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シンが核鉄を拾った・避難所

527/武装運命 ◆ivYg6fbdiU:2009/03/18(水) 19:12:01 ID:pYyNBAd.0
 それは、半分だけ血を分けた憎むべき姉君ラクス・クラインであった。
 未だ目を覚まさぬヒルダの見舞いをした戻り路であろう。
 のっそり顔を上げたミーアに慌てて走り寄り、ラクスはその体を支えようとする。
 けれども。
「如何しましたミーアさん!?」
「っ!!」
 ――パシッ!
 差し出した手は、差し出された者の手で振り払われた。
 じん、乾いた痛みが手の甲を苛む。
 驚きと悲しみの入り混じった表情をするラクスに、ミーアは淀んだ眦を向けた。
 怒るような、泣き入るような目を。
「アタシを、助けようと、しないで」
「し、しかし、」
「お願い…………駄目なの」
 ずるずると背を預けた壁にしな垂れかかって崩れ落ち、とうとう床に腰を下ろしてしまうミーア。
 息は相変わらず落ち着かないまま、彼女の心を掻き乱す。
 ラクス・クライン。
 殺したいほど憎いヒト。
 だが、この身に薔薇が咲いたあの日から、憎しみがどんどん薄れていくのだ。
 ミーアにとって、嘗ての寄る辺であった憎しみを失う事は、ミーアをミーアたらしめていた根幹が消えるのに他ならなかった。
 自分が、全く違う“自分”に徐々に食い潰されていくような感覚。
 何より恐ろしいのは、それを己自身が何となく肯定している節さえ感じている事だ。
 このままでは、人喰い衝動が表面化するより先に、折り合いの付かない精神が壊れてしまう。
 一番恐ろしい事とは、なんだ。
 ただの人喰う化け物に成り下がる事か。
 己さえ認識できぬほど壊れ果てる事か。
 あれほど憎かった者に尻尾を振る事か。
 どれもこれも共通しているのは、今の自分が確実に“死ぬ”という事。
 そして。
 今の自分を今のまま生かし続ける術は、恐らく――――無い。
「何を、恐れていらっしゃいますの?」
「……………………」
 ふつりと呟いたラクスに、ミーアは思わず顔を背ける。
 それは彼女の言葉を言外に肯定しているのと変わらないのだが、果たしてミーアが気付いているわけもなく。
 ラクスは、返事代わりに示したミーアの反応に柳眉を寄せた。
 何らかの言葉を返してくれればこちらもそれなりに物が言えたけれど、このように黙ってそっぽを向かれてしまっては。
 明確なのは拒絶の意図だけ。
 だが、それでもラクスは、ミーアが突き放した手をそのままに出来なかった。
 力なく震える、か細い少女の手を。
 ――ぱさ。
 衣が擦れる音。
 目を固く閉ざしていたミーアは、冷え切った手が温かいもので包まれるのを感じた。
 ゆるゆる目を開くと、そこには相変わらず憎むべき姉君がいる。
 違うのは、スカートが汚れるのも気にせず跪いて、ミーアの握り締められた拳を己が双掌で包み込んでいる事。
「不安な時に誰かが手を握っていてくれると、安心しませんか?」


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