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【Fate】アースセル「真なる聖杯を手に入れろ」【避難所】

200普通の名無しさん:2015/05/15(金) 20:28:47 ID:g0Ae1IeE
「うふふ。でもよく来てくださいました、義兄様。わたくし、とてもとても嬉しくて、体がぼーっとして...身体が熱くて...」

『インターフェイスを用意するならば彼女の方が最適ではなかったのか?』

話を切り、真実を突きつける。
演出された焦燥感の中で少女の言葉は蜜のようだ。凡庸な己が身にその声は抗いがたい。
手玉に取られてしまえばいい、彼女は自分を害しない。
そう知っているからこそ彼女の前で無様を晒す訳にはいかなかった。

『いや...そうだな...そういうことか。ならば願われた通り斯く在るのが私達だ』

窓を覗くと逢魔ヶ刻の校庭は渦巻く黒い泥に変じている。
深紅の空に黒い雨が降る中で吹き渡る風はまるで怨嗟の様。
それを支える漆黒の太陽に浅く溜息を吐き捨てて男は女に向き直った。

『...あれから十年よく持った方か。だが同じ願いを叶え続けるには足りないすぎてしまったな』

「ええ。お陰で最後に聖杯が触れた願いがこうして体現したようですわ」

女はどこか諦めたかのよう呟くと二歩下がる。
わざわざ領域を確保してまで造った舞台をあっさり看破された事に拗ねているのかもしれない。
もしくは仮に茶番だと分かっていても偽りの逢瀬を続けていたかったのか。

『 ......この世界は楽しいか?』

思考が途切れる。男は不意にそんな事を訊ねた自分に驚いてしまう。
混濁した思考の中でもこの男は人に問わずにいられない性らしい。
それとも、それは在りし日の感傷か。

「ええ、ええ。もちろん。誰も彼もが一生懸命で、退屈で、素敵で、わたくしつい嫉妬してしまいそうですわ」

『ならば私にそう願えばいい』

横目に見た彼女の様子は――静かだった。
男の言葉にも動揺した様子もなく、冷静そのもの。
それはこの願いの問答をすでに終えているものだから。

201普通の名無しさん:2015/05/15(金) 20:29:42 ID:g0Ae1IeE
『未来に興味がない、人間は既に十分幸福だなどもう誰も思わない。人類は再び足を踏み出した。ならばシステムでいる必要はないだろう...君はどうしたい?』

人間が仮に何が正しいかでなく何かを悪だと批判することでしか測れないというならば正義など前提から語るべきでない。
ならば、目前の悪に対し行うべきは勇気をもって糾すこと。
それが何を意味するのか...二人の最悪は理解していた。

「全く貴方はいつも試すようなことばかり言って。わたくしが確かに在た筈の場所は他にありますの」

言葉をあっさり払い除けて、彼女は男に宣言するように語る。
道を示したのは彼、助けてくれたのも彼。だけども選んだのは確かに自分だったから、例え罪深けれど■■■には誇りがあると。

「だから“私”が再び歩き出すなら、それはその場所の筈なんです」

その言葉に男は眩しいものを見るかのように目を細めて、かつての彼女を重ねて間違っていなかったと確かめるように。

『ああ、分かった。 決断する限り私は君の味方だ』

「ええ、わたくしは魔王のエージェントですもの」

頭を侵していた雑音が消える。
同時に、目の前にいたはずの少女の姿も消え去った。
後には1人、保険室に残される。

202普通の名無しさん:2015/05/15(金) 20:30:45 ID:g0Ae1IeE
『...らしくない』

何度目の自嘲か男は思わず顔を手で覆う。
自身が斯く在る以上先の言葉は男の人格が紡いだに違いない。
停滞を打破し試練を以て人類をシンカへ導く。
字面を見れば素晴らしい理想だろう。
だがそんなものは飾りに過ぎない。男の本質はもっと単純で幼稚なものだ。

いつも諦観していた。
非才に見合わぬ特性に焼かれ全てに馴染めず渇いていた。
だからこそ英雄譚に目を輝かせる少年の様にただ、勇気に憧れた。
つまるところ、男はあまりに人間信者すぎたのだ。

『どうやらお互い鏡に向かってのお喋りは苦手らしい』

魔王の殻を被った男は居心地悪そうに音の消えた室内に独り愚痴る。
先程の邂逅はおそらく調査、その為の意思として呼ばれたのだろう。
夢を通しての大聖杯とのリンクの修正。
それが終わったならば次に訪れる時こそ聖杯戦争の終焉に他ならない。

なら君が次に来る時を楽しみにしていよう、と呟いて再び男は無へと還る。
黒い太陽の下で魔王は空亡の姫と共に勇者の来訪を待ち侘びていた。


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