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ジョジョの奇妙な東方Project.PAD5

1154:2012/06/19(火) 21:18:21 ID:KPAxMsyg0
前スレが980を超えた時、私のスタンド能力は『完了』する……
これが私の『前スレが1000を迎える直前に次スレを立てる程度の能力』だ……

ついに5スレ目まで到達しましたね。
ところで、2ちゃんにある本スレが過去ログに落ちてるけど大丈夫なんでしょうか!?

2セレナード:2012/06/19(火) 21:42:07 ID:1Qkhu5/s0
大丈夫だ。(きちんと対策すれば)問題ない。

ここまで行くとは・・・。
本スレの投稿者が見てくれていたら嬉しいですけどね。

3セレナード:2012/07/20(金) 15:39:45 ID:8RLivYLo0
PAD4使用済み、というわけでこちらに続きを投稿します。

4東方魔蓮記第三十三話:2012/07/20(金) 15:41:45 ID:8RLivYLo0
それを見たこいしは『イドの開放』を再び撃ち始める。
このスペルカードのタイムリミットはまだ残されているが、先ほどと違い、大量の氷塊がこいし目掛けて飛ばされている。
そして・・・メイドイン・ヘブンとホルス神の能力によって、氷塊の生成スピードは弾幕の連射スピードを上回る。
その結果、無数の氷塊が次々とこいしに命中していく。
「少しは効いたか?」
ディアボロは天井から(恐らく大量の氷塊に埋もれている)こいしを見上げ、彼女に問いかける。
・・・が、返事が無い。
「・・・?(無意識を操作して俺から気づかれずに氷塊から逃げたか?)」
疑問に思ったディアボロは、周囲をスタンドに確認させる。・・・が、誰もいない。
「(気絶した・・・のか?)」
そう思ったディアボロは、メイドイン・ヘブンの能力を使って全ての氷塊の『蒸発』を加速させる。
それにより全ての氷塊は無くなり、あとには倒れているこいしだけがいた。
「(・・・死んだフリならぬ、気絶したフリか?)」
ディアボロは浮遊し、音を立てずにこいしに接近する。
直接こいしに触れると、不意打ちを受けたときに回避できない可能性がある。
そう判断したディアボロは、キングクリムゾンに触れさせることにした。

キングクリムゾンがこいしに触れたそのとき、こいしは素早く起き上がると、弾幕を撃ち出した。
「!?」
ディアボロはすぐにこいしから離れると、弾幕を回避する。
それと同時に、ディアボロは弾幕の軌道が先ほどと違うことも見抜いた。
「(さっきと弾幕の軌道が違うな。ということは、スペルカードを一枚攻略したということか)」
スペルカードを攻略したことに気づいたディアボロは、弾幕を回避することに集中する。
「(こいしは気絶していたのか?それとも気絶した振りをしていたのか?)」
弾幕を回避しながら、ディアボロはふと考えた。
妖怪があの程度の攻撃で気を失うとは考えにくい。氷塊の落下の速さは加速させていなかったし、氷塊の先端は尖っていなかった。
大きさもさほど大きくないため、衝撃が大きかったとは考えられない。
「(今は考えるだけ無駄か)」
そう思ったディアボロは、弾幕を避けつつこいしから離れる。弾幕があたりそうになったらキングクリムゾンで防ぐ。
ある程度距離を取ると着地し、弾幕の回避に専念する。
「(弾幕ごっこの勝利条件の1つは、スペルカードを特定枚数攻略すること・・・。無理に攻撃を仕掛けずとも勝つことはdekiru)」
ホルス神とメイド・イン・ヘブンを使ってさほど高くない氷の壁を作り、すぐにその壁に身を屈めて隠れるディアボロ。
一度メイド・イン・ヘブンの能力を解除し、深呼吸をした後、メイド・イン・ヘブンの能力を再び発動させる。
そしてすぐにメイド・イン・ヘブンの手刀で氷の壁を地面から切り離すと、キングクリムゾンのパンチを氷の壁の3箇所にくらわせる。
衝撃は加速させていないため、氷の壁はすぐには割れない。
そのまま氷の壁をキングクリムゾンに掴ませると、ディアボロはこいしに接近する。キングクリムゾンも氷の壁を盾に接近する。
そして弾幕を避けつつこいしにある程度近づくと、キングクリムゾンを自分の前に出し、氷の壁を放させる。
そのまま再びこいしと距離を取り、メイドイン・ヘブンの能力を解除する。

5東方魔蓮記第三十三話:2012/07/20(金) 15:42:17 ID:8RLivYLo0
氷の壁が割れ、その破片がこいしに襲い掛かる。対してこいしは氷の破片の向こう側にいるディアボロ目掛けて弾幕を撃つ。
ディアボロはすぐにホルス神とメイド・イン・ヘブンで大量の氷塊を作り、こいし目掛けて飛ばす。
こいしは再び氷塊が飛ばされたことに気づき、後ろに下がりつつ弾幕で氷塊を撃ち落す。
「(後退したか。深追いはしない方がいいな)」
遠距離戦を行っている以上、不用意に接近すると弾幕を避けれない可能性が出てくる。
一応メイドイン・ヘブンを使えば簡単に回避できるが、発動する間もなく命中する可能性が無いわけではない。
それを考えると、あまりこいしに近づくのはいいことではない。
「(あまり離れすぎると氷塊がこいしに命中しないな)」
ディアボロはそう思いながら弾幕を回避する。
こいしの弾幕と違い、ホルス神で作った氷塊は重さの影響を受ける。
つまり、あまり離れすぎるとこいしに命中する前に地面に落ちてしまうのだ。
「(今はまだ届くが、もう少しこいしが後退したら接近するしかないが・・・)」
そう思いながらディアボロは氷塊をこいし目掛けて飛ばし続ける。
「(このままだと俺の方が持たないな)」
ほとんどの弾幕は氷塊に命中するせいで避けなくてもいいのだが、たまに氷塊に命中せずにこちらに飛んでくる弾幕がある。
それを氷塊と弾幕の飛び交う中で見抜いて避けるのは難しい。
先に集中力が切れるのは自分であることをディアボロは理解していた。
ディアボロは氷塊を撃つのをやめ、回避に専念しながら考える。
「(持久戦になったらスタミナの面でまず俺に勝ち目は無い。弾幕をかいくぐっての接近戦は危険・・・)」
持久戦も接近戦も、何らかしらの形で不利になる。
「(なら、ジャンピン・ジャック・フラッシュで氷塊を『射出』して威力を上げ・・・)」
ディアボロはケースからハイエロファント・グリーンのスタンドDISCを取りだし、装備していたキングクリムゾンのDISCと入れ替える。
「(メイドイン・ヘブンで至近距離に接近して確実に決める。そしてそれを機に一気に攻める!)」
そして氷塊を生成し、ジャンピン・ジャック・フラッシュの射出機に入れる。
射出機に入れられた氷塊は回転をはじめ、それを確認したディアボロは弾幕を回避する。
ハイエロファント・グリーンを出現させ、弾幕を回避しつつ狙いを定める。

メイドイン・ヘブンを発動し、弾幕のスピードを擬似的に低下させてこいしに至近距離まで接近する。
そのままこいしの腹部に射出機を突きつけ、直後に氷塊を射出する。
同時にエメラルドスプラッシュを発射するが、氷塊は射出されると同時に通常の速度に戻っている。
氷塊だけならこいしが受けるダメージはあまりないが、それに怯んでいる間にもエメラルドスプラッシュが次々と命中していく。
こいしからすれば、わけもわからないまま次々と攻撃を受けているようなものだ。
「(これで『仕上げ』だ)」
そのままこいしの真上に氷塊を大量に生成し、落下速度まで加速させてこいし目掛けて落とす。
こうして、こいしは再び大量の氷塊に埋もれることになった。

6東方魔蓮記第三十三話:2012/07/20(金) 15:42:52 ID:8RLivYLo0
「こちらは見えない弾と氷塊の弾。但し、どちらもそのうち尽きる。そして相手の弾はほぼ無限」
ディアボロは大量の氷塊の中からキングクリムゾンを使ってこいしを引っ張り出す。
「つまり、こちらは速攻で相手を倒さなければいずれ勝てなくなる」
引っ張り出されたこいしは、「身体を痛めている」というディアボロの予想に反して平然としていた。
「・・・まったく、妖怪はどいつもこいつも身体が丈夫なんだな」
星はキングクリムゾンで殴ったからああなっただけなんだろうな、とディアボロは思いながら呟く。
そして引っ張り出されたこいしの表情が楽しんでいる表情だったのを見て、ディアボロは呆れる。
「・・・楽しかったのか?」
「うん!」
「(弾幕にぶつかると死ぬほど痛いそうだが、こいつは痛覚が鈍いのか?あるいは、『痛い』という感覚がないのか?)」
ディアボロは疑問に思ったが、たぶん本人に聞いてもわからないだろうとこいしに質問することをやめた。


さとりのいたところに戻るため、ディアボロとこいしは廊下を進んでいた。
「・・・あれで満足したか?」
「うん!」
質問に満足そうに答えるこいしを見て、ディアボロは呆れる。
「(・・・よく分からん奴だ。これじゃ、姉も苦労しているだろうな)」
ディアボロはそう思いながら、廊下を歩いていく。
こいしも笑顔を見せながら、その隣を歩いていった。

7セレナード:2012/07/20(金) 15:44:54 ID:8RLivYLo0
投稿完了。
ホルス神は弾幕ごっこ向きですね。3部格ゲーの時といい。

そういえば、3部格ゲーもHD版になって配信されるそうですよー。

8塩の杭:2012/07/20(金) 18:14:14 ID:nlVBOb/M0
投稿お疲れ様です!
本当にホルス神は使い勝手がいいですね。メイド・イン・ヘブンもまた使いよう…
にしてもこいしが楽しそうでなによりです。

>>1000取り合戦に乗り遅れた…ネットに繋がらない携帯はただの携帯だ。
…繋がっても携帯なんですが、ということでwikiトップのリンクをPAD4からPAD5に変更しておきますか?

9ポール:2012/07/20(金) 21:12:22 ID:WQqLDNmU0
投稿おつかれさまです。
メイド・イン・ヘブンはやっぱりつえーやッ!

そして正々堂々と1000を取られるとは・・・ふっ、完敗だぜ。まいっちまった。
ポール『完全敗北』!再起『可』能

10154:2012/07/20(金) 21:46:30 ID:lTD6A.QM0
ブラボー! おお、ブラボー!
見事な1000ゲットを見せていただきました。

3部格ゲーの鳥はもう戦いたくありません。
鳥が相手ならアンクアヴを使わざるを得ないw

11キラ☆ヨシカゲ:2012/07/21(土) 10:21:06 ID:wT3kDSUEO
ま……負けたぜ…セレナードさんよォ…ッ!
『完敗』だ……>>1000はアンタのもんさ……

やはりディアボロはチートですね。
【メイド・イン・ヘブン】で個別加速とか、敵の弾幕は加速しないとか、反則過ぎますよ。
徐倫は彼女が投げたナイフも加速するという【弱点】を突いたからこそプッチの目を抉ったというのに。
正直、【弾幕ごっこ】の範疇ならディアボロが負けることはあり得ませんよね。

12セレナード:2012/07/21(土) 11:09:06 ID:6Er258fQ0
>塩の杭さん
正直、この二つのスタンドの組み合わせは強力な方だと私でも思いますね。
作中で見せた大量の氷柱を落とす攻撃がいい例だと思います。

wikiトップのリンクは、しばらくはPAD4と5を両方貼っておけばいいんじゃないかなと思っています。

>ポールさん
なんせ(作戦勝ちとはいえ)承太郎たちを葬ったスタンドですからね。
かませみたいにするわけにもいかず、中途半端な強さであってもいけないのです。
その結果がアレです。たぶんスピードでは文も追い抜けるかも。

>154さん
まあ、(ああするしかなかったとはいえ)格闘ゲームで弾幕系のキャラをだすとたいてい勝ち目無いですよね・・・。
近づけなきゃ殴れないじゃないかぁーッ!このド畜生がッ!・・・ということです。

>キラ☆ヨシカゲさん
プッチは自らの野望を達成するためにああしたために徐倫に弱点を突かれていますが、ディアボロはその気がないので弱点はほぼ無いといっても・・・
といいたいところですが、たぶん私も気づかない『弱点』がディアボロの使い方でも発生してしまうでしょうね。
そのうち、そこを突かれる事態が発生するかもしれません。

13ポール:2012/07/21(土) 20:49:16 ID:yI6Psmz20
投下させていただきます。ほんとはもっと推敲ってやつをしなくっちゃあならないのかもしれない。しかし投稿するっつったんだ。オレが投稿をやめるのはうんこが落ちてる時だけだぜ!!!ごほん・・・すみません。
えーっと・・・十一話で、あってますね?
前回までのあらすじは・・・SHA見つかる。神社へ行く。プッチ脚痺れるゥ。過去編へ・・・なんとテキトーなあらすじよ。
それでは悪役幻想奇譚十一話
『プッチ神父は導きたい』投下させていただきます。予告通りは気分がイイイイィィィ!

14ポール:2012/07/21(土) 20:50:13 ID:yI6Psmz20
吉良たちが炊事場でお茶を淹れている間に、魔理沙は霊夢からいろいろと聞くことにした。

「で、あの変態はいったい誰なんだ?」
「変態?ああ彼のことね」
彼女らの言う『変態』とは、先ほどプッチの変わりに紅茶を淹れると言った人物のことである。
彼を一言で説明するならば『牛』という動物に例えるのが適切であろう。
いや、これはなにも『牛のように雄々しい』といった空気を纏っているからではない。
ただ単純に格好が『牛』なのだ。
「牛の妖怪か?」
「違うわ。人間よ。プッチが一緒に連れて帰ってきたのよ」
不機嫌そうに言った。それはそうだろう犬や猫ならまだかわいいからいいものの、牛のコスプレをした変態なんてつれて来られたらたまったものじゃあない。どうせだったら『牛』そのものを連れてきたほうが食料にもなって家計が助かるというものだ。

さて、『牛』扱いされていることなどつゆ知らないここ炊事場でも、吉良が新しい人物について、つまりはまぁ牛の変態について質問をしていた。

「でだ、君は一体だれなんだい?」
妖怪ならまだ納得できるが人間だとしたら変態だな。
そう聞かれ、男はお湯を注ぎながら返事をした
「オ、オレか?オレは『リキエル』だ!アポロって名前じゃあねぇぞ。間違えんなよ?」
誇らしげに自分の名前を言ったはいいものの、お湯を注いでいる最中に目を離してしまったものだから、熱湯を手にこぼしてしまった。

「あぢぃッ!!」
ビクッ!と身体を縮こまらせたかと思うと、リキエルはその場にしゃがみこんでしまった。
「大丈夫か?」

熱い・・・熱湯をこぼしちまった・・・熱い・・・熱い熱い熱い
やけどしたのか?手を冷やさないと・・・いや、その前に床を拭かないといけない!
いや違う紅茶だ!神父の変わりに紅茶を淹れるんだ。
どれからだ!?
「おい・・・どうした?」
しゃがみこんだまま震えているリキエルを見て、吉良は不安になってきた。
まさかこいつ・・・いきなり暴れ出したりなんてしないだろうな?
しかし吉良の声はパニックになっているリキエルには届いていなかった

えと、まず最初に手の処置をして、違う!床を拭くんだ。それから紅茶を淹れて、ああ違うッ!!紅茶を淹れる前に手の処置をして!違う違う
早くしないと!怒られちまう!どれを・・・うヴぇ・・・く、苦しくなってきた・・・
「く、苦しィィッ!息ができねッ・・・息がッ・・・」
息が・・・できねえェ・・・助けテ・・・神父・・・神父はどこだ

「(なんだこいつは・・・今度はいきなりプッチのほうを見たぞ)おい、こいつ大丈夫か?」
一切行動を起こさないプッチに吉良が聞いたが
「大丈夫だ」の一言を言ったきり、相変わらずプッチは何もしなかった。

神父・・・神父は何もしねえ・・・オレが苦しんでいるのに・・・
違う・・・神父はオレを信頼しているんだ。
まぶたは・・・

降りてねえッ!!平気だ!!

スッと、リキエルは立ち上がった
「いや、驚かせてすまねえ。もう大丈夫だ」
『大丈夫』その言葉通り、先ほどまでパニックになっていた人物とは思えないほどてきぱきとした動きであっという間に床の掃除もやけどした手の処置も、紅茶を淹れてしまった。
その様子を見ていたプッチは満足そうに頷き言った。
「さて、紅茶も淹れれたようだ。あの2人も待っていることだろうからさっさと行こうか?」


「ほらよ紅茶だ」
居候のくせになぜか偉そうに紅茶を食卓に置いた
霊夢が少しイラっとした目を向けたが、そんなことを気にせずにリキエルはさっさと紅茶を飲み始めた。
はじめこそ少し気まずい空気だったが、それでもまあ飲食しながら怒れる人はなかなかいないもので、和やかに会話を交わしていった。
シアーハートアタックから預かっていた手紙を2人に渡し、この1ヶ月で何があったのかを話していき、自然な流れでプッチがその間になにをしていたかについての話題になった。

15ポール:2012/07/21(土) 20:51:00 ID:yI6Psmz20
「ここ最近で起こったことはだいたい話したと思うが・・・プッチ、君はなにをやっていたんだ?戻ってこようと思えばいつでも戻って来れただろう?」
紅茶を啜りながら聞いた。しかし湯のみに紅茶とは。新しい文化というものは新しいもの同士の組み合わせだけで起こるものではないのだな。

「ああ、そういえば霊夢にもまだ話していなかったな(問答無用で怒られたからな)」
プッチもまた紅茶を飲んでくつろいでいる。
「そうだったわね。話しなさいよ」
霊夢が言う
「そうだぜ話せよ」
なぜか偉そうに魔理沙も言う
「わかった離そう」
イラっときたのかプッチは湯のみを魔理沙に放った。
「あッ・・・って空っぽか。今のは『離す』じゃなくって『投げる』だぜ」
とっさにキャッチできたようだが、ぶーぶー文句を垂れている。まあそれはそうか。
「ふん。日本語ハ難シイナ。話すさ。そう怖い顔をするな」

「ふむ、何から話したらいいものか」
話す内容を考えているようだが、どうせくだらない悪さでもしていたのだろう。
「とりあえず自分の行いを順番に懺悔していったらいいんじゃあないのか?」

「悪行前提で話を進めないでくれないか?しかしそうだな。順番に話していったほうが混乱することもないだろう」


「そうだなまずは、殺された後のことから話していこうか」


「吉良吉影、おまえに殺されてすぐ、わたしは小町に会った。・・・逐一報告していくのも面倒なものだな。まあいい。閻魔の仕事以外であっちに行くのは久しぶりだったのでね、少し地獄を見に行くことにした。死んでしまった友に会えるかと期待したがそう都合よく会うことはできなかった」
少し、ほんの少しだけプッチは寂しそうな顔を見せた。

生物は行動を続けているかぎり、周りの環境はたえず変化する。
そして人というのは環境から影響を受けやすいものと思われているが、その生き方までをも変えてしまうような環境に出会うことは稀だ。
特にスタンド使いのような、非日常に慣れてしまっているものとなると、そういった環境に出会う数は少ないに違いない。

地獄へ行ってすぐのことだ。わたしはあることに気付いた。
当然と言ってしまえばそれまでのことかもしれないが、わたしが会った罪人たちはみな例外なく『天国』へと行きたがっていた。

「『天国』へ行きたい」

教戒師をしていた頃も、そういう囚人に会ったことは幾度となくあるが、囚人たちはみな口で言うだけで、本当に『天国』を信じているものはいなかった。
しかしここにいるものたちは心から『天国』へと行きたがっている。
そこでわたしは彼らに力を貸してやることにした

「そう決めたはいいものの、力のある協力者になかなか出会えなくてね、『引力』を求め歩き回っていたところ、彼女に出会った」

「『彼女』?わたしの知っている人物か?」

「ああ、紅魔館の門番だ」

「美鈴か。そういえば日ごろの礼として、あの世への片道切符をプレゼントしてやったことがあったな」

((((それって殺しただけじゃね?))))
みんなそう心の中でつっこんだのは内緒だ。

気を取り直し、プッチは昔‐といっても1ヶ月も経っていないのだが−のことを思い返していた。

16ポール:2012/07/21(土) 20:52:08 ID:yI6Psmz20

ここはいわゆるあの世
 一人の男が腕を組み、何か独り言を言っている

「わたしは・・・かつて全人類を天国へと導こうとした。だが・・・ジョースターの『因縁』に邪魔されてしまった。しかしここにはもうジョースターもエンポリオもいない。すばらしいぞ!ここにはわたしの邪魔をするものはいない。そしてここにいる全ての者たちがッ!!みな『天国』へと行きたがっている!!再びわたしの『使命』を果たすときがきたのだ。君のそう思わないか?なぁ・・・紅魔館の門番よ?」
そう言って男、エンリコ・プッチは振り向いた。

「気付いていたんですかプッチさん」
紅魔館の門番こと美鈴がそこにいた。

「それにしてもいいところで出会ったよ。どうやら死人にDiscを入れてもすぐに消滅するようだったからな。スタンドのDiscを少し失ってしまったのだ。まぁ役に立たない能力だったから問題はないのだがね」
プッチはいつになく嬉しそうに、懐から1枚のDiscを取り出した。

「祝福するべきだと思わないか?門番。これからわたしは、いや、わたしたちは再び人類を『天国』へ導くことができるのだ!喜べ!君もこの崇高なる使命の一端を担えるのだ!さぁ!賛美しろ門番!地獄はなくなり、全ての魂が救われるのだ!新しい世界の幕開けだッ!!」
そしてプッチは手に持っていたDiscを美鈴に向かって投げた。
「え?ちょっとプッチさん!?」
とっさのことに反応できず、Discは美鈴の頭へと吸い込まれていった。
そのことを確認すると、プッチは目をつむり、これから流れてくるであろう音楽を身体全体で味わおうと両腕を左右に広げた。

しかし

いつまで経っても音楽が流れる気配は一向にない

「(何かを待つ時は時間の流れを遅く感じるものだが、これはおかしい。妖怪にCDは効果がないのか?)」
「あの・・・プッチさん?」
申し訳なさそうに美鈴が言った
「ん?どうした門番?」

「わたし・・・死んでいますよ?」
気まずい空気が二人の周りを包む

「なんだとッ!!おまえッ!!なぜそれを先に言わない!!」

「言うヒマなんてなかったじゃないですか!!」

「な、なんということだ・・・ヘンデル作『メサイヤ』、ガーディナー指揮、82年録音・・・このわたしの魂を震えさせてくれる名曲が・・・1枚しか持っていないというのに・・・お、落ち着け、素数を数えて落ち着くんだ・・・359、367、373、379、389、397、401・・・」

「あ、あの?私の身体から取り出すことはできないんですか?」

「言っただろう。死んだものへDiscを入れれば消滅してしまうと。生きていると早とちりしてしまったわたしの責任でもあるが、きみの責任でもある。というわけで、わたしに協力してもらうぞ」
転んでもただでは起きない神父であった。

「そんな無茶苦茶な・・・」

「そう嫌そうな顔をするな。これが終わればおまえの復讐を手伝ってやろう。どうだ?どうせ吉良に殺されたのだろう?」
プッチにそう言われ、美鈴はこれまでのことを思い出す

あるときはキラークイーンに爆破され

またあるときはシアーハートアタックに爆破され

またまたあるときは写真の中に閉じ込められ

最終的に口封じのために爆破された・・・

そういったろくでもないことを思い出していると、美鈴はどんどん苛立ってきた。

「あああああああッ!!!」
プッツンしたのかやけくそになったのか、あるいはその両方かわからないが、美鈴が叫んだ。
「わかりました!手伝いますよ!ええ。手伝えばいいんでしょう!?そのかわり後であの男への復讐も手伝ってもらいますからねッ!!構いませんねッ!!」



「ふう。と言うわけで彼女に手伝ってもらえることになった」
プッチはここまで話すと、一息ついた。

「そうか、で?君はわたしに・・・その、『復讐』?の手伝いを本気でするつもりなのか?」
わたしは念のため聞いておくことにした。もしも『本気』ならば何か手を打っておかねばならないからな。

「わたしは無駄なことは嫌いだ。まあいい、続きを話そう」

わたしは美鈴に『天国』への計画を少し話した
少々やけっぱちになっているのは気になったが、向こう見ずな行動が時として人を導く力になると思い、そのままにしておいた。
・・・まあ、正直に言ってしまうと面倒なだけだったのだがね

17ポール:2012/07/21(土) 20:54:13 ID:yI6Psmz20

「これから罪人達を使い天国へと行くのだが、わたしの計画は理解できたかね?」
どこかへと向かいながらプッチが美鈴に言った。

「ええ、大丈夫です。真の勝利者は天国へ到達したものなんでしょう。何度も聞きましたよ」
はぁ・・・カッとしていたとはいえまさかこんなことになるなんて・・・はぁ

「こんにちは神父様」
「やあ、ペイジ。元気ですか?今日は珍しく一人でいるのですね」
プッチさんがにこやかに話しかけていますが、あの愛想のよさを少しは私にも注いでほしいものですよ。まったく。何か話してるようですが、どうしてこの人に人望があるんでしょうか?

「と、言うわけでジョーンズ、プラント、ボーンナムにも伝えておいてくれませんか?」

「ああわかった。任せろ!」

「よろしく頼みましたよ」
プッチさんに何か頼まれてからさっきの人はどこかへと走っていきました。はぁ・・・。

「で、これからどこへ行くのですか?」
「これからようやく天国への作戦を開始する。士気を高める必要があるので少し演説でもさせてもらおうと思っていましてね。まあそう遠くはない場所だからすぐに着くだろう」
やっぱりなんだかぶっきらぼうですね。はぁ・・・。ええい我慢です紅美鈴!これも全ては吉良吉影に復讐するため!
「よし!」

「(そうか・・・そんなにも天国を目指していたのか)」
一人決意を新たにする美鈴を見てプッチは勝手に納得した。

さっきプッチさんが言った通り、しばらく歩くとどんどん人が多くなってきました。
なぜかみなさん希望に満ちた目をしていますね。この神父のことを信頼しているからでしょうね・・・はぁ・・・巻き込まれた私の身にもなって欲しいです。はぁ・・・。

門番が先ほどからうつむいているな。恐怖か緊張かは知らないが、それくらいは自分自身で乗り越えてもらわなければ、これからは足手まといになる・・・

また一人、勘違いするプッチであった

しばらく待っていると、どんどん人が集まってきました。
そういえば興奮して寝ていませんでしたね。なんだかとても眠くなってきました。
あ、演説が・・・

Zzz
  Zzz
    Zzz
      Zzz
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?はっ!うっかり寝てしまいました。

ん?プッチさんがこちらを見て何か伝えようとしている・・・
あ、応援演説的なことをしろってことですね。わかりました。


演説をしていたとき、プッチは美鈴が寝ているのに気がついていた。
しかし特に騒いでいるわけでもなかったので放っておいた。

が、演説も終わり士気も高まったので起きてもらわねばならなくなり、ホワイトスネイクを使い軽く小突いて起こした。
美鈴も起きたようでついて来るようにジェスチャーで合図をした。

ふむ。門番も気付いたようだな。少しくらいの昼寝は許してあげましょう。さて、これから忙しくなる。
くるり、と美鈴に背を向け歩き始めたプッチは群衆がざわつき始めたことを感じ取った。

?なにが・・・?

気になって後ろを向くと

さっきまで彼が演説をしていたところに美鈴が立っているのが見えた。

何をするつもりだ・・・門番・・・。
なにかイヤな予感がする・・・

美鈴に『おりてこい』と合図をしたが、

「(なるほど。さっさと済ませろってことですね!)」

寝ぼけた彼女には通じなかったようだ。

美鈴は思いっきり息を吸い込み
そして

叫んだ

18ポール:2012/07/21(土) 20:55:13 ID:yI6Psmz20

「天国へ行きたいか――――ッ!!」

それはもう絶叫にも近かった

「天国へ行きたいか――――ッ!!」

「(こ・・・こいつ、一体なにが・・・)」
ダメだこいつ・・・はやくなんとかしなければ・・・
焦るプッチをよそに同じことを叫び続ける美鈴。
早くやめさせようと焦るプッチだったが、
最初は戸惑っていた群衆もやがて興奮していき

おおおおおおおおおおお!!!
「ッ!?」
爆発でも起きたのか?と、錯覚してしまうほどの群集の雄たけびが響き渡った。

「天国へ行きたいか―――――ッ!!」
     BAAHHHOHHHHHHHHH!!!

「天国へ行きたいか―――――ッ!!」
           SHAAHHAAAAAAAHAHHAAA!!!

「天国へ行きたいか―――――ッ!!」
                 WWWWWWWRRRRRYYYYYY!!!
4度目の雄たけびが終わった後、突如走り出した先頭の集団につづき、その後ぞくぞくと進み出した。

「どうですかプッチさん。見事に士気を爆発させることができましたよ!」
えっへん、と誇らしげに胸を張る美鈴を見て、プッチはしばし呆然としていた。
我に返ったプッチはゴツン、と美鈴の頭を殴った
「痛っ、何するんですか!」
「影響力というものを考えろ。お前のせいで作戦を修正しなくてはならなくなった。少しは考えて動くのだ」
「考えましたよ。2500年前の中国の兵法書『孫子』にだってこうありますよ。『兵は拙速なるを聞くも未だ巧の久しきをみざるなり』。つまりですね、無駄に長引かせるよりもこうやって短期決戦で挑んだほうが勝てるんですよ」
「確かにそうかもしれないがな、まぁいい。今ならまだいくらでも修正できる。だが、これからは少数の戦いになるのだ。そのときはしっかりお前の力も利用させてもらうぞ」
「手伝いはしますよ。ですが今は私たちも急いで進んだほうがいいんじゃないですか?ほら、もう見えなくなってしまいましたよ」
「わかっているしかし・・・」
プッチは少し間を置いて言った

「何か聞こえないかね?」
プッチは罪人達が進んでいった方向を見て聞いた

「え?いえ。何も聞こえませんが・・・?」
「そうだ。何も聞こえない。彼らの雄たけびも悲鳴も聞こえない」


プッチや美鈴が言い争っている中、罪人たちはなぜ静まったのか?
少しだけ場面を前に向けてみよう


それは突然のことだった

先頭にいた集団が突如として止まったのだ

「あ・・・ああ・・・あ」

障害をすべて飲み込む津波のような勢いで進軍していた集団が、階段のようなところを前にして止まった
堤防、絶壁、崖、そのようなものに比べたらとても小さな障害だった。

だが、彼らにとっては崖や堤防であったほうが嬉しかっただろう。

「え・・・閻魔だ。閻魔がきやがった・・・ち、ちくしょう。せっかくここまで来れたってのによぉ」

19ポール:2012/07/21(土) 20:55:58 ID:yI6Psmz20

彼らの視線の先には閻魔、四季映姫の姿があった。

その場に膝をつく者

泣きだす者

逃げだす者

その混乱は

やがて絶望となり

奇妙な静けさをもたらした


しかしその静けさは


一人の男によって破られた

「君たちは『犬』かね?」


静けさの中、その声は良く響いた

みなが振り向いた

神父は唐突と語りだした

「最近の動物の研究では・・・教育次第で犬やオームでも文字が読めたり、火を使ったり、果ては芸術を理解することもできるそうだ」

先ほどまで泣いていた者たちも泣き止んでいた
「そうなると。人と動物の違いは何か・・・わかりますか?」
男の声が この場を支配していた

「1967年のことだ。セリグマンという学者が一つの実験を行なった。
犬を『逃げられないケージ』に入れ、ある音を聞かせその直後に電流を流したそうだ。最初は犬も逃げようと努力したが、自分は何をしても『無駄』だということを、繰り返し繰り返し体験し、ついには逃げ出すことを諦めてしまったそうだ。
その後に犬は『逃げられるケージ』に入れられたのだが、音が鳴っても結局『犬』は逃げることはなかった。『学習性無力感』というそうだ」
プッチは声を大きくすることもなく、静かに続ける

「『恐怖を克服すること』これは人にしかできない。犬やオームではそうはいかない」
罪人達は頭をあげ、じっと次の言葉を待った。

「『勇気』だよ。人には『勇気』があるから素晴らしいのだ」
プッチは人を安心させるような声で力強く続けた

「さて、そこでだ。もう一度問いましょう」

「君たちは『犬』かね?」

「それとも『人間』ですか?」

この場はまだ静かだった。
しかし今度の静けさは、諦めたものではなく、闘志を秘めた静けさだった

プッチまだ満足していなかった。
もう一押し。あと一押し何かが必要だと知っていた。
今の闘志を爆発させるには、プッチによってではなく罪人達のなかから声を張り上げるものの登場が必要だと感じていた。
そんなプッチの気持ちに応えるかのように、罪人の中から声が聞こえた。

「オレは生前、2人の女と1人のガキを殺そうとして・・・返り討ちにあった」
一人の男がそう言いながら罪人の中を掻き分けてプッチのところまでやってきた。

「1969年7月アポロ11号のアームストロングが人類で初めて月面に立った歴史的事件。オレは今までそれのどこが偉いのかさっぱりわからなかった」
男は周りを見渡した

20ポール:2012/07/21(土) 20:56:37 ID:yI6Psmz20

「なぜならロケットってのは科学者とか技術者が飛ばすものだろう?人間じゃあなくっても行けるわけだ。現に今までハエだとか犬だとかサルだって宇宙に行っていた」
力強い眼差しをプッチに向け、再び罪人のほうへと振り向いた。

「だがオレは神父に出会ってその意味がわかったんだ。月面に立ったのは人間の『精神』なんだってなッ!人間はあの時地球を越えて成長したんだッ!」

「価値のあるものは『精神の成長』なんだッ!」


「これ、オレのセリフだぜ。カッコいいだろ」
紅茶を飲み終えたリキエルが唐突に言った

「ああ。カッコいいな。だが話の流れをぶった切ったせいで台無しだ」
プッチのやつなかなか話がうまいな。思わず聞き入ってしまったが、このリキエルとか言う男・・・バカなのか?話の流れを切るんじゃあない。

「まあまあ許してやってくれたまえ。ようやく出番がきたのだから」

「でだ?そこからどうなっていくんだい?」
続きを聞こうとしたとき、後ろから声が聞こえた

「それはですね!」

「うおッ!・・・映姫か!?驚かすなよ」
まさかわたしのストーカーをしていたというわけではあるまい。プッチを捕まえに来たのか?

映姫はプッチを捕らえようとするでもなく、こっちに来て座った。
「リキエル、私にもお茶を淹れなさい」
・・・?違うのか?それとも余裕か?

「映姫、君はプッチを捕まえに来たんじゃあないのかい?」
わたしの質問に映姫は『なに言ってんだこいつ?』という表情をみせた

「そんなわけありませんよ。ここに来たのは別の用事です」
どうやらワケありのようだな。まあ話の続きを聞いたらわかるだろう。

「続きを話してくれないか?」
プッチが口を開き、続きを話そうとしたとき、横から映姫の声が聞こえた

「そこから先は私がお話しましょう」

21ポール:2012/07/21(土) 20:57:40 ID:yI6Psmz20
次回予告
突然やってきた映姫。しかし彼女はプッチを捕まえに来たわけではないようだ。
一体なぜ?吉良の心に不安がよぎる。
彼らは何をやっていたのか!?プッチのもたらすものは世界の破滅か救済か!?
そしていよいよプッチと映姫が激突する!
次回 悪役幻想奇譚第十二話
『プッチ神父は天国を見るか?』
お見逃しなく!

22ポール:2012/07/21(土) 20:58:53 ID:yI6Psmz20
というわけで投稿終了です。今回はちょいと長かった。最初のプッチの演説は・・・はしょりました。
次は戦闘描写になるわけですが・・・うーん・・・難しい。

23セレナード:2012/07/21(土) 22:49:08 ID:iGyi8NFI0
投稿お疲れ様です。
今回のプッチは中々カリスマ性がありましたね。

戦闘描写ですが、私は戦闘の場面を頭の中でイメージして、それを文章で表現していますね。
そうするとうまくいくと思いますよ。

24ポール:2012/07/21(土) 22:56:41 ID:74XFLfAs0
ありがとうございます。
プッチはやればできる子。これからもどんどん強くなる(予定)。

なるほどイメージですか。う・・・イメージの中でプッチがいきなり盆踊りを始めた・・・勝手に動くな

25キラ☆ヨシカゲ:2012/07/21(土) 23:22:14 ID:wT3kDSUEO
ポールさん、投稿お疲れさまです!

プッチはやはり人を導くのが上手ですなあ。
次回、ポールさん初の戦闘シーンですね。彼が霊夢に勝てるほどの強さをどうやって手に入れるのかも合わせて、大変楽しみです。

私の場合は、まず能力の応用技や策略など、『決め手』となる場面を並べて、その間を埋めるように弾幕戦や肉弾戦を挿入してプロットを立てています。
ですが、そうするとどうしてもシステマチックに仕上がってしまうので、あまりお勧めできません。
とにかくメモに書き出してみるのが一番だと思います。

一人が投稿すると、固まって短期間で複数人が続けて投稿するのは、何か『引力』が働いているのでしょうか。
今日投稿しようかと思っていましたが、まだ完成しない……時間が掛かりすぎだ……
明日には投稿致しますので、お楽しみに。

26ポール:2012/07/21(土) 23:28:21 ID:74XFLfAs0
ありがとうございって、ええええ!さらっと重大な事を言ったような・・・完結間近ですか。なんとまぁ・・・

一応戦闘シーンのピースはいくつかできているのですが上手くはまっていってくれない。登場人物たちが勝手に動き回っていく。

27154:2012/07/22(日) 09:58:27 ID:3x5jp/rw0
ポールさん、投稿お疲れ様です。

プッチの盆踊り……気になります。
博麗神社とかで祭りをやればプッチはノリノリでし始めるんじゃないでしょうか?

28ポール:2012/07/22(日) 16:58:32 ID:kZMZcMeI0
ありがとうございます。
なんかイメージの世界に行ったらば自由に動き回りすぎて収集がつかなくなってしまう・・・。

29塩の杭:2012/07/22(日) 17:13:10 ID:J4x7Ka020
投稿お疲れ様です!
よーく振り返ってみると美鈴不憫すぎて…

プッチ神父って結構かっこいいなと読んでて気が付きました。
私の中では神父キャラはぶっ壊れたのしかいないんですよ…

30ポール:2012/07/22(日) 17:41:01 ID:kZMZcMeI0
ありがとうございます。
美鈴は不憫でいじられるキャラだけどいざってときは活躍する(可能性を秘めた)キャラというかんじにしています。
プッチ神父はなんやかんやでやっぱりかこいいですから。ちょっとズレてるかんじはしますけど・・・

31キラ☆ヨシカゲ:2012/07/23(月) 14:24:45 ID:/QZe41kI0
長く……苦しい戦いだった………
昨日投稿すると言いましたが、結局完成させることはできませんでした。
大変申し訳ありません。
それでは、『〜吉良吉影は静かな生き延びたい〜』、最終回を御覧下さい。

32〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:26:17 ID:/QZe41kI0



理不尽と絶望にギリギリと顔を歪め、射抜くように霊夢を睨む吉影。
その視線を平然と受け止め、冷徹に見下ろす霊夢。
両者の間に立ち込める覇気は周囲の空気を極限まで緊張させ、震わせる。
片や煮えたぎる溶岩、片や吹き抜ける涼風。
相反する気質の衝突が、審判の鉄槌によって幕を閉じようとした、
その寸前であった。

「待てッ!!」

響き渡る轟声。
その場にいる全員が、反射的に声の方向に目を向けた。
碧の彗星のように、高速で魔理沙達の上を飛び越えた影。
紫、藍、魔理沙、命蓮寺組、紅魔館組、射命丸、妹紅、吉廣、
翠の人影は彼女達の前に降り立つと、蹲り息絶えようとしている敗者のみを、その双眸に映した。

闇に輝く紅い瞳、
月に煌めく薄緑の髪、
そして、頭に備えた双つの角。
上白沢慧音は満月の下、吉影を見据え佇んでいた。



〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜
第二十七話 満月の妖獣、人喰い猫の幻―Never Grow Old―



OP 凋叶棕『月光照らすはシリアルキラー』【ttp://www.youtube.com/watch?v=laXpE8Zpdts】

33〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:27:02 ID:/QZe41kI0



「――――――上白沢………慧音……」
吉影は身体を震わせながらも顔を上げ、慧音に目を向けた。
腹部を貫く激痛に耐え、腕に満身の力を込めて、身体を起こす。
さらに、足をグッと踏ん張り、フラフラと危なっかしい姿勢ではあったが、立ち上がった。
「――――――吉良………吉影………」
血ヘドにまみれた痛ましい彼の姿を、慧音は真っ直ぐな瞳で見詰めた。
その双眸には何か、言い知れぬ『決意』を静かに湛えている。
「…………、っ?」

ガオンッ!

慧音に視線を向けていた霊夢が、突如現れた空間の【スキマ】に呑み込まれ、消えた。
同時に、紫の隣に開いた【スキマ】から、霊夢が吐き出される。
「何よ紫?
私の【仕事】は……」
不機嫌そうに食って掛かる霊夢を、紫は扇で制す。
「いいえ、『ここから』よ。肝心なのは………
黙って見ていなさい。」
霊夢に目を落とすことなく、相対する二人を視界に収め、紫はそう諭した。
霊夢は納得こそしてはいない面持ちだったものの、口をつぐみ二人に焦点を合わせる。
二人の【最後】の会話は、吉影が口を開いたことを皮切りに始まった。

「――――――その名で君に呼ばれたのは…ケホッ……思えば、初めてだったな…………ええ?上白沢慧音………」
口の端から血を溢し、吉影は慧音を睨み付ける。
「……何の用だ…?今更……
わたしにトドメを刺しに来たのか?
お前がわたしの【正体】に気付かず匿っていたから、こんな大騒動になったのだ……自分の手で決着を着けたい気持ちも、分からなくはないが………」
吉影の言葉を聞き、慧音は静かに首を横に振った。
「………違う。
私は……君に謝罪するために、ここに来た。」
吉影の黒い瞳を見詰め返し、慧音は強い決心を込めて、そう言った。
「私の『謝罪』を聞く前に……どうか気を強くもって欲しい。
君の【生命】に関わる…大事な話なんだ……」
言葉を切り、暫し流れる沈黙。
魔理沙達が息を呑んで見守る。
――――――やがて、慧音は口を開き、緊張した声色で、だがはっきりと、こう言い切った。
「――――――霊夢に君を【外】へ帰さないよう依頼したのは………私だ。」
その場に走る、緊迫の静電。
吉影はピクリ、と目を僅かに見開き、慧音を注視する。
「………その理由を話す前に………君には、説明しなければならないことがある。
――――――君はもう……『死んでいる』んだ。」
言葉を選ぶように、慧音は告げた。
「……君が人里にやって来た新月の晩……その時には既に、君は肉体を失っていた……
無縁塚に死体が残されていなかったことから、おそらく【外の世界】で死に、亡霊となって【幻想郷】に流れ着いたんだと考えられる……
【幻想郷】の亡霊は、外のイメージとは違う。
実体を持ち、飲み食いし、普通に生活できる。
だが、『自分が死んだこと』を自覚した時、それは高確率で成仏してしまう…
だから私は、君にそのことを伝えなかった……折角『生きて』この世に存在しているのに……それを『殺す』ようなことは、私にはできなかった……」
一言一言、噛み締めるように、慧音は言葉を繋いでいった。
「……そして、霊夢に君を帰さないよう依頼した理由………
君が【外の世界】に帰ってしまえば、【幻想郷】の影響が消滅し、君は実体を保っていられなくなる。
そうなってしまえば、誰にも見えず、話せず、孤独な幽霊のまま、永遠にさ迷い続けなくてはならない………
そんな目には……遭わせたくなかった……」
吉影は、チラリと自分を眺める少女達に目を向ける。
妹紅が真摯な表情で、彼をじっと見据えていた。
「……だが、結果として君をここまで追い詰めたのは……私だ…
私なんだ……!
霊夢は、悪くない……ただ、私の独りよがりな頼みを聞き入れて……【汚れ役】を黙って引き受けてくれただけ……
恨まれるべきは、彼女じゃない……この私なんだ……」
慧音は両手を固く握り締め、小刻みに震わせながら、そう告げた。
慧音の告白に、吉影は黙って耳を傾けていた。
「…………そして……
もう1つ……君に謝らなくてはならないことがある……」
歯を食い縛り、苦悩の滲む声で、慧音は独白を続ける。

34〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:27:43 ID:/QZe41kI0
「君が里の男衆に襲撃された翌朝……君は永琳に『永琳亭への移住』を頼んだと……そう、言ったな…
実は…その時、既に……私は永琳に依頼していた………
『君を永遠亭に住まわせる』ことを……」
吉影の眉が、僅かに動いた。
「君が里人の迫害を受けて、苦しんでいる様子が見ていられなかったから………永琳なら精神科の心得もあるから、君の苦痛を和らげてくれるだろうと……………
…………いや……違う………
本当は……私は……
君を疎んでいたんだ………君を遠ざけたかったんだ…!
過去の忌まわしいトラウマが……鎌首をもたげてきて……!
またあの、人に蔑まれる日々が来るんじゃないかと……折角築いた信頼を、君のために失ってしまうんじゃないか、と……!
怖くなって……そうしたら、君が私の家にいることに耐えられなくなって…!
とにかく家から追い出さないと、と焦燥感が襲ってきて…っ!!」
慧音は泣き崩れ、膝を地面に着いた。
「私は君を……!裏切った……!
すまなかった………許してくれ………!」
慧音は踞り、嗚咽した。
固く縛った両目から、涙が流れ、地面に落ちた。
「…うう………ううう………
ああああ………うあああああああああ………」
啼いて侘びる慧音を、吉影は無言で見下ろしていた。
焼け野原の境内跡に、慧音の嗚咽だけが響き渡る。
二人を遠巻きに眺める少女達は、固唾を飲んで吉影の返答を待ちわびていた。

――――――やがて、吉影は口を開いた。
「……………それだけか?」
一同を包む空気が、凍った。
震えていた慧音の肩が一瞬、ピタリと止まる。
女の魂の底からの告白を、冷酷な一言で無下に散らした殺人鬼は、さらに畳み掛けるように言い放つ。
「【裏切り】だと?
フン、元より信頼などあったと思っていたのか?
私を帰さなかった理由?
今更それがどうした……わたし自身の意思で、わたしは既にここまで来てしまった……このザマに至ってしまった。
最早【始まり】など何の意味も持たない……【謝罪】なんてものも無用の長物だ…」
静かな、だが強い語調で、吉影は冷然と言葉を吐きかける。
「極めつけに、『お前は既に死んでいる』だと?
そんなこと、わたしはとっくに知っていたさ……
何故ならわたしは……一度殺されて【ここ】に流れ着いたのだからな……」
そう吐き捨てると、今度は口角をつり上げて、嘲笑うように言葉を投げ掛けた。
「【実体】を失う…?
フンッ……大きなお世話だ。
いいか……よく考えてみろ……
【外の世界】では、今日は西暦2011年12月10日……【この世界】の暦では、西暦に直して2012年4月7日…
そして明日は4月上旬の【満月】後の最初の日曜日、イースター…『【あの御方】の【再誕祭】』………
どちらの暦が正しいのか……そんな事はどうでもいいことだが、重要なのはわたしが死んでから実に13年もの時が経過していることだ。
もうわたしには身分証明できるものは残されていない。
整形でもして誰かと入れ替わるくらいしか、【平穏な生活】を手にする手段は無いんだよ。
…そう考えると、どうだね?
実体があるよりも、無い【幽霊】である方が都合が良いんじゃあないかね?」
踞る慧音を見下ろし、ほくそ笑む。
慧音の嗚咽は止まり、ただ俯いて沈黙を保っていた。
「……随分と無駄な苦労をしてきたんだな……君も……
しかし、さっきも言ったとおり、君には別段恨みもない。
したがって復讐しようなどという気持ちもない。
…だが、もし君が本当にわたしに対して申し訳ないと思っているのなら……」
頭を落とし平伏す彼女を見る瞳に、妖しい輝きが踊った。
「わたしの【逃亡】の手助けをしてもらおう…
……わたしの【歴史】を、喰らえ。」
慧音の身体が、震えた。
「ここは『博麗神社』――――――『幻想と実体の境界』……
この世界にわたしを縛り付ける【碇】が消え去れば、この場所から、一気に【外の世界】まで浮上できるかもしれない……」
吉影の声に、希望の熱が滲む。
絶望しか見えない境地の中、突如舞い込んで来た【幸運】。
慧音の来訪も、告白も、その程度としか受け取っていないかのような言動に、妹紅は歯軋りし怒りを堪える。

35〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:28:58 ID:/QZe41kI0
「さあ………どうする?
どうするんだ?
このままだと、わたしは死ぬぞ……そこの巫女と大妖怪の手によって。
謝罪したいんだろう…?このわたしに……
ならば、迷うことは無い筈だ……わたしの【歴史】を喰らえ。
それとも、先ほどの言葉………あれは嘘だったのかね?
わたしを逃がして、あの二人に責任を追及されるのが怖いからか?
また保身のために、わたしを『裏切る』のかね?」
「…〜〜〜〜ッ!!
お前……っ!」
遂に堪えきれずに、妹紅が怒りを露に吉影に飛び掛かろうとした。
だが、

――――――スッ……

慧音が右手を掲げ、妹紅を制した。
「け……慧音………?」
妹紅はたじろぎ、後ずさる。
吉影は、慧音が了承したと見て、満足げに笑う。
「助けてくれる、と言うんだな……?
礼を言うぞ……上白沢慧音……」
ニヤリと口角を上げ、慧音を見下ろす吉影。
「慧音…ッ!?」
「慧音さん……!?」
命蓮寺と紅魔館の妖怪達、魔理沙、妹紅が息を呑み、彼女に視線を集中させる。
慧音は掲げていた右手を、ゆっくりと自分の前に下ろした。
そして左手で右手首を掴み――――――

――――――ゴギンッ……!

「――――――……え………?」
少女らの口から、疑問符が漏れた。
吉影が目を見開いたまま、硬直する。
慧音の右手は、あり得ない位置から曲がっていた。
自分の左手で、力任せにへし折ったのだ。

「………………………………
…………なにを……やっている……?」
強張った表情で、吉影は困惑した声で呟き問うた。
慧音は無言で、尚も左手に力を加える。

……ミシッ……ブチッ………ミキミキ…

さらに不快な音が耳に届き、吉影は慧音の行動を理解した。
「おい……ッ!
なにをしている…ッ…!?
そんなこと…ッ!わたしは頼んじゃあいないぞ…!?
止めろッ!」
唇を噛み締め、青ざめた顔を歪めて、吉影は慧音を制止しようとする。

ブチブチィッ……ミギ……ゴギッ…………

慧音は左手の力を緩めず、右手首を引き千切ろうと捻り続ける。

36〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:29:33 ID:/QZe41kI0
「止めろォ……!
誰がそんなことをしろと言った!?
止めるんだ…ッ!手が…、手が…ッ!
ああ…!!腕が………!」
吉影の顔に、はっきりと分かるほど焦燥の色が濃くなった。
声は上ずり、その叫びは嘆願にも似た様相を呈してきている。
彼の言葉に耳を貸さず、慧音は右手への攻撃を止めない。
「――――――望むなら……左手も……」
骨折した部分で皮膚が裂け、肉が露になる。
「…望むなら………右足も………」
筋肉がブチブチと千切れ、血が噴き出す。
「望むなら……左足も………」
腱が伸びきり、悲鳴を上げる。
吉影の額に汗が浮かび、肩がガクガクと震えだした。
「止めろ…!!
違うッ!
そんなんじゃあないッ……!!
止めてくれ…ッ!止めろォッ!」
懐から拳銃を抜き、慧音に向ける。
「今すぐその手を放せ!
わたしの【歴史】を喰えッ…!
できないというなら………!!」
震える手で照準を合わせ、安全装置を外した。
硬直した人差し指を無理矢理曲げ、引き金に指を掛けようとした。

――――――ガシィ!

「…!?
なァッ………!?
キ、【キラークイーン】……!?」
彼の背後に佇む【キラークイーン】が、拳銃を掴み押さえていた。
振り向き、見上げると、フルフルと首を横に振り、猫のような双眸で、彼を見詰め返した。
「……キ…【キラークイーン】………!」
【スタンド】は本人の無意識の力、その【スタンド】が彼を制止したのだ。
それは、即ち―――――

――――――ガシャッ…

吉影の右手は力を失い、拳銃は地面に落ちた。
慧音の左手も力は抜けたものの、まだ右手を掴んで放していなかった。
「――――――………消したくない………
無くしたくない……!」
俯いた慧音の口から、涙に掠れた声が聞こえた。
「……君の【歴史】を……無かったことにするなんて………
…できない……!
イヤだ……それだけはイヤだ……
……すまない…っ!
すまなかった…本当に………!……吉良…吉影………っ!!」
髪に隠れた彼女の頬から、涙の滴が伝い落ちた。
慟哭し踞る慧音の姿を見下ろす吉影の瞳も、潤み始める。
「ぐ……、…くっ……!
う……うう………!」
ガクリとくずおれ、膝を地面に落とした。
左手を土に着き、右手で顔を押さえ、項垂れる。
「うう……っ…あ………ああああ…………
ううああああああ…………ああ……」
消え入りそうな声で、嗚咽を漏らす。
冷酷さを装い、仮面の裏に押し留めていた感情が、溢れ出した。

37〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:30:50 ID:/QZe41kI0
BGM GET IN THE RING『remains〜Another side of moondust〜』【ttp://www.youtube.com/watch?v=-JEVsgz0LQw】

――――――何故だ
どうしてこうなってしまったのだ
こうならないようにするために、彼は闘ったというのに
こうならないために、彼は自分を切り捨てたというのに

――――――彼女の手を見る度、彼は自然と思った
………『美しい』と
里の子供達を育み、未来を紡ぐ
彼女こそが『吉良(きちりょう)』なのだと

――――――そして、彼女の手を見る度、彼はまた自然と、こう思い知らされた

……なんだ?
わたしの手は。
血に濡れ、罪に穢れ、数多の女の未来を奪った、朽ちた亡者の手。
『駄目だ』。
こんなもので触れてはいけない。
穢れてしまう。
壊れてしまう。

自分の穢らわしさを
自身のおぞましさを
例え慧音に【歴史】を読まれなかったとしても
例え自分の【衝動】が、ふと消え去ったとしても
自分だけは、知っている――――――

だから彼は、贖罪を求めた。
罪を清めたかった。
だが自分自身では、どうしようもなかった。
彼の心には過去の犠牲者達に対して、一片たりとも『罪の意識』と呼べるものは無いのだから。
『人殺し』は【悪】だ。
『人を不幸にする』のは【害悪】だ。
分かっている。
分かっているんだ。頭では。
だが、【罪悪感】という感情はとんと湧いてこない。
生まれついた時から、人として重要な何かが抜け落ちて産み落とされたからだろうか。
そのような情緒が生まれる土壌は、彼の中には無かった。
どれ程懺悔を口にしようとしても、
出てくるのは謝意の無い空虚な言葉ばかり。
【罪悪感】に苛まれている人間は、きっとこの世にごまんといるのだろう。
だが、『【罪悪感】が無い』ことに苦しむ人間は、果たして何人いるのだろうか。
『罪の意識』があるなら、この複雑怪奇に絡み合い連なった不幸の連鎖も、『報い』として受け入れることができるだろう。
だが、彼には受け入れられなかった。

だからこそ、彼は【遺体】にすがった。
【あの御方】の復活を手助けすれば、自分の【罪】も清められるかもしれない。
【化け物】として生まれてしまった自分を、【人間】にしてくれるかもしれない。
ただそれだけを希望に、彼は抵抗し続けた。

――――――だが、駄目だった。
ことごとく彼は自身を、不幸へと追い込んでいった。
慧音の優しさに、
霊夢の生真面目さに、
彼は見事に騙され、破滅へと身を沈めていった。



「……ううう…………
ああ………っ…ああああああああ……
おおおおお………お…」
踏み外したこの足を赦し合えないなら、
この手を取り合えないなら、
なんのため門は開かれて、敵を招き入れるのだろうか。

鬼が泣くな
泣きたくないから鬼になったのだろう
人は泣いて涙が枯れて果てるから、
鬼になり化け物に成り果て、成って果てるのだ
ならば笑え
傲岸に不遜に笑え
いつもの様に

「――――――うあ…あああああああ…………ああああ……
ああああああ………おおお……くっ………
おおおおおおおお………あああ…………」
がっくりと項垂れ、吉影は泣き続けた。
だが、その嗚咽は微かで、周りを取り囲む連中には届かない。
目の端に涙は滲めど、それらが流れ落ちることはない。
――――――そう、この男、まだ心折れてはいないのだ。

「(――――――打ち明けよう………)」
涙と嗚咽を堪え、吉影は右手を下ろした。
「(……………『最期』に………打ち明けるんだ……)」
顔をあげ、俯き泣き伏せる慧音を見る。
翠の髪と白い双角が満月に煌めいている。
それを映す吉影の瞳に、安らかな灯りが点った。
「――――――慧音………」
吉影は、ゆっくりと口を開き、涼風のごとき静かな声で告げた。
「――――――わたしは君が……………好きだった。」

38〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:32:09 ID:/QZe41kI0
――――――沈黙。
誰も言葉を発さなかった。
慧音の嗚咽も止まった。
風や遠くの木の葉のざわめきでさえ、押し黙った。
この場にいる全てが、彼の口から語られた言葉に聞き入っていた。


――――――――――――――
――――――この無音の境地を破ったのは、その『告白』をした本人だった。
「―――――――だがこの『言葉』はッ!!
誰の【歴史】にも残らないッ!」
大音声を張り上げる吉影の隣に、虚空から【写真】が現れた。
「ッ…!あれは…ッ!!」
レミリアが気付き、叫ぶ。
『前の一時間』、フランドールを呼び出す時に使った【写真】が、吉影の横に展開した。

―――――――『…吉良吉影………
心するのだ……
「【全て】を敢えて差し出した者が、最後には真の【全て】を得る
ましてや、【自分の最も大切な者】を捧げたなら……」――――――
覚えておきなさい』――――――

脳裏をよぎる、【あの御方】の預言。
「(――――――『捧げろ』…………)」
吉影は振り返り、【写真】を睨む。
この【写真】の向こうには、あの娘がいるはずだ。
自分の血を分けた、『大切な娘』が。
「(『捧げる』んだ…………
自分の……!『最も大切なもの』を………ッ!!)」



――――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――

「――――――……フラン、ここから先は【契約】だ……よく聴いておきなさい。」
顔を落とし、フランの耳に口を寄せて、囁いた。
「―――――――もしわたしが、君の心を裏切ったなら………そのときは…………
――――――『わたしの血を吸え』――――――――」



BGM 凋叶棕『ヒメゴトクラブ』【ttp://www.youtube.com/watch?v=aPGp_quQKFs】

――――――――――――――――――――――――――――――

――――――彼女は、聴いてしまった。
自分の愛した男が、永遠を誓った男が、
自分以外の女に、愛を告げているのを。

ドオォォ――――――――!ッ

【写真】から紅い霧が飛び出し、目にも留まらぬ速さで吉影に襲い掛かった。
【写真】から躍り出た霧は少女の姿を再構築し、彼を強引に組み伏せると、

ドズッ――――

吉影の首筋、【遺体】により伝染した『星型の痣』に、牙を突き立てた。
「(――――――――『わたし』を捧げる――――――――ッ!!)」
フランは全身を【写真】から出すと、さらに深く喰らい付き、血を貪る。
吸血鬼の力と鋭利な牙に、彼の肉は紙の如く容易く破られた。
吉影の双眸から、フッと光が消える。
その目は『諦め』や『絶望』というよりは、『悟り』や『安らかな最期』といった穏やかな暗さを帯びていた。
「(これで……わたしは…わたし自身を【差し出した】……
結局わたしが心を許せたのは……親父とお袋、そしてフラン、彼女だけだった……
女の【心】ではなく【肉】を求め続けてきたわたしは、血の繋がりというものしか信用しない、古い石頭の人間だったのかもしれないな……)」
傷が頸動脈に達し、鮮血が迸る。
「(【フランドール・スカーレット】……ただのちっぽけな少女のために……あれほど執着していた【平穏】を………捨ててしまった――――――――
だが、ま…それもいいか………
これでわたしの気分もなかなかに………清らかだ。)」
物凄い力で押さえ込まれ、体力も空っきしで、腕一本まともに動かせない。
「(フラン………わたしは……『悪い大人』だ……
君の心を………裏切った……)」
宙を見上げる彼の目は、暴漢に汚される処女のように切なげに、暗く虚ろに沈んでいく。
「(だから……【契約】通り、わたしの何もかもをくれてやる………
わたしの血を、吸え…
わたしの意思を、お前の思い通りにできるように………)」
コプッ…、吉影の口の端から、血が流れ出る。
「………だめ……
…いや………!
吉影……吉影が…っ死んじゃう………!
やだぁ……止めて…っ!止めてよ……私…っ!!」
彼の首に食らい付いて生き血を啜るフランの目から、止めどなく涙が溢れる。
【契約】の重圧、その取り返しのつかなさを、身をもって体験しているのだ。
理性と本能、
抑制と衝動、
悲哀と快楽、
絶望と絶頂、
攻めぎ合い渦巻く刺激に身を捩り、悶える四肢を抑えようとするように、吉影の胴にすがり付く。

39〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:33:21 ID:/QZe41kI0
彼女が背中を震わせて、手加減なく吉影にしがみつく度に、彼の満身創痍の肉体は悲鳴を上げる。
骨は砕け、僅かに残った内臓は潰れ、口から血が滴る。
「(……泣くな…フラン………
子供が大人にプレゼントをもらう時………そのプレゼントの値段なんて、気にかけないものだ……
わたしの【命】などという……【腐った林檎(ろくでなし)】のような安い対価を叩き売って絞り出した、安物の【血】など、尚更……)」
脈動とともに噴き出す血を飲み下す度、体内を駆け巡る痺れるような熱。
よがり、肢体を仰け反らせ、狂おしく押し寄せる悦楽の波に抵抗しようとする。
が、【契約】に縛られた悪魔の血と、堪えがたい快楽に、フランの全神経は押さえ付けられる。
本能と自制の板挟みに、彼女の精神は揉みくちゃに掻き乱されていた。
「(…だから……泣くんじゃあない………
笑え……最期くらい……笑顔で……看取って………)」
殆ど力のない腕をフランの背中に回し、抱き寄せる。
「……ヤダ………!…ヤダ…よぉ…!
……私…っ…吉影を殺しちゃう………!
そんなのヤダ…っ!
ずっと一緒だって……!約束したのに………っ!」
だが、彼の意に反して、フランは慟哭し抵抗を続けた。
口からおびただしい血を溢し、吸血の悦楽に脳髄を焼かれながら、肉の疼きに堪え、咽び泣き身体を捻る。
鮮血を撒き散らして暴れのたうち、抗いながら、少女が男の肉を喰い千切り血を貪る………、
【交合】と言うにはあまりに的確で生々しい、壮絶な情景だった。
「(………そうか……
フランは…例えわたしを自分のものにできるのだとしても………わたしを殺したくはなかったのか………
まったく、我ながらつくづく人の気持ちの分からない奴だ………
これでは……、真っ当な人間などには…なれそうもないな………)」
フッ――――、力なく微笑み、右手をフランの頭に乗せた。
髪を鋤くように、ゆっくりと撫でる。
「(――――――――こんなにも優しい………良い娘だというのにな……)」
震える指先で、泣きじゃくるフランの髪を撫でる。
目尻に滴が光り、流れ落ちた。
「(…今まで……辛かっただろう……寂しかっただろう………
だが……もう大丈夫………わたしはお前のものだ……永遠に……)」
レミリアの言う通り、それは血の共有による【思い込み】なのかもしれない。
【錯覚】なのかもしれない。
裏路地の暗がりで泣いている迷子の子どもを、悪人が【飴玉】でなだめ手懐けた、それだけなのかもしれない。
だがこの感情は、例えそれが【悪魔の証明】なのだとしても、『証明されるべきもの』なのだ。

「(――――――――意識…が……霞が…かかってきた……
もう……そろそろ……限界…か)」
吉影の右手がフランの頭から離れ、ダラリと垂れた。
脳への血流が滞り、思考が回らない。
吉影は死を悟り、安らかな表情で目を閉じた――――――――その時だった。

――――バジィッ!

「……?」
フラン、そして吉影は、【音】を聞いた。
決して大きくはないが、すぐ近くで発生した音。
その直後、

ガアァンッ!!

「〜〜〜〜ッ!?」
銃声のような轟音、
同時に突如フランが驚愕に目を見開き、口を首筋から離して仰け反った。
「…か………は…っ!?」
カッと開いたフランの口から、煙が立ち上る。
咽頭の奥に何かが入り込み、彼女の肉を焦がしていた。
噛み付いていた場所、『星型の痣』から飛び出した【矢尻】が、フランの口内を貫いたのだ。
突然の出来事に、フランは目を白黒させて困惑した。
その間にも、勢いを失った吉影の血は体外に零れ落ちていく。
血はフランの赤い洋服を深紅に染めていった。
「(…あーあ………こんなに溢してしまって………
もう残り少ないというのに………勿体無い…
もうおべべも取れる年頃だろうに………
まったく…手の掛かる娘だ………)」
朦朧とする意識の中、吉影は目だけ動かしフランを見た。
最早視界がぼやけ、フランの表情も分からない。
「(………よく……見えない…な……ぁ…
……顔を…見せてく……れ…
よく……見えるように……)」
身体を起こし、フランの頬に手を添えようとする。
だが、既に死に体の彼の四肢は言うことを聞いてはくれない。
「(くそ……
手が……動かない……
こんなに……近くにいるのに………)」
力尽き、伸ばしていた腕がカクンと落ちた。
その時、

40〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:34:26 ID:/QZe41kI0

グッ―――――!

「――――――――!」
【キラークイーン】が吉影の手に自分の手を添え、彼を抱き起こした。
「(【キラークイーン】………!
………そうだ…わたしの【精神】はまだ死んじゃあいない……
せめて…最期に……全て『与える』だけなら……!)」
血と涙に濡れたフランの頬を、両手で掬うように掴むと、

―――――――――――――――――――――――

フランの唇に、自分の唇を重ねた。
「――――――――!」
フランは言葉なく、目を見開いた。
吉影の唇は、体温を失い、既に死人の冷たさを帯び始めていた。
だが、体温とは違う温もりが、フランの中へと伝わっていった。

――――――――バジッ…!

【矢尻】に貫かれた咽頭に、電撃が走る。
傷跡の周りに『星型の痣』が浮かび上がり、そこから星の印のついた【シャボン玉】のような泡が飛び出す。
「――――――――【ソフト&ウェット】――――――――」
【泡】は吉影の唇から中へ入り………

――――――――パチィンンン……

小さな音をたてて、割れた。
吉影の全身から一切の血液が『奪われ』、一瞬でミイラのように干からびた。
その瞬間、フランの中に流れ込んで来た、膨大な【イメージ】。
幼き日のこと、
母親の愛情と虐待、
最初の殺人、
東方仗助との戦いと死、
慧音との出会い、
走馬灯を覗き見ているかのように、吉影の人生の記憶が脳裏に浮かんでは消えて行く。
「(これは………私?)」
薄暗い地下空間で、前方に佇む少女。
少女は壊れた笑いを満面に湛え、襲ってきた。
殺すつもりで、応戦する。
そこには敵意しか存在しなかった。

場面が変わると、少女は水浸しで踞っていた。
「(ここは……あのときの……)」
手を伸ばし、帽子を被せてやる。
優しく言葉をかけ、血を与え、籠絡する。
「(え…………?)」
その言動の裏に渦巻く、黒い思惑。
少女を利用するための駒としか見ていない、邪悪な思考。
「(…うそ………やだ……!…うそよ……っ)」
ショックで胸が張り裂けそうだった。
涙が滲み、溢れ、頬を濡らす。
だが、そこで【イメージ】が加速をし始めた。
怒り、悲しみ、苦痛、安堵、
目まぐるしく回り駆け巡る感情。

少女の安らかな寝顔に目を落とし、穏やかな心を抱いたことに対する困惑、
自分に乗り掛かり、泣き崩れる少女、
同時に溢れる感情の渦、
自分の中で大きくなり、確固たるものとなったその【情】、

そして、泣きじゃくる姉の告白、
フランの前では決して見せなかった、弱さと優しさ、
それらが高速で流れ、弾けた。

41〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:34:59 ID:/QZe41kI0

――――――――そして、現在へ。

吉影の『全て』は血を媒介して、彼女のものとなっていた。
彼の全てを、吸血鬼の少女は『受け継いだ』のだ。



吉影は、自分の命が足下から消えていくのを感じた。
薄れ行く意識の底、最期に彼の脳裏をよぎった言葉、
「(―――生ひ立たむ ありかも知らぬ 若草を
―――後らす露ぞ 消えむ空なき―――)」


―――――――――――――――――――――――

吉影の命は、途絶えた。
亡霊として存在する彼を構成していた魂は、一片残らず吸い尽くされた。
遺されたのは干からびた、魂の脱け殻。

「――――――――死んだわ。」
紫の呟き。
何の感情も無く、感傷も無い、冷めきった声。
少女達は硬直したまま、フランに寄り掛かる遺骸を見詰める。
もう二度と動くことはないであろう、【幻想郷の敵】の最期の姿。
確実に、事切れていた。

…………だが、

次の瞬間、一同に駆け巡る、確信。

『―――――――この男の意志は、まだ潰えてはいない』。

――――――――ドクン――――

止まっていた心臓が、脈を打った。
フランの口から立ち上る【煙】を吸い、小さく、だが力強く、肉体の中心が鼓動を始めた。
胸、腹、肩、頭、腰、腕、脚、手、足、
カラカラに干からびた身体が、風船に空気を吹き込むように、中心から脈動の度に膨らんで、瑞々しさを取り戻していく。
空っぽだった腹部には、内臓がしっかと詰められ、
砕けた腕や手は、ミシミシと軋んで再生し、筋肉が隆起する。
喰い千切られた首筋は、傷がみるみるうちに塞がっていき、

――――――――彼は――――
――――吉良吉影は、【受肉】した。

42〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:35:30 ID:/QZe41kI0



「―――――――
―――初草の 生ひゆく末も 知らぬ間に
―――いかでか露の 消えむとすらむ―――」
フランドールの霞によって、儚い露は再び初草の葉上に降りてきた。
「―――――――わたしの何もかもを与えたが……彼女の何もかもを手に入れたぞ………」
亡霊、吉良吉影は、肉の身体を得て、その身を起こす。
吸血鬼の肉体が揮発して生じた【煙】を吸い【受肉】したが、吸血鬼の象徴たる牙の発達や、翼の形成などはない。
ただ、全身に【スタンドパワー】がはち切れんばかりにみなぎり、欠損した部位が異常再生しただけだ。
「――――――――――
………………吉……影………?」
記憶の撹拌による衝撃と、予想だにしなかった吉影の甦生を目の当たりにしたショックで、茫然と座り込み呟くフラン。
涙に濡れたその頭を、吉影は左腕でそっと抱き寄せた。
『これから起こること』を、彼女に見せないようにするために。
胸にフランを抱いて、十メートル程度離れた位置に座り込む慧音を見据え、右手を彼女に向けた。

グンッ――――!

慧音の中から【破壊の目】が引き出され、吉影の右手に集束する。
「【キラークイーン】!」
【キラークイーン】が慧音の【目】に憑依し、彼女のもとへと帰って行く。
【目】は慧音の中に戻り、【キラークイーン】が取り憑いた。
甦生からの一連の行動は剰りに衝撃的かつ迅速すぎたため、
その時になって漸く、その場にいた者たちの反射神経は吉影の行動に追い付き始めた。
「奴の【スタンド】が慧音に憑依しました!」
美鈴の叫びで、レミリアは吉影の意図を理解した。
「(まずいっ…!?
今慧音に誰かが『質問』したら、【バイツァ・ダスト 一条戻り橋】が発動してしまう!!)
みんな!慧音に『質問』しちゃ駄目―――――――!!」
レミリアの絶叫は、しかし、僅かに先に沸き上がった喧騒に掻き消された。
「なんだって!?
ヤツの能力が!?」
「復活したっ!?
吸血鬼化したというの!?」
「慧音ッヤツに何を―――――――」
同時多発的に発生した言葉の奔流。
それらのどれかが【引き金】となり、吉影の最後の【能力】は発動した。

カッ――――

慧音の肩の上に、ミニチュアサイズの【キラークイーン】が現れる。
「居たぞっ!肩の上だッ!」
「あれがヤツの【能力】っ…!」
「私にも見えたぜっ!」
「慧音ッ顔を逸らせ!
私が焼き払う!」
『目撃』した者たちは一斉に攻撃を加える。
「ええぇェェェいッ!!」
レーザー、弾幕、火炎、放たれた十数発もの集中砲火は、しかし虚しく空を切った。
「何………!?」
驚愕に目を見開く少女たち。
その瞳の中には既に、【キラークイーン】の【像】が入り込んでいた。
「【起爆条件】は満たされたッ!!
この一時間の【事実】と、一ヶ月の【歴史と記憶】を消し飛ばすッ!」
吉影の咆哮が響き渡る。
「(―――――――さよならだ――――上白沢慧音―――)」
来るべき爆音と平穏を胸に、吉良吉影は目を閉じた。


―――――――――――――――――――――

――――――――――――――

「―――――――………?」
訪れるべき大殺戮も、起こるべき時空の爆破も発生しない。
吉影は、ゆっくりと目を開けた。
―――――――そして、硬直した。
「……………『内と外の境界』を操作して……【スタンド像】をみんなの中から弾き出せば………」
日傘を軽く掲げ、紫は頭上を指す。
「ほら、このとおり。」
紫の日傘の示す先、ミニチュア【キラークイーン】が、紫色の結界に捕らわれていた。
「このクソカスどもがァァァ―――――ッッ!!」
吉影が絶叫を上げ、左手を紫に向けた。
次の瞬間、

ガオンッ!

【スキマ空間】が彼の両手を呑み込み、切断した。
「うぐウゥゥッ!?」
血が飛散し、地面に落ちた【写真】に降り掛かる。
断面から迸る鮮血が、フランの黄金色の髪を紅く染めた。
「―――――――え………?」
生暖かい液体が髪にかかり、フランは顔を上げ吉影の惨状を目の当たりにする。
「吉影っ!?吉影ッそんなっ―――――――」

――――クパァ―――

フランの背後に、【空間】が口を開き、
反応する間も無く、中から伸びる無数の腕が、フランをがんじがらめにひっ掴んで、
「吉影ェェェ―――――――ッッ!!」
フランの悲鳴を残して、彼女を亜空間へと連れ去った。

43〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:36:02 ID:/QZe41kI0
「フランッ……!?」
虚空へ消えたフランの方を見て、愕然と目を見開く。
「ぐゥッ……!!」
立ち上がろうと体勢を立て直すも、

シパァァン――――――

紫が人差し指と中指で空を切った。
ただそれだけで、吉影の両足は風船が割れるように弾け飛んだ。
「ぐあアァアァァッ!?」
身体を支えるものを失い、鮮血と肉片を撒き散らして前のめりに倒れ込む。
両手両足を破壊され、おびただしい量の血液が噴き出した。
「吉影っ!?」
慧音が叫び、飛び寄ろうとするが、
「ぐぅっ!?」
紫の張った結界に、無情にも跳ね返された。
「紫っ今すぐ止めろッ!
話を聴いていただろうっ!?
悪いのは私だ!
裁くならこの私を―――――――!」
慧音が紫を睨み怒鳴るが、紫は日傘を吉影に向けて冷ややかに笑う。
「『悪い』?
いいえ、貴女は悪くなんてないわ。
貴女はこの唾棄すべき【化け物】に、精一杯の思いやりを以て接してやった。
それを踏みにじったのはこの男よ。
誰も貴女を責めはしないわ……この【怪物】の味方もね。」
冷然とした瞳で、静かに慧音を見返す。
「…………っ!?
…お前は…………ッ!!」
ギリッ、金属的な音を溢し、歯を喰い縛って紅い眼で紫を睨み付ける。
「…………亡霊と吸血鬼のハイブリッド………なんとも邪悪で、醜悪ね。」
【結界】で囲まれ、手足の断面から脈動に合わせて血を迸らせる吉影に視線を戻し、日傘を振り上げる。
「……半白沢の嘆願に沿って、少しだけ優遇してあげるわ。
御希望通り、貴方を【幻想郷】の外へ出してあげましょう。
破格のサービスで、永遠の【平穏】もおまけしてね。」
両手両足を失い、芋虫のように地に転がされ赤黒い血溜まりを拡げる吉影に、冷酷な判決を告げた。
「目と鼓膜を抉り、舌をもいで孤独に暮らさせてやるわ…………私の所有する無数の【スキマ空間】の一つでね。」
吉影は自分の血にまみれ、もがきながらその死刑宣告を聞いた。
「―――――――ハァ―――――――ハッ――――
ハァ――――ハァ――ッ―ハッ―――ハァ―――ハッ――――!
(『――――――――【全て】を敢えて差し出した者が、最後には真の【全て】を得る――――――――』
わたしには……まだその【資格】は無いというのか……
命さえ差し出したというのに……まだ足りないというのか………!?
そうまでしてこのわたしに…【贖罪】をさせようというのか……【運命】は………)」
絶望に呑まれ、吉影は地に伏せる。
最早、万策尽きた。
逃れる術は、無い。
【死】よりも残酷な運命が、大口を開けて彼を待ち受けていた。
己の希望が、風前の灯火のように掻き消されていく。
動悸が激しく、目眩がするほどの恐怖に襲われ、吉影の心は闇に呑まれようとしていた。

『―――――――吉良吉影………よくお聴きなさい……』

「―――――――ッッ!?!?」
【背後】に聞こえた、男の声。
神々しく尊い、光り輝くようなイメージが脳裏をよぎる。
それは紛れもなく、【あの御方】のものだった。
「(この声は―――――――!
この神々しい【気配】はッ!?)」
彼の手から離れていった、一つの光明。
その光芒が彼のもとへ再び降り立った。
紫の日傘の一閃が振り下ろされる瞬間、
一縷の望みを掛け、すがる思いで、咄嗟に―――――――――――彼は『振り向いた』。

―――――――――――――――――――――

振り向いた瞬間、彼の目に飛び込んで来たのは、
広がる【闇】と、無数の【手】だった。
「―――――なァッ……!?」
吉影の顔から一瞬で血の気が失せる。
彼はこれらを、いや、この【現象】を、体験したことがあるのだから。

ガシィッ!

【闇】から伸びる亡者の腕が、彼の身体中を鷲掴みにし、吊し上げた。
「こ、これは……あぁぁ…ッ!?」
吉影の表情に、絶望の色が滲んだ。
対して、彼を取り巻く少女達も驚愕の声を上げる。
「なんだあれは…!
ヤツの新しい【能力】か?」
「……違う、と思います……
あんなにも禍々しくて、かつ無尽蔵の負のエネルギー…っ…人間や妖怪のそれとは、次元が違う……!!」
白蓮の背筋を悪寒が走り抜け、額を冷や汗が伝う。
意思や感情といったものを微塵も持ち合わせていない、ただただ無機質な【死】そのものだった。

44〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:36:33 ID:/QZe41kI0
「―――――――これは…………?」
吉影に日傘を向けたまま、紫は言葉に詰まる。
常に余裕を湛えている彼女の表情に、初めて焦りの色が浮かんでいた。
吉影の背後の【闇】に目を凝らし、その発生源を発見した。
【闇】が水に垂らした墨汁のごとく漏れ出し、無数の腕がその奥から伸びている、
その背後には、空中に展開した【写真】が浮かんでいた。
「っ…!?」
【写真】、その単語が頭をよぎった時、はっと気付き振り返った。
紫の背後、全身輪切りに分解され【結界】に閉じ込められた幽霊、吉良吉廣が、一枚の【写真】を覗き込んでいた。
「…吉影ェ………すまなかった……
また……!わしはお前を守ることができんかった……!」
大粒の涙を溢れさせ、皺だらけの顔をさらにしわくちゃにして、吉廣は号泣する。
「この方法は……最後の最後まで使いたくはなかった………
次はどこに引き摺り込まれるのか、全く分からんからのう……
…じゃが、もうこれしかない……この【手段】で、僅かな可能性に賭けるしか……」
慟哭し、吉廣は顔を上げ愛する息子を見詰める。
「無事に………いてくれよ………吉影……
今度は……もっと…ッ!お前が……幸せでいられる場所で………!」
戦慄く声で呟き、【振り返ってはいけない小道】を写した【写真】に、再度目を落とした。
【写真】から放出された【闇】が、一瞬にして【結界】内部を埋め尽くした。
【闇】は圧縮されるように萎んでいき、限り無く小さくなって、消えた。
後には吉廣の指先ひとつ、抜け毛一本、【写真】までも、何一つ残されていなかった。
「―――――――こんな……逃げ道が………」
誰にも聴こえない小さな声で、紫は茫然と呟いた。
『駄目だ』。
あの老いぼれ幽霊は、別に逃がしたって構わない。
だが、この異変、いや【事変】の首謀者である吉良吉影に、逃亡を許すわけにはいかなかった。
そうなってしまえば、彼女の綿密な【計画】は瓦解してしまうのだから。
紫は振り向き、宙吊りにされている吉影を睨む。
コンマ一秒にも満たない一瞬のうちに、彼の不浄な魂を塵芥に消し去ろうとした。
だが…………、

―――――――ズオオォォォンンン―――

紫の背後に展開した【闇】から伸びる亡者の腕が、彼女に襲い掛かった。
「っ!?」
背骨が氷柱に詰め替えられたかのような悪寒を感じ、咄嗟に振り返ろうとした、が、

ガシィッ!

【闇】がミニチュアサイズの【キラークイーン】を包み隠した。
さらに、そこから伸びる腕が【結界】を突き破り、
紫は全身を掴まれ、羽交い締めにされた。
微動だにできない。
能力も弾幕も使用不能にされ、一切の抵抗が封じられる。
月の民の【フェムトファイバー】よりも強力で、凶悪なパワーだった。
「紫様…っ!?」
「紫っ!?」
「おい、ヤツが逃げちまうぞっ!
くそっ、逃がすもんかっ!」
藍、霊夢、魔理沙達が、【小道のパワー】へ攻撃を加えようとするが、紫はそれを制止する。
「駄目よっ……!
この【力】に関わっては駄目……
貴女達も……捲き込まれるわ………」
唇を噛み、紫は少女達を諫めた。
腕は紫の身体の至るところにへばりつき、彼女の肌を引っ掻きまさぐる。
そして二つ一組で爪を突き立てると……

ビキッ……
ビキビキィッ………
グパアァァ………

紫の全身の皮膚を抉じ開けた。
「い………っ!
ああああああ……………!」
紫が苦悶の声を漏らす。
パックリと開いた無数の傷口からは血や肉の朱は見えず、代わりに紫色の空間が顔を覗かせていた。
その傷口に残りの腕が突っ込み、内部を掻き回してのたうちまさぐる。
そして何か目的のものをひっ掴むと、腕は傷口から引き抜かれた。
その手には【スキマ空間】に呑み込まれた吉影の両手と両足の破片が握られていた。
ガクリと膝を折り、紫は地面にへたり込む。
その額には玉のような汗が浮かび、疲労と恐怖が刻まれていた。
腕は吉影の肉片を手に、【闇】の奥へと引っ込んでいき、【闇】は呑み込んだ【キラークイーン】共々縮小して、虚空へと消滅した。
「紫!?ねえ、紫っ!?」
霊夢が取り乱した様子で紫に駆け寄り、彼女を抱き起こした。

45〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:38:07 ID:/QZe41kI0


―――――――――――――――――――――

その時だった。
「「「―――――――?」」」
その場にいた全ての者が、焦燥に駆られた。
『何か、おかしい』
形容できないほど、具体化できないほどに、何か『とてつもなく大きな変化』が、自分達を取り巻いている、
そんな違和感に襲われた。
そして僅かの逡巡の後、彼女らはその違和感の正体に気付いた。

『―――――――明るすぎる』

ハッと息を呑み、魔理沙は【夜空】を見上げた。
「………!?
これは……ッ!?」
愕然と目を見開き、絶句する。
満月の夜空は、既に夜空ではなくなっていた。
かといって、太陽の姿は見えない。
金環日蝕の際のように全てが薄暗く、光の線が弧を描いていた。
「…………!?」
妹紅が息を呑み、慧音を指差す。
「慧音、貴女……!
【白沢化】が……っ!!」
慧音ははっと気付き、自分の頭に手をやる。
頭部にあるはずの双角が、無い。
髪の色も、服も、妖しく煌めく翠から、平生の白みがかった蒼に戻っていた。
【白沢化】が、解除されている。
「…!
くうっ…!?」
レミリアが呻き、踞った。
「お嬢様!?」
美鈴がレミリアに目を向ける。
彼女の翼が爛れ、煙が立ち上っていた。
「まさか………あの『線』が太陽……!?」
少女達は戦慄し、昼と夜が極限まで撹拌され溶け合った不気味な空を見上げる。
―――――――クパァ…

レミリアの真上に空間が開き、日傘を開いて振った。
「っ!!」
美鈴が引ったくるようにして受け取り、踞るレミリアを日光から守る。
その直後、

ザザッ―――――――

一瞬、皮膚を打つ冷たい感触。
日は陰り、服が水気を帯びる。
だが、日の光が復活すると同時に、その水気は嘘のように消え失せた。
「今……何が起こった…?」
「分からない……分からないけど……まさか、雨が降ったの?」
「…………いいえ……違うわ。」
口々に疑問を呟き、混乱する少女達の中、一つの【確信】をもった声が響き、静寂をもたらした。
皆の視線が、発言した大妖怪、八雲紫に集中する。
「紫……っ!!」
彼女を抱き起こそうとしていた霊夢は安堵の溜め息を吐く。
全身を【小道のパワー】に蹂躙された痛みに顔を歪めながら、身体を起こして、きっぱりとした声色で言い切った。
「【時間】が…………『戻っている』のよ。
……超高速で……
雨が降ったんじゃあない、『雨が上がった』のよ。
だから服に付いた雨水は残らず雲まで昇っていき、太陽も『線』になるほど、昼夜の区別もつかなくなるほどの速さで、『戻って』いるの。」
その言葉の直後、魔理沙が自身を抱くように身体を縮め、肩を震わせる。
「さ………寒い……?
まるで冬みたいに………!」
魔理沙の吐息が、白く煙る。
「まさか……!?季節まで戻っているの…!?」
妖怪達は熱さや寒さにこたえたりしないが、気温の変化には気付いた。
「木や草や動物は、特に変化がない……!
これは……【年月】【現象】だけが巻き戻されている!?」
妹紅は辺りを見渡し、そう叫んだ。
「アイツ……!
あの八雲紫を屈服させた【パワー】といい、いったいどれほどの力を隠し持っているんだ!?」

46〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:38:48 ID:/QZe41kI0
「………吉影……」
人間状態に戻った慧音が身体の震えを抑え、吉影に目を向ける。
「お…………おおお…………
うああああああああ…………」
【小道】から伸びる腕に吊るされて、吉影は呻いていた。
「ギャアアァァァ―――――――……ッ!!」
元のサイズに戻った【キラークイーン】が彼の背後で咆哮する。

ズズ――――ズズズ―――………
スタンド、本体、手足のパーツ、吉影の全てを残さずかっさらい、腕は彼を【小道】へと引き摺り込んでいく。
「くっ………!」
紫の脇に座り込んでいた霊夢は吉影をキッと睨み、札を抜き身構える。
だが、紫が彼女の肩を抱き、制止した。
「紫っどうして!?
彼を【退治】しないと、【幻想郷】は―――――――」
霊夢は振りほどこうとしたが、紫はよりいっそう強く抱きすくめて落ち着かせた。
「………霊夢、大丈夫よ……
私がなんとかするから……貴女は、【あんなもの】と関わらないで………」
母のように慈愛に満ちた声で、そう囁いた。
札を握る霊夢の小さな手から、力が抜け、ゆっくりと降ろされる。
「ぐッ…………あ……あ……
うあああああああああああ―――――――ッッ!!」
腕が抗いようもない強力な力で、吉影を【写真】へと引き込む。
膝、腰、胸、と彼の身体が【闇】に呑み込まれていく。
「吉影ぇぇぇぇェェェ―――――――っ!!!!」
慧音の脚が地面を蹴り、吉影のもとへと跳躍する。
だが、吉影の頭は、腕は、【闇】に沈んで見えなくなった。
「うおおおおおおおおおおおお――――――ッ!!」
溺れる者が水面に手を伸ばすように【闇】から覗く手を掴もうと、慧音は全速力で飛翔する。
「駄目よ慧音っ!!罠よッ!!」
紫の怒声も耳に入らず、ただひたすら【手】だけを見つめ、慧音は加速する。
『吉影の手首は紫によって切断されていた』、
『では、今彼の【手】を操っているのは――――?』
――――――そんな簡単な疑問が脳裏をよぎることもなく。
「(――――吉影―――っっ!!)」
【手】に張り巡らされた悪意に満ちた罠に気付かず、手を伸ばした。

パァン―――――――

吉影の【手】が、慧音の手を払い除けた。
「―――――――え――――?」
茫然と目を見開いた慧音の前で、

吉影の【手】は、【闇】の向こうへと沈み、見えなくなった。

「うわあああァァァ―――――――!!」
魔理沙の絶叫が耳をつんざき、我に返った。
見渡すと、世界が一変していく。
地面は崩落し、雲は消え、空は割れ、全てが崩れ去っていった。
そして、何もかもが消滅した果てには、
大地も空も太陽も無く、無限に広がる星空の中で、自分達は廻っていた。
人間、妖怪、妖精、神、幽霊、獣、魚、木々、虫一匹に至るまで、
【幻想郷】中の全生命が、広漠たる宇宙で長大な輪を描き、渦を巻いて回転していた。
壮大かつ幻想的な、目を見張る光景に圧倒された、
だが、それも束の間、

カッ―――――――

目も眩む閃光、
視界が白一色に染まり、何も見えない。
先ほどの混沌とした情景が現実だったのか、幻覚だったのか、今となっては、最早確認しようもない。
「うわああああああああああああああああああ―――――――」
空中高く打ち上げられた身体が、重力加速度に負け落下を始めるような浮遊感を伴い、彼女らの意識は地表へと引き寄せられていった。

47〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:39:51 ID:/QZe41kI0



―――――――――――――――――――――

――――――――――――――

―――――――ドシャッ

「う…………うう………!?」
【スキマ空間】から放り出され、フランは無造作に床に落とされた。
「う…あ…………あぁ…ぁ」
涙と吉影の鮮血で濡れた顔を拭いもせず、フランは起き上がり宙を見上げた。
彼女が送り込まれたのは、紅魔館地下図書館だと、見渡して分かった。
彼女をここまで連れ去った【スキマ】は既に閉じている。
慌てて床に目を落とし、【写真】を見付けて駆け寄り、しゃがんで覗き込むが、ただの写真に戻っており、吉影の姿を確認する術は無い。
「……はあ………はあっ……はっ…
…よ……吉影………吉影ぇ………!」
脳裏に浮かぶ、最後に見た彼の傷ついた姿。
不安が高まり、胸が締め付けられる。
頭を抱えて踞り、泣きじゃくる。
薄黄色の髪を染める鮮血が、涙と共に床に雫を落とした。
「ひぐっ………えっ………ええっ……
……ひっく…………うええ…っ……ハァっ……えぐっ………」
フランの嗚咽が、本棚とその中身が散乱し荒廃した図書館に木霊した。
「うう………ぐすっ……
…………………、…?」
顔を伏せ泣いていたフランの目が、あるものを捉えた。
【写真】の周囲、【小窓】としての機能が失われる前に入った吉影の血が、床に飛散して血溜まりを作っていた。

『――――――……フラン、ここから先は【契約】だ……よく聴いておきなさい。
―――――――もしわたしが、君の心を裏切ったなら………そのときは…………
――――――『わたしの血を吸え』――――――――』

「………………ハァ………ハ…っ
ハァっ………」
導かれるように、フランは顔を血溜まりに近付け、

舌を伸ばし、血を舐めた。


―――――――――――――――――――――

――――――――――――――

「―――――――…………?」
気が付くと、フランは見知らぬ場所に立っていた。
「……ここは………?」
辺りを見渡すと、ミミズがのたくったような字が書かれた細長い板、積み上げられた小石が立ち並び、地面は赤い華と、見たこともないガラクタで覆われている。

―――――――ザッ――――

「…!」
ぼんやりと周囲の異様な情景を見回していたフランは、目の前で聞こえた足音に気付き、前を見た。
「…………吉影……」
吉良吉影が、彼女の前に佇んでいた。
手足がちゃんとあり、自身の足で立っている。
涙をハラハラと溢し、心から安堵の笑顔を浮かべ、吉影のもとへ駆け寄ろうとする。
だが、

スッ―――――――

吉影は右手のひらを彼女に向け、制止した。
「…………?
…なんで……?なんで…近付いちゃダメなの………?」
足を止め、フランは震える声で吉影に問い掛ける。
吉影は答えず、代わりに半歩後ろへ下がった。
それを見て、フランは理解する。
「…………吉影……
…………もう……行ってしまうの……?」
吉影は、答えない。
だが、右手を下ろし、また一歩遠ざかる。
「…あの時………私が貴方の血を吸った時………
貴方は私を助けてくれた……!
お姉さまを私が裏切ったことも…
私が貴方に味方したことも!
全部帳消しにするために、みんなの目の前で、私に殺されてくれたっ!
私がお姉さまや、他の人たちに、後でいじめられないように…………貴方は【悪い人】を演じてくれた…
そうでしょ!?」
吉影の血に籠められた、彼の意志。
【ソフト&ウェット】で彼の血を介してそれらを得た彼女は、吉影の胸中を知っている。
だからこそ、彼の中にあった【最大の感情】を知りながらも、引き下がることなんてできなかった。
「………」
吉影は、押し黙ったままだった。
だが、後退もしない。
ただ、暗闇の中に立ち尽くし、少女の紅い瞳を見つめ返すだけだ。
「…連れてって………」
胸に手を当てて、誓いを立て懇願する。
「あなたの邪魔にはなりません………
だから、どこか遠く…………私を連れてって………!」
目にいっぱいの涙を溜め、フランは駆け出した。
「どこか……
ここじゃない…どこかに………」
吉影の腰に抱き付き、フランは涙ながらに嘆願した。
「どこでもいいの………
ここじゃなければ……貴方がいるなら…どこでも……!」
【無縁塚】の闇に、フランの泣き声が吸い込まれていった。

48〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:40:23 ID:/QZe41kI0
吉影は、自分にすがり付く幼い少女の両肩に手を置き……
「―――――――見ろ」
「…………え…?」
頭上に降った吉影の言葉に、フランは顔を上げ、疑問符を浮かべる。
「……周りを…よく見てみろ。
目をこらして、周りの暗がりを………
………わたしの周りの、【闇】を。」
言われた通り、フランは首を回して辺りを見回し―――――

――――絶句した。
暗闇に浮かび上がる、無数の手、手、手。
節くれ立ち、爪は無造作に伸び割れ、生気の無い亡者の腕。
それらが、彼女を取り巻いていた。
「………………あ………あ……」
恐ろしさのあまり、悲鳴も喉に詰まって出て来ない。
禍々しい妖気に曝され、フランは身震いし身体を縮こまらせた。
「……ここじゃないどこかと言ったな?
これがそのどこか、【この世の境界線】だ。」
怯えるフランに、冷徹な言葉が降り注ぐ。
「ここは吹き溜まり……
死んでもなお命ある者に取りすがる、妬みと未練を撒き散らす敗者どもの掃き溜めだ。
……どこでもいいと言ったな?
ここがお前の辿り着いた場所、ここがお前の楽園だッ!」
幼(いたい)けな希望を打ち壊す事実を、残酷に告げた。
「―――――――子供」
「ひぃっ!?」
【闇】から聞こえた声に、フランはビグッと身を震わせる。
無数の亡者の手が、彼女に迫ってきた。
「若い身体」「くれ」「おくれ」「中入れろ」
「魔の匂い」「オレの」「ちょうだい」「女だ」
「くれ」「私の」
口々に枯れ葉が擦れ合うような声を上げ、手がフランの身体に触れる。
「あ………ああ……
いや……っ…いやぁ……来ないで……!」
フランは自分の身体をまさぐる手を払い除けようとするが、恐怖に身がすくんで動けない。
「―――――マンマァ………」
小さな子供の手が、彼女の頭を掴んだ。
ズブズプと沈み、彼女の頭に入り込んでいく。
「(イヤ―――――――っ!!)」
自分自身の中身を、得体の知れない誰かに侵されていく。
堪えられない恐怖と異物感で、気を失いかけたその時、

グシャッ

頭に入り込んだ【手】が、引き摺り出される感覚。
【キラークイーン】がフランにまとわりつく【手】を引き剥がし、掴み、払い、潰し、爆破し、一掃した。
フランは目眩と全身の力が抜けた弛緩で、膝を地面に落とし倒れ込む。
「……ハア…ッ…ハア…………ハァ……
ゴホ………
…うっ………う…っ……ぐふ……っ」
咳き込み、頭痛と吐き気に苛まれ、フランは踞り涙を滲ませる。
吉影は彼女の前に膝を着くと、

「―――――――!」

彼女の肩に手を回し、抱き寄せた。
フランの身体の震えが、ピタリと止まった。
「…………逃げ出した先に、楽園なんてありはしないんだ。」
胸の中にいるフランに、吉影は優しく囁いた。
フランは顔を上げ、吉影を見上げる。
「辿り着いた先、そこにあるのは……身の丈に合わない【地獄】だけだ。」
フランの紅い瞳と、吉影の黒い眸、
見上げ、見下ろし、互いに交差する。
交わした言葉は、それだけだった。
だが、それより遥かに多くの思いを、その柔らかく暖かい眼差しが伝えていた。
どれほどの時間だったのだろうか。
ずっと長い時間だったのかもしれない、一瞬だったのかもしれない。

スッ―――――――

吉影はフランから手を離し、立ち上がった。
「!……
……吉影…………?」
座り込み、フランは吉影を見上げた。
「…………帰れ」
吉影の声を聞き、フランは背筋を震わせる。
「そんな………
帰りたいとこなんて…………帰りたいとこなんてないよ…!!」
フランの頬を涙が伝う。
今にも泣き喚きそうに、小さな口を引き結んでいる。
「帰りなさい。
ここから先は、わたしの【居場所】だ。」
静かな口調で、吉影はフランに言う。
「イヤだよ………!
だって………やなことばかりだもの……!!
誰も……優しくないもの…!!」
フランは泣きじゃくり、彼のズボンの裾にすがる。
慟哭するフランに、吉影は穏やかな声で伝えた。
「…わたしの【記憶】を見ただろう?フラン……
君のお姉さんのことも、ちゃんと見たはずだ……彼女の言葉を聴いたはずだ。
分かっただろう?
君の周りの人たちは、本当はみんな優しかったんだ……ただ……その気持ちを伝えられなかった……ただの、それだけだったんだ……」

49〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:41:02 ID:/QZe41kI0
首を左右に振り、フランは泣き叫ぶ。
「…ウソよ……
だって……!お姉さまは……五百年ずっと、私の部屋に来てくれなかったじゃない!
一緒に遊んでくれなかった……!
お外に出してくれなかった……
お話してくれなかった!
ご本を読んでくれなかった!
お食事も、お昼寝も、私とはしてくれなかった!
私は、ずっと寂しかったのに……!あいつだけ咲夜やパチュリーや美鈴と一緒にいて……っ!!
でも……!貴方は違った………
私と一緒にいてくれた。
お父様やお母様やお姉さまにしてもらえなかったことを、ずっと憧れていたことを、全部叶えてくれた……!」
フランは吉影の足下で泣き続ける。
「吉影……っ…貴方じゃないと…ダメなの………
私には……貴方しかいないの………っ!」
彼女の心は痛切で、必死だった。
500年待ち焦がれ、夢にまで見たものが、自分のもとから消えようとしているのだから。
今この手を離してしまえば、二度と出逢う機会は訪れないだろう。
切実に訴える彼女の頭に、吉影は手を置いた。
「……フラン…、わたしは、君の心を裏切ってしまった……
君と【友達】になろうと言った時から、わたしは君に対する裏切りと背信を重ね続けてきた。
このことはいくら謝っても、到底償うことはできないと思っている。
だが……、『今』、わたしの中にある【心】は、嘘ではなかったと分かってくれているはずだね……?
人は、『変われる』。
人と人との関係は、『変える』ことができるんだ。
わたしと君のように、最初はただの赤の他人で、お互いを傷付けることしか考えていなくても………
君がわたしを必要としてくれたから、折れかけていたわたしの心を慰めてくれたから、わたしも君の思いに応えようと思った。
君がわたしと出逢って変わったように、君のおかげで、わたしも変わることができた。
冷酷であり続けたわたしの心にも、暖かい血が通い始めたんだ……フラン、君のおかげだ………
………だから、今度は君の番だ。
君の方から、お姉さんに歩み寄ってみるんだ。
わたしが君にしてあげたことを、今度は君のお姉さんにしてあげてみなさい。
そして、彼女にもしてもらいなさい。
そうすれば………君たち姉妹にも、必ず暖かい絆が生まれるはずだ。
500年の溝を、壁を、誤解を、すれ違いを、軋轢を、わだかまりを、君の手で『壊す』んだ。
そして、地下室の扉を開けて、外の素晴らしいものに心踊らせなさい。
友達もたくさん作って、たくさん遊びなさい。
そうすれば、君は一人の少女でいられる………500年の孤独が無かったように明るく笑えて、500年の涙が無かったように、いじらしく泣くことのできる………見かけ相応の、素敵な少女に…………」
フランの薄黄色の髪と頭を、優しい手付きで撫でる。
肩を震わせ、しゃくりあげて、フランは彼の手に身を委ねていた。
頭に伝わる、柔らかく温かい感覚、
彼女が親から与えられることはなく、いつも姉が当たり前のようにしてもらっているのを物陰から眺め憧れ、羨んでいた温もり。
彼の大きな手から伝わる熱が、彼女の身体に染み渡っていき、悲痛な気持ちを取り除いて、穏やかな心地よさが満たしていく。
彼女の慟哭は嗚咽となり、啜り泣く声に変わり、小さくなって、消えた。
「…………ほんと……に……?
お姉さまと………みんなと……貴方みたいに……なれるの………?」
顔を上げ、潤んだ瞳で見上げて、問い掛ける。
吉影はそんな彼女を見下ろして目を合わせ、微笑んだ。
「わたしの心はもう、君のものだ。
決して裏切りはしない。
信じてくれ、わたしを。
そして………、わたしを変えてくれた、君自身を………」
優しい眼差しは、『言葉』より多くの確かな『心』を伝えていた。
暗い地下で幽閉されていた500年間の悲哀が、打たれ続けた犬のように萎縮させ、日射不足の花のように未発達のまま歪めてしまった彼女の心に、安心が広がり、解放した。

50〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:43:04 ID:/QZe41kI0
涙を拭い、身体を起こして、フランは立ち上がった。
「………行け。
君は、君の居場所に。」
フランの瞳に灯る確固たる輝きを目にし、吉影も安堵の微笑を湛え、彼女を見つめた。
フランは気丈に背を伸ばし、七色に輝く翼を広げ、胸を張る。
もうその表情には、悲痛な陰りは差していなかった。
「―――――――吉影………」
これが、最後に交わす言葉。
万感の思いを言葉に乗せて、最愛の人に伝えた。
「ありがとう………ほんとうに………
貴方に出逢えて……良かった……っ!」
向日葵のように健気に笑う少女。
かつて経験してきた苦痛を感じさせないほどに、屈託のない笑顔。
この少女がかつて【悪魔の妹】と揶揄され、家族に虐げられていたなど、いったい誰が想像できようか。
「……ああ…わたしも…君に出逢えて……良かった……本当に……
フランドール、わたしの娘……わたしの伴侶……」
微笑みかけ、もう一度だけ、フランの頭を撫でる。
目を瞑り、くすぐったそうに肩をすくめ、羽をパタパタと動かして、最後になる感覚を胸に刻み付けた。
―――――――やがて、吉影は手を離し、穏やかに告げた。
「フラン、帰り道は君の後ろだ。
『決して振り返ってはいけない』。
『約束』だ……守れるな?」
フランはコクン、と一度だけ頷くと、クルリと背を向けた。
踵を返し、遠くに見える小さな光を目指して、脇目も振らず駆け出した。
どんどんと小さくなっていく背中、振り向くことなく遠ざかっていき、光の点の中に消えるまで、吉影は見送った。

―――――――フランの姿が、光となって消えた。
無事『家に帰った』のを見届けると、フッ―――と笑い、吉影は右手を見つめる。
『彼女』の手を払った手、そして、今一人の少女に触れた手だった。
少しだけ、名残惜しそうな表情をして、吉影は右手を下ろした。
「―――――――さて」
踵を返し、顔を上げ、『振り返った』。
「わたしも帰るとするか………
わたしの【居場所】へ」
無数の亡者の腕が、彼を取り囲んでいた。
「外界、幻想郷、冥界………三つの世界の【結界】が交差しているらしいな……この【無縁塚】では……
まだ行ったことのない場所は【冥界】だけだが……
今度はそこへ連れて行く気か?」
自分を無間地獄へと連れ去ろうとする刺客たちを眺め回し、不敵に笑う。
「だとしても……このわたしを屈服させることは、地獄の閻魔ですらできはしない……
何度だって『やり直せる』のだからな……」
余裕を湛えた面持ちで、吉影は【小道のパワー】に宣戦布告を叩きつける。
「貴様らは、わたしが【外】へ帰るための【通り道】に過ぎない。
…案内させてやる、連れて行け。」
一斉に襲い掛かる朽ちた腕を、身じろぎ一つせず、鋭い眼光で睨み返した。



―――――――――――――――――――――

――――――――――――――

51〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:44:28 ID:/QZe41kI0
BGM IOSYS『千歳の夢を遠く過ぎても』【htp://www.youtube.com/watch?v=nhdz1iwN5qg】



―――――――――――――――――――――

――――――――――――――



―――――――墨汁に筆を浸け、持ち上げた。
紙の上に先を置き、筆を走らせる。

上白沢慧音は、自宅の書斎にいた。
筆を持ち、硯を脇に置き、机の上の紙に向かって正座している。
彼女の白みがかった蒼髪はうぐいす色の緑に煌めき、頭頂部の両隣からは、猛々しい双角が伸びている。
今夜は【満月】、彼女のもうひとつの姿、【白沢】が顕現する晩である。
普段、彼女は歴史編纂を【白沢】の『歴史を創る程度の能力』によって行うが、今は筆を使って己の使命を果たそうとしている。
これには、理由があった。
『外来事変、その全容と、そこから学ぶべき幻想郷及び人里の防衛と外の世界との関係の在り方』
タイトルを記し、慧音は【歴史】を創り始めた。



―――――――あの後………
吉影が【小道】に引き込まれ、消えた後―――
――――【幻想郷】の時間は、『逆流』した――――

四ヶ月もの時が巻き戻され、全ての【歴史】が抹消された。
日付も季節も人も妖怪も森も獣も花も蟲も、全てが四ヶ月前の状態に戻された。
但し、皆【記憶】はある。
農家は春に植えた苗をまた植えなおさなければならないことをぼやき、
商人は四ヶ月で得た利益がすっかり消えたことを嘆いた。
だが、良いこともあった。
輝之輔と吉廣、そして彼らが放った妖怪たちによって破壊された家々が、すっかり直っていたことだ。
吉影によって跡形もなく消し飛ばされた博麗神社も、元通りになっていた。
霊夢の八つ当たりを恐れていた妖怪、人間は、ホッと安堵の溜め息を吐いた。
―――――――そして、大きな変化が訪れた場所がひとつ。



―――――――――――――――――――――

――――――――――――――

「―――――――……
……………………………?」
レミリア・スカーレットは、目を開けた。
「………ここは……?」
辺りをきょろきょろと見回し、自分の居場所を把握する。
ここは紅魔館の自室バルコニー。
椅子に腰掛け、紅茶の入ったカップを持っていた。
「……お嬢様………?」
背後から呼び掛けられ、振り向いた。
咲夜が困惑した様子で背後に控えていた。
「これは……!?
さっきの光景は……!?」
辺りを見渡し、訊ねる。
「……時間が……戻ったようだわ………
『今度は』……貴女も【記憶】があるようね……」
少し考えて、レミリアは口を開き答えた。
その直後、
「っ!?!!」
ガダンッ!
椅子をはね飛ばし、立ち上がった。
驚く咲夜に、レミリアは必死の形相で訊く。
「フラン……ッ!
あの娘はっ!?」
咲夜も気付き、ハッと息を呑んだ。
次の瞬間、レミリアは翼を広げ空を打ち、全速力で飛び立った。
咲夜も自分の時間を加速させ、後を追う。
扉をいくつもぶち破り、
混乱し廊下でうろうろしているメイド妖精達を吹き飛ばし、
弾丸のごとき速さで、彼女達は地下へと向かう。

バアァァ―――z―ンッ!!

エントランスホールの階段を降りた時、正面玄関の扉が弾け飛ぶように開かれ、美鈴が飛び込んで来た。
「お嬢様ぁっ!咲夜さぁぁんっ!!」
残像の如く地下階段へと消えた二人の姿を目撃し、美鈴も全力で追い掛けた。

52〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:45:00 ID:/QZe41kI0

―――――――バアァァンッ!!

紅魔館地下、フランの部屋の扉を蹴り開け、三人は中へと飛び込んだ。
「フランッッ!!!!」
レミリアが叫び、着地する。
部屋の真ん中、絨毯の上に、薄黄色の髪と宝石のような羽を持った少女が座っていた。
「―――――――…お姉さま……………?」
彼女の妹、フランドール・スカーレットは、首を回して振り返った。
レミリアは荒い息をつき、涙が頬を伝った。
「フラン……!ああ、フラン……っ!!
良かった……無事で………!」
涙を拭い、レミリアは自分の妹に歩み寄る。
「フラン……ごめんなさい……!
私は…貴女にいっぱい、謝らないといけないわ……
たくさんたくさん、お話したいこともあるの………
急にごめんなさいね……でも………!
言わなくちゃいけないことが多すぎて………」
涙声で話し掛けながら、フランの前まで足を運んだ時、

ゴツン―――――――!

「―――――――え………っ?」
レミリアの脳天に衝撃が走った。
扉付近に控えていた咲夜、美鈴が仰天する。
フランの握り拳が、レミリアの頭を叩いたのだ。
「え……っ…あっ………
フ……フラン………?」
拒絶され、レミリアの顔は蒼白になり、言葉に詰まる。
次の瞬間、
「バカっ!」
もう一方の手で、レミリアの頭を叩いた。
「バカっ!バカぁッ!!
お姉さまのバカっ!」
さらに一発、二発と、フランは手を振るう。
「なんで今までっ!会いに来てくれなかったのっ!
なんで今までっ!!ちゃんとお話してくれなかったのっ!」
ポカポカとフランはレミリアを打つ。
「いたっ!?痛いっ!
やっ止め……!?
止めて!止めなさいっフラン!」
フランに気圧されたじろぎ、叩かれた痛みと衝撃で後ずさるが、フランは手を止めない。
「私、ほんとうに寂しかったんだよ!?
いっつもひとりでっ!
お食事も!お昼寝もっ!!
私、ずっと……!いらない子なんだって思ってたんだよっ!?
嫌われてるって、ずっと思ってたんだよ!?
なんで……っ…なんでっ………!!」
フランの叫び声は涙が混じっていき、やがて泣き声に変わった。
レミリアを叩いていた手が止まり、代わりに抱き着く。
レミリアも泣きじゃくる妹の背中に手を回して、抱き返した。
かくんと膝を折り、二人は抱き合ったまま座り込んだ。
「お姉さまっ…!お姉さまぁ〜!」
「フランっ…!ごめんなさい……!ごめんなさいっ………フラン…っ!!」
抱擁し、わんわんと大声で泣く、二匹の吸血鬼。
それはどこにでもある、ありふれた姉妹の姿だった。

「―――――――美鈴、ちょっとは場をわきまえなさいよ。」
「ううっ……だって……だって…!あのお二人がああやって、仲良くなって……っ!
ずっとずっと願っていたことが、叶うなんて………!嬉しくて…!!」
エントランスホールでしゃがみこみ、美鈴はグスグスと泣く。
気を利かせた咲夜が時を止め、美鈴を連れて退室してきたのだ。
「もう……美鈴…貴女って人は………」
小言を言おうとしたのだろう。
だが、そう言う彼女の声も涙に掠れ、瞳からは涙の雫が溢れている。
「咲夜さんっ……!」
美鈴は唐突に立ち上がり、咲夜をギュッと抱き締めた。
咲夜は驚いたりせず、彼女の背に腕を回す。
「良かった……っ!
良かったですっ……咲夜さん……!!」
「………ええ…
本当に良かったわ……美鈴……!」
二人の従者はメイド妖精達の好奇心に満ちた視線の中、憚ることなく抱き合い、喜びを分かち合った。

―――――――パチュリー・ノーレッジが地下図書館の机に全身複雑骨折で突っ伏しているのが発見されたのは、それから数時間後のことである。

53〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:45:35 ID:/QZe41kI0

―――――――――――――――――――――

『―――――――【外来事変】:第◯◯◯季4月7日の満月の晩、外の世界から侵入した外来の亡霊及びその一味が、人里を襲撃し博麗の巫女に戦いを仕掛けた事件。
里人の大半が誘拐、人質に取られ、まかり間違えば幻想郷の滅亡も危ぶまれたが、博麗の巫女と大妖怪八雲紫の活躍により無事解決した。
首謀者である亡霊、吉良吉影の能力(後述)により、時間が第○○△季12月10日まで四ヶ月巻き戻されたので、【三半年異変】とも呼ばれる。』

歴史喰らいの半獣、上白沢慧音は、紙の上で筆を踊らせた。
事件に関する【歴史】は全て失われてしまったために『能力』を使えず、筆と自身の手で歴史編纂を行っているのである。

『経過:第◯◯◯季3月22日、新月の晩、主犯である亡霊、吉良吉影は幻想郷に侵入した。』
許可、記載。
『直後、妖怪と交戦し負傷、人里付近の水田で行き倒れていたところを、門番が亡霊と気付かず救助、保護される。』
許可、記載。
『23日夜、上白沢宅で意識を取り戻した吉良吉影は、上白沢慧音が黙秘したため自身の亡霊化に気付かず、上白沢宅での居住を許可される。』
不許可、改竄……
『23日夜、意識を取り戻した吉良吉影は、自身が亡霊であることを黙秘、人里に潜伏を始める。』

『25日、吉良吉影は上白沢慧音の指示により博麗神社を訪問、あらかじめ彼を【外の世界】へ帰さないよう依頼されていた博麗霊夢により拒絶され、【スペルカードルール】にのっとり決闘するが敗北、法外な奉納金を要求され帰宅する。』
不許可、削除……

『29日夕刻、天狗の新聞にあった遊技大会の広告を信じ、博麗霊夢への奉納金として賞金を得るため紅魔館を訪問、
しかし天狗と結託した紅魔館当主レミリア・スカーレットの謀略により、同館地下にて当主の妹、フランドール・スカーレットとの決闘を余儀なくされ、一日半に及ぶ戦闘の末勝利をおさめる。
しかし契約違反のため賞金を得ることはかなわず、失意の中館を去る。』
不許可、改竄……
『29日夕刻、吉良吉影は紅魔館を襲撃、
門番紅美鈴及び魔女パチュリー・ノーレッジに重傷を負わせ、紅魔館当主の妹フランドール・スカーレットを強襲、一日半に渡って死闘を繰り広げた末に彼女を屈服させ、悪魔の契約を結び配下に加える。』

慧音は、静かに筆を操り、【歴史】を紡ぐ。
【歴史】とは即ち事実、ではない。
起こっていないことを捏造し、逆に実際の出来事を抹消することで、事実を一視点から見たものが【歴史】である。
彼女が機織るのは、【幻想郷】のための【歴史】。
その神聖な使命に、一人の人間の、半獣の、女の感傷など、入る余地は無い。
あってはならない。

『31日昼、里に帰還した吉良吉影は天狗の喧伝作戦により暴徒化した一部の里人に襲撃を受け、頭部に重傷を負う。
激昂した彼は里人十数名に対して反撃、重傷を負わせる。』
不許可、改竄……
『31日昼、里で吉良吉影の蛮行に関する情報が流れ、帰って来た吉良吉影に対して里人が抗議、激昂した彼は里人十数名を暴行、顔面を剥ぐ、足や頭部を切りつけるなどの重傷を負わせた。』

『6日夜、上白沢宅に押し入り吉良吉影襲撃を企てた里人を撃退、しかし上白沢慧音が里人を庇い軽傷を負う。』
……不許可、削除………

『7日夜、吉良吉影は犯行を決意、
迷いの竹林にて藤原妹紅を殺害し、その約20分後人里襲撃を開始する。
その直前、時間が巻き戻された形跡が残っていたが、【歴史】も【記憶】も消滅させられたと見て、真相は不明。』
許可、記載。

『―――――――事件直前、吉良吉影は共犯者である吉良吉廣、宮本輝之輔に「里人の殺傷の禁止」、彼の姿に変身した【サーフィス】に対し「問題が起きなかった場合、上白沢慧音の手によって破壊されること」を指示。
そのため里人の中に死者は一人も出ず、霧雨魔理沙と命蓮寺により人質は全員無事解放された。』
……不許可…………改竄……
『吉良吉影、吉良吉廣、宮本輝之輔の三名は、人里に大量の妖怪を解き放ち、家々を爆破し、破壊の限りを尽くした。
多数の里人が人質として誘拐されたが、妖怪退治屋と里に居合わせた妖怪達の活躍により、奇跡的に死者は出なかった。』

54〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:46:22 ID:/QZe41kI0

『―――――――……博麗神社にて人質の到着を待っていた吉良吉影は、計画の失敗を知り時間を巻き戻そうと決意、
しかし博麗霊夢に阻止され、さらに八雲紫の登場により敗北を悟り、フランドール・スカーレットに自身の血を献上、
受肉を果たし反撃を試みるが、八雲紫の力の前には歯が立たず、窮地に立たされる。
しかし前述の「四ヶ月時間を巻き戻す」能力と、【無縁塚】の結界の歪みのエネルギーを利用するという苦肉の策で、【幻想郷】からの脱出を遂げた。』
……不許可…っ…改竄………っ
『……人里から逃走した吉良吉影は、博麗神社に立て籠り博麗の巫女を捕縛するよう計画を変更、
自身を吸血鬼化するためフランドール・スカーレットを利用しようとするが、彼女の反抗によって一度は絶命する。
しかし、彼女の肉を焼いて発生した煙を吸うことで魔の眷属として転生することに成功、再び博麗の巫女に襲い掛かるも、彼女と八雲紫の力に圧倒され、
再度追い込まれた彼は「時間を巻き戻す」能力を発現し、なおも逃亡を図るが………、【無縁塚】の結界の歪みのエネルギーを利用するという…八雲紫の…機転により………、異世界に…っ…送り飛ばされ……!、事件は……………っ…』

「…………う……うう………」
筆を握る手が、震える。
手が、進まない。
涙が滲み、目が霞む。
「う…ううう………っ
うああああ………ああ……」

カラン―――――――

筆が手から離れ、硯の上に落ちる。
墨汁が跳ね、黒い染みが【歴史】を書き連ねた紙の上に散った。

【幻想郷】の妖怪達は、実は【外の人間】を極度に恐れている。
【広い世界】から自分たちを追い出し、【幻想郷】の外では存在を保つことさえできないような世界を創ってしまった人間たちに、恐怖と脅威を抱いている。
だからこそ、吉良吉影は【亡霊】でなければならない。
【外の人間】が【幻想郷】を滅亡の危機まで追い込んだという認識が広まれば、この世界が被るダメージは計り知れない。
妖怪の間では、未だ外に残っていて、さらに力を求めこの幻想の牙城に攻め入った、強大な【化け物】として、
里人の間では、血に餓え魔に堕ちた【狂人】として、
表の【歴史】に永遠に記録されなくてはならない。

だが、それならば―――――――

―――――――慧音は、聴いていた。
博麗神社での、吉影とレミリアの会話を。
【バイツァ・ダスト】で消し去った一時間の記憶が、誰に継承されるのかを。
そして、告白の後、最後に言い放った言葉。
『――――誰の【歴史】にも残さない―――』
その言葉の真意が、今の彼女にははっきりと分かっていた。
「―――――――私の中にだけは…………
……残りたかったんだ……………っ!」
両手で顔を覆い、慧音はさめざめと泣いた。
涙が頬を伝い、紙の上に落ち、文字を滲ませる。

歴史書の上からでは、人間一人の思いなど読み取れはしない。
では、彼女が自身の【使命】と信じ、し続けてきたことは、いったい何の意味があるというのか。
「くっ……ううっ…………!
うああああああ……ああああああああああああ……………」
書斎を、嗚咽が満たした。
窓から差す月明かりが、暗くなり、消えた。
2011年12月10日、皆既月食の晩。
【白沢化】が解除され、彼女の髪は涙のような蒼に戻る。
双角は消え失せ、啜り泣く弱い女の姿が月光の消えた部屋の中に残された。

「―――――――………
…………………」
静かに涙を拭き、立ち上がる。
机の上の紙をどけ、新しい紙を広げた。

―――――――創ろう―――――――

筆を手に取り、持ち上げる。
彼女の胸にさざめく、思い出の光沢。
人を殺し、己を殺し、最後に人間の心を手にした、ある男の物語。
それらに万感の思いを委ね、筆先を紙に下ろした。

―――――――私だけの………【歴史書】を…………―――――――



―――――――――――――――――――――

――――――――――――――



ED SOUND HOLIC 『eternity』【ttp://www.youtube.com/watch?v=t3Vq2JNfFO4】

55〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:47:23 ID:/QZe41kI0
『〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜』
第二十七と三分の一話 草葉の陰の殺人鬼



―――――――――――――――――――――

――――――――――――――

―――――――『樫の木坂児童殺人事件 今夜0時時効成立』、『バービー40歳』………
そんな見出しが踊る、隣座席の学生の読んでるスポーツ新聞を盗み見ながら、

駅を5つほど乗り過ごし、虹ヶ丘駅に着くと、

わたしはまず、駅前の花屋で3分ばかり花の香りをかいだ。

そして駐輪してある自転車群の隙間を、他人にぶつかる事のないように注意しながら商店街に向かい、本屋に入った。

別に売れてそうもない……『鼻をなくしたゾウさん』というタイトルの本を見て、
「いったい、なんでまた鼻なんかなくしちまったんだ?」
………と、物凄く中の話に好奇心を持ったが、その気持ちをグッと抑えて、適当な雑誌を探した。
帽子をかぶった男の写真が載っていればいい…被写体の顔はどうでもいい……すぐに見つけた。
「ん……
これでいいかな……
画面から足が切れているが、全然問題はないだろう………」
ビリビリと人目も憚らず、彼は雑誌を破り始めた。
店員は気付くようすがない。
当たり前だ。
監視カメラのレンズが向いているが、何も問題はない。
破り取った写真を折り畳み、懐に仕舞うと、彼は悠々と店員の前を通り過ぎ、店を出た。
店員は見向きもしなかった。
当然のことだ。

次は【電話】だ。
本屋を出て数百メートル歩き、わたしは【電話】を借りるため住宅地に行くとマンションを探した。
一戸建てよりマンションがいい。

それと、もうひとつ…………
重要なことなんだが、ついでに【くだものナイフ】も手に入れたい。
電話を借りるのは、わたしは携帯電話(最近じゃあスマートフォンだのアンドロイドだのいうのが人気らしいが)も現金も今、持っていないからだ。
本当に持っていない―――――――所持金ゼロ。
一円玉一個だって持っていない。
まっ……『もっと便利な物』は持っているがな……

と、その時。
【着信】が入った。
「…噂をすれば………」
彼は懐に手を突っ込み、中を探り始めた。
目的の物を見つけ出し、彼は手を引き抜く。
彼の手に握られているのは、一枚の【写真】。
白髪の老人が写った、ただの写真だった。
一つ、奇妙な点を挙げるとすれば………
【写真】に写った老人が、動いているということだ。
「親父、どうだったか?」
男は【写真】に向かって話し掛ける。
親父と呼ばれた老人は【写真】から顔を出し、男を見て答えた。
「ああ、バッチリじゃ。
ヤツの居場所を見付けたぞ、吉影。」
吉影と呼ばれた男は、緑がかった青の生地にオレンジの模様が入ったスーツに身を包み、同じ色合いで模様の違う山高帽のような帽子を被り、ネクタイを着けていた。
「そうか!
よくやってくれた、さっき読んだ新聞の記事をみて、間に合わないかと思っていたが………」
「なあに、わしにかかれば楽勝じゃわい。
今夜が勝負じゃ。
いつも通り【仕事】してやってくれ。」
明るい表情を浮かべる吉影に、吉廣は得意気に笑い言った。
「………そう言えば……今夜は満月だったな。」
呟いた吉影は、左手の【腕時計】に目を落とした。
「ん?どうかしたのか吉影?」
「いや、なんでもない。
で、そいつの居場所は………?」

―――――――――――――――――――――

56〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:47:58 ID:/QZe41kI0

―――――――――――――――――――――

あるマンションの一室。
その中で、男は寝ていた。
だが、その様子は安眠とは程遠いものだった。
耳を覆うヘッドホンは、部屋に入ると聞こえるほどの大音量で音楽ががなりたて、
アイマスクを着用しているが、落ちつきなく頻繁にずり上げては、壁の時計を確認している。
時計の針は、23時58分を指していた。
「…………あと二分……ッ!」
額に脂汗を浮かべ、男は呟く。
その声は期待と、何かに駆られたような恐怖に満ちていた。

―――――――ブツン

「ッ!?」
突如ヘッドホンからの騒音が途切れ、男は飛び起きる。
見ると、コードが切れていた。
鋭利な刃物で切断されたように。
「ヒイィッ!?」
男は情けない悲鳴を上げ、飛び上がった。

ガサッ―――――――

窓の外から聞こえた音に、咄嗟に振り向く。
窓の外の柵に刺さった、新聞の切れ端。
『15年前の樫の木坂児童殺人事件 今夜0時で時効成立』という文字が躍り、その隣には男の顔写真が載っていた。
「あ………ああ…………ッ!?」
男は顔面蒼白になり、叫びそうになるのを必死に堪えて、布団をおっ被った。
「……き……気のせいだぁぁぁ……
いつだって気のせいだ……!
あれは鳩とか鴉がやったに違いねえ…ッ!
さっきから聞こえてた声も幻聴とかだ……!」
ガクガクと震え、男は身を縮こまらせる。
「その証拠にッ…!
俺はこの十五年逃げて来れたんだ……!
そんでもって今、俺は時効が目の前のとこまで来てるッ!
ほら、見てみろよ…!もうあとほんの少しで……ッ!」
布団から顔を出し、男は時計を見上げた。
「―――――――え」
時計の針は、午前0時を回っていた。
「………お……おお…………ッ!
うおおおおおおおおおバンザァァァァイ――ッ!!」
歓喜に肩を震わせ、男は叫んだ。
「もう誰だろうと俺に追い付くことはできねえ!!
鳩だろーが警察だろーが俺のとこまで来れるもんなら来てみやがれってんだァァァ―――――――ッ!!」
男の狂喜の咆哮は、
「―――――――おめでとう、そして『さようなら』」

ドズッ!―――――――

冷めた声と、飛び散る深紅によって、唐突に途絶えた。

57〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:48:44 ID:/QZe41kI0


「―――――――今度の【標的】はどうじゃった?」
「いいや、駄目だったよ。」
人通りのない夜の裏通りを、吉良親子は歩いていた。
「このわたしでさえ、【改心】できたんだ……世の中の犯罪者共にも、【始末】する前に自首するチャンスを与えてやっているんだが………なかなかどうして上手くいかないものだ。」
「お前が改心できたのは、お前が『強かった』からじゃよ、吉影。
あんな軟弱な連中には、到底できんことじゃわい。」
吉廣は【写真】から顔を出しフワフワと浮遊して、吉影の隣に並ぶ。
「しかし、どうしてわざわざナイフなんて使って殺すんじゃ?
【キラークイーン】を使えば、手間もかからず確実じゃろうに。」
「ただでさえ指名手配犯が密室で殺されているのに、爆殺や撲殺だと、余計に目立ってしまうだろう?
ナイフでの殺害なら、まだ現実味がある。
【アトム・ハート・ファーザー】を使えば、部屋の外から【写真】に撮って刺殺が可能となるしな。」
「ふーむ、そういうものかのう。
………ところで、あの尼から次の【仕事】の依頼じゃ。
驚くなよ、今回の【仕事】の住所はなんと―――――――S市の駅前から約2kmの距離じゃ。」
「…S市………?
そう言えば、もう随分と杜王町から離れているな……ざっと13年か…」
「体感的には実質数ヵ月程度じゃがな。
どうじゃ、【仕事】のついでに里帰りというのも………」
「……止めておく。
故郷の復興の様子には興味あるが、あの町はスタンド使いが多すぎる………
下手に姿を見られては、『こと』だ。」
「それもそうじゃのう……」
「で、【仕事】の内容は?」
「【標的(ターゲット)】は一人、【軍人の家に住む者】じゃ。」
ピタリ、吉影は足を止め、まじまじと吉廣の顔を見る。
「【軍人】?なんだそれ?【軍人】って?
自衛隊ってことか?
この国に軍人なんているのか?」
「さっきの奴と違って、今回わしらは【標的(ターゲット)】を探さなくていい。
住所は分かっておるからの……
この場所に行き期限はないが速やかに【執行】してくれば良い、方法は任せる、とのことじゃ。」
【写真】の中に手を突っ込んで、一枚の紙を抜き出し吉影に手渡した。
メモを見て、吉影は怪訝そうな顔をする。
「これだけ?
名前はなんていう?
【標的】の顔写真はないのか?」
「『ない』、とあの尼に言われたわい。」
「【標的】か……当然悪人なんだろうが、しかし【執行】したあとで、人違いでしたじゃあイヤな思いをするのは彼女じゃあないのか?」
「行けばすぐわかるとのことじゃ。
その【軍人の家】にはそいつしか住んどらん。」
と、ここで吉廣は人差し指を立て、ニヤリと笑う。
「………【屋敷幽霊】って知っとるか?」
吉影は首を傾げた。
「………今、なんて……
?…………幽霊屋敷?」
チッチッ…、と指を振り、吉廣は答える。
「違う……、【屋敷……幽霊】。
その住所には今から60数年前――――ある【旧陸軍将校】の屋敷が建っておった。
時代は太平洋戦争末期――――S市は米軍の猛烈な空襲に見舞われ…その将校の家は木っ端微塵に吹っ飛んだそうじゃ。
その時幸いそこで死人は出ていないし…その将校も終戦後50年…長生きして82歳で老衰死しておる。
だが、その【軍人の屋敷】は今も存在しているんじゃ。
『その家自体が霊魂となって、未だにその場所にある』のじゃよ。」
「……………その、つまり人じゃあなくて、『家が幽霊』ってことか?」
「なんでもその【軍人の家】の付近では過去56人が自殺や変死を遂げているらしくてな………その理由を調べて、わしらにそれを取り除いてほしいという依頼じゃ。」
吉影は唾を飲むと、やや緊張した面持ちで訊ねる。
「今回の【標的】は……その、話の内容から想像するとそんな家に住めるのは『生きてる人間』じゃあないってことだよな?――――?
我々と同類なのにそいつ、住む家を持っている?
TV局にはバレてないのか?
この住所は眺めの良い場所か?」
待っていましたとばかりに、吉廣は口角をつり上げた。
「安心せい、Googleアースで既にリサーチ済みじゃ!
眺めは残念ながらあまりよくはないが、TVや一般人が立ち入るようなことはまずありえん立地じゃよ。
どんな物件かは、見てのお楽しみじゃ。」
「ほぉう……そうか、そうか……!」
吉影の表情に期待の色が広がる。
「風に吹かれず、落ち着いて本が読めて、花の絵を描いたり……
ヘッドホンステレオではない、スピーカーの音響でワーグナーの音楽に陶酔できる部屋。
誰も『幽霊が出るぞ』なんて噂を立てず、霊能者を連れたTV局がやって来ない場所で、家賃も大家の【許可】もいらない……わたし達だけの【結界】のある我が家……
それが手に入る……!」
期待に胸を膨らませる。

58〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:50:02 ID:/QZe41kI0
「12時20分発S市行き、やまびこ129号、指定・グリーン車・禁煙席
ちゃんと二枚予約しておいたぞ。
合計28160円、9号グリーン車8A・8B並んだ二席。
記憶したから券(チケット)は破り捨てておいた。」
息子の嬉しがる姿を見て微笑み、吉廣は報告する。
「ありがとう、天気予報によると、明日は晴れだ。
良い旅日和になりそうだ。」
彼ら幽霊は、ものを買わない。
服も食料も携帯電話も、彼らには必要ないからだ。
【仕事】の報酬は、もっぱら旅行に費やしている。
最も重要なのは、素敵な青空を眺めることであり、移動する景色をゆっくり楽しむことなのだ。
それ以上に重要なことがこの世にあるのか?

「………と、『青空』……か。」
ふと思い出し、吉影は夜空を見上げる。
街の明かりに掻き消された脆弱な星々を尻目に、満月が燦々と輝いていた。
顔を下ろし、左手に視線を落とす。
腕にあるのは、壊れた【腕時計】。
その長針には薄黄色の糸、短針には蒼い糸が結われている。
左手を掲げ、満月にかざす。
蒼い糸は月明かりを浴びて、艶やかなうぐいす色に変化した。
母、初恋の人、血を分けた娘。
三人の女との思い出が、爽やかな春風となって、彼の心を吹き抜けた。

「―――――――親父………」
手を下ろし、ポツリと語り掛ける。
「………ありがとう、親父。
親父がいたから、わたしはあそこから『生きて』帰って来れた。
親父がいなければ、わたしは【アトム・ハート・ファーザー】で夜の寝床をとることも、【仕事】を気楽にこなすこともできなかった……
もしかしたら、通行人に怯え、木の上や電柱の陰で膝を抱えて踞っている、本当の死人として、ただ死なずに無為に時を過ごしていたかもしれない………」
「………なんじゃ突然?
わしに隠居させないようおだてて、こき使おうって魂胆か?」
照れ臭さを隠すように、吉廣は冗談を返す。
「………礼を言うのはわしじゃ。
お前が助け出してくれなかったら、わしこそ【小道】に引き摺られて、地獄というものを体験していたかもしれんからのう………」
「…あれは簡単だった。
【結界】の交差点は三叉路で、分かれ道の先は二つしかなかったからな。
一度は【三途の川岸】まで連れていかれたが、昼寝していた渡し守に【バイツァ・ダスト】を仕掛け、三叉路前に戻って『もう一方(Another One)』の道へ進む、
途中、親父をひっ掴んでな。」
遠い目をして、二人はあの時のことを思い出す。
「……【暗闇】の中に親父を見付けた時、本当に嬉しかった……」
「……わしもじゃよ、吉影。
最悪、お前だけでも……と思っておったが…こうして【外】に帰ってみると、わしの【能力】が必要とされるのが分かって、助かって正解だったんじゃなと今では思っておるわい。」
「………いや、【能力】のこともあるが………」
口を開き、味わうように言葉を返した。
「―――――――やはり良いものだな……、【家族】というものは。」
しみじみと感慨深く、溜め息を吐く。
実際には現実の空気を動かすことはないが、死の冷たさではない、確かな暖かさが溢れていた。

「―――――――お、そろそろじゃ。」
顔を上げ、吉廣は吉影に言う。
前を見ると、午前0時を回っても未だ衰えない繁華街の絢爛たる煌めきが目に入った。
「……次の【仕事】が終わったら、奮発して海外に行ってみようか。
イタリアなんてどうだ?
ジェノヴァの『パラ・ヴィッツーニ庭園』の夜景を眺めながら、気に入った景色を【写真】におさめるんだ。
そこを拠点に、いつでもイタリア中を散策できるようになるぞ。」
「そりゃあ良いな。
ところで、この間甲板に【写真】を仕掛けておいた貨物船、さっき調べたらどっかの港に停泊しておったぞ。
どこか分かったら、そこも『撮影』しておくか?」
「どこだっていいさ。
どんな場所でも、回ってみるべき価値はある。
わたし達には、有り余る時間があるのだからな………」

幽静たる幽霊たちには似合わない、夜の街の活気。
眩しいネオンと人間の騒々しさも、彼らには絶えず変化する素晴らしいきらびやかさとして目に写った。

「(―――――――今夜はどこで…休むとするか…………―――――――)」

談笑する二人の幽霊は、夜の雑踏の中へと消えて行った。

―――――――――――――――――――――

――――――――――――――

ED Silver Forest 『霞舞う月の丘に』【ttp://www.youtube.com/watch?v=Es9zrZgQNNc】

59〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/07/23(月) 14:51:51 ID:/QZe41kI0
投稿終了です。

今回は、あまり解説を語りません。
まずは一度、皆さんの素の感想が見たいからです。

ただ、これだけは言っておきたいことがあります。
EDの『eternity』、これを是非お聴き下さい。
私は二年前、この曲を聴いて胸を打たれ、この物語を書き始めたのです。
歌詞の全てが、吉良吉影と上白沢慧音の悲恋を歌い上げているように聞こえてなりませんでした。
それからというもの、私はこの歌がEDとして完結を飾る日を夢見て、作品を書き続けてきました。
共感してくれなくていい、とにかくこの歌を聴き、私の作品のイメージに最後の一欠片を添えてほしいのです。



あとほんの少しだけ、続きます。
最後の【種明かし】をし、皆さんに納得をお届けしようと思います。
上手くいけば今夜には投稿致しますので、ご期待下さい。

60ポール:2012/07/23(月) 17:22:57 ID:07HLz/Mo0
悔やまれる・・・私の語彙の少なさが。
この作品に対して『素晴らしい』といった陳腐な表現しかできない・・・
『素晴らしい』という言葉では気持ちを十分に伝えられない。
ですが、この言葉が知っているなかで一番なので言います
『素晴らしい』という言葉以上に『素晴らしい』です。
こころに深く残る、愛のあるやさしい結末でした。
投稿お疲れ様でした!
もっといろいろと感想をいいたいですがひとまずこの言葉で

61セレナード:2012/07/23(月) 18:09:08 ID:7K9/gckU0
吉良完全消滅・・・かと思いきや生存、いや、『残留』しましたか。
小道を利用して幻想郷から離脱するのは予想外でしたが・・・。
まあ、吉良が望んだ生活は手に入ったようで、何よりです。

・・・あれ?もう一人足りないぞ・・・?

62154:2012/07/23(月) 18:50:10 ID:65wPYI/c0
お疲れ様。本当にお疲れ様でした。
激流のようなこの話を読み、私は『小さな星の話(あえて回りくどく言う)』を思い出しました。
その『小さな星の話』はともかくとして、『たった一つのシンプルな答え』を伝えるがためにここまで『回り道』をしてきた吉良ですが、その結末にまるで食後に食べる冷えたレモンゼリーのような清涼感を感じ取れました。
いろんな曲の歌詞をセリフや文の中にちりばめるセンスは正に『何者にも似ない独特』さがあります。
この『素晴らしい』作品に出会えて本当に良かったと思えます。
ありがとうございました。

63塩の杭:2012/07/23(月) 19:06:49 ID:fwITDXpg0
投稿お疲れ様です。
wikiに載せながら読んでいる時、何度も手が止まってしまいました。
展開に引き込まれ最後の一文を読んだ時、自分まで報われた気分になりました。
感謝をこめてあなたに言える、『素晴らしい』、ありがとうございました。

この作品は間違いなく読んだ人の魂に刻まれ続けるでしょう。

64キラ☆ヨシカゲ:2012/07/23(月) 21:28:00 ID:YjwC1OakO
皆さん、感想ありがとうございます。
感無量の心地でございます。

>ポールさん
お褒めいただき光栄です!
吉良吉影には、なんとしても『優しい結末』を迎えてほしいと思っておりました。
最後には救われた彼の物語から、穏やかな温もりを感じていただけたなら幸いです。

>セレナードさん
うーん、あまりセレさんの心に迫る結末とは相成らなかったようですね……
次回はもっと精進して、セレさんからも満点をもらえるような作品にしようと思います。
『あと一人足りない』とは、どのことについてでしょうか?

>154さん
『たったひとつのシンプルな答え』、
吉影自身はこれを【罪】だと考え、己の胸の内に封じたまま、顔も合わすことなく去ろうとしていました。
里で必要以上に暴れ、里人は殺さず、慧音の手によって【サーフィス】を撃破させようとしたのも、慧音の里での立場を取り戻すためです。
相手を思いやり、自分の気持ちを犠牲にする。
実はこの時点で、彼にはその『答え』を伝える資格があったのかも知れません。
以前、154さんの「吉影達がどんな残酷な結末を迎えるのか、また『強者』が『弱者』に『あっと驚く方法で倒される』のが楽しみで仕方無い」
とのコメントに、
「『四分の三』はご期待に沿う。」
とお返事致しました。
その内訳は、
吉影が美しく残酷にバラされたが生き延びて外の世界に脱出できたので0.5点、吉廣は同じくズタボロにされたが息子と共に外の世界に脱出できたので0.5点、輝之輔は『燃えるゴミは月・水・金』エンドで期待通りに朽ち果てたので1点、『強者』紫が『弱者』吉廣に『写真で呼び出した【小道の謎のパワー】を利用する』という『驚きの方法』で二人を取り逃がしたので1点、よって全四点中三点……という換算で、約束通りに終わらせました。
満足していただけたでしょうか?
>>いろんな曲の歌詞をセリフや文の中にちりばめるセンスは正に『何者にも似ない独特』さがあります。

私達のやっていることは所謂『パロディ』です。
だからこそ、原作愛を籠めて今まで書き綴って参りました。
その姿勢の一端を見て取っていただけたこと、嬉しく思います。

>塩の杭さん
今までWiki転載ありがとうございました。
吉影やフランには『救い』のある最後を迎えてもらいたかったのですが、塩の杭さんまで報われた気持ちになって下さるとは………
>>この作品は間違いなく読んだ人の魂に刻まれ続けるでしょう。

この言葉に私も報われました。
物書き冥利に尽きる、最高の感想です。
本当にありがとうございました!!


近々、『最後の最後』の続きを投下致します。
しばしお待ちを。

65セレナード:2012/07/23(月) 21:35:31 ID:RnCbmnbs0
いや、誰か忘れているような気がしたんですよ。
気のせいでしたけど。

キラさんの心配には及びませんよ。私の心にも十分迫る結末になりました。
・・・私も負けていられませんね。

66名無しさん:2012/07/23(月) 22:13:08 ID:yGFaug5Y0
投稿お疲れ様です。

ここはらデッドマンズに繋がるとは意外でした

ところで尼の正体ってもしかして…!

67名無しさん:2012/07/23(月) 22:16:47 ID:yGFaug5Y0
投稿お疲れ様です。

ここはらデッドマンズに繋がるとは意外でした

ところで尼の正体ってもしかして…!

68キラ☆ヨシカゲ:2012/07/23(月) 22:25:20 ID:YjwC1OakO
感想ありがとうございます。

『デッドマンズQ』に繋がることを言い当てた方がかつていらっしゃいまして、ビビったことを思い出しますw

尼さんは普通に原作の名無しの女坊主です。
【幻想郷】の外の話ですからね。

69ポール:2012/07/23(月) 22:29:14 ID:6yN1/ThU0
なるべく原作を変えない結末かつやさしい結末を考えたら、デッドマンズQが思い浮かびました・・・
てっきり吉良自身を差し出して記憶もなくなって、幻想郷で吉良のことを記憶しているのは一人だけ、というような予想をしてました・・・

70セレナード:2012/07/23(月) 23:12:51 ID:RnCbmnbs0
私は吉良は倒されて、幻想郷の歴史に『前代未聞の罪人』として残るかと思いましたね。
罪人として歴史には残りましたが、私の予想していたよりははるかに穏やかかつ優しい結末でした。
そして、数々の経験を経て吉良が『成長』していたことも、また予想外でしたよ。

キラ☆ヨシカゲさん、やはり貴方はすばらしい人です。
予想を超えた展開をつづり、物語そのものをすばらしいものにしたのですから。

71キラ☆ヨシカゲ:2012/07/24(火) 00:39:20 ID:SA8IbkPwO
お二人とも、かなり近い予想をたてられていたのですね。
的中はされず、かといって超展開でもない、均整のとれた結末だと確認できてホッとしました。

>ポールさん
『何もかも失って原作通り』では悲しすぎるので、受け継いだものも与えたものも残さず持って、新たな生活を始めてもらうことにしました。
ですが、幻想郷で吉影の『本当の歴史』を知っているのは、恐らく一人だけですので、ポールさんの予想は的中に限り無く近いですね。
そこまで考えて読んでいただけて、これまで書いてきた甲斐がありました。

>セレナードさん
人数の件は問題ありませんでしたか。
楽しんで戴けたようで、安心致しました。
お褒めいただき、感激です。
もう思い残すことはありません!(オイ
【真相】を知る一部のもの達を除けば、吉影は『至上最悪の侵略者』として語り継がれるでしょう。
もっとも、その記録はすぐに塗り替えられますが。

72キラ☆ヨシカゲ:2012/07/24(火) 00:41:59 ID:SA8IbkPwO
最終話、
『〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜』
第二十七と三分の二話、
投下致します。

73『〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜』 第二十七と三分の二話:2012/07/24(火) 00:47:05 ID:SA8IbkPwO
『〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜』
第二十七と三分の二話 ―――終焉・開闢・黎明・そして一巡―――



博麗神社の縁側に、二人の少女が腰掛けていた。
一人は博麗霊夢、この神社の巫女にして、【幻想郷】で最も強大な人間。
もう一人は八雲紫、【幻想郷】の管理者にして、最強と評される大妖怪。
「【お仕事】ご苦労様。」
夜空を見上げながら、紫は隣に座る霊夢に話し掛ける。
霊夢はというと、別段月を眺めたりせず、普段通り御茶を飲んでいた。
「せっかくの【皆既月食】よ?
貴女の生きているうちでは、二度と拝めないわ。
ちゃんと観ておきなさいよ。」
「………この間見たし、別にいいわ。
妖怪が大人しくなってくれるのはありがたいけどね。」
湯飲みを口から放し、下ろすと、遠くを見るような目で、ポツリと呟いた。
「………私達が何もしなければ、あの人も問題起こさずにすんなり【外】に帰れたかもしれないのに。」
紫は微笑して、霊夢を流し見る。
「何度も言ったでしょう?
あの男の犠牲のおかげで、私達はこうして欠けた月を眺めて、御茶を飲みながら話をしていられる。
これが最善で、最良の方法だった。」
紫の言葉を聞いても、霊夢の表情は晴れず、湯飲みを脇に置いて続ける。
「よってたかって一人の人間を苛めて、起こさなくていい問題を起こさせて、里の人間にも迷惑かけて………
それで最後においしいとこだけかっさらって、英雄気取り。」
憮然とした顔つきで、霊夢は吐き捨てるように呟いた。
「私達、最低最悪の極悪人じゃない。」
「―――――――……ええ、そのとおりよ。
でも、こうしなければ、もっと大勢の人と妖怪が犠牲になっていた。
たった一人の外来人の犠牲だけで、それを丸く治めることができた、それで上々なのよ。」
何度このやり取りをしたことだろう。
納得はできず釈然としなかったが、飽きずに何度も返事してくれる紫に、霊夢は少しだけ感謝していた。
「……そう言えば、あの【外の神様】はどうなったの?」
答えの出ない問いは頭の隅に追いやり、別の話題を口にする。
「……さあ、よく分からないわ。
なにせ、遠く天上の別世界にいるからね。」
一度言葉を切り、紫は口を開く。
「でも、その神様の下僕が何をしたかは、よく分かっているわ。
彼は全世界を一度滅ぼして再び創造し、【神の国】を創ろうとした。
だけど、もうあと一息というところで失敗、世界は『四ヶ月時間が遅れた、【一巡後の世界】』になるに留まった。
でも、失敗だとしても、不成功だとしても、【幻想郷】にとっては脅威だった。
貴女も知っての通り、【幻想郷】の妖怪達は、【外の人間】を極度に恐れているわ。
【広い世界】から自分たちを追い出し、【幻想郷】の外では存在を保つことさえできないような世界を創ってしまった人間たちに、恐怖と脅威を抱いている。
そんな状況でもし、『【幻想郷】を終焉まで導き、再構築する』ほどの強大な力が、【外の人間】によって干渉してきたら………?
結果は目に見えている……
【幻想郷】の崩壊。
だからこそ、【外の人間】ではなく、【亡霊】であり【吸血鬼】であるあの男が犯人でなければいけなかった。
だからこそ、この世界は再構築でなく、『過去に戻された』と認識される必要があった。
そして、私が【大結界】を強めて【外】と時間軸を切り離し、
私達の手によってあの男が倒される瞬間、【時の堰】を切って、あの男が『四ヶ月時間を戻した』ことにした。
その【幻想】がこの世界を覆って、ようやく私達の【仕事】は終わったのよ。」
紫は話を終え、自分に用意された御茶を飲む。
「………今までの【異変解決】も大変だったけど……こんなに疲れたのは、管狐に憑かれた時以来だわ。」
溜め息を吐き、霊夢は【幻想郷】が無事であったことに胸を撫で下ろして安堵した。
「……ごちそうさま。」
紫は湯飲みを置くと、空中に指を走らせた。
【スキマ】が開き、立ち上がって中に入っていく。
「もう帰るの?
月蝕鑑賞を言い出したのは貴女の方なのに。」
「流石に私も、ちょっと疲れちゃったのよ。
今夜はゆっくりくつろぐわ。
お休みなさい、霊夢。」
手を振ると、紫はスキマの中へと消えた。
スキマは閉じ、神社には霊夢だけが残される。
「…………私も寝ることにしようかしら。」
空の湯飲みの載った盆を持ち、部屋に入ると、障子を閉めた。

74『〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜』 第二十七と三分の二話:2012/07/24(火) 00:50:52 ID:SA8IbkPwO
―――――――不気味な目と紫色に満たされた、スキマ空間内。
紫は目的の場所に向かい、飛翔する。
【位置】に着くと、九つの尾を持つ彼女の式神が、複雑な魔方陣に囲まれて何事か呟いていた。
「―――――――……ああっ、紫様……!」
紫の気配に気付き、八雲藍は振り返った。
ホッと安心した表情を浮かべているが、その顔は引きつり、滝のように汗が流れ、額には青筋が浮き出ている。
「……ご苦労様、藍。
よく単身【大結界】を維持してくれたわ。
私が交代するから、暫く休んでいなさい。」
微笑み、紫は魔方陣の中に足を踏み入れる。
「あ………ありがとうございますぅぅ…………」
藍は持ち場を離れ、フラフラとした足取りで魔方陣の外に出ると、バタリとその場に倒れ込んだ。
ピクリとも動かず、数秒後には寝息が聞こえてきた。
紫は魔方陣の中心へと足を進め、【位置】に立つと、【大結界】の点検を始めた。



世界を一巡させた張本人の、病的ともいえる猛烈な【信仰】。
それが【歴史】に介入し、元はただの人間であった【ヤツ】を、【予言者】、【救世主(メシア)】、そして【神の子】へと、完全な姿で【受肉】させ、この世に転生させてしまった。
それは【偶像】とも、【一巡前の世界】にあった全ての人外のように、神話によって形成された【人が生んだ神】とも異なる。
最初から【神】になるべくして生まれた、真性の【唯一神】、この世の【創造主】。
その影響は、とある軍人を死の運命から救い、合衆国第二十三代大統領の首をすげ替えたかもしれない。
或いは、大陸を横断するという途方もない一大競技を催し、自分の完全な【復活】の手助けをさせたかもしれない。
その超存在が【幻想郷】に及ぼす圧力は比類無く、紫と藍、二体の全能力を全開で以て酷使し続けても、【博霊大結界】を維持させるので精一杯だ。
そして、【唯一神】の啓示の下、世界統一の使命を地上代行する、二つの影。
【大結界】を超えることなく、【幻想郷】を自由に出入りする、謎の存在。
【月人】など赤子同然に思える【超常の王】を相手取り、たった一人誰にも知られることなく紫は、敗色濃い戦に足を踏み込もうとしていた。
「―――――――この人外と神々の楽園を、自分だけの地球儀に加えようとする輩がいる………」
眼光鋭く、紫はキッと魔方陣の文字盤を睨み付ける。
「させはしない………
この世界に住まう、全ての存在のために…!
【幻想郷】のためにっ!!」
持てる力の全てを注ぎ、【大結界】の修繕を開始した。

75『〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜』 第二十七と三分の二話:2012/07/24(火) 00:53:08 ID:SA8IbkPwO
――――――――――――――

「―――――――ご報告にあがりましたわ、姫様。」
後ろで、女の声がした。
私は振り返らず、ただ佇み、続きを待つ。
「姫様も既に体感なさったかと存じておりますが、僭越ながら、この娘々めに『あの男』の結末をご報告させていただきたく存じますわ。」
恭しく、羽衣をたなびかせて、あの邪仙は深々と頭を下げていることだろう。
「こら芳香、姫様の御前よ。
貴女も頭を下げなさい。」
「うおお〜…、せいがさまー腰が曲がんないぞ〜」
「もう、仕方無い娘ねぇ……」
いつも通り下僕のキョンシーとイチャつき始めたので、私は口を開いた。
「もう良いわ、さっきの【一巡】を体験して、なんとなく分かった……
報告ご苦労、下がりなさい。」
「ははっ、畏まりましたわ。
行くわよ芳香、帰ったら柔軟体操しましょうね。」
「おお〜、頑張るぞ〜」
二人は談笑しながら部屋を後にした。
障子を開け閉めする音が聞こえなかったから、きっと『抜けて』退室したのだろう。
まったくあの邪仙、丁寧なのかそうでないのかよく分からない。
「……『吉良…吉影』…は…我々の役に立ってくれたぞ……」
隣から、男の声が話し掛けた。
一目見て人間じゃないと分かる容姿。
塩基配列の描かれた包帯状のラインが全身に走っており、顔の上半分と肩、腰の辺りは紫色の装飾品のようなもので覆われている。
【ホワイト・スネイク】、【月の都】を阿鼻叫喚木霊する地獄に変えた、恐るべき【能力】へと成長する【スタンド】だ。
「八雲紫……あの大妖怪の【限界】を知るための、よい実験材料になってくれた……
最後は逆に、八雲紫に利用されたがな。」
【ホワイト・スネイク】は不気味に響く人間離れした声で、私に語り掛ける。
それにしても、よく喋る【スタンド】だ。
『自意識』のあるタイプは、どいつもこうなのか。
私は自室の丸窓から、夜空を見上げた。
今夜は皆既月食。
地球の影に月が呑まれ、力が逆転する晩だ。
私が地上に落とされてから、幾度となく目にしてきた光景。
私はこの現象が好きだった。
掛けていく満月を見ていると、心に溜まった鬱憤が晴れるようで、爽快な気分になる。
私を『穢れている』と糾弾し、地上に落とした御高くつとまった連中め。
プライド高い者ほど、いざ自分が『堕ちた』時、千切と乱れ、愚かとしか言えない行動をとる。
まして愚か者で心がだだ漏れの兎たちがいたのでは尚更だ。
高貴な者達が住まう【月の都】は今、『時の加速』を生き延びた『穢れた者達』と、死んで生まれ変わった『清い者達』、血で血を洗う内戦の最中である。
自分達の思想がいかに無茶苦茶で、高慢ちきで、恵まれた者の驕りでしかなかったのか、死の恐怖の中で少しは思い知るといい。
もっとも、酸素の薄い場所にいる連中の麻痺した頭では、今自分達がどれほど平生の信条とはかけ離れた行為に及んでいるか理解できていないのだろうが。
そうでなければ、こんな内戦など続くはずがない。

76『〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜』 第二十七と三分の二話:2012/07/24(火) 00:56:07 ID:SA8IbkPwO
【ホワイト・スネイク】にバレないように、胸の内でせせら笑う。
と、その時、私の良い気分でいるのを狙っているかのように、騒々しい音が廊下から近付いてきた。
「あらファニー!
いつの間にいらしていたのですか?
足音がしないから気付かなかったわ(はぁと」
艶かしい声で話し掛けながら、青娥が再び入室して来た。
またしても障子を開閉する音が聞こえない。
というか正直、鬱陶しい。
「【左腕部】はどうなったのかしら?
私が拾得しておいた………」
「今は竹林に戻っているだろう……『一巡』したのだからな……」
青娥に腕を取られ寄り掛かられている男は、彼女を見下ろしそう答えた。
「ええっ、勿体無い!
今すぐわたくしめが回収に向かえば――――――」
「止めておけ。
【悪魔の手のひら】の出没する場所、時間は、誰にも予測できない。
それに………」
ファニーと呼ばれた男は、青娥を諫めると、チラリと【ホワイト・スネイク】を横目で見て言った。
「…【素材】は揃った。
スパイとして『君』が紅魔館へ放った、あの娘……ヤツなら決して気付かれず、目的を果たしてくれると信じていたが、予想通り首尾良くこなしてくれた。
あの娘の【サバイバー】のおかげで、『彼』と図書館の魔女との溝は深まり、遂に『あの男』と共に蜂起して、ゴミの如く死に……
我々の配下に下ってくれたのだからな……
『彼』の【ファイル能力】は、我々の【計画】に必要不可欠だった……それが揃ったのだから、我々は焦る必要がない。」
青娥から顔を背け、【ホワイト・スネイク】に向き直ると、ファニー・ヴァレンタインは問う。
「しかし、『あの男』……なかなか見所があったじゃあないか。
我々の援助がもっと直接的で、多大であったなら、或いは八雲紫を葬ってくれたかもしれないが………」
【ホワイト・スネイク】、いや、輝夜の背後に佇む男を見据え、ヴァレンタインは言葉を繋いだ。
「………【遺体】を貸してやったのに、ワーハクタクの女やら吸血鬼の小娘やらにうつつを抜かすような男、我々には必要ない。」
【ホワイト・スネイク】の背後の男は、神父服を身に纏い、右目には縦に切り傷が刻まれていた。
彼こそが、狂信の果てにこの世の理(ことわり)をも創り変え、その副作用として【月の都】を壊滅させた男。
男は残された左目に憎悪と使命感を湛え、宣言した。
「―――――――さあ諸君、準備を始めよう。
次の聖戦のために。
次の次の聖戦のために。
次の次の次の聖戦のために―――――――」

―――――――――――――――――――――

――――――――――――――

→to be continued…

77キラ☆ヨシカゲ:2012/07/24(火) 01:02:07 ID:SA8IbkPwO
投下終了。
これで正真正銘、本当の完結です。
本当に長かった……

最後まで読んで、皆さん分かっていただけたかと思いますが、この話で一番重要だったのは、
『本当の悪人は誰もいなかった』
ということです。
霊夢も紫もレミリアも、皆【守りたいもの】のために戦っていた。
射命丸も、彼女が追い詰めてくれたおかげで、吉影は誰か女を殺してしまう前に【幻想郷】から脱出することができた、とも見なせます。
パチュリーも輝之輔をただなぶっていたのではなく、『スパイ』が操る【サバイバー】の影響を受けていただけです。
もし『本当の極悪人』がいるとしたらそれは、最後に出てきた黒幕達。
【正義】【平等】【幸福】の価値観は驚くほど多種多様であるのに、それを【あの御方】の名の下に統一しようというのは『【洗脳】という【害悪】』に他なりません。
そんな黒幕達との闘いを、『第二部』にて描こうと構想しております。
『第一部』を気に入って下さった方、来年まで待っていただけたなら幸いです。


今回を持ちまして、二年間書き続けてきた『〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜』は完結致しました。
二年間読み続けて下さった方、最近から読み始めた方、コメントをくださった方、励ましてもらった方、Wikiに転載してくれた方、
私がここまで続けてこれたのは、確実に間違いなくあなた方のおかげです。
飽きっぽいこの私が、人生初めての【完結作品】を作ることができたのですから。
この掲示板に訪れた全ての人々に、心からの感謝を。
本当にありがとうございましたッ!



完結して良かったことは、まずなんといっても、心置き無く受験に取り組めるようになったことですね。
バリバリ頑張って打ち込みます。

今後も気紛れでぶっちゃけた解説を投稿したり、皆さんの作品を見に訪れたりはするつもりです。
皆さん、この掲示板の発展のため、協力して下さい。
いつまでも応援しております。
では。

78154:2012/07/24(火) 12:25:51 ID:wxGoHtYk0
お疲れ様でした。
本当に、本当にお疲れ様でした。

こんなことを書くだなんて……第二部が気になっちゃうじゃない! ビクンビクン

79セレナード:2012/07/24(火) 16:58:08 ID:KO.NP3gs0
投稿・・・いや、小説完結、お疲れ様でした。

『正義の裏は悪ではなく、また別の正義』という言葉をどこかで聞いたことがあります。
その言葉どおり、全員自らの『正義』のために戦ったのですね。

【あの御方】の名の下の統一、ですか。・・・それなんてパラノイアってやつですかね(
まああれは、神じゃなくてただのコンピュータが支配しているのですが。

・・・よっしゃ、ちょっくら女神転生2でYHVHぶっ倒してくる(マテ
女神転生シリーズも、ある意味キラ☆ヨシカゲさんの言っていることをテーマにしていますよね。

80ポール:2012/07/24(火) 17:07:22 ID:kiG2AoyA0
お疲れ様です!
プッチェ・・・
第二部楽しみにして待っておきます!

それでは受験勉強、頑張ってください。

81塩の杭:2012/07/24(火) 18:55:42 ID:uIeRl9eo0
投稿お疲れ様です!完結お疲れ様です!
…本当にお疲れ様です!

完結して胸がいっぱい、第二部への期待で胸がはち切れる…
受験勉強頑張ってください!来年まで待ちます、ええ待ちます。

82スピードワゴン:2012/07/24(火) 22:03:38 ID:GKY2GhIw0
最終回投稿、完結、二年間のジョジョワールド構築お疲れ様です。

他の創作物とは違い、ジョジョのBADでもHAPPYでもない不思議な感覚を味わえ幸福に思えます。
しかし、他に裏が存在していたとは、予想にも夢にも思いませんでした…
さすが【キラ☆ヨシカゲ】!俺達に出来ないことを平然とやってのけるッ!そこにシビれる!あこがれるゥ!

贅沢をいえば、この異変に参加した他の魔理沙達の心情orその後を読みたいなと、言いながら【スピードワゴンはクールに去るぜ】

83154:2012/07/24(火) 22:20:11 ID:.Qn4/EgM0
二部まで一年か……短いような長いような。

完結に際し吉良吉影は静かに生き延びたいを全て読み返してきました。
eternityも聞かせていただきました。
キラ☆さんのセンスの良さが垣間見えました。
そしてこの物語全てを読んだとき、ある「曲」を思い出しました。
東方ともジョジョとも関係ありませんが、この曲をここに記しておきます。

電気式華憐音楽集団『時果つる夢』 ttp://www.youtube.com/watch?v=IFrBbG0PEtI

84キラ☆ヨシカゲ:2012/07/25(水) 13:36:50 ID:EP08wIiEO
皆様、労いのお言葉、本当にありがとうございます。
この時この瞬間のために、今まで書き続けてきたといっても過言ではありません。

まとめwikiを見た時、タイトルの横に『(完結)』と添えられてあるのを見て、感慨に耽ってしまいました。
このwikiで二つ目の完結作品になれたことを光栄に思います。

>ポールさん
魔理沙は輝之輔を殺したことに悩んでいます。
輝之輔に利用された五人の妖怪の現在は、それはそれは悲惨です。
皆どこかしらトラウマを抱えていたり、壊れてたりします。
輝之輔の行った虐待や、彼女達の現状は【第二部】で明かされます。

>154さん
全部読み返すとは……大変な労力だったでしょう、それほど作品を読み込んでいただけて、物書き冥利に尽きます。
eternity聴いていただけましたか!ありがとうございます。
あの歌詞を私の作品と重ねていただければ幸いです。
『時果つる夢』聴きました。
静かで悲しげな、物語の最後に相応しい曲だと思いました。

85154:2012/07/25(水) 22:10:26 ID:oEbT/fME0
輝之輔ェ……虐待の内容によっては書記長鳥の様に蹴り殺したりケツにホース突っ込んで水入れて破裂させたり輸血して生かされたまま内臓掻っ捌いて野犬に食わせたりしてやるからな……
美少女に心の傷負わせた罪は重いんだぞ……

86セレナード:2012/07/25(水) 22:24:03 ID:W6Pw3S/U0
ちょちょちょ、154さん落ち着いて・・・。

妖怪は人間と比べると精神面がもろいですからね・・・。
はたして、彼女達は立ち直ることができるのやら。

87154:2012/07/25(水) 22:32:12 ID:oEbT/fME0
終わりよければすべてよしという言葉があるように立ち直れればそれでいいが……

立ち直れなかったら仮面ライダー555の小説版の草加みてーな末路歩ませたりメ・ギャリド・ギとゴア・スクリーミング・ショウのコンボで人間絨毯作ってやるからな……

88ポール:2012/07/25(水) 22:34:35 ID:ElEIXf7Q0
こ、怖い・・・
き、きっと大丈夫!傷ついた心を癒すためにイタリアから某チョコレートがやってきて・・・

89154:2012/07/25(水) 22:56:33 ID:oEbT/fME0
それ惨劇フラグですから!

90キラ☆ヨシカゲ:2012/07/25(水) 22:59:13 ID:EP08wIiEO
輝之輔は既に死んでいますけどね…w

…『馬鹿は死ななきゃ治らない』という言葉がありますが…
『狂人は死んでも治らない』のが私の作品内での設定です。
吉影は死後の【出逢い】によって改心することができましたが、最後に登場した『あの二人』は、死んで尚更悪化しております。
妖怪少女達も同様、【出逢い】のおかげで更正する可能性もあれば、【出逢い】ゆえに果てしなく堕ちてゆく未来もございます。
そうなったなら、死んでも誰にも救えません。

そして、断っておきますが、【第二部】はそれはもう陰惨で壮絶な吐き気を催す物語になるかと思われます。
東方の世界観のダークな一面をこれでもかと強調、誇張、曲解し、ベルセルクばりの憎み合い殺し合い犯し合いのグチョグチョの内容です。
『〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜』では避けていた、『東方キャラの死亡』、さらには強姦や麻薬漬け、拷問、食人、一般市民の虐殺など、下手すればR-18G到達するくらい好き勝手やらしてもらう予定です。
その時には私も大学生ですからね。
ただ、あくまでもそれらの描写は【吐き気を催す邪悪】であり、根底には『人間讃歌』、そして『幻想への敬意』が絶えず流れるような作品作りを目指しております。

また、本編のドス黒さとは真逆の、一般的な二次創作と同じく人間と妖怪の垣根も無きに等しい世界を舞台とした『ギャグもの』の企画も着々と進んでおります。
多分、ギャグの方だけで前作を上回るボリュームになるかと。
どんな内容かは、近々【予告編】を投下しますので、そちらをご覧下さい。

91154:2012/07/25(水) 23:43:59 ID:oEbT/fME0
ああ、私そういう『人(知性を持つ者)が致命的なまでに酷い目に遭わされる』のが大の苦手なの。
AnotherやBrackCyc作品とかベルセルクみたいな『原作の時点でグロイor酷い』ならまだ割り切れるしむしろ大丈夫だけど『二次創作でグロイor酷い』のは本当に無理。
う〜ん、どうしよう。

そうですか……ついにキラ☆さんも大学生なんですね。
でしたらついに18禁も解禁ですね。
後学のために『ストーリー作りの参考になりそうな18禁ゲーム』を少し挙げておきます。
参考にどうぞ。
『ゴア・スクリーミング・ショウ』
『さよならを教えて』
『狂った果実』
の3つです。
くれぐれもプレイする時にはゲロ袋を用意しておいてください。
3つとも『なぜソフ倫通ったのか理解できないほどのグロと鬱』ですので。

92キラ☆ヨシカゲ:2012/07/26(木) 00:02:12 ID:ZM8ce2I6O
二次創作のグロ鬱は受け付けない、ですか……う〜む、困りましたね…
『こいドキ』を視聴していただいて慣れていただく…のも荒療治ですし。
まあ、そうは言うものの、虐殺したりされたりするのは殆どモブキャラで、グロ描写も前作程度なのでそこまで心配なさる必要は無いかも知れません。
何はさておき【予告編】を見て戴いて、それから判断してもらいましょう。

ご紹介ありがとうございます。
吐き気を催す鬱グロ、期待しておきます。

次作は154さんを踏襲して『二作品並行掲載』を目論んでおります。
まず『ギャグもの』を前菜として和んでいただいたのち、メインディッシュの【本編】を召し上がっていただくという、血生臭さ際立つ鬼畜メニューをご用意致しますw

93154:2012/07/26(木) 00:09:43 ID:NEjYeJMQ0
ひゃあ、それは恐ろしい……っていうか二次創作のグロ鬱がダメになった原因が『こいドキ』ですよキラ☆さん。

ではさっきあげた作品の簡単な紹介をしておきます。
『ゴア・スクリーミング・ショウ』:鮮血と悲鳴の演劇。バッドエンドの内容が凄まじくヤバい事で有名。手に入りやすい。
『さよならを教えて』:0点か100点の作品。主人公が史上最高の基地外。プレミアつきまくりで超高い。
『狂った果実』:史上最悪の鬱ゲーとして語り継がれる伝説の作品。ただしPC98のソフト。

94セレナード:2012/07/26(木) 00:11:40 ID:0PSthER20
私もグロイのは受け付けませんね・・・。
昔にリアルの血溜まりを見て以来、そういうのはダメないのですよ。
おかげで154さん以上にダメです。ジョジョぐらいのグロさはまだ耐えれますが・・・。

深く見すぎて吐き気を催さないように気をつけるとしましょうか・・・・。

95名無しさん:2012/07/26(木) 00:49:46 ID:Q4nm/obo0
申し訳ないがグロ、行き過ぎた犯罪行為はNG

96キラ☆ヨシカゲ:2012/07/26(木) 01:00:16 ID:ZM8ce2I6O
>154さん
こいドキが原因でしたか!?
それは失礼致しました……(汗

鬱がどのようなものか、若干ネタバレしますと、
・輝之輔の行った虐待のヒントは『北九州監禁殺人事件』
・リグル→「苛めなきゃ…苛められる…!」と悪人化
・ミスティア→麻薬漬け
・ルーミア→引きこもり対人恐怖症
・小傘→調教済み
・響子→食人
・白蓮の過去捏造
・早苗の過去捏造
・ヤンシャオグイでモブ女の腹を喰い破って妖怪化した胎児が這い出て来る
・【シビル・ウォー】であらゆるキャラの【罪】が啓示され心折られる

等々です。
最後から二番目以外、そこまでヤバくはないと思われますが、いかがでしょうか?

>セレナードさん
トラウマはなかなか払拭できませんよね。
私は小学生の頃、手をガラスに突っ込み結構な怪我を致しましたが、かといってジョジョの手刀で手首切断シーンとかを見ても大した嫌悪感は抱きません。
むしろそのハンパない絶望感が好きなくらいです。
原作や前作程度が大丈夫なら、多分心配無いかと。

97ポール:2012/07/26(木) 01:17:43 ID:.O0wsntI0
う・・・う〜〜う〜・・・あんまりだ・・・HEEEYY!!!
あァァんまりだァァァああああ
AHYYYY!!!!WHHHHOOOOOOOO
う・・・ううう・・・う

グロイのは苦手だな。実験で生きたラットの脳みそに管を差し込んで電気信号をみる、とかでもゾッとしたよ。
脳みそ単体とかだったら平気というよりも知的好奇心が満たされる興奮はあるのに・・・

98154:2012/07/26(木) 12:24:17 ID:bvAg3tY.0
正直に言わせていただきます。
北九州監禁殺害事件なんて洒落になりません。
これはネタとかそういうものではなく、一般社会の倫理から見ての言葉です。
以前この事件を題材に新堂冬樹という人が『殺し合う家族』という本が書かれましたがこの一件で新堂さんはボロクソに叩かれました。
世の中にはネタにしても大丈夫な物事としてはならない出来事があるのですよ。
北九州監禁殺害の件はまさに後者です。

99セレナード:2012/07/26(木) 16:30:18 ID:zc5WlLI60
キラさんの第二部の小説の書き方はまさに岸辺露伴・・・あくなき『リアリティ』の追求ですね。
さすがに露伴ほどリアリティは追及できないでしょうが、下手すると『自分が体験している』ような気分を味わえるかも・・・。

人の狂った一面の現れとしては、北九州監禁殺害事件はある意味いい例なのかも知れません。
露伴のように『読んでもらうために』小説を書くキラさんには、どんな歴史上の事件も小説の参考にしてしまえるのでしょうね。

100ポール:2012/07/26(木) 20:54:47 ID:jJ60e6yM0
北九州の事件をつい先ほどwikipediaで見ましたが・・・なんだよこの事件
途中から読めなくなった。こんなことがあったなんて・・・
何も言えない




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