾いている。

「……まったく情けねえぜ、ちくしょう。」

ㅤしかし、盾を使わないのはダルケル本来の戦闘スタイルだ。両腕で振るう鉄塊はより速度を増し、それに比例して破壊力も大きくなる。さらには、今の一撃でクロノの実力をダルケルはハッキリ認識した。生き残ってゼルダを護るために防御を優先するのではなく、刺し違えてでも倒さなくてはならないと意識をシフトした。

287亡き王女の為の英雄裁判 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:44:14 ID:55OUh4YY0
ㅤ両腕で鉄塊を振り回してのの攻撃――まさしく捨て身とも取れる特攻。クロノの剣術ならばカウンターを叩き込むのも不可能ではないが、リスクが高い上に、相手の勢いを利用する以上手加減ができず殺しかねない。

「サンダガ!!」

ㅤしたがって、直接の応酬を避ける選択肢を取るクロノ。ダルケルの進む先の足場に牽制のごとく雷を降らせる。それを受け、電気を通す金属を所持したままの特攻を辞めるダルケル。

(リンクのような正統派の太刀筋だけでなく、ウルボザのような搦め手まで使えるのかよ……)

ㅤダルケルはその雷から、もうこの世界でも会えなくなったかつての戦友の名が脳裏を掠める。

(ウルボザ……オマエもコイツみてーなヤツに殺されたんだよな?ㅤ俺と違って頭のいいオマエは、騙されて殺られるようなことはねえもんな。)

ㅤ許せねえ。英傑にも引けを取らないだけの実力がありながら、それを他者を傷付けるために行使する奴らが、許せねえ。その犠牲となったであろう亡き戦友を思い返し、ダルケルはさらに決意を重ねた。そして、冷静になった頭で今一度戦局を俯瞰する。

ㅤ魔法を用いて接近戦を拒絶したクロノはダルケルが雷に怯んだ隙に距離を置いている。

ㅤ逆に考えると、応戦を拒否されたということは、それが相手にとって都合が悪い証だ。刺し違えてでも倒すと決意した自分とは違い、クロノは優勝のために自分をなるべく無傷で突破したいのだろう。

ㅤそしてあの雷も、ウルボザのチカラと同質のものならば何度も何度も続けざまに撃ち続けられるようなシロモノではないはず。それならば、攻めるが吉だ。

「ゴロオオオオォッ!」

ㅤそう分析したダルケルは、再び特攻をするために急速接近する。ダルケルほどの巨躯で速度を確保するためのその手段とは――回転。その身を丸め、大地を転がって一気に前進する。

「ッ!」

ㅤカエルの舌に、ロボのロケットアーム。人間の常識を優に超えた接近手段はこれまでの仲間たちから見慣れているクロノも、その人間離れした移動方法に面食らわざるを得ない。サンダガを詠唱する間もなく、射程内への接近を許してしまう。

「がァッ!」

ㅤ元の剛腕に合わせて勢いまで 付いたその一撃を半端な攻撃で迎撃できるはずもなく、クロノが選び取った行動は再び、盾を前方に構えての防御。予定調和とばかりに振り下ろされた鉄塊は、それがハイラルの盾でなければ即座に盾ごと粉砕されていたであろう強打となってクロノを襲う。

ㅤ盾越しにクロノを今までで最も大きな衝撃が襲うも――やはり真なる英傑が果てしない冒険の果てに掴み取るに相応しい、最強の盾だった。ダルケルの渾身の一撃の大部分が軽減されたのだ。普段は盾を使わないダルケルは、ハイラルの盾の強固さを知識として知ってこそいれど、ここまでであるとは思っていなかった。

「ちっ……!」

「いい加減に……」

ㅤ皮肉にも、ゼルダに騙されたことで手に入れた盾が、クロノを護ったこととなった。その事実にクロノは僅かに苛立ちを覚え、顔をしかめる。そんな彼の視界に映るのは、大振りの攻撃を防いだことで大きく隙が生まれたダルケルの姿。

「……しろよッ!」

「ぐおっ!」

ㅤクロノは太刀に風の刃を纏わせて薙ぎ払う。それをまともに受けたダルケルは吹き飛ばされ、ハイラル城の城門にその身を打ち付ける。

「はぁ……はぁ……」

ㅤクロノの放った『かまいたち』は、ダルケルほどの実力者を殺す威力はない。立ち上がってくることは分かっている。

288亡き王女の為の英雄裁判 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:44:51 ID:55OUh4YY0
「……なァ、赤髪の兄ちゃん。」

(はぁ……それでもコイツ……さすがにタフすぎんだろ……。)

ㅤクロノの想像以上に、ダルケルはその身に受けたダメージを意に介していないようだった。

「アンタ、そんなに強いのにヨォ……何で人殺しなんかに手を染めたんだ。」

ㅤしかし、クロノにとっては悪くない状況だ。まだ決着こそ付いていないが、両者ともに戦闘への疲れが見えてきた頃合――そんな状況下でようやく訪れた、僅かな対話の余地。

「俺はやってねぇ……アンタ、ゼルダの奴に騙されてんだよ。」

ㅤクロノからすれば、それは謂れの無い非難でしかない。そう言い返すのは当然であり、ダルケルもまたそれを素直に聞き入れるはずがない。

「そんなハズがねえ!」

「どうしてそう言いきれる!」

「だってヨォ……姫さんは……姫さんは……」

ㅤここで、どちらも白を主張し、泥沼化するかと思われた話し合いは、思わぬ展開を見せることとなる。続くダルケルの言葉に、ぴくりとクロノの眉が動いた。

「……逃げなかったんだ。」

ㅤゼルダの人物像なんてこの際何も関係がないはずであるのに、クロノはその続きを聞かずにはいられなかった。

「姫の責務に追われようと、心無い奴らに無才と罵られようと、逃げなかったんだ。何でだと思う?」

「……知らねぇよ。」

「……姫さんは……国の皆が……ハイラルの民が大好きだから……だから逃げなかったんだ!ㅤ周りを息巻く環境がどれだけ息苦しくても最後まで諦めずに、あの小さい背中に背負った責務を全うしたんだ!ㅤそんな姫さんが……一体、誰を殺したって言うんだオメェは!?」

ㅤダルケルのその気迫は、語る言葉に一切の謀を含まぬ真実であると物語っている。ゼルダがどれほど偉大な人物で、彼女の世界に必要な存在なのかはクロノに対して十分に伝達された。

ㅤしかし、だとしても聞くに値しない理屈だ。ゼルダがどう評価されている人物であっても、彼女がグレイグを殺し、今なお彼女のせいで自分がダルケルと殺し合っている現状を甘受できる道理は無いのだから。

289亡き王女の為の英雄裁判 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:45:22 ID:55OUh4YY0
「……逃げなかったら、偉いのかよ。」

ㅤそして――それとは別に、クロノは彼女の生き様を肯定してはならないのだ。それは自らの矜恃、そしてマールとの出会いに、真っ向から反する在り方だったから――

「生まれつきの運命だったら、はいそうですかと受け入れるのが美徳なのかよ……!」

ㅤダルケルにとっては、耳を貸す意義もない言葉だった。ゼルダの役目がハイラルの平和にどれだけ貢献するのか、それを果たせないことに対し、本人も周りもどれだけ痛ましく思っていたのか、それら一切を知らないクロノだからこそ言えてしまう残酷な言葉だ。

「うるせぇッ!」

ㅤだが、ダルケルには少なからず自覚があった。神獣の操作を早々に習得し、与えられた役目を充分に果たしていた自分たち英傑の存在は、少なからずゼルダを追い詰めていたと。誰が悪いというものでもない。だが、100年間、心の端にずっと引っかかっていた何かを刺激したクロノに対し、言い返さずにはいられない。

「オメェが奪った命もな……生きていたかったんだ!」

ㅤダルケルはグレイグを知らない。だが、ゼルダを逃がしてクロノに一人立ち向かった騎士であるとは聞いている。そんな忠義心の塊のような彼は、この世界に別の仲間を残し退場するハメになったことが、きっと無念であったに違いない。神獣の中に取り残され、炎のカースガノンに破れ散り行くこととなった、かつての己を想起する。姫さんも、他の英傑もまだ戦っているというのに、自分だけがその戦場を去らねばならぬ屈辱。その時の想いを脳内に反芻させ、歯を食いしばったまま再びクロノに向かって走る。

『――この子が最期に言った言葉、知ってる? 死にたくない、だって!』

ㅤそして――ダルケルの、己の屈辱と共にグレイグについて言い放った言葉は偶然にも、クロノには放送で聞いたマールの最期と重ね合わされた。ただでさえ無実の罪を被せられているこの状況下。マールの死まで、自分の所為として被せられたような心持ちにさせられて。

「――罪に汚れた口で、姫さんの生き方を否定すんじゃねえッ!」

「――ッ!ㅤ黙れええぇぇッ!」

ㅤクロノの心の奥に、今までずっと差していた黒い影が、そっと浮かび上がった。

「これ以上……俺たちの旅路を……マールの生きた証を……否定、すんなああああッ!!」

ㅤ朝の光に照らされながら、ふたつの影が交錯する。

ㅤこの時、クロノの、愛する者の喪失をこの上なく痛感しながら振るった刃は、宿る白き加護によりいっそう練磨され――

290亡き王女の為の英雄裁判 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:46:08 ID:55OUh4YY0


「へっ……本性、現しやがったな。」



――そしてそれ故に、ダルケルには一切通用しなかった。


『ダルケルの護り』


ㅤクロノの放った全身全霊の一撃は、ダルケルの身体にかすり傷ひとつ付けることなく弾かれた。

(なん……だ……これ……身体が……動かねえッ!)

ㅤそもそも、ダルケルに盾など必要なかったのだ。彼の身は瞬間的に、ハイラルの盾とて超える最強の鎧を纏うことができるのだから。

ㅤしかし、今の今までダルケルの心の底にはひとつの疑問があった。

――何故、クロノは命を取りに来ない?

ㅤ盾を弾いた時の一撃も、サンダガを牽制にしか用いなかった時もそうだ。クロノはダルケルの命を直接狙うような攻撃を一切仕掛けてこなかった。そのため、ダルケルの護りを使うかどうか、判断に迷わされる局面ばかりだった。

ㅤ実際に見たクロノは、ゼルダの語ったクロノの人物像とどこか一致しない。このまま戦いを続けるのは、本当に正しいのか?

ㅤそれは外れていて欲しいと願わずにはいられない直感だった。クロノが無罪であるということは、グレイグを殺したのはゼルダであるという、クロノの主張が通ることと等しい。

ㅤだが、今の一撃に込められていたのは紛うことなき殺意であった。それはある意味では待ち構えていた一撃。クロノが殺しにかかってくれるだけで、ダルケルにとってはゼルダの無罪を心から信じるに足るのだ。

ㅤそして――もはやダルケルに、クロノを皆の驚異と見なし排除することに躊躇いは無い。和解の余地を僅かに残していた決闘は今、紛うことなき殺し合いと化したのである。


『――■■。』


ㅤ反動でその場で硬直したクロノに、返しの鉄塊が叩き付けられる。重力を味方に付けた鉄の塊をまともに受けては、星の英雄たるクロノも無事では済まない。視界が大きくぐらりと揺れ動き、滲む血の色に染まっていく。


『――■■。』


ㅤダルケルの護りの反動が消えても、痛みで身体が動かない。腕の力が抜け、白の約定をその場に落としてしまう。クロノを無力化できるこの上ないタイミングであるにも関わらず――ダルケルはもはや止まれなかった。クロノの本気の殺意を認識してしまったから。ダルケルの護りを持つ自分でなければ、まず死んでいたであろう一撃――それがゼルダや、他の仲間たちに向けられるかもしれないのを黙認することはできなかった。クロノを殺す覚悟を決め、鉄塊を大きく振りかざす。


『――■■。』


ㅤ俺が何をしたんだよ――そんな気持ちは、とっくにクロノの中から消えていた。多分、こういうのよくある事なんだろ。宿命やら仇やらが誤解に始まって、最終的に後戻りできないくらいに拗れてしまうことなんて。ラヴォスの復活を巡って人類と長らく争ってきたあの魔王が。最終的にカエルと化した勇者によって討たれたあの人類の敵が。実は俺と同じように、愛する人のためにラヴォスの復活を阻止しようとしていたなんてさ、今さら誰が信じるよ?


『――■■。』


ㅤ結局、誤解の余地を大いに残した俺は英雄の器じゃなかったってことだ。そもそも英雄になりたかったのも、マールに釣り合う身分になりたかったからで、だけどもうマールはいない。幸せな夢は終わったんだ。それならもう、今さら英雄になんてならなくたっていいじゃないか。


『――■■。』


ㅤそう――これは、幾つもある物語の結末の中の、たったひとつ。


『――■罪。』


――なぁ、それでいいだろ?


『――有罪。』

291亡き王女の為の英雄裁判 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:46:45 ID:55OUh4YY0











「――いいわけ、ねぇだろ。」

ㅤ突如、クロノの目に光が点る。怒りや悲しみに任せて戦っていた先ほどまでとはどこか違う、吹っ切れたようにその目は澄んでいて。

ㅤその突然の変貌に驚愕するダルケルの方へと向き直り。

「悪ぃな。」

ㅤそして一言、呟いた。

「俺はもう、自由にやらせてもらうよ。」



『――シャイニング』



ㅤ辺り一面を、神々しく煌めく極光が包み込んだ。





ㅤ終わりを覚悟した瞬間、走馬灯というものがクロノの脳内を駆け巡った。



ㅤ千年祭で、マールと出会った時。今思えば、あれが全ての始まりだったんだよな。

ㅤ中世で、マールの姿が突然消えてしまった時。情けねえことに俺、パニックになっちまった。ルッカがいなかったら、何が起こったのかも分からずじまいだっただろうな。

ㅤ未来の世界で、星の滅亡の運命を変えようと、マールが言い出した時。あの時からだっけ、英雄ってもんを目指し始めたのは。マールと生きるべき世界で俺は王女誘拐の大罪人。そのくらいしねえと、誰も王家との結婚なんざ認めてくれねえよ。

ㅤそれからも、太古の世界、古代文明の世界、色々な所の記憶を垣間見て行った。楽しい記憶も悲しい記憶も、どっちが多いとかじゃねえ。どっちもたくさん入り交じっていたけどさ。

――全部、そこにはマールがいたんだ。

ㅤいつか、ロボが言ってた。走馬灯ってのは、『あの時にもどりたい』、『あの時ああしていれば』という、強い想いの現れだって。マールを失った俺は、後悔していたんだ。どうすれば、この結末を避けられていたのか、そればっかり考えていたんだ。

ㅤでも、俺は知ってるはずさ。結末なんて、過去も未来も問わず、如何様にも変えられるってことを。実際に俺、1回死んだことあるんだぜ?ㅤでも今はこうやって、ちゃんと生きてる。だからマールのことだって、まだ諦めるには早い。やれることを全部やってからじゃねえと、終わるにも終わり切れねえよ。

ㅤだから、さ。

292亡き王女の為の英雄裁判 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:47:23 ID:55OUh4YY0
「いいよ、掴んでやるよ。優勝者に与えられる、"願い"ってやつを。」

ㅤそれは、修羅の道だ。されど、マールと再び会える可能性が僅かにでも残された希望の道でもある。

「ぐっ……!ㅤ待て……!ㅤやっ……ぱり……オメェ……が……グレイグって……奴を……!」

ㅤその時足元では、ダルケルの護りを使う暇もなくシャイニングの閃光に焼かれたダルケルが、クロノに向けて手を伸ばしていた。

ㅤ心の奥底に潜んでいたクロノの影をその目に焼き付けたダルケルは、クロノへの誤解がもはや確信へと変わっていた。そして、僅かにでもゼルダを疑ってしまったことを恥じ、後悔した。

「ああ、俺が殺した。」

ㅤそんな様々な感情が入り交じるダルケルの想いを悟ったクロノは、吐き捨てる。今さら過去の冤罪のことなんざ、どうだっていいよ。

ㅤそれよりもコイツは俺に、俺の本当に大切なものを気付かせてくれた。

――せめて、信念だけは間違っていなかったと、そう思いながら逝ってくれ。

「ちく……しょ……」

ㅤ拾い上げた白の約定で、ダルケルの身体を両断する。自分の決意を確かめるように。時を遡ろうとも消えない罪を、己の手に刻み付けるように。

ㅤこうして、在る英雄を巡る決闘裁判は幕を閉じた。判決は、無罪。しかし、ひとつの罪がその身に刻まれることとなる。

ㅤ罪も悪も受け入れて、ある英雄の、新たな夢が始まる。

【ダルケル@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルドㅤ死亡確認】

【残り 50名】

【A-4/ハイラル城 入口一日目 午前】

【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:白の約定@NieR:Automata
[道具]:基本支給品、ハイリアの盾(耐久消費・小)(@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド)、ランダム支給品(1個)
[思考・状況]
基本行動方針: 優勝し、マールを生き返らせる。
1.そのためには仲間も、殺さないとな。

※マールの死亡により、武器が強化されています。
※名簿にいる「魔王」は中世で戦った魔王だとは思ってません。

※ED No.01 "時の向こうへ"後からの参戦です。このルートでは魔王は仲間になっていません。
※元の世界の仲間が参加していることを知りません。
※グレイグからドラクエ世界の話を聞きました。


※ダルケルの持っていた支給品は、シャイニングにより焼失しました。

※周囲の怨念の沼の中に、古代兵装・盾@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルドが落ちているかもしれません。

293 ◆2zEnKfaCDc:2020/12/31(木) 21:47:55 ID:55OUh4YY0
以上で投下を終了します。

294 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:07:24 ID:MmWUg2AQ0
お久しぶりです。
ゲリラ投下します。

295誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:08:47 ID:MmWUg2AQ0

先に動き出したのは当然、真島吾朗だった。

朝陽ですら捉えられない速度でトレバーの懐に潜り込んだ真島はがら空きな腹部に向かって四発の拳と二発の蹴りを叩き込む。計六発の打撃を受けてからトレバーは初めて自分が攻撃されたのだと気づいた。
だがそれに気付いたところでトレバーの行動は変わらない。大幅に軽減された衝撃はこの男を止めるにはあまりにも役不足で、左手の共和刀が白い線を描いた。
確実に命を奪うつもりで放たれたそれは結果的に真島の髪の毛一本すら断ち切ることも出来ず、大きく後退した狂犬へ追い討ちをかけるように右手のショットガンをぶっ放す。
凄まじい炸裂音はしかし肉を穿つ音が混じらない。床、壁と連続で蹴りいつの間にか三角飛びの要領でトレバーへと飛び込んでいた真島はそのまま膝蹴りを側頭へと叩き込んだ。

「ちッ……」

舌打ち。しかしそれは蹴りを受けたトレバーのものだけではなく、床に着地した真島も同じだった。

296誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:09:26 ID:MmWUg2AQ0

「やっぱ手応えが薄いのォ〜、なんで殴ってる方が痛いねん」
「だから言ったろ? 俺はアイアンマンなんだよ」
「はッ、アイアンマンの素顔ってこないな不細工やったんか」

軽口を返しながらも真島は内心どうしたものかと思考を巡らせていた。
自分が負けるとは微塵も思っていない。だが攻撃が通らないのならば勝つこともできない。顔面になら攻撃が通ると思ったがネックガードが頚部への衝撃を軽減させているようで、目立ったダメージが見受けられなかった。

と、考えている間に共和刀の刺突が先程まで真島の額があった空間を貫いた。
大きく背中を反らしそれをやり過ごした真島はそのまま流れるようにバク宙キック。ネックガード越しの軽い衝撃がトレバーの顎を揺らした。が、相変わらずダメージにはならない。

「これで分かったろ? マジマ。てめぇがどんだけ速く動けようが、武装の差は埋められねぇんだよ」
「……お前、なんか勘違いしとらんか?」
「あァ?」

心底理解できない、という風に首を傾げるトレバーの視界は次の瞬間、飛来する瓦礫によって埋められる。
ガン、と額を打つ衝撃に思わず目を閉じすぐさま開く。と、そこには既に真島の姿は無かった。
迷わずに背後を振り向くトレバー。と、その右のこめかみを何かが勢いよく打ち抜き、陶器の割れる音を間近で聞いた。

297誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:10:06 ID:MmWUg2AQ0

「武器なんざそこら中にありふれとんのや」

真島の手に握られていたのは割れた花瓶。まるでワインボトルでも握るかのように手に収まるそれは真島にとって立派な刃物。ここに来て初めてトレバーの表情に戦慄が垣間見えた。

「ヒィィィヤッ!!」

狂気的な叫びと共に放たれる花瓶の刺突はスーツの繊維の隙間を縫いトレバーの腹部に突き刺さる。苦悶の声を上げるトレバーに追い討ちをかけるように、突き刺さる花瓶へと膝蹴りを叩き込んだ。
肉に刃物が食い込む感覚が気持ち悪い。トレバーはこの場で初めて覚える痛覚に未だ囚われたままだった。

真島にとって無手であることはさほど問題にならない。何故ならば彼にとっては周囲の環境全てが"武器"なのだから。
それは今さっき戦ったリンクや、かつて数え切れないほど拳を交わした桐生も同じだ。何も武器とは生物を傷つける用途に作られた物だけに限らないのだ。
銃や刃物を武器として見ていたトレバーは自分の知らない世界をむざむざと見せ付けられた。

「トドメやァ!!」

終了宣言。同時、真島の足刀が花瓶に叩き込まれる。深く、深く突き刺さるそれはやがて負荷に耐えきれなくなり粉々に砕け散った。
腹部から赤い染みを滲ませるトレバーはしかし倒れ込む寸前で踏みとどまり、憤怒に満ちた顔を上げろくに狙いも定めずに銃弾を放つ。
しつこい奴や。そんな悪態を叩ける程には余裕を持ってそれを回避する。が、立て続けに二発目の鉛玉が風を切った。

ヤケになったのか、その銃弾はやはり真島を穿つことは無い。続く三発目。これも真島は危なげなく回避する。
懲りずに四度目、銃口を向けるトレバーに一種の哀れみを抱きながら真島は引き金が引かれる寸前に右へのスウェー回避を取った。

急速に体一つ分右側へ移される視界。その端で、真島は信じられぬものを見た。
回っていた、トレバーが。

「あ────?」

それに気付いた瞬間、真島の脳が大きく揺さぶられると共に視界が明滅する。
コマのような回転により遠心力を付けたショットガンでの横薙ぎ。三発目の時点で既に弾切れだったそれは鈍器として真島の頭を叩き割ったのだ。

298誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:10:53 ID:MmWUg2AQ0

「く、ッ……そが……!!」

トレバーの怪力にパワードスーツの人工筋肉が加わったその一撃は如何に真島が頑丈といえど関係ない。頭から血を流し膝を付ける真島をトレバーが見下ろす。
その顔には愉しげに、心底愉しげに笑っていた。

「さァ〜て、どう拷問してやっかなァ? 楽には殺さねぇぞ。まずはその残った右目を抉って次に指全部一本一本切り取って次に腕切り落として──」
「──なんでや」
「あァ?」
「なんで俺の動きが分かったんや」

恍惚としたトレバーは如何に真島を苦しめようかという至福の時間を邪魔されたことにより不機嫌なものに変わる。
確かにほしふるうでわを装着した真島の動きはおよそトレバーが反応出来る速度ではなかった。

「簡単な事だ。てめぇの左側には壁があった。真正面からの銃弾避けるんなら右側しかねェだろ」

しかし、その理屈は思ったよりも単純なものだった。

「自分の速度に自惚れちまったか〜? なぁ、マジマ。てめぇはゴキブリと同じなんだよ。カサカサ動き回ってるだけで人間様に勝てると思ったのか? えぇ? いい勉強になったろ。虫如きじゃこれが限界だってな」
「……ああ」
「おーおー、すっかり潔くなっちまって。気が変わった、これ以上マジマが苦しむ姿見たくねぇから楽に殺してやるよ」

項垂れる真島の脳を貫かんと切っ先が死の音を立てて迫る。トレバーは酷く悲しそうに、愉しそうに口角を釣り上げた。


「──おかげさまで、鬱陶しい目眩も無くなったわ」

299誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:11:32 ID:MmWUg2AQ0


鳴り渡る金属音。窓の外へ弾き飛ぶ共和刀。
痺れの残る左手を呆然と見つめるトレバーは何が起こったのか理解出来ていないようだった。

──ドス弾きの極み──

相手の刺突に合わせて回し蹴りを叩き込む事で刃物を弾き飛ばす真島の得意技。
トレバーの長ったらしい演説により稼いだ時間で目眩から立ち直った真島。障害を取り除いた彼にとって片膝をついた状態からその行動に移すのはそう難しいことではなかった。

「てめッ──」
「喋んなや、人間様。虫のど根性見せたるわ」

武器を失い激昴するトレバーの口を文字通り塞いだのは真島の足。口内を切ったのかトレバーの口から赤い唾液が飛び散る。
体勢を立て直そうとするトレバーだが、まるで踊りの延長かのような華麗な蹴りを連続で叩き込まれるせいで身動きが取れない。

「ぐッ、ぅ……お、ぇ……!」

ダメージはない。ない、が……連続で腹部に衝撃が走るせいで内蔵が絶え間なく揺らされ、激しい吐き気に見舞われる。恐らくは二日酔いのせいもあるのだろう。加えて先程花瓶の刺さった箇所に響いて傷口が開くのが分かる。
そうして脱力した体は真島の蹴りの衝撃に導かれ、少しずつ後退を余儀なくされる。そうしてトレバーの体は窓際へと追い詰められた。

「構えろや」

空気が変わる。
トレバーは言葉を発することなく、凹んだショットガンを盾代わりに己の眼前へと突き出した。
ぐわんぐわんと気持ち悪く揺れる視界はそれでもくっきりと映し出す。自身へ背中を向ける寸前、凶悪過ぎる笑みを浮かべる真島吾朗の姿を。

300誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:12:20 ID:MmWUg2AQ0


「ヒイィィィィ────ヤァッ!!」


世界が破裂するかのような錯覚を覚えた。
真島吾朗という狂犬が振り絞った全力の後ろ回し蹴り。
それはショットガンを叩き割り、スーツでも防ぎ切れない衝撃を体全体に伝え、トレバーの意識を呆気なく刈り取りその巨体を窓外へと吹き飛ばした。

──蹴り落としの極み──

喧嘩における勝利とはなにも相手を殴り倒すことに限ったわけじゃない。試合ならばそうなのだろうがなんでもありの喧嘩においてそれは愚直。
如何なる形でも戦闘不能に追い込んでしまえば勝ちは勝ちなのだ。現に真島はそういう戦いをして生き残ってきたのだから。

窓から顔を出し悠然と広がる光景を見下ろす。
城を囲うように生えた木々に遮られトレバーの様子は確認出来なかったが、恐らくは死んでいないだろう。真島としてはどちらでも良いが。
時計を確認する。時刻は五時五十七分──放送までの時間は三分。

「参ったのぉ。俺とした事が、二分もオーバーしてもうたわ」

適当に引きちぎった布を頭に巻いて止血しながら真島が気だるそうに呟く。
本来そんなことを気にする場合じゃないのだが、それを指摘してくれる存在は周りにいない。
とにもかくにも放送まで残り三分。腹が減ったし何か食べるかとデイパックから引っ張り出したおにぎりに齧り付いた。

「なんや、勝利の味にしちゃ随分しけとるわ」

そうしてあっという間におにぎりをひとつ食べ終える。そのまま二つ目のおにぎりを取りだした真島はぴたりとその手を止めた。

301誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:12:58 ID:MmWUg2AQ0

「「こんにちは、真島吾朗」」

透き通った二つの声が響く。
真島がちらりとその方向へ目を向けると、騒動の終わりを感じ取ったバーベナとヘレナの姿があった。
敵かと一瞬身構えるも、微塵も敵意が感じられないことに気が付けばそのまま何事も無かったかのように食事を再開する。
二人の女神はそれを止める気もなくぽつぽつと語り始めた。

「貴方は脅威を一つ払い除けた。参加者でもない私達が言うのもおかしな話だけれど、ありがとう」
「別に感謝されるためにやったわけちゃうわ。それにお前ら運営側やろ。そんなこと堂々と言ってええんか?」
「言葉の自由は許されています。もっとも、彼らにとって都合の悪いことを除けばの話ですが」
「ほ〜、気に入らんもんは即爆破っちゅうわけやないんやな」

揃えてぺこりと頭を下げるヘレナとバーベナを真島は見向きもせず、鬱陶しそうにひらひらと手を払わせる。
首輪をしていないことから彼女達が運営側だということは容易に察せた。が、ここまで露骨に協力的ではない態度を見せるとは予想外だった。
とはいえ真島にとっては毒にも薬にもならない。先程真島が言ったように感謝される筋合いなど微塵もないのだから。

「はじまったか」

放送開始を示すチャイムが鳴る。
顔を引き締め耳を澄ます。最初こそ放送などどうでもいいと思っていたが、雪歩達のような一般人が巻き込まれていると知った今は状況が違う。
この六時間で何人死んだか、そしてリンク達が生存しているかを確かめなければならない。
放送は情報の宝庫だ。仮にも組長という立場に所属している真島はそれを弁えていた。

が、そんな彼の思考は放送が始まってすぐに弾け飛ぶことになる。

302誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:13:37 ID:MmWUg2AQ0


──桐生一馬


「は?」

疑問符。
動揺よりも先に頭の中をハテナマークが埋め尽くす。
きりゅうかずま、キリュウカズマ、桐生一馬──酷く聞き覚えのある名前だ。
その名を持つのは伝説の男、堂島の龍に他ならない。真島にとって最大の好敵手であると言っても過言ではない存在だ。

そんな彼の名が放送で呼ばれた。
その事実が示唆することに気付くのに数瞬かかり、嫌に鮮明に聞こえるマナの声に再び耳を傾ける。

名簿の支給、禁止エリア、Nの城の役割、支給モンスターの存在、そして運営は参加者の声しか確認出来ない。
それらの内容を頭の中で整理し、記憶する。その間、まるで真島は別人になったかのように冷静だった。

耳障りな少女の声が消え失せ、放送が終わる。
そうして張り詰めた糸が切れたかのように真島は項垂れ、目いっぱいの力で床を叩いた。

「……これが筋を通した結果かい、桐生チャン」

放送の内容が嘘だなんて理想で現実逃避する気は毛頭ない。彼のような猛者が死ぬはずないと過信するつもりもない。
どんな化け物じみた人間も鉛玉を額に受ければ死ぬ。真島が生きてきたのはそういう世界なのだ。

「どうせお前は誰かを守って死んだんやろな」

やっと紡いだ声は自分でも驚くくらい震えていた。
桐生一馬はそういう人間だ。超人じみたその力を迷いなく他人の為に使い、いつだって守るべき存在の為に命を張る。
だからって、仕方がないと感情を呑み込み平然とすることはどうしても出来なかった。

「…………はぁ」

深い深いため息。様々な感情を乗せたそれを吐き出した真島は力なく立ち上がる。立ち上がるという動作にこれほど労力を感じたのは初めてだった。
続いて新たに支給された名簿に目を通し、澤村遥と錦山彰の名前を確認する。錦山はともかく、遥の名まである事に真島は怒りを示した。

303誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:14:18 ID:MmWUg2AQ0

「とことん腐っとるわ、このゲーム」

彼にしては酷く冷たい声で吐き捨てる。
澤村遥。桐生一馬が命を懸けて守るべき存在。
本来真島にその少女を救う義理はない。けれど桐生亡き今、その役目を代わってやるぐらいはしてやりたかった。

「真島吾朗」

不意に名を呼ぶのは既に存在を忘れかけていたバーベナ。なんや、と冷たい声のまま振り返る真島の前へとヘレナが歩み出た。

「貴方はここで留まるべきではありません。貴方はきっと何人もの命を救える力と心を持っている。この残酷な運命を変えられる数少ない存在なのです」

淀みないヘレナの言葉には願望も込められていた。
そう、何もゲームの破壊を望んでいるのは真島だけではない。運営側であるヘレナとバーベナもそうであるし、リンク達のような未だ生存している参加者にも同じ意志を持つ人間は多数いるだろう。
ヘレナの言い分は随分と勝手だ。けれど彼女にはそうして託すことしか出来ないのだ。真島は知らずのうちに握り拳に力を込め、無理矢理に心の靄を払う。

「行きなさい、真島吾朗」

全ての思いを込めたバーベナの言葉を受けて真島吾朗の目は鋭利さを取り戻す。

「──言われんでもそうするわ! こないな悪趣味な殺し合い、この真島吾朗様がぶっ壊したるでぇ!!」

力強い宣言。城外へと駆け出す彼の姿を見て二人の女神は安堵した。
真島吾朗は狂人だ。けれどそれ以前に人間なのだ。それも桐生に匹敵する力を持ったこの殺し合いにおいても希少な存在。
狂犬の名を欲しいままにするその勢いで彼が城外へと飛び出したのを確認すれば、二人の女神は再び次なる存在を待つだけの駒に成り下がる。
ただ一つだけ変わったとすれば、彼女達の思いを受け取った者が現れたことだ。


【C-2/Nの城付近/一日目 朝】
【真島吾朗@龍が如く 極】
[状態]:頭部出血(止血済み)、疲労(中)、焦燥
[装備]:ほしふるうでわ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームをぶっ壊す。
1.とりあえず動かないと気が済まない。
2.遥を探し出し保護する。
3.桐生を探す(死体でも)。
4.錦山はどうしよか……。
5.雪歩が気がかり。

※参戦時期は吉田バッティングセンターでの対決以前です。
※運営が盗聴していることに気付きました。

304誓って殺しはやってません! ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:14:56 ID:MmWUg2AQ0






「い、ッてて……畜生、最悪な気分だ……」

Nの城付近、意識を取り戻したトレバーが緩慢な様子で上体を起こす。直後今更になって猛烈に込み上げる不快感に抗えず嘔吐した。
それが収まり気分が晴れるかと思えばそうでもないようで、むしろ一度吐き出してしまったせいか体調はすこぶる悪い。おまけに腹部の刺傷が痛む。
それでもまるで寝起きの酔っぱらいかように立ち上がる彼の姿を見れば、今さっき六階の高さから落とされたと説明しても信じる者はいないだろう。それほどまでにトレバーの纏うスーツは常軌を逸していた。
しかし流石に無傷という訳では無いようで、バチバチと時折不穏な音を鳴らし電気を散らしている。今のところ問題なく動くようだが以前のような無茶な運用はするべきではないだろう。

「……マジマの野郎、やってくれやがったなぁ!! おかげで放送も聞きそびれたしよぉ!!」

時計は既に六時を過ぎている。つまり彼が眠りこくっている間に放送は終わってしまったのだ。
トレバーのような者が放送を重要視するとは思えないという感想を抱く者は多いだろう。しかし彼は見た目よりもずっと頭が切れる人物だ。
人死んだかという情報や禁止エリアの場所から大方参加者の場所を割り出すことも出来る。もっともその目的はその参加者を殺すことなのだが。

「俺様ぐらいになりゃあ禁止エリアなんかで死ぬようなヘマはしねぇだろうけど、知るに越したことはねぇよな」

酔いが覚めたお陰か冴える頭で思考を巡らせる。
彼の場合、最初のルール説明も聞き逃してしまっている。ざっとは真島から聞いたものの、断片的にしか覚えていない。
力よりも情報を持つ者が勝つ世界なのは彼の住む裏の世界でも同じだ。ならば──

「……さて、駒でも探すかな。待ってろよ、かわい子ちゃん達ィ〜〜!」

そういった情報源は利用するに限る。
先程出会った雪歩のような弱者は力をチラつかせれば簡単に従うだろう。そうでなくてもいくらでも嘘をついて取り込めばいい話だ。

楽しくなってきた──下品な舌なめずりに言いようのない狂気を宿したトレバーは、傍らに落ちていた共和刀を拾い上げアテもない旅に身を委ねた。

【トレバー・フィリップス@Grand Theft Auto V】
[状態]:腹部に軽い刺傷、大きな不快感、興奮、怒り、殺意
[装備]:パワードスーツ(損傷率25%)@METAL GEAR SOLID 2、共和刀@METAL GEAR SOLID 2
[道具]:基本支給品(水1日分消費)
[思考・状況]
基本行動方針:好き勝手に行動する。ムカつく奴は殺す。
1.マジマを筆頭にムカつく奴を殺して回る。
2.使えそうな奴は駒にする。
3.マイケル達もいるのか?

※参戦時期は「Cエンド」でのストーリー終了後です。
※ルール説明時のことをほとんど記憶していません。
※放送の内容を聞き逃しました。

305 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:15:16 ID:MmWUg2AQ0
投下終了です。

306 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:16:05 ID:MmWUg2AQ0
続けてゲリラ投下します。

307夢追い人の────(前編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:18:19 ID:MmWUg2AQ0

──自分に力が無いことなんて分かっていた。

2Bさんもリンクさんも凄く強くて、かっこよくて、この二人と一緒にいれば大丈夫だって心のどこかで安堵していた。
けどそれは甘えでしかなかった。だって現に今、必死に走る私の後ろで2Bさんが命を懸けて戦っているんだから。
2Bさんは強いけど無敵じゃない。アニメや漫画のヒーローなら負けなんてないけれど、これは現実なんだ。もしA2さんが負けてしまったらきっと──殺されてしまう。

「はッ、はッ、は……ッ! げほ、ッはぁ……!」

そんなの嫌だ。
2Bさんは私を守る為に戦ってくれているんだ。私が原因で友達が死ぬなんて絶対に駄目なんだ。
私は確かに弱い。きっとここに呼ばれた人達の中でも遥かに下の立場にいる。

けれど、けれど──!
力が無くても、友達を守ることは出来るはずなんだ!

「私、が……ここにいる、理由は──!」

走る、走る、走る、走る。
来た道を真っ直ぐに走る。
伝えなければならないから。
2Bさんの危機を彼らに伝えられるのは私だけなのだから。




308夢追い人の────(前編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:19:10 ID:MmWUg2AQ0


「──お、おい……大丈夫、なのかよ?」

震えた声の主、久保美津雄。
彼の視線の先にはリンクに上体を起こされ先程完成した回復薬を少しずつ飲まされているザックスの姿があった。
ゆっくりと嚥下を繰り返すザックスはお世辞にも"大丈夫"とは言い難い。けれどその問いから暫く、回復薬を飲み終えた頃にはザックスは歯を見せて笑いこう言った。

「大丈夫だ、元気元気!」

そんなザックスを見て美津雄は呆れたように溜息を吐く。その溜息に安堵のものが含まれていることも知らずに。
グレートでもない回復薬の回復量などたかが知れている。今のザックスの怪我の具合を考えると動くことが出来ない状態から辛うじて歩く事ができる状態になった程度だろう。
勿論そんなことはハンターでもない美津雄には分からず、それを察したリンクも余計な口出しを控えザックスの笑顔を崩さぬようにしているのだから彼の空元気を指摘出来る者はここにはいなかった。

「とりあえず、今できることはした。他にも薬がないか探したいけれど、君達を置いていく訳にはいかない。2B達が戻ってくるまで辛抱してくれ」
「……そ、そうか、わかった。聞いたかザックス!? お前、絶対安静にしてろよな!!」
「はいはい……ったく、耳元で怒鳴らなくたって聞こえてるよ」

リンクという頼れる大人から指示を受けた為か、ザックスに怒鳴り散らす美津雄にはどこか生気と希望が宿っていた。
まだ問題は山積みだ。さっき走り去って行ってしまった雪歩のこともあるし、その原因を作ってしまったのは自分にある。
状況が状況だったとはいえ、あの時の美津雄は冷静じゃなかった。リンクやザックスが自分に対してそうであったように、まずは落ち着いて話をしなければならない。
今まで自分中心に世界が回っているという思考を持っていた美津雄がそんな風に省みる事が出来るのはひとえにザックスとの出会いに他ならないだろう。

309夢追い人の────(前編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:20:08 ID:MmWUg2AQ0

「ザックス」
「んー?」
「ああ、その……えーっと……あ、ありがとな。庇ってくれて」

それは美津雄の口が初めて紡いだ感謝の言葉だった。
他人に感謝するなんて考えたこともなかった。そんな機会も二度と訪れないと思っていたし、そうならないように生きるつもりだった。
ゆえに彼がそれを発するには彼が思う以上の勇気が必要で、それを言い切っただけでも言いようのない感情がせりのぼり泣きそうになった。

「はは、ガラじゃねぇな」
「なっ……お前なぁ!!」

しかしそれは半笑いで返される。
思わぬザックスの反応に赤面しながら怒りをぶつける美津雄。そんな彼と目線を合わせたザックスは静かに、けれど感情の隠せぬ声色を風に乗せる。

「けど、嬉しいぜ。 まさか美津雄からそんなこと言われるなんてな」
「え……いや、まぁ……こんな状況なんだから、仕方ないだろ」
「照れるなって。可愛いやつだな〜」

相変わらずふざけた口調を崩さないザックスに美津雄は再びなんとも言えぬ表情を作り、すぐにむくれたように顔を背ける。
そんな彼らのやり取りをどこか微笑ましく思いながらも、リンクの心中は不安に溢れていた。

310夢追い人の────(前編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:20:45 ID:MmWUg2AQ0

(……2B達、遅いな)

2Bが雪歩を追ってから決して短くはない時間が経過している。杞憂で終われば良いが、どうにも嫌な予感が拭えない。
果たして自分はこうしていていいのか?
何度目になるかも分からない疑問に突き動かされ、休息を拒む身体に従い立ち上がったその時。

「──リンクさんッ!!」
「雪歩!?」

2Bが向かった先からまるで入れ違ったかのように此方へ走り寄る雪歩の姿が映る。
その様子はとても穏やかなものではない。こんな時、勘のいい自分をリンクは恨んだ。

「助けて……ください……!! 2Bさん、がっ、2Bさんが……っ!!」
「──!!」

事情も聞かず、状況が未だ掴めず困惑する美津雄とザックスを置いて雪歩の元へ駆けるリンク。
2Bに何かあったのだということは察した。そして雪歩の必死な様子からして自体は深刻、一分一秒すら無駄にすることは出来ない。
しかしリンクの脳に一瞬の迷いが生じる。その原因は彼の向けた視線の先にあった。

「リ、リンク……何があったんだよ?」

震えた声でそう聞く美津雄の顔は恐怖に歪んでいた。当然だ、雪歩が戻ってきたということは近くに危険人物がいるということ。
もしリンクがここを離れたら美津雄と瀕死のザックスを守る存在はいなくなる。それはつまり二人を危険に晒すということだ。
目に映るもの全てを守るつもりで生きてきた英傑は足を止める。しかしその背中を押すようにザックスが穏やかな顔付きでリンクと視線を交わした。

「行け、兄ちゃん。大丈夫だ、こいつは俺が守るからよ」

なっ──と驚愕の声を上げる美津雄。
一切冗談の混じらない本気の言葉にリンクは迷いを捨て、強い頷きと共に雪歩の手を引いて山岳地帯へと奔走する。遠ざかる背中に美津雄は焦燥を、ザックスは安堵を覚えた。




311夢追い人の────(前編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:21:36 ID:MmWUg2AQ0


戦況は絶望的だった。
一度打ち合う度に2Bは思い知らされる。自分はこの男には勝てないと。
アンドロイドを凌ぐ怪力と二メートルに達する得物のおかげで打ち合いという体裁を成すことでさえ精一杯だ。
刀身が衝突し、刀が手元から離れないように柄を握り直す。これが先程から何度も何度も続いている。
拮抗の糸はとっくに解けている。そうして遂にギリギリの綱渡りは終わりを迎えた。

「──ッ!!」

幾度と打ち合い限界を迎えた手から陽光が弾き飛ばされ、続く二振り目で右の太腿を深く斬りつけられた。
舞う血飛沫と火花に力が抜けるのを感じ、右足から崩れ落ちる。しまった、と思う頃にはもう遅かった。
理不尽じみたリーチは2Bの間合いの遥か遠くからでも届いてしまう。仮に今の状態で逃げに徹しても両断されるのがオチだろう。
正宗を持ち直し振りかぶる死神、カイムの狂喜が鮮明に映し出される。次の瞬間には首が飛んでいるだろう。

(──ごめんなさい。雪歩、リンク……9S)

そうして振り下ろされるはずの刃はその役目を果たさずに終わる。
その原因を目にした2Bはまさかと驚愕の表情を宿し、今しがたカイムの手を打ち抜いたブーメラン状の枝が半円を描きながら持ち主の手に収まるのを目で追う。
木漏れ日に民主刀の白光を際立たせ、疾風のようにカイムと2Bの間に割り込む金髪の青年。思わぬ乱入にカイムの表情が警戒のものへと変わった。

「リンク……!?」

2Bの声と同時、リンクの振るう剣戟によりカイムが後方へと飛び退く。
互いに間合いの外へと出た状態。殺意を滲ませるカイムの睥睨に決意を込めた双眸を返しながらリンクは高らかに宣言した。


「お前の相手は俺だ」



【D-2 山岳地帯/一日目 朝】

【リンク@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:胸上に浅い裂傷、決意
[装備]:民主刀@METAL GEAR SOLID 2、デルカダールの盾@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて ブーメラン状の木の枝@現実
[道具]:基本支給品(残り食料5/6)、ナベのフタ@現実 残ったアオキノコ×2
[思考・状況] :ゼルダはどうしているだろう?
基本行動方針:守るために戦う。
1.2Bを守る。
2.美津雄、雪歩を守る。
3.ゼルダや他の英傑に関する情報を探す。
4.首輪を外せる者を探す。

※厄災ガノンの討伐に向かう直前からの参戦です。
※ニーアオートマタ、アイマスの世界の情報を得ました。
※美津雄の調合所セット(入門編)から薬に関する知識を得ました。

【ヨルハ二号B型@NieR:Automata】
[状態]:両腕に銃創(行動に支障なし)、右太腿に深い裂傷、決意
[装備]:陽光@龍が如く 極
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破壊。
1.リンク……!?
2.D-2、765プロへ向かう。
3.雪歩を守る。
4.首輪を外せる者を探す。9S最優先。
5.遊園地廃墟で部品を探したい。

※少なくともAルートの時間軸からの参戦です。
※ルール説明の際、9Sの姿を見ました。
※ブレスオブザワイルド、アイマスの世界の情報を得ました。

【カイム@ドラッグ・オン・ドラグーン】
[状態]:ダメージ(小)、魔力消費(中)
[装備]:正宗@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品 エアリスの基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、マナを殺す。
1.目の前の敵を殺す。
2.自分よりも弱い存在を狙い、殲滅する……つもりだったが?
3.雷を操る者(ウルボザ)のような強者に注意する。
4.子供は殺したくない。

※フリアエがマナに心の中を暴かれ、自殺した直後からの参戦です。
※契約により声を失っています。
※正宗に自分の魔力を纏わせることで、魔法「コメテオ」が使用できます。




312夢追い人の────(前編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:22:18 ID:MmWUg2AQ0

(リンクさん、2Bさん……)

カイム達が居る場所から少し離れた茂みの中、そこには震える身体を懸命に縮める雪歩がいた。
2Bの元へリンクを連れていくという役目を終えた雪歩は当然戦いの場に赴くような真似はできない。ゆえにここで待機するように、とリンクから指示された。
幸い緑の多いこの地帯で、茂みの中ならばそう簡単に見つかることはないだろう。リンク達の状況を確認できない不安やもし見つかってしまった場合の恐怖を考えるとキリがないが。

(きっと、大丈夫……ですよね……?)

それでも雪歩は信じる。
すぐにまたリンクと2Bが自分を迎えに来てくれると信じている。
そうすることが彼女にとっての戦いなのだから。

そんな彼女の腰元にて、提げられた赤と白のボールが揺れる。
まるで自分の活躍を待ち望むかのように。


【D-2 山岳地帯 離れの茂み/一日目 朝】

【萩原雪歩@THE IDOLM@STER】
[状態]:不安、恐怖
[装備]:モンスターボール(リザードン)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー
[道具]:基本支給品、ナイフ型消音拳銃@METAL GEAR SOLID 2(残弾数1/1)
[思考・状況]
基本行動方針:自分の無力さを受け止め、生きる。
1.D-2、765プロへ向かう。
2.2Bとリンクへの信頼。
3.協力してくれる人間を探す。他に765プロの皆がいるなら合流したい。

※ブレスオブザワイルド、ニーアオートマタの世界の情報を得ました。

【モンスター状態表】
【リザードン ♂】
[状態]:健康
[特性]:もうか
[持ち物]:なし
[わざ]:エアスラッシュ、フレアドライブ、りゅうのはどう、ブラストバーン
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.そろそろ暴れたい

313夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:23:03 ID:MmWUg2AQ0





「お、おいザックス……」

行かせてよかったのか。そう喉まで出かかったところで美津雄は言葉を呑み込んだ。
事態の優先順位を考えればリンクを行かせるのは当然なのだろう。それでも自分達が危険な目に遭遇した場合のことを考えると恐怖で体が震える。

「心配すんなって。言っただろ、お前は俺が守るって」
「つ、強がり言うなよ! お前だってそんなボロボロなんだから、戦えるわけないだろ!」
「大丈夫、俺はそんなヤワじゃねぇよ」

半ば意地になっている美津雄の制止も虚しく、まともな休息も得ないままザックスは立ち上がる。
怪我の具合を考えればそれだけで辛いはずなのだ。座るように促そうとした美津雄の行動はしかし叶わずに終わることとなる。


「──あんたらもそう思うだろ?」


え、という美津雄の声を空を切る音が掻き消す。
呆ける美津雄の額に飛来する透き通った氷刃を目にも止まらぬ速さで打ち落とし、ザックスはその飛来源へと睨みを利かせる。

「まさか気付かれていたなんてね」

古いコンクリートビルの陰から姿を現す二人組の女性。朝陽を浴びてくっきりと顔を映し出す彼女らの表情はひどく冷淡で、美津雄は「ひっ」と情けない声を漏らし腰を抜かした。

「いつから気付いていたの?」
「生憎と殺気には敏感なんでね。リンクが行ったタイミングで仕掛けて来ると思ったけど……当たっちまったか」
「……そう、そこまで分かっているのね」

長い黒髪を縛ったスレンダーな女性、マルティナは目を伏せる。出来れば一瞬で終わらせたかったが、この男がいる限りそれは叶わないだろう。
ザックスの容態は見るからに重傷だ。それでもこれ程の闘志を燃やせる人間には──全力で掛からなければならない。

314夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:23:37 ID:MmWUg2AQ0


◆ ◆ ◆

「──反応してる、しかも三つ。更にもう一つがそっちの方向に向かってる」
「そんなに?」

時は少し遡る。
橋を南下する途中、ミリーナは自身の──正確に言えば天海春香の支給品を取り出した。
ストップウォッチのような形状のそれは、説明書を見る限り範囲内の参加者の首輪に反応し居場所を知らせる装置らしい。
一度使用したら一時間のクールタイムが必要らしいが、橋を渡っている最中に襲撃されれば無傷では済まないと安全確認の為に使用したものだった。

しかし、その安全確認は予想外の結果を得た。
一つの場所に計四つの反応。これは言わずもがな集団を築いているということだろう。
そして考える限り、これほどの集団を築くのは甘い考えを持った対主催の存在しか当てはまらない。

「……これは、上手くいけば使えるかもしれないわね」
「使える……?」
「さっき言ったでしょう、人質を取るって。これだけ集まっているのだから一人くらいは春香のような一般人が居てもおかしくないわ。……暫く様子を伺って、隙を狙えば大人数が相手でも立ち回れるはずよ」

それに、貴方の言うイレブンが見つかるかもしれないしね。そう付け加えるミリーナにマルティナは唖然とした。
マルティナは良くも悪くも真っ直ぐな人間だ。ゆえにこの殺し合いでもミリーナがいなければ出会った者と真っ向から戦い、殺害するという手段を取っていただろう。
改めて"殺し"に懸けるミリーナの本気を見せ付けられたような気がして、マルティナはそれに頷くことしか出来なかった。

「攻めるにしても逃げるにしても判断は迅速にしましょう、ミリーナ」
「ええ、そうね」

人数はこちらの二倍。危険も相応。
しかしこんな甘い蜜を前にして、ミリーナ達は北上という選択肢を取る他なかった。


◆ ◆ ◆

315夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:24:13 ID:MmWUg2AQ0

「ミリーナ、瀕死だからって油断しないで。あの男は危険よ」
「言われなくてもわかってるわ。……雪風をあんなに簡単に防がれるなんて」

光鱗の槍を構え直すマルティナに続き、ミリーナも術技を放つ準備をする。
明確に向けられる殺意。貴音の時よりも濃密なそれを前に美津雄はひたすら絶望することしか出来ず、ばたばたと地を這う形でザックスの裾を引いた。

「に、逃げようザックス!! このままじゃ、こ、殺されるって!!」
「美津雄、お前はそこでじっとしてろ。……そんで、俺の活躍をよーく見とけよ」
「な、何言って……なんで、なんでそうまでして戦おうとすんだよ!!」

美津雄の反論もそのままにザックスは一歩、ミリーナ達の方向へ踏み出す。
重傷の身でありながら微塵も退く様子を見せないザックスに威圧され、ミリーナは顔を顰めた。

そして、ザックスは静かに巨岩砕きを顔の前に掲げ祈るように目を閉じる。
なにかの詠唱かと警戒するミリーナとマルティナをよそに、彼の思考は過去を辿っていた。

(お前ならこうするよな、アンジール)

思い浮かぶは自身に全てを託した仲間の顔。
夢も、誇りも、それらを受け継いだ自分は彼の背中を追い続けなければならない。追いつかないと知っていても、ずっと。
この剣はアンジールのものではないけれど、何となく分かる。この剣の持ち主は強い意志と優しさの持ち主だと。
なら、この剣に"誓う"のも悪くない。

316夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:24:55 ID:MmWUg2AQ0



「────夢を抱き締めろ。そしてどんな時でも、ソルジャーの誇りは……手放すなぁっ!!」


英雄の道は険しく、遠い。
だけど絶対に足は止めない。

「いらっしゃいませぇぇぇぇ!!!!」

後ろで美津雄がザックスの名を叫ぶ。
けれど止まらない。目の前の敵を手厚く出迎えなければならないのだから。

「雪風!」

自身の全力よりも遥かに速く向かってくるザックスにミリーナが術を放つ。氷の結晶が刃となりザックスの身体を貫かんと迫るが、それは巨岩砕きの一振りに砕け散る。

「鏡陽! 花霞!」

一つで駄目ならば数を増やせばいいとばかりに光の粒子を放射状に、飛び上がり花の粒子をそれぞれ五つずつ放つ。
高速で飛来するそれらを大剣で叩き落とすが、それでも全てに対処する事は出来ずザックスの身体に痛々しい裂傷が亀裂のように走る。
だが止まらない。

「っ……ウィンドカッター! シェルブレイズ!!」

地面から生える風の刃がザックスの足を傷つけ、炎の塊が腕を焦がす。それなのに彼は足を止めないどころか、僅かにもスピードを緩めない。
今までミリーナが放った術は敵を怯ませる為の小手先の技でも、ましてや瀕死の相手への牽制の技でもない。明確に殺意を伴い、無傷の人間を殺す技なのだ。

(なんで……っ!? なんで止まらないの!?)

だからこそミリーナは恐怖する。
今にも倒れそうなほどの傷を負った人間が自分の術をまともに受けながら向かってくるなんて初めてだ。
未知は脳から冷静さを奪い取る。遂に肉薄を許されたミリーナは咄嗟に迎撃しようと近接の術技に頼った。

「舞かぐ──」
「悪ぃな」

ドンッ、という衝撃がミリーナの首元に走ったかと思えば彼女の意識はそこで闇に落ちた。
もし彼女に記憶があるのならば、手負いのザックスに自分が加減されるという屈辱的な光景が目に焼き付けられただろう。彼は剣ではなく、手刀で彼女を沈めたのだから。

317夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:26:00 ID:MmWUg2AQ0

「ザックス!! 危ない!!」
「──っ!!」

瞬間、ザックスの脇腹を狙い鋭い刺突が放たれる。
美津雄の注意によりなんとか身を捻り回避するも、傷に響き灼熱のような激痛が迸った。

「敵は一人じゃないということを忘れないで」
「……ああ、そうだったな!!」

体制を立て直し刺突の主、マルティナと向き合うザックス。
今のザックスに時間は残されていない。ゆえに力任せの斬撃をマルティナに放つ。万全な状態ならまだしもこの攻撃を躱せないほどマルティナは落ちぶれていない。

油断はしていなかった。
けれどここまでの力を発揮するとは思っていなかったのが事実だ。この男は今、全力で潰さなければならない。
ミリーナを使って彼の力量を測ったからこそそう断言出来る。
出し惜しみしている暇はない。一撃で倒せる技を放つ──!



「──雷光一閃突きッ!!」



回避から流れるように穂先をザックスの方へ定め、雷光の如く迸る一突きが大気を抉る。
それは正確に、無慈悲に、ザックスの腹部を貫いた。

318夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:26:40 ID:MmWUg2AQ0

「ザックスーーーーーー!!!!」

美津雄が雄叫びを上げると同時、マルティナは心の中に湧き上がる罪悪感を振り払うかのように槍を引き抜こうと力を込める。

「……え」

しかし、引き抜くことはできなかった。
見れば既に死んだはずのザックスが槍の柄を掴んでいた。それだけで十分にゾッとしたが、信じられないのはその握力。
ピクリとも動かない。槍を手放すという選択肢がマルティナの脳に浮かぶよりも先に、顔を上げたザックスと視線が重なった。

「おわらせ、ねぇ……」

命の灯火を瞳に燃やす彼は、まだ──死んでいない。

「あいつの、ゆめは……おわらせねぇ……!!」

瞬間、マルティナの全細胞が警鐘を鳴らす。
体が金縛りにあったかのように動かない。
未来予知などというふざけた芸当ができるわけではないが、自分の運命が鮮明に見えたような気がした。
それは今まさにマルティナを討たんと巨岩砕きを横に構えるザックスが訴えている。マルティナは逡巡の中で走馬灯のように記憶が想起されるのが分かった。


『灰色の心じゃ、オレの速さにはついてこれない』


ああ、そうか。
白にも黒にも染まれない、中途半端な心の末路がこれか。
眩しいぐらいの白の心を掲げる目の前の男に負けるのは当然なのかもしれない。

(────けれど、私は……!!)

死ぬわけにはいかない。
彼を助けるためにも今死ぬわけにはいかないんだ。
灰色の心で敵わないのならば完全な黒に染まろう。そうでなければどちみち、未来などないのだから。

319夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:27:23 ID:MmWUg2AQ0


「私だって────貴方のようになりたかった!!」


涙を瞳の縁に溜めながらザックスへ、もう二度と叶わない夢を言い放つマルティナの肌が薄青紫色に染めあがる。
心の黒を表現するかのような衣装を身に纏ったまま、デビルモードにより上昇した腕力に縋り遂に光鱗の槍を引き抜いた。
それでもザックスの攻撃は止まらない。反撃を諦めたマルティナは槍を盾代わりに防御の姿勢を取った。

「うおおおおぉぉぉぉぉ────ッ!!」
「──あああああぁぁぁぁぁッ!!」

衝突。瞬間、衝撃波が辺りの瓦礫を浮かす。
互いの喉から咆哮がのぼる。或いは守る為に、或いは殺す為に。絞り出した声を余すこと無く力に変える。

光鱗の槍と巨岩砕き──それらの武器は共鳴し合うかのように輝きを放つ。
遠い世界に住む英傑の愛武器同士の競り合い。どちらも業物でありその質に一切の優劣はない。

けれど、先に亀裂が走ったのは光鱗の槍だった。

それは武器のせいではない。英傑の武器は等しく業物なのだから。
考えられるとすれば持ち主の覚悟の差。
目に見えぬそれが形となり、拮抗の糸を断ち切ったのだ。

320夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:29:15 ID:MmWUg2AQ0


一瞬、辺りが無音に包まれる。
少し遅れてマルティナの体が砲弾のような勢いで吹き飛ばされ、崩れる瓦礫の山に埋もれた。


勝利を収めたザックスは糸が切れた人形のように仰向けに倒れ込み、青い空を見上げる。
もう殆ど目が見えなかったが、太陽の眩しさはよくわかった。

「ザックス……ザック、ス……!!」
「……よぉ、美津雄……怪我、ねぇか?」
「ああ、ああ!! オレは、大丈夫……だよ。ザックスが、守ってくれた……から、……」

太陽を覆い、ザックスの顔を覗き込む美津雄の顔は涙でぐしゃぐしゃに歪んでいた。
ぼんやりとしか見えなかったが、声の震え方でわかる。ザックスはひどく穏やかに微笑んで、美津雄の頭を抱き寄せた。

「ザッ、クス……? なに、してんだよ!! 早く、治療しなきゃ……!!」
「……ダメだ」
「なんでだよ……!! なぁ、頼むから死なないでくれよザックス!! 守ってやるって言っただろっ!? 約束、破るのかよ!?」

堰を切ったように浮かぶ限りの言葉をぶつける美津雄。それに対してザックスは少しだけ困ったように笑った。

「ごめんな」

息が詰まる。
違う、こんな言葉が聞きたかったんじゃない。
自分はまだザックスに何も返せていない。
最後まで我儘を突き通そうとする自分が酷く惨めに思えて、美津雄は嗚咽を繰り返すことしか出来なかった。

321夢追い人の────(後編) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:30:23 ID:MmWUg2AQ0

「なぁ、美津雄……お前、夢ってあるか?」
「ないよ、そんなのない……!! オレには、なんにもないんだ……」
「そっ、か」

嘘でもあると言うべきだったのかもしれない。けれど、ザックスの目を見ると嘘をつくことなどできなかった。
夢なんてなかった。ただ空っぽの毎日を送り藻掻くように生きてきて、夢を見る余裕なんてなかった。
いつからか、自分はそんなものには囚われない自由な人間なんだと言い訳をするようになってしまったんだと思う。

「オレには……夢を持つ、資格もないよ……」
「ばー、か。夢を、持つのに……資格、なんて、いらねぇよ」

そっ、と頬を撫でられた。
ザックスの手はとても冷たかったけど、なぜか撫でられた頬がとても暖かく感じる。
段々と光を失っていくザックスの瞳と視線が重なる。背けたくなるほど真っ直ぐなそれを、同じように見つめ返した。


「夢を持て、美津雄。そしたらちっとは、世界が楽しく見えるかもしれないぜ」


頬を撫でる手が落ちる。
ザックスはゆっくりと目を閉じて、そのまま……死んだ。

「あ、あ……あぁ……!!」

ボクは────オレは、
その時初めて、大切な人を目の前で失う辛さを知った。

「うああああああぁぁぁぁ──っ!!!!」

堪えていた涙が溢れる。
息が苦しい。喉から苦いものが込み上がる。
オレはただ憎らしいくらい晴れた空を見上げて──泣いた。




322夢追い人の遺しもの ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:31:08 ID:MmWUg2AQ0

「……ぐっ、……」

一体どのくらい気絶していただろうか。
はっきりとしない意識のまま、イクスを助けなければというはっきりとした目的のままに身体を起こす。
状況把握のために辺りを見渡せば、そこには大剣を背負っていた男の遺体に縋り泣く少年の姿があった。
マルティナの姿が見当たらない理由は分からないが、あの大剣の男を殺したのは彼女だろう。

「あの、男……よくもやってくれたわね」

あの大剣の男は強かった。瀕死の身であれなのだからもし万全な状態だったら、と考えるだけでおぞましい。
そしてその脅威も消失した今、あの無力な少年を人質として利用するのは簡単な事だった。
ザックスという頼れる人間が死んだ今、彼は自分達に従うしかないだろう。少なくともミリーナはそう確信しながら、美津雄達の元へ近寄った。

「──来るなぁッ!!」
「っ……!?」

予想だにしない怒号と向けられる銃口がミリーナの足を止める。
何故──あの少年は春香と同じくなんの力もないはずだ。それなのにどうして立ち向かおうとするのか。
あの少年だって勝ち目がないと分かっているはずだ。現に、がたがたと震える銃口がそれを物語っている。

323夢追い人の遺しもの ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:32:00 ID:MmWUg2AQ0

「それ以上──"俺達"に近寄るんじゃねぇッ!!」

ああ、そうか。
ミリーナは美津雄への認識を改める。この少年はもはや人質として利用は出来ないだろう。どう脅したところできっと自分には従わない。

「……悪いわね。一瞬で終わらせるわ」

ならばもう、殺すしかない。
美津雄に利用価値の無くなった今、彼はただの殺すべき参加者に過ぎないのだから。
春香を殺したものと同じ花霞を放つ予備動作を見せる。銃声と共に放たれたエネルギー弾がミリーナの遥か横を過ぎ、彼女の術を止めるには至らなかった。



イレギュラーが入るまでは。


「────マルティナ?」


今まさに術を放たんとするミリーナの腕を、ボロボロになったマルティナが掴んでいた。
一体いつの間に、そんな疑問よりも先に何故止めるのかという怒りにも近い感情が浮かぶ。
マルティナは静かに首を横に振り、ぽつりと紡ぐ。

324夢追い人の遺しもの ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:33:42 ID:MmWUg2AQ0

「退きましょう、分が悪いわ」
「な……」

マルティナの言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
本気で言っているのか。そう問い詰めたくなるも美津雄を見つめるマルティナの横顔は真剣そのもので、どこか威圧的に感じる。
まるで自分が意見するのを拒むかのような雰囲気を前に、ミリーナは苦い顔で一つだけ訊ねる。

「貴方の覚悟はそんなものなの?」

マルティナは言葉を返さない。
そのまま続く静寂こそが回答なのだと判断したミリーナは呆れたように踵を返す。ここで無理に美津雄を殺し、マルティナと敵対するのは避けたいと考えたからだ。
そしてミリーナに新たにマルティナをいつか切り捨てるべきだという考えが浮上したのは言うまでもない。マルティナだってそれを覚悟の上で撤退を選んだのだ。

結果をいえば、マルティナはザックスに勝った。けれどそれはマルティナ本人の意志を無視した結果の話だ。
もしあの一撃を槍の防御で軽減出来ていなければ自分は死んでいただろう。ゆえにマルティナからすればあの勝利は仮初のものだと言える。

ならば、美津雄を見逃したのは敗北したからなのか?
勝者に対して敗者が逆らう事は許されない、そんな弱肉強食の思念の為なのか?

いいや、違う。
重ねてしまったのだ。死も顧みずに美津雄を護り抜いたザックスの姿を。
赤ん坊のイレブンを己に託し、魔物の囮となる道を選んだエレノア王妃と。

今のマルティナにはどうしてもそれを────夢追い人の遺しものを殺す事が出来なかった。

「…………」
「な、んだよ……早くどっか行けよ!!」

美津雄の姿を一瞥し、既に離れたミリーナを追ってマルティナがその場を去る。

これまでだ。
灰色の心でいるのはこれで最後だ。
次は完全な黒となり、誰であろうとも容赦なく殺す。




────決意、あらたに。




【ザックス・フェア@FINAL FANTASY Ⅶ 死亡確認】
【残り49名】

【D-2/市街地(西側)/一日目 朝】
【ミリーナ・ヴァイス@テイルズ オブ ザ レイズ】
[状態]:首筋に痣、TP消費(小)
[装備]:魔鏡「決意、あらたに」@テイルズ オブ ザ レイズ、プロテクトメット@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品×2、不明支給品0~2、首輪探知機(一時間使用不可)@ゲームロワ
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する
1.マルティナと共に他の参加者を探し、殺す
2.春香の友人や、その他の非戦闘員の中から一人、人質を確保する。
3.イレブン以外のマルティナの仲間を、マルティナに殺させる
4.マルティナを切り捨てることも視野に入れる。

※参戦時期は第2部冒頭、一人でイクスを救おうとしていた最中です。
※魔鏡技以外の技は、ルミナスサークル以外は使用可能です。
※春香以外のアイマス勢は、名前のみ把握しています。

【マルティナ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、左脇腹、腹部に打撲
[装備]:折れた光鱗の槍@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、キメラの翼@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
ランダム支給品(1〜0個)
[思考・状況]
基本行動方針:イレブンと合流するまでミリーナと協力し、他の参加者を排除する。
1.心を黒に染める。
2.カミュや他の仲間も殺す。

※イレブンが過ぎ去りし時を求めて過去に戻り、取り残された世界からの参戦です。イレブンと別れて数ヶ月経過しています。

【支給品紹介】
【首輪探知機@ゲームロワ】
天海春香の支給品。
大きなストップウォッチのような見た目をしており、半径500m以内にある首輪を表示する。
一度使用すれば一時間のクールタイムが必要。

325夢追い人の遺しもの ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:34:12 ID:MmWUg2AQ0




「はぁ……っ! はぁ……!」

あいつらが居なくなったあと、オレは安心してへたりこんだ。
殺されるかと思った。あの時は必死だったから勝手に体が動いたけど、今になって恐怖がやってくる。

死ぬのが怖いんじゃない。
ザックスが遺してくれた言葉を叶えられないまま終わるのがたまらなく怖かった。

オレは、あいつの生きた証だから。
オレが死んだらザックスの最期を語れる人間が居なくなってしまうんだ。

そんなのは────絶対にダメだ。

オレが生きて、夢を見つけて、ザックスを安心させなきゃいけない。
きっとそれが、今オレのやるべき事なんだ。

「ザックス、オレ……夢を探すよ。お前に負けないくらい、大きな夢をさ」


だから────もう少しだけ泣かせてくれ。

【D-2/市街地(西側)/一日目 朝】
【久保美津雄@ペルソナ4】
[状態]:疲労(大)、悲しみ、決意、雪歩がいなくなったことへの罪の意識
[装備]:ウェイブショック@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品(水少量消費)、ランダム支給品(治療道具の類ではない、1〜2個)、調合書セット@MONSTER HUNTER X
[思考・状況]
基本行動方針: 夢を探す。
1.ザックス……。

※本編逮捕直後からの参戦です。
※ペルソナは所持していませんが、発現する可能性はあります。
※四条貴音の名前を如月千早だと思っています。

【全体備考】
※ザックスの支給品は遺体の傍に放置されています。

326夢追い人の遺しもの ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:35:22 ID:MmWUg2AQ0





「──さっきの音の方向は……こっちか?」

市街地を駆ける一陣の風。
厳つい顔に眼帯を携えたいかにもな風貌。もし初対面の人間が彼と出会えば第一印象で殺し合いに乗っていると思ってしまうのは仕方がないことだろう。
現に男も数時間前まではその方針でいたのだが、今彼が足を動かしている理由は別にある。

(今度は泣いとるな……急いだ方が良さそうやな)

Nの城を抜けた真島は特に理由もなく南の方角を目指した。
その途中、建造物が壊れるような激しい音を耳にし明確な目的地を指定した。そうして走っている内に、その方向から僅かに叫喚じみた少年の声を聞く。

「ええい、誰だか知らんが待っとれや!! この真島吾朗が助けたるわ!!」

時間はそう残されていない。
今までの遅れを取り戻すためにも、真島はそう高らかに宣言し美津雄がいる市街地へと急いだ。

【D-2/一日目 朝】
【真島吾朗@龍が如く 極】
[状態]:頭部出血(止血済み)、疲労(中)、焦燥
[装備]:ほしふるうでわ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームをぶっ壊す。
1.音の方向へと向かう。
2.遥を探し出し保護する。
3.桐生を探す(死体でも)。
4.錦山はどうしよか……。
5.雪歩が気がかり。

※参戦時期は吉田バッティングセンターでの対決以前です。
※運営が盗聴していることに気付きました。

327 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 00:35:48 ID:MmWUg2AQ0
投下終了です。
連続ゲリラ失礼しました。

328名無しさん:2021/01/02(土) 08:16:17 ID:/dGG89Cs0
すみません、まだちゃんと読めてないのですが気になったことがひとつ
ミリーナは原作ではTP制でなくCC制だけど、このロワではTP制を適用するということでしょうか

329 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 11:34:08 ID:MmWUg2AQ0
>>328
気付きませんでした。
wiki編集の際にCCの方に修正して頂けると幸いです。

330 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 11:34:21 ID:MmWUg2AQ0
>>328
気付きませんでした。
wiki編集の際にCCの方に修正して頂けると幸いです。

331名無しさん:2021/01/02(土) 16:25:06 ID:KyHpjITc0
>>330
すみません、CC制ってのは連携が途切れれば数秒で0から全快まで自然回復するものなので、そもそも消耗という概念がないのですが…
いわゆる連続で技を繋ぐための気力残値なので、連続で技を使わなければすぐに回復するものです
なので後衛のミリーナにはあまり関係ない要素ではあります
ですから差支えなければwikiのCC消費(小)自体を消しますが、どうしましょうか

332 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/02(土) 16:32:56 ID:MmWUg2AQ0
>>331
それならばそのようにお願いします。
知識不足で申し訳ありません。

333 ◆RTn9vPakQY:2021/01/06(水) 00:12:23 ID:p3DIXM9Y0
皆様投下乙です。
遅れてしまいましたが自分も投下します。

334花と風と ◆RTn9vPakQY:2021/01/06(水) 00:16:17 ID:p3DIXM9Y0
 喫茶店の店内には、二つの影があった。

「……Seriously?」

 マナによる放送を聞き終えたソニック・ザ・ヘッジホッグは、呆然と呟いた。
 十三人もの参加者が命を落としたという情報は、殺し合いの打破を目指す身としてはショックであった。
 放送で知り合いの名前は呼ばれなかったが、そこは問題ではない。
 呆けたように支給された名簿をめくる。テイルスやナックルズといった友達の名前は見当たらない。
 しかし、放送から受けたショックが大きすぎて、とても安堵はできなかった。

「ウソだろ?」

 殺し合いが始まってから、たった六時間。
 その六時間で、ビルディングの一室で殺されていた少女のように、無惨に命を奪われた者が十三人もいる。
 つまり、このバカげたパーティーを勝ち抜こうと目論む者が少なからず出てきているということだ。
 殺し合いを打破するためには、そうした連中を放置しておけない。

「もたもたしてる場合じゃなさそうだ……けどなぁ」

 声に焦りを滲ませながら、店内の椅子に凭せ掛けた少女を見やる。
 如月千早と名乗った少女は、もう一時間以上も目を覚ましていない。
 もちろん息はある。よほど当たりどころが悪かったのだろうか。
 いずれにしても、意識を取り戻した千早に話を聞くまでは、この場を離れられない。
 ――と、最初はそう考えていたが、あまりに時間が経ちすぎた。

「それに、近くに危険なヤツがいるのは間違いないんだ」

 放送が流れる少し前、ソニックは遠くの爆音らしきものを耳にしていた。
 断続的に聞こえたそれは、激しい戦闘が行われていることを示していた。
 すぐにでも駆けつけたかったが、千早を担いだ状態であったため躊躇ってしまい、そうこうしている内に音は止んでいた。
 あの爆音で犠牲者が出ていた可能性も大いにあり得る。
 足踏みすることなく向かっていれば、あるいは――。

「切り替えろ。オレらしくないぜ」

 パシッと軽い音を立てて、両手で頬を叩く。
 過ぎ去ったことを思い返してクヨクヨしている時間はない。

「出遅れたけど、ここから再スタートだ」

 とにかく行動あるのみ。
 友好的な参加者を探して、千早のことを伝える。
 そして、その参加者に千早を保護してもらう。
 その後のことは、そのときに考えればいい。

「それじゃあ行くとするか!」

 喫茶店のドアに付けられた鈴が、チリンと鳴る。
 その瞬間、店内からソニックの姿は消えていた。





 各自の目的のためにエリアを北上していた二人。
 ずんずんと前を歩くエアリス。その少し後ろを大股で追うゲーチス。
 会話らしい会話もない状態のところに、一陣の風が吹いたかと思うと、もう一つの影が現れた。

「よう!アンタら殺し合いには乗ってないな?」
「なっ!?」
「ちょ、ちょっと……あなた、誰?」

 エアリスとゲーチスの二人は、唐突に出現したソニックを前に戸惑いを隠せない。
 人間の言葉を話す青いハリネズミが、いきなり話しかけて来たのだから無理もない。
 なんとゲーチスは、声を上げてからおよそ十五秒制止していた。
 一方、そんな反応も慣れているようで、ソニックは言葉を続けた。

335花と風と ◆RTn9vPakQY:2021/01/06(水) 00:17:24 ID:p3DIXM9Y0
「オレはソニック。ソニック・ザ・ヘッジホッグ。
 この殺し合いを潰すつもりだ。アンタらの名前を教えてくれないか?」
「な、なんだと……?」
「エアリスよ。こっちはゲーチス。
 殺し合いに乗るつもりなんて、ぜんぜんないよ」

 疑問を投げかけるのが精一杯なゲーチスの代わりに、エアリスが返答する。
 レッドXIIIやケット・シーといったメンバーとも一緒にパーティーにいただけあって、エアリスの適応力はゲーチスより高い。

「OK!それじゃエアリス、いきなりだけど頼みがある」
「頼み?」

 ソニックがエアリスたちに伝えたのは、市街地のとある喫茶店に千早という銀髪の少女が気絶していること、千早が殺人に手を染めているかもしれないこと、そして千早を保護して欲しいこと。

「あなたはどうするの?」
「オレは知り合いを探しながら、このパーティーに乗り気のヤツを止める。
 この辺りでドンパチ騒いでいた参加者がいるはずだから、まずはそいつからだ」

 ソニックの発言に、エアリスとゲーチスは思わず顔を見合わせた。
 つい先程まで拘束しており、逃げられた男のことを言っているのだと、二人とも理解した。

「その男なら、さっきまでワタクシたちといましたよ。
 地図にある“カームの街”で暴れていたところを捕らえたのですが、逃げられてしまいましてね」
「ちょうど今、追いかけていたところなの」
「へえ、そりゃ話が速い。どんなヤツだった?」
「不気味な男でしたよ。一言も喋らず、とても長い刀を振り回していました」
「でも……殺さなかったの」
「だから、それはたまたまだと言っているでしょう?」
「うーん……」

 立て板に水とばかりに話すゲーチスに対して、どこか歯切れの悪いエアリス。
 二人の話を聞いたソニックは、グッと親指を立てて宣言した。

「OK、それじゃあソイツをオレが止めてやるぜ」
「その代わりに、ワタクシたちに少女を保護しろとでも?」
「そうしてくれると助かるね。
 正直なところ、千早は人殺しを喜ぶタイプじゃないと思ってる」
「なぜ言い切れるのですか?」

 ソニックを問い詰めるゲーチスの態度を見て、エアリスは眉をひそめた。
 当のソニックは意に介していない様子で、神妙な面持ちをして答えた。

「オレが見つけたとき、震えてたからさ」

 その意見に、ゲーチスは苛立ったように反論を唱えた。

「そんなもの!何の根拠にも……」

 しかし、その反論は途中で遮られた。
 誰あろう、同行者のエアリスに。

「わかったわ、ソニック。喫茶店の場所を教えて」
「な……!?」
「そうこなくっちゃ!」

 嬉しそうに親指を立ててグッドポーズをするソニック。
 それを見てエアリスは微笑みを浮かべ、ゲーチスは僅かに渋い表情を浮かべた。
 そしてまた、一陣の風が吹いた。


【D-2/市街地/一日目 朝】
【ソニック・ザ・ヘッジホッグ@大乱闘スマッシュブラザーズSP】
[状態]:健康
[装備]:スマッシュボール×2@大乱闘スマッシュブラザーズSP
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜1個) 、双剣オオナズチ(短剣)@MONSTER HUNTER X
基本支給品、双剣オオナズチ(長剣)@MONSTER HUNTER X、貴音のデイパック
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルの打破。もたもたしてると置いてくぜ?
1.周辺を探索する。
2.マルティナや長い刀の男(カイム)のような、殺し合いに乗り気の参加者を見つけて止める。
3.千早のことはエアリスたちに任せる。
※灯火の星でビームに呑まれた直後からの参戦です。
※リンクやクラウドやスネークと面識があり、基本的な情報を持っていますが、リンク達はソニックを知りません。でも「こいつスッゲー見覚えあるな…」くらいは感じるでしょう。





 ソニックが走り去った後、エアリスとゲーチスは喫茶店を目指し歩き出した。
 道中の会話は、ごく自然な流れでソニックの話題になる。

336花と風と ◆RTn9vPakQY:2021/01/06(水) 00:20:16 ID:p3DIXM9Y0
「エアリスさん、あのハリネズミの話を信用するのですか?」
「してもいいと思う。嘘をつくような性格じゃなさそうだもの」

 かなりの実力者なのも見て取れたしね、と続けるエアリス。
 ゲーチスは納得できないといった態度を取り、食い下がろうとする。

「しかし……」
「それとも、ソニックが心配していたように、千早って子が誰かに殺されてもいいの?」

 ゲーチスは心中で舌打ちをした。
 そう質問されてしまうと、表向きは対主催者を演じる身としては否定できない。
 適当に会話を濁すと、沈黙しながら歩く時間が続いた。

(まったく、理解に苦しみます。
 会話ができるのは驚きましたが、あれは間違いなくポケモン。
 たかがモンスターごときの意見を簡単に受け入れるなどと……)

 ゲーチスはソニックのことをポケモンだと認識していた。
 これまで姿を見たことがないことから、イッシュ地方には生息しないポケモンであると推測できる。
 自然な会話ができることには驚いた。とはいえ、過去の文献を紐解けば、ポケモンと人間が心を通わせたという例は少なからず存在する。
 所詮は戯言と笑い飛ばしていたが、そこだけは考えを改める必要がありそうだ。

(……いや、そんなことはどうでもいい。
 こんなことをしている時間はないというのに……!)

 一刻も早くNの城に向かいたいゲーチスにとって、少女を保護するために時間をかけるのは望ましくなかった。
 それゆえに、頼みを断る方向へと話を誘導しようと試みたが、あえなく失敗。

(エアリスさん、アナタという人は……。
 利用するとしても、その方法はよく考えなければなりませんね)

 ゲーチスは前を歩くエアリスを、冷ややかな目で見つめた。
 急襲してきたカイムに対して説得を試みたあたりで、驚嘆するほどのお人よしだとは感じていた。
 それと今回の一件を合わせて考えると、ありえないくらいのお人よし、と言えるだろう。
 行動原理は単純であるものの、思い通りに動かせるかどうかは別の話だ。

(とはいえ、新たな手札を得られたのは運が良い)

 ソニックから譲り受けて、懐に収めたモンスターボールをそっと撫でる。
 頼みを聞く条件として、何らかの武器になるアイテムを要求したところ、ソニックがこれを渡してきたのだ。
 中身は時間がなく未確認のままだが、強力な手札であることを祈らずにはいられない。

「あっ、あれじゃない?ソニックの話していた喫茶店」
「外観は一致していますね。ではあの中に少女が?」
「行ってみよう!」

 そうして二人は、喫茶店の店内へと足を踏み入れた。

「……誰もいない?」
「……そのようですね」


【D-2/市街地にある喫茶店/一日目 朝】
【ゲーチス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:ダメージ小、無力感、苛立ち
[装備]:雪歩のスコップ@THE IDOLM@STER、モンスターボール(中身不明)
[道具]:基本支給品、スタミナンX@龍が如く 極
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、野望を実現させる。
0.千早という銀髪の少女を探す?
1.エアリスを利用し対主催を演じる。
2.早くNの城へ行きたい
3.カイムのことはソニックに任せてみる。同士討ちでもすればいい。
※本編終了後からの参戦です。
※エアリスからFF7の世界の情報を聞きましたが、信じていません。
※ソニックのことをポケモンだと考えています。

【エアリス・ゲインズブール@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:ダメージ小、MP消費(小)
[装備]:王家の弓@ゼルダの伝説+マテリア ふうじる@FINAL FANTASY Ⅶ ブレス オブ ザ ワイルド、木の矢(残り二十本)@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:なし(装備品 除く) 
[思考・状況]
基本行動方針:仲間(クラウド、バレット、ティファ、ザックス)を探し、脱出の糸口を見つける。
0.千早という銀髪の少女を探す?
1.カイムのことはソニックに任せてみる。
2.今はゲーチスに付いて行き仲間を探す。もし危なくなったら……。
3.カームの街で、人探し、および黒マテリアの捜索をしたい。
4.ゲーチスの態度に不信感。
5.セフィロス、および会場にあるかもしれない黒マテリアに警戒

【支給品紹介】
【モンスターボール(中身不明)】
ソニック・ザ・ヘッジホッグに支給。中身は未だ確認されていない。



337花と風と ◆RTn9vPakQY:2021/01/06(水) 00:21:28 ID:p3DIXM9Y0
 市街地を歩く四条貴音。その姿は百合の花の如くたおやかだ。
 このような非常時においても、洗練された身のこなしが現れてしまうのは、幼い頃より受けた教育の賜物だろう。
 日に照らされているためか、その顔色も先程までと比べると落ち着いていた。

「私は運が良いのでしょうね」

 ソニックと名乗るハリネズミに嘘を見抜かれて気絶させられたものの、拘束されることもなく喫茶店に放置された。
 おそらく、ソニックにとって貴音よりも優先するべき事象ができたに違いなかった。
 そのお陰でこうして逃げることができたのだから、まず幸運である。

「とはいえ、いささか心細い状態です……」

 支給品はデイパックごと没収され、名簿すら確認できていない。
 この状態で強者に襲われればひとたまりもない、と誰より理解していた。
 いくらか精神が落ち着いてくると、冷静さから生じる恐怖心に苦しめられることになる。
 命のやり取りなど経験したことのない貴音が、思考の悪循環に陥るのも自然の道理であった。

「っ、いけません……」

 自然と目元が潤み、袖口で目元を拭う。
 泣いている余裕はない。行動をしなければ、生き残ることもできない。
 考えるのだ。生き残る道を選んだ上は、最適な行動を取り目的を達成することが本懐。

「それが、地獄への道だとしても」

 決意を新たに、少女は凛と歩き出す。
 しかし、貴音は未だ知らない。そして想像も及んでいない。
 この会場に、貴音に憧憬のまなざしを向ける仲間がいることを。
 その仲間――萩原雪歩――が、すぐ近くのエリアに来ていることを。

「いざとなれば、この手で再び――」

 その言葉は最後まで紡がれないまま、風にかき消された。
 握りしめた小さな果物ナイフが、キラリと陽光を反射した。


【D-2/市街地/一日目 朝】
【四条貴音@THE IDOLM@STER】
[状態]:強い罪悪感、恐怖、不安
[装備]:果物ナイフ@現実
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。どんな手を使ってでも。
1.如月千早の名を驕り、参加者に紛れながら殺していく。
2.春香……!
3.ザックスが生きているかどうか不安
※如月千早と名乗っています。
※ルール説明の際に千早の姿を目撃しています。

【果物ナイフ@現実】
喫茶店の厨房に放置されていた。刃渡り8cm程度の小ぶりなナイフ。

338 ◆RTn9vPakQY:2021/01/06(水) 00:21:46 ID:p3DIXM9Y0
投下終了です。

339 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/06(水) 00:35:57 ID:kfXmtrAU0
投下お疲れ様です。
貴音はソニックという拘束具を失った代わりに、同時に自分を守ってくれる存在も支給品も失ってしまいましたね。
彼女のいるD-2はカイムやマルティナ達がいる激戦区なので先行きが不安です。そして雪歩や美津雄と出会ってしまった際も一悶着ありそうだからなお怖い。
マーダーというスタンスでありながらここまでか弱く、感情移入させられるのは彼女くらいでしょうね。

340 ◆s5tC4j7VZY:2021/01/19(火) 23:17:51 ID:WE0OFxv.0
投下お疲れ様です!
微力ながらお役に立ちたいと思っております。
ウィリアム・バーキン、セーニャ、セフィロスで予約します。

341セフィィィィィロォォォォォス!!! ◆s5tC4j7VZY:2021/01/21(木) 05:46:22 ID:MzJ8M0ic0
完成したので、投下します。

342セフィィィィィロォォォォォス!!! ◆s5tC4j7VZY:2021/01/21(木) 05:51:12 ID:MzJ8M0ic0
「はぁ…はぁ…はぁ…」

走るーーー走るーーー走るーーー

《探せ…》

走るーーー走るーーー走るーーー

《強い力を…》

「うるさいッ!…ですわ…私は…言いなりになど…」

セーニャは走る。そうしないと意識を奪われる気がするからだ。
(先ほどの…銀髪の男…私に…何を…!?)
セーニャは、植え付けらえたジェノバ細胞に必死に抗っている。
(あれは、城…?…一度休憩をしましょうか…)
視線の先に見えた女神の城へ向かったーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

「オォォォオオ……」
うねり声を上げるのはウィリアム。
研究所にてハンターとカミュとの死闘に敗れたウィリアムだが、驚異的な回復力を宿すGウイルスは斃れずに更なる進化を遂げた。

ウィリアムにとってハンターとカミュは執着する対象ではない……
生物としての本能…「生きる」そして繁殖をするために適合候補を探すウィリアムは崩壊した研究所を去り、人がいる場所を目指した。
数刻後、下腹部の刺し傷もすっかり回復したウィリアムは女神の城へ辿り着く。
人の気配を感じ2Fに上がるとウィリアムに視線に映るのは傷を癒すセーニャ。
獲物を見つけたウィリアムが起こす行動は一つーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

「ここなら安全ね…ゔゔッ!?」
城内へ入り、2Fに上がると武器庫に辿り着いた。
傷と頭痛にぐらつくと近くにある手ごろな壁に寄りかかるセーニャ。
ズキンッ!ズキンッ!とジェノバ細胞が存在をアピールする。
「…ゔゔ、たしか…ありましたわ…まほうのせいすいのような効果なの…ね…」
セーニャは支給品の一つ、ハイエーテルの説明書を読んだあと、摂取する。

「〜〜〜〜んはぁああああ💗…メラゾーマ三発分MPが回復した感じですわ…」

度重なる戦闘によりMPが残り少なかったが、程よく回復できたようだ。

「ふふ…・これなら、まだ私は壊すことができる…ふひひひひひひっ……」

「グウオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!」

城内に響き渡る咆哮ッ!!
「ッ!!??何?…はッ!!」
セーニャは咆哮の正体に気付く!!

343セフィィィィィロォォォォォス!!! ◆s5tC4j7VZY:2021/01/21(木) 05:54:56 ID:MzJ8M0ic0
「ほう…」
ジェノバ細胞を通してインプットされたセーニャが休息している女神の城の内部を眺めつつ女神の城へ歩いていた。

「いいだろう…ここなら、クラウドと心行くまで闘うことができるな…」

C-5の代わりとして合格のようだ。
「ん?…あれは…」
どうやら、女は気づいてないようだが、勘が鋭いセフィロスは気付いた。

☆彡 ☆彡 ☆彡

「ッ!?メラゾー…ゔぁッ!?」

「グウオオオオ!!!」
突如現れた化け物にメラゾーマを詠唱するセーニャだが……
詠唱よりも早くウィリアムは跳躍力で近づく!!!
そして、ウィリアムに生えた左肩の鋭い爪がセーニャの右肩を貫くッ!!!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!??」
セーニャの激痛の叫び声……
しかし…

「グウオオオオオオオ!!!???」

セーニャの叫び声だけでない…貫いたウィリアムも叫びだした。

貫いた爪を引き抜くと右肩に生えた腕でセーニャを掴み、セーニャの眼を見つめる。
「…ォォォォ」

「ヒヒ…みんな破壊ですわ…黒マテリア…クラウド…お姉さま…」

「……」
ビュッッ!!!
「ゔえ゛ッ!!??」
なんと、ウィリアムはセーニャの口内に胚を植え付けたのだーーーーー
「ゔェェェェェ!!??」
頭痛が頭の中に響き、吐き気を催すーーーーー

胚を植え付けたのを見届けたウィリアムは掴んだセーニャを放り棄てるーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

2Fから放り棄てられ地面に叩きつけられたセーニャ。
常人なら即死だが、体内のジェノバ細胞とGウイルスの力により命を繋いでいる。

起き上がるとブツブツと独り言を発する。
「強い力…ヴヴヴ…あっち…ね…」

セフィロスに命じられた「強い力を探せ」
それは皮肉にもGウイルスの記憶にあるハンターとカミュを示した。

セーニャは二人の足取りを追う……

【A-6 女神の城周辺/一日目 昼】

【セーニャ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
状態]:HP1/2 右腕に治療痕 右肩負傷(回復中) 頭痛 吐き気  MP消費(小)
[装備]:黒の倨傲@NieR:Automata、星屑のケープ@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1個)、軟膏薬@ペルソナ4
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して世界樹崩壊前まで時を戻し、再び破壊する。
1.ハンター・カミュのいる方角へ向かう。
2.誰の言いなりにもならず、自分の意思で破壊を続ける。
※世界樹崩壊後、ベロニカから力を受け継いだ後からの参戦です。
※ウルノーガによってこの殺し合いが開催されたため、世界樹崩壊前まで時間を戻せば殺し合いがなかったことになると思っていました。
※ザキ系の呪文はあくまで生命力を奪う程度に留まっており、連発されない限り即死には至りません。
※放送は気に留めておらず、名簿を見ていません。
※セーニャの体内のジェノバ細胞によって、セーニャの得た情報は、セフィロスにもインプットされます。
※セフィロスからの精神的干渉を受けています。今のところは自我を保っていますが、何か精神的ダメージを受ければ、セフィロスの完全な傀儡化するかもしれません。
※ジェノバ細胞の力により、従来のセーニャより身体能力、治癒力が向上しています。
※外見は右腕の癒着痕を覗き、少なくとも現在は特に変化はありません。
※体内に胚を植え付けられてGウイルスに感染しました。
※現在はジェノバ細胞の力により適合できています。また、ジェノバ細胞との共存により外見に変化は見られませんが肉体ダメージによりGウイルスが暴走するかもしれません。

344セフィィィィィロォォォォォス!!! ◆s5tC4j7VZY:2021/01/21(木) 05:56:28 ID:MzJ8M0ic0
☆彡 ☆彡 ☆彡

「まだ、利用価値はあるようだ」
よろよろとしながらも強い力を求めて走りだしたセーニャの姿をジェノバ細胞を通して確認した。

「それにしても…知能もないただのモンスターだな。クラウドとは程遠い」

セフィロスにとって強い力とは闘う戦闘力もそうだが、意志の力も重要視される。
ウィリアムはセフィロスにとってただのモンスターにしか価値を見いだせない。

「まぁいい…クラウドとの闘いの前に掃除をしておくか」

セフィロスは悠然と女神の城のウィリアムの元へ向かう。

セフィロスの体内のジェノバ細胞はGウイルスを歯牙にもかけないーーーーー

【A-6 女神の城城門前/一日目 昼】
【セフィロス@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:左腕火傷、服の左袖焼失 高揚感
[装備]:バスターソード@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、武器の類ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:クラウドと決着をつける。 この世界の未知の力を手に入れる。
1.女神の城にいるモンスター(ウィリアム)を掃除する。
2.女神の城でクラウドを待つ。
3.因果かな、クラウド。
4.スネーク(名前は知らない)との再会に少し期待
5.セフィロス・コピーにしたセーニャに、この世界の情報収集をさせる。

345セフィィィィィロォォォォォス!!! ◆s5tC4j7VZY:2021/01/21(木) 05:57:40 ID:MzJ8M0ic0
☆彡 ☆彡 ☆彡

なぜ、ウィリアムはセーニャを殺さなかったのかーーーーーー
答えはセーニャの体内の【ジェノバ細胞】

G生物は驚愕したのだ。
未知なる細胞の強大な力に!!

この女なら適合するーーーーージェノバ細胞を有するセーニャならGウイルスを耐えきると直感したため、ウィリアムはセーニャにGウイルスを植え付けたのだ。

そもそもGウイルスはウィリアム・バーキンの【劣等感】により開発された源である。
恩師であったジェームズ・マーカスをライバルであり友人のアルバート・ウェスカーと共謀して謀殺後、任された幹部養成所再利用計画が頓挫した苦い屈辱。
わずか10歳の少女が南極研究所の主任となって自身が持つ最年少記録を塗り替えられるという嫉妬心。
そんな虚栄心が強く屈折したウィリアムが産みだしたのが【Tウイルス】とそれを上回る【Gウイルス】だ。
【Gウイルス】はウィリアムの研究の極み。

そのウイルスが細胞…他のウイルスに負けてはならぬのだ。
第三形態となり既にウィリアムとしての自我はないーーーーーしかし、セーニャの体内にあるジェノバ細胞がウィリアムの矜持を呼び起こす!!

こうなったら、Gことウィリアムがやるべきことは一つーーーーーー

「セフィィィィィロォォォォォス!!!」

コピーではないリユニオンとしてジェノバ細胞を持つセフィロスをこの身に取り込み更なる進化しかない。

【A-6/女神の城1F /一日目 昼】

【ウィリアム・バーキン@BIOHAZARD 2】
[状態]:G生物第三形態、
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:ジェノバ細胞を取り込み、更なる進化をする
1.セフィロスを見つけ、吸収する。どこまでも追いかけて。
2.セフィロォォォス……。
3.シェエエェェリィィ……。

346セフィィィィィロォォォォォス!!! ◆s5tC4j7VZY:2021/01/21(木) 05:57:55 ID:MzJ8M0ic0
投下終了します。

347名無しさん:2021/01/21(木) 10:52:25 ID:sZjBZMIQ0
投下乙です。
この三人を会わせる時点でやな予感はしていたけど、こんなことになるとは……。
登場回から思っていたけど、もうセーニャ楽にさせてやってくれ……。

348 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/21(木) 15:26:20 ID:INaXB07s0
投下乙です。
やはりウィリアムとセフィロスは戦う運命なんですね。どちらも作品のラスボスであり、凶悪マーダーなので邂逅が楽しみです。
備考がとんでもないことになってるセーニャはカミュ達の元へ向かったようですね。一応精神汚染のラインである体力はクリアしているので、カミュと出会った時の反応がどうなるか。

349 ◆s5tC4j7VZY:2021/01/22(金) 00:34:23 ID:rK3CcAPc0
感想ありがとうございます。
「セフィィィィィロォォォォォス!!!」
ジェノバ細胞を植え付けられたセーニャの方角にはウィリアムがいたので、Gウイルスも追加で!とセーニャには「すまぬ…」と思いつつこのような流れにしました。
G生物のウィリアムの顔の部分をセフィロスに置き換えた姿が天啓というのでしょうか、思い浮かびまして…
闘いの果てにどうなるかは不透明ですが、私もウィリアムとセフィロスの邂逅が楽しみです。

精神汚染のラインである体力はクリアしていたのを見落としておりました。申し訳ございません。
セーニャの台詞を修正したのを投下いたします。

350 ◆s5tC4j7VZY:2021/01/22(金) 00:36:34 ID:rK3CcAPc0
「はぁ…はぁ…はぁ…」

走るーーー走るーーー走るーーー

《探せ…》

走るーーー走るーーー走るーーー

《強い力を…》

「嫌っ!…ですわ…私の目的は……皆様を救うこと……」

セーニャは走る。そうしないと意識を奪われる気がするからだ。
(先ほどの…銀髪の男性は…私に…何を…!?)
セーニャは、植え付けらえたジェノバ細胞に必死に抗っている。
一度は黒の倨傲の黒い衝動により破壊衝動に囚われていたセーニャだがセフィロスとの戦闘中に意識を取り戻した。
(あれは、城…?…一度休憩をしましょうか…)
視線の先に見えた女神の城へ向かったーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

「オォォォオオ……」
うねり声を上げるのはウィリアム。
研究所にてハンターとカミュとの死闘に敗れたウィリアムだが、驚異的な回復力を宿すGウイルスは斃れずに更なる進化を遂げた。

ウィリアムにとってハンターとカミュは執着する対象ではない……
生物としての本能…「生きる」そして繁殖をするために適合候補を探すウィリアムは崩壊した研究所を去り、人がいる場所を目指した。
数刻後、下腹部の刺し傷もすっかり回復したウィリアムは女神の城へ辿り着く。
ウィリアムに視線に映るのは傷を癒すセーニャ。
獲物を見つけたウィリアムが起こす行動は一つーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

「ここなら安全ですね…ゔゔッ!?」
城内へ入り、2Fに上がると武器庫に辿り着いた。
傷と頭痛にぐらつくと近くにある手ごろな壁に寄りかかるセーニャ。
ズキンッ!ズキンッ!とジェノバ細胞が存在をアピールする。
「…ゔゔ、たしか…ありましたわ…まほうのせいすいのような効果なの…ね…」
セーニャは支給品の一つ、ハイエーテルの説明書を読んだあと、摂取する。
「〜〜〜〜んはぁああああ💗…メラゾーマ三発分魔力が回復した感じですわ…」
度重なる戦闘により魔力が残り少なかったが、程よく回復できたようだ。
「……」
一度、休憩に入るとセーニャは装備している黒の倨傲を眺める……
(私は皆さまを救うためにも殺して破壊しなければなりません」
レオン・ケネディを殺めたときにセーニャは自分の進む道をケツイしたのだ。
黒の倨傲を強く握りしめるッ!
「ふふ…これなら、まだ私は壊すことができる…ふひひひひひひっ……なんてね」
しばらく時がたち、セーニャは移動を開始しようとするがーーーーー
「グウオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!」
城内に響き渡る咆哮ッ!!
「ッ!!??何?…はッ!!」
セーニャは咆哮の正体に気付く!!

351 ◆s5tC4j7VZY:2021/01/22(金) 00:38:23 ID:rK3CcAPc0
「ほう…」
ジェノバ細胞を通してインプットされたセーニャが休息している女神の城の内部を眺めつつ女神の城へ歩いていた。
「いいだろう…ここなら、クラウドと心行くまで闘うことができるな…」
C-5の代わりとして合格のようだ。
「ん?…あれは…」
どうやら、女は気づいてないようだが、勘が鋭いセフィロスは気付いた。

☆彡 ☆彡 ☆彡

「ッ!?メラゾー…ゔぁッ!?」
「グウオオオオ!!!」
突如現れた化け物にメラゾーマを詠唱するセーニャだが……
詠唱よりも早くウィリアムは跳躍力で近づく!!!
そして、ウィリアムに生えた左肩の鋭い爪がセーニャの右肩を貫くッ!!!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!??」
セーニャの激痛の叫び声……
しかし…
「グウオオオオオオオ!!!???」
セーニャの叫び声だけでない…貫いたウィリアムも叫びだした。

貫いた爪を引き抜くと右肩に生えた腕でセーニャを掴み、セーニャの眼を見つめる。
「…ォォォォ」
「放しなさい…ゔッ!?黒マテリア…クラウド…お姉さま…」
「……」
ビュッッ!!!
「ゔえ゛ッ!!??」
なんと、ウィリアムはセーニャの口内に胚を植え付けたのだーーーーー
「ゔェェェェェ!!??」
頭痛が頭の中に響き、吐き気を催すーーーーー

胚を植え付けたのを見届けたウィリアムは掴んだセーニャを放り棄てるーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

2Fから放り棄てられ地面に叩きつけられたセーニャ。
常人なら即死だが、体内のジェノバ細胞とGウイルスの力により命を繋いでいる。

起き上がるとブツブツと独り言を発する。
「強い力…ヴヴヴ…カミュさん?…あっち…ね…」
セフィロスに命じられた「強い力を探せ」
それは皮肉にもGウイルスの記憶にあるハンターとカミュを示した。

セーニャは二人の足取りを追う……

【A-6 女神の城城周辺/一日目 昼】

【セーニャ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
状態]:HP1/2 右腕に治療痕 右肩負傷(回復中) 頭痛 吐き気  MP消費(小)
[装備]:黒の倨傲@NieR:Automata、星屑のケープ@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1個)、軟膏薬@ペルソナ4
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して世界樹崩壊前まで時を戻し、再び破壊する。
1.ハンター・カミュのいる方角へ向かう。
2.誰の言いなりにもならず、自分の意思で破壊を続ける。
※世界樹崩壊後、ベロニカから力を受け継いだ後からの参戦です。
※ウルノーガによってこの殺し合いが開催されたため、世界樹崩壊前まで時間を戻せば殺し合いがなかったことになると思っていました。
※ザキ系の呪文はあくまで生命力を奪う程度に留まっており、連発されない限り即死には至りません。
※放送は気に留めておらず、名簿を見ていません。
※セーニャの体内のジェノバ細胞によって、セーニャの得た情報は、セフィロスにもインプットされます。
※セフィロスからの精神的干渉を受けています。今のところは自我を保っていますが、何か精神的ダメージを受ければ、セフィロスの完全な傀儡化するかもしれません。
※ジェノバ細胞の力により、従来のセーニャより身体能力、治癒力が向上しています。
※外見は右腕の癒着痕を覗き、少なくとも現在は特に変化はありません。
※体内に胚を植え付けられてGウイルスに感染しました。
※現在はジェノバ細胞の力により適合できています。また、ジェノバ細胞との共存により外見に変化は見られませんが肉体ダメージによりGウイルスが暴走するかもしれません。

352 ◆s5tC4j7VZY:2021/01/22(金) 00:39:34 ID:rK3CcAPc0
修正の投下終了します。
読み込みが甘く失礼しました。

353 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:46:54 ID:QDRj4hJM0
ゲリラ投下します。

354No One is Alone(第一ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:47:47 ID:QDRj4hJM0

「──ペルソナァ!!」
「無駄だ」

号令と共に繰り出されるスサノオのソニックパンチを虹の刃が受け流す。続くガルダインによる旋風もクラウドは容易く躱し地を滑るように陽介の元へ肉薄する。
鋭い悪寒に導かれるまま後方へ飛び退けば先程まで陽介の顔があった場所を刃が切り裂いた。あまりの威力に空間が陽炎の如く歪んでいるのが目に見える。

(冗談だろ!? あんなもん食らったらひとたまりもねぇ……!)

クラウドは何も技を使っていない。
だというのにまるで異次元な強さだ。
先程から陽介はスキルを使っているのにも関わらずクラウドはただの斬撃でそれらを迎え撃ち、冷徹なまでに対処している。このままではジリ貧だ。

(けど────)

刃を返し追撃を行うクラウドの動きは決して見切れないものではない。オーブと融合する前と比べて洗練さが見られないのだ。
今のクラウドは以前戦った際の歴戦の兵士ではなくオーブの魔力に取り込まれた魔物なのだ。まだ己の力を扱い切れていない。
ならばクラウドがそれに慣れるよりも先に決着を付ければ勝機はある。髪を掠る虹の刃に冷や汗を垂らしながら陽介は龍神丸を横薙ぎに払った。

「頼むぜ、スサノオッ!」
「くッ……」

パリンとカードの砕ける音と共にスサノオの両手から圧縮された空気の螺旋が放たれる。
マハガルーラ──ガルダインより威力は劣るものの範囲の大きなそれは回避などという甘い選択を許さない。
クラウドの体が僅かに風に押される。が、それまで。やはり彼を追い込むには威力が圧倒的に不足している。数秒の足止め程度が限界だ。

「捉えたぜ──ソニックパンチ!!」

けれどその数秒は次の一手を繰り出すには十分な時間だ。
風に紛れたスサノオがクラウドの眼前に躍り出た瞬間、疾風を纏った拳が胸板に突き刺さる。苦悶の顔を見せて数歩後ずさるクラウドの顎へアッパーカットをお見舞いし数センチ分身体を浮かせる。
自由を失ったクラウドに追撃を止める手立てはない。チャクラムによる強烈な斬撃をその身に受けたクラウドはそのまま後方へと吹き飛ばされる。

355No One is Alone(第一ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:48:59 ID:QDRj4hJM0

「はぁ、はぁ……っ、ちったぁ効いたか馬鹿野郎!!」

消耗を物語る息遣いを乗せた叫びがただの願望で終わる事など陽介自身も理解している。現にクラウドは空中で体勢を立て直し、着地と同時に落ち着いた足取りで歩みを進めていた。

「これだけやっても、まだ全然余裕ってか……」
「無駄だと言ったはずだ」
「まだ──わかんねぇだろッ!」

気合いと共にカードを割る陽介だが、その瞳に映る現実はあまりにも無情。命懸けでクラウドに付けた傷は既に塞がり始めまるでダメージが見られない。
吹き荒ぶ暴風を前にクラウドは同じ轍を踏まんとばかりに無視し、風圧をも押し返す勢いでスサノオへと接近する。
真正面からの接近戦となればスサノオに勝ち目はない。素早く身を引くスサノオだが僅かに離れた距離は気休めにもならない。
二撃、三撃と前進を兼ねた斬撃をなんとかやり過ごすも続く斬り下ろしを遂にチャクラムで受け止める形になる。余りの威力にスサノオの足がずんと沈み、チャクラムにピシリと亀裂の線が走った。

「ぐ……お、っもいな……!」

ペルソナが受けた感覚は陽介にも共有される。両腕にかかる重圧が暴力的なまでに強化された彼の腕力を物語っていた。
このままではいずれ押し負ける──しかし逆に言えば今のクラウドは行動を封じられていることになる。弾かれるように飛び出した陽介はクラウドの左側へ潜り込んだ。

「──っ!?」
「俺もいるって忘れんな、よッ!」

競り合いの最中に振るわれる龍神丸の剣戟。止むを得ずチャクラムの刃に沿って滑らせるようにそのまま龍神丸の側面を打ち払う。幸い業物であるため刀身は無事だったが、手に走る痺れに耐えきれず陽介の手から遠くへと離れた。

「っ……普通見切るかよ、これ!?」
「生憎俺は普通じゃない」

確かにそうだったな──なんて悠長な相槌はクラウドの重い蹴りが許さない。咄嗟に両腕で防御したもののそんなの関係ないとばかりに陽介の体が吹き飛ばされた。
言いようのない浮遊感と口の中に交じる鉄の味が一時現実を忘れさせる。地面が身体を打つ衝撃に無理やり意識を引き戻され、痛む身体に鞭打ちなんとか起き上がった。

356No One is Alone(第一ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:50:25 ID:QDRj4hJM0

「くっ、そ……やっぱ、つえぇな……」

クラウドが強いということは戦う前から知っていた。しかしここまで実力の壁が聳えているとは──絶望感さえ覚えかねない状況でも陽介の瞳は輝きを失わない。

足りない、足りないのだ。
ホメロスの加護を受け、戦う覚悟を決めスサノオを覚醒させた陽介を絶望させるには至らない。防戦一方ではあるもののこうして生きていられるのが何よりの証だ。
人間である頃のクラウドが相手ならばきっとこうはいかなかっただろう。

「いくぜ、スサノオぉ!!」

可能性がある限り諦めない。
嵐を象徴する逆巻くスサノオの髪が風圧に逆らえず荒ぶ。再び足止めに成功したのを見ればそれを好機と空を駆け上空からクラウドの脳天へ向けて拳を振り下ろした。



「諦めろ」



可能性というのは残酷で、あっさりとひっくり返ってしまう。
特にそれが闘いにおける勝ち負けならば尚更に。些細な行動一つが決め手となる場合もあるのだ。
それを今、陽介は残酷にも突き付けられる形となる。

「────え?」

スサノオの胸に刻まれた「凶」の文字。虹色の輝きを帯びてはっきりと浮かび上がるそれはやがてスサノオの身体を粒子に変え、遅れてやってくる痛覚が主の陽介に襲いかかる。
耐え難い激痛に声を上げることすら叶わず膝から崩れ落ちた。

357No One is Alone(第一ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:51:31 ID:QDRj4hJM0

いつ斬られたんだ──それにすら気付くことが出来なかった事実に混乱と恐怖が入り交じる。
これがクラウドの技なのだ。今までの通常攻撃とは速度も威力もまるで比にならない。防御も回避も迎撃も、その悉くの可能性を捻り潰す無慈悲なる裁き。

「が、……っ、は……!」

無防備だったスサノオが受けたダメージは大きく、それをそのままフィードバックさせたとなれば立ち上がれる状態ではない。
もがくように地を這いながら辛うじて動く首を動かし視線を地面から地上へと向ければ、そこには処刑人のように悠々と迫る魔軍兵士の姿があった。

「アンタじゃ俺を止められなかったな」

その言葉は聞く者が聞けば勝利宣言と捉えるだろう。
当然だ、この状況下に於いてはそれ以外考えられない。クラウドは敗者に向けて最後の言葉と共に刃を振り下ろす──どこかで見物しているウルノーガもそのシナリオを描いただろう。
けれどただ一人、吃驚に眉を顰める陽介は違った。

「なんだよ、それ……」

陽介の声が震える。
逃れられぬ死の恐怖から? 無力を突きつけられた憤りから?

──否、そのどちらでもない。


「まるで──止めて欲しかったみたいな口振りじゃねぇか」


ぴたり、と。
進むしかなかったクラウドの足が止まる。

358No One is Alone(第一ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:52:44 ID:QDRj4hJM0

「クラウド、お前はやっぱ……心まで魔物になっちまった訳じゃねぇんだな」

震えの理由は"喜び"だ。
どんな姿になってもクラウドの奥底には紛い物ではない、人間の記憶と心が眠っている。それが知れただけで陽介は希望を見いだせた。

「今のお前の目には何が映ってんだ? 俺か? ウルノーガか? ──ちげぇだろ!?」

喉奥から声を振り絞る。
痛くて仕方がない身体を立ち上がらせる。
無防備に陽介の言葉を浴びるしかないクラウドは虚ろな目を僅かに見開いた。

「お前はいつだってエアリスって人を見てた! 心まで完全にウルノーガに染められちまったらそれも見失っちまうんだぞ!? いつか願い事も忘れて、ただ人を殺すだけの怪物になっちまう!! ──そんなの望んじゃいねぇだろ!!」
「────っ、」

陽介の言葉が耳に入る度ノイズのようなものが走り頭痛に苛まれる。暗黒に染まり始めた視界に潜在意識が生み出した記憶の静止画が一枚、また一枚と捲られていく。

「クラウド、アンタは一人じゃなかった……仲間がいたんだ! エアリスだけじゃない、いっぱい……居たんだよ! これ以上見て見ぬふりするんじゃねぇ!!」
「うるさい、黙れ……!」
「黙らねぇ!! アンタが目を覚ますまでな!!」

止まぬ頭痛にクラウドは頭を抱える。明らかに今までの様子と比べて異常だ。仮にも戦闘中であるのにこれだけ大きな隙を晒すなど魔軍兵士としてありえない。
ならば今のクラウドは、人間としてのクラウドなのだろう。

359No One is Alone(第一ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:53:36 ID:QDRj4hJM0

「俺の記憶を見たんなら、花村陽介がどんだけ諦めの悪い人間か分かってんだろ。この戦いは……負けられねぇんだ。自分の為にも、そしてクラウド──あんたの為にも!」
「……なら、今度こそ立ち上がれなくしてやる」
「へっ、上等だぜ……かかってこい!!」

大喝を轟かせる陽介、雑音の源へ飛翔するクラウド。
戦況は決して仕切り直しではない。オーブの力に順応し始めたクラウドと痛手を負った陽介ではまず勝負になるか否かという段階から考えなければならない。
だというのに陽介が怯まないのは唯ひとつのシンプルな理由──男の意地だ。


「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!!!」


──吼える。
例え一歩とて引くことは許されない。
ここで逃げては駄目だ。そんな命を省みないどうしようもないプライドが力を湧かせる。

「来いッ! スサノオぉッ!!」

スサノオを眼前に立たせ迎撃の準備を整える。この一撃を防ぎさえすれば必ずクラウドは隙を見せるはずだ。勝ちを狙うのならばその一点を突くしかない。
可能性など塵に等しい。虹色の刃に付き纏う空間の揺れがそれを正面から受け止めるのがどれだけ無謀なのか物語っていた。

けれど。
それでも。






「────ペルソナッ!!」






奇跡は、起こる。




360No One is Alone(第一ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:54:27 ID:QDRj4hJM0

人は誰しも心の底にもう一人の自分を飼っている。
ペルソナとはそれを実体化させたものである。
己の中の自分を受け入れられる人物にのみ発現を許される、いわば精神力の塊。それを駆使し超常じみた力を扱う者がペルソナ使いと呼ばれる。

その力に理屈はない。
理屈がないからこそ無限の可能性を持ち得る。持ち主の覚悟や気持ち次第でどこまでも進化できるのだ。

「今のって、……まさか……!」

だとしたら、これもまた理屈のない力が働いた結果なのだろう。
今この瞬間、この場へ、"彼"が導かれたのは──!


「──よく頑張ったな、陽介」


見慣れた学ランに身を包み人を安心させる笑顔を浮かべる青年。
どこまでも太陽が似合う彼の姿を見た瞬間、陽介はへらりと口元を緩ませた。

「悠ッ!!」

青年、鳴上悠は力強く頷き今しがたネコショウグンのジオンガを食らい地に落ちたクラウドの姿を見据える。
窮地を救ってくれた親友との再会に喜ぶ時間は少ない。ゆらりと立ち上がるクラウドは新たに襲来するペルソナ使いへと的を絞った。

361No One is Alone(第一ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:55:29 ID:QDRj4hJM0

「お前が……鳴上悠、か」
「? 何故俺の名前を……いや、どうやらそれどころじゃないな」

クラウドの前に立ちはだかる存在の顔は初対面だというのに酷く馴染みがあった。
陽介の記憶を通して眺めていた彼の背中はとても大きくて、遠くて──陽介にとって追うべき存在だったから。その立場をクラウドに言い換えればかつてのセフィロスに当たるだろう。
もっとも今のクラウドはその背中を見失ってしまったが故に鳴上悠はただの敵でしかないが。

「悠! 詳しい話は省くけど、あいつはウルノーガに怪物にされちまったんだ! 元は人間だ!」
「!? 本当なのか!?」
「ああ! だから出来れば殺さず、元に戻してやりてぇ……!」

駆け寄る陽介の言葉に悠は驚きを示す。この敵はウルノーガ──つまり主催の息がかかった存在となる。あまりに突拍子のない話に目を剥くが陽介の話を疑う理由などない。
この怪物の強さは今の手応えの無さで嫌でも理解した。ただでさえイザナギとネコショウグンだけでは心許ないのに殺さないように加減しろなど、無茶な事を言ってくれる。

「──わかった!」

けれど不可能だとは思わない。
ペルソナ使いとは仲間がいてこそ真価を発揮するのだ。陽介と悠の実力を合わせてもクラウドには及ばないかもしれないが、連携や戦略次第でそれは何倍にも引き上がる。

「何人来ようと一緒だ。俺は止まらない」
「いいや、止めてやる。ひとりきりのお前じゃ俺達には勝てねぇさ!」

隣に仲間がいる事で陽介のその叫びは虚勢ではなくなる。一拍置いて彼等の目の前にアルカナカードが顕現した。

「「ペルソナッ!」」

ネコショウグンとスサノオが青い軌跡を描きクラウドへ翔ける。手数が増えた事に対してもクラウドは努めて冷静に、否──そもそも何の感情も抱けずに虹を袈裟に構えた。

362No One is Alone(第一ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:56:22 ID:QDRj4hJM0



「────クラウドッ!!」



初めてクラウドの瞳が揺れる。
虚無を抱えた顔は動揺に。鋭利な牙を覗かせる口はぽかんと呆けたように開いて。
彼の視線は陽介と悠の背後にある少女に囚われた。

「なっ、ティファ……!? ピカチュウと八十神高校に行ってろと──」
「ごめんなさい、悠を一人で行かせちゃいけないって予感がして。……それより貴方、クラウドなんでしょ? その姿どうしたの!?」

陽介と悠の間に割って入る少女はそのまま包帯が巻かれた右脚を引き摺りながら駆け足気味にクラウドの方へ向かう。
悠も陽介も動揺からそれを止める事が出来ない。正確に言えば止めるべきか否か判断が出来なかった。
クラウド──それは悠にとって酷く耳馴染みのある名前だ。数時間前にティファからは元の世界の仲間であると伝えられていた。
自分が陽介と再会したばかりというのもあり彼等の出会いを邪魔してはならないと、そんな甘い思考が身体を硬直させたのだ。

(あの人が、ティファ……!)

一方の陽介は悠とはまた別の情報に驚愕を余儀なくされている。
クラウドの記憶が見せた仲間達の中に彼女の姿があった。恐らくはクラウドにとってはかつての仲間たちの中でも最も馴染み深い存在のはずだ。
事実ティファも一目見ただけであの魔物がクラウドだと気が付いていた。彼女の中にあるクラウドとはまるで容姿が異なるはずなのに、だ。それは彼女達の絆が紛い物ではないと断じるに値する証拠。

彼女ならクラウドを止められるかもしれない。
直感的な希望はされど最善手。陽介は逡巡する悠の肩を軽く掴み、静かに彼女の背中を見送った。

363No One is Alone(第一ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:57:08 ID:QDRj4hJM0

「っ、ティ……ファ……?」
「クラウド。貴方に何があったのか分からない……けど、折角出会えたんだからそんな顔しないで。クラウドらしくないよ」
「……俺、らしく……?」

アスファルトに血の雫を滴らせ遂にクラウドへ手が届く距離まで近付いたティファはそ、っと彼の頬に触れ穏やかな声色を喉から滲ませる。
クラウドは動かない。この場の誰もが知る由もないが丁度ジェノバに精神を乗っ取られた時のような廃人じみた状態だ。
少なくともそこに敵意はない──やはり、と陽介は声を荒らげた。

「ティファさん! クラウドはウルノーガに魔物にさせられちまってるんだ! 頼む、そいつを救ってやってくれ!!」
「……! ええ、任せて」

陽介へ向けた視線を再びクラウドへ戻す。濡れたガラス玉のように曇るクラウドの瞳を見詰めながらティファは小さく唇を開いた。

「ねぇ、クラウド。覚えてる? 私がピンチの時に助けてくれるヒーローになるって、約束したよね。……大人になった後も覚えててくれて、本当に助けてくれて……嬉しかった」

少なくとも今この瞬間、二人を邪魔するものは何一つなかった。
ティファの脳裏に蘇る記憶は果たしてクラウドとも共有出来ているのだろうか──それは一瞬覗かせたクラウドの悲痛な表情が答える。
彼の人間らしい顔は久しく見た。今にも泣き出しそうな位に歪んだ彼の表情はしかしすぐに冷然としたものへ変貌する。
まるでそうすることしか出来ないように。

364No One is Alone(第一ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:58:14 ID:QDRj4hJM0

「どうでもいいよ、もう」

心なしか口調に幼さを残しながら。

「自分を見失わないで、クラウド」
「俺らしさなんて誰が決めたんだ」

クラウドは鬱陶しいノイズを振り払う。

「今のクラウドはヒーローじゃないよ」
「俺の誇りも、夢も────俺のものだ」

そうして魔軍兵士は。
音もなく虹を振り上げて。

「──やべぇ! 逃げろティファさん!!」

過去(オサナナジミ)に刃を振るった。





人影が崩れる。
無防備な身体に突き刺さる明確な攻撃に気が付いたのは痛みよりも後だった。

「え──?」

予期せぬ出来事に息を漏らす。
そうしてゆっくりと見上げた先には──痛い程決意に満ちた"ティファの"顔があった。

「分かってるよ、クラウド」

聖母じみた穏やかな声色。迷い無く紡がれるそれはクラウドの頭を急速に冷やしてゆく。
人を安心させる声とは裏腹に見慣れたファイティングポーズを魅せるティファ。凡そ自分に向けられる事のなかった姿に不思議と懐かしさを覚えた。

「クラウドは強いから、これだって道を決めたら止まれないんだよね。例えその道が間違ってたとしても、自分一人じゃ止められないんだよ。良くも悪くもそういうところ頑固なんだから」

それは紛れもない仲間の言葉。
数多の苦楽を共にし、一番傍で彼を見てきた者にしか語ることの許されないクラウド・ストライフという人間への所感。
クラウド自身を含めこの場の誰よりもクラウドを知っているのは彼女だから。

365No One is Alone(第一ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 12:58:51 ID:QDRj4hJM0

「私ね、今でも後悔してるんだ。クラウドが偽物の記憶に囚われていた時、それを指摘してあげられなかったのを。クラウドが遠くに行ってしまうのが怖くて……事実を確かめる事から逃げてたんだ」

懺悔をするには遅すぎた。
だから過去を悔やむなんてことしない。今この瞬間描かれてゆく現実を生きると共に誓ったのだから。

「けどもう逃げない。クラウドにはずっと守られっぱなしだったもんね」

後ろを向くのはやめた。
けれどひとつ思い返すのはやはりあの時の約束。
少年少女が描いた年相応の夢。万人が下らないと笑い飛ばすような憧れを叶えてくれた大切な記憶。
かけがえのないものは時に絶大な力となる。


「だから今度は、私がクラウドを助けるヒーローになるよ」


控え目な彼女が珍しく見せた勝気な笑顔。
混じり気のない覚悟を晒されたクラウドは無機質に、けれど確かに声を返す。

「やってみろ」

いつの間にか、クラウドが自分を見ている気がした。
己を納得させるような口振りが消えて初めて会話らしい応答を聞けたからだろうか。いずれにせよティファは首を縦に振った。

「ティファ! 大丈夫か!?」
「ええ。それよりも……ごめんなさい、クラウドを説得する事が出来なかった」
「いや、いいさ。──今度こそ止めてやろうぜ。俺達は独りじゃないんだから」

大きく広げた翼をはためかせ大きく距離を取るクラウドと相対的に二人のペルソナ使いがティファの元へ駆け寄る。
彼女を中心に横に並ぶ陽介と悠。住まう世界は違えど志は同じ。ただ目の前の存在を救いたいというシンプルな願望は強く共鳴する──!

「俺の願いとアンタたちの願い。どっちが上にいくか、確かめてやる」

戦いは今度こそ仕切り直される。
辛い現実を乗り越え確かな絆を携える三人の戦士と幻想に囚われた一匹の魔物。
それはまるで彼らが幼い頃によく読んだ陳腐な絵本のようで。願わくばそれがありふれたハッピーエンドで終わらんことを。


第二ラウンド────開始。




366No One is Alone(第二ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:00:17 ID:QDRj4hJM0


「ペルソナッ!」

悠の号令と共に顕現。同時に天高く片腕を突き上げるネコショウグンがマハタルカジャを唱える。
攻撃力上昇の効果を持つ魔法は伊達ではなく奥底から力が湧き上がるのを感じる。駆け出すティファとそれに付き添う形でスサノオがクラウドへ先攻を仕掛けた。

「はッ! せりゃッ!」
「外さねぇ……ペルソナッ!」

目にも止まらぬ拳打を並外れた瞬発力でやり過ごし、隙を縫うように繰り出されるチャクラムの斬撃を虹で受け止める。
無駄の感じられない一連の流れからいよいよクラウドがオーブの力に適合し始めたのだと理解させられる。競り合いにすら発展せずスサノオの身体ごと弾き返させた事からそれは確信に変わった。

「陽介、無理に攻めようとするな! 奴の反撃を食らうのはまずい!」
「ああ……ペルソナァ!!」
「……! ありがとう!」

二人からやや離れた場所にいる悠の指示を受け陽介は次の手を攻撃から支援へと変更する。
アルカナを叩き割ると同時にマハスクカジャが発動し陽介達の身体が身軽さを得た。前線に立つティファは特にその恩恵が大きく、俊敏性が増したおかげで辛うじてクラウドの反撃をかわす。

「せいッ!」
「ッ……!」

横薙ぎを屈んで回避したティファはそのまま研ぎ澄まされた動きでアッパーカット、ジャブ、正拳突きの三連撃を叩き込む。
マハタルカジャにより強化された拳の威力はさしものクラウドといえど無視できない。体勢を崩した隙を狙われることを警戒したクラウドは本能のままにオーブの力を解き放つ。
全身に駆け巡る電流のような魔力はクラウドの体を抜けて紫色の閃光となり暴走する。

「うわッ!?」
「きゃああああっ!!」

辛うじて陽介はシルバースパークの奔流を躱したが反応の遅れたティファが避け切れずに悲鳴を上げる。
その時間を利用し追撃を仕掛けんとするクラウドの身体を電撃が射抜いた。シルバースパークの弊害か──その疑問は此方を睨む悠の姿により解消する。

「下がれティファ! 陽介、少しの間時間を稼いでくれ!」
「ああ、わかった!」
「……ごめんなさい」

苦い顔でクラウドの間合いから逃れるティファ。クラウドは既に彼女を標的としておらず、痺れの残る身体でスサノオの身体を穿たんと刺突を放つ。
それを受け止めるような馬鹿な真似はしない。回避に専念したスサノオはマハスクカジャのおかげか紙一重で身を捩る。
稼いだ一瞬は大きい。メディラマを重ねがけすることでティファは勿論元々クラウドによりダメージを与えられていた陽介の傷が癒えていく。

メディラマに限らず回復能力の効果は著しく制限させられている。本来ならば数度重ねがけした程度で癒える傷ではないだろう。
しかしネコショウグンには回復魔法の能力を1.5倍にまで引き上げる効果がある。制限下においても発動されるその特性はサイクルを回してゆく戦いで強く輝く。

367No One is Alone(第二ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:01:00 ID:QDRj4hJM0

「いい加減……邪魔だ」
「がッ!?」

防戦一方でありながら時間を稼がれる事に鬱陶しさを覚えたクラウドは虹の刃に紫電を纏わせて文字通り疾風迅雷が如く斬りかかる。
電撃によりリーチが増したそれを躱し切ることは困難だ。直撃こそ避けたものの伸びた稲妻がスサノオの腕を焼く感覚に陽介は濁った悲鳴を上げた。
耐性のない電撃属性を食らった陽介は身体機能を一時的に封じられる。迸る雷撃と見紛うほど鋭い一太刀は陽介の首を刈り取らんと迫った。

「させない!」
「ペルソナッ!」

しかしそれは同時に放たれる二つの攻撃に遮られる。
ティファの膝蹴りを左腕で防御し、ネコショウグンの黒点撃を右手の虹で受け止めたクラウドはそのまま力任せに両腕を振るい強引に二人を弾き飛ばす。
体勢を立て直し、瞬時に懐へ潜り込み掌打ラッシュを仕掛けるティファ。その全てを防がれダメージこそ与えられないが陽介の回復分の時間は稼いだ。

「──ペルソナァ!!」

持ち直した陽介が加わった事によりようやく攻撃のターンが回った。
足元へ水面蹴りが離れた事により僅かに体勢が崩れたクラウドへガルダインが大口を開けて迫る。
味方さえ巻き込みかねないそれはしかし事前に陽介の意図を汲み取ったティファが場を離れた事によって遠慮は無くなった。最大級の風魔法の直撃はここに来て一番のダメージとなる。

「よし、このまま攻めるぞ!!」
「おう!」
「ええ!」

大きく吹き飛ばされ片膝をつくクラウド。紛れもない総攻撃チャンスだ。
走り出す悠に倣い他の二人も一斉攻撃を仕掛かける。この機を逃せば勝ちは一気に遠のく。なればこの瞬間に全てを賭ける他ない。
雄叫びと共に繰り出される彼らの攻撃を避ける術はない。迫り来る三人をクラウドはどこかぼうっと眺めていた。

368No One is Alone(第二ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:01:31 ID:QDRj4hJM0


────ああ、俺は負けるのか。


何故だろうか、不思議と悔しいという感情は湧かない。
それどころか寧ろ雨上がりの晴れ模様のような清々しい気持ちだ。

彼らは強かった。
単騎では自分に遠く及ばないというのに全員が支え合い、実力の差を補い合う。各々の役割を理解し一人も欠けないよう動いていた。
仲間がいることの強さを知り、そして自分も以前はそうしてセフィロスを打ち破ったのだと思い出す。

ならばあの時のセフィロスのように自分が淘汰されるのは当然の事だ。強大な闇でも小さな光が集えば敵うのだと過去に証明したのだから。
クラウドは静かに目を瞑る。他者に掻き乱され、惑わされ続けた運命に終止符を打つように。






────そして破滅は訪れる。





369No One is Alone(第二ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:02:20 ID:QDRj4hJM0


「ぐ……っ、あれ…………俺、なんで……」

重力が何倍にも引き上げられたような感覚の身体を両腕で支え、なんとか起き上がる陽介は信じられない光景を目にする。


──地獄だった。


アスファルトのあちこちは焼け焦げ、災害が通った後かのように建築物の悉くが崩壊している。
一体何が起きたんだ。朧気な思考の中記憶を整理する途中でふと黒い物体を目にする。
丁度人間大の大きさのそれに陽介はドクンと心臓の警鐘を聞く。恐る恐る、という言葉すら軽く思えるほど覚束無い所作でそれを覗き込んだ。

「あ────」

間違いない。
真っ黒に焦げ所々焼け爛れた肉を露出するその物体の正体は。
ティファ・ロックハートの亡骸だった。


陽介は全てを思い出す。


総攻撃を仕掛ける瞬間、クラウドが目を閉じたかと思えば凄まじい速さで回転斬りを放ったのだ。まるで何かに取り憑かれたかのような無理やりな動きで。
異変に気が付いたティファは陽介を身を呈して庇った。刹那、剣の軌跡から生じた竜巻とそれに伴う電撃が辺りを呑み込んだ。その巨大過ぎる厄災の名残がこの惨状なのだ。

災害の理屈は簡単。クラウドのリミット技、画竜点睛とシルバースパークの同時発動。
それぞれでさえ魔物を屠るのに十分過ぎる威力を持つそれらが合わさればどんな事態が起きるか──最早、語るまでもあるまい。

「くそ、くそッ! 悠!! 悠は!?」

胸に潜む焦燥を隠そうともせず陽介は辺りの瓦礫の山を掻き分けて行方知れずとなった親友の姿を探す。
電撃と疾風の混合技──どちらかに耐性があり幾ら片方を無効化出来たところで甚大な被害は避けられない。事実陽介もティファが盾になってくれなければ意識は戻らなかっただろう。

370No One is Alone(第二ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:03:16 ID:QDRj4hJM0

枯れた喉は絶え間なく彼の名を呼び、破片によって手が切れるのも厭わずに辺りを探し回る。
そうして陽介が見付けたのは呆然と立ち尽くす"魔物"の姿だった。

「クラウド……!」

散らばる瓦礫の丁度その中心。台風の目のように穏やかな円状の大地でクラウドは天を仰ぐ。
陽介はそんな彼の姿を見て心の奥底から憤りに支配されるのを感じた。かつての仲間であるティファを呆気なく殺した血も涙もない男を前に冷静で居られるはずもない。

「やっぱり──」

ぽつり。
こちらを見るクラウドの顔を見て陽介は息が詰まる。

「現実は幻想に勝てないんだな」

彼の瞳はあまりにも悲しそうだったから。
薄く浮かべた自嘲は酷く人間臭くて。取り返しのつかない想い出に浸るかのように儚げで。
そんな彼の姿は助けを求めているように感じた。

歯を食いしばる。
力一杯拳を握る。

震える激情の矛先はクラウドからウルノーガへ。終わらせたいと願う彼の気持ちを踏み躙り、あまつさえティファを殺させた悪魔は地獄へ落としても事足りない。
やり場のない怒りを力に変えて。強く大地を踏み締める陽介はクラウドと見合う。

「アンタの言う現実がこんな結果なら、確かに幻想に逃げたくなる気持ちも分かるよ。辛い現実なんて見たくねぇよな」

現実は辛い。誰だって嫌になる時はある。
無慈悲な言葉だけがデタラメに街に溢れている。そんな曇り空に陽介だって嫌気が差す事があった。

「けどな、それじゃダメなんだ。形のない幻想を追い求めて、精一杯現実を生きる奴らの未来を奪うなんて……やっちゃいけねぇんだよ」

だけどクラウドと陽介は違う。
前に進むことを恐れ道を踏み外したクラウドには、陽介の存在はあまりにも眩し過ぎた。
それはまるで雲の隙間から顔を覗かせた太陽のように。

「だから俺が終わらせてやる。アンタの幻想を」

バッグから取り出されたグランドリオンが陽介の魂と木霊し本来の輝きを取り戻す。
穢れない純白の光はまさしく太陽。二重の光輝に目を細めたクラウドは同じように虹を構え、目の前の現実を迎え撃つ。


「────ペルソナァ!!」


爆ぜるアルカナ。走る電撃。
それぞれの想いを乗せ闘う者達。
空っぽな幻想の囚人は飛び交う光の中にひとときの夢を見た。


『俺の誇りや夢、全部やる』

『私はいつでもおまえのそばにいる』

『オレたちの乗っちまった列車はよ! 途中下車はできねぇぜ!』

『じゃあねぇ、デート一回!』



第三ラウンド────開始。






『あのね、クラウドが有名になってその時私が困ってたら……』

『クラウド、私を助けに来てね』

『私がピンチのときにヒーローがあらわれて助けてくれるの』

『──一度くらい経験したいじゃない?』



◆ ◇ ◆ ◇ ◆

371No One is Alone(第三ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:04:21 ID:QDRj4hJM0


ここはどこだ?

混濁する意識の中で周囲を見渡す。
辺り一面の真っ暗だった。無限に広がるような闇の前に足が竦む。
けど立ち止まっている場合じゃない。俺にはやるべき事があるはずだ。
漠然としか思い出せないけれど、そんな使命感に駆られて俺は足を進めていく。

そうしている内に遠くに二つの人影が見えた。辺りの暗さの中でも不自然なほどくっきりと輪郭を浮かばせていることからそれが男女のものだとわかる。
丁度いい、道を尋ねよう──やけに気怠い足を動かして歩み寄ろうとしたけれど、それは二人の声に止められた。

「鳴上先輩!」
「鳴上君、こっちに来ちゃダメ」

聞き覚えのある声だった。
何故か二度と聞けないと思っていたような、そんな感じがする。言いようのない安心感に包まれる中で俺は何故かと尋ねた。
すると二人はどこか言いづらそうに顔を伏せて、やがて俺の元へやってくる。

距離が縮まったことでより顔が鮮明に見えた。見覚えのある──けれど霞がかった記憶に身体が震える。
そんなもどかしさの中で俺は自分が泣いていることに気が付いた。なぜ泣いているのか分からず俺は二人に視線を戻す。
金髪の男はどこか苦い笑いを見せて、軽く黒髪の少女と視線を交わす。そうして何かを促すように彼女の背中を軽く押したかと思えば、暖かな温もりが俺の身体を包んだ。

372No One is Alone(第三ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:05:09 ID:QDRj4hJM0

「鳴上君……お願い、死なないで……!」

強く、強く俺を抱き締める彼女の言葉がとても重く感じる。震えた涙声はいつまでも耳に残って離れない。
俺は──その言葉に頷くことが出来なかった。

「先輩」

顔を俯かせて泣き続ける彼女へ金髪の男が声を掛ける。うん、と返した少女は改めて濡れた宝石のような瞳を俺に向けた。


「鳴上君、千枝や花村君を……お願い」


──ああ、そうか。


「里中先輩も花村先輩も無理しがちな性格スからね。まぁ……俺が言えたことじゃないかもしんないスけど」


二人の言葉を聞いて俺は全てを思い出す。
溢れ返る記憶の波の中でもみんなとの記憶は色褪せない。そして今俺がやるべきことも。
なんでこんな大切なことを忘れていたんだ。絶対に忘れちゃいけないはずなのに。


「──ああ、任せろ。雪子、完二」


もう忘れたりしない。
かけがえのない思い出はいつまでも胸に。
雪子と完二の意思は俺が受け継いだ。だから安心してくれ二人とも。

雪子と完二が安心したように笑顔で頷く。
急速に闇が晴れて辺りが光に包まれてゆく。やがて段々と雪子と完二の姿も見えなくなる。

そして俺は────目を覚ました。




373No One is Alone(第三ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:06:43 ID:QDRj4hJM0


それを戦いと呼ぶにはあまりに一方的過ぎた。

当然だ。ただでさえ疲労が溜まっている状態に加えスキルの連発による体力消耗により今の陽介は限界に近い。そんな状態でクラウドの相手をするなどとても無理な話だ。
仰向けで倒れ伏す陽介はノッキングじみた呼吸を繰り返しながらクラウドを見上げる。未だ悲しみに囚われたその顔に陽介は悔恨の念に駆られた。

(畜生……このまま、クラウドを助けられずに終わるのかよ……)

結局、救うことは出来ないのか。
現実は幻想に勝てないのか。

死ぬのが怖かった。
死んでしまったらそこで終わりだから。ティファがそうだったように救える存在を前にして終わってしまうのが堪らなく怖い。
命とはそんなに容易く、無意味に奪われていいものじゃない。そう心で分かっているのに身体が動かない。

「ごめんな、クラウド……お前を助けてやれなくてさ」

ようやく紡げた言葉はそれだった。
今更そんな謝罪をしたところで陽介の命は延びない。オーブに呑まれたクラウドはただ淡々と、死神めいた仕草で剣を振り下ろした。



「────ロクテンマオウッ!!」



神からの贈り物だなんて少しクサいかもしれない。
けど陽介にとってそれは間違いなく天の恵に他ならなくて。雷神の威厳を見せ付けるが如くクラウドの身を射抜く雷柱はまさしく天罰。

陽介はそのペルソナを知っている。
けれどそのペルソナは、その持ち主はもう居ないはずだ。一瞬覚えた疑問はしかしすぐに打ち消されることとなる。
理屈ではなく、熱く燃える魂で。

374No One is Alone(第三ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:08:02 ID:QDRj4hJM0



「────アマテラスッ!!」



癒しの風が陽介の身体を撫でる。
ネコショウグンのものよりもずっと強力な回復魔法に包まれた陽介は自然と涙を伝わせた。

知っている。知らないはずがない。
テレビの中で繰り広げられた大冒険には必ず彼らの姿があった。何度も何度も、数え切れないくらい助けられた。

「すまない、少し遅れた」

そう言って隣に並ぶ彼の横顔はいつもよりも頼もしくて。まるでもう二人傍にいるような────そんな気がした。

「おせぇよ、相棒」

だから安心して笑えた。
一人じゃないということはこんなにも安心出来る事なんだと実感出来て、力の入らなかった身体が勇気づけられる。

「それがペルソナの真の力か」

ジオダインの電撃から立ち直るクラウドが感情の籠らない声を漏らす。オーブの影響か、もはや並大抵の電撃は受け付けない肉体を持ち始めていた。

「もう友情ごっこを見せられるのは飽きた。今度こそ俺が破壊してやる」

ゾッとするほど冷たい殺気が膨れ上がる。
しかし陽介と悠は怯まない。それどころか二人は足並みを揃えて一歩分踏み出す。

「させねぇよ」
「ああ、させない」

クラウドの瞳は何を見るのか。
勇む二人に付き添うように金髪の男と黒髪の少女が並んでいる。幻だと分かっているのに何度目を凝らしてもそれは消えない。
自分の血塗れた手ではもう掴む事は出来ないそんな光景が────ひどく妬ましかった。



「「────ペルソナァッ!!」」



一斉に顕現する二体のペルソナ。スサノオとロクテンマオウ。
巻き起こる暴風に気を取られれば即座にロクテンマオウの巨体がクラウドに肉薄する。故にそれをさせんと稲妻を纏う虹の鋒を地面に突き刺した。

375No One is Alone(第三ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:09:26 ID:QDRj4hJM0

「──ジゴスパーク」

死刑宣告と共に辺りに迸る紫電の大蛇。
地を這うように迫るそれは陽介が喰らえばタダでは済まない。故に雷属性に完全耐性を持つロクテンマオウが陽介を庇い、その悉くを無効化する。

「いくぜ──ペルソナァ!!」

ならばペルソナごと斬り伏せる、と振るう刃はロクテンマオウの巨体によって隠されていたスサノオのソニックパンチによって逸らされる。隙を補うようにオーブの力を解放するがそれを意に介さずロクテンマオウの拳がクラウドの身体を打ち抜いた。

「まだだ、デッドエンド!!」

決定打にはならないと踏み赤熱した拳が振り抜かれる。威力こそ立派だが大振りなそれは冷静な飛翔に躱される。
しかしそれは布石──いつの間にか背後に回っていたスサノオの存在に気がついた頃にはもう遅い。

「おせぇ! ペルソナッ!!」
「ぐ……!!」

スサノオの両手から放たれる怒涛の烈風が空を裂く。咄嗟に横へ飛んだものの右翼の一部が巻き込まれ飛翔能力が失われる。
落下しながらも体勢を整えクライムハザードの要領で大地に向かい凄まじい勢いで剣を振り下ろす。遅れて生じた衝撃波が悠の身体を吹き飛ばした。

「悠!!」

クラウドの着地を許してしまった事実は容易に覆せない。地面を抉りながら振り上げられた最速の斬撃、破晄撃が悠の身体を切り裂かんと迫る。

「くっ……!」

避けられない。そう判断した悠はせめて受けるダメージを減らそうと防御の姿勢を取る。が、それはすぐに無駄となった。
己を庇うスサノオの身体によって。

「なに……?」
「へへ、思い付きだったけど……上手くいったみてぇだな」

スサノオの身体には傷一つ見当たらない。
彼の言う思い付きの内容は極めてシンプル。破晄撃が風属性であればスサノオの耐性で無効化出来る、と。そしてその予想は的中した。

376No One is Alone(第三ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:10:14 ID:QDRj4hJM0

「助かった、陽介」
「お互い様だ。さぁ、仕掛けるぜ!」

──なんなんだ、こいつらは。

互いの弱点を補い合い、どちらかが隙を生んでもどちらかがそれを潰す。まるで思考を共有しているかのような迅速にして的確な判断力は凡そ年相応とは言えない。
ならば何が彼らをそうしているのか。それは信頼というありふれた言葉に他ならない。

仲間を自らの手で殺した自分への当てつけか。
そんな歪な思考が浮かんでしまうほどにはクラウドも疲弊していた。魔物となった肉体は元のクラウドを凌駕する体力を兼ね備えているが、無尽蔵ではない。
単純な消耗戦ではクラウドに分があるだろう。けれどそんな不確定要素の多い戦い方は些細な物事で敗北を招きかねない。

──故に、クラウドは時を待つ。

「アマテラスッ!!」

マハタルカジャとマハスクカジャにより極限にまで研ぎ澄まされた二人の斬撃がクラウドの剣戟とかち合い、相殺を重ねてゆく。
それでも殺し切れない余波により生じた傷は即座にメディアラハンで治療。距離を取ってシルバースパークや破晄撃を放とうものならどちらかがそれを防ぐ。

飛行能力があれば攻撃のバリエーションを増やし拮抗を崩す事が出来るかもしれないが片翼の再生にはまだ時間が必要だ。
ならばそれがクラウドの待っていることなのか──否。自然治癒で回復する頃には決着などとうに付いていよう。
対する陽介と悠には手札が溢れている。初見で対処しきれない攻撃が来たのならばそれは確実な隙となるだろう。互角のように見える戦いは悠の覚醒によりその実クラウドが押されている。

「──はぁッ!」
「ロクテンマオウッ!」
「スサノオッ!」

クラウドの電撃を纏った二連撃──はやぶさ斬りをロクテンマオウのキルラッシュで迎え撃つ。三連撃を繰り出す赤い装甲に覆われた拳に微かにヒビが入るが相殺に成功する。
ロクテンマオウに気を取られた瞬間を縫って肉薄したスサノオのチャクラムがクラウドの体に裂傷を刻む。咲く血飛沫に反して手応えが薄い。
ほぼ反射的に行ったバックステップの恩恵だ。培われた戦闘経験により鍛え上げられた反射神経の賜物と言える。事実彼が多人数相手に戦えているのは魔物の基礎能力よりも反射神経や判断力による要因が大きい。
だからこそ長期戦で失われていくそれらが切れる前に決着をつけなければならない。


「────限界を越える」


そして、時は来た。
リミットブレイク状態に加えてオーブの力が極限まで肉体と融合した状態。名付けるのであればそれはスーパーリミットブレイク。
恐らくはこの状態になれるのは今この瞬間が最後だ。次にリミットブレイクになるようなダメージを受けた時には己も技を放てるような状態ではないだろう。

377No One is Alone(第三ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:11:15 ID:QDRj4hJM0

「まずい──あいつ、またあれをやる気だ!!」
「止めるぞ、陽介ッ!!」

だからこそこれがクラウドの『最後の切りふだ』だ。
ティファを殺め、悠を瀕死に追い込んだ技。画竜点睛の竜巻とシルバースパークの電撃を併せ持った魔軍兵士の集大成。
それの発動を許してしまえば待っているのは逃れよう無い全滅のみ。
腰を深く捻り低く虹を構えるクラウド。数瞬の静寂の後、爆発に似た轟音と共に破壊の剣が振り抜かれる────!


「ブレイブ……ザッパァーーーーッ!!」
「イノセントタック……っ!!」


虹の進行を塞き止めるは悠と陽介の全身全霊の攻撃。
クラウドのそれが切り札ならば悠と陽介の技もまた切り札。己の持つ最大の物理攻撃を寸分の狂いもなく同時に解き放ち、終焉を遅らせる。

「うおおおおぉぉぉぉぉッ!!」
「っ……、ああああああああッ!!」

究極技の衝突は凄まじい衝撃波を撒き散らし、辺りの瓦礫や街路樹を吹き飛ばす。この破壊の連鎖ですら技の発動前であると聞けば誰もが戦慄を抱くだろう。
その隕石が如き威力を秘める剣を一身に受け止めるスサノオとロクテンマオウの両腕は今にも押し潰されそうで。感覚を共有する悠と陽介もその激痛と重圧に悲痛なまでの叫びを上げた。

痛い、重い、辛い、苦しい──!
今にも腕がはち切れそうだ。過度に張り詰められた血管がぶちぶちと切れてゆくような錯覚を覚え、腕だけではなく両足もガクガクとと笑い始める。
立っているだけでも、呼吸をするだけでもこんなに辛いなんて初めてだ。けれど今ここで膝を折ってしまえばこれまでの努力が無に帰す。

「ぐ、ッ……おおおおおおおおおおォォォォッ!!」
「な、めんなあああああああァーーーーッ!!」

退かない。
一歩も退いてなるものか。
技の衝突は拮抗している。拮抗出来ているのだ。あの絶対的な力を持ったクラウドと互角にまでもっていけている。

あと一つ、あと一つ足りない。
これを打ち破るにはあと一つ必要だ。
どんな些細な事でもいい。力を貸してくれ。
奇跡よ、舞い降りろ──!

378No One is Alone(第三ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:12:02 ID:QDRj4hJM0





「────ペルソナッ!!」





それは決して奇跡ではない。
神が、因果が、運命が──彼らの声に傾いている!
まるで最初からそう描かれていたかのように。夢見る少年少女が抱いた儚くも綺麗な憧憬のように。
彼らが望んだ"力"はこの場に導かれた──!

「──っ!?」

吹き荒ぶ氷の風。
死角から放たれた魔法は瞬時にクラウドの両足を凍てつかせる。予期せぬ襲撃に気を取られたほんの一瞬。その一瞬が長い均衡を打ち崩した。

「ぐ、ぅ……っ!?」

スサノオとロクテンマオウの体が押し進む。ギリキリと鳴り渡る虹の刃はついに弾かれ、凄まじい反動がクラウドの体ごと大きく吹き飛ばす。
数度地面にバウンドし、片手で地面を押さえブレーキを踏んだクラウドは新たなる襲撃者を睨んだ。


「本当はさ、迷ってたんだ。いくら助けて欲しいってお願いされたって、死にたくなんてなかったから。こんな暴れ回ってる化け物相手に勝つなんて馬鹿じゃないのって、そう思ってたから」


視線は瓦礫の山のその頂きに集う。
片足を山頂に乗せて逆行を浴びる姿からは勇猛ささえ感じられて。気弱な口上とは裏腹な豪胆さを見せ付ける。

「けどさ」

人影が少しだけ首を傾げる。
覆われていた太陽が顔を出し思わず目を細める。と、晴れた視界に映し出された顔立ちは悠と陽介の心を打ち震わせる。


「──里中!!」
「千枝っ!」


繰り返そう。
それは決して奇跡ではない。

今ここに"全ての"ペルソナ使いが集うのは必然なのだ──!


「二人を見てたら、そういう馬鹿になってみたくなっちゃった」



第四ラウンド────開始。




379No One is Alone(第四ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:13:12 ID:QDRj4hJM0


「ポカ! ポカブー!」
「分かってる! 大丈夫だ、あいつらの強さは知ってるだろ?」

それは悠とティファが大きな音の方向へ向かって暫く後のこと。時間で言えば丁度クラウドがティファを殺害した頃だ。
八十神高校で待っててくれという悠の言葉に従いその方向を突き進むポカブとピカチュウだったが、その心中は不安で溢れていた。

「あの二人に限って最悪な事態は無いと思うが……なんだ、この胸のざわめきは。くそ、探偵の勘ってやつか? 不吉だぜ」

出来るのならば病院での戦いのように自分も助けに行きたい。けれどあんなに重い音が鳴るような戦場に向かえば足手まといなるのは目に見えている。てだすけのつもりが悠達を引き連れてじばくするなんて笑えない。

「ん? あれは……もしかして、悠が言ってたやつか!?」

そうして街道を進む内、短髪の少女が目に入った。緑色のジャージに茶色の髪……悠から教えられた里中千枝の特徴と一致する。
不安げな足取りを見るに彼女もこの殺し合いという状況に惑わされているのだろう。それによく見ればびしょ濡れだ。何者かに襲われた可能性が高い。
ならば警戒されぬよう第一声は選ばなければならない──そう考えたピカチュウはぶんぶんと手を振りながら彼女へ声を掛けた。

「おーい! あんた、里中千枝だな!?」
「!? ……え、シャドウ!? なに!? ってか何であたしの名前……」

ダンディな声色に似つかわしくないピカチュウの容姿と、己の名を呼ばれた事への驚きが合わさり千枝が硬直する。

「驚かせて悪い。俺は鳴上悠の友達のピカチュウだ!」
「え、鳴上君を知ってんの!?」
「ああ、アンタの特徴も悠から聞いてる。信頼出来る仲間だって言ってたぜ」

ピカチュウが放つその言葉に千枝は嬉しさと同時に心臓が軋むような心苦しさを覚える。
信頼出来る仲間──果たして彼は今の自分を見てもそう言ってくれるだろうか。自分は一度大して年も変わらなそうな少女を殺そうとしたのに。

「そう…………そっか、……」

自然と握られた拳が小刻みに震え始める。
この場に悠が居るなんて分かっていたのに。彼への距離が一気に近まるのを感じるとどうしようもない不安に苛まれる。
鳴上悠と出会い、『自分らしさ』を見つける。それを頼りになんとか歩けていたのに、途端に彼と出会う事を恐れ始めてしまっている。

380No One is Alone(第四ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:14:05 ID:QDRj4hJM0

もしも悠が自分を受け入れてくれなかったら。
自分にとって彼が希望たる存在になり得なかったのなら。
思い浮かぶ最悪なイメージは千枝から思考の余裕を奪い去る。

「なぁ、頼む! 悠のやつを助けてやってくれ!」
「え……」

だから、ピカチュウの懇願に迷いが生まれた。

「俺達には悠ともう一人仲間がいたんだが……二人ともあっちの市街地の方へ様子を見に行ったんだ。でかい音がしたから、誰かが襲われてるんじゃないかってな。音の規模からしてあれは普通じゃない」
「……それ、本当なの?」
「嘘なんかつくもんか!」

立て続けに、しかし簡潔に伝えられる近況は千枝の心を揺らがせる。悠のピンチと、そして彼の居る場所が明らかになった事で逃げ道が塞がれたからだ。
何かと自分に言い訳をして悠と出会う事を避けたい、なんて気持ちがなかったと言えば嘘になる。けれど確実に出会う術と理由を手にしてしまったのなら、その算段も霞と消えよう。

「あんたも色々と大変だったんだろう。様子を見ればわかる。けどな、今あいつを救えるのは千枝だけなんだ! 頼む!!」

一頻り捲し立てたピカチュウはぺこりと深く頭を下げる。
彼の言い分はなんとも勝手なものだ。この有様を見てなにか察せるものがあるのならば休ませてくれたっていいじゃないか。
疲労は抜けず、掌には刺傷。おまけにずぶ濡れで精神的にも参っている状態だ。そんな人間に助けてくれだなんて一方的にも程がある。

けれど、


「──鳴上君達はそこにいるんだよね?」


分かっている。
そんな状態の人間に縋らなければならないほどピカチュウは、悠は追い詰められているのだと。

疲れている?
掌が痛い?
服が濡れている?

──そんなの、今悠が味わっているであろう苦しみと比べれば些細なものなのだ。

381No One is Alone(第四ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:14:52 ID:QDRj4hJM0

「わかったよ、助けに行く」
「本当か!!」

バッと顔を上げるピカチュウの表情は歓喜に満ちていた。どこかクマを思わせる調子の良さが少しだけ可笑しくて、千枝は小さな笑みを浮かべた。

「俺達は八十神高校で待ってる。後で落ち合おう! ……くれぐれも無理はすんなよ!」
「あー、やっぱりあそこ? 鳴上君の考えそうな事だわ」

去り際、そう言い残すピカチュウに千枝は再び笑みを浮かべた。
奇しくも八十神高校という同じ場所を目的地としていた。ここでも鳴上悠という人間は変わらないのだと分かったような気がして、不安定な心を持ち直す。

「さてと、行きますか」

パチンッと両頬を叩き気合いを入れ直す。
この数分で彼女の顔は別人のように強く、気丈な調子を取り戻した。


「──あたしらしさを見つけに、ね」




382No One is Alone(第四ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:15:46 ID:QDRj4hJM0


「よ、っと」

持ち前の身軽さで瓦礫の山から悠達がいる地面へ飛び移る千枝。当の悠達は未だ驚きと、そして湧き上がる感動に声が出せない。

「何驚いてんのよ、二人とも! ほら、立って立って。こういう戦いは慣れっこでしょ?」
「……フッ。ああ、そうだな」
「ったく、遅れてやってきたくせに一丁前に仕切りやがって……ま、里中らしいけどよ」

まさかまたこうして三人並んで戦うことが出来るなんて思わなかった。
懐かしい。そして心地良い。今ならばどんな敵にだって勝てるような、熱く滾る自信が奥底から湧き上がる。

「……また、ペルソナ使いか……」

辟易の声を上げるクラウドは──孤独だ。
陽光を浴び立ちはだかる三人と日陰に佇むクラウドはまさしく光と影のように。
一度地に落ちた気持ちは二度と這い上がれない。渦巻く負の思考に囚われたクラウドはただただ目の前の三人に憎悪を膨らませる。

「いくよ、鳴上君! 花村!」
「ああ!」
「──ペルソナッ!」

もううんざりだ。
いい加減にしてくれ。
お前達の絆とやらは十分にわかった。そんなに俺の惨めさを浮き彫りにしたいのか。
誰かが追い詰められても必ず誰か一人が踏み止まりギリギリのところで死を回避する。俺はもう、それが出来ないのに。

「ぐっ……!」
「一度下がれ、陽介!」
「鳴上君、回復お願い! あたしが時間稼ぐ!」

ペルソナとは困難に立ち向かう為の人格の鎧。それを得られる者はほんの一握りだ。
けれどクラウドはこの決して長くない時間の中で雪子、陽介、足立、悠、千枝、と──この場にいる全てのペルソナ使いの力に触れてきた。
ペルソナ使いとは自分の全てを認められた強い者達。己を受け入れられず、本当の自分を見ようとしなかったクラウドとは対照的な存在だ。

(──本当に、残酷な世界だ)

もし神が本当に居るのならば、つくづくそいつは性格が悪いのだろうと思う。
自分を騙し、ウルノーガの傀儡となり、ティファを殺し。何を得ることも無く自ら希望を零し続けた自分がこんな奴らの相手をするなんて。

「ペルソナぁッ!」

──ああ、わかったよ。
だったらその絆とやらを利用してやろう。
お前達は仲間がいなければ何も出来ないのだから。一人でも殺してしまえば立っていられなくなるんだろう?

383No One is Alone(第四ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:16:29 ID:QDRj4hJM0

「う……、くそ……!」
「はぁ、はぁ……っ!」

千枝が加わった事で戦況は良くなったはずだ。けれど一向に勝利の兆しは見えない。
先程の奥義のぶつかり合いにより陽介と悠の身体は悲鳴を上げていた。それだけではない、体力もSPも底が見え始めてきたせいか大胆な攻め方が出来ないのだ。
となれば主力は幾分か余裕のある千枝だが、ペルソナが進化していないこともありクラウドとまともに打ち合う事は難しい。

「──! ロクテンマオウ!」
「くそっ、スサノオッ!」
「トモエッ!」

クラウドの斬撃も以前は悠と陽介の二人で相殺出来ていたのに今ではそれも厳しい。二人では押され、三人がかりでようやく押し返せる。
絶え間ない連撃のせいで合間に反撃を挟む隙がない。おまけに電撃や疾風といった搦手を交えてくる為些細なミスが命取りになる。
しかしそれはクラウドも同じだ。悠達が攻撃に移れない理由はクラウドがその場その場で最適解の攻撃を行っているから。つまりそれが崩れてしまえば三人からの一斉攻撃が飛ぶことになる。

「う……っ!」
「! 花村!!」

我慢比べに先に根を上げたのは陽介だった。
四人の中で最も激戦に激戦を重ね、体力の消耗が激しい彼が膝をつきほんの数瞬スサノオの消失を許してしまうのも無理はない。
だがその僅かなほつれはクラウドにとっては砂漠のオアシスのようなものだ。

「はぁッ!!」
「う、ぐっ!?」

二対一となった一瞬、威力よりも速度を重視したはやぶさ斬りを最も近い位置にいるトモエに叩き込む。幾ら威力を抑えたといえどクラウドの膂力から放たれるそれは千枝からダウンを奪うには十分だ。

「里な──」
「危ない、陽介!!」

狼狽する陽介へクラウドは電撃を放つ。即座にロクテンマオウが庇い出てそれを無効化する。しかし予めそれを読んでいたクラウドはロクテンマオウへ急接近。
斬撃に備え防御の姿勢を取るロクテンマオウへクラウドは跳躍という不測の行動を取る。巨体を踏み台に空へ舞い上がったクラウドはそのまま空中から陽介へシルバースパークの狙いを定めた。

「があああああああああああッ!!」
「陽介っ!!」

身を焦がす電流に絶叫が轟く。やがて倒れ伏す陽介の後方、片翼での不安定な着地を決めたクラウドはトドメを刺すため地を砕き疾風の如く迫る。

384No One is Alone(第四ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:17:24 ID:QDRj4hJM0

「ペルソナッ!!」

クラウドの追撃は目前に広がる巨大な拳に遮られる。イノセントタック──クラウドであれど被弾は絶対に避けなくてはならない一撃だ。全身全霊斬りでそれを迎え撃ち、相殺する。

「ペルソナ……!!」

またしても迫る破壊の拳。奥義であるそれを連発されるとは予想外だ。しかし対処出来ない訳では無い。はやぶさ斬りで威力を殺したそれを屈んで掻い潜る。

「ペルソナアアァァ──ッ!!」

そして三発目。
さしものクラウドもこれをやり過ごす事は出来ない。極限まで身を固め、虹の剣身を盾代わりにそれを防ぐ。
無論イノセントタックを防ぎ切る事など不可能。故に直前で後方へ跳躍し少しでも受け流そうと試みた結果、凄まじい衝撃に撃ち抜かれ後方へ弾き飛ばされるだけに留まった。

「アマテラスッ!!」
「……っ、悪い、悠……! ペルソナァ!!」

ようやく出来たクラウドの隙は一瞬足りとも無駄にできない。即座にアマテラスへチェンジしディアラハンを陽介にかける。戦線復帰を果たした陽介は再度スサノオを君臨させた。

決着の時は近い。語らずとも戦士達は確信する。
双方共に限界だ。これ以上の戦いの継続は望み薄──故に、互いが最後の一撃。
陽介と悠の視線が重なる。相棒の意図を汲み取った二人は同時にアルカナを出現させた。

「っ!?」
「やべ、速──」

しかしそれを割るよりも先にクラウドは駆ける。ただ肉薄という過程に全力を注いだ結果生まれた速度は脅威的だった。
このままではアルカナを割るよりも先にクラウドの剣が彼らの身体を両断するだろう。
技が発動する前に妨害してしまえばいい。邪道だが効果的なその作戦はこれ以上なく実を結んだ。


「──ペルソナッ!!」


横から伸びた巨大な拳がクラウドの握る虹を弾き飛ばす。
訳も分からぬまま突如得物を失ったクラウドは攻撃の方向へ顔を向ける。と、うつ伏せのままにやりと不敵な笑みを浮かべた千枝と目が合った。
ゴットハンドの反動により千枝は再び意識を失う。けれど勝利を確信した笑みはそのままに。
何故ならば──信じているから。




「「ペルソナァッ!!」」




マハガルダインの旋風がマハアギダインの劫火と融合し、灼熱を纏う竜巻が誕生する。
触れるもの全てを呑み込み邁進するその熾烈さたるや、まるで顎を開けた龍のよう。
膨大な力を持つ龍に武器を失ったクラウドは立ち向かうことさえ許されない。筆舌に尽くし難い美しさを目に焼き付けた青年はぽつりと、穏やかな独言を零した。


「────綺麗だな」


そして龍は、
彼を呑み込んだ。




385No One is Alone(第四ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:18:17 ID:QDRj4hJM0


「終わった、のか……?」

陽介が口を開くまで辺りには無音が続いていた。
先程までの死闘が嘘のような静まり返った世界。陽介は最初それが何かの前兆なのではないかと不安に陥ったが、いつまでも崩れることの無い穏やかな空気の流れに当てられて歓喜に酔った。

「やった……やったぞ相棒! 俺達、勝ったんだっ!! クラウドに勝てたんだ!!」
「……ああ、そうだな」

高らかな勝利宣言。
長く激しい死闘の勝利を噛み締め、溢れ出る達成感と喜びを身体で表現する陽介。が、疲弊した肉体がついていかずがくんと糸の切れた人形のように膝から崩れ落ちた。

「うおっ!? ……はは、はしゃぎすぎた……かな」
「フッ……相変わらずだな、陽介」
「わり、相棒。へへ、なんか力抜けちまってさ」

差し伸べられた悠の手を握り重い体を起こす。なんとなく格好がつかないような気がして照れ臭そうに笑った。
ふと悠を見れば柔和な微笑みを携えながら右手を顔の横まで上げていた。彼の思いを汲んだ陽介は同じように右手を上げ、すれ違うように悠の横を歩く。

──パチィンッ!

軽やかなハイタッチの音が響く。
久し振りの感触だ。強敵を打ち破った時はいつもこうして喜びを分かち合っていた。
域な事してくれるもんだ。彼らしい計らいが堪らなく嬉しくて。陽介は振り返る。

そこにはゆっくりと倒れ込む悠の姿があった。

386No One is Alone(第四ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:19:02 ID:QDRj4hJM0

「悠?」

呼び掛ける。返事はない。
傍に座り込んだ陽介は軽く彼の身体を揺さぶる。

「おい、悠」

悠は動かない。
いくら呼んでも答えが返ってくることはない。
やり遂げたような微笑みを残したまま、悠は──事切れていた。

「なぁ、悠! 冗談よせよ!! 嘘だ……嘘だ!! ここまできてそんな事あるかよっ!?」

認めたくない。認められるはずない。
ボロボロと零れ落ちる涙で制服を濡らしながらただ一心に彼の身体を揺さぶる。けれど無抵抗に揺れる悠に現実を突き付けられるばかりだった。

それは、当然の結果だった。
悠の肉体はとうに限界を越えていた。本来ならば立っている事すら苦痛だったのに、仲間を護らなければという強い意志が彼の身体を限界以上に動かしていたのだ。
だからこそ、命を削る奥義であるイノセントタックの連発による反動を受け止め切れなかった。

「悠っ!! 悠ぅぅーーーーッ!!」

悲しい程の静寂の中で陽介の叫びが木霊する。そして、後に残ったのは咽び泣く声だけだった。

387No One is Alone(第四ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:19:28 ID:QDRj4hJM0




ガラリ、


瓦礫が崩れる音が陽介の嗚咽を搔き消す。
視線をやった先には幽鬼のように立ち上がる人影の姿があった。

「もう、いいだろ……」

人影──魔軍兵士クラウドはぎこちなく身体をよろめかせながら近づく。一歩進む度に皮膚の一部が焼け落ち、ズタボロになった羽がひらひらと枯れ落ちる。
まるで壊れた操り人形が無理やり動かされているような地獄じみた光景は、胸を抉るような悲痛を陽介に訴えかけた。

「もういいだろっ!!」

クラウドの肉体はもう死んでいる。今彼を動かしているのはオーブの支配力と参加者を殺して回れというウルノーガから与えられた使命のみ。
そこにクラウド・ストライフという人間の意思はない。空っぽの依代に入り込まれ、死ぬことすら許されず望まぬ戦いを強いられる。
どれだけ生命を侮辱すれば気が済むんだ。湧き上がる憐れみと強い憤りが陽介を立ち上がらせる。

「分かってるよ、クラウド。アンタが何を望んでるのか」

涙を拭い、クラウドを見据える。
ペルソナを出せる力はもう残っていない。最後に頼るのは己の拳。それは武器を失い、技を放つ心をも奪われたクラウドもまた同じだ。


「終わりにしようぜ、クラウド。これが本当の……最後の戦いだ」


複雑に絡み合う因果が齎した死闘。
数多の異能が飛び交い、最大規模の破壊を繰り返したその戦いの終幕はシンプルな殴り合い。
駆けろ青年達。目の前の幻想を討て。
未来を掴み、現実(いま)を乗り越えるために。


最終ラウンド────開始。




388No One is Alone(最終ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:20:53 ID:QDRj4hJM0


「うおおおおぉぉ──!!」

気合いと共に振るわれた陽介の拳がクラウドの頬を殴り抜く。
大きく後退するクラウドを追うように今度は逆の拳が肋に突き刺さる。血を吐くクラウドはしかし怯まずに反撃の蹴りを腹に叩き込んだ。

重い咳で空気を吐き出し陽介はがむしゃらに掴みかかる。そのまま頭突きを繰り出し、屈み込んでがら空きになった腹へ膝蹴りを浴びせ、突き飛ばした。
尻餅をつくクラウドへ追い討ちを決めようとふらつく足を掲げるが、これより先にクラウドが転がり陽介の足は瓦礫を崩すだけに終わる。
反撃を警戒し咄嗟に両腕を交差させ顔の前に持っていく。が、形のなっていないクラウドのローキックが陽介の左腿を打ち抜き無意味と化す。
苦悶の呻きを上げ足を押さえる陽介の右脇腹に大振りなボディブローが直撃した。白飛びする視界の中、踏み込みと共に右肩を引いて拳を振り抜こうとするクラウドの姿を捉え、反射的にそのパンチを頭突きで受け止める。

何かが砕ける音がした。
既に崩壊寸前だったクラウドの右手は血飛沫を散らし、競り合いに打ち勝った陽介はそのままクラウドを巻き込んで倒れ込み、馬乗りになる。

鈍い音が何度も、何度も響く。
十発近い殴打を受けたクラウドの顔面は膨れ、斑な青痣が生まれる。無抵抗でそれを受け入れていたクラウドは不意に弾かれるように陽介の体を蹴り飛ばし、がくがくと震えながら立ち上がる。

血混じりの唾を吐き捨て、陽介は全力疾走でクラウドへ近付く。傍から見れば牛歩のように遅いそれをクラウドはいなせず、放たれたテレフォンパンチに頬を殴り抜かれた。
ぐらりと大きく揺れたクラウドは体勢を立て直すこともせず不格好な反撃の拳をお見舞する。

389No One is Alone(最終ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:21:37 ID:QDRj4hJM0

「こ、の──!」
「…………っ!」

そこからはもう、ノーガードの殴り合いだった。
一発殴っては殴り返され、殴られては殴り返し──腕が持ち上がらなくなるのは同時だった。
がくんと両膝を着き、お互い前のめりに倒れようとしたせいで奇しくも身体同時で支え合う形となる。そのまま数秒経ち、やがて同時に頭を後ろに引き強烈な頭突きがぶつかり合う。

今度は二人とも後ろへ倒れ込んだ。
満開に広がる青空を見上げ、朦朧とする意識に無理を言って身体を起こす。たっぷり時間を費やして立ち上がれば何も言わず拳を握り締める。もう手の感覚なんてないけれど、確かに握れていると信じた。


「う、おおおおおおおぉぉぉぉ──!!」
「あああああああああぁぁぁぁ──!!」


全てを込めて殴り掛かる。
正真正銘全力の拳が相手を狙う。
時同じく放たれた攻撃は鈍重な音を一つ立てる。即ち、当たったのはどちらかだけ。

暫しの静寂の後、ゆっくりと倒れ伏す影。
それを見下ろす青年は果たしてどんな表情を浮かべているのか。悲哀とも、歓喜とも、達成感ともつかぬ感情が絡み合った複雑な面持ちで空を見上げる。


「悠、天城、ティファさん、ホメロス……」


死闘の勝者、陽介は静かに散っていった仲間達の名を連ねる。
祈りを捧げるように。天に還る彼らへ伝えるように。
空を仰ぐ青年は少しだけ微笑んだ。


「──俺、勝ったよ…………」


声よ届け。想いよ伝われ。
失われた命は無駄ではない。みんなが道を繋いでくれたから今がある。

だから安心して眠ってくれ。
これから先の未来は、俺達が繋ぐから。



戦いは──終わった。





390No One is Alone(最終ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:22:18 ID:QDRj4hJM0


ああ、負けたのか。
まるで地の底まで落とされるような意識の漂流の中、どこか他人事のように思う。

もうどうでもよかったから。
全てを取り零し、生ける死体となった時点でそれはクラウド本人ではなかったから。
だからなんの感情も湧かない。湧かせないのだ。ただ自分のような何かが絆とやらに敗北したと、俯瞰じみた視点でしか見ることが出来ない。


けれど、ただ一つ思うことがあるのならば。
当然だな──という自嘲に似たなにか。


救いの手を跳ね除け、自ら絶望の渦を撒き散らし続けた醜い怪物にはお似合いの最後だ。
最初から勝てるはずなど無かったのだ。自分は最後まで一人で力も偽りのもの。けれど彼らは多くの仲間と共に真なる力で立ち向かった。

ならば、自分も仲間がいれば結果は違ったのだろうか。
そんな後悔をする資格なんてない。共に旅してきた彼女達を仲間と呼ぶことは許されないのだから。

「俺、は……」

今更許してもらおうだなんて思わない。
だからせめて彼女達との繋がりは地獄まで持っていかないように。想い出は綺麗なまま終わらせたくて。
改めてそれを口にする事で憐れな人生に終止符を打つ。


「ひとりぼっち……だった……」


瞳を閉じる。
魂の行く末に身を任せ、死へと落ちてゆく。
こうしてクラウド・ストライフという男が抱いた幻想は終わりを迎えた。

391No One is Alone(最終ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:22:55 ID:QDRj4hJM0






『────違うよ』


不意に聞き慣れた声が響く。
落下し続けるかと思われた身体はふわりと浮き上がり、両足が地に着く感覚に見舞われる。
顔を上げたクラウドの瞳にはこちらを見て微笑む黒髪の少女の姿が映し出された。

『ひとりじゃない。クラウドには仲間がいるよ』

これは、幻なのか。
揺蕩う意識が見せた想い出ならそれでもいい。目を逸らさず、向き合わなければならない。

「同情も、深い悲しみもいらない。……ただ一つだけティファ、お前に問いたい」

勇気を出して少女へ声を掛ける。
彼女は静かに、ただじっとクラウドの瞳を見つめている。

「お前はまだ……俺を仲間と呼んでくれるのか?」

孤独が嫌いだった。
けれどあの道を進むからには孤独にならなければいけなかった。
すべてが終わったあとにこんな事を聞くなんて都合がいいかもしれない。拒絶されるかもしれない。
それでも、もし許されるのならば────


『勿論。クラウドは私の大切な仲間だよ』


俺はずっと、その言葉を待っていたのかもしれない。


「──ありがとう」


魔軍兵士としての彼は死んだ。
魔物の肉体は輝きと共にクラウド・ストライフ本来の姿を取り戻す。
見つめ合う男女は穏やかな笑顔を浮かべ、光の粒子となりやがてゆっくりと消えた。






  誰も一人ではない
──No One is Alone──






392No One is Alone(最終ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:23:37 ID:QDRj4hJM0


「……ぅ、……」

意識を取り戻した千枝が呻きと共に身体を起こす。辺りを見渡し、戦闘の様子が見られないことから彼らが終わらせてくれたのだと安堵する。

「いつから気絶してたんだろ……かっこわるいなぁ」

格好つけて参戦したはいいものの一番最初に意識を失う事になるとは。結果オーライとはいえどことなく気恥ずかしい気持ちに駆られる。
けれど時間と共に思考が冷えてゆき、そんな些細な感情を吹き飛ばした。

「──そだ、鳴上君と花村探さないと!」

いつまでも寝ていられない。
疲労を残した身体を引きずって瓦礫の山を駆け下り、悠達を探し回る。

「あ、いた! おーい!! 鳴上君、花む──」

彼らを見つけるのに時間は掛からなかった。
仰向けに倒れる悠を介抱するように寄り添う陽介の姿が遠目に移る。ぶんぶんと片手を振りながら急いで駆け寄る最中、千枝の声は途切れる事となる。

「……え?」

姿がはっきりと見える距離まで近付いて異常に気がつく。ぴくりとも動かない悠と、その傍でじっと目を瞑る陽介の姿。
それはまるで死者へ黙祷へ捧げているかのようで、不吉な予感に速まる鼓動に息を荒らげては次の瞬間にそれが事実なのだと知らされる。

「悠は俺達の為に死んだ。最後まで戦い抜いたんだ」

淡々と紡がれる陽介の言葉。
それを聞いた瞬間内蔵が凍てつくような感覚が襲い掛かり、抑えるものを無くした涙がとめどなく溢れ出す。

393No One is Alone(最終ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:24:10 ID:QDRj4hJM0

「嫌、嫌──!!」

頭が目の前の現実を否定する。
脳味噌がぐちゃぐちゃにかき混ぜられるような気持ち悪さに吐き気を覚える。
悠が動かないのも、陽介が嫌に落ち着いているのも受け入れられなくて、どうしようもない恐怖を誤魔化すように早口で捲し立てた。

「嘘だよ、鳴上君が死ぬはずない!! だって鳴上君、あんなに強いんだから!! 鳴上君の強さは花村だって知ってるでしょ!? 全く、こんな時につまんない冗談やめてよ花村……ほら、起きて鳴上君。一緒に八十神──」
「里中っ!!」

悠の身体に触れようとした瞬間に陽介の荒い声が響き、肩を跳ね上げる。
振り返る陽介の顔は先程までの落ち着きようが嘘のようにくしゃくしゃに歪んでいて、今にも泣き出しそうだった。

「認めたくねぇのも分かる、受け入れられねぇのもわかる! でもな、目を逸らしちゃダメなんだ! 辛い現実にうちのめされたって、挫けそうになったって!! 俺達は進まなきゃいけねぇんだ!!」
「っ!? ……は、花村……」

堰を切ったように大粒の涙を零しながら訴える陽介の懸命さに千枝の喉奥が熱を帯びる。
そこで初めて陽介が決して無感情だった訳では無いと気が付いた。彼は、現実を受け入れていただけなのだ。
悠との付き合いが最も長く、相棒の死の瞬間を目にしている分千枝よりも辛いはずなのに。その感情を抑え込んで前に進む事を選んだのだ。

「だから里中……一緒に進もう。しっかり前を向いて、現実と向き合おうぜ」
「……現実と、向き合う……」

強い感情を節々に滲ませる震え声で語りかける陽介に抱くのは羨望。
自分はそんな強い人間じゃない。なのに陽介は悠の死を乗り越え、迷わずに前を進んでゆく。
今の陽介はまるでぐんぐんと自分を追い越しているようで、その背中が悠と並んだような──そんな気がした。

394No One is Alone(最終ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:25:01 ID:QDRj4hJM0


分かっていたんだ。
いつまでも立ち止まってなんかいられないって。彼の想いを継がなくちゃいけないんだって。
違う、鳴上君だけじゃない。人知れず死んでしまった雪子の分も生きなくちゃいけない。
もう生きれない人達に代わってこの殺し合いをぶち壊す──きっとそれが本当の『あたしらしさ』なんだ。

「鳴上君……鳴上、くん……うっ、ああ……うわああああああぁぁぁぁ────!!!!」

けど、ごめんね。もう少しだけ待ってて。
これも『あたしらしさ』だからさ。
だから、お願い。今はただ二人の死を悲しむ女の子でいさせて。
そしたらちゃんと、現実と向き合うから。


(……辛いだろうな、里中)

悠の名を呼び慟哭する千枝を眺めながら、釣られるように陽介も行き場を失った涙を零す。
この戦いで失ったのは悠だけではない。自分の為に命を懸けてくれたホメロスやティファのこともしっかりと弔いたかった。

(ありがとな、皆。それと……見ててくれ。こんな殺し合い、絶対に止めてみせるから)

ウルノーガに振り回され命を落としてしまった彼らがせめて安らかに眠れるように願い、目を瞑る。
蘇る大切な想い出。二度と戻ることのないあの日々を胸に、残された自称特別捜査隊は前へ進む決意を固めた。





忘れないよ大事な みんなと過ごした毎日
NEVER MORE 暗い闇も一人じゃないさ

見つけ出すよ大事な なくしたものを
NEVER MORE キミの声がきっとそう

──ボクを導くよ



【鳴上悠@ペルソナ4 死亡確認】
【ティファ・ロックハート@FINAL FANTASY Ⅶ 死亡確認】
【クラウド・ストライフ@FINAL FANTASY Ⅶ 消滅】
【残り46名】

※E-4の一部の区域が崩壊しました。
※龍神丸、虹、ティファの支給品はE-4のどこかに放置されています。
※シルバーオーブ・LIFEは生命エネルギーを使い果たしました。
※クラウドの遺体は消滅しました。

395No One is Alone(最終ラウンド) ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:25:47 ID:QDRj4hJM0


【E-4/一日目 昼】
【花村陽介@ペルソナ4】
[状態]:ダメージ(大)、顔に痣、体力消耗(大)、SP消費(大)、疲労(極大)、決意
[装備]:グランドリオン@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品3人分、女神の杖@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて、ルッカの工具箱@クロノ・トリガー、シーカーストーン@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド、モンスターボール(空)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト、シルバーオーブ・LIFE@ゲームキャラ・バトルロワイアル、クラウドの首輪、不明支給品(1〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と共に完二の仇をとる
1.悠、ティファ、ホメロスを弔う。
2.死ぬの、怖いな……。
3.足立、お前の目的は……?

※参戦時期は足立との決着以降です。主催者陣営に足立がいることを知りました。
※鳴上悠との魔術師コミュはMAXになりました。
※クラウドの過去を知りました。
※ペルソナ『スサノオ』を覚醒しました。

【里中千枝@ペルソナ4】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、体力消耗(大)、SP消費(小)、びしょ濡れ、右掌に刺し傷、深い悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、守りの護符@MONSTER HUNTER X、ランダム支給品(0〜1個)
[思考・状況]
基本行動方針:前を向き、現実と向き合う。
1.鳴上くん……。
2.陽介と共に八十神高校でピカチュウ達と落ち合う。
3.自分の存在意義を見つけるまでは、死にたくない

※錦山彰、ミファーは死んだと思っています。


【E-4東側/一日目 昼】
【ピカチュウ@名探偵ピカチュウ】
[状態]:健康
[装備]:モンスターボール(ポカブ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1.八十神高校へ行く。
2.悠とティファの仲間、そして工具箱に書かれた『L』、ポカブのパートナーを探す。
3.悠、ティファ、無事でいてくれ……。

※本編終了後からの参戦です。
※電気技は基本使えません。
※ティファからマテリアのこと、悠からペルソナのことを聞きました。

【支給モンスター状態表】
【ポカポカ(ポカブ ♂)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康、満腹
[特性]:もうか
[持ち物]:なし
[わざ]:たいあたり、しっぽをふる、ひのこ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルを探す
1.ピカチュウ達について行き、ベルを探す。
2.強くなってベルを喜ばせたい。

396 ◆NYzTZnBoCI:2021/01/30(土) 13:26:08 ID:QDRj4hJM0
投下終了です。

397 ◆OmtW54r7Tc:2021/01/30(土) 21:05:35 ID:A5R03RPk0
ゲリラ投下します

398回想:彼の求める強さ ◆OmtW54r7Tc:2021/01/30(土) 21:07:22 ID:A5R03RPk0
「…私の負けよ」
「…ありがとうございました」

フスベシティジムリーダー、イブキは負けを認め、頭を下げる。
そんな彼女を、少年―レッドはつまらなそうにしながらも、一応礼を言う。
レッドの態度にイブキはムッとするも、しかし相手はあのワタルすら倒したチャンピオンである。
渡さないなんて失礼なこと、さすがにできない。

「これがこのジムのバッジ、クリムゾンバッジよ」
「これでジョウトのジムも、制覇か…」

レッドはチャンピオンとなった後、更なる強さを求めて修行の日々を送っていた。
そして、新たなる強敵を求めてジョウトのジムに挑んだ。
しかしこれもまた、難なく制覇してしまった。
今回のフスベジムも、氷タイプやドラゴンタイプのポケモンを中心に編成し、あっさり倒してしまった。

(…なんだろうな、このモヤモヤは)

相手によって手持ちを変えるのは、当然のことだ。
そこに卑怯もなにも、ない。
それは分かっているのに…何故だか、釈然としないものを感じていた。

「あ、そうだ、君」
「なんですか?」
「ワタルが言ってたわよ、チャンピオンなんだから、たまにはポケモンリーグに顔を出せって」
「…ポケモンリーグか、久しぶりに顔出してみようかな」

399回想:彼の求める強さ ◆OmtW54r7Tc:2021/01/30(土) 21:08:41 ID:A5R03RPk0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

「ファファファ!久しぶりであるなレッド殿」
「キョウ!?」

ポケモンリーグにやってきて、久しぶりに四天王と顔を合わせたレッドは、見知った顔に驚く。
彼の名はキョウ。
セキチクジムのジムリーダー…だった男だ。

「リーグの方から推薦を受けてな。ジムは娘に任せておる」
「へえ…数年経てば色々変わるもんだ」

「レッドくん。久しぶりだ」
「ワタル…」
「君がいない間に四天王も入れ替わりがあってね、新顔もいることだし、せっかくだし我々四天王に、挑戦してみないか?」
「ああ…そうだな」

そうしてレッドは、四天王に挑戦することになった。
一人目のキョウ、二人目のシバを倒し、そして三人目。
四天王の中では唯一初顔合わせの、カリンだ。
あくタイプの使い手で、シバ対策に入れてたエスパータイプがお荷物になってしまったものの、難なく勝つことができた。

「ありがとうございました」
「……………」

戦いを終えて、レッドはお辞儀して礼を言う。
しかし、カリンの方は何も言わず、こちらを睨みつけていた。

「…あの、なにか」
「…あなた、つまらないわ」
「え?」
「あなたのポケモン、よく鍛えられているけど…なんていうか、バトルしてて面白くない」

随分はっきりと物を言う女性だな、と思った。
実際のとこ、同じように感じてるのは彼女だけではないと、レッドは思っている。
キョウも、シバも、バトルが終わった後、何かいいたげな微妙な顔をしていた。

「あなた、わたし達四天王やジムリーダーが、どうしてタイプを統一した編成にしてると思う?」
「え、ええと……す、好きだから、とか…?」
「その通り。私はあくタイプが好き。だからあくタイプを極めるために、そういうポケモンばかりを使っているの」
「タイプを統一しない俺みたいなのは、半端ものだっていいたいんですか?」

少しムッとしつつ、レッドは尋ねる。
それに対してカリンは、首をふる。

「そうは言わないわ。だけどね、私、思うのよ」



「強いポケモン、弱いポケモン、そんなの人の勝手。本当に強いトレーナーなら、好きなポケモンで勝てる様に頑張るべき」



「あ…」

ドクン。
心臓が高鳴った。
カリンの言葉は、レッドに大きな衝撃となって襲い掛かってきたのだ。

400回想:彼の求める強さ ◆OmtW54r7Tc:2021/01/30(土) 21:09:29 ID:A5R03RPk0
「好きな、ポケモンで…?」
「ええ、そう。強いポケモンを持てば誰だって強くなれる。そんな誰にだってできること、本当の強さとは、私は思わない」

目が覚めたような気分だった。

強くなるために、手持ちを厳選して。
その為に弱いポケモンを切り捨てる。
相手に合わせて、手持ちを変える。
それは決して悪ではない。
強くなろうと思えば、高みを目指そうと思えば、当然の選択だ。

(だけど、違うんだ…それは『強くなるための方法』ではあっても、『俺の欲しかった強さ』じゃなかった…!俺の、俺が欲しかった強さは…!)



「レッド、どういうことだ!?チャンピオンをやめるって!?」

レッドの突然の申し出に、ワタルは困惑する。
それに対してワタルは、ニッと笑って言う。

「修行をしたいんだ。本当の強さを手に入れるために。だからワタル、君が繰り上げでチャンピオンをやってくれないか」
「そんな勝手な…!」
「頼むよ!」

ズイっと身を乗り出してレッドは懇願する。
その目は、少し前までのなにかに悩んでいるような暗いものではなく、メラメラと燃え盛るような輝きを放っていた。

「…まったく、そんな目をされちゃ断れないじゃないか」
「それじゃあ!」
「ああ、強くなって来い、レッド」
「勿論さ!」

401回想:彼の求める強さ ◆OmtW54r7Tc:2021/01/30(土) 21:11:53 ID:A5R03RPk0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

シロガネ山の入り口にて、レッドは6匹のポケモンたちと向き合う。

「フシギバナ」

ハナダシティで貰ったフシギダネを進化させたポケモン。

「リザードン」

ハナダシティの近くの道路にいたトレーナーからもらったヒトカゲを進化させたポケモン。

「カメックス」

クチバシティで警察に捕まってたゼニガメを進化させたポケモン。

「ラプラス」

シルフカンパニーの会長からもらったポケモン。

「カビゴン」

道を塞いでいたのを、ポケモンの笛で起こしてゲットしたポケモン。

「ピカ」

そして、マサラタウンで出会った相棒、ピカチュウ。


彼らは、カントーのジムに挑み、ロケット団を倒し、そして初めてポケモンリーグを制覇したパーティ。

「ごめんな、俺、強さを追い求める中で、大好きなお前たちのことを、蔑ろにしてた。本当にごめん」

頭を下げるレッドに対し、ポケモンたちは複雑な表情を見せていた。
彼らは、いわゆる旅パというやつだった。
厳選も何もあったものではない彼らは、レッドが強さを追い求める中で、ピカ以外、忘れ去られ、ボックスの中で主人を待ち続ける身となっていた。

「俺、気づいたんだ…!俺が欲しかった強さは…大好きなポケモンたちと紡いでいくものだったんだって!」

「俺は、苦楽を共にしたお前たちと、もう一度旅をしたい!一緒に強くなりたいんだ!その為に…力を貸してくれないか!」

そういって、レッドは頭を下げて手を差し出す。
しばらく、沈黙が続いた。

「…ピカ」

最初にその手を取ったのは、唯一無二の相棒だった。
ピカも、最近のレッドには少し不満があった。
しかし今の彼は、自分の大好きだったレッドに戻ったと、感じていた。
だから、彼に協力しようと決めた。

ピカチュウが手を取ると、続くように他のポケモンたちも手を取る。
フシギバナも、リザードンも、カメックスも、ラプラスも、カビゴンも。
みんな、笑顔でレッドの手を取ったのだった。

「ありがとう…みんな!」

そんな彼らに、レッドもまた笑顔を向ける。

「みんな…強くなろう!誰にも負けない、厳選パーティなんかにも勝てる…そんな『最強のパーティ』に、俺たちはなるんだ!」

そうして彼らはシロガネ山にて特訓を始めた。
他とは比べ物にならない野生ポケモンが現れるその山での修業は、非常に厳しいものだった。
しかし、レッドに苦痛はなかった。
大好きな彼らと強くなるのは…厳選したパーティを作業的に鍛えるそれとは比べ物にならないくらい、楽しいものだったから。

やがて、レッドのもとに、とある一報が届いた。
ポケモンリーグに、新チャンピオンが現れたというのだ。
そいつはジョウトのバッジを集めてポケモンリーグに挑戦し、ワタルを倒してチャンピオンになると、今度はカントーのジムに挑戦しているらしい。
復活を目指していたロケット団も、そいつによって壊滅させられたらしい。

「きっと、そう遠くないうちに、ここにやってくるだろうな」

そして、自分とバトルをする。
そんな予感が、レッドにはあった。

「追ってこい、新チャンピオン。俺たちの、『最強パーティ』が、お前を倒す!」

402 ◆OmtW54r7Tc:2021/01/30(土) 21:15:27 ID:A5R03RPk0
投下終了です
今回、回想オンリーなので状態表はナシです

403名無しさん:2021/02/14(日) 11:01:24 ID:fd2Zm4qA0
いつも乙です。

>> 両雄倶には立たず
名簿の考察なんかは結構読み応えあって好き。
知り合いに名前が伝われば最低限の役割は果たすのだから雑に作ってもいいのよね。
そのうえで、雑に作っただけか、本当に主催者が参加者を把握できていないのか、ここの差はでかいよなあ。
もっとも、現時点ではそれ以上の考察はできないわけだけれども。

スネークもセフィロスもあらゆる事態をよく想定したうえで動いてるなあってのがありありと分かる。
考察も方針も二重三重に選択肢を用意しておいて、事が起きれば直ちに切り替えられるようにするというのは正しく強者だと思うのだわ。

そしてセフィロスってほっとけばそんなに危険ではないのではくらいに思ってたけど、
伝言役にしようとする相手に対して、楽しむためだけに躊躇なくファイガを打ち込むのはやっぱり災厄だったわ。


>> そでをぬらして
袖を濡らす:涙を流して泣く。涙で袖をぬらす。
平仮名書きでもある以上、絶対タイトルになんかあるはずなんだけどたどり着けず。

前話からして錦山と千枝の関係が心配だなあって思ってたけど、案の定というかなんというか。
放送まではまだ関係性は悪くなかったのに、悪い知らせと襲撃、そこからの事故で誰も望まない形で決裂したって感じだなあ。
一方でミファーのほうも襲撃は及第点に届かない感じで、三者ともに陰鬱な方向に転がっていった感じ。
誰も死んでないけれど誰か死ぬよりも後味悪くて、いわばマイルドな良鬱話。


>> たたかう者達〜更にたたかう者達
前哨戦、決戦の二本仕立て。
実際に前半は『たたかう』を交互にやってるだけの様子見だし、
後半はあらゆる手を使って本気で戦ってるしで、状況がよく書かれてると思った。
ちょうど通常戦闘曲→ボス戦とBGM変遷してる感じもある。
(たたかう者達自体がボス戦に負けず劣らずカッコいいのはおいとく)

この一話の間、ホメロスの株の乱高下が激しくて、
あのホメロスがグレイグの死を聞いたのに気をしっかり持ってるところで株が上がり、
ゾーン知ってるのに悠長に攻撃してリミットブレイク引き出しちゃうところで株が下がり、
ジャローダを決着に抜擢して完全に意識外から不意打ち仕掛けたところで軍師の面目躍如させて、
でもホメロスの策略は結局クラウドに真っ向から打ち破られてしまっているので……と、とにかく激しいのです。
クラウドは堅実だなあって印象。悪堕ちしてるけど彼って基本まじめだよね。

404名無しさん:2021/02/14(日) 11:02:55 ID:w1yZLuXU0
>> 不思議の国の遊園地跡
ある意味メインの首輪数でご褒美もらえる機械、これ主催者内の殺し合い促進側の設置なのか、それとも反逆側の設置なのか、まずそこが謎よね。
景品についても、どっちの勢力がかかわったとしてもおかしくない品揃え。
オーブとか、単体は有用な戦闘用アイテム、全部集めると…?、みたいなのあるしね。
なんなら最後についてきてるように見える謎の機械も、どっちかの勢力の息がかかっているのでは、と思わなくもない。
ひとまず首輪レーダーがあれば残りの首輪集めは相当捗るはずで、景品狙いなら五枚までが一番の山な感じがありそうだなあ。

ところで首輪載せるだけでカウントされるなら、頭いいやつなら首輪カウント横からかすめ取ってしまうのでは? とか思ったり


>> 君の分まで背負うから
毎回ちゃんとオチをつけてくれるけど、恥ずかしい呪い持ちの割になかなか男前じゃない?
ポッドがどこまでも冷血に合理的なこと言ってくれるから、その分好青年が引き立ってるとは思うの。
一個不穏なのは、過ぎ去りし時を求めたことを後悔しているような描写だなあ。
イレブンが個人で秘めておく程度ならともかく、この心境で元の仲間とかかわった時にどうするよ、みたいなのもあってここが一点の曇りって感じ。
お前マルティナさんのクソ重感情もちゃんと背負っていけるか? はどうしても気になってしまう。


>> そして、戦いは続く
魔王さん、ここでいきなり新連携編み出すとか、やはりデレてますね?

ネメシスが正体不明の化け物というより強豪モンスターみたいな感じになってて、
現代世界舞台の住人がファンタジー世界住人とファンタジー舞台でクロスオーバーすると自然とそうなるんだなって。
ネメシスが割とあっさり脱落したように思えるけれど、でもこのパーティ相手ならおかしくないかな。
そして非戦闘員の多いこのパーティにて、シルビアが最初に落ちるのはそうだろうなあって納得してしまう。
騎士道スキルないはずのシルビアがかばうを使えたり、魔王が新連携編み出したり、原作を昇華した部分多いけど、
わりかし解像度が高くてすんなりと情景が入ってくるイメージ。


>> 選ぶんじゃねえ、もう選んだんだよ
ミリーナさんエグいです。
勝負好きな性分の子に対して、共感度上げてからのプライド煽りはいけない……。
マルティナさん、あなたが一番信用してはいけないやつは目の前にいるその子だぞw
一皮剥けないとここぞというところで始末されるかヘタすりゃイレブン殺しの下手人にされそうだし、
逆に一皮剥けるともう戻れないし、なんか詰みそう。
二人とも踏んだ場数に大差はないと思うんだけれど、覚悟の差が残酷に現れていることはひしひし感じる。
ミリーナさんってジョーカー以上にジョーカーらしい言動しててマーダーの中ではトップクラスに悪辣な女郎なんだけど、
一生懸命やってるのがはっきりと分かるんで割と好み。

405名無しさん:2021/02/14(日) 11:03:44 ID:w1yZLuXU0

>> チョッカクスイチョク
間違いなくまじめな作品なのに、どこかコメディっぽさがあるような気がする。
ついにこのバトロワにもカレー出たなあとか、ギリメカラってペルソナでも物理反射すんの?? とか、どうも横道に逸れてしまうような情報が色々と……。

セフィロスと戦うのを目標にティファは動いたわけだけど、いまいちお互いの認識がずれているような気がしてしまう。
確かに死者は出てるし、また復活もしてるけど、セフィロスってクラウド以外あんまり気にしてないぞっと。

> だが、彼の生存報告は、初めてのことではなかったのでさほど驚きはしなかった。
この認識持ってるのは笑わざるを得ない


>> 見上げた空は遠くて
リーバルの株価上昇が止まらない。
理想の上司ランキングでいいとこいけそう。
中身が伴わない自信ってただの慢心だし、実際に最初は慢心キャラだと思ってたけど、
彼の場合は心技体全部そろってるってのが分かって、自信に満ちた本物の英雄なんだって見る目が変わった感じがする。
彼のプライドが結実しようと打ち砕かれようと、どちらに転がってもいい話見れそうなんで楽しみ。


>> 未知への羨望
セフィロス相手に正面からケンカ売った時点で、あーこりゃ南無ですわ乙乙って思うし、
上級の炎魔法三発+上級の氷魔法受けて余裕のセフィロス見てご愁傷様って思うし、
セフィロスがチカラを求めるのはどこでもそうなんだなって思うとちょっと親近感と安心が生まれてしまうし、
セーニャがほぼほぼ詰んでる気がするし、
でも一番のみどころは、

セフィロスコピー化きたあぁぁぁ!

ってとこだよね。

G細胞S細胞とかリユニオンとか、ジェノバ細胞まわり書くのめっちゃ大変だから書き手さんがんばって!
あとせっかく主催者が展望台から追い出したのにまたしても同じ場所にとどまる気満々なのは草
このままではセフィロスが歩く禁止エリア呼び込み人になりそう

406名無しさん:2021/02/14(日) 11:04:34 ID:0WQCCdRA0
>> Dance on the edge
刃上の舞闘、かな?
盾を円月輪みたいに使ったり、盾とジバリーナをジャンプ台の代わりにしたり、天井のナイフをサブ武器にしたりと、持ち物舞台スキルあらゆる手を出し尽くした戦いは読みごたえがあった。
林檎食べてたりマール連れて行ったりする、ハンター独特の価値観をカミュがいちいちツッコんでくれるような軽妙さが混じってるのも好き。
ネメシス戦が割と余裕はあった分、こっちは余計にやれること全部やった感が際立つ。

これだけやり尽くしてしれっと第三形態になって出てきた上に、
原作的にはその変身を俺はあと二回以上残している、となるのはちょっとこいつどうやって倒せばいいの感が……。


>> 虚空に描いた百年の恋
書き手さんリーバルに厳しいね……。
いうても彼の人となりは正しく情に厚い英雄であるがために、ゼルダに失点付けられるのは仕方ないよなあと思うところもあり。
ゼルダを即死させられなかった原因が彼の心の迷いにあるというのもきついのだけれど、
ベロニカが死んだのが完全に偶然だったってのもきついよなあ。
たまたま流れ矢に当たって死にましたって結果は、ベロニカ絶対殺す!で殺されるよりも、よっぽどプライドへし折られると思うんだよ。

ただ、なんかリーバルに失望するみたいなのはあんまりなくて、雑草魂じゃないけど、より強靭に立ち直れるんじゃないかみたいな希望もある。
レッドの絶対に嗤わないという宣言は突き刺さるし、かっこよかったなあ。

あと、情に揺さぶられたリーバルとそれを最大限利用しようとするゼルダの駆け引きも面白いのだけれど、
生き残るための選択を間違わないレッドがいい味出してるって思う。
彼にとってははじめての形態のバトルだろうに、そこで最善・次善の選択を取り続けられるのが彼が紛れもない猛者だって証明になってる。

くっそどうでもいいことなんだけど、そしてカモネギの進化系がいることをレッドに教えてあげたい。


>> 嘗テ思イ描イタ夢ノ誓イ
モンスターボールを一生懸命ハッキングする9S君のコミカルさとか、放送の陰鬱さとか、いろんなことやってるけど、
それらの出来事を9Sの過去の記憶への足掛かりとして、落としどころをつけていく構成の妙。
で、全体的に陰鬱な雰囲気を出してるためか、記憶を取り戻すことへの危うさが透けて見えるような気がする。
何かの拍子で崩れ去りそうな、そんな繊細な緊張感が感じ取れるような作品だと思うのです。


>> 拘束が緩む時は
意外とカイムはコミュニケーション取ろうとしてくれるんだな、と……。
一応無差別だし好戦的だけど、相手とのコミュ戦では虚実混ぜて有利に立ち回ってやろうとする気概は薄い気がする。
そう考えると説得から始めるエアリスの気持ちも分かるんだけど、でもその人殺人狂でもあると考えるとなんともはや。

ゲーチスは今のところいいとこないよなあ。
カイムにこいつほっといていんじゃねって思われてるのは惨めだし、
エアリスとの考え方の相性がめちゃくちゃ悪そうだし、けど実力なくて別れられないしですごく窮屈そう。
ステルスマーダー気取ってるけど、ヘタに欲を出したら破滅一直線な危うさがあるんでどうすんのみたいな感想になる。

エアリスも説得が通じないとカイムに襲われたときのように成す術なしになりそうだし、
ぶっちゃけると、エアリスとゲーチスってあっさり死にそうな危ういコンビなんで読んでてひやひやして好きです。

407名無しさん:2021/02/14(日) 11:05:27 ID:0WQCCdRA0

>> ……and REMAKE
ホメロスは毎回ポカしたりファインプレーしたりで評価定まらなかったけれど、今回は上がる要素しかなかった。
陽介への的確な鼓舞、ジャローダ使った不意打ち、どっちもファインプレーだけどこれは前座。
メガザルなんて彼の対極にあるような呪文なのに、その手段を取るのが納得できるというのはこれまでの積み重ねの冥利に尽きると思う。
そして一番救われたように思うのは、復讐心を振り払って、最期にグレイグに並び立てたというところかなあ。
グレイグに先に死なれたときは彼の鬱屈どうやったら晴れるんだろうと思ったけれど、すごく後味のいい結末に落ち着いたんじゃないかと思う。


バトルは主にクラウドVS陽介なわけだけど、
同類が口喧嘩で決着つかなくなって殴り合い始めるの、長いバトルのクライマックス感あっていいよね。
クラウドの身体能力なら絶対に殴り合い破棄して武器取りに行く程度のことはできると思うんで、
彼なりに思うところあったんじゃないかな、むしろ色々つけてる理屈は後付けだろうって思うのさ。
ところで次話が出来てるから書くんだけど、陽介が主人公すぎて魔軍兵士クラウドに負けるところが想像できないあたり、リレーのハードル高いよなあって思ったりはした。


>> 一難去って……
姫ちんの毒がじわじわと効いてきたなあ。これ千早本人よりも別のキャラへの影響がでかくなりそう。
ここでは美津雄応援したくなるキャラなんで、雪歩とすれ違いが発生してるのは素直に悲しい。
一方でちゃんと薬持ってザックスのところに戻れてるの、きちんと役割を果たせてるんだなあって思うとうれしい。
これ地味なんですけど、二つの材料のうち、片方は自力で見つけて採取してるのが何気にポイント高い。
がんばってるの分かるんで報われてほしいと思う。

一方で雪歩はここ数時間、悪いことばっかり起こってるよなあ。
人質とレイプ未遂くらって心ボロボロになった後に、人相悪い大男に乗ってるチョコボの首飛ばされるとか心折れてもおかしくないっしょ。
カイムって情に訴えると見逃してくれそうだけど、失敗すると即殲滅されそうな怖さがあるんで、ここをどうやって切り抜けられるのかどうかは興味深い。


>> 差し込む陽光、浮かぶ影
こ、この二人の話読みたくない……。
世間の冷たさを身にしみて分からされている……。
世界そのものがオタコンとシェリーの敵になって、お前らはむごたらしく死ねって言ってきてるような絶望感しかない。

オタコンが生きづらくなってるのって、彼に優しさがあって、倫理と常識にできるだけ沿おうとしているからだよなあ。
この関係が続くくらいなら、シェリーはウィリアムに魔改造施されて大暴れするほう救われるんかもしれないとすら思えてきた。
オタコンはオタコンで、シェリーてめー足引っ張りやがったら犬のエサにしてやるからなって開き直るくらいがまだ健全なのでは??

現実的なところだとオタコンとシェリーは別れて、シェリーを誰かに引き取ってもらうのが最善なんだろうなあって思うんだけど、
研究所までの道のりを考えると、どんだけマーダーと野生のポケモンいるんだよ? 無理ぽ

408名無しさん:2021/02/14(日) 11:06:54 ID:0WQCCdRA0
>> 私が歌う理由
千早の生きる理由が他者依存だったのが、自分の中にもあることに気づいたことで、メンタル面はだいぶ改善された感じ?
この子見てて大丈夫そうだなって思えてくるもの。
悪質なデマがバラまかれて広まってるけど、なんとか切り抜けられるかなあって。

それにしても、一話落ちキャラとは思えないほど、春香の存在感が大きい気がする……。
過去編に出てくる重要キャラみたいな立ち位置になってない??
死んでなお、人に前を向かせることができる人間力は過去編から見ても将来のトップアイドルの貫禄って感じ。


>> 劣等感の果てに残ったもの
この話は単純にキャラの動かし方がすごく好き。
イウヴァルトと錦山の敵でも味方でもない関係、それも人間不信気味のキャラと裏で暗躍しようとするキャラの邂逅ってすごく面白い。
出会いから終始貫いてる、おてて繋いで仲良くやっていけるわけねーだろを体現してるこの関係、見ていて先が読めないし、
一方の合理的な行動をもう一方から見たときの訳の分からなさとそのネタばらしがほんと面白かった。
ロボを振り切るために錦山を突き飛ばすその自分本位の合理性は痺れるね。
イウヴァルトは偶然だよりなのは相変わらずだけど、ちゃんとキルスコア付けたんで仕事はちゃんとできたっていうなんとも評価しづらい楽しい位置にいるよね。


>> 亡き王女の為の英雄裁判
あー、あの裁判は胸糞だった。
あっちは最初から殺しに来てただけだけど、今回の裁判は判事が正義を信じて判決くだそうとしてるんでより胸糞悪い感じ。
ダルケル本人は情に厚くていいやつなんだろうけど、冤罪かけられた側から見たらこれ以上理不尽な存在はそうそういないもん。判事絶対向いてない。
グレイグの実直さをダルケルは信用してるわけだけど、これクロノから見たらグレイグまでもがクロノを追い詰めてきてるように思えてしまうんじゃないかなあ。
そう考えると彼は出会った人すべてに裏切られたわけで、やけっぱちになるのは分からなくもない。
ただ、ルッカとロボがちょっとかわいそうではある。
ぶっちゃけ、今回のホメロスの遺した影響と比べると、今回のグレイグの遺した影響って割とロクでもないので
あいつ冥界でホメロスに慰めてもらってんじゃないかって思わなくもない。


>> 誓って殺しはやってません!
裁判回のあとにこのタイトルつけてるのは一覧で見ると笑えてくる。
この二人ガチバトルやってる割には掛け合い楽しくて好き。
ステーキとか酒とかの豪勢な食事の合間に軽いデザートを食べたくなるのと同じで、
アツい展開とか鬱展開とかメンタル抉る展開の合間に、単純に娯楽として気楽に読めるバトルを演出してくれるので、この二人は好き。
トレバーは言い回しがクスっとくるし、ブーメラン刺さりまくってるし、でクソ野郎なの間違いないのに生き残ると楽しいよなって思うんだよ。

そして、真島がいい感じに存在感を出してきたなあ。
彼本人にユーモアがあってスピリットが熱くて、
しかもNの城まわりはマーダーと危険人物大量発生中という実においしい状況で、楽しみになる引きだと思った。

409名無しさん:2021/02/14(日) 11:07:49 ID:0WQCCdRA0

>> 夢追い人の遺しもの
うん、ザックスはこうするだろうなあ。
予想だとか期待だとかじゃなくて、必然と納得しかないって感じ。
そりゃ『いらっしゃいませぇぇぇぇ!!!!』ってセリフが出た時点でどうなるかも分かってしまうもの。
美津雄にジェノバ細胞埋め込まれてたらそのままクラウド二号が完成しそうな勢い。

ミリーナは立ち回りうまいはずなのに、ザックスに手加減されてマルティナに実は当て馬にされてて、
なのにその状況をいまいち把握できてなくて、と今回いいとこなくて悲しい。
このコンビもシェリー・オタコンに次ぐくらいには空気悪そう。
前話まではマルティナが使い捨てられそうに思ってたのだけれど、これは先が読めなくなってきた感じがある。
そして人質探してて近くにいるの誰よと考えると、ねえ。

結構この先の展開考えると不安感あるんだけど、リンクと真島はすごいな。
彼らが到着したという事実だけで、そういう要素がまったく見えなくなってるのは見事だわ。


>> 花と風と
ゲーチスがもはやただのクダまいてるだけのおじさんになってるw
エアリスはゲーチスの事どう見てるんだろうなあ。
マーダーにも主催者打倒にも踏み切れない、守るべき一般人のおじさんくらいにしか思ってないのでは?

ただ、ゲーチスは同じくステルスな貴音に対して、どう動くのかは割と重要そう。
単純に合流しないまま別の勢力と接触するのか、
対主催として貴音に接するか、ステルスと見抜いたならどちらをエアリスと貴音のどちらを利用するのか、色々選択できて夢が広がりそうだ。
ソニックはソニックで、この辺は人口密度高いんで誰に接触するかは重要そうだなあ。
次の話が広がりそう。


>> セフィィィィィロォォォォォス!!!
セーニャが状態表TASやってんのかってくらいひどいことに……。
精神ダメージ受けるとジェノバ細胞がハッスルして、肉体ダメージ受けるとGウイルスがハッスルしだすという一人火薬庫なのがまたひどい。
しかもこれ向かっていく方向にカミュやイレブンいそうじゃない? 同作品の仲間巻き込んで盛大に爆発しそうで怖すぎる。

セフィロスとウィリアムの頂上対決もやばいよなあ。
言い換えるなら、ジェノバ細胞 VS G細胞でしょ?
今まではただ暴れて撃破されるくらいの立ち位置だったウィリアムが、ここに来ていい味出してきたと思うの。
お互いに因縁ゼロなのにいきなりベストマッチが降ってきたみたいになってるのがおかしおもしろい。

410名無しさん:2021/02/14(日) 11:08:42 ID:0WQCCdRA0
>> No One is Alone
前話の陽介とクラウドの因縁はそのままに、ティファと残りのペルソナキャラ全員集合して大バトルとかもう山場いくつあるのよ。
前話の殴り合いとかクライマックスだと思ったのに、クライマックス二段構えだった心境。

クラウドが終始優勢だけど、メンタル面では沈んで沈んで沈み切って、最期に引き上げられる、
逆に陽介は終始劣勢だけど、メンタル面では常に圧倒しててここしかないという肝心なところで間違わない。
色々起こる奇跡がクラウドにとってはどこまでも自分の理不尽なパワーアップで、陽介にとっては仲間が助けに来ることでの劣勢の逆転で、
そんな二人の描き方が見事だと思う。

クラウドから見ると第一ラウンドあたりは圧倒してるけど、なんか陽介を倒せるイメージ浮かばない。
淡々と動いてるさまが無機質さとか非情さというより、本当に諦観してるだけなんだって思えて、そのまま擦り減って終わりそうな感じがあって。
第二ラウンドだと成仏できそうだったのに、意味の分からない主催者の介入で絶望して。
第三ラウンド、第四ラウンドではペルソナの3人の眩しさに焼き尽くされて。
最終ラウンドについては、
前話で陽介と拳で殴り合って打ち倒されて、目を向けてくれる仲間がいたのに一人にしか目を向けなかったということを知らされたけれど、
今話でもう一度陽介と拳で殴り合って打ち倒されて、目を向けてくれる仲間から救われて逝く、その構成がとてつもなく綺麗にまとまってると思う。

魔軍兵士になった時点で最初から最後までクラウドは救いを求めていて、陽介が手を変え品を変え、それを結実させていく、ってやつなのかなあ。
そこにペルソナキャラ全員集合とティファを折り入れてきて、そりゃ盛り上がる。
ペルソナ勢はどこまでも眩しく描かれてて、立ちはだかる壁の高さなんて感じさせないくらい安心して見ていられるし、
死に際までとんでもなく眩しくて、こんなのクラウドじゃなくても羨ましいくらい。

これさ、ウルノーガと足立の代理戦争でもあるわけだけど、ウルノーガは癇癪起こして、足立はめちゃくちゃ嬉しそうにしてるんだろうなって思った。


>> 回想:彼の求める強さ
今までの描写だけだと、それでもレッドよりトウヤのほうが強いのでは? くらいに見えたんだけど、
この回想が挟まることで一気にレッドの魅力が上がってきた。
会場自体には全然影響ないながら、ものすごく重要な話だと思う。
トウヤがレッドのIFになってて、強いトレーナーとはいったい何かを余さず描くためのナイスなパスを投げてくれた感じ。

別にこの二人が対決するのかどうかも分からない上にバトロワにめっちゃ関係なさそうなんだけど、そう思うくらいに先が楽しみ。
某有名なセリフも、ここできたかーって思うくらいには見事な使い方されてると思う。

ところで御三家の来歴、20年以上前にアニメで見たことあるんですが? そのカメックス絶対サングラスかけてたでしょ?

411 ◆OmtW54r7Tc:2021/02/14(日) 17:00:48 ID:hio1KNxI0
>>410
感想乙です。ありがとうございます
レッド回想回の御三家はピカチュウ版での入手方法をもとにしてるんですが、あのゲーム自体アニメを意識した改変してるのである意味ではその通りかもしれないですね

412 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/11(木) 14:46:07 ID:qcNQVfGs0
感想ありがとうございます。
イレブン、ベル、サクラダ、オトモ、魔王予約します。

413青の光に導かれ ◆vV5.jnbCYw:2021/03/11(木) 18:09:47 ID:qcNQVfGs0

「あ〜ダメダメ!お鍋が吹きこぼれてる!」
火元から鍋を遠ざけたのは、サクラダだった。

「あの……すいません。」
顔を真っ赤にし、謝るイレブン。


ことの発端は、以下の通りだ。
ネメシスを倒し、シルビアの遺体を埋葬してから、残ったメンバーはイシの村に残った。
メンバーこそは豊富だが、この中で魔法を使える者が今おらず、戦闘要員も限られる中で、動き回るのは難しいと判断し、一度近辺のイシの村にて休憩を取ることにした。


その地が第二の故郷であるイレブンは、自宅に他の仲間を招き入れ、彼らの支給食料も合わせた料理を作ることにした。
本当は集団でいると恥ずかしいため、一人でできる料理を進んでやっていたのだが。


しかし、支給食料の固形スープや、家に置いてあった野菜・薬草などでスープを作っていると、ふと思い浮かぶ。
自分はキャンプで仲間たちと話すのが苦手だったため、良く一人で食事を作る役を担っていた時のことを。
作った料理は、確かに仲間の中で評判は良かった。
だが、それは仲間内でのみ美味しかった料理なのではないか。
ここのメンバーの口に合わないんじゃないか。
そもそも支給品と僅かな野菜や干し肉だけで、美味しい料理が作れるのか。


そう思うと、料理中ながらも恥ずかしくなってしまった。


大丈夫かと料理を心配しに来たサクラダの予想は、当たってしまった。

「謝らなくていいわよイレブンちゃん。それと助けてくれてうれしかったわ。
そうそう、火の後始末お願いね。」
そう言いながら鍋を、他のメンバーがいる方に持っていくサクラダ。

まだ立ちぼうけていたイレブンの目線に、あるものが映りこんだ。

414青の光に導かれ ◆vV5.jnbCYw:2021/03/11(木) 18:10:07 ID:qcNQVfGs0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


一方で、イレブン宅の2階。
イレブンに睡眠魔法をかけられていたベルは、久々に目を覚ました。

「あ、目を覚ましたニャ?」
隣でオトモが立っていた。

「え?君……だれ?」

ポケモンのような、そうでもないような風貌のオトモに話しかけられ、驚くベル。

「ボクはオトモ、それでここはイレブンの旦那のお宅ニャ。イレブンの旦那は、キミを運んでくれたニャ。」
「そう……。」
相手に敵意がないことで安堵するも、ベルはその表情を曇らせる。


「ねえ、オトモって言ったね。お供って言うことは、トレーナーもいるの?」
「旦那様のことかニャ?この戦いにいるみたいだニャ。」
「もしも……もしもよ。その旦那様がいなくなっちゃったら?」
「……それは、難しい質問ニャ。長い事オトモを務めていたから、大切な旦那様のいない生活なんて考えたことないニャ。」


首を傾げ、考えるオトモ。
一瞬、ベルは自分がまずい質問をしてしまったのではないかと焦る。

「きっと、ボクは悲しんで、それでも生きていくニャ。
ご主人様がこう言ってたニャ。「人のみならず、どの生き物でもいつかは死ぬ。だからこそ、命の受け止める方が重要なのだ」って。」
「かっこいいね、その人。」
「だから、ボクは付いていくと決めたニャ。」

自分が従えるのではなく、ポケモン自身が付いていきたくなるような、共に戦いたいようなトレーナーになる。
『どんなトレーナーになりたいか』と聞かれればそう答える人は多いが、実際にそうなれるトレーナーは少ない。
ご主人というのはどの人か分からないし、オトモはポケモンでもあるし、そうでもないようにも見えるが、尊敬されるべき人物であると分かった。


「じゃあ、私も決めた。チェレンのこと、もう悲しまない。」
チェレンが何で死んだのかは分からないが、いつまでも悲しんでいれば周りの人も暗い気持ちになってしまう。
それに死別ではなくても、いくつもの別れを経て、それでも先へ進むのがトレーナーのはずだから。

(きっと、チェレンも私のこと、忘れないよね。)


「そうと決まれば、腹ごしらえニャ。下でイレブンの旦那たちが、ご飯を作っているニャ。」
下の階からいい匂いが漂ってきた。
それにつられて、オトモとベルは下へと急ぐ。


「あら、起きたのね!心配したわ〜。」
「………。」
「…………。」

ねじり鉢巻きに、禿げ頭の男は気さくに話しかけてくれるが、イレブンと、顔色の悪い長身の男は黙ったままだ。

「んもう、せっかくベルちゃんが起きたのに、みんな愛想悪いわね〜。さ、このスープをおあがり!!」
机に鍋を置いた後、人数分の皿にスープを配るサクラダ。
元々二人だけの家だったため食器が不足してるかと思いきや、コップや瓶にもにも注いでいく。

支給されていたパンも忘れず千切っては配り、千切っては配り。

415青の光に導かれ ◆vV5.jnbCYw:2021/03/11(木) 18:10:32 ID:qcNQVfGs0


「ありがとう、私、ベルって言うの。ポケモントレーナーよ。」
「アタシは、大工のサクラダ、こっちはイレブンちゃん、さっきまで見張りをしてくれたこっちは……。」
「魔王だ。皆まで言うな。」
「え?魔王って、あのおとぎ話の魔王!?」
ベルは目をきらめかせながら魔王に聞く。
その顔には怯えなどの負の感情はない。

「何のことかはわからないが、そちらの判断に任せる。」
そう言いながら魔王はパンの一かけらをスープに付け、食べ始めた。
同調するかのように他のメンバーも食べていく。

「うん、美味しいわね。」
「イレブンちゃんも中々料理上手なのね。モテるわ。」
「この素朴な味、ご主人様が作ってくれた料理にも似てるニャ。」
「………。」
「…………。」


つい先ほど、厳しい戦いと離別に晒された後でもあったため、5人の間に張りつめていた空気が、僅かながら解れた。
体力も完全ではないとはいえ回復出来て、これならば再び外にも出られそうだ。

「あの………。」
長いこと沈黙を貫いていたイレブンが、声を出していた。


「首輪をどうにかする方法、あるかもしれません。」
しばらくイレブンを除いて話をしていたメンバーが、全員黙り込んだ。

「誰かに話を聞かれているかもしれん、イレブン、ここに書け。」
魔王は家の中に会った本を一冊渡し、空白のページを向ける。


『このオーブの力で、首輪を解除できるかも。』
右手で書きながら、左手でポケットから出したのは、青い宝玉だった。


「キレイね!!何それ!!」
「んま〜、イイ男に似合いそうな、海のように蒼い宝石ね〜。」
「それで武器でも作るのかニャ?」

『このオーブ、あらゆる魔力を解除できる力があります。何故か僕の家のキッチンにありました。』
ざわざわ、と空気がどよめく。

かつてはクレイモラン王国の宝であった、ブルーオーブ。
イレブンが受け取ってから、命の大樹へと向かう道標として、働いたオーブの一つだ。
だが旅の途中で奪われてしまい、再び目にしたのは魔王ウルノーガと戦う直前。
彼の親衛隊の一人、邪軍竜王ガリンガが、自分達にかかった強化魔法を解除する道具として使っていた。

『だが、奴らがそんなものを転がしておくほど、マヌケにも見えない。』
魔王が沸き上がった空気を冷ますような内容を書き綴る。

『僕もそう思う、だからこれだけでは、解除は出来ない』
「ちぇっ、結局無理なのかニャ……。」
「待って待って、イレブンちゃん、アナタ今「これだけ」って言ったわね?
というとまだ話は終わってないってこと?」

だが、サクラダだけはイレブンの話をまだ聞こうとしていた。

『はい。このオーブ、6つ集めると、1つより凄い力があります』

6色のオーブを集めて天空の祭壇で掲げると命の大樹への通路となる虹の橋が現れる。
首輪の解除のみならず、脱出のための架け橋を作られるかもしれない。

416青の光に導かれ ◆vV5.jnbCYw:2021/03/11(木) 18:10:56 ID:qcNQVfGs0

「似た色の宝珠があるということ?そうだ、いちごちゃん、いる?」
『否定:私の名前ではない。』

再びイレブンのザックから出て来るポッド153。
「これ、鑑定してくれる?」
『承認。』

何度か点滅するも、結果は分からなかった。

『不可:解析出来ない力あり』
残念ながらポッドのCPUを用いても出来なかった。
だが裏を返せば、それだけ未知の可能性があるということだ。


「ならば、再び出発する時か。これ以外の宝玉を手分けして探すことにしよう。」
魔王が提案した。
ここから先は、東と南、二つの方向がある。
5人まとめて同じ方向へ行くのも非効率だし、危険な相手に狙われやすくもなる。


「僕と……魔王さん……分かれた方が……。」
特に戦闘能力の高いイレブンと魔王が、それぞれリーダーとして、先導することにした方がいいだろう。
そうした認識は全員に伝わった。


「ボクは魔王の旦那と行くニャ!」
「勝手にしろ。」
「アタシは、ハイラル城にも向かいたいから、そっちの方向にするわ。イレブンちゃんも魔王ちゃんもイケメンだし。」
「うーん。私はイレブンの方かな〜。」


結局、南へ向かうのがイレブン、ベルと支給品であるランラン、ポッド。
北の廃墟、ハイラル城を見たいため、東へ向かうのが魔王、オトモ、サクラダ。
ネメシス戦の前の組み合わせになってしまったが、組み合わせも決まった以上、イシの村を後にする。


「皆さん……危なくなったら……逃げて。」
イレブンはなおも恥ずかしがりながら、消えゆくように呟く。

「そうだな、それと、合流する時も合わせておくべきではないか?」
「じゃあ、日が沈むまでね。収獲があってもなくても、ここに戻るのよ。」


5人は、共に過ごした村を後にした。
いずれまた、再開できる時を願いつつ。



【A-1/イシの村 外/一日目 午前】



【オトモ(オトモアイルー)@MONSTER HUNTER X】
[状態]:健康  
[装備]: 青龍刀@龍が如く極 星のペンダント@FF7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(確認済み) ソリッドバズーカ@FF7
[思考・状況]
基本行動方針:魔王に着いていく。
1.ご主人様、今頃どうしているニャ?


【サクラダ@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康
[装備]:鉄のハンマー@ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品  余った薪の束×2
[思考・状況]
基本行動方針: ハイラル城を目指し、殺し合いに参加しているかもしれないエノキダを探す。
1.悪趣味な建物があれば、改築していく。魔王、オトモと共に東へ向かう(優先度は北の廃墟>ハイラル城)



【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:HP2/3  MPほぼ1/2
[装備]: 絶望の鎌@クロノトリガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(確認済み、クロノ達が魔王の前で使っていた道具は無い。) 勇者バッジ@クロノ・トリガー
[思考・状況]
基本行動方針:クロノを探し、協力してゲームから脱出する 。もしクロノが死ねば……?
1.オーブを探す
2. サクラダ、オトモと共に東へ向かう(優先度は北の廃墟>ハイラル城)



【イレブン@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:MP0、恥ずかしい呪いのかかった状態
[装備]:七宝のナイフ @ブレスオブザワイルド ポッド153@NieR:Automata  豪傑の腕輪@DQ11
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(2個、呪いを解けるものではない) ブルーオーブ@DQ11
[思考・状況]
基本行動方針:ああ、はずかしい はずかしい
1.ブルー以外の他のオーブを探す
2.ベルと共に、南へ向かう


※ニズゼルファ撃破後からの参戦です。
※エマとの結婚はまだしていません。
※ポッドはEエンド後からの参戦です。

417青の光に導かれ ◆vV5.jnbCYw:2021/03/11(木) 18:11:15 ID:qcNQVfGs0



【ベル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康 気疲れ(小)
[装備]:ランラン(ランタンこぞう)@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:チェレンの死を受け止め、歩き出す。
1.イレブンについていく。
2.ポカポカ(ポカブ)を探す。



※1番道路に踏み出す直前からの参戦です。
※ランタンこぞうとポッドをポケモンだと思っています。



【モンスター状態表】
【ランラン(らんたんこぞう)】
[状態]:睡眠中、モンスターボール内
[持ち物]:なし
[わざ]:メラ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルについていく
1.睡眠中


【ポッド153@NieR:Automata】
[状態]:健康
[持ち物]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:???

418青の光に導かれ ◆vV5.jnbCYw:2021/03/11(木) 18:11:25 ID:qcNQVfGs0
投下終了です

419青の光に導かれ ◆vV5.jnbCYw:2021/03/11(木) 22:56:46 ID:qcNQVfGs0
イレブンの状態表間違えてました
誤:MP0、恥ずかしい呪いのかかった状態

正:MP1/2、恥ずかしい呪いのかかった状態


【支給品紹介】
ブルーオーブ@DQ11

命の大樹に近付くのに必要な6つのオーブの1つ。
凍てつく波動のように、敵にかかってある良い効果を無効化する「青のしょうげき」を使える。

420 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/21(日) 18:32:03 ID:8muVcwVw0
ゲリラ投下します

421 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/21(日) 18:32:24 ID:8muVcwVw0
「──放送の時間だ。」
『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる? こっちはすごーっく楽しませてもらってるわ! 声だけでしか分からないのが残念なくらいにね』


オセロットの言葉と共に、マナの声が辺りに響く。
言われた通りに、鞄を開けてみるとさっきまではなかったはずの名簿が入っていた。

名簿を全部読み終わらないまま、死者の名前が呼ばれる。


バレットの知り合いは一人も呼ばれていなかったが、とても安堵するどころではなかった。
何しろ、自分の仲間のみならず、かつて自分達が命を懸けて倒した宿敵セフィロスと、そのセフィロスに殺された少女エアリスが名簿に載っていたから。


続いて流れるのは禁止エリアの発表。


几帳面に地図に禁止エリアをメモし、引き続き名簿を見つめる。
オセロットはその様子を、死んだ獲物を見る禿鷹のようにじっと見つめていた。
一方でその目線の先にいる男の顔はアリオーシュと対峙した時以上に引き攣っていた。

「なあ……どういうことだよ……。」
「どういうこととはどういうことだ?キミは何について疑問に思っている?」


オセロットの表情は変わらぬまま。本気で質問に答える機なのかそうでないのかも分からない表情で答える。

「死んだ奴が、生きているってことだよ!!アンタも知っているんだろ?」
「いくらキミより頭がいい人物が目の前にいるからと言って、考えるのを怠るのはよくないぞ。」

こんな時に常識言ってんじゃねえ、と言いたくなる気持ちを抑えながら、経験から推測しようとする。

(痛てえ……。)
丁度その時、肩の傷が痛み始めた。
先程、アリオーシュに噛み付かれた痛みだ。


(君もゾンビにはなりたくないだろう?)

オセロットに言われた言葉を思い出す。
(もしや、さっきの女、はたまたあの二人も?)


あのアリオーシュという女性は、明らかに力や身のこなし、言動がおかしかった。
とてもではないが正気とは思えなかった。

「さっき戦った女も、エアリスもセフィロスもゾンビとして生き返ったのか?」
ゾンビと戦ったことはないが、バレットはそれに似た存在と戦ったことがある。
ジェノバ細胞に適応できず、自我を失った神羅屋敷の怪物。
死してなお、命ある者を襲い続けたギ族の亡霊。
アリオーシュの躊躇いのない攻撃性は、そういったモンスター達を連想させた。


「いや、違うな。アリオーシュはゾンビとして生き返ったのではなく、この世界でゾンビになったのだ。」


しかし、バレットが過去の出来事と照らし合わせて出した回答を、こともなげに一蹴する。
「知っているなら勿体ぶるんじゃねえっつってんだろ!……で、後の二人はどうなんだ?」
「知らないな。」


オセロットはにべもなく答える。

422これまでではなく、これから ◆vV5.jnbCYw:2021/03/21(日) 18:32:55 ID:8muVcwVw0
「は?」

散々勿体ぶられた先に、知らないと言う回答は、バレットも予想していなかった。

「聞こえなかったのか?知らないと言ったのだ。」
「何だよそれ、知らないってふざけてんのか?」
「いいや。私は大マジメだよ。知らないことを知ってるってウソをつけというのか?」
「………ウソを付けとは言ってねえよ!!ただ、すっとぼけずに知ってること全部話しやがれってんだ!!」


大声を出すバレットとは対照的に、オセロットは静かだった。
「やれやれ、参ったな。」
「はあ?自分がスパイだって発表して、参ったってどういうことだよ。」
「私がスパイだと一つ明かせば、後は知りたいこと何でも答えてくれると思う、君の頭にだよ。」

「なん……」
何だと、という間もなく、オセロットの右腕が、バレットの首に伸びる。
「君は何か勘違いしているようだ。」
100キロはあるバレットの体格が、片手でいとも簡単に持ち上げられる。
「この際だから言おう。私はスパイであるが、君の味方になった覚えはない。従って、黙秘権はあるはずだよ。私はこれまで様々な人間の口を割ってきたが、私自身が話したくないことや知らないことは話す気はないのでな。」

「は……な……」
気道が確保できない状態でいてなお、バレットは抵抗しようとする。

「それとも、ここでゾンビになる前に打ち抜かれて、終わることにするかね?」
バレットを宙づりにしておらず、銃を握った方の手が上がる。
足が地に付かない状態では、睨むぐらいがせいぜいだ。

「なんてな。君がこんな所で死ぬのは、私の方も忍びない。」

しかし、すぐにオセロットはバレットを地面に降ろし、殺す気はないというアピールをする。

「どうしたんだねバレット君、共にラクーン市警に向かうのではなかったかな?
もしかすると、『あやつる』の副作用かね?」

「ああ、そうだったな。」
何とも言えない、例えるなら絶品と評判のレストランの料理で、不味くはないがさほど旨くない料理を口にした時のような顔で、バレットは歩き始めた。


「先ほどは乱暴を失礼した。だが、君に私が味方ではないってことを、知っておいてほしくてね。」
「……テメエが今何だろうと関係ねえ。これからどうなるか、だ。」

かつて自分達のスパイから、やがて味方になった仲間もいる。
思えば彼にとって、元ソルジャーなどと宣う金髪の男やら、実験サンプルやら、ギルやマテリアを盗む謎の忍者やら、仲間というのは最初は得体のしれない者がほとんどだった。

だから、彼は今オセロットが味方じゃないと言っても、行動を共にする。
これまでのことは分からないし、教えてくれるような相手でもないが、これから味方になる可能性はあるから。



丁度高い建物が見え始めた頃、再びバレットに付いた噛み跡が痛んだ。



【E-3/草原 /一日目 早朝】

【バレット@FF7】
[状態]: 左肩にダメージ(中) T-ウイルス感染(?) オセロットに不信感
[装備]:バタフライエッジ@FF7 神羅安式防具@FF7
[道具]: デスフィンガー@クロノ・トリガー 基本支給品 ランダム支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本行動方針: ティファを始めとした仲間の捜索と、状況の打破。
1.リボルバー・オセロットを警戒
2.よく分からないがラクーン市警に向かうらしい
3.タンカーへ向かい、工具を用いて手持ちの武器を装備できるか試みる

※ED後からの参戦です。


【リボルバー・オセロット@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:健康
[装備]:ピースメーカー@FF7(装填数×2) ハンドガンの弾×12@バイオハザード2
[道具]:マテリア(あやつる)@FF7 基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.バレットのT-ウイルスを除去するため、ラクーン市警でハーブを入手する。


※リキッド・スネークの右腕による洗脳なのか、オセロットの完全な擬態なのかは不明ですが、精神面は必ずしも安定していなさそうです。

※主催者と何らかの繋がりがあり、他の世界の情報を持っています。

423これまでではなく、これから ◆vV5.jnbCYw:2021/03/21(日) 18:33:06 ID:8muVcwVw0
投下終了です。

424 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/21(日) 18:59:33 ID:8muVcwVw0
リンク、2B、カイム、ソニック、雪歩、貴音、ミファー 予約します。

425 ◆RTn9vPakQY:2021/03/22(月) 22:40:00 ID:fG2kSSe20
ttps://w.atwiki.jp/game_rowa/pages/174.html

426 ◆RTn9vPakQY:2021/03/22(月) 22:41:55 ID:fG2kSSe20
途中送信してしまいました。失礼。
これまでの支給品・現地調達品を出典となった作品別にまとめました。
何かの参考になれば幸いです。

427 ◆RTn9vPakQY:2021/03/22(月) 22:42:53 ID:fG2kSSe20
それと感想をば。皆様投下乙です。

・亡き王女の為の英雄裁判
英雄VS英傑。
ゼルダ姫を尊敬し、また負い目に似たものを感じていたダルケルの視点に立つと、「ゼルダが人を殺した」という言葉を頭から否定したくなる気持ちも分かります。
一方のクロノも、ゼルダの生き方を肯定することができず……ぶつかり合いは避けられなかったでしょうが、もし冷静な仲裁役がいたら、と思わずにはいられません。
二人の意思のぶつかり合いを“決闘裁判”という形で描くのが面白かったです。

・誓って殺しはやってません!
桐生チャンの名言、好き。
周囲の環境すべてを武器とするスタイルに加えて、ほしふるうでわにより速度が強化された真島。
パワードスーツにより強化されたトレバーの猛攻をいなして、極み技の連続で退ける実力は流石の風格といったところ。
そして桐生一馬の死を知った反応も、極道の世界に生きてきたが故のドライさだけではなく、情の厚さも感じられる、真島らしいものでした。
しかしタイトル通り殺しはしていないので、トレバーはまだヤル気マンマン。どうなるかは未知数ですね。

・夢追い人の────(前編)/(後編)/夢追い人の遺しもの
自分の弱さを理解して、それでも友達の危機を救おうと動く雪歩。
中途半端な覚悟がわずかな差となり敗北を喫したものの、覚悟完了したマルティナ。
弱さゆえに守られてばかりで、けれどそのおかげで目標ができた美津雄。
キャラクターにそれぞれの弱さがあって、それが印象に残る話でした。
それだけに、夢追い人ことザックスの強さが際立ちますね。

・セフィィィィィロォォォォォス!!!
セーニャ、ことごとくツイていない……。
>G生物は驚愕したのだ。未知なる細胞の強大な力に!!
>第三形態となり既にウィリアムとしての自我はないーーーーーしかし、セーニャの体内にあるジェノバ細胞がウィリアムの矜持を呼び起こす!!
既に怪物となり果てても、ウィリアムの中に研究者としての矜持が残っているというのは説得力があり、かつグッとくる描写ですね。

・No One is Alone
〇第一ラウンド
いかに陽介でも強化されたクラウドとのタイマンは分が悪いか……と思わせてからの相棒の増援!こんなのテンション上がるの不可避。
幼馴染の説得を振り払わんとするクラウドは、どこか可哀想に見えてしまいました。
〇第二ラウンド
ペルソナシリーズと、その源流となるメガテンシリーズではバフ・デバフの存在が非常に大きいのですが、この回でも拮抗した展開を演出していると思いました。
>現実は辛い。誰だって嫌になる時はある。
>無慈悲な言葉だけがデタラメに街に溢れている。そんな曇り空に陽介だって嫌気が差す事があった。
NeverMoreの歌詞を引用しつつ、その現実を曇り空と表現するところがとても好きです。
そして幻想に逃げながら、過去の“現実”を想起するクラウドは切ない。
〇第三ラウンド
喪われた仲間に背中を押されて覚醒する鳴上はまさに主人公。
しかし覚醒を経てもなお、勝負は拮抗状態。スーパーリミットブレイクを解放し、戦況が傾くかと思われた矢先。
「千枝きた!!!」
〇第四ラウンド
これだ、この軽快な雰囲気がペルソナ4の持ち味なんだ、と思わせる、主人公たち三人のやり取り。
言葉もなく互いの意図を汲み取りながら、補い合い戦う三人。アツい(語彙力)
そして、そして、言葉を失いました。
〇最終ラウンド
このロワでここまで(一時的な共闘はありつつ)独りの戦いを続けてきたクラウド。
彼が最期に見たもの、得た答えが、彼の救いになったなら。独りではないと思えたのなら。とても綺麗な終わらせ方だと思いました。
そして、鳴上の死を受け入れようとする陽介。
原作でも最初に知人の死を経験し、心を乱されたであろう彼が、今度は鳴上の死を受け入れて、千枝に現実と向き合うことを諭した。
とても成長を感じさせました。状態表で鳴上とのコミュがMAXになっているのも、良い演出でした。

長くなりましたが、大作の投下乙でした。

428 ◆RTn9vPakQY:2021/03/22(月) 22:44:50 ID:fG2kSSe20
・回想:彼の求める強さ
かの有名なカリンのセリフを引用して、手段を問わず勝ちにこだわっていたレッドの目を覚まさせる、という巧みな展開。
「旅パで最強になる」 タイプ相性や種族値、厳選といった要素を知ってしまうと意外と難しい、この願い。
ポケモンと心を通わせてバトルすることの大切さに気づけた、ターニングポイント的な話ですね。

・青き光に導かれ
激しい戦闘後には穏やかな料理風景。
>「人のみならず、どの生き物でもいつかは死ぬ。だからこそ、命の受け止め方が重要なのだ」
ハンターさんの株がオトモにより上がっていく…!
オーブを集めるという目標も定まり、仲間としての連帯も深まり。安定した対主催ですね。

・これまでではなく、これから
>「私がスパイだと一つ明かせば、後は知りたいこと何でも答えてくれると思う、君の頭にだよ。」
し、辛辣……!バレットは比較的短慮な印象はありますが、それにしたって。
オセロットの得体の知れなさがよく出ていて、こいつをスパイにしたエイダの真意が改めて気になりだしました。
>思えば彼にとって、元ソルジャーなどと宣う金髪の男やら、実験サンプルやら、ギルやマテリアを盗む謎の忍者やら、仲間というのは最初は得体のしれない者がほとんどだった。
ここ笑いました。それはそう。

429 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 01:23:28 ID:jHryT3sc0
投下します。

430壊レタ世界ノ歌 序 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 01:24:19 ID:jHryT3sc0

ゾーラ族の少女は、水面から音を察知した。
遠くながら、その音は確かに聞こえることが出来た。
不規則ながら、キン、キンと金属をぶつけあう音だ。
しかもかなりのハイテンポで。
あのような音を出せるのは、相当な剣の達人。

そう、例えば自分が探しているリンクのような。


それまで体力の回復も兼ねて、水面スレスレを緩やかに泳いでいたミファーは、急にスピードを上げ、音の方向に向かう。

(ここから先は、泳ぐことは難しそうね……。)
【D-2】の市街地の、波止場のような場所から陸に上がり、その先を目指そうとする。


音のした方向は、2つに分かれている。
市街地側と、山岳地帯。
ミファーはとりあえず、市街地方面を目指そうとした。
音がした方向(ザックスとマルティナが戦っている方向)に行こうとすると、一人だけで銀髪の少女が歩いていたのが見えた。


すぐに殺そうか?と思うも、放送直後に襲った短髪の少女のように、意外な力を持っているかもしれない。
まだ気づいていないようなので、後ろからひっそりと付けることにする。

向かう方角は、市街地方面から離れていく。
どちらかというと、山岳地帯から聞こえてきた音の方向に近づくぐらいだ。





剣を打ち合う2人は、全員が口数の多い方ではない。
加えて内一人は、ドラゴンと交わした「契約」の代償で言葉を話す力を失っている。
だが、金属の音しか聞こえてこないのは、それだけではない。
言葉を発さないのではなく、発せないのだ。
1文字発する余裕させない。


そこへ脚を傷つけられ、後退していた戦士が、すぐに戦線へ復帰する。
彼女もまた、口数が多い方ではない。
ただ、金属と金属をぶつけ合う音の種類が、増えただけだ。



この場所は、闘気の炎が充満しており、集中力か闘気、どちらかが途切れた瞬間、3人分の炎が纏めて襲い掛かる。
言ってしまえば、緊張の糸を切ってしまった瞬間、命の糸も切ってしまう。
それが分かっていたから、何か一つでも集中の妨げになるようなことが出来ない。
持ちうるエネルギーを全て戦いに注ぐ。
それでいてなお、相手は勝てるかどうかだ。


ここにいるのは、3匹の獣。
しかも、滅多なことで嘶くことは無い、戦いに特化した猛獣だ。
青い風を纏った金の虎、リンク
黒の激流と化した白の雌豹、2B
そして、黒炎となり果てた、黒獅子、カイム

3匹は、互いの喉笛か心臓に、牙を突き立てんと必死で攻撃を繰り返す。
それが、手足の一本ぐらい傷つけられていたとしても。


何度目か、金属と金属がぶつかり合う音が、山岳地帯に木霊する。
既に十陣が重ねられており、そう遠くなく二十陣に達する。
そして、片側の限界も、遠くはない。

431壊レタ世界ノ歌 序 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 01:24:36 ID:jHryT3sc0


いつまでも続くように見えた、金属を持った獣同士の戦いは、突如中断を迎えることになる。


ガァン!!

力に押され、3人のうち誰かが闘志の集合場所から弾き出された。
リンクだ。
彼が弾き飛ばされた先は、まるで車が走った土の道のような跡が出来ている。
力づくで、しかもデルカダールの盾のような頑丈な防具ごと吹き飛ばされるなど、誰が予想できようか。

しかし、なおも剣を振りかぶり、追加攻撃を加えようとするカイム。
その間に2Bが割って入り、横薙ぎに一閃。
ほんの一瞬だが、攻撃を中断させた。
だが、リンクが参戦する前、攻撃を何度も受けたため、その限界はリンクよりも近い。


何とか鍔迫り合いに持ち込むも、それだけで電流でも流れたかのような圧力が、鉄製の両手に伝わる。
既に片足に力が入らなくなっているため、猶更限界が早い。
両手の感覚がマヒしかかっている。2Bの体に安全装置でも付いていれば、とっくにアラームを鳴らしていただろう。

しかし、2Bが稼いでくれた一瞬の時間が、リンクにとって戦線復帰と、反転攻勢の時間をもたらしてくれた。
得物を下段に構え、鍔迫り合うことでがら空きになった下腹部に、剣を構える。
密着状態をキャンセルして後ろに飛びのき、リンクの斬撃を躱すことに集中するカイム。
否、回避のみが彼の目的ではない。
リンクの横切りが空を切った直後に、反撃の一撃をリンクにお見舞いしようとした。


(今だ!!)
直撃ならば、軽く人間の刺身が作られる一撃を前に、盾を構える。


何発かリンクは盾でカイムの攻撃を受けたのは、反撃の糸口をつかむためだ。
一撃一撃を食らうたび、頑丈な盾を持っていてなお、死線を何度もくぐる羽目になったが、それでも成果はあった。
一見隙が全く無さそうなカイムだが、攻撃は意外とワンパターンだということを、リンクは見抜けた。
10のうち7.8は武器を、大きく横に薙ぐ攻撃になっている。
いくら動きが早かろうと、タイミングがほぼ同じならば、受け続ければ次第にタイミングが読める。
そして、力が強すぎるため、ガードしてもその手に幾分かダメージ受けるが、リンクのジャストガードは関係なしに相手を崩すことが出来る。


パリィ――ンッ!

気持ちのいい音が炸裂!
正宗は無人の天を突く形になった。
競り合った際に、鉄の人形と戦っているような気持ちにさせられる相手でさえ、これを食らえば隙が出来るはず。

これにてカイムの最恐の剣にして、最凶の防具たる正宗は、一瞬だが無力になった。
だが、一瞬で充分。
民主刀の切っ先から、白い光が煌めく。
リンクの体軸を中心にした、風車のごとき一撃を防御の空いたカイムに見舞う。
二重円を描く、回転斬りを決めて敵を大きく怯ませ、とどめの一撃を2Bに入れてもらう。


「てえやぁぁぁ!!」
剣が大風を乗せて弧を描いた。

「!!?」
しかし、弧は突然別の箇所から加わった衝撃のせいで、大きく乱れる。

間違いなく当たるはずだった。
この一撃で殺すことは出来ないにせよ、当たることは間違いないと思っていたリンクの渾身の一撃は、下部から剣を襲った衝撃によって、空を切ることになった。

432壊レタ世界ノ歌 序 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 01:25:20 ID:jHryT3sc0
(あの状態から、剣で弾けるはずが……?)

正宗が飛ばされた方向から鑑みて、一番ありえない方向から斬撃を弾かれ、戸惑いながらも反撃を恐れ、距離を離すリンク。

(まさか……蹴り!?)
金属ではなく、なめし皮の塊で思いっきり得物を叩かれたような衝撃を片手に受けたことから、納得いく事実ではある。
しかし、それを受け入れると、別の事実に驚愕せねばならなくなってしまう。

すなわち、思いっきり振られた剣の腹を、正確に蹴とばす反射神経と、不安定な体勢でなお、蹴りを打てるバランス感覚。
そうした人間離れした力を持っているという事実を受け入れなければならない。

「ったああああああ!!」
2Bがカイムの足を上げた方向から、突撃する。
足技というのは、殴撃より威力があるが、概して弱点もある。
それは、足を開くため、敵に懐に潜り込ませやすくなることだ。

これ以上戦いを続けることは危険だと判断した2Bは、特攻をかける。
狙うは、カイムの内腿。
例え死ぬことになっても脚を傷つけることが出来れば、少しでも猛攻を止めることが出来る。

(なっ!?足一本で!?)
しかし、カイムは片足立ちの状態でバック宙を決め、2Bの剣撃から逃れるという、またも離れ業をやってのけた。
地面に着地する前に、隙の出来たアンドロイドの首目掛けて、正宗を一閃。

「まだだ!!」
それでもリンクが、大盾でその斬撃から仲間を守る。
その一撃はただでは抑えきれず、リンクはまたも2Bごと押されることになる。

そして、正宗の最大のメリットは、攻撃範囲。
無理矢理密着しようとしていた2人を、強引に距離を離し、最も攻撃力が活かされる距離に置いたのだ。
一番正宗が距離を発揮する距離から、強烈な一撃が放たれる。

(ならば!!)
その一撃を、済んでの所、バック宙で回避する。
2Bの一撃を回避したカイムのようにノーダメージとはいかず、正宗によって飛ばされた風の刃で、幾分かダメージを受けるも、関係ない。
その瞬間、時間が止まったかのような空気に包まれる。
否、時間が止まったのではなく、リンクが隼のごとき速度で戦える瞬間が訪れたのだ。

この状態なら、正宗を搔い潜り、強引にカイムにラッシュを浴びせることが出来る。
地面を蹴り、姿勢を極限まで低くし、いざ突撃せんとしたその瞬間。
猛烈な頭突きが、リンクを襲った。

「ぐあああ!!」
「リンク!!」
何という事か、カイムも姿勢を低くし、さながら猪のように突撃してきた。
ジャスト回避で、時を作れた直後でも、リンクは無敵になったという訳ではないので、何らかの攻撃を受ければ、ダメージもあるし、ラッシュもキャンセルされる。

相手の速度が急に増したことを察知したカイムは、シンプルな2動作だけで出来る対策を、瞬時に練った。
すなわち、姿勢を低くすることと、そのまま地面を蹴りつけること。
ダイビングヘッドバッド。
リンクの斬撃を蹴りで弾き飛ばしたことと同様、反射神経とスピード、それに筋力さえあれば出来る、これまたシンプルな対処法だ。
しかし、シンプルゆえに、即興で戦略に組み込みやすくもある。

(剣だけじゃなく、体術まで……?)
元来カイムは1対多の戦いの経験の方が多かったため、1対1、もしくは1対数名の戦い向けの体術を発揮する機会はほとんどなかった。
だが、竜との契約を交わしたことに手に入れた力、そして契約無き時期から大剣を軽々と振り回せる筋力や膂力は、体術に回しても存分に発揮する。

433壊レタ世界ノ歌 序 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 01:25:36 ID:jHryT3sc0

リンクの迫る勢いに、カイムの運動エネルギーがプラスされ、抵抗できずにゴロゴロと岩場の地面を転がっていく。
この機を逃さず、正宗を上段に構え、斬りかかるカイム。

「リンク!!」
陽光を構え、2Bはリンクを守ろうとする。
しかし、ダメージを追った2B一人で彼の突撃は止められず、一撃を貰うと共に、いとも簡単に名刀・陽光は太陽へと飛ぶ。
そのまま黒獅子は雌豹目掛けて走り、その長すぎるほどの牙を喉に建てようとする。


ようやく立ち上がったばかりのリンクは、カイムの猛攻を止めることは出来ず、ただ剣が振り下ろされる瞬間を、眺めることしか出来ない。
剣で打ち返すことも、盾で受け止めることも間に合わない。


「Hey,こいつを食らいな。スピンダッシュ!!」
青い砲弾のような何かが、カイムの顔面に命中した。
目の前の敵に力を込めていた人間が、横からの衝撃に対応できるわけもなく、地面を転がった。

「町の外まで探索を広げたことがluckyだったようだな。無事でよかったぜ、リンク。キーラとの戦い以来だな!!」

「助かった。でもあんたは……」
一時的にとはいえ、絶体絶命の危機を救われたリンクは、その正体に驚く。
さらに驚くことは、なぜその生き物が自分を知っていたということだ。
あんたはなぜ自分のことを知っているのだ、と聞こうとした時、砲弾は球体から、人型に変わり、サムズアップを二人に見せた。

「長い話は無用だぜ、Speech is silver but silence is golden.でもオレが助けに来てくれたから、安心だぜ。」
「助かった。ありがとう。」

2Bも感謝の言葉を告げた。

434壊レタ世界ノ歌 序 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 01:26:02 ID:jHryT3sc0

「Be careful!! 来るぜ!!」
だが、カイムはあの一撃で倒せるほどヤワな相手ではない。
なおも闘志を滾らせる1匹の獣の前に、2匹の獣と、新たに参戦したハリネズミは、身構える。

何度見たことか、カイムが正宗を横薙ぎに一閃。
それをリンクと2Bが同時に剣を下段に構え、受け止める。
その瞬間、ソニックがカイムの顔面に、ミドルキックを見舞う。

「何だコイツ……スーパーアーマーでも付けているくらい、hardな奴だな。」

大木か鉄の塊でも蹴ったかのような感触を覚え、相手の異様なまでの頑丈さに畏怖するソニック。

先程は不意を突かれただけで、速さに特化したソニックの蹴り一つでは、動かすことも難しい。
そして、カイムの本領発揮は、1対多の集団戦。
いくら敵が増えようと、さほど関係なく動き回ることが出来る。

続けざまに弾丸と化した体当たりで、背中に更に一発。
もう一発方向を変え、肩にミドルキックを打ち込もうとした瞬間、ソニックの頭に丸太のような衝撃が襲った。
確かにソニックの最高速度は、カイムをしてなお、追い切れない。
だが、鍔迫り合いの状態のまま、方向転換した際に失速した一瞬のすきを狙って、音速の貴公子に頭突きを当てたのだ。
スピードこそは劣るものの、ドラゴンと共に空中戦を繰り返したカイムの、鍛え上げられた動体視力による技だ。

咄嗟に身をよじり、衝撃を受け流すも、大きく飛ばされていく。

「ソニック、そいつ、体術も化け物並みだ!!」
(Shit……アイクみたいなタイプかと思ったら、それだけじゃないのか……。)
2Bの言葉を、その身で感じるソニックは貴音から奪った短剣オオナズチをザックから出す。

(ナイフは得意じゃないんだがな……)
しかし、得意じゃないとはいえ、小ぶりな短刀がソニックのスピードをフルに活かすこともが出来るのもまた事実。
一瞬ナイフが三本に増えたかのように見えるほどの速さを見て、まずはナイフを排除しようと正宗を振るう。
だが、それをぐるりとUターンして躱すソニック。


すかさず、剣を振りかざしてと飛びかかるは、リンクと2B。
「うわっ!!」
正宗は地面を薙ぎ、その土塊を二人は浴びせられた。
だが、追撃が振るわれる前に頭上からナイフが付いた球体になり、迫りくるのはソニック。

435壊レタ世界ノ歌 序 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 01:26:27 ID:jHryT3sc0

慌てて長剣を頭上へと振りかざすも、弾き飛ばせたのはナイフだけ。
そのまま、もろに頭部にソニックの蹴りを受けてしまう。

(ナイフを囮にして、やっと一撃か……)
相手の耐久力と攻撃力にソニックでさえもうんざりする。


3人がかりで、やっと互角の状況。
この膠着状態を打破する役割を担った援軍は、予想外の存在だった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



(リンク……さん……2B……さん……。)
場所はリンク達がカイムと戦っている場所から、少し離れた茂み。
いくら戦いが長引こうと、勝利を祈るしか方法がなかった。
銃という武器は持っていたが、自分は全く撃ち方など知らないので、真っすぐ飛ぶかさえも分からない。
下手に打っても、足手まといになってしまいそうなので、使えなかった。
そんな最中だった。
彼女が持っていたモンスターボールが、作動した。
それは彼女が無意識のうちに押したのか、はたまた完全なる偶然かは分からない。


「グゴオオオォォォン!!」
「!!」
出てきたのは、とある地方の伝説のポケモントレーナーが従えしポケモン。

なんで自分は忘れていたのだろうか。
この状況で、少しでも役に立つことしたい。
それなのに、肝心なことを忘れていた。
「リ……リザードン、さん。向こうのリンクさん達を、助けてください!!!」
雪歩は自分の身も案じず、数少ない護衛を敵の下へ行かせる。

本来ならポケモンは、トレーナーと共にいないと、戦うのは難しいのだが、その支持を平然と承ったのは、伝説のトレーナーと共に冒険したからであろうか。


任せろ、と笑みを浮かべ、リザードンは空へと飛んでいく。
だが、このポケモンが空を飛んだことが、彼女にとっての災難になるとは、まだ誰も知らなかった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

(あの竜は?)
市街地を彷徨っていた四条貴音が、空き家の二階から見たのは、少し離れた場所から飛び立つドラゴンだった。
元の世界ならば、アドバルーンか何かだと思い、さほど興味のひかれる対象ではないだろう。
だが、一度ソニックという、二本足で歩き人語を話すハリネズミに出会ったこともあり、その方向へ向かうことにした。

ドラゴンは山岳地帯の方で見えた。
今頃ソニックが自分を探し回っているはずだから、広範囲を移動するのは悪手でしかない。
だが、向こうへ行けば竜の飼い主と会えるかもしれない。


ソニックから逃走したのにも関わらず、
殺すにしろ、協力するにしろ、ナイフ一本だけでは心もとない。
だから、ドラゴンの協力者に近づこうとした。
正確には、その飼い主が持っている支給品を目当てに。
その時から、彼女を察知し、近づこうとしている者がいることも気づかず。


市街地から出て、周囲が人工的な色から自然の緑や茶色の方が多く目に入るようになった頃、その先にいたのは、彼女が良く知る少女だった。



この悲劇を奏でる曲は、急転直下。
一つの再会によって、大きく変わっていく。

436壊レタ世界ノ歌 序 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 01:26:40 ID:jHryT3sc0
前半部分を投下しました。

437壊レタ世界ノ歌 序 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 17:55:06 ID:jHryT3sc0
続き投下します。

438壊レタ世界ノ歌 破 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 17:55:40 ID:jHryT3sc0

カイムがリンクを両断せんと、正宗を袈裟懸けに振り下ろす。
只の一撃が、人間離れした腕力と、圧倒的な剣の威力で、必殺級の一撃になる。

「Hey,そう簡単に振らせないぜ!?」
しかしソニックがカイムの腕に蹴りを入れ、軌道を逸らす。
盾を持ったリンクは敵目掛けて走り、ジャンプして一回転。

まるで盾でサーフボードにした曲芸をしているかのような状態で飛びかかる。
単純に防御のみならず、敵の視界を防ぐために即興で考えた技だ。

「2B、頼む!!」
そして新手の攻撃にカイムが惑わされている間、最後の2Bに任せる。
しかし、敵もさらに予想外な攻撃をしてきた。

まずは腰を深く落とし、そのまま正宗をホームランバットのように振りかぶり、飛んで来たリンクをボールのように打ち飛ばした。
ソニックがまたも正宗握る両手に蹴りを入れるも、膨張した筋肉の鎧を纏った手を動かすことも出来ない。

「うわあ!!」
「くそっ!!」
ただリンクを打ち飛ばすだけではない。
持ち手のグリップを回転させ、即興の弾を2Bめがけて飛ばした。
地面でクラッシュが起こる。
慌てて2Bが陽光を下げたため、飛んで行ったリンクが串刺しになるという、最悪の状況こそ回避できたも、旗色が悪いのは変わらない。


「ホーミングアタック!!」
剣を下段に振り下ろしたすきを見計らって、顔面目掛けて回転体当たりを仕掛けるソニック。
続けざまに青い弾丸は2,3度カイムにぶつかる。

(時間稼ぎにしかならねえか…)
しかし、顔を歪ませながらも、なおも攻撃が止む様子はない。
スピードは確かに自分の方が勝っているはずだが、それでも減速になる瞬間を見計らって、執拗に攻撃をしてくる。


「行けるか?2B。」
「正直、厳しい。」

速さが確実に上回っているソニックの援護のおかげで、一瞬のスキが死に直結することは無くなった。
だが、なおも戦況は芳しくない。
そんな状況を打破するかのように、4人の頭上から咆哮が響いた。


「グオオオオオン!!」
大きく口を開くと共に、衝撃波をカイム目掛けて飛ばす。
初見の技を受け、正宗で弾き飛ばす間もなく、吹き飛ばされ、何度かバウンドする。

「リザードンじゃねえか!!ところで、トレーナーはどうしているんだ?」
ソニックは新たに参戦した、かつてのライバルの一人にサムズアップを見せる。
最も、この場にいるリザードンと、彼の知っているリザードンは、個体もトレーナーも違うのだが、そんなことは気にしている暇はなかった。

439壊レタ世界ノ歌 破 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 17:56:07 ID:jHryT3sc0

雪歩のポケモンとまで知り合いとは、ソニックは一体何者だ、と後の二人も疑問に思うが、話を聞いている時間は無いのは、全員共通で分かっていた。

リザードンが翼をはためかせる。
エアスラッシュで起こした真空の刃によって、カイムを引き裂こうとする。
しかし、カイムは正宗で思いっ切り地面を打ち上げ、見えない刃が土くれと合わさって可視化すると、最低限の動きで躱し、3人に迫る。


(4対1……。これでやっと互角か……。)
「リンク、それに白黒のレディー、1つ案がある。オレに少しの間、時間を稼がせてくれ。」
二人はコクリと頷き、それだけで承諾する。

2人が斬りかかる瞬間、カイムは上空へ高く飛ぶ。
狙いは真っ先に、リザードンに決めた。
上空からの援護射撃が厄介だからではない。
新たに自分を襲ってきた相手が、まるで元の世界の相棒のような姿に見え、自分のやり方が否定されているような気がしてならないからだ。


普通は人間の攻撃は、銃か矢、あるいは魔法でも使わない限り、飛竜に届かない。
だが、人間離れした跳躍力と、武器の範疇を超える長さの武器が、攻撃を可能にする。

剣が目と鼻の先まで近づき、歴戦の赤竜も驚く。
だが、その攻撃が当たることは無かった。


「でやあああ!!」
リンクもその場までやって来たからだ。

(2B、助かる。)
先程、2Bと協力して放った斬撃を外すや否や、リンクは再び盾サーフィンの姿勢になった。
今度その状態のままぶつかるのは、カイムではなく、味方の2B。
勿論、攻撃のためではない。
反動をつけて跳び、空へと逃げた敵を上空のリザードンと共に、挟み撃ちにするためだ。


盾の回転を使った新技、盾サーフィン回転斬りが、カイムを捉えた。
ぶしゅりと脇腹から、鮮血が迸る。
そこへリザードンの追加攻撃、フレアドライブが襲う。
炎を身に纏ったまま赤竜は敵へ激突。

空中で爆発が起き、そのままカイムは地面へと堕ちていく。

だが、それでも闘志の権化と化した男は、剣を振るうのをやめない。
とどめを刺しに来る2Bを、空中でマサムネを振り回すことで近づかせない。


「Thanks!!皆、これでFinishだ!!」
他のメンバーが稼いだ時間でソニックが行っていたのは、スマッシュボールの破壊だ。
割ればファイターの更なる力や技を引き出せる虹色のボールは、ここぞという時に中々割れなくて苦労する。
そして、見えやすい場で割ろうとすれば、最悪の場合敵に割られて、戦況を悪化させてしまう。
だからこそ、一人でさり気なく破壊するのに集中していた。
いつも戦っていた時と同様、全身に力は湧き上がり、身体が綿のように軽くなる。


後は、その力で黄金のスーパーソニックとなり、カイムに攻撃を加え、後は全員でトドメを刺すだけ。
3人と1匹の勝利は、目前まで迫っていた。

440壊レタ世界ノ歌 破 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 17:56:30 ID:jHryT3sc0
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「四条さん!無事で良かった!」
足音に気付き、悪人に見つかったかと一瞬ドキリとするも、その姿が同じ事務所の友達だということに喜ぶ雪歩。


「雪歩殿も、無事で何よりです。誠、嬉しい事この上ありません。」
貴音も、ナイフを後ろに隠しながら、友への再会の喜びを告げる。
殺し合いに乗っていたとしても、友と再会できたのが嬉しいことは、事実だからだ。
だが、問題はこの先のこと。
優勝するためには、自分が殺しをしようとしていると夢にも思っていない友までも、手にかけねばいけない。
持っている小さなナイフのみでも殺せるような相手だ。
だからといって、殺す決断はそう簡単に出来ない。


「どうしたの?四条さん、顔が真っ青……。」
元々シミ一つない白い肌と、流麗な銀髪を持った貴音だが、それでいてなお顔色は血の気を失っていた。

「こんな時だから無理はないけど、ここに隠れていようよ。もうすぐしたら他の人たちも来るし、その時は千早ちゃんを探しに行こうよ」
小声ながらも、友の再会を喜んでか、話し続ける雪歩。
「千早がどうかなさったのですか?」
「聞いただけだけど、千早ちゃん、人を刺しちゃったらしいんだ。でも、きっと皆で一緒に話せば……。」


思い出した。
自分は最初に出会ったザックスと美津雄という二人組を襲撃した時、千早の名前を騙ったことを。
まだその事実を雪歩は知っていないようだが、近いうちにバレる可能性が高い。
だから、まだ真実を知らない雪歩を殺し、すぐに逃げなければ。


「大丈夫だよ……リンクさんと、2Bさんと、リザードンさんがきっと勝ってくれるよ。だから、四条さん、そんな顔しないで………!?」

「ごめんなさい……」

貴音は手を震わせ、後ろに隠していたナイフを突きつけた。
「え!?」
雪歩の愛くるしい両目は、光を失い、ただ自分を見つめるだけになった。


きっと、あの世で一生怨まれることは間違いない。
だが、目を固く閉じ、ナイフを振るう。
最初の一撃は、雪歩の上着を裂くだけだった。

441壊レタ世界ノ歌 破 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 17:57:00 ID:jHryT3sc0

決意が足りなかったと貴音は実感する。
次は、もっと力を、何より決意を込めて刺さないと。
けれど、相手は最初に刺した相手とは違う。

苦楽を共にした、同じ事務所の仲間だ。


貴音は、決意する。
彼女たちの心と同じくらい細く脆いその刃で友をーーーーーーー


→殺す
殺さない






殺す
→殺さない





→殺す
殺さない




殺す
→殺さない



→殺す
殺さない


→殺す
殺さない

殺す
→殺さない
→殺す
殺さない
殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない、殺す、殺さない――――――――――――――――――――――――


「四条さん……やめてよ。」
涙ながらに訴えようとした時、胸から刃が現れ、見た目麗しい美女は、倒れた。







四条貴音の命が、この場で終わりを告げた。




貴音の後ろに立っていたのは、ゾーラ族の少女、ミファー。
彼女が投げた鬼炎のドスが、貴音の胸を背中から貫いたのだ。


「あ……あなたは……。」
雪歩は動かなくなった友達と、見慣れぬ姿をした少女を交互に見つめる。

「ごめんね。けれど私に教えて欲しいの。リンクはどこにいるの?
あなたはリンクの仲間だし、教えてくれたら命だけは取らないわ。」

半魚人のような姿をしているが、その瞳は魚のように慈悲の無いものだった。
黒点だけで、輝きの無い瞳で見つめられ、雪歩の前身は震えが止まらなかった。

442壊レタ世界ノ歌 破 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 17:57:46 ID:jHryT3sc0

しかし、彼女の心に、恐怖に代わる何かが現れ始めた。
それは、怒りだ。
殺されそうになったとはいえ、友を殺された怒りだ。

「よくも……四条さんを………!!」
「!!」
「許さない!!」
彼女は気弱な性格をしていると思われがちだが、いざという時は誰よりも勇気を出す性格である。
加えて、仲間に不幸があると見逃せないほど、友達想いな萩原雪歩という人間が、目の前で友達を殺されて、何もできないわけがなかった。
雪歩はポケットに入れていた最後の武器、ナイフ型消音拳銃を出す。
使い方は、既に支給品の説明書で読んで知っていた。
今まで使う機会と、勇気が出なかっただけだが、今こそこの武器の出番だと決め、安全装置をに手を描ける。

戦闘経験がほとんど無さそうな少女が持ったナイフなど、恐るるに足らないと割り切っていたミファーだが、それは彼女の見慣れたナイフではない。

殺意に気付いたミファーは、ザックに手を入れ、2つ目の武器である拳銃を出すが、もう遅い。

ナイフ形の、小型拳銃だ。
柄の側面の安全装置を開く。
これで後は引き金さえ引けば、いつでも撃てる。
大切な一発に想いを込めて、ミファー目掛けて発砲した。



銃声が戦場に、響いた。




そして、銃声と共に、戦いの姿をしたこの音楽は、文字通り最終「曲」面へ。

443壊レタ世界ノ歌 破 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 17:58:09 ID:jHryT3sc0
後半投下します。

444壊レタ世界ノ歌 急 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 17:58:30 ID:jHryT3sc0

「そんな……。」
怒りに任せて撃った銃は、ミファーの心臓には命中しなかった。
命中したのは肩のあたり。
ただでは済まないが、相手を殺すのには到底至らなかった。

確かに雪歩の決意は漲っていたはず。
だが、手元の震えか、殺人への恐怖か、未知の世界の空気のせいか、銃を撃つのは初めてだからか、反動のせいか、はたまた最後に躊躇ったか。
理由こそは不明だが、友の仇を殺害するには至らなかった。


そして、急所に当てることが出来ずに、放心した雪歩の隙を、歴戦の英傑である彼女が見落とすわけがない。
右肩の怪我も厭わず、そのまま雪歩に詰め寄り、今度は至近距離で彼女が銃の引き金を引いた。

火薬の爆ぜる音が、戦場から離れた場所で響く。
ただ真っすぐにミファーが放った弾は、雪歩の心臓を打ち抜く。

口を開けて、声を出さずに血のみを零し、開いていた瞳孔が完全に開ききった状態で、ぐらり揺らめいたと可憐な少女は、草原の上に倒れる。
それはまるで、雪の上でも可憐に咲いていた萩の花の命が、雪解けの洪水によって無残に刈り取られたように見えた。
最も飛び散ったのは、紅紫色の花びらではなく、曼珠沙華のように赤い色なのだが。

消音式の銃とは異なるマカロフが火薬の音を出し、反動で彼女の左肩の関節と両の鼓膜を痛めつけるが、それでも二人目の敵の殺害に成功した。


動かなくなった、二人の少女の死体を眺める。
彼女らに対して、これといった同情を抱くこともなく、片方の胸に刺さったナイフを引き抜いた。

(待っていて……リンク……。)
関節の痛みと、銃の痛み2つを受けながらも、彼女は最愛の男の下へ進む。
リンクの仲間が死んだことを聞けば、彼はきっと悲しむ、それは分かっていた。
でも、彼女としてはそれでもよかった。


場所の方は聞けずじまいだったが、音だけは聞こえる。
その音の方へと、ただ静かに向かう。
彼女が起こしたことが、どういった災害を呼び起こしたのかもつゆ知らず。




★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


地上は3人で囲み、上空には1匹。
勝利は目前に迫ってきた。

だが、ゆめゆめ忘れるなかれ。
いくら目の前の敵が強かれど、目の前の存在のみがすべての敵では無いことを。

ここは決められた数の敵とだけ戦う場所では断じてない。
ソニックがかつて戦っていた場所で例えるなら、ポケモンスタジアムのように、時間経過で外部から状況が変わったりすることもある。


(銃声!?)
丁度雪歩が隠れていた辺りで、火薬の破裂する音が響いた。
一番不幸なことは、リンクが既にトレバーと戦っていたことだ。
トレバーとの戦いで、初めて銃声を聞いていたリンクは、方向的にあり得ないにしろ、またあの禿げ頭の男が雪歩を狙ってきたのかと思い込んでしまう。


そして、後の二人は過去の戦いで何度も銃の音を聞いていた。
すなわち、この一瞬だけ、3人共カイムから集中力を逸らしてしまった。
ならばリザードンは銃声に惑わされなかったのかというと、これも否である。
竜のポケモンは、別の出来事に心を乱されていたからだ。
すなわち、持ち主の喪失である。

445壊レタ世界ノ歌 急 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 17:58:48 ID:jHryT3sc0

不幸中の幸いながら、モンスターボールの効力のある範囲のギリギリで戦っていたこと、ミファーがモンスターボールの仕組みを知らなかったことで、主導権が雪歩からミファーにすぐさま譲渡されることは無かった。
だがそれでいて、突然所持者が死んだことは、一匹のポケモンとして、十分に精神を搔きまわした。


参加者だけでなく、支給ポケモンのリザードンでさえ銃声に耳を傾けた中で、戦闘に身を委ねたカイムのみが最適な行動を選ぶことが出来た。


この一瞬のスキをついて、誰か一人を攻撃しても、その瞬間他の誰かに纏めて攻撃される。
攻撃をしてくる敵の場所も、タイミングもバラバラなので、一太刀で全員を殺すのは難しい。

だが、カイムの攻撃には、もう一つ技があった。
正宗に魔法を纏わせることで使う技、コメテオ。


「うわっ!!」
「!!」
カイムはリンクの回転斬りを真似したかのように、正宗を低い方向に思いっ切り振るった。
誰にも当たらなかったが、地を這う風の刃は3人の脚に傷を負わせた。
切り落とされることは無かったが、ズボンに赤黒い染みが広がり、顔を歪めるリンク。
2Bに至っては、既に負傷していた片足に大きなダメージを受け、金属片が散らばった。
そしてソニックの脚にも同様に裂傷が走る。
2人に比べて傷は浅いが、ダメージを受けた際にスマッシュボールの力を手放してしまった。


一度リンクがやったかのように、2Bの頭を踏み台に飛び上がり、再び空高くへ。
しかし一瞬の精神の乱れから回復したリザードンが、翼をはためかせカイムに襲い掛かる。

「グア!?」

しかし、あわてず騒がず、カイムはリザードンの片羽を、あるもので斬り裂いた。
それは、ソニックが落とした、短剣オオナズチ。
先程、リンクとリザードンの波状攻撃により地面に撃墜された時、地面に転がっていたそれを拾って、サブウェポンとして用いた。

翼を傷つけられ、空の支配権を手放してしまう。

2Bに加え、更にリザードンを踏み台に、更に天高く上る。
この瞬間、空の支配権は、一気に飛竜からカイムへと渡った。


(くそ……でも今やるしかねえ!!)
ソニックは、完全にとどめのタイミングを逃したことで、悔しさに歯を食いしばる。
だが、翼を持つ者がいない以上、自分が切り札を切ることで、飛行能力を得るしかない。

再びスマッシュボールを破壊する。
離れたはずのその力が、ソニックに集まる。

「決めてやる!!」
体が黄金に包まれ、そして重力の鎖と、空気摩擦の鎖を断ち切り、限界を超えたスピードを得る。

だが、スタートが1日遅れたアキレスが、スタートが1日早かった亀に勝てなかったように、いくら速さで勝っていても、開始時間で後れを取れば、間に合わないこともある。


カイムは無人の空で手に入れた時間を使い、正宗を上空で一回転。
その瞬間、4つの隕石が地上の者と空の者目掛けて落とされた。


(何だ……これは……。)
地上にいたリンクは、ただ圧倒的な力を、見つめるしか出来なかった。
流れ星は何度か見たことがあるが、自分の所にその命刈り取らんと迫る星は初めてだった。
逃げようにも、足を怪我している以上は走るのも難しい。


(ここまでやって、まだ奥の手があったと……?)
2Bは今まで見たことのない隕石を、リンクと同じように見つめている。


唯一、スーパーソニックのみが、そのメテオに逆らうことが出来た。

446壊レタ世界ノ歌 急 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 17:59:21 ID:jHryT3sc0

音速、いや、光速ともいえる目に見えないほどの連続攻撃を巨大な岩に繰り出す。
隕石を一つ貫き砕き、カイムもまとめて貫こうとした時、急いで方向転換した。
(No,違うぜ。)
カイムよりも、残された人とアンドロイド、そしてポケモンに降り注ぐ残り三個の隕石を地面に落ちる前に止めようとする。

「ファイターが誰もいなくならない限り、平和への戦いも終わらねえ!!」
2個目をぶつかりに行った時、その姿は金から青に戻り、それでもなお隕石へと目掛けて弾丸となり襲い掛かった。

「Burning……でもオレの魂も、まだ燃え尽きちゃいないぜ。」
空から降り注ぐ、炎岩の炎に焼かれてもなお、連続してぶつかり続け、一つでも砕こうとする。

「「ソニック……」」
地上に残された二人は、ソニックを必死で止めようと言葉を発す。
持ち前の速さを使えば、一人だけ逃げることも出来たはずだ。
だが、それでも仲間を守るため、1つでも隕石を破壊するためにその速さと力を使った。


「リンク…リザードン……皆…たのんだ……ぜ……。」
ソニックは焼き尽くされる瞬間、地面に置いてきた鞄を指さし、もう片方の手で2個目の隕石を破壊し、それから体を動かなくなり、地面に堕ちていった。
彼の速さは、仲間と自分、両方を守ることは出来なかった。
だからこそ、共に戦ったファイターを守った。


だが、隕石は残り2個。
地上に落とされたリザードンと、2B、リンクを殺すには十分な数だ。
デルカダールの盾では、英傑だとしても身を守るには余りに心もとない。


「リンク。」
そう一言アンドロイドが呟くと思うと、機械の両腕でリンクを掴み、思いっきり投げ飛ばした。
既に片足はボロボロだったのにも関わらず、激しい運動をしたため、投げた瞬間に負傷していた脚が落ちた。


「2B……!!何を!!」
「私はもう、戦えない。」


隕石が迫りくる中、一人だけその場所から放す。


「グゴオオオオン!!」
毒を受け、翼を動かなくされてなお、リザードンの口から強烈な炎を吐き、隕石の1つを破壊しようとする。


「リザードン、付き合ってくれるのか、悪いな。」
それを見ていた2Bは、どこか申し訳なさそうにする。
どうせなら、リザードンも外に投げ飛ばしたかったが、片足だけではどうにも難しい。

(ああ、これで終わりか。)
あっけなく、突きつけられた死。
だが、一つだけ満たされたことはあった。
今まで司令官から聞いたことしかなかった存在であった、人間。
人類を守ることが自分たちアンドロイドの命令だとしても、一度も会うことは無かった。


だが、初めてこの世界で機械生命体ではない人間に出会い、その人間を守り、そして終わることが出来る。
こんな戦いに勝手に巻き込まれたのは癪だが、それだけは主催にも感謝しないといけない。

447壊レタ世界ノ歌 急 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 17:59:48 ID:jHryT3sc0

彼女は、自らが戦い無くなり無価値になっても叫んだ。
壊れた敵を目の前にして。
脚を失い、戦えなくなってしまっても。
アンドロイドとはいえ、笑顔が眩しいままの仲間たちに、想いを残すために。

(みんなをお願いするね…リンク、ナインズ。)
地面に堕ちた隕石が、爆発する。
広がった灼熱の爆風と、砕け散った石の欠片が、アンドロイドとポケモンの全身を貫いた。



「2B!!リザードン!!!」

直撃点からは離れていたものの、それでも隕石の欠片と爆風は襲い来る。
それを盾で守りながら、叫ぶが、どちらの返事も帰ってこない。

「2B!!!!!リザードン!!!!!!!」
叫び続けるが、耳に響くのは爆音のみだ。


燃え盛る炎の中に立っていたのは、地面に着地した、カイムだけだった。
戦い続けてなお、残された獲物であるリンクを殺すために、正宗を振りかざす。

しかし、何かの力がカイムを拘束し、大剣を振りかぶった状態のままにする。


「ふざけるな。」
そう呟いたリンクの目は怒りが現れ、そして輝いていた。
それは決して比喩表現ではなく、スマッシュボールで手に入れたエフェクトだ。
一太刀の下で、ソニックに託された最後のスマッシュボールを砕いた時から、光に満ちていた。


言葉を発せないカイムは、表情を歪め、身を捩って抵抗するも、もう遅い。
リンクの片手に浮かぶトライフォースの痣が光る。
三つ連なった光り輝く正三角形が、戦いに身を委ねた男を完全に拘束し、さらにまた光り輝く。



「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
野生の加護を得た獣のような怒声と共に、動かなくなった敵を斬る。
斬って、斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬りつけた。

腕の筋肉の限界も、脚の痛みも、何もかもを気にせず、斬り続けた。
トライフォースラッシュ。
別の世界の彼が、そう名付けていた技だ。

「でぇやあああああああああああああああああ!!!!!」
慟哭と共に放たれた最後の一撃は、カイムを遥か彼方に吹き飛ばした。



生者はリンクを除いて誰もいなくなり、そのリンクも体力を使い過ぎ、がっくりと膝をつく。
(まだだ……奴に……とどめを………。)
動こうとしない体に鞭打って、立ち上がろうとする。
人間離れした敵のことだから、死体を見ない限りは安心できない。



「リンク!!」
そこへ、ある英傑の記憶のかなたで、聞いた声が響いた。

448壊レタ世界ノ歌 急 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 18:00:44 ID:jHryT3sc0

「大丈夫!?」
「君……は……。」
そこにいたのは、ゾーラ族の少女。
朧げな記憶だが、確かに知っている相手だった。


全身ボロボロなリンクを見て、涙ながらに回復の術を施す。
リンクは僅かながらの安堵と共に、同じように傷ついた彼女の手当てを受け入れた。
それが、自分達の戦いの厄災になった相手と知らずに。


【四条貴音@@THE IDOLM@STER 死亡確認】
【萩原雪歩@THE IDOLM@STER 死亡確認】
【ソニック・ザ・ヘッジホッグ@大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL 死亡確認】
【ヨルハ二号B型@Nier Automata 死亡確認】
【リザードン@ポケットモンスターポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー 死亡確認】
【残り42名】




【D-2 山岳地帯/一日目 昼】

【リンク@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(特大)胸上に浅い裂傷、両脚に怪我、軽い火傷、失意
[装備]:民主刀@METAL GEAR SOLID 2、デルカダールの盾@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて ブーメラン状の木の枝@現実
[道具]:基本支給品(残り食料5/6)、ナベのフタ@現実 残ったアオキノコ×2
[思考・状況] :ゼルダはどうしているだろう?
基本行動方針:守るために戦う。
1.それでも生きる
2.カイムの生死を確認したい

※厄災ガノンの討伐に向かう直前からの参戦です。
※ニーアオートマタ、アイマスの世界の情報を得ました。
※美津雄の調合所セット(入門編)から薬に関する知識を得ました。




【ミファー@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:ダメージ(中)  右肩に銃創 体にいくつかの切り傷
[装備]: 鬼炎のドス@龍が如く極
[道具]:基本支給品、マカロフ(残弾2)@現実 ランダム支給品(確認済み、0〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:リンクを優勝させる
1.不意打ちで参加者を殺して回る。
2. 今はリンクを回復させる


※百年前、厄災ガノンが復活した直後からの参戦です。
※治癒能力に制限が掛かっており普段よりも回復が遅いです。

【???/一日目 昼】

【カイム@ドラッグ・オン・ドラグーン】
[状態]:ダメージ(少なくとも特大)、魔力:ほぼ0、気絶、全身に裂傷
[装備]:正宗@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品 エアリスの基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、マナを殺す。
1.目の前の敵を殺す。
2.自分よりも弱い存在を狙い、殲滅する……つもりだったが?
3.雷を操る者(ウルボザ)のような強者に注意する。
4.子供は殺したくない。

※生死は不明です。
※D-2の半径1マス以内のどこかにいます。
※フリアエがマナに心の中を暴かれ、自殺した直後からの参戦です。
※契約により声を失っています。
※正宗に自分の魔力を纏わせることで、魔法「コメテオ」が使用できます。

449壊レタ世界ノ歌 急 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/24(水) 18:00:54 ID:jHryT3sc0
投下終了です。

450 ◆NYzTZnBoCI:2021/03/24(水) 23:25:50 ID:woeCrs2g0
セフィロス、ウィリアムで予約します

451 ◆RTn9vPakQY:2021/03/25(木) 01:24:19 ID:7VlYtWug0
投下乙でした!

・壊レタ世界ノ歌 序破急
DODにおいて多人数戦ばかりしてきたカイムゆえに、人数の差をものともしないというのは説得力がありました。
リンクに次いでソニックも戦闘に参加したのに、戦況はほとんど変わらず……恐ろしい。
それまでの三人がほとんど喋らなかったのに対して、軽口を叩くソニックは戦場の雰囲気を緩和させていたように思います。
最期の切り札であるスーパーソニックを使い、いよいよ場が動くか――と思わせてからの急展開。

バトルロワイアルにおいて対照的な立場となってしまった二人のアイドル、その切ないやり取り。
決意を新たにしたはずが非情になりきれず、仲間を殺すことを躊躇う間に襲う一撃。
これまでのミファーは相手が常人離れしていたのもあり、仕損じていましたが、相手がただの小娘となればこの結果は必然。
そしてこの銃声に、三人ともが集中力を逸らしてしまったという展開が巧みでした。

>参加者だけでなく、支給ポケモンのリザードンでさえ銃声に耳を傾けた中で、戦闘に身を委ねたカイムのみが最適な行動を選ぶことが出来た。
ここで「あっ、やべっ」と思いました。
制空権を得てコメテオを放つカイム、そしてこれを撃ち落とさんとするソニック。
>「ファイターが誰もいなくならない限り、平和への戦いも終わらねえ!!」
>「Burning……でもオレの魂も、まだ燃え尽きちゃいないぜ。」
ここのセリフは熱すぎですね。

そして、ソニックだけでなく2Bとリザードンも餌食としたカイムに対して、烈火のごとき怒りを向けるリンク。
別の世界の彼が使った技を使うという演出も、終曲部分に相応しかったと思います。
はたしてリンクとミファーはどうなるのか……厄災という言葉で〆ているのも粋です。

ここからは個人的に気になった点を述べます。
雪歩と貴音のやりとりの部分における、雪歩のセリフです。
雪歩から貴音に対しては、基本的に敬語(丁寧語)で話すことが多いのです。
なので、例えば>>440
>「どうしたの?四条さん、顔が真っ青……。」
であれば、少し丁寧にして、
>「どうしたんですか四条さん、顔が真っ青ですぅ……」
などとした方が、より再現度が高いと思った次第です。
短いシーンですが、ここの再現度が上がれば、更に切ない状況に仕上がるかと思います。
修正を要求するのが失礼なのは承知の上ですが、もしよろしければ検討いただけると幸いです。

452 ◆vV5.jnbCYw:2021/03/25(木) 09:27:20 ID:r1CJRGO20
>451
長文感想ありがとうございます。
ここまで丁寧に書いてくださって、書き手冥利に尽きるというものです。
口調に関しては、そのような形に編集させていただきます。

453 ◆NYzTZnBoCI:2021/03/25(木) 19:57:04 ID:.ak8.pjo0
投下します。

454片翼の堕天使 ◆NYzTZnBoCI:2021/03/25(木) 19:57:59 ID:.ak8.pjo0

──地獄とは。

地獄とは本来、生前に罪を犯した者が死して辿り着く場所だ。
しかしそんな段階を踏まずともそこへ行ける方法がある。

その方法は──この二体の生物と出会う事だ。


艶やかな銀髪を靡かせる長身の男と、それを前に身の毛もよだつ唸りを響かせる怪物。
まるで対照的。片や一級品の彫刻の如く完璧な美しさと気品を兼ね備え、片や失敗作の陶器の如く不格好で見苦しい。

それらは丁度城門に立ち並ぶ像のように。あまりに正反対であるのに奴らは惹かれ合う。
運命、だなんて耽美な言葉は似合わない。これはそう、言うなれば────因縁。それも細胞レベルでの話まで遡る。

「醜いな」

先に口を開いたのは長身の男だった。
男は心から嘲るように目の前の怪物へ率直な評価を下す。それは果たして外面へのものか、それとも別のものが見えているのか。
怪物は自分が蔑まれた事すら分からない。けれど、けれど。本能が目の前の敵を殺せと叫びをあげる。
お前はなんのために生まれてきたのだ。完璧になるのだろう。ならばこいつの細胞を吸収し、神に等しき存在となれ。

「セフィィィィロォォォォォォオオオオオオオスッ!!!!!!」

雷鳴よりも強く、遠くにまで轟く咆哮。
踏み締めた石床を瓦礫に変えながら、大型トラックを思わせる速度で駆けるウィリアムは四つの剛腕の内一つを横薙ぎに払う。
酷く大振りでありながら的確に命を奪わんとするそれは吸い込まれるようにセフィロスの右腹に突き刺さり、砲弾の如く彼の身体を城壁へ叩き付けた。

455片翼の堕天使 ◆NYzTZnBoCI:2021/03/25(木) 19:58:44 ID:.ak8.pjo0

あまりにも呆気ない幕切れだ。と、思う愚か者はここにはいない。
セフィロスを知らぬ者でも未だ途絶えぬビリビリとした空気の振動から感じ取るだろう。彼は今の一撃をわざと受けたのだと。
穿たれた城壁から溢れる塵煙。セフィロスの行方を隠していたそれはすぐさま消滅する。セフィロス自身の腕によって。

「……なるほど。どうやらただの獣という訳じゃないらしい」

興味を唆られ笑う彼の口元に一筋の血が伝う。この殺し合いが始まって以来最大のダメージと言っていい。腕が直撃した箇所には久しく痛みが走っている。
今の一撃で理解した。目の前の存在は並のモンスターを遥かに凌駕している。それも元々ただの人間であるのに、だ。

彼は試したかった。G-ウイルスというジェノバとは異なる可能性を。
最初こそは人を獣に変えるだけの単純なウイルスだと思っていた。しかしその実、ジェノバにも届くやもしれない底知れぬ成長力を秘めている。
ジェノバ細胞を取り込んだソルジャーでもセフィロスにダメージを与えられるのは極一部に限られる。そう言えばG-ウイルスの強大さが伝わるだろう。
その上で──このG生物は尚も成長段階なのだ。

「お前には過ぎた力だな」

だからこそ、セフィロスは心から憐れむ。
ウィリアムに対してではなく、ウィリアムの身体を支配するウイルスに対して。

「オオオオオオオォォォォォォ────ッ!!!!」

いつの間にか肉薄していたウィリアムが丸太の如き腕を振るう。
背面は城壁。逃げ場はないと思われたセフィロスはそれをバスターソードで受け止める。鋭い火花が散ると同時、それすらも読んでいたとばかりに異なる腕でセフィロスの肉体を貫かんとする。

456片翼の堕天使 ◆NYzTZnBoCI:2021/03/25(木) 19:59:59 ID:.ak8.pjo0


ぼと、ぼとり。


両断された二本の腕が地に落ち、汚れた血溜まりを作る。
怒号か悲鳴か、ウィリアムはけたたましい叫びをあげながらジェノバ細胞を取り込まんと残った二本の腕を振るう。
しかしそれが届く前にセフィロスの剣戟が腕を切り飛ばした。全ての腕を失ったG生物はそれでも歪な牙で噛み砕こうと首を有り得ない勢いで引き伸ばす。

ざりッ、と嫌な音がした。

バスターソードの一撃により頭を失ったG生物はゆっくりと膝を折り、やがて倒れ伏す。
セフィロスはそんな光景をどこか虚しそうに見下ろしていた。

「言っただろう、お前には過ぎた力だと」

所詮はこの程度なのだ。
ソルジャーのように元々鍛えられた人間がこのウイルスを手にし適合していたのならばいざ知れず。何の変哲もない一般人の成れの果てがこれだ。

だからこそ、自分が手にしてやろう。
恵まれぬ主の元を離れ、セフィロスという完全体に取り込まれる事で初めてこのウイルスは完成する。
奇しくもG生物の思考と対立する形の目的の下、セフィロスは残骸に宿る血を取り込もうと腕を伸ばす。

刹那、瞬時に身を仰け反らせた。
遅れてセフィロスの胸に浅い鉤爪のような傷跡が刻まれ、少量の血飛沫が飛ぶ。
セフィロスは初めて瞠目した。首を失ったはずの怪物の腕はみるみる内に再生され、やがて醜悪な顔面も取り戻したのだ。

「セェェェェフィィィィロォォォォオオオオスッ!!!!!!」
「……驚いたな。よもやここまでの再生力を秘めていたとは」

セフィロスがそれを言い切る頃には、G生物は五体満足の姿で彼の前に立ち塞がっていた。
身体を構成する筋肉は質量を増し、より堅牢な姿となっている。圧倒的な巨躯を前に長身など意味を持たない。
存外、吸収するのも手こずりそうだ。ここまでの再生力を誇る相手だ、剣技だけで仕留めるのは難しいだろう。

「────だからこそ、欲しい」

ぽつりと漏らした言葉は紛れもない本音だ。
ジェノバ細胞にここまでの再生力も構成力もない。故にジェノバ細胞にG-ウイルスの不死性を組み合わせれば──セフィロスは己の思考に思わず笑いが溢れる。

何故だろうか。何故こんなにも自分は力を欲しているのだろうか。
クラウドに勝つ為、と言ってしまえばそれまでだ。しかしそれだけではないような気がする。
この胸のざわめきは何だ。何かが失われるような予感がしてならない。込み上げる得体の知れない感情に囚われたままセフィロスは目の前の怪物へ思い出を乗せた刃を振るった。


■ ■ ■

457片翼の堕天使 ◆NYzTZnBoCI:2021/03/25(木) 20:01:09 ID:.ak8.pjo0


セフィロスが絶技を放ち、魔法を放ち、その度に怪物は体の一部を失い再生する。
そうして何度も、何度も姿を変えて進化を遂げ、遂には剣や魔法への耐性を得る形態まで手に入れた。

──しかし、Gの凄まじい成長速度は更に凄まじいセフィロスの猛攻に削り取られてゆく。

細切れ、丸焦げ、圧潰。持ちうる全ての技を試され、実験された挙句にG生物の進化は段々と緩慢さを増してゆく。
最終的にはもぞもぞと動くだけの肉の塊となり、それすらも時を待たずして止まり、Gは完全に沈黙した。

「……これが、G-ウイルスか」

落胆ではない。純粋な感嘆を乗せた呟きを落としてセフィロスは肉塊の中へ腕を掻き入れる。
鈍い脈動が伝わる。この状態を持って尚も"これ"は生きているのだ。死なないのではなく、死ねない──もはや一種の呪い。

暫くしてセフィロスは肉塊から腕を引っ込めた。その手にはどくどくと脈打つ赤黒い物体が乗っていて、規則的に蠢くそれは見る者に生命の根源を思わせる。
その塊は──心臓。G生物の肉体を形成する中枢(コア)。
セフィロスは暫しその脈動を見つめ口角を吊り上げたかと思えば、



食べた。



なんの躊躇もなく、そうするのが当然だと言わんばかりに。
まるでそれはりんごを食べるアダムのように優雅に、美しく。Gの心臓という禁断の果実を口にする姿はどの絵画よりも心惹かれる。
一口、二口、そして三口目で完全にそれを飲み込んでしまえば瞬間、セフィロスの目が勢いよく開かれた。

458片翼の堕天使 ◆NYzTZnBoCI:2021/03/25(木) 20:02:48 ID:.ak8.pjo0

「クックックッ……ハハハハハハハ……」

もがき苦しむように片手で頭を抱えながら、しかしセフィロスの口からは哄笑が溢れて止まらない。
全身を苛む異物感が心地いい。身体を芯から作り替えられるような気味の悪い感覚が生きる実感を与えてくれる。
セフィロスの内部に取り込まれたG-ウイルスはすぐさまジェノバ細胞を侵そうと凄まじい勢いで進行していった。が、ジェノバ細胞の力はG-ウイルスの予想を越える。

ならばG-ウイルスはジェノバに殲滅されたのか? ──否。ジェノバ細胞とG-ウイルスは共存の道を歩むことを選んだ。
すなわち、融合。細胞内に寄生するG-ウイルスは支配する形ではなく、生かされる形で繁殖する。

「これが、究極の力か」

言葉の綾でも比喩表現でもない。
セフィロスはたった今、究極の細胞を手に入れた。
神の如き力を与えるというG-ウイルスの野望は叶ったと言える。セフィロスという依代をもって。
色素の薄いセフィロスの瞳はいつの間にか血のように紅く染まり、今まで与えられてきた傷が緩やかに再生を始めている。完全に適合さえすればこの程度の傷一瞬で治るだろう。

しかし、セフィロスの表情に喜びはない。
どこまでも虚しそうに。どこまでも寂しそうに。
空を這う雲へ視線をなぞらせる究極は、静かに唇を開いた。


「────さよなら、クラウド」


G-ウイルスと融合し感覚が研ぎ澄まされたせいか、はっきりと確信した。
クラウドは死んだ。それも、ついさっきに。
皮肉なものだ。怪物の力を取り入れてまで越えたいと願っていた存在は、既に討ち倒されていたのだから。
彼との決着だけを生き甲斐にしてきたセフィロスの心にはぽっかりと穴が空く。そしてその空間を埋めるように新たなる衝動が瀑布の如く湧き上がる。

「そうだな、クラウド。お前のいない世界など価値はない。この力で全てを終わらせよう」

絞り出すように紡がれた終焉の言葉。
セフィロスは、本気だ。仮にも首輪という生殺与奪の権を運営に握られているというのに、それすらも厭わずに世界を終わらせようと宣言する。
運営すらも彼の進化は予想外だった。ならば何が起きてもおかしくはない。この世に絶対などないのだから。

いや、一つだけある。その言葉を当てはめてもいい存在は──いる。
それこそが今この場に君臨した絶対(セフィロス)なのだ。


「さぁ、埋めつくそう。私という絶望で」


目の前の城壁を破壊し、セフィロスは女神の城を後にする。
行先はセーニャの元。いや、正確に言えばセーニャが感じ取った力の波動。強い力を屠ってこそ究極の証明となる。
もはやセーニャという手駒も必要ない。纏めて始末するのもいいだろう。どのみち全て殺戮して回るのだから。

時刻は丁度第二回放送を迎える。
たった半日。この十二時間の中で物語は激動に激動を重ねてきた。
その中でも特に、彼の進化は最大のイレギュラー。築き上げてきた盤面をひっくり返す異常事態。

踊れ、参加者達よ。
抗え、希望よ。

真なる絶望は、歩き出した。



【ウィリアム・バーキン@BIOHAZARD 2 死亡確認】
【残り41名】


【A-6 女神の城城門前/一日目 昼(放送開始)】
【セフィロス@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:G-ウイルス融合中、左腕火傷、服の左袖焼失、胸に浅い裂傷、右腹に痛み(中)、傷再生中、MP消費(小)、高揚感
[装備]:バスターソード@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、武器の類ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:全てを終わらせる。
1.全ての生物を殺害し、究極を証明する。
2.セーニャが感じ取った力の方向へ向かう。
3.スネーク(名前は知らない)との再会に少し期待

※本編終了後からの参戦です。
※心無い天使、スーパーノヴァは使用できません。
※メテオの威力に大幅な制限が掛けられています。
※ルール説明の際にクラウドの姿を見ています。
※参加者名簿に目を通していません。
※セーニャが手に入れた情報を共有できます。
※G-ウイルスを取り込んだ事で身体機能、再生能力が上昇しています。

459 ◆NYzTZnBoCI:2021/03/25(木) 20:03:05 ID:.ak8.pjo0
投下終了です。

460名無しさん:2021/03/25(木) 22:13:48 ID:omYMfVGI0
投下乙…っていやいやいやいやいや!

こんな化け物、どうやって倒すんだ…
やべえよ…やべえよ

461名無しさん:2021/03/28(日) 01:04:56 ID:VoohenJs0
皆様執筆及び投下お疲れ様です

あちこちで起こる激戦で対主催達が落ちていく一方で、エリアの端で文字通り究極の厄災が誕生してドエラい事になってきましたなぁ

462名無しさん:2021/03/31(水) 18:22:52 ID:nYoZuc5E0
突然失礼致します
八十神高等学校・日中・如月千早、ミリーナ・ヴァイス、マルティナで予約出来ますでしょうか?

463 ◆NYzTZnBoCI:2021/03/31(水) 20:12:25 ID:ka4aWg5k0
質問ありがとうございます。
現状マルティナ、ミリーナがD-2に居り、千早がE-5にいるので、その組み合わせで予約する場合はワープアイテムなどが必要となります。
そして日中の場合、第二回放送を経た後の時間となるので放送が投下されていない状態で話を書くのは矛盾が生じてしまうかと思います。
なので何らかの移動アイテムがあり、時間を日中から昼に変えて頂ければ予約しても問題ないという返答をさせて頂きます。

464名無しさん:2021/03/31(水) 21:20:29 ID:qGDRK6Bo0
ご回答ありがとうございます。
申し訳ありません。ルールと位置を失念しておりました。
また、参考までにお聞きしておきたい( ・ω・)∩シツモーンがいくつかあります。
○マップの1コマは移動にどの程度時間がかかるか
○THE IDOL M@STERの別シリーズに登場するアイテムは使用可能か
○スマブラに登場するアイテムであれば、この作品に参戦しないゲームのものでも使用可能か
どれも回答できる範囲で構いません。
本筋と関係のない長文失礼いたしました。

465名無しさん:2021/03/31(水) 21:22:05 ID:qGDRK6Bo0
>>464
スマホからなもので予測変換で顔文字が出てしまいました
侮辱等の意図はありません
申し訳ございません

466 ◆NYzTZnBoCI:2021/04/01(木) 00:17:40 ID:KFgzovXQ0
質問へ答えさせていただきます。
○一コマの移動にかかる時間は、移動を目的とした徒歩での移動の場合およそ三十分〜一時間程度と認識しています。例外的にソニックやミファーなど優れた速度を持つ参加者はある程度短時間で進めることも可能です。
○アイマスシリーズからは基本的に使用可能ですが、ゼノグラシアのような世界線がまるで違う作品からの登場は御遠慮下さい。
○スマブラに登場するものならば基本登場可能です。伝説のポケモンが出てくるマスターボールやアシストフィギュアのような強力な支給品には相応の制限をつけて頂けると助かります。

納得のいく回答が出来たのならば幸いです。

467 ◆RTn9vPakQY:2021/04/01(木) 11:49:26 ID:Xf/sqXWk0
澤村遥 予約します

468◇qGDRK6Bo0:2021/04/01(木) 21:59:18 ID:Qu5LqQnA0
ご回答ありがとうございます。
改めて、E-5八十神高等学校・昼・如月千早で予約させて頂きます。

469◇qGDRK6Bo0:2021/04/06(火) 01:32:56 ID:NlzNZRNg0
投下します

470◇qGDRK6Bo0:2021/04/06(火) 01:36:15 ID:NlzNZRNg0
如月千早の腹の音が鳴ったのは、「青い鳥」を少なくとも100回は歌った頃であった。
「こんな状況でも、お腹は空くのね。」
そう独り言ちた彼女は、デイパックの中へと手を伸ばした。
おにぎり、ラーメン、お茶...
この殺し合いに参加した仲間を想起させる物を避け、
『アイドル2人のレシピを使用! 秘伝のカレーうどん!』
と書かれた支給食料を手に取る。
「カレー...Jupiterのセンターにいた彼を思い出すわね。」
カレーだけに。
思い浮かんだ寒いギャグでひとしきり笑った後、彼女は麺を口に入れる。
うどんのコシと、香辛料とダシが効いたカレーの組み合わせに彼女は感嘆した。
しかし、空腹が満たされた事によって、かえって不安が襲ってくる。
名簿にいた仲間達が死んでいないかどうか。
そんな恐れが、彼女の表情に浮かぶ。
「美希...四条さん...雪歩...っ」
生きているか分からない三人の名前を呟く。
これは夢ではないか?
この夢が覚めれば、765プロがいつものようにあって、アイドルの皆が揃っていて...
そんな現実逃避めいた考えを巡らせているうち、彼女は少し顔をしかめた。
「765プロのアイドルって、何人だったかしら?」
考えるまでもなく13人だと分かる。
だが、彼女の思考の隅には違和感が付き纏う。
「いけないわ... 色々な事があって、疲れているのね。」
マイナスな考えを絶ち切るように、彼女はうどんをすすり───

───その汁が、服に飛び散った。
「...くっ!」

471◇qGDRK6Bo0:2021/04/06(火) 01:37:01 ID:NlzNZRNg0
『起動』

『アイドル』×『劇場で』×『デュオ』×『公演』

『再生しますか?』

○はい
○いいえ

【E-5/八十神高校・屋上/一日目 昼】
【如月千早@THE IDOLM@STER】
[状態]:健康、
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1~3個)

[思考・状況]
基本行動方針:生き残って、歌い続ける。
1.皆に歌声を届かせる。
2.拭くものを探す。
※雪子の支給品(1~2個)が屋上に放置されています。

472◇qGDRK6Bo0:2021/04/06(火) 01:41:09 ID:NlzNZRNg0
『Precious×Rakshasa』でした。
創作という物にあまり慣れていないので、稚拙な文章と思われる方もいらっしゃると思います。
言葉遣いの間違いや、設定の齟齬等がありましたら教えていただければ修正致します。

473名無しさん:2021/04/06(火) 06:53:44 ID:J8PQN22g0
投下乙です。初投下お疲れさまです。
まず予約の時点で気になってたのですが、トリップのつけ方が間違ってるように思います
#〇〇〇〇(〇の部分は適当な文字。これより多くてもいい)と入力するとトリップがつけれますので

次に内容についてですが、よく分からない点がいくつかあったので指摘させてもらいます

・千早の違和感について
これがなんなのかが分からないです
なんとなくニュアンス的に春香を忘れてるように見えますが、前回の流れ的に不自然ですし、そもそもなぜ忘れたのかが不明です

・最後の描写
これが何を意味する描写なのかがよく分からないです

・食べ物関連
カレーの寒いギャグがどういうギャグなのかが分からなかったです
後、ラーメンやカレーうどんが完成品の状態でデイバックに入ってるのもちょっと気になりました(まあこれについては四次元空間だからってことで説明つかなくもないかもしれませんが)


長々と書きましたが以上です
これらについて説明していただけるとありがたいです

474 ◆0dyJfVAKPw:2021/04/06(火) 14:11:56 ID:vNtDuIM20
ご指摘ありがとうございます。
○カレーうどんについて
こちらは『チョッカクスイチョク』にてカレーが調理された状態で出てきた、という描写があり、これを二度書くのは野暮だと判断しました。
○カレーのギャグについて
これは『彼』と『カレー』をかけたギャグになります。
○千早の違和感について
こちらは忘れているのは春香ではありません。
『THE IDOL M@STER』は2からは765プロのアイドルの人数は13人です。
『THE IDOL M@STER』というゲームからの参戦ですが千早の過去がアニメ版であることから、そして『THE IDOL M@STER』シリーズからはゼノグラシア等の全くの別世界線でなければOKというルールから『MILLION LIVE!』と『SHINY COLORS』を絡めてこのような事を書きました。
○最後の描写について
こちらは『THE IDOL M@STER』シリーズからの
『THE IDOL M@STER SHINY COLORS』に出てきたアイテムに関連する事象です。
トリップについても教えていただきありがとうございます。
この回答でご満足出来ないようでしたらこの文は無効という事で進行して頂いて構いません。

475 ◆vV5.jnbCYw:2021/04/06(火) 16:52:14 ID:2T.bR2Pk0
投下乙です。
後半へ続く中ヤバイ雰囲気の話が連投されている中で、清涼剤になる話でした。
しかしもうじきイウヴァルト、ルッカ、Nなど濃いメンツがやってきそうなのでどうなるか気になりますね。


私はアイドルマスター未把握という訳ではないですが、漫画版しか読んでないので
詳細については他の書き手様・読み手様にお任せします。
それと私の過去作品を読んでいただいたのは嬉しいです。
今回採用となるか否かは分かりませんが、いずれにしてもまたこのロワを書いてくださるといいなと思います。

476 ◆NYzTZnBoCI:2021/04/06(火) 17:05:27 ID:tRuIgk2g0
企画主です。
まずは投下ありがとうございます。
過去の作品を読んでくださっていたことを嬉しく思い、ところどころに散りばめられた要素にアイマス作品への愛を感じました。

千早が少し情緒不安定のように見えますが、雪子の死体がすぐ側にあるという極限状態であれば説明がつきます。
それ以外は特段目立った問題は無いので、千早の状態表を以下に変えた上で採用させて頂きたいと思うのですが、如何でしょうか。

【E-5/八十神高校・屋上/一日目 昼】
【如月千早@THE IDOLM@STER】
[状態]:健康、精神消耗(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1~3個)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残って、歌い続ける。
1.皆に歌声を届かせる。
2.拭くものを探す。
※雪子の支給品(1~2個)が屋上に放置されています。

477名無しさん:2021/04/06(火) 17:22:23 ID:J8PQN22g0
>>474
回答ありがとうございます
食べ物関連に関しては了解です
他の二つについては、自分がアイマスにそこまで詳しくないこともあり、ちょっと回答しがたいです、すみません

改めて、投下乙です

478 ◆0dyJfVAKPw:2021/04/07(水) 03:04:42 ID:F6bybmPE0
すみません。
やはり私の文章は強引な点が多く、無効とさせて頂きたいです。
色々なご指摘や、質問への回答等をしていただきありがとうございました。

479 ◆RTn9vPakQY:2021/04/09(金) 22:34:04 ID:Eeh4dIyI0
・Precious×Rakshasa
投下乙でした。アイマス関連の小ネタが散見され、他の方のコメントにもありましたが愛を感じました。
何より千早をリレーしようとしていただけたのが嬉しいです!
「作品を知っている人には分かるネタ」は書き手と読み手で共有できると嬉しいものですが、その描写やバランスによっては◆0dyJfVAKPw氏がご自身で仰る強引な点につながってしまうのかもしれませんね。
自分も気をつけたいと思います。
今回は無効にとのことですが、また機会があれば、どしどし投下してみてください。

遅れましたが投下します。

480偽装タンカーを探検しよう ◆RTn9vPakQY:2021/04/09(金) 22:35:12 ID:Eeh4dIyI0
 ウルボザと別れてからしばらくして、遥は偽装タンカーへと辿り着いた。
 タンカーは、かつて遥が芝浦の埠頭で見た客船と比べて、一回り以上は大きく、それでいて無骨であった。
 船体に近づいて入口を探す遥だったが、ほどなくして気づく。
 沿岸に横付けされたタンカーの、船首と船尾に、タラップが配置されていた。

 階段状のタラップをのぼり、船首側の甲板に着いた遥はその場にへたり込んだ。
 ひとり恐怖に怯えながら走って逃げて来たことで、精神的にも肉体的にも消耗していた。

「ウルボザさん、大丈夫かな……」

 遥を逃がして女性と対峙したウルボザを心配し、遥は手すりにつかまって立ち上がると、自分が走ってきた方角に目を向けた。
 しかし、空は白んできたが、誰の姿も見えない。タンカー付近に参加者はいなかった。
 悪い想像が遥の頭をよぎる。
 ウルボザは、女性に食べられてしまったのではないか、という想像。
 背後で風に揺られたロープが軋む音がして、遥はびくりと体を震わせた。

「……隠れなきゃ」

 もしウルボザが生きていたなら、このタンカーにいる遥を目指すはずだ。
 そう確信して、遥はタンカー内に留まることにした。
 甲板を船首から船尾まで一周し、身を隠すのに適した場所を探していく。
 円筒形の揚錨機やワイヤーで固定された積荷、それにコンテナと、背丈の小さい遥を隠してくれる場所はたくさんあった。
 それでも、屋外というだけで不安は募る。

「タンカーの中も、見たほうがいいよね」

 船内の構造は未知数であり、安全かどうかも判断できない。
 それでも遥は、自分自身に言い聞かせるようにしながら、船内を探索することを決意した。
 ハンドルを回すタイプのドアを、力を振り絞って開けると、灰色の廊下へと進む。
 どうしても開かないドアは素通りして、廊下を道なりに歩いていく。
 すると、開けた場所にたどり着いた。

 リフレッシュルーム。
 タンカーの乗組員が休憩する場所として作られた、ホールのような場所だ。
 部屋にはテーブルやソファが配置され、部屋の一角には簡単な飲み物を出すカウンターもある。
 人が居ないか慎重になりつつ、ソファへと辿り着き腰掛けた。
 ここを今は安全な場所だと認識した途端に、遥の身体を気だるさが襲う。

「……あれ」

 多大な消耗と過度な緊張。年齢不相応な部分のある遥とはいえ、それらによる疲労には敵わない。
 ゆっくりと、そのまぶたは閉じられていった。





 遥の意識が覚醒したのは、第一回放送が始まってからのこと。
 船内に反響するマナの声をぼんやりとした頭で認識しながら、いつの間にか横向きに寝ていた体を起こす。

『それじゃあ、死者の名前を発表するわ』

 目をこすりながら放送を半ば聞き流していると、名前が呼ばれ始めた。
 そして、それが今までに死んだ参加者の名前なのだと理解した直後に、その名前は呼ばれた。

「え……」

 さほど間を置かずに呼ばれた二人の名前。
 ウルボザ、そして桐生一馬が死んだことを示していた。
 ぼんやりしていた頭を、ガツンと殴られたような衝撃があった。
 信頼していた二人を同時に喪い、冷静な頭で考えられない。
 放送が終わるまで、遥は呆然としていた。

『――それじゃあみんな、頑張ってね。健闘を祈ってるわ!』

481偽装タンカーを探検しよう ◆RTn9vPakQY:2021/04/09(金) 22:38:06 ID:Eeh4dIyI0
 マナによる放送が終わったとき、遥は名簿を握りしめていた。

「ひどい……」

 ぽつりと呟いたのは、遥の純粋な気持ちだ。
 どこまでも参加者を小馬鹿にして笑うマナは、いつか見たチンピラたちを思い出させた。
 道端の仔犬に石を当てて、痛がる姿を見てげらげら笑っていた彼らと、やっていることは変わらないように思えた。
 マナは、人が死ぬ姿を見て、この上なく喜んでいる。
 そう思うと、遥の心中にある感情が溢れてきた。

「許せない……!」

 それは“正義感”や“義憤”と呼ぶべき感情。
 そこに、ウルボザや桐生一馬という信頼できる存在を喪った悲しみも加わり、感情は膨らんでいく。
 混乱もある。不安もある。
 それでも遥の中では、マナを許せないという感情が強く生まれていた。

「でも、これからどうしよう」

 呟きは虚空へと消える。
 遥は自分の弱さを自覚していた。
 ひとりではマナに反旗を翻すことはおろか、自分の身を守ることも難しい。
 タンカーに来るはずだったウルボザも既にいない以上は、誰か人と合流する必要がある。
 それも、信頼できる味方になってくれる人と。

「誰かいないかな……」

 数少ない知人を思い浮かべながら、遥は名簿をめくっていった。
 例えば、東城会の百億円を巡る争いにおいて、桐生一馬の味方であった人物。

「伊達さん……柏木さん……花屋、さん?」

 そういえば“サイの花屋”の本名を知らないな、と余計なことを考えつつ。
 期待した名前は見つからず、かわりにあったのは桐生一馬と敵対していた二人の名前。

「真島吾朗、さん」

 真島吾朗について、遥は深く知らない。
 遥を誘拐し、バッティングセンターの部屋に閉じ込めたこと。
 遥と桐生が訪れていた桃源郷に、トラックで突入したこと。
 どちらの騒動も、目的は遥や百億円ではなく、桐生と勝負することだった。

「たぶん悪い人じゃない」

 桐生は真島に何度も喧嘩を挑まれたと聞いた。
 そのときの話しぶりと、桃源郷で見た振る舞いから、真島は単に血の気が多い、喧嘩したがりの人であり、野心や悪意はないと遥は判断した。
 もしかすると味方になってくれるかもしれない。
 確信はないものの、遥は真島を合流したい人として据えた。

「あと、錦山さん……」

 もう一つの見知った名前について、遥は半信半疑でいた。
 遥の記憶に間違いがなければ、錦山彰は命を落としたはずなのだ。
 ミレニアムタワーの最上階、桐生との決闘を終えたあと、爆弾を自ら撃ち抜いた。
 同姓同名の他人かもしれないし、ウルボザのように生き返ったのかもしれない。
 とはいえ、仮に後者だったとしても、遥には錦山を信用するべきかどうかが分からない。
 錦山は東城会の百億円を狙い、積極的に騒動を起こしたと聞いている。
 その一方で、桐生は錦山のことを親友と呼んでいた。

「おじさんの親友なら、信頼できるのかな……」

 最期を思い返すと、錦山も悪人ではないように思えてくる。
 しかし、明確に善悪を判断するだけの材料が、今の遥にはなかった。
 そのため何分か考えてみても結論は出ず、錦山については保留とした。





 放送から二時間が過ぎた。
 その間に遥は、支給品の確認とタンカー内の探索をしていた。
 どちらもすんなりとはいかなかったが、特に前者は時間がかかった。
 ウルボザから受け取った支給品はもちろん、遥自身に支給されたものも、まだ確認していなかったためだ。

「よく分からないものも多いけど……このお守りは持っておこうっと」

 拳銃やマイク、それに子供向けの本。
 拳銃は使えそうになく、マイクは使い方が不明。本は言わずもがな。
 よく分からない支給品ばかりの中で、遥はウルボザに支給されたお守りを首から掛けた。
 鬼子母神のお守り。柔和な笑みをたたえた女性が描かれているそれは、遥の心をわずかばかり落ち着けたのだ。

「とりあえず、ここから出よう」

 そして、船内の探索も、遥の足ではたっぷり三十分以上かかった。
 開かない扉が数か所にあり、全てのエリアを探したわけではないのだが、ひとまず誰もいないと判断することにした。
 これからするべきなのは、信頼できる味方となる参加者を探すこと。
 自分にできることをやる。そう決心して、遥はタンカーを降りた。

482偽装タンカーを探検しよう ◆RTn9vPakQY:2021/04/09(金) 22:38:33 ID:Eeh4dIyI0
【E-3/偽装タンカー/一日目 午前】
【澤村遥@龍が如く 極】
[状態]:健康、恐怖、不安、マナへの憤り
[装備]:鬼子母神の御守り@龍が如く 極
[道具]:基本支給品、M9@METAL GEAR SOLID 2、魔女探偵ラブリーン@ペルソナ4、魔鏡「かがやくために」@テイルズ オブ ザ レイズ
[思考・状況]
基本行動方針:自分の命の価値を見つける。
1. 人が集まりそうな場所に行き、信頼できる味方を探す。(候補→真島吾朗)
2. 錦山彰については保留。
※本編終了後からの参戦です。
※偽装タンカーの大まかな構造を把握しました。

【支給品紹介】

【鬼子母神の御守り@龍が如く 極】
ウルボザに支給されたお守り。
装備すると「敵の囲みが緩くなる」効果が得られる。

【M9@METAL GEAR SOLID 2】
澤村遥に支給されたピストル。
麻酔弾を発射するために改造されており、手動で一発ずつ装弾する必要がある。
完全に発射音を消すサプレッサー付き。麻酔弾の弾薬は15発。

【魔女探偵ラブリーン@ペルソナ4】
澤村遥に支給された本。
低年齢向けの作品。自室で読むと「根気」と「寛容さ」が上昇する。

【魔鏡「かがやくために」@テイルズ オブ ザ レイズ】
澤村遥に支給された魔鏡。
魔鏡技「ToP!!!!!!!!!!!!!」を使えるようになる。
原作ではコラボイベントで登場した天海春香が使用。この場で他の参加者が使えるかどうかは不明。
本ロワでの設定として、形状はマイクの持ち手部分に魔鏡が埋め込まれているものとする。


【偽装タンカーの備考】
※偽装タンカーは沿岸に横付けされており、乗降口は二か所あります。どちらも甲板につながる階段式のタラップです。
※タンカー内には開かない扉があります。これらの扱いについては後続の書き手さんにお任せします。

483 ◆RTn9vPakQY:2021/04/09(金) 22:39:49 ID:Eeh4dIyI0
投下終了です。

484 ◆RTn9vPakQY:2021/04/13(火) 16:15:51 ID:NJ9HK6p.0
カミュ、ハンター、ヨルハ九号S型、星井美希 予約します

485 ◆RTn9vPakQY:2021/04/20(火) 12:06:19 ID:6a0CvS9Q0
予約を延長します。

486 ◆RTn9vPakQY:2021/05/01(土) 23:37:39 ID:m6hZMVjQ0
予約期限を超過した上、何の連絡もなく申し訳ありません。
同じことを繰り返してばかりですが、ひとまず投下します。

487Androidは眠らない? ◆RTn9vPakQY:2021/05/01(土) 23:39:36 ID:m6hZMVjQ0
 星井美希とヨルハ九号S型は、美術館入口のソファに腰掛けていた。
 ずっと周囲に漂い続けるムンナを撫でながら、美希が9Sへと問いかける。

「これからどうするの?」

 もとより感覚的に生きてきた美希にしてみれば、冷静に物事を考える9Sに行動方針を委ねるのも無理からぬ話だ。
 問いかけられた9Sも、これまでの会話で美希の性質は理解し始めていた。

「そうですね、同じヨルハである2Bとは合流したいところですが……」
「うんうん」
「ただ、現在地が分からない以上、難しいでしょうね」

 とはいえ、答える9Sも歯切れはよくない。
 名簿に記載されており脱落していない、もう一体のヨルハとの合流。
 この広い会場で、当てもなくそれを実現するのは、かなり低い確率である。

「その2B、さんが行きそうな場所ってないの?」
「どうでしょう……戦闘に特化した型ですから、情報収集を積極的にするとも思えません。
 美希にとっての765プロのように、慣れ親しんだ施設があるなら、そこに行く可能性は高いと推測できますけど」

 アンドロイドにも個性はある。
 任務を淡々とこなす個体もいれば、地上に深い興味関心を抱く個体もいる。
 それぞれの個性から、行動のパターンを予測することは可能だろう。

「せめて2Bの情報があれば……つっ」

 再びノイズが走り、9Sは頭を押さえた。
 自身の置かれた状況は不透明。加えて記憶データの欠如とハッキングに課せられた制限。
 現段階の適切な行動を判断しようにも、情報が不足しているというのが正直なところだ。

「……それはそうと、美希は765プロに行かなくていいんですか?」
「うーん、今はいいの」
「どうして?」
「……なんとなく、かな。
 千早さんも貴音も……雪歩はちょっと心配だけど……大丈夫だと思うの」

 遠くを見ながら、三人のアイドル仲間の名前を呼ぶ美希。
 明確な根拠のない美希の言葉を、9Sは完全には理解できない。

「その2B、さんは強いんでしょ?なら大丈夫だよ、きっと」
「そう、ですね……」

 それでも、9Sは美希の言葉にどこか納得していた。
 美希がアイドル仲間を信頼していることは、その話し方から感じ取れたからだ。

(仲間への無条件の信頼か……)

 また少し、ノイズが走った。





 研究所での激闘を終えて、カミュとハンターは地図の西側へと進んでいた。
 その歩みが遅い理由としては、マールディアの遺体を背負っていることが挙げられる。
 二人はマールディアについてほとんど何も知らない。研究所で言葉を交わしたとはいえ、ごく短い時間であり、それも情報交換に終始していたためだ。
 それでも、身を挺してベロニカを庇い倒れた姿は、二人の脳裏に焼き付いていた。
 そんな彼女の遺体を放置する選択肢は、もとより二人の頭にはない。

「そろそろ代わるぜ、おっさん」
「……おっさんと呼ぶな。それはそれとして、交代は頼もう」

 お互いに疲労を滲ませた声で応答する。
 人ひとりを背負いながら長時間移動するのは、鍛え上げられた男性でも困難だ。

「それにしても、なかなか休めそうな場所がないな」
「うむ……美術館までは辿り着きたいところだ」

 二人が今いるエリアは、その地形から、小島を移動しようとすると必然的に通過することになるエリアだ。
 その上、周囲は海で、建造物や森林といった遮蔽物もほとんど存在しない。
 落ち着いて休憩なり埋葬なりをするには、不向きな場所だ。
 マールディアを背負い、カミュはハンターを見やる。

「よし、行けるか?」
「すまぬ、水だけ飲ませて欲しい」
「あぁ、もちろんいいぜ」

 デイパックから水筒を取り出し、ぐびぐびと飲み干すハンター。
 口元を腕で拭いながら、ぷはぁと息をついた。

488Androidは眠らない? ◆RTn9vPakQY:2021/05/01(土) 23:41:07 ID:m6hZMVjQ0
「本音を言えば強走薬か、元気ドリンコが欲しいところだが、仕方ない」
「なんだそりゃ?聞いたことないな」
「あぁ、疲労やスタミナを回復する飲料だ。これがなかなか効く。
 特に強走薬は、“ずっと走り続けられる”ようになるという優れものでな。
 数時間に及ぶ可能性もある狩りには、必ず何本か携行することにしている」
「マジか。ヤバイ薬なんじゃねーのか、それ?」

 その効能と語り口に、眉をひそめてカミュは問いかける。
 しかし、ハンターは不敵な笑みを返した。

「ふっ、カミュ殿も飲めばわかる。ぜひ強走薬の感覚は試して欲しい。
 にが虫とハチミツ、それに生焼け肉があれば拙者も作れるのだが……」
「なんだそのレシピ……オレは御免だぜ」

 手をひらひらと振りながら、カミュはハンターに出発を促した。
 ほどなくして建造物が視界に入り、二人は歩みを早めた。





「これ、ナインズくんに似合うと思うの!」
「……シッ。誰か来ます」

 二人で美希の支給品を確認していた最中、9Sは気配を察知した。
 ビクリとした様子で口を閉じる美希に、物陰に隠れるよう指示をして、自らはマスターソードを手に取る。

(この物音、一人じゃない。二人か?)

 気配の主が一人でないと判断し、9Sは警戒を強めた。
 二人以上だからといって、殺し合いに乗り気でないことの証明にはならない。
 そして、二人で協力してバトルロワイアルを勝ち残ろうとしている参加者であった場合、戦闘は必至。一般人の美希を守りながらの戦闘は不利になる。

(どうする?戦闘か、逃走か……)

 選択肢を迫られる9Sが決断するよりも早く、ドアが開き参加者の姿が現れた。
 数メートルの距離を置いて、9Sと二人の参加者が対面する形になった。

「くっ……」
「おっと、先客がいたか」

 その姿を見た9Sは、いよいよマスターソードを構えた。
 何故ならば、二人の男はともに血に汚れていたからである。
 警戒心は最大まで引き上げられる。既に他人の返り血を浴びている殺人者が、眼前にいるのだ。

「っと、どうやら警戒されているみたいだな」
「少年、拙者たちは主催者を討伐するために動いている。剣を下ろしてはくれまいか」

 青髪の青年はため息をつき、体格のいい男性は武器を収めさせようとしてきた。
 もちろんその言葉に、素直に従う9Sではない。

「口では何とでも言えます」
「まあ、そうなるわな……ん?」

 チラリと9Sの背後を見て、何かに気が付いたような反応をする青髪の青年。

「おっさん、コイツには護りたい相手がいるらしい」
「……なるほど。そういうことか」

 小声で会話をする男たちに、9Sは焦りを感じた。
 背後に隠れている美希のことに気づかれたのかと、不安が生まれる。
 しかし、男たちの行動は予想外のものだった。

「オレの名前はカミュ。
 こっちのおっさんは……ハンター。お前の名前は?」
「……?」

 青髪の青年に名前を問われた理由が分からず、9Sは困惑した。

「おいおい、名前も言えないのか?」
「……」

 こちらに近づいてくるカミュと名乗った男に向けて、マスターソードを向けた。
 油断してはならないと、柄を握りしめる。

「待って、ナインズくん!」
「美希!?」

 声とともに、物陰にいたはずの美希が、9Sの背後に飛び出してきていた。
 そして、ハンターと呼ばれた男を指差す。

「その人、誰か背負ってるの!」
「え……」

 そう言われて背中を見ると、角度的に見えにくかったが、確かにハンターは金髪の少女を背負っていた。
 それも、かなりぐったりとしている。おそらく息絶えているだろう。

「その子、大丈夫じゃないよね……」
「あ、あぁ。もう息をしてない」
「この子を弔いたいのだ。手を貸してはくれないだろうか」

 どこか動揺した様子を見せる二人からの申し出に、9Sの中に迷いが生じる。
 弔いという行為は、殺し合いに乗り気な参加者であれば、全く意味のない行為だ。
 それは逆説的に、カミュとハンターが殺し合いに否定的であることを示している。

489Androidは眠らない? ◆RTn9vPakQY:2021/05/01(土) 23:43:12 ID:m6hZMVjQ0
「ナインズくん。手伝おう?」
「ですが……」

 美希の瞳に見つめられて、9Sの迷いがゆっくりと霧消する。
 これまで短い時間ではあるが、美希の性格や性質はどことなく理解し始めていた。
 アンドロイドの自分にはいまひとつ理解が及ばない、人間にあるらしい直感や天性の勘と呼ぶべきものが、美希には備わっている。
 その美希が信用したのだ。9Sはマスターソードを下ろした。

「……そうですね。疑ってばかりでも始まらない。
 お二人とも、付いて来てください。埋葬に適していると思われる場所があります」
「ホント?さすがなのナインズくん!」
「偶然です。美希が起きる前、館内を見て回りましたから」
「かたじけない」

 ハンターとカミュを改めて観察すると、衣服も肌も全身が傷だらけであった。
 ここに至るまでに、過酷な戦闘を終えてきたのだろうか。

「そうだ、名前を尋ねられていましたね。
 名簿にはヨルハ九号S型とありますが……9S、もしくはナインズと呼んでください」
「ああ、よろしくな」

 カミュに微笑みを向けられて、9Sはつい顔を背けた。





 美術館の裏手に位置する人工庭園。
 マールディアを埋葬したハンターは、ゆっくりと周囲を見渡した。
 丁寧に刈り込まれた草木や整えられた花壇は、綺麗ではあるがそれ以上の感想をもたらさない。
 隣にいたカミュが問いかけてくる。

「どうした?」
「作られた自然は、むしろ不自然に映るものでござるな」

 ハンターは自然と共に生きる者。
 春は桜花。夏は蛍火。秋は紅葉。冬は淡雪。
 風光明媚な景色をいくつも見て来た身としては、人間の手が加えられた自然には違和感がある。

「ふーん、そういうもんか」
「もちろん芸術を貶める気はござらん。技術的に洗練されていることは間違いない。
 マールディア殿も、このような場所であれば、少しでも心安らかに過ごせるであろうよ」
「ああ……と、そうだ」

 それまで相槌を打っていたカミュが、ふと思い出したように話題を振る。

「さっきは驚いたよな。おっさんもそうだろ?」
「ん?あぁ、そうだな……。正直なところを申せば――」
「何の話してるの?」
「どわあっ!」

 背後から急に掛けられた声に、カミュとハンターは思わずのけ反った。
 声こそ上げていないが、ハンターも心中は魂消る気持ちだ。

「お、おぉ、美希殿。少しばかり歴史の話をな……」
「歴史……?へんなの。ねえ、板ってこれでいいかな?」

 首を傾げながら、美希は9Sが持つ板を指差した。
 それを見て、ハンターは美希へ感謝の意を込めて頷いた。
 ハンターたちが埋葬を始めるより前に、探して欲しいと頼んでおいたのだ。

「かたじけない。それでは少し離れていてくれ」
「うん。わかったの」

 何の変哲もないベニヤ板を、ハンターはその場に立てて置かせた。
 そして、三人を充分に下がらせてから、斬夜の太刀を腰だめに構える。

「はあああっ!」

 次の瞬間、気合と同時に連続で斬撃を浴びせかけた。
 木が削れる鈍い音がして、木片がぱらぱらと飛び散る。

「おぉ……」
「すっごーい!」

 感嘆の声を上げるカミュと美希。
 板には「マールディア 安らかにここに眠る」と刻まれていた。

「すごい腕前だな、おっさん」
「なに、この程度はハンターであれば誰でもできること」

 一流のハンターは手先が器用だとされる。
 アイテムを調合して、狩りに役立つアイテムを作成する作業は極めて繊細だ。
 討伐したモンスターから素材を剥ぎ取る際には、丁寧かつ大胆な手際が求められる。
 それを幾度となくこなしたハンターは、自然と手先が器用になるのだ。
 閑話休題。

490Androidは眠らない? ◆RTn9vPakQY:2021/05/01(土) 23:50:58 ID:m6hZMVjQ0
「叶うことなら、すべての犠牲者を弔いたいが……。
 この広い地図上では難しいだろう。せめて冥福を祈ろう」

 ハンターの作り出した墓標を前に、四人は黙祷をささげた。
 その後、最初に目を開けたハンターがちらと横を見ると、9Sと目が合った。

「大事な人はいるのでござるか」

 わずかに考え込む様子を見せてから、首を横に振る9S。
 それを見たハンターは、複雑な事情がありそうだと感じて押し黙る。
 踏み込むにはまだ早いと、ハンターはそのまま館内へと戻ることにした。





 その後、9Sたち四人は情報交換をした。
 名簿と地図を広げ、参加者と施設の情報を挙げていく。

「やはり美希殿も友人が呼ばれていたでござるか。外道め……」
「でも、9Sは知り合いがいない……っていうか、記憶がないんだろ?なんか変だよな」
「そうですよね……」
「ナインズくん……」

 戦闘能力もない少女が複数名集められていることに、憤りを感じているハンター。
 ここに呼ばれた時点で記憶がない9Sの境遇に、疑問を持つカミュ。
 そうした感情の明確な着地点は定まらず、それでも話は進んでいく。

「研究所が崩落!?」
「あぁ……もしかして、行くつもりだったか?」
「候補のひとつでした。情報がありそうな場所は限られているので」
「情報か……その考え方はなかったな、クソッ」
「ただ、あの場で化け物を放置するわけにはいかなかったのだ」

 9Sに衝撃を与えたのは、研究所の崩落。
 行動方針を考える中で、首輪の解除ないし主催者に関する情報が得られる可能性を見出し、密かに目的地に定めていた施設。
 もちろん崩落したからといって無価値になったわけではないが、瓦礫の下から情報を探るのは、通常の状態で探すのと比べても時間と労力がかかる。
 それゆえに、9Sにとって研究所の優先順位は下がった。

「むー、ミキもおにぎりがよかったの」
「ん?美希殿は握り飯が好きなのか。ならばこれを渡そう」
「やったーなの!ありがとう、ハンターさん!」

 同時並行して、四人は食事休憩を取ることにした。
 ごく平均的な家庭であれば、今は朝食の時間である。

「よかったら、かわりに僕の食料を」
「おお、骨付き肉とは豪華な。よいのか9S殿?」
「おっさん、さっき話してたろ、コイツは……」
「主催者は何を考えて、僕のようなアンドロイドに食事を与えたのか。理解に苦しみますね」

 おにぎりをほおばる美希を見ながら、9Sは自嘲的な発言をしたことを後悔した。
 異常な状況下とはいえ、この六時間に過酷な状況を経験していないであろう美希は、未だに普通の感覚を持つことができているのだろう。
 そのことについて、緊張感がないと責めるつもりはない。護るべき対象なのだから。
 深く考えてしまう前に、カミュが今後について9Sに問いかけてきた。

「それで、二人はこれからどこへ向かうつもりなんだ?」
「そうですね……決定的な要素はないのですが。
 研究所が崩落したとなると、美希の仲間がいる可能性がある765プロに行くか、参加者が集まりそうな病院に行くか、のどちらかが現実的ですね」
「つまり、オレたちとイシの村に行くのもアリってわけだな?」
「そうなりますね」

 カミュからの提案を蹴る選択肢は、9Sにはない。
 情報交換によれば、カミュたちはリーバルとベロニカという参加者と合流するために、イシの村に向かうそうだ。
 765プロを目的地と定めるのであれば、同行者は多い方がいいだろう。
 自身が戦闘用ではないため、ハンターとカミュの二人は戦力的にも心強い。

「どうしますか、美希?」
「うーん……その、銀髪の……つよい人ってさ。
 どれくらい強いの?鬼とか、ドラゴンとか、それくらい?」
「いや、鬼やドラゴンなんてかわいいもんだぜ……。
 強いだけじゃない。恐ろしいヤツだよ、あいつは……」

 対峙したときのことを思い出したのか、身震いするカミュ。
 それを見た美希は、まぶたを閉じてしばらく考え込む様子を見せてから、言った。

「じゃあ、一緒にいた方がいいって思うな」
「では、そうしましょうか」
「そうとなればすぐにも行動……と言いたいのはやまやまだが。
 正直なところ拙者は休憩を取りたい。もうしばらくは各自で休憩して、十一時を目安に動くこととしよう」
「そうだな、そうしよう。
 ひっつかんできたデイパックの中身も確認しねえとだし……」

 時計を見ながら、ハンターとカミュはその場から立ち上がろうとした。
 時刻はもうすぐ十時。9Sは二人に声をかけた。

491Androidは眠らない? ◆RTn9vPakQY:2021/05/01(土) 23:53:06 ID:m6hZMVjQ0
「お二人とも、少なくとも血は落としておいた方がいいですよ。勘違いのもとです」
「む、すっかり忘れていた。モンスターの血を浴びるのも日常茶飯事でな」
「そういやそうだったか……わり、水場で落としてくるぜ」

 ゆっくりと水道のあるトイレへと向かう二人の後ろ姿を見ながら、9Sは美希に話しかけた。
 ランダムに配られた支給品の確認も、まだ済んではいないのだ。
 時間はあるとはいえ、しておくべきことも沢山ある。

「美希も、動く準備をはじめましょう」
「ミキ、食べたらちょっと眠くなってきたの……」
「最初の二時間くらいも寝てましたよね!?」
「むぅ〜ん」
「あははっ、おはなちゃん、あくびしてるみたい」
「むぅ〜ん!」

 その瞬間、ムンナが何らかの技を使用した。
 数時間前にモンスターボールをハッキングした9Sは、そのことを理解した。

「!?今のは――」

 しかし、攻撃は放たれていない。つまりサイケこうせんではない。
 その他の三つ、ムンナが覚えていた技を、ハッキングの記憶を頼りに思い出そうとして。

「むにゃ……」
「ぐう……」
「あふぅ……」

 その場にいた9S以外の三人が、ほとんど同時にその場に倒れた。
 襲撃ではない。なぜなら三人とも、一様に寝息を立てているからだ。

「あくび、ですか……」
「むううん」

 つい今しがた、三人を睡魔に襲わせたムンナを見つめる。その瞳は澄んでいた。
 持ち主の命令に忠実なのも困りものだと、9Sは肩をすくめた。

「……というか、これ僕が起こさないといけないんですかね」

 やれやれと呟いて、9Sは誰から起こすべきか思案し始めた。


【B-4/美術館内/一日目 午前】
【男ハンター@MONSTER HUNTER X】
[状態]:疲労(大) ダメージ(中) 全身打撲 血で汚れている 睡眠中
[装備]:斬夜の太刀@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜1) リンゴ×2@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド ハリセン@現実
[思考・状況]
基本行動方針:主催者の討伐、または捕獲。
0.Zzz…
1.四人でイシの村へと向かい、ベロニカ達と落ち合う。
2.オトモ、カミュ、美希の仲間を探す。


【カミュ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:ダメージ(中)、背中に打撲、疲労(大)、MPほぼ0 ベロニカとの会話のずれへの疑問
[装備]:必勝扇子@ペルソナ4
[道具]:基本支給品、フリーズロッド@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド カミュのランダム支給品(1〜2個、武器の類ではない) ウィリアム・バーキンの支給品(0〜2)(確認済み) 七宝の盾@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド
[思考・状況]
基本行動方針:仲間達と共にウルノーガをぶちのめす。
0.Zzz…
1.四人でイシの村へと向かい、ベロニカ達と落ち合う。
2.仲間や武器を集め、戦力が整ったらセフィロスを倒す。
3.これ以上人は死なせない。

※邪神ニズゼルファ打倒後からの参戦です。
※二刀の心得、二刀の極意を習得しています。


【星井美希@THE IDOLM@STER】
[状態]:健康、睡眠中
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜2個)(確認済み)、モンスターボール(ムンナ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[思考・状況]
基本行動方針:自分にできることをする。
0.Zzz…
1.四人でイシの村へと向かう。
2.ナインズくんが記憶を取り戻す手伝いを……?


【ヨルハ九号S型@NieR:Automata】
[状態]:記憶データ欠如
[装備]:マスターソード@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、0〜1個)、H.M.D@THE IDOLM@STER
[思考・状況]
基本行動方針:記憶を取り戻す。
0.三人を起こす。
1.四人でイシの村へと向かう。その後は未定。
2.僕は一体何者なんだろう。

※Dエンド後、「一緒に行くよ」を選んだ直後からの参戦です。
※ゴーグルは外れています。
※記憶データの大部分を喪失しており、2BやA2との記憶も失っていますが、なにかきっかけがあれば復活する可能性はあります。
※元の世界で人類が絶滅していたことを思い出しました。

492Androidは眠らない? ◆RTn9vPakQY:2021/05/01(土) 23:54:06 ID:m6hZMVjQ0
【ムンナ ♀】
[状態]:健康、ピンク色の煙を出している
[特性]:よちむ
[持ち物]:なし
[わざ]:あくび、サイケこうせん、ふういん、つきのひかり
[思考・状況]
基本行動方針:美希についていく。

※所有者は星井美希のままですが、モンスターボールをハッキング済みのため9Sがモンスターボールに情報を送ることで遠隔操作に近い指令ができます。

【H.M.D@THE IDOLM@STER】
ヨルハ九号S型に支給されたアイテム。
ヘッドマウントディスプレイ。頭部に装着するディスプレイ装置……の見た目をしたアクセサリー。
アイドルはこれを装着して踊れるので、視界は確保されているはず。

【備考】
※美術館の裏手の庭園に、マールディアが埋葬され、墓標が立てられました。
※カミュと男ハンターは第一回放送の内容を把握しました。
※四人は情報交換を行いました。どの程度の情報まで共有されたかは、後続の書き手さんにお任せします。

493 ◆RTn9vPakQY:2021/05/01(土) 23:55:43 ID:m6hZMVjQ0
以上で投下終了です。
重ねて予約期限の超過をお詫びいたします。
再発防止に努めます。

494 ◆vV5.jnbCYw:2021/05/02(日) 01:04:08 ID:yna3c1q60
投下乙です!
ここんとこ殺伐とした話が続く中で、この4人の話は凄く落ち着きますね!!
ハンターの自然に対する考えとか、美術館の庭園とかどこか戦いを忘れさせてくれる描写が面白かったです!!
もうじき最凶マーダーのアイツがやってきそうなので、今だけでも休息を楽しんでほしいです!!

495 ◆vV5.jnbCYw:2021/06/13(日) 17:53:52 ID:6usF2hII0
クロノ、リーバル予約します。

496 ◆vV5.jnbCYw:2021/06/19(土) 21:28:57 ID:Y5CHuKLE0
投下します

497それは最後の役目なのか ◆vV5.jnbCYw:2021/06/19(土) 21:29:45 ID:Y5CHuKLE0

空は、今までに起きた惨劇が嘘であるかのように穏やかだった。
雲一つなく、元の世界の様に太陽が輝いている。
いや、ガノンが蘇って瘴気に包まれた元の世界の方が悍ましい空の色をしていた。
ただ風が鳴き、知らない生き物が空を舞う姿がたびたび目に入る。
それを綺麗だと思わない。苛立たしいとも思わない。
何も思わず、ただ胸の内にある感情を放し飼いにして眺めるのみだった。


レッドがいなくなり、少し空の色が変わり、どれほど経ったのかは分からない。
飽きたという訳ではないが、空を見る気も次第に失せてきて、リーバルはつい数刻前殺した主の姿を見る。


その顔は、憑き物が落ちたかのように安らかだった。
心臓と肩に刺さっている矢を見なければ、まるで眠っているかのように見えた。
既に命を手放したゼルダの表情からは、戦っていた時の刺々しさも、この世界に呼ばれる前に見せていた不安も消えていた。
彼女は、最期の最期で解放されていた。
元の世界で長きに渡り付き纏われていたハイラルの姫としての義務から。そして、この世界で短い間だが深く心に巣くっていた誰かを殺さないといけないという義務から。
少なくともかつての英傑だったリーバルはそう解釈した。


それからすぐのことだった。
ハイラル城の方角から、強い光が放たれた。
その光は、城で戦っているクロノとダルケルの戦いによって起こされたものだと、彼自身にも容易に分かった。
そして、ダルケルは遠くまでいても見えるほど強い光を起こせる魔力を持っていない。
従って、その戦いは極めてダルケルの旗色が悪いということだ。
しかし、彼自身は助けに行かなかった。
自分達の守り手に良いように利用された仲間のことさえ、最早どうでも良かった。
この戦いが始まってから9時間と少し、彼には守れなかった者が多すぎた。
言ってしまえば、彼は疲れ切ってしまったのだ。


それからしばらくして、赤髪の青年が城の方から走ってきた。
彼は自分より、少し離れた場所にいた姫の亡骸に驚いていた。

「無駄だよ。僕が殺した。彼女はもう動かない。」
言葉をかけても、表情が読めないものから読めないものへ変わるだけだった。
自分を陥れた者への復讐心が、行き場を失ったやるせなさか。
はたまた、先程まで生きていた者が少し目を離した間に死んだことへの事実への驚愕か。


「アンタは……。」
ようやく青年は言葉を紡いだ。
「ボクはリーバル。姫を守る英傑だったリト族さ。うちの姫さんが、迷惑かけたようだね。」
「そのことはもういいんだ……アンタまで背負う必要はないさ。」
軽い言葉で気にするなと受け流される。
だがその言葉に人を励ますための明るさなどは一切含まれていなかった。



短い返答が終わると、クロノは剣を抜いた。



その僅かな動作で気付いた。
もう、この男は自分と同じで「諦めた」のだと。
否。自分と同じで「全てを」諦めたのではない。
ただ、英雄として道を貫くことを諦めただけ。

言ってしまえば、ゼルダと同じ。
悪意に振り回され、義務感に振り回され、挙句の果てに拠り所を無くし、この男もそうするしかなくなったのだろう。

498それは最後の役目なのか ◆vV5.jnbCYw:2021/06/19(土) 21:31:19 ID:Y5CHuKLE0

だが、リーバルはまだ言わなければならないことがあった。
ここでクロノにかけなければいけない言葉は、姫が行ったことの謝罪ではない。


「僕は、君の恋人と……マールディアと共にいた。」
「……!」
「彼女はね、僕にも話してくれたよ。クロノという大切な人がきっと助けてくれるってね。」


伽藍の穴でしかなかったクロノの瞳に、一筋の輝きが宿った。
言ってどうするつもりなのかは分からない。何を目的に言うのかさえ分からない。
だが、自分がマールといたという事実だけは、この男に言っておかないとならない気がした。
それは、自分の残り数少ないやれることで、やらなければいけないことだった。


「……マールは、どうして?」

抱いても意味のないはずの恐れを抱きながら、その出来事を語る。

「仲間を庇って怪物に殺された。僕は間に合わなかった。」
「……そうか」

例え死んだとしても、全くの無駄死にではなく、誰かのために命を尽くしたと聞けば、この男にとって少しの救いになるだろうか。
最も、その時彼女によって救われた命もまた、失われたのだが。


「すまない。彼女を君の下に届けられなかったのは僕のせいだ。」
「アンタは悪くない。こんな世界じゃ、仕方ないことだ。たから、俺は好きにさせてもらうことにしたよ。」

クロノは剣を振りかぶる。
リーバルは一点の曇りもないほど輝く剣を見た時、少しだけ安心した。
思ったよりかは早かったが、もうすぐまたあの世で主に仕えることが出来るから。
無為に使い続けた時間を、ようやく終わらせることが出来るから。
別にこの男に殺されることは、さほど怖い事でもない。
既に一度死んだ以上、死とは未知の存在でもないから。



それに何より、諦め切った者が諦め切ってない者を止めようとするなど、ただの贅沢な行為でしかないから。


誰かといても何も出来ないが、一人で何もしないのも持て余すだけで。
それならば、どんな形であれ希望を抱いている者の踏み台になった方が良いと思っていた。
ゼルダを止めようとしても、状況を悪化させただけでしかなかったから、もうこの男に何かする意味はないと思っていた。


クロノは剣を掲げて一歩一歩近づいて。
そして振り下ろした。


弓を引かず、翼を広げることもなく。
ただそのトサカの付いた頭は、静かに刃を受け入れようとする。
それが永遠のように感じ、一瞬のようにも感じた。


これで自分は斬り伏せられ、目の前の男の踏み台になる。
それで終わりにするはずだった。
ただ、最後の最後でリーバルは気づいてしまった。
自分の勘の良さがここまで嫌になった時は無かった。
それでも、気付いた以上は言わざるを得なかった。


「………。」

リーバルは生きていた。
羽1枚欠けることなく、五体満足で。
白銀の剣はリーバルを避け、地面に刺さっていた。


「どうしたんだい!?大切な人を蘇らせるために、僕を殺すんじゃなかったのか?」
「避けたのはアンタだろうが。」
クロノの剣がリーバルに刺さる直前、翼を広げて空へ逃れた。
下からクロノがリーバルを見つめている。

499それは最後の役目なのか ◆vV5.jnbCYw:2021/06/19(土) 21:31:39 ID:Y5CHuKLE0
「君さあ、さっき躊躇ったよね?」

その通りだった。
クロノが剣を振り上げてから降ろすまで、動きがぴたりと止まった。
それはほんの一秒あるか無いかのこと。
だが、リーバルが見抜いて躱すには十分すぎる時間だった。


「違う!!」
「違わないさ。曲がりなりにもダルケルを倒せるくらいの剣の腕なら、今の僕なんか一瞬で斬り殺せるはずだ。
『やりたいようにやるだけだ』って言ったね?スジが通って無くない?」



言葉は、さっきまでの消沈した気分が嘘であるかのようにすらすらと出た。


「あくまで自分から殺される気は無いってことか……サンダー!!」
さっきまでは澄んでいたはずの空に黒雲が集まり、雷が襲い掛かる。
だが、空を舞うリーバルにとって、金属製の武具でも付けてない限りは余裕を持って躱せる。

「その程度で僕を殺せると思った?さっきの光の魔法でも使ってみなよ。」


本当は、一思いに殺されるつもりだった。
だが、殺すか殺さないかの葛藤に悩んでいるような相手に殺されるつもりはなかった。
殺したくない気持ちが僅かでも残っているのに、殺さざるを得ないから殺すのは、ゼルダと同じだから。


「そんなものを使うまでもない。サンダガ!!」
今度はドーム状に光が広がり、辺り一面に雷が落ち続ける。
しかしジグザグに飛行を続け、降り注ぐ光の槍を全て躱していく。


「僕は君の親じゃないからね。選択を決める権利なんてないさ。けれど、そんな半端な気持ちで優勝すると思うなんて、愚の骨頂だね。」

そして、そのような気持ちの相手に命を渡すつもりだったら、ベロニカという守らねばならない相手が死んだとき、弓を引く必要はなかった。
同行者の恋人とは言え、昨日今日知り合った相手に命を託すくらいなら、英傑としてゼルダに命を渡すべきだったから。


「僕を殺すのは勝手だけど、殺した相手にウジウジ悩まれるなんて、まっぴらごめんだね。」

そのままクロノがいた場所から飛び去ろうとする。

「待ってくれ!!アンタは……!!」
走り寄ろうとするクロノを翼で拒む。

「殺そうとした相手と話をしようだなんて、随分身勝手だね。これから食べるコッコと話をしようと思ったことはあるかい?」


言葉を全て言い放つと、今度こそリーバルはクロノの下から消えた。

500それは最後の役目なのか ◆vV5.jnbCYw:2021/06/19(土) 21:32:09 ID:Y5CHuKLE0




単純な速さと、精神的な足かせ
二重の理由でリーバルを追いかけることが出来ず、クロノは立ち尽くした。

そのまま、白銀の剣を地面に叩きつける。

(俺は……まだ振り切れていねえのか……。)
ダルケルを殺したあの時、気持ちは優勝の方に向いていたはずだった。
だが、リーバルの言う通り、目の前にいた鳥人がゼルダにいいようにされた被害者だと分かると、ほんの一瞬であるが剣を振るのを躊躇ってしまった。
「シャアア!!」

そこへ、先程の雷を聞きつけたのか、紫色の魔物が現れる。
レパルダス、というクロノの知らない世界の魔物だったが、首輪を付けていないので参加者では無いとすぐに分かった。

剣を拾い、襲い掛かってきたその魔物を一刀両断にする。
だが、そのようなことをしても意味がない。
殺すならば、首輪をつけた者を殺すべきだ。

剣をヒュっと振り、付いた血を払う。



マールディアの顔を繰り返し、繰り返し思い描く。
今は亡き恋人の顔を、再び見るために。
しかしその顔が、何度思い返しても泣き顔しか脳裏に映らなかった。


出来るのだろうか。
例えルッカやロボを殺してでも、英雄どころか殺人鬼になってでも、マールを蘇らせ、思い描いていた未来を築けるのだろうか。
脳裏に浮かんだ恋人の表情と同調したのか、その頬に最後の一滴の雫が伝った。


「行くか……。」
そのままリーバルが向かった方とは別の方角へ歩き出す。
目指す先はイシの村。
恐らく人がいるであろう場所へ向けて歩き出す。


この殺し合いを止めることと、マールを取り戻すことは相反する。
だが、あらゆる人にとっての英雄であることよりも、マールにとっての英雄でありたいと気づいてしまった。
それが最後の役割だとしても、彼女が本当に望んでいないことだとしても、自分が本当にしたいことをするためにその足を動かす。



【B-3/平原/一日目 早朝】

【リーバル@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康、様々な感情
[装備]:アイアンボウガン@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、召喚マテリア・イフリート@FINAL FANTASY Ⅶ、木の矢×2、炎の矢×7@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[思考・状況]
基本行動方針:ここではないどこかへ


※リンクが神獣ヴァ・メドーに挑む前の参戦です。



【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:白の約定@NieR:Automata
[道具]:基本支給品、ハイリアの盾(耐久消費・小)(@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド)、ランダム支給品(1個)
[思考・状況]
基本行動方針: 優勝し、マールを生き返らせる。
1.そのためには仲間も、殺さないとな。
2:まずは人が集まってそうな場所へ向かう。

※マールの死亡により、武器が強化されています。
※名簿にいる「魔王」は中世で戦った魔王だとは思ってません。

※ED No.01 "時の向こうへ"後からの参戦です。このルートでは魔王は仲間になっていません。
※グレイグからドラクエ世界の話を聞きました。

501それは最後の役目なのか ◆vV5.jnbCYw:2021/06/19(土) 21:32:20 ID:Y5CHuKLE0
投下終了です。

502それは最後の役目なのか ◆vV5.jnbCYw:2021/06/22(火) 16:23:11 ID:2VRganJM0
すいません。時間帯を間違えてました。
【B-3/平原/一日目 昼】です

503 ◆RTn9vPakQY:2021/06/22(火) 17:24:44 ID:AlKQWJ1I0
投下乙です!感想をば

・片翼の堕天使
あのセフィロスをも瞠目させるG-ウイルスの再生力。元は人間の身で伝説の英雄に拮抗したと考えると恐ろしい。
そして、それを圧倒的な力でねじ伏せたセフィロスもやっぱり格が違う。
これでウィリアムは幕切れか……と思った矢先に食べるとは驚き。
参加者、そして主催者にとっても絶望的な存在が生まれてしまいましたが、どうなることやら。

>まるでそれはりんごを食べるアダムのように優雅に、美しく。Gの心臓という禁断の果実を口にする姿はどの絵画よりも心惹かれる。
>それこそが今この場に君臨した絶対(セフィロス)なのだ。
あと、こういう洒落た表現に憧れます。

・それは最後の役目なのか
リーバルとクロノのやり取り。互いに諦念を抱えた者同士、どこか共感する部分もあったのでしょうか。

>「僕は君の親じゃないからね。選択を決める権利なんてないさ。けれど、そんな半端な気持ちで優勝すると思うなんて、愚の骨頂だね。」
>「殺そうとした相手と話をしようだなんて、随分身勝手だね。これから食べるコッコと話をしようと思ったことはあるかい?」
これこれ〜!この軽妙な喋りがリーバルの調子だよね〜!となるセリフ回し。
さて、クロノはマールにとっての英雄になれるのか……気になるところです。


感想は以上です。そして拙作の「Androidは眠らない?」について、wikiにていくつか修正を加えたことを報告します。
・タイトルの「?」を消して「Androidは眠らない」へ
>>490 の情報交換のパートで、放送の内容への反応を数行追加。
・その他、細かい文章や状態表の修正。展開に違いはありません。
以上、よろしくお願いいたします。

504 ◆vV5.jnbCYw:2021/08/07(土) 11:15:44 ID:sNh.l74E0
リンク、ミファー、真島吾郎、美津雄予約します

505 ◆vV5.jnbCYw:2021/08/08(日) 21:26:28 ID:gE6c6cNI0
投下します

506それでも残る想い ◆vV5.jnbCYw:2021/08/08(日) 21:26:57 ID:gE6c6cNI0

ともだち。


はじめてのともだちをうしなった。


なにもできなかった。


とめられなかった。


すくってやれなかった。



いまいる市街地が、戦場でなくなった後も、ずっと慟哭は続いた。
声が枯れるまで亡骸の傍らで叫び続けた。
零れ落ちた涙が、もう動かないザックスに落ち、火傷を冷やし、凍傷を温めるかのように濡らした。


――――……なんだ、子供じゃねーか。こんな物騒なもん子供が持っちゃダメだろー?
――――……よくわかんねーけど、気ぃ悪くしたなら謝るよ。な? えっと、立てるか?


彼と共にいたのは、ほんのわずかな時間、半日すらない。
1人で薬草を探し続けていた時間を除くと、その時間はもっと短くなる


――――わかんね。でもま、その辺歩いてれば他の奴らと会えるだろ。もし危ないやつが来てもしっかり守ってやっから安心しろよ、美津雄!
――――じゃ、行こーぜ美津雄。こんなふっざけたゲーム、ちょちょいとぶっ壊してやろうぜ!


それでも、かげがえのない友達だった。
初めてできた、心から友達と言えるし、ザックスの方も自分のことを友達と認めていた。


――――じゃ、ここらで休むか。座れよ美津雄、結構シンドそうだぞ?
――――へへ、バテバテじゃんか。ほれ水、水分補給は大切だぜ


友達なんて下らないもの。
ゲームの世界で仲間になって、共に一人ではとても倒せないような敵を倒したり、何か大事なものを分かち合ったりするなんて現実では出来ないものだと思っていた。
現実の友達なんて、薄っぺらで全くと言っていいほど意味のないもの。
そんなものを作るぐらいなら、実際に存在しなくても、ゲームで裏切らないし、困ったときには助け合える友達を作ればいいと思っていた。


――――そりゃ、話したいからに決まってるだろ。……あ! そういややっと話してくれたな! いやぁ、結構嬉しいもんだなぁ〜
――――水、こぼしてるぞ。具合でも悪いのか?


でも、間違っていた。
今なら分かる。
欲しくて欲しくてしょうがないのにどうやっても手に入らないものを、手に入れなくてもいいものだと酸っぱいブドウ理論で誤魔化していた。


――――ああ、美津雄……怪我、ねぇか?
――――なんで、かぁ……難しいこと聞くなよ。一々んなこと考えてないって……
――――頼りにしてるぜ、美津雄


アイツは間違ってなかった。バカでもなかった。
大切な仲間であり、尊敬する人であり、誇りでもあった。
あの生き方が正しいか、間違っていたかなんてわからないけど、自分以外の全ての人間がアイツは間違っていると言っても、正しさを証明したかった。

507それでも残る想い ◆vV5.jnbCYw:2021/08/08(日) 21:27:21 ID:gE6c6cNI0


――――心配すんなって。言っただろ、お前は俺が守るって
――――なぁ、美津雄……お前、夢ってあるか?
――――夢を持て、美津雄。そしたらちっとは、世界が楽しく見えるかもしれないぜ


僅かな時間、それでも竹馬の友の様に思えた男の言葉を何度も反芻する。
今はっきりと覚えていても、いずれあやふやになり、最後に忘れてしまうのが怖かったからだ。


忘れない。
決して忘れない。


「………おーーーい。」
自分を呼ぶ声が突然聞こえた。

「よしよし、怖かったな〜。お兄さんは悪人ちゃうで〜。」
「うわああああ!!!」
後ろを振り向くと、眼帯に趣味の悪い柄の服と、刺青が印象的な男が立っていた。
そのインパクトに、思わず悲鳴を上げてしまう。


「おいおいおいおい、いくら俺がイケメンだからって言うて、そうビビることは無いやろ。」
おどけた口調で男ははぐらかそうとする。
しかしそれとは思えない凄みが、目の前の男には会った。


「……来るなら来いよ!!オレは死んでも生き延びてやる!!」
勝てる見込みは薄いが、それでも美津雄は銃を男に向けた


「わーーーーーーっ!!タンマタンマ!!俺、そういう人ちゃうねん!!ちょっと前まで、好き放題暴れたろうと思ってたけど、今はちゃうねん!!
つーか死んでも生きるって矛盾しとるやろ!!死んだらアカンやん!!」
「え……?」

不可解なリアクションを取る男に対して、向けていた銃を降ろしてしまう。
(でも、オレを騙そうとしていたら、『ちょっと前まで好き放題暴れる』なんてこと……言わないよな?)

ほんの少し冷静さを取り戻し、思考を巡らせると、殺意が無いという可能性も見いだせてきた。

「分かってくれたか!!いや〜、嬉しいで。行けども行けども誰もおらんし、寂しかったところで、お前の悲鳴が聞こえたんや。……ソイツ、お前の友達か?」

眼帯男はちらりと動かなくなったザックスの方を見やる。
それに対して美津雄は黙って頷く。

「そうか。誰だって、大切な人を失うのは辛いものやからな。
よし、お兄さんと一緒に、近くの墓場にこの人を埋めに行こうや。」

言うが早いか、男はザックスを背負い始める。

508それでも残る想い ◆vV5.jnbCYw:2021/08/08(日) 21:27:37 ID:gE6c6cNI0

「夢……。」
「ん?どうした?」
「夢って……どうやったら見つけられると思う?」

ザックスには夢を持てと言われた。
でも、美津雄には、そんなものはない。
この男は、何か持っているのか聞いてみようと思った。


「脈絡もなく難しいことを聞くなあ〜。いかにもお前ぐらいのガキんちょが考えそうなことや。
でも、俺にもこれだけは分かるで。」
おどけていた眼帯男は、急に神妙な顔つきになって語り始めた。

「夢ってのはな、探そうと思って見つけるものじゃないねん。生きて悩んでまた生きて、そうしていたらきっと探さんでも夢の方から来てくれるものやと思うわ。」

眼帯男の言葉を聞き、何故か涙が出た。
先の涙とはまた違うものだった。

「だから、死ぬなや。悩んでも立ち止まってもええ。お前一人になっても、生きや。」
優しく男は美津雄の肩をポンと叩く。
そう言えば、長らく人肌は感じたことが無かったな、と割とどうでもいいことを思ってしまった。

「な〜んてな。これは、この年まで好き放題やっていた、俺のただの持論や。
テストに出るわけでもないのに、そんなアホみたいに真剣な顔して聞いてどないすんねん。」

それからまたおどけた顔に戻った。

「せやせや、名前忘れとったな。俺は真島吾郎、気さくに真島の兄さんとでも呼んでくれや。」
「俺は久保美津雄……。真島さんの夢って、どんなものなんだ?」
「いきなり呼び方無視かい!?まあええわ。俺の夢はな、桐生ちゃんを喧嘩でぶちのめすことや。」
「………。」

喧嘩好きそうな男だとは思っていたが、そこは見た目通りなんだな、と美津雄は思った。
しかし、その口調は、どこかさっきまでの勢いがないのは伝わってきた。
もう朧気でしかないが、その桐生ちゃんとやらは、最初の放送で呼ばれた桐生一馬のことだろうと察しがついてしまった。


「その人って……。」
そう思っていた言ったところで、東の方、ここからそう遠くない場所から、轟音が響いた。

「な、なんやアレは……。」
驚嘆の声を上げる真島吾郎に対し、美津雄は言葉を発することさえ出来なかった。
彼等がみたのは、隕石だった。
真っ赤なエネルギーの塊が、その場所に落ちていった。


信じられなかった。
例えシャドウの力を使っていても、あんな芸当はきっと出来ないと分かっていた。
あの方向は、リンク達が向かっていった場所。
だから、逃げるわけにはいかない。


会って、あの少女にも、仲間を咎めたことを謝らないといけない。


「よっしゃ、あの場所目掛けて出発進行や!!美津雄の友達ちゃんはちょっと待っててな。」
美津雄が向かおうとする前に、真島はすでに走り始める。
走るのが苦手なのは変わらないが、その後ろを追いかけ始めた。

509それでも残る想い ◆vV5.jnbCYw:2021/08/08(日) 21:28:02 ID:gE6c6cNI0

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「何が起こっているというんや……。」
最初に見つけたのは、折り重なって死んでいる茶髪と銀髪の二人の少女だった。
2人とも胸を打ち抜かれて死んでいた。

美津雄は2人共知っていた。
片方は放送前、ザックスを刺した千早と名乗った少女。
もう片方はその仲間で、自分が謝ろうとしていた少女だった。



「おい!!大丈夫か!!しっかりしいや!!」
真島の呼びかけにも答えはない。
4つの瞳孔はどれも開ききり、手足は既に青みが掛かった死人の色をしていた。
彼とて死者を見てないわけではない。
むしろ人一倍は見てきたぐらいだ。
それでも、そう声をかけずにはいられなかった。


「ふざけんなや……。」
もう見つめてくれない、萩原雪歩の瞳を見て、真島は呟いた。
その罵倒は、誰に対してか。


「何のためにあの時助けたと思っとんねん……」

その言葉は、死者に向けているとは思えないほど辛辣だった。
だが、そこには言葉のトゲが決して見られなかった。

「この腐ったゲームをぶっ潰す俺の計画が、台無しやないか……。」
Nの城で折角助けたというのに。
その彼女が、こんなにも早く死んでしまうのは、死者を見続けた彼でさえもいたたまれなかった。



「何なんだよこれ……。」
美津雄も声を漏らす。
わずか数時間前は死の予兆など無かった者が、こうも救いようがなく死んでいる。

2人いる少女のうち、片方は殺し合いに乗っていた。
命を狙われたし、仲間を傷つけられた。
だからといって、こんな結果で死んでしまうのを美津雄は望んでいなかった。


しかし、美津雄にも真島にも分かっていた。
いや、分かってしまった。
この場所は先ほど隕石が落ちた場所から少し離れている。
そのため、ここはまだ地獄の1丁目でしかないということだ。


市街地から離れたその場所は、文字通り地獄のような風景だった。
惨劇という言葉をそのまま体現したような景色が広がっていた。
地面は焼け焦げ、いくつもクレーターを作り、いかなる生き物も住むことを許さないようになっていた。


焼け死んでいる青いハリネズミ
同じく焼け死んでいる上に、翼が片方ない赤竜
壊れた白黒のアンドロイド

犠牲者たちが、その場に転がっていた。

510それでも残る想い ◆vV5.jnbCYw:2021/08/08(日) 21:28:23 ID:gE6c6cNI0


その近くで、半魚人の少女が必死で青い服の金髪の男を呼びかけていた。
真島は男の方に見覚えがあった。
Nの城で戦い、自分の剣を一本渡した相手だ。

「おい!助けに来たで!!」
「……!!あなたたちは!?」
突然やって来た真島と美津雄に半魚人は驚くも、すぐに持っているナイフを構える。



「わーーーーーーっ!!だから何でこんなナイスミドルなお兄さんを敵だと思うねん!!」
「ミファー……。その人は……敵じゃない。」
「え?」

言葉を紡ぐのでやっとのようだったが、リンクは辛うじてミファーに攻撃を止めるように頼んだ。

「あんたは……無事……だったんだな。」
「久し振りやなあ、リンクちゃんだっけ?
早速戦いたいところだが、ちょっとそれどころじゃないみたいやな。ちょっと場所変えるぞ。こんな所におったら、怖い怖いおじさんに見つかって殺されるかもしれへん。」


「っしょ。意外と重いな。」

真島はリンクを背負い、市街地に戻ろうとする。
ミファーはその間でも、両手を光らせ、1つでも多くリンクの傷をふさごうとしていた。

「ぴちぴちギャルの嬢ちゃん、凄い手品やな〜。何食ったらそんなこと出来るん?」
「…………。」

ミファーは真島の言葉を無視して、リンクに再生の術をかけ続けた。


「なあ、リンク。仲間のことごめんな。」
もう死んでしまったが、美津雄はリンクの仲間を咎めたことを謝罪する。
リンクは首を横に振って、気にするなと無言で言う。


「ザックスはどうなった。」
「………死んだよ。俺を庇って、戦い抜いた。何も出来なかった。」
「すまなかった。最後まで居てやれなくて。」

来た道を戻るが、その途中に雪歩と貴音の死体がまた目に入る。
銃声からして察しは付いていたが、雪歩とその仲間が助からなかったことは、リンクにも分かってしまった。


冷たい空気が辺りを漂う。
2B、雪歩、貴音、ソニック、リザードン、そしてザックス。
わずか数時間で、この近くにいた半分近くの参加者が死んでしまうのは、誰にも予想出来なかった。
これまでの思い出も、友情も、硬い決意でさえも、この場では守ってくれない。



「真島さん、オレ、代わろうか?」
「アホぬかせ。お前らみたいな若造に心配される程耄碌しとらんわ。」
それからも死の空気は4人にずっと付き纏っていた。

511それでも残る想い ◆vV5.jnbCYw:2021/08/08(日) 21:28:46 ID:gE6c6cNI0

しかし、その空気は外からによるものだけではなかった。

(う〜ん、あのぴちぴちギャルの嬢ちゃん、何がしたいんや?)
その空気に紛れてしまい、美津雄は分からなかった。
しかし、ヤクザという職業柄、殺意に対して敏感な真島のみが、それを察していた。


(さっきからチラチラ俺らのこと見とるけど、あれは俺のこと好きって視線やあらへん。
アイツが送ってるのは、覚悟キメた奴の視線や。)

「これ以上俺は誰も悲しませへん。生き抜いてやるで。この腐ったゲームをぶっ壊すまではな。」
それは自分の決意表明か、ミファーに対して放った言葉なのか。


誰が言ったか。
あなたは生きていない。死んでないだけと。
死は誰にも決めようがないし、逃れようがないことだ。
このような殺し合いに巻き込まれずとも、殺す者がいなくても、寿命や病気や怪我でいずれ死ぬことになる。
だが、生きるか生きないかを決めるのは自分自身だ。


だから、失っても最後の最後まで生き続けよう。
それが他者に依存する形になっても。
まだ生きるのを辞めるにはまだ早い。



【D-2 山岳地帯と市街地の間/一日目 昼】

【リンク@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)胸上に浅い裂傷、両脚に怪我、軽い火傷、失意
[装備]:民主刀@METAL GEAR SOLID 2、デルカダールの盾@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて ブーメラン状の木の枝@現実
[道具]:基本支給品(残り食料5/6)、ナベのフタ@現実 残ったアオキノコ×2、ソニックのランダム支給品(0〜1個)双剣オオナズチ(長剣)@MONSTER HUNTER X、貴音のデイパック
[思考・状況] :ゼルダはどうしているだろう?
基本行動方針:守るために戦う。
1.それでも生きる
2.カイムの生死を確認したい

※厄災ガノンの討伐に向かう直前からの参戦です。
※ニーアオートマタ、アイマスの世界の情報を得ました。
※美津雄の調合所セット(入門編)から薬に関する知識を得ました。




【ミファー@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:ダメージ(中)  右肩に銃創 体にいくつかの切り傷
[装備]: 鬼炎のドス@龍が如く極
[道具]:基本支給品、マカロフ(残弾2)@現実 ランダム支給品(確認済み、0〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:リンクを優勝させる
1.不意打ちで参加者を殺して回る。
2. 今はリンクを回復させる
3.真島吾郎、久保美津雄に警戒


※百年前、厄災ガノンが復活した直後からの参戦です。
※治癒能力に制限が掛かっており普段よりも回復が遅いです。


【久保美津雄@ペルソナ4】
[状態]:疲労(大)、悲しみ、決意
[装備]:ウェイブショック@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品(水少量消費)、ランダム支給品(治療道具の類ではない、1〜2個)、調合書セット@MONSTER HUNTER X
[思考・状況]
基本行動方針: 夢を探す。
1.生きる

※本編逮捕直後からの参戦です。
※ペルソナは所持していませんが、発現する可能性はあります。
※四条貴音の名前を如月千早だと思っています。

【全体備考】
※ザックスの支給品は遺体の傍に放置されています。


【真島吾朗@龍が如く 極】
[状態]:頭部出血(止血済み)、疲労(大)、決意
[装備]:ほしふるうでわ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームをぶっ壊す。
1.まずは市街地で休憩できそうな場所を探す
2.美津雄を守る
3.ミファーに警戒
4.遥を探し出し保護する。
5.桐生を探す(死体でも)。
6.錦山はどうしよか……。

※参戦時期は吉田バッティングセンターでの対決以前です。
※運営が盗聴していることに気付きました。

512それでも残る想い ◆vV5.jnbCYw:2021/08/08(日) 21:29:00 ID:gE6c6cNI0
投下終了です

513 ◆RTn9vPakQY:2021/08/09(月) 23:02:51 ID:Hjqa7qvU0
投下乙です。
ザックスの死を受けて、かけられた言葉をかみしめるように反芻して忘れまいとする美津雄の姿は、悲しみの中にも決意が感じられますね。
>「夢ってのはな、探そうと思って見つけるものじゃないねん。生きて悩んでまた生きて、そうしていたらきっと探さんでも夢の方から来てくれるものやと思うわ。」
比較的若者が多いこのロワにおいて、人生経験豊富な真島の兄さんは若者の先導役になりそうな予感ですね。
そして、ひょうひょうとしていながらミファーをしっかり警戒する真島の兄さん。頼もしいけど相手は英傑、一触即発もあり得るので怖いですね。

残された者たちの「生きる」という意思が感じられて、静かながら滾る話でした。


リボルバー・オセロット、バレット・ウォーレス、ソリダス・スネーク、クレア・レッドフィールド 予約します

514 ◆RTn9vPakQY:2021/08/15(日) 21:04:47 ID:TB3ETlgg0
予約を延長します。

515名無しさん:2021/08/30(月) 21:59:16 ID:3BHYlSWo0
投下乙です。

>> 青の光に導かれ
イレブン、恥ずかしい呪いを患わっていながら本当にひとりで料理できたのか? というところには大いに疑問がw

やっぱり料理シーン〜全員で飯を囲むって流れがあると、安心感あるね。
犠牲者少なからず出ていながら、ベルもオトモも前向きな考え方を曲げてなくて、とても穏やかな雰囲気でほっこりする。
このパーティに一服落ち着いた感が出てて、朝なのに夕暮れの就寝前イメージがある作品。
オーブにはまだまだ謎が多いのだけれども、希望が見える雰囲気。


>> これまでではなく、これから
この話、オセロットに名言多いしバレットとの掛け合いがとても面白い。

> 「いくらキミより頭がいい人物が目の前にいるからと言って、考えるのを怠るのはよくないぞ。」

これ、さらっと流してきてるけどかなりの名言だと思うんだよ。
この一言だけでキャラが立ってるのが分かるんで、高いセンスしてるなあって思う。


> 「私がスパイだと一つ明かせば、後は知りたいこと何でも答えてくれると思う、君の頭にだよ。」
この発言も、読み手側としてもこの二人は面白い関係だと思ってたから、側頭部から殴られた感じがあって好き。
そして、ちょっと険悪になりかけたところからさらっと関係を元に戻す話術にとても味がある。

> 思えば彼にとって、元ソルジャーなどと宣う金髪の男やら、実験サンプルやら、ギルやマテリアを盗む謎の忍者やら、仲間というのは最初は得体のしれない者がほとんどだった。
> だから、彼は今オセロットが味方じゃないと言っても、行動を共にする。
> これまでのことは分からないし、教えてくれるような相手でもないが、これから味方になる可能性はあるから。
ここ、クスっと笑えると同時にバレットの仲間観が凝縮されてるのがポイント高い。
バレット自身が環境テロリストの親玉という人のこと言えない立場だったからめっちゃブーメラン刺さってると思うけど、
でもそんな曲者たちが固く結ばれた仲間になったのを鑑みると、
バレットとオセロットの関係はもっと続いてほしいと思ってしまう。


>> 壊レタ世界ノ歌

ぐらぐらの心理描写が好きです。

殺す
殺さない

の二択で下ボタン押しっぱなしでカーソルループさせてる演出が好きです。
眼球や口腔の粘膜がカラカラに焼け付いて腔内が乾ききってるあの情態が感じられるのが好きです。

貴音は自分の意志だけで雪歩を殺害することは終ぞできなかったんじゃないかなあ、と思う。
きっと雪歩の視点では説得の余地が見えてて、だからこそミファーに刺殺される場面の無情度が高い。
そして雪歩がミファーと敵対したのは勇気は勇気でも蛮勇のほうだったなあ。
雪歩の勇気がまわりまわってリンクたちに最悪の結果として降りかかったのは本当にやりきれない。
アイマス勢三人脱落したけど、全員が全員、殺し合いの場に染まり切れずに脱落した感じがあって、ほんとバトロワに向いてない人たちよな。

あと、カイムが強いね。
攻撃が意外とワンパターンとか言われてたけど、増援来ても崩れる気配がなくて、この人どうやれば倒せるんだろうって印象だった。
それでいて今回の惨状の引き金ひいたのは間違いなくミファーだなあ。
カイム瀕死、リンク以外死亡、リンクの怪我は中等症とはいえ、ミファーにとって理想に近いの結果。
厄災と言われるのもむべなるかな、と。

516名無しさん:2021/08/30(月) 22:00:25 ID:7P4wfawU0

>> 片翼の堕天使

知 っ て た 。

予想通りだし期待通り、けれどもそれで面白い。
女神の城というステージ、散りばめられている彫刻とか絵画とか禁断の果実とかの単語、
登場人物の片方は美丈夫、片方は悍ましい怪物というコントラストの映え、
このあたりがうまいこと情景を広げてくれて、神話時代の戦いみたいなイメージが浮かんでくる。
いっそ神秘的な光景を思い浮かべるのだけれども、そこに冒頭の地獄の定義が効いてきて、強烈な印象を残してくるわけですよ。
ウィリアムはこの直近の二話だけで、なんかやりきった感じすら出てしまったなあ。
ということで、セフィロスが勝って全参加者の敵になった。

大事なことなのでもう一度。

知 っ て た 。


>> 偽装タンカーを探検しよう
置いて行かれた感がある遥ちゃん。
外ではセフィロスが究極生物になってたり、D2で死にまくったりしている中、偽装タンカーだけ世界に取り残されてしまった。
アリオーシュが怖すぎたんで仕方ないとはいえ、相応に消耗してて結構厳しい状態。
絡みのあった人間はほぼ脱落し、元の世界の顔見知りも真島しかいなくて、やれることをやってみたけど大きな収穫はないという厳しい状況。
全体的に無力感満載で、ひとりでは何にもできないという評価が残酷なまでに正鵠を得てる。がんばれ。

周囲の参加者の動向を見るに、直近で出くわしそうな危険人物はマルティナとミリーナ程度。
東側は穏健な参加者が多くて、曲者はいれど信頼できる人を探すの行動方針は今なら大きく間違ってはいないはず。ほんと、がんばれ。


>> Androidは眠らない
ハンターおじさま頼りになりすぎる……。彼ほんと情に厚くてなんでも作れて頼れるキャラだよ。
もはや本人がどんなに否定しようもおじさまの風格が隠せない。
少し前まで少々危うかった9Sくん、なんか今回マイペースな美希とムンナ、頼れるけど価値観が独特なハンターにはさまれて、常識人の苦労人ポジションへと猛進していませんか?
余計なこと考えるヒマがないくらいにまわりに気遣いしてれば逆に安定してくるのでは、とすら思えてきた。
カミュと一緒に仲良く振り回されてほしいw

517名無しさん:2021/08/30(月) 22:02:48 ID:pfFhNf9w0

>> それは最後の役目なのか
すべてを諦めたと言いながら、プライドはまだ残っているらしいリーバル。
どうせ踏み台になるなら、一本筋の通った相手の踏み台になりたい、なんてのはプライド以外の何物でもないか、と。
彼にとっての慢心=プライド=誇りってアイデンティティみたいなものに見えるから、
プライドがある=まだ底をついていない、と解釈してしまった。
図らずもクロノを導いている構図にすらなってて、本人の意志に反してまだまだ仕事振られそうな気がする。
クロノへの小気味よい煽りが味わい深くて好きです。

>> それでも残る想い
美津雄はザックスから誇りを受け継いで目に見えて成長してると分かるのがうれしい。
真島も包容力のある大人だし、もう一皮二皮剥けるのかもしれんね。
真島が美津雄に警戒されて慌ててるシーン、赤ちゃんに泣かれて慌てる筋者みたいなコミカルさがw
真島もコミカルとシリアスを違和感なく切り替えられるおいしいキャラだよなあ。

てな感じで前半はいい感じにほんわかするんだけど、後半の鬱っぷりはすさまじいね。というかリンクが鬱。

ミファーはお前、真島よりも先にカイムをなんとかしようや?
今の真島はファッション危険人物だから。外見が不審人物なだけだから。ホントに危険な人物近くにわんさかいるから。
チラチラ様子うかがってるって、この局面で導火線に火のついた爆弾ムーブはやばいでしょ。

で、こうなると一番危ういのリンクなんだよなあ。
同行者が全滅した局面で、ミファーが助けに来てくれたとなれば、切なる想いに目が曇りかねない。
このタイミングでミファーがなんかやらかしたとして、それを受け入れるにしろ拒絶するにしろ、選択を迫られればなかなか酷。
彼だけ明らかに空気が重いので、今後が大変心配ですわ。

518 ◆vV5.jnbCYw:2021/09/03(金) 19:59:10 ID:5kFmKSqs0
毎回全話感想ありがとうございます。
バレットとオセロットのやり取りを気に入ってくださったようで非常に何よりです。

エアリス、ゲーチス予約します。

ところで
>>514
の予約はどうなったのでしょうか?

519 ◆RTn9vPakQY:2021/09/03(金) 21:46:58 ID:R2RzSOHg0
予約期限が切れたのにも関わらず、何の連絡もせずに申し訳ありませんでした。自分の怠惰が原因です。
長期間のキャラ拘束はもちろん、それ以前にこういった行為そのものが企画の停滞につながることも理解していました。
しばらく参加は自重します。もし参加する場合も、必ずルールに則ります。

期限は切れていますが、ソリダス、クレア、オセロット、バレットで投下します。

520 ◆RTn9vPakQY:2021/09/03(金) 21:48:52 ID:R2RzSOHg0
 ラクーン市警のエントランスを背にして、ソリダス・スネークは葉巻を取り出した。
 警察署内の押収物倉庫で発見した品物だ。サバイバルナイフで頭を切り落とし、古びたマッチで着火したそれを、ゆっくりと口に運ぶ。

「ふむ」

 逸品だ。満足した声が漏れた。
 そのままゆるゆると紫煙を味わいながら黙考する。
 さきほど襲撃してきた怪物の素性、分身を作り出すことができる紫色の球の原理、そしてクレアが意識を取り戻した後の方針について。

「……チッ」

 苛立ちまじりの舌打ちが漏れる。
 どれひとつとして明確な答えに至らない。
 それもそのはず、情報が圧倒的に不足しているのだ。
 この殺し合いが開始して六時間近く、ソリダスはクレアと怪物以外の参加者に遭遇していない。
 参加者と出会い情報交換をすることの重要性は、もともと予想はしていたが、クレアとの邂逅を経てなかば確信していた。
 クレアがラクーン市警の構造を把握していたように、地図に記載された固有名詞らしき施設には、参加者の誰かと関係があるのだ。

「となると、やはり偽装タンカーは……」

 二年前、ハドソン川を航行中に沈没したタンカー。
 地図の偽装タンカーとは、海兵隊が極秘裏の演習のため偽装していた船のことだろう。
 ソリダス自身はそのタンカーに乗船こそしていないが、なじみ深いものが載せられていた。

「メタルギアRAYが、ここに?」

 水陸両用型二足歩行戦車、メタルギアRAY。
 海兵隊の主導により試作された、メタルギアの亜種のひとつ。
 その圧倒的な火力を持つ武装と、非常に高い索敵能力から、開発当初は空母の戦略価値が低下するとまで評された代物だ。
 しかし、それがこの地図の偽装タンカーで入手できるとは考えにくい。もしメタルギアが操縦可能な参加者の手に渡ってしまえば、その瞬間から殺し合いは成立しなくなるからだ。
 対処法を知るソリダスならいざ知らず、そうでない一般人が太刀打ちすることは不可能。十中八九ワンサイドゲームになる。
 もちろん、主催者が強者による蹂躙を望んでいるとすれば別だが――

「――やめだ。妄想ばかり膨らませても仕方ない」

 半分ほど燃えた葉巻を思い出したように咥えて直した。
 そもそもの話をすれば、偽装タンカーは二年前にマンハッタン沖で沈んだはず。
 主催者がどういうつもりで用意したのかは、現状では想像の域を出ないといえよう。

『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる?』

 いよいよクレアを叩き起こすことも考え始めたとき、放送が流れ始めた。
 何が楽しいものかと毒づきながら、デイパックから名簿を取り出して眺める。
 そのほとんどは知らない名前だ。しかし、いくつかは目に留まる名前があった。

 ――ハル・エメリッヒ。メタルギアの開発に携わっていた技術者で、シャドー・モセス島事件の後には反メタルギア財団を設立した人物。現在は偽装タンカー沈没事件の首謀者のひとりとして指名手配されている。

 ――リボルバー・オセロット。KGBやGRUなどの特殊部隊を渡り歩いてきた、拳銃の名手であり拷問のスペシャリストでもある人物。シャドー・モセス島事件以降は、ソリダスの指揮下で活動している。

「そして……」

 ――ソリッド・スネーク。元FOXHOUND隊員にして伝説の英雄。
 アウターヘヴン蜂起、ザンジバーランド騒乱、そしてシャドー・モセス島事件。複数の事件で単独の潜入任務を行い、激闘の末に解決に導いたとされる歴戦の兵士だ。
 そして、伝説的な兵士ビック・ボスのクローンのひとり――すなわちソリダスの兄弟――でもある。
 二年前のタンカー沈没事件の首謀者であり、タンカーと一緒にハドソン川に沈んで遺体も回収されたはずだが、この名簿が真実なら生還していたことになる。

「そうか」

 ソリダスはどこか納得したように頷く。
 その口元は、マナへの苛立ちなど忘れたように緩んでいた。
 同一の遺伝子を持つ蛇が二匹、同じ殺し合いの場に呼び出されている。
 その意味は何か。

「どちらがよりビッグ・ボスに近い優れた兵士か、この戦場で明らかになる」

 戦場では常に弱い者から死んでいく。
 殺し合いというイレギュラーな状況下だが、それでも戦場には違いない。
 それならば、ここでどちらの蛇が優れているか、はっきりさせるのも面白い。
 残り香だけになった葉巻を落とす。

「スネーク、貴様はどう動く?」

 これまでソリダスは、主催者に踊らされている感覚があった。
 しかし、ソリッド・スネークの存在を知り、確固たる目的が生まれた。
 その瞳が活き活きとしだしたことに、おそらく本人も気づいてはいない。

521Discussion in R.P.D. ◆RTn9vPakQY:2021/09/03(金) 21:50:32 ID:R2RzSOHg0
「ソリダス!」

 背後から掛けられた声に、ソリダスは振り向く。
 先程まで疲労で寝ていたクレアが、エントランスから顔を出していた。

「ふん、ようやくお目覚めか」
「放送は聞けたわ。……あなたの知り合いはいた?」
「知り合いはいたが死んではいない。お前は違うのか?」
「……ええ」

 わずかに沈痛な面持ちを作るクレアだったが、すぐに切り替える。
 そして名簿を取り出すと、いくつかの名前にチェックを付けた。

「私の知り合いは三人。ひとりはレオン……放送で呼ばれたわ。
 二人目は一緒にゾンビから逃げた、シェリー・バーキン。あとはシェリーの父親のウィリアム。
 この三人よ。シェリーはまだ十二歳の女の子なのに、こんなことに巻き込むなんて……正気じゃないわ!」
 憤慨して語気が荒くなるクレア。
 その様子を冷ややかな目で見て、ソリダスは問うた。

「まさかそのシェリーを探しに行く、などと言わんだろうな?」
「ええ、そのつもりだけど?」
「今は戦力を集めて、主催者に対抗する集団を作り上げることが先決だ」
「……だったら?」
「無力な子供を探している余裕はない」
「そんな言い方……!」

 反駁するクレアの声は、どこか力が無い。
 それは内心で、残酷な現実を理解しているからだろう。
 六時間で十三人が死んだ。多くの参加者が殺し合いを肯定している証拠だ。
 このままのペースで進行していけば、一両日中には終了しかねないとすら思えるほど。
 現在位置のわからない参加者を捜索するのがどれほど困難かは、想像に難くない。
 ソリダスはラクーン市警の建物を見上げた。

「ここで武器を調達してから動くつもりだったが、時間が惜しい。
 まずは頭数からだ。移動しながら、主催者に対抗できるだけの人数を集める」
「だったらそのついでにシェリーを探したっていいでしょう?」

 食い下がるクレア。
 しかしソリダスは呆れたように溜息を吐いた。

「私の考えがじゅうぶんに伝わっていないようだな」

 それも無理はない。ソリダスとクレアが邂逅してからわずか数時間。
 当然ながら、お互いの思考や思想を把握する段階には至らない。
 そう理解しつつ、ソリダスは自らのスタンスを伝える。

「“無力な子供”は“戦力”にはならない」
「なっ……」

 絶句するクレア。
 ソリダスの言葉は、無力な存在を切り捨てる宣言だ。

「お前の話では、シェリーは銃も握ったことのない、か弱い子供なんだろう?」

 念を押すように問いかける。
 少年兵として武器を持ち、戦場を駆けまわる子供も存在する。
 それゆえに、子供だから無力という先入観が危険であるのは確かだ。
 しかし、子供をそれ相応の兵士になるまで育成するのには、時間がかかる。
 兵士や工作員として育てられ、また自らも少年兵を育て上げてきたソリダスは、その労苦が身に染みている。

「戦場を経験していない無力な子供がいたところで、邪魔になるだけだ。
 必要なのは戦力、情報、そして首輪を解析して外す能力。それは理解できるだろう?」
「……」

 沈黙を肯定と受け取って、ソリダスは続ける。

「あらためて言おうか?既に死者が何人も出ている。
 この状況で小娘を捜索して、かつ保護するとなれば、かなりのリスクだ。
 ここでシェリーのことは一度忘れて、今は戦力と情報の確保に動くべきだ」

「……それなら私は」

 クレアの口から言葉が紡がれようとした瞬間。

「――それは早計かもしれませんよ、キング」

 介入する第三者の声。
 加齢により枯れ始めたその声に、ソリダスは聞き覚えがあった。

「オセロットか」
「ご無事でなによりです」

 うやうやしく頭を下げる老人がそこにいた。
 いや、見た目は老人だが、その実は優秀な軍人だ。
 肩口まで伸ばした白髪、ダスターコートに拍車付きのブーツ。
 そして、左手にはSAA(シングル・アクション・アーミー)。
 その名はリボルバー・オセロット。ソリダスの同志がそこにいた。

522Discussion in R.P.D. ◆RTn9vPakQY:2021/09/03(金) 21:52:50 ID:R2RzSOHg0
「無事なものか。首輪で命を握られて、まともな武器すらもない」
「ならば、ここで会えたのは僥倖でしたね」

 不敵な笑みを浮かべるオセロット。発言の真意が分からず、ソリダスは目を眇めた。

「強力な兵器でも支給されたのか?」
「いえ。私が持つのは、使い方次第で強力な武器となり得るものです」
「……情報か」
「ええ。さっそく話を……と言いたいところですが」

 背後にいる黒人男性をちらと見るオセロット。
 いかにも力自慢という風貌の男だが、その顔色は優れない。

「まずはこの男の傷の処置をしておきたいのです。情報交換はその後に」
「なら、私が手当てをするわ。その間に話していたら?」
「そうか。手早く済ませることだ」
「ではキング、まずは名簿から――」

 ソリダスはオセロットの手腕を買っていた。
 有益な情報を与えてくれることに、わずかほどの疑いもなかった。





 無事な照明が少なく、薄暗いラクーン市警のホール。
 そこで、クレア・レッドフィールドはバレットの肩に包帯を巻いていた。
 バレットの肩の傷は、怪物に噛まれたものらしく、何らかの毒かウイルスに感染した危険性もあるという。
 そこでクレアは、怪物の特徴を聞き出し、それをラクーンシティに出現したゾンビに似た個体だと判断。
 まずは署内に点在していたブルーハーブを集め、すり潰して粉末状にすると、バレットに飲ませた。
 その流れで、署内に置かれていた包帯で簡単な処置を施していたのだ。

「嬢ちゃん、ずいぶん手際がいいな」
「傷の手当てなら何度もしたもの。主に自分のね」
「それもだが、ハーブの調合も手慣れたもんだ」

 クレアはソリダスが集めていた分のグリーンハーブやレッドハーブも調合していた。
 ラクーンシティでの事件の際に何度もした作業であるがゆえに、片手間でもできる。
 しかし、その事実を知らないバレットからすれば、異質に見えたかもしれない。

「あぁ……たまたま兄に教わってたの。
 また活きる日が来るとは思ってなかったけど」

 クレアは兄、クリス・レッドフィールドのことを思い出す。
 ラクーン市警の特殊部隊『S.T.A.R.S.』に所属しており、護身のためにと沢山の知識と技術を与えてくれた、頼れる存在だ。
 その過程で教わっていたハーブの調合方法が、今またこうして活きるとは。

「いい兄貴を持ったんだな」
「そうね」

 たとえ初対面の相手でも、兄を褒められて悪い気はしない。
 それだというのに、クレアは手当ての最中ずっと、複雑な面持ちを浮かべていた。
 その原因はバレットではなく、今もエントランスの近くで情報交換を続けている、二人の男性だ。
 耳をすませると、二人の会話が途切れ途切れに聞こえてくる。

「この名簿……奴ら……まで……」
「……ええ……かなり……でしょう……」
「だが……何を……タンカー……メタル……」
「もしかすると……かも……」

 お互いを“キング”と“オセロット”と呼び合う二人。
 どうやら知り合いのようだが、会話には親しげな雰囲気や気安い応酬は見られない。
 どちらかと言えば、主従関係やビジネスライクな関係性といったところだろうか。
 オセロットのもたらす情報が、ソリダスの行動方針を決定する可能性もある。
 そのため、クレアとしては会話内容が気になるのだった。

「うさんくせえ」
「え?」
「そう思ってるんだろ?わかるぜ。
 身のこなしも態度も、耄碌したジイさんじゃねえ。
 少なくとも戦闘に関しては玄人だ。これだけは保証するぜ」

 オセロットの実力を認める発言に、否定的な意見が飛び出すとばかり思っていたクレアは面食らう。
 バレットの言葉には、単なる予測や推理を越えた実感が込められていた。
「……オセロットは信頼できるの?」

 クレアは核心を突くために問う。
 これまでの会話で、クレアはバレットの直情径行を察していた。
 そしてどうやら、バレットたちが信頼し合って同行していたわけではないということも。

「信頼?これっぽっちもしてねえよ!」
「しっ!声が大きいわ」

 激昂するバレット。遠巻きのソリダスとオセロットが、会話を止めてこちらを見た。
 やはり直情的だと、クレアは内心で溜息をついた。

「そっちこそ、ソリダス……だったか?
 あいつは信頼するに足る人間なのかよ?」
「……ソリダスがマナを打倒しようとしているのは、間違いないわ」
 クレアは自分でも煮え切らない言い方だと感じた。
 案の定、バレットにも怪訝な顔をされる。

「なんだ?ヘンな言い方だな」
「弱者を切り捨てる、そのやり方が気にくわないだけ」

523Discussion in R.P.D. ◆RTn9vPakQY:2021/09/03(金) 21:54:15 ID:R2RzSOHg0
 クレアはつい先程のソリダスの態度を思い出して歯噛みした。
 ラクーンシティで出会い、守り抜いたシェリーが、今また危険な事態に巻き込まれている。
 まったくもって看過することのできない問題だ。

「あの白髪男となにかあったのか?」
「そうね……」

 クレアは滔々と話した。
 シェリーのことやソリダスとの会話、そしてソリダスと自分の行動方針の違い。
 全てを語り終えたとき、腕組みをしたバレットがにやりとした笑顔を向けてきた。

「……なるほどな。嬢ちゃんは信用できそうだ」
「嬢ちゃんなんて呼び方はやめて。私はクレアよ」
「ああ、悪かったな」

 笑顔のまま続けるバレット。
 痛みでわずかに顔をしかめながら、ゆっくりと告げた。

「もし俺がクレアと同じ立場なら、同じことをすると思うぜ」

 そう前置きして、バレットは娘のマリンのことを話し始めた。
 友から託された一人娘は、バレットにとって戦場を駆け抜ける原動力であったという。
 その愛情の込められた話しぶりから、クレアはバレットのことを信頼してもいいと感じた。

「これからどうしようかしら……」
「手当ては終わったか?」

 いつの間にか近くにいたソリダスが、クレアへと問いかける。

「ええ。傷自体は深くないわ。ハーブがどれだけ効くかはわからないけど」
「そうか。ひとまず様子見だな」

 口ではそう言いながら、バレットに視線を向けようともしないソリダス。
 まるで心配していないかのような対応に、クレアは不信感を強めた。

「それはそうとクレア、今は何年だ?」
「え?1998年でしょう?」
「……なるほど」

 わずかに息を呑むような表情を見せたソリダス。
 殺し合いと関係なさそうな質問に困惑していると、続いてソリダスの背後にいたオセロットがバレットに問いかけた。

「バレット、君にとって今は“西暦”何年だ?」
「セイレキ?なんだそれ」
「そうか……」

 腕組みをして考え込むソリダス。その眉間には深いシワが刻まれている。
 まるで難しい議題について考える、大学教授のようだ。

「どうでしょうか、キング」
「ふむ……信じるしかあるまい」

 傍らのオセロットに促されて、軽い溜息と同時に呟くソリダス。
 その口から出て来た単語に、クレアは自身の耳を疑った。

「タイムマシンの存在を」





 ソファに腰掛けたバレット・ウォーレスは、ゆっくりと左肩を回した。
 調合されたハーブのおかげか、痛みはずいぶん和らいできたが、まだ違和感が残る。
 ふとしたときにズキリと響く痛みに集中が切れそうになりながら、ソリダスの話に耳を傾ける。

「情報を整理するとこうだ。
 この殺し合いに参加させられている人間は、違う時代から集められている。
 クレアは今が1998年だと言ったが、私とオセロットにとって今は2009年だ」
「2009年!?」
「それだけではない。バレットは西暦が通じなかった。
 あり得るのかわからないが、西暦が存在しない時代から来たと考えるほかない」
「なんの話をしてるかサッパリだ」

 聞きなれない単語に疑問を投げたバレットは、ソリダスに睨まれて口を噤んだ。
 余計な時間を取らせるな、と言わんばかりの眼光だ。

「……つまり、今この場にいる数名だけでも、過ごしている時間にズレがある。
 全員が本当のことを話しているとすると、この矛盾を解消する答えはひとつしかない。
 殺し合いの主催者は、いわゆるタイムマシンのような、時間を移動する手段を持っている」
「デロリアンは実在した、ってわけね」
「にわかには信じがたいが、そういうことだ」

 デロリアンが何者か分からないが、質問したところで再び睨まれるだけだと察して問うことはやめた。

524Discussion in R.P.D. ◆RTn9vPakQY:2021/09/03(金) 21:55:17 ID:R2RzSOHg0
「納得がいっていないようだな、バレット」
「……当然だろ。タイムマシンだかなんだか知らねえけどよ」
「例えば私のいた時代では、タイムマシンは実現していない。
 お前はどうだ?バレット・ウォーレス。過去や未来に行き来できる手段に、心当たりはあるか?」

 ソリダスからいきなり意見を求められて、バレットは面食らった。
 これまで冒険をしてきて、不思議な出来事にいくつも出くわしたが、時間を移動するとなるとかなり壮大だ。
 大都市ミッドガルの巨大企業である神羅カンパニーであれば、そうした実験をしていても不思議ではないが、あいにくと噂のひとつも聞いたことがない。
 実際に潜入したときも、そのような実験や資料は目にしなかったはずだ。

「……いや、ピンと来ねえな」
「そうか。だがこう尋ねたらどうだろうな。
 参加者の名簿に、死んだはずの知り合いがいないか?」
「…………まさか」

 バレットはしばらく考え込み、やがて気づいた。
 時間を移動するタイムマシンは、過去や未来を行き来できる。
 クレアにとってオセロットやソリダスは未来の人間だ。その反対も然り。
 主催者たちがタイムマシンを利用して、参加者を誘拐しているのだとすれば。

「死んだ奴が生き返ったんじゃなくて……」
「エアリス・ゲインズブールやセフィロスは、お前にとっての過去から集められた、ということだ」
「マジかよ……」

 バレットは口をへの字にした。
 死者が生き返った仮説よりは、信憑性があるように思えてしまうからだ。
 それと同時に、さきほどのオセロットへの怒りがふつふつと湧いてきた。

「テメエ、わかってたんなら言いやがれ!もったいぶりやがってよ!」
「君は今の話を私からされて、素直に信じたか?」
「ぐ……」

 バレットは立ち上がりオセロットに詰め寄るも、問いに即答できずに黙り込む。
 そのまま口を開かず、再びソファへと腰を下ろした。

「どうやら納得したようだな。……では続きだ。
 この殺し合いを主催している連中は、一枚岩ではない」
「どういうこと?」
「まず、この殺し合いを開催した主催者には、明確な目的がある。
 単なる見世物がしたいだけなら、適当な人間を金で釣って殺し合わせればいい。
 だがこの殺し合いでは、わざわざ年齢も国籍も異なる多くの人間を“誘拐”している。
 裏返せば、大きなリスクを負ってまでも、実現したい明確な目的があると考えるのが妥当だろう」
「たしかに、リスクが高すぎるわな」

 バレットはソリダスの意見に得心した。
 バレットとて裕福な暮らしをしているわけではない。生活に困窮して、金のために動く人間がいくらでもいるのは理解している。
 そうした人間を集めて、金銭を報酬に殺し合わせることは、難しくないように思える。
 しかし、そうではない。バレットは望んでここに来たつもりは毛頭ないのだから。
 それは仲間たちも、クレアも同様だろう。

「それがどうして、一枚岩じゃないことになるの?」
「まあ待て、結論を急ぐな。
 ……参加者が明確な目的のもと、異なる時代から集められているとする。
 そうだとすれば、主催者の連中も異なる時代から集まったと考えた方が自然だ。
 これには推測も含まれるが、根拠はある。最初に集められたとき、主催者同士で意思疎通ができていない素振りを見せていたのがそれだ」
「そういえばそうね。勝手なことするなとかなんとか……」

 バレットは、少女が異形の男に諫められていたことを思い出した。
 諫め方も冗談めかしたそれではなく、冷酷な声であったのを覚えている。

「この殺し合いが異常に大掛かりな計画なのは間違いない。
 それを計画した主催者の中で、意思疎通ができていないなんてことがありえるか?」
「いろんな時代から集められたから、一枚岩になっていないんだろうってことね」
「そうだ。おそらくは目的も微妙に異なるのだろう。
 先程の放送からも、マナが殺し合いを楽しむ異常者であるのは間違いない。
 しかし、動機がそれだけなら、やはり大勢の人間を誘拐するリスクを選ぶ必要はない」
「じゃあ他の動機って?」
「そこまでは不明だ。情報が足りない。
 せめてウルノーガと呼ばれていたあの男を知る者がいれば、情報も手に入るだろうが」
「結局のところは、情報が足りていないのが現状ですな」

 これまで沈黙していたオセロットが、突如として介入する。
 その言葉に頷いてから、仰々しく腕を振り上げて語り出すソリダス。

「さて、ここからが本題だ。
 われわれは主催者に対抗するための集団を作り上げる。
 改めて告げるが、必要なのは戦力、情報、そして首輪を解析して外す能力。
 そして先程までは“無力な子供”は“戦力”にならないと考えていたが、認識を改める必要がある」

 そこで一呼吸おいて、クレアを一瞥するソリダス。

525Discussion in R.P.D. ◆RTn9vPakQY:2021/09/03(金) 21:58:51 ID:R2RzSOHg0
「この殺し合いの参加者が主催者の目的を叶えるために集められたのだとしよう。
 そうだとするならば、参加者ひとりひとりに、集められた理由があると考えるべきだ」
「つまり?」
「すべての参加者が重要な“鍵”になり得るということだ」
「“鍵”ねえ……」

 バレットは考える。ソリダスの例えは抽象的で不明瞭だ。
 しかし、言わんとすることは理解できた。にやりと笑みを向ける。

「ようするに“無力な子供”も見捨てずに助けるってことだろ?」

 その態度を見て、ソリダスは肩をすくめた。

「あくまで合理的な思考の下にな」
「それならうだうだ議論するより、サッサと動こうぜ」

 一言余計だと鼻を鳴らして、バレットはソファから立ち上がる。
 クラウド、ティファ、そしてエアリス。
 仲間たちはまだ生きている。彼らと合流できれば、心強いことこの上ない。

「俺の仲間が行きそうな場所なら心当たりがある。
 D-3エリアのカームの街だ。橋を渡るのはリスクだが、誰かいるはずだ」

 仲間の誰かがそこにいる。バレットは言葉とは裏腹に、強い確信を抱いていた。
 最初は橋を渡る危険性を考えて躊躇していたが、名簿を見て行く理由が強まったのだ。
 どうしてもそこに行きたいと、語気も荒めに提案をしていると、ソリダスが溜息をついた。

「話に聞いたとおりだな、バレット」
「あん?」
「下手な鉄砲も数撃てば、とは言うが……むしろ百発百中の魔弾であって欲しいものだ」
「……なにが言いてえ」

 バレットはソリダスを睨みつけたが、その視線は自然に受け流される。
 代わりに返答したのはオセロットだ。

「キングは下手を打つなと言っているんだ。
 バレット、キミはいささか感情的に動くフシがあるからな」
「まあ、わかる気がするわ」
「んなっ……!」

 クレアからも短絡的と言われ、バレットは動揺で言葉を詰まらせる。

「まずはその腕を取り付けることだな。
 タンカーには行けなかったが、ここでも簡単な工具はあるかもしれないぞ」
「簡単に言ってくれるぜ……」

 オセロットの無責任だが的を射た発言に、バレットは舌打ちしたい気持ちになった。
 アリオーシュとの戦闘でも、両腕が使えていればより有利に立ち回れたはずだ。
 とはいえ、ここから工具を探して取り付けるには、時間がかかりすぎる。
 考えあぐねるバレットに、思わぬ援護が来た。

「それなら、私に任せてくれないかしら。
 正直なことを言うと、最初に見たときから気になっていたのよね」

 クレアがデスフィンガーをまじまじと見ていたのだ。
 続けてバレットの右腕をじっくりと観察する。その眼はどこか輝いていた。

「任せるって、どういうことだ?」
「こう見えても、バイクいじりが趣味なの」

 同世代の女子よりは機械に詳しい、と語るクレア。
 十数分後、クレアの手つきに怯えながらも、どうにかデスフィンガーを装着できたバレットは、安堵していた。
 流石にピッタリではなかったが、動かす内に慣れる程度の違和感しかない。

「任せてよかったでしょう?」
「……まあな」

 得意気なクレアと対照的に、バレットはどこか生返事だ。
 義手の接続が上手くいくかどうか、最後まで神経を張り詰めていた反動だった。

「話が逸れたな。続きだ」

 冷静というよりむしろ冷酷なソリダスの声に、バレットは現実に引き戻された。
 軽く右手を動かす。無骨な見た目をしたデスフィンガーから、わずかに軋む音がした。




526Discussion in R.P.D. ◆RTn9vPakQY:2021/09/03(金) 22:00:50 ID:R2RzSOHg0
 リボルバー・オセロット。
 この殺し合いの破壊を、秘密裏にエイダ・ウォンから依頼されたジョーカー。
 簡単な任務ではないと理解していたが、それにしても難易度が高いと、六時間以上経過して痛感していた。
 まずは対主催者の集団を作り上げるのが順当だと考えていたが、死者が出るペースが予想以上に高いのが現状だ。わずか六時間で十三人。仮に同様のペースで死者が増えるとすれば、正午までに参加者は六割近くにまで減少する。
 殺し合いを円滑に進めるための『ジョーカー』が存在することは知らされていたが、充分すぎるほど機能しているようだ。
 それでも、ラクーン市警で既知の参加者であるソリダス・スネークと合流できたのは僥倖であった。
 ソリダスはかりそめとはいえ合衆国大統領を務めた男であり、ビッグ・シェルを武力制圧する際には、ロシアの私兵部隊と対テロ演習仮想敵部隊デッドセルとの混成部隊『サンズ・オブ・リバティ』をまとめ上げていた。
 主催者を打倒するための集団、その先頭に立つには適任だ。

「参加者の情報は覚えたな?」
「ええ、なんとかね」
「とにかくセフィロスには気をつけろ!」

 三人が話している情報とは、もともとの知り合いについての情報のみだ。
 オセロットがエイダから与えられた参加者の情報は、「名前と元の世界での素性」という限定的なもの。
 アリオーシュに『みやぶる』のマテリアを使用したと偽装したときも、名前と外見から判断できる内容だけを話していた。
 オセロットは、バレットやソリダスには直接スパイであることを伝えたが、全ての参加者の情報までは与えていない。
 その理由の一つは、首輪のジャミング装置の範囲が狭いためだ。
 ソリダスとオセロットが別れたあとで、不自然な発言が盗聴された場合、スパイの存在を主催者に疑われる危険性がある。

「やはり首輪は盗聴されている可能性が高い。
 主催者を打倒する宣言くらいでは、即首輪を爆破とはならなかったが……
 反抗の具体的な計画や核心的な情報については、筆談をした方がいいだろうな」

 そしてもう一つは、参加者がこの舞台において、どのように動くかまでは分からないためだ。
 不確定な情報は思い込みを誘発する。そして、思い込みはミスの原因となる。
 この舞台においてミスは命取りだ。

「そして次は目的地を決める」

 すっかり場をコントロールしているソリダス。
 そのカリスマ性は、遺伝子に刻み込まれたものなのだろう。
 まるで戦場の指揮官のように、広げた地図に手を乗せて今後の行動を指示する。

「探索のため二方向に分かれる。北西の島へ向かう組と、東へ向かう組だ。
 北西の島へ向かう組はバレットとオセロット。“カームの町”を中心に探索をしてもらおう」
「またコイツとかよ……」

 バレットの愚痴を、オセロットは聞き流した。
 もとよりカームの町を目指そうとしていたバレットからは、もちろん反論は出ない。

「そして、私とクレアは東側へ向かう。
 最終的な目標は“八十神高等学校”。道中は二手に分かれるぞ。
 私はこの“偽装タンカー”に立ち寄って確認しておきたいことがある」

 ソリダスの目的はメタルギアRAYに違いない。
 その推論は妥当だ。事実、オセロットもその考えが頭をよぎった。
 しかし、あまりにも強力な兵器を、主催者が簡単に手渡すとは思えなかったため、その発想は捨て置いた。
 ソリダスも期待半分といったところだろうが、確認をしておくのは損ではない。

「クレアは地図の南端を移動して、この“セレナ”と“ホテル”を見て回れ」
「それはいいけど……かなり時間がかかるわよ?」
「安心しろ、移動手段は見つけておいた」

 ソリダスは懐から取り出したものを、クレアに向けて放り投げた。
 受け止めたクレアの顔は驚きに染まる。

「これって……私のバイクの鍵!」
「警察署の裏手に置いてある。動作には問題ない」
「……ありがとう。助かるわ」

 反応を見るに、クレアはソリダスのことを信用しきってはいないようだ。
 とはいえ、指示に異を唱えるほどの不信感でもなく、微妙なところか。

「欲を言えば、連絡を取り合うための無線機が欲しいところだな。
 それも含めて、探索及び参加者との接触、そして情報の共有だ。
 人員は多いに越したことはない。できる限り戦力を集めるように」

 バレットとクレアの二人も、無言で頷いた。
 強権的な態度のソリダスだが、その提案は妥当なものだ。
 目的を同じくする以上は、二人が裏切るメリットもない。

527Discussion in R.P.D. ◆RTn9vPakQY:2021/09/03(金) 22:01:56 ID:R2RzSOHg0
「いいな、我々は主催者を打倒する!
 我々は“サンズ・オブ・リバティ(自由の息子達)”。
 このふざけた殺し合いを破壊し、自由を手に入れるのだ!」

 熱のこもったソリダスの号令を最後に、エントランスは空になる。
 オセロットは表面上で冷静を装いながら、全く安心していなかった。
 主催者に対抗するための集団を作り上げるまでには、かなりの時間がかかる。
 死者が出ているペースを考えると、あまり悠長ではいられまい。
 考えれば考えるほどに、達成不可能に思えるミッション。
 あの伝説の男ならば、どう対処するのだろうか。
 オセロットは銃把の感触を確かめた。


【F-3/ラクーン市警/一日目 午前】

【バレット・ウォーレス@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:左肩にダメージ(処置済)、T-ウイルス感染(?)
[装備]:デスフィンガー@クロノ・トリガー、神羅安式防具@FF7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間の捜索と、状況の打破。
1.北西の島へ向かい、対主催の仲間を集める。
2.リボルバー・オセロット、ソリダス・スネークを警戒。

※ED後からの参戦です。
※ブルーハーブの粉末を飲みました。T-ウイルスの発症がどうなるかは後続にお任せします。


【リボルバー・オセロット@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:健康
[装備]:ピースメーカー@FF7(装填数×2)、ハンドガンの弾×22@BIOHAZARD 2、替えのマガジン2つ@METAL GEAR SOLID 2
[道具]:基本支給品、マテリア(あやつる)@FF7
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを破壊する。
1. 北西の島へ向かい、対主催の仲間を集める。
2.時間的な余裕はあまりない。別の手段も考えておくべきか。

※リキッド・スネークの右腕による洗脳なのか、オセロットの完全な擬態なのかは不明ですが、精神面は必ずしも安定していなさそうです。
※主催者側(エイダ・ウォン)との繋がりがあり、他の世界の情報(参加者の外見・名前・元の世界での素性)です。


【クレア・レッドフィールド@BIOHAZARD 2】
[状態]:疲労
[装備]:サバイバルナイフ@現実、クレアのバイク@BIOHAZARD2
[道具]:基本支給品、不明支給品(確認済み 0〜1個)、パープルオーブ@ドラゴンクエストXI 失われし時を求めて、薬包紙(グリーンハーブ三つぶん)@BIOHAZARD 2
[思考・状況]
基本行動方針:対主催の集団を作り上げる。
1.“八十神高等学校”へと向かう。道中で“ホテル”と“セレナ”にも寄る。
2.シェリー・バーキンを探して保護する。
3.首輪を外す。

※エンディング後からの参戦です。


【ソリダス・スネーク@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:健康
[装備]:バタフライエッジ@FF7
[道具]:基本支給品、壊れたステルススーツ@METAL GEAR SOLID 2、薬包紙(グリーンハーブ三つぶん)@BIOHAZARD 2
[思考・状況] 基本行動方針:バトルロワイアルの打破と主催の打倒。
1.主催者に対抗するための集団“サンズ・オブ・リバティ”を作り上げる。
2.“八十神高等学校”へと向かう。道中で“偽装タンカー”にも寄る。
3.殺し合いに乗った者は殺す。
4.首輪を外す。
5.ソリッド・スネークよりも優れた兵士であることを証明する。

※主催者を愛国者達の配下だと思っています。
※ビッグ・シェル制圧して声明を出した後からの参戦です。
※地図上の固有名詞らしき施設は、参加者の誰かと関係があると考えています。

【共通備考】
※ソリダス、クレア、バレット、オセロットの四人で、参加者の情報を共有しました。
※支給品の譲渡を行いました。
バタフライエッジ:バレット→ソリダス、弾薬:クレア・ソリダス→オセロット、サバイバルナイフ:ソリダス→クレア
※主催者はタイムマシンのような時間を移動する手段を持っており、また主催者たちが異なる時代から参加者を集めたのには、何らかの目的や理由があると考えています。

【クレアのバイク@BIOHAZARD 2】
現地設置品。ラクーン市警内に設置されていた。
クレア・レッドフィールドの私物である大型バイク。車体は赤。
ガソリン満タン。リメイク版では「ハーレー・ダビッドソン」のロゴが書かれている。

【薬包紙(グリーンハーブ三つぶん)@BIOHAZARD 2】
現地調達品。
クレアがグリーンハーブを三つ調合して作成した回復薬。
ちなみに、ラクーンシティの住民のほとんどが、ハーブを調合できるらしい。

528 ◆RTn9vPakQY:2021/09/03(金) 22:07:10 ID:R2RzSOHg0
投下終了です。誤字脱字・矛盾点等ありましたら、ご指摘お願いいたします。
予約期限の超過と連絡の不徹底について、重ねてお詫び申し上げます。

529 ◆vV5.jnbCYw:2021/09/03(金) 22:56:41 ID:5kFmKSqs0
投下お疲れ様です。
頭脳面で立つオセロットとソリダス、短絡的なバレットに、逸般人代表のクレアと、
それぞれのキャラの違いがはっきりしていたのが見事でした。
西ではカイム、北ではセフィロス、東ではイウヴァルト+ドラゴンがいる中、新たに結成されたドリームチームには期待が持てますね。

530 ◆vV5.jnbCYw:2021/09/07(火) 16:43:09 ID:das02p0w0
投下します

531エレクトリック・オア・トリート ◆vV5.jnbCYw:2021/09/07(火) 16:43:42 ID:das02p0w0

「罠があるか確認してください。」
喫茶店が無人の場所だと分かって、最初に発したゲーチスのセリフはそれだった。

「どういうこと?」
発言の意図が分からなかったエアリスが尋ねる。
今更言うまでもないが、未知の場所において、罠の存在に注意するのは重要なことだ。
それが命のやり取りをする場なら猶更である。
だが、どうしてこのタイミングでそんな注意喚起を始めるのかは分からなかった。


「分からないのですか?あの獣人が罠を仕掛けて、ワタクシ達をこの場所に誘導した可能性もあるのですよ。
ここに入った時の鈴の様な音はそのトリガーかもしれません。」

声を殺してエアリスに注意を喚起するゲーチス。
ゲーチスが言っていたことは、整合性が取れていると言えば取れている。
殺し合いに乗った者を軟禁しているというのは真っ赤な嘘で、代わりにその場所に罠を張り、優しい人物を嵌めようとするということだ。

「そんな感じには思えないけどなあ……。」
エアリスはソニックを悪だとは思っていない。
千早と言う少女が隙を突いて逃げ出したのだと思う。
だが、ゲーチスの考えが正しい、あるいは第三者の襲撃の可能性を考慮し、弓矢を構える。
その予想は杞憂に終わり、喫茶店の奥に入っても何も変化はなかった。
だが、喫茶店内をくまなく探してみると、1つ異変が見つかった。


フライパン、鍋、コーヒーメーカー、まな板、冷蔵庫、それにお洒落な食器。
喫茶店の台所を構成する道具のほとんどがあったが、肝心なものが1つだけ無くなっていた。


「きっとここにあったはずの包丁を持ち出して逃げたのよ。」
包丁が立てかけてあるはずの場所を指さす、
しかし、殺傷力がある武器が持ち出されたとなると、是が非でも逃げた千早という女性を探さねばならなくなる。
ナイフを持ったせいで傷付けられる者が現れる可能性は言わずもがな、千早が素人だという前提を踏まえると使い方を誤って怪我をしてしまう可能性だって十分ある。

護身用の武器を持っていないと、安心して眠るのも難しいミッドガルのスラム出身の彼女だからこそ、悪いケースをいくつも思い付く。


「どこへ行くつもりですか?」
早速喫茶店から出ようとするエアリスを、ゲーチスが呼び止める。

「どこって……とにかく逃げた千早を追いかけないといけないでしょ!」
「その必要がありだと、本気で思っているのですか?」
「そうに決まっているでしょ?こうしている間にも千早って子が誰かを襲ったりしたらどうなるか分かってるの?」

またもゲーチスの発言の意図が分からぬまま、エアリスは行方不明の少女を探すことを提案する。

「ワタクシたちは『喫茶店にいる千早を』保護して欲しいと言われました。従ってそれ以外の場所にいても、知ったことではないということです。」
「そんなの暴論よ!」

ゲーチスは自分達の管轄外の問題には、関わる必要がないと、ソニックの言葉を曲解する。
勿論エアリスは、そんな主張を良しとするわけがなかった。
ソニックが戻ってきた時、「既に千早はいなかった」とでも言えば仕方が無かったことになるかもしれないが、頼まれたことを放棄するのは彼女の道理に反していた。

「暴論?ならばこれからどこへ居るとも分からない少女をどう探せと?」
「場所が分からないからこそ、探さないといけないんじゃないの?」

532エレクトリック・オア・トリート ◆vV5.jnbCYw:2021/09/07(火) 16:44:04 ID:das02p0w0

なおも根負けせずに追いかけなければと言い続けるエアリスに対して、ゲーチスは突然諦めたような表情を浮かべた。

「……わかりました。ですが、少々お待ちを。」
懐からモンスターボールを取り出す。
「それは……」
紅白のボールは、エアリスが初めて見たものでは無かった。
この殺し合いが始まった直後、ゲーチスがバイバニラというポケモンが入ったボールを見ていた。
しかし、それはトウヤに奪われてしまったため、どうして持っているのかと疑問に思った。

「あの獣人から受け取った物です。ナイフを持った相手である以上、使える道具は1つでも多い方が良いでしょう。」
相も変わらずポケモンを道具扱いする態度は気に食わなかったが、千早を探すのに協力してくれる意思を見せてくれたことで安堵した。


「!?」

眩しい光を放って、現れたのは、奇怪な姿をした生き物だった。
以前エアリスが見た、バイバニラは辛うじて生き物だと解釈できる姿だったが、このポケモンは極めて生き物だと判断するのが難しい姿をしていた。


何しろ、大きな歯車とその横に2つの小さな歯車が連なったような姿をしているのだから。
注意深く観察してみれば、両の目らしき部位はある。
だがそれを考慮しても、魔晄の力で変貌したモンスターと言うより、神羅が作った機械兵に近い姿をしていた。

そして歯車の無機質な音が静かに響くも、バイバニラの時の様に鳴き声を発さず、平静を保っていた。
それは元のトレーナーの影響を受けたものだったが、2人は知る由もない。

「このモンスター、ゲーチスは知ってるの?」
「知っているも何も、ギギギアルはワタクシの世界のポケモンです。」

ゲーチスはモンスターボールに付いていた説明を見ながら答える。


「頼りになれるポケモンもいたことだし、探しに行くわよ。」
「申し訳ありません。もう1つ用事がありまして。」
エアリスが呼びかけ、喫茶店を出ようとすると、またしてもゲーチスが呼び止めた。

533エレクトリック・オア・トリート ◆vV5.jnbCYw:2021/09/07(火) 16:44:41 ID:das02p0w0

「いい加減にしてよ……」
中々喫茶店から出ようとしないゲーチスに辟易しながら振り向く。
そんな彼女に対し、ゲーチスは静かに呟いた。


「じゅうまんボルト」


エアリスの失敗は3つ。
まずは前方にある危険のことを気に掛け過ぎて、後方からの危険に対する警戒が弱まっていたこと。
彼女はゲーチスを警戒していなかったわけではない。
しかし、今のなお行方不明のカイムに、同じく行方不明の千早と、気にしなければならない人物が増えると、相対的に1人の警戒心は弱まる。
第二に、ギギギアルという、エアリスにとっては未知の、ゲーチスにとってはどこまでも詳しく知っている存在が介入していたということ。


「くっ……!」
後ろから響いていた機械音が激しくなったと思いきや、完全に不意打ちと言う形で電気攻撃を受け、蹲るエアリスの前で、ゲーチスが仁王立ちしている。

「やはりアナタとは共に行動は出来ない。そんなに千早とかいう女を探したいなら、自分1人で探しなさい。」


少なくともギギギアルだけでも無力化させようとするも、思うように体が動かない。

第三に、彼女の世界の「麻痺」とポケモンのもたらす「麻痺」の違いだ。
彼女の世界のまほうマテリアや召喚マテリアから繰り出される雷を受けても、ダメージこそはあるが、身体がまひすることは無い。
更に言うと、彼女の世界で麻痺の力を持つモンスターも、電気ではなく、「にらみ」を使う魔物ぐらいだ。
少なくとも、神羅兵の機械が麻痺攻撃をしてくることは無かった。


そのままゲーチスはエアリスが上手く動けないまま、彼女が持っていた弓に手を伸ばす。
興味があるのは豪奢なデザインが印象的な弓ではない。
絢爛な装飾の中でも、ヒスイ色に美しく輝くマテリアだ。


それをすぐさま自分のスコップに付け替える。
「スリプル!」
放送前、エアリスがカイムに対して行ったことを、見様見真似でやった。


「ゲーチ……ス………。」
抵抗の意思を見せようとするが、むなしく眠りに落ちてしまった。

「ハハハ……そのままそこでじっとしていれば良いです……痛………。」
同時にゲーチスにも虚脱感と頭痛が襲う。
元来魔力を持ち合わせていない彼には、マテリアは代償として体力を著しく奪った。
とは言え、歩くのに差し支えるほどではない。

534エレクトリック・オア・トリート ◆vV5.jnbCYw:2021/09/07(火) 16:45:45 ID:das02p0w0

そのままエアリスを放っておいて、喫茶店から出て行った。
とどめを刺しておけば、自分が危険人物であることを吹聴してくる人物は1人減る。
だが、ゲーチスが恐れたのは、追い詰めた時による手痛い反撃だ。

ポケモンには、追い詰められると本来とは比べ物にならないほどの力を出す者は少なくない。
人もまた同じことが言える。
現にエアリスは放送前にカイムから攻撃を受けたのち、リミット技で動きを止めた所を目の当たりにしたのだから猶更それを恐れた。
加えて慣れぬ魔法を使い、体調は良いとは言えないので、中途半端な攻撃で反撃を許してしまう可能性がある。


だからギギギアルを連れてその場を後にした。
出る時の喫茶店特有のカランコロンという音を気にせず、かつて手ごまとしていた人間が持っていたポケモンと共に、目的地のNの城へと向かう。
エアリスが追いかけてこないことが分かると、虚脱感と頭痛を解消するために、支給品のスタミナンXを半分ほど呷った。
身体がどこか軽くなったような気がして、頭痛やカイムから受けた痛みも消えて行った。

一応、この辺りにナイフを持った千早や、大剣を持った男がいる可能性を警戒し、辺りを伺いながら北へ向かう。

丁度その時、北東の方角から、先刻目撃した火球が飛んでいた。
あの辺りに男はいるのだと思い、その場所に近づくことなく足を速めた。



【C-2/山岳地帯/一日目 黎明】



【ゲーチス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康 高揚感 
[装備]:雪歩のスコップ@THE IDOLM@STER+マテリア ふういん@FF7、モンスターボール(ギギギアル@ポケットモンスターBW)
[道具]:基本支給品、スタミナンX(半分消費)@龍が如く 極
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、野望を実現させる。
1.早くNの城へ行きたい
2.カイムのことはソニックに任せてみる。同士討ちでもすればいい。
3.ギギギアルを上手く利用する
※本編終了後からの参戦です。
※エアリスからFF7の世界の情報を聞きましたが、信じていません。
※ソニックのことをポケモンだと考えています。

※ゲーチスのみならず、魔力を持たない者(例:龍が如くやアイドルマスター出典キャラ)が魔法マテリアを使うと、虚脱感や頭痛に襲われます。
それでも回復なしで過剰に使うと、原作の魔晄中毒の様な状態になります。


【モンスター状態表】
【ギギギアル@ポケットモンスターBW】
[状態]:健康
[特性]:プラス
[持ち物]:なし
[わざ]:10まんボルト・ラスターカノン・はかいこうせん・きんぞくおん
[思考・状況]
基本行動方針
1.ゲーチスに仕える


【D-2/市街地にある喫茶店/一日目 黎明】

【エアリス・ゲインズブール@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:ダメージ小、MP消費(小) 睡眠
[装備]:王家の弓@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド、木の矢(残り二十本)@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:なし(装備品 除く) 
[思考・状況]
基本行動方針:仲間(クラウド、バレット、ティファ、ザックス)を探し、脱出の糸口を見つける。
0.Zzz……
1.カイムのことはソニックに任せてみる。
2.ゲーチスを追いかける
3.カームの街で、人探し、および黒マテリアの捜索をしたい。
4.セフィロス、および会場にあるかもしれない黒マテリアに警戒



【支給品紹介】

【ギギギアル@ポケットモンスター ブラックホワイト】
ソニックに支給されたポケモン。元の持ち主はN。
特性はプラスで、覚えているわざは10まんボルト・ラスターカノン・はかいこうせん・きんぞくおん。

535エレクトリック・オア・トリート ◆vV5.jnbCYw:2021/09/07(火) 16:46:20 ID:das02p0w0
投下終了です

536エレクトリック・オア・トリート ◆vV5.jnbCYw:2021/09/07(火) 19:12:07 ID:das02p0w0
すいません。時間帯は黎明ではなく、午前です。

537 ◆vV5.jnbCYw:2021/11/03(水) 21:02:39 ID:k.2.mQ3.0
セーニャ、9S予約します。

538 ◆vV5.jnbCYw:2021/11/07(日) 19:17:12 ID:Xlvvmxlo0
投下します。

539崩壊の序曲 ◆vV5.jnbCYw:2021/11/07(日) 19:18:18 ID:Xlvvmxlo0
    “Wenn ein Löwe sprechen könnte, wir könnten ihn nicht verstehen.”
もしライオンがしゃべることができたとしても、 私たちは彼らが話していることを理解できないだろう。

ウィトゲンシュタイン

   

「ちょっと、起きてくださいよ!」
周りにいた人間達が次々夢の世界を楽しんでいる中、9Sは1人だけアンドロイドという理由で現実世界に取り残されていた。
しかし、叫んでも揺り起こしても3人は起きる様子を見せない。

「美希!起きてください!!さっき寝たばっかりじゃないですか!!」
「あふぅ……。」
「カミュさん!起きてください!!」
「ぐう……」
「ハンターさん!起きてください!!」
「むにゃ……。」



どの世界でも言えることだが、睡眠というのは大まかに分けて2種類ある。
一つは、生理的欲求の一つである、睡眠欲に従った睡眠。
もう一つは、個人的な欲求とは関係なく、睡眠薬や睡眠魔法など、外的要因から来る睡眠。
ムンナの力による3人の睡眠は勿論後者に該当し、中々目覚めるのが難しいのもまた後者であった。
星井美希は仲間を失ったという精神的な疲労、ハンターとカミュはウィリアムとの戦いという肉体的な疲弊があり、簡単に目覚めることは無かった。
3人の人間の寝顔を見て、どこか無いはずの胸の内が暖かくなるような気分になる。
人の気持ちで例えるなら「愛くるしい」という表現が適切だろう。
人間を守ることが義務のアンドロイドだった9Sだったが、この世界に来るまでは本物の人間に出会うことは無かった。
少なくとも記憶にあるうちでは、人間と触れ合ったことは無かった。


人間はアンドロイドと異なる点は多々ある。
その中の一つは、精神や肉体の回復のために睡眠をとることだ。
1人で寝ることもあるが、より深いやすらぎを得るために時には「家族」や「仲間」のような、集団で眠ることもあるという。
それならば9Sは知っている。
電子頭脳のデータとして知っているだけで、眠りにつく人間どころか、人間そのものをこの殺し合いに参加するまでは見てなかった。
だが、知っているだけの事柄を、実際に見てみると、どこか説明しようのない、それでも満たされた感覚を覚えた。
共に寝て、死者が現れれば埋葬して、歌や踊りのような必ずしも生命の維持には必要ないことに全力を尽くし、腹が減れば物を食べる。
何より、別の人とのつながりをこの上なく愛し、離別を必要以上に悲しむ。
これが自分が守ることになっていた人間なのだと、改めて実感した。
まるでがらんどうだった入れ物に、清く温かい湯が入ってくるような感覚だった。
彼、彼女らをどうにかして起こすのが良いはずだが、それを良しとしなかった。


――――これ、ナインズくんに似合うと思うの!

そう言って美希から渡された、ヘッドマウントディスプレイの形をしたアクセサリーを顔に付けてみる。
彼女の言う「似合う」姿とやらが、自分にどういった印象を抱かせるのか分からなかったが、自分の姿がどう変わったのか気になった。
(そうそう、鏡が無かったですね……。)
既に確認していた、自身の支給品の鏡を覗き込む。
そこに映った姿はーーーーー。


そこには、9Sが知っていて、9Sが知らない姿の自分が映っていた。
鏡が実際に移したのは、今の姿の、美希から承ったアクセサリーを付けた9Sだ。
決して本当の姿を見せつける鏡などではない。
今付けているアクセサリーとは似て非なるゴーグルを付けて、戦っている瞬間を思い出した。


「っ!!!」
脳裏からその姿は消える。
それ以上、ノイズが走るばかりで、記憶が戻ることは無かった。
顔から不快な思いをさせるH.M.Dをむしり取り、投げつけようとする。

(仕方ないですね。)
だが、振りかぶった所でやめた。
この装飾品は、星井美希という守りたい人間が渡してくれた物だ。
それを捨てるどころか、壊したくはない。

(鏡を見なければ良いだけじゃないですか。)
鏡を支給品袋に入れる。


「さて、僕はこれからどうしましょうか。」
少し考えた末に、9Sは1人で美術館の外へ出た。
彼女らを見捨てた訳ではなく、見回りだ。
星井美希といた、美術館の中こそ平和そのものだったが、外はどうなっているか分からない。
そうでもなければ、6時間の間で人が10人以上死ぬことは無い。
実際に9Sはマールディアという死人を見ている。

540崩壊の序曲 ◆vV5.jnbCYw:2021/11/07(日) 19:18:43 ID:Xlvvmxlo0

しかし、外もまた静かだった。
「本当に殺し合いが行われているのでしょうか?」
思わず独り言をつぶやく。
カミュやハンターの言葉を信じてない訳ではない。
しかし、この場所は殺し合いの会場というには静かすぎた。
記憶が失った9Sは、戦争や殺し合いがどのようなものなのかは分からない。
だが、自ずと違うものだとは察しがついた。


美術館の入り口と、3人が寝ている場所を2度ほど往復する。
そうすると、美術館の外の風景に異変が現れた。
天然物だけの風景にケープと金色の短髪の女性が入り込んだ。
美しい女性だった。
もしも9Sがアンドロイドでは無く、年相応の少年ならば胸をときめかせていただろう。
しかし、身に纏ったケープはボロボロで、至る所に血や泥、正体不明の液体が付いていた。
そして彼女は、倒壊したという研究所の方向からやって来ていた。

「大丈夫ですか!?痛む箇所はありますか?」
9Sはカミュからセーニャのことを聞いていたのだが、カミュは「金髪の長髪の女性」と言っていたのに対し、彼女は短髪だったため、セーニャだとは気づかなかった。
最も、気付いた所で事態が好転したとは限らないが。

「私は良いのです……。」
(………?)
9Sの電子信号は、異変を伝えた。
確かに姿は人間の女性だ。彼のデータにある人間と、おおむねどころか完全に一致している。
しかし、両目のセンサーでは、細胞上、人間と一致していないという情報を電子頭脳に送っていた。
勿論、人間じゃないからと言って、邪険に扱うつもりはない。
だが、視覚と情報の不一致で固まった9Sに、確実に隙を与えた。


「邪魔です。」
ヒュッ、と風を斬り裂く音。

「………!!」
9Sは慌ててマスターソードを抜き、セーニャの槍を弾き返した。
アンドロイドである彼は、ある程度の不意打ちにも対応できる。
しかし、彼の電子頭脳をもってしても、分からないことだらけだった。
目の前の女性はなぜ襲い掛かって来たのか。
彼も知らない訳ではない。
人間は他者とつながることのみを愛する生き物では無いと。
つながりを愛する分だけ、否応なく拒絶をし、その結果何度も地球上で人間達の戦争が繰り広げられてきたのだとデータで知っていた。
だが、彼女がしているのはそういった、「誰かを想った反動による拒絶」では無いような気がした。


「カミュさん……ハンターさん、どこ?」
人間の為に作られ、人間の為に生き、人間に尽くすアンドロイドは、人間からの質問に対してウソを付くことなど到底許されない。
だが、データが彼女を人間と認識しない以上は、ウソを付くことも可能だった。
むしろ、星井美希達を守る手段という方法の選択だった。

541崩壊の序曲 ◆vV5.jnbCYw:2021/11/07(日) 19:18:59 ID:Xlvvmxlo0
「知りません。」
9Sは冷静に答える。
彼女を止めねば、美術館の中にいる3人に危機が及ぶ。
「メラゾーマ」

巨大な炎の玉が9S目掛けて飛んで来た。
「くっ……!!」
刺突と同様、これも躱す。
しかし、電子頭脳内には、未知の力を見たことにより、ノイズが走っていた。
魔法というシステムは、カミュとのやり取りでデータにインプットされた。
なぜこの女性が、自分に目掛けて魔法らしき術を使って来たのか理由が分からなかった。
(戦うしかない!!)


これまで守りに徹していた9Sはセーニャに向かっていく。
生物特有の迷いが無い以上は、すぐに攻撃に転じることが出来た。
横薙ぎ、袈裟斬り、袈裟返し。
速く確実な一撃をセーニャへと打ち込む。
記憶を失ったアンドロイドでありながら、迷うことなく戦うことが出来るのは、雛鳥が理屈で分からなくても生命維持のために口を開いて、食物を嚥下するようなものだ。


初手の横薙ぎはセーニャが後退したことで躱され、二撃目の袈裟斬りは槍で受け止められる。
しかし、三撃目の袈裟返しで、相手の守りを崩した。
黒の倨傲は角度を変えられ、無人の天を突く。
隙が出来たことを見抜いた9Sは、そのまま勢いよく四撃目の袈裟斬りで、セーニャの腕を斬りつけた。


(まだ浅い……!!)
片腕を斬り落とすことで、両手武器であった槍を事実上使えなくさせようとした。
しかし、腕を落とすには至らなかった。
彼女が装備している星屑のケープの防御力に加えて、彼女の体内に蠢いているジェノバ細胞とGウイルスによる身体能力の向上もあった。
それ以上に、9Sが目を見張ったのは、彼女の腕に出来たばかりの傷跡だった。
(何でしょうか……アレは……)
ぐにゅぐにゅと、斬られた肉が蠢き、切断部を結合させようとしている。
「ベホマ」
セーニャの回復魔法による後押しもあって、簡単に傷は塞がってしまった。


「あなたはどうしてこんなことをするのですか?」
いよいよ人間なのかそれ以外の生き物なのか、分からなくなってきた。
だが、未知の存在を目の当たりにするたびにそれを調べたくなる9Sの好奇心が、攻撃では無く質問という選択肢を選ばせた。


「どうして?お姉さまのため……カミュさん……ハンターさん……クラウド……ああははははは殺すはハハはは黒マテリアははハハハハは殺すハひひひひひひ!!!」
言葉を話しているのに、まるで話がかみ合っていない。
とても人間と話しているようには思えなかった。
それなのに人間のような姿をしており、人間の言葉を話しているからこそ、余計気味悪く感じた。
そして、セーニャの瞳は、9Sを見ていない。
どこを見ているか焦点が合わず、ぎょろぎょろと量の目玉がばらばらな動きをしている。


「ひひひひ。壊れなさい。マヒャド。」
突然、攻撃を始めた。
行動の一致し無い所も、覚束ない口調もまるで壊れた機械だ。
自分で考えるのもなんだが、アンドロイドで自分の方がはるかに人間らしい。
9Sにはそう感じた。

542崩壊の序曲 ◆vV5.jnbCYw:2021/11/07(日) 19:19:25 ID:Xlvvmxlo0

だが、そんなつまらない比較をしているどころではない。
上空から白銀の刃が雨あられと降ってくる。
それを9Sは躱し、避け切れないものはマスターソードで砕いていく。

「たああああ!!」
しばらくして氷の雨が止むと、すぐに攻撃を仕掛けた。
「ベギラゴン。」
今度は左右から炎の波が襲い掛かる。
9Sはそれを跳び越え、聖剣による一撃を打ち込もうとする。
その動きは、ただの偶然だが元のマスターソードの持ち主が使っていたジャンプ斬りに酷似していた。
(よし、このまま一気に……)


しかし、空中で2発目のベギラゴンが9Sに襲い掛かる。
「なっ……」
ただで受けることはせず、空中で身を捩って剣を振り回し、閃熱魔法を吹き飛ばそうとする。
完全には無効化できず、服の一部が焼け焦げた。


彼女が魔法を唱えた後、一定のタイムラグがあるのは見抜いていた。
カウンターをされた際に、回避するのに難がある空中からの攻撃を選択した理由も、一瞬の間魔法が来ないと計算したからだ。
ゆえに、セーニャのやまびこの心得による二重連撃には対応しきれなかった。


「ふふふひひひああああははははあはああひゃひゃ、死んで!壊れて!死んじゃってください!!」
9Sが着地してからも、壊れた音声機械が漏らすノイズのような笑みを浮かべ、槍を振り回して襲い来る。
動きそのものは大したことは無い。だが、疲れることを知らないかのようにフルスイングで迫られると、十分脅威である。
それでも、9Sは恐れることなく踏み込んだ。


懐に踏み込むと、すかさず聖剣をセーニャの腹部に突き刺す。
中距離では槍で襲ってきて、遠距離からでは手の内が掴めない魔法の餌食になる以上、超至近距離で戦うのが一番安全だと9Sは判断した。
「どうだ!!」
「イオナズン。」
(……!!まずい!!)


慌てて刺した剣を抜き、後方に退避しようとする。
しかし手遅れだった。
セーニャと9Sが密集した地点で、黄金色の光をまとった爆発が起こる。

543崩壊の序曲 ◆vV5.jnbCYw:2021/11/07(日) 19:20:02 ID:Xlvvmxlo0

「うわああああ!!!」
アンドロイドと言えども、極大爆発魔法の直撃を受ければただでは済まなかった。
一発でバラバラになってはいないのだが、美希から貰ったアクセサリーは吹き飛ばされ、いくつか体の破片が零れ落ちた。
普通の神経の魔法使いなら決して起こさない、超至近距離での大爆発は、彼女自身にもダメージがあった。
星屑のケープで覆われていない両手や、顔などはそれなりな火傷を負っている。
だが、彼女は攻撃の手を休めない。
9Sに刺された腹から見せた肉は、ブルブルと脈打ち、そこから現れた真紅の蛇のような生き物が、傷口を防いだ。
その姿は、データ上にある人間の回復方法では無かった。


「まだだ!!」
自分の怪我も厭わず、セーニャに向かっていく。

この女性の正体は何者なのか分からないが、少なくとも人間ではないと判断した。
9Sにとって人間とは星井美希やカミュ、ハンターのような生き物だ。
それに引きかえこの女性は、人間達が愛していたものを拒絶し、壊し、破壊をまき散らしている。
こんな生き物を人間だと認めるわけにはいかない。
こんな生き物に、美希達を傷付けさせるわけにはいかない。


「早く死んでください。メラゾーマ。」
飛んでくる大火球を聖剣で両断し、スピードと決断力に物を言わせて、目の前の怪物を滅多切りにする。
セーニャに幾つか裂傷が出来るが、その度にジェノバ細胞が、Gウイルスが彼女を治癒していく。

しかし、相手に自然回復を考えに入れても、9Sが与えるダメージの方が多い。
このまま攻め続ければ、勝てる。
そう、このまま攻め続けられれば。
敵がまだどれだけ未知の手札を持っているか分からないのだ。
手札の内容がこれまでのもの以上に厄介ならば、勝機は薄い。


(そうだ……!)
9Sがザックから出したのは、先程自分の姿を見るのに鏡だった。

「メラゾーマ。」
何発目か、魔法が放たれる。
「これでどうだ!!」
9Sの支給品に会った鏡は、ただの鏡に非ず。
味方1人に魔法属性攻撃を反射するバリアを張る「魔反鏡」だ。
綺麗な鏡は輝いた瞬間、紅蓮の魔弾のベクトルを逆向きに変えた。


「……!?ぎゃああああああああ!!!」


反対にセーニャが炎に包まれる。
星屑のケープで魔法のダメージを抑えられていても、直撃すればダメージは多大だ。
それでも、破壊するために立ち上がる。
トドメとばかりに振りかざした9Sの一撃を、槍で止める。


(これでも倒しきれないのか……)

544崩壊の序曲 ◆vV5.jnbCYw:2021/11/07(日) 19:20:04 ID:Xlvvmxlo0

「うわああああ!!!」
アンドロイドと言えども、極大爆発魔法の直撃を受ければただでは済まなかった。
一発でバラバラになってはいないのだが、美希から貰ったアクセサリーは吹き飛ばされ、いくつか体の破片が零れ落ちた。
普通の神経の魔法使いなら決して起こさない、超至近距離での大爆発は、彼女自身にもダメージがあった。
星屑のケープで覆われていない両手や、顔などはそれなりな火傷を負っている。
だが、彼女は攻撃の手を休めない。
9Sに刺された腹から見せた肉は、ブルブルと脈打ち、そこから現れた真紅の蛇のような生き物が、傷口を防いだ。
その姿は、データ上にある人間の回復方法では無かった。


「まだだ!!」
自分の怪我も厭わず、セーニャに向かっていく。

この女性の正体は何者なのか分からないが、少なくとも人間ではないと判断した。
9Sにとって人間とは星井美希やカミュ、ハンターのような生き物だ。
それに引きかえこの女性は、人間達が愛していたものを拒絶し、壊し、破壊をまき散らしている。
こんな生き物を人間だと認めるわけにはいかない。
こんな生き物に、美希達を傷付けさせるわけにはいかない。


「早く死んでください。メラゾーマ。」
飛んでくる大火球を聖剣で両断し、スピードと決断力に物を言わせて、目の前の怪物を滅多切りにする。
セーニャに幾つか裂傷が出来るが、その度にジェノバ細胞が、Gウイルスが彼女を治癒していく。

しかし、相手に自然回復を考えに入れても、9Sが与えるダメージの方が多い。
このまま攻め続ければ、勝てる。
そう、このまま攻め続けられれば。
敵がまだどれだけ未知の手札を持っているか分からないのだ。
手札の内容がこれまでのもの以上に厄介ならば、勝機は薄い。


(そうだ……!)
9Sがザックから出したのは、先程自分の姿を見るのに鏡だった。

「メラゾーマ。」
何発目か、魔法が放たれる。
「これでどうだ!!」
9Sの支給品に会った鏡は、ただの鏡に非ず。
味方1人に魔法属性攻撃を反射するバリアを張る「魔反鏡」だ。
綺麗な鏡は輝いた瞬間、紅蓮の魔弾のベクトルを逆向きに変えた。


「……!?ぎゃああああああああ!!!」


反対にセーニャが炎に包まれる。
星屑のケープで魔法のダメージを抑えられていても、直撃すればダメージは多大だ。
それでも、破壊するために立ち上がる。
トドメとばかりに振りかざした9Sの一撃を、槍で止める。


(これでも倒しきれないのか……)

545崩壊の序曲 ◆vV5.jnbCYw:2021/11/07(日) 19:20:33 ID:Xlvvmxlo0

「おい!!何があったんだ……」
その時、美術館の中から声が聞こえた。
走って来たのは、カミュだった。

「カミュさん!?」
「あの美希って女とムンナってモンスターは、ハンターのおっさんが守っている。安心しろ!」
予想外の援軍に安堵する9S。
しかしその一方で、カミュの顔は引き攣っていた。


「おまえ……」
セーニャの姿を知らず、説明でしか聞いてない9Sは、カミュが話した「セーニャ」が目の前の女性のことだと知らなかった。

「ふふ。」
「セーニャ、なのか?」
ボロボロになって、どういう訳か髪型が違う。
だが、セーニャと共に旅をして、破壊神を倒したカミュならば、少しぐらい姿が変わっていても彼女だと安易に分かった。


「ふひひひははははは」
「どういうことです……?」
9Sは全く理解が出来なかった。
目の前の化け物が、人間で、カミュと仲間だったという事実に。

(どうして……?)


その矛盾が発覚した時、頭脳にこれまでで一番大きなノイズが走った。



【B-4/美術館内/一日目 昼(放送直前)】



【ヨルハ九号S型@NieR:Automata】
[状態]:ダメージ(大) 記憶データ欠如 混乱(小)
[装備]:マスターソード@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:記憶を取り戻す。
1.目の前の女性(セーニャを倒す
2.人間を守る
3.休憩後、四人でイシの村へと向かう。その後は未定。
4.僕は一体何者なんだろう。

※Dエンド後、「一緒に行くよ」を選んだ直後からの参戦です。
※ゴーグルは外れています。
※記憶データの大部分を喪失しており、2BやA2との記憶も失っていますが、なにかきっかけがあれば復活する可能性はあります。
※元の世界で人類が絶滅していたことを思い出しました。
※自分が戦っていたことを思い出しました。




【カミュ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(小)、MPほぼ0、ベロニカとの会話のずれへの疑問
[装備]:必勝扇子@ペルソナ4
[道具]:基本支給品、フリーズロッド@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド カミュのランダム支給品(1〜2個、武器の類ではない) ウィリアム・バーキンの支給品(0〜2)(確認済み) 七宝の盾@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド
[思考・状況]
基本行動方針:仲間達と共にウルノーガをぶちのめす。
0:セーニャ……!?
1.休憩後、四人でイシの村へと向かい、ベロニカ達と落ち合う。
2.仲間や武器を集め、戦力が整ったらセフィロスを倒す。
3.これ以上人は死なせない。

※邪神ニズゼルファ打倒後からの参戦です。
※二刀の心得、二刀の極意を習得しています。


【セーニャ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
状態]:HP1/10 右腕に治療痕 自然回復 頭痛 吐き気 全身に火傷  MP消費(中)
[装備]:黒の倨傲@NieR:Automata、星屑のケープ@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1個)、軟膏薬@ペルソナ4
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して世界樹崩壊前まで時を戻し、再び破壊する。
1.壊す。まずは目の前の9Sとカミュから。
2.誰の言いなりにもならず、自分の意思で破壊を続ける。

※世界樹崩壊後、ベロニカから力を受け継いだ後からの参戦です。
※ウルノーガによってこの殺し合いが開催されたため、世界樹崩壊前まで時間を戻せば殺し合いがなかったことになると思っていました。
※ザキ系の呪文はあくまで生命力を奪う程度に留まっており、連発されない限り即死には至りません。
※放送は気に留めておらず、名簿を見ていません。
※セーニャの体内のジェノバ細胞によって、セーニャの得た情報は、セフィロスにもインプットされます。
※セフィロスからの精神的干渉を受けています。今のところは自我を保っていますが、何か精神的ダメージを受ければ、セフィロスの完全な傀儡化するかもしれません。
※ジェノバ細胞の力により、従来のセーニャより身体能力、治癒力が向上しています。
※外見は右腕の癒着痕を覗き、少なくとも現在は特に変化はありません。
※体内に胚を植え付けられてGウイルスに感染しました。
※現在はジェノバ細胞の力により適合できています。また、ジェノバ細胞との共存により外見に変化は見られませんが肉体ダメージによりGウイルスが暴走するかもしれません。


※9Sの付近に、半壊したH.M.D@THE IDOLM@STERが落ちています。

【支給品紹介】
【魔反鏡@ペルソナ4】
ヨルハ9号S型に支給されたアイテム。
使うと味方に魔法を反射するバリアを張ることが出来る。一度使うと無くなる。

546崩壊の序曲 ◆vV5.jnbCYw:2021/11/07(日) 19:20:45 ID:Xlvvmxlo0
投下終了です

547 ◆RTn9vPakQY:2021/11/09(火) 23:30:01 ID:m.Rf/nlw0
投下乙です!
ソリッド・スネーク予約します。

548 ◆RTn9vPakQY:2021/11/17(水) 07:13:16 ID:1qKJfE0s0
すみませんん、予約を破棄します。

549 ◆vV5.jnbCYw:2022/03/11(金) 17:43:10 ID:80U2a3XQ0
千早、イウヴァルト、ルッカ、N予約します。

550Magical Singer 風と空と太陽と ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:31:01 ID:6e.eMJ9c0

学校で起こった出来事や、私の傷心を嘲笑うかのように、空は綺麗に晴れ渡っていた。
夏の都会に見られるような、ギラギラした獰猛な光ではない。
この世界に四季はあるのか分からないが、5月の初頭のように、優しい光が屋上を照らしている。
今日は事務所のレッスンに出ずに、町の人が少ない公園で歌の練習をしようか。
この世界に人の命を平気で摘み取ろうとする者がいないなら、そんなことを考えてしまうほど良い天気だった。
屋上からフェンス越しに広がる市街地に草原、そして海。
それらが全て優しい光を反射し、それぞれ異なる光を放っていた。
心地よく私の頬を撫でる風。
挨拶でもするかのようにきらきらと輝く景色。
この世界もまた、残酷なまでに美しかった。
美しいものは残酷だと聞いたことがあるが、この景色を見るとそれが良く分かる。


そう言えば、と私は思い出したことがあった。
弟の優を失った後も、私が住む町の景色は崩れることは無かった。
太陽が出れば日光が街を照らし、大人も子供もあわただしく歩道を歩き始め、夜になれば街灯が、ビルの明かりが街を照らす。
如月家が壊れた後も、それは変わらなかった。一つの家族が壊れた後でも、同情の顔一つ向けることない。


13人の人間が死んだこの世界の景色もまた綺麗なままだ。
何かを喪うと景色がモノクロになるとも聞いたことがあるが、それは人が変わったのであり、景色が変わった訳ではない。
美しい景色は、喪った人に寄り添うことも無く、どこまでも残酷に美しいままだ。


けれど、私はここで歌い続ける。
それが、私の生きる理由であり、この世界で生きる第一歩だからだ。



「スウゥゥゥゥゥ………」

澄んだ空気を肺に、胸に、そして腹の奥へ吸い込み、口を開ける。
この場所は、音源はなく、共に歌ってくれる仲間もいない。
先程まで居た歌を聞いてくれる仲間も、死んでしまった。
違う。
生きている者だけが、歌を聞くことが出来る訳ではない。
少なくとも私はそう信じたい。
例えば『しゃぼん玉』のように、死者を想って作られた歌は数えきれないほどある。
他にも神や精霊のような、いたのかさえ定かではない者に捧げる歌だって少なくない。
もし歌が生者にしか伝わらないのなら、見えている者にしか伝わらないのなら、それほど多くの死者を想った歌は作られなかったはずだ。

「あーーー……あーあーーー…アーーー……。」

まずは、観客に聴かせることをイメージして、調律を合わせる。
歌と自分の想いを結び、どこかで聞いているはずの春香や雪子の心に届けるために。
それだけじゃない。弱い私を奮い立たせるために。
そうだ、あの曲にしよう。
本当は死者を想う歌にしようと考えたけど、その歌は無事に帰ってからでいい。
あの曲はかつてアカペラで歌うことが出来たし、そう言ったものが無いこの場所で歌うにも向いている。

551Magical Singer 風と空と太陽と ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:32:39 ID:6e.eMJ9c0

頭の中で、1,2,3,4と拍子を取る。


   ずっと眠っていられたら
   この悲しみを忘れられる
   そう願い 眠りについた夜もある

   ふたり過ごした遠い日々
   記憶の中の光と影
   今もまだ心の迷路 彷徨(さまよ)う


   あれは 儚(はかな)い夢
   そう あなたと見た 泡沫(うたかた)の夢
   たとえ100年の眠りでさえ
   いつか物語なら終わってく
   最後のページめくったら


だから、私は歌う。
生きることを許してくれなかった残酷な世界にいてなお、笑顔を絶やさなかった優のために、春香のために、雪子のために。
理不尽に耐え切れず、誰かに理不尽を押し付けようとしていたあの眼鏡の少年のために。
この世界で会ったことも無い、他の11人の死者のために。
理不尽に離別を突き付けられた、56人の生きている人たちの為に。



   眠り姫 目覚める 私は今
   誰の助けも借りず
   たった独りでも
   明日へ 歩き出すために
   朝の光が眩しくて涙溢れても
   瞳を上げたままで


そして、私が王子様の力を借りながらも目覚め、歩き続けることが出来た眠り姫のように、自分の足で前へ進めるようになるために。


私は、この残酷な景色をバックに、歌い続けた。
今度は聞いてくれる者は1人もいない。
違う。いるはずだ。
幽霊などは信じたつもりは無いが、私の見えない場所から聞いているはず。



   どんな茨の道だって
   あなたとならば平気だった
   この手と手 つないでずっと歩くなら
   気づけば傍にいた人は
   遥かな森へと去っていた
   手を伸ばし 名前を何度呼んだって
   悪い夢ならいい
   そう 願ってみたけど
   たとえ100年の誓いでさえ
   それが砂の城なら崩れてく
   最後のkissを想い出に


理不尽にとらわれることこそあれど、私は童話の眠り姫と違い、白馬に乗った王子様が助けに来てくれることはない。
いや、王子様ではないにせよ、私の目を覚まさせてくれた仲間がいた。
この世界で、かつての世界で。
だから私はきっと一人でも歌い続けることが出来る。
違う。一人じゃない。見えていないだけで、きっとすぐ近くに仲間はいるはず。



   眠り姫 目覚める 私は今
   都会の森の中で
   夜が明けたなら
   未来 見つけるそのため
   蒼き光の向こうへと涙は拭って
   あの空見上げながら
   誰も明日に向かって生まれたよ
   朝に気づいて目を開け
   きっと涙を希望に変えてくために
   人は新たに生まれ変わるから



でも、私は茨の包む城で眠り続ける姫ではなく、危険を冒してでも姫を助けに行った王子様のような決意が欲しい。

552Magical Singer 風と空と太陽と ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:33:12 ID:6e.eMJ9c0


   眠り姫 目覚める 私は今
   誰の助けも 今は要らないから
   独りでも明日へただ
   歩き出すために
   そう 夜が明けたなら
   未来 見つけるそのため
   蒼き光の向こうへと涙は拭い去り
   あの空見上げて



歌い終わった時特有の心地よさが、身体中を駆け巡る。
歌は胸の内に泥のように溜まった悪いものを浄化してくれる。
私が歌が好きな理由の1つは、この歌った後の満ち足りたような気持ちがあるからだ。
元の世界の仲間を失い、この世界で出会った仲間を失った今でも、それは変わらないようで嬉しかった。




その時、ひゅうと風が私の頬を撫でた。
風は金網のフェンスから入り、私の髪をふわりとさせ、またフェンスへと抜けて行く。
それは私を吹き飛ばそうとするほど強いものではなく、小春日和の川沿いのような、心地よくて涼し気な風だった。
まるで歌い終わった自分に、天が祝福をくれたように感じた。
god bless(神の祝福)もとい、god breath(神の息吹)というものだろうか。
そんな雪子が聞いたら吹き出しそうな、正確には雪子ぐらいしか吹き出さなさそうなことを思い浮かべてしまう。


友達の名前が呼ばれてから、沈み切っていた私の心が、少しだけ軽くなった気がした。
その時、感じることは無いと思っていた空腹を感じたため、休憩も兼ねて食事を摂ることにする。
もっともっと歌いたいのだが、休みなく歌い過ぎて喉を潰してしまえば本末転倒だ。
ザックを開けて、食べられるものを取り出す。


中にあったのは、ビスケットと水。
満腹には程遠いが、歌を紡ぐためのエネルギーが確保できればいいため、問題はない。
辛い物や炭酸飲料のように、喉を傷める飲食物が無かっただけでも喜ぶべきだ。


屋上に座って、ビスケットを食べる。
味も素っ気も無いが、栄養はあるらしく、6時間以上ものを食べていない私の身体に、血管を通して栄養が巡って来るのを感じる。
少し口の中に噛み砕いたビスケットが残ってしまう気持ち悪さが残るが、水で流す。
食べている間に今思ったことだが、この学校の屋上は涼しく、過ごしやすい。
私がかつていた学校は、屋上に立ち入り禁止だったので、学校の屋上というのはこれが初めてだったが、降り注ぐ日光と穏やかなそよ風が、どこか受け入れてくれる優しさを感じた。
座るっていることで視線が落ちたため、私の目に屋上のコンクリートの隙間に生えていた雑草が映りこんだ。
これも元居た世界にあったものだろうか。
だとすれば、実に拘ったコピーだろう。
そんなどうでもいいことを考えてしまった。

553Magical Singer 風と空と太陽と ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:33:30 ID:6e.eMJ9c0

今目の前にある、名前も知らない草が本物なのかどうかは分からない。
この草も私と同じで、仲間がいなくても、こんな恐ろしい場所でも生きようとしているのだろうか。
またそんなどうでもいいことを考えてしまった。
考えてもどうにもならないことを考えてしまうのは私の孤独か、それとも弱さか。
例え拍手を送ることが出来ない生き物だったり、作り物だったとしても、歌を聞いてくれるのならばそれでいい。


支給された食料を取り出したついでに、自分のそれ以外の支給品を調べてみる。
マイクや音源は期待する方がおかしいが、護身用の武器だってあるかもしれない。
最もあったとしても使えるかどうか分からないし、あの金髪の男と戦えるかと言われれば首を横に振らざるを得ないが。
あったのは、宝玉のような首飾りに、バッジ。
残念ながら使えそうにないが、アイドルが身に着けるアクセサリーの感覚で身に付けておく。


私は前へと歩き続けるために、再び『眠り姫』を歌い始めた。
もう一度風が吹いた。



♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪




病院を後にしたイウヴァルトは、参加者を探して当て所なく歩いた。
胸に何とも言えない苛立ちを押し込んで。
殺し合いに乗るからには、どんな呪詛の言葉とて自分に届かないと思ってた。
そもそも『呪ってやる』、『地獄へ堕ちろ』と言ったありふれた呪詛は、ブラックドラゴンと共に連合兵を殺し回っていた時に飽きるほど聞いた。
既に自分は呪われてるし、いずれは地獄へ堕ちると、言われなくても分かっていた。


―――たまには、自分の意思で動いたらどうだ。


病院でガタイのいい男に言われた言葉。
振り払おうとしても窓にへばりついた虫のように脳裏から離れず、何度も木霊する。
そしてその言葉は、彼に苛立ちを加速させた。
腹いせにアスファルトの道路にぺっと唾を吐いた。
それで怒りが収まる訳では無いが、何かせずにはいられなかった。



何度目か市街地の角を曲がった時に、不意に耳に柔らかい何かが入り込んできた。


――――――――♪


かすかに聞こえて来たのは歌だった。
まるで光に誘われる蛾のように、ふらふらと音の方向へ向かって行く。



――――――――♪

それは、歌い手の優しさと寂しさが表明されているかのような歌だった。
異なる国の曲だからか、彼が良く知っている曲とは旋律や音階がだいぶ異なっている。
だが、それでも悲しさがありながらも、力強さが伝わる歌だとはっきり分かった。


歌声が聞こえてくる方向に、両の足をしっかりと踏みしめて歩く。
彼にとっては、歌の上手い下手、歌が伝えようとしていることは関係なく、歌い手そのものが憎らしくて仕方が無かった。
なぜこの緊迫した状況で歌なんか歌っている奴が生きていて、フリアエ死んでしまったんだという憎悪。

554Magical Singers 風と空と太陽と ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:34:10 ID:6e.eMJ9c0
どんな歌を歌っても、変えられるものはないという侮蔑。
そして、この先にいる相手が、自分が契約によって失ったものを持っているという妬み。


歩いていくと、歌声の主は高い建物の屋上にいることが分かった。
鞘に納めた剣の柄を握りしめる力が、自然と強まる。
イウヴァルトの世界は、元々戦火に晒されていたため歌える機会などそう無かった。
残された僅かな機会も、ブラックドラゴンとの契約によって完全に失ってしまった。


校門から彼にとっては見慣れない建物の中に入り、校舎の中から屋上への階段を探す。
人がいない学校特有の、ひんやりとした空気が彼の頬を撫でる。
だが、その程度の冷気で彼の怒りの炎を消すことは出来ない。


彼には命よりも大切なものが、2つだけあった。
1つは、彼を彼たらしめることが出来る歌。
無口だが剣でも学問でも何でもできた幼馴染に、唯一勝つことが出来た歌。
だが、それはもう1つの大切なものを取り戻すために、捨ててしまった。


1階の廊下を曲がり、階段を見つけ、2段飛ばしで登っていく。
実は歌は参加者をおびき寄せるための餌だとか、歌う者の周りに護衛がいるとか、そのようなことを考えられる余裕は怒りの波に沈んでしまった。


黙らせたかった。
あの歌を止めたくて仕方が無かった
自分が未来へ進むために失ってしまったものをなおも持っている人間を殺したかった。
殺し合いに乗るとは決意したが、ここまで個人に対して殺意を抱いて殺しに向かうのは初めてだった。
2階と3階の間辺りで、大剣を抜く。
段々と音に近づいて行く。



♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪


「歌が聞こえるわね。」

首輪解除の手掛かりを探して、八十神高校を目指していたルッカとNは、異変に気が付いた。
屋上から、どこか優し気であり、悲し気なメロディーの歌が聞こえて来た。
その旋律にルッカは酒場で流れるピアノの演奏を思い出し、Nは幼少期に過ごした部屋で流れた曲を思い出した。


あの歌をもっと近くで聞きたい、どんな人が歌っているか会ってみたいと気持ちは逸るが、ルッカは一度考える。
なぜこんな場所で歌っているのか、と。
これほど長い時間、自分の居場所を知らせるようなことをしながら、誰にも襲われていないというのも不自然に感じた。
屋上にいる歌い手が、凄まじい力を持っている、あるいは護衛がいるというケースを想定してみる。
ルッカの仮説が真であるとすると、歌い手が殺し合いに否定的ならば、交渉次第で強い味方が出来る可能性が高い。


だがもし、歌い手が殺し合いに乗っていて、この歌も罠ならば?
ふと彼女が幼い頃、サイエンスに目覚める前に読んだ、美しい歌で人間をおびき寄せて食い殺す怪物のことを思い出した。
屋上にいるのは、人を殺すために歌を歌い、人の命を糧としてまた歌う怪物。
そんなものはサイエンスの世界にはあり得ないと言いたいが、これまでの冒険でも未知の敵はいた。


警戒すべきだが、あの歌は誰かを呼ぶために命を懸けて歌っているものだったら、殺し合いに乗った者に命を奪われる危険性がどんどん高くなる。

555Magical Singer 風と空と太陽と ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:34:38 ID:6e.eMJ9c0

(恐れている場合じゃないわ。答え合わせを怖がっていれば、永久にサイエンスの道は開かれない。)

意を決して、校舎に乗り込もうとする。
ふとNはどうしているのかとなりを見ると、何かに憑りつかれたようにぼんやりと校舎を見つめていた。


「何を見ているの?あの歌の所へ行かないと。」
「不思議なつくりの建物だなと思ってね。」


ルッカの世界では公教育のシステムは未発達なので、学校という建物を知らなかった。
サイエンスの技術は広い家を使って、専ら独学で磨き上げてきたものだ。
だが、学校という建物に不思議なものを感じたことは無かった。


「分からない?この無機質と有機質が混ざり合ったデザイン……
一切の円を拒絶した、直方体だけで作られながらも、どこか命を感じる……。」

(やっぱり、この人は何考えてるか分からないな……)

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!あの歌の所へ行かないと!!」
ルッカはNの手を引き、校舎の中に入って行く。


八十の神の名を冠す学校に、歌に惹かれた3人が集う。
彼らが齎すのは救いか災いか。
はたまた、救われるのは歌い手か聞き手か。

556Magical Singer 風と空と太陽と ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:35:02 ID:6e.eMJ9c0
前半投下終了です。後半投下します。

557Magical Singer 盗めない心 ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:35:32 ID:6e.eMJ9c0

「あなたは……?」
屋上の扉が開かれる。
舞台に立って歌う前とは違う緊迫した雰囲気。

平和な国に産まれて、真っ当な人生を歩めていれば生涯感じることのない感覚を、千早は数時間前に覚えていた。


「その歌をやめろ。」
屋上に現れた男は、刃を千早の方に向ける。
今度は天城雪子のように自分を守ってくれる者はいない。使える武器もないし、あった所でうまく使えない可能性の方が高い。
傍から見ればどう考えても、ここで最期を迎え、春香や雪子の下へ行くことになるしかない。
僅かな生存の可能性に欠けて、歌うことをやめて、イウヴァルトに許しを請うしかない。
だが、千早にとってイウヴァルトの言葉は、『殺す』という言葉以上に抗わねばならぬ言葉だった。
歌は如月千早という少女にとっては命と同じか、それ以上に価値のあるものだった。


だからといって、今の千早がこの場から生き延びる可能性は限りなく低い。
目の前は敵、それ以外の三方向はフェンス。
仮に逃げ道があった所で、戦争の経験があり、契約者で人間の身体能力を大きく超えているイウヴァルトを振り切れる可能性は、限りなく低い。



「分かりました。ですが、最後に1度だけ歌わせていただけませんか?」
彼女がなぜこう言ったのかは、彼女自身にも分からなかった。
最期の1曲で満足する訳もなく、もっともっと歌いたい。
歌には様々な奇跡を起こしてきたと言われているが、それはあくまでおとぎ話の世界だ。
そして千早は自分が目の前の男を改心させるような奇跡を起こせると思ってるほど、自惚れているわけではない。
時間稼ぎだとしても、もう少しマシな言い訳があるはずだ。


「……良いだろう。」
気でも狂ったのか、と一瞬思うも、こんな状況ならば仕方がないと考えた。
彼が千早に垂らしたのは救いの糸ではない。
歌い終わるその直前で胸を突き刺し、自分がしてきたことがいかに無駄なのか思い知らせるつもりだった。
歌では誰も救えないし、誰も守れない。
戦場で役に立つのは、如何なる時も絶対的な力だけだ。
それはフリアエを守れなかったイウヴァルト自身が悲しいぐらい分かっていることだった。
だからこそ彼は契約で歌を失ったとしても、誰かの歌を汚すような真似をしても悔いはなかった。

558Magical Singer 盗めない心 ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:36:36 ID:6e.eMJ9c0

彼の言葉を聞いて、千早は少し安堵した。
本当は死にたくないし、刃を向けられているだけで怖気が止まらない。
彼女だって職業柄ナイフを向けられるアイドルのニュースは聞いてない訳では無いが、いざその状況を目の当たりにしてみると、恐ろしいな、と改めて思った。



(でも、私はまだ歌える。しかも観客もいてくれた。
そうだ、次に歌う曲はあの歌にしよう。)


――――これが、私に出来る戦いだ。


気を集中させて、恐怖を押し殺した。
彼女がつけたペンダントは『肝っ珠』と呼ばれていた。
この高校で眠る雪子が知っていたそのアクセサリーは、恐怖心を抑え、戦えなくなる状況を防ぐ。
勿論、それはあくまでほんの一押しなだけ。
だが、覚悟を決めた彼女にとって、その一押しで十分。


この時、彼女はこの世界の闇を、彼女の過去を乗り越えた。
目の前の男の狂気に毒されず、彼の真っ赤な目から感じ取った僅かな悲しみまでも糧にして、歌い始めた。



   ねえ今 見つめているよ
   離れていても
   Love for you 心はずっと
   傍にいるよ

   もう涙を拭って微笑って
   一人じゃない どんな時だって
   夢見ることは生きること
   悲しみを超える力


歌声は響く。
どこまでも、響き続ける。
人の悲鳴、魔物の足音、竜の咆哮
連合軍として、帝国軍として様々な轟音を聞いてきたイウヴァルトだったが、どんな音よりも心に強く残った。
そして、広葉から滴り落ちる朝露のようにやさしく、彼の鼓膜に染み渡る歌だった。



   歩こう 果てない道
   歌おう 天を超えて
   想いが届くように
   約束しよう 前を向くこと
   Thank you for smile



何を思っているんだ自分は、とイウヴァルトの剣を握りしめる手が強くなる。
自分の持っていないものを持って、それを生き甲斐にしている人間なんて、カイムと同じ不快な人間だ。
そう言い聞かせ、もう動かないはずの心を叱咤する。

(俺は殺すことが出来る!殺して、フリアエを生き返らせてもらう!!俺は出来るはずだ!!)

559Magical Singer 盗めない心 ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:37:50 ID:6e.eMJ9c0

   ねえ目を閉じれば見える
   君の笑顔
   Love for me そっと私を
   照らす光

   聞こえてるよ君のその声が
   笑顔見せて 輝いていてと
   痛みをいつか勇気へと
   想い出を愛に変えて


その時、屋上の扉が再び開けられた。
「これは?」

思わずルッカは声をあげてしまう。
歌を歌っている少女に、男が刃を向けているのだ。
ただ事では無いと思わない方がおかしい。


ルッカは早速片手に炎を纏わせ、男に投げかけようとした。


(!!)


ルッカが気圧されたのは、剣を持った男ではない。
歌っている少女の方だ。
決して鋭くない、しかし、確固とした決意を含んだその視線を受け、「ここでは騒ぐな」と怒鳴られたかのような感覚を覚えた。
Nがポンとルッカの肩を後ろから叩く。
それは、「ここでは僕達の出る幕ではないよ」と言っているかのようだった。


今この場所で、一番戦う力を持っていないのは誰か?
それは満場一致で如月千早だと言われるだろう。
だが、それはどういった根拠で答えているのか?


少なくとも、八十神高校屋上という舞台の上、この瞬間だけは、如月千早という少女が一番の力を持っていた。
黒竜との契約者も、かつてのプラズマ団の王も、世界変革に貢献した科学少女も、彼女の歌の前では言葉1つ出すことさえできない。



   歩こう 戻れぬ道
   歌おう 仲間と今
   祈りを響かすように
   約束するよ 夢を叶える
   Thank you for love

   あどけないあの日のように
   両手を空に広げ
   夢を追いかけてゆく
   まだ知らぬ未来へ



歌は続く。
『約束』はかつて声を無くした千早が、立ち直った後に歌った曲だ。
彼女のことを心配した仲間が、想いを伝えるために作られた曲だ。
その歌は、再び歌を失った者の胸の内を響かせた。


歌を失った男は、我慢できずに歌うのをやめろ、と叫ぼうとした。
だが、口を開けることも、剣を振り回すことも出来なかった。


   歩こう 果てない道
   歌おう 天を超えて
   想いが届くように
   約束しよう 前を向くこと
   涙拭いて

   歩いて行こう 決めた道
   歌って行こう
   祈りを響かすように
   そっと誓うよ 夢を叶える
   君と仲間に
   約束

560Magical Singer 盗めない心 ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:38:14 ID:6e.eMJ9c0

歌い終えた千早は、3人の観客に向き直り、ぺこりとお辞儀をする。
彼女は狂気も理不尽も飲み込み、ただ決意だけを見せつけた。






静寂。


時間と共に、歌の余韻が消えて行く。
千早も、イウヴァルトも、Nも、ルッカも何も言わない。動かない。
ただ優しく吹いた風が、4人の間を通り抜けて行った。


その時、イウヴァルトは剣を落とし、崩れ落ちた。
「うわあああああああああ!!!!!」
耳をつんざくような慟哭。


「違うんだ!僕は!フリアエのために!!フリアエの為に、殺さなきゃいけないんだ!!」
そう言いながら、弱い男はイウヴァルトは叫んだ。


「もう、やめなさいよ。」
ルッカは崩れ落ちた男を見て、そう呟いた。

「フリアエ……フリアエ……ああっ……う……。」
最早この男から、殺意は感じられなかった。
泣き叫び、充血しているはずのその目は、最初に千早に出会った時より赤くなくなっていた。
赤目の病から、彼は解き放たれたのだ。


歌には呪いを解く力があるとは様々な伝承で語られているが、千早にそんな能力があるわけではない。
魔法も解呪の知識も備えていない彼女が、なぜ彼から赤目の厄災を取り払えたのか。
それは彼女が付けていたロイヤルバッジの力だ。
王家の盾のようなデザインのバッジは、付けた者の回復魔力や攻撃魔力を増幅させる効果を持つ。
本来ならば魔法を使えない千早がそんなものを付けても、防御力を僅かながら伸ばすしかない。
しかし、彼女の歌が人を救う力を強くするという形で、そのバッジは作用したのだ。
歌は人を幸せにする魔法とは言われているが、彼女の決意が奇跡を起こした。


「僕は……。」
これからどうすべきか、フリアエがいない世界でどう生きるか、それは彼自身には分からなかった。
だが、少なくともマナの言いなりになるつもりはもう無かった。


蹲る弱い人間の男に、千早は手を差し伸べた。
その姿は、迷える男を救おうとする聖女のように見えた。
彼女とて、完璧な人間ではない。
何度も立ち止まって、時に迷って来た。
だが、そんな彼女を支えてくれたのは、仲間やプロデューサー達だ。


「最後まで聞いてくださって、ありがとうございます。」
ただ、千早は彼にそのお礼だけを言った。

561Magical Singer 盗めない心 ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:38:37 ID:6e.eMJ9c0

「僕は、どうすればいい?」
「それをこれから決めればいいんじゃないかな。」
Nがそっと、イウヴァルトに答えを投げた。

「そうか……。」
彼は混乱していた。
だが、マナの言いなりになって生きる道からは離れようと決意した。






―――あはははははははははははははははははははははははは!!
「お前は……!!」

その時、イウヴァルトの耳にだけ、良く知っている声が響いた。
「マナ……!!」

「落ち着いてください!!どうしたのですか!?」
マナの声は他の3人には聞こえない。
だが、ただ事ではない様子に、千早は声をかける。
「ねえ、どうしたっていうの!?」
ルッカも状況を察し、声をかけた。

だが、その声は届かないようだった。


―――ふふふっ、残念でした。あなたが戻れる道なんて、何処にもないのよ。ナイ。ない。ナイ……。

高い声と、重厚な声が、イウヴァルトの心の内側のみで響いた。
意識が塗り替えられていく。
少女の両目から流れる、ルビーのように真っ赤な光に飲み込まれていく。
―――あなたが歌で「壊れた」というなら、「治す」歌を聞かせてあげる。
―――大好きな人が、歌っていた歌だよ。


忘れるなかれ。
人を呪いから解き放ち、祝福する歌あれば、人を呪い、壊す歌だってある。


紅い夜 鳥眠る

   夢の窓 空写す
   わらべ唄 口ずさみ
   漫ろ行く 草原を


「やめろおおおおおおお!!!!」
彼の両目が、再び血のような真紅に染まっていく。


―――何を言っているの?望んでいるのは、これなんでしょ?

562Magical Singer 盗めない心 ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:39:20 ID:6e.eMJ9c0


   祈りは貴方の
   面影やどし
   魂いろどる
   想いをはこぶ
   翼を生やし
   愛から逃げて
   天使が割った
   奇妙な皿の上で燃えて
   尽きる
   尽きる


イウヴァルトは千早を突き飛ばし、地面に落ちてあったアルテマウェポンを握りしめた。


「危ない!!」
ルッカが叫ぶ。
魔法の籠ったメガトンボムを、イウヴァルト目掛けて投げつけた。
轟音とともに、大爆発が起こり、弱い男は吹き飛ぶ。
フェンスを大きく超えて。


「こ、殺してしまったんですか?」
千早はルッカの能力よりも、男を屋上から吹き飛ばした事実に驚いていた。

「………。」
ルッカの表情は強張っていた。
千早にではない。
この学校に充満する、異様な魔力の高まりだ。


屋上から落ちるイウヴァルトを受け入れたのはグラウンドの砂ではない。
墜落死する直前、彼の大剣に填めてあった紅蓮のマテリアが輝く。
そして、呼び出された黒の巨竜が、男の背中を受け止めた。



竜の咆哮が木霊する。
この八十神高校は、学問の場としても、アイドルのライブ会場の役割も放棄した。
今、この場所は戦場に変わる。

563Magical Singer 盗めない心 ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:39:59 ID:6e.eMJ9c0

   黒い朝 時告げる

   汚れ血よ 森帰れ
   闇を掘る どこまでも
   たどりつく
   断頭台
   祈りは貴方の
   面影やどし
   魂いろどる
   想いをはこぶ 
   翼を生やし
   愛から逃げて
   天使が割った
   奇妙な皿の上で燃えて
   尽きる
   尽きる






【E-5/八十神高校・屋上/一日目 昼】
【如月千早@THE IDOLM@STER】
[状態]:焦燥
[装備]:肝っ珠@ペルソナ4 ロイヤルバッジ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜1個) 天城雪子の支給品(1〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残って、歌い続ける。
1. 黒竜から逃げる
2. 急に様子がおかしくなったイウヴァルトに違和感

※雪子の支給品(1〜2個)が屋上に放置されています。



【ルッカ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(小)、MP消費(小)
[装備]:水の羽衣@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(工具の類は入っていません)、医療器具 図書館の本何冊か(何を借りたかは次の書き手にお任せします。)  素材(機械生命体の欠片、ネジ、金属板など)
[思考・状況]
基本行動方針:人と工具を集め、ロボを正気に戻す。
また首輪を集め、解析、あるいは景品交換用に使う。
1.千早を連れて、イウヴァルトとドラゴンから逃げる
2.多少は割り切ることも必要なのかもしれないわ……。
3.工具箱が見つかれば、この首輪の解析でもしてみようかしら。
4.首輪を集めたら、首輪景品交換所を使う。
5.Nって不思議な人ね……
6.何のためにあんな機械を?

※遊園地廃墟にある、首輪景品交換所の情報を知りました。


【N@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[装備]:モンスターボール(トンベリ)@FF7、毒牙のナイフ@DQ11(トンベリが所持)
[道具]:基本支給品 本何冊か
[思考・状況]
基本行動方針:ルッカの理想に付き合う
1.ルッカと共に行動をする
2.新しい理想を手に入れる。

564Magical Singer 盗めない心 ◆vV5.jnbCYw:2022/03/13(日) 22:40:18 ID:6e.eMJ9c0
【イウヴァルト@ドラッグオンドラグーン】
[状態]:狂気(大)
[装備]:アルテマウェポン@FF7
[道具]:基本支給品、モンスターボール(空) ゴールドオーブ@DQ11
[思考・状況]
基本行動方針:フリアエを生き返らせてもらうために、ゲームに乗る。
1. ドラゴンと共に、破壊の限りを尽くす
2. もう、帰れない

※空っぽのモンスターボールは野生のポケモンの捕獲に使えるかもしれません。



【ブラックドラゴン@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて 】
[状態]:健康
[持ち物]:なし
[わざ]:テールスイング おたけび 噛みつき はげしいほのお
[思考・状況]
基本行動方針:破壊の限りを尽くす


【トンベリ@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:健康
[持ち物]:毒牙のナイフ
[わざ]:ほうちょう みんなのうらみ 
[思考・状況]
基本行動方針:Nと行動を共にする、自分のほうちょうがほしい。



【支給品紹介】
ロイヤルバッジ@DQ11
如月千早に支給されたバッジ。装備すると防御力、攻撃魔力、回復魔力が大きく上がる


肝っ珠@ペルソナ4
如月千早に支給されたペンダント。装備するとステータス異常「恐怖」から身を守ることが出来る。







もう一つ、忘れてはならないことがある。
この学校には如月千早の歌によって呼び寄せられた三人が集ったが、一人、いや、一台だけ例外がいた。
真っ先に屋上へ向かった3人とは違い、それは歌に引き寄せられることも無く、高校を徘徊している。
黒竜から逃げ惑う3人が彼に気付くのは、いつのことになるだろうか。



【機械生命体@Nier Automata】
[状態]:オールグリーン
[装備]:なし
[道具]:?
[思考・状況] ?
基本行動方針:ルッカとNを追いかける。

565名無しさん:2022/03/13(日) 23:18:10 ID:rkPFI.FI0

投下乙です。

>> Discussion in R.P.D.
ソリダスは合理性の塊で、バレットとクレアはどちらかというと感情的、そこをオセロットがうまく結合させている感じ。
ここでもオセロットがいい感じにキーマンになってるなあ。なかなかに味のある一向だと思う。

タイムマシンという単語が出てきたけど、合っているような微妙にずれているような?
クロノトリガー世界あるしそういう概念はありそうだけど、まだピースが欠けている感じはあるかも。
現代世界を舞台にしたゲームの参加者が大半を占めてるから、こうなるのは必然なのかな。

ソリダスは偽装タンカーに向かうようだけど、遥ちゃんは明らかに無力な子供キャラなので、どういう絡みになるのかは気になるところ。


>> エレクトリック・オア・トリート
ゲーチスとエアリスが決裂するのは予定調和。
なんか悪党のはずのゲーチスに感情移入してしまった。
元々のスタンスの違いもあるけど、エアリスはちょっと同行者のことを考えなさすぎたようなきらいがあったので。
いい加減にしてよはこっちのセリフだとか思ってそうだもんなあ。
マヒと睡眠って結構な攻撃だと思うんだけど、この二人の別れ方にしてはかなり穏当だなあとは思ってしまう。


>> 崩壊の序曲
9sは記憶の喪失と復活が吉と出るか凶と出るかの分水嶺にいそう。
状況についていけてなくていろいろノイズがはしってるけど、ここはこれまで交流してきた人たちを信じてあげて欲しいなあと思う。
そして、ついにカミュがセーニャに再会してしまったか。
もうその人セーニャでも、人間ですらないと思ったほうがいいんだけど、これは動揺大きいよなあ。
セーニャだけでも厄ネタなのに、後ろから確実にセフィロス来るのはヤバすぎて、本当に崩壊がやってきそう。


>>Magical Singer
そうか、千早とイウヴァルトってこんなにも共通項と対比があったのか。
歌も意思も失った男に、失声から立ち直った直後の歌を響かせて、意思を取り戻させるという導きの構図。
そうして取り戻した意思に対して、大切な人の歌を響かせて、再び壊してしまう逆行の構図。

全編通してすごく澄み切ってキラキラしていた印象が、マナが歌い出した途端に場が一気に濁りだしてきたし、
千早が歌っている間は千早が主役だったのが、マナが歌い出した瞬間にイウヴァルトが主役っぽくなったと感じる。

全編通して、歌をテーマというのは一貫していて、そのテーマの上での文章構成とシナリオ設計がすごい話だと思った。

566名無しさん:2022/04/11(月) 14:54:53 ID:VeGyPx1E0
初書き込み失礼します。ROM専の予定でしたが素晴らしい企画なので
どの作品どのキャラも立たせ方や絡ませ方が非常に上手く、作家さん達のレベルの高さや元ネタへのリスペクトを実感しながら拝読しています。
自分が注目しているのは、個人的に1番好きなキャラでもあるソリダス、オセロットの動向ですね。
MGS本編中の彼は、真の目的のために何重にも演技を重ねる男かつ、その演技も自己暗示や薬物で自分自身を文字通り洗脳して、その都度仮初の人格を刷り込んでいると言う設定ですので、参加時期からみても扱い辛いキャラの1人かもなあと思います…w
彼やソリダスだけでなく、このロワ全体がどう動くのか、皆さんの作品を全て堪能しながら熱視させてもらいます。応援しています。
長文失礼しました。

567 ◆RTn9vPakQY:2022/06/16(木) 22:15:39 ID:M8v59ayo0
ソリッド・スネーク 予約します。

568 ◆vV5.jnbCYw:2022/06/22(水) 22:19:28 ID:X96QqEwc0
トウヤ予約します

569 ◆RTn9vPakQY:2022/06/23(木) 02:06:53 ID:1pR6HZV20
投下します。

570 ◆RTn9vPakQY:2022/06/23(木) 02:09:13 ID:1pR6HZV20
 スネークは展望台から北上して、B-5の温泉に辿り着いた。
 建物のぐるりを見回ると、表にある玄関とは別に、通用口らしきドアがあった。
 呼吸を整える。かつて新米の工作員であった頃に仕込まれた、スニーキングの手法を反芻する。
 潜入する場の気配と自分の気配とを同化させることにより、場の気配を乱す“異物”を感知する手法だ。
 いわば空気と同化するようなもの。これがビッグボスとその師であるザ・ボスが練り上げた、スニーキングの極意だった。

 意識を集中させながら、並列して思考を回転させる。
 放送で死者を告げられた状況下で、呑気に入浴を楽しむ輩はいまい。
 そう仮定すると、参加者がここを訪れる理由はおのずと限定されてくるだろう。
 例えば、スネークのように返り血を洗い流すため。または、他の参加者を探すため。
 あるいは物資の類を求めて訪れる可能性もあるが、無論それは想像の域を出ない。
 いずれにしても、普段のミッションと同様に、警戒しながら進む必要がある。
 神経を研ぎ澄ませながら、スネークはドアノブに手をかけた。





 結果的に、温泉の内部には誰の姿もなかった。
 そもそも風呂場と脱衣所があるだけの施設であり、身を隠せるような場所も少ない。
 探索は十数分ほどで終わり、戦利品と呼べるものは備え付けの救急箱くらいのもの。それも中身は乏しい。
 飲料の空き瓶が捨てられていることから、参加者の誰かはここを訪れていたようだが、それ以外の痕跡は残っていなかった。
 めぼしい情報は得られそうにないことを察して、思考を切り替える。早急にメインの目的を果たして、別の場所へ移動するべきだ。

 装備をすべて脱ぎ去って、生まれたままの姿へと戻る。
 背中を中心に浴びた血液は既に乾いており、臭いも相まって不快感を与えていた。
 使い込んだスニーキングスーツにも大量に付着していたが、それは後で洗うことにする。
 スーツの速乾性は、何度か経験している海中からの潜入任務で実証済みだ。
 荷物を脱衣所のカゴに入れると、風呂場に続く引き戸を開けた。

「ほう……」

 あたりに満ちた硫黄のにおいに、感嘆の声が漏れた。
 立ちのぼる湯気に歓迎を受けながら、足を踏み入れる。
 最低限の警戒心は忘れずに、石張りの床をゆっくりと歩いていく。
 シャワーが並ぶ壁際に到達してカランを回すと、頭上のシャワーヘッドから湯が慈雨のごとく降り注ぐ。
 温度を調節して冷水にすると、それを火傷と打撲の患部にそれぞれ当てた。冷えた筋肉が縮むのを感じる。
 ごく軽度とはいえ火傷をした肌に長く当てると痛むため、時間はほどほどに。
 こびりついていた血液をぬぐい去ると、嫌悪感もいくらかはマシになった。
 そうして全身を流し終えて振り向くと、木製の湯船が鎮座している。

「……」

 初めて目にする温泉。スネークの胸中には期待と困惑が入り混じる。
 スネークの生まれ過ごしたアメリカでは、そもそも日本式の入浴はなじみが薄い。
 欧米において主流なのは、湯をためた浴槽の中で体を洗い、最後にシャワーで流すという形式。
 日本において主流である、入浴して体をリラックスさせる形式は、世界的に見ると珍しいものだ。
 偏りはあるものの日本文化に詳しいオタコンから、ジャパニーズが風呂好きということは聞き及んでいた。
 しかし、知識と体験は往々にして異なるもの。実際に温泉を目の当たりにして、少なくない好奇心が生まれていた。

 スネークの理性は、湯に浸かる必要はないと告げている。
 外傷の種類に応じた応急処置。「RICEの法則」と呼ばれるそれを、熟知しているためだ。
 RICEとは安静(REST)、冷却(ICING)、圧迫(COMPRESSION)、拳上(ELEVATION)の四つのこと。
 これらのうち、一般的に打撲に対してはすべての処置が、火傷に対しては冷却の処置が重要であるとされている。
 では、入浴がその処置につながるかと言えば、答えはノーである。むしろ体温の上昇による血行の促進は、打撲の程度によっては内出血や炎症が悪化する要因となる。
 血行の促進には自然治癒力を高める効果もあるとされるが、それを推奨されるのは、打撲の内出血や炎症にともなう腫れや痛みが引いた後のこと。
 セフィロスの炎による一撃で跳ね飛ばされてから、まだ数時間しか経過していない。医者に訊いたなら苦い顔をするだろう。
 幸いにもダメージは軽微で、痛みや腫れがないことは確認しているとはいえ、不要なリスクは避けたいところだ。
 もちろん長湯はできまい。入浴するとしても、五分以内が限度だ。

「……」

571SPA! ◆RTn9vPakQY:2022/06/23(木) 02:11:25 ID:1pR6HZV20
 二十秒ばかり立ち尽くしただろうか。
 ひとつ息をのみ、意を決すると温泉に足を入れ、そして全身を湯へと委ねていく。
 熱により刺激された体が、瞬間的に強張る。それから次第に熱に反応して、筋肉が弛緩する感覚が全身に行きわたる。
 ゆっくりと、長く息を吐く。熱いシャワーを浴びるだけでは味わえない快感が、スネークを満たしていた。
 すると、あまりにも自然に、スネークの口から賞賛の言葉が漏れた。

「いい湯だな」





 数分後、スネークはふたたび患部を冷やしてから風呂場を出た。
 脱衣所に戻ると、デイパックからペットボトルを取り出して開ける。
 そして一気に水を飲み干すと、空になったペットボトルに水道から水を汲む。
 この先どういった状況になるか不明なため、携行しやすい容器を捨てるのは賢明でないと判断したのだ。
 もののついでと、水道でスニーキングスーツに付着した血液を洗い流すことにした。

 スーツを洗濯しながら、今後の行動方針について考える。
 目下のところ、工学的な知識と技術を持つ、相棒のオタコンを捜索することが最優先だ。
 殺し合いにおける枷である首輪。それを解除することは、マナたちへの反逆の第一歩となる。
 できるかぎり早急に、首輪を解析してもらう。そう考えたときに、オタコンと同等に重要なものがある。

「首輪のサンプルが必要だ」

 いくら優秀な研究者でも、サンプルなしで解析はできまい。どこかで調達して渡す必要がある。
 スネークは渋面を作る。脳裏にサンプルを入手する方法が浮かんだ――浮かんでしまった――からだ。
 そう、さきほど通過した展望台の近くには、セフィロスに殺害されて落とされた雷電の遺体がある。
 遺体の損傷はかなり酷く、首もかろうじてつながっている状態だった。首輪の回収は容易だろう。

「たしか、C-5は放送で禁止エリアに指定されていたが……」

 口にしながら、壁掛け時計を確認する。時刻は八時半。
 ここから南のC-5が禁止エリアになるのは十一時。時間的な猶予は、そう多くない。
 すぐに動き出したいのをこらえて、救急箱の中から軟膏のチューブを出して塗り広げていく。
 チューブの残量はわずかであり、すべての火傷に塗ることは叶わなかったが、気休めにはなる。
 同じく残り少ない包帯を、こちらは打撲の患部に、きつすぎず緩すぎない程度に巻きつけておいた。
 手早く処置を終えると、洗い終えたスニーキングスーツを装着。バンダナを締めなおして、出口へと向かう。
 通用口からではなく表の玄関から出ると、あらためて施設の外観を眺めた。

「温泉か。悪くなかった」

 次があるなら、こんな殺し合いの最中ではなく、落ち着いた環境で入りたいものだ。
 無論、安全な環境に身を置ける立場ではないことは、理解しているつもりだが。
 自嘲気味に鼻を鳴らして、スネークは施設に背を向けた。





 異臭をたどり到着した展望台の下には、数時間前と同じ状態の雷電がいた。
 見るも無惨な姿だ。落下の衝撃で両腕と左脚はちぎれ、残る脚もあらぬ方向へと曲がっている。
 ちぎれかけた頭部を見る。血で汚れたブロンド、だらしなく開いた口許、そして光の失われた両の瞳。

572SPA! ◆RTn9vPakQY:2022/06/23(木) 02:12:32 ID:1pR6HZV20
「せっかくの美形が台無しだな」

 掌をかざして、そっと雷電の目蓋を閉じる。
 そしてスネーク自身も、目を伏せて黙祷を捧げた。

「……」

 一分ほどの黙祷を終えて、スネークは作業を開始した。
 雷電の首を観察して、切断するべき場所を的確に見極める。
 ちぎれかけではあるが、腕力だけで首輪を取ることは難しい。
 そう判断して、温泉で調達した救急箱の中から小型のハサミを取り出す。
 数センチの刃を、首の肉へと当てる。筋肉を断ち切る感覚が手元へと伝わる。
 行為自体は、肉や魚をさばくのと似たようなもの。スネークは手早く作業を終えた。

 その流れで展望台内部に雷電の遺体を運びこみ、バスタオルで上から覆い隠した。このバスタオルも温泉で調達したものだ。
 必要な行為ではない。しかし、セフィロスへと立ち向かい殺された戦友を、そのままにしておくのは忍びない。
 ついでに首輪に付着した血液をバスタオルでぬぐってから、黒光りする首輪を観察する。

「このサイズで首を飛ばすだけの威力。
 かなり強力なシロモノなのは間違いない」

 しげしげと見ても、判断できることはその程度であった。
 スネークは、ひととおり銃火器は使いこなせるものの、専門家というわけではない。
 ゆえに解析となると、オタコンやナスターシャのような兵器に精通した人物には及ばない。
 やはりオタコンとの合流を急ぐべきだと結論づけて、首輪をデイパックへとしまい込む。
 サンプルを回収する目標は達成できた。ひとまずC-5エリアから出ることだ。

「さて、次の目的地は……」

 スネークは地図を眺めながら、方針の一部を更新していた。
 これまでは、スネークとオタコンは互いに合流しようとしており、そのため両者が知識として共有している場所を、互いに第一の目的地に定めると考えていた。
 だからこそ“マンハッタン沖タンカー沈没事件”における偽装タンカーに向かうことを最優先としていたのだ。
 しかし、オタコンの性格上、他の参加者と友好的な関係を築いて、同行している可能性も充分にある。
 勇気と慈悲を備えているオタコンだが、あいにく武力はない。生存優先で協力体制を組むのは自然だ。
 もしオタコンに同行者がいた場合、偽装タンカー以外の場所を目的地に定める可能性も出てくる。
 そのため、他の施設も捜索のために寄るべきだというのが、今のスネークの思考だ。

「ここから近いのは、D-5の病院か」

 以上の思考をもとにして、スネークが次の目的地に定めたのは病院。
 地図上の施設を虱潰しに捜索するとなると非効率的だが、地図の中心に近いので大幅なタイムロスにはなるまい。
 また、オタコン以外の参加者に対しては、情報の共有をはかる。相手によってはオタコンの捜索を頼むことも想定しておく。
 取り急ぎの行動方針を決めると、スネークは展望台を後にした。





「ん?」

 病院へと南下していたスネークは、道中であるものに目を留めた。
 市街地の道路のアスファルトが、ある一部分だけが黒く変色している。
 屈みこんで地面を調べると、直径三センチほどの黒いかけらが落ちていた。

「これは……金属だ。首輪のかけらか?」

 所持している首輪と比較すると、たしかにその形状は似ている。
 かけらの端は奇妙に歪んでおり、高熱が加えられて融解したように見える。
 黒く焦げたアスファルトと合わせて考えると、この場所で何者かが燃やされたとするのが自然だ。
 すでに“ひのこ”や“ファイガ”を目にしている以上、炎による攻撃方法は想定の範囲内だが、それが金属を溶かす火力となると、あらためて緊張感が走る。
 自衛手段として武器の類――可能ならば使い慣れた銃火器――を所持しておきたいという心情が増した。
 これまでよりも警戒しながら、遮蔽物の多い市街地を進んでいくと、やがて病院へと辿り着いた。
 少し離れた場所から観察を開始した直後、スネークは眉をひそめた。

573SPA! ◆RTn9vPakQY:2022/06/23(木) 02:13:34 ID:1pR6HZV20
「なんだ、あれは?」

 ガラス窓越しに見えたのは、黄色いロボットだった。
 さながら巡回中の兵士のように、一定のスピードで動いている。
 遠巻きに見てもわかる複数の破壊の痕跡と、無関係ではないだろう。
 戦闘行為か、それに準ずる破壊行為が可能なロボットと考えるべきだ。
 加えて、ロボットの動きが外から見えることも、スネークの不安を煽る。
 ロボットは隠れようとしていない。つまり発見されることを恐れていない。
 その動き方が、積極的に病院への侵入者を探しているように見えてしまう。

「……ここでは非現実的なことも起こりうる。それを念頭に置いたほうがよさそうだ」

 特殊部隊の“FOXHOUND”や“デッドセル”にも、常識から逸脱した存在はいた。
 この島に連れてこられてから、スネークは人語を話すウサギや炎を放つ銀髪の男性を目撃している。
 そして今度はロボットときた。常識から逸脱した存在がうようよいる殺し合いなのだと再認識させられる。
 スネークは自問する。正体不明のロボットがいる病院に入るか、ここは諦めて他の施設へと向かうか。
 兵は拙速を尊ぶ。指揮官のいない兵士としての、スネークの決断はいかに。



【D-5/病院付近/一日目 午前】
【ソリッド・スネーク@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:全身に軽い火傷と打撲(処置済)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、音爆弾@MONSTER HUNTER X(2個)、不明支給品(0〜1個、あっても武器ではない)、首輪(ジャック)
[思考・状況]
基本行動方針:マナやウルノーガに従ってやるつもりはない。
0.病院を探索するか、他の施設へと向かうか、あるいは……。
1.オタコンの捜索。偽装タンカーはもちろん、他の施設も確認するべきか。
2.武器(可能であれば銃火器)を調達する。
3.クラウドに会って伝言を伝えるため、可能性のあるカームの街に寄る。
4.カイムと狩人の男。オセロット、ソリダス、イウヴァルト、セフィロスに要警戒。
5.装備が整い次第、セフィロスを倒すか?
6.ソニックと言う名前に既視感、および不快感。だがこの際言ってられないか?
※参戦時期は少なくとも、オセロットがソリダスも騙したことを明かした後以降です



 蛇が病院を観察している間も、ロボは巡回を続けている。
 主催者陣営から下された命令を従順にこなす姿は、まさしくロボット。
 燃料の供給は不要。何もせずとも、埋め込まれた“たべのこし”は機能している。
 その脅威を知らぬ参加者も未だにいる現状で、ロボットは次第に回復していくのだ。
 非常に強力なこの兵器を前にして、参加者たちはどのような対処を試みるのだろうか。


【D-5/病院内部/一日目 午前】
【ロボ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)、MP消費(中)
[装備]:ベアークロー@ペルソナ4 、たべのこし@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1個
[思考・状況]
基本行動方針:病院内に侵入した敵を排除する
1.ワタシの名前はプロメテス。

※主催者によって、ジョーカーである参加者(イウヴァルト、ホメロス、ネメシス)は感知出来ないようになっています。
他にも何らかの理由で感知できない参加者、NPCがいるかもしれません。


【救急箱@現実】
温泉に放置されていた使いかけの救急箱。
軟膏や包帯、包帯を切るための小型のハサミが入っていた。

【バスタオル@現実】
温泉に備え付けられていた白いバスタオル。


【共通備考】
※C-5展望台内部に、ジャック(雷電)の遺体が安置されました。バスタオルで覆われている遺体の周辺に、救急箱@現実が放置されています。

574 ◆RTn9vPakQY:2022/06/23(木) 02:15:39 ID:1pR6HZV20
投下終了です。
ソリッド・スネークのみ予約していましたが、分かりやすくするためにロボも登場させました。

誤字脱字や気になる点などありましたら、ご指摘お願いします。

575 ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:15:33 ID:7gBKfjIk0
投下します

576革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:16:12 ID:7gBKfjIk0

あの時永遠に分かれたはずの1人と1匹が、狂った運命の歯車を経て、再び出会った。




あれは、窓から差し込む日差しが眩しい日だった。
ずっとモンスターボールの中に入れられていた私は、初めてトレーナーと出会うことになる。
――ツタージャ、君に決めた。
帽子の裏から煌めく瞳が印象的な少年が、最初にかけてくれた言葉だった。
それからはトウヤという少年と共に、野生のポケモンと戦いを繰り返した。
戦いは最初は好きではなかった。
それでも、段々と強くなるのは嬉しかったし、何より強くなった私を見て嬉しそうにしているトウヤを見るのが好きだった。





「では、始めましょうか。」
戦いが始まる前とはとても思えぬほど、静かな空間だった。
そして、戦いが始まる前としか思えぬほど、冷たくて張りつめていた空気が充満していた。


トウヤの目の前にいるのは、かつては捨てたポケモン。
だが、必要になったのだから再び捕まえて使う。
一度捨てたポケモンを再び使うような行為に対する、良心の呵責などは彼は持ち合わせてはいない。
ただ必要だから捕まえる。それだけの話だ。


トウヤは元の世界では、理想のメンバーを作るために厳選に厳選を重ね、タマゴから念入りに育て上げていた。
だが、この世界では配られたカードと己が能力だけで勝負するしかないため、それは許されざる行為だ。
ただ、世界の違いを理由に「トウヤ自身にとって必要なもの」をアップデートさせただけ。
そこに善も悪も見出さない。


出会ってなお、そのような態度を貫くトウヤが、ジャローダはどうしようもなく憎かった。
悪いことをしたと謝罪するわけでもなく、仕方が無いことだと正当化する訳でもない。
ただこの場で必要だからという理由で彼女を捕まえようとする元トレーナーが、ただひたすらに憎かった。


「オノノクス、『りゅうのまい』」
トウヤの指示に則り、再び舞い始める。
それに対してジャローダもまた、『つるぎのまい』で自身の攻撃力を上げる。


2体のポケモンが舞う。
その瞬間、草原は両者を彩る舞台に変わる。
どちらも大柄なポケモンだというのに、ドタドタした不細工さを感じさせない。
洗練されてなければ決して作れない、流麗さを見せる。

577革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:16:34 ID:7gBKfjIk0

初手は互いの強化だけに終わる。
ここまでは普通にあることだ。
問題は次のターンから。


先陣を切ったのは、ジャローダの方だ。
元々レベル差があることに加えて、速さに定評のあるポケモンだ。
1段階素早さが上がったオノノクスを以てしても、その速さには勝てない。
そして素早さが高いということは、相手が戦術を練る間もないまま、一気に攻め潰すことだって出来るということだ。
ジャローダは、一気に最強の技でオノノクスを打ち倒そうとする。
千を越える戦術を編み出し、万を超えるバトルを乗り越えたトウヤに勝つ方法は1つ。


思考させる間もなく、攻撃力を上げて速攻で叩き潰す。
トウヤの戦略を一番近くで最も多く見て来たジャローダだからこそ、見出した回答だ。



ふとオノノクスの周囲に、尖った形の葉っぱが現れたと思いきや、風が強くなり始める。
くさタイプの物理技の中でも、特に強力な『リーフブレード』だ。
ジャローダが身体を鞭のように振るうと共に、緑の刃がつむじ風に乗ってオノノクスに襲い掛かる。


ジャローダの判断は正しい。
だが、正しいのはあくまで元の世界の話。
この世界でも正しいとは限らない。


「右へ飛んでそのまま回避しろ」

結論から言うと、ジャローダの放った新緑の刃は、オノノクスに決定打を与えることは無かった。
リーフブレードはその威力だけではなく、命中率にも定評のある技だ。
相手が『かげぶんしん』などを使わない限りは、不発に終わるのを期待するのは無理なことだ。
だが、その一撃を凌いだのは、トウヤの運によるものではない。


「オノノクス、まっすぐ突進して『きりさく』。」
トウヤは回避を指示すると思いきや、その逆。
ギリギリまで近づき、ジャローダに攻撃を加えた。
鋭い牙が、その顔を走る。
攻撃が命中するかと思いきや、逆に攻撃を食らってしまうジャローダ。


既にトウヤは、A2との戦いでこの世界の戦いと元の世界の戦いの違いを見抜いていた。
1つは、攻撃の躱し方。

578革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:16:55 ID:7gBKfjIk0

かつてトウヤがいた世界では、ポケモンとの戦いはほとんど決まったフィールドや室内で行われた。
従って、回避する方法も限られる。
だがこの世界ではバトルの境界線などあってないようなものだ。
地形の高低差をバトルに応用するなど、じめんタイプやひこうタイプを除いて普通は行わないことだ。
だが、この世界は平たんな地形の方が少ない。


リーフブレードは直線的な攻撃だと知っていたトウヤは、姿勢を低くして横に躱すことを指示した。
もともとドラゴンタイプには威力が半分になる技だということもあり、ほとんどそのダメージは通らなかった。



比較的シンプルな草原でさえ、攻撃のかわし方、フィールドの使い方の多様性は元の世界とは比べ物にならない。
地面の傾斜や茂みなども、戦いを有利にするために使うことが出来る。


放送前のA2との戦いでは、それを学びきれていなかった。
だからトウヤは街灯を使った攻撃に戸惑わされた。
だが、1度の戦いの身でルールを軒並みマスターできるのは、最強のトレーナーといった所か。



「そのまま突進して『きりさく』

ジャローダの額から身体にかけて、綺麗な一本線が走る。
(片目を狙ったつもりだったが、上手く行かないな……)

オノノクスは粒ぞろいのドラゴンの中でも、攻撃力に優れるポケモンだ。
とはいえ、タイプ一致の技でない『きりさく』で、攻撃力も1段階しか強化されてない中、レベルが上のジャローダを倒すことは出来ない。
それぐらいはトウヤも分かっている。


トウヤの狙いは、攻撃だけではない。
彼が接近した理由に、ジャローダの技の中で、1番厄介な『リーフストーム』を使わせないことだ。
狙いは成功し、密着状態では、すぐ近く以外を薙ぎ払う竜巻が撃てない。
それでもジャローダは怯まず、密着状態でオノノクスに『アクアテール』を打ち込もうとする。
「オノノクス、『ドラゴンテール』。」
二匹のポケモンが、くるりと回転して、互いにシッポを打ち合い、バチンと高い音が響く。


洗練されたポケモン同士でしか作り出すことが出来ない、美しい回転だった。
大柄なポケモンだというのに、不細工さを感じさせないしなやかな円運動。
美しいのみならず、竜巻のような激しさも伴う旋回。
超一流のバレリーナもかくやという動きだった。
もしここが観客の集うポケモンコンテストの会場ならば、止むことのない歓声と万雷の拍手が鳴り響いていただろう。
だが、ここにはそのような反応を示す観客はいない。
唯一の観客であるトウヤは、その様子を観察しながら、次の手を考える。

579革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:17:18 ID:7gBKfjIk0

しかし、みずタイプの技であるアクアテールはドラゴンタイプのオノノクスには半減されてしまう。
対して、ドラゴンテールは素通しだ。
元々の威力に加えて、本来敵を大きく吹き飛ばすことに特化した技。
シッポのぶつかり合いを制したのは、オノノクスの方だ。
翡翠の大蛇は大きく吹き飛ぶ。黄金の巨竜も無傷では無いが、蛇に比べるとダメージは少ない。


2つ目の違いは、技の効果。
本来なら野生のポケモンにドラゴンテールを打てば、はるか遠くに吹き飛ばされてしまい、その時点で戦闘は終了になる。
トレーナーにいるポケモンがいても、ボールに戻さざるを得ず、少なくとも1ターンはそのポケモンと戦う必要は無くなる。


だが、憎しみと殺意をぶつけ合うこの戦いは別。
戦いは継続される。
なので『ドラゴンテール』は戦闘中止ではなく、1ターン猶予を作るために使った。

「オノノクス、『りゅうのまい』」
ゲーチスやA2と戦った時と同様、オノノクスは美しく舞い始める。


「オレの目的の為に協力してくれないのか。残念だ。」





あの時は、静かな町に響く噴水の音が、妙に印象的だった。
最初のジムリーダーのポッドを倒した次の日のこと。
突然トウヤが私に声をかけた。


――ボクには夢があるんだ。
おもむろに駆け出しのトレーナーは、人間の言葉を話せない私に対して、夢を語りだした。
――イッシュのチャンピオンになってみたいし、その間に君たちポケモンのことを沢山知りたい。それがボクの生まれた意味だと思うんだ。
キミはしたいこととかあるのか?なんて言っても、分からないか。


悪戯っぽく笑みを浮かべるトウヤ。
私は彼の言葉にずっと耳を傾けていた。
あの声はとても穏やかで、でも力強かった。
その時、私にも初めて夢が出来た。
初めて出会った仲間として、彼が見る夢の果てを見届けるということだ。





鳴き声一つ上げず、それでも冷たい怒りを胸に抱き、ジャローダは迫って来る。

580革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:17:35 ID:7gBKfjIk0


「オノノクス、『きりさく』」
ジャローダが戻ってくると、トウヤは早速自分のポケモンに指示を出す。
密着状態ではなくなったので、全身を震わせ、リーフストームを撃つ構えを取る。
クラウドと戦った時と同様、緑の竜巻が吹き荒れー――無かった。


ジャローダはトウヤの戦術を読んでいた。
最初に能力を上げたのち、牽制攻撃を入れて相手を崩し、敵トレーナーが第二撃に備えてカウンターを狙ってくる。
だがトウヤは相手の誘いに乗らず、トドメを刺す直前に能力が上がる技を使い、勝利への道を確実にする。
カウンターが不発に終わり、動揺したトレーナーが最も強い技を出そうとする瞬間、技を食らう前に高速の一撃を当てる。


ジャローダには知らぬことだが、トウヤのオノノクスと、ゲーチスのバイバニラとの戦いは、まさにその戦術を体現したようなやり方だった。
『りゅうのまい』を使って強化し、『きりさく』をバイバニラに入れて、トドメを刺す前に『りゅうのまい』でオノノクスをさらに固める。
そして動揺したゲーチスが『ふぶき』を撃たせようとした瞬間、その隙を狙って確実にトドメを刺した。


だからジャローダは、『リーフストーム』を撃とうとすればその前に『きりさく』が来ると読んだ。
そのため彼女が撃ったのは、二度目の『リーフブレード』。
威力よりも命中率を重視した一撃を選んだ。
刃を纏ったエメラルドの光線が、オノノクスを貫こうとする。
同じ技を2度使うという、裏をかいた戦術を取った。
だが、トウヤはそれさえも読んでいた。


砂埃が舞い上がる。
高速の刃が砂煙の中に浮かび上がり、回避が容易になる。
オノノクスはじめんタイプの技を備えていないのに、どういうことか。
答えは簡単だ。
トウヤは最初からジャローダにではなく、地面に目掛けて『きりさく』を撃つよう指示を出した。
この地面の土は粒が軽く、技の一つでも打てば簡単に煙幕が起こるとトウヤは踏んでいた。
フィールドの多様性は、元の世界とは比べ物にならない。
フィールドごとに最適解が変わる戦いの条件を、トウヤは活かしきっていた。


「右から回り込んで、『ドラゴンテール』」
自然の恵みを借りた斬撃が砂煙に飲まれた頃には、既にオノノクスは近づいていた。
ジャローダはあくまでトウヤに野に放されるまでの間しか、彼の戦術を知らない。
言い方を変えれば、彼女の知っている最強のトレーナーは、さらに実力を上げていた。

581革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:17:55 ID:7gBKfjIk0

今度はアクアテールで対抗する間もなく、大きく吹き飛ばされる。





――おめでとう。これも君が頑張ったからだ。
――これからもよろしく頼むよ。ツタージャ。いや、ジャノビーだったか。


あれは、今みたいにすなあらしが激しい場所だった。
これほど砂埃が舞う場所など生まれて初めてだったので、粒子の鋭い砂が襲い来る痛みよりも、4ばんどうろのその光景に見とれていた。


その頃には経験を積み、ジャノビーへと姿を変えた。
段々とトウヤの腕も上がり、ジムリーダーのバッジも増えて行った。
だけど、その時私は1つの不安がよぎった。


進化して、姿が変わった私を、トウヤはこれまでのように受け入れてくれるのだろうか。
私はトウヤを信頼していたし、彼も私を信頼していたからこそ、それが怖かった。
だが、それがすぐに杞憂だったことだと分かる。



――ベル、僕はね、成長するってのは、変わることだって思うんだ。ポケモンも人間も…いつまでも同じじゃいられないし、子供のままじゃいられない
――子供のままじゃ…いられない
――だけど、どれだけ成長したってベルはベルだし、フタチマル…いや、ラッコくんはラッコくんだよ
――ありがとう、トウヤ。そうだよね…変わることを怖がってちゃ…だめだよね



その後すぐに戦った、トウヤの幼馴染の言葉を、私はモンスターボール越しに聞いていた。
あの時の言葉だけで、彼は進化した私を、変わった私を受け入れてくれているのだと知った。
嬉しかった。たとえ私より強いポケモンを彼が捕まえたとしても、ずっとそばに居たいと思った。





「オノノクス、『りゅうのまい』」
吹き飛ばされ、攻撃範囲の外に追いやった瞬間、自分のポケモンを強化させる。
余裕を見せつける訳ではない。
トウヤは常に、確実に勝つ手法を練り続ける。
そのため彼を相手にしたトレーナーもポケモンも、徐々に追い詰められていく。
まるで羽をむしられ、足を切り落とされ、逃げる手段を1つずつ削がれてから料理される鳥のように。

582革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:18:15 ID:7gBKfjIk0

この真綿で首を絞められているような状況を打破するには、とにかく攻撃するしかない。
たとえそれが読まれている行動だとしても。


ジャローダが身体を居合抜きのような軌道で振る。
辺りに、鋭い葉を纏ったつむじ風が巻き起こる、
葉の量も、風の勢いも、2度打ったリーフブレードとは比べ物にならない。ジャローダのとくせい『しんりょく』と、彼女の性格『れいせい』により、さらに威力は上がる。
それを最強まであと一歩の所まで育てられたポケモンが使うのだ。
当たれば、威力半減の壁など簡単に破り、オノノクス程度簡単に倒してしまうだろう。


辺りに凄まじい風が吹き始める
100キロ以上の体重を持つオノノクスはともかく、トウヤは立っているのでやっとだ。
吹き始めの風でさえこの威力だから、もう数秒まてば全てを吹き飛ばす台風のような攻撃になる。
あくまで技を出し切ればの話だが。


「オノノクス、『きりさく』」
それでも表情一つ変えず、帽子を押さえながら指示を出す。
3段階素早さを増したオノノクスの牙は、ジャローダを技名通り切り裂く。


惨めなものだ。
どんな技でも、相手に届かなければ意味が無い。
リーフストームもはっぱカッターも、命中する前に押し切られてしまえば、実質的な威力は同じゼロなのだ。
トウヤでなくても分かる、単純ゆえに覆せない道理。
素早さの3段階上がったオノノクスが、軍配を上げる。
これこそが、トウヤがジャローダに見切りをつけた理由。


素早さが取り柄のジャローダなのだが、彼女の本来の性格により、どうしても肝心の素早さが落ちてしまう。
もしそれがなければ、いくら素早さが底上げされたからとは言え、オノノクスに後れを取ることは無かった。
いや、そもそもの話それがなければ、この戦いが起こることは無かったのだが。


「ダメだ。いくら追い詰められたからと言って、何も考えずに大技を出したら。」
崩れ落ちたジャローダの前で、冷たい声が響いた。
何も考えずに大技を出してはいけないとは分かっていても、それしか打開策が見いだせなかったのだから仕方がない。
超一流のプレイヤーとは、得てして戦いにおいて、『してはいけないこと』を相手にさせる技術に長けている。


嵐が止むと、トウヤは近づきモンスターボールを投げる。
そこから光が出て、ジャローダが吸い込まれる。


(嫌だ!!嫌だ!!一度捨てられた相手なんかに、仕えたくない!!)

583革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:18:44 ID:7gBKfjIk0




どこで道を間違えたのだろう。
どこで私達の関係は壊れ始めたのだろう。
どこで私の思い通りにならなくなったのだろう。


私がジャノビーからジャローダへと進化してからだろうか。
Nとゲーチスを倒して、プラズマ団を倒壊させてからだろうか。
トウヤが新しい物を見ても歓声を上げなくなったからだろうか。
いつからかは分からないが、私とトウヤの間の亀裂は広がって行った。
いつからかは分からないが、トウヤの一人称『ボク』から『オレ』に変わり、戦いに出してもらえる回数がだんだん減って行った。
それからだろうか。
周りのポケモンたちに、きらきらした瞳の者が減って来て、何かに怯えていたり諦めていたりした目をする者が増えてきたのは。


それでも、私はあの言葉を信じた。


――だけど、どれだけ成長したってベルはベルだし、フタチマル…いや、ラッコくんはラッコくんだよ


信じようとした。
初めて出会った時からどれだけ変わっても、トウヤは私の信じるトウヤだということを。
決して私の目の前からいなくなったりしないと。
決して私をバトルから外すことはあっても、野に放すことなどありはしないと。
変わることを恐れてはいけないと教えてくれたのはトウヤなのだから。





モンスターボールは揺れ、吸い込まれたかと思ったジャローダは出てくる。


(まあ、仕方ないか……)
トウヤが持っているのは、ハイパーボールのような成功率が上がるものではなく、一番ありふれた赤白のボール。
1手でゲットすることが出来るとは思わない。
むしろ簡単に捕まえてしまえば、態々バイバニラを捨てた意味が無くなる。


ジャローダはその想いに応えるかのように痛む体を鞭打ち、立ち上がった。
「オノノクス、『きりさく』。ただし直撃はさせるな。」
竜の鋭い牙が、蛇の身体を掠める。


ジャローダが躱したからではない。トドメを刺さぬよう、ギリギリまで削ろうとしている。
勝利を確実なものにするために、少しずつ、少しずつ逃げ道を潰していっているのだ。
嘗められたものだと思い、同時に嘗められても仕方がないほどに追い詰められていると自覚する。
技も弱点も全て見切られ、相手の手の内はいまだに未知数。
はっきり言って、ジャローダはどうしようもなく詰んでいる。
20以上のレベルの差など、あってないようなものだ。

584革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:19:06 ID:7gBKfjIk0

残っているものは、かつてのトレーナーへの復讐心。
愛してくれたはずなのに、何のためらいもなく野に返した恨み。
トウヤに対する激しい敵意。


だが、そんなものには意味が無いとジャローダというポケモンは分かった。
どんな感情でも受け止める相手がいなければ、けだものの遠吠えと変わらない。
事実、トウヤはジャローダの敵意も憎しみも分かっているが、心には届いていない。
たとえポケモンがどう思っていようと、必要だから捕まえる。それだけしかない。


そして、ジャローダにはもう1つ分かったことがあった。
トウヤのことばかり考えても、勝てないということ。
事実、彼女の一時の主であったホメロスは、自分を捨てた相手であるウルノーガへの恨みを抱き続けた。
だが、かつての主への憎しみを募らせるあまり、己を鑑みることを気付かず、その怨嗟の刃を届けることが出来なかった。
だが、最後の最後でそれに気付けたことで、「道化のホメロス」でもなく「魔軍司令ホメロス」でもなく、初めて「聖騎士ホメロス」としてその手を動かせた。



何度目か、オノノクスの牙がジャローダを裂こうとする。
その時だった。
竜の水月に、彼女の尾が刺さったのは。


(分かったわ。ありがとう。)

ほんの一時、愛情なんて無かったはずだが、トウヤ以外に何かを教えてくれた主人へ感謝の言葉を告げる。

「グルルル……」
タイプ相性の悪い一撃とは言え、急所に当たったためオノノクスはうめき声を上げる。
ジャローダは『カウンター』は使えない。
だが、彼女がトウヤではなく、ホメロスのポケモンとして戦った時に、クラウドから似たような技を受けた。


トウヤに勝つには、トウヤから学んだことではなく、この世界で学んだことを使わねばならない。
それを分かった彼女が、即興で編み出した技だ。

585革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:19:38 ID:7gBKfjIk0

「オノノクス、『ドラゴンテール』。」
ジャローダが使わないはずのカウンターを、しかも合わせ技で撃ったことに、トウヤは僅かながら驚く。
目の色が僅かながら変わったトウヤが、シッポ攻撃を出すように指示する。
それをジャローダは、姿勢を低く、さらに低くさせて躱す。


彼女にとって、ホメロスは信頼したトレーナーなどではない。
ホメロスにとって彼女はウルノーガを殺すための道具でしかなかったし、それは使役される側にとっても同様だった。
それでも、短い間に確かに学んだことはあった。
その経験は、確かに彼女の物になっていた。


常に敵を観察し続け、死角を、弱点を探ること。
ホメロスはミファーの、クラウドの隙を突くためにそれを怠らなかった。
頭の上を、竜の尾が走ったのをトサカの感触だけで確認した瞬間、さらに技を撃つ。


「右へかわせ、オノノクス。」
トウヤはジャローダが超低姿勢の超至近距離でリーフブレードを撃って来ることを察知し、右へ飛び退くように指示する。
だが、『きりさく』と『リーフストーム』のぶつかり合いの時とは逆に、トウヤの指示の方が一手遅れた。
直撃とは言い難いが、緑色の光線がオノノクスの脇腹を掠める。
最初に使った『つるぎのまい』の効果はもう切れていたが、それでも威力を発揮した。


――それでも! 俺たちは前を向いて生きていくしかねえんだよ!


敵の竜巻を食らい、朦朧とした意識の中でも、覚えている言葉。
ホメロスの仲間の人間が言っていた。
トウヤ1人だけに目を向けていては、復讐は成功することは出来ない。
だから決めた。
だから目標の敵ではなく、前に向かって走ることを。
復讐の対象ではなく、空へ向かって飛ぶことを。


「オノノクス、『きりさく』。」
動きが変わったジャローダ相手でも、トウヤは攻撃を加えることを忘れない。
しかし、ジャローダは分かっていた。
トウヤの目的が自分にトドメを刺すことではなく、削ることにあることを。
逆に言えば、防御しなくともこの攻撃で戦闘不能になることはないということだ。

586革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:19:55 ID:7gBKfjIk0

無抵抗のまま、牙の攻撃を受ける。
ジャローダの目論見通り、それで勝負が決することは無かった。
その間に、リーフブレードを撃つ。
オノノクスにではない。地面にだ。


技を撃った反動で、天高く舞う。
クラウドが撃った竜巻で巻き上げられた感覚を思い出し、身体をしならせ高く高く高く。
くさタイプのジャローダが、ひこうタイプでもあるかのような戦術をとって来るのは、トウヤとしても予想外だった。
ジャローダは分かっていた。
トウヤとの戦いでは、安全地帯は無い。
何処へ逃げてもその攻撃を当ててくる。
ならば、自分から安全地帯を作れば良いだけだ。



オノノクスの技に、ここまで飛んだ相手を倒せる技は無い。
今度は一転してジャローダの攻撃のチャンスだ。


トウヤとオノノクスがいる場所に、尖った葉が舞い始める。
彼女は地面に落ちた後のことなど考えてない。
ただ、この一撃を成功させればいい。
否。たとえこの一撃を外したとしても、地面に落ちる前に自らの尾を頭に刺し、自決するつもりだ。


天空から、身体を回転させ『リーフストーム』の構えを取る。
一度撃ってしまったために、攻撃力は減退しているが、それはとくせいの『しんりょく』でカバーする。
今度はオノノクスが『きりさく』で反撃できる位置にはジャローダはいない。
彼女の、回答の時間だ。

587革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:20:13 ID:7gBKfjIk0




――ここでお別れだ、ジャローダ。オレに着いてきても、オレはお前をもう二度とボックスから出さない。


私が恐れていたトレーナーの変化は、最悪の形で現実のものになった。
人間にしろポケモンにしろ、既存の関係を次々に切って行き、ついには旅の初めから繋がり続けた私との縁まで切った。
あの時は心の底から、裏切られたと思ってトウヤを憎んだ。
その意図は分かっていたからこそ、猶更許さなかった。
でも、こうしてみると分かった。


私は、トウヤを怨み切れていないのだと。
一番憎かったのは、変化を恐れて内側から変わり切ることが出来なかった自分自身なのだと。
クラウドとの戦いだってそうだ。
もし変われていたら、ホメロスは負けずに済んだかもしれない。


こんな世界で、道具として使わせたマナ達は許せないが、私が変わるチャンスをもう一度くれたことだけは感謝しよう。
これで、私の物語を終わらせる。






「ジャアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアァァァ!!!!!!」


天まで轟くほどの雄たけびと共に、リーフストームが撃たれた。
今、ジャローダは進化ではなく、変化した。
さなぎが蝶へと変わるのではなく、蝶が飛べる高さをさらに上げた。
太陽を背にし、天空を手にした深緑の蛇は、さながらケツアルコアトルといった所か。
とくこうが減ったとはとても思えないほど、凄まじい竜巻が吹き荒れる。
それは台風のごとく、既に荒れ果てていた草原を巻き上げる。


モンスターボールも、オノノクスの攻撃も届かない。
ただ1人と1匹は、翡翠の嵐に飲み込まれるのを待つだけ。

588革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:20:40 ID:7gBKfjIk0

「オノノクス」
風と擦れ合う葉がうるさい中でも、彼の声は静かに響いた。
オノノクスが頭を垂れた。
天まで飛ぶという奇跡の蛇を前に、諦めの姿勢を見せているかのように見えた。


突然、項垂れている竜は首を上に振り上げる。
その勢いで、すぐ近くにいたトウヤをはるか上空に飛ばした。


ジャローダは気づいていなかった。否、忘れていた。
ポケモンはただ戦いをするために使われるばかりではない。
人間の足では登りにくい崖や、渡ることのできない海を通るための乗り物としてもポケモンは使われる。
今トウヤは、オノノクスを戦闘用ではなく、竜巻を突破するための道具として使った。


普通ならあり得ないことだ。
一歩間違えれば、竜巻に切り裂かれるか、地面に叩きつけられるかして、命を落としてもおかしくない。
勿論、並のトレーナーが決して為せる技ではない。
発想力とポケモンへの知識、どんな状況でも揺るがない度胸。それと人間離れした身体能力を兼ね揃えるトウヤだけが、空を飛ぶジャローダに近づけた。
事実、彼の服のあちこちが小さな裂け目が走っていた。




「ありがとう。ジャローダ。」
竜巻を越えて、目の前に来たトウヤが口にしたのは、礼の言葉だった。
礼儀だから言うのではなく、心から感謝を込めた礼の言葉だった。


彼女が殻を破ったことで、越えた壁を、トウヤはことも無く乗り越えた。


ジャローダは首に尖った尾を刺して、自決しようとする。
だが、その時間など、今さらトウヤが与えてくれるはずもない。
モンスターボールを投げたトウヤは、満面の笑みを浮かべていた。
その笑みはひどく歪んでいたが。


「俺に生きる喜びを教えてくれて、ありがとう。
強いポケモンを工夫して捕らえる喜びを思い出させてくれて、ありがとう。」

(――憎い!!私はあなたが憎い!!骨まで憎い!!!!!
そこまで命を懸けて捕まえようとするなら!!!!なぜあの時逃がした!!!!!!
嫌だ!!!嫌だ!!!!!私を一度捨てたトレーナーに道具として扱われるなんて!!!!!!)



「■■■■■■■■■■■■■■――――――――!!!!!!!!」
吸い込まれながら、最後の悲鳴を上げた。
モンスターボールは僅かに揺れた後、静かに光り、ポケモンをゲットしたというサインを示した。

589革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:20:59 ID:7gBKfjIk0





久し振りの感覚だった。
モンスターボールの中の、暑すぎず寒すぎず、持て余すほど広くも無く、窮屈なほど狭くも無く。
でも、そう感じる気持ちでさえ、今の私には煩わしかった。
どんな恨みを募らせても、未来への願望を抱いても、結局どうにもならないのなら。



ココロカラドウグニナレバイイ。





久し振り感覚だった。
かつてレシラムを捕まえた時に感じたような、胸が熱くなる高揚感。
だが、それでもトウヤの胸の内には、煮え切らない感覚があった。
それが何なのか、彼は勝手に解釈した。


恐らくジャローダで、出会ったことも無い強者と戦えば、もっと気分が高揚すると考えた。
(後はこの2匹を回復させれば良いか…。)


地面に叩きつけられる寸前に、オノノクスがトウヤをキャッチする。

「じゃあ行こうか。」
トウヤはオノノクスをボールに戻す。
勝つには勝ったが、オノノクスのダメージも少なくは無かった。
A2との傷も残っているため、今度はモンスターボールの中で待機させることにした。


ジャローダを捕まえたモンスターボールを、鞄の中にしまい込む前に、一言口にした。


「ジャローダ。あなたの気持ちは分かる。でもオレに必要なのは過去じゃなくて未来なんだ。
オレが生きる未来のために、また協力してもらうよ。」

590革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:21:25 ID:7gBKfjIk0

最後にジャローダが吸い込まれた時、トウヤとジャローダは目が合った。
その視線からは、言いようもない怨嗟と憎悪が伝わって来た。
彼女が放ち続けた感情は、最後の最後でトウヤに届いていた。
最も、届いただけだが。





【E-3/草原/一日目 昼】

【トウヤ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:全身に切り傷(小)高揚感(小) 疲労(大) 帽子に穴
[装備]:モンスターボール(オノノクス)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト、モンスターボール(ジャローダ@ポケットモンスター ブラック・ホワイトチタン製レンチ@ペルソナ4  
[道具]:基本支給品、モンスターボール(空)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト×1、カイムの剣@ドラッグ・オン・ドラグーン、煙草@METAL GEAR SOLID 2、スーパーリング@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[思考・状況]
基本行動方針:満足できるまで楽しむ。
1.Nの城でポケモンを回復させる。
2.自分を満たしてくれる存在を探す。
3.ポケモンを手に入れたい。強奪も視野に。

※チャンピオン撃破後からの参戦です。
※全てのポケモンの急所、弱点、癖、技を熟知しています。
※名簿のピカチュウがレッドのピカチュウかもしれないと考えています。


【ポケモン状態表】
【オノノクス ♀】
[状態]:HP1/8
[特性]:かたやぶり
[持ち物]:なし
[わざ]:りゅうのまい、きりさく、ダメおし、ドラゴンテール
[思考・状況]
基本行動方針:トウヤに従う。
1.トウヤに従い、バトルをする。

【ジャローダ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]HP:1/10  人形状態
[特性]:しんりょく
[持ち物]:なし
[わざ]:リーフストーム、リーフブレード、アクアテール、つるぎのまい
[思考・状況]
基本行動方針:もうどうでもいいのでトウヤの思うが儘に

591革新的に生まれ変われ ◆vV5.jnbCYw:2022/06/23(木) 19:21:43 ID:7gBKfjIk0
投下終了です

592 ◆RTn9vPakQY:2022/07/11(月) 20:16:08 ID:8B/C06tU0
投下乙です。感想です。

エレクトリック・オア・トリート
千早を心配するエアリスと、屁理屈で捜索をやめようとするゲーチス。
扱いなれたポケモンで背後から不意打ちをかまし、マテリアを奪って眠らせる。
もはや手段を選ばない、選んでいられないゲーチスの小物感が存分に出ていて良いですね。
エアリスを警戒しすぎてとどめを刺さずに去ったのが、後ほど響いてこないといいのですが…。


崩壊の序曲
9Sは睡眠という観点から人間とアンドロイドの差異を感じ、守るべき人間について再認識する。
それから健気にも人間を守ろうと周囲を巡回していたところで、人間を逸脱したセーニャと邂逅するという不運。
状況が上手く把握できずノイズが走る、という演出は、9Sの特異性が現れてて好きです。

セーニャもいよいよ人間をやめてきていて、高威力の魔法を自分の身体もいとわずバンバン撃つのがシンプルに脅威すぎる。
>「どうして?お姉さまのため……カミュさん……ハンターさん……クラウド……ああははははは殺すはハハはは黒マテリアははハハハハは殺すハひひひひひひ!!!」
ここほんと可哀想。


Magical Singer 風と空と太陽と
Magical Singer 盗めない心
美しい世界をみとめて歌い出す千早。「眠り姫」を歌わせるのは好きな演出です。
現実を正しく受け止めた上で、前へと進もうとする決意というものは、美しいものです。

全員を“歌”に絡めている部分が好きです。
イウヴァルトは、錦山の最期の言葉が響いている中で“歌”を耳にして、暗い感情に支配されてしまう。
ルッカもNも、なにかしら“歌”を耳にして思うところがある。
そして、千早にとって“歌”はかけがえのないもの。だからこそ、凶刃を前にして堂々とした発言ができた。

“歌の力”なんて言葉にすると陳腐に聞こえます。
しかし、歌は歌そのものだけではなく、歌い手の姿や聞き手の内心などが相互に干渉することで、作用をもたらすものだと思います。
ロイヤルバッジにより奇跡が起きたのも、充分に納得できるものでした。
それでも、イウヴァルトは呪いから逃れられない。戦場と化した高校の今後が楽しみですね。


革新的に生まれ変われ
かつて共に旅をした相手だからこそ、ジャローダはトウヤの戦術を読み、裏をかこうと試みる。
しかし、それ以上にトウヤは成長していた。このままでは倒せない。
そこからの、ホメロスや陽介の姿を糧にして“変化”をし、空高く跳び上がるジャローダ。その姿は、想像すると美しいものでした。
それでも!それでも、なお届かないトウヤの成長性が何より恐ろしい。

>「俺に生きる喜びを教えてくれて、ありがとう。強いポケモンを工夫して捕らえる喜びを思い出させてくれて、ありがとう。」
本当に喜んでいそうなのもあって、非常に恐ろしいと思いました。

593 ◆RTn9vPakQY:2022/07/11(月) 20:17:43 ID:8B/C06tU0
星井美希 予約します。

594 ◆RTn9vPakQY:2022/07/18(月) 11:54:38 ID:OlDjBoDc0
予約を延長します。

595 ◆RTn9vPakQY:2022/07/25(月) 21:43:56 ID:86esDh7M0
遅れて申し訳ありません、前編を投下します。

596夢見る少女じゃいられない(前編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/25(月) 21:45:24 ID:86esDh7M0
「――ちゃん、起きて」
「……」
「――美希ちゃん!」
「……あふぅ」
「よかったぁ……おはよう、美希ちゃん」
「ん……雪歩……おやすみなの」
「寝ちゃダメだよ、美希ちゃん!?
 もうレッスン場が閉まっちゃうから、出ないと……」
「む〜、もうそんな時間なの?」
「はう!ご、ごめんね、待たせちゃって……。
 私ばかり何度もレッスンし直したから……。
 結局、終盤はほとんど私のソロレッスンみたいになっちゃって……。
 美希ちゃんはどの振りも一発オッケーだったのに、私本当にダメダメですぅ……」
「まったくなの」
「うぅ……」

「それにしても、ミキと雪歩のユニットなんて珍しいよね」
「そうだね……で、でも、私と美希ちゃんだと不釣り合いだし、やっぱり辞退した方がいいかな……」
「ミキは楽しみだよ?」
「えっ、楽しみ?」
「うん。ミキは気づいたの。765プロのみんな、それぞれ個性があるって」
「個性……」
「ミキ、勉強もスポーツも、なんでもやればできるって、学校の先生に言われたことがあるんだ。
 でもそうじゃないの。同じ歌は歌えても、ミキは雪歩にはなれないし、他のみんなにもなれない」
「……」
「それが、個性。その個性をかけあわせたとき、もっとドキドキするんだ」
「かけあわせる……ユニット、ってことだよね」
「ピンポーン!だから、雪歩とのユニット、楽しみなの」
「美希ちゃん……。私も個性を出せるように……あと足をひっぱらないように、がんばるね!」
「がんばるの!」





「ふあぁ……よく寝たの。やっぱり事務所のソファは最高なの」
「おや、美希。いま帰るところですか?」
「うん。貴音は屋上に用?」
「ええ。今宵は月がよく見えるので、少し見ていこうかと」
「ふーん……」
「美希もどうです?」
「じゃあ、せっかくだし行ってみるの」
「ふふっ……では、行きましょう」

「うわぁ、本当に月がおっきいの。
 そういえばお姉ちゃん、今日はスーパームーンだって言ってたかも」
「月は古来より、多くの人の心を捉えてきました。
 かぐや姫の伝承しかり、ウサギが住むという言い伝えしかり」
「十五夜のお団子もそうだよね」
「ええ。では、どうしてそれほど月は魅力的なのだと思いますか?」
「うーん……キレイだからかな」
「それもあるでしょう。しかし、それだけではないと私は考えています」
「じゃあ、どうして?」
「月を見る人は、月に自分自身を重ねているのです」
「自分自身を重ねる?どういうこと?」
「月はみずから光ることはできず、太陽の光を反射して光っています。
 すなわち、他者の力がなければ輝くことのできない存在ということなのです」
「……言われてみると、そうかもね」
「ええ。この私も、プロデューサーをはじめ多くの方々に助けられて、アイドルをしている」
「そっかー。だから月に自分自身を重ねているんだね」
「そう……ただ、中には特別な人もいると思います」
「特別な人?」
「みずから強い光を発して、周囲を光らせる……太陽のような人です」
「ふーん……」
「ふふっ。小難しい話をしてしまいましたね」
「ううん。なんとなく、わかる気がするの」




597夢見る少女じゃいられない(前編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/25(月) 21:47:10 ID:86esDh7M0



 静謐な空気に包まれた美術館の、入口から近い展示室にて。
 眠りから目覚めた美希はゆっくりと、床から上半身を起こした。
 カメラのピントが合うように、ぼんやりとした視界がクリアになっていく。
 そうして、ここがレッスン場でも事務所でもなく、美術館であることを思い出す。

「さっきまでの、夢?ってコトは……」

 先程まで見ていた光景は、それを夢だと認識したとたんに、美希に悪い想像をもたらした。
 雪歩や貴音が夢に出てきたのは、いわゆる予知夢のようなもので、何かの予兆ではないか。
 最初の放送で春香の名前が呼ばれたように、雪歩や貴音にも良くないことが起きているのではないか。

「そんなの、やなの!」

 これまで美希は、大切な存在を喪う経験などしたことがなかった。
 家族は両親も姉も健在で、そもそも“死”に触れた経験自体ゼロに等しいのだ。
 加えて、天海春香を喪ったからこそ、仲間を喪いたくないという気持ちが何より強い。
 ただの夢であってほしいと思いながら、周囲を見渡す。カミュとハンターの二人は床で寝ていた。
 誰かに相談したかったが、ナインズくんの姿はなかった。ケータイも無いから、メールを送ることもできない。

「……ううん、悩んでもしかたないの。
 たしか亜美と真美もそんなカンジで歌ってたよね」

 美希は双海亜美と真美ふたりの持ち歌を脳内で再生して、不安な気持ちを紛らわせる。
 生まれつきのマイペースさもあって、悪い想像を抑え込むことに成功する。
 そのとき、近くで落ち込んだ声がした。

「むううん」
「あれ?おはなちゃん、しょんぼりしてるの」

 おはなちゃんことムンナは、美希の近くでふわふわと浮いていた。
 その頭から出ている煙は、これまでのピンク色とは微妙に異なっている。
 煙はわずかに黒みを帯びており、その表情にも陰りが見える。

「うーん。どうしたんだろ?」
「むうぅん……」

 美希はムンナの頭部をやわらかく撫でた。しかし、反応は鈍い。
 全身をくまなく観察してみても、わかりやすい怪我の傷や病気の兆候は見られない。
 こうなると美希には判断がつかない。なぜなら美希には、ポケモンどころか一般的な動物の知識もろくにないのだから。
 それでも頭をひねって考えると、あるひとつの可能性に思い至る。

「あ!もしかしたら、イヤな夢でも見たのかも。どう?おはなちゃん」

 美希と同様、悪夢を見てしまったせいで落ち込んだのではないか。
 そう問いかけても、ムンナの表情は変わらない。
 どう対処したものかと、美希は首を傾げる。

「そうだ、こんなとき響なら……!」

 美希はふと、同じアイドル仲間の我那覇響がしていた話を思い出した。
 響は何匹もの動物たちと暮らしており、普段は仲がいいが、たまにケンカをすることもあるという。
 ケンカのあとはどうしても、響自身も動物たちも、気分が落ち込んでしまう。
 そんなときに、響はいつも得意の歌やダンスの力を借りるのだそうだ。
 浮いているムンナに手招きをしながら、美希は口ずさむ。

598夢見る少女じゃいられない(前編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/25(月) 21:51:54 ID:86esDh7M0
「MOONY GOOD NIGHT 真夏に光る〜♪」

 いわく、楽しい雰囲気を好むのはヒトもイヌも変わらない。
 歌やダンスを楽しむことで、自分自身も周囲の動物たちも楽しい気分になるのだと。

「お月様 お願い良い夢を〜♪」

 表情に陰りがあるのは落ち込んでいるからだと、美希は判断した。
 ムンナを膝の上に置いて、頭部を撫でながら、やさしく語りかけるように歌う。
 選んだのは、美希の楽曲のレパートリーの中でも、とくに穏やかであり、夢見心地になれる曲だ。

「むううん!」
「おはなちゃんもいっしょに歌うの!」
「むぅ〜ん♪」
「あはっ!」

 膝の上のムンナは美希の歌に合わせて、ぴょこぴょこと身体を左右に揺らしはじめた。
 目を細めながら調子外れな音を出すさまを見て、美希もつられて笑顔になる。
 それからまるまる一曲、美希はムンナと心ゆくまで歌を楽しんだ。





 ふむ、あの娘以外の二人は眠り、もう一人は美術館の外。
 しばらく頃合いを見計らっていたが、この好機を逃す手はあるまい。


 あのとき塗料にし損ねた人間が現れたときには驚いたが……。
 わらわに気づいた様子もない。今度は確実にまる飲みにしてくれよう。


 それにしても……この身はいちど消滅したはず。
 それを復活させていただき、ふたたびお役に立てるとは、まさに無上の喜び。


 あの方からは「首輪をはめた人間を吸収しろ」と命じられた。
 その理由まではわからないが……もとより、偉大なるあの方を疑う必要などない。


 あの方の寛大なお心遣いは、わらわへの信頼あってこそ。
 そうであるならば、その信頼に応えることで感謝の意を示すべきだろう。


 さて、まずは能天気な娘からだ。
 寝ている男どもに比べれば、まだいい色になりそうだ。


 カカカ……ひとりずつ塗料にしてくれる。
 この美術館を訪れたのが、貴様らの運のツキよ。





「ふう……」

 美術館の女子トイレの洗面台で、美希は一息ついた。
 ひとまず、ムンナのテンションを元通りに戻せたことに安堵していた。
 ムンナには美希がトイレに行く間、カミュとハンターの様子を見てもらっている。

「それにしても、カミュもハンターさんも、ぐっすり寝てたの」

 二人の寝顔を思い出しながら、蛇口をぐいと回す。
 美希とムンナの歌声を聞いても、起きるそぶりを見せなかった二人。
 彼ら二人はこの美術館に来るまでに、激しい戦闘を繰り広げたと話していた。

「ほんとうに疲れてたんだね。ご飯モリモリ食べてたし。
 あ、ちゃんとセッケン付けないと、律子…さんに叱られちゃう」

 備え付けのハンドソープのポンプを押す。
 765プロの事務所では、体調管理の一環として手洗いの習慣化を促されていた。
 面倒で適当に済ませてしまう美希は、ルールを決めた秋月律子から説教されることもしばしばあった。
 たあいのない日常のひとコマを思い出して、美希は笑みをこぼした。

「そうだ、ナインズくんどこ行ったんだろ。眠くないのかな。
 あれ?アンドロイドは寝なくても平気、って言ってたっけ?」

 しっかりと泡立ててこすり、流水で泡をすすぐ。
 美希たち三人が寝ていた部屋に、9Sの姿はなかった。
 さきほどまでの会話の流れからすれば、三人を放置して去るとは考えにくい。
 それに、9Sから美希へとされた宣言のこともある。

599夢見る少女じゃいられない(前編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/25(月) 21:53:49 ID:86esDh7M0
「貴方を護ります、かぁ……。
 そんなこと言われたの、はじめてかも」

 ゆっくり流れて消えていく泡を、じっと見つめる。
 数時間前、美希と9Sの二人は互いに約束を交わした。
 独りにしない。その言葉に込められた感情は異なるとしても。

「ナインズくんは、ウソはつかないって思うな」

 その言葉に嘘偽りは無いことだけ、美希は確信している。
 ただし、不安要素もある。9Sの精神は安定しているとは思えない。

「……いなくなったり、しないよね」

 ヨルハとは何なのか。
 9Sは何を抱えているのか。
 記憶を取り戻すことで、何が起こるのか。
 どれも、美希には見当もつかないことだった。

「……あっ」

 備え付けのハンドペーパーで濡れた手を拭いて、ゴミ箱に投げ入れる。
 丸めたペーパーはゴミ箱のふちに当たり、床にぽとりと落ちた。

「……」

 無言のままそれをひょいと拾い上げて、あらためてゴミ箱へと入れる。
 ただそれだけのことなのに、美希の手は震えていた。疲労ではない。
 脳裏に浮かんできた9Sの言葉が、美希の不安を噴出させたのだ。

「とにかく、このままだとダメ」

 美希はそう呟いて、洗面台の鏡にうつる自分を見つめた。
 胸元にチョウの模様をあしらったグリーンのキャミソールと、紺色のスカート。
 いつもとまるで変わらない、そのままの星井美希がそこにいる。

「今のままだと、なにかあったときに動けないの」

 このまま、9Sに護られているだけの状況ではいけない。
 互いに大切な約束を交わしたのだから、美希も9Sの力になりたい。
 美希の心には、これまでに交わした約束よりも能動的な感情が芽生え始めていた。

「ミキもナインズくんを護りたい。
 でも、そのためには戦えないといけない……」

 ぽつりぽつりと呟いて、美希自身のするべきことを確認する。
 目標のオーディションに合格するためには、レッスンが必要不可欠。
 アイドル活動を初めたての頃の美希は、そんな当たり前のことも知らなかった。
 しかし、初の単独ライブを終え、プロデューサーから新人卒業と評された今の美希は違う。
 目標達成のためには行動が必要だと身に染みて知っている。だからこそ、するべき行動を導ける。
 現状の美希にとって、目標とは護ること、そして行動とは戦うことだ。

「だから、ナインズくんには止められたけど、これを……」

 ゆえに、美希は行動を選択する。
 洗面台のそばに置いた、とある支給品を見つめる。
 支給品を確認した9Sからは使用を控えるように言われたアイテム。
 いずれ使用することになるかもしれないそれを握りしめて、美希は再び鏡へと視線を移した。
 すると、知らない幼女が鏡に――しかも美希の背後に――写り込んでいた。

「わっ、びっくりしたー」

 少し驚いて振り向くと、トイレの入口付近に幼女が佇んでいる。
 服装は洋風で、低身長の高槻やよいと比べても背が低い。年齢は十歳にも満たないだろう。
 とつぜん現れた相手に、どう対応しようかと逡巡している間に、幼女の方から声をかけてきた。

「お姉ちゃん。わたしのパパとママ、知らない?」
「パパとママ?……キミもここに連れてこられたの?」
「え?ええと……よくおぼえてない。
 この美術館にパパとママといっしょに来たんだけど、はぐれちゃって」

 目元を拭うしぐさをするメルを見て、美希は弱ってしまう。
 小学生の女の子から告白されたこともある美希だが、励ましたり慰めたりするのは不得意だ。
 もし三浦あずさならどうするか。美希はあずさのことを思い浮かべながら、言葉をかけることにした。

「……迷子になっちゃったんだね。キミ、名前は?」
「わたし、メル……ぐすっ」
「メル……かわいい名前なの」

 両親とはぐれて、いつの間にかここに辿り着いていたと、涙声で話すメル。
 そんなメルの様子を眺めた美希は、わずかながら違和感を覚えた。

「……?」

 メルの話によると、メルは美術館にパパとママと来て、いつの間にかはぐれたという。
 しかし、ずっと美術館にいたのにもかかわらず、美希は誰の姿も確認していない。
 そして他の三人も、誰一人として親子の話などしていない。

600夢見る少女じゃいられない(前編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/25(月) 21:55:51 ID:86esDh7M0
「お姉ちゃん、おねがい。パパとママを探して!
 きっとこの美術館のどこかにいるはずなの……」
「うーん、そう言われても……」

 美希は当惑を隠さずに口ごもる。
 わずかな違和感は疑惑へと変わりつつある。
 それに、言葉だけではなく、見た目にも違和感がある。
 このままメルという幼女を素直に信じるべきか否か、美希は決めかねた。

「……あっ!思い出した!」
「え?」
「パパとママがいなくなる前、きれいな絵を見てたよ」
「きれいな絵って、どんなやつ?」
「えっと、ろうかにあった美人さんの絵」
「廊下……ああ、そういえばあった気がするの」

 美希は古めかしい女性の絵画のことを思い出した。
 横を通り過ぎたとき、視線のようなものを感じたことも。
 そのときに抱いた率直な感想を、つい口にしてしまった。

「ミキ的にはあの絵、あんまりイケてないって感じ」
「…………」
「美人ではないと思うの」
「ねぇ、パパとママのこと、探してくれないの?」

 小首をかしげて尋ねてくるメル。
 その雰囲気に剣呑さが増したことを、美希は肌で感じていた。

「ううん。でも、いちどナインズくんに尋ねてから……」
「もういい!」
「あっ、メル!?」

 慎重な策を取ろうとした美希の言葉を遮って、メルはトイレを飛び出した。
 そして、カミュとハンターの寝ている部屋とは反対方向、女性の絵画のある廊下へと向かう。
 まるで美希の態度に業を煮やしたように。

「……」

 美希は考える。メルが虚偽の発言をしている疑惑はある。
 しかし、本当にメルが両親とはぐれている可能性も否定はできない。
 その場合、メルの両親には姿を現わせない理由があることになる。監禁されているのか、さもなければ――。

「――それは、ダメなの!」

 メルの両親は殺害されている可能性がある。そのことに思い至り、美希は駆け出した。
 独りになったメルが、もし危険な人物と遭遇してしまったら。美希は絶対に後悔する。
 ほどなくして、女性の絵画のある廊下へと辿り着く。付近には誰もいない。

「これ、だよね……」

 あらためて目にした女性の絵画は、やはり美希のセンスとは相容れない。
 解説文によると、壁画の模写らしい。そのためデザインや配色はシンプルだ。
 美希にしてみれば、面白味のない絵画だという、その評価は変わらなかった。
 それよりも、と美希は周囲を見回す。メルも近くにいるはずだった。

「お姉ちゃん、来てくれたんだね」

 すると背後から、幼い声をかけられた。
 メルの無事を確認して、美希はひとまず安堵する。

「メル!よかったの……」

 振り向いた美希。その安堵は即座に警戒心へと変化する。
 メルが悠然と構えていた。怯えた態度など、毛ほども感じられない。

「あはは……ははは……」
「!?」

 とつぜん笑い出したメルを、美希は理解できずにいた。
 このときの美希に不足していたもの、それは何よりも経験である。
 これまでに異常事態を経験してきた者であれば、あるいはその場から離れることもできたかもしれない。
 そう、カミュやハンター、あるいは9Sであれば。

「カカカ……カカカカカ……!」

 しかし、美希は態度を急変させたメルに意識を割いてしまった。
 そのせいで、絵画から――正確には女性の胸元にあるカギから――放たれた怪しい光に反応するのが遅れた。
 哄笑しながら雲散霧消していくメルと、驚愕する美希。

「えぇっ――!?」

 そして思考よりも速く、まばゆい光は美希を飲み込んだ。




601夢見る少女じゃいられない(前編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/25(月) 21:57:46 ID:86esDh7M0
「うっ……ここは……?」

 気がつくと美希は奇妙な場所に倒れ込んでいた。
 そこは石造りの歩道のようで、ただし中空に浮いていた。

「不気味なところなの……」

 恐怖心に身震いして、美希は周囲を見渡す。
 まっすぐ伸びた歩道には、等間隔で炎が揺らめいているものの、それでも暗い。
 そして、歩道以外の周囲の空間は、その上下左右すべてが暗雲に包まれていた。

「ナインズくん!カミュ!ハンターさん!」

 大声で名前を呼んでも、返事は無い。
 目を凝らすと、前方に人影らしきものが見えた。
 美希は駆け出した。今は誰かと合流するのが最善だ。
 ゆっくりと近づいてくる人影。その輪郭と容姿が次第に明瞭になる。

「ひっ……!な、なにコレ!?」

 土気色の肌。ぎょろりと飛び出た眼球。開いた口の隙間から垂れるよだれ。
 リビングデッド。それは生者を呪うために墓場よりよみがえった、ゾンビである。
 美希の全身に怖気が走る。嫌悪感はもちろん、強い悪意に触れること自体、初体験だった。

「こいつら、何匹もいる!?」

 リビングデッドは背後を向いて手招きのような動きをした。
 すると、地中から同じリビングデッドが這い出てきた。
 その数は二体、三体と次第に増殖していく。

「近寄らないで欲しいの……っ!」

 リビングデッドの動きは緩慢ではあるものの、明確に美希を追跡している。
 このまま歩道に留まっていても、体力が尽きて捉えられてしまうことは容易に想像がついた。
 なおも増え続けているリビングデッドを遠巻きに見て、美希はひとつ息をついた。

「もう……ぶっつけ本番だけど、やるしかないの!」

 美希は震える手で、あるアイテムを髪に装着した。
 それは“シルバーバレッタ”と呼ばれる銀の髪飾り。
 その穴には既に、マテリアがひとつセットされている。

「……」

 マテリアの使用方法は、解析した9Sから説明を受けていた。
 目を閉じて、9Sの説明を思い出す。曰く、精神を集中させるのだと。

(集中……集中するの……)

 美希は魔力という概念を知らない。
 それでも、アニメや漫画で魔法を使うときのイメージを脳裏に浮かべる。
 相手に魔法を命中させる。その一心で、精神を極限まで集中させていく。

「いっけー!サンダー!」

 そうして放たれた雷の魔法は、リビングデッドの群れへと降り注いだ。
 ほとばしる光は、死体の精神と肉体を駆け巡り、電気信号を遮断する。
 リビングデッドの動きは止まり、そのまま崩れ落ちた。

「ハァ……ハァ……」

 一方の美希は、肩で息をしていた。
 魔力を持たない人間にとって、魔法の行使は体力を消耗する行為だ。
 サンダーは下位の魔法であるが、それでも美希の体力の消耗は著しい。

「でも、なんとか……」
「カカカ、無駄な抵抗よ」

 リビングデッドを一掃できた、その事実に安堵したのも束の間。
 天から不気味な声が降る。その笑い方に、美希は聞き覚えがあった。

「メル……!」
「カカカ、ただの人間かと思えば魔法を使えるとは。
 驚かせてくれる……しかし、威勢がいいのもここまでよ」

 指パッチンのような音と同時、歩道の向こうからモンスターが現れた。
 美希は息をのむ。リビングデッドには嫌悪感を抱いたが、このモンスターには違う感情を抱いた。
 それは暴力への恐怖。四本の腕はどれも丸太と見間違うほどの剛腕で、トゲつきのグローブを嵌めている。
 マッスルガード。頑丈な肉体を活かした攻撃を主とするモンスターである。

「そんな……」
「おぬしの首であれば、掴んだだけでへし折れるであろうな」

602夢見る少女じゃいられない(前編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/25(月) 21:59:10 ID:86esDh7M0
美希はへたり込む。その目には絶望が浮かんでいた。
体力的に、もういちど雷の魔法を唱えることはできない。
なまじできたとしても、その場で体力が尽きて倒れてしまうのは確実だ。

「もうダメ、なの……?」
「カカカ……」

 勝利を確信した笑い声を、どこか遠くに感じながら、美希は目を閉じた。
 マッスルガードの装着した鎖から鳴る、ガチャガチャという音が近づいてくる。

(これじゃあ、ぜんぶ中途半端になっちゃうね……。
 ナインズくんとの約束も……おはなちゃんのことも……)

「むううん!」

「――え?」

 美希は聞き覚えのある声に、驚いて目を開けた。
 するとそこには、サイケこうせんを真正面から食らい、仰向けに倒れ込むマッスルガードの姿があった。
 勢いよく振り向く。そこにはおはなちゃんことムンナの姿があった。
 美希は満面の笑みを浮かべて、ムンナへと駆け寄った。

「むううん」
「おはなちゃん!助けに来てくれたんだ!」
「むう〜ん」
「ありがとーなの!本当に……」

 涙目の美希はムンナをぎゅっと抱きしめた。
 その頭上から、ふたたび不気味な声がかけられた。

「ほう。モンスターをそこまで飼い馴らしていたか。
 つくづく貴様は予想外の存在よ。ならば、わらわみずから吸収してくれる!」

 美希は頭上を仰ぎ見た。今は警戒を緩めるべきときではない。
 天の不気味な声は、まだ余裕綽々の態度を崩していないのだ。
 魔力と呼ぶべきエネルギーが、その空間に凝縮していく。

「わらわは美と芸術の化身メルトア!
 貴様はこの場所で、わらわの塗料となり果てるのだ!」

 宣言の直後、絵画の女性に似た雰囲気の、緑髪の巨大な女性が空中に出現した。
 青と紫を基調とした西洋風ドレスに、黄金の王冠と胸元に光るカギ。
 さながら王女のような佇まいで、見るものに威圧を与えている。
 メルトアの深紅に光る双眸が、美希とムンナをじっとにらんだ。

「しかし残念だ、メインディッシュが控えているのでな……。
 ゆっくり味わうことはできそうにない。すぐに吸収してやるわ」
「メインディッシュ……?ナインズくんたちのこと!?」
「カカカ!さて、どうかな?」
「そんなこと、絶対させないの!」
「むううん!」

 美希はメルトアに対して毅然と言い放つ。
 ムンナと合流できたことで、絶望感は和らいでいた。
 圧倒的な大きさの敵に対しても、立ち向かえるくらいには。

「カカカ。子供とはいえ愚かよのう。
 よいか?わらわに吸収されることで、貴様は絵の塗料となるのだ。
 わらわという至高の芸術を彩れることこそ、すばらしい幸福と知れ!」

 そう言い放ち、メルトアは深紅の瞳を閉じた。

「むううん……!!!」
「うん、なにか来る……!」

 美希はムンナの声に応じて、メルトアをじっと見つめた。
 ムンナは特性の“よちむ”で、美希は直感的に、メルトアから危険を感じ取る。
 しかし、それに対応するよりも、メルトアの瞳が開かれる方が、圧倒的に早かった。

「むううん!」
「マズいの!」

 メルトアの瞳から高熱のレーザーがほとばしった!

603 ◆RTn9vPakQY:2022/07/25(月) 22:01:12 ID:86esDh7M0
以上を前編といたします。
後編は推敲の上、明日7/26日中に投下いたします。
大変お待たせすることになってしまいますが、ご容赦ください。

現時点で、誤字脱字・気になる点などございましたら、ご指摘お願いいたします。

604 ◆RTn9vPakQY:2022/07/26(火) 23:27:15 ID:9NW5E1Lw0
すみません、もう一日お時間延長いただきたいです。

605夢見る少女じゃいられない(後編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/27(水) 23:58:19 ID:gVk1Zg8U0
後編投下します!

606夢見る少女じゃいられない(後編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/28(木) 00:01:37 ID:OUX/e6k20



「あっ、みつけた!」

「わわわっ、ごめんねえ!おどろかすつもりはなかったの」

「怖がらなくてもいいよ。ほら、きずぐすり」

「これで回復してあげるね!……うん、これでよし!」

「よかったら、これもどう?ミックスオレ」

「甘くてすっごくおいしいよ!」

「はい、どうぞ!」

「……ねえねえ、あたしのポケモンにならない?」

「あたし、こないだ旅をはじめたばかりだし、おっちょこちょいだし」

「まだやりたいこともみつかってないけど……」

「でも、あなたと一緒に旅したいって、思ったの!」

「夢をみせるってステキだし、それにカワイイんだもん!」

「あっ、ごめんね。あたしばっかり話しちゃって」

「……どうかな?」





「おはなちゃん!おはなちゃん!」

 ぐったりと地面に転がるムンナと、その名前を呼ぶ美希。
 メルトアから放たれた高熱のレーザーは、ムンナに当たっていた。
 ムンナの肌が火傷のようにただれているのを見て、美希はくちびるを噛みしめた。
 美希を護るために、ムンナが身を挺してレーザーをその身に受けたのだと理解したからだ。

「カカカ……飼い主の盾となったか。けなげなことよ」

 言葉とは裏腹に、あざけるような声色のメルトア。
 きっとにらみつける美希だが、メルトアは意に介した様子もない。

「正面から食らったのだ。無事ではあるまい……なに!?」
「……むう」
「おはなちゃん!」

 悠然と構えていたメルトアの表情が揺らぐ。
 ムンナは傷を負いながらも、ふたたびメルトアと対峙していた。

「おはなちゃん、大丈夫なの……!?」
「むううん」

 心配して声をかける美希。ムンナの返事は先程よりも弱い。
 かなり無理をしていることは、誰の目から見ても明らかだった。

「……小癪なモンスターめ!」

 いうが早いか、メルトアのレーザーがムンナを襲う。
 二度目の直撃に、ムンナは苦しげな声とともに吹っ飛ばされた。

「おはなちゃん!」
「……む……むう」

 ムンナへと駆け寄り、息をのむ美希。
 美希は惨たらしい傷跡を見たわけではない。
 ムンナの身体が、ほのかな光を帯びていたのだ。

「これが、つきのひかり……?」

 美希は数時間前に9Sから聞かされていたことを思い出す。
 9Sはモンスターボールを解析した際、ついでにとムンナの覚えている技も分析していた。
 ボールと同梱の説明書に書かれていた技のうち、サイケこうせん以外は用途が不明だった。
 その技のひとつが、つきのひかりである。体力回復のための技だと9Sから説明を受けた。
 たしかに月光のように柔らかい光だと、実際に目にしてすなおに感じた。
 最初のレーザーの直撃後にも、この技を使用したのだろう。

「……むううん!」

 よろよろとしながらも、メルトアへと近づくムンナ。
 その姿を見て、気持ちを察して、美希は拳をギュッと握りしめた。
 どれだけ体力を回復したとしても、痛みを感じなくなるわけではない。
 レーザーに吹っ飛ばされて地面に転がって、痛くないはずがないのだ。

607夢見る少女じゃいられない(後編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/28(木) 00:05:33 ID:OUX/e6k20
「……」

 三度目のレーザーは、もはや言葉もなく放たれた。
 ムンナの意地か、わずかに直撃したその場で耐えたものの、結局は数メートル飛ばされてしまった。

「む……う……」
「……おはなちゃんっ!」

 起き上がろうとして、いよいよ力尽きたように倒れるムンナ。
 美希はムンナのもとへと駆け寄ると、その身体をやさしく抱き上げる。
 ひどく傷ついたムンナ。その呼吸は浅く、危険な状態だと直感した。

(とにかく、ここから逃げないとなの!)

 美希とムンナは、互いにかなり消耗している。
 この状況を打開する方法は、今の美希にはない。
 それならば、取るべき手段はひとつ。逃げの一手である。

(でも、どうする?すなおに逃がしてくれるワケないし……)

 美希は弱々しいムンナを撫でると、周囲をチラッと見た。
 石造りの歩道は遠くまで続いており、道中に人影らしきものが複数ある。
 歩道を進んでいく場合は、人影らしきもの、つまりモンスターへと対処することになる。

(……ううん、逃げるのは難しい。なら時間を稼ぐしかないの。
 ナインズくん、カミュ、ハンターさん……誰かは異変に気づいてくれるはず)

 考えた末、美希は時間稼ぎという消極的な手段を取ることにした。
 手負いのムンナを抱えた上では、思い切った行動も取りづらいからだ。
 悪意をむき出しにしたメルトアを相手にして、どれだけ時間を稼げるかが勝負だ。
 ゆっくりと深呼吸して、美希はメルトアと対峙する。

「カカカ。ずいぶん手のかかるモンスターだ。
しかしそれだけが原因でもあるまい。あの方より頂いたチカラも万全ではないか……」
「……あの方?」

 余裕の態度を見せつけるメルトアの発言に、美希は違和感を抱いた。
 その違和感の詳細について詳しく考えるよりも速く、口をついて質問が出た。

「……ねぇ!あの方って誰?」
「カカカ、知る必要もないことだ」

 けんもほろろなメルトアの応対に、美希は食い下がる。

「……きっと、かなりスゴイ人なんだね」
「そうだとも。この世でもっとも偉大な、わらわの愛しき方よ……」

 褒められて気をよくしたのか、メルトアは語り出した。
 もとは単なる美女の壁画であったが、あの方に生命を与えられ造り出されたこと。
 あの方から賜った「次元を超えて人間を吸収するチカラ」を用いて暗躍したこと。
 かつて栄華を誇ったプワチャット王国を滅亡させるあの方の策略に協力したこと。
 美希は話に適当な相槌を打つことで、時間稼ぎをはかる。

「しかもあの方は、いちど消滅したわらわを、ふたたびこうして――」
「うんうん」

 それまで調子よく話していたメルトアが、我に返ったように言葉を切る。
 わずかに恥じるように、コホンとひとつ咳払いをするメルトア。

「……少々、話しすぎたようだ」

 眼光には冷徹さが戻り、美希は射竦められる心地がした。
 そのメルトアから美希に対して、無慈悲な宣告が行なわれる。

「さあ、神への祈りは済ませたか?」
「……するつもりはないの!」

 美希は毅然と反論したものの、未だに打開の手立てはない。
 ほほに一筋の汗が垂れる。いよいよとなれば、体力が枯渇するのを覚悟でサンダーを放つしかない。
 美希の胸に抱かれたムンナのことを一瞥し、メルトアがあざ笑う。

「その盾も、もはや使えまい」
「これはおはなちゃん!盾じゃないの!」
「カカカ……最期までおろかな小娘よ。では……おや?」
「えっ!?」

608夢見る少女じゃいられない(後編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/28(木) 00:07:50 ID:OUX/e6k20
 メルトアの深紅の瞳が、攻撃のために閉じられようとしたとき。
 美希とメルトアは、ほとんど同時に気づいた。ムンナの様子がおかしい。
 身体全体が、奇妙に震えているのだ。

「……むうっ!」

 傷ついていたムンナが、ひとつ鳴き声を上げる。
 すると、ムンナの身体が発光し始めた。

「なにこれ!?」

 美希は驚き、抱いていた手を離してしまう。
 ムンナは空中に浮遊した状態で、光り続ける。
 つきのひかりとも違う、それよりも強力な輝き。

「……なんだ?」

 メルトアは警戒したのか、瞳を閉じるのを止めていた。
 ムンナの身体は、発光しながら風船のように膨張していく。
 やがて、まばゆい光が収まるにつれて、ふたたび姿が現れる。

「むしゃあ!」

 ムンナはムシャーナに進化した!





 いったいなぜ、おはなちゃんことムンナは、このタイミングで進化を遂げたのか。
 その疑問を解消し得る推論を提示するためには、まずポケモンの進化の条件を紐解く必要がある。

 ポケモンの進化の条件は、長年にわたり研究され続けている。
 現状における進化の条件は大きく分けて三種類。レベルアップ、進化専用の道具、通信交換である。
 この三種類は、さらに条件を細分化することが可能である。レベルアップであれば、特定の場所に赴いた上でのレベルアップや特定の技を習得した上でのレベルアップ、ポケモンがトレーナーに対して充分になついた上でのレベルアップ、などが挙げられる。
 これ以外にも、数年に一度の周期で新たな進化の条件が発見されていることから、ポケモンの進化の条件には無限の可能性があるといっても、過言ではない。

 それでは、問題となるムンナの進化の条件は何か。
 それはもちろん、進化専用の道具である石のひとつ、“つきのいし”を使用することである。
 有識者の研究によれば、“つきのいし”をはじめとする進化の石は放射線を発している。そして、その放射線がポケモンの遺伝子に働きかけて進化を促すとされている。
 しかし、当該のムンナに対して“つきのいし”は使用されていない。となれば、別の要因によって進化したことになる。
 その要因たりえるものとは何か。ずばり、メルトアのレーザーである。

 レーザーとは、光を発生させる装置、またその装置を用いた光線のことを指す。
 レーザーは通常の光とは異なり、指向性と収束性に優れた、ほぼ単一波長の電磁波である。
 専門用語の詳細はさておき、ここでは“レーザーは電磁波である”という事実を重要視する。
 メルトアのレーザーは、当該のムンナの体表に接触し、焼け焦げたような傷を負わせている。
 このことから、メルトアのレーザーは高エネルギーを有していることは明らかだ。

 さて、高エネルギーと聞いて思い当たる人もいるだろう。そう、放射線である。
 放射線にはさまざまな種類が存在しており、その性質から電磁放射線と粒子放射線に大別される。
 そして、電磁放射線は読んで字のごとく、高エネルギーの電磁波であり、ガンマ線やX線がこれに該当する。
 ここでも専門用語はさておき“一部の放射線は電磁波である”という事実を重要視する。
 補足として、進化の石から出る放射線の種類は解明されていない。

 これまでに示した、端的な二つの事実から、ある推論を導き出せる。
 「メルトアのレーザーと進化の石の放射線は、ともに高エネルギーの電磁波であり、それがムンナの進化に関係している」というものだ。
 レーザーと放射線。この二つが同質であったため、当該のムンナはレーザーをその身体に受けたことで“つきのいし”を使用したときと同様に進化したと考えられるのだ。
 とはいえ、メルトアのレーザーの性質も進化の石の放射線の性質も、現実世界と同じ尺度で語れるものとは限らない。そして実測不可能である以上、この推論は机上の空論に過ぎない。
 ゆえに、これは不思議で満ちた世界の現象を、現実の世界に即して理解しようとしたときの、ひとつの可能性だ。

609夢見る少女じゃいられない(後編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/28(木) 00:09:33 ID:OUX/e6k20
 ここで、もうひとつの推論を挙げる。
 それは「星井美希がムンナの進化に関係している」というものだ。
 トレーナーを含めた周囲の環境が、ポケモンの生態および進化に対して影響を及ぼすことは珍しくない。
 前述したトレーナーに対するなつき度合いや、特定の時間帯ないし場所に起因する進化は、複数観測されている。
 あるいは、ポケモンの進化中には意図的な進化キャンセルを行なえるように、直接的な影響の及ぼし方もある。

 そして、ムンナの生態を見るに、周囲の環境から影響を受けやすいことは明白だ。
 ムンナとその進化系のムシャーナは、人やポケモンの見る夢を食べることで知られている。
 ムンナが夢を食べたあとは頭部から煙を吐き出すのだが、その色は夢の性質によって変化する。
 食べた夢が楽しい夢ならばピンク色の煙を、悪夢ならば黒っぽい煙を、それぞれ吐き出すのだ。
 これはムンナが実体のない現象であるところの“夢”に、多大な影響を受けていることの証拠だ。

 一方の星井美希は、ムンナと対照的に、周囲の環境に影響を与えるタイプの人間である。
 こう考える根拠には、星井美希がアイドルとして大勢の観客の感情を動かしてきた、という事実も当然ある。
 しかし、それだけではない。それ以前に、星井美希という人間には、スター性と呼ぶべきものが備わっているのだ。
 学校では男女問わず人気があり、とくに男子からは毎月数十人単位で告白を受けているとは本人の談だ。
 この数が問題で、数人ならまだしも数十人となると、単にルックスや性格が優れているというだけでは説明がつかない。
 すなわち、存在するだけで周囲の人間を惹きつけ虜にしてしまう、天賦の魅力。すなわちスター性が、星井美希にはある。

 無論、当該のムンナと星井美希とは、現状ポケモンとトレーナーの関係にはない。
 とはいえ、当該のムンナは星井美希から夢を摂取したり、歌やダンスを見て気分を良くしたりしている。
 このことから、本来のトレーナーに近しい雰囲気の星井美希に対して好感情を抱いていると推測することができる。
 これらの状況を総合すると、星井美希の歌声などに対して、当該のムンナの遺伝子が反応を見せた可能性も充分にあるといえる。

 閑話休題。





 目を閉じて空中に浮遊する、ピンクのモンスター。
 姿を変えたムンナ――ムシャーナに、美希はおそるおそる声をかけた。

「……おはなちゃん、なの?」
「むしゃあ」

 するとムシャーナは、くるりと振り向いてひと鳴き。
 会話や意思疎通は可能だと分かり、美希は胸をなでおろした。

「……驚いた。姿を変えるモンスターとは」

 メルトアの声は、苛立ちからか鋭さが増していた。
 何度レーザーをお見舞いしても復活してくるモンスターは鬱陶しいに違いない。
 それでいて、詳細不明のためうかつに攻撃をしかけられないことも、苛立ちを増幅させるだろう。
 これまでのメルトアの行動から、しばらくは様子見をするはずだと美希は判断した。

「おはなちゃん、ここから逃げるの!」
「むにゃ?」

 逃げるチャンスは今だと確信して、美希はムシャーナを抱きかかえた。
 そして、脱兎のごとくメルトアから離れようとする。

「させぬ……!」

 さすがにそれを看過するわけはなく、メルトアの指パッチンが鳴りひびく。
 集合してきた三体の屈強なマッスルガードに、美希は行く手を阻まれてしまう。

「くっ……」
「むしゃあ!」

 ムシャーナが意気を込めて鳴くと、マッスルガードたちは即座に入眠した。
 あくびよりも命中率は劣るが即効性の高い技、さいみんじゅつによる眠りだ。

「やったの!」
「むしゃ」

 美希は抱きかかえたムシャーナに声をかける。
 ムシャーナもそれに応える。目を閉じていてもちゃんと見えているようだ。
 この調子なら逃げ出せるかもしれない、という希望が美希の中に生まれる。

610夢見る少女じゃいられない(後編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/28(木) 00:11:57 ID:OUX/e6k20
(このまま走り抜けるの……!)

 勢い込んで、美希は歩道の先へと目線を向けた。
 そして歩を進めようとした美希の眼前を、レーザーが通り過ぎる。

(……!)

 美希はその場に立ち尽くした。
 一歩先にいたら、レーザーに貫かれていた。
 その恐怖で、両脚がすくんで動くことができない。

「調子に乗るでない、小娘ども。
 わらわの手からやすやすと逃げられると思うな」
「むしゃあ……」

 メルトアの威圧に対して、ムシャーナが鳴いた。

「なに!?」

 メルトアの驚愕の声に、美希は振り向いた。
 すると、メルトアの真正面に、暗い靄らしきものが浮かんでいる。
 驚いているということは、メルトア本人の仕業ではないと思われる。

(何が起こるの……?)

 漆黒の靄から現れたのは、奇妙な姿をした人影だった。
 しかし、それが人ではないことを、美希は即座に直感した。
 死人と見間違うほど青白い肌、トサカのような赤髪、側頭部の角。
 そして何より人間離れしているのは、全身から放たれる威圧的な気である。

「おお……ウルノーガ様!」

 頭を下げて畏まるメルトアの言葉で、美希は現れた人影の正体を理解した。
 同時に、ぼやけた記憶を取り戻す。この殺し合いを宣言したマナと、ともにいた人物だ。

(これは、本当にマズいの……)

 新たな来訪者に、美希の心から希望が消えていく。
 この殺し合いを主催している存在が目の前に現れれば、誰しも死を覚悟する。
 しかし、ウルノーガは美希たちには目もくれずに、メルトアの方へと向き、ひとことこう告げた。

「この小娘を逃がせ」
「えっ?」
「な……しかし、ウルノーガ様……!?」

 わかりやすく困惑しているメルトア。
 当事者の美希も、同じくらいに困惑していた。
 ウルノーガは無表情のまま、その大柄に見合う重低音を鳴らした。

「我の命令が聞けぬか?」
「……まさか!偉大なるウルノーガ様は絶対」

 ひどく恐縮したメルトアを見て、美希は思い至る。
 このウルノーガが、メルトアの話していた、あの方なのだろうと。

「そうだ。ならばわかるな?」

 有無を言わさないウルノーガの言葉。
 言葉をかけられていない美希でさえ、緊張で喉が渇ききっていた。
 メルトアの感じている重圧がどれほどのものかは、推して知るべし。
 その圧に、メルトアはそれ以上の口答えをせず、美希へと向き直る。
 そして、不満そうな表情をいっさい隠さずに、ゆっくりと重々しく口を開いた。

「……ウルノーガ様の命令だ。この場は見逃そう。
 しかし、わらわの美しさを侮辱したこと、忘れはせぬぞ」

 メルトアの胸元のカギが再び怪しく光る。
 暗い感情の込められたメルトアの声を聞きながら、美希は光に包まれた。





 女性の絵画の前で、美希は目を覚ました。
 身体を起こすと、美希の隣でムシャーナが寝息を立てていた。
 美希はクスリと笑って、ムシャーナをゆっくりと抱え上げる。

「お疲れ様なの」

 美希はムシャーナにねぎらいの言葉をかけた。
 ムシャーナがいなければ、おそらく美希の将来は断たれていた。
 命の恩人であるムシャーナの身体を撫でながら、もといた場所に戻る。

「あれ、カミュもハンターさんも、まだ寝てるの」

611夢見る少女じゃいられない(後編) ◆RTn9vPakQY:2022/07/28(木) 00:18:02 ID:OUX/e6k20
 時計の針は十時四十五分を指していた。そろそろ動き出す予定のはずだ。
 とはいえ、モンスターから悪意を向けられたり、初めて魔法を使用したりと、美希自身の疲れもかなり蓄積していた。

「あはは……もっとスタミナをつけておけばよかったの。
 元の世界に戻ったら、真くんにトレーニング教わろうかな」

 美希は水を飲みながら、菊地真の顔を思い浮かべた。
 卓越した体力の持ち主である真であれば、おそらくここまで疲弊はしていない。
 モンスター相手にも空手で立ち向かい、激闘の末に倒すことができるかもしれない。

「……ミキ、いままでラッキーだったんだね」

 美希はポツリと呟いた。
 この殺し合いが開始してから十時間以上、敵意や悪意と無関係に過ごしてきた。
 それは、放送で呼ばれた人数やカミュとハンターの話、そして先程の出来事を総合して考えると、かなり幸運だったのだ。
 敵意や悪意を向けられるのは、かなりしんどい。美希はすなおにそう思う。

「雪歩も貴音も、それに千早さんも……ラッキーだといいな」

 そう呟きながら、美希はとくに如月千早のことを想った。
 降りかかる辛さを内にしまい込む性質の千早にとって、この場所はストレス過多だ。
 誰か信頼できる人間と合流して、ストレスを軽減できていることを願うしかない。

「でも、これでミキも戦える。ナインズくんに護られるだけじゃなくなるの。
 サンダーも使えたし……疲れるけど。でこちゃんが見たら、きっといい反応するの……」

 美希の脳内に、魔法を見て困惑しきる水瀬伊織のビジョンが明確に見えた。
 それ以外も、取り留めのない思考が、美希の脳内に生まれては消える。

「そういえば、なんでウルノーガって人、ミキを見逃したんだろ……?」

 美希からすると、それがいちばんの謎であった。
 殺し合いを命じておきながら、メルトアが美希を殺そうとするのを止めたことになる。
 あれこれ考えてみても思考がまとまらないので、あとで9Sに尋ねてみようと結論づけた。

「あれ、今……」

 ふと、美術館の外から爆発のような音が聞こえたような気がした。
 何が起きたのか確かめなければ、とぼんやり思いながら、美希の意識は飛んだ。





 星井美希はもう、夢見る少女じゃいられない。



【B-4/美術館内/一日目 昼】
【星井美希@THE IDOLM@STER】
[状態]:疲労(中)、気絶
[装備]:シルバーバレッタ@FINAL FANTASY Ⅶ、マテリア(いかずち)@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品、モンスターボール(ムンナ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[思考・状況]
基本行動方針:自分にできることをする。
0.……(気絶中)
1.休憩後、四人でイシの村へと向かう。
2.ナインズくんを護りたい。記憶を取り戻す手伝いについては……?
3.メルトアの危険性と、ウルノーガを見たことを伝える。


【ムシャーナ ♀】
[状態]:HP1/3、ねむり
[特性]:よちむ
[持ち物]:なし
[わざ]:サイケこうせん、ふういん、つきのひかり、さいみんじゅつ
[思考・状況]
基本行動方針:美希についていく。
※所有者は星井美希のままですが、モンスターボールをハッキング済みのため9Sがモンスターボールに情報を送ることで遠隔操作に近い指令ができます。
※レベル20になりました。


【全体備考】
※美術館のとある廊下の絵画は、メルトア@ドラゴンクエストⅪのいる世界とつながっています。
 メルトアのいる世界は、壁画世界@ドラゴンクエストⅪと同じ性質のものとします。

612 ◆RTn9vPakQY:2022/07/28(木) 00:18:41 ID:OUX/e6k20
投下終了です。
誤字脱字・矛盾・指摘等ありましたら、お気軽にお願いします。

613 ◆RTn9vPakQY:2022/11/28(月) 20:28:57 ID:sNkuMtX.0
お疲れ様です。
拙作「夢みる少女じゃいられない」を読み返して、説明不足な点があると感じたため、追記をします。
具体的には、「絵画世界で登場したウルノーガについて」です。
以下に、「該当するレス番号」及び「追記した部分の周辺の文章」を載せます。

>>610
メルトアの威圧に対して、ムシャーナが鳴いた。
おでこからは黒っぽい煙が出ている。

「なに!?」

メルトアの驚愕の声に、美希は振り向いた。
すると、メルトアの真正面にも、暗い煙らしきものが浮かんでいる。
驚いているということは、メルトア本人の仕業ではないと思われる。

(何が起こるの……?)

煙の中から現れたのは、奇妙な姿をした人影だった。

>>611
ムシャーナの悪夢を見せる力により、窮地を脱した美希。
しかし、未だ悪夢のような殺し合いは終わらない。
星井美希はもう、夢見る少女じゃいられない。


「絵画世界で登場したウルノーガについて」の追記は以上です。
この他にも、細かい表現を修正したい部分について、wikiで直接修正します。
また、支給品紹介を忘れていたため、以下に載せます。

【シルバーバレッタ@FINAL FANTASY Ⅶ】
星井美希に支給された髪飾り。
FF7本編ではレッドXIIIの専用武器。マテリア穴は4つ。
これに限らず、髪飾り系統の武器は、人間の使用するものと同じ形である。

【マテリア(いかずち)@FINAL FANTASY Ⅶ】
星井美希に支給されたマテリア。
魔法マテリアのひとつ。FF7本編ではクラウドが最初から装備している。
これを手に持っているか、装備している武器・防具に装着することで魔法が使用可能。
魔法の使用には、魔力かそれに準ずるものを消費する。

614 ◆RTn9vPakQY:2022/11/28(月) 20:38:14 ID:sNkuMtX.0
ハル・エメリッヒ、シェリー・バーキン 予約します

615 ◆RTn9vPakQY:2022/12/05(月) 23:46:51 ID:FAKwpyXQ0
投下します

616ハル・エメリッヒの憂鬱と驚愕 ◆RTn9vPakQY:2022/12/05(月) 23:48:26 ID:FAKwpyXQ0
 僕とシェリーの二人は、公園に到着した。
 いつ襲撃されるかわからない状況での行軍は、かなり精神にくる。
 兵士にしばしば発生するというストレス障害への解像度は、高くなるばかりだ。

「そろそろ朝食にしようか」

 僕は振り向いて、つとめて明るくシェリーに話しかけた。
 しかし、シェリーはわずかに頷いただけで、それ以上の反応はなかった。
 ショートヘアの少女に同行を断られてからこれまで、会話らしい会話をしていない。

「ほら、あそこに座ろう」

 返事を待たないまま、僕はこげ茶色のベンチへと早足で近づいた。
 ついでに公園内を見回す。視界を遮るものは、遊具とトイレくらいのものだ。
 追いついてきたシェリーは、キョロキョロしていた僕に不信感を抱いたようだ。

「……?」
「ああ、なんでもないよ」

 安全確認だと事実を伝えることもできたが、要らぬ心配を与えまいと適当に濁した。
 そのままシェリーをベンチへと誘導して、デイパックから食料を取り出した。

「そういえば、食料はなにが入っていたんだい?」
「えっと、カロリーなんとか」
「ああ!栄養調整食品か。いいものだよ、アレは」

 日本製の某食品について力説するも、シェリーの反応は鈍い。
 箱を開けて、袋からショートブレッドに似た形状のブロックを取り出したところで、その手は静止していた。

「シェリー?どうしたんだい、ぼんやりして。
 あ、もしかして苦手だった?それなら僕のハンバーガーと交換――」
「ちがうよ!」

 シェリーから明確に否定されて、僕はビクッとした。

「カズマはもう、ご飯も食べられないんだって……そう思っただけ」

 それだけ言うと、シェリーは栄養調整食品を口に運んだ。
 返す言葉のない僕は、ハンバーガーの包み紙を剥き、ひと口かじる。
 慣れ親しんでいるはずなのに、なんの味もしない。僕はぐいと水を飲んだ。
 しばらくして、ハンバーガーを胃に流し込んだ僕は、ベンチから立ち上がった。

「まわりの様子を見てくるよ。なにかあればすぐ呼んで」

 隠れている参加者がいるかもしれない。有用な道具が落ちているかもしれない。
 もそもそと口を動かしているシェリーを横目に見ながら、それらしい理由を並べていく。

「時間があれば、名簿を見ておくといい。
 ゆっくりチェックする暇もなかっただろう?」

 本当の理由は、この空間から離脱したかったからだ。
 シェリーは聡明だ。いつヒステリーを起こしてもおかしくない状況なのに、落ち着きを保っている。
 その、いつでも切り捨てられる可能性を理解した上での落ち着きこそが、僕の身を苛んだ。

「……もし、僕のことを信じられないなら、逃げてくれて構わない」

 僕の情けない念押しに、返答はなかった。
 おそらく、こう伝えたとしてもシェリーは逃げないだろう。
 しかし、逃げないのは僕を信じているのと同義ではないのだ。

「それじゃあ、また後で」

 シェリーは聡明であり、同時に純粋でもある。
 ダイケンキと戯れていた姿も、まぎれもなくシェリーの一面だろう。
 いたいけな少女からの信頼を失い、しかもそれを回復できる見込みがない。
 僕はそんな真綿で首を締められるような重苦から、解放されることを望んでいた。
 これはその場しのぎでしかない。それでも僕は、束の間の休息を求めていた。



617ハル・エメリッヒの憂鬱と驚愕 ◆RTn9vPakQY:2022/12/05(月) 23:51:02 ID:FAKwpyXQ0
 ほんとうは、オタコンに返答することもできた。
 でも、私はそれをしなかった。もぐもぐと、ただ口を動かした。
 ちらりと見たときのオタコンは、とてもさびしそうな笑顔をしていた。

 ベンチに残された私は、名簿を読むことにした。
 そこにはレオンやクレア、そしてパパと私の名前があった。
 ラクーンシティでも会えずじまいだったパパのことは心配だ。
 それと同じくらい、レオンとクレアの名前はショックだった。

「レオン……」

 放送で流れたレオンの名前は、聞き間違いでも別人でもなかったのだ。
 あの日、ラクーンシティから脱出したその後のことは、よく覚えていない。
 きっとあれからすぐ、ここに連れてこられたはず。そこで殺されてしまった。
 レオンにもう会えないと思うと、自然と私の視界はにじんだ。

「クレアに会いたい」

 レオンと同じく、私を助けてくれた恩人だ。
 クレアなら、ここでも私のことを見捨てずにいてくれる。
 化物に襲われそうになったときも、クレアは庇ってくれた。
 オタコンとは違う。本当に危ないときでも、クレアなら――。

(――ここから離れて、クレアを探しに行く?)

 ふと、そんな考えが浮かんだ。
 オタコンはジャングルジムを見ていた。
 ベンチにいる私のことを、気にしているそぶりはない。
 なにより、オタコンが自分で「逃げても構わない」と話していた。

(……でも)

 しばらく考えて、私は思いなおした。
 そもそも、どこに行けばクレアに会えるのかわからない。
 それ以上に、ここでオタコンと離れていいのか、わからない。
 オタコンはクレアとは違う。危ないときは他人を見捨てる人だ。
 だけど、私のことをだまそうとしていたとは、とても思えなかった。

 初めて会ったときの穏やかな話し方。
 カズマとの会話の中で見せた、ほがらかな表情。
 そして、私に「逃げても構わない」と話したときの、さびしそうな笑顔。
 あれがぜんぶウソだとは思えない。ウソだとは思いたくない。

 オタコンへの怒りは完全には消えていない。
 カズマやダイケンキ、そして私を見捨てたオタコンのことは信用できない。
 それでも、逃げるかどうかの話になると、私の頭はぐるぐる回って決められない。

 やがて、私はあることを決めた。



「オタコン、話があるの」

 しばらく公園内をぶらついてからベンチに戻ると、シェリーから声をかけられた。
 また沈黙に支配される時間のスタートだと考えていた僕は、面食らった。
 シェリーはまごつく僕を不思議に思ったのか、首を傾げていた。

「名簿に知っている名前があって」

 それって、と途中まで出かけた名前を、僕は飲み込んだ。
 僕も名簿を確認して、シェリーと同じファミリーネームの人物を見つけていたからだ。
 正直、偶然を期待していた。肉親の参加という事実は、あまりに過酷だ。

「ひとりはパパのウィリアム」
「そうか……」

 期待もむなしく、僕は主催者の非道をあらためて憎んだ。
 しかし、予想以上にシェリーの反応は淡泊だった。

「それと――」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。その……なんだ。
 君のお父さんなんだろう?もっと、こう……心配とかは?」

 僕はシェリーの話を思わず中断した。
 父親まで殺し合いに巻き込まれているのに、どうして淡泊でいられるのかという疑問を言外に込めた。
 冷静に考えると失礼だが、このときは物事を突き詰めたい欲求に駆られていた。
 シェリーはその問いに対して、うつむいて答えた。

「もちろん心配よ。だけど……。
 パパはいつも仕事……なにかの研究をしていたみたい。
 めったに帰ってこなかったし、いたとしてもイライラしてた」

 その言葉で、僕はシェリーの態度に合点がいった。
 父娘の関係ではあるものの、お互いに干渉していなかったがゆえに、詳細に語る言葉を持たなかったのだ。
 そうした様子を、僕は淡泊だと捉えてしまったということだろう。
 同時に僕は奇妙な符合を感じた。偏屈な研究者の父親を持ち、孤独な幼少期を過ごしたという点で、僕とシェリーは似ていた。

「ごめん、話を戻していいよ」
「うん。それと、名簿にあったのはレオンとクレア」

618ハル・エメリッヒの憂鬱と驚愕 ◆RTn9vPakQY:2022/12/05(月) 23:52:43 ID:FAKwpyXQ0
 レオン・S・ケネディとクレア・レッドフィールド。
 前者は放送で呼ばれていた。シェリーも理解しているのか、悲痛な面持ちだ。
 知り合いの死を受け止めるのは大人でも辛い。それでもシェリーは健気に言葉を続けた。

「私のことを、命がけで救ってくれた二人」
「命がけで?」
「そう。二人がいたおかげで、ラクーンシティから逃げられたのよ」

 ラクーンシティという都市は聞いたことがなかった。
 命がけとなると、都市規模での災害かなにかが起きたのだろうか。

「二人は、シェリーと同い年くらいの子かい?」
「違うわ。二人とも私より大人よ」
「大人?そうか……」
「たぶん、オタコンよりは若いと思うけど」

 僕は首をひねった。災害時に大人たちに助けられた、それ自体に違和感はない。
 ただ、二人の呼び方からは気安い、もっと言えば親密な雰囲気を感じた。それで二人は同年代だと勘違いしたのだ。
 そんな些末な思考をしていると、それでね、とシェリーが言葉をつないだ。

「さっきまで、ラクーンシティでのことを思い出してた。
 こんなときに、私を助けてくれた二人ならどうするんだろうって」
「それで?」
「わからない。二人とも、私よりずっと大人だから」

 大人と子供の差、というわけではないだろう。
 付き合いの長い僕でさえ、この状況でスネークがどう動くのかは読めない。
 他人の思考をトレースするのは、簡単なことではないのだ。

「でも、これだけはわかるの。あの二人なら、こう言うわ」

 すう、と息を吸い、シェリーは顔を上げた。
 シェリーの瞳はまっすぐと、僕のことを見ていた。

「どんなに大変なときも、あきらめちゃダメなんだ、って」

 シェリーは僕と視線を交わしたまま、こう宣言した。

「だから、オタコン。私はあきらめない。生き残ることを、あきらめない」
「うん……うん。僕もだ、シェリー」

 目の前にいるのは少女のはずなのに、眩しいものを見ている気分だった。
 とても陳腐な表現をするなら、僕は胸を打たれていた。
 シェリーは逃げることも選べたのに、結局は逃げなかった。
 逃げを選んだ僕なんかより、よほどシェリーの方が大人だった。



「シェリー、そろそろ行こうか」
「うん」
「もしよければ、教えてもらえるかい」
「なにを?」
「君を助けたっていう、レオンとクレアについてさ」
「わかったわ!なにから話そうかしら……」


【C-4/公園/一日目 昼】
【ハル・エメリッヒ@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:疲労(中)、無力感
[装備]:忍びシリーズ一式@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、765インカム@THE IDOLM@STER
[思考・状況]
基本行動方針:首輪を外すために行動する。
1.首輪解除の手がかりを探すため、研究所へ向かう。
2.武器や戦える人材が欲しい。候補はスネークやクレア。
3.もっと非情にならなければならないのかもしれない。
4.生きなくてはならない。

※本編終了後からの参戦です。
※シェリーから情報を得ました。詳細な内容は後の書き手にお任せします。


【シェリー・バーキン@BIOHAZARD 2】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:生き残ることをあきらめない。
1.オタコンについていく。
2.カズマ……レオン……。
3.クレアやパパ(ウィリアム)に会いたい。

※本編終了後からの参戦です

619 ◆RTn9vPakQY:2022/12/05(月) 23:52:59 ID:FAKwpyXQ0
投下終了です。

620 ◆RTn9vPakQY:2022/12/06(火) 00:01:41 ID:dM/bQ8fI0
レスを分けてしまいすみません。
誤字脱字等ありましたら、ご指摘お願いいたします。

また、自分は「バイオハザード2」本編でのシェリーは父親のウィリアムと”それがウィリアムだと認識した上では”出会っていないと考えており、
今回の拙作はその考えを踏まえて書いています。一応確認はしたつもりですが、矛盾等あればご指摘ください。

621 ◆RTn9vPakQY:2022/12/06(火) 11:55:55 ID:dM/bQ8fI0
連レスすみません。
拙作「ハル・エメリッヒの憂鬱と驚愕」のタイトルを変更したいと思います。
「Partial Remission」とします。ご迷惑おかけしますが、よろしくお願い致します。

622 ◆RTn9vPakQY:2022/12/10(土) 13:37:33 ID:9FSCc76I0
イレブン、ベル、トレバー・フィリップス、ゲーチス 予約します

623 ◆RTn9vPakQY:2022/12/15(木) 20:11:34 ID:HY1WchxU0
予約を延長します

624 ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:14:38 ID:GPRdMMKc0
たいへん遅くなりました。
まずゲリラでクレア・レッドフィールドを投下します。

625Claire can’t stop worrying. ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:21:12 ID:GPRdMMKc0
(ここがホテルね)

 クレア・レッドフィールドは、なにごとも無くホテルに到着していた。
 バイクから降りて外観を眺めると、窓の数からして十五階以上あるとわかる。
 ヘルメットを置いて、慣れ親しんだ動物に対してそうするように、愛車のサドルを撫でた。
 駐車を任せる係員は出てこない。バイクはひとまず物陰に隠しておくことにした。

(警戒しすぎたかしら)

 クレアはラクーン市警を出てから、誰とも遭遇せずにいた。
 エンジン音を聞きつけた参加者と接触する可能性を考えていたのも、取り越し苦労だ。
 回転ドアを通過してフロントへと進む。派手すぎないインテリアからは、品の良さが感じられた。
 人の気配はしない。すこし警戒を緩めながら、歩を進めた。

「こんなときでなければ、ぜひ泊まりたいわね」

 軽口を叩きながら、クレアはフロントの台に両手をついて跳び越えた。
 そうしてフロントの内側に入り込むと、予想していたものを見つけて口角を上げた。
 トランシーバーだ。
 ホテルでは従業員同士の連絡手段として小型の無線機を用いるところもある。
 そのことを思い出したクレアは、まず無線機を探すことにしたのだ。
 トランシーバーの動作確認をしてから、デイパックにしまう。

「これでソリダスも不満は言わないはず。
 それにしても、我ながらカンの良さに驚くわ」

 再びデイパックを担いだクレアは、呆れたように呟いた。
 求めていた道具をピンポイントで入手できたのは、ラクーンシティでの経験のたまものだ。
 ゾンビに追われた経験は無駄ではない。そうレオンに話す想像をして、クレアは目を伏せた。

「レオン……」

――魔法を知らない人間が魔法に殺される瞬間って結構面白いのね。思わず笑っちゃったわ!

 第一回放送で、マナはレオンについてこう話していた。
 この内容から想像できるのは、レオンは状況を理解する間もなく殺されたということだ。
 魔法。パープルオーブを手にしたクレアは、もはやその存在を否定できない。
 しかし、レオンはそうではなかった。それを受け入れて飲み込むより先に、命を絶たれたのだろう。

 せめて遺体を弔いたいと思うも、現状では容易なことではない。
 クレアは思考を転換させるために、深く息を吐いた。

「それじゃあ、次はカメラね」

 クレアはホテルの監視室を探すことにした。
 ホテルの全室を回ることは、かなり時間のかかる行為である。
 しかし、シェリーを捜索して保護したいクレアとしては、時間をかけたくなかった。
 そのため、監視カメラを確認して、異常の見受けられた場所に向かおうと考えたのだ。

 フロントに設置されていた案内図をもとに監視室へ。
 監視室内には複数のモニターが置かれ、光を発していた。
 テレビをザッピングするように、映像を切り替えていく。
 ほとんどのカメラには、人影はおろか何の異常も映らない。

「あら?」

 ふと、クレアはモニターを操作する手を止めた。
 映し出されたものに、明確な違和感を抱いたからである。

「ここは……展望レストラン?」

 ホテルの最上階に位置する展望レストラン。
 そのフロアの中央に、木の箱が置かれていた。
 わずかな違和感を抱きつつも、それを一旦スルーしておく。

「どうしたものかしら」

 カメラを全てチェックし終えたとき、クレアの頭には二つの可能性が浮かんでいた。
 ひとつは“有用なアイテムが入っている”可能性。そしてもうひとつは“トラップである”可能性だ。

626Claire can’t stop worrying. ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:22:53 ID:GPRdMMKc0
「……とりあえず、行くしかないわね」

 パープルオーブという前例もある。ここはリスクを取るべきだ。
 そう結論づけて、クレアは展望レストランに向かうことを決めた。

 エレベーターに乗り込み、十五階のボタンを押す。
 ほどなくして開いたドアの先に見えたのは、気品に満ちたレストラン。
 そして、中央に鎮座ましましている、雰囲気に似つかわしくない木製の箱だ。

 近づいて観察しても、箱である以上の情報は得られない。
 クレアは覚悟した面持ちで、フタに両手をかけて持ち上げた。
 木と金属のきしむ音をさせながら開いた箱を、おそるおそる覗き込む。
 すると、そこには『ハズレ』と書かれた紙だけがあった。

「はあ?」

 クレアは脱力した。肩透かし以外の何物でもなかった。
 これに込められた意図を推し量ろうとして、すぐに止めた。

「あのお子様の遊び心ってことかしら。下手なジョークよりもお粗末だけど」

 自然と乱暴な言葉づかいになりながら、クレアは窓際へと近づいた。
 せめて何か情報は得られないかと、眼下に広がる景色を見ようとした。

「あら、あれは――」

 その直後、クレアは愕然とした。
 紫色の閃光と同時に、眼下の建築物が崩壊したのだ。
 ひとつではない。いくつもの建物が、まるで積み木の家のように簡単に崩れた。
 もしあの場所に参加者がいたとしたら、まず無事ではないと確信できる規模だった。

(なんてこと……)

 クレアは窓ガラスに手を当てて、崩壊した区域を見つめた。
 あの規模の崩壊を起こすには、一般的な爆弾のひとつやふたつでは足りない。
 兄からの教えで銃火器の扱いを心得ているクレアはその分析に至り、戦慄した。

(あの崩壊にシェリーが巻き込まれていたら)

 そんな最悪の想像をしてしまい、クレアはぞっとした。
 すぐさま窓に背を向け、エレベーターへと駆け込んで、一階のボタンを押した。
 冷静さを欠いていることは自覚していた。あの場所に向かうのは予定外であることも。
 しかし、それでもクレアは止まれない。止まることはない。
 行動力という名のエンジンは、もう点火していた。


【F-4/ホテル/一日目 昼】
【クレア・レッドフィールド@BIOHAZARD 2】
[状態]:疲労(小)、不安
[装備]:サバイバルナイフ@現実、クレアのバイク@BIOHAZARD2
[道具]:基本支給品、不明支給品(確認済み 0〜1個)、パープルオーブ@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて、薬包紙(グリーンハーブ三つぶん)@BIOHAZARD 2、トランシーバー×3@現実
[思考・状況]
基本行動方針:対主催の集団を作り上げる。
0.E-4エリアの崩壊が起きた区域へと向かう。
1.E-4エリアの後、“八十神高等学校”へと向かう。いつか “セレナ”に寄る。
2.シェリー・バーキンを探して保護する。
3.首輪を外す。

※エンディング後からの参戦です。

【トランシーバー@現実】
現地設置品。
ホテル等で使用される、小型の携帯用無線機。乾電池式。
サイズは成人男性の手のひらに収まるくらい。色は黒。

627 ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:23:26 ID:GPRdMMKc0
続けて、予約分を投下します。

628これから毎日小屋を焼こうぜ? ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:25:46 ID:GPRdMMKc0
 イレブンはベルとともに、イシの村から南下していた。
 これまでと変化したことといえば、ベルが言葉少なになったことだ。
 放送の前後――より正確にはラリホーをかける前後――でベルの口数は減少していた。
 それをイレブンは、ベルが気丈にふるまおうと無理をしているせいだと判断した。
 親しい者の喪失による涙は、簡単には乾かない。
 覆い隠そうとしても、心にほころびが生じてしまう。

(こうならないために、ラリホーをかけたのに)

 イレブンは悔しさから唇をかんだ。
 ベルが無理をしているということは、イレブンはベルの精神的な支えになれていないということだ。
 穏やかな夢は、その場しのぎにしかならなかった。

(僕には……どうしようもないのか)

 イレブンはベルの不安を払拭する方法を考えたが、答えは出ない。
 なにしろ“はずかしい呪い”のせいで、ろくにコミュニケーションを図れないのだ。
 これまでの会話で恥ずかしさは軽減されていたとはいえ、消極的から積極的へと呪いが反転したわけではない。
 自分自身から話しかけることに抵抗さえなければと、もどかしくなる。

(――ああ、恥ずかしい)

 せめて悔しさを表には出すまいと、イレブンは足元の石畳を見つめながら己を恥じた。
 そのときだ。隣のベルから、トントンと肩を叩かれた。

「ねえ、あれ!」

 ベルが指し示した先には、小さい犬がいた。
 石畳の上で寝ころんでいた犬は、イレブンたちに気づくと、森の中へ駆けて行った。

「あれは……?」
「ポケモンだよお!テレビで見たことある気がする。えっと、名前はね……」

 あごに手を当てて、うんうんと唸るベル。
 しばらく考えるそぶりをしてから「思い出した!」と叫んだ。

「ヨーテリー!」
「ヨーテリー」

 ベルに圧倒されて、イレブンはオウム返しをしてしまう。
 すると、それに気をよくしたのか、ベルは笑顔のまま話を続けた。

「うん。とてもかしこいポケモンらしいんだ。
 あまり吠えないから飼うのにピッタリです!って、テレビで紹介してたっけ」
「そうなんだね」
「ねえ、つかまえに行かない?」
「えっ?」
「もしかしたら、オーブを探すのに力を貸してくれるかも!」
「……」

 イレブンは即座に同意するのをためらった。
 「はい」と答えたら、南下を中断して森へと入ることになる。ベルは意気軒高だ。
 「いいえ」と答えたら、南下を続けて施設を巡ることになる。ベルは意気消沈だ。
 つまり天秤にかけるのは“ベルのテンション”と“探索の時間”である。
 二つの選択肢に悩んだ結果、イレブンは前者を選んだ。

「……そうだね。力を、貸してもらおう」
「うん!それじゃあ追いかけよう!」

 イレブンは意気軒高とするベルを見て、ほっとしていた。
 ベルに無理をさせたくない気持ちはありつつも、その方法は考えつかないのが現状だ。
 もし森に行くことを反対したら、ベルの気丈なふるまいさえ否定してしまうことになる。
 それを避けたかった、というのが理由のひとつだ。
 そして、理由はもうひとつ。

(ルキみたいに、頼れる犬かもしれない)

 いわゆる野生の勘は、バカにしたものではない。
 かつて犬に助けられたことを思い出して、イレブンは懐かしさをおぼえた。

「おうい!どこー?」
「ベル、あまり大声は……」

 ベルに注意を促しながら、イレブンはきょろきょろと視線を動かした。
 森は草木が生い茂っており、小さい犬の隠れる場所はごまんとありそうだ。
 向こうから姿を現してくれたら。そんな期待をしながら、ヨーテリーを捜した。




629これから毎日小屋を焼こうぜ? ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:27:58 ID:GPRdMMKc0
 その頃、ゲーチスはNの城を視認していた。

「おお!あれは間違いなく我が城!」

 最初から目的地に選んでいたのに、到着までかなりの時間を要した。
 すべては空想好きな女をはじめとする、無知で低能な参加者たちのせいだ。
 無益な時間を過ごした苛立ちは、アジトに戻れた安心感で帳消しにできた。
 しかし、扉へと近づいたゲーチスは、予想外のことに目を見開くことになる。

「なんだ、これは!?」

 長い階段の先にあったはずの扉が、凹んだ状態で転がっていたのだ。
 ゲーチスは唾を呑み込んだ。この扉を強引に開けた者がいることになる。

「誰かいないのですか!」

 破壊された各部屋を早足で見回りながら、ゲーチスは叫んだ。
 そうしていると、六階にてバーベナとヘレナの二人に遭遇した。
 二人とも首輪を嵌められており、ここに連行されたのだとわかる。

「アナタがたがいるということは……ダークトリニティは?」
「わかりません、ゲーチス様」

 使えない、と内心で愚痴をこぼしてから、ゲーチスは別の問いを二人に投げかけた。
 その問いに対する答えを聞いて、ゲーチスは次の行動を決めた。





「もう十時なのか……」

 ふと時計を見ると、第二回目の放送までおよそ二時間。
 時間を使いすぎるのは得策ではないと考えて、イレブンはベルの背中に呼びかけた。

「ベル、そろそろ……」
「ヨーテリー見つかった?」
「いや……ぜんぜん」
「あっ、ねえ!こっちに小屋があるよ!」

 背の低い草をかきわけて、ベルが森の奥へと向かう。
 その後ろを焦って追いかけると、すこし開けた場所に出た。
 そこには、なんの変哲もない木造りの山小屋がぽつんと建っている。

『推奨:山小屋内部の警戒』
「あの、あまり迂闊に……」
「すごく新しいみたい。誰もいないよ?」

 ベルがためらいなくドアを開けたため、イレブンは肝が冷えた。
 どうやらベルにとっては、警戒心よりも好奇心のほうが勝るようだ。

『……』
「……まあ、これでいいのかも」

 かたわらにいるポッドの忠告は、完全に無視したことになる。
 とはいえ、マイペースを取り戻しているのなら歓迎するべきだと、イレブンは自分を納得させた。

「イレブンもみてみて!くつろげそうだよ!」
『推奨:大声を出すことの危険性について、再度説明』
「……そうだね」

 ポッドの無機質な声にあきれた様子を感じて、イレブンは苦笑いした。
 それから手招きするベルにしたがって、山小屋の中へと足を踏み入れる。
 室内の広さはそこそこで、ベルの言うとおり、くつろげるように設えられた内装だ。

「ここ、まだ新しい……と思う」
「え?どうしてわかるの?」
「……木のにおい」
「そっかー!すごいやイレブン!」

 自慢したみたいで恥ずかしい、と思った矢先。
 ベルからの素直な賞賛に、イレブンは顔が熱くなるのを感じた。
 二重三重の恥ずかしさに耐えていると、ベルが思いついたように言った。

「ねえイレブン、ここで休んでなよ!」
「えっ?」
「その間に、あたしがヨーテリーをつかまえてくるから!」
「でも……」

 屈託のない笑顔を見せるベル。
 これが善意からくる提案なのは、ベルの裏表のない性格からして確実だ。
 いつもなら流れで了承してしまうが、ここでのイレブンは毅然とした態度でベルに告げた。

「それはダメだ。危険すぎる……!」
「そうかなあ?」
「どこに誰がいるかも……」
「ううん……でも、まだ回復しきってないんでしょ?」

630これから毎日小屋を焼こうぜ? ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:30:57 ID:GPRdMMKc0
 食い下がるベルを前に、イレブンは言葉に詰まった。
 ベルの提案は、イシの村で魔王たちと交わした会話を根拠としている。
 MP(マジック・パワー)は通常時の半分くらいまで回復したものの、満タンではない。
 今後は使うタイミングを見極めないと、ガス欠を起こしてしまう。
 そのような会話を交わしたことを、覚えられていたのだ。

「えっと……」
「それに、ランランもいるから平気だよお!
 だいじょうぶ、小屋から遠くにいったりはしないから!」

 ベルによる提案は理に適うものではある。
 ひとりは休息を取り、もうひとりはオーブを探すための準備をする。
 とても効率的だ――ここが殺し合いの場所であるというリスクを考慮から外せば。
 正直なところ、イレブンは困惑していた。
 緊張感に欠けるところがあるのは理解していたが、別行動を提案されるとは思わなかった。

(……いや、違うのかも)

 それとも、と別の可能性に思い至る。
 イレブンはこの提案を善意からくるものだと判断していた。
 しかし、そうではないとしたら。それだけではないとしたら。

(やっぱり、ベルは無理をしているのかな……?)

 この提案もまた、気丈にふるまおうとする意思からくるものだとしたら。
 どうしても、イレブンはそれを否定できない。

「……それならせめて、ポッドを」
「いちごちゃんを?」
「うん。もし危険な……モンスターに、襲われたら助けてくれる」

 イレブンはポッド153を信用して、その同行を妥協点とした。
 そして、いちど言葉を区切ると、すこし俯きながら「それに」と続けた。

「なにかあったら、僕も助けに行く」

 言い終えてから、一瞬の沈黙。
 ベルの顔がわずかにキョトンとして、それからニッコリとほころんだ。
 イレブンは思った。これは呪いなんて関係なく、恥ずかしい。





 ベルは「いってくるね!」とイレブンに声をかけて、山小屋から出た。
 ドアを閉めたところで立ち止まり、小屋の中には聞こえないくらいの声で呟く。

「イレブンくん……」

 ベルはイシの村で食卓を囲んでいたとき、緊張を感じ取っていた。
 マイペースをチェレンから何回も指摘されてきた自分でさえ感じたのだ。
 イレブンや魔王から発されていた緊張感は、かなりのものだったと言える。

「ちょっと違うけど……朝のママみたい」

 いつも身支度を整えていると、急かしてくるママ。
 ベルはそれと似たものをイレブンや魔王から感じた。
 つまりは、余裕のない様子ということだ。

「きっと、あまり時間がないんだよね」

 名簿によると参加者は七十人。
 放送で呼ばれたのはチェレンも含めて十三人。
 単純に考えると、七人に一人以上が命を落としている。
 いつ、自分も危機に見舞われるかわからない。
 ベルは身体を突き上げる恐怖心に襲われた。

「……でも」

 ベルはぎゅっと両手を握りしめた。
 先へと進むと決めたからには、恐怖に支配されている場合ではない。

「イレブンもがんばってるんだから、あたしも……!」

 せめてイレブンの手助けをしよう。
 そう考えて、ベルは単独でヨーテリーを探すことを提案した。
 イレブンには万全の状態でいて欲しかったからだ。
 周囲に浮いているランタンこぞうとポッドに、それぞれに視線を向ける。

「ようし、ランラン、いちごちゃん!はりきってつかまえようねえ!」
『……了解』

 ポッドの無機質な返答も、今はとてもありがたく感じた。




631これから毎日小屋を焼こうぜ? ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:34:54 ID:GPRdMMKc0
 山小屋に残されたイレブンは、ある支給品を前に首をかしげていた。
 未使用のアイテムであるそれの扱いをどうしたものか、決めかねていたのだ。
 説明書によると、ジェリカンという軍用の燃料携行缶らしい。

「うーん……なにに使うんだろう?」

 眺めていてもピンとこないので、イレブンは中身を覗いてみることにした。
 ジェリカンのフタを開けて、顔を近づけてみると、その瞬間。

「うわ!」

 イレブンは鼻を刺激するにおいに、顔をしかめて後ずさりした。
 すぐにフタを閉めたものの、ゴホゴホとむせてしまう。これは嗅ぐものではない。
 これによって、油に近いものだと理解できたが、それでも用途はピンとこなかった。
 扱いについては一旦保留しておこう、と考えた矢先である。

「よう、探してるものがあるんだ。手伝ってくれるか?」

 背後からの声にイレブンはドキリとした。
 ふり向くと、山小屋の入口に見知らぬ男がいた。
 黒い鎧らしきものを着て、デイパックを背負った男だ。

「ドラゴン退治のためのエモノ。
 それと酒だ……ハッパか、あるいはガソリンでもいい」

 ずかずかと入り込んできた男を見て、イレブンは警戒を強めた。
 ひどく乱暴な態度は、これまであまり出会ったことのないタイプだ。
 とはいえ殺し合いに積極的かどうかまでは、判断できない。

「おい、どうした。難聴か?。
 デカイ声なら出すのも出させるのも得意だぜ。
 オットセイみたいに鳴けるかどうか、試してやろうか」

 変なことを言いながら、男は小屋の中を物色し始めた。
 態度は粗野であるものの、すぐにイレブンを殺害しようとは考えていないようだ。
 あるいは、凶器となるものを持っていないのかもしれない。

(……いや、まだ決めつけられない)

 真意を判断するにはまだ早いと、静観することにした。
 山小屋に凶器が置いていないことは確認していたので、イレブンはその選択ができた。
 そうして、しばらく沈黙していると、また男から声をかけられた。

「おい、どうした。口にソーセージでも詰まってるのか?」

 その手には紙コップが握られていた。もちろん山小屋に置かれていたものだ。
 問いに返答しないままでいると、男はあきれたように肩をすくめた。

「オーケイ、俺ばかり話して悪かった。
 こんなときにナーバスになるのは誰でもそうだ」

 歌うように話しながら、男はジェリカンへと歩み寄る。
 そして、缶の中身を紙コップに注いで、それを口もとに近づけた。

「えっ!?」

 とても自然な動作に、イレブンは困惑を隠せなかった。
 そのイレブンの目の前で、男の表情は次第にしまりがなくなっていく。
 声とも呼べない音を口から漏らしながら、男は頭を押さえてふらふらと歩き回った。
 そして、数十秒後。

「あぁー……クソッ」

 水浴びをした後の動物のように身体を震わせた男は、紙コップをイレブンに差し出した。
 まるで「お前もどうだ」と言わんばかりの自然な動作だった。
 このとき、イレブンは得体のしれない恐怖を感じていた。
 そのせいで手が震えて、紙コップを受けとるときに落としてしまった。

「あっ……」

 軽い音を立てて床に転がる紙コップ。
 それを拾おうとして、イレブンは再び刺激臭で顔をしかめた。
 小屋の中に満ちていた木のにおいは、こぼれた液体のにおいで上書きされてしまった。

「ドラゴンを見た」
「……え?」

 不意に、男はそう切り出した。
 椅子に座る男の表情は、これまでとは違う神妙な顔つきだった。

632これから毎日小屋を焼こうぜ? ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:38:11 ID:GPRdMMKc0
「ここから南東の山岳地帯で、ドラゴンが飛び回っていた」

「それだけじゃない!カートゥーンみたいに火を吹いていたんだ」

「最初は夢か幻覚だと思ったさ」

「だけど、夢でも幻覚でもない」

「マジマのクソにやられた傷はそのままだし、ここに来てからはハッパのハの字も見てねえ」

「俺は俺の見たものを信じる」

「この島には!マジモンのドラゴンがいるんだ!」

「そこで俺は考えたのさ」

「あのドラゴンを退治してやる」

「そのためにはエモノが必要だ」

「だから、ここまで来たんだ!」

 言い終えた男の顔は興奮で赤らんでいた。
 この時点で、イレブンはある判断を下していた。
 発言の真偽はともかく、この男は精神的に不安定であると。
 もし本当にドラゴンがいたとしても、退治を任せることはできない。
 そのことを伝えて理解してもらうべきだと、イレブンはそう考えた。

「あの……武器は渡せません」

 言葉の意味を理解した男の顔色が、みるみる変化していく。
 それを見て、イレブンは自身の失敗を悟った。





「やったー!ヨーテリーをつかまえたよ!」

 森の捜索を開始してからおよそ十五分。
 ヨーテリーを抱いたベルは、喜びの声をあげた。
 かたわらのランタンこぞうも全身で喜びを表現している。

『推奨:モンスターボールによる確実な捕獲』
「ボールがあればそうしたいんだけどねえ」

 ポッドの指摘に、ベルはやんわりと返答した。
 もしボールがあれば、バトルでヨーテリーを弱らせて捕獲することも選べた。
 しかし、ベルはそうしなかった。
 ヨーテリーと真正面から向き合い、協力を頼んだのだ。
 その結果として、ベルはヨーテリーを抱き上げていた。

「それじゃあ戻ろうか!」

 ベルは仲間たちを促して、山小屋へと戻ることにした。
 足取りは軽い。喜ぶイレブンの顔を想像すると、自然と笑顔になる。

「あれ?」

 遠目に山小屋が見えたとき、ベルは違和感を抱いた。
 ピタリと足を止めて、目を凝らして観察する。

「ドアがあいてる……」

 山小屋のドアが、大きく開かれていた。
 イレブンが勝手にどこかに行くとは思えない。
 イヤな予感がして、ベルは山小屋へと走った。

「イレブン!」

 名前を呼びながら、ベルは山小屋へと駆け込んだ。
 わずかに遅れてランタンこぞうとポッドもやってくる。

633これから毎日小屋を焼こうぜ? ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:42:39 ID:GPRdMMKc0
「ああ?」

 そこにいたのは、イレブンとは似ても似つかない男だった。
 ドアに背を向けていたその男が、ベルの声に気づいて振り向く。
 すこし頭の薄い、人相の悪い男だった。

「えっ……」

 ベルはショックで言葉を失った。
 山小屋の中は荒れていた。ほとんどの家具は倒れ、壊されているものもあった。
 それ以上の衝撃は、男の足元にイレブンが横たわっていたことだ。

「イレブン……?」
「ああ、コイツのお友達か?」

 イレブンの頭をつま先で小突きながら、吐き捨てるように男は告げた。
 男の頬には血が付着している。それが誰の血かは、簡単に想像できてしまう。

「ちょうど殺すところだった」

 その発言を聞いた瞬間、ベルはなにも考えられなくなった。
 これまで生きてきた中で、まったく抱いたことのない感情に襲われた。
 抱きかかえていたヨーテリーを、つい放してしまった。
 そして感情のまま、無我夢中である言葉を唱えていた。

「――――!!!」

 その直後、ベルは気絶した。





「……イレブン!?」

 ベルは悪夢にうなされて飛び起きた。
 イレブンが殺されてしまい、ベルはそれを見ていながら、どうすることもできない。
 まさに悪夢だった。心臓はいつもの倍くらい激しく動いていた。

「ここって……?」

 いくらか落ち着いてきて、いまいる場所が山小屋ではないことに気づいた。
 そこは自動車の後部座席で、周囲を見回すと、隣にイレブンが寝ていた。
 イレブンの服はところどころ焼け焦げて、頬にはアザができている。

「イレブン!イレブン!?」
「彼は無事ですよ。いまは気を失っているようですが」

 不意に声をかけられて、ドキリとする。
 前方を見ると、バックミラー越しに片目を隠した男と目が合った。
 運転手は穏やかに「安心してください」と言い、それから話し始めた。

「まず……そうですね。ワタクシはゲーチスという者です。
 この殺し合いには反対しています。ここまではよろしいですか?」
「……はい」

 ベルがうなずくと、ゲーチスは頷いて続けた。

「ワタクシは殺し合いを打破する方法はないかと、車を走らせていました。
 そしてたまたま森の近くを通りがかり、爆発音を耳にしたので山小屋へ近づいた。
 すると、山小屋の入口あたりで気絶していたお二人を見つけた、というわけです。
 そこの……イレブンさんですか?彼がアナタを火元から遠ざけようとしたのでしょう」

 爆発。その単語を聞いて、ベルはある光景を思い出した。

「そうだ、あのとき……」

 山小屋の中で、男がイレブンを殺そうとしていた。
 なんとしてでもイレブンを助けなければいけない。
 ただ、その感情に支配されて、ベルは叫んでいた。

――ランラン、メラ!

 そばにいたランタンこぞうに、火の球を飛ばすように指示した。
 あくまで牽制のつもりだったそれは、予想外に燃え広がり、爆発を引き起こした。
 そのいきおいで飛ばされて、ベルは気絶してしまったのだ。

634これから毎日小屋を焼こうぜ? ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:48:29 ID:GPRdMMKc0
「そうだ!ランランといちごちゃんと、ヨーテリーは?」
「転がっていたモンスターと箱なら、お二人の荷物に入れておきましたよ。ヨーテリーはわかりませんが……」
「……それじゃあ、あの男の人は?」

 イレブンとベル、それにランタンこぞうたちも生きていた。
 それでは、残る一人――イレブンを殺そうとした男――は、どうなったのか。
 おそるおそる、ベルは運転中のゲーチスに聞いてみた。
 沈黙の後、ゲーチスから放たれたのは衝撃の一言。

「フム。ワタクシはお二人以外を見ていません。
 もしあの山小屋に参加者がいたのなら、非常に残念ですが……」
「……そんな!」

 言葉を濁す態度から、ベルはゲーチスの言わんとすることを察した。
 あの男は、爆発に巻き込まれて命を落としたということだ。

「ワタクシからも、ひとつ質問させてもらいます。
 あの山小屋でなにがあったのでしょう……アナタはなにをしたのですか?」

 穏やかな声の問いかけに、ベルは答えることができなかった。





 ゲーチスは車を運転しながら、内心でほくそえんでいた。

 Nの城を訪れたゲーチスは、バーベナとヘレナの二人にこう問いかけた。
 「この城を訪れたポケモントレーナーはいたか」と。
 すると答えはノー。訪れたのはポケモンを知らない参加者だけだという。
 主催者が放送でNの城を紹介したのは、ポケモンバトルをしている参加者への救済処置であることは明白だ。
 つまり、いずれ仇敵のトウヤはNの城へと訪れる。ゲーチスはそう確信した。
 そうであるならば、するべきことはひとつ。
 ゲーチスにとって有利な状況を作り出すことだ。

 そうした思考のもと、ゲーチスは城の内部を探索して、モンスターボールを手にしていた。
 ひとつは空で、もうひとつは利用価値のあるポケモンだ。
 ギギギアルと合わせれば、トウヤのバイバニラに対抗することも可能だろう。
 しかし、それだけでは不足だ。勝利するためには、より周到な準備をしなければ。

 そこで、ゲーチスは次の手段を講じることにした。
 エアリスにしてきたのと同様に、対主催者を演じることだ。
 他の参加者とコミュニケーションを図り、信用を勝ち取り利用する。
 無論、エアリスのように我の強い参加者は選ばないことが前提だ。
 そう思考を締めくくり、ゲーチスは城から北上することにしたのだった。

(これほどの成果は嬉しい誤算というものです)

 その結果が、車という移動手段と、利用価値のある参加者の確保だった。
 バックミラーをちらりと見る。ベルという少女は顔面蒼白で、身体を縮こまらせていた。
 山小屋に参加者がいたら死んだはずだ、という推測を伝えただけで、これである。

(なにがあったかは知りませんが、おかげで苦労せず手駒を手に入れられた)

 ゲーチスはウソを吐いていない。山小屋付近で姿を確認したのは二人だけだ。
 爆発の原因はまだ聞けていないが、おそらくベルの行動がトリガーとなったのだろう。
 そうでなければ、男の死という推測に動揺するはずもない。

(どうやらワタクシのことは知らない様子。せいぜい利用させてもらいましょう)

 ゲーチスはベルと直接の面識はないが、一方的に認識していた。
 ダークトリニティの張り巡らせた情報網で、トウヤやチェレンと同様マークしていたのだ。
 マークといっても、トウヤやチェレンと比較すると目立つ行動はなかったという程度の印象しかない。
 しかし、この状況においては、充分すぎるほど利用価値がある。
 なにしろ、あのトウヤやチェレンの幼馴染なのだから。

(さて、ひとまず城へ戻るとしましょう)

 己の中の高揚感を抑え込みながら、ゲーチスはアクセルを踏んだ。

635これから毎日小屋を焼こうぜ? ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:50:56 ID:GPRdMMKc0
【C-2/Nの城付近/一日目 昼】
【ゲーチス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康、高揚感、運転中
[装備]:雪歩のスコップ@THE IDOLM@STER+マテリア(ふうじる)@FF7、モンスターボール(ギギギアル@ポケットモンスターBW)、バイソン@Grand Theft Auto V
[道具]:基本支給品、スタミナンX(半分消費)@龍が如く 極、モンスターボール(???@ポケットモンスター)、モンスターボール(空)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、野望を実現させる。
1.Nの城を本拠地とする。
2.ポケモンやベルたちを利用して、手段は問わずトウヤに勝利する。
3.カイムのことはソニックに任せてみる。同士討ちでもすればいい。

※本編終了後からの参戦です。
※エアリスからFF7の世界の情報を聞きましたが、信じていません。
※ソニックのことをポケモンだと考えています。


【イレブン@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:MP1/2、恥ずかしい呪いのかかった状態、疲労(小)、気絶
[装備]:七宝のナイフ@ブレスオブザワイルド、豪傑の腕輪@DQ11
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1個、呪いを解けるものではない)、ブルーオーブ@DQ11、ポッド153@NieR:Automata
[思考・状況]
基本行動方針:ああ、はずかしい はずかしい
0.――(気絶中)
1.ブルー以外の他のオーブを探す
2.ベルと共に、南へ向かう

※ニズゼルファ撃破後からの参戦です。
※エマとの結婚はまだしていません。
※ポッドはEエンド後からの参戦です。


【ベル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:疲労(小)、気疲れ(大)
[装備]:ランラン(ランタンこぞう)@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:チェレンの死を受け止め、歩き出す。
0.あたしのせい……?
1.イレブンについていく。
2.ポカポカ(ポカブ)を探す。

※1番道路に踏み出す直前からの参戦です。
※ランタンこぞうとポッドをポケモンだと思っています。
※男(トレバー)は死んだと思っています。


【モンスター状態表】
【ランラン(ランタンこぞう)】
[状態]:モンスターボール内
[持ち物]:なし
[わざ]:メラ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルについていく
1.睡眠中


【ポッド153@NieR:Automata】
[状態]:健康
[持ち物]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:???


【ギギギアル@ポケットモンスターBW】
[状態]:健康
[特性]:プラス
[持ち物]:なし
[わざ]:10まんボルト・ラスターカノン・はかいこうせん・きんぞくおん
[思考・状況]
基本行動方針
1.ゲーチスに仕える

636これから毎日小屋を焼こうぜ? ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:55:20 ID:GPRdMMKc0
【支給品紹介】
【ジェリカン@Grand Theft Auto V】
イレブンに支給された軍用の燃料携行缶。中身はガソリン。
ガソリンに発砲するなどして点火すると炎上する。
また、移動しながらガソリンを撒くと、その跡を導火線とすることができる。

【バイソン@Grand Theft Auto V】
現地設置品。
建築業者仕様の白いバン。
ドアは四枚、乗車定員は六人。車載ワイヤーが載せられている。
ゲーム中では「ミッション:夫婦カウンセリング」にて登場する。

【モンスターボール(空)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
現地設置品。
Nの城に置かれていた。空のモンスターボール。

【モンスターボール(???)@ポケットモンスター】
現地設置品。
Nの城に置かれていた。ポケモンの入ったモンスターボール。





 ときはゲーチスがイレブンとベルを回収し終えた頃までさかのぼる。
 山小屋で起きた爆発は、幸いにも周囲の森林には延焼せず、山小屋のみを焦がしていた。
 その燃えている山小屋の壁が、強烈な力で吹き飛んだ。

「この……クソッタレがぁ!」

 ガラガラと崩れる山小屋から現れたのは、誰あろうトレバーだ。
 爆発の衝撃でしたたかに頭を打ちつけた彼は、そのまま炎の中で気絶していた。
 途中、一旦意識を取り戻したイレブンがトレバーを持ち上げようとしていたものの、重さのせいで断念されていた。
 つまり着用していたパワードスーツのせいで救出されなかったのだが、皮肉なことにトレバーを助けたのもそのパワードスーツだった。
 パワードスーツによって過剰な火傷から身を守れて、さらに増強された筋力で壁を破壊することができたのだ。

「クソ!誰もいやがらねえ」

 トレバーは地団駄を踏みながら、さんざん罵倒の言葉を並べた。
 エモノをよこさないガキ、爆発を起こしたガキ、腹を刺したマジマ、ついでに旧友。
 溜まるばかりのフラストレーションを、周囲の木や地面に八つ当たりするトレバー。
 おまけに調達した車も盗まれていたので、何本もの木が犠牲となった。

「ちくしょう!あのドラゴンを倒してえのによ!」

 ドラゴンとは、山岳地帯で戦闘していたリザードンのことである。
 火を吹くドラゴン。そんな物語のような光景に、トレバーは魅せられた。
 その時点で、手駒を見つけるという考えはどこかへ飛び去ってしまった。
 そしてイレブンに話したとおり、エモノを求めて山小屋を訪れたわけである。
 その成果はゼロ。とんだ骨折り損のくたびれ儲けだ。

「クソ野郎ども!」

 どこまでも好き勝手に生きるトレバー。
 その本心をわずかでも理解できる知人は、あいにくこの殺し合いに呼ばれていない。
 治まることも抑えられることもない狂気は、ひたすらに膨張していく。


【B-1/山小屋跡/一日目 昼】
【トレバー・フィリップス@Grand Theft Auto V】
[状態]:腹部に軽い刺傷、大きな不快感、興奮、怒り、殺意、顔に火傷
[装備]:パワードスーツ(損傷率50%)@METAL GEAR SOLID 2、共和刀@METAL GEAR SOLID 2
[道具]:基本支給品(水1日分消費)
[思考・状況]
基本行動方針:好き勝手に行動する。ムカつく奴は殺す。
1.マジマを筆頭にムカつく奴を殺して回る。
2.ドラゴン(リザードン)を退治する。
3.使えそうな奴は駒にする。
4.マイケル達もいるのか?

※参戦時期は「Cエンド」でのストーリー終了後です。
※ルール説明時のことをほとんど記憶していません。
※放送の内容を聞き逃しました。
※リザードンを遠目に目撃しました。

【備考】
※B-1の山小屋が全焼しました。
※ヨーテリーはどこかへ行きました。

637 ◆RTn9vPakQY:2022/12/25(日) 09:55:46 ID:GPRdMMKc0
投下終了です。
誤字脱字・指摘等ありましたら、よろしくお願い致します。

638 ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 14:57:36 ID:ZoUTAOs.0
皆さん沢山の投稿と感想、ありがとうございます。
のちほど纏めて感想を述べたいと思います。

拙作ですが正月休みにポケモンをしながら作り上げた作品をゲリラ投下させて頂きます。

639ゴールデンサン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 14:58:34 ID:ZoUTAOs.0

──自慢じゃねぇが、おいらはそれなりに腕が立つ。

野生のポケモンに負けることなんざまずないし、熟練トレーナーのポケモン相手にだって相性さえ悪くなければ自慢の顎で一撃だ。
もちろん最初っからそうだったわけじゃねぇさ。ご主人の影響っていうのかな、そいつがえらく負けず嫌いで努力家だったおかげでこの通りよ。
なんでも、ご主人が言うには「絶対に負けたくない相手がいる」とのこと。そいつは俺もよく知るヤツで、のちのちチャンピオンになっちまう男だ。
ま、チャンピオンって言葉で察してもらえただろうが──結果的には負けちまった。ギリギリの戦いだったぜ、マジにな。そのバトルのエースはもちろんおいらで、相手は……いや、これは言わなくてもいいか。

なにが言いたいかっていうと、おいらは世界でも指折りの実力者ってことだ。
だってあのチャンピオンのポケモンと張り合ったんだぜ? そのくらい言っても許されるってもんだろ。なぁ?
もうそんじょそこらのやつじゃ相手にもなりゃしねぇから退屈ささえ感じてたぜ。


けどな、そんな強ぇ強ぇおいらだからこそ気づいちまった。
ああ──こいつは、違う。ってな。


そいつに会ったのは昼過ぎ頃か?
突然こんな場所に飛ばされて最初こそビビったが、どうせ退屈してた身だ。やること変わらず水辺でだらだら寝転がり、時々来る野生のポケモンを追っ払い、腹が減ったら魚を捕まえて過ごしてた。
そんな中だぜ。ふと足音が聞こえたもんでそっちに目線を移したら、なんともまぁ必死な様子で走ってるトレーナーがいたんだよ。

640ゴールデンサン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 14:59:15 ID:ZoUTAOs.0

おいらは喜んだ。めちゃくちゃな。
ちょいとした退屈しのぎにバトルでもしかけてやるか。そう思ったおいらはそれまでのなまけっぷりが嘘みてぇな速度でそいつの前に立ち塞がった。
目が合ったらバトル──ま、それはおいらたちじゃなくて人間同士の決まりらしいが。でもおめぇさんもいっぱしのトレーナーなら、こんだけヤル気満々なポケモン相手にしてその意味がわからねぇことねぇだろう?

帽子に隠れてたそいつの目がおいらの目と合った。
その瞬間、おいらの身体は緊張で強ばった。

まるでへびにらみされたような感覚だったぜ。
そいつの目は今にも泣きそうで、切羽詰まってて、そしてなによりも──鋭かった。
ありゃあ普通じゃあねぇ。いったいどんだけの修羅場を越えたらあんな目が出来んだ? よく見りゃあ確かに、身体中がまるで電撃でも受けたみてぇにぼろぼろだった。並のポケモンでもひんしもんだ。人間ってのはこんな頑丈だったか?

喧嘩を売る相手を間違えた、なんて微塵も思わねぇ。
それどころかおいらはわくわくしてたぜ。久しぶりの好敵手、それも下手すりゃあ格上かもわからねぇ相手だ。心躍らないわけがねぇ。
さぁ、あんたはいったいどんなポケモンを出してくれるんだい?




「──頼む、道を開けてくれ」




そんなおいらの期待を裏切るようにそいつはそう言い放った。
呆れたぜ。まさかボロボロに負けて帰る道中だってのか? さっきの目はただのこけおどしただったのか?


なぁ、ちげぇだろ。


おいらの目はごまかせねぇ。てめぇは実力者だ、さっきの威圧感は今のチャンピオンに勝るとも劣らない。
出し惜しみか? 手持ちの体力を消費させる手間が惜しくて野生を相手にしないって話はよく聞く。
けどな、それは格下相手への対応だ。そっちの真意がどうあれ、大人しく雑魚扱いされるほどおいらは優しくないぜ。

641ゴールデンサン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:00:10 ID:ZoUTAOs.0

試しにおいらは地を駆け飛びかかる。ポケモンがいないからその矛先はトレーナーだ。
本気でやるんならそこで首元にでもかみついてやるところだが、あくまで様子見だ。軽く叩きつける程度のつもりだった。
身の危険を感じりゃいやでもポケモンを出すはずだ。仮に本当に手持ちがひんしだったとしたらびびって逃げ帰るくらいはするだろ。

けれどそいつはどれとも違った。
顔面を叩きつけるつもりで振るった俺の右手を交差した両腕で受け止めて、数歩後ずさる。そして逃げるでもなく、戦うわけでもなく、ただおいらの目を見ていた。


こいつ、何考えてやがんだ。


もちろんおいらの攻撃は本気じゃなかった。けどそれを受け止めようだなんて人間、いわタイプでもなけりゃありえねぇ。
狼狽えるおいらの目を真っ直ぐ捉えてそいつは言う。「頼む、退いてくれ」ってな。
柄にもなくおいらはキレた。何を考えてんのか知らねぇがその化けの皮を剥がしてやる。じゃねぇとまるでおいらが小物みてぇじゃねぇか。


「オォォォダァァーーーーーッ!!」


雄叫びをあげる。いわばこれは合図だ。
さっきまでの加減はナシだ。今度は本気でいくぜ。
ガチガチと鳴らした歯をそいつに向ける。狙うはもちろん首元だ。
土が捲れる勢いで両脚をバネにし距離を詰める。おいらは空中、跳ねる視界の中であいつがモンスターボールを右手を握り締めているのを見た。


へっ、ようやく戦う気になったか。
ならおいらの牙がその首に突き刺さる前にボールを────


そこまで考えたところでおいらは気づいた。
野郎、ボールを抱え込みやがった。握り締めた右手を服の下に隠して、申し分程度に左腕を盾代わりにおいらの眼前に構えた。


────バカヤロウっ!!


なにしてやがる、戦えよ!
じゃなきゃ避けるなり逃げるなりしろよ!

もう速度は落とせねぇ、空中のせいで俺自身でも軌道を変えられない。
だからよ、当たり前なんだ。どうしたって止めようがなかったんだ。おいらの牙がそいつの左腕に食い込んだのは。

嫌な感触だった。
柔らかい肉に歯が突き刺さる。口の中に血の味が広がって、ぶちりと音が聞こえた気がした。
完全な野生のポケモンじゃねぇおいらは本能で口を離そうとした。が、離せなかった。そいつの口から声が聞こえたからだ。


「……なぁ、頼むよ……。俺は、こいつを……連れて、いかなきゃ……いけないんだ……」


喉を震わせて絞り出したようなか細い声だった。
けど、そいつはどんな咆哮よりも鋭く深くおいらの耳を貫いた。おいらが噛み付いた腕が下ろされたせいで地に足がつき、おいらが見上げる形になる。

642ゴールデンサン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:01:14 ID:ZoUTAOs.0
そいつの目はまっすぐだった。こんな状況なのに恐怖なんかねぇ。おいらの心に訴えかけるように深く、深く見つめていた。

「お前が怒るのも、わかるよ……俺も、こんな状況じゃ……なければ……お前と戦って、ゲット……したかった……」

左腕から滴り落ちる血が草を赤く染める。
相当な激痛のはずだ。なのにこいつは自分の怪我よりも、おいらを説得することを優先していた。

「……けど、今は……だめ、なんだ…………」

呆気に取られて半ば思考を放棄してたが、そこでようやくおいらは気がついた。
こいつはなんでボールを服の下に隠したのか。──あれはまるで、自分を犠牲にしてでも手持ちのポケモンを守るみたいな動きだった。

まさか──いや、でも……ありえねぇだろ、そんなの……。
戦えるポケモンを戦えない人間が身を挺して守るなんて……そんなの、しらねぇ。少なくともおいらは見たことねぇ!

否定の方が先に出るのはよ、おいらの中に刷り込まれた常識のせいだ。
ポケモンは戦うもの。人間はポケモンが守るもの。そういう世界を生きてきたんだからよ、こいつの行動を認めちまったらおいらたちポケモンの根底を否定することになっちまうじゃねぇか。


わかってんだよ。
なぁ、あんた。おいらの考えは間違ってんだろ?
じゃないと説明がつかねぇじゃねぇか。こんなに、こんなにまっすぐおいらを見つめることにさ。

認めるぜ。
けどな、あんただけだ。あくまでおかしいのはあんたで、この世の理は変わりゃしねぇ。こいつはおいらのポケモンとしてのプライドの問題だ。
命を賭けてポケモンを守り、野生相手でも対話を試みる。そんな命知らずなトレーナー、いちゃあいけねぇんだよ。



「────ありがとな、オーダイル」



ゆっくり、これ以上肉を傷つけねぇように牙を引き抜いたおいらに穏やかな声が掛かった。
おいらはそれがたまらなく嬉しくて、さっきまでの闘争心はそっくりそのまま別の感情に移り変わっちまった。

643ゴールデンサン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:02:00 ID:ZoUTAOs.0

認めたくねぇが、わかる。
おいらはこいつに──この人に、惹かれちまったんだ。
バトルをしたわけでもねぇのに、ボールを投げられたわけでもねぇのに、この人についていきてぇって気持ちで溢れてる。

おいらに戦う気がなくなったことを察したその人は背中を向けて立ち去ろうとする。
急いでおいらは立ち塞がった。これで二度目だ。けどな、一度目の時とは目的がまるでちげぇ。
口を閉じ、爪を引っ込め、頭を垂れる。そいつはおいらに出来る最大限の忠誠の証だった。

「俺に……ついてきて、くれるのか……?」
「オォダァ」

ついてきてくれる、だぁ?
そんなボロボロの姿で何言ってやがる。そのままだとポケモンを回復させる前にくたばっちまうぜ。
逆だよ、逆。おいらがつれてってやるんだよ。

「へへ、……ありがとなオーダイル! 俺はレッド、よろしくな!」

そう言ってその人──レッドは俺に手を差し伸べる。モンスターボールを腰に提げ直して右手をだ。その行動がおいらを信頼してくれたみたいで、嬉しかった。
おいらはその手を握る──わけじゃなくて、軽くはたいた。呆気に取られるレッドを前においらは背中を見せ、軽く頷いてみせる。

「オォダ……!」

なにしてんだ、早く乗れよ。
こう見えてもスピードにはそれなりに自信があるんだぜ。
おいらの行動の意味を理解したレッドは一気に表情を明るくして、勢いよくおいらの背中に飛び乗った。人を乗せて走るのなんか久しぶりだぜ。乗り心地は悪いかもしれねぇが我慢してくれよな。


「よぉし、頼んだ! オーダイル!」
「──オォォォダァァ!!」


弾かれるように四足で駆け出す。
それがおいらと変わり者のトレーナー、レッドの出会いだった。


【A-2/一日目 昼】
【レッド@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
[状態]:全身に火傷、疲労(大)、左腕に深い咬傷、無数の切り傷 (応急処置済み)  
[装備]:モンスターボール(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、ランニングシューズ@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、モンスターボール(オーダイル)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:こんな殺し合い止める。
1.ピカを治すために、Nの城へ向かう。
2.オーダイル、ありがとう……。
[備考] 支給品以外のモンスターボールは没収されてますが、ポケモン図鑑は没収されてません。

※シロガネやまで待ち受けている時期からの参戦です。


【モンスター状態表】

【ピカ(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:HP 1/3、背中に刺し傷
[特性]:せいでんき
[持ち物]:アンティークダガー@Grand Theft Auto V(背中に刺さっています。)
[わざ]:ボルテッカー、10まんボルト、でんじは、かげぶんしん
[思考・状況]
基本行動方針:レッドと共に殺し合いの打破
1.睡眠中

【オーダイル@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:健康
[特性]:げきりゅう
[持ち物]:なし
[わざ]:かみくだく、アクアテール、きりさく、こおりのキバ
[思考・状況]
基本行動方針:シルバーが見つかるまでレッドと行動する。
1.レッドを乗せて目的地へ向かう。
2.元のご主人(シルバー)はどこなんだ?


【支給品紹介】

【オーダイル@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
野生として配置されていたオーダイル。元の持ち主はシルバー。
覚えているわざはかみくだく、アクアテール、きりさく、こおりのキバ。
レベル60、ようきな性格。

644 ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:03:12 ID:ZoUTAOs.0
以上となります。

続けてもう一作品投下させていただきます。

645シルバームーン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:04:04 ID:ZoUTAOs.0


『もう、キバゴ〜! 髪の毛噛んじゃダメだって言ってるでしょ〜!?』


それは、雲のように遠くも陽光のように鮮明な記憶。
困ったように叱りながらも気持ちのいい笑顔を向けてくれる彼女のことが大好きでした。私がよく噛んでいた髪も、私を呼ぶ声も、無邪気な顔も。全てが愛おしくてたまらなかった。
それは、一緒の恋情に近かったのかもしれません。性別も種族も、決して壊せぬ壁に阻まれているのであくまで私の一方的な気持ちですけどね。

『ほら、キバゴ! 髪の毛なんかじゃなくてポケモンフーズ食べよ!』

ようやく口を離した私をアイリスはとても優しい手つきで撫で、頬ずりをした後にそう投げかける。私はそれに一鳴き返して──そこで懐かしい夢は終わりを告げました。


◾︎ ◾︎ ◾︎


「──オノ…………」

目を開けたらそこは無機質なモンスターボールの中。疲弊していたからなのか、かなりの時間眠っていたようです。
いつ戦場に駆り出されるか分からない状態なので、休息はほどほどにしなければいけません。まだ瞼の重い目を擦り、次なる戦いに備え気を引き締めました。

今の持ち主──トウヤは、強い少年です。
以前ジムで打ち倒された際に見せた彼の的確な指示には敵ながら感動さえ覚えました。私の攻撃なんてほとんど不発に終わり、逆にあちらの攻撃は避けるどころか受け止めることすら出来ない。まさしく圧倒的という言葉がぴたりと当てはまっていたでしょう。

戦いの終わったアイリスは悔しそうにしながらも大変楽しそうにしていて、今度バトルを教えて欲しいと少年に頼み込んでいたのを覚えています。
私も彼女と同じ気持ちでした。
勝ちたかった、などという願望を抱くことすら恐れ多い勝負。アイリスのためにもトウヤという少年の戦いからは得られるものが多く、成長出来ると思っていました。

その時のトウヤは快く承諾してくれましたが、それ以降彼とバトルしたことはありませんでした。
プラズマ団との戦いを考えればそんな暇はなかったのが当然です。なのでさほど気にしておらず、いつかはまた再戦できるだろうと気長に待つつもりでした。

そんな中です、この殺し合いに参加させられたのは。

646シルバームーン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:05:19 ID:ZoUTAOs.0

私の持ち主はトウヤ。
対戦相手としてではなく手持ちとしてではあるもののまた彼と共に戦えることに不謹慎ながら私は昂りを感じていました。
彼と行動を共にすることで今以上の自分となり、アイリスの元に戻った際に彼女を喜ばせられるというのが主な理由です。


けれど──彼の戦いは私が予想していたようなものではなかった。


トレーナーが指示を下し、ポケモンがそれに従う。
ポケモンバトルの根底とはその単純な行動にあり、そこに搦手や読み合いなどが絡み込んで奥深いものとなる。一種のパフォーマンスのようなものだと私は──いえ、私とアイリスは思っていました。
なのでそれで人を傷つけようとするプラズマ団こそ異質な存在であり、本来バトルとは互いを磨き上げ己やトレーナーを楽しませる行為なのだと無意識の内に常識へ刷り込まれていたのです。

そんな考え、トウヤは既に捨て去っていた。

そう、私は幼い頃からアイリスに育てられたから気付かなかっただけなのです。野生のポケモンにとってバトルとは生き残るための戦い。命懸けの日々の中での一つに過ぎないのだと。

この場に来て初めてのバトルとなるゲーチスのバイバニラ戦。あれはまさしくそれでした。楽しむためのものではなく、勝利するための戦い。果ては──ポケモンの争奪という生命を取り扱った争い。
その戦での私は不気味なほどに洗練された動きを取っていて、今までとは比にならない実力を発揮することが出来ました。いえ──正しくは私の実力ではなく、トウヤの実力です。

この場では信頼度に関わらずトレーナーの指示が絶対という条件。最初こそ不服ではありましたが、持ち主がトウヤであることは幸いだと最初は思っていました。
彼の指示ならば聞くのも苦ではない。その程度の認識でしたが……違いました。その理不尽なまでの条件はトレーナーの力量を遺憾無く発揮させるためのお膳立てだったのです。

レベルもタイプ相性も不利だったバイバニラ相手に勝利できたのは私が強かったからではなく、彼が強かったから。
むしろ彼は弱い私で相手にどう勝つかという算段を整え、その過程を楽しんでいた。私は自分が思っていたよりも弱く、彼は自分が思っていたよりも遥か先を進んでいたのです。

アイリスとは全く違う戦い方、自分の身体とは思えない動きでもぎ取った勝利に達成感や高揚など微塵も湧きませんでした。
それは次の銀髪の女性との戦いでも同じこと。もしも私の持ち主がトウヤではなく別のトレーナーであったならばダイケンキだけではなく私も命を落としていたでしょう。
それほどまでに私の強さは彼に依存している。彼の一声が私の力を本来以上のものに変え、それに信頼や絆、果てには愛など必要なかったのです。

647シルバームーン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:06:34 ID:ZoUTAOs.0

それを突きつけるかのように、ひんしのバイバニラをこの手で殺めるよう指示をされました。
抵抗などできるはずもなく無抵抗な命を奪う。初めて他者を殺めたショックよりも先に、私はこの世界の摂理を思い知らされたことに動揺していました。
ここを生き抜くためには力が全て。不要な存在は切り捨てるもの。トウヤはそれにいちはやく気がついたのでしょう。


世界の広さを知らない未熟者の私が言うのは馬鹿馬鹿しいというのは承知しています。けれど、だけれど……酷く悲しいことだと思います。
バトルとはトレーナーとポケモンの絆を試す場だと思っていたから。突然突きつけられた残酷な現実は私の胸を抉りました。今思えばトウヤがアイリスとの再戦を避けたのは時間の無駄だと判断した結果なのでしょう。
それほどまでに、アイリスとトウヤの間には埋めがたい知識の差があったのです。


私が強い必要なんてなかった。
きっと私でなくとも、私以上に力のないポケモンだとしてもトウヤはこれまでの戦いに勝利していたでしょう。
所詮彼にとって私は駒に過ぎない。ならばいっそ、このままアイリスの元に戻れるまで彼に従い続けるのが最適解なのでしょう。例えそれが道理に反することであろうとも。


そんな中、ジャローダとの戦いがありました。
彼女は私に気づいていなかったようですが、こちらは一目で気づきました。ジャローダはトウヤのパートナーだったのです。彼女も私と同じくここに連れられ、別の方の元に配られ何かが起こり再び野生に帰る形になったのでしょう。

彼女は強かった。
過去に一戦交えた頃とは段違いの強さでした。遥か格上の存在。レベルに関してはバイバニラもそうでしたが、ジャローダはそれに加えて経験においても私より数段上を行っていました。
正攻法で行けば負けるのは間違いなく私。けれどあのトウヤが加われば──いいえ、それでも不安を感じる程の実力差。事実、私はここにきて一番のダメージを受けることとなりました。

今思えば私は、自分が敗北することに期待していたのかもしれません。
完全な傀儡と化した私が、実力を伴い己の判断で戦うジャローダに敗北する。そうなればポケモンバトルに必要なのはトレーナーの実力ではなくもっと別にあると証明出来る気がしたからです。


────勝ったのは私でした。
驚かされることさえあれど脅かされることはないような終始こちらが有利に運んでいた展開でした。
けれど私は希望を見いだしました。事実捕獲が目的とはいえあの戦いは今までで最も長引くものとなり、私のダメージも決して少なくはなかったからです。
被弾することさえ珍しかったのにそれが野生の相手でこの追い詰められよう──それは私の諦念を揺さぶるには十分過ぎるものでした。


あの打ち合いの中、ジャローダの気持ちはほんの少しだけですが伝わってきました。
彼女はトウヤに勝たなければならない理由があったのでしょう。黒い感情に触れる機会の少なかった私では完全に汲み取ることは出来ませんでしたが、ただならぬ事情が含まれていたことは分かりました。
だから敗北した瞬間のジャローダの悲鳴を聴いた私は呼吸が止まり、きゅっと心臓が引き締まるような感覚に襲われたのです。
なまじ希望のあるバトルだったばかりに絶望感も大きかったのでしょう。モンスターボールに吸い込まれる直前に見たジャローダの姿からは生気なんて感じられませんでした。


「オノ……!」


私は未熟者だ。
トウヤという絶対的強者の力を借りて仮初の強さを発揮できているだけに過ぎない。
私よりも遥かに強いジャローダを手にした今、もうトウヤはいつでも私を切り捨てるつもりなのでしょう。

そんな私でも、出来ることがある。
同じ女性として、そして同じポケモンとしてジャローダを元気づけること。きっと一朝一夕で解決できるような問題ではないのだろうけれど、それでも私は彼女を助けたい。

あなたもきっとそうするでしょう?
──アイリス。



◾︎

648シルバームーン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:08:12 ID:ZoUTAOs.0



「──さて、バッグを捨てて両手を上げてくれるかな?」


Nの城へ向けて足を運んでいたトウヤは進行を中断せざるを得なくなった。
その原因は彼の二十メートルほど先にいる男性、オセロットの向ける拳銃にある。その隣に佇むバレットは少年に銃を向けるという行為に不服を示しながらも何が起こるかも分からない状況故に口は出さなかった。

「さすがに銃を向けられるのは初めてです。バトルとは違う緊張感がありますね」
「そうか、貴重な経験が出来て良かったじゃないか。……さて、私は君と長話をする余裕はないのだが」
「わかっています、バッグを捨てるんでしたね」

言葉の余韻もほどほどにトウヤは驚くほどあっさりとバッグを投げ捨てた。
その行動にバレットは呆気に取られる。ちらりとオセロットに視線を向けるが、拳銃の照準は依然少年を捉えておりその奥の眼光は粒ほどの油断も見せない。

「その『ボール』もだよ、少年」
「……へぇ。『これ』がなにか分かるんですね、あなたは」

言いながらトウヤは腰に提げたボールに手を添える。
トウヤはこの世界で学んだことがある。それはA2のようにポケモンを知らない存在がおり、そういった存在はまた別の戦う術を持っているということ。
トウヤはまだそういった外部の力を把握出来ていない。しかしそれは逆も然り、ポケモンを知らない相手にとってはモンスターボールを見てもそれが凶悪な武器だと思うはずがないのだ。

トウヤはこの場を適当に切り抜けるつもりでいた。
バッグを捨てて油断した二人組にジャローダとオノノクスを繰り出し反撃。そして隙を作ったあとにNの城へ疾走するのが第一の計画だった。
しかしこの老人はボールの危険性を知っていた。となると彼はポケモンという存在に触れる機会があったのだろう。ボールがないところを見るに彼や隣の筋肉達磨がトレーナーだという線は薄そうだ。
もっともトウヤの読みは少し違っており、事実はオセロットが運営側のエイダに事前情報を与えられていたことにあるのだが──そんなことまで推察するなど不可能だろう。

「おい、オセロット。あのボールに……」
「静かに。後で説明しよう」

バレットの方を一切見ずに答えるオセロットからは余裕が感じられなかった。その凄みに圧されバレットは息を呑み、少年へ目を向ける。
確かに彼の胆力は相当なものだった。銃を向けられているのに一切動じることのない、どころかボールという単語を出してから光のない眼差しに期待が宿っているのがわかる。
セフィロスとはまた違う異質な雰囲気──バレットはその程度に感じていたが、オセロットはそれ以上に少年を警戒していた。

649シルバームーン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:09:04 ID:ZoUTAOs.0


(────この少年がトウヤ、か……なるほど。一筋縄ではいかないな。)


エイダからの事前知識は多くは無い。
逆に言えばそんな些細な情報でも目の前の存在が警戒に値するということだ。それもそうだろう、エイダは彼を『世界最強のトレーナー』と伝えたのだから。
外見的特徴の一致、そうして銃を向けられていながら主導権を握れない状況。なるほど、たしかに世界最強というのも誇張表現ではないのだろう。

「なら、戦いましょう。銃を相手にどう戦えばいいのか、オレも学ぶことが多い戦いになりそうだ」
「残念だがそれは叶わない。私がキミの頭を撃ち抜いて終わりだ。そんなつまらない結果になりたくないだろう?」
「それはどうでしょう。少なくとも貴方は警告もなしにオレを撃つことは出来ていない。そっちの男の人もオレに銃を向けることに賛成はしていなさそうですしね」

──頭が回る少年だ。

そう、オセロットは今無闇にトウヤを射殺することは出来ない。もしここで無抵抗の少年を撃ち殺したとなれば隣のバレットは必ず抗議の声を上げ、運営の打倒に大きな支障をきたすことだろう。メリットとデメリットが釣り合わないのだ。
逆に言えばトウヤが味方についてくれるのであれば大きな戦力になる。だからこそ今こうして対話を試みているのだが、事態は芳しくないらしい。

「……どうやらキミは我々の目的を察しているようだ。ならば大人しく頷いてくれると嬉しいのだが、どうかな?」
「協力者が欲しいんでしょう? ──残念ですがお応え出来ません。従わせたいのなら、実力で従わせればいい」
「やれやれ……とんだバトルジャンキーだな、キミは」

二人のやり取りを聞いていたバレットは堪らず苛立ち混じりに地面を殴り付ける。
左腕のデスフィンガーにより抉られた土は轟音を上げて小規模な煙幕をつくり、それが晴れた頃にバレットが怒鳴りをあげた。

「──いい加減にしろよッ! こっちはそれどころじゃねぇんだ! 戦いなんかよりもテメェが生き残ることを考えろ!! 死んじまったら元も子もねぇだろうが!!」

バレットが憤慨するのも当然だ。
自分が生き残るよりも戦闘を優先する思考なんて理解できない。それもただの戦闘狂ならまだしも、相手は年端もいかない少年なのだ。ここで潰えていい存在ではなく、未来がある。
なのにトウヤは傍から見れば自殺志願者に近い。だからこそ、この中では一番"まとも"な感性を持つバレットが声をあげざるを得なかった。

「……あの方はああ言っていますが、あなたはどうですか?」
「失礼、少々激情家でね。だが彼の言うことは正しい。私もこんな形で若い芽を摘みたくない。……という言い方では不満かな? 君を戦力として陣営に加えたい。これは命令ではなくお願いだ」
「お願い、ですか。……話して間もないオレが言うのもなんですが、あなたにそんな言葉は似合わない」

交渉決裂。
それを突きつけるようにトウヤは腰に提げた一つのボールを右手で掴み、地に落とす。
それと全く同時に左手で帽子を深く被り直した。瞬間、オセロットの銃弾が炸裂する。吸い込まれるようにそれは帽子ごとトウヤの額に突き刺さり、スローモーションのようにその小柄な体を仰向けに沈めた。

650シルバームーン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:10:23 ID:ZoUTAOs.0

「オセロットッ!!!!」

危惧していた最も恐るべき事態である少年を撃ち殺すという行為に怒号を上げるバレットに対し、オセロットは即座に走り出す。憤慨する彼から逃げているのかと言われればそうではない。しかしそう捉えたバレットは彼の後を追いかけようと足を踏み出した瞬間、彼の巨体に衝撃が走った。

「が……ッ!?」

ちょうどオセロットの方向へ吹き飛ばされたバレットはうつ伏せのまま襲撃の原因を辿ろうと視線を向ける。
と、そこには地に伏せるトウヤを守るように立ちはだかる翠色の大蛇の姿があった。先程の衝撃は水流を纏う尾の一撃によるものなのだろう。その威圧感たるや、並のモンスターのそれではない。

「撤退するぞ、バレット君」
「あぁ!? ……くそっ、なにがなんなんだよ!」

いつの間にか傍に駆け寄っていたオセロットがバレットの肩を叩き、撤退を促す。状況も掴めぬまま起き上がった巨漢はトウヤの亡骸へ一瞥をやり、その後本来の目的地である北西へ姿を消した。


二人分の不揃いな足音が遠ざかる。
そうして最後に残ったのは額を撃ち抜かれたトウヤと、それに寄り添うジャローダだけだった。



────
──





「……ああ、起きてるよ。戻れ、ジャローダ。」



彼らが去って五分ほど経った頃だろうか。
死んだはずのトウヤが呻くように声をあげ、仰向けのままジャローダをボールに戻す。
そうして上体を起こしたトウヤはコキコキと首を鳴らし、身体に異常がないか確かめるように肩を回した。

651シルバームーン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:10:53 ID:ZoUTAOs.0

「はは、……やっぱり銃弾を躱すなんて芸当、無理だったか」

いけるとおもったんだけどな、と。まるで木登りにでも失敗した少年を思わせる口振りで続けるトウヤ。
銃弾により穴が空いた帽子を取ると、中から金属製のレンチが覗かせる。その柄には焦げた弾痕が刻まれていた。

そう、彼は死んでなどいなかった。
オセロットが銃弾を放ったまさにその瞬間、帽子の中に忍ばせていたレンチで弾を受ける為に帽子の鍔を持って深く被る──そんな一歩間違えれば即死していたであろう賭けを、さも当然のようにやってのけたのだ。
そして、トウヤは生き残った。数え切れないほどの高速戦闘を間近で見て培ってきた反射神経がもたらしたそれは、とても常人にはなし得ない。

いや、例え考えついたとしてもそれを実行しようと思うなど──特大の狂気を持つ者にしか許されないだろう。

「っ……、……さすがに痛いね」

とはいえトウヤも完全に銃弾の勢いを殺せた訳では無い。
固いレンチ越しに脳を揺さぶられたことにより数分意識を刈り取られた。その間に続く銃弾が飛んでいたら問答無用でトウヤは死んでいただろうが、そうならなかったのは単に彼の運が良かっただけではない。

彼は事前にジャローダに指示を出していたのだ。
ボールから出す前に。もっと言えば、オセロットたちと出会う前に。

『オレがNの城に着く前にボールからキミを出した瞬間、アクアテールを撃て』

元々トウヤはNの城までジャローダを戦闘に出すつもりは無かった。だからこそ彼女を出す瞬間があるとすればそれは先程のように緊急性が迫られる時。指示をする暇なく先手を取らなければいけない時をトウヤは見越していたのだ。
モンスターボール越しにそれを聞いていたジャローダがまず目に付いたバレットに尾を振るったのは至極当然のこと。だが、それ以上の指示は与えられていないため二人に追撃することはなかった。

それが、いまの一覧のからくり。
オセロットとバレットという実力者を相手に生き残ることができた理由だ。

「さて──Nの城に行こうか。なんだか、楽しくなる予感がするよ」

緩慢な所作で起き上がったトウヤの顔はどこか満足気だった。
久々に感じた命の危険。ジャローダとの戦いの中でもそうだったが、やはり生死を懸けた戦いほどのスリルはない。

不敵な笑みを浮かべたトウヤは、再び城へと歩き出した。


【E-2/橋近くの草原/一日目 昼】
【トウヤ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:全身に切り傷(小)、高揚感(小)、疲労(大)、軽い脳震盪、帽子に二箇所の穴
[装備]:モンスターボール(オノノクス)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト、モンスターボール(ジャローダ@ポケットモンスター ブラック・ホワイトチタン製レンチ@ペルソナ4  
[道具]:基本支給品、モンスターボール(空)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト×1、カイムの剣@ドラッグ・オン・ドラグーン、煙草@METAL GEAR SOLID 2、スーパーリング@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[思考・状況]
基本行動方針:満足できるまで楽しむ。
1.Nの城でポケモンを回復させる。
2.自分を満たしてくれる存在を探す。
3.ポケモンを手に入れたい。強奪も視野に。

※チャンピオン撃破後からの参戦です。
※全てのポケモンの急所、弱点、癖、技を熟知しています。
※名簿のピカチュウがレッドのピカチュウかもしれないと考えています。


【ポケモン状態表】
【オノノクス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト ♀】
[状態]:HP1/8
[特性]:かたやぶり
[持ち物]:なし
[わざ]:りゅうのまい、きりさく、ダメおし、ドラゴンテール
[思考・状況]
基本行動方針:トウヤに従う。
1.ジャローダと話がしたい。

【ジャローダ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト ♀】
[状態]HP:1/10  人形状態
[特性]:しんりょく
[持ち物]:なし
[わざ]:リーフストーム、リーフブレード、アクアテール、つるぎのまい
[思考・状況]
基本行動方針:もうどうでもいいのでトウヤの思うが儘に
1.???





◾︎

652シルバームーン ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:11:57 ID:ZoUTAOs.0




「おい、いい加減止まれよ!」
「……そうだな、この辺りならいいだろう」

トウヤの元を去って暫く走り、橋を越えた頃。併走するバレットの呼び声に従ってオセロットが足を止める。
説明が欲しかった。何故あの少年を撃ったのか。そして撃った後に駆け出したのはなぜか。矢継ぎ早に質問を投げようとするも、先読みしていたオセロットによってバレットの口は噤むことになる。

「あの少年は危険だ。……恐らく、あの銃撃も防がれている。長居していたらやられていたのは我々だったかもしれない」
「……! ……さっきのモンスターか」
「ああ、見たところ彼はボールを二つ持っていた。一匹ならまだしもあんな怪物が二匹相手となると負担が大きい」

息を整える老人の言葉にバレットはジャローダの姿を思い浮かべる。確かに、あのレベルの相手二匹となると無事では済まないだろう。未だに痛む背中を右手で擦りながらバレットは歯噛みする。
続けて、気になっていた点を問いかけた。

「お前、あのボールについて知ってたのかよ」
「……ああ。君ならばわざわざ説明することもないだろうがね」
「はっ、そういうことかよ。……けどな、そういうのはもっと早く言うもんだぜ」

モンスターボールが支給されておらず、その存在を知らなかったバレットはあの紅白の球体を見て武器だと判断できなかった。
けれどオセロットはあれの危険性を知っていた。内通者であるからそういった情報も貰っていたのだと判断したバレットは愚痴混じりに睥睨する。
それを受けたオセロットは肩を竦めてみせる。伝えようがない、とでも言いたげだった。

「とにかく……あいつは生きてんだな?」
「十中八九そうだろう。あれで殺せる相手ならばここまで一人で生き残っていない」
「……たしかにな。銃を前にしても余裕だったし、あの帽子になんか仕込んでたのかもしれねぇ」

もちろんそれは確定では無い。本当にトウヤが死んだ可能性もあるが、今はそう納得しておくことにした。
どのみち死体を確認するために戻り、また同じことを繰り返す気にもなれない。あれはそう簡単に味方に加わってはくれないだろう。

「出鼻をくじかれたが、まだ時間はある。気落ちするな、バレット君」
「はっ、言ってくれるぜ……次は俺が交渉してやろうか?」
「君でも冗談が言えるんだな、今のは面白かったよ」

かくして両者は遂に激戦区である北西の島へ足を踏み入れた。




【バレット・ウォーレス@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:左肩にダメージ(処置済)、背中に痛み、T-ウイルス感染(?)
[装備]:デスフィンガー@クロノ・トリガー、神羅安式防具@FF7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間の捜索と、状況の打破。
1.北西の島へ向かい、対主催の仲間を集める。
2.リボルバー・オセロット、ソリダス・スネークを警戒。

※ED後からの参戦です。
※ブルーハーブの粉末を飲みました。T-ウイルスの発症がどうなるかは後続にお任せします。

【リボルバー・オセロット@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:健康
[装備]:ピースメーカー@FF7(装填数×2)、ハンドガンの弾×22@BIOHAZARD 2、替えのマガジン2つ@METAL GEAR SOLID 2
[道具]:基本支給品、マテリア(あやつる)@FF7
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを破壊する。
1.北西の島へ向かい、対主催の仲間を集める。
2.時間的な余裕はあまりない。別の手段も考えておくべきか。
3.トウヤとの再会は避けるべきか。

※リキッド・スネークの右腕による洗脳なのか、オセロットの完全な擬態なのかは不明ですが、精神面は必ずしも安定していなさそうです。
※主催者側との繋がりがあり、他の世界の情報(参加者の外見・名前・元の世界での素性)を得ています。

653 ◆NYzTZnBoCI:2023/01/06(金) 15:13:30 ID:ZoUTAOs.0
以上となります。

未だこの作品を応援し続けてくださる皆さんに大きな感謝を伝えたいです。
遅れましたがあけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

654 ◆RTn9vPakQY:2023/01/06(金) 18:59:53 ID:EEGIov9U0
投下乙です!

>ゴールデンサン
ポケモン視点からトレーナーを描く手法によって、効果的にレッドの強さを表せていると思いました。
オーダイルからすればありえない行動を目の当たりにして、それでもなお惹かれてしまう。
レッドもまた、チャンピオンまで昇りつめた、別格のトレーナーなんだと再認識しました。
あとオーダイルの話し方が好き。

>シルバームーン
トウヤ、コイツおかしいよ(褒めてる)
こちらもポケモン視点から始まるものの、口調などからオーダイルとは違う印象を受けます。
「革新的に生まれ変われ」の内容を拾いつつ、ポケモンのキャラも立てているのがすごいです。
そして銃を向けられても一切ひるまずに相対するトウヤ。やはりネジが外れている……。

ポケモントレーナーを対比的に描きつつ、その強さ(あるいは異常性)を再確認させてくれる二作品でした。

最後に細かいことで恐縮ですが、wiki収録の際に、
・オセロットのピースメーカーの装填数を1減らす
・オセロットとバレットは橋を越えたので、現在位置等を【D-3/橋近くの草原/一日目 昼】などとする
以上の二つだけ確認いただければ幸いです。

655 ◆RTn9vPakQY:2023/04/08(土) 01:15:13 ID:.o6K0wAs0
ミリーナ、マルティナ、エアリス 予約します。

656 ◆RTn9vPakQY:2023/04/14(金) 18:38:01 ID:kUAiP7yA0
予約を延長します。

657 ◆RTn9vPakQY:2023/04/22(土) 01:00:21 ID:WlzqUC8g0
お疲れ様です。もうすぐ予約期限ですが、遅れそうです。
申し訳ない。本日の内には投下させてもらいます。

658 ◆RTn9vPakQY:2023/04/22(土) 20:08:47 ID:WlzqUC8g0
投下します。

659強い女 ◆RTn9vPakQY:2023/04/22(土) 20:11:00 ID:WlzqUC8g0
 ミリーナはマルティナを連れてD-1エリアへと移動していた。
 消耗したマルティナを休ませる場所として、テーブル席のある飲食店を選んだ。
 そして、念のため首輪探知機を確認してから、ようやく緊張を緩めて、かたわらのマルティナに声をかけた。

「近くに参加者はいないみたい」
「ひとまず安心というわけね」

 そう口にしたマルティナは、先んじて入口近くの座席に腰掛けると、身体をソファの背もたれに預けて深く息をついた。緩慢な挙動からは、相当に消耗していることが想像できた。

「……必要なら手当てをするけど」

 あえて険のある言い方をしたのは、先ほど少年を見逃したマルティナを非難する気持ちからだ。
 一方のマルティナは、それほど気にした様子もなく「そうね」と首肯した。
 その態度には苛立ったものの、追及したところで適当にいなされる予感がしたので、我慢してマルティナの隣に立ち、術を行使することにした。
 術を唱えながら、ミリーナは思案する。

(いつマルティナを切り捨てるか、決めておかないと)

 マルティナとの同盟関係は、具体的な期限を定めていない。
 もともとミリーナは、単独では敵わない強者――マルティナや、長刀を振り回して隕石を降らせていた男――を見たからこそ共闘を持ちかけた。
 つまり期限どうこうという問題ではなかった。強いて言えば、敵わない強者が存在しなければ共闘は不要になる。
 しかし、同盟関係を結んでから六時間も経たないうちにミリーナの思考は変化していた。
 その理由は、ひとえにマルティナへの信用が低下したからである。

(マルティナは、きっと弱者を殺せない。
 だって、あの少年を殺せなかったのだから)

 マルティナは、イレブンをはじめとする仲間を喪うことに抵抗を覚えていた。
 その抵抗を失わせようとして、ミリーナはわざわざ春香を殺した事実や自身の目的を伝えた。
 しかし、マルティナは簡単に殺せたはずの少年を見逃した。こちらに敵意を向けており、利用することもできない相手なのにもかかわらずだ。
 このことから、マルティナは情に流される性質(タイプ)の人間だと確信した。
 そして、その性質は殺し合いにおいては弱点なのだ。

(もし情を捨てられないようなら、見切りをつける。
 そうじゃなくても、残り人数で決めておいた方がいいわね)

 ミリーナとしては、弱点を抱えた人物を信用しきれない気持ちがある。
 それゆえに、マルティナを切り捨てるタイミングを熟慮しているのだ。

(半数で三十五人。三割で二十人ちょっと。
 まだ多い?……いえ、それくらいにしましょう)

 そして、残り二十人前後で切り捨てると決めた。
 放送によると、六時間で十三人の脱落者が出ている。もしこのままのペースで殺し合いが続くならば、二十四時間足らずで三割程度になるはずだ。
 おそらくその頃には、弱者はもちろんのこと、強者も多かれ少なかれ消耗しているだろう。そこを狙う戦略を立てる。
 それまではマルティナとの同盟を維持して、気力と体力を温存しておきたい。

(あとはマルティナの仲間と出会ったときにどうするか、だけど……)

 口約束の上では、イレブンと遭遇したときに、同盟は解消することになっている。
 ミリーナとしては、そうなる前にイレブン以外の仲間をマルティナに殺させたいところではあるが、事がそう上手く運ぶとは限らない。
 ひとまず、マルティナの仲間たちと遭遇したときのことは別に考えておくべきだ。

「ミリーナ?」
「えっ!?」

 思考に集中していたミリーナは、マルティナの声でハッと我に返る。
 回復術の行使は、途中で停止してしまっていた。

「もう終わりでいいの?」
「あぁ、ごめんなさい。あと少しだけ」

 これまでの思考を声に出していないだろうかと、冷や汗をかいた。
 当座は同盟関係を続けるのだから、まだまだ前衛として働いてもらいたい、という願いを込めて体力を回復させる。

「大丈夫?」
「……ええ」

 ひとまず疑われた雰囲気のないことに胸をなでおろしつつ。
 しかし、術を終えるまでマルティナの目を見ることはできなかった。



(人を殺した。何の罪もない人を)

660強い女 ◆RTn9vPakQY:2023/04/22(土) 20:12:16 ID:WlzqUC8g0
 ザックスとの戦闘を終えてから、マルティナは暗い感情を漲らせていた。
 マルティナは参加者の命を奪った。人を襲う魔物を倒すのとはわけが違う。明確に一線を越えたのだ。

(もう、私は覚悟を決めた)

 マルティナの願いは、中途半端な心のままでは成し遂げられないものだ。
 その事実は、ソニックと戦闘したときや、ミリーナの口から覚悟を聞いたときに思い知らされた。
 しかし、もう心を黒く染める覚悟は完了した。ザックスとの戦闘を通じて、マルティナの決意は固くなったと言える。

(これで、ミリーナと同じ位置に立てたかしら)

 かたわらで回復術を行使しているミリーナを見やる。
 自分と同じ志を持ち、自分よりも早い段階で覚悟を決めていた相手。
 共闘する相手と同じ立場になれたと感じて、マルティナはどこか安堵する気持ちがあった。

「これで多少は回復した?」
「ええ、ありがとう」

 マルティナはミリーナに微笑んだ。ミリーナのおかげで、受けたダメージはだいぶ和らいだ。戦闘にも支障はないだろう。
 呪文を習得していないマルティナにとって、回復術はありがたい。

「あとは……食事も済ませておいた方がいいかしら。
 探知機をまた使えるようになるまでは、各自で動くことにしましょう」
「わかったわ」

 その提案に同意して、マルティナはデイパックを開けた。
 食料と水を取り出し、それらを口に運ぶ。三分くらいで手早く食事を終えて席を立つと、近くにいたミリーナに驚かれた。

「あら、ずいぶん早いのね」
「そう?きっと旅をしていたせいね」
「旅をしていると、食べるのが早くなるの?」
「何が起きてもいいように、外では早く済ませなさいって教えられたの」

 マルティナは十六年以上、ロウと二人旅を続けていた。
 そしてその過程で、野営を何度となく経験してきたのだ。
 ロトゼタシア大陸に点在する女神像の加護によって、キャンプ中は基本的に魔物の心配はない。
 とはいえ、いつも女神像のある場所で休めるとは限らない。また、盗賊や異常気象などに対して即応を求められることもある。
 それゆえに常に警戒心を持つべきだと、幼少期から教育されてきたのだ。

「もちろん、安全な場所ならゆっくり食べるけど、今はそうじゃないでしょう?」
「ふうん……」

 ミリーナはどこか釈然としない返事をした。
 とはいえ、それ以上に説明することはなかったので、マルティナは改めて席を離れた。

「一時間後に再集合でいいのよね?」
「ええ。私はここで待機しているから」
「わかったわ」

 ミリーナを置いて店を出たマルティナは、まず店頭に立ててあった幟(のぼり)を手にした。
 幟の旗を外してポールのみの状態にすると、それを槍のように扱おうと試みる。
 ポールをかまえて、突き、薙ぎ、振り下ろす。流れに身を任せて動いていると、余計なことを考えずに済んだ。
 しばらく同じ動作を繰り返してから、ふうと一息ついた。

「これは軽すぎるわね」

 ポールで地面を叩くと、コンコンと音が鳴る。中は空洞のようで、長さはともかく、強度は英雄の名槍とは比べものにもならない脆さだ。
 これではマルティナの得意とする“一閃突き”の威力も半減してしまう。

「無いよりはマシかしら」

 それでも、マルティナはそのポールをデイパックに収めた。
 先程の戦闘で、光鱗の槍は折れて使用不可能になってしまった。
 マルティナには格闘の心得もあるが、殺傷能力のより高い武器攻撃を優先したいところだ。

「近くに武器屋でもあればいいけど……」

 ささやかな期待をしつつ、マルティナは近隣へと歩を進めた。
 それからしばらく市街地を探索するも、芳しい結果は得られなかった。
 期待外れの結果に肩を落としながら、マルティナは集合場所へと戻った。

「あら、マルティナ。時間ピッタリね。
 ちょうど今、探知機を使えるようになったところよ」

 店内に入ると、ミリーナから声をかけられた。それに適当な返事をして、ミリーナの対面の席に座る。
 どうやらお茶を淹れていたようで、店内には茶葉の香りが充満していた。

「茶葉が支給されていたから淹れてみたの。
 もし苦手じゃなかったら、あなたも飲んでみる?」
「……遠慮しておくわ」

 お茶にはリラックス効果があると聞いたことを思い出して、マルティナは誘いを遠慮した。
 今はこの緊張感を維持しておきたい、と考えたからだ。

661強い女 ◆RTn9vPakQY:2023/04/22(土) 20:14:03 ID:WlzqUC8g0
「そう?それなら、今後の話をしましょう」
「ええ。これからどうするの?」
「あなたさえ平気なら、D-2に戻ろうと思うけど」

 ミリーナは地図を広げて、D-2エリアを指し示した。
 C-1は禁止エリアになったので進めない。また、E-1は海が近いので、あえて訪れる参加者はいないと予想できる。
 そのため実際のところ、選択肢は東に向かう一択である。
 つまり、ミリーナがマルティナに対して尋ねたのは、進行方向ではなく覚悟についてだと、マルティナは察した。

「私は問題ないわ。もう迷わない」
「……ならいいわ」

 ミリーナがマルティナの返事に納得したのかどうかは分からない。
 ただ、少なくともこの場では、これ以上追及するつもりはないようだった。
 マルティナは胸をなでおろして、今後の話をすることにした。



 エアリスは、教会の中央に佇んでいた。
 差し込む日光と、そのおかげで育つ美しい草花。
 平穏な風景を眺めていると、教会の扉がきしんで音を立てた。
 その向こう側にいたのは、エアリスのよく知る人物。

「ザックス!?」

 無骨な服装にツンツン頭、そして空に似た青色の瞳。
 どれだけ時間が経とうとも、忘れることはない相手だ。
 エアリスはすぐに駆け寄ろうとして、しかし立ち止まった。
 そして、小首を傾げて問いかけた。

「ザックス、だよね?」

 ザックスは答えない。驚いたような表情で、教会の中を見ていた。
 どうやらエアリスのことは見えていないらしい。
 立ち尽くすエアリスの横を通り過ぎて、ザックスは花畑の近くに屈みこんだ。
 そして、床に仰向けに寝転ぶと、ひとつ微笑んで目を閉じた。

「ザックス!」

 これに似た光景を、前にも見たことがある。
 脳裏に思い浮かんだ悪い予感を振り払おうと、エアリスはザックスの名前を呼んだ。
 すると、いきなり世界が暗転して、景色が変化した。
 どこかの市街地。開けた場所に横たわるザックスと、その傍らに見知らぬ少年の姿。

「なぁ、美津雄……お前、夢ってあるか?」
「ないよ、そんなのない……!! オレには、なんにもないんだ……」
「そっ、か」
「オレには……夢を持つ、資格もないよ……」
「ばー、か。夢を、持つのに……資格、なんて、いらねぇよ」

 息も絶え絶えに話すザックスと、嗚咽しながら話す美津雄。
 エアリスは二人に対して必死に呼びかけるも、一向に届く様子はない。

「夢を持て、美津雄。そしたらちっとは、世界が楽しく見えるかもしれないぜ」

 その言葉を最後に、ザックスは目を閉じた。
 号泣する少年を見ながら、エアリスはその場に膝をついた。
 この光景が何を意味しているのか、自ずと理解できてしまったからだ。
 そして、世界は再び暗転した。



「……そろそろD-2ね」
「ミリーナ、探知機に反応は?」
「複数人で固まっているか、動き続けているか……いえ、待って」
「どうしたの?」
「ここ、二人いたのに一人だけ北上しているわ」
「わざわざ単独行動を選んだのかしら。それとも、戦えないから置いて行かれたとか」
「あるいは殺害したか……」
「その可能性もあるわね。どうする?」
「行ってみましょう。人質に取れるかもしれないわ」
「……そうね」
「不服かしら?マルティナ」
「いいえ。いい考えだと思う」



 エアリスが目を開くと、そこには喫茶店の天井があった。
 身体に異常はない。むしろ、ダメージは回復したくらいだ。
 直前まで見ていた光景は忘れていない。おそらくザックスはどこかで倒れている。

「ううん、倒れているだけじゃない。きっと……」

 脳裏に浮かんだ予感を、口にすることはできなかった。
 口にすることで、それが真実だと確定してしまう気がしたからだ。

662強い女 ◆RTn9vPakQY:2023/04/22(土) 20:15:37 ID:WlzqUC8g0
「それより、ゲーチスは!?」

 エアリスを眠らせた張本人のゲーチスは、姿を消していた。
 店内の時計を見ると、一時間はゆうに過ぎていた。もう近くにはいないだろう。
 ゲーチスの行き先は十中八九“Nの城”だ。何度も口にしていたあたり、よほど大事な場所に違いない。

「どうしよう?」

 エアリスは水道水で喉を潤してから、喫茶店の椅子に腰掛けた。
 そして、ひとつひとつ指折り数えながら、今後の方針を考える。
 一つ目。ゲーチスを追う。つまりNの城に行くということだ。
 二つ目。如月千早を探す。これはソニックから頼まれたことである。
 三つ目。カームの街を探索する。同じことを考えた仲間や、あるいは黒マテリアを発見できるかもしれない。

「うーん。どうしよう?」

 本音を言えば、正宗を振り回す男(カイム)やセフィロスのことも気にかかる。
 しかし、前者はソニックに任せており、後者はエアリス一人で対抗するのは困難だ。この状況では先送りにせざるを得ない。
 となると、先に挙げた三つの中から決めるのが妥当なように思われる。
 そうしたエアリスの思考は、鈴の音で打ち切られた。

「あら……よかった」

 そこにいたのは、背丈よりも長い棒を携えた女性だった。
 何がよかったのだろう、と疑問符を浮かべつつ、エアリスはコミュニケーションを取ることにした。

「私、エアリス。あなたは?」
「エアリス……そう」
「あ、もしかして、あなたが千早?
 でも、ソニックは銀髪って言ってたっけ……」

 ソニックの名前を聞いた女性は、わずかに両方の眉を上げた。
 明らかにソニックのことを知っている反応だったが、マルティナは特に言及しないまま、別の話を始めた。

「私はマルティナ。エアリス、ひとつ頼みたいのだけど」
「頼み?」
「手荒な真似をするつもりはないわ。ただ、しばらく人質になってほしいの」
「人質、って……」

 人質という単語を聞いて、エアリスは過去の記憶を思い出して動揺してしまう。
 勝手に話を進めるマルティナを不審に思ったこともあり、身構えようとした瞬間、エアリスは足払いを受けて尻もちをついた。
 そして直後に、ひんやりとした棒の先端を喉元に突きつけられた。

「あなたが選べるのは、利用されるか、ここで殺されるかの二択よ」
「……あなたも、殺し合いを肯定するのね」

 エアリスは悲痛な思いでマルティナを見た。
 正宗を振り回す男(カイム)、ゲーチス、そしてマルティナ。
 これまでに遭遇してきたのは、殺し合いを肯定する人物ばかりだ。

(とにかく、逃げないと……!)

 この場で簡単に殺されるのも、人質として利用されるのも、お断りだ。
 そう決めて、マルティナを無力化するために魔力を練る。

「邪気封い――」
「フォトン!」

 リミット技を行使しようとした直前、マルティナとは異なる声が店内に響いた。
 いくつかの光弾がエアリスの周囲に飛来し、そして破裂する。

「うあっ!」

 破裂した衝撃で壁にぶつかり、エアリスは悲鳴を上げた。

「ミリーナ!何を……?」
「油断しないで、マルティナ。たぶんエアリスは、私と同じ術士タイプよ」
「術士……そういうこと」
「ええ。今も何かの術を使おうとしていた」

 視線を上げると、喫茶店の入口近くに、金髪の女性が立っていた。
 ミリーナと呼ばれた女性は、エアリスにこう告げた。

「さあ、エアリス。“私たち”の頼み、もういちど説明した方がいいかしら?」

 エアリスは歯噛みした。マルティナとミリーナは組んでいるのだ。
 リミット技を不発にされた以上、この状況を打破する方法は、現状では思いつかない。
 しばらく無言のにらみ合いを続けた後、エアリスは静かにうなだれた。

「わかったわ」

 武器を没収され、後ろ手に縛られながらも、エアリスの戦意は失われていない。
 どこかで逃げるチャンスは生まれるはずだと、そう信じているからだ。

663強い女 ◆RTn9vPakQY:2023/04/22(土) 20:17:23 ID:WlzqUC8g0
【D-2/市街地にある喫茶店/一日目 昼】
【ミリーナ・ヴァイス@テイルズ オブ ザ レイズ】
[状態]:首筋に痣
[装備]:魔鏡「決意、あらたに」@テイルズ オブ ザ レイズ、プロテクトメット@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品×2、不明支給品0〜2、首輪探知機(放送まで使用不可)@ゲームロワ、王家の弓@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド、木の矢(残り二十本)@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する
1.マルティナと共に他の参加者を探し、殺す。
2.エアリスを人質として利用する。
3.イレブン以外のマルティナの仲間を、マルティナに殺させる。その方法は具体的に考えておきたい。
4.マルティナのことは残り二十人前後で切り捨てる。現状は様子見。

※参戦時期は第2部冒頭、一人でイクスを救おうとしていた最中です。
※魔鏡技以外の技は、ルミナスサークル以外は使用可能です。
※春香以外のアイマス勢は、名前のみ把握しています。


【マルティナ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、左脇腹、腹部に打撲
[装備]:ポール@現実
[道具]:基本支給品、キメラの翼@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて、折れた光鱗の槍@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド、ランダム支給品(0〜1個)
[思考・状況]
基本行動方針:イレブンと合流するまでミリーナと協力し、他の参加者を排除する。
1.心を黒に染める。
2.ミリーナと共に他の参加者を探し、殺す。
3.エアリスを人質として利用する。
4.カミュや他の仲間も殺す。

※イレブンが過ぎ去りし時を求めて過去に戻り、取り残された世界からの参戦です。イレブンと別れて数ヶ月経過しています。


【エアリス・ゲインズブール@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:MP消費(小)、後ろ手に縛られた状態
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:仲間(クラウド、バレット、ティファ、ザックス)を探し、脱出の糸口を見つける。
1.マルティナとミリーナから逃げるチャンスをうかがう。
2.ゲーチスを追うor千早を探すorカームの街を探索する。
3.セフィロス、および会場にあるかもしれない黒マテリアに警戒
4.カイムのことはソニックに任せてみる。

※参戦時期は古代種の神殿でセフィロスに黒マテリアを奪われた〜死亡前までの間です。
※ゲーチスからポケモンの世界の情報を聞きました。


【ポール@現実】
現地設置品。
店頭にある幟から旗の部分を取ったもの。ステンレス製で全長2メートル程度。

664 ◆RTn9vPakQY:2023/04/22(土) 20:18:01 ID:WlzqUC8g0
投下終了です。
誤字脱字、その他気になる点などありましたら、コメントよろしくお願いします。

665もうあの場所には帰れない ◆vV5.jnbCYw:2023/07/22(土) 00:06:39 ID:J2EjjrnU0

イシの村を後にして30分と少しして、魔王たちがたどり着いたのは、廃墟だった。
外からの見た目は、城を彷彿とさせるほど大きい。
魔王が拠点としていた城や、サクラダの知るハイラル城に比べればそこまでは大きくない。
だが、少なくとも町の屋敷よりかは土地を広く占めているだろう。


「ンマ〜、ボロボロの建物ね。何か争いでもあったのかしら?」


だが、城に見られるような荘厳さはない。
壁は苔むしており、所々が崩れている。
屋根もボロボロになっており、よほどの廃墟マニアでなければ、紹介すべき建物でもない。


「いや、この場所は元の世界でもこのような有様だった。」


魔王が元の世界で、この場に来たのは10年ほど前。
自分に挑んだ英雄サイラスの遺体を運び込んだ時のことだ。
だが、彼が目当てにしているのは、彼に関係することではない。
廃墟の奥にある、封印された宝箱だ。
現在魔王たちが探している、6色のオーブ。
全て集めることで、新しい可能性が開かれるという。


「うわっ、かび臭いニャ〜。」
「辛気臭い建物ね〜。これを直そうとする大工はいなかったのかしら?」
「直すぐらいなら、新しい建物を作った方が手っ取り早いだろう。」


人を集めるに至っては、お世辞にも向いているとは言えない場所だ。
だが来訪者たちを追い返そうとするのは、臭いや雰囲気だけではない。


「ここってオバケとかが……で、出たニャ!!」


階段を登り2階の広間に出た所、突然オトモが大声で叫んだ。
どこからともなく、武器を持った骸骨の魔物が現れる。
動いているだけではなく、骨の色が赤や紫の時点で、ただの骸骨ではないことが伺える。
槍を持った骨の魔物、ボーンナムに、鎌を持って空を飛ぶ骸骨、アナトミー。
生ある者を自分たちの仲間に加えようと、一斉に襲い掛かって来る。


「消えろ。」


魔王がパチンと指を鳴らすと、辺りに爆炎のドームが出来る。
侵入者を排除しようとする者達が、皮肉なことに魔王の領域への侵略者となってしまった。
炎の空間に無断で入った不埒物は、瞬く間に炎の洗礼を受けることになる。
勿論、中心部にいる3人は巻き添えを食わない。
1体を除いて、骨の魔物たちは全て火葬される。
勿論、1体殺さなかったのは魔王がドジを踏んだわけではなく、考えあってのものだ。
その圧倒的な強さに、オトモとサクラダはただただ息を飲むしか無かった。

666もうあの場所には帰れない ◆vV5.jnbCYw:2023/07/22(土) 00:06:58 ID:J2EjjrnU0

「さあ、私に従ってもらおうか。」


魔王がその手を、一匹のボーンナムに伸ばす。
彼は中生に飛ばされてきてから、大きいものや小さいもの、いくつもの怪物を力で従えて来た。
だが、骸骨は魔王の言葉を無視して襲い掛かって来る。
最後まで戦う事しか知らぬ骨の魔物は、鎌で両断された。


「………。」


事もなく魔物の一団を殺した魔王の表情は、どこか物憂げだった。
元々明るい表情ではない彼だが、眉間の皴がいつもの3倍は寄っているので、嫌でも察することが出来る。


「魔王の旦那、さっきのヤツに何かやられたかニャ?」


彼の表情を慮ったオトモが、心配そうに声をかける。


「気にするな。考え事ぐらい、好きにさせろ。」
「ねえ、ちょっとちょっと。」


不意にサクラダが、話を切り替える。
彼の視線の先に会ったのは、床に大きく空いた穴だ。
しかもいやらしいことに、丁度扉の近くに広がっている。
これでは、次の部屋に行くことは不可能だろう。


「魔王ちゃん、ずっと空を飛んでいるでしょ?アナタ一人で行けないの?」
「無理だ。そもそも飛んでいるのではない。魔法で床より少し上を浮いているだけだ。それに……。」


お前達2人だけの時にまた奴等が出たらどうする、と言おうと考えたが、自分の言葉ではないと思い、口をつぐんだ。


「よく分からないけど、アタシがすぐに修理するわ。」
「出来るのか?」
「うん。さすがにここまで大きい建物を全部改築することはムリだけど、これぐらいなら出来るわよ。」


そう言うとサクラダは、意気揚々と作業を始めた。
オトモは手伝おうとするが、彼は名前の最後に『ダ』が付いていないので、彼の仕事には手伝えないと言われた。


(………願いを叶えてもらうのは、不可能かもしれんな。)

667もうあの場所には帰れない ◆vV5.jnbCYw:2023/07/22(土) 00:07:27 ID:J2EjjrnU0

魔王が考えていたのは、この世界の杜撰さだ。
元の世界にあった北の廃墟に眠っていた武具を手に入れなかったのは、理由がある。
それは廃墟の宝箱の多くが、強力な魔力によって封印されていたのもあるが、それだけではない。
廃墟に現れるありふれた魔物達が、どうにも強すぎるのである。
自分や3大将軍のソイソーやマヨネーを以てすれば1体や2体ぐらいは倒すことは可能だ。
それでも、高い身分であった自分らが辺境の地で時間を使い潰すことは出来ないし、適当な雑兵を送ればあっさり返り討ちに遭う。
だから、自分に挑んだ英雄の死体置き場にして、以降は北の廃墟には手つかずだった。


だというのに、この手ごたえのなさは、否定できない違和感があった。
魔法一発で、一瞬で消えていく魔物達。
勿論、会場に巣食う怪物たちよりも、参加者同士で戦って欲しいということだと解釈できる。
だが、魔王は別の角度から、この場にいる敵が弱い理由を考えていた。
それは、『主催者の能力の不足』という理由だ。


マナやウルノーガ、はたまた彼女らの協力者は、幾つもの異なる世界から参加者を呼び寄せた。
そして、様々な世界をつなぎ合わせた殺し合いの会場も創設した。
凡愚、否、相当の才に溢れた者でさえ出来ないことを、平然とやってのけた。
死者の蘇生に新たな世界の創設。神に見紛う行為といっても過言ではない。一見は。


しかし、ブルーオーブのような、本来あるはずのない場所にある道具。
姿形は同じなのに、妙に実力のない魔物。
各世界の細かい所に目を配れば、辻褄の合わない所が少なからず存在する。
尤も、オトモやサクラダ、凡百の参加者にとっては、そうだとしても然程問題はないだろう。
だが、魔王にとっては、主催者によって2度目の命を貰った者には、問題なのだ。


(……私は、私なのか?)


一見、哲学か何かのような問いかけ。
しかし、不完全な世界同様、見知らぬ所で不都合が生じている可能性が高い以上が、気になって仕方がない。
当然、クロノが死んだ場合の、優勝して彼を生き返らせるという話も、不可能に近くなって来る。
よしんばそれが出来たとしても、生き返らせた相手が、ある日突然土くれに変わっていても何ら不思議ではない。


「魔王ちゃん!オトモちゃん!終わったわよ!!」


一人で彼がそんなことを考えていると、不意にサクラダが声をかけた。
先程まであった穴はすっかり鳴りを潜め、代わりに木材で作られた木の床が敷かれている。


「すごいニャ!これなら通れそうだニャ!!」

「う〜ん。素材が足りなかったってのもあったけど、あまりいいデザインではないわね〜。
またここに来て、本格的に修繕したいわ。」

「私はそんなものに拘るつもりはない。こんな床など、通ることが出来ればいいのだ。」


魔王がそう言ったのは、建築物に拘らないといった性格だからではない。
この北の廃墟が、巧妙に作られた偽の建物だと考えたからだ。
同時に、サクラダが魔王と同じ世界の出身者でないことに、多少の勿体なさを感じた。
大工という職業に精通している者ならば、建物の細かい所から、元の世界とこの場所の齟齬を感じ取れるかもしれないからだ。

668もうあの場所には帰れない ◆vV5.jnbCYw:2023/07/22(土) 00:07:45 ID:J2EjjrnU0

「恐らく、この先に何かがあるはずだ。」


北の廃墟の最奥は、魔王にしても未開の地。
もしも彼がカエルと戦うことを拒否し、彼らと共に旅に出れば話は変わったかもしれないが、今となっては関係ない話だ。


最後の部屋は、これまでの場所と何ら変わりはなく、ただ辛気臭い部屋だった。
ただ長い階段が続いており、それらが奥に何かありますよと、暗に示しているようだった。


「ここに何かあるのかニャ?」
「分からん。それより、また現れたぞ。」


先の部屋と同じように、何体かのアンデッドが現れる。
そして魔王もまた同じように、ファイガを放った。
いともたやすく、火葬されていく。今度は骸骨の魔物ではなく、人魂の魔物も混ざっていたが、特に変わりはない。
1体を除けば。


「ま、魔王ちゃん、まだ一匹残っているわよ!!」
「分かっている。しかし何だヤツは…?」


天井近くで、シャンデリアに似たモンスターが、青々と炎を放っていた。
表現として間違っているのではない。魔王とは別世界のモンスター、シャンデラは青白い炎を身にまとっていた。
そして炎が集まると、魔王目掛けてその塊を撃って来る。


(初見の魔物だ…シャンデリアを模しているだけに、炎は効きにくいのか?ならば……)


「アイスガ!!」


炎が効きにくいならば、氷で攻めればいい。
だが魔法の吹雪は、炎を吹き飛ばすことが出来ても、シャンデラに大した効果は発揮しなかった。
炎の力を持つ怪物に、氷が効きやすいのは魔王の世界のルール。
ポケモンの世界に通じるルールではない。


「あ、あんまり効いてないみたいだニャ!!」
「うるさい。ならば別の方法を試せばいいだけだ。」


魔王としても、参加者でもないモンスター相手に魔力を浪費するのは間抜けの所業だと思っている。
だが、目の前にいるのは、別世界を知るためのカギになるかもしれない怪物。


「これでどうだ?」


続けざまに魔王は、冥属性の魔法、ダークボムを放つ。
重力の歪みに飲み込まれ、魔王に対して高みの見物を決めていたシャンデラは、あっさりと地面に落ちる。
シャンデラの世界にとってあくタイプ、あるいはゴーストタイプに該当する魔法は、てきめんな効果を齎した。


「この怪物ちゃんは、この場所を守っていたのかしら?」


明らかに、他の魔物達に比べて手ごたえのある相手だった。
言葉が通じるならば話の1つもしたいところだが、残念ながら話は出来そうにない。

669もうあの場所には帰れない ◆vV5.jnbCYw:2023/07/22(土) 00:08:06 ID:J2EjjrnU0

「そう考えるのが妥当だ。」

(そう言えば……このモンスター、あのベルという少女が持っていた生き物に似ているな……。)


サクラダと話をする片手間に、魔王が思い出したのは、ランタンこぞうのことだ。
まだ死んでは無いようだし、使えるのではないかと一瞬考えるが、すぐにその考えを捨てた。
ベルは見たことの無い、赤白のボールを使っていた。
仕組みは聞くことは無かったが、あの道具を使うことで自由に使役できるのだとは察した。


「魔王の旦那!これは一体何か知ってるニャ?」


オトモは倒れているシャンデラを無視し、階段の一番上に上がる。
そこにあったのは、金色の紋が印象的な、黒い宝箱が2つ。
箱の模様は、魔王にとって馴染みのある物だった。


「……これはダメだ。」

「どういうことだニャ?」

「ジールの魔術を使わねば開かん。」

「え?開いたわよ?」


ジール王国の発展のきっかけになり、破滅のきっかけにもなったのはラヴォスの力。
その力で封印された箱は、当然強大な魔力を含んだ道具でなければ開かない。
だが、サクラダは何の問題もなく開けることが出来た。


「でも、このボールは何かしら?確かベルちゃんが持っていたような……。」
「貸せ。」
「ああ!何するのよ?」


すぐにボールを、地面に寝転がっているシャンデラ目掛けて投げる。
ボールが光ったと思ったら、水色の光線を出し、ポケモンを包み込んだ。
瞬く間にシャンデラは吸い込まれていく。


(まさかこのような形で、再び魔物を使役することになるとはな…)


明らかにシャンデラより小さいボールをまじまじと見つめる。
ピンクとクリーム色、明らかにベルのボールより豪華な装飾、変な例え方をすれば女の子見向きなデザインのボールを見ながら考える。



「あったニャ!これ、イレブンの旦那の家にあったものじゃないかニャ?」
「模様からしても恐らく、同じ物だろうな。」


オトモが手に取ったのは、赤いオーブだった。
色は違えど、どこか神秘的な魔力を放っているのは、あのブルーオーブと同じだ。
魔法の王国で生まれ、魔力に対して敏感な魔王ならばよく分かることだ。


「何だかアタシ達、順調に進んでない?」


来た道を戻る途中、サクラダが嬉しそうに話した。
検討を付けた場所に、目当ての品があり、予想外の戦力増強まで出来た。
彼の言うことは間違ってはいない。

670もうあの場所には帰れない ◆vV5.jnbCYw:2023/07/22(土) 00:08:32 ID:J2EjjrnU0


「ねえったら、目当ての品が見つかったんだから、少しぐらい仏頂面やめなさいよ。」
「………。」
「人には向いてることとそうじゃないことがあるのを察するのも、必要なことだと思うニャ。」
「いらぬ気遣いをするな。」


今の所順調なのは間違ってはいない。
だからこそ、あれこれと不自然が生じている今の状況を、懸念していた。
そしてその不自然を気づかぬまま放置していれば、最悪な状況を呼び起こす。
ラヴォスという常軌を逸した力に頼り始め、そして滅亡を迎えたジール王国を知っている彼だからこそだ。


北の廃墟を出ると、魔王の気持ちを体現したかのような暗雲が、彼らを迎え入れた。


「あら?嫌あね…雨でも降るのかしら……」


先に出たサクラダが呟く。
雨というのは、大工が特に忌み嫌う気候だ。
作業に支障が出るのは勿論のこと、素材が乾きにくかったり工具が劣化しやすくなったりする。
だが、魔王はそれどころではないことに気付いた。
暗雲は天気によるものではなく、人為的に魔法で作られたものだと分かったからだ。


すぐにダークボムを放ち、雷光を闇の力で書き消そうとする。
空が歪み、爆発と共に更なる闇に包まれた。
だが、一手遅れた。


言葉にならない悲鳴が闇の中で響く。


闇が晴れた時、無事でいたのは1人と一匹。
守れたのは後ろにいた魔王のみで、サクラダは雷の矢に串刺しにされ、黒焦げになって倒れていた。
その原因は、彼が金属製のハンマーを持っていたのもある。
彼の世界の金属製の武器は、他の者達の世界の金属武器より雷を呼び寄せやすい。


「お前か……魔王とは聞いてまさかとは思っていたがな……。」


雷が止むと、魔王にとって聞き覚えのある声が聞こえた。
そして目の前にいるのは、赤髪とハチマキが印象的な男。
勇者グレンと共に、自分を一度負かした相手。


「クロノ………!!」


風向きが、完全に変わった。
しかもそよ風からつむじ風に。
魔王の目の前にいたのは、魔王の同行者を殺したのは。
彼が生き返らせようと思っていた者だった。

671もうあの場所には帰れない ◆vV5.jnbCYw:2023/07/22(土) 00:09:32 ID:J2EjjrnU0
もう、あの頃には戻れない。
風は向かい風というのに、あの場所に戻してくれることは無い。












【サクラダ@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド 死亡確認】
【残り40名】




【B-2/北の廃墟入り口/一日目 昼】


【オトモ(オトモアイルー)@MONSTER HUNTER X】
[状態]:健康  
[装備]: 青龍刀@龍が如く極 星のペンダント@FF7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(確認済み) ソリッドバズーカ@FF7
[思考・状況]
基本行動方針:魔王に着いていく。
1.ご主人様、今頃どうしているニャ?
2.サクラダの旦那……


【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:HP2/3  MP1/3
[装備]: 絶望の鎌@クロノトリガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(確認済み、クロノ達が魔王の前で使っていた道具は無い。) 勇者バッジ@クロノ・トリガー シャンデラ ヒールボール(シャンデラ)@ポケットモンスター ブラックホワイト レッドオーブ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[思考・状況]
基本行動方針:クロノを探し、協力してゲームから脱出する 。もしクロノが死ねば……?
1.オーブを探す
2.これは……まさか!?


【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:白の約定@NieR:Automata
[道具]:基本支給品、ハイリアの盾(耐久消費・小)(@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド)、ランダム支給品(1個)
[思考・状況]
基本行動方針: 優勝し、マールを生き返らせる。
1.そのためには仲間も、殺さないとな。
2:まずは人が集まってそうな場所へ向かう。

※マールの死亡により、武器が強化されています。
※名簿にいる「魔王」は中世で戦った魔王だとは思ってません。

※ED No.01 "時の向こうへ"後からの参戦です。このルートでは魔王は仲間になっていません。
※グレイグからドラクエ世界の話を聞きました。




【ポケモン状態表】
【シャンデラ ♀】
[状態]:HP1/5
[特性]:ほのおのからだ
[持ち物]:なし
[わざ]:シャドーボール サイコキネシス だいもんじ しっぺがえし
[思考・状況]
基本行動方針:魔王に従う。
1.魔王に従い、バトルをする。


【支給品紹介】
【レッドオーブ@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて】
命の大樹に近付くのに必要な6つのオーブの1つ。
MP、SP、気力などの何かしらと引き換えに、『クリムゾンミスト』を使うことが出来る。


【ヒールボール(シャンデラ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
北の廃墟の宝箱にあったバイバニラが入ったモンスターボール。元の持ち主はシキミ。
またボールには特別な力があり、中にいるモンスターは徐々に体力が回復していく。







ところで、ジール王国生まれの魔王でさえ知らぬことだが。
封印されし宝箱の中には、ペンダントの力を吹き込むことにより、中身をさらにグレードアップさせる方法がある。
ホワイトベストをホワイトプレートに、鬼丸を朱雀に。
ただでさえ強かった力を持つ武具を、魔力の熟成によりさらに強化できる。
魔王たちが北の廃墟で見つけた宝箱は、ペンダントの力無しでも開けられたものだったが。
もしも、ペンダント、あるいはそれに近しい魔力がある道具を使って開ければ、どうなったのだろうか?

672もうあの場所には帰れない ◆vV5.jnbCYw:2023/07/22(土) 00:16:19 ID:J2EjjrnU0
投下しました。

673 ◆RTn9vPakQY:2024/08/10(土) 17:00:20 ID:PaICO7dc0
ソリダス・スネーク、澤村遥 予約します。

674 ◆RTn9vPakQY:2024/08/17(土) 16:30:21 ID:Ul44gd3Y0
予約を延長します。

675 ◆RTn9vPakQY:2024/08/24(土) 16:58:01 ID:kWvRanzM0
もうそろ時間ですが、最終チェックとタイトル決めでもう少しだけお時間いただきます。
18:00までには投下します。

676名無しさん:2024/08/24(土) 17:05:25 ID:iql8LVuY0
がんばって

677Unconscious ◆RTn9vPakQY:2024/08/24(土) 17:58:01 ID:kWvRanzM0


 タンカーから降りた遥は、南下してラクーン市警へ向かっていた。
 どこで誰に襲われるか分からない状況では、どうしても緊張して注意深くなる。
 遥は思い出していた。母親に会おうとして、神室町までひとりで訪れたときのことを。

 沖縄から東京に行くだけでも、子どもには難易度が高かった。
 ひそかに交通費を貯めて、周囲の大人にバレないように沖縄を出発。
 生まれて初めて訪れた大都会では、高層ビル群に見下ろされて圧倒された。
 不機嫌なチンピラに声をかけて恫喝されたり、交番の警官に迷子として扱われそうになったりした。
 きらびやかなネオンサインと無秩序な人間の流れに酔いながら、必死に母親の手がかりを捜し、やがて行きついたバー「バッカス」で、たくさんの死体を見ることになった。
 床に転がるピストルを思わず手にして、それによって命が奪われたことを理解すると、恐怖でへたり込んでしまった。
 そして、ひたすら縮こまっていたときに声をかけられたのだ。

「あのときは、おじさんが来てくれたけど……」

 放送を信じるなら、桐生一馬はもうこの世にいない。
 そのことを考えるたびに、心はもやもやとして歩みは遅くなる。

「ううん」

 もやもやとした感情に頭を支配されまいと、頭を左右に振る。
 つい数時間前にした決意を思い返して、前を向いたそのとき。
 いきなり目の前に現れた男に、大きな手で口元を塞がれた。

「ん……!?」
「静かにしていろ。近くに化物がいる」

 有無を言わさぬ迫力に、遥はコクリと頷いて、男の指し示す方向を見た。 
 そこには、ふらふらと平野を移動する影がひとつ。

(あっ……!)
「おい、お前!」
(化物なんかじゃない!あれは……)

 遠目で表情までは確認できないものの、遥は確信した。
 その影は、数時間前までいっしょに行動していたウルボザだった。
 思わず男の手を強く振り払い、ウルボザのもとへと駆け寄ろうとする。

「ウルボザさ……ん?」

 しかし、遥は足を止めた。近づいたことで、影のシルエットに違和感を抱いたからだ。
 不自然なまでに揺れている右腕は、今にも千切れてしまいそうだった。
 左腕は手首から先が欠けていたし、腹部や太ももの一部は削れているように見えた。
 その理由がわからず、それ以上は進めなかった。

「知り合いなら諦めろ。あれはゾンビだ」
「ゾンビ?」
「常人では動けるはずのない傷。もはや人間ではない」

 背後から届いた男の言葉を、遥は否定できなかった。
 ゆえに数メートル先のウルボザを見つめながら、呆然と呟くしかなかった。

「人間じゃ……ない」

678Unconscious ◆RTn9vPakQY:2024/08/24(土) 18:05:41 ID:kWvRanzM0


 ソリダスは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
 目的地への道中で、他の参加者を発見したまではよかったが、それが幼い少女だと判ると、ソリダスは己の不運を恨んだ。
 オセロットからの進言を受けて、クレアとバレットには「全ての参加者が重要な鍵になり得る」と説いたソリダスであったが、それ自体は二人を都合よく動かすための方便であり、腹落ちしているとは言えない。
 戦場で無力な子供を連れているのは、負傷兵を抱えているのと同等かそれ以上のリスクを孕む、という思考は根幹にあるままだ。
 それでも少女を守ろうと決めたのは、重要な鍵である可能性を捨てきれなかったからである。
 自ら提示した可能性に行動を制限される。自縄自縛だ。

(お守りをするのは面倒だが……)

 たとえ無力でも囮(デコイ)にはなると割り切って、少女に接触しようとしたタイミングで、付近に化物を発見。現在に至る。
 無論、ソリダスは最大限に警戒した。これまでに遭遇した化物は、ラクーン市警にいた二種類。そのどちらも、優れた感覚器でこちらの位置を把握して襲いかかる危険な存在だったからである。
 しかし、新たなゾンビにはそこまでの危険性を感じなかった。まだ距離はあるとはいえ、少女の声に何ら反応しなかったことから、少なくとも鋭敏な感覚器は備えていないと判断できる。
 その歩みは緩慢で、加えてあの傷付いた両腕では膂力もたかが知れている。

(これならば、警察署のアレよりは楽に済みそうだ)

 ソリダスはクレアからラクーンシティの事件の話を教えられた際に、ゾンビへの対処方法についても聞いていた。
 その方法とは、頭部を破壊すること。脳に損傷を与えれば、即座にゾンビは活動を停止する。この情報は、これまでにしてきた対処の正しさを示す裏付けとなった。

「それって……剣?」
「そこでじっとしていろ」

 ソリダスは、デイパックからバタフライエッジを取り出した。これで首を両断すればいい。
 まだ棒立ちのままの少女を脇に押しのけて、十数メートル先のゾンビと相対する。

(勝負は一撃)

 バタフライエッジは、愛用の刀と比較するといささか大振りで、外装式強化服のない状態では、大上段から振り下ろすのも一苦労だ。
 それゆえに、ソリダスは一撃必殺を狙う。大剣を左下から右上へと斬り上げる、いわゆる逆袈裟の形だ。
 達人技のごとき一刀両断など望まない。首と胴体を泣き別れにしてしまえばいい。
 ふっと息を吐いて、丹田に力を籠める。近づいてくるゾンビを睨みつけて――少女に視界を遮られた。
 今しがた脇へと押しのけた少女が、両手を広げてソリダスを見ていた。まるでゾンビを庇いたいかのように。

「なんのつもりだ」
「ウルボザさんをどうするの?」
「もしお前の知り合いだったとしても、このままにしては……ん?」

 無意味な問答に割く時間はない。
 苛立ちを隠さずに答えていたソリダスは、少女の言葉に違和感を覚えた。

「今ウルボザと言ったか?その名は放送で呼ばれたはずだ」
「うん……怖い女の人から、私を逃がしてくれたの」
「つまり、お前を逃がした後で感染したというわけか……まあいい、無駄口を叩いている暇はない。お前はすぐに――」
「お前じゃない」

 発言を食い気味に遮られて、ソリダスは鼻白む。

「私は“遥”……お前じゃない」

679Unconscious ◆RTn9vPakQY:2024/08/24(土) 18:11:51 ID:kWvRanzM0
 ハルカと名乗った少女は、ソリダスを真っ向から見ていた。
 物怖じしていない、まっすぐな視線を受けたソリダスは、とある少年を思い出した。
 かつてリベリアで内戦の起きた頃、CIAの工作任務の一環で、現地の子供を反政府軍の兵士として育てていたことがある。従順な手駒を作るために、心の拠り所となる家族を殺害して、過激な映画を常日頃から見せて、食事にはガンパウダーを混ぜた。
 はたして首尾は上々、調教された少年兵たちのはたらきは期待を超えた。その中でもソリダスや周囲から一目置かれていたのは、白人の少年だった。

(ジャック……?)

 その冷酷さを恐れられて“白い悪魔”の異名を付けられた少年。
 ソリダスは彼の双眸から強い意思と可能性を感じて、目をかけて育てて――あるいは息子のように感じて――いたのだ。
 その少年、ジャックと同じ視線を、ハルカと名乗る少女から感じた。

(記憶障害……ストレス反応の類か?我ながら情けない)

 ソリダスは動揺をおくびにも出さずに自己分析した。
 警察署でクレアに対して珍しい情動を催したこと、そして少女への妙な感覚。
 そのどちらも、殺し合いの場で精神的に不安定になっているからだと説明づけられる。
 しばらく過酷な戦地から離れていたとはいえ、もしそうだとすると屈辱ものである。

「ねえ、質問に答えて!」
「……静かにしていろ。ひとまず距離を取る」

 その言葉から、どうやら問い詰められていたらしいと気づく。
 少女の背後のゾンビは近づきつつある。いくら緩慢な動作とはいえ、悠長にしていたらやつの仲間入りだ。
 ソリダスは小さな手を掴むと、強引に歩き出した。抵抗する少女に「いいか」と噛んで含めるように伝えた。

「これはお前の課題だ。あのゾンビを無力化して、被害を広げない方法を考えろ」
「つまり、殺すってこと?」
「無力化できるのなら手段は問わない」

 口ではそう言いながら、現状では頭部を破壊する以外の方法は無いと判断していた。
 ゾンビと化した時点で理性は失われ、あるのは本能のみ。言葉を弄しても伝わらないなら、実力行使に訴えるのが正着だ。
 草原に点在する木の陰まで少女を移動して、そこで課題を明確にする。

「五分だ。もし奴を殺さない方法を思いつくのなら、それを教えろ。
 ただし五分以内に思いつかなければ、今度は邪魔をしないでもらう。いいな?」
「……」
「返事は?」
「……わかった」

 これは、少女が有用な駒となり得るか否かを試すテストだった。
 危険なゾンビを目視してなお、ただ知り合いを殺したくないと現実逃避をしているようならば、切り捨てて良い。
 ソリダスはさながら試験官のように、腕組みをして少女を観察した。



 遥は内心でウルボザの死を受け止めつつあった。
 ボロボロの身体を見て、まだ生きているかもと期待するには、遥はこれまでに死体を見過ぎていた。
 それなのに、ウルボザを庇おうとしたのは何故なのか。答えは二つある。ひとえに認めたくなかったから。
 そして、あのまま無惨に殺されてしまうのは不憫だと考えたからだった。

「ねえ、これ使えない?」

 遥はそう言うと、白髪の男にピストルを差し出した。
 男はそれを慣れた手つきで検めて、少し驚いたように言った。

「このベレッタは、あの男の愛銃と同じモデルだ」
「あの男って?」
「私と同じ、蛇の暗号名を持つ男……」
「ヘビ……」

 遥は名簿にスネークという名前が二つあったことを思い出した。
 ソリッド・スネークとソリダス・スネーク。どちらかは白髪の男なのだとしたら、もう一人は何者なのか。

「じゃあ、その人は家族なの?」

 素直な疑問に、男は口角を上げながら「兄弟だ」と答えた。
 その表情は嬉しそうでもあり、寂しそうでもある。そこにある複雑な想いを感じて、それ以上質問することは躊躇われた。
 すると男は話をピストルのことに戻したので、そこで遥の思考は打ち切られた。

「しかし、これは対人間を想定した麻酔銃だ。
 ゾンビに打ち込んでも、身体に異常をきたしている奴らが眠る見込みは薄いだろう」
「そうなんだ……じゃあ、これとか!」

 遥はデイパックから他のアイテムを取り出して男へと見せる。
 しかし、男の反応は微妙なものだった。ステルススーツは壊れていると分かると落胆し、魔鏡には怪訝な表情をしていた。
 そして、それだけのやり取りでも、時間は過ぎていく。

680Unconscious ◆RTn9vPakQY:2024/08/24(土) 18:15:41 ID:kWvRanzM0
「タイムリミットだ。答えは出たか?」
「……ううん。殺さない方法は思いつかない」

 冷静に答えを求めた男に対して、遥は正直に返した。
 そして、そのまま正直にやりたいことを伝えた。

「だから、最後にウルボザさんと話させて」



 草原に佇む少女と、それに近づいていくゾンビ。
 二人の様子を木陰から観察しながら、ソリダスは鼻先で笑った。

「まさか囮役を買って出るとは思わなかった」

 少女は「あのゾンビと会話したい」と言い出したのだ。
 ゾンビを無力化する方法を提示してこなかった以上、少女自身には対抗策は無いはずだ。
 しかし、少女の瞳からは強い意思を感じられた。まるで襲われる危険性など考慮していないかのようだった。

「あまりに無謀……脳内物質の影響か?」

 例えばアドレナリンによる交感神経の興奮は、戦場では平常を超える力を出すことに繋がるとされる。
 そして、そのような興奮状態に置かれたとき、突拍子もない行動を取る人間は存在する。

「フン。そうだとしても構うまい」

 いずれにせよ、ソリダスにしてみれば願ってもない申し出だった。
 駒として有用か否かを判断できないまま少女を同行させたところで、持て余すことは容易に想像できる。
 そのリスクを負うくらいなら、ここでゾンビを確実に無力化するための駒として使う方がマシだ。
 あるいは何らかの奇跡でゾンビを説得できたのなら、それは神に感謝しておけばいい。

「アレはさておき、真島や錦山に期待をしておくか」

 念のため囮にする前に、少女からはこれまでの行動と知人の名前を聞きだしていた。
 錦山を説明するとき不安そうな表情をしたのは気になるが、ともかく少女の生死は些細な違いとなった。
 ソリダスはひとつ息を吐くと、少女とゾンビの対峙に再度集中した。



 遥は草原の真ん中で、近づいてくるウルボザを見ていた。
 やけに遅く不安定な歩き方は、別れる前のシャンとした立ち振る舞いとは大違いだ。
 ようやく彼女の顔まで目視できたとき、遥の脳裏に浮かんだのは月を見上げるウルボザの横顔だった。
 その彫りの深い、美しい顔立ちは既に崩れ始めていた。

「ウルボザさん」

 その変化を目の当たりにして、めげそうになりながら、それでも遥は意を決した。
 うつむきがちに、ぽつりぽつりと呟いていく。

「放送は聞いた?」
「おじさんとウルボザさんの名前、呼ばれたよ」
「ウルボザさんのこと、“厄介な子供に付き纏われて災難だった”とか言ってた」
「わかってる。私を守ってくれたから……私のせい」
「ごめんなさい」
「……まだ聞こえてたらいいな」

 気づけばウルボザとの距離は、手を伸ばせば届く程度にまで近づいていた。
 しかし、ウルボザはその場に立ち尽くしたまま、襲い掛かろうとしてくる様子もない。

「ウルボザさん……?」

 遥はウルボザを見上げた。白濁した瞳から、感情を読み取ることはできない。
 それなのに、遥はまるでウルボザから何かを伝えられているように感じた。

「……うん」
「私、もう死のうとしない」
「生きて……マナに謝らせる!」

 その宣言の直後だった。ウルボザの身体が、風でゆらりと揺れた。
 そしてそのまま、さながら糸の切れた操り人形のように崩れ落ちていく。

「ウルボザさん!!!」

 崩れ落ちていく最中、遥はその目で確かに見た。
 もはや表情を失ったはずのウルボザの顔に、穏やかな微笑を。



 人影のない草原でかすかに聞こえるのは、少女のすすり泣く声だけ。
 座り込む少女へと向けて、ソリダスはクレアからの受け売りを口にした。

「ゾンビというやつは、生前と関係のある場所を徘徊するようになるらしい。
 警官なら警察署を。主婦ならスーパーか散歩コースを。記憶もないのにご苦労なことだ」

 少女は何も反応しない。

「ただ、あのゾンビ……ウルボザはどこかの場所を目的地としていたとは思えん。
 それならば考えられる関係はひとつ。生前に行動を共にしていたハルカ……お前だ」

 ソリダスも淡泊に話し続ける。

「つまり、ウルボザは死してなお、守ろうとした相手を探していた……ということだ」

681Unconscious ◆RTn9vPakQY:2024/08/24(土) 18:27:41 ID:kWvRanzM0
 この発言に、センチメンタリズムから少女を慰める意図などない。ましてやスピリチュアルな発言をしたいわけでもない。
 奇妙な現象について自分自身を納得させるための理屈を考えているだけだ。
 それというのも、崩れ落ちた死体から首輪を回収する際に、ソリダスはあることに気づいたのである。

(頭蓋骨の損傷具合から見て、この死体は頭部に強烈な一撃を加えられている。
 しかし、そうだとすると“脳に損傷を与えれば、即座にゾンビは活動を停止する”という説明と矛盾する)

 クレアに嘘を教えられた可能性よりは、今回の現象を例外として扱うべきだろう。
 アドレナリンで火事場の馬鹿力を出せるように、生命は時として途轍もない力を発揮する。
 ウルボザは脳に損傷を与えられてもなお、少女のために生きようとした。その結果、奇跡的にゾンビとして数時間だけ活動できた。
 ソリダスはひとまず、そう結論づけた。これ以上の考察は無意味だ。

「それで、ハルカ。お前はどうする?」
「……スネークさんは?」
「私は参加者との接触を第一に考えて、東の高校へ向かう」

 ソリダスの当初のプランでは、八十神高校の前に偽装タンカーに寄る予定だった。
 しかし、つい二時間ほど前までタンカーにいたという少女の情報から、他の参加者はいないと判断。
 それに加えて、少女とゾンビのやり取りを見ている最中、E-4の方角に紫色の閃光を目撃したこともあり、リスクはありつつも参加者と合流しやすいと思われる方角へ向かうことを優先しようと考えた。
 幸い麻酔銃という扱いやすい武器も手に入れた。メタルギアRAYは後回しにする。

「じゃあ、私もついていく」
「そうか。私はウルボザとは違う。自分の身は自分で守ることだ」

 それでも来るのか?と視線で問いかけると、少女は涙を拭い頷いた。
 この時点で、ソリダスは少女を有用な駒になり得ると認めつつあった。
 ジャックと同じ視線を感じたのは、あながち勘違いでもなさそうだと。

「それで、おじさんはソリッドさん?それともソリダスさん?」
「……ソリダスだ」

 ほどなくして、ソリダスは「クレアと同行していればよかった」と思うことになる。



【E-3/草原/一日目 昼】
【澤村遥@龍が如く 極】
[状態]:健康、恐怖、不安、マナへの憤り
[装備]:鬼子母神の御守り@龍が如く 極
[道具]:基本支給品、魔女探偵ラブリーン@ペルソナ4、魔鏡「かがやくために」@テイルズ オブ ザ レイズ
[思考・状況]
基本行動方針:自分の命の価値を見つける。
1.ソリダスとともに東へ向かい、信頼できる味方を探す。(候補→真島吾朗)
2.錦山彰については保留。
※本編終了後からの参戦です。
※偽装タンカーの大まかな構造を把握しました。


【ソリダス・スネーク@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:健康
[装備]:M9@METAL GEAR SOLID 2(麻酔弾×10)
[道具]:基本支給品、バタフライエッジ@FF7、壊れたステルススーツ@METAL GEAR SOLID 2、薬包紙(グリーンハーブ三つぶん)@BIOHAZARD 2、首輪(ウルボザ)
[思考・状況] 基本行動方針:バトルロワイアルの打破と主催の打倒。
1.主催者に対抗するための集団“サンズ・オブ・リバティ”を作り上げる。
2.“八十神高等学校”へと向かう。
3.殺し合いに乗った者は殺す。
4.首輪を外す。
5.ソリッド・スネークよりも優れた兵士であることを証明する。

※主催者を愛国者達の配下だと思っています。
※ビッグ・シェル制圧して声明を出した後からの参戦です。
※地図上の固有名詞らしき施設は、参加者の誰かと関係があると考えています。
※澤村遥から、これまでの行動や知人についての情報を得ました。

682 ◆RTn9vPakQY:2024/08/24(土) 18:29:22 ID:kWvRanzM0
投下終了です。
誤字脱字や矛盾、指摘等ありましたら、お気軽にお願いします。

683名無しさん:2024/08/24(土) 18:46:18 ID:Q8HH/Y8w0
乙です
ウルボザゾンビが導いた信頼への切っ掛けが綺麗な因果そのもので上手いと思いました
ソリダスの反応も合理的判断ながら綺麗に収まってて良かった

684 ◆RTn9vPakQY:2024/09/16(月) 04:00:50 ID:r3O6.Qaw0
感想ありがとうございます!励みになります。
ソリッド・スネーク、ロボ、イウヴァルト、ルッカ、N、如月千早、ピカチュウ、
花村陽介、里中千枝、クレア・レッドフィールド、澤村遥、ソリダス・スネーク
以上、予約します。

685 ◆RTn9vPakQY:2024/09/22(日) 18:00:35 ID:q4RnIjF.0
予約を延長します。

686 ◆RTn9vPakQY:2024/09/29(日) 23:30:51 ID:ZF9tVyJs0
もうすぐ予約期限ですが、いましばらく時間をいただきたいと思います。
最終確認の上、明日の20時頃から投下します。

687 ◆RTn9vPakQY:2024/09/30(月) 20:10:54 ID:scUvH5ko0
恥ずかしながら展開に無理が生じた部分がありました。
つきましては予約から大幅に人数を減らして、無理の生じない部分のみ投下します。

688 ◆RTn9vPakQY:2024/09/30(月) 20:15:25 ID:scUvH5ko0
 プロメテスことロボは、病院への新たな侵入者を追跡していた。
 これまでに一階から二階へ、そして三階へと移動する影をアイセンサーで捉えていた。
 より正確に言うならば、アイセンサーに捉えたと思いきや逃げられる、の連続であった。
 最初に侵入者を感知してからは、ゆうに十五分以上経過していたが、この事実はロボの欠陥を示すものではない。
 事実としてこれまでのロボは、侵入者を発見すると即座に排除行動へと移行して、それにより侵入者を排除していた。
 むしろロボに対して即座に逃げの一手を打ち、そこから逃げ続けている、新たな侵入者の能力の高さをこそ示している。

「シンニュウシャの追跡をゾッコウしマス」

 三階の各部屋をくまなく捜し終えると、ロボは屋上に出る階段のある方向を見た。
 今や侵入者の逃走経路は二つに一つ。入れ違いで階下に降りたか、屋上へと出たか。
 その一方で、侵入者を追跡するロボに取れる選択肢は一つしかない。そう、屋上である。
 屋上に侵入者はいないと判断しないかぎり、階下へ戻ることはできない。

「シンニュウシャの追跡を――」

 無機質な音声は途中で途切れた。
 ロボの演算機能は、オーバーテクノロジーと評するに相応しい。
 スムーズな自律移動に加えて、人間との意思疎通を行い、それを合体技として戦闘行為に反映させているのだ。
 現在はプログラムを書き換えられている都合上、合体技を発動する機会こそないだろうが、それでも優秀な思考回路は、並大抵のことではストップするはずがない。
 それならば何故?

――バタン!ドシン!

 立て続けに発された物音で、ロボは我に返ったように動き出した。
 音の出処はロボのいる階より上から。改めてロボは屋上への階段へと向かう。

「――続行しマス」

 ロボはそのまま階段を上り、扉に手をかけたが開かない。
 何度か体当たりを食らわせてもびくともしない扉を、ロケットパンチで破壊。
 扉の反対側に置かれていたらしい長椅子の残骸を踏みつけながら、屋上の中心まで足早に歩を進める。
 これによって、侵入者が背後から奇襲するつもりだったとしても対処可能である。

「?」

 しかし、ぐるりとアイセンサーを一周させたロボは首を傾げた。
 病院の屋上には、誰一人いない。端から端まで確認しても結果は同じだった。
 つい数分前に大きな物音を立てて扉を塞いだ人物は、どこかへと消え失せていた。
 排除すべき対象を見失ったロボは、しばらくすると階段を下りて屋上を後にした。
 「いったい侵入者はどこへ消えたのか?」という疑問に頭を悩ませることはない。
 ロボットはただ、プログラムされた命令を遂行するだけだ。


【D-5/病院内部/一日目 昼】
【ロボ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)、MP消費(小)
[装備]:ベアークロー@ペルソナ4 、たべのこし@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1個
[思考・状況]
基本行動方針:病院内に侵入した敵を排除する
1.ワタシの名前はプロメテス。

※主催者によって、ジョーカーである参加者(イウヴァルト、ホメロス、ネメシス)は感知出来ないようになっています。
他にも何らかの理由で感知できない参加者、NPCがいるかもしれません。





 侵入者のソリッド・スネークは、いかにして屋上から消え失せたのか?
 その疑問の答えは、スネークの現状の姿を見れば一目瞭然である。

689 ◆RTn9vPakQY:2024/09/30(月) 20:20:52 ID:scUvH5ko0
「……」

 スネークはパラセールを広げて滑空していた。
 パラセールとは、かのハイラル王からリンクへと譲られたアイテム。
 いわゆるハンググライダーと似たアイテムだが、それと比較して非常に軽量、かつ精密な動作を可能としている。
 三つ目の支給品であるこれを病院の屋上から使用して、ロボットから逃げおおせたのだ。

「まったく優秀なロボットだ」

 ようやく操作に慣れてきたスネークは、病院を脱出できた安堵から胸をなでおろした。
 リスクを承知の上で侵入した成果は――主目的の医療道具が漁られていたおかげで――決して芳しいとは言い難いが、正体不明のロボットと会敵して死なずに済んだだけで儲けものだと己を納得させる。
 スネークは病院に足を踏み入れてすぐ、戦闘の痕跡や二名の参加者の遺体を目の当たりにして、警戒のランクを引き上げて潜伏に努めた。それからは慎重を期したのにもかかわらず、何度か捕捉されかけたことから、優秀なロボットと評したのだ。
 優秀なのは索敵能力だけではない。屋上に続く鉄製の扉を、障害物ごと吹き飛ばす音を聞いたときは、さすがに肝が冷えた。

「銃器の類を内蔵されていないのはラッキーだった」

 病院に残されていた戦闘の痕跡に、弾痕と見受けられるものは存在しなかった。
 そして先の侵入に際して、もしロボットが銃器を内蔵していたなら、発砲して侵入者の行動を牽制できたはずだ。
 以上を踏まえて、スネークはあのロボットに銃器の類は内蔵されていないと判断した。無論、そうだとして脅威であることに変わりはないが。
 ひとまずは、滑空している間に背中を撃たれなかった幸運に感謝していた。

「あれをオタコンに見せたら、さぞ興奮するだろう」

 ジャパニメーションをこよなく愛する友人を思い浮かべて、スネークはそうひとりごちる。
 おそらく自律駆動しているロボットに対して、目の色を変えるであろうことは想像に難くない。

「ん?あれは……」

 もうじき着陸の用意という時、スネークは遠方に視線を向けた。
 窓の位置から三階建てと思われる建物、その屋上付近に浮遊する物体。
 まだ距離は遠いためハッキリとは見えないが、ヘリやドローンではありえない挙動をしていた。
 目を凝らすと見えてくるのは、まるで鳥のように羽ばたく翼。

「……いよいよオタコンの出番か?」

 ドラゴン。思い浮かんだ単語を口にするのは憚られて、スネークはシニカルに呟いた。
 非現実の度合いで言えば、ドラゴンはロボットよりさらに上。それこそアニメやゲームの世界の住人である。
 やや辟易しながら、それでも建物の屋上に複数の人影らしきものを視認したことで、スネークの行先は決定していた。
 パラセールを操縦して開けた場所に着地すると、コンパスと地図を確認する。

「あの方角は、八十神高等学校か。
 ……ハイスクールなら不良生徒の一人や二人いるだろう」

 せめてタバコでも吸わないとやっていられない。
 病院で獲得した唯一の成果であるジッポーをもてあそんで、スネークは歩き出した。

【D-5南側/一日目 昼】
【ソリッド・スネーク@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:全身に軽い火傷と打撲(処置済)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、音爆弾@MONSTER HUNTER X(2個)、パラセール@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド、首輪(ジャック)、ジッポー@現実
[思考・状況]
基本行動方針:マナやウルノーガに従ってやるつもりはない。
0.八十神高校へ向かう。あのドラゴンは現実なのか?
1.オタコンの捜索。偽装タンカーはもちろん、他の施設も確認するべきか。
2.武器(可能であれば銃火器)を調達する。
3.クラウドに会って伝言を伝えるため、可能性のあるカームの街に寄る。
4.カイムと狩人の男。オセロット、ソリダス、イウヴァルト、セフィロスに要警戒。
5.装備が整い次第、セフィロスを倒すか?
6.ソニックと言う名前に既視感、および不快感。だがこの際言ってられないか?

※参戦時期は少なくとも、オセロットがソリダスも騙したことを明かした後以降です


【支給品紹介】

【パラセール@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
ソリッド・スネークに支給されたアイテム。
空中で使用すると、風を受けて滑空ができるアイテム。リンクがハイラル王から譲り受けたもの。



 花村陽介と里中千枝の二人は、休息よりも先に作業をしていた。

690 ◆RTn9vPakQY:2024/09/30(月) 20:26:05 ID:scUvH5ko0
 その作業とは命を落とした二人――鳴上悠とティファ・ロックハート――の遺体を、建物の中へ運び入れることだ。
 現在は晴れているが、いつ天気が崩れるかはわからない。「これ以上遺体を傷つけたくない」という千枝の提案に、陽介も賛同した。
 とはいえ遠くまで移動するのは大変なので、付近で崩壊を免れた建物のソファへと二人を寝かせた。

「本当なら、きちんと弔ってやりたいけど……今はこれで我慢してくれよ」

 ここにいない完二や雪子、ホメロスまで含めて黙祷を捧げた陽介は、横目で千枝の様子を確認した。
 泣き腫らして赤みを帯びた目で遺体を見つめながら、小さく声を漏らす千枝。

「鳴上くん……」

 鳴上悠は、名実ともに自称特別捜査隊のリーダーだった。
 落ち着いているのに発言力はあるタイプで、メンバーの精神的支柱になっていた。
 ダンジョンの戦闘はもとより、学校生活という日常においても助けられたことは数多い。
 もちろん陽介は、千枝のプライベートな事情を知らないが、千枝が悠に助けられたのであろうことは――陽介も同じ立場だからこそ――常日頃の態度や接し方から想像できた。

(大切な仲間の死を、そうそう吹っ切れるワケねーよな。
 しっかり前を向いて現実と向き合おう……か。我ながらムズイこと言うぜ)

 つい先ほど千枝に伝えた言葉は、そのまま陽介の意思表明でもある。
 陽介はその難しさを理解している。己のシャドウとの対峙、そしてもう一つの経験からだ。

(俺だって……これが初めてじゃないから、まだ冷静でいられるだけだ)

 大切な相手を喪う経験は、陽介にとって初めてではない。
 小西早紀。自分から一方通行に想いを寄せていた相手でさえ、亡くなったと聞いたときはショックを受けた。
 そのショックを、陽介は“連続殺人事件を解決する”という目標で抑え込んで行動してきた。
 現実と向き合えているかと言えば、そうではないのかもしれない。

(それでも進まなきゃいけねぇ)

 だからこそ。陽介は千枝に「一緒に進もう」と伝えたのだ。
 現実と向き合うのは難しいことで、一人では挫けてしまうから。

「里中、とりあえず休憩だ。メシ食おうぜメシ。あ、もう食った?」
「ううん」
「ってか俺の食料、ビフテキ串10本なんだけど!?正気かよ!
 なあ、そっちのデイパックには何が入ってた?肉と交換しようぜ」
「……ガム一枚ならいいよ」
「ガムかよ!レートつり合ってないっつの!」
「はぁ?肉ガムだよ?一枚で値千金だって」
「肉と肉を交換してどーすんだよ!」

 つとめて明るい振る舞いをしてみたら、千枝もいくらか調子を取り戻したらしい。
 こういう単純な部分は助かると、陽介は密かに千枝に感謝した。
 そして、改めて伝えておくべきことを口にする。

「いいか?いろいろ考えちまうかもだけど、今は生きるのが最優先だ。
 それに俺たちは、悠や完二や天城のことを伝えなきゃならないだろ?
 だから、これからのことを考えるんだ。まずはどこへ向かうかを……」
「……」
「おい、聞いてんのか里中?」
「ねぇ、何か聞こえない?バイクの音みたい」

 千枝に言われて耳をそばだてると、確かにアイドリング音らしきものが聞こえる。

「まさか、誰か騒ぎを聞きつけて来たのか?」
「どーしよう、とにかく会ってみる?」
「いやいや、危険な相手だったらマズイだろ!まずは様子見で……」

 あれこれ話していると、聞こえてくる音はアイドリング音から女性の声へと変わった。それも誰かを呼ぶ声だ。

「シェリー!シェリー!」
「クラウド!ティファ!エアリス!」
「ソリッド・スネーク!あとは……ハル・エメリッヒ!」
「誰でもいい、誰かいないの!?」

(クラウドたちを知っている女性……誰だ!?)

 女性の悲痛な叫びに同情して接触するべきかどうか、陽介は思案する。
 肉体的な疲労はピークに達している。不用意に飛び出して戦闘になれば圧倒的に不利だ。
 自称特別捜査隊の参謀役は、新たな選択を迫られていた。

691 ◆RTn9vPakQY:2024/09/30(月) 20:28:26 ID:scUvH5ko0
【E-4/一日目 昼】
【花村陽介@ペルソナ4】
[状態]:ダメージ(大)、顔に痣、体力消耗(大)、SP消費(大)、疲労(極大)、決意
[装備]:グランドリオン@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品3人分、女神の杖@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて、ルッカの工具箱@クロノ・トリガー、シーカーストーン@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド、モンスターボール(空)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト、シルバーオーブ・LIFE@ゲームキャラ・バトルロワイアル、クラウドの首輪、不明支給品(1〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と共に死んだ人たちの仇をとる。
0.女性(クレア)と接触する?
1.死ぬの、怖いな……。
2.足立、お前の目的は……?

※参戦時期は足立との決着以降です。主催者陣営に足立がいることを知りました。
※鳴上悠との魔術師コミュはMAXになりました。
※クラウドの過去を知りました。
※ペルソナ『スサノオ』を覚醒しました。


【里中千枝@ペルソナ4】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、体力消耗(大)、SP消費(小)、びしょ濡れ、右掌に刺し傷、深い悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、守りの護符@MONSTER HUNTER X、ランダム支給品(0〜1個)
[思考・状況]
基本行動方針:前を向き、現実と向き合う。
0.女性(クレア)と接触する?
1.鳴上くん……。
2.陽介と共に八十神高校でピカチュウ達と落ち合う。
3.自分の存在意義を見つけるまでは、死にたくない

※錦山彰、ミファーは死んだと思っています。


【クレア・レッドフィールド@BIOHAZARD 2】
[状態]:疲労(小)、不安
[装備]:サバイバルナイフ@現実、クレアのバイク@BIOHAZARD2
[道具]:基本支給品、不明支給品(確認済み 0〜1個)、パープルオーブ@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて、薬包紙(グリーンハーブ三つぶん)@BIOHAZARD 2、トランシーバー×3@現実
[思考・状況]
基本行動方針:対主催の集団を作り上げる。
0.崩壊したエリアで参加者を探す。
1.E-4エリアの後、“八十神高等学校”へと向かう。いつか “セレナ”に寄る。
2.シェリー・バーキンを探して保護する。
3.首輪を外す。

※エンディング後からの参戦です。

692 ◆RTn9vPakQY:2024/09/30(月) 20:38:50 ID:scUvH5ko0
投下終了……なんですが、結局ロボ&スネークと陽介たち&クレアを同じ話で描く必然性が薄いと考え直したので、
陽介たち&クレアの部分はカットして、ロボとソリッド・スネークのみ登場した話としてください。
タイトルは「逃走成功」とします。

キャラの長期拘束と微妙な投下、大変失礼しました。

693 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/02(水) 17:49:22 ID:Po.lZyIA0
投下お疲れ様です。
把握難易度の高いメタルギアキャラを積極的に動かしてくれているおかげで後々の展開に繋げやすく、また八十神高校が波乱万丈の場になることを予感させる最高の繋ぎの話だと思います。

そして、企画主であるにも関わらず長らく顔を出せていなくて申し訳ありません。
色々とやる事が重なり創作活動から離れていましたが、それでもこの企画での思い出はずっと頭の片隅に残り続けていました。
だからこそ自分が離れて暫く経って停滞し、下手したら消滅さえしていてもおかしくない。その不安から長らくここを目にするのを避けていました。どうせひっそりと埋もれ、消えているだろうと諦めに近いものを抱きながら自分の中で決心をつけるために覗いてみた次第です。

けれど本当にありがたいことに未だに投下を続けてくれている書き手の皆様や、話題に挙げてくれている読み手の方々を見て感動を覚えました。
同時にこの企画を潰したくないと、久々に創作活動の熱意を抱きました。

建てた当時は自分が書きたいものを書ければ満足という考え方で、私だけが淡々と話を投下し続けていました。その姿を見てか、名簿に興味を抱いてか、ぽつぽつと投下して下さる方が増えてとても喜んだのを覚えています。自分の話をリレーして貰い、他の方の話をリレーする楽しみを初めて経験したのはこの場所です。
五年以上前に発足し、当時話題だった最新ゲームもいまや続編やリメイクが出ています。流行や嗜好も代わり、今もしも同じく私がゲームロワという企画を建てたら全く違う名簿になるでしょう。それほどまでに五年という月日は長い。
環境も人も変わるには十分な年月が経ったのに、まだこの企画を潰すには惜しいと思ってくださる方々がいるのには本当に感謝してもしきれません。

書き手の皆様、読み手の皆様、本当にありがとうございます。企画主としてこれから少しでも進行に助力できればと思います。

第二回放送、予約します。

694 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/05(土) 23:43:06 ID:vEUoYNsc0
お待たせしました。
第二回放送、投下します。

695第二回放送 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/05(土) 23:44:01 ID:vEUoYNsc0


「あぁ、もうこんな時間か。次は誰だっけ?」


足立透は笑みを堪えるのに必死だった。

先に行われた魔軍兵士クラウドとそれを阻むものたちが行った死闘。音声だけとはいえその苛烈さたるは充分すぎるほどに伝わってきた。間違いなくこの半日の中で最も大規模な戦闘である。

また、伝わってきたのはエリアを破壊するほどの凄惨さだけではない。その行く末も。首輪に取り付けられた盗聴器は荒れ狂う風雷の中でも役目を果たしていた。
足立が背中を押したペルソナ使い達が集結し、ウルノーガがホメロスを切り捨て新たなジョーカーとして生み出した魔軍兵士を打ち倒したという結末も。その奇妙な運命も余すことなく記していた。


期せずして足立とウルノーガの代理戦争となり、その結果足立が勝利を収めたわけだ。
幕を下ろして暫く経つが足立はことある事に弛みかける頬を無理やり矯正している。


「…………」


宝条は溜息混じりに思案していた。

第一回放送からここまでの六時間、様々なことが起きすぎた。
クラウドやカイムを中心にした参加者が一斉に落ちる大規模戦闘は一介の神羅兵が管理しきれる内容では無いため宝条が駆り出され、彼らが放つ一言一句から状況を整理するのは骨が折れた。しかもその間も各地では戦闘に次ぐ戦闘が起きているため、落ち着ける時間はほとんど無かったと言える。


一番の問題は息子──セフィロスの進化。


G生物との衝突はルートからある程度は想定できていた。その勝敗も宝条の予測通り。

しかし問題はその決着後。
よもやジェノバ細胞とGウイルスが共存するなど誰が予想出来ようか。
あの瞬間の騒ぎは思い出すだけでも吐き気がする。ウィリアムの監視を担当していた神羅兵が半泣きで悲鳴を上げ、釣られるようにざわめく兵達を纏めあげるのにはそれなりに時間を要した。どうせ呻き声しかあげないから盗聴も楽だと気を抜いていたのだろう、あの腑抜けた兵の顔が頭をよぎり怒りを通り越して呆れを抱く。

696第二回放送 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/05(土) 23:45:08 ID:vEUoYNsc0
セフィロスの進化自体は喜ばしいことだ。
しかしそうなると一つの不安要素が残る。いや、不安というよりかは確信だ。この〝殺し合い〟は破綻する。
というのも、セフィロスが打ち倒される可能性がゼロに等しい以上このゲームはセフィロスによる一方的な蹂躙になるだろう。これは極限状態での人間の動向という人体実験を行っているつもりの宝条にとっては非常に不都合だ。

いっそのこと首輪を爆破するか?
いや、それでは宝条のプライドに反する。息子を誇ることはあれど恐れるなどあってはならないのだ。
なにより万が一セフィロスが首輪の爆発で死なないようなことがあれば、制限から解き放たれた息子は間違いなく自分を──そこまで考えたところで首を振る。この首輪の性能を疑うなどどうやら予想以上に疲れているらしい。

悩みの種はそれだけではない。
マナや足立は想定内だが、まさかウルノーガまで参加者に関与するとは思わなかった。
不愉快だ。自分の技術などハナから信頼されておらず、皆が皆このゲームを自分のものにしようとしている。
例えるなら作り上げた砂の城の形を勝手に変えられるような、そんな不快感が鎖となり宝条の心を囚えていた。

そんなこんなで放送前のこの時間は宝条にとって唯一息をつける瞬間なのだ。返事をする気力すら湧かないのも無理はない。


「ねぇねぇ、次も私がやっても──」
「私の番よ、お嬢さん」


チャンスとばかりに手を挙げるマナを制する落ち着いた女の声。
年相応の子供の表情は一変し不愉快そうに眉を顰める。その場全員の視線が向かう先には少し遅れて集合したエイダの姿があった。

「エイダ、どこに行っていた」

今まで押し黙っていたウルノーガが咎めるような口調で問う。
あなたがそれを言う? という軽口を押し殺しながらエイダは資料を取り出して見せる。紙の束をクリップで留めたそれには夥しい量の字が詰められていた。

「少し情報をまとめていたのよ。宝条も言っていたけど、イレギュラーなことが多すぎたでしょ?」
「全くだ!! これではゲームが成り立ちませんぞ!!」

立ち上がった勢いで椅子を倒しながら叫ぶ宝条を笑う者はいない。
こういった大規模な計画を企てるとあらばある程度経過を予想をするものだ。参加者の性格や実力を考慮した上で、最終的に一人が生き残るように用意したのがジョーカーの存在だ。

「想定よりも早く終わりそうよね、もっと長く足掻いて欲しいけど」

しかし、彼らの予想は大きく覆される。
参加者の減りが予想よりもずっと早い──その要因は色々とある。
マーダーに回る者が多いこと、想定以上の実力者の存在、不意打ちや騙し討ち──いやしかし、そんなことは些細な問題だ。

主催がまるで想像できなかった最たる原因は、人の心にあった。

誰かを守るために犠牲になる。
殺し合いに乗ってしまった人を止めるために戦いに挑む。
未来へ繋げるために命を託す。

己の野望の為に集う彼らには、そんな勇猛な心を推し量ることなど到底不可能であった。
殺し合いの離反を企てているエイダや足立にとってはもちろん、このゲームを楽しむマナや宝条にもこのハイペースな死者の続出は不都合な事態だ。

「なにも問題は無い。我が野望は〝このゲームが終わりさえすれば〟果たされる」

ただひとり、ウルノーガを除いて。

697第二回放送 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/05(土) 23:46:18 ID:vEUoYNsc0

「どういう意味だい、それ」
「言葉の通りだ。貴様らには理解できまい」
「なによそれ、癪に障る言い方ね」

ウルノーガはそれ以上語るつもりは無いようだった。
問い詰めることも出来たが意味はないだろう。足立は肩を竦めながら腕時計に視線を落とし、続けてエイダの方を見る。

「それじゃ、放送よろしく」
「いいや、エイダ。貴様が放送することは許さん」

はぁ? という足立の疑問の声はしかしすぐに溶けた。
第一回放送での件が気に障ったのだろう。あれ以降ウルノーガは懐疑の目をエイダに向けていた。無論エイダ本人もそれを感じてはいたが、よもやここまで直接的に指摘されるとは。
ふ、と不敵な笑みを浮かべるエイダの顔はどこか残念そうにも感じられる。

「よほど嫌われてしまったかしら」
「参加者達に余計な入れ知恵をされては面倒なのでな。……足立、貴様がやれ」
「はぁ?」

突然自身に矛先が向けられたことに苛立ち交じりに返す足立。

「なんでだよ、面倒くさい。元々僕は放送する予定なんてなかったんだけど?」
「貴様もホメロスの一件がある。今後のことを考えれば今誠意を見せた方が利口だと思うがな」
「……はっ、誠意ねぇ」

たしかにホメロス殺害を実行しようとしたウルノーガに逆らったのは事実だ。
しかし本当の理由はそれだけではないだろう。己の用意した魔軍兵士がペルソナ使い達に打ち破られた──とどのつまり、己の筋書きを狂わされたことへの八つ当たりなのだ。
ここでまた逆らえば自分も疑いの目を向けられることになる。いやいやながらも足立は重い腰を上げた。

「足立、変わってあげましょうか? 私の方がよっぽどあなたより気の利いた事言えると思うけど」
「黙ってなクソガキ」

足立の周りを付き纏うマナを一蹴し、放送機材の前に立つ。
台本も何もないため必要最低限の情報しかない。ちらりと元凶であるエイダの方をみれば素知らぬ顔で窓外へと視線をやっていた。

「時間だ、足立」
「はいはい……」

ウルノーガに促されるままスピーカー機材のスイッチを入れる。と、耳の奥に響く不愉快な音と共にマイクが機能を取り戻す。あーあー、と気怠げな声色が会場中に響き渡った。



『みんなお疲れ、色々と頑張ってるみたいだねぇ。これより第二回放送をはじめるよ。余裕がある人はメモとか取りなよ。役に立つかもよ? 禁止エリアを聞き逃してうっかり死んだりしたらこっちとしてもつまらないからさ』



一回目の放送とは異なるやる気のない男の声。
無邪気で純粋悪な少女のものとはまた違う、人の生死を握っているとは思えないほど緊張感のないそれは不快感を与えるかもしれない。
しかし足立はそんな参加者たちの気持ちなど知ったこっちゃないとばかりに頭を掻きながら傍のメモを手に取った。

『それじゃ、最初に死者の発表ね。えー、なになに……』



◾︎

698第二回放送 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/05(土) 23:47:32 ID:vEUoYNsc0



──ウィリアム・バーキン

──クラウド・ストライフ

──サクラダ

──ザックス・フェア

──四条貴音

──シルビア

──ゼルダ

──ソニック・ザ・ヘッジホッグ

──ダルケル

──ティファ・ロックハート

──……、鳴上悠

──錦山彰

──ネメシス-T型

──萩原雪歩

──ベロニカ

──ホメロス

──ヨルハ二号B型



以上の十七名だよ。
残り人数は四十人。君たち、相当血に飢えてるみたいだね。こんなペースで死ぬなんてこっちとしても予想外だよ。
おかげさまで情報を整理するのに大変なんだよね。ただでさえ色々起こって面倒なのに……ああいや、別に殺し合うなって言ってるわけじゃないよ。あんまり余計なこと言うと口滑らせちゃいそうだから禁止エリアの発表に移ろうか。一回しか言わないからよく聞きなよ。



一時間後にA-3
三時間後にF-6
五時間後にA-6



以上だ。
あのさ、君たち沢山怒ったり悲しんだりしてるけど……それって疲れない? こういう時こそリラックスしなよ。気を張ってても死ぬ時は死ぬんだからさぁ、頭に血上らせて死に急ぐとか馬鹿らしくない?
そうだね、〝本でも読んで〟落ち着きなよ。結構名案じゃない? 没頭しすぎて殺されちゃ元も子もないからほどほどにね。


それじゃ、これで第二回放送を終わるよ。
引き続き頑張ってね。



◾︎

699第二回放送 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/05(土) 23:48:32 ID:vEUoYNsc0



はぁ、と重い息を吐きながらスイッチを切る。
即興にしては十分頑張った方だろう。参加者たちの動向を詳しく追っていないため、マナのように一人一人にコメントするようなことは出来なかったが。それを差し引いても金を貰ってもいいくらいの出来だ。
しかし振り返る足立に投げられたのは労いの言葉とは違うものだった。


「こいつ、ヒント与えてるわよ」


指を差すマナに思わず舌打ちを打つ。
やはりバレていた──いや無理もない、自分で思い返してもかなり露骨だった。心を読めるマナに対しては尚更隠しきれるものではなかったろう。

「はぁ? なんのこと?」
「とぼけても無駄よ。あの発言って図書館にあるオーブのことでしょ?」
「……、……いいじゃないか。その方がゲームが盛り上がるだろ?」

本でも読んで──何も知らない者が聞けば参加者達への挑発と捉えるであろう些細な一言。しかしその一言はこのゲームの裏側を知るマナ達には見過ごせないものだった。
各地に散りばめられたオーブ。この殺し合いにおいて有用な効果をもたらすそれはウルノーガにとっても未知数だ。現に彼は元の世界で苦い思いをした経験がある。


そう、経験があるのだ。


「──問題ない。奴らに全てのオーブが渡ることなどありえん」


ならば二度と同じ過ちを繰り返さなければいい。
余裕の笑みを浮かべるウルノーガの右手には深緑に煌めくオーブが浮かんでいた。


オーブを会場に散りばめる際、ウルノーガはまず六つ集まった際の事態を危惧した。
無論一つ一つを隠し置いている以上一箇所に六つ全てが集められる可能性はゼロに等しい。しかし言い換えれば全くのゼロではないのだ。
一度苦汁を嘗めさせられた以上念には念を入れておく必要があった。その結果、六つのうち一つを手にしておくことで根本の危険性を絶ったのだ。

「しかし足立、誠意を見せろと──そう言ったはずだが?」
「いいじゃないか。もし不都合があっても首輪があるだろう? それとも宝条博士の技術力じゃ不安があるのかい?」

威圧するウルノーガに気圧されることなく足立は宝条へ話を逸らした。
ガタッ、と宝条が立ち上がる。彼に己の腕のなんたるかを語らせるとなると面倒なことになると予感したウルノーガは眉を顰めながら背を向け、話を切りあげた。

「まぁいい、動きがあれば伝えろ」

そう言い残しウルノーガの全身が闇に包まれたかと思えば露と消えた。
続くように宝条も管理室への扉に手をかけながら傍にいたエイダをじろりと睨みつける。

「忠告しておくが、離反するような真似はしないことだな。その時はウルノーガ様が黙ってはいないぞ」
「ええ、気をつけるわ。貴方も飼い犬に噛み殺されないようにね」

飼い犬、というのが何を指すのか理解できないほど宝条も馬鹿ではない。今まさに彼を悩ませている大きな種なのだから。言い返そうとするも神羅兵の一人が宝条に声をかけたことでそれは未遂に終わる。
小走りで管理室駆り出される宝条の姿を見てマナはやれやれと首を振り、モニターの前を陣取る。足立たちのことはもう興味を失ったようで、モニターを見つめる目を爛々と輝かせていた。

「よく飽きないね」
「当たり前でしょ! こんなに面白いことはないわ。逆にどうしてそんなにつまらなさそうなの?」

ああ、こいつとは感性がまるで違うんだな。
少し話しただけでも身体が、細胞がこの子供と会話することを拒んでいる。返事をすることなく足立は意識を他に移そうと見渡し、エイダが既にいないことに気がついた。……全く大胆な女だ。足立も遅れてその場を後にした。



◾︎

700第二回放送 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/05(土) 23:49:53 ID:vEUoYNsc0


エイダは一人、最低限の椅子と机だけが用意された個室にて思考に耽っていた。
マナにも読み取ることが出来ないほど複雑に絡み合う思考回路はただ一点、ウルノーガの持つグリーンオーブに対して進む。あれを参加者の元に届けるのは骨が折れそうだ。
現状オセロットはよく働いてくれている。しかしあくまで参加者である彼は運営に干渉できない。参加者には参加者にしか、運営には運営にしか出来ないことがある。今回のグリーンオーブの件がまさしくそれだ。

「──ったく、キミのおかげで僕まで疑われることになったじゃないか」

聞きなれた声が思考を中断させる。
扉を開ける足立透をエイダは妖艶な笑みで出迎え、薄く唇を開いた。

「名演だったわよ、足立」
「そっちもね。まさかこんなに上手くいくとは思わなかったよ」

エイダは読んでいた。
自分ではなく足立に放送役が回ることを。
ゆえにエイダは予め足立に対し〝本〟について言及するように伝えていたのだ。結果はおおよそ思惑通り。足立はエイダという女の底知れなさに畏怖の類を覚えた。

「けどさ、ちょっと露骨過ぎたんじゃない? 悪いけどキミがやってもマナ達には気づかれてたと思うよ」

しかしその作戦も完璧とは言えなかった。

マナやウルノーガは事前に〝図書館にオーブがある〟ということを知っている。その知識がある上で最後のオーブが参加者の手に渡っていないという現状、いくらぼかしたところで見抜かれるのはどうしようもない。
こればかりはエイダの落ち度ではないとは思っている。思っているが、汚れ役を買って出た以上文句を言う権利はあると足立は本音を吐露した。

「そうね、あなたにはもう伝えても問題ないかしら」
「はぁ? なにを?」

謝罪が返ってくるとは思っていなかったが、それ以上に予想外の答えが返ってきた。

「私は〝本〟について言及しろと伝えただけで、〝図書館〟について言及してとは伝えてないわ」
「……? 意味がわからないんだけど」
「ウルノーガ達は参加者の知らないことを知っている。その前提を利用させて貰ったのよ」

そこまで聞いても足立は彼女の意図を読み取ることができない。
変に答えを焦らされているような感覚に苛立ちを覚え始めた頃、エイダは机に手をなぞらせながら言葉を纏めているようだった。その美麗な横顔は足立の言葉を詰まらせ、感情というノイズ混じりの思考を落ち着かせる。

「……! ……まさか……」

その結果、足立はひとつの結論に辿り着く。
吃驚と感服の入り交じった表情を肴にエイダが頷いた。


「そう、私が本当に与えたかったヒントは別よ。……いくら高等な頭脳を持っていたところで、てがかりがなければ意味ないでしょうからね。ちょっとしたプレゼントよ」
「やっぱり、そうか……キミ────」


鳥肌が立つ。
それは見出された希望からか、エイダ・ウォンという女性への敬畏からか。


「────支給品に、なにか忍ばせたな?」


ご名答。
短く返すエイダは答え合わせをする教師のように椅子に座り直した。

「本っていうのはなにか小さなものを隠すには適してるの。特に表紙の裏と中表紙の間にはね。──例えば……首輪の情報データが入ったUSBメモリなんかも隠せそうだと思わない?」
「……はははっ! エイダ、キミ最高だよ!」

ウルノーガたちは図書館にあるオーブの存在を知っている。
それはつまり、本というヒントからそれ以上の疑いはかけないということだ。
放送時に足立に詳細を伝えなかったのもそれが理由である。足立自身にもオーブへのヒントだと思わせることで心が読めるマナへの対抗策としたのだ。


このエイダ・ウォンという女は見事欺いてみせた。自分以外の全てを。


「調合書や魔導書でもなく、一見なんの価値もない本となれば支給品のチェックも甘くなるでしょう、そんなものに一々時間を割いていられないもの。……捨てられていなければ、の話だけど」
「おいおい、縁起でもないこと言うなよな」

もちろんこれは賭けだ。

そもそもジョーカーを除いて支給品は完全なランダム。彼女の細工した本が誰の手に渡るかはわからない。対主催のスタンスであり、その上で足立の言葉の意図を汲み取れる人物でなければ意味がないのだから。

確率はかなり低い。しかしゼロではない。
やれるだけのことはやった。今はただ彼らに賭けるしかない。
グリーンオーブの件もある。まだまだ問題は山積みではあるが、確かに前進している。





調合書でも魔導書でもない本。

一般的にみればなんの価値もないただの本。

条件に当てはまる支給品を配られた人物となると──いたはずだ、たった一人だけ。
その人物はまだ、生きている。

701第二回放送 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/05(土) 23:51:16 ID:vEUoYNsc0






【???/一日目 日中】
【ウルノーガ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:苛立ち
[装備]:???
[道具]:???
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.???

※消滅後からの登場です。

【マナ@ドラッグ・オン・ドラグーン】
[状態]:愉悦
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを見届ける。
1.放送後の反応が楽しみ。
2.カイム、イウヴァルトへの期待。

※Aルートからの登場です。

【宝条@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:興奮、大きな興味
[装備]:なし
[道具]:???
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを管理する。
1.今は仕事に専念する。
2.首輪への絶対的な自信。
3.セフィロス、我が息子よ――

※死亡前からの登場です。

【ガッシュ@クロノ・トリガー】
[状態]:???
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを破壊する。
0.???

※ラヴォス撃破後からの登場です。
※???の地下に一人監禁されています。

【足立透@ペルソナ4】
[状態]:苛立ち
[装備]:ニューナンブM60(残弾数5)@ペルソナ4
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを破壊する。
1.エイダと共にゲームを終わらせる。
2.リボルバー・オセロットへの期待。
3.本の持ち主、ってたしか……

※本編終了から数カ月後からの登場です。

【エイダ・ウォン@BIOHAZARD 2】
[状態]:健康
[装備]:???
[道具]:???
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを破壊する。
1.足立と共にゲームを終わらせる。
2.リボルバー・オセロットへの期待。

※本編終了後からの登場です。

702第二回放送 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/05(土) 23:51:38 ID:vEUoYNsc0
投下終了です。

703 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/06(日) 18:01:34 ID:KvmEs4Eo0
リーバル、ハル・エメリッヒ、シェリー・バーキンで予約します。

704 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/08(火) 15:50:47 ID:KkU9p4yE0
投下します。

705嘘つきたちの三重奏 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/08(火) 15:52:40 ID:KkU9p4yE0

「シェリー、気分は大丈夫?」
「うん……」

僕の質問にシェリーは弱々しく頷く。
公園を出てすぐ、僕らは一台の車が入口に止めてあるのを見つけた。期待せずに中を覗いてみれば、僕の予想に反してキーは刺さったままだった。
ここから研究所に行くにはB-4、B-5、A-5とエリアを三つ跨がなければならない。子供のシェリーと運動不足の僕にとっては徒歩で行くには少し遠い距離だ。移動手段が手に入ったのは心強い。

「ありがとう、オタコン。窓を開けてくれたおかげで少し良くなったわ」

よかった、と短く返しながら僕は視線をフロントガラス越しの景色に移す。
シェリーには少し悪いけど、乗り物酔いは我慢して貰わなきゃいけない。放送が迫っている以上呑気に駐車している暇もないからだ。
車を走らせてから十分くらいは経っているけど、今のペースなら放送前には研究所に間に合うだろう。

「オタコン、車運転できるんだね。ちょっと意外」
「はは……僕、そんなに頼りなく見えるかな?」
「うん、かなり」

武器を持たない僕らにとって車というのは唯一の対抗策だ。
逃走手段にもなるし、なにより……いざという時には凶器にもなりうる。僕にその勇気があれば、の話だけど。
そこまで考えたところで僕の心を無力感が包み込んだ。僕らが今武器を持っていないのは自ら手放したからなのに。ほんの少しでも自分が不運だと思ってしまったことに嫌気が差した。

「ごめん」

え? というシェリーの顔は心底不思議そうだった。
当たり前だ。突然謝られても返答に困るだろう。それでも僕は自己満足の謝罪を続けた。

「ダイケンキや桐生のことだけじゃない。君が危ない目に遭っても動けなかった」

移動中、シェリーからラクーンシティの話を聞いた。彼女のことを命懸けで守り抜いたレオンとクレアのことも。
正直、ゲームやアニメの話みたいだと思った。ラクーンシティなんていう街の名前は知らないし、そんな大規模で奇妙な事件が起きていたのなら絶対に僕の耳にも入っているはずだから。
けれどそれを嘘だなんて思わない。そんな狭い視野を持っていたらこの殺し合いを生き残ることなんて出来ないだろうし、なによりもシェリーを信じたかった。

「僕はクレアやレオン、桐生たちみたいに勇敢じゃないから」

もしも僕がクレアたちと同じ立場だったら十中八九野垂れ死んでいただろう。もしかしたらどこかのトラックの荷台にでも閉じこもって外に出ようとしないかもしれない。
ハンドルを握る手に自然と力が篭もる。こんなに小さな子の前なのに、止まらない。本音の吐露が止まらない。

「だから、ごめん。君の同行者がこんなに頼りない大人で……本当にごめん」


──僕では到底真似出来ない。


クレアも、レオンも、桐生も。命を懸けて守るべき存在を守り抜いた。
僕だってそういったことを考えたことはある。映画やアニメを見ていてすぐに逃げない登場人物を見て、僕ならもっと上手く立ち回れるだろうなんて投影していたこともある。
けれど、いざという時にそれを実践できる人間なんてほんの僅かだ。そして僕はそんな〝僅か〟から外れた、大多数の人間なんだ。

もしシェリーと一緒に行動していたのが僕じゃなかったら。
もしクレア達のような勇敢な参加者たちと一緒だったら。
こんなに小さな子にここまで不安を抱えさせるようなことはなかったのに。

「…………」

シェリーは何も言わずに聞いてくれた。
許して欲しいなんて思ってない。僕はただ、話を聞いて欲しかったんだ。ここまで誰にも漏らせなかった弱音を、僕なんかでは抱えきれない責任感を。破裂寸前の風船から空気を抜くみたいに。

「だから、いざという時は僕を見捨てて──」
「やめてよ!」

助手席から響くシェリーの叫びが僕の声を掻き消す。

「生き残ることを諦めないって、さっきそう言ったでしょ!?」

そこまで言われて僕はハッとした。
僕は何を言おうとしていたんだろう。一刻も早く首輪を解析する為にも生き残らなきゃいけないのに。
弱音を吐いている場合じゃない。今はただ、研究所に向かわなきゃ。

706嘘つきたちの三重奏 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/08(火) 15:53:26 ID:KkU9p4yE0
「ごめん、シェリー。そうだった、僕は──」
「首輪を調べられるから生き残らなきゃ、って思ってるんでしょ?」

言葉を遮られるのはこれで二度目だ。
シェリーの顔はあまりにも必死で、心なしか涙ぐんでいるように見えた。

「ちがうよ……! 理由がなくちゃ生きちゃいけないの!?」
「……あ、…………」

言葉が出なかった。

僕は自然と自分が生き残ることに理由をつけていた。桐生が守ってくれたのも、シェリーが僕を見捨てなかったのも、僕が首輪を解析する希望だからだと思っていた。
けど、事実はもっと単純だったのかもしれない。そんな損得勘定に囚われていたのは、どうやら僕だけみたいだった。


シェリーが言っているのは綺麗事だ。
残酷だけれど、命には価値がある。実力も頭脳も持たない人間が生き残っていたところで意味がないなんて、そんなことはわかっている。


けど、それでも。


僕が今一番欲しかった言葉は、そんな〝綺麗事〟だった。


「……ありがとう、シェリー。もうこんなこと言わないよ」
「うん……約束ね。一緒に生き残ろう」


まるで憑き物が取れたみたいに心が軽くなるのを感じる。やっぱり、シェリーは僕なんかよりもよっぽど大人だ。
彼女は強い。ラクーンシティの一件で成長したのかもしれないけど、元々強い心を持っていたんだろう。僕も見習わなきゃいかないのかもしれないな。


そう決意を新たにした僕の目に、人影が飛び込んできた。


「……っ!!」


遠目に見てもそれが人間ではないことはわかった。
鳥のような頭を持ち、その両手は翼のように見える。けれど鳥類にしてはあまりにも人間に似たシルエットは奇妙な印象を与えた。
こちらを視認しているにも関わらず避けようとしない。まともな人間なら車を避けようとするはずだ。よほど自分の力に自信があるのか、それとも────


「オタコン!! 前!!」


シェリーも気付いたみたいだ。
けれど僕は素直にブレーキを踏めなかった。僕の中で究極の選択を迫られていたからだ。

もしもこの鳥が殺し合いに乗っていたら?

武器を持っていない僕らが逃げるのは難しい。
選択を誤ったらすなわち死が待っている。けれど僕が今ここでアクセルを踏み込めば、それだけでその危険性を潰せる。
もちろんシェリーはそれを許さないだろう。この鳥も僕らと同じく殺し合いに反対している参加者かもしれないからだ。


けど、万が一そうじゃなかったら。
僕だけじゃない。シェリーの命まで危険に晒すことになる。
可能性が高いとか低いとかじゃない。正解を選ばなきゃいけないわけでもない。絶対に間違えてはいけないんだ。
それなら、僕が今ここで手を汚さないと──!





──オタコンのためなら、誰が死んでもいいってことなんだよね。





ああ、やっぱり。
僕はどうしようもない臆病者だ。




僕は力一杯ブレーキを踏み締めてハンドルを右に切る。
慣性の法則に従って身体がドアに打ち付けられた。急激な減速と旋回のおかげでギリギリで鳥を避けられたようだ。
痛む身体を気にしていられない。ボウガンを構えながら近づいてくる鳥の鋭い瞳が僕の心臓を鷲掴んだ。



◾︎

707嘘つきたちの三重奏 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/08(火) 15:54:31 ID:KkU9p4yE0



「キミたちだけかい?」
「ああ、そっちも一人だけかな? それともどこかで待ち合わせしているとか──」
「おっと、余計な質問はしないでくれよ」

結果的に言えば、僕の判断は間違っていた。
ボウガンを突きつける鳥──リーバルというらしい──は真っ直ぐに僕に照準を定めながら値踏みするような視線を向けていた。
いきなり殺してくる輩じゃないだけまだマシか。とはいえ状況はかなり悪い。無駄のない構えから見てあいつが矢を外すことは期待できなさそうだ。

「お、オタコン……」
「……、……」

隣でシェリーが不安そうな声を上げる。
そうだ、この状況を打開できるのは僕しかいない。僕の一言一句にシェリーの命が懸かっている。
いきなり撃ってこない以上リーバルもなにか目的があるはずだ。それを導き出さなきゃいけない。


今度こそ間違えるなよ、ハル・エメリッヒ。


「僕らは武器を持っていない。既に身ぐるみを剥がされた後だからね」
「……それはご愁傷さま。その言葉をすんなり信じる奴ならそう言ったかもね」

やっぱり、リーバルは下手な人間より頭が回る。言葉でイニシアチブを握るのは容易じゃなさそうだ。
鳥頭なんていう言葉は辞書から消すべきなのかもしれない。僕は仕方なく背負っていたザックを彼の前に投げ捨てた。

「……、……なるほど、嘘じゃないみたいだね。そっちのお嬢ちゃんはどうかな?」

シェリーの肩が大きく跳ねる。
僕は危険性がないと判断したんだろう。ボウガンの矛先は小さな少女の額に向けられていた。

「シェリー」
「……うん」

僕はシェリーに支給品を捨てるように促す。
意図を汲み取ってくれた彼女は同じくリーバルの前へ投げ捨てる。リーバルはその中身を確認するために、ザックの中身を覗き込んだ。


その一瞬。


シェリーは傍の小石を拾い上げ、リーバルへと投げつけた。

「っ……!?」

驚愕したのはリーバルだけじゃない、僕もだ。
力のない少女のものとはいえそれを認識している以上気を取られるのは必然だ。リーバルは石を払い除けるように翼を広げる。
その隙にシェリーは小さな身体で走り出した。逃げるためじゃなく、立ち向かうために。
反撃されるなんて思わなかったんだろう。シェリーの体当たりをもろに受けたリーバルが少しだけよろけたのが見えた。


「──オタコン、逃げて!!」


僕は動けなかった。
恐怖じゃない。緊張でもない。
僕の体を縛る原因は、どうしようもない虚しさだった。

708嘘つきたちの三重奏 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/08(火) 15:56:11 ID:KkU9p4yE0



僕は、なにをしているんだ?



こんなに小さな子が命を懸けているのに、対して僕はなんだ?
素直に支給品を捨てて、慎重に言葉を選んで、主導権を握らせて──これじゃダイケンキの時となにも変わらないじゃないか。

何が正しいかとか、なにが間違いだとか、そんなもの誰が決めるんだ? 少なくともシェリーは自分がやっている行いが正しいと心から思っているはずだ。
理屈なんかじゃない。シェリーは今、心で僕を逃がそうとしている。


羨ましかった。
僕もあんな風に、責任感も重圧も投げ捨てて飛び込みたかった。
こんなに小さな身体なのに。シェリーの背中は桐生の時と同じ大きさに見えた。直視するには眩し過ぎて──僕は視線を俯かせた。



ハル・エメリッヒ。なぜ君には出来ないんだい?



この人よりも優れた頭が。
感情ではなく理性で動く手足が。
首輪を解析しなければという使命感が。

目の前の少女一人見殺しにするのであれば。

そんなもの────捨ててしまえ。



「ま、待ってくれ!!」



シェリーの拘束を振りほどき、後方へ飛び退くリーバルの前に駆け出す。シェリーと奴の間に挟まるように。
怖くて堪らなかった。リーバルはもうボウガンを構え直して、狙いは真っ直ぐに僕に向けられている。数秒後に僕は殺されるだろう。
後ろでシェリーが僕の名を呼ぶ。……シェリーだって僕と同じくらい、いやそれ以上に怖かったはずなのに。本当に、彼女の強さを思い知らされた。


「ぼ、ぼぼ、僕を殺せ!! その代わりにその子を見逃してくれ!! お願いだ!!」


格好がつかない震え声の懇願。
情けない。きっとこれが桐生やスネークならまるで違った台詞を吐いたはずだ。
けど、これでいい。これが僕の心から絞り出された本音なんだ。僕はもう、僕を恨まないで済む。


悔いがないといえば嘘になるけど。
シェリーを見捨てて生き延びたら、今度こそ僕は立ち直れないから。
僕の命一つで彼女を守る方が正しいと、僕はそう信じている。




◾︎




私は、オタコンを逃がさなきゃって思った。
だって私が生き残るよりも、みんなを助けられる可能性があるオタコンが生き残るべきだと思ったから。


生きることを諦めないって、そう言ったばかりなのに。
今考えてみれば、この時から私は矛盾してた。少し前に自分が言ったことが、頭から抜けていたんだ。



オタコンは逃げてくれると思ってた。
緑色の服の女の人の時だって、私よりも自分の命を優先してくれたから。オタコンは頭がいいから、自分が生き残らなきゃいけないってわかってる。


なのに、


「ぼ、ぼぼ、僕を殺せ!! その代わりにその子を見逃してくれ!! お願いだ!!」


オタコンは逃げなかった。
なんで。私なんかを助けて死んじゃったら意味ないじゃない。
首輪を外せるかもしれないオタコンが死んじゃったら、他のみんなも──クレアだって助からないかもしれないのに。

709嘘つきたちの三重奏 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/08(火) 15:56:53 ID:KkU9p4yE0





ちがう。




ラクーンシティで、クレアは私をそんな理由で助けたの?
私に人を助ける力があるからとか、役に立つからとか、そんな理由で守ってくれたの?

ちがう、ちがう、ちがう──!
ただ助けたいと思ったからだ! 人を助けるのに理由なんていらないんだ!

オタコンは、あの時のクレアやレオンと一緒なんだ!


「オタコン……!」


けど、それは私だっておなじだ。
オタコンを助けたい。首輪とかそういうのじゃなくて、オタコンを死なせたくないんだ。
だから動けなかった。逃げなきゃいけないのに、オタコンが身体を張ってくれたのに……無駄にしちゃった。
きっともう逃げても間に合わない。リーバルと目が合ってしまったから。



ごめんね、オタコン。
助けてくれてありがとう──嬉しかった。









「参ったね、降参だよ」








へっ? って、私もオタコンも間抜けな声を出した。
今から私たちを殺すはずのリーバルはボウガンを捨てて、呆れたみたいに首を振っていたから。




◾︎

710嘘つきたちの三重奏 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/08(火) 15:57:39 ID:KkU9p4yE0



「さて、到着だね」

放送直前、リーバルは研究所の入口に足をつけた。オタコンとシェリーも共に。

「案内ありがとう、助かったよ」
「お安い御用さ。試すような真似しちゃったからね、そのお詫びだよ」
「もう! 本当にびっくりしたんだからね」

あの一悶着からすぐ、リーバルはことの経緯を語った。そして最初から二人を撃つ気なんてなかったことも。
いや、正しくは違う。オタコンがシェリーを見捨てるような人間だったら撃っていた、と。冗談なのか本気なのか分からないリーバルの言葉にオタコンは肝を冷やした。
結果としてオタコンもシェリーも本気でお互いを助けようと行動していた。まさかこんな人間がいたなんてね──謝罪と共に添えられたその言葉にオタコンは照れ臭さと誇らしさに似た感情を覚えた。

(──あの乗り物で轢かれてやっても、それはそれでいいと思ってたんだけどね)

リーバルは生きるのを諦めていた。
クロノの元から去った後、死に場所を求めてふらふらと向かっていた先はオタコンたちと同じく研究所だった。

マールディアの死。
全ての歯車を狂わせる元となった場所。
なぜそこに向かっていたのかはリーバル自身にもわからない。ただ本能の赴くままに目指していたのがその方向だったというだけだ。


だからこそ、オタコンたちとの邂逅は必然と言える。
互いを生かそうとする二人の姿を見て、リーバルはもう死にたいなんて思わなかった。


(まったく、愚の骨頂だよね)


この英傑リーバルが〝諦める〟?
馬鹿馬鹿しい。ウルノーガたちの思い通りになんてなってたまるか。
一度死んだ身だからこそ思う。醜く足掻きながらも生きる姿の美しさを。生きられなかった人々がどんなに願っても届かないそれの眩さを。
みすみすそれを手放そうだなんて、どうかしていた。



「それにしても……リーバルの言った通りかなり損壊が激しいな。これじゃあ探索に手間取りそうだ」


それに、希望も見えてきた。
オタコンは首輪を解析できる可能性のある人物らしい。この忌々しいゲームに反逆できるのなら、喜んで手を貸そう。

「僕も回る余裕がなかったから詳しい構造まではわからない。放送まで時間もないんだし、適当な場所で待機した方がいいんじゃないかな?」
「そうだね、その方がいい」

G生物との戦いによって研究所の一部は見るも無惨なほどに倒壊していた。リーバルが最後に見た時よりもずっと建物の崩壊が激しいため、あれからどれほどの死闘が繰り広げられたのか想像に難くない。

「第一研究室、第四研究室はもう使えない。となると……」

オタコンが目星をつけたのは第二研究室だ。
第三研究室は入口が瓦礫で塞がっていて入れそうにない。が、戦闘の場から離れており比較的崩壊の少ない第二研究室はなんとか窓から入れそうだ。
ここまで崩壊していては正直無駄足かもしれない、が……共に脱出を志す仲間が出来ただけでも大きな収穫だ。

「よし、大丈夫だ」

まずリーバルが窓から中に入り、周囲を確認してから続けてシェリーがオタコンの手を借りて、最後にオタコン自身が第二研究室に足を踏み入れる。
倒壊による地響きのせいかライトや棚が倒れているものの、物色する価値はありそうだ。
幸いにも中は狭くない。それにどうやら地下に続く階段もあるようだ。パソコン機材の類が見当たらないことから恐らく地下に用意されているのだろう。そうでないと困る。

「シェリー、放送まであとどれくらい?」
「えっと……三分くらい」

リーバルが名簿を広げ、シェリーが地図を広げ、オタコンはいつでもメモを取れる体勢を取る。
放送はただ死者と禁止エリアを確認するためのものじゃない。運営の情報を掴める可能性がある貴重な時間だ。ゆえに一言も聞き逃す訳にはいかない。
それぞれがそれぞれの役割を持ち、全員が耳を澄ます。ノイズ混じりの男の声と共にいよいよその時が訪れた。



『みんなお疲れ、色々と頑張ってるみたいだねぇ。これより第二回放送をはじめるよ』




◾︎

711嘘つきたちの三重奏 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/08(火) 15:58:56 ID:KkU9p4yE0



「シェリー、大丈夫かい?」
「うん、……平気」

放送を終えて直後、オタコンはシェリーへ声を掛ける。言うまでもなく名を呼ばれた父親のことだ。
唯一の肉親が名を呼ばれたことはいたたまれない。けれど当のシェリー本人は予想していたとばかりに頷いてみせた。彼女の境遇を知っている以上、オタコンは追求するような真似はしない。

「…………」

一方で、リーバルは今しがた死者に線を引き終えた名簿をじっと見つめていた。

ゼルダ。
ダルケル。
ベロニカ。

全員、死んでいるのはわかっていた。
ゼルダは自分が手に掛けた。何も驚くことはない。
なのに線を引く瞬間手が止まってしまったのは何故なのか。そんな悩みを霧散させるようにリーバルはオタコンへ声を掛ける。

「そっちはどうだい?」
「ああ、要所要所だけど……纏められたよ」

オタコンが見せつけるメモには夥しいまでの文字が詰められていた。
リーバルは感服と同時に少しオタコンという人物が怖くなる。有り体に言うと、少し引いた。
一通り目を通してみても放送内の言葉はほぼ全て書かれている。それどころか重要そうな単語には赤線が引かれているし、ところどころ注釈や考察も混じっている。
名簿に線を引く自分や禁止エリアにバツをつけるシェリーとは段違いの作業量だ。なるほどたしかに、彼ならば首輪を解析するというのも夢物語じゃないらしい。

「僕はこの研究室と地下を見て回るよ。リーバル、シェリーを頼んでもいいかな?」
「ああ、構わないよ」

ありがとう、と帰すオタコンはリーバルに背を向けて辺りの捜索に移る。
疲労が溜まっていたのか、椅子に座ったままうつらうつらと首を前に傾けるシェリーの姿を見ながらリーバルはぼんやりと物思いに耽る。

(マールの遺体は多分瓦礫の下か……それにしても、カミュ達はどこに行ったんだ? 死んではいないようだけど)

放送にはカミュやハンターの名前は挙げられなかった。彼らの戦力は脱出の上で欠かせないといってもいい。それにあの時別れたレッドの存在も気がかりだ。
あの怪物の名前はわからないが、彼らの名が放送で挙げられていないことから恐らく二人の手によって倒されたのだろう。
オタコンの探索が落ち着いたら探しに行ってもいいかもしれない。が、戦力的にも移動手段的にも自分が赴いた方がいいだろう。

(……ま、そう簡単じゃないけどね)

考えられるのは美術館の方角か?
とすると、どうやら見事にすれ違ってしまったらしい。その方角にはクロノがいる。もし再会した時は今度こそ戦いは避けられないだろう。


オタコンたちを研究所に残してカミュたちを探しに行くか、それともここに留まるべきか。
ベロニカやマールの時のような間違いはもう犯せない。プライドか、また別のものか。リーバルは慎重に思考を巡らせた。

712嘘つきたちの三重奏 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/08(火) 15:59:25 ID:KkU9p4yE0



【A-5/研究所 第二研究室/一日目 日中】
【ハル・エメリッヒ@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:疲労(中)
[装備]:忍びシリーズ一式@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、765インカム@THE IDOLM@STER、第二回放送内容が書かれたメモ
[思考・状況]
基本行動方針:首輪を外すために行動する。
1.研究所内を調べる。
2.武器や戦える人材が欲しい。候補はスネークやクレア、カミュやハンター。
3.生きなくてはならない。

※本編終了後からの参戦です。
※シェリー、リーバルからおおまかな情報を得ました。
※カミュ、ハンター、レッドが信頼出来る人物だと認識しました。
※クロノを危険人物と認識しました。


【シェリー・バーキン@BIOHAZARD 2】
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:生き残ることをあきらめない。
1.オタコンとリーバルについていく。
2.カズマ……レオン……。
3.クレアに会いたい。

※本編終了後からの参戦です
※オタコン、リーバルからおおまかな情報を得ました。


【リーバル@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康、様々な感情
[装備]:アイアンボウガン@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、召喚マテリア・イフリート@FINAL FANTASY Ⅶ、木の矢×2、炎の矢×7@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[思考・状況]
基本行動方針:運営の思い通りにならない。
1.オタコンが研究所を調べるのを待つ。
2.カミュ達はどうするか……。
3.クロノのことが気がかり。

※リンクが神獣ヴァ・メドーに挑む前の参戦です。
※オタコン、シェリーからおおまかな情報を得ました。
※トウヤ、A2、(名前は知らない)を危険人物と認識しました。



※A-5、研究所の入口に【ダブスタ6×6@Grand Theft Auto V】が乗り捨てられています。


【ダブスタ6×6@Grand Theft Auto V】
モデルは2014年にAMGから富裕層向けに限定販売された「メルセデス・ベンツ G63 AMG 6x6」。
車体が延長され6輪になり、リフトアップも施される等、徹底的にオフロード向けのカスタムが施されている。
更に荷台スペースが設けられ、乗車定員は2人増えて6人に増加。
車体が延長されたことで重量級の車体となっているが、エンジンパワーのおかげでベースとなったダブスタとあまり変わらない走行性能を誇る。

713 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/08(火) 15:59:45 ID:KkU9p4yE0
投下終了です。

714<削除>:<削除>
<削除>

715 ◆vV5.jnbCYw:2024/10/11(金) 22:16:20 ID:a3sLpQoM0
カイム予約します

716 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/13(日) 02:02:09 ID:403QYEN20
セーニャ、9S、カミュ、星井美希、ハンター、セフィロスで予約します

717 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/13(日) 02:04:04 ID:yBA0yOU60
クロノ、魔王、オトモ予約します。

718 ◆vV5.jnbCYw:2024/10/16(水) 22:55:26 ID:puu6VBEw0
投下します

719Exhausted on the Silent World ◆vV5.jnbCYw:2024/10/16(水) 22:56:03 ID:puu6VBEw0

カイムはしばらくの間、静かで冷たい世界で蹲っていた。
敵対した青い服の男、リンクから受けた斬撃の嵐は、彼が予想する想像以上に傷を与えていた。
このまま休まず戦い続ければ、そう遠からず死に至る。
それが分かったカイムは、そのまま動かずに、地虫と共に休息を選ぶことにした。


彼は賑やかな戦場だけでなく、争いのない静かな世界も好む。
帝国軍と戦う一人の戦士となる前、カールレオンの王子だったときもそうだった。
黒い竜の襲撃で、両親を失う前から、一人静かに素振りを続けることが好きだった。



『………カイム。』


闇の中で、決して大きくない、けれど野太い、良く響く声が聞こえた。
彼がフリアエと並んで、望んでいた者の声だった。


彼の目の前には、長い間共に戦った赤き竜がいた。
あの時の女神の城の中庭と、同じ光景がカイムの目の前に広がっていた。


「………!!」


カイムは表情を変えた。
修羅のごとき形相を面に貼り付けていた男が、子供のように驚いた後、人らしい笑みを見せた。
それでも言葉を話さない。
赤き竜との契約により、言葉を失っているのもあるが、元々無口で人付き合いを苦手とする性格である。
帝国軍に追い詰められ、契約を交わしてから、掛け替えのない仲間となった。
竜族ですら恐れ慄く、エインシャントドラゴンすら共に倒した。
そんな友が目の前にいても、言葉を話すことも、手を伸ばすことも無い。


『驚いた顔をしておるな。我らの契約が、離れ離れになった程度で終わるとでも思ったか?
我らが竜の契約が、人間の小娘如きに消せる訳がなかろう。』


それが夢なのだと、すぐに分かった。
今この場に、友がいるわけなどないのだから。
それでも、不思議な安らぎが、カイムの冷え切った心を包み込んだ。


『お主、我とほんの数刻顔を合わせない内に、元に戻ってしまったようだな。』

720Exhausted on the Silent World ◆vV5.jnbCYw:2024/10/16(水) 22:56:28 ID:puu6VBEw0
夢なのに奇妙なことを言うものだ
その言葉を聞いて、カイムが思ったことはそれだった。
元に戻ったとはどういうことだ。
言葉には出さず、出せなかったが、表情には出ていたようだ。


『決まっておろう。 お主は我と相まみえる前に、一人で全てを薙ぎ払おうとしていたな?』


だから何だというのだ。夢に出てきた割に随分変なことを聞くんだなと思った。
カイムにとって、一人で多人数を一掃する戦いは、食事のような物だ。
高揚感はあれど、それ以上の物は無い。
やらなければ生き残れなかった。ただそれだけのことだ。


『だが、我と出会い、他の者と出会い、共に歩む道も見つけたはずだ。』


カイムの味方はいなかったわけではない。
同じように帝国軍に大切な者を奪われたレオナールとアリオーシュ。そして、連合軍の兵士。
だが、皆死んだ。
帝国軍の空中要塞の圧倒的な力に、そしてマナの開いた殺し合いによって、死んだ。
それで殺しの手を止めるカイムではない。
最愛の妹を失った傷の強すぎる痛みは、他の小さな傷の痛みを忘れさせた。
そして、赤き竜はここにはいない。


『元に戻っても仕方あるまい…か。そうかもしれぬな。』


言葉にため息が混ざる。彼は変わらない。この世界でも元の世界でも。夢でも現実でも。
夢とは言え、ここまで思ってることを読まれるのは、絶妙に癪だと感じた。
いや、本物の赤き竜も、自分の心を見透かしたかのように、話かけてきたこともあった。

仲間を作れと言いたいのだろうか。レオナールやアリオーシュのような。
カイムは端からその様な、回りくどい真似をするつもりはなかった。
この世界の参加者は、全てカイムにとって、マナの下へ行く障害物だった。


『ならば、何故海岸で、あの時邪魔になるはずだった少女を、殺さなかった?』


竜はカイムから視線を逸らすことは無く、ただじっと彼を見つめていた。


『魔術でお主を縛った少女も、殺さなかったな?』


世界を救うために子供を殺してしまえば   人の道を外れたくない
 子供など殺さなくても  それよりも他に   殺したい獲物はまだいるはず
邪魔だった あと少しで邪魔された      それよりも雷を落とした人間を
  また新しい魔術で動きを止められたら、マナの所へ行く時間が 怖かった そんなわけではない。




カイムの胸の中を、様々な言葉が渦巻く。
舌で言葉を紡げない分だけ、心の中で様々な言葉が矢継ぎ早に現れる。

721Exhausted on the Silent World ◆vV5.jnbCYw:2024/10/16(水) 22:56:43 ID:puu6VBEw0
『人とは変わらぬ日々を好む。たとえ日が西から登っても、頑なに寝床を変えることは無い。』


竜の言う通りだ。
たとえそれを続けていれば破滅すると分かっていても、中々やり方を変えようとしない。
そして、頭の鈍い人間ですら、方法を変えぬ言い訳は無限に思いつく。
だが、その愚かさが人の世界を発展させ、同時にカイムという一人の男を強くしたとも言える。
長年零れ落ち続けた水滴が、岩に穴を開けるように、愚直さを貫いた先に何かが変わることもある。


(――――――――――――!!?)


その時、彼らの静かな世界を揺らす、無粋者が現れた。いや、産まれたという方が正確か。
暗闇が照らされていく。彼の心を鎮めていた闇が、白く白く溶けていく。
カイムを斬り刻んだ英傑が見せた、トライフォースの光とは違う。眩しいだけで暖かさがまるでない光だ。


光の先にいるのはマナではない。イウヴァルトでもない。
そもそも、カイムはその無粋者の名を知らない。姿さえ見たことが無い。
だが、遥か遠く離れていても気づくほど、凄まじい魔力を感じ取った。
魔力だけではない。刺すような殺気と、蜜のような甘さをも感じる。
天突くほどの大きさを持つ怪物さえ、臆することなく討って来たカイムであっても、反射的に跪きたくなるほどの崇拝と畏怖を覚えた。
神を目の当たりにした人間が感じるのは、このような気持ちなのだろうか。
初めてだった。イウヴァルトが契約したブラックドラゴンに敗北を喫した時でさえ、手が震えることは無かった。
2人だけの世界を侵蝕されれば、普通は怒りを感じるものだ。
なのに、姿さえ分からぬ相手に、怒りすら飲み込む恐怖を感じてしまった。


『……臆したか?お主らしくもあるまい。』


その時、この世界のカイムが知る場所で、究極の生物が生まれた。
精神の世界だからこそ、より遠くから神聖で邪悪な力を感じたのだろうか。
はたまた、カイムが持っている正宗が、その生物と縁のある武器だったからか。
知らなければ、恐怖を感じずにいたというのに、不幸にも知ってしまった。

722Exhausted on the Silent World ◆vV5.jnbCYw:2024/10/16(水) 22:57:25 ID:puu6VBEw0

『あくまで、意地を通すつもりか。だが変わらねば、“神”の模造品には愚か、あの青服にすら勝てぬぞ。』


今更、参加者を殺さず、手を組めと言うのか。
やり方を変えるつもりは無い。これまでもこれからも、剣と共に薙ぎ払っていくつもりだ。


『我と出会った時の様に選べ。赤子すら糧にして生きるか、我といた時の様になるか。』


そして、静寂の世界は消える。
友はおらず、激しい光も無く、そこには青空が広がっていた。
帝国軍の空中要塞で見た赤い空とは違うが、禍々しさを放っているのは変わらない。
あの世界の空では見えなかった太陽は輝いているが、殺し合いという舞台の照明の様にしか見えない。


その太陽が一番高くに登った時、2度目の放送が流れた。


マナの声ではない、知らない男の声。
カイムはその変化を気にしない。

ただ禁止エリアを地図に書き込んでいく。
どの道マナも、それに協力する者も殺すのだから関係ない。


それ以上に気になったのは、あの世界で見た、光の正体だ。
誰なのかは分からない。あの時感じていた気配は、今は感じない。
だが、この世界にいる誰かだと言うことは、理屈も無くはっきりと分かった。
そして、マナのもとへ行く上で、手ごわい障壁になることも。


――臆したか?


夢とも現とも分からぬ世界で、契約相手から言われた言葉。
それを、言葉を持たぬ男は心で否定する。
剣を一振り、もう一振り。
僅かな間だが、休息が出来た。巨大な剣を振り回せるぐらいには。
また戦えることを確信したカイムは、再び殺すために歩き始めた。




【C-2/海岸 日中】

【カイム@ドラッグ・オン・ドラグーン】
[状態]:ダメージ(大)、魔力(小)、全身に裂傷
[装備]:正宗@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品 エアリスの基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、マナを殺す。
1.目の前の敵を殺す。
2.自分よりも弱い存在を狙い、殲滅する……つもりだったが?
3.あの世界で見た存在(セフィロス)は何だったのか?
4.最後まで抗い続ける

723Exhausted on the Silent World ◆vV5.jnbCYw:2024/10/16(水) 22:57:35 ID:puu6VBEw0
投下終了です

724 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/20(日) 02:02:10 ID:YBCa3bSU0
>>717
予約を延長致します。

725 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 02:35:31 ID:kNuHDx3A0
>>716
予約を延長します

726 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 21:55:21 ID:s6Q57hA20
投下します。

727マリオネットの心 ──Intro ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 21:56:14 ID:s6Q57hA20

「セーニャ、お前……っ、……!」

 カミュの開いた瞳孔はただ一点、セーニャの青白い顔に注がれていた。
 端正な顔立ちは面影を感じさせないほどにやつれ、宝石のように無垢な瞳は今やもう虚ろに溶けている。真っ直ぐに立っていることも難しいのか、幽鬼の如くゆらりゆらりと揺らめいていた。

「うふ、うふふふ…………あは、あははははは!!」

 なのに、当のセーニャは笑顔だった。
 場違いなほどに明るい声色は余計にアンバランスさを加速させる。何か言わなければ、と。浮かんでは消えゆく言葉を手探りで求めながらカミュは口を開く。

「……っ、…………!」

 出ない。
 言葉が、出ない。

 セーニャは一体この十二時間でどんな目に遭ってきたのだろう。
 たった半日。されどカミュにとってその半日は、今まで生きてきた中でもっとも長く感じたと言ってもいい。
 彼女がその時間をどうやって過ごしてきたのかなんてわからない。しかし、生きているだけで儲けものだという考えが消し去るほどの惨状がそこに広がっている。それを前にしたらカミュの浮かぶ言葉はどれも陳腐に思えてしまって、喉の奥で消えていく。

「カミュさまあはははは、うふ、一緒に壊す壊す壊す壊す殺す」
「くっ……! カミュさん、あぶない!」
「っ……!?」

 そうして考えあぐねている内にセーニャは漆黒の槍で線を描く。躊躇いのない袈裟は先ほどまでカミュのいた空間を切り裂いた。
 9Sが彼の身体を引っ張らなければ致命傷は免れなかっただろう。カミュの知るセーニャのものよりもずっと疾く、鋭く、そしてなによりも──恐ろしい。

「あははははは! あは、あはははははッ!!」
「セーニャ……っ! 一体、どうしちまったんだよ……!」

 セーニャの槍撃を扇子で捌きながらもカミュは反撃に移せない。それは彼女の攻撃を防ぐので手一杯だから、というわけではない。そもそもとして彼女を傷つけるという選択肢が湧かないのだ。
 鳴り渡る不快な金属音が二度、三度。たまらず9Sが介入しようとするもカミュがそれを片手で制す。
 肉体へのダメージを鑑みても白兵戦でカミュが遅れをとる可能性は低い。しかしこのまま競り合いを続ければ、なによりもセーニャ自身の身体が危ない。
 多少痛い目に遭わせてでもセーニャを止めなければ──そう決意し何度目かもわからない一閃を弾き飛ばした瞬間、



『みんなお疲れ、色々と頑張ってるみたいだねぇ。これより第二回放送をはじめるよ』



 まずい。完全に頭から抜けていた。

 ただでさえ第一回放送を聞き流しているのだから同じ失態は犯せない。しかしセーニャが放送に無関心な以上そちらに気を取られてしまえば一瞬で血の生け花の完成だ。

「ナインズ! 手ぇ貸してくれ!」
「あ……、はい!!」

 救援を頼まれた9Sは一筋の矢の如くセーニャの持つ槍に剣戟を浴びせる。不意打ちということもあり、彼女の手に大きな痺れを抱かせた。
 願わくば武装解除まで狙っていたのだが贅沢は言えない。無視できないほどの隙は生じただけで成果としては十分だ。しかしカミュがセーニャを傷つけることを良しとしていない以上9Sは下手な追撃ができない。
 ゆえにここは三歩引く。カミュにセーニャを任せる代わりに自分は放送に意識を割かなければ。幸いカミュの実力があれば今のセーニャを組み伏せることは容易だろう。



 ──シルビア



 そんな9Sの計算は無機質な音と共に崩れ去った。



「は……っ、……?」

 放送の全てを頭に入れているわけではない。しかしここで名前を呼ばれるということがどういうことなのか、カミュは理解している。理解してしまった。
 およそ死ぬはずがないと考えていた存在が、ただの一言で死を告げられる。その事実は例え歴戦の戦士であろうと無視出来ない。

 一手。たった一手の遅れを生じさせる。
 けれどその一手は、あまりにも致命的だった。

728マリオネットの心 ──Intro ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 21:56:54 ID:s6Q57hA20

「あははは!! あは、あははは!!」
「ぐっ……!?」

 上昇した膂力から繰り出される最速の刺突がカミュを穿たんと迫る。回避など間に合うはずもなく必勝扇子で受けるが、本来盾の用途ではないそれはあっさりと弾き飛ばされた。
 無手となったカミュに抵抗手段はない。9Sが助けに入ろうと疾駆する姿が横目に映るが、今はセーニャのターンだ。
 振り翳された漆色の凶器がカミュの頭をかち割らんと迫る。避ける術がないと悟ったカミュは無駄だと知りながらも両腕を交差させて攻撃に備えた。



 ──ベロニカ。



 ピタリ、と。死神の鎌が止まる。
 心などとうに壊れているはずなのに。シルビアの名が呼ばれても動揺の欠片すら見せないほどに冷えきっていたのに。
 セーニャの顔からは笑みが消えていた。

「セーニャ、お前」

 ベロニカが死んだ。
 突き付けられた事実がカミュを深い悲しみに陥れるよりも先に。心を無くしたはずの操り人形は理解してしまった。

「泣いてんのか」

 十二時間ずっと偽り続けていた笑顔という仮面は崩壊し、ジェノバ細胞、Gウイルス、黒の倨傲がもたらした譫妄によりとうに飲み込まれたはずの自我が顔をだす。

 運命に踊らされ、弄ばれ続けた少女はこの時初めて────姉の死に涙を流す、本来の年相応な少女の顔を見せた。

「おね、え……さま…………っ」
「…………セーニャ、」

 言いたいことは沢山ある。
 聞きたいことはそれよりもある。

 けれど今は、泣かせてやろう。彼女が凶行に走らなければならなかった理由はその後に聞けばいい。
 まだ放送は続いている。顔を手で覆い崩れ落ちるセーニャにもはや危険性はないと判断したカミュは背を向け、気怠げな男の声に耳を澄ませながら必勝扇子を拾い上げた。

「……?」

 その時、ふと9Sの姿が目に映った。
 ゴーグルが外れたせいで西洋人形じみた端麗な顔立ちが目立つ。けれどその伏せられた瞳は、彼を知って間もないカミュにも違和感を抱かせた。



 見覚えがある。
 そう、それはまるでさっきまでのセーニャのような────
 





「思い、出した…………」





 え? というカミュの疑問の声よりも早く、9Sは頭を抱える。
 頭痛が、割れるほどの頭痛がする。それの原因は波のように押し寄せるモノクロ色の記憶。今までずっと求めていた空っぽの箱の中身。
 カラン、と虚しい音を立てて勇者の剣が落ちた。彼を気遣って伸ばされたカミュの手は他ならぬ機械人形(アンドロイド)に拒まれる。
 少年の姿をした人形の耳には、さきほど告げられた名前が木霊していた。

729マリオネットの心 ──Intro ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 21:57:33 ID:s6Q57hA20




 ──ヨルハ二号B型




「────ああぁぁぁぁああああぁぁッッ!!!!」



 咆哮。
 髪を掻き毟る両手はすぐに力なく垂れ、力の入らない両腕を独楽のようにぶんぶんと振り回す。それはまるで駄々をこねる子供のようで、理解の追いつかないカミュは数瞬呆気にとられ──余計な思考を振り払い9Sの両肩を掴みかかった。

「おいしっかりしろナインズ!! どうしたんだよ!?」
「あ゛ぁ゛ぁ゛……ッ!! 2Bっ!! 僕は、……僕は…………っ! いったい、……何を、していたんだッ!?」
「2B? もしかして、さっきの放送で……」

 なんとなく察しはついていた。
 セーニャがそうであったように、知り合いの名前を呼ばれて冷静でいられる者はそういない。カミュがこうして落ち着いていられるのも、自分以上に取り乱している存在が目の前にいたから相対的にそうならざるを得なかっただけだ。
 けれど、見た目以上に落ち着いた印象を受けていた9Sがここまで取り乱すとは予想出来なかった。カミュは自分の思い至らなさに歯噛みする。
 こうして自分が取り押さえてなければ敵味方関係なく傷つけかねない勢いだ。それほどまでに突然突きつけられる死という現実は大きい。

(いや──ナインズだけじゃねぇ! ハンターのおっさんや美希は!?)

 カミュの悪い予感は当たった。
 入口側の扉が残響を立てて開く。視線を向けるとそこにはハンターに縋り泣く美希の姿があった。
 かける言葉の見当たらないハンターはただ黙って彼女の背を摩り、ちらりとカミュと視線をぶつける。次いで咽び泣くセーニャ、地を殴りつけ暴れる9Sの姿を一瞥して重い唇を開いた。

「カミュ殿、これは……」
「…………ああ」

 三者三様、しかし思いは一つ。
 悲しみを抱えた人形(マリオネット)を前に、男達は険しく眉間を寄せることしか出来なかった。

「うそっ、うそなの……雪歩、貴音……っ」
「おねえ、さま……おねえさま、おねえさま……っ!! もう、置いて、いかないで…………」
「2Bッ!! ああぁ……ッ! ごめん、ごめんなさい……!!」



 命とは。

 命とは、こんな風に奪われていいものなのか?

 カミュもハンターも性善説を信じているわけではない。けれどその問いには断じて否と言える。
 生命を尊重する狩人であるとか、一度妹を失った過去があるからだとか、そんな経歴は関係ない。彼らの心根に宿る正義感は、目を背けたくなるような悲劇を前に震怒となって燃え上がった。



「────てめぇだけは許さねぇ、ウルノーガァ!!!!」



 カミュの宣言が美術館に響く。
 後にそれを彩るのは少年少女の灰色の悲嘆だけだった。



◾︎

730マリオネットの心 ──Intro ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 21:58:30 ID:s6Q57hA20



 本当はわかっていた。
 自分が矛盾しているなんて、最初からわかっていた。

 怨敵であるウルノーガが願いを叶えてくれるなんて、そんなもの甘言に過ぎないなんて……少し考えれば当然のことだ。
 もしもこれが自分ではなくイレブンやカミュだったら間違いを犯さずに済んだだろう。事実、カミュは仲間と共に打倒ウルノーガを志していた。


 少し違えば自分もそこにいたのだろうか。
 いいや、そんな事を思うのは許されない。だってその道を選んだのは自分なのだから。

 
 自分が人殺しの道を選んだ理由はなんだ?


 この槍が呪われていたから?
 セフィロスにジェノバ細胞を埋め込まれたから?
 ウィリアムにGウイルスを植え付けられたから?


 いいや、それらは後付けに過ぎない。覚悟に似た殺意を後押しさせただけだ。


 ならば、本当の理由は。
 ウルノーガの言うことが嘘だと理解していた上で殺し合いに乗った理由は。
 ただひとつ──ほんの僅かでも〝姉〟に出会える可能性があったから。二度と出会うことの許されない家族に会いたかったからだ。
 

 
(けれど、もう…………本当に、出会えないのですね…………)



 もしも名簿が最初に配られていたのならセーニャもまた違う道を選んでいただろう。本来ならば黒の倨傲の破壊欲に囚われていたとしてもベロニカの名前を見れば我に返ったはずなのだ。
 けれど、レオンの命を奪ったことでそれもできなかった。
 レオンを殺した自分が今更殺し合いを否定するなんて許されない。そんなことをしたらレオンの死が無駄になる。元来心優しいセーニャだからこそそんな風に死生観が歪んでしまったのだ。

 戻れた場面はいくつもあったのに。
 何度も何度も拒み続けて、気がついたらもう取り返しのつかないところまで来てしまっていた。

 もう戻れない。戻ることなんて許されない。
 心身共にカミュたちの知る〝セーニャ〟ではなくなってしまったのだから。こうしている今だってふつふつと破壊衝動に駆られている。忌々しき細胞とウイルスがカミュたちを殺せと叫んでいる。

 ああ、もうダメだ。
 少しでも自我がある内に、離れないと。
 この場所にいては勘違いしてしまう。自分も光に戻れるのでは、なんて──そんなこと、あるはずがないのに。



 カミュたちがなにかを言っている。
 とりあえず落ち着けだとか、大丈夫だとか、前向きな言葉。どうやら今は自分に向けられているわけではないようだ。
 優しい彼らのことだ、自分を気遣うのも時間の問題だろう。今のうちにここを去らなければ。

 ふらりと踵を返す。
 瞬間、その足は止められることになった。

731マリオネットの心 ──Intro ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 21:59:06 ID:s6Q57hA20


「…………ぁ、……か、…………ひゅ」


 汗が噴き出す。
 血の流れが速まる。
 潤いを求める喉からは枯れた息が漏れる。
 本能が、細胞が、けたたましく警鐘を鳴らす。

 どうやらそれは自分だけではないらしい。
 後ろで上がっていた嗚咽や恐慌がぴたりと止んでいる。まるでその瞬間だけ時が止まっているようだった。




「嘆くことはない」




 詩人の如く美しく、耳触りの良い声色。
 けれどそれは獣の唸りよりも恐怖を煽り、怪物の叫喚よりも重圧を乗せる。
 艶やかな銀の長髪を靡かせて、無駄を削ぎ落とした華奢な肉体はある種の神々しさを持つ。対してその細腕に似つかわしくない巨大な鉄剣を携える様は不相応であるはずなのに、〝それ〟から発せられる膨大な覇気が違和感を持つことを許さない。
 


「お前たちの苦しみは、私が受け持とう」



 逆光を背に受ける〝それ〟を一言で表すならば〝神〟という表現が一番しっくりくる。
 しかし決して崇め奉られる存在ではない。森羅万象総てを灼き尽くす破壊神。
 その神の名を、セーニャはよく知っている。



「────セフィ、ロス…………!!」



 絶対的な力の君臨は、絶望さえも霞んで見えた。




◾︎

732マリオネットの心 ──Verse ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 21:59:53 ID:s6Q57hA20


 一歩、また一歩と死が近付く。
 緩慢な足取りであるにも関わらず、まるで逃げられる気がしない。友人や仲間の死に嘆く暇などあるはずがなく、感情の波に囚われていた者たちは例外なく眼前の神に目線を奪われる。
 直接まみえたことのあるカミュは言わずもがな、それが先ほど議題に上がっていた〝銀髪の男〟だというのは全員が本能で理解した。

 9S、ハンター、セーニャ、カミュ。
 彼らはこの会場の中でも実力者の類だ。下手な相手ならば遅れを取ることなど有り得ない。全員が戦闘経験がある中で生き残っているのだから今更それを説く必要もないだろう。

 その彼らが、動けない。
 蛇に睨まれた蛙とはよく言ったものだ。食物連鎖の上の上、頂点に座する者。それを前にして動ける道理など存在しない。






「────なるほどな、そういうことかよ」



 ただ一人の例外を除いて。



「セーニャ、お前がこうなっちまったのは……あいつのせいなんだな?」

 青年、カミュの声色には安堵が含まれていた。

 絶対的な威圧感?
 本能的な死への恐怖?
 そんなもの関係ない。

 荒れ狂う暴風のようなプレッシャーの中を歩むカミュは、まるでセーニャを庇うかのように彼女の前へと勇み出た。

「え……、…………カミュ、さま?」

 セーニャが狂気に走った原因がセフィロスにある、というのは彼女の酷く怯えた様子を見てわかった。
 仲間が自ら殺し合いに乗るような人間じゃないとわかったのだ、喜ばないわけがない。
 これで心置き無くセーニャを信頼できる。疑心という暗雲の立ち込めた心には澄み切った青空が広がっていた。



 ならば、やることは一つ。



「安心しろよセーニャ。俺があいつをぶっ倒してやるからよ」



 ──だからさ、もうそんな顔すんなよ。

 カミュの顔には笑みが浮かんでいた。こんな状況を忘れさせる彼らしいニヒルなそれに、僅かに……ほんの僅かにセーニャの心が救われる。
 けれど、だからこそ止めなければ。今ここで彼を止めなければ見殺しにするのとなんら変わらない。
 まって、という言葉はしかしいくら力を込めても絞り出せない。伸ばした手は彼の背中を掴めず、無謀な疾走を許した。



「────うおおぉぉぉぉぉぉらぁぁッ!!」



 勝てぬ相手に挑む姿を嘲笑う者など、ここにはいない。
 否、むしろその勇姿にハンターは我に返った。いまだ立ち竦む9Sへ、そしてセーニャへ──なによりも自分自身へと奮起の声を荒げる。

733マリオネットの心 ──Verse ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:00:46 ID:s6Q57hA20

「カミュ殿に続けッ!!」

 言葉で答えるよりも早く9Sは行動で応える。記憶が取り戻された今落ち着いて指示を聞けるような状態ではない彼が走り出せた理由は──彼自身にもわからない。
 セフィロスと対照的な〝彼女(ミキ)〟の金髪が風に揺れるのを横目に、勇者の剣を振り翳した。
 出遅れながらもセーニャも顔を上げる。しかし埋め込まれたジェノバ細胞が目の前の神に逆らうことを許さんと暴れ狂い、身体の震えとなって彼女へ襲いかかった。
 
(ダメ……、……攻撃、できない…………っ!)

 ──動けない。

 動悸が乱れる。
 視界が霞む。
 四肢が震える。
 
 いまだ自我を持たぬ人形は、三人の戦士の背中を見送ることしかできなかった。


(っ……私、は…………どうして、こんなに弱いの…………)


 心中の問いに答える者はいない。
 糸の切れたマリオネットの声は、空っぽな箱の中に虚しく響き渡った。


◾︎


「おおおォォォォッ!!」
「っ、はああぁぁぁ────ッ!!」


 必勝扇子の投擲。カミュの放った深紅のブーメランは残光を描き常軌を逸した加速をもってセフィロスの首元へ迫る。
 次いで右側へ滑り忍ぶハンターの横薙ぎの居合が、跳躍した9Sによる白銀帯びる唐竹が炸裂。どれもが必殺の一撃。常人であれば反応も叶わず即死に至るだろう。
 





 「素晴らしい、だが────」






 甲高い金属音が、同時三つ共鳴する。

 カミュの扇子を背から生える触手で弾き、
 ハンターの居合を右手の巨剣で受け止め、
 9Sの鋭撃を歪に変形させた左腕で防ぐ。

 人でも異形でもない究極の生物は、あろうことか猛者たちの同時攻撃を〝一歩も動かずに〟凌いだ。
 あっさりと希望が打ち砕かれる音に耳を貸さず三人は追撃を加える。目にも止まらぬ速度で迫る三本の刃は今度こそ神を穿たんとして──





「────伴わないな」





 
 失敗に終わった。

 その原因は単純にして明白。
 三人の身体がボロ屑のように宙を舞っていたから。

734マリオネットの心 ──Verse ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:01:29 ID:s6Q57hA20


「……………………え?」


 何が起こったのか、地を失い床へ叩きつけられる当人たちは理解できない。その瞬間を視認出来なかった美希も例外ではなく、唯一それを目撃できたセーニャも易々と現実を受け入れられなかった。

「え、…………あれ……? いま、なにが……おきたの?」

 狼狽える美希に反してセーニャは無言だった。いや、ただしく言えば言葉にならない。なまじ鍛えられた動体視力はその光景が見えた。見えてしまった。
 セフィロスの背に生える触手が肉の腕となり、まるで虫でも相手取るかのようにカミュ達を薙ぎ払う光景を。

「なん、で」

 背の右側を彩る黒翼と対を成すように、左側を覆うグロテスクなそれは外見に反してやけにしっくりくる。いやむしろ、片翼であった彼を完成系に至らせた姿とすれば納得がいく。
 自分が最後に出会った時はあんな能力は持ち合わせていなかったはずだ。
 いや、それだけじゃない。よく見れば胸部の傷が再生している。まさか──と、セーニャは最悪な予感を抱いた。

「まさか、あの怪物の力を…………!?」
「ああ、喰ったよ」
 
 あれはイイものだった、と。どこか恍惚と語るセフィロスにセーニャは睥睨を返す。
 同じだ。今この男は自分と同じ状態なのだ。けれどそれと思わせないほど目の前の男は〝完成〟している。セフィロスが成功作だとすれば自分は失敗作なのだろう。
 絶対的な上位互換。敵うところなどひとつもないと突き付けられた失敗作(まがいもの)は全てを投げ捨てるかのようにカランと槍を落とした。

「殺しなさい」
「ほう」
「私はどのみち生きてはいけない存在……なら、死ぬべき時は今なのでしょう」

 セーニャの言葉に偽りはない。
 今はまだ抑えられているが、いつまた殺意という矛先がカミュ達へ向くかわからない。ならばいっそここで命を手放した方がいい。彼らにとっても、自分にとっても。

 それに──もう、お姉様はいないのだから。

「ならば望み通り、お前を苦しみから解放してやろう。クラウドの居ない今、もはや傀儡も必要ない」

 振り上げられた巨剣が鈍く煌めく。
 死ぬのは怖い。けれど、それ以上にようやく解放されるというあまりにも場違いで、あまりにも筋違いな感情がセーニャを支配した。

(イレブンさま、カミュさま、不出来な妹でごめんなさい。お姉様、シルビアさま、グレイグさま──今そちらに行きます)

 重力と加速を乗せた巨剣が隕鉄のように降り注ぐ。
 無防備に突き出されたセーニャの頭は豆腐のようにぐちゃりと崩れ────ない。

 ならばこの肉を削ぐ音の正体はなんなのか。そんな疑問はセーニャが顔を上げてすぐに晴れることとなる。
 今まさにバスターソードを振り下ろさんとしていたセフィロスの靱やかな右腕。その前腕の一箇所が鎌鼬でも過ぎ去ったかのように深く抉られていた。

735マリオネットの心 ──Verse ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:02:21 ID:s6Q57hA20


「まち、やがれ…………」


 瓦礫を押し退けてよろよろと立ち上がる青髪の男、カミュ。
 肉の鞭を咄嗟に右腕で防御したのだろう。だらりと力なく垂れ下がるそれを興が削がれたとでも言いたげに見やるセフィロス。
 カミュのものとは対照的に堕天使の腕は肉の蠢きと共に再生が始まっていた。

「カミュ、さま……」
「セーニャ、おまえ…………なんで、死のうと……してんだ……!」

 相当なダメージを受けたはずなのに。立ち上がるのだって辛いはずなのに。絶望を跳ね返すほど燃え上がるカミュの瞳にセーニャは射抜かれる。
 まだ彼は諦めていない。生きることを、そして生かすことを。

「シルビアも、ベロニカも…………お前が死ぬのなんて、望んでねぇ……っ! 俺だって同じだぜ、セーニャぁッ!!」

 紅蓮の扇を左手に持ち、再びセフィロスの元へ駆ける。音を切り裂き迫る肉の翼を地を滑ってやり過ごし、返しの刃を放った。
 骨まで達することを期待したそれは右脇を浅く切り裂くだけに留まる。触手が戻るまでまだ数瞬猶予がある、が──セフィロスの攻撃手段はそれだけではない。

 槌のような異形の左腕、大剣を握る右腕。数多に用意された選択肢の中で振り下ろされたのは後者だった。
 体勢を考慮しても完全に避けるのは難しい。使い物にならなくなった右腕を犠牲にする覚悟で左へ身を捩る。

「────ぬおおォォッ!!」
 
 狩人の咆哮、全体重を乗せた踏み込みと共に放たれる流麗な気刃斬り。神の持つ大剣の側面へ衝突したそれは空気を振動させるほどの金属音を鳴らし、僅かに軌道を変えることに成功した。
 風切り音と呼ぶにもおぞましいものがカミュの鼓膜を揺らして巨大な影が右腕の数センチ横を過ぎる。大理石の床は容易く粉砕され等身大のクレーターを作り出し、生じた衝撃波がカミュの体を無理やり起き上がらせた。

 ハンターの助けがほんの少しでも遅れていたら今頃右腕と身体が泣き別れになっていただろう。しかし悠長に感謝を述べる時間はない。剣のリーチから逃れる為に数歩距離を取り、主の元へ戻ってきた扇を握り直した。
 一方のハンターは腕の痺れを無視し、攻撃直後により無防備になった右脇へと逆袈裟を振るう。それに合わせてカミュも左側頭部へと赤刃を放った。


「鬱陶しいな」


 しかし、二人に返ってきたのは肉を断つ手応えとは違う衝撃だった。

 地に突き刺さるバスターソードを軸に逆立ちの要領で身体を起こす。
 回避不能の双刃は大剣に線を刻むだけに終わり、躱された──と、気付いた時には既に両雄の身体は弾丸の如く吹き飛び、倒壊した瓦礫の中へと消え去った。
 空中で姿勢を変えながら放たれた足刀がハンターを、先端を槍のように変貌させた触手がカミュを撃ち抜いたのだと、それを完全に視認できた者はいない。

736マリオネットの心 ──Verse ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:02:57 ID:s6Q57hA20

「楽しみを邪魔する悪い子には相応の仕置きが必要だと……そう思わないか? セーニャ」
「……っ!! セフィ、ロス…………!!」

 いよいよもって邪魔者はいなくなった。

 それはセーニャにとって詰みを意味する。本来死を望んでいたにも関わらずそのような表現をするのは矛盾しているが、本人はそこまで頭が回らなかった。
 自分を守ってくれた彼らへ報いたい。そんな元来彼女が持つ精神のままに魔力を宿らせた右手を憎々しい神へ向ける。

「できるのか? おまえに」
「…………っ、……」


 ────詠唱が、できない。

 こんなにも殺意と憎悪が溢れてやまないのに、いざ攻撃呪文を放とうとするとこれだ。
 言葉を忘れているわけじゃない。喉の奥で詰まって声にならないのだ。まるで魔封じ(マホトーン)をかけられているような感覚に似ている。
 セーニャの心と剥離された肉体が目の前の主へ逆らうことを徹底的に許容しない。悔恨の念を抱きながらも壊れた聖女は懸命に魔力を手に籠らせ続ける。

「……フフッ、さっきの言葉は取り消そう。おまえを殺すのは後にする。……それよりも、いい事を思いついたんだ」
「なに──?」
 
 疑問の声に耳を貸さず、セフィロスはふわりと軽やかな足取りで踏み込む。
 彼の靴底が地を蹴る瞬間、吹き荒れる突風に乗り数枚の黒い羽根が空を舞う。と、セーニャの眼前からセフィロスの姿が掻き消えていた。

「────え」

 セーニャの左後方、戦場から最も離れた場所にいた美希が間の抜けた声を上げる。
 釣られて振り向くセーニャの目には、呆然と立ち尽くす少女の前に佇む神の姿が映った。

「代わりに聴くといい。おまえの無力が奏でる、絶望の唄を」

 セフィロスの冷徹な視線の先、美希は未だ現実を理解出来ていない。
 これまでのカミュたちの応酬を言葉に起こすとまるで長い時間が経っているように感じるかもしれない。が、それはあくまで戦い慣れた戦士たちからした話だ。
 常人では反応も、目で追うことすら許さない攻防。その常人の枠を出ない美希からすれば、セフィロスの君臨からいまこの瞬間までの時間はほんの数秒に感じたはずだ。
 それを全て使っても尚、我に返ることすらできない。



 そんな美希が、


 カミュたちでさえ赤子扱いする神を前に、何が出来る?

737マリオネットの心 ──Verse ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:03:42 ID:s6Q57hA20




「待────」


 セーニャの制止が最後まで紡がれることはない。
 彼女の声が届くよりも先にセフィロスの回し蹴りが美希の脇腹を捉える。

 ──ごぷ、と。泡が破裂するような音に遅れて血と少量の吐瀉物が混じった液体を撒き散らしながら〝それ〟は宙を舞い、着地先のソファを残骸へと変えた。

「………………あ、」

 誰が見ても生存は絶望的だった。
 救えたかもしれない。自分が魔法を使えれば防げたかもしれない。

 なぜそれをしなかった?
 セフィロスが怖かったから? 
 助ける理由なんてなかったから?


「いい音色だろう? どんな気分だ、セーニャ」


 違う。できなかったからだ。
 絶望する。絶対的な力を持ったセフィロスへではなく、無力な自分へ。
 自分の命などくれてやるつもりだったのに、そんな覚悟を侮辱するような神の所業。強く噛み締めた歯が音を鳴らし、滲む涙が追悔を物語る。それは人の道を外れたセーニャへの報いなのだろうか。






「美希ィィィィィ──────ッ!!!!」
 
 



 いいや、それは断じて神の所業などではない。
 罪なき少女をいたぶることが報いなどであってたまるか。



 崩れた絵画と瓦礫の群れの中から一陣の風が吹く。
 比喩ではなく文字通り火花を散らしながらセフィロスへと肉薄する機人──9Sは残像を描きながら剣戟の嵐を仇へと見舞う。その悉くは彼の左腕に弾かれ、防がれ、打ち落とされるが、捨て身の攻撃に後退はない。

738マリオネットの心 ──Verse ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:04:25 ID:s6Q57hA20

「う、わァ゛あ゛あア゛ァ゛あぁァ゛あア゛────ッ!!」
「…………ほう」

 以前よりも威力と速度の増したそれはセフィロスの左腕に幾つもの裂傷を刻んでいく。肥大化した筋肉に阻まれ骨まで断たれることはないが、彼の振るう聖剣は肉盾の再生、防御機能を上回っている。
 見れば9Sの持つ剣──マスターソードの輝きが増していた。それは彼の強い意志に呼応したものか、もしくはセフィロスという巨悪を討つためか。
 力任せに、ただ敵を殺めるために振るわれる絶技は駄々っ子のようでありながら一つ一つが速く、重く、鋭い。片腕という条件はあるがセフィロスと単騎で打ち合えている事実は驚愕に値する。

「──セーニャぁッ!!」

 僅かに稼がれた時間をフルに使い、立ち上がったカミュが声を荒らげ反射的にセーニャが肩を竦ませる。

「美希を……美希を、治療してやってくれ!!」
「ぁ、…………!」

 カミュだって今すぐにでも治療が必要だ。肩が外れたせいで動かない右腕が目立つがそれ以上に身体中に浮かぶ内出血の跡が痛々しい。おまけに先の刺突によって決して浅くはない刺傷が胸に刻まれている。
 当然ダメージが大きいのは今まさに9Sの加勢に向かっているハンターも同様だ。なのに彼らは絶望的な戦力差を前にしても億さずに戦いに赴いている。
 そんな彼らの心情は今の自分からすればひどく現実離れしていて、実力とは異なる強さをむざむざと見せつけられたセーニャは力なく頷くことしか出来なかった。

「頼んだぜ、セーニャ」

 それだけを言い残してカミュは背を向ける。
 満身創痍と思わせない俊敏な動きで戦闘に参加する彼から苦々しく目を逸らし、綿が飛び出たソファの残骸へと駆け寄る。



 その中心に、星井美希がいた。



 アイドルに相応しい天然の美貌は面影もない。酷く乱れた金髪は血で変色し、健康的だった肌は急速に白みを帯びている。
 折れた肋骨が肺に刺さっているのだろう。酸素を吸って二酸化炭素を吐くという単純な生命活動にも支障が出ており、時折かひゅっ、という空気の漏れる音が聞こえる。
 身体は──動いている。ピクピクと痙攣する手足を見て動いていると言っていいのかは果たして疑問だが。


 治療をしろとは言われたが、手遅れに近い。
 道具もなく医術の心得もない人間から見れば一目で助からないとわかる容態だ。回復魔法に大きく制限が掛けられている以上、匙を投げるのが当然と言える。
 というよりも、諦念とは別のものがセーニャの頭を支配していた。


(────壊さな、くちゃ)


 よりにもよって、このタイミングで。

 今この瞬間、星井美希という瀕死の少女を前にして。

 怒涛の如く押し寄せる破壊衝動がセーニャの脳を埋めつくした。




◾︎

739マリオネットの心 ──Pre-Chorus ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:05:28 ID:s6Q57hA20



 僕は、なにをしているんだ?


 2Bが、しんだ。
 いいや、違う。2Bは最初からしんでいた。
 僕がころしたんだ。
 いや、殺したのはA2だ。

 でも、A2は僕が◾︎した。
 なのにこの世◾︎では生◾︎ていた。
 
 ちがう。

 それはA2だけじゃない。
 僕も◾︎んでいたはずだ。
 そして、2◾︎も。

 けど、◾︎きていた。
 記憶データだけ◾︎されたのか?
 僕が◾︎憶を失って◾︎たんだから、◾︎◾︎もそうだったの◾︎もしれな◾︎。

 なら、ここに◾︎た2◾︎は偽◾︎?
 で◾︎、僕◾︎本◾︎じゃない◾︎。
 願◾︎を叶◾︎るっていう◾︎は、本◾︎なのか?



 こんな◾︎してる◾︎合じゃ◾︎い。
 


 殺◾︎なければ。


 生き◾︎って、願◾︎を◾︎えるんだ。
 そし◾︎、2◾︎を生き◾︎らせなくちゃ。
 ◾︎Bは僕だけの◾︎なんだから。



 壊◾︎。
 ◾︎す。
 
 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す壊す壊す壊す殺す殺す壊す壊す殺す殺す壊す壊す殺す壊す殺す殺す殺す壊す壊す壊す壊す殺す壊す殺す殺す壊す殺す壊す殺す壊す◾︎す◾︎す◾︎す◾︎◾︎殺◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎ああああああああああああああ














 ──────ナインズくんっ!







 ちがう。
 ちがうだろ、9S(ナインズ)。
 おまえには、やるべきことがあるだろ。

740マリオネットの心 ──Pre-Chorus ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:06:09 ID:s6Q57hA20



 なんでこんな当たり前のことを忘れていたんだ。
 記憶を取り戻して、2Bが居ないことを思い出して、全てを失ったつもりでいた。用意された血濡れた道を歩まなければ自分の存在意義が、2Bの痕跡が無くなってしまうと思っていた。



 けれど、ちがう。
 僕にはまだ、守らなければならない人がいる。文字通り、一度捨てたこの記憶(いのち)を懸けてでも護り抜かなきゃいけない存在がいるんだ。

 
 Q.それは、人類だから? 
 A.ちがう。


 Q.それは、2Bに似ているから?
 A.ちがう。


 Q.それは、約束をしたから?
 A.すこし、ちがう。


 Q.それは、〝星井美希〟だから?
 A.そうだ。



 美希は、僕に言った。
 ナインズくんを一人にしない、と。
 感情を読むことに長けているわけじゃないけど、その言葉が嘘じゃないことくらいはわかった。


 思えば美希はこの十二時間、ずっと一緒にいてくれた。
 歌を歌ってくれたり、彼女の世界について教えてくれたり──他愛のない会話一つ一つが、僕にとってはすごく新鮮で、嬉しくて。
 一緒に記憶を取り戻す、なんていうのは建前で……ただ彼女と同じ時間を過ごしたかったのかもしれない。
 

 死なせない。
 絶対に、死なせてたまるか。


 美希はまだ生きている。生命反応は途絶えていない。
 なら、お前にできることはなんだ。
 こいつを──セフィロスを倒すことだろう。


 美希、ありがとう。
 あなたに出会えていなかったら、僕はきっと破滅を迎えていた。
 僕を一人にしないと言ってくれたあなたを、嘘つきになんかさせない。
 

 

 改めて、誓おう。
 



 ──僕は、貴方を護ります。それがナインズ(ぼく)の生きる証だから──







◆   ◆   ◆

741マリオネットの心 ──Pre-Chorus ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:06:57 ID:s6Q57hA20






 セーニャの手は星井美希の顔に向けられている。
 魔法の心得がある者が見れば気が付くだろう。その手に宿る魔力は回復呪文を行う者のそれではない。明確な殺意を伴っている。

(そうですわ……この子を殺して、カミュさまたちを殺して……お姉様を生き返らせなくちゃ。そして、お姉様をもう一度私の手で壊すの)

 可哀想だけれどしかたがない。
 だって、壊さなくちゃいけないんだから。
 それが今の自分の生きる意味。なにかを壊すことでしか快楽を得られず、殺戮に身を委ねている時間は恐怖を忘れられるから。

「うふ、うふふふ。あははははは……っ!!」

 星井美希を殺すのなんて簡単だ。
 たった一発、最下級呪文(メラ)を撃つだけでこのか細い命の灯火は消え失せる。
 満たされるのだ。ジェノバ細胞とGウイルスが与える地獄の苦痛から逃れられる。代わりに与えられるのは形容しがたい至福と達成感。
 それと比べればこんな無力な少女一人の命など、無価値に等しい。今ここで潰えたところでなんら影響ない。



「あはははははっ!! あはは、あははは……!!」



 壊せ、セーニャ。
 本能の赴くままに。

 殺せ、セーニャ。
 人形として役目を果たせ。
 


 殺せ。殺せ殺せ壊せ。
 


 哀れなマリオネットは踊る。
 手に込めた魔力を凝縮させ、その呪文を唱えた。

742マリオネットの心 ──Pre-Chorus ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:07:29 ID:s6Q57hA20


 
 


「────ベホ、マ…………ッ!」





 優しい光が星井美希の身体を包み込む。
 柔肌に痛々しく刻まれた外傷が塞がり、幾らか呼吸が落ち着く。血色は未だ戻らないが触れかけるほど目前であった死からほんの少しだけ離れることができた。

 「──ベホマっ! ベホマ……っ!」

 制限下では本来手術を必要とするような重傷は治せない。ゆえに何度重ねがけしたところで命の危機という状況を脱することは不可能だ。
 けれど、それはイコール無駄ではない。医療において大切なことは生きようとする意志だ。
 星井美希が生きることを諦めていない以上、この治療によって彼女が助かる可能性はゼロではなくなったのだ。それが針の先ほどの極めて僅かな確率であっても。

「…………っ、……!」

 身体が悲鳴を上げる。
 破壊を求めて右腕ががくがくと大袈裟に暴れる。
 想像を絶する苦痛と渇望が一瞬の間も置かず襲いかかる。

「……ッ、……私は、…………っ!」

 苦しい、辛い、痛い、気持ち悪い。
 本能さえ乗っ取らんとする悪意の塊が心に染わたる。なるほどたしかに、数多の悲劇によって弱り擦り切れた心であれば容易く呑み込まれていただろう。


「────負けないッ!!」


 けれど、それはもしもの話だ。
 カミュの、ハンターの、9Sの、美希の諦めない姿を見てセーニャの精神は成長を遂げていた。無力な己への怒りと、彼らに応えなければという雄心が人形(マリオネット)を聖女へと昇華させた。
 

 これで罪が消えるだなんて思っていない。
 最初から許されたいとも思っていない。

 
 セーニャが今美希を助けているのは、自分自身の意思によるものだ。
 何者にも囚われず、命令されず、助けたいから助ける。カミュたちが当たり前のように行ってきたそれはセーニャにとって困難極まりないことだった。

743マリオネットの心 ──Pre-Chorus ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:08:00 ID:s6Q57hA20
 

「もう、私は…………間違えない……! なにがあろうと、絶対に…………ッ!!」


 その言葉の意味する重みは自分自身が一番よくわかっている。絶対なんてものは存在しないなんて承知の上だ。
 だからこそ、この宣言は戒めだ。もう二度と間違えない。心のない人形はついに見失っていた自分を探し当てた。
 殺戮を求め震える右腕を自由の利く左手で握る。ぎゅう、と。血が滲むまで強く、強く。


「私は、高潔なるベロニカお姉様の妹────〝聖賢〟セーニャですわ!!」


 右腕の震えはもうない。
 破壊衝動を抑え込んだ彼女は、ただ目の前の少女を治すために呪文を紡ぐ。懸命な治療の成果か、美希の右腕がずるりと動いた。

「……っ、……!」

 動かないで、と。言おうとした口はすぐに閉ざされる。力のない美希の右手は反射で無作為に動いているわけではなく、なにかを目指すように真っ直ぐと伸びていることに気がついたから。
 向かう先は美希自身の頭。御伽噺のお姫様を思わせるような銀色に光る髪飾り。金色のマテリアに装飾を施されたそれを髪から外し、天へ掲げてみせた。
 重傷の身でただそれだけのことをするのが如何に苦痛なのか、セーニャはよくわかる。掲げられた髪飾りごと美希の手をそっと両手で包み込んだ。
 
(……あなたも、戦っているのですね…………)

 触れてみて初めて髪飾りの魔力に気づく。
 瀕死の美希が託してくれたそれはただのアイドルをも一人の戦士に変えるほど強力な代物。緑色のヘアバンドの代わりに、鮮やかな銀色がブロンドの髪を彩る。
 彼女に渡ったことに安心したのか、美希は再び意識を失う。 聖賢の瞳には決して淀むことのない光が宿っていた。



◾︎

744マリオネットの心 ──Chorus ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:09:24 ID:s6Q57hA20



 剣閃が舞う。

 ある者は力強い横薙ぎを、ある者は疾風怒濤の袈裟懸けを、ある者は風をも切り裂く飛来刃を。
 見事と称えられるべきそれらも神を屠るには足りない。一つ目を左腕で軌道を逸らし、二つ目を大剣で捌き、三つ目は触手によってあらぬ方向へ弾かれる。
 数度届くことはあれど、届いたところでGウイルスが持つ再生能力の前では決定打にはならない。それどころか長期戦になるにつれて疲弊が色濃くなる一方だ。

「が……ッ!?」
「ぐ、おォ…………っ!」

 幅跳びの要領で放たれた9Sのジャンプ斬りに対し、地を抉りながら放たれるバスターソードの斬り上げが返される。咄嗟に聖剣の腹で受けるが無防備な空中であるがゆえに小柄な身体が投げ出された。
 手数が一つ減った瞬間を狙い今度は左腕の正拳がハンターへ襲いかかる。身を捻るのが精一杯で完全には躱し切れない。左肩を掠めた程度であるはずなのに狩人は錐揉み回転し床へと叩き付けられた。

「…………!」

 落下してきた9Sを狙い撃つように剣を引き、刺突を放つ────寸前、セフィロスの首裏に浅い切創が走り追撃は中断される。深紅の扇がカミュの元へ過ぎ行くのを目で追い、天使の名を持つ〝なにか〟は悪魔の如く不気味な笑みを見せた。

「バケ、モンが…………っ!」

 吐き捨てるカミュに二人も鈍重な動きで起き上がりながら心中で同意する。
 倒す算段がまるで浮かばない。9Sの覚醒により僅かに事態が好転したように見えたがセフィロスにとっては誤差に過ぎないのだという現実を突き付けられる。
 これを戦いと呼ぶ者がいたとしたらよほどの節穴だろう。狼が羊の群れを襲うような一方的な蹂躙だ。

「もう終わりにしよう。これ以上お前たちが苦しむ必要はない」

 セフィロスが狙いを定めたのは青髪の盗賊。
 唸りを上げて迫る肉の翼に遊びも手心もない。本能が訴える。避けねば死ぬ、と。
 しかしそれを避ける術はカミュにはない。ハンターたちの助けも間に合わないだろう。せめてもの抵抗でろくに動かない右腕を盾にしようとするが寿命が変わらないことは明白だった。

745マリオネットの心 ──Chorus ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:10:02 ID:s6Q57hA20




 


「────ピオリム、スクルト、バイキルト!」




 加速の乗せられた身体は、理解よりも早く死から逃れる。
 一瞬回避の間に合ったカミュの横を通り過ぎるそれは壁に突き刺さり、返るはずだった手応えを感じないことにセフィロスは眉を顰めた。

 いや、それだけではない。
 膨大な魔力から放たれた支援魔法の恩恵はそれを受けた本人たちの、そしてセフィロスの予想を越える効果を生み出す。
 現にセフィロスの腹部に気刃斬りによる一文字の傷跡が刻まれ、左肩には聖剣の一撃が食い進んでいた。



「ベホマラーっ!!」



 傷ついた戦士たちの身体を緑色の輝きが包む。痛みが引き、傷が塞がっていくのがわかる。
 諦めとは違う笑みを乗せたカミュは振り返らないまま、驚愕に染まるセフィロスの顔を見ながら喜色の声を渡らせた。

「ありがとよ、セーニャ!」
「…………はい!」

 力強く応えるセーニャの瞳がセフィロスのものとかち合う。忌々しげな視線を乗せたそれに気が付いた瞬間、鞭のようにしなる触手が彼女を肉塊に変えんと迫った。

「させるかあぁッ!!」

 しかしそれは9Sの聖剣に断たれる。
 本来であれば間に合うことなどおろか、反応することすらできないそれに対処出来ていることに能力上昇を実感する。
 鉤型に曲げた左腕の一撃により9Sの身体が吹き飛ぶが、スクルトによる防御力上昇が顕著となった。本来数秒飛ぶはずの意識が持ち堪えられている。

「はぁッ!!」
 
 追撃を許さんとばかりに振るわれる狩人の真向斬り。筋力倍増(バイキルト)を乗せたそれはバスターソードと衝突し──拮抗。無論それは数瞬。すぐに太刀が押され始めた。
 しかし少なくともこの瞬間は彼の右腕を抑え込めている。その隙を縫うようにカミュのブーメランがセフィロスの右脇腹を抉った。

「ぬ、おおおォォォォォ──ッ!!」

 ほんの僅かに崩れた体勢を歴戦のハンターは見逃さない。大剣の腹を滑らせた刃は火花を散らしながら軌道を変え、セフィロスの右胸から左脇にかけて一筋の深い傷を刻む。確かな手応えだ、膝をつかせてもおかしくはない。

746マリオネットの心 ──Chorus ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:10:44 ID:s6Q57hA20

 ──が、セフィロスは怯みすらしない。洗練された左拳の反撃がハンターの体を撃ち抜いた。

「か────!」

 吐血を散らして吹き飛ぶ狩人に目もくれず、返しのブーメランを大剣で叩き落とす。狼狽するカミュが距離を取るよりも先に肉薄を終えたセフィロスはカミュの身体を掴み、立ち上がろうとしていた9Sへ砲丸のように投げつけた。
 悲鳴を上げる二人へとセーニャが腕を伸ばす。底の見えてきたMPは無視だ。一瞬でも支援が遅れたら全てが終わる。


「──ベホマラー! スクルト!」


 本来の効力を発揮できない回復はセフィロスの一撃に比べれば心もとない。辛うじて身体を動かせる程度ではあるが、それが三人の生命線だ。
 戦闘開始から数えて五分程度だろうか。とてもそんな短い時間とは思えない死闘は確実に体力を奪っていく。
 セーニャが加わったことでたしかに戦況は変わった。しかしそれは決して優位になったわけではなく、あくまで〝蹂躙〟から〝劣勢〟になった程度の変化だ。

 誰かが一つ間違えれば即決壊する極限の綱渡り。加えて度重なる疲弊と消耗はその細い綱を無慈悲に揺らす。
 まるで終わりの見えない戦いは一瞬芽生えた希望をじわじわと潰していく。痛感は焦燥に変わり、セフィロスを除く四人の顔に冷たい汗が滴った。



 そして、その時は訪れる。



「あ……ッ!?」


 バリン、と。
 破滅を意味する音と共にマスターソードの刀身が消失した。

 瞬間、9Sへと振り向いたセフィロスの眼光が鋭く尾を引く。見惚れるほど美麗な顔だというのに、その冷徹な表情は間違いなく9Sの人生の中で最も恐怖を与えた。
 ぶおんッ──と、轟音を立ててバスターソードが迫る。首を刈り取らんとする刃先は、聖剣を失い狼狽する9Sに回避という甘えた選択肢を許さない。

「ジバリアッ!!」

 雄叫びに近いカミュの詠唱と共にセフィロスの足元が隆起した。
 なけなしのMPを使って放たれた最下級呪文は当然ダメージにならない。が、無理やり体勢を変えられたことでセフィロスの凶刃は9Sの白髪をはらりと落とすだけに留まる。
 安堵に現を抜かすほど馬鹿ではない。大幅に距離を取った9Sへ向かう触手をハンターが斬り落とす。間一髪間に合ったが、流れるように繰り出される左の拳に狩人は数メートル距離を取らされた。

747マリオネットの心 ──Chorus ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:11:22 ID:s6Q57hA20

「────イオラ!」

 攻撃直後の隙を狙い、セーニャの爆破呪文が空気を揺らす。爆発の対象はセフィロスではなく、更に上。美術館の天井。
 魔力切れを嫌って中級呪文に抑えたが建物への破壊力としては十分成果を発揮したようで、崩れ落ちる天井の残骸が瓦礫の雨となりセフィロスの身体を埋め尽くす。
 巻き起こる塵埃と崩落の跡が彼の姿を完全に消した。わずかな時間稼ぎに過ぎないが、それをありがたく思う者がいた。


「拙者が残ろう。貴殿らは先に行け」


 太刀を支えに起き上がるハンターの言葉は、みな心のどこかで抱いていた感情の代弁でもあった。
 ここでセフィロスを倒すのは不可能。誰かが残って足止めをしなければ全滅する、と。言葉にしないだけで誰もがそれを確信していたのだ。
 セーニャは自分こそ残るべきだと声を上げたかった。が、回復呪文の使い手が居なくなってしまったら美希を治療できない。歯痒い現実がセーニャの喉を詰まらせる。

「…………ハンターさん、ありがとうございます」

 聖剣を失ったことで戦力外を痛感した9Sは美希を背負う。床や壁、天井にまで幾度も甚大な被害を受けた美術館は間もなく崩壊する。おまけにセーニャのメラゾーマの残り火が今になって燃え移ったのか、カーテンを伝う火が壁を覆い始めた。
 迅速に脱出しなければ全員倒壊に巻き込まれるだろう。それだけは避けなくてはならない。

「おいおい、水臭ぇじゃねぇか」
「…………カミュ殿」

 よろり、と。力の入らない身体に鞭打つカミュがハンターの隣に並ぶ。痣の目立つ顔は逆境にしてなお強気な笑みを見せていた。
 
「付き合うぜ、旦那。一緒に地獄を乗りきった仲だろ?」

 カミュのそれは決して算段によるものではない。たしかに一人より二人の方が長く時間を稼げるであろうという狙いはあるが、それよりも彼の中にある義侠心がハンターだけを犠牲にすることが出来なかったのだ。
 それを受けた狩人はふ、と微笑む。やはりこの男は優しい。きっと同じ世界に生まれていれば互いを高め合う良き同志となっただろう。


 「────かたじけない」


 だからこそ、死なせてはならない。
 残夜の太刀の柄がカミュの脇腹に突き刺さる。予期せぬ衝撃にあっさりと意識を刈り取られたカミュは床へ伏した。

748マリオネットの心 ──Chorus ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:11:55 ID:s6Q57hA20

「え……っ!?」
「まったく、万全の状態であればこの程度の不意打ち躱せたであろうに。無茶をするな、カミュ殿」

 突然の行動に驚愕するセーニャ達をよそに、狩人の顔はひどく穏やかだった。死を目前にした者とは思えぬ温和な顔は元来の彼の性格を物語る。

「カミュ殿のポーチの中に氷の杖がある。それを使って入口から脱出し、イシの村へ向かってくれ」
「…………!」

 転じて、有無を言わさぬ彼の迫力にセーニャは息を呑む。迷う暇はない。カミュの体を背負い上げた彼女はハンターと逆方向に歩みだし、一度。たった一度だけ顔を向ける。

「必ず、セフィロスを討ちます……!」

 感謝でもなく、謝罪でもなく。
 今狩人が一番欲している言葉を、セーニャは告げる。それを受けた狩人は口角を釣り上げ、太刀を握り直す。
 セーニャに続いて9Sも、一瞬の逡巡の末に場を離れる。遠ざかる足音にひとまずの安堵を覚えるも、まだ彼の役目は終わっていない。




 ドォ──ン──ッ!
 


 盛大な音と共に爆ぜる瓦礫の山。
 不規則に散りばめられた残骸を踏み抜き、山の中心に降り立つセフィロスは不敵な笑みを宿らせていた。

「勇敢だな。しかし生憎と加減してやるつもりはないんだ」
「構わぬ。全力で来るがいい」

 その男は、かつて英雄と呼ばれた者。
 その男は、未だ英雄と呼ばれる者。


 駆ける双影が刃を振るう。
 周囲を囲む炎がゆらりと踊った。


 

◾︎

749マリオネットの心 ──Chorus ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:13:02 ID:s6Q57hA20




「はッ、はッ、は……ぁっ!」


 美術館の入口を覆う炎をフリーズロッドの氷でかき消し、無事四人は倒壊を始める美術館を脱出する。
 振り返りはしない。そんな暇があるのならば一秒でも早く、一歩でも多く離れなければならない。
 大きく揺れたことで二人の背負うカミュと美希が声を洩らす。気遣いたい気持ちはあるが安全を確保してからだ。


 彼の、英雄の意志を無駄にはしない。
 セフィロスを討つという誓いを現実にするために、生きなければ。
 背後で巻き起こる崩音を聞きながら、機人と聖女はイシの村を目指し突き進む。


 9Sとセーニャのほつれかけた糸は、幾人が紡いだ助けによって繋がった。
 星井美希、カミュ、ハンター。彼女たちが与えた影響はこの殺し合いの命運を変えるほど強く、確かな力を持っているだろう。
 



 道は、光へと伸びる────。


 

【B-4/一日目 日中】
【ヨルハ九号S型@NieR:Automata】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(中)、混乱(小)
[装備]:マスターソード(破壊)@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:美希を護る。その為に殺し合いを破壊する。
1.イシの村へ向かう。
2.美希……っ!!
3.セフィロスを倒す為に戦力を整えなければ。

※Dエンド後、「一緒に行くよ」を選んだ直後からの参戦です。
※ゴーグルは外れています。
※全ての記憶を思い出しました。

【星井美希@THE IDOLM@STER】
[状態]:肋骨骨折、折れた骨が肺に刺さっている、意識不明、9Sに背負われている
[装備]:
[道具]:基本支給品、モンスターボール(ムンナ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[思考・状況]
基本行動方針:自分にできることをする。
0.意識不明

【カミュ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:HP1/12、右肩脱臼、疲労(大)、MP0、気絶中
[装備]:必勝扇子@ペルソナ4
[道具]:基本支給品、カミュのランダム支給品(1〜2個、武器の類ではない) ウィリアム・バーキンの支給品(0〜2)(確認済み) 七宝の盾@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド
[思考・状況]
基本行動方針:仲間達と共にウルノーガをぶちのめす。
0.気絶中
1.仲間や武器を集め、戦力が整ったらセフィロスを倒す。
2.これ以上人は死なせない。

※邪神ニズゼルファ打倒後からの参戦です。
※二刀の心得、二刀の極意を習得しています。


【セーニャ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
状態]:HP1/8、疲労(中)、右腕に治療痕、全身に火傷、MP消費(大)
[装備]:フリーズロッド@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド、シルバーバレッタ@FINAL FANTASY Ⅶ、マテリア(いかずち)@FINAL FANTASY Ⅶ、星屑のケープ@クロノ・トリガー
[道具]:黒の倨傲@NieR:Automata、基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1個)、軟膏薬@ペルソナ4
[思考・状況]
基本行動方針:罪を償う。
1.ここを離れ、イシの村を目指す。
2.必ずセフィロスを倒す。自分の命に代えても。
3.私はもう、間違えない……!

※世界樹崩壊後、ベロニカから力を受け継いだ後からの参戦です。
※ザキ系の呪文はあくまで生命力を奪う程度に留まっており、連発されない限り即死には至りません。
※放送は気に留めておらず、名簿を見ていません。
※セーニャの体内のジェノバ細胞によって、セーニャの得た情報は、セフィロスにもインプットされます。
※ジェノバ細胞の力により、従来のセーニャより身体能力、治癒力が向上しています。外見は右腕の癒着痕を覗き、少なくとも現在は特に変化はありません。
※体内に胚を植え付けられてGウイルスに感染しました。
※現在はジェノバ細胞の力により適合できています。また、ジェノバ細胞との共存により外見に変化は見られませんが肉体ダメージによりGウイルスが暴走するかもしれません。

【ムシャーナ ♀】
[状態]:HP1/3、ねむり
[特性]:よちむ
[持ち物]:なし
[わざ]:サイケこうせん、ふういん、つきのひかり、さいみんじゅつ
[思考・状況]
基本行動方針:美希についていく。
※所有者は星井美希のままですが、モンスターボールをハッキング済みのため9Sがモンスターボールに情報を送ることで遠隔操作に近い指令ができます。
※レベル20になりました。






◆   ◆   ◆

750英雄の証 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:13:42 ID:s6Q57hA20



 出鱈目な質量を伴う大剣の一振りを左へ躱し、続く左腕での叩き付けを更に左へ転がりやり過ごす。
 床が抉れた衝撃に燃えた天井の一部が降る。両者の間に落ちるそれが地に着くよりも早く、ハンターの姿はセフィロスの視界から外れた。
 襲いかかる白刃を空気の揺れで感知したセフィロスの左腕がそれを受け止める。筋肉による固定化を嫌った狩人は即座に刀を引き、神の足の間を滑り込んだ。
 
 背中側へ移ったハンターには当然背中に生える肉の翼が襲来。当たれば即死、今の体力で受ければ守備力上昇(スクルト)の効果など容易に貫通するだろう。
 しかし、あくまで当たればの話だ。まるでそれを予期していたかのように狩人は体勢を立て直しながら地を転がり、立ち上がると同時に後方へ飛び退きながら斬り払う。
 浅い傷口にかかる再生時間はほぼゼロに等しい。が、セフィロスの顔からは驚きと興味の織り交ざった感情が見て取れた。

「よもやここまで出来るとはな。無駄のない、洗練された動──」
「はぁッ!!」

 華麗なる縦斬りにセフィロスの賞賛の声が阻まれる。半身引くことで躱すが、瞬きの時間も置かず心臓を狙う突きに見舞われた。しかしそれも最小限の動きで躱される。
 がら空きになったハンターの脇を狙いセフィロスの左腕が振るわれる。技術を全て捨てた代わりにあらゆるものを破壊する鎚と化したそれはしかし、〝事前に〟後方へ跳躍していたことで最悪の未来を免れる。
 それは決して苦し紛れの回避ではない。空気が変わるのをセフィロスは肌で感じ取った。
 


「────参るッ!!」



 輝きを帯びた太刀で孤月を描き、踏み込みと共に放たれる右袈裟、続く左袈裟、袈裟返し、横薙ぎ、縦斬り。
 素早さ上昇(ピオリム)を乗せたそれらは重いバスターソードでは対処が間に合わない。堅牢な筋肉で覆われた左腕で受けるが、初撃の時点でそれは食い破られる。
 続く二の太刀により深く刻まれた左腕に盾の機能はない。よってセフィロスは回避に専念し、一歩、また一方と後退してゆく。最後の縦斬りを身を捻って躱し、反撃を────と、画策するセフィロスは目を見張ることになった。
 


「はああぁぁぁぁぁぁ────ッ!!」



 足跡を刻むほど強い踏み込み、と共に放たれる回転斬り。セフィロスをもってしても速いと感じさせるそれは後退を遅らせ、彼の胸を深く、深く切り裂く。
 内蔵にまで達しているだろうか。バイキルトの効果を考慮してもかなりの威力だ。
 それもそのはず、これはハンターにとって切り札じみた狩技なのだから。
 

 ──錬気解放円月斬り。


 対象の肉質を無視し放たれる斬撃の嵐はそれだけでも脅威であるが、重要なのはその追加効果。最後の一撃を当てた際、練気と呼ばれる狩人に秘められた力をマックスまで引き上げる。
 練気は太刀に宿り、段階に応じて切れ味と攻撃力を増大させる。それが最大値に達した今、ハンターの攻撃はセフィロスにも届きうる。

751英雄の証 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:14:18 ID:s6Q57hA20


 が、しかし。



「見事な一撃だ、この力が無ければやられていたかもしれない」



 〝今の〟セフィロスには届かない。

 決死の覚悟を持って刻んだ裂傷は瞬く間に塞がれ、今しがた胸を穿った横一文字のそれも再生が始まっている。十秒もすれば完全に塞がるだろう。
 歯噛みするハンターはしかし再度太刀を構え直す。その刀身は燃え上がるように赤いオーラを纏い、周辺の空間を歪ませていた。



◾︎



 セフィロス同様疑問に思う者もいるだろう。
 なぜ四人がかりでも圧倒されていたハンターがここまで戦えているのか、と。
 セフィロスの強さを知る者であれば当然抱く。というより、抱かない方がおかしい矛盾だ。一個人が相手できる限界などとうに越えている相手なのだから。


 守るべきものがあるからだとか、火事場の馬鹿力だとか。突き詰めれば色々と理由があるのだろう。
 しかし、根本の理由はシンプルなものだ。



 それは、彼が〝モンスターハンター〟だからだ。


 セフィロスがGウイルスを取り込まず、一人の剣士として戦っていたのならばハンターはここまで持ち堪えることなど出来なかったであろう。
 今のセフィロスは殺戮に身を委ね、本能の赴くまま異形の力を振るう──そんな一匹の〝怪物(モンスター)〟に過ぎない。
 幾千のモンスターを、古龍をも相手取ってきた彼だからこそ戦えているのだ。他に適役などいるはずもない。



「はぁ──ッ!」
「…………」

 既にハンターが残って三分は経過している。
 変わらず刻まれる裂傷は塞がれていくが、被弾の頻度が増えてきたせいか均衡を嫌ったセフィロスは大きく距離を取った。

「ファイガ」

 異形の腕から放たれる火炎の塊。
 初見の魔法を前にハンターは一手遅れる。太刀を握る右腕が灼かれ、痛々しい悲鳴を上げた。
 しかし武器だけは手放さない。熱された刀身は練気も相まって根元から先端に至るまで紅蓮に染め上げられていた。

752英雄の証 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:14:50 ID:s6Q57hA20

「く、おおォォォォ──っ!!」

 もはやとどめは刺されたも同然。
 支援魔法の効力も消え、ファイガのダメージにより残り僅かであったハンターの体力はごっそりと減らされた。苦し紛れに放たれた刃もセフィロスには届かない。無理矢理抑え込んでいた限界の文字が溢れ出しハンターはとうとう膝をついた。

「よく戦った」

 それは、心からの言葉だった。
 多人数とはいえクラウド以外にもここまで戦える人間がいたとは。Gの力を取り入れてからは他の者など塵も同然と考えていたが、認識を改めなければならない。
 幸福感と満足感がセフィロスを満たす。これ以上の戦いは不毛だ。弱者を蹂躙する事務的な駆除ではなく、美しい決闘のままで終わらせたい。

「終わらせよう、名も知らぬ狩人よ」

 狩人の首元を狙うバスターソードに一切の慈悲も躊躇いもない。勇敢なる猛者の散り様は永劫セフィロスの記憶に残り続けるであろう。






◆   ◆   ◆

753英雄の証 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:15:16 ID:s6Q57hA20






 名前など、とうに捨てた。
 元々の名前を忘れたわけではない。
 ただ、狩りを続けるうちに名前で呼ばれることが少なくなっていったのだ。最初のうちは戸惑っていたが、すぐに受け入れた。


 ──ハンターさん!
 ──よっ、ハンター殿!
 ──ハンターさん、いつも村を守ってくれてありがとうね。


 
 この地でのハンターとは、どうやら名誉ある者にしか与えられぬ呼び名らしい。それに気がついたのはある商人との何気ない会話からだった。
 名声など特に気にしなかったため知らなかった。拙者はただ民を守り、自然の均衡を整えることに喜びを覚えていたからだ。

 しかし、それを知って。
 ほんの少しだけ、誇らしかった。

 それからだったかな、元の名に拘らなくなったのは。
 笑顔で拙者を呼ぶ者に応えて、そう、その時からは────





 〝英雄(ハンター)〟と名乗る事にした。
 






◆   ◆   ◆

754英雄の証 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:15:42 ID:s6Q57hA20






 誰が予想できようか。
 セフィロスの顔は今度こそ驚愕に染まる。
 それもそのはず。死刑執行を待つだけだったハンターが跳躍し、バスターソードの刀身を踏み台に天高く飛び上がったのだから。

 見上げた頃にはもう遅い。
 熱と練気を帯びた鋒が重力を乗せて降り注ぐ。

「────おおおおォォォッ!!」

 咄嗟に突き出された左腕。丸太のような筋肉の塊はしかし渾身の一刀を前にバターのように裂けてゆく。微塵も勢いが衰えないそれは神の左腕を通じて胸へ、胸から脇へと流れてゆく。
 あまりにも鮮やかすぎる一撃はコンマ数秒遅れてダメージをもたらす。
 斬られた、と。気が付いた瞬間に無数の斬撃が内蔵を灼いた。口から吐かれる血の飛沫がなによりそのダメージを物語っている。


 ────兜割り。


 ハンターの知らぬ、遠い遠い異国の地にて伝わる太刀の秘技。鍛え上げられた強靭な狩人でもクラッチクローや翔虫といった道具を使用しなければ実現出来ない技を、この男は生身でやってのけたのだ。
 大きく怯みを見せながらもセフィロスの大剣が仇討ちとばかりに振るわれる。無茶な体勢であった分ほんの僅かに回避が遅れ、ハンターの左手の指が飛んだ。激痛に見舞われるが、刀を握れるのであれば問題ない。


 と、両者の間に瓦礫が降る。
 まるで図ったかのように二人の身体は後方へ跳び、自然と距離を取る様はまるで西部のガンマンを思わせる。
 しかし、決闘と呼ぶにはあまりにも対等ではない。片や立っているのもやっとの死に体、片や平然と相手を見下ろす怪物。瀕死の身で放ったとは思えない攻撃に驚きはしたが、さほど問題ではない。
 例え手痛い一撃を加えても再生してしまえば意味がないのだ。兜割りを受けたセフィロスの身体は瞬く間に塞が────らない。

755英雄の証 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:16:15 ID:s6Q57hA20

「…………なに?」

 それは、セフィロス自身も把握していなかったGウイルスの弱点。
 天賜の観察眼を持ったハンターだからこそ見抜いたたった一つの突破口。
 灼けた傷口を指でなぞるセフィロスが狩人へ視線を投げる。と、狩人の不敵な笑みが映った。


「やはり、…………火属性に弱い、ようだな……」


 本来、Gウイルスに限らず細菌というのは高熱の中を生きられない。正しい歴史として無敵の再生力を持つG生物が電車の爆破で死亡したのもそれが理由だ。
 銃弾や斬撃で受けた傷は即座に再生するが、火炎放射器や電熱、爆発といったものでつけられた火傷はそうはいかない。じゅうじゅうと音を立てて緩慢に再生する傷口は普段よりずっと遅かった。

「…………フフ、ハハハハッ!」

 この男は、強い。
 クラウド以外を評価することなど滅多にないであろうセフィロスは、心の奥底からそう思う。だからこそ、究極の力を証明する初戦には最適の好敵手だ。
 
 狩人は刀を鞘に収める。
 戦いを放棄した、などという馬鹿な考えは一切浮かばない。腰を深く落とし居合いの構えを見せる男の覇気たるや、彼を見てその命が風前の灯火にあるなど誰も思わないだろう。
 美術館の崩壊まで十秒もない。ハンターはもうその場から動く体力も残っておらず、セフィロスがわざわざ付き合わなくとも彼の死は確定しているはずだ。



 しかし、
 



「────いいだろう」



 
 受けなくてはならない。

 この男の挑戦から、逃げてはならない。

 それは怪物の異能に呑まれる中でかすかに残った〝元英雄〟としての誇りか。暴虐を尽くすのには不要と切り捨てたそれを、目の前の〝英雄〟に呼び起こされたのかもしれない。
 


 バスターソードを水平に構え、駆ける。
 ハンターの元へ到達するのに一秒もかからない。両者の刃は同時に放たれた。
 
 しん、と。
 互いの刃が振るわれた直後、時が止まったかのような静寂が辺りを支配した。
 勝敗はどちらか。確かめるよりも先に天井が崩れ落ちる。轟音と燻煙を巻き上げて降り注ぐ瓦礫の雨が二人の姿を覆い隠した。





◾︎

756英雄の証 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:17:06 ID:s6Q57hA20





 ガラリ。
 倒壊した美術館の中心、セフィロスとハンターの周辺だけ不自然な程に綺麗だった。面影などまるで見せない破壊の中、まるでその場所だけは元の姿と変わらないほどに。
 それは決して奇跡などではない。セフィロスの背から生えた肉の翼が彼自身を、そしてハンターの遺体を崩れ落ちる屋根から守り抜いたのだ。

 ゆえに、もしも目撃者がいればその勝敗は一目でわかるだろう。
 悠然と佇むセフィロスの足元には、首を失ったハンターの遺体が倒れ伏していた。



「…………私の勝ちだ、狩人」



 勝利宣言は虚しく響く。
 終わってしまった──そんな喪失感さえ湧き上がる。ハンターという強敵との対峙は至福の時であった。それこそ、この会場で出会った者の中では文句なく最も手こずったと言っていい。
 しかし、ともあれ勝利を収めた神は彼方を見つめる。その視線の先はセーニャ達が向かった方角だ。
 多少時間を取ったが今から向かっても追いつくことは可能だろう。黒翼と肉翼、神秘性と禍々しさの対極を持つそれらをはためかせ、足を踏み出す。





 その瞬間、セフィロスの体がぐらりと崩れた。


「………………な、……」


 瓦礫の山に倒れかかるのをバスターソードを突き刺して無理矢理堪えては、思わず驚嘆に口を開く。何故だ、それほど深刻なダメージは負っていないはず。
 疲労の感じない肉体は未だ限界とは程遠い。ならばなぜ──そんな怪物の疑問は視線を下ろすことで晴れた。

「…………、……!」

 セフィロスが動けないのも当然だ。
 左足首から先が見事に両断されていたのだから。
 


 ハンターにとっての目的(クエスト)とはセフィロスの討伐ではない。セーニャ達が無事に逃げ切れる時間稼ぎをすることだ。
 セフィロスを討つのはそう宣言したセーニャに託した。ゆえに彼が全力を注いだのは足止め──その名の通り、セフィロスの足を奪う事だった。

757英雄の証 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:17:40 ID:s6Q57hA20

 あの一瞬、バスターソードはハンターの首を断ち切った。それが勝敗の結果、と。セフィロス自身はそう確信していた。しかし実際はほんの僅か早くハンターの居合が神の左足に届いていたのだ。
 鋭すぎる一太刀は脳も、身体も、細胞をもその認識を遅れさせた。まさしく神をも凌駕した真なる〝神業〟と言えよう。

「フフ、ハハハハ……! なるほど、やってくれたな……!」

 火刃による再生阻害を加えられているせいで回復が遅い。通常であれば欠損も三十秒もあれば完全に再生したであろうが、このペースではケアルガを択に入れても十分以上はかかるだろう。
 無理矢理に追うよりは回復に専念した方が利口だ。腰を下ろしたセフィロスは首のないハンターの遺体を愛おしそうに撫で、象徴である妖艶さの欠片もない爛々とした笑みを見せる。

「楽しみだ、これほど食い応えのある者がまだいるとは」

 晒け出されたセフィロスの肉体に刻まれた数多の傷。再生を前に無に帰すはずであったのに尚も残り続けるそれらは全て証だ。
 

 神をも跪かせた〝英雄の証〟。


 果たして決闘の勝者はどちらか。
 勝利の定義は定かではない。命の有無で言えば確かに神の白星は揺るがないであろう。
 けれど現実はどうだ。目的を果たしたのは狩人で、対する神は獲物を取り逃し停滞を余儀なくされている。
 この戦いに観客はいない。しかし、破滅の運命からセーニャ達を救ったという事実を知る者であれば、間違いなくこう答えるであろう。








 英雄(ハンター)の、勝ちだ。





 



【男ハンター@MONSTER HUNTER X 死亡確認】
【残り39名】


【B-4/崩壊した美術館跡/一日目 日中】
【セフィロス@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:G-ウイルス融合中、上半身裸、ダメージ(小)、左腕から右脇にかけて裂傷、右足首切断、傷再生中、MP消費(小)、高揚感
[装備]:バスターソード@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、武器の類ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:全てを終わらせる。
1.全ての生物を殺害し、究極を証明する。
2.セーニャの方向へと向かう。
3.スネーク(名前は知らない)との再会に少し期待

※本編終了後からの参戦です。
※心無い天使、スーパーノヴァは使用できません。
※メテオの威力に大幅な制限が掛けられています。
※参加者名簿に目を通していません。
※セーニャが手に入れた情報を共有できます。
※G-ウイルスを取り込んだ事で身体機能、再生能力が上昇しています。
※左腕がG生物のように肥大化し、背中の左側には変形可能な肉の翼が生えています。
※炎、熱を伴う攻撃は再生能力を大幅に遅れさせます。

758 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/20(日) 22:18:06 ID:s6Q57hA20
投下終了です。

759 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/21(月) 00:45:25 ID:oV3Kg6xU0
>>757
すいません、セフィロスの状態表なのですが切断されたのは左足首でした……wiki編集の際修正して頂けると助かります。

760 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/24(木) 20:19:05 ID:gSLE/QEM0
前編のみですが、投下します。

761かつ消え、かつ結びて【前編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/24(木) 20:19:53 ID:gSLE/QEM0
 ――ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。

 万象は、常に変革の一途を辿っている。留まり続けることのない流水が如く、人の心も、常にその在り方を変えていく。

「……随分と、変わったものだな。クロノ。」

 魔王は、欲望に駆られ、変わり果てた人の心を、誰よりも間近で見てきた。ラヴォスの果てなきエネルギーに魅入られ、王国を崩壊に導いた女王ジール。彼女の息子として、はたまた側近として、優しかった一国の女王が、欲に溺れ国を崩壊に導くさまを観測してきた。

「そう言われるほど俺とお前の付き合いは長くないだろ。」

 ぶっきらぼうに返すクロノも、内心では同じことを感じていた。かの魔王が、殺し合いに乗ることなく同胞と共に行動している事実。その経緯が気にならないでは無いが、どちらにせよ些末な問題だ。踏み台の高さに意味はあるが、その色味がどんなものであったとしても到達点に相違はない。

「そんなことより、とっとと構えろよ。」

「……語る言葉は無い、ということか。」

「違ぇよ。」

 刹那、大地を蹴る音が響く。ワンステップで魔王の懐に潜り込んだクロノは、握り込んだ白の約定を踏み込んだ勢いのままに斬り上げる。

「――ッ!?」

「――過去の人間が、いつまで格上気取ってんだって言ってんだよ。」

 その一撃に、膝をつく魔王。咄嗟の回避では対応し切れず、魔王の肩に大きな挫創を描いていた。

「……どうやら、そのようだな。」

 かつての魔王決戦で相対した二人。だがもはや魔王は、玉座に座して待つ絶対者ではない。眼前に佇むは、頭数を揃えなければ戦えない挑戦者ではない。もう、変わってしまった。その実感が遅れていたが故に、クロノの先手を許してしまった。生死を分ける戦いの中でのその驕りの代償は、決して小さくなどない。狙いすましたかの如き渾身の第二撃が、上方から魔王へと迫る。

 鎌で相殺しようにも、負傷した肩で重力を味方に付けた一撃を防ぐには足りない。魔王に取り得る手段は、ひとつしかなかった。手にした"それ"を大地へ叩き付ける。

(何だ……?)

 それはクロノにも想定外の挙動。次の瞬間、シャンデリアを模した魔物が、魔王を庇うように配置された。

 ラヴォスを顕現させた時のような、魔物の招来術か。モンスターボールを知らないクロノの脳裏に、誤った予測が過ぎる。

「……熱ッ! くそっ、なんだコイツ!」

 現れた魔物の正体、『シャンデラ』に吸い込まれた『はがね』の武器による一太刀は、いまひとつの威力しか発揮しない。しかし、『ほのおのからだ』より伝導する熱はクロノの身体に火傷を刻みつける。

762かつ消え、かつ結びて【前編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/24(木) 20:20:21 ID:gSLE/QEM0
「さあ、貴様の名はチャップだ。我が命に応えよ!」

 イシの村で出会ったベルは、ランランと呼ばれる魔物を使役していた。その条件こそ定かではないが、謎の球体による捕獲が前提なのは間違いないだろう。他に条件があるとするならば、命名だろうか。ベルが元の世界の手持ちであると言っていたポカポカとやらと同じ命名規則に則っているランランは、種族名よりベルが名付けたニックネームであった確率の方が高い。

 命名の儀を終えると、チャップは明確にクロノを見据え、魔王の命令を待つ。

「オトモ、離れていろ。そしてチャップ。」

 ただ斬るだけで熱伝導を起こすほどの火力源を体内に秘めた魔物。まだ、扱う攻撃も底が知れない。一歩下がり、魔王の続く言葉を伺うクロノ。

 だが、それはクロノにとっても予想外の一手だった。

「――私に最大出力で炎を放て。」

「な、何を言ってるニャ魔王の旦那!?」

 目の前で起こったサクラダの死とクロノの気迫に腰を抜かしていたオトモが、状況も飲み込めないまま叫ぶ。チャップだけが冷静に、ただ命令のままに振り返り、『だいもんじ』を魔王へと放つ。

 現状、クロノの先制攻撃により肩に大きな負傷を残した魔王。鎌を振るうことすら適わぬ致命傷を残したまま戦うのは都合が悪い。だが、回復に専念するような隙をクロノは許さないだろう。

 一見して、クロノの側に大きく傾いている戦場。されど彼の前に立つは、遥か未来の世界にまでその名を轟かせる魔族の王。はたまた、戦の神スペッキオをして教えることは無いと言わしめるほどの魔法の真髄に至った者。

 己が怪我の治療と、クロノへの牽制。それらを同時に行う攻防一体の手段が、魔王にはある。

――バリアチェンジ

 撃ち出された炎は、魔力の膜に吸収され、魔王の肩の挫創を癒していく。

 だが、この技の真髄は、魔力吸収のみではない。その力を氷の魔力に変換し、放出。辺り一面に凍てつく冷気を吹雪かせる。

「つ、冷たいし痛いのニャ!」

「……馬鹿め。離れていろと言ったはずだ。」

 辺り一面に放出する無差別攻撃は、出力を抑えることなどできない。オトモやチャップにも、だいもんじから吸収した魔力で生み出した氷刃が突き刺さる。チャップに『こおり』の攻撃がまともに通らないことは先に試した通りだが、オトモの逃げ遅れは想定の外。だが、今のクロノは巻き添えを気にして戦法を制限しながら勝てるような相手ではないのも確か。

763かつ消え、かつ結びて【前編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/24(木) 20:21:10 ID:gSLE/QEM0
「ちっ……」

 かつてクロノ達に苦戦を強いた技、バリアチェンジ。この技には、弱点がある。反撃に用いる属性の魔力を内側から吸収しないよう、展開する魔力の膜はひとつの属性だけは素通しするようになっている。仲間と力を合わせ、複数の属性を用いて攻撃すれば、魔王にダメージを与えることも可能だった。

 だが、今のクロノにその"仲間"はいない。扱う属性も既に割れているクロノの魔法は、魔王に通じない。

「だったら、その小賢しいバリアごと叩っ斬る!」

「だが、もう遅れは取らんぞ。」

 肩のダメージを回復した今、魔王は万全の状態で鎌を振るうことができる。迫り来るクロノの斬撃に対し、横払いの一閃。鍔迫り合った両者の業物は弾き合い、その威力を打ち消し合う。

 それだけならば、拮抗。戦局はどちらの側に傾くこともない、単なる停滞で終わる話だ。

「迎え撃て、チャップ。」 

 だが、頭数という純粋な戦力差が、その停滞を優位性に変える。

 ――シャドーボール

 圧縮された霊力の塊が、着地したばかりのクロノへと襲い掛かる。それは炎や氷のような物理学的なエネルギーとは違う。闇という名の引力でもない。けれど、それを受けてはいけないと直感が告げている。

「……こん、にゃろっ!」

「もう手遅れだ……」

 着地したばかりの足の筋肉に更なる負担をかけながらのバックステップによる、大掛かりな回避。シャドーボールを無傷で凌ぐも、そうして生じた魔王との距離により、大魔法の詠唱を許してしまう。

「ダークボム!」

 闇を宿した球体が、クロノを内向きの力で引きずり込む。無理な姿勢でのバックステップで足に過重な負担をかけ過ぎたクロノは、その引力に抗えない。

「……くそっ!」

「――爆ぜよ。」

 そのまま、起爆。クロノの居場所を爆心地として、暗闇の魔力がドーム状の球体を形成した。次第に、魔力は残滓へと変わりゆく。その爆発ひとつで倒せるほど容易い相手では無い。だが、身体を引き裂く闇の魔力の中で視界も不充分な状態で、次の一撃に備えることなど不可能。クロノを包んでいた魔力が消えるその時を狙いすまし、追撃に走る。

 爆風が消え、視界の先にクロノの姿が映る。首元を狙い、横凪ぎに振るわれる鎌。斬れ味のまま、即座に首を刈り取るはずだったその斬撃に走ったのは、金属音とその音の通りの感覚。

「なっ……!」

「へっ、捕まえたぜ。」

 カウンターとなる一撃が、魔王の胴に叩き込まれる。亡き王女への追悼の想いが、その一撃に更なる練磨を与えた。

764かつ消え、かつ結びて【前編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/24(木) 20:21:33 ID:gSLE/QEM0
「ッ……!」

 その身に深い傷を刻みながら、魔王は下がる。ダークボムをほとんど無傷で凌がれている。その種が、先ほど絶望の鎌の一撃すらも難なく弾き返した"何か"にあることは間違いないだろう。

「その盾……一筋縄ではいかぬようだな。」

 そして事実も、魔王の予測の通り。ダークボムの引力に引き込まれたクロノは、咄嗟にハイリアの盾を構え、追撃の鎌まで含め、そのほとんどを軽減し切ったのだった。

「……複雑ではあるけどな。でも――」

 並々ならぬ堅牢さを誇るハイリアの盾の入手源は、ゼルダに騙されて戦わされた魔物、スタルヒノックス。この盾を手にしている現状は、雪辱の上にある。

 だが、その雪辱も全て、今や歩みへと変えている。仮にゼルダの企みを看破し、上手いことグレイグと一緒にハイラル城を出られていたとしても、きっと最初の放送でマールの名前は呼ばれていた。マールの蘇生のために優勝を目指している現状から結果的に見れば、ゼルダはハイリアの盾を手に入れる機会をくれて、厄介な相手となるグレイグを殺して"くれた"のだ。

「――この盾が、俺の決意の第一歩だ。ぶっ壊せるもんならやってみろ。」

 心に大きな陰りを生んだゼルダの謀略を、自分に都合良く解釈したいだけだろうか。その上で――今はもう、こう言える。

「……安い挑発だな。その土俵に立つとでも?」

 一方の魔王。ダークボムをも弾く盾の破壊方法など、即座には思い至らない。だが、盾の破壊は手段でしかない。目的は、あくまでクロノの打倒。

「燃やせ、チャップ!」

 盾を破壊しないまま突破する方法なら、いくつか考えられる。

 例えば――熱伝導。
 指示通りに放たれたチャップの『だいもんじ』は、金属製の盾で受けようとも、盾の表面温度が上昇することで所持することができなくなる。

「……当たるかよっ!」

 一方のクロノは、軽く身体を逸らしてそれを回避。着地際に放たれた先のシャドーボールとは違う。技自体の命中精度の低さも相まって、その軸を見切れば躱すことは容易い。問題は、それを回避している隙に魔王に魔法の詠唱を許してしまうこと。

765かつ消え、かつ結びて【前編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/24(木) 20:22:00 ID:gSLE/QEM0
「――サンダガ!」

「っ……! そういや、アンタも使えんだっけか!」

 ハイリアの盾の、もう1つの突破方法――通電。盾越しにダメージを与えるこの方法であれば、いかに強固な盾であっても身を守ることはできない。サクラダを殺した理論が、今度はクロノに牙を剥く。

 やむを得ず、避雷針となる盾を前方に投擲。天雷の導線を作り回避した上で、前傾姿勢を取る。ハイリアの盾が突破された今は、鎌による攻撃が予測できる瞬間だ。ひと足先に力を溜めて、全力斬りで迎え撃つ。

 しかしその予測は、裏切られることとなる。
 ハイリアの盾を落としたこの千載一遇のチャンスに、魔王は一歩引いて、魔法の詠唱を始めていた。

 サンダガで応戦しようにも、詠唱で出遅れた以上間に合わない。溜めた力で斬り掛かろうとすれば、真正面から魔法が飛んでくる。動かなければ、ただ魔法を一方的に受けるだけ。魔王の一手を読み違えた地点で、クロノの取り得るその先の戦術が有利に働くことなど、起こり得ない。

(……読まれたか。だけどっ!)

 ……ならば、最も己への被害の少ない一手でお茶を濁すのみ。
 溜めた力を、風の刃へと変換して飛ばす。駆けるよりも速い真空が魔王へと迫る。
 しかしその一撃も、魔王の想定の範囲内。かつての戦いで、両者の手の内は割れている。距離も相まって目視での対応が可能な範囲だ。天の力を宿したその風刃を、バリアチェンジで吸収すれば――

「……っ!」

 ――と、クロノに読み勝った魔王はこの応酬を有利に進められるはずだった。しかし結論として魔王は、バリアチェンジを展開できず、かまいたちを直接受けることになってしまった。そこに佇むオトモの姿が、目に入ってしまったから。

 先に起こった出来事の通り、バリアチェンジによる反撃は、辺り一面を巻き込む。当然、そこにいるオトモにも、チャップにも効果は及ぶ。アイスガで反撃すればチャップへのダメージは少ないのは検証済みだ。だが、オトモはそうはいかない。

 タイミング的に、攻撃を吸収されると考えていたクロノ。どこか不思議そうに目をしばたかせた後、合点がいったように、ため息をつく。

「何やってんのかと思えば……そういうことかよ。いつかお前に言われた言葉、そっくりそのまま返すぜ。」

 片や、孤独に佇む王。心を閉ざし、仲間を足手まといと否定し、独りで戦う術を身に付けた。それ故に、その絶技は周囲を傷付ける。己のみを守るバリアチェンジは、もしもの世界で彼の隣に立つ仲間がいる時は、封印するはずだった。しかし、そのもしもは訪れることがなかった。

「……他の奴らが足手まといにならなきゃいいな?」

 片や、仲間と共に星の歴史に名を刻んだ英雄。その生まれに特異性などない。ただのいち平民が、一国の王女という身分違いの相手への恋を成就させるために英雄の座にまで登り詰めた。けれど、そんな彼の隣には、常に仲間がいた。

 どうにも、やりづらい。かつての戦い方と大きく変わってしまった現状に、両者ともに同じ想いを抱くのだった。

766かつ消え、かつ結びて【前編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/24(木) 20:22:25 ID:gSLE/QEM0


(魔王の旦那も、突然出てきた赤髪も、ホントに何やってんだニャ?)

 業火も、氷刃も、雷鳴も轟く戦場の中。オトモはただ、立ち尽くしていた。戦いのレベルが高すぎて動けない――というわけではない。これまでの狩猟生活の中、炎も氷も雷も、この戦場に飛び交うものに負けず劣らずの死線を、旦那様と共に潜り抜けてきた。

 だがその上で、オトモには理解が追い付いていないのだ。この2人は何故、戦っているのか?

 幸か不幸か、これまでオトモがこの殺し合いの会場で戦った相手は、ネメシス-T型のみ。形こそ人型のものであるが、自在に操れる触手をうねらせて、腕一本になっても自律行動を行うタイラントは、オトモの目から見てもモンスターと呼んで差し支えない存在だった。

 一方で、クロノは紛うことなき人間である。魔族である魔王もまた、人の形をして人の言葉を解するが故に人間の枠に収まっている。炎や氷や雷を操っていることなど、それらの属性の武器を使いこなす狩人の尺度から見れば、些細なことに過ぎない。

 だが、人間同士が殺し合っているその現状は、些細と切り捨てられるものではなかった。モンスターがモンスターを喰らうことはある。捕食目的でなくとも、モンスター同士の縄張り争いなんて茶飯事だ。しかし――そんな自然の摂理から一歩離れた場所から、同族同士で共生していけるのが、人間というものではなかったのか。

 殺し合いという文化は人間には無い。だが、この世界に呼ばれた者たちは、殺し合いに乗る者も乗らない者も、それぞれの尺度でそれを理解し、行動していた。

 それでもオトモだけは、マナとウルノーガの言うところの『殺し合い』が、人間とモンスター、或いはモンスター同士の殺し合いであると解釈していた。オトモが、人の話を聞かないタイプであるというのも大いに要因の一つではあるが――アイルーという種族の特性もそれを助長していた。

 アイルーは、脳や声帯の構造上、人語を解し、かつ喋ることができるという、数あるモンスターの中でも特異的な能力を有している。
 ゆえに、成熟したアイルーは選択することとなる。野生の小型モンスターとして自由に生きるか、人間の庇護の下、オトモアイルーやキッチンアイルーとして人里で生きるか。
 オトモは、言うまでもなく後者を選択した存在だ。しかし、そう選択するまでは、野生の中で生きてきた。
 人の戦争の歴史なんて学んだことが無いし、利害関係があれば人と人が争い得るということに対し、実感が湧くまでの実体験が伴っていない。

 したがって、たった今眼前で巻き起こっている戦闘に、いつまで経っても理解が追い付かない。それは言うなれば、アイルー族特有の『カルチャーショック』。

767かつ消え、かつ結びて【前編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/24(木) 20:22:48 ID:gSLE/QEM0
(ホントーに狂ってるのニャ。サクラダさん、死んじゃったのニャよ?)

 と、この戦場の中で、あまりにも悠長な思考を巡らせながら。

(……いや、いつからか、忘れていただけだったのニャ。)

 ――その一方で伴うは、納得の感情。

(ニンゲンってのは、そもそもおかしい生き物だったのニャ。)

 オトモは思い出した。この殺し合いに招かれる前の自分を。



 ――厄災は音もなく忍び寄り、理不尽に、一方的に、全てを奪って行った。

 燃え上がる集落。逃げ惑う仲間たち。どうしてこんなことに――なんて、厳しい自然の世界では嘆く時間すら、いつも危険と隣り合わせ。

「……ニンゲンの仕業ニャ。」

 仲間の中の誰かが言った。
 周りの仲間たちが、それに同調するように、ぽつぽつと話し始める。

「頑張って集めたハチミツが、根こそぎ持っていかれてたニャ。」

「そんなもの目当てにボクたちの集落を壊して行ったのニャ?」

「アオアシラじゃないのかニャ?」

「アオアシラだったら集落は燃えないニャ。」

「じゃあやっぱりニンゲンで決まりだニャ。」

「……それで、これからどうするんだニャ?」

 皆で暮らしていた集落は、ニンゲンのせいで無くなった。住処を移そうにも、大型モンスターが入って来られないような安全な場所なんてほとんどない。ようやく見つけても、遅かれ早かれまたニンゲンはやって来る。

 選択肢なんて、無数にあるようで、ひとつしかなかった。長いものに巻かれれば、こんな気持ちをせずにいられるのなら――

768かつ消え、かつ結びて【前編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/24(木) 20:23:13 ID:gSLE/QEM0
「……ボクはニンゲンの、オトモアイルーになるニャ。」

 ――ボクはボクたちにとっての厄災すら、生きる手段としてみせる。

「だとしたら、キミとはここでお別れニャ……。」

「……。皆は来ないのかニャ?」

「今回の襲撃で、2匹の同胞が死んだのニャ。皆に顔向けできないのは、嫌だニャ。」

 信条からそれを選べなかった不器用な仲間たちと別れて、世渡り上手なボクは独り、ニンゲンの村へと向かった。

 ニンゲンの村の暮らしは思ったより豊かで、人は思った以上に、アイルー達に友好的だった。野生のアイルーたちには平気で攻撃できるのに、村にいるというだけで、誰もそうしようとしていない。それが歪に思えて仕方なかった。

 ――人の話を聞かないタイプ、なんて揶揄されたこともあるけれど。それはアンタら厄災の話に興味なんか無いからだ。ボクが興味があるのは、ボクが生きていける環境だけ。

 そうして暮らしている中で、ネコバァがボクの仕事を見つけてくれた。最近村にやってきた新人ハンターが、オトモアイルーを探しているのだとか。

 そうして旦那様のオトモアイルーになったボクは、必要な時に狩りに行き、必要な時に料理を振る舞い、必要な時に採掘や虫捕りに向かい……ただ、そんな無色透明な生活を送っていた。

 だけどその日々は、安定して生きることができていたから、ボクにとっては本望だった。



769かつ消え、かつ結びて【前編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/24(木) 20:23:36 ID:gSLE/QEM0
「――チャップ! 私に炎を放てっ!」

 魔王の叫び声で、オトモはふと現実に戻った。

 そのとち狂った命令の先に起こることは、もう理解している。魔王はもう一度、バリアチェンジを使おうとしているのだ。

 先の応酬で既に手傷を負っている。回復しなければ、クロノに勝てない。どれほど逃げろと言ってもショックを受けたまま動かないオトモより、己の命が可愛いのは自明の理だ。オトモを守ると半ばなし崩し的に決めたものの、それに拘って大局を見失うほど、オトモへの情に厚いわけではない。

 そもそも殺傷に躊躇したのは、愛猫のアラファトに重ねていたという些細な理由に過ぎない。自らの命を脅かすほどに足手まといになるのなら、切り捨てる。それは妥当で、当然の選択。

 だいもんじを吸収し、再び解き放つ氷の魔力。顕現した氷刃に、オトモは吹き飛ばされていく。

「これが最終警告だ。もう周囲に配慮はせん。この場から去れ。さもないと死ぬことになるぞ。」

 その警告は、この局面で足手まといと化したオトモに対する、せめてもの情けなのだろう。だが、そんな文脈など、人の機微に疎いオトモには伝わらない。

(……そうだったのニャ。)

 コイツらはそもそもが厄災地味た生き物で、その襲来に理屈なんて無かったこと。理不尽で、一方的で。そして、全てを奪っていく。

「わかったのニャ! じゃあボクはここでさよならなのニャ!」

 ――モンスターと違って言葉があるのに、突然同族同士で殺し合ってる異常者の相手は、さすがのボクもしていられないのニャ、なんて内心で唾棄しながら。

(やっぱり信用できるニンゲンは、旦那様しかいないのニャ。)

 オトモアイルーとハンターの関係は、あくまで雇用関係である。命までもを賭ける義理はない。たとえハンターが戦っている中でも、致命傷を受ける前に必ず撤退を選ぶのがオトモアイルーの性。

 ゆえにオトモは、躊躇もなく走り出した。向かう先は、元々向かっていたハイラル城の方向。既にオトモは、周囲を無差別に攻撃し始めた魔王をある種見限っていた。その裏で幾度となく加えられていた手心に、気づくこともなく――

「魔王とか呼ばれてたくせに、随分とお優しいこった。でも――」

 そして魔王もまた、迂闊だった。

 魔王という、多くの人間から疎まれ、狙われている立場。その命の価値を前にしては、ほかの魔物など路傍の石のようなもの。
 グレンとサイラスが魔王討伐にやってきた時も、ビネガーが隣に控えていたにも関わらず、狙われていたのは自身のみ。それは、ある意味では名声ある者の宿命だった。

 そして――なればこその油断だった。

770かつ消え、かつ結びて【前編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/24(木) 20:24:11 ID:gSLE/QEM0
「――俺が黙って逃がすとでも思ったか?」

 子猫一匹でも逃がそうものなら、殺し合いに乗った人間として吹聴される可能性がある。そうでなくても、支給品が他の強敵の手に渡る可能性がある。

 この世界では、魔族を束ねる王も、猫を模した小型モンスターも、命の価値は変わらない――そんな当たり前のことが、分かっていなかったのだ。

 ――かまいたち

 高速の風刃が、背を向けたオトモに一直線に走る。魔法を唱えるにも間に合わず、声を上げる事しかできない魔王。その声に一瞬だけ振り向いたオトモは、迫る凶刃に一瞬だけ、驚いたような顔を見せて――

「ニ゛ャッ……!」

 ――間もなくその顔は、痛みに大きく歪んだ。

 背中から大きく切り裂かれたオトモの軽い身体は、跳ぶように宙を舞った。勢いのままに落ちた先の大地を転がった後に、泥に塗れながらぐったりと全身の力が抜けていく。

 ぱたり、とその小さな身体はうつ伏せに倒れる。そして、そのままオトモは動かなくなった。

「……この気持ちは、何だ。」

 その様子を、魔王は黙って見つめていた。

 大切な存在でも何でもなければ、飼い猫のような愛着も無い、ただの五月蝿い魔物。だというのに、この胸を満たす感情は、一体何だと言うのか。

「……いや、私はその答えを、知っている。」

 ……考えるまでもなく。
 間もなくして、理解した。

「……これは、私がかつて幾度となく抱いた感情だ。」

 それは怒りであり、悲しみであり、憎しみでもあった。

 曲がりなりにも、一度は『オトモを保護する』と決めた。
 だというのに、それが果たせず、ただそこに立ち尽くしているだけの自分が、いつかの己と重なる。
 ラヴォスを殺すという誓いを果たせないまま、飛ばされた古代の世界で茫然と眺めた空には、如何なる色も感じられなかった。絶望のままに、勇者の剣に散ることを受け入れた。そんな、弱さを象徴する自分に対する強く、激しい想い。

771かつ消え、かつ結びて【前編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/24(木) 20:25:06 ID:gSLE/QEM0
「ならば、変わろう。その先の末路を知っていればこそ、未来に、変革を。」

 その感情に共鳴するように、魔王の周囲に赤黒い霧が発生し始める。

「……かかってくるがいい、クロノよ。」

 知らない技だ、とクロノは身構える。
 そうしている内に霧は、みるみる内に辺り一面を覆い尽くした。

「――死のかくごが出来たのならな!」

 ――クリムゾンミスト。

 レッドオーブが与えた力。
 視界が赤い。ある世界における厄災を象徴するかの如き、禍々しい瘴気に包まれて、魔王と英雄は向かい合う。

 命を削るその霧は、戦いを加速させる。変革を、必然と言わんばかりに。或いは――変革を終えた者を、悼むように。

 二人だけの魔王決戦が、再び幕を開ける。

772 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/24(木) 20:26:16 ID:gSLE/QEM0
前編投下終了です。
引き続き、同メンバーで予約します。

(Wiki収録等は後編投下後にお願いします。一括投下できず申し訳ないです。)

773 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/25(金) 01:21:24 ID:bS6ONHS20
了解致しました、後編も楽しみにしております!

リンク、ミファー、真島吾朗、久保美津雄、リボルバー・オセロット、バレット・ウォーレスで予約します。

774 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/29(火) 23:07:19 ID:PxgXoHyQ0
後編投下します。

775かつ消え、かつ結びて【後編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/29(火) 23:07:57 ID:PxgXoHyQ0
――淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。

 振り子に合わせ、時計の音が鳴る。この星は静止することなく、常に時を刻み続ける。そんな、大きな時の流れの中に、急かされるように生きてきた者たちの心もまた、移ろいゆくもの。水面に浮かぶ泡のように――溶けて消えるその時まで、変革を続けていく。

 思い出が、泡沫のように浮かんで、そして消える。そのひとつひとつの瞬きが、物語を携えて。

 まるで歌うように、或いは奏でるように――星はかつて夢をみた。

776かつ消え、かつ結びて【後編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/29(火) 23:08:30 ID:PxgXoHyQ0


 視界が染まっていく。赤く、赤く――その色調が、自然発生的でないことを伝達する。その霧の性質など知らなくとも、それが異常であることがひと目でわかる。

 ゆえに、クロノはそれを認識するや否や、前進を選んだ。そもそも魔王相手に魔法の勝負に持ち込むのは分が悪い。この霧がもたらす効力も分からない。可燃によって誘爆を起こすのか、はたまたその場にいる者の魔力を高めるようなものなのか。どちらにせよ、魔法を唱える暇もない連撃で敵の選択肢を削るのが最も無難な唯一解。

 魔王は絶望の鎌を用いてそれを受ける。繰り出される連撃を、横に構えた業物で二度、三度。僅かな応酬の後、これまでとの変化点は、すぐに明らかになる。

(さっきより鍔迫り合いの反動がキツいな……。この霧のせいか……?)

 魔力の籠った赤い霧『クリムゾンミスト』は、内部の物質の強度を落とす。そして、人体もその例に漏れない。実質的には、あらゆる攻撃が強化されるということだ。

 だとしたら、魔法での戦いは分が悪い。有する魔力の質や量は元より、この霧の中ではバリアチェンジが更に厄介な障壁となる。バリアチェンジの魔力吸収による回復は、受ける魔法の威力が高ければ高いほど、その回復力を増すからだ。

 ならば接近戦で魔法詠唱の隙を与えない。感覚的に取った行動が、結果的には最適解。

 しかし、そんなことは魔王も重々承知。

「討ち取れ、チャップ!」

 下される指示。これまでも、魔王を狙えば何度もその邪魔をしてきたモンスターの存在。クロノの側も、その妨害は織り込み済み。

 来るは炎か、霊力か。見定めるため、一歩下がる。命中不安定な『だいもんじ』なら回避し、実態の不確かな『シャドーボール』なら魔王もろとも回転斬りで打ち払う。二者択一のどちらにも対応できるよう備えたクロノに、突き付けられる第三の択。

「……ぐあっ!」

 不可視の『サイコキネシス』がクロノの脳を揺らす。まるで内側から頭を揺さぶられているかの如き痛み。足はもつれ、気をやっていないと意識ごと喪失してしまいそうだ。

777かつ消え、かつ結びて【後編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/29(火) 23:08:54 ID:PxgXoHyQ0

 同時に働くは――安心感にも近い感覚。

 これまでも戦闘中に意識を失うことは、少なくなかった。傷を負って気絶したのみならず、脳への電波的干渉により混乱に陥ってしまったこと。植え付けられた怒りに任せ、バーサクと呼ばれる発狂状態に陥ったこと。だけどそうなった時はいつも、気が付けば戦闘は終わっていた。先走った俺にちょっと怒っているマールが『レイズ』をかけてくれて、俺は目を覚ます。

 その経験が、現状を問題無いと叫んでいる。今クロノが生きているのは、そうなってしまった時に仲間がリカバリーしてくれたからに過ぎないというのに。朦朧とした意識が下した結論は、その心地良さに委ねてしまうかの如き安心感。

「――しっかり、しろ!」

 大声で自我を保ち、既に溜めていた力を解放して回転斬りを放つ。首元に迫っていた鎌を打ち払い、弾かれたように後退。

 ここに、仲間はいない。一度でも意識を失ってしまえば、その先に待つのは死のみ。

 だけど、それをノイズと吐き捨てるようなことはしない。その安寧と思い出こそが、クロノの戦う理由だから。

 ――もう一度、あの時に戻りたいから。 

 そしてその想いは精神論のみならず、確かな力へと変わっている。白の約定に宿る白き加護は、死への悼みを養分にその斬れ味を増す。

「うおおおおッ!!」

 吼える。それは、己が意識をハッキリさせるため。

 スタルヒノックスにダルケル、強者との連戦の中で疲れた身体に鞭打って、クロノはここに立っている。薬も回復魔法もない。立ち上がるための力は気合い、ただ一つ。

(刃に籠る加護が更に強く……半端な力では相殺はできぬか。)

 されどそれこそが、魔王にとっては己を貫きかねない刃となる。その力に任せた一閃を急所に受ければ、それまでの蓄積したダメージの差など関係なしに即死する。ましてや、戦場はその一撃に更なる力を与える赤い霧の中。

778かつ消え、かつ結びて【後編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/29(火) 23:09:09 ID:PxgXoHyQ0

「防げ、チャップ!」

 魔王の前にチャップが立ち塞がる。
 唐突に現れ、攻撃された上で捕獲されたばかり。絆なんて芽生えておらず、"なつく"なんて以ての外。わざわざ魔王に仕える義理など一つもない。されどモンスターボールによる支配で、その命令は絶対と化す。

 クロノは止まらない。この気合いという緊張感の糸が途切れてしまえば、立っていられないかもしれないから。

 それほどまでに、身に刻まれたダメージは多い。それならば、1秒でも早く、そして速く。その一心で、両足を大地に踏み込み、加速。

「そこを、退けえええッ!!!」

 ――乱れ斬り

 交錯するその刹那に叩き付けられた、四回の斬撃。その瞬間――チャップと目が合ったような気がした。

(ああ、そうだよな。)

 垣間見えたその表情から感じ取れたのは――憎しみ。四天王と呼ばれるトレーナーの下で、共に挑戦者と戦いながら充足した日々を過ごしていたはずなのに――突如、見知らぬ廃墟に、持ち主のいない野生のポケモンとして配置され、ずけずけと己の領域に入り込んできた男に攻撃され、さらには利用され、消費される。

(そりゃアンタも、憎いよな。)

 ――俺だって、そうだ。

 殺し合いという理不尽だけではない。
 この世界に呼び出される前から、俺はずっと、生きる世界が、この星が、憎くて憎くてしょうがない。

779かつ消え、かつ結びて【後編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/29(火) 23:09:24 ID:PxgXoHyQ0


 生まれつき人は、手の届く範囲が決まっている――ずっと、そう思っていた。例えば、ルッカが発明家を目指したのも、同じ発明家である父親と、そういう家でなければ起こらない事故に巻き込まれた母親の影響を、強く受けてのものだ。その善し悪しは別問題といて、生まれつき与えられている環境が、その人の"在り方"を9割方定義してしまう。

「――つまんねーの。」

 なりたいものなんてなかった。何を為すでもなく、何を目指すでもなく。でも、生まれつきという、どうしようもないものに勝手に選択肢を狭められて、窮屈だという想いだけが募っていた。

 現に、ネガティブな理由から夢を追い始めたルッカは、とても苦しそうだった。

「――もっと、やりたいことを自由に、でいいじゃんか。」

 なんて自由人を気取って、それを座右の銘とひけらかして、何も"できない"ことから逃げていた。

 だから。

『――私、お祭り見に来たんだ! いっしょに回ろうよ!』

 生まれつきの外の、本当にやりたいことに自由に手を伸ばそうとしている人が、あんなに綺麗に笑うなんて、知らなかった。

 マールは、王女という身分からは絶対に手の届かない範囲の"在り方"に憧れ、それを叶えるために実行した。そんな芯の強さが、とても眩しくて。

 俺は、この子の"在り方"を叶えたいって思ったんだ。

『――有罪。』

 王女誘拐の罪と、下された判決。

 マールはどこに行っても王女様で、俺はどこに行っても平民だった。生まれつき、俺たちはただいっしょにいることすら、許されていなかった。

 ――憎い。自由を奪ってくる、生まれつきの運命が。そんな雁字搦めの運命に縛られた、この星が。

 過去に僅かなズレがあるだけで、現代に産まれてくるかどうかすら変わってしまう儚い足場なのに、それは俺たちの"在り方"にどこまでも付き纏う。

 だから俺は、目指したんだ。

 どれだけ生まれが平凡でも、どれだけ大罪人の烙印を背負っていても――この星の天敵、ラヴォスをぶっ倒せば、英雄だ。平民には手の届かない王女様の結婚だってできるだろうさ。

 そして、この星に証明してやるんだ。

 生まれつきの運命なんて、クソッタレだ――ってな。

780かつ消え、かつ結びて【後編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/29(火) 23:09:44 ID:PxgXoHyQ0
■ 

 命を繋ぐ灯火が、立ち消える。黒い風が、またひとつ涙を零した。

 乱れ斬りの速度の前に、チャップが全ての憎しみを込めて放たんとしていた"しっぺがえし"は、終ぞクロノに届くことはなかった。それでも、4回にわたる接触により発動した『ほのおのからだ』は、己を殺した者への呪詛のように、クロノの身体を激しい火傷で蝕んだ。すでに限界の近い身体に重なるダメージが、命を削っていく。

 戦場に残ったのは、2人だけ。大義のために英雄になった者と、復讐のために王になった者。或いは、その志に共鳴する未来もあったのかもしれない。だが、そうならなかったからこそ、両者はこうして赤い霧の中で対峙している。

 そんな中で――突如として始まった第二回放送が、二人の鼓膜を揺らした。

「どうする?」

 魔王は問い掛ける。

「この情報を逃すのは、脱出を試みるにも優勝を志すにも不利益かもしれん。一時休戦とするか?」

「馬鹿言ってんなよ。」

 その申し出を、鼻先で一蹴するクロノ。 

「……魔法の詠唱時間になり得るものを、易々と渡すわけねえだろ。」

「……間違いないな。」

 流れる"ノイズ"に僅かに意識を取られつつも、両者は再び相見える。一瞬の後に再び始まる斬撃の応酬。もう、いつかの二人ではない。その往く道が重なることなど、起こり得ない。

『――ゼルダ』

 その名が呼ばれる。すでにその死体も見ており、彼女の死自体は知っている。けれど、クロノの心を変えた者がいるとするならば、それは彼女だった。

 ダルケルも含め、あれだけ憎み合い、互いの憎悪をぶつけ合った相手の名前が、他の有象無象と同列とばかりに呼ばれていく。

781かつ消え、かつ結びて【後編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/29(火) 23:10:05 ID:PxgXoHyQ0
「こんな世界じゃなくたって……殺し合いを命じられてなんかなくたって……戦いってきっと、こういうものなんだろ。」

 その言葉の意味するところが分からず、僅かに首を傾げる魔王。それを問えば、クロノは再び口を開く。

「なりたい在り方と手の届く範囲が一緒な奴らは、わざわざ血生臭い戦いになんて手を染めてなくてさ。そうじゃない奴は大なり小なり、世界に……星に、満足してない奴らだ。」

 自暴自棄に、自分自身を傷付けるような戦い方をしていたグレイグ。ダルケル曰く、何かしらの使命を抱えていたらしいゼルダ。そして、そんな使命に寄り添うことを選んだダルケル。そして――今し方殺した、チャップと呼ばれていた魔物。皆、何かしらの鬱屈した感情を抱え、それをぶつけるかの如く戦っていた。

「そして、そんな世界への不満を持った奴らが、世界変革の時を刻むんだ。」

 そうか、と。合点がいったように魔王は笑った――元の世界の、己の最期を想起しながら。

「ならば私はあの時――幸福だったのだろうな。」

 私の戦う理由など、敢えて熟考するまでもなく明らかだ。緩やかに流れる河の流れのような、魔法王国ジールでの平穏な日々。そんな日々に唐突に与えられた、ラヴォスという名の厄災。運命というものを憎み、復讐のために魔王となる決意をするのに、それは充分すぎる理由だった。

 だが、ある浜辺で行われた、カエルとの一騎打ち。最後の瞬間、私はグランドリオンの一閃を受け入れていた。再びラヴォスの災禍に見舞われ、戦うための憎しみなど、よりいっそう積もっているはずであったのに――刃を受け入れる心は、どこか晴れやかで。

 あの時、世界の景色は灰色に映っていた。

 ラヴォスとの邂逅を果たし、かつて崩壊した古代王国に再び帰り着くことができたというのに、またしても歴史は変わらなかった。

 母ジールの暴走を止めることも、姉サラを救うことも叶わず、己が人生を賭けたラヴォスへの復讐という大願すら失敗に終わったというのに。

 それでも、その怒りを、その憎しみを、戦いにぶつけることはしなかった。

 きっとあの時の私には――希望が、見えていたのだ。
 たとえ死に絶えたとしても、その意志を継いでくれる存在が、確かにいるのだと。

 その希望は――赤い色をしていた。

782かつ消え、かつ結びて【後編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/29(火) 23:10:20 ID:PxgXoHyQ0


 ある城の最奥にある儀式の間。
 灯火の揺らめきだけが、ぼんやりと室内を映し出す。

 部屋の中央に佇むのは、魔王と呼ばれた男。

 そして魔王は、来訪者に向けてただ一言、問うのだった。

『貴様は、何のために戦う?』

 それは、ただの興味だった。
 一度牙を折った勇者を、再び立ち上がらせた男とは、いかなる信念を抱く者か。

 魔族を束ね、ラヴォス復活を目的として活動していれば、魔王討伐にやってくる者は少なくなかった。その者たちは、決まって謳うのだ。村を救うため。町を救うため。森を。大地を。そして――国を。

 そして、それを謳った者の末路を、魔王は知っている。救国の大義に手段を違え、目的へとすり替えた挙句にラヴォスの力でその国すらも滅ぼした女王を。

 しかし、後に英雄と呼ばれる男は、たったひと言、返した。

『――クソッタレなこの星に、俺の記憶を刻み付けるため。』

 その言葉に、魔王の口角は僅かばかりに持ち上がる。

『かつてのサイラスのように、二度と立ち上がれぬようその闘志を折ってやろうとも思ったが……』

 魔王決戦の最中、僅かに交わされたのみの言葉の応酬。だが、クロノという男の信念を測るには、充分だった。

『貴様はきっと、変わらぬのだろうな――』

783かつ消え、かつ結びて【後編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/29(火) 23:10:42 ID:PxgXoHyQ0


 クロノは、他人の心を動かすことのできる男だった。星を変えるという強い意志。その想いを伝達する求心力。彼の周りで、人の心は確かに、変わっていった。

 もし、自分にそんな力があったなら、母の暴走を止めることもできていたかもしれない――なんて、たられば論の希望を捻り出しているその心境の変化すら、あの男に充てられたのかもしれないと感じるほどに。

「――だが、今の私の心には、貴様は希望となり得ない。」

 変わり果ててしまった男に、刃を向ける。男は、殺し合いに乗ってしまった。保身のためか、私欲のためかは知らない。知ろうとも思わない。それでも、仲間を切り捨てて、ただ独りで歩む決意をしたクロノの姿は、魔王がかつて見た希望と、違う色をしていた。

 ああ、そうだ。これはただ、勝手に期待し、勝手に裏切られた気になっているだけだ。クロノに落ち度などない。そんなことは分かっている。

 だけど、それでも。

「ラヴォスの討伐……他者と歩むのを辞めた貴様には成し得ん!」

 魔王は一度、ラヴォスを滅ぼすため、彼の蘇生すら願ったのだ。それほどまでに、ラヴォスへの復讐は魔王の生きる意味となった。それを今さら、諦められようはずもない。クロノがその希望となり得ないのなら、殺すより他にない。そして今一度、己の力で挑戦するのみ。

 それが魔王の憎悪。魔王の、戦う理由。

「……ああ。ま、アンタからしたら、そうだよな。」

 そんな魔王を見るクロノの目が、どこか冷めたものへと変わる。互いの業物が交錯する、その寸前。

「悪いけどさ――」

 クロノはただ一言、発した。

「――ラヴォスなら倒したよ。とっくの昔にさ。」

「――!?」

 斬撃が重なり合う。
 その一瞬を制したのは――英雄の側だった。

 万象は、常に変革の一途を辿っている。泡沫が如き人の心も、その例に漏れず。されど、一度消えた泡沫が、再び結びを得るこの世界の法則は、僅かな例外を内包していた。

(……そう、か。)

 ――死という、変革の終着点。そこに理外的に与えられた、死者の蘇生という終着点のその先。

(私がいない間にも、時は流れ、そして――)

 死んだ瞬間から歩みを止めてしまったが故に、移ろい続ける時の流れに置いて行かれた泡沫は、己を貫いた白き刃をどこか惚けたように見つめる。そして、その意味に気付いた瞬間にゆっくりと、膝を着いた。

(――私の願いは、既に叶っていたようだ。)

 そのまま太刀を引き抜くと、吹き出したように鮮血が舞う。

784かつ消え、かつ結びて【後編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/29(火) 23:11:05 ID:PxgXoHyQ0
「……私の負け、か。」

 それひとつが致命傷。抵抗しようにも、返り血を浴びて赤黒く煌めくクロノの太刀が魔王の首を狙っている。死を待つだけの受刑者のような状況であるというのに、心は、どこか晴れやかに思えた。

「……いや、最初から戦いの舞台にも、私は上がれていなかったのだろうな。戦う理由など、私には既に無かったのだから。」

 勝敗を喫する最も重要な局面で、戦いの目的を失ってしまった。しかしそれは、大願の成就の瞬間でもあった。

「……なんだよ、それ。」

 ――しかし、クロノはそれを肯定しない。

「アンタ、結局何がしたかったんだよ。」

 それが、意味も得もない叫びだと、分かっている。魔王は、間もなく死ぬ。既に致命傷を与えており、仮にトドメを刺さずとも、その灯火が消えるのを待つのみの命。そんな相手に、突きつける言葉なんかではないはずだ。ゼルダの無実を信じて逝ったダルケルのように、仮初の満足に浸らせてやればいい。

 理屈の上で、その空虚さは分かっている。だが――

「アンタがやるべきは……ラヴォスへの復讐なんかじゃなかっただろ……!」

「ッ……!!」

 ――魔王の存在は、クロノの現状を生み出した元凶と言っても過言ではなかった。

 クロノの生きる時代まで続く人間と魔族の諍い。その根底にあったのは、中世で魔王がラヴォス復活を願い、人間たちを生贄にしようとしたことだ。メディーナ村をはじめとする魔族の生き残りには魔王信仰が残り、人間を憎んでいた。

 クロノが裁判で受けた冤罪も、ガルディア城に入り込んでいた魔族に由来していた。それだけではない。マールの祖先であるリーネが狙われていたことにより、巡り巡ってマールが産まれなくなる危険性が生じたのも、全て。

 クロノが抱いている理不尽への怒りは、そして憎しみは――その多くが、魔王に由来しているのだ。

「やり直しの機会があったのに、サラを救おうともしなかったアンタに……満足する終わりなんか訪れるもんかよッ!」

 女王の側近の預言者として古代王国に辿り着いたアンタが、ジールを殺せばそれで良かっただろ。そうしたら、サラは助かった。ラヴォスだって復活しなかった。その後の世界で魔王が誕生する歴史も消えて、人間と魔族が憎しみ合う必要も無くなって。

 そんな大団円の何が気に入らなかった?
 そんなにもラヴォスへの憎しみに囚われていたのか?
 或いは、母親を殺すのを躊躇ったのか?

 どちらにせよ――アンタは道を間違ったんだ。

 死に行く者に、ありったけの呪詛を吐く。過去も現代も未来も、何もかもぶち壊して行った命の行く先が、安寧であってなるものか。屈辱と後悔に塗れながら、

 白の約定を天に掲げる。直下に見据えるは、魔王の首。

785かつ消え、かつ結びて【後編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/29(火) 23:11:37 ID:PxgXoHyQ0
「俺は……アンタと同じ間違いは犯さない。」

 殺し合いを開催した主催者への怒りなんて、無いわけがない。実際に手を下したのはウィリアム・バーキンという化け物だったようだが、実際はアイツらがマールを殺したようなものだ。

 ルッカやロボのことだって、殺したくない。二人とも大切な仲間で、ルッカに至っては幼い頃から一緒にいた仲だ。一時の選択で切り捨てるにはあまりにも重すぎる。

 だけど、そうやって選んだ道の先に、マールはいないから。剣を取る理由なんて、それで充分だ。そしてその道は――魔王が選ぶべきものだったんだ。

「……クロノ。」

 血溜まりに霞んだ喉で、処刑を待つのみとなった男は、捻り出すように名を呼んだ。

「……何だ。命乞いなら聞く気はねえよ。」

「その太刀は、喪失の哀しみを喰らい、強くなる。」

 それは、思わぬ発言だった。一瞬、面食らったような顔になる。

 ……魔王を貫いた、あの瞬間。
 俺は確かに、あの一撃で魔王を殺すつもりだった。
 致命傷で済ませる気なんてなかった。

 だが、魔王はまだ生きており、こうして喋ることもできている。

 その理由は、第二回放送にあった。戦闘に集中しており、流し聞き程度に済ませていたものだったが、知っている名前があれば聞き漏らさない程度には聞こえていた。

 故に、あの瞬間は知っていた。ルッカもロボも、まだ生きているということを。それを知った俺は――きっと
喪失とは程遠い感情を抱いたのだろう。

「その感情は、貴様の命取りとなる。だが、その感情に苛まれながらも、他ならぬ貴様自身の手で仲間を殺したならば……貴様は誰よりも強くなれる。」

「助言のつもりかよ。」

「……好きに受け取れ。」

 本当に、憎憎しいほどに中途半端な野郎だ。殺し合いに乗った俺の味方になるのとも、殺し合いに反逆する側として俺と敵対するのとも、違う。

 だけど、その感情は少しだけ、分かる。

「……アンタの宿敵が言ってたぜ。人は死ぬ時、生きている時に深く心に刻んだ記憶が浮かぶものだ……ってな。」

 だから、だろうか。それとも、かつて死んだ自分を復活させるのに、助言をくれたからか。

「楽しい思い出か、悲しい思い出か……アンタは、どっちなんだろうな。わからねえけど……」

 積年の恨みだとか、怒りだとか――魔王に積もるそんな一切合切が、この瞬間は清々しいほどにどうでもよく感じた。

「――その記憶が、アンタが本当に護るべきだったものに、いつか誰かを繋げてくれる時が……あったらいいな。」

 白の約定を、横凪ぎに振るう。白く煌めく一閃がその首を通過したその後に、ごとり、と物々しい音が木霊する。

 それが、かつて魔王と呼ばれた男の、最期だった。

 その姿からは、遥か未来の世界で魔物からの信仰を一身に受けた王の風格などは感じられない。それは、失意と絶望に塗れた一人の男の姿だった。

786かつ消え、かつ結びて【後編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/29(火) 23:12:13 ID:PxgXoHyQ0
「さすがに、疲れたな……。」

 頭数にして4の敵との戦い、それを単独で勝ち抜いたのだから、まごうことなく大勝利と呼ぶに相応しい結果だ。怪我も疲労も溜まり切っているが、殺し合いの優勝には一躍近付いたと言っていいだろう。

 ――しかし。

「……認めないのニャ。」

 放送内容すべてを把握しているわけではない。
 だが、呼ばれた名前については、分かっている。
 その中に特に、殊更心を乱すような名前はなかった。

 しかし、戦いに夢中となっていたからこそ――本来あって然るべき名前が無かったことに、クロノは気付かなかった。

 小さき狩人が、そこに立っていた。
 その手には青龍刀と、いつの間にか拾われていたハイリアの盾を携えて。

「ボク達を足蹴にしながらのハッピーエンドなんて、ゼッタイに。」

 ニンゲンたちの生活において、モンスターとは命では無かった。モンスターは、食肉であり、薬であり、そして素材でもあった。旦那様のような人もいて、皆が皆そうだったとは言わないけれど。

 突然やって来て、全てを奪って行ったニンゲン。クロノは、オトモがかつて憎んだ災厄の姿そのものだった。

787かつ消え、かつ結びて【後編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/29(火) 23:12:27 ID:PxgXoHyQ0


「ここには、ボクたちの集落があったんだニャ。」

 ある狩りの日に、懐かしの渓流を訪れた際、ボクは旦那様に、昔話をしたことがあった。

「突然やってきたハンター達に、ボクたちは全く敵わなかったのニャ。」

 何故、大キライなニンゲン相手にそんな話をしたのかは、覚えていない。それまで結構な苦楽を共にしてきた旦那様に、僅かばかりの信頼が芽生えていたのか。それとも、旦那様が本当に信頼できるか試したかったのか。それとも、久々にやって来た昔の居場所に、つい寂寥の想いが溢れたのか。もしかしたら、狩りの前に飲んだ達人ビールで酔っ払って饒舌になっていただけなのかもしれない。

「だからボクは、小さくても生きていけるよう、強くなりたいんだニャ。」

 何にせよそれは、本心だった。

「――そうか。」

 普段は気さくな旦那様が、珍しく荘厳な雰囲気を纏わせて口を開いた。ニンゲンの言葉なんて――と、聞き流すこともできなかった。

「……この焼け跡、大タル爆弾Gによるものだろう。大型モンスターも居ないこのような地に設置するには、まるで遊びと言わんばかりの過剰火力よ。嘆かわしいものだ。大自然への感謝を忘れようとは……。」

 弱肉強食の理の整った世界の外側の安全地帯から、そこに立ち入る覚悟もないまま、ただ石だけ投げ付けていく。旦那様の言葉からは、そんなニンゲンへの嘆きが、すごくすごく、伝わってきて――

「それはとても、無念だったろうなぁ。」

 世渡り上手だから、ニンゲン達への恨みも憎しみもそっちのけに生きていける選択ができると得意げな顔をして。

 そんな自分の顔も、本当の気持ちに、蓋をするかのようで。

 ああ、それだけボクは――悔しかったのだ、と気付いてしまったから。

788かつ消え、かつ結びて【後編】 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/29(火) 23:12:44 ID:PxgXoHyQ0


 ロボが言っていた。タイムゲートが開くのは、ラヴォスの力の歪みなんかじゃなくて、その先の物語を俺たちに見せたい何者かがいるからなんだと。

 だとしたら、怒りや憎しみの渦巻くこの殺し合いの世界すら、誰かが見せたい……もしくは見たいと思った結果なんだろうな。

 星はかつて夢をみた。泡沫が如く、浮かんでは消える命の物語の中で。

 そして、再び星は夢をみる。

 憤怒と憎悪に満ちた、限りなく歪な夢を――

【チャップ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト 死亡確認】
【魔王@クロノ・トリガー 死亡確認】
【残り38名】

【B-2/北の廃墟入り口/一日目 昼】
※魔王の発動した「クリムゾンミスト」が残っているかどうかは、後の書き手に一任します。
※魔王の死体に彼の持っていた支給品が残っています。

【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(大)
[装備]:白の約定@NieR:Automata
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1個)
[思考・状況]
基本行動方針: 優勝し、マールを生き返らせる。
1.仲間を殺す、か。
2:人が集まってそうな場所へ向かう。

※マールの死亡により、武器が強化されています。

※ED No.01 "時の向こうへ"後からの参戦です。このルートでは魔王は仲間になっていません。
※グレイグからドラクエ世界の話を聞きました。

【オトモ(オトモアイルー)@MONSTER HUNTER X】
[状態]:ダメージ(大)
[装備]: 青龍刀@龍が如く極 ハイリアの盾(耐久消費・中)@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド、星のペンダント@FF7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(確認済み) ソリッドバズーカ@FF7
[思考・状況]
基本行動方針:クロノを倒す。
1.ご主人様、今頃どうしているニャ?
2.……ニンゲンがどういう生き物だったか、思い出したのニャ。

789 ◆2zEnKfaCDc:2024/10/29(火) 23:13:07 ID:PxgXoHyQ0
以上で投下を終了します。

790 ◆NYzTZnBoCI:2024/10/31(木) 20:21:37 ID:ayKsJ9qg0
予約を延長します。

791 ◆RTn9vPakQY:2024/11/01(金) 02:00:54 ID:XMxeXZ7g0
遅ればせながら、第二回放送の突破おめでとうございます。
そして各書き手の皆様、力作の投下お疲れ様です。とても面白かったです。

トレバー・フィリップス、レッド 予約します。

792 ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:35:05 ID:O7ziiq2.0
投下します。

793It rains cats and dogs! ──ESCAPE ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:36:04 ID:O7ziiq2.0

 市街地の一区、庭付きの空き家。
 必要最低限の家具が取り揃えられたその一室をとある四人の男女が占めていた。

「なぁなぁミファーちゃぁ〜ん」
「…………」
「無視せんといてや、泣くで?」
「……はい?」

 寝具に寝転がる金髪の青年、リンクに治癒の光を浴びせるミファーが不機嫌そうに振り返る。琥珀色の視線の先にはニンマリと不気味な笑みを浮かべる真島吾朗の顔があった。

「あのな、ミファーちゃんが持っとるドスあるやろ? それなぁ、俺のなんや」
「……そう」
「そう、って。それだけかい! 自慢したわけちゃう、欲しいっちゅう話や」
「とは言っても……これを渡したら、私の武器が無くなってしまうから」

 ぐぬぬ、と。厳つい顔に似合わない声を上げる眼帯男。どうやら交渉は難航しているらしい。
 そんな二人のやり取りを古風なベントウッドチェアに座り、たまごサンドを頬張りながら眺めていた男子高校生が見ていられないとばかりに口を出した。

「真島さん、人に物頼む態度と顔じゃないって……」
「あァ? おい美津雄、態度はまだわかる。顔は言うたらアカンやろぉがぁッ!!」
「ひっ!? い、いやつい……じゃなくて、武器が欲しいんだったらそれに見合うもの渡した方がいいんじゃないか?」

 美津雄の言うことは正論だ。タダで武器を貰おうだなんて厚かましいにも程がある。
 真島も厳しい極道の世界を生きてきたのだからそのくらいの礼節は弁えているつもりだ。チャカやドスを仕入れるのにまさか愛嬌で釣り合うとは思っていない。しかし今はそれが出来ない理由があるのだ。

「そうは言うてもやなぁ……俺が渡せるもんなんかこの腕輪くらいしかあらへんし」

 窓から差しかかる陽光に照らされ、派手なエメラルドの基調が目立つ腕輪。あまり趣味のいいものとは言えないそれは一見無価値に等しい。

794It rains cats and dogs! ──ESCAPE ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:36:51 ID:O7ziiq2.0

「それじゃ確かに釣り合わないな……真島さん、支給品それだけなのかよ。運営に舐められてるんじゃないの?」
「あほ抜かせ。俺が強すぎるからハンデ貰っとんや」
「……そういうもんなの?」

 まるで買ったら幸せになるという謳い文句の壺でも見るかのように訝しげに眉を顰める美津雄。同様にミファーも価値を見いだせていないようだった。
 本来は値千金の効果を持つ装飾品なのだが、それを知るのは真島ただ一人のみ。というのも、真島はこの腕輪の力を公にすることを嫌ったのだ。

 あくまで〝奥の手〟であるという戒めでもあるが、なによりも────

(──この嬢ちゃんに渡したら、色々厄介なことになりそうやからな。堪忍やで)

 真島はミファーという少女を信用していない。人ではないからとかいう今のご時世では叩かれそうな理由ではなく、彼女の内に秘める危険な感情を感じ取ったのだ。
 恐らくはリンクのことを好いているのだろう。極度のニブチンなのか本人は気づいていないようだが、その気持ちがいつ暴走するかわかったものじゃない。

「……渡してあげて、ミファー」
「え? ……で、でも」
「俺はその人から刀を貰ったんだ。……代わりに、俺のバックに長剣があるからそれを。毒が塗ってあるから気をつけて」

 リンクの言葉に渋々承諾し、ミファーは短刀を真島へと手渡す。漆黒に桜が散らされた柄を右眼で眺め、興奮気味に口角を釣り上げる蛇革ジャケット男の姿は中々に不気味だ。
 苦笑いを浮かべるミファー、そしてかなり引いている美津雄の痛い視線を軽く受け流しながらヒヒッ、と甲高い笑いをこぼした。

「これやこれェ!! おォ〜〜〜、手に馴染むわぁ! 真島吾朗、大復活ッ!! ありがとうなぁ、ミファーちゃぁ〜ん」
「い、いえ……」
「……ドス一本でそんな変わるのか?」

 美津雄のなにげない疑問の声にヤクザはカッと右眼を見開く。嫌な予感がした美津雄は反射的に腕で顔を隠し、目線を逸らした。

「ええか美津雄! これはなぁ、ただのドスやない。俺にとっては我が子のように愛しい愛しいドスなんや。なんでも刀匠がこのドスで自害したやらなんやらで呪われてるっちゅう話やけど俺はそんなん──」
「あーーーわかった! 真島さんがすっごく強くなったってのはわかったからさ! 頼りにしてるって!」
「そうか? ほんなら勘弁したるわ」

 机へと身を乗り出して(というかほぼ乗って)語る真島の熱意にあえなく惨敗した美津雄が慌てて両手を突き出す。下手をしたらこのまま頭突きでもかまされそうだったが難を逃れた。
 そんな二人のやりとりにミファーはため息を漏らす。複雑な心中のままリンクへと視線を移すが、当の青年は彼らをどこか微笑ましそうな、それでいて物悲しそうな顔で見つめていた。

795It rains cats and dogs! ──ESCAPE ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:37:35 ID:O7ziiq2.0

「リンク?」
「……ああ、ミファー。ありがとう、もう随分良くなったよ」

 上体を起こすリンク。たしかに懸命な治療のおかげで肉体は回復したようだが、少なくともミファーの知る彼よりもずっと活力が感じられない。
 彼の優しさは誰よりも知っているつもりだ。だからこそ心苦しい。

「…………、よかった。無茶しないでね、リンク」

 リンクが失意に沈んでいる理由は四人で情報交換をする中で判明した。ミファーとしてはあまり聞きたくはなかったが、当然彼が行動を共にしていた仲間の詳細も聞かされた。
 その中の一人、雪歩という少女は自分が殺めたということも。

 後悔はしていない。
 ただ、〝可哀想〟だとは思った。
 
 言うまでもないが、リンクを生き残らせるという目的を成し遂げるためには彼以外全員の命を犠牲にしなければならない。
 殺めるのに心が痛まないわけではないが、その程度で心変わりするような軟弱な意思では英傑は務まらない。むしろその理由を知ったミファーは更なる決意を固めることとなった。
 
(俺も、マスターソードやシーカーストーンがあれば……2Bや雪歩を守れたのかな)

 当然、そんなこと夢にも思わないリンクは己の無力に歯噛みする。
 あの大振りな刀を持った男は恐ろしい強さを持っていた。万全の状態であっても自分一人では力が及ばないであろう。しかし、今よりも犠牲は抑えられたはずだ。
 ミファーとは対象的に後悔が重りとなりリンクの身体を鈍らせる。本当は今すぐにでも飛び出して殺し合いの打破の為に動かなければならないのに、立ち上がる気分になれなかった。

「無理すんなや、それにもう放送や」

 真島の指摘にハッとする。
 ダメージの回復に専念していたため頭から抜けていたが、たしかに時計を見れば第二回放送の時間が間近に迫っていた。
 放送、という単語を聞いてその場に緊張が走る。各々が己の目で死者を目にしている以上、一度目よりも〝放送〟の重要性を理解してしまったのだ。

「そうか……放送、か…………また、名前……呼ばれんのかな」
「そうやろうな。俺の見立てでは、一回目より多く呼ばれると思っとる。乗り気な奴は武器でもなんでも奪って、更に殺して回っとるやろ」
「…………」

 真島の言葉に美津雄は心底驚いた様子だったが、二人の英傑は違った。
 片や二人の少女を殺めているのだからその思考に行き着くのも当然。一方のリンクもまた真島の言葉を否定できない。
 カイムとの戦いで多くの仲間を喪ったからというのもある。だが一番は四人の情報交換の中で出た危険人物の数だ。

「まさか、こんなに多くの人間が殺し合いに乗ってるなんてな……」

 七十人の内のたった四人。
 決して広くはない行動範囲の中でもトレバー、カイム、マルティナ、ミリーナの四名が危険人物として挙げられた。
 全体で見れば倍以上はいるだろう。また、トレバー以外は名前すら知らないため生死確認もできないのが痛い。

「ま、殺し合いするような奴は同盟こそあれど徒党組むってことはないはずや。頭数ではこっちが有利なんやから、徹底的にシバいたらええ」
「……たしかに、そうだけどさ…………」
「安心しろや! なにかあってもこの吾郎ちゃんが守ったるわ!」

 調子のいい事言うな、このおっさん。
 間違っても口にできない言葉を呑み込んだ美津雄だが、不思議と頼もしさを感じていたのも事実だ。

「…………くる」

 ミファーの言葉にやや遅れ、ノイズが会場全体に響く。気だるげな男のマイクテストと共にいよいよ放送が開始された。




◾︎

796It rains cats and dogs! ──ESCAPE ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:38:38 ID:O7ziiq2.0



 放送中、誰も声をあげなかった。
 あげられなかったのだ。あまりにも、知っている名前が多すぎた。

 直接遺体を目にした2B、ソニック、雪歩、ザックスはもちろん、全員元の世界での知り合いが呼ばれた。衝撃の大小こそあれど訪れる悲しみに貴賎はない。
 重い沈黙が破られたのは放送が終わって数秒経った頃。悲痛な面持ちのリンクが第一声をあげた。

「…………ゼルダ……っ!!」


 ────ゼルダ姫。

 リンクが仕えると心に決めた主。
 間違いなくこの殺し合いにおいて真っ先に保護しなければいけなかった存在だ。
 今この瞬間、英傑の存在意義が奪われた。勇者でも英傑でも、なにものでもなくなった青年の心は衰弱を極める。
 例えこの殺し合いを生き残ったとしても、ハイリアは────それ以上の思考を吐き気が妨害し、脳が拒絶した。

「…………残った英傑は私たちと、リーバルだけなんだね……」

 物悲しげなミファーの言葉にハッとする。
 ゼルダを喪って動揺しているのは自分だけではない。遺されたミファーとリーバルだってきっと同じ気持ちだ。

 プライドが高くとも姫を想う気持ちは誰よりもあったリーバル。気が合う友人として彼女に寄り添っていた心優しいミファー。
 まだ、全て失ったわけではない。ゼルダだって自分の死に立ち止まる姿は見たくないはずだ。

「…………っ……」

 そんな綺麗事に対して、身体に力が入らない。思考と肉体が一致しない感覚に気持ちの悪い違和感を覚えた。
 その言動の矛盾こそ、彼が英傑ではなく、英傑であろうとしているだけなのだと如実に物語っている。

797It rains cats and dogs! ──ESCAPE ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:39:39 ID:O7ziiq2.0

「…………リンク、」

 リンクを気遣ってか、ミファーが彼の身体を抱き寄せる。その心地いい温かさに全てを放り出してしまいたいような気持ちに駆られるが、2B達の遺言という張り詰めた糸がそれを繋ぎ止めた。
 力なく抱き返すリンクは気が付かない。ミファーの目に母性に似た愛しさと、冷徹な色が混じることに。

(姫様が死んだのは予想外だけど、……好都合かもしれない。どのみち殺さなきゃいけなかったし、こうしてリンクの〝弱さ〟も見れたから)

 およそ英傑を名乗るにはかけ離れた思考。
 数瞬のタイムラグを越えてミファー自身もゾッとする。この十二時間で自分が自分でなくなってしまったのかもしれない。
 けれど、構わない。ハイリアの為……いや、想い人の為ならば鬼にでも悪魔にでもなってやろう。半端な覚悟で雪歩たちを殺したつもりなど毛頭ないのだから。


 ミファーの思惑に気付いてか否か、真島の視線が抱擁を交わす二人の背から天井へと移される。

(錦山も死んだんか……これで、俺の〝世界の〟知り合いは遥ちゃんだけになったわけや)

 世界の、という言い方をする理由には訳がある。
 数時間前に終えた情報交換の中で自然とここに連れてこられるまでの経緯の話になった。……美津雄はあまり過去を話したがらなかったが。
 身の上を話すにあたって言うまでもなく世界観の違いが浮き彫りになる。それだけではなく、同じ世界の住人であるミファーとリンクにも時間のズレがあることが発覚した。

 意外なことに一番場を取り仕切っていたのはリンクだった。殺し合いが始まってすぐに雪歩や2Bがまるで異なる世界の住人であることを知っていたからだろう。
 あまりに現実味のない話に全員すんなり納得したわけではなかったが、下手に理論づけるよりもずっと説明がつく。真偽はどうあれ全員ひとまず世界の違いを認識することにした。
 すなわち、そんな馬鹿げた話を実現するほどの技術力をウルノーガたちは備えていることになる。想像を絶する難題に真島吾朗という男は珍しく脳を回転させていた。

「…………な、なぁ……!」
「ん? どうしたんや美津雄」

 そんな思考を美津雄の震えた声が妨げる。
 そういえば、と。鳴上悠という名前が美津雄の口から出ていたことを思い出す。そのことなのだろうか。

「放送ってさ、死んだ人の名前が呼ばれるんだよな?」
「あ? ……なんやいきなり。当たり前やろ」

 と、そんな柄にもない心配は予想だにしない質問によって霞と化す。
 今になって何を当然のことを。ミファーとリンクも彼の真意を掴めず疑問符を浮かべていた。


「呼ばれてないんだよっ! 雪歩と一緒に殺されてたはずの〝如月千早〟が!!」


 ぴしゃり、と。水を打ったような静けさが支配する。
 誰もが頭になかった。目の前でザックスを刺された美津雄だからこそ気がついた決定的な真実との齟齬。

「なら、すぐ戻って──」
「やめときリンク。お前は動ける状態ちゃうやろ」

 いちはやく反応を示したのはリンクだったが、予想していたとばかりに真島の低声が彼を制する。
 動ける状態ではない、というのは心外だった。ミファーの治療によって行動に支障ない程度まで回復したのだ、心配される謂れはないというのがリンクの自主評価である。

「大丈夫、もう動ける。戦闘になっても足は引っ張らない」
「身体は、な。けどそんなウジウジしとったら邪魔や。はっきり割り切ってから物言えや」

 ──目を丸めたリンクは数刻、言葉を忘れた。

 真島が言わんとしていることにようやく気がつく。彼は自分が今傷心にあると見抜き、不器用な心遣いをチラつかせてくれているのだ。

798It rains cats and dogs! ──ESCAPE ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:40:25 ID:O7ziiq2.0

「見抜かれてたのか」
「当たり前やろ。放送からずーーーっとそないな調子や。ミファーちゃんじゃなくても気付くわ」

 驚いた。この真島吾朗という男、初めて出会った時からそうだったが存外に観察眼に長けている。
 この男に隠し事は無理だ、と。半ば諦観に近い感情がリンクの心のメッキを剥がしてゆく。
 皆を救わなければという、一個人が背負うには途方もない重責が自分だけに向けられたのではないということを初めて理解した。

「私からも……リンク、戦いばかりで疲れただろうし、少し休もう?」
「そういうことや。現場には俺と美津雄が行くからゆっくりしとき」

 弱音を吐くことすら許されなかった。
 天賦の才を持ち、自分が誰よりも強いことが当然だったから。だからこそ、誰に言われるまでもなく皆の手本にならなければという生き方をしていた。
 それこそが己を凡才と自負していたゼルダが嫌悪感を抱く原因となったことになど知り得ない。羨ましい、という感情とは程遠い人生を歩んできたのだから。


「………………ありがとう」


 そんなリンクが、甘えた。
 責務ではなく己のために。

 それを果たして成長と捉えるか否か。傍らの赤い魚人は歪に微笑んだ。
 


「真島さん、はやく!」
「わかっとるって、ちょい待っときや」





◾︎

799It rains cats and dogs! ──Alert! ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:41:37 ID:O7ziiq2.0





「────認めねぇぞ」


 山岳、葉の落ちた大木に覆われた黄土の大地を殴りつける巨漢の一声は威圧にも似ている。

「と、いうと?」

 対するは木に背を預ける老人。
 枯れ枝のように細い指先はつらつらと名簿に線を引く様は年齢の衰えを感じさせない。彼を見て老いぼれという印象を抱く愚か者はいないだろう。

「あのクラウドが……ティファが死ぬなんてありえねぇ! この放送は出鱈目だぜ、そうに決まってる!」
「やれやれ、まさか本気で言っているわけではないだろうな。運営側が虚偽の名前を並べる理由などない」
「そうじゃねぇ、あいつらがそう簡単に死ぬかよってことだ!!」

 激昂するバレットに対してオセロットは冷酷だった。
 無論バレットに言われるまでもなくクラウドとティファが実力者であることは知っている。もしも同盟を組んでいたら大きな戦力となっていただろう。
 しかし、そんな猛者であろうと一片の慈悲もなく命を落とすのがこのデスゲームの真髄。生存に必要なのは実力ではない、戦略だ。勇敢な兵士と臆病な通信兵では後者の方が生存率は高い。

「なら問おう。その二人は闇討ちで頭を撃たれようが、未知の力を使われようが絶対に死なないという確信があるのか?」
「……ッ、…………!」

 バレットだってわかっている。

 クラウドやティファは強い。例え単騎であっても並のモンスターや下手人に遅れをとるなど有り得ないと断言出来る。一番近くで彼らの強さを見てきたのだから誰よりもそれを理解しているつもりだ。
 だからこそ、憎い。彼らが殺される姿を想像してしまう自分が憎くてたまらない。
 クラウドとティファの死を受け入れてしまったら、長い冒険で得た彼らへの信頼がこんなクソッタレなゲームに上書きされてしまいそうで、バレットにはそれが耐えられなかった。

 言葉で否定しなければ、と。
 それは一種の防衛本能に近い。

「受け入れろ、バレット・ウォーレス。君だってこの瞬間まで生き延びてこられたのは危うい綱を渡ってきたからだ。これはただ強者が堂々と闊歩して生き残れるようなワンサイドゲームではない」

 しかし老獪な山猫はそれを許さない。
 彼の言うことは付け入る隙もない正論だ。バレットだってアリオーシュとの戦いで身を持って死を覚悟した経験がある。
 もしもあの場にオセロットがいなければ第一回放送で名前を並べられていたはずだ。

800It rains cats and dogs! ──Alert! ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:42:06 ID:O7ziiq2.0



「…………だよ」



 けれど、バレットは退かない。



「なに?」
「理屈じゃねぇんだよッ!!」

 バレットの左手がオセロットの襟を掴む。
 なにが琴線に触れたのか心底理解出来ないとばかりに首を傾げる老人へ、はなから理解されるつもりもないバレットは独り言を続けた。

「てめぇは誰が死んでも澄ました顔してられるかもしれねぇけどな、俺は違うんだよ!! クラウドも、ティファも……ああそうだ、大事な仲間だ!! 顔も知らねぇクソ野郎からあいつらは死にましたなんて言われて納得できるわけねぇだろうがッ!!」

 記憶が溢れ返る。
 クラウドとの出会いは随分と前だった。ティファの方がもっと付き合いは長いが、よぎる思い出の量に相違はない。

「俺がこうやって生き残ってんのによ……俺より強くて、俺より頭がいいあいつらは早々にくたばったってのか!?」

 いけ好かない、というのが第一印象だった。報酬という繋がりが切れれば二度と出会うことはない人種──のはずだったのに。気がつけば惜しげもなく〝仲間〟と呼べる間柄になっていた。
 大きなきっかけとしては神羅ビルへの侵入の時かもしれない。エアリスを助けようとする彼の姿は、とても損得勘定に囚われた汚い人間とは思えなくて。柄にもなくカッコイイと思ってしまった。


 そんなクラウドが、死んだ?


 緊張感の欠片もない男の声で、まるで有象無象の一部かのように名前を読み上げられて。自分の知らぬ場所で死を遂げたことを突きつけられた。
 そんなふざけたことを受け入れられるほどバレットは現実主義者(リアリスト)ではない。

「誰がなんと言おうが……認めねぇ……! この世の全員が死んだって言ったって、俺だけは認めねぇ……!」

 オセロットを掴む手に力自慢の面影はない。
 CQCを使うまでもなく、老いた腕で解けるほどに。けれど代わりに携えた眼光は歴戦の老兵をも押し黙らせる迫力を持っていた。
 もはやこれ以上言ったところで無駄だ、と。いちはやく匙を投げたオセロットは地図へと目を移す。傍らの切り株を机代わりにして禁止エリアにバツ印を刻んだ。

801It rains cats and dogs! ──Alert! ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:42:46 ID:O7ziiq2.0

「バレット、君がクラウドたちの死を認めないのは勝手だ。だが生憎、私はその可能性を視野に入れて考察を進めさせてもらうつもりだよ。異論は?」
「……ケッ。安心しろ、押し付けるつもりはねぇからよ」
「そうか、ならば改めて問おう。仮にクラウドを殺せる人物がいるとしたら、どんな存在だと思う?」

 胸糞の悪い質問だ。そう切り捨ててやっても良かったが、喉元まで出かかっていた激昂を飲み込み思考に意識を巡らせる。
 いい加減この男とも付き合いが長い。自分が今試されているのだということくらいは理解できた。ここで一蹴するのは簡単だが、その場合自ら回答を諦めることになる。それはバレットのプライドが許さない。

「…………無力を装って殺して回る卑怯なやつ、か? 同盟を組んで戦略を立ててるやつとかもいるかもしれねぇ」
「ああ、いい加減優勝を目指している連中も気がついている頃だろう。我々がそうであるように対主催を志す者は徒党を組み始めている。そんな状況で正面から殺して回るなどあまりにも非現実的だ」
「はっ、漁夫の利ってやつか。腐ったやつもいるもんだ」

 鈍く煌めくピースメーカーを右手で弄びながら、オセロットは鼻で笑う。どうやらこれで終わりではないらしい。
 妙な居心地の悪さにバレットは後頭部を掻き、鋭い睥睨を食らわせた。

「何か言いたげだな」
「いや、なに。バレット、君は都合の悪いことを無意識に考えないようにしているのだな……と、思っただけだ」
「あぁ!?」

 安い挑発に巨漢の足が一歩踏み込む。巻き上がる砂埃が彼のブーツを汚した。

「まるで真っ向からクラウドがやられるはずがないと、そう思い込むようにしているんじゃないか?」
「…………、……セフィロスか」

 一見すると会話が成り立っていないように見えるだろうが、その名を知っている者からすれば腑に落ちるはずだ。
 御明答、と返すオセロット。ジョーカーという立場は関係無しにセフィロスの強大さ、そして因縁の深さは他ならぬバレットの口から聞かされていた。

「君の知るセフィロスは徒党を組んだり、わざわざ背後を狙うような真似をするか?」
「いいや、ありえねぇ。ましてやクラウドが相手ってなったら邪魔者は許さねぇっていうイカレ野郎だ。…………オセロットてめぇ、クラウドがセフィロスに負けたって言いてぇのか?」
「可能性はあるだろうな。話を聞く限りセフィロスは参加者の中でも特別強大な存在らしい。それこそ〝主催者〟たちも監視の目を光らせるくらいには、な」

 老人が銃を仕舞う。リボルバーの名を外し、〝アダムスカ〟の片鱗を見せる。
 途端に雰囲気が変わったのが肌でわかる。バレットも考え無しではない、これから始まるのが話し合いではなく有益な情報整理だということは察しがついた。

「勿体ぶるなよ。なんか考えついてるんだろ?」

 だからバレットは急かした。
 下手に黙っていればまた面倒なクイズか始まるだろう。一々付き合っていたら疲れる。主に精神的に。

「わかってきたな、バレット君。そのセフィロスだがな、私が思うに北にいる可能性が高い」
「はぁ? なんでんなこと……まさか、」

 主催から情報が送られてきているのか、そう言いかけて盗聴を危惧し口ごもる。オセロットもそれが分かっているのか緩やかに首を振った。
 改めて考えてみれば、情報が送られているにしては不透明な言い方だ。となると重要なのはあくまで推察であるということ。そしてタイミング的に、それに至った要因は考えるまでもない。

802It rains cats and dogs! ──Alert! ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:43:20 ID:O7ziiq2.0

「…………放送か?」
「正解だ。これを見てみろ」

 と、オセロットが切り株を指す。正確には、そこに広げられた地図を。
 
「地図か? 電子マップでもねぇんだから放送で情報なんて更新されねぇだろ」
「考えが古いな。いや、新しいと言うべきか。ひとつあるだろう、紙の地図であろうと放送に改められた形跡が」
「な、……もしかして禁止エリアか!?」

 導かれるままに答えを言い当てたが、それに至る理由がわからない。数式がわからないまま回答だけ渡されたような気分だ。

「これを見てみろ、バレット」

 オセロットは新たに禁止エリアのバツ印の下に時刻を書き記してゆく。放送をされた時点でその場所には立ち入らないようにするというのが定石ゆえに、禁止時刻をまじまじと見るのは新鮮だった。



  7:00 F-1
  9:00 C-1
  11:00 C-5
  13:00 A-3
  15:00 F-6
  17:00 A-6


「なにか気づいたことは?」
「……わかんねぇよ、本当に時間が関係あんのか?」
「大ありだ。まず第一回放送で選出された禁止エリアを見てみろ」

 促されるままに時刻と場所を照らし合わせる。それでもなおピンと来ないバレットはうーんと唸り、見かねたオセロットが指示棒代わりのペンをエリアにあてがいながら説明を続けた。

「F-1は灯台のある海岸。ここは立て篭るのを嫌った狙いだろう。C-1はここを立ち入らせないことで移動の際にNの城を経由させる目的だろうか。だが……C-5は? 展望台が用意された高所、それも面積が広い場所など殺し合いを進めるならば有用な場所となるはずだ。運営がそれを切り捨てるメリットは薄い。」
「……言われてみりゃ、そうだな」
「マナが禁止エリアで死ぬことを嫌っていたような発言をしていた以上、それならばC-6を選んだ方が自然だろう。では次に第二回放送に読み上げられた場所を見てみよう」



  13:00 A-3
  15:00 F-6
  17:00 A-6



「……移動の妨げにならねぇ程度に立ち入り場所を減らしてる感じだな。そんなおかしいとこあるか?」
「ああ、前二つは自然だが……十七時に禁止となるA-6、これは少し大胆だと思わないか?」
「展望台と同じ理由か? でもよ、C-5と違って端っこじゃねぇか。単に全体を狭めてるだけじゃねぇのか?」

 いつ息継ぎをしているのか不思議になるくらい流暢だったオセロットがここで初めて沈黙をする。それも一秒にも満たない時間であったが。

803It rains cats and dogs! ──Alert! ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:44:03 ID:O7ziiq2.0

「君にしてはいい指摘だ。七十点といったところかな」
「無駄なお喋りしてると叩き潰すぞ」
「失礼。……その考えは私も勿論至ったがね、少し気になった点がある。C-5との間隔が近すぎると思わないか?」

 言われてバレットは改めて地図を見やる。
 確かにここだけバツ印が集中していた。それもどちらも施設があるエリアで、放送から五時間後という共通点がある。
 まさか、と。バレットが思い至った考察と同じ内容が別の人物によって口にされることとなった。

「私が思うに、C-5とA-6は我々ではなくある特定の人物に対して定められた禁止エリアだと思っている」
「……それが、セフィロスだってのか?」
「ああ。運営が一目置く実力を持った彼が移動に積極的でないとしたら、奴らもなりふり構わず動かさなければなるまい。さしずめチェスの盤面といったところか」

 何が面白いのか、くつくつと笑う老人を驚きと畏怖の混じった目で睨む。今の情報でそこまで至ったとしたら、切れ者を通り越して恐ろしい。
 何が一番恐ろしいかというと、今の考察に〝ジョーカーの立場〟が関与していないことだ。仮にこの男に主催の息がかかっていなかったとしても自力でこの結論を見出していたかもしれない。

「ってなると、セフィロスはC-5からA-6に移動した……ってことか?」
「セフィロスかどうかは断定出来ないが、どちらにせよ強力なマーダーが移動した可能性は高いだろう。東の橋を渡って来た以上、次の目的地は北西だろうか」

 無論これは考察に過ぎない。確実性など皆無、今自慢げに語ったオセロットの話がまったくの見当違いの可能性だってある。
 だが不思議とバレットは確信に似た感情を持っていた。オセロットの振る舞いに説得力があるから、というのは置いておき──今のバレットにとってはそれが真実であって欲しかったからだ。

「なら早速セフィロスを潰しに行くぞ! これ以上放っといたらいよいよ皆殺しだ!!」
「正気か? 戦力の整っていない今、そんな怪物の元に向かうなど自殺行為だぞ」
「うるせぇ! そんなちんたらやってたら、みんな殺されるだろうが!!」

 バレットは冷静ではなかった。
 いくらクラウドたちの死を信じないといっても、セフィロスを放っておいた場合の危険性は想像に易い。
 すでに十二時間で三十人の名前が読み上げられている。見えないタイムリミットは確実に迫ってきているのだ。その事実がバレットを焦らせる。

「ならば尚更、我々は対策を立てるべきだ」

 だからこそ、バレットは理解が遅れた。
 気がつけば自分の身体が背負い投げの要領で地面に叩きつけられており、オセロットの顔を見上げていた。その屈辱的な事実に。

804It rains cats and dogs! ──Alert! ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:44:37 ID:O7ziiq2.0

「て、め……っ!」
「動かない方がいい。左腕まで折られてはいよいよ戦えないだろう」

 傍から見れば不思議な光景だろう。老人が巨漢を投げ飛ばすなど、フィクションの世界でしか見たことがない者が多数だ。
 無論、近接戦でバレットがオセロットに遅れを取るなど普段ならば考えられない。しかし戦場での勝率など、ただの身体能力だけで左右されるような単純なものではないのだ。
 今、バレットを鈍らせているものは動揺と焦燥だ。こんな状態でセフィロスに挑もうなど夢物語であると突きつけられた男は数瞬目を閉じ、また開く。

「もういい、冷静になったぜ」

 言葉を受けてオセロットが拘束を解除する。
 立ち上がったバレットは身体に付着した汚れを払い落とし────オセロットの左頬を殴り抜いた。
 予想だにしない反撃に山猫は強制的に視界を揺さぶられる。数歩あとずさる彼の姿を見て初めて人間らしい仕草を見れたな、なんてズレた感想を抱きながらバレットは鼻を鳴らした。

「これでおあいこだ」
「…………やれやれ、老人を労わる心がないのか?」

 こきり、と首を鳴らすオセロットの苦言を完全に聴覚からシャットアウトする。
 ともあれ当分の目的は定まった。戦力強化を狙うなら尚更カームの街を中心に探索をした方がいい。
 方針を定めた銃弾の後を拳銃が追った。





◾︎

805It rains cats and dogs! ──Alert! ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:45:13 ID:O7ziiq2.0




 D-2の山岳地帯。人工的な市街地とは裏腹に緑が多く川のせせらぎが美しさに拍車をかける。葉を通じて差し込む陽の光が心地いい。
 状況さえ違えば景色に目を奪われていたであろうが、生憎とそんな余裕は二人にはなかった。

「…………やっぱ、ダメやったか」

 遠目でもわかる。わかってしまう。
 二人の少女が折り重なって倒れている姿はつい数時間前にも見た光景から変わっていない。
 近づくに連れて鮮明になる悲惨さに美津雄は吐き気を覚える。二人の顔はザックスが見せた穏やかなものとはまるで違う、自分の死を受け入れているとはとても言い難い驚愕に染まっていた。

「う…………っ!」

 それだけであれば美津雄も耐えられたかもしれない。が、屍肉を啄むカラスの群れがより一層〝死後〟の無情さを突きつける。
 綺麗だった肌は点々と貪られた痕を残し、青白く変色している為出来の悪いマネキン人形のようだった。


「────退けやッ!!」
 

 真島の一喝にカラスの群れが一世に飛び立つ。
 目隠しが外れたことにより遺体がよりハッキリと目に飛び込んできた。雪歩も千早も、もう二度と動くことはないのだということは美津雄から見ても明らかだ。

「千早も、死んでるよな……でもなんで放送で呼ばれなかったんだ……? 本当はさっきまで生きてた、とか……」
「ちゃうな。身体ももう冷えきっとる、これは仕事最低でも二時間以上は経過しとるやろうな」
「じゃあなんで……!」

 屈みこみ、銀髪の少女の手首に触れる真島。背後から投げられる美津雄の震え声に淡々と返しながらも思考を巡らせる。
 ひょうきんに映る彼とて極道の道は長い。混乱する美津雄を差し置いてひとつの結論に至った。

806It rains cats and dogs! ──Alert! ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:45:46 ID:O7ziiq2.0

「痕跡残さんために偽名を使う、ってのは俺の世界でもよくある話や。この嬢ちゃんもせやったんちゃうか?」
「な……!? じゃ、じゃあ如月千早ってやつは別にいるのかよ!?」
「十中八九そうやろなぁ。こんな状況なのに頭回るで」
「感心してる場合かよ!」
 
 偽名。美津雄としては考えもしなかった行動だが確かにそれならば納得がいく。もしもザックスの時のように仕留め損なったとしても、あくまで如月千早が危険人物であるという噂しか広められないのだ。
 この少女の本名が明かされない限りは〝如月千早〟に罪を擦り付けられる。となれば、混乱は避けられないだろう。潜伏して殺し回る人間にとっては好都合なはずだ。


 問題は、



「なんでそないな嬢ちゃんが、雪歩ちゃんと一緒に殺されとるか……これが謎や」
「あ…………」

 そう、千早と名乗った少女は殺されている。
 本来であればここに並ぶ死体は雪歩のもの一つであったはずなのだ。しかし現場では二人が折り重なって死んでいる。

「千早……ま、仮でそう呼ぶか。千早の損傷から見ても相打ちとは考えられん。となると、この状況を作り出した第三者がいたっちゅうわけや」
「そ、それって……まだ近くにいるんじゃ…………!?」
「かもしれん。用心するに越したことはないな」

 立ち上がりながら真島が周囲を見渡す。今のところ人の気配は感じられないが、これをしでかした人間はそう遠くにはいないだろう。
 不安げな美津雄の肩をぽんと叩き、改めて二人の遺体と向き合う。哀愁とも感じられる表情は、普段の狂犬らしさが嘘のように鳴りを潜めていた。

「二人とも、こんな状況やなかったら元の世界で平和に暮らしとったかもしれん。……雪歩ちゃんは勿論、千早やって被害者や」
「…………!」

 その言葉は、心臓に矢を受けたかのような衝撃を美津雄に与えた。
 
「人を殺したくて殺す奴なんかほとんどおらん。特にこの殺し合いにおいてはな。自分の家に帰りたい、死にたくない。そんな強迫観念が人を殺すんや」

 独りでに語る真島は何を思うのか。
 一回り以上人生経験の差がある美津雄には到底推し量れない。が、その言葉は美津雄の頭を何度も何度も反響する。

(オレは……オレは、…………人を殺したくて、殺したんだ…………)

 ザックスにも、誰にも打ち明けたことがない美津雄の罪。特別な存在になりたいからと、そんな理由で諸岡という教師を殺してしまった過去。
 当初はそれを栄光と考えていたが、時が経つにつれて恐怖が支配していったのを覚えている。

807It rains cats and dogs! ──Alert! ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:46:20 ID:O7ziiq2.0

 命の尊さを知らぬ子供の好奇心の果ては、果たして千早を責められるものなのか?
 ザックスを刺した際に涙を浮かべ逃げ去った如月千早は、かつての自分と同じく私怨で人を殺そうとしたのか?

 きっと、違う。

 真島の言うように、如月千早はそうするしかなかったから手を染めたのだと思う。美津雄はここにきて初めてこの殺し合いが残忍さを──そして、己の醜さを強く認識した。

「ちゃんと弔ってあげたいんやけどな、もう行かなあかん。堪忍やで、雪歩ちゃん。それと……お嬢ちゃん」

 合掌し、数秒黙祷を捧げる真島に倣って美津雄も目を閉じる。せめてその魂が迷わずに逝けるように。

「なぁ、真島さん」
「あん?」
「あの子、さ。誰にも名前を知られないまま、死んじまったんだよな」

 黙祷を終え、リンク達の待つ市街地へ戻ろうとした際に美津雄が俯いたまま洩らす。

「そんなの、悲しいだろ」

 今度は真島が驚かされる番だった。
 名前を知られないまま死ぬ。それがどんなに酷なことなのか、感性がズレた真島にとっては確かに考えつかない。裏社会においては称号や偽名しか知らぬまま死ぬ者など数多におり、特段珍しくもなかった。
 けれど、そんな人間にも過去があったはずだ。そうならざるを得なかった過去が。当たり前のことを思い出させてくれた美津雄へ、真島は柄にもなく感謝を覚えた。

「せやな、名前っちゅうんはその人の存在証明や」
「だったらさ、オレたちで見つけよう。あの子の本当の名前を」
「はっ、いい目しとるやないか。……夢、見つかったみたいやな」

 美津雄の目はかつての色褪せたものとはまるで違う。決意に満ちたものだった。
 ザックスの言っていた夢とは、彼の〝英雄になりたい〟といったような大きくて眩しいものだと思い込んでいた。けれど、きっと違う。夢に大きさなど関係ない。

808It rains cats and dogs! ──Alert! ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:46:48 ID:O7ziiq2.0


 夢とは、生きる意味だから。
 それがたとえどんなに些細なものでも、立派な夢なんだ。
 彼は言った。夢を持てば世界が楽しく見える、と。楽しく……というのはまだ難しいかもしれないけれど、なぜ自分が生き残ってしまったのかなんてもう思わなくなった。不思議と心のモヤが晴れたような気がする。



 この少女の名前を知る。
 それが、久保美津雄の夢だ。

 誰にも文句は言わせないし、誰にも笑わせない。夢追い人が遺した光は微かに、しかし確かに輝いている。



(────そうだよな? ザックス)



 答えは返ってこない。
 けれどこの胸に広がる熱い想いが、美津雄の背中を押した。





◆   ◆   ◆

809It rains cats and dogs! ── ENCOUNTER ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:47:40 ID:O7ziiq2.0






 「あ」
 「ん?」


 美津雄と真島はリンクたちの元へ帰るため山岳地帯から市街地へ出る。それと同タイミング、バレットとオセロットはカームの街へ向かうため舗装された道を歩いていた。
 意図せず向かい合うこととなった二組。真島とオセロットが己の得物を取り出すのは同時だった。

「物騒やなぁ、そないなもん仕舞いや」
「それはこちらの台詞だ。お前がそのナイフを下ろせば考えてやろう」

 睨み合う山猫と狂犬。
 漂う緊張感に当てられて美津雄は動けない。オセロットの傍らに立つバレットは動けないというよりも、真島と美津雄を値踏みしているようだった。

「おい、オセロット。警戒すんのは分かるけどよ、こいつらが乗ってるとは思えねぇ」
「何を根拠にそう思う?」
「あの眼帯男は置いといて、傍のガキは無力だろ。そんなやつ連れてる理由なんざ殺人野郎にはねぇはずだ」
「無害を装う狡猾な者もいると言ったはずだが? もう忘れたのか、バレット」

 バレットの言うことも一理ある。
 しかし、オセロットにとって状況が悪い。先程トウヤに一杯食わされている上、真島のドスを抜く速度は己の早撃ちにも匹敵していた。
 銃を向けただけで有利を取れればバレットの言う通り交渉をしただろうが、状況は対等のまま。選べる立場ではない。

「お、そっちのでかい兄ちゃんは分かっとるな。その口ぶりからして、お前らもこのゲームぶっ壊そうとしとるんやろ?」
「ああ! おいオセロット、銃を下ろせよ。そんなビビらなくても俺が話を聞いてやるから安心しろ」
「勝手に話を進めるな」

 外野の声を遮断し、オセロットは銃口を真っ直ぐに真島へ向ける。隣の美津雄は不安そうにしていながらも、対主催を声に上げるバレットのおかげで敵意は出していない。
 しかし、真島吾朗は違う。剽軽な態度とは裏腹に刺すような敵意が滲んでいた。なにか隠し玉でもあるような雰囲気だ。

810It rains cats and dogs! ── ENCOUNTER ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:48:36 ID:O7ziiq2.0

「な、なぁ……! 真島さん、武器下ろそうぜ……あいつら、敵じゃないみたいだしさ」
「ああ、そうだ敵じゃねぇ! おいオセロット、お前も下ろせ。このままじゃ埒あかねぇぜ」

 同行者の声に反して狂犬と山猫は動かない。
 そのまま十秒、二十秒と経過し──先に音を上げたのは真島吾朗だった。

「わかったわかった、ったくしゃあないの〜……これでええんやろ?」

 頭の高さまで両腕を上げ、右手に握っていたドスを手放した。銀色の円を描きながら落下する刃物にオセロットは視線をやり、拳銃の照準を地に向ける。
 しかし次の瞬間、オセロットにとって大きな誤算が訪れた。



 ────武装解除はまだ〝完全〟ではない。



「ヒィィヤッ!!」


 今まさに鬼炎のドスが地に落ちようかという瞬間、真島の蹴りがドスの柄を打ち抜く。弾丸の如く飛来する鋒がオセロットへ向かった。
 常人離れした反撃はどんなに戦い慣れした戦士であろうと意表を突けるだろう。銃に絶対的な信頼を持つ人間ならば抵抗さえ叶わず串刺しだ。

 しかし、〝リボルバー〟の名を冠するオセロットに限ってそれはない。
 銃は武器ではない、手足だ。寸分の狂いもなく短刀を撃ち抜き、続いて真島に照準を合わせる。
 と、オセロットの視線のやや下。人外じみた速度で真島が懐の寸前まで潜り込んでいた。銃撃には不向きな至近距離であるが、オセロットの照準は狂犬の額に向けられている。

811It rains cats and dogs! ── ENCOUNTER ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:49:12 ID:O7ziiq2.0

 「シッ!」

 銃声が響くよりも先に真島の掌底がオセロットの右腕を打ち上げる。反撃の左フックを真島は右腕でいなし、返しのボディブローを放った。
 だがオセロットはその腕を掴み、地へと投げる。背中から地面へ叩きつけられ無防備となった真島へ追撃をしかけたところで、狂犬の名に相応しい不規則な蹴りがオセロットを後退させる。

 跳ね起きの要領で飛び上がる真島。その胸へとオセロットの打撃が放たれ、それを片腕で受けたことでより距離が離れる。
 腕の射程から離れた以上両者の行動は必然的に限られる。真島は後ろ回し蹴りを、オセロットは上段蹴りを渾身の勢いで放った。


 ──バシィィンッ!


 空中で衝突する蹴りが見事なまでの音を鳴らす。それは一種の気付けのようで、目にも止まらぬ攻防に思考が追いつかなかった美津雄はようやく我に返った。

「お、おい!! なにやってんだよ!!」

 美津雄の声が上がったと同時、いつのまにか傍らにいたバレットも全くだぜと同意する。
 バレットは二人の攻防についていけなかったから傍観していたのか? 否、違う。むしろこの中で誰よりも化け物じみた戦闘をこなしてきた。
 そんな彼だからこそ、止めなかった。助けを求めるような美津雄の視線にバレットはため息を洩らし、真島とオセロットを睨む。

「てめぇら、〝茶番〟してんじゃねぇ!!」

 それは美津雄が求める制止ではなかった。
 茶番──その言葉の意味を理解するよりも早く山猫と狂犬が足を下ろす。途端に張り詰めていた緊張の糸がほぐれ、戦闘終了を肌で感じた。

812It rains cats and dogs! ── ENCOUNTER ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:49:48 ID:O7ziiq2.0

「ヘッ、合格や。騙し討ちに頼って戦い方忘れてるような腑抜けやないらしいな」
「お眼鏡にかなったようで光栄だ。こちらも、君のような〝殺し合い〟の本質を理解している人材が欲しかったところだ」

 は? と、美津雄の間の抜けた声が洩れる。
 つまるところ、二人が本気で命の奪い合いをしていたわけではないと急にネタばらしされたのだ。
 オセロットと真島が互いの得物を拾い上げ、交換する。その姿はさきほどまで戦っていた者のそれではなく、その不釣り合いな光景に美津雄は夢を疑った。

「ったく、人の事脳筋みたいに言いやがって。てめぇも十分肉体言語好きじゃねぇか」
「語弊がある言い方はやめろ。……もっとも、彼に本気で殺意があったのならば私も躊躇なく撃っていたがね」

 オセロットの言葉は見栄やはったりではない。真島が懐に潜り込んだあの時、彼の脳天を撃ち抜くことは可能だった。無論高速で動く標的の脳を撃ち抜くなど、彼以外には不可能な芸当だが。

「よう言うわ。俺かて〝とっておき〟あったんやで?」
「また始まったよ……」

 しかしそれは真島も同様。
 驚くことに、彼はほしふるうでわを使わずに常人を逸脱した速度で接近していたのだ。もしその加護を受けていたのならば、いかにオセロットといえども反応出来なかったであろう。

「さて、〝真島吾朗〟。それに〝久保美津雄〟。我々に協力してくれないか?」
「あ? なんで俺の名前────」

 と、オセロットが首輪を指差す。
 続いて唇に指をあてがう仕草を見て真島はその疑問をひとまず飲み込む。詳しくは後で話す、ということだろう。

「ま、ええわ。今のでお前らがなんの算段もなく理想語っとるわけやないってのはわかった。ほんなら、詳しく聞かせてもらうで」
「な、なんかよくわかんないけど……こういうのって自己紹介から始めた方がいいのか?」
「お前、変なとこで律儀だな……道路で立ち話ってのもなんだしよ、適当な家探そうぜ。オセロットもそれでいいだろ」

 頷くオセロット。道路で立ち止まる男四人の集団など色々と悪目立ちする。バレットの言う通り場所を移した方がいいだろう。
 四人の足並みは市街地を進む。最中、真島はふと一抹の不安を覚えた。

(ミファーちゃんのこと、一応言っとくべきか? わからんな、殺し合い乗っとるっちゅう確信もあらへんし……)

 情報交換をする中で必ず話題となるのが互いの協力者のことだろう。その際にミファーを危険視していることを明かすべきか、そんな葛藤を覚えるのも無理はない。
 あらぬ疑いだった場合は亀裂が入るであろうし、もし話したことで全員が警戒する事態になればミファーも思わぬ行動にでるかもしれない。

 情報とは凶器。
 慎重に取り扱わなければ痛い目を見る。
 同盟を組む以上、隠し事は避けた方が無難ではあるが────似合わない熟考が頭を痛めた。

813It rains cats and dogs! ── ENCOUNTER ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:51:23 ID:O7ziiq2.0









【D-2 市街地 一軒家/一日目 日中】
【リンク@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(小)、両脚に怪我、失意(大)
[装備]:民主刀@メタルギア2、デルカダールの盾@ドラクエⅪ、ブーメラン状の木の枝@現実
[道具]:基本支給品(残り食料5/6)、ナベのフタ@現実、残ったアオキノコ×2、ソニックのランダム支給品(0〜1個)、貴音のデイパック
[思考・状況]
基本行動方針:守るために戦う。
1.それでも生きる
2.カイム(名前は知らない)はどうなったんだ?

※厄災ガノンの討伐に向かう直前からの参戦です。
※ニーアオートマタ、アイマス、ペルソナ、龍が如くの世界の情報を得ました。
※美津雄の調合所セット(入門編)から薬に関する知識を得ました。
※トレバー、カイム、マルティナ、ミリーナ、如月千早を危険人物として認識しました。トレバー以外の名前は知りません。

【ミファー@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:ダメージ(中) 、右肩に銃創、体にいくつかの切り傷
[装備]: 双剣オオナズチ(長剣)@モンハンX
[道具]:基本支給品(残り食料5/6)、マカロフ(残弾2)@現実、ハンドガンの弾×24@バイオ2、ランダム支給品(確認済み、1個)
[思考・状況]
基本行動方針:リンクを優勝させる
1.不意打ちで参加者を殺して回る。
2.リーバルは早めに始末したい。
3.真島吾郎、久保美津雄に警戒

※百年前、厄災ガノンが復活した直後からの参戦です。
※治癒能力に制限が掛かっており普段よりも回復が遅いです。
※ニーアオートマタ、アイマス、ペルソナ、龍が如くの世界の情報を得ました。
※トレバー、カイム、マルティナ、ミリーナ、如月千早を危険人物として認識しました。トレバー以外の名前は知りません。
※参加者が違う世界から集められたことに気が付きました。

814It rains cats and dogs! ── ENCOUNTER ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:51:50 ID:O7ziiq2.0




【D-2 市街地(D-3付近)/一日目 日中】
【久保美津雄@ペルソナ4】
[状態]:疲労(小)、悲しみ、決意
[装備]:ウェイブショック@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品(残り食料5/6、水少量消費)、ランダム支給品(治療道具の類ではない、1〜2個)、調合書セット@モンハンX
[思考・状況]
基本行動方針: 夢を探す。
1.生きる
2.如月千早(四条貴音)の本当の名前を知りたい。

※本編逮捕直後からの参戦です。
※ペルソナは所持していませんが、発現する可能性はあります。
※ブレワイ、龍が如くの世界の情報を得ました。
※トレバー、カイム、マルティナ、ミリーナを危険人物として認識しました。トレバー以外の名前は知りません。
※参加者が違う世界から集められたことに気が付きました。

【真島吾朗@龍が如く 極】
[状態]:頭部に痛み、疲労(小)、決意
[装備]:鬼炎のドス@龍が如く、ほしふるうでわ@ドラクエⅪ
[道具]:基本支給品(残り食料5/6)
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームをぶっ壊す。
1.目の前の二人(オセロット、バレット)と情報交換する。
2.美津雄を守る
3.ミファーに警戒
4.遥を探し出し保護する。
5.桐生を探す(死体でも)。

※参戦時期は吉田バッティングセンターでの対決以前です。
※運営が盗聴していることに気付きました。
※ブレワイ、龍が如くの世界の情報を得ました。
※トレバー、カイム、マルティナ、ミリーナを危険人物として認識しました。トレバー以外の名前は知りません。
※参加者が違う世界から集められたことに気が付きました。

【バレット・ウォーレス@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:左肩にダメージ(処置済)、背中に痛み
[装備]:デスフィンガー@クロノ・トリガー、神羅安式防具@FF7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間の捜索と、状況の打破。
1.目の前の二人(真島、美津雄)と情報交換する。
2.北西の島へ向かい、対主催の仲間を集める。特にエアリスは保護したい。
3.戦力が整い次第セフィロスを倒す。それまでは北中央エリアには近づかない。
4.リボルバー・オセロット、ソリダス・スネークを警戒。
5.クラウドとティファの死を認めない。認めてやるもんか。

※ED後からの参戦です。
※ブルーハーブの粉末を飲んだことによりT-ウイルスの発症を防げました。

【リボルバー・オセロット@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:健康
[装備]:ピースメーカー@FF7(装填数×5)、ハンドガンの弾×18@バイオ2、替えのマガジン2つ@メタルギア2
[道具]:基本支給品、マテリア(あやつる)@FF7
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを破壊する。
1.目の前の二人(真島、美津雄)と情報交換する。
2.北西の島へ向かい、対主催の仲間を集める。
3.時間的な余裕はあまりない。別の手段も考えておくべきか。
4.トウヤとの再会は避けるべきか。

※リキッド・スネークの右腕による洗脳なのか、オセロットの完全な擬態なのかは不明ですが、精神面は必ずしも安定していなさそうです。
※主催者側との繋がりがあり、他の世界の情報(参加者の外見・名前・元の世界での素性)を得ています。








◾︎

815It rains cats and dogs! ── ENCOUNTER ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:52:32 ID:O7ziiq2.0






 真島と美津雄が立ち去った後の渓流。
 折り重なる二人の少女の遺体。銀髪の少女が四条貴音、栗色の髪が萩原雪歩のものだ。
 物言わぬ屍となった二人は、真島たちの黙祷を受けて安らかに逝けたのだろうか。かつて見た夢を、最期に叶えられたのだろうか。

 傍らに咲く赤い華が揺れる。
 それはまるで二人へ供えられたかのように。気休めではあるが無念な死を遂げた彼女たちはほんの少しでも救われたはずだ。







 そんな理想の押し付けは、許されない。
 死者の魂が救われるなど、生きている者が勝手に唱えたエゴなのだから。






 二度と動かないはずの萩原雪歩の遺体。
 彼女の青白く、細い指先がぴくりと動いた。
 





 ラクーンシティに蔓延したTウイルスは、なにも人間だけが感染するわけではない。レオンたちは出会わなかったが、サーカスのライオンや象などにも感染し凶暴性を遥かに増加させていたのだから。
 元はウイルスを摂取したネズミが原因となり街にばら撒かれることとなったのだから、元を辿れば当然とも言える結果だ。


 そして、それは〝カラス〟も例外ではない。
 もしもアリオーシュやウルボザのようなウイルスを取り込んでいた肉を食ったカラスが、別の死体を貪っていたら?
 ウイルスは傷口を通じて生者死者関係なく感染する。つまりは────







「────────ァ゛、」







 のろり、と。影が起き上がる。
 歯は剥き出しに。瞳孔を失った目に理性はない。
 ぐしゃりと赤い華を踏み潰す生ける死体。かつて〝トモダチ〟であったそれを見下ろして、雪歩であったものは唾液を垂らした。









【萩原雪歩@THE IDOLM@STER ゾンビ化】

816 ◆NYzTZnBoCI:2024/11/03(日) 21:52:56 ID:O7ziiq2.0
投下終了です。

817 ◆RTn9vPakQY:2024/11/08(金) 23:07:59 ID:663JxkZI0
予約を延長します。
あと第二回放送以降の感想を書きます。

・第二回放送
息子にゲームを破綻させられそうな宝条に、ちょっとだけ同情。
いきなりトップから放送を任されて、しかもエイダからそれとなくヒントを忍ばせろと指示されたアダッチーは、どんな気持ちで「彼」の名前を呼んだのか。
あまりにも一枚岩ではない主催陣営の中にあって、警戒されつつも目的を果たそうとしているエイダ、これは頼れる妖しくも仕事人の風格ですね。

・嘘つきたちの三重奏
不和のまま進む可能性もあったシェリー&オタコンを、和解に寄せた自作から繋いでもらえて嬉しいです。
『差し込む陽光、浮かぶ影』では庇えなかった。だが今は違う!オタコンの確かな成長を感じた話でした。
あとオタコンの処理速度に引いてるリーバル、ちょっと面白い。

・Exhausted on the Silent World
言葉を発せないカイムは、必然的に“そのセリフをどう発したのか”を修飾できないので(個人的には)書き手泣かせだと思っていたのですが。
なるほどこういう描き方もあるのか、と膝を打つ話でした。進むべき道を選ばせようとしてくれる赤き竜さん、とても優しい。
あと究極の生物(セフィロス)を匂わせているの、後の話に繋がる部分として効く技だと思いました。

・マリオネットの心〜英雄の証
放送を悲しむ間もなく訪れるセフィロス。それに加えて、放送を引き金に記憶を戻した機械人形と、歪んだ願いと未知の細胞に呑まれた聖女という、心が壊れそうな二人。
どうあがいても絶望だろ常識的に考えて……と思いながら読み進めていました。
>──僕は、貴方を護ります。それがナインズ(ぼく)の生きる証だから──
>「私は、高潔なるベロニカお姉様の妹────〝聖賢〟セーニャですわ!!」
アツい、アツすぎる!……それでも依然として劣勢なの、セフィロスどうすんのコイツ(褒め言葉)と思っていたら、ハンターVSセフィロス一騎打ち。
ここでタイトル『英雄の証』に。なかば着地点は察しつつも、予想以上のハンターの健闘に「なんでこんなに強いんだろうコイツ」と思っていたら。
>それは、彼が〝モンスターハンター〟だからだ。
英雄(ハンター)VS元英雄(モンスター)の構図、属性の設定、そして命を賭して目的(クエスト)を達成した英雄。
いやはやクロスオーバーものにおける理由付けが上手い、と感服しました。

残りは投下時にします。

818 ◆NYzTZnBoCI:2024/11/13(水) 10:09:14 ID:3FVitGVM0
感想ありがとうございます!
投下も楽しみにしてますね

ゲーチス、イレブン、ベル、トウヤ、マルティナ、ミリーナ、エアリスで予約します。

819 ◆NYzTZnBoCI:2024/11/15(金) 01:10:19 ID:loTqPFcg0
急用によりしばらく執筆が出来なくなりそうなので事前に予約を延長しておきます。

820 ◆RTn9vPakQY:2024/11/16(土) 14:05:50 ID:Q3fr2Uds0
感想の続きを投下します。

・かつ消え、かつ結びて
同作キャラの決戦〜決着を、巨大な感情も込みで描いているというだけで、もう絵になるのは前提として。
チャップ(シャンデラ)の技をバリアチェンジしたり、熱伝導/通電を絡めて盾の防御を突破したり、といった魔王の取る手がどれも技巧的で、それが戦闘の緊迫感を高めていたと思います。
そしてオトモ。回想シーンで「人の話を聞かないタイプ」を回収しつつ、ニンゲンへの憎しみを思い出させて、ニンゲンのクロノを災厄と置いて対峙させるまでの運びがとても丁寧。
とても勝てるとは思えないカードながら、何か起きそうな引きで楽しみです。

・It rains cats and dogs!
鬼炎のドスを交渉で得ようとする真島さん、それを渋るミファー、そして仲介するリンクまで脳内再生余裕でした。
さらに真島さん、リンクと久保のケアをしつつ、オセロットの茶番にまで対応してみせるあたり、修羅場を潜り抜けてきた極道の凄みを感じました。
狂犬VS山猫の丁々発止、短いながらとても好きです。



大変遅くなりましたが投下します。

821Lacquer Head ◆RTn9vPakQY:2024/11/16(土) 14:13:15 ID:Q3fr2Uds0
『トレバー・フィリップスはどのような人間か?』

 こう尋ねられたとき、彼を知る大半の人間は「イカレてる」と答える。
 たとえ彼のパーソナリティを知らなくとも、普段の行動を見れば一目瞭然だ。
 赤の他人のカメラに写ろうとする。泥酔してブリーフ一丁で寝転ぶ。時間と場所を問わずトリップする。
 悪人・奇人の蔓延るサンアンドレアスにおいてさえ、その行動は常軌を逸しているだろう。

 そんなトレバーは今、上機嫌にヘリコプターを操縦していた。

「アテンションプリーズ!お客様を快適な空の旅へご招待だ」

 気ままな鼻歌まじりに操縦桿を握るトレバー。
 そしてヘリの副操縦席には、赤い帽子の少年がいる。
 少年はヘッドセットに慣れておらず、落ち着いていない様子だ。

「乗り心地はどうだ、アミーゴ」
「なあ、これシートベルトとかないのか?」
「悪いが中国製らしい。どうしても縛られたいなら、後でSMバーを探してやるから我慢しろ」
「いや縛られたいわけじゃないって!」

 いったい、どうしてこんな状況になったのか?
 その説明のためには、二回目の放送まで時間をさかのぼる必要がある。



 トレバーは山小屋からイシの村まで、憤懣やるかたない様子で歩いていた。
 マジマを殺し損ねた。ドラゴンを狩り損ねた。名も知らぬ少年少女を殺し損ねた。
 好き勝手に暴れてやると決めたのにこの体たらく。おまけにガソリンを吸入したせいで生酔い状態ときた。
 およそ解消しきれない欲求不満を胸に、それでも落ち着ける場所を求めて北上していた。

『みんなお疲れ、色々と頑張ってるみたいだねぇ』

 そんなタイミングで流れてきた放送に、トレバーは耳を傾けた。
 死者の人数や禁止エリアを伝え終えた放送の声が、続けざまに煽るような口調で語りかけてくるのに、トレバーは精神を逆撫でされた。

『あのさ、君たち沢山怒ったり悲しんだりしてるけど……それって疲れない?』
『こういう時こそリラックスしなよ。気を張ってても死ぬ時は死ぬんだからさぁ、頭に血上らせて死に急ぐとか馬鹿らしくない?』

「うだうだ喋るなよ、このタマなし野郎!
 マスかきてえなら手伝ってやるから、俺の前に来やがれ!」

 トレバーは苛立ちに任せて、天に向かって唾を吐く。
 もし声の主が目の前にいたなら、その襟首を掴んで殴り倒していただろう。

『そうだね、〝本でも読んで〟落ち着きなよ。結構名案じゃない?』

「ハッ、よくよく聖書に従いたまえってか?
 さしずめ俺たちは哀れな子羊。クソくらえだ!」

『それじゃ、これで第二回放送を終わるよ。引き続き頑張ってね』

「ああ、優勝してテメエらを去勢してやるよ!」

 放送を聞き終えても、悪態は止まらない。
 トレバーは愚痴を垂れながら、村までの道をずんずん歩いた。
 この島に来てパワードスーツやドラゴンに興奮したのは事実だが、己を突き動かす最大の燃料はやはり怒りだ。
 あるいは、衝動的な憤怒を抑えきれない性(サガ)と言い換えるべきか。
 いずれにせよ今のトレバーは、主催者への怒りを募らせ始めていた。

「安全な部屋で見てるんだろ?この悪趣味なショーをよ!」

 トレバーとて何も無謀なだけではない。
 ようやくではあるが、移動中に名簿と地図を確認していた。
 その結果は、トレバーにしてみれば良くも悪くも両面性のあるものだ。
 マイケルやフランクリン、そしてレスターをはじめとする、共に歴史に残る大強盗を成し遂げたメンバーはおろか、ロンやウェイドといった個人的な知人すら一人として呼ばれていない。
 これを親しい仲間のいない状態と取るか、自由奔放に振る舞える状態と取るかはトレバー次第。

「どうせここに相棒はいねぇんだ。心置きなく暴れてやるさ!」

 トレバーは暴れるための物資を求めて、イシの村へと足を踏み入れた。



822Lacquer Head ◆RTn9vPakQY:2024/11/16(土) 14:15:00 ID:Q3fr2Uds0
「ウソだろ、もう三十人も死んだ、のか?」

 レッドは走るオーダイルの背中で、放送を聞き終えて呆然とした。
 ゼルダやベロニカの名前が呼ばれることは覚悟していたが、ダルケルを含めて実際に呼ばれた名前は予想以上の数。
 この島に来てすぐ、レッドの心中で警鐘を鳴らしていた不安心は、ここに来て真実味を帯びていた。
 つまり、自分のために他人を殺す参加者が、何人もいるという残酷な現実。

「それなのに俺は……」

 レッドは一回目の放送から今までのことを振り返る。
 一回目の放送の際には、何よりも名簿を確認することに追われていた。
 そこに知り合いの名前は書いておらず、レッドはホッと胸をなでおろした。
 そして、仲間を喪い気落ちしたダルケルと話していたところ、森の方角から来るゼルダを発見。
 彼女のキリキザンを治療するために、Nの城へ向かう道中で、あの事件が起きた。

「もっと早く行動していたら!」

 レッドの口から出たのは、自らに対する悔恨の言葉。
 もっと早く危機意識を強めていたら、ダルケルの単独行動に懸念を示せたかもしれない。
 ゼルダの眼に感じた、目的の為なら何でもする意志に、警戒を向けられたかもしれない。
 警戒心を持てば人質に取られず、ベロニカの死亡という最悪は避けられたかもしれない。
 あるいは、あるいは、あるいは――

「オダオォダ?」

 オーダイルから声をかけられて、レッドはハッと顔を上げた。
 現在レッドのいた地点は、橋を越えたところにある岐路だった。
 立札によると、右の道はイシの村、左の道はNの城の方向へ、それぞれ繋がっている。
 ネガティブな思考に囚われて、いつの間にか橋を渡り終えていた自分にレッドは驚いた。
 レッドはオーダイルに背中から降ろされて、ふたたび力強い声をかけられた。

「オダ、オダオダ!」

 まだ出会ったばかりなのに、オーダイルの伝えたいことは自ずと理解できた。

「オーダイル……俺を、元気づけてくれてるのか?」
「オーダ!」

 風圧を感じるほど頷くオーダイルを見て、レッドは思わず口の端に笑みを浮かべていた。
 お互いのことを良く知らないのはオーダイルも同じなのに、自分の暗い様子を察して元気づけてくれるとは。
 いいポケモンに出会えたと、レッドは冷えた心が温まるのを感じた。

「ありがとな、オーダイル……へへ、俺こればかり言ってるや」
「オダオダ」

 気にするなと言わんばかりに肩をすくめるオーダイル。
 その剽軽(ひょうきん)な態度を見て、レッドは前向きな心を取り戻す。

「そうだ。今はとにかくNの城!」

 ボールの内部で傷ついて寝ているピカのことを思えば、寄り道していられない。
 そうして急ぎ岐路を左方向に進もうとして、とあることに気づいた。

「この音……!?」

 おもむろにイシの村の方角から聞こえてきた轟音。
 空中に浮遊するそれを見て、レッドとオーダイルはあんぐりと口を開けた。



 イシの村の奥には、布に隠されたヘリコプターが鎮座していた。
 AS332と呼ばれるU.B.C.S.(アンブレラ社バイオハザード対策部隊)所属の航空機。
 アメリカ軍をはじめとして数多くの国で運用されている、汎用型のヘリコプターである。
 機銃やミサイルなどの兵装は搭載されていないとはいえ、機動力として考えると非常に優秀だ。

 トレバーより前にここを訪れていた魔王たちが気づかないのは当然である。
 魔王たちは各自で料理や休憩、見張りなどしており、村全域を探索する余裕はなかった。
 また、休憩後は日没にまた戻ると決めて行動を開始したこともあり、村自体の探索は後回しにしたのだ。
 あるいは暮らしていたイレブンなら普段との差異に気づけた可能性はあるが、空を飛ぶ機械があるとは思いもしなかったろう。

 つまり先入観のないトレバーだからこそ、ヘリコプターを発見できたと言える。
 トレバーはすぐさま内部へ。銃火器は無いが、ガンパウダーは積み込まれていた。
 空軍時代に培われた経験でスムーズに航空計器を確認すると、ヘッドセットを付けて操縦桿を握る。

823Lacquer Head ◆RTn9vPakQY:2024/11/16(土) 14:20:00 ID:Q3fr2Uds0
 現時点におけるトレバーの最大の目的は、参加者との接触。
 一回目の放送で提示された禁止エリアを聞きだして、かつ支給品を強奪する。
 いずれマジマやドラゴン、それに放送のタマなし野郎をブチ殺すためには必要なことだ。

「このトレバー・フィリップス様の駒になるやつを見つけてやるぜ」

 ゆっくりと音を立てて浮上するヘリ。
 危なげない操作で村の範囲から外に出たトレバーは、橋の付近に人影を発見した。
 赤い帽子の少年、そのかたわらには水色のワニに似た生き物。どちらもヘリの存在に気づいて、大口を開けていた。

「ハロー、ハロー、こちらトレバー・フィリップス」

 トレバーは拡声器のスイッチを押すと、軽快に歌うように脅迫した。

「そこのお嬢さん!ホールドアップだ!
 大人しく支給品と情報を渡して、ついでに殺されてくれ」



 ヘリから受ける風圧を右腕で防ぎながら、レッドは操縦席の男性を見た。
 男性の発言内容は、危険極まりないように聞こえる。横暴な態度はロケット団と比べても遜色ない。
 かたわらのオーダイルが牙を鳴らして威嚇する中、レッドはどう対応すべきか逡巡した。

(断るのは危ない?あの森に行けば逃げられるか?
 いや、森に行くまでに撃たれたら終わり……ここで死ぬわけにはいかない!)

 ハイドロポンプなどの遠距離攻撃を使えたら、ヘリを直接狙う方法も選べた。
 しかし、オーダイルの技構成は、噛みつき技をメインに据えた近距離攻撃ばかり。
 ピカチュウの放つ電気ならヘリを止められるだろうが、今のピカに無理はさせたくない。
 そうして考慮した結果、レッドはついに決心して、オーダイルを制止しつつ叫んだ。

「俺は相棒をNの城に連れていきたいんだ!だから見逃してくれ!」

 その声に男性は眉をひそめて、さらに問いを投げてきた。

「ほーう。お前の隣にいるワニ野郎が相棒か!?」
「……違う。ピカはこの中だ」

 ボールの中の傷ついたピカを思い浮かべて、レッドは素直に答えた。
 ピカのことを早く癒してやりたい。そのためには、この場を切り抜ける必要がある。

「そのボールは何なんだ?」
「……モンスターボール。ポケモンを入れる道具だよ」
「ポ・ケ・モ・ン?」

 どうやらポケモンを知らない様子の男性。
 もしかすると、ポケモンを知る参加者は少数派なのかもしれないと、レッドは説明しながら思う。

「それがポケットモンスター、ちぢめてポケモンさ」
「あん?……俺様のポケットモンスターを見せて欲しいのか」

 言葉の意味を理解しかねて、レッドは当惑した。
 ヘリは変わらず音を立てているのに、二人(と一匹)の間には沈黙が流れていた。

「……」

「……?」

「オダァ……?」

「それで、どうなんだよ!見逃してくれるのか!?」

 この沈黙を断ち切ろうと、レッドは男性の顔を真正面から見て、問いを投げた。
 そうすると男性は、どこか真剣な表情を見せて、正面から見つめ返してきた。

「……目的地はNの城だったな?」

 いきなり許可されたことに驚きつつ、レッドはこくりと頷いた。
 トレバーの操作でヘリコプターから縄梯子が降ろされて、場面は冒頭へと戻る。



「なあトレバー、どうしてヘリに乗せてくれたんだ?」
「俺はお前のアシスタントじゃねえ。聞けば答えてくれると思うなよ」
「それはそうだけど……」


「俺はドラゴンを見たんだ!オレンジ色のドラゴンを!」
「オレンジのドラゴン?それってもしかして、この……リザードンか!?」
「ああ、コイツだ!間違いないぜ!この図鑑そのままだ!」


「どこにいるんだ、リザードン……!」
「ぜひ俺も会いたいぜ。狩りのしがいがありそうだ」
「狩り?……まあいいか」



824Lacquer Head ◆RTn9vPakQY:2024/11/16(土) 14:30:00 ID:Q3fr2Uds0
 他愛のない話をして、空中を旅する時間は過ぎていく。
 トレバーの操縦するヘリコプターは、ようやくNの城の上空へと辿り着いた。
 ここからどこに着陸するのかと地上をきょろきょろ探していると、操縦席から声をかけられた。

「おい、ヘッドセットを外せ!」
「え?でもさっきは着けろって……」
「いいから外せ!今すぐだ」

 ヘリに乗せてくれたのはともかく、気性が荒いのは困りものだとレッドは溜息を吐いた。
 それから唾を飛ばしながら話すトレバーの剣幕に押されて、しぶしぶ両手でヘッドセットを取ろうとした直後。

ドカッ

 レッドは尻に衝撃を受けて、一拍遅れて浮遊感に襲われた。

「んなっ……!」

 トレバーに蹴り飛ばされて落ちたのだと理解して、レッドは顔面蒼白になった。
 ここから地面まで激突したら、まず命は助からないだろう。

「ロハで乗せてやったんだ、地獄の底まで感謝してくれよ!」
「うわあああ〜!」

 悪魔のようなトレバーのがなり声を背後に、レッドは死を覚悟する。



【C-2/Nの城・上空/一日目 日中】
【トレバー・フィリップス@Grand Theft Auto V】
[状態]:腹部に軽い刺傷、大きな不快感、興奮、怒り、殺意、顔に火傷、U.B.C.S.所属ヘリコプター@BIOHAZARD 3を操縦中
[装備]:パワードスーツ(損傷率50%)@METAL GEAR SOLID 2、共和刀@METAL GEAR SOLID 2
[道具]:基本支給品(水1日分消費)
[思考・状況]
基本行動方針:好き勝手に行動する。ムカつく奴は殺す。
0.さて、どこに向かうか。
1.マジマを筆頭にムカつく奴を殺して回る。
2.ドラゴン(リザードン)を退治する。
3.使えそうな奴は駒にする。

※参戦時期は「Cエンド」でのストーリー終了後です。
※ルール説明時のことをほとんど記憶していません。
※第一回放送の内容と、ポケモンの知識を少々レッドから聞き取りました。
※リザードンを遠目に目撃して、ポケモン図鑑でリザードンを確認しました。


【レッド@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
[状態]:全身に火傷、疲労(大)、左腕に深い咬傷、無数の切り傷 (応急処置済み)、落下中
[装備]:モンスターボール(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、ランニングシューズ@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、モンスターボール(オーダイル)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:こんな殺し合い止める。
0.うわあああ〜!(落下中)
1.ピカを治すために、オーダイルとNの城へ向かう。
2.トレバーへの警戒心。何が目的なんだ!?
[備考] 支給品以外のモンスターボールは没収されてますが、ポケモン図鑑は没収されてません。

※シロガネやまで待ち受けている時期からの参戦です。


【モンスター状態表】

【ピカ(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:HP 1/3、背中に刺し傷
[特性]:せいでんき
[持ち物]:アンティークダガー@Grand Theft Auto V(背中に刺さっています。)
[わざ]:ボルテッカー、10まんボルト、でんじは、かげぶんしん
[思考・状況]
基本行動方針:レッドと共に殺し合いの打破
1.睡眠中

【オーダイル@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:健康
[特性]:げきりゅう
[持ち物]:なし
[わざ]:かみくだく、アクアテール、きりさく、こおりのキバ
[思考・状況]
基本行動方針:シルバーが見つかるまでレッドと行動する。
1.レッドを乗せて目的地へ向かう。
2.元のご主人(シルバー)はどこなんだ?


【U.B.C.S.所属ヘリコプター@BIOHAZARD 3】
現地設置品。AS332シュペルピューマ。
機体のカラーリングはグレー。側面にはアンブレラ社のロゴマークが描かれている。
原作では、中盤の時計塔広場に救助のため訪れて、追跡者(ネメシス-T型)により撃墜される。
機銃やミサイルなどの兵装は搭載されていない。

825 ◆RTn9vPakQY:2024/11/16(土) 14:30:55 ID:Q3fr2Uds0
投下終了です。
誤字脱字・その他指摘等あればお願いします。

826 ◆NYzTZnBoCI:2024/11/16(土) 14:55:57 ID:do2ABiwo0
投下お疲れ様です!
感想は作品投下の際に投げます。

>>818の予約にレッドを追加します。

827 ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 21:57:10 ID:xcspQCuM0
皆様改めまして投下ありがとうございます。
つきましては感想の方を失礼します。

>>Exhausted on the Silent World
前話にて圧倒的な強さと絶望感を振りまいたカイムがセフィロスの力を感知するというなんとも物語として綺麗な展開。
登場人物はカイムひとりなのに、原作では欠かせない存在のアンヘルを出してくれて嬉しいです。
そしてやり取りが脳内再生余裕! まだ反逆の道が残されていてそれを後押しする存在がいるカイムと、ひとりぼっちで戻れなくなってしまったイウヴァルトとはなにもかも相対的ですね。
後の展開が楽しみになるお話でした。

>>かつ消え、かつ結びて。
方丈記から引用したタイトル、痺れます。
魔王とクロノ、そしてオトモの戦闘。数年越しに待ち焦がれた展開に思わず興奮しました。
しかも原作再現がすごい。バトル演出がすごい。実力では上を取るクロノに魔王が頭脳を駆使して互角以上に渡り合う展開が本当にアツかった。
こういう力押しではないクレバーな戦い方を描写できる実力、尊敬します。戦いの最中のクロノと魔王の掛け合いもイイ。
そうしてラスト、正直オトモ場違いじゃね? と思っていましたが……美味しいところを貰いましたね。
目立たなかったオトモがどう料理しても美味しいキャラに昇華されるとは、恐ろしい。

>>Lacquer Head
予約の時点で最悪どっちか死ぬだろ、って身構えていたのですが予想よりコミカルな話で安心しました。
コミカル、コミカルか? ヘリから落とされているのはもう死亡確認判定されてもおかしくない気はするが……。
とはいえトレバー、本当に読めない。私が書こうとすると戦闘狂になってしまうのですが、◆RTn9vPakQYさんが書くトレバーは本当の狂人という感じが魅力的ですきです。

「それがポケットモンスター、ちぢめてポケモンさ」
「あん?……俺様のポケットモンスターを見せて欲しいのか」

絶対このやり取り書きたくて予約したでしょ。



遅くなりましたが投下します!

828Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 21:58:39 ID:xcspQCuM0


「皆さん、そう落ち込まないでください。我々はこうして無事に生き残ったのですから」

 Nの城の一室、王の部屋。放送終了後にそう声をかけたのはゲーチスだった。
 十七人という死者の数を聞いてひどく気落ちするイレブンとベルを気遣う言葉だが、あくまで表面上のそれは二人を立ち直らせるには至らない。

「……あたしが、燃やしちゃったひとも……呼ばれたのかな」

 身を震わせながら吐露するベルの目尻には涙が浮かんでいる。
 車内で目が覚めたイレブンはゲーチス伝いにベルから事情を聞いた。自分が気絶していたこと、そしてそれを仕出かした人物とベルが対峙したことも。
 火災の中で酸素不足に陥った影響か、軽い記憶の混濁がある。ベルを運び出したのは覚えているが、そこまでだ。あの男の行方は覚えていない。
 だがあの火事の中での生存は絶望的と見ていい。もしもゲーチスの助けがなければ自分もベルもここにはいなかっただろう。

「ベルは……僕を助けてくれたんだよ。あのままだったら、僕がやられてたかもしれない。……それに…………あれは……多分、人間じゃない。魔物だったんだ」

 そうであってほしい、と心の中で付け加える。
 イレブンも人間を相手にしたことは何度かある。グロッタの闘士やグレイグ、ホメロスといった下手な魔物よりよほど強い人間とも戦ってきた。
 けれど、彼らには人間らしさがあった。曖昧な表現になってしまうが、戦う動機や信念を持っていたのだ。
 強者と戦いたい、責務を全うしたい、野望を叶えたい──イレブンには理解出来ないものもあるが、納得はできる。

829Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 21:59:20 ID:xcspQCuM0


 けれど、〝あれ〟はちがう。


 意味不明な言葉を羅列し、ただ本能のままに容易く命を奪わんとする姿はおよそ人間と呼べるほど理知的ではない。
 だからこそ、イレブンは不意打ちを許してしまった。
 悪人とも呼べぬ狂気に呑まれて戸惑っている間に一撃を貰い、綺麗に脳を揺さぶられた結果があれだ。はずかしいにもほどがある。

「でも……! あの男の人だって、しにたくなかったんでしょ!? イレブンを攻撃したのだって……きっと、こわかったんだ…………なのに、なのにあたし……っ!」
「ベル…………」

 無論、そんな安い慰めは初めて殺人を犯してしまったベルの心を軽くするには至らない。むしろ自責の念を強めるだけだ。
 三人の情報を擦り合わせ、辿り着いた結論は油へのメラが原因で起こった爆発──こんなもの予測しろという方が無理だ。不幸な事故と割り切る他ない。

「ランランだって、きっとあんなことしたくなかったのに……っ! あたし、……トレーナー失格だよ……、っ……!」

 けれど、いざ起こってしまえば悪い方向に考えてしまうのが人間だ。それも争いとは無縁の生活を送ってきた少女ならばことさらに。
 かける言葉の見つからないイレブンにできることといえばこうして彼女の背を撫でることくらいだ。彼とて純粋な人間を殺めた経験はなく、ベルの心中を察しきれない。

(……ベロニカ……、サクラダさん……)

 考えるのはさきほどの放送のこと。
 呼ばれた名前は十七人。内四つが知っている名前だ。
 一つはシルビア、ネメシスとの戦いによって命を落としたところを目の前で見ている。
 一つはホメロス、確かな野心を持っていた──いわゆる悪人ではあったがウルノーガに踊らされた被害者だ。
 そしてもう一つがサクラダ。魔王達と別行動をしているはずの彼の名が呼ばれたということはそちらの方角で何かがあったのだと推察できる。ベルが沈む大きな原因の一つだ。

830Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:00:50 ID:xcspQCuM0

 最後の一つが、イレブンが心の中で最初に呟いた少女のものだ。
 
(…………本当に、ごめんなさい。二度もキミを死なせてしまうなんて…………)

 今のイレブンがベロニカを失うのは二度目だ。
 世界樹崩壊の際に自分たちを逃すためただひとり命を落とした彼女。そんな悲惨な歴史を変えるために過ぎ去りし時を求めたのに──こんなことでは勇者以前に仲間として失格だ。
 

 ────はずかしい。


 自分がこの殺し合いでしたことはなんだ。
 倒したはずの怪物に気を抜いてシルビアを失い、鎧を纏った男に不覚を取ってベルを危険な目に遭わせ、守ると誓ったベルに助けられてしまった。挙句その恩人への気遣いすら満足にしてやれない。

 この瞬間ほど自分を恥じたことはない。
 こんなことではダメだ。勇者の責任だとかそういう問題ではなく、イレブンという一個人が持つ感情として人を助けたいという確かな意思がある。
 ただでさえベルはチェレンの死を受け止め切れていない。短い時間とはいえ行動を共にしたサクラダが呼ばれたこと、そして自分自身が命を奪ってしまったかもしれない事実は一少女が背負うには重すぎる。
 
「ベル、外を探索しよう」
「えっ……?」

 だから、せめてその重荷が軽くなるように。
 はずかしいという気持ちを押し殺して、肩を貸してあげたい。

「でも、……!」
「さっきの……ヨーテリーみたいなポケモンがいるかもしれないし…………ランランだって、きっと外に出たがってるよ」

 以前のイレブンからは考えられない提案だ。
 というのも、今までの彼はベルに危険が迫ることをなにより避けていた。けれどそれは保護という名の拘束に過ぎないし、彼女の意思を無視してしまうことになる。
 なら、今度こそ危険が迫ったときに護ればいい。イレブンにとっても周囲を散策したいのは事実だし、ベルもきっとここにいつまでも居ることは望んでいないだろう。

「すいません、ゲーチスさん…………少し、外に……」
「ええ、構いません。ワタクシも調べ物がありますので……そうですね、14時頃にまたここに集合としましょうか」

 物腰柔らかに頷くゲーチスへ、イレブンは綺麗なお辞儀と共に精一杯の感謝を伝える。
 ゲーチスは今まで出会った人物の中でも類を見ない善人だ。無償で自分たちを助けてくれた上、この城を拠点にするように施してくれた。
 彼もまたベルと同じく護らなければならない存在の一人だ。決意を固めながらイレブンはベルへ呼びかける。

「行こう、……ベル」
「……えへへ、うんっ!」

 自分を気遣ってくれたことが嬉しいようでベルの顔にはかすかに色が戻る。
 王の部屋を後にする二人の背中を笑顔で見送ったゲーチスは、彼らの姿が見えなくなると同時に険しく眉を顰めた。



◾︎

831Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:01:43 ID:xcspQCuM0




 Nの城を覆うように生え渡る木々を抜けると、一面には淡白な土壌と草原が広がっている。
 見晴らしのいい景色はこの状況では不意打ちを避けれるためありがたい。なにかあってもベルだけはNの城に逃がすことができるはずだ。
 ポッドとランランを出していることもあり襲撃者への備えは出来ている。それだけの予防線を張ってもなお万全とは言えないが、少なくともこうしてランランたちと戯れる時間は作れるだろう。

「あはは、みてみてイレブン! ランランが踊ってる〜!」
「……うん。なんだかすごく楽しそう」

 どうやら窮屈な思いをしていたのは持ち主だけではないようで、戦いの場ではない開放的な空間にランタンこぞうも全身で喜びを顕にしている。
 上下左右に身体を揺さぶる彼(?)の姿をぼんやりと見ていると、イレブンの真横に銀色の塊──ポッド153が浮き上がった。

『報告:ランランのレベルアップ』
「え……」

 レベルアップ!? と、ベルの歓喜の声がイレブンの疑問符をかき消した。
 ポケモンの育成すら満足にしたことがないベルにとっては初めての経験だ。喜色に満ちた笑顔でランランの頭を撫で回している。
 年相応の少女らしい姿に一時ほっとするが、すぐにまたクエスチョンマークが頭に浮かび上がった。

「その、どのタイミングで……?」
『回答:先程の山小屋でのトレバー・フィリップスとの戦闘による経験値取得』
「あ〜〜…………たしかに、あれって勝った……のかな? ……あ! というか今、トレバーって……」

 そうだ、ポッドにはこういう機能があるんだった。改めて自分がわすれっぽいことを気付かされる。
 同時にイレブンは放送を思い返す。知り合いの名に気を取られてしっかりと聞けた自信はないが、ポッドの言うトレバーという名前は今の今まで聞き覚えがなかった。

832Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:02:15 ID:xcspQCuM0

「トレバー……たしか名前、呼ばれなかった…………」
「! ……じゃ、じゃあ……あの男の人、ぶじなの!?」
「うん、名前が呼ばれてないから……きっと生きてるよ」

 もの悲しげに濡れていたベルの顔が途端にぱあぁと明るくなる。続けて漏れた「よかった」という言葉にイレブンは彼女の純真さを悟った。
 自分を含めて大切な者の命の安否だけでいっぱいいっぱいの状況のはずなのに。ベルにとってはあの狂人でさえ等しく失って欲しくない命なのだ。
 そんなベルの眩しさに当てられて、イレブンは自分がとてもはずかしくなった。

「それでいちごちゃん! ランラン、あたらしいわざとかおぼえたの?」
『各ステータスの上昇、及びメラミ、ギラの呪文を新たに習得』
「すご〜〜い!!」

 すごい、とは言うがその具体的な凄さは呪文を知るイレブンにしかわからないはずだ。つまりベルは雰囲気で喜んでいる。
 心なしか胸を張っているように見えるランランと、それにおもいっきり抱きつくベルの笑顔を交互に見つめるイレブンはしばし考え込んだ。

(魔物にもレベルアップなんてあるんだ…………初めて知った……)
 
 彼の知る常識では魔物を仲間にするという選択は論外だった。魔性の消えた魔物は見てきたが、実際に旅のお供に魔物を引き連れている者など見たことない。

「ねえねえイレブン! ランランのあたらしいわざ、ためしてもいい?」
「え…………い、いや。このあたりは燃えやすいから……」
「だいしょうぶだよお! 空にむけてうつから!」

 ベルが嬉しそうに言うポケモントレーナーというのはそれが当たり前だという。少しだけ話を聞いたがゲーチスも同じ世界の住人らしい。
 自分の知らない世界に知見が広がる感覚は刺激になった。同時に、魔物と共存できる世界なんてきっと争いがないのだろう────なんて、この場において抱くべきではない憧憬が彼を満たした。

833Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:03:12 ID:xcspQCuM0

「それなら…………たぶん、大丈夫。……だよね?」
「やったあ! じゃあランラン、そうだなあ……あ! あのおいしそうな雲にメラミ!」

 助けを求めるようにポッドに同意を求めるが、当の彼女はそれを自身に向けられた質問と捉えずにスルー。一拍の間も置かずにベルの指示が飛ぶ。
 くるりと空中で一回転したランランが空へと炎の塊を放った。当然、雲に届く遥か前に飛距離の限界を訴えたそれは花火のように爆ぜる。

 お〜! という歓声と共に惜しみない拍手がランランへと注がれた。遅れてイレブンもぱちぱちと控えめな賞賛を送る。
 ベルにとってわざの威力など度外視していることは言うまでもない。重要なのはランランがあたらしいわざを覚えたということ。
 実戦ではなくパフォーマンスの一種であるポケモンバトルをテレビ越しに見ていた彼女の頭の中には、この呪文で相手を傷つける光景など欠けらも浮かばなかった。

「えっと、つぎは…………ギラ!」
「あ! ちょ、ちょっと────」
『警告:呪文による草原の延焼』

 ギラ、という呪文がどういったものなのか知る由もない少女は空を指さして宣言する。が、彼女の思惑に反してランランは地を走る火蛇を生み出した。
 ポッドの警告はありがたいがやや遅い。自信満々なランランと対照的に二人の男女は慌てふためいた。まるで好き勝手暴れるペットを前にした子供のように。

「うわわ!? ど、どうしようイレブン〜!!」
「え、えーっと………………ポッド、どうしよう」
『……要求:イレブンの主体性』

 種々に燃え広がる火の手を眺める二人と一匹と一機。
 嘆く彼らを嘲笑うかのように強まる火勢は黒い煙と草の焦げる匂いを巻き上げた。
 
 


◾︎

834Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:03:49 ID:xcspQCuM0



 D-2の喫茶店を後にしたマルティナとミリーナは北上を選んでいた。
 エアリスという人質を手にしたことで人数の多いであろう施設を回りやすくなったがゆえの行動だ。特に放送で言及されたNの城は人が集まるだろう。
 しかし、第二回放送の時刻が迫っていることに気がついた彼女たちは手頃な民家に転がり込みひとまず身を潜めることにした。基本的なスタンスは変えずとも情報を知っておいて損はない。



「う、そ…………! クラウド、……っ、……ティファ……っ!」

 そうして放送を経た現在、泣き崩れるエアリスが空気を支配する。
 未だ後ろ手を縛られたまま。人質という危機的状況さえ忘れて仲間の死を嘆く姿は、エアリスという少女を知って間もないマルティナから見ても特異と感じられた。

「なんで……! ……どう、して、……っ……!」

 クラウド、ティファ。
 二人の名が挙げられたことに対して脳が理解を拒む。
 ただ実力が高いだけではない。それとは別にあの二人が殺されるわけがないという確信を抱いていた。だからこそ口から出てくるのは疑問符ばかり。

 マルティナとミリーナが目を合わせ、アイコンタクトを送る。
 エアリスを放っておくのに心が痛むわけではないが、このまま嗚咽を撒き散らされたら周囲の人間に気づかれる可能性がある。
 そんな判断の下、マルティナが声をかけた。
 
「……知り合いの名が呼ばれたのね」

 エアリスは応えない。
 人の感情に敏感な彼女は、マルティナのそれが気遣いによるものではないと悟っていたのだ。

「私も呼ばれたわ、かつての仲間が二人。それと敵対していた者が一人」
「え……」

 エアリスにとって意外な言葉が投げられる。
 一見冷血な雰囲気さえ感じられるマルティナという女性から飛び出す台詞といえば、他者の気持ちを考えない強制的に前を向かせようとするものだと思っていた。
 だが、表情を変えぬままぽつぽつと吐露する彼女の姿からは儚ささえ感じられる。

835Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:04:34 ID:xcspQCuM0

「けどね、悲しいとは思わない。彼らなら迷いなく他者のために命を張るでしょうし、私は仲間全てを失ってでも守りたい人がいるから」
「……その人の名前は?」
「イレブンよ。あなたにはそういう人はいないの?」
「大切な人はもちろんいるけど、……あなたみたいに人を殺してまで守りたいとは思わない」

 そう、と。マルティナが顔を伏せる。
 それで会話は終わりかと思ったが、意外なことにマルティナがエアリスへと問いを続けた。

「そのクラウドとティファっていう人以外に呼ばれた人はいる?」
「……少し前に出した名前だけど、ソニックも呼ばれたわ」
「ソニック、ね。……私も知っている名前よ。この殺し合いが始まって最初に出会った人物だから」

 エアリスが僅かに目を見開く。
 同時に、彼女の中でマルティナという人物像が塗り替えられていくのを感じた。殺し合いに肯定している危険人物が、ここまで人質に情報を洩らすのだろうか。
 殺し合いに乗る事情など推し量れない。けれどマルティナが先程言っていた〝守りたい人がいる〟という言葉が嘘とは思えなかった。
 
「ソニックは……最期まで他の人を気にかけてたわ。私も彼に千早という少女を託されたから」
「なんとなく想像できるわ。……善人ほど生き残るのが難しいということなのでしょうね」
「…………」
「けれど勘違いしないで。その千早という少女を探す権利は今のあなたにはない」

 会話を重ねることで尚更に思う。
 マルティナは話をしたいわけではない。己の話を聞いてほしいのだ。
 きっとミリーナのような殺し合いに乗った者ではなく、反逆する意志を持った他者と共有したいのだろう。言葉の節々から感じられる感情の欠片と顔の陰りがそれを物語る。

「…………さっき言った、大切な人。あなたの言うイレブンのような存在。さっきの放送で呼ばれたの」
「えっ……?」

 だから、エアリスもマルティナに興味を持った。
 彼女の話を聞きたい。だから、自分の話を聞かせよう。人質と殺人鬼という関係からは到底想像もできない言い知れぬ雰囲気がそこに広がっていた。

「………………それは、お気の毒に」
「気を遣わなくていいわ。薄々勘づいていたから」
「そう。……その人はどんな人だったの?」
「そうだなぁ、なんて言えばいいか分からないけど……とっても強くてかっこいいけど、どこか抜けててね。初恋の人……なんだと思う」
「素敵な人だったのね。名前はなんて言うの?」

 記憶を辿るように、どこか懐かしそうに語るエアリス。
 興味が湧いた。エアリスの語る、自分にとってのイレブンのような存在に。だから名前を聞いたのは半ば無意識だったのかもしれない。
 しかし、マルティナはそのことを後悔することになった。

「その人はね、ザックスっていうの」


 ────絶句した。

836Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:05:09 ID:xcspQCuM0
 
 声を出すことすら許されず思考が弾ける。
 その名前はひどく聞き覚えがある。忘れるはずがない、心の奥底にこびり付いて離れない男の名前。
 心を黒に染めねばと決意を固めさせた存在。英傑の槍越しに彼を貫いた感覚を思い出し、腕に痺れをもたらす。

 運命とは残酷なものだ。
 想いを馳せるように天井を見上げるエアリスの顔から視線を逸らし、躊躇いの末にマルティナは重い口を開いた。

「エアリス。そのザックスっていう人は────」

 瞬間、ガタンと大きな音が彼女の肩を跳ねさせた。
 椅子から立ち上がりこちらを睨むミリーナと目が合う。ハッ、と思考を現実に戻された。

「外を見てくるわ。マルティナはここでその子を見張ってて」

 家屋を後にするミリーナへと無言の了承を示し、彼女の背中を見送ったマルティナは歯噛みする。

(私は…………エアリスに何を言おうとした?)

 ちらりとエアリスに視線を投げる。
 遮られたマルティナの言葉の意図を汲めずにいたのか、首を傾げる姿にすこし安堵した。

(伝えるべきだと思ったから? ……いいえ、ちがう。そんな高尚な理由じゃない)

 あのザックスという男は少年を護って死んだ。闇に染まりきることも出来ずにいたマルティナからすれば、彼は眩しすぎるほど立派な光だった。
 エアリスはそれを知らない。ザックスがどのように死んだのか、そしてその下手人が誰なのかも知らないのだ。

 もしも、もしも。

 自分がエアリスと同じ立場でイレブンが人知れず死んだと伝えられたのなら────きっと血眼になってでも彼の死を知りたがるはずだ。
 なら、エアリスを不憫に思って彼を殺めたのは自分だと伝えようとしたのか?
 それがせめてもの情けだと、地に落ちたと思っていた良心から真実を打ち明けようとしたのか?

837Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:05:55 ID:xcspQCuM0

 ちがう。
 マルティナはそこまで人間を捨てられていない。


(私は────楽になりたかっただけなのね)


 胸をざわつかせる不快な罪悪感を少しでも軽くしたかった。
 いっそエアリスから責め立てられれば、それを口実に謝罪ができたかもしれない。人殺しをした自分を裁くことで〝マルティナ〟の心を守れただろう。

 だがそれは逃避だ。
 それを口にしたところでどうせ外れた人道を正す気などないのだから、ただ一時重荷を降ろすだけに過ぎない。もう一度それを背負い直すのがどんなに苦痛か知っているはずなのに。
 結局、体良くエアリスを使って懺悔する時間が欲しかっただけなのだ。

「なんでもないわ」
「……? そう」

 それ以降、マルティナからエアリスに会話を振ることはなかった。



◾︎



 Nの城に一人足を進めるミリーナの表情はお世辞にもご機嫌とはいえなかった。
 片眉を吊り上げ口を歪ませる姿は憤りを抑えるかのよう。今ミリーナの脳を支配するのは先の女二人への不快感だった。それも言い表せようのないほどの。

(……くだらない。傷の舐め合いなんて)

 放送で誰々が呼ばれた。
 初恋の人がどうだ、大切な仲間がどうだ。

 全てが不快。
 有益な情報交換でもない慰め合いなんて、殺し合いを生き抜く上でまったく必要ない。
 人質の立場を弁えないエアリスは勿論だが、ことを理解せずザックスの情報を洩らそうとしたマルティナへどうしようもなく腹が立った。

 外の散策なんて表面上の理由に過ぎない。
 ミリーナはあの空間から逃れたかったのだ。

「なん、なのよ……っ! 私が、馬鹿みたいじゃない……っ!」

 殺し合いが始まってすぐ、天海春香を殺した。その後配られた名簿によって自分の知人が天海春香ただ一人だけだったことを知らされた。
 つまり、だ。放送を聞いたところで誰一人知り合いのいないミリーナは感情が揺れ動くことなどない。心の揺らぎは思わぬ隙となるため好都合だと思っていた。

838Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:07:05 ID:xcspQCuM0


 けれど、それは裏を返せば〝孤独〟である。


 知人も友人ももう存在せず、大切な人はこの世界にはいない。そんな中で地獄を生き残らなければならないのだ。
 弱音や本音を共有することもできず、本心を押し殺して悪魔のように振る舞うしかない。
 マルティナだってそのはずなのに心根にはイレブンという希望を抱え、仲間の死を嘆く人間らしさを見せつけてくる。それがまるでこの場に支えがあるかないかという決定的な違いを浮き彫りにするようで、不快感に身が捩れそうだった。
 
「私だって……っ! 好きで殺してるんじゃないのよっ!!」

 とどのつまり、嫉妬だ。
 ミリーナ自身無意識ではあったが、彼女は自分がこの会場でもっとも悲劇のヒロインだと思い込んでいた。

 唯一の知り合いを殺し、修羅の道を選んだ。
 けれど自分一人の力では敵わない相手ばかりで、同盟に選んだマルティナは自分とは対照的な存在。
 そんな地獄を生き抜いて優勝したとしても、イクスを救うという使命は残っている。当のイクス本人は己の努力を知る由もないし、ましてや労いや同情をしてくれることもないだろう。

 自分が一番可哀想だ、と。
 齢十八歳の少女という色眼鏡を抜いても、心の底からそう思い込んでしまうのも無理はなかった。


「……あれが、Nの城ね」
 

 遠目に奇抜な城が映る。
 ここまで遠くまで来るつもりはなかったのだが、どうやら相当考え込んでいてしまったらしい。
 もう少し近づいて様子を見てみよう。と、歩を進めるミリーナの鼓膜を少女の声が叩いた。
 

 ──ど、どうしようイレブン〜!!


「──っ!?」

 慌てて傍の木に身を隠す。
 恐る恐る様子を伺えば、ふたつの人影が目に映った。格好を見るに十代半ばの男女らしい。傍らには魔物らしきものも二匹見える。
 立ち上がる黒煙から見て誤って草原を燃やしてしまったようだ。そちらに気を取られているのは幸運だと言える。

(……待って。さっき、イレブンって…………)
 
 思考に余裕が出来たためか、さきほどの少女の声が蘇る。
 聞き間違いでなければ青年のことをイレブンと呼んでいた。再度彼の姿を確認するため顔だけを木から覗かせる。

 ひらりと風に舞う茶髪のサラサラヘア。
 間違いない。マルティナから聞いていたイレブンの特徴と一致する。

(────まずい。このままマルティナとイレブンを会わせるわけにはいかない……!)

 もしもありのままのことをマルティナに伝えれば是が非でも彼女はイレブンと合流しよっとするだろう。
 そうなれば同盟は解消。今ここでマルティナを手放し、あまつさえ敵に回るとなれば非常に不都合だ。

 北上をすればきっと二人は出会う。
 ならば、南下する理由を作らなければならない。


 首輪探知機を使用した結果、Nの城付近の人数が思ったよりも多かったので一度南下をする。多少強引だがこれで押し切るしかない。
 いくらエアリスを人質に取ったところで多人数に通用するビジョンが見えないのだから、よほど不自然な動きをしない限りマルティナも怪訝に思うことはないだろう。

(悪いけど、まだ利用させてもらうわよ。マルティナ)

 辻褄を合わせるために首輪探知機を使用する。予想通り城付近にはかなりの反応があり、猛スピードでこちらに近づいてくる二つの光点もあった。何かの乗り物に乗っているのだろうか。
 
 その時、ミリーナは違和感を覚える。
 自分の位置を示す光点が重なって見えたのだ。よく目を凝らせばそれが重なっていたわけではなく、そう見えるほど近距離に反応があることに気がついた。

839Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:08:04 ID:xcspQCuM0


「────え」


 ミリーナの本能が警鐘を鳴らす。
 首輪探知機は役目を終えて画面を映さなくなった。見間違いを期待して確認することもできない。
 つまり──ミリーナ自身の目で確かめなければならないのだ。


 警戒を最大限に引き上げて振り返る。
 瞬間、ミリーナが捉えたのは帽子を深く被った少年の姿だった。


「こんにちは」


 まるで気配を感じなかった。
 一目で異常だとわかる。こんな状況で気軽に挨拶をしてくる少年など格好のカモのはずなのに、逆に捕食者を前にしているかのような威圧感にミリーナは冷や汗を伝わせた。

「それじゃあ、いきますよ」
「──な……っ!?」

 有無を言わさず少年はボールを二つ取り出し、閃光とともに顕現した二体のモンスターがミリーナを睨む。
 驚愕を呑み込み咄嗟に構えるミリーナへ、翠色の刃が襲いかかった。



◾︎

840Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:09:29 ID:xcspQCuM0



「さて、と。トウヤが来るのはそろそろでしょうかね」


 イレブンたちが後にした王の部屋。
 見慣れたその一室にて椅子に座るゲーチスは左手に持つモンスターボールを指でなぞる。

「それにしても……まさかここまで強力な〝駒〟が手に入るとは。やはりワタクシが王になるべきなのでしょう」

 ギギギアルとは違うもう一匹の手持ち。
 この城内をくまなく探索した結果見つけた戦利品だ。中身の確認はもう済ませている。

「お前には存分に働いてもらいますよ、カメックス」

 カメックス。
 イッシュ地方では滅多に姿を見ないポケモンだ。使い慣れぬポケモンにゲーチスは一度落胆はしたものの、カメックスのレベルは彼の見た中でも最高峰のものだった。
 相当なバトルを潜り抜けてきたのだろう。これならば下手なタイプ相性など覆す圧倒的なレベル差で叩きのめせるはずだ。

 ギギギアルと組み合わせればあのトウヤのオノノクスにも勝てる。
 欲を言えば空のモンスターボールを持て余しているためもう一匹手持ちが欲しかったが、ベルの言うヨーテリーのような使えないポケモンを手にしたところで無意味だ。それならば保留しておいた方が合理的だろう。

(それにしても……あのイレブンという男もポケモンを知らぬ様子でしたね)

 年端もいかぬ子供からの情報などハナから期待していなかったが、予想外の成果を得られた。
 まずイレブンがポケモンを知らず、代わりにランランのような魔物と呼ばれる存在と戦っていること。エアリスのような夢見がちな妄想と切り捨てることもできたが、実際に魔法を見てしまったのだから信じざるを得ない。
 ましてや実際にゲーチスはマテリアを使用したこともあるのだから尚更に。あながちエアリスの言葉も嘘ではなかったのかもしれないが、もはやどうでもいい。

(あのウルノーガという化け物も、彼と因縁があるようですからね。……信じ難いが、事実なのでしょう)

 話し下手なイレブンから聞き出せた情報はそこまで多くはないが、主催であるウルノーガは彼が倒し損ねたから復活してしまったのだと語っていた。
 それが事実ならば余計なことを、と毒づきたいがひとまず抑える。冷静に考えるのならば、あのウルノーガでさえ危険視するほどの存在を味方につけているのだ。

 対トウヤにおいてはベルの方がよほど利用出来ると思っていたが、そうとも限らないようだ。万が一にはイレブンにトウヤをけしかけることもできる。

 完璧だ。
 高揚感に包まれたゲーチスは笑みを堪えきれず、唇の左側だけ吊り上げて歪な哄笑を響かせた。

841Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:10:12 ID:xcspQCuM0

「ハハハハハハッ!! 今に見ていなさい、トウヤ……このワタクシを侮辱した罪、その身をもって償ってもらいますよ……!」

 思わず椅子から立ち上がるゲーチス。
 彼の描く計画に滞りはない。最初こそ苦汁を舐めさせられたが、運命はこのゲーチスに傾いている。


 しかし、その笑いはすぐに中断させられた。


「──な、なんだ……この音は!?」


 地響きに似た振動と共に響き渡る重い音。
 バラバラと風を切る音は室内のはずなのに鮮明に聞こえてくる。それがNの城の上空を踊るヘリの羽だと気付くのに時間を要した。


 好調なゲーチスにただ一つ、不都合な誤算があるとすれば今まさにこの状況と言わざるを得ないだろう。
 トウヤ以外の来客だから、ではない。そのヘリに乗っている人物が────もうひとりの〝チャンピオン〟だからだ。
 



【C-2/Nの城(王の部屋)/一日目 日中】
【ゲーチス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康、高揚感
[装備]:雪歩のスコップ@アイマス+マテリア(ふうじる)@FF7、モンスターボール(ギギギアル)@ポケモンBW
[道具]:基本支給品、スタミナンX(半分消費)@龍が如く、モンスターボール(カメックス)@ポケモンHGSS、モンスターボール(空)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、野望を実現させる。
0.この音は……!?
1.Nの城を本拠地とする。
2.ポケモンやベルたちを利用して、手段は問わずトウヤに勝利する。

※本編終了後からの参戦です。
※FF7、ドラクエⅪの世界の情報を聞きました。
※ソニックのことをポケモンだと考えています。


【モンスター状態表】
【ギギギアル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[特性]:プラス
[持ち物]:なし
[わざ]:10まんボルト・ラスターカノン・はかいこうせん・きんぞくおん
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.ゲーチスに仕える

【カメックス@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:健康
[特性]:げきりゅう
[持ち物]:なし
[わざ]:ハイドロカノン・ラスターカノン・ふぶき・きあいだま
[思考・状況]
基本行動方針:???


【支給品紹介】
【カメックス@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
Nの城でゲーチスが発見したカメックス入りのモンスターボール。元の持ち主はレッド。
特性はげきりゅうで、覚えているわざはハイドロカノン・ラスターカノン・ふぶき・きあいだま。レベルは84。

※バイソン@GTAVはNの城付近に駐車してあります。




◾︎

842Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:11:25 ID:xcspQCuM0


「え、へへ…………イレブン、怒ってる?」
「…………」

 ふるふる、と力なく首を振るイレブンだがその顔はどこかやつれている。
 実際ベルに怒っているわけではない。例のごとく自分の不甲斐なさを恥じているだけだ。
 咄嗟に七宝のナイフによる海破斬で火を消し止めることは出来たが、貴重なMPを無駄にしてしまった挙句ベルを怖がらせてしまった。

 はずかしい。
 きっとあの火を前にした自分は傍から見ても慌てふためいて頼りなかっただろう。
 ベルは気にしているだろうか──伏せていた顔を上げてちらりと様子を伺う。


「ランラン、すごいねえ。前よりずっとたくましくなったかも!」


 いや、あまり気にしていなさそうだ。
 というより元からベルはイレブンを頼り甲斐のある騎士様だとは思っていないのだろう。話の合う友達だと認識しているのかもしれない。
 それはそれで嬉しいが、なんとなく複雑だ。飛び跳ねるランランを撫でるベルから視線を外し、晴天の空を見上げる。


「────……?」


 と、遠目に鳥のようなものが映った。
 しかし鳥と呼ぶには少しシルエットが大きい。おまけに羽音とは異なる風切り音が次第に近付いてきている。

「あれ、なんだろう」
「え〜? ……うわ!? ヘリコプター!?」
「ヘリコプター」

 オウム返しをするイレブン。
 ヨーテリーのようなポケモンの名前だと思い込んだイレブンは近づいてくるそれをぼうっと見つめて心からの疑問を口にした。

「ボール、届くかな」
「? ……あ、もしかしてポケモンだと思ってる? あははっ! イレブンかわいい〜!」

 え。と、噴き出す冷や汗と共に顔に熱が宿るのを感じる。
 どうやらポケモンではないらしい。ならヘリコプターとはなんなのだろう、という疑問よりも先にはずかしいという感情がイレブンの思考を蹂躙した。

「あ、顔隠した」

 実況をしないで欲しい、頼むから。
 殺し合いの場でヘリが飛んでいる。本来最大級に警戒すべきシーンだというのにまるで緊張感がない。見かねたポッドが機械音を鳴らした。

『警告:ヘリコプターに射撃機能が搭載されている可能性がある。警戒すべき』

 ハッと両手で覆っていた顔を上げる。
 見ればヘリコプターはもう自身の上空付近まで近づいていた。慌てて右手に魔力を宿す。この距離ならばライデインで迎撃できるだろう。
 少し不安げな表情を見せるベルを片腕で下がらせて空飛ぶ機械へ睥睨を飛ばす。しかし警戒とは裏腹に、予想だにしない出来事が降りかかった。



 ────うわあああ〜!!



「え、え、えっ」
「ひ、人がっ! 人が降ってきたよ!?」


 狼狽するイレブンとベル。
 無理もない。ようやく緊張感を持ってなにが来るのかと警戒していたのに、あろうことか人が降ってきたのだから。
 しかも様子を見るに自分から落ちたわけではないらしい。情けない叫び声を上げて落下する人影に、おひとよしの二人は全力で〝救助〟に思考を注いだ。

843Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:12:19 ID:xcspQCuM0

「イレブン! たすけてあげて!」
「…………!」

 とはいえ一般的な少女であるベルにできることなどない。自分よりイレブンの方が助けられる可能性があると判断したベルはそう託した。
 事前準備がある状態ならば道具を使って受け止めることもできたかもしれないが、咄嗟の判断が求められる状況では悠長にしていられない。

 身体で受け止める?
 いや、高度が高すぎてお互い無事では済まないだろう。ルーラも制限が掛けられている以上期待できない。
 バギ系の呪文なら風によって落下の衝撃を緩和できたかもしれないが自分には使えない。結果、イレブンが導き出した答えは──

「ポッド、助けてあげて……!」
『了解』

 繋がれたバトンは結果的に飛行能力を持つポッドが受け取った。
 あれ、自分は必要だったのか? なんて疑問を一瞬抱いたが気付かないふりをした。

「うわぁぁ〜〜っ!! うわ、うわっ!?」

 落下する少年へ向かうポッド。
 小さな腕で彼の服を摘みあげる。正確な動作によって突如浮遊感が消え去ったことに少年は別の悲鳴が上がるが、ゆっくりと近づく地面を見てひとまず助かったのだと理解した。
 このまま下ろしてくれるのだろうか。極限状態を乗り越え冷静になった思考。状況確認のために周囲を見渡し──
 
「ぶべっ!?」

 視界が地面と激突した。
 話が違う。丁寧に下ろしてくれることを期待したのにぞんざいな扱いだ。とはいえ命の恩人に文句を言う気も湧かず、痛む身体に鞭打ち起き上がる。
 と、不安げな……申し訳なさそうな。いたたまれない顔をしたイレブンと目が合った。

844Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:13:21 ID:xcspQCuM0

「あ、あんたが助けてくれたのか? ありがとう! 本当に死ぬかと思ったよ!!」
「う、うん……大丈夫ならよかった……」
「本当によかったよ〜! あ、ねえねえ! あなたの名前おしえて!」

 ぐい、と二人に割って入るベル。
 にこにこという擬音がこれほど似合う少女はいないだろう。そんな彼女に気圧された少年は乱れた帽子を被り直し、すぅっと息を吸った。

「俺はレッド! Nの城に用があって来たんだ。あんたらは?」
「あたしはね、ベルっていうの! こっちはイレブン!」
「…………よろしく、お願いします」

 かくして名乗りを終えた三人。
 危険人物に囲まれながらも奇跡的に合流できた彼らは、互いの情報を交わしながらNの城へと足取りを進めた。

【C-2/Nの城付近 草原/一日目 日中】
【イレブン@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:MP4/5、恥ずかしい呪い
[装備]:七宝のナイフ@ブレワイ、豪傑の腕輪@DQ11
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1個、呪いを解けるものではない)、ブルーオーブ@DQ11、ポッド153@ニーア
[思考・状況]
基本行動方針:ああ、はずかしい はずかしい
1.レッドと話をする。
2.ブルー以外の他のオーブを探す。
3.ひとまずNの城を拠点にする。

※ニズゼルファ撃破後からの参戦です。
※エマとの結婚はまだしていません。
※ポケモン世界の情報を得ました。

【ベル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:気疲れ(小)
[装備]:ランラン(ランタンこぞう)@DQ11
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:チェレンの死を受け止め、歩き出す。
1.イレブンについていく。
2.ポカポカ(ポカブ)を探す。
3.レッドって、なんか聞き覚えあるかも……。

※1番道路に踏み出す直前からの参戦です。
※ドラクエ世界の情報を得ました。

【レッド@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
[状態]:全身に火傷、疲労(大)、左腕に深い咬傷、無数の切り傷 (応急処置済み)、落下中
[装備]:モンスターボール(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、ランニングシューズ@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、モンスターボール(オーダイル)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:こんな殺し合い止める。
1.イレブンと話をし、Nの城でピカを回復させる。
2.トレバーへの警戒心。何が目的なんだ!?

※支給品以外のモンスターボールは没収されてますが、ポケモン図鑑は没収されてません。
※シロガネやまで待ち受けている時期からの参戦です。

【モンスター状態表】
【ランラン(ランタンこぞう)@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:健康、モンスターボール内
[持ち物]:なし
[わざ]:メラ・ギラ・メラミ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルについていく
1.睡眠中

※トレバーとの戦闘を経てレベルアップしました。

【ポッド153@NieR:Automata】
[状態]:健康
[持ち物]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:???

※Eエンド後からの参戦です。

【ピカ(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:HP 1/3、背中に刺し傷
[特性]:せいでんき
[持ち物]:アンティークダガー@Grand Theft Auto V(背中に刺さっています。)
[わざ]:ボルテッカー、10まんボルト、でんじは、かげぶんしん
[思考・状況]
基本行動方針:レッドと共に殺し合いの打破
1.睡眠中

【オーダイル@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:健康
[特性]:げきりゅう
[持ち物]:なし
[わざ]:かみくだく、アクアテール、きりさく、こおりのキバ
[思考・状況]
基本行動方針:シルバーが見つかるまでレッドと行動する。
1.ようやっと城についたか。
2.元のご主人(シルバー)はどこなんだ?





◾︎

845Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:14:26 ID:xcspQCuM0




「……遅いわね」

 ミリーナが出てから既に一時間以上経過している。
 軽く辺りを散策するにしては長い時間だ。ぽつりと零したマルティナに一抹の不安がよぎる。

「心配しているの?」
「ええ。彼女の身が危ういということは、私たちにも危険が迫っているということだから」

 それが本心か否か確かめる術はない。
 しかしエアリスにとってはミリーナがいないこの状況はありがたい。まだマルティナならば話を聞いてくれる可能性がある。
 実力はマルティナの方が上なのかもしれないが、隙をつけるかどうかでは話が違ってくる。画策の下、エアリスは己の腕を突き出した。

「ねぇ、これ解いてくれない?」
「……なぜ?」
「食事がしたいの。ここに来てから何も食べてないわ」

 じろりと睨むマルティナの目に一瞬どきりとしたが、少しの沈黙のあと手枷が外された。
 長らく縛られていたせいで手首が痛む。赤い跡を軽く擦りながら辺りを見渡した。

(道具は全部没収されてる……けど、マテリアはあそこね。邪気封印で動きを止めて、スリプルで眠らせれば────)

「ありがとう、マルティナは食べなくていいの?」
「私はもう済ませたわ」
「そう……悪いけど私のバッグを取ってくれない? その中にごはんがあるの」
「そうね、構わないわ」

 自分の支給品を取りに行くためマルティナが背を向ける。少なくともこの瞬間、彼女は気を弛めているはずだ。
 

 ────今だ。このタイミングしかない。


 溢れんばかりの魔力を両手に集中させ、邪気封印の狙いをマルティナの背中へと定めた。


「やめておきなさい」


 エアリスの思惑は露と消える。
 なぜ、マルティナはまだ背中を向けているはずなのに。この瞬間エアリスは彼女への認識を改めざるを得なかった。

「今の私に油断はないわ。さっきまでと違ってね」
「……っ!」

 なにがきっかけなのかわからないが、マルティナはさきほどまでの雰囲気とは一線を画している。
 自分と会話を重ねていた時間が懐かしく思えるほどだ。蛇に睨まれた蛙のように身動きを封じられたエアリスは、目前に投げられるデイバッグに視線を移すことしかできなかった。

「どうぞ」

 数瞬の静寂。
 作戦が呆気なく散ったことに落胆の色を見せるエアリスはもはや食事なんてする気にもなれず、口を噤んだ。

「あら、食べないの?」
「……ううん、いただきます」

 半ば脅される形で食料品の入ったパックに手をつける。中からは肉汁の滴る骨付き肉が出てきた。
 世間的に見れば当たりなのかもしれないが正直嬉しくはない。今は何を食べても同じ味に感じるだろうから、もっと食べやすいものがよかった。
 形式だけの食事を早めに済ませようと口元へと運ぶ。口を開いた瞬間、勢いよくドアが開かれ驚いたエアリスは骨付き肉を落としてしまった。


「────ミリーナ!?」

 
 マルティナの声に釣られるようにドアの方へ視線を向ける。ミリーナの姿を見た瞬間、マルティナが声を荒らげた理由を理解した。
 壁にもたれかかり、息を乱すミリーナの華奢な身体には幾箇所にも及ぶ切り傷が目立つ。刃物で切りつけられたような傷とは別に、必死で走ってきたせいか転んだような擦り傷が足を中心に広がっていた。

846Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:15:21 ID:xcspQCuM0

「マル、ティ……ナ……」
「誰にやられたの? とりあえずここで治療しましょう」
「……そんな、悠長なこと……言ってられないわよ!」

 肩を支えようと近寄るマルティナへ苛立ちをぶつけるような一喝を浴びせ、ミリーナはエアリスのデイバッグを乱暴に拾い上げる。
 あ、と漏らした声は届かない。慌ただしく支度を整えるミリーナへマルティナは怪訝そうに顔を顰めた。

「ミリーナ、どうしたの? ちゃんと説明をして」
「うるさい! ……いえ、ごめんなさい。……とりあえず南下しましょう。Nの城は危険よ」
「その傷も城の人間にやられたの?」

 こくり、と頷くミリーナ。
 ならば自分が行けば戦えるのではないか。人質のエアリスもいる今優位に立ち回れるはずだと申し出たが有無を言わさず却下される。
 
「私を攻撃したやつは……とても、話の通じるやつじゃなかった……! 人質なんて意味ない! それに、そいつだけじゃなくて他にも大勢いるのよ!」
「徒党を組んでいたということ?」
「……ちがうわ。首輪探知機を使ったのよ。そいつの近くにも五、六個反応があったわ」
「…………そんなに」

 具体的な数を聞いたマルティナは眉を顰める。ミリーナがこれほど言う相手がいるのに加えてそこまで多数の参加者がいるとなるとリスクが大きい。
 イシの村を目指したかったが、道のりが険しすぎる。反発する理由の見当たらないマルティナは自身も支度を整え、武器代わりのポールを手に取った。

(Nの城……ゲーチスの向かった場所ね。……そんな危険なところなんて)

 一人、支給品を再度奪われたエアリスは思考を巡らせる。Nの城は目的地のひとつとして候補に入れていたが、話を聞く限り相当危うい。
 ゲーチスの身を案じるが、もう自分の手の届く範囲にはいない。監視を緩めるつもりもないのだろう。ミリーナとマルティナに挟まれる形で民家からの退去を強制させられた。



◾︎

847Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:16:41 ID:xcspQCuM0



 南へ下る三人。
 先頭を歩くミリーナの足は落ち着かない。後続の二人のことなど考えない競歩じみた足取りだ。
 当然だ、今の彼女に他人を気遣う余裕などない。それほどまでにミリーナは心身共に消耗していた。


(────逃げるので精一杯だった……! なんなの、あの子供……っ!)


 思い返す。

 あの帽子の少年との邂逅。最初こそ反撃を試みようとしていたが、頭数でも実力でも敵わずまるで太刀打ちできなかった。
 逃走に全力を注いでこのザマ。あんな年端もいかぬ少年に蹂躙されたという揺るぎない事実がなけなしのプライドを傷つけた。
 もしかして自分が敵う相手などほとんどいないのではないか。本気でそう思わせられたことへ行き場のない怒りが暴発寸前の地雷の如く熱を帯びる。

(……まぁ、いいわ。おかげでマルティナを説得する手間が省けた……)

 そう思わないとやっていられないとばかりに負の思考を無理やり正す。
 状況的にあの少年は城を目指していると考えるのが自然だ。となれば探知機に反応した数多の参加者たちとも接触するだろう。イレブンもその中に含まれるはずだ。
 せいぜい潰し合えばいい。そうであってくれと切に願う。

(今に見てなさい……! 絶対、絶対に……生き延びてやるわ……っ!)

 もはやなにもかもが鬱陶しい。
 マルティナも、エアリスも。都合よく使い潰した挙句に切り捨ててしまおう。

 それぐらい許されるはずだ。
 自分は一番不幸な少女なのだから。
 人の心を持ち合わせていたところで価値なんてない。なにもかも利用して、生き残ってやる。


 この瞬間、ミリーナ自身も気づかなかった。
 イクスを救うためという目的が、自分を正当化するための免罪符となっていることに。




【C-2/D-2付近/一日目 日中】
【ミリーナ・ヴァイス@テイルズ オブ ザ レイズ】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、全身に擦り傷、苛立ち(大)
[装備]:魔鏡「決意、あらたに」@テイルズ、プロテクトメット@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品×2、不明支給品0〜2、首輪探知機(一時間使用不可)@ゲームロワ、王家の弓@ブレワイ、木の矢(残り二十本)@ブレワイ
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する
1.トウヤから逃げるため、そしてマルティナとイレブンを会わせないために南下する。
2.マルティナと共に他の参加者を探し、殺す。
3.エアリスを人質として利用する。
4.イレブン以外のマルティナの仲間を、マルティナに殺させる。その方法は具体的に考えておきたい。
5.マルティナのことは残り二十人前後で切り捨てる。現状は様子見。

※参戦時期は第2部冒頭、一人でイクスを救おうとしていた最中です。
※魔鏡技以外の技は、ルミナスサークル以外は使用可能です。
※春香以外のアイマス勢は、名前のみ把握しています。


【マルティナ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:ダメージ(小)、左脇腹、腹部に打撲
[装備]:ポール@現実
[道具]:基本支給品、キメラの翼@ドラクエⅪ、折れた光鱗の槍@ブレワイ、ランダム支給品(0〜1個)
[思考・状況]
基本行動方針:イレブンと合流するまでミリーナと協力し、他の参加者を排除する。
1.心を黒に染める。
2.ミリーナと共に他の参加者を探し、殺す。
3.エアリスを人質として利用する。
4.カミュや他の仲間も殺す。

※イレブンが過ぎ去りし時を求めて過去に戻り、取り残された世界からの参戦です。イレブンと別れて数ヶ月経過しています。


【エアリス・ゲインズブール@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:MP消費(小)、疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:バレットや信頼出来る人を探し、脱出の糸口を見つける。
1.マルティナとミリーナから逃げるチャンスをうかがう。
2.千早を捜索したい。カームの街とNの城は一旦後回し。
3.セフィロス、および会場にあるかもしれない黒マテリアに警戒
4.クラウド、ティファ、ザックス……。

※参戦時期は古代種の神殿でセフィロスに黒マテリアを奪われた〜死亡前までの間です。
※ゲーチスからポケモンの世界の情報を聞きました。





◾︎

848Blazing Wind ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:17:35 ID:xcspQCuM0




「……逃げられたか」


 鬱蒼と茂る木々の中、少年の声が溶ける。
 無機質という言葉はこのために存在しているのだろうと思わせるそれは、敢えて色を付けるのであれば〝落胆〟だ。
 言うまでもなく矛先はいましがた逃したミリーナという獲物に対して。

 追う気分になれない。
 不可能だからではない。追ったところで自分を満足させられるとは到底思えなかったから。
 魔法という未知の攻撃に最初こそ興味を示したものの、冷静に見極めてしまえば脅威ではなかった。身も蓋もないことを言ってしまえばポケモンのわざに似たことを人間がしているだけなのだから。

「まぁ……少しだけ勉強になったかな。それよりも────」

 木々の隙間を縫うように向けられた視線の先には、やはりというべきか見慣れた城が鎮座している。
 戦いの影響で移動してしまったため遠ざかってしまった。どうやら目を離している間に状況が変わっているようで、城の上空にヘリコプターが飛行しているのが見えた。

 その下では人影が二つ。遠目でも片割れがベルであることに気がついた。生存していることは放送で知っていたが、まさか邂逅することになろうとは。
 とはいえ彼女にバトルセンスは期待できないし、今はポケモンの治療がしたい。視線を外そうとした瞬間、情けない叫び声が鼓膜を刺激した。

(…………あれは)

 見れば少年がヘリから落下している。
 年は自身とそう変わらないだろう。急速に地面に落ちてゆくその姿は一瞬しか見えなかったはずなのに、トウヤは確信する。

「……ふっ、……」

 思わず笑みを漏らす。
 まさか本当にこの場に集まるとは。それもほぼ同じタイミングで。これを偶然と片付けるには少し勿体なく感じる。
 間違いない────神が見たがっているのだ。チャンピオン同士の戦いを。


「先に待ってますよ、レッドさん」


 それだけを言い残し、トウヤは踵を返す。
 向かう先は当然Nの城──押し寄せる高揚感に鳥肌が立つ。こんな感覚は久しぶりだ。
 膨らむ期待が少年から落ち着きを奪う。躍る心を止める術が見当たらない。
 


 それは、荒れ狂う風のように。
 それは、燃え盛る炎のように。


 
 枯れたはずの大地は、命の芽吹きを報せた。




【トウヤ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:全身に切り傷(小)、高揚感(大)、疲労(大)、帽子に二箇所の穴
[装備]:モンスターボール(オノノクス)@ポケモンBW、モンスターボール(ジャローダ)@ポケモンHGSS、チタン製レンチ@ペルソナ4  
[道具]:基本支給品、モンスターボール(空)@ポケモンBW、カイムの剣@DOD、煙草@MGS2、スーパーリング@ドラクエⅪ
[思考・状況]
基本行動方針:満足できるまで楽しむ。
1.Nの城でポケモンを回復させ、レッドを待つ。
2.自分を満たしてくれる存在を探す。
3.ポケモンを手に入れたい。強奪も視野に。

※チャンピオン撃破後からの参戦です。
※全てのポケモンの急所、弱点、癖、技を熟知しています。
※名簿のピカチュウがレッドのピカチュウかもしれないと考えています。

【ポケモン状態表】
【オノノクス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト ♀】
[状態]:HP1/8
[特性]:かたやぶり
[持ち物]:なし
[わざ]:りゅうのまい、きりさく、ダメおし、ドラゴンテール
[思考・状況]
基本行動方針:トウヤに従う。
1.ジャローダと話がしたい。

【ジャローダ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト ♀】
[状態]HP:1/10  人形状態
[特性]:しんりょく
[持ち物]:なし
[わざ]:リーフストーム、リーフブレード、アクアテール、つるぎのまい
[思考・状況]
基本行動方針:もうどうでもいいのでトウヤの思うが儘に
1.???

849 ◆NYzTZnBoCI:2024/11/27(水) 22:20:07 ID:xcspQCuM0
投下終了です……が、投下の最中にミスに気づいたので訂正します。
ランランの状態表なのですが、ボールから出ている状態なのに弄るのを忘れてしまいました。
wiki編集の際に以下に修正して頂けると助かります。


【ランラン(ランタンこぞう)@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:健康、MP消費(小)
[持ち物]:なし
[わざ]:メラ・ギラ・メラミ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルについていく
1.ベルに褒められて嬉しい。

850名無しさん:2024/11/28(木) 06:15:35 ID:5t.N9U260
投下乙です
トレバー殺してないことをベルが気づいてくれて何より
いちごちゃんGJ
ベルに褒められて喜んでるランランかわいい

ミリーナはだいぶ病んでるなあ
まともな状態ならマルティナもエアリスも本来は大好物なはずなのにね

いよいよ出会うだろうカントーとイッシュのチャンピオンにワクワク

851名無しさん:2024/11/28(木) 10:50:00 ID:EgvqBn8s0
乙です
緩急の緩の部分ながらそれぞれの思惑が清濁飛び交い見ごたえのある群像劇が描写されて面白かったです
あと>>844のレッドの状態表に落下中がついたままです

852 ◆NYzTZnBoCI:2024/11/28(木) 12:55:17 ID:bl0HKtBU0
感想とご指摘ありがとうございます!
すいません……このままでは落下中にレッドが高らかに自己紹介しているシュールな構図となってしまうので、こちらも修正して頂けるとありがたいです……。

853名無しさん:2024/12/06(金) 18:06:53 ID:MHcmqHWY0
ゴリラババア指すべし

854 ◆RTn9vPakQY:2024/12/18(水) 07:15:50 ID:PLaal3Yo0
>>827
感想ありがとうございます!
はい、トレバーに「ポケットモンスター」を言わせたい一心で書きました。気づいて貰えて嬉しいです。
また後ほど感想は書かせてもらいますが、レッドを落下させたパスから繋いでくださって感謝しています。

一つ報告です。今更ながら拙作「Lacquer Head」の細部を修正させてもらいました。
ヘリコプターの支給品説明に、ガンパウダーのことを追記した他は、細かい言い換えです。
レッドは既に後続の話がありますが、展開に影響を及ぼすことはありません。

そして、
ソリッド・スネーク、イウヴァルト、ルッカ、N、如月千早、ピカチュウ、
花村陽介、里中千枝、クレア・レッドフィールド、澤村遥、ソリダス・スネーク
以上を再度予約します。

855 ◆RTn9vPakQY:2024/12/24(火) 23:00:09 ID:lmaZaIoY0
予約を延長します

856 ◆RTn9vPakQY:2025/01/01(水) 23:00:00 ID:qq7xHW220
すみません、予約期限は過ぎているのですが、
明日中には投下できる見込みなのでお待ちいただければ幸いです。

857 ◆RTn9vPakQY:2025/01/03(金) 09:16:05 ID:j.OPIvNQ0
たいへん遅くなりました。予約からソリダスと遥を除外して投下します。

858クロス八十神物語 ◆RTn9vPakQY:2025/01/03(金) 09:17:56 ID:j.OPIvNQ0
 エリアE-5に位置する八十神高等学校の屋上。
 ルッカは巨竜の咆哮を耳にすると、即座に行動を開始した。

「あなた、名前は?」
「え?えっと……如月千早です」
「OK、チハヤ。私はルッカ。あと彼はN。
 話を聞きたいのはやまやまだけど、今は逃げるわよ!」

 ルッカはそう言いながら、屋上の扉を指さした。
 情報共有よりも安全確保を優先するべきだと、ルッカの勘は告げていた。

「え、でも……あの人の無事を確認しないと」
「ルッカはまずココから離れよう、と提案しているんだ。
 彼の生死については、校舎から出て確認しに行けばいい。
 それよりもこのまま屋上に居続けるのは、ハイリスクだよ」

 落ちていたデイパックを千早に押し付けながら、早口で説明するN。
 この緊急事態に、こちらの意図を汲んだ行動をしてくれるのは非常にありがたい。
 千早は全てを理解できたわけではないようだが、それでも頷いて扉へと駆け出した。
 自分も落ちているデイパックを拾い、急ぎ屋上を去ろうとした直後である。

グオオオオッ

「あっ……!」

 より間近で聞こえてきた雄叫びに、ルッカは思わずよろけて膝をついた。
 振り向いたとき、フェンスの向こう側からせり上がるように黒竜は姿を現した。
 そして黒竜の背中に騎乗しているのは、メガトンボムで吹き飛ばしたはずの男。
 男は飛び降りて屋上に着地すると、滞空している黒竜に告げた。

「ブラックドラゴン、焼き尽くせ」

 ルッカはゾッとした。
 命令を下した男の表情は、数分前に泣き叫んでいたとは思えないほど冷酷だったからだ。

(マズイ!)

 ドラゴンの口元に橙色の光を見たルッカは、次に放たれる攻撃を予測して背筋を凍らせた。
 扉までの距離を目測する。雄叫びに委縮したせいでギリギリだ。

「それなら!」

 ルッカは走りながら、ナパームボムを自身のすぐ後ろに落とした。
 その目的はドラゴンに当てることではない。巻き起こる爆風を追い風にすることだ。

(痛いのは我慢……!)

 爆発と同時に、さながらビーチフラッグを取るような前傾姿勢で、開いた扉へと飛び込む。
 迫り来る熱を背中に感じながら、転びそうになるのを耐えて階段を駆け下りると、ようやく炎は弱まりを見せた。

「はぁはぁ……」
「だ、大丈夫ですか!」

 千早とNの二人は、先行して階段を下りていたおかげで無傷らしかった。
 わずかに焦げた腰のあたりをさすりながら、ルッカは次の行動を考える。

「イタタ……平気よ、それより早くアイツから逃げないと」
「そうですね……」
「いや、焦る必要はないよ」

 その言葉をきっかけに建材が音を立てて崩れ始め、ほどなく階段は大量の瓦礫で埋まった。
 驚いている千早と対照的に、Nは予想していたかのように平然としている。

「……どうしてわかったんですか?」
「この建物の建築手法と経年劣化から、あれだけの火力を食らえば壊れると踏んだんだ」
「でも、古い建物に見せかけただけかもしれないんじゃ?」
「その可能性もあった。だから経年劣化の判断基準には音も入れたんだ。
 廊下を歩く音、ドアを開く音、壁を叩く音。これらと見た目を合わせて判断した」

 こともなげに語るN。その頭の回転の速さにルッカは舌を巻いた。
 素性は杳として知れないが、優秀な頭脳を持ち合わせていることは疑いようもない。

「とにかく。これで多少でも時間は稼げるわ」

 瓦礫のおかげで、三階から屋上へと向かう階段を通ることはできなくなった。
 ドラゴンの力を利用して瓦礫をどかすことができたとて、それ相応に時間はかかる。
 つまり今こそ絶好の逃げるチャンスなのだ。

859クロス八十神物語 ◆RTn9vPakQY:2025/01/03(金) 09:19:21 ID:j.OPIvNQ0
「二人ともすぐに――」

 しかし、ルッカの指示は壮絶な音でかき消された。
 音の発生源は下。吹き抜けになっている部分から階下を覗くと、そこにあったのは直径三メートルほどの球体。

「あれ、屋上にあった給水タンク!」

 千早の叫び声で、ルッカも屋上にあった給水タンクを思い出した。
 つまり、屋上から運んだ給水タンクを、外から勢いよく投げ入れたことになる。
 そう考えていると続けざまに、フェンスや室外機など屋上に置かれていたものが玄関に放り込まれていく。

「ドラゴンに投げ入れさせているのか。先手を取られたわけだ」
「そうみたいね」

 冷静なNの呟きに、ルッカは同意した。
 散乱したガラスの破片や倒れた下駄箱も含めて、もう気軽に下校することはできない。
 安全に玄関から脱出する道は、ほとんど閉ざされたと考えていいだろう。

「ハハハハハ!」

 出入口が埋め尽くされたあとに外から響いてきた哄笑は、もちろん男のものだ。
 ルッカたちを仕留められなかったのにもかかわらず、愉快そうに笑い声を上げている。

「まんまと逃げ果せたと、希望を見出していたか?
 残念、お前たちは閉じ込められたのと同じなんだよ!
 逃げ出そうとすれば、瞬間このドラゴンの餌食になる!」

 男の言葉に呼応するかのように咆哮が轟いた。
 あの男はドラゴンを完全に使役しているのだとルッカは確信した。

「震えろ!怯えろ!殺されるのを、指を咥えて待つといい!」

 そう告げると、男は再び哄笑した。

「……好き勝手に言ってくれるわ」

 ルッカは舌打ちをすると、脱出経路を探すために千早へ質問する。

「ねえチハヤ、この建物、玄関以外に出られる場所は?」
「えっと……わかりません。私、ほとんど屋上から動いていないので」
「はあ!?もうここに来てから十二時間も経つのよ?
 まさか、ずっと歌い続けていたなんて言うんじゃ……」
「……そうです」
「あ、じゃあもしかして、強力な魔法やアイテムが使えたりする?」
「……いいえ」

 きまりが悪そうに俯いて答える千早に、ルッカは呆れた。
 屋上にいる歌い手は実力者か、はたまた人をおびき寄せる怪物かと考えていた頃の自分に、答えを教えてあげたい。
 まさか、殺し合いに呼ばれたのに歌うことだけ考えている参加者がいるとは思うまい。

「まったく、度胸があるというべきか、命知らずというべきか」
「無謀だったのは認めます。ですが……」
「いいの、別に責めたいわけじゃないわ。
 でもそうなると、脱出する方法を探す必要があるわね」

 ルッカとNは八十神高校に来たばかりで、ロクに探索をしていない。
 つまり当然、脱出方法のアテは掴んでいないことになる。

「それならいい案がある!」

 背後からの声に振り向くと、そこには黄色いネズミがいた。
 こげ茶色の鹿撃ち帽を頭に乗せて、ルッカたちと同じ首輪をしている。
 そして、黒ずくめの服装に身を包んだ男に両腕で抱えられていた。
 ルッカはその特異な状況に困惑して、思わず曖昧な質問をした。

「あなたたち……何?」

860クロス八十神物語 ◆RTn9vPakQY:2025/01/03(金) 09:21:03 ID:j.OPIvNQ0


(我ながら間の抜けた見た目をしているんだろう)

 ソリッド・スネークは、ピカチュウを抱きながら内心でそう思う。
 校舎に潜入してピカチュウと廊下で出くわしたときから、イヤな予感はしていた。

「オレは名探偵ピカチュウ。このとおり、れっきとした参加者だ。
 もちろん、こんなふざけた殺し合いには反対だ。おっさんもそう思うだろ?」

 話を振られたので「ああ」と短く返すと、ピカチュウは満足気に頷いた。

「……ひとまず信用してみるわ。
 私はルッカ。そちらのダンディなおじさまは?」
「コイツは……えーと……」
「ソリッド・スネークだ」

 どうやら名前を忘れられていたらしい。

「そう!ソリッド・スネークだ!スネークは二人いるから紛らわしいな」
「……OK、ピカチュウとスネークね。
 ここだと外から見えて危険だから、近くの部屋に隠れない?」

 ルッカの誘導で、全員で三階の手近な教室に移動する。そこは放送室と書かれていた。
 ピカチュウからジェスチャーで頼まれたので床に降ろすと、ピカチュウは再び口を開いた。

「オレたちは別行動していて、この学校でたまたま再会したんだ。
 まさか再会を喜ぶより先に閉じ込められるとは思わなかったけどな」

 ひょいと肩をすくめるような動作をするピカチュウを見て、スネークはふと思い出した。
 数時間前の出会いの場で、ピカチュウはまるで気合を入れ直すように頬を叩いていた。
 やけに人間味のある動きをするものだと、妙に感心したのを覚えている。

(……まあ、だからどうという話ではないんだが)
「それで、ピカチュウ。いい案って?」

 大ぶりな眼鏡をかけた少女、ルッカはピカチュウに話を促した。
 背後の二人の名前を教えなかったことから察するに、まだ警戒されているようだ。

「ああ。オレはこの八十神高校で待ち合わせをしているんだ。
 悠とティファ、それに里中千枝。三人とも腕に覚えのある参加者だ」
「悠……千枝……?」
「それで?」
「三人と協力すれば、あのドラゴンを倒せる!」

 根拠に乏しい論理だ。希望的観測と言い換えてもいい。
 それだけ三名の実力を信頼しているのだろうが、ある前提を抜かしてしまっている。
 スネークは何か言いたそうにしているルッカを手で制して、ピカチュウにこう伝えた。

「じきに放送が始まる。話の続きはそのあとだ」
「おっと……そうか。もうそんな時間か」

 虚を突かれた反応をするピカチュウ。

「今回は何人呼ばれるんでしょうか……」
「人数を推定するのは難しいだろうね。ボクでさえ未来を見える気がしない」

 不安そうに眉をひそめる長髪の少女。早口で話す帽子の少年。
 この二人は立ち居振る舞いから戦場に慣れていないとスネークは判断した。

『みんなお疲れ、色々と頑張ってるみたいだねぇ』

 そして始まる放送。気怠そうな男の声による放送は、放送室の空気を重苦しいものにした。
 主催者でさえ予想外のペースだという、前回の放送より増えた死者の人数。

「残り参加者は四十人……か」
「えっと……禁止エリアはどこだっけ」

 冷静に見えた帽子の少年やルッカでさえ、態度に動揺を隠せていない。
 やはり、年相応に未熟な部分もあるということだろう。

「四条さん……萩原さん……」

 一方で、長髪の少女は知人らしき名前を呟いて、見るからにショックを受けていた。

861クロス八十神物語 ◆RTn9vPakQY:2025/01/03(金) 09:22:48 ID:j.OPIvNQ0
「なんてこった、悠……!ティファ……!」

 ピカチュウはといえば、震える小さな手を床に打ち付けていた。
 鳴上悠とティファ・ロックハート。落ち合う予定の三名のうち二名は命を落としたと宣告を受けたのだ。
 当人からするとショックだろうことはもちろん、合流する前提で脱出案を考えていた以上、その案は破綻したことになる。
 落ち込む名探偵をそのままに、スネークは全員に向けて口を開いた。

「ナーバスになるのはいいが、脱出する方法を探らなければならない。
 ここでお互いの持つアイテムを確認したいと考えているが、どうだ?」
「そうね、スネーク。Nも協力して。チハヤは大丈夫?」
「……はい。大丈夫です」

 それからは互いの支給品を確認するのと同時に、情報を共有することにした。



「なんだよ、人の顔をジロジロと」
「いや、生のピカチュウを見るのは初めてでね」
「おお!お前はポケモンを知っているんだな!」
「ああ。ボクはイッシュ地方にいたんだ。ポカブと同じさ」
「ポカポカ!」
「キミはどこから来たんだい?カントー、ホウエン、それともシンオウ?」
「ライムシティを知ってるか?人とポケモンの共存・共栄する街さ」
「へえ……それは興味深い。ぜひ行ってみたいな」



「ピカチュウさん、もしかして天城雪子って人に聞き覚えありませんか?」
「ん……そういえば悠のやつが仲間だって言ってたな。どうしてだ?」
「私、雪子……さんに屋上で助けてもらったんです。
 そこで話したとき、悠さんや千枝さんの名前を聞いていたので、もしかしたらと思って」
「そうだったのか……その、雪子は?」
「下の保健室にいます。千枝さんには、せめて会わせてあげたいですけど……」
「ああ……無事だといいんだが」



「……うーん、首輪の解析はまだ先になりそう」
「ルッカは爆弾に詳しいのか?」
「まあね。サイエンス全般は任せて。工具さえあれば、首輪を解析できそうなんだけど」
「工具……?もしかして、黄色いロボに心当たりがあるか?」
「えっ!?どうしてそれを?」
「病院でロボに襲われたんだが……そのロボの顔が描いてある工具箱が、悠に支給されていたんだ!」
「それ、私のやつ!今どこにあるの?」
「たしか……悠の荷物にあったはずだ」
「じゃあ目的地は決まりね!」
「E-4の方角にいるはずだ」



 こうした会話を耳に入れながら、スネークは黙考していた。
 待望の武器となる拳銃は手に入れたものの、状況は思わしくない。

 ソリダスやオセロット、それに警戒すべきカイム及びハンターは未だ生存している。
 オタコンの名前が呼ばれなかったのは不幸中の幸いだが、やはり今すぐにでも合流したい。

 ここでネックになるのは戦闘員の人数だ。ここにいる参加者五名のうち戦闘員と呼べるものを有しているのは二名。
 ポケモントレーナーを戦闘員に数えるかは微妙なところだが、身体能力を考慮に入れて今回は数えない。
 ドラゴンに騎乗する男は、数時間前に対峙した、主催者の手先の可能性がある相手だ。
 脱出に際して、警戒をしてし過ぎるということはない。

「……」

 いずれにせよ迅速な行動は必須だ。悠長に動いて火でも付けられたら目も当てられない。
 この閉ざされた空間から、非戦闘員含めた全員を無事に逃がすために。
 伝説の傭兵ソリッド・スネークは行動を開始する。

862クロス八十神物語 ◆RTn9vPakQY:2025/01/03(金) 09:23:30 ID:j.OPIvNQ0
【E-5/八十神高校/一日目 日中】
【ソリッド・スネーク@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:全身に軽い火傷と打撲(処置済)
[装備]:傭兵用ハンドガン(15/15)@BIOHAZARD 3
[道具]:基本支給品、音爆弾@MONSTER HUNTER X(2個)、パラセール@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド、首輪(ジャック)、ジッポー@現実
[思考・状況]
基本行動方針:マナやウルノーガに従ってやるつもりはない。
0.八十神高校から脱出する。イウヴァルトとドラゴンは……。
1.オタコンの捜索。偽装タンカーはもちろん、他の施設も確認するべきか。
2.武器(可能であれば銃火器)を調達する。装備は多いに超したことはない。
3.カイムと狩人の男。オセロット、ソリダス、セフィロスに要警戒。
4.装備が整い次第、セフィロスを倒すか?

※参戦時期は少なくとも、オセロットがソリダスも騙したことを明かした後以降です


【ピカチュウ@名探偵ピカチュウ】
[状態]:健康
[装備]:モンスターボール(ポカブ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
0.この八十神高校から脱出する。
1.脱出後はE-4でルッカの工具箱を探したい。
2.悠とティファの仲間、ポカブのパートナーを探す。
3.千枝、無事でいてくれ……。

※本編終了後からの参戦です。
※電気技は基本使えません。
※ティファからマテリアのこと、悠からペルソナのことを聞きました。


【如月千早@THE IDOLM@STER】
[状態]:焦燥
[装備]:肝っ珠@ペルソナ4、ロイヤルバッジ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜1個) 天城雪子の支給品(0〜1個)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残って、歌い続ける。
0.八十神高校から脱出する。
1.急に様子がおかしくなったイウヴァルトに違和感。
2.里中千枝を雪子と会わせたい。そして雪子の最期を伝えたい。


【ルッカ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(小)、MP消費(小)
[装備]:水の羽衣@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(工具の類は入っていません)、医療器具 図書館の本何冊か(何を借りたかは次の書き手にお任せします。)  素材(機械生命体の欠片、ネジ、金属板など)
[思考・状況]
基本行動方針:人と工具を集め、ロボを正気に戻す。
また首輪を集め、解析、あるいは景品交換用に使う。
0.八十神高校から脱出する。
1.E-4方面へと向かい工具箱を回収する。
2.多少は割り切ることも必要なのかもしれないわ……。
3.工具箱が見つかれば、この首輪の解析でもしてみようかしら。
4.首輪を集めたら、首輪景品交換所を使う。
5.Nって不思議な人……だけど優秀な頭脳なのは間違いないわ。
6.何のためにあんな機械を?

※遊園地廃墟にある、首輪景品交換所の情報を知りました。

863クロス八十神物語 ◆RTn9vPakQY:2025/01/03(金) 09:24:45 ID:j.OPIvNQ0
【N@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[装備]:モンスターボール(トンベリ)@FF7、毒牙のナイフ@DQ11(トンベリが所持)
[道具]:基本支給品 本何冊か
[思考・状況]
基本行動方針:ルッカの理想に付き合う
0.八十神高校から脱出する。
1.ルッカと共に行動をする
2.新しい理想を手に入れる。


【イウヴァルト@ドラッグオンドラグーン】
[状態]:狂気(大)
[装備]:アルテマウェポン@FF7
[道具]:基本支給品、モンスターボール(空) ゴールドオーブ@DQ11
[思考・状況]
基本行動方針:フリアエを生き返らせてもらうために、ゲームに乗る。
1.ドラゴンと共に、破壊の限りを尽くす
2.もう、帰れない

※空っぽのモンスターボールは野生のポケモンの捕獲に使えるかもしれません。


【支給モンスター状態表】
【ブラックドラゴン@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:健康
[持ち物]:なし
[わざ]:テールスイング おたけび 噛みつき はげしいほのお
[思考・状況]
基本行動方針:破壊の限りを尽くす


【トンベリ@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:健康
[持ち物]:毒牙のナイフ
[わざ]:ほうちょう みんなのうらみ 
[思考・状況]
基本行動方針:Nと行動を共にする、自分のほうちょうがほしい。


【ポカポカ(ポカブ ♂)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康、満腹
[特性]:もうか
[持ち物]:なし
[わざ]:たいあたり、しっぽをふる、ひのこ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルを探す
1.ピカチュウ達について行き、ベルを探す。
2.強くなってベルを喜ばせたい。


【支給品紹介】
【傭兵用ハンドガン@BIOHAZARD 3】
天城雪子に支給された拳銃。
モチーフはSIGPRO SP2009。装弾数15発。
U.B.C.S. が傭兵に支給しているハンドガン。ゲーム本編ではカルロスの初期装備。


【共通備考】
※八十神高校の三階から屋上に続く階段及び正面玄関は、瓦礫等が障害物となっています。
※お互いの支給品を確認して、適宜交換しました。
描写したのは、傭兵用ハンドガンを雪子からソリッド・スネークに移したのみです。



864クロス八十神物語 ◆RTn9vPakQY:2025/01/03(金) 09:25:52 ID:j.OPIvNQ0
 第二回放送からさかのぼること十数分。
 花村陽介と里中千枝の二人は、休息よりも先に作業をしていた。
 その作業とは、戦闘で命を落とした二人――鳴上悠とティファ・ロックハート――の遺体を安置することだ。
 現在は晴れているが、いつ天気が崩れるかはわからない。「これ以上遺体を傷つけたくない」という千枝の提案に、陽介も賛同した。
 とはいえ遠くまで移動するのは大変なので、付近で崩壊を免れた建物のソファへと二人を寝かせた。

「本当なら、きちんと弔ってやりたいけど……今はこれで我慢してくれよ」

 ここにいない完二や雪子、ホメロスまで含めて黙祷を捧げた陽介は、横目で千枝の様子を確認した。
 泣き腫らして赤みを帯びた目で遺体を見つめながら、小さく声を漏らす千枝。

「鳴上くん……」

 鳴上悠は、名実ともに自称特別捜査隊のリーダーだった。
 落ち着いているのに不思議と発言力はあり、メンバーの精神的支柱になっていた。
 ダンジョンの戦闘はもとより、学校生活という日常においても助けられたことは数多い。
 もちろん陽介は、千枝のプライベートこそ知らないが、千枝もまた悠に助けられたのであろうことは、常日頃の接し方から想像できた。

(大切な仲間の死を、そうそう吹っ切れるワケねーよな。
 しっかり前を向いて現実と向き合おう……か。我ながらムズイこと言うぜ)

 つい先ほど千枝に伝えた言葉は、そのまま陽介の意思表明でもある。
 陽介はその難しさを理解している。己のシャドウとの対峙、そしてもう一つの経験からだ。

(俺だって……これが初めてじゃないから、まだ冷静でいられるだけだ)

 大切な相手を喪う経験は、陽介にとって初めてではない。
 小西早紀。自分から一方通行に想いを寄せていた相手でさえ、亡くなったと聞いたときはショックを受けた。
 そのショックを、陽介は“連続殺人事件を解決する”という目標で抑え込んで行動してきた。
 現実と向き合えているかと言えば、そうではないのかもしれない。

(それでも進まなきゃいけねぇ)

 だからこそ。陽介は千枝に「一緒に進もう」と伝えたのだ。
 現実と向き合うのは難しいことで、一人では挫けてしまうから。

「里中、とりあえず休憩だ。メシ食おうぜメシ。あ、もう食った?」
「ううん」
「ってか俺の食料、ビフテキ串10本なんだけど!?正気かよ!
 なあ、そっちのデイパックには何が入ってた?肉と交換しようぜ」
「……ガム一枚ならいいよ」
「ガムかよ!レートつり合ってないっつの!」
「はぁ?肉ガムだよ?一枚で値千金だって」
「肉と肉を交換してどーすんだよ!」

 つとめて明るい振る舞いをしてみたら、千枝もいくらか調子を取り戻したらしい。
 こういう単純な部分は助かると、陽介は千枝の性格に感謝した。
 そして、改めて伝えておくべきことを口にする。

「いいか?いろいろ考えちまうかもだけど、今は生きるのが最優先だ。
 それに俺たちは、悠や完二や天城のことを伝えなきゃならないだろ?」
「うん……」
「だから、これからのことを考えるんだ。まずはお互いに情報を交換して……」
「……」
「おい、聞いてんのか里中?」
「ねぇ、何か聞こえない?バイクの音みたい」

 千枝に言われて耳をそばだてると、確かにアイドリング音らしきものが聞こえる。

865クロス八十神物語 ◆RTn9vPakQY:2025/01/03(金) 09:27:22 ID:j.OPIvNQ0
「まさか、誰か騒ぎを聞きつけて来たのか?」
「どーしよう、とにかく会ってみる?」
「いやいや、危険な相手だったらマズイだろ!まずは様子見で……」

 あれこれ話していると、聞こえてくる音はアイドリングから女性の声へと変わった。それも誰かを呼ぶ声だ。

「シェリー!シェリー!」

 屋内から外を見やると、そこには必死に声をあげるポニーテールの女性がいた。
 女性の呼んでいる“シェリー”とは名簿の“シェリー・バーキン”のことかと予測していると、別の名前を呼び出した。

「クラウド!ティファ!エアリス!」
「ソリッド・スネーク!あとは……ハル・エメリッヒ!」
「誰でもいい、誰かいないの!?」

(クラウドたちを知っている……誰だ?)

 女性の悲痛な叫びに同情して出ていくべきかどうか、陽介は思案する。
 疲労は肉体と精神ともにピークに達している。不用意に接触して戦闘になれば不利だ。

「どうするの花村?」
「……安全だと確実に思えるまでは、様子見だ」

 ここで選択を誤るわけにはいかない。
 一歩間違えば命を落とす現状への危機感が、陽介を慎重にさせた。
 そして幸運なことに、状況は思いのほか早く動き出した。

『みんなお疲れ、色々と頑張ってるみたいだねぇ』

「この声!?」
「足立の野郎……!」

 定時放送を告げたのは、陽介たちのよく知る人物だった。
 陽介は数時間前に姿を見ていたので驚きよりも怒りが先に来るが、千枝からすると驚きが大きいはずだ。
 放送で呼ばれる名前をメモしているときも、千枝を横目で見ると心ここに在らずといった様子だ。

「なんで足立さんが……?」
「足立については後で話す。それよりあの人は?」

 放送後に外を見ると、そこで女性は立ち尽くしていた。
 それは死者を告げられて呆然とした表情ではない。むしろ安堵している表情だ。

「ねえ、花村。あの人……」
「ああ……信用しても良さそうだ」

 陽介は千枝と目配せを交わして頷いた。
 この状況で、あの表情を出せるのは心の底から安堵しているからに違いない。

「あの!お姉さん、誰か探してるんですよね?」

 こちらの姿を認めた女性は、怪訝な表情で後ずさりをした。
 警戒を解くために、陽介はデイパックを地面に置いて両手をあげてから言葉を述べた。

「俺、花村陽介って言います。こっちは里中千枝」
「もちろん殺し合いには乗ってません!」
「そうなの……私はクレア。クレア・レッドフィールドよ。
 向こうのホテルから凄まじい戦闘が見えて、ここまで来たの」

 クレアは南の方角にかろうじて見えるホテルを指差した。
 陽介はクラウドとの戦闘を思い返す。あの破壊を見てここに駆け付けたくなる気持ちは理解できる。

「それで、誰を探してるんですか?」
「そうね……あなたたち、シェリーという女の子を見たりしていない?」

 クレアは疲れた表情を浮かべて、シェリーの特徴を陽介たちに伝えてきた。
 あいにく陽介には心当たりはなかったが、千枝にはあったようだ。

866クロス八十神物語 ◆RTn9vPakQY:2025/01/03(金) 09:34:00 ID:j.OPIvNQ0
「その子……橋の近くで会った子だ!」
「本当!?」
「眼鏡をかけて忍者みたいな格好をした男の人と一緒にいた!
 たしかシェリーって呼ばれてた……そう、研究所に行くって!」

 千枝の言葉で、クレアは表情をみるみる明るくした。
 そして「ありがとう」と礼を述べると、早速バイクに乗ろうとする。
 そこで陽介はあることを思いついて、バイクに駆け寄り引き留めた。

「待って!ひとつ、頼みたいことがあるんです」
「頼みたいこと?」
「コイツを八十神高校まで届けてくれませんか?」

 陽介は隣の千枝に親指を向けた。千枝は驚いた表情だ。
 同意を得るより先に、千枝のデイパックに自分の荷物を収めていく。

「ちょ、花村!?いきなり何の話?」
「さっき黄色いネズミの話してただろ。ピカチュウだっけ?
 放送で呼ばれなかったってことは、そいつはまだ生きてるってことだ」
「あ、そっか!合流した方がいいよね」
「そういうこと。クレアさん、お願いできませんか?」

 クレアはしばらく逡巡して、それでも了承した。
 渡されたヘルメットを装着しながら、千枝は花村に問いかけた。

「でも花村、アンタはどうすんの?」
「バイクは最大二人乗りだろ?俺は歩いて向かうよ」
「それなら、これを持っておくといいわ」
「これは……トランシーバー?」

 クレアから渡されたのは小型の無線機。操作方法を確認して、デイパックにしまい込む。

「もしかすると白髪の男性に会うかもしれないから、教えておくわ。
 私の名前と“サンズ・オブ・リバティ”というワードを言えば味方と伝わるはず」
「それじゃあ花村、八高でね!」
「ああ!」

 陽介は遠ざかるバイクの影を見送り、遺体を安置した建物へと戻ると、ソファに勢いよく倒れ込んだ。
 殺し合いの開始からここまでの連戦で溜まってきた疲労は、ついに限界を迎えた。
 ヘロヘロな状態で、千枝に余計な心配をかけまいと気力で耐えていたのである。
 魔術師は寝息を立てて、久方ぶりに身体を休めることにした。

【E-4/一日目 日中】
【花村陽介@ペルソナ4】
[状態]:ダメージ(大)、顔に痣、体力消耗(大)、SP消費(大)、疲労(極大)、決意、睡眠中
[装備]:グランドリオン@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品3人分、不明支給品(1〜3個)、トランシーバー@現実
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と共に死んだ人たちの仇をとる。
0.Zzz……(八十神高校へ向かう)
1.死ぬの、怖いな……。
2.足立、お前の目的は……?
3.サンズ・オブ・リバティ?


※参戦時期は足立との決着以降です。主催者陣営に足立がいることを知りました。
※鳴上悠との魔術師コミュはMAXになりました。
※クラウドの過去を知りました。
※ペルソナ『スサノオ』を覚醒しました。


【里中千枝@ペルソナ4】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、体力消耗(大)、SP消費(小)、びしょ濡れ、右掌に刺し傷、深い悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、守りの護符@MONSTER HUNTER X、女神の杖@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて、ルッカの工具箱@クロノ・トリガー、シーカーストーン@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド、モンスターボール(空)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト、シルバーオーブ・LIFE@ゲームキャラ・バトルロワイアル、クラウドの首輪、ランダム支給品(0〜1個)
[思考・状況]
基本行動方針:前を向き、現実と向き合う。
0.クレアのバイクで八十神高校へ向かい、ピカチュウ達と落ち合う。
1.鳴上くん……。錦山さん……。
2.自分の存在意義を見つけるまでは、死にたくない

※ミファーは死んだと思っています。


【クレア・レッドフィールド@BIOHAZARD 2】
[状態]:疲労(小)、不安
[装備]:サバイバルナイフ@現実、クレアのバイク@BIOHAZARD2
[道具]:基本支給品、不明支給品(確認済み 0〜1個)、パープルオーブ@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて、薬包紙(グリーンハーブ三つぶん)@BIOHAZARD 2、トランシーバー×2@現実
[思考・状況]
基本行動方針:対主催の集団を作り上げる。
0.千枝をバイクで八十神高校まで送り届けて、それから研究所へ行くため北上する。
1.シェリー・バーキンを探して保護する。
2.首輪を外す。
3.いずれ“セレナ”に寄る。

※エンディング後からの参戦です。

867 ◆RTn9vPakQY:2025/01/03(金) 09:40:09 ID:j.OPIvNQ0
以上で投下終了です。誤字脱字や指摘等あればお願いします。
重ねて予約期限の超過、大変申し訳ございませんでした。

868 ◆vV5.jnbCYw:2025/01/19(日) 14:29:04 ID:bHLxhMM20
ロボ予約します

869 ◆vV5.jnbCYw:2025/01/26(日) 11:33:20 ID:s3WrPlRc0
延長します

870 ◆vV5.jnbCYw:2025/02/02(日) 11:21:29 ID:BJbD.vLk0
投下します

871流れたオイルの先には ◆vV5.jnbCYw:2025/02/02(日) 11:22:03 ID:BJbD.vLk0

――お…おはようゴザイマス、ご主人様。ご命令を


「──シンニュウシャをハッケン。ハイジョします。」


――ワタシも、見とどけてみたいのデス。アナタ方のする事が、人間を…いえ、この星の生命を、ドコへみちびいて行くのか。


「──シンニュウシャをハッケン。ハイジョします。」


――どうでしょう。ミナサン。ワタシがココに残って、フィオナさんのオテツダイをするというのは。


「──シンニュウシャをハッケン。ハイジョします。」


――ワタシニとっては400年ハながい時間デシタ……。シカシ、クロウのかいアッテ、森ハよみがえりマシタ。


「ハイジョ、ゾッコウ。」


――■■■、ワタシも未来で元気にやっていきマス。





スネークの排除に失敗したロボは、病院内に戻った。
そんなロボの脳裏を、何かの言葉が過った。
それはロボが発したのであって、プロメテスが発してない言葉。


2階の廊下を歩いている途中に、アイセンサーが捉えたのは、錦山の死体。
ロボはその名を聞いたことは無かったが、ジョーカーとしてデータに保存されていた。
殺したのは同じジョーカーであるイウヴァルトであって、自分ではないが、殺したようなものだ。


しかし、機械の心に、プロメテスの心には何も響かない。
元の世界の仲間でさえ排除しようとするのだから、特におかしくないことだ。

872流れたオイルの先には ◆vV5.jnbCYw:2025/02/02(日) 11:23:20 ID:BJbD.vLk0

『みんなお疲れ、色々と頑張ってるみたいだねぇ。これより第二回放送をはじめるよ』



丁度その頃放送が流れ、改めてその男が死んだと言うことを告げられる。
死を見聞きしても、ロボの何かが変わることは無い。ただ、機械の足を動かし、廊下を巡回する。
ただ、内蔵のたべのこしが、ロボの受けたダメージを回復していく。
2階の巡回を終えると、階段を下りて1階に。


『カエ………ル……』


だが、次にアイセンサーが捉えたものは、鉄の心臓を大きく動かした。
そこに黒焦げになって倒れていたのは、ロボのかつての仲間。
いや、プロメテスにとって、そんなモノは関係ない。“それ”は別の誰か(ロボ)の仲間であり、自分(プロメテス)の仲間で無いからだ。


『これ以上仲間を傷つけル前ニ……』


そのはずだがプロメテスは、いや、ロボはおもむろに、自分の胸に手を伸ばした。
ベア―クローが機械の心臓に刺さろうと、いや、ベア―クローを機械の心臓に刺そうとする。
友を殺してまで、自分は生き永らえたくはない。せめてまだロボの意識が少しでもあるうちに、自らを壊そうとする。


『!?』

――ダメデスよ、プロメテス。


謎の電子音と共に、ロボの身体の自由が利かなくなる。
そして、電子頭脳に流れたのは、ロボにとって聞こえるわけがないはずの声だった。


――こうなりたいと願ったのは、アナタデスよ。


ロボの丸い頭の中に響くのは、彼の造り主、マザーブレインの声だった。
人間を皆殺しにしようとするマザーを、ロボは破壊し、彼女が管理する工場も停止したはずだった。
ゆえに、彼女がいることは、ロボがいること以上にあり得ないことだ。


『そ、そんな訳ありまセン!』


不意にロボの頭の中に流れた映像は、あの日のリーネ広場だった。
ラヴォスを倒し、未来を守り、仲間のクロノの故郷に帰った日。
クロノの罪が無実となり、王妃マールと結ばれることが許された日。
それぞれが別れの言葉と共に、元の世界に帰っていく冒険の終わりの日。
ロボの未来が変わり、彼の存在が、消えてなくなることになる日。

873流れたオイルの先には ◆vV5.jnbCYw:2025/02/02(日) 11:23:38 ID:BJbD.vLk0

その映像に紛れて、何かが聞こえた。
誰かが泣く声が。自分ではない自分を修理してくれた誰かが泣く声が。
この世界でも声を聞いたことのある誰かの泣く声が。


――■■のバカ、バカ!悲しい時はすなおに悲しむのよ!!こっちがよけい悲しくなっちゃうじゃない!!


――あの時、アナタは願いマシタ。別れたくないト。


『私ハ……確かに願いマシタ。』


本来なら、機械であるロボが何かを願うなど、おかしい話だ。
だが、あの時彼がアイセンサーから流したオイルは、確かに別れたくないという願いの顕れだった。


願いを叶えてもらう、ということは必ずしも良いことでは無い。
お金が欲しいと願えば、家族の死による保険金と言う形で得られたように、それが歪んだ形で成就することもある。
ロボが願った、未来が変わっても共に冒険した仲間といたいという願いは、最悪の形で叶えられた。


――願いを叶えて貰えたのダカラ、次は宝条博士の願いを叶えてあげる番デスヨ。


その言葉を聞いてロボは違和感を感じ取った。
未来の人間を全て殺そうとしたマザーが、人間である宝条に従うのか。
ロボは宝条とは会ったことが無い。しかし、ジョーカーとして、別世界の参加者同様データにインプットされていた。
彼は未来のロボットとは相いれることの無い人間だと。



これは宝条たち、主催陣営が理の賢者ガッシュを連れて行くために、クロノたちの世界のAD2300年に行く時のことだ。
尤もその時代は、ラヴォスによる崩壊を迎えていないため、ロボが生まれ育った時代とは似て非なるものだ。
崩壊していなかった世界は、そこにいるロボットたちも人間たちに牙をむくことは無い。
だが、その可能性までが消え去ったわけではないのだ。
宝条博士はガッシュを連れて来るついでとばかりに、マザーブレインのデータも回収した。


そして、崩壊を免れた世界のマザーブレインのデータが、崩壊した未来のロボと接触したことにより、ロボを再び支配するに至った。
当のロボ自身は、マザーブレインの本拠地たるジェノサイドームを破壊した際に、データは全て破壊したと思い込んでいた。
従って自身の電子頭脳の中核をなす部分に、人間に危害を加える回路が残っていたことは、ロボ自身にも気づいていなかった。
いや、気づいていなくても問題ないことだった。しかし、別世界からの介入という、完全にイレギュラーな事態が新たな問題となった。

874流れたオイルの先には ◆vV5.jnbCYw:2025/02/02(日) 11:24:01 ID:BJbD.vLk0
「危ない……!でも、誰が……危ないデスカ?」


爆弾で壊された壁の穴を通じて、遠くから音が響いてくる。
何か大きな建物が壊れる音。怪物の雄たけび。聞いたことのある爆音。
そして感じたのは、誰かの危機。でもそれが、誰なのか思い出せない。何かが阻害している。


外を見ようにも、ロボのアイセンサーには、病院の外は濃い霧がかかっているかのように映る。
あくまで病院の巡回のみを目的に、データを改造されているのだ。
だから、外を見ても何も見ることは出来ない。折角のエネルギー源を捉えるセンサーも、当然役には立たない。


「──シンニュウシャをハッケン。ハイジョします。」


そこには誰もいない。
だが、その言葉を境に、ロボは足を止めた。
何をする訳でもなく、見えないはずの壊れた壁の向こうを、ただじっと見る。


ロボのその言葉は、『巡回』というコマンドを中断させる効果がある。
中断させるだけだ。それ以上は何もない。
傍から見れば、まだ彼は何もしていない。
ただ、それは彼の、出来る上での僅かな反抗なのかもしれない。




【D-5/病院内部/一日目 昼】
【ロボ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)、MP消費(小)
[装備]:ベアークロー@ペルソナ4 、たべのこし@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1個
[思考・状況]
基本行動方針:病院内に侵入した敵を排除する
1.ワタシの名前はプロメテス。


※主催者によって、ジョーカーである参加者(イウヴァルト、ホメロス、ネメシス)は感知出来ないようになっています。
他にも何らかの理由で感知できない参加者、NPCがいるかもしれません。

875流れたオイルの先には ◆vV5.jnbCYw:2025/02/02(日) 11:24:12 ID:BJbD.vLk0
投下終了です

876 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:00:02 ID:WfubCnaA0
皆様投下乙です。

>>クロス八十神物語
予約面子的にかなりの大波乱になりそうと身構えていたのですが、Nの冷静な判断が千早達を救いましたね。
これまで目立たなかったキャラがこうして活躍してくれてるのを見ると、企画主としては嬉しくなります。
千早が十二時間屋上で歌い続けたという状況、改めて言葉にされてみるとルッカと同じ気持ちになるな……。

名探偵ピカチュウとスネーク、最初に出会った二人がタッグを組んでここで合流とはアツい!
作中で語られてるけど、五人集まって戦力と呼べるのがルッカとスネークくらいしかいないのが厳しい……。
千枝とクレアが向かってくれてるから、そこに期待する形になりそうかな。

オタコンが研究所に向かってることもついに他の参加者に伝達して貰えた!
ここから首輪解除に向けて本格的に舵を切り始めた感じがしてワクワクしますね。

>>流れたオイルの先には
ロボの願い事の下り、切ない……。
確かに、願いを叶えるっていうだけならそれが最悪の形でお出しされるっていうのは目から鱗でした。
死者を蘇らせてと言ったらゾンビとして蘇らせられるとか、平気でしそうな連中が主催には集まってるからな……。

マザーブレイン、こいつが原因だったのか!?
そもそもの原因は宝条なんですけどね。かなり自然な経緯で唸らされました。

「──シンニュウシャをハッケン。ハイジョします。」

この台詞がロボの抵抗の証だったという激アツ展開。
救ってあげて欲しいけど、救えるような人物が今まさに窮地に陥っているという状況。
あまりにも残酷すぎるけど、ロボ本人の意思が見えて少し安心する回でした。



さて、このゲームロワも遂に6周年を迎える形となりました。
書き手の皆様、読み手の皆様、改めてありがとうございます。

ゲリラ投下します。

877タイプ:ワイルド ──赤い炎、緑の風 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:01:24 ID:WfubCnaA0










 『────君は、とても大事にポケモンを育てているな』
             
             

             ──ロケット団首相、サカキ









◾︎

878タイプ:ワイルド ──赤い炎、緑の風 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:01:49 ID:WfubCnaA0






 ────Nの城、二階の一室。

 愛の女神と平和の女神による治療を施されるピカチュウの姿を安堵の顔で見つめるレッド。
 彼もまたイレブンの回復呪文によって傷を癒していた。
 その傍ら、キラキラと目を輝かせる少女の視線が目立つ。
 ましまじと見られることに慣れていないのか、レッドはどこかバツが悪そうに苦笑していた。

「やっぱり! レッドさんって聞き覚えあったんだ〜! 本当に本当に有名人だよお!」
「あ、はは……ありがとう。こんな場で喜んでもらえるとは思ってなかったけど…………」

 今この場にいる者に殺し合いの意思は無い。
 波乱万丈の末に行き着いたしばしの平穏は、レッドに落ち着きをもたらす。

「イレブンさん、ありがとう。やっぱり魔法って凄いんだな……俺の世界じゃそんな技使えるのポケモンだけだよ」
「…………いえ。僕より、そっちのピカさんの方が……よっぽど凄いです……」
「いや、生身で雷落とせる方がよっぽど凄いけどな……」

 喧騒から逃れ、ようやく経た情報交換はレッドにとって驚きに満ちたものだった。

「にしてもやっぱりあのトレバーってやつ、本当に危険人物だったんだな。イレブンさんやベルを殺しかけるなんて……!」
「本当だよお! でも生きててよかった! レッドさんをここまで送ってくれたんだし本当は優しいのかな?」
「いや、あれはそういうのじゃないと思う…………送ってくれたってか落とされたし」

 彼が出会ったトレバー・フィリップスがイレブン達を襲撃した事実。
 ベルやイレブンが言うには、会話すらままならなさそうな印象であったという。
 ヘリでこの城に送られたと聞いた時はかなり驚かれた。
 トレバーの読めない行動もそうだが、小屋で襲撃されてから間もなくレッドをヘリから落としたというアグレッシブさが恐ろしい。

 話に出た共通の知り合いは多くない。
 襲撃者であるトレバー、続いてイレブンが最初に出会ったダルケルという男。

 そして────

「…………ベロニカ」

 俯くイレブンの呟きを広い、レッドもまた帽子を深く被り直しながら目を伏せる。
 ベロニカの死因に自分が深く関わっている、と正直に伝えた。

「ごめん、イレブンさん。俺のせいで…………」
「……いえ、レッドさんは…………悪くない、です」

 あの時何も出来なかった罪悪感がずっと尾を引いていて、溶けない砂糖のように喉元に突っかかっていた。
 信頼出来る人物と出会えなかったからこそ、それを吐き出すことも出来ずにいて。
 ようやく巡り会えたイレブンという、ベロニカの仲間────刻まれた〝罪〟の烙印を、この人に言わずして誰に言う。

879タイプ:ワイルド ──赤い炎、緑の風 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:02:26 ID:WfubCnaA0

 当然、イレブンはレッドを責めない。
 自分がその場にいれば、と。
 植え付けられたはずかしい呪いは自責へと転じて、彼の悔しさを加速させてゆく。

「…………イレブンさん」

 こうなるから、言うべきか迷った。
 元の世界での知り合いが居ない自分とは違い、彼は仲間を喪うという悲しみを味わうことになる。
 その壮絶さたるや、人の生死に疎いレッドでもパートナーを喪えばと考えればすぐに察せた。
 
 もしや言わない方がよかったか。
 自分が楽になることを優先して先走ってしまったのではないか。
 そんなレッドの危惧とは裏腹に、イレブンは真っ直ぐに顔を上げる。

「話してくれて……ありがとうございます、レッドさん」

 強く、気高い眼差し。
 かつて邪神をも斃した勇者の光に、レッドは息を呑んだ。

 ────言わなければよかった?
 ────嘘をつけばよかった?

 一瞬でもそんな後悔をした自分を一発ぶん殴ってやりたい。
 イレブンという勇者は、仲間の死などとうに乗り越える覚悟が仕上がっていたのだ。
 ピカが居なくなったらどうしよう、と。不安な気持ちに駆られるだけであった己の未熟さにレッドは拳を震わせる。

「ありがとう、イレブンさん。もうだいぶよくなったよ!」
「そうですか…………まだ、無理しないでください」

 これ以上イレブンに負担をかけさせたくなくて、レッドは力こぶを作ってそう言う。
 正直に言えばまだ左腕の咬傷が痛むが、じっとしていたくないという気持ちが勝った。

「レッドさん! ピカ治ったって!」
「おお……! ありがとう、助かったぜふたりとも!」
 
 イレブンとの話で夢中になっていたが、ベルに言われてヘレナ達の方を振り返る。
 見れば傷口がすっかり塞がり、寝息を立てるピカチュウの姿が目を奪った。
 元の世界で幾度も目にした寝顔姿が、ノスタルジックな気持ちを宿らせる。
 もう二度と手に入らないと思っていた平穏の欠片に、感謝の涙さえ浮かび上がった。

「レッド」
「…………?」
 
 ピカチュウを抱き締めるレッドの傍ら、愛の女神──バーベナが呼びかける。
 ベルとイレブンは今後について話し合いをしているようで、まるでそれを見計らったような声掛け。
 自身にだけ向けられた透明な小声に、意を汲んだレッドは彼女へと耳を寄せた。

「あなたに伝言です」
「伝言? 誰から……?」
「……トウヤという少年から」

 最初、それを聞いた時耳を疑った。
 思わず大声で聞き返しそうになったが、視界の端に映るベルの笑顔に躊躇いを思い出す。

「トウヤって、ベルの……」
「それに答えるのは、伝言を聞いてからの方が都合がいいでしょう」
「…………わかった」

 バーベナの表情は相も変わらず、世を憂うような真剣味を帯びている。
 けれどこの瞬間は、それに増して焦燥のようなものが滲み出ていた。

「十五時、城の中庭で待っています。……と」

 その内容が〝挑戦状〟であることは言うまでもない。
 チャンピオン時代、カントーにて幾度もそんな申し出を受けてきた。
 けれどまさかそれが殺し合いの場で、ベルの幼馴染に言われるとは。
 鳩が豆鉄砲を食らったような顔を浮かべる少年は、横目でちらりとベルの姿を見やる。

880タイプ:ワイルド ──赤い炎、緑の風 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:02:58 ID:WfubCnaA0

「ねえねえイレブン、ゲーチスさんにも伝えた方がいいかなあ?」
「ここに来る前に、部屋の前に行ったけど…………なんだかすごく忙しそうにしてて、後でこの部屋に来るって…………」

 訝しむ様子はない。
 これが彼女の耳に入れば、トウヤの無事を喜ぶのではないかと。
 そんな希望はしかし、続いて浮かび上がる違和感に白く塗りつぶされた。

「トウヤは、その……この状況で〝バトル〟を優先したのか?」

 それは、杞憂であってほしい確認。
 自分の存在を認知しているのならば、十中八九トウヤにとって幼馴染であるベルの姿も見ているはずだ。
 なのに顔を合わせず、真っ先にバトルの申し出を残すなど。
 まるで〝それ〟以外を拒むように見えて、レッドは心拍に不穏を落とした。

「…………彼も以前は、ポケモンを愛する心優しいトレーナーの一人でした」

 愛の女神の口上に、レッドは「ああ」と思う。
 まるで、もう心優しいトレーナーではなくなってしまったような言い方で。
 続く彼女の言葉も、心のどこかで予想できた。

「けれど今の彼は、強者と闘うことでしか自分の在り方を認められなくなってしまった」

 ────当たった。

 トウヤは、自分の写し絵なのだと。
 高みを登り尽くして、競うものが居なくなって。
 いつしか周囲からはトウヤとしてではなく、〝王者〟として見られるようになって。
 天涯孤独の〝最強〟の道を歩かされている。そんな悲劇の少年なのだと。

「…………そう、なのか……」

 その気持ちは、よくわかる。
 レッド自身、カリンの言葉がなければその道を歩んでいたであろう〝王者〟なのだから。
 カントーを制し、文字通り無敵の存在となったレッドはなにをしても満たされなくて。
 ジョウトという新天地においてもそれは変わらず、厳選した手持ちで相手の弱点を突き、危なげない勝利を掴み取っていた。

 けれど、勝つたびに。
 喉を潤すためと海水を飲むかのように、決して満たされない〝渇き〟が付き纏った。
 そうして強さを求めるうちに自分を見失い、ジョウト最後の四天王を制して、その迷路に出口が見えた。
 

 ──強いポケモン、弱いポケモン、そんなの人の勝手。
 ──本当に強いトレーナーなら、好きなポケモンで勝てるように頑張るべき。


 その言葉を投げてくれる人は、果たしてトウヤにいただろうか。
 強くあれという〝呪い〟を解いてくれる人が現れない限り、王者という肩書きは自由を殺す。

 自分もそうだ。
 強さを追い求めるあまり、苦楽を共にした仲間たちの大切さをすっかり忘れていた。
 タイプ相性や能力値など気にせず、汗や涙を流した唯一無二の思い出はなににも勝る輝きなのに。

881タイプ:ワイルド ──赤い炎、緑の風 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:03:28 ID:WfubCnaA0

「レッド、彼を止められるのは────」
「俺しかいない、よな」

 だからこそ。
 それを知っているからこそ、迷いなく申し出た。

 返答を先読みされるとは思っていなかったのか、バーベナは分かりやすく目を丸める。
 こんな表情をするのかと意外に思うと同時に、少しだけ得意げな気持ちになった。
 片目を開けてあくびをするピカチュウの頭を撫で、右肩に乗せる。
 静電気を溜めてパチパチと鳴る頬を擦り寄せる相棒へ、燃え上がるような視線を投げた。

「ピカ、いけるか?」
「ピカッ!」

 高らかに宣言する相棒の姿。
 歯を見せて笑みを返すレッド。
 荷物を纏め、どこか懐かしい気持ちに駆られながら部屋を後にしようと立ち上がる。

「レッドさん! どこかいくの?」

 と、ベルの言葉に振り返る。
 まだ近くにトレバーが潜んでいる可能性もある以上、イレブンたちが気にかけるのは当然だ。
 不安げな二人の視線へどう言い繕うかと少し考えて、ピカチュウに頬を舐められた。

「ちょっとな、こいつと外に出てくる!」
「それなら、僕たちも…………」
「いや、いいよ! それより、そのゲーチスさんって人にもお礼言っといてくれ!」

 軽く見てくるだけだから、と付け加えるレッド。
 この場での単独行動の危険性を鑑みて、理由もなしに見逃してくれるとは思えない。
 この場にいないゲーチスの名を出すことで多少は気を逸らせただろうか、なんてらしくない考えに染まって。

「レッドさん、その…………」
「うん?」

 けれどおずおずと歩み寄るベルへ、やっぱり無理があるよなと苦笑した。
 どうやって言い訳しようかなと一瞬悩むも、次なるベルの一言に思案が遮られた。

「戻ってきたら、サインお願いしてもいいですか!?」

 え? と、思わず間の抜けた声が漏れる。
 予想外の一言に一瞬白く染まった頭を軽く振って、ごちゃついた思考を整理する。
 その仕草が拒否のものだと勘違いしたベルはガーンと涙目を浮かべるが、穏和な王者の微笑みを見て希望を取り戻した。

「ああ、もちろん!」
「やったあ〜〜〜〜っ!」

 両手を挙げ、飛び跳ねる勢いで喜びを顕にする少女。
 宝石のような無垢な彼女は、殺し合いという現実を忘れさせる。
 ぬるま湯のような心地いい感覚に入り浸っていたくなるが、だからこそ──彼女にトウヤのことは告げられない。

「レッドさん、お気をつけて…………」
「うん、イレブンさんもありがとな! すぐ戻ってくるよ」

 勇敢な言葉とは裏腹に、鼓動は煩い。
 緊張や不安ではなく、ポケモントレーナーとしての高揚感。
 異常だと笑いたいなら笑えばいい。
 こんな状況でバトルを楽しみに思うなんて、自分でもおかしいと思う。

 それでも、止められない。
 止める気なんてない。
 
 自分よりも強い相手がいると聞けば、闘争心を沸き上がらせて勝利を掴み取ろうとする。
 それが、ポケモントレーナーなのだから。
 


◾︎

882タイプ:ワイルド ──赤い炎、緑の風 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:04:04 ID:WfubCnaA0
 


 空気を切り裂き、嘶(いなな)く風が髪を揺らす。
 蔦の巻き付く幾本もの大理石の柱が、等間隔で円を描いて聳え立つ。
 中心は不自然なまでに均された芝生が生い茂り、まるでバトルコートのよう。
 よもや主催はこの状況を読んでいたのだろうか、とすら疑うほどに出来すぎている。

 けれどそんな些細なこと、この少年の邁進を止める理由にはならない。

「そろそろ、かな」

 デイパックのサブポケットから時計を取り出し、トウヤが呟く。
 時刻は十五時五十八分。愛の女神が無事に伝言を届けていたなら、そろそろレッドが姿を現すだろう。

 なぜこんな回りくどいことをしたのか。
 直接出会って言葉を交わせばいいのに、なぜそれをしなかったのかは理由がある。


 ────〝不公平〟だからだ。


 治療を先に終えた自分が、治療中のレッドと邂逅するということは。
 それはつまり、レッドの手持ちを一方的に見れてしまうということだ。
 得る情報量は統一しなければ、有利不利が出来てしまう。

 それでは面白くない。
 勝ったところで、何も満たされない。
 その尖った精神性こそがトウヤを〝王者〟たらしめる要因だ。

「…………!」

 十五時ちょうど、草を踏みしめる音がレッドの耳を通り過ぎる。
 浮き足立つような感覚に釣られて顔を上げれば、自身と同じような赤い帽子を被った少年がまっすぐにこちらを見据えていた。

「会えて嬉しいです、レッドさん」
「俺もだよ、挑戦者(チャレンジャー)」

 鳥肌が立つ。
 相見えただけで分かる、この迫力。
 炎のような双眸に射抜かれて、玲瓏さを秘めたトウヤの瞳が風のように揺らぐ。

「あなたの噂は、イッシュにも届いていますよ」
「実感はないけど……そうらしいな、さっきベルって子に会ってサインをねだられたよ」
「そうですか」

 〝ベル〟という名前を出したのにまるで耳に入らないかのような態度。
 彼女から聞いていた印象とはまるで違う、機械じみた言動にレッドは戦慄を抱く。
 本当にベルの知るトウヤなのか、と思う反面────目の前の少年が他人とは思えない。
 ひたすらに強くなることを求めていた、かつての自分がそこにいるようで。
 自然と、力が拳に伝播した。

「そんなことよりも、ほら」

 唯一生き残った幼馴染を〝そんなこと〟と切り捨て、トウヤが二つのボールを宙に投げる。
 赤い閃光と共に飛び出した二匹のポケモン──オノノクスとジャローダが、重厚な身体を芝生へ沈めた。

「出してください、あなたのポケモンを」
「へへ、言われなくてもそうするぜっ!」

 レッドにとっては初見となるイッシュ地方の二匹に臆することなく、応えるように一つのボールが弧を描く。
 緑に着地したボールから飛び出したのは、青い体色の鰐型ポケモン、オーダイル。
 続いてレッドの肩から跳躍し、姿勢を低くしてバチバチと頬袋に電気を走らせる相棒──ピカチュウ。

883タイプ:ワイルド ──赤い炎、緑の風 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:04:37 ID:WfubCnaA0

「まさかとは思いましたが、そのピカチュウを使うんですね」
「当たり前だろ、こいつは俺の最高の相棒なんだから」

 地方も、タイプも、性別も異なる四匹が睨み合う。
 至高の領域に至るトレーナーと、それに付き従うポケモンとなれば、放たれる威圧感にも納得が先に出よう。

「思い入れや愛着が、バトルに役立つとでも?」

 トウヤが言う。
 レッドはにやりと笑って、握り拳を見せつけた。

「役に立つか立たないか、なんてのに拘ってる限り前には進めないっての」

 反論にもなっていないのかもしれない。
 これはトウヤに向けた言葉というよりかは、かつての自分に向けた言葉だ。
 現にトウヤは少しだけ訝しげに眉を顰めて、理解を示そうとしない。

「これは受け売りだけどさ」

 きっとまだ、この言葉に力は持たない。
 過去との決別のため。二度とその道を歩まないという戒めのために。
 トウヤは改めて、目覚めの記憶を掘り起こす。

「強いポケモンとか、弱いポケモンとか、そんなもの人の勝手だ。本当に強いトレーナーなら、好きなポケモンで勝てるように頑張るべきだろ?」

 それを聞いて、トウヤは。
 やはり心根には届かなかったようで、冷ややかな笑みを携えていた。

「オレはそうは思いません」

 見下すような、失望するような。
 伝説と謳われた者の在り方へ、一石を投じるかのように冷徹な声色が響く。

「本当に強いトレーナーなら、好きなポケモンではなく〝勝てるポケモン〟を選ぶ覚悟が必要ですよ」

 それもまた、一理ある。
 道理として成立するし、共感を示す者も多いだろう。
 レッドもまた、そうやって最強までのし上がってきたのだから。
 それを否定することなど、たとえ嘘でも出来なかった。

「それを確かめるのは、言葉じゃないだろ」
「……そうですね。オレとしたことが、らしくなかった」

 だから、この問答に意味は無い。
 いくら言葉を交わしたところで、きっと答えは出ない。
 互いの意を汲んで、二人の王者は面持ちに険しさを宿す。
 主催の思惑も、課せられた使命も、一切合切を捨て去って炎と風が対峙する。

 四種の異なる唸り声が轟く。
 決闘の気配を感じ取って、空気が変わる。
 王者と王者、伝説と伝説。
 本来交わる筈のなかった歴史が、歪みを伝って紡がれる。

 幻は今、現実に。
 埃被った夢と誇りを抱きかかえて。
 観客のいない決戦が、幕を開ける。



「「バトル、スタート!」」
 




 ────命をかけて、かかってこい。






884タイプ:ワイルド ──赤い炎、緑の風 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:05:10 ID:WfubCnaA0



 マサラタウンに さよならバイバイ
 オレはこいつと 旅に出る
 きたえたワザで 勝ちまくり
 仲間を増やして 次の町へ

 いつもいつでも 上手くゆくなんて
 保証はどこにも ないけど
 いつもいつでも ホンキで生きてる

 こいつたちがいる
 




885タイプ:ワイルド ──金色の夢、銀色の現 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:06:51 ID:WfubCnaA0
︎◾︎









『────ポケモンにとって一番幸せなのは、好きな人のそばにいられること。
 だったらそのポケモンは、君と一緒にいるべきだ』
             
             

             ──ウツギポケモン研究所博士、ウツギ









◾︎

886タイプ:ワイルド ──金色の夢、銀色の現 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:07:24 ID:WfubCnaA0



 一瞬、ほんの一瞬の静寂。
 睨み合いの時間は即ち、相手を「視」る時間。
 ポケモンの強さを数値として見極める、神懸り的な観察眼を持ち合わせた〝王者〟同士だからこその、嵐の前の静けさ。
 互いの手持ちの二匹は、相応の相手を前に臨戦態勢。
 帽子の奥底にて潜む眼光が、鋭く見開かれた。

「ピカ、かげぶんしん! オーダイル、アクアテール!」
「ジャローダ、アクアテール! オノノクス、りゅうのまい!」

 交錯する指示。
 己の主人の声に従い、四つの影が動く。

 ピカチュウは三つの影分身を生み出し、オーダイルはその隙を補うように水流を纏った尾を放つ。
 肉薄で勢いを付けた尾の横薙を、ジャローダの靭尾が同様のワザで迎え撃つ。
 前衛をそちらに任せ、この場において最もレベルの低いオノノクスが舞踏を刻み自己強化を終えた。

 アクアテールの威力は互角。
 レベルの勝るジャローダに対して、オーダイルのアクアテールはタイプ一致により威力が五割増となる。
 逆に言えば、得意分野のワザでさえジャローダの不一致ワザと同等なのだ。
 正面から戦えば、タイプ相性から考えてもオーダイルは分が悪い。
 この場に少しでもポケモンの知識がある者が居れば、そう判断を下すだろう。

「下がれオーダイル! ピカ、十万ボルト!」
「ジャローダは地を這って前へ! オノノクスは右へ避けろ!」

 一度オーダイルを下がらせ、残影を従えたピカチュウが宙へ跳ぶ。
 分身を含めて計四つの電撃が鞭のように降り注ぐも、トウヤにそんな小手先は通用しない。
 安全地帯を見極め、後退するオーダイルへの追従をジャローダに任せてオノノクスは回避に徹する。

「ジャローダ、リーフブレード!」
「オーダイル、後ろへ跳べ!」

 身を焦がす雷撃がジャローダの数センチ上を掠めるのも構わず前進、
 肉薄を終えた翠蛇は大自然の力を宿した尾を刃に見立て、右斜め上からの袈裟斬り。
 しかしほぼ同時に繰り出されたレッドの指示により、前方の空間を抉りとるだけに終わる。

「ジャローダ、そのまま────いや、」
「ピカ、ボルテッカー!」
「一度距離を取れ! オノノクス、代わりにオーダイルの前へ!」

 次なる追撃を加える為の指示が、研鑽された〝勘〟に潰される。
 矢継ぎ早に繰り出される言葉の錯綜を前にしても、忠実な手駒であるジャローダに迷いはない。
 宙返りで距離を取るジャローダとオーダイルの間に稲妻纏う砲撃が割り込み、追撃を許さない。
 急突進から流れるように切り返し、ジャローダと見合うピカチュウ。
 その横をオノノクスが通り過ぎ、体勢を整えたオーダイルと対峙する。
 
(────読み合いをするなんて、いつぶりだ?)

 馴染みのないダブルバトル。
 思考が二倍、相手の動きを合わせれば四倍に加算されることを踏まえても──ここまで頭の中が試行錯誤で埋め尽くされるなど、忘却の遥か彼方にあった。

887タイプ:ワイルド ──金色の夢、銀色の現 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:08:05 ID:WfubCnaA0

「ピカ、十万ボルト! オーダイル、飛び込んでかみくだく!」
「ジャローダ、左へ回り込んでリーフブレード! オノノクス、右へ避けろ!」

 今こうしている間も、トウヤの余裕は表情ほどはない。
 高揚を抑えられている理由は奇しくも、思った通りの戦術が立てられない息苦しさにあった。

「残念、分身だよ!」
「…………へぇ」

 鋭利な尾がピカチュウの身体を切り裂いたかと思えば、その小柄な影は霞と消える。
 ならばあのジャローダの追撃を食い止めたボルテッカーも、実体など無かったということだ。
 では本物のピカチュウは──と、探し当てるよりも先に答えが出た。

「ピカチュウ、ボルテッカー!」
「オノノクス、回転しながらドラゴンテール!」

 トウヤから死角となる柱の裏──オーダイルと対峙する、オノノクスの右斜め後方。
 頻繁に位置を切り替えながら戦っているために気がつくのが遅れた。
 前方のオーダイルへの牽制も込めて、金色の弾丸を迎え撃つために加速を乗せた回転斬りを見舞う。

 〝りゅうのまい〟により一段階の攻撃力上昇を経たオノノクスの巨体が、その全霊をもっても尚完全には威力を殺し切れず尾が弾かれる。
 しかしドラゴンテールは対象を吹き飛ばすことに長けたワザ。
 体重差のあるピカチュウは大きく空へ投げ出されるが、着地先の柱を器用に蹴り上げて再びジャローダの前へと躍り出た。

「……そのピカチュウ、認識を改めなくちゃいけませんね」
「へへ、少しは見直したか?」
「ええ、確かに強い。ライチュウに進化していたら危なかったかもしれない」
「ったく、なんもわかってねーじゃん」

 トウヤの得意戦術とは、前半で敵の攻めを誘い、回避を織り交ぜつつほどほどの反撃を見舞う。
 これの繰り返しでペースを掴み、動揺した相手が別の手──回避や後退といった受け手に回った瞬間に、能力強化により追い詰める。
 徹底的なまでに確実性を突き詰めた、いわば究極の後攻。

 けれどレッドは毅然とした態度を崩さず、こちらの動きを冷静に見極めて攻め手と受け手を切り替える。
 一対一のシングルバトルならまだしも、二対二の乱戦を強いられるダブルバトルにおいて能力強化の暇など皆無に等しい。
 被弾覚悟で、などという甘い戯言を抜かせられるようなレベルの相手ではない。
 タイプ有利を取っているオノノクスが一段階の強化を経ても、拮抗にしかもっていけない状況がなによりの証明だ。

(ジャローダがつるぎのまいを打てれば話は早いけど……そうはいかないな)

 現状、オノノクスとオーダイルはほぼ互角。
 ピカチュウとジャローダは、レベル差を鑑みてピカチュウの方がやや上手か。

 〝つるぎのまい〟は攻撃力を二段階上昇させる強化ワザ。
 一度でもこれを発動してしまえば、機動力に長けたピカチュウはともかくタイプ有利を突けるオーダイルは問題なく下せるはずだ。
 綻び一つでも生じれば形勢が変化する。そしてそれは、レッドにとっても同じこと。
 果てのない長期戦、しかしこの場に焦りを抱く未熟者は存在しない。

「オーダイル、かみくだく! ピカ、かげぶんしん!」 
「オノノクス、きりさくで迎え撃て!」

 迫り来る巨牙を、黄金竜は同じく巨牙を以てして鍔迫り合う。
 その横で、四体の虚像を作り出すピカチュウの動きを冷静に観察するジャローダ。
 実際に数が増えたわけではないのだから、実体を見極めさえすれば脅威とは程遠い。

「ピカ、十万ボルト!」
「ジャローダ、地面に向けてアクアテール!」

 右方から二本、左方から二本、上空から一本。
 振るわれる稲妻の包囲網──しかし、その内の本物は右方の一本のみ。
 地へと尾を叩きつけ、反動で宙を舞ったジャローダは加速度を味方につけて落下する。
 大きく距離を離されたピカチュウが孤立し、今度はオーダイルの後方へ。
 オノノクスとジャローダに前後を挟まれる形となったオーダイル。一手分、二対一の状況が作られた。

888タイプ:ワイルド ──金色の夢、銀色の現 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:08:39 ID:WfubCnaA0

「リーフブレード! りゅうのまい!」
「上に跳べ、オーダイル!」

 ジャローダの鋭利な尾撃を跳躍で回避。
 しかしその一手分、オノノクスに強化の隙を与えてしまった。
 すぐさまピカチュウが割って入り再び二対二の状況が作られるが、先程とはまるで戦況が違う。

「オノノクス、ドラゴンテール!」
「オーダイル、アクアテール!」

 龍と鰐の尾が、異なる体色による残光を描いて衝突。
 競り合いはふたたび拮抗し、無益な攻防で終わるはずだった。

 ──つい、先程までは。

「オォ……ダ……!」
「グルル……!」

 力負けしたオーダイルの体勢が大きく横へ弾かれる。
 二段階の強化を経たオノノクスの膂力は、すでにオーダイルのそれを越えていた。

 レッドの額に汗が滲む。
 ここにきて顕となった僅かな綻びは、真綿で首を絞めるかのように戦況を傾けてゆく。
 パワーも俊敏性も上回るオノノクスを相手に、オーダイルの立ち回りには自然と慎重さが求められて。
 攻撃の頻度を落とした隙を付け狙うかのように、オノノクスの凶刃が襲いかかる。

「ピカ、オノノクスに十万──」
「ジャローダ、リーフブレード!」
「っ……避けろ、ピカ!」

 実力に大差がないジャローダを相手にしている分、ピカチュウのカバーにも限界がある。
 各々が眼前の相手を注視している状態、下手な行動は裏目に出るだろう。

「オノノクス、きりさく! ジャローダ、リーフブレード!」
「オーダイル、後ろに跳べ! ピカ、かげぶんしん!」

 段々と攻撃の割合がトウヤに割かれていく。
 オノノクスの自己強化という分かりやすい転換点を迎えて、二人の〝差〟がボロボロと顔を出し始めた。

(よく持ちこたえてはいるけど…………崩れるのも時間の問題かな)

 判断力、反射神経共に同格のトレーナー同士なのであれば。
 勝敗を分かつのは、知識量の差。
 
 トウヤはピカチュウとオーダイルを知っていて、レッドはジャローダとオノノクスを知らない。
 相手のタイプや覚えるワザを事前に把握しているトウヤと違い、常に未知の相手に対し〝予測〟して戦うことを強いられる。
 長期戦になればなるほど、その負担の有無が浮き彫りになっていった。

(…………やっぱり、予想は越えないか)
 
 トウヤから見たレッドは。
 確かにかなりの実力を備えているが、期待を上回る程ではなかった。
 危ない場面を迎えることなく、じわじわと勝利の兆しが見え始めているのがなによりの証拠。
 もしもステータスを数値化できるのであれば、オーダイルの体力は三分の一以上削れているであろう。
 ダブルバトルという性質上、一匹でも落ちれば勝敗は確定したも同然。
 ここから逆転される展開は──今のところ、思い浮かばない。

 しかし、トウヤは油断しない。
 ピカチュウもオーダイルも、残り一つの技を見せていない状態だ。
 ここまで温存している以上、なにか理由があるはずだと、冴える脳は忙しなく回転し続ける。

889タイプ:ワイルド ──金色の夢、銀色の現 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:09:04 ID:WfubCnaA0

「ピカ──」
「! ……オノノクス、さがれ!」
「でんじは!」

 そして、答え合わせ。
 でんじは──それは文字通り、対象に電磁波を浴びせて麻痺状態に陥れる変化技。
 トウヤはここにきて自身の油断の無さに感謝した。

 オノノクスがいた場所を電磁波が過ぎ去る。
 威力の持たないそれはしかし、ポケモンバトルにおいては下手な攻撃技では到底届かない厄介さを持ち合わせている。

「ジャローダ、リーフブレード!」
「ピカ、よけろ!」

 麻痺状態──ポケモンの身体の自由を奪う状態異常。
 りゅうのまいで積み上げた機動力も、攻撃力も。麻痺になった瞬間ゼロに等しくなる。
 目まぐるしく状況が変化するこの場において、状態異常とは即ち〝敗北〟に直結するのだ。

「へへ、そう上手くいかねぇか……!」
「…………なぜ笑っているんですか? 逆転の目が潰されたというのに」
「そんなの決まってるだろ!」

 多少驚いたとはいえ、致命的な一撃は避けた。
 レッドからすれば絶望的な状況のはずなのに、なぜこの少年は笑っているのだろうか。
 理解出来ぬ感情をぶつけるも、目の前の王者は当然のように胸を張ってみせた。
 
「────その方が、楽しいからさ!」

 少しだけ、トウヤの瞼が痙攣する。
 不愉快さから来るものか、はたまた彼の心に何か影響を与える言葉だったのか。
 既に本人でさえも自覚できないほど、何処かへ追いやってしまった勝負に不必要な感情を。
 一欠片ほど、味わったような感覚だった。

「……オノノクス、ドラゴンテール!」
「受け止めろ、オーダイル!」

 胸を覆う靄を振り払うように、次なる指示を飛ばす。
 脅威となるピカチュウの動きを制しているジャローダの横で、疾風と化したオノノクスが鋭い尾の一撃を放つ。
 回避は困難と判断し、オーダイルは両腕でそれを防御。
 急所への直撃は避けたが、ダメージを殺しきれず距離を取らされる。

「グルルル……!」
「オォダ……!」

 その時、オノノクスは。
 傷付きながらも笑みを浮かべるオーダイルを見て、目を見開いた。
 窮地に陥りながらもそれを感じさせないニヒルな笑みは、まるで勝利を確信しているかのように。
 レッドというトレーナーへの信頼を見せつけられているようで。
 まるで太陽と月のように、決して交わらない境地の違いを垣間見た。


◾︎

890タイプ:ワイルド ──金色の夢、銀色の現 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:09:34 ID:WfubCnaA0


 Nの城最上階、王の間。
 備え付けられた窓から、外の景色を見下ろす隻眼の長身痩躯──ゲーチス。
 忌々しげに歪む左目は、眼下の中庭にて繰り広げられる死闘を捉えていた。
 
(想定外だ……! まさか、トウヤが既に来ているとは……!)

 あのヘリの音を聞いて、襲撃を予想したゲーチスは王の間にて篭城することを選んだ。
 イレブン達を当て馬にして様子を見ようと、迎撃の準備を整えていた矢先にこの結果。
 まさかあのヘリに乗ってきたのがトウヤだというのか。だとしたら、とんだ挑発だ。

 更に、彼の計画を狂わせた要因はもう一つある。
 今現在トウヤと互角のバトルを繰り広げている謎の少年もまた、ゲーチスにとってのイレギュラー。

 遠目でも分かるほど、両者の戦いは一般的なポケモンバトルという枠組みを外れている。
 それこそ、伝説のポケモン同士の争いにも匹敵するような──次元の違いをひしひしと感じ取り、ゲーチスは歯噛みした。
 あんな怪物が二人もいるなど、悪夢を通り越した理不尽さに笑いすら起きる。
 カメックスとギギギアルという強力な手札を手に入れたというのに、まるで勝てるビジョンが見えない。
 ここはイレブン達ごと切り捨てて、ひとまずこの場を後にするべきか。

(…………いや、待て)

 と、受け身な思考がピタリと静止する。
 この危機的状況、むしろ利用できるのではないか。
 総帥まで上り詰めた頭脳が導き出した答えに、ゲーチスの焦燥は消え失せて笑みへと変わる。
 
「ハハハ……! やはりワタクシは天に味方されている!」

 なぜ気が付かなかったのだろう。
 トウヤも、あの少年も、自分を追い詰める脅威として訪れたわけではない。
 むしろその逆──自身が生き残るために用意された舞台装置なのだと、今この瞬間確信した。

(そうと決まれば、手筈を整えなければ……今無闇に動く必要はありませんが、迅速さが求められますね…………)

 思い至った計画をより綿密なものに変えるため、脳内でシミュレーションを繰り返す。
 幸いここはNの城。間取りや各部屋への最短経路は頭に叩き込んでいる。

 今はただ機を待つだけでいい。
 まるで溢れ落ちる砂時計を見るかのように、ゲーチスの瞳は窓の外へ注がれていた。

「ゲーチスさん!」

 と、扉が勢いよく開かれる。
 見遣ればそこにはどこか落ち着かない様子のベルとイレブンの姿。

「おや、お二人共。どうかされましたか?」
「えっと、さっきレッドさんがお城に来て、それで、どっか行っちゃって……」
「レッド?」

 しどろもどろながら状況を説明するベル。
 吐き出される言葉を掻い摘んで、頭の中で要約していく。
 子供の世話をするような感覚に嫌気を差しながらも、得られた情報はゲーチスにとって有益なものだった。

891タイプ:ワイルド ──金色の夢、銀色の現 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:10:25 ID:WfubCnaA0

「なるほど、あのヘリの音はレッドさんが乗ってきたものだと……いやはや、これはとんだ奇縁だ」
「それでその、レッドさんが見回りに行ってくるって言ってたんだけど、心配になっちゃって……」

 合点がいった。
 カントーとジョウトを制したチャンピオンの噂は、勿論ゲーチスの耳にも届いている。
 トウヤと渡り合えるトレーナーなどこの世に居るのかと疑問だったが、それがかのレッドであれば不可能ではないだろう。

 ゲーチスは逡巡する。
 ベルとイレブンは、自身の計画を遂行するには邪魔になるだろう。
 蚊帳の外でいてもらうためにはトウヤとレッドのことを隠しておくべきだろうが、逆に巻き込むことで利用する手もある。
 
「ベルさん、そのレッドさんなのですが……」

 そうして選び取ったのは、真実を打ち明けるという方向。
 ベルとイレブンの二人を窓際まで誘導し、中庭の光景を見せつける。
 イレブンは戦慄の表情で息を呑み、ベルは愕然と目を見開いていた。

「トウヤ……!?」
「え、トウヤって…………」

 彼女のこぼした名前に、イレブンも驚きの声を漏らす。
 ベルの幼馴染であり、イレブンからすれば彼女と同じく紛れもない保護対象である存在。
 それが今、巧みにポケモンを駆使してレッドと戦闘を行っている──状況整理すら追いつかず、目が回るような感覚を抱く。

 なぜトウヤとレッドが戦っているのか。
 そもそも、なぜトウヤが彼と渡り合えるほどの実力を持っているのか。
 渦巻く疑問の矛先は、この光景を見せた大人へと向けられる。

「ゲーチスさん! どうなってるの!?」
「落ち着いてください、ベルさん。ワタクシとしても状況が分からず、下手に動けませんでした。……まさか、あの二人がトウヤさんとレッドさんだとは…………」

 我ながらの名演技に心中で笑いかける。
 傍から見れば今のゲーチスの姿は、ベルやイレブンと同じく状況を掴み切れておらず焦燥する一参加者として映るだろう。

「ゲーチスさんは、ずっとここにいたんですか?」
「ええ。外から物音がしたのでこの窓から覗き込んだのですが、その時にはもう戦いが始まっていましたね」
「そんな…………!」

 嘘ではない。
 事実、事の発端は目にしていないのだから。
 しかし容易に予想はつく。あのバトルに飢えたトウヤのことだ、レッドを誘き出して先に仕掛けたのだろう。

 必要以上の情報を与える必要は無い。
 ここからの流れは、すでに掌握したも同然なのだから。

「とにかく、あの二人を止めないと……!」
「そーだよっ! トウヤもレッドさんも、なにか誤解してるだけだからっ!」

 ──ああ、やはりこうなった。
 
 あまりにも予想通りの展開。
 好都合を通り越してもはや滑稽にも思える。

「そうですね……お二人にお任せしてもよろしいでしょうか? ワタクシは周辺の様子を見てきます。あの音を聞き付けて危険な者が来ないとも限らない」
「わかりました……お願いします、ゲーチスさん…………!」

 深く一礼し、イレブンがベルを連れて外へ出る。
 その様子を見届けて、ゲーチスの顔面は遂に綻びを隠さない。

 ベルとイレブンの信頼は、彼らを山小屋から助けた事ですでに勝ち取った。
 もし万が一〝計画〟に不備があったとしても、あの二人を利用すればどうとでもなるだろう。
 トウヤとレッドの戦いにあの二人が介入するとなれば、否が応でも混乱は避けられない。
 それに乗じて自身がどんな動きをしたところで、気に掛けられる余裕などないだろう。

892タイプ:ワイルド ──金色の夢、銀色の現 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:10:54 ID:WfubCnaA0

「さて、もう少ししたら動きましょうか…………フフフ、それまでは高みの見物といきましょう……! 精々無様に踊り狂え、トウヤ……!」

 世界は自分を中心に回る。
 そう確信した男の哄笑は、まるで波瀾の序奏かのように響く。

 役者は今、足並みを揃える。
 白城を舞台にして、群像は織り成す。
 熱く燃ゆる陽の喜劇も、淡く幽かな月の悲劇も。
 如何なる結末であろうとも、目指す先は高く遠く。

 花形の腕は、藻掻くように天へ伸びる。
 




893タイプ:ワイルド ──金色の夢、銀色の現 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:11:17 ID:WfubCnaA0



 OK! 次に 進もうぜ
 OK! 一緒なら 大丈夫
 OK! 風が 変わっても
 OK! 変わらない あの夢

 ここまで来るのに 夢中すぎて
 気づかずに いたけれど
 新しい世界への 扉のカギは
 知らない内に GETしていたよ

 GOLDEN SMILE & SILVER TEARS
 よろこびと くやしさと
 かわりばんこに カオ出して

 みんなを 強くしてくれてるよ





894タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:12:16 ID:WfubCnaA0
︎◾︎










『────ポケモンはトレーナーの正しい心に触れることで物事の善悪を判断し、そして強くなる』
             
             

             ──ホウエン地方四天王、ゲンジ









◾︎

895タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:12:59 ID:WfubCnaA0


 夢物語だと思っていました。


 トレーナーとの絆こそが、何にも勝る力となる。
 そんな謳い文句を幾つも見聞きして、私もそれを信じていました。

 いいえ、きっと──信じたかっただけ。
 薄々、そんな不確かで曖昧なものよりも、合理的な取捨選択こそが力なのだと気付いていました。

 そんな現実を受け止めたくなくて。
 いつしか私は、思考を止めてトウヤの指示に従っていました。

 アイリスはどう思うか。
 本当に、これが強さなのか。

 そんな風に考えると、毒に侵されたかのような頭痛に襲われて。
 心臓を茨に巻き付かれたような、鋭い痛みに見舞われて。
 私は、己の本心から逃げ続けていました。

 部屋で、ジャローダと会話をしました。
 けれど彼女は、私よりも先に〝現実〟に気が付いていて。
 私よりもずっと実力を伴う彼女は、まるでそれが真実だと突き付けるように。
 物言わぬ、トウヤの人形と化していました。

 ああ、やっぱり。
 彼女は、私より遥か先を進んでいる。
 それを自覚した途端、全てを投げ打ちたくなりました。

 諦めていたのかもしれません。
 私やアイリスの理想は、間違いだったのだと。
 旅路の中で変わってしまったトウヤの考えこそが、強さに直結するのだと。
 そう自分自身を納得させることで、苦しみから解放されたがっていたのかもしれません。


 ──そんな時でした。


 赤い帽子を被った少年。
 トウヤに似ていて、けれど決定的に違う存在。
 彼は手持ちのピカチュウとオーダイルを、強く信頼しているようでした。

 そしてそれは、逆も然り。
 少年の期待に応えるように、持ちうる限りの力を尽くす二匹の姿を見て。
 私の心は、強く揺さぶられた。

 ああ、もしかしたら。
 この子たちなら、もしかしたら。
 夢を叶えてくれるかもしれない、なんて。

 身勝手なのは重々承知しています。
 けれどもう、トウヤを止められるのはこの世に貴方達しかいないから。
 純粋だった少年の心に火をくべられるのは、今この瞬間しかないから。

 だから、どうか。
 絆の糸よ、解けないで。




896タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:13:32 ID:WfubCnaA0


 レッドから見て、旗色は非常に悪い。
 既に優勢は目に取れるというのに、トウヤは一切油断も隙も晒す気配がない。
 一パーセントの危険すらも排除し、妥協を許さない指示は残酷とさえ思える。

 順当にいけば、トウヤの勝利は揺るがない。
 もしも観客がいればそう思うのが当然の状況。

「ピカ、かげぶんしん! オーダイル、かみくだく!」

 けれど、この少年は。
 己と、相棒達の勝利を微塵も疑わない。

「ジャローダ、リーフブレードで切り払え! オノノクスは後ろに回り込め!」

 翠色の横薙が分身を霞へ変える。
 オーダイルの巨牙はオノノクスの影を噛むだけに終わり、回り込んだ竜の反撃を警戒し横っ飛び。
 疲弊の息衝きを呑み込んで、オーダイルは再びオノノクスの鱗を噛み砕かんと迫る。

「オノノクス、下がれ」

 やはり、捉えられない。
 空振りに終わるオーダイルの隙を縫うように、ピカチュウが電撃を二匹へ放つ。
 素早さに秀でたジャローダ、強化によりそれを上回る機動力を得たオノノクスはこれを余裕を持って回避。
 体勢を立て直すオーダイルとピカチュウが、互いに背を預ける形に。

「へへ、強いなトウヤ……!」
「…………それはどうも」

 二人の王者は、戦況と相対するかのように対照的。
 窮地に立たされているレッドは心底楽しそうに笑い、勝利の兆しが見え始めたトウヤは無表情。

 単なる心境の違い、という言葉で片付けていいほど単純な話ではない。
 深い根っこの部分で繋がっている二人だからこそ、彼らが立っている舞台は、背負っているものは。
 決定的な差を紡ぎ出し、遥か遠く映し出される。

「おかしな人ですね、負けるかもしれないのに笑うなんて」

 だから思わず、問いかけた。
 バトルの最中に余計な私語を挟むなど、とっくに無駄だと思っていたのに。
 それでもこの少年は〝話す価値〟があると、そんなふとした気紛れで。
 返答なんてろくに期待していなかったけれど、レッドは笑顔を崩さずに応える。

「まだまだだな、トウヤ」

 歯を食い縛り、挑発の笑み。
 弧を描く目元の先にいるトウヤは、ぴくりと眉を顰める。

「負けそうになるくらい白熱したバトルだからこそ、勝った時の喜びが大きいんだろ!」

 ────言葉が、詰まる。

 返答する価値もないだとか、そんな理由ではなくて。
 脳裏を掠めるセピア色の残影が、喉を震わせた。
 勝負事においてなんの意味もないと、奥底に封じ込めていた懐旧の記憶。
 少年の手によって無理やり引きずり出されたそれは、風の音や景色、草原の匂いまで鮮明に再現する。

897タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:14:09 ID:WfubCnaA0


『────がんばれ、ツタージャ!』


 思い出したくもない、かつての自分。
 絆が力となり、激励が勝利に繋がると本気で信じ込んでいた未熟な青二才。
 邪魔だと切り捨てたはずのそれを、目の前の王者はさぞ大事そうに抱えていて。
 得体の知れない忌々しさが、胸を焼いた。
 
「そんな強がりも、勝たなきゃ意味がない」

 それを受けてか。
 彼にしては珍しく、勝負を急ぐ。
 水面に波紋を作り出すかのように、場の流れに手を加える。



「────ジャローダ、リーフストーム」


 
 空気が変わる。
 逆巻く強風が、ひしめく大地が。
 この場にいる生命に、極度の緊張をもたらした。

「ピカ、オーダイル! 柱の裏に隠れろ!」

 下した号令に耳にして、二匹は迅速に障害物に身を隠す。
 もしその命令がなくとも、本能で回避を選ばせたであろうと確信させる厄災。
 〝それ〟が鎖から解き放たれたのは、二匹が跳び立つのとほぼ同時であった。

「────っ……!」

 咆哮、大嵐、竜巻、暴風、鎌鼬。
 足りない。それを形容するには、どれも足りない。
 荒れ狂う翠風は螺旋を描いて、中庭の一部を抉り取り我が物顔で突き進む。

 捲り上がる地面、散る草花。
 直撃を受けた柱に穴が開き、重厚な音を立てて地へ沈む。

 もはや応戦どころではない。
 回避に全力を尽くすピカチュウ達は、もう一つの脅威を野放しにしてしまった。

「オノノクス、りゅうのまい」

 それは、冷酷な死刑宣告。
 無慈悲な指令を聞いたのは、オノノクスだけではなく。
 暴風の中でも確かに届いたその声に、レッドは戦慄を抱いた。

 三段階の強化を経たオノノクス。
 素の力では四匹の中で最も劣っていたはずの彼女は今、〝最強〟の存在と化した。


◾︎

898タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:14:52 ID:WfubCnaA0


 ────リーフストーム。

 莫大な威力と引き換えに、己の特殊攻撃力を著しく下げる大技。
 安定しない命中率とデメリット効果を鑑みて、下手な乱用は身を滅ぼすとトウヤは考えている。
 事実、無造作に振るわれた大技は一匹も仕留められず、自身の能力を下降させるだけの結果で終わった。

 しかし、それはシングルバトルでの話。

「ジャローダ、戻れ」
「え……!?」

 トウヤの手にあるボールへ、赤い閃光と共に吸い込まれるジャローダ。
 二対二のバトルの最中で、戦闘不能に陥った訳でもないポケモンを下げるなど正気の行動ではない。
 驚愕するレッドはしかし、彼の狙いをすぐに察する。

(まさか────!)

「オノノクス、ドラゴンテール」

 推察の答え合わせをするかのように、オノノクスがオーダイルへ飛び掛かる。
 もはや回避が間に合うレベルではない。
 咄嗟に防御したオーダイルの巨体を、しなる尻尾が無慈悲に吹き飛ばす。

「ピカ、十万ボルト!」
「かわせ、オノノクス」

 残るピカチュウの電撃を、オノノクスは余裕を持って回避する。
 これが、ジャローダが不在である〝一手〟で行われた攻防。

「いけ、ジャローダ」

 そして再び、森の君主が顕現する。
 森林に住まう生命を平伏させる高貴さを纏って、それは目前の敵を睨む。
 空気のざわめきと共に訪れる不穏な予感。
 当たって欲しくないと願っていた推測は、答えとなって示された。


 ────ポケモンバトルの基礎の話をしよう。


 バトルの最中に行われた〝りゅうのまい〟や〝つるぎのまい〟といった能力値の変化は、永続ではない。
 一度ボールに戻してしまえば、ポケモンのステータスは元の値に戻される仕組みだ。
 ここで重要なのは、なにも戻されるのは強化効果に限らないということだ。
 ステータスが元に戻るのであれば、逆を言えば──能力値が下がった場合、一度ボールに戻してしまえばいい。

 言うだけならば簡単だが、思いついても出来るような者はそういない。
 ダブルバトルにおいて一匹を戻すということは、残された一匹で二匹の相手を担うことが強要されるのだから。
 まともな神経をしていれば、そんな不利に直結するようなことはしない。

「ジャローダ」

 けれど、例えばそれが。
 圧倒的な能力上昇で、他の追随を許さない力を得た者が残されたのならば。
 たったの〝一手〟程度、時間を稼ぐことなど造作もないのかもしれない。


「リーフストーム」

 
 暴威が降る。
 先程のそれと全く遜色のない破壊力を伴って、潰滅の限りを尽くす大自然の奔流。
 二度目となるそれは、強制的にレッドの選択肢を奪い去った。

899タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:15:18 ID:WfubCnaA0

「ピカ、オーダイル! 避けろ!」

 回避を怠れば即座に敗北を叩き付けられる。
 大袈裟なまでの横っ飛びでリーフストームをやり過ごすが、そう何度も躱せるものではない。
 砕けた柱の破片がピカチュウの身体に衝突し、短い悲鳴を上げさせた。

「戻れジャローダ。オノノクス、ドラゴンテール」

 負傷したピカチュウを気にかける余裕もない。
 再び下げられるジャローダ、同時に襲いかかるオノノクス。
 そこからはもう先の光景の焼き直し。距離を取らされたオーダイルと、ピカチュウの反撃を躱すオノノクスの姿。

 ────戦況は絶望的。
 
 ペースが、完全に呑まれ始めている。
 トウヤの姿が遠く、遥か遠くに見える。
 眼前のオノノクスが、怪獣の如く巨大に映る。

 勝ち目などまるで見えない。
 だというのに、この少年は。
 逆境の中でこそ、熱く燃え滾る。

 風で吹き飛ぶ赤い帽子。
 鮮明に映える王者の顔。


 レッドは────笑っていた。


◾︎

900タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:15:55 ID:WfubCnaA0


 トウヤは理解できなかった。
 レッドが浮かべている笑みの正体を。

 まさか、ここから打開策でもあるというのか。
 常人では到底並び立てぬ思考力を持ってしても、答えは出せずにいて。
 再びジャローダを出そうとボールに手をかけた、まさにその瞬間。

「オーダイル!」

 強く、振り絞るような声色。
 ぴたりと嵐が止んだような、そんな〝予感〟に囚われた。


「────じわれ!」


 今度はトウヤが目を剥く番だ。
 じわれ──地割れ。その単語の意味を理解すると同時、夥しい情報量が彼の脳を埋め尽くす。

(馬鹿な、オーダイルはじわれを覚えないはず……!)

 まず最初に浮かぶ疑問はそれ。
 トウヤの知る限り、オーダイルはじわれを習得しない。
 全てのポケモンが習得するワザを死ぬ気で叩き込んだのだ、〝ほぼ〟間違いないと言っていい。

 ────要するに、断言はできない。

 この世には、なみのりやそらをとぶを覚えるピカチュウがいるという。
 通常では習得不可能なわざを、果たしてどんな理屈か、使用出来るポケモンが確かに存在するのだ。
 加えてオーダイルは、じわれこそ覚えないが同系統の〝じしん〟を習得できる事実がある。

 なにより、決め手となったのは。
 一瞬の迷いもなく片足を振り上げ、今まさに地面を蹴り抜こうとしているオーダイルの姿。


「────オノノクス、上に跳べ!」


 トウヤは、誰よりも勝利に徹底している。
 驕りや油断といった、読み負ける要因の尽くを排除してきた。
 それが例えどんなに可能性の薄いものだとしても、一切の妥協を許さない。
 戦闘特化のアンドロイドであるA2にさえ、容赦がないと称されるほどに。

 並のトレーナーであれば、目先のメリットを優先して攻撃指令を下すであろう。
 じわれは当たりさえすれば一撃必殺であるが、その命中率は恐ろしく低い。
 けれどそれはつまり、ゼロパーセントではないということだ。
 理を突き詰め続けたトウヤは勝負事において、〝天運〟というものに信頼を置くことができなかった。

901タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:16:37 ID:WfubCnaA0

 そして、それが。
 トウヤのその容赦のない性格が。
 このバトルの風向きを変えた。
 
 オノノクスが跳ぶ。
 オーダイルが地面を踏む。
 同時に起きた出来事。同時に行われた攻防。
 しかし結論から言えば、一撃必殺の地殻変動は起きなかった。


 〝起きるはずが〟なかった。


「っ──、しま────」

 しまった、と。
 口にするよりも先に、遮られる。

 力強い指差しが狙いを定めて。
 翼も持たずに宙へ投げ出され、機動力を殺されたオノノクスへ。
 少年の相棒が、目を光らせた。
 
「ピカ、でんじは!」

 黄色い円形の帯がオノノクスを包み込む。
 バチバチと、強烈な静電気が鱗を迸る。
 着地と同時に体勢を崩す竜の姿が、彼女の身に起きた異変を存分に知らしめた。

(やられた……!)

 この瞬間、オノノクスが受けてきた素早さ上昇の恩恵は無意味と化す。
 最初から狙いはこれだったのだ、と。理解した瞬間に抱いた感情は畏怖に似ている。
 よもやポケモンバトルでブラフを交えるなど、それこそ無法も無法。
 しかしトウヤが総毛立つ理由は、それではなかった。

 あの瞬間オーダイルは。
 躊躇いも逡巡もなく、覚えもしない地割れを行う〝フリ〟をしてみせた。
 どんなに忠実なポケモンであろうとも使えないわざの命令を下されれば、まず戸惑いを見せるはずなのに。
 あの一瞬で意図を汲み取る知能を持っていたのか、もしくは────よほどの信頼関係を築いていたとしか思えない。

 そう──、絆や信頼。
 トウヤが〝不要〟と切り捨てたそれが決め手となって。
 今まさに、形成を覆す要因となったのだ。

「ピカ、ボルテッカー!」
「っ、……ジャローダ! リーフブレード!」

 ノイズを振り払いジャローダを出す。
 固定砲台の役目は、相方であるオノノクスが麻痺している以上放棄するしかない。
 電撃纏う突進がオノノクスに到達する寸前、ジャローダの尾がそれを相殺する。

「オーダイル!」

 呼びかけられたオーダイルが攻撃態勢に入る。
 ペースを乱されたことに僅かに動揺の色を見せたトウヤは、オノノクスへの指示を迷う。

 今のオノノクスの機動力は皆無に等しい。下手な回避は困難だろう。
 しかし、りゅうのまいによって得た攻撃力上昇の効果はまだ潰えていない。

 オーダイルの攻撃の癖はもう見抜いた。
 顎を大きく開ける姿勢、今まで散々みせた〝かみくだく〟の予備動作だろう。
 今のオノノクスであれば十分に受け止められる。そこで反撃を見舞えばいい。


 そんなトウヤの〝妥協〟は、
 致命的なミスとなり、窮地を引き寄せる。


「こおりのキバ!」


 喉奥から息が漏れ、汗が頬を伝う。
 驚きよりも先に、己の犯した失態に血の気が引いた。
 そうだ、あの地割れはブラフ──つまりオーダイルはまだ四つ目のワザを見せていなかった。

902タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:17:04 ID:WfubCnaA0
 
「く、……オノノクス! きりさく!」
「いっけーーー! オーダイルっ!!」

 冷気を纏う巨牙がオノノクスの首筋に食らいつく。
 黄金の鱗に亀裂が走り、弱点であるこおりタイプということも相まって容易く防御を貫いた。
 苦悶の呻きを上げるオノノクス。
 勝負が決してもおかしくないダメージを負いながら、それでも応戦する彼女もまたこの死闘に参加する〝資格〟を有していると言える。

「オノノクス……!」
「オーダイルっ!」

 牙と牙が、互いの首筋へ突き立てられる。
 どちらかが倒れるまでこの拮抗は続くのだと、誰もが確信する。
 ここまで来れば互いのトレーナーが介入できることなど、なにもない。

「グルルル……」

 オノノクスが低く唸る。
 その声が届いたのは、相対するオーダイルだけだった。

 ──〝どうして、貴方は戦うのですか。〟

 竜の問いかけに、鰐が答える。

「オォダ、ァ……!」

 ──〝この人になら、従ってもいいと思ったからさ。〟

 蒼玉のような澱みのない瞳。
 濁りのない、宝石のような煌めき。

 ああ、そうか。と。
 やっぱり自分は間違っていなかったのだと。
 オノノクスは、まるで何かを掴んだかのように。
 後のことを託すかのように。
 紅玉のような瞳を、静かに閉ざした。


◾︎

903タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:17:52 ID:WfubCnaA0


 ずしんと、大きな質量が地に伏せる。
 力を失い倒れるオノノクスを、勝者であるオーダイルが見下ろして。
 誇り高さを象徴するような彼の笑みが、陽光の下で輝いた。

「へへ、やったな……オーダイル!」
「………………戻れ、オノノクス」

 オノノクスを失った今、トウヤができる事はぐんと狭まる。
 振り返るピカチュウとオーダイルの視線が、ジャローダへと向けられた。
 二匹同時の猛攻を凌げるような機動力は、今のジャローダにはない。
 オノノクスをボールに戻すと同時、焦燥と決意の入り交じった顔を浮かべた。

 背に腹はかえられない。
 未来を見据えて出し惜しみすれば、今を切り抜くことなど出来ない。
 そうしてトウヤが導き出した答えは────


「ジャローダ、リーフストーム!」


 三度目となる大技。
 異なる点は、もうデメリットを打ち消す手段がないということ。
 一度きりの大技──乱発を避けるべきと下したが、今撃たずにして〝次〟は来ないだろう。

 破壊の権化が辺りを灼き尽くす。
 避けろ、と。迷いなく下された指示は、暴風に掻き消されたのか否か。
 もしくは届いたが、それが許される余力が残されていなかったのか。

「グ、オォ……ダ…………ッ!」
 
 翠色の螺旋がオーダイルを呑み込む。
 タダでさえボロボロであった肉体が、弱点の大技を耐えることなど出来るはずもなく。
 強靭な筋肉に無数の切創を走らせ、骨が軋む音を聞きながら。
 圧倒的な推力に見舞われて、壁へと叩きつけられたオーダイルはそのまま倒れ伏した。

「オーダイル!!」
「ジャローダ、リーフブレード!」
「っ、……ピカ! 避けろ!」

 オーダイルを気遣う余裕もなく、流れざまに放たれるジャローダの一撃。
 反撃の体勢を立て直す暇もなく襲いかかる連撃。ピカチュウは大きく後方へ距離をとる。

「オーダイル、ありがとう……よくやった! ゆっくり休んでくれ!」
 
 警戒をそのままに、オーダイルをボールへと戻すレッド。
 トウヤもまた、今まで以上に慎重に相手の出方を伺う。
 顔を向かい合わせ、対峙するピカチュウとジャローダ。
 戦況もルールも一変した今、今まで以上の緊張が迸った。
 
「言っただろ、トウヤ」

 レッドの声が耳を木霊する。

「バトルは負けそうな時ほど、楽しいんだって」

 言葉のやり取りをする気など毛頭ないのに。
 この飢えを満たすのは、戦いだけだと思っていたのに。
 なぜだかその声を無視することが出来なかった。

904タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:18:36 ID:WfubCnaA0


「今のトウヤも、そんな顔してるぜ!」


 華やかで、濁りのない笑顔。
 曇天の隙間から差し込んだ陽光のように、眩しくて。

 チャンピオンという栄誉に囚われず自由に。
 未だ残影を追いかける自分を置いていくように。
 ただひたすらに前を向き続ける彼にあてられたのか、トウヤの口元には薄笑いが浮かんでいた。

「第二ラウンドです、レッドさん」
「ああ! ──のぞむところだっ!」

 ああ、もしかしたら。
 自分が本当に求めていたのは、〝勝利〟ではなく。
 敗北だったのかもしれない、なんて。
 
 ────ひどく、今更な話だ。
 

◾︎


「イレブン! あれ──って、うわっ!?」

 ベル達が中庭に辿り着いたのは少し前。
 リーフストームの余波が周囲を呑み込む瞬間。
 王の間で見た時よりも凄惨な戦場に、ベルの体を庇うイレブンは戦慄を抱いた。

「…………とめないと、」

 それは半ば、己へ発破をかけるためのまじない。
 こうして使命感を与えなければ、尻込みしてしまいそうだったから。
 死闘を広げる彼らとイレブンたちを隔てるのは、頼りない腰程の高さの鉄柵のみ。
 いつ誰が怪我をするか分からない状況に急かされ、イレブンはラリホーを撃とうと掌に魔力を宿らせる。

「まって、イレブン!」

 そして、それを止めたのは。
 潤んだ瞳で見上げるベルの一声。

「ベル…………?」
「よく見て、イレブン! 二人の顔!」

 なぜ止めたのか、と。
 そんな疑問を先読みしたかのように、ベルが述べる。

「…………あ、……」

 目を凝らす。
 我ながら、間の抜けた声を漏らす。
 イレブンが見ていたのは、ポケモン達が繰り広げる激闘という状況だけだった。
 けれど彼らの顔に注目してみれば、まるで見え方が違ってくる。

 なんのしがらみもなく。
 殺し合いという使命も忘れて。
 自分自身をぶつけ合う彼らは、まるで互いのことしか目に入っていないようで。
 想起したのは、戦いを会話とするグロッタの闘士たちだった。


「二人とも…………すごく、楽しそう」


 ベルの顔は、どこか羨ましそうで。
 テレビの中でしか見た事がなかったチャンピオン達の戦いに馳せる、一緒に巣立った幼馴染の姿を、自慢気に見ていて。
 遥か遠くにいる彼の姿を、心から祝福しているようで。

「……そう、だね」

 勇者は、見届ける道を選ぶ。
 歴史上においても、最高峰のポケモンバトルを目の当たりにするのは、たった二人の観客(オーディエンス)。

 世代を越えて、時空を越えて。
 集う彼らは、前を向き続ける。





        (次なる世代へ)
 ────アドバンス・ジェネレーション。


 

 


905タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:20:11 ID:WfubCnaA0



 勇気凛々 元気溌剌
 興味津々 意気揚々
 ポケナビ持って 準備完了!
 先手必勝 油断大敵
 やる気満々 意気投合

 遥か彼方 海の向こうの
 ミナモシティに 沈む夕陽よ
 ダブルバトルで 燃える明日
 マッハ自転車 飛ばして進もう!

 WAKU WAKU したいよ
 ぼくらの夢は 決して眠らない
 新しい街で トキメク仲間

 探していくんだよ





906タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:21:07 ID:WfubCnaA0
︎◾︎










『────ポケモンには優しく、どこまでも優しくしてあげてね。
 あなたのポケモンはあなたのために頑張るんだから!』
             
             

             ──フタバタウン、ママ









◾︎

907タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:22:29 ID:WfubCnaA0



「ピカ、かげぶんしん!」
「ジャローダ、リーフブレード!」

 一対一、シングルバトル。
 何事も介入を許さない、正真正銘混じり気のない実力勝負。
 命運を預けられた相棒は、〝全力〟という形で主人へと応える。

「ピカ、十万ボルトだ!」
「避けろジャローダ! 返しにアクアテール!」

 指示をするたびに。
 攻撃を当て、受けるたびに。
 かつて見た、旅の記憶が蘇る。

「まだまだ! ピカ、でんじは!」
「ジャローダ、柱を盾にして回り込め!」


 ──〝ねえ、ツタージャ。〟


「後ろからリーフブレード!」
「尻尾で受け止めろ! ピカ!」


 ──〝誰にも負けないぐらい、強くなろう。〟


「がんばれ! ピカ!!」
「っ──、…………」


 ──〝ボクたちなら、きっとできるよ。〟


 ジャローダが打ち負ける。
 体勢が崩れ無防備な腹を晒す蛇姫へ、鋭い電撃が振るわれた。
 苦い結果に歯噛みをしながらも、トウヤはその光景をどこか予感していた。

 なぜだろうか。
 打ち合いに関しては、体格の勝るジャローダの方が有利だというのに。
 トウヤはこの結果に、不思議と疑いを持たなかった。

「ピカ、もう一押しだ!!」
「ジャローダ、リーフブレードを地面に撃て!」

 追撃を仕掛けるため、疾駆する電気鼠。
 避けるためでもカウンターのためでもなく、縦一文字の斬撃が大地を貫いた。
 抉れた衝撃で四方八方へと繰り出される無数の礫。
 散弾となって襲いかかるそれらは、でんきタイプであるピカチュウにとって致命的な弱点となる。

「よけろ! ピカ!!」

 引き連れた影分身のうち、いくつかが身体を撃ち抜かれ霧散する。
 しかし本体であるピカチュウは、壁や倒れた柱を駆使した三次元的な動きで、掠り傷一つ負わずにやり過ごした。

「ピカ、ボルテッカーだ!」
「ジャローダ、リーフブレード!」

 着地から切り返し、迅雷と化すピカチュウ。
 ジャローダもまた翠緑の斬撃で返し、互いに衝撃で弾かれる。

 ぐるりと反転する身体。
 そのまま回転を活かして互いに尻尾を打ち付け合い、幾度目かの鍔迫り合い。

 軽快な音が鳴り渡る。
 ワザでもない純粋なフィジカル勝負。
 一瞬の拮抗の後、疲弊の差により今度はピカチュウが吹き飛ばされた。

「ジャローダ、追いかけ──っ!?」

 追従の指示を下そうとして、異変を悟る。
 蛇妃の体表にはバチバチと電気が迸り、高貴さを失わなかった顔は苦しげに歪んでいた。

「〝せいでんき〟か……っ!」
「へへ、さっすが俺の相棒!」

 ピカチュウの特性、せいでんき。
 その効果は接触技を受けた際に発揮し、低確率で相手を麻痺状態に陥れる。
 この土壇場でそれを引き当てるなど、なんという幸運の持ち主だろうか、と。
 そんな無粋な考えを浮かばせたところで、トウヤは首を振る。

 ────幸運?

 本当に、そんな言葉で片付けていいのか。
 このレッドという男は、これまで幾度も不合理な戦い方を見せつけてきた。
 それの原動力となったのは、ポケモンへの揺るぎない信頼。
 ならばこの現状も、理に囚われない力が働いたのではないのか。

「ジャローダ……ピカチュウをよく見ろ。冷静な君なら出来るだろう」

 それに気がついたところで。
 トウヤに出来ることは、理に満ちた戦法。

908タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:22:58 ID:WfubCnaA0

「ピカ! かげぶんしん!」

 ジャローダはそれに無言で従う。
 細めた瞳がピカチュウを追いかける。
 五匹の分身が撹乱のために動き回るが、冷静さを乱さないジャローダには意味を成さない。

 絶え間なく動き回るピカチュウに対し、ジャローダは最小限の動きで対応する。
 どこまでも対照的な〝静〟と〝動〟の戦い。

「ピカ! ────!」
「ジャローダ、────!」

 繰り出される電撃や突進は、蛇妃を捉えられずに時間だけが浪費される。
 しかし残像を描くほどのスピードに加え、麻痺が響いて完全には躱しきれず、チリリと焦げ跡が目立ち始めた。
 
 体力が消耗してゆく。
 精神がすり減ってゆく。

 折れぬ意志、欠けぬ理念。
 磨き上げられた宝石のように、硬く美しく。
 互いの掲げる輝きを、これでもかと見せつけ合う。

「がんばれ、ピカ──!!」
「っ、…………!」

 そこにいるのは、王者ではない。
 冠もマントも放り投げて、強敵(ライバル)と競い合う挑戦者。

「ジャローダ────」

 栄光も、過去も、彼らを縛るものは何もない。
 無垢でまっさらな一人の旅人となって、高みを目指す。
 必要なのは知識でも、技術でもなく。
 金剛のように、決して砕けない〝情熱〟。

 口にすることなど、もうないと思っていた。
 今更彼女にそれを言う資格など、ないと思っていた。

 強くならなくちゃ、と。
 そんな呪縛に囚われていた心が、熱に当てられて雪解けるように。
 風に帽子をさらわれた少年は、喉奥を震わせる。
 

 
「────がんばれ!」



 旅人の一声は、鋭く空気を切り裂いて。
 耳にした蛇妃の目には、かつての情景が広がる。

 戦って、負けて、負け越して。
 悔しさに打ち震え、誰にも負けないと臆面もなく宣言する少年を見て。
 その道を共に歩もうと誓う、自分の姿が──そこにいた。

 



909タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:23:48 ID:WfubCnaA0



 彼(トウヤ)が私を選んだ理由は、本当に些細なきっかけだったらしい。

 最初の三匹の中で、私が一番人を怖がっていたから。
 そんな意味のわからない理由に首を傾げていたけれど、彼と旅をする中でなんとなく本心が見えはじめた。

 私は、人と関わるのが怖かった。
 人間というのはポケモンよりもずっと複雑な感情を持っていて、何を考えているのかまるで分からなかったから。
 閉鎖的な世界で閉じこもることを理想としてきた私は、自然と外の世界に対して消極的になっていた。
 きっと彼は、そんな私の気持ちを見抜いていたんだと思う。

 少しでも私を前向きにさせようと。
 少しでも私に世界の広さを教えようと。
 途方もない旅の相棒として、選んだのだろう。

『ねぇ、ツタージャ』
『ジャァ?』

 何気ない会話。
 まだ彼の手持ちが私を含めて三匹しかいない頃。
 苦手なむしタイプで固めたヒウンジムのジムリーダーに、それは見事に返り討ちにされた時の記憶。
 私たちは、夕陽のよく見える丘にいた。

『ごめんね。君を勝たせられなくて』

 彼の気持ちは、分からなかった。
 負けて悔しいのは、誰よりも彼自身のはずなのに。
 口癖のように「ごめんね」と口にする彼が何を考えているのか、理解できなかった。

 けれど思い返してみれば。
 それが私の、行動理念だったのかもしれない。

『ツタージャ。ボクはね、一番にならなくてもいいと思ってたんだ』

 ぽつりと、帽子を深く被り直してトウヤが言う。
 いきなり何を言い出すんだと、訝しげな視線を向けた覚えがある。
 そうするとトウヤは少しだけ微笑んで、思い返すように目を閉じた。

『ベルもチェレンも、一緒に一歩を踏み出したから。ボクだけが先を歩く必要もないかな……なんて、そんな風に考えてたんだよ』

 知ってる。
 その光景は、ボール越しに見ていた。
 きっとそれはベルが選んだミジュマルも、チェレンが選んだポカブも同じだったはずだ。

『けれど、ね。ボクはボクが思っていたよりも、ずっと負けず嫌いだったみたいだ』

 夕陽に照らされた彼の顔が、儚げに映る。
 眉尻を下げて、唇を震わせる彼はとても悔しそうで、私はなぜだかそれを見るのが嫌だった。

『負けてもいいだなんて、そんな中途半端な気持ち……ベルもチェレンも持ってない』

 いや、きっと彼が悔しいのは。
 バトルに負けたことじゃなくて、それを受け入れていた自分自身なのだろう。
 物事を俯瞰的に見てしまう〝れいせい〟な性格だからこそ、断片的に彼の感情を読み取れてしまう。

『それに気付かせてくれたのはキミだ。ありがとう、ツタージャ』
 
 ひどく穏やかに、そう微笑むトウヤ。
 橙色の光源が横に差し、彼の顔に明暗がくっきりと浮き上がる。
 私は、控えめに頷くことしか出来なかった。


 ────うそつき。


 どうしてだろう。
 人の考えなんて、まるで分からないのに。
 私はなぜだか、トウヤの心だけは読むことができた。

910タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:24:19 ID:WfubCnaA0

 トウヤは嘘をついていた。
 まるっきりの出任せではないけど、彼が勝ちに拘るようになったのはそれだけの理由じゃない。
 本当の理由は、私にあった。

『ジャ、ァ…………』

 負けず嫌いだったのは、私。
 プライドが高くて、高飛車で、身の丈に見合わない自信に満ちていた私は。
 敗北という屈辱に耐えられなかった。
 トウヤはそんな私の性格を、誰よりも先に見抜いていたんだ。

 彼は、私よりずっと冷静だった。
 可能な限り私を傷つけないように、優しい嘘を吐き続けて。
 がむしゃらに、だけど的確に。勝利を得るため成長を遂げていった。

 ────ねぇ、トウヤ。
 ────あなたを変えてしまったのは、他でもない私なの。

 彼から純真さを奪い取ったのは、私だ。
 だからせめてその責任を取ろうとして。強くなるために、努力をした。
 〝勝利〟という結果を過程として、共依存じみた関係を築いていたのかもしれない。

 そんな私が、〝強さ〟に囚われた彼に捨てられることになったなんて。
 皮肉な話だけど、自業自得だ。
 だから私は運命に呪いをかけて、蓋をして、彼の操り人形となることで自身を保とうとした。

 なのに。
 それなのに。

 どうして今になって。
 がんばれだなんて言うの。


 勘違いしてしまう。
 自分は人形ではなく、彼のパートナーなのだと。
 そんなことを思う資格なんてないはずなのに、心のどこかで喜んでしまう。

 ああ、本当に。
 彼はなんて残酷なんだろう。
 女心を弄ぶなんて、ひどい人だ。

 けれど、トウヤ。
 私はきっと、そんな貴方のことが────





911タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:25:03 ID:WfubCnaA0



 翠色の尾が斜めに這う。
 地を抉り、目眩しとなった砂埃にピカチュウは反応が遅れて直撃。
 それは間違いなく、これまでジャローダが見せた中で最も冴え渡る一撃であった。

「ピカ!!」
 
 レッドの呼び掛けに応じ、空中で体勢を整えるピカチュウ。
 ダメージを感じさせない強気な顔で振り向いて、にやりと笑ってみせる。
 まだまだやれるぞ、と。そう伝えるように。

「行けるよな、ピカ」

 相棒の意図を汲み取り、レッドが笑う。
 対してピカチュウは、頬にバチバチと電気を走らせながら頷く。

「ジャローダ」

 名を呼ばれたジャローダは、横顔を見せる。
 紅蓮の目線はぎこちなく空を彷徨い、少ししてトウヤの目を見た。
 僅かに緊張と期待の入り交じった面持ちを浮かべて、耳を澄ます。

「いい攻撃だったよ、その調子で勝とう」

 高貴なる蛇妃は、不意に心が軽くなる。
 ひどく久方ぶりな感覚だ。緩む口元が彼女の抱くモノを物語る。

 ピカチュウは、折れない。
 レッドという少年を心から信頼しているからこそ、自分が折れてはならないと理解しているのだ。
 そしてそれは、ジャローダも同様に。
 違う点があるとすれば、彼女が折れない理由はトウヤへの信頼というよりも、過去への贖罪のためといえる。

 金剛のように砕けぬ意志が相手ならば。
 静かなる海底で目覚めを待つ、真珠の如き理念をもって応えよう。

「ピカ、ボルテッカー!!」
「ジャローダ、かわしてリーフブレード!」

 まるで落雷が水平に落ちたような白い輝き。
 その源となる小柄な身体は、触れるだけで勝負を決しかねないパワーを秘める。
 全身全霊で回避を試みるも、麻痺によって機動力の落ちた今完全に躱しきれず皮膚を掠めた。

 迸る激痛と熱に顔を歪ませる。
 気品さなど感じられない必死の形相。
 しかしここには、それを嗤う者など一人としていない。

「ジャ、ァ……ッ!」
「ピ、カ……!?」

 返しのリーフブレード。
 ピカチュウの前脚を掠め取り、苦悶の声を上げさせる。
 即座に反応してみせたが決して浅くはない。
 ジャローダほどでは無いにせよ、自由が利かない身体では闇雲な突撃は無謀。

 一度距離を取り、互いに数歩分の猶予を残して相克する。
 片や稲妻を頬に、片や翠風を尾に。
 可視化出来るほど凝縮された力を溜め込んで、主人へ目配せをする。

 いつでもいけるぞ、と。
 それを汲み取れないほど、彼らの築いた関係は浅くない。


「ピカ、十万ボルト!」
「ジャローダ、リーフストーム!」


 疾風迅雷、とはまさにこの光景。
 高密度のエネルギーが塊となり、衝突。

 迸る稲光、荒れ狂う烈風。
 あれほど圧倒的とも思えたリーフストームの破壊力も、二段階の威力低下を経て電撃を喰らうことを許されない。

 拮抗はほんの一瞬。
 異なる属性による最高峰のせめぎ合いは、爆発という結末で終わりを告げる。
 爆風に晒されて勢いよく吹き飛ばされる二匹の身体。
 二匹は鏡写しのように同時に宙返り、体勢を立て直した。

912タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:25:40 ID:WfubCnaA0

「ピカ、もう少しだ! がんばれ!!」
「ジャローダ、油断するな! 冷静に勝ちに行こう!」

 決着が近い。
 互いにそれを悟ったトウヤとレッドは、激励を飛ばす。
 ここまで来ればいい加減、もう読み合い云々ではなく、相手の考え方も分かってくる。
 良き理解者であり、良き強敵(ライバル)だからこそ────全力で受け止めてくれるだろうと、信頼していた。
 
「ピカ──」
「ジャローダ──」

 恐らくは、これで決まる。
 互いの体力量を見る限り、これを当てた者が勝利すると確信する。
 これまでに培われた絶対的な経験と洞察力は嘘をつかない。

「──……、……」
「トウヤ…………」

 空気が歪む程の圧に当てられる観客席。
 イレブンとベルも、激闘の終わりを感じ取り固唾を呑む。
 一言も声を出せず、一瞬足りとも目を離すことも許されなかった戦い。
 それが今、終わろうとしている。


「────ボルテッカー!」
「────リーフブレード!」


 稲妻のようなジグザグ走行。
 並のスポーツカーを遥かに越える神速もしかし、前脚の傷により不完全。
 しかし条件はジャローダも同等。
 麻痺により回避が困難な今、衝突の直前を見極めて居合を放つしか道はない。

 交錯は刹那。
 コンマ数秒のズレも許されない、シビアなカウンター。
 糸のようにか細く薄い勝機を、手繰り寄せんと決死を尽くす。


 電撃が迫る、まだ遠い。
 電撃が迫る、まだ遠い。
 電撃が迫る、もう少し。
 電撃が迫る、今だ。


 刀が振るわれる。
 あまりに静かに放たれたそれは、音さえ切り裂いたのではないかと錯覚させた。
 交錯が終わり、二匹は互いの傍を過ぎる。
 喧騒に溢れていたはずの中庭を、静寂がしんと呑み込んだ。

913タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:26:27 ID:WfubCnaA0




 勝負を制したのは。
 ジャローダであった。




「ピカ……っ、……!!」

 
 無音を打ち消したのは、レッドの悲痛な声。
 慣性に則った減速の後に倒れ伏すピカチュウの身体には、流れるような一筋の傷が刻まれていた。

 対するジャローダは。
 振り返り、ピカチュウからトウヤへと視線を移す。
 その顔は果たして、勝利の余韻に浸るわけでも達成感に満ち溢れるわけでもなく。
 実感の追いつかないような、戸惑いが滲んでいた。

「…………オレの勝ちです、レッドさん」

 そんな彼女を後押しするかのように、そう告げる。

 紙一重の勝利だった。
 一つでも違っていれば、負けていたのは自分だった。
 けれどこの瞬間をもって、バトルを制したのは間違いなく自分なのだと。

「何言ってんだよ」

 そんな〝間違い〟は、呆気なく否定される。

「まだ、勝負は終わってないだろ」

 何を、と。
 口にするよりも先に、鋭い悪寒が背筋を捉える。

「そんな、……ばかな……!」

 トウヤの視線はレッドからピカチュウへ。
 瞬間、彼の瞳は有り得ないものを見るかのように大きく見開かれた。

 ボロボロの体で、今にも倒れそうになりながら。
 それでも燃え上がる闘志を隠そうともせずに、瞳の奥に炎を宿して。


 ────ピカチュウは、立っていた。


 耐えるはずがない。
 残り体力から見て、リーフブレードを受け切ることなど不可能だったはずだ。
 幾千幾万の戦いを乗り越えて、対象のステータスを数値化するほどの慧眼を持つトウヤだからこそ、断言できる。

914タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:27:25 ID:WfubCnaA0



 どこかの悪の首領が言った。
 

 ────君は、とても大事にポケモンを育てているな。


 その時に見せた表情は。
 威厳と風格に、一抹の寂寥を交えたような複雑さを持っていて。
 どこか遠くに置いてきてしまったモノを見遣るような双眸が、忘れられなかった。
 

 ────そんな子供に、私の考えはとても理解できないだろう。


 確かにそうだ。
 俺はその男の思想を、理解出来なかった。
 どうしてポケモンを悪事に使うのか。どうしてポケモンを世界征服の道具にするのか。

 時に笑い、時に泣き、時に喧嘩し、時に仲直り。
 俺にとってポケモンは、かけがえのない仲間だと思っていたから。
 彼らと共に足並みを揃えることこそ、最高のポケモンマスターだと信じていたから。
 何故みんなその光を目指さないんだろう、なんて。子供だった俺は心から不思議だった。


 けれど、今思えば。
 その男もきっと、目指していたんだ。


 夢の果てへ進み続けて。
 躓いては立ち上がり、遂に手の届く所まで来た頃には。
 眩い光に当てられた世界に生まれた、影の部分に染められてしまった。

 皆が皆、幸せでいられる世界になればいい。
 そんな綺麗事を吐くだけでは、理不尽に涙する人も、ポケモンも、救えない。
 だからあの男はきっと、〝光〟でいることをやめてしまったんだと思う。

 あいつはきっと、理解して欲しくなんかなかったんだろう。
 けれど今なら、少しだけ理解出来てしまう。
 あの男とトウヤは、同じ目をしていたから。


 だったら、もう一度教えてやる。
 忘れていたなら、呼び覚ましてやる。

 どんなに世界が残酷でも。
 どんなに世界が不平等でも。

 仲間と過ごした時間は、築き上げた絆は。
 そんな闇なんて切り払う、強大な光になるんだってことを。
 あの時俺達が過ごした時間は、何にも負けない力になるんだってことを。
 


 なあ、そうだろ?



 ────トウヤ。






915タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:28:12 ID:WfubCnaA0



 おかしな話だった。

 あれほど忌避していた敗北に直面したというのに、心はこんなにも晴れやかなんて。
 ゆっくりと倒れ伏すジャローダをボールに戻し、トウヤは空を仰ぐ。
 彼の心情を表すかのような晴天。
 雲の隙間から顔を覗かせる太陽が、勝者を照らし出す。

「やった……! やったぞ、ピカ! ありがとう、よく頑張ったなピカ!!」

 満身創痍のピカチュウを抱きかかえ、惜しみない賞賛を送るレッド。
 力なく声を上げ、嬉しそうに笑顔を見せるピカチュウがレッドへ頬を擦り寄せる。
 その光景はまさしく、旅立ちから間もない無垢な少年の姿そのものであった。

(…………眩しいな)

 自分もかつては、こんな風に映っていたのかもしれない。
 けれどすっかりくすんでしまって、汚れてしまって。輝きはとうに失ってしまった。
 だというのにこうして食い入るようにレッドの姿を見つめている理由は、未練と言う他ない。

「レッドさん」

 だからこそ。
 心の奥底に仕舞い込み、見ないふりを続けてきたそれを気が付かせてくれたチャンピオンに。
 昔の自分を着せて、向き合わなければならない。

「トウヤ……」
「ありがとうございました。……とても、強かったです」

 目線を向けるレッドは、最初こそ憂慮の色を覗かせていた。
 けれど憑き物が落ちたかのようなトウヤの顔を見て、すぐに喜色が滲む。
 ゆっくり休め、と。傍らの相棒をボールに戻して、黒髪を靡かせるレッドが顔を向けた。

「俺も同じ気持ちさ! あんなに緊張感のあるバトル、本当に久しぶりだったよ!」
「こちらもです。…………レッドさん、あなたには一つ訂正しなければいけませんね」

 深く、息を吸う。
 肺に送り込まれる新鮮な空気が、乱れた思考をリセットする。
 トウヤの眼差しに当てられて、レッドもまた真剣味を乗せた面持ちを見せた。

「思い入れや愛着なんて、力にならないと思っていた」

 思い返す。
 旅を共にしてきた仲間の数々。
 勝利や敗北に一喜一憂していた、あの日々の記憶。

「けれどそれは言い訳でした。どんなに大切に育てても、負けてしまったら思い出が否定されてしまいそうだから……いつの間にか、自らそう言い聞かせていたんです」

 普段の声色よりも幾分かトーンを落として、贖罪を綴る。
 ぽつりぽつりと、自らそれを絞り出すことがいかに苦難を伴うのか。
 年頃もそう変わらないはずなのに、まるで彼の心境を知るかのように見届けるレッドの姿は、ひどく大人びて見えた。

916タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:28:39 ID:WfubCnaA0

「ありがとうございます、レッドさん」
「へへ、……どういたしまして!」

 差し伸べた手は、トウヤから。
 レッドはこれを握り、屈託のない笑顔を返す。

「トウヤ! レッドさん!」

 と、慌てた様子で駆け寄る金髪の少女。
 しかし表情には安堵の色が濃く浮かび、付き添うサラサラヘアーの青年も、緊張を交えながらも同様に警戒はない。

「ベル……久し振りだね」
「ねえねえトウヤ! さっきのバトルすごかったよ! いつの間にあんなに強くなったの!?」
「イレブンさん、黙って出てきてごめん!」
「いえ…………僕も、止められなかったので……」

 もうここに、敵意を持つ者はいない。
 誰かを殺すためではなく、矜恃と意思を持った死闘を経て。
 荒れた中庭を舞台に、四人の演者が宴を取り囲む。
 張り詰めた糸は弛み、ささやかな安らぎをこの場にもたらした。


 ──なにをしていたんだろう。


 トウヤはこれまでの半日を思い返す。
 ひたすらに戦いを求めて、飢えを凌ごうとして。
 大切なものを見落としていたのかもしれない、と。ベルの顔を見て思う。
 チェレンの死を悼むこともせず、取り憑かれたように命のやりとりに身を馳せて。
 本当に、愚かだったと思う。

 もしも赦されるのならば。
 もう一度、一歩を踏み出してみてもいいかもしれない。
 チェレンの無念を晴らす為に、ベルやレッド達と一緒に────

「トウヤっ!」
「っ…………え、……」

 その瞬間。
 レッドに視線を向けたと同時、トウヤの身体が突き飛ばされる。
 無防備に尻餅をついて、顔を上げれば。
 

「なん、で」


 突如、二階の窓から蒼い光線が放たれる。
 激流伴う瀑布を嘲笑うかの如き勢いで放たれたそれは、荒れ狂う津波を凝縮したかのようで。

 狙い澄まされた砲撃は、トウヤの居た場所を貫く。
 その矛先にあったレッドの胸には、大きな風穴が空いていた。

 



917タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:29:00 ID:WfubCnaA0



 長い長い 旅の途中にいても
 数え切れぬ バトル思い出せば
 時空を超えて 僕らは会える
 まぶしい みんなの顔

 イエイ・イエイ・イエイ・イエ!

 まだまだ未熟 毎日が修行
 勝っても負けても 最後は握手さ
 なつきチェッカー ごめんねゼロ
 ホントに CRY CRY クライネ!

 きらめく瞳 ダイヤかパール
 まずは手始め クイックボール!
 マルチバトルで バッチリキメたら
 GOOD GOOD SMILE!

 もっと GOOD GOOD SMILE!





918タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:30:03 ID:WfubCnaA0
︎◾︎










『────トウヤ、難しいね。自分と向き合うのは。
 自分のイヤなところや、嫌いな部分ばかり目につくよ』
             
             

             ──カノコタウン、チェレン









◾︎

919タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:30:48 ID:WfubCnaA0



 何が起きたのか分からなかった。
 困惑に置き去られた少年と少女は、崩れ落ちるレッドの姿を見て呆然と立ち尽くす。

「ベホマ!!」

 一番最初に動いたのはイレブンだった。
 レッドの身体を優しい光が包み込むが、焼け石に水。
 胸に空いた穴は塞がらず、中途半端な再生が止血だけを施した。

 誰がどう見ても致命傷。
 喉奥から迫り上がる血液に噎せ返り、痛々しく痙攣する彼の姿にトウヤは正気を取り戻す。

「えっ、え…………レッド、さ……ん…………?」
「ベルはここにいて! あなたはここをお願いします!」

 今にも崩れてしまいそうなベルの肩に手を置き、レッドを治療する青年の方へ視線を向ける。
 それを受けたイレブンは大きく頷き、周辺への警戒を最大限に引き上げた。

(今のはハイドロカノン……! 方角は、あそこか……!)

 先程の奇襲────ハイドロカノン。
 襲撃者はバトルが終わったあのタイミングで、トウヤだけを狙っていたように見えた。
 心臓を這う悪寒が、襲撃者の輪郭を朧げに映し出す。
 よりにもよってこの城、そして自分を強く恨む人物など察せない方がおかしい。
 レッドの手から零れ落ちたボールを手に取り、激流の放たれた方角へ走り出す。

「トウヤっ! 待って、行かないで……!」

 と、背中をベルの声が叩いた。
 悲痛な少女の声に、ほんの少しだけ次の一歩を躊躇い、けれどまた踏み出す。

 本当は、戻るべきなのかもしれない。
 チェレンを喪い、最後の幼馴染が危険に立ち向かう姿など見たくないはずだ。
 もう誰も喪いたくないと、たとえ極悪人を前にしても平気でそう言いのけるだろう。

「ごめん、ベル」

 けれど、トウヤは違う。
 あの神聖なる戦いに、文字通り水を差した〝悪人〟を許すことなど出来ない。
 自分とレッドが築き上げた誇りを、栄華を穢しておいて、むざむざと逃げ果せようとする悪を看過できない。

「トウヤっ! トウヤぁぁっ!」

 泣き崩れるベルの身体を支え、イレブンがトウヤの背中を見送る。
 その傍では数刻の猶予も残されていないレッドが、失った胸の上下運動を繰り返していた。

「…………、ぁ…………」
「え……?」

 重い息衝きに交じり、レッドが懸命に言葉を紡ごうとしている。
 もはや意味は無いと知りながらもベホマで苦痛を取り去り、イレブンは静かに耳を貸す。

 一つの単語を紡ぐのに、数秒。
 掠れた砂嵐のような声色は、彼に遺された時間を物語る。
 それでも魔力の消耗を省みず、イレブンは懸命に治療を重ねて、紡がれる言葉を拾い上げる。

920タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:31:29 ID:WfubCnaA0


 ────〝あいつを、助けてやってくれ。〟


 たったそれだけを言い残して。
 助けを乞う訳でもなく、心残りを託して。
 赤い焔は、音もなく掻き消えた。


「…………レッド、さん……」


 薄く見開かれた目元から、光が失われる。
 熱が落ちてゆくレッドの身体へ、未だ現実を受け止め切れないベルは縋り付く。
 もう一度目を覚ましてくれるのではないか、と。子供でも分かる現実に目を逸らして。

「うあ、あぁ……っ! う、あぁ……!」

 甲高い嗚咽をかき鳴らして、みっともなく泣き散らして。
 年端もいかぬ少女は、醜い現実に打ちのめされる。

「…………ベル」

 イレブンは、何も言えない。
 自分が何かを言ったところで、彼女の心を救うには酷く足りないだろう。
 穴の空いたバケツに水を注ぐように、まるで気休めにもならないとわかっているから、イレブンは立ち尽くすことしか出来ない。
 無念に満ちたレッドと目が合って、その目を閉じる最中──初めて、自分の手が震えていることに気がついた。

「イレブン」

 どれだけの時間が経っただろうか。
 涙も乾き切らない内に、ベルが口を開く。
 
「あたし、トウヤを追う」
「え……、……」

 飛び出した宣告に、イレブンは言葉を失った。
 そう、言葉が出なかった。
 本来であれば制止しなければならないのに、それすらも出てこなかったのだ。

 何故なのか、イレブン自身でも分からない。
 奇しくもその理由は、ベルの口から代弁される形となる。

「トウヤまで、喪いたくないから……!」

 そうだ。
 イレブンは、ベルの気持ちが分かってしまう。
 幼馴染が、仲間が、友人が、手の届く場所で散っていく残酷さを、イレブンはよく知っている。

 一度そうなってしまえば最後。
 どんな言葉を投げられたところで、自分を呪わなければ生きていけなくなる。
 無力な自分を心の底から嫌いになって、そんな己を騙す為になにかを成そうとする。

 それがいかに無謀でも、危険でも。
 自分がああしていればという後悔から目を逸らすために、自分を怨み傷つける。

(…………これじゃあ、まるで……)

 イレブンが〝呪い〟を掛けられたのも、あの時からだった。
 ウルノーガの手によって故郷が滅び、幼馴染のエマや家族たちが行方不明となったあの日。

 自分が故郷に残っていれば。
 デルカダール王を疑っていれば。
 もしかしたら、エマ達を助けられたかもしれない。

 そんな風に思う内に、自分を呪うようになった。
 勇者という重荷を背負うには、あまりにも無知で無力で。期待の眼差しを向けられるより、罵倒を浴びせられていた方がずっと楽だった。

 ああ、はずかしい。
 何も出来ず、誰も守れない自分が。
 どうしようもなくはずかしくて、憎かった。

「待って、ベル──!」

 そして、こうしてベルが走り出すのを止められない今も。
 レッドを喪って傷心する彼女へ、〝大丈夫〟とひと声かけることも出来ない自分が。
 
 狡猾な悪意に苛まれて、身勝手な善意に溺れて。
 何をするにも、自分の意思では動けずに責任を撮ろうとしない。
 卑屈と躊躇いに囚われて、常に後ろを歩こうとする自分が。

 はずかしくて、堪らなかった。



◾︎

921タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:32:23 ID:WfubCnaA0



「カメックス! 何をしているのです! さっさと戻りなさいッ!」

 二階の一室、ゲーチスの叫びが木霊する。
 彼の手持ちであり、レッドを殺害した下手人──カメックスは、目一杯の咆哮と共に暴れ狂っていた。
 ボールに戻そうと奮闘しようにも、床や壁を砕き暴れる巨体を前にすればロクに動けやしない。
 結果ゲーチスは、この部屋で二の足を踏むこととなっていた。

「まずい、ワタクシの計画が……! くそッ! なぜ、なぜ従わないのです!?」

 ゲーチスの計画に不備はなかったはずだ。
 周辺を警戒するという理由で王の間を離れ、手頃な部屋に籠り機を狙う。
 トウヤが消耗したところでカメックスのハイドロカノンで狙撃し、殺害。
 その後カメックスに自身を攻撃させてボールに戻し、襲撃された状況を装ってイレブン達を欺く。

 カメックスという手持ちが誰にもバレていないこと。
 イレブン達を救出したことで彼らの信頼を得ていること。
 移動ルートを熟知している城であること。
 この好条件を踏まえて、ゲーチスの作戦はかなり分のある賭けだった。

 しかし、ただ一点。
 不測の事態が全ての歯車を狂わせた。

(あのレッドという子供は、なぜトウヤを庇ったのですか……!?)

 不可解だった。
 自身の命を捨てて他人を救うなど、理解不能の自殺行為。
 レッドが異常者であるという一言で片付けてしまえばそれまでだが、そもそもとして疑問はそれだけではない。
 なぜレッドはあの奇襲を察知できたのか──破綻の終着点はそこにある。

(仕方がない、ギギギアルを使って一度戦闘不能に……)

 いくら考えたところで目前の問題は解消しない。
 〝なぜか〟自分に従わないカメックスを落ち着かせるためにギギギアルを繰り出し、十万ボルトを浴びせようとして。

「っ、……誰だ!?」

 蝶番の軋む音と共に、扉が開く。
 目を向ければそこには、幼くしてイッシュのチャンピオンとなった少年が佇んでいた。

「トウヤ…………!!」
「やっぱり貴方だったんですね、ゲーチスさん……いや、ゲーチス」
 
 体躯に見合わない重圧を伴う威容。
 思わず後ずさりそうになる片足を抑えて、冷静に状況を鑑みる。
 戦力分析を終えたゲーチスは両腕を広げ、高らかな哄笑を響かせた。

「フフ、ハハハハハ……! お前一人で何をしに来たのです!? もう手持ちのいないお前に! 何ができる!?」

 なにも焦ることはない。
 今のトウヤはレッドとの戦いに敗れ、戦えるポケモンがいないはずだ。
 対してこちらはカメックスとギギギアルの二匹を従えている。生身の人間が太刀打ちできる戦力ではない。

 トウヤは顔を俯かせて、手を挙げる。
 降参宣言かと嗤ってやろうとして、彼の手に視線をやったゲーチスの目が見開く。
 その手には、赤と白のボールが握られていた。

「────力を貸してくれ、ピカ」

 重力に従い、ボールが地に落ちる。
 少し転がった後に勢いよく上下に開き、赤い閃光が前方の床へ飛散。
 眩い光と共に顕現したポケモン──ピカチュウは、はち切れんばかりの怒りと哀しみを投影させて、ゲーチスを睨む。

922タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:33:18 ID:WfubCnaA0

「…………ハッ」

 なにが来るのかと思えば、と。
 身構えたことが馬鹿馬鹿しくなり、ゲーチスは嘲笑を飛ばす。

「そんな瀕死の雑魚一匹でどうするつもりです?」

 ゲーチスの言う通り、ピカチュウはもう戦える状態ではない。
 既に越えている限界を、気合い一つで持ちこたえている状態だ。
 かすり傷一つで意識が刈られる状態だというのに、それでも尚立ち上がる原動力は、仇敵への怨みに他ならない。

「見なさい、この戦力差を! そんなネズミ一匹で勝てるわけがない!」

 しかし、非情な現実は変わらない。
 威圧感を纏って佇むカメックスとギギギアルは、明確な敵意をその身に纏う。
 たとえ天地がひっくり返っても勝ちは揺るがない。
 多少計画は狂ったが、ここで始末する。

 そう、本気で思っていたのに。

「憐れだな、ゲーチス。お前もNのようにポケモンの言葉が分かれば、この計画も遂行出来たかもしれないのに」
「なに……!?」

 他愛もない挑発。
 しかしその真意を汲むよりも早く、ゲーチスの頭は綿が詰められたかのように真っ白に染め上げられた。

 自分があのN(バケモノ)と比べられ、あろうことか同情された。
 捨てきれないプライドに罅が入り、激情が理性を上回る。

 もはや言葉の応酬など付き合うことない。
 崇高な自身を見下した罪を、その身で償わせてやろう。

「「カメックス!」」

 名を呼んだのは同時。
 なぜトウヤが敵の手持ちであるカメックスに呼びかけたのか。
 駆け抜ける疑問に無視を決め込んで、ゲーチスは指示を飛ばす。

「ハイドロカノ──」
「そんなやつに従う必要なんてない!」

 ゲーチスの攻撃指示が掻き消される。
 トウヤは最初からゲーチスなど眼中になく、なにかに抗おうと悶え苦しむカメックスにだけ意識を向けていた。

「なにをし──」
「そいつは、レッドさんの仇なんだ!!」

 耳奥をつんざく叫び。
 それを聞き届けたカメックスは、ハッと目を見開く。
 まさか、と。今更になってトウヤの意図に気がついたゲーチスは、顔面を歪ませて焦燥を顕にする。

「カメック──」
「呑み込まれるなカメックス! 自分がどうするべきなのか、よく考えるんだ!」

 そう、最初から。
 トウヤは気がついていたのだ。
 なぜレッドはあの時、はるか遠くにいるはずのカメックスの存在に気がついたのか。
 その答えは、実に単純であった。

 この部屋に入ったその瞬間から、じたばたと暴れ狂うカメックスの瞳を見て。
 まるてなにかを訴えるかのような、悲痛な叫びを聞いて。
 トウヤは確信した。

 ────カメックスは、レッドの〝仲間〟なのだと。

 ゲーチスはとんだ思い違いをしていた。
 レッドがトウヤを庇ったことが、筋書きを狂わせた最大の〝不運〟だと思っていた。

 けれど違う。
 ゲーチスは、一度たりとも〝幸運〟であったことなどない。
 レッドの長い旅路を共にしてきたカメックスを、この計画に利用した時点で。
 一人劇に勤しむ憐れな道化の目論見は、破綻していたのだ。

923タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:34:10 ID:WfubCnaA0

「ガァァ……メェ……!!」

 そこには幸運も不運もない。
 あるのは、積み重ねた悪事への報いだけ。
 ポケモンを己の為に利用し、絆や愛情など持ち合わせず、Nのように心を通い合わせる事も出来なかった男の末路。

 空気が震える。
 悪の総帥は、あまりの悪寒に総毛立つ。
 己を護る双璧の片方が、音を立てて倒壊したような錯覚に陥って。

「ガァァメェェェエエエ────ッ!!」

 噴き出す水流が天井を打ち崩す。
 制限を越えた一度きりの〝抵抗〟により、天井の一部が瓦礫となって崩落した。
 咄嗟に腕で顔を覆うゲーチスは、自身へ接近するトウヤへの反応が送れた。

「が、…………っ!?」

 振り翳されるモンキーレンチ。
 飛び込む形ですれ違いざまに放たれた横薙ぎが、ゲーチスの頭を撃ち抜いた。
 歪な音を聞きながら、勢いよく床へと背中を打ち付けられるゲーチス。
 朧げな視界に追撃を仕掛けるトウヤの姿が見えて、声を張り上げた。

「ぐっ……ギギギアル、……十万ボルト!!」

 迸る稲妻がトウヤの行き先を封じる。
 トウヤは咄嗟に後方へ跳んで躱すが、距離を取らされる。
 額から血を流しながら立ち上がるゲーチスは、充血した瞳でトウヤを睨む。

「許、さん……! このワタクシを、ここまで、コケにしてくれるなど……! そこのネズミ諸共、地獄に落としてくれる!!」

 脳を蝕むような痛みが、逆にゲーチスに冷静さを与える。
 トウヤの肩に乗るピカチュウは動きを見せない。
 当然だ、あの傷では放てる攻撃は精々一撃。トウヤとしても下手な指示は出せないだろう。
 ならばカメックスがおらずとも十分に勝てる──と、未だに藁に縋るゲーチスへ。

「あの、ゲーチスさん……?」

 遂に、幸運の糸が垂れ落ちるかのように。
 歪む扉が開いて、第三の乱入者が現れた。


◾︎


「ベル、来ちゃダメだ!」
「え……っ?」

 位置関係の都合上、扉に一番近いのはゲーチスだ。
 駆け出すトウヤよりもゲーチスの方が早く、無我夢中で少女の身体を絡め取り、背後へ回り込む。
 声を上げる間もなく、華奢な首筋には隠し持っていたガラスの破片があてがわれた。

「ひ、……っ!?」
「動くなッ! 動けばこの子供を殺す!」

 ──形勢逆転。

 予期せぬ事態にトウヤは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ、額に汗を伝わせる。
 追い詰められた今のゲーチスはなにをするか分からない。
 ピカチュウの電撃はベルを巻き込む可能性がある上、頼みのカメックスも再び頭を抱えて苦しんでいる。
 ゲーチスはこちらを視界に捉え、いつでもギギギアルに指示を飛ばせる状態。

「トウ、ヤ…………」
「…………ベル」


 ────何を迷う。


 過去の残影が、トウヤに語りかける。
 そう、人質に取られているのは〝どうでもいい〟と切り捨てたはずの幼馴染。
 レッドの仇を取るという目的を果たす上で障壁となるのなら、今まで通り見捨てればいい。

 一緒に踏み出したはずなのに、自分は遥か先を進んでいて。
 後ろを振り返らなきゃ姿が見えない〝落ちこぼれ〟。
 ひたすらに前を進み、山を登るうちに、遂に影も踏ませなくなった。
 そんな眼中にない存在一人見捨てたところで、自分にはなんの影響もない。



『ねぇ、トウヤ! みんなで一緒に一番道路に踏み出そうよ!』



 ああ、確かにそうしたかもしれない。
 かつての自分なら、きっとそうしただろう。

 けれど今は違う。
 レッドから教えてもらったことは、そうじゃない。
 強さの代償に今まで築き上げた大切なものを切り捨てるなど、あってはならない。

「…………わかった。ベルには、手を出すな」

 警戒をそのままに、トウヤはレンチを手放す。
 肩に乗るピカチュウも同様、頬に走らせていた電気をおさめ忌々しげにゲーチスを睨む。

924タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:34:46 ID:WfubCnaA0

「それでいい……ハハ、まさかこの小娘がこうも役に立つとは…………!」
「っ……、……」

 右腕の中で囚われるベルは、目尻に涙を浮かべてトウヤを見つめる。
 恐怖と戸惑いによって声も出せず、必死になにかを伝えようとしているが届かない。
 しかし命を握られていることよりも、ベルの心を追い詰めているのは。
 彼を助けようと飛び出したのに、逆に彼の足枷となっている状況そのものだった。

「ギギギアル、ラスターカノン!」
「っ…………!」

 銀色の砲弾がトウヤへと向けられる。
 即座に横へ飛んで回避するが、爆風によって壁へ叩きつけられた。
 受け身を取ったとはいえ、疲弊した身体には無視できないダメージだ。
 よろりと立ち上がるトウヤは、服の汚れを払ってゲーチスの前へ。

「おや、外しましたか……ではもう一度、ラスターカノン!」
「────トウヤっ!!」
 
 少しずつ、小動物をいたぶるように。
 かつてバイバニラにされたことの意趣返しをするかの如く、トウヤを痛め付ける。
 衰えぬ反射神経により直撃は避け続けるが、消耗した体力が次第に身体を重くする。
 三発、四発。繰り返される乱撃が、トウヤの肌に生傷を作り上げてゆく。

「────…………はぁ、…………はぁ……」
「ほう、……存外しぶといですねぇ。ですが次で終わりですよ」

 ギギギアルの口元に銀色の粒子が集う。
 容赦のない死刑宣告を受けた囚人はしかし、ギロリと威圧を込めた眼光を飛ばす。

 次弾を躱す余裕はない。
 着弾点が分かっていても、脳内のシミュレーションで直撃している。
 困憊した足が縺れたところを狙い撃ち。
 そんなつまらない終わりが見えて、トウヤは。

「お前は、悲しい人間だ」

 精一杯の強がりを見せた。

「……ギギギアル、ラスターカノン!」

 それに誘われてか否か。
 放たれた光撃は、トウヤの腹部へ突き進み。
 ──ああ、やっぱり。回避を試みたトウヤは、足が縺れて。
 その身体に、衝撃が突き刺さる。

925タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:35:13 ID:WfubCnaA0

 ────はずだった。


「な、──キ、サマ、は……ッ!?」
 

 黄金の一閃が尾を引き、空を裂く。
 音をも遅れて辿り着くかのような、洗練された達人の剣技。
 白昼夢じみた技巧は容易くラスターカノンの炸裂を呑み込み、トウヤの身体には掻き傷一つ見えない。

「ゲーチス、さん」

 呆然と驚愕、それら各々を瞳に乗せて。
 全ての視線が集う部屋の中央に──茶髪の青年が静かに佇む。
 それは地獄に舞い降りた天使の如く場違いで、ひどく空想的だった。

「ベルを……離してください」

 ──〝勇者〟イレブン。
 目前の惨状に抱くのは、激情か哀愁か。
 眉間に皺を寄せ、眉尻を下げながらも全身から滲ませる風格に、一同は息を呑む。
 気弱さなど微塵も感じさせない精悍な顔つきはまさしく、勇者の名に相応しい。


◾︎

926タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:35:50 ID:WfubCnaA0


 遡ること、数分前。
 中庭にてレッドの最期を見届け、ベルがこの場を去ってすぐ──イレブンは人目もはばからず蹲っていた。

「う、──っ、──ぐ、ぅっ…………!」

 蘇るのは、溢れんばかりの後悔と自己嫌悪。
 目の前で誰かを喪うことを恐れる癖に、学びもせず取り返しのつかない失態を犯す男。
 イレブンはその男が嫌いで、嫌いで、大嫌いだった。

 声を押し殺して涙を流す。
 みっともない、情けない、はずかしい。
 頭は夢の中にいるような浮遊感に満ちて、身体は一向に動こうとしてくれない。
 
 ──ああ、またこれだ。
 一体何度これを繰り返せば、本当の〝勇者〟になれるのだろう。

『疑問:イレブンの心的状態』

 その時、無機質な女性の声が鼓膜を撫でる。
 くしゃくしゃに歪んだ顔面を上げればそこには、空中に漂うポッド153がこちらを覗き込んでいた。

「はずかしい……!」
『はずかしい、とは?』
「もう誰も死なせないって、そう誓ったのに……! 結局、それも破って……っ! 今も、足を踏み出せない……!」

 懺悔を絞り出す。
 唯一の告解の相手が神父ではなく、機械という数奇な光景。
 しかしそれでも、誰かに聞いてもらいたくて。
 自分を責めて欲しくて、ぽつぽつと続ける。

「僕は、勇者失格だ……!」

 それがイレブンの〝呪い〟。
 自分を否定することでしか心を保てない、残酷な神からの賜物。
 教会へ行こうとも決して克服出来ないこの呪いは、一生ついて回るだろう。

 ──ああ、はずかしい。はずかしい。

 こんなことをしている間にも、救える命はあるかもしれないのに。
 ベロニカやシルビア、グレイグという勇敢な者たちが死に、自分が〝生きる〟理由は。
 自分よりも彼らが生き残った方が、事態は好転したのではないか──なんて、無意味なたらればすら頭を巡る。

 ──ああ、はずかしい。はずかしい。

 ポッドは何を思うだろうか。
 感情を持ち合わせない機械だから、冷淡で合理的な答えを出すだろうか。
 それでもいい。最初から答えなんて求めていない。
 こんな不甲斐ない自分を叱責して、どうするべきかを指示してくれるのなら。
 
 ──ああ、はずかしい。はず──
 

『構わないではないか』

 え──と、素っ頓狂な声を洩らしてポッドを見る。
 発せられた声色は、普段の無感情なものとはどこか違う。
 どちらかといえば、落ち着き払った大人のような印象を受けた。

『生きるという事は、恥にまみれるという事だ』

 ──その言葉を受けた瞬間。
 イレブンの視界が、鮮明に色を取り戻す。
 空虚で満ちていた頭はまるで花火が上がったように活力を取り戻し、脳が思考を開始する。
 先ほどの鬱屈とした気分が嘘のように、すんなりと身体が起き上がった。

927タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:36:19 ID:WfubCnaA0

「──っ、はは」

 イレブンは思わず笑う。
 言葉一つで立ち上がる単純な自身への自嘲か。
 感情を見せなかったポッドが見せた人間らしさへの戸惑いか。
 そのどちらでもなく。あまりに簡単に示された〝答え〟への呆れに近い。

 ────ああ、そうか。

 自分が求めていたのは、〝否定〟ではなくて。
 ずっと、誰かに〝肯定〟してほしかったんだ。

 勇者だから、完璧であれ。
 勇者だから、正しくあれ。

 正義感と責任感に押し潰されて、自ら作り上げた期待の壁を越えられず。
 力不足を自分一人で抱え込み、自虐の癖を作り上げてしまったイレブンは。
 情けなくて人間臭い弱音を、〝構わない〟と言って欲しかったのだ。

 勇者とは程遠い、気弱で臆病で恥ずかしがり屋な自分を。
 そんな生き方があってもいいじゃないかと──そう、言って欲しかったのだ。

「ありがとう、ポッド」

 自分でも驚くほど、声に震えはなかった。
 七宝のナイフを手に取り、ベルが向かった先の景色を見据える。
 中庭の出入口から見えるロビー。左右に続く階段を右に昇れば、目的地へ辿り着ける。

『回答:どういたしまして』

 ポッドの声は再び機械音へ。
 イレブンは穏やかな微笑みを返し、転じて険しい視線を先刻の光線により割れた窓へ。
 瞬間、両足に力を込めて──ドン、という地鳴りじみた音と共に勇者の姿が消える。
 ぽつんと残されたポッドは一人、世話の焼ける──と、これまた人間らしい台詞を吐いた。


◾︎

928タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:37:21 ID:WfubCnaA0


 大部分の倒壊した一室に、瞬きすら許さない緊張が漂う。
 しかしその圧力が向けられる対象は、ゲーチスただひとり。
 カチカチと震える腕が目の前の青年の危険度を如実に示し出す。
 その風格たるや、かのレシラムにも匹敵するとさえ感じてしまう。

(なんだ、こいつは……!?)

 ゲーチスは、イレブンを知っている。
 山小屋で襲撃されて気絶し、その後の情報交換でもしどろもどろ。
 ベルという少女に引っ張られなければ主体性を持ち合わせない、危険性の低い人物だと認識していた。

 なのに今はどうか。
 まるで自分の知るイレブンとは別物だ。

「ゲーチスさん、お願いです……」

 懇切丁寧に、悲願とも取れる言葉遣い。
 しかし有無を言わさぬ迫力が、ゲーチスの警戒を色濃くさせる。

「あなたを、傷つけたくありません……」

 ──本気で言っているのか、この状況で。
 ゲーチスが彼の正気を疑うのも無理はない。
 ベルという替えの利かない人質を取り、カメックスとギギギアルを従えている有利な状況。
 いつ誰が殺されてもおかしくないのに、なぜ奴は〝自分を〟気に掛けることが出来る?

 侮辱されている。
 ゲーチスがそう結論付けるのに、時間は要さなかった。

「っ、まずい──」

 トウヤが声を上げる。
 ベルの首元に突き付けられた硝子の刃が、薄皮に食い込み赤い雫が落ちる。
 ゲーチスも冷静な判断を下せなくなったのか、人質という優位性に傷を付けてまで〝プライド〟を示そうとした。

「イレブン」

 痛みと恐怖を押し退けて、ゲーチスの腕の中から鈴音のような柔声が鳴る。
 いつ命を取られてもおかしくないのに、ベルは不思議と自信を持てた。

 今のイレブンは、とても頼りになるから。
 まるで絵本の中から飛び出してきた王子様みたいに。
 だから安心して、この台詞を言える。
 ずっと無理に抑え込んできた不安を、言葉にできる。



「────助けてっ!!」



 一瞬の出来事だった。
 細長い影が、宙に舞う。
 未練たらしく硝子の刃を握り締めるそれは。
 他ならぬ、ゲーチスの右腕だった。

「は、──ぇ、ぁ──?」

 疑問、そして激痛。
 獣のような雄叫びを上げながら、ゲーチスは目を剥いて膝から崩れ落ちる。
 綺麗な断面を残して消失した右肘から先。その根元を左手で支え、半狂乱になりながら叫んだ。

「カメックス、ハイドロカノンッ!! ギギギアル、はかいこうせんッ!!」

 降り注ぐ破滅の二重奏。
 青と白の光は、人体が触れればもれなく消滅するほどの破壊力を伴って暴れ狂う。
 慌ててイレブンは解放されたベルを抱きかかえ、屈み込んだ。

「うわっ、──きゃっ──!?」
「っ、──ダメだ、動けない……!」

 ロクに狙いを定められず、滅茶苦茶に放たれる予測不可能な線条はかえって対処が難しい。
 今のゲーチスは正気ではない。もはや一人でも多く殺すことが最優先なのだろう。
 自分一人の捨て身であれば話は別だが、ベルの傍を離れるわけにはいかない。
 かといってこのまま指を咥えて見ていれば、部屋が保たずに倒壊する。

「どう、すれば……!」
 
 と、思考を巡らせるイレブンの傍ら。
 一人の少年が、暴風雨の中を駆け抜ける。
 彼の右肩には、黄色い電気鼠がしがみついていた。

929タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:37:54 ID:WfubCnaA0

「トウ────駄──!」

 ベルの声が、破壊光線の慟哭に掻き消える。
 イレブンも同様に、殺されてしまう──と止めようとして。
 それが杞憂であるのだと、次の光景を見て思い知らされた。

「いけるかい、ピカ」
「ピィィカァ……!」

 少年、トウヤは。
 二つの光線が織り成す超危険地帯を、まるで微風をやり過ごすかのように進み。
 必要最低限の動きで躱し、跳び、舞踏の延長線のようにゲーチスへ距離を詰めてゆく。
 どこから攻撃が来るのか、どう動けば避けれるのか。
 まるで最初から分かっているかのように。

「な、ぜだ……ッ! なぜ、当たらないのです──!?」

 全てのポケモンの技を、癖を熟知しているトウヤにとって。
 狙いもつけずに放たれた攻撃など、当たる方が難しい。

「……本当に、いいんだね」

 瓦礫が頬の傍を通り、一筋の傷を作る。
 その傍らにてしっかりと敵を見据えるピカチュウへ、トウヤは〝最後の〟確認を。
 仇敵からライバルへ。ちらりと向けられる瞳の奥で唸る決意を見て、トウヤはふっ──と笑う。

 ────聞くまでもない。
 そう叱責されているようで、自身の無粋さを省みた。

「この──汚らしいネズミがぁぁッ!!」

 吠えるゲーチス。
 傍らに従えたギギギアルにラスターカノンの指示を飛ばし、接近するトウヤへ照準を定める。
 しかしトウヤは減速せず、寸前で滑り込む形で回避。
 後方からの爆風によってトウヤの身体が前へと投げ出されるが、これすらも〝計算〟の内。

「ピカ────」
 
 トウヤは空中で、抱きかかえていたピカチュウをゲーチスへと放り投げる。
 自由落下の勢いを付けた小柄な身体は、まるで因果律の収束の如く、真っ直ぐに総帥へと猛進して。
 トウヤは、大きく息を吸う。

 
 


「────ボルテッカー!!」



 

 その輝きは、あまりに眩く。
 今まで見せた中で、最も強い彗星となって。
 悪の総帥を、呑み込んだ。

 
 
◾︎

930タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:38:34 ID:WfubCnaA0
 


 決着が、ついた。
 倒壊を食い止められた部屋の中、遺された者にあるのは種々の感情。

「イレブン、っ──! ありっ、がとう……! こわかった、……こわかったよお!」
「ベル……ごめんね。もう、大丈夫だよ」

 部屋の片隅で、子供のように泣きじゃくるベル。
 悍ましい死線を経て、今になって実感と恐怖が湧き上がってきたのだろう。
 彼女の背中を擦るイレブンの目には、どこかやるせなさが映されていた。

「────仇、討てたね。ピカ」

 ゲーチスの遺体の傍にて。
 主を失ったカメックスとギギギアルをボールに戻し終えたトウヤ。
 やり遂げたような、誇らしげな顔のまま眠りにつくピカチュウの頭を撫でる。
 ボルテッカーの反動により、限界を迎えたピカチュウの身体は徐々に熱を失い始めていた。

 悪意の連鎖は、断ち切られた。
 その犠牲は、決して小さくはないけれど。
 長き戦いの末に得たものは、彼らにとって大きな一歩となる。

「トウヤ、少し……変わったね」

 やがて、暫くして。
 イレブンの腕の中で、目を腫らしたままベルがそう問いかける。
 含まれた感情は幼馴染の成長の喜びと、一抹の寂しさ。

「……ああ」

 トウヤは、過去に想いを馳せる。
 本当に、本当に色んなことを思い返して。
 穴の空いた天井へ手を伸ばし、忘れていた〝善意〟を掴み取る。




「────呪いが、解けたんだ」






【レッド@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー 死亡確認】
【ピカ@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー 死亡確認】
【ゲーチス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト 死亡確認】
【残り36名】





931タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:39:12 ID:WfubCnaA0



 終わらない道
 終わらない 出会いの旅
 終わって 欲しいのは
 この ドギマギ! 

 それでも なんとなく
 気づいているのかな おれたち
 そう 友だちのはじまり!

 ありがちな話
 最初どこか 作り笑い
 でも すぐホントの 笑顔でいっぱい!

 風よ運んで
 おれのこの声 おれのこの想い
 はるかな町の あのひとに

 ──〝おれは大丈夫!〟
 ──〝めっちゃ大丈夫!〟
 ──〝ひとりじゃないから〟
 ──〝仲間がいるから大丈夫!〟





932タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:40:04 ID:WfubCnaA0

【全体備考】
※ゲーチスの基本支給品、 【雪歩のスコップ@アイマス+マテリア(ふうじる)@FF7】、【モンスターボール(空)】はゲーチスの遺体の傍で放置されています。
※ピカチュウの死亡により、モンスターボールが空になりました。現在はトウヤが所持しています。

【C-2/Nの城 二階の一室/一日目 午後】
【イレブン@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:疲労(中)、MP3/5
[装備]:七宝のナイフ@ブレワイ、豪傑の腕輪@DQ11
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1個、呪いを解けるものではない)、アンティークダガー@GTA、ブルーオーブ@DQ11、ポッド153@ニーア、モンスターボール(オーダイル)@ポケモンHGSS
[思考・状況]
基本行動方針:ウルノーガを倒す。
1.トウヤと話をする。
2.ブルー以外の他のオーブを探す。
3.ひとまずNの城を拠点にする。

※ニズゼルファ撃破後からの参戦です。
※エマとの結婚はまだしていません。
※ポケモン世界の情報を得ました。
※恥ずかしい呪いを克服しました。

【ベル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:疲労(中)、気疲れ(大)
[装備]:ランラン(ランタンこぞう)@DQ11
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:チェレンの死を受け止め、歩き出す。
1.イレブンとトウヤについていく。
2.ポカポカ(ポカブ)を探す。
3.レッドさん……。

※1番道路に踏み出す直前からの参戦です。
※ドラクエ世界の情報を得ました。

【トウヤ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:全身に切り傷と打ち身、ダメージ(中)、疲労(大)
[装備]:モンスターボール(オノノクス)@ポケモンBW、モンスターボール(ジャローダ)@ポケモンBW、モンスターボール(空)@ポケモンHGSS、チタン製レンチ@ペルソナ4  
[道具]:基本支給品、モンスターボール(空)@ポケモンBW、モンスターボール(カメックス)@ポケモンHGSS、モンスターボール(ギギギアル)@ポケモンBW、カイムの剣@DOD、煙草@MGS2、スーパーリング@ドラクエⅪ
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.オレは──……。

※チャンピオン撃破後からの参戦です。
※全てのポケモンの急所、弱点、癖、技を熟知しています。

933タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:40:27 ID:WfubCnaA0

【モンスター状態表】
【ランラン(ランタンこぞう)@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:MP消費(小)
[持ち物]:なし
[わざ]:メラ・ギラ・メラミ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルについていく
1.ベルに褒められて嬉しい。

※トレバーとの戦闘を経てレベルアップしました。

【ポッド153@NieR:Automata】
[状態]:健康
[持ち物]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:???

※Eエンド後からの参戦です。

【オノノクス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト ♀】
[状態]:ひんし
[特性]:かたやぶり
[持ち物]:なし
[わざ]:りゅうのまい、きりさく、ダメおし、ドラゴンテール
[思考・状況]
基本行動方針:トウヤに従う。
1.???

【ジャローダ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト ♀】
[状態]:ひんし
[特性]:しんりょく
[持ち物]:なし
[わざ]:リーフストーム、リーフブレード、アクアテール、つるぎのまい
[思考・状況]
基本行動方針:トウヤに従う?
1.???

【オーダイル@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:ひんし
[特性]:げきりゅう
[持ち物]:なし
[わざ]:かみくだく、アクアテール、きりさく、こおりのキバ
[思考・状況]
基本行動方針:シルバーが見つかるまでレッドと行動する。
1.???

【ギギギアル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[特性]:プラス
[持ち物]:なし
[わざ]:10まんボルト・ラスターカノン・はかいこうせん・きんぞくおん
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.???

【カメックス@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:健康
[特性]:げきりゅう
[持ち物]:なし
[わざ]:ハイドロカノン・ラスターカノン・ふぶき・きあいだま
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.レッド……。

934果てなき夢 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:41:11 ID:WfubCnaA0



 シロガネ山の山頂には幽霊が出るらしい。
 ジョウト地方の一部では、その噂で持ち切りだった。
 ゴーストタイプの存在が当たり前なのだから、人間の幽霊程度で騒ぐほどのことではない。
 ならばなぜそんな〝些細な噂〟が人を惹きつけるのか。
 
 その理由は、〝強さ〟にあった。

 なんでもその幽霊は、法外に強いらしい。
 腕っ節や呪力が、ではなく。ポケモンバトルの腕前がだ。
 ただのオカルト話であれば焚き付けられなかったが、腕利きのトレーナーと聞けば話は別。
 かくして腕に覚えのある者が挑戦しては敗北し、噂に尾ひれがついてゆくのだった。

 そしてここにまた一人。
 新たなる挑戦者(チャレンジャー)が、躍り出る。

 その少年はトレードマークの金と黒のキャップを後ろに被り、吹雪の中でも闘志を燃やす。
 見据える先には、赤い帽子を目深に被った〝幽霊〟が佇んでいた。

 互いの間に言葉はない。
 けれど、掲げられたボールが何よりの会話となる。

 腕を振り上げ、ボールを投げる。
 寸分の狂いもなく同時に繰り出された動きに伴い、互いの相棒が姿を現した。

 片や、背から轟々と炎を噴き出すバクフーン。
 片や、頬にバチバチと電気を走らせるピカチュウ。

 世界においても比肩を許さない、最高峰の実力を持った相棒。
 繰り出される指示を聞き入れ、彼らは爆炎と雷鳴を撒き散らす。

 果てなき夢は、未だ終わらずに。
 雪の吹き荒ぶ山頂にて、伝説が幕を開ける。


 二人の少年は────笑っていた。




935果てなき夢 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:41:32 ID:WfubCnaA0



 マサラタウンに サヨナラしてから
 どれだけの時間 経っただろう
 擦り傷切り傷 仲間の数
 それはちょっと 自慢かな

 あの頃すっごく 流行っていたから
 買いに走った このスニーカーも
 いまでは 世界中 探しても見つからない
 最高の ボロボロぐつさ!

 いつのまにか タイプ:ワイルド!
 すこしずつだけど タイプ:ワイルド!
 もっともっと タイプ:ワイルド!
 つよくなるよ タイプ:ワイルド!


 そして いつか こう言うよ


 ──〝ハロー マイドリーム〟




【レッド@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー タイプ:ワイルド!】
【ピカ@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー タイプ:ワイルド!】

936 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/05(木) 19:41:48 ID:WfubCnaA0
投下終了です

937 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/06(金) 22:42:58 ID:5kMVewf.0
すいません、今気づいたのですが
>>913>>914の間にコピペミスによる描写漏れがあったので、以下の本文を追加させていただきます


-


「ピカ、見せてやろうぜ! 俺たちの絆を!」

 いいや、違う。
 そんなつまらない理屈、意味などない。
 本質はもっと、もっとシンプルで────
 
 


 
 
 


 ピカは レッドを
 かなしませまいと もちこたえた!
 








 トウヤが動揺から戻るほんの僅かな時間。
 それが決定的な差となって、レッドの雄叫びが届く。

「ジャローダ、よけ──」
「──十万ボルト!!」

 それは、混沌を射抜く光。
 それは、勝利を齎す希望。
 それは、決して堕ちぬ星。

「あ、…………」

 稲妻は一筋の矢となって。
 導かれるように、大蛇を撃ち抜いた。





938名無しさん:2025/06/06(金) 22:49:08 ID:/XISmXc60
投下乙です!
じわじわと因縁が形成されていったチャンピオン対決、お互いに一歩も引かない期待以上の戦いでワクワクしました
トウヤが戻れデバフ解除とかいう無法をしたかと思ったら、レッドの方もじわれブラフとかいうムチャクチャしてきてこいつらやべえとなった
ゲーチスのせいでレッドとピカの最強コンビは倒れたけど、彼らによって呪いが解かれたトウヤのこれからが楽しみ

939 ◆vV5.jnbCYw:2025/06/08(日) 22:59:34 ID:LAL6Xn1s0
投下乙です
セフィロス予約します

940 ◆vV5.jnbCYw:2025/06/15(日) 22:48:10 ID:9ErjxUTQ0
すいません。予約延長します

941 ◆vV5.jnbCYw:2025/06/16(月) 22:03:23 ID:vOv9JJ5I0
投下します

942腐った板チョコの下で ◆vV5.jnbCYw:2025/06/16(月) 22:04:12 ID:vOv9JJ5I0

その美術館は、かつて彼女が来た時に比べて、変わり果てた姿になっていた。
パチパチと音を立てる残り火、溶けた防護ガラス、真っ黒になった絵や彫像。
辺りには煙や煤臭さが充満している。もう、この美術館に客が来ることは無いだろう。


「これは一体…あれから何があった?あの絵が燃えなかったのは幸いだが……」


そんな終わってしまった美術館に、紫のドレスを着た茶髪の少女が一人。
彼女の口調は少女らしからぬ、思慮を含んだものだった。少女の姿はただのカモフラージュなので、年不相応の口調も当然なのだが。


{しかし、この威圧感は?誰かいるのか?}


少女の姿をした怪物、メルトアは目を細め、敵陣に乗り込んだ兵士のような表情で廊下を歩く。
誰を食い殺し、塗料にしてやろうかと、意気揚々と美術館に現れた時とは違う。
美術館の変貌もそうだが、油断をすれば食われる。そんな存在が、この場所にいる。


そして、彼女が恐れていた存在は、案外すぐに見つかった。
目が合って、すぐに確信した。この醜く美しい男は、絶対に食えないと。
銀髪の端正な、美しい肉食獣のような箇所も、人間らしからぬ触手が蠢いている箇所も。
食ったが最後、全てを極彩色で塗りつぶしてしまう、地獄のような塗料になり得ると。


「何をしに来た?」


たったそれだけの言葉で、多くの人間を食らってきたメルトアが怯んだ。
一番恐ろしいのは、その男が片足だけで蹲っていると言うことだ。
すなわち、歩くことさえ出来ない相手だと言うのに、一瞬で殺されるほどの恐怖を感じてしまう。


(これがあの方の言っていたセフィロス……恐ろしいほどの威圧感だ……
わらわを倒した人間共でさえ、これほどの魔力は持っていなかったぞ……?)


彼女は絵の怪物でなければ、額から嫌な汗が流れていたはずだ。
言葉を出そうにも、どういう訳か、喉から思うように出せない。
しばらく沈黙が続いていたが、セフィロスの方から声を出した。


「なぜ首輪をしていない?」


これはまずい。すぐにメルトアは気づいた。
以前星井美希を取り込んだ時は、首輪をしていないことに気付かれなかった。
非常識極まりない状況で、冷静な思考も難しかったからだ。
だが、目の前の相手は、経験も常識も通じない。
隠し事など出来そうにない今、正直に答えるしかない。
だが答えれば、主であるウルノーガを裏切ることになるのではないか。そう思った。

943腐った板チョコの下で ◆vV5.jnbCYw:2025/06/16(月) 22:05:08 ID:vOv9JJ5I0
「大方、あの主催者と関わっている者だろう。違うか?」


まさか歩くことすら出来ない者に、ここまで追い詰められるとは、メルトアとしても予想外だった。
セフィロスはそれ以上話すことは無く、獲物を見つめる肉食獣のような表情を浮かべている。
抵抗しても、しらを切っても無駄だ。目の前の怪物が、片足が無くても貴様如き殺すのは容易だと、その目で語っている。


「そ、それが分かるのなら話が早い!わらわの前で下らぬマネをしてみろ!
すぐにでもあの方が、貴様の首輪を爆破してくれるぞ!!」

「……言いたいことはそれだけか?」


メルトアが必死で紡いだ言葉は、ただの脅しと一蹴された。
自分の今の状況、主であるウルノーガはどう動くかは不明だ。
だが、星井美希の捕食をやめろと言われたこともあり、自分のために動いてくれるようには思えない。


「つまらぬ脅しには興味はない。何をしに来たかだけ答えろ。」

「………首輪をつけた死人の回収だ。どこに転がっているか思い当たりはあるか?」


下手な嘘や脅しは通じないし、嘘をついても良いことがあるようには思えないので、正直に答える。
当初メルトアはウルノーガから、『首輪をはめた人間を吸収しろ』と命じられた。
しかし星井美希を取り込んだ際には、『この娘を逃がせ』と言われた。
一見矛盾しているようなことだが、ウルノーガは死体の首輪を回収しろと命令しているのだと解釈した。


「ああ。それならすぐ近くに、私の片足を斬り落とした狩人の物があるはずだ。」

「……助かる。」


すんなりと話が通じたことに、逆に驚いてしまう。
それでも、警戒を怠ることはないまま、その死体を探し始める。
言われた通り、頭部が胴体から離れた死体が、すぐそこにあった。
首輪のみを回収し、残りは塗料にしてしまおうと考えた。


「待て。」

「ま、まだ何かあるのか?」

「首輪だけにしてくれないか?その男は私を負かした強者だ。生きた証すら消えてしまうのは、私としても望ましくない。」

「……分かった。首輪の方は良いのか?」

944腐った板チョコの下で ◆vV5.jnbCYw:2025/06/16(月) 22:05:28 ID:vOv9JJ5I0
メルトアとしては、別にハンターの死骸を食えなくても良かった。
貴重な食料にありつく機会だが、こんな怪物が近くにいる中で、食欲など出る訳もない。
一体この男は何者なのか、その相手にそこまで執着するセフィロスは一体何なんだという疑問は残るが、一刻も早くこの場から離れたかった。
ハンターの首輪を回収し、無事だった絵の世界に戻ろうとする。


「ああ、そうだ。貴様が主催者と関りがあると言うのなら、教えて欲しいことがある。」


交渉と言うのは、当たり前だが強者に有利なものである。
何しろ強者の側は『自分が危害を加えない』ということだけで一つの交渉カードになるからだ。
今の状況もそうだ。セフィロスが自分を殺さないと言うだけで、彼の頼みを承諾せねばらなない。
ここでセフィロスにとって都合の良いことを言えば、ウルノーガから罰を受けるかもしれない。
かといって、この男に嘘をつけば、即座に殺されてもおかしくはない。


「少し前の放送の…あの男の声は誰のものだ?」


二度目の放送で聞いた声は、セフィロスにとって知らない人物のものだった。
この殺し合いが始まる時にいた2人、マナのものでも、ウルノーガのものでもない。
全てを食らいつくし、征服し、究極を証明するには、知らないことがあるとどうにも不都合だ。


「あの方と同じ場所にいる、足立という男だ。それ以上はわらわは知らぬ…待て……」


メルトアは、ウルノーガ以外の主催者のことは知らない。
自分を殺した者たち以外にも、参加者のことは、ウルノーガを通してある程度だが知っている。
だが、ウルノーガ以外の主催者のことは、どのような者か、どのような思想を抱いているのかは教えてもらってない。
知っていることは、ウルノーガとのやり取りで聞いた名前と情報ぐらいだ。
だがそのやり取りから、セフィロスと言うのは主催者の一人である、宝条の息子だと知っていた。


「貴様は、宝条という名に、覚えはあるか?」


一瞬の間があった。
それから僅かながら驚いたような表情を浮かべ、ニヤリと笑った。
越えてはいけないラインを越えてしまったかと焦るが、すぐにセフィロスは口を開いた。


「ハハハハハハハ!!」

「何がおかしい?」

「いや失礼。あまりに久々にその名を聞いてな。」


7年前、まだセフィロスが自らの存在に疑問を抱くことが無く、ソルジャー1stとして活動していた時。
何の因果か今と同じように、唐突に高笑いをした。
それもまた、宝条に関することだった。

945腐った板チョコの下で ◆vV5.jnbCYw:2025/06/16(月) 22:05:44 ID:vOv9JJ5I0
――ある男がな、不思議な力なんて非科学的な言い方は許さん!魔法なんて呼び方もダメだ!そう言って怒っていたのを思い出しただけだ。
――神羅カンパニーの宝条。偉大な科学者の仕事を引き継いだみじゅくな男だ。コンプレックスのかたまりのような男だな。


「だが、奴は死したはず…いや、それは私も同じか。」


宝条の死は、ライフストリームを通して知っていたことだ。
なぜここで主催者をやっているのかは疑問だが、蘇ったのは自分も同じことだ。
確かにこのような露悪的な催しを、好みそうな男ではあると納得してしまう。


「驚いたのか?この殺し合いに、貴様の父親が加わっていたと。」










「……今、何と言った?」


迂闊なことを暴露すれば、セフィロスに寝返ったとして、主に殺される可能性もある。
だが、今のメルトアは必死だった。とにかくこの場を生きねばと。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たると言うが、必死で紡いだ言葉が、思わぬ効果を発揮することもある。
それは、今のセフィロスの表情が物語っていた。



「我が主の伝手で聞いたことだ。奴…宝条は言っておったぞ。
優勝者など『聞くまでもないだろう。無論、セフィロス――私の息子だ!』と。」


お前は何を言っているという表情で、メルトアの顔を見る。
メルトアの方も、余計なことまで言い過ぎたかと考える。

静かな、しかし刺々しい空気が辺りを覆っていた。
セフィロスは宝条博士など、ただのつまらぬ男としか思っていなかった。
そして宝条自身は、そのセフィロスに父親とも思われぬまま、見下されていることを知っていた。


――セフィロスのやつ、私が父親だと知ったらどう思うかな
――あいつは私のことを見下していたからな


とにかく、セフィロスは宝条が父親だと、終ぞ知ることはなかった。知らずにその生を終えたはずだった。
だが、どの歯車が狂ったかは不明だが、極めておかしな形で、その事実を伝えられることになった。
別世界の、本来ならばセフィロスとも宝条とも関わるはずのなかった怪物の言葉で。


「わらわが出まかせを言っていると思ったか?」


今度は打って変わって、メルトアの方が笑みを浮かべていた。
対照的にセフィロスは、苦虫を嚙み潰したような表情を見せ続ける。


(今だ!!)

「……?ブリザガ!!」

946腐った板チョコの下で ◆vV5.jnbCYw:2025/06/16(月) 22:05:59 ID:vOv9JJ5I0
彼女の目が輝き、2本の光線がセフィロスに襲い掛かる。
マヒャド、いや、マヒャデドスにも並ぶ氷魔法であっさり無効化されたため、彼にダメージが通ることは無かった。だが、これで十分。
すぐさま、彼女は首輪だけ握って、脱兎のごとく逃げ出した。
勿論、逃げた先は絵の中。美術品の大半は焼けたか瓦礫に埋まったが、彼女の世界を繋ぐ絵だけは無事だった。






「もう少し、回復には時間がかかりそうか。しかし……。」


メルトアは姿を消し、その場には回復中のセフィロスのみが残された。
彼の胸の内は、複雑だった。まさか何の存在価値もないと思っていた男が、主催者の一員であり、しかも彼は自分の父親だったと。
あの怪物が出まかせを言ったようには思えない。
クラウドの死を感じ取ってから、もう自らの過去には用が無いと思っていたが、そうでもなかった。


「これは……なるほどな。」


敵はハンターのような未知の世界の強者のみならず、自らの世界の過去にもいるかもしれない。
さらに、もう一つ気づいたことがあった。
この世界で自分がジェノバ細胞を植え付けた女、セーニャの感知が出来なくなった。
何処に逃げたか彼女の居場所を知ることは、もう不可能だ。
遠くに逃げたから分からなくなったのか、はたまた外部からの要因かは不明だ。
一時的か永続的か知らぬが、彼女はジェノバ細胞の支配を逃れたということだ。


「まだいくらでも楽しめるということか……」


過去も未来も食らいつくし、改めて星と一つになる。
その先には何があるのか。未だ消えぬ未知への探求心は、留まることが無かった。



【B-4/崩壊した美術館跡/一日目 日中】
【セフィロス@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:G-ウイルス融合中、上半身裸、ダメージ(小)、左腕から右脇にかけて裂傷、左足首切断、傷再生中、MP消費(小)、高揚感
[装備]:バスターソード@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、武器の類ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:全てを終わらせる。
1.全ての生物を殺害し、究極を証明する。
2.スネーク(名前は知らない)との再会に少し期待
3.宝条が私の父親……?分からぬこともあるものだ。
4.あの少女(メルトア)は何処から来た?近くに主催者の場所へ行ける何かがあったりするのか?


※本編終了後からの参戦です。
※メルトアから、主催者にはマナとウルノーガのみならず、宝条博士と足立という男がいると分かりました。
※心無い天使、スーパーノヴァは使用できません。
※メテオの威力に大幅な制限が掛けられています。
※参加者名簿に目を通していません。
※セーニャが手に入れた情報を共有しました。しかし現在は少なくとも近づかない限り、情報をインプットすることが出来ません。
※G-ウイルスを取り込んだ事で身体機能、再生能力が上昇しています。
※左腕がG生物のように肥大化し、背中の左側には変形可能な肉の翼が生えています。
※炎、熱を伴う攻撃は再生能力を大幅に遅れさせます。

947腐った板チョコの下で ◆vV5.jnbCYw:2025/06/16(月) 22:06:09 ID:vOv9JJ5I0
投下終了です


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