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一時投下スレ

1 ◆x0A8sCOhf.:2008/05/19(月) 02:05:57
主な使用例は
「展開に問題がある可能性があるSS」
「或いはSSが完成したものの自信が無くて心配」
「本スレで指摘された所の修正部分」
そんな時はここに投下してください。

764 ◆bAvEh6dTC.:2009/03/24(火) 20:40:34
日記には
なぜか開けることができないとか
開いたはいいけどなぜか読めない
とか制約つけたほうがいいみたいですね
それかもう日記以外に変更ですね

「ギャー!?なんでお前がそれを持ってる!?」
な荒木が見たいのはありますけど

765 ◆bAvEh6dTC.:2009/03/25(水) 17:02:29
・日記に制約。(開く事が出来ない)
・場所はそのままでもかまわないと考えました。
「特別懲罰房の外壁に戻った」という表現は無かったので・・・
(屁理屈ですかね?)
>>759さんの指摘部分は全面的に直しました。

どうやらeonet全体に規制かかってるらしく
本投下できるのがいつになるのかわかりません。
別のパソコンから投稿してみるつもりですが・・・
とりあえずこうなるという事を書いておきます。

766ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/03/28(土) 02:33:33
修正乙です。いい感じになってると思います。
フーゴに予約きてるから場所は変えないほうがいいのかな。

767 ◆Y0KPA0n3C.:2009/03/28(土) 21:10:33
「26人か………」

朝日が眩しいのか、目を細め呟く。温かく輝く光源と対照的に男の口調は冷え、どこまでも現実を見ていた。
手元の名簿をじっくりと見つめる。地図を眺め現在地を確認、今後どうするかについて頭を働かせる。
しかし表面上は冷徹を装っていても、己の中で激情を押さえ込めるほどリゾットと言う男は器用でなかった。

(短気なアイツのことだ。見境なく喧嘩をし、相手の力量を見違えたか…。
まぁ、この舞台では長生きできるような奴じゃなかったってことだろうな。)

こうなることはわかっていたと自らに言い聞かせる。理論的に考え、冷静に、客観的に分析を行う。
それでもこの悪趣味な処刑の中で大切な部下が散ったという事実はあまりに大きい。

「禁止エリア…外堀を埋め始めたか。逆に言うとそれほど中央に参加者がいないと考えるのは短絡的か…?」

涙は決して見せない。悔しさに唇を噛み締めるようなこともしない。怒りに拳を振るうような行為は野蛮だ。
果たして人を失うことを悲しくないと思える人間などいるのだろうか。
ましてやそれが親しいものなら、愛するものなら、それはどうであろう。
リゾットと言う男はそれらを全て背負っても髪の毛ひとつほど動揺を見せない。
弱みを決し見せることなくどこまでも無表情な偽りの仮面をそこに貼り付ける。
彼らが求めた『リーダー』とはそんな男なのだから。

「重ちーは…」

目を上げることなく聞こえる言葉にほんの少しだけ意識を傾ける。椅子に座り背中を丸める部下の声は微かで震えていた。
「ただのガキだったんだ………。母親を大切にして、父親を愛して、学校生活を楽しむ。
そのくせ、笑っちゃうほど頭が悪くてよォ…。この俺が言えるんだぜ?それでも楽しそうに言ってたよ。
『ペッシ、学校はおもしろいど!』ってな…。そりゃ嬉しそうにな…顔中笑い顔にして…。」
ペッシは話を続ける。
「きっと仗助もそんなアイツの友人だったんだろうな…。仲が良かったかどうか、俺にはわかんねぇけど少なくとも重ちーは信頼してたみてぇだ…。」
「………」
本来だったらリゾットはこんな話をゆっくりと聞くほどお人よしではない。
感情的になることを戒めるような一言共にすぐにでも行動を開始するのが本来の彼だろう。
それでも話を聞いてやったのはペッシに罪の意識を吐き出させてやることで彼の中の重荷を軽くしてやりたかったからか。
或いは何処かで彼自身も心の整理の時間を必要としていたからか。

「そう…ただのガキ………ガキだったんだッ!こんな殺し合いがなければッ!」

768 ◆Y0KPA0n3C.:2009/03/28(土) 21:11:09
もはや声が震えてるという言葉は適当ではなかった。涙声となったその叫びが木霊する。悲痛な叫びが辺りに響く。

「殺し合いなんて間違ってる…!なんで殺し合わなきゃいけないんだッ…!
なんで重ちーが、仗助が、ギアッチョが死ななきゃいけなかったんだよォ!どうしてッッ!」
真正面からその言葉を受け止め、その眼と視線を合わせる。悲しみと怒りが暴走したのは放送を流した男が原因か。
「お前の言うことはもっともだ。正論、これ以上ないほど否定しようがない。
しかしな、ペッシ、お前はそれが決定的な矛盾を抱えてることに気づかないのか…?」
その言葉に萎びれたように顔を落とす。目線は足を見つめるもののそれでいて言葉はやはり、力強くまっすぐだった。

「リーダーも兄貴もホルマジオも、そして俺も……暗殺チームだ。わかってるよ…殺し屋が殺すことを否定するなんて可笑しいよなァ…」
その言葉にリゾットはゆっくりと部屋を横切り窓へと近づく。外から差し込む朝日が眼に染みる。
ペッシは椅子からゆらりと立ち上がり顔を上げる。輝く意志の強さが瞳に伺える。
「だから、リーダー…」

「俺はッ!荒木をッ!ぶっ殺す!」

「俺はマンモーニだ…。覚悟を決めたはずなのに今みたいに放送ひとつで冷静さを無くしちまう、取り乱しちまう…。」

「だからッ!荒木を『ぶっ殺した』時、俺はマンモーニじゃなくなるんだ!本当の暗殺チームになるんだッ!」
高らかに響くその宣言。それは彼ら二人が知らぬことだがペッシが兄貴と慕う男が誓ったものに酷似していた。
「いい眼になったな、ペッシ…」
誉め言葉に照れた様子もなくただ俯き返答の代わりとする。然り気無く自らのデイバックに近づくリゾット。
留め具をなぞるようにもてあそび、そうして部下の成長に細めていた眼を鋭く冷たくする。

「そうだ、荒木を殺るのは俺たち、暗殺チームだ。そのためには全てをなげうってでもな…。
そして俺の考えが正しければ荒木は俺達が殺すべき『ボス』、パッショーネのボスでもある…!」
「?!」
「ペッシよ…お前にその覚悟があるか……?一人、また一人…。もしかしたら俺が、プロシュートが、ホルマジオが、倒れていっても…。
その屍を越えてでも、踏み台にしてでもお前は荒木を殺る覚悟があるのかッ…?」
躊躇いを一切見せずに、というわけにはいかなかった。
落ち着かせるような呼吸を何度か吐いた後、それでも確かにペッシは折れなかった。
「やってやる……!必ずだ、リーダー!それが俺達暗殺チーム!」

ニヤリと歪められた笑顔は何を思ってだろうか。
余裕を表すように仰々しく組まれた腕はどうしてか。
リゾットは口を開いた。皮肉な口調がそこには含まれていた。

769 ◆Y0KPA0n3C.:2009/03/28(土) 21:11:43
「そうか、ならばまず俺達暗殺チーム以外の参加者全てを始末することから始めるぞ…」
「ああ…って、え…?」

歪みはますます傾きを増す。
部下を称えていた瞳は滑稽な道化を見下すようなものに姿を変えていた。
憐れみを含んだ語りは止まらない。
「俺は『ふたつ』聞いたぞ…ペッシ。何を踏み台にしてでも成し遂げる覚悟。
そして決定的な矛盾、つまり荒木を殺るためにはその重ちーや仗助とやらの知り合い全てを始末する必要がある…。
仮にもそいつらが俺達と敵対する可能性が僅かでもあるならば潰さなければならない、その覚悟をッ!」

狼狽したような顔に汗が伝う。覚悟を決めた顔はそれでも変わりなく、余裕を失いつつも腹をくくった男がそこにいた。
渇いた口の中の僅かな唾液が喉を通る。ゴクリと音を立て、自らの中に走る緊張を認めつつもペッシは腰を屈め目付きを変えた。

「そうか…それを否定するか。ならばもうお前と俺は相容れないということになるな…」

「見せつけてみろ!お前のその誰も殺しはしないという甘い考えが、荒木を殺るという覚悟が、この俺の覚悟に勝っているということを!」
「リーダー………ッ!」



反逆の牙を持った男が二人いる。かつてはパッショーネという巨大な組織に、そして今荒木飛呂彦という無限の力に対抗せんとする二人。
若く、何処までも青い狼が今、己の信念を貫かんと獣の長である誇り高き同族の狼に牙を剥く。





   ◆   



果たしてリゾットはこうなることを予想できていたのだろうか。こうなることを望んでいたのだろうか。
結果的には合流後、ペッシと情報交換のため近くの民家に入ったことは間合いを詰めることになり、彼にとって不利を招くものとなった。

しかしながらリゾットはペッシに対して大きなアドバンテージを持っていた。彼が開戦の言葉を口にしたのもそれが理由かもしれない。
スタンド使いの戦いに置いて最も優先すべきことは相手のスタンド能力が「何か」であることを知ることにある。
当然ながら暗殺チームのリーダーである彼はペッシのスタンド能力を把握し、それに適する指令を与えていた。

770 ◆Y0KPA0n3C.:2009/03/28(土) 21:12:15
それに対してリゾットの能力をペッシは知らない。信頼関係云々でなく、仮に情報を引き出すようなスタンド能力者がいたらどうであろう。
拷問にも口を割らない根性の据わった彼らであってもスタンド能力の前ではその意志も意味を為さない。
ならば、との配慮からリゾットは可能な限りチーム内に置いても互いのスタンドを隠していた。中には例外もいたようだが。

「…?!どこに…いや、消えた?」

ペッシは釣竿を力強く掴む。同時に姿を消した相手、リゾットからの攻撃に備え警戒心を強める。
突然のターゲットの消失にもペッシは油断なく竿を構える。驚愕こそしたものの冷静さを失わず頭をフル回転させた。

(一番不味いのはリーダーのスタンドが近距離パワー型だった場合だ…。姿が見えないうえ、俺のスタンドじゃとてもじゃないが近距離の攻撃を防ぐようなことはできない…。
元々俺のスタンドは兄貴と組んで発揮できるタイプ。一対一で間合いも測れないようじゃ、この戦いは少々ヘビィだぜ…。)
(だがッ!逆を返せばリーダーは必ずこの間合いにいるッ!少なくとも部屋から出るような真似はしねぇ!
リーダーは殺る時をみすみす逃すような甘ちゃんじゃねぇからな。必ず仕留めに来る。なら………)

「ビーチ・ボーイ!」

自らのスタンドの名を叫び力強く振りかぶる。
先端より飛び出した釣り針は重力に従うことなく部屋を縦横無尽に駆け回る。彼の意志の下、自身の分身は部屋を覆い尽くす。
糸が緩み、張り、さながらそれが立てる音は獲物を狙い這うように動く蛇のようだった。
一秒、二秒、………。

ペッシ本人の息遣いだけが聴こえる。その息も段々と小さくなる。そして………

「見つけたッ!そこだ、ビーチ・ボーイッ!」

猛然と針が空気を裂き迫る!
僅かに空気が歪み、突然空中より血飛沫が上がった。
何処からともなく姿を露にした男は顔を痛みに歪めた。
左肩を抉った釣り針は持ち主の元に戻り、二人はにらみ会う。

「今のは…確実に殺る覚悟だった…。やはり成長したな、ペッシ。見違えるようだ。」
「………」
「だがッ!その程度ならばまだまだ俺には…、荒木には及ばない!喰らえ『メタリカ』ッ!」

油断なく構えていたはずだった。面と向かっているその状況で気を緩めるはずなどなかった。なのにペッシには彼の身に何が起きたかわからなかった。
理解不能、という文字が頭に繰り返し思い浮かぶ。

771 ◆Y0KPA0n3C.:2009/03/28(土) 21:12:47
「がぶっ!…カミソリが…どうやって…、あぐあッ!」
「既に…お前を『殺る方法』は…できている………」

喉を押し広げるように出てくるカミソリ。胃袋から込み上げる有り得ない吐瀉物と不快感。
同時に呼吸器をやられ、予想外の吐血からか足元がふらつく。
意識をしっかりと取り戻した頃にはリゾットの姿は忽然と消え去っていた。

(どっ……どうなってるんだ?!姿を消すのがスタンド能力じゃないのか?
いや、透明にする能力なら…透明化したカミソリをいつの間にか口元に突っ込まれていた…。
いや有り得ないッ!そんなことが可能ならば喉をかっ切るほうがはるかに手間がかからない…!)

動揺は止まらない。戦闘中にそんな姿を晒すことがいかに愚かであるかはペッシも理解しているが余裕の無さが今は思考を止まらせない。

「ち、ちくしょう……ッ!何をやったんだァーーーッ!?いったいどこに消えたァァアーーーッ!」

やけくそ気味に放り投げられた釣り針は宙を進む。
しかし前のように獲物を捕らえることなく、部屋を横切ったそれは窓ガラスを虚しく叩き割った。
背後から諭すような声。

「はっ!!」
「言ったはずだ…。既にできている…とな。」

右肘、利き手で釣竿を握るその腕の付け根に激痛が走る。目を落とすとそこにはハサミがまさに今血管をかっ切らんと刃を開いていた。

「ち、ちくしょう…ッ!」
「お前の成長には目を見張るものがある。これから先、お前はいい暗殺者になれただろうな…。」

「とはいえ…死んでもらうッ!」

噴水のように血が吹き上がり、朱に染めていく。痛みの絶叫が響く。途切れることないその両方にペッシの精神は…。

「何………ッ?!」
「ひるむ…と思うのか………。これしきの…これしきの事でよォオオー!」

折れなかった。
脳裏に浮かぶ二人の少年達の笑顔がペッシに膝をつくことをよしとしなかった。
短気な仲間のひねくれた激励の言葉が手より竿を離すことを許さなかった。

772 ◆Y0KPA0n3C.:2009/03/28(土) 21:14:30
「死んじまった三人のためにもォオー!!」
「俺は死ぬわけにはいかねェェエーーーーーッ!!」

弓のようにしならせた背中の筋肉が収縮する。竿が元に戻ろうとする弾性力と遠心力が加速を最大にした。
そうして生まれた針の早さはまさに規格外!
一直線に、肩より上が明らかになっているリゾットの心臓に針が迫る!

(必ず殺るって決めた時は「直接」だッ!今の俺は何がなんでもただ突っ切るのみッ!)

吸い込まれるように進む針。加速は止まらない。
その速さの前では回避行動も間に合わない。最期の時を風切り音が奏でる。

「俺の勝ちだ、リーダー!」

臓器を潰すような、体を抉る音は聴こえなかった。ボヨーン、という間抜けな音と鈍い石が砕ける音に紛れて勝者の声がペッシの耳に届いた。
リゾットが両手に抱えるように持っていた岩がその音源であった。広瀬康一、彼のスタンド能力を吹き込まれたリゾットの支給品。

「一手足りなかったな…。或いはお前が俺と同じ土俵に…スタンド能力を互いに知っていれば結末は変わっていたかもしれないな。」

コストパフォーマンスが悪いと彼は評したがそれは鉄分を操る彼自身の能力とは極めて相性が良かった。
それは彼のスタンドの性質上、攻撃方法を封じられないため。唯一の欠点は敏捷性を失い相手の攻撃がかわせなくなる点にある。
それも今回においては問題にならない。ただ即死を避けるだけならばペッシの針より顔か心臓を守るだけですむ。
もっとも足の一本や腕の一本は覚悟しなければならないが。

痛む右肘だけでない。全身、首も顔も膝も、そして内臓辺りからも。中から食い破ろうと蠢く何かを感じペッシはたったひとつのことだけを理解した。
死を受け入れる、はんば諦めのような悟りのような感情が芽生える中…
 
ペッシは己が負けたということだけを理解した。

(すまねぇ…重ちー。どうやら、俺はここまでみてぇだ………。)
走馬灯が走る中、目を瞑る。最後に脳裏に浮かぶのは彼が兄と慕った男の姿。
俺もあんな、兄貴みたいになれたかなぁ…そう思った彼の耳に…

   「合格だ、ペッシ」


沈みかけた意識をその言葉がすくう。
痛みだけじゃなく緊張と力みが全身から挽いていくのがわかった。
呆然とする彼の前でリゾットは控えめながらも本心からの笑顔を微かにだけ見せた。



   ◆

773 ◆Y0KPA0n3C.:2009/03/28(土) 21:15:08
「人が悪いってレベルじゃねーぞ…。もしかしたら俺もリーダーも死んでたかもしれないんだぜ?」
「仮に死んだらそこまでだったということ。それに本物の覚悟とは本物の殺し合いでしか生まれないからな。」
「それにしたってもっとほかのやり方が…」

奇妙な光景だ。彼らの仲間が見たらその滑稽さに笑うか、或いは何があった、と疑問に思うか。
泣く子も黙る暗殺チームのリーダーを含む二人が大雑把にとは言え散らかる部屋を片づけ清掃している。非常に貴重な光景であることは間違いないだろう。
愚痴をこぼしながら戦闘の余波で砕けた机を隅に追いやる。淡々と作業をこなしながら壊れてもはや不要となった椅子を放り投げる。

「なに、この期に及んで人を殺せないようじゃ使えない、そう判断するのは軽率か…?」
「…まぁ、確かにそうかもしれねぇけど………」
「部下って言うのは頭の指示に従ってはじめて駒になる。使えない駒はここでは駒どころか足を引っ張る存在だ」

そうして粗方掃除が終わったのち、二人はようやく一息つくと中央にあいたスペースに座り本格的な情報交換を行うことにした。
放送前は参加者を警戒して移動、そして民家にたどり着いた途端放送が流れたため、二人には殆どその時間がなかったのである。

「そんなことより本題に移ろう。ペッシ、『その話』は確かなんだろうな?」
「確かも何も、俺はリーダーの言ってることのほうがよくわかんねぇよ」
「ふむ。そうなると…荒木がパッショーネのボスという考えは…いや、そうでないとは否定できない。それどころか…」

ぶつぶつと呟き続けるリゾットにペッシは沈黙を貫く。
彼がブチャラティと遭遇することが出来なかった、任務を果たせなかったとのことについて謝罪を一言いれたことが事の発端であった。
疑問符を頭の上に浮かべながらもペッシはこういう時は何も口出しをしないほうが良いということを嫌と言うほどわかっていた。
なにより頭を働かせるのは彼の役割ではない。どうせ一緒に考えても一歩通行に相手の意見を聞くことになるだけになるのだ。
それ故にペッシはリゾットが考えをまとめるのを待つことにした。
大分時間がたった頃にようやく呟きが止む。どうやらリゾットの中で考えが固まったようだ。



「…もう一度確認するぞ?お前がこの殺し合いに呼び出されたのは『ブチャラティ達と遭遇する前』で合ってるんだな?」
「…?それ以外に何があるんだ?リーダーだって兄貴と俺のタイムスケジュールぐらい把握してるでしょ?」
「そうだな…ならば、質問を変えよう。例えばブチャラティ達に遭遇したが気づかなかった、いつの間にかすれ違った、或いは目的地に移動中に睡眠をとったということもないか?」
「???…何が何だか俺にはさっぱり………。」

ぽかんと狐に包まれたような表情をするペッシに対し、リゾットはすくっと立ち上がると苛立ちからか、円を描くようにその場を歩き出す。
腕を組み目付きを鋭くするとリゾットは再び口を開いた。

774 ◆Y0KPA0n3C.:2009/03/28(土) 21:15:41
「正直な話をしよう。まず最初にこの話は嘘偽りない、まったくの事実だということをお前に知っておいて欲しい。それがわかったら話を続けよう。」
目をやると無言で頷くペッシがいた。
「俺の手元には『ペッシ』とプロシュートはブチャラティと交戦、二人とも始末されたとの情報が届いた。
情報源はメローネ、さらにその情報を中継したギアッチョより直接聞いた情報だ。信憑性は高いと見ていいだろ。」
「…?ちょっと、リーダー…」
「更に言うとそのギアッチョもネアポリス駅で始末されたらしい。その後ブチャラティたちの足取りを数時間失ったが、その間に奴らは裏切りを決意。
トリッシュと共にヴェネツィアを脱出、サルディニア島に向かっていた。」
「………」
「ボスの親衛隊も動き出したらしいが詳細は不明。交戦はしたものの誰一人欠けることなく奴らはたどり着いたらしい。
サルディニアに向かった理由はわからないが裏切りから推測できることはボスについての情報収集って所だろう。
俺はその情報をキャッチ、即座に飛行機を手配し自らの足でサルディニアに向かっていたところでこの舞台に引っ張り出された。
以上が俺の話だ。おっと、その顔を見ると色々お前も言いたいことがあるようだがまずは俺の考えを言わせてくれ」

ペッシの納得のいかない顔からして反論なり、何かを予期したのだろう。
リゾットはその口より言葉が零れ落ちる前に手を上げてそれを制する。そして再び自らの口を開く。

「当初、俺はこれが俺たち暗殺チーム、そしてブチャラティ達に対する『悪趣味な処刑』だと思った。
その中でお前達死んだとされた暗殺チームはこの処刑のために幽閉されたと考えていた。しかしながら、だ。
お前の話を聞く限りこれはありえない。捕まった様子もない、覚えもない。
なにより以後の記憶が一切ないというのは不自然すぎる。スタンド能力?いやいや、記憶を消すのはメリットがない。

ならばほかになにがある?死んだお前を生き返らせた…これも不自然な点が数多く残る。
何故その必要がある?処刑ならば捕まえて済ませれば良いだけだ。生き返らせる手間と理由がわからない。
それに殺されたときの記憶がないのも不自然だ。
同時に人を生き返らせることがいかに不可能か、それは殺しのプロの俺たちが一番わかっている。
どんなスタンド能力だろうと死んだ人間は取り戻せない。これは動かしようのない真理だ。

付け加えると娘であるトリッシュを参加させる理由もわからない。あれだけ安全を、俺たちより守ろうとしていたその娘だぞ?
よってまず第一に荒木=パッショーネのボスと言う可能性はほぼないと見て良いだろう。

それでは本題だ。俺とお前の間にある決定的な違いはどうすれば説明できる?
記憶操作説、死者蘇生説…。キモとなるのは俺とお前の間に『時差』があるということ。つまり時間だ…。
これはすなわち荒木のスタンドの恐ろしさを認めることにもなるが俺の仮説が正しければ荒木は…

   俺たちを別の世界、俗に言う並行世界からそれぞれ連れて来たに違いないッ!!」

「な、なんだってーーーーーーーー!!」

775 ◆Y0KPA0n3C.:2009/03/28(土) 21:16:13
「時間操作、と言うのも考えた。しかしそれではタイムパラドックスが発生する。
例えばお前がいた世界、ブチャラティと遭遇する前の世界。荒木がお前を連れだ出した時点で世界は枝分かれするだろう。
プロシュートのことだ、お前が消えたらすぐにでも俺に連絡を取る。そうしたらこの『俺』が体験した、お前から見て未来を、『俺』は体験しないだろう。
もしかしたらペッシが消えたことを聞いた俺は撤退を命じるかもしれない。もしかしたらギアッチョを向かわせるかもしれない。もしかしたら俺自身が向かうかもしれない。
つまりお前がいた世界をAとすると『ペッシとプロシュートが敗北し、それを報告したメローネ、ギアッチョも死んだ世界B』より俺は招かれたわけだ。
そうしてプロシュートはきっと違う世界C、ホルマジオはD…。そんな感じで荒木はありとあらゆる世界より俺たちを呼び寄せたわけだ。」

突然の莫大な情報の波に、聡明な男の脳と比べるといささか単純な構造を誇っている彼の脳が悲鳴を上げる。
漫画やアニメで表現するならば今頃プスプスという音と共に湯気が彼の頭より漂っているだろう。
落ち着かせるように水を一口含む。冷静に自分なりに噛み砕くと、彼は頷きを持って理解を示した。
男は説明を再開した。

「その根本的なスタンド能力を説明すると人間ワープというのが最も的確だろう。
見せしめの女が死んだときを覚えてるか?あの場で女を浮かせていたが、あれは“空中のある地点に延々ワープさせている”とも取れなくはない。
そして今回の俺の仮説、これもワープで説明できるだろう。ただ恐るべきは精密機動性、そしてなにより射程距離にあるだろう。なんせ並行世界までその効力を広げているんだからな。
そして80人以上の参加者を同時に連れてくるスタンドパワー…。仮にスピードまで優れていた日には一対一では無敵を誇るスタンドであろうな…」

唖然とするペッシを尻目にリゾットはデイバッグよりメモと筆記具を取り出す。
促すように顎で示すともたつきながらもペッシはこれに従う。指揮棒かのようにボールペンを彼の鼻先で上下に振りリゾットは力説する。

「これら俺の仮説はメモをしといたほうが良いだろう。奴らと合流したときに同じ話をしなくてすむし、何か思いつくたびに書き加えれるしな。」
そういい終わると今しがた語った仮説を加えようとサラサラと紙面の上を黒線が走る。持ち主の性格を現すかのような正確で細い線が文字を作りだした。


[主催者:荒木飛呂彦について]
・荒木のスタンド→人間ワープ…見せしめの女の空中浮遊、参加者の時間軸の違い(並行世界まで干渉可能)
        →精密機動性・射程距離 ともに計り知れない


「………」
「さて、ペッシ。話は変わるが何故俺たちは今殺し合いをしている?」
「…?なぜってそれは荒木がそうするよう俺たちに強制させてるからじゃないんですか?」
「まぁ、そうだな。ではなにがその強制力を持っている?」
「…首輪、ですか」

ニヤリと笑みを浮かべる。リゾットは皮肉気味に自らにかかった首輪を突っつく。
思えば暗殺チームの時にもボスより、そして今は荒木に。いつだってこのリゾットと言う男には首輪が架けられている。
それを思って彼はすこし自嘲的な気分になった。

776 ◆Y0KPA0n3C.:2009/03/28(土) 21:16:44
「そうだ…首輪だ。残念ながら俺にこれを解析できるような技術力はない。ほかの仲間も同様だろ。
しかしながら、だ。まず大前提として『この首輪は外せるのか?』という疑問について考えたい」

「冷静に考えれば首輪は『外せない』ようにできているのが当然だろう。これを外されたら荒木の言う殺し合いは成立しないのだからな。
では更に疑問を重ねよう。『荒木はなぜ殺し合いを開いた?』」
「………???」
「殺し、または処刑。言い方はいろいろあるだろうが『死ぬ』ことが目標や理由ならこの首輪を外せないだろうな。だが、もしも『死ぬまでの過程や方法』が目的ならばどうだ?」」
「う〜ん…リーダー、俺にはよくわかんねぇよォ………」
「娯楽目的、それもあるだろうな。それにしては規模がでかすぎるとも思える。しかしそうなると奴一人で俺たちを管理するのは………」
呟きながら綴る。独り言のかたちに近くなったことに気づき、部下を見つめるが彼はもはやお手上げといった感じであった。
苦笑いを浮かべながら、自分と同じように書くことを示す。


[主催者:荒木飛呂彦について]
・荒木のスタンド→人間ワープ…見せしめの女の空中浮遊、参加者の時間軸の違い(並行世界まで干渉可能)
        →精密機動性・射程距離 ともに計り知れない
・開催目的 → 不明:『参加者の死』が目的ならば首輪は外れない
           『その他』(娯楽?)が目的ならば首輪は外れるかもしれない 

※荒木に協力者がいる可能性有り


「まぁ、こんな所か。」
「…リーダー、それで今から何処に向かう?」
「そうだな、そこらも含めてこれからの方針についても話そうか」
立ち上がっていたリゾットもペッシの傍に座る。今しがた取ったメモを置くと地図を広げ、参加者名簿を手に取った。
「俺たち暗殺チームの基本方針は『首輪を外すこと』だ。これを基本に行動していく。そのためにすべきことを言うぞ。
まずひとつに首輪を解析できる施設の確保。そして首輪を解析・分解できる参加者との接触、チームへの勧誘。
そしてこの二つのために暗殺チームの仲間との合流及び協力者の確保。この三つが最優先行動だ。」

コツコツと指が音を奏でる。
フローリングの床を刻むリズムに合わせてペッシが目を下ろすとリゾットの指は地図をなぞり、参加者名簿をなぞっていた。地図は南西辺りを、名簿は自分達の名前がある辺りを。

777 ◆Y0KPA0n3C.:2009/03/28(土) 21:17:27
「よってそのためにここ、ナチス研究所を拠点として確保。これが第一行動方針。
そして人が少なすぎると言うのが今の現状…。信頼できるお前らがベストだが、俺を含めもはや四人しかいない。
首輪を解除できる奴を、仮にそいつが信頼できるようであるならチームに引き込む。仲間意識を持てば裏切りは容易にはできないだろうからな。
また俺たちと組むことが如何に有用か、それを思い知らせてやれる自身も俺にはある。
第二行動方針として暗殺チームの拡大。具体的には人数が多くなったら拠点待機組、資材確保組、参加者討伐組と別れて行動する気だがな。
他の施設についても時間がるようなら回りたいところだ。
そして最後に荒木飛呂彦についての情報収集。やはり奴の狙いがわからないようでは脱出も難しい。もっとも奴ほどの男がなにか残すとは思えないがな。」

ペッシは要領よくリゾットの指示を叩き込む。指示がわかりません、ですむ会社が何処にあるというのか。
理解は出来なくて良い。ただ自分が何を成すべきか、自分の仕事はなにか。それをはっきりとさせておかなければならない。
己を駒と評したリーダーのためにも自分が足を引っ張るわけには行かないのだから。

「そうと決まれば、行こう、リーダー!」
「急ぐな、ペッシ。移動中は物音を立てるな。それと会話もなしだ。とにかくナチス研究所へ慎重に向かうぞ………」

玄関のドアが軋む音が響く。男達は青空が広がる下へと向かって歩き出した。
明るい太陽が照らす中、首もとにぶら下がる拘束具がきらりと輝く。
それはさながら男たちが目指す栄光への煌きと一緒で。
花火のように一瞬で命を散らすかもしれない。陽炎のように霞み、消えていくかもしれない。
それでも彼らは誓う。 “俺たちは必ず勝つ” と。

黄金の精神、それは確かに彼らの中で輝きを放っていた。

778 ◆Y0KPA0n3C.:2009/03/28(土) 21:19:02
【F-3 南部 町/1日目 朝】
【暗殺チーム(現在メンバー募集中)】
【リゾット・ネエロ】
[スタンド]:メタリカ
[時間軸]:サルディニア上陸前
[状態]:頭巾の玉の一つに傷、左肩に裂傷有り
[装備]:フーゴのフォーク
[道具]:支給品一式
[思考・状況] 基本行動方針:荒木を殺害し自由を手にする
1.ナチス研究所に向かい、拠点として確保する
2.首輪解除に役立ちそうな人物を味方に引き込む
3.暗殺チームの仲間と合流
4.ブチャラティチームとプッチの一味は敵と判断、皆殺しにする
5.荒木に関する情報を集める
6.他の施設で使えるもの(者・物)がないか、興味(優先順位はナチス、次点でG−1の倉庫)
[備考]
※F・Fのスタンドを自分と同じ磁力操作だと思いこんでいます
※F・Fの知るホワイトスネイクとケンゾーの情報を聞きましたが、徐倫の名前以外F・Fの仲間の情報は聞いてません
※リゾット、及びペッシのメモには以下のことが書かれています。

[主催者:荒木飛呂彦について]
・荒木のスタンド → 人間ワープ…見せしめの女の空中浮遊、参加者の時間軸の違い(並行世界まで干渉可能)
         → 精密機動性・射程距離 ともに計り知れない
・開催目的 → 不明:『参加者の死』が目的ならば首輪は外れない
           『その他』(娯楽?)が目的ならば首輪は外れるかもしれない 

※荒木に協力者がいる可能性有り


【ペッシ】
[時間軸]:ブチャラティたちと遭遇前
[状態]:頭、腹にダメージ(小)、喉・右肘に裂傷、強い悲しみと硬い決意
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(数不明)
    重ちーが爆殺された100円玉
[思考・状況] 基本行動方針:『荒木』をぶっ殺したなら『マンモーニ』を卒業してもいいッ!
1.リゾットに従いナチス研究所に向かう。
2.誰も殺させない。殺しの罪を被るなら暗殺チームの自分が被る。
3.チームの仲間(特に兄貴)と合流する
4.ブチャラティたちを殺す?或いは協力するべきなのか?信頼できるのか?
[備考]
※100円玉が爆弾化しているかは不明。とりあえずは爆発しないようです。


【暗殺チーム全体の行動方針】
基本行動方針:首輪を解除する
1.首輪解除のためナチス研究所を拠点として確保する。
2.首輪を分析・解除できる参加者を暗殺チームに引き込む。
3.1・2のために協力者を集める。
4.荒木飛呂彦について情報収集
5.人数が多くなれば拠点待機組、資材確保組、参加者討伐組と別れて行動する

779 ◆Y0KPA0n3C.:2009/03/28(土) 21:23:56
投下完了しました。
誤字・脱字、矛盾点・修正すべき点、他気になる点などありましたら指摘お願いします。

・ペッシの口調、キャラ
・リゾットの考察内容
・行動が短絡的でないか、わかりにくい箇所はないか

えー、特に今回は長文で前半戦闘・後半考察という構造になってまして矛盾が多々あるんじゃないかと思ってるのでよろしくお願いします。
上三点について意見をもらえると喜びで悶えます。

780ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/03/29(日) 00:11:21
投下乙
リーダー聡明すぎで惚れた
とりあえず気付いた点は>>777
他の施設についても時間がるようなら回りたいところだ。

他の施設についても時間があるようなら回りたいところだ。

くらいでしょうか?
内容に関しては特に問題ないと思います

781ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/03/29(日) 00:39:41
投下乙です。
内容は問題ないように思われます。
感想は本投下の際に。

いくつかの誤字と誤記を指摘させて頂きます。
>>767の下から5行目、「一言共に」→「一言と共に」
>>772の下から14行目、「はんば諦めのような」→「なかば諦めのような」
>>772の下から2行目、「全身から挽いていく」→「全身から引いていく」
>>773の下から2行目、「狐に包まれた」→「狐に抓まれた」
>>774の6行目、「ヴェネツィア駅」→「サンタ・ルチア駅」

782ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/03/29(日) 09:12:29
投下乙でした!

・ペッシの口調、キャラ
カッコいいですペッシ。口調もキャラも大丈夫かと。原作っぽいです。
マンモーニ以上ゲス野郎未満という理想的な状態ですし。

・リゾットの考察内容
平行世界という発想にリゾットが思いつくかどうかなんて、原作じゃわかりっこないですしOKかと。
ペッシの話から筋道を立てていますから、論理が飛躍しているとは感じません。
ぶっちゃけメタ的にありがたいと思います。
これから情報を集めていく段階ですから、これぐらいアッサリしていていいと思います。

・行動が短絡的でないか、わかりにくい箇所はないか
「使えそうな仲間をスカウトする」を考慮したのは高評価じゃないでしょうか。
ひっそりとシリアルキラー路線で行くより、展開に幅が出ますし(ペッシと仲間割れで相打ちエンドという割りは受けにくい)。

783 ◆Y0KPA0n3C.:2009/03/29(日) 20:20:43
指摘ありがとうございましたッ!!
皆様の親切な指摘に喜びで悶えてます。誤字の多さに恥ずかしさで悶えてます。

8:30ごろに本スレに投下する予定なので支援できる方がおられましたらよろしくお願い致します。

784 ◆Y0KPA0n3C.:2009/03/29(日) 20:49:22
猿さん、こんにちは…orz
ということで何方か代理投下してくださると助かります…。
よろしくお願いします。

弓のようにしならせた背中の筋肉が収縮する。竿が元に戻ろうとする弾性力と遠心力が加速を最大にした。
そうして生まれた針の早さはまさに規格外!
一直線に、肩より上が明らかになっているリゾットの心臓に針が迫る!

(必ず殺るって決めた時は「直接」だッ!今の俺は何がなんでもただ突っ切るのみッ!)

吸い込まれるように進む針。加速は止まらない。
その速さの前では回避行動も間に合わない。最期の時を風切り音が奏でる。

「俺の勝ちだ、リーダー!」

臓器を潰すような、体を抉る音は聴こえなかった。ボヨーン、という間抜けな音と鈍い石が砕ける音に紛れて勝者の声がペッシの耳に届いた。
リゾットが両手に抱えるように持っていた岩がその音源であった。広瀬康一、彼のスタンド能力を吹き込まれたリゾットの支給品。

「一手足りなかったな…。或いはお前が俺と同じ土俵に…スタンド能力を互いに知っていれば結末は変わっていたかもしれないな。」

コストパフォーマンスが悪いと彼は評したがそれは鉄分を操る彼自身の能力とは極めて相性が良かった。
それは彼のスタンドの性質上、攻撃方法を封じられないため。唯一の欠点は敏捷性を失い相手の攻撃がかわせなくなる点にある。
それも今回においては問題にならない。ただ即死を避けるだけならばペッシの針より顔か心臓を守るだけですむ。
もっとも足の一本や腕の一本は覚悟しなければならないが。

痛む右肘だけでない。全身、首も顔も膝も、そして内臓辺りからも。中から食い破ろうと蠢く何かを感じペッシはたったひとつのことだけを理解した。
死を受け入れる、なかば諦めのような悟りのような感情が芽生える中…
 
ペッシは己が負けたということだけを理解した。

(すまねぇ…重ちー。どうやら、俺はここまでみてぇだ………。)
走馬灯が走る中、目を瞑る。最後に脳裏に浮かぶのは彼が兄と慕った男の姿。
俺もあんな、兄貴みたいになれたかなぁ…そう思った彼の耳に…

   「合格だ、ペッシ」


沈みかけた意識をその言葉がすくう。
痛みだけじゃなく緊張と力みが全身から引いていくのがわかった。
呆然とする彼の前でリゾットは控えめながらも本心からの笑顔を微かにだけ見せた。



   ◆

785 ◆Y0KPA0n3C.:2009/03/29(日) 20:50:52
「人が悪いってレベルじゃねーぞ…。もしかしたら俺もリーダーも死んでたかもしれないんだぜ?」
「仮に死んだらそこまでだったということ。それに本物の覚悟とは本物の殺し合いでしか生まれないからな。」
「それにしたってもっとほかのやり方が…」

奇妙な光景だ。彼らの仲間が見たらその滑稽さに笑うか、或いは何があった、と疑問に思うか。
泣く子も黙る暗殺チームのリーダーを含む二人が大雑把にとは言え散らかる部屋を片づけ清掃している。非常に貴重な光景であることは間違いないだろう。
愚痴をこぼしながら戦闘の余波で砕けた机を隅に追いやる。淡々と作業をこなしながら壊れてもはや不要となった椅子を放り投げる。

「なに、この期に及んで人を殺せないようじゃ使えない、そう判断するのは軽率か…?」
「…まぁ、確かにそうかもしれねぇけど………」
「部下って言うのは頭の指示に従ってはじめて駒になる。使えない駒はここでは駒どころか足を引っ張る存在だ」

そうして粗方掃除が終わったのち、二人はようやく一息つくと中央にあいたスペースに座り本格的な情報交換を行うことにした。
放送前は参加者を警戒して移動、そして民家にたどり着いた途端放送が流れたため、二人には殆どその時間がなかったのである。

「そんなことより本題に移ろう。ペッシ、『その話』は確かなんだろうな?」
「確かも何も、俺はリーダーの言ってることのほうがよくわかんねぇよ」
「ふむ。そうなると…荒木がパッショーネのボスという考えは…いや、そうでないとは否定できない。それどころか…」

ぶつぶつと呟き続けるリゾットにペッシは沈黙を貫く。
彼がブチャラティと遭遇することが出来なかった、任務を果たせなかったとのことについて謝罪を一言いれたことが事の発端であった。
疑問符を頭の上に浮かべながらもペッシはこういう時は何も口出しをしないほうが良いということを嫌と言うほどわかっていた。
なにより頭を働かせるのは彼の役割ではない。どうせ一緒に考えても一歩通行に相手の意見を聞くことになるだけになるのだ。
それ故にペッシはリゾットが考えをまとめるのを待つことにした。
大分時間がたった頃にようやく呟きが止む。どうやらリゾットの中で考えが固まったようだ。



「…もう一度確認するぞ?お前がこの殺し合いに呼び出されたのは『ブチャラティ達と遭遇する前』で合ってるんだな?」
「…?それ以外に何があるんだ?リーダーだって兄貴と俺のタイムスケジュールぐらい把握してるでしょ?」
「そうだな…ならば、質問を変えよう。例えばブチャラティ達に遭遇したが気づかなかった、いつの間にかすれ違った、或いは目的地に移動中に睡眠をとったということもないか?」
「???…何が何だか俺にはさっぱり………。」

ぽかんと狐に抓まれたような表情をするペッシに対し、リゾットはすくっと立ち上がると苛立ちからか、円を描くようにその場を歩き出す。
腕を組み目付きを鋭くするとリゾットは再び口を開いた。

「正直な話をしよう。まず最初にこの話は嘘偽りない、まったくの事実だということをお前に知っておいて欲しい。それがわかったら話を続けよう。」
目をやると無言で頷くペッシがいた。
「俺の手元には『ペッシ』とプロシュートはブチャラティと交戦、二人とも始末されたとの情報が届いた。
情報源はメローネ、さらにその情報を中継したギアッチョより直接聞いた情報だ。信憑性は高いと見ていいだろ。」
「…?ちょっと、リーダー…」

786 ◆Y0KPA0n3C.:2009/03/29(日) 20:51:24
「更に言うとそのギアッチョもサンタ・ルチア駅で始末されたらしい。その後ブチャラティたちの足取りを数時間失ったが、その間に奴らは裏切りを決意。
トリッシュと共にヴェネツィアを脱出、サルディニア島に向かっていた。」
「………」
「ボスの親衛隊も動き出したらしいが詳細は不明。交戦はしたものの誰一人欠けることなく奴らはたどり着いたらしい。
サルディニアに向かった理由はわからないが裏切りから推測できることはボスについての情報収集って所だろう。
俺はその情報をキャッチ、即座に飛行機を手配し自らの足でサルディニアに向かっていたところでこの舞台に引っ張り出された。
以上が俺の話だ。おっと、その顔を見ると色々お前も言いたいことがあるようだがまずは俺の考えを言わせてくれ」

ペッシの納得のいかない顔からして反論なり、何かを予期したのだろう。
リゾットはその口より言葉が零れ落ちる前に手を上げてそれを制する。そして再び自らの口を開く。

「当初、俺はこれが俺たち暗殺チーム、そしてブチャラティ達に対する『悪趣味な処刑』だと思った。
その中でお前達死んだとされた暗殺チームはこの処刑のために幽閉されたと考えていた。しかしながら、だ。
お前の話を聞く限りこれはありえない。捕まった様子もない、覚えもない。
なにより以後の記憶が一切ないというのは不自然すぎる。スタンド能力?いやいや、記憶を消すのはメリットがない。

ならばほかになにがある?死んだお前を生き返らせた…これも不自然な点が数多く残る。
何故その必要がある?処刑ならば捕まえて済ませれば良いだけだ。生き返らせる手間と理由がわからない。
それに殺されたときの記憶がないのも不自然だ。
同時に人を生き返らせることがいかに不可能か、それは殺しのプロの俺たちが一番わかっている。
どんなスタンド能力だろうと死んだ人間は取り戻せない。これは動かしようのない真理だ。

付け加えると娘であるトリッシュを参加させる理由もわからない。あれだけ安全を、俺たちより守ろうとしていたその娘だぞ?
よってまず第一に荒木=パッショーネのボスと言う可能性はほぼないと見て良いだろう。

それでは本題だ。俺とお前の間にある決定的な違いはどうすれば説明できる?
記憶操作説、死者蘇生説…。キモとなるのは俺とお前の間に『時差』があるということ。つまり時間だ…。
これはすなわち荒木のスタンドの恐ろしさを認めることにもなるが俺の仮説が正しければ荒木は…

   俺たちを別の世界、俗に言う並行世界からそれぞれ連れて来たに違いないッ!!」

「な、なんだってーーーーーーーー!!」

787 ◆Y0KPA0n3C.:2009/03/29(日) 20:51:57
「時間操作、と言うのも考えた。しかしそれではタイムパラドックスが発生する。
例えばお前がいた世界、ブチャラティと遭遇する前の世界。荒木がお前を連れだ出した時点で世界は枝分かれするだろう。
プロシュートのことだ、お前が消えたらすぐにでも俺に連絡を取る。そうしたらこの『俺』が体験した、お前から見て未来を、『俺』は体験しないだろう。
もしかしたらペッシが消えたことを聞いた俺は撤退を命じるかもしれない。もしかしたらギアッチョを向かわせるかもしれない。もしかしたら俺自身が向かうかもしれない。
つまりお前がいた世界をAとすると『ペッシとプロシュートが敗北し、それを報告したメローネ、ギアッチョも死んだ世界B』より俺は招かれたわけだ。
そうしてプロシュートはきっと違う世界C、ホルマジオはD…。そんな感じで荒木はありとあらゆる世界より俺たちを呼び寄せたわけだ。」

突然の莫大な情報の波に、聡明な男の脳と比べるといささか単純な構造を誇っている彼の脳が悲鳴を上げる。
漫画やアニメで表現するならば今頃プスプスという音と共に湯気が彼の頭より漂っているだろう。
落ち着かせるように水を一口含む。冷静に自分なりに噛み砕くと、彼は頷きを持って理解を示した。
男は説明を再開した。

「その根本的なスタンド能力を説明すると人間ワープというのが最も的確だろう。
見せしめの女が死んだときを覚えてるか?あの場で女を浮かせていたが、あれは“空中のある地点に延々ワープさせている”とも取れなくはない。
そして今回の俺の仮説、これもワープで説明できるだろう。ただ恐るべきは精密機動性、そしてなにより射程距離にあるだろう。なんせ並行世界までその効力を広げているんだからな。
そして80人以上の参加者を同時に連れてくるスタンドパワー…。仮にスピードまで優れていた日には一対一では無敵を誇るスタンドであろうな…」

唖然とするペッシを尻目にリゾットはデイバッグよりメモと筆記具を取り出す。
促すように顎で示すともたつきながらもペッシはこれに従う。指揮棒かのようにボールペンを彼の鼻先で上下に振りリゾットは力説する。

「これら俺の仮説はメモをしといたほうが良いだろう。奴らと合流したときに同じ話をしなくてすむし、何か思いつくたびに書き加えれるしな。」
そういい終わると今しがた語った仮説を加えようとサラサラと紙面の上を黒線が走る。持ち主の性格を現すかのような正確で細い線が文字を作りだした。


[主催者:荒木飛呂彦について]
・荒木のスタンド→人間ワープ…見せしめの女の空中浮遊、参加者の時間軸の違い(並行世界まで干渉可能)
        →精密機動性・射程距離 ともに計り知れない


「………」
「さて、ペッシ。話は変わるが何故俺たちは今殺し合いをしている?」
「…?なぜってそれは荒木がそうするよう俺たちに強制させてるからじゃないんですか?」
「まぁ、そうだな。ではなにがその強制力を持っている?」
「…首輪、ですか」

ニヤリと笑みを浮かべる。リゾットは皮肉気味に自らにかかった首輪を突っつく。
思えば暗殺チームの時にもボスより、そして今は荒木に。いつだってこのリゾットと言う男には首輪が架けられている。
それを思って彼はすこし自嘲的な気分になった。

788 ◆Y0KPA0n3C.:2009/03/29(日) 20:52:39
「そうだ…首輪だ。残念ながら俺にこれを解析できるような技術力はない。ほかの仲間も同様だろ。
しかしながら、だ。まず大前提として『この首輪は外せるのか?』という疑問について考えたい」

「冷静に考えれば首輪は『外せない』ようにできているのが当然だろう。これを外されたら荒木の言う殺し合いは成立しないのだからな。
では更に疑問を重ねよう。『荒木はなぜ殺し合いを開いた?』」
「………???」
「殺し、または処刑。言い方はいろいろあるだろうが『死ぬ』ことが目標や理由ならこの首輪を外せないだろうな。だが、もしも『死ぬまでの過程や方法』が目的ならばどうだ?」」
「う〜ん…リーダー、俺にはよくわかんねぇよォ………」
「娯楽目的、それもあるだろうな。それにしては規模がでかすぎるとも思える。しかしそうなると奴一人で俺たちを管理するのは………」
呟きながら綴る。独り言のかたちに近くなったことに気づき、部下を見つめるが彼はもはやお手上げといった感じであった。
苦笑いを浮かべながら、自分と同じように書くことを示す。


[主催者:荒木飛呂彦について]
・荒木のスタンド→人間ワープ…見せしめの女の空中浮遊、参加者の時間軸の違い(並行世界まで干渉可能)
        →精密機動性・射程距離 ともに計り知れない
・開催目的 → 不明:『参加者の死』が目的ならば首輪は外れない
           『その他』(娯楽?)が目的ならば首輪は外れるかもしれない 

※荒木に協力者がいる可能性有り


「まぁ、こんな所か。」
「…リーダー、それで今から何処に向かう?」
「そうだな、そこらも含めてこれからの方針についても話そうか」
立ち上がっていたリゾットもペッシの傍に座る。今しがた取ったメモを置くと地図を広げ、参加者名簿を手に取った。
「俺たち暗殺チームの基本方針は『首輪を外すこと』だ。これを基本に行動していく。そのためにすべきことを言うぞ。
まずひとつに首輪を解析できる施設の確保。そして首輪を解析・分解できる参加者との接触、チームへの勧誘。
そしてこの二つのために暗殺チームの仲間との合流及び協力者の確保。この三つが最優先行動だ。」

コツコツと指が音を奏でる。
フローリングの床を刻むリズムに合わせてペッシが目を下ろすとリゾットの指は地図をなぞり、参加者名簿をなぞっていた。地図は南西辺りを、名簿は自分達の名前がある辺りを。

「よってそのためにここ、ナチス研究所を拠点として確保。これが第一行動方針。
そして人が少なすぎると言うのが今の現状…。信頼できるお前らがベストだが、俺を含めもはや四人しかいない。
首輪を解除できる奴を、仮にそいつが信頼できるようであるならチームに引き込む。仲間意識を持てば裏切りは容易にはできないだろうからな。
また俺たちと組むことが如何に有用か、それを思い知らせてやれる自身も俺にはある。
第二行動方針として暗殺チームの拡大。具体的には人数が多くなったら拠点待機組、資材確保組、参加者討伐組と別れて行動する気だがな。
他の施設についても時間があるようなら回りたいところだ。
そして最後に荒木飛呂彦についての情報収集。やはり奴の狙いがわからないようでは脱出も難しい。もっとも奴ほどの男がなにか残すとは思えないがな。」

789 ◆Y0KPA0n3C.:2009/03/29(日) 20:53:10
ペッシは要領よくリゾットの指示を叩き込む。指示がわかりません、ですむ会社が何処にあるというのか。
理解は出来なくて良い。ただ自分が何を成すべきか、自分の仕事はなにか。それをはっきりとさせておかなければならない。
己を駒と評したリーダーのためにも自分が足を引っ張るわけには行かないのだから。

「そうと決まれば、行こう、リーダー!」
「急ぐな、ペッシ。移動中は物音を立てるな。それと会話もなしだ。とにかくナチス研究所へ慎重に向かうぞ………」

玄関のドアが軋む音が響く。男達は青空が広がる下へと向かって歩き出した。
明るい太陽が照らす中、首もとにぶら下がる拘束具がきらりと輝く。
それはさながら男たちが目指す栄光への煌きと一緒で。
花火のように一瞬で命を散らすかもしれない。陽炎のように霞み、消えていくかもしれない。
それでも彼らは誓う。 “俺たちは必ず勝つ” と。

黄金の精神、それは確かに彼らの中で輝きを放っていた。






【F-3 南部 町/1日目 朝】
【暗殺チーム(現在メンバー募集中)】
【リゾット・ネエロ】
[スタンド]:メタリカ
[時間軸]:サルディニア上陸前
[状態]:頭巾の玉の一つに傷、左肩に裂傷有り
[装備]:フーゴのフォーク
[道具]:支給品一式
[思考・状況] 基本行動方針:荒木を殺害し自由を手にする
1.ナチス研究所に向かい、拠点として確保する
2.首輪解除に役立ちそうな人物を味方に引き込む
3.暗殺チームの仲間と合流
4.ブチャラティチームとプッチの一味は敵と判断、皆殺しにする
5.荒木に関する情報を集める
6.他の施設で使えるもの(者・物)がないか、興味(優先順位はナチス、次点でG−1の倉庫)
[備考]
※F・Fのスタンドを自分と同じ磁力操作だと思いこんでいます
※F・Fの知るホワイトスネイクとケンゾーの情報を聞きましたが、徐倫の名前以外F・Fの仲間の情報は聞いてません
※リゾット、及びペッシのメモには以下のことが書かれています。

[主催者:荒木飛呂彦について]
・荒木のスタンド → 人間ワープ…見せしめの女の空中浮遊、参加者の時間軸の違い(並行世界まで干渉可能)
         → 精密機動性・射程距離 ともに計り知れない
・開催目的 → 不明:『参加者の死』が目的ならば首輪は外れない
           『その他』(娯楽?)が目的ならば首輪は外れるかもしれない 

※荒木に協力者がいる可能性有り

790 We Are the Champions  ◆Y0KPA0n3C.:2009/03/29(日) 20:54:32
【ペッシ】
[時間軸]:ブチャラティたちと遭遇前
[状態]:頭、腹にダメージ(小)、喉・右肘に裂傷、強い悲しみと硬い決意
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(数不明)
    重ちーが爆殺された100円玉
[思考・状況] 基本行動方針:『荒木』をぶっ殺したなら『マンモーニ』を卒業してもいいッ!
1.リゾットに従いナチス研究所に向かう。
2.誰も殺させない。殺しの罪を被るなら暗殺チームの自分が被る。
3.チームの仲間(特に兄貴)と合流する
4.ブチャラティたちを殺す?或いは協力するべきなのか?信頼できるのか?
[備考]
※100円玉が爆弾化しているかは不明。とりあえずは爆発しないようです。


【暗殺チーム全体の行動方針】
基本行動方針:首輪を解除する
1.首輪解除のためナチス研究所を拠点として確保する。
2.首輪を分析・解除できる参加者を暗殺チームに引き込む。
3.1・2のために協力者を集める。
4.荒木飛呂彦について情報収集
5.人数が多くなれば拠点待機組、資材確保組、参加者討伐組と別れて行動する

791 We Are the Champions  ◆Y0KPA0n3C.:2009/03/29(日) 20:57:39
以上です。ご迷惑おかけしますがよろしくお願いします… orz

792 ◆xrS1C1q/DM:2009/03/30(月) 23:28:06
パンナコッタ・フーゴ、仮投下します

793使者〜メッセンジャー〜 ◆xrS1C1q/DM:2009/03/30(月) 23:28:51
砂浜に押し寄せる飛沫がパンナコッタ・フーゴの靴に湿気を与える。
しばしの黄昏、昇り行く朝日を見つめながら彼は先刻の放送を思い出していた。
B-10が禁止エリアとなった以上はここを去らなくてはならない。
正確な居場所を理解していない以上はここがB−10でないという保証はないから。
しかし、彼は暁の空を見つめ続けていた。
孤独という不安が心を締め付けるから? 知人であったトリッシュ・ウナの死を知ったから?
恐らくはその二つが混ざり合っているのだろう。

「向かうなら……西の政府公邸辺りか?」

開始時にいたのは恐らくサルディニアの海岸。
そして、1〜2時間の睡眠時を除けば北へ歩いていた。
自分の歩行ペースからして恐らくここはC-10、もしくはB−10。
もちろん正確なところは完全に分かってるわけではないので、百パーセントとはいえない。
けれどもおおよそでもいいから推定しなくては動きようがないから仕方がないのだ。
西へ向かえば恐らく政府公邸には辿り着くだろう。
最悪の場合でも鉄道に当たるから自分の現在地ぐらいは分かる。
両手に広げた地図を見ながらフーゴは考えを纏めて行く先を決めた。
砂地に落としたディバッグを拾い上げ、底に付着した砂を叩き落とす。
浜辺に点々と足跡を残しながらフーゴは歩いていく。
波打ち際の傍に付けたものは早くも白波に攫われていき形を崩した。

「26人も死んだ……それにボスの娘もだ。やっぱりこの殺し合いは誰も信用できないのか?
 チームのみんなは恐らく荒木に反抗するんだろうな。
 しかし……それでも26人が死んだ。やっぱり無理なんだろうか?」

不安そうな独り言を漏らしながら歩く彼には希望の欠片が見て取れない。
ブチャラティ、アバッキオ、ミスタ、ジョルノ。そしてこの場にはいないナランチャ。
数少ない信頼できる仲間にも頼る事ができない。かといって他の人間を簡単に信頼することも出来ない。
誰とも出会いたくないと逃げ去った地図の端。
荒木は残った数少ない安心すら奪い去っていく。
張り詰めた神経は徐々に磨り減っていき、ついには彼自身を蝕むだろう。
この殺し合いの場における自分の立ち位置。
最後の二人になるまではジッとしようという方針を決めたものの立ち位置は宙吊りの様な状態だ。

「もしも、もしも誰かが首輪を解除することが出来たら僕はそいつについていくべきなのだろうか?
 優勝するつもりのヤツがわざわざリスクを犯してまで首輪を何とかしようとは思わないだろうから一応は信頼できるのか?
 しかし……荒木との戦いで勝てるという保証はない。それどころか、十中八九負けるだろうな」

思い出すのはブチャラティたちと決別した時の自分の心情。
絶対に組織に勝てるはずがない。
そう言って彼らが去っていくのを一人見送った。
後悔していないといえば嘘になる。
ずっと世話になっていた仲間達を裏切るのに何の苦痛も感じないはずがない。
しかし、自分の命をチップにすることはできなかった。
それ故に彼は苦しみ続けることとなる。

「僕はどうすれば……」

彼は仲間を求めているのには違いない。
この苦境の中で信頼することの出来る仲間を。
しかし、彼は誰も信用することが出来ない。
このジレンマの中で彼の心が安心を見つけることが果たして出来るのだろうか?



★    ☆    ★

794使者〜メッセンジャー〜 ◆xrS1C1q/DM:2009/03/30(月) 23:29:37
「おおい、出してくれんか」

風の凪ぐ音しか聞こえない世界の中でこの言葉がやけにハッキリと届いた。
声から判断すれば中年……むしろ初老というべきだろう。
か細い声であったが故に正確な出所を察知する事はできなかったが、人の存在だけは感じることが出来た。
咄嗟にディバッグを地面へと落とし、半身のパープル・ヘイズを発現させて辺りを警戒する。
前方、左右、後方、上空までもチェックしてみたが人影どころか小鳥の姿すら見えない。
視覚が駄目ならばと聴覚、嗅覚を獣のように研ぎ澄まし何か異変があればすぐにでも反応できるようにする。
しかし、一度っきりしか聞こえなかった声の他に人の気配は一切しなかった。
もしや地中に潜んでいるのではないか? それとも透明な敵が近くにいるのではないか?
フーゴの疑念は晴れることなく、落ち着きのない様子で360度を見て回る。

「ここじゃ、カバンのなかにおる」

改めて聞き直せば確かに音源は落としたディバッグの中にいるようだ。
彼の脳内で真っ先に思い浮かんだのがナランチャが戦った暗殺チームの一員。
本体をも小さく出来る能力者であり、やろうと思えばディバッグに潜むことぐらいできると考える。
けれども府に落ちない点もある。
もしも中にいるのがそいつだった場合、わざわざそんな事をする必要があるのだろうか?
ディバッグに忍び込む隙さえあれば自分を殺す、もしくは拷問にかけたりするだろう。
ならば、中にいるのは友好的な人間?
それも分からない。そもそも信用されたいような人間がこんな怪しい接触をとるはずがない。
開けるべきなのだろうか?
躊躇いを隠し切れぬまま、ディバッグを放置して一人悩むフーゴ。
その間にも声は止まらずに出すことを催促してくるが一切無視。
懇願の声が怒りの色を帯びてきた頃、ようやくフーゴは開けることを決意した。
水や食料、地図に名簿とディバッグを捨てるのはあまりも失う事が多く、
だが、得体の知れないものを入れたままこの殺し合いの場を歩き回るほどの度胸はない。
屈みこみ、片膝を立てた状態でディバッグを手に取った。
何が出てきても対処できるようにパープル・ヘイズには抜き手の型を取らせ、自身の手でチャックに手を付ける。
開ける際に出てくる独特の音が仲間への郷愁を誘うが、緊張感で押さえ込みゆっくりとずらしていく。
半分ほど中身が見えたところで一息つく。
心臓の動悸が早まっていくのがハッキリと分かる。
深呼吸を2、3回して心を落ち着けた後に再びチャックに手をかけた。
噛み合った金属が互いの結合を解く度にフーゴの息は荒くなり、掌が湿気を帯びる。
完全に開ききった裂け目から見える中身は薄暗く何があるかは分からない。
地面につけた左膝を伸ばして立ち上がる、ズボンに土がついているが気にしている場合ではない。
両手でディバッグをひっくり返して中身を外へとぶちまける。
ペットボトル、携帯食料、二枚の紙に、謎の頭像・・・それしか出てこない。

「まさか……」

フーゴの視線が白い人型へと向けられた。
意図的に目を逸らしていたそれからは相変わらず禍々しい空気を作り出していた。
吐き気が込み上げる、頭痛もだ。
しかし、この像には実際に喋ってもおかしく無いのでは? と思わせる重圧が存在した。

「コイツかッ!? いや、万が一違ってもこの像を壊すことで僕にデメリットは来ない!」

叫ぶ事で無理やり心を鼓舞させながら、パープル・ヘイズの抜き手を頭像へと向ける。
拳で殴るほうがいいのだが、彼のスタンドの特性上拳で殴るのはあまり賢いとはいえない。
大きく息を吸い、意識を研ぎ澄まし、パープル・ヘイズを腕を突き出し―――――。



「ふぅ。やっと出れたわい」

一枚の写真がディバッグから舞い落ちた。

795使者〜メッセンジャー〜 ◆xrS1C1q/DM:2009/03/30(月) 23:30:27
唖然とするフーゴを他所に写真、正確に言えば写真の中に映るパジャマ姿の老人はフーゴに笑みを向ける。
元々のホラーチックな雰囲気により不気味であるとしか思えないが、構わず彼はフーゴに話しかけた。

「助かった。ワシは支給品として扱われていてな。ずっとカバンの中に隠れてたんだ。
 しかし、支給品といえども命はあるだろう? 死にたくなかったからお前が安心できる人物だと判断できるまで黙ってた」

いきなり出てきた老人のあまりにも唐突すぎる発言に驚きつつ、フーゴは後ずさりをして距離を取る。
そして、ある程度の安全が保障される距離になってから老人に返事を送った。

「支給品だと? お前は一体何者なんだ? それにどうして僕が安心できる人物だと?」

矢継ぎ早に出てきた三つの質問。
老人はやれやれと言わんばかりに光る頭頂部を撫でながらフーゴに答える。

「まず、ワシの名前は鋼田一吉廣。スタンド能力は『アトム・ハート・ファーザー』写真に隠れることのみが能力でな。
 ちっぽけなスタンドだと思われるかもしれんが、死んでも写真に魂を残せるというのは我ながら感心したよ。
 これからのワシの話が信用できないと思うならば破り捨ててもらっても構わない。そうなれば流石に魂を繋ぎとめる事は出来んからな」

ここで一旦話を区切り、フーゴの同意を待つ。
弱点である写真が破られたら死ぬというのを晒すには抵抗があるが、目的の為に危ない橋を渡るのは仕方がない。
小さく縦に頷いた動作を確認した後に吉廣は話を続ける。

「ワシがお前を信用した理由は……簡単に言えば開始からずっとお前の言動を見ていたからじゃのう。
 状況から読み取ったからよく分からんところもあるが、お前は『どうすればいいか分からない』のじゃないか?」

『どうすればいいのか分からない』

この一言にフーゴは反応する。
まさにその通りだ。自分はどうすればいいのか分からない。
心の隙を突かれた彼に吉廣は追撃するように喋りかける。

「殺せばいいの、抗えばいいのか。確かにこれは難しい問題だからの。 
 ワシだって絶対に殺し合いに乗らんと信頼できる者が一人しかおらん
 しかし、悩むってことはこちらの味方になってくれるかもしれない。だからワシはお前に姿を見せた」

殺し合いに絶対乗らない参加者。
彼が最も欲していたものが身近にやってきたのを感じる。
しかし、彼の冷静な部分はこいつも噓吐きだったらどうする気だと警鐘を鳴らしていた。
疑い出せばキリがない。コイツの話を最後まで聞いて考えようではないかと決め、続きを促す。

「その、信頼できるって言うのは一体誰なんだい?」
「吉良吉影。ワシの仲間じゃ」

鋼田一吉廣などという人間は存在しない。彼の本名は吉良吉廣、彼の口から出た人物“吉良吉影”の父親だ。
肉親という直接的な間柄を言ってしまえばより警戒されるのは分かりきっている。
だから彼は吉良吉影の仲間というポジションで彼を信用させようとしているのだ。

「ワシらは日本という国で暮らしていたんだがな、とある殺人鬼に偶然目をつけられてしまったんだよ。
 スタンドを悪用して殺人、強盗、強姦、とにかくやりたい放題やっとる人間達にな。
 警察に相談しようとも暴力団に所属してるならともかく、表向きは一般人でな。
 スタンドという概念を知らん連中に説明してなんとかしてもらうのは無理だったんだ。
 そして挙句の果てにはワシは殺されてこんな体になっちまったって訳だよ」

途中に出てきた犯罪組織という説明にパッショーネとの繋がりがあるのでは? とフーゴは疑うが、後に出てきた横の繋がりはないという事に安心する。
しかし、この少ない説明では信用できるかどうかは怪しい。
男の話に興味があるのは事実である。
もし老人が真実を言っているのならば味方が一人でき、かつ危険人物たちの情報が分かる。
けれども嘘の可能性だってありえないわけではない。

「その話には興味があるな。その犯罪グループって連中の特徴を教えてくれないか?」

796使者〜メッセンジャー〜 ◆xrS1C1q/DM:2009/03/30(月) 23:34:12
「そうじゃな、まずリーダー格が空条承太郎。数秒だが時を止めるスタンドを持つ上にパワーもスピードもある厄介なスタンド使いだ。
 オマケに本体の判断力もずば抜けておる。容姿はかなりの長身とコートに学生帽のような帽子、全部が白いって言うのが特徴じゃな」

時を止めるスタンド使い、あまりにも強大すぎる相手の正体を聞きフーゴは戦慄した。
不可解であり、難攻不落だと聞いたボスの能力にも張り合えるであろう力を前に自分は抵抗できるのだろうか?
間違いなく否だ。相打ちでいいのならばギリギリでいける可能性もありうる。
けれども、命を惜しむ彼の性格上その選択肢だけはありえない。深く考えようとするとここで疑問が湧いてくる。

「どうして相手の能力を知ったのにお前達は生き残れたんだ? 時を止められては逃げることすらできないじゃないか」
「だから逃げられなかったのだよ」
「逃げられなかった?」
「あぁ、逃げられなかった。何が起こってるかも分からぬまま死に……気付いたら写真の中って訳だ。
 時を連続で止められないという弱点にも気付いたが命と引き換じゃあな」

自嘲気味に笑う吉廣、フーゴは彼の表情に注目する。
嘘を付いているのかどうかは分からない? だが、目の前の老人は簡単に人を信用しすぎている気がする。

(いや、僕が不審すぎるだけか? ナランチャなら情報を普通に漏らしかねない気もするしな)

「そしてサブリーダーなのが東方仗助。コイツはチームの回復役で。スタンド能力は殴った物を直す。人体でも物体でもな。
 死んだからどうでもいい気がするけれども念には念を入れて説明しておこう。
 コイツはいつも学ランを着ていて、髪型はあれだ……カツオ。いや、マスオだったっけな?
 あっ、サザエさんだ。サザエさんそっくりな髪型。え〜っと、リーゼントとか言うのかのう?」

死んだものの説明までも丁寧に進めていく吉廣をフーゴは冷静に観察する。
回復役、しかしジョルノと同様戦闘もできる可能性だって十分ありうるだろう。
しかし、所詮は死者。説明されたところでしょうがないものばかりだ。

「申し訳ないが、死者の情報には興味はない。生存者限定で話してくれないか?」
「すまんかった。じゃあ生存者だけ話しておこう。
 虹村億泰。右手で触れた物を削り取る能力者だが本体が馬鹿だから右手に気をつければ何とかなるだろう。
 パワーもスピードも近距離型としては並。本体はこれまた学ランで、ハンバーグみたいのが頭に乗っかっておる」
「右手に気をつけるか……分かった」
「後は、山岸由花子。コイツは髪の毛を操るスタンド使いでパワーは一応近距離並はあると思ったほうがいい。格好はセーラー服にウェーブのかかった長髪だな。
 それと岸辺露伴。コイツのスタンドは厄介でビジョンを見せることで相手を本に変える上に、色々な命令を本になった体に書き込んでくる。逆らうのは不可能だ。
 ギザギザのヘアバンドが印象的でやたらと露出が多い服を着とる。
 トニオ・トラサルディー。コイツは直接的な関わりは不明だが、連中の溜まり場になっているレストランのシェフだ。
 詳しい情報はないんだが、料理に関係するスタンドの持ち主で、常にコック帽にエプロンをしているのが特徴じゃな」

空条承太郎以下六名の情報を聞き、顎に手を当てるフーゴ。
吉廣の話は話半分にしか聞いていない。
しかし、吉良吉影が仲間になるという可能性は捨て置ける物ではなかった。

(だが……信頼できないと言われている連中もかなりいるッ! どっちに進むかで僕の進退は大きく変わるぞ。
 行き止まりで終わりを待つ羽目になるのか? それとも明るい道を歩んでいくのか!?)

グルグルと思考は巡り、答えの出ない袋小路へと追い込まれていく、頭を下げたフーゴに吉廣は切り札を見せた。

「吉影の能力も教えておくべきだな。あいつの能力は爆弾化。触れた物を全て爆弾に変える事ができる。
 容姿としては極々普通のサラリーマンだな。唯一目立つ点といえば愛用の髑髏柄のネクタイか?」
「なっ……!?」

相方の生命線とも言えるスタンド能力を吉廣は躊躇いなくフーゴに伝えた。
目の前にいる老人の話からは真偽が全くつかめない。
仲間の持っていた汗で嘘を見破る能力が本気で欲しくなる。
悩むフーゴ。そんな彼に吉廣は銀色に光る円盤を差し出す。

「すまんな。これはお前の支給品なんだが念の為に持っていってしまった。返そう」

フーゴに渡された銀の円盤。彼はさり気無く調べようと顔に寄せてみて―――――意識が記憶の世界へと飛んでいった。

797使者〜メッセンジャー〜 ◆xrS1C1q/DM:2009/03/30(月) 23:34:50
☆   ★   ☆



“鋼田一吉廣”はほくそ笑む。
最初は様子を見ておくつもりであった。
自分のスタンド能力はギチギチの制限に晒されており、物を動かすことにすら難儀する。
銀色の円盤を何とか自分と一緒にポケットの陰に上手く隠すことが出来たが逆に言えばそれが精一杯だったのだ。
が、どんなに苦難しようと諦めるわけにはいかない。
愛しの“息子”を優勝させるためにコイツにはいい駒になってもらわなくてはいけないのだ。
だが、その計画には致命的な穴が存在した。
“息子”の宿敵達がこの場にいるのだ。
自分が“息子”が安心できる人物だと言い聞かせたとしてもアイツラに出会えば全てが終わりかねない。
しかし、彼はついていた。
宿敵達の内三人が死んだのだ。
重ちーとやらは既に殺したはずだが、気にすることはない。
コイツの呟きを聞くと今にも不安で押しつぶれそうな様子だった。
不安は心の隙間となり、人間は自然と隙間を埋めることを望む。
ならば自分が安心で満たしてやろうではないか。
息子が信頼できる人物だと言い聞かせて安心させてやろうではないか。

「しかし、本当に用心深いガキだ!」

言いたくは無かったが息子の能力までも伝えてしまった。
シアー・ハート・アタック、そして切り札バイツァ・ダストは隠し通したものの、普段使用している能力を言ってしまったのは痛い、
たとえ信頼を引き換えにしたものであろうとも。
吐き捨てるように言い放ち、気絶したフーゴを見る。
円盤の端が偶然額に触れたと思えばいきなり円盤が頭へ侵入して行き気絶した。
死んだのか? と疑ってみるものの呼吸音は聞こえる。
要するにそういうものなのだろう。
一人で納得し、腕を組みながら一人ごちる。

「吉影、ワシの愛する息子は無事に生き残っとるのだろうか?
 ワシはこの餓鬼を使ってお前の邪魔を影から消してやるぞ」

この後、どうすればフーゴを心底から信頼させればいいのだろうか?
承太郎や、億泰、由花子に出会えばどうすればいいのだろうか?
彼は一人で考える。

「バイツァ・ダストは無敵の能力。これだけはワシも信じておる。
 しかし、発動中に急に殺し合いに巻き込まれたからどうなっとるのか……」

心底から息子を心配する姿は美しい家族愛の表れだろう。
しかし、愛の大きさと表現法は歪んでおり、息子自体も歪んでいる。
捩じれきった“愛”はここにいる一人の少年に少なからぬ影響を与えていった。



★   ☆   ★

798使者〜メッセンジャー〜 ◆xrS1C1q/DM:2009/03/30(月) 23:35:27



倒れ伏した体に心が戻ってきたのか、うつ伏せの状態からフーゴはゆっくりと起き上がる。
頭が痛むらしく、左手で頭頂部付近を押さえながら呻く。

「大丈夫か?」

心底彼の身を心配するかのような声で吉廣は尋ねる。
あぁと浮ついた返事をしながらフーゴはさっきまでの体験を思いだす。
一人の少女の人生と最期に訪れる悲劇。

「僕は……ペルラ・プッチになって彼女の人生を体験した」

フーゴがこちらを見ていないことをいいことに吉廣は露骨に表情を歪める。
具体的に言えば、おかしくなったのかコイツ。という顔だ。
しかし、そんな事に気付くこともなくフーゴは自分の頭に入ったペルラの記憶を思い返す。
彼女に起きた凄惨な体験には同情した。
けれどもギャングの自分は似たような人々を何人も見たことがある。
ペルラの悲恋はどうでもいい。
重要なのは記憶の中で登場したエンリコ・プッチという名だ。
ディバッグの中から名簿を取り出し、上からざっと探していく。

「やはり参加者として存在したのか」

載っていた名に一人納得をし、念のためにウェス・ブルーマリンの名がないかも探してみる。
が、その名は見つからずにフーゴは軽い落胆の意を示す。

「今まで見てきた限りは……彼は人格者のようだ」

強いて問題点を言うならばエンリコ・プッチは非スタンド使いかも知れないという事。
しかし、仲間になってくれる可能性があるというのは彼の心を甘美に犯していく。



『吉良吉影』『エンリコ・プッチ』



フーゴは彼らに僅かな希望を見た。
彼は信じるのだろうか? 好きな音楽すら知らないこの二人を―――――――

799使者〜メッセンジャー〜 ◆xrS1C1q/DM:2009/03/30(月) 23:36:04
【B-9 /1日目 朝】



【パンナコッタ・フーゴ】
[時間軸]:ブチャラティチームとの離別後(56巻)
[状態]:苦悩と不安、軽い鬱状態、傷心、人間不信
[装備]:なし
[道具]:ディアボロのデスマスク、吉良吉廣の写真、ペルラ・プッチの記憶DISC、支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:「近付くと攻撃する」と警告をし、無視した者とのみ戦闘する
1.僕は1人なんだ……誰も信じられない……
2.ブチャラティたちを始末する……のか?
3.『吉良吉影』『エンリコ・プッチ』の二名を信頼するかどうか?
4.ティッツァーノ、チョコラータ、ディアボロは組織の人間だろう
5.4に挙げた人物とは出来るだけ敵対したくない
6.空条承太郎達に警戒


[備考]
※ 結局フーゴはチョコラータの名前を聞いていません
※荒木の能力は「空間を操る(作る)」、もしくは「物体コピー」ではないかと考えました(決定打がないので、あくまで憶測)
※ 地図を確認しました
※空条承太郎、東方仗助、虹村億泰、山岸由花子、岸辺露伴、トニオ・トラサルディーの能力と容姿に関する大まかな説明を聞きました
※吉良吉影の能力(爆弾化のみ)を把握しました。しかし、一つしか爆弾化できないことや接触弾、点火弾に関しては聞いていません。
 また、容姿についても髑髏のネクタイ以外には聞いていません
※ペルラの記憶によりエンリコ・プッチの情報を得ましたがスタンド使いになる直前までの情報しかありません
※吉良吉廣のことを鋼田一吉廣だと思い込んでいます


【吉良吉廣】
[時間軸]:バイツァ・ダストのループ中
[状態]:健康、思い通りにならないフーゴにイラつき
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:吉良吉影と共に優勝する
1.待ってろよ吉影!
2.フーゴを利用して敵対している相手を消していく

800使者〜メッセンジャー〜 ◆xrS1C1q/DM:2009/03/30(月) 23:38:09
仮投下終了です

今回仮投下した理由は
・吉良吉廣の存在の是非
・ペルラの記憶DISCの是非
・フーゴの思考がおかしく無いか?
の三つです

指摘点があれば遠慮なくどうぞ
フーゴを何とか動かすために四苦八苦した結果がこれだよ!
かなり無茶苦茶な支給品の出し方になってしまいましたがどうでしょう?

それとフーゴの状態表に7.西へ向かい政府公邸、もしくは線路に辿り着くを追加します

801ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/03/30(月) 23:50:34
感想は案の定本投下後にするとして・・・

個人的に親父の存在はありかなと思います
制限がありますし、燃やすだけでも殺せますし
ペルラに関しては……他の方に判断を委ねます
フーゴの思考は問題ないかと

ただちょっと気になったのは、オヤジがジョセフをスルーしていたことですかね
ジョセフの事知ってませんでしたっけ
あとバイツァの時に来たなら、ハヤトについて触れてもいいんじゃないかなと思いました
こちらはスタンド使いじゃないのでスルーでもいいと思いますけど

802 ◆xrS1C1q/DM:2009/03/30(月) 23:54:59
>>801
アッー(やおいだけに)
OH MY GOD!(ジョセフだけに)
……三部出展だから完全に忘れてましたよorz
早人は出展がバイツァ編の上にスタンド使いでもないしスルーしてるって事で、
音石やアンジェロもあえてスルーさせましたがここで思わぬ伏兵。
修正しますね

803ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/03/31(火) 01:57:03
個人的には若干都合のよすぎる話のような気がしました
まず吉廣には、現段階で「フーゴが承太郎と顔見知りでない」
と判断できる要素がなかった点です。
仮にこれがフーゴではなく花京院やポルナレフだった場合、
「承太郎が犯罪グループのリーダー格」という嘘は即座にばれてしまい、
自分はおろか奉仕相手でもある吉良吉影までが敵として判断されるかもしれない危険な賭けになります。

吉良吉影が自分の仲間であり、フーゴを味方にしようというところまではいいと思いますが、
承太郎一派を明確に「敵」と認識させるのは厳しいと思います。

まあ原作を読む限り、吉廣はあまり聡明な方ではないので何とも言えませんがね…

804ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/03/31(火) 08:13:33
どちらの支給品も問題はないと思いますが個人的には“同時に出し過ぎた”って感じが残りますかね。
アヌビス・マッ・サヴェジが一度に出てきたのと似た感じに思えます。
もっとも、そこを修正となると話の全体に矛盾が生じてしまいますのであまりきつくは言えませんが……

話の構成やキャラの思考に関しては問題ないと思います。強いて挙げるならキャラの口調(とくに吉廣。若そうな感じに聞こえる)くらいですかね。
とにかく乙でした。本投下期待しております。

805ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/03/31(火) 13:16:00
・吉良吉廣の存在の是非

以下の3つははっきりさせておきたいですね。
>吉良は写真から出れない
>相手を写真に閉じ込めることは不可能
>携帯電話などの小物ぐらいなら収納可

ヨーヨーマッも色々禁止されていましたから。

・ペルラの記憶DISCの是非
問題はないと思います。素晴らしい発想。しかし な ぜ 今 出 し た し
単独行動している奴より、チーム行動している奴に渡したほうが……。
しかもフーゴの位置だと誰かに渡す前にお蔵入りする可能性も……。

同時に出してはいけないなんてルールはありませんから、どうするかは氏が判断してください。
間違っても悔いの残らぬように。

・フーゴの思考がおかしく無いか?
フーゴは大丈夫かと
写真オヤジの思考は……どうですかね。
ジャンケン小僧の手のひら返しを2度もやってるし、賢いキャラと言いにくいのは間違いないでしょう。
そこまで厳密にしなくてもいいと思います。億泰が急に頭が良くなることなんて有り得ませんし。

806 ◆xrS1C1q/DM:2009/03/31(火) 16:48:30
ご意見ありがとうございました

吉廣が軽率すぎるという点は
『苦悩する者させる者』の会話からフーゴが承太郎の知り合いでないと判断させることにします

ペルラのDISCに関してはもう少し考えさせてもらいます
確かに詰め込みすぎか? とも思っているんですが、一応考え直さしてください

口調も、最初見た時は若い喋り方でも大丈夫かと思ってましたが
原作を読み直したところ『〜じゃ』というのを使ってましたので修正します

807ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/03/31(火) 18:15:50
乙です。
ペルラのDISCは個人的に期待してる。

808ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/03/31(火) 22:31:59
投下乙です!

・吉良吉廣の存在の是非
吉良の親父に名簿と放送の内容を認識させる描写・一言「わしがデイバッグ内で〜………」を入れるといいかと
急に参加者である承太郎たちのことを言うのはなんか違和感がなぁ…というのがありました

・ペルラの記憶DISCの是非
これはメタ的に言うとフーゴを危険人物である「プッチ」「吉良」、どちらにも信頼を寄せるようにとのことでしょうですけれども…
氏自身も言われてますが詰め込みすぎ感があります。
同時に「空条承太郎の記憶DISC」としてもおもしろいかもしれません。

・フーゴの思考がおかしく無いか?
大丈夫だと思います。

こんな感じでしょうか…
改めて投下乙です。皆様の意見も多く修正点も多くなりそうですが頑張ってください!

809イエスタディを聴きながら ◆em4fuDEyHM:2009/04/01(水) 02:53:29
電車はゆくよどまでも。線路はF-8で土に潜りガタンゴトン。
大きく曲がって西にガタン。穴の中を進んでゴトン。

「つ、つ、つ、次の駅で降りるですってー!?」

オーバーなアクションにディアボロは身体を浮かせる。
ジョセフは一瞬気を取られるも、すぐに車内にある路線図に視線を戻した。
2人はこの地下鉄が、音石明にとって命の次に大事な電気のたまり場であることを知らない。

「いいか仗助君。この列車はF-8で地下に入り、I-4で地上に出るタイプ。この案内表からもわかる。
 では……さっき通ったあのホームはなんじゃ。アナウンスは『G-6・食屍鬼街(オウガーストリート)駅』だったかのう?」

ジョセフは窓際にある路線図をバシィィーッと叩いた。

「次に降りるのは『H-5・ポンペイ遺跡駅』と書かれている。ワシらはここを調べる。
 ワシは昔イタリアに行ったこともあるからの。ポンペイ遺跡のほうが親しみやすい」
「――前の駅を無視したのはそのためか? 最初にあったサンジョルジョ教会……その存在に」

言葉を遮るかのように手を挙げながら、ディアボロが広げた地図を出す。
ジョセフは地図に記されたサンジョルジョ・マジョーレ教会を指差した。

「ワシらが最初に会ったサンジョルジョは、確かイタリアの名所じゃあないかのう。
 ツギハギに名所が書かれている地図の意味を知る上では、同じくイタリア名所のポンペイ遺跡がいい」
「そ、それくらいの調査だったら承太郎……さんも実行してるんじゃないッスか?」
「君は列車に乗らない限り、H-5に地下の駅があるとは考えんなかったじゃろう?
 ワシらは最初の駅のホームでこの事実を知った。この列車に乗ったのはワシらが最初ではないか?」

落ち着いて答える大人の対応に、音石の足がすくむ。
せっかく手に入った電車を手放すわけにはいかなかった。
しかし一人になる恐怖もあった。ジョセフ・ジョースターの探知をかいくぐった謎の攻撃。
直接攻撃を受けたジョセフが電車を降りようと考えるのは至極あたりまえのこと。
そして東方仗助と偽っている身ならば、同伴して降りるのが筋。

「H-3のサンタ・ルチア駅から先にも地下の駅はある。どうかな。地下の駅は……地上に繋がっているとは考えられんか」
「わざわざ調査してどうする?駅に誰かが待ち伏せしている危険性が大きいだろう」
「ポンペイ遺跡に地下鉄の入り口を探そうとする奴はいまいて。仮に見つけたとしても普通ならば!
 疑うじゃろう? スタンド攻撃の可能性を。有り得ない場所に有り得ない物があるゆえに。
 それに危険に晒されるのは駅で待つ側も一緒じゃろう。真っ暗闇の線路以外に逃げ場がない。
 自分に相当の自信をタップリ持つ奴か、身のほど知らずの阿呆でなければ近づかん。
 『食屍鬼街(オウガーストリート)駅』か『ポンペイ遺跡駅』の入り口を見つけても、用心深いやつは入ってこないじゃろう」
「……それを地下鉄の入り口と考えていたならな」
「ディアボロ君、ビビッてもしょうがない。電車にこのまま乗っていても、トラブルは起こるぞ。ワシの傷のように」

流れるように作戦会議を立てる2人に、音石の頭がパーンとはじけそうになる。
ジョセフのスタンドは想像していたほど脅威ではなかったが、探知能力はやはり魅力的だ(一抹の不安はあるが)。
生存を最優先するのであれば、彼らと別行動をとるのも気が乗らなかった。

『――まもなく〜ポンペイ遺跡〜ポンペイ遺跡〜。お降りの際は足元に注意してください……』

時計の針がいよいよ朝の6時を指そうとした時、列車が駅に到着する。
列車内から見える駅のホームはやや明るいが、電気が充分に通っているのかどうか判断しづらい。

「そういえばもうすぐ第一回目の放送じゃな。放送か?流れるのか? こんな地下にも、という意味じゃが」

ジョセフの何気ない一言は、列車の騒音に溶け込んでいた。
いや――……溶け込んでいなかったとしても、耳に入っていただろうか。
自分の事で頭が一杯になっていた音石明と、『彼』を見ていたディアボロには。

* * *

810イエスタディを聴きながら ◆em4fuDEyHM:2009/04/01(水) 02:54:09

『スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜』

ジョセフ・ジョースター達が乗っている電車はATC、いわゆる自動運転になっている。
数分間の停車、出発は完璧にコントロールされており、停車位置のブレも制御されている。
遮蔽物に衝突しても、本体が破壊されない限り進み続けるだろう。

『ウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜』

そんな列車の側面に刃を走らせる。レコードの上を滑らかに走る蓄音機の針のように。
例えば、街で沢山の女を囲う、ジゴロが乗っているピカピカのスポーツカーの扉に、十円玉を走らせるように。
着かない。傷が。一本のなだらかな直線が走ることはない。普通は。丈夫だから。

『ウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜』

傷がつくとしたら、刃を変えてみてはどうだろうか。持ち手を強靭にしてみてはどうか。
チェーンソーのように一秒間で何千回と回転し、その速さゆえに光輝いてみえるような刃。
ロードローラーくらいなら片手で軽く持ち上げてしまう化け物。
この組み合わせならおそらく可能だろう。事実、可能だったのだ。

『〜〜……ッッパァァァァァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜』

柱の男・カーズは、己の腕に生える巨大な刃で電車を横一文字にかっサバいたのだ。
輝彩滑刀(きさいかっとう)――光り輝くカーズの刀。
駅のホームの端に立っていたカーズは、ひょこっと刃を出して待っていた。
列車が勝手に彼の刃に構わず猛進するので、カーズはそこから一歩も動いていない。

「線路を歩いていたらこの休憩所にたどり着いた。そこへ大型トロッコが来ただけのこと。
 強度はいただけないが、形は崩れずこのまま状態を保っている。耐久力はあるようだな」

トロッコよりは遥かに進化した地下鉄に、カーズの好奇心はくすぐられたようだ。
車両の壁に耳を当てて、ゆっくり物音を拾う。彼の耳は家の中にいる人の数もわかるほど精妙なのだ。

「『隠者の紫』AND 『波紋』ッ!! 」

ゆえにカーズは列車から素早く離れようとした。聞こえる波長は、彼が最も憎むものだったからだ。
だがカーズの左腕は、車内から伸びる紫色のイバラに絡め取られ、そのまま車内に引っ張られてしまった。
そしてイバラから流される電流のような痺れ。忘れもしない太陽のエネルギー。

「MU……MUOOOOOOOOO!! なんのこれしきィ! これしきィ!! 」

迷わず左腕を右手で切り落とし、カーズは受身をとって横転する。
ちぎれた左腕はブクブクと沸騰しながら骨を残して蒸発してしまった。

「助かったよディアボロ君。君がいなかったら、ワシらはうめき声を立てる間もなく死んでおったわ。
 壁と一緒に首をスッパリ切られておった。反対の座席にいた大人2人をどうやって助けたのかは、あえて聞くまい」
「俺はお前達を助けた。お前は俺にカリが1つできた。それだけだ。……そしてもう1つ。お前はカリを作る」
「ワシは今のままでも充分感謝しておるがッ! ……そこで腰を抜かしておるワシのドラ息子を頼む」

カーズは3人組の男たちの顔を知らなかった。
しかし彼らは――少なくとも1人はこちらに喧嘩を吹っかけてきた。
電車の恨み……ではない。カーズの左腕を溶かせる術はこの世でただ1つ。忌まわしきライバルの技術。
カーズ一派と古代から戦い続ける戦闘民族の必殺技、波紋。筋骨隆々な老人は波紋使いである。それは敵である。

「ジョセフ、コイツはお前の言う『自分に相当の自信タップリな奴』なのか? 」
「ああ。そして『用心深い』……最悪のケースじゃ」

811イエスタディを聴きながら ◆em4fuDEyHM:2009/04/01(水) 02:55:39
* * *

電車が停車して何分たったのか、ディアボロは時間を計るのを忘れていたことに気がついた。

(襲ってくるのならば容赦はしない……と気張り過ぎたな。このディアボロとしたことが)

電車の先頭付近の床に気絶している音石明を寝せ、ディアボロは運転席を覗く。
電車から駅へと逃げようとはしなかった。
大の男を担いで駅の構内を走り回るのは馬鹿馬鹿しいと思っていた。
どこにあるかわからない出口を探すよりは、ルートのわかっている地下鉄にいたほうがよいと考えていた。

(俺はあくまで列車内にいる謎を優先する。ジョセフに怪我を負わせた謎の解明)

しかしディアボロ、本音は恐怖していた。
恐怖。いつどこから死がやってくるのかわからない恐怖。
その恐怖が襲ってくる可能性を、彼は列車内という最小限の範囲に留めたのだ。
どうせ襲ってくるのならば、全貌のわからぬ食屍鬼街(オウガーストリート)駅よりは、狭い車両。
野原にいるネズミよりも袋のネズミのほうが、猫を噛み易いと理解していた。

(あのネアポリス駅とこの駅の停車時間は……同じ15分前後なのか? この駅の時刻表が知りたいな。
 まあ規則正しく運行する電車など世界でもJAPANぐらいだが、いきなり動き出されるのも面倒だ)

チラリと駅の構内で戦っているジョセフを見やる。
抜き差しならない状況――まるで西部のガンマンの決闘のように。
少し小競り合いをしたかと思うと、しっかりと距離を取って互いを探り合っている。
ディアボロにわかるのは、彼らがお互いの手の内をわかっているということ。
少なくともジョセフはあの男を知っており、あの男も迷うことなく最初の標的をジョセフにした。

(……『聞』こえなかったのか。 ジョセフ・ジョースターは、放送を。それとも『聴』こうとしなかったのか)

ディアボロは支給されていた名簿にペンを走らせる。
キュ、と擦れた音を立てながらインクは名前を塗りつぶす。
現在時刻、朝の6時過ぎ。第一回放送は既に終了していた。
ディアボロは、黙々と戦うジョセフ・ジョースターに少し同情した。

「東方仗助、なぜ貴様が生きている。始末されたはずだ……この世界の誰かに」

音石明は、首根っこをキング・クリムゾンに掴まれている。
血のめぐりが悪くなったせいで、顔面は蒼白になっていた。

「我がキング・クリムゾンに抵抗は無駄だ。逆らえばあの包帯男にお前を差し出す」
「ジョセフを、攻撃したのは、俺じゃ、な、い」
「それはさっき聞いた。俺が聞きたいのは――」

* * *

812イエスタディを聴きながら ◆em4fuDEyHM:2009/04/01(水) 02:56:19
* * *

「波紋使いッ! 俺のことを知っているなッ! 」

ジョセフ・ジョースターは妻を愛していた。
朝は傘でたたき起こされ、昼はキスの代わりにビンタを受け、夜はTボーンステーキを焦がされる。
お抱えのSP、運転手、娘に笑われながら過ごす平凡な日常を彼は30年以上続けた。
年を取らない波紋の呼吸も、妻のために止めた。妻は波紋を使えなかったから。
娘がトラブルに巻き込まれたら、海外だろうと飛んでいった。大事な一人娘だったから。

「そして時間稼ぎをしているな……フフ、図星だろう。あの乗り物が走り出すまでの時間をな
 仲間を逃がすために、このカーズの足止め役を貴様は引き受けたのだ」
 
ジョセフ・ジョースターは家族を愛していた。
厳しい祖母、毅然とした母親に尊敬の念を払うことを忘れていなかった。
彼女たちの血を受け継いでいることをジョセフは本気で誇りに思っていたし、喜んでいた。
だから若い頃にやっていた悪事、いわゆる黒歴史は今でもするべきじゃなかったと後悔していた。
彼女たちのような気高さをあのときの自分は履き違えていたからだ。

「……と、私が思っているとでも、思っているのか? ハハハ舐められたものだな。
 貴様の本当の狙いは、私をあの乗り物に乗せて出発進行させることだな?
 あの箱のようなフォルム、全体に波紋が流れやすいだろうな。閉じ込められてしまった私は袋のネズミだ」

ジョセフ・ジョースターは仲間を愛していた。
年も国も境遇もまるで違う相手と、信頼という絆で共闘した。
付き合う時間の長短を越えて繋がった仲間たちのことを考えると、奮えが止まらない。

「そこで1つ思いついてみたッ! 私はあの乗り物をこの場で破壊するッ!
 YEEEEEEEEEEEEEEHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーッ!! 」
「……隠者の紫ッ!」

大きく声を張り上げて列車に接近するカーズ。
ジョセフはホームの下に飛び込んだ。車輪を壊されまいと考えたのか。

「先回りして迎え撃とうというのか!? 馬ああああああああああああ鹿めええええええええッ!! 」

宙を舞うカーズの懐から支給品のエニグマの紙が開く。。
カーズはハンマー投げの選手のように身を捻らせて、それを放り投げた。
遠心力をつけられたそれ――『ディ・ス・コの劇薬×5』は持ち主から離れ、ホームの下へ入っていく。
カーズは知っていた。自分は波紋に弱いが、人間にも弱いものはあると。
柱の男にはなんでもないような薬品が、人間には中毒を起こすことがあるということを。
換気の悪い地下ならばひとたまりもない。

「そして私はあ・え・て・天井から縦にカッさばいていてやろうッ!!
 車輪なんぞ壊す必要はないッ! どうせ全てを壊すのだからなああああああああああああッ!!」

しかしカーズはジョセフを追わず、列車の天井に登る為に、車両の壁を使って飛び上がった。

「HAHAHAHAHAHA……はっ!? 」

そして――身体を大きく痙攣させた。

「UKAKAAKAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

カーズは地下鉄の仕組みを知らなかった。
地下鉄は電力を地下道の天井にある送電線から受け取っていることを。地下鉄の車輪はゴムタイヤであることを。
ジョセフは地下鉄を知っていた。自分の経験と音石明を加味した知識を利用した。

(追いつかれようが追いつかれまいが、ワシらはここから脱出すればいいだけじゃよ。
 どうせこの列車はいずれ地上に出る。カーズ、貴様は地上に出れん……最初からこちらが優位だったのじゃ)

813イエスタディを聴きながら ◆em4fuDEyHM:2009/04/01(水) 02:56:57
ひょこっとホーム下から顔を出したジョセフが悠々とホームに飛び移る。
そして列車の中から車両全体に波紋を流し、外にいるカーズに追い討ちをかける。
盛大な漏電とともにカーズの叫び声が構内に響き渡る。直接死には至らないとしても、足止めにはなっただろう。
事実カーズは列車からホームに転げ落ち、ジョセフの座席から見える場所で地面を舐めた。

「……だが薬品は少しキツい。目と鼻が痺れてたまらんわい。洗うための水が欲しいのお」
「お、の、れぇ……何故、私が負傷せねばならんのだァ……この程度の電気で……」

ジョセフの勝利を祝福するかのように、発車のベルが鳴り響く。

「お前は“貴様のような老いぼれに、このカーズが ”という」
「貴様のような老いぼれにこのカーズが……ハッ!」
「そしてこのやり取りから、“まさか貴様はジョセフ・ジョースターなのかッ!?”と思いつく」
「まさか貴様はジョセフ・ジョースターなのかッ!?……GUOOOOOOOOOOOOOOOO!」


ジョセフたちを乗せた車両は、ポンペイ遺跡の駅を後にした。
取り残された柱の男は、信じられない邂逅に、衝撃を受けていた。


【H-5  地下鉄・ポンペイ遺跡駅構内/1日目 日中】
【カーズ】
[時間軸]:リサリサとJOJOにワムウと自分との一騎打ちを望まれた直後
[能力]:柱の男、『輝彩滑刀の流法』
[状態]:全身に裂傷、中ダメージ、中疲労、頭部にダメージ(中)、頭痛と吐き気(中)、痺れ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、輸血パック(残量0ml)、首輪、 不明支給品0〜2(未確認)、
[思考・状況]基本行動方針:荒木を殺して力を奪う、スーパーエイジャを手に入れる
1.ジョセフ・ジョースターの姿に疑問。いずれ復讐をする。
2.首輪解析のためにたくさんのサンプルを集める。特に首の配線があるであろう、吸血鬼が一匹欲しい。
3.地下通路や首輪について考察し、荒木の目的を突き止める。
4.エイジャの赤石を手に入れる。
5.月が真上に上がった時(真夜中・第四回放送時)にジョースター邸に赴く
6.荒木について情報を集める。
7.エシディシ、サンタナと合流する。
[備考]
※血を吸った際の回復力に制限がかけられています。
※ワムウと情報交換しました。
※カーズとワムウがマンホールに入った地点はH-7です。
※心臓にもなにか埋め込まれてるのではないかと考えています。
※地下鉄はある程度周りの下水道や空気供給官なとと繋がっているようです。(イギーVSペットショップのような感じ)

『ディ・ス・コの劇薬×5』
SBRのディ・ス・コがジャイロ戦で使った薬品。危険物。
全て消費されました。J・ガイルのラス1の支給品でした。


* * *

814イエスタディを聴きながら ◆em4fuDEyHM:2009/04/01(水) 02:58:34
* * *

ガタンゴトンと列車は進む。大きくうねった地下線路。
列車はもうすぐサンタ・ルチアに到着する。

「ムッ!?」
「俺だ。ディアボロだ」

カーズを振り払ったジョセフをディアボロを尋ねたのは、大分たってからだった。
ジョセフは列車内で受けた謎の攻撃を警戒し、隠者の紫で周囲を警戒していた。
しかし目と鼻が薬品の炎症で正常に働かないので、彼はディアボロにも警戒してしまったのだ。

「すまんのうディアボロ君。目と鼻が利かないものでな。もうすぐ地上じゃ。
 次のサンタ・ルチア駅についたら、顔を洗う時間をくれんかのう」
「……放送は、聞いたのか」

ディアボロは躊躇なく、ジョセフが放送をちゃんと聞いているかどうか事実確認をする。
ジョセフは返事をしなかった。つまり、放送を彼はしっかりと聞いていたのだ。

「ハッハッハ! すまんな。ワシとしたことが、してやられたわい!! 」
「まんまとな」
「ちょいとばかし、あの東方仗助にお灸を据えてやらんとな! あの若者は何者なんじゃ?」
「お前に話すことは何もない」

ディアボロの予想だにしない返答に、ジョセフの顔が曇る。

「言っただろう? お前は借りを作ったと。これがその“返し”だ。あの男は最低のゲスだが使い道はある。
 ……お前はあの男を追い払ったことで随分とご満悦のようだがな、ボケているぞ。
 送電線をショートさせて地下鉄が走るとでも思っているのか? 安全装置が働くだろ常識的に考えて。
 なんとか復旧したから良かったものの、正気じゃないぞ。それとも列車を捨てても勝算があったのか? 」

ディアボロは珍しく饒舌になっていたが、彼は彼なりに行動していた。
ジョセフに『最悪のケース』と言わしめる敵が現れたのだから、逃げるに越したことはないのだ。
だから彼は音石明がおそらく日本人(東方仗助と名乗るくらいなのだから)と推測し、地下鉄の操作を聞いたのだ。
首根っこを掴まれた音石は、恐怖に縛られながらも、列車のATCを解除しようと必死だった。
そんな時起きた、一時的な停電。ジョセフがカーズを電線に衝突させてショートさせたからだ。

「勝算があったのなら、今すぐ列車を降りてしまえ……お前がやっているのはそういうことだ」

音石はパニックになりレッド・ホット・チリ・ペッパーを発動。
強制的に列車の電気回路やコントロールシステムに無理やり電気を流し、列車を発車させたのだ。
もちろんディアボロはこの事実をジョセフに話すつもりはない。
ディアボロは危険を嫌う。
いくら頼りになるとしても無茶をするジョセフより、恐怖に縛られれば忠実に動く音石のほうがマシであった。

「列車は……無事なのかのう? 」
「強がりはやめろと言ってるんだ。年寄りの冷や水だぞ。身内の生死がお前を弱くしている」

いつものワシじゃない――ジョセフの心は、やはり疲弊していた。
スージー、リサリサ、ストレイツォ、アヴドゥル、東方仗助。
さぁ泣けと言われて泣くやつはいない。放送で伝えられる無機質な知らせに、実感は少ない。
じょっとしたら嘘ではないか、と思いたくなるのが普通だ。直接見ていないのだから。

「ワシは強いままじゃよ」

ジョセフは力なく項垂れた。

「ただ……後悔はやってくる。この世界で敵と戦ったり、誰かと会話したり」

そこには歴戦の戦士の姿はなく、ただの老いぼれ爺だけが座り込んでいた。

「荒木を倒して元の世界に帰った後も同じじゃ。妻のコップを洗ったり、古い写真を見たり。
 日記を見直したり……そんな時にふと、ワシは泣いてると思う。ワシは死ぬまでそれを続けるんじゃ」

ディアボロには、ジョセフが急に何歳も年を取ったようにみえた。
あっという間に色々な物を失った人間。ギャングの世界では飽きるほど見てきた姿。
ディアボロには身内を思う感情が理解できなかった。
恋はすれど、最終的に大事なのは自分自身だ。彼の失望感は人というよりは“栄光”や“利益”の損失からくる。

「娘がいると言っていたな。お前はどうしていた? この世界に娘も来ていたら……もし死んでいたら」

だからディアボロは実の娘、トリッシュ・ウナがこの世界で死んだことに、何の憂いもなかった。
直接この手で始末したかったという悔いはあるものの、それ以上の思いはなかった。
同じ娘を持つ身として、ディアボロはジョセフに質問していた。彼を試すために。

(親しい者の死に直面して、今後どうするのか。それによっては……ジョセフ、お前を――)

ジョセフが返事をしないまま、列車はサンタ・ルチア駅に向かう。

815イエスタディを聴きながら ◆em4fuDEyHM:2009/04/01(水) 03:00:03
【H-4 電車内/1日目 朝〜日中】
【チキン三羽〜子持ちのおっさんコンビと音楽家〜】
【ディアボロ】
[時間軸]:レクイエムジョルノに殺された後
[状態]:健康。だけど目が死んでる。強い恐怖
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:とにかく生き残り平穏な生活を送る。
1.ジョルノには絶対殺されたくない。普通に死ねるならそれでもいいや。苦しまないように殺して欲しい。
2.自分の顔と過去の二つを知っている人物は始末する。ボロは絶対に出さない。
3.とりあえずはジョセフに協力。でもジョセフのへたれ具合によって対応を変える。捨て駒も視野に。
4.チョコラータ、電車内の謎の攻撃、謎の男(カーズ)怖いよ、キモイよ……
5.ジョルノや暗殺チーム、チョコラータとジョセフ達を上手く敵対させたい。ぼろが出そうだから怖いけど……

[備考]
※音石明の本名とスタンドを知りましたが、ジョセフに話すつもりはありません。それを取引に協力させたようです。


【ジョセフ・ジョースター】
[時間軸]:DIO討伐後、日本に帰る飛行機の中。
[状態]:健康。胸に浅い傷(止血済) 目と鼻につらい炎症(失明はしない程度)。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:必ず生きて脱出する。打倒アラキ!
0.深い悲しみ。立ち直れそうで立ち直れない。
1.承太郎、花京院辺りと合流して自分の推測について話し合いたい。
2.ジョージ、ジョナサン、ツェペリ、エリナ、スピードワゴン、徐倫は見つけ次第保護する。
3.殺し合いに乗っていない参加者達も護る。或いは協力。機械に詳しい人間がいたら首輪の内部構造を依頼。
4.ディオや柱の男達は見逃せない。偽者の東方仗助を警戒?(攻撃したのは彼?ディアボロ君に任せるか)。
5.ディアボロにちょっと戸惑い。自殺をしそうで怖い。

[備考]
※参加者達は時代を超えて集められたのでは?と推測しています(ディアボロにはまだ話していません)
※首輪を『隠者の紫』で調べましたが機械には疎く詳しい事がわかりません。分かった事といえば隙間がまったく無い事くらい。
※1で挙げた面子はジョセフが聡明と判断した面子なだけで別にポルナレフが信用できないというわけではありません。
※波紋の呼吸を絶えず行っています。その影響である程度の運動なら息ひとつ乱れません。
 ディ・ス・コの薬品の負傷はいずれ治るようです。いつごろかはわかりません。

* * *


ディアボロたちから少し離れて。運転席に座る男が一人。
この男、幸運なのか不運なのか。


「た、たのむよ……そろそろ首根っこを外してくれ。馬鹿な真似しないからさ……。
 これじゃ……最初と全く変わらないじゃねーか……うううう……」



【音石明】
[時間軸]:チリ・ペッパーが海に落ちた直後
[スタンド]:レッド・ホット・チリペッパー(充電中。徐々に回復して色は緑色に。そろそろ黄色になる?)
[状態]:健康  キング・クリムゾンに首をつかまれている
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品 ×1
[思考・状況]基本行動方針:優勝狙い
1.ひぎぃっ! 弱みを握られちゃった……悔しい
2. とりあえず仲間(ディアボロ)ができたのは良かった。でも状況変わってない……。
3.充電ができてほっとしているが、電車から降りたらどうするかは未定
4.サンタナ怖いよサンタナ
5.電線が所々繋がっていないのに電気が流れているこの町は何なんだッ!? あやしすぎて怖えー!
[備考]
※バトルロワイアルの会場には電気は通っているようです。
しかし様々な時代の土地が無理やり合体しているために、電線がつながっていなかったりと不思議な状態になっているようです。 スタンド

が電線に潜ったら、どうなるかわかりません。(音石は電線から放電された電気を吸収しただけです)
※ミセス・ロビンスンをスタンド使いだと思っています

※電車は一両編成で、運転手はおらずに自動で走っています。
 一度、音石の無茶な操作で発車しましたが、現在、運行状況に支障はないようです。
 しかしカーズとの騒動のせいで、サンタ・ルチア駅に時刻どおり着くかどうかはわかりません。


『地下鉄の駅』

地下に駅があるようです。駅は地上と繋がっているのかもしれません。
他にも駅があるのかどうかはわかりません。

※確定しているのルート(ジョセフ達は早朝にネアポリスに乗って朝〜日中にサンタ・ルチアに着きます)
『E-7・ネアポリス駅』→『G-6・食屍鬼街(オウガーストリート)駅』→『H-5・ポンペイ遺跡駅』→『H-3・サンタ・ルチア駅』

816ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/04/01(水) 22:29:31
投下乙ッ!!
まず気づいた誤字、及びこうしたほうが良いのでは?と思う点を指摘させていただきます。

>>809
一行目「電車はゆくよどまでも。」→「どこまでも」
>>813
状態表 カーズが左腕を切断したことについて書き忘れ
>>814
下から17行目 「じょっとしたら嘘ではないか」→「ひょっとしたら」
>>815
ジョセフの状態表 状態に「深い悲しみ」の書き忘れ?

・わかりにくい点はないか
812、813でカーズがどのように、どうして足止めされたか。
ジョセフがどのように行動したか、が若干わかりにくいと思われます。
それ以外は特に気になりませんでした。

・地下鉄に関する内容(駅の存在)
個人的にはアリだと思います。
ただ前回カーズが地下に潜った際に行動範囲の拡大により把握の困難を指摘された書き手さんがおられたので他の方の意見を聞いて決めたほうがいいかもしれません。
それとカーズの輝彩滑刀によりどの程度電車にダメージが残ったかを備考でいいので、書き加えたほうがいいかと思います。

・ディアボロ、音石、ジョセフの心理的描写
特に気になりませんでした。むしろ巧みな描写に唸らされました。

詳しい感想は本投下の際に。修正頑張ってください!楽しみにしてます。

817男女 ◆bAvEh6dTC.:2009/04/03(金) 10:43:57
ティッツァーノ、ドナテロ・ヴェルサス】投下します。

その死体には目が無かった。
いやきっと舌もそれどころか心臓や内臓すらあるのかどうか疑わしいとティッツァーノは思う。
なぜならティッツァーノの目の前に転がっている死体は、
数時間前にラバーソールという男が、内側からバリバリと食べてしまっていたからである。
ティッツァーノがじっと死体を見つめていると、眼球があった所にできた穴をアリが出たり入ったりしているところだった。
人間の肉は柔らかくて齧りやすいのかもしれない。
そう思うとこの血と肉のすえついたような匂いも、なんとなく熟れ過ぎたフルーツの匂いに感じてくるから不思議だ。

そういえば仕事が終わったらスクアーロと一緒に食べようと思って、ドリアン買っておいたんだっけ。
この暑さで腐っていないと良いのだけれど。
私がいなくなった今、スクアーロは一人で食べてるんだろうか?

なんでこんな事を考えたんだろう?
それは多分今の状況のせいだ。
ティッツァーノは腹部にのしかかる圧迫感で現実に引き戻された。

耳にかかるヴェルサスの吐息が生暖かい。
掴まれた腕もしびれてきたような気がする。
ティッツァーノはヴェルサスに掴まれたままの両腕に力を込め抗議の意思を伝えたが、
自分の上のヴェルサスはどいてくれる気配が無い。


今の状況を説明すると、ティッツァーノの頭は地面に押し付けられて、
目の前の死体と顔をつきあわせていて、体はヴェルサスの下にある。
まあ簡潔に言ってしまうと「押し倒されている」というわけである。

溜息をついてティッツァーノは唯一動かせる頭で上を見上げた。空はしだいに明るくなってきている。


一体二人に何があったというのだろう?
ナランチャがこの場にいたなら
「あれッ!急に目にゴミが入った!見えないぞッ二人なのかよくわからないぞッ!!
見てない!俺は見てないぞなあーんにも見てないッ!」と叫びそうな状況なのか?
どうして死体の傍にいるのか?
どうしてティッツァーノは現実逃避をしているのか?
オコモエバだったのかオモエコバだったのか?オで始まってエで終わるのは覚えているのだが。
まあ、それはどうでもいいか。


何故、二人がこんな事になったかという理由は時をさかのぼること少し前----

****************************************

818男女 ◆bAvEh6dTC.:2009/04/03(金) 10:45:29

放送が流れてからのティッツァーノの行動は迅速だった。
テキパキと身支度を整え、傍らで参加者の名前にラインを引いていたヴェルサスに向けて声をかけた。

「ヴェルサス、こちらから仕掛けますよ。さきほどの放送で死亡したという26人、
 この人数が本当ならばかなりの数の人間がこのゲームに『乗った』ということ、
 ボヤボヤしてる暇はありません。一刻も早く行動しないと。」

「仕掛けるって・・・どーすんだよ。嘘をつかせる事しかできねえ能力のくせによぅ。」

まださきほどの喧嘩を引き摺っていたらしい、ヴェルサスの口調には棘があった。
その台詞にティッツァーノは眉をひそめたものの、
自分の手に出現させたトーキング・ヘッドを目の前のヴェルサスに突きつけた。

「嘘をつかせるだけ、というのは語弊ですね。私のスタンド能力は『嘘をつかせる』事ですが、
 スタンドは使いようによっては色んな使い方ができるんですよ。
 例えばこんな風に。」

そう言い終わるや否やティッツァーノは手に持ったトーキング・ヘッドを口に運び、自分の舌に装着した。

「っ!?ちょおい!?それってお前が嘘しかつけなくなるだけじゃないのか!?」

「違いますよ。すぐに着けたからといって嘘ばかりつくわけではありません。
 嘘をつかせる、つかせないは私の意志で決めれますから。」

なるほど、着けてすぐに能力が発動するわけではないらしい。
いや・・・そんな事よりもこの声は、自分のポケットからも聞こえてこなかったか!?

「お気づきになったようですね、さっき貴方のポケットに入れておいたのですよ。
 取り出してみて下さい。」

その声もポケットの中から聞こえてくる、ヴェルサスはおそるおそる声の主ををひっぱり出してみた。
ブツブツとした吸盤、ぐにゃぐにゃとした触手、ぬるっとした手触りが手のひらサイズに収まっている。
幼い頃に見た海洋生物図鑑に似たような生き物が載っていた気がするが。

「・・・?。お前のトーキング・ヘッドじゃねえか、つか見れば見るほど結構キモいな。タコに似てるし。」

「さらっと酷い事を言ってくれますね。それと一つ言っておくとタコは可愛いし美味しいですよ。
 イタリア人以外の方はなじみがないのかもしれませんが。」

そのティッツァーノの文句もヴェルサスの手の中のトーキング・ヘッドからも聞こえてくる。
ヴェルサスはティッツァーノの舌に張り付いたままのトーキング・ヘッドと、
自分手の中のトーキング・ヘッドを交互に見比べた後、はっと気付いた。

「ひょっとして電話の子機と親機みたいになってんのかコレ。」

「Exactly(正解です)、それとタコは煮るより生で食べる方が私は好きですね。」

返すティッツァーノにヴェルサスは手の中のトーキング・ヘッドを投げて返す。
あんまり長いこと握っていたい感触の物ではない。

819男女 ◆bAvEh6dTC.:2009/04/03(金) 10:46:03
「タコから離れろよ・・・。
 お前のスタンドが嘘をつかす以外にも使い道があることはわかった、
 けどそれが俺達から仕掛ける事とはつながらねえだろ。どっちみち相手の舌に付けさせないと意味がないぜ?」

トーキング・ヘッドをキャッチしたティッツァーノは頷くと。

「ええ、そこで問題なんですけど・・・。さっきから私達の足元に散らばってるコレ、一体なんだと思いますか?」

先生が生徒に数学の問題をたずねるような口ぶりである。
間違ったら「このド低脳がー!!」とか言われてフォークで刺されてしまうのだろうか。
それは置いといてヴェルサスは足元に目を向けた、
風にあおられて飛んできたのだろうか焦げた様な跡もあり、所々凹んでいた。
見回すと同じ物があちこちに散乱していた、中には木に突き刺さってブスブスと煙を上げているものまである。

「こいつは・・・チップだな。カジノとかで使われてる。
 ・・・あー、わかったつまりお前はこう言いたいわけだ。」

一呼吸置いて続ける。

「このチップは誰かさんの支給品で、紙を開けたはいいけれど使えねえから捨てたんだろ。
 んでもってこのチップの状態からすると、ついさっきこの辺で戦闘があったのは確実で
 しかもこの惨状だと誰か一人は死んでいる可能性が高い。」

「で、ティッツァーノは死んだ奴の基本支給品の水にトーキング・ヘッドを仕込みたいわけだ、
 他の奴が通りかかったら水と食料を奪ってゆくのは目に見えてるだろうからな。」

「俺達は物陰にでも隠れて、水を飲んだ奴がしゃべる言葉をスタンド越しに盗聴する。
 仲間にしていい奴かどうか判断できるし、危険そうな奴なら泳がせて情報を得られる。
 違うか?」

パチパチと拍手が聞こえてくる。ティッツァーノは微笑んでいた、正解らしい。

「すごいですよヴェルサス。」

「百点中何点だ?」

「200点くらいあげたいですね。察しの良い方は好きですよ。」

そこまで言われると照れる。ヴェルサスは頭をかくとティッツァーノに言う。

「そこまでわかってんなよぅ、早く行こうぜ。死体があるかどうかもわからねえし、もしあったとしても
 他の参加者が来ちまってるかもしれねえ。」
 


**************************************

820男女 ◆bAvEh6dTC.:2009/04/03(金) 10:47:03
結論からいうと死体はすぐに見つかった。
爆風で飛んできたチップをたどって、いくらかしないうちに異様な匂いがただよってきたからである。
熟れ過ぎた果実の様な匂い。
人間の血と肉の匂いが。

「うへぇ・・・。」

おもわずヴェルサスはつぶやいた。
今、自分の目の前では黄色いスライムが虫の触角の様な帽子をかぶった男性を
内側からむさぼりくらってる最中だった。
B級スプラッター映画の様な光景を間近で見てしまいおもわず後ずさる。
これからしばらくプリンとか食べれなくなりそうだ。

「もういい十分だ・・・・、やめろアンダー・ワールド。」

自分のスタンドに「再現」を停止させるように命令した。同時に男の体をむさぼり食らっていたスライムも消える。
こういう死に方だけはしたくは無いものだとヴェルサスは思う。
こんなわけわからんゲームに巻き込まれた末路がコレとか嫌すぎる。

「あとでゆっくり回収するつもりだったんでしょうね。おかげでわたしの水を使わずにすむようです。」

ティッツァーノが戻ってきた。手にはバッグをさげている、お目当ての物は見つかったようだ。
死体の横にぼすっという音を立ててバッグが置かれた。
このバッグのありかもアンダー・ワールドで探したのである、元々はこの死体の物だったらしい。
安全な場所にバッグと馬を置いて二人の参加者を始末しようとしたが逆に返り討ちにあった・・・。
それがアンダー・ワールドで再現した事実であった。間抜けな話である。

ヴェルサスはティッツァーノに「再生」でわかった事実を伝える。

「こいつを殺したのはラバーソールって野郎だ、スタンド名は『イエロー・テンパランス』
 どんなやつにでも変身できる上に攻撃を吸収しちまうやっかいな能力だ、
 思いっきりこのゲームに乗ってるっぽいから要注意だな。
 それともう一人、ジョースケっていう男がいたんだが放送で死んだって言われてたから
 ラバーソールを追いかけてって殺されたんだろうよ。チップはこいつの持ち物だったみたいだな。
ところで、ティッツァーノの方こそ「仕掛け」は終わったのかよ?」

「ばっちりですよ。
 ゲームに乗った参加者がいるとわかったのは行幸です。ラバーソールという名前でしたか、
 どんな人間にでも変身できる能力、貴方の言うとおりやっかいですね
 何か合図でも作っておきますか?私達に変身するということも考えられますし。」

そう言いながらもティッツァーノの手は臆する事無く死体を検分し始めている。
なにか使えるものがないか探しているらしい。

「お前・・・よくそんな気持ち悪い死体さわれんなあ・・・。」

「そうですか?組織にいた時はもっと凄い死体をあつかってましたよ、最近だったら輪切りの死体とか
 ・・・・切断面がとても綺麗でしてね、血管から骨髄までくっきりと」

「もういい・・・、わかったから続けんな。」

ティッツァーノは頭を振りながら死体の傍から立ち上がった。
何もみつけられなかったらしい。

「とはいえ、同じ男といえども同情しますよ。こんな殺し合いに巻き込まれた末路がこれではね。」

821男女 ◆bAvEh6dTC.:2009/04/03(金) 10:47:37
「・・・・・・・・。」

ティッツァーノもヴェルサスと同じ感想を持ったようだ。

「そうそう、もうひとつ報告しておくことがあります。このバッグをみつけた民家で調べたのですが
 水道が使えなくなっているようです、残り少ない食糧品と水を参加者が奪いあうことも予想しているのでしょうね。」
 
「・・・・・・・・。」

「そこで我々が一番にすべきことは水場の確保。トーキング・ヘッドを飲み込んでもらわないと困りますから。
 なのでこれから川上の・・・地図でいうとG−1、倉庫があるあたりですね。そこにむかいます。」

「・・・・・・・・。」

「こういうプランなんですけどヴェルサスはどう思います、って聞いてますか?」

「・・・・・・・・。」

ヴェルサスは沈黙したまま答えない。表情も逆光でわかりにくい。
その様子をいぶかしんだティッツァーノはヴェルサスに近づいてゆき

「どうかしました?ヴェルサ」

ス。と言い終わらないうちにティッツァーノの視点はぐるんっと半転した。
地面に叩きつけられたのだと頭が理解する前に背中に激痛が走る。

隙を見せた自分が悪いというのは良くわかっている。
幸せになりたいとあれだけ力説していたヴェルサスである、
どんなことをしてでもこの殺し合いから脱出したいという気持ちは人一倍強いはずだ。
自分を蹴落としてゲームに勝利するという事も考えておくべきだった!

ティッツァーノが激痛から意識を回復させているうちに、
両手はがっちりとヴェルサスの手で地面に押し付けられていた。
こうなると完全にマウントポジションを取られた形になる。
この状況でスタンドでも出されれば、ひとたまりもないだろう。ティッツァーノのは覚悟を決めた。
こうなったら相打ちでもいい、ヴェルサスがスタンドを出した瞬間を狙って顎の下をカウンターで殴りつける!

自分だってギャングのはしくれである、マウントポジションを取られてしまったのはキツいが、
素人相手に殴り合いで負ける事はないだろう。脳震盪ぐらいはおこさせる自信はある。

ところが、来るなら来やがれというティッツァーノの覚悟を余所に、
対するヴェルサスは何かを仕掛けるそぶりも見せなければスタンドを出す気配すらない。

(どうした・・・?来ないのか・・・?)

ティッツァーノはおそるおそる顔を上げてみた。
あいかわらず表情は逆光で見てとれないが、ヴェルサスの口は何かを言いたげにパクパクと開閉している。

「お・・・おっ・・・!」
 
「お?」

なんだろう、心なしかヴェルサスは涙目になってる気がする。

次の瞬間ヴェルサスは声よ枯れよ地よ叫べとばかりに絶叫した。





「男だったのかよお前えええええええええええええええ!!!!!」

「そっちっ!?」


【G-4オエコモバ の死体の傍/一日目 早朝】

822男女 ◆bAvEh6dTC.:2009/04/03(金) 10:48:12

【あてのないブラザーズ】



【ドナテロ・ヴェルサス】
【時間軸】:ウェザー・リポートのDISCを投げる直前
【状態】 :軽いストレス、荒木に怒り、ショック受けてます(立ち直れるレベル)
【スタンド】:アンダー・ワールド
【装備】 :テイザー銃(予備カートリッジ×2)、杜王町三千分の一地図、牛タンの味噌漬け、基本支給品
【思考・状況】
基本行動方針:絶対に死にたくない。
0.俺のトキメキを返せ(泣)
1.どんな事してでも生き残って、幸せを得る。
2.『トーキング・ヘッド』で仲間にできそうな人物か判断する。
3.プッチ神父にったら、一泡吹かせてやりたい。
4.この先不安…
5.ティッツァーノムカつ・・・えっ!?
【備考】
※ティッツァーノの『トーキング・ヘッド』の能力を知りました。
※ティッツァーノ以外のマフィアについてはまだ聞いていません。
※荒木のスタンドを「物体をコピーする」能力だと思っています。
※荒木の能力により『アンダー・ワールド』には次の2点の制限がかかっています。
 ・ゲーム開始以降の記憶しか掘ることはできません。
 ・掘れるのはその場で起こった記憶だけです。離れた場所から掘り起こすことはできません。
※『アンダー・ワールド』でスタンドを再現することはできません。
※ラバーソールの『イエロー・テンパランス』の能力と容姿を知りました。



【ティッツァーノ】
【時間軸】:ナランチャのエアロスミスの弾丸を受けて、死ぬ直前。
【状態】 :健康、軽いストレス、背中に痛み、現実逃避中(立ち直れるレベル)。
【スタンド】:トーキング・ヘッド
【装備】 :ブラックモアの傘、岸辺露伴のサイン、少年ジャンプ(ピンクダークの少年、巻頭カラー)、基本支給品
【思考・状況】
基本行動方針:生きて町から出る。
0.今ままで何だと思ってたんだ・・・ 。
1.アラキを倒し、生きて町から出る。
2.『トーキング・ヘッド』で仲間にできそうな人物か判断する。
3.死体を見つけ次第『トーキング・ヘッド』入りの水を傍に置いておく。
4.この名簿は一体?なぜ自分はここに呼ばれたんだ……?
5.この先不安…
6.ヴェルサスムカつ・・・えっ!?
【備考】
※ヴェルサスの『アンダー・ワールド』の能力を知りました。
※ヴェルサスの知り合いについてはまだ聞いていません。
※荒木のスタンドを「物体をコピーする」能力だと思っています。
※ラバーソールの『イエロー・テンパランス』の能力と容姿を知りました 。


※二人はしばらくするとG−1に向かいます。

823 ◆bAvEh6dTC.:2009/04/03(金) 12:17:16
以上です

・展開に無理がないか?説明不足になってないか?

・ティッツァーノとヴェルサスのキャラに問題がないか?

・トーキングヘッドの能力の使い方に無理がないか?
(特に、射程距離と複数出現出来る事について)

指摘してほしいと思っています

後、初見でティッツァーノが男だって事わかった人がいたらすごいと思う。

824ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/04/03(金) 13:45:34
投下乙です!
話のほうはすごく面白かったですw
ただ、個人的に気になったのはやっぱり、トーキングヘッドの複数出現。
あともう一つはティッツァーノの外見言動が女っぽい…か?ってところかなぁ。この辺は個人個人によって意見が違うて思います。

でも、後者のほうは確かにティッツァーノの喋りかたは女っぽくないこともないし、
ヴェルサスが馬鹿だったてことでも大丈夫そうだけどwww

825ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/04/03(金) 21:14:26
投下おつです

えーと個人的意見ですが、ヴェルサスが押し倒すシーンは控えたほうがいいと思います
原作ではティッツァーノは割と筋肉があったので、女と間違われるのは違和感あります
それに、死体の前で押し倒すなよwwwwと
あと、女性向きな表現かもしれないですね

トーキングヘッドの複数使用は有りだと思います
まあ、そのくらいしないと活躍できないし……

826ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/04/03(金) 21:32:49
投下乙です

ヴェルサスのテンパり具合がらしくて良いと思います
ティッツァはギリギリ女性に見えないこともないので問題ないかと…
今までのヴェルサスの態度にも納得できますし

トーキングヘッドの複数発現は個人的にアリです
性能が1体でも2体でも同じなので支障はないと思われます
いろんな展開が予想できるので読み手として楽しみです

827ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/04/03(金) 21:40:48
投下乙です。

トーキングヘッドの複数出現は、描写がない以上避けたほうがいいと思います
ティッツァーノ…女だと思いますかね? 胸板的に考えて
問題ないとは思いますがね。展開的にも面白いですし胸がないのは希少k(ry

こっからヒッジョーに細かい指摘なので「わざとそうしてる」のなら読み流してください

・「」の最後は句点をつけない(〜〜。」としない)
・三点リーダ(…)は2つ繋げる(……のように)
・?や!のあとは一字スペースを空けたほうがいい(〜〜? 〜〜のように)

828ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/04/03(金) 21:59:33
投下乙!
個人的にはトーキング・ヘッドの複数発動は反対ですね
押し倒すのは流石に自重ww と思いました
まぁ……女っぽいっちゃ女っぽい気がするんで性別のところにはノータッチで

829 ◆bAvEh6dTC.:2009/04/03(金) 22:15:52
指摘ありがとうございます!

そんな……初見でティッツァーノが女だと思ったのは私だけだったのか……orz
連載中、言動といい名前といい普通に胸のない女子だと思ってた
ものすごいショックだ…
そうだよな胸筋だよなアレ…

次に、トーキング・ヘッドの複数出現についてですが
あんなに小さいんだったら複数出現出来るんじゃないかって勝手に思ってました。完全なミスです、すみませんorz
どうしても1stジョジョロワのキッスで増やした舌みたいにしたかったんです

トーキングヘッド(子機)は複数だせるが
ティッツァーノ本体(親機)は一体ずつしか子機を操れない
で、どうでしょうか?
ダメだったらSSごと没スレに突っ込みます

OKだったら明日の夜7時に修正を加えたものを本投下します

830ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/04/03(金) 22:23:02
投下乙です!
トーキング・ヘッド複数発動は自分も反対です。
原作でその旨が描写されてないのはやはり不味いと思います。

女…はノーコメントw
別に良いんじゃないかな?

831ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/04/04(土) 02:33:03
複数発動については私も反対ですねえ

性別については・・・うん、俺も初見だとティッツァ女だと思ったからノーコメントにしておくよ・・・
ただまあ、ティッツァを女と思った主な原因は「ジョジョキャラ女少ないから何を基準に女と見たらいいかわかんねーよ」ってのが大きかったし、ジョジョ世界じゃ普通の男なのかもなあと
読者が勘違いする要素としては髪の長さと口調くらいでしたしねー

832ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/04/04(土) 16:44:40
正直、トーキングヘッドを複数出現させるのって
「ジョースター卿にスタンド発現させる」のと同じくらい無理な展開だと思いますよ
オリ設定でしかないですし

「ティッツァーノは、トーキングヘッドをつけられた者がしゃべったことを把握できる」
とかならどうでしょう
…本編じゃナランチャの声がでかいから話していたこと把握できたようにしか見えなかったんですけどね

833 ◆bAvEh6dTC.:2009/04/04(土) 17:34:59
トーキングヘッドの複数出現なし
で書き変える事にしました
大筋はそのままです

明日の昼には本投下出来るように頑張ります!

指摘して下さった方々
本当にありがとうございます。

834 ◆em4fuDEyHM:2009/04/05(日) 17:16:25
修正したものを投下します。

指摘のあった誤字訂正、情報の詳細化をしました。

835ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/04/05(日) 18:22:19
電車はゆくよどこまでも。線路はF-8で土に潜りガタンゴトン。
大きく曲がって西にガタン。穴の中を進んでゴトン。

「つ、つ、つ、次の駅で降りるですってー!?」

オーバーなアクションにディアボロは身体を浮かせる。
ジョセフは一瞬気を取られるも、すぐに車内にある路線図に視線を戻した。
2人はこの地下鉄が、音石明にとって命の次に大事な電気のたまり場であることを知らない。

「いいか仗助君。この列車はF-8で地下に入り、I-4で地上に出るタイプ。この案内表からもわかる。
 では……さっき通ったあのホームはなんじゃ。アナウンスは『G-6・食屍鬼街(オウガーストリート)駅』だったかのう?」

ジョセフは窓際にある路線図をバシィィーッと叩いた。

「次に降りるのは『H-5・ポンペイ遺跡駅』と書かれている。ワシらはここを調べる。
 ワシは昔イタリアに行ったこともあるからの。ポンペイ遺跡のほうが親しみやすい」
「――前の駅を無視したのはそのためか? 最初にあったサンジョルジョ教会……その存在に」

言葉を遮るかのように手を挙げながら、ディアボロが広げた地図を出す。
ジョセフは地図に記されたサンジョルジョ・マジョーレ教会を指差した。

「ワシらが最初に会ったサンジョルジョは、確かイタリアの名所じゃあないかのう。
 ツギハギに名所が書かれている地図の意味を知る上では、同じくイタリア名所のポンペイ遺跡がいい」
「そ、それくらいの調査だったら承太郎……さんも実行してるんじゃないッスか?」
「君は列車に乗らない限り、H-5に地下の駅があるとは考えんなかったじゃろう?
 ワシらは最初の駅のホームでこの事実を知った。この列車に乗ったのはワシらが最初ではないか?」

落ち着いて答える大人の対応に、音石の足がすくむ。
せっかく手に入った電車を手放すわけにはいかなかった。
しかし一人になる恐怖もあった。ジョセフ・ジョースターの探知をかいくぐった謎の攻撃。
直接攻撃を受けたジョセフが電車を降りようと考えるのは至極あたりまえのこと。
そして東方仗助と偽っている身ならば、同伴して降りるのが筋。

「H-3のサンタ・ルチア駅から先にも地下の駅はある。どうかな。地下の駅は……地上に繋がっているとは考えられんか」
「わざわざ調査してどうする?駅に誰かが待ち伏せしている危険性が大きいだろう」
「ポンペイ遺跡に地下鉄の入り口を探そうとする奴はいまいて。仮に見つけたとしても普通ならば!
 疑うじゃろう? スタンド攻撃の可能性を。有り得ない場所に有り得ない物があるゆえに。
 それに危険に晒されるのは駅で待つ側も一緒じゃろう。真っ暗闇の線路以外に逃げ場がない。
 自分に相当の自信をタップリ持つ奴か、身のほど知らずの阿呆でなければ近づかん。
 『食屍鬼街(オウガーストリート)駅』か『ポンペイ遺跡駅』の入り口を見つけても、用心深いやつは入ってこないじゃろう」
「……それを地下鉄の入り口と考えていたならな」
「ディアボロ君、ビビッてもしょうがない。電車にこのまま乗っていても、トラブルは起こるぞ。ワシの傷のように」

流れるように作戦会議を立てる2人に、音石の頭がパーンとはじけそうになる。
ジョセフのスタンドは想像していたほど脅威ではなかったが、探知能力はやはり魅力的だ(一抹の不安はあるが)。
生存を最優先するのであれば、彼らと別行動をとるのも気が乗らなかった。

『――まもなく〜ポンペイ遺跡〜ポンペイ遺跡〜。お降りの際は足元に注意してください……』

時計の針がいよいよ朝の6時を指そうとした時、列車が駅に到着する。
列車内から見える駅のホームはやや明るいが、電気が充分に通っているのかどうか判断しづらい。

「そういえばもうすぐ第一回目の放送じゃな。放送か?流れるのか? こんな地下にも、という意味じゃが」

ジョセフの何気ない一言は、列車の騒音に溶け込んでいた。
いや――……溶け込んでいなかったとしても、耳に入っていただろうか。
自分の事で頭が一杯になっていた音石明と、『彼』を見ていたディアボロには。

836ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/04/05(日) 18:22:52
* * *

『スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜』

ジョセフ・ジョースター達が乗っている電車はATC、いわゆる自動運転になっている。
数分間の停車、出発は完璧にコントロールされており、停車位置のブレも制御されている。
遮蔽物に衝突しても、本体が破壊されない限り進み続けるだろう。

『ウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜』

そんな列車の側面に刃を走らせる。レコードの上を滑らかに走る蓄音機の針のように。
例えば、街で沢山の女を囲う、ジゴロが乗っているピカピカのスポーツカーの扉に、十円玉を走らせるように。
着かない。傷が。一本のなだらかな直線が走ることはない。普通は。丈夫だから。

『ウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜』

傷がつくとしたら、刃を変えてみてはどうだろうか。持ち手を強靭にしてみてはどうか。
チェーンソーのように一秒間で何千回と回転し、その速さゆえに光輝いてみえるような刃。
ロードローラーくらいなら片手で軽く持ち上げてしまう化け物。
この組み合わせならおそらく可能だろう。事実、可能だったのだ。

『〜〜……ッッパァァァァァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜』

柱の男・カーズは、己の腕に生える巨大な刃で電車を横一文字にかっサバいたのだ。
輝彩滑刀(きさいかっとう)――光り輝くカーズの刀。
駅のホームの端に立っていたカーズは、ひょこっと刃を出して待っていた。
列車が勝手に彼の刃に構わず猛進するので、カーズはそこから一歩も動いていない。

「線路を歩いていたらこの休憩所にたどり着いた。そこへ大型トロッコが来ただけのこと。
 強度はいただけないが、形は崩れずこのまま状態を保っている。耐久力はあるようだな」

トロッコよりは遥かに進化した地下鉄に、カーズの好奇心はくすぐられたようだ。
車両の壁に耳を当てて、ゆっくり物音を拾う。彼の耳は家の中にいる人の数もわかるほど精妙なのだ。

「『隠者の紫』AND 『波紋』ッ!! 」

ゆえにカーズは列車から素早く離れようとした。聞こえる波長は、彼が最も憎むものだったからだ。
だがカーズの左腕は、車内から伸びる紫色のイバラに絡め取られ、そのまま車内に引っ張られてしまった。
そしてイバラから流される電流のような痺れ。忘れもしない太陽のエネルギー。

「MU……MUOOOOOOOOO!! なんのこれしきィ! これしきィ!! 」

迷わず左腕を右手で切り落とし、カーズは受身をとって横転する。
ちぎれた左腕はブクブクと沸騰しながら骨を残して蒸発してしまった。

「助かったよディアボロ君。君がいなかったら、ワシらはうめき声を立てる間もなく死んでおったわ。
 壁と一緒に首をスッパリ切られておった。反対の座席にいた大人2人をどうやって助けたのかは、あえて聞くまい」
「俺はお前達を助けた。お前は俺にカリが1つできた。それだけだ。……そしてもう1つ。お前はカリを作る」
「ワシは今のままでも充分感謝しておるがッ! ……そこで腰を抜かしておるワシのドラ息子を頼む」

カーズは3人組の男たちの顔を知らなかった。
しかし彼らは――少なくとも1人はこちらに喧嘩を吹っかけてきた。
電車の恨み……ではない。カーズの左腕を溶かせる術はこの世でただ1つ。忌まわしきライバルの技術。
カーズ一派と古代から戦い続ける戦闘民族の必殺技、波紋。筋骨隆々な老人は波紋使いである。それは敵である。

「ジョセフ、コイツはお前の言う『自分に相当の自信タップリな奴』なのか? 」
「ああ。そして『用心深い』……最悪のケースじゃ」

837ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/04/05(日) 18:23:30
* * *

電車が停車して何分たったのか、ディアボロは時間を計るのを忘れていたことに気がついた。

(襲ってくるのならば容赦はしない……と気張り過ぎたな。このディアボロとしたことが)

電車の先頭付近の床に気絶している音石明を寝せ、ディアボロは運転席を覗く。
電車から駅へと逃げようとはしなかった。
大の男を担いで駅の構内を走り回るのは馬鹿馬鹿しいと思っていた。
どこにあるかわからない出口を探すよりは、ルートのわかっている地下鉄にいたほうがよいと考えていた。

(俺はあくまで列車内にいる謎を優先する。ジョセフに怪我を負わせた謎の解明)

しかしディアボロ、本音は恐怖していた。
恐怖。いつどこから死がやってくるのかわからない恐怖。
その恐怖が襲ってくる可能性を、彼は列車内という最小限の範囲に留めたのだ。
どうせ襲ってくるのならば、全貌のわからぬ食屍鬼街(オウガーストリート)駅よりは、狭い車両。
野原にいるネズミよりも袋のネズミのほうが、猫を噛み易いと理解していた。

(あのネアポリス駅とこの駅の停車時間は……同じ15分前後なのか? この駅の時刻表が知りたいな。
 まあ規則正しく運行する電車など世界でもJAPANぐらいだが、いきなり動き出されるのも面倒だ)

チラリと駅の構内で戦っているジョセフを見やる。
抜き差しならない状況――まるで西部のガンマンの決闘のように。
少し小競り合いをしたかと思うと、しっかりと距離を取って互いを探り合っている。
ディアボロにわかるのは、彼らがお互いの手の内をわかっているということ。
少なくともジョセフはあの男を知っており、あの男も迷うことなく最初の標的をジョセフにした。

(……『聞』こえなかったのか。 ジョセフ・ジョースターは、放送を。それとも『聴』こうとしなかったのか)

ディアボロは支給されていた名簿にペンを走らせる。
キュ、と擦れた音を立てながらインクは名前を塗りつぶす。
現在時刻、朝の6時過ぎ。第一回放送は既に終了していた。
ディアボロは、黙々と戦うジョセフ・ジョースターに少し同情した。

「東方仗助、なぜ貴様が生きている。始末されたはずだ……この世界の誰かに」

音石明は、首根っこをキング・クリムゾンに掴まれている。
血のめぐりが悪くなったせいで、顔面は蒼白になっていた。

「我がキング・クリムゾンに抵抗は無駄だ。逆らえばあの包帯男にお前を差し出す」
「ジョセフを、攻撃したのは、俺じゃ、な、い」
「それはさっき聞いた。俺が聞きたいのは――」

838ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/04/05(日) 18:24:13
*  *  *

「波紋使いッ! 俺のことを知っているなッ! 」

ジョセフ・ジョースターは妻を愛していた。
朝は傘でたたき起こされ、昼はキスの代わりにビンタを受け、夜はTボーンステーキを焦がされる。
お抱えのSP、運転手、娘に笑われながら過ごす平凡な日常を彼は30年以上続けた。
年を取らない波紋の呼吸も、妻のために止めた。妻は波紋を使えなかったから。
娘がトラブルに巻き込まれたら、海外だろうと飛んでいった。大事な一人娘だったから。

「そして時間稼ぎをしているな……フフ、図星だろう。あの乗り物が走り出すまでの時間をな。
 仲間を逃がすために、このカーズの足止め役を貴様は引き受けたのだ」
 
ジョセフ・ジョースターは家族を愛していた。
厳しい祖母、毅然とした母親に尊敬の念を払うことを忘れていなかった。
彼女たちの血を受け継いでいることをジョセフは本気で誇りに思っていたし、喜んでいた。
だから若い頃にやっていた悪事、いわゆる黒歴史は今でもするべきじゃなかったと後悔していた。
彼女たちのような気高さをあのときの自分は履き違えていたからだ。

「……と、私が思っているとでも、思っているのか? ハハハ老いぼれめ。このカーズも舐められたものだ」

ジョセフ・ジョースターは仲間を愛していた。
年も国も境遇もまるで違う相手と、信頼という絆で共闘した。
付き合う時間の長短を越えて繋がった仲間たちのことを考えると、奮えが止まらない。

「貴様の後ろにある乗り物……金属で出来ている。その箱のようなフォルムに波紋を流したら……。
 油溜まりに広がる火のように、一瞬で全体に行き渡るだろう。そんな物にッ!
 このカーズがうっかり触れてしまったらッ! ど・う・な・る・か・なあ〜〜!? 」

大きく声を張り上げて列車に接近するカーズ。

「老いぼれジジイ……貴様は待っているのだよ。このカーズがムキになって、乗り物に乗ろうとするのをな。
 あの乗り物に閉じ込められてしまったら、私は波紋が流れる袋に入れられたネズミだ」

カーズの懐から支給品のエニグマの紙が宙を舞って開く。

「そこで1つ思いついたぞッ! 私はこの容器をこの場で破壊してみようッ!
 老いぼれ、お前はどこまで持ちこたえる事が出来るかなッ!? 」

カーズの両手にずらりと並んだ小瓶がドクロのマークを見せ付ける。
遠投選手のように身を捻らせて、放り投げられたそれ――『ディ・ス・コの劇薬×5』がジョセフの足下で爆ぜる。

「……隠者の紫ッ!」

強烈な突沸と異臭を放つ気体の化学反応。
ジョセフはその煽りを受けまいと、隠者の紫をロープ代わりにし、列車の上に登る。
カーズは知っていた。自分は波紋に弱いが、人間にも弱いものはあると。
柱の男にはなんでもないような薬品が、人間には中毒を起こすことがあるということを。
換気の悪い地下ならばひとたまりもない。

「フフフ……乗ったな。さぁ尻尾を巻いて逃げるがいい。私はあ・え・て・貴様らを逃がすのだ。
 今殺す必要はないッ! 夜になれば堂々と殺せるのだからなああああああああああああッ!!」

しかしこのとき、カーズに電流が流れる。

839ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/04/05(日) 18:24:57
しかしこのとき、カーズに電流が流れる。

「HAHAHAHAHAHA……はっ!? 」

そして――身体を大きく痙攣させた。

「UKAKAAKAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

数ある送電線の一本が切断され、カーズがぶちまけた薬品の溜まりに飛び込んで電流を流していた。
カーズは地下鉄の仕組みを知らなかった。
地下鉄は電力を地下道の天井にある送電線から受け取っていることを。地下鉄の車輪はゴムタイヤであることを。
ジョセフは地下鉄を知っていた。自分の経験と音石明を加味した知識を利用したのだ。

(そうじゃ。追いつかれようが追いつかれまいが、ワシらはここから脱出すればいいだけじゃよ。
 どうせこの列車はいずれ地上に出る。カーズ、貴様は地上に出れん……最初からこちらが優位だったのじゃ)

ひょこっと列車の上から顔を出したジョセフが悠々とホームに飛び移る。
そして列車の中から車両全体に波紋を流し、外にいるカーズの悪あがきを予防する。
盛大な漏電とともにカーズの叫び声が構内に響き渡る。直接死には至らないとしても、足止めにはなっただろう。
事実カーズはホームの上で転げ回り、ジョセフの座席から見える場所で地面を舐めた。

「……だが薬品は少しキツい。目と鼻が痺れてたまらんわい。洗うための水が欲しいのお」
「お、の、れぇ……何故、私が負傷せねばならんのだァ……この程度の電気で……」

ジョセフの勝利を祝福するかのように、発車のベルが鳴り響く。

「お前は“貴様のような老いぼれに、このカーズが ”という」
「貴様のような老いぼれにこのカーズが……ハッ!」
「そしてこのやり取りから、“まさか貴様はジョセフ・ジョースターなのかッ!?”と思いつく」
「まさか貴様はジョセフ・ジョースターなのかッ!?……GUOOOOOOOOOOOOOOOO!」


ジョセフたちを乗せた車両は、ポンペイ遺跡の駅を後にした。
取り残された柱の男は、信じられない邂逅に、衝撃を受けていた。


【H-5  地下鉄・ポンペイ遺跡駅構内/1日目 日中】
【カーズ】
[時間軸]:リサリサとJOJOにワムウと自分との一騎打ちを望まれた直後
[能力]:柱の男、『輝彩滑刀の流法』
[状態]:全身に裂傷、左ヒジから左手にかけて損失、全身にダメージ(中)、疲労と頭痛と吐き気(中)、痺れ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、輸血パック(残量0ml)、首輪、 不明支給品0〜2(未確認)、
[思考・状況]基本行動方針:荒木を殺して力を奪う、スーパーエイジャを手に入れる
1.ジョセフ・ジョースターの姿に疑問。いずれ復讐をする。
2.首輪解析のためにたくさんのサンプルを集める。特に首の配線があるであろう、吸血鬼が一匹欲しい。
3.地下通路や首輪について考察し、荒木の目的を突き止める。
4.エイジャの赤石を手に入れる。
5.月が真上に上がった時(真夜中・第四回放送時)にジョースター邸に赴く
6.荒木について情報を集める。
7.エシディシ、サンタナと合流する。
[備考]
※血を吸った際の回復力に制限がかけられています。
※ワムウと情報交換しました。
※カーズとワムウがマンホールに入った地点はH-7です。
※心臓にもなにか埋め込まれてるのではないかと考えています。
※地下鉄はある程度周りの下水道や空気供給官なとと繋がっているようです。(イギーVSペットショップのような感じ)

『ディ・ス・コの劇薬×5』
SBRのディ・ス・コがジャイロ戦で使った薬品。危険物。
全て消費されました。J・ガイルのラス1の支給品でした。

840ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/04/05(日) 18:25:28
* * *

ガタンゴトンと列車は進む。大きくうねった地下線路。
列車はもうすぐサンタ・ルチアに到着する。

「ムッ!?」
「俺だ。ディアボロだ」

カーズを振り払ったジョセフをディアボロを尋ねたのは、大分たってからだった。
ジョセフは列車内で受けた謎の攻撃を警戒し、隠者の紫で周囲を警戒していた。
しかし目と鼻が薬品の炎症で正常に働かないので、彼はディアボロにも警戒してしまったのだ。

「すまんのうディアボロ君。目と鼻が利かないものでな。もうすぐ地上じゃ。
 次のサンタ・ルチア駅についたら、顔を洗う時間をくれんかのう」
「……放送は、聞いたのか」

ディアボロは躊躇なく、ジョセフが放送をちゃんと聞いているかどうか事実確認をする。
ジョセフは返事をしなかった。つまり、放送を彼はしっかりと聞いていたのだ。

「ハッハッハ! すまんな。ワシとしたことが、してやられたわい!! 」
「まんまとな」
「ちょいとばかし、あの東方仗助にお灸を据えてやらんとな! あの若者は何者なんじゃ?」
「お前に話すことは何もない」

ディアボロの予想だにしない返答に、ジョセフの顔が曇る。

「言っただろう? お前は借りを作ったと。これがその“返し”だ。あの男は最低のゲスだが使い道はある。
 ……お前はあの男を追い払ったことで随分とご満悦のようだがな、ボケているぞ。
 送電線をショートさせて地下鉄が走るとでも思っているのか? 安全装置が働くだろ常識的に考えて。
 なんとか復旧したから良かったものの、正気じゃないぞ。それとも列車を捨てても勝算があったのか? 」

ディアボロは珍しく饒舌になっていたが、彼は彼なりに行動していた。
ジョセフに『最悪のケース』と言わしめる敵が現れたのだから、逃げるに越したことはないのだ。
だから彼は音石明がおそらく日本人(東方仗助と名乗るくらいなのだから)と推測し、地下鉄の操作を聞いたのだ。
首根っこを掴まれた音石は、恐怖に縛られながらも、列車のATCを解除しようと必死だった。
そんな時起きた、一時的な停電。ジョセフがカーズを電線に衝突させてショートさせたからだ。

「勝算があったのなら、今すぐ列車を降りてしまえ……お前がやっているのはそういうことだ」

音石はパニックになりレッド・ホット・チリ・ペッパーを発動。
強制的に列車の電気回路やコントロールシステムに無理やり電気を流し、列車を発車させたのだ。
切断された電線はチリ・ペッパーが再び結びなおしたことで、機能を正常に戻していた。
もちろんディアボロはこの事実をジョセフに話すつもりはない。
ディアボロは危険を嫌う。
いくら頼りになるとしても無茶をするジョセフより、恐怖に縛られれば忠実に動く音石のほうがマシであった。

「列車は……無事なのかのう? 」
「強がりはやめろと言ってるんだ。年寄りの冷や水だぞ。身内の生死がお前を弱くしている」

いつものワシじゃない――ジョセフの心は、やはり疲弊していた。
スージー、リサリサ、ストレイツォ、アヴドゥル、東方仗助。
さぁ泣けと言われて泣くやつはいない。放送で伝えられる無機質な知らせに、実感は少ない。
ひょっとしたら嘘ではないか、と思いたくなるのが普通だ。直接見ていないのだから。

841ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/04/05(日) 18:26:02
「ワシは強いままじゃよ」

ジョセフは力なく項垂れた。

「ただ……後悔はやってくる。この世界で敵と戦ったり、誰かと会話したり」

そこには歴戦の戦士の姿はなく、ただの老いぼれ爺だけが座り込んでいた。

「荒木を倒して元の世界に帰った後も同じじゃ。妻のコップを洗ったり、古い写真を見たり。
 日記を見直したり……そんな時にふと、ワシは泣いてると思う。ワシは死ぬまでそれを続けるんじゃ」

ディアボロには、ジョセフが急に何歳も年を取ったようにみえた。
あっという間に色々な物を失った人間。ギャングの世界では飽きるほど見てきた姿。
ディアボロには身内を思う感情が理解できなかった。
恋はすれど、最終的に大事なのは自分自身だ。彼の失望感は人というよりは“栄光”や“利益”の損失からくる。

「娘がいると言っていたな。お前はどうしていた? この世界に娘も来ていたら……もし死んでいたら」

だからディアボロは実の娘、トリッシュ・ウナがこの世界で死んだことに、何の憂いもなかった。
直接この手で始末したかったという悔いはあるものの、それ以上の思いはなかった。
同じ娘を持つ身として、ディアボロはジョセフに質問していた。彼を試すために。

(親しい者の死に直面して、今後どうするのか。それによっては……ジョセフ、お前を――)

ジョセフが返事をしないまま、列車はサンタ・ルチア駅に向かう。



【H-4 電車内/1日目 朝〜日中】
【チキン三羽〜子持ちのおっさんコンビと音楽家〜】
【ディアボロ】
[時間軸]:レクイエムジョルノに殺された後
[状態]:健康。だけど目が死んでる。強い恐怖
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:とにかく生き残り平穏な生活を送る。
1.ジョルノには絶対殺されたくない。普通に死ねるならそれでもいいや。苦しまないように殺して欲しい。
2.自分の顔と過去の二つを知っている人物は始末する。ボロは絶対に出さない。
3.とりあえずはジョセフに協力。でもジョセフのへたれ具合によって対応を変える。捨て駒も視野に。
4.チョコラータ、電車内の謎の攻撃、謎の男(カーズ)怖いよ、キモイよ……
5.ジョルノや暗殺チーム、チョコラータとジョセフ達を上手く敵対させたい。ぼろが出そうだから怖いけど……

[備考]
※音石明の本名とスタンドを知りましたが、ジョセフに話すつもりはありません。それを取引に協力させたようです。


【ジョセフ・ジョースター】
[時間軸]:DIO討伐後、日本に帰る飛行機の中。
[状態]:健康。胸に浅い傷(止血済) 目と鼻につらい炎症(失明はしない程度)。深い悲しみ
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:必ず生きて脱出する。打倒アラキ!
0.深い悲しみ。立ち直れそうで立ち直れない。
1.承太郎、花京院辺りと合流して自分の推測について話し合いたい。
2.ジョージ、ジョナサン、ツェペリ、エリナ、スピードワゴン、徐倫は見つけ次第保護する。
3.殺し合いに乗っていない参加者達も護る。或いは協力。機械に詳しい人間がいたら首輪の内部構造を依頼。
4.ディオや柱の男達は見逃せない。偽者の東方仗助を警戒?(攻撃したのは彼?ディアボロ君に任せるか)。
5.ディアボロにちょっと戸惑い。自殺をしそうで怖い。

[備考]
※参加者達は時代を超えて集められたのでは?と推測しています(ディアボロにはまだ話していません)
※首輪を『隠者の紫』で調べましたが機械には疎く詳しい事がわかりません。分かった事といえば隙間がまったく無い事くらい。
※1で挙げた面子はジョセフが聡明と判断した面子なだけで別にポルナレフが信用できないというわけではありません。
※波紋の呼吸を絶えず行っています。その影響である程度の運動なら息ひとつ乱れません。
 ディ・ス・コの薬品の負傷はいずれ治るようです。いつごろかはわかりません。

842ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/04/05(日) 18:26:35
* * *


ディアボロたちから少し離れて。運転席に座る男が一人。
この男、幸運なのか不運なのか。


「た、たのむよ……そろそろ首根っこを外してくれ。馬鹿な真似しないからさ……。
 これじゃ……最初と全く変わらないじゃねーか……うううう……」



【音石明】
[時間軸]:チリ・ペッパーが海に落ちた直後
[スタンド]:レッド・ホット・チリペッパー(充電中。徐々に回復して色は緑色に。そろそろ黄色になる?)
[状態]:健康  キング・クリムゾンに首をつかまれている
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品 ×1
[思考・状況]基本行動方針:優勝狙い
1.ひぎぃっ! 弱みを握られちゃった……悔しい
2. とりあえず仲間(ディアボロ)ができたのは良かった。でも状況変わってない……。
3.充電ができてほっとしているが、電車から降りたらどうするかは未定
4.サンタナ怖いよサンタナ
5.電線が所々繋がっていないのに電気が流れているこの町は何なんだッ!? あやしすぎて怖えー!
[備考]
※バトルロワイアルの会場には電気は通っているようです。
しかし様々な時代の土地が無理やり合体しているために、電線がつながっていなかったりと不思議な状態になっているようです。 スタンド

が電線に潜ったら、どうなるかわかりません。(音石は電線から放電された電気を吸収しただけです)
※ミセス・ロビンスンをスタンド使いだと思っています

※電車は一両編成で、運転手はおらずに自動で走っています。
 一度、音石の無茶な操作で発車しましたが、現在、運行状況に支障はないようです。
 しかしカーズとの騒動のせいで、サンタ・ルチア駅に時刻どおり着くかどうかはわかりません。
※電車はカーズの輝彩滑刀によりダメージを受けました。
電車の右側の壁が横の真一文字に傷がついています。傷は電車を貫通しています。

※正面からみると↓な感じです。(傷の開き具合は誇張気味です)。
┌─┐
│  
└─┘
※横からみると↓な感じです。(傷の開き具合は誇張気味です)。
┌──┐

└──┘


『地下鉄の駅』

地下に駅があるようです。駅は地上と繋がっているのかもしれません。
他にも駅があるのかどうかはわかりません。

※確定しているのルート(ジョセフ達は早朝にネアポリスに乗って朝〜日中にサンタ・ルチアに着きます)
『E-7・ネアポリス駅』→『G-6・食屍鬼街(オウガーストリート)駅』→『H-5・ポンペイ遺跡駅』→『H-3・サンタ・ルチア駅』

843ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/04/07(火) 21:17:29
とまってるようなんで代理打ちます

844ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/04/07(火) 23:34:59
代理投下、感謝いたします。

845 ◆yxYaCUyrzc:2009/04/09(木) 22:21:54
一時投下開始します

846蛇足 ◆yxYaCUyrzc:2009/04/09(木) 22:23:21
「トリッシュが……」
「くッそ……」
放送を聞き終え頭を抱える二人の男。ブローノ・ブチャラティとグイード・ミスタである。

「任務とか言ってる状況じゃねぇけどよ、そういうの抜きに俺は彼女を護衛していたかったぜ。トリッシュはただの女の子だったんだ……」
任務。それはトリッシュを護衛すること。だが彼女はこのゲームの中で命を落とした。
つまりブチャラティのチームは任務に失敗したという事になる。その場に居なかったなど理由にはならない。
―――もっとも、彼らはその後の彼女と自分たちの運命を知らないのだが。
「あぁ」
ミスタの言葉に短く答えるブチャラティは名簿と地図に丹念にメモを綴る。
そして……一瞬、ほんの一瞬だけ躊躇いながらもトリッシュ・ウナの名を消す。
それを見たミスタは思いきりブチャラティの胸倉を掴み叫び出した。
「おいブチャラティ!何トリッシュの名前消してんだッ!」
「トリッシュが死んだからだ」
あまりにも簡単で、そしてあまりにも重い言葉にミスタは襟首を掴んでいる拳をぐいぐいと前後に揺さぶる。
「てめぇ!トリッシュが死んだってのを信じるってのかッ!彼女の死に何も感じてねぇのかッ!?」
その言葉を聞いたブチャラティはミスタの手を振りほどくと、そのまま思いきり彼の頬を殴る。まるで数時間前のお返しだと言わんばかりに。
思いきり吹っ飛ばされたミスタは何かを言いかけながらブチャラティを睨みつけ……そして力なく項垂れる。
目の前の男はギリギリと歯を食いしばり、その唇からは血を滴らせていた。

「俺がトリッシュの死を信じただと……何も感じていないだと……

 言っただろう。後悔するだろうと。自分自身を責めるだろうと……

 だが……これはお前が言ったんじゃあないか。彼女の意思はなんだと。
 きっと……トリッシュだってスージーのように……

 俺たちが受け継いだものを先に進めることを願っているッ!」

847蛇足 ◆yxYaCUyrzc:2009/04/09(木) 22:24:46
ブチャラティの頬には涙は流れない。
だがその顔からは涙の代わりに溢れんばかりの後悔、自責、そして決意が滲み出ている。
「そうだな……悪かった」
「気にする事はない。俺の方こそ思いきり殴ってしまったな」
「いや、いいんだ。それより……そこまでの覚悟があるって事は今後の計画も立ててあるって事かい?」
ミスタの質問にブチャラティが答える。
「あぁ。では聞いてくれ。俺は先に“ここに行こう”と言ったが……」
と……手をかざしながら。
ミスタはブチャラティの視線と手の動きを目で追い、コクリと頷く。
「先に“ここ”に向かおうと思う」
と……その先を指し示す。
その先を見つめたミスタはハッとしたようにブチャラティに視線を送る。
視線を送られたブチャラティも目で頷き返す。
「ここは……禁止エリアじゃあねえか!?」

「そう禁止エリアだ。幸か不幸か俺たちのすぐ傍に。
 当初の目的地からは少々方向がズレてしまうが見に行って損はないだろう。勿論侵入する訳にはいかないが。
 その後当初の目的としていたところに向かい、その後は地図の北に沿って東の海に出よう。
 かなりの距離だが問題はないな?」
「オーケーだぜ、ブチャラティ。銃がないのは少々不安だけどな。それも問題なしさ。
 あの荒木のヤローの事だ。“禁止エリアにボーナスアイテムを置いといたよー”とか言いかねないしな」
荒木の声真似をして笑うミスタ。それを見たブチャラティも少し笑う。
「よし、決定だ」


* * * * *

848蛇足 ◆yxYaCUyrzc:2009/04/09(木) 22:25:26
物事を考えるという事はとても素晴らしい事である。
そして“覚える”と言う事はなお素晴らしい。考えるために必要なスキルであるからだ。

だが……そう言った素晴らしさを体験出来ないものも少なからず存在する。

昆虫である。

彼らは遺伝子だとか本能だとか、そう言ったものはあれど、考える脳を持たないと言われている。

しかし。そこにも例外はあるのだ。現実離れしすぎて俄かには信じられない例外が。

スタンド。

この“ジョジョの奇妙な冒険”に欠かすことの出来ぬ未知の才能。超能力。
その力が不可能を可能にする。

虫は飛ぶ。

翼竜へとその姿を変えて。

彼らの会話をしっかりと記憶して。

主のもとへ―――


* * * * *

849蛇足 ◆yxYaCUyrzc:2009/04/09(木) 22:28:04
「……どう思った?」
ブチャラティが問う。
「どうって……ありゃナントカザウルスだろ」
ミスタが答える。
「そうじゃあない」
「じゃあナントカノドンだろ」
突っ込みに対しさらにミスタが答える。
「そうじゃあない」
「そう言えばニホンのコミックで、大昔に岩塩漬けになった男が現代に蘇って格闘するってのがあったな」
その突っ込みに対しさらにミスタが……答える。
「そうじゃあない」
歩を進める二人の何気なくも重要な会話は続く。
彼らは着実に禁止エリアへ向かっていた。

「……あぁ、分かってるよ。明らかなスタンド能力だ。恐竜を操るなんて厄介だよな」
すっかり呆れた表情のブチャラティに対しミスタがふう、と息をついて正解を答える。
「ああ。まともに戦っては到底勝ち目はないだろうな」
「でもこっちが気付いてる事までは分からなかったろうな。会話に突然ハンドシグナルを入れてきた時はどうしたかと思ったよ」
「だがよく分かってくれた。会話と矛盾のないように送るのには手こずったからな」
そう。彼らは虫の……翼竜の存在に気づいていた。
参加者以外に生物が存在しない世界での小さな疑問。ギャングと言う特殊な環境で培った洞察力。それがこの二人に翼竜の存在を気付かせたのだ。
そして……行き先を指し示す動作の中にハンドシグナルを織り交ぜながら会話を行ったのである。

「で、そのスタンド使いを騙すつもりかい?それともあの会話は本当かい?」
ミスタの質問にブチャラティが答える。
「後者だな。あの会話は逆に“宣言した”とでも言おうか。
 向こうがこちらを警戒して逃げるようならそれで良し。
 向かってくるなら“強力なスタンドなのに本体が愚者”だろう。勝機はいくらでもある。
 現に俺たちはC−1に向かっているんだからな。今更進路を変えるだけ時間の無駄だ」
「だな」
「まぁ何にしてもこちらが気付いてる事を向こうは把握していないのだ。それだけで十分だろう」
ブチャラティが会話をしめる。

が……数秒後にミスタがその話題を掘り返した。


「……しっかし。そういう時ってハンドシグナルはホント便利だよな。
 俺なんか昔はこれしか知らなかったってのによ」

「…………パンツーまる見え」

「YEAAAH!」

850蛇足 ◆yxYaCUyrzc:2009/04/09(木) 22:28:52
【B-2/1日目 早朝】
【チーム・ブチャラティ】

【ブローノ・ブチャラティ】
[時間軸]:護衛指令と共にトリッシュを受け取った直後
[状態]:肩に切傷(血は止まっている)、左頬の腫れは引いたがアザあり、トリッシュの死に後悔と自責
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、荒縄、シャーロットちゃん、スージーの指輪、スージーの首輪
[思考・状況]
基本行動方針:打倒主催、ゲーム脱出
1.禁止エリアC−1に向かう。その道中にミスタに仮説を聞いてもらおうと思っている。
2.C−1確認後北・西の地図の端を見に行く。その後は北端に沿って東を見に行く。
3.絶対にジョセフと会い、指輪を渡す。彼にはどう詫びればいいのか…
4.チームの仲間に合流する。極力多くの人物と接触して、情報を集めたい。
5.“ジョースター”“ツェペリ”“空条”の一族に出会ったら荒木について聞く。特にジョセフ・ジョースター、エリザベス・ジョースター、シーザー・アントニオ・ツェペリには信頼を置いている。
[備考]
※パッショーネのボスに対して、複雑な心境を抱いています。
※ブチャラティの投げた手榴弾の音は、周囲一マスに響きわたりました。
※ブチャラティが持っている紙には以下のことが書いてあります。

①荒木飛呂彦について
ナランチャのエアロスミスの射程距離内いる可能性あり

②首輪について
繋ぎ目がない→分解を恐れている?=分解できる技術をもった人物がこの参加者の中にいる?
首輪に生死を区別するなんらかのものがある→荒木のスタンド能力?
スティッキィ・フィンガーズの発動は保留 だか時期を見計らって必ず行う。

③参加者について
知り合いが固められている→ある程度関係のある人間を集めている。なぜなら敵対・裏切りなどが発生しやすいから
荒木は“ジョースター”“空条”“ツェペリ”家に恨みを持った人物?→要確認
なんらかの法則で並べられた名前→国別?“なんらか”の法則があるのは間違いない
未知の能力がある→スタンド能力を過信してはならない
参加者はスタンド使いまたは、未知の能力者たち?
空間自体にスタンド能力?→一般人もスタンドが見えることから



【グイード・ミスタ】
[時間軸]:54巻、トラックの運転手を殴った直後(ベイビィフェイス戦直前)
[状態]:健康、左頬が腫れている
[装備]:ナランチャのナイフ、手榴弾4個
[道具]:不明支給品残り0〜1(あるとしたら武器ではないようです)
[思考・状況]
基本行動方針:ブチャラティと共に行動する。ブチャラティの命令なら何だってきく。
1.YEAAAH!
2.エリナの誤解を解きたい
3.アレッシーうざい
4.あれこれ考えずシンプルに行動するつもり。ゲームには乗らない
[備考]
二人がした情報交換について
※ブチャラティのこれまでの経緯(スージーとの出会い〜ワンチェン撃破まで)
※ミスタのこれまでの経緯(アレッシー、エリナとの出会い〜ブチャラティと合流まで)


【翼竜について】
フェルディナンド博士の生み出した恐竜のうち一匹が
「ブチャラティとミスタと言う男がC−1に向かい、その後北西の端、北端沿いに東へ向かう」と言う事を覚えました。
ですが「二人が自分(恐竜)の存在に気付いている」と言う事は知りません。
これから博士のもとに帰還します。その際他の参加者の情報を得てくるかはわかりません。

851 ◆yxYaCUyrzc:2009/04/09(木) 22:29:50
以上で投下終了です。
蛇足=パンツーまる見え、ですねw
意見をいただきたい点としては以下の通りです。
・ミスタの時間軸をハッキリさせた事について
・翼竜が博士−ブチャ間の他の参加者を無視している(タルカスとか)
・二人の行動方針の若干の変更
・ハンドシグナルの描写が分かりにくくないか
・キャラの口調は問題ないか
・その他状態表などの矛盾、誤字脱字が無いか

ジョジョでちょくちょく出てくるハンドシグナルをやってみたかったので書いてみました。
ご意見、感想をお待ちしています。

852ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/04/09(木) 22:58:21
投下乙です
ミスタの時間軸は、これまでフーゴ脱退の話題などが出ていなかったので
適当なのではないかと思います
キャラの口調についても、特に違和感は感じませんでした
翼竜に関しては…リンゴォ・タルカス組次第ですが、特に問題はないのではないかと…
私が気になったのは二人(というかブチャラティ)の行動方針です
確かに禁止エリア周辺は今後の探索が不可能になるため最優先すべきですが、
すぐ近くにあるジョースター邸ガン無視というのは違和感が残ります
とくにブチャラティはジョースターの姓を気にしているし、
ジョセフ・ジョースターと一刻も早く合流したいはずなので、
ジョースター邸組に絡ませない手はないと思うのですが…

853ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/04/09(木) 23:39:31
投下乙!
とりあえずアバッキオ死亡前ならいつでも大丈夫だと思ってたんで時間軸には問題ないかと
翼竜は……偶然他の参加者たちがいた位置とルートが違ったとかでOKだと思われ

ジョースター邸に関してですが『猶予があるとはいえ禁止エリアには時間制限があるから』などの説明文を前に噛ませれば問題ないと思われます

854ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/04/10(金) 00:02:45
投下乙です。
二人とも・・・翼竜をジョルノが生み出した生物とは思わないのか・・・
翼竜、時間軸、方針に関してはほぼ同じです。ただ、上のジョルノについてと、博士の射程が長すぎる(少なく見ても地図で横三マス)ような気もしますが。
ブチャラティの思考で、エリザベス・ジョースターは死亡したため除外してもよいかと。
あと、なんでもありなスレで出ていた、ワンチェンの支給品について一言ほしかったりします。(不明なら「所在は不明です」でもいいので。)

855 ◆yxYaCUyrzc:2009/04/10(金) 06:50:12
皆さんご意見ありがとうございます。

ミスタの時間軸、口調は問題なし、と言う事でOKとします。
翼竜は、ジョルノの生物ではないだろうという推測の会話を追加する事と、
射程に関してはSPW研究所(ttp://spw.at.infoseek.co.jp/spwtop.htm)で能力射程数キロ以上とあったもんで…(本編の感じからも山一つは楽に越えてそうだし)
その辺をうまく文章化できればと思っております。
ジョースター邸、ワンチェンの支給品に関しては、向かわせると言う事で考えていこうと思います。

指摘ありがとうございます。引き続きご意見をお待ちしております。

856ゲロ以下のにおいがプンプンする名無しさん:2009/04/11(土) 12:04:29
修正、お疲れ様です。
博士の射程距離はこれからも話し合う機会が出てくるかもしれませんね。

本投下をお待ちしております!

857キングクリムゾン:キングクリムゾン
キングクリムゾン

858キングクリムゾン:キングクリムゾン
キングクリムゾン

859人間辞めても ◆bAvEh6dTC.:2009/04/17(金) 10:46:54
【ヴァニラ・アイス、川尻早人】投下します。

午前6時、サンタルチア駅。

歴史を蓄積した古めかしい外見だが、駅の内部は意外に綺麗である。
真新しいというよりは、誰一人としてこの駅を利用した事がないような不自然な綺麗さだ。
今は四方に取り付けられたスピーカーから、ザリザリという音をまじえながら一回目の放送をながしている
駅のホームには放送に聞き入る二人の人間がいた、もっともヴァニラ・アイスは現在進行で人間をやめている真っ最中だが。
もう一人の名前は川尻早人。別の意味で人間をやめている最中である。
死に向かって、という意味でだ。

すでに早人の足元にはかなりの大きさの血だまりができていた。
傷口をタオルを巻かれただけなのだから当然だろう。
ヴァニラ・アイスは冷ややかな目で早人を眺めた
人質になると考え、ブラックモアの提案した話を飲んだがこの状態では人質としてもつかどうかも怪しい。
視線に気づいたのか早人がこちらに話しかけてきた。

「僕を・・・・殺すの・・・・・・?」

もはや普通にしゃべることすらも苦しいのだろう、早人の目は虚ろだった。
呼吸を一つするごとに、小さな体から命が吐き出されてゆくようだ。
そんな早人の様子を眺めながらヴァニラ・アイスは淡々と言葉を紡ぐ。

「何度も言わせるなよ小僧、あやつらと取り決めたように24時になるまでお前を殺すことはしない」

この状態ならほうっておいても死にそうな感じだが。
そうなれば願ったり叶ったりだ、足手まといは一つでも消えた方がいい。
ヴァニラ・アイスがそののままじっとを見ていると、早人はよろよろと体を起こしはじめた。
何か言いたい事があるらしい。

「何だ?命乞いか?」

命乞いした所でいずれ殺す事に変わりは無いが。薄く笑ってヴァニラ・アイスは早人をねめつけた。

「違う・・・そうじゃない・・・」

ゲホッ!と咳きこんで早人は血の塊を吐きだした。
蹴り飛ばされた時に折れた骨が肺を傷つけていたのだろう、吐き出された血は黒かった。

「ゴホッ・・・・・・・殺してほしい奴がいるんだ」

860人間辞めても:2009/04/17(金) 10:47:55
「貴様が心配せずとも良い、この駅に来る者以外の参加者はすべてDIO様が駆逐されるだろう」

先ほどこの駅を出発したマーダー達もいる。
早人の訴えに対してヴァニラ・アイスの答えはそっけなかった。

しかし早人には考えがあった
吉良吉影、なぜ倒したはずのあいつが生きているのかはわからないが
もしが脱出し杜王町に舞い戻るような事態になれば・・・母さんが危ない。
それだけは、なんとしてでも回避しなくてはならない。

ライターを使ってヴァニラ・アイスを殺すことも考えたが、この怪我では万が一倒せたとしても駅を出ることすら難しいだろう
しかも自分の怪我を治せる仗助さんはもうこの世にいないのだ。
いや、もう人に頼っているわけにはいかない。
承太郎さんや億泰さんが負けるような人間ではないことは知っているが、すでに二人死んでいるのだ。万が一ということもある。

それならば今の自分に出来るのは自分の命をかけてでも、一人でも多くのマーダーを吉良吉影に差し向けることだ
見ればヴァニラ・アイスという男はDIOという奴に絶対の忠誠を誓っているようである。
そこを突けば話に乗ってくるかもしれない
早人は胸に決意を秘め、無理矢理顔に笑顔を浮かべて言う

「どうかな・・・その人でも倒せるかどうかわからないよ・・・」

「なんだと」

案の定ヴァニラ・アイスは聞き捨てならないとばかりに詰め寄ってきた。
ガッと首を掴まれ持ち上げられる。

「もう一度言ってみろ小僧・・・」

ぎりぎりと首を締めあげられながらも早人は懸命に言葉を紡ぐ
意識が飛びそうになるのを堪えるのに必死だ。
ここで頑張らなければ母さんが危ない。

「あ・・あいつの・・能力・・・は・・時間を・・ 巻き戻・・す」

ヴァニラ・アイスはおもわず早人の首から手を離していた。支えを失った早人は床に倒れ伏す。

「時間を巻き戻す能力」だと!?
ヴァニラ・アイスの頭を驚愕が支配した。
時間を支配するということは世界を支配するに等しい。
その権限を持つにふさわしいのは、この世でDIO様だけだ。
神聖な領域を土足で踏み込まれたかのような不快感にヴァニラ・アイスは眉をしかめた
ヴァニラ・アイスはかがみこむと、再び早人の襟首を掴み上げた。

861人間辞めても:2009/04/17(金) 10:48:28
「おい小僧ッ!その男の事くわしく聞かせろ!」

返答が、無い。
怒りにまかせて二三度早人の頬を張ったが起きる気配はなく、ぐったりとしている。
とうとう痛みに耐えかねて気絶したようだ。

ヴァニラ・アイスは舌打ちをするとつかんだままの早人の頭を床に放り投げようとし・・・・・
その時ある思いつきがヴァニラ・アイスの頭をかすめた。
リスクはあるが、このままにしておくよりははるかにマシだろう。
ヴァニラ・アイスはニヤリと笑うと、早人の首筋におもいきり牙を突き立て

そして。

  *      *      *

「うぅ・・・」

早人は体に床の冷たさを感じて目を覚ました。
意識を失ってしばらくたっていたらしい、床には朝日に照らされた窓枠の影がくっきりと浮かび上がっている。

「今、何時なんだろう・・・ってゆうか僕、生きてる?」

まわりを見回すとヴァニラ・アイスの姿は見えなかった。
この怪我なら遠くへ逃げることもないと判断して放置されたのだろうか?
ともかく、喉が焼けるようにひりつく以外には変わった所はないようだ。
早人は頭痛をふりはらうように頭を振ると、何気なく足元に目をやって自身の異変に気がついた。

右足が、ある。

ヴァニラ・アイスの『クリーム』によって消し飛んだはずの自分の足が。

「なっ・・・何でッ!?」

足首から先は綺麗に消失していたはずである。
その証拠に止血のため使っていたタオルは、血を吸ったまま自分の足元に転がっている。
幻覚でも見ているのだろうか。ためしに右足に触ってみる、感覚は、ある。
だめ押しで頬をつねってみたが、痛いということは夢ではないという事だ。
まさかヴァニラ・アイスが直してくれたのだろうか?いや、そこまでサービス精神があるようには見えなかったが。
自分が気絶してる間に生えたのか?雨後のタケノコでもあるまいし、そんなバカな事があるわけないだろう。

考えても答えは出ない、早人は頭を振ると喉に手をやった。なぜか目が覚めた時から異様に喉が渇いているのだ
早人はバッグからペットボトルを取り出すと中身を一気に飲み干す。
しかし、喉の渇きが収まる気配は無かった。失血で失われた水分を体が求めているのだろうか。
ともかくこの程度の水では満足できない。早人は空になったペットボトルを捨てようと立ち上がり

鼻に甘い香りを感じて振り返った。

862人間辞めても:2009/04/17(金) 10:49:18
何だろう、どこからか良い匂いがただよってくる。自分が今までに嗅いだ事のある料理の匂いとはまた違う
ひどく食欲をそそられる香りだった。
早人は壁に手をつくと匂いのする方向へ歩き出した、匂いは一歩ずつ進むごとに強くなってきている。

何の料理なのだろう、エビフライ?オムライス?それともカレー?
早人は母の作ってくれるカレーが大好きだった、しのぶが「今日はカレーよ」というたびに
早人はいそいで学校から帰らねばならなかった。あつあつのご飯に母特製のルーをかけてほうばると
心地よい辛さが口いっぱいに広がるのだ、素直に「おいしい」と早人が答えると
いつもは怒ってばかりのしのぶも、この時ばかりは嬉しそうに笑ってくれる。

早人は母の笑顔を思い出して目を細めた。鼻の奥がツンとしてくる。

「ん・・・」

この奥から匂いはさらに強くなってくるようだ。
早人はおもわず走り出した。
生えたばかりの右足が悲鳴を上げたがこの香りの前では気にもならない。
長さのある廊下を幾度も抜け・・・
ついに広がった光景に早人はおもわず感嘆の声をあげた。


 床には ごちそう が散らばっていた。


朝日に照らされてキラキラと光り輝いている、まるで宝石のようだと早人は思った
おそるおそる手をのばすと一つつまみ、少しだけかじってみる。
口の中に入れた瞬間、圧倒的な旨味が舌根を突き抜けて脳に幸福感をもたらしてゆく
あれだけ水をのんでも治まらなかった喉の渇きも、すぐに癒えてゆく
さんざん砂漠を彷徨った後に飲む水はこんな味がするのかもしれない。
早人は床に散らばったそれを、今度は両手に溢れるほどかき集めおもいきり口にほうばった。
ぷちぷちとした心地よい食感が舌の上を転がってゆく。後味は爽快だ。

その後はもう体が勝手に動いていた、拾い集め、口に含み、咀嚼し、嚥下する。
もはやその行動は機械的ですらある。
どんどん早人の顔はよだれと汁とでベタベタになっていった。

早人が夢中になって食べていると
ガリッという音とともに奥歯に違和感を感じたので、一旦食べるのを中止することにした。
口から奥歯に挟まった物を吐きだしてみる、薄い桜色をした魚のウロコのような物だ。
ウロコにしては少し大きい気がするが・・・。

何故かこれと同じものをどこかで見た気がする。

いや、僕はコレを知っている!
この物体を知っている!!

863人間辞めても:2009/04/17(金) 10:49:50
「ぃ・・・・ひぃ・・・・ぁ・・・」

声にならない声が喉の奥から漏れ出してきている。
どうして気付かなかったのか、コレは魚のウロコなんかじゃない
自分の指に生えているも物とまったく同じ物だ。

今まで手に持っていた手首がゴトンと音をたてて床に落ちた。
その音にはじかれたように頭を上げ、床に転がった生首と目が合った瞬間
早人は今まで自分が食べていた物がなんだったのかを理解した。

理解してしまった。

*        *         *

少年の悲鳴が聞こえたような気がして、ヴァニラ・アイスは頭をあげた。
体はすでにすっぽりと『クリーム』に覆われているので体ごと上を見上げた形になる。
あの少年に自分の血を注いでしばらくたつ、もうそろそろ変化がでてきても良いころだった。
自分のように吸血鬼化したか、それとも屍生人になったか。
どっちにせよこの時間帯の日差しでは駅の外に出ることは出来ないだろう。
時間を巻き戻す男の話は、邪魔者を消した後でゆっくりと聞き出せばよい。

ちなみに、ヴァニラ・アイスが今いる場所はサンタルチア駅の地下鉄だ。なぜここにいるかというと
先ほどまで血を注いだ後、早人の回復を待ってる間にいきなり駅の照明が落ちたのである。
新手のスタンド使いかッ!?とホームを探索した結果、この地下鉄に潜る入口を発見したというわけだ。

地下鉄に潜ってみれば、送電線がバチバチと火花を上げている、停電はコレが原因らしい。
これはもしかしたらと思ってしばらく待ってみたのは正解だったようだ。

「早人という名前だったか・・・?あいつには感謝しなければならないようだな」

早人にかまかけず駅を飛び出していたらこの地下鉄の存在にすら気付かなかっただろう。
聞き出した後は、感謝の意味をこめ痛みを与えずに殺してやろうとヴァニラ・アイスは思った。

男はフンと鼻を鳴らすと線路の先を見つめた、列車の振動が近づいてくる。

【H-3サンタ・ルチア駅/1日目 朝】




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