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ジョジョの奇妙な東方Project.PAD4

1154:2011/04/12(火) 21:50:15 ID:1ynWfkeg0
立てちゃいました。
ミスタ感涙の4スレ目。

過疎になってはいますが、頑張っていきましょう。

951154:2012/06/12(火) 21:19:10 ID:C9X60xag0
吉本新喜劇……あれはいいものだ!
最近のお笑い番組はいいものがなくてこれぐらいしか面白いものがない……
面白いお笑い番組、ないかなぁ

952154:2012/06/17(日) 16:02:44 ID:fgUmPHjU0
 スランプがあっていろいろ遅れました。
 気分転換に仮面ライダークウガ見たりメタルマックスやってたりしたら何とか出来上がりました。
 久しぶりに投下します。

953154:2012/06/17(日) 16:04:49 ID:fgUmPHjU0
 宙に浮く2つの羽と2本のフック。
 ジョニィたちを見失ったフックは、するすると音もなく羽へと吸い込まれていった。
 
 砂漠のど真ん中に、洗面器が1つ置いてある。
 洗面器は静かに水を湛えていて、その水面に2枚の羽を浮かべていた。 
 羽からは、1本ずつワイヤーが生えていた。
 ちゃぷちゃぷと水音を立てて、ワイヤーは巻き上げられてゆく。
 バシャッ、と音を立ててフックが洗面器から飛び出した。
 ワイヤーとフックは、ウィンウィンと機械が動くような音と共に巻き上げられてゆく。
「ウィーンウィンウィンウィンウィン」
 機械の音に合わせて少年の声が飛び出した。
 ワイヤーとフックは、少年の口の中へと吸い込まれて、その姿を消す。
「カッシャーン! ギィィーガシャン! ギィィーガシャン!」
 少年の服装は、砂漠には不似合いな服装だった。
 半袖のシャツ、薄手のズボン。そして竹で作ったと推測される帽子のようなもの。
 彼を一言で形容するなら、小僧というべきだろう。
「ウィィーン、ムズッ」
 小僧は機械を模した動きで、手元の石をつかんだ。
 わざわざ口で擬音を立てながら。
 そのままつかんだ石で、小僧はジャイロのバッグを滅多打ちに叩く。
 しばらくの間、めちゃくちゃに叩いていると、何かが割れる音がした。
 その音を聞きつけた小僧は、バッグの中をまさぐって、音の正体をつまみ出す。
 キャップの壊れた万年筆だ。
 においを嗅ぐ。軽く振ってみる。中のインクが零れ落ちる。
 おもむろに小僧はその万年筆を口にくわえ、中身を吸ってみる。
「ンメェーッ!」
 どうやらインクは小僧好みの味だったらしい。
 ひとしきり万年筆を吸い、中身を吸い尽くしてポイ捨てし、再びバッグをあさり始める。
「だけど見当たらねーな。この荷物にもねーじゃーん!」
 だが、バッグの中には目的のものは見当たらず、洗面器へと向き直る。
「とすると……ジョォニィ・ジォシュッターか、モクォ・フジャーラのどちらかが隠し持っているわけだな……」
 ギィィーガッシャン、ギィィーガッシャン、と口で機械の音を立てつつ、小僧は洗面器へと向かってゆく。
 その背後では、ジャイロが吊られていた。
 岩のでっぱりに、髪を結んで吊り下げるというぞんざい極まりない扱い。
 ジャイロはピクリとも動かず、あごに大穴を開けられて血を流している。
 ぽたり、ぽたりと血は地面へと垂れてゆく。
 垂れる血が、ジャイロの足元にある鉄球にぶつかったとき、鉄球は静かに動き始めた。

 
 不死鳥は失敗を恐れない 第24話『牙‐タスク‐その2』 OPテーマ 水野真菜三『炎つぐもの』
                             ttp://www.youtube.com/watch?v=2dPahV2Oz_w

954154:2012/06/17(日) 16:06:25 ID:fgUmPHjU0

「敵はどこからかこの位置を見ている……離れているかもしれないが、きっとそれほど遠きはない所からここを見ているはずなんだ……たぶんジャイロはそこに捕えられている」 
「確信はあるのか?」
 岩棚の陰に身を寄せ合って、フックから身を隠すジョニィと妹紅の2人。
 日差しと熱気が漂う中、狭い場所に人間2人が詰まる。
 このままだと熱気でくたばりかねない。
「しかし、この岩棚から外に出れば殺される……」
 ジョニィは汗が砂に吸い込まれる。
「でもこのままここに詰まっている訳にもいかないわね……」
 妹紅も額に汗を浮かべ、砂を握りしめる。
 と、そこに一匹のカナブンが入り込んできた。
 日差しを嫌って、岩陰に逃げ込んできたのだろう。
「ここはもう一杯だぜ。予約はずっと先まで……」
 ジョニィは入り込んできたカナブンに気付いて、
「満室だ」
 指ではねのけた。
 すると、突然カナブンからフックが飛び出し、ジョニィの手を貫く。
「え」
「ジョニィ!」
 次の瞬間、ジョニィはものすごい勢いで引きずられ、岩棚の陰から日差しの突き刺さる砂漠へと引きずり出そうとする。
「うおっ……な、なにぃ!」 
 ジョニィはフックに引っかかっていない右手で必死に岩にしがみつく。
 だが、フックの引く力に負けて岩をひっかくだけの結果に終わってしまう。 
 しかし彼の足を掴む者がいた。
 妹紅である。
「ジョニィ! しっかりしろ! 持って行かれるな!」
 しかし妹紅の力よりもフックの力の方が強く、妹紅もジョニィに引きずられる形となる。
「フックが出てくるところは羽だけじゃなかったんだ! 生きた昆虫からも出てきた」
「つまりは『疑似餌』って訳か!」
「早くこのフックを抜き取らなくては……! 砂漠に引きずり出されたら一巻の終わりだッ!」
「だったら早くフックを取れッ! アタシがアンタを繋ぎ止めておくッ!」
 妹紅は近場の岩を片手で掴み、ジョニィが引きずり出されないように努める。
 ジョニィは妹紅が限界を迎える前に、右手を左手に伸ばしてフックを取ろうとした。
 左手のフックにジョニィの視線が集中する。
 右手でフックを掴んだ際に、ジョニィは見た。
 数匹のカナブンが、自分目がけて迫ってくるのを。
「なにィィィィィ!」
 迫ってくるカナブンの意味を知るジョニィは、恐慌状態に陥った。 
 当然、カナブンの姿はジョニィの頭が影になって妹紅には見えない。
「どうした! ジョニィ!」
 妹紅が声をかけた次の瞬間、ジョニィのあごにフックが引っ掛かり、どうしようもない程の勢いでジョニィの体が引っ張られ始めた。
「どうしたもこうしたも……っぐ! ぼくは欲しくてこんなわけのわからない『ミイラの手』を手に入れた訳じゃなんだ!」
 ジョニィの手が裂け、『ミイラの手』が露出する。
 その時、すべてがスローモーションになった。
 バリッ、と腕を裂いて、『何者か』が出てくる。
 手のひら大ほどの大きさ、体のそこかしこについている星の模様、つぶらな瞳。
 ジョニィの腕から這い出た『何者か』はよちよちとジョニィの耳元まで近づく。
「movēre crūs……」
 すべてがスローに動く世界の中で、『何者か』だけが平然とした速さで動き回る。
「何……ミイラの手の中……から……」
 ジョニィは、『何者か』の動きを黙ってみることしかできない。
『何者か』は跳ねてジョニィの足へと向かい、
「モヴェーレ・クルース……movēre crūs……」
 と囁く。
 次の瞬間、スローモーションの時は動き出した。ジョニィの靴を破って彼の爪が飛び出した。
 飛び出した爪は、岩を真っ二つに裂き、妹紅を吹き飛ばし、フックの根本の羽へと飛び込んだ。
 左手とあごに引っかかっていたフックは、外れて羽の中へと逃げ帰ってゆく。
 バラバラと岩の破片が砂漠に落ちる。
「爪が……発射されたんだ……ものすごい力だ…こいつの仕業なのか? どういうことだ? ぼくを危機から守ったっていうことなのか……」
 肩で息をしながら、ジョニィは自分の足と、そこに張り付く『何者か』を見つめる。
 「おい、ジョニィ! 何が起こったんだ!」
 砂に叩き付けられた妹紅は、口の中の砂を吐き出しながら立ち上がる。
「動かないぼくの足から……爪が発射されたんだ!」
 再び、ジョニィの足から爪が天に向けて放たれる。
 妹紅は爪の行方を見送った。
「爪が……飛んで行った……」
 妹紅は呆然と空を見上げる。

955154:2012/06/17(日) 16:07:13 ID:fgUmPHjU0
 そうしている間にも、『何者か』はジョニィの体を這い回り、彼の手首に、
「モヴェーレ・クルース、movēre crūs…………」
 と囁く。
「誰なんだ……誰なんだお前はあぁぁーッ!」
 ジョニィは、絶叫して『何者か』を問いただした。
『何者か』は、答えず、その腕を動かし、ジョニィの腕に傷をつけた。
『movēre crūs』
 ジョニィの腕に、その文字が刻みつけて、『何者か』は再びジョニィの腕の中に潜り込んで姿を消した。
 すぐにジョニィは右手で左腕をさわる。自分の手が自分のものであることを確認するかのように。
「何か書いて……また僕の『左手』の中に入ったッ! こいつ……意思がある! この左手のミイラにはきっぱりとした自分の意思がッ!」
 ジョニィは、左手の異変に確信を持った。
 左腕に刻まれた文字を見る。
『movēre crūs』という、英語ではない文字。
「ジョニィ、あれを見ろ……」
 妹紅が、ジョニィの肩に手をかけて、砂漠の方を指差す。
 その方向には、回転する鉄球。
 鉄球は、回転しながらずるずると移動し、その跡を砂に刻みつける。
「鉄球……ジャイロの、もう一つの鉄球」
 2人は、鉄球の先を見据える。
 そこにそびえたつのは、小高い岩山。
「ぼくは、これからあの岩山に向かう。この『ミイラの左手』は渡さないし、ジャイロも死なせない!」
 ジョニィは、強い意志を瞳に宿して岩山をにらんだ。
「だが……どうする? アタシたちでジャイロを助けるにしても、あのフックが邪魔してくると思うよ」
 妹紅は辺りに怪しいものが無いか警戒しながら、ジョニィに目を合わせる。
 彼女の言葉を受けて、ジョニィは少しの間固まった。
「アンタが岩山に行くのは構わないが、問題は機動力だ。私はあのフックを避けるだけの速さがあるが、アンタにはない……そして敵はアンタを狙っている……」
 妹紅は深く息を吐き、ジョニィの隣に座る。
 ジョニィは、妹紅の顔を見た。
「……あのフックを、避けきれるのか?」
「当たり前よ。さっき飛んだ時全部避けてたじゃん。私一人だけだったら1時間近くやってられるわ」
「だったら、あのフックを引き付けてくれるか?」
「何か、フックの注意を私に向ける秘策があるのか?」
 妹紅の問いに、ジョニィは首を縦に振った。

 
 洗面器から飛び出したジョニィの爪が、小僧の顔に突き刺さった。
「うぎゃぁぁぁーッ!」
 あまりの痛みに小僧は飛びのき、地面を転がって悶える。
 顔を抑え、痛みが引くのを必死に耐える。
 口で息をするたび、歯がヒリヒリと痛む。
「くっ……クッソォォ……」
 口の中に指を入れて、切り取られてしまった歯を数える。
 1本
 2本
「3本ダァァァァー! オイラの歯が三本も切られたあぁぁぁ!」
 口からだらだらと血を流し、小僧は痛みを恨みに変換する。
「だけど……ジオシュッターが『あれ』を持っていて、どこに隠し持っているかが分かった! 左腕だ……上空から少し見えた!」
 息をするたびに歯が痛むのを忘れ、小僧はにやにやと笑う。
「つまりだ! 探すのはもう終わりで、奪うのはジオシュッターを殺してからでいいってことだ」
 洗面器を覗き込み、口の中からワイヤーとフックが出てくる。
 フックは洗面器に沈み込み、妹紅たちの上空へと現れる。
「しめしめ……奴ら話すのに夢中でオイラの『ワイアード』に気付いてねーや……」
 音を立てず、2本のフックは砂の上すれすれまでに下りてくる。
 静かに、まるで獲物に忍び寄る猛獣のようにフックはジョニィに近づいてくる。
 もう少しでジョニィを開き……にしようとした所で小僧はフックを動かすのをやめた。
「あ、あれは……」
 小僧は見た、ジョニィが妹紅に『布に包まれた棒状の物体』を差し出すのを。
 そして、『物体』を包む布の隙間から、『茶色い物体』が見え隠れしているのを。
←To be continued...

956154:2012/06/17(日) 16:08:24 ID:fgUmPHjU0
 不死鳥の方は結構順調にいきました。
 元となるものがありますので。
 苦労したのはディスクブレイカー☆フランの方です。
 紅魔館の謎編、完結。

957154:2012/06/17(日) 16:09:31 ID:fgUmPHjU0
 ディスクブレイカ―☆フラン 『紅魔館の謎(アトランチス的な意味で)後編』

 

「と、今日の授業はここでおしまいだ。宿題もいつも通り少ないからきっちりやってくるように」
 子供たちの目の前で、フーゴは教科書を閉じた。
「起立、礼!」
 日直の子供の号令が教室に響き、子供たちはフーゴに向かって一礼をする。
 フーゴが教室から出ていくと、教室の張りつめた空気が一気に和らいだ。
 フランと、チルノと、ナランチャはほとんど同時に鞄を持って立ち上がる。
「フラン、チルノ、悪りぃけど今日バイトなんだ。じゃあな!」
 早々にナランチャは、教室の窓から飛び出した。
 フランとチルノの2人は、そのままナランチャが『妖怪の山』の方へ飛んでいくのを見送る。
「ナランチャって、山で何やってんだろうね」
 ナランチャを見送ったフランは、日傘を取り出して窓から飛び出た。
「それあたいも気になる。でも……」
 続いてチルノも教室の窓から出て、ナランチャの行った先を見つめる。
 すでにナランチャの姿は消えていた。
 視力に自信があるフランでも捉えきれない。
「よし、今日は解散!」
「じゃーねー!」
 やることもないので、2人は解散し、別々の方向へ飛んで行った。

958154:2012/06/17(日) 16:11:14 ID:fgUmPHjU0

「紅魔館の謎……この紅魔館を取り巻いている現象の正体が解ったっていうの!?」
 レミリアは、琢馬に迫った。
 手がプルプルと震えて、カップの紅茶がさざ波を立てる。
「とりあえず落ち着いて。カップを皿に置いて」
 息を荒らげるレミリアに対して、冷静な態度で接する琢馬。
 言われたレミリアは、紅茶の滴が少し服にかかっているのに気付いて、カップを皿に置いた。
「で、本題だ。紅魔館で起こっている、『ところ構わずワープしてしまう現象』、その現象の『法則性』の一端が解った」
 法則性。琢馬の一言で場の空気が張りつめた。
「まずは前置きから話そう。俺がこの仮説を立てた経緯だ。レミリアはドアを開き、見知らぬ場所に繋がっているのを見て、すぐ閉じて、再び開いて咲夜さんの部屋に行きついた。パチュリーは3冊の本を持って本棚に入り、4冊の本を持ってどこかの森に行きついた。そして俺は本の整理のために23冊の本を持って本棚から出たら、キッチンに行きついた。俺たち3人のワープには、一つの法則性があるんだ」
 長い言葉を言い終えて、琢馬は紅茶を一口。
 カップが皿に置かれる小さな音がして、空気が一層張りつめる。
「数……ね。数が関わっているのね」
 レミリアは椅子に座り直し、熱くなった自分を抑えるために紅茶を飲みほした。
 琢馬は、静かにうなづいた。
「ああ。数が関わっている。更に、移動の際紅魔館に繋がるか、それとも他の場所に繋がるかには、『素数』が関わっている。移動に『素数』が関わると紅魔館へと移動し、『素数』が関わらない場合はそれ以外の場所へ移動する」
「素数……しかし、何故?」
 琢馬の仮説に、パチュリーが食いついた。
 質問を受けた当の彼は、少し息を吐いて、ティーカップに二杯目の紅茶を注ぐ。
「そこなんだよ。問題は。何故素数なのか? そこばかりは仮説の立てようにも材料が少なくすぎる」
 腕を組み、琢馬は再び息を吐く。
 話が行き詰ってしまった。
「…………」
「…………」
「…………」
 三人とも黙ってしまい、嫌な空気が流れ始める。
「ともかく!」
 レミリアは突然立ち上がり、静寂を打ち破った。
「咲夜の場所に行く必要があるわ! 私たちはちょうど3人いる! 3は『素数』! 3人で行動すれば紅魔館から別の場所に行くことはない!」
 叫ぶような言葉に、2人は目を丸めた。
「……そうだな。3人で行動すれば見知らぬ場所へ行きつくこともない。
 琢馬も立ち上がった。
 つられてパチュリーも立ち上がり、魔法でテーブルとティーセットを消す。
「で、3人行動するのはいいけど、レミィ、咲夜の元にたどり着く策はあるわけ?」
「…………パチェ、あんた私の能力忘れてない?」
「……あ」
 指摘されて、パチュリーは思い出した。レミリアの能力は『運命を操る程度の能力』であることを。
 あまりにも地味、かつ使われていないので彼女の親友であるパチュリーすらも忘れていた。
 琢馬に至ってはレミリアの能力を今この場で知った。
「『……あ』じゃねーよ!」
 レミリアは、怒鳴った。
 無理もない。親友に自分の能力を忘れられていたのだから。
 その怒りはレミリア自身のキャラを変えるほどに凄まじかった。
「まーまー怒らないでレミィ。これあげるから」
 怒りの的である張本人はその怒りを受け流して、袖の下から大きなビンを取り出す。
 ウィスキーのビンであった。恐らく魔法で袖の下から出したのだろう。
(酒かよ……)
 琢馬は半ば呆れ気味に、自分よりはるかに年上の少女たちのコントを眺める。

959154:2012/06/17(日) 16:11:54 ID:fgUmPHjU0
「物で釣られるほど私は甘くないわ!」
「え! 秘蔵なのよ!? 竹鶴35年なのよ!?」
「う……う〜」
 早くもレミリアのプライドが揺らぐ。どうやらその酒は貴重な酒らしかった。
「ちょっとショットで飲んじゃおうかしら」
 パチュリーはグラスを取り出して、レミリアを更に煽る。
 立場がいつの間にか逆転していた。
「二人とも、コントはここまでにして、早く行かないか?」
 コントを見飽きた琢馬は、2人に声をかけた。
「…………」
「…………」
 琢馬に突っ込まれた2人は黙り込んだ。
 ハッとなってパチュリーは竹鶴35年を袖の下に仕舞い込む。
「そうよね。早く咲夜を探さなくちゃ」
 レミリアはすたすたと歩いて、近くのドアに立った。
 そして目を閉じ、まるで祈るかのように首を前に傾ける。
「黙り込んで、どうしたんだ?」
 レミリアの様子を不審に思った琢馬は、彼女に手を伸ばす。
 伸ばされた彼の手を、パチュリーが掴んだ。
「静かに。今レミィは『運命』を読んでいるわ」
 パチュリーに諭されて、琢馬はおとなしく手を引く。
 レミリアの背後で2人はひそひそと話を続けるが、もはや目を瞑り続ける彼女に、2人の声は入っていなかった。
 彼女の意識はすでに今いる場所とは遠い場所にあった。
 レミリアの視界には、『連続した未来と過去の写真』がいくつも並んでいた。
『過去』と『未来』の写真は無数に並び、彼女の周りを何度も行き来する。
 さながら『フェナキストスコープ』のように『過去』と『未来』は回り続けて、レミリアを惑わすかのように動き回る。
 レミリアは目をカッ、と見開いた。一瞬で伸ばされた手が、飛び回るいくつもの『フェナキストスコープ』の一つを捕えた。
 2本の指に挟まれた『フェナキストスコープ』には、ベッドの上に臥す咲夜の姿と、ベッドに座るレミリア。そして部屋から立ち去ろうとするパチュリーと琢馬の姿が描かれている。 
「行くわよ2人とも」
 目を開きドアに手をかけるレミリアを、琢馬は制止した。
「本当に、本当にその先に咲夜さんがいるのか!?」
「……この先は咲夜の部屋じゃないけど、絶対にたどり着くわ」
 琢馬の詰問にレミリアは自信満々に答えた。そして一拍おいて小さく、
「いつか」
 と付け加える。レミリアが取った『運命』には、咲夜の部屋に行き着く『結末』はあれど咲夜の部屋に行くまでの『過程』は映されてなかったから。
 琢馬の耳がピクリと動いた。
「ちょっと待て。今小さく『いつか』って付け足さなかったか? いつか!?」
 目を剥いて琢馬はレミリアを問い詰める。
 問い詰められた彼女は、
「さ〜行くわよ〜♪ 希望満ちた『運命』にレッツゴー!」
 さらりと無視して扉を開いた。
 パチュリーも続いて扉に入っていき、琢馬も置いて行かれないように扉へと駆け込む。
 3人が入った部屋は、小ぢんまりとした空き部屋。
 テーブルとクローゼット、ベッドに洗面台という簡素な造り。
 この部屋に入った瞬間、琢馬は頭に血が集中するのを感じた。
 レミリアとパチュリーの帽子が、『天井へ向かって落ちる』
「これは……重力がさかさまになっているのか!?」
 床が上、天井が下という奇妙な現象を目の当たりにして、琢馬は戸惑った。
 また奇妙なことに、調度品はすべて床に張り付いて、天井へ落ちていない。
 ちっ……、と舌打ちする音が琢馬の目の前からしてきた。
 まぎれもなくレミリアの舌打ちであった。
(舌打ち!? やっぱり行き当たりばったりじゃないのか!?)
 戦慄した。レミリアの適当さに戦慄した。
「よし次行くわよ!」
 白くなる琢馬をよそに、レミリアは回れ右して扉を再び開く。
「つぎつぎー!」
 パチュリーも続いて扉に向かってゆく。
「……ッハ!」
 取り残される前に琢馬も扉をくぐった。

960154:2012/06/17(日) 16:13:29 ID:fgUmPHjU0
 そして扉の先はフランの部屋。
 いろんなおもちゃや本やDISCが乱雑に散らばっている。
「……こんなに散らかして、お前の妹は物を片付けるということを知らないのか!?」
 あまりにもカオスな部屋模様に、琢馬は歯をカタカタ鳴らした。
「見たこともないものがいっぱいあるわね」
 部屋の汚さにびっくりしながらもレミリアは足元のDISCを一枚手に取ってみる。
 DISCには油性ペンでこう書かれていた。
『【トト神】 使用厳禁。今度の日曜日にぶっ壊してやる』
 と。
「あら、無くなったと思ってたらフランが持ってたのねそれ」
 レミリアの持っているDISCが、パチュリーに取り上げられた。
「それ、何なの?」
「これ使ってフランったらカンニングしようとしたのよ。で、ひどい目にあったわけ」
「なるほど、その腹いせにこれを壊しちゃおうって思ってたのね」
 DISCを片手に語り合う2人。
 琢馬はそんな2人を冷ややかな視線で見つめる。
(こんな調子で本当に行き着くのだろうか……)
「さあ行きましょう。一枚のDISCに時間を取りすぎたわ」
 DISCを見るのにも飽きたレミリアはすぐに扉へと向かった。
「これはまだ役に立つものだわ」
 DISCを懐にしまってパチュリーはレミリアについていく。
「もう何が起きても驚かない……」
 猛烈な疲労感に襲われながら琢馬は扉をくぐった。
 扉をくぐって目に入ったのは大きなテーブル。
 テーブルの上には、燭台が並び、小さな灯が赤々と灯されている。
「食堂……ね。レミィ、あなたの腕の見せ所ね」
 食堂のテーブルを前に、パチュリーはレミリアを試すように微笑んだ。
 食堂には、いくつかの扉がある。。
 メイド達が料理を運んでくるための扉。
 大きなサイズの料理をを運んでくるための大きな扉。
 ここで食事をするレミリアたちが入ってくるための扉。
 客人を招き入れるために主賓席の前に据えられた観音開きの扉。
 今3人が入ってきたのは、いつも通りに食堂に入ってくるときの扉。
 背後の扉が、バタンと音を立てて閉じる。開いた扉はひとりでに閉まるように作ってあるのだ。
 レミリアは、メイドたちが料理を運んでくるための扉へと歩を進めた。
「ここよ。この扉が咲夜の部屋の続いている」
 自信を瞳に宿し、レミリアは扉を開いた。
 3人が扉をくぐる。レミリアにとって見慣れた光景が入ってきた。
 樫で作られた、落ち着いた色合いの椅子とテーブル。
 同じく樫で作られた食器棚には白磁の食器と洋酒のビンが並んでいる。
 一人用の簡素ながらしっかりとした作りのベッドが壁際に置かれていて、羽毛布団がかぶさっている。
 そしてベッドに横たわる者が一人。十六夜咲夜。
「咲夜!」
 彼女の姿を視認したレミリアは、すぐにベッドの脇に駆けつけた。
 走り出すレミリアを見て、パチュリーは振り返る。
「行きましょう。今度は小悪魔を探さなくちゃ」
「ここはレミリアに任せよう」
 琢馬とパチュリーは、ベッドの傍に立つレミリアに背を向け、部屋から出ていった。
 レミリアの声を聴いた咲夜は、そっと頭を動かし、青白い顔で主を見つめる。
「お嬢様……いかが、なさいましたか?」
「いかがなさいましたか……ってそれは私のセリフよ。咲夜、最近頑張りすぎてない?」
 レミリアは、咲夜の臥すベッドに腰掛けて、彼女の髪をなでる。
「大丈夫ですよ。すぐに元気になりますから」
 咲夜は、頬を染めて笑いかけた。しかし、レミリアの顔は曇ったまま。
「また、時を止めて?」
 曇った顔のまま放ったその一言が、咲夜を凍らせた。
 何も言うことができなくなった。
「咲夜ってさ、時々無理することがあるよね」
 レミリアの言葉に、咲夜は何も返すことができない。
「知ってるわよ、私。咲夜が体調崩したりしたとき、時を止めて体を休めてること」
 それは、独白だった。咲夜を心配するレミリアの独白。
「時を止めて自分の体を休めたりするほど、咲夜って忙しいの? それとも、うちのメイドが頼りないの?」
「恥ずかしながら……後者です」

961154:2012/06/17(日) 16:15:23 ID:fgUmPHjU0
 咲夜のはっきりとした返答に、レミリアはずっこけて体勢を崩してしまった。
 びっくりするほど的を得た答えである。
 思い返してみれば、紅魔館のメイド妖精は料理の補助と掃除と洗濯ぐらいしかできない。
 料理はサラダの盛り付けや運搬。
 掃除はモップ掛けや窓拭きぐらい。
 選択に至っては自分の服しかしない。
 よくよく考えてみると、いや、考えなくても咲夜に負担が行くのは明らかだった。
「うう……思い起こしてみれば確かにうちの妖精メイドは頼りないわね」
 妖精メイドの頼りなさを思い出して、レミリアは苦笑した。
「確かに妖精メイドは料理の補助や簡単な掃除ぐらいしかできないわ。でもね、逆を言えば『それらのことができる』ということよ。それぐらいの事なら、頼ってもいいじゃないの?」
 苦笑しながらも放たれたレミリアの言葉に、咲夜は不思議と安心感を覚えた。
 まるで、自分の抱える悩みを親に話したら、見事に的を得た答えで返してくれたかのような気分。
「今日は、いや、これからも『時を止めて体を休める』なんてことしないで、もっと周りを頼りなさいよ」
 咲夜は、恥ずかしそうに布団を口元まで寄せた
 縮こまる咲夜にレミリアはさらに近づき、そっと髪を撫でてみる。
「なんというか、あなたを見ると時々、さみしそうに見えるわ」
 咲夜の目を見つめながら放たれたレミリアの言葉が、咲夜の心臓を打ち抜く。
 急いで咲夜は布団を動かし、頭をすっぽりと隠してしまう。
「ねえ、咲夜。時が止まった世界って、さみしい世界だと思うの。だって、何を言っても、何をしても相手は何も応えてくれないし、わかっちゃくれない。それって、とても寂しいことだと思うの」
 何も言えない咲夜。
「時を止める。それはあなたに与えられた素敵な力よ。でも、それを使ってばっかりだと、置いてけぼりにされそうな気がするの」
 ゆっくりと布団を開き、レミリアは咲夜の隣に潜り込んできた。
 互いの吐息がかかるほどまでに2人の顔が近づく。
 レミリアの紅い瞳と、咲夜の青い瞳が互いを捉える。
「お嬢様。私は時折夢を見ます。独りになる夢です。また、独りになる夢を見ていました。何も動かなくて、すべてが灰色の世界を歩くだけしかできない夢です」
 細い声が、咲夜の唇から漏れ出した。
 声が布団に吸い込まれて、消えてゆく。
「安心しなさい咲夜。あなたは一人じゃないわ。美鈴がいる。パチェがいる。小悪魔がいる。フランも明るくなったわ。そういえば最近蓮見琢馬って人間が屋根から落っこちてきて、なんやかんやでここに居ついたわね。そして……」
 レミリアは両手で咲夜の顔を包み込んだ。
 少し冷え気味の両手で、レミリアは咲夜の頬の温かみを堪能する。
「私がいる。今、目と鼻の先にレミリア・スカーレットがいるわ」
 そして間髪入れず、レミリアは咲夜の唇を塞いだ。自分の唇で。
 咲夜の目は驚きに見開かれ、レミリアの顔を視界いっぱいに捕える。
 唇を裂いてレミリアの舌が入り込んでくる。
「んっ……」
 口の中を舌でこねまわされ、咲夜の喉から声が漏れる。
「ちゅっ……ちゅっ……」
 つなぎ合わされた唇の隙間から、空気がわずかに吸い込まれて音を立てる。
「くちゅっ……」
 水音と共に、唇が別れを告げた。
「うふっ……咲夜の口の中、熱い」
 いたずらが成功した子供の笑みを浮かべ、レミリアは口元をぬぐった。
 いたずらを受けた咲夜は、ただただ顔を紅く染めて目を白黒させている。
「熱がまだ引かないのね」
「お嬢様がいきなりキスするから熱が出てしまいました」
「熱なんて最初っから出てるじゃない。汗もだいぶかいているわね」
 キスに続いてレミリアは咲夜の胸元に顔をうずめて、咲夜のにおいを鼻腔いっぱいに吸い込む。
「や、やめてくださいお嬢様なにやってるんですか」
 においを嗅ぐレミリアを咲夜は必死にはがそうと暴れた。
 布団が乱れ、静かな部屋にバサバサと鳥がはばたくような音がする。
 ドン、と音がして布団の塊が床に落ちた。
「痛ぁ……もう、もうちょっとだけ咲夜のにおい嗅がせてよ」
 布団からレミリアが自分の頭をなでながら這いずり出てくる。
 ベッドの上では咲夜が枕を抱えて申し訳なさそうな表情をしていた。
「も……申し訳ございません」
「いいのよ。自業自得だし。さ、咲夜の着替え用意しちゃうし温かいタオルで咲夜の体ふきふきしちゃうわよ〜♪」
 布団からとび起きてレミリアはクローゼットの中を漁りはじめた。

962154:2012/06/17(日) 16:16:03 ID:fgUmPHjU0

「お、お嬢様、そんなことお嬢様がなさらなくても……」
 咲夜は急いでベッドから起きようとする。
 しかし目の前にレミリアが飛び込んできて、押し倒されてしまう。
「咲夜はおとなしく寝ていて。まだ病気なんだから、思いっきり甘えて頂戴。それに今日は甘えられたい気分なの」
 ベッドに倒れこんだまま、咲夜はゆっくりとうなづいた。
「よろしい」
 おとなしくなった従者を見てレミリアは満足げにうなづくと、すぐにクローゼットへと向かって中身を漁る。
「う〜ん、これかな?」
 レミリアが取り出したのは、透け透けのネグリジェ。
 しかしすぐにそれをクローゼットに押し込んだ。その光景を見て後で整頓しておこうと咲夜は内心呟く。
「やっぱり暖かいのがいいわよね」
 続いて取り出したのは長袖のパジャマ。
 トランプの模様がついた、おしゃれなパジャマ。
 それを肩にかけると、次は流し場へと向かう。
 流水を苦手とするレミリアの部屋には、流し場は無いが使用人である咲夜の部屋には小さいながらも洗面台があるのだ。
 赤いシールのついた蛇口をひねると、熱湯が洗面器に注がれる。
 次に青いシールの蛇口から水を足していく。
 小指の先で温度を確かめ、ちょうどいい温度になったのを確認すると、手拭用のタオルをお湯につける。
「手袋はどこかしら?」
「あ、そこの棚の引き出しです」
「さんきゅ」
 引き出しからピンク色のゴム手袋を取り出し、手にはめた。
 洗面器と替えのパジャマを直にベッドの上に置く。
 洗面器についた水滴がベッドのシーツを濡らす。
 それをみた咲夜の表情が何とも言えない表情で固まる。
「さ、汗ふいてあげるからおとなしく脱がされなさい」
 レミリアの手が、咲夜のパジャマのボタンを取りにかかった。
 

「今日は2人で宿題さっさと終わらせて、さっさと遊ぼうか」
 霧の湖上空、フランは日傘をまわしながらこれからの予定をチルノと相談していた。
「宿題めんどー!」
 チルノは遊ぶの優先と言わんばかりに鞄をぶんぶん振り回す。
「じゃあ家に荷物置いて来よう」
 霧の湖を越えて、2人は紅魔館の門前に立った。
 門では美鈴が相も変わらず眠りこけている。
「今日はナイフ刺さってない……珍しい」
 呑気に鼻提灯を膨らませて船をこぐ美鈴。
 その無防備な様を見て、チルノはあることを思いついた。
「凍らせちゃえ」
 チルノは美鈴の鼻提灯を凍らせた。
 カチカチに凍った鼻提灯の重みで美鈴の首がだらりと前に向く。
 顔の上下運動が上半身の上下運動に変化する。
 その様をフランは笑いをこらえながら眺めていた。
「チ、チルノ行こう。これ以上みてると笑いがこらえられ……ぷくく」
 口元を手で押さえつつフランはチルノと一緒に門をくぐった。
 よく手入れの行き届いた庭を一直線に抜けて、2人は正面玄関の前に立つ。
「たっだいまー!」
「お邪魔しまーす!」
 勢いよくドアを開いて、フランとチルノは紅魔館の正面玄関を開いた。
 そして行き着いた先が咲夜の部屋である。
「……お姉ちゃん、何やってんの!?」
 フランは日傘を取り落してしまった。
 無理もない。
 フランとチルノの目の前には、『ベッドの上にブラジャー一枚の咲夜と彼女の胸元に手をまわしているレミリア』の姿があるからだ。
「…………」
「…………」
「…………」
「なあ、フランのねーちゃん何やってんだ? プロレスごっこか!?」
 気まずい沈黙が部屋を支配した。
 一名騒いでるのがいたが沈黙が支配したったら支配した。
「なーなー! フランー! お前のねーちゃんなにやってんだー!?」 
 したって言ってるだろ黙れよチルノ。
 騒ぐチルノをよそに、フランの顔はリンゴのように赤くなっていた。
 フランは知っている。こういう状況を。
 図書館に置いてある少女漫画やラノベやらをさんざ読んできたフランは知っている。
「お姉ちゃん……お姉様、邪魔してごめん」
 フランはチルノを引きずって部屋から出た。
 大きな音を立てて部屋のドアは閉じられた。
「ちょっと待ってフランこれには訳が」
 レミリアは慌ててフランを追いかけるためにドアを開いた。
 が、ドアの奥に広がるのは宇宙船の窓から眺めるかのような宇宙であった。
「……あはは、大きな星がついたり消えたりしているわ……」
 レミリアは焦燥しきった表情で、宇宙船の窓と化したドアを見ることしかできなかった。
 石化した彼女の背後では、咲夜が愛おしげに微笑んでいた。
 少し、甘えるのもいいかもしれない。
←To be continued... EDテーマ 豚乙女『影恋慕』
                 ttp://www.youtube.com/watch?v=PklPr3R7niU

963154:2012/06/17(日) 16:22:06 ID:fgUmPHjU0

  次回予告
 次の『ディスクブレイカー☆フラン』の概要は3つ!
「何で寝ると明日が来るのかしら!? 私はずっと寝ていたいだけなのにッ!」
 蓬莱山輝夜が何かやらかすようです。
「やだ! もうサンバは嫌だああぁぁぁぁぁ〜!」
 藤原妹紅、ブラジルへ行く。
「再びかーっ! 何度やれば気が済むんだー!」
 フランドール・スカーレット、叫ぶ。
次回、『東宝永夜抄6面で自重できていない蓬莱山輝夜』

964154:2012/06/17(日) 16:24:37 ID:fgUmPHjU0

この話を書いている途中にね、一つ思い浮かんだタイトルがあるんですよ。
その名も『ジョジョの奇妙な東方 第三部 うろ覚えの7人目のスタンド使い』
二つもssを同時進行している上にリアルが忙しいから書けないかな……
このあとがきを読んでいるみなさん、どうかこのタイトルで話を書いてください。
それだけが私の願いですw

と、冗談はここまでにして。
今回ちょっとしたスランプとリアルの忙しさでびっくりするほど遅れました。
そしてギャグを書いたつもりがいつの間にか路線がおかしくなってしまいました。
これも『影恋慕』って曲のせいなんだ!

965キラ☆ヨシカゲ:2012/06/17(日) 17:11:40 ID:P3H.rD0EO
投稿お疲れさまです。

レミリアの能力の描写が良いですね。
私の場合、【マンハッタン・トランスファー】が気流を読むように、『運命の流れ』を読み取る能力としていました。

そして、お約束の早とちりサービスシーン。
やはりレミ咲は良いものだ……
レミフラもレミパチェも好きですけどね。

私も今まさにこのようなサービスシーンを書いているところなんですが、はたして今日中に投稿できるのか……

966塩の杭:2012/06/17(日) 19:47:34 ID:LxiAoNCU0
投稿お疲れ様です。
透け透けのネグリジェがなぜクローゼットに…ニヤッとしちゃいました。

7人目のスタンド使いって、アレですか?フリーゲームの…

967154:2012/06/17(日) 20:10:21 ID:6mp4JpxQ0
ええ。あれです。もうサクセッションクリアしてしまいました。
カーディガンズ強すぎw

そういえばうろジョジョまだ完結してなかったな……

7人目ネタはかなりのグレーゾーンなので使うとしたら最近やってない次回予告劇場ぐらいですねw

968塩の杭:2012/06/17(日) 21:22:41 ID:LxiAoNCU0
私はミラクルズでしたね、クリアしたのは。
敵から散々アイテムをカツアゲした記憶があります。

そんなにグレーゾーン!ですかね?

969154:2012/06/17(日) 21:29:53 ID:6mp4JpxQ0
まあ、ディアボロもだいぶグレーゾーンですからね。
7人目はオリジナル系が出てきてるのでさらに危ういかも。
なので私は7人目キャラ出すときは本編と関係ないところで出そうかと思っています。

970ポール:2012/06/18(月) 22:46:48 ID:kKLAjLmA0
遅ればせながら・・・
投稿お疲れ様です。
相変わらずキャラクターが生き生きとしていらっしゃる。
うーん・・・もし家族が『プロレスごっこ』している場面を目撃してしまったら・・・何も言えねぇ・・・・・・・・・

7人目のスタンド使い?・・・聞いたことはあるのですが・・・知りませんな。

971154:2012/06/18(月) 23:00:18 ID:1XRHg5W.0
ジョジョファンならやってみたくなるゲームですね。
システムもストーリーも設定も練りこまれて飽きないゲームです。

ラバーソール戦で逃げれば勝てるという事を知らずにずっと苦しめられたのはいい思い出w
あと学校でうっかりしてローリングストーンズに追いかけられたり、港に出てくるスタンド使いでもない殺し屋に殺されまくったり…w

972ポール:2012/06/19(火) 00:59:28 ID:WhbhKiMo0
なんと。少し調べるだけでとても面白そうなゲームということがわかりました。
やりたいけれど・・・まだおあずけにしておきます。やらなくっちゃあならないことが・・・それを無事終わらせたら・・・やってみよう。

お、オレ、ある試験に合格したらこのゲームやるよ!下手糞ってバカにされんのもけっこういいかもな。
ディアボロの大冒険もやりてぇ!ボルチーニ茸ものっけてもらおう

973154:2012/06/19(火) 12:01:20 ID:ZzeMmcoc0
では一つ忠告しておきます。
7人目のスタンド使いをやるとき、日本で、学校3階の美術室においてある『岩』には触らないほうがいいです。
もし触ってしまったらシャレにならない事態になること間違いなし。
あと、冒頭のスタンド診断でどんなスタンドが出てきてもリセットしないこと。
しない方が面白い。
そして一周するまでは攻略サイトやウィキを見ない。
見ない方が面白いから。

974セレナード:2012/06/19(火) 17:36:31 ID:oPdts.Ns0
岩に関しては154さん自身が既に正体をばらしていますね・・・。

軽く調べてみたのですが、RPGツクール製だということに一番驚きましたね。
さらにネット対戦機能も搭載と、凄い機能をお持ちなことで。
こんなゲームを作りたい、と目標にする人は少なくないかもしれませんね・・・。
どんだけ作るのに時間を有したのやら・・・。

975154:2012/06/19(火) 18:04:00 ID:iuUAGJCg0
あらら、うっかりばらしてもうた…

7人目のスタンド使いってマルチエンディングですから場合によっては本来死ぬはずの奴が死ななかったりするんですよね。
私の場合DIOとの最終決戦でジョゼフが死ぬ直前に○○○が乱入してきて○○○と×××と一緒にDIOと戦い、さらに戦いの最中に△△△がどこからかDIOの足止めをしてきたりする始末。
正直○○○が強すぎてDIO戦が楽に決着ついたと。

976塩の杭:2012/06/19(火) 20:48:07 ID:d8YWiW9I0
原作でDIOにちょっと使われて簡単に死んでしまったアノ人でも、頑張ればDIOを倒せますしね…とある装置さえあればですが。
アノ人ですよ…DIOに車で○○を走らされた人です。あのエンディング好きです。

977キラ☆ヨシカゲ:2012/06/19(火) 20:56:59 ID:baQPgvkY0
大変長らくお待たせしました。
最終回……の、一歩手前、閑話休題。お楽しみ下さい。

※今回、極めて健全な表現が大部分を占めております。
KENZENではありません、お間違い無きよう。

978〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/06/19(火) 20:57:49 ID:baQPgvkY0
〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜
閑話休題 U.N.オーエンはシリアルキラーの夢を見るか?-Truths,Ironies,The Secret Lyrics-


OP いえろ〜ぜぶら 『9,999,999yearz』



――――――――――――――
―――――――

―――――――ガラッ―――

慧音宅、襖を開け、吉影は自分にあてられた部屋へと入った。
里人の迫害によるストレスからか、彼の瞳は落ち窪み、表情に精気がない。
「―――――――うっ………
うう………ぅ…」
額に手を当て、具合悪そうに呻く。
「………早めに寝よう。
明日も明け方には【あれ】が待っているのだから………」
げんなりとした口調でそう呟くと、彼は押し入れの襖を開け、畳んだ布団を引っ張り出す。
「…くっ……!
お、重い……?」
数日間ろくに食べ物を口にせず部屋に籠っていたため、著しく体力が低下したのか、布団が重く感じられる。
【キラークイーン】を出し、一人と一体で引きずり出した。
たったそれだけの作業でも、衰弱しきった彼にはかなりの重労働であり、吉影は座り込んで肩で息をする。
「―――――――ハァ………
…ハァ……
(こんな日常的な動作も困難になっているとは……この吉良吉影、【健康】には常に気を使ってきたというのに……嘆かわしいことだ……)」
自身の情けない現状を嘆いていた、その時、
「―――――――ム……?」
吉影はふと顔を上げ、首を傾げた。
彼が今さっき運び出した布団に、違和感があったからだ。
吉影は立ち上がり、敷き布団の上に重ねてある掛け布団を取り払った。
そしてもう一度、畳まれた敷き布団に目を落とす。
やはり、おかしい。
布団が妙に盛り上がっているのだ。
「…………………」
吉影は用心のため、【キラークイーン】に身構えさせる。
そして布団の端を掴むと、

グンッ

一気に引っ張り上げた。

ドサッ―――――――

布団の中から、寝具以外のものが転がり出て来た。
それを見た瞬間、吉影は言葉を失い、布団を掴んだまま暫し呆然とする。
「―――――――……………ん……」
出てきたものはピクリと頭を動かし、
「………ン……ムニャ…………
……ふあぁ………あ」
ゆっくりと身体を起こすと、可愛らしい欠伸を漏らし、眠たげに目を擦る。
「…ふぅ………
………ん…………?」
ぼんやりと畳の上に座り込んでいた彼女は、辺りの様子がいつもはと違う事に気付いた。
それからまたしばらくぼんやりとして…、
「…………あっ…!」
そしてようやっと、思い出した。
彼女はふるふると忙しく左右に首を振り、眠気を払い頭をはっきりさせて、
背後に立っていた吉影に気付いて、身体を彼に向けると、
「こんばんは吉影!」
向日葵のような明るい笑顔を浮かべ、嬉しそうに彼にそう言った。
吉影は布団から手を離すと、無表情に彼女を見下ろし、口を開いた。
「………………これは………
なんのつもりだ……?フラン。」
吉影は、彼女――――寝間着姿で布団にくるまっていたフランに問う。
「エヘへ…昨日読んだご本に書かれていたの。
古代の王国では、お妃様になりたい女の人は赤いカーペットにくるまれて、自分を王様に献上する印にしたそうよ。
だから、私は貴方のお布団にくるまれて待ってたの。
貴方が来るのを、今朝からずっと……
でも、やっぱりお昼は眠くて……気が付いたら寝ちゃってたの。」
フランはニコニコと笑って、吉影を見上げる。
褒めて貰えると思っているのだろう、表情が誇らしげだ。

979〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/06/19(火) 20:58:25 ID:baQPgvkY0
「(……………ユリウス・カエサルとクレオパトラ…か。)」
彼女がここにいる理由は分かったが、これだけでは彼を【納得】させるには至らない。
普段の吉影ならば、どう返したものかと、表情に出さず思考することだろう。
問答無用で叱りつけてやるべきか、はたまた彼女なりの愛情表現を尊重して、やんわりと注意するだけに留めるか。
だが、今の彼は気が立っていた。
それも、かなり危険なレベルに。
追い詰められた自分の状況によって胸の内で燻る苛つきと、それを露ほども知らずに擦り寄って来ては負担ばかりを増やす、目の前の少女に対する苦々しい感情が、彼の疲弊した脳内に渦巻く。
「……フラン、わたしはちゃんと言いつけた筈だ。
わたしの許可無しに【写真】から出て来たり、声を掛けたりするのは禁止すると。
もし慧音や射命丸に見つかったらどうする?え?
そんなことも考えられなかったのか?」
落ち着いた、しかし確固たる口調で、吉影はフランを問い詰めた。
フランは笑顔を絶やさずに答える。
「うん大丈夫、いざとなったら霧とか蝙蝠に変身して逃げられるし、本当に危なかったらキュッとしてドカー―――――――」
「フランッ!」
思わず強い語調で言葉を放ってしまった。
だが、フランはクスクスと悪戯っぽく笑う。
「冗談だよ冗談。
本気にしたの?」
口に手を添えて笑っていたフランは、笑うのを止めると、俯いて床に目を落とした。
「…私……ちゃんと分かったの。
むやみに壊したり殺したりするのは、いけないことなんだって……
貴方が教えてくれたもの。」
遠くを見るような目で、少し悲しそうな笑みを浮かべ、フランは話し始める。
「私…お姉さまにお願いを断られたりして、怒ったり、悲しかったり…そんな時、ただなんでもいいからむちゃくちゃに壊したいって気持ちのまま、この【手】で『キュッ』と握って……手当たり次第に壊して散らかして……
その後お姉さまに怒られても、いったい何がいけないのか分からなかったの………
『私は痛くもなんともないし、壊れた物もすぐ新しいのに変わるし、別に良いじゃない』って、そう思ってたの。
…でもねっ
貴方と会って、やっと分かったの。
私、あの時…貴方と初めて逢って地下で戦っていた時、最初からずっと、貴方を【壊す】ことしか考えてなかった……
それでね、もし、その時私が貴方を壊してしまってたり………、
逆に貴方があの時【お友達】になってくれずに、私を壊したりしてたら……今こうやって貴方のお部屋で、貴方とお話なんてできてないんだって…私は今でも自分の部屋で、ひとりぼっちで寂しがっていたかもしれないのかなって…」
ポツリポツリと話すフランの表情は、過去の自分を悔い、今の幸せこそ【奇跡】なのだと心から慈しむ、悟ったような、しみじみとした、少女らしからぬものだった。
つい数日前、この幼気(いたいけ)な少女の顔が、凶悪な牙を吉影に向け、流血と殺戮に哄笑を上げて、狂気と狂喜に歪んでいたなどと、いったい誰が想像できようか。
その面持ちに、吉影の煮立った思考も徐々にクールダウンしてゆく。
「お姉さまの言ってたことも、今ならちゃんと分かるよ。
一度壊したり殺したりしたら、【その先】はもう何も無いんだ、って。
その時むしゃくしゃした気分にまかせて壊しちゃったものが、いつか私の大切なものになっていたのかもしれない。
面白半分で傷付けた人達が、もしかしたら、私と一緒に笑ってくれる未来も、どこかにあったのかもしれない。
……そう思うとね、ほんとに、心から、貴方に…………」
はにかむように頬を赤らめて、一度吉影から目を逸らす。
深く息を吸って、心を落ち着けて、吉影に視線を戻すと、
彼を見上げて、言葉を繋いだ。
「―――――――『ありがとう』って、そんな気持ちになるの。」

980〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/06/19(火) 20:59:17 ID:baQPgvkY0
吉影を見つめるその瞳には、屈託の無い純粋な感情がいっぱいに湛えられていた。
吉影の胸の内で煙っていた黒い感情を、秋の夜風のように澄んだ爽やかさで冷やしていく。
少し平生の穏やかな心を取り戻した吉影は、緊張を解き表情を和らげる。
身体を屈め、ナイトキャップを被った彼女の頭に手をのせた。
柔らかく撫でてやると、くすぐったそうに肩をすくめて、目をぎゅっとつむり、でも嬉しさを隠さずに微笑んで、彼の手に身をゆだねていた。
暫くそうしていると、手のひらにフランの体温がじんわりと広がっていって、
彼の胸に溜まったしこりを、解きほぐしてくれているように、心が軽くなっていった。
暫くそうしていて、そろそろフランも満足しただろうと思った頃に、ゆっくりと手を離した。
「…………フラン、今日はもう遅い……、いや、『まだ早い』。
これから私は眠りにつく。
君は自分の部屋でお絵描きしたり、本を読んだりして、自分の時間を過ごしていてくれ。
日付が変わって、明日のおやすみの時間の前に、また君に会いに行こう。
だから、今は我慢してほしい。
そうしたら、『いつもの』をしに、君の部屋を訪れよう。
なあに、すぐだ…ほんのちょっとだけ待っていてくれたら、私達二人は【幸せ】でいられる。
君も、私も、な……」
そう言って、懐に手を伸ばし、【写真】を抜こうとした。
「……………?」
だが、目当ての物は彼のピアニストのような指先に触れることはなかった。
彼は普段着として着ている和服の内ポケットの中を探ったが、【写真】は見つからない。
もしや、一着しかないため大事にハンガーに掛けてあるスーツの中に入れっぱなしにしていたのか。
いや、ここ数日、彼はずっと和服で過ごしていたし、昨日も和服でフランとの逢瀬(おうせ)をしていた。
【写真】は朝着替える時に、確かに今着ている服に忍ばせたはずだ。
彼が首を捻っていると、

…ズル………ズ…ッ……

と、何かを引き摺る音がした。
ふっと顔を上げた吉影の眉が、僅かに動く。
「…………何をしている?」
いぶかしむような目で、布団を敷いているフランを見やる。
背中を向けていたフランは、彼の呼び掛けに振り返る。
その顔には彼が何度も見てきた、悪戯っぽい笑み。
吉影はやや警戒した。
間違いない、何か企んでいやがる。
果たして、にんまりと口角の上がった彼女の口から、言葉が紡がれた。
「吉影の探し物、コレでしょ?」
掲げられた彼女の右手には、一枚の【写真】。
フランの部屋と吉影の部屋を繋ぐ、空間を超える小窓。
見せびらかすようにヒラヒラとそれを振り、吉影の反応を楽しんでいる。

―――――――そうか、フランドールが『こっち』に来た時に、【写真】を取っていたのか。

自分が耄碌(もうろく)したわけじゃなかったことに安堵し、同時に、フランの態度に対する苛立ちが再度鎌首をもたげる。
「……そう、それだ、フラン。」
あまり感情を表に出しても、玩ばれているようで面白くない。
彼は素っ気なくそう言うと、黙って右手を差し出した。
返してくれ、というジェスチャーだ。
そんな彼の様子を面白がるように、フランはフフッと笑みを溢す。
「なに?
どうしたの吉影?
口でお願いしてくれないと、分からないよ。」
そう言われて、吉影はいつか彼女に言った言葉を思い出す。
『自分の相手に伝えたいことは、ちゃんと口に出して言え』
『誰かに頼み事をする時は、脅すでなくお願いをするべきだ』
誰もが幼少期に教わる基本的な人付き合いの作法に関して、あまりに無知なフランに、吉影が【しつけ】の一環として言い聞かせたのだ。

981〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/06/19(火) 21:00:05 ID:baQPgvkY0
自分の発言を逆手にとられることほど、腹立たしいことはない。
苦々しい感情を噛み殺して、吉影は平静を装い口を開く。
「………その【写真】を、返してくれないか。
君もよく分かっているだろうが、それはとても大事なものだ。
私が持っていないと、君に会いに行けなくなってしまう。
そしてそれを返した後は、それを通って君の部屋に戻りなさい。
すぐに会いに行くから、その時に思う存分相手をしてあげよう。
いくらでもお話に付き合ってあげるし、君の読んでほしい本を読み聞かせもしてあげよう。
血だって、君が満足するまで飲ませてやっていい。
だから、今は辛抱してくれ、お願いだ。」
沸き上がって来る屈辱感を押さえつけ、吉影はフランに一歩歩み寄る。
彼の言葉を聞いて、フランは嬉しそうに瞬きした。
「ああ、コレを返して欲しかったのね?
う〜ん、どうしようかなぁ………」
わざとらしくフランは首を捻ると、

スッ――――

【写真】を顔の前に持っていって、小さな口を開き、
柔らかな唇で挟むようにして、それをくわえた。
彼女の行動の意図が分からず、疑問符を浮かべる吉影に、フランはいじらしい笑みを浮かべて、こう言った。
「手も足も【スタンド】も道具も使わずに、コレを取り返してみせて。」

吉影の抱いた感想は、『何を言っているんだ?』だった。
この間の『手で顔を鷲掴みにして』という要望といい、この娘は常識を超えた注文をする節がある。
それで何を望んでいるのか、もしくはそれ自体が目的なのか、健全な手首愛好家である彼には理解できないのである。
と、彼が次に起こすべき行動を見つけられずにいた時、
フッと、フランは身体の力を抜いた。
口に【写真】をくわえたまま、後ろに倒れていく。
ポフッ、と軽くて柔らかい音がして、
フランは仰向けに、吉影の布団に倒れ込んだ。
その一連の行動を注視していた吉影は、いよいよ意味が分からず目を細める。
「………?
……なんの…つもりだ…?フラン……」
それは本心から理解できず、思わず口から漏れた疑問だった。
対するフランは、吉影の困惑したさまを愉しむように悪戯っぽい微笑を絶やさず、布団の上から吉影を見上げる。
彼女の頬は紅く上気し、紅い瞳は蟲惑的な光を宿している。
【写真】をくわえている唇が、動いた。
「―――――――コレ、とってみせて。
………お口で」
首を傾けて、流し見るような扇情的な視線。
薄く可愛らしい唇と、そこから覗く小さな舌が、挑発するように【写真】を弄ぶ。
「………もし、できなかったら………
…今夜は、一緒にいて。
二人だけで………このお布団で……」
二本の白い牙がちらりと、口の端から覗いた。
「……………来て」
切なげに潤んだ瞳で、彼を見詰めた。
透けるように薄い生地のネグリジェの下、肌着二枚のみで隠された、雪のように白い柔肌を惜し気もなく晒し、
全てを破壊するはずの両手は、身構えるでも、幼い四肢を隠すでもなく、力なく頭の上の位置に置かれ、
彼女の無抵抗であることを主張していた。
それでいて、まだ恥じらいが残っているのか、気恥ずかしげに捩られる、柔らかい体躯。
この媚態を、幼い彼女はどこで身に付けたというのか、或いは、生まれながらの吸血鬼としての性(さが)か。

吉影は、露骨に顔をしかめた。
頭を抱えて、盛大に溜め息の一つでも吐きたい気分だった。

勿論全く当然ながら、彼の脳裏にはやましい想像など一片たりともよぎらない。
相手は姿形が十にも満たない少女、ましてや吸血鬼だ。
そもそも、そんな下卑た発想の余地が存在しないのだ。
もし、万が一、妙な想像を掻き立てられるような不純な輩がいたのだとしたら、そいつは自分の異常性癖ぶりを認めるべきである。

982〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/06/19(火) 21:00:56 ID:baQPgvkY0
つまり、吉影はフランの言動の意図を、『【添い寝】してほしい』ということだと解釈した。
冗談じゃない、彼女は夜行性、わたしは夜11時には就寝する健康志向人間だ。
我儘な彼女のことだ、寝かせてもらえるわけがないし、騒がれれば慧音に見つかる危険性が跳ね上がる。
断じて許可するわけにはいかない。

「―――――――フラン、わたしは君の【友達】だ。
だが私は君と違って、夜に眠り昼に起きているんだ。
どうせわたしは寝てしまう。
一人退屈に起きていることになるだけだぞ。」
一瞬、フランの表情に影が差した。
だが、フランは首を横に振り、尚も吉影と張り合おうとする。
「それでもいい!
寝てしまってもいいの!………
ただ、一緒にいられたら、それだけで幸せなの。
寝ている時でもずっと一緒にいたいと思うのは、【恋人】なら普通のことなんでしょう?ねえ?」

いつから【恋人】にランクアップしたんだ?
フランとの底の見えない問答に、吉影はそろそろ嫌気が差してきた。
コイツは何か思い違いをしている。
此処らで諫めておかないと、今後付け上がって手がつけられなくなるやもしれない。

小さく溜め息を吐き、実力行使に出ようとした、その時、
彼は気付いた。
彼女の象徴であるきらびやかな七色の羽根が、その背中から消失していることに。
同時に、耳元で鳴り響く、皮膚が粟立つような無数の羽音。
抵抗する間もなく、背後に現れた蝙蝠の大群が、彼の全身にとりついた。
そのまま身体を反転させられ、物凄い力で布団に押し倒される。
背中から仰向けに倒れた吉影の肩、腕、足に、各々蝙蝠が一匹ずつ張り付いて、身動きできないよう押さえつけられた。
「フフッ、つっかま〜えた♪」
布団の上、自分の隣に磔(はりつけ)にされた吉影の耳元に口を近付け、悪戯の成功した子供特有の声で囁いた。
身体を起こし、残りの蝙蝠を背中に戻して、七色の翼を広げる。
身体を反転させて、吉影の身体に自分を乗せた。
「ほんとは私が下で、圧迫されるのをやってみたかったんだけど……こういうのも、良いかもしれないわね。」
跨がるようにして吉影を押さえつけていたフランは、女豹のような動きで、吉影の頭の方へと這い寄る。
「……吉影が寝ていて会いに来てくれない間、私、ずうっと考えてたの。」
口にくわえていた【写真】をポケットに仕舞い、吉影に顔を近付けた。
「この前、パチュリーの本棚からとってきた【外】の本に、書いてあったの。
『誰かを自分のものにしたいなら、【既成事実】を作ってしまえばいい』ってね。」
目の前に迫ったフランの双眸は、爛々と妖しく輝いていた。
「だから、私思ったの。
『こうしちゃえばいい』って。
こうすれば、吉影といつまでも一緒にいられる、って。
夜は一緒に遊んだり、おままごとしたりして過ごして、昼はおんなじベッドでおやすみできるんだ、って。」
フランの視線が、吉影の首筋に注がれた。
白く鋭利な、しかし小さくあどけない牙を見せて、ニッとフランは笑った。
「―――――――私と、『ひとつ』になりましょう?」
興奮した熱い吐息が、彼の喉元にかかる。
艶かしい湿り気が、二人の間に充満した。
「………でも、すぐに『吸う』のは勿体ないから………」
目を吉影の首から離し、一度身体を起こす。
視線を落とすと、蝙蝠に倒された時の衝撃で、胸元がはだけていた。
それを見つけて、フランは舌なめずりをする。
「その前に、色々愉しんでおかなくちゃ。」

983〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/06/19(火) 21:01:41 ID:baQPgvkY0
大きく開いた服の中から覗く胸板は、三十路を超えているとは思えないほど引き締まっていて、一ミリの贅肉も見当たらない。
肩の筋肉も盛り上がり、頑強で凛々しく、それでいて胸筋と合わせて調和のとれた印象を見る者に抱かせる。
普段もスーツの上から確認できていたが、直に見ると圧倒されるほどの肉体美。
初めて目にする均整のとれた男の身体に、フランは思わず息を呑む。
カッと頬を真っ赤に染め、恥じらいからか目を逸らした。
何度か躊躇する素振りを見せたが、
意を決して、起こしていた上体を倒し、吉影の胸に顔を埋めた。
張りのある肌、硬く分厚い胸板、鼻腔を満たす獣のような匂い。
そして、直にふれた体表から伝わる、吉影の温もり。
身体の芯から暖められるような熱を感じて、もっとそれに触れていたくて、フランは吉影の背に両手を伸ばした。
ぎゅっと抱き付き、今度は顔を横に倒す。
頬を胸に押し付けると、耳に力強い音が聞こえてきた。

…ドクン……ドクン……

吉影の心臓の鼓動だった。
アンデッドであるフランには、それが人間では遅いのか速いのか分からなかった。
だが、フランのものよりは速い気がした。
耳に届く、一定の間隔で時を刻む音色。
それを聴いていると、吉影がすぐ傍にいるのだと実感して、彼女の胸を安心感が満たしていった。
暫く目蓋を閉じ、耳を押し当てて聞き入っていたが、やがて身体を起こし、吉影に向き直る。
「―――――――さあ、『一つ』になりましょう……?」
子猫のように四つん這いになって、彼の身体を這い上る。
艶かしい吐息を漏らして、吉影の首筋に舌を沿わせた。
吉影は死人のように動じず、肌を粟立てたりもしない。
舐め回し、唾液で濡れた肌から、フランは舌を離した。
粘りけの強い唾液は糸を引いて、艶やかにフランと吉影を繋ぐ。
「―――――――いただきます。」
呟くと、口を大きく開いた。
白く鋭い牙が、吉影の首に迫る。
唇を当てて、すぐにでも牙を突き立てられる位置まで近付けた。
あとは顎を閉じるだけで、薄い皮膚、逞しい筋肉、頸動脈を破り、中を流れる熱い血潮を思う存分堪能できるだろう。
ゴクリと喉をならし、一思いに噛みつこうとした。



「―――――――フラン、」
今まで身動ぎ一つしなかった吉影が、口を開いた。
「ッ!?」
フランはビクリと肩を竦め、動きを止める。

「『怒るぞ』」

人の言葉とは思えない、あまりにも冷たい声。
フランを見下ろす吉影の目には、一切の温もりと呼べるものはなく、冷めきっていた。
こんなにも温かい身体を持つ人間が、どこにこれほどの冷気を隠し持っているのだろうか。
―――いや、その極寒の冷気の正体は既に、フランの眼前に姿を現していた。
猫とドクロを混ぜこぜにしたような凶悪な頭部、
筋骨隆々の体躯、
吉影の精神性の具現、【キラークイーン】。
吉影の背後に佇み、落ち窪んだ眼孔から、本体よりもさらに冷酷な視線をフランに注いでいる。
そして、その人差し指は、彼女の額を小突くように触れていた。

フランは、見た。
その指の付け根、【スイッチ】に、抜き取られた自分の【目】があるのを。

ガクガクと肩を震わせて、フランの身体が、ゆっくりと起き上がる。
密着していた吉影の肉体から、後ずさるように身体を離していく。
上体を真っ直ぐに起こしたが、彼の身体から降りようとはしない。
金縛りにあったように、そのまま硬直し、小刻みに震えている。

蝙蝠の拘束が解け、吉影は腕を僅かに動かして確認する。
凄い力で押さえつけられていたが、特に異常はなかった。
一先ず身の安全を確保した吉影は、自分の腹に乗るフランに目を戻した。
先程までの饒舌さは消え失せて、項垂れている。
髪で隠れているため、その表情は窺い知ることはできないが、どうやら怯えているようだった。
全身をブルブルと震わせ、歯がカチカチと音を立てている。

984〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/06/19(火) 21:02:46 ID:baQPgvkY0
怖がらせ過ぎたか、と吉影は思った。
しかし、あのままでは本当に喉を喰い破られかねないところだった。
今後この娘の手綱を握っておくためにも、このくらいで丁度良かったのだ。
そう自分に言い聞かせ、フランに部屋に戻るよう促そうとした。
その時だった。

BGM FELT 『Moonlight shines』【ttp://www.youtube.com/watch?v=GtnXiggrVFw】

「…………?」
露になった胸に、冷たい刺激を感じた。
ポツリ、ポツリと、それは降りだした直後の雨のように、彼の胸に滲みを広げていく。
胸に目を落とすと、いくつもの水滴が彼の肌の上に散らばっていた。
水滴は上から、まばらに落ちて来る。
ふと、顔を上げた。
「……ッ!?」
フランが両目から大粒の涙を流し、吉影を見詰めていた。
唇をきゅっと結び、押し殺したような嗚咽を上げて、潤んだ瞳で睨むように、吉影を見下ろしていた。
それを見た瞬間、フランに玩ばれている最中も平常の心拍を崩さず、穏やかな心音を立てていた彼の心臓が、ドクンと跳ね上がった。
平穏だとか安心だとかとは真逆の感情が、彼の胸を掻き乱し、さざ波を立てる。

―――――――『違う』
駄目だ
これは駄目だ
あってはならないことだ
こんなものは見たくない
何とかしないと―――――――

取り返しのつかないことをしてしまったような、
見てはいけないものを見てしまったかのような、
後悔と懺悔の気持ちが、にわかに彼の胸中を支配した。
言いようもない焦燥感に駆られ、吉影は激しく動揺する。
女の涙など、何十回も見て来たというのに。
今の状況より余程切迫した、まさに命を刈り取る瞬間にさえ、彼の心は爽やかな涼風と、下卑た欲求に満たされていたというのに。
自分に跨がって咽び泣く、目の前の人外の少女の瞳から零れる涙から、目を逸らすことができなかった。
涙をいっぱいに溜めた目を、非難するように細め、フランは口を開いた。
「―――――――……だって……っ…
…こうしないと………一緒に……いられないじゃない………っ」
はらはらと涙を溢して、フランは胸の内の感情を吐露する。
「……私……知ってるよ……
人間は…生まれてから80年くらいしか…生きていられないんだ…、…って……
誰でも、どんな人でも、何をやっても………絶対絶対に……死んじゃうんだ…って……」
喉につっかえた言葉を捻り出すようにして、フランはそう言い切った。
胸の中に押さえ込んでいた気持ちの沈殿、それを吐き出して吹っ切れたのか。
ここで彼女の感情の堰が切れた。
「私が地下室で何もしないで生きてきた時間が両手の指全部なら、吉影といられるのはたった小指一本なんでしょ!?
すぐにしわくちゃになって!
身体も痩せて歯も髪の毛も抜けて!
目も見えなくなって!
かけっこして遊べなくなって!
お話してもごはん食べてもすぐ忘れちゃって!
ベッドから起きられなくなって!!
それで……!それで……っ…!!」
興奮し、涙の雫を飛ばして、涙で詰まって掠れた声で一気に捲し立てる。
彼女自身、自分が何を言っているのか分かっていないのだろう。
次から次へと言いたいことが、口から込み上げて来る。
その声は既に【大声】と呼べる音量に達していた。
だが、吉影の思考は『慧音にバレる』可能性というものには至らなかった。
それほどまでに、吉影は心乱されていた。
「……それで……っ…最後には死んじゃう…!!
もうお話できない……遊んでくれない……!
頭を撫でても、抱っこしてもらっても、冷たいばかり……
また私は……ひとりぼっち………」
慟哭し、また吉影の胸に顔を押し付けた。

985〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/06/19(火) 21:04:44 ID:baQPgvkY0
「いや………!嫌よ……っ!
そんなの嫌……!!
もう……貴方無しじゃあ眠れない…!
地下室の隅で膝を抱えて、ひとりぼっちでいる時間に耐えられない……!
ずっと一緒にいたい……
二人っきりで……幸せに暮らしていたい……」
フランの声は細く弱まり、ついには蚊の鳴くような悲痛な囁きとなった。
「死なないで……吉影ぇ……!!
一緒にいてよ……!
ひとりにしないで………!!」
余命50年の末期患者にすがりついて、胸の中で泣き続ける。
温い涙が胸を濡らし、吉影の身体から、緊張が抜け落ちた。
無意識の内に、フランの【目】を手離していた。
【キラークイーン】も引っ込めていた。
自分の中に唐突に湧いた、今まで感じたことのない感情。
その正体が分からず、吉影は対処できないでいた。
いつの間にか、彼は手をフランの背中に伸ばし、小さく震えているその背中を、なだめるようにゆっくりと擦っていた。
そうしていなければ、自分が感情に呑まれてしまいそうだった。

「―――――――う……うう……っ
うえっ………えええ……あぁぁ…………
ぐすっ………ひぐ………っ………ううう……えぇぇぇ…………」
吉影の胸にしがみついて、フランは泣きじゃくる。
吉影の心音の変化に、彼女は気付いているのだろうか。
暫し、フランの嗚咽だけが部屋に満ちた。

―――――――やがて、まだ涙まじりではあったが、ポツリポツリとフランが再び言葉を紡ぎ始めた。
「―――――――それに………
吉影はきっと、私を待っていてくれない……【あの女】のところに行っちゃう…!」
ピタリ、と吉影の手が止まった。
フランの慟哭を目にしてから今まで、世界には自分とフランしかいないかのような錯覚に囚われていた。
完全に頭から消え去っていた第三者の存在が想起し、グチャグチャに掻き乱されていた彼の脳を一気に冷ます。
そこでやっと、平生の自分と比較して異常極まりない挙動を示している自身に気付いた。

―――――――何故………わたしがこんなことをしているんだ……?
コイツはついさっき、わたしを眷族にしようとしていた、生まれついての化け物だぞ?
わたしがこれほどの苦境に陥る原因の一端を作った小娘だ…
何故わたしがそんな奴を慰めなきゃならない…?このわたしが……何の打算も目論見もなく……
泣き言も耳を貸したりせず、聞き流してしまえば良いのに……放っておけ……心臓に悪いだろうが……、
………?
そうだ……何故…この娘の、みっともなく泣き喚く姿を見ていると、こんなにも心臓が痛むんだ……?
鬱陶しいだけだろう……
…だが……何なんだ………?この【感情】は…………?

しゃくり上げながら、フランは言葉を繋ぐ。
「貴方の血を飲んでいる時……いつも見えてた……ここの寺子屋の先生……
貴方の記憶が血を介して、わたしの中に流れ込んで来た………
…スタイルも良くて、賢くて優しくて、お料理も上手………
まるで、お母さまみたいな人………素敵な人。
吉影はきっと、私じゃなくて彼女を選ぶ………私が立派なお嫁さんになる前に、貴方は死んじゃうんだから………!」
ぎゅっと、フランの手が堅く握られる。
吉影の背中に爪が食い込み、血が滲み出た。
「今すぐに壊したい……あの女…!
吉影を取っちゃうなんて許せない……!!
でも……『キュッ』てやったら吉影が寂しい思いをしちゃう……吉影に嫌われちゃう……」
涙が彼女の頬を濡らし、伝い落ちて、吉影の心臓の上に落ちた。

986〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/06/19(火) 21:07:11 ID:baQPgvkY0
「……今までそんなもの……私は持ってなかったから………
貴方に会うまでは、知らなかったけど……
【大切なもの】が壊れたり、傷付いたりすると、私も悲しくなるの。
貴方が痛かったら、私も痛いし、貴方が悲しいと、悲しい気持ちになるの。
今までもそう……吉影は血をくれる時、いつも優しく笑ってた、笑ってくれてた……!
でも、心の中は辛い気持ちでいっぱい……!
だからきっと、あの女を私が壊したら、吉影がもっと辛い思いをしちゃう………!
それはダメ……嫌なの…っ……!」
彼女の言葉を聞いて、吉影は息を呑んだ。
与えるばかりだと思っていた。
自分が血を与え、この娘を手懐け飼い慣らす、ただそれだけなのだと思っていた。
しかし、それは間違いだった。
彼が血を与えている時、この娘は彼から【痛み】を取り去ってくれていた。
この娘は、彼の【辛さ】を肩代わりしてくれていたのだ。
血を与えた後、彼を襲っていた【脱力感】、その正体は、フランが【痛み】を取り去ってくれたことによる【安心】だったのだ。

肩を震わせて泣き、吉影にすがりついていた彼女は、やがて腕の力を緩め、彼を解放した。
彼の背中に回していた両手を引き、身体を吉影の胸から離していく。
体を起こして、涙でぐっしょりと濡れた顔を両手で拭う。
だが、涙は止めどなく溢れてきて、彼女の頬をしとどに濡らしていく。
「―――――――吉影ぇ…………
…私………貴方が『好き』……!
貴方がいないと……!もう私…生きていけない……!」
両手で目尻を拭いながら、さめざめと泣き、彼女は言った。
「貴方がいなくなったら………私も……っ…一緒に……!
―――――――一緒に……っ…いなくなってあげる…………」

BGM FELT 『Screen』【ttp://www.youtube.com/watch?v=gHBiUJXGgSY】

その時、彼は理解した。
胸に突き刺さる、張り裂けるような痛みの正体を。
罪悪の咎が無い、生まれついての人でなし―――吉良吉影が、生涯持ち得る筈のなかった情動を。
盲人の目に光が宿ったように、それははっきりとした形をもって自身の中に感じられた。

――――――なんだ
わたしが手綱を握る必要なんて、まったく無かったじゃあないか――――――

吉影の胸に、込み上げる感情。
喉が、目蓋が、熱い感覚で溢れていく。

――――――この娘は……、世間で言われているような、狂気の悪魔なんかじゃあない……
人の痛みを理解できて
人の辛さを悲しめる
わたしなどより、余程健全で、純粋で……真っ当な心を持った……
………ただの……、ただの…!…優しい……ッ…――――――

無意識に伸びる腕。
起き上がる身体。

感情に突き動かされるまま、フランの身体を抱き締めていた。

987〜吉良吉影は静かに生き延びたい〜:2012/06/19(火) 21:11:50 ID:baQPgvkY0
縮こまって、いっそう小さくなった彼女の背中に手を回して、堅く抱擁する。
ピク、とフランは肩を震わせる。
胸に抱いたフランに、吉影は穏やかな声で囁いた。
「…フラン、君はまだ子供なんだ……焦らなくていい……考え過ぎなくていいんだ………
大人の真似事なんて、しなくていい。
先のことの心配なんて、しなくていい………
辛いことや痛いことは、大人に任せて………、子供はただ、笑ってくれていたら……それだけでいいんだ…………」

この数日間、食事もろくに喉を通らず
石つぶてが雨戸を叩く度に、脅かされる恐怖に苛まれていた

崩れそうな彼の心が、折れずにいられたのは
フランとの逢瀬の一時が、彼の苦痛を和らげてくれたからかも知れない

むしろ、救われていたのは、このわたしだったのだろう―――――――

頬に触れる髪の感触。
甘く儚い香りの中、吉影は確信した。

―――――――そうか……、
この感情が……―――――――

BGM TaNaBaTa『Unknown Girl』【ttp://www.youtube.com/watch?v=4YfLXnxzY1Y】

「―――――――フラン、【約束】だ。
わたしは絶対に、君を不幸にしたりしない。
わたしは死なないし、君を置いてどこかに行ってしまったりもしない。
これから先、ずっと、わたしは君のものであり、わたしのものは君だけだ。」

吉影の膝の上で抱えられているフランは、ゆっくりと吸い寄せられるように、彼の背に手を伸ばした。
大きく逞しい背中に手を回して、彼の胸板にぴたりと身体を寄せる。
二人の体温が、触れあう肌を通して伝わり合う。
あの時、最初に吉影が手を差し伸べてくれた時感じたものより、確かな温もり。
彼女の心に柔らかい安心が、じんわりと広がっていく。
微睡みにも似たその心地よさの中、彼女は自然と瞳を閉じた。
………フランに応えるように吉影は、小さなその体を包み込むようにして、再び抱き寄せる。
「――――そして―――
……フラン、ここから先は【契約】だ……よく聴いておきなさい。」
顔を落とし、フランの耳に口を寄せて、囁いた。
「―――――――もしわたしが、君の心を裏切ったなら………そのときは――――――」



―――――――――――――――――――――
――――――――――――――
―――――――



ED 天野月子 『箱庭〜ミニチュアガーデン〜』【ttp://www.youtube.com/watch?v=Gxg01TKFOdk】



――――――――――――――――――

―――――――――――――

――――――『…吉良吉影………
心するのだ……
「【全て】を敢えて差し出した者が、最後には真の【全て】を得る
ましてや、【自分の最も大切な者】を捧げたなら……」――――――
覚えておきなさい』――――――

988キラ☆ヨシカゲ:2012/06/19(火) 21:13:05 ID:baQPgvkY0
投下終了です。






皆さま、どうか言わせて下さい。





吉良フラこそ我がジャスティスッッッ!!!!



…………はい、調子乗りましたご免なさい。

今回描きたかったのは、フランの悲痛ですらある純粋さと、吉影の心境の変化です。
あんなにもハイにノリノリに吉影の血を貪っていたフランが、実は深刻な思いを抱えていて、
生まれついてのサイコパスである吉影の心に、人外であるフランが、『人間の心』を芽生えさせる。
利害関係を超えた高みに、遂に二人は到達します。
しかし、そこに影を伸ばす【あの御方】の預言……
吉影は誰を『捧げる』のか、
次回こそ最終回です。ご期待下さい。

989154:2012/06/19(火) 21:15:36 ID:KPAxMsyg0
投稿お疲れ様でした。
リアルタイムで投下に立ち会えるとは何たる僥倖!
最終回、頑張ってください!

990ポール:2012/06/19(火) 21:29:44 ID:FnSo7H9U0
投稿おつかれさまでした!
本編では自分の心の変化(しのぶへの心配)を否定していた吉良が、とうとう人間へと・・・
最終回、楽しみにしています

991セレナード:2012/06/19(火) 21:40:53 ID:1Qkhu5/s0
『・・・僅かに残った人間味。その欠片は人間を人間でありつづけさせる。その欠片を自ら捨てるなら、その時は・・・』
・・・なんてね。
気まぐれに思いついたフレーズが、なんだか自分を虚しくさせます。

フランの心は恐らく『吉良と友達であり続けること』。
そして契約は、その心を裏切ったときに実行されるもの。
吉良が自らの人間味の欠片を捨て去るなら、その契約は実行されるでしょう。
その内容にもよりますが・・・もしかしたら、逆にこれが彼にとっての幸福になるのかもしれません。

もし、彼が人間味の欠片を捨て去らなかったら・・・。
・・・彼がが仕出かした業は、数多の心を裏切ったもの。
月の住人を見捨てた罪で船に乗ることすらかなわないのなら、彼の罪もまた同じでしょう。
滅されてもなお、天地冥全てに行くことが叶わないでしょうね。

どちらに転ぼうが、恐らく彼は私たちからすれば『ろくな目にあわない』でしょうね。
その状態を彼がどう思うかなんて、少なくとも私にはわかるものではありません。

992キラ☆ヨシカゲ:2012/06/20(水) 00:50:17 ID:CfB.wAngO
>154さん
ありがとうございます。
絶対の納得と満足感を約束致しますので、ご期待下さい。

>ポールさん
『化け物のような人間』吉影と、『人間のような化け物』フラン、似通っていながら決定的に違う二人の交わりが、この作品での大きなテーマとなっています。
果たして彼は人間でいることに耐えられるのか、はたまた人間を止めることでしか生きられない弱い化け物として最後の戦いに挑むのか、お楽しみに。

>セレナードさん
輝之輔に対して慧音が言った言葉と似ていますね。
輝之輔は『吉影のようになれば傷付かずにいられる』と考え、自分の良心を切り捨てようとしていました。
対して、吉影の方は……

【契約】に目をつけるとは鋭い!
この契約こそ、吉良吉影最後の切り札です。
果たして吉影は【人間性】を手にするのか、そして彼はそれを善悪どちらだと判断を下すのか。
どうか最終回まで、ご一緒願います。

993塩の杭:2012/06/20(水) 17:01:56 ID:bkv8vfkY0
投稿お疲れ様です!
吉良とフランの変化がどんな結末を運んでくるのか、楽しみです。
最終回を待ちわびております。

994スピードワゴン:2012/06/22(金) 00:44:52 ID:PAb6hVbI0
遅れましたが、投稿お疲れ様です!

しかし、あえて感想は言わず、最終回に向けて心構えと覚悟を決めます。
吉良の最後は、どうなるかわからないからこそ、待ち構えます。
最後の【切り札】が、唯一の【弱点】になる可能性があるからです……

あぁ、最終回が待ち遠しいです。

995キラ☆ヨシカゲ:2012/06/23(土) 01:18:52 ID:sUpV8Fx2O
>塩の杭さん
ありがとうございます!
最後の最後まで手を抜かずに書ききります。

>スピードワゴンさん
【切り札】が【弱点】に……やはりスピードワゴンさんは鋭い…
この物語の中の吉影は、基本行動が裏目に出てしまうんですよね。
射命丸を打ちのめそうとしたら反撃され、賞金を得ようとすればまんまと担がれ、慧音に悪事がバレないように【戦争】を始めたら『吉影の歴史は見ていない』と発覚、
不運続きで完全に『ツキが落ちて』ます。
彼が仕掛けた最後の切り札、吉と出るか凶と出るか。お楽しみに。

996154:2012/07/19(木) 22:31:55 ID:HDE128ks0
このスレは一向に残りの5レスが埋まる気配を見せない……
わかっているさ。
みんな、欲しいんだろう?
>>1000をさ。
でも、書き込まなきゃ>>1000は取れない。
さあ、はじめようか。
わずか4レスの>>1000取り合戦をさ。

997ポール:2012/07/20(金) 13:23:13 ID:gEH7Bkrs0
ふん
・・・おっとうっかり書き込んでしまったか。しまったな。これじゃあもう1000は取れないじゃあないか?
いつだってこうだった。最後の最後でうっかりしちまうんだ(と、まぁこう書いておけばただの『うっかっりもの』という認識しかされないだろう。それでいい。1000なんて取ったら目立ってしまうじゃあないか。
最後から3番目、997ならば目立つこともバカにされることもない。ふふふ)。ふふふ。反省反省ィ。

998キラ☆ヨシカゲ:2012/07/20(金) 15:31:39 ID:HXu6xc/.O
>>1000取り合戦中悪いがお節介焼きにも言わせてもらうぜッ!
PAD4を埋めたいっつーのは分かる、スッゲー分かる。
誰だってスレはキッチリ使いきった方が気分が良いよな……誰だってそーする、私もそーする。
だが、私達の本分を忘れちゃあいけねえ。
私達はSS書きだ、正々堂々SSでこのスレを使い切る!……それがこの掲示板、さらにはこのスレに書き込まれた全てのSSとコメントへの【感謝】じゃあないか?
俺は全力で次話を書いてやるぜ!
筆の速さ比べだッ!
どこからでも掛かって来いッ!!

999セレナード:2012/07/20(金) 15:38:32 ID:8RLivYLo0
ならばそうさせてもらいましょうか。
久方の小説投稿だッ!

東方魔蓮記第三十三話、これより投下する!

1000東方魔蓮記第三十三話:2012/07/20(金) 15:39:09 ID:8RLivYLo0
鳴り響く雷鳴。沢山の雷雲から放たれる雷。そしてその雷は弾幕にぶつかり相殺される。
ディアボロとこいしの弾幕ごっこはほぼ互角だった。
だが、まだホルス神やエンペラーなど、ディアボロは遠距離攻撃の手段を他に持っている。
エンペラーやハイエロファント・グリーンで攻撃しないあたり、まだ彼は本気を出していないようだ。
「(ウェザー・リポートを使いすぎているな・・・。後のことを考えると、温存しておいたほうがよさそうだ)」
そう思ったディアボロは天井に移動すると、装備していたウェザー・リポートのDISCをケース内のホルス神と入れ替える。
そしてこいしの弾幕を回避しながら氷塊をこいし目掛けて飛ばす。
こいしはそれを避けるが、ディアボロもメイド・イン・ヘブンで加速し、すれ違うようにこいしの背後に移動すると、そのまま適度な距離を取り、メイドイン・ヘブンの能力を解除すると同時に先ほどよりも多く氷塊を飛ばす。
こいしは氷塊を辛うじて回避し、弾幕を撃って反撃する。
「(あの反応・・・メイド・イン・ヘブンの加速を見切れていないのか?)」
そう思ったディアボロは、弾幕を回避しながら攻撃のチャンスをうかがう。
ただ飛ばしただけでは、弾幕に撃ち落されるか、あるいは弾幕にぶつかって砕けるかのどちらかしかない。

メイドイン・ヘブンの加速は、発動から時間が経過すると速度が上昇していく特徴がある。最初は1時間をたったの2分・・・30倍の速さで時を加速させ、その後もどんどん加速していく。
その速さゆえに、メイドイン・ヘブンはエルメェス、承太郎、徐倫をあっさりと殺すことができたのだ。
メイドイン・ヘブンも、レクイエムとは進化の手段が違うとはいえ、スタンドの『完成』した形の一つ。まともに戦っても、勝てるわけが無い。
エンポリオがウェザー・リポートを使ってプッチを倒せたのも、彼が友と一緒に掴み取った『奇跡』なのかもしれない。

ディアボロがこいしに氷塊を命中させるには、『弾幕にぶつかることも、こいしに避けられることも無い』一瞬の隙をつかなければならない。
それを成功させるのは楽ではないだろう。
「まだまだ行くよー!『イドの開放』!」
こいしがスペルカードを使い、弾幕の軌道が変化する。
同時にディアボロがメイドイン・ヘブンの能力を発動し、加速状態になる。
この状態なら、ディアボロから見れば『全てが遅くなる』。弾幕も簡単に避けることができる。
そのまま攻撃のチャンスを探るが、中々見つからない。
「(正面からの攻撃のチャンスが見つからないなら・・・)」
ディアボロは加速状態のままこいしの背後をとると、こいしが振り返る前にジャンピン・ジャック・フラッシュの能力を使ってこいしの真上に移動する。
「・・・あれ?」
振り返っても誰もいないため、ディアボロを見失ったこいしは周囲を見渡す。
それを見たディアボロはメイドイン・ヘブンとホルス神の能力を使って大量の氷塊を一気に作る。
が、それを実行したためにディアボロの周りの空気が急激に冷やされる。
一方のこいしも、周りを見渡しても誰もいないため、上を見る。
そしてこいしの視界に入ったのは・・・ディアボロとその周囲の大量の氷塊。




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