A 大阪市の学校法人「森友学園」による国有地取得問題に注目が集まっているね。これまでスキャンダルが少なかった安倍晋三首相が絡む話だし、学園の籠池泰典理事長は次々と関連本が出版されている「日本会議」の関係者。鴻池祥肇・元防災担当相ら政治家の関与疑惑も次々判明し、一気に報道が過熱する政治案件になった。ネットでは最初、「メディアはわざと大きく報じていない」などと日本会議等の政治圧力をにおわせ、陰謀論的に語られていたね。
B 発端は、2月9日の朝日新聞に載ったスクープだったんですけどね。ただ、他メディアの反応が鈍かったことは確かに事実。同じく安倍政権に批判的な毎日新聞の場合、地元の豊中市議が、売却金額を非公表とした近畿財務局の決定取り消しを求めて提訴したことを同じ9日に書いたけど、大阪本社版に短い記事を載せただけ。問題をきちんと報道するまで数日かかり、毎日の編集幹部は怒り心頭だったとか。読売や産経に至っては、国会論戦が盛り上がってくるまでほぼ無視。各社の政治的なスタンスが浮き彫りになる形となりました。
C まあ、報道の遅れは新聞の制作体制にも原因があるんですよね。この問題、当初は大阪の社会部マターでしたから。全国紙は北海道、東京、中部、大阪、西部の5本社制を取っていて、それぞれで独自の紙面を作っている。東京発のニュースは他本社の紙面でもわりと取り上げられるけど、ローカル発のネタは他本社では使われにくい。今回の問題も、国会で取り上げられて「政治部マター」になってからやっと、全国的な問題としてヒートアップしましたよね。
A あと、調査報道は追いかけにくいという問題もあるんだよね。森友学園の問題はもともと、地元でオンブズマン活動をしている市議が「おかしい」と感じて調査を始め、知り合いの記者たちに声をかけたと聞いている。その中で朝日の記者だけが反応して、一緒に情報公開請求や関係者取材を進めたからスクープできたけど、役所が発表している案件ではないから、他社が追いかけようとしても、なかなか裏が取れない。
A ワセダクロニクルの最初のシリーズは、「買われた記事」【4】。製薬会社から依頼を受けた電通側が抗凝固薬を宣伝する記事を共同通信に配信させ、子会社を通して金が流れたとする内容だった。中身を読むと確かに、当事者を見つけ出してよく書いたなあと思う。新聞だと、どんなに取材しても行数を絞らないといけない。でもネットメディアでは書きたいように書けるし、動画でインタビューも載せられるしね。
B ただ、この問題を捕まえてまたもやネットでは、「こんなの“氷山の一角”なんでしょ」なんて意見をよく見かけるけど……いやいや、これは本当にレアケース、あっちゃいけないことですよね。
C まあ、ステマまがいの記事は確かにありますけどね。社の広告部門からの依頼で、日頃から広告で“世話になっている”企業のCSR活動を取り上げるとか、あるいは販売店からの依頼で、地域の話題を取り上げるとか。ただそれにしたって、記者が給料以外の報酬をもらえることはないし。
A この件に関していえば、問題となった共同通信が、非営利組織であるはずの社団法人だからこそ起こってしまったのかも。共同通信は子会社に営利部門の「株式会社共同通信」という会社があって、ここが企業の広報支援などをしている。しかも電通と共同は、もともと戦前は同じ会社だったという歴史もある。共同通信の記者が直接お金をもらうことはないだろうけど、裏ではどうしても、こういう癒着が発生しやすいのかも。
B いずれにせよ最近はワセダクロニクルに限らず、大手メディアを辞めてネットメディアに転身する人が目立ちますよね。元朝日でバズフィード編集長の古田大輔さん、東洋経済からニューズピックス編集長になった佐々木紀彦さんあたりのスター記者が有名だけど、それ以外の朝日や読売あたりでも結構辞めている。
A 最近はどこも人員削減を進めた結果、記者1人の仕事量も増えているし、自由にテーマも選びづらくなっていますからね。「働き方改革」と称して時間外手当を大幅に減らそうとしている某テレビ局のような例もあるし、「夜討ち朝駆け」なんて、要はただのサービス残業ですし……。
C 取材環境も悪くなってますよね。この2月27日から経済産業省が、全執務室を施錠して記者を閉め出し、取材を受けた役人には広報室に報告を義務づける制度を突然取り入れて問題になってます。まあこれは、日米首脳会談前にGPIF【5】が米国のインフラ投資を検討しているという情報が漏れて、激怒した世耕弘成・経産相が情報管理を強化したんだといわれていますが……。
A まあそもそも、これまで役所のセキュリティが甘すぎたという面も。中央官庁内をメディアの記者が自由にうろちょろできるなんて、おかしいといえばおかしい(笑)。防衛省とか原子力規制庁とか、機密を扱う省庁はこれまでも自由に取材はできなかったわけですしね。警察署も、20年前くらいまではデカ部屋と呼ばれる刑事課に記者が出入りして現場の刑事から捜査情報を取れたけど、今は副署長にしか会えなくなった。まあ時代の流れなんだろうね。ただ、機密を扱わない部署でもすべて施錠するのは、少々やり過ぎなところもあると思うけど。
B まあ、どんなに情報管理を強めても、結局は漏れちゃうんですけどね。経済同友会の小林喜光代表幹事が今回の経産省の対応について記者会見で、「私の感覚では、経産省が最も意図的に情報をリークしてきた実績がある」と皮肉ってました。その通り! リークでメディアコントロールをしてきた最たる例が経産省。結局今後も、官庁内の派閥争いや記者との人間関係の中で情報はリークされ続けるでしょう。その流れが生きている限り、我々オールドマスコミにも存在意義はあると思いますね。