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好きな小説を語るんだよ(*`Д´)ノ
3885
:
V3
:2015/05/21(木) 23:55:57 ID:ZVDjidx6
アルゴス——
見わたすかぎりの草原を、銀色の鎧に身を包んだ騎馬の軍隊が進んでいた。
うしろには早くも遠くかすみかけているマハールの白い町々——そして、風にそよぐ草の中にひとすじ、リボンのようにのびてゆく赤い街道。
「全軍——」
草原の空気をふるわせて、するどい命令がひびくと、たちまた、さっとすべての手綱がひきしぼられる。
「止まれ!」
まるで、魔法の糸にひかれてでもいるように、すべての動きが止まる。
「おお——」
その一軍の先頭で、ゆらり、と一人のきわだって長身の騎士がかたわらをふりかえった。
「それでは、これで——?」
「ベック公」
彼に話しかけられたほうは、黒づくめ、黒いターバンの下から、長い黒髪を背に流し、浅黒い顔にくっきりと傷あとの目立つ、ひときわ目をひく偉丈夫だった。
「ここがアルゴス国境だ。このさきは、草原の民グル族の地——心して行かれるがよい」
「スカールどの、何から何までお世話をかけた」
ベック公は、その黒衣のアルゴスの王太子の手をとり、その上に頭を垂れた。
「エマ女王にも、むろん王陛下にも、くれぐれも——」
「わかっている。早く、行かれるがいい。パロはこの草原につぐ草原、山々といくつもの国境をこえて更にそのむこうだ」
その勇猛さと、何とはない獰猛で荒々しい不吉な印象のために、いつのころからか、アルゴスの黒太子と通称されるスカールは、無造作にうなづくと、ムチで草原の彼方を指し示した。
「お願いした援軍の件——何分……」
「草原の民に二言はない。安心して行かれるがいい。おれはこれからグル族の長をかりあつめ、勇猛な騎馬の民の精鋭をひきいてあとからパロへ向かう」
黒いターバンと黒い胴衣、革のズボン、黒い瞳、髭——まっ白な歯を除いては、何もかも夜のように黒いスカールは、その白い歯をみせて狼のように笑った。
※ベック公とは、パロの大貴族で臣籍に着く王族の一人。勇猛公の異名を持つ。殺された国王の弟の息子で、リンダ、レムス、ナリスとは従兄弟にあたる。ナリスに次ぐ、第四王位継承者。パロからアルゴス王へ嫁いだエマ女王に会う為にパロを留守にしていたところモンゴールにパロは襲撃され、アルゴスにて憂悶の日々を送っていたが、各国に助力を求めながらパロ奪還へと向かう。
グイン・サーガ第七巻『望郷の聖双生児』
梅(*`Д´)ノ♪
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