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好きな小説を語るんだよ(*`Д´)ノ

3726V3:2015/05/18(月) 20:55:48 ID:GIZdUa.Q
人々はしいんとして耳をころし、ただ一語もききもらすまいとした。
グインはゆっくりと口をひらいた。
「セムよ、そしてラゴンよ。すべての砂漠の兄弟たちよ」
「リアード!」
上りかけた叫びをシッと他が制した。
「そうだ。わが親愛なる、砂漠の兄弟たちよ。俺は、明日、ここを去る」
誰かが非難めいた声をあげた。が、それはたちまちやみ、人びとはグインの重々しい声のつづきを待った。
グインはちょっと目をとじた。そして続けた。
「俺は砂漠が好きだ。砂漠の民は俺たちを迎え、俺たちに従って戦ってくれた。かれらは勇敢でかげひなたのない心の直ぐなあたたかい民だ。俺はかれらを砂漠の兄弟と呼べることをどんなにか誇りに思っている——しかし、俺は行かなくてはならぬ。というのは、俺には、せねばならぬたくさんのことがあるからだ。それは長い困難な仕事で、おわるまでに長いことかかるだろう。だが、せねばならぬことなのだ。そして、それが長くかかるほど、それを早くおわらせるにはたったひとつ、それに早くとりかかる以外にはない。——砂漠の兄弟たちよ、それゆえ、俺は明日、砂漠を発つ。しかし、俺は兄弟たちを忘れぬ。兄弟たちが俺に、砂漠に住んで、ラゴンとセムとを統べる王ともなってくれ、と云ってくれたことを忘れぬ、兄弟たちよ——だから、俺は行くが、それは俺がここをすててゆくのではない。俺は用をすませに出かけてゆくのだ。俺はまた必ずノスフェラスに戻って来る」
ふいに、グインの声は爆発する歓声に消された。
ラゴンとセムとは立ちあがって、グインの名をよび、叫んでいた。かれらは、それを知りたかったのだ。それこそが、まさしく、かれらのききたいことばだったのである。
グインは両手をあげた。彼は感動しているようだった。歓呼がおさまるのを待って彼はつづけた。
「だから、砂漠の兄弟たちよ、俺が仕事にと砂漠を出かけてゆくこと、長いあいだ留守にすることを許してくれ。しかし約束しよう、セムがそう呼んでくれるアルフェットゥの子と、ラゴンがそう信じてくれるアクラの使者との名誉と神聖な名にかけて誓おう。たとえ、いつまでかかろうとも、俺はいつか必ず砂漠に帰ってくる。そして、ラゴンを約束の地に導き、セムの平和を守る。その日まで、待っていてくれるか、砂漠の兄弟たちよ!」

グイン・サーガ第六巻『アルゴスの黒太子』

梅(*`Д´)ノ♪

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