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シンが核鉄を拾った・避難所

1027/武装運命 ◆ivYg6fbdiU:2009/03/18(水) 19:20:10 ID:pYyNBAd.0
 そう思いはしても口に出さぬ、処世術も初歩中の初歩だ。
 青年がそんな事を考えているなぞ露知らぬまま、ガルシアは腰掛けている椅子を回し青年に背を向けた。
「幸い、馬鹿2人がダイイング・メッセージを遺してくれた。暴れるしか能の無い連中だったが、最期ぐらいはそれなりの事をする」
「ダイイング・メッセージ…………彼らが消息を絶った近辺を洗えば良いんですね」
「理解が早くて助かるよ」
 背凭れの向こうでガルシアが笑っているのが、此方からでも何となく解る。
 実を言うと、青年にはこの時点で既に戦士達の所在地について一応ながら算段が付いていた。
 混ざり物――ミーア・キャンベルが起こしたクライン邸襲撃事件の調査や、施設に遺されていた端末の情報復元を行った身だ。その中で彼らが何処を拠点にしたか、これだけの情報でも場所は絞り込める。
 けれど、それを言う気は無かった。
 青年には目的があり、今ここで戦士達の情報を吐くと不都合が生じる。
 まだ、彼が来ていない。
 面従腹背、出来るだけ先延ばしして時間稼ぎを――――
「なぁ?」
「っ」
 考えを読まれたかのごときタイミングで、ガルシアが青年に声をかけた。
 ぐっと息を詰まらせた青年へ畳み掛けるように、後ろ向きの男は、威圧的な色を滲ませて問う。
「よもや、不埒な事は考えていないよなぁ」
「…………無論、です」
「それならば良いんだが」
 ぐるり、椅子が再び回り、ガルシアの姿をこちらに戻した。
 机へ両肘を突いて顔前で指組みし、ぎろりと見据える。
 ホムンクルスの一集団を率いるに相応しい、凄みを帯びたおぞましき兇眼で。
「解っているな? この『堕月之女神』の門戸を叩いた瞬間だ。その瞬間から、君は既に――――」

  裏 切 り 者 の コ ー デ ィ ネ ー タ ー だ 

 臓物を錆刀で抉り散らすような、そんな鈍くも鮮烈な闇が、青年の心に噛み付いた。
 そう。後でどう取り繕っても、自分がホムンクルスのコミュニティに所属していたことは変えようが無い事実。
 理由がどうあれ、その過程で自分は、人類を裏切った。
 自覚しないよう努めていた闇をガルシアに掘り返され、青年は顔を真っ青にしよろめいた。
「ふむ、まぁ今日は休んでおくといい。下がりたまえ、明日からは励めよ」
「……………………ぁ、ぃ」
 返事にもならぬほど小さい声で零し、青年はのったりと司令室から出て行く。
 半死人の足取りで廊下の向こうに消えていく背を一頻り眺め、ガルシアは無線を動かした。
 ガルシアもまた、青年をただ飼い馴らせていると思ってはいない。
 保険をもう少し強めておくか。
「……ワタシだ。っておい待て切るな、オレオレ詐欺をこの無線でやる馬鹿がいるか! 司令だ、ジェラード・ガルシアだ!!
 全く貴様は、あの男の下についてからヤケに反抗的だな? 別の者と組ませるぞいい加減!」
[――――――――]
「えぇい、それが嫌なら働け! あの男が連れてきたコーディネーター、彼奴に仕込んだモノの濃度を少し上げるだけだ」
[――――――――]
「その通り、彼奴自身よりも仕込んだモノの方が御しやすいのでな。解ったらさっさとやれぃ」
 言うだけ言って無線をブツッと切り、ガルシアは深く背凭れに寄り掛かる。
 やんちゃ者ばかりが増えて、上に立つ者は大変だ。
 言った奴は兎も角中身だけならそれなりに賛同者のいそうな言葉を心中に浮かべ、瞑目。
 しばしの間、ガルシアは休息を取る事にした。
 不死身でいるのも、中々大変なのである。
                           第23話 了


後書き
 23話投稿です。ミーアがデレ期の入り口にきました、そしてウチのとこのラクス嬢にブラックな他意は一切ありません。
 脇の視点が多すぎて中々話が進みません。どれもこれも主役より脇役が好きな性分のせいですごめんなさい。
 OOやら他の方のネタなど、俺も是非見たいです。自分だけだと煮詰まりかねませんし、皆様をお待たせする期間が長すぎて気が退けます故に……もっと早く書けりゃ一番なのですがorz
 それでは、本日はこの辺りにて失礼を致します。それではまた今度に、ギギー。


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