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【習作】1レスSS集積所【超短編】

452名無しさん:2017/05/23(火) 15:05:29 ID:NyY73..2O
「アントラセンにフェノチアジン……」
「うん……」

かりかり、かりかり。
カーテンを閉め切った第二図書室の中、僕はワーバットの同級生に、勉強を教えていた。
小さなシャープペンシルが動くたびに彼女の真っ白なノートに、僕の書いた内容が写されていく。
彼女に教えるようになってから、ノートを書くのに気を使うようになったのを思い出す。

「化学は、こんな感じだったかな」
「……ありがと」

数時間の格闘の末、彼女に今日の範囲を教え終えた僕は、背もたれに寄りかかった。

「いつも、ありがと……その、わたしのために時間とらせちゃって」
「いいよ、僕も勉強になるから」

いつも通りのやりとりに、苦笑する。
ワーバットである彼女は昼間にあまり目がよく見えない。一番前の席に座らせて貰ってはいるものの、やはり黒板の文字を見るのもひと苦労だという。

「けど、最近知ったんだけど、この学校ってヴァンパイアやワーバット向けの夜間授業あるみたいだよ。僕に聞くよりそっちの方が効率いいんじゃないかな」
「……うん。夜間授業の事は知ってる」

前髪の奥にある、夜を写したような黒い瞳を揺らしながら彼女は首を振った。

「だって、君と過ごす時間が……」

彼女の言葉と同時に、すうと部屋が暗くなる。
どうやら日が完全に暮れたようだ。

「一番、楽しいのよ」
「……!?」

一瞬、暗さに戸惑う僕に、覆い被さる影。
唇に触れる甘い感触。

「これは料金だから、明日もよろしくね」

闇の中、にっこり笑う少女に、僕は小さく頷くのだった。


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