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好きな小説を語るんだよ(*`Д´)ノ
3725
:
V3
:2015/05/18(月) 20:54:21 ID:GIZdUa.Q
エマ女王のことばは、断ち切られたように途絶えた。
前ぶれもなく、荒々しい足音と同時に、サンルームの扉がひきあけられ、入ってきたものがあったのである。
エマ女王は迎えるように腰をうかせながら、
「まあ、またそんな乱暴な——でも、あなたに、礼儀作法を守っていただくようお願いしても無駄なことぐらい、とっくにわかっていますわ。あなたは騎馬の民の長なのですものね」
「そのとおりです、義姉上」
入って来た男は、入口のところに立ち、じろじろと室内を無遠慮に眺めまわした。
一瞬、まるで、室内にとびこんできたのは黒いつむじ風か、とさえ思われる、それほどに印象的な新来者の姿であった。
年のころは、二十五、六、青年である。しかし、青年とは思えぬおちつきと、そして何やらふてぶてしいほどの精気が、そのたくましい長身全体から発散し、見るものをおどろかせる。
どちらかといえば、——繊細で優雅なパロの宮廷びとの基準からいえば、お世辞にも、美男とも、ととのった容姿だとも云えないであろう。がっしりとした顎と、ぎらぎら光る目、そして背まで流れおちるこわい黒髪——その顔の、左頬から、頬の下まで走っている、古い傷が、いっそう物すさまじい印象を与える。
長い髪をいっそうひきたてるように、頭には黒いターバンをかぶり、その端を髪と一緒に長く垂らしている。身につけているのは、黒いなめし革の胴着とふわりとしたマント、それに革の胴着の胸には、エマ女王のドレスと同じように、手さきの器用なアルゴスの女たちがぬいとった、はなやかな刺繍がほどこされ、それが妙に、ターバンとあいまって、いかにも草原ふうの情趣をただよわせ、彼を騎馬の、漂泊の民らしく見せていた。
腰につけた太い、刺繍のある飾り帯には、先の曲がった短い、金づくりの短剣と、何本もの投げナイフがさしこまれている。目もとはきつく、たけだけしく、草原をかける黒ヒョウを思わせてつりあがり、まるで彼の背中に炎とつむじ風とがうずまいているかのようだった。
それは、恐ろしいほどに強烈な個性と、圧倒的な精気とを見るものにおしつけて来ずにはおかない青年であった。その笑い顔はたけだけしく、凄みがあったが、そのくせどことなく子供のように清らかでもあって、人をひきつけると同時におののかせた。いま、彼は、その獰猛な笑顔に、更に大きく手をひろげながら、二人の方へ大股に近づいてくるところだった。
「おれに、パロの宮廷びとの雅びなふるまいを期待するのは、おかどちがいというものですよ。なるほど姉上は、ガラスづくりの人形のようにたおやかで美しいが、このアルゴスの女がすべて姉上のように風にもあてられぬたおやめだったら、この風のつよい草原の国はほろびてしまう」
グイン・サーガ第六巻『アルゴスの黒太子』
梅(*`Д´)ノ♪
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