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シンが核鉄を拾った・避難所

827/武装運命 ◆ivYg6fbdiU:2009/03/18(水) 19:16:39 ID:pYyNBAd.0
 バルサムの呟きに、カナードが見透かしたような言葉を被せた。
 ちら、今まで意図的に外していた視線を合わせ、そしてバルサムは返す。
「人間風情が何匹歯向かってきたとこで、オレ達は敗けゃしない」
「ほぉ」
「あんま図に乗んなってんだよぞ」
 それは倣岸な人間を脅かす恫喝か、はたまた不遜な人間を抑える警告か。
 思わず零してしまった台詞に、カナードはさしたる反応も示さず薄く笑ったまま。
 甲斐が無ぇ、バルサムが溜息を吐くのも道理であった。
「まぁ、精々使い潰されないように上手くやるさ。俺とて死にたくは無い」
「どの口が抜かすんだか」
 しかめっ面してきりきり歯を擦り合わせるバルサムにしたり笑いを飛ばし、カナードはすっくと立ち上がった。
 すっかり空となった紙カップを所定のゴミ箱へ落とし、体を二、三度ほど捻る。
「そろそろアイツが中間報告を入れてくる頃だな、仕事するとしよう」
「さっさと行っちまえ、そんでメリオルに怒られちまえ」
「? どうしてそこでメリオルの名前が出るんだ?」
「…………なんでもねーよ」
 言い、バルサムは濁すようにぺっぺと手を動かす。
 思う事はあったが深く聞かず、カナードは首を傾げながら廊下へ出て行った。
 途端に落ちる沈黙の帳の中、バルサムは思い起こした。
 メリオル・ピスティス。数ヶ月ほど前に何処ぞのコミュニティから遣されて来た、気の強そうな顔立ちに眼鏡を掛けた怜悧な美貌を持つ“信奉者”の女性。
 派遣直後からカナードと組んでの仕事を回されていて、それが縁で彼を懸想するようになったらしい。当人に聞いたわけではないが振る舞いでわかる。
 しかし当のカナードが色恋に気を割くタマで無いため、その思いはほとんど報われていないのが現状だった。
「けっ、世間様の春もバケモノにゃ見向きしたくありませんってかねぇ」
 誰宛かも分からぬ心の澱を吐いて、バルサムは長椅子へごろりと寝転がった。

「…………あぁ、上手くやるとも。上手く、な」
 薄暗い廊下を往くカナードの独白も、また、闇に消え。


 同刻、『堕月之女神』司令個室。
 禿頭を片手で撫でながら、ジェラード・ガルシアは黙考していた。
 数日前、先に仕掛けたホムンクルス禁錮施設襲撃は大成功といって差し支えない結末だった。それなりに使えそうな手駒が幾つか手に入ったのも良い。
 しかしそこで欲を出したのがケチの付き始めだったのだろう。
 ブルーコスモス上層部のとある御仁からラクス・クラインをなるべく無傷で連れて来いとのお達しが下っていたのは、時間にしておよそ2ヶ月ほど前の話だったか。
 施設襲撃で仕入れた手駒のチェック中に件の方と同じ声の女がいた事で、ガルシアはそれを思い出したのだ。
 肉体を整形することが出来る武装錬金の使い手が禁錮施設にて見つかったので、無事成功したら釈放するという交換条件でそいつに施術させた。ホムンクルスに普通の品では歯が立たない。
 そこまでは良かった。
 顔だけをラクスそのものとする施術が見事完了したその直後、この女が禁錮施設に収容された経緯が部下の調査で判明。
 要するに、本物のラクス・クラインがこのオーブに存在すると知れてしまったのだ。
 用済みな上役立たずと成り下がった整形師(コーディネーターだった)を間食にしつつ、ガルシアはすぐさま彼女の身柄確保を部下に命じた。
 そしてまた誤算だったのが、禁錮施設で仕入れた連中の余りにも強すぎる我。
 命令には碌すっぽ従わない、制限されている人食いを勝手に行う、データを引き出す前に施設まで破壊する。
 堪ったものではなかった。
 なまじ一般のホムンクルスより腕があるため、以前から『堕月之女神』に所属していた者とも折り合わず。というか合わせる気が向こうにない。
 そういう訳で、最初に向かわせたアカツキ島の施設では残念ながらラクス・クラインの身柄確保は出来なかった。不幸中の幸いは、幾つか転がっていた端末の残骸から彼女の現在所在地が割り出せた事。


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