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好きな小説を語るんだよ(*`Д´)ノ

3892V3:2015/05/22(金) 00:16:10 ID:qEGe3b9E
奇妙な、鳥が鳴いてでもいるような音が流れ出る。ややあって、ヴァシャのとげだらけの茂みの向こうに、ふいにとけるように何か黒いものがあらわれ、それからまたふたつつづいてあらわれた。夜がそこだけ濃くこりかたまったか、というようなその三つの黒いよどみは、やがて星あかりのもとで、異なる空間を通ってあらわれたものがしだいに形をなしてくる、とでもいったように、三人の魔導士特有の黒い長いフードつきマントに身をつつんだ男たちの姿となった。
「お呼びでございましたか」
「うん」
ぼそぼそとした魔導士の声に、低いが若々しいひびきで答えたのは、まぎれもなく、吟遊詩人のマリウスの声である。
「いかがなさいましたか——ディーン様」
「その名を呼ぶなと云ったろう。ぼくは、マリウスだ。いいか」
「申しわけございませぬ」
「この宿屋の二階のつきあたりの室に、一人の旅人が眠っている」
マリウスは気にとめるようすもなく性急に云った。
「黒蓮のエキスを吹きかけて、ぼくが眠らせた。——街道口に入ったところで、苛々しながら誰かを待っている男で、見るからにモンゴールの若い将校、それも貴族の子弟だろうに、町人ふうのこしらえをし、供もつれていない。ようすがいかにも何かありげだったので、あとをつけ、話しかけてかまをかけたら、アストリアスだと名乗った」
「それはそれは。モンゴールの治安長官のせがれで、赤騎士隊長のアストリアス子爵ではございませんか」
「当人らしい。それにどうもわけありらしい。——おまけに、どうやら、真珠のゆくえについて、情報をにぎっているようだ。これからすぐ、運び出し、例のところへつれていってくれ。そこで、喋らせる。急げ」


「いいか、アストリアス。おまえはこれから、ぼくのたずねることに何でも正直に答えるのだぞ。そして、ぼくが術をといたら、ぼくたちに答えたこと、吟遊詩人のマリウスに会ったこともすべて忘れてしまう。いいな」
マリウスがささやきかけた。アストリアスの頭がちょっとゆらゆらしたが、すぐ、こくりとうなづく。
「なんと、暗示にかかりやすい男だな」
「どうだい。一回、暗示をかけただけで、あっさりかかってしまったぞ。よくよく、人間が正直にできているのだろうな」

くすくす笑いながらマリウスは云った。
「どうだ、アルノー。この男、使えそうだとは思わぬか」
「さようで」
「公女に恋いこがれるあまり、大公にそむいて出奔してきた青年貴族——これは、ひとつ、クリスタルに云ってやらねばなるまいな。あの人なら、この男をつかってひと芝居もふた芝居もたくらむだろう。——ところで、アストリアス」
「おまえはたしか云っていたな。パロの真珠——世継のレムス王子と、その姉にして予知者なるリンダ王女のゆくえを、知っているかのようなことを。——云え、それは、ほんとうなのか?」


深く術にかけられたアストリアスはうめいた。
「双児ははじめルードの森にあらわれ——スタフォロス城にとらわれた。グインとともに……スタフォロス城がセム族の奇襲にあって、全、全滅したとき、かれらはケス河よりノスフェラスの砂漠へと逃れ、われら——アルヴォンの駐屯部隊もケス河をわたって、かれらを追った……アムネリスさまは、なぜか——なぜかはじめから、ノスフェラスを目ざしておられた。カル=モル……そうだ、カル=モルだ。そこに双児があらわれて、わがモンゴールの参謀本部は双児が同盟者たるセム——セム族をたよってノスフェラスへ逃げこんだものと判断した」

グイン・サーガ第七巻『望郷の聖双生児』

梅(*`Д´)ノ♪

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