したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

シンが核鉄を拾った・避難所

727/武装運命 ◆ivYg6fbdiU:2009/03/18(水) 19:14:58 ID:pYyNBAd.0
 このオーブで我等が『堕月之女神』に加わったコーディネーターの一人、バルサムに取っては遺憾ながら好敵手にして目の上のたんこぶでもある男――カナード・パルス。
 そいつが据え付けの長椅子に腰掛け、無言でコーヒーを啜っている。
 思わず足を止めてしまったバルサムに無遠慮な視線を投げ、しかし彼は直ぐ顔を逸らした。というか元の向きに戻した。
 目を閉ざし無言のままコーヒーをぐいと呷るカナード。
 妙な圧迫感に満ちた空間だった。
 うんともすんとも言えず、また髪に指を突っ込みながら自動販売機の前に立つバルサム。
 アイスとホットが一応選べるコーヒーの他には、クソ甘ったるいオレンジジュース(果汁1%)とクソ苦いグリーンティーしかない。あとは無味無臭の味気ない水。
 そのコーヒーとて泥水よりはマシな程度の味しかせず、しかも砂糖だのミルクだのといった上等な調味料もここには無い。
 バルサムは少しばかり悩み、結局コーヒーを選んだ。
 紙コップが受け台に落ち、僅か間を置いて茶褐色の液体に満たされる。
 ひょいと取り出すと匂いばかりはそれなりで、今日こそは味を変えてあるかと微妙に期待するも。
「…………不味ィ」
 やっぱりいつも通りだった。
 ふと首筋に視線を感じて、振り向くと、カナードがこちらを見ていた。
 眼が、やけにギラギラ光っていて。
「しくったらしいな、バルサム。蹴られた股間は平気か?」
「心配にゃ及ばねーよ。もう直った」
 そっけなく返すと、何が可笑しいのかカナードはくつくつ喉を鳴らす。
 “なおった”という言葉の意味する所を悟ったか。
 ホムンクルスでもないただのコーディネーターの筈なのに、その態度には彼らを恐れる様子など微塵も無い。
「…………毎度毎度思うんだがよ、お前も変わってんな。人間の癖に随分忌憚無く喋っけど、ホムンクルスが怖くないのか?」
「怖いのはヒトの欲望だ。何時の世も、どの場所でも。アイツを生み出す過程で築かれた屍山血河に比べりゃ、ホムンクルスの人喰いなんか可愛い方だ」
「アイツ、ねぇ? あのボンボンがそんな恐ろしいモンにゃ到底思えないけどよ」
「だろうな」
 嘯き、カナードは犬歯を剥き出してぎたりと笑った。
 下手な同属より余程凄みのある表情に、バルサムは穏やかならざる心中を隠して表向きは同意しておく。
 アイツ。
 カナードが頻りに話題に出す、とある青年を指す言葉。
 彼と共にこのコミュニティへやってきたその青年は、ホムンクルスの一般論からすれば余りにも貧相で頼りない存在だった。
 一応はコーディネーターらしいが、体力も精神面もかなり凡庸。下手をすると良く鍛えたナチュラルの方が余程有用に思える、そんな感じの男だ。
 過去に何があったかは知らないけれど、言う事の割にはカナードはその“アイツ”とやらを一応それなりに宛てにしているらしい。
 ――――時に。
 ホムンクルスが運営する組織に加わった人間は、ナチュラル・コーディネーター・ハーフを問わず“信奉者”というカテゴリーに分類される。
 その大半が、不老不死を得たい、強靭な肉体が欲しい、至る理由は様々でも最終的にはホムンクルスになりたいで集約されるような願望を持つ連中だ。
 様々な理由で組織に組み入っている彼らであるが、最終的に悲願を達成できる率は途轍もなく低い。
 与えられた任務の過酷さに膝を折った者、下手を踏んだ代償を己の命で払わされた者、上層部の機嫌を損ねてしまい消された者、何となく腹が減ったホムンクルスに間食として喰われた者。こちらも理由は様々、死ぬ時は死ぬのだ。
 実力、要領、何よりも運が良くなければ、己の望みを叶えさせる事は出来ない。
 そう。カナードは、信奉者の中でも頭三つは飛び抜けて強いのである――――それこそ、自前で持っていた核鉄を組織に献上させず、所有し続けるのを許すくらいに。
 力こそが全て、とは言わないが、『堕月之女神』ではやはり強い者が持て囃される傾向にあった。
 発足当時からこの『堕月之女神』に籍を持つバルサム、その立ち位置は一応幹部のようなところだ。
 しかしここにきて腕利きの新参が多く入ってきたため、内心ではお株を奪われやしないか戦々恐々としていたりする。
 その筆頭が、この、カナード。
「まぁ、雨風凌げて飯も食えるんだ。これ以上はそうそう望まないさ」
「だといいがね…………」
「不安か?」


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板