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好きな小説を語るんだよ(*`Д´)ノ
3905
:
V3
:2015/05/22(金) 14:09:39 ID:qEGe3b9E
「船は見つけたよ」
イシュトヴァーンは簡単に云った。
「おお、イシュトヴァーン!」
「さあ、そんなことはらあとだ。見な。グインもレムスも支度ができちまったのに、お前だけ、そこにそうして毛皮をかぶったまますわってるんだぜ」
「いま、するわ」
リンダは手早く身支度にかかった。
「宿の支払いは、イシュトヴァーン?」
「すませて来たよ。さあ、早く——明日の前にこっそりぬけ出そうとしてる、とばれるとこれまた怪しまれるからな。宿のものには少しつかませたが、いつまでもつか……」
「何から何まで、すまんな」
「何を云ってる。——急げよ」
リンダは記録的な早さで見仕舞をととのえた。
「その銀髪を、これでかくせ、二人とも」
イシュトヴァーンは黒い革の、ぴったりした帽子を放ってよこした。それをかぶり、短いマントと、それに長ぐつとズボンと胴着をつけた双児は、そっくりな二人の少年のように手をとりあって立っていた。
「いいか、万一、港につく前に誰何されたら、おれは遊んできて船にもどる船乗り。双児は少年水夫ふたりだ。スニは、少しつらいが袋に入ってもらい、グインが背負う。グインは少しはなれて、病気の乞食——といっても、この図体でそれが通用すればだがね——のつもりでついて来てくれ。万々一見とがめられ、怪しまれたら、おれが何とか血路をひらくからあとは見ずに埠頭へつっ走れ。そこに小舟が待っていて沖の船までつれていってくれる。わけがあってこの船もモンゴール軍に見つからぬよう夜中じゅうにロスを出港したがっている。遅れたら、おいていくぞ。——船の名を、小舟の船頭に云うんだ。船の名は、《ガルムの首》号」
「ガルムって、地獄の入口を守る、三つの首のある魔の犬の名じゃない」
リンダはあきれ顔だった。
「ずいぶん不吉な名前を、船の名につけたものね」
「さあ、どうでもいい。いくぞ。少し、間をあけて歩けよ」
「イ——イシュトヴァーン」
「しゃべるなと云ったろう」
「手を……手をゆるめて、少しだけ。いたいわ」
「せめて、男声をつくってしゃべれよ」
イシュトヴァーンはおそろしい目つきになっていた。レムスが、リンダにきこえぬよう、のびあがって、イシュトヴァーンの耳に口をよせ、低くささやいた。
「グインが自分で切りぬけられなかったら、おいてゆくんだね。それしかないよ」
「ああ」
イシュトヴァーンは、再び、何がなしにぎょっとしながらパロの王子のかわいらしい顔を月あかりにすかして見た。
グイン・サーガ第七巻『望郷の聖双生児』
梅(*`Д´)ノ♪
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