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好きな小説を語るんだよ(*`Д´)ノ

3906V3:2015/05/22(金) 14:11:18 ID:qEGe3b9E
「それにしても——せっかく、のせてもらっておいて、文句は云えないけど、すごいへやねえ、ここは」
ロス脱出の気疲れで、船倉の一画を区切ってつくられたらしいその船室に入るやいなや、泥のように眠りこんでしまった子供たちだったが、明るくなり、まわりのようすがよく見えてくるとともに、リンダの目は、大きく見張られ、その可愛い鼻にしわをよせて彼女はぶつぶつ云った。
「まったく、お前さんときたら、おれのすることなすこと全部にけちをつけるんだな。金打ち毛皮張りの内装で、竜頭は金無垢の、ご座船でも用意してもらえると思ってたのかい、あのくそ忙しいときにさ」
わけてもらった朝食を盆にのせて入ってきたイシュトヴァーンがききつけて、口をゆがめた。
「あら。そういうわけじゃないわ」
リンダは少し赤くなって言いわけをした。
「そんなことは全然云ってないじゃない。ただ……」


もうリンダたちにもきこえるおそれのないところまで来てから、こっそりとイシュトヴァーンはつぶやいた。
(なあ。どいつもこいつも、船長から水夫まで、うさん臭さをぷんぷんさせてやがる。おれはこれで、けっこう鼻がきくんだが、海賊はもとかく海賊として、同じ海賊にも、質のいいのと、悪いのと、ぴんからきりまであるもんだ。こいつは、悪い方だよ——それもかけねなし、まがうかたなしの、海賊なかまでも同じ海賊と呼ばれるのをイヤがるような……えものとみりゃあ見さかいなしにくらいつき、その運のわるい船にのらあわせたやつらは赤児から犬からネズミまでみな殺し、樽の底まで略奪してゆくってやつだろう。おお、そうとも——そうでなけりゃ、なんぼ海賊船であれ、うしろ暗いところがあれ、ロス港が封鎖されるときいて、ああまであわてふためいて逃げ出したがるこたあねえだろうよ。世の中にゃ、うわさにだけきく海賊王シグルドのように、海賊というのはれっきとした商売だ、と主張し、あまつさえそれで国を富ませているやつだっているんだからな——)


「——絶対何かあるぜ。そいつはもう、はなから知れているが」
ロハスのにごった声がきこえてきた。
「とにかくあのでかいのは病気なんかじゃねえ。わけあって、面を見られちゃあまずいんだ。てえことは、必定、正体は誰かかどこかに追われている奴で、高く売れるに違いねえ。あの出港のときのあわてよう——こんな船と知っていながらとびついて来やがった。たぶん、追われているのはモンゴールにだ。それに、あの二人の男の子……男と云いつくろい、顔もなるべくかくしちゃいるが、ありゃあ、骨の細さ、肌の色、たぶん二人とも、あるいは少なくともどっちか一人が女の子だ。それもどうやらなかなかのべっぴんだ。高く売れるぜ——男の子でも、あのちらちら見えるとおりの美形なら、よろこんで、体重と同じ重さの銀をつむ金持ちはごまんといらあ。なあ、船長」
「云うな、ロハス。はなから知れてるこった。そうだろうが」
「そう来こなくっちゃ。そうと決まりゃ、早い方がいい」
「ただ、あの図体——たぶんあの顔をかくした男が、たいへんな戦士だってのは、まちがいねえ。それにあの若いのもけっこう度胸もあり、腕も立ちそうだ。となると……」
「いつものとおりさね。料理番のケンじじいに、酒に眠り薬をまぜさせよう」
「今夜だ。皆にふれをまわしとけ。今夜は特別のおおばんぶるまいをしてやるからとな。狙いはむろん、二人の子どもと——それから例の男の素顔をたしかめ……」
「おらああの若いのの、色男づらを切りきざんでやるのがええ」
くっくっとロハスが笑うのがきこえた。
「あの若えのはおれにくれ」
「おめえは、美男というと、切りさいなみたがるからなあ」

グイン・サーガ第七巻『望郷の聖双生児』

梅(*`Д´)ノ♪

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