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☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説第100話

1名無しさん@魔法少女:2009/08/05(水) 20:14:08 ID:7A.0xa9.
魔法少女、続いてます。

 ここは、 魔法少女リリカルなのはシリーズ のエロパロスレ避難所の2スレ目です。


『ローカル ルール』
1.リリカルあぷろだ等、他所でのネタを持ち込まないようにしましょう。
2.エロは無くても大丈夫です。
3.特殊な嗜好の作品(18禁を含む)は投稿前に必ず確認又は注意書きをお願いします。
  あと可能な限り、カップリングについても投稿前に注意書きをお願いします。
【補記】
1.また、以下の事柄を含む作品の場合も、注意書きまたは事前の相談をした方が無難です。
  ・オリキャラ
  ・原作の設定の改変
2.以下の事柄を含む作品の場合は、特に注意書きを絶対忘れないようにお願いします。
  ・凌辱あるいは鬱エンド(過去に殺人予告があったそうです)

『マナー』
【書き手】
1.割込み等を予防するためにも投稿前のリロードをオススメします。
  投稿前に注意書きも兼ねて、これから投下する旨を予告すると安全です。
2.スレッドに書き込みを行いながらSSを執筆するのはやめましょう。
  SSはワードやメモ帳などできちんと書きあげてから投下してください。
3.名前欄にタイトルまたはハンドルネームを入れましょう。
4.投下終了時に「続く」「ここまでです」などの一言を入れたり、あとがきを入れるか、
   「1/10」「2/10」……「10/10」といった風に全体の投下レス数がわかるような配慮をお願いします。

【読み手 & 全員】
1.書き手側には創作する自由・書きこむ自由があるのと同様に、
  読み手側には読む自由・読まない自由があります。
  読みたくないと感じた場合は、迷わず「読まない自由」を選ぶ事が出来ます。
  書き手側・読み手側は双方の意思を尊重するよう心がけて下さい。
2.粗暴あるいは慇懃無礼な文体のレス、感情的・挑発的なレスは慎みましょう。
3.カプ・シチュ等の希望を出すのは構いませんが、度をわきまえましょう。
  頻度や書き方によっては「乞食」として嫌われます。
4.書き手が作品投下途中に、読み手が割り込んでコメントする事が多発しています。
  読み手もコメントする前に必ずリロードして確認しましょう。

『注意情報・臨時』(暫定)
 書き込みが反映されないトラブルが発生しています。
 特に、1行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えることがあるそうです。
 投下時はなるべく1レスごとにリロードし、ちゃんと書き込めているかどうか確認をしましょう。

前スレ
☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説第99話
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12448/1243670352/

317偽りの恋人:2009/08/25(火) 23:19:39 ID:1xHvx2UM
 だが拒絶はなく、受け入れる。


「ああ、構わんぞ」


 言葉と共にそっと目を細め、瞑る。
 凛々しい美貌に輝いていた濃い寒色の瞳が閉じられ、目を瞑った彼女の表情は美の色彩を変えた。
 鮮烈な美しさがどこか儚さを帯び、見る者を惹き付けて止まない。
 そう瞳を閉じたまま、シグナムは問うた。


「で? これでなんだと?」

「ありがとうございます、姐さん。すぐ済みますから」

「済む? 済むとはいった」


 一体何だ? と、問おうとした。
 だが出来なかった。
 肩にそっと手が、狙撃手の固く大きな手が重ねられたかと思えば、口を塞がれた。
 唇に何かが触れる、それはヴァイスの唇だった。
 優しく甘いキスだった。

 昔から言われている、愛を告げる方法。
 何の複雑さもない、単純で完璧な方法。

 ――キスをして愛してると囁く――

 たったそれだけの事だった。





 ティアナ・ランスターは、手首に巻いたお気に入りの腕時計を見た。
 時刻は15時45分、約束の時間の15分前だった。
 場所はクラナガンでも有名な待ち合わせスポット、駅の銅像前。
 今日は休日で、ティアナは友人との待ち合わせの最中だ。
 そして、いつも通り相手は約束時間の15分前に現れる。


「お待たせ、ティア」


 涼やかな心地良い声がそう投げ掛けられた。
 ティアナが視線を向ければ、そこには金髪の少女、ソフィア・ヴィクトリア・ルイーズの姿。
 先日演じた模擬戦以来、二人はすっかり仲良くなった。
 今ではもう親友と呼んで差し支えない間柄。
 この日は、あの模擬戦での敗退の悔しさをショッピングで発散しようという意味合いでのお出かけだ。
 いつもの制服姿ではない、白いワンピースに紺のパーカーという落ち着いた私服姿だった。
 しかし、服装の事よりも大きな変化にティアナは気付く。


「ソフィあんた……髪、切ったの?」

「あ、えっと……うん」


 少し恥ずかしそうに、頬を淡く染めて頷く。
 以前は腰元まで伸ばされていた輝く金髪は、今はもう首のあたりまで切りそろえられていた。
 言わずもがな、そこにあるのは失恋の意である。


「私ふられてしまいましたから、昔の思いごとばっさり。と」

「もったいないわねぇ……凄く綺麗だったのに」

「また伸ばせば良いだけの事ですよ」


 残念がるティアナに答えた言葉にもはや悲しみはなく、表情は眩い笑顔だった。

318偽りの恋人:2009/08/25(火) 23:20:32 ID:1xHvx2UM
 恋破れた過去をもはや悔やまない、失恋を乗り越えた少女の顔は明るい。
 ソフィアのその表情に、ティアナは自分の髪にそっと触れる。


「ふーん。じゃあ、私も切れば良かったかな」

「え?」

「いや、私もさ……ふられちゃったし」


 誰に? と、問うまでもない。
 ティアナが恋した男はあの狙撃手で、ならば少女は彼に愛を告げたのだろう。
 だが、それは実らなかった。


「そう、ですか」

「そうよ。なんでも“惚れた女がいる”だって」


 少しだけ寂しそうに、ティアナはそう言う。
 しかし彼女もまた、恋を失った悲しみを吹っ切ったのだろうか、表情は苦笑だ。
 こんな美少女をふるなんて、と冗談を言うくらいには元気だった。
 そして、ティアナは悪戯っぽい口調でソフィアに問う。


「ねえ、ヴァイス陸曹の好きな相手って分かる?」

「ええ、たぶん」

「じゃあ、今二人がどうなってるかは?」

「うーん、それはどうでしょう」


 二人ともその答えは知っていた。
 戯れに、好きだった相手の事を語らいたいから出した質問であり答えだった。


「じゃあ、それはお茶でもしながら話しません?」


 ソフィアの唇から零れたのは、質問への答えではなく提案。
 その言葉に、ティアナもまた似たような言葉を紡いだ。


「それよりまずは服でも見に行かない? 話しながら」

「そうですね。じゃあそうしましょうか」


 ソフィアが了承を伝えると、決まりね、とティアナは呟く。
 そうして二人は歩き出した、楽しい休日の始まりだ。

 その日の二人の話題は、本当の恋人同士になったある男女の話だった。



終幕。

319ザ・シガー:2009/08/25(火) 23:24:08 ID:1xHvx2UM
はい、投下終了。

本当は前回投下と合わせて一度に投下しようと思ったのですが、予定より長くなって二分割しました。
ともあれ無事完結、今まで応援ありがとうございましたです。
この話はまだガチエロの番外編やら考えてるのですが、とりあえず今はここで終わらせておきます。

というか、そろそろ鉄拳をちゃんと進めますww

320名無しさん@魔法少女:2009/08/25(火) 23:56:18 ID:KUniBgbc
完結おめでとうございます!
狙撃手なのに真っ向勝負のヴァイスが格好良すぎました!
ソフィアとティアナがくっつくのではないかとこっそり予測してましたが、良い友人関係のようで安心しています。
ではでは、鉄拳の続きも楽しみしています、乙でした!

321名無しさん@魔法少女:2009/08/26(水) 19:42:46 ID:yCJp7ez6
この間のドラマCDで「伝説の司書長byなのは(クロノ経由)」という発言を見て
『穏やかな心を持ちながら、激しい怒りによって目覚めた伝説の司書長、スーパースクライア』
というネタがここにあったことを思い出した

322名無しさん@魔法少女:2009/08/27(木) 00:35:41 ID:lhaSpqdw
完結乙です
次回作も待ってます

323名無しさん@魔法少女:2009/08/27(木) 19:27:33 ID:3iOfN/cs
>>322
次回作より現在進行形の奴を完結させてもらうほうがいいんじゃね?

324名無しさん@魔法少女:2009/08/27(木) 22:43:28 ID:Jtf4ZDYQ
>>322
先に鉄拳待ちだろJK
っても筆がのらん様だからゆっくり待つのが吉だが

325名無しさん@魔法少女:2009/08/28(金) 01:02:07 ID:6ThGHwvo
>>295
ライトニング好きな私にとってはキャロとルー、どちらとエリオがくっつくのかも楽しみです。
GJ!

326名無しさん@魔法少女:2009/08/29(土) 11:18:41 ID:ydIT/vu6
なのはが火病で半万年捏造のレイプ民族チョンにレイプされるssまだー。

327名無しさん@魔法少女:2009/08/29(土) 13:59:52 ID:PJsJsBkQ
なのはの四肢切断して達磨にして
なのはの目の前でヴィヴィオをレイプしながらその両手両足を貪り喰いたい

328 ◆6BmcNJgox2:2009/08/29(土) 14:14:38 ID:tz.Wew7I
久々にユノキャロ書きます。

・ルーテシア台頭によるエリキャロの不成立をきっかけにして始まるユノキャロ
・一見寝取りっぽいけど、冷静に事を判断して見ると寝取りにならない複雑な状況注意
・キャロ崩壊もといキャラ崩壊注意
・今回はあえてユーノを淫獣っぽく描こうかな〜と
・キャロはある程度大人のレディーになってると思ってください
・以前やってたユノキャロシリーズとは何の関連も無し(当然エリオがルーを選ぶ理由も異なる)
・エリキャロ派はここで引き返した方が良いかも
・微エロに近い非エロ

329嫌よ嫌よも好きの内ってか 1 ◆6BmcNJgox2:2009/08/29(土) 14:15:41 ID:tz.Wew7I
 キャロ・ル・ルシエ。彼女は幼き頃に生まれ育った村を追い出されると言う悲運に苛まれるも、
フェイト・T・ハラオウンとの出会いによって救われ、また同じく両親に捨てられると言う悲運に苛まれていた
エリオと苦楽を共にした事もあって、一切グレもせずにとても良い娘に育ったそうな。

 それからさらに数年後、幼子だったキャロは美しき大人のレディーに成長していた。
大人になれば恋だってする。キャロは恋するお年頃。その恋のお相手とは……

「今日こそはエリオ君に告白するんだから。そして兄妹の様な関係から恋人にステップアップしなきゃ!」

 キャロが幼き頃から共に苦楽を共にして来たエリオ・モンディアル。彼がそうだった。
確かに今まではフェイトの下で兄妹の様な関係として暮らして来たエリオとキャロだったが、
時の流れがキャロにエリオに対する本当の恋心を抱かせるまでに至っていたのである。

「エリオ君だってきっと私と同じ気持ちのはず。だって今までだって一緒に暮らして来たんだもの。
私もエリオ君だって何時までも子供じゃないんだから。そろそろ…良い頃だよね?」

 これからエリオに対して告白をする為、キャロは不安と興奮の入り混じった感情を何とか
落ち着かせ、安心させようとしつつ歩いていたのだが……そんな彼女にも悩みの種はあった。

「やあこんにちわキャロ。今日も可愛いね。」
「ユッ…ユーノさん!?」

 キャロにいきなり馴れ馴れしく話しかけて来たメガネの優男。彼こそキャロの悩みの種であった。

「キャロ、今日は丁度良い事に休日だから一緒に何か食べにいかないかい?」
「ユーノさん! いい加減にして下さい! 私はこれから大切な用があるんです!」

 優しい表情と口調でキャロを誘う優男に対し、キャロは迷惑と言わんばかりの表情で怒鳴っていた。
彼の名はユーノ・スクライア。彼はキャロをいたく気に行っているようで、何時の頃かこうして
ちょくちょくキャロの前に現れては何かと誘って来る様になっていたのだった。

 確かに表向きには時空管理局・本局にある無限書庫の司書長で、キャロの尊敬するフェイトさえ
一目置いていると言うキャロとは比べ物にならない程の大人物。むしろそんな大物から気に入られる事は
凄く栄誉な事なのだろうが、キャロの前では司書長と言う肩書が嘘の様にチャラチャラした優男然の態度で
キャロを誘って来る為、キャロにとってはエリオとの恋を邪魔する淫獣でしか無かった。
そのしつこさはちょくちょく夢に出てきてしまう程であり、またその夢の中では無理矢理に
抱かれると言う事も多々あったりし、それがキャロを嫌わせる要因となっていた。

「もう本当いい加減にしてください! これ以上私に近寄るとヴォルテールを召喚しますよ!」
「手厳しいな〜。可愛い顔が台無しだよ。」

 普段からキャロにとってユーノは邪魔者でしか無いのに、今と言う状況下においては
存在そのものが忌わしい存在。その為キャロは顔を真っ赤にして召喚体勢を取りユーノを
威嚇するが、ユーノはまるで堪えていない。それがキャロには馬鹿にされている様で腹立たしかった。

「こんな人の相手してる場合じゃありません! 私は行きますよ!」
「あ、キャロ!」

 何時までもユーノの相手はしていられないとばかりにキャロはその場を走り去った。無論行く先は
エリオのいる場所。本来の目的であるエリオに対する告白を成す為にキャロは走った。

 けれど………まさか……あんな事になってしまうなんて……………

330嫌よ嫌よも好きの内ってか 2 ◆6BmcNJgox2:2009/08/29(土) 14:17:28 ID:tz.Wew7I
「ん………。」
「んん…………。」

 エリオはキャロとは別の紫色の髪の美女と抱き合い愛し合っていた。彼女の名はルーテシア・アルピーノ。
過去に起こったとある事件をきっかけにエリオ・キャロと出会い、友達になった彼女は
今こうしてエリオと恋仲になり、口付けを交わし、肢体同士を重ねあう仲にもなっていたのだが………

「え!? エリオ………君………?」

 そこには愛し合う二人を前にして失意の表情で立ち尽くすキャロの姿があった。
無理も無い。意中の相手が別の女と愛し合っている光景を目の当たりにしてしまったのだ。
そのせいか、キャロの目から徐々にハイライトが消えて行く………

「エリオ…君…何を…してるの…?」
「キャロこそこんな所で何をしてるんだい?」

 キャロはエリオの取った行動が信じられなかった。何故ならばキャロは、自分がエリオを愛している様に
エリオも自分の事が好きに違いないと信じていたのだから。しかし現実は違った。エリオはキャロとは
また別の女を愛していたのだ。そして何よりも、その事をキャロに悟られてしまった事に罪悪感を
感じないエリオの態度がキャロには耐えられなかった。

「どうして!? どうしてエリオ君とルーちゃんが!? どうして!?」
「どうしてって……僕達は愛し合っているんだ。恋愛は自由だろう?」
「私達は何時までも子供じゃないんだよ。」

 目から涙を飛び散らせ叫ぶキャロだが、エリオとルーテシアはやはり足並みを揃えて悪びれもしない。
まるで二人が愛し合う事が当然の様な態度で、やはりそれがキャロには気に入らなかった。

「私は!? 私はどうなの!? ねぇ! 私はどうなっちゃうの!?」
「当然じゃないか。キャロだって大事だよ。だって僕達兄妹みたいなもんじゃないか。」
「私にとってもキャロは大切な友達…。」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 ここに来てキャロは真の現実を思い知った。エリオを愛していたキャロと違い、エリオはキャロを
恋愛対象として見てはいなかった。兄妹みたいなものと言う表現がまさにそれ。確かにエリオは
決してキャロを嫌っているわけでは無く、むしろ充分に好いているのだろう。しかしそれはあくまでも
『LIKE』としての好きであって、『LOVE』では無い。キャロにはそれが苦しくて苦しくて…………

「あぁぁぁぁひゃひゃひゃひゃぁぁぁ!! あぎゃむぎゃめぎゃぽてぇぇぇぇ!! あきゃきゃきゃぁ!!」
「わー! キャロが狂ったー!」
「どうしたの!? しっかりして!?」

 キャロはショックの余り意味不明の奇声を張り上げ、その場を走り去ってしまった。

331嫌よ嫌よも好きの内ってか 3 ◆6BmcNJgox2:2009/08/29(土) 14:18:31 ID:tz.Wew7I
 それからキャロは、一人自室で蹲って泣き崩れていた。

「う…う………私………寝取られちゃった………ルーちゃんに……エリオ君……寝取られちゃったよ……
いや……そもそもエリオ君は…私を恋愛対象として見て無かったんだ……ただの兄妹の様なものでしか無い…
と言う事は……………エリオ君にとっては…………寝取られたって自覚さえ無いって事じゃない!
惨め過ぎる………惨め過ぎるよ………私……ただの道化じゃない………ルーちゃんとエリオ君を
引き立てる……ただの道化………噛ませ犬…………私って何なの……私ってぇぇぇぇぇぇ!!」

 キャロの目からはハイライトが消え、そして溢れんばかりの涙が流れ出ていた。そう。彼女の言った通り。
確かにエリオとキャロが両思いの関係にあり、その状況下でルーテシアがエリオを取って行くと言うのなら
寝取りになったのであろう。しかし実際はエリオはキャロを恋愛対象として見てはいなかった。それならば
彼がルーテシアとどんなに愛し合おうとも、寝取りは成立しない。自分が恋人を寝取られた……と言う事に
すらならない。そもそも相手は恋人では無かったのだから……と言う状況がキャロをますます惨めにさせ、
その悲しさの余り…………

「アハハハハハハハハハハ………アァァァァヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ!!」

 キャロは笑った。奇声をあげ、狂った様に笑い始めてしまった。目からはハイライトが消え、
目から大量の涙を滝のように流し、飛び散らせながら狂った様に笑い続けていたのだが………

「やあこんにちわキャロ。そんなに笑って何か良い事でもあったのかい?」
「!!」

 そこへ突然現れたのは誰でも無いユーノ。キャロが辛い目にあった事も知らず、何時もの調子で
さわやかな笑顔でキャロを何かしらに誘いに来ており、今のキャロに対しては火に油どころか
大量の火薬を投げ込む様なものであり…………

「うぉわたぁぁぁぁ!!」
「んべ!!」

 次の瞬間キャロは一切有無を言わせる事無くユーノを殴り飛ばしていた。そんな事をするなんて
明らかにキャロらしくない。しかし、キャロの悲しみは彼女に彼女らしく無い事をさせる程だったのである。
しかし…それだけだった。キャロに殴られた事によって怖気付いて逃げ出すと思われたユーノは
構わず近寄って来たのである。

「キャロ? いきなり殴りかかって来るなんてどうしたのかい? 何かあったのかい?」
「うるさい! 何でもありませんよ! 貴方が邪魔なだけです! 帰ってください! 帰れよぉぉ!!」

 キャロの怒りはユーノに乱暴な言葉を吐かせるまでに至っていた。と言うのに、ユーノは帰らない。
それどころかキャロの身を心配しているかの様な真剣な目で見つめていたのである。

332嫌よ嫌よも好きの内ってか 4 ◆6BmcNJgox2:2009/08/29(土) 14:19:58 ID:tz.Wew7I
「いいや、その調子じゃ何か嫌な事があったはず。それで僕に八つ当たりをしているんだろう?
何なら話してごらん? 相談に乗ってあげるよ。」
「何でも無い! 何でも無いんです! エリオ君がルーちゃんとラブラブイチャイチャしていようと
何でも無い事なんですよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「そういう事か。」
「うっ!!」

 キャロは怒りの余り、つい本心を暴露してしまった。それにはキャロも思わず顔が真っ赤になってしまうが
ユーノは真剣な目で彼女を見つめていた。

「そっそうですよ! 私はエリオ君好きだったんですよ! でもエリオ君は私じゃなくルーちゃんが
好きで、私なんか眼中に無かったんですよ! それってどういう事だと思いますか!?
つまり寝取りにすらなってないって事なんですよ! だってそうでしょう!? エリオ君は最初から
私を好きですら無かったんですから! なのに一方的にエリオ君も私を好きに違いないって思い込んでた
私が情けなくて情けなくて…これはもう笑うしかないでしょうわははははははははは!!」

 本心を暴露された事によって開き直ったのか、キャロはユーノに怒鳴り付ける様にそう叫び、
あろう事か再び笑い始めてしまった。そして今度はキャロがユーノを見つめるのである。

「そうですよ。やっぱり私は一人身。昔村を追い出されてからずっと一人だったって事なんですよ!
フェイトさん? エリオ君? 誰ですかそれは!? 私は最初から今にいたるまでずっと一人ですよ!
さあユーノさん! 何をしているんですか!? ここにいるのは後ろ盾も何も無いただの一人の女ですよ!
好きなだけ押し倒せば良いじゃないですか! 抱けば良いじゃないですか! 犯せば良いじゃないですか!
さあユーノさん! どこからでもかかって来てくださいよ!!」

 もはやキャロはヤケクソだった。この場合ヤケクソとしか表現する事は出来ない。
キャロの目からはハイライトが消え、涙を飛び散らせながら憎んでいたはずの相手に
自身を抱く事を乞う。信じていた相手に裏切られた事実はキャロをこの様な行動を
取らせてしまう程だったのだ……が……男らしく鼻息荒くさせて飛びかかってくるかと
思われたユーノの表情は意外にも冷静だった。

「いや…遠慮しておくよ。」
「え!? 何でですか!? ユーノさんは私の事好きじゃないんですか!? 冗談じゃないですよ!
今まで散々ユーノさんの方から一方的に訪ねておいて…これは無いですよ!!」
「勿論好きだよ。断言する。僕は心の底からキャロ…君を愛している。でもね……それはキャロ、
君もまた心の底から僕の事を好きになってくれなければ意味が無いんだ。失恋した腹立ち紛れに
僕に迫ってくる様な半端な気持ちの君を抱いても…意味は無いんだ…。」
「え………。」

 キャロが呆然とする中、ユーノはそっと部屋を後にする。

333嫌よ嫌よも好きの内ってか 5 ◆6BmcNJgox2:2009/08/29(土) 14:21:45 ID:tz.Wew7I
「悪いけど今日はここで出直させてもらうよ。それじゃあまた…。」
「なっ…ちょっと待って下さいよユーノさん! ユーノさぁぁぁぁぁん!!」

 キャロが呼び止めようとするのも構わずユーノは帰ってしまい、部屋にはキャロ一人が残された。
その日以降だ。夢に出て来る程にまでしつこく訪ねて来たはずのユーノがキャロの前に姿を現さなくなったのは。
今までユーノにしつこく迫られていた頃は腹立たしかったのに…こうして迫られなくなると…何か寂しい。

「ふ…フフ…そういう事ですか……ユーノさんも所詮はその程度の男だったと言う事ですね…?
私の事愛してるとか言っておいて…この体たらく…。今頃私の事も忘れて他所の女の子の尻でも追い駆けて
いるんでしょうね? エリオ君と一緒……男なんてみんなそんな下らない生き物じゃないですかぁぁぁ!!」

 再びキャロの目からはハイライトが消え、彼女は何かを悟った。

「もう良いですよ私は。私に男の子なんていりません! 私は仕事に生きます! 仕事に生きて…
生涯処女を貫いてみせます!! もう男なんて………男なんてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 その日以来キャロは何かが変わった。エリオとルーテシアの結婚式にも最後まで顔を出さず、
二人が新婚旅行に出かけた後もただただ一人淡々と仕事をこなすだけの日々を暮らす毎日。
今までの辛い境遇が彼女を変えたのだ。

「行くよ…フリード……。今まで通りの保護区周辺のパトロール…。」

 ハイライトの消えた目でフリードに歩み寄るキャロの姿はフリードすら怖気づかせてしまう程で
あったが…その時だった。

「やあこんにちわキャロ。久し振りだね。元気してたかい?」
「ゆっ…ユーノさん!?」

 そう。そこへ現れたのはユーノ。その意外すぎる再開は思わずキャロの目を通常に戻してしまう程だった。

「いっ今更何の用ですか!?」
「ごめんよキャロ〜。実は無限書庫の仕事の関係で他所に出張なんかも入ったりしていたんだ。
でも大丈夫。それも全てきっちり終わらせて来たから以前と同じ様に君とお付き合い出来るよ。」

 彼が突然キャロの前に姿を見せなくなったのは、キャロに飽きたとかそういう問題では無く、
単に仕事の関係による出張が入っていただけの事だった。しかし、キャロにとってはそう割り切れる物では無い。

334嫌よ嫌よも好きの内ってか 6 ◆6BmcNJgox2:2009/08/29(土) 14:22:39 ID:tz.Wew7I
「な…何を今更…そんな言い訳したって遅いですよ! 私はもう男の人なんて信じない事に決めたんです!」
「そっか…そうだよね。仕事で出張が入ったからとは言え君に寂しい思いをさせてしまったのは事実だもんね。
でももう大丈夫! 大丈夫だからね! これからは僕が君に寂しい思いをさせない位に沢山愛してあげるよ。」
「だからそういう問題じゃないんです!」

 キャロが取り乱していた時のシリアスな様相からは一転してヘラヘラしたキャロを誘うモードのユーノに
キャロはほとほと困り果てていたが、キャロは逃げるようにフリードの背に跨った。

「私はこれから仕事があるんです! 用があるなら今度の休日に訪ねて来て下さい!」

 キャロは顔を赤くしながら吐き捨てる様にそう言い放ち、彼女を乗せたフリードは天高く飛び立つのだが…
フリードの背の上でキャロはある思いに馳せていた。

「皮肉な事だよね…。私の事を一番想っていたのは…エリオ君でも何でも無く…ユーノさんだったなんて…。
でも私に一番酷い事をしたのもユーノさんなんだよね…。何が酷いって…今になって私にこの際ユーノさんでも
良いかな〜なんて思わせてしまった事…。きっとユーノさんがしつこく私にアタックして来たのは
サブリミナル効果を狙ったと言うか…私を洗脳する為だったんだろうな…。でももうそれでも良いや。
どうあがいたってエリオ君の心はルーちゃんに向いてて、私が手に入れる事は不可能なんだし…
私も何時までもくよくよせずに新しい恋を探さなきゃね! 今度ユーノさんが訪ねて来たら………
ユーノさんがどうしてもって言うならお茶の一杯位は一緒に飲んであげよっかな…。」

 今この瞬間から…二人の物語は新たなステップへ進む………のだが………それはまた別のお話である。
おいおい男はもう信じないって言ったのは何処の誰ですか? と言う突っ込みは一まず置いといて…。

                       おしまい

335 ◆6BmcNJgox2:2009/08/29(土) 14:23:23 ID:tz.Wew7I
嫌よ嫌よも好きの内と言う事で最初は凄い嫌ってたのに徐々に〜なんて感じの恋愛をやろうと思ってたけど
(だからユーノをあえて淫獣っぽくしたり、キャロに真っ向からユーノを嫌う様に描いたり)
実際やってみるとこれが中々難しいね。鳥山明先生が恋愛を描くのは苦手と仰っていた気持ちが分かる。

ちなみに続編の予定はありませんので。

336名無しさん@魔法少女:2009/08/29(土) 16:36:45 ID:V8bTtlCw
GJ
しかし、ハイライトの消えたキャロを想像すると
某夢見がちな従姉妹が思い浮かんでしまう。

337名無しさん@魔法少女:2009/08/29(土) 20:30:50 ID:tKKk2Oag
なぜかあおいちゃんとヤマトくんを思い出した。

338名無しさん@魔法少女:2009/08/30(日) 01:55:47 ID:SCyazVy2
このユーノはキャロに会うためにフェイトさんのザンパーとかをかわしたことがありそうで困るw

339B・A:2009/08/31(月) 23:02:42 ID:krqFdWfs
投下いきます。


注意事項
・sts再構成
・非エロ
・オリ展開あり
・基本的に新人視点(例外あり)
・レジアスとはやての仲が悪い(のかな?)
・スカリエッティ狂い気味
・タイトルは「Lyrical StrikerS」

340Lyrical StrikerS 第6話①:2009/08/31(月) 23:03:54 ID:krqFdWfs
第6話 「夢の先に」



向かい合った少女の矮躯が、僅かに低くなる。
来るか、とスバルは拳を身構え、リンカーコアから汲み上げた魔力をマッハキャリバーの魔力回路へと注ぎ込んだ。
全身のバイパスを異物が駆け抜け、自身と愛機が一つになる感覚。
思考はどこまでも冴え渡り、全能になったかのような高揚が自身を支配していく。
次の瞬間、少女の姿が視界からかき消えた。
ビリビリと震える第六感。
一呼吸の間もなく眼前に迫る鉄槌に対して、余りに遅い自分の反応に焦りが生まれる。
砕かれる。
そう思った刹那、スバルは脳裏に鉄槌を弾き返す盾のイメージを作り出した。
そのイメージを汲み取ったマッハキャリバーは、即座に自身に登録されている魔法の中から的確なものを選択、
綻びを纏った歪な盾が現実に形を成し、ギリギリのタイミングで振り下ろされた鉄槌を受け止める。

「痛ぅ………くぅ……………」

「でやぁぁぁぁぁぁっ!!」

衝撃で体が僅かに揺らぎ、踏ん張りの利かなくなった足が数歩分後退する。
バリア越しに伝わる負荷が腕を軋ませ、スバルの表情は見る間に険しくなっていった。
そんなスバルに対し、少女は駄目押しとも言える一撃をお見舞いする。
力任せの一撃を食らったバリアは砕けこそしなかったものの、その衝撃で吹っ飛ばされたスバルは後方の樹木に背中をぶつけ、
小さな悲鳴を漏らした。

「い、痛たぁ……………」

「なるほど、やっぱバリアの強度自体はそんなに悪くねぇな」

「あ、ありがとうございます………ヴィータ副隊長」

自分の攻撃を受け止めてバリアを消滅させなかったことに感心する上司の言葉に、スバルは頬を引きつらせながら答える。
平静を装ってはいるが、右腕は指先まで痺れていてもう少しの間、使いものになりそうにない。
頑丈さにはかなり自信があっただけに、衝撃も大きかった。
小柄な彼女の体のどこに、これだけの力があるというのだろうか?

(さ、さすがは三等空尉。職歴10年は伊達じゃないか)

一見するとエリオやキャロよりも年下に見えるが、ヴィータは10年近くも管理局で働いているベテランらしい。
その話を聞いた時は耳を疑ったが、こうして手合わせしてみるとそれが嘘偽りではないことが痛いほど実感できる。
踏み込みの速度、突進力、頑強さ、一発の重さ。自分と同じ戦闘スタイルでありながら、その技能は未熟な自分よりも遙かに上を逝っている。
わざわざ相手が合わせてくれなければ、攻撃を受け止める間もなく撃墜されていただろう。

「どうした?」

「え、いえ…………副隊長は凄いなと」

「煽てても何も出ねえぞ。それに、凄いって言うならお前の方だ。初回であたしの攻撃を受けた新人で、
気を失わなかったのはお前が初めてだからな。全く、頑丈さはある意味なのは以上だ」

「いえ、それは……………」

一瞬、勘ぐられたかと背筋に冷や汗が伝う。
だが、ヴィータはそれ以上の詮索はしようとしなかった。
単純にこちらの頑丈さに感心しているだけで、体の秘密に気がついたわけではないようだ。

「あたしやお前のポジション“フロントアタッカー”はな、敵陣に単身で切り込んだり、最前線で防衛ラインを守ったりが主な仕事なんだ。
防御スキルと生存能力が高いほど、攻撃時間が長く取れるし、サポート陣にも頼らねぇで済むって、これは訓練校で教わったな?」

「はいっ! ヴィータ副隊長」

「受け止めるバリア系、弾いて逸らすシールド系、身に纏って自分を守るフィールド系。この3種を使いこなしつつ、ぽんぽん吹っ飛ばされねぇように、
下半身の踏ん張りとマッハキャリバーの使いこなしを身につけろ」

「はいっ! がんばります!」

《学習します》

こちらの言葉に合わせるように、マッハキャリバーも応答する。
最初は機械的な娘だと思っていたが、これが意外と多弁で好奇心旺盛な性格だと気づくのに時間はかからなかった。
まだ起動してから数日しか経っていないのに、AIの成長が他の3機よりも著しいのがその証拠だ。
ちなみにクロスミラージュは無口で実直な性格、ストラーダは実直だが情緒的で、ケリュケイオンは母性的で控えめな性格らしい。
シャーリー曰く、各自の個性に合わせてAI自体が成長していくように造られているらしいが、
それは言い換えればデバイスが持ち主の映し鏡であるということにもなる。
これから先、デバイスがみんなとどんな関係を築いていくのか、スバルは密かに楽しみで胸を膨らませていた。

341Lyrical StrikerS 第6話②:2009/08/31(月) 23:06:00 ID:krqFdWfs
「…っ!?」

不意に爆音が背後で轟き、エリオとキャロの感嘆の声が耳に届く。
ここからでは何が起きたのかよくわからないが、向こうでも訓練が盛り上がっているようだ。
家族水入らずで訓練だなんて、何だか少し羨ましい。

(良いなぁ、ティアはなのはさんに教われて)

離れた場所でなのはから手ずから教導を受けているティアナを思い、スバルは軽い嫉妬心を覚える。
個別スキルの訓練は、まず得意分野からというなのはの方針で同じポジションであるヴィータが担当教官に抜擢されたらしいが、
やはり憧れの人からの教導も受けてみたかった。

「おい」

「えっ………」

どすの利いた声で我に返ると、ヴィータが持つ鉄槌の先端が突きつけられていた。
その向こうでは、どこか不機嫌そうな表情を浮かべたヴィータがこちらを睨んでいる。

「そうか、あたしの訓練は退屈で詰まんねぇってか……………」

「い、いえ、そんなことは……………」

「同じことだ! 目の前のことに集中しろ! よそ見してたらケガするのは武装隊もレスキューも同じだ、馬鹿!」

苛立たしげにカートリッジを取り出したヴィータが、相棒であるグラーフアイゼンのチャンバーに装填していく。
そこはかとなく嫌な予感に、スバルは頬を引きつらせる。
これはひょっとして、かなり不味い展開なのでは?

「あたしはなのはみたいに優しくないからな。グラーフアイゼンにぶっ叩かれたくなかったらしっかり守れよ……………明日からな」

「明日!? 今日は!? 今日はどうなるんですか!?」

「ダーイ!」

鬼のような形相でグラーフアイゼンを振りかぶるヴィータの姿が視界に焼きつく。
スバルは思った。
この人を怒らせちゃいけない。
何があろうと、絶対に。







遠くから聞こえてきた怒声に、エリオとキャロは何事かと振り向く。
スバルがヴィータに訓練を受けている方角から聞こえてくるが、かなりハードな訓練を受けているようだ。
散発的に聞こえる轟音は、まるで土木工事をしている杭打ち機のようで耳を覆いたくなる。

「す、凄い音………10tトラックが正面衝突したような……………」

「スバルさん、大丈夫かな?」

「うぅん、ヴィータのことだから大事にはならないと思うけど……………」

教官資格を取得する際、研修で憎まれ役を演じるためにわざと怒鳴ったり無茶な要求を突きつけたりしていたらしいが、
その姿が酷く堂に入っていたとフェイトは言う。
確かに、彼女は怒りっぽいし好悪の感情の差が極端な面もあるので、鬼教官という言葉がしっくりくる。
最も、普段の彼女は非常に面倒見の良いお姉さんなのだが。

「一応、後でシャマルに診てもらうように言っておいてもらえるかな? 打ち身の跡とか、残ってたらいけないし」

「はい」

「うん。それじゃ、基本のおさらいといこうか。エリオ、さっき私がしたみたいにやってみて」

「は、はい!」

少し緊張した声音で答え、訓練スペースの中心へと足を運ぶ。
周囲には障害物となる柱が設置されており、こちらを自動追尾する訓練用オートスフィアの群れが宙を漂っている。
回避訓練の第一段階は、低速で撃ち出される弾を正確に回避すること。
基本は動き回って狙わせず、攻撃が当たる位置に長居しない。
フェイトから教わった回避の心得を思い返し、深呼吸で気持ちを落ち着ける。

342Lyrical StrikerS 第6話③:2009/08/31(月) 23:06:47 ID:krqFdWfs
「いきます!」

合図を送り、オートスフィアからエネルギー弾が発射される。
低速に設定しているので、一発一発の速度は遅い。
スフィア自体の動きも疎らで統一性がなく、避けることはそれほど難しくなかった。

「良い調子。でも、これならどうかな?」

フェイトがそう言うと、スフィアの動きが途端に素早くなり、こちらの進行方向を塞ぐように攻撃してくる。
どうやら、外部からフェイトが操作しているようだ。弾速は相変わらず低速だが、
スフィアの動きが変則的でフェイントのような挙動も見られる。

(けど、まだ避けられない動きじゃない。速度を上げて、一気に!)

地を踏んだ瞬間、エリオは加速魔法を発動させてエネルギー弾の雨を搔い潜る。
加速した時の中では、ただでさえ遅い弾が止まって見えるため、それを避けることは造作でもなかった。
フェイトは撃ち出す弾の数を増やし、こちらの動きに攻撃を合わせようとするが、
着弾の前に駆け抜けてしまうためエリオを捉えることができない。

(やった、僕にもできっ…………っ!?)

不意に、身の丈ほどある捩じれた柱が視界に飛び込んでくる。
咄嗟にエリオはブレーキをかけて柱を避けようとするが、勢いのついた足は止まらずに地面を蹴り続け、
減速する間もなく柱が眼前へと迫って来る。
直後、エリオは顔面を強かにぶつけて転倒し、その上からオートスフィアの集中砲火を受けて悶絶する。

「かはっ!?」

「エリオくん!」

キャロの悲鳴が聞こえ、エネルギー弾の雨が止む。
訓練用なのでケガはないが、全身に鈍い痛みが残っている。
だが、それ以上に障害物にぶつかるという初歩的なミスを犯してしまったことが悔しかった。
フェイトはあんなにも上手く攻撃を避けていたのに、自分は調子に乗って目も当てられない失敗をしてしまった。
こんなことでは、一人前のベルカの騎士になるなんて夢のまた夢だ。

「エリオ、大丈夫?」

「は、はい…………すみません、もう一度………」

「ううん、今ので十分。エリオ、どうして柱にぶつかったのかわかるかな?」

「え、えっと…………前をちゃんと見てなかったから?」

「ちょっと違うかな。エリオ、さっき避けようとしても体が言うこと聞かなかったでしょ? 
あれは加速がつき過ぎて頭に体が追いつかなくなったからなんだ。私やエリオみたいな高速戦闘主体の魔法使いが
常に気をつけなきゃいけないことは、自分と周りの動きを先読みして行動すること。エリオは気づいていなかったかもしれないけど、
さっきはエリオが柱にぶつかるように私が誘導していたんだよ。ごめんね、エリオ」

そう言って、フェイトはこちらに目線を合わせるように跪くと、詫びる様に頭を撫でてくる。

343Lyrical StrikerS 第6話④:2009/08/31(月) 23:08:00 ID:krqFdWfs
「けど、動きは悪くなかったから、落ち着いて動けばちゃんと避けられるようになるよ」

「フェイトさん…………はい、ありがとうございます」

「キャロも、後ろにいるからって油断しちゃダメだよ。キャロはチームの要だからね」

「はい、フェイトさん」

「良い、防御と違って回避は誰でもできること。極端な話、背中を向けて全力疾走しても攻撃は避けられるの。
けれど、ちゃんと周りを見ていなかったら、さっきみたいにぶつかって隙を作っちゃうし、
仲間の連携を崩したり誤射の標的になるかもしれない。スピードが上がれば上がるほど、
勘やセンスに頼って動くのは危ないの。だから、反応速度とフィールドの動きを先読みした回避ルートの構築が大切なんだよ。
“ガードウイング”のエリオはどの位置からでも攻撃やサポートができるように。“フルバック”のキャロは素早く動いて
仲間の支援をしてあげられるように確実で有効な回避アクションの基礎、しっかり覚えていこう」

「「はい!!」」

力強い返事が重なり、フェイトは嬉しそうに眼尻を細める。
その笑顔が、何よりの励みとなった。
母親代わりの恩人が喜んでくれている。
強くなれば、彼女が認めてくれる。
今は、それだけが嬉しかった。
今はまだ、それだけが強くなる動機であった。







無数の魔力弾が視界を飛び回り、こちらを翻弄するように不規則な動きで襲いかかって来る。
飛来する魔力弾は7発。
赤が3に青と黄色が2。
炸裂反応型と誘導操作型と囮用のブラフだ。
ならば、迎撃するのは5発だけで良い。

「バレット! レフトV、ライトRF」

《Alert》

指示を下すや否や、クロスミラージュから警告が発せられる。
大気を引き裂く音が背後から聞こえる。
迫り来る魔力弾は2発。
前方の7発は囮で、本命は後ろの2発だったのだ。

(迎撃………ダメ、後ろを撃てば前にやられる)

咄嗟に地面を転がって回避するが、魔力弾は転がった先へ先へと追いかけながら地面を抉っていく。
思考に体が追いついてくれない。
対応策が思いついても、それをこなすだけの余裕が今の自分にはないのだ。

「ティアナみたいな精密射撃型は、いちいち避けたり受けたりしていたんじゃ仕事ができないからね。
そうやって動いちゃうと後が続かないよ!」

(そんなこと、言われなくてもわかっている!)

わかり切ったことを改めて告げるなのはに内心で毒づきながら、ティアナは両手のクロスミラージュを構える。
癪だが、今の自分ではクロスミラージュの補助を受けなければ全方位から襲いかかって来る魔力弾を迎撃できない。
使えるものは使うしかない。
自分の夢のために。
成すべき理想のために。

《Barret V and RF》

「シューット!」

次弾の装填が完了するなり、銃口を標的へと向けて引き金を引く。
まず先に撃ち出されたバレットFが誘導操作弾の熱量を感知して自動追尾を始め、
弾幕に穴ができた隙に用意しておいたヴァリアブルバレットで炸裂反応弾を撃ち落とす。
だが、教導官の弾幕は途切れることがない。
今度は左右から、弧を描くように3発ずつ魔力弾が迫る。

「バレットCF!」

《Cross Fire Shoot》

瞬時にカートリッジをロードし、左右の魔力弾を迎撃する。
耳をつんざく様な爆音が至近距離で炸裂するが、それでも集中を解くことはない。
一瞬でも気を抜けば、集中砲火を浴びることになる。
マルチタスクをフル活用しなければ、この訓練は乗り切れない。

344Lyrical StrikerS 第6話⑤:2009/08/31(月) 23:09:35 ID:krqFdWfs
「足は止めて視野は広く。射撃型の真髄は!?」

「あらゆる相手に正確な弾丸をセレクトして命中させる。判断速度と命中精度!!」

使い果たしたカートリッジを銃身ごと捨て去り、新たなカートリッジを装填する。
地面には訓練で使用した空のカートリッジが大量に転がっているが、それに頓着している暇もない。
足を取られないように気を使うのが精一杯だ。

「チームの中央に立って、誰よりも早く中・長距離を制す。それがわたしやティアナのポジション“センターガード”の役目だよ」

「はい」

返事をする暇さえも惜しい。
もっと強く、もっと早く動かなければ。
いつしかティアナは言葉を発するのも忘れ、向かってくる魔力弾を迎撃することに集中する。
この日、ティアナが使用したカートリッジの本数はこの訓練だけで延べ60本にも及んだ。







新デバイスを受理し、個別のスキルの訓練が始まってから、なのはの教導は一段と厳しいものになっていった。
やっていること自体は基本の繰り返しなのだが、その密度が半端でなく濃い。
しかも日毎に要求するハードルは高くなっていくため、勤務が終わればすぐに寮に戻って就寝するのがパターンとなりつつあった。
そのため、自然と団らんの時間は食事の場へと集中していき、他の隊員との交流も食堂で行われるようになった。
今日も、ここに来るまでに一緒になったシャーリーと共に昼食の席を囲んでいる。
ティアナが何気ない疑問を口にしたのは、そんな楽しいお昼時であった。

「しかし、うちの部隊って関係者繋がりが多いですね。隊長達も幼馴染同士なんでしたっけ?」

そう言われて部隊の相関図を頭に思い描くと、確かに身内人事が多いなとキャロは思った。
部隊長以下3人は幼馴染で、内2人は同じ世界出身。副隊長も部隊長とは家族同然の間柄で、
スバルはその部隊長が指揮官研修を受けていた部隊の部隊長の娘。自分とエリオも隊長であるフェイトの保護児童で、
部隊長補佐のグリフィスもはやて部隊長とは旧知の仲。メカニックのシャーリーはその幼馴染で、
ヘリパイロットのヴァイスはというとシグナム副隊長のかつての部下で、ロングアーチのアルト・クラエッタとは
同部隊のパイロットと整備士の関係だったらしい。
数日前になのはが言っていたように、確かに機動六課は身内人事だ。
ここまでメンバーを身内で固めているのには、何か理由があるのかもしれない。
だが、シャーリーはその辺に関してよくわかっていないのか、余り多くを語らずに話の矛先を隊長達の出身世界へと向けてしまう。

「なのはさんと八神部隊長は同じ世界出身で、フェイトさんも子どもの頃はその世界で暮らしてたとか」

「えっと、確か管理外世界の97番でしたっけ?」

エリオの言葉に、シャーリーは正解だという意の笑みを返す。
第97管理外世界。
地球という名前らしいが、自分も行ったことがない。
フェイトの話では文明レベル以外はミッドチルダとそう変わらないらしいが、自然ばかり見てきた自分では上手くイメージできなかった。

「97番ってうちのお父さんのご先祖様がいた世界なんだよね」

「そうなんですか?」

「そういえば、名前の響きとか何となく似てますよね、なのはさん達と」

顔つきがそんなに似ていないのは、母親の血筋が濃いからなのだろうか?
一度だけ見せてもらった写真の父親とは、本当に親子なのかと疑いたくなるくらい似ていなかった。
逆に母親とは生き写しというくらい似ていたので、地球人の資質は遺伝しにくいのかもしれない。

「そっちの世界には、あたしもお父さんも行ったことないし、よくわかんないんだけどね」

「へぇ…………」

「そういえば、エリオはどこ出身だっけ?」

「僕は本局育ちなんで」

何気なく答えたエリオの言葉に、質問したスバル以外の表情が険しくなる。
本局育ち。
その言葉が意味することは2つある。
1つは本局勤務の局員の子供で、局内の住宅エリアで生まれ育った者。
そして、もう1つは。

345Lyrical StrikerS 第6話⑥:2009/08/31(月) 23:10:13 ID:krqFdWfs
「本局の特別保護施設育ちなんです。8歳までそこにいました」

施設育ちと聞いて、スバルが済まなそうに顔を俯かせる。
エリオは呆気らかんと笑っているが、自分が知る限りでも彼の経歴は酷なものだった。
実の両親からも存在を否定され、薄汚れた暗闇の中で孤独を噛み締めた1年間。
いつしか人間そのものを嫌うようになり、近づく者全てに牙を剥いていた時期があったらしい。
エリオは言っていた。
夜中に窓の外で輝く星を見るのが好きだと。
フェイトに保護されるまで、あんなに綺麗な星を見たことがなかったと。
ル・ルシエの里を追放された自分には、まだ気持ちを共有できるフリードがいた。
言葉を交わすことのできる動物達がいた。
けれど、エリオには誰もいなかった。
星を見ることのできた自分と違い、彼は泥を見続けるだけの過去を背負っている。
あの笑顔の向こうで、いったいどれだけの涙と絶望を滾らせたのだろうか?

「あ、あの、気にしないでください。優しくしてもらってましたし、全然普通に、幸せに暮らしてましたんで」

「そうそう、その頃からずっと、フェイトさんがエリオの保護責任者なんだもんね」

「はい」

重い空気を吹き飛ばそうと、シャーリーが助け船を出す。
フェイトの名前を出されると、エリオは本当に嬉しそうに笑顔を見せる。
エリオは、自分よりも多くの時間をフェイトと過ごしてきた。
自分が彼女の温かさに救われたように、彼もまた彼女と過ごした時間で今の笑顔を取り戻せたのだろう。
本当、フェイト・T・ハラオウンは自分達のお母さんだ。
あの人がいたから、今の自分達がいるのだ。

「色々とよくしてくれましたし、色んなところに遊びに連れて行ってもらいましたし、時々ですけど魔法も教えてくれて。
本当に、いつも優しくしてくれて……………僕は今も、フェイトさんに育ててもらっているって思ってます。
フェイトさん、子どもの頃に家庭のことでちょっとだけ寂しい思いをしたことあるって。だから、寂しい子どもや悲しい子どものこと、
放っておけないんだそうです。自分も、優しくしてくれる温かい手に救ってもらったからって」

それが誰のことを指すのかは、自分達は知らない。
けれど、フェイトが2つのファミリーネームを持っていることと、縁も所縁もないはずの地球で子ども時代を過ごしたことが、
答えになっているのかもしれない。
彼女も出会えたのだ。
自分達が出会ったように、安らぎを得られる家族や友人と。







機動六課が初出動を無事に成功させたという知らせは、良くも悪くも地上本部を騒がせていた。
血気盛んな若手は憧れの本局が設立した部隊の功績を称え、本局を快く思わない幹部連中はある者は露骨に嫌悪感を示し、
ある者は対抗するように自分の部隊の強化に走り、ある者は本局に取り入ろうとする動きを見せ始めている。
それらの騒ぎを、レジアスは「下らない」と一蹴していた。
鳴り物入りで投入されたのだ、たかが暴走列車の停止くらい成功させてもらわなければ費やした予算と時間が無駄になるというものだ。
憎たらしい相手ではあるが、それくらいの分別はレジアスも持っていた。
最も、件の部隊の長である狸と出会うまではだが。

「むぅ………………」

「うっ………………」

天敵同士である互いの存在を認め、2人の表情が険しくなる。
ここは渡り廊下の一本道。隠れられる場所はどこにもない。
そして、互いにこの廊下の先に用があるようなので、後戻りすることもできない。
そもそも、周り道などすれば相手に負けを認めるように思えてならなかった。

(何故だ、あの狸めが何故、ここにいる?)

捜査情報のやり取りなどは通信かメールで事足りる。
自分や幹部連中に直接出向いて報告するようなこともないはずだ。
ならば、何の目的があってここに来たのだろうか?
しばし考えた後、レジアスは少し前にオーリスから教えられたことを思い出した。

346Lyrical StrikerS 第6話⑦:2009/08/31(月) 23:10:57 ID:krqFdWfs
(こちらの捜査網を利用しに来た訳か)

そもそも機動六課はレリック事件への対応を目的に設立された部隊であり、リソースのほとんどを武装戦力に回している。
はやてから提出された組織図を見てみても専属の捜査員は皆無であり、執務官であるフェイト・T・ハラオウンが
分隊長と兼任で捜査主任をすると明記されていた。
言わば、火消しはできても火の素を絶つことができないのである。
きっと、地上本部に協力を要請してレリックの密輸ルートを特定しようという魂胆なのだろう。
だが、地上本部に対してコネクションが皆無であるはやてが捜査協力を取り付けることに苦労していることは想像に難くなかった。
他所の縄張りの事件に手を貸せるほど、地上本部は暇ではないのだ。

(最も、その他所の縄張りが地上だということが腹立たしいがな)

こうして考えると、指揮系統が独立していることが六課にとっては長所であると同時に短所にもなっている。
地上本部の命令を待たずに行動できるという点で他の部隊に勝っている半面、横の連携を必要とする捜査や情報戦では遅れを取ってしまう。
機動六課の最大の弱点。何れは補ってもらわねば、こちらの狙い通りの働きが期待できなくなる。

「これはゲイズ中将、ご機嫌麗しゅう」

「ふん、小娘が気取りおって。初出動を成功させて調子づいているようだが、あの程度の任務なら地上の陸士は半分の時間で解決できるぞ」

「なら、勉強させてもらわなあきまへんね。何分、まだまだ若輩な身ですので」

「半人前を部隊長に据えるほど、本局は戦力が切迫しているようだな。何なら、何人か貸し出そうか?」

「そちらこそ、武装局員の教導が必要ならいつでも言ってくださいね。教導隊にも顔が利きますので」

「白々しい。そちらこそ捜査の人手がいるなら紹介してやるぞ」

嫌味の応酬を繰り広げ、真っ向からぶつかり合った視線が火花を散らす。
レジアス自身は前々からはやてのことを毛嫌いしていたが、最近でははやてもそれに応じるように嫌味を述べるようになった。
表向きは共闘関係にある2人ではあるが、こうして顔を合わせると決まって舌戦を繰り広げるのが半ば定番となっているのだ。

「中将、八神二佐も謹んでください。ここは公共の場です」

見かねたオーリスが止めに入るが、2人は尚も何か言いたそうに睨みあっている。
そんな睨み合いが十数秒ほど続いた後、2人は居住まいを正して形ばかりの挨拶を済ませて歩みを再開する。
だが、数歩も行かぬ内にレジアスは立ち止まると、どこか非難めいた声音で背後の娘に話しかけた。

「捜査協力を募っているそうだな。こちらから陸士108部隊に話を通しておこう。
あそこは密輸専門で、お前とも既知の間柄なはずだ」

「中将?」

父親の突然の提案に、オーリスが驚愕の表情を浮かべる。
一方、はやては特に驚いた様子など見せず、澄ました声で聞き返してくる。
長年、管理局の高官を相手にやり合ってきたレジアスには、年若い小娘が必死に冷静を装っているように思えた。

「見返りは?」

「2週間後にホテル・アグスタでロストロギアのオークションが開かれる。お前達の専門だ、警備しろ。
あの小生意気なガラクタどもが出てくるかもしれないからな」

「了解しました、ゲイズ中将。必ずやご期待に添えて見せます」

少しの間を置き、足音が遠ざかっていく。
すると、オーリスがいつも以上に険しい顔をしてこちらを睨んできた。
その形相足るや、歴戦の魔導師も裸足で逃げ出してしまいたくなるほどの迫力だ。

347Lyrical StrikerS 第6話⑧:2009/08/31(月) 23:11:41 ID:krqFdWfs
「中将、捜査協力だけならばわかります。ですが、ホテルの警備は……………」

「言葉を慎め、人の目もある」

「……………汚点を残さぬためですか?」

「八百長などして堪るか。それに、機動六課はお前が考えているほど柔な部隊ではない。
精々、あの娘には踊ってもらおう。奴を引きずり出すためにな」

「では……………」

「研究の難航を理由に黙り込んでいる奴らに焦ってもらわなければな。
ガラクタ如きでは相手にならない強者が、こちら側にはいるのだから」

毒蛇のように凄惨な笑みを浮かべながら、レジアスは再び歩き出す。
彼の望みは唯一つ、地上の絶対正義を貫くこと。
この取り引きもまた、彼にとって理想を果たすために被る泥に他ならなかった。







どことも知れない闇の中で、1人の男が暗い通路を歩いていた。
左右に立ち並ぶのは琥珀色の溶液で満たされた培養槽。その中に浮かんでいるのは紛れもなく生きた人間だ。
男はその情景をまるで絵画を愛でる芸術の信徒のように舐め回し、通路の果てにある開けた区画へと辿り着く。
すると、男の到着を待ち侘びていたかのように巨大な仮想ディスプレイが展開し、薄紫色の髪の女性が映し出された。
その瞳は男と同じ金色で、作り物めいた彼女の表情も相まって酷く不気味な人形に見える。

「ウーノ、クライアントからの指示は?」

『例の物は予定通り、ホテル・アグスタへ運び込まれるそうです。警備は一個部隊のみで行わせるとのことで、
強奪はさほど難しくないかと。また、ゼストとルーテシアに対して、無断での支援や協力はなるべく控えるようにとメッセージが届いています』

「自律行動を開始させたガジェット・ドローンは、私の完全制御下という訳じゃないんだ。
勝手にレリックのもとへ集まってしまうのは、大目に見て欲しい」

『お伝えしておきます。ですが、そのガジェットをこのまま放置しておいて宜しいのですか? 
既に何体かのガジェットが管理局に捕獲・解析されているようです』

「放っておくと良い。あんなもの、何百体壊れようと代えが利く。寧ろ、私が認めたメッセージに気づく機会が増えるというものだ。
いい加減、こそこそと隠れ続けるのにも飽きていたところでね。そろそろ愛しの娘との鬼ごっこを再開したいとも思っていたところだ。
あの宝石とメッセージを見れば、彼女はどんな顔をするだろうね? 喜んでくれるかな? ああ、それとも憎悪に胸を焦がすかな?」

狂ったように胸を搔き毟りながら、男は醜く体を歪ませる。
狂気に満ちたその瞳を恐れる者はここにはおらず、彼の奇行を咎める者もいない。
だから、男はずっと笑い続けていた。
自分を傷つけるように、ひたすら胸を搔き毟りながら。

「はははっ、楽しいな。彼女の遺した作品と私の作品。愛しい愛しい娘達と貴重で大切なレリック・ウェポンの実験体がFの残滓とぶつかるんだ。
どっちが勝つかな? どっちが優れているかな? ウーノ、私は今から楽しみでどうにかなってしまいそうだ」

『では、何れはルーテシアを?』

「ああ、働いてもらおう。優しい優しいルーテシア。私のためにしっかりと働いておくれ。
覚めない夢を見続けられるようにね」

男の哄笑は止まらない。
ウーノ(1番)と呼ばれた女性からの通信が切れ、広間が静寂に満たされても男は笑い続ける。
狂気に彩られた笑い声で満たされた暗闇はどこまでも深く、果てがない。
それはまるで、この男の狂気そのものを表しているかのようであった。







その夜、スバルは寝つくことができずに隊舎の周りをグルグルと散歩していた。
気晴らしにと思って外に出てみたのだが、これが思っていた以上に気持ちがいい。
夜風は冷たくて時折頬を切り、潮の香りが鼻腔をくすぐって眠気を吹き飛ばす。
気分が高揚したスバルは、訓練のおさらいをしようとシューティングアーツの型を取っていた。
マッハキャリバーを起動させようとも思ったが、折角なので素手のまま一人稽古を始める。
姉に初めて突きを教わった時のように、無心になって基本の突きを繰り返し、突きが終われば次は蹴り、
そして手刀や肘打ち、裏拳と基本動作を繰り返した後、それらを組み合わせたコンビネーションへと発展していく。
突きから蹴りへ、回し蹴りから踵落としへ。目まぐるしく変わる型は全て、姉から教わったものだ。
幼い頃に死んだ母から教わったものもあるが、小さかったのでよく覚えていない。
だから、自分にとってシューティングアーツの師匠は姉であるギンガだ。

348Lyrical StrikerS 第6話⑨:2009/08/31(月) 23:13:22 ID:krqFdWfs
(やっぱり、殴った感触は良い気分じゃないや。けど、拳が空を切る度に何かが込み上げてくる。
とても熱くて胸がギュッとなるような感覚。この興奮、張り裂けるような緊張感。
あたしの中で、もう1人の自分が訴えている。強くなりたい、もっと強く……………もっと…………………)

繰り出した拳が飛び散った汗を吹き飛ばし、小さな虹が暗闇に浮かぶ。
どれくらい一人稽古をしていたのだろうか? 全身が汗でびしょ濡れで、パジャマ代わりのシャツまで真っ黒に濡れている。
小さな拍手が聞こえたのは、丁度スバルが一呼吸置いたその時であった。

「熱心だね。けど、遅くまで起きているのはあんまり感心しないな」

「な、なのはさん!?」

いつからそこにいたのか、花壇に腰かけたなのはがこちらを見つめていた。
勤務明けなのか、私服ではなく陸士隊の制服のままだ。

「す、すみません。その、寝付けなくて……………」

「良いよ、まだ10時だし。私も遅くまで残業していたから、おあいこかな。
けど、夜更かしは明日に響くから、程ほどにね」

悪戯っぽく苦笑しながら、なのははこちらに近づいてくる。
憧れの人と2人っきりという状況に、スバルの鼓動は自然と早鐘を打った。

「シューティングアーツだっけ? こうして改めて見てみると、基本の型から普通のストライクアーツと違うんだね」

「は、はい…………ローラーとナックルを使うことが前提ですから、色々と」

「久し振りに、わたしもやってみようかな。スバルちゃんとの個別訓練も、そう遠くない内にすることになるんだし。
今の内にカンを取り戻しておくのも悪くないかも。付き合ってくれるかな?」

「え、えぇっ!?」

突然の提案に、スバルは素っ頓狂な声を上げる。
憧れの人と組み手をする。それはつまり、思い描いていた1対1の教導を受けられるということだ。
だが、舞い上がった思考はすぐに冷静さを取り戻した。知っての通りなのはは射撃型。
遠距離からの砲撃が基本的な戦闘スタイルであり、クロスレンジで戦うことは皆無である。
久し振りにと発言していたが、いったい彼女はどれほどの腕前なのだろうか?

「あ、疑っているな。ちゃんと格闘型の魔法使いに教導できるように、一通りの型はマスターしているんだからね。ほら!」

言うなり、なのはは拳を突き出してくる。
咄嗟に右手でそれを払い、反射的に左拳を打ち込む。
拳速は少し遅め、射撃型のティアナに初めて演武を披露した時と同じ速度だ。
なのははそれを危なげなく受け止めると、今度は右足で顔面を狙ってくる。
反応や動きは悪くない。基本はマスターしているという言葉は伊達ではないようだ。
ならば遠慮は無用と、スバルは拳を打ち込む速度を速めていく。
最初はゆっくりと。徐々に加速をつけ、フェイントも織り交ぜる。
すると、なのはの目が忙しなく動くようになり、動きにも乱れが見られるようになった。
あのエース・オブ・エースを翻弄している。
調子に乗ったスバルは、更に複雑なコンビネーションを使ってなのはの防御を崩しにかかった。
瞬間、なのはは桃色の盾を編み上げて拳を逸らし、地面から幾本もの鎖を伸ばしてこちらを絡め取ろうとする。

「あっ、ずるい!」

地面を蹴ってバインドを回避し、スバルは叫ぶ。
実戦ならばともかく、組み手でシールドやバインドを使うのはご法度だ。

「ずるくない、これがわたしの応用なの」

「そっちがその気なら、こっちだって」

少しだけ本気を出し、バインドの雨を搔い潜ってシールドに拳の連打を叩き込む。
なのはも全力を出していなかったのか、シールドは思っていたよりも簡単に砕け散った。
取った、と伸ばした手刀をなのはの首筋へと突き出す。だが、背筋を走る悪寒に引き留められ、スバルは攻撃の手を止める。
こちらの後頭部に、なのはが生み出した桃色の魔力弾が一発、静かに狙いをつけていたからだ。

349Lyrical StrikerS 第6話⑩:2009/08/31(月) 23:14:24 ID:krqFdWfs
「ずるいです、なのはさん」

「にゃははは、今のはわたしの反則負け。でも、これだとクロスでスバルちゃんに教えられることってあんまりないかも」

「そんなことないです。シューティングアーツは駄目でも、もっと色んなことを教われます。
あたし、もっと強くなりたいんです。なのはさんみたいに、負けない強さが欲しいんです」

「ありがとう。負けない強さか……………ねえ、まだ理由を聞いていなかったよね。スバルちゃんが強くなりたい理由。
強くなって、何をしたいのかなって」

「強くなって………あたしがしたいこと?」

なのはの真っ直ぐな瞳で問われ、スバルは自分の心に問いかけるように呟く。
4年前になのはに助けられて、理不尽を前に泣くことしかできなかった自分を変えたくて、
無我夢中で魔法とシューティングアーツを習って。
いつだって、自分の中にはまず強くなりたいという思いがあった。
だから、訓練校で次の進路を決めるその時まで、自分が何をしたいかなんて考えたことがなかった。
けれど、今は違う。
明確な思いと夢が、この胸にはある。
戦うのは好きじゃない。だから、この力を戦い以外の形で社会に役立てたい。
かつて、目の前の恩人が自分にそうしてくれたように。
原点に立ち返るといつも思う。
あんな辛い目に遭うのはご免だ。
自分ですらそう思うのだから、きっとみんな同じ気持ちだ。
だから、みんなをそんな苦しみから助け出したい。
誰かが傷つく姿なんて、見たくないし認めたくもない。
みんなに笑っていて欲しい。
そのために、自分は戦うのだ。
笑顔を奪おうとする理不尽と。
みんなから幸せを奪おうとする、災害と。

「災害とか争いごととか、そんなどうしようもない状況が起きた時、苦しくて悲しくて、
助けてって泣いている人を助けてあげられるようになりたいです。自分の力で、安全な場所まで、一直線に」

「それ、誰の受け売りかな?」

「すみません、どうしても使いたくて」

どちらからというでなく笑みを零し、フェンスにもたれかかりながら夜空を見上げる。
いつかのように眩い星達が煌く、静かで何もない夜の空。
伸ばした手は未だ届かないけれど、この手の先に彼女がいると確信することができる。

「あたし、もっと強くなります。マッハキャリバーと一緒に、もっと」

《Yes, my master》

首から下げたマッハキャリバー明滅し、主の言葉を肯定する。
頼もしい教え子とそのデバイスの微笑ましい光景を見守りながら、なのはは静かに笑みを浮かべていた。






                                                                          to be continued

350B・A:2009/08/31(月) 23:15:34 ID:krqFdWfs
以上です。
レジアスもスカも書いていて楽しいこと楽しいこと。
特にレジィは出番増えまくりですからね、はやてに嫌がらせするために。
ツンデレな年ごろですかね、これは。

351名無しさん@魔法少女:2009/09/01(火) 23:20:43 ID:t6DolLOg
GJ!

これは良い再構成、次回も待ってます。

352 ◆6BmcNJgox2:2009/09/02(水) 00:31:16 ID:KWoi0vKY
それでは行きます。

・エリオとキャロ結婚後と言う設定
・キャロが村を追い出された理由に関しての独自解釈(本編との矛盾)注意
・バットエンド注意
・非エロ
・本編終了後にもれなく全てを台無しにするおまけが付いてきます。

353これが災いだと言うのか… 1 ◆6BmcNJgox2:2009/09/02(水) 00:32:30 ID:KWoi0vKY
 エリオとキャロは結婚をしたものの、仕事が忙しい関係もあって未だ新婚旅行に行けずにいた。
その上さらにエリオは出張でしばらくの間ミッドに単身赴任しなければならなくなったのである。

「ごめんねキャロ。僕達結婚したばかりだって言うのにこんな事になって。」
「お仕事の都合なら仕方が無いよ。気にしないで。」
「ありがとうキャロ。今回の単身赴任が終わった後で何とか休暇を取れないか上に掛け合ってみるよ。
上手く休暇が取れたら…その時は新婚旅行に行こう?」

 エリオは何時の日かキャロと新婚旅行に行く事を約束し、ミッドへの出張へ出かけた。
キャロもまた笑顔でエリオを見送っており、二人は本当に幸せな夫婦……と思われていたのに………

            まさか………あんな事になってしまうなんて……

 エリオがミッドへ行ったその日の夜、キャロは一人入浴していたのだが……そこである事に気付いた。

「あれ…? これ…何…?」

 キャロの皮膚から何かが生えている。それは桃色で固く、まるで竜のウロコの様な物だった。
それも一箇所だけでは無い。キャロの体中の所々に固いウロコの様な物が生えて来ていたのだ。
しかも…それだけでは無かった………

「あ…ウロコが…また増えて……ええ!?」

 キャロの柔肌の彼方此方に桃色のウロコが目立ち始めた時、キャロはさらなる異変に気付く。
それは角。頭から二本の角が生えて来ていたのである。

「え!? これ角!? 何で!? 何でこんな事になっちゃうの!?」

 キャロは戸惑った。これは明らかに可笑しい。自分の体に異変が起きつつあるのは確実。
しかし、だからと言ってキャロは自分の身体を医者に見せる事は無かった。何故ならば…怖かったのである。
ウロコや角の生えた自分のこの体が他の物に知られてしまえば…どこか変な研究所に連れて行かれて
変な人体実験等をされてしまうに違いないと…キャロは考えていたのである。

 だがそうしている間にもキャロの柔肌は固いウロコへ姿を変え、角はおろか口からは鋭い牙が生えて…
明らかに人間とは違う…別の何かへと変貌を遂げて行った……

 そして数日後…全ての窓が閉じられ、カーテンによって日の光も差さず薄暗くなった部屋の奥で
全身を布団で覆った何か蠢いていた………

「嫌…嫌だよ……怖い…怖いよ…私…私………。」

 この数日の間にキャロの体は完全に人間のそれでは無くなってしまっていた。全身の柔肌は
完全に桃色の固いウロコへ姿を変え、頭には鋭い角、手足の先には鋭い爪、口には鋭い牙…
言うなれば……それは竜。キャロは……竜になっていたのである。

354これが災いだと言うのか… 2 ◆6BmcNJgox2:2009/09/02(水) 00:33:22 ID:KWoi0vKY
「何で…何で…? 私…何で竜になっちゃったの…?」

 何故自分がこんな事になってしまったのか…キャロにはわけが分からなかった。明らかに医学の
常識を無視している。かといって変身魔法の類とも違う。ただ一つ分かるのはキャロが人間では無く
竜になってしまったと言う事実のみ。

 布団から出て…鏡を見てますます絶望に打ちひしがれるキャロ。鏡に映った自分の姿は、
美しい娘であったキャロの顔、体が完全に人間のそれでは無く、竜の姿になってしまった事を
改めて実感させ絶望させるに充分だった。

「このままじゃ私……体だけじゃなく…心まで竜になっちゃうかも……そんなの嫌だよ…。
エリオ君…エリオ君に会いたい……私が人の心を失う前に…せめて最後に一度だけ…エリオ君に会いたい!!」

 そう考えたキャロは思わず駆け出した。

「エリオ君! エリオ君! エリオく…ぐぎゃろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 キャロが玄関を飛び出した直後、彼女の背中からは翼が開き、その体そのものも巨大化していく。
そのサイズたるやヴォルテールの数倍と言う巨大な物であり…

「ギャァァァァァァロォォォォォォォォ!!」

 その口から発せられる物は人間の言語では無く、巨竜の咆哮。キャロは完全に…人ではなくなっていた…。

 そして巨竜と化したキャロは次元さえ超越し、ミッドへ向けて飛翔して行く。目的はエリオ。
エリオと再び会う事。

 間も無くしてキャロはミッド首都クラナガンに降り立つのだが…そんな所にヴォルテールの数倍の
サイズの巨竜が降り立てばパニックになる事は当然の事だった。

「うああああ!! 巨大なドラゴンだぁぁぁぁ!!」
「助けてぇぇぇぇぇ!!」

 突然の事態に人々は泣き叫び、散り散りになって逃げ出して行く。しかしそんな彼等に気付く事無く、
キャロはエリオを求めて歩き始めるのだ。

355これが災いだと言うのか… 3 ◆6BmcNJgox2:2009/09/02(水) 00:34:18 ID:KWoi0vKY
『エリオ君! エリオ君は何処!? 何処にいるの!?』

 キャロはエリオを求め、何度もエリオの名を呼び続ける。しかし、それも人間には
巨竜の咆哮にしか聞こえないのである。そして巨竜と化したキャロが歩くだけで道路のアスファルトは砕け
住宅は踏み潰され、ビルは破壊されて行く。

 その後もキャロはクラナガンの街を闊歩しエリオを探して行くったが…やがて時空管理局武装隊からの
攻撃を受けた。街の彼方此方に武装隊の戦闘魔導師達が展開し、キャロに攻撃魔法を撃ち込んで行くのである。
だがしかし、その桃色に輝く強固なウロコにはまるで通じず…あろう事か逆にその大きな口から発せられる
火炎によって街もろともに焼かれて行く。

 僅か数十分としない内にクラナガンの街は火の海と化した。そしてその火の海の中を何事も無かった
かの様に悠々と歩く巨竜と化したキャロの姿があるのみ。


 ああ何故この様な事になってしまったのだろう。まさに災い。これはもはや災いとしか呼ぶ他は無い。
そうだ。これこそが災いだったのだ。

 かつてキャロは災いをもたらすとされ、生まれ故郷であるアルザスを追われている。それに関して
強すぎる竜召喚の力を恐れられての事であると考えられていたのだが…実際はそうでは無かった。
よく考えても見て欲しい。キャロはアルザスにおいて大地の守護者と信仰の対象にさえなっている
真竜ヴォルテールを召喚する事の出来る巫女的な要素を持っている。この場合、キャロがただ単に
強い力を持っているだけで故郷を追われなければならないと言うのは矛盾が生じるだろう。
そう。キャロが故郷を追われた理由は決して強すぎる竜召喚の力による物では無かったのである。

 その実体。キャロが故郷を追われた理由…その真相…その答えは今のキャロの異形なる姿が物語っている。
何故キャロがあの様な姿になったのかは分からない。しかし、アルザスのル・ルシエの里の者達は
何らかの方法でキャロがいずれヴォルテールの数倍とも言える巨竜になる事を察知し、それを恐れて
キャロを故郷から追い出したのであろう。


 巨竜と化したキャロが火の海、瓦礫の山と化したクラナガンの街を闊歩し、エリオを探し回っていた頃、
時空管理局の本局ではその事件の対策に追われていた。

「ミッド地上クラナガンに巨大な竜が現れたなんて…今時怪獣映画じゃないんだぞ!」
「ミッド地上本部との通信繋がりません!」
「負傷者死傷者計測不能!」

 などなど、彼方此方で罵声のごとき人々の声が響き渡る。無理も無い。確かに次元世界には
巨大生物の類はいるが、大半は害獣駆除の範疇で現有戦力による対処が充分に可能である。
しかし巨竜と化したキャロの桃色のウロコはゴムの様なしなやかさと金属のごとき強固さを
併せ持ち、時空管理局の誇る多彩な魔法を弾き返してしまっていたのである。
そして火力もまたヴォルテールの数倍であり、本局といえども攻め難い物だった。

356これが災いだと言うのか… 4 ◆6BmcNJgox2:2009/09/02(水) 00:35:32 ID:KWoi0vKY
 この未曾有の異常事態に、軌道拘置所に収監されいたとある囚人が特例的に牢から出された。
彼の名はジェイル=スカリエッティ。

「管理局に手を貸すのは癪だが、我が都を壊されてしまうのは困るからな。君等がそこまで言うのなら
手を貸さない事も無い。」

 住めば都と言う言葉もあるが、何故かジェイルは軌道拘置所暮らしに愛着を持つ様になり
我が都とすら呼ぶ程にもなっていたのだが、そのお陰で力を貸してくれて良かった良かった。
と言う事で、早速彼はある物を作っていた。

「ほら。とりあえずあり合わせの材料で作ってみたぞ。」
「作ってみたって…野球のボールやん。」

 ジェイルが勝手に何かしない様にと言う監視も兼ねて彼と同行していた八神はやては
彼が作ったどう見ても野球のボールにしか見えない白いボール状の物体に呆れていたのだが…

「おっと慎重に扱いたまえ。一見ただのボールにしか見えないが、中身は超高性能爆薬が詰まっている。
起爆させてしまえばあっと言う間に本局ごとドカーンだぞ。」
「ば…爆薬!?」

 ジェイルの言った爆薬と言う言葉に皆は凍り付いた。無理も無い管理局はこの手の質量兵器の
使用は基本的に禁じているからだ。おまけにこのボール型爆弾は爆発すれば本局も吹き飛ばせる程の
爆発力があると言うのだからなおさらである。

「爆薬って…管理局は質量兵器の使用を禁止してるのは知っとるよね!?」
「今と言う状況でその様な事を言っている場合では無かろう? それとも他にあの竜を
倒す手段があると言うのかね?」
「くっ……………。」

 今と言う状況では質量兵器禁止もへったくれも無く、彼の言う通りにせざるを得ない。

「とは言え、これを持ってしてもあの竜の固い外皮を破る事は容易な事では無いだろうな。
とすれば方法は一つ。何とかしてこれをあの竜の口の中に放り込み、内側から爆破するのだ。」
「でも…それはかなりの危険が伴う…。」

 確かに彼の言うとおり、外部からの攻撃では通じない巨竜も内側からなら倒す事も出来るだろう。
しかし、実際にその爆弾を巨竜の口の中に放り込むのは容易な事では無い。それ以前に近寄る事も
ままならずその火炎に焼かれてしまう可能性も高い。

357これが災いだと言うのか… 5 ◆6BmcNJgox2:2009/09/02(水) 00:36:30 ID:KWoi0vKY
 その結果考え出された作戦はこうだ。四方八方から巨竜に対し攻撃魔法の雨アラレを撃ち込み、
巨竜がどちらに対処すれば良いか困惑している隙にジェイルの作ったボール型爆弾を巨竜の
口の中に投げ込み内側から爆破する。この様な作戦で果たして本当に上手く行くのかは分からないが
今この瞬間にも巨竜による被害は増え続けている。よって一刻も早く何とかしなければならない。

 作戦は早速決行され、巨竜の闊歩する瓦礫の山と化したかつてクラナガンの街であった場所の彼方此方に
武装隊魔導師が展開した。巨竜の注意を引き、ボール型爆弾を巨竜の口の中へ投げ込む為の決死隊が
接近しやすくする為である。そして……その彼方此方に展開する武装隊魔導師の中にはエリオの姿もあった。

「まさかこんな事になってしまうなんて…。でも僕は必ず生きて帰るぞ。キャロが待っているんだ!」

 ヴォルテールの数倍の体躯と火力を誇る巨竜と相対するのはエリオと言えども怖気づかずには
いられなかったが、家で帰りを待つ妻キャロの事を思い出す事で勇気を奮い立たせた。

「砲撃はじめぇぇぇ!!」
「今の内に突撃だ!」

 砲撃が始まった。武装隊の各魔導師達が陸と空、四方八方から巨竜へ攻撃魔法を撃ち込み
多種多様な攻撃魔法の雨アラレが巨竜の巨体を包み込んで行き、その隙にボール型爆弾を
抱えた決死隊が巨竜へ接近して行く。

『痛い! 痛いよ! エリオ君助けて!』

 流石にこれは痛かったのか、キャロはエリオに助けを求めた。しかし、エリオを含め
人間にはその叫びも巨竜の咆哮にしか聞こえ無かったのである。

『エリオ君! エリオくぅぅぅぅぅ!!』
「いかん! 回避ー!」

 人間には巨竜の咆哮にしか聞こえないキャロの泣き叫ぶ声と共に火炎が放たれた。
それが決死隊のいる方向へ向けられており、決死隊は回避行動を取っていたのだが
完全には間に合ったとは言えなかった。

「あ! 決死隊が!」

 全滅では無い。確かに全滅では無い。しかし、全員が動けないも同然の状態であり
なおかつ回避行動時の拍子にボール型爆弾が地面へ落ち転がっていたのだ。

「くっ! こうなったら!」

 偶然現場の一番近くにいたエリオがそのボール型爆弾を拾い抱え巨竜へ向けて突撃した。
決死隊がやられてしまった以上もう自分がやるしか無い。

358これが災いだと言うのか… 6 ◆6BmcNJgox2:2009/09/02(水) 00:38:02 ID:KWoi0vKY
「うあああああ!! キャロ! 僕を守ってくれぇぇぇぇぇ!!」
『あ! エリオ君! エリオくぅぅぅぅん!』

 キャロは自分に向けて駆け寄ってくるエリオの存在に気付いた。それはそれは喜んだであろう。
何しろずっと探していたエリオが自分から駆け寄って来ていたのだから。キャロは
嬉しさの余り同じ様にエリオへ向けて駆け寄っていたのだが……………

「今だ! 今しかない! 頼む! 口の中に入ってくれぇぇぇぇ!!
僕はまだ死ぬわけには行かないんだ! キャロを残して死んでたまるかぁぁぁぁ!!」

 エリオはストラーダの先端にボール爆弾を装着し、そこから魔法を推力にして
97管理外世界の兵器で言う所のパンツァーファーストの様な形でぶっ放した。
そして……ボール型爆弾は巨竜の口の中に入り込み…その喉の奥へと吸い込まれて行き…

 次の瞬間………巨竜の体は木っ端微塵。文字通り木っ端微塵に砕け散った。
特撮ヒーロー番組でヒーローの必殺技を受けた怪獣が粉々になるシーンを思い浮かべると
分かり易いのかもしれない。それくらい綺麗な吹き飛び方だったのである。
流石の頑強な外皮を持つ巨竜も内側からの大爆発には一溜まりも無かった。

「やった! やったぞ! キャロ! 僕は生き残った! 僕は生き残ったぞー!」


 やられてしまった決死隊に代わって巨竜の口の中へ爆弾を撃ちこんだエリオは忽ち英雄となった。
勲章のみならず、特別有給休暇さえ与えられたのだ。

「あの時はもう何もかも無我夢中でやってた事だけど…僕は凄い事をしたんだな〜。
いずれにしてもこの特別有給休暇があればキャロと一緒に新婚旅行へ出かける事が出来るぞ。」

 こうしてエリオは悠々と家に帰って来たのだが、家の中にキャロの姿は無かった。

「なるほど。キャロはどこか出かけているんだな。ならここで待っていよう。
帰ってきたら驚くぞ〜。何ってったって特別有給休暇だもんな。キャロとの新婚旅行は
何処へ行こう…。」


 エリオはキャロの帰りを待つ事にしたのだが…キャロが帰って来る事は無かった。
何故ならば…キャロはエリオが殺したのだから。その事を知る者は…死したキャロを除き…誰もいない。

                     END

359全てを台無しにするおまけ ◆6BmcNJgox2:2009/09/02(水) 00:39:06 ID:KWoi0vKY
        IFストーリー『もしもこれがユノキャロSSだったら』

 突如として巨大な竜に姿を変えてしまったキャロは口から火炎を吐いてクラナガンの街を破壊して行くぞー。
しかしそこへ現れる一人の男の姿がー。

「キャロー! 君が体だけじゃなく心まで竜になってしまったと言うのなら…僕も人間をやめるぞー!」

 巨竜と化したキャロに向かって走る男・ユーノが翠色の光を放った瞬間、彼は巨大なフェレットに姿を変えた。

「キューキュー!」
「ギャロォォォォ!」

 巨竜と巨フェレの怪獣大決戦だ。

「巨大なフェレットがドラゴンに向かって行く。一体どうなるのでしょう?」
「さあ? 勝った方が私達の敵になるだけや。」

 巨竜と巨フェレの対決を時空管理局はただ見守る事しか出来ない。人間とは何と無力な存在なのだろうか…

「キューキュー!」
「ギャロォォォ!!」

 長きに渡る死闘の結果、巨竜と巨フェレは共に高い絶壁から海へと転落し行方不明となった。
あれだけの生命力を誇った巨竜と巨フェレが海に落ちただけで死ぬはずは無いと時空管理局は
捜索を始めたが、懸命の捜索にも関わらず巨竜と巨フェレは忽然と姿を消した。

 それから時が流れ、巨竜と巨フェレに破壊された都市の復興の兆しが見え始めていた頃、
今度は何と時空怪獣なる巨大生物が襲来しまた破壊を始めてしまったのだー。

 時空管理局が立ち向かうが時空怪獣は強力で歯が立たない。するとその時だ。

「キューキュー!」
「ギャロォォォ!」

 そこに現れたのは何と行方不明になっていた巨フェレと巨竜。そう。この二体は死んではいなかった。
あの後なんか色々あって何処かの島で暮らしていたんだそうな。それはともかくとして、時空怪獣だけでも
厄介なのにこの二体にまで暴れられたらもう大変と誰もが絶望するが、何と二体は時空怪獣に立ち向かって
行ったでは無いか。

「キューキュー!」
「ギャロォォォ!」

 この後、巨フェレと巨竜は次々と襲来する時空怪獣からミッドを守る正義の怪獣へ変貌して行くのだが…
それはまた別のお話って言うか昭和のゴジラじゃねーんだから。

                        おしまい

360 ◆6BmcNJgox2:2009/09/02(水) 00:40:56 ID:KWoi0vKY
キャロが竜に変貌して、誰にもキャロだと気付かれる事無く駆除されると言う鬱展開は
かなり前から考えていたネタなんですが…最後の全てを台無しにするおまけが
せめてもの口直しになる事を祈ってます。

361名無しさん@魔法少女:2009/09/02(水) 01:42:16 ID:y7AsKGPE
乙!
最後昭和のゴジラwww

キャロが死んで竜から人間にもどるという王道かとおもったけど、こういう行方不明エンドもこれはこれでいいですね。

362名無しさん@魔法少女:2009/09/02(水) 22:49:07 ID:R.e/7q3s
GJ!!です。
こんな設定は思いつかないw
楽しかったです。

363名無しさん@魔法少女:2009/09/03(木) 21:21:25 ID:n6ysFqtw
まぁ、辺境地方の部族ってことなら
異種交配やら近親ないあいあインスマウスしてたりもしそうだよね

364名無しさん@魔法少女:2009/09/03(木) 23:09:25 ID:7UqDV.2o
凄いSSだwww 乙ですw

365名無しさん@魔法少女:2009/09/04(金) 02:54:13 ID:y23nXx26
ちょwwwこれはww
しかし、ちょうど初代ウルトラマン見ながら見てたから、すごい物哀しさが出た
ジャミラ…


GJ

366名無しさん@魔法少女:2009/09/04(金) 23:13:50 ID:.6lIvgII
そろそろストラディさんの新作来ないだろうか……

ヴァイシグ見てぇ

367名無しさん@魔法少女:2009/09/05(土) 15:37:01 ID:lNU1Iw6Q
そろそろ以前に読んだヴァイス×セッテの続きが読みたい

368名無しさん@魔法少女:2009/09/05(土) 18:11:32 ID:zAcx.OY6
>ヴァイス×セッテ
ちょww あれの続きってwww
あれは続けられないんじゃないのか?ww

そもそも、どう見てもフラグが立てられるような相手じゃなかったぞ、あのセッテはww

369名無しさん@魔法少女:2009/09/05(土) 18:17:37 ID:/WXtgWlw
ヴァイスメインなら、久々にトラブルメーカー的なヴァイスが見たいな。
エリオに悪い遊びを教えたりとか。

370名無しさん@魔法少女:2009/09/05(土) 18:21:57 ID:zAcx.OY6
>遊び

いけない一人遊びか

371名無しさん@魔法少女:2009/09/05(土) 19:45:38 ID:Oj6i1Q.o
んー、なんかなあ
…が多すぎないか?それに文章が単調に思える
野球のボールそのままの爆弾とかふざけ過ぎてて萎えるしスカが協力する理由もいい加減すぎだろ
展開も速すぎてついてけないし場面と場面の間も急で余韻に浸ることもできない
おまけも完全に蛇足だろ、ギャグのつもりなんだろうけど寒いだけ
俺は新参だけど保管庫の作品のクオリティより明らかに劣ってるぞ、これをマンセーしてる奴はちょっとは考えろよ…
管理人さんへ
これは俺が持った感想なんだけど不適切ならこのレスは削除してください

372名無しさん@魔法少女:2009/09/05(土) 20:02:23 ID:sraUviL6
いちいち管理人の手を煩わせるようなレスするなよ。知障。

373名無しさん@魔法少女:2009/09/05(土) 20:18:08 ID:dQyis2Pg
言いたい放題言って邪魔なら消せとか自分勝手も甚だしいだろ
どんな文章だろうが見る側がマンセーしてるならそれでいいじゃん
本当に詰まらん文章ならそもそもレスすら付かんよ
つーかSSなんて基本素人が作るもんなんだからしょうがないだろ

文句言う位なら自分で面白いと胸張れる作品投下しろ
それを出来もしないのに他人を非難とか何様のつもりだよ

374名無しさん@魔法少女:2009/09/05(土) 20:20:16 ID:SstPlhOI
>>373
流石に最後の理屈は無茶だと思うが

375名無しさん@魔法少女:2009/09/05(土) 20:38:18 ID:EwwomINg
まあまあ、このスレですら、この手の奴が、削除しても良いですよと捨て台詞して書き込むんだから
エロパロに戻ったら、やりたい放題されるだろうね。

376名無しさん@魔法少女:2009/09/05(土) 20:41:04 ID:dQyis2Pg
>>374
そうか?
文章自体は規約に違反してるわけでも無し、詰まらなかったらスルーすればいいだけなのに
わざわざ他の保管庫引き合いに出して頼んでもいないのに勝手に批評するわ
挙句に読み手にまで「もうちょっと考えろ」とか何様のつもりだよと

そこまで偉そうなこというなら自分でお手本になるようなのを書いて欲しいと思う
口だけなら誰だって言えるわけだからな

377名無しさん@魔法少女:2009/09/05(土) 20:48:02 ID:SstPlhOI
>>376
過剰反応だと思うけど

378名無しさん@魔法少女:2009/09/05(土) 21:31:28 ID:/WXtgWlw
ここは久々にエロい話をしよう。
ノーヴェのBJはナンバーズ服よりエロいと思うんだ。

379名無しさん@魔法少女:2009/09/05(土) 21:43:53 ID:zAcx.OY6
主に股のところですね? 分かります


あれは誰がデザインしたんだろうか……まさか本人!?ww

380名無しさん@魔法少女:2009/09/05(土) 22:01:05 ID:N2tZTf.s
>>374
>文句言う位なら自分で面白いと胸張れる作品投下しろ
>それを出来もしないのに他人を非難とか何様のつもりだよ

これはさすがにムチャ言い過ぎ。信者が罵倒するときに
よく使ってるけど、書けなきゃ批評できないんじゃ自分らも
当てはまるがな

それこそお前さんがスルーすべき。熱くなっても通じない
からなぁ

381名無しさん@魔法少女:2009/09/05(土) 22:03:08 ID:N2tZTf.s
ミスたw >>380のは>>373宛な

382名無しさん@魔法少女:2009/09/05(土) 22:19:58 ID:Fbis9owc
興味ないならスルー。これでおkかと。
わざわざつまらんと思う作者・作品を読んでレスする必要もねーし。
何のための鳥や事前注意事項かと。

383名無しさん@魔法少女:2009/09/05(土) 22:39:47 ID:JZrCtco6
昔、俺の好きな書き手さんがボコボコにされていたが
あのとき擁護は入らなかった

384名無しさん@魔法少女:2009/09/05(土) 22:58:12 ID:lNU1Iw6Q
>>368
えーそれでも続きが読んでみたいのです
あとヴァイスとルーテシアのクリスマスの話の続編もね

385名無しさん@魔法少女:2009/09/05(土) 23:10:33 ID:zAcx.OY6
>ヴァイスとルーテシア
ああ、アルカディア氏のあれか
あれは良かったなぁ……凄いほのぼのしてて、面白かった

386名無しさん@魔法少女:2009/09/05(土) 23:17:47 ID:/WXtgWlw
ほのぼのしてて切なくて笑えて。
あれ1個に色んなエッセンスが詰まっていたな。

38744-256:2009/09/05(土) 23:21:30 ID:N3S0cn5M
すみません。purple holy nithtで盛り上がっているところ申し訳ない
ですが、投下してもいいでしょうか?

388名無しさん@魔法少女:2009/09/05(土) 23:23:29 ID:k0JCHVfg
オーケー来い

38944-256:2009/09/05(土) 23:24:48 ID:N3S0cn5M
それでは投下します。
・非エロです。
・時系列は3期6話〜7話のあいだです。
・登場人物2名はオリキャラの非魔導師です。
・前編、後編に分けます。

・後編で3期の登場人物が出てきます。

390ナイトクルーズ前編1/9:2009/09/05(土) 23:26:14 ID:N3S0cn5M
『30ヤード・・・20ヤード・・・YEAH!!エルセア・レイカーズ112点目です!どうしたアルトセイム・クライマーズ!?
相次ぐミスプレーに歯止めがかかりませ・・・(ブツッ!)』

「くそ〜・・・」



運転席の20代前半の青年はいらだちながら実況や声援の入り乱れた車のラジオを切った。

外は雨。ラジオを切った途端、車の中は天上を打つ雨音と時折ワイパーがフロントガラスをぬぐう音だけに包まれる。



「・・・だから出る前に言ったろ?故郷のホームチームとはいえ、落ち目のクライマーズはやめとけって」
助手席に座っていた50代後半くらいの黒人の男は、笑いながら年季の入った薄青色の制帽のホコリをはらった。


「俺たちレッドネッキー(南部野郎)は追い詰められてから本気を出すんスよ!!明日こそは・・・」
運転席の青年は反論を続けようとしたが、それを制するように無線連絡が入った。



『(ガガ・・・)巡回中の各車。定時連絡をお願いします』



黒人の男性は無骨な手でやれやれ・・・と面倒臭そうにハンドマイクを持ち上げて応答する。
「こちらサードアベニュー10。廃棄都市区画沿いの5号線を北部12地区へ移動中。異常なし」



『了解しました・・・あれ?2人とも、今月は昼勤務じゃなかったかしら?』
通信先のオペレーターの若い女性に運転席の若い男性はこたえる。


よくぞ聞いてくれましたとばかりに若い警ら隊員は話す。
「ボスに9月にある地上本部の公聴会で3日間マスコミのバン記者と質量兵器禁止の市民団体のデモ警備につくか、6月まで2週間
夜勤するか決めろっていわれたんスよ。んでこっちを選んだんス」

『あなたは?』
助手席の黒人の男性にもたずねた。

391ナイトクルーズ前編2/9:2009/09/05(土) 23:26:53 ID:N3S0cn5M
黒人の初老の男性は言った。


「・・・午前中に、ロストロギアを違法に収集していた機械兵器たちを首都防空隊の空戦魔導師と合同捜査で押えてな。その報告
で地上本部に出頭してたら、思った以上に長びいちまったもんで、夜番の人間に変わってもらった穴埋めだ」



「ええ!?マジっスか!?首都防空隊にコネがあるなんてすごいじゃないですか!」
『・・・・・』


運転していた若い男性は羨望のまなざしを向ける。対してオペレーターは何ともいえないといった感じで黙ってしまった。
その微妙な空気を楽しむように、初老の男性は笑って送信機の相手と若者に釈明する。



「冗談だ。半年前、ステーションで『妹を魔法学院にやりたいんだよ!!』とかほざいて、慣れない手つきでクラック切り刻んで
売ってたヴァイゼン(第3管理指定世界)のクソガキをやっと捕まえてよ。あいつの仮釈証人と、ガキもできる仕事の世話を
ジャン・シャルティエにお願いしてな・・・それで夜番の人間に通常業務を代わってもらった穴埋めってわけだ」


「それってオールド・コルス・ハスラーズのジャン!?」


「さあな?そんなすぐにでも軌道拘置所にブチこまれるコルス組織は知らねえな。俺はクラナガン清掃業協会の筆頭理事で地上本部
のお偉いさんとも“仲良し”の“善良”な高額納税者のジャン・シャルティエ会長のことを言ったつもりだけどな」



「・・・・・・・・」
「まっ、俺らと追っかけっこする体力あるなら、もっと別のところで活かしてこいってことだ」


○ロストロギアを狙う強力な機械兵器⇔ストリートチルドレンにヴァイゼン・コルスが牛仕るゴミ収集清掃員の仕事の世話をする。
○地上本部高官への報告⇔下級裁判の保釈申請


ダイナミックとはとてもいえない、そのギャップに今度は青年が閉口した。

392ナイトクルーズ前編3/9:2009/09/05(土) 23:27:38 ID:N3S0cn5M
オペレーターの女性は微笑んだ。


『“警らの聖王様”も相変わらずね』
「何言ってやがる。こんなジジイと比べられると、教会の司祭さんや尼さん達に失礼すぎるだろ」


黒人の初老の男は自分のメタボリックの腹をポンポンたたいて自嘲気味に笑う。


「俺はただ、クラン(ミッドチルダ中央区画の略称)でクラックさばくルールやディーラー同士のナワバリをよく知らない
リトル・ジョン(身元不明の少年の遺体)を毎回、港湾地区のダストシュートで発見するのが面倒くさいだけだ」


『そんな事言って・・・ホントご苦労様。それと運転席で苦い顔してる坊やに言っといてね。今夜のレイカーズ戦は私の勝ちよって』


「・・・だとよ」
“坊や”呼ばわりされた青年は何ともいえない顔から一気に苦い顔になった。




クラナガン北部の臨海第8空港跡、廃棄都市区画とそれらを囲む臨海地区、レールウェイ・ステーションを中心としたオフィス街。
その一角を管轄するサード・アベニュー警ら隊。



初夏の5月。

しかし夕方からの時雨により、満月と雨雲が交互に流れる変な天気という点をのぞいて
アーノルド・ベイカー警ら隊員とサルバトーレ・ルッソ警ら隊員の2名が乗車する10号パトロール車はいつもと変わらず
普段通りの行程でナイトクルーズ(夜間巡回)に出かけた。



「魔法少女リリカルなのはStrikerS  sub story〜ナイト・クルーズ〜」

393ナイトクルーズ前編4/9:2009/09/05(土) 23:28:29 ID:N3S0cn5M
運転席の若い警ら隊員は、さっきの試合をすぐに忘れたいのか、気分転換をしようと別の話題に切り替えた。


「この廃墟。4年もこのままっスけど、いつかぶっ壊して再開発したりしないんスかね?」



「そうさな・・・地上本部の意向で、陸戦魔導師のランク試験会場になっちまってるからな」
「空間シミュレータ使って訓練してるところもあるんだから、試験もそっちでやりゃいいのに・・・」


空港の大火災で放置されたススだらけのビル。それを横目でみながら初老の警ら隊員は言った。


「シュミレータをプログラムしたり、赤字で採算取れない再開発の計画組むより、こっちの方が安上がりなんだろう」


「『ここは魔法やビルを飛び回る陸戦魔導師たちが出入りして危険だ』ってミッド語があまり通じない不法居住者
を説得するこっちの身にもなってくれってもんですよね」



火災で完膚なきまでに破壊された第8空港周辺はともかく、ビルの下は地下水路や水道が通っており電気以外のライフライン
が来ているところもあった。


治安がグリーンゾーンの職と金にありつける中央区画のすぐ隣、放逐されたとはいえ、密航するにはうってつけのまだ使える
滑走路や埠頭。


そんな立地条件の良い無料物件を求めてやってくるホームレス、発展途上次元世界の移民、ワケあり人間への立ち退きや説得や
バリケードの封鎖。


そういった雑務は全て警ら隊がやっていた。

394ナイトクルーズ前編5/9:2009/09/05(土) 23:29:24 ID:N3S0cn5M
結界魔法システムを張るという手もあったが、魔法使用制限の高く、魔力感知センサーが中央区画のいたるところに設置してある
中央区画ではそのようなビル街を丸ごと包むような魔法は行使できない。


ゆえにランク試験や戦技教導の際に、生命反応を感知したら、即座に警らが対応するのが常であった。


ホームレスや低所得者の中でもなれた人間は試験の行われるときだけ外に逃げて、試験が終わると同時に住処に戻るという手を
使っているようだが。




青空のもとで、地上本部の陸戦魔導師達が廃棄都市区画を縦横無尽に走り、華麗に魔法を放つ。


青空のうえで、上空から地上本部のキャリア局員や本局の執務官が最新型のヘリコプターに乗りこんで、前途有望な魔導師達
の査定をする。


そして青空すらおがめない汚い高架道路跡のアンダーパスでは、警棒を携え、バリケードを持った警ら隊員が地味な仕事をしていた。



初老の警ら隊員は、自嘲気味に笑って言った。


「まあ、オルセアみたいに、年がら年中ドンパチやってる次元世界から移民してきたヤツらにとっちゃ、歩道橋が槍の一閃で
ナマス切りされたり、小さいハンドガンタイプの魔力弾一発でトレーラーが大爆発したり、パンチ一発でビルが倒壊されたり
するところ見ても大したこと無いんだろうよ」


助手席の窓から見える廃棄都市区画の3オン3コートにいた黒人の若者らが車の2人に気づいて親指を下に向けた。
「Fuck you,Five-O.(クソったれ警らども!!)」というサインだ。

この前の魔導師試験でストリートボールを中断させられたことを根に持っているらしい。


インテリジェントデバイスやアームドデバイスで強力な武装をしている陸士部隊の魔導師と違い、警ら隊員の装備は9mmの実弾型
デバイスと実弾型デバイス用の防弾チョッキ、強力な質量兵器はトランクに積んでるショットガンくらいだ。


よって、廃棄都市区画の中でも治安がすこぶる悪いコンプトンハイツ地区やイーストリバー地区ではまっ昼間から警ら隊員を狙った
襲撃事件が少なくなかった。

395ナイトクルーズ前編6/9:2009/09/05(土) 23:31:30 ID:N3S0cn5M
車は廃棄都市区画沿いの道を左折し、再び中央区画に程近いオフィス街へ入った。
すると、目の前で青信号だというのに停車して、タクシーの運転手が若い女性二人に声をかけている。


「なあ、美人の管理局員さん特典ってことで地上本部までの料金は半分でいいから、乗ってくれって。この雨の中じゃ大変だろ?」


2人の女性のうち、地上本部の整備士のツナギをきた栗色の髪の女性は“べー”っと舌をだした。
「あんたみたいに無精ひげ生やしたヤニ臭い車なんか乗れないっての!」


「そんな事言わずにさ、そっちの金髪の姉ちゃんはどうよ?」
「えっ!?」
栗色の髪の女性は強気だが、控えめにしていた金髪の黒い制服の女性は突然のことに戸惑っているようだった。



それを見ていた警ら隊員の2人は“ウ〜、キュッキュッ”というサイレンを2回軽く鳴らしで注意をひきつけた。

「セルゲイ。白タクから足洗わせたら、今度はナンパか?そんな事してカミさんまた愛想つかされないのか?」
「け、警らの旦那!」



「なかなかの勇気だと思うぜ。お前さんにはただの管理局員に見えるだろうが、俺にはお二人、特に黒い制服の人は本局の執務官様に
見えるんだがな」

「「し、執務官!?」」
タクシー運転手と若い警ら隊員は驚いた。


オーバーAランク以上の超一線級のエリート魔導師。大都市すら破壊する魔力。以前『次元犯罪24時』で紹介してされてたの
を思い出した。しかし、若い女性は見たところまだ10代くらいだ。



「あんましつこいと、俺が道交法違反と追随罪でキップ切るより早く、サンダーフォールでイエローキャブごと消し炭にされちまうぞ」
「し、失礼しましたぁ!!」


タクシーは全速力で消えた。女性は敬礼をして礼を言った。
「ふぅ〜、助かりました。遺失管理部機動6課のアルト・クラエッタ一等陸士です」
「同じく本局から機動6課に出向していますフェイト・ハラオウン執務官です。ありがとうございました」


若い警ら隊員は緊張でガチガチであった。
下級警ら隊員にとって本局の人間はまさに話しかけられないくらい遥か雲の上の人物だからだ。
それに対して黒人の初老の警ら隊員は、40以上も歳が離れている若い執務官にしっかり敬礼を返した。
「いえ、本官は職務を行ったにすぎませんから、気にせんでください。よろしければ隊舎までお送りしますが」


執務官相手に物怖じせずに話す。下級警ら隊員にしては珍しい。


それに対してツナギを来た整備員の女性は手を振って断った。
「いやいや、大丈夫です」
「ええ、地上本部の屋上にヘリを待たせてますから」


「そうですか。わかりました。それでは本官はこれで失礼します」
そう言って2人の警ら隊員は車に乗り込んだ。


「『屋上にヘリを待たせてますから・・・』さすが本局の執務官、さらりと言うところがすげーな」
若い警ら隊員は感心して口笛を吹いた。

396ナイトクルーズ前編7/9:2009/09/05(土) 23:32:15 ID:N3S0cn5M
執務官の女性2人がたちさってから、若い警ら隊員は嘆息する。

「最初は『ミッドチルダの首都を防衛し、市民の平和と安全を守る!!』って熱い思いを胸にこの仕事選んだはずなんスけどね〜。
結局はこんな事ばっかの毎日ですもんね」


初老の警ら隊員はバックミラー越しに移る巨大な尖塔。


予算を余すところ無く、ありったけつぎこんだんじゃないかと思われるおかげで、雨露とサーチライトの反射によってよりいっそう
きらびやかに輝く、管理局ミッドチルダ地上本部の中央議事センターを一瞥する。


特別警戒で応援を求められない限り、自分達みたいな下級警ら隊員は行く事すらできない場所である。


「だったら、こんなD's(安月給の公務員=警ら隊員の蔑称)やめてさっきのカワイイ姉ちゃん方のいる地上本部とかに行けばいいだろ。
お前さんの年齢ならヤード(訓練校)の入学試験もギリギリ受けれる年齢じゃないのか?あそこなら首都防衛とかテロ対策とか
高ランクのロストロギアの保守管理とか事件らしい事件扱ってて、給料も倍違うだろ」



管理局地上本部は演習や訓練、大規模災害の防止やテロ等の大規模な犯罪や戦闘、ロストロギア管理というまさに『事件らしい事件』
を管轄している。



地上本部の首都防衛部門の職員や治安を預かるものにとっては花形、まさにエリート集団だ。



対して、表通りでのパチ物ロストロギア・海賊版ビデオの売買の取り締まり、交通整理、バーでのケンカ、パーキングメーター
を壊す窃盗犯とのイタチごっこ。レールウェイでのスリ、芸術家気取りでパークロードのアイスクリーム屋にタギングをする
ギャングの対処など軽犯罪に関わる事案は全て警ら隊の範ちゅうで対応していた。


更に犯罪率の高いミッドチルダでは、そんな軽犯罪の発生件数がべらぼうに多い。


「そんな仕官学校や陸士訓練校行けるほどリンカーコアも無いっスよ、だからといってヤッピーやキャリア試験通る程の脳ミソも
ないし。警らなんて割に合わない職業ですけどね」
「そうか・・・確かにな・・・」


そう。割に合わないはずなのに、クラナガンで40年以上もこんな警らの仕事を続けているんだよな・・・
黒人の初老の警ら隊員はそう思った。

397ナイトクルーズ前編8/9:2009/09/05(土) 23:33:05 ID:N3S0cn5M
雨足は一向に弱まる気配が無い。


車は中央市街の通りを右折してまた廃棄都市区画沿いに向かって走った。


「んっ?」
初老の警ら隊員はそう言うと、すぐ横廃棄都市区画の路地裏で何かが人影が動いたのに気づいた。

「ちょっと車を止めろ」
「どうしたんスか?」


「向こうの路地で人影が見えた」
「ネズミじゃないですか?最近温かくなってきたから、地下水路から引っ越して来たとか・・・」


「一応、確認するぞ」
そう言って、白髪混じりの頭に制帽をかぶりなおす。


「こんな雨の日は外に出たくないんスけど・・・」
若い警ら隊員は嘆息しながら車を止めた。


2人の警ら隊員は車から降りてレインコートを着た。
そして腰のホルスターから9mmオートマチックの実弾型デバイスを抜いて安全装置を外す。


そして警棒を兼ねた懐中電灯で廃棄都市区画の路地の奥を照らした。


「確認したんですけど、不審な反応はないみたいっスよ」
センサーをあやつる若い警ら隊員の言葉を聞くと、うなずいて大きな声で路地にむかって叫んだ。


「おい、誰だ?このエリアは立ち入り禁止だぞ!」
「チェ、キエン・エス?クイー・ノン・デーベ・エントラーラ! (おい!誰かいるのか?ここは立ち入り禁止だ!)」


この通りの付近はパチューコ系(主に第349管理指定世界エルパソからミッドチルダへ移民してきた低所得者層)住民が
コミュニティーを形成している区域なので、若い警ら隊員はパチューコ語で呼びかけた。


しかし2人の声は雨の中、暗い路地の奥へと吸い込まれていった。

398ナイトクルーズ前編9/9:2009/09/05(土) 23:34:10 ID:N3S0cn5M
警ら隊員はお互いに顔を見合わせて、おそるおそる奥へ進んでいく。すると不意に懐中電灯の先に影が突如として現れた。
そのくらい相手は気配を感じさせなかったのだ。


2人は驚いて身構えた。


すると今まで降っていた雨が突如としてあがり、2つの月に照らされた路地は懐中電灯がなくともすぐに相手の姿を映し出す。


路地の奥にいた人物。それは8,9歳くらいの少女であった。
雨の中、カサもさしておらず、まとったローブから雨露がこぼれる。


ローブの下から黒か紫色のドレスがのぞいている。
うつむいているため少女の顔はよく見えないが、正面から肩くらいまで伸びる長く豊かな紫色の髪が見えた。



2人は相手を確認するなりすぐに緊張を解いた。
ローブという変わった格好であったが、まだ小さい子供であった。


先週フィフス・アベニュー警ら隊のウォンが裏通りにあるリトル・クーロンの買収宿を摘発したときに、わずかな金で用心棒に
雇われた子供が、デバイスを発砲して瀕死の重症を負ったばかりだったが、相手はまったくそんな「廃棄都市区画の子供」とは
全くといっていいほど雰囲気が違う。



危険な雰囲気を全くただよわせていない。むしろ静かな、今ここにいる存在すら消えてしまいそうな虚無的な感じだ。

初老の警ら隊員はホっとして、実弾型デバイスを腰のホルスターにおさめると、相手の顔を確認しようと少女の目線までしゃがみ
こんで優しく話しかけた。




「お嬢ちゃん、こんなところでどうしたんだい?」
「・・・・」




少女はこたえなかった。夜風の中、冷たく光る月明かりの中で沈黙だけが流れる。


初老の警ら隊員が確かめたローブの下に隠れた顔立ち、そこにはぱっちりとした眼、整った顔立ちがローブから少し見える。


その表情に全く変化がない。
赤みを帯びた、光さえも吸い込んでいきそうなその黒い眼でじっと初老の警ら隊員の方をみつめていた。


そしてローブに隠していた右手を静かに、目の前でしゃがんでいる初老の警ら隊員の顔面に突き出した。


「!?」
「・・・」


黒人の初老の警ら隊員の顔の前で、少女の右手が一瞬、黒く光輝いた気がした。

39944-256:2009/09/05(土) 23:35:52 ID:N3S0cn5M
以上です。

後編は明日、もしくは明後日に投下予定です。


引き続き、ルー×ヴァイス兄貴の話をどうぞ。
それでは失礼しました。

400名無しさん@魔法少女:2009/09/06(日) 01:17:33 ID:6eSD4KdE
返って話題にしにくいです

401名無しさん@魔法少女:2009/09/06(日) 08:57:29 ID:G6mrWloA
そこまで漢な投下されて、どうやって元の話題に戻れと?w

次の投下お待ちしております。

402名無しさん@魔法少女:2009/09/06(日) 11:14:14 ID:0Rv7cTUo
渋すぎるだろ……
だがもう大好きです、こういう雰囲気。
続き待ってます。

403名無しさん@魔法少女:2009/09/06(日) 17:08:00 ID:iL3UvDFA
いつかの運び屋の話書いた人?
死体袋二つの前でフェイト辺りが知った口、とかになりそう

404名無しさん@魔法少女:2009/09/06(日) 17:14:23 ID:rwyqegCI
投下乙っすー
毎度リリなのとは思えない硬派な話、GJですww


ところで、ヴァイス×ルーテシアなんだが。
あれはむしろ、カプ的にはヴァイス×メガーヌの可能性も捨て難いんじゃあるまいか?

405名無しさん@魔法少女:2009/09/07(月) 01:37:56 ID:7/Mec3IE
そういや3期男性陣サブキャラでロッサだけ主役のSSがない気がするな。
ラッドでさえあるというのに……

406名無しさん@魔法少女:2009/09/07(月) 01:47:08 ID:qstfwWlU
裏で汚い仕事をロッサはしてそうですよね。
犬を使い、敵を食い殺して、残った血痕は炎熱魔法で消して証拠をなくすとか。

408名無しさん@魔法少女:2009/09/07(月) 20:44:39 ID:3t7OZNeM
今日あたり続編投下してくれるかな?

409名無しさん@魔法少女:2009/09/07(月) 22:31:38 ID:RmX6CU/.
>>408
>>399
催促は止めておこうや。正座して待つ分には構わないのだが

410名無しさん@魔法少女:2009/09/07(月) 22:36:52 ID:3t7OZNeM
>>409
ああすまない
そんなつもりはなかったんだ

41144-256:2009/09/08(火) 00:18:22 ID:2z1qXFXk
・非エロです。

・時系列は3期6話〜7話の話です。

・登場人物2名はオリキャラの非魔導師です。

・前編、後編に分けます。

・後編で3期の登場人物が出てきます。

41244-256:2009/09/08(火) 00:19:20 ID:2z1qXFXk
すみません。投下します。

413ナイトクルーズ後編1/14:2009/09/08(火) 00:21:04 ID:2z1qXFXk
「ゴホっ!!」
「!!」

2人の警ら隊員と今、まさに2人を「消滅」させようとしていた少女は後ろの声に気づき路地の奥を見る。
そして衝撃魔法の発動をキャンセルした。


少女がローブの下に隠していた右手から魔力光が消えた。


奥には30〜40代くらいの男性が、壁に寄りかかってへたり込んでいるのが見えた。
少女と同じようにローブをまとっていたが、少女以上に黒く汚れている。


さらに男のローブの下には無骨なアーマーが見えた。自分達が身に着けている防弾チョッキではない。
まぎれもなく騎士甲冑である、


しかも、その騎士はどこか具合が悪いのか吐血しているようだ。
負傷している騎士、ただ事ではない。



「おい、大丈夫か?あんた!!」
2人の警ら隊員は、男にかけよりたずねた。


「れ・・・連絡しましょう!」


若い警ら隊員はあわてて、通信端末を起動させた。
「こ、こちらサードアベニュー10!!」



『サードアベニュー10、どうしましたか?』
先ほどの若い女性のオペレーターの声が聞こえてくる。


「廃棄都市区画E37通路で“コード58・・・”」
若い警ら隊員の言葉をさえぎり、それを初老の警ら隊員が送信機を握って代わりに話す。


「おお、“コード587(路上ストリップ)”があったから、付近の陸戦魔導師の応援がどうしてもほしくてな」


「また・・・新暦始まって以来、一番ひどいジョークよ。そんなの陸士部隊に報告したらオペレーターのみんなのイイ笑いものよ」
オペレーターの若い女性はあきれたように通信を切った。

414ナイトクルーズ後編2/14:2009/09/08(火) 00:21:41 ID:2z1qXFXk
「・・・いい・・のか?」
若い警ら隊員が驚いていると、今まで吐血して気を失っていた男が気づき、警ら隊員たちに話しかける


「普通・・・俺みたいなヤツを見かけたら“コード582(違法魔導師の死傷)”で報告するはずだろ」


「なんだ?あんた知ってたのか?」
「・・・」


男はこたえなかった。もともと詮索するのもされるのも嫌いなのだろう。
初老の警ら隊員は言葉を続けた。



「・・・別に何もしてない人間を報告する理由はないだろ。それとも地上本部に報告されたかったのか?」


吐血して倒れている騎士。明らかにただ事ではない。
一般的な管理局員や陸士部隊員なら医療センターで手当てを受けさせ、同時に男と少女から詳しい事情を聞く必要がある。


しかしこの警ら隊員は違った。


「少なくとも、俺にとってはただのケガ人だ。それにこの街には、あんたみたいなワケありの人間がわんさかいるからな」
「それなら・・・俺にかまわずここから立ち去れいいだろ」



「そういうワケにもいかんだろ」
「!!」

415ナイトクルーズ後編3/14:2009/09/08(火) 00:22:20 ID:2z1qXFXk
そう言って初老の警ら隊員は、男に肩を貸した。その行動に騎士は驚いた。

管理局員や陸士部隊員でないにしろ、負傷した物騒な雰囲気をかもし出す騎士の姿を見て近寄る人間はさすがにいない。

それを見ていた若い警ら隊員もあわてて手を貸して、2人で負傷した騎士をかかえて、車に向かって歩き出した。


「騎士の旦那、あんた、ここらは初めてなんだろ。だからといって、医療センターにも堂々と出入りできそうにないだろうし。
いいとこに案内してやるよ」


初老の警ら隊員がそう言うと、力なく騎士は言う。
「・・・俺のケガは医療センターで直せるモンじゃない」
「リンカーコアに絡むもんか?それだったらなおさらだ」



「おい!!」
「?」

突然呼び止められると、さっきの紫色の髪の少女が立ちふさがり、隣に小さな人形みたいな者がいた。


紫の髪の少女は相変わらず、感情を全く見せない無表情ではあったが、しかしほんのわずかだが瞳にはかすかに困惑と不安が
あるように思えた。


赤い髪の人形のほうは少女とは逆に怒りの感情をあらわにして、警ら隊員に食ってかかった。
「お前ら誰だ?旦那をどこにも連れて行かせないぞ!!」
そうして小さな炎の弾を回りにともす。


最初は驚いていたが、初老の警ら隊員は物珍しげに赤い
「これは、またずいぶん小さい使い魔だな。コウモリが素体なのか?」
「なっ!?あ・・・あたしはれっきとした融合騎だ!」



「ユウゴウキ?何スかそれ?」
「さあな?『アニマルプラネット』見てるが、初めて聞く動物の名前だな」


「だぁ〜、そんなんじゃねえあたしは・・・」
赤髪の融合騎は、このとぼけた2人のやりとりに頭を抱えて怒る。



「よお、バービー(女の子に人気の着せ替え人形)安心してくれ。別にこの旦那をどうこうするわけじゃ無い。医療センターほど
高級なトコじゃないが手当てできる場所へ案内するだけだ。それに、手負いとはいえこんな屈強な騎士さんなら、すぐに俺たち
みたいな警ら隊員をぶっ倒していつでも逃げられるだろ?」


下手したら殺されるかもしれない。若い警ら隊員はそう思った。


少女は赤い髪の融合騎と騎士に顔を向けて、アイコンタクトをとる。
おそらく魔導師や騎士同士の念話を交わしているのだろう。


自分達のようにトランシーバ無しで、できるんだから相変わらず安上がりなもんだと若い警ら隊員は思った。


赤髪の融合騎は不満そうながうなずくと、前をどいて騎士や2人の警ら隊員を見守った。

416ナイトクルーズ後編4/14:2009/09/08(火) 00:23:26 ID:2z1qXFXk
車に付くと騎士はその巨体を倒れこむように一気にシートに傾けた。

騎士の方は吐血や咳はだいぶ収まってきたようで、まぶたを閉じてシートに体を預けた。しかし依然として苦しそうだ。
運転席に初老の警ら隊員が乗り込み、エンジンをかける。


ここから先は自分のほうが道順を知っているということで、若い警ら隊員と運転を交替したのだ。


「ほら」
若い警ら隊員は助手席に座り、騎士の隣に座った少女にタオルを2枚渡す。


「・・・」




少女はローブのフードを目深に下げたまま、全く受け取ろうとしなかった。
しかし、身体は正直なもので、寒さのためか小刻みに震えているのがローブの上からでもわかる。


運転席から笑い声が聞こえる。
「嬢ちゃん、そのセクハラみたいにクドい顔が怖くてタオル受け取ないとよ」
「あんたのその真っ黒い仏頂面の間違いじゃないですか・・・」


「旦那はともかく、あたしらは、あんた達の世話にはならねえからな!」
そうして少女のために暖をとろうと、車の中で炎をともそうとした。


「おいおい!車内で炎系の魔法使うのは勘弁してくれ!それに暖をとるんだったら暖房かけてやるから」

「・・・ふん!」
そうして空中に浮かんでいた赤髪の融合騎はぶっきらぼうにタオルを掠め取り、少女に渡した。



そんな賑やかかつ、うるさいやり取りを聞いていた少女はタオルを若い警ら隊員受け取りローブを下ろした。
そして自分の紫色の髪をすくようにふくと、苦しそうな騎士の顔を健気にふき始めた。


それにより、いくばくか苦しそうな騎士の顔が落ち着きを取り戻した。


紫の豊かな髪、整った顔立ち、赤みを帯びたぱっちりした瞳。そして透き通るような肌。
路地裏の暗がりで見るより、なかなかの美少女だとわかった。


そして少女はドレス調のバリアジャケットを着ていた。

黒と紫を基調としたそれは、警ら隊員が着込む防弾チョッキや陸戦魔導師や首都防空隊の無骨なバリアジャケットと違い
どうにも外見から実用性を感じさせなかった。


しかし、何ともいえない幻想的な雰囲気を感じさせた。




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