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ストライクウィッチーズでレズ百合萌え 避難所10

1名無しさん:2016/01/10(日) 13:53:38 ID:T/5XuC.2
ここはストライクウィッチーズ百合スレ避難所本スレです。

●前スレ
ストライクウィッチーズでレズ百合萌え 避難所9
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12483/1314498311/

●Janeで避難所を見る場合
・板一覧を右クリックして「新規カテゴリを追加」をクリック(板一覧が無い場合は「表示」→「板ツリー」→「板全体」で表示できる)
・カテゴリ名を入力してOKをクリックする(例:「したらば」)
・作成したカテゴリにカーソルを合わせて右クリックし、「ここに板を追加」をクリック
・板名を入力してOKをクリックする(例:「百合避難所」)
・URLに「http://jbbs.livedoor.jp/otaku/12483/」を入力してOKをクリックする。

102between the shallow dreams:2020/01/01(水) 02:02:14 ID:5i.w/DcI
 それは嫌な夢だった……とだけ、記憶している。
 その日も哨戒任務だったトゥルーデは帰投した際ミーナから日頃の疲れを指摘され、ならばとミーティングルームの片隅で十五分程度の仮眠を取ったのだが、その浅い眠りの中で“何か”を見ていた様だった。
 はっと目を開けると、眼前にはエーリカが居て、悪戯っぽく笑っていた。
「ああ、ハルトマンか。どうした」
「トゥルーデこそどうしたのさ。普段だったら休憩中でも何かしてるでしょ」
 そう言うと、エーリカはトゥルーデの手を取って自分の頬に当てる。トゥルーデも自然な形で受け入れる。
「ミーナに最近色々やり過ぎだと言われてな。少し仮眠でも、と思ったのだが」
「それであんなにうなされてたんだ」
「何故私が悪夢を見ていたと分かる?」
 堅物大尉に聞かれたエーリカは微笑んだ。
「眠りながら眉間に皺寄せてさ。歯を食いしばって低く唸ってたら、そりゃ凄い夢見てるんだろうなって」
「見ていたのか、私を」
「勿論」
 嗚呼、とトゥルーデはため息を漏らす。無様な姿を見られてしまったと言う恥ずかしさ。
「大丈夫。見てたの私だけだから」
 思わず、えっ、と声を上げるトゥルーデ。エーリカはそんな相棒を見て言葉を続けた。
「今はみんな、各自トレーニングに任務に、任務上がりの休憩中。ここには誰も居ないよ」
 辺りを見る。普段賑やかなミーティングルームは珍しくトゥルーデとエーリカの貸し切り状態。
「そ、そうか。皆が来ても邪魔にならない様にと端に居たのだが」
「そんなに気を遣わなくても大丈夫だって。トゥルーデ相変わらずだね」
「やっぱり、部屋に戻って少し--」
 立ち上がりかけたトゥルーデ。彼女の服の裾を引っ張って強引に座らせるエーリカ。
「良いじゃん、ここでも。ミーティングルームのソファーの方が、座り心地良いんだよね」
「いや、寝るにはちゃんとベッドで寝た方が--」
「こんな昼間からガッツリ寝るの? 夜間哨戒でも無いのに? 夜中に目、冴えるよ」
 そう言うと、エーリカは部屋のカーテンをさーっと閉めた。外からの陽が和らぎ、カーテン越しに控えめなオレンジ色の光が降り注ぐ。
「うん。良い雰囲気」
 エーリカは一人頷き、トゥルーデの横に腰掛け、体を相棒に預けた。
「おい、ハルトマン」
「トゥルーデ見てたら私も眠くなって来ちゃった。一緒に寝よ?」
「良いのか、ミーティングルームを独占して」
「たまには良いじゃん。それに、トゥルーデ、また瞼が」
「え……」
 エーリカはトゥルーデの顔をそっとすくうと、瞼にキスをした。
「くすぐったい」
「じゃあ」
 エーリカは改めて、トゥルーデの唇に、自分の唇を重ねた。そっとかわすキスは、優しく、少し長く。ふっと距離を縮め、そっと抱き合う。
「これでどう?」
 エーリカを緩く抱きしめたトゥルーデは、愛しの彼女に問われ、曖昧に答える。
「うん。まあ、その……」
「トゥルーデ、おねむだね。じゃあ、一緒に」
 何処から持って来たのか、ブランケットを二人の全身にふぁさっとかけて、ゆるゆると横になる。
「私と一緒だから、悪い夢は見ないよ」
「本当か?」
「だって、一緒に居るし。ずっとね」
 そう言ってはにかんだエーリカを見て、トゥルーデは思わず微笑んだ。愛しの人を呼ぶ。
「そうだったな、フラウ」
 二人抱き合ったまま、微睡みの中へ。二人を淡く包み込む陽の光はとても優しく神々しく、束の間の平穏を演出する。

(……今の私は、夢の中の私なのか、それとも)

 そんな想いが一瞬頭を過るも、眠気と、服越しに感じるエーリカの温もりを感じるうち、意識が途切れ途切れになり、やがてふと途絶えた。


 それはとても素敵な夢だった、とトゥルーデは記憶している。
 どんな内容だったかは思い出せないが、表現が困難な程、幸福感に満ちた夢だった、と。その事を夕食の時、愛しのひとに伝えると、ふふふ、と笑った。
「ね? 言った通りでしょ?」


end

103名無しさん:2020/01/01(水) 02:02:48 ID:5i.w/DcI
以上です。
2020年はいよいよRtBの年ですね。楽しみです。
ではまた。

104mxTTnzhm ◆.7r9yleqd.:2020/04/28(火) 03:32:49 ID:0gwC/ils
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
いつものエーゲル、保管庫No.450「ring」続編となります。

105stand by for orders 01/02:2020/04/28(火) 03:33:49 ID:0gwC/ils
「暇過ぎ」
 エーリカはベッドの上で寝転び、頬杖をついてぼそっと呟いた。横目で苦々しく思いながら、片手で懸垂を続けるトゥルーデ。
「お前はだらけ過ぎなんだ。鈍るぞ」
「だってー」
「ハルトマン、まさか『戦闘こそ気晴らし』みたいな考えでは無いだろうな」
「私、そんなトゥルーデみたいな戦闘狂(ウォーモンガー)じゃないし」
「私だってそこまでおかしくなはい!」
 片手懸垂を終えたトゥルーデは身も軽く床に下りると、滲む汗をタオルで拭い、やれやれと息を付いた。
「仕方無いだろう。この、暫く続く酷い悪天候。ネウロイどころの騒ぎではない。今はむしろ天候との戦い、となると私達に出来る事は--」
「だからってトレーニングばかりじゃつまんないし煮詰まるよ〜」
 付き合わされるこっちの身にもなってよ、と愚痴るエーリカ。
「ならどうしろと言うんだ」
「外に出なければ、基地の中なら良いんでしょ? お腹減ったし、食堂行こうよ」
「お前は眠るか食べるか遊ぶかの三択しかないのか」
「トゥルーデだって、こう言う時はトレーニングか訓練の二択しかないじゃん。ほら、行こ行こ」
 制服を着ている最中に引っ張られたので、ボタンを掛け違えてしまうトゥルーデ。

「バルクホルンさんとハルトマンさん、どうしたんですか?」
 食事当番の芳佳とリーネは突然の訪問者に驚いた。
「ねえねえ宮藤。何か面白い事無い? 無ければ美味しいモノでも良いよ?」
「そうですねえ……」
「宮藤が困ってるだろう。夕食の支度もあるだろうに」
 厨房からは、扶桑の醤油に出汁、味噌と言った特徴的な匂いが漂ってきていた。最初は面食らったものだが、食べ慣れてしまうと案外それらが「美味しい」サインに思えてしまうから不思議だ。
「あれ、バルクホルンさん」
「どうした宮藤」
「珍しいですね。制服のボタン、掛け違えてますよ。もしかしてボタンがほつれたとか? 直しましょうか?」
「ああ大丈夫だ、気にしないでくれ、すぐ掛け直す」
「やぁねえ、トゥルーデってば」
「お前が着替えの時に引っ張るから!」
 そのやり取りを聞いていた芳佳とリーネはひそひそと何かを囁き合ったがカールスラントのエース二人には聞こえなかった様だ。
「じゃあ、今日は芳佳ちゃんの代わりに私が」
 リーネはいそいそと何かを作り始めた。

106stand by for orders 02/02:2020/04/28(火) 03:34:17 ID:0gwC/ils
 少し経って、リーネが皿の上に整然と並んだそれを二人の前に出した。
「お、サンドイッチ。嬉しいな〜」
「わざわざ作ってくれたリーネに感謝するんだな」
「トゥルーデが作ったんじゃないのにその口ぶり。ねえ、リーネ」
 ニヤニヤ顔のエーリカを前に恐縮するブリタニアのエース。
「いえ、あり合わせの材料ですから」
「へえ。色々挟んであるんだね」
 一口食べてすぐに中身を把握するカールスラントのウルトラエース。
「材料があれば他のお料理も考えたんですけど、晩ご飯も近いですし」
「毎回無理を言ってすまんな」
「いえいえ。バルクホルンさんもどうぞ」
「ではいただこう」
 軽く表面を炙ったパンに、薄くバターを塗り、新鮮な野菜、ゆで卵の輪切り、そして薄切りにしたローストチキンらしき肉を丁寧に重ねて、挟んでいる。
「すみません。具がちゃんとしたものじゃなくて」
 申し訳なさそうにするリーネを見、トゥルーデは優しく声を掛けた。
「そんな事は無いぞ。野菜に卵、肉類と食材のバランスも良いじゃないか。とても急ごしらえとは思えない」
「そうだよ。とっても美味しいよ。野菜もパリっとしてるし」
「ああそう言えば、前にブリタニアのウィッチから聞いた事がある。『サンドイッチは間に挟んだ野菜が美味しい』とか何とか。意味はよく分からなかったが」
「それは、あんまり気にしないでください」
 リーネは笑った。
「私も食べたかったな〜」
 厨房の奥から芳佳がひょっこり顔を出した。
「大丈夫だよ。芳佳ちゃんの分も作ってあげるから」
「二人共、甘々だね〜」
 冷やかすエーリカ。
「しかし、この嵐は何時になったら収まるのやら」
 不意に呟いたトゥルーデの言葉で、しんとしてしまう一同。
「無粋だね、トゥルーデ」
「いや、そんなつもりでは」
「ま、そう言う所がトゥルーデっぽいんだけどさ」
 言いつつ、靴を脱いだ足の指先でこしょこしょとトゥルーデの足をくすぐるエーリカ。
「こらやめんか!」
「トゥルーデが暗い事言った罰〜」
「何でそうなる」
「お二人はやっぱり仲良いですね」
 芳佳が感心しきりに頷く。
「宮藤、お前にこの状況でそう言われると何故か良心が痛む」
「えっ何でですか」
「でも、……止まない雨は無いって言いますし。いつかは」
 リーネらしからぬ、極めて前向きな呟きを一同は聞き逃さなかった。一瞬の沈黙の後、芳佳はリーネに抱きついて言った。
「だよね、リーネちゃん。今は私頑張ってお夕飯作るよ!」
「トゥルーデも二人を見習ったら?」
 にやけながら、足の指をわきわきさせるエーリカを見るトゥルーデ。
「裸足のお前に言われても、説得力がな」
 そして、視線をたわいもなくじゃれ合う芳佳とリーネに向ける。
 どんな時でも希望を失わない。
 それこそがウィッチの強さであり、皆の希望。

 そうか。そう言う事か。

 トゥルーデは独りごちて、残りのサンドイッチを一気に口にした。
 それを見ていたエーリカも、どこか嬉しそうだった。

end

107名無しさん:2020/04/28(火) 03:35:27 ID:0gwC/ils
以上です。
RtB、楽しみですね。
ではまた。

108mxTTnzhm ◆.7r9yleqd.:2020/05/06(水) 00:09:09 ID:1g4VLQf.
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
C98夏コミ「5日目」と言う事で、一本書きました。
いつものエーゲル、保管庫No.450「ring」続編となります。

109stand by for orders II:2020/05/06(水) 00:09:43 ID:1g4VLQf.
「暇だよー」
 エーリカはベッドの上で寝転び、それまで手にしていた本を傍らに置いて嘆いた。相変わらず筋力トレーニングを続けていたトゥルーデは、そんな相棒の様子を見てやれやれと呟いた。
「今は出撃待機中だ」
 トゥルーデの言葉を受けてエーリカが返す。
「だとしても待機時間が長過ぎ」
「もう少し大人しく待てないのか。『待機時間が長いから』と、ミーナがわざわざ自室に戻っても良いと言ってくれなければ私達は--」
「それはそれで嬉しいけどさー」
 エーリカはベッドの枕に顔を埋めた。しばしの無言。一分程経ってからトゥルーデは気付いた。
「ハルトマン。まさか、寝てるんじゃないだろうな?」
 安らかな寝息が答えとなって返って来る。
「寝るな!」
「じゃあトゥルーデも一緒に横になって。そうしたら起きる」
「どう言う理屈だ」
 呆れるトゥルーデに、エーリカは言葉を続ける。
「二人で一緒にくっついてたら、何か有ってもすぐ反応出来る気がする」
「それだと私まで寝てしまうだろうが」
「あれえ? トゥルーデ、まさか私と一緒に寝るつもり?」
「この状況下で眠れるか!」
「じゃあ早く私の隣に来てよ。眠らないんでしょ? 一緒に居ようよ」
 ちょっとむくれた感じのエーリカを前に、トゥルーデは頭を掻いた。
「何か良い様に言いくるめられた気がする」

 その仕草はいつもと変わらず。
 ひとつのベッドで二人一緒になる事は、もう慣れっこだった。
 背を向け横になっている相棒を目にしつつ、トゥルーデは体を滑らせベッドと毛布の間に挟まる。仰向けに寝、天井を見る。
 そうしていると気配を感じたエーリカがこちらを向き、そっと体を抱きしめてきた。そっと、片腕で愛しの人を抱き寄せる。

 特に何かを言い合う訳では無かった。
 普段は愚痴も言えばちょっとした口喧嘩もする二人だが、こう言う時、抱きしめてお互いを感じるだけで、十分だった。
 制服を通して、相手の体の温もりを僅かに感じる。
 にっと、エーリカが笑った。トゥルーデもつられて微笑む。
 これがお互い非番の夜だったらこの先に色々なことが待っているのだが、生憎次の瞬間出撃の命令が下る、と言う可能性も有る。今はこれが限度。

 二人がこうして待っている前、出撃直前の状態でミーティングルームやハンガー内で随分待たされたものだ。しかし時間が経つに連れ状況がどんどん不明瞭になり「ひとまず自室で待機」とミーナが判断すると、やる気を削がれた一同は不完全燃焼の感覚で命令に従った。そしてそのまま待機時間は続き今に至る。
 これも戦いのうち、と言えばそれまでだが、やはり何事にもメリハリが欲しかった。

 いつしかエーリカはトゥルーデの腕の中でうつらうつらとし始めた。
 心得たもので、トゥルーデも無理には起こさず、そっと抱き寄せる。
 相棒はこう見えても国のトップエース、いや世界最強のウィッチなのだ。何が起きてもすぐに対応出来る。勿論、自分も。
 こんな、奇妙なゆとりにも似た感覚が出たのは何故かな、と自分の薬指に収まる指輪をぼんやりと見る。その輝きは衰える事なく、見る者に訴えかける。

 そうして、二人は緊張と眠気と言う、相反した奇妙な時間を共にする。
 いつか来る出撃命令、もしくは出撃解除の指示が出るまで。

end

110名無しさん:2020/05/06(水) 00:10:45 ID:1g4VLQf.
以上です。
RtBの放送が楽しみですね。
ではまた。

111mxTTnzhm ◆.7r9yleqd.:2020/07/17(金) 01:23:47 ID:u4/QQpCU
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
いつものエーゲル、保管庫No.450「ring」続編となります。

112get in the car and go wherever you want 01/02:2020/07/17(金) 01:24:35 ID:u4/QQpCU
「うーん」
 キューベルワーゲンのハンドルを握るエーリカはちょっと暇気味。助手席で腕組みして座っていたトゥルーデは、そんな相棒を見て言った。
「どうかしたのかハルトマン」
「いやー、この道で良かったのかな、って」
 ぎょっとする堅物大尉。
「何ッ? まさか道を間違えたのか?」
「帰りは基地までほぼ一本道だし、そっちの『道』は間違えてないよ」
 トゥルーデとエーリカは、ミーナからの指示でカールスラント軍の連絡所に出張していた。幸いにもネウロイが出る気配は無く、もし出たとしても待機している他の隊員達で何とかなりそうだったので、あえてミーナは二人に出張業務を与えた。それはある種の気遣いか、もしくは……。
 そうして業務を難なく終えた二人のエースは、帰り道を軍用車でのんびり走っているのであった。
 トゥルーデはエーリカの顔を見た。悩み少々、不機嫌も少々。そして自分でも不思議そうな表情をしていた。
「ハルトマン。お前の言う『道』ってどう言う意味だ」
 相棒の詰問とも気遣いとも取れる言葉を聞いたエーリカは、首を傾げながら車を操る。
「そうだねー。いや、他に選択肢は無かったからどうでも良いんだけど」
「どうでもって……もしかして、ウィッチになった事か」
「それも有るけど、そっちは私の中では解決済み」
「なるほど。じゃあ何だ」
「なかなか言葉にし辛いんだよね。何て言えば良いのか」
「まあ、運転さえ気を付けてくれれば今の私はそれで良い」
「冷たいなあ、トゥルーデは」
「運転中のお前に根掘り葉掘り聞いても気が散るだけだろうに」
「それは確かにね〜」
 トゥルーデへの返事も少し上の空になりつつある。エーリカにしては珍しい事だった。いつも朗らかに笑い、皆を和ませ、悪戯をし、よく食べてよく寝る501のウルトラエース。それが運転中なのに何を思い煩うのか。
 そんないとしのひとを不安に思ったトゥルーデは、真顔でエーリカに言った。
「ちょっと車を路肩に停めてくれないか」
「どうしたの? もう漏れそうとか?」
「違う! お前が心配だからだ」
「え?」
「いいから」
「わかったよ」
 エーリカは、路肩に寄せてゆっくり車を停止させる。
「で、トゥルーデ。車を停めた理由、私ってのどう言う事?」
「上の空で運転され続けては、もし何か有ったら大変だからな。少しの休息も必要だろう」
「トゥルーデらしいね」
 エーリカは車のエンジンを止めた。トゥルーデから顔を背け、道端の景色を見た。少し遠くに山が見え、道端には名前が分からない花が可憐に咲いていた。恐らくリーネかペリーヌ辺りなら花の種類、もしあれば薬効等を知っているだろう。しかし二人はそちらの方はとんと不得手だった。
 そよ風が二人を優しく包み、抜けて行く。
 遠くに見える街は豆粒の様に小さく。その先にある筈の501の基地はまだ姿が見えない。しかし聞き慣れた不吉な音や見慣れた爆発炎等も無い事から、基地は至って平穏無事だと推察される。
 そんな、ちょっとした景色をぼんやり眺めるエーリカ。ハンドルから手を離しぶらりと腕を下げ、運転席にもたれ掛かったまま、何をするとでも何を言うとでもなく、ただぼんやりと目に見えるもの全てを受け入れていた。何処からか聞こえて来る小鳥の囀りが耳に心地良い。
 そんなエーリカを背後から見つめるトゥルーデ。
 数分経った頃、ぽつりとエーリカは言った。
「これで良かったのかな」
 彼女が言った「これ」が何を指すのか、トゥルーデには皆目見当が付かなかった。
「それは一体何の事だ?」と聞くのは容易い。しかしその無粋な一言が彼女の何かを傷付けてしまわないか、エーリカの黄昏れる姿を見てトゥルーデは一瞬不安になる。咄嗟に言葉が出て来ない。否定も肯定も、疑問すら口に出来ぬ気がして。
 トゥルーデはそっとエーリカの手に自らの手を重ねた。それがトゥルーデに出来る精一杯のこと。
 一瞬ぴくっと動いたエーリカは、トゥルーデの行為をそのまま受け入れ、トゥルーデの方を向かずにぽつりと呟いた。
「このまま」
「え?」
「二人で何処かに」
「そ、それはどう言う……」
 そこで初めてエーリカは笑顔を作り、トゥルーデに向き直った。
「冗談。トゥルーデっていつも何でも真面目に受けちゃうからさ」
 そう言うと、エーリカは少々困惑するトゥルーデに顔を近付け、唇を重ねた。
 一陣の風が舞う。

113get in the car and go wherever you want 02/02:2020/07/17(金) 01:25:07 ID:u4/QQpCU
 そっと唇を離す。名残惜しげに口元を手で覆ってみせる。
「大丈夫。トゥルーデは何も心配しなくても。ちょっとした気の迷いってやつ?」
 心配と不安が思わず混じった表情で、名を呼ぶ。
「エーリカ。言葉とは別に、随分と深刻に見えたが」
 笑顔でいとしのひとに答えるエーリカ。
「平気だよ〜。さ、帰ろう。何だかお腹減っちゃった。今日の食事当番は宮藤とリーネだっけ?」
 ぽんぽんとトゥルーデの肩を叩く。
「お前は本当、欲望に忠実なんだな」
「分かってる癖に」
 くすっと笑うと、エーリカは慣れた手付きでエンジンを始動させた。トゥルーデもすっきりしない気分半分、元のエーリカに戻った安堵半分の表情でふうと息をついた。
「見て、一番星」
 西の空に、明るい星が見えた。訓練や出撃の際、道標ともなる星だ。エーリカが指差す方向に、いつもと変わらず輝いていた。
「もうそんな時間か」
「急いで帰ろう。ミーナも心配してる」
「あんまり飛ばすなよ? 少し位遅れても大丈夫だ」
「トゥルーデが途中長〜くお花摘んでたって事に?」
「何でそうなる」
 いつものエーリカに戻った。トゥルーデは再び腕組みしつつ、内心ほっとしていた。そんな相棒を見、照れ隠しか頭をすこし掻きつつ、エーリカは言った。
「ごめんね、心配させて」
「礼を言うとは珍しいな。明日は雨か?」
「酷いなぁ、トゥルーデ。飛ばすよ?」
「安全運転で頼む」
 二人を乗せたキューベルワーゲンは、再びがたごとと道を進み始めた。

end

114名無しさん:2020/07/17(金) 01:25:36 ID:u4/QQpCU
以上です。
RtBまであと数ヶ月ですね。楽しみです。
ではまた。

115mxTTnzhm ◆.7r9yleqd.:2020/07/18(土) 02:37:19 ID:XpxVFUOk
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
いつものエーゲル、保管庫No.450「ring」続編となります。

116battlefield food 01/02:2020/07/18(土) 02:37:57 ID:XpxVFUOk
 訓練。それは実戦に備えた、行動と意識の備え。
 だが、森の中、道なき道を歩き、前を行く相棒の背中を見ているうちに、ちょっと待って、と思わず声が出るエーリカ。
「どうした。もうギブアップか?」
 呼び止められたトゥルーデは歩みを止め、振り向いた。様々なモノが詰め込まれた背嚢、ストライカーユニット、MG42を担いでいる彼女がいかにも楽で軽そうに見えるのは、固有魔法のお陰か、はたまた日頃の鍛錬の賜物か。
 一方のエーリカは、同じくストライカーユニットと銃器を背負ってはいるものの、トゥルーデ程の肉体的な強さは無かった。それ故か、足取りはどこかおぼつかない。
「トゥルーデ歩くの早過ぎ。重いモノ幾つも持って森の中歩き回るってどんな罰ゲームだよー」
「ミーナや少佐も言っていただろう? 航空ウィッチは常に空を飛んでいられる訳では無い。不時着、撃墜、ストライカーユニットの故障、様々な理由でやむなく地上に降り、歩いて帰らねばならない可能性も有ると」
「救助待てば良いじゃん。重いストライカーユニットは回収班に任せようよ」
「それが出来ない場合も想定して、装備品を持ってある程度徒歩で移動するサバイバル訓練も必要だ、と言われたのをもう忘れたのか」
「だってー」
 抗議の言葉を続ける前に、ぐううう、とエーリカの腹が鳴った。愚痴を言おうとしたが、その前に腹の方が正直だった。
「やれやれ」
 トゥルーデは背負った荷物を地面にそっと置いた。

「薪になりそうな木の枝、持って来たよ」
「ありがとう」
 エーリカが纏めて持って来た木の枝を受け取ったトゥルーデは、いとも容易くばきばきと折り、樹皮をめくるとくしゃくしゃっと丸める。そこに、背嚢に入れてあったマッチで火を付け、慣れた手付きで薪をくべ、焚き火を作る。
「おー、暖かい」
 手をかざしてにっこり笑うエーリカ。
 トゥルーデは背嚢から幾つかの食材を出し、ナイフで適当に切って小さな鍋に入れる。近くの小川で汲んできた水を注ぎ、焚き火にうまくセットし、材料を加熱していく。湯が沸騰して暫くすると、食材が煮える良い匂いがしてきた。
 材料が茹で上がったら軽く塩と胡椒で味付け。実にシンプルなシチューの出来上がりだ。
「とりあえず、今出来るのはこれだけだ」
「おおー。流石トゥルーデ」
「別で茹でる鍋が無いからジャガイモも一緒に茹でている。砕きながら食べるといい」
「了解。こう言うの、501に来る前にもやった気がするよ」
「そうだったかな」
 二人でひとつの鍋をつつく。
 焚き火から立ち上る煙はうっすらとなびき、上昇し、空に消えていく。風も無く穏やかな昼下がり。森の中は空気が少しひんやりする。熱々のシチューをすすり、ほふほふと息をすると、口元から湯気が僅かに出る。
「なんだかピクニックに来たみたいだね」
 エーリカはシチューを食べながら笑った。
「お前なあ……これも訓練の一環だぞ? 私が負傷して何も出来ないって可能性も有るんだ。その時はお前が料理……は無理だったか」
 はあ、とひとつ息をするトゥルーデ。
「何、一人で話完結させてるのさ」
 呆れるエーリカ。
「いや、ハルトマン。前にも命令があった通り、お前は料理は作ってはいけない。絶対にだ。私が何としてでも作る」
「何それ」
 苦笑したエーリカは、残った具をフォークで全部取り、口に詰め込んだ。
「あ、具が無くなった」
 鍋を覗き、ぼそっと呟くトゥルーデ。
「早い者勝ち〜」
「こう言う時も食欲は旺盛なんだな。まあ良いが」
 トゥルーデは残ったシチューの汁を少しすすった。少し濃いめに塩味を付けたつもりが、具材が塩分を吸収して、やや薄味になっていた。

117battlefield food 02/02:2020/07/18(土) 02:38:20 ID:XpxVFUOk
 焚き火の火をしっかり消し、食事の後片付けを終えると、よし、と頷き背嚢に手をやる。
「もう行くの?」
「少しのんびりし過ぎた。訓練での移動距離はどうあれ、そろそろ基地に戻らないと皆が心配する」
「面倒臭いから、ストライカーユニット履いて飛んで帰ろうよ」
「訓練にならないし、ミーナと少佐に怒られるぞ」
「あー、それはそれで面倒だね」
 エーリカは傍らに置いた、自分のストライカーユニットをぽんぽんと叩く。そしてはっと気付くと、トゥルーデに向き直り、言った。
「なんかお腹減ったよ」
「さっき食べたシチューは何処へ行った」
「ねえ、他に食べるものは?」
「今あるものを全部食べてもまずいだろう。食べ過ぎは良くない」
「ちぇー」
「訓練だからな」
「トゥルーデつまんない。訓練、訓練って」
「仕方無いだろう。訓練なんだから」
「ほらまた言った」
「じゃあ何て言えば良いんだ」
「ピクニック?」
「食事する直前までこの世の終わりみたいな顔をしていた奴が言う事か」
「じゃあさ、トゥルーデ」
「今度は何だ」
 エーリカはトゥルーデの元に歩み寄ると、すっと腕を伸ばして抱きしめた。
 そのまま、唐突に、キス。
 相棒の予想外の行動に驚くも、体勢がふらついたのでしっかりと抱き寄せる。
 遠くで小鳥の囀りが聞こえたところで、二人はそっと唇を離した。お互いの頬に掛かる吐息が熱い。
「ずるいぞ、フラウ。こう言う不意打ちは」
 愛しの人の名を呼ぶ。
 エーリカは悪戯っぽく笑うと、言った。
「日常でも何でも、少しのドキドキとスパイスは必要だよ?」
 エーリカはストライカーユニットとMG42を担ぐと、足取りも軽やかに歩き始めた。

(これだから……)

 トゥルーデは頭を振ると、よいしょと荷物を背負い、後を追った。

end

118名無しさん:2020/07/18(土) 02:38:45 ID:XpxVFUOk
以上です。
RtBが待ち遠しいですね。楽しみです。
ではまた。

119mxTTnzhm ◆.7r9yleqd.:2020/08/16(日) 00:38:06 ID:nsEsvl82
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
いつものエーゲル、保管庫No.450「ring」続編となります。

120her very particular:2020/08/16(日) 00:38:59 ID:nsEsvl82
「トゥルーデは細か過ぎるんだよ〜」
「いーや。こうでないとダメだ。妹のクリスもそう言っている」
「トゥルーデが圧かけてたんじゃないの?」
 むっとした表情を向ける堅物大尉。ここは基地の厨房、目の前にあるのはぐつぐつ煮える大鍋、中には大量の芋が茹でられていた。
「バルクホルンさん、ハルトマンさん、どうしたんですか?」
 料理当番の割烹着姿の芳佳がただならぬ雰囲気を察して様子を見に来た。エプロン姿のリーネも心配そう。
「宮藤からも言ってやってよ。芋茹でる時間、適当で構わないって言ってるのにさー」
「だ・か・ら。この品種の芋は固めだから茹で時間が十二分、大きさが大ぶりだから更に一分位は--」
「それがこだわり過ぎなんだってば」
 カールスラントのエース同士の会話に、扶桑女子の芳佳は何と答えて良いか言葉に詰まる。
「ほらぁ、宮藤も困ってるじゃん」
「いやいや、宮藤を困らせるつもりは無いぞ。だから茹で時間が」
 慌てて取り繕う501の“お姉ちゃん”を前に、くすっと笑って話す芳佳。
「そうですねぇ。扶桑にはカールスラント程お芋の種類が無いので分からないですけど……お料理によって下ごしらえの時間を変えたりしますね」
「確かに、それもあるな」
「あとは大きさですかね。火の通りが」
「だろう? それをハルトマンに言っているのだが適当で良いと適当な事を言うから」
「食べられれば何でも良いってー」
 またもトゥルーデとエーリカの言い合いになりかけたので、リーネが根本的な問い掛けを発する。
「あの、バルクホルン大尉はどうして茹で方にこだわるんですか?」
「カールスラントの女子たるもの、芋でフルコースが作れないと嫁に行けないと言う位芋にはこだわりがある……ああその話では無かったな。つまりしっかりこだわらないと良い料理が出来ないと言う事だ」
「私はそんなにこだわらなくて良いって言ってるのに。大変じゃん」
 熱弁するトゥルーデ、呆れるエーリカ。そんな二人を見て、芳佳とリーネは顔を見合わせて、うんうんと頷くと微笑んだ。
「な、何がおかしい二人共」
 動揺するトゥルーデを前に、芳佳が言った。
「バルクホルンさんはハルトマンさんに、美味しい料理を食べてもらいたいって事ですよね」
「ああ」
 エーリカには、リーネが言った。
「ハルトマン中尉は、バルクホルン大尉に苦労して欲しくないって事ですよね」
「うん」
 芳佳が二人を見て話し掛ける。
「それだけお互いの事を思ってるって事じゃないですか? 流石ですよ」
 ずばりと言い当てられ、顔が赤くなるトゥルーデ。冷静を装って口笛を吹くエーリカ。
「ま、まあ、そう言われると」
 動揺を隠せない堅物大尉。
「そこまで深読みされてもね〜」
 悪戯っぽく笑って誤魔化すエーリカ。
「そうだよね、芳佳ちゃん」
「リーネちゃんもそう思うよね?」
「うん!」
「二人共止めてくれそう言うのは」
 そう言って苦笑いするトゥルーデ、ぽんぽんと相棒の肩を叩いてニヤニヤするエーリカ。
 ピリピリした雰囲気も何処へやら、厨房の中は鍋から立ち上る湯気と共に、ほんわかとした優しい空気に包まれる。そんな昼食前のひととき。

end

121名無しさん:2020/08/16(日) 00:39:36 ID:nsEsvl82
以上です。
TV2期再放送でも盛り上がり、RtBまであと少しですね。楽しみです。
ではまた。

122名無しさん:2020/11/14(土) 22:03:43 ID:TkV3DjBs
RtB6話見て来た
いつもエーゲルありがとう

123mxTTnzhm ◆.7r9yleqd.:2020/12/16(水) 22:17:09 ID:6vah3cNQ
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
いつものエーゲルに加えて今回は変化球でミートゥル(ミーゲル)となります。
保管庫No.450「ring」続編となります。

124flight tracking:2020/12/16(水) 22:17:40 ID:6vah3cNQ
 その日も基地は慌ただしかった。訓練、実戦、テスト飛行、書類業務……あらゆる事が一気に降り掛かるのは最前線たる所以か。
 ミーナはデスクワークもそこそこに、先日ウルスラが持ち込んだ試験機のテスト続行を望んだ。
「止めろミーナ! また何か有ったらどうするつもりだ!」
 声を荒げたのは他ならぬトゥルーデ。天から真っ逆さまにネウロイの巣へと墜ちていくミーナの腕を掴み、生還させた、501の戦闘隊長。
「この前の事は済まなかったと思っているわ」
「なら尚更どうして!?」
「もし今後の戦闘で通常のレシプロ機のストライカーが無理なら、選択肢のひとつとして有っても良いでしょう」
「しかし!」
「大丈夫。今回はただのテストだから。ハルトマン中尉にも参加してもらうから大丈夫でしょう」
「ウルスラには私からも言っておくよ」
 横で様子を見ていたエーリカが言った。が、昇進したての少佐殿はどうにも納得出来ない。
「分かった。なら私が至近距離でミーナの様子を見よう。それならどうだ」
「ストライカーユニットの速度的に無理でしょう」
「加速と最高速は付いて行けずとも、何か有った時の保険にはなるだろう」
「私、随分と信用を失ったのね」
 あらあら、とミーナは苦笑した。
 
 その赤く塗られたストライカーユニットは立派に磨き上げられ、発進のときを待っていた。
「私はいつでも行けるぞ」
「じゃあ、行きましょうか」
 ミーナはふわりと跳ぶとそのまま両足をストライカーユニットに潜らせる。
 まずはトゥルーデが先行し、ミーナが後追いと言うかたちで次々と離陸する。
「今回はただのテスト飛行なのに、どうしてバルクホルン少佐はあんなに苛立っているのでしょう?」
 計測機器を前にぼそっと呟いた双子の妹の疑問に、姉がさらっと答える。
「ウルスラにはちょっと分かりにくいかもね」
「一応、私もあの戦闘の時、現場に居たのですが」
「まあ、肩組んでた者同士じゃないし」
 双子の姉はそう言うと、空を眺めた。

 途中までは順調、いやむしろ快調だった。ミーナはそう自分に言い聞かせていた。あの時はがむしゃらに飛び続け、結果墜落寸前の憂き目に遭ったが。
 それ程負荷の掛からない筈のテスト飛行ですら、地味につらい。ウィッチとしてのあがりを目前に、魔法力の減退が始まっている事を改めて痛感する。誕生日がそう遠くない彼女も同じ気持ちなのかしら、と、ちらりと後方を追尾するトゥルーデを見る。

 一陣の風が、ミーナを包み、抜けていった。それはよくある上空の乱気流のひとつ。天の悪戯。
 それがミーナに、ずしりと重くのしかかる。
 慌てて飛行姿勢を修正する。したつもりだった。慌てたのがそもそものミスの始まりだった。咳き込む様にジェットストライカーのエーテル噴流が乱れる。急いでスロットルを全開にしてはいけない事をミーナが忘れる訳ではなかった。だが不運は続き、やがて噴流は収まり、ミーナの魔法力を吸い尽くしたストライカー共々、自由落下となる。

 一瞬気を失った気がした。あの時の様に。

 はっとして目を開けると、トゥルーデがミーナを抱きかかえていた。まるで、先日相棒にした様に、お姫様抱っこのかたちを取っていた。

「私は同じ事を二度言いたくないのだが」
 険しい顔で睨みつけるトゥルーデ。また罵声が飛んでくるのかと、思わず身構えるミーナ。
 だが、新しい「少佐」からはすぐに笑みが出た。苦笑と諭しの混じる微笑み。
「私はエイラの様に未来予知は出来ない。だが、状況を想像して予め準備しておく事は出来る」
「それが的中したって事よね。今回もトゥルーデに迷惑掛けたわね」
 ごめんなさい、と謝るミーナに、トゥルーデは顔を向けた。
「色々焦る気持ちは私も一緒だ。だが、無理は良くない」
 そう言うと、小さく、馬鹿野郎、と呟いた。

「さあ、テストは中止だ。まずは戻って食事だ」
 ミーナを抱えたまま、一直線に基地へ戻るトゥルーデ。
「今日の食事当番は誰かしら」
「私だ。ミーナの魔法力が早く回復する様に、栄養のある献立を考えないと」
「まあ、今日は何から何まで頼もしいわね」
「ミーナ程じゃないさ」
 二人は笑いあった。

「だってさ、ウルスラ」
 エーリカは無線で聞いていた二人の会話の感想を、同じく聞いていたウルスラに求めた。
「やっぱり、分かる様でいまいち分かりません」
「ま、ウルスラはそれでいいのかもね……出来れば分かる様になると嬉しいけど、って、あーっ、ミーナ、お姫様抱っこ、ずるーい!」
 エーリカはゆっくり着陸態勢に入ったトゥルーデ達を見つけ、滑走路に走っていった。

end

125名無しさん:2020/12/16(水) 22:19:02 ID:6vah3cNQ
以上です。
第9話と、SNSのフォロワーさんのイラストを見て思い付いたネタです。

RtBもいよいよクライマックスの時期。
来年の「発進します」続編やルミナスも楽しみですね。

ではまた〜。

126名無しさん:2020/12/16(水) 22:21:26 ID:6vah3cNQ
>>122
いつも御覧頂いてありがとうございます。
投下間隔はだいぶ空いていますが、
今後も書いて行ければと思います。

127mxTTnzhm ◆.7r9yleqd.:2021/01/01(金) 00:46:56 ID:pFsDsqCc
令和三年、あけましておめでとうございます。
mxTTnzhmでございます。
エアコミケ3日目と言う事で、一本書きました。
いつものエーゲル、保管庫No.450「ring」続編となります。

128coffee talk 01/02:2021/01/01(金) 00:48:28 ID:pFsDsqCc
「さあ、出来たぞ。こっちがミーナ、こっちはエーリカのだ」
 簡易ストーブで沸かしたお湯でコーヒーを淹れたトゥルーデは、ミーナとエーリカにマグカップを渡した。
 そこは解放間も無いカールスラントのベルリン。瓦礫の山もまだ完全には片付いていない。作業の合間にと、休憩時間にミーナがこっそり持って来たコーヒー豆をミルでじっくり挽き、トゥルーデはお湯当番。エーリカは近くの青空市に居た露天商から買い付けて来た幾つかのお菓子を即席のテーブルに広げる。
「何だか夢みたいね」
 ミーナはマグカップを手に微笑んだ。
「そうだな」
 トゥルーデも頷く。
「やっぱり本物のコーヒーは美味しいね。でも、ちゃんとしたカフェでお茶したかったなー」
 エーリカはコーヒーを飲みながら、笑顔。
「解放したとは言え、まだ復興は始まったばかりだからな。すぐには無理だ」
 真面目な口調のトゥルーデ。でも表情はどこか穏やかで柔らかだ。
「そうね。でも半分だけど、あの時の約束は叶えたでしょ?」
 ミーナが茶目っ気たっぷりに笑った。トゥルーデは少々むっとした表情で言った。
「あのな、ミーナ。私とエーリカがあの時お前を助けなかったら--」
「はいトゥルーデそこまでー」
 エーリカが割って入る。
「次の約束はね。ベルリンにちゃんとしたカフェが出来たら、みんなでまたお茶しようよ。やっぱりベルリンは良いとこだよね」
 エーリカの言葉に頷くミーナ。
「そうね。その時は必ず」
「おいおい、またそうやって約束の安請け合いか? 不吉だぞ」
「でもトゥルーデは、私に何か有ってもきっと助けてくれるでしょ? 前と同じ様に」
 そうミーナは言うと悪戯っぽく笑った。
「ミーナ、洒落になってないぞ。あの時私がどんな気持ちで居たかわかって--」
「確かに、トゥルーデとエーリカには迷惑を掛けたわ。二人がいなかったらこうして今コーヒーを振る舞う事も出来なかったでしょうね。でも、だからこそ二人を信頼してるのよ?」
 そう言って微笑むとミーナはコーヒーを一口楽しむ。
「何か上手く話をすり替えてないか?」
 訝るトゥルーデ。
「トゥルーデ、文句ばかり言ってないで。せっかくの美味しいコーヒー、冷めちゃうよ」
 コーヒーを飲み、お菓子を食べるエーリカ。一口食べて、びっくりして言った。
「うわ、このお菓子凄く甘いよ。ねえトゥルーデ、怒ってると糖分足りてないって証拠だから、はい、あーん」
「エーリカ、お前って奴は」
「じゃあ私からもはい、あーんして?」
 ミーナもお菓子をつまんでトゥルーデに。
「お前ら……、二人して何なんだ一体」
 文句を言いながら、二人が差し出したお菓子を続けざまに口にする。
「どう? 美味しい?」
 エーリカの問いに答えるトゥルーデ。
「確かにうまい。……でも、まだ大変な状況だろうに、よくこんな見事なお菓子を作れるものだな」
「それが人類の逞しさ、強さの証でもあると思うの」
 ミーナはマグカップを両手で大事そうに持ち、辺りを見回した。
 ちょうど午後の一息と見え、それまであちこちで作業をしていた人々もそれぞれめいめいが暫しの休憩を取っている。

129coffee talk 02/02:2021/01/01(金) 00:49:11 ID:pFsDsqCc
「ベルリンの次は、何処になるんだろうか」
 ぽつりと呟くトゥルーデ。
「さあ。こればっかりは私達だけでは決められないから」
 ミーナも憂いの色が滲む瞳の色で答える。
「まだまだ先は長いよね。……あ、最後のひとついただきっ」
 エーリカが目ざとくお菓子を食べ尽くす。
「私はさっき二人から貰った分しか食べて無いのだが」
 空になった皿を見て思わず呟くトゥルーデ。
「次の楽しみに取っておくと良いよ。約束だよ?」
「どんな約束だ。それに約束したところで、どうせお前が全部食べるんだろう?」
「なんだ、トゥルーデ分かってるじゃん」
「何年一緒にやってきたと思ってるんだ?」
 ミーナは501のウルトラエース同士の会話を聞いて、くすっと笑った。
「ミーナ、何がおかしい?」
「いえ、何だか良いわね、と思って」
「?」
 首を傾げたトゥルーデの袖、微笑むミーナの肩を、エーリカがつつく。
「ねえ二人とも見て、飛行機雲。今の時間帯は航空機飛ぶ予定無い筈だけど。もしかして何処かのウィッチかな?」
 じっと見ていたミーナは少し前の事を思い出して言った。
「前みたいに宮藤さんだったら、今度もみんなで助けに行かないとね」
「流石に今は、それは無いだろう」
 芳佳は基地で料理当番、今は何かを作っている筈だった。しかし問題が有ればすぐに飛んでいくのもまた芳佳。それは皆が分かっている事でもあった。
 三人はマグカップを手にしたまま、一筋の飛行機雲を、そして取り戻した大空を、見る。
 蒼のキャンバスにすーっと描かれた純白のラインが、やがて端からじわじわと消えていく。
 マグカップからほのかに立ち上る湯気が、ゆっくりとなびく。
 祖国の地を踏みしめたウィッチ達を包み込む、束の間の休息がそこにあった。

end

130名無しさん:2021/01/01(金) 00:49:43 ID:pFsDsqCc
以上です。
昨年のRtBは最高でしたね! そして余韻もそこそこに始まる「発進しますっ!」
2021年もウィッチーズで盛り上がれますように。

ではまた〜。

131mxTTnzhm ◆.7r9yleqd.:2021/01/13(水) 20:55:25 ID:h15G6LCo
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
カルスラ組のSSを思い付いたので急ぎ投稿です。
いつものエーゲル、保管庫No.450「ring」続編となります。

132coffee talk2 01/02:2021/01/13(水) 20:55:56 ID:h15G6LCo
 かりかり、と万年筆が紙を引っ掻く音。執務室の中に、微かに響く。
 ウィッチの任務はネウロイを倒すだけではない。特に尉官クラス以上のウィッチともなると、書類仕事、各所との連絡調整等、やる事が多い。大の大人でさえ音を上げる仕事を、まだ年端もいかぬウィッチ達はこなさなくてはならない。過酷だ。
 しかし慣れたもので、ミーナはすらすらと万年筆を走らせ、最後の書類にサインをした。ふう、と一息つき、伸びをする。傍らのデスクで同じ様に書類仕事をしているトゥルーデを見た。
 彼女も以前は事務方の仕事もこなしていたので、他のウィッチに比べれば「できる」方だ。しかしミーナに比べれば「処理能力」は若干落ちる。視線に気付き、筆を止めた。
「もう終わったのか。流石はミーナ、我らの隊長だな」
「トゥルーデは慣れてないんだから仕方ないわ。少し休憩する?」
「いや、こちらももう少しで終わるんだ。あと十分程待ってくれ」
「分かったわ。じゃあ私は休憩の準備でもしようかしら」
 再び書類に向かったトゥルーデを見る。ミーナはくすっと笑うと書類と筆記具を片付け、奥の本棚に向かった。本棚の隙間、ちょうど本の間に挟まった小物入れ--それはまるで同じ本に見える様に細工されていた--を取り出すと、そっと開ける。中から大事にしまわれていた袋が出て来る。
「例のコーヒー豆か」
 鋭い嗅覚で嗅ぎつけたトゥルーデはちらりとミーナを見て言った。
「本を隠すには本の中よね」
「本の中をくり抜いて物入れにしてるなんて、まるでスパイだな」
「こうでもしないと、他の誰かさんに見つかっちゃうもの」
 そう言うとミーナは“秘密の物入れ”を元に戻した。
「その誰かさんは--」
 言いかけたトゥルーデを遮り、ばーんと執務室の扉が開いた。
「ミーナ、トゥルーデ、三時だよ。お茶の時間だよ」
「あらエーリカ。私達もちょうどお茶しようかと思っていたのよ」
「まさかエーリカ対策か?」
 素朴な疑問を口にするトゥルーデ、それを聞いて口を尖らすエーリカ。
「え? 何それ? 私まだ何もしてないよ」
「まだってどう言う事だ?」
 自由過ぎる相棒を長く見てきた“少佐殿”は訝しむ。
「あら。彼女はもうとっくに知ってるわよ。これが何処にしまってあったのか」
 ちらっとコーヒーの袋を見せると、501のウルトラエースは即答した。
「奥の本棚、上から三段目、右から七番目の本に見える小物入れでしょ?」
「なるほどな」
 トゥルーデは苦笑した。

 エーリカが何か料理でも? と言い出したので慌てて止めたトゥルーデは、厨房へ出向き幾つかのお菓子とサンドイッチを調達し、執務室に戻る。今日は全員揃ってのお茶会は無く、他の隊員達はめいめい好きな所でお気に入りの仲間と貴重な時間を共にしている。あるいは哨戒任務など。ベルリンを奪還した501とてまだまだ多忙だ。

133coffee talk2 02/02:2021/01/13(水) 20:56:19 ID:h15G6LCo
 コーヒーミルで焙煎した豆を程良く砕き、お湯を沸かす。そうしてフィルターに適量の豆を入れ、ポットのお湯を少しかけて蒸らし、少しずつ湯を注いでいく。コーヒーカップに琥珀色の液体がぽた、ぽたと滴り落ちる。
「いい匂い」
 エーリカは待ちきれない様子。
「はい、エーリカのが出来たわ。トゥルーデは濃いめが良かったのかしら」
「いや、普通でいい」
 急いで残りの仕事を片付けようと奮闘する戦闘隊長。
(そう言えば坂本少佐はミーナと一緒に書類仕事をしているの、あまり見た事が無かったな)
 と、少し前の事を思い出す。美緒は今頃、軍のお偉方相手に堂々と亘り合っていることだろう。
「はい、トゥルーデの分出来たわ」
「あともう少し」
「冷めたら美味しくないわよ?」
 少し意地の悪いミーナの口調にペン先が止まる。
「ミーナの厚意を無碍には出来んな。いただこう」
 万年筆を片付けると、トゥルーデもテーブルに向かう。ミーナは自分好みの濃さに淹れている。

「コーヒーの役目。単なる嗜好品ではなく、憂鬱な気分を晴れやかにし、覚醒作用を持ち、戦場での一杯は……」
「トゥルーデ何処でそんな事教わって来るの? 美味しいならいいじゃん」
 カップを手に色々呟き始めたトゥルーデを後目に、お菓子を頬張り、コーヒーを楽しむエーリカ。
「コーヒーに色々効能があるのは事実よ。まあ、今は純粋に楽しみましょう」
 ミーナもコーヒーカップから漂う香りを満喫し、一口含む。
「やっぱり本物のコーヒーは美味しいね」
 エーリカも満足げ。頷くミーナとトゥルーデ。
「しかし、少佐も……あ、これは坂本少佐の事だが。書類仕事は大変だっただろうに。もっと私達を頼ってくれて良かったものを」
 トゥルーデはコーヒーを楽しみながら、かつての上官であり頼れる戦友だったひとを思い出し、口にする。
「美緒は……今は今で大変でしょうけど、現役のウィッチだった頃は、ずっと戦い続ける事を選んだひとだから」
 ミーナが言葉を選びつつ、かつての同僚を愛おしむ。
「でも、これからは私達が居るからね」
 エーリカがウインクして見せる。
「結局お前の事務仕事は私がやる事になるんだぞ? そうしてお前は横で居眠りしてるか、何かを食べている」
「よくわかってるじゃんトゥルーデ」
「何年一緒に居ると思ってるんだ」
 相変わらずのやり取りに微笑むも、ミーナの顔色は何処か冴えない。
「気になるのか? ウィッチとしてのあがりの事が」
 心配して尋ねたトゥルーデに、ミーナが答える。
「そうね……。やっとベルリンを奪還したとは言え、これからもまだまだやる事は多いし。いつ魔法力が失われるかと思うと」
 かつてミーナの懐で泣いた美緒を思い出し、自分もそうなるのかと一瞬戸惑う。そんなミーナの肩をぽんと叩くトゥルーデ。
「私とて同じだ。ミーナと同じ歳だし、誕生日も近い。今はやれるだけがむしゃらにやっているつもりだが、焦りは当然ある。……この前も話したが」
 ベルリン奪還前に、廊下でミーナと話した事を思い出す。
「なる様にしかならないのかしら」
 ぽつりと答えるミーナ。
 そんな二人を励ますかの様に、間に割り込んでぐいっと肩を組むエーリカ。
「二人共深刻に考え過ぎ」
「エーリカお前--」
「もしミーナが、トゥルーデがそうなったとしても、私がその分頑張るよ。それで良くない?」
 二人して、えっ、という表情で金髪の天使を見る。
「私がしっかりしたら、安心してくれる?」
 珍しく、急に真顔になるエーリカ。
 ミーナとトゥルーデは顔を見合わせた。そうしてもう一度エーリカを見た。
「まさかエーリカからそんな決意を聞けるなんてね」
 ミーナは少し嬉しそう。
「それはありがたいが、もう少し今のうちから実践してもらいたいものだな」
 トゥルーデはそう言いながらも、照れ隠しか、エーリカの頭をくしゃっと撫でて、ふいと横を向いた。目の潤みを気取られない為に。
 そんな二人を見て、エーリカは笑顔を作って言った。
「それより二人共、せっかくの本物のコーヒー楽しんでるのに、冷めちゃうよ?」
「そ、そうね。せっかくだもの」
「そうだった。ミーナのとっておきが勿体ないな」
 二人はコーヒーカップを手にした。
 エーリカはふふっと笑うと、お皿に盛られたお菓子に手を伸ばした。
 コーヒーから立ち上る湯気と香りは、二人の憂鬱な気分を少しは晴らしたかもしれない。そしてエーリカの一言もあり、三人は午後のひと時を楽しむ。ゆっくり、味わい、惜しむ様に。

end

134名無しさん:2021/01/13(水) 20:57:24 ID:h15G6LCo
以上です。
RtBの余韻もそこそこに「ワールドウィッチーズ発進しますっ!」が開始され
今年もウィッチーズの年になりそうで楽しみです。

ではまた〜。

135mxTTnzhm ◆.7r9yleqd.:2021/09/02(木) 20:49:39 ID:wkXIOlqo
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編になります。

今回はスマホアプリ「アリス・ギア・アイギス」とのコラボの後日談的なものを書いてみました。

ではどうぞ。

136ceramic heart2 01/02:2021/09/02(木) 20:50:10 ID:wkXIOlqo
 1944年8月20日15時00分。
 洋上飛行訓練を終えた芳佳とリーネの無線交信を済ませたトゥルーデはマイクのスイッチを切った。
「ふむ、二人共無事に終えた様だ。後は帰って来るまで、か」
 ふと、司令所の窓から空を見た。いつもと変わらない穏やかな青色に、雲のコントラストが映える。
 トゥルーデは、二人が訓練に向かったであろう方向を見た。腕組みし、左手を口に当てるその仕草は、何かを考えている様で。
「ねートゥルーデ聞いてよー」
 どたばたと慌ただしく入って来たのは相棒のエーリカ。
「どうしたハルトマン……ってお前、何だその姿は。下着姿じゃないか。せめて制服位着ろ」
「それどころじゃないんだってば」
「確かにいつも寝坊したり昼寝ばかりしてるお前らしくないな。で、今何故下着姿で司令所に飛び込んで来たのか言い訳を聞こうか」
「それが大変なんだってトゥルーデ。私達、とっても大変な事に巻き込まれてたんだよ?」
 まくしたてるエーリカ。
「言ってる事が全く分からないな。今日は全てがいつも通り。宮藤達もいつもの訓練だろうが」
「それが、宮藤とリーネも、挙げ句私とトゥルーデも、それに少佐とペリーヌも巻き込まれて」
「待て待て。そもそも巻き込まれたって何にだ。私はここで訓練の指揮を執っている。少佐とペリーヌはミーナと一緒に司令部に行っている最中だろうが」
「あれ? いや、でも違うんだってば」
「違うって何が」
 言われて頭を抱えるエーリカ。
「違うんだよトゥルーデ。思い出せないんだけど、こう、なんか……トゥルーデも思い出せない?」
「そう言われてもな」
 エーリカは頭をかきむしりながら、空を見た。
「あの空の向こう」
 指差すエーリカに、ごく当たり前に答えるトゥルーデ。
「扶桑の空母赤城が居る方角だ。宮藤とリーネが洋上飛行訓練を行っている。現在帰投中だが」
「違う違う。そうじゃなくて」
「じゃあ、何がどうなのか論理立てて説明して欲しいのだが」
 エーリカは両手の人差し指を頭に当て、うーんうーんと唸りながら必死に思い出そうと言葉をひねり出す。
「みんな巻き込まれて、なんか別の世界に行って……」
 そんなエーリカを静かに見守るトゥルーデ。
「そこでなんかすっごい面白い遊びをしてね」
「な、何?」
「あ、でもただの遊びじゃなくて、訓練にも活かせそうな」
「一体どんな遊びだ」
「トゥルーデだって、他の皆だって、服貰ったり、色々してたのに」
「曖昧過ぎだぞハルトマン。まだ寝惚けてるのか」
「自動でシールド張る、奇妙な形をしたストライカーユニットの様な武装も付けてね。それを身に付ける為の服もすっごい独特でね……」
 そこで言葉を失うエーリカ。どうしよう、と言う顔でトゥルーデを見る。
「大事な事だったのに、全部思い出せないんだよ? こんな悲しい事ってある?」
「ハルトマン。寝言は今度にしろ」
「トゥルーデも思いだしてよー」
 あまりに悲しそうな顔をするエーリカを前に、頭ごなしに怒鳴りつけるのも何だか躊躇われ、気の利いた言葉が出ないトゥルーデ。
「そうは言うがな」
 ふと、記憶の断片が濃い靄に掛かった様な形で頭の片隅から出て来た。それが口からぽろっと出た。
「お下がりの、服……」
「え?」
「あ、いや。何でもない。気のせいだ」
 頭を振るトゥルーデ。自分までエーリカのペースに飲み込まれてどうすると言う上官としての責務を思い出す。

137ceramic heart2 02/02:2021/09/02(木) 20:50:33 ID:wkXIOlqo
 しかし、とトゥルーデは先程から何か心の奥底に、引っ掛かるものを感じていた。
 それが何であるかは全く分からない。うっかりすれば完全に忘却の彼方へと追いやられてしまうであろうその「何か」が、どうにも気になる。
「トゥルーデもやっぱり忘れちゃった思い出と言うか、有るんじゃないの?」
「それは……」
 ただ、最終的に「大きな事」をやり遂げてここに居る、と言う様な気持ちはあった。
 具体的に何をした、何を撃破した、何かを達成した、と言う事ではないしそもそも覚えていない。
 だが、この妙な胸の引っ掛かりは何だ?
 もう一度、司令所の窓から空を見た。
 エーリカもトゥルーデの横に並んだ。
「まあ、私も思い出せないんだもん。皆思い出せないよね」
「何だそれは」
「でも、空を見ているとね……」
 司令所の部屋からバルコニーに出て、二人揃って空を見上げる。青く澄んだ空に、海風が心地良い。
 何とも言えない気分になる二人。
 しかし、ドーバーの空はいつもと変わらない様子で、エーリカの問いにも、トゥルーデの小さく静かな葛藤にも、答を示してはくれない。
 やがて、諦めとも納得とも取れる表情で、エーリカが言った。
「何か、楽しかった」
「結局夢オチみたいな事を言うんじゃない」
 呆れるトゥルーデ。
「あ、見てトゥルーデ。宮藤とリーネ達が見える」
 普通の人間なら全く見えない距離でも、ちらっと見ただけで彼女達の姿を認識するカールスラントのウルトラエース。
「二人も無事で何よりだ。そうだろう、ハルトマン?」
 自分に言い聞かせる様にトゥルーデは言うと、ぽんとエーリカの肩を叩き、着陸に備えた航空管制に戻った。

end

138名無しさん:2021/09/02(木) 20:51:14 ID:wkXIOlqo
以上です。
「アリス・ギア・アイギス」のストライクウィッチーズコラボ、
各キャラの掘り下げや心情描写等がなかなか面白いです。
皆様も機会が有ればぜひに。

ではまた〜。

139mxTTnzhm ◆.7r9yleqd.:2021/09/16(木) 02:40:47 ID:ndPFzx8w
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編になります。

ではどうぞ。

140go go maniac 01/02:2021/09/16(木) 02:41:14 ID:ndPFzx8w
「詳しいって、何が?」
 休憩時間、控えめな色のお菓子に手を伸ばしたトゥルーデは質問の内容が今ひとつ飲み込めず首を傾げた。
「例えばそうだな、あたしはメカに詳しいだろ? ストライカーユニットの整備や改造とかさ」
 質問した当のシャーリーは自分を例に出して同意を求めた。
「まあ、確かにこの前は世話になった」
 そう言うとクッキーをもそもそと食べるトゥルーデ。
「あのカリカリにチューンする作業は本当燃えたなあ。もうああ言う機会無いの?」
 先日行った、トゥルーデのストライカーのチューニング作業を思い出すシャーリー。
「何度も有ってたまるか」
 流石に御免だと言う表情を作る。
 そんな二人の会話を端で聞いていたエーリカは、コーヒーをぐびっと飲むと、事も無げに言った。
「つまりは何かの専門家かどうかって話でしょ? なら私はトゥルーデの専門家かな」
「はあ!? いきなり何を言い出すかと思えば」
 思わず声を荒げるトゥルーデ。そんな堅物少佐をニヤニヤと眺める自由なリベリアン。
「まあ確かにお前達はそうだよなあ」
「シャーリー、お前まで何て事を言うかと思えば。それに、ハルトマンと一緒にするな」
「じゃあお前は誰の事よく知ってるんだ?」
「待て待て。最初と質問の中身が変わってるぞ」
「あれ? ばれた?」
 相変わらずのシャーリーにうんざりしたトゥルーデは、残りの小さなクッキーをひとつ口にするとコーヒーで流し込み席を立った。
「あれ? 怒っちゃったよ?」
 ルッキーニが指差すも、シャーリーは大丈夫とばかりに頷いた。
「答は既に出ているから大丈夫だ、問題ない。だろうハルトマン?」
 独り残されたカールスラントのウルトラエースは、当然とばかりに頷いて別のカラフルなお菓子を口にした。
「まあねー」

141go go maniac 02/02:2021/09/16(木) 02:41:36 ID:ndPFzx8w
 ……折角の休憩が台無しだ。いや、いつもの事か。トゥルーデはそんな事を考え、少し早くなってしまった休憩の終わりを惜しむ事も無く、トレーニングの続きに取り組もうと準備を始める。
 そこにやって来たのはエーリカ。
「トゥルーデ、忘れ物だよ」
 差し出されたのは紙袋に入った何か。開けてみると、先程の休憩で出たサンドイッチが数切れ。
「いや、そんなに腹は減ってない」
「何年一緒に居ると思ってるの? トゥルーデはおやつにサンドイッチが出ると最初か最後に必ず一切れは食べるでしょ。さっき食べてなかったし」
 確かにその通りなのだが、今ここで食べるのも気が引けるし、さりとて食べないと言う選択肢も折角持って来てくれた相棒に悪い気がして……。エーリカの顔を見、サンドイッチを見、ふうと息を付いた。
「じゃあ、頂くか」
「だよね。私も半分貰うからさ」
 笑顔で横に座るエーリカ。トゥルーデも腰を下ろして、サンドイッチを頬張る。食べながら、エーリカが言った。
「さっきの話だけどさ」
「うん?」
「前にトゥルーデさ、『私と一緒に居る時が一番戦果を挙げられる』みたいな話、した事あったよね?」
「それは--、大分前の話だな」
「それって、やっぱり私の事詳しいって事にならない?」
「何が言いたい?」
「それはほら、やっぱり私達だから?」
 珍しく、エーリカが指輪を付けた手をグーパーしてトゥルーデに見せた。控えめに煌めく指輪の輝きがトゥルーデの瞳の奥で瞬く。
「それはまあ。否定はしないが」
「しないんだ」
 くすっと笑うエーリカ。
「でも、自分から『○○の専門家です』などと言い出したら、ろくでもない事が起きるフラグにしか思えないんだがな」
 やんわりと己なりの答を探して言葉にするトゥルーデ。
「人と場合によってはそうかもね」
 エーリカはそう言うと、トゥルーデの手を取った。その手にも、エーリカと同じ指輪があった。
「『専門家』かどうかはともかく、私はトゥルーデの事もっと良く知りたいと思うよ? トゥルーデは?」
「言わせる気か?」
「言葉ではっきり示してくれないとね」
「やれやれ」
 エーリカはさっきからトゥルーデの手を握ったまま。そうして更に指を絡めてきた。だがトゥルーデは特に嫌がる素振りもなく自然に受け止める。
 やがてトゥルーデは顔を少し紅くして、ぼそっと呟いた。
 あまりよく聞こえなかったが、エーリカにはそれで十分だった。

end

142名無しさん:2021/09/16(木) 02:42:27 ID:ndPFzx8w
以上です。
エーゲル、まだまだ書いていきたいと思います。
ワールドウィッチーズはルミナスの延期や
声優さんの引退等色々ありましたが、
来年を楽しみにしています。

ではまた〜。

143mxTTnzhm ◆.7r9yleqd.:2021/12/30(木) 19:20:52 ID:ZO0wDh46
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編になります。

ではどうぞ。

144let's be a family:2021/12/30(木) 19:21:40 ID:ZO0wDh46
「バルクホルンさん、お手紙ですよ」
 芳佳から渡されたその封筒は大分しおれていたが表面にしっかり付いていた軍の「検閲済」のスタンプを見て仕事はしているのだなと変な所で感心するトゥルーデ。
 ちょうど休憩時間なのでお茶とお菓子を楽しむ以外にする事も無いので、トゥルーデは手紙を読む事とした。
「なになに? 誰から?」
 興味深そうにエーリカが横から覗き込む。
「こらこら、読めないだろうに」
 金髪の天使の頭をぐいと押しやる。
「おーいバルクホルン、休憩終わったら次の任務だけど復旧工事の支援と上空の哨戒どっちがいい?」
 渡されたメモを見てシャーリーが声を掛けてきた。先日ベルリン奪還を完了したとは言え、街の復旧も、またいつ湧き出すか分からないネウロイへの備えもどちらも大切な事だった。が、トゥルーデはつい封筒に気を取られシャーリーに丸投げした。
「どっちでも良い」
「なら復旧工事の支援頼むわ。お前肉体労働向きだもんな」
「何だと」
 横目で睨む。それを見たリベリアンは笑って手を振るとルッキーニの元へ行った。
 さて誰からだろうかと封筒を改めて見ると、何と親戚からだった。長らく音信不通で生きているかも定かでは無かったので、その突然な知らせに嬉しさと戸惑いが混ざる。
「どうしたのトゥルーデ。すっごく面白い顔してる」
 エーリカが顔をぐいぐい近付けてくる。
「人の顔をじろじろ見るんじゃ無い」
「違うよ、じーっと見てるんだよ」
「どっちにしろそんなに見なくて良いから」
 トゥルーデは早速本文を読んだ。親戚からは先日のベルリン奪還のニュースでトゥルーデがカールスラントに居るのを知った事、自分達は何とか避難出来て無事である事等が簡潔に書かれていたが、最後に年上の親戚が先日結婚した事が短く書かれていた。
「なるほど。これは色々とめでたい事ばかりだな。今がもっと平和だったら祝杯を上げたいところだ」
「へ〜。トゥルーデの従姉妹、結婚したんだ」
 いつの間にかトゥルーデの懐に潜り込んでいたエーリカはちゃっかり手紙を読み終わっていた。
「ハルトマン、盗み読みは良くないぞ」
「良いじゃん、おめでたい事は皆で祝わないと」
「いや、これはあくまで個人的な事だし皆でと言う訳には」
「婚約は私達の方が先だと思うんだけどな。何処で差が付いたのかな」
 ちょっと悔しそうなエーリカ。
「そう言う問題じゃない」
 たしなめるトゥルーデ。
「じゃあさ」
 エーリカはトゥルーデの瞳を真正面から見て言った。
「私達も、すぐ、しようよ」
「え、な、な、何ぃ?」
 動揺を隠せない堅物軍人。
 エーリカはトゥルーデの指に輝く指輪を指して、自分のも見せた。そうして改めて問い掛ける。
「これ見ても分からない?」
「あ、いや、それは分かる、分かるんだが……、でも今すぐは無理だろう」
「そう。今すぐじゃないけどそれは一秒先かも知れないし一分後かも知れないし一時間後かも知れないよ?」
「事故みたいに言うな」
「ま、今のままでも良いけどさ」
 そう言うと黙り込んでふいと背を向けた愛しの人を見、何て言葉をかけて良いか分からず……そっと肩に腕を回す。
「全く、これだから」
 ぼそぼそと文句を言いつつ、まんざらでも無いエーリカ。
 そんないつも通りの二人を見、501の隊員達は日常風景のひとつとばかりに皆めいめいに休憩を楽しんでいた。

 その日の夜遅く、トゥルーデは机に向かって手紙の返信を書いた。お互い無事で何よりと言う事、いつか再会出来たらとの話題、そして最後に結婚おめでとう、末永くお幸せにと伝えて欲しい、と結んだ。
 さて、カールスラントの一部には平和が戻り、親戚達も慶事があった。一方で自分達はどうなるんだろうか。ふう、と大きく息を付くと、横のベッドで寝息を立てる相棒をちらっと見た後、自分の指にある指輪を改めてまじまじと見た。
 一片の曇りも無いその輝きはいつ見てもいいものだが、今日ばかりは、トゥルーデのもやもやした問いには何も答えてくれなかった。

end

145名無しさん:2021/12/30(木) 19:22:11 ID:ZO0wDh46
以上です。
ワールドウィッチーズシリーズはルミナスがいよいよ近くなって来ましたね。
楽しみにしています。


ではまた〜。

146mxTTnzhm ◆.7r9yleqd.:2022/01/01(土) 00:19:39 ID:D.wRg/ic
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編になります。

ではどうぞ。

147last night:2022/01/01(土) 00:20:10 ID:D.wRg/ic
「除夜の鐘? 何だそれは」
 扶桑の伝統行事だと言う「年越し蕎麦」を夜食代わりに食べた後、トゥルーデは芳佳が口にした言葉をそのまま返した。
 大晦日、深夜の食堂では501の隊員達が同じ様に年越し蕎麦を振る舞われ、めいめいに味わっていた。
「鐘を突く事で聴いた人の煩悩が消えて良くなるんですよ」
 芳佳の曖昧な回答を聞いて、ふむ、と頷くトゥルーデ。
「なら501は煩悩まみれの連中だらけだから全員で聴かないとな」
「でも残念な事に扶桑から鐘は持って来てないんですよね……重いし大きいし、他にも色々理由はありますけど」
 すまなそうに答える芳佳。
「そうか、それは残念」
「煩悩まみれって誰のこと?」
 横で話を聞いていたエーリカが話に割って入ってきた。
「お・ま・え・だ、ハルトマン! 毎日毎晩、欲望まみれじゃないか」
「酷いよトゥルーデ。私の事何だと思ってるの」
 エーリカのぼやきをよそに、トゥルーデは頭を掻きむしって呻いた。
「お前がこんなだらしない事になってしまったのも、全てあいつのせいだ……今から502に殴り込みに行って奴が酷たらしく死ぬまで鉄拳制裁を加えたい」
「伯爵いじめないでよ。てか殺そうとしてるじゃんか。先生も悲しむよ」
 呆れ半分驚き半分でトゥルーデに声を掛けるエーリカ。
「何故そこで先生の名前が出て来る」
 不思議そうに答える堅物のカールスラント軍人。
「これだからトゥルーデは」
「意味が分からん」
「それにさあ」
 エーリカはトゥルーデの腕を掴むとそのまま引っ張り、まるでダンスを踊るかの様に部屋の中でくるくると二人で回った。
「トゥルーデこそ煩悩まみれじゃん。私の事どう思ってるの」
「お前の事? そりゃあ、私の大切な相棒だ」
「それだけ?」
 不意にぴたりと動きを止め、二人の指に煌めく指輪を見せ合う。
「私達婚約してるんだよ。式はこの先いつになるか分からないけど。そんな私達が、同じ部屋に一緒に居て、一緒に食事して、一緒に--」
「わあもういい、それ以上余計な事を言うな!」
 トゥルーデは顔を赤くし、エーリカの口を塞いだ。そうしてすぐに周りを見た。
 二人の奇行を見ていた隊員達は、口々にまた始まっただのいつもの事だなどと軽口を叩きつつ、ごく自然に視線を逸らした。
「ぐぬぬ」
 納得いかないトゥルーデの体に腕を回すと、ひょいと抱っこされる形になるカールスラントの金髪天使。
「ねえ、今夜は私達非番だしさあ……」
 エーリカはトゥルーデの耳元で何かヒソヒソと囁いた。
「おい!」
 大声を出して否定するも、再度また何か二言三言囁かれると蒸気が出そうな程赤面し、そのままエーリカをお姫様抱っこしたまま、そそくさと食堂を後にした。
「確かに、ハルトマンの言う通りかもなぁ」
 様子を見ていたシャーリーは蕎麦をこぼして涙目のルッキーニをあやしながら、にやっと笑って呟いた。

end

148名無しさん:2022/01/01(土) 00:20:37 ID:D.wRg/ic
以上です。
2022年は皆様にとってより良い年になりますようお祈りいたします。
ルミナスもいよいよで、楽しみですね。

ではまた〜。

149mxTTnzhm ◆.7r9yleqd.:2022/08/15(月) 00:25:17 ID:galPV/CI
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編になります。

ではどうぞ。

150puppy love:2022/08/15(月) 00:25:46 ID:galPV/CI
 夏だと言うのに、この肌寒さは一体何だろう。
 朝一番に起き、ベランダに出たトゥルーデは訝しんだ。
 夏ならば朝でもそれなりに温度は高い筈。ところが思わず起きてしまう様な寒さ、これは……
「まさかネウロイの仕業か?」
 思考が口に出てしまう。
 ……聞いた事が有る。低温を発生させて湖や周辺を凍らせてしまうネウロイが居ると言う事を。そしてそれを502が以前に撃破したと言う事も。
 まさかベルリンにも同種の個体が? いや、そもそも何故このタイミングで?
 考え込んでいると、背後に人の気配を察し、ふと振り返った。
 エーリカだった。
「珍しいな、いつもは私が幾ら怒鳴っても起きないお前が」
「風邪引きそうな位に寒いじゃん。そりゃあ起きるよ」
 幼子の様に毛布を抱え、引きずっていた。
「その毛布、どうした」
「寒いから」
「小さな子供じゃないんだから」
「それとこれとは話が別。貴重な熱源もどっか行ったと思ったらここに居るし」
 昨日は一緒に寝ていたのだったが、熱源扱いされるとは。少々落胆するトゥルーデ。
「まあ良い。私はこれから--」
 トゥルーデの言葉を遮るエーリカ。
「ミーナの所行って聞くんでしょ。この低温の原因は一体何だって」
「よく分かってるな」
 エーリカは悪戯っぽく笑ってトゥルーデに言った。
「ミーナはこう言ってたよ。低気圧の影響で一時的に寒くなってるって」
「“言ってた”……と言う事は既にミーナに聞いたのか」
「まあね。ミーナ、徹夜で書類と格闘してたから」
「またか。無理しやがって。徹夜続きで心配だ、様子を見に行こう」
「ついでにコーヒーも貰いたいな。すっかり目が覚めちゃったし」
 じゃあ行くか、とトゥルーデ声を掛けるとエーリカはとことこと付いて来た。
「毛布は畳んだ方が良い」
「じゃあトゥルーデに任せた」
「おい」
 渡された毛布は仄かに温かかった。ばさっとはたいて埃を払ってから慣れた手付きで畳む。
「あ、見てトゥルーデ。日の出」
 エーリカが指差す方角から、陽の光が出て来る。一筋の光が、辺りをさっと照らす。不意に温められた地面には靄が掛かり、基地周辺が幻想的な雰囲気となる。
「珍しいね」
「ああ」
 二人してベランダから辺りを見回す。
「今日も何か良い事起きると良いね」
 エーリカはそう言うと、横に立ってトゥルーデの頬に軽く口づけをした。
 にしし、と笑って一歩下がると、先にミーナの所へ向かう。
「あ、待て、エーリカ」
 毛布を抱えたまま、トゥルーデはエーリカを追った。彼女とは幾度となく繰り返しこう言う事は経験している筈なのに今のこの感覚は何だろう? 唇の当たった頬に手をやる。
「あ、トゥルーデもしかして照れてる? 初恋?」
「何でだ」
 ツッコミを入れつつも、エーリカの茶々を完全に否定出来ない堅物軍人は微笑みつつ頭を振り、愛しの天使の後を追った。

end

151名無しさん:2022/08/15(月) 00:26:18 ID:galPV/CI
以上です。
ルミナスも中盤に差し掛かっていますね。
新鮮な作品で楽しんでいます。

ではまた〜。


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