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シンが核鉄を拾った・避難所

1327/武装運命 ◆ivYg6fbdiU:2009/12/24(木) 23:44:42 ID:.fhkTlXE0
 その日、オーブ国営国際空港に、一人の青年が降り立った。
 水底を思わせる蒼い髪に愁いを帯びた翠の瞳。
 一見線の細い体を黒基調の仕立てが良い服で包み、手にはキャリーバッグひとつ。
 良く言えば優しげな、悪く言えば軟弱そうな、どちらにせよ抜群の整い方を誇る顔立ちには、これといった感慨の一つも浮かんでいない。
 旅に悪い意味で慣れた者のする表情であった。
 ころころとキャリーバッグを引き連れて椅子に腰掛け、青年は先程買ったミネラルウォーターを口に含む。
 父親から久しぶりに届いた連絡、何かと思えばこの島国への出向命令。
 思うことは無いでもないが、文末に一言「体に気を付けろ」とだけ書いてあっただけでなんとなく反抗する気が失せてしまう自らの易っぽさといったら。
 一気にボトルの半分ほどを喉へ流し込んだ青の方に、向こうから人が走り寄ってきた。
 紫色の髪、やや面長気味な顔は青年よりも軟弱そうな気配。
 上背も青年以上に高く、それでいて体を細く見せるような服を着ているものだから、相対的な身長比はよりいっそう大きく見えよう。
 座ったままもいかんと判断し、すくりと起立。
 現れた方の青年は、今立った青年ににこやかかつ疲れた顔で遠間から話し掛ける。
「やぁー、はぁ、遅れてごめんねぇー、はぁ、はぁ。急いだんだけ、ど、はぁ」
 疲れた顔は単純に走ってきたせいだったか。
 苦笑が浮かびそうになるのを必死に堪えながら、座っていた青年はきっちりと一礼した。
「こちらこそ、ご足労をさせてしまい申し訳ありません」
「ふー、ひー、ふぅー…………そんな畏まんないでよ、むしろ今回はこっちが助けてもらう側なんだから」
「はっ。及ばずながら力を尽くしたく思います、ロマ・セイラン殿」
 青年の硬いセリフに、もう一方の青年は額の汗をハンカチで拭きながら困ったように笑う。
 ユウナ・ロマ・セイラン。
 ここオーブの政において陣頭を取る五大氏族がひとつ――セイラン家の長男坊。そして、現オーブ政府管轄下の錬金戦団員を纏める者だ。
 ちなみに彼は大戦士長ではない。そもそも戦士ですらない。中間管理職みたいなものだ。
「ユウナで構わないよ。君の噂はここまで届いてる」
「噂、ですか」
「そ。成果とか実績とか評判とか」
「…………自分はまだまだです。総戦士長、父、どちらの足元にも及びません」
「あの人らは海千山千の古強者だよ?」
 比較対象がおかしい、ユウナは青年の渋い顔をその一言で切って捨てる。
「大体ね、君くらいのレベルの人間は『及ばずながら』なんて社交辞令でも言うべきじゃない。過ぎた謙遜は時に他人を傷つけるんだ…………僕みたいなのもね」
 息の大分落ち着いた様子で、自分を指差すユウナ。
 彼は彼なりに、自ら戦う事が出来ない事を気にしているのだろう。
 言外の思いが理解できた青年は、ひとつ深呼吸してから改めて頭を下げた。
「…………失礼致しました。私もプラントの看板を背負い遣わされた身、必ずや御期待に副える働きをしてみせます、ユウナ殿」
「うん、頼りにしてるよ。よろしくね」
 にっと笑いながら差し出されたユウナの右手を、青年も笑みと共に握り返す。
 ペンだこがある細いユウナの手と、顔に似合わぬ無骨さと力強さを内包した青年の手。
 重なった手を離し、青年はキャリーバッグの持ち柄を取った。
「それじゃまずは、国防総省の方に顔を出そう。先行チームとの合流はその後で」
「了解。先任の戦士長、ハイネ・ヴェステンフルスでしたね」
「その通りだけど、ひょっとして仲良かったり?」
「いや、長丁場で組んだ経験が無いので仲良しとは言い難いです。ただの知り合いくらいかと。
 けれど優秀な人だとは思います、スタンドプレーしか取り得が無い俺と違って集団での動き方動かし方を良く知っている」
 真剣な顔で首肯する青年に、ユウナは少し可笑しくなってしまった。


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