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大型モンスター討伐スレッド
1
:
「鍵を持つ者」
:2013/06/24(月) 01:19:55 ID:???
最大参加人数320人!
350
:
とある世界の冒険者
:2014/04/19(土) 23:53:01 ID:lNxlbmhA
「……何でも、屋……。」
【状況を一つ一つ咀嚼するように確認し、飲み下していく。
到底、納得できる状況では無いが、今は目の前のジャキ・カルレオンなる男からしか確認は出来ない。
信用できるはずは無いが、今はこの地に足がついていないようなこの感覚から抜け出したい、と。
とりあえず、病院で無いことは内装などから判断できたらしく、頷いた。】
351
:
とある世界の冒険者
:2014/04/19(土) 23:55:57 ID:i7fJ7BPo
「……良い子だ」
子供に言う様にそう言って、目を開ける。
その表情は何かを言い澱んで居るかのようにも、先の言葉を悩んでいるかのようにも見える。
「先ず、お前の家族について、だが」
「……事故で、……行方不明だ。 恐らくは。」
――裏付けは取ってある。
周囲一帯――とは言え王都、帝都、その周辺に置いてだが。
メヤズ=イェノーと言う人物の親類は確認出来なかった。
恐らくは蜂蜜の怪物に、と睨んでいるが。
真相は定かでは無い、男にとっては。
352
:
とある世界の冒険者
:2014/04/20(日) 00:02:46 ID:Jy2oIL6k
「…………っ!?」
【その言葉に目を見開いた。まさかの事実だ。
わけもわからぬままに目覚めたかと思えば、たった一人になってしまった。
……蜂蜜の怪物として恐れられていた頃はそんなことはなかったのだろうが
彼女はまだ年齢から言えば、まだまだ幼い。
そんな少女が易々と受け入れられるようなことではない。】
「…………!」
【つぅっと涙が零れ落ちるが、唇を噛み、キュと口を真一文字に結ぶ。
こんなわけの分からないところで、わけの分からない男性の前で泣くべきではない、と。】
353
:
とある世界の冒険者
:2014/04/20(日) 00:07:44 ID:YhWKvs/E
「……我慢しなくても良い」
「泣きたい時は泣け、身体に悪い」
娘の方は見ずに、廊下の窓から外を眺めてそう言う男。
内情では、どう思っているのか分からないものだが。
そして話す内に確信は形になっていき、
そこから、彼女を「どうするか」も確定していく。
「……それで、お前の事について、だが」
354
:
とある世界の冒険者
:2014/04/20(日) 00:12:29 ID:Jy2oIL6k
「…………。」
【その言葉に首を横に振った。
結ばれたその唇は僅かに震えているが、その言葉には甘えない、と。】
「……はい。」
【そう。実はここが彼女にとっては重要な部分である。
これで自分の運命が決まるようなものだ。
もちろん、追い出されて、彷徨うことも覚悟している。
だが、ジャキに対し恐怖を覚えている彼女からすれば、それはそれで悪くは無い道だ。】
355
:
とある世界の冒険者
:2014/04/20(日) 00:20:54 ID:YhWKvs/E
「……強い子だ」
それを横目で僅かに見て、そう言う。
最も奪ったのはこの男であるのだが。
「当面の住居と……学籍は用意した。……衣食住は与える。
使うも使わないも自由だが、落ち着くまでは使ってくれて構わない。」
そして聴こえて来たのは、予想だにしない言葉。
即ち家も、食事も男の川で用意する、と。
356
:
とある世界の冒険者
:2014/04/20(日) 00:26:27 ID:Jy2oIL6k
「……ぇ?」
【その言葉に思わず唇が解けて、消え入りそうな声が漏れた。】
「……どう、して?」
【当然の疑問が口から漏れる。
先ほどの様な食事とか今着ている寝巻き程度なら、まだありえる話だ。
しかし、その全てと……よもや家まで提供されるとは彼女からすれば考えてもいなかったことだ。】
357
:
とある世界の冒険者
:2014/04/20(日) 00:29:39 ID:YhWKvs/E
「…・・責任だ」
「俺はお前を助けた責任がある。 生命だけ助けて、その後放置は、主義に反する。」
予め用意しておいた言葉を何でも無いかの様に吐く。
それは常に実践している事で有り、それ故に多くに関わらない理由でもある。
「何より……子供は笑って過ごすべき、が。俺の信条だ。」
「お前が固辞するならば何も言えないが、な。」
これも嘘では無い。
その為に子供を殺す事が無い訳でない事も、そうではあるのだが。
358
:
とある世界の冒険者
:2014/04/20(日) 00:39:42 ID:Jy2oIL6k
「…………。」
【当然、悩むところだ。
とんとん拍子に進んでいく話は非常に怪しい部分がある。】
「…………分かりました。ありがとう、ございます……。」
【だが、まだ目覚めてそれほど経っていない彼女の頭では打算的に物は考えられない。
とりあえず、ジャキなる男性は自分に良くしてくれようとしているのは理解できている。
しかも内容は彼女が最も助かるものだ。……受け入れないはずは無い。
だが、いまいち素直になりきれていないのは内に潜むジャキへの恐怖心があるからだ。】
359
:
とある世界の冒険者
:2014/04/20(日) 00:43:36 ID:YhWKvs/E
「……何でも屋をやっている様な男なんぞ、怪しくて信用出来んと思うが。」
「そこは、我慢してくれ。」
身長差から娘を見下ろして、だが何処か優しい声色で。
「……必要以上に君には干渉はしない。」
「怖がられてもいるようだしな、……君は心の傷を癒して、落ち着いたら普通に暮らしていけばいい。」
言って、軽く頭を撫でた後、直ぐに離す。
少女の恐怖に対しては心当たりが男の方にあるように見える。
男からすればそれは当然の事なのだが。
360
:
とある世界の冒険者
:2014/04/20(日) 00:49:30 ID:Jy2oIL6k
「…………は、はい……っ!」
【頭を撫でられると驚いたようにピクリと震えた。
恐怖している対象からいきなり頭を撫でられれば、驚くのは当然だ。
だが、この感情は自分で分からないものだ。
本来ならば、感謝しても感謝しきれない、とそのような気持ちで一杯になるはずなのに。
頭である程度、考えていることと自分の心のズレに困惑している。】
「……分かり、ました。
……あの、さっきの薬、って……?」
【寝かされていたベッドのところにおいてあった薬のことだろう。
もちろん、何も知らなかったため服用しておらず、そのまま残っている。】
361
:
とある世界の冒険者
:2014/04/20(日) 00:53:46 ID:YhWKvs/E
「……いい子だ」
手をコートの中へと戻し、口元を歪める。
この調子なら、蜂蜜の怪物となって荒れ狂う事は無いだろう、という思いと。
自身への嘲笑。
「魔力の安定剤だ。
……事故で魔力経がやられている、苦いが、できるだけ食後に服用してくれ。」
362
:
とある世界の冒険者
:2014/04/20(日) 01:05:25 ID:Jy2oIL6k
「……安定、剤……。」
【何とも聞きなれない言葉である。そんな魔力などを意識したことは無い。
……というよりこれから色々と習うはずだったのである。
だが、本来の彼女は魔法に関しては長けていた。
それを自身の欲望を満たす手段として使う程度には……。
すると――――。】
「そう、いえば…………私、っは……!」
【どろり、と右の指から〝蜂蜜〟が垂れ始める。
そして、頭が痛むのか手で押さえながら、うずくまるように。】
363
:
とある世界の冒険者
:2014/04/20(日) 01:08:09 ID:YhWKvs/E
「ああ、一日三つ。ちゃんと飲めば問題は無い。」
――が、その矢先に娘が頭を抑え、うずくまるのを見て。
内心で悪態をつき、同じ様にしゃがみ込む。
「……大丈夫だ、落ち着いて、ゆっくり呼吸しろ。」
彼女に目をあわせ、半ば暗示に近い形で、精神を鎮静させようと。
364
:
とある世界の冒険者
:2014/04/20(日) 01:13:00 ID:Jy2oIL6k
「……っ…………ふぅ〜〜〜〜……。」
【目を見つめられたまま、ほぼ従う形で深呼吸を始めた。
恐らく、先ほどは彼女の欠落した部分に触れてしまったのだろう。
彼女の一部でもあった悪性を除去してしまったが故の弊害。
しかし、ある程度の再現はされているため、無いはずのそれを呼び起こそうとする。
いわば、読み込みのエラーだ。】
「すいま、せん……なんだか急に。」
【だが、すぐに落ち着いたらしく、荒い息をつきつつも、大丈夫であると。】
365
:
とある世界の冒険者
:2014/04/20(日) 01:16:15 ID:YhWKvs/E
「……よし、良い子だ、落ち着いて、……そうだ。」
呼吸を整え、落ち着いた様子の娘を見て、そう言う。
不用意な発言――特に彼女を知る物との接触は危険か、と判断する。
とは言え、そう王都の外に出させる気も、今は無いが。
「きっと、疲労から来る混乱だろう。」
「……大丈夫だ、此処に君を害する者は無い」
366
:
とある世界の冒険者
:2014/04/20(日) 01:22:06 ID:Jy2oIL6k
「……はい。」
【いつの間にか手から垂れ落ちていた蜂蜜も無くなった。
手から蜂蜜が出ることについての動揺は無い。
一応、自身が蜂蜜を生成できることは知っているようである。】
「確かに……ちょっと疲れ、ました……。」
【目覚めて間もないからなのか、少しの対話、移動でもそれは
予想外に彼女に疲労として蓄積しているようである。
どちらかと言えば、先ほどのエラーに対する部分の方が大きいが。】
367
:
とある世界の冒険者
:2014/04/20(日) 01:25:19 ID:YhWKvs/E
「ああ。 ……食事を採って、ゆっくり休むと良い。」
「好きなものを用意しよう、可能な範囲で、だがな。」
流石にもう少女に手を触れる事はせず、自分で立ち上がるのを待って、
バグの修正も考えなければ、なんて人離れした思考を浮かべて。
「……大丈夫だ、ゆっくり休んで、それから考えれば良い」
「誰に傷付ける事も、誰を傷付ける事も、無いんだからな。」
先ずは、と食事の用意に赴くのだった。
//とりゃえずこちはこのへんでー?
368
:
とある世界の冒険者
:2014/04/20(日) 01:37:08 ID:Jy2oIL6k
「…………私、あれが良いです。」
【と言って視線を移したのは手をつけなかった蜂蜜がかかったホットケーキである。
それは彼女の最も好きな食べ物である。
先ほどは動揺と警戒から手はつけなかった。
しかし、今となってはジャキに対しては感謝をしており、少しだけ警戒も解けた。
無論、完全に信じたわけでも無いしジャキへの恐怖心も拭い去れてはいない。】
「蜂蜜が、好き……なんです。蜂蜜、が。」
【疲労で一杯の体を持ち上げつつ、とりあえず薬を飲もうと
先ほどの部屋へと戻って言ったとか、FO】
//そうですね。お疲れ様でした!
369
:
とある世界の冒険者
:2014/05/08(木) 21:48:36 ID:wnJgIc6.
【王都郊外/森林/奥地】
「―――――。」
森林の奥地、黒一色のコートに碧色の髪の男が二振りの長剣を構え、呆然と月を見上げる。
表情からは何も読み取れず、その眼は細められ、意思を読み取りにくい。
「……馬鹿馬鹿しい。」
「何を、考えているのやら。」
かと思えば、青年は空から視線を外し、無心で剣を振るい始める。
研ぎ澄まされたそれは、見る者を魅了する「剣舞」、――剣を振るう度に舞う、黒い翅の様な魔力が合わさって。
まるで、人外の――悪魔か、何かか。
その類が、踊っているようにも見えた。
370
:
とある世界の冒険者
:2014/05/08(木) 21:52:48 ID:x7/0pVRE
「……ハッ……ハッ……!」
始まりは、いつも自分が息を切らしてせっつく所からだった。
エネルギー消費の非合理極まりない鬼ごっこ。
銀光を躍らせる主は、たびたび"これ"に付き合っていた。
ありありと、ここに居ると、そう主張する様な気が近付いて来る。
371
:
とある世界の冒険者
:2014/05/08(木) 21:58:48 ID:wnJgIc6.
「……、……。」
「しつこい、な。」
溜息一つと共に、気分が沈む。
会いたくない訳ではない、――向こう側に非は無いのだから。
悪いとすれば、全て、自分。
そして自分がその馬鹿げた呵責に、潰されてしまいそうになるが故に。
背中から自罰の意味を込めた、黒鴉の翼を顕現させて、翔ぶ。
逃げるように。
372
:
とある世界の冒険者
:2014/05/08(木) 22:05:48 ID:x7/0pVRE
「……待っ、……て、下さい……――!」
事は簡単だ。
くだんの一件でお前等にはほとほと愛想が尽きた。迷惑だから関わるな。
そう言ってしまえば、この単純な女は自ら身を引いただろう。
だが、彼はそれをしなかった。
否、出来なかった。
故に彼はあがないでこの"児戯"に興じている事だろう。
しかし、今宵の彼女はいささかしつこかった。
373
:
とある世界の冒険者
:2014/05/08(木) 22:11:18 ID:wnJgIc6.
「(……ダメだ)」
会えば、あれ等はまた、以前来た珍しい客人の様に赦す、等と言うのだろう。
なんて、惨め。 そんな事は許されない。
いっそ完全に拒絶してしまえば、とも思う。
だがそれをすればまた元の狢、未だ仕留め切れてはいないアレ等がその隙を狙うかもしれない。
「(なんて)」
胸中で自分に毒を吐く。
――要するに全て我が身可愛さの癖に、と呪いを吐いて。
翼を一度羽ばたかせて、速度を上げた。
374
:
とある世界の冒険者
:2014/05/08(木) 22:16:07 ID:x7/0pVRE
「………ッ」
何で、と言いたげに表情がくしゃりと歪んだ。
何故話をしてくれないのか。
自分達は、あれから何も聞かされていない。
イリュージョンも、邪気の事を思って口を噤んだままだ。
何も、何も知らされていない。
理不尽に感じ、感情を吐露するには十分な時間が経った。
「どうして……何も、話してくれないんですか……!!」
ミラナには、心当たりがあった。
事の顛末ではなく、邪気がこの様な行動に出る理由にだ。
375
:
とある世界の冒険者
:2014/05/08(木) 22:22:12 ID:wnJgIc6.
……言葉に、中空で一度動きが止まる。
翼が揺れて、彼女を思わせる――いや、恐らくは残っている彼女の魔力なのだろう。
或いは、死の際にでも喰った魔力か――その翅が舞う。
「話して何になる。」
「俺がミルダを殺したのは変わらん。」
「それが、全てだ。」
そちらを向く事もなく、翅だけを揺らしてそう告げる。
376
:
とある世界の冒険者
:2014/05/08(木) 22:31:03 ID:x7/0pVRE
「……上辺を、全部って言うのなら………!!」
虹色のまばゆい光が、翼の形を作る。
それは、適格に邪気を追う為に編み出した、一つの技だ。
そう、その為だけ。
くだらない事だ。
「じゃあ、何で……っ、ちっともスッキリしないんですか……!」
彼女は怒っていた。
怒りのあまり、くだらない術まで編み出した。
そうまでして邪気を追う原動力を、ミラナは自覚していた。
「何で、何で全部……!!」
独りで抱え込んでしまうんですか、と。
377
:
とある世界の冒険者
:2014/05/08(木) 22:38:45 ID:wnJgIc6.
「”何で”?」
ハ、と嘲りを含んだ声が却って来る。
表情は見えない、顔を合わせない青年がどんな顔をしてるかはうかがい知れない。
「――これ(ノロイ)は、俺の物だ。」
「誰かを殺す様な情念も殺した後の後悔も、延々と鳴り止まないこの呪詛も。」
ただ、確かな事がある。
彼は彼女達に悪感情は欠片も持っていない。
以前と同じ様に。ともすれば以前よりも強く、護るべき、護らなければ"いけない"と思っている。
違うとすれば。
「狂いたくなる程の衝動も、悪意も、敵意も、――"虚無"も。」
「全て、俺だけの物だ。」
彼は、他者の代わりに、自分を呪っている。
他所に、――外に向けるべき、向けても良い呪いまでを全て、自分に。
”彼の知る誰もが等しく笑っている為に”。
378
:
とある世界の冒険者
:2014/05/08(木) 22:49:09 ID:x7/0pVRE
「……〜〜ッ……!!」
その言葉に、恐らく、彼女は生涯で一番"怒った"。
「何が………」
一度だけ俯き、顔を上げる。
楚々とした普段の印象とは似ても似つかず、歯を軋ませる表情がそこにある。
抑え切れない感情は、透明な雫となって飴色の瞳から流れ落ちる。
寸、彼女は驚くべき程の推力を見せた。
邪気に追いつく事が可能であると言わしめる程の。
そしてその瞳は、追う者の瞳ではなかった。
打ち当たる者の瞳に、いつしかその飴色の光は変わっていた。
379
:
とある世界の冒険者
:2014/05/08(木) 22:53:11 ID:wnJgIc6.
「……怪我をしなければ解らんのか。」
そこで初めて、青年が振り向く。
表情は、苦悶。苦痛に歪んだ様な、何かを耐える様な、悲しみにくれるような。
お世辞にも良い、とは言えない暗く淀み沈んだ物だった。
振り向きざまに黒い翅が中空に舞い散り、それが進路上の斯界で弾ける。
――めくらましだ。
380
:
とある世界の冒険者
:2014/05/08(木) 22:59:12 ID:x7/0pVRE
「その程度じゃ……引き下がりません……ッ……!!」
――あの子ねぇ、見掛けによらず頑固なのよー……
ふっ、と。あの声で、あの間延びした声でそんな言葉が邪気の脳裏に過ぎる。
「覇あああァァァァーーーッ!!!」
弾けた翅の中。
まるで黒い森を飛び抜ける様に真っ直ぐ突き進んでいく。
381
:
とある世界の冒険者
:2014/05/08(木) 23:02:41 ID:wnJgIc6.
「っ゙^――。」
視界に姿がフラッシュバックする。
「(やめてくれ――)」
彼女が遺した魔力と言葉は、青年に正しく届かない。
青年は、「そうなった」彼女を見てしまっていて、自分が尚酷い事になるのを"知"っているから。
それは、歪む。呪詛と悪意に捻じ曲げられて伝わらず。
「……しつこいと――」
振り払う様に右腕を振り上げて、――イメージが想起される。
振り上げた自分の右腕が、目の前の娘を引き裂いて血風を
「っ。」
――動きが、止まる。
自分の考えた光景と、やろうとした行為に。
382
:
とある世界の冒険者
:2014/05/08(木) 23:16:57 ID:x7/0pVRE
「虹……」
黒い森を突き抜け、真正面に黒衣の"悪魔"を捕える。
「天……!」
姿勢の制御を虹彩の翼に任せたまま、拳を腰だめにする。
その瞳は、いつになく輝く。飴色が光の反射で虹に変わる。
「拳ッッ!!!!」
邪気は恐らく、自分自身がミルダを救ってやれなかった事を悔いていた。
そうして、理不尽を盾にしてミラナやユンヌを避けていた。
しかし、ミラナはそれに対して理不尽で踏み込んだ。
何の変哲も無い、理不尽で、感情の並に任せた我儘の為せる、ただの拳で。
383
:
とある世界の冒険者
:2014/05/08(木) 23:22:06 ID:wnJgIc6.
「――っ。」
咄嗟、ほぼ反射の行動で異形化していない右腕で防ぐ。
ご、とすさまじい音が響き激突の余波で翼が揺れ、黒翅が大量に舞い散る。
びりびり、と拳から衝撃が伝わっていく感じが、ミラナに伝わるだろう。
「……ッ、は……ッ。」
……正面、間近から見たその表情は。
何処か、泣き出しそうな少年の物に近かった。
384
:
とある世界の冒険者
:2014/05/08(木) 23:36:24 ID:x7/0pVRE
「………ッ!!!」
自らも溜め切れなくなった涙を、瞼を強く閉じて一旦追い出す。
そして殴った衝撃もおさまらぬまま、邪気の腕を自らに絡め
「邪気、さん、の……ッ……!」
詰まり詰まった嗚咽混じりの声で
「馬鹿ああぁぁぁあぁぁッ!!!!」
地面へと、己の持ち得る精霊の力を"無駄遣い"して、体ごと投げた。己ごと。
385
:
とある世界の冒険者
:2014/05/08(木) 23:40:07 ID:wnJgIc6.
「――っ。」
一瞬の遅れの後、正気に戻る。
拙い、と。
このままでは自分はともかく、娘の方が地面に叩き付けられる。
自分は傷一つ付かないだろうが、飛行を覚えたての娘の方は――
「っ――ユンヌか、お前は……!!」
咄嗟に魔力を展開し、右腕を異形に"戻す"。
着地――というよりは落下地点か。
そこが不自然に"削れ"、直後に魔力で柔軟質の「クッション」が造られて、落下。
――特に傷無く、地に、落ちる。
386
:
とある世界の冒険者
:2014/05/08(木) 23:45:41 ID:x7/0pVRE
「……っ!!」
一瞬の静けさを置いて、二人は地面へ不時着していた。
しかしながら、これでもおさまらぬか。
ミラナは我を忘れた様に、馬乗った状態で邪気の胸ぐらを掴んでいる。
その表情は、様々な感情で塗り潰されていた。
悔しさと、怒りと、そして悲しみと。
「……っ、ひぐっ、う……ぅ゙……!」
387
:
とある世界の冒険者
:2014/05/08(木) 23:49:29 ID:wnJgIc6.
「…………。」
「泣くぐらいなら、最初から、近寄るな。」
ばっ、とつかむ手を振り払うようにして。
自分はさっさと立ち上がる。
――余り、長時間顔を見たくないし、見られたくない。
逃げるように顔を背け、土埃に汚れたコートを手で払う。
388
:
とある世界の冒険者
:2014/05/08(木) 23:54:43 ID:x7/0pVRE
「嫌です……ッ!!」
詰め寄る。詰め寄って再び襟をつかむ。
あれほどパーソナルスペースの広いミラナが、ここまで我を忘れて。
「ひ……」
「独りで恰好つけて、私達の為、とでも言うんですか……!?
私達は、そんなに弱いですか……!!」
細い腕が、襟を掴んで揺らす。
その言葉は切羽詰まっており、脳から直接口を通して言葉が零れてゆく様だった。
「邪気さんは、そんなに強いつもりなんですか……ッ!!?」
389
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 00:01:42 ID:g4TwrN7U
襟を掴まれ、正面から顔を合わせたまま。
僅かな間の後に、答えが帰って来る。
「戦いで言えば、そうだろう。」
「お前が例え何人居ようが、俺はお前を殺せる。
それはユンヌでも、イリュージョンでも。 ……ミルダでも変わらない。」
それは事実。
彼が「その気」になれば、精霊――特に魔力の強い精霊は、それ故に勝てない。
全身を瘴気で侵され、文字通り魔人になった青年に嬲られる。
「俺は、強い。」
それ故に、誰より【弱い】。
「……だが、俺が戦うのは――お前等の、為なんかじゃ、ない。」
「徹頭徹尾、……俺は、俺の為にしか、戦って、無い。」
内側から軋む音が聞こえる程に。
いつの間にか、彼は、弱くなっていた。
強いが故に。――何時の間にか、「ひび」だらけだ。
390
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 00:09:22 ID:zZH38W.I
「じゃあ、じゃあ……!!」
再び、飴色の瞳から大粒の涙が溢れて来る。
しかし、ミラナはそれを拭う事をしなかった。
この人の前で、畏まる必要なんかない。それを教えてくれたのは、他ならぬミルダであった。
「自分の為だけなのなら…っ、私を殺せば良かったじゃないですか!
簡単なんでしょう!? そうすれば良かったじゃないですか……!!」
稚拙な挑発にも聞こえる。
だが、彼女は思う通りに言葉を発している。
「ミルダさんを……いちばんに契約を結んだミルダさんを殺したみたいに……
私もそうすれば良かったじゃないですか!!」
しかしそれは、言葉と心の内では大分と意味が異なる。
何故そうしなければいけなかったのかを、切実に問いたい。
そんな気持ちが、痛い程に伝わってくる。
否、文字通り、痛いだろう。
391
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 00:12:52 ID:g4TwrN7U
「……っ。」
ずきん、と脳髄が痛む。
視界にまた黒い翅の女性がフラッシュバックし、歪む。
自分の身体の、蓋をしている何処かから声が聞こえる。
そうだ、殺してしまえ、と。 それが望みなら尊厳を奪い、魔力を奪い、蹂躪してしまえ、と。
――いつも、こうだ。
「……そこまで、」
「そこまで、暇じゃあ、無い。」
「何より、っ」
お前たちの為に、殺したんだ。 なんて、言葉が出てきそうになって、
また吐きそうになって、言葉が途切れ、黙りこむ。
392
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 00:24:55 ID:zZH38W.I
「……ほら、出来ないじゃないですか……!」
心の臓を貫く。魔力で焼き尽くす。瘴気で溶かす。首を刎ねる。
やり様は、いくらでもある。痕跡が残る事すら困難な事も当然。
しかし、未だ以て彼はそれをしていない。
それが答えだ。
「暇だったから、ミルダさんを殺したんですか……?
……違うじゃないですか……。そんなの絶対、違うじゃないですか……!」
ドン、と胸に細腕の当たる感触があった。
それは、とても"重かった"。
「話して、下さい……どうして、ミルダさんは……」
気付けば、少女の様な外見の精霊は、邪気の胸に顔を埋めていた。
393
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 00:29:43 ID:g4TwrN7U
「……。」
言える訳が無い。
言える訳が無い、”言って良い筈が無い”。
ユンヌを何かに利用しようとしていた、人間を憎んでいた、マルエスに協力していた。
ともすればミラナにも被害が行く可能性が高かった。 だから殺した。
そう言って、どうなるか。
――決まっている、この娘も、あの少女も。 『無駄な気負い』をするに決まっている。
「……お前、に」
「話しても、仕方のない、事だ。」
言わない。言えない。 ――癒えない。
言える筈が無く、遺された怨嗟の声が癒える事も無い。
「殺した事に、代わりは、無い。」
「その事実だけあれば、充分だろう。」
394
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 00:45:39 ID:zZH38W.I
「……………。」
答えは無い。
邪気が望む"十分だ"という答えも。
ミラナが言う"違う"という答えも。
ただただ、胸に顔を埋めたままで暫し沈黙を預ける。
「……ミルダさんは……私にとって、姉の様な存在でした……。」
そうして返って来た言葉は
「……邪気さんは、やっぱり、馬鹿です。」
幾多もの峰々を超えた様な
「…………そんなに、すぐにその想いが変わる訳無いじゃないですあ……。」
全てを知っている、悲しみに満ちた微笑みが添えられていた。
395
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 00:49:26 ID:g4TwrN7U
「……。」
「俺が、殺した。」
フラッシュバック。
嘔吐感しか、こみ上げて来ない。
その声が耳を擽る度に、呪われて、気が狂いそうになる。
「……これ以上、話す事は、無い」
ミラナを押しのける――にしては、随分と優しく、身体を引き剥がすようにして。
黒い翼を散らして、銀翼を顕現させる
396
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 00:57:28 ID:zZH38W.I
「……違います!!」
引き剥がされても、めげずに背より抱き着く。
「何で……何で邪気さんが悪いんですか……?
悪いのは、ミルダさんを……お姉ちゃんを、貶めた人達じゃないんですか……!?
何で邪気さんが、そんな人の罪を背負うんですか!? おかしいじゃないですか……!!」
最早喉が掠れて、言葉も正しく発せられているか分からない。
それでも、声を振り絞る様にして邪気へと言う。
397
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 01:04:04 ID:g4TwrN7U
「俺が殺したからだ。」
「――他に選択肢はあった。」
幾らでも、あったのだ。あった筈なのだ。
無理矢理に叩き伏せて記憶を弄りでもすれば良かった。 ――それが出来た。
叩き伏せた後でミラナやイリュージョンにまた説得させれば良かった。 ――それも出来た
自身が何度でも、何度でも話してその想いを共有してでも止めるべきだった。 ――出来た筈だ。
そもそもが、ああなる前に契約者である自身が気付き、労り、とうにかすべきだった。 ――出来た筈だ。
「――ッ、俺はッ!!」
「俺は、解って、殺したんだ!」
背から抱きつく娘を思い切り振り払って、ぶちまけるように。
――全身からは、おぞましい呪いが"漏れだしている"。
「”全部解って、他に集団がある上で、殺したんだ”ぞ!!」
「恩もあって、情もあって、誰かの大切な相手である事を、知って、――殺したんだ!!!」
「どういう、”過程”があれ、俺が、……【俺が殺した】んだ……!!」
「それを、お前が――お前に……!!」
――悪魔王の仮面が、剥がれていた。
ここに居るのは、ただの、。
398
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 01:20:47 ID:zZH38W.I
「……何なんですか、自分だけが全部知ってるみたいに……っ!!
私達だって、闇を晴らせなかったんです……!!
私達だって、気付けなかったんです……!!」
地に転げ、何度も振り解かれて泥まみれになりながらも、娘はばかみたいに同じ事を続ける。
邪気に詰め寄り、掴みかかり、心の内を、言葉をぶつけ合う。
「それにッ!!
貴方は契約したんでしょう!? 心の内を、一瞬でも通わせたんでしょう……!?
悔しいんなら、悔しいって言って下さい!! 哀しいんなら哀しいって言って下さい!!
悪い悪いって、それだけじゃないのなんて分かってます!!
でもそれは、口にしなければ意味が無いんです!独りで抱え込むなんて絶対無理なんです!!」
一挙にまくしたて、肩で息をしながらも最後に大きく息を吸う。
ミラナは、邪気が何も言わない事に怒っているのではなかった。
自らと一緒に、殻の中にしまってしまった事が、嘗ての自分を見ている様で
そこから成長する切っ掛けをくれた人が、そうなってしまっている事に
「意気地なし……ッ!!!」
ただただ、怒っているのだった。
399
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 01:28:32 ID:g4TwrN7U
「っ――お前にっ、何が分かるっ!!!」
まるで、子供。
何時もの表情からは決して伺い知れない――今となれば家族ですら余り見なくなったような。
「ああ、そうさ、哀しいさ!!悔しいさ!!そうに決まってるだろう!!!
アイツを救えなかったのも殺す羽目になったのも!!誰が好き好んで殺す!誰が好き好んで戦いなんぞする!!!
試合ならともかく、殺し合いなんぞ元々嫌いなんだ、俺は!!!!!」
ぶちまける。感情を――どろどろとした、呪いを。
「皆、死ねば良い!!!俺は家族と、お前等と、本当に少しだけ居れば良かったんだ!!
人が憎いだと!? ――そんなもの、俺だってそうに決まっている!!俺は、俺と――
俺と、俺の家族以外なんて、どうでもいいんだ!!そこだけ、あれば、良かったんだ!!」
恐らくは誰にも言わぬであろう悍まし、生の感情。
「ただ、それでも俺は、俺の様なのが、生まれない様に、っ、
俺の――俺の様な思いをさせないように、俺は、人間を、っ、俺は……!!」
……最後の方は、支離滅裂だ。
400
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 01:51:13 ID:zZH38W.I
「だったら……。」
わなわなと拳を震わせ、下唇を噛む。
「……ッ、だったら、自分を責めるのなんて……一番止めて下さい……!!」
邪気が溜め込んでいた呪い。
それに心が再び動き、何度流したか分からない涙が再び流れ始める。
「邪気さんは、私が上辺だけで……
かっこよくて……優しくて……頼り甲斐があって……
……それだけで……それだけで慕っていると思っていたんですか……?」
ずるり、と袖を掴んだまま地へと膝から崩れ、顔を俯かせて言った。
「……違いますよ……ッ……」
絞り出す様に、ミラナが言う。
「数百年……神だと崇められ……愚象にされて……
露だけを糧に生きて……形を得たら、棄てられて……!
それでも、私は人間になりたくて……!でも、信じられなくて!!
私を棄てた人達の事を信じられなくて……!!」
嗚咽を漏らす声と、不規則に揺れる銀の長髪。
「占いなんて……嫌いです……
自分の事を……自分で決められないのなんて……嫌いです……!!」
「でも!!」
再び、涙でぐしゃぐしゃになった顔が邪気を必死の形相で見据える。
「好きになろうって思ったんです、頑張ってるんです……!!
私に、こんな私に手を差し伸べて下さった皆さんのお陰で……!!」
「……私の生き方を変えてくれた、邪気さんのお陰で!!
だから、だからこの人を愛したいって……
それなのに、それなのに……どうして……ッ……」
洪水の様に溢れた言葉はそれきり。
ついには、堰を切った様に大声で泣き出してしまう。
401
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 01:58:05 ID:g4TwrN7U
「……ッ、は、ァ――はッ――。」
――ぶち撒け終えた、後で。
正気に戻る。 ――なにを。と手て口元を抑える。
何を言った? 自分は。
呪いを。――
「……っ、。」
――自身を苛む間もなく、目の前で娘がまた、感情をぶちまける。
止め処なく溢れる感情の波を、双眸が読み取り、言葉として、意識としても、認識する。
「……、。」
――深呼吸を一つ。
冷静、になる。精神も……大丈夫だ。
今は、落ち着いている。落ち着けている。
逆にぶち撒けて、ぶち撒けられた事で、少しだけ、すっとしたのかもしれない。
だから。
「……もう、良い。」
「(これ以上は、互いに、不毛だ。)」
泣きだした娘の頭に手を置いて、呼吸を整える。
これ以上は――ただ、抉れるだけだ。どうせ、ぶちまけたのだから。
「互いに、止めだ。……おれが わるかった。」
402
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 02:05:09 ID:zZH38W.I
「……〜〜」
すん、すんと鼻をすする音が聞こえる。
らしくない事だ。恥ずかしがって人前では絶対にやるまい事を。
「……好きな人に、逃げ続けら…れるの、とても、辛いんです、から……。」
顔を両手で覆いながら、言う。
寂しい思いをさせるだけで誤魔化すのは、天秤の上で見れば問題は無いだろう。
しかし、今回はその邪気が持つ天秤が取り上げられてしまった。
まさか、ミラナがその様な事をするのかと想像出来た人間は、恐らく少ないが。
403
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 02:08:33 ID:g4TwrN7U
「……済まない。」
だが俺は――とは、今はいうまい。
それはきっと、彼女も分かってる事だから。
「……今、俺が言ったのは、忘れろ。」
「らしくない事を、言った。……俺も、お前の言った事は……、忘れる。」
それこそ、そう。今自分がぶちまけた言葉を覚えていられれば、
彼が持つ天秤そのものが、おかしくなる。ミラナの認識からしても自分からしても。
「……出来る限り、会う様にもする。」
「だから、……何だ、……泣くのは、やめろ。」
404
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 02:20:04 ID:zZH38W.I
「…………――。」
袖で、やや乱暴に目元を拭いながら、立ち上がる。
ミラナの心は、妙に前向きだった。
「……いいえ、覚えていて下さって結構です。
私は結局……私ですから。」
泣き止んだ表情はとても穏やかで、首を横に二度振りながら言った。
「まだ、邪気さんより弱いみたいですから。
横に立てる資格が、出来るまでは……それまでは。」
後に続けようとした言葉を飲み込みそして
「私、しつこいんです。」
にこ、といつもの様な笑顔を浮かべて言った。
405
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 02:24:00 ID:g4TwrN7U
「……詭弁を。」
自分の詭弁に、向き合わないで次を探せ、と何度も思う。
今度の事でも、そうだ。無駄に傷付いた。
「(横に並ばせる気など)」
無い。――無いのだ。
そもそも、居る筈が無い、精神的には、別としても。
「…………ユンヌと、イリュージョンに、謝罪を伝えておいてくれ。」
イリュージョン、には。 ……俺から、挨拶に、行くと。」
笑顔と、その言葉には応えず。
余所を向いて、それだけを告げる。
406
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 02:35:17 ID:zZH38W.I
「ええ。言うなれば人間らしく?」
クスリ、と口元に手を当てて笑みながら冗談めく。
「……分かりました。確かにお伝えしておきます。」
その表情には、少し寂しげな物が浮いて出ていた。
やはり、まだ。とでも言う様な。
407
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 02:37:57 ID:g4TwrN7U
「……。」
その動作に、一瞬ぽかん、と。
間の抜けた表情をする。
「(こう云う風にも、笑える様に、なったのか)」
言う慣れば、ジャキの知る「彼女」らしからぬ動作だったから。
「俺のやったことは、消えない。それを、譲るつもりは無い。」
「唯……イリュージョン、とは、話を、付けておくべき、だろう。」
できれば、ユンヌとも。彼女はきっと怒るだろうけれど。
408
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 02:44:59 ID:zZH38W.I
「…………」
恐らく、彼女もまた背負っているのだろう。
"あの人"を。
「……ええ。分かって、ます。
……私は……己も、邪気さんも、赦すつもりはありませんから。
だって、そうしてしまったら……お姉ちゃんが可哀想です。」
再び、寂しげな微笑みに変わってそう言う。
「……ユンヌには、なるべく早く遭ってあげて下さい。」
今度は、微笑みも落ちて真剣な表情で眼を瞑る。
409
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 02:48:22 ID:g4TwrN7U
「――ああ、それでいい。」
「お前はずっと、俺を赦さないでいてくれ。」
表情を引き締めて、「赦さない」、の言葉を聞く。
それだけで、――随分と、救われる。
「……解っては、いる。」
彼女は、ミルダと自分が決別した時に、居た。
何より、攫われる寸前――否、自分が彼女を本気で殺そうとしていなければ、攫われていた。
「……分かっては、いる。」
だから、本来なら、逃げていないで会うべきだった。
ミラナやイリュージョンに放り投げずに。
410
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 02:58:33 ID:zZH38W.I
「……………。」
声を返さぬ代わりに、力強く、ゆっくりと頷くミラナ。
本当に変わった物だ。
ユンヌの後ろに居なければ、言葉一つ発せられなかったのに。
「……もう、時間も無いんです。」
表情は陰る。
己でも述べていたがそう、ユンヌには寿命が迫っているのだ。
411
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 03:04:20 ID:g4TwrN7U
「……方法は、探す。」
「何か在る筈だ、似たような例だって。」
これ以上は、冗談では無い。
大体が、理不尽だ、どうして、こうも。
そういう「運命」である言えばそれまでだし、その通りなのだが。
理不尽が過ぎる、どうしてこうも自分ばかりが失わなければならないのか。
それも大切な物に限って、だ。
誰かが裏で糸を引いて嗤っている、と言われた方がまだ納得出来る。
「無理でも、助ける。」
「(何をしても、だ)」
412
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 03:17:37 ID:zZH38W.I
「………。」
ミラナは、困った様に微笑んで首を横に振った。
「詳しくは、ユンヌと直接話して下さい。
私から話してしまうと、怒られてしまいます。」
その言葉の意図は測り兼ねたが、様子を知らないと手の打ち様が無いのも事実だ。
413
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 03:22:21 ID:g4TwrN7U
「……解った、そっちにも近い内に行く。」
「ケーキでも、土産に持って行くよ。」
困った様な表情で言うミラナにそう返しながら、頭の中で構想を組み立てる。
確か――そう、精霊を別種の存在に昇華させる術や、存在をより固着させる術があった筈だ。
それが無理なら、自身と契約して変換したミラナの魔力で存在を保てば良い。
ユンヌの魔力も、以前貰っている。自身の魔力を限りなく近い形質に変換して受け渡す事だって可能な筈だ。
とにかく、何でもいい。
一度家に帰って思考を纏めよう。
そう思って、また黒い翼を顕現させ、て。
「……あー、……ミラナ。」
少し、真面目な。
けれど、「悪魔王」の仮面でもなく、ジャキ・カルレオンの仮面でもない、どちらかと言えば――
先程見せた、「素」に近い表情でミラナに向き直った。
414
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 03:35:05 ID:zZH38W.I
「えっ……! あ。」
明らかにケーキという単語に反応したが、口元に手を当ててはしゃいだのを恥じる。
「……はい、何でしょうか? 邪気さん。」
下腹部で手を組み、微笑み混じりで小さく首を傾けて返答する。
415
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 03:40:45 ID:g4TwrN7U
「……好みがあるなら、言っておけ、ユンヌの分もな。」
「(リリーユの時の様に後から言われるのも難だしな)」
以前、とある娘にケーキを買っていった時は欲しかったのと違う、と言われた覚えもある。
女の好みは、良く分からない。
「あー……俺の――そう、だな。
立場や、……俺という存在、だとか、そういう物を抜きにして、考えれば。」
珍しく歯切れが悪い。何だろうか……?
「俺は、お前たちを、何だ。 ……そう言う意味でも、憎からずは、思っている。
見た目も、性格も良いs…………クソ、何を言っているんだ、俺は、忘れろ。」
言うだけ言って、黒い翅――先程よりも、何処か「本物」に近く思えるそれを広げて、
一人でさっさと飛んでいってしまう。 ……追いつける速度だが。
416
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 03:48:38 ID:zZH38W.I
「私は、ケーキなら何でも良いです……♪」
よっぽど好きなのだ。
致し方無い、水と桃が主食では他の食べ物はみな新鮮だろう。
「……?」
小さく首を傾げ、眼をぱちくりとさせていたが
「……………」
はた、と言葉の意味が何となく拾えて来て
「え、あ、え……それって……あ!ま、待ってください!!」
己の自意識過剰だろうか。
あろう事か評価されていた気がした。
主に、女性のその、なんというか甘酸っぱい恋愛対象と言うべきか。
ともあれ、思考がまとまらないので負わねば気が済まない。
虹色の翼を生み出し、追い掛ける。
「じゃ、邪気さん!さっきのってどういう意味ですか!」
御叮嚀に、質問内容を繰り返し。
417
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 03:53:40 ID:g4TwrN7U
「喧しい、忘れろ、知らん。俺は何も言ってない。」
あろう事か自分の発言を完全に無かった事にした。
確かに何でも消し飛ばす能力を持っているがそれは無理だろう。
「知らん!忘れた、お前も忘れろ!」
「それとユンヌやイリュージョンには言うな、他にもだ、良いな!?」
黒い翼を羽撃かせて、逃げるように翔ぶ。
……置いていかない速度で、だが。
「(くそ、――俺は何をやってるんだ)」
と言うか、あちらが悪い。無防備過ぎなのだ全員が全員。
仕事でそういう経験こそ積んだとは言え此方はまだ19――
「……っ、知らん!!」
……何やら勝手に怒って、勝手に飛んで行くのであった。
……一先ずは、少し間をおいたらユンヌの所にいかねば……。
【FO】
418
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 04:13:44 ID:zZH38W.I
「……苦しいです、無理があります!」
つっけんどんな態度に、頬を少し膨らませながら言う。
しかし、イリュージョンに話が漏れるのだけは何としても防がねばなるまい。
先の話と合わせ、何度胸が当たったか聞かれるのが関の山だ。
「私、気になります!気になるんです!」
と言いながら、楽しそうに後追いして行くのであった。
【フェードアウト】
419
:
とある世界の冒険者
:2014/05/09(金) 04:15:35 ID:g4TwrN7U
//Oh、したらば明日……居るのかわからんけど明日にしよう、おやすみー?
420
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 00:55:28 ID:QBYcn24.
-ホワイトトランク2階 雪子の私室-
「恋、私思ったの。」
いきなり呼び付けたかと思えば、持て成しもそこそこに言う金髪に眼鏡の女性。
今や正式にホワイトトランクの店主となった女性は、来月に結婚を控えている。。
もちろん相手は彼女の目の前に居る、飄々とした男性。
しかし未だに二人きりというものに慣れていないであろう彼は、恐らく緊張している事だ。
まさか、先の結婚に対して不満があるのかと空を陰らせる様な事を思わせぶるが
「ムトウって、音だけなら無糖とも書けるわ!」
無論そんな事は無かった。
421
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 00:59:33 ID:fNYe7pxA
「んー? 何かなー、何でも聞いちゃうよん?」
等といつもの調子で軽口を叩くものの、内心穏やかではない。
この時期に部屋に呼んで、ふたりきりで話だなんて。
若しかして散々ネタにしてきたナリタ(ネオベイの地名)離婚とか、
そういうたぐいのアレ的なアレだろうか、何かバレただろうか、等と思っていたのだが。
「ブラックコーヒーの話かー☆、こりゃ一本取られたや!」
その心配は皆無であった。バカかあんた等。
422
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 01:04:24 ID:QBYcn24.
「つまり、結婚したらいっそう珈琲めいた名前になる訳よね!?」
コーヒーめいた名前が如何ほどのものか分からないが、別に無糖は珈琲に限った話ではない。
本人は楽しそうだが。
「あ。あともう一つ。
私、結婚式は二人だけで良いと思ってるの。」
とか思ったら突然こういう事も言い出すので少々おっかない。
423
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 01:10:00 ID:fNYe7pxA
「だがしかし待って欲しい、砂糖入れたのが好きな人も居るんじゃないだろうか!?」
ああ、ちっちゃい子とかブラック飲めませんよね。
ノリの良さは変わらず。
「んえ?
……や、そりゃ、俺はいいけど。」
呼ぶような知り合いはディーノ先輩だとか、Mr.ギャルゲ、だとか。
そういう共通のばっかりだし、と。
何処か疑問符を浮かべて。
424
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 01:15:40 ID:QBYcn24.
「甘い、甘いわよ恋! カフェラテぐらい!」
不敵にドヤった横顔を決め、ビシッと指差す。
「まず無糖って言っても……
いえ、長くなりそうなんで先に本題にしましょっ。」
が、お得意のコーヒートークは不発に終わる。
それよりも優先すべき話らしい。
「恋が折角舞台から降りてきてくれたんですもの。
私と、恋だけでもう一度"はじめから"をしたいの。」
425
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 01:17:31 ID:fNYe7pxA
「なんかもうそれ決め台詞になってるよね!?」
カフェラテ、いや嫌いではないのだが。
と言うかブラックよりは好きだが何だろうか。
「あれ珍しい、別に付き合うのに。」
そりゃどっかの砂糖くんほどガチに付き合えないが。
「……ん、……そういうのは、嬉しいけどさ。
良いの? クラーチさんとか、呼びたい人、結構居ると思う、けど。」
426
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 01:22:37 ID:QBYcn24.
「……大事な、話だから。」
拗ねた様な、恥じた様な表情で少しだけ口を尖らせて俯く。
「一緒に集まろうと思えば、いつでも出来るじゃない?
でも、二人きりの思い出は、もっと沢山作りたいなって。
コーヒーしか見てなかったからなぁ、私。」
参ったなぁ、という風に頭に手を当てつつ
「……………後、ちょっと………
……ほんの、ちょっとだけ、その………
……恥ずかしい、し?」
今度こそ、しっかり照れた顔で言う。
427
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 01:26:02 ID:fNYe7pxA
「……ん……。」
そう言われれば茶化す事はせず。
恋人関係になってから解った事でもあるが、やっぱり、相手側を察してくれるタイプである。
「そりゃそうだけどさ、んー……や、何だろな。
俺もあんま、ド派手にー、とかは考えて、なかったけど、
っていうか俺はそういう小いw……雪子ちゃんが好きな訳だし。」
うーん、と唸りながらもそう言うが……。
「…………。
……それ、反則。」
直視したその顔に何故かこっちが茹で蛸になった。
428
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 01:39:29 ID:QBYcn24.
「………………あの、その……。」
気まずい沈黙が部屋の中に流れる。
否、決して悪い雰囲気ではないのだが。
寧ろ逆。
互いが互いに苦手とする様な、なんというか甘ったるい雰囲気である。
以前たまたまあったワカメ頭ことユアンには「お前等ユズとカボスみたいだな」と言われた物なのに。
429
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 01:44:23 ID:fNYe7pxA
「……や、まぁ、雪子ちゃんがいいなら、俺は、ね?」
「雪子ちゃんの好きな形でやろー、って思ってたし、うん。」
ちょっと冗談めかした様子で言って、勝手にうんうん頷く。
私生活ではともかく割と仕事で経験とかはあったし情報聞き出す際にまぁそういうこともあった筈なのだが。
なんだろうかこの空気。
ふわふわして地に足が付かない、マダオどころかもうただの幸せボケっぽくなってしまう。
「あー……ほ、ほら、じゃああの、二人でどんなのにするか決めよう、うん!」
全力で必死だ。
430
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 01:51:32 ID:QBYcn24.
「……でも、私に合わせてばかりもなんか……申し訳無いっていうか……。
恋はいつでも私を気遣ってくれるけど、恋の主張はあんまり無いっていうか……。
その、何かあるなら言ってくれて良いのよ?」
利己主義の極みがここまで変わるのだから、二重の意味で恋とは恐ろしい物だ。
さておき、恋の方から何か無いかが雪子としては気になるらしい。
「…………。」
言うだけ言った後は、俯き加減でちらちらと恋に視線を送って様子をうかがっている。
とても忙しない。
431
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 01:54:39 ID:fNYe7pxA
「ん、や、俺としてはさ、ぶっちゃけ、そのー……怒るかもしんないけどね?
こうやって雪子ちゃんと居れる所か、あー……結婚出来る、ってだけで
今までの人生吹っ飛ぶぐらい幸せだから、ホント、無いというか。」
本人は気付いているだろうか。
今、物凄く恥ずかしい事を言っているという事に。
「……んー、っと、じゃあ、あー……」
「どっか二人で、旅行行って……そこで、する?」
ごまかし気味に、そういう。
432
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 02:03:14 ID:QBYcn24.
「……………。」
新緑より涼やかな碧の眼を丸くし、しばらく絶句する。
「……れ、恋の……ばかっ……。」
そして顔を真っ赤にして俯きつつ、そう漏らし
「………――。」
その姿勢のまま、はっきりと恋へ分かる様に二度頷いた。
拍子で、金糸の束の様な髪が揺れる。
433
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 02:07:09 ID:fNYe7pxA
「や、そこはホント。
身に余る幸せ、っていう、か……。」
と、ごまかす様に本音を述べていたが、
そのもうドストライク,というか可愛い動作にまた硬直。
「…………雪子ちゃん、その表情、絶対俺以外の前でしちゃ、ダメね。」
並の男ならこの二人っきりの状況、間違いっなく襲っている。
と、言うか襲いそうになった、頑張れマダオ理性。鋼の救世主になるんだ。
434
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 02:19:08 ID:QBYcn24.
「……しないもん。」
俯いたまま、頬を膨らせたままの様な声でひっそりと呟く。
膝に置いた手は堅く握られており、緊張が伝わる。
俯いてはいるも耳まで真っ赤になっているその顔からは、恥じらいが伺える。
435
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 02:21:41 ID:fNYe7pxA
「……ん、うん、俺だから、いいけどね、うん」
「雪子ちゃん可愛いんだから、……うん、襲われちゃうから、……うん。」
こちらは、真っ赤な顔を極力平静に保ちつつ、不自然にうんうん頷いて。
余り雪子を直視しないように……いや、見てるのだが。
「あー、……え、ー、……う、うん。
何処行こっか、色々風景きれいな場所とかも知ってるけど!」
ごまかしがてらに空元気ハイリャーッス
436
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 02:39:40 ID:QBYcn24.
「………恋、が?」
えっ。
「そ、そうね。やっぱり綺麗な所がいいかな……。」
俯いてボソボソと呟きながら、大きく深呼吸をする。
437
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 02:43:49 ID:fNYe7pxA
「…………い、いや、俺はオソワナイヨ?」
「そりゃ、あの、うん、そういう気分になる様なアレも無いでもないけどこういうのはね、ちゃんと合意の上っていうかほら、結婚してからでも遅くないし、うん」
HAHAHA、とごまかし笑いを浮かべながら何か必死な様子で。
別の意味でマダオになっている。
「あー、あー、うん、じゃあほら、アラゲイジアとかどうだろ!後はー……ネオベイとか!
あっちの方は綺麗だよー、ああ、建物だったらイタリーとフラネアとかも、うん。」
全力でごまかしに入っている。必死過ぎる。
多分知り合いが見たら大爆笑ものだ。
438
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 02:59:13 ID:QBYcn24.
「…………。」
誤魔化しが分かり易過ぎたのか、ついには黙ってしまう雪子。
姿勢は案の定先程のままだが、隠した顔の視線は全く定まっておらず。
やがて、沈黙を預けた内に
「………つに、………いけど……。」
ぽつり、とこう言った。
439
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 03:01:39 ID:fNYe7pxA
「……あー、あー……」
「そ、そろそろ一回、お暇、しよっかなー?」
ヘタレた。 隠しきれてないのは察知した。
が、そこから沈黙を挟んで生み出した応えはそれだったが。
「……ぇ。」
不幸にも耳がいいのが災いした。
440
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 03:04:21 ID:QBYcn24.
「……………。」
腕だけが動き、浅く恋の上着の裾を掴む。
「……恋が……その気、なら……
…………良い、よ……って………。」
気まずい沈黙の二回目。
なお一回目とは比べ物にならないもよう。
441
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 03:07:32 ID:fNYe7pxA
「……………。」
「……………。」
フリーズ。 顔が真っ赤のまま固まった。
いや、勿論、経験が無い訳ではない、と言うか豊富な方だ。
情報聞き出す為にそういう事した覚えもあるし悪い先輩に女遊び教わったりもした。
が、これは違う。 こういうのは違う。未経験ゾーンだ。
真っ赤になって目を逸らしてそんな事を言ってくれる間違いなく相思相愛の、冗談抜きで凄い好きな女の子。
「……あ、……っ、と。」
いつもよく回る舌はなんかもう意味のある言語を発し無くなっていた。やばい。
442
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 03:12:01 ID:QBYcn24.
「……………。」
最早、掠れ声すら聞こえなくなっていた。
外から聞こえる梢の揺れる音、部屋の中の時計の音。
どれもこれもが答えを問う様な"騒がしい"ものに聞こえた。
事実、雪子は彼と交際した時から"そういう"準備はしていた。
が、なにぶん初めての経験につき、これ以上は無く精一杯なのである。
「…………。」
しまいには、互いの動悸まで聞こえて来そうだった。
443
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 03:16:18 ID:fNYe7pxA
「…………っ。」
喉が酷く乾いて、言葉がでなくなる。
勿論そういう想像をしなかった訳では無い。
そういう事はするだろうし――とはいっても、想像も付かなかったが。
何せ、相手が相手であるし、そういったものと無縁なイメージがあった。
が。
目の前で、好き合ってる相手にこうもされては。
「……いい、の?」
我慢出来る男の方が少ないだろう。
上着を掴んだ手を取って、やけに早い動悸を抑えて、それだけ、絞りだす。
444
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 03:20:36 ID:QBYcn24.
「……………――」
先の様に、再び首を縦に振る。
片手は緊張で握られ過ぎて、スカートに皺が寄ってしまっていた。
声での返答は、無い。
取られた手を握る力は、少しだけ強くなった。
445
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 03:23:26 ID:fNYe7pxA
「…………っ。」
ごく、と唾を飲む音がやけにうるさく聴こえて。
首を動かすその動作が、いやにゆっくり、見えた。
「……その、……あー……、」
雪子の手を取って、ぐ、と自分の方に引き寄せて。
ちょっとだけ無理やり気味に、顔を正面から見て。
「…………ほんっとに、俺で良いの?」
真っ赤で、どこか不安そうな顔でもう一度だけ問う。
446
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 03:26:33 ID:QBYcn24.
「…………っ……。」
緊張で、びくりと体が震える。
顔を真っ赤にさせ、瞳に潤みが差した雪子は色々なものが綯交ぜになった表情をしていた。
不覚のもそれは、厭味無く艶めいていた。
「……しつこい……」
弱々しく、恋の胸元に当たる拳と言葉があった。
447
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 03:28:46 ID:fNYe7pxA
「……ん、ごめん。」
返答に、はにかんだ様に笑って。
自分の方から唇を重ねて、そのまま、ベッドの方に押し倒してしまう。
……キス自体も、恋の方から余りしない事を考えると、
なんだか、状況が状況なだけに色々と、よけいにはずかしいものがある。
448
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 03:42:15 ID:QBYcn24.
「……ン………っ……。」
驚く程に軽い体。
ふわりと羽が落ちる様に、ベッドへと倒れ込む。
拍子で眼鏡が外れ落ち、金の髪が川の様に広がった。
「……恋……」
上ずった声で、名を呼ぶ。
好意的に、解釈をするならば、続きを優しく促す声だろう。
449
:
とある世界の冒険者
:2014/05/11(日) 03:44:46 ID:fNYe7pxA
「……ぅわ……。」
唇を離して、目の前に広がる光景に息を呑む。
らしくもなく手が震えて、声が上ずってしまう。
「…や、……優しく、する、から。」
なんとも、ムードも、へったくれもない言葉が出たものだと若干残った理性がダメを出す。
だが仕方ない、こんな風にいれる、なれるなんて予想もしなかったのだから。
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