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RPGキャラバトルロワイアル11

1SAVEDATA No.774:2011/07/31(日) 03:04:46 ID:b2pXRKlk0
このスレではRPG(SRPG)の登場キャラクターでバトルロワイヤルをやろうという企画を進行しています。
作品の投下と感想、雑談はこちらで行ってください。


【RPGロワしたらば(本スレ含む】
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/11746/

【RPGロワまとめWiki】
ttp://www32.atwiki.jp/rpgrowa/pages/11.html

【前スレ(2ch】
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1307891168/l50

テンプレは>>2以降。

579SAVEDATA No.774:2012/10/14(日) 07:35:11 ID:cMXIA5io0
投下乙です。

VSセッツァー。唯我と絆の戦い。

諸手を挙げて喜ばれはしまい。
実際、指摘できそうな点は少なくとも片手くらいはあるだろう。
それでも、こう言わずにはいられない。面白かった。

自分にへばりつくものを捨てていくように全てを放つセッツァー。
自分が得てきたもの全てを抱えて追いすがるゴゴ。
別にレースでもないのに、デッドヒートというのが相応しい速度の戦いだった。
そこに、穢れてなお輝き続けるちょこが抗って……
それでも全てを吸い尽くすこの黒の夢に届かないってのがね、もう。
やはり参戦時期と参加者の関係上セッツァーの願いを誰も知ることができない以上、
破ることはできない。どうするんだ……

よし、オラちょっくら物置からコントローラーもってくる!!

その後の展開は……これが正しいのかは、分からない。
だけど、美しいと思いました。

美しいのだ。だから、それでいいと私は思いたい。改めてお疲れ様でし、


VSピサロ。LOVELOVELOVE!!

セーブポイントなかった。
正しい(?)怒りの力に目覚めたスーパーアナスタシア人と、
ついに三連装填まで会得し始めたラブマシーンピサロ。
100話近くかけて三倍必殺覚えたニノさんオッスオッス。

そんな外面なんぞ吹き飛ぶくらい滲み出る意志に胸を詰まされる。
こいつらもう極まってんだもん。どうしたってぶつかり合うしかないじゃん。

そこに再び響くロザリーの歌。これで止まるかと思ったら止まりません。
と思ったら本人きたわあ。堅牢無敵のインビシブルも、愛の原点だけは通さざるを得ない。
ロザリーに嫌われてもなおロザリーをよみがえらせる。
ロザリーを殺したピサロにとって、これほど完璧な復讐はあるまい。

まあ、完璧だろうがなんだろうが「お嫌ですか?」って上目づかいに言われたら抱くしかないじゃん。
*別に上目づかいとは描写されてません
なんだろう、胸がドキドキなんですが。別の意味でピサロ死ねなんですが。
これが俗にいう壁ドンというやつですね分かります。なんかもーどーでもいーわー。


これで三局全て決着!
勇気・希望・愛に満ちた素晴らしい物語でした。
先のid氏も含め、みなさん投下お疲れ様でした!!

580SAVEDATA No.774:2012/10/14(日) 08:08:05 ID:D83oArtM0
お二方とも投下お疲れ様でした!
◆FRuIDX92ew氏への感想を書こうと思ったら◆6XQgLQ9rNg氏の投下まで来てと幸せな時間をありがとうございました!
それでは感想をば。本当は感想よりも先に何度も何度も漏れでた感嘆の吐息があったのですがそこは省略です

>>一万メートルの景色
タイトルからして惹きつけられる話
独り最速を目指すものと皆の力で加速し続ける者の物語
原作の仲間の物真似からロワでであった人たちの物真似へとゴゴが歩んだ生き様を辿った総決算を思わせる数多の物真似もさることながら、
道具も幻獣も重りだと放出していくセッツァーがやべええ
アイテムを盗まれたことさえも自身を更なる速さへと純化させていくためとは
そしてそんな幸運へと立ち向かうゴゴの物真似はまさかの不運へもめげない科学の物真似!w
ああ、確かにトカが不運に屈する姿は想像できねええ! ミシディアうさぎの件といい不運の利用まじぱねえ
そして信頼を受け蘇ったアキラと、そのアキラの発破で立ち上がったちょこも力を合わせての生命を滅ぼす力の反転、
或いはアシュレーへの返歌、一人になろうとするセッツァーへと反するものという意味のリヴァース
それさえも、みんなの想いも幸運を味方にし超えていくセッツァー!
ラグナロクでのちょこの皮肉過ぎるアイテム化もあって絶望感半端無かった
その絶望をぶちぬいたアキラはまさにヒーロー!
ってかここであれはずるい。あれは想像してなかった。そりゃあセッツァーの絶対幸運圏も圏外には対応してないわ
もう本当にあの一節だけでも近未来編過ぎる!
そしてゴゴが素顔を晒したことや説得力のある可能性の話、アキラから受け取ったイメージからなるゴゴの最後の物真似
物真似故に本物ではなく、されどセッツァーから見たダリルその者である故にセッツァーからすれば本物以外の何物でもないダリル
そのダリルに出会えてしまったからこそ、あれだけ望んでいたダリルの笑顔を見れたからこそのセッツァーの終焉
これ以上ない幸運、すなわちこの先はない、かあ
ゴゴがセッツァーを周回遅れにしていたことといいもう納得するしかなかった
ああ、本当に、もう全部が全部、ああこうなんだって俺の心に溶け込んでいく話だった!
最後に、全てを物真似しきってきて、でもたった一つ真似することができないままであったろう死をも遂に真似できたゴゴに
おやすみなさい

>>Aquilegia、Phalaenopsis
一人の男と一人の女の物語、遂に決着
……まあ途中で当初の女は蚊帳の外になって真ヒロインが来ましたがw
冒頭の二重三重の攻防風対決にも盛り上がったけど、そっからの愛の話がすごかった
これまでピサロ視点だったからそりゃそうなんだが、ピサロの愛ばかり強調されてたところに、アナスタシアが女の子の視点から語るロザリーの愛
強くなければ愛せないは衝撃的かつなるほどだった
そして遂に届いたロザリーの声
愛するがゆえに止まれないってだけじゃなく、愛しているからこそロザリーの望まぬことをして自らを傷つけ罰していたという真実が重い
これまでそれでもと戦い続けてきたピサロだからこそ、声つまり落涙したシーンに思わず読んでて息を呑んだ
うわあ、うあああ
そうか、ロザリーの望まぬことをしてしか逢えないのではなく、ロザリーの望まぬことをすることでようやく逢えることを許せたんだね……
全く本当に馬鹿だよこいつ。バカップルだよ
アナスタシアはある意味キューピットだったなあ
後でどーでもいいやとかなっちゃってるのはご愁傷さまだけどw
うん、でもほんと、愛だからこそ届いた
愛ゆえに自分を傷つけ自分以外の誰にも傷つけられない無敵のピサロだったけど
その自分を傷つけることが愛する人を傷つけることになってたのなら、愛ゆえに止まるしかないんだよなあ
愛せません、ずっと好きでいさせてなんて言われたら
愛は独りだけでなく二人で成り立つものである以上、もう止まるしかないんだよなあ
許す、なんて俺に言われるまでもないけれど
アナスタシアじゃないけど、存分にいちゃついとけ、バカップル
それでいいんだよ
アナスタシアも少し潤されたからこそ次を次をと求めれるようになったみたいだしお疲れ様
そして遠回りになっちゃうけどロザリーに届く道へといってらっしゃい、ピサロ
その前にふたりともおやすみなさい

ああ、本当にどちらも面白かったです。GJ!!

581SAVEDATA No.774:2012/10/14(日) 08:29:15 ID:3H6NNlxA0
投下乙です。
朝おきたら二つも投下あるとか思わず嬉しい悲鳴挙げて自分でびっくりしたわwww
>>一万メートルの景色
セッツァーとゴゴ達のFFⅥはこれで幕か。
幸運無視の攻撃を叩き込むのではなく、幸運を使い切らせる。
それも攻撃をよけさせるトカの持久戦ではなくあえて幸運をこちらから与えるという手法には圧倒されたトカ!
これまで出会った全てのモノマネ達は否応なく当時の話を思い出たせて感無量だったトカ
リアルタイムで見てたらなぁ。
絶対YYYYYYYYって書き込みしまくってたのに……
訪れた結末も、ロワに勝ち抜く以上の幸福がセッツァーに存在していることに気づいて読み返せば、これ以外になかったのではないかと思える出来でした。

>>Aquilegia、Phalaenopsis
アナスタシア、あんたは泣いていい……
このバカップルどもめ!
ちくしょう、まさかロワ読んでてこんないちゃつきを見るとは予想外だったぜ……
いやー、シリアスだった話への感想としては不適当な気もしないでもないけどアナスタシアのキャラの立ち方は面白いなぁー、
と、眩しいバカップルから目を逸らして書き込み。
あー、愛したいなぁー、恋したいなぁー、こんちくしょうめ。


こんな面白い話を読んでろくな感想を返せない自分に絶望しつつ。
いや、本当に面白かったです、ありがとうございました!

582SAVEDATA No.774:2012/10/14(日) 09:26:13 ID:YS0TZHjM0
読了!

◆FRuIDX92ew氏、改めて執筆&投下乙でした!
すげぇ、超すげぇこれ。
まず最初の物真似乱舞。何もかもを捨てたセッツァーと何もかもを持っていくゴゴの対比が素晴らしい。
どちらも違うやり方で、どちらも違う信念を持って、それでも速さを求めるような戦いはまさに決闘。
FF6キャラだけでなく、このロワで出会った人たちもゴゴの力となっていて、胸が熱くなりっぱなしでした。
次々と現れる幻獣と対峙しても、ゴゴが一人だとは少しも感じられなかったぜ。
そして目覚めたちょこの愛、想い、アキラのど根性サイキックアタックを受けてもまだ立つ黒の夢まじ半端じゃないと思い、ラグナロックがちょこに突き立ったときは絶望を覚えた。
その果てのYボタンは反則。近未来編冒頭のアキラの問いから幸運を拾い上げて絶対幸運圏に対峙といった発想は氏にしかできないと思う。
少なくとも俺には絶対に思いつかないアイディア。
そして、ダリル。ほぼ設定のないゴゴからこう繋げるとは脱帽。

発想の凄さとそれを文章に落とし込む実力、御見それしました。
大変面白かったです。超GJ!

583 ◆FRuIDX92ew:2012/10/14(日) 11:38:37 ID:5alJ485M0
あ、ありのまま今起こった事を話すと起きたら投下が来ていた。

投下乙です!
意地と意地のぶつかり合い。
片や「ありのままの女の子」で片や「愛に準ずる魔王」
そして、ロザリーの話から始まる突きつけ。
ここにきて声がこう作用するとは、全く考えてもいなかった……
人間への復讐であると同時に、自分への復讐でもあった。
その痛みを、自分の痛みだと、苦しいと言ってあげられるロザリーはやはり強い子だなあと思います。
そりゃあ、ここまでのイチャラブを見せ付けられたらやる気もなくなりますわなw
でもアナスタシアはよくやった! アナスタシアが居なければこうはならなかったと思う。
一つの愛、その答えにピサロは辿り着いたんだと思います。
本当に投下乙でした!

それと、投下作で幾つか修正を。細かい誤字などはWiki収録された際に修正しておきます。
大まかな修正点としては前話からの流れ、ゴゴの思考と矛盾があるため>>537
「一人のセッツァーの、自分が知るセッツァーの本当の姿へ戻ってもらうために」
という一文の消去。

こちらのミスで描写がおかしかったので>>540
「本来三人が平等に受け止めるはずの「不運」を、人より多く受け取ることで訪れる不運を薄れさせる。
 0にはできないにとしても、セッツァーに他二人がうかつに手が出せない状況は少し打破できるだろう。」
の部分を
「どれだけ人より多くの「不運」溜め込もうと、彼ならなんとかしてくれる。
 そんな不思議な力を持った、この絶対不運に対抗できる唯一の人物だった。」
に。

セッツァーの推論ではなく、地の文ということが少し抜けていたため>>555
「ここからは可能性の話になる。
〜〜
ここにいるセッツァーは知りうることはないことなのだが、物真似師が生息していたのはその「ゾーンイーター」に吸い込まれた先の次元だ。」
の部分を
「ここからは可能性の話になる。
"この"セッツァーは知りえない、そして物真似師にも気づきようがなく、この物語を見ている第三者にしか考慮できない可能性の話。
墜落した小三角島は、ある一人の魔物の逸話がある。
空間を貪り、その体内に異次元を抱え込むとされる「ゾーンイーター」という魔物。
物真似師が生息していたのはその「ゾーンイーター」に吸い込まれた先の次元だ。」
に。

最後に、ラストリゾート@FFVIの落ちている場所をセッツァーの遺体傍に修正。

以上のように修正したいと思います。
見直しが足りず、大幅な修正となってしまいましたがご容赦下さい。

584SAVEDATA No.774:2012/11/15(木) 02:09:13 ID:gfeWWBTw0
集計お疲れ様です。
RPG 147話(+ 3)  7/54 (- 3)  13.0(- 5.5)

585 ◆6XQgLQ9rNg:2012/11/18(日) 00:45:49 ID:z4upX2iw0
ジョウイ投下します。

586オディオを継ぐもの ◆6XQgLQ9rNg:2012/11/18(日) 00:47:06 ID:z4upX2iw0
 心の奥に沈み込み、記憶をたどる。
 水の底へと潜行するように沈み、潜り、これまで積み重ねてきたものを手に取って行く。
 苦い敗北の味を思い出す。一時の勝利はあれど、それは難所を転ばずに踏破できたということでしかない。
 終着点は遠く、超えるべき峠はまだまだある。
 超えてきた峠を思う。
 一人で超えられた峠など、片手で数えるだけで事足りてしまう。
 信じてくれた人がいた。頼ってくれた人がいた。力をくれた人がいた。大切に想える人がいた。
 彼らがいてくれたから、困難な道を歩んでこれた。
 数え切れない犠牲があった。散っていた魂があった。この手で壊した命があった。策を弄し、切り捨てた生命があった。
 彼らの存在がなければ、ここへと至ることは叶わなかった。
 信念を抱き道を作ってくれた人がいた。身を挺して護ってくれた人がいた。
 彼らの力添えがあったからこそ、志半ばで折れてしまうことはなかった。
 だから負けられない。諦められるはずがない。投げだすわけにはいかない。
 過去に散った生命に報いるために。金輪際、未来に悲劇を生みださないために。
 星の数ほどの命で作った玉座に、ぼくは手を掛けているのだから。
 
 顧みろ。
 ルカ・ブライトのような圧倒的な戦闘力はない。レオン・シルバーバーグのような知略も持ち合わせていない。
 そんなぼくが、勝ち残る方法を探し出せ。
 不完全な欠片が頭を巡る。
 不滅なる始まりの紋章。核識。泥の海。ラヴォス。死喰い。オディオ。
 死喰いの正体はおおよその見当はついている。蘇らせるための手段も分かる。
 だが、死喰いを生み出し使役するには、時間も供物も足りない。
 先刻泥の海から掬い上げた優しく気高く強い光に反抗するようにして、怨嗟の声は強まっている。
 心を揺さぶり精神を犯そうとする憎しみは、絶え間なく輝く盾を殴りつけてくるのだ。
 刻限を自覚し、少し前までは黒き刃に生命力を吸われていたことを思い出す。
 あのときのようには、もういかない。
 託せる相手には、もう二度と出会えないのだ。
 生じた感傷は、湿っぽい感情へと変貌する。
 駄目だ。
 これに身を委ねてしまったら、付け込まれる。
 弱さは捨てされ。涙は見せるな。そんな暇などもはや残されていないだろう。頭を理屈と情報で埋め尽くせ。余計なことを考えるな。
 乾いた空気を吸い込み感情を飲み下し、紋章の重みを確かめるべく右手を握り締めて――紋章が熱を帯びていることに、気付く。
 閉ざしていた瞳を開き、右手の甲に目を落とす。
 憎しみを内に宿した不滅なる始まりの紋章が、不釣り合いなほどに眩い輝きを見せていた。

 同時に、足元が揺れる。
 地震じゃない。
 ここより地下、孤島の最下層に広がる泥の海がざわついている。
「……いったい、何が……?」
「気になるなら行ってみればいいんじゃなぁい?」
 気楽そうな声は、地べたに座る傍観者のものだった。水晶玉を片手に酒を煽る彼女は、ちらりとぼくの右手に目を向ける。
「その光も、関係あるかもしれないしねぇ?」
 頬の色を酔いで染めていても、視線はすべてを見透かしているようだった。
 尋ねたところで答えは返ってこないだろう。彼女は味方というわけではない。

587オディオを継ぐもの ◆6XQgLQ9rNg:2012/11/18(日) 00:47:47 ID:z4upX2iw0
 無言で抜剣する。
 一際強くなる怨嗟を身に纏い、意識を魔剣と繋ぎ、感応石へ接触する。
 すぐに闇が訪れた。深い深い闇の中で、魔剣が放つ輝きが目に痛い。
 潜り、下り、降りる。
 原始の泥がたゆたう空洞へと辿り着いて、目の当たりにする。
 落ち付かせたはずの泥が、煮え立つように波打っていた。
 くぐもった音を立てて泡ができ、緩慢な流れが泡を弾けさせ、飲み込み、またも泡を形作る。
 ぼこり、ぼこりと暗闇に響く音は泥の鳴き声のようで、酷く不気味だった。
“死喰い”はまだ生誕していないはずだ。現に、泥は蠢きこそすれ、生命体としての形を成そうとしていない。
 オディオが介入してきたとでもいうのなら話は別だが、ここで一手を打ってくる理由がない。
 何かがあったのだ。“死喰い”を活性化させる、何かが。
 見過ごすわけにはいかない。ここで下手を打てば、勝利への道は閉ざされる。
 魔剣を端末として島の底を漂う泥の海を介し、情報を手にしようとした、そのとき。
 魔剣の輝きが、急激に肥大化した。
 一瞬にして闇を払う膨大な白は、暗闇に慣れた目では直視できない。
 左手を翳して遮り、細めた瞳で光を感じ取る。
 
 違う。
 魔剣から溢れ出る憎悪が、この光に怯んでいる。ならば、この光は、視覚で感じ取るものじゃない。
 情報網へと繋ごうとした意識を、光へと傾ける。
 伝わってくる。
 それは強く激しく、それでいて慈愛に満ちた声だった。たった一人の相手を愛する、一途で揺るぎのない歌だった。
 ああ、そうか。
 これは、泥に喰われかけていた“想い”だ。紋章の内で優しい声を聴かせてくれた、あの声の原点だ。
 鎖を千切り頸木をへし折り、“想い”が魔剣から飛び出していく。
 この“想い”の行き先は楽園ではないと、そう宣言するように。
 届かないなどとは言わせないと、いうように。
 その“想い”へと、泥が手を伸ばす。
 膨れ上がり、盛り上がり、原生生物のように“想い”を呑み込もうとする。

588オディオを継ぐもの ◆6XQgLQ9rNg:2012/11/18(日) 00:48:40 ID:z4upX2iw0
 びちゃり。
 膨れ上がった泥が“想い”に触れる直前で音を立てて崩れ落ち、対流する泥へと還っていく。
 泥を遮ったのはぼくじゃない。
 別の泥の塊が、“想い”を喰おうとした泥を迎撃したのだ。
 その塊を見やり、ハッとする。
 泥に覆われているが、あれは泥じゃない。
 黒く淀んだその塊の内側からも、光が漏れ出ている。
 泥の表面に皹が入る。覆う泥を内側から喰い破るようにして、亀裂は広がっていく。
 砕け散る。
 現れた光は、ひたすらに雄々しく勇壮で、あらゆる苦難に立ち向かう強さを叩きつけてくる。 
 それもまた、“想い”だった。三つの“想い”が重なり、一つになり、強さとなった“想い”だった。
 どくん、と、胸の奥が震える。左胸を抑えると、強烈な拍動が掌を押してくるのだった。
 もう一度、泥が蠢く。
 燦然と輝く二つの光を喰らうべく、貪欲に手を伸ばす。
 この泥は一つの星と無数の生命の母体となったものだ。
 その総量が押し寄せれば、如何に強大な“想い”であろうとも呑み込まれるだろう。
 そして泥は、容赦といった概念を持ち合わせていない。
 食らいつくべく、押し寄せる。
 その瞬間、怒涛と攻める泥の片隅が瞬いた気がした。
 不思議に思い目を凝らすが、勢いづいた泥はその光を探させてはくれない。
 
 ふと、髪が靡いた。
 髪を揺らすものを知覚し、士官服の裾が僅かにはためていることに気付き、その存在を認識する。
 風が吹いていた。
 深奥であるはずのこの場所に、西風が吹いていた。
 西風は泥を乱れさせ、跳ね散らし、二つの“想い”へと辿り着く。
 口を開け牙を剥く泥を吹き抜け、道を作り、慈愛と勇壮さを乗せて行く。
 もはや考えるまでもない。あれもまた、新たな“想い”なのだ。
 飛び去ろうとする想いに、泥は執念深く追い縋る。
 逃れようとする“想い”を貪り、喰らい尽くし、呑み干そうとすべく、泥は高さを増し波となり光を追う。
“想い”とは対極のその様は本能に忠実で、獣の紋章の化身を思わせた。
“想い”は天を駆け昇る。されどまだ遅い。圧倒的な物量に物を言わせ、泥が“想い”の道を塞いでいく。
 寄り集まり、掛け合わさり、足し込まれて壁となっていく。わずかな隙間すら残さないとでもいうように、泥が強固に結束していく。
 最後の隙間が埋まろうとする、その瞬間に。

“想い”が、加速する。
 それもただの加速ではない。爆発的と言ってもいいような、急加速だった。
 猛烈な速度のままに僅かな隙間を駆け抜けた“想い”には、もはや泥は届かない。
 それでも名残惜しそうに泥は手を伸ばすが、遠ざかり、小さくなり、見えなくなると、ようやく諦めたらしい。
 光が飛び去り、ここには闇に溶け込んだ死の想念だけが残されている。
 だからだろうか。
 魔剣に宿る憎しみが、強くなっているようだった。
「く……ッ」
 身に纏う憎悪に意識が抉られる。右手からの怨嗟に精神が侵食される。
 純粋な憎悪が輝く盾を押し込む衝撃が伝わってくる。
 絶望が、悲嘆が、憤怒が、悔恨が、嫉妬が、憎悪の刃となって斬りかかってくる。ぼくを壊そうと、襲いかかってくる。

589オディオを継ぐもの ◆6XQgLQ9rNg:2012/11/18(日) 00:49:52 ID:z4upX2iw0
「眩しかった、からね」
 だからぼくは、抗うように声を出す。
「あの“想い”たちは、眩し過ぎた」
 憎悪に声は届くまい。他者の言葉に耳を傾けられるほど、あの感情は軽くない。
「決して手に入らないものを見せつけられたら。失くしてしまったものをひけらかされたら。
 怨みたくもなる。そうするしか、感情の行き場所がないんだ」

 あの“想い”は確かに気高く尊く美しいものだ。
 だからこそ、持たざる者――すなわち、敗者にとっては憎悪を刺激するものでしかない。
 容易に受け入れられるものではないのだ。
 勝者と敗者の間には、決して埋められない溝がある。

「怨むしかない。憎むしかない。かけがえのないものを失くすっていうのは、そういうことだ。
 そんな世界が――ぼくは憎いよ」

 だからこそ。

「この手で、楽園を作ってみせる。誰も怨まなくていい、何も憎まなくて済む、そんな楽園を」

 世界への憎しみを力に変えて。

「必ず、作ってみせるよ」

 改めて行った決意表明は、憎しみに伝えるためのものではない。自己を失わないための、ささやかな儀式だ。
 泥の海へと目を向ける。
 理想実現のためにも、この“死喰い”の様子を改めて窺っておく必要がある。
“想い”を喰らおうとしたときのような激しさはないが、明らかに活性化しているように感じられた。

「惜しかった、って思ってる?」
 不意に現れた傍観者の問いに、少し考えてから、首を横に振った。
「なんとも言えないな。最初の“想い”はまだしも、他の“想い”がいったい何なのか分からない。
 加えて、最初の“想い”が活性化した理由も、どうしてこの場に現れたのかも分からない。だから、判断ができない」

「あら、だったら見てみなさいな。貴方が置き去りにしてきた人たちのことを見てみれば、すぐに分かるわ」
 頷いて、今度こそ意識を魔剣へと傾ける。
 憎しみの密林を抜け、核識に触れ、泥の海を通じて彼らの様子を探る。
 そこには愛があった。勇気があった。希望があった。欲望があった。
 それぞれの担い手が、強い“想い”を胸に戦っている。
“想い”は首輪の感応石を介して“死喰い”へと送られる。
 死の瞬間に強く輝く“想い”だけでなく、生きている間の“想い”もまた、送られるのだ。
“死喰い”は、生きた“想い”をも吸い上げ、それに死を与え、喰らい、糧にしている。
 だからこその“死喰い”なのだ。
 あの強い“想い”たちもまた、感応石を通じてここにやってきた。
 泥の海から切り離され、魔剣に宿っていた最初の“想い”に力を与え呼び寄せたのは、ここに辿り着いたピサロの愛だ。
 その“想い”を護った勇壮な力はイスラ、ストレイボウ、カエルの勇気と判断できる。
 ならば、あの西風と加速は希望と欲望か。そのどちらも、今はセッツァーが力としているようだった。
「納得できない、って顔ね?」
「……今、希望と欲望を担っているのはセッツァーのはずなんだ。
 彼から生まれた“想い”が、愛と勇気に力を貸したことに違和感があって」

590オディオを継ぐもの ◆6XQgLQ9rNg:2012/11/18(日) 00:52:27 ID:z4upX2iw0
「ああ、そういうことね。そりゃあ、根源が違うからじゃあない?」
「根源?」
「ピサロは自らの愛を以ってラフティーナを蘇らせた。あの三人は勇気を重ね合わせてジャスティーンを呼び起こした。
 けれど、ゼファーとルシエドはセッツァーが呼び覚ましたわけじゃない」

 メイメイさんがゆっくりと指を上げ、深く暗い泥の海を指し示す。
「希望と欲望を呼び覚ました“想い”は、この中よ。
 今しがたここに来たのがセッツァーの“想い”だとしても、それが希望と欲望である以上、根源の“想い”に引っ張られたのかもしれないわねぇ」

 自分の回答に満足したのか、面白そうに盃を傾けるメイメイさんを横目に、思い出す。
 ああ、そうか。
 西風を感じる直前に見えた瞬きは、“死喰い”がまだ糧にし切れていない、希望と欲望の根源である“想い”だったんだ。
“死喰い”は、まだ不完全だ。
 だから、愛と勇気、希望と欲望に強く執着したのだろう。
 あれほどの強い“想い”は、不完全な身を押し上げてくれるものであると、本能的に察したに違いない。
 そう思えば惜しくもある。もしもあれを少しでも喰らえていたら、“死喰い”の誕生へ大きく近づけたはずだ。
 だが。
 得るものは、あった。
“死喰い”に命を与える可能性を、ぼくは感じ取っていた。
 魔剣を握り締め、泥の海へと進んでいく。靴を泥で浸すが、肉体には興味がないらしく、特に不都合はなさそうだった。
「あら、何をする気?」
「“死喰い”の誕生を」
 惑わずに言い切ったぼくに、メイメイさんは眉を顰め不審さを露わにする。 
「条件は劣悪だって、貴方も分かっているでしょう?」
 今の“死喰い”は喰った想いが足りず不完全。負の力を反転させるための力は模造品。
 それがメイメイさんの見解であり、本質だった。間違っていないと今でも思う。 
「もちろん。だけど――可能性が見えたから」
 左手で感応石を握り締め、今一度、魔剣を泥へと突き立てる。
 死だけでは飽き足らず、生ある者の強い“想い”をも殺し、喰らい、力にしようというのなら。
 ここにだって、“想い”はある。
 胸には理想を。
 リルカが教えてくれた魔法を。
 夜空を越えて手にした、ぼくの理想<魔法>を。
“想う”。
 強く“想う”。
 深く“想う”。
 足元で、泥がざわめいた。
「“死喰い”よ。このぼくが、これより“想い”を注ぎ込む。
 愛を超え、勇気を凌ぎ、希望の先を行き、欲望よりも激しい“想い”を捧げてやるッ!」

 大言壮語では終わらせない。それくらいの“想い”でなければ、救いを超越することはできない。
 貪欲に飲み干し喰らい尽くすつもりで来い。
 お前に全てを奪われるくらいの弱い“想い”で終わるつもりは毛頭ない。
 オディオよ、理想などでは背負いきれぬと、お前はそう言ったな。
 よく見ていろ。
 これよりぼくは、こいつを背負ってやる。
 いや、背負うのはこいつだけじゃない。

「なるほど。貴方の“想い”を殺させて喰わせて、不完全さを埋めるつもりってわけね。
 無茶だとは思うけど、貴方の“想い”が強いなら、不可能じゃない。
 けれど、それでは“死喰い”は生まれないわよ?」

 そう、これだけを背負うだけでは意味がない。
“死喰い”は結局、死しか喰らえない。生きた想いも、汚して犯して殺すことで取り込むのだ。
 だから、どれほどの“想い”を注ぎ込んだとしても、負の力に負の力を加えることにしかならない。
 必要なのは、“死喰い”を新生させるための負の力。

591オディオを継ぐもの ◆6XQgLQ9rNg:2012/11/18(日) 00:53:19 ID:z4upX2iw0
「ここにある憎しみは所詮模造品。しかも借り物の力でしかない。だが、この憎しみをぼくのものにできれば、力にできるはずだ」
 留まる事を知らない憎悪は、今もぼくの心を攻め立てている。
 輝く盾が守ってくれてはいるが、いずれ押し切られるのは時間の問題だ。
 ならばそうなる前に、この憎しみを手にしてしまえばいい。
 つまり、ぼくがこの憎しみの根源となるのだ。
 自らが生み出す感情であれば、それは強い力になり得るんだ。

「簡単に言うけれど。その模造品を手に入れようとした物真似師がどうなったのか、忘れたわけじゃないでしょう?」
 忘れたはずがない。
 オディオの物真似をしたゴゴは、大いなる憎しみに意識を支配されて魔物となった。
 救いの光を浴びなければ、物真似師は魔物のまま生涯を終えただろう。
 それほどまでに、この憎しみは劇薬だ。しかもディエルゴと合わさったが故に、その毒性は高まっている。

「ゴゴは憎しみをありのままに受け取り、全てを取り入れ、再現しようとした。だから、逆に支配されてしまった」
 それは、ゴゴが物真似師であるが故の悲劇だった。
 魔王オディオその人物に、完全になりきろうとしたから、ゴゴは喰われてしまった。
 なりきる必要はない。ぼくの中にある感情と、模造品の憎しみを同調させ、共感し、一つになればいい。
「ぼくにも、憎いものがあるんだ。それを憎む心が強いから、ぼくは戦えている」
 輝く盾の守備に、少しだけ穴を開ける。
 大挙して押し寄せる暗黒の感情を、僅かながらでも迎え入れるために。
「だから、憎しみはぼくが引き継ごう。そうすれば、ぼくはもっと戦えるから」
「侵食してくる憎しみを逆に取り込もうなんて、それこそ無茶だわ。模造品ですら、貴方には過ぎた感情だと思うけど?」
「無茶だなんて、思わない」

 何故ならば。 

「ぼくは――オディオを継ぐものだから」

 理想を叶えるために、ぼくはその座を継ぐと決めている。
 ならば、今のオディオが抱えるもの一つくらい受け取れないはずがない。受け取れなければならない。
 そうでなければ、理想なんて叶いはしないんだ。
 オディオの座に相応しいと証明するためにも、ぼくは、その憎しみを受け取ろう。
「にゃ、にゃは……にゃははははははッ」
 愉快そうな笑い声が、闇の中に響いた。
 酒の匂いを漂わせるその笑声からは嘲りが感じられない。むしろ、心底から面白がっているようだった。
「いいわ。見ていてあげる。許される限り、このメイメイさんが貴方の行く道を見ていてあげる。
 せいぜい楽しませて頂戴な。最高の肴になってくれることを祈ってるわ」
 
 ぐびり、と酒を飲み、泥で汚れてしまうことも構わず、メイメイさんは座り込んだ。
 傍観者である彼女を追い払うことなどできはしない。
 そもそも、この底が知れない女性と剣を交えて、勝てるとも限らない。
 ならば、しっかりと見ていてもらおうじゃないか。
 他でもない。
 ぼくが理想を叶える、その様を。

【F7 アララトス遺跡ダンジョン地下71階 二日目 昼】
【ジョウイ=アトレイド@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]:クラス『伐剣王』 ダメージ(中)疲労(中)全身に打撲 首輪解除済み 腹部に傷跡
[装備]:キラーピアス@DQ4 絶望の棍(絶望の鎌の刃がなくなったもの) 天命牙双(左)
[道具]:賢者の石@DQ4 不明支給品×1@ちょこの所持していたもの
    基本支給品 マリアベルの手記 ハイランド士官服
[思考]
基本:優勝してオディオを継承し、オディオと核識の力で理想の楽園を創り、オディオを終わらせる。
1:自らの“想い”を死喰いに喰わせ、かつ、不滅なる始まりの紋章に宿る憎悪を取込み、死喰いを誕生させる
2:メイメイに関してはしばらく様子見
[参戦時期]:獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているとき
[備考]:ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。
    セッツァー達に尋問されたことを話しました。    
※紋章無しの魔法等自分の常識外のことに警戒しています。
※紋章部位 頭:蒼き門の紋章 右:不滅なる始まりの紋章

 *ロザリーが見たのは、死喰いに喰われたルクレチア@LALでした。
 ルクレチア以外の場所(魔王山等)が死喰いの中にあるかは不明。
 *召喚獣を使い、遺跡ダンジョンの地下1階〜地下70階までを把握しました。
 *メイメイが地下71階に待機し、オディオにも通じる状態でジョウイを観察しています

592 ◆6XQgLQ9rNg:2012/11/18(日) 00:54:05 ID:z4upX2iw0
以上、投下終了です。
ご指摘ご感想等、何かありましたらお気軽にお願い致します。

593SAVEDATA No.774:2012/11/19(月) 04:25:35 ID:nlCQTVWo0
投下乙!
なるほど、同調し、共感して、まさしく背負うか
確かにジョウイの理想からすれば死喰いに食われるくらいじゃ話にならないけれどさてどうなることやら
この終盤って結構想いの強さの勝負でもあるんだよなあっとしみじみ

594SAVEDATA No.774:2012/11/22(木) 23:51:02 ID:wrVLjRP.O
遅れましたが投下乙!
ジョウイも覚悟が決まってきたなあ。
全てを手にするつもりみたいだけど……どうなるやら

595魔王様ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:03:47 ID:MjKNi4V60
Opening Phase

Opening 1 ノーブルレッドの逆襲(地獄篇)

Scene Player――――マリアベル=アーミティッジ

これを最初に読んだものへ――――

くだらん前置きは止めておこう。お前たちを残し、途半ばで逝く妾をどうか許してほしい。
びりょくながら、お前たちの道を示す標として、欲望が許す限りここに我が叡智を記す。
わらわが、
ノーブルレッドたるこのマリアベル=アーミティッジが全霊を賭して分析した首輪についてじゃ。
か、かー……輝かしきお前たちの未来が輝かやくように、役立ててほしい。
イモータル。
情報に振り回されるのもよくはないが、お主たちならば大丈夫じゃろう。
よく吟味して、慎重に扱ってほしい。
はは、前置きは止めるというたのに、長くなってしまった。すまん、それでは、首輪解除の方法は

ここまで縦読みに付き合った間抜けに教えるわけあるかい。

ぎゃーっはっはははははっはっははははァ!
かかりおった! かかりおったわダボォ!!
実際かかったかどうかは妾には分からんが、かかったと仮定して大爆笑させてもらうッ!
真面目に首輪解除の方法が書いてあるかと思ったか? ざんにゅえーんでーひーはー。
こう言って刻んでおけば貴様が回収するのは目に見えておったわいオディオッ。

そう、解除法なんぞただの撒き餌。真の目的は、回収した貴様に言いたいことを言いまくるためよッ!
あ゛? 仲間ァ? 人間の未来ィ? 知らぬ聞こえぬ心底どうでもよいわ!
この身に流れる妾の血統<カラダ>は妾だけのものであろうがよ。
偉大なる血脈、ノーブルレッドをここまで虚仮にしておいて何も言わずに去れるかよッ!

ひゅっ。カリスマガード、うー☆(防御姿勢。ここではしゃがんで帽子を押さえるもののみを指す)
そろそろぶち切れて一発殴ってくるあたりとみた予感が的中したのう。(と言うことにするプレイング)
しかしあれよのー。こんな見え透いた罠につられるとかないのー。
今時縦読みに引っかかるとか半端ないのー。むしろパないのう。
そのしょっぱいピュア加減にわらわのハートアンダーブレードもびっくり。
まあ、あれよ。妾なりの結論といたしましては……

ド間抜けおつかれちゃーんじゃ。ちゃーんじゃ。

596魔王様ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:04:27 ID:MjKNi4V60
とりあえずじゃ、まず一番最初にコレは言っておかんといかんな。
ちょこ坊から聞いたぞ。何ぞブリキ大王という巨大ロボを参加者が動かしたらしいな。

ずっるううううううい! 説明不要ッ!!
おかしいじゃろ!? なんでそんな糞デカいロボットがぶんぶん飛び回っておって、
妾の『灼光剣帝』も『神々の砦』も無いとかおかしいじゃろ?
差別か。妾がいたいけかつ“ぷりちぃ”でもノーブルレッドで、人間じゃないからか。
妾からゴーレムをとったらガキに妙に懐かれるアルカイックスマイルと30を越えるレッドパワーしか残らんではないか。
あーあー、しょっぱいのー。省みてくれないんじゃのー、かの大オディオでもそういう差別するとか幻滅ぅー。

というかストレイボウから聞いたぞ“オルステッド”。
ルクレチアの悲劇、確かに惨い。
人間は須らく愚かである、と切って捨ててしまうにはお主の生涯はあまりに無残じゃ。
ストレイボウや、お主を勇者と、そして魔王と祭り上げた人間達を憎むお主の憎悪、妾如きでは幾万分の一もくみ取れまい。

だが、だがな、あえて言わせてもらおう。
“それは理由になっても、大義にはならぬ”。

ストレイボウを、ルクレチアの民たちを憎悪のまま殺戮する――――そこまでならば分からんでもない。
じゃが、この催しは別じゃ。その憎悪とこの催しは、因果が応報しておらぬ。
真実を知らしめよう? そのためならば真実を知らず平穏を享受する者が幾人、敗者と墜ちることを良しとすると?
無意味すぎるわい。真実のために真実を求めたところで、何も得られんのだから。
科学者も、技術者も、その叡智によって誰かの、何かの良きものとなるために叡智を求める。
その倫理を忘れてしまえば、ヒアデスの深淵はたやすく人倫を呑みこむじゃろう。

お前がまさにそれよ。真実を悟ったが故に、真実で“止まってしまった”オルステッドよ。
お前の言を逆手に取れば、“愚かな人間が真実を知ったところで、真実は真実でしかない”ではないか。
ならば、妾の仲間達は、妾の友は、知ったところで変わらない何かを知らしめるための生贄だったとでもいうのか。

そんなのがもしこの乱痴気騒ぎの“本当の”目的だったというのなら――――舐めるのも大概にせよ若造。

というかの? ぶっちゃけいうてみい。真実とかどーでもよいのじゃろ?
勇者とか英雄とかどうでもよくて、なんか仲間と一緒に元気に未来に進んでいる奴らを見て、
『爆発しろ』とか思ったんじゃろ? あ、だから首輪か。
確かにうちのアシュレーとかは色んな意味でアレだからのう。
つい“いぢわる”したかったんじゃろ? トニー以上に素直じゃないのう。
なあに、紙面は山ほどある。足りなければ岩に、草に、家の戸棚に書き綴れる。
聞かせておくれよオルステッド。勇者と讃えられ、魔王と怖れられた人間よ。
その呼称を剥ぎ取った中にある、お主の本当の叫びを知りたいのじゃよ。

よおおおし乗ってきおったッ! まだまだ続くぞ終わらせぬぞッ。
ぼろ糞に言いまくってくれる。敗者の嘆きぞ、丁寧に拝聴せよ!!
全30000万字に上る妾の絶唱<うた>を聞けええええええええィッ!!

―――――――――

597魔王様ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:05:05 ID:MjKNi4V60
Opening 2 嘘つきの代償

Scene Player――――ジョウイ=アトレイド

盾の加護を緩めたジョウイは、流入する黒い流れに身を染めていく。
オディオは、全てを憎悪することで世界全ての憎悪と一つになった。
一なる憎悪を極めた先に、全てへの憎悪へと同化したのだ。
それは絵の具に対し同色の絵の具で対抗するのに似ている。
赤色も、青色も、黄色も、どんな色だろうが、この流れる黒河に呑まれれば黒に染まってしまう。
だが、同じ黒色ならば、黒は黒を染めない。それは同じものであるからだ。
だから、オディオはオディオでありながらも、オルステッドでもあるのだろう。
同様にジョウイがジョウイのままこの泥の海に入れたのも、魔剣の中の黒色で身を擬態できたからだ。

されどオディオとは異なり、ジョウイのは所詮擬態だ。
擬態ではいずれ限界が来る。いずれはこの黒色に魂を呑まれてしまう。
だからこそ、ジョウイは盾を解き、刃を握る。
ディエルゴのときと要領自体は同じだ。ディエルゴとは、
核識たるハイネルの心の闇が、島に生じた怨念の核となって一つになったもの。
それと同じく自らの負の側面を表出させ、それをこの憎悪と怨念へと同化させる。
楽園への想いを死喰いに喰わせ、楽園に届かぬものへの憎悪をたぎらせる。
心の中から、胸の奥に沈む淀みをすくい上げる。
不可能ではない。別に、ジョウイは聖人君子ではないのだから。
人である以上心に闇は必ずあり、それはジョウイとて例外ではない。

たとえば、ロザリー。楽園を否定し、その外側へと飛び出した鳥籠の歌姫。
命が失われることを忌んだのは貴方だろう。傷つくことを厭うたのは貴女だろう。
その貴女が楽園を否定するのか。傷つくと分かっても飛び立つのか。
飛び立つならせめて教えてくれ。楽園を否定した貴方はどこに行くのだ。
そこは楽園より素晴らしいのか。否定するだけして、何も示してくれないのか。
なんたる身勝手。その身勝手が“何を永遠に失わせたか”も知らぬ愚者よ。
許せぬ、憎い、憎い、憎い――――

たとえば、イスラ。フォースを通じて僕の導きを知ったように、
お前の怒りは聞こえたよ、適格者。

終わりを奪った? ああ、そうだ。終わりたくない彼がいた。
僕はその願いをすくい上げたのだ。終わることに苦しみ続ける彼を僕がすくったのだ。
それを終わらせる? 希った理想郷のために彼がどれだけの苦しんだかも知らぬくせに。
お前は、理想の光だけを見て焦がれただけだ。そして、いざその裏側を見て幻滅しただけだ。
そんな程度の稚気で、彼の理想を終わらせようなど、許せるか。
許せぬ、にくい、にくい、にくい―――

598魔王様ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:06:03 ID:MjKNi4V60
たとえば……ストレイボウ。
絶望の牢獄にとらわれていた貴方ならば、貴方ならば分かってくれると思った。
己が行いによって全てを失い、それを悔い、取り戻そうと足掻く貴方なら、
誰よりも失うことを恐れてきた貴方ならば、楽園を理解してくれると思った。
なのに、なのに、貴方はそれを拒むのか。拒んでまで十字架を背負うのか。
時を越え、過去を変えて裁きが下る? なんと痛快な。それを貴方の友が聞いたらどんな顔をするのか。
条理をねじ曲げ、死ぬべきでない人たちを、優しい人たちを死なせたオディオに。
そのせいで、リルカはルッカはビクトールさんハナナミハリオウは!!

「おおおおお……」

ジョウイの心に呼応するように、黒く淀み始めた魔剣を握る右腕に魔力紋が走る。
抜剣状態特有の蒼白な顔の上で、獣のように血走った瞳が、物真似師同様金色に染め上がっていく。
だが足りない。死喰いを統べるには、憎悪を支配するにはこの程度の同調では足りない。
心臓を掻き毟るように、ジョウイは心の中の闇を絞り出していく。

「おおああああAaaa……」

憎いのだ。オディオも、オディオの催しに乗って殺した奴も。
愚かな奴らが必要以上に殺し奪い踏みにじって!
何故この泣き声が聞こえない。屍の上で笑っていられるのだ。
その白い花の下に、どれほどの赤い血が流れているのかわからないのか。

「アアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」

ジョウイの内的宇宙に闇が広がる。
世界にあふれる不条理を覆い隠すように、夜空よりも昏い暗黒が満ちていく。
僕を捨てた父よ、少年隊を生贄にしたラウドよ、
憎悪のままに笑うルカよ、私利私欲を卑しく潜める都市同盟よ!
愚かしい、度し難い、救い難い。ならば作り変えてやる。屑がのうのうと生き続ける世界など要らない。
ジョウイの一なる憎悪は無色の憎悪と共に加速し、その瞬く間に世界全てへの憎悪になろうとする。
魔剣を通じ、死喰いの泥へと想いが送られていく。
その想いは、楽園への祈りではなく、楽園ではない世界への呪いだった。
そうでなくては、そうでなくてはこの力を支配することなど出来ないのだ。
楽園ではないこの世界が、そこでのうのうと生き続ける世界の全てが、憎い。
あいつも、そいつも、どいつも、こいつも――――全員、全部が、ぜん、ぶが……


「ア――――」

599魔王様ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:07:02 ID:MjKNi4V60
咆哮が、砕ける。奥底より響いていた呪いの叫びが力尽きたように霞む。
霞んだのは声だけではなく、魔剣から放出されるエネルギーも消失していく。
「――――あ、ああ……」
それでも振り絞ろうと、ジョウイは憎悪を放とうとするが、
乾いた雑巾を捩じったところで、喉の粘膜が切れるだけだった。
「…………ない……」
叫びすら尽きた喉から、血の匂いのする微かな声が漏れ出る。
深奥の泥濘よりも湿った、情けない響きだった。
その響きを掴み取ろうと、杯を置いたメイメイが続きを促そうとしたとき、先に返答が来た。

「………………憎めない……僕には、世界を……憎めません…………」

泣き言だった。これ以上ない、反論の余地もない泣き言だった。
できませんと、無理ですと、子供でももう少しうまく言い訳できるだろう喚きだった。
「だって、僕は、リオウと、ナナミと出会って、人間になれたんだ……」
その瞳には涙はない。だが、その色彩は憎悪の金色から輝く盾の碧に戻っていた。
「リルカと出会って、ニンジンの味を知ったんだ……」
稚児の言い訳。だが、それ故にその泣き言は、真実だった。
世界を憎むならば、世界にある全てを憎まなければならない。そうでなければオディオの座に届かない。
あれだけを憎む、これだけを憎むだとか、“本当の憎悪は、そんな都合の良いものではない”のだから。
「ストレイボウさんは、リオウを失って、砕けかけた僕を、待っていてくれたんだ……」
だが、ジョウイにはそれができない。全てを憎めない。
親友を、姉を、魔女を憎めない。そして、憎めぬものは増えていく。
この場所に立つまでに関わった全てのものを、敵を、味方を、憎めない。
デュナンを、ファルガイアを、ルクレチアを、彼らが生きた世界を憎めない。

なにより、なにより。
「……どうすれば、ピリカを憎めるのですか……?」
何の罪もない彼女を、何の咎もないあの子を、どうやって憎めるのだろうか。


それがジョウイ=アトレイドの限界だった。
ジョウイにも確かに憎悪はある。だがその想いは、理想から派生した影、副産物に過ぎない。
どれだけ憎もうとしても、憎めないものがある。大好きなものがあり、それがある世界を好んでしまう。
その程度の憎悪では、オディオはおろか、自分が模造品と見縊った無色の憎悪にさえ届かない。
ルカのように、それこそが己が全てと言い切れるほどの憎悪でなくてはその座に至れないのだ。
オディオにも――――不完全な想い<ゴミ>を食わされて激高する死喰いにも届かないのだ。

「!?」

泥がジョウイの胸に一閃を刻み、ハイランドの純白に穢れた黒色が付着する。
今のジョウイは感応石と共界線を使って精神だけをこの泥の海に送った、いわば精神体である。
だから、ただの物理的な泥などではこの白を穢すことはできない。
だが、この泥は想いを喰らう泥。
精神だけの存在である今のジョウイにとって、呑まれることは死と同義だ。
ジョウイは慌てて魔剣の力を発動しようとする。

「ぐ、剣が、重……」

600魔王様ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:07:37 ID:MjKNi4V60
だが剣の光は見る間に陰り、自分の腕と錯覚するほどに軽かった魔剣は、鉛のように自分の右手ごと泥に沈む。
まるで、自分の腕ではなくなったような気分をジョウイは覚えたが、
うっすらと血の赤に色付く不滅なる始まりの紋章を見て、それが錯覚ではないと知る。

「まさか、これは……」
「戻ろうとしてるのよ。紅の暴君と、黒き刃と、輝く盾に」

推論を形にする余力さえないジョウイを代弁するように、メイメイが事実を告げる。
この魔剣の根幹を成すのは、『紅の暴君』と『始まりの紋章』である。
既にディエルゴが指摘した通り、真正の適格者ではないジョウイはそのままでは紅の暴君を担えない。
故に、ジョウイは盾と刃を用いて足りない資格を補い、それはハイネルの力を以て始まりの紋章となった。
だが、その始まりの紋章もまた完全ではない。
紋章の所有者が殺し合い、勝者が敗者の紋章を手にするという正規の最終過程を得られなかった盾と刃は、
世界とつながる核識の力を以て、その始まりの形を維持しているのだ。
そして、ハイネルなき今、その力を維持しているのは伐剣王たるジョウイだ。

魔剣継承者として足りない資格を始まりの紋章の力で補い、
始まりの紋章を維持するための力を、魔剣にて補っている。
魔剣が紋章を支え、紋章を魔剣が支えるという奇矯な循環を以て、この異形の紋章魔剣は成立しているのだ。
ならば、その循環のエネルギーとは何か。それは1つしかない。
(僕の、心……魔法が、弱くなってるのか……)
紋章を宿したとはいえ、魔剣は魔剣。所有者の心の力が、剣の力になる。
ジョウイの魔法が、そのまま魔剣と紋章の力になるのだ。
その魔法が陰れば、循環は途絶え、ただの3つの力に戻るのは道理である。

「メイメイさん、まさか、最初から……」

右腕を引きずるようにほうほうのていで泥から逃げ惑う中、ジョウイは縋るようにメイメイを見た。
眼鏡が逆光に当てられ、ジョウイを見つめる瞳はうかがい知れない。その叛意も。
口ではオルステッドの配下と言ったところで、本心ではオディオに反旗を翻したいのだろう。
だからメイメイは、現状ではジョウイには無理だと分かったうえで、
自身を言葉で誘導し、自滅へと誘った……救われた者たちを守るために、邪魔な僕を……

(違う。そうじゃない……選んだのは僕だ……)

自分の胸に生じかけた憎悪を、ジョウイは左手で包む。
仮にメイメイがそう考えていたとしても、今、死喰いを誕生させようとしたのは自身の選択だ。
僕が選び取った道なのだ。
魔法を、理想を叶えるために、憎悪を滾らせて、理想を死喰いに喰わせて――

601魔王様ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:08:15 ID:MjKNi4V60
その時、ジョウイの中で何かの気づきが走り、身体が硬直する。
その隙を泥は見逃すはずがなく、ジョウイの足首をブーツごと噛み千切った。
精神体とはいえ、足は足。“人間は足が無ければ走れない”という常識が精神を捕え、ジョウイは泥の中に突っ伏した。
だが、泥に塗れたジョウイの中にあったのは絶体絶命への焦燥ではなく、愕然だった。

ジョウイ=アトレイドの魔法は、理想は、どうしようもなく好意から始まっている。
故に、憎悪しきれない。好きだと思えた彼らが世界にいる限り――憎悪は完成しない。
ならば、そういう弱さを殺せばいいのか。殺せば、確かに憎悪と同調できるだろう。
でも殺せない。弱さ<リオウ>を、甘え<ナナミ>を、愛しさ<ピリカ>を殺せるはずがない。
それを殺してしまえば、理想は終わる。ジョウイの魔法は、音を立てて崩壊する。

無色の憎悪を封印したこの魔剣こそがまさにその具現だ。
憎悪を身にやつせばやつすほど、魔剣の中の憎悪に同調すればするほど、魔法は陰り、魔剣の力が落ちる。
だが、魔法を以て魔剣を高めようとすればするほど、魔剣の中の憎悪は本能的に暴れ出す。
こっちは好きであっちは嫌いだという中途半端な想いではそも魔剣が成立しない。

この魔剣は最初から矛盾しているのだ。
理想により成り立つ魔剣の中に、憎悪を内包するという矛盾が。
それがある限り、憎悪と理想を抱くこの魔剣を真に使いこなすことができないのだ。

死喰いの泥が、ずぶずぶとジョウイを浸し、激痛とともに責め立てる。
その痛みはまるで、オディオが自分をあざ笑っているかのようだった。
憎悪の座を以て、憎悪を滅するという矛盾した理想を抱く限り、お前に死喰いもオディオも背負えないのだと。

602魔王様ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:08:58 ID:MjKNi4V60
MIDDLE PHASE

Middle 01 力を求めるということ

Scene Player――――ジョウイ=アトレイド

泥の海の中、外側からは精神が、内側から魔法が崩れていく中で、ジョウイはそれでもと手を伸ばす。
それでも理想が欲しい。そのためには、死喰いも憎悪も必要なのだ。
それでも足りなければ更なるものを。もっと強大な「力」が欲しいのだ。
全てを手に入れる『力』を。
もうろうと足掻くする中で、泥の中に全く異種の想いを見つける。
これまでは泥の中に隠れていたのか、残飯とはいえ死喰いに想いを喰わせた結果か。
位置で言えば、泥の海のまさに中心。そこで、これまでは見えていなかった『何か』が泥の奥に見えた。
希望や勇気といった、まだ喰いきれない想いかとジョウイは思ったが、
先の3つとは異なりあまりにも静かに佇むそれは、泥に包まれども喰われることのない『何か』は、
まるで貴賓席に座るように、不気味に佇んでいた。

(死喰いの核か、何かか…………分からないけど、あれを手に入れれば!)

ジョウイは藁をもすがるように、残る意識で無我夢中に『何か』へと共界線を伸ばす。
喰われることなく、泥に守られたこれがなんであるかは分からずとも、
これが死喰いにとって重要な何かであることは分かる。
ならば、それを手に入れれば、更なる力を得て状況を打開できるはずだ。

「こんなところで、立ち止まれないんだ、僕には、力が――――」

ジョウイはその力へと意識を這わせ『この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ』。
辺獄・愛欲・貪食・貪欲・憤怒・異端・暴力・悪意。
力ちからチカラ血からより強くより速くより強靱によりしなやかに
第一界円・第二界円・第三界円・第四界円
至高へ頂点へ力を生命を極め求め究め力に血に奪い犯し
高慢・嫉妬・憤怒・怠惰・貪欲・暴食・愛欲
魔道を求道を我道にチカラただチカラちからチカカカララカカ
月・水・金・太陽・火・木・土・恒星・原動
チカラチカラ最奥真理深淵深層星辰の果て闇の宙天を越えて超えて
竜の門の向こう、寄せるエーギルをかき集め果ての果ての果てのチカラ――――

(なん、こ、れ、ハ……ッ!!)

ジョウイの心が触れたのは、圧倒的な『闇』だった。
もしジョウイが正常な状態だったとしても、そうとしか形容の仕様が無かった。
力、ただ力。頭の天辺から足のつま先まで、力への希求。
それ以外には何もない。それこそが存在意義とばかりに、とにかく力を望む、意志の塊だ。
ただその願いだけで闇黒を形成するそれに、憎悪に墜ちたゴゴの姿を思い出した。
憎悪のための憎悪に満たされたゴゴ。そのローブを隔てた先にあった、何もない『虚無』。
目の前の闇は、唯一の感情に満たされた物真似師のそれに似ているのだ。
(これが、力を、求めるということ……その、終点……)
ほんの僅かの接触で、ジョウイはその正体を理解した。理解させられてしまった。
力を求め続けてきたジョウイだからこそ、理解できてしまう。
ジョウイが抱いてきた力への望みなど、これに比べれば胎児のようなもので、
少し触れただけで気が狂いそうになるこの闇こそが、その極みの果てなのだと。
力のために力を求め、やがて意志を失い、全てを奪い飲み込む闇黒。
それが、理想と憎悪の矛盾にもがく愚かな人間の末路なのだと。

603魔王様ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:09:50 ID:MjKNi4V60
泥が、闇が、憎悪が、朽ちかけた理想を汚し、呑み、砕いていく。
だがジョウイにはもう何もできなかった。
双騎士の未練も魔女の魔法も魔剣の内側で、発動する余力などない。
なにより、その理想の果てをまざまざと見せつけられては、処方の仕様もなかった。
理想の終わりはいつだって、誰の手も掴めぬまま全てを失って、果てるのだ。

(ここまで、か)
泥に傷つけられ続けるジョウイを眇めながら、メイメイはくいと杯を傾けた。
死喰いを生まれることができる状態にするには、強い想いを喰わせなければならない。
死喰いを生むには、憎悪を使いこなせなければならない。
だが、ジョウイの想いは憎悪とは本当の意味で両立しない。
死喰いを誕生させるジョウイの論理は間違ってはいない。だが、それは実践できるものではなかった。
故にこの結果は必然。ジョウイが死喰いを背負うことは不可能なのだ。
いまここにある状況は、定められた伐剣王の末路が、少しばかり速まったに過ぎない。
(にしても、あの闇……やっぱアレって)
メイメイは杯越しに、想いを喰えなかった死喰いの怒りに励起して現出した闇を見つめる。
ここまで観てきた中には無かった力ではあるが、恐らくアレは――――
(いえ、今はこの子かしらね。見届けると、約束したのだから)
メイメイは頭を振って、悶え苦しむ惨めな王を見続ける。
一切の手出しの素振りも見せず、ある種酷薄なほどに、公平に。

「約束した手前、観るには観てあげるけど…………せめてニボシくらいの肴にはなってよね」

少しだけ、つまらなさそうにしながら。


何度汚されただろうか。
もはや四肢の感覚も無く、今のジョウイはただうずくまる肉塊だった。
精神の肉は死喰いの泥によって執拗なほどに汚染された。
少しだけ開いたはずの輝く盾の穴からは鉄砲水のように憎悪が流入し、更に開くことはあれど閉めることは不可能だった。
そして、そんなジョウイを一切認識することなくただ力を求め続ける闇の姿が、奮い立たせるべき理想を無自覚に破壊していく。

そこに王としての威厳など欠片もなく、
まるで大人3人に囲まれ、虐められている子供のようだった。
だが、無理もない。
子供の理想で、大人の世界に口を出したのだ。出る杭が打たれるのは世の習いである。

604魔王様ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:10:26 ID:MjKNi4V60
やはり、自分はオディオの座に相応しくないのか。
無いのだろう。ジョウイにもそれは分かっていた。
自分がいかに分不相応な願いを抱いているのか、言われるまでもなく分かっていた。
憎悪の無い世界などない。オディオはこの世からなくならない。
理想は、絶対に完成しない。
だから耐えよう。少しは我慢しよう。
闇がある以上、光もまた必ずあるから。
明けない夜はないから。いつか太陽は昇るから。
諦めずに生きていれば、いつかきっと報いは来るから。

救いを求めれば、いつか必ず勇者は、救いはあるから。
だから、それまで強く生きてほしい。誰かを救える強さをもってほしいのだ。

「だから、それ以上は諦めろ」

そう言われた気がした。うなずくべきなのだと思う。
それが当然で、実現可能で、至極真っ当なのだろう。
僕がわがままを言っているだけなのだと思います。
でも。
うずくまりながら、足蹴にされながら、それでも想わずにはいられない。

憎悪を抱かず、世界を好んではいけないのでしょうか。
傷つかなければ、癒されてはいけないのでしょうか。
痛みを知らなければ、優しくなれないのでしょうか。
欠けなければ、得ることはできないのでしょうか。

それが秩序だというのなら、貴方達が正しいというのなら、せめて教えてください。
渇くのです。餓えて、渇いて仕方ないのです。



こぼれなければ、すくえないのですか。

605魔王様ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:11:06 ID:MjKNi4V60
その問いは音にも波にもならず、誰にも省みられることはなかった。
そんなものなど知らぬとばかりに、力を求め続ける闇が震える。
闇がその虚無を示すように、虚空に穴を開け、
その吸引力で四肢を泥に縛られたジョウイを引き千切ろうとする。
それは泥のような自然的な現象とは一線を画く、明確な魔導の術法だった。
それが分かったところで、ジョウイにはどうすることもできない。
誰も彼もを置き去りにしてきた孤独の王に、助けなどない。
そしてこの期に及んで救いを求めぬ彼に、雷は輝かない。

だが、それでも。



『AAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!』



天より、雷が轟いた。

606魔王様、ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:11:38 ID:MjKNi4V60
Middle 02 責任を負うということ

Scene Player――――天雷の亡将

爆音とともに泥が跳ね上がり、見えぬ地底の天井にすらびたりと泥が飛ぶ。
四肢を縛る泥の感覚がなくなったことに気づき、ジョウイはゆっくりと頭を上げた。
「リ、クト……? いや……」
不意に口から出たのは、ジョウイも分からぬ名前だった。
ただ、闇魔導の一撃を体半分で阻むその姿に、雷神と鬼神の姿を見たからだった。

「アル、マーズ……」

黒煙のような影であったが、その筋骨隆々な偉丈夫は紛うことなきゴーストロード。
だが、その手には斧も武器もなく、なによりも上半身の右半分と左腕がもの見事に欠損していた。
もしも実際の肉体であったならば、黒々とした軟い脳漿と内蔵が垂れ出ていただろう。
「なんでここに、いや、その形は――――ッ!?」
全くの埒外にあった存在に、ジョウイは驚きを声にしようとするが、
再び暴れ始めた泥が、それを阻む。
だが、亡霊の影は残った肩でジョウイと泥の間に立ちふさがり、泥を浴びた肩が影ごと抉れてしまう。
そして、そんな肩などどうでもいいとばかりに、
亡霊は締め上げるように口でジョウイの襟を掴みあげ、半分しかない顔でねめつける。
「な、なに、を――――ぐ、ああっ!」
肉体を失い、完全になくなった眼窩でジョウイを見つめたあと、
亡霊は残る限りの力で、ジョウイを蹴り飛ばした。
地底の天井を突き抜ける勢いで、あの地下の楽園へと。
「く、ヘク、さん……ッ!!」
ジョウイの目からみて下に落ちていく景色の中で、亡霊は、ジョウイが亡霊にした存在は、
肩の荷をおろして、一息つくかのように、ただジョウイを見上げていた。
「そう……それが……“王”としての、貴方の答えなのね」
天井を見上げる亡将に、泥が怒りを以て貪り集まる。
その骸に、メイメイは尊敬の念を以て厳かに一献した。

607魔王様、ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:12:29 ID:MjKNi4V60
地底の楽園に、手をつく音がする。精神を戻したジョウイの肉体が崩れ落ちた音だった。
天地も定まらぬ心地とばかりにその瞳は揺れており、石畳の冷たさだけが、ジョウイをここに繋ぎとめていた。
「どうして……」
丘に打ち上げられた魚のような浅い呼吸の狭間に、疑問がえづくように浮いた。
それは当然、突如現れた亡霊の将のことに関してのことであった。
だが、それは現れた原因についてでも、何故あのようなことをしたのかでもない。
そんなこと、考えずともわかる。“地上で決定的な――が生じたのだ”。
だから彼が己に問うのは、その前のことだ。
「なんで、気づかなかった……?」
ジョウイは先ほど、核識の力を以て地上の戦闘の状況を把握した。
貴種守護獣を生ずるほどの強い想いの源と、それにより生じた貴種守護獣の力を認識した。
ならば気づけたはずだ。想いだとか、守護獣だとか、そんなことよりもまず識らなければならないことが。
その魔剣の力で、外道の法で、終わりを奪った一人の豪将のことを。
なぜ自らの下に現れるまで、オスティア候のことを考えていなかったのか。

如何にジョウイが仮眠状態にあったといえ、天雷の亡将は魔剣の力で起動した存在だ。
魔王と亡将は共界線でつながっており、それを通してミスティックと輝く盾の力は送られていたはずだ。
だから、いくら眠っていたとしても、よほどの事態があればジョウイにもそれを認識できるはずなのだ。
現に、こうして記録を辿れば、亡将に何が起こったのか認識――――

ビキリ。
「あ、があああああ!!!!!」
追認しようとしたジョウイの中で、何かが砕ける。
何か、としか表現できなかった。骨のような肉のような、脳のような、あるいは全部と呼ぶ何か。
その何かを掴むよりも先に、痛みが来る。
腕を磨り潰されたか、背骨を圧し折られたような巨大な喪失でありながら、
あるいは、両手の指の爪に縦に鑿を打ってから“ぺり”と“まくる”ような鮮烈さを備えた、
痛みとしか呼びようのない波濤が、ジョウイを呑む。
痛い。ただそれだけの信号で、自分の中の何もかもが喪失しかけるほどの痛み。
(ディエルゴに書き込まれたのと、似て……まさか、これも……!!)
既に一度経験していなければ、完全に堕ちていただろう苦痛の煉獄。
それは、まさに記録だった。
死してなお傷つけられた、亡将に刻まれた痛みの記録だった。
銃弾や炎や水塊によって打ち据えられた肉体の痛みがジョウイに走る。
だが、それだけでは済まなかった。
天空の剣に衣を剥がされながら打ち据えられたラグナロクの痛み。
魔界の剣によって斧としての命さえも奪われたアルマーズの痛み。
相手の武器と撃ち合って、限界以上の力に耐えかね、砕けていった数々のナイフたちの断末魔。
それら全てが、堰を切ったようにジョウイを呑みこんだ。

608魔王様、ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:13:01 ID:MjKNi4V60
人間が絶対に味わうことのない、声なき者の阿鼻叫喚の中で、ジョウイは改めて認識した。
これが、魔剣を真に継承するということ、核識になるということ。
一方通行で力を与え、対象を使役するなどという都合の良いものではない。
その対価として絶えず対象との情報を交感し、咀嚼し、対応を求められる。
いわば、繋がったものの全てを背負わなければならないということ。
こと純粋な武器・兵器として考えるなら完全な欠陥品。
それが魔剣の真実であり、代償だった。

だが、その代償の痛みの中で、ジョウイには痛みよりも強い疑問が渦巻いていた。
この痛みは元からジョウイが受け止めなければいけない痛みだ。
何故それが今になってジョウイに送られる。
先ほど泥の海で彼に触れたときに、送られたのか。
これでは、誰かが、その送信を止めていたとしか――――
「ガっ……! ま、ざ、か……」
強烈な気づきに押され、ジョウイの呻きが止まる。
繋がっているから、何かあれば気づくと思っていた。思い込んでいた。
だが、それが今になって繋がった。繋がってしまった。
その事実が意味するところは、一つしか考えられない。

(途中から、切っていたのか? 魔剣からの支援を、断っていたのか?)

天雷の亡将は、戦闘の途中から魔剣から送られる力を受け取っていなかったのだ。
故に、ジョウイは亡将の主として識らねばならない情報を識ることができなかった。
武器の死に全身の神経をズタズタにされながら、ジョウイは絶望の棍を強く握りしめる。
痛みよりも体内で疼く痛みに、ジョウイの脳裏は飽和する。
感知した想いと、亡将より得られた情報から逆算すると、恐らくはジャスティーン顕現の直前だ。
何故そんなバカなことをしたのか。もしその窮状を把握できていれば、
力の供給なり、よしんば無理でも、撤退の指示は出せた。ならば、何故。何故。
(……嘘を、吐くな。そんなこと、分かっているだろ)
この期に及んで答えから目を逸らそうとする感情を、理性が嘲る。
力の供給? 魔剣の憎悪さえ持て余す身分でそんなことをしている余裕があったか?
ジャスティーンと現時点で真っ向から戦うには、膨大な供給が必要であり、
それはジョウイの行動に致命的な支障をきたしただろう。死喰いの誕生など不可能なくらいに。
撤退? それこそ笑い者だ。彼がどういう存在なのか、誰よりも分かっていただろう。
永くは保たない。それを承知で、現世に縛ったのは他ならぬジョウイだ。
それを撤退させるなど、ただの感傷に過ぎない。
支援も撤退も無意味。何故なら彼は最初から。

609魔王様、ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:13:31 ID:MjKNi4V60
目を背けていた事実を、痛みと共にジョウイは嚥下する。
魔剣を手にしたあの局面でジョウイは最初から遺跡への撤退を目算していた。
だが、ただ撤退する訳にはいかなかった。
その後ジョウイが遺跡を制圧するための時間が必要で、ジョウイが抜けても戦闘を継続させる兵力が必要で、
しかもセッツァー達に戦闘継続を選択させるほど、セッツァー達と戦術的に噛み合う人物が必要だった。
必要だったから、奪った。残酷な兵理を以て彼の終わりを、彼の祈りを、彼の全てを奪った。

(僕は、オスティア候を……)

既に死喰いは傍にいない。それでも、ジョウイの中に痛みが渦巻く。
熱された油を浴びるようにイスラの怒りが体内で巡る。
だが、それに抗する術をジョウイは何一つ持たなかった。
憎悪を失った視点で見つめるその怒りは、あまりにも正当なる憤りだ。
どれほど言葉を弄しようが、結果が全てを物語っている。
何が戦場を用意しただ。さもオスティア候の望みを尊重したかのようにほざくな。
彼がお前を望んだのではない。お前が彼を欲したのだ。
美化するな。目を逸らすな。お前がしたのはたった一つ。

(彼の理想郷を……捨て駒にしたんだから……)

死したオスティアさえも奪い尽くし、捨て駒にしただけだ。
もともとあそこで朽ちる予定で、戦略の内だったのだ。
いなければいないで、別の手を考えていただけだ。
それを今になって支援だ退却だなど、己が幼稚な満足以外の何物でもない。
冷たくなっていく血液の中を罵倒が巡る。イスラだけではない。
元王国軍第三軍団長・キバ、その嫡子であり、父を失った軍師クラウス。
そして、彼らのようなジョウイによって奪われ、犠牲になった者たち。その類縁。
全うすべき『終わり』を失ってしまった者達の怨嗟が、魔剣の王たるジョウイを責め苛む。
(恨まれて、呪われて、当然なんだ。あの人だって――――)
だが、そこでジョウイの手の震えが一瞬止まる。
誰もがジョウイを苛むなかで、彼の声だけは聞こえなかったのだ。
オスティア候。血河に溺れる定めを負ったエレブ大陸の命運を握る一翼“だった者”。
今この瞬間、最もジョウイを呪う資格を持った人物の嘆きが聞こえないのだ。
(……捨て駒にしたんだ。なんで、あの人は、ここに……)
一番ジョウイを糾弾するべき妄念が、泥の底でジョウイを助けた事実が疑問となって痛みを和らげる。
嘆きから目を背けたいだけの逃避に過ぎないと分かっていても、考えてしまう。
供給を断っていたとしても共界線自体は繋がっていたから、そこを辿ってジョウイの下へ来ることはできただろう。
だが、何故来たのだ。亡霊体すら半分以上欠けた姿で、何のために泥の前に立ちはだかり、僕を逃がしたのか。
供給を拒んだのは、ジョウイの手を内心で拒んでいたからではないのか。だったら、なんで助けた。

(まさか)

違う。“助けるから、供給を拒んだのだ”

(それを、承知で……あの人は……全うしたのか……全てを……)

610魔王様、ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:14:02 ID:MjKNi4V60
四つん這いで蹲るジョウイの掌が、固く握りしめられる。
ゴーストロードが魔剣の加護を断ったのが、ジョウイを助けるためだとすれば、辻褄が合う。
魔女の神秘を無効化する天空の剣、盾の生命を喰らう魔界の剣。
この二つを前にしては、力を供給をすればするだけ、泥沼の消耗戦に陥る。
そう悟ったゴーストロードは魔剣からのバックアップを断った。
そして、退路を断った亡将は自らに残る全ての魔力と妄念の全てを賭して、貴種守護獣に立ち向かった。
王の道の先に必ずや立ちはだかる、この世界の貴種守護獣の能力を可能な限り暴くために。

――――殿を託します。どうか、せめて、武運を。

本隊退却の時間を稼ぎ、本隊の消耗を抑え、減らせずとも敵軍の情報を可能な限り引き出す。
自身の敗北を以て、伐剣王の勝利のため、天雷の亡将は全うし切ったのだ。『殿』の役割を。

「く、うううう、ぐひ、ぅ」

蹲るジョウイの口から奇声が漏れ出す。笑おうとしたのに、痛みで唇が旨く動かなかった。
自分で捨て駒にした王がそれを心の底で自覚せず、識ろうともせず、
捨て駒にされた将のほうが覚悟を決めていたという事実。それを哂わずにいられようか。
なんたる屑。なんたる下劣。これでオディオを継ぐものを名乗るとは噴飯ものだ。
そんな屑のために彼は戦った。最後まで、最後の最後まで戦った。
伐剣王が本来直ぐにも背負わなければならないその痛みを、自分の中に溜め込んでも、
せめて最後の眠りの間だけでも届かせぬように、独りで戦い抜いた。

未来を、全てを失った王が、たった1つの導きを呪いにして。
リフレインするほどに、呪言となって魂を囚えてしまうほどに、楽園を信じて。
かつてオスティアを背負った王として、その亡魂を礎に変えたのだ。

「ああああああああ!!! ぼくは、ぼくは……ッ!!」

ぶちまけてしまいたかった。臓腑も、魂魄も何もかもを吐き出してしまいたかった。
ぼくが理想郷を想うよりも遥かに深く重く、貴方は楽園を想っていた。
その想いが、重過ぎる。
貴方が祈った者は今にも圧し折れそうなほど蹲っていて、地獄の中で貴方が掴んだ手は冷たくて震えている。
そんな屑なのです。貴方を従えるほどの王としての器量も資格もないのです。
その想いに応えたい。けれど、貴方の信頼に応えられるほど、背負えるほど強くないのです。
そんな無能こそが、貴方が生かし、託したものの正体なのです。

611魔王様、ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:14:41 ID:MjKNi4V60
追い打ちをかけるように、魔剣の中で渦巻く怨嗟が更に大きくなる。
この花畑全体が、小刻みに震え、呻いているようだった。

――――姫が、姫が、ここに還るべき姫が、死んだ。
    絶えた、楽園を継ぐべき姫子が絶えた。絶えてしまった!!

ああ、そうだ。こうやって何度血を流してきたことか。
そのくせその怨嗟に正面から向かうこともできない。
そんな奴に、魔王になることも、オディオを継ぐことも、出来るわけがない。
デュナン地方一つでさえ満足にことを成せぬ小僧が、
文字通りの『世界』に手を伸ばそうとすれば、潰されてしまうのは当然ではないか。
投げ出してしまいたい。逃げ出したい。
全ての責務と全ての犠牲も何もかも忘れて、
どこか遠い所で、全てが終わるまでひっそりと生きていけたら、どんなにいいだろうか。
それはかつてジョウイがリオウとナナミに願ったことだった。
優しい君たちに、地獄は似合わないから。いてほしくないから。
いつかその日が来るまで、争いから離れて静かに生きていてほしい。
それと同じことを、ジョウイもすればいい。
全てが救われるその日を信じ続けて、白い花を愛でながらひっそりと静かに朽ちていけばいい。
それが、考えうる限り最上の幸福だ。

「……それでも、それでも、リオウは逃げなかった!!」

血反吐を吐きながら、ジョウイは断崖の一歩手前で堪える。
逃げてほしいと思った。都市同盟軍の主なんて、そんなものを背負うなんて辛いことをやめてほしいと思った。
それでも、リオウは僕の前に立った。それでも、僕はリオウの前に立った。
どれほどに傷つこうと、どれほどに悲しもうと、それでも歩き続けることを止めなかった。
背負ったもののために、信じてくれた人のために、僕が、君が、そうしたいと想ったから。

「だけど僕には、資格が、ない……」

ならば、どうすればいいのか。
逃げ出したくないと思っても、先に進むための道は認証式のゲートでふさがっている。
理想と憎悪は常に互いを滅しあい、魔剣も死喰いも制することができないのだから。
ならばいっそ死喰いそのものを諦めてしまうべきか。
彼が生かしたこの命を無駄にしないためにも、より安全な手段を模索するべきではないか。
たとえば、彼らの下にもう一度戻り死喰いのことを話して、
それを止めるためとでも言って仲間に戻ったふりをして――――
いや、それでどうなる。ぼくがなすべきは、なるべきなのは。

612魔王様、ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:15:27 ID:MjKNi4V60
今度はディエルゴの精神干渉ではない、現実に即した袋小路。
物理的に、状況的に、精神的に、論理的に、オールチェックメイトの状況。
考えうる全ての道筋を封じられてもがくジョウイの目に、ふとしたものが目に付く。
綺麗に製本された、一冊の書。ジョウイが眠りから覚めたとき、傍にあったものだ。

「……これ、は……?」

朦朧とする意識を集中させて、ジョウイは左手で掴んだ書物の重さを感じる。
恐らくメイメイが置いたものだろうが、起きて直後に、死喰いの活性があったため放置していた。
万事休すというべき状況で、ジョウイはゆっくりとその書の始まりをめくる。
別に、ここに解決法を記されていると期待するほど、ジョウイは楽観主義者ではない。
だが、文字通り万事休す――打つ手無しで、手を休めるしかない――の状況で、
それくらいしかすることがなかったから、めくっただけだった。

「マリアベル、さん……」

冒頭の数行をぼそりと、著者の名を呟く。
その名の響きに疼く痛みは、自分の目の前で散った命の傷みだった。
珍妙に書かれた文章も、ジョウイは生来の生真面目さで読み進めていく。
オディオに紡がれる罵詈雑言さえも、どこか自分への糾弾に聞こえてしまうのも理由だった。
(内容から考えて、書いたのはゴゴさんが戻ってきてから……
 後のことを考えて、僕もいろいろ皆のことは調べていたけど、そんな暇があっただろうか)
口汚い罵声のオンパレードの中で、ふと、ジョウイはその疑問を覚える。
執筆時間のなさも、まるで自分の死を理解してから書かれたかのような文章も疑問だ。
だが、それはこの書がメイメイの手元にあったとすれば、紋章札のような超自然的な術理を前提とすれば解決可能だ。
それにしたとて、わざわざオディオを罵倒するだけのためにこんなものを遺す女性だっただろうか。

そう思いながら読み進めるジョウイの手が、途中で止まる。
そこで、オディオへの記述は止まっていた。

613魔王様、ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:16:15 ID:MjKNi4V60
Middle 03 ノーブルレッドの遺産(煉獄篇)

Scene Player――――マリアベル=アーミティッジ

よっしゃ次の曲目は『魔王<ぼく>は友達が――――オディオはもうおらんな?

ここまで下らんことを記して済まなんだな、お前たち。
妾が死んだ状況を見るに、世界に記したとてこれを最初に読むのがお前たちかオディオか、半々で読み切れんかった。
故、先ずああいう書き出しを用意する必要があった。
オディオが最初に読んだときに、怒るか、呆れて読む気も失せて捨て去るようにな。
ふふふ、隙を生じぬ二段構えとは恐れ入ったろう。ほめて良いぞ?
とはいえ、あんな奇矯なものを記したことは初めてでのう。
遥か昔、アナスタシアと文通していた頃の奴の文面を参考にしてみたのじゃが……煽りというのはああいうものでよいのか。

と、流石にもう脱線する余裕もない。本題に入るぞ。
わらわは死んだ。もうこれは覆せん事実じゃ。ないものは当てにするな。
お前たちで首輪をなんとかするしかない。その前提を先ず認識せよ。
とはいえ、妾はそこまで悲観しておらん。じゃから今度こそ聞け。寝るなよヘクトル。
先ずおさらいを兼ねて要点から行くぞ。

首輪の機能を構成するのは大まかに分けて3つ。
1.感応石(監視制御)
2.ドラゴンの化石(物理型爆弾)
3.魔剣の破片(魔法型爆弾)

首輪に対するアプローチは以下の3つ。
A.首輪を制御・管制する中枢制御装置の破壊あるいは掌握。(システムへのアプローチ)
B.首輪を改造して、爆発システム自体を変更する。(機械的アプローチ)
C.感応系能力を用い、通信系を阻害する。(精神的アプローチ)

となる。ここまでは良いな。
で、お主らがこれを読んでおるということは、どういう結果であれ魔王やセッツァー達との戦闘は終わっておるのじゃろう。
流石にあの戦闘中に偶さか中枢がにょっきり出てきたなどというわけでもあるまい。
そして、現状の禁止エリアから考え、南を潰された場合足が止まる。よって案Aは現実的ではない。
まあそれは妾が生きておった時から言うておったのだからさしたる問題ではない。

であるからB案とC案なのじゃが……正直、わらわが死んでB案が潰れたというのがお主らの懸念じゃろう。
案ずるな。救いがなければ死んでおった妾じゃ。こんなこともあろうかと万一のリスクマネジメントは施しておる。

614魔王様、ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:18:53 ID:MjKNi4V60
……こんなこともあろうかと。

……こんなこともあろうかと。

う、うむ。異端技術者<ブラックアーティスト>の端くれたる者、一度は言ってみたい科白であったが、
いざ言うてみると気恥ずかしいものではあるな。

と、とにかくじゃ。
あの雷の後に、墓やらなんやら態勢を立て直してた間に、
ルッカのカバンから首輪改造に必要な小型の工具はわらわが見繕って、各自のデイバックに分散させてある。
一人一人の工具ではちと心もとないが、生き残り全員分をかき集めればそれなりになるじゃろう。
解体工法に関しても同様。書き殴りで済まんが、全員の筆記用具に分散させてしたためてある。

ここまでする必要があるかは正直分からん。が、地形が変わるほどの破壊が連発されると、
工具も記録も、誰か一人に持たせるのはあまりにリスキーじゃ。一発蒸発が容易に考えられるからな。
(着ぐるみの解れを修繕するまで手持ち無沙汰であったことは黙っておいた方がよいだろう)

どうじゃ。これほどの周到、妾でなくては成し得まい。

ほ め る が い い。


ふふ、おだてても何も出んぞ。(既にほめられたというロール)
で、肝心の手足なんじゃが。アナスタシアにやらせよ。
ほれ、そこらへんで嫌そうにしておる連中。まあ聞け。
確かにアナスタシアは寝間着とサンダルで買い物に出かけるような気安さで
軽犯罪法に引っかかりそうな奴ではあるが、ああ見えて、機械工学には通じておる。
ここにはおらんが、妾のヘルプデバイス『アカ&アオ』も奴の作品でな。腕は妾が保証するよ。

615魔王様、ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:19:27 ID:MjKNi4V60
……悪いが“その”可能性は考慮せん。
妾は願った。あやつは聞いた。それを裏切る仮定など、したくないでな。
とはいえ、アナスタシアが五体満足である保証もない。永劫を待ち続けて、腕が錆びておる可能性もあるしな。
すまんが、可能な限り皆で支えてやってほしい。とりあえず、B案の遂行はそれで行けるはずじゃ。

ただ、ここまでそろえても、ドラゴンの化石はともかく、魔剣の欠片まではどうにもならん。
故に万全を期すならばC案との複合が望ましい。
アキラよアナスタシアの作業の間だけでよい。オディオから横やりが入らんよう、ジャミングを頼む。
……万一の場合は、何としても紅の暴君を揃えよ。
アキラ無しで感応石を阻害するとなると現状それしか手が思いつかん。
イスラの在不在にかかわらず、魔力さえあれば少なくとも補助にはなろう。

長くなったが、少なくともB案単独での解除は試せるはずじゃ。
ただ、試みると簡単に言うたが、お主らも知ってのとおり、まだ生体での解除は誰も試しておらぬ。
この喫緊した状勢で無茶をするな、とは言えん。だが、それでも命を第一とせよ。
妾の案なぞ所詮は苦肉の策。より良い手が浮かんだなら迷わずそちらを選べ。よいな。


―――――――――――


成程、とジョウイはマリアベルの周到さに舌を巻く。
マリアベルは見抜いていたのか。“残される彼らが潜在的に抱く欠陥”を。
故に、自分がいつ死ぬかはさて置いて、自身の死によって起こるダメージを極力減らそうとしていたのだ。
ジョウイも首輪解除の三本柱、アキラ・紅の暴君・マリアべルを崩そうと動いていたのだから、
マリアベルの慧眼にはただ素直な賞賛しか抱けない。
現実に、ジョウイは紅の暴君しか手中に収められず、崩したはずのマリアベルは柱を守り抜いた。
ジョウイも、決して多くはなかった時間を彼らの戦力調査に割いていたため、マリアベルの保険までに手は回せていない。
柱が2本残っていれば、少なくとも勝負目は残るだろう。

だが、それでもジョウイには疑問が残る。
マリアベルの保険は、知ろうが知るまいが、彼らのデイバックの中に分散している。
こんな書物に記さなくても、諦めなければ見つけるのは容易だろう。
そもそも、死んでから慌てて遺すようなやり方は杜撰に過ぎる。後手に回り過ぎだ。
ならば、何故そんなものを遺す必要がある。あるいは、死んだからこそ、遺すべきものがあったのか。
その回答もまた、その続きに記されていた。
そしてそれこそがマリアベルが本当に遺したかったものだった。

616魔王様、ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:20:19 ID:MjKNi4V60
――――さて、ここまでは“既にお前たちに書き遺した”ものじゃ。
    その気になれば、荷物をあさり、アナスタシアに聞き、思いつくじゃろう。

だから、ここから先は――ただの感想じゃ。この首輪に対する一技術者としての、な。
裏付けも何もなく、推論以下の妄想。どこにも書き置かず胸中で弄んでいたものよ。
欲望に乗せて綴るには相応しかろう。

技術者として言わせてもらうならこの首輪――――はっきり言って駄作じゃ。

別に不当な評価をしたいわけではない。系統の異なる異世界の技術を複数組み合わせ、
それらが相殺されることなく首輪として完成しているという点では妾も舌を巻く。
じゃが、そこまでの技術があるなら“そもそも異世界の技術を組み合わせる”必要がないのじゃよ。
分かりやすく言えば核じゃな。魔剣とクラウスヴァインによって物魔複合属性で2倍の火力を構築しておるが、
ここまでのことができるオディオならばそんな手間かけずとも自分の力でその火力を作れるじゃろう。
そうであったなら、妾達は構成材料に気づくこともできず、お手上げであったはず。

この島が我らの世界からいくつもの要素を抽出して作ったツギハギであり、
そうであるが故に、その継ぎ目にオディオの未知なる要素があるかもしれん……
アシュレーはそう推察したそうじゃが……それはこの首輪にも言える。
異なる技術を組み合わせたことで、ツギハギとなってしまい、継ぎ目が見えてしまう。
継ぎ目が見えれば、そこで分解できる。解析できる。アプローチの仕方が見えてしまう。
分かるか? 異なるシステムを組み合わせることは、セキュリティを脆弱にするだけなのじゃよ。
現に妾たちはこの首輪を3つの要素に分解し、3つものアプローチを見いだせておる。
だからこそ、お前たちは妾のような技術者がおらんくなってもまだ解除の可能性が残る。

だが、妾はオディオが手を抜いておるとは考えん。そういうには、この首輪の作りは“真摯すぎる”。
人が作ったものには、作り手の意志が必ず潜む。この『技術の無駄遣い』に対する妾の回答はこうじゃ。

これは道具ではなく芸術――――“人に見てもらうために”作られたものである、と。

様々なアプローチの方法が考えられるが故に、首輪を解こうとするものはそうそう諦めん。
全部の要素が分からずとも、どれか一つくらいには心当たりがあろう。
故に、誰もが、首輪を解こうと向き合う。“首輪を、省みようとする”のじゃよ。
それこそが、綻ぶことを承知して技術を複合させたオディオの目的であろう。

天からふりそそぐものが世界を滅ぼそうとしたあの時、奴が手にしていた破片の中にあったあの邪気。
ちょこ坊から聞いたが、あれはあやつの世界におった邪悪なるものの力らしい。
ただ、イスラも自分の世界の何かを感知しておったところを見ると、この2つの世界の複合じゃろう。
『闇黒の支配者』と『狂える界の意志』。
趣味が良いというか悪いというか、妾たちの命は敗者たちの残滓に握られておったというわけじゃ。

解除に全力を尽くせば尽くすほど、妾達は首輪の要素を知ることになり
……最終的にあの魔剣の破片に潜んだ『闇』を省みることになったのじゃよ。

617魔王様、ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:21:03 ID:MjKNi4V60
妾は思う。オディオが、この世界に各々の勝者を喚んだとすれば……
妾達がたつ大地、解き明かそうとするこの催しそのものが、各々の世界の敗者の力で構成されておるのではないか、と。
敗者が勝者に勝てればよし。負けても目的は達せられる。
この戦いを否定し、オディオにあらがおうとすれば、妾達はマーダーを倒し、首輪を制さなければならない。
そのとき、妾達は否が応でも敗者に向かい合うようにできておるのじゃよ、この戦いは。

この島は、この戦いは、敗者の墓標<エピタフ>。風も吹かぬ地の底で嘆き続ける敗者を封じた墓碑。
それこそが、妾はこの首輪を通じて想った最悪の仮説じゃ。
悪趣味にもほどがあるわい、この墓参りは。
自分のところに来たければ墓を踏んづけて登ってこいと言っておるのじゃからな、オディオは。

じゃが、妾はそれでもこれを遺さずにはおれん。
この仮説が被害妄想という真実で止まるならば、わざわざ遺したりせん。
じゃが、この仮説の先に見えるものを警告せずにはおれんかった。
そう、攻略実現性のなさから放置したこの首輪の対するアプローチ法の案A……中枢制御装置についてを。

首輪を解き明かそうとすれば、敗者の墓碑を巡ることになる。
それが妾の仮説じゃ。ならば、制御装置に向き合おうとすれば、そこにも墓碑があると考えられる。
そこにある墓碑に刻まれているのが“誰”なのか。

妾が見聞きした限りでは、名簿に載った参加者は9つの世界群に分けられる。
妾たちの住む人と守護獣の世界。
シュウやちょこのいた、人と精霊の世界。
ロザリーやユーリルがいた人と魔族の世界。
ニノやヘクトルのいた、人と竜の世界。
イスラのおった人と召喚獣の世界。
ゴゴのいた人と幻獣の世界。
ジョウイのおった人と紋章の世界。
カエルや魔王の奴がおったと考えられる、人と時の世界。

そして、アキラやサンダウン、ストレイボウのおった……人とオディオの世界じゃ。
ただ、無法松はアキラの世界の人物であって、サンダウンの世界には関わっていないらしい。
それをふまえると、こ奴らもそれぞれ別の世界から呼び出されたようじゃから、
更に世界が分派する可能性はあるが……ルクレチアに呼び出されたという
ことから見て、オディオと強く関わる世界群と考えるべきじゃろう。

618魔王様、ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:21:56 ID:MjKNi4V60
そこから、まずこの世界で確認された各々の世界の敗者を並べるぞ。

まずは当然、この戦いの始まり。
『魔王』オディオ。こやつを抜きにしては語れまい。

んで『焔の災厄』。あやつがこの戦いとどう関わっておるかは、多く語る必要もあるまい。

そして、敗者としてこの戦いに直接関わっておる者達。

『狂皇子』ルカ=ブライト。
『魔族の王』ピサロ。
『時を越えるもう1人の魔王』。
『破壊』ケフカ。

ついで、この戦いを支えるシステムとなっているもの。
首輪に秘められた『闇黒の支配者』。
それを封じ込める『狂える界の意志』。
感応石を用いた放送を行っておるところを見ると、ヴィンスフェルトも意識されておるのかのう。
意外に几帳面じゃなオディオ。

とまあ、並べてみればよくもまあここまで揃えたりというところじゃ。
妾達の世界の敗者をほぼ網羅しておる。

そう。ほぼ、なんじゃよ。全てではなく、欠けておる。
オディオがそんな欠けを許すか? 
ここまでのことをしでかす奴が、敗者の中で、更に敗者を作ると思うか?
妾は思えん。故に、妾はオディオの憎悪を信頼し、この仮説を遺す。
奴は欠かすまい。その欠けを埋める敗者の残滓こそが、首輪の、この島の中枢。

ルッカ=アシュティアが魔王を味方と捉えたとすれば、魔王は敗者であり勝者でもある存在。
ならばこの世界の本当の敗者『大いなる火』も関わっておろう。

そして、残る最後の世界の敗者も――――

619魔王様、ちょっと働いて!! ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:22:31 ID:MjKNi4V60
ジョウイはその文章を読み終わり、目を閉じた。
マリアベルの至った仮説が限りなく正解に近いと、この場にいるジョウイだけが理解できた。
ならば、あの泥の中にあった『何か』の正体は定まる。

(だけど、それでも……ぼくには、なにも……)

ジョウイの中で、冷徹な算盤がなかば習性的に弾かれていく。
立ち塞がる壁の隙間を縫うように、ゴールへのラインが通っていく。
だが、最後の一歩が通らない。進むべき道が真っ暗で見えない。
そのために必要な『犠牲』を、ジョウイは恐れる。
そのために不可欠な『資格』を、ジョウイは抱けない。

理屈だけでは踏破できないこの迷宮を解き明かす最後の鍵が足りなかった。
踏み出せない一歩を悔やむように、ジョウイは自然と本に目を落とした。

『さて、言い遺したことはこれで全部じゃ。長々と語ってすまなんだな。ときに――――』

その最後に書かれたものに、ジョウイは虚ろな瞳が、僅かに見開かれる。
ページをめくるたびに、鼓動が早まり、喉を鳴らす。
そして、本を閉じたとき、欲望によって記された賢者の書物は、光輝となって灯火となった。


――――――

620 ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:23:31 ID:MjKNi4V60
すいません。急用が入ってしまったため、一時投下を中断します。
戻り次第再投下いたします。

621SAVEDATA No.774:2012/12/09(日) 20:32:18 ID:YICpL3DM0
乙です。
そっか、こういうふうに繋がってるのか
言われるまでまったく気づかなかった要素も言われてみるとそれ以外にない、って気がしてきてすごいなぁ

622 ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:57:23 ID:MjKNi4V60
お待たせしました。それでは投下を再開します。

623リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:58:28 ID:MjKNi4V60
CLIMAX PHASE

Climax 01 抗いし者たちの系譜−覇道の魔剣−

Scene Player――――メイメイさん

「戻ってこなかった、か。こんなものかしらね。貴方の未練も、無駄になっちゃったわね」
失望したような口調で、メイメイは目の前の光景を眺めていた。
煮立つようにゴポゴポと唸る泥の海の中で、ゴーストロードの影が少しづつ削られていく。
かろうじて残っていた影さえも、勢いを増して喰い尽くされていく。
生者の想いではなく更なる死が送られ、喰われたことで、死喰いは更に活性化していたのだ。
島に留まる媒介であった斧も力を振るう肉体も失った今、
この亡将は、ただ想いだけでここに存在している。
ブーストショットで失われた、神将器の『半分』に込められた、王としての未練だった。
「生まれ、得たものを愛し、失うことを悲しみ、死ぬ。
 貴方の言うとおりよ、イスラ。人として、それが正解」
だがそれでも、王はその正解に留まることができない。
なぜならば、王は民達に『人』であってほしいと願うからだ。
自分が泣くことよりも、民達が泣くことを厭うからだ。
「王に人であってほしいと願う民。民に人であってほしいと願う王。
 平行線……どちらかが折れなきゃ、息もできない、か」
勝者と敗者の溝のように隔たる境を見て、メイメイは杯の酒を飲み干す。
人として満足な死を得て、王として未練を食い尽くされるオスティアの覇者に、哀悼を示した。
「炎の子は現れず、凶星は降り注ぐ。“貴方達の”エレブ大陸の運命は、大きく歪むことになるでしょう。
 それでも、どうか安んじられよ、異界の王よ。全てが失われた訳ではないのだから」
泥に喰われる影を見つめる眼鏡の奥に浮かぶのは、少し未来の流れ。
血に覆われ、全てを伺い知ることはできない。
だが、それでも、全てが失われた訳ではなかった。彼の親友が、彼とともに轡を並べた者達がまだ残っている。
まだ何も終わってはいない。”生きているなら、何度だってやり直せる”のだから。

「……せめて、その苦しみだけでも、濯ぎましょう」

王としての終わりを見届け終わったメイメイはゆっくりと立ち上がり、眼鏡を胸の谷間にしまい込む。
尋常ならざる魔力が、酒精さえ吹き飛ばすようにたぎり始める。
「だだの掃除みたいなもの。オル様も、目こぼしくらいしてくれるでしょ」
もともと、ヘクトルの死は絶命の時点で死喰いの中だ。
イスラ達が戦っていたゴーストロードとは、その前にアルマーズが喰らったヘクトルの残滓に過ぎない。
そして、ここにいるのはその中の王としての未練。喰い残しの喰いカスのようなものだ。
ならば、彼をこのまま泥に陵辱させ続けてまで観測すべき対象ではない。
よりによって、彼が敵と定めたものの眼前で辱めてよいものではない。

「四界天輪、七星崩壊。世の条理よりはぐれし鬼神の残影よ、時の棺の中で眠りなさい。
 二度と覚めることのない眠りに――――『紋章術<かがやく刃>』!?」

メイメイが力を行使しようとした瞬間だった。
彼女の背後から白銀の剣片が無数に飛来し、ゴーストロードの周囲に纏う泥を切り裂いていく。
想いを喰らう泥である以上、肉体を保たずとも想いを形に変えた力ならば届く。

「困ります、メイメイさん。オスティア候は――――僕が奪ったのですから」

624リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 20:59:44 ID:MjKNi4V60
ゆっくりと、紋章の発動者が闇の奥から現れる。
光刺さぬ地底でも輝く泥が、その純白の軍服をほのかに照らした。
「……ずいぶん、遅かったわねえ。今更、何しに?」
一瞬目を細めてから、メイメイはふと気を抜いて発動しようとしていた魔力を解除する。
そして、胸から眼鏡を取りだしながら嘲るように聞いた。
「無論、魔王らしく責務を果たしに」
片目を銀髪で覆い、右手に不滅なる始まりの紋章を輝かせながら、伐剣の王は真顔で力強く応えた。
「……配下にした責任をとって、死喰いから救おうってこと?」
「救うのは勇者ですよ。魔王には救えない」
救えない。その言葉だけが、やけに冷たく残響した。
ジョウイは泥の中を進み、ゴーストロードへと近づいていく。
死喰いの泥は、先ほどの屑とジョウイを認識するや、未だ執念だけで留まり続ける未練へと食指をのばし始める。

「でも、奪った以上は、奪ったなりの責務があるんですよ。
 だから、勝手に奪わないで下さい――――紋章術<大いなる裁きの時>」

それを許さぬ、とジョウイの右手の魔剣が輝き、黒き光がゴーストロードへとその周囲へと降り注ぐ。
そして、その直後、ゴーストロードに襲いかかろうとした泥に、黒き刃の破片が突き刺さっていく。
位置も数も関係なく、泥が動こうとした瞬間に発生する刃が、先んじて攻撃を封殺する。
それはまるで、王の領土に入った賊を撃退するような手際だった。

「対象者への攻撃を核識の知覚で事前に察知して、黒き刃による半自動先制反撃……魔剣を、選ぶってこと?」
力の性質を見極めたメイメイが確かめるように尋ねる。
今発動したのは、核識と紋章――ジョウイの魔法に属する力。それは逆を返せば、憎悪に反する力である。
だが、ジョウイはそれには答えず、ゴーストロードへとまっすぐに歩き、たどり着く。
泥と刃が相殺しあう中、王と将が対峙するそこだけは、凪いだように静かだった。
「…………貴方には、殿を命じた。“全てを用いて、戦い続けよ”と、この僕が命じた。
 イスラ達に負けたのだろう。なぜここに来た?」
吐き捨てられたのは、あまりにも無慈悲な問いかけだった。
殿を命じたのだから、最後の最後まで戦って果てて死んで当たり前だろうと、そう言っていた。
亡霊体の半分を失い、両腕も失って、それでも伐剣王を救いに馳せ参じた将にかける言葉としては、あまりにも傲慢だった。
だが、亡将は何も言わずひざを折って俯き、
メイメイもまた芝居を観劇するように、酒を舐めながら見つめていた。

「貴方は、命令に反した。未練がましく残っていた貴方の魂魄を縛り、仮初めの生命を与えた僕の命に背いた。
 オスティアの軍法は、命令違反を見過ごすか?」

625リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:00:23 ID:MjKNi4V60
それでも亡将は何も言わない。
どんな世界であろうとも、軍とはそういうもので、そうでなければ軍たりえない。
たとえ、たった二人の軍勢だったとしても。

「略式だが、処罰を与える。オスティア候――――命令に背いた以上、死刑だ」

ジョウイの背後から、黒き渦が生じる。黒き刃を呼び出す渦だった。
そして、そこから武器が一本、オスティア候めがけて射出される。
だが、亡将は微動だにしなかった。むしろ、安堵のように影が緩む。
全てを失い、それでも最後にジョウイのもとに参じたのは、
ジョウイに恨みを言いたかった訳でも、感謝してほしかった訳でもなく、このためだった。

だが、欲すべき断罪の一撃は亡将を穿つことはなく、
その目の前にあったのは、黒き影となったゼブラアックスだった。

「……だから、最後に一働きして貰う。僕が渡したその力を、一滴残らず使い果たせ。
 あれを、死喰いを奪る。僕のために、僕たちの楽園のために最後まで戦い、それから死ね」

魔王の叫びに、亡将が頭を上げる。
戦えと、言っていた。まだ役目はあると、告げていた。
まだ戦ってもいいと――否、戦ってほしいと、そう言っていた。
眼もない亡将の視線をまっすぐに受け止めながら、ジョウイは覚悟を胸に抱いた。
その意が伝わったのか、ゴーストロードは何も言わず、斧の柄を咬んで持ち上げる。
世界より生まれたありとあらゆる物には意志がある。
それは精霊の加護や皆殺しの剣のような呪いなどという次元ではなく、
存在する以上は、口にする術を持たないだけで思考が、意志が存在しているのだ。
それを伐剣王は拾い上げる。無色の憎悪によって消されたゼブラアックスの慚愧すら汲み取り、
背負い、黒き刃の一席として己が力と転ずる。

「短期決戦でいく。前衛を任せる。魔法発動まで、ぼくを守れ。
 狙いはあの力の闇――――『災いを招く者』ッ!!」

626リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:00:55 ID:MjKNi4V60
大いなる裁きの時を解除した瞬間、封殺から解放された泥がジョウイへと襲いかかろうとする。
だが、再び恐るべき速度で泥とジョウイの間に立ちはだかった亡将は
首の力だけでゼブラアックスを振り回し、ジョウイの白衣を汚させない。
泥の奥で光さえ吸い込む闇と化したそれが、その名に反応し、本能的に警戒を強めた。
(やっぱり、そういうこと)
その名に、メイメイは自分の予想が当たっていたことを理解した。
マリアベルのエピタフ仮説を進めていけば、最後に残る敗者はエルブ大陸の敗者となる。
その者、ただ力だけを欲し、力の為に命を集め、千年を生きた怪人。
支配欲も征服欲もなく、ただ力を欲し、命をかき集めるためだけに世界を混沌へ落とした求道の権化。
オスティア候の、ニノの、ジャファルの、リンの、フロリーナたちの倒した敗者。

災いを招く者ネルガル――――その闇魔道の結晶がそこにあった。

(グラブ・ル・ガブルの純粋なる生命と死を喰らい続けたラヴォスの亡霊を重ねて、疑似的なエーギルとなす。
 それをもって、死喰いを誕生させる儀式。その術式が、アレ。フルコースにもほどがあるでしょ、オル様)

あれに憎悪を送れば、自動的に儀式が開始され、ラヴォスのモルフ――否、死を喰らうものが誕生する仕組みだ。
だが、ただのアプリケーションではない。
闇魔道は術者を喰らう。ネルガルほどに究められた魔道は、術式自体が一個の力であり、脅威だった。
「でも、どうするの? どうやってアレを奪う?
 いや、奪っても、魔剣の矛盾は何一つ解決していない」
その生誕システムを奪うというジョウイの着眼点は間違ってはいない。
されどシステムだけ奪ったところで、死喰いを生む憎悪も理想も不完全では、死喰いを誕生させられない。
ジョウイの劣勢は何一つ好転しない。だが、ジョウイの眼は惑いに揺れていなかった。
だが、気勢だけで覆せる状況ではない。いったいどうやって死喰いを奪るつもりなのか。

「見届けさせて貰うわよ、魔王様?」

メイメイが傍観する中、ジョウイはただひたすらに魔剣へと意識を済ませていく。
想うのは、あの書の著者。もしもあの書がなければ、ジョウイはここに立つこともできなかっただろう。
あの書を残した欲望の残滓を、想いの欠片を、魔剣の中で想う。
「我が魔法に応えて冥界より来たれ……新たなる誓約の下に伐剣王が命じる」
詠唱とともに、魔剣が色づいていく。
発生した想いに反応した泥がジョウイを襲おうとするが、ゴーストロードは足下の泥を跳ね上げて、王への道を阻害する。
だが、ジョウイはゴーストロードの貢献に一別もしない。
命じた以上必ず自分を守り通すと確信していたが故に、一顧だにしない。
だからこそ、ジョウイはひたすら、マリアベルを想い続ける。

『我は誇り高き孤高の血脈。ゆえに誰もが我が歩みに追いつけない。
 リーズ。ビオレッタ。ジャック。誰もが止まり、去っていく』

627リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:01:54 ID:MjKNi4V60
想いに寄り添う心の中に浮かぶ言葉を、そのまま詠唱に変えていく。
甘く痛むその想いは、きっと、かつて彼女が通り過ぎた昔日の残照。
ノーブルレッドは不死の血族。失い続けてきた彼女にとって、それは一つの呪いだった。
心の奥底で何度想っただろうか。失いたくないと、失うくらいなら消えてしまえればいいと。

『それでも歩こう。憶えていよう。握った操縦桿の温もりを、空色に高鳴った冒険の日々を』

魔剣が血の紅に輝いていく。黒く濁った血ではなく、どこまでも澄み渡った高貴なる真紅に。
それでも彼女は歩いた。たとえ失っても、後悔はない。
別れたことよりも、出会えたことがうれしい。出会えた光を大事に抱きしめて、永遠を歩き続ける。
それこそが、ノーブルレッドとして誇れる道だと信じているから。

『我は孤高にして孤独にあらず。我は知を吸うもの。この身にて失わぬ想い出こそが真なる誇り』

マリアベルの想いと繋がる感覚とともに、腹部に激痛が走る。
それは、断末魔の痛み。手にした光を失う瞬間の絶望。
だが、それは叶わなかった。出会えた光は、深々と突き刺さる血とともに流れ落ちた。
その流血と共に、想いは慟哭へと変わる。
流れるな、こぼれるな、消えてくれるな――――失うな。
大切に想うから、どうしたって、別れることをいやがってしまう。
絶対に見せてはならぬ、光とともに浮かぶ影が生じる。
(いつか、君に言ったね。別れをいやがるのではなく、出会えた時間を大切にしてほしいと)
その影を伐剣王は背負う。一なる願いを、全なる願いで受け止める。
(でもそれは、こんな風に奪われることを良しとすることにはならない!)
大切だと想うから、抗う。失いたくないと、失わないものを願う。
その願いが極まったとき、魔剣は高貴なる真紅に輝いた。
(だから、貴方の想いも受け止める。貴方を殺したことから逃げない。
 そのためなら――貴方の願いも受諾しよう。この剣の中で、見届けてください)

「追憶は血識となりて不滅―――コンバイン・ノーブルレッド、アビリティドレインッ!!」

魔獣の知をその身に留めるレッドパワーの原点が具現し、
闇魔道の塊へと牙を突き立て、その技術を魔剣に取り込んでいく。
守護獣の意志が亜精霊と繋がり、形をなすように、
源罪の闇が憎悪と結びつき、天から降り注ぐものとなるように、
ノーブルレッドの想いが無色の憎悪とつながり、力の形をなす。
未練を従え、無念を背負い、頂へと突き進むその様は、まさしく敗者の王だ。

「闇魔道そのものを奪うつもりとは……でも、憎悪を使うってことは、理想を崩すってこと!?」
「崩さない! 理想を信じてくれた人が、ここでぼくを守っている。
 夜空に誓った想いがある! ぼくは、この魔法で全てを導く!!」

628リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:02:55 ID:MjKNi4V60
驚愕を浮かべるメイメイの問いに、敗者の王が選んだ答えは理想。
こぼれ落ちていくこの世界への呪いではなく、優しい世界への想い。
その願いを高め続け、闇魔道を吸い上げようとする。
だが、理想を、憎悪無き世界を想えば想うほど、無色の憎悪は消えることを良しとせず憎み続ける。
そして、力を奪われることを感じた闇魔道も、必死に抵抗する。
憎い、憎い、全てが憎い。力を、力を、もっと力を。
始まりもなく終わりもない渇望が、伐剣王を内外から責め立てる。
彼らにしてみればジョウイは略奪者に過ぎないのだから。
だが、ジョウイは同調などせず、真っ向から受けにかかった。

「全て、全てをだ。たとえ終わらせる憎悪だとしても、憎悪を生むものだとしても、
 それでもそのときまで背負う! 終わりも背負ってやる!!」

小細工などない、本気の言葉だけでぶつかり合う。
自分に言い聞かせるのではなく、届かせるという想いで誓いを吐く。
闇も、憎悪も、聞く耳など持たない。それでも想いを剣に乗せて、アビリティドレインを維持し続ける。
「オディオは言った。憎しみは永遠に続く感情だと。生まれ落ちた憎悪を消せば、憎悪は復讐者となって襲うと。
 貴方たちもそうなのか。永遠に続くことを望むのか。終わりはないのか――――始まりは無かったのか!!」
その叫びに、僅かに憎悪と闇がたじろく。
憎悪の為に憎み続ける。力のために力を欲し続ける。それだけの存在だった。そのはずだった。
だが、伐剣王は始まりを問い続ける。憎んだ理由を、力を欲した理由を問い続ける。

なぜ、なぜ、なぜ。
この渇きはいつからだろうか。
この満たされないものはどこからだろうか。

『エイ……ル……?』

先に底をついたのは、闇だった。
未だに防衛を完遂し続けるゴーストロードの想いも乗せた魔剣に、単語が浮かぶ。
かつて亡将が人間だったとき、最終決戦に破れ崩れ落ちる力の求道者は、最後にそう漏らした。
もう自分ですら分からない、誰かの名前だった。
それほど前に、求道者は全てを失っていた。
「違う! 残っていたんだ!! どれだけ失おうが、意味すら無くそうが、
 失いたくなかった想いが、まだ残っていたんだ!!」
それこそが、始まりだと伐剣王は断じる。
全てを失っても残る幾ばくかの想いを信じた敗者の王は、その名を鍵として誓約の儀式を発動する。
だが、そこまでだ。アルマーズを介した記憶ではそこまでしか分からない。
本人すら喰われてしまったものを、部外者の伐剣王が理解できるはずがない。
オスティア候はともかく、ジャファルもニノも背負いこそすれ、間接的なものであったため、記憶までは引き出せない。

629リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:03:27 ID:MjKNi4V60
「まだだ、まだ! 具現せよ亡刃。召喚……マーニ・カティッ!!」

だが、ジョウイはさらに一歩をねじ込む。
伐剣王の勅令によって、黒き刃としてマーニ・カティが現出する。
魔剣の力に、ディエルゴに取り込まれたものは“終わらない”。
黒き刃を従えるジョウイにとっては、武器ですら例外ではない。
されど、そんな剣一本で闇にダメージを与えられるはずもない。
闇はさらに餓えて渇き、暴れようとする。しかし、その瞬間、闇の中に一つの絵が走った。

――――部屋の中には、古代語で書かれた蔵書がぎっしり並んでるんだけど。
    そこに飾られてる、一枚の絵をずっとみつめていて……動かないの。

闇の中に浮かぶのは、精霊剣を刷いた草原の少女の声。
彼女が魔の島にいるとき、精霊剣は常に彼女と共にあった。

――――人と竜が描かれてるの。

決戦の島で、ある一人の少女が追憶に導かれて一つの建物に入る。
古い古い、何百年も前に打ち捨てられた家。

――――ううん、戦争のじゃない。

闇魔道の書物の中に飾られる、一枚の絵。
少女たちにも、ましてや剣にもそれが何かは分からない。
だが、剣は“見ていた”。憶えていた。

―――― 一人の人間と、一匹の竜が寄りそって立っている……とても不思議な絵だったわ。



『………エ………イ、ナール……』

630リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:04:32 ID:MjKNi4V60
マーニ・カティの想い出を叩きこまれた闇が、闇に喰われた誰かが、微かに呟く。
「それが、始まりだ!! 貴方の想いの、真の名だ!!」
その言葉を聞き逃さず、ジョウイは魔剣を輝かせ、真名を以て闇に誓約を行う。
人名か、地名か。その名が何の意味を持つのかはジョウイには分からない。
分かるのはただ一つ。闇は、彼は、そのために闇に落ちたのだ。
その名前こそが、全ての始まりだったのだ。失いたくない何かだったのだ。
ならば、終われる。永遠ではない。
始まりがあるのならば、いつか必ず終わりがある。終われるのだ。

「貴方もだ。憎悪よ、無色の――――否、人間を愛した、物真似師の憎悪よ!!」

闇を制したジョウイの意志は、次いで魔剣の内側へと向かい合う。
オディオの系譜であるその憎悪は、闇よりも深く重い。
だが、それでもジョウイは耐え続ける。逃げず、真っ向から向かい合う。
「僕は、貴方を模造品だと、強大な力だと考え続けていた。
 それをまず謝罪する。力とは、想いより流れ出る魔法だ。
 僕はまず、貴方の想いと向き合わなければならなかった」
それこそが、ボタンの掛け違いの始まりだった。
オディオの代替だと決めつけ、オディオばかりをみて、この憎悪を省みなかった。
それでこの想いを背負える道理など、あるはずもない。
「汝に問う。憎悪よ、永遠に憎み続けるものだというのなら、
 なぜお前はここにいる。終わらないものだというのならば、なぜお前はここにいる!?」
憎悪を遡る。雷が落ちるよりも、天から降り注ぐよりも前へ。
所詮、オディオの贋作。本人でない以上、憎悪に理由もなにもない。
だが、それでも物真似師はそれを生んだ。何のために憎悪は生を受けた?
生まれてすぐに、空へと飛び立ったのは、何のためだ?
「守りたかったからだろう! 全てを失ってでも、失いたくない光があったからだろう!!」
お前はそのために生まれたのだと、敗者は宣言する。
たとえその後全てを憎悪に塗り潰そうが、ただの力と思われようが、汚物のように蔑まれようが、
それでも、それでも生まれた瞬間、お前は確かに必要とされて生まれ、誰かを守るために在ったのだ。
ならば、繋がれる。たとえその憎悪と同調できずとも――――憎悪を生みし始まりの願いならば、届く。

「だから、来い。その願いは僕も抱いた想いだ。
 どうか背負わせてほしい。永遠に続くオディオではなく、楽園<おわり>へ続く想いとして!!」

殺すのでも、無かったことにするのでもなく、終わらせる。
その叫びに魔剣が再び色めき立つ。真紅ではなく、金色の光として。
そして、ジョウイの右目が変質していく。
盾の碧だった色彩は憎悪の金色へと変わり、人間の眼球は狼の如き獣眼となる。
これが憎悪だ。どう言い繕うとも、憎悪は憎悪。肉体すら変じさせ、全てを呑み込む闇だ。
そして、闇魔道もまた同様。闇を欲すれば闇に喰われる運命だ。

631リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:05:16 ID:MjKNi4V60
憎悪のまま、闇のままジョウイはそれらを背負う。
奪うと強く認識し、所有者が彼らであったと強く戒めて背負う。
憎悪も闇も、その毒性を以て伐剣王を蝕むだろう。
だが、それでいい。民の憎悪を背負えずして何が王か。
胸に抱く魔法――傷つかない世界を、失われない楽園を伐剣王は想い続ける。

「それがいつかとまでは約束できない。でも、そのときまで僕も共に歩き続ける。
 たとえ、永遠のように闇が続こうとも、僕は二度と止まらない」

オディオの忠告の通り、きっとそれは限りなく不可能なのだろう。
永遠に等しい時間の中で、憎悪に奪われ、時の復讐者に喰われ続けるだろう。
それがどうした。
奪いたければ奪うがいい。喰いたければ喰うがいい。
それでも理想は失われない。楽園は傷つかない。
紋章に冠した名の如く、何度塗り潰されようと、滅ばずに始まり続けるのだ。
いつか楽園が完成するその日まで。願いが終わるその時まで。

「あの日、確かに在った光を想って歩き続ける――――
 それが、かつてこの座にいた者が僕に遺した、闇の使い方だ!!」

闇が魔剣の中に吸い込まれ、暴れ狂っていた金色の光が澄み渡る。
獣と化した右眼を憎悪の金色に輝かせながら、
それでも人間として目指すべき場所を見続ける一人の愚者がそこにいた。
無限に続く世界を渡り歩いてでも、答えを探し続けて闇に進んだ、オディオではない魔王のように。
“魔王”として、この理想を貫き通すと、その身体で示していた。

アビリティドレインが終了し、魔剣の光が収まる。
憎悪を負った証である金色の獣眼が、吸収しきれずに残った闇を睨みつける。
そこには魔剣にも取り込めない、想いも祈りもなにもないただの力が、
闇魔道の純然たる権化が残るだけだった。

632リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:05:55 ID:MjKNi4V60
Climax 02 魔王になるということ

Scene Player――――ジョウイ=ブライト

泥は残った闇を守るようにして、島の中心へとその身を寄せる。
憎悪を背負った伐剣王が、金色の魔剣を携え死喰いへと疾走する。
足を前に出すたびに泥は飛沫となってジョウイを穢し、阻もうとするが、その歩みを止めるには至らない。
泥がいよいよ危機感を覚え、圧倒的な質量で全方向から喰らい尽くそうとする中を疾走する。
勇者ならば、あるいは英雄とよばれる者ならば。
希望を、勇気を、愛を、欲望を、人が生きるための想いを抱くならば、死も闇も憎悪も切り裂いて進めるだろう。
彼にはそれがない。希望はなく、勇気は乏しく、愛は足りず、欲望は歪んでいる。

『AAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!』

だけど、その道に導きを見た者はいた。
8割近くを泥に喰い尽くされたゴーストロードが、最後の想いを振り絞って闘気を発動する。
邪魔はさせぬと、その道を阻ませぬというありったけの邪念で、ジョウイに迫る泥の動きを遅滞する。
その様に、ジョウイは僅かに奥歯を軋ませ、それでも亡将を省みることなく島の中心へと走る。
イスラの慟哭が、ジョウイの脳裏を掠める。
彼の言うとおりだ。ぼくが、オスティア候から終わりを奪ったのだ。
その事実は消えないし、奪ったものを返すこともできない。
ならばそれを抱いて前に進む。奪い尽くして、前に進む。
奪ったのならば、より大きなものを与えなければならない。
全てを失った王が祈り続けた、餓えぬ国を、民の笑顔を、貴族も貧民も、
勝者も敗者もない世界を――――何一つ失わない楽園を、それを成す新しき法を、秩序を生む。
たとえ、代わりの利かぬものだとしても、それだけが王にできることだから。
君たちが泣ける世界のためなら、ぼくたちの涙などいらないのだから。


「全部、奪う気なの……死も、憎悪も、闇も、全て……」
酒を呑む手さえも止めて、メイメイはジョウイを見つめる。
「……そこまでする必要あるの? 人の身で、どうしてそこまで……」
その様に、メイメイは驚嘆するしかない。
彼は英雄と呼ばれる者の気質をもたぬ、資格なき人間だ。
器ではない。故に彼はこの先に進めない。その先に待つのは破滅しかない。
資格はない。故に彼はここで沈む。宿罪に呑まれた彼にハッピーエンドは存在しない。
それを承知で、彼は走っている。
先ほどまでの彼は、魔法によって自分が歩く理由こそ知ったものの、
その歩みは先の見えぬ闇におっかなびっくり進むような足取りだった。
だが、今は違う。その爪先には体重が乗り、明確に進む先を見据えている。
いったい上で何を知ったのか、その理由を問わずにはいられなかった。

「戦いの誓い――――」

633リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:06:32 ID:MjKNi4V60
闘気に怯んだ泥の隙間を縫って走り続けるジョウイは、問いが聞こえどそれに応える余裕を持たない。
代わりとばかりに紡がれた紋章術の名に、不滅なる始まりの紋章がどくりと鳴動する。
そして、ジョウイの背に、黒い靄のようなものがまとわりつく。
それは嘆きだった。怒りだった。悲しみで、憂いだった。
失われたもの、終わったもの、奪われたもの。
紋章と魔剣に刻まれたそれらの記憶が、無色の憎悪と結びつき、負の感情と化して形となる。
ハイランド、都市同盟、忘れられた島、エレブ大陸。
様々な世界の記憶を取り込んだ、魔剣に生ずる怨嗟は、千や万ではもはや利かない。
彼らが在る限り、ジョウイはその歩みを止めることはできない。
自分は器ではない。それでも、背負ってしまったものがある以上、足を止めるわけにはいかない。
魔王の外套のようにジョウイの背を覆う黒き波濤が、ジョウイを縛り付けている。
彼らが背を押す以上、ジョウイはどれだけふらつこうが地獄の中で足を動かすしかなかった。

「つらぬく者――――」

だが、ジョウイはこの足を歩ませる想いが好意だと知った。
そして、今のジョウイは、この地獄を進むための標を紅の賢姫から得ていた。

それは、ある男の物語。
資格が無いと告げられた。お前にその聖剣は抜けぬと雷鳴を以て返された。
お前は、英雄にはなれないと、言われてしまった。

だけど、彼は頷かなかった。

資格が無いなら、資格を得ようと奮うべきだ。
認められないのなら、認められるように努めればいい。
英雄になるのだ。世界を、未来を守るために。英雄にならなければならないのだ。

世界が私を英雄と認めぬなら、認めさせよう。
たとえ誰に否定されようが、たとえ何を失おうが。
私は英雄となって世界を守ろう。そこにたとえ血を流そうとも。

その意志だけで、彼は世界<ファルガイア>を変革した。

634リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:07:35 ID:MjKNi4V60
彼の方法論の是非を問うつもりは更々ない。
彼が英雄になりたかっただけなのか、世界を救うための手段として英雄になりたかったのかも分からない。
だけどただ一点、分かることがある。
彼は貫いた。己が意志を世界に貫いた。
誰が認めずとも、間違いだと言っても、資格が無くとも。
ありとあらゆる手段を用い、果てを目指し、走り抜けた。
彼は、己が想いを――――魔法を以て世界を変えた。“王に至った”のだ。



「デュアルキャスト――――」



正統たる魔女の呪文と共に、魔剣が再び金色に輝きだす。
先人への畏敬を込めて、ジョウイは魔法を研ぎ澄ませる。
リルカには似ているとは言われたが、全然だ。彼の懊悩に比べれば、この魔法の何と弱いことか。
資格が無いのなら、努力すればいい。それだけのことではないか。
楽園から小鳥が飛びだしたのならば、それはその場所が居心地悪かっただけのこと。
まだ完全ではないと指摘してくれただけで十分。より良くなるように努めればいい。

魔王となるのにも資格などない。出来る出来ないなど問題にならない。
力でも血でもなく、この想いのみで魔王となり、全てを背負おう。

(だから、お前もだ死喰い。その妄念も、僕が叶え、背負ってみせる!!)

635リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:08:06 ID:MjKNi4V60
そのためにも、ここで死喰いに想いを与える必要がある。
力にするべく生むためだけではない。この想いを、伝え、知らしめ、認めさせるために。
伐剣王の踏み込みが加速する。背負ったものを、前へと進む意志へと変えていく。
犠牲に縛られるのではなく、犠牲になった人たちを想い、だからこそ楽園を創りたいと願う。
屍を増やす道だとしても、失われていい命なんてないと知っても、その屍を背負って地獄を進もう。
オスティア候、災いを招く者、ノーブルレッド。
生きている間は、絶対に交わらなかったはずのものさえも背負う。
たとえ進む道が違っても、始まりの願いと終わりの場所はきっと繋がれると信じて。
『しなければならない』と『したい』ことは、きっと同じことのだと信じて、
背負ったものの重みを魔法へと変えて、この金色の一閃に賭す。




「――――『つらぬく誓い』ッ!!」




憎悪に輝く金色の一太刀が、島の中心へと打ち込まれた。
複合紋章術によって高められた魔力が、剣撃の威力としてグラブ・ル・ガブルへと穿たれる。
泥と合一したラヴォスの亡霊と、そしてその中に眠るルクレチアへと届けと、
蒼き泥の粒子一つ一つに、4つの想いさえも越えた魔法が刻まれる。
憎悪を制し、なおかつ想いを極めたジョウイの魔法は死喰いを誕生させるのに十分だろう。
城へと、街へと、山へと、全てに伝わるように。
全てを失った者たちに、この導きが届くようにと、死喰いの内的宇宙を照らす。
このままならオディオを憎悪し、オディオに憎悪され、
何一つ望むまま終われなかった者たちはこの光を掴むだろう。
ジョウイにはその確信があった。
このまま奪うことは容易い。誕生させて力にすることも不可能ではないだろう。

(そんなに生れたいか。生れたいと子宮で暴れるか。
 ――――――――ならば問う。“貴方たちは、生まれて何をしたい”)

636リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:08:40 ID:MjKNi4V60
“だが、敢えてジョウイはその光を収める”。
代わりに、死喰いの奥深くへ問いを投げかける。
これは赤子なのだ。光を見れば喰わずにはいられない。
そのくせ食事の作法も知らないから、希望も欲望も勇気も愛も喰いきれない。
力だけの、本能だけの胎児。
今ここでジョウイが奪ったとしても、それは何もわからぬ子供を攫ったに過ぎない。
それは背負うとは言わない。死喰いの選択が介在していないのだ。
召喚獣として呼び出すのならば、それは力を減じさせることになる。

(それほどまで生れたいのなら、手伝ってやろう。だから、生れて何をしたいのかを決めておけ。
 その答えが、それがぼくの魔法に繋がるのならば、ぼくが背負おう)

ジョウイの懐から自分の首輪の感応石がこぼれ、ルクレチアへと落ちていく。
奪うのならば、まず与えなければならない。故に伐剣王は、死喰いの想いを確かめる。
この導きを知って、それでなお掴むかどうかの選択を許そう。
もしも共にあれるのならば、そのときこそ誓約を結ぼう。
その意が伝わったか、泥は今度こそ海へと還っていくいった。

637リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:09:35 ID:MjKNi4V60
ENDING PHASE

ENDING 1 継承

Scene Player――――グレートロード

静かに流れゆく星の泥の中で、ゴーストロードは立っていた。
いや、足の影すら残っていない今の状態で立っていた、というのは語弊がある。
千路に食いちぎられた魂が、油汚れのように染み着いている。
そういう表現が妥当なほどの残滓だった。
とうに肉体も依代もなく、授けられた斧の影も砕け、もう幾ばくの時間もあるまい。
放っておけば自然に消える。

そんな影の前で、泥がじゃぶりと波打った。
彼を縛り、呪った男が、彼の目の前に立ち、己の姿をじっと見つめていた。
「御苦労でした。死喰いは僕たちの掌中に収まった。
 これで、勝利の可能性ができた。貴方は任務を全うしました」
無機質な事後報告。感覚も残されていないゴーストロードにそれを述べる伐剣王の表情は分からない。
だが、亡霊はそれでも良かった。
感謝も謝辞も必要ない。ただ、このままでは終わりきれないと思っただけなのだから。
「……貴方は、最後、人として戦いたかったのですね。
 彼らと、勇気を持った彼らを見て、魔剣の加護を捨ててでも、
 己の個我で、彼らに向かい合いたかったのですね」
少しだけ、王の湿っぽい声が聞こえる。
もはやその言葉に想えることも無かった。
そうであったのか、託された任務のためだったのか。
もう思い出せない。
人としての想いを置いてきたこの身は、全て失ってしまった無様な王でしかない。
「……貴方には、殿を命じました。全てを賭して礎となれとぼくが命じました。
そのために必要な全てを与えました」
死に恥を晒し続ける将に、伐剣王は冷たく言い放つ。
「だから、貴方は知らないでしょうが……僕がラグナロクに力を供給しました。
 だってミスティックを使ったのですから。僕を通さなければできるはずもない」
亡霊は、消えゆく中で、それを黙って聞いていた。何を言われても、言い返すことはしない。
「ぼくが、ラグナロクを暴走させました。
 ジャスティーンの力を見定めるために、捨て石にしたんですよ。
 それを傀儡に過ぎない貴方が、さも自分がやったかのように嘆くなんて」
語気を強めて、伐剣王は続ける。
お前は馬鹿だと愚かだと、手のひらで踊った人形をこき下ろす。
「もう一度言います。ぼくが命じました。全てを賭して戦えと命じました。
 貴方はそれを全うした。その結果によって貴方の守りたかったものは壊れたのだ。
 判断ミスで失った? 自惚れないでください。貴方に自由意志などない。
 貴方は僕の命令を完璧に達した。それだけが真実だ!!」
軍の行動によって生じた責任は、命じられたものではなく、命じた者がそれを負う。
そんな杓子定規な軍隊の原則論を、神秘的な泥の海で、賢しら気に振り回している。
そんな子供に、亡霊は身を震わせた。気恥ずかしさで悶えそうになったのかもしれない。
「だから、僕を恨んで下さい。僕だけを憎んで下さい。
 許しは乞わない。さよならも言わない。だけど」
向いていないのだろうな、と思った。
素直にさよならと、すまないと言えば楽だろうに、それを言わない。
悪逆非道な魔王の演技が1分も保たずに剥げ落ちている。

「後悔だけはさせません。いつか必ずや、貴方が拓いた理想郷の先の、楽園で」

それでも、この背中に負った物を忘れないでいてくれるのならば、それを拒める道理はなかった。
亡霊の影が、粒子となって完全に砕け散る。その粒が、魔剣の中に吸い込まれていった。
人としての終わりを、未来を見た少年に預け、
王として終われぬものを、理想を見た魔王に預け、

何も為せず全てを失った男の終わりは、不思議なくらい軽やかだった。

638リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:10:29 ID:MjKNi4V60
ENDING 02 決戦の足音

Scene Player――――メイメイさん

「最後、手を抜いたでしょ?」
花咲く地底の楽園で、メイメイは新しく酒を注ぎながらジョウイに尋ねた。
71階に戻り抜剣状態を解除したジョウイがメイメイの方を向く。
精神のみであったとはいえ、激戦を終えたその顔は涼やかで、異変を感じさせない。
ただ、獣のような右目が金色に輝いていることだけを除けば。
「あの場で死喰いを誕生させようと思えばできた。でもしなかった。それはなぜか、聞いてもいい?」
「……理由は2つです。1つは、あの闇を完全に吸い切れなかったから」
ジョウイがアビリティドレインで魔剣に取り込んだのは、
災いを招く者が闇に踏み行った想い――――いわば始まりだ。
だが、闇を極めれば極めるほどに始まりの想いは失われ、ただ力を渇望する存在へと墜ちてしまった。
「貴方の想いで取り込むには、破滅に寄りすぎている、と」
「そうですね。破滅だけを純粋に願われてはこの魔剣では背負えない。
 この中に入った闇魔道を使って、死喰いを生むしかない」
そう言って、ジョウイは自分の右目を擦る。
理想を以て憎悪と闇を制するという無茶を行ったからこそジョウイは理解する。
あれを取り込むならば、恐らく人間を捨てなければならない。
獣に、オディオに墜ちなければ、始まりの想いを捨てなければ手に入らないだろう。
それを認めることはジョウイにはできない。
この理想を貫くためには、そこに墜ちるわけにはいかないのだ。
「でも、不完全でも生むだけならたぶん半分の闇魔道で十分でしょう? 想いもそれなりに食べたでしょうし」
「……逆に聞きますが、ガーディアンロード相手に不完全な死喰いをぶつけて勝てると思います?」
「ノーコメントで」
ただ死喰いを誕生させるだけならば、今のジョウイでも十分可能だ。
そこそこの想いで、半端な術式で、それなりの憎悪でも生むには十分だろう。
だが、ゴーストロードが残したイスラ達との抗戦記憶に、
核識を通じて識ったロザリーの歌を魔剣から連れ出したピサロの愛と、
セッツァーの祈りさえも乗っ取るような希望と欲望。
それらを知ってしまった以上、もはや死喰いを出せば確定で勝てるという考えは捨てなければならない。
「特にジャスティーンはまだ延び代を残しているように見えました。
 この状況下での単独投入は下の下策です。召喚するならば、相応の仕掛けを打つ必要があります」
「でも、そんな悠長なことしてていいの?
 貴方が永く保たないのは言うまでもないし、貴方が死喰いを誕生できると分かったら、
 オル様が先取りして誕生させるかもしれないわよ?」
少しだけ身を案じるようなそぶりでメイメイはジョウイに尋ねた。
憎悪と同調せずに制するという道を選んだ以上、ジョウイのタイムリミットは変わらず存在する。
いかに制御できようが、毒に触れればいずれ蝕まれるように。
それに、ジョウイが死喰いを誕生できると分かれば、オディオとて黙ってはいられまい。
なんらかの手を講じる可能性も否定はできない。
「それはないですよ。オディオは別に戦力として死喰いが欲しい訳じゃない。
 オディオはそれがどういう形で生まれるのかが見たいだけだ。
 むしろ、不完全な形で召喚する方が、オディオの機嫌を損ねるでしょう」
だが、ジョウイはそれはないと断じる。
オディオの目的は、勝者に敗者を省みらせるという一点に集約される。
ならば、世界の敗者とこの島での敗者を練り合わせて生まれる死喰いはまさに敗者の象徴となるだろう。
それを、自分の手に入らないからと先走って、不完全な形で誕生させるメリットは全くないのだ。
少なくとも、誕生を完全な形で為そうとする限り、オディオは手を出さないだろう。
それこそが、ジョウイが完成度を優先する理由の2つめだ。

(……それに、死喰いにも約束した。時間を与え、完全な形で生を与えると)

639リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:11:14 ID:MjKNi4V60
蒼き門を通じて泥の海に置いてきた感応石を思い出しながら、ジョウイは死喰いを想う。
理由はまだ分からないが、死喰いはより完全な形で生まれたがっている。
それ知りながらジョウイの個人的な都合で早産にする訳にもいかなかった。
「ふーん、死喰い誕生の最低ラインは突破したから、
 後はそれで勝てるように完成度を高める……ってのは分かったわ。
 で、実際どうするの? ここで闇魔道を解析しながら、儀式を完璧にする?」
ジョウイの方針を聞いてそれなりに納得したメイメイはその先を促す。
このまま待ちの戦略を取るような可愛い気があるようには見えなかったのだ。
「……メイメイさんに、一つお願いがあるのですが。これを、彼らに届けてあげてくれませんか?」
ジョウイは返答の代わりにメイメイに一冊の書物を渡す。
それはマリアベルが死の淵で認めた欲望の書物に他ならなかった。
「いいの? これを渡したら、いずれ首輪解かれちゃうわよ?
 そうなったら禁止エリアなんて――――ッ!?」
そこまで言って、メイメイはジョウイの目論見を理解した。
この書に書かれた事実を知れば、彼らは否応なく死喰いにたどり着くだろう。
そうなれば彼らはここを無視できない。
ここに背を向けて空中城を攻めるのは危険すぎる。
彼らは死喰いを何とかするべく首輪を解除してこちらに来るだろう。

「……ぼくはこの地で彼らを迎撃します。
 彼らが来るまでに可能な限り闇魔道を完成させ、
 たどり着いた彼らを殺し死を喰わせ、それを以て死喰いを完成させる」

ジョウイの背後に門が生じ、そこから2つの影が現れる。
一人は鋭い眼が印象的な猛犬の如き将で、一人は角張った顔に浮かぶ冷徹な表情が印象的な将だった。
シード、クルガン。紋章の記憶と憎悪より形作られた亡霊。
ただ違うのは、そこには曖昧な亡霊ではなく、明確な肉体があったということだ。
白磁の如き肌、黒髪と金の眼が特徴的なそれは、紛う事なきモルフの肉体。
グラブ・ル・ガブルの生命と亡霊を組み合わせて作られたモルフだった。
「勝ちます。希望も勇気も欲望も愛も、憎悪も越えて、魔法を以て王に至るために」
その宣言と共に、巨大感応石が鳴動する。
島自体が脈動するかのように響いた鼓動は、死喰いの中に更なる死が送り込まれた証だった。
希望と欲望を喰らったセッツァーの死を喰い、死喰いが更なる高みを知った証だった。
全ての幸いを喰らうセッツァーの想いを取り込んだ以上、
もう首輪が在ろうがなかろうが、死喰いは死を取り込むだろう。
「彼らにはゲートホルダーもある。あまり時間をかけるわけにもいかない。直ぐに準備を始めます」
ジョウイはそう言って立ち上がり、モルフとなった将達から魔王の外套と絶望の棍を受け取る。
外套の一部を千切り、憎悪に歪んだ右眼を隠しながら、彼はついに魔王を背負った。

「……分かったわ。もう試すようなことは言わない。だけど、最後に一つ教えてくれない?」

640リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:12:52 ID:MjKNi4V60
全ての運命が加速し始める感覚を覚えながら、
メイメイはふと、楽園のなかの一輪の花に手を添える。
「貴方の戦いによって楽園は手にはいるかもしれない。
 そしてそのために血は流れるでしょう。この花も赤く染まるでしょう。
 でも、白い花が好きな人もいるでしょう。そんな人たちのために、貴方は何ができるかしら?」
この楽園を血に染めてでも勝利を掴む覚悟があるのかと、占い師は問う。
はっきり言って答えの出ない問題だ。出題者と回答者の溝がでかすぎる。

「守りますよ、赤い花を。ずっと、ずっと。
 いつか、誰もが赤色を忘れて、それを白いと言ってくれるまで」

それでも、誰よりも弱い魔王は間断なくそう答えた。
血に染めてでも、勝利を掴むと、敗者の王はそう宣言した。

そう、とメイメイは眼鏡の奥でこの島に残った最後の敗者を見つめる。

彼は間違っていない。その始まりの祈りも、終わりの答えも間違っていない。
それでも彼はその道を選んだ。
それだけ人を想えるのに、そこまで自分を知っているのに、選んだ道は破滅の回廊。
正しい道を選んでいるはずなのに、どこかで捻れて歪む。
いったい何が彼をそうさせるのか。そのどうしようもなさはいったい何なのか。

(でも、それが――――)

手にした手記をその力で転移させながら、メイメイは注いだ酒を飲み干した。
それが、人間と言うものかもしれないという言葉ごと。

641リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:13:27 ID:MjKNi4V60
【F7 アララトス遺跡ダンジョン地下71階 二日目 昼】
【ジョウイ=ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]:クラス『伐剣王』 ダメージ(中)疲労(中)金色の獣眼(右目のみ)
    全身に打撲 首輪解除済み 腹部に傷跡 『魔王』としての覚悟
[装備]:キラーピアス@DQ4 絶望の棍(絶望の鎌の刃がなくなったもの) 天命牙双(左)
[道具]:賢者の石@DQ4 不明支給品×1@ちょこの所持していたもの
    基本支給品 マリアベルの手記 ハイランド士官服 魔王のマント
[思考]
基本:優勝してオディオを継承し、オディオと核識の力で理想の楽園を創り、オディオを終わらせる。
1:魔王として地下71階で迎撃の準備を整える
2:参加者を可能な限り殲滅し、その後死喰いを完全な形で誕生させる
3:メイメイに関してはしばらく様子見
[参戦時期]:獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているとき
[備考]:ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。
    セッツァー達に尋問されたことを話しました。    
※紋章無しの魔法等自分の常識外のことに警戒しています。
※紋章部位 頭:蒼き門の紋章 右:不滅なる始まりの紋章

※無色の憎悪の『始まり』を継承し、憎悪を限定的に制御できるようになりました。
 ただし、毒性はそのままのため、日没までには憎悪に喰われます。

※マリアベルの欲望の残滓を魔剣に取り込んだことで、アビリティドレインが使用可能。
 無色の憎悪を介して伐剣王が背負った(魔剣に想いを取り込んだ者)の能力を限定的に使用できます。
 ただし、その為には死の痛みも含めた全てを背負う必要があります。
 また、ロードブレイザーのようなジョウイの理想に全く繋がらない想いは背負えません。

※アビリティドレインにより『災いを招く者』の力と誓約しました。
 その力とグラブ・ル・ガブルにより、亡霊騎士をモルフ化しました。
 この2体のみ維持のための魔力コストがなくなりましたが、破壊されれば再召喚はできません。

【つらぬく誓い】
不滅なる始まり・Lv3紋章術。魔剣の中の憎悪を制したことで使用可能になった。
魔剣の中にある犠牲になってきた人たちの負の感情を高揚させ、魔力に変換して使用者をブーストする。
彼らに操られるのではなく、彼らを背負うという誓いが、伐剣王の魔法を遥か高き大地へと押し上げる。
一目見れば誰でもわかる、魔王が抱くその矛盾はあまりにも惨くおぞましい。
それでも、その矛盾を貫かなければ始まりは開かれない。


 *ロザリーが見たのは、死喰いに喰われたルクレチア@LALでした。
 ルクレチア以外の場所(魔王山等)が死喰いの中にあるかは不明。
 *召喚獣を使い、遺跡ダンジョンの地下1階〜地下70階までを把握しました。
 *メイメイが地下71階に待機し、オディオにも通じる状態でジョウイを観察しています
 *死喰いの誕生とは、憎悪によって『災いを招く者の闇魔道』を起動させることで、
  グラブ・ル・ガブルとプチラヴォスの亡霊をモルフとして再誕させることです。
  ただし、現在は闇魔道の半分がジョウイの魔剣に封じられたため、
  現時点ではジョウイにもオディオにも不完全な形でしか誕生できません。

642リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:14:24 ID:MjKNi4V60
ENDING 03 そして彼らもまた集う

Scene Player――――アナスタシア=ルン=ヴァレリア


「ティムくんったら少し観ないうちに、
 おちんぎん(ARMS隊員としての)、こーんなに大きくしちゃって……
 コレットちゃんのことを思って、がんばっちゃったんだぁ……
 ほら、こんなにパンパンになっちゃってるよ?(がまぐちが)
 三ヶ月も貯めちゃうなんて、ふふ、我慢強い子は大好きよ?
 
 でも、貯めすぎっていろいろ良くないから……(節税的な意味で)
 ね? 出費しちゃいましょ? 気を楽にして……お姉さんが手伝ってあげるから……
 ぐへへへへええへへへええ―――――――ほげえッ!!!!」

スウィートな夢を見ていたアナスタシアの目を覚ましたのは、本の角だった。
斜め45度に傾いて自由落下した本は、このように目覚ましの役割すら果たす。
「誰よ! はにぃであふぅできっちゅなスんばらすぃドリーミンに浸っていたってのに!
 安眠妨害とか訴訟? もうこれは訴訟も辞さないってこと? 上等ッ、表出ろやぁ!!」
「……屋外だろうが」

映像にするといろいろコードに引っかかりそうな夢から現実に引き戻されて怒り心頭なアナスタシアに、ピサロが呆れたように応じる。
ピサロは既に目を覚まし、砲剣の握りを確かめている。
「口開くなよリア充、黙って爆発しろよ(おはよう、ピサロ! すがすがしい朝ね!!)」
鼻血を吹きながらいい笑顔で挨拶するアナスタシアを見て引き金にかかるピサロの指に力が入るが、
ロザリーのことを3回ほど思い出したところで力を緩めることに成功した。
「……貴様の仲間が呼んでいるぞ」
ピサロが促したその先には、先ほどまで戦場を隔てていた壁だった。
鼻をこすりながらアナスタシアが耳を傾けると、
その向こうから、アナスタシアやアキラを呼ぶストレイボウの声が聞こえてきた。
あたりを見回せば戦闘らしき音はなく、どうやら全ての戦闘は片づいたらしい。

「あなたが答えればいいじゃない?」
「……勘違いの上でもう一戦したいというのなら、やぶさかではないぞ」

どうやらピサロはアナスタシアが目覚めるのを待っていたらしい。
返事をしてアナスタシアが死んだと思われ、戦闘に発展する可能性を危惧したのだろう。
やはり、戦う気はもうないらしい。

「聞こえてるわよー! 今から壁ぶった切るから、少し離れてなさーい」

643リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:15:02 ID:MjKNi4V60
扉を開けるから離れてなさいというのと同レベルの気安さで、
アナスタシアは退いていろという。
「……山にもほどがあるだろう」
「なんか言った? まあいいけど。そういえば、そろそろ出せるかしら、ルシエド……ふんっ」
ピサロの呆れたような言葉を聞き逃し、アナスタシアは欲望を高め、巨大な聖剣ルシエドを具現する。
「……セッツァー……」
問題なく召喚された聖剣を見て、ピサロは僅かに顔を曇らせる。
ルシエドが出現したことの意味を理解できないほど、ピサロは忘八者ではない。
「…………?」
「どうした、アナスタシア」
だが、一向にルシエドを振らないアナスタシアを怪訝に思い、
ピサロはアナスタシアに声をかける。
「ん? いや、何でもないわよ。見てなさい……ふん!!」
アナスタシアの斬撃によって、隆起した壁が両断される。
常人から見れば明らかにおかしいが、アナスタシアならばさほど不思議ではない。
だが、その光景に僅かな安堵を滲ませていたのは、当のアナスタシア本人だった。
「んー? なに、こっちを見つめて……いやらしい」
「馬鹿を言え。……装填」
ピサロの視線に感づいたアナスタシアが、おどけるように身をくねらすと、
考えるだけ阿呆臭いと目を背けながら、ピサロは砲剣に魔力を込める。
放たれた砲撃は、飴のように壁をくり抜き、アキラたちのいるエリアへの道を開く。
完全とは言えないが、戦闘可能な程度には魔力も戻ったらしい。

「こんなものか。人間どもに事情を説明するのも億劫だが、致し方ないか……」
「ねえ、ピサロ、これ貴方の?」

ストレイボウたちの影が大きくなっているのを見続けるピサロに、
ツインテールを解いてポニーに戻しながらアナスタシアが声をかける。
その手には、先ほどアナスタシアの眼を覚ました一冊の本があった。
だが、ピサロには当然思い当たる節もなかった。

そう、とアナスタシアはデイバックにそれをしまい込む。
読むのは他のみんなの状況を確認したあとでもいいだろう。
そう意識を切り替えて、アナスタシアは彼ら3人を迎えた。
その手に残る、本の重みを振り払うように。


この後、彼らは知ることになる。
イスラたちが戦い抜いた勇気の物語を。アナスタシアが吼えた愛の物語を。
眠りから覚め、散乱した遺品を集めて待つアキラだけが継げる希望の物語を。

そして、その書に記された、賢者の物語を。
最後のページだけ白紙となった愚者の物語だけは知らぬまま。

644リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:16:08 ID:MjKNi4V60
【C-7とD-7の境界(C-7側) 二日目 昼】
【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:書き込みによる精神ダメージ(中)右手欠損『覚悟の証』である刺傷 瀕死 疲労(極大)胸に小穴、勇気(真)
[装備]:天空の剣(二段開放)@DQ4+WA2 覆面@もとのマント
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:燃え尽きた自分を本当の意味で終わらせる
1:イスラを引っ張ってストレイボウの仲間たちと合流する
2:友の願いは守りたい
[参戦時期]:クロノ復活直後(グランドリオン未解放)
[備考]
※ロードブレイザーの完全消失及び、紅の暴君を失ったことでこれ以上の精神ダメージはなくなりました。
 ただし、受けた損傷は変わらず存在します。その分の回復もできません。(最大HP90%減相当)
※天空の剣(二段開放)は、天空の剣本来の能力に加え、クリティカル率が50%アップしています。


【イスラ・レヴィノス@サモンナイト3】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(極)、心眼、勇猛果敢:領域支配を無効化 
[装備]:魔界の剣@DQ4、ドーリーショット@アークザラッドⅡ、サモナイト石“勇気の紋章”@サモンナイト3+WA2
[道具]:基本支給品×2、
[思考]
基本:――
1:――
[参戦時期]:16話死亡直後(病魔の呪いから解かれている)
[備考]
※高原、クロノ、マッシュ、ユーリル、ヘクトル、ブラッドの仲間と要注意人物を把握済み。
※フォース・ロックオンプラス、ブーストアタックが使用可能です。
※サモナイト石“勇気の紋章”のおかげでカスタムコマンド“ブランチザップ”が限定的に使用可能です。
 通常攻撃の全体攻撃化か、通常攻撃の威力を1.5倍に押し上げられますが、本来の形である全体に1.5倍攻撃はまだ扱えません。
 また、本来ミーディアムにあるステータス補正STR20%SOR10%RES30%アップもありません。


【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(極)、心労(中)勇気(大)ルッカの知識・技術を継承
[装備]:フォルブレイズ@FE烈火の剣、“勇者”と“英雄”バッジ@クロノ・トリガー+クロノ・トリガーDS
[道具]:基本支給品一式×2
[思考]
基本:約束と勇気を胸に抱き、魔王オディオを倒してオルステッドを救い、ガルディア王国を護る。  
1:イスラを引っ張って仲間達と合流する
2:ジョウイ、お前は必ず止めてみせる…!
参戦時期:最終編
※アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※記憶石によってルッカの知識・技術を得ました。
 ただしちょこ=アクラのケースと異なり完全な別人の記憶なので整理に時間がかかり、完全復元は至難です。
 また知識はあくまで情報であり、付随する思考・感情は残っていません。
 フォルブレイズの補助を重ねることで【ファイア】【ファイガ】【フレア】【プロテクト】は使用可能です。
※“勇者”と“英雄”バッジ:装備中、消費MP2分の1になります。

※首輪に使われている封印の魔剣@サモナイ3の中に 源罪の種子@サモサイ3 により
 集められた 闇黒の支配者@アーク2 の力の残滓が封じられています
 闇黒の支配者本体が封じられているわけではないので、精神干渉してきたり、実体化したりはしません
 基本、首輪の火力を上げるギミックと思っていただければ大丈夫です

※首輪を構成する魔剣の破片と感応石の間にネットワーク(=共界線)が形成されていることを確認しました。
 闇黒の支配者の残滓や原罪によって汚染されたか、そもそも最初から汚染しているかは不明。
 憎悪の精神などが感応石に集められ、感応石から遥か地下へ伸びる共界線に送信されているようです。

645リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:16:57 ID:MjKNi4V60
【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:HP1/32、疲労(超)、精神力消費(超)
[装備]:パワーマフラー@クロノ・トリガー、激怒の腕輪@クロノ・トリガー、デーモンスピア@DQ4
[道具]:毒蛾のナイフ@DQ4 ブライオン@LIVE A LIVE、基本支給品×5 天使ロティエル@SN3(使用可)
    デスイリュージョン@アークザラッドⅡ、ミラクルシューズ@FFⅥ、いかりのリング@FFⅥ、
    海水浴セット、基本支給品一式、ランダム支給品×1、焼け焦げたリルカの首輪、
    ラストリゾート@FFVI、44マグナム(残弾なし)@LIVE A LIVE、バイオレットレーサー@アーク2
    セッツァーのデイパック、アシュレーのデイパック、
    ちょこのデイパック、拡声器(現実)、日記のようなもの@???
[思考]
基本:ヒーローになる。
1:起きたことを説明する
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※松のメッセージ未受信です。


【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:ダメージ(中) 胸部に裂傷、重度失血 左肩に銃創 鼻血 精神疲労(極大)
[装備]:アガートラーム@WA2 マリアベルの手記
[道具]:感応石×3@WA2、ゲートホルダー@クロノトリガー、基本支給品一式×2
[思考]
基本:“自分らしく”生き抜き、“剣の聖女”を超えていく。
1:他のみんなと合流する
2:ジョウイのことはとりあえずこの場が全部終わってから考える
3:今までのことをみんなに話す
[参戦時期]:ED後
[備考]:
※名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※アナスタシアの身にルシエドが宿り、聖剣ルシエドを習得しました。大きさや数ついてはある程度自由が利く模様。
 現在、セッツァーが欲望の咢を支配しているため、剣・狼ともどもルシエドを実体化できません。
※マリアベルの手記の最後には空白のページがあります。後述。


【ピサロ@ドラゴンクエストIV】
[状態]:クラス『ピュアピサロ』 ダメージ(大) ニノへの感謝 ロザリーへの純愛 精神疲労(極大)
[装備]:クレストグラフ(5枚)@WA2 愛のミーディアム@WA2 バヨネット
[道具]:基本支給品×2、データタブレット@WA2、双眼鏡@現実
    点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ、解体された首輪(感応石) 天罰の杖@DQ4
[思考]
基本:ロザリーを想う。受け取ったロザリーの想いを尊重し、罪を償いロザリーを傷つけない生き方をする
1:償いの方法を探しつつ、今後の方針を考える
[参戦時期]:5章最終決戦直後
[備考]:*クレストグラフの魔法は、下記の5種です。
     ヴォルテック、クイック、ゼーバー、ハイ・ヴォルテック、ハイパーウェポン
    *バヨネットはパラソル+ディフェンダーには魔導アーマーのパーツが流用されており魔導ビームを撃てます
    *ラフティーナの力をバヨネットに込めることで、アルテマを発射可能です。

※マリアベル・ストレイボウ・アキラ・ちょこ・ゴゴ・ジョウイ・アナスタシア・ニノ・ヘクトル・イスラのデイバックに
 首輪解体用工具及び解体手順書が分散して入っていました。
 回収できた分量・及び手順書の復元度はお任せします。

646リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:17:33 ID:MjKNi4V60
Climax 04 ヴェルギリウスの未練(天国篇)

Scene Player――――マリアベル=アーミティッジ

さて、言い遺したことはこれで全部じゃ。
長々と語ってすまなんだな。ときに――――

これを最初に読んだのはアナスタシアか? 
お前には特に何もない。
言いたいことは言ったし、言われたかったことは言ってくれた。
それで十分じゃ。十分すぎるほどにな。その生に幸いあれ、友よ。
読み終わったら、ここで燃やしてくれ。頼む。

これを最初に読んだのはニノか?
1日そこらじゃったが、お主といて、楽しかった。ロザリーも同じじゃったろう。
お主のような子がおるというだけで、この永い世にも少しは楽しみ甲斐があったというものぞ。
だから、笑っておくれ、永き世で最後に出会えた愛し子よ。
子供が癇の虫を起こすと大人は眠れぬのじゃ。どうかそのまま、涙を拭ってこの言葉を捨ててほしい。

これを最初に読んだのはヘクトルか?
先に逝くことになってすまんな。お主には苦労をかけることになる。
なにせ残っておるのがアナスタシアも含めて子供ばかりじゃ。
この衆をまとめられるのはお主くらいしかおるまい。
じゃが、それでもどうか守ってやってくれ。彼ら子供の未来を。
言いたいことはそれだけじゃ。このまま破り捨ててくれ。

これを最初に読んだのはアキラか?
先に述べた通り、お主の力を借りなければ収まらん状況になった。
妾が不甲斐ないばかりに申し訳ない。
なに、心配はない。妾達のフォースと同じよ。
己を信じよ、疑うな。妾の言葉なんぞ捨て去っていけ。
駆け抜けよヒーロー、その足跡こそが道となる。

647>>646修正 ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:18:36 ID:MjKNi4V60
ENDING 04 ヴェルギリウスの未練(天国篇)

Scene Player――――マリアベル=アーミティッジ

さて、言い遺したことはこれで全部じゃ。
長々と語ってすまなんだな。ときに――――

これを最初に読んだのはアナスタシアか? 
お前には特に何もない。
言いたいことは言ったし、言われたかったことは言ってくれた。
それで十分じゃ。十分すぎるほどにな。その生に幸いあれ、友よ。
読み終わったら、ここで燃やしてくれ。頼む。

これを最初に読んだのはニノか?
1日そこらじゃったが、お主といて、楽しかった。ロザリーも同じじゃったろう。
お主のような子がおるというだけで、この永い世にも少しは楽しみ甲斐があったというものぞ。
だから、笑っておくれ、永き世で最後に出会えた愛し子よ。
子供が癇の虫を起こすと大人は眠れぬのじゃ。どうかそのまま、涙を拭ってこの言葉を捨ててほしい。

これを最初に読んだのはヘクトルか?
先に逝くことになってすまんな。お主には苦労をかけることになる。
なにせ残っておるのがアナスタシアも含めて子供ばかりじゃ。
この衆をまとめられるのはお主くらいしかおるまい。
じゃが、それでもどうか守ってやってくれ。彼ら子供の未来を。
言いたいことはそれだけじゃ。このまま破り捨ててくれ。

これを最初に読んだのはアキラか?
先に述べた通り、お主の力を借りなければ収まらん状況になった。
妾が不甲斐ないばかりに申し訳ない。
なに、心配はない。妾達のフォースと同じよ。
己を信じよ、疑うな。妾の言葉なんぞ捨て去っていけ。
駆け抜けよヒーロー、その足跡こそが道となる。

648リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:19:08 ID:MjKNi4V60
これを最初に読んだのはストレイボウか?
開口一番、お主の友を罵倒してすまなんだな。
悔しかったか? だったならそれでよい。その想いのまま、友と向かい合ってやれ。
忘れるな。お主は生きておる。お主の友も然り。
まだ遅くはない。妾を振り返るくらいなら捨て置いて急げ。
きっと、お主の友も待っておるよ。

これを最初に読んだのはちょこか?
見ての通り、アナスタシアは子供じゃ。ひょっとしたらお主よりもな。
ひとりでは危なっかしいから、目を光らせておかねばならんのじゃが。
頼む。もう少し、やつとともにいてやってくれんか。
わらわの代わりではなく、アナスタシアが大好きなお主として。
……ありがとう。この書はここで閉じて、あやつの傍に行くが良い。

これを最初に読んだのはゴゴか?
もうこれが最後と思うが故に言うが、カエルの前例から考えると、恐らくお主とセッツァーは時間平面上でズレておる。
この真実がお主の中のオディオを刺激することを恐れ、言えなかったことを許してほしい。
それでも行くか? ……この書を捨ててでも行くのじゃろうな。止めはせぬよ。
だが、どうか憎悪に呑まれてくれるな。
お主が全てを失っても守りたかった者達が遺したお前を、あ奴らの手で殺させないでくれ。

これを最初に読んだのはイスラか?
お主が会わせたかった娘にも会ってみたかったが、叶わんことになった。
代わりと言ってはなんじゃが、お主が、伝えてくれぬか。
マリアベルという、そやつと似合う娘がおったと、お主が伝えてくれぬか。
なに、お主も捨てたものではないよ。そう言ったであろう。案ずるな。
……ここで書を捨てよ。よいな。必ずじゃ。お主は、特に。

これを最初に読んだのはカエルか?
絶対に許さん。お主には何度煮え湯を飲まされたことか。許すわけなかろう。
たとえわらわ以外の誰もが許そうと許さん。少しでも罪を自覚するなら重みに潰されて朽ち果てよ。
…………運が良かったな。そんな妾はもうここにはおらん。
妾はもう知らぬ、死ぬも生きるも好きにせよ。
ただ、ストレイボウだけは、裏切るなよ。分かったならこれを捨ててさっさと去ね。

649リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:19:59 ID:MjKNi4V60
これを最初に読んだのは魔王か?
お主とは戦中で戟を交えるのみであったな。ブラッドとリルカの件は無論蔑ろにはできぬが、
それを差し引けば……うむ、貴様との戦いはなかなかに心躍ったぞ。
チャンバラで切った張ったも悪くはないが、貴人の決闘としてはいささか品位に欠けるからのう。
機会があれば心行くまで術理戦をしてみたかったが……もはや詮無きこと。
さらばだ魔導の頂点よ。その髄でこの書を灼き、後方を欠いた皆の役に立ててやってくれ。

これを最初に読んだのはピサロか?
……多くは語るまい。お主がこれを読んでおると言うことはロザリーの言葉が届いたということじゃからのう。
手放すなよ。失ったものは真には還らぬ。だが、それは全てが無意味となるのではない。
ほれ、いつまでも死人を見るでない。行くがいい。
その道にロザリーの祝福があらんことを。

これを最初に読んだのはセッツァーか?
直接見えた訳ではないが、ひとかどのことは聞いておる。
……お前の手に掛かれば、この書さえも交渉と謀略の道具になるのじゃろう。
お前だけは、お前だけにはかける言葉が見つからぬ。
お前とゴゴはあまりに近くて遠すぎる。どう転んでも破滅的な結末しか見えぬ。
だが、それでもじゃ。破り捨てて構わぬから、一つ言わせてくれぬか。
もしも、もしも奇跡が起きたのならば、それを素直に受け止めてほしい。
それだけよ。

これを最初に読んだのはジャファルか?
顛末はニノやヘクトルから聞いておる。部外者が口を出すのは野暮じゃが言わせてもらおう。
闇だ光だの、青い嘴でピーピーさえずるでない小僧。
たかが20年さえも生きておらぬ分際で、世界など語るでないわ恥ずかしい。
お前のこれまでの世界に光が無かろうが、それが光の無意味を示すものにはならぬ。
世界は広く真理は遠い。わらわの言葉さえも真理ではない。屑籠行きじゃ。
故に生きよ。傍らの娘と、生を全うせよ。闇を語るのは、それからで遅くない。


さらばじゃ。皆の衆。頼んだぞ。

650リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:20:49 ID:MjKNi4V60














できることならば、遺したくはなかった。
だが、どうにも妾の欲望は、書き遺さずにはおれんようじゃ。

最初に読むのは………………やはりお前なのか、ジョウイ。

651リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:21:50 ID:MjKNi4V60
お前がこれを最初に読むということは、お主はもうアナスタシア達のもとにはおるまい。
妾が死んだ今、お主がこの場に留まる理由もメリットもないからな。
逆に考えれば、お主がこのタイミングで妾を切るということは、
妾達の中に潜むメリット以上の何かがあったということ。
お前が乾坤一擲の大勝負を仕掛けるに足る何かが生じたということ。
だがあの時点でまだセッツァー達は来ておらん。
つまり、お主が真に待っておったのは、魔王とカエル。狙いは、魔鍵ランドルフか……紅の暴君か。

素直に完敗じゃよ。
疑いを持たなかった訳ではないが、仮にセッツァーと協力して裏切ったとしても、
お主がここから全部をひっくり返す手が思いつかんかった。
妾は、最後の最後を読み切れなんだわさ。
死の狭間で、お主の癒しの光の中にあった暗い感情を受けるまではな。

……不思議に思うか?
なぜそれを誰にも、アナスタシアにも言わなかったか。
自惚れるでない小童。妾の時をなんと心得る。
残された友との語らいにくらぶれば、貴様の叛意なぞ時間を割くも勿体ないわ阿呆。
本当、本当に阿呆よ。
もう少し手を抜ききっておれば、感応石での会話も欲望を書き記すことも叶わなかったろうに。
力を半端に強めよって……おかげで死の苦しみが無駄に延びたわい。


お主が優勝して何を願うのかは分からぬ。じゃが、恐らくろくでもないことじゃろう。
皆殺しだ破滅だととか、そういうレベルで収まらぬ何かをな。
あえて言おう。止められぬか。
その先には何もない。お主がその手に何かを掴むことはない。
だから止めてくれぬか。貴様のためなどとは言わん。
アナスタシアやニノ、ちょこ達のために、我慢してくれぬか。
あの雷を、人の心の光を見たじゃろう。
人はいつかそこにたどり着く。それを信じてやってくれぬか。

……それで止まるなら、最初からこのような真似はせんか。
ああ、面倒くさい。本当に面倒くさい奴よの。
なぜそうも面倒なんじゃお主達は。ほんに、よく分からん奴よ。
妾は長い年月、さまざまな人間を見てきた。いい人間も悪い人間もいた。
お主はいい人間か? 違うじゃろう。妾を目的のために見殺すのだから。
ならば悪い人間か? そうでもない。ならばリルカの死を悼むまい。
ああ、分からぬ。この血の気の足りぬ精神ではとんと分からん。
命を想えるくせに、死を良しとする。非道を選べながら、それでも痛みを感じる。
何も言わず、ただ己のみに十字架を背負いたがる。
身の程を知りながら欲しいものを我慢できぬ。人を愛していながら信じられぬ。
何故なのよ。いくら叡智を捻ろうが、この問題だけは最奥にかすりもせぬ。
誰の手も振り払ってでも道を進む強さがありながら、誰の手も掴むことのできぬほど弱い。
賢しくも愚かで、愚かで、愚かすぎて愛おしさすら感じるよ。
なんと矛盾に満ち溢れた存在よ、ジョウイ。分からん。本当に分からんよ貴様達――――『人間』は。

なるほど、このノーブルレッドたる妾が“2度も”読み間違えるのも道理か。

652リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:22:33 ID:MjKNi4V60
……2つ、頼みがある。
1つは、この書を、あ奴らに届けてやってほしい。
それが貴様にとって恐らく不利となることは承知しておる。その上でじゃ。

対価……とは言わぬが、代わりに、一つ面白い話をしてやろう。
ある男の話を。お主の先に疾走した、全てを掴んで全てを失った莫迦の話を。
私見も感情も交えぬ。その男が何を為し、何を成したのかをくれてやる。
あ奴と同じ道を進まんとするお主が、せめて同じところで転ばぬための杖として。

それを語る前に、もう1つじゃ。
お主の道の果てを、わらわに見せよ。お主の末路を、お主の滅びを、お主の結末を見せよ。
あの時、わらわたちが掴み取った選択は真に正しかったのか。
わらわたちが掴み取らなかった選択の先に、何があるのか。
限りなく『人間』たる貴様の往く道が、どうなるのか。それをノーブルレッドに示せ。

いやとは言わせぬよ。貴様には、責任があるゆえの。
殺した責任? まさか。妾はあの選択に後悔はない。責任も糞もないわい。
じゃあ何かと? まさか本気で分からんというわけなかろうな。
あの時――――天から降り注ぐものが全てを滅ぼそうとしたあの時、
わらわはほんの少し……ほんの、ほーんのちょっぴしじゃ……ドッキリしたのよ。
分かるか? 分からんかなー。分からんのかこのバカチンがッ!
あーもー、つまりじゃな、つまりじゃなあ、


―――――妾を抱いた責任、とってくれるな?


くくく、ははははははっ!!
ああ、まったく、馬鹿馬鹿しい。なんで妾が、こんな嘘に引っかかったのか、まったく。
さ、それでは語るとしようか。わらわが消えゆくまで、子守唄のように。
懐かしいな……この感覚は、ああ、こそばゆい……あの時のようじゃ……
知らぬものと、手探りで触れ合うような……
災厄の前、アナスタシアと逢う前にこうしておったように……
なあ……お主の後継に渡したこの手紙は……
お主のところにまで届くであろうか……手紙をやりとりしている間……
妾達は、確かに……友であったのじゃ……
どうして、妾達は……最後まで、友ではいられなかったのかのう……

なあ、アーヴィング……始まりの友に連なる最後の友よ……



※マリアベルの手記の中から、
 ジョウイに当てられた文節のみ(できることならば、遺したくはなかった〜から最後まで)
 不滅なる始まりの紋章に吸収されました。空白以上の痕跡は残っていません。

※ジョウイがアーヴィング=フォルド=ヴァレリアの原作中の行いを知りました

653リプレイ・エンピレオ ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:23:36 ID:MjKNi4V60
NEXT PHASE 

Scene Player――――Game Mastar

『魔族の王』が、『狂皇』が、『魔王』が、『破壊』が、
絆を砕き、心を壊し、怒りを、憎悪を、嘆きを、死を増やす。
それは瞬く間にこの島を覆い、『焔の災厄』となる。
焔は消え、雨が降り、世は暗雲に包まれる。
『闇黒』は『虚言と姦計』を以て霧雨の如く島へと染み込む。

染み込んだ雨は島の深く、深くへと伝わり、やがて一つの泥と交わる。

泥は、『島の意志』は、かつて『大きな火』と崇められたものは、
闇を喰い、憎悪を喰い、力を喰らい『災いを招く者』となる。


それこそが泥の海の墓標――――死を喰らうものに至る地獄巡り。
そして、ついに八界の地獄巡りは終わった。
どのような形であれ、世界最期の日の終わりに、煉獄山は現れる。
この先どう転ぶかなど、観測者でも読めはしない。視えるのはただ一つ。

「――――時間だ」

次の6時間こそが、最後の分岐点であるということだけだ。

654 ◆wqJoVoH16Y:2012/12/09(日) 21:24:21 ID:MjKNi4V60
投下終了です。指摘、疑問あればどうそ。

655SAVEDATA No.774:2012/12/10(月) 06:43:49 ID:FKR.XWog0
拝読しました。
執筆と投下、ほんとうにお疲れ様でした。
……自分が、ジョウイたちに思っていることや、こんな場所で書き手をやっていて、
賢しくも好きなものの「継ぎ目」を眺めて分かったふりをしてでも書きたいものがあって、
好きなものを、殺してでも書きたくなってしまって、
それを、こんな、かたちにされて……震えないわけがない。
ジョウイの決意は、ジョウイの愚かさは、オディオたちの賢しさは、自分の……
あるいは自分たちのそれでした。それを大事に書いてくださって、ありがとうございました。

二次創作のSSに対する感想としては、これは、あまりに的外れだと思います。
そんな読み方しかできなくなった自分が、自分のことを分不相応に悲しいと感じてしまうほどに。
けれど、この話を読めて良かったと、それだけは伝わってください。

そして余談を。
この章構成は『ダブルクロス』だなあ、と思いましたけれど、『若君(ジョウイ)†覚醒』した
エンディングフェイズのタイトルが「継承(DXデイズ・第一話)」っていうのは、味わい深いです。
朝どころか、夜までももたない彼にこれか……、と。
見当はずれでも、勝手にこれしかない、と思って唸りました。

656SAVEDATA No.774:2012/12/11(火) 21:59:48 ID:HWdpK8RY0
読了! 投下おつでした!
最近すごいSSがガンガン来るどうしよう。
この作品、面白いか面白いくないかで言えば間違いなく面白い。
けれど、そんな感想は相応しくない気がする。
なんといいますか、壮絶なものを感じました。
世界を憎もうにも憎めない。だって大好きだから。
憎いから世界を変えたいんじゃない。たいせつだから楽園を望む。
そんな道は痛いに決まってるのに。辛いって分かってるのに。
ゴーストロードの思念とか、マリアベルの欲望とか、きっとそれ以上のものをこれから背負って。
重くて辛くて苦しくて痛くても邁進するんだろうよ、誓いを貫くために。
ジョウイってほんとうに馬鹿。不器用。
けど、だからこそ尊くて綺麗。
ついに魔王の座に至ったジョウイの結末がどうなるか、怖いけれど楽しみです。

657SAVEDATA No.774:2012/12/13(木) 20:46:35 ID:dLwS4mZ60
投下乙!
うおー、なんていうか、こう、ガツンと来ますよなあ。
だよなあ、ピリカちゃんの事を思えば世界を憎むなんて……うーむ
しかし、世界を憎めないからこそその上を行く"オディオ"になるのかなあって。
マリアベルも、ここまで読めてあの時魂を差し出したのだとすれば……
本当に、投下乙です。

658SAVEDATA No.774:2012/12/17(月) 19:07:31 ID:LB.y0jAU0
遅くなりましたが投下お疲れ様です!
この話の何がすごいって、
>>この島は、この戦いは、敗者の墓標<エピタフ>。風も吹かぬ地の底で嘆き続ける敗者を封じた墓碑。
この一文にガツンときた。
ああ、そうなんだって。ああそうなんだなって。
これまでも度々語られてきたオディオの目的や首輪、舞台についての考察がこの一文にぴたりとハマった感じ。
そんな敗者を顧みさせる世界で、敗者の始まりを省みるジョウイ。
こいつもなあ、背負わせて欲しいって言ってるけどほんとに原作からしてたくさんの人の想いを背負ってるんだよなあ。
先のセッツァー戦は唯我と絆の戦いだったけれど、今度は絆と絆の戦いかあ。
遂に全貌が明らかになったマリアベルの手記もよかった。
掛ける言葉がないとしたセッツァーや、遺したくはないとしたジョウイにさえ言葉を遺して逝ったか。
ジョウイが責任を果たす、頼みを聞いてくれるとマリアベルが信じたのは、 この二人が人間を好きだという点でつながってたからかもなって感じてしんみり

659SAVEDATA No.774:2013/01/15(火) 13:26:53 ID:a5zJm1tM0
集計お疲れ様です。
RPG 149話(+ 2)  7/54 (- 0)  13.0(- 0)

660 ◆6XQgLQ9rNg:2013/02/25(月) 00:05:25 ID:l3C8pPeQ0
第六回放送、投下いたします。

661第六回放送 ◆6XQgLQ9rNg:2013/02/25(月) 00:07:35 ID:l3C8pPeQ0
 喧騒が溢れていた。
 降り注ぐ光は輝かしく眩く温かく、石造りの城下町を照らし上げていた。
 東の山を根城とする魔王に姫が攫われたというのに、町に住まう人々は絶望など微塵も感じていなかった。
 彼らの視線には期待が満ちている。彼らは口々に賞賛を溢れさせている。手を振る者がいる。拳を掲げる者がいる。
 彼らが期待し、讃え、惜しみない声援の先にあるのは、力強い足取りで石畳を往く男の姿だ。
 威風堂々たるその様は輝かしく、燦然と輝く太陽にも劣らない。
 男の一歩には惑いも揺るぎも恐れもなく、澄んだ黒瞳は前だけを見据えている。
 それは、旅立ちのときだった。
 出立に臨む男には勇ましき者を現す誉れ高い称号が与えられている。その称号は、彼には実に相応しい。
 彼の胸には、強い勇気が燃え盛っていた。
 無数の魔物が立ち塞がろうとも、如何なる困難が待ち受けていようとも、魔王がどれほど強大であろうとも。
 退かず怯まず躊躇うことなく、立ち向かい切り開き打ち倒す決意がある。
 培ってきた剣技は身に染み着いており、力となってくれる剣がこの手にはあり、更に隣には背中を預けられる親友がいてくれる。
 だから戦える。この勇気を抱き進んでいける。
 目指す先は魔王山。麗しの姫が、そこで彼を待っている。
 男は姫を心から愛している。姫もまた、男を心から愛してくれている。
 愛する故に、男は彼女を救いたいと想う。愛しさ故に、男は彼女を取り戻したいと願う。
 その願いは、旅立ちの先にある。
 歩みの向こう、今を超えた先にこそ、愛する姫と共に在る平和な日々があると信じられる。
 そんな明日に想いを馳せられる。
 そんな未来を男は強く欲し望むことができる。
 未来を肯定し明日を望み希う、強く激しい想い。
 それは希望でもあり、欲望でもある。
 希望を今日を飛び立つ翼となり、欲望は明日へと向かう衝動となり、男を動かす原動力となるのだった。
 声援を背に受けて、男は城から外へ往く。 
 勇気を握り締めて愛を抱き、欲望を飼い慣らし希望を羽撃かせ、その一歩を踏み出すのだ。

 ◆◆
 
 瞼を持ち上げる。
 瞳に映るのは石造りの広間。
 弱々しい灯火によって照らされる、闇の玉座。
 降り注ぐ輝きからは程遠く、称賛の奔流からはかけ離れた漆黒の世界。
 夢を見ていたわけではない。そも、この身をオディオとしてから、眠りに落ちたことは一度もない。
 故に、瞼の裏に浮かび上がった幻想は記憶だった。
 心の奥底に沈み込ませ縛り付けて封印した、過去の出来事だった。
 もはや思い出すことなどないと思っていた、“勇者オルステッド”の始まりだった。

 ――……よもや、未だ追憶しようとは、な。
 
 この場所には“勇者オルステッド”を構成する要素は塵芥ほどにも存在しない。
 遥かな時の向こうで、勇気は握り潰され愛は枯れ乾き、欲望は遁走し希望は腐り果て、溶け合い、純化し、集約した。
 潰れた勇気も枯れた愛も、欲望の残滓も希望の腐肉も、たった一つの感情へと寄り集まったのだ。
 だというのに。
 だというのに、だ。
 記憶の欠片は縛り付けた鎖の合間からまろび出て、封印の隙間を通り抜け、表層化して弾け飛んだ。
 オディオは視線を動かす。
 昏い瞳に移るのは、ぼうと浮かぶ明かりに照らされる感応石だ。
 四柱の貴種守護獣の脈動と、それらを呼び覚ますほどの強烈な“想い”は、感応石に余さず伝わってきている。
 いや、伝わるなどといった生易しい表現ではない。
 暴力的とすら感じられるほど強引に、見せつけるように高らかに、それらの“想い”は叩きつけられたのだった。
 痛々しいほどに強烈で、荒々しいほどに猛る“想い”は、掌に収まる感応石も、巨大感応石も、砕けてしまいそうなほどに激しかった。
 だがオディオは、それらに中てられたわけでも影響されたわけでも、ましてや屈したわけでもない。
 オディオにとっては勇気の猛りも愛の鼓動も欲望の咆哮も希望の輝きも、憎しみの対象であり源泉なのだ。
 そんなものらが何の意味も成さないと知っている。そんなものらが何の足しにもならないと知っている。
 そんなものらがあったところで、救えなかったものがある。護れなかったものがある。零れ落ちてしまったものがある。捩じれて曲がってくず折れて、壊れ果ててしまったものがある。

662第六回放送 ◆6XQgLQ9rNg:2013/02/25(月) 00:08:15 ID:l3C8pPeQ0
 勝者にはそれが分からない。
 掲げる“想い”が如何に美しく尊くも、その“想い”は相容れぬものの膝を突かせ意志を砕くのだ。
 砕かれたものに未来はない。輝かしい“想い”は、敗者のなれの果てを無意識に無邪気に踏み台にする。
 だから憎む。
 勇気を愛を欲望を希望を。
 かつての自分が抱いた“想い”を、骨の髄まで憎み尽くす。
 勇気が力強ければ力強いほど、愛が激しければ激しいほど、欲望が雄々しければ雄々しいほど、希望が眩ければ眩いほど、応じるように憎しみは肥大化する。
 故に、オディオが過去の幻像を追憶したのは、貴種守護獣を呼び覚ますほどの“想い”が原因ではない。
 
 ――……あれは、確かに始まりであった。
 
 模倣の憎悪に、起源を求める声がした。
 投げかけられたその声は、もはや概念存在とも言える憎しみそのものに、生まれた理由を問いかけたのだ。
 何故ここにいると。
 始まりに足る願いがあったのだろうと。
 拙い声で叫んだのだ。
 憎しみに身を委ねるのではなく、憎しみに意識を浸すのではなく、憎しみに願いを喰わせるのではなく。
 楽園への道をつけるため、たった一人で憎しみを背負い担うと宣言した。
 そうして叫ばれた回顧の願いは、疎まれるだけであった模倣の憎悪を確かに振り返らせ、そして。
 模倣元であるオディオの意識すらも、始まりへと向けてみせたのだった。
 
 ――見事だ、ジョウイ・ブライト。
 
 誰にも届かぬ賛辞を、オディオは胸中でジョウイに送る。
 そのような言葉を彼が求めてなどいないと知っているが故に、だ。
 
 ――そして、礼を言わせて貰おう。
 
 オディオは再度目を伏せ、瞼の裏に始まりの記憶を描き出す。
 心底に押し込めた“勇者オルステッド”を想起し追憶し、そうして。
 
 ――我が深奥に眠る始まりを憎める機会を、今一度与えてくれたのだからな。
 
 滾々と沸く力強い勇気を黒く汚す。
 溢れ滲む穏やかな愛を暗く犯す。
 明日へと駆ける欲望を闇で濁す。
 未来を想う希望を漆黒で冒す。
 喧騒は嘆きへ。期待は絶望へ。
 汚辱の果てで輝かしい王国は潰え、死の気配に満ちた昏い城下へと堕落する。
 ゆっくりと、瞼を持ち上げる。
 黒瞳には暗黒の輝きが横たわっていた。

663第六回放送 ◆6XQgLQ9rNg:2013/02/25(月) 00:09:04 ID:l3C8pPeQ0
 ぞわり、と大気が冷たさを帯びる。震えるように空気が戦慄し、松明の炎が大きく揺らめいた。
 灯っていた明かりが、一斉に消失する。
 微かな光を失くしたその間には、月明かりのない夜よりも深い暗闇が満ちていた。
 暗闇に溶けるのは、魔王オディオが抱く“想い”に他ならない。
 勇気の担い手をオディオは憎む。
 死にたがりの道化と異形の騎士と、そして、何処までも愚かな魔法使いの雄々しさを、オディオは憎む。
 愛の担い手をオディオは憎む。
 かつての敗者でもある魔族の王が抱き締める鼓動を、オディオは憎む。
 欲望の担い手をオディオは憎む。
 薄汚いまでに貪欲な、聖女と謳われし女の衝動を、オディオは憎む。
 希望の担い手をオディオは憎む。
 人間が胸中に抱く醜さを知る力を持ちながら、未来を肯定できる少年の輝きを、オディオは憎む。
 勇気の輝きを覆い、愛の鼓動を抑え、欲望の咆哮を呑み込み、希望の西風を制圧するのは、オディオが抱く深淵たる“想い”。 
 その“想い”とは――咽返るほどの純粋なる憎悪<ピュアオディオ>に他ならない。
 純粋なる憎悪<ピュアオディオ>は限りなく茫洋で、オディオが抱く全てをその一色で塗り固めていく。
 勇者の栄光も美しい記憶も在りし日の想い出も何もかもは、もはや微塵も見えはしない。
 他の色など、見えはしないのだ。
 そして。
 
 ――貴様はこの“想い”もまた、御して背負おうというのであろう?
 
 そして、純粋なる憎悪<ピュアオディオ>を以って。
 理想への歩み手を、オディオは憎む。
 肉体を傷つけて精神を摩耗させて心を使い潰しながら、それでも決して留まらず愚直にひたむきに描かれる理想の楽園を、オディオは激しく憎むのだ。
 オディオを満たすのは、あらゆるものを排し純化されたたった一つの“想い”のみ。彼に向けられる感情もまた、憎悪でしかあり得ない。
 
 ――ならば見せてみよ。墓標<エピタフ>の果てで血液と死肉と末期の叫びを喰らうものを、生誕させてみせよ。
 
 産声が聞こえる。胎動を感じる。
“死喰い”の目覚めは近い。純然たる敗者の象徴は、オディオが手を下すまでもなく脈打っている。
“死喰い”に魂を注ごうとしているのは若き魔王。
 彼は地方貴族の家に生まれたというだけの、何の変哲もない人間だった。
 戦乱の時代で運命に翻弄され、無力さを噛み締め無念に打ち拉がれ、それでも平和を望み笑顔を願う。
 彼は弱かった。彼の願いは弱い者には過ぎたものであった。
 されどその弱さ故に果てしない力に魅せられ全てを守る強さを貪欲に切望し。
 されどその願い故に楽園へと通ずる茨道を切り開くことを選択したのだ。
 死を奪い憎悪を背負い闇を呑み込むたったひとりの人間を目の当たりにして、召喚した傍観者は驚嘆を見せた。
 人の身で、どうしてと。
 人の身で、そこまでする必要があるのかと。
 オディオに言わせれば、その程度驚きには値しない。
 弱さからの脱却も、力への渇望も、願いへの夢想も。
 全て人であるが故に抱く感情であり、“想い”を成そうとする意志は、人しか抱き得ないのだ。
 勇者や英雄といった存在が、必ずしも特別ではないように。
 魔王という特別な存在もまた、特別などではない。
 A.D.600年のガルディアを恐怖に陥れた魔王も、天空人や地上人の住まう世を滅ぼそうとした魔族の王も、“想い”を抱いた人間と変わり映えはしない。
 人であるからこそ彼は楽園を目指すのだ。人であるが故に理想へと歩むことができるのだ。
 自身が生み出す憎しみに浸り、オディオは散った魂を――潰え砕けた“想い”を顧みる。 
 その数と多様さは、もはやこの殺戮劇に残された刻は僅かしかないことを物語っていた。
 じきに、ここへと至るものが現れる。“想い”の喰らい合いを制した者が現れる。
 それが貴種守護獣を従える者どもであるならば、純粋なる憎悪<ピュアオディオ>を以って相対を。
 それが死を喰らうものを従える者であるならば、純粋なる憎悪<ピュアオディオ>によって祝福を。
 いずれにせよ。
 彼らの道のりを、見届けよう。
 敗者となる“想い”を、亡きものにしないために。
 掌の中にある感応石に、オディオは意識を注ぎ込んでいく。
 途絶えし“想い”を、伝播すべく瞬く感応石の光は、憎しみの闇の裡ではあまりにも弱々しかった。

664第六回放送 ◆6XQgLQ9rNg:2013/02/25(月) 00:10:13 ID:l3C8pPeQ0
 ◆◆
 
「――時間だ」

 天高く昇る陽光が照らす世界を侵略するような声音が、空気を振動させる。

「諸君はよく闘った。されど、未だ闘いが終焉に辿り着いてなどいないことは、諸君こそがよく知っていよう。
 耳を傾けよ。心に刻みつけよ」

 酷く落ち着いているというのに、その声音は、揺れる空気は草木をざわめかせ水面に波紋を投げかけ痛んだ大地に皹を入れる。

「13:00よりB-06、C-06。
 15:00よりA-06、A-07。
 17:00よりB-07、C-07。
 禁止エリアは以上となる。今更潰えるなど望むところではなかろう。しかと記憶しておけ」

 底知れぬ憎悪に満ち満ちた声に、世界中が震え怯えているようだった。 

「ニノ。
 魔王。
 ジャファル。
 ヘクトル。
 ちょこ。
 ゴゴ。
 セッツァー・ギャッビアーニ。
 ――以上、七名が此度の敗者だ」
 
 敗れし者たちの名が告げられた瞬間、島の奥深くがどくりと脈打つ。
 蠕動にも似た鼓動は、その音韻たちをも嚥下するかのようだった。
 
「敗れた者たちは何も語らない。“想い”を抱くことすら許されない。
 潰えた“想い”はすべからく蹂躙される。他ならぬ勝者たちによって、だ。
 そうして栄えた世は数知れぬ。そうして骸となった者たちは数になどし切れまい。
 奪いし者として生を謳歌する気分は如何ほどであろうか。
 いずれの世でも勝者であった者も、かつての世で敗者であった者も。
 今この瞬間に我が声を耳にしている者は皆、勝者と名乗る強奪者どもなのだ」
 
 声に乗る色を吸い上げて、果てなる底で何かが蠢動する。 
 未熟で不完全で未完成で弱々しいながらも、その蠢きは微かに地表を震わせる。

「強奪者どもよ。
 屍の頂点で命の尊さを謳う滑稽さを自覚せよ。
 なれの果てとなった“想い”を足蹴にして、自身の“想い”を主張するがいい。
 愛も勇気も欲望も希望も――そして、理想も。
 諸君の足元に、確かに積み重なっているのだ。
 そうやって積み上げた屍と“想い”の先へ至るがいい」

 風が、逆巻いた。
 それは力強い西風ではなく、心をざわつかせるような荒い突風だった。

「その場所こそが我の――魔王の居城。諸君が目指すべき終着点は、すぐそこだ」

665第六回放送 ◆6XQgLQ9rNg:2013/02/25(月) 00:11:31 ID:l3C8pPeQ0
 ◆◆
 
 感応石の明滅が収束する。
 一片の光もないその広間には、果てもなく底もない憎悪の闇だけが溢れ返っている。
 その中心で、オディオはそっと目を閉じる。
 瞼の裏にあるのもまた、深い深い暗闇でしかない。
 それだけしか、見えはしない。
 しかしながら。
 見えはしないからといって、暗闇以外のものが存在しないというわけでは、決してない。
 漆黒と暗黒とを世界中から集束させより集め固め切ったような闇の向こうに、見えなくとも存在するものがある。
 それは決して消えない始まりの記憶。輝かしくも痛みを伴う想い出のかたまり。
 オディオの意識が介在しない深奥で、それは、わだかまり沈殿し滞り、燻っている。 
 人知れず、燻り続けているのであった。


※オディオの居城は墜落したロマリア空中城@アークザラッド2をオディオの力により改修したものです。
 現状では、遺跡ダンジョン地下71階にある感応石と連動する巨大感応石を搭載していることや、
 最深部のガイデルのいた場所がOPENINGでの玉座の間に改修されていることが確定しています。
 他にも、幾つかの変更点、追加点があるかもしれません。お任せします。
 現在は、C-7上空に待機しています。
 オディオの空間操作能力で、触れることも触ることも不可能ですが、メイメイさんの店のように強力に隔離されているわけではありません。

※カエルが察知した存在は、クロノ達に敗れたプチラヴォス達を進化・融合させて生み出された新たなるラヴォス“死を喰らうもの”でした。
 本文中にて、クロノ達が戦った個体よりかは劣ると記述しましたが、それは誕生時点でのことです。
 強者達の戦いの記憶と遺伝子を収集し、敗者達の憎悪をはじめとした負の感情を吸収した今、かなりの力を持つと思われます。
 姿形能力など、細かい点を含め、後々の書き手の方々にお任せします。
 ただし、“死を喰らうもの”は“時を喰らうもの”@クロノ・クロスとは別個体であり、
 オディオが自らやこの殺し合いに関係しない思念が混ざることを望まなかったころもあり、時間と次元を超越する能力は備えておりません。

※メイメイさん@サモンナイト3はあくまでも、傍観者としてオディオは召喚しました。
 オディオは彼女を自身の戦力としては絶対に扱いません。

666 ◆6XQgLQ9rNg:2013/02/25(月) 00:12:38 ID:l3C8pPeQ0
以上、投下終了となります。

ご意見ご指摘ご感想等、何かありましたらおっしゃってくださいませ。

667SAVEDATA No.774:2013/02/25(月) 09:18:25 ID:D1/qdlSI0
執筆と投下、お疲れ様です。
読みに徹することを選んでいる以上、禁止エリア関連のお話には応えることが
出来なかったのですが、せめて楽しんで読ませていただきました。

しかしまぁ、オディオはこじらせていくばかりだなぁ……。
絶望を紛らわせるキツめの酒が殺し合いだろうってジョウイの推論もあったけれど、
このぶんだと憎しみも酒のようなものになっていそうで胸に痛い。
よく選ばれた語彙が読む側を耽溺させるのだけど、だからこそオディオがこの酒に
楽しく酔うことは出来ないだろうな、と、より強く感じることが出来る。
ここでオディオの始まりも省みられたのだけど、良い意味でオルステッドだとしか思えない。
単品でも十二分に楽しめましたし、これが後々にどう効いてくるかも楽しみです。

668SAVEDATA No.774:2013/02/25(月) 20:48:19 ID:HhEI8AZw0
執筆投下お疲れ様です
状況や心理がしっかり描かれながらも詩的になりすぎず、
雰囲気と読みやすさのバランスが良かったと思います
玉座の情景が浮かんできました

そして、序盤から一貫している憎しみに塗りつぶされた様子だけでなく、
徐々に明らかになりつつある覆い隠された内面が滲んでくるようでした
なんのかんの言ってやっぱり過去を引きずっているあたりに
すごくオルステッドらしさを感じました
参加者たちの声はオルステッドに届くのか、対オディオの展開が気になります

669SAVEDATA No.774:2013/02/26(火) 04:28:29 ID:J3P5Fkh20
お疲れ様でしたー!
やっぱりそこには反応するよなー、オディオ>愛、希望、勇気、欲望
かつてはそれらを全て持っていた勇者オルステッド
その始まりを自ら省みても恨むしかないこいつはジョウイでさえも背負えるのか
オディオ自身は背負えまいと踏んでいるけどはてさて
以前にゴゴ視点でも書かれたけどオディオの見る世界の掘り下げというのもどんどんなされてきてなんか感慨深い

670SAVEDATA No.774:2013/03/05(火) 11:03:40 ID:ojrPod0M0
さて、WIKIにも収録されたし、一週間以上経ったし、これはそろそろ予約皆勤の話とかに移るべきなのではないかな

671SAVEDATA No.774:2013/03/05(火) 11:04:10 ID:ojrPod0M0
×皆勤 ○解禁

672SAVEDATA No.774:2013/03/05(火) 14:42:55 ID:rBr2avaU0
一応、予約は3/2の時点で◆wq氏のが入ってますね。
解禁についての話はとくには無かったですが、自分は話がなくても大丈夫だと思ってました。
Wiki収録から二日程度経過してれば、普段は離れているという方も気づくでしょうから。
ただ、小回りがきく人数で回ってる以上、スレの動きはどうしても少なくなるわけで。
せめて投下に対する感想で「解禁いつにします?」くらいは言うべきでしたね……申し訳ない。

というわけで、後手後手に回ってますが、自分は今の予約は問題なしです。
ただ、それも予約分が楽しみな側の意見なんで、もしも何かあるなら書き手さんがトリ出して
議論スレかなと。人数が少ないと議論も成立しがたくなるので、そのときは進行役なり引き受けます。

673SAVEDATA No.774:2013/03/05(火) 20:17:06 ID:InItjcbE0
もう予約が入っていますし、前後してしまいますが予約解禁ということでよいかと。
放送投下直後に予約が入ったのならば議論すべきかと思いますが、
投下されてそれなりの日数が経過していますので問題ないかと思います。
もっと早く予約解禁の話を持ち出せていればよかったですね、申し訳ないです。

というわけで、個人的にはこのまま◆wqJoVoH16Y氏の投下をお待ちしたく思います。

674670:2013/03/06(水) 11:03:19 ID:U8gD3dfA0
>>672
指摘ありがとうございます。
放送後に予約解禁の話もなく、予約時に本スレでの反応もなかったため、気づきませんでした。
予約解禁の話がなかったばかりに予約していいのか分からず、出遅れたという書き手の方がいない限りは通してよろしいかと。

675<ワタナベ>:<ワタナベ>
<ワタナベ>

676SAVEDATA No.774:2013/03/15(金) 15:55:37 ID:tluQtX5g0
月報集計お疲れ様です。
RPG 150話(+ 1)  7/54 (- 0)  13.0(- 0)

677SAVEDATA No.774:2013/04/01(月) 23:57:07 ID:zbr.hMG20
ブーー……ブー……(エイプリルフールにドキッとしたw 心臓に悪いネタとしたらばの配色だw)

678SAVEDATA No.774:2013/04/02(火) 07:21:01 ID:0OBtZV/o0
ブー ブー
今年中に完結しますようにブー


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