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好きな小説を語るんだよ(*`Д´)ノ

3904V3:2015/05/22(金) 14:08:04 ID:qEGe3b9E
「ふん」
イシュトヴァーンは口をゆがめ、うさんくさそうにレムスをねめつけた。
「たいそう、うまいことを云うじゃないか、小僧。お前がそんなに弁が立つとは、不覚にして、いまの今まで気がつかなかったぜ。だがな」
恐ろしい表情で、ぐいとレムスの顎に指をかけて持ちあげると、近々とのぞきこみ、
「いいか、どうせ、グインはもう見当はつけてるだろうが、お前の姉貴は、とろいところがあるから、ちっとやそっとじゃ勘づくまい。いいか、リンダに、よけいなことをぬかして見やがれ。てめえのその細っ首を、叩き折るだけじゃすまねえからな」
「わ——わかったよ、イシュトヴァーン」
古馴染みのおどおどと気弱な目つきなったレムスは云った。せっかく、ひそかに育てはじめていた奇妙な自信も、頭ごなしにがんとつぶされたかっこうだ。
「よく、覚えとけ。よけいなことをリンダに云うんじゃねえ」
もう一回、イシュトヴァーンは念をおして、仕上げにいやというほどレムスの首をつかんでゆさぶり、ようやく少年を解放した。
「まったくもう、弱虫のくせに出しゃばって、いらん手間をかけやがる」
ぶつぶつ云いながら、あわただしく出てゆこうとする。
その背に、壁にもたれたままのどをさすっていたレムスが低く云った。
「やっぱり、リンダが好きなの、イシュトヴァーン。だから、強盗をしてる、なんて知られたくないんだね」
「なんだと」
イシュトヴァーンがまた気色ばんでふりかえる。
レムスはあわて気味に身をずらしながら、とどめの一言を吐いた。
「でも、リンダはきっと、あなたの探してる《光の公女》じゃないと思うよ。きっと、そうだ」
「なんだと。なぜだ。なぜそんなことを云う」
イシュトヴァーンの目がけわしくなった。
「だって、ぼくたちは《パロの真珠》と呼ばれていたんだよ」
レムスは逃げ腰で云いついだ。
「真珠は美しくてもそんなに光を放ちはしないと思うけど」
「小わっぱめ。小ざかしいことを」


(リンダは光の公女じゃないだと——?ハッ、あの小僧はリンダと違って、予知者でも霊能者でも何でもないんだ。なぜそんなことがやつにわかる。ただのいいかげんなごたくに決まっていらあ)


イシュトヴァーンの目が、ふっとやわらいだ。奇妙な、夢のような輝きをおびた。
(あの娘はいまにきっとたいした美人になるにちがいない。あの銀髪——まるで、月の光のしずくから作ったようだ。それにあの、けむるような目——紫水晶の大きな目……あのきつい、ひとを真正面から見る——そうとも。一体、どこが、そうじゃないというんだ?あの娘こそ、まさしく、光とかがやきでつくられた光の公女そのものじゃないか……あんな娘、見たこともねえ……まだほんの子どものくせに、国を追われ、父母を殺され、四方八方から命をねらわれ、おれとグインしか守ってくれるものもない、というのに、あの娘は、いつもあの頭をぴんとまっすぐに立て、王宮のまん中で絹につつまれてでもいるように、王女の誇りを一瞬として忘れたことがない。同じ顔、同じ銀色の髪をしていても、あの臆病者の弟とは大ちがいだ。あのガキ——変に見すかすような目をする……だが、あの娘はちがう。きつい娘だ。たしかに、きつい娘だ。おれは、きつい女が好きなんだ。一から十まで男の言うなり、右を向けといわれりゃあ、一日でも二日でも向きっぱなしになってるような人形には、用はねえ。おれは、このおれに向かってつっかかって来るような、気骨のある、威勢のいい女の方がいい。ただやかましくがみがみ云うやつじゃない。ちゃんと、おれの野望の力になってくれ、いざとなればおれの左で共に剣をとって戦ってくれることのできる女、決して邪魔や足手まといにならん女、むろん、べっぴんで……そう、イラナだ。イラナのような、光りかがやく娘、光の公女、おれの……)
いつのまにか、イシュトヴァーンの顔から、レムスによってかきたてられた翳りの雲は、吹き払われていた。

グイン・サーガ第七巻『望郷の聖双生児』

梅(*`Д´)ノ♪

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