●アメリカは「愚か」になった…ソーシャルメディアによる「分断」をどう解決すべきか
6/7(火) 7:02配信
>>そのソーシャルメディアによって病んだアメリカ社会の交通整理を買って出た人物がいる。その人物はニューヨーク大学で社会心理学を教えるジョナサン・ハイト教授。アメリカの歴史ある政治評論誌のThe Atlanticに寄稿した“Why the Past 10 Years of American Life Have Been Uniquely Stupid”という論考で、表題の通り、過去10年の間になぜアメリカ人の生活がこんなに「愚か(stupid)」なものになってしまったかについて論じた。その原因をソーシャルメディアにあるとしたことから、この論考は出版直後から多くの注目を集めている。折しもバラク・オバマ元大統領がスタンフォード大学の講演で偽情報によるデモクラシーの危機を憂えたばかりのタイミングだった。オバマだけでなく、ジェフ・ベゾスやケイティ・ペリーも是非とも読むべし! と勧めている。ハイトの論考は、もとのタイトルが「アフターバベル(After Babel)」であったように、現代アメリカ社会がソーシャルメディアによって混乱に陥っている様を、神の怒りに触れてバベルの塔が破壊された以後の世界に例えたものだ。人間の高慢さに腹が立った神がバベルの塔を崩壊させて、人間から共通の一つの言語を奪い争いの絶えない世界にしたのと同じように、ソーシャルメディアによって社会の全ての信頼や紐帯が破壊され、瓦礫と化した世界が描かれる。人びとは、方向感覚を失い、同じ言葉も話せず、同一の真実を認識することもない。アメリカの場合、この状況は、共和党が優勢なレッドステイトと民主党が優勢なブルーステイトとの間の深刻な争いのことを指している。憲法も経済も歴史も異なる2つの国が、同じ領土の占有を宣言しているような内乱状態が続いている。それもこれもソーシャルメディアが、やたらと個々人のモラルを刺激し人びとの憤りを増幅させる特性があるからで、かつて(=バベルの塔があった頃)は可能だった、集団で真理(=正しく適切な解決策)を見出すために当然視されていた正当な異論の申し立ても不可能になってしまった。反論は単なる絶対拒絶と解釈されキャンセルされる。こうしてソーシャルメディアは社会に不正義と政治的機能不全をもたらすのだが、その特徴は3つある。第1に少数の攻撃的な人びとに多数を口撃することを許してしまうこと。第2に政治的に極端(エクストリーム)な人たちばかりが大きな声を得ること。第3に、誰もが社会政治的な刑の執行人たり得ること。こうして無法地帯で私闘あるのみのワイルドウエストがもたされる。
>>「いいね」ボタンが世界を変えた?
ジョナサン・ハイトは日本でも『社会はなぜ左と右にわかれるのか』の著者として知られる。この本は原題が“Righteous Mind”とされるように「道徳的に正しい精神」のことが取り上げられており、道徳的な正しさが、アメリカにおける左右のすれ違いを生み出している、というものだ。彼はRighteous Mindを構成する要素として6つの価値、すなわちcare、fairness、liberty、loyalty、authority、sanctityがあるとする。その上で、リベラル(=民主党支持者)と保守(=共和党支持者)を分けるのは、前者が6つの価値の内の前3つ、すなわちcare、fairness、libertyにしか重きを置いていないのに対して、後者は6つの価値全部に訴えているところにあると論じた。道徳心理学の研究成果をイデオロギーの分析に転用したこの著作で、ハイトは社会心理学者としての名声を確立した。件の「アフターバベル」の論文もこの研究実績の上で展開されている。このエッセイでハイトは、ソーシャルメディアの普及によって、いかにアメリカが構造的に愚かな時代を迎えてしまったかを分析している。「構造的」というところに、問題がソーシャルメディアの構造=アーキテクチャと大きく関わることを示唆している。