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息抜きで学園オリキャラのロワのようなもの(仮)

1 : 名無しさん :2016/05/23(月) 03:40:45 3kNczsFQ0
特別追試学生名簿

男子学生
[○佐渡 翔]
[○酒呑 童子]
[○新谷 善次郎]
[○毒島 コロ助]
[○長門 傀儡] 
[○斧 狂太郎]
[○御剣 桃太郎]
[○智胤 猩々]
[○犬神 仁]
[○七条 無銘]
[○魔導 屍]
 
女学生
[○茨木 童子]
[○内藤 ナイト]
[○蓬莱 かぐや]
[○倉井 さわ子]
[○手呂 爆]
[○清井 純真]
[○信条 正義]
[○真宮 叶]
[○雉凪 結城]
[○韋駄天 風]
[○鏖]


【特別追試の規定ルール】
※最後の一人になるまで殺し合う
※期限は明日の朝礼時刻(8時間後)まで
※学園施設からは絶対に出ることはできない
※生徒間のやり取りに反則はない

名前だけ決めたけどそれ以外は好き勝手に書いてもいい。以上


"
"
2 : OP :2016/05/23(月) 03:41:57 3kNczsFQ0

やぁ、元気?
おいおい、なに呆けた顔してるんだい。この学園の理事長の顔も忘れたのかな?  
それともこのボクに見惚れて……いや、君相手に冗談はやめておくよ

さてーー、わざわざ貴重な休日である土曜日に、しかもこんな深夜にこうして君を呼び出したのは、当然といっては当然だけどね、訳があるんだよ

あのさぁ、突然だけど君って馬鹿だよね。あ、君に限った話ではないけどさ……
うちの学園は誰でも受け入れるよ。例えそれが常識にはない何かであったとしても、門を潜った時点でうちの生徒だ
でもね、それでもここは学校なんだよ。つまり、限界だってある。

だから、これから殺し合いをしてもらう事にしたんだ

え?そんなの聞いてないだって? 当然だよ。言わなかったもん
だって、こうでもしないと絶望的に単位が足りないんだもん君ら
追試とかしたって、どうせあの問題児たちがどうにかできるとは思えないし……
それに、こっちの方が得意でしょ?

……否定はしないんだ。まぁ良いや。

期限は明日の朝礼時刻までの8時間。
最後に生き残った生徒は単位を晴れてGET、進級もできるってことさ

あ、今の学園はまるごとボクの"工房"だから、どれだけ騒いでも近所迷惑にはならないし、派手に暴れてもOKだから、頑張ってね
皆まで説明しなくてもわかるだろうけど、ボクが許可するまで、絶対に学園から出られないからね。なにせ頑張って空間ごと世界と遮断してるからさ

……うーん、もう特に言うことはないな。てか、他の落第組はもうとっくに説明も終わってるし、君が最後なんだよね
じゃあ、適当な場所に転送するからーー頑張ってね

バイバイ




【主催:理事長】


3 : 名無しさん :2016/05/23(月) 04:35:12 3kNczsFQ0
「あーあ、やってらんねーよ」プカー

佐渡は3-Bの教室に居座りながら、タバコを吸っていた

「こんな夜中に呼び出しといて……はっ、くだらねーぜ
俺の辞書に努力の文字とかありませーん。殺りあうなら勝手に殺ってろっつーの」

そういってタバコを吹かす姿からは、片時もやる気を感じない

「ーーお前もそう思うだろ?」

ふと口にした言葉に反応したのか、教室の影から、ゆらりと人影が現れる

「……」

返事は返さない。どこか虚ろな目で、じっと佐渡を見つめるだけだ
狂太郎はゆっくりと佐渡へと近づいてくる。カーテンの隙間から、満月によって影が照らされる。そして、狂太郎が手にするものが見えた。

「なんだよそりゃ」

佐渡は顔をしかめた。
それは武骨な斧だった。肉厚の刃は、その重量だけで人の首を切断してしまいそうなほどの迫力に満ちている。

「おいおい、殺る気かよ。俺と」

返事はないが、狂太郎の眼に形容しがたい感情がチラついた。それは歓喜のようでもあったし、怒気のようでもあったが、そのどれでもなかった。
それは明確な殺意だった

「はは、そうか。お前はそういう奴だったな」

佐渡はタバコを手頃な壁に押し付けて、火を消した。それか合図だった
瞬間、狂太郎は一気に距離を積めると、佐渡の頭に斧をふり下ろした。
佐渡は咄嗟に手頃な椅子を使ってガードする。グワッシャ!と一撃でパイプ椅子が粉砕した。

「ヒュー、見かけによらずパワーがあるな」

少し冷や汗をかきつつも、佐渡は調子を崩さなかった。狂太郎はその隙を逃さず、斧を横凪ぎに振り下ろす
佐渡はとっさに地面を転がって距離をとりつつ、黒板の方へ移動する。狂太郎は爛々と目を輝かせながら、追撃しようとする
自然に追い込まれた形になった佐渡は、パッと黒板から何かを引っ掴むと、それを狂太郎の顔面に向かって放り投げる

「うぐわあああああーっ!!」

チョーク入れに溜まった粉をもろに浴びた狂太郎は、先程の寡黙さから一転し、顔をかきむしりながら叫ぶ

「はは、それやるよ」

「ぐるああああああ、あああ」

佐渡の嘲笑に怒ったのか、狂太郎は滅茶苦茶に斧を振り回し始めた。
一時的に視力を失ったのか、その狙いは的はずれだが、その怪力は衰えていない
起きっぱなしにされていた教本が掠っただけで紙屑となり、机と椅子は木片になった

「チッ、これだからパワー系池沼は……」

巻き込まれてはかなわないと、佐渡は急いでその場を離れようとする
その時、ふと、先程破壊された椅子へと目を止める。そこには、手頃な大きさになった椅子の足首があった。
それは、先が鋭く尖り、ささくれたパイプ部分だった

(どうせだから貰っていくか)

武器に使えそうだと思い、ついでに拾っていくことにした。


【3-B教室】

【名前】佐 渡翔
【アイテム】先のとがったパイプ、タバコ、ライター
【思考】適当に生き残るか……


「グルアアアアーっ!!」

3-Bには荒れ狂う狂太郎だけが残された


【名前】斧 狂太郎
【アイテム】斧
【思考】殺す


4 : 名無しさん :2016/05/23(月) 18:28:30 sJiYrxIs0
内藤ナイト、手呂爆予約します


5 : 名無しさん :2016/05/23(月) 18:28:49 sJiYrxIs0
投下します


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6 : 名無しさん :2016/05/23(月) 18:29:04 sJiYrxIs0

「殺し合いで進学を決めるなんて、間違ってる!!」

内藤ナイトは憤っていた
騎士部に所属し、部長も勤める彼女は、この騎士道に真っ向から対立するような理事長の所業に怒りを禁じ得ない
全身に中世の甲冑を着込んでいるのでその表情は伺えないが、きっと義憤で赤く染まっているのだろう
確かに、本家の騎士を学びたいという名目で部費を使い、部員たちを引き連れて欧州に半年ほど遠征したために単位を落としてしまったのは事実だったが、いくらなんでもコレはあんまりだ。

「私の剣は……欲のために級友を切るためのものではない!!」

愛用しているロングソードとカイトシールドは手元にある。だが、これは騎士道に乗っ取った、神聖なる決闘においてのみ、振るわれてきた相棒たちだ。

「理事長……例え留年しようが、私は、貴女には従わないぞ!!」

内藤ナイトの宣告が、無人の体育館に響き渡る

「ーーそう。なら死んでよ」

第三者の声が聞こえた。驚いた内藤の足元に、コロコロと何かが転がってくる。それはバスケットボールだった

「ボールが……光っ」

ドッカーーーン!!! と内藤の足元まで転がっていたボールが爆発する
内藤はなすすべもなく爆炎に飲み込まれ、見えなくなった

「やったぜ」

その惨状を引き押した下駄人である手呂 爆は、悪戯が成功した子供のように、してやったりとした顔で笑っていた。

「まずはひとり「ごほ、ごほ、貴、貴女は……」」

今度は手呂の方が驚いた。慌てて見ると、煤で真っ黒になりながらも、ピンピンしている内藤が立っていた。

「チッ、鎧が爆発をガードしたか」

「貴女は……『能力を試したかったから』とかふざけた理由で爆弾テロを繰り返し、ついには国際指名手配されてしまった手呂さんじゃないですか!」

「あら、先輩、私のこと知ってるんだ?
 そうなのよ、遊びに夢中で単位も落としちゃったし、この学園から放り出されたら死刑になっちゃうのよね」

割りと深刻な話を、ケラケラと笑いながら話す手呂に、内藤は狂気を感じた。
手呂は先輩からの、そんな視線に構うことはなく、体育倉庫から引っ張り出してきたボールを持ち直す
内藤をそれを見て、甲冑のなかの顔色を変えた。手呂は、体に触れたものを爆弾にすることができる異能者であった

「だから……私の青春のために死ねよ」

それから数秒後、体育館に爆発音が響き渡った。

【体育館】
【名前】内藤ナイト
【アイテム】甲冑、ロングソード、カイトシールド
【思考】殺し合いには乗らない
1:手呂を倒す

【名前】手呂 爆
【アイテム】ボール×いっぱい(爆弾化済み)
【能力】体に触れたものを爆弾にする
【思考】 皆殺し


7 : 名無しさん :2016/05/23(月) 18:29:45 sJiYrxIs0
投下終了です


8 : 名無しさん :2016/05/23(月) 19:34:48 dt.RyQdo0
能力とかあるのか…(戦慄)


9 : ◆As6lpa2ikE :2016/05/23(月) 20:25:31 ckjf6CSQ0
信条正義と新谷善次郎予約します


10 : 正義の少女と正義の味方の少年 ◆As6lpa2ikE :2016/05/23(月) 20:34:03 ckjf6CSQ0
信条 正義(しんじょう せいぎ)は自称・正義である。
警察官の両親から名付けられたその名を、幼い頃は周りから男のような名前だと馬鹿にされるも、しかし誇りに思って、彼女は今まで正しく生きてきた。
善を歓び、悪を懲らしめてきたのだ。
結果、高校に入学してから二年が経った今では風紀委員長として日々懸命に働いている。
しかし、そんな彼女が周りから『正義の味方』として周りから親しまれ尊敬されているわけではない。
寧ろのそれとは真逆のイメージの言葉で彼女は呼ばれているのだ。
『狂人』、と。




11 : 正義の少女と正義の味方の少年 ◆As6lpa2ikE :2016/05/23(月) 20:34:40 ckjf6CSQ0
「ええい、理事長め!
『これからみんなに殺し合いをしてもらうよ』ですって?
そんなの絶対に許しません! 何故なら殺し合いは良くないこと、すなわち『悪』だからです!
殺し合いを強制させる人なんて、正義の味方の私が矯正――いや矯正すら生温い……殺してしてみせますよ!」

そんな本末転倒というか矛盾している事を騒ぎながら、信条は図書室の本棚の間を歩いていた。

「ふむ……しかし、こんな殺し合いに呼ばれるような人たちにも悪い所があるようにも思えます。
いや、悪い所が無ければこんな場所に呼ばれる筈がありません……。
大昔、罪人をコロシアムで殺し合わせる遊戯が流行ってたという歴史からも分かるように、大抵の場合殺し合いに参加させられるのは悪人な筈です。
即ち! 此処にいる全員は悪!」

難問を解いた賢者の如き表情で、信条は終盤の語気を強くしながらそう言った。
しかし彼女の頭の中に『ならば自分も悪なのでは?』という疑問は更々湧いておらず、寧ろ『自分は悪人だらけの場所に呼ばれた正義執行人だ』と考えているらしい。
そもそも、特別追試やらを受けさせられるくらい単位が足りていない時点で、学校という教育機関から見れば、彼女はかなり『悪しきもの』なのだが、当然そっちにも考えが行っていないらしい。
自分に都合の良い事しか考えないのであろう。
そんな性格だから単位が足りなくなったとも言えるが。

「ですよね!? 先輩!」

己が得た答えを誇るような顔をしながら、彼女は後ろを振り向く。
其処には目つきが悪く、しかし困ったような表情をした、何処か頼りない雰囲気を纏った長身の男子生徒が居た。
彼女が突然振り向いた事に驚いた彼は暫く目を白黒させてから、次のように言った。

「……えっと、その理屈だと僕も『悪』、つまり後輩ちゃんから罰せられなくちゃならない存在だってことになるのかな?」
「ははは、やですねぇ先輩。
貴方は私の味方、即ち『正義の味方』じゃあないですか!
罰する要素なんて、どこを探しても見当たりませんよ!」
「そ、そう……?」

疑問気な口調でそう言うも、男子生徒は彼女の言葉を聞いて安心したような表情を浮かべる。
彼の名前は新谷 善次郎(あらたに ぜんじろう)。
三年生であるにも関わらず、二年生の信条の補佐役である風紀副委員長として日々働いている男だ。

「特別追試、ね……はぁ。
勉強はちゃんとしてたんだけどなぁ……。
けど、毎度毎度考査直前に後輩ちゃんの所為で、事件に巻き込まれて結局受験出来てないんだよねぇ」
「先輩は正義の執行と学業、どっちが大切なんですか!?」
「そんな『仕事と私、どっちが大切なの?』みたいなノリで聞かれても」

此処に来てから何度目かの溜息をついてから、善次郎は言葉を続ける。

「しかし、単位が足りないからと言って『殺し合い』までさせることないんじゃあないかなぁ。
自慢じゃあないけど僕、普通にテスト受けたらそこそこ上位に行けると思うよ?」
「そりゃあ、『正義の味方』ですもんね!」
「僕が『正義の味方』かどうか、そして『正義の味方』が必ずしも頭が良いかはさておき、何とかして『殺し合い』以外の解決法を学園には考えて欲しかったものだね。
僕、死ぬのは当然として、痛いのはめちゃくちゃ嫌だよ?」
「ははは、安心してくださいよ先輩」

年相応の少女らしい笑い声をあげてから、信条は言う。

「『正義の味方』は死なないってのが昔からの常識なんですよ?」

彼女のそんな言葉を聞いて、善次郎は口元を僅かに緩めてから、

「最近の漫画じゃ、そうでもないらしいけどね」

と言った。


12 : 正義の少女と正義の味方の少年 ◆As6lpa2ikE :2016/05/23(月) 20:35:12 ckjf6CSQ0
【図書館】

【名前】新谷 善次郎
【アイテム】ナイフ×2
【思考】
0:殺し合いは嫌だが、信条について行くことにする
1:痛いのは嫌だなあ

【名前】信条 正義
【アイテム】なし(『私にとっては正義の心こそが唯一無二の武器なんです!』)
【性格】
絶対正義(自身のことを正義として疑わず、自分がした行為は全て正しき物であると考えている)
【思考】
0:殺し合いなんて良くないことです! だから参加者や理事長は全員殺します!
1:『正義の味方』である先輩だけは殺しません。


13 : ◆As6lpa2ikE :2016/05/23(月) 20:35:30 ckjf6CSQ0
投下終了です


14 : 名無しさん :2016/05/23(月) 20:35:31 7jAkz94c0
当たり前のように能力バトルやってて草生える


15 : 名無しさん :2016/05/23(月) 20:52:30 sJiYrxIs0
投下乙です
正義狂と化した後輩に振り回される善次郎、ドンマイ。正義ちゃんも突き詰めすぎてヤバイ奴まっしぐらですね

七条 無銘、長門 傀儡 予約します


16 : ◆kVodnS7.Jw :2016/05/23(月) 20:56:01 FdmT./dA0
酒呑 童子、真宮 叶 予約します


17 : ◆CvykvQJIqw :2016/05/23(月) 21:03:45 sysJaNeA0
御剣 桃太郎、倉井 さわ子、鏖
予約します


18 : 名無しさん :2016/05/23(月) 22:40:31 sJiYrxIs0
投下します


19 : 名無しさん :2016/05/23(月) 22:42:07 sJiYrxIs0

理科室にてふたりの落第生が対峙していた

「おー、長門。お前も追試くらったのかよ」

先にそう訪ねたのは、凡そ特徴といった特徴のない、平凡な男子だった
彼の名は七条 無銘(しちじょう むめい)
彼は、本来ならば追試など受けないくらいには、平均的な成績を維持するタイプの学生だったが、近日、期末テストでのカンニングがバレてしまい、晴れて殺し合いに放り込まれてしまったのだ。

「……」

そんな七条と向かい合っているのは、どこか根暗な雰囲気の男子だった。
目元が隠れるほど伸ばされた前髪が、より陰気な印象を抱かせる
彼は長門傀儡(ちょうもんくぐつ)。七条と同じ2-Bの生徒であり、スクールカーストの下級に位置する男である

「はは、まぁ、俺はともかくとして、お前はアレだな。ずっと人形遊びなんてしてるから、単位を落としちまうんだよ」

それは、殺し合いに参加している者に対する言葉としては、随分と緊張感にかけていた
その節々に、長門への侮りがあることは明白だった。明らかに、彼を軽んじている
それに気づいたのか、前髪から見え隠れする長門の瞳に、危険な光が宿っていることに七条は気がつかない

「……ァ」

ふと、黙りこんでいた長門がボソボソと何かを呟いた。

「あ?なんだって」

無銘は聞き返した。

「死ね」

グサッ、と柔らかい肉を貫くような音がした
背後から心臓を貫かれた七条は、悲鳴もあげずに絶命する

七条に襲ったのは、理科室の人体模型だった。いや、より正確に言えば、人体模型を操作した長門が殺したといったところか
クラスメートには隠していたが、長門は、そういったことができる異能者であった。

「……はは、殺ってやった。僕は殺ったんだ!!」

人が変わったように叫ぶ長門。その声には歓喜が滲んでいる

「ざまあみろ!!ざまあみろ!!ざまあみろ!!ざまあみろ!!」
 
そうして彼は、狂ったように、床に転がされた七条を滅茶苦茶に蹴りつける。
長門は、その引っ込みがちな性格と、美少女フィギュアの作成といったニッチな趣味が合わさり、クラスでは浮いた存在だった。
苛めというほどではないが、友達もおらず、すかれてもいない。オタクと蔑まれ嘲笑する者も少なからず居た。
そうした学生生活で溜まりに溜まった鬱憤が、爆発したのだ。


20 : 名無しさん :2016/05/23(月) 22:42:57 sJiYrxIs0


「はぁ、はぁ、僕を馬鹿にしやがって……はぁ、はぁ」

七条は積極的に彼と関わってはいなかったが、無意識に長門を自分よりも格下の存在として見ていたし、長門もそれに気がついていた。

ーーなんだよその目は
ーー見るな、俺を見下すな

「殺す、全員ぶっ殺してやる」

長門は人体模型を従えながら、狂気の笑みで理科室を立ち去ろうとしーー

「おい」

ーーあり得ない声を聞いて、立ち止まった

慌てて振り返った長門は、さらに驚愕することになる

「うわー、ひっでーな。ボコボコじゃん」
「ボッチの癖に生意気だよ」
「これは一度立場をわからせないとな」
「そうだよ」
「皆でボコろうぜ」
「賛成!」

絶命した『七条無銘』の周囲に、同じ顔、同じ体格、同じ制服の、『六人』の『七条無銘』が立っていた

「……え、え、え」

長門は、その冗談のような光景に、ただ間の抜けたような声しか出せない。
簡単な話である
長門が異能者であることを隠していたように、七条もまた、異能を持っていたのだ
七条無銘という男は、七人でひとりの無銘。
ひとつの人格に七体の肉体を持った異能者なのである。

「……う、あ、」

怒気の籠った6人分の視線に晒され、長門は無意識に後ろへ下がった。
しかし、彼の背後は無慈悲にも壁である

「先に仕掛けてきたのはお前の方だし……」

「「「「「「6体1だけど、容赦はしないぜ」」」」」」

「ひ、ひぃぃぃぃぃーっ!!」

【七条 無銘A 死亡】


【理科室】
【名前】七条無銘
【アイテム】なし
【能力】ひとりで7人(残り6人)
【思考】とりあえず長門をリンチする

【名前】長門傀儡
【アイテム】人体模型
【能力】人形を念じるだけで操作できる
【思考】見下してくる奴等に復讐する
1:ひ、ひぃぃぃぃぃーっ!


21 : 名無しさん :2016/05/23(月) 22:43:21 sJiYrxIs0
投下終了です


22 : ◆CvykvQJIqw :2016/05/23(月) 23:06:33 sysJaNeA0
投下します


23 : 鬼&KILL  ◆CvykvQJIqw :2016/05/23(月) 23:07:42 sysJaNeA0
「此処は……校長室……!」

御剣桃太郎の殺し合いは、校長室から始まった。
そのことを認識した桃太郎は、真っ先に校長の椅子の後ろへと目をやった。
いつもならそこには、妖刀オニバスターが飾ってある。
この殺し合いの場においても刀は……飾ってあった。

「……来たで御座るっ…………!」

刀へと駆け寄り、鞘から抜いてみる桃太郎。
刀身の銀色を見ていると、どこからか自信が沸き上がってくるのを感じる。
実際、この刀は何でも斬れそうだ。勝てないものは無いように思えてくる。
いや、今の自分は誰にだって勝てる。力を、妖刀オニバスターを手に入れたのだから……!

「……某はこの刀で、鬼を斬る」

桃太郎は決心した。鬼を斬ること――つまり、理事長に反抗することを。
奴は鬼だ。単位が足りないという理由があろうとも、生徒に殺し合いをさせる畜生が鬼でなくて誰が鬼だと言うのだ。
必ずや理事長はこの妖刀オニバスターで成敗してくれる、と固く心に誓った桃太郎だった。

「……♪」

とりあえず十回ほど素振りをしてみる桃太郎。
妖刀オニバスターは、数多もの鬼を斬り倒してきた刀である。
予想以上に、刀は彼の手に馴染んでいた。





今、桃太郎は廊下を歩き回って参加者を捜している。
一人では理事長を斬るのは困難であると考えた桃太郎は、仲間を捜すことにしたのだった。
童話の桃太郎だって、犬・猿・雉という素晴らしい仲間がいたから鬼を倒せたのだ。

(あの桃太郎伝説を今、此処に再現してくれよう……!)

御機嫌に歩く桃太郎。しかし、そんな時だった。
ドンッ、という音が廊下の曲がり角の先から聞こえてきたのだ。

(音?ということは……)

音がする、つまり人がいる。人がいるということは参加者だ。参加者は仲間になってくれる。
脳内で完璧な式を組み立てた数学赤点の桃太郎は、廊下の先へと向かった。


そこには、鬼がいた。


少し暗いためか、男子か女子か桃太郎にはわからない。
桃太郎からは顔が見えないが、身体中から殺気を漂わせている。
まさに殺意の権化と呼ぶのが相応しい。
まだ桃太郎を認識していないにも関わらず、それでもなおプレッシャーを桃太郎に与えてくる。
桃太郎の本能が、この鬼と敵対してはならないと告げていた。
鬼の名は鏖。鏖は、生徒を全て鏖(皆殺し)にするために動いていたのだ。
そんな鬼を目撃してしまった桃太郎は、思わず身体の動きを止めてしまう。

鬼のインパクトにやられて最初は気付かなかったが、よく見ると鬼の前には一人の女子生徒がいた。
彼女の名前は倉井さわ子。桃太郎のクラスメイトであった。
さわ子は足から血を流していた。鬼の武器……金棒についた血は彼女のものだったようだ。

「たす……けて……」

さわ子の方も桃太郎に気付き、助けを求めた。

(鬼を斬れば……倉井殿は、助かる…………)

鬼は、桃太郎に背を向けたままだ。さわ子の言葉は命乞いだと思っているだろう。今、奇襲をかければ勝てる。


24 : 鬼&KILL  ◆CvykvQJIqw :2016/05/23(月) 23:08:19 sysJaNeA0


(しかし)

もしも、鬼が桃太郎に気付いていたとしたら?
もしも、鬼が背後からの奇襲を読み切っていたとしたら?
……殺意を滾らせる鬼に、確実に殺されてしまうだろう。
そう考えると、桃太郎は動くことができなかった。

鬼がさわ子に一歩近づき、金棒を振り上げる。
その姿を確認した桃太郎は、脱兎の如く逃げ出していた。
衝撃音と何かが飛び散る音が桃太郎の耳に届く。しかし、彼は逃走をやめなかった。





刀を片手に、校長室の前まで逃げてきた桃太郎。
この刀は、本当は妖刀オニバスターという名ではない。
桃太郎が勝手にそう呼んでいるだけの、無銘の刀だ。
そんな無銘の刀が、数多もの鬼を斬ったなどという伝説を持っているはずがない。
桃太郎が妄想の中で刀を振るい、妄想の中の鬼を斬っていただけだ。

彼が普段から使っている、某や御座るといった口調もサムライに憧れているというだけ。
桃太郎は結局のところ、弱い自分を虚偽で塗り固めて強くなったつもりでいただけだった。
いくら刀を持とうが、心の根っこは弱いまま。そんな体たらくで、鬼を斬られるはずがない。

「……」

恐怖、罪悪感、安堵、自己嫌悪。
さまざまな感情を抱え込みながら涙を流す桃太郎。
彼の姿は、桃太郎伝説の桃太郎とはかけ離れたものだった。

【倉井 さわ子 死亡】


【校長室前】
【名前】御剣 桃太郎
【アイテム】無銘の刀
【思考】仲間を集め、鬼を……斬りたいが……

【廊下のどこか】
【名前】鏖
【アイテム】金棒
【思考】鏖


25 : ◆CvykvQJIqw :2016/05/23(月) 23:08:54 sysJaNeA0
投下終了です


26 : 名無しさん :2016/05/23(月) 23:11:46 W519mwZQ0
犬神仁、毒島コロ助、清井純真を予約


27 : ◆Qs5N1ogORI :2016/05/23(月) 23:12:59 W519mwZQ0
トリップ
あと追加で蓬莱かぐや


28 : ◆kVodnS7.Jw :2016/05/23(月) 23:17:26 FdmT./dA0
投下乙です
カンニングで殺し合いに放り込まれるとは恐ろしい学園ですね。絶体絶命のピンチに傀儡がどう行動するのか先が気になります!
台詞が一言もなく、棍棒で撲殺する鏖にはホラー映画のような恐怖を感じました。桃太郎はヘタレですが、今後成長するのかどうか。さわ子ちゃんは合唱

予約に茨木 童子を追加します


29 : ◆IPU8SGkvmQ :2016/05/23(月) 23:32:27 JXncsNHo0
清井純真、韋駄天風予約します


30 : 名無しさん :2016/05/23(月) 23:56:27 sJiYrxIs0
御剣 桃太郎、佐渡 翔 予約します


31 : 名無しさん :2016/05/23(月) 23:59:46 7jAkz94c0
清井は26で予約されてないか?


32 : 名無しさん :2016/05/23(月) 23:59:51 8teHdsmk0
日を跨いでIDが変わったら誰が予約したのかわからないのでトリップ付けた方が良いのでは?


33 : ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/24(火) 00:15:49 1sQX4ySw0
改めて御剣 桃太郎、佐渡 翔 予約します


34 : ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/24(火) 01:32:41 1sQX4ySw0
投下します


35 : 貴方は罪と向き合えますか? ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/24(火) 01:33:47 1sQX4ySw0
狂太郎から逃走した佐渡は、校内を彷徨いている内に、さわ子を見捨てた罪悪感と自己嫌悪で校長室前に立ち尽くしていた桃太郎を発見していた

(あいつ、確か御剣桃太郎……だったか?)

学年は違うが、佐渡は桃太郎の事を知っていた。もっとも個人的な交流はなく、『時代劇のような口調で喋る痛い奴』といった大雑把な知識しか無いが。

先程の狂太郎の教訓から、最初はじっと息を潜めて様子を窺っていた。
何せ日本刀を持ち歩いているし、もし狂太郎のように殺意全快の相手なら、タイマンでも厳しい。
しかし、肝心の桃太郎は、小声で何か呟いたり、頭を抱えていたりと、いつまでたっても動こうとしない。
業を煮やした佐渡は、とりあえず話かけてみることにした。
勿論、いざとなったら直ぐに使えるように、尖ったパイプを背中に隠してからだが。

「おいアンタ、桃太郎だよな 何してんのこんなところで?」

見られているなど予想もしていなかったのか、ビクッ、と過剰なほど反応し、振り向いた。
此方に気がついた桃太郎は、怯えと警戒の入り交じった目で佐渡を見ていた。

(なんだコイツ。まるで捨て犬みたいな面してんじゃねーか)

佐渡はめざとくそれに気がついたか、「まぁ、陰気な奴なんだろ」と軽く受け流した

「貴殿は……?」

佐渡の方は桃太郎のことを知っていたが、桃太郎は佐渡の事を知らなかった。

「あ、別のクラスだから知らねーか。俺は3-Bの佐渡翔。お前と同じ追試組さ」

どうやら狂太郎と違って話は通じるようだと判断した佐渡は、畳み掛けるように会話を続けた。こういう場合は、主導権を握った方が幾らか有利だ

「うちの学園の理事長ってどうかしてるよな。単位が足りないからって殺し合いとか……ところで、お前はどっちなの?」

「ど、どっちとは」

「このイカれた追試に乗ってんのかって聞いてんだよ」

「い、いや。某は乗っていないでござる」

慌ててブンブンと首を横に振って否定する。その滑稽な姿に佐渡は警戒を緩めた。ござる口調も合わさってまるでコントのようだ。

(ござるって(笑)。お前は何時代の人間なんだっつーの)

つい吹き出しそうになるのを堪えながら、佐渡は桃太郎が乗り気でないことを一応は信じた。
この桃太郎からは、必死さは感じるが、狂太郎のような相手と比較しても、殺意は片時も感じ取れない

「俺もかったりーから乗ってねーけどさ、やっぱ殺る気の奴はいるんだなコレが
3-Bの狂太郎って知ってるか? あんちくしょう、出会い頭に俺の頭を斧でカチ割ろうとしてきたぜ」

「そ、そうでごさるか」

鬼に加えて、そんな狂人も校舎にいるのか、と桃太郎は顔を青くする。

「アンタは俺以外に他に誰かと会わなかったのか?」

佐渡の何気ない質問に、桃太郎は息を呑んだ。
桃太郎の脳裏には、助けを求めるさわ子と、恐ろしい鬼(鏖)の姿がフラッシュバックする。
無意識に、ぎゅっ、と刀の柄を握りしめる


36 : 貴方は罪と向き合えますか? ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/24(火) 01:36:32 1sQX4ySw0


「某はーー」

伝えなければ、あの鬼の驚異を……
口を開こうとして、止まる。

なんて言えばいい?
とても恐ろしくて殺人を厭わないような相手を見つけた。
そして、それに襲われ、助けを求めてきた級友を、命惜しさに、見捨てた……そう伝えるのか?

ーーできない

もしも桃太郎が逆の立場なら、級友を生け贄として差し出したなんて話を聞いたら、その相手を大馬鹿者として、大いに責め立てただろう

もしも、佐渡に面と向かって自分の罪を糾弾されたら、自分は、きっと耐えられない。
確実に自分のなかの何かが終わってしまうだろうと直観していた。
そうしたら、もう、憧れる童話の桃太郎とは、名乗るのおこがましいほど別のなにかに堕ちてしまう。そんな、予感がした

「某はーー」

自分の罪を告白するか、それとも秘匿するか。
期せずして佐渡は、桃太郎に大きな選択を迫っていた

(なんだコイツ)

何かを言いかけては黙る桃太郎に、佐渡は訝しげな顔をする。
先程の挙動不審も合わさって、(もしかしてコイツ、どっか狂っちまってんじゃねーのか?)と大変不名誉な疑いを抱いてすらいることに、桃太郎は気がついていないことは幸いなのだろうか……

【校長室前】
【名前】御剣 桃太郎
【アイテム】無銘の刀
【思考】仲間を集め、鬼を……斬りたいが……
1:先程の事を話すべき……だが……
2:鬼(鏖)と狂太郎への警戒

【名前】佐渡 翔
【アイテム】先のとがったパイプ、タバコ、ライター
【思考】適当に生き残るか……
1:なんでコイツこんな挙動不審なの?
2:狂太郎への警戒


37 : ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/24(火) 01:36:57 1sQX4ySw0
投下終了です


38 : ◆IPU8SGkvmQ :2016/05/24(火) 02:05:37 A8Bzl4LE0
>>31
見落としてたわ
じゃあ清井抜き魔導屍追加で予約します


39 : ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/24(火) 02:07:34 AWiqFp7Y0
斧 狂太郎 予約します


40 : ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/24(火) 03:03:03 AWiqFp7Y0
投下します


41 : なまえのないかいぶつ ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/24(火) 03:03:28 AWiqFp7Y0

 僕は怪物になりたい
 怪物には条件がある

 一つ、怪物は言葉を喋ってはならない
 二つ、怪物は理不尽でなければならない
 三つ、怪物は不死身でなければ意味がない

 僕の体は人間だ。不死身にはなれない
 しかし、倒れてもすぐに立ち上がる。当たり前みたいな不死身の怪物を心掛けている
 そうあろうと思っている

 僕は生まれながらに嵐ならよかった
 理不尽な脅威ならばよかった
 一つの炸薬ならばよかった
 心も無く、涙も無い
 ただの恐ろしい暴力ならよかった

 しかし、そうではなかった
 僕はただの人間だった
 
 人間は悲しむ
 人間は傷つく
 人間は挫折する

 しかし、怪物にはソレがない
 だから僕は怪物になりたかった
 だから僕は怪物であろうと決めた

 だから僕は殺戮を行うことにした
 怪物は理不尽でなければならない
 理不尽に人を殺せばきっと僕はより怪物でいられる

 最初のターゲットは同じクラスの佐渡に決めた
 友達だから殺す
 友達じゃないから殺す

 僕がなりたいのはそういったものだ

 
 予想通り、佐渡は教室にいた
 あいつは何時も通り心底つまらないといった顔で煙草を吸っていた
 
 いつも通りすぎて気が抜けそうになった
 でも殺す
 怪物は理不尽でなければならない

 佐渡が何か話しかけてきたが返事は返さない
 怪物は言葉を喋ってはならないからだ
 
 肌身離さず持ち歩いていた斧を力一杯叩きつけたが佐渡は素早くて殺せない
 お前はいつもそうだ。
 どうでもいい風なのにその実なんでもこなしてしまう

 佐渡は僕の力の強さに驚いていた
 僕はちょっと嬉しく思った


「うぐわあああああーっ!!」

 あまりの激痛につい言葉を発してしまったことを後悔する
 僕はまだ完全な怪物に成りきれてないようだ

 涙で滲む視界の隅で佐渡が教室から出ていくのが見えた

「グルアアアアーっ!!」

 怪物は言葉を喋ってはならないが気持ちが昂って止められない



 涙で洗い流されたのか暫くしたら視力が戻った。我に帰ると教室はハリケーンの通過点のような有り様になっていた

 僕は怪物じゃない時は学生をしている
 だから微かに心が痛んだ
 これでは駄目だ
 怪物は理不尽でなければならない
 これでは教室に八つ当たりしただけの不良で終わってしまう

 怪物は悲しんではいけない
 僕は涙を拭った

「……」

 怪物は理不尽でなければならない
 理事長は言っていた。ここからは出られないと
 
 僕は教室を出て佐渡を追いかけることにした
 きっと彼を殺せたら僕はより怪物に慣れる気がした
  

【3-B教室】 
【名前】斧 狂太郎
【アイテム】斧
【思考】佐渡を殺す
1:怪物は言葉を喋ってはならない
2:怪物は理不尽でなければならない
3:怪物は不死身でなければ意味がない


42 : ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/24(火) 03:04:28 AWiqFp7Y0
投下終了です


43 : ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/24(火) 03:21:24 AWiqFp7Y0
智胤 猩々 予約します


44 : ◆IPU8SGkvmQ :2016/05/24(火) 03:27:13 0.p7PtoY0
投下します


45 : 悪魔の青春はねじ曲がる ◆IPU8SGkvmQ :2016/05/24(火) 03:32:30 0.p7PtoY0
 韋駄天風は女子陸上部のエースだ。
 中学時代より、「日本では並ぶものはいない」と噂されるほどの異常な足の速さで数々の章を総ナメにしてきた。
 人懐っこい性格と健康的で可愛らしい容姿から、男女問わずファンが多い。
 付いた異名が『追い風の女神』。
 無論、人外の能力があるわけでも、必ず追い風が吹くような幸運の持ち主でもない。
 男性アスリートでも追いつけないその異常さから、妬みと尊敬を受けて『追い風』の名が付いたのだ。
 しかし、そんな彼女にも欠点があった。

 それは――致命的なほどに頭が悪い事である
 生まれた時から能力値を身体能力に全振りしたかの如く、テストでは全教科0点を続出し、補習の場に彼女の姿を見ない日はなかった。
 まるで漫画の様な点数だが、実際に取っているのだから笑い事ではない。
 スポーツ推薦で入学した彼女は、入試テストも名前を書けば合格だったため、勉強に意味を見出せなかったのである。
 だが、学年の平均点を著しく下げる彼女の存在は――学園長の目に止まってしまったのである。


------


「ねぇ韋駄天さん……ちょっとこっちおいでよ」

 魔導屍は隠れネクロマンサーであった。
 今まではその事実を隠し通して密かに殺しを行ってきたが、どうやらバレてしまったらしい。
 こうなってはなりふり構ってはいられない。
 殺して。殺して。殺して。――死霊の軍勢を作るのだ。
 
 ならば最初の1人は――決まっている。
 韋駄天は以前から彼のお気に入りであった。
 程よく筋肉のついた健康的な足、女性としての魅力を損なわない程度に鍛えられた腹筋、大きすぎず小さすぎない乳房、そして――その美しい顔。
 死体を愛する彼にとって性格は二の次である。
 魔導にとって彼女は最高の素材なのだ。

(ああ……早く死体にしたい……くヒヒッ)

 魔導は脳内で溢れだす欲求にダジャレが生まれたことで思わず口角が急上昇する。
 それ以前に最も欲する女子が偶然にも目の前にいるのだ、元から興奮を抑えることなどできるはずもなかった。

「あっ! 魔導君!」

 韋駄天は何の疑問も抱かずに魔導へと寄ってくる。
 魔導は根暗な性格と気味の悪さから生徒に嫌煙されているのだが、韋駄天はそんなこと露とも知らない。
 ああ、アホで助かった――魔導はほくそ笑んだ。
 魔導のか細い声が聞こえる範囲だというのに、韋駄天は全速力で距離を詰めてくる。
 ――その間、およそ0.2秒。
 身体からの司令が脳へ電気信号として伝わるよりも早く魔導の元へ到着する彼女は、やはり異常だ。

「く、くヒヒッ、韋駄天さん、こんなことになって災難だね。お互い頑張って生き残ろうね」

 堪えきれず魔導の口からは笑いが漏れる。
 しかし、韋駄天はやはり何の違和感も感じていなかった。

「うん! でもどうして先生はこんなことするんだろうね? 全然わかんないよ」

「い、いや……さっき、理事長が言ってたよね。僕らは学園の恥らしいんだよね」

「先生の話難しいんだもん! 全然わかんなかった! ねぇ、恥ってなに!?」


46 : 悪魔の青春はねじ曲がる ◆IPU8SGkvmQ :2016/05/24(火) 03:34:32 0.p7PtoY0

 ――コイツ、ここまでバカなのか。
 魔導は改めて韋駄天の頭の出来具合に呆れ果てる。
 これはもう自分が操る死霊になった方がコイツのためなんじゃないか?とさえ思えてくる。

「あ、そ、そうだ。韋駄天さんに見せたいものがあるんだ」

「えっ! 私に!? なになに?」

 魔導は脇の下に腕を隠し、韋駄天を誘った。
 それに対し、韋駄天は無警戒に顔を近づけてくる。
 ――しめた!

「これさ!」

 魔導が振り上げたのは――折りたたみ式の鉈だった。
 インドア故に腕力のない魔導は、唯一背中に隠し持てる中型の鉈をいつも持ち歩いていた。
 驚愕の表情を浮かべた韋駄天に、魔導はそのまま鉈を振り下ろす。

「うわぁ!」

 しかし、韋駄天は短い悲鳴を上げながら、バク転をしながらそれを避けた。
 しかも狙ってかはわからないが、避けるついでに足で鉈を横に蹴り飛ばしたのだ。
 
「――え?」

 魔導は何が起こったのか理解できなかった。
 彼の脳内には今頃血を吹き出しながら倒れる彼女の姿を思い浮かんでおり、その後の展開を想像してニマニマとにやけてさえいた。
 ところが、現実はそうではない。
 呆けていた時間は2秒にも満たないが、もはや彼の視界に映る範囲に韋駄天の姿はなかった。

『いやああぁぁぁぁぁ…………』

 遥か遠くから聞こえる韋駄天の悲鳴を聞きながら、魔導は我に返った。
 とっさに鉈探すも、それは50メートル程先の木に深々と刺さっていた。
 魔導は億劫そうに、しぶしぶと鉈の方へ向かい、反省点を考える。

(あそこまで直感が優れているとは思わなかったな……次は飛び道具でも用意しないとダメかも……)

 今まさに人を殺そうとしていたにも関わらず、魔導は至って平然とした思考をする。
 常日頃から殺人を犯している彼には、特別なことでは無かった。
 だが、失敗は失敗。韋駄天に殺し合いに積極的であるとバレてしまった。
 韋駄天はその性格から学園中の生徒と仲が良い。
 もしかすると他の生徒にも魔導が人殺しだと触れ回られてしまうかもしれない――彼女にそんな脳があればだが。
 手馴れていても魔導は所詮インドア派、超絶アウトドア派の彼女に近接で挑んだのが馬鹿だったのだ。
 魔導は反省し、のそのそと次の獲物を探しに歩き出す。
 懲りずに死霊の軍勢を妄想して、にやけながら。


【グラウンド】
【名前】魔導屍
【アイテム】折りたたみ式の鉈
【思考】死霊の軍勢をつくる
1:早く誰か殺したいなぁ
2:韋駄天さんには触れ回られると厄介だな


「なんで!? なんで!? どうしてなの!?」

 学園中に響くほどの声量で叫びながら、韋駄天は走る。

「いやだ! いやだよ! 殺し合いなんてしたくないよ!」

 グラウンドを、校舎裏を、体育倉庫の上を。
 さながらパルクールのように。
 韋駄天は走る。

「助けて、怖いよ、純ちゃぁん……」

 脳裏に親友の清井純真の顔を浮かべながら。
 彼女の女神は――どちらに風を吹くのだろう。


【どこかを走っている】
【名前】韋駄天風
【アイテム】なし
【思考】殺し合いなんてやだ


47 : ◆IPU8SGkvmQ :2016/05/24(火) 03:34:56 0.p7PtoY0
投下終了です


48 : ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/24(火) 03:40:14 AWiqFp7Y0
投下乙です
韋駄天さんと魔導のテンションの差に草不可避
あと>>43の予約取り消します


49 : ◆kVodnS7.Jw :2016/05/24(火) 19:14:33 oASlBvFw0
投下します


50 : はっけよい、のこった! ◆kVodnS7.Jw :2016/05/24(火) 19:15:56 oASlBvFw0
「ふーむ。殺し合いか」

教室の壁に凭れかかり、酒呑童子は思案する。
単位が足りないから殺し合えとは理不尽にも程がある手法だ。普通ではない。

「……もっとも普通じゃないのは、この学校自体がそうではあるけどさ」

まともに話すことを見たことがないパワー系に、ロングソードを愛用している騎士気取りに、 爆弾テロを繰り返して国際指名手配された犯罪者に、何か歪んだ正義感を持つ狂人に。
どういうわけか、学園に在籍している者の大半がどいつもこいつもまともとは言い難い奇人変人ばかりである。理事長が言っていたこっちの方が得意とはあながち間違っていないのだろう。
だから遅かれ早かれ、酒呑童子はきっと誰かと戦うことになる。学園の異常さには気付いていたから、今更驚くこともない。

「そうね。この学園は、はっきり言って異常」

酒呑童子の独り言に返す声があり、振り向く。気配は気付いていたが、まさか答えが返ってくるとは思わずに少しだけ驚く。
隙を窺って不意討ちでもかましてくるのかと彼は考えていたが、どうやら違うらしい。入口付近で佇んでいた少女がゆっくり歩き出し、酒呑童子と顔を合わせてにっこりと微笑む。

「あら。その華奢な肉体に相応しい、美少女の様に可愛い顔をしているのね」
「かわいい顔、ね。よく言われる。俗にいうお世辞だとか、テンプレ回答っていうやつ?」
「残念、どちらも不正解です。可愛いものに可愛いって言うことは、自然の原理であり、お世辞やテンプレとは言わない」
「へえ。ボクは男だから、カッコ良いとかそういう褒められ方したいのに」
「成長次第で幾らでもかっこ良くなるんじゃないかしら。ショタとは。男の娘とは――――最大百年もある寿命のうち、ほんの一瞬だけ与えられる煌めきなのだから」
「頭大丈夫?」
「軽くイカれてるに決まってるじゃない。この学園に正常な人間が居ると思う?」
「それは、いるわけないね」
「話が通じて助かるわ。まあ私は他の変態共とは方向性が違って、やりたいようにやってるだけに過ぎないのだけれども」
「どう考えても方向性一緒だから」

容赦なくツッコミを入れてくる少年にくすりと頬を緩ませる。
成る程たしかに、他の生徒もやりたい放題やっているだけに過ぎないのかもしれない。彼に指摘されて初めて気づいた、ちょっとした収穫だ。
しかし物事には節度が必要である。イェスロリータ、ノータッチだとか、幼女は手折るものではなく愛でるものという言葉があるように、他人に迷惑を掛けずして趣味に没頭してこそ一流。無差別的にロリやショタを愛でる荒くれ者がいれば、即破門にすべきなのだ。
だからこそ真宮叶は本当に可愛いと思ったロリやショタにしか手を出さない。淑女たるもの、その程度の信念を貫かずしてどうする――――と本人は思い込んでいる。

「まあ叶えたい願望に素直であることは、同じかもしれないわね。ところであなた、名前と学年と年齢と、あとついでに住所とLINEは?」
「酒呑童子。学年は二年。齢は……ちょっと覚えてない。残り2つは、とりあえずおまわりさん呼んでいい?」
「私は三年の真宮叶。最後の2つを答えてくれないことは残念だけれど、仕方ないわね。それで年齢を覚えてないというのは、どういうことかしら?」
「言葉通りの意味だよ。ボクは人間じゃない。……超能力者や犯罪者がいるように、この学園には人間以外も存在するのさ」
「成る程、それはお姉さんもびっくりだわ。まあ可愛ければ種族なんてどうでも良いのだけれど」
「あっさりだねぇ。あと年齢的にはボクの方が年上」
「異常事態が日常の学園だから、この程度は否が応でも慣れるわよ。それにほら――」

少女は極自然な動作で少年を撫でると朗らかに微笑んで。

「あなたが人外でも、こうして愛でることは出来るじゃない」

そんなことを恥ずかしげもなく言い放った。
たとえ相手が人外の化物であっても、可愛ければ問題ない。自分の願望に従い、愚直に愛でるだけだ。

「それと私がお姉さんであることに年齢は関係ないわ。あなたの実年齢はともかく、まだまだ幼く見えるじゃない。学年的にもあなたを上回っているわ」
「色々とツッコミどころ満載だけど、なんていうかそういう問題?」
「当然よ」

やけに自信満々に応える叶を見て、流石の酒呑童子も観念した。彼女は意地でも自分がお姉さんだと譲らないつもりだろう。
別に自分のほうが年上だと拘るつもりはないのだし、もうこの件について反論することはやめよう。これまでのやり取りでなんとなく、叶の性癖にも察しがついた。

「ところでかな――」
「お姉さんよ。訂正しなさい」
「お姉さんは殺し合わないの?」
「よしよし、いい子ね。後でお菓子をあげる。……ああ、殺し合い? そんなものはどうでもいいわ」


51 : はっけよい、のこった! ◆kVodnS7.Jw :2016/05/24(火) 19:16:35 oASlBvFw0

わざわざ言い直した酒呑童子の頭を撫で回しながら、少女は何の躊躇もせず言い切った。
殺し合いがどうでも良い。それは即ち理事長の命令に真っ向から逆らうということだ。彼女はその意味を理解しているのだろうか?

「端的に言って興味がないのよ。私はいつだって自分勝手に願望を叶える。今もこうしてあなたを可愛がっているように、ね。
 その為だけに生きてるのだから、理事長がどんな命令をしてきても、素直に従うつもりなんてあるわけないじゃない」

そんな爆弾発言を、彼女は澄ました顔でサラリと言いのける。
どうやら彼女はただの変態ではないらしい。超が付くほどのド変態だと、酒呑童子は納得する。

「性癖はともかく、その心掛けはちょっと格好良いと思うよ。でも理事長はこうも言っていた。最後に生き残った生徒が、単位を晴れてゲット」
「そうね。だから最後まで。殺し合いが終わるまで生き残ればいいのよ」
「もしもこの最後が最期の一人という意味だったら?」
「決まっているじゃない。その時は理事長に真っ向から立ち向かって、脱出するのよ」

あまりにも単純明快なアンサーに呆れ返る。
たしかに理事長が殺し合いを強要するのなら彼を殺せば終わりだろう。しかし異常者ばかり集ったこの学園の理事長が、只者だとは思えない。
仲間を集めて対抗するにしても、そんなことが出来る者は限られている。どいつもこいつも性格に難有りで、一筋縄ではいかないことくらい、少し考えれば解るはずだ。

「ふふ。そんなことが出来るはずがない――と思っているのかしら?」
「あの理事長に勝算を見出すのがちょっと難しいかな。その方が燃えてくるといえばそうだけど、理事長は未知数だからさ」
「その通り。私とあなたが束で掛かって勝てる見込みは薄いわ。けれども、そこで諦めて言いなりになるくらいなら、死んだほうがマシじゃない?」

勝算が皆無に等しいことなど、叶はとっくに理解している。"工房"だとか言ってたし、理事長は異能者の類だと見て間違いないだろう。
だがそれがなんだという。脅迫されたから「はい、殺し合います」だなんて、そんな生き方は真宮叶の信条に反する。己が在り方を捻じ曲げられるというのは、彼女にとって死と同然だ。そんな人間は、もはや真宮叶ではない別のナニカである。
だから彼女は迷いなく、真っ直ぐとした瞳で断言した。自分は操り人形ではなく、真宮叶という一人の淑女なのだから。

「……呆れるほどに強気だね。殺し合いに逆らった結果、殺されても良い、と?」
「そういうこと。私は何があっても、どんな時でも、自分の願望通り素直且つ愚直に邁進する――――ただそれだけよ」
「願望って?」
「現在の願望はあなたと共に愉しむこと。それとロリとショタは、見つけ次第保護するわ」
「ふーん。お姉さんはなかなかどうして、頭がおかしいね。それだけはよくわかった」
「性癖は歪んでいるけれど、気高く誇りを胸に生きてるつもりよ」
「そうだね。……うん、たしかにいいと思うよ。その生き方」

如何に歪んだ邪道であっても、それを貫く姿は素直に格好良いと思えてしまう。
この状況でも一切ブレない彼女は正しく狂人だ。この状況でも己が生き様を一貫出来る者が、どれほどいるのだろうか?
少なくとも酒呑童子は揺れていた。即座に行動に移すことが出来ず、どう立ち振る舞うのか迷いを抱いていた。
だが。

「こんなお姉さんの言葉を真に受けるのは、ちょっとだけ癪だけど――――答えは得たさ」

ゆえに進もう。この果てしなき道を、振り返ることなく疾走しようではないか。
本来ならば悪役たる鬼に相応しくない役柄であるが、されど彼は鬼である以前に一人の少年。意地があり、誇りがある。
答えは得た。迷いも晴れた。なればこそ、この先地獄が待ち受けているとしても、立ち止まるワケにはいくまい。
一人の少年が覚悟を決めた、その刹那に。

「おいおいおいおい。黙って聞いてりゃなんですかそりゃ、くっだらねえ三文芝居して英雄譚でも魅せようって算段かにゃあ?」

――――甲高い声が響いた。
廊下からズカズカと入ってきた童子が、ケタケタと嗤いながら向かってくる。

「久しぶり……っていう程でもないけど、会うのが早かったね、茨木童子。それとボクは別に英雄じゃないさ」
「あら、これはまた可愛いロリね。ショタに続いてロリに遭遇出来るだなんてツイているわ」

言葉と裏腹に叶の表情は笑っていない。
二人のやり取りを見て、穏やかでないことはすぐに理解出来た。それに新たな乱入者の態度は、明らかに好戦的である。
もしも幼女が殺戮を企んでいるのならば、戦闘は避けられないだろう。少年を庇うべく一歩前に出ようとしたところ――ほっそりとした華奢な片手で制された。


52 : はっけよい、のこった! ◆kVodnS7.Jw :2016/05/24(火) 19:18:00 oASlBvFw0

「……何のつもりかしら」
「お姉さん。今ボクの前に出ようとしたけど、戦えるの?」
「可愛いショタのためなら余裕ね。お姉さんっていうのは、そういう生物なのよ」
「冗談じゃなくて、さ」
「ジョーク抜きでお姉さんはそこそこ強い方よ。事実、格闘技ならそこそこ嗜んでいるわ。この世に蔓延る悪(ろりこんしょたこん)からロリとショタを守護る為に」
「ロリコンショタコンって明らかにお姉さん自身も入ってるよね。まあ多少でも戦えるならいいけどさ」

叶は胸を張ってそう語るが、超人レベルで肝が据わっているだけの一般人にしか見えない。
茨木童子と戦うには無理があるだろう。酒呑童子は叶を庇うように前へ出る。英雄を気取るつもりではないが、彼女の語る邪道は実に気に入った。
それに少女に庇われるというのは、男として情けない。彼は背丈が小さく、肉体も華奢だが、歴とした男なのだ。負傷もしていないのに、女の陰に隠れて堪るものか。

「お姉さんは正義のロリショタコンよ。……それにしても、あなたって意外と頑固なのね」
「これでも男だから」
「あら、かっこいい。男の娘の意地っていうやつかしら」
「オトコノコじゃなくて、男の意地さ」

頑なにオトコノコ呼びを訂正する酒呑童子に、叶はくすくすと微笑む。
今の彼は可愛いだけでなく、かっこいいと心からそう思う。しかし所詮は子供だ。向こうの幼女も矮躯だとはいえ、この少年が叶の守護なくして生き残ることは難しいだろう。
だからいざという時は自分が助ける。それまではこの小さな勇者の戦いを見ていようと、彼女は決めた。

「作戦会議は終わったかにゃあ?」
「うん。わざわざ待っているだなんて、相変わらずよくわからないところで優しいね」
「不意討ちかましても勝っても、そんなのつまんねえ糞勝負だろ。戦は正々堂々真っ向から――そんな作法も守れねえ奴はもはや、生きてる意味すらねえのさ」
「そうだねぇ。白鵬が優勝した時のブーイングの嵐にはドン引きしたよ。ああいう作法も守れない輩は、畜生未満さ」
「そいつは俺も同意。白鵬は何一つ反則してねえのに観客共は騒ぎ過ぎなんだよ。モンゴル人の優勝がそんなに嫌なら、てめえら日本人力士が強くなれって話だろ」
「やっぱり茨木童子も白鵬が好きなんだね。ドルジ派だとも思っていたけどさ」
「どっちも好きに決まってんだろ。POWも好きだぜ、気合いが感じられてたまらねえ。ヒマをぶっ倒した時は興奮しすぎて濡れたしっ」
「犬じゃないんだからさ……」
「あ? POWの雄叫びを封印させやがった奴はぶっころ。ついでにお前もぶっころ」
「その威勢が良いところも昔から変わらないよね。首投げ見せてあげようか?」
「豪栄道豪太郎は関係ないだろ、いい加減にしろ!
 そんじゃあ――――イっくぜえ! 行司!」

「お姉さん。今のやり取りでなんとなく察したと思うけど……」
「ええ。ロリショタの頼みなら断る理由もないわ」

酒呑童子に促された叶は快く頷き、承諾する。
彼らの会話自体は半分くらいしか理解出来ないが、白鵬の名前が出てきたということはきっと相撲なのだろう。
であれば、彼女が成すべきことは一つ。ロリとショタがそれを望んでいるのなら、その願いを叶えるまでだ。

「はっけよい――――のこった!」

軽快に響く行司の声。それは紛うことなき開戦の合図。
両者、勢い良く地を蹴り疾走する。一筋の閃光を思わせる彼らは、一瞬にして互いの射程距離へ突入した。
武器は何一つ手にしていない。己が肉体のみを頼りに、鬼共は闘い抜いてきた。

「「ホゥッ!」」

まるで示し合わせたかのように雄叫びをあげ、互いの平手をぶつけ合う。
張り手だ。相撲ではこうした張り手合戦も珍しくない。相撲とは神事であり、格闘技でもあるのだ。
互いに華奢な腕に反して、その実繰り出される技は大砲を思わせる超速の数々。ばちり、ばちりと聞こえる音はまるで雷のソレである。
それは決して、彼らが鬼だからではない。どれほど優れた鬼でも、稽古なくしてこれほどの御業は振るえないだろう。
ゆえに答えは実に簡単。人の何倍も稽古をして、徹底的に技術を鍛えあげる。たったそれだけ。されどそれ程にも稽古を積み重ねた。
あの白鵬も常人の何倍も弛まぬ努力を積み重ね、無双に至る強さを手に入れたのだ。常人であれば呆れ返るほどの基礎訓練を何倍も行い、出稽古も頻繁に訪れる。
そうして手に入れた実力は、正しく頂点に相応しいものだと、彼の戦績が雄弁に語っている。生真面目な努力の鬼こそが、相撲を制したのである。
伝説の大横綱として語り継がれている大鵬も、努力の重要性は何度も口にしている。彼らは決して天才ではなく、弛まぬ努力の結果として頂へ立ったのだ。


53 : はっけよい、のこった! ◆kVodnS7.Jw :2016/05/24(火) 19:18:54 oASlBvFw0

その想いは後世へ語り継がれ、白鵬を通して再び大鵬はスポットライトを浴びる。
白鵬の由来は大鵬と柏戸――彼らの真剣勝負が白熱していた時代。柏鵬(はくほう)時代からとられたものだ。
横綱白鵬の並々ならぬ努力が人々の心を掴み、大鵬の遺志が再び返り咲いた現世。二人の鬼もまた、彼らに魅せられた者たちである。

「腕を上げたね。それでもまだまだ、白鵬や大鵬ほどじゃないだろうけどさ」
「そいつはあんたも同じだろうがよ! まあでも愉しいぜ、俺は今生きてるって感じがする」
「ボクたちは実際生きてるけど、言いたいことは解る。不謹慎だけど楽しい」
「全く本当に不謹慎なこった。命が懸かってるからこそ余計に愉しくて、愉しくて、堪んねえ」
「……予想は出来ていたけけど、茨木童子は他の人を殺す気なんだね」
「土俵に立っちまえば、そいつら全員敵だろ。だから全力で叩き潰す――そんな簡単なことも理解出来ないのかにゃあ? 酒呑童子くゥゥゥん!?」
「その結果、理事長に道化だと嘲笑われたとしても?」
「外野がなんて思おうが、俺様の人生にゃ関係ないからな。この快楽を貪れるなら悦んで踊ってやるさ。お前は精々英雄気取ってろや、未来永劫小結くん」
「稀勢の里のこと? 彼はプレッシャーに弱いだけでかなりポテンシャル秘めてると思うけど……」

互いに憎まれ口を叩きながら、平手の応酬は止まらない。
一撃一撃が素人ならば、負傷を免れない絶技であるが、達人同士の戦いでそんなものは、軽傷にも成り得ない。

「このままでは拉致があかない、ねっ!」

だからこそ、どちらかが次なる手を打つ必要があった。
先に動いた者は酒呑童子。言葉を発すると同時に茨木童子の足を蹴る。蹴手繰りと呼ばれる技だ。
されどそう簡単に引っ掛かる茨木童子ではない。彼女はなんとジャンプをすることで躱し、あろうことか空中で体勢を整えて踵落とし。相撲では本来有り得ない戦法を用いた。

「予想通りだね。その型に嵌まらない傍若無人さは、嫌いじゃないけどさ」

迎え撃つは――――対空突き出し。
茨木童子は昔からそうだった。相撲だけに拘らず、相撲以外の勝負では様々な型を取り入れている。
これは殺し合いだ。土俵もなければ行司もいない。最後まで生き残った者こそが勝者であり、相撲のように土俵から出せば勝ちというわけではない。
二人が攻撃的な技ばかり用いる理由はソレだ。相撲の代表的な決まり手――――寄り切りなどは今この場において、意味を成さない。

「あん? 戦闘に特化した相撲なんてやるお前も、パンピー共から見りゃ大概傍若無人だぜ」
「言えてる」

茨木童子の反論の最もな反論に苦笑する。たしかに自分も大概可笑しいだろうと、酒呑童子は自覚している。
しかしそれが彼の流儀なのだ。相撲こそが彼の生きる道なのだ。なればこそ、如何なる場であれど、それを貫くことは至極当然。
そして酒呑童子と茨木童子が他愛のない言い合いをしている間にも戦闘は止まることなく――――そして両者の技が交差する。
少女の踵は少年の左肩に。彼の突き出しは、彼女の腹へ的確に打ち込まれた。

「っ、たぁ」

酒呑童子は僅かに呻き声を出しながらも、鮮烈な痛みに堪える。
突き出しの直撃を受けた茨木童子は、扉を突き抜け、大きく吹っ飛ばされたが、踵落としの傷跡は存外に深い。

「……やったのかしら」
「まだ、かな。茨木童子がこの程度で倒せるなら苦労しないさ」

先の一撃を受けた左肩を抑えながら、叶の問いに応える。
本来ならばアレは変化で受け流すべきであったのに、つい対空技を使ってしまった。これは恥ずべきことだろう。
おかげで左肩にあまり力が入らない。あの絶妙なタイミングで放ったのに、良い踵落としだったと認めざるを得ないだろう。
しかし傷を負ったのは何も自分だけではない。先の対空突き出しは加減のない一撃だ。確かな手応えはあったし、きっと向こうも相応のダメージを受けているに違いない。
されど相手は茨木童子。凄まじい戦に対する執念としぶとさは、鬼の中でも上位に位置する猛者である。あれで仕留めたとは言い難い。
……だがそれがいい。次に出会った時は、今度こそ勝敗を決してやろう。


54 : はっけよい、のこった! ◆kVodnS7.Jw :2016/05/24(火) 19:19:26 oASlBvFw0

「とりあえずお姉さんの武器を調達しよう。またいつ戦闘になるか解らないから、護身具くらいは――」

そこまで言い掛けて、酒呑童子の口が止まる。ひゅ、という軽快な音と共に叶からモップを向けられた。

「二人が戦っている間に調達しておいたわ。体育館から竹刀でも拝借したいところだけれど、今はこれで我慢ね」
「思ったよりいい動きをするね。これならたしかに、無駄な心配だったよ」

床に置いてあったモップを手に取り、一瞬の間に切っ先を向ける。
その動きは明らかに素人のものではない。ただそれだけで、相当の使い手だと窺い知ることが出来た。
モップという選択も絶妙だ。モップは手軽に調達出来る割に、武器としても侮れない性能を秘めている。力ある者が振るえば、たとえ棒であれど武器と成り得るのだ。
突いてよし、振るってよし。リーチも長く、接近戦に限らず中距離攻撃にも向いている。今現在教室にある道具の中では、最も使いやすく便利な部類だろう。意図的に選んだのならば、大したものだ。

「ね。願望を叶える為には心技体を鍛える必要もあるのよ。
 それとこんな服も発見したわ。着なさい」

怪しげな笑みを浮かべた叶に、さっと何かを手渡される。
どんなものかと思えば、それは女子制服だった。いったいどこで見つけたのやら、彼女のマイペースっぷりには頭が痛くなる。

「何度も言うけど、ボクは男さ」
「だがそれがいい。ほら、わかったら着なさい」
「イミガワカラナイ」
「着なさい。お姉さんの言う事が聞けないなら――」
「聞けないなら?」
「愛の説教部屋8時間を開始します」

このお姉さんは全く何を言ってるのだろう?
あまりにも理不尽な要求に呆れ果てるが、何度拒否してもたぶん結果は変わらない。相撲を愛する少年、酒呑童子はため息混じりに女子制服を着用するのだった。

【2-A 教室】
【名前】酒呑 童子
【アイテム】なし
【思考】理事長に逆らう。襲ってくる者は相撲で撃退
1:茨木童子とは次回の取組で勝敗を決する。
2:このお姉さんマイペースすぎるよね

【名前】真宮 叶
【アイテム】モップ
【思考】私は普段通り願望を叶えるだけよ
1:ロリショタは保護するわ。けれども、危険人物は例外よ

「にゃろお、これが対空技の威力かよ」

酒呑童子の突き出しで吹っ飛ばされるも、相も変わらぬ態度で嗤う茨木童子。身体の節々が痛むし、負傷も馬鹿にできるものではない。
だがそれが彼女にとっては、堪らなく嬉しかった。強者と本気で戦うことへの悦びに、身を震えさせる。
酒呑童子とは鬼仲間の幼馴染だが、こうして全力で戦に望んだのは久々である。最後の取組からどれほど成長したのか、小手試しのつもりだったが、予想外の手応えに歓喜せずにはいられない。
それはきっと向こうも同じだろう。だから次に遭遇した時は、確実に仕留める。幼馴染を殺すことで、勝利を掴み取る。
まったく理事長は、本当に良い提案をしてくれたと思う。全力で殺し合う者の、魂の煌めきが愛おしい。

「さぁてお次の相手は誰かにゃあ? 先のことを考えるだけで濡れそうだぜっ」

殺し合いの場に相応しくない愉快な声を漏らすと、軽快にスキップをして茨木童子は征く。
彼女は骨の真髄まで鬼だ。戦と相撲を好み、殺戮に一切の罪悪感を抱かずに、この人生を謳歌してきた。
これまで過ごしてきた時間に比べれば八時間なんて刹那に等しいが、それでも良い。生徒たちに何かしらの思い入れがないと言えば嘘になるが、それでも構わない。
この快楽を貪り尽くす為ならば喜んで修羅となろう。たとえその果てに破滅が待っていたとしても。何故なら少女は、鬼と蔑まれていた者なのだから。

【どこか】
【名前】茨木童子
【アイテム】なし
【思考】殺りたい放題戦ってやる
1:酒呑童子とは次の勝負で勝敗を決する。


55 : ◆kVodnS7.Jw :2016/05/24(火) 19:19:58 oASlBvFw0
投下終了です


56 : 名無しさん :2016/05/24(火) 21:12:50 QXdEBQqE0
長いっすね


57 : ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/25(水) 00:17:16 mqMfClmo0
投下乙です
相撲で決着をつけるロリシュタに大草原。変態なのに信念を貫く真宮はカッコいいですね。変態なのに……
鏖、信条正義、荒谷善次郎 予約します


58 : ◆Cf8AvJZzb2 :2016/05/26(木) 03:05:39 jfqLgxSY0
投下します


59 : 覚悟 ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/26(木) 03:11:29 jfqLgxSY0

「さっそく悪を討伐にいきましょうか、先輩!!」

自らの行いを絶対正義と硬く信じている正義狂は、味方である善次郎と自己以外の全てを悪と断定し、皆殺しの道を歩もうとしている

「うーん、ずっこ此処に居ても仕方ないしね」

縁あってそれに同行していた善次郎も、苦笑いを浮かべながら提案に乗った
当然、同じ風紀委員として過ごしてきた善次郎は、彼女の異常性を把握している
だが、どのような意図で動こうとも、現時点では正義と行動を共にすることが最善だと判断していた。
殺し合いに乗るのは嫌だったが、死ぬのは当然、痛いのもゴメンだ。
学園内の悪(正義の独断で認定)を暴力で粛清し続けてきた彼女は、確かに実力がある。
この学園の奇人変人魑魅魍魎たちが相手でも、それなりに渡り合えるだろう

「じゃあ何処にいこうか?」

善次郎の言葉に、そう言えば行き先を決めていないことに気がついた。
そこで、正義は幾らか学園のDQNがたむろしている場所を把握していたので、それを善次郎に教えることにした。
この状況だと、仲間内でそこに集合することも十分に考えられるからだ
そこを一網打尽にしてやる!!と独善的すぎる使命感に燃える正義

「そうですねー、悪が集合しそうな場所は……」

 その時だった。
 グワッシャーーン!! と図書館の玄関の扉が派手な音を立てて、まるで紙細工のように簡単にはじけ飛んだ。突然の出来事にやや面食らう正義と善次郎。

ーーなんだアレは?

粉砕した玄関からのそりと現れたのは、まさしく悪鬼だった
外見上は、やたら長身なところを除けば、普通の女子だった
指定のセーラー服を着ていることから、学園の女生徒であることは疑いようもない

だが、あの目はなんだ

ただただ『殺す』という意思のみしか感じられないあの目は、とても同じ人間とは思えない

空間が歪んでいるように錯覚してしまいそうなほどの、高密度の殺気がその場を満たす 
鏖が手にしている金棒には、血肉と髪の毛がべっとりと張り付いていた。それを見た善次郎は顔色を変えた。

「さっそく悪のお出ましですね!粛清してや「待って待って待って」ぐへぇ!?」

やはりと言うべきか、獰猛な笑みで鏖に突っ込もうとする正義の首根っこを慌てて掴む。

「せ、先輩、離してください!あの女はまごうことなき悪です!!退治しなくては」
「君ならそう即決すると思ったけどさ、アレ相手に今の装備じゃ渋いって!!」

あの女子は間違いなく人外の何かだ。しかも、既に誰かを殺していることは明白
見た感じ会話も通じなさそうだ。仮に応じたとしても、あの分かりやすすぎる「悪」を、正義が見逃すとは思えない。
だが、こちらはナイフに対してあっちは金棒。どう考えても不利だ。せめて生徒鎮圧用の銃でもないと……
どうやってこの状況を凌ぐか、暴れる正義を担いで撤退を図りながらも、頭をフル回転させて考える

「離し……先輩後ろ!」



「ほ、本棚を!?」

背後を振り返った善次郎は目を丸くした
馬鹿げた光景だが、予想してしかるべきだった
同年代の、しかも女子が、片手で本棚を持ちあげていた
鏖はそのまま大きく振りかぶると、躊躇することなくふたりへ棚をぶん投げた

「うおおおおおおおお!?!」

凄まじい速度で棚はふたりを掠め、他の棚を巻き込みながらも正面の壁に叩きつけられた。
少しでも避けるのが遅かったら、これだけで重傷、悪ければ死んでいた。それを察した善次郎は冷や汗を流す

「く、やりますね。悪のくせに……」

正義が悔しそうに歯軋りする。確かに、あれを粛清するのは苦労しそうだ


60 : 覚悟 ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/26(木) 03:12:10 jfqLgxSY0

鏖はtはありそうな金棒を、まるでプラスチックのバットのごとくブンブンと振り回し、二人の方へとジリジリと歩み寄ってくる。
遠心力で金棒から飛び散った肉片が、善次郎の頬に少しくっついたが、それどころではない。

あんなもので、あんな馬鹿げた力で殴られたら、即死!

そうなったら、晴れてあの金棒にへばりついた先人の仲間入りだ。そんなのはゴメン被りたい。

必死に最善の策を考える善次郎を嘲笑うかのように、鏖はわざとゆっくりと歩いているようだった。
残像を残しながらスイングされる金棒の余波だけで、周囲の本棚は倒壊。運悪く金棒に掠めた本は紙切れとなっていく。

(ーーーやるしか、ないか)

ポケットのなかに隠していたナイフを握りしめ、善次郎は覚悟を決めた

【図書館】

【名前】新谷 善次郎
【アイテム】ナイフ×2
【思考】
0:殺し合いは嫌だが、信条について行くことにする
1:痛いのは嫌だけど……やるしかないか
2:アレと戦うなら、せめて銃が欲しかったな

【名前】信条 正義
【アイテム】なし(『私にとっては正義の心こそが唯一無二の武器なんです!』)
【思考】
0:殺し合いなんて良くないことです! だから参加者や理事長は全員殺します!でも『正義の味方』である先輩だけは殺しません
1:あの悪を殺さねば!

【名前】鏖
【アイテム】金棒
【外見】学園指定のセーラー服を着用した長身の女子
【思考】鏖


61 : 覚悟 ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/26(木) 03:12:30 jfqLgxSY0
投下終了です


62 : 名無しさん :2016/05/26(木) 21:56:24 geJnC/260
投下乙です
鏖相手にも怯まない正義ちゃんは正義の味方の鑑


63 : ◆TrIrMpTkS2 :2016/05/26(木) 23:48:27 cak4f9/c0
智胤 猩々、雉凪 結城 予約します


64 : ◆TrIrMpTkS2 :2016/05/27(金) 01:13:25 X38YwiLU0
投下します


65 : スウィートポイズン ◆TrIrMpTkS2 :2016/05/27(金) 01:14:28 X38YwiLU0
 
「いやー、やっちゃったねえ」
「ほんと、やっちゃったなあ」

理科準備室。
二人の男女が椅子を二つ並べて隣り合いながらのほほんと談笑していた。
男のほうは「ちつてと」とプリントされたTシャツを着た腫れぼったい目の二枚目系、
女のほうはきび団子のような丸いシュシュで羽のように軽い髪を後ろに束ねた、まあどちらもどこにでもいそうな学生だった。

この学園にはピンからキリまでいろいろな生徒がいるが、この2名は普通よりの2人だ。
特殊な生い立ちも特殊な能力も特殊な性癖も特にない感じの。

「いやー、やっちゃったよねえ、まったく」
「ほんとだよな、まったくな」

ではそんな2人がなぜ真面目に授業も出ず、テストもさぼり、単位欠乏学生となり、
この魑魅魍魎跋扈するジゴクの追試験の参加者となってしまったのか?

答えはこの2名から漂うほのぼのとした――ある種ほのぼのとしすぎているほどの暖かいオーラを見れば一目瞭然だろう。
そして、並ぶ椅子の近さ。
さらには、右手と左手を指いっぽんずつ、固く組んで垂らしている、そのつなぎ方。

「……らぶらぶしすぎたよねえ……」
「……らぶらぶしすぎたなあ……」
「あ、ごめんちゅーしたくなってきた」
「まじか俺もだわ」
「んー」
「ちゅー」

重なる唇はのほほんと深い。
そう、この男女――智胤猩々と雉凪結城はバカップルなのだ。それこそ、甘すぎてバカになってしまった感じの。





「いちゃいちゃしていたら三十分くらい経ってしまった」
「で、どーしよう、ともくん(智胤のこと)。これから……」
「いや雉ちゃん(雉凪のこと)、どーするかって決まってるっしょ」
「だよねえ」
「もちろん、もっといちゃいちゃする」
「さすがにだめだよぉ……」

へにょりと苦笑いする雉凪だった。
でもしなだれかかりはするし、ついばむように首元を数回吸ったりはする。

「こんなことしてて殺されたら末代までの恥だよお。んちゅ」
「死んだら末代もなにも俺らの代で終わりなのでは……あ、くすぐってえ」
「うー……もういいやどうでもー。うにゃー、ともくんの肩おいしい……」
「かぶりつくなかぶりつくな。吸血鬼じゃないんだから」
「あ、鬼といえば」

ふと思い出したように雉凪は顔を上げた。唾が糸を引く。甘噛み跡。

「鏖(みな)ちゃん←愛称。たぶんあの子も参加、しちゃってるよねえ……」
「クラスメイト?」
「うん。あのね、私の隣の席なんだけど、すごく目線が怖くてね。無口だしよくわかんない子なの」
「ほう」
「でね、らぶらぶしすぎてぜんぜん勉強してなかったから私。この前のテスト絶対クラスで最下位かなって思ってたんだけど」
「思ってたんだけど、そのミナちゃんが最下位だったと」
「うんうん。私が0点で―、鏖ちゃんが、マイナス15点だったの」
「ほうマイナス……
 ちょっと待てマイナスってなんだ?」
「すごいよね。どうやって取るんだろ、マイナス15点って」
「すごいな……?」

さすがのバカップル2名もテストで0点以下を取ったことはない。
自分たち以下のどうしようもない点数が存在することに喜べばいいのか、
あるいは理解外の点数の存在に不思議を感じればいいのか、少し混乱する2名。
けっこう混乱する2名。
正直ぐるぐるする2名。

「もみ」

もむ男子。


66 : スウィートポイズン ◆TrIrMpTkS2 :2016/05/27(金) 01:15:42 X38YwiLU0
 
「あー、どさくさに紛れておっぱい触らないの」
「すまん、混乱するとつい手が癒しを求めて……だって怖いだろマイナス15点とか」
「理解できないよねぇ」
「ほんと、理解できねーよ。どうやったらそうなるんだよ」
「ねえ」
「どうなったらこうなるんだよ」
「……ねえ」
「……俺はこえーよ」
「……ともくん」
「常識はずれな奴らも……この学校も、さあ!」

体をひねり、比較的豊満な彼女の胸に飛び込む智胤。
雉凪は仕方ないなあと笑いながら頭を抱きかかえ、押しつけ、頭を撫でてあげる。
智胤は早鐘を打つ心臓の音を聞いた。
くっついていないと怖さでどうにかなりそうなのは2人とも同じだった。

別に2人は忘れてはいない。
今が、ここが、2人のいるこの空間が、
らぶらぶしていい空間ではなく、殺し合いの最中だということは。

「……俺は。殺されたくもないし、殺したくねーよ」
「うん。私も。ともくんが死ぬところとか、見たくないもん」
「正直な。鬼みてーなのが闊歩してる中で、俺ら2人はどーにもならねーと思うんだわ。
 いきなり雉ちゃんと会えただけで、俺としてはさ、もう、死んでもいいって思ったよマジで」
「うん、うん」
「情けねえわ俺。男なのにな。こうなんか、雉ちゃん守って死ぬとか、そういうのやるべきなんだろうけど」
「いやだよそんなの。残された私の気持ちにもなってみてよ。ちゅーしても冷たいんだよ?
 抱きしめても固くなってるんだよ? 好きって言っても返してくれないんだよ? 無理だよ……無理だよお……」
「泣かないでくれよ……じゃあもうするしかねーじゃんか……」

智胤は顔を上げ、振り返って壁際を見る。
そこには棚があり、それは薬品の保管棚であるようだった。
おそらく化学部あたりが保管しているのだろう、ドクロマークのシールが張られた瓶詰めの液体が並んでいた。
ごくり、とのどを鳴らす。

これを使えば。

「私、怖くないよ」

雉凪は智胤に向かって笑いかける。

「ともくんと、一緒だから」

繋いでいる手からは震えが伝わっていたが、表情からはそんなそぶりは見せなかった。
ああ、俺はこいつのこういうところに惚れたんだよなと、智胤は改めて思った。





「やっぱり末代までの恥かなあ?」
「いやいやだから、末代もなにも……まあいいや、ほら、じゃあ」
「ん」
「地獄の果てまで好きだぜ、雉ちゃん」
「天国の向こうまで愛してるよ、ともくん」

重なる唇はのほほんと深い。
髑髏の瓶は一つ、分け合って、空になっている。

交わし合った液体は、なかなか甘い味だった。



【智胤 猩々 死亡】
【雉凪 結城 死亡】


67 : ◆TrIrMpTkS2 :2016/05/27(金) 01:18:45 X38YwiLU0
toukashuuryoudesu.

内藤ナイトと手呂爆で予約します。


68 : ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/27(金) 01:33:45 m2JeTlKo0
toukaotuudesu.
無理心中したカップル……天国で幸せになれれば良いですね。鏖ちゃんのマイナス15点に草www

韋駄天 風 予約します


69 : ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/27(金) 02:41:15 60y7q42Y0
投下します


70 : なんで追試で殺し合う必要があるんですか?(正論) ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/27(金) 02:43:33 60y7q42Y0

 叫んで走って、また叫んで走って、さらに叫んで走る。理不尽な状況に対する混乱や、クラスメートの凶行への悲しみを、韋駄天はそうやって発散させた。

「はぁ……はぁ……」

 しかし後先考えずに走り回って、体力が取り柄の彼女もさすがに息を切らしていた。
健康的に日焼けした体は大量の汗で、妙な色気を醸し出している。

ーーやっぱり、走るって良いな

 全力で発散して、ちょっとスカッとした韋駄天は、ここで漸く自分が何処にいるのか気がついた。
 気がついたら、いつの間にか校舎のなかに駆け込んでいたらしく、韋駄天は校内の放送室の前に居た。

(魔導くん……なんで、あんなことしたんだろ)

 韋駄天はクラスメートからの悪意に酷くショックを受けていた。
確かに魔導は無口な男子だったが、そう悪い人ではないと思っていたのに……

ーーきっと、こんな酷い追試なんかに参加させられて、混乱してるんだ!!

 まったくの誤解である。
 魔導は日頃から韋駄天を見かける度に、彼女を殺してしこたま死姦する妄想に浸っていたような男であるが、悲しいかな天然というか純粋というか、韋駄天はそんな事にはこれっぽっちも気がついていなかった。
 
 韋駄天の思考の根底には、
 クラスの皆は皆良い人!→もちろん魔導くんも良い人だよ!→良い人だから本当は殺し合いなんてしたくないはず!
 という単純というか、変化球すぎる公式が成り立っていた。

「うぅ〜、どうしよぉ〜」

 あまり得意ではないが、頭を抱えて韋駄天は考えた。どうすれば良いのかと
 すると奇跡が起こった。
 韋駄天の灰色の脳ミソにパンパカパーーーン!!!とアイデアが浮かんだのだ。
 彼女はそれがとても素晴らしいアイデアだと確信し、即時即決、すぐに行動に移した



『あー、テステス。皆聞こえるーっ? 

 私、2年の韋駄天 風 だよ! 今、放送室に居るの!!
 あのね、私馬鹿だから、先生たちがどうしてこんなことするのかわからないけど……
 人を傷つけるなんて、間違ってるよ!
 皆だって、殺し合いなんてしたくないよね!私もそんなの嫌!!!

 だから、皆で先生たちに「嫌だよー」ってお願いしよう!

 必死に勉強するって反省すれば、きっと先生たちもわかってくれるよーっ!
 私は放送室で待ってるから、「殺し合いなんてヤダー」って人は来てね!!


 あ、あと魔導くん!私、さっきのこと気にしてないから!!怖かったんだよね!!大丈夫、仲直りしようね!!』



 それを最後に、韋駄天はマイクを切った
 校舎全体に放送された言葉は、嘘偽りのない韋駄天の心境である。
 心を込めて話せば、きっと皆もわかってくれると彼女は信じていた。
 だが韋駄天は気づかない。
 放送に釣られてやって来る追試組が殺し合いに乗っていたらどうするとか、
 そもそも最後に付け加えた一言で、魔導の立場が悪くなりはすれど良くなることはないということにも、彼女は気がついていなかった。


【放送室】
【名前】韋駄天風
【アイテム】なし
【思考】
0:殺し合いなんてやだ
1:放送室で皆を待つ
2:きっと魔導くんも怖がってただけなんだよ(名推理)

【備考】
韋駄天によって校内全体に放送が流れました


71 : ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/27(金) 02:44:17 60y7q42Y0
投下終了です


72 : ◆CvykvQJIqw :2016/05/27(金) 19:01:13 /fmBGP3k0
投下乙です
韋駄天ちゃんの名推理と正論。人を信じるのは素晴らしいことです。

斧 狂太郎、魔導 屍 予約します


73 : ◆CvykvQJIqw :2016/05/27(金) 21:24:56 /fmBGP3k0
投下します


74 : ◆CvykvQJIqw :2016/05/27(金) 21:25:26 /fmBGP3k0
韋駄天に逃げられた魔導は、校舎の中へと入っていた。
グラウンドには誰も見当たらないし、校舎から一方的に見ることができるグラウンドにいては不利になるだけだと判断したのだ。
ネクロマンサーの自分が参戦しているのだ。銃使いや遠距離魔法の使える魔法使いが参加していてもおかしくない。
……と理屈を並べはしたが。実際は、外よりも建物の中の方が落ち着くという魔導の気質が大きな理由だった。

魔導は次の獲物を探して校舎を歩いていた。
先ほど逃げられた韋駄天でも、他の生徒でも、生きていても死体でも良かった。
死霊の軍勢を作るためには、とにかく人が必要だった。

(……おっ)

やがて魔導は、前方に一人の男子生徒を見つけた。
その生徒……狂太郎は、筋力に自信のない魔導には振り回せないであろう斧を軽々と持ち歩いている。
良い死体になってくれそうだ、と魔導は思った。

しかし、ここで一つ問題がある。それは、狂太郎をどのようにして殺すかだ。
魔導は韋駄天と会った時のことを思い返していた。
運動神経に優れるとはいえ、何も武器を持っていない女子生徒に遅れを取ってしまった魔導である。
斧を持っている狂太郎とまともに戦うという選択肢は、彼の中から真っ先に消えていた。

次に魔導が思いついたのは、相手に何もさせずに殺害する――つまりは暗殺であった。
今、狂太郎は魔導に気付いていない。このアドバンテージを利用すれば、暗殺することも容易だろう。
だが、暗殺にも問題はある。ターゲットに近付くにつれ、気付かれるリスクが高まってしまうことだ。
魔導が日頃から殺してきたのは一般人だ。危機に面した時に攻撃・逃走などの行動を取れる一般人はそうはいない。
そのため、気付かれたとしても、パニックに陥っている間に殺すことができた。
しかし、この殺し合いにおいては他の生徒は全て敵。
もし気付かれれば、狂太郎は斧で魔導に襲いかかってくるだろう。
最終的には正面衝突となってしまう。魔導はこの選択肢もボツにした。

少し消極的な案だが、魔導は狂太郎を尾行することにした。
魔導は、狂太郎から危険人物のにおいを感じ取っていた。
危険人物は、死体か怪我人を作ってくれる。
死体はそのまま操れば良いし、怪我人は殺しやすいので殺してから操れば良い。

(さあ、頑張って争いを起こしてくれ……ヒヒヒ)

魔導は、自分の未来を妄想してニヤつきながら狂太郎の尾行を開始した。



「……」

歩く。

「……」

歩く。

「……」

歩く。


75 : ◆CvykvQJIqw :2016/05/27(金) 21:25:53 /fmBGP3k0
(……もしかしてコイツ、迷ってないか?)

何かを探しながら歩いている狂太郎。しかし目当てのものは見つからないようだ。
これで魔導が尾行を開始してから3-B教室の前を通るのは二度目だ。
やっぱり背後から刺し殺してやろうか、と魔導が思い始めた頃だった。

『あー、テステス。皆聞こえるーっ?』
(韋駄天さん!?)

魔導には、第一声で放送の主がわかった。
魔導は、休み時間に暇をもてあましていた。妄想に気が向かない時、彼はよく韋駄天の会話に耳を傾けていた。
ストーカーみたいで気持ち悪いかも知れないが、魔導だって(年齢だけは)青春真っ盛りなのだ。仕方ない。
休み時間と同じように、韋駄天の声を聞く魔導。
韋駄天は、先生にお願いするだの、反省しようだの、相変わらずハッピーなことを言っている。

『あ、あと魔導くん!私、さっきのこと気にしてないから!!怖かったんだよね!!大丈夫、仲直りしようね!!』

「なっ……!」

思わず声が出てしまう魔導。咄嗟に狂太郎の方を確認するが、狂太郎が魔導に気付いた様子は無い。
ひとまずホッとしつつも、韋駄天の方法内容に頭を抱える魔導。
しかし、悩んでいる暇は無い。彼の目は階段を下りていく狂太郎を捉えていた。
あの階段は放送室への最短ルートだ。
探しものが見つからない狂太郎は、韋駄天を殺しに放送室へ向かったのだろう。

このまま行けば、狂太郎は韋駄天に襲いかかるだろう。韋駄天が死ぬかも知れない。
韋駄天が死体になれば、彼女を操ることができる。魔導としては万々歳だ。
一つ気がかりなのは、狂太郎が韋駄天をどう殺すか。
斧で思いきり攻撃されてしまえば、綺麗な死体にはならないだろう。
身体の綺麗な彼女は綺麗な死体として操りたいのが、魔導の本音である。

それを防ぐには、魔導が別のルートから放送室に先回りして韋駄天を殺せば良い。
隙が見つからなければ避難させるだけでも良い。一緒にいれば殺すチャンスも来るはずだ。
問題は、韋駄天が魔導を敵視しているかも知れないということだが……頭が空っぽな韋駄天のことだ。
先ほどのことを気にしていないというのもおそらく本当のことだろう。

(……どうする?)

【3-B教室周辺】
【名前】魔導 屍
【アイテム】折りたたみ式の鉈
【思考】死霊の軍勢をつくる
1:尾行を続ける?放送室へ先回りする?
2:早く誰か殺したいなぁ
3:韋駄天さんの放送に対して考えるのは後


佐渡は見つからない
でも人のいそうな場所はわかった
佐渡もそこにいるかも知れない

怪物は理不尽でなければならない
だから佐渡も、良い子であろう韋駄天さんも、放送室に来る韋駄天さんに同調する人達も……

全員、僕が殺す

【3-B教室周辺の階段】
【名前】斧 狂太郎
【アイテム】斧
【思考】放送室へ行って殺す
1:怪物は言葉を喋ってはならない
2:怪物は理不尽でなければならない
3:怪物は不死身でなければ意味がない


76 : ◆CvykvQJIqw :2016/05/27(金) 21:26:21 /fmBGP3k0
投下終了です


77 : ◆CvykvQJIqw :2016/05/27(金) 22:09:02 /fmBGP3k0
タイトルは「悪魔と怪物の往く先」です


78 : 名無しさん :2016/05/28(土) 01:56:46 924geX/60
投下乙です
韋駄天ちゃんに忍び寄る狂人……果たして魔導はどんな選択をするのでしょうね


79 : ◆IPU8SGkvmQ :2016/05/28(土) 03:10:49 jTh2u.7I0
佐渡翔、御剣桃太郎
予約します。


80 : ◆IPU8SGkvmQ :2016/05/28(土) 03:28:59 jTh2u.7I0
「佐渡殿……一体何をやっているのでござるか?」

 御剣桃太郎と佐渡翔の2人は、校長室のすぐ右隣にある職員室に移動していた。
 正確に言えば、いつまでも黙りこくっている桃太郎に愛想を尽かした佐渡が桃太郎を置いて職員室に入って行っただけであるが。
 小心者の桃太郎が1人で廊下に留まれるはずもなく、無言のまま佐渡の後について回っている状態だった。
 佐渡はそんな桃太郎の事など意に関せず、教職員の机を片っ端から開けていった。
 そんな奇行を行う佐渡に、桃太郎は漸く口を開くことに成功したのだった。

「あ? 見てわかんない? なんか面白いもんねーか漁ってんだよ」

 返ってきたのは至極単純な答え。
 確かに教師たちの机など普通に生活していれば見る機会などそうは無い。
 しかし、こんな状況であるにも関わらず、桃太郎の中の常識がそんな佐渡の行動を咎めている。

「し、しかし……個人の所有物を漁るなど……」

「うっせーな。っつか、お前なんで付いてくんの? 言っとくけど俺お前のこと信用してねーからな?」

 桃太郎の心に佐渡の辛辣な言葉が刺さる。
 元より1人で行動することなど念頭に置いていない桃太郎は、佐渡と行動を共にすることをもはや前提として動いていたのだ。

「な、なぜ……」

「は? いやお前怪しーじゃん。さっきも1人でブツブツ言っちゃってさ、会話する気ある?」

 佐渡は手を休めず机を漁り続けている。
 桃太郎との会話など片手間の暇つぶしに過ぎないのだ。
 そのためか、無意識の内に心の中に留めていた棘のある言葉も、するすると口からこぼれ落ちていく。

「た、ただ……某は「おっ、いーもんみっけ!」」

 桃太郎の言葉を遮り、佐渡が歓喜の声を上げる。
 その手には――一丁の拳銃が握られていた。

「拳銃……まさか本物でござるか?」

「そーじゃね? なんか弾もいっぱいあるし。やっぱハトセンすげー!」

 どうやら佐渡の漁っていた机は、厳しすぎる体育教師として知られている『鳩満 軍曹』教諭の物だったようだ。
 ゲームなどで見慣れているからか、佐渡は器用に銃の中に弾を込めていく。
 いくつかのマガジンを取り出し、リロード用の弾を込めながら佐渡は再び桃太郎に会話を投げた。

「――で? さっき何言おうとしてたわけ? 内容次第じゃ一緒にいてやってもいいぜ」

 佐渡は拳銃という多大なアドバンテージを手に入れたからか、若干気が大きくなっているようだ。
 疑う事に脳味噌を使うのをやめ、拳銃のカッコイイ取り出し方の練習に励んでいる。

「そ、某は――」

 ピンポンパンポーン!

 またもタイミング悪く、桃太郎の声を音が遮った。
 学生の性か、放送の音を聞くと無条件で黙ってしまい、桃太郎はとりあえず聞きに徹することになった。
 どうやら内容は殺し合いをやめさせる為の呼びかけのようだ。
 1階が玄関、2階が3年生、3階が2年生、4階が1年生となっているこの校舎では、放送室と校長室は下駄箱を挟んだ同じ階になっている。
 どうやら殺し合いに乗っていないようだし、近場なので仲間に加えるならチャンスは今だ。
 桃太郎はそう思考を巡らせ、佐渡に提案を持ちかけた。

「佐渡殿、今の聞いたでござるか!? 放送室はすぐそこでござるぞ!」


81 : ◆IPU8SGkvmQ :2016/05/28(土) 03:29:48 jTh2u.7I0

「で?」

「……で、とは?」

 興奮気味の桃太郎とは打って変わって、佐渡は動こうともせず、あろうことかタバコを吸い始めてしまった。

「まだお前のこと聞いてねーし、あんなん聞いたらヤベー奴もいっぱい来んだろ。風ちゃんには悪いけどさ、行くのだるいわ」

 佐渡の考えは、桃太郎にとって頭をガツンと殴られたかの衝撃だった。
 だるい――鏖の様な危険な奴が集まるというのも盲点だったが、だるいという理由で人命を見捨てるというのは考えられない事だった。
 倉井さわ子を見殺しにしたことを自分がここまで悔いているというのに、佐渡はあっけらかんと見殺しを選択したのだ。
 口ぶりから察するに、佐渡は桃太郎に比べて韋駄天との面識は濃いのであろう。
 それなのに――見捨てるとは何事か。
 桃太郎の恐れは急激に引いていき、沸々と怒りがこみ上げてくる。

「そ、某は、先刻悪鬼に襲われている倉井殿を見捨てた! 某は怖かった! 勇気がなかった! 気がついたら背を向け、走り去っていた!」

 突然なんの前置きもなく叫び出した桃太郎に、佐渡は驚き手を止めた。
 驚きのあまり弄んでいた銃を発砲してしまいそうになったからだ。
 そんな事にも気が付かす、桃太郎は一心に思いを吐き出す。

「某は弱い! 逃げ、糾弾を恐れてそれを隠そうとした! それでも、やっぱり許せないのだ――鬼を討ちたいのだ! あの桃太郎伝説のように!」

 桃太郎はいつものござる口調も忘れて本音を吐露し切った。
 肩で息をしつつ涙を流す桃太郎に、佐渡は気だるげに声を掛けた。

「やっぱ陰キャがキレるとこえーな。しかも泣いてっし」

 タバコの煙を吐き出しながら、佐渡はからかうように笑っている。
 当の桃太郎は、思いが伝わらなかった様子を見て再び悲しみがこみあげてくるが、更に馬鹿にされそうで涙を必死に堪えた。
 佐渡はそれを見て何を察したのか、更に愉快そうな顔をしている。

「んな顔すんなって。お前の考えはわかったし、行ってやるよ――放送室」

 あんな演説するとは思ってなかったけどな――と言って佐渡はタバコの火を消した。
 恐怖、怒り、悲しみ、そして――歓喜。
 この数分間で幾度と変わっていった感情の渦に、桃太郎はもはや自分がどんな顔をしているのか分からなかった。

「かたじけのうござる……かたじけのうござる……」

 桃太郎は堪えていた涙を遂に流し始めてしまったが、そこに負の感情は一切なかった。
 同じ涙でも意味合いが全く違う。
 男桃太郎――歓喜の涙であった。

「お前泣きすぎだろ、っつかまたござる言ってるし」

 桃太郎は涙を拭い、善は急げと小走りで放送室へ向かう。
 弱きを助け強きを挫く。そんな英雄になるために。


【下駄箱前】
【名前】御剣 桃太郎
【アイテム】無銘の刀
【思考】仲間を集め、鬼を……斬りたいが……
1:韋駄天殿……待っておれ……
2:鬼(鏖)と狂太郎への警戒

【名前】佐渡 翔
【アイテム】先のとがったパイプ、タバコ、ライター、ワルサーP38
【思考】適当に生き残るか……
1:桃太郎にちょっと付き合ってやる
2: 銃撃ってみてーなー
3:狂太郎への警戒


82 : ◆IPU8SGkvmQ :2016/05/28(土) 03:30:08 jTh2u.7I0
投下終了です


83 : ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/28(土) 04:20:46 wwZz/Kvk0
投下乙です
やったね桃太郎!仲間?が増えたよ!
これは一皮むけて成長したのかな?少しは童話の桃太郎に近づけたようで何より。
ヘタレと言うか等身大というか、そんな彼には頑張ってほしいですね

真宮 叶、酒呑童子 予約します


84 : ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/29(日) 02:42:35 O.gzCkIk0
投下します


85 : 同調組 ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/29(日) 02:44:08 O.gzCkIk0
「あの子馬鹿なの?」

ロリショタをこよなく愛する女、真宮叶が韋駄天の放送を聞いて抱いたのは、そのシンプルな一言だった
韋駄天と真宮は面識があった
確かに、あれほど純粋で真っ直ぐで単純な性格の、天真爛漫という言葉がピッタリと似合う女子も中々居ないだろうが、幾らなんでもアレはあり得ない。

「う〜〜んっ……こんな状況でもクラスメートを信じる心意気は称賛するけど、あれは無いよねぇ」

酒呑童子もそう苦笑していた
放送するのは良いとしても、わざわざ居場所まで教えてしまって、あれでは殺してくれと言っているようなものだ。
とくに茨木童子あたりがあの放送を聞いていたら、彼女のことだ、喜び勇んで突撃するだろう。通常の人間が鬼に勝てる道理はまず、無い。

「どうするのお姉ちゃん」

ゆえに真宮へと問いかける。助けにいくか、見捨てるのかを……

「正直、助けにいくのは馬鹿のすることよね」

真宮は即答した

「でも行くしかないでしょ」

自分の好むロリとは若干異なるが、級友を見捨てるのは目覚めが悪い。
それに韋駄天は童顔だしギリOKだ。
何がロリでどこまでがショタなのかはそれぞれの心の物差しで判断することなのだから、細かいことは抜きにしよう

「ふふ、本当にお姉ちゃんって面白いね」

予想通りの回答を聞いた
そう言わんばかりの笑みを浮かべた酒呑童子に、真宮は申し訳なさそうな顔をする

「ゴメンね、我が儘言っちゃって」

「良いよ、それに、男として女の子が助けを求めてるのに見捨てるなんてできないからね。 でも……行くなら急いだ方が良いよ」

現状、確実に韋駄天の命は危ない。
自分達以外にも放送室へ向かおうとするものがいても可笑しくはないし、そのすべてが韋駄天の放送に同調する人物とは限らない。
というかそんな真っ当な生徒なら、こんな追試を受けさせられることはないだろう。

「そうね。行きましょうか」

モップを握りしめた真宮は、駆け足で2-Aの教室から飛び出し、酒呑童子もそれに続いた。
果たして両者は間に合うのだろうか?

【廊下】
【名前】酒呑 童子
【アイテム】なし
【思考】理事長に逆らう。襲ってくる者は相撲で撃退
1:放送室に向かう
2:茨木童子とは次回の取組で勝敗を決する。
2:このお姉さんマイペースすぎるよね

【名前】真宮 叶
【アイテム】モップ
【思考】私は普段通り願望を叶えるだけよ
1:放送室へ向かう
2:ロリショタは保護するわ。けれども、危険人物は例外よ
3:韋駄天ちゃんも保護してあげたいわね


86 : ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/29(日) 02:45:02 O.gzCkIk0
投下終了です


87 : 名無しさん :2016/05/29(日) 02:53:58 O.gzCkIk0
状態表

[○佐渡 翔]
[○酒呑 童子]
[○新谷 善次郎]
[○毒島 コロ助]
[○長門 傀儡] 
[○斧 狂太郎]
[○御剣 桃太郎]
[●智胤 猩々]
[○犬神 仁]
[○七条 無銘]
[○魔導 屍]
 
女学生
[○茨木 童子]
[○内藤 ナイト]
[○蓬莱 かぐや]
[●倉井 さわ子]
[○手呂 爆]
[○清井 純真]
[○信条 正義]
[○真宮 叶]
[●雉凪 結城]
[○韋駄天 風]
[○鏖]


現時点での未登場生徒
○犬神仁/○毒島コロ助/○清井純真/○蓬莱かぐや

現時点での予約組
>>26,>>27
◆Qs5N1ogORI
犬神仁、毒島コロ助、清井純真、蓬莱かぐや
>>67
◆TrIrMpTkS2
内藤ナイト、手呂爆


88 : 名無しさん :2016/05/29(日) 23:13:08 pog/xRXY0
投下乙です
この二人も放送室に向かいますか
決定に常に性癖が絡む真宮さんで草


89 : ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/31(火) 14:52:50 KCSpt7qM0
茨木童子、長門傀儡 予約します


90 : ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/31(火) 18:58:44 Vp.MO.X.0
投下します


91 : 諸行無常 ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/31(火) 19:00:40 Vp.MO.X.0

「だーれーかーいねぇか!!」

新たな交戦相手を求め、のっしのっしと廊下を練り歩く茨木童子。
背伸びをするロリというのも一見して微笑ましい光景だが、彼女が1000年を生きる鬼であり、かつて京を蹂躙した大妖怪の一角であることを知っている者からしたら、とても笑うことはできないだろう。

「あん?なんだアレは」

理科室の前を通りかかった時、奇妙なものが廊下に放り出されているのを見つけた。
月明かりに照らされたその物体は、どう控え目にいっても異常だった。

まず全裸である。着ていた服はすべて剥ぎ取られ、縮こまった男の象徴を晒している。
逃走防止なのか、手足はガムテープで幾重にも巻かれ、まるで芋虫のようだった。
指先から血が滲んでいるのを見るに、爪も剥がされているようだ。

露出した肌は余すところなく青アザだらけで、手酷く殴られた跡が窺える。
顔面はより重点的に痛め付けられたのか、でき損ないの饅頭のように膨れ上がり、誰なのか判別すらできない。よく見ると、側に何本か血塗れの歯が転がっていた。

それだけでも悲惨なのに、さらに追い討ちをかけるように惨いのは、全身の落書きだろう。
頭髪は眉ごと剃られ、つるつるの肌に「馬鹿」「変質者」「人形フェチ」「人間の屑」「うんこたれぞう」「一生童貞」などの罵詈が、ご丁寧に油性マジックで書き込まれていた。

さらに「僕はどうしようもない敗北主義者です。どうぞ殺してください」という無慈悲なカンペが首ならぶら下げられている。

そして止めに、側には衣服の体をなさないほどズタズタに引き裂かれた布切れがばらまかれていた。

その少年は、長門傀儡だった。

「うっわー……」

さすがの茨木童子もそれをみて、顔をひきつらせていた
別に仲が良かった訳ではないが、というか顔がアレすぎて誰だかもわからないが、
ただ殺すのではなく、散々に痛め付けられた事が一目で分かるような級友の姿に何も感じないほど人でなしではない。鬼だけど。

「おーい。お前生きてんのか〜?」

「……」

返事はない。
意識がないのかそれとも喋れなくなっているのか、どっちなのか分からなかった。
見たくもない象徴を視界の隅に追いやりながら、ちょいちょいと足でつつく。
びくっと体が硬直した。微かに息はあるようだ。だが意識はないようだった

「うーん、どうしよっかにゃあ」

絶賛殺戮闘争万歳な茨木童子でも、こんな無惨というか悲惨というかぶっちゃけ憐れな男子をぶっ殺すのは気が引けた。
そもそも彼女は全力を出して暴れられる相手との取組を望んでいるのであって、動けない相手をいたぶる気は余りない。

ふと茨木童子は理科室から嗅ぎ慣れた臭いに気がついた。


92 : 諸行無常 ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/31(火) 19:01:30 Vp.MO.X.0

「お邪魔しまーすっと!」

ガラッと豪快に乗り込むと、臭いのもとは直ぐに見つかった。床一面にべっとりと血が流れていたのだ。新鮮なものではないのか、すでに凝固していた。
その横には、めたくそに打ち壊された人体標本らしき残骸が放置されていた。
誰の目から見ても、ここで何かが起こったことは確実だろう。しかも、血の量から見て死人が出たのかもしれない。
あの廊下にいる少年が、加害者なのかそれとも被害者なのかは判断がつかないが……
まぁ、可哀想だなぁ、と思わなくもない。

「じゃあ、見逃してやるからさ。がんばるにゃあ( =^ω^)」

だがそれだけだ。
別に助けたいとか手当てをしてやろうとかいう気はこれっぽっちもないしその義理もない。
いやそもそも、彼女が長門に感じた憐れみも、けっして人が人に向ける物ではない。
あくまでそれは、人が犬猫に向ける程度のものでしかなかった。

「すたこらさっさ〜」

結局、長門だったものを廊下に残し、元気にその場を立ち去った。

彼女はあくまで鬼だった。


【理科室前の廊下】
【名前】茨木童子
【アイテム】なし
【思考】殺りたい放題戦ってやる
1:酒呑童子とは次の勝負で勝敗を決する。
2:誰か知らないけど頑張れよ少年


「……」

滑稽というか憐れなまま放置された長門は、ときおり痙攣する以外は何の変化もなく、ただただその場に転がっていた。
しかし、無意識なのか、その目からは一筋の涙が流れていた

【名前】長門傀儡
【アイテム】なし
【状態】全裸、両手足拘束、全身落書き、毛全剃り、ダメージ(大)
【能力】人形を念じるだけで操作できる
【思考】見下してくる奴等に復讐する
1: ……

【備考】
※理科室から七条無銘Aの死体が消えています
※人体模型の残骸と長門の衣服の残骸がともに放置されています


93 : ◆GOQY2Z6jbA :2016/05/31(火) 19:02:22 Vp.MO.X.0
投下終了です


94 : 名無しさん :2016/06/01(水) 14:38:14 6i/YSRLQ0
投下乙です
無銘たちやり過ぎィ!そして鬼はやっぱり鬼だった……


95 : 名無しさん :2016/06/01(水) 14:44:57 msbQjwN20
投下乙
長門可哀想だけどよく考えたら先に仕掛けたの此奴だった


96 : ◆TrIrMpTkS2 :2016/06/01(水) 23:19:49 b5oORqi20
まあ六対一じゃこうなるよね・・・
自身が人形めいたざんこくな状態にされた人形フェチくんの明日はどっちだ

おくれましたとうかします


97 : 理想を抱いて爆死しろ ◆TrIrMpTkS2 :2016/06/01(水) 23:20:47 b5oORqi20
 
 
「私は手呂爆! 喰らいなこの爆!」

バレーボール!バレーボール!バレーボール!バレーボール!
バスケボール!バスケボール!バスケボール!バスケボール!
ハンドボール!ハンドボール!ハンドボール!ハンドボール!

「どうですこの圧! 死ぬまでランデブー、です、よ!」

バレーボール!バレーボール!いつのまに体育倉庫から引っ張り出したのか、
ボールかごに手を入れては出し入れては出し軽快に韻を踏みながら笑顔の殺戮を繰り出す手呂。
体育館には爆音が響くばかりで、
あまりに連続しているのでばるんばるんバイクのエンジンでもかかりっぱなしなのかと勘違いするくらいだ。
火花散り、煙る、煙る。くゆる黒煙の中で手呂は確かにHITの手ごたえを感じる。

楽しい。
楽しい。
爆弾で殺すのはとても楽しい。
ハイになった感情が口の端を吊り上げる!

「先輩! 命乞いして下さいよ!
 無様に全裸で土下座したら、一撃で殺してあげなくも……って、んなっ!?」
「命乞い? するのは貴女のほうでしょう……減刑の懺悔を、被告人席でね!!」

剣が一振り振るわれる! ぴしゃっと手呂のリズムを止めたのは甲冑の傑女だった。
銀の甲冑は煤けて黒くコーティングされているものの、へこみや傷などはなく匠の技を感じさせる。

「騎士部筆頭、内藤ナイト! 小手先の爆弾にやられる腕ではない!」
「このヤロウ……」

手探るも、

「球切れか……!」

ボール籠のボールは売り切れ、すべて爆弾に変えてしまって空だ。

「いいですか哀れな爆弾魔。これが騎士です。これが、騎士なのです」

涼しく澄んだ声――信じられないといった目で手呂はナイトを見やる。
あれほどの爆弾を受け、なぜ無傷!?

「無傷だと……!?」

確かに甲冑を着ている以上防御力が高くなるのは必然ではあるが、
体育館を揺らし振動で屋台骨をゆがませるほどの爆発、生身で耐えられるものではないはず――。

「まさか――異能――!!」
「貴女がそう思うのなら、そうなのでしょう」

ナイトはロングソードを構える。

「私は騎士道を貫いているだけ。
 騎士道とは何か。私は自分の意思を曲げないことであると解いている。
 私の意思は――殺し合いなんて間違っている、このソードを級友を切るために使わない、というもの。
 だから私は、貴女を倒す。体ではなく、心を――!!」

ぎりとにらむ。
一度は手呂の狂気に青ざめた顔が、爆弾の衝撃を耐えるうちに、逆に覚悟を決めてしまったのか。
此方のみ武器を持っているという絶対的な有利を前に、ナイトが手呂に言い放ったのは「心を折る宣言」だった。
その宣言は体育館に響き渡る(体育館というのはまったく、とかく声がよく響く)。

「教えなさい、後輩。貴女がそこまで歪み、人の命で遊ぶようになってしまった訳を! それまで私は、耐え――」
『あー、テステス。皆聞こえるーっ?』


98 : 理想を抱いて爆死しろ ◆TrIrMpTkS2 :2016/06/01(水) 23:22:46 b5oORqi20
 
放送。
張り詰めた空気の体育館をそのスピーカー音のかすれが刺し広げたその瞬間。
駆け出したのは、手呂爆だった。

「!!」
「くだらねえ……くだらねえんだよ!!」

対応反応をナイトが取る前にたどり着く――ブースト、空爆。
“触れたものを爆弾に変える”手呂爆の効果範囲は空気にまで及ぶ。はた目から見れば、掌から爆発を生じさせているように見えるだろう。
その爆風で手呂は跳ぶ。さらにブースト、服爆。自身のセーラーの背部をも爆発させ推進を安定させる。掌だけが“触れたもの”の対象ではない、体全体だ。
ちなみに自身の爆発による自身へのダメージは、すべて無効化される。
そういうわけで一瞬後、まさに瞬き一つの呼吸の間に、手呂爆の体は内藤ナイトの鎧にすでに触れていた。
触れていた。
触れられていた。

「獲ったァ……♪」
「――っ」

青ざめるナイト。手呂に触れられたということは、つまり爆弾になってしまったということだ。
自身の、鎧が。鎧そのものが、一瞬にしてナイトの命を縛る鎖へと変じた。

「先輩。かわいいですねえ。鎧の下から見えるその恐怖に怯えた目。蕩けますよ、実に。
 さあどうしますか? 返す刀で私を切りますか相打ち覚悟で? できないですね? だってそれじゃあ、騎士道を曲げますもんねえ」

失言だった――後悔してももう遅い。最初から手呂はこうするつもりだったのだ。むしろこのやり方が手呂の本領。
鎧と剣と盾で武装し、爆発させるより先に斬り返すことが“可能”なナイトだったから、接近を躊躇していたに過ぎなかった。

「ああくだらないくだらない。正義ぶって鎧重ねて人間の本性を覆い隠して、騎士だなんて高潔なものになろうとして。人間はそんなに綺麗なものじゃないですよ先輩。
 誰だってクソでクズですよ。ましてや、こんなのに集められちゃう奴らなんて、選りすぐりのクズ共ですよ。それをもっと自覚しないといけませんでしたね」
「くっ……」
「ああ――教えてあげましょうか? 私が人を殺す意味」

手呂は楽しそうに壊れた表情で、あっけらかんと言った。

「それはね」


「“誰も私の頭を撫でてくれないから”ですよ」


「な――っ」

ふわりとバク宙で飛びすさる。
ナイトは手呂の言葉の真意をはかろうとするも、その前に鎧が光った――――――。

(触れ、ている、すべてを爆弾にする能力――そうか、この子は)

気づき、手を伸ばそうとしたが、声を掛けようとしたが、すべてが遅い。
内藤ナイトの行動も言葉も、爆煙と爆音に飲み込まれ、跡にはヤムチャめいて倒れる焦げた女学生が残った。


【内藤ナイト 死亡】


99 : 理想を抱いて爆死しろ ◆TrIrMpTkS2 :2016/06/01(水) 23:23:55 b5oORqi20
 

「まったく、こちとら青春を失わないために必死だってのに、理想論ぶつけてきやがってくだらな……痛っ……?」

そして。
女学生“だったもの”に侮蔑の言葉でもかけてやろうかとした手呂は、掌、そして背中から鋭い痛みを感じる。
見ればその両手は赤く腫れあがり、わずかに水膨れていた。背中の焼けるような痛みもまた然り。
これは、やけどだ。

何故? 今まで自分の起こした爆発で、自分にダメージが発生することなど一回もなかった。

「おっかしっいな?」


まさか――能力が制限されている?


勘ぐった手呂は、試しに床に手を触れ、体育館そのものを“爆弾”にしようと試みる。
頭があまりよくないのでいまさら気づいたが極論、その要領で校舎を爆発させてしまえば、あとには何も残らず手呂の勝ちが確定するはずだ。
だが、無反応。どうもステージそのものを爆弾とすることは“禁じられて”いるようだ。

思えば理事長はこの殺し合いの場を“工房”だとも言っていた。それならば――。

「うざったいなあ……」

言葉とは裏腹に手呂の口元は楽しそうに笑っていた。
こいつは、なかなか。

面白くなってきやがった。


【体育館】
【名前】手呂 爆
【アイテム】なし
【能力】体に触れたものを爆弾にする
【思考】 皆殺し


100 : ◆TrIrMpTkS2 :2016/06/01(水) 23:31:30 b5oORqi20
投下終了です


101 : ◆Qs5N1ogORI :2016/06/01(水) 23:36:11 kwhZuA1Q0
すいません破棄します


102 : ◆TrIrMpTkS2 :2016/06/02(木) 00:04:33 MuzQGsqc0
ざんねん。。
おそくなってごめんなので 七条無銘、佐渡 翔、御剣 桃太郎、韋駄天 風 予約します


103 : ◆jpyJgxV.6A :2016/06/02(木) 00:06:37 5ZlS/rHI0
清井純真、蓬莱かぐやで予約します


104 : ◆TrIrMpTkS2 :2016/06/02(木) 02:47:07 MuzQGsqc0
とうかします


105 : 鬼さんだあれ? ◆TrIrMpTkS2 :2016/06/02(木) 02:52:32 MuzQGsqc0
 

ここまでのあらすじ

私、韋駄天 風! 高校二年生で、陸上部! 走るのが風が気持ちよくて大好き!
得意は走ることで、テストの点は苦手なの!
補習はむずかしかったけど、親友の純ちゃんと楽しい学校生活を送っていたの。

でも大変! 今回の“追試”は、いつもの追試みたいに頭を使うやつじゃないみたい!
体を使うどころか、命を使っちゃうの! ひどいよね。

いっぱいいっぱい怖い人がいて、みんな怖がってて……こんなの、学校じゃないよ!
だから私、放送室で思いついたの! みんなで先生に謝りに行けばいいんじゃないかって!

校内放送って、たぶんみんなに届くよね。

みんなで謝りにいけば、先生も分かってくれるよね……!


==========


「ん」「な」「わ」「け」「ある」「かーい!」

「うわぁ!」

放送室の椅子に体育座りしてたら後ろから ドバン! って音がして、
振り向いたらドアが開いていて、六人の同じ顔の男の子がいた。
韋駄天 風は考える――――この学校にこんな六つ子なんていたんだっけ?
→でもけっこう顔は広いとおもうけど全員知ってるわけじゃないしいてもおかしくないな。

「六つ子! すごい! リアルおそ松さん!」
「見たままを素直に受け取るとこに関してはマジですごいなお前!?」

かくして放送室に最初にたどりついたのは、六人の七条無銘だった。


==========


「……でだ、傀儡の野郎が俺Aを殺しやがったわけよ」
「( ´゚д゚`)エー」
「Aだけに( ´゚д゚`)エーじゃねーわ! 話をしっかり聞け!
「とにかくだな、アブねーやつがいっぱいいるわけだろ?
「そいつらがお前の放送聞いていっぱいこっち来たらお前どうするつもりだったんだよ。
「まあ傀儡の野郎はきついお灸して廊下に転がしといたから、来れねえだろうけども」
「あっ……(察し)」
「だろ?」
「気づいちゃったよ七条君!」
「おお」
「それって、そしたら、そしたらさ、私大変だったよね……!」
「そうそれよ」
「だっていっぱい人が来たら、私いっぺんに名前覚えられないし……!」
「うんうん、……ってうん?」
「お茶菓子とかも用意してなかったよぉ……。純ちゃんに怒られちゃう、女の子らしさが足りないって!」
「おい」


「おいおい」


==========


「えっつまり私の命が危なかったってこと……?」
「そういうことになる」
「あ……危なかったぁあああー!!!!」

がしゃーん

「椅子ごとひっくり返るな「リアクション遅い「危ねえだろ「ていうか「現在「進行中だわ!」
「まって七条くん、一斉にしゃべらないで、聞き取れないよ?」
「もうツッコミが追いついてねえってことだよ! 俺人生でこんなツッコミまくるのもう二度とないわ俺」

閑話休題。

「でも、さすがの私でも分かったよ! 七条くんが来てくれたからもう安心だよね」
「なぜそうなるし」
「だってだって! 一人で六人もいるのがすごいもん。怖い人が何人きても平気だよ! ねえ必殺技とかないの?」
「目を爛々と輝かせんなよガキじゃねえんだから……必殺技……必殺技ねぇ……」


==========


106 : 鬼さんだあれ? ◆TrIrMpTkS2 :2016/06/02(木) 02:53:47 MuzQGsqc0
 

「これがスーパー無銘人だ」

きゅいんきゅいん光る七条無銘の姿がそこにはあった……。
髪も逆立っている。

「す、す……すご〜い!! 二人の七条くんが融合したと思ったら光る七条くんが!」
「まあ奥の手的なやつだから普段は見せないが、こうおだてられてしまってはな。これで事実上2倍の攻撃力よ」
「すご〜い! 面白い!」
「面白いってお前な……?」
「ねぇねぇ! もう一人融合したらやっぱり3倍になるの?」
「なっ」
「なるの?」

純粋な目で覗き込む韋駄天。上目づかいでちょっとほほを染める感じ。

「お「お「お「お前な……そうそうそんなほいほい追加融合できたりなんてするわけ」


==========


「あるんだなこれが!」

そこには光る翼を生やし色白になった七条無銘がいた……。

「本邦初公開これがさらなる奥の手中の奥の手、スーパー無銘人2よ」
「か、かっこいいよ〜!! 天から舞い降りた稲妻を使う高貴なる天使様みたい!」
「二つ名にしては長いし
「それけっこう前に発売されたゲームのやつじゃねーか!」
「お兄ちゃんが、天使っぽい人をほめるときはこう言えって、よく……」
「お前のお兄ちゃんのお前に対する教育けっこう心配だな……まあいいとにかくこのへんでいいだろ?
「さっさとここを出ようぜ。誰が来るかも分からんしよ。
「放置してきた傀儡の奴も気になってきたし……死んでるかはともかく、仮に解放されてたら恨まれるわ俺あれ」

「えっ……もっと見たい……」

「なっ」

「ここまで来たら七条君、私、七条君の6人合体が見たい!」


==========


「やってみたらできたやつだこれ」

狭い放送室の多くのスペースを、筋骨隆々としたモンスター級の男が陣取っていた。
七条無銘(スーパー無銘人3)である。
実のところ3人合体までしか試したことはなかったのだが、せっかくだということでやってみたら……出来た。
出来たのだ。
角が二本生え、牙も覗き、とても威圧感がある。翼はなくなってしまったが。

「おおー……改めてすごいよ七条くん! なんかもう敵なしって感じだね! むしろ七条くんが敵に見えるよ!」
「我ながらまがまがしい姿だな……攻撃力はどうやら6倍どころか128倍くらいになってる気がするぜ」
「ケタが違いすぎてすごさが分からないやつだね……!」
「俺にも俺のすごさがわからなくなってきた」

そのとき、足音が近づいてくるのを聞いた。

「って……こんなことしてるから人が来ちまったじゃねーか! どうしてくれんだコレ! 解除時間かかる!」
「ところで、攻撃力はいっぱい増えたけど、防御力のほうはどうなの?」
「マイペースだな!!?? いや防御力は――」


==========


107 : 鬼さんだあれ? ◆TrIrMpTkS2 :2016/06/02(木) 02:55:14 MuzQGsqc0
 

「防御力は変わってないみたいだwa」
「悪鬼!成敗!でござるよぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


==========


  心 ✂ 臓 


==========


……。
ぷしゃー。
気の抜けた音とともに放送室が血で染まっていく。
広がる水たまりの出どころは鬼の心臓だ。
体は赤いし、角も生えていた。
禍々しいオーラを放ち、女子に怒鳴りかけていた。

これで鬼でないはずがない。

勢いあまって刀をがむしゃらに振った結果ではあったが……やった、やったのだ。
あのとき逃げてしまった自分は、今度は勇気を持って鬼に立ち向かうことができた。
 
「大丈夫だったでござるか」

刀を抜く。鬼はうつぶせに沈む。
七条無銘を切った無銘の刀に付いた血を払い、御剣 桃太郎は助けた少女に手を差し伸べる。
助けた少女――韋駄天 風は、(ちょっと凄惨な現場を見せてしまったからか、)驚きに目を見開いている。
背後から駆け足で佐渡が近づいてくるのが聞こえた。
佐渡は、「やるじゃねえか」と言ってくれるだろうか。少女を助けた桃太郎は興奮した頭でぼんやりとそんなことを考えていた。

「ば」

だが。それが大きな間違いだったと彼はすぐに知ることになる。

「え?」

「ば――ば」

がくがくと震えながら、へたりこむ韋駄天の次に放った言葉は。



「――――化け物ッ!!!!!!」




【七条無銘B〜G 死亡】

【放送室】
【名前】韋駄天風
【アイテム】なし
【思考】
0:殺し合いなんてやだ
1:化け物ッ!
2:きっと魔導くんも怖がってただけなんだよ(名推理)

【名前】御剣 桃太郎
【アイテム】無銘の刀
【思考】仲間を集め、鬼を……斬りたいが……
0:やった、やったでござる!
1:化け物とは……!?
2:鬼(鏖)と狂太郎への警戒

【名前】佐渡 翔
【アイテム】先のとがったパイプ、タバコ、ライター、ワルサーP38
【思考】適当に生き残るか……
1:なんだなんだ?
2: 銃撃ってみてーなー
3:狂太郎への警戒


108 : ◆TrIrMpTkS2 :2016/06/02(木) 02:58:59 MuzQGsqc0
投下終了です

ももちゃんがんば・・・


109 : 名無しさん :2016/06/02(木) 11:22:28 nwoXLEco0
投下乙です
桃ちゃんアンタ何しちゃってんの!?これはもう韋駄天ちゃんとのコミュニケーションは絶望的ですね(確信)
合体をいかせず逝った七条に黙祷……


110 : ◆jpyJgxV.6A :2016/06/02(木) 13:08:46 6qdVaoeA0
投下します


111 : 放送はちゃんと聞きましょう ◆jpyJgxV.6A :2016/06/02(木) 13:11:17 6qdVaoeA0
清井純真を知っていて、こう評する者は多い。
彼女ほど名前負けしている人はいないと。

「くっそ、なんなんだあの理事長は…」

名前からして清廉潔癖純粋無垢、悪のあの字すら知らなさそうだというのにだ。

「追試代わりに殺し合いってか?趣味が悪いにも程があるだろうが」

その実いい子とはほど遠い、ちょっとの悪事なら上等な小悪党なのだから当然とも言えるのだが。
とはいえ、嬉々として人殺しに甘んじるほど性根が腐ってはいない。
彼女はあくまで小悪党であり、ちょっと学園のルールを破って悦に浸るのが限界なのだ。
だからこそ事あるごとに授業をサボり、結果こうして盛大な催しに巻き込まれているのだが。

「しっかし、あいつもいると思うんだけどなぁ…どこにいるんだか」

陸上界の新星にして親友である風の顔を思い浮かべる。純真は確実に彼女もここに招かれていると考えていた。
むしろ自分が追試であの馬鹿がそうでないなんて認められない。というより認めたくない。
馬鹿が一回りしてお人好しが過ぎる風のことだ、殺し合いに乗った生徒さえ疑う事を知らないだろう。
つまりはあっさりと死にそうなわけで、さすがにそれは目覚めが悪い。
少々性根が腐っていようとも、友がみすみす殺されるのを看過できるほど冷徹はないのだ。

「ここにいなかったら…まあ適当に探すしかないか」

そうして純真が向かったのは、校庭の隅にある屋外用の体育倉庫だ。
陸上を愛してやまない風ならば、校庭にいなければまずはここにいるのではないかと考えたのだ。
こうしてわざわざ探しているあたり純真も大概お人好しなのだが、本人はそれを頑なに否定するだろう。
あくまで自分のためだと言い張るわけだが、自分にも素直になれない辺りも名前負けしているというのは意外と知られていない。

「誰かいますー?」

「ひゃあっ!?」

「うおぁっ!?」

勢いよくドアを開けた純真を迎えたのは小さな悲鳴。純真もまたその声に思わず肩をすくめた。
気まずい沈黙。どちらも「まさか知らない人がいる/来るとは思わなかった」とでも言いたげな顔だ。

「ちょ、ちょっとぉ!ノックくらいしてくださいよぅ…」

「あ、ああ、さーせんっす…」

先に我を取り戻したのは先客の方。どこか間延びしたような声で、むぅとほっぺたを膨らませた。
そこかよ、とツッコミたくなるのを抑える。スルー力は風との関わりで培った数少ないスキルだ。
それにしても美人だ、と相手の顔をよく見た純真は思う。
雑誌でよく見るトップモデルとも一線を画す、まるで人間じゃないような美貌の持ち主。
そういえばそんな先輩がいる、といつだかに級友から聞いたのをふと思い出した。

「あー…とりあえず、2年の清井純真っす」

「えっとぉ、3年の蓬莱かぐやです。私の方が先輩ですねぇ」

やっぱりそうだ。あまりに美しすぎる事とその名前から、一部ではかぐや姫などと呼ばれている先輩。
実は本当に月の民だとかものすごく長生きしているだとか、そんな噂まであったりもする人だ。
かくいう純真も、同性ではあるが少しだけ見惚れてしまっていた。
断っておくが、純真は断じて同性愛者ではない。好みのタイプはちょっと粗野で野性味のある人だ。


112 : 放送はちゃんと聞きましょう ◆jpyJgxV.6A :2016/06/02(木) 13:12:21 6qdVaoeA0


「ところで清井さんは、なんでこんなところに来たんですかぁ?」

「友達を探してるんっすよ。その子陸上部なんで、ここに来るかなって思ってたんすけど…」

こんなところ、とはよくもまあ自分で言うものだ。
とはいえ確かに普段使わない場所だけあって、身を隠すならうってつけかもしれないが。
そういう意味では、彼女も単純に馬鹿だからという理由で追試を受けさせられているわけではないのだろう。

「お友達、ですかぁ…。私ずっとここにいましたけど、清井さん以外には誰も来てないですよぉ」

「そうすか…あざっす。じゃあ他のところも探してみます。あ、かぐやさんがここにいるのは誰にも言わないんで…」

「ちょっ、まっ待ってください!私もご一緒していいですかぁ?」

そそくさと外へ出ようとする純真の言葉を遮って、わたわたと追いすがるような駆け寄るかぐや。
てっきり時間がくるまで引きこもっているつもりだと思っていただけに、純真は思わず目を見開いて振り返る。

「なんでっすか?ここにいた方が安心だと思うんすけど…」

「そのぉ…私も友達を探したいので…」

伏し目がちに懇願する絶世の美女と、その絶景にしばし固まってしまう純真。
返事がない事に不安を感じたのか、無意識だろう上目遣いまで使われてしまってはさしもの純真も陥落するよりなかった。
それに、一人よりも二人の方がなにかと楽なのも確かだ。

「じゃあ一緒に行きましょうか。つってもどこに行くか考えてないんすけど」

「あ、ありがとうございます!じゃあ購買に行きません?私、お菓子が食べたいですぅ」

そうっすねと生返事をしながら純真は思う。
もしかしてこの人、馬鹿ではないが結構なマイペースなのではないかと。
まだ見ぬかぐやの友人にどこか通じるものがあるような気がして、少し会ってみたい気がした。

彼女は知らない。隣の先輩が本当に月からやってきたという事を。
二人は知らない。体育倉庫には放送が届かず、その防音性も高いという事も。
誰かに気がつかれないようにとドアを閉めていた間、風による校内放送が響いていた事も。


【屋外用体育倉庫】
【名前】清井純真
【アイテム】なし
【思考】殺し合いとかマジないわー
1:風とかぐやの友人を探す
2:食料確保は重要だよね

【名前】蓬莱かぐや
【アイテム】なし
【思考】殺し合いを避けてやり過ごしたい
1:自分と純真の友人を探す
2:お菓子食べたい


113 : ◆jpyJgxV.6A :2016/06/02(木) 13:12:35 6qdVaoeA0
投下終了です


114 : ◆e0LoQUAiKw :2016/06/02(木) 18:35:18 iwE34Fes0
毒島 コロ助、犬神 仁、長門 傀儡 予約します


115 : ◆e0LoQUAiKw :2016/06/02(木) 21:28:37 iwE34Fes0
投下します


116 : called ◆e0LoQUAiKw :2016/06/02(木) 21:29:26 iwE34Fes0
毒島コロ助はクラスメイトに弄られることが多かった。主な要因は名前である。
まず、名字。毒島と書いて「ぶすじま」と読む。
彼は小柄なことを除けばとりわけ目立たない平均的な容姿をしていたが、そんなことに関係なくあだ名は「ブス」だった。
更に、名前。コロ助である。彼の親は何を思ってこの名前をつけたのかは彼にはわからないし聞きたくもない。
ただ、同名のロボットが有名な漫画だかアニメだかに出ていたのは事実であり。
結果として、「語尾に『ナリ』をつけて喋ってみてくれ」などと振られることも少なくなかった。
相手に悪意があるかどうかに関わらず、弄られることは内気な彼にとってとにかく苦痛だった。
恵まれない学生生活を過ごしてきた彼は、やがてこんなことを思うようになる。

――人間関係ってクソだわ

クラスメイトに会いたくないことを理由に、教室にも行かなくなった。
授業に出なくなった彼を待ち受けていたのは、「暇」だった。
何をやっても飽きてしまう。時間が潰せない。何もしなくているのも苦痛だ。
そんな時に思い出したのは科学部の存在だ。科学部には彼の名前を弄る人種はいなかった。
そして、科学は未知を探求する学問だ。彼は、科学には飽きが来ないのではないかと考えた。
その考えは大当たり。彼は科学に夢中になった。授業中だろうがお構いなしに理科準備室に籠もって実験の日々。
もちろん理科系の先生にはバレたが、実験結果を見せると先生は何も言わなくなった。
それどころか、一般の学生には手に入れられない薬品も用意してくれた。
毒だろうが薬だろうが爆薬だろうが、彼には何でも作る自信があった。彼は科学部のエースだった。


そんな彼が殺し合いで目指したのは、やはり理科準備室であった。
あの部屋には実験成果が保存してある。中には危険物もある。
彼は、実験成果さえあればこの殺し合いでも有利になるのではないかと考えたのだ。
彼の理想は誰にも会わないことなのだが、念のためだった。

彼の開始地点であるプールから理科準備室までは少し遠い。
それに加え、謎の叫び声(韋駄天のものである)と放送(これも韋駄天のものである)に警戒したため、辿り着くのは少し遅くなってしまった。
だが、とうとう彼は誰にも会うことなく辿り着いた。理科準備室に続く部屋、理科室へ――!

「……」
「……うわあ」

思わず声が出てしまう。そこにあったのは、見るも無惨な姿にされた一人の男子生徒だった。長門傀儡である。
可哀想だなあ、とか。痛そうだなあ、とか。色々と考えはしたが、毒島はスルーすることにした。
人との関わりを持ちたくなかったのだ。触らぬ神に祟りなしだった。というか、何か触りたくなかった。

(ごめんね)

建前だけで謝罪しつつ、理科室の中へと入る毒島。理科室の中は荒れていた。
毒島が「じんちゃん」と呼び親しんでいた人体模型も滅茶苦茶に破壊されていた。
彼は少し悲しくなったが、所詮はモノだと割り切り、血痕を避けつつ理科準備室へ向かった。

「……うわあ」

毒島はまた声を出してしまった。理科準備室では、一組のカップルが抱き合いながら死んでいた。
近くには空の瓶が一つだけ落ちている。あれの中に入っていたのは毒島が作った毒だ。どうやら仲良く半分こして飲んだらしい。


117 : called ◆e0LoQUAiKw :2016/06/02(木) 21:30:09 iwE34Fes0
(こんなとこまでラブラブかよ、リア充死滅しろ……いや死んでた……)

死んでしまったものはどうでもいいと気を取り直して薬品置き場へと向かう毒島。
そこには、彼が作った実験成果達がカップルが使用した一本を除いて揃っていた。
ある薬品は瓶のままポケットへ入れ、ある薬品はプールの更衣室で見つけた水鉄砲へ調合しつつ入れる。
やがて、水鉄砲の中身は超ヤバイ危険物になった。
どれぐらいヤバイかと言うと、人体に当たれば死に至るぐらいヤバかった。もしかすると即死するかも知れない。
今まで作ってきた色んな危険薬品を詰め込んだ、彼の科学部人生の最高傑作だった。


「さてと……」

このまま理科準備室にいるのも良いが、死体がある場所に隠れる趣味もない。
かと言って理科室も血まみれだ。毒島はとりあえず理科室から出ることにした。

「……」

理科室の出口には、相変わらず悲惨なまま転がされている男子生徒がいた。
彼に何も思うところがないと言えば嘘になるが、それでもどこか別の場所へ行こうと毒島は歩き出した。

「おい」
「うわあっ!?」

歩き出したばかりの毒島に声をかける者が一人いた。驚いて振り向く毒島。

「…………あ」

驚いたため、水鉄砲の銃口は上に向いていた。その角度は小柄な毒島が大柄な男の顔を狙うには丁度良い角度。
そして彼の指は水鉄砲のトリガーにかかっており、危険な液体が発射されてしまう。
男は咄嗟にガードしたようで、液体は男の拳にかかっていた。
拳。つまり人体。人体に当たれば死ぬような液体が、人体に……

(こ、この人は死んでしまう。僕が殺したのか?そんなつもりじゃ……)

「テメェ、何しやがる!!」
「うわああああああああああああああああああああああああああ!!!!????????」

動揺していたところに、死んだはずの男が凄い剣幕で睨みながら怒鳴ってきたのだ。
毒島は、何で死んでないんだろう?と心のどこかで思いつつ気絶した。


「……面倒なことになっちまったな」

男、犬神仁は毒島に「ソイツをやったのはお前か?」と聞きたいだけだった。
それが、気絶者が一人増えただけの結果に終わった。ついでに手も汚れた。

「放っといても寝覚め悪ィし……仕方ねェなァ。保健室に運ぶぐれェの面倒は見てやるよ」

放送室も気になるが、目の前で倒れている二人を放ってもおけない。
理科室の水道で手を洗い、右腕で毒島を、左腕で長門を担ぎ上げる犬神だった。


118 : called ◆e0LoQUAiKw :2016/06/02(木) 21:30:54 iwE34Fes0
毒島の水鉄砲の中にあった液体は、確かに人を死に至らしめるものだった。
だが犬神が死ぬ気配は無い。何故、犬神は死ななかったのだろうか?

答えは単純。犬神の精神力が強靱だったからだ。
犬神は、「弱い奴から先にくたばる」という弱肉強食の考えが持論である。
この考えから、犬神は弱者にならないために自分自身を肉体的・精神的に鍛錬してきた。
「○○に勝てるか?」という問いをよくされる彼だが、その度に彼はこのように答えるのだった。

「オレが負けるわけがねェだろ」

鍛錬の成果により、彼は喧嘩で負けたことがない。彼は本気で「自分が最強だ」と信じ込んでいる。
そして、この考えは彼の細胞一つ一つにまで染み渡っているのだ。
故に、毒島に毒攻撃された時も体細胞が「こんな毒には負けねェ」と即席で抗体を作り上げたのである。
「馬鹿は風邪を引かない」とは、つまりこういうことなのだ。

犬神は、「強者は弱者を正しく統べるべきである」とも思っている。
強者は力を持つが故に正しく力を使わなければならないのだ。
彼は、もしも間違った方向に力が使われれば世界が破滅するとまで考えている。
学生が語るにはスケールの大きな話だが、力を持つ彼は力の使い方について真剣に考えなければならなかった。
授業中もそんなことを考えていたから成績は壊滅的だったのだが。

だからこそ、彼は理事長を許せなかった。
成績が悪いから殺し合わせる?そんなものは正しい力の使い方では無い。
力があるのならば、強制的に勉強させるのがスジなのだ。勉強してない彼が主張するのは立場的に微妙だが。
しかし、そんな些細な矛盾は彼の信念の前には無力。彼を止める理由にはならない。


喧嘩では無敗。それでいて無闇に力を振るったりはしない。
固い信念を持っており、信念は意地でも貫き通す。
その言動に風貌も合わさり、自然と彼には一つのあだ名がついていた。

「番長」。生徒達は彼のことをそう呼んだ。


【理科室周辺】
【名前】犬神 仁
【アイテム】なし
【思考】理事長をブン殴る
1:毒島と長門を保健室まで持っていく
2:特に行くアテも無いので1が終わったら放送室へ

【名前】毒島 コロ助
【アイテム】超危険物入り水鉄砲、ポケットに詰め込んだ薬品
【状態】気絶
【思考】死にたくないし殺したくもないし誰にも会いたくない
1:どこかに隠れたい

【名前】長門 傀儡
【アイテム】なし
【状態】全裸、全身落書き、毛全剃り、ダメージ(大)
【能力】人形を念じるだけで操作できる
【思考】見下してくる奴等に復讐する
1: ……


119 : called ◆e0LoQUAiKw :2016/06/02(木) 21:31:20 iwE34Fes0
投下終了です


120 : 名無しさん :2016/06/02(木) 22:08:09 ybKiNJ1s0
おつです

毒島くんカップル死の毒の作者だったのか、言われてみれば名前に毒
犬神くん、信念で毒をさえ曲げるか…つよい…傀儡くんはギリ生還!よかったね(よかったね?)
純ちゃんさんがちょいヤンキー入ってるのも意外性があってよかった、そして全員登場か


121 : ◆GOQY2Z6jbA :2016/06/03(金) 13:23:09 WgQtRvsQ0
投下乙です
コロ助はやっぱり名前でからかわれるよね。そして漸く助けてもらえたラッキーな長門
毒を気合いで何とかする番長スゲーけど、果たしてどこまで我を通せるのか……

清井純真、蓬莱かぐや、新谷善次郎、鏖、信条正義、予約します


122 : ◆GOQY2Z6jbA :2016/06/06(月) 00:43:56 alX9ul7c0
予約破棄します


123 : ◆zdOZDzHBx2 :2016/06/13(月) 20:14:52 /BuOJIFo0
魔導 屍、理事長、予約


124 : ◆CvykvQJIqw :2016/07/09(土) 20:40:02 HlQf8MRw0
新谷 善次郎、信条 正義、鏖
予約します


125 : ◆CvykvQJIqw :2016/07/09(土) 20:40:43 HlQf8MRw0
投下します


126 : 僕にいい考えがある  ◆CvykvQJIqw :2016/07/09(土) 20:41:23 HlQf8MRw0
殺意の化身のような女子生徒……鏖は、徐々に善次郎と正義に迫って来ている。
無意識に後退しながら善次郎は必死に策を考える。
鏖をどうにかするようなアイデアを思いつかなければ……善次郎達に待ちかまえているのは、死だ。

戦いに勝利するためには、相手と比べて何らかの優れている点が必要だ。
それは筋力でも、スピードでも、戦術でも、あるいは運でも良い。
ともかく、こちら側の全てが劣っていては、奇跡でも起きなければ勝てないということだ。

幸い、鏖に比べて善次郎が勝っている事柄はすぐに見つかった。
それは人数だ。善次郎には正義がいる。2対1の戦いに持ち込むことができるのだ。
善次郎の生き残りは、この人数という点をどう使うかにかかっている。

「後輩ちゃん、これを」
「ナイフですね!正義の心に先輩の正義のナイフがあれば百人力……いえ、千人力です!」

善次郎は護身用に持ち歩いているナイフの片割れを正義に渡した。
本来、正義は武器の使用を好まないのだが、本棚を片手で持ち上げるような圧倒的な悪を粛正するため、ここは素直にナイフを受け取っていた。

「さて、作戦を考えたんだけど――」





ゆっくりと、ゆっくりと、善次郎と正義に歩み寄る鏖。

鏖は図書館の入り口方向から歩いてきており、善次郎達は逃げられない。

そのように鏖が考えているかどうかは定かではないが、彼女達の距離はどんどん縮まっていった。

「……今っ!」

距離が4メートルになった時だった。善次郎と正義が動いた。
善次郎は鏖から向かって左方向へ。正義は鏖の正面へ。
無論、この動きに反応できない鏖ではない。まずは一人、と言わんばかりに正面にやってきた正義に向けて金棒を振るう。
だが正義の距離を詰める動きはフェイクだ。正義は金棒の届く範囲から即座に脱出していた。

攻撃が空振ったことを認識した鏖は、正義に向けて即座に金棒を振るい直す。
しかし、これも空振り。正義は身を屈めており、金棒は正義の上を通過するだけだった。
それなら、と鏖は金棒を下に振り下ろす。その時には、既に正義はローリングで危険地帯を脱出していた。
悪と戦い続けた正義だからこそ、回避に徹すれば鏖の攻撃を避けきることが可能だった。


127 : 僕にいい考えがある  ◆CvykvQJIqw :2016/07/09(土) 20:42:21 HlQf8MRw0
「なっ……!」

だが、正義が鏖の攻撃を避けられたのもここまでである。
鏖は金棒を振り下ろして攻撃していた。正義が避けた以上、金棒の攻撃対象は図書館の床へと移っている。
そして、この行動そのものが鏖の次の攻撃となる。
鏖はそのまま金棒を床に叩きつけ……そして、その衝撃によって床の破片が正義へと飛来したのだ。
流石に正義でも、床を破壊できるような悪とは戦ったことはない。
故にこの攻撃は読めず、正義には両腕で床の破片をガードするのが精一杯だった。

「……ッ!」

正義の腕に衝撃が伝わる。正直、正義が思った以上の破壊力だった。
尖った破片が腕に突き刺さっていく感触が正義に襲いかかる。
それでも歯を食いしばって悲鳴を上げないのは、彼女の『正義の味方』としての強靱な精神を褒め称えるべきだろう。
しかし……正義がダメージに耐えるこの一瞬が、この戦いでは致命傷だった。

「あ……」

既に鏖は次の攻撃動作に入っていた。
戦闘経験のある正義だから考える前に気付いてしまった。この攻撃は、避けられない。
歯を食いしばっていたはずなのに……我ながら間抜けな声が出たものだ、と正義は思う。
今まで正義が粛正してきた悪どもも、真に自分の詰みを悟ると今の正義と同じような反応をしていた。
死が目前に迫った人間というのは、案外こんなものなのかも知れない……と正義が考えていた時だった。

「うおおおおおおおおおおッ!!」
「……先輩っ!」

正義の目に映ったのは、本棚の影から鏖へと特攻を仕掛ける善次郎の姿だった。
善次郎の足音と声に反応し、咄嗟に攻撃動作を中断する鏖。
その隙に、善次郎は鏖の腹へとナイフを差し込んだ。

「……嘘だろっ!」

それでも鏖は動じず、善次郎へと金棒を振り下ろす。
善次郎はこれを無我夢中で何とか回避。ちょうど近くにいた正義の手を引っ張り、そのまま逃走に入る。
もちろん黙って逃がす鏖ではない。善次郎達を追いかけようとするが、鏖は倒れてくる本棚の下敷きになってしまう。
本棚の裏側に回った善次郎が本棚を倒したのだ。

「とにかく、今は逃げるんだ!」

これで鏖が死んだとは善次郎には到底思えなかったが、時間稼ぎにはなったはずだ。
『正義は悪に勝つ』を信条とする正義にも、今の自分が鏖に勝つビジョンは思い浮かばなかった。
『正義の味方』として鏖を逃がすわけにはいかなかったが、ここは退却するしかなかった。

「次は、負けませんから……!」


128 : 僕にいい考えがある  ◆CvykvQJIqw :2016/07/09(土) 20:42:58 HlQf8MRw0
図書館の外へと出る善次郎達。鏖が入り口を破壊しているため、ドアを開ける必要は無かった。
鏖が追ってくる気配は無いが、それでもスピードは緩めない。
今はただ、あの怪物から離れたかった。

逃げながら善次郎は自分の方針について考える。
アレを放っておいて誰かに倒してもらうというのは少し楽観的すぎる、と実際に相対した善次郎は思う。
仮に鏖から徹底的に逃げ回ったとしても、奴が死なない以上は最終的にまた戦うはめになってしまう。
となると、鏖に勝てるような戦力を整えて鏖を倒す。これしかない。
そのために考えられる手段としては、武器の調達、人員の補充の2つがある。

まずは、武器。今、善次郎達が所有している武器はナイフ1本だけ。
首などの急所を狙えば勝てなくもないだろうが、大人しく首を狙わせてくれるような相手じゃないだろう。
そこで調達する必要があるのだが……どこへ行けば武器があるだろうか?
教室、職員室、生徒会室、理科室……色んな部屋を思い浮かべてみる善次郎。
どの部屋にも武器はありそうな気がする。しかし同時に、武器がなさそうな気もする。
どこに何があるか完璧に把握しきっている学生は少ないだろう。善次郎もそうだった。

(……武器は後回しだな)

次に、人員。善次郎達は2人いたから、先ほどの作戦……挟み撃ちを決行することができた。
最悪、10人ぐらいで攻撃を仕掛ければ、(何人死ぬかは別として)勝てなくはないだろう。戦力は多いに越したことはない。

問題は説得だ。協力者への説得もそうだが、難儀しそうなのは正義への説得だった。
正義は、「殺し合いに参加させられているのは悪!」「此処にいる全員は悪!」だとか断言していた。
正義に悪認定を食らった者の評価を覆すのは難しいということを善次郎はよく知っている。
冤罪の学生を病院送りにしたことだって二度や三度ぐらいはある。

(でも、やるしかないかもな……)

武器の場所がわからない以上は、人を増やす方が手っ取り早いというのが事実。
善次郎は正義のブレーキ役として今まで活躍してきた。
冤罪で悪と認定された学生でも、病院送りにされた学生よりは、善次郎によって救われた学生の方が多いのだ。
あるいは、「小さな悪と共闘して大きな悪を倒す」という方向で説得しても良いかも知れない。

「せ、先輩。痛いです、腕……」
「あっ……ごめん」

思えば、善次郎はずっと正義の手を引っ張って走ってきていた。
傷を負ってる腕に負担をかけてたかな、と思いつつ手を離す善次郎。


129 : 僕にいい考えがある  ◆CvykvQJIqw :2016/07/09(土) 20:44:14 HlQf8MRw0
(……傷、か)

ここで善次郎は、自分より戦力になるであろう正義が負傷しているという事実を改めて認識する。
正義が全力で戦えなければ、善次郎の生存率も下がってしまう。
正義の手当てを優先すべき、という考えが善次郎の頭によぎる。

(傷の手当てをするとなると……)

行き先は――保健室か。

【図書館の外】

【名前】新谷 善次郎
【アイテム】なし
【思考】
0:とにかく今は、信条と逃げる
1:保健室へ行って信条の手当てをする?
2:何とかして鏖に勝てるような戦力を整える
3:2のために信条を説得する?
4:痛いのは嫌だなあ

【名前】信条 正義
【アイテム】ナイフ(『先輩のくれた、正義の心がはち切れんばかりに詰まったナイフです!』)
【性格】
絶対正義(自身のことを正義として疑わず、自分がした行為は全て正しき物であると考えている)
【思考】
0:殺し合いなんて良くないことです! だから参加者や理事長は全員殺します!
1:次にあの悪(鏖)に出会ったら、絶対に勝ちます……!
2:『正義の味方』である先輩だけは殺しません。





倒れている本棚が吹っ飛ぶ。本棚の下から現れたのは、女子生徒が一人。
そう、やはり鏖は生きていたのだ。

腹にナイフが刺さっているまま動けるのか?
ナイフが刺さっているのは急所ではないのか?
彼女にダメージはあるのか?痛覚はあるのか?

抱いて当然のそんな疑問は、彼女にとっては些細な、全く関係のないことで。

彼女はまた、鏖にするため、鏖のために、歩き出したのだった。

【図書館】

【名前】鏖
【アイテム】金棒
【外見】学園指定のセーラー服を着用した長身の女子
【思考】鏖


【備考】
韋駄天 風の放送は図書館までは届かなかったようです


130 : 僕にいい考えがある  ◆CvykvQJIqw :2016/07/09(土) 20:44:40 HlQf8MRw0
投下終了です


131 : 名無しさん :2016/08/26(金) 03:21:30 GKMJn5Qs0
投下乙です
鏖ちゃん強い。正義と善次郎は何とか撤退しましたが、着実に保健室フラグが立っていってますね。
御剣桃太郎、韋駄天風、佐渡翔、斧狂太郎、ゲリラ投下します


132 : 狂気転結 :2016/08/26(金) 03:25:02 GKMJn5Qs0


「――――化け物ッ!!!!!!」


保健室にこだまする、韋駄天の絶叫。


「へ?」

桃太郎は混乱した。
彼にとって、無銘はか弱い少女に今にも襲いかからんとする鬼だった。
だからこそ、彼は義憤に駆られて刀を抜いたのだ。韋駄天を、助けるために。
殺人鬼から弱者を救うために、殺人鬼を殺す。
それは間違いなく正しいことだ。
それが、罪悪感と興奮から導きだした桃太郎の主観で判断されただけの、短期的すぎる行為でなければ、だが。

「い、韋駄天殿……落ち着くでござる「来ないでっ! 来ないでよっ! 人殺し!悪魔!」」

拒絶、罵倒。
人が良い彼女がこうまでして他人を拒絶するのは珍しい。
目に涙をためて、桃太郎を睨む
そこには、その目には、一欠片の感謝もない。
あるのは、友達を殺した殺人鬼への怒りと恐怖だけだ。
それが、嫌というほど伝わった。

「そ、んな……」

なんで、そんな目で見る?

襲われていたんじゃないのか?

ーー某は、また間違えてしまったのか?

桃太郎は、限界だった。
女子を見捨てて無様に生き延び、それを恥じて今度こそ正義を果たそうとしたのに……何故?
そして、そのビビ割れた精神にトドメを刺したのは、韋駄天だった。


「は……何も悪いことしてなかった! なのに、なのに、この、殺人鬼!!」

殺人『鬼』
倒すべき悪鬼と同じく鬼として罵られ、桃太郎の心は今度こそーー折れた。
 
「あ、ああ……ああああああああああああああああああああああ、
 ああああああああああああああああああああああああああああああああああぁーっ」



(あー……桃ちゃん、とんでもないヤラカシ、しちまった的な?)

絶叫する桃太郎
狂乱する殺人鬼に怯える韋駄天
その放送室の悲劇を後ろから眺めていた佐渡は、呆然としつつも直ぐ様、持ち直した。
要するに、あの時代劇バカは、追試に乗っていない相手を『見かけが鬼っぽいから』という理由で、まさしく勢いで殺してしまった様だ。
アホだな。と見も蓋もない感想が口をつく。
佐渡の心中で、桃太郎は情緒不安定なござる君から、情緒不安定でマーダーのござる君に格上げとなった。

(さて……どうすっかな)

桃はもう見捨てるとして、いくら底抜けのお人好しでも、こいつの同行者である俺を風が信用する可能性は低い。
それに、そこそこ付き合いがあるとはいえ、放送なんてやらかして格好の的になった韋駄天とつるむメリットもない。
なら、さっさと退散するか…… 
ドライな佐渡は、両者を見捨ててその場を立ち去ろうとした。

(じゃーな。桃ちゃん、風ちゃん)

心中で別れを言いつつ、惜しむ気持ちは全く無い。佐渡はそういう男だった。
さらに今の彼は銃すら持っている。
その余裕が、少し佐渡の緊張感を緩めていたらしい。


影から飛び出してきた狂太郎の一撃を、彼は避けることができなかった。


「は?」





ドグシャ

肉が、裂けた。


133 : 狂気転結 :2016/08/26(金) 03:26:03 GKMJn5Qs0



やった。

狂太郎は、鮮血の斧を握りしめながら、成し遂げた充実感で満たされていた。

殺した。佐渡を。

完全に闇夜の校舎に溶け込んだ奇襲。
あの要領の良い佐渡すらも、殺せた。理不尽にその命を終わらせた。
怪物は理不尽でなければならない。
ならば、人の命を理不尽に奪える自分は、その理不尽な怪物そのものなのだ。
なりたかったものに、とうとう僕は成れた。





ぱん


あれ、おかしいな。
なんで僕、倒れてるんだろう



ぱん、ぱんぱん


あぁ、痛い。
でも、僕は泣かない。
怪物は、泣いちゃいけないんだ。だって、泣かせる側なんだから。
 
ぱんっ

とても寒い。凍えそうだ。
血が出てる。おかしい、僕は怪物なのに。
怪物は不死身でなければ意味がないのに。

霞がかる視界に、佐渡が見えた。
奴は笑っている気がする。よく見えない。
でも、君はいつもそんな顔で僕に話しかけてきた気がする。
何だ、殺せなかったんだ。

じゃあ……泣いちゃっても、仕方ないよね。

僕は結局、最後まで、ただの人間 だったん だか ら




ぱんっ


134 : 狂気転結 :2016/08/26(金) 03:26:58 GKMJn5Qs0




狂太郎の頭を撃ち抜いた佐渡は、とうとう力尽きたのか弾切れのワルサーを落とした。
まったく酷い有り様だ。
斧を叩き込まれた脇腹はざっくりと切断され、生暖かいピンク色の腸がはみ出てる。
下半身の感覚はもうない。
この有り様で生きているのが、少なくとも鉛弾をぶちこめるほど意識が保てたのが奇跡だ。
あるいは…あの怪物に成りたがってた少年が、微かに殺すのを戸惑っていたからかもしれない。

もっとも、そんな詮索は意味のないことだ。
この傷では、どうあがいても佐渡は助からない。奇跡は、終わりかけている。
目も、もう見えない。あと数秒か。
自分では要領の良い男だと思ってたんだけどなぁ……と苦笑する。
震える手でタバコを取り出す。顔をしかめた。タバコは、佐渡の血で湿っていた。


(あー……マジ、糞だな)


【斧狂太郎 死亡確認】 
【佐渡翔 死亡確認】


放送室から飛び出した韋駄天が目にしたのは、銃殺された狂太郎と、臓物をはみ出して事切れた佐渡の姿だった。

「そ……そんな、佐渡先輩! 佐渡先輩!」

銃声でようやく同行者の存在に気がついたが、それが知り合いで、しかもいつのまにか死んでいるなんて驚きを通り越して驚愕だった。
そこそこ誰にでも絡む佐渡は、学園でも目立つ方であった韋駄天とも交遊関係があった。

「うぅ… 先輩… なんで」

彼女にとってはちょい悪だけど気の良い先輩だった彼の死は、とてつもない衝撃と悲しみをもたらした。

「どうして……どうして皆、こんな簡単に人を殺すの? おかしいよ、こんなの……」

悲痛な問いに、答えるものは居なかった。

【廊下】
【名前】韋駄天風
【アイテム】なし
【思考】
0:殺し合いなんてやだ
1:なんで皆、簡単に人を殺すの?
2:きっと魔導くんも怖がってただけなんだよ(名推理)


韋駄天が悲しみにくれる中、桃太郎は放送室で膝を抱えて丸まっていた。
銃声を聞いた韋駄天が、彼を突き飛ばし出ていった時から、何も変わっていない。
ただ不気味なほどの静粛があった。

「……」

いや、違う。耳を済ませば、微かに音が聞こえた。ぶつぶつと、何か呟いている。
ガバッと、塞ぎ込んでいた桃太郎が顔をあげた。

「けひっ」

その血に濡れた顔は、歪に笑っていた。
無理があったのだ。
いくら英雄に憧れ、その名を語り、気丈に振る舞おうとも、御剣桃太郎の精神は平凡の少年以上のものではない。
度重なる罪悪感と、明確な拒絶に、彼は狂気に逃げることを選んだ。

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

そこには伝説の桃太郎と比べるのもおこがましい、ただの狂人がいた。

【放送室】
【名前】御剣 桃太郎
【アイテム】無銘の刀
【思考】発狂
0:????
1:鬼(鏖)と狂太郎への警戒


135 : 狂気転結 :2016/08/26(金) 03:28:23 GKMJn5Qs0
投下終了


136 : 名無しさん :2016/08/28(日) 18:18:28 cVMCiLW20
投下乙です
殺し合った二人、狂太郎の独白が物悲しい
そして桃ちゃん…うん、頑張れ


137 : ◆N4CDx3zJvI :2016/09/20(火) 23:35:33 22RL8yIw0
新谷善次郎、信条正義、犬神仁、毒島コロ助、長門傀儡、鏖、清井純真を予約します


138 : ◆X0q78mh/0k :2016/09/23(金) 01:59:12 SyaI5Okw0
魔導屍、韋駄天風、御剣桃太郎 予約します


139 : ◆X0q78mh/0k :2016/09/23(金) 04:07:32 SyaI5Okw0
投下します


140 : そしてみんな居なくなる ◆X0q78mh/0k :2016/09/23(金) 04:09:59 SyaI5Okw0

「なんで……なんで皆、こんな簡単に人を傷つけるの… こんなのおかしいよ…」

理解できない。
よくも悪くも、韋駄天 風 という人間は純粋で、普通だった。ただ人よりも走るのが好きというだけの女子にすぎない。
彼女の思考はどこまでも性善説だった。
どんなに悪そうな人でも、きっと心のそこは善人で、本当に悪い人なんていないと心底信じている。
きっとそれは素晴らしい事なのだろう。日常でさえあれば……
ただ、今この場においては意図も容易く啓蒙老人の戯れ事のごとく貶められてしまう。

「何でなんで何で何で……ブツブツ」

沈黙を保っていた放送室から、血まみれの日本刀を携えた桃太郎が現れた。
彼の瞳はぎらぎらと異様な輝きを発し、明らかに正気ではない。
そこに、かつて正義の味方に憧れていた少年の面影はなかった。
彼はざっと廊下に転がる死体を眺め、膝を付いていた韋駄天を見下ろす。

「ひっ」

その異様な迫力に、短く悲鳴が溢れた。

「なんで!!!」

それが引き金となったのか、桃太郎は怒りと悲しみが混ざったような表情で絶叫する

「なんでそんな目で見るのでござるか!!! 某は、某は!! お前を救ってやったんでござるよ!!!なのに、なのにィィィィ!!!」

限界だった。
なぜ自分がこんな理不尽な目に遭わなきゃいけないのか?
なぜ正しいことをしようとしているのに、そんな異常者を見るような目をするのか?
ーー女を見殺しにするような屑には、そんな価値もないと言うのか?

そこからは簡単だった。出鱈目に振り回した刀の刃先が、韋駄天の肩を大きく切り裂いた。
悲鳴をあげて倒れた彼女を見て、壊れかけていた桃太郎の精神は大きく軋みをあげる。

「あっ……ああ……」

あっという間に桃太郎の正気と狂気のバランスが崩れる。彼は倒れる韋駄天にのし掛かりマウントポジションをとった。
そして、引き締まった首もとに無造作に指をかけた。

「お前のせいだ……お前の……うおおおおおっ!!!あああああ!!!」

「がっ、はっ、ぐっ」

ギリギリと締め上げられる。気管が潰され、酸欠で韋駄天が喘ぐ。当然逃げ出そうと暴れる。
しかしいくら鍛えられているとはいえ、同年代の男子に力で勝てる程ではない。
徐々に意識が遠くなっていく。視界に映る醜悪な狂人の顔も、見えなくなっていく。

(ーーもっと、走り、たかったなーー)




ゴキャッ





【韋駄天 風  死亡】


魔導がやって来たときには、すべてが終わっていた。
放送室周辺は燦々たる有り様だ。
放送室は血の海と化しているし、鬼っぽい生徒の死体が屍をさらしている。

「けひひ、こりゃスゴいな」

そしてーー廊下に転がる"四組"の死体。
下半身が泣き別れしているのは、確かやり手で通っていた……佐渡、だったか?
斧を持って彷徨いていた奴は酷いことになっている。
ていうかどうみても射殺されているが、何処から銃を持ち出してきたのか?
この学園は何でもありだと改めて実感した。
壁に寄り添うように倒れているのは知らない奴だ。大層に日本刀なんか持っているが、多分、自殺だろう。頸動脈を自分で斬ったらしい。
いやそんな連中の死に様なんてどうでも良い。何よりも重要なのは……

「やっぱ殺されちゃってるじゃん。……バカだなぁ」

お目当ての少女は、手を下すまでもなく死んでいた。一見すると眠っているようにも見えるが、首筋のアザが痛々しい。
まぁ、それぐらいなら許容範囲だ。

「さて……うひひひ、うひひひひひ♪」

イヤらしい想像で股間を勃起させ、魔導はスキップしながら彼女の死体に近づく。

「ああ!!」

そこで彼は、韋駄天の亡骸に刀傷があるのを見つけた。それまで浮き足立っていた心が不快感と憤怒で歪む。


141 : そしてみんな居なくなる ◆X0q78mh/0k :2016/09/23(金) 04:11:12 SyaI5Okw0

「ぐおおおおお!! どこのバカだ!! 絞殺は兎も角こんな雑に斬りつけるなんて……糞が!! せっかくの素材を傷物にするなよ!!!」

観賞用に保存するにしろ、直球で楽しむにしろ、雑な損傷があることが彼の逆鱗に触れる。
死姦というのは、できる限り生前の美しさを保ったままが望ましい。
何故なら、それが過去の存在であることを強く実感し、愛でるからだと屍は思っている。

「お前か!!お前がやったのかよ?!この糞が!!糞が!!糞が!!糞が!!」

日本刀を持ってこと切れていた桃太郎の体をゲシゲシと蹴りつける。あまり体力に自信のない魔導の脚力じゃ揺さぶる程度にしかならないが、それでも幾分か気が晴れた。

「ふぅ… ふぅ… チッ、しょうがないな。どこか静かな場所に移動させるか」

廊下で楽しむのも出来なくはないが、やはり雑な損傷があることが気になる。少し修繕してから愛でたほうが満足度は上だろう。
ただ、女子とはいえ死体をどこぞに移動させるのは自分一人だけでは明らかに手に余る。
さてどうするかと頭を悩ませると、そこで端と気がついた。

「なんだ。パシリならここに居るじゃないか」

魔導は側に転がっていた死体に近づくと、徐に鉈で指先を切った。
そして血を一滴、死体の口に垂らす。

「我は死者の安息を妨げるもの。闇の秘術により、今ここに眠る死者を使役せん」

扱いやすいようにかなり簡略化されているが、それは確かに呪文だった。違法な類の。
数秒後、のっそりと死体が起き上がった。

「うひひ、魔導書も秘薬もないから不安だったけど、出来なくはないんだなぁ」

満足げな魔導に虚ろな視線を向ける屍は、ゆっくりと足元に転がっている斧を拾った。
魔導屍は、斧狂太郎を黒魔術により死霊にしたのだ。
彼を選んだのには特に深い意味はない。
ただ、自分では持てそうもない斧を軽々と扱っていた狂太郎なら力仕事に向いていると思ったのだ。

「そうだなぁ……道具もありそうだし、『保健室』にこの子を運べ」

魔導はさっそく狂太郎に指示を出す。黒魔術で死霊化した使者は、術者の命令を聞くのだ。

「…………」

彼は怠慢な動きで頷く。そしてーーー









ドグシャ



ーーーー全力で、魔導の脳天に斧を叩きつけた。



何が起こったのかもわからず、脳天から股までを切り裂かれ、魔導屍は絶命する。
主人を殺した死霊は、それを無感動に見下ろしていた。

なぜ彼が命令を無視し、こんな強硬に及べたのかはわからない。
生前から狂っていた彼の精神性が主従関係の縛りを凌駕したのか、それとも魔導書の補助もなく黒魔術を使用したために起きたバグなのか。

「…………」

どちらにせよ、この後の結末は決まっている。
術者を殺せば、術は解かれ狂太郎は死体に戻ーーらなかった。


142 : そしてみんな居なくなる ◆X0q78mh/0k :2016/09/23(金) 04:12:12 SyaI5Okw0



ゆらり、ゆらり

魔導の残骸から靄のようなものが立ち上る。ゆらゆらと揺れるそれは、狂太郎に吸収されるように消えていく。
禁忌ーー魂喰い(ソウルイーター)
他人の魂を魔力に変換し、己の糧とする違法な魔術だ。

「…………」

魔導の魂を喰らい、魔力を補充する。
それによって、死霊化の術を維持する試みは、成功していた。
魔導にとっても誤算だったのは、狂太郎に多少なりとも黒魔術の知識があったことだ。
クラスでこそパワー系池沼で通っているし、常に無口な怪物のロールプレイに徹しているために誤解されやすいが、実は彼、そこそこ頭が良い。
頭がおかしいとしか思えないが、より憧れる怪物に近づくために、オカルト方面の知識も手慰み程度だが習得していた。
もっとも、派手な魔術は彼の美学……というか怪物像から剥離するため、かなり片寄ったものとなっている。
怪物は飛び道具を使ってはいけないのだ。素手か、原始的な……そう、肉厚な斧とかが好ましいのだ。

その後も狂太郎は、散漫な動きで魂喰いを行っていく。
すでに死者である狂太郎は魔力を精製できない。というかそこまでの素質がないので、補充できるならできるに越したことはない。
躊躇なく禁忌を犯していく狂太郎は、間違いなく異常だった。
怪物に憧れた少年は、死ぬことでようやく憧れていたモノになれたのかもしれない。

「…………」

自分に引導を渡した佐渡や、何故か死んでいる知らない奴ら(桃太郎と七条)。
合計で三人分の魂を吸収した狂太郎は、最後に残った死者を見下ろす。





「……ァア」

綺麗だった。

韋駄天風の魂は、他の魂よりも淀みがなく、何処までも純粋だった。

「…………」

暫くそれを見つめいた狂太郎だったが、何を思ったのか彼女の遺体を担ぎ上げた。
すでにこの追試が終わるまで位なら余裕で体を維持できるだけの魔力はある。
風穴が空いた脳内でそんなことを考えているのかは解らないが、すくなくとも、韋駄天の魂には手をつけなかった。そうして死体を抱えた死霊は、放送室を立ち去る。


彼の向かう方角は……『保健室』だった。


【魔導屍 死亡 惨殺】
【韋駄天風 死亡 絞殺】
【御剣桃太郎 死亡 自殺】



【3-B保健室周辺の廊下】
【名前】斧狂太郎(死霊)
【アイテム】斧、韋駄天の遺体
【思考】保健室にいく?
1:怪物は言葉を喋ってはならない
2:怪物は理不尽でなければならない
3:怪物は不死身でなければ意味がない

【備考】
 魔導屍により死霊化されていますが、術者が死んでいるため野良状態です。
『魂喰い(ソウルイーター)』の魔術を修得しています。
 現時点で御剣桃太郎、佐渡翔、七条無銘、魔導屍の魂を食べて必要な魔力を十分に得たため、しばらくは体を維持できます。
 死霊とはいっても実体はあるので、粉砕されると死にます。ゾンビみたいなものです


143 : ◆X0q78mh/0k :2016/09/23(金) 04:13:01 SyaI5Okw0
投下終了です


144 : ◆N4CDx3zJvI :2016/09/23(金) 18:16:40 Fp2J6nPs0
投下乙です。
まさか韋駄天ちゃんがここで死んでしまうとはなぁ
桃太郎はここでリタイアか。壮絶な人生に南無。

>>137から清井純真・鏖を外し、蓬莱かぐや・斧狂太郎を追加予約させていただきます。


145 : 名無しさん :2016/10/02(日) 19:20:32 e8Lh7Fj60

【男子学生】
●佐渡 翔/○酒呑 童子/○新谷 善次郎/○毒島 コロ助/○長門 傀儡/○斧 狂太郎/●御剣 桃太郎/●智胤 猩々/○犬神 仁/●七条 無銘/●魔導 屍
 
【女子学生】
○茨木 童子/●内藤 ナイト/○蓬莱 かぐや/●倉井 さわ子/○手呂 爆/○清井 純真/○信条 正義/○真宮 叶/●雉凪 結城/●韋駄天 風/○鏖
 
現時点での予約
新谷善次郎、信条正義、犬神仁、毒島コロ助、長門傀儡、斧狂太郎、蓬莱かぐや

現時点での生存者と予約まとめてみた。こうしてみるとけっこう生き残ってますね


146 : ◆N4CDx3zJvI :2016/10/03(月) 21:17:00 du14FuzY0
時間が確保出来ないので予約破棄します。
長期間キャラを独占してしまい、本当に申し訳ないです。


147 : ◆CvykvQJIqw :2016/12/04(日) 20:21:37 iENAOMQY0
ゲリラ投下します


148 : ◆CvykvQJIqw :2016/12/04(日) 20:22:18 iENAOMQY0
「これは……」
「……そんな」

放送室の周辺まで辿り着いた真宮叶と酒呑童子。
彼らが見つけたのは三人の倒れている男子生徒だった。
自分の横で顔を少し青ざめさせている酒呑を見て、「お姉さんに任せなさい」と真宮が男子生徒達に近付く。
真っ二つになっている生徒はともかく、他の二人はまだ生きているかも知れない。
そう思い念のため脈を診てみる真宮だが、残念ながらどちらも既に死んでいた。

続けて真宮はモップを構えながら放送室の中へ突入する。
放送室の中はまさに『血の海』と表現するのが相応しい酷い有様だった。
血は放送機器にまでかかっており、まともな神経の持ち主なら放送を行うことを躊躇するだろう。
そして中央には筋骨隆々で角を二本も生やした存在……七条の死体が横たわっていた。
既に死亡しているにも関わらず、その死体は真宮に威圧感を与えている。

「こんな生徒は見たこと無かったけど……鬼、なのかしらね」

血の海に足を踏み入れたくなかったため、放送室の入口付近から死体を観察する真宮。
そんな真宮の独り言に言葉を返す者がいた。

「……あれは、鬼じゃないよ。確かにあんな鬼もいなくはないけど……普通の人間の姿をしてるのも多いから」
「あら、鬼を知っているような口振りね?」
「というかボクが鬼だ」
「そうだったの」

視線を酒呑に移す真宮。確かに、隣にいるのはどこからどう見ても鬼なんかには見えない少年だった。ショタだった。
女子制服を着ている今ならにもロリにも見えるかもしれない。男の娘だった。
ロリ。そう言えば死体のインパクトに気を取られていたが、放送を行った主である韋駄天の姿が見えなかった。
誰かに殺されてしまったのならその辺りに死体が転がっているはずだ。廊下の男子生徒達や放送室の鬼もどきのように。
となれば……希望的観測だが、韋駄天はどこかに逃げているのではないだろうか。

「私たちは、廊下の向こう側から来たわね」
「そうだね」
「あの子がここ(放送室)から逃げたとするなら……私たちとすれ違わない方向、つまりあっちに向かったということよ」

希望的観測であっても、生きている可能性があるのなら真宮に韋駄天を追いかけないという選択肢は無いのだ。
それが真宮叶という淑女だった。

「……まだ、間に合うかも知れない。行こう、お姉ちゃん!」
「もちろんよ!」

廊下に出る二人を出迎えるのは先ほどと変わらない様子でそこにある複数の死体だった。
否が応でも死体を視界に入れてしまう二人。
真宮は、死体がそれぞれ武器を……拳銃や刃物を持ったまま死んでいることに気付いていた。
つまり、そんな武器を持っていても殺すことができる参加者がいるということだ。
そう考えると、武器がこのモップ一本というのはかなり危険な状態ではないだろうか。

韋駄天の身は今も危険に晒されているはずだ。考えている時間は無い。
真宮は死体から武器を拝借することにした。

【放送室の前の廊下】
【名前】真宮 叶
【アイテム】武器
【思考】私は普段通り願望を叶えるだけよ
1:韋駄天ちゃんが向かったと思われる方向へ向かい、保護する
2:ロリショタは保護するわ。けれども、危険人物は例外よ
【備考】
佐渡の拳銃、桃太郎の刀、魔導のナタのいずれかを入手しました。複数、あるいは全て持っていったかも知れません。
もともと持っていたモップの行方も含めて後続の書き手さんにお任せします。


149 : ◆CvykvQJIqw :2016/12/04(日) 20:22:56 iENAOMQY0


酒呑童子は、人の死体を多く見てきた。理由は長い時を生きたことと、鬼であることの二つ。
従って、この殺し合いという環境下において、彼が死体を目撃して動揺することは無い……はずだった。
しかし彼は動揺した。真宮は彼の動揺を察したからこそ、死体の生死を確かめに行ったのだ。

彼が動揺した答えは、男子生徒達の死体に行われたとある魔術にある。

人に限らず、生き物は死ねばそれまでだ。
身体は二度と動かず、魂は天国や地獄……俗に『あの世』と呼ばれる場所へと旅立つ。幽霊という例外はいるが、大体は旅立つ。
この一般的な流れを妨害する魔術が黒魔術には存在する。
死体を動かすのはネクロマンサーの得意な魔術だ。魔導屍も、既に息絶えた斧狂太郎を動かすことに成功している。

そして、魂を魔力として変換し喰らう黒魔術が『魂喰い』だ。
魂喰いによって術者に吸収された魂はもうどこにも行くことは無い。
あの世にも行くことはできない。当然、輪廻転生などもできるはずもなく、喰われた魂に救いは無い。
死した後の安寧をも奪う外道な魔術であるが故に、魂喰いは黒魔術の中でも禁忌と呼ばれているのだ。

さて、酒呑童子に話を戻そう。結論から言うと、彼が動揺したのは魂喰いが行われた事がわかってしまったからだ。
一般に、魂はある程度の時間は死体や死体の周辺に留まっているものだ。
ところが、放送室の周辺にあった死体からは魂が綺麗さっぱりいなくなっていたのだ。
鬼である彼にも魂が無いことは何となくしかわからない。それでも、魂が一つも残っていないということは理解できた。
死体になってから真宮達が駆けつけるまでの短い期間に、魂が揃ってあの世に行くということはまず考えられない。
つまり……魂喰いが行われたという証だった。

(黒魔術使い、か……昔、京で全滅したかと思ってたけどね)

彼も鬼である。真宮が放送室に入る頃には平静を取り戻していた。
放送室の中にある死体にも魂が残っていないことを感じ取りつつ、彼は真宮に言葉を返すのだった。
七条の死体はいかにも鬼っぽい雰囲気を醸し出しているが、本物の鬼である彼には同族でないことは理解できた。

時は移り、廊下に出てきた酒呑達を魂の無い死体達が出迎える。

(……これ以上、君たちのような犠牲は出させない。必ず、ボクが止めてみせる)

実のところ、放送室にやって来た目的である韋駄天は残念ながら既に死亡している。
一見、これでは真宮の方針はただの無駄足である。
だが不幸中の幸運もある。それは、韋駄天の魂は未だ喰われていないということだ。
まだ魂喰いを行う外道さえ止めれば、韋駄天は無事にあの世へと旅立つことができる――!

淑女はロリを救うために韋駄天の元へ向かう。鬼は魂を救うために外道の元へ向かう。
行き先・目的は同じだった。

【放送室の前の廊下】
【名前】酒呑 童子
【アイテム】なし
【思考】理事長に逆らう。襲ってくる者は相撲で撃退
1:魂喰いを行う外道を止める
2:茨木童子とは次回の取組で勝敗を決する
3:このお姉さんマイペースすぎるよね


150 : ◆CvykvQJIqw :2016/12/04(日) 20:23:32 iENAOMQY0
投下終了です。
タイトルは「淑女と鬼の行く先」です


151 : ◆CvykvQJIqw :2016/12/21(水) 23:56:02 vh4dqd6Y0
ゲリラ 投下 します


152 : ■■は、月まで届くか ◆CvykvQJIqw :2016/12/21(水) 23:56:42 vh4dqd6Y0
屋外用体育倉庫から購買まではそれなりに距離があるが、清井純真と蓬莱かぐやの二人は特に何事も無く購買まで辿り着いていた。
それは彼女たちが聞きそびれた放送による効果もあるのかも知れない。

「店員さんはいないみたいですねぇ」
「こんな状況で店員やってる奴がいたら驚きっすよ」

この学校の購買の商品は、食べ物・文房具・雑誌の三つに分けられる。
流石に深夜ということもありおにぎりやパンなどは無かったが、菓子類とペットボトル・缶の飲み物は棚に陳列されていた。
彼女たちが購買にやってきた目的はこの菓子類にあった。

「……あー」

文房具コーナーで清井の足が止まる。彼女の視線の先にあったのはカッターナイフだった。
殺し合いという状況下で武器を何も持たない女子が二人というのはかなりヤバい。
武器としてはショボいがまあ仕方ないか、と清井はカッターナイフを手に取った。

「かぐやさん、武器を見つけたっす」

自分の分と蓬莱の分、二本のカッターナイフを持ちながら話しかける清井。
話しかけられた蓬莱はというと、チョコレートの箱を持っていた。

「あー、そのチョコ好きなんすか?」
「ええ、ちょっと思い出がありましてぇ……」

そのチョコは、山のような形をしていて上半分がピンク色をしているものだ。
チョコの名前を見て、清井は一つの噂を思い出した。

「そう言えば……テレビでやってたんすけど、アポロと言えば実は月に行ってなかったみたいな話がありますよね」
「へぇ、そんな話があるんですかぁ」
「そうっすね。一応、信憑性は割とありそうな番組で……」
「……アポロは、月に来ましたよぉ」
「へ?」

『噂話』を『実話』で否定する口調の蓬莱に、清井は困惑した。
しかしすぐに話しかけた目的を思い出し、カッターナイフを渡そうとする。

「そんなことより、武器っすよ武器……?」

蓬莱に近付く清井の視界の端に何かが映った。
横を見てみると、紙飛行機が飛んでいた。

「は?」

何故こんなところで紙飛行機が飛んでいるのか。またもや困惑を隠せない清井。
"紙飛行機を飛ばした人間がここにいる"という事実に清井が思い当たった時、こつんと紙飛行機は蓬莱に当たった。

「あら?」

その瞬間だった。紙飛行機が爆発した。


153 : ■■は、月まで届くか ◆CvykvQJIqw :2016/12/21(水) 23:57:20 vh4dqd6Y0


「なっ、何が起こったんだよ……!?」

紙飛行機に気を取られ蓬莱に近付くのを中断していた清井は、爆発で吹っ飛ばされ背中を床に打ちつけながらも助かっていた。
立ち上がりつつ蓬莱の安否を確認するが、蓬莱はうつ伏せに倒れたまま動かなかった。

「かぐやさん……!」
「あーあ、二人とも殺るつもりだったのになー」

購買に清井のものでも蓬莱のものでもない女子生徒の声が響き渡る。
彼女の名は手呂 爆。国際指名手配されているテロリストである。

体育館で一人の騎士を葬った彼女は、爆弾にして投げつけられそうなものを探しに購買までやって来ていた。
そんな彼女が見つけたのは雑誌だった。
雑誌のページを一枚ずつ爆弾にして使えばかなり長持ちする上、雑誌は一冊だけではない。
体育館のボールを使い切ってしまった彼女にとって、雑誌はとてもありがたい存在だった。

雑誌を手に取った彼女は、購買の外からの話し声に気付く。
話し声は清井と蓬莱のものである。話をしながら歩くのは危険だと清井は思っていたが、マイペースな蓬莱に乗せられていたのだ。
購買にやって来た者を殺すべく、手呂は雑誌を一冊入手してレジの影に隠れていたのだ。
後は機を見て雑誌の一ページを紙飛行機にして飛ばすだけだった。

「まあいいや、何発使おうが殺せば同じ事ってなぁ!」

爆発の衝撃で近くまで転がってきていた缶コーヒーを投げつける手呂。
危険だ、と直感で察知した清井は咄嗟に回避行動に移る。

「ぐっ……!」

缶コーヒーが爆発する。手呂が缶コーヒーを投げ慣れていないからか、またもや清井は吹っ飛ばされる程度で済んだ。
そして吹っ飛ばされた方向は幸いにも購買の出口だった。
早く逃げなければ、とカッターナイフを握りしめたまま購買を出る清井。

「はははっ、鬼ごっこがしたいのかな?お望みとあれば!」

雑誌を破って丸めながら購買の出口に向かって走り出す手呂。
たったっ、と手呂の走る音がする。びり、びりと雑誌が破られる音がする。けほっ、と咳の音がする。

手呂の足が止まった。手呂は咳などしていないのだ。それでは誰が咳をしたと言うのか?
振り向く手呂が目にしたのは爆発によって荒れてしまった購買と倒れ伏す蓬莱の姿。
思えば、あの騎士も鎧によって爆発を耐えていた。未だ蓬莱が死んでいないことも十分考えられる。
そして……蓬莱が着ている制服には傷一つついていなかった。

「おいおい、まさか生きて……」

逃げた清井を追いたい手呂だが、蓬莱が生きているのであれば確実に始末しなければならない。
手呂はうつ伏せの蓬莱へと近付く。

「……死んだふり、ばれちゃいましたねぇ」

そこには、少し火傷を負いながらも並々ならぬ美貌を保っている蓬莱の姿があった。


154 : ■■は、月まで届くか ◆CvykvQJIqw :2016/12/21(水) 23:58:38 vh4dqd6Y0

爆発を至近距離で受けたのにも関わらず蓬莱が生きていた理由は二つ。
まず、蓬莱が月の民であるということ。月の民は地球人と比べ、かなり長寿で頑丈だった。
次に、蓬莱の制服は天の羽衣と同じ素材で作られているということ。
この生地は地球の服などとは比べものにならないくらい頑丈だった。

手呂には蓬莱が生きている理由がわからなかったため、考えるのをやめてとっとと蓬莱を始末することにした。
近くに落ちている半壊したチョコレートの箱を爆弾化し、蓬莱へと投げつける。
チョコは爆発し、やがて爆煙が晴れる。そこにいるのは、未だ生きたままの蓬莱だ。

「何で生きてんだよ……?」
「何でアポロが爆発したんですか……?」

二人の疑問が重なり、同時に発言した時の何となく気まずい雰囲気が両者の間に流れる。
冷静に考えるとこれから殺す相手に対して気まずいもクソもないのだが、そこで考えないのが手呂だった。頭もあまり良くないし。
なので手呂は律儀に答えてやることにした。

「これは私の能力。触れたものを何でも爆弾にすることができる……」

触れたものを何でも、だ。どれだけ頑丈な肉体を持っていようが、肉体そのものを爆弾にしてしまえば木端微塵だ。
火傷をしようがそんなことはおかまいなしに、蓬莱の美しい顔に触る手呂。
後は爆発の巻き添えにならないように離れてから起爆するだけだ。
一歩、二歩と距離を取り、手呂が起爆の動作に入ったところで蓬莱が言葉を返した。

「なるほどぉ……すごいじゃないですかぁ」

「………………は?」

手呂は思いもよらぬ言葉に固まってしまう。
だが起爆は本能に染みついた動きだったため、思考回路が固まっていても問題なく蓬莱は爆発していた。

【蓬莱かぐや 死亡】

「…………」

早く清井を追いかけた方が良いのは頭では理解している。
しかし、手呂には原因不明の心のもやもやが残っていた。
体育館で内藤を爆発させた時はこんなことは無かったのに……と、そこまで考えて手呂は一つの答えに辿り着いた。

『“誰も私の頭を撫でてくれないから”ですよ』

他ならぬ手呂自身が内藤に言い放った言葉である。

「……何年ぶり、だったかな。他人が私を褒めてくれたのは」


155 : ■■は、月まで届くか ◆CvykvQJIqw :2016/12/21(水) 23:58:58 vh4dqd6Y0

手呂がテロ活動を始めてからというもの、人々から向けられたのは畏怖の視線ばかりだった。
どんな大きな建物を爆破させようとも、(当然のことだが)糾弾されることはあれど称賛されることは無く。
この学校に入ってもクラスでは腫れ物扱い。事務的な会話すら拒否する生徒も少なくない。
そんな手呂に、自分を殺そうとしている相手に対して『すごい』と言ってみせるのは蓬莱のマイペースさが成せる技だった。
最も、蓬莱が世間(地球)の話題に疎く、手呂のことをよく知らなかったこともあるが。

「……まあいいや」

原因はわかった。
蓬莱を殺したことを後悔しているのかどうかは手呂にもわからないが、死人のことで悩んでいても仕方がない。
とにかく、彼女は鬼ごっこを再開するのだった。

【購買】
【名前】手呂 爆
【アイテム】雑誌
【能力】体に触れたものを爆弾にする
【思考】 皆殺し
1:清井を追いかけ、殺す


手呂は国際指名手配されている有名人だ。
この学校に通う者なら大体が手呂の存在を知っている。それは清井も例外ではなかった。
人殺しを躊躇わないような性格であることも知っている。蓬莱も殺された。だから清井は逃げた。

「はぁっ……はぁっ……」

清井は走る。韋駄天のように走る。自分がどこを走っているかは二の次だった。
走る理由は逃走のためと、もう一つ。親友である韋駄天を守るためだ。
テロリストだっていたのだ。清井の知らぬ危険人物だって参加していることだろう。
もしも韋駄天が危険人物に出会ってしまったら。純粋な彼女のことだ、信用してしまってもおかしくない。
清井は韋駄天の親友である。韋駄天が殺し合いで長生きできない性格であることをよく知っていた。
一刻も早く見つけてやらなければ。清井は走る。探し人が既に亡き者になっていることを知らぬまま。

【どこか】
【名前】清井純真
【アイテム】カッターナイフ×2
【思考】殺し合いとかマジないわ……
1:手呂から逃げ、風を探す
2:かぐやさん……


156 : ■■は、月まで届くか ◆CvykvQJIqw :2016/12/21(水) 23:59:21 vh4dqd6Y0
投下終了です


157 : ◆CvykvQJIqw :2017/02/05(日) 17:35:50 tyaQaLQA0
ゲリラ投下します


158 : 友情と努力と ◆CvykvQJIqw :2017/02/05(日) 17:36:25 tyaQaLQA0
「いいかい後輩ちゃん、まずは話し合いだからね……」
「あの巨悪を討つためです……わかってますよ」

保健室に向かいながら会話する善次郎と正義。善次郎は何とか正義の説得に成功していた。
正義の『参加者は悪』の思いこみが強いため、鏖を打倒するまでという条件が付いてしまっていたが。

保健室の近くまで辿り着いた彼らは、保健室の前に誰かが立っていることに気付く。
二人の男子生徒を両肩に担いでいる大柄な男子生徒……番長・犬神 仁。善次郎は彼の姿に見覚えがあった。
善次郎のクラスの出席番号1番は善次郎だが、2番は犬神なのだ。番号が隣なので彼らはそれなりに友達だった。

「やあ、番ちょ「わ、猥褻物陳列罪ーーっ!」

問題は、犬神が左腕で担いでいる男子生徒だった。
犬神は保健室に入ろうとしており、善次郎達に背中を向けていた。
従って左腕の男子生徒、長門傀儡はパンツすらはいてない尻を善次郎達に向けていた。猥褻物陳列罪だ!
そんなものを見せられてしまえば、正義狂である正義がナイフを投げつけてしまうのも仕方ない。
怪我をしている腕であっても、綺麗なフォームで勢いよくナイフを投げることができても不思議はない。

そのまま長門の尻に刺さるかと思われたナイフは、天井に刺さっていた。
背後から殺気を感じた犬神は即座に振り向き、飛んでくるナイフに向かって蹴りを食らわせ軌道を変えたのだ。

「やろうってのか、テメェら……!」
「猥褻物陳列罪ですよ!セクハラですよ!許しません……!」
「わーっ!わーっ!落ち着いて二人とも!」
「何だ、新谷じゃねェか?」
「えっ!このセクハラ男、先輩のお知り合いですか!?」

味方にすれば大きな戦力になるであろう犬神を敵に回すわけにはいかないと善次郎は必死で場の沈静化を図る。
その甲斐あってか、この場はこれ以上衝突することなく、何とか話し合いに持ち込むことができたのだった。


犬神が天井に刺したナイフを回収し、ベッドに服を着ている方の男子生徒(毒島)を転がし。
善次郎が保健室で発見した体操服を長門に着せてやり、正義が救急箱の中身を検分し。
そんなこんなで、犬神は長門の治療をしながら、善次郎は正義の治療をしながら、彼らは話し合っていた。

「……ヤバイ奴、なァ」
「僕らだけじゃとても手に負えない女子だった……後輩ちゃんの腕の負傷だけで逃げられたのは奇跡に近いぐらいにね」
「先輩の友人なら手を組むのに不足はありません!」
「手を貸してくれないかな?」
「良いぜ」

犬神は悩むような男ではないし、善次郎も伝えたい情報を手際よく伝えたため、割とすんなり結論が出た。
犬神が殺し合いに乗るような性格ではないことは善次郎も知っている。
後は、最強を自負する犬神に鏖と戦うよう誘導するだけだった。

「……よし、コイツの手当は終わったぜ」
「この人たちは……ここに置いていくしかないね」
「足手纏いになる人を連れて行っても正義執行の邪魔になるだけですからね!手を組むのに値しない悪人かも知れませんし!」
「まァ、そうだな……おい、起きてんだろ?」

長門の肩をゆする犬神。犬神は、長門が先ほどまでと違う目をしていることに気がついた。


159 : 友情と努力と ◆CvykvQJIqw :2017/02/05(日) 17:36:43 tyaQaLQA0
「……ァ」

――コイツの手当は終わったぜ
(コイツ、だって?僕よりガタイが良くて、僕の治療をしたからって、それで僕よりも偉くなったつもりなのか)

――この人たちは……ここに置いていくしかないね
(置いていく?人をモノみたいに扱いやがって。僕は人間だぞ)

――足手纏いになる人を連れて行っても正義執行の邪魔になるだけですからね!
(確かに僕は運動神経が悪いし怪我までしてる……でも、この女の態度は明らかに僕を役立たずだと決めつけているそれだ)

長門のフラストレーションは急激に高まっていった。
理科室で七条無銘Aの殺害に踏み切った時のように。

「僕を……見下すなあーっ!」

七条の時は人体模型があったが、保健室に長門が扱えそうな人形は無かった。
故に、長門がここで繰り出すのは生身でのパンチだ。長門の拳が犬神へと届……かない。

「……あ」
「そりゃァお前……見下されても仕方ねェよな」

長門の腕が犬神に掴まれたことにより、パンチは途中で止まっていた。
日頃から鍛えている犬神にとって、素人である長門のパンチを見切ることは容易かったのだ。

「見下されたくねェってのはよっぽど変な奴じゃねェ限り、人ならフツーのことだ。
 大事なのはその先だ。見下されたくねェならどうするかが大事なんだよ。
 テメェは人に認めてもらうために、何か努力をしたってのかよ?」
「……う…………うぅ」

犬神の言葉が、体格が、眼力が、長門の腕を掴んだままの握力が、犬神が努力を重ねた人間であるということを長門に伝えてくる。
長門と犬神では肉体的にも精神的にも格が違うことを心で理解した長門は反論することもできず、ただ涙を流すだけだった。

「……」

そしてもう一人、犬神の言葉に心を打たれた者がいた。
ベッドに転がされた時に起きてはいたが話しかける勇気もなく寝たフリを継続していた毒島である。
内気な毒島には、クラスメイトに自分の名前を弄られた時に「やめろ」の一言を言うのが難しかったのだ。
言う努力はしたつもりだった。でも、たった一つの言葉を発すこともできずに、何が努力だったのだろうか。

(……勇気を出して、話しかけてみようかな)

会話は寝たフリをしながら聞いていた。
顔は見ていないが、ここにいるのは毒島を除くと四人であることも、彼らの大まかな性格も知っている。
ここで声をかけても暴力を振るわれる可能性は低いということは毒島にはわかっている。


160 : 友情と努力と ◆CvykvQJIqw :2017/02/05(日) 17:37:06 tyaQaLQA0
(うぅ……でも、何かなぁ)

それでも内気な性格は簡単には直らない。
その上、今の毒島は後悔やら何やらであんまり人には見せたくない表情になっている。
寝返りを打つフリをして四人とは反対側の窓に目を向ける毒島だった。

窓の外にはグラウンドが広がっている。
夜に保健室の窓から見るグラウンドっていうのも新鮮だなぁとか場違いなことを思う毒島。
外……それも窓の側に女子がいる。保健室は一階にあるため、ベッドにいる毒島を女子が見下ろす形になっていた。
女子と目が合う。女子は、にっこりと笑みを返した。
かわいいなぁとか今の顔を見られちゃったのかなぁとか場違いなことを思う毒島。

次の瞬間、女子の腕が窓を突き破った。

「う、うわあっ!?」

四人に起きていることを気付かれるとか考える暇もなく、毒島は悲鳴をあげてベッドから転がり落ちてしまう。
女子はと言うと、窓の外から窓の鍵を開けて保健室に入ってきていた。

「お邪魔しまーっす!早速だけど殺し合おうぜぇー!」

茨木童子だった。
グラウンドに出た彼女は保健室に人がいることを発見し、交戦相手を求めてやってきたのだ。
ちなみに外に出ていた理由としては、「教室の中をちまちま探すのは面倒くさい」というものだった。

「ま、待ってくれ!今ちょっとそれどころじゃあ……」
「それどころでしょ。……まぁ、ただ俺がヤりたいだけなんだけどな♪」

茨木は、保健室にいた中で最も体格の大きい犬神に飛びかかる。
犬神はその初撃を難なく受け止めていた。
強者に出会えた喜びから、舌なめずりをする茨木。

「へぇ、なかなかやるじゃん♪」
「待ちな」
「待ちたくないにゃぁ〜?」
「こんな狭っ苦しいところで戦る気かっつってんだよ」
「おお!それは確かに!」
「せっかく、ここはグラウンドまで繋がってんだ……出ようぜ」

犬神の言葉を聞き、先ほど自分が開けた窓から意気揚々とグラウンドに出る茨木。
茨木に続くように「あの悪は生かしちゃおきません!」と突撃する正義を犬神は止める。

「何で止めるんですか!」
「オレが買ったケンカだからだ。男ならタイマン一択だろ」
「意味がわかりません!それと相手は女子です!一人称は俺でしたが!」
「関係ねェ。向こうが売った喧嘩なんだ、男女平等だぜ」
「まあまあ落ち着いて。後輩ちゃんは傷の手当てしたばっかりだし、ここは番長に任せよう」
「むぅ……先輩がそう言うなら……」


161 : 友情と努力と ◆CvykvQJIqw :2017/02/05(日) 17:37:39 tyaQaLQA0

善次郎は戦いたくなかった。傷の手当てしたばかりというのは建前だ。
茨木ほどの強者と戦うことになればおそらく死ぬだろうし、死なないにしても骨折とか傷を負うことになるだろう。
それは嫌だ。なら善次郎は犬神には加勢せず保健室に残るしかない。
次に正義だ。正義の性格なら放っておけば確実に犬神に加勢することはわかっている。
そうなれば、善次郎はロクに話もしていない男子二名(長門と毒島)と保健室に残ることになる。
それも嫌だ。なら正義を犬神に加勢させず保健室に残すしかない。

「……生きて帰ってきてくれよ、番長」
「頑張ってくださいね……!」
「ああ」

善次郎はここで犬神が死亡した場合のことは考えたくなかった。
友人を一人失うのはもちろんのこと、鏖に対抗できる戦力が無くなってしまうというのが痛い。
更に生き残っているであろう茨木への対処も必要だ。正直、無理ゲーだった。

善次郎にできるのは、窓から出ていく犬神を応援することだけだった。

【グラウンド】

【名前】茨木 童子
【アイテム】なし
【思考】殺りたい放題戦ってやる
1:楽しい楽しいタイマンの始まりだぜっ!
2:酒呑童子とは次の勝負で勝敗を決する。

【名前】犬神 仁
【アイテム】なし
【思考】理事長をブン殴る
1:喧嘩を売ってきた女子を倒す。喧嘩なら男女平等。
2:善次郎の言うヤバイ女子(鏖)を倒す。
3:暇になったら放送室へ行く。


茨木と犬神が外に出て、保健室は静寂に包まれていた。
毒島はもう寝たフリはできない。さっき悲鳴をあげてしまったのだ。もう話しかける勇気を出すしかなかった。

「あの――」

立ち上がって声をかける毒島。
その時だった。ガラリと保健室のドアが開き、思わず毒島は黙ってしまう。
ドアを開けたのは男だった。右肩には斧を、左肩には女子を担いでいる。
肩に人を担いでいる=怪我人を治療しに来ている=犬神のような人である という式が正義の中で組み立てられる……かに見えた。

「あなたは正義……ではないですね」

しかしその式は一瞬で成り立たなくなった。
理由は、雰囲気だ。プレッシャーと言い換えても良い雰囲気を男は纏っていた。
それは殺意。その怪物は、正義達が図書館で出会った鏖のような殺意を放っていたのだ。


162 : 友情と努力と ◆CvykvQJIqw :2017/02/05(日) 17:38:05 tyaQaLQA0

「……」

善次郎は考える。最大戦力である犬神はグラウンドでタイマン中だ。
あの女子(茨木)の一撃を犬神が受け止めたところから見るに、彼らの戦力はある程度は拮抗しているだろう。
どう楽観的に考えても、一瞬で喧嘩を終わらせて帰ってきてくれるとは思えない。
その結果、彼らの戦力は手当したとはいえ怪我をした正義、一般男子生徒の域は出ない善次郎。
そして善次郎でも勝てそうな、そもそも戦ってくれるのかすら微妙なインテリ系の男子生徒が二名。

(おいおい、この戦力でこいつをどうにかしろってのか……!?)

――怪物は理不尽でなければならない。

【保健室】

【名前】新谷 善次郎
【アイテム】なし
【思考】
0:この状況を何とか……できるのか?
1:犬神と合流し、鏖を倒す
2:痛いのは嫌だなあ

【名前】信条 正義
【アイテム】ナイフ(『先輩のくれた、正義の心がはち切れんばかりに詰まったナイフです!』)
【性格】
絶対正義(自身のことを正義として疑わず、自分がした行為は全て正しき物であると考えている)
【思考】
0:殺し合いなんて良くないことです! だから参加者や理事長は全員殺します!
1:目の前の悪を殺します!
2:次にあの悪(鏖)に出会ったら、絶対に勝ちます……!
3:大きな悪(鏖)を倒すためなら、小さな悪と手を組むのも仕方ないですね。
4:『正義の味方』である先輩だけは殺しません。

【名前】長門 傀儡
【アイテム】なし
【状態】全身落書き、毛全剃り、ダメージ(大)(手当済み)
【能力】人形を念じるだけで操作できる
【思考】見下してくる奴等に復讐する……?
0:……
1:努力……

【名前】毒島 コロ助
【アイテム】超危険物入り水鉄砲、ポケットに詰め込んだ薬品
【思考】死にたくないし殺したくもない
0:勇気を出して人と関わってみたかった
1:でもあの人(斧)って関わったら絶対ヤバイ人だよね……

【名前】斧狂太郎(死霊)
【アイテム】斧、韋駄天の遺体
【思考】
1:怪物は言葉を喋ってはならない
2:怪物は理不尽でなければならない
3:怪物は不死身でなければ意味がない
【備考】
 魔導屍により死霊化されていますが、術者が死んでいるため野良状態です。
『魂喰い(ソウルイーター)』の魔術を修得しています。
 現時点で御剣桃太郎、佐渡翔、七条無銘、魔導屍の魂を食べて必要な魔力を十分に得たため、しばらくは体を維持できます。
 死霊とはいっても実体はあるので、粉砕されると死にます。ゾンビみたいなものです


163 : 友情と努力と ◆CvykvQJIqw :2017/02/05(日) 17:38:35 tyaQaLQA0
投下終了です


164 : ◆CvykvQJIqw :2018/05/16(水) 19:34:11 XA3eUBKQ0
ゲリラ 投下 します。


165 : 想いが瞬を駆け抜けて ◆CvykvQJIqw :2018/05/16(水) 19:35:25 XA3eUBKQ0
茨木童子と犬神仁の二人は、グラウンドの適当な広い部分で少し距離を取って向かい合っていた。

「さて、と」

茨木が片足を大きく上に上げ、そのまま思い切り地面に叩きつける。俗に言う四股踏みである。
歴戦の鬼である彼女が繰り出すそれはただの四股踏みではない。
踏みしめた地面には亀裂が入り、相対する犬神の元には常人ではまともに立っていられないほどの揺れをもたらしていた。

「ほォ、相撲か」

しかし犬神はふらつきすらせず、腕組みをしたまま平然とそう言ってのけたのだ。
彼もまた数多の喧嘩において勝利を収めてきた強者だ。
その辺に蔓延る常人達とは比べものにならない強さを手にしている。


さて、この場に行司はいない。故に、勝負開始の合図はどちらかが動いた時だ。

目と目が合う。二人の距離は一瞬で詰まり、始まりを告げる拍手の音が辺りに響き渡る。
第三者が二人の戦いを褒め称える拍手ではない。拍手をしているのは二人だ。
胴体に何発も食らえば骨折か内臓破裂は必至なので、茨木の張り手に犬神が合わせて張り手を打つ。
胴体は酒呑童子から一発貰っていて追撃されたくないので、犬神の張り手に茨木が合わせて張り手を打つ。

だがこのままでは千日手。どちらの手が先に使い物にならなくなるかの勝負である。
それはつまんねェ、と先に痺れを切らしたのは犬神だ。
この張り手をぶつけ合う状況から別口で攻める択は二つ。
被弾覚悟で近づいて受けたダメージ以上の攻撃を至近距離から行うか、相手の腕を掴んで合気道的な絡め手を行うかだ。
前者は張り手に耐えさえすれば確実に攻撃ができるという利点が、後者はノーダメージで攻撃できるかもしれないという利点がある。
犬神が選んだのは前者。
相手の攻撃に耐えられないはずがないと彼は信じ切っているし、ノーリスクでリターンは得られないと経験則上わかっていたからだ。
張り手を繰り出す茨木。彼女の手には肋骨を折る感覚が伝わった。
距離を詰めて何かをしようとしているのを察知した茨木は、続く張り手で犬神を近づかせまいとする。
左手は腹にヒットしたが、右手は犬神の左拳によって相殺される。
茨木が次の手を打つ……前に、彼女の体が宙に浮いた。犬神に襟を掴まれ、持ち上げられたのである。
咄嗟に蹴りを繰り出すが、軸足が浮いているこの状態での蹴りでは大したダメージは与えられない。

次の瞬間、茨木の頭に大きな衝撃が走る。犬神が選んだ攻撃は頭突きだった。
頭……おでこは鍛えようがない部位であるが故に、その衝撃は絶大。
思わず一瞬だけ意識を飛ばしてしまう茨木。意識を回復させた彼女が見たのは、犬神が上を向いている姿。
空に何かがあるわけではなく、これは頭突きの予備動作。
頭突きを避ける方法も襟から犬神の手を離させる方法も今の茨木には無い。

しかし、頭突きの衝撃を待ち構える心構えはできていた。

故に、今度は茨木の反撃の番である。
彼女は頭突きのインパクトの瞬間、犬神の腕を掴んでいた。
そしてそのまま頭突きの衝撃を利用して巴投げを敢行してみせたのである。
犬神は投げに対応できず、受け身すら取れずに背中を強く打ちつけてしまう。

両方が寝転んだ状態で、痛みがありながらも立ち上がったのはほぼ同時。
第二ラウンドが始まった。






166 : 想いが瞬を駆け抜けて ◆CvykvQJIqw :2018/05/16(水) 19:35:57 XA3eUBKQ0
茨木の天翔十字鳳を犬神がタイガーアッパーカットで迎え撃つ。
犬神は右拳を茨木の顎にクリーンヒットさせたが、彼の右拳は骨ごとズタズタにされてしまう。
茨木が倒れ込み、これでこの喧嘩のダウン数は両方3となった。

「結構やるじゃねェかよ……!」
「アンタもな……!」

茨木は立ち上がり、犬神は思い切り拳を握りしめることで無理矢理に右拳を使用可能な状態に戻す。
両者ノックアウトまでは至らず。もはや何度目かわからないぶつかり合いがまた始まった。

その時、彼らから十メートルほど離れた地点に爆発が起こった。

喧嘩に集中し全力で楽しんでいた彼らだったが、この爆発には思わず追撃の手を止めてしまう。


学校の方を向いている犬神の目は、一つの飛行物を捉えていた。

「……紙飛行機」
「は?」

一機の紙飛行機がこちらに向けて飛来していた。

爆発が起こった。紙飛行機が飛んでくる。
普通なら、この二つの事象を結びつけようとは思わない。

ここで経験が活きる。犬神は超能力者と戦ったことがあった。
つまり『有り得ないことが起きる可能性はゼロではない』ということを知っているのだ。
そのため、紙飛行機が爆発してるのか?と思い当たるのにそんなに時間はかからなかった。

そして犬神は気付いてしまう。
紙飛行機の正体に気付くまでのタイムラグによって、爆発が回避不可能な距離まで紙飛行機が迫ってきていることに。


力は正しく使わなくてはならない。それは力を持つ者の義務であると犬神は考えている。

――正しい力の使い方とは何か。

テストの点数を犠牲にしてまで犬神が考えた結論は『弱者を守ること』だった。

弱者とは、すなわち女や子供である。
『男女平等』は最近よく聞く言葉だが、力仕事をするのは男の場合が圧倒的に多い。
大黒柱という言葉が父親を示すように、家庭の中心で家族を守るのはやはり男なのだ。

女。今まで対等に戦っていた相手もまた女である。故に、犬神は守らなければならない。

「何を――」

犬神は関節技を決めるつもりで掴んでいた茨木の腕を引っ張り、自分の後ろへと持っていく。
当然、茨木の身体は大柄な犬神の身体で隠れる形になる。

そして爆発が起こった。






167 : 想いが瞬を駆け抜けて ◆CvykvQJIqw :2018/05/16(水) 19:36:24 XA3eUBKQ0
一人のテロリストが三階にある教室に潜んでいた。手呂爆である。

手呂は清井を見失った後、グラウンドで派手な音が響いているのに気付いていた。
窓からこそっと様子をうかがってみると、そこには人類が繰り広げているとは思えない戦いが勃発していた。
最も、片方は本当に人類ではないのだがそれはさておき。

消耗し合っている強者達。見つかっていないアドバンテージ。まとめて爆殺可能な自身の能力。
手元には紙飛行機にすれば遠くまで飛ばせる紙もある。やらない理由は無かった。

音を立てないように窓を開け、爆弾に変えた紙飛行機を飛ばす手呂。
一機目こそ少し見当違いな場所に飛んだが、二機目はビンゴだった。

「はい、いっちょ上がりっと」

爆風が晴れた時、そこには二つの哀れな死体が転がっている。


はずだった。

「……えっ」

爆風が晴れる前に出てきたのは、一人の鬼だった。

鬼は今まで戦っていた傷や爆発によって受けたはずのダメージなどをまるで感じさせない速さで手呂の元へと向かってきた!

爆発は全て犬神が肩代わりしたため、茨木は無事だった(喧嘩によるダメージは大きいが)。
楽しい楽しい喧嘩を繰り広げていた相手が第三者の横やりによって倒されてしまったことを理解した彼女は激怒していた。

手呂は――正真正銘の"鬼"を、本気で怒らせてしまったのである。

「ちょ、ちょっと……!」

ポケットに忍ばせていた消しゴムを急いで投げる手呂。
それを見て茨木は急加速。消しゴムの着弾地点よりも校舎に近い地点へと到着し、思い切り跳躍した。

消しゴムが爆発する。

あろうことか、鬼はその爆風を利用して三階まで到着した!!

「あ、ありえな――」

手呂は最後まで台詞を言い切れなかった。鬼の怒りの跳び蹴りを食らって吹っ飛んでしまったからだ。
その勢いは、椅子や机を跳ね飛ばしながら壁に激突し、クレーターを作ってしまうほどである。
壁に半分ぐらい身体をめりこませてしまった手呂は逃げようにも逃げられず、もはや絶体絶命であった。


「……終わったな、私」

手呂は、自分でも驚くほどに自分が死ぬことを受け入れていた。
人は死ぬ時はどうしようもなく死んでしまうことを、今まで死を与えてきた彼女は理解していたのだった。


168 : 想いが瞬を駆け抜けて ◆CvykvQJIqw :2018/05/16(水) 19:37:09 XA3eUBKQ0
「許さねぇ……!」

近づいてくる一人の影。霞んできた視界の中でも怒っていることがわかる。

鬼は今、怒りという感情を手呂だけに向けていた。
言い換えれば、鬼は手呂という存在を正面から見据えてくれているのである。

今思えば……手呂は寂しかったのだ。自分という存在を認めて欲しかったのだ。
テロリストとして暴れることで知名度は得た。
だが、世間からは『テロリストの手呂』『危険人物の手呂』という評価でしか見られない。
他の生徒・先生からは腫れ物扱いで、せいぜい『非行に走ってしまった一生徒』としか扱われず。
番組のコメンテーターは手呂の性格をあーだこーだ言いながら分析していたが、あんな出会ったことすらない奴らに何がわかる。


結局のところ、『手呂 爆』という原寸大の彼女自身を見てくれる人はいなかった。

まあ目の前の鬼も手呂の性格とか、そもそも名前すら知ってるかどうか怪しいが。
手呂を外敵として認め、嘘や偽りのない純度100%の感情を手呂に向けてくれている。
それが何故か……手呂には嬉しかったのだ。


死を目前にして狂っちゃったのかも知れない。
いや、こんな能力に目覚めた時から狂ってたのかな。

「……ふふ」

手呂はここで、この能力を使ったとても素敵なことを思いついた。

きっかけは最初の体育館での出来事。
今までは自分の能力で自分自身に傷はつかなかったが、この世界では何故か火傷を負ってしまっていた。

それはつまり、『自分に対して能力を行使できる』ということではないか。

鬼が手呂を殺す瞬間に自分自身を爆発させれば、鬼だって死は免れない。
私を見てくれているこの鬼と一緒に地獄へ旅立てたら、それは……素敵なことだ。

壁に強くぶつけてしまったために壊死した左手を何とか動かし、自分の頭に触れる手呂。


左手そのものには触覚が残っておらず、手呂には頭に手が当たる感触だけが残る。

――撫でられるって、こんな感じ……なのかな?

手呂が目一杯その感触を味わっている最中、鬼は全力を以て拳を手呂の頭に叩きつける。


最期の花火が、小さく咲いた。


【手呂爆 死亡】


169 : 想いが瞬を駆け抜けて ◆CvykvQJIqw :2018/05/16(水) 19:37:53 XA3eUBKQ0


「ッハァ……クソ……ふざけやがって……!」

手呂の最期の爆発を至近距離で受けたにも関わらず……茨木は生きていた。
最も、鬼特有の生命力で何とか生き延びているだけである。このままでは、いつくたばってもおかしくない状況だ。
それでもなお彼女は立ち上がり、ふらつきながらも歩き出す。

「まだだ……まだ、死ねねぇ…………!」

茨木は戦いが好きだ。大好きだ。そんな彼女が、戦いの中以外で死ぬなどあってはならない。
酒呑童子との決着だって、犬神仁との決着だって未だついていない。
自分が死ぬのは、戦い以外では有り得ない。彼女を生き長らえさせているのはその想いだけだった。

手呂の爆発を受けて生きているのは茨木だけではない。犬神もまた生きていた。
彼が生きている理由もまた、『オレが爆発なんかに負けるわけがねェ』という強い想いのためだ。
気絶して倒れ伏す彼を『負けた』と考える者もいるだろう。
だが、女を守った上で爆発に命を奪われなかった彼は、彼の中では間違いなく勝者だった。
周りがどう思うかではなく、彼が思う故に彼は勝者なのだ。


茨木と犬神は、爆発に遭いながらも自分自身を強く信じることで未だ生き残ることができている。

「私を認めないものは全部、爆発してしまえばいい」

これは、手呂が最初のテロを行った時に、感情に任せて口走った台詞である。
そんな彼女はこの場において、自らを爆発させることで人生に終止符を打った。
手呂爆という存在を直視していなかったのは――自分のことを誰にも認めてもらえないと思い込んでいた手呂自身も同じだったのかも知れない。


【3Fのどこかの教室】

【名前】茨木 童子
【アイテム】なし
【状態】喧嘩によるダメージ(大)、爆発によるダメージ(大)
【思考】殺りたい放題戦ってやる
1:まだ、死ねるかよ……
2:酒呑童子、犬神仁とは次の勝負で勝敗を決する。


【グラウンド】

【名前】犬神 仁
【アイテム】なし
【状態】喧嘩によるダメージ(大)、爆発によるダメージ(中)、気絶中
【思考】理事長をブン殴る
1:喧嘩を売ってきた女子を倒す。
2:善次郎の言うヤバイ女子(鏖)を倒す。
3:暇になったら放送室へ行く。


170 : 想いが瞬を駆け抜けて ◆CvykvQJIqw :2018/05/16(水) 19:38:26 XA3eUBKQ0
投下終了です。


171 : 想いが瞬を駆け抜けて ◆CvykvQJIqw :2018/05/16(水) 19:43:35 XA3eUBKQ0
ついでに現時点でのまとめです。

合計11/22

【男子学生】6/11
●佐渡 翔/○酒呑 童子/○新谷 善次郎/○毒島 コロ助/○長門 傀儡/○斧 狂太郎/●御剣 桃太郎/●智胤 猩々/○犬神 仁/●七条 無銘/●魔導 屍
 
【女子学生】5/11
○茨木 童子/●内藤 ナイト/●蓬莱 かぐや/●倉井 さわ子/●手呂 爆/○清井 純真/○信条 正義/○真宮 叶/●雉凪 結城/●韋駄天 風/○鏖


172 : ◆EPxXVXQTnA :2018/06/09(土) 12:08:53 qYA8gfcc0
新谷善次郎、信条正義、長門傀儡、毒島コロ助、斧狂太郎(死霊) 予約します


173 : マイナスの物語 ◆EPxXVXQTnA :2018/06/09(土) 17:08:58 Z2ZvveUE0
投下します


174 : マイナスの物語 ◆EPxXVXQTnA :2018/06/09(土) 17:10:22 Z2ZvveUE0
保健室は硬直状態となっていた。
警戒する正義たちと、韋駄天の死体を担ぐも沈黙する狂太郎。
血濡れの斧と濃厚な殺気から狂太郎がマーダーであることは全員が察していたが、当の本人は虚ろな瞳で彼らを見るだけで何もしてこない。
正義はいつでも懐のナイフで迎撃できるように警戒し、長年の付き合いからそれを察した善次郎も瞬時に動けるように待機。
毒島と長門はどうすれば良いのかわからないのか、お互いに気まずげに狂太郎から距離を取っていた。

その沈黙を破ったのは、狂太郎の取った意外な行動だった。
彼は正義と善次郎を無視すると、のしのしと先程まで毒島が眠っていたベットに歩み寄り(毒島が短く悲鳴をあげた)担いでいた韋駄天を慎重に横に寝かせた。
その意外すぎる行動に部外者は騒然とする。
一見すると傷ついた少女を介抱するために保健室に立ち寄ったのでは、という可能性が善次郎と正義の頭を過った。
もしそうなのなら、彼とは上手く協力関係を結べるかもしれない。
あの恐ろしい女子たち(鏖と茨木童子)を打倒するためにも、戦力となる人物の確保は重要課題である。

『いいかい後輩ちゃん、まずは話し合いだからね……』

正義の脳裏に尊敬する先輩の言葉が過る。

「あのっ、私は信条正義と申します!こちらの方は同士の善次郎先輩です!私たちは正義のためにこの追試の打倒を考えているのですが貴方もーー」

瞬間、感じ取ったのは殺気。
反射的に回避すると、皮一枚のところを重厚な刃が振り抜かれた。
悪の制裁による実践で培われた経験が正義を生かした。
的を外した斧は床を直撃し、粉砕する。とてつもない怪力だ。
初撃を外した狂太郎は構うことなく追撃するために斧を振りかぶる。

「させるかよッ!」

善次郎は舌打ちすると、手元にあった救急箱を全力で投げつけた。
救急箱は重力に従い、狂太郎の顔面に直撃する。避けようと思えば避けられる程度の妨害だったが、彼は自身の信条からあえて受けたようだ。
衝撃と視界の遮りで狂太郎の動きが止まる。その隙を正義の味方は見逃さない。

「正義執行ッ!!」


正義は高々に宣言すると、懐のナイフを狂太郎の心臓に突き立てた。
その迷いのなさはとても学生とは思えないほど鮮やかな物で、その刃は寸分違わず彼の心臓に深々と食い込む。

「ちょっ!」

行き過ぎた正義感から何時か殺るとは思っていたが、流石に躊躇無さすぎだろ、といった心情で善次郎は戸惑いの声をあげる。
その間の抜けた声は次の瞬間、驚愕に変わる。
狂太郎は刺さったナイフを握る正義の手を掴むと、そのまま握りつぶした。

「えっ、ぎゃ、がぁぁぉぉぁぁぁっ!!!!」

ぎちゃっ、と背筋が凍る音と正義の悲鳴が保健室で奏でられる。
少女の右手は柄ごと粉砕されていた。

狂太郎は隙を見せた正義を斧ではなく空いている左手で殴り飛ばす。
強烈な腹パンが正義を襲い、背後にいた善次郎を巻き込みつつ壁際に吹っ飛ぶ。
がっしゃーん!と医療品の入っている戸棚に叩きつけられ、ふたりは床に溢れ落ちた。

「がっ……ぶっふ……がっが」

内蔵へのダメージによる嘔吐と吐血。可憐な顔は苦痛と憎悪で歪んでいた。
善次郎がクッションとなったことで意識こそ失わなかったものの、ダメージは甚大。
立ち上がろうとするも足が言うことを聞かないのか、迫る狂太郎を睨むだけに止まる。
対する善次郎は朦朧とした意識で迫る狂太郎をぼんやりと見ていた。
冷静に観察すると彼の体はいくつか銃創があり、普通なら痛みで絶叫していても可笑しくはないのにそれすらもない。
心臓を貫かれても意に返さず、無表情で感情が伺えないその姿はまさにーー怪物。

(あーあ、この男子、さっきの女子の同類か何かか)

まさか続けてこんな怪物に遭遇するなんて何て不幸なのだろうか。日頃の行いは良い方だと思ってたんだけどなぁ、と間の抜けた感想が死に貧した善次郎に過る。
抵抗したくても生憎と手足がおぼつかない。ぶつかった衝撃で切れたのか血も流れている。

「まだだ……まだっ! 正義は負けない!がはっ、ぐぼっ」

血を吐きつつ今だ抵抗の意思を見せる正義に感心しつつも、善次郎は薄れ行く意識で遺言を考えていた。
積み、か……父さん母さん、先立つ不幸をお許しください。

「……」

情も熱意も悲しみも悪意もなく、狂太郎は無情にも斧を高々と掲げる。
怪物は理不尽でなければならない。だから、このふたりは殺す。
殺意を全開で斧が降り下ろされーー


175 : マイナスの物語 ◆EPxXVXQTnA :2018/06/09(土) 17:13:14 Z2ZvveUE0

『動くな』

ーー無かった。
怪物の使命を執行しようとした狂太郎の動きがピタッと止まる。
痛みを耐えつつも怪訝そうな正義と善次郎の視線の先で、狂太郎は無表情の奥で困惑したように感情が揺らいでいた。
怪物は理不尽に殺さなければならない。なのに体が動かない。これでは殺せない。
まるで肉体の支配権を無くしてしまったようだ。
死霊となった事で生前よりも強化された怪力で全力で抗うも、指一本動かせない。

「驚いたよ……お前。死霊か? 追試組の中にネクロマンサーでも居たのか」

体操着を来た寝暗そうなハゲは、薄暗い感情の笑みを浮かべて狂太郎を見据える。
習得こそしていないものの、黒魔術に関しては多少の知識があるのか、それとも狂太郎の損傷から推測したのかはわからない。ただ四人のなかで傀儡が一番早く狂太郎が死人であることを見抜いていた。

僕の体を縛っているのはこの男子か。そう感づき殺そうとするも相変わらず体は動かせない。

「何が起こってるのかてんでわからないって顔してるなぁ。ふふふ、教えてやるよ」

「僕は人形を念じるだけで自由に操作できる能力を持ってる。
それはもう自分の体みたいにサクサクと動かせる訳なんだけども、
言い方によるけど死体も人形(ひとがた)の部類に入るんじゃないかなぁ〜〜とか思って使ってみたらまさかのビンゴ!
今のお前は完全に僕のお人形なのさ!」

勝ち誇った傀儡にぽつぽつと憤怒の感情が沸き出すも、彼の言う通り狂太郎の支配権は既に傀儡が握っている。
屍の黒魔術に対しては抵抗できたものの、固有の能力である異能に関しては別物のせいか御手上げだ。

「ぐふぅ……はぁはぁ、貴方!素晴らしいです! お見事! ……ふぅ、これで正義が執行できます! 
 ーーさぁ、その悪を自害させて貴方の正義を示すのです!」

勝ち誇ったような正義。正義の味方として助けた生徒が悪を制する姿は、自身の正義がより王道だと証明されたかのようで、とても充実した気持ちが彼女の胸を満たしていた。
そんな彼女を見る傀儡の目に、善次郎は違和感を覚えた。
彼女は気づいていないようだが、あの目は正義が制裁する悪に向けるものに似ている。
まるで、養豚場の豚を見るような蔑みのーー

「僕の、正義か。そうだな。じゃあお前、『そいつを殺せ』」
 
ぐしゃあっ!!!

何気なく呟かれた命令は躊躇なく執行された。振り抜かれた斧は善次郎の脳天に叩きつけられ、刃が頭蓋ごと脳髄を抉り飛ばされる。


【新谷善次郎 死亡】


「ーーは……?」

直前に突き飛ばされ九死に一生を得た正義の眼前で、自身の最大の理解者(と思っている)先輩は肉塊へと変貌していた。

「お前ら僕をバカにしたよな? 役立たずのクズだって。は!その役立たずの陰キャにこれから殺されるお前らはそれ以下のクズだ!
なぁにが努力だ!結局はあの男もお前らも"持ってる側"の人間じゃないか!
そんな奴等が"持ってない側"の気持ちをわかった風に語るんじゃない!」

鬱憤した感情が爆発したように喚き散らす傀儡に正義の何かが切れた。

「ーー殺す」

正義だとか悪だとかこれまでの価値観を超越した殺意が正義を支配する。もう一本のナイフを無事な左手で持ち、傀儡に特攻する。
しかし正義の刃は直前で間に入らさせられた狂太郎の腹部にぶすりと突き刺さり、届かない。
狂太郎は正義の首を掴むと、片手で軽々と彼女の体を持ち上げる。

「がっひっ……ぐぅ、がっ」

ぎりぎりと締め上げられる不快感と酸欠で正義が苦しむ。
斧を使わないのはできる限り苦しませて殺せと傀儡が操作しているからだ。
正義はばたばたと暴れて拘束から逃れようとするも焼け石に水。振り払えない。
その様子を何を無駄なことをと嘲笑い、傀儡は今度こそ正義の始末を狂太郎に命令する。

『その生意気な女を殺「えいっ!!」がっ!?」

降り下ろされた椅子が傀儡の脳天を直撃し、揉んどりうって倒れる。
それまで息を殺して潜んでいた毒島は、この惨状を目にして今度こそ勇気を出した。

「ごはッ、ハァー、ハァー、ハァー、ヒュー」

能力者の異変に能力がバグったのか、狂太郎の拘束が緩み正義が開放される。
興奮と恐怖でアドレナリンがどばどば流れ、不思議な高揚感が毒島を突き動かす。

「に、逃げましょう!此処にいたら殺される!」

毒島は正義の腕を掴むと、一目散に保健室を飛び出した。正義も意識が朦朧としているのか抵抗するそぶりは見せなかった。
狂太郎は何を考えているのか、朧気な瞳でふたりを見送る。
逃げる直前、涙と汗で滲む正義の視界に善次郎の亡骸が映る。

「僕たちだけじゃあのふたりに勝てません!!あの人の犠牲を無駄にしちゃダメです!」

毒島は正義を叱咤すると、立ち止まりかけた彼女を無理矢理に引っ張っていった。


176 : マイナスの物語 ◆EPxXVXQTnA :2018/06/09(土) 17:13:33 Z2ZvveUE0

【保健室付近】

【名前】信条正義
【アイテム】ナイフ(『先輩のくれた、正義の心がはち切れんばかりに詰まったナイフです!』)
【性格】
絶対正義(自身のことを正義として疑わず、自分がした行為は全て正しき物であると考えている)
【状態】ダメージ(大)、精神疲労(大)、右腕損傷
【思考】
0:殺し合いなんて良くないことです! だから参加者や理事長は全員殺します!
1:先輩……

【名前】毒島 コロ助
【アイテム】超危険物入り水鉄砲、ポケットに詰め込んだ薬品
【思考】死にたくないし殺したくもない
0:勇気を出して人と関わってみたかった
1:正義さんをつれて逃げる。今度こそ勇気を出すんだ!


「うぅうぅー……いたい、チクショー!!あの陰キャ!!僕にこんなことを!!ぶっ殺してやる!」

暫くして回復した傀儡は、頭痛に耐えつつも逃げた二人に憎悪を膨らませていた。
能力の支配から抜け出せない狂太郎は、使役される飼い犬のごとき状態に怒っているのかいないのか、無表情のまま傀儡を見つめていた。
その目が気に入らないのか、傀儡は「生意気な目で見るな!」と脛を蹴り飛ばす。

「殺す!殺す殺す!僕をバカにした連中を全員ぶっ殺して、僕は生まれ変わるんだ!!」

マイナスの方向に覚醒した外道は、死霊を伴って狩りを始めた。


【名前】長門 傀儡
【アイテム】斧狂太郎(死霊)
【状態】全身落書き、毛全剃り、ダメージ(大)(手当済み)
【能力】人形を念じるだけで操作できる
・能力が進化して人形(ひとがた)のもの(死体など)を操作できるようになりました
【思考】見下してくる奴等に復讐する
0:追試を成し遂げて、自分の誇りを得る
1:死霊(狂太郎)をけしかけて全員殺す

【名前】斧狂太郎(死霊)
【アイテム】斧
【思考】
1:怪物は言葉を喋ってはならない
2:怪物は理不尽でなければならない
3:怪物は不死身でなければ意味がない
【備考】
 魔導屍により死霊化されていますが、術者が死んでいるため野良状態です。
『魂喰い(ソウルイーター)』の魔術を修得しています。
 現時点で御剣桃太郎、佐渡翔、七条無銘、魔導屍の魂を食べて必要な魔力を十分に得たため、しばらくは体を維持できます。
 死霊とはいっても実体はあるので、粉砕されると死にます。ゾンビみたいなものです。
 長門傀儡の能力により肉体を操作されていますが、思考に関しては洗脳されていません


177 : マイナスの物語 ◆EPxXVXQTnA :2018/06/09(土) 17:14:04 Z2ZvveUE0
投下終了です


178 : ◆CvykvQJIqw :2018/06/12(火) 19:53:24 c2RxrJC20
投下乙です!
方向は大きく違うけど、長門と毒島が成長を遂げましたね!
苦労人の善次郎はここで脱落。最期までいい人だった。
先輩を失ったボロボロの正義はどうなるのか……

こちらもゲリラ投下します。


179 : 三十六計逃げるに如かず ◆CvykvQJIqw :2018/06/12(火) 19:54:19 c2RxrJC20
「はっ……はっ……」

フルスピードで走る。ただひたすらに走る。親友が昔に言ってた『走り方のコツ』を思い出しながら走る。
後ろを振り向く。追手が来ていないことを確認。すぐさま横にある階段を二段飛ばしで駆け上がる。

階段の踊り場で『廊下で走ってはいけません』のポスターと目が合う。
後で『人を殺してはいけません』に書き換えてやる、と思いながら残りの階段を走り抜ける。

右を見る。誰もいない。左を見る。誰もいない。背後。誰も上って来ていない。
足はまた全速力で酷使される。ひとつ、ふたつと教室の横を通り過ぎる。
無作為に選んだ教室の扉を開ける。机や椅子が整理整頓されたいつも通りの教室だ。

身を隠すにはどこが良いか。掃除用具入れの中はすぐに逃げられない。駄目だ。
そうだ、教卓だ。隠れるスペースがあり、それなりに見つかりにくく、逃げ出すのも容易。
教卓の下に隠れて体育座り。教室の中はパッと見ただけで探索してないけど誰もいませんように。

「ハァ……ハァ」

このままでは息の音で隠れているのがバレてしまう。早く呼吸を整えなくては。
気持ちを落ち着ける意味も込めてゆっくりと深呼吸する。

「……ふー……」

耳を澄ませば、自分の呼吸音しか聞こえない。他に誰もいない静寂がこの教室にはあった。


清井純真は、テロリストから逃げ切ったのである。



「……」

教卓に隠れて何分経っただろうか。何時間も経ったように感じる。
でも体力がまだ回復してないことから考えて、実はあんまり時間は経過してないのかもしれない。

(それこそ、三分とか。いや三分は少なすぎるかな。十分は経ってるよな……うーん)

……いつの間にか、どうでも良いことを考えている自分に気付く。
だって、考える以外にやることがなくなってしまったのだから仕方ない。
この教室から出ればあのテロリストと鉢合わせる可能性だってあるのだ。
今できるのは体育座りしながら身体を休めることだけなのだ。

本当は親友の風を助けるために今すぐにでも教室を飛び出すべきだ。
だが至近距離でテロリストとエンカウントしてしまえばそれだけでゲームオーバー確定なのだ。
今はどうしてもこの教室から、この教卓から出たくない。
……もしかして手呂という存在自体がトラウマになっているのか。
それもある意味当然と言えよう。あんなに容易く人殺しができる奴なんて今まで出会ったことがなかったのだ。


180 : 三十六計逃げるに如かず ◆CvykvQJIqw :2018/06/12(火) 19:54:53 c2RxrJC20
(……かぐやさん)

奴に殺されてしまった一学年上の先輩。おっとりとしていて、美人だった。
……それだけしか知らない。もうそれ以上、知ることはできない。
だって彼女は殺されてしまったから。死んでしまったら、もう話すことはできない。
ここに友達がいるかも知れない、と彼女は言っていた。
自分にだってここに確実にいるであろう親友がいる。

「……」

息は整った。疲れは残っているが、また走れと言われれば走ることもできるだろう。
……いつまでも此処にいるわけにはいかない。自分には親友がいるのだ。
かぐやさんの友人だって探さなければならない。一緒に行動していたしそれぐらいの義理は果たす。
いつ誰に会うかわからないこの状況で、一人探すのも二人探すのも一緒だし。

「……よし」

意を決して教卓の下から這い出る。長い間座っていたように思うのでストレッチで身体をほぐしておく。
陸上部所属の風の準備運動を見よう見まねでやってみたが、動きやすくなった……ような気がする。
チッチッチッチッ。カッターナイフの刃を出しておく。
もしもテロリストに出会ったら、カッターナイフを目に投げつけてやる。怯んでいる隙に逃げてやる。
一本投げてももう一本あるし。カッターナイフの数え方って本で良かったっけ?どうでもいいか。

その時だった。何か、音が聞こえてきた。

呼吸音じゃない。カッターナイフでもない。……外だ。運動場に、誰か……いる。

(風かも知れないっ……)

運動が大好きなあの娘のことだ。こんな状況でも運動場ではしゃいでいても不思議は無い。
窓に近づいて、よーく目をこらしてみる。


「何やってんだあいつら……」

授業をフケてゲームセンターでやった格闘ゲーム。難易度ノーマルならラスボスだって倒せるぐらいやりこんだ。
あのゲームを実写化したかのような戦闘が、運動場で繰り広げられていた。
大柄な男子と大柄でもない女子がどったんばったん大騒ぎ。互角な戦いのように見える。
人にあんな動きができたのかよ、とか。あれ噂の"番長"さんじゃね、とか。
純粋に強い二人の戦いに心が惹かれ、色々と思いながらついつい観戦してしまう。

「……はっ」

戦っているのは風ではない。それなら彼らに用はない。
つまり、彼らの戦いを見るのは完全に時間の無駄だ。
見とれてしまったが、さっさと教室を出よう。風を探さなければ……。

扉に手をかけたその時だった。今度は爆発が起こった。


181 : 三十六計逃げるに如かず ◆CvykvQJIqw :2018/06/12(火) 19:55:20 c2RxrJC20
「ッ!」

この学校で爆発を起こすような奴は一人しかいない(と信じたい)!テロリスト手呂爆だ!
自分の居場所がバレたのか!?いや、爆発の音は遠い……運動場だ。
となれば、運動場のあの格闘に手呂が乱入したということなのか。
つまり、奴から逃げ切れたということだ。思わず安堵してしまう。

でも、爆発が起こったということは、誰か犠牲者が出たということで。
……気になる。やっぱり運動場を見てみよう。

倒れ伏すのは大柄な男子。多分、番長さんだ。彼は死んでしまったのだろうか。
もう一人、彼と戦っていた女の子は……鬼のような形相を浮かべながら校舎の方に全速力で走ってきていた。
その子に合わせるような形で、近い地面が爆発する。
いや、きっと奴が何か小さな爆発物を置いておいたに違いない。それが爆発したのだ。

「……えっ」

あろうことか、その女子は爆風を利用してこちらに飛んできたのだ!殺される!
……と思って身構えていると、彼女はそのまま二階を通りすぎていった。つまり上の階だ。
真上の教室からどんがらがっしゃーん!という音がする。
少しして爆発の音が聞こえ、また辺りは静寂に包まれた。

「…………」

運動場には、倒れたまま動かない番長さん。上の階からはもう何も聞こえない。戦いは終わってしまったらしい。
というか、多分手呂は上の教室にいる。割と近いとこまで追って来られてた。怖い。
……上で誰が生き残ってるのかはわからない。
わからないけど、手呂が生きてても、鬼みたいな女子が生きてても、どっちにしろ危険だ。
できれば共倒れになっててほしい。……人の死を願うなんてサイテーだ。でも……仕方ないよな。仕方ない……。

……考えてる場合じゃない。さっさと距離を取らないと。死の鬼ごっこはもう飽きた。

一応、カッターナイフを構えながら教室の外に出る。安全確認。右を見る、誰もいない。左を見る、目が合う。

…………鬼がいた。

いやよく見ると鬼じゃない。人間。長身な女子。さっき運動場で戦ってたのとは別人。腹にナイフが刺さってる。
それより目がやばい。手呂とは比べものにならない殺気を浴びせてきている。やばい。殺される。
右手には金棒を持っていた。鬼かよ。というかヤバイ。血とか肉片めいた何かもついてる。こいつも誰か殺してきたのかよ。
カッターナイフ投げつけてやるとかそんな思考は既に消え失せていた。
そんな悠長なことをしていれば殺される。一刻も早く逃げないと殺される!

「ひ、ひぃーっ!!」

すげー情けない声が出たけどスタートダッシュは成功した。追いつかれれば、今度こそ――死ぬ!!

また死の鬼ごっこかよ!もう飽きたっつーの!!

【2階廊下】
【名前】清井純真
【アイテム】カッターナイフ×2
【状態】疲労(ちょっと回復してた)
【思考】殺し合いとかマジないわ!
1:ヤバイ女子(鏖)から逃げ、風を探す
2:かぐやさんの友人も探す
3:手呂や鬼みたいな女子(茨木童子)には会いたくない

【名前】鏖
【アイテム】金棒
【外見】学園指定のセーラー服を着用した長身の女子
【思考】鏖


182 : 三十六計逃げるに如かず ◆CvykvQJIqw :2018/06/12(火) 19:56:03 c2RxrJC20
投下終了です


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