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好きな小説を語るんだよ(*`Д´)ノ

3887V3:2015/05/21(木) 23:57:42 ID:ZVDjidx6
「風はいいな」
ハン・イーにとも、ター・ウォンにともつかずに云う。
「草原に吹く風が強ければ強いほど、おれはその日がいい日に思える。あとで時間があったら遠乗りにゆくぞ。ゆけたら、カウロス国境ぐらいまでゆきたいな」
「その遠乗りには、わたしも一緒につれてってよ、太子さま」
突然、丈のひくい灌木のしげみの向こうから、明るい声がひびいた。
スカールは少しもおどろかなかった。というよりも、はじめから、そこにその人がいることは、百も承知であったのだ。
「おお、いいとも、リー・ファ」
彼は云った。
「出ておいで」
「ちょっと待ってて。このヴァシャの茂みが、からまっちまって——」
ややあって、一人の娘が、向こうからはずむような足どりであらわれた。すらりと背の高い、東方系の目のつりあがった顔立ちに、黒髪を両側にたばねてとめた、美しい娘である。
色が浅黒く、唇が紅かった。しなやかで敏捷な身ごなしはネコを思わせる。ほっそりとしたからだには、グル族特有の、こまかな刺繍をほどこしたヴェストとブラウス、それにフリンジのついたスカートをつけ、足には革の乗馬靴をはいて、腰から半月形に曲がったグル族の短剣をつるしていた。彼女は、非常に目をひく娘だった——いかにも草原の、いまだに野性を色濃くのこす騎馬の民の娘であると同時に、何かしら、それ以上に非凡で激しい、見るものをはっと一目でひきつける強烈な個性を持っていた。彼女は浅黒い女獅子のように見えたが、とても女らしかったし、それにのびやかで素朴だった。彼女はどことなく、彼女の前に手を腰にあてて立って、大っぴらな賛嘆の目でじろじろと彼女を眺めているスカール自身とも、奇妙に似かよった雰囲気をもっていた。それはたしかに、石と水晶のパロや、ゴーラ三国の女たちの内にも、まず決して見出されぬものだったろう。
「やっと会えたな、リー・ファ」
スカールは微笑して云い、手をさしのべた。娘は奇妙なことをした。その手をとり、もちあげて、自分の額にそっとおしあてたのである。これは、グル族の敬愛のしぐさであった。

グイン・サーガ第七巻『望郷の聖双生児』


梅(*`Д´)ノ♪

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