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【習作】1レスSS集積所【超短編】

304名無しさん:2017/03/20(月) 17:58:36 ID:cANCRDhgO
とある美しい庭園の一角。
一月に一度ここで。
僕は強大な魔物に挑む。

「さて--分かっておるな?」
「はい。今度こそ貴女に勝たせてもらいます」
「抜かせ。未熟者が」

目の前に座る少女が挑戦者へと艶やかに笑う。
彼女は絶大な魔力を持つ、サバトの長。バフォメット。
種族の中では珍しい漆黒の濡れ羽色の髪と角。老獪な光を宿した金色の瞳。そして、スグリ色のドレスが幼い肢体をつつんでいる。
少女の赤い舌がちろりと楽しそうに唇を舐めていた。

「くく。早く見せるが良い」
「はい」

緊張した面持ちで僕が取り出したのは白い紙製の箱。
開けるとふわり、と甘い香りが周囲に満ちる。

「今回の、新作です」

それは、僕特製、木苺のケーキだった。
真っ赤に染まった、つやのある円筒の形。
隣には白いマカロンが2つ、添えられていた。

「ふむ。真っ赤なケーキか……この艶やかさは、ゼラチンだな?」
「はい。フランボワーズのジュレでコーティングしています」
「成る程、甘酸っぱい春らしい良い香りじゃ」

ニヤリと笑う彼女に見えないように、胸を撫で下ろす。
どうやら、見た目は合格のようだ。
討伐第一関門突破である。

「では、味を見てやろう」

すう、とのばされた彼女のフォークがケーキを切り分ける。
中からのぞくのは茶色のスポンジとムース。
それらを丁寧に載せて、小さな唇に運んでいく。
静かな庭園に彼女が咀嚼する微かな音が響いた。

「ふむ。チョコレートムースとスポンジじゃな。甘酸っぱいフランボワーズに負けない濃い香り……中々じゃ」

論評をしながら、彼女のフォークは進む。

「マカロンも独特の食感が良いのう。柔らかいケーキと良くあっておる」

紅茶で一息つく頃には少女の前のケーキは綺麗に無くなっていた。

「お味はいかがでしたか?」

緊張しながら、彼女の目を見る。
果たして、僕は勝てたかどうかと。

「旨かったが。まだまだじゃな。スポンジの焼き時間が若干甘かったのじゃ」
「駄目でしたか……」
「何、次回も精進すれば良かろう」

ウィンクする少女を前に、がっくりとうなだれる僕。
今回も、討伐失敗のようだ。

「ふふ、そうじゃなあ。良い事を教えてやろう」

そんな僕に、笑いかける彼女。

「儂を倒したければ。今度はウェディングケーキを作るのじゃな」

彼女の白い頬は木苺のように赤くなっていた。


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