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【習作】1レスSS集積所【超短編】

490名無しさん:2017/07/15(土) 02:22:58 ID:rDW8IA7IO
空を飛ぶためには、大切な事があるのだと、少女は言った。
彼女は翡翠色の美しい翼を持ったワイバーンだった。
蒼い空を自在に翔る彼女の姿は宝石のようで、他の誰よりも美しいと評されていた。

「空を飛ぶために大切な事。それは、一体どんな事なんですか?」
「うーん、一言で言うなら、愛かな?」

手作りの飛行機械を飛ばす準備をしながら質問する僕に、彼女は柔らかく笑ってみせる。
さらりとした銀髪が飛行機械の作る風を含んできらきらと光った。

「愛?」
「そう、愛情なんだ」

訝しげな声を上げる僕の唇を、彼女の竜の指が優しく塞ぐ。
ジワリと伝わる。少女の体温。

「この空は広くて、本当に広くて。そして自由で」

少女は一旦言葉を切る。
風が頬を撫でた。

「独りきりじゃダメなんだ」

彼女の言葉が終わる。
飛行機械のセットアップが完了する。
プロペラがバタバタと音を立て始めた。

「だから、僕は君に追いつこうと思って、これを作ったんだ」

僕は、小さく首を振った。
愛が大切なら、僕だって飛べる。
彼女の隣で、飛びたかったのだから。
さみしそうな顔をする彼女から目をそらす。
機械が飛び始める。
しがみつく僕の身体がガクガク揺れる。
ゆっくりと重力のくびきを断ち切る機械の翼。
ふわりと感じる独特の浮遊感。

そして、ぎしっという不吉過ぎる音。

「うあっ!?」

真っ二つに折れる機械の翼。
実験では上手くいったのになんて言い訳は通用しない。
投げ出された身体が中空に浮かぶ。

掴むものの無い。孤独なソラ。
一直線に落下する僕。

「……!?」
「もう、言ったでしょ?」

叩きつけられる!
目を瞑る僕の体に衝撃はない。
いつの間にか、彼女が抱き留めていたのだ。

「独りで飛ぶ必要はないの」
「……」

翼で抱き留めながら、少女は僕を覗き込む。

「キミと居るだけで私はとべる」
「……」
「キミの翼は、私がなってあげる」

ふわり、再び体が持ち上がる。
ずっとずっと高い世界へと。
それは何時も彼女が飛んでいるよりもずっと上の世界だった。


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