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【習作】1レスSS集積所【超短編】

293名無しさん:2017/03/18(土) 12:47:11 ID:upFGpew.O
「ほら、昼ご飯。ちゃんと食べなよ」
「ふふ、ありがとね」
「はぁ……」

かたいパンとスープ、水のやや質素な食事を渡しながら、教団の女勇者である私は小さなため息をついた。
原因は一つ、この鉄格子の向こうで微笑む美しい銀髪の魔物--すなわち魔王の娘であり、最強の魔物であるリリムである。
どんな理由かは分からないが街の中を翼を隠しもせずに普通に出歩いているのを私が捕まえたのだ。
最近魔物絡みと思しき行方不明者が多いので、なんとか取り戻す為の人質に出来ないか、と幼なじみの領主と頭を捻っている最中である。
人質交換とか勇者らしくは無いと思うけれど、背に腹は代えられないのだ。

「しかし、貴女も律儀ねえ。こうしてちゃんと三食持ってきてくれるなんて」
「人質に何かあったら、人が返ってこないからよ」
「ふーん。あ、このスープ美味しい」
「誉めても何も出ないわよ」
「良い花嫁さんになれるわね。結婚式には祝辞を贈るわよ」
「全く……」

ニコニコと笑いながらパンをスープに浸す彼女を横目に同じパンをかじる。
基本的にこいつの食事や見張りは私の担当だ。
最初だけ牢番の人が居たのだが最上位のサキュバスである彼女を見ただけで錯乱し、鍵を渡そうとするなどという案件が発生したためだ。
食事を任せたら料理人がパンの中に鍵を仕込む始末。
笑いながら鍵を渡してきた彼女に私は石になったような錯覚を覚える羽目になった。

「で、さ。進展あった?」
「人質交換の話ならそろそろまとまるわ。故郷に家族が居る人優先だけど、返して貰える方向で進んでる」
「そうじゃ無くて。貴女の好きな人の話が聞きたいのよ」

真面目な顔で語る彼女に再び漏れるため息。
この牢屋に居る間彼女からされた話はほとんど恋愛絡みであった。
しかも何故か私の。

「あいつは領主だし、こんな脳筋と付き合ってるヒマないっての」
「さて、どうかしらね。話を聞く限り脈が無いわけじゃないでしょう?」
「脈のあるなしじゃ無いって。そもそも私にドレスとか似合わないし。アンタなら似合うだろうけどさ」
「あら。誉めてくれたの?」
「誉めてない」

食後のコーヒーを渡しつつ、目を逸らす。
コイツが来てからというもの、いつもこの調子。
おかげであいつを意識してばかりだ。

「しかし、アンタはなんでまたこんな事聞くんだ?」
「それは簡単よ。リリムはね、恋する女の子の味方なの」
「わかんない」


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