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千冊読書日記

1ぺろぺろくん:2016/05/01(日) 19:47:50
千冊読むのにどれくらいかかるだろうか?
2年ぐらいかなと楽観しつつも、5年かかるかもしれない。
このスレッドは便宜上、書き込み不可でいきます。

◇『SUDDEN FICTION―超短編小説70』 文春文庫

アメリカの作家による、ショートショートが70作。
誰にでも、夢にしか登場しない学校や、駅前のロータリー、病院の待合室があると思う。
私の場合には、夢にしか登場しないパチンコ屋というのが何軒かあって、必死にメモを取っているところで眼が覚める。
ショートショートのツボというのは、その夢にしか登場しない幻のスポットを現出させることだと認識した。
夢にしか現れない母親は、いつも戸口に立っている。
夢にしか現れない父親は、どこに行っても鼻つまみ者で、
>そのろくでもない役立たずの10セント新聞をいっちょう売っていただけますでしょうかね?
と、スタンドの売り子に無視されたのが最後の姿となってしまう。
夢にしか現れない犬は、ぼくは以前は犬だったのだよ、と語りはじめる。
夢にしか現れないエロ本は、父親の口から語られる。

157ぺろぺろくん:2016/11/14(月) 21:02:24
◇シオドア・スタージョン 『輝く断片』

なんともブラックな作品集。
この人にしか書けないのが、「君微笑めば」という作品。
俗にいう「むっつりスケベ」という、肚のなかにはエロばかりという人がかなりいて、
また、ある種のいじめのターゲットになる自意識過剰なやつがいる。
しじゅう人にどう思われるかばかりを考えていて、肚の中で思っていることなんか
わかりゃしないと思っているのだろうが、そういう考えているお前がうざったい!、
考えるという行為にはノイズを伴うということを理解しないやつがいる。

>他人をおとしめて恥をかかせることに楽しみを見出す。そして、楽しんでいる最中に、
>その精神は……問題のノイズを発する

自分は情緒の音感には鈍感な方だが、情緒の絶対音感を有してしまう不幸な人もたしか
にいるだろう。

158ぺろぺろくん:2016/11/16(水) 20:45:14
◇シオドア・スタージョン 『不思議のひと触れ』

結局、ここ一週間はスタージョンの短篇づけになってしまった。
これは、まあだいぶ普通の短篇が多い。
といっても、おたがいに人魚の恋人がいる男女の話だったりするのだが。

>ある人間の人生を考えてみよう。母親の言うことをよく聞き、一度も逮捕されず、飲み過ぎても
>たいした面倒は起こさなくて、せいぜい言葉遣いが悪かったと謝ったり、ちょっと胃がむかつい
>たりする程度。一日ちゃんと働いて一日分の給料をもらい、だれにも憎まれず、それを言うなら
>だれにも好かれない。そういう人間は、人生を生きていないんだよ。つまり、本物じゃないんだ。
>でも、どこにでもいるそういう平凡な男に、不思議のひと触れが加わると、ほら、見てごらん。
>ほんのちょっとしたことでいい。たった一度でもいい、なにかするとか、手に入れるとか、降り
>かかってくるとか。そしてら、そこから先、彼の人生は死ぬまでずっと本物なんだよ。

実に感動的な独白だが、自分が「本物の人生を生きていない普通の人」を書こうとした場合、かな
らず差し挟んでしまうのが、
「そのへんのヤツらといっしょにすんじゃねえ」
おお、ザッツ普通の人!まさしく普通の人!!
と、思うのだが、それはあまりにもパチンコ屋に入り浸りすぎたせいなのかもしれない。

159ぺろぺろくん:2016/11/18(金) 21:02:57
◇川勝正幸 『21世紀のポップ中毒者』

川勝さんとは不思議とまったく面識がなくて、共通の知人のイベントで暴れてたら呆れ返ってた、
あのおでぶちゃんがそうかなという程度の認識で、もっぱら立ち読みが最大の縁だった。
>「ニャオス」で始め「よろしくメカドック!ワン×2」でしめる
メールを送ってみたり、
>41歳にしてガイコツのタトゥーを入れる
あまり親しくはなれないだろう。
レンタルビデオ屋に行っても、観たい映画がまったくないことに気がついた。
バレさんが薦めるような映画は置いてないし、ハリウッドのものは全部同じに見えるし、結局は
文芸ものを借りてしまうというさえないことをしてしまう。
要するに、情報がないと鑑賞意欲をそそられないわけだ。
でも、これを読んで二十本ほど観たい映画を見つけたぞ、ただし0年代までだけど。

160ぺろぺろくん:2016/11/20(日) 11:23:09
◇川勝正幸 『ポップ中毒者の手記 2』

>よお、おしゃれ人間
と、呼びかけられたとしたら、殴りかかるか親愛の微笑みを浮かべるかの判断に要する時間
は0,8秒程度だっただろう。
他人はどうあれ、自分にはおしゃれを許さないのロックだろう。

>おしゃれじゃないのはイヤだけど、おしゃれだけなのはもっとイヤ

という川勝さんとは、とことんウマが合わない。
音楽ライターとしてもほとんど支持していなくて、20年以上もその執筆記事を目にしてい
ながら触手が伸びたのは、ハース・マルティネスとクレイジー・ケン・バンドだけだった。
リアルタイムでは幇間とか男芸者みたいな偏見を持っていたのだが、それがただの偏見では
なくて実際に、ロックオヤジを自認していながら、
>カンパイの音頭を頼まれることが多い
それは、やはりロックじゃないだろう。
ドナルド・トランプとともに、ロック根性主義の復権とかあったらおもしろいな。

161ぺろぺろくん:2016/11/20(日) 19:58:28
◇津原泰水 『蘆屋家の崩壊』 集英社文庫

単行本では皆川博子が帯たたきを書いていて、文庫では解説を書いているのが気になって
買っておいたのだが、その間約15年、もっと早く読めばよかった。
ずいぶんカンが鈍ってきているようだ。
この夏の終わりに、生まれて初めて殺虫剤を買いに行ったのだが、
>いっしょに並んでいる黒いやつのほうが確実に殺せますよ
と、生物部の副部長上がりのような女店員に言われて腰を抜かした。
とんでもない世界に暮らしていることを、あらためて認識させられる「超鼠記」。
それと、「水牛群」も秀逸だった。
>育った家や学校の一部が実は当時のまま封印されていて、いつかふたたび眺められるのだ
>と聞き、喜ばない人間は少ないはずだ
そういう幻惑をさせてみたいものだ。

162ぺろぺろくん:2016/11/21(月) 20:36:19
◇笠井 潔 『魔』

探偵とサイコセラピストの組み合わせの通俗ミステリー。
知り合いの中にはそのどちらのいるが、口々に同じことを聞いたことがある。
探偵さんが都市銀行勤務の旦那さんの浮気調査で、二週間ほどビタ付きしたところ、
そのあまりにもつまらない生活に絶句したということ。
セラピストからは、大手メーカー社員の紋切り型の妄想のつまらなさを。
最近では、震災の被災者がパチンコ屋に通い詰めていて、
>もうつまんなくて、つまんなくて、パチンコでもやんなきゃ、やってられませんよ
と、言っていたこと。
そんなことをしたら余計につまらないことになるぞ!というものだが、それでもつま
らないから、つまらないことでもやってなきゃ、やってられませんぜ、というのか。
そこで思い浮かぶのが、
内面が法外すぎて、それに相応しい表現形を見出すことができないので『出来合い』の
型をやむなく採用する人々が生産されている、ということ。

163ぺろぺろくん:2016/11/21(月) 20:42:47
◇都筑道夫 『泡姫シルビアの華麗な推理』

こんなものまで書いていたのかと、思わず感心して買っておいたもの。
トルコ風呂のことはあまり詳しくなくて、せいぜい数十回(それもかなり前半のほう)しか
行ってなくて、トルコ嬢の知り合いの数のほうがよっぽど多い。
ひとりだけソープマニアを知っていて、おれの一生分を1ヶ月で通ってしまう猛者がいた。
その男は当然、ソープ嬢と結婚するものと思っていたところが、中学の教員上がりの英会話
学校の講師と結婚した。
だれもがその行く末の悲惨なことは予期していたが、やはり悲惨なことになった。
自宅に火を放ったのだという。
図書館の縮刷版で確認した新聞報道の彼の顔は、難民のようだった。

164ぺろぺろくん:2016/11/22(火) 20:30:11
◇山形浩生 『要するに』

90年代の後半に、インターネットで影響力のあった人。
しかも本書には、インターネットが中年化する寸前のその時期に書かれた文章が多く
収められていて、やはりその一群が精彩を放っている。
>携帯電話の世界では、相手も自分と同じくらい(あるいは自分以上に)無価値だと
>いう前提の中で、人々は相互に拘束しあって、時間ではかれる最低限の無価値の無
>価値な「関心」を(金を払って!)交換しつづける。
>人が賢くなるか、あるいは我慢強くなるか。しかしいまのテクノロジーは、いずれ
>もそれを支援するようにはできていない。人を愚かで、気まぐれで、無能にするよう
>に進んでいる。
99年の時点で、まさしく卓見であった。
そういえば自分もそのころ、携帯をやめたんだっけか。

165ぺろぺろくん:2016/11/24(木) 20:03:26
◇都筑道夫 『苦くて甘い心臓』

70年代後半の明治通り沿いを舞台にした短篇ミステリー集。
ごく最近にも、梅川昭美のこんな捨て台詞を取り上げたが、
>俺は精神異常やない、道徳と善悪をわきまえんだけや
やはりここにも、梅川が出てくる

>仕事をいくつも変え、同棲の相手もいくたりか変えて、しまいには盗んだ猟銃を手に、
>銀行にたてこもって、警官に射殺された。三十二歳だったか、死ぬ瞬間まで、どんな
>ふうに生きたらいいのか、わからなかったのだろう。

どんなふうに生きたらいいかわからなくて明治通りあたりをぶらついていた80年代。
それはいまでもたいして変わらないが、殺されないようにだけしてればいいだろう。

166ぺろぺろくん:2016/11/24(木) 20:10:58
◇野坂昭如・滝田ゆう 『怨歌劇場』

なんだか無性に野坂昭如をまとめ読みしたくなってきて、復讐を兼ねて。
代表作を滝田ゆうが漫画化したものだが、「火垂るの墓」は原作を凌駕しているかも。
眼がさらに悪くなっるから、文庫漫画はきついわ。

167ぺろぺろくん:2016/11/24(木) 20:59:59
◇野坂昭如 『東京小説』

「慈母篇」は、これぞコンビニ小説。
小説は、自意識過剰なだけのくだらないやつが、くだらない自身の属性をさぞやご大層な
ことのように力説を奮うことではなく、商業的愚行を異化してみせることだと諭されるよう。
「隅田川篇」では、
>「只今、私は外出しております。ご用の方は、恐れ入りますが、ピーッというサインの後、
>メッセージと、そちらの番号をお願いいたします。折りかえしご連絡いたします。ありが
>とうございました」私は、何かいおうと思ったが、出てこない。メッセージを残したとこ
>ろで、娘はこの世にいない、半月前、交通事故で死んでしまった。
>娘の声を聞こうとすれば、留守番電話しかないということに、昨日、気がついた。私には、
>留守番電話を、自宅で、どう再生していいのか判らないし、その気もない。ただ、うろつ
>いて、街の中の、公衆電話ばかりが、私にとって在った。
幽霊としかいいようのない足のない男を見かけることがあるが、その男にとって在るものが
なんなのかは、考えてみる必要がある。

168ぺろぺろくん:2016/11/25(金) 21:25:59
◇都筑道夫 『感傷的対話』

ショートショート集だが、変なところでひっかかりを覚えた。
いわゆるリドル・ストーリー、どちらにも判読できる結末で、その解釈は読者の想像に
委ねるというもの。
そのよく知られた『女か虎か』は、こういうストーリー
王女に恋した若者は、王様の逆鱗に触れ処罰を受けることになる。
その方法は、一方の檻には虎、もう一方の檻には王女に付き従う美貌の侍女が入れられ
ており、もちろん若者には檻の中身は見えない、そのどちらかを選べ、というものだった。
その刹那、王女は右の檻を指さした。
自分がひっかかったというのは、ある年代から(いわゆる新人類の年代と思われる)
>知性をテストされるとでも思うのか、答えを拒否する女が多くなった
おもしろがるより、あたりさわりのないつまらなさ、終いには結論を保留したまま研究に
いそしむオタクと呼ばれる大バカものを排出するにいたる様相を、実に簡潔に告げていた。
このつまらなさと格闘したのが、少年期・青年期だったんだなあ。
おもしれえだろうがバカヤローというのを、もう一度やってみるのも悪くないな。

169ぺろぺろくん:2016/11/27(日) 21:16:50
◇都筑道夫 『悪魔はあくまで悪魔である』 角川文庫

40年も前のショートショート集だが、いまでも新鮮さを保っているのではないか。
電波系用語として有名になった「トリコじかけ」は、この表題作にある、
>ゼンマイをまくような笑い声
に、源泉があるのではなかろうか。
ほかにもチンパンジーの夢とか、電波系を予見したイメージが散見している。
火事場見物で、ゆきずりの関係となった女が忘れられず、破滅の道を歩むことになる
「業火」が絶品。
>火事を見たいのは、あのひとだ
くまえりファンとしては、悶絶するしかない。

170ぺろぺろくん:2016/12/01(木) 21:49:56
◇野坂昭如 『赫奕たる逆光』

十代で三島の『煙草』を読んで、強姦されたような衝撃を受けた野坂が、自身と重なる
ところも多い三島の足跡を綴った評伝。
二十代には三島の文庫作品だけで4,50冊はあったはずなのに、いま本棚を見てみたら
12冊が残っているだけだで、それも『音楽』とか『沈める滝』があって我がことながら
選別が不可解。
テレビタックルだったか?の中で、ハマコーが言う
>わしはきみなんかよりもずっとよく女を知っているんだからね
野坂が反撃する
>でもね、オナニーのことだったらハマコーさんよりもずっとよく知ってますよ
その背後には三島を背負っていた。
三島の天皇崇拝の構図は、マスターベーションの構図と類似している。
「最後の一行がビシーッときまらないと」書きはじめられないという性癖も、オナニー的だ。
私に知り合いに裏本を千冊集めて、
>あの人はオナニーに一千万かけてるから
と、揶揄される猛者がいたが、彼もやはり言っていた
>フィニッシュのターゲットが決まらないと、シコれない
野坂にしても、ここではめずらしく、最後の一行をビシーッと決めてから書きはじめたので
はないかな。
>三島は、たしかに生きた。生きることにおいて、真の天才であった。

171ぺろぺろくん:2016/12/06(火) 20:56:07
◇西村寿行 『攻旗だ、無頼船よ』

あまり頭を使うものを読める状況ではないので、寿行。
広大な内面の地獄に釣り合わない、乏しい表現力というのが最大の魅力。

>常識のある人間にはああはなれん。まず、超能力というものを最初から敬遠する。

そういう意味で、寿行は超能力者と言っていいだろう。
読むに耐えない駄作も多いけど、傑作はとことん傑作なだけに、文庫だけでも全作品に
目を通そうと思って未読のものがまだ40冊近く積んである。

172ぺろぺろくん:2016/12/07(水) 21:18:59
◇都筑道夫 『おもしろ砂絵―なめくじ長屋捕物さわぎ』

この一週間ばかりカバンの中に放り込んであったもの。
その間に葬式が二件に、裁判の傍聴が一件あった。
いずれもここでいう巣乱(スラム)の住人たちだが、足るを知るに勝る理性はなし
ということだ。

173ぺろぺろくん:2016/12/08(木) 20:06:39
◇西村寿行 『われは幻に棲む』

昭和後期に、ハードロマンと呼ばれた作風。
ポルノの部分をすっ飛ばして読んでも、その特質は血と汗と涙と精液のストーリー
だとわかる。
体液で書かれた物語を自分らの世代だと、「哺乳動物の哀しい世界へようこそ!」と
揶揄することになるが、この時代にはそれリアルだったのだろう。
いわゆるサンカもの+口裂け女のいいとこどりだが、けっこう感動する。

>「おまえ、なぜ、そのように、強い」
>鬼女は喘ぐようにして、訊いた。
>「習ったのだ。人間、習えば、たいていのことはできるようになる」

なんて、言ってみたいね。

174ぺろぺろくん:2016/12/09(金) 23:16:08
◇佐藤良明, 柴田元幸 『佐藤君と柴田君』

明日からちゃんとしよう、と二日も虚けた日を送ってしまった。
リレー・エッセイというのか、著名な二人の英米文学翻訳者によるエッセイ集。
でありながら、
>ふるさとの焼きそばはまずかった
に、身につまされてしまった。
>ふるさとの焼きそばをウマイと感じる自分を取り返すのは、もはやまったく
>不可能だという気がしてならないのだ。
そうやって、取り返しの利かないものを並べてみるのは、哀しいような恐いような。

175ぺろぺろくん:2016/12/10(土) 21:07:36
◇西村寿行 『鷲』

オウム事件以後も寿行は書き続けていた。
そのことはまったく失念していた。
オウム事件の後に、テロリスト・ハンター死神のシリーズを書き続けなけ
ればならなかったということは、それこそ
>悽愴の風を見る気がする
それだけに、伊能・中郷のコンビも精彩を欠いており、
>中郷の時代は終わった。時代は中郷を置いてどこかわからないところに
>行ってしまったのだ。
無為にしか生きられない男が精彩を放つ物語は可能なのかと、考えてしまった。

176ぺろぺろくん:2016/12/11(日) 21:10:08
◇西村寿行 『垰』

ここには未読の積ん読本3,000冊超が鎮座していて、どう考えても死ぬまでかかっても
読み切れない。そのうえ、毎月50冊は増えているのだから、正気の沙汰とは思えない。
それをまったく気の向くまま、月に20冊ほど読んでいるのだが、なにかを読むとなにかに
つながっていくから不思議だ。
先々日読んだ、『佐藤君と柴田君』の中に、ガートルード・スタインのこんな引用があった。

>わたしが一番すきなのは、今いるここにいないこと

まったくタイプの異なる寿行を読んでいると、こんな歌に出くわした。

>行く先に 花の都を持ちながら 何とてここに長居しようずる

177ぺろぺろくん:2016/12/15(木) 21:18:58
◇西村寿行 『コロポックルの河』

この「徳田左近」のシリーズは好きなんだけども、これはちょっと。
こういう大暴投も寿行ワールドのひとつ。

178ぺろぺろくん:2016/12/17(土) 21:11:51
◇石垣りん 『焔に手をかざして』

詩作品はちょっと甘すぎて、あまりいい読者ではなかった。
そのエッセイも、お手本として取り上げられることがきわめて多いのだが、
なんともいえない懐かしさがある。
その懐かしさの正体がようやくわかった。
小学校3年くらいのころだったか、毎週金曜は銭湯の日で、風呂をあがると
プロレスだった。
どうやら客にトラックの運転手たちの多い時間帯らしく、会話には富山・
広島・東京と地名が飛びかっていた。
おそらくはじめて耳にした労働者の肉声だった。
たぶんもうそのときには、自分は労働に背を向けて生きることになるのを意識
していたと思う。
石垣りんの文章は紛れもない労働者の肉声で、振り捨ててきてしまったものの
郷愁を含んでいる。

179ぺろぺろくん:2016/12/17(土) 21:18:59
◇西村寿行 『安楽死』

初期の名作らしいが、意外と掘り出し物だった。
一本の密告電話から始まる社会派ミステリーだが、

>一本の密告電話の先に巨大な深海魚がぶらさがっている

>密告が持つ暗いエネルギー

73年という時代でしか表出しえないムードに充溢している。
意図したものではないのだろうが、スキューバ-ダイビングと電話空間の類似性は慧眼。
>海中は人類にとっては未だ異次元の世界だ。完全なる沈黙の世界は孤独感を癒やし、
>色彩の花園にたわむれる魚は疲れた心を慰める。
伝言界の深海魚に癒やされた人もさぞや多かったことでしょう。

180ぺろぺろくん:2016/12/18(日) 20:29:00
◇西村寿行 『呪医』

武器を持った敵に対して、呪文やおまじないで立ち向かうというのも
寿行ワールドの魅力のひとつ。
人間は抵抗する姿が美しいんだ、と語った人がいたが、その抵抗する
方法が馬鹿げたものであればあるほど美しいともいえる。

181ぺろぺろくん:2016/12/21(水) 21:26:26
◇栗原成郎 『ロシア異界幻想』

ロシアというところはとんでもないところだろうとは思ってはいたが、ここまでとは
思ってもみなかったのが、昨日から報道されている
【ロシア、入浴剤飲んで死亡は58人に】
いくら安いからって酒のかわりに入浴剤を飲むことはねえだろうがって、そもそもそこ
までして飲みたいかって、ASKAかじゃあるまいし。
ロシアがいかにとんでもないところか、これを見ると一目瞭然だろう
「異次元すぎるロシア街角の恐写真」
http://news.livedoor.com/article/detail/8625487/
といった今日的なトピックスとはまったく無関係にたまたま手に取ったもので、現代ロシア
人の意識の深層に今なお息づく、異界幻想を扱ったもの。

182ぺろぺろくん:2016/12/21(水) 23:19:43
◇西村寿行 『魔境へ、無頼船』

やっと明日から日常が戻ってくるか……。
明日からは頭を使おう!
で、今日も結局は、寿行ワールドの住人。
このシリーズ好きで、陸では生きていかれない男たちが好きなのかも。

183ぺろぺろくん:2016/12/22(木) 20:43:36
◇西村寿行 『滅びの宴』

名作『滅びの笛』の続編だが、中学のときに読んで以来なので、実に四十年越しだ。
後半に進むにしたがって「三十億に増殖した鼠」の脅威が、「革命くんとナンシー
さん」の暴発にすり替わっていくのに唖然。
それも時代だったのだろう。
実際、自分が十代の後半のころに、
「革命くんとナンシーさんは、子沢山」の一人コントをやっていると、実によく怒ら
れた。
>人間をみくびるんじゃない!
と、別にみくびっているわけじゃなくて、人間はそういうものと認識していただけで、
それは今も変わらない。

184ぺろぺろくん:2016/12/24(土) 20:07:08
◇レイモンド・チャンドラー 『レイディ・イン・ザ・レイク ― チャンドラー短篇全集〈3〉』

二十代まではチャンドラーはどれを読んでもおもしろくて、それ以後も長編群には読むたびに
発見があった。
10年ほど前に、この短篇新訳シリーズが出たときには初訳が含まれていたこともあって、ずい
ぶんと歓喜したものだが、それほどおもしろくはなかった。
この3巻には、著名な長めの長編が収められていることもあって買い逃していたのだが、やはり、
いまひとつだった。
チャンドラーの全盛期に近い歳になって、卒業のときなのかもしれない

185ぺろぺろくん:2016/12/25(日) 20:43:32
◇西村寿行 『無頼船、極北に消ゆ』

明日からは頭を使おう、と思いながら全然使ってないじゃないか。
今日も結局は、合間合間に寿行を読んで終わりの一日。
果たしていまこの時代に寿行を読んでる人なんているのかと検索してみたら、
これが結構いるもんだ。
全冊読破のブログをやってる人がいたり、ヤフオクで文庫130冊セットを
買い込んだ人がいたり。
ここにも未読がまだ30冊以上あり、既読が50冊ぐらいはあるから結構な量
を読んだことになる。

186ぺろぺろくん:2016/12/26(月) 21:12:36
◇都筑道夫 『悪意銀行』

これにはずいぶんの人がこのタイトルに騙されて手にしたことだろう。
もちろん自分もその口で、しかも解説は米朝師匠。

>アベックで歩いてるのが癪だからって、ゆすりたかりをするチンピラにいたってはだ。
>荷風散人が、その日録に指摘しているごとく、洗練されない日本人に特有の嫉妬羨望心
>の爆発的あらわれにすぎない

なかなか時代のかった文章だが、昭和38年だから致し方ないが、洗練されない
ところは今も昔も変わらない。
リア貧・ヴァーチャル・エリートとリア充の関係みたいなもんだ。
最初に『リア充』なる用語を目にした衝撃は大きかった。
リアルが充実しているのあたりまえのことで、リア貧はただ単にリアルが嫌いなだけだろう
と思っていたのだが、嫉妬羨望を抱いているという、いじましさはあまりも情けないだろう。

187ぺろぺろくん:2016/12/26(月) 21:22:36
◇猪野健治 『やくざと日本人』

ヤクザ研究の名著として名高いが、通読したのは今回が初めて。
別のところで何度も目にしてはいるのだが、やはり谷川康太郎論がひときわ目を引く。

>ドストエフスキーの『罪と罰』は所詮インテリ用。金貸しを殺しても、学問をきわめ、
>社会をよくするためにつくせば罪は解消すると考える。そんなことを書いてもらって
>も、飢えた人間は満たされぬ

飢えた人間を満たす、か。
肝に銘じたい。

188ぺろぺろくん:2016/12/28(水) 21:05:45
◇猪野健治 『暴対法下のやくざ』

松岡正剛氏が猪野の本を取り上げていたのには驚いた。
研究の対象としての「やくざ」は気になっていて、猪野の本は見かけるたびに買っておいた。
電話遊び、特にパーティーラインにはリアル・テレフォン双方入り混じって、やくざで溢れ
かえっていたね。
自分がつきあいのあったのは、「やくざ」というより「あすんでる人たち」と呼ばれる人種
で、その世界の二軍・三軍で、その反面、実に面倒見のいい人たちだった。
パチンコを打つ金がなくなる、いわゆるパンク状態になると普通はフロム・エーを買ってくる。
普通じゃない人は、ダムやマグロや佐川に行く。
異常な人は、「あすんでる人たち」の世話になる。
話に聞くと、タイ人の女を紹介してくれたり、借金取りの仕事をくれたり、競売物件に住まわ
せてくれたりしたという。
あまりほめられた仕事ではないだろうが、ハイエナにはハイエナのエサというものがあること
をよく知っていたんじゃないか。
暴対法が真っ先に排除したのはその種の「あすんでる人たち」で、コンクリート・ジャングル
の飼育員をなくして、野犬が増えたというところだろう。

189ぺろぺろくん:2016/12/31(土) 21:33:59
◇猪野健治 『日本の右翼』

思想書に手をのばし始めたころは、ちょうどニューアカの真っ只中で右翼の思想家は
閉め出されていた時期だった。
呉智英を経由して猪野の名を知り、それから実際に本を手に取るのに30年もかかって
しまうというこの魯鈍さはなんなんだろう。
右翼の立派な思想家がこんなにもいたことにまず驚く。
なんといっても、津久井龍男。
>現代の日本の最大課題は……人間が金や物で支配されない社会、逆にいえば金や物が
>人間の上位に置かれない真の人格本意の社会をつくることにある……そのことのため
>にも右も左も協力して闘ってもらうことがなによりだと考えたい
2ちゃんねるの嫌儲板のスローガンではなく、明治生まれの社会主義出身の右翼のイン
テリの言説なのだ。

190ぺろぺろくん:2016/12/31(土) 21:41:40
◇猪野健治 『右翼・行動の論理』

右翼の街宣車に搭載されたアンプとスピーカーは、共産党の音圧に負けないように200万
もする高級オーディオ機器なのだという。
野村秋介いわく、

>政府がビハリ・ボースという革命家をイギリスに引き渡そうとするときに、体を張ってかく
>まったという行為、これが、僕は行動右翼だと思う。

これとおなじことを新左翼の平岡正明はこう言っていた。

>是非を問わずおかくまいいたしやしょう、というのが少数派の節義

右も左もなく、少数派が好きだな。

191ぺろぺろくん:2017/01/01(日) 21:12:19
5月にこれを始めて、190ということは去年は300冊も読めなかったということか。
それもたいして内容のあるものではないから、たるんでる。

◇都筑道夫 - 『ダジャレー男爵の悲しみ』

星新一と並ぶショート・ショートの二大巨頭と言ってもいいのだろうが、その違いは
様式性の有無だろう。
その無意識過剰がツボにはまると、とことん恐い。
こんな初夢はどうだろうか
>そのうち、妙な夢を見た。やたらに高い塀のあいだを、一生懸命に歩いていくのだが、
>どこまで行っても、塀ばかりだ。すぐ前を、大きなチンパンジーが歩いている。その
>前にも、チンパンジーが歩いている。ふかえると、チンパンジーがついてくる。その
>うしろからもチンパンジーがついてくる。私はチンパンジーの列に、ひとりだけまじっ
>て、狭い道をのろのろと歩いているのだった。

192ぺろぺろくん:2017/01/03(火) 21:13:11
◇長部日出雄 『「古事記」の真実』

いつかは本居宣長とがっぷり四に組んでみたいと思いながら、その知的体力がともなわない
ため、こうしてたまたま出くわしたものを手に取るようにしている。
皇室が好きだという人の中で最も良質なのは、こういう人だろう。
>津田左右吉は、武力を用いず、政治の実務に関わらない上代の天皇にあったのは、宗教的
>任務である……としてつぎのように述べた。
>民族のために呪術や祭祀を行い、神と人の媒介をする巫祝(ふしゅく)であったことが、
>天皇を「現(あき)つ神」とする淵源となった。

193ぺろぺろくん:2017/01/03(火) 21:32:10
◇野坂昭如 『マリリン・モンロー・ノー・リターン―野坂昭如ルネサンス〈3〉』

15歳のときには15歳らしくて、35歳のときにはやはり35歳にみえて、55歳に
なったらどこからどう見ても55歳だね!という、一般教の信者にしてその体現者とい
う人もいるだろう。
まあ、一般教というのか普通教というのか、洗脳を自覚しないのも狂気であるというのが
野坂節。

194ぺろぺろくん:2017/01/04(水) 20:52:30
◇野坂昭如 『水虫魂―野坂昭如ルネサンス〈2〉』

極端に改行の少ない文字に埋めつくされた、いわゆる黒い紙面で窒息しそうな文字渦
にもかかわらず、意外とすらすら読めるのがいつもながら不思議。
頭に浮かんだ妄想を逃げられる前につかまえようとすると、このような文体になると
いうことだが、読み手も作者の妄想と駆けっこをしているようだ。

>フロイトを、珍しく全巻読んだのも、自分を奇妙に感じていたからだ

と、別のところで記していた。
筒井康隆もそうらしいのだが、自分はフロイトを全部読もうと思ったことはないな。

195ぺろぺろくん:2017/01/04(水) 20:59:22

◇野坂昭如 『とむらい師たち』

こちらは中篇一つに、短篇四つ。
表題作もそうだが、野坂作品はずいぶん映画化されてるんだなあ。

196ぺろぺろくん:2017/01/06(金) 21:29:01
◇石川 淳 『石川淳短篇小説選』 (ちくま文庫)

やっぱりここに帰ってきてしまったか。
ジャイアント馬場はたいへんな読書家で、何人かの愛好する作家の名前が挙げられ、
その中に石川淳の名があり、玄人好みであるとのコメントが加えられていた。
短篇アンソロジーの中にその名を見かけるたびに、
この人のものを読んじゃうと、自分で書くことがなくなるぞ!と、敬して遠ざけてきた。

>「うなぎ屋の二階にだって、もしかすると、ほんの小さい貝がら一つぐらいにしても、
>幸福のかけらが落ちているかも知れないだろう。」
>「もしかすると、あの女のひとが絞め殺されたのは、うなぎ屋の帰りだったかも知れ
>ないわ。」

たいていの人には、ただの会話文、文字の羅列なのだろうが、これにつまずいてしまった。
山口瞳は、ライオンとオイランの近似には字面が似ている以上の深遠なものがあるのでは
ないか、と語っていたことがあったが、このかみ合わない会話にも同種のものを感じるのだ。

197ぺろぺろくん:2017/01/09(月) 21:10:42
◇石川 淳 『紫苑物語』 講談社文芸文庫

最初からアウトローだった人にとっては、昭和文学にその源泉を探るとやはり石川淳の
諸作品にたどりつくということになるだろう。
個人的には、唐十郎・松浦理英子・中上健次といった人たちを経由して
高度経済成長に抵抗する内なる稚拙大魔王
精神の暗黒大陸
といったテーマに拘泥するようになったわけだが、これは松岡正剛に言わせると
>人間が背負う「負」によって事態を叙述をする
という方法意識らしい。
石川淳の文学を必要とする人がどれほど存在するのかは分からないが、宿命を感じたなら
松岡正剛のこの懇切丁寧な解説を読むといい。
https://1000ya.isis.ne.jp/0831.html

198ぺろぺろくん:2017/01/09(月) 21:21:09
◇内田 樹 『街場の現代思想』

ずいぶん気の抜けたものを読んでいると思われるだろうが、04年だよ。
7,8年前ぐらいまではモニターで内田樹の文章を読んでいたが、さすがにしんどく
なってきたので百円落ちの文庫でいいやと思ったらずいぶん時が経ってしまった。
でも、いま読んでも充分楽しい。

>PCは自分の知っているものしか提示してくれない。
>キャンパスには、そこに行くと「自分がその存在を知らないことさえ知らなかったもの」
>に偶然でくわす可能性がある。

30年ぐらい前の「池袋のリブロ」とか「伝言」がそうだった。

199ぺろぺろくん:2017/01/14(土) 20:30:18
◇小沢昭一 『雑談にっぽん色里誌』 (徳間文庫)

もう20年ほど前か、伝言でもネタにしたことがあったけど、吉原のソープで、その店の
ナンバーワンは54歳だという話を聞いた。
巣鴨や大塚にあるようなソレ系の店ではなくて、若い子も普通に在籍する総額三万円程度
の大衆店だった。
まあさすがに自腹で登楼する気にはならなかったが、今になって思うに、行ってみれば
実に貴重な体験ができたのではないか。

>幸せうすき人が、幸せを売る側にまわる

200ぺろぺろくん:2017/01/15(日) 19:32:52
◇石川 淳 『天馬賦』 (中公文庫)

すっかり石川淳にはまってしまったが、昭和文壇の重鎮でありながら当時から
読まれない大家の代表だったらしく、
>私の読者は推定二千人
と、公言していたらしい。
それは今でも変わりなく、全国で二千人程度の愛読者がいるのではないか。
近所の古本屋でも、石川淳の講談社文芸文庫は確実に動いていて、4,5冊あった
はずの棚が空になっていた。

201ぺろぺろくん:2017/01/16(月) 21:29:36
◇石川 淳 『石川淳長篇小説選』 (ちくま文庫)

『白描』はとんでもない傑作なのはわかるのだが、どこがどう素晴らしいのかは説明できない。
菅野昭正氏の解説をそのまま引き写すと、

>人間が生きる場である世界は、人間にとって優しく親和的であるものではなく、なにか
>生きる拠りどころを求めるエネルギーの運動に敵対して、それを苛酷にも挫けさせる厄介
>な相手なのではないか。

いまの人でいえば、保坂和志がその後裔にあたるか。
一生もののつきあいとなる小説だ。

202ぺろぺろくん:2017/01/19(木) 21:22:54
◇石川 淳 『おとしばなし集』

おもに昭和二〇年代に書かれた、おとしばなし・世界名作文学のパロディ集だ。
山のような教養を抱え込んで生きるとはどういうことか?
時空を超越することである、というのを思い知らされる。

>家がないということは、歌をうたいながら町をあるくということだ。世間の附合
>から追い出されたということは、友だちには犬がいるということだ。

まあ、そういう人。

203ぺろぺろくん:2017/01/27(金) 20:30:41
◇キャロル・オコンネル 『愛おしい骨』

2011年版の『このミス』海外編一位の作品だが、拍子抜けした読者も多かっただろう。
かえっていま読むと感慨深いものがある。

>そこは、半径三十キロ以内に携帯電話の中継塔がひとつもなく、時間と距離が“カラス
>が飛ぶようにではなく、”カタツムリに翼があったなら”という言い回しで計られ、表
>されるようなゆったりとした時が流れるスモールタウンだ。

ドナルド・トランプ支持層の忘れられた街が舞台となる。

>そのみすぼらしさは無関心の現れではなく、それ以上に悪いもの――入念な手入れの結果
>だった。なんの思い出も価値もない割れた花瓶が接着剤で貼り合わされ、炉棚の付属品と
>してそこに残っている。敷物は色あせ、ところどころ禿げかけているが、これはこぼれた
>ものや耄碌した老犬の不始末をごしごしぬぐった結果だ。

トランプ政権とはそういうものだろう。

204ぺろぺろくん:2017/01/30(月) 21:21:42
◇ドン・ウィンズロウ 『犬の力(上)』

朝起きて雨が降っていたら、そのまま仕事をズルけて一日中ハヤカワミステリーを
読み耽っていたら、その一日はなんと有意義なものになるだろう、というようなこ
とを綴っている人がいて、それを実践してみたら一ヶ月以上電車に乗らなかったこ
とがある。
それもかなり若いころ、23の頃。
だからまあなんとも罪深い一文だ。
ひさびさに海外ミステリーを読み耽ってみたくなって、というか積ん読が400冊
ほど貯まっているのもあって、そろそろ読まなきゃ。

205ぺろぺろくん:2017/01/30(月) 21:25:18
◇ドン・ウィンズロウ 『犬の力(下)』

犬は一匹も出てこない。
1970年代から30年にわたるアメリカとメキシコの麻薬戦争のお話。
作者の怒りが、こちらには一向に感染してこないのはなぜなのだろう?
自分の感覚が麻痺しているのか、マーケットが低俗化しているのか、世評の高かった
作品だけに考えてしまった。
面白かったころのウィンズロウからは、ずいぶんかけ離れた作風にちょっととまどう。

206ぺろぺろくん:2017/02/01(水) 21:00:05
◇石井光太 『飢餓浄土』

もらい物だが、東南アジア・アフリカの最底辺ルポ。
なんとも物足りなさを覚えるのは、この貧しさにはなつかしさがないということ。
昔をふり返ると、貧乏な子どもほどなつかしいということがある。
レストラン街などで、「そんな高いのダメ」とか「今日はこっちにしなさい!」とか
言われて、顔をショーウィンドウに向けたまま引っぱられていく子どものなつかしさ、
貧乏は抗えない力というものを許容する。
トランプ積極支持の貧乏白人にはなつかしさを感じるのに、トランプ政権は
>なんの思い出も価値もない割れた花瓶が接着剤で貼り合わされている
としか思えないのと似ているか。
ここで扱われている貧困は、政治的な要因を伴ったものがほとんどなため、通俗性を
帯びているのかもしれない。

207ぺろぺろくん:2017/02/02(木) 20:33:55
◇マイケル・シェイボン 『ユダヤ警官同盟〈上〉』

梗概にも目を通さず、いきなり読み始めるとハードボイルド的なもってまわったような
言い回しが乱発されていて、それ系かと思いきや、歴史改変SFだった。
いまやっと下巻にさしかかったところで、これから面白くなるかな?

>土砂降りの雨の中で傘をさして苦悶しているときに求められる人物になれなかった。
>両親がこうなってほしいと願い息子になれなかった。さらには自分がこうでありたい
>と思う人間にすらなれなかった。

ここを見ている人の大方も人もそうだろうけど、まだあと20年か、30年か続くんだ
よな。

208ぺろぺろくん:2017/02/03(金) 21:26:17
◇マイケル・シェイボン 『ユダヤ警官同盟〈下〉』

結局最後まで、ノレないままで終わってしまった。
「ふるさとの焼きそばはまずかった」の一言のほうが、含蓄がある。
それなりの規模の町だと、自分と同年代の二代目の経営になる、七〇より上の人しか
出入りのない店が、四〇年前のままの生活を堅持している一角というのがあるだろう。
歩きスマホの、頭が年中外出中のヤツらの視界には入ることのないロスト・スペース
というのがある。
日常そのものがある種SF的な側面を許容している、今というときはけっこう貴重な
ものかもしれない。

209ぺろぺろくん:2017/02/07(火) 15:48:11
◇トム・ロブ スミス 『チャイルド44 (上)』

スターリン体制下のソ連を舞台にした王道的娯楽小説。
人類史上でも娯楽に乏しいことこの上ない時代の娯楽小説というのが、なんとも皮肉。
究極的に娯楽に乏しい状況とは、自分がボイスで乱用する、
>てめえのポコチンをおもちゃにするしか楽しみのない状況。
であるからして、そのような時代にはヘンリー・ダーガーのような人の宝庫であるかも
しれない。
もっとも通俗小説であるから、そういう方向へは行かない。
冒頭にある、飢饉にみまわれた村がネコを食用にする場面をクリアできれば、一気に読める。

210ぺろぺろくん:2017/02/07(火) 15:51:16
◇トム・ロブ スミス 『チャイルド44 (下)』

そこそこによくできた通俗小説によくあることだが、後半にさしかかると
○ロマンスの部分を読み飛ばす。
○間一髪の修羅場を読み飛ばす。
○こいつだけはやめてくれと思ったのが真犯人。
だから見方を変えると、そこそこによくできた通俗小説とは、
>小説の不自由を堪能するものでもある

211ぺろぺろくん:2017/02/10(金) 17:26:30
『12人の指名打者―野球小説傑作選』

「ニューヨーク・ジャイアンツvsブルックリン・ドジャース」なんていう時代の、
アメリカ野球小説のアンソロジー。
テレビで毎日「巨人戦」をやっていて、しかもそれが連日の視聴率二十パーセント
超えだったのは、二十年くらい前か。
それよりもはるか昔の、現実よりの野球のほうが大きかった時代だけに、逸品ぞろい。

212ぺろぺろくん:2017/02/11(土) 21:31:56
◇丸谷才一 『快楽としての読書 海外篇』

一週間ぐらいかけてぼちぼち読んでいくつもりが、ほとんど一日中読んでいた。

>若さを失った読者はこの長篇小説を読んではいけない。青春の風がまともに顔に
>吹き付けてきて、息苦しくなるからだ。

パヴェーゼの『丘の上の悪魔』の書評がこんな感じだからやめられない。
この作品を読んだ十代のころは、根岸吉太郎の映画にまいっていたころで、青春の
風に吹き飛ばされることはなかったが、今読んだらどうだろう?
丸谷氏の書評はずいぶん立ち読みしていたせいもあって、取り上げられている作品
の3分の2ほどは既読だった。
それでも熱にうかされて、
『ジャマイカの烈風』と『バカカイ』を、ポチってしまった。
それ以外にもブックマークを20点ほど。

213ぺろぺろくん:2017/02/12(日) 19:58:06
◇松本清張 『北一輝論』 (ちくま文庫)

エンターテイメントでないどころか、入門書ですらないので面食らった。
「北一輝」という名前にロマンを感じる人は今でもいるのだろうが、自分はその向き
ではないので、ずいぶん端折って読んだ。
右翼の頭目・大川周明は北を「魔王」と称し、こう回想する。

>自分自身も其の嘘であることを忘れはて、真実を語る以上の情熱を帯びてくる雄弁で、
>苦もなく聴衆を煙に巻き去るのが常であった。

まあ、よくあるタイプで、上祐とか橋下なんちゃらって人と似てないか?

214ぺろぺろくん:2017/02/13(月) 20:18:14
◇都筑道夫 『キリオン・スレイの生活と推理』

まだ外人さんがめずらしかった時代の、おかしな外人さんを探偵役にした短編集。
山下達郎のラジオを聞いていたら、
>江戸っ子なもんで洒落がきついとよく言われる
といっていたが、都筑道夫も江戸っ子だけに洒落もきつければ下ネタもきつくて、
大笑いしてしまった。

215ぺろぺろくん:2017/02/16(木) 19:50:27
◇トマス・マクスウェル 『キス・ミー・ワンス』

もともとレトロ小説として書かれたエンターテイメントをその30年後に読むと、オタク小説
というか教養小説にもなりうる。

>テリーはニューヨークのユーモア短篇作家デイモン・ラニョンの描く人物たちを全員知って
>いたし、彼らのほうもテリーを知っていた。

86年にはデイモン・ラニアンを知らなかったが、今ではこの描写だけでテリーという人物の
輪郭を把握できる。

リチャード・コンドンや馳星周は明らかに、本作を踏襲しているが、どれを先に読んでも楽し
めることには変わりわない。

216ぺろぺろくん:2017/02/18(土) 21:08:59
◇ゾラン・ドヴェンカー 『謝罪代行社(上)』

シーラッハあたりから、盛り上がっているドイツ・ミステリー。
といっても、ドイツミステリーは数作しか読んでないわ。

うわぁ出た、もってまわった二人称語りに、時間軸の錯綜した複数視点。
こんなこけおどし満載で読み通せるかとビビッたが、だんだん慣れてきた。

217ぺろぺろくん:2017/02/18(土) 21:21:59
◇ゾラン・ドヴェンカー 『謝罪代行社(下)』

乱歩賞あたりでよくあった職業ものかと思いきや、青春群像あり、トラウマ付きの
サイコホラーになったり、退屈はしないが、あまりにもてんこ盛りすぎて、しかも
その個々の要素の掘り下げが浅い。

>おまえの罪をおれがどう思っているかわかるか?おまえの罪はおまえだけのもの
>なんだ。その罪を取り去ることは誰にもできない。おまえの罪など、おれにとっ
>ては無に等しいのだ

キリスト教にドップリ浸かっている人にとってはリアリティーがあるものなのか?
中2病以前の問答に思えるのだが。

218ぺろぺろくん:2017/02/20(月) 21:14:20
◇ジョン・ダニング 『災いの古書』

見え見えなんだけど、読まされちゃうというのは上手いんだろう。
例えば、好きになるのはいつでも人の男や女というタイプがいて、なんだか
悲惨で見ていられない。
どんな悲惨さなのかなかなか喩えづらいのだが、こんなふうに言っている。

>「今まで行ったことのない土地に引っ越すつもり。シアトルがいいかもし
>れない。昔から、雨が好きだったから。いい考えだと思わない?」
>「それであなたが幸せになれるのならね」
>「幸せがどんなものか、わからない」

219ぺろぺろくん:2017/02/23(木) 23:26:20
◇スティーヴ・ハミルトン 『解錠師』

世評が高かったわりには、いろいろと残念な作品。
なんといっても、ラジオライフ版教養小説というのがいただけない。
ピッキングにせよ、サヴァン症候群にせよ、ポケベルにせよ、もうちょっとつっこめば面白
くなるところでスウェーしてしまう。
「金庫を開けるのは女を口説くように云々」の記述があって、例えば今どきのギタリストが
「ギターを弾くのは女を扱うように」と言ったとしたら、それは認知症だろう。
それと同様に、現代作家としての職務放棄とも思える。

220ぺろぺろくん:2017/02/27(月) 21:17:42
◇チャールズ・ウィルフォード 『炎に消えた名画』

驚愕のラスト二行。
滝本誠氏の解説がすばらしく、読後の感興が深まる。
チャールズ・ウィルフォードの自伝によると、

>八歳で孤児になると、次に死ぬのは自分だと早々に認識する。
>人生の見方は現実的になり、夢想として捉えることはない

扶桑社ミステリーの一作だが、呆気に取られたミステリー・ファンも
多かっただろう。

221ぺろぺろくん:2017/03/12(日) 21:34:03
◇チャールズ・ウィルフォード 『マイアミ・ポリス 部長刑事奮闘す』

なんと一週間かかって読んだのはこれだけ。
大将のところの改装を手伝いながら、主夫業にいそしんでいたため、この為体。
その間にも、アマゾンで投げ売りをしている業者があって、100冊ほど買い込んで
しまった。

題名の通りのユーモア警察小説&悪党物語だが、王道を行かないところがいい。

222ぺろぺろくん:2017/03/15(水) 20:13:01
◇チャールズ・ウィルフォード 『危険なやつら』

自分好みの人情話が満載。

マイアミで最も女をひっかけやすい場所はどこか?
>マイアミので一番簡単に尻軽女をひっかけられる場所は性病科だよ。
>ちょっと前に治療したばかりだし、悪い病気を移される心配がない。

まあ、これを「知恵」とるか「人情」ととるかだが……。
こんな危険なネタがずいぶん拾えた。

223ぺろぺろくん:2017/03/20(月) 20:53:11
◇ジャック・カーリイ 『デス・コレクターズ』

サイコ・サスペンスだろうが、著者自身に病んだ部分がないのでスリルがない。
「ほん」ではなくて「ぼん」といっていたのは誰だったか……。
「マンガぼん」、「裏ぼん」、「トンデモぼん」と、侮蔑的に揶揄されるもの。
「サイコぼん」だろう。

224ぺろぺろくん:2017/03/22(水) 21:26:20
◇カール・ハイアセン 『復讐はお好き?』

アホ亭主への復讐話で、540ページ。
まあ、よく読ませるもんだと感心はするものの、キャラクターに肩入れできないと
ちょっと悲惨なことになる。

もうちっとヘビーなものに手を出したいのだが、余裕がない。

225ぺろぺろくん:2017/03/25(土) 21:00:12
◇ゴンブローヴィチ 『バカカイ』

二十世紀初頭生まれのポーランドの亡命作家による短篇集。
テーマは「稚拙」。
「富国強兵」や「高度経済成長」になじめない生理を抱えていることを、稚拙という。
ロックンロールや匿名メディアが登場する以前に、稚拙な人たちはどうやって正気を
保っていたのだろう?と、いつも考る。
〈お勝手ジャングル〉に抵抗する、ロックンロールがここにある。

226ぺろぺろくん:2017/03/25(土) 21:02:32
◇鎌田東二 『霊性の文学 言霊の力』

著者が寺山チルドレンらしき人物なので、買い置いていたもの。
世界的・歴史的に高名な著者が並ぶ中で、「山尾省三」の名があるのが目を引いた。
日本のヒッピー運動の草分け的存在だったと思うが、久々に目にした。

>人の道から「けもの道」に入って行く時、「その距離の二乗に比例するかのように
>人の生理は野性に還る」

公衆道徳の支配の及ばない、伝言・パーティー・初期のインターネットはまさしく、
「けものみ道」だっただろう。
だからいまのインターネットには血が騒がないというのもあるだろう。

227ぺろぺろくん:2017/03/30(木) 20:08:59
◇久世光彦 『百閒先生 月を踏む』

不思議なほどネコにもてて、留守番ネコにまで居つかれてしまっているときがあった。
実生活はかなり荒んでいて、民家のブロック塀にローリングソ・バットを入れて崩壊
させたこと二ケタに乗るほどで、伝言をはじめるちょっと前だったか。
霊感系の人に言わせると
>きみ、それ死相が出ているよ
その数年後、当時のノリのまま、レビック伊藤に直電をしてみたら
>おまえそのうちタチの悪いのにとっ捕まって、シャレになんないことになるぞ!
と、言われた。
内田百閒の幻想譚のリアリティはまさに死への近接で、次元をひとつ余計にもってし
まった者のリアルである。

228ぺろぺろくん:2017/04/04(火) 21:16:35
◇鎌田東二 『霊性の文学 霊的人間』

>>226の続編
賢治、ヘッセ、ノヴァーリス、ウィリアム・ブレイク、ゲーテ、宣長、秋成、篤胤、
足穂、イエイツ、ハーン、遠藤周作
と、いずれもなじみのある名前。
それに加えて、歴史の教科書でしか目にしたことがない『空海」と、以上のメンバー
が霊的人間として取り上げられる。
村上春樹が言っていたけど、小説を書くときには
>作者である自分と、読者、それに『うなぎ』かな、の三人がいる
この『うなぎ』がいるかどうかが、意外と大きい。

229ぺろぺろくん:2017/04/06(木) 19:59:23
◇内田樹 『下流思考』

教育現場が長い人だけに、どれを読んでも示唆を受けることが多い。
反学校神話にはこんな短絡的なものがあるらしく、ギャグではないらしい。

>学校で悪い成績を取ることは人間の価値を高める

少なくとも上位5パーセントに入っていないと、学校を否定する権利は与えられない
と思う自分なんかは、さしずめ「長距離走者の孤独」世代とでも呼ばれるのか。

これは絶対ギャグだと思うのだが、そうではないらしい

>みんなが自己決定している時代なんだから、君もみんなと同じように自己決定しなさい

230ぺろぺろくん:2017/04/07(金) 21:36:38
◇内田樹・平川克美 『東京ファイティングキッズ・リターン』

武術のキャリアもながい人だけあって、得る所が多かった。

>腕を上げるというような動作ひとつにしても、そのために使っていない身体の部分
>があると、「もったいない」という気がしてきた。

語っているのは舞踊ではなくて、合気道です。

>正中線も体重の移動も腰の回転も呼吸も目付も内臓の筋肉も、もう使えるものは総
>動員します。

歳を取っていいことのひとつは、体力の衰えを全身の知力でカバーできるということ
かもしれないと、最近意識しはじめたところです。

231ぺろぺろくん:2017/04/08(土) 18:55:47
◇内田樹 『疲れすぎて眠れぬ夜のために』

>不愉快な人間関係に耐えていると、生命エネルギーがどんどん枯渇してゆきます。

こういう文言こそ、教育方針に折り込むべき。
実際、弁護士や精神科医は老け込むのが早いそうだ。
ナースもやばそうだ。
もっとも、耐えるよりも殴るタイプなので、こっちが不愉快な人間だったのかもしれないが。
いじめを苦にして自殺するよりも、ぶっ殺して法廷に立つ方がやりがいがあるじゃないか。
まあ、ここだから言えることだ。

232ぺろぺろくん:2017/04/08(土) 19:07:15
◇木内昇 『茗荷谷の猫』

往復二時間の電車本と思ったところが、けっこうホネがあって三日がかりになってしまった。

>あの家には、自分の選びそびれた人生がこっそり眠っているように俊男は感じた。取り戻
>そうにも、呼び鈴を押すことすらもうできない。

解説の春日武彦氏が感嘆したのと同じところで、ドキッとしてしまった。
「お互い恋の少ない男と女なんだから仲良くしたら!」
と、上の子から言われて、たしかにつがいの野鳥を見ていると、選びそびれた人生がそこに
あると思ってしまう。

233ぺろぺろくん:2017/04/10(月) 18:52:19
◇宇野信夫 『ここのつの話』

歌舞伎作者として高名だが、自分としてはエッセイになじみの深い人だが、
小説がまた実に良い。
無頼派の作家はなぜか必ず妻帯しているのが不思議だった。
もっとも身内の援助なり内助の功がなければ成り立たないものではあるが、
先日、ラジオでこんなエピソードを聞いて納得した。
菊地寛が相馬泰三に文芸家協会への入会を打診したところ、
>小説家に生活の保護など要らぬ、野垂れ死にするまでだ!
と、きっぱり断り、その妻まで
>そのような夫の態度を立派に思います
と、語ったそうだ。
昭和16年の作『祭りの日』では、
奉公先から迎えの来る日はちょうど神田祭りの日なのだが、迎えはなかなか
やって来ない。
落ち着かない父を祭りに送りだすと、遅れて来た迎えに伴われ奉公先に向か
う途中、汗みずくになり御輿をかつぐ父を見かけると、胸の裡でつぶやく。
>あれでいいんだ、お父つぁんは――。
あれには女性の側の美学という側面も見逃せないだろう。

234ぺろぺろくん:2017/04/10(月) 19:17:06
◇ミカエル・ニエミ 『世界の果てのビートルズ』

ジャケ買いのような、タイトルに釣られて買っておいたのだが、「記憶の共同体」
としてのビートルズ本だ。
生地の近くでは鈴木慶一が友人が訪ねてくるのに、
>フランク・ザッパが聞こえてくる家だからすぐわかるよ!
と言ってたらしいが、あいにく十代前半を過ごしたのは千葉の柏で、ビートルズ
の名前を知っているのがせいぜいで、フーやキンクスのLPを持っているのは自分
ひとりだった。
まさに『世界の果てのビートルズ』だが、一部のお屋敷街をのぞけばどの地域でも
そんなもんだろう。
あと、後半に差し挟まれる「マダム・エドワルダ」ふうの挿入がよかった。

235ぺろぺろくん:2017/04/11(火) 20:59:31
◇古沢和宏 『痕跡本の世界: 古本に残された不思議な何か』

あまりにも見事な加筆ゆえに、オリジナル作品が寂しく思えてしまうほどの
書き込み本。
言ってみれば一点ものだから、それを商売にするプロができたら面白いだろう。
かと思えば、新刊紹介ページの作者名の上に泌尿器関連の用語が書き込まれて
いる。
ちなみに、
赤川次郎の上、「結石」「尿道炎」
平岩弓枝の上、「膀胱炎」「腎炎」
真木洋三の上、「尿路腫瘍」

236ぺろぺろくん:2017/04/13(木) 21:22:18
◇内田樹 『知に働けば蔵が建つ』

内田氏は、世界中どこにいても同じ行動を取る。

>パリ滞在中にはだいたいホテルの部屋から一歩も出ないでパソコンに向かって仕事をし、
>ベッドに寝ころんで成島柳木や夏目漱石や白川静を読み、ごはんは「ひぐま」の味噌ラ
>ーメン」である。
>日本にいるときも、私は一日中部屋から出ないでパソコンに向かって仕事をして、同じ
>ような時代錯誤的な本を読み、昼ご飯にはうどんかラーメンかカレーを部屋でもそもそ
>と食べている。

懇意にしている精神科医によると
>狂いすぎている人は発症しないんです

自分もだいたいそんな感じだし、どおりで相性がいいわけだ。
ウチダ本のストックがなくなったから探してこないとな。

237ぺろぺろくん:2017/04/15(土) 19:28:25
◇ジョー・ヒル 『20世紀の幽霊たち』

スティーブン・キングとは相性が悪くて、映画も原作もまったく恐くならない。
その代表作ともいわれる『IT』も積ん読20年を超える。
その息子はどうかな?と、手を伸ばしてみたものの……。
大人の事情はともかく、東雅夫氏もほんとうにこれをいいと思っているのか?

238ぺろぺろくん:2017/04/15(土) 20:01:20
◇常盤新平 『遠いアメリカ』

30年ほど前に、投げだしたままになっていた本。
直木賞受賞作で、けっこう期待して手に取ったはずだ。
恐る恐る読み返してみると、これがあの常盤新平かと目を疑うような貧乏臭い話。
村上春樹が小説の執筆をはじめたときに、日本語で書き出すと日本文学のカラオケ
をはじめてしまう自分に気がついて、いったん英語で書いてから和訳したという。
日本語で書くことは、地縁・血縁・学閥といったしがらみを引き受けることでもあっ
たらしい。
浅間山荘事件の時に、お父ちゃんやらお母さんが駆り出されてきた、あれだ。
「イエスの方舟」から「オウム事件」を経て、日本語のしがらみから解放されたと
言っていいだろう。
それをもっとも象徴していたのは上祐史浩
>私は六年間セックスをしていません!
やめちまえばいいんだ、そんなもん!という選択肢の発見だ。
いわゆる日本語のしがらみというのは、ヤンキーの人たちの言う
>おちょくってんじゃねーぞ、このヤロー
に凝縮されていることに気がついて、日本語をなめてかかることにしたのだ。

239ぺろぺろくん:2017/04/15(土) 21:31:46
◇常盤新平 『ニューヨーク紳士録』

ニューヨークで活躍した作家・出版人50人のちょっといい話集。
池波正太郎の日記にも
>こういうものを書かせたら天下一品
と記されていただけあって、まさに常盤新平の真骨頂。
ここで邦訳の出ているものはほぼ読んでいるのだから、やはり彼の強烈な影響下
にあったのはたしか。
奇しくも今年の二月には、
ジョゼフ・ミッチェルの『マクソーリーの素敵な酒場』の邦訳が出た。
実に30年目の奇跡。
ウィリアム・マクスウェルにしても、いまやアマゾンで千円ばかりで買える。
一週間もあれば読めるのはわかってはいても、英語で読もうとは思わない。

240ぺろぺろくん:2017/04/16(日) 20:11:27
◇常盤新平 『雨あがりの街』

たまたま常盤新平の小山にぶつかったので、今日も二冊片づけた。
リアルタイムで目にしていたときには、常盤氏のエッセーは山口瞳のエピゴーネンとし
か思えなかったのだが、けっこういいものもある。
十年近く前にBS・NHKでやっていた『木造駅舎の旅』というミニ番組が好きでよく
見ていたが、そこには美少女の自意識を持たない美少女が映っていて微笑ましかった。

>夕方の喫茶店はちょっとおそろしい気がする。なにしろ、オフィス・ガールたちでたい
>ていの喫茶店は満員であり、音楽と彼女たちの話し声で、こちらの神経がまいってくる。
>なぜ喫茶店などでつまらぬおしゃべりをしてるのか。早く帰って、家事の手伝いでもす
>ればいいのに。

天然記念物並みの「おもしろオヤジ」だが、見事なまでに、自分がどれだけおもしろい
ことを言っているかの意識に欠けている。

241ぺろぺろくん:2017/04/16(日) 20:15:38
◇常盤新平 『ニューヨーク五番街物語』

タイトルに釣られて手に取った人の中には、「この本っていつまで経っても男と女が出て
こないんだけど、不良品なんじゃないかしら?」と思った人もいたのではないか……。
唯一、男と女が登場する部分が秀逸。
元ショー・ガールの妻が夫を伴って、つまらないミュージカル・コメディーの初日に訪れる。
芝居の途中で、夫は立ちあがると銃を三発発砲する。
撃たれたのは、妻の元恋人だった。その元恋人は、
>夜ごと彼女をハダカにして、赤いビロードのブランコに乗せて、そのブランコを押していた

上祐史浩という人は、日本ではじめてセックスに勝った男として記録されているが、ニューヨ
ークという街はセックスの敗残者たちの街とも言える。

242ぺろぺろくん:2017/04/18(火) 20:57:05
◇常盤新平 『そうではあるけれど、上を向いて』

まあいつものことであるけれど、肝腎のこれを読み返したいと思っていたやつが
出てこないんだな。『アメリカが見える窓』ていうやつかな……。
未読だったものを5冊読み通してみたところ、アーウィン・ショーの翻訳者という
イメージとはちょっと違った、貧乏話のうまい東北人だった。
「アルト・ハイデルベルヒ」を一晩中なんども読みかえして、涙がこぼれてきてし
かたがなかった国語の若い教師の話がよかったし、

>「あの回転木馬には貧しく生きることの美しさがありましたね」
>同感だった。あの薄暗いドームのなかには平凡に、貧しく、つつましく生きる美し
>さがあった。だから私たちはいつまでも見ていたのである。

もちろん悪いとは思わないが、その美しさの光源は、進歩をやめることのできない人間
の哀しみに持つというところまでは踏み込んでいかないところがどうにも煮え切らない。

243ぺろぺろくん:2017/04/18(火) 21:23:27
◇イヴァン・クリーマ 『僕の陽気な朝』

小学校の4年だった、愛知から千葉へ転入してきた初日、教室の窓から飛び出していったまま
二度と顔を見ることのなかった児童がいた。
女の子に小便をひっかけたことに激怒した父親が、息子の包皮をアロンアルファーでチャック
してしまったためだったという。
そのまま長野の親戚に引きとられたとかで、名前も顔も知らない。
28歳のソープ嬢は、警察官である父親に中学の3年になるまで小便をひっかけられていて、
家出した。
いまでも自宅や父親の勤務先に電話をかけると、こう言う。
>てめえの娘はソープ嬢になってやったよ

幼児的な快楽として小便をひっかける、大魔王の歓びというものがあったことは理解する。
しかし、それをやられた方は、そこで時間が止まってしまう。
強制収容所と秘密警察と密告の陰気な大魔王の支配下のチェコ、どうやって正気を保ってきた
かの物語。

244ぺろぺろくん:2017/04/20(木) 21:24:22
◇ジェイ・マクラーティ 『運び屋を追え』

ローレンス・ブロックばかりではなく、二見文庫といえどもこういう
めっけ物がある、と信頼を置いている書評氏が書いていたのが頭に残
っていてつい手に取ったのだが……。
やられた。
裏表紙のあらすじが一番の読み物とは……。

245ぺろぺろくん:2017/04/20(木) 21:31:18
◇丸谷才一 『低空飛行』

このスレッドをはじめたのが去年の五月一日だから、ちょうど一年で
250冊程度しか読めなかったということになるか。
しかも、甚だ内容の薄いものが目立つ、まさに低空飛行の一年だった
ような。
こんどの時間待ちの友は、丸谷才一。
これもずいぶんあるんだなあ。

246ぺろぺろくん:2017/04/22(土) 21:12:37
◇石垣りん 『ユーモアの鎖国』

石垣りんは自分にとって近くて遠い。
というのは、生活は詩人にして家出主義者ということだろう。

>小学生の頃、貧富の差の激しい生活を構えの外に見せた家々と、そこから出てくる子ども
>たちが同じ教室に集まったとき、私は家を離れてきたそのかたち、子供だけの世界、子供
>だけでつくった一軒の新しい家が欲しい、と思いました。年をとって、夢はなおざりにな
>りましたが、現実の家は私の背に屋根のようにハリツいて離れません。日本人の大多数が
>抱いている家の意識から解放され、一度家を出てみたら――これは私の祈り、私の願いご
>とです。

もう二度と相見えることのない魂がもう一度集まる場所を、おれが小説にしてやるからな、
と心のなかでは誓ったはずなのだが、なかなか……。

247ぺろぺろくん:2017/04/24(月) 21:19:43
◇丸谷才一 『青い雨傘』

丸谷エッセイはその博覧強記ゆえマイナーな人名が飛び交うため、いま読んだ方が
味わいがあるかもしれない。
ネット検索すればズラズラ出てくるし、そのために図書館で人名辞典を引くのは野暮
ったかったからね。

248ぺろぺろくん:2017/04/25(火) 21:37:15
◇富岡多恵子 『厭芸術浮世草紙』

>ナグサミものとしての芸術を拒み、現実そのものに迫ろうとする真にラディカルな
>異色のエッセイ集

と、タイトルと帯タタキが勇ましいわりには内容は一般的というか、若い。
それもそのはずで、著者、28歳頃の作品だ。
このころの富岡多恵子なら、全然恐くない。

>ニホン語は愛をかなでるのにむいているようにはおもえない。

というか、「おまえが欲しい」とか言うと、GS野郎だと思われてしまうところに日本
語の悲しさがある。
というものの、それはGSが悲しいのか、日本語が悲しいのか?よくわからない。

249ぺろぺろくん:2017/04/27(木) 19:51:06
◇森 達也 『東京番外地』

この人の本は内容が追っついていかないことは承知の上で、ついつい手に
取ってしまう。編集部のタイトルの妙とういうのもあるが、なんといって
も最高だったのは『職業はエスパー』。

東京ディズニーランドの建設地として舞浜のほかに候補に挙がったのは、
清水、御殿場、川崎、横浜
それに加えて「リンちゃん事件」の死体遺棄現場となった我孫子市も含ま
れていたという。
谷津遊園のあとにディズニーランドができるという夢物語は、小学生のころ
から聞かされていた話なので、てっきり既定路線だと思い込んでいたがそん
な紆余曲折があったとは。
でも、我孫子だったらおもしろかっただろうな。
松戸競輪と取手競輪のあいだにディズニーランドとは素敵じゃないか。

250ぺろぺろくん:2017/04/27(木) 21:11:45
◇嵐山光三郎 『桃仙人』

師弟の関係というのはつくづくいいものだと思い返したところで、師弟ものが読み
たくなって、嵐山と深沢七郎の師弟。

>オヤカタ(深沢七郎)が素晴らしいとほめるシャツやズボンや靴は、どこがいい
>のか、ぼくにはさっぱりわからないのだ。
>オヤカタはダンディな服は大嫌いだった。ヨーロッパ調のブランド品が嫌いなのは
>わかるとしても、ロカビリー調やヤンキーの派手な服を嫌う。赤シャツは好きなの
>にアメリカ調を好まない。ならば和風の渋い地味めの文人流が好きかというと見向
>きもしない。
>一緒に町を歩いていて、オヤカタが、
>「あの服いいじゃねえ」
>というものはすぐに買ってしまった。それは、泥くさい茶色の格子縞柄で、どこが
>いいのかわからず、買って着てみるとひなたくさい痒さがあった。その痒いぬるみ
>のなかにオヤカタの好みの正体が眠っているようだった。

自分も野蛮児だったころに、人の着ているオーバーを燃やしてしまったことがあった。
えんじ色だったり、白とグリーンの織り込みだったり、アメコミの表紙みたいなもの
だったり、燃やされてしかるべきものだった。
もしかしたら、オヤカタからしたら
>「あの服いいじゃねえ」
というものだったかも。

251ぺろぺろくん:2017/04/28(金) 20:43:11
◇カトリーヌ・アルレー 『21のアルレー』

悪女もので知られたフランスの女流推理作家。
言わずと知れた『わらの女』以来、30年ぶりぐらいじゃないかな、この著者のもの
を読んだのは。
意外や、軽い話にいいものがあって、「雌鳥と死」
第二次大戦下のフランス、8歳の少年は祖父母の元で暮らしていた。
ある日祖父が雌鳥を携えて帰ってくる。
いざ、そいつをしめてボイルドにしてやろうとすると、猛然と逃げまわりココッココッ
と大声で鳴いた。そこで少年が訊ねた。
「この鳥、なんて名前にするの?」
それからこの雌鳥は11年生きることになり、祖父が亡くなったあとも、雌鳥はココッ
ココッと、祖母に話しかけ、それはいつまでも続いた。
>10年も一緒にいてまだ喋ることがあったなんて、おれは今でもそれが不思議だ。

さすがに短篇でも悪女ものは冴えていて、恋人の不貞を電話料金の明細の中に見つけた女
は、局にかけると担当職員が出て、語数に間違いはないでしょ、と電文を読み上げる。
局員にとっては語数がすべて、電文の意味はどうでもよかった。
>愛の言葉は、自分に向けられていない時にはまるで硫酸と同じ。肉を焼き骨をくさらせ、
>脊髄までむしばんで生命のもとを犯してしまう。

まあ次の30年後はないだろうから、アルレーを読むことはないのだろうが、なかなかよかった。

252ぺろぺろくん:2017/04/29(土) 21:37:29
◇佐藤雅彦 『毎月新聞』

これ文庫新刊で買ったのだが、やはり読了はその8年後となってしまう。
途中80ページほどで投げだしたあとがあった。
それも納得なのは、冒頭第一話の「じゃないですか禁止令」の出来が出色すぎるのだ。
98年当時、私って〜な人じゃないですか、私たち〜て、〜じゃないですか、といった
類の一般論に仮託した主体回避の言説が蔓延したことがあった。
自分はそれに抗すべく、正露丸の口調を真似て

>一般論に悶絶してください

と、切り返すことにしたんだ。
まあ、おかげでずいぶん作らなくてもいい敵が増えたとは思うが。

253ぺろぺろくん:2017/04/30(日) 18:35:23
◇パーシヴァル・ワイルド 『検死審問』

チャンドラーが賞賛した数少ないミステリー小説のうちの一つ。
プリーストリーの『夜の来訪者』などと同様、再読、三読のたびにその魅力を増す
ものだが、どうにもそうするだけの余裕がない。
あんまりガツガツしないで絞って読んだほうがいいのだが、その選択眼に自信がな
いものだから、結局手当たり次第ということになってしまう。

254ぺろぺろくん:2017/04/30(日) 18:43:03
◇内田 樹 『街場の大学論』

ブログからの寄せ集めなだけに、これはあまり内容がない。
卓見だったのは、

>今日、社会的上位者には教養がない。かわりに「シンプルでクリアカットな言葉遣いで、
>きっぱりものを言い切る」ことと「自分の過ちを決して認めない」という作法が「勝ち組」
<の人々のほぼ全員に共有されている。別にこの能力によって彼らは社会の階層を這い上が
>ったわけではない。たまたまある種の競走力を伸ばしているうちに「副作用」として、こう
>いう作法が身についてしまっただけである。

自分らの世代でいえば、「ガッツ君とガメツイさん」なわけだが、一般的な言い方をすれば、
ただの「駄々っ子」だろう。
卑近な例を挙げれば、今村雅弘だろう。

255ぺろぺろくん:2017/05/02(火) 19:59:17
◇パトリック・マグラア 『血のささやき、水のつぶやき』

89年の翻訳出版。この年はグロの当たり年でメアリー・ゲイツキルの『悪いこと』
の衝撃があまりにも強烈だったため、しばらく失念していたのを春日武彦氏の賞賛で
再注視、入手したもの。
アマゾンの商品説明によると、「米英でベストセラー」ということだが、目を疑うこ
とになるだろう。
しかし魅力的なストーリーであることは確か。たとえば、「失われた探検隊」は

>雨の多かった十二歳の秋、ロンドンの自宅の庭でイブリンは行方不明の探検隊を見つけた。

で始まり

>イブリンが十四歳半になる頃――ちょうど彼女が医者になる決心をしたとき、イブリンの
>人生から探検隊は完全に姿を消した。

で終わる物語。やはり、その中身が気になるでしょう。

256ぺろぺろくん:2017/05/02(火) 20:11:39
◇内田樹・高橋源一郎選 『嘘みたいな本当の話 みどり』

収録作の採択の規準は高橋の「あとがき」が適確に表している。

ある大学の主催で「エッセイ大賞」の公募が行われた。
大賞に選ばれたのは、父を亡くし刻苦勤勉に粉骨砕身する女子高生のエッセイだった。
しかしその授賞式は、混乱のるつぼに陥った。
受賞者の女子高生がひとりの男性を伴って会場に現れると、こう言った。
「父です!」

受賞は取り消され、この「エッセイ大賞」自体が一回こっきりで消滅してしまったという。
エッセイにウソがあってはならないというのではなくて、「貧乏」と「人の死」というも
のに対して星菫派であるという、貧しい感性を露呈してしまう。
日本の社会的上位者は無教養であると内田氏は断じていたが、そればかりではなく最悪の
センスの持ち主でもある。
まさに日本版ナショナル・ストーリー・プロジェクトというべき逸話であった。


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