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☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第114話☆

662闇と時と本の旅人 ◆UKXyqFnokA:2012/10/07(日) 23:27:37 ID:GcU9.hks
 過去に、闇の書の主となった人間たち。彼らもまた、闇の書の一部となって生き続けることはできなかった。他の人間たちから攻撃され、闇の書はそのたびに破壊された。
 圧倒的な人間の魔法の攻撃を受け、そして主たちは、人間からの攻撃を受けて死ぬことを望んだ。
 極限状態の意識の中で、冷静な思考を保てる人間などそう多くはない。

「私は、もう闇の書の騎士じゃあない、お前にずっとそばにいてほしいんだ──こんな私が、主に認められるわけがない──私は、騎士失格……だ──」

 自分を抱きしめ、背を丸め、俯く。心の奥底、胸の奥深くから湧き上がる黒いものを抑え込もうと、胸を締め付けるように自らを抱く。
 これは自分なのか。自分ではないのか。人格が分裂して、自分ではない何かが意識の中に巣食っているのか。
 だとしても、記憶を失っていた期間は思い当たらない。自分の意識はすべて管理できているはずだ。
 すなわち、これは自分の意志。普段抑圧していて表に出さない、自分の本当の望み。エゴ、まさしく字義通りの真の自我。

 涙が、零れ落ちる。
 自分が本当に望んでいることは何だ──切なく胸を切る感情を浴び、アインスはその言葉を意識の俎上に書き記す。

「どうして、クライド艦長、あなたが死ななければいけなかったんですか……私は、闇の書は、ただこの世に在るだけで人間に追われる……
あなたが死んだら、私がどうなると……私は、最後の最期で、あなたに裏切られてしまったことになるんですよ……
私は、あなたを守れなかった……どんなに後悔しても取り戻せないことは分かっている、だから……」

 悔しさと悲しさが綯い交ぜになった、苦い涙。拳を握り締め、振りかぶり、砂浜にたたきつける。
 指の甲に砂が噛む痛み。小さく散る砂粒が、すぐに浜辺に落ちて溶け込み、何も答えずに沈黙する。この大地をさえ叩き割りたいと思う、やり場のない歯がゆさ。
 人間は自分を身勝手だと貶すだろう、しかしそれは、自分が人間ではないからだ。

「だから──、もう何があっても、私は私を生き続けさせる、それがクライド艦長、あなたへの手向けだ……
だからクロノ……お前を私のものにしたい、主と、お前と、皆で──私たちだけの、だれにも邪魔されない私たちだけの世界をつくろう……」

 果てしない願いが、張り裂けそうな胸の切なさを涙に変えて溢れ出させる。
 砂浜に落ちたしずくが、粒を集めて沈んでいく。
 守護騎士たちの頭領、烈火の将には、お前は泣き虫だと言われたことがある。もう遥か何百年も前の、まだ闇の書自体が幼かった頃のことだが、その頃からもうすでに、システムの崩壊は進行していた。
 闇の書は、建造された当初から不安定なシステムだった。管制人格であるアインスの能力をもってしても制御できないシステムクラッシュを頻繁に起こし、プログラムの暴走事故を招いた。
 やがてアインス自身、すなわちシステムマネージャともいうべき管理プログラムがコアカーネルからリンクを断たれて完全に切り離されてしまい、闇の書の機能に干渉できなくなった。

 別たれた運命──無限の転生能力を持つ守護騎士たちと、無限の再生能力を持つ管制人格。
 そしてアインスは、自らの意志で、闇の書の完成のために動き始めた。
 壊れたプログラムを修復し、モジュールを整え、リンクを正しく整理する。そうして、完全な状態を闇の書が取り戻せば、それは強力な武器としての生命体になることができるだろう。

 クライドがその力になってくれると思っていた。しかし彼は最後の最期で、管理局のために闇の書を破壊する選択肢を選んだ。
 そして現代、彼の息子クロノは、どのような選択肢をとるか。
 アインスに従い、共に戦ってくれるのか。それはクロノにとっては、恩師、家族、友人たち、同僚たちすべてに対する裏切りとなるかもしれない。
 果たして自分は、彼ら、クロノの社会生活の基盤すべてよりも重いだろうか。クロノがこれまでのそしてこれからの自分の人生と、アインスを天秤にかけて、アインスを選ぶに値すると考えるだろうか。

 確かに管理局は混乱するだろう。だが、クロノさえ手に入れられるなら、どこか遠い無人世界へ引きこもって、自分たちだけの次元世界を作っていくことだってできる。
 もちろんそうなれば、今まで共に暮らしてきた家族、共に過ごしてきた友人、共に働いてきた同僚たちとはお別れだ。
 新天地には、自分と、闇の書の主と、守護騎士たちしかいない。

 孤独ではない。なぜならば、そのような未来が現実になるであろう時には、すでにクロノは人間の心を失っているだろうから。




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