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【場】メインストリート その5
1
:
ようこそ、『黄金町』へ
:2015/12/30(水) 23:59:05
住宅街を南北へ抜ける、『黄金町』の大動脈。
アーケードの下には様々な店舗が並ぶ。
道幅は広く、平日は人通りも少なく見えるが、
様々なイベントが催される祝日・週末には、
ちょっとした祭りとなり、人並みが押し寄せる。
―┘ ┌┘ ◎
―┐ S湖 ┌┘ ┌┐ 住 宅 街
│ ┌┘ .┌ ..│... ∥
┐ │ ┌ ┌┘ ∥←メインストリート
│ │ ┌ │ ∥
┐ │ ┌ ┌.. 黄金原駅
│ └─┘┌― ┏ ━■■━ ━ ━
━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ┛
│ └―┐黄金港 繁華街
└┐ ┌――┘
─────┘ └――――――――――――
太 平 洋
前スレ:
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/netgame/9003/1424962526/
2
:
小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』
:2016/01/09(土) 00:27:46
(……ダメね。)
憂鬱そうな顔をして小鍛治は歩いていた。
最近、調子が悪い。
イライラしている。それに集中できない。
(なんでかしら。栄養足りてない?)
そしてその悩みがまた自分の集中をそいでいく。
悪循環。
(あら。雨ね。)
気付けばポツリポツリと雨が降ってきていた。
冷たい。
洗濯物が濡れてしまうな、と心のどこかで思う。
(強くなってきているわ。)
どんどんと強くなる雨脚。
しかし、小鍛治は雨宿りをしにいくでもなく。
ただ、ぼうっと立っていた。
3
:
高天原 咲哉『ウィーピング・ウィロウ』
:2016/01/11(月) 01:19:31
>>2
ふ、と小鍛治の頭上に陰が差す。
小柄な青年が、隣に立っていた。
撫で肩で、背格好も小鍛治と変わらないほど。
「お姉さん、おひとりさん?」
ナンパをするような軽い調子で、翳した傘を小鍛治の方に傾けている。
4
:
小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』
:2016/01/11(月) 01:33:21
>>3
(こうやって雨に打たれるのも久しぶりね。)
傘は持たない。
傘は差さない。
それが小鍛治明の流儀である。
「……あら。」
自分の体を濡らす雨がやむ。
しかし晴れ間は見えない。
頭上には傘。
「えぇ、一人よ。今はあなたと二人だけど。」
「あなた、優しいのね。」
そう言って軽く微笑む。
艶やかな黒髪が雨にぬれ、しずくが髪を伝って地面に落ちる。
小鍛治はそんな自分の状態に嫌な顔一つせず涼しげに笑う。
「でも、傘はいらないわ。」
ぐいっと手で傾いた傘を高天原のほうに傾ける。
自分だけ雨に当たろうとする。
「ところで、一人だったらなに?なにか御用かしら?」
5
:
高天原 咲哉『ウィーピング・ウィロウ』
:2016/01/11(月) 01:46:08
>>4
「そりゃあ、美人が雨の中で傘も差さずに立ってたらさ」
ワケありか、とも思ったが、そういう事ではないようだ。
胸を撫で下ろす。
「ナンパしなきゃあウソだろ! ……って、おお、っと」
押された傘をいなして、どうにか小鍛治の頭を覆うように試みる。
「……いやいや、風邪引くって! マジで」
水の滴る様に、時折見惚れながらも。
6
:
小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』
:2016/01/11(月) 01:56:56
>>5
「美人だなんて、嬉しいこと言ってくれるじゃない。」
「ありがとう。」
「でも……」
もはや黒い塊と化している髪をかき上げる。
服は体に張り付いている。
だがやはり小鍛治は気にしない。
「ナンパをしてるような人、誰にでも言うんじゃなくて?」
「私、信用できない言葉は嫌いよ。」
整えられた眉がすこし歪む。
口元は緩んでいるが弧を描くそれは微笑んでいるというよりも
あざ笑っているともとれる笑みを生み出している。
「好きで濡れてるからいいのよ。」
「別に風邪引いたって心配する人もそうそういないし、心配される歳でもないわ。」
「……」
少し間があっていたずらっぽく笑う。
「ねぇ。『俺が心配するんだよ』って言おうと思った?」
「それとも、今この場で言ってみる?」
7
:
高天原 咲哉『ウィーピング・ウィロウ』
:2016/01/11(月) 02:14:19
>>6
「うぉっ……」
掻きあげる仕草に、視線を逸らす。
軟派を気取ってはいるけれど、実際そういうのにはてんで弱い。
「? あったりまえッスよ」
小鍛治の問いには、首を傾げた。
『君だけだよ』と器用に口説けたなら、また別の人生もあっただろうが……
「美人だ、って思ったら、誰にでも言うよ」
微笑み返す。
小鍛治の含みのある笑みに対照的な、軽薄そうな笑みだ。
「つーわけで、喫茶店に誘うか、どこかの駅やバス停まで送るか……
いずれにせよ、俺としちゃあこのまま放置ってのは、無い選択なんだけど」
>「ねぇ。『俺が心配するんだよ』って言おうと思った?」
>「それとも、今この場で言ってみる?」
「あ、言ったらドキッとする? ……とりあえず、これ使いなよ」
ハンカチを手渡す。
8
:
小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』
:2016/01/11(月) 02:26:51
>>7
「?なにかしら。」
「気になるものでもあった?」
くすくすくす。
手を口に当てる。
笑い声を自分の中に戻してしまうために。
「そう。あなたそういう人なのね。」
「分かったわ。面白そうな人ね。えぇ、あくまで面白そう、だけど。」
「素直なのはいいことよ。」
>「あ、言ったらドキッとする? ……とりあえず、これ使いなよ」
差し出されたハンカチを手に取る。
が、軽く手を拭いただけで突きかえす。
「ドキッとなんてしないわ。今のあなたじゃあね。」
「あなた……名前なにかしら。まぁ、あなたがいいなら『あなた』と呼ぶけど。」
名前を問う。
問うてから視線を外す。
思案。考える。なにか、忘れてはいないか。
人に何者か聞く前になにか。
コ カジ アキラ
「私は小鍛治 明。」
「あなたとここで問答するのも面倒だし、どこか連れて行ってもらおうかしら。」
顔は笑っているし、落ち着いているが心のどこかでイライラがまだ収まらない。
集中もきっと昔ほど出来ないだろう。
もうどうにでもなれ、といった投げやりな感情とは違うが、どこか他人任せにやりたいという気持ちがあった。
「私18だから、ホテル以外でね。」
そう言ってまた笑った。
9
:
高天原 咲哉『ウィーピング・ウィロウ』
:2016/01/11(月) 02:40:54
>>8
「ン? まっ、気になったから声かけたんスけどね」
はぐらかしながら、つれなく突き返されたハンカチをポケットへ。
なんというか、危うい、と思った。
「高天原 咲哉。サクちゃんでもタカぴょんでも、好きに呼んでくれ」
自棄になっている……というほどではなさそうだし。
刹那主義……にも見えない。
理知的で、大人びた印象を受ける……はずなのに、何かが危うい。
>「私18だから、ホテル以外でね。」
「ぶッ……」
噴き出す。
面食らった。成功するとは思ってもみなかったが、それどころか。
「……あのさ、ナンパした俺が何か言えた義理じゃねーんだけど」
「そういうの、マジモンのナンパの時には言わない方がいーよ」
歩き出す。―――ネオンストリートの方向だ。
10
:
小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』
:2016/01/11(月) 02:57:26
>>9
「高天原、珍しい名字ね。」
「うふふ。言われすぎて飽きてしまった言葉だったかしら?」
高天原の考えなど知らない小鍛治は、自分の思う小鍛治明でありつづける。
黒のロングスカートを揺らし、高天原の隣に移動する。
>「そういうの、マジモンのナンパの時には言わない方がいーよ」
「そう。こういう言い方はかえって煽ってしまうかもしれないわ。」
「私、男の人には力で勝てないわ。」
当然だった。スタンド使いではあるが、小鍛治自身はただの女性で
とてもではないが男に勝つことなど不可能に近い。
そういうものだった。
至極当然のことだと小鍛治は語る。
「そうね……呪ってしまったりなら出来るかもしれないし……」
小鍛治の手の中で一丁の銃が生まれる。
鞘の付いた不思議な銃だった。
どこか古めかしさを感じさせる銃だった。
しかしそれを小鍛治はすぐに消してしまう。
「蜂の巣には出来るかしら。」
「うふふ。それで、どこに連れて行ってくれるのかしら?」
「あなたの足、ネオンストリートに向かっているみたいだけど。」
言葉の割りに逃げようともせずついていく。
11
:
高天原 咲哉『ウィーピング・ウィロウ』
:2016/01/11(月) 14:50:03
>>10
「そーね……名字の方で呼ぶヤツは、あんまいねーかなぁ」
珍しさを肯定する。
おまけに、ちょっと言いにくかったりもするのだ。全部あ行だし。
「そーそー、火に油っていうか?
ヤることしか考えてないヤツは、『なんとしても』って思うし。
マジで悪いヤツは、『ホテル以外なら』つってカラオケとか車とか……、」
言葉を止め、ギョッとする。
銃だ。攻撃をする、人を殺すための武器を手に持っている。
スタンド使い。の、女。即座に理解する。
同時に色々と得心した。『スタンド使いの女』には、軽いトラウマすらあるくらい縁がある。
「…………けど『そうならない』のが一番良いわけじゃん?」
が、傘を持つ手は引かない。
「やられてもやり返せるとしても、やられないで済むなら、その方がさ」
「まあ、そういう意味で安心してくれていーぜ。
なにせ君に腕力で勝てる自信がこれっぽっちもねえ」
>「うふふ。それで、どこに連れて行ってくれるのかしら?」
「ン? んー……そうね」
少し考えて。
「ラブロマンス、SF、コメディ、ドキュメンタリ……どれが好き?」
立ち止ったのは、くたびれた映画館だった。
いつから貼り替えてないのか、紹介ポスターは角が折れ、所々黄ばんでいる。
家屋かと見まがうほど小ぢんまりした、縦長の壁のはるか上、
英語の店名が書かれた看板が、ネオンのライトによって光っている。
12
:
小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』
:2016/01/11(月) 23:12:30
>>11
「そう。じゃあ、名前で呼んであげる。」
「私のことは好きに呼んで。」
「ふざけた呼び方したら、返事しないけど。」
そっけない。
興味がないのだろうか。
「うふふ。そう。ご忠告ありがとう。」
「あなたがカラオケや車に連れ込まないことだけを祈ってるわ。」
「まぁ、あなたが私に腕力で負ける、といううのは信用が出来ないことだけど。」
「そうは思わない?高天原君?」
映画館に着くと小鍛治は少し自分の頬が緩んでいることに気付いた。
なにを笑っているのだと少し自分にイライラする。
不愉快だ。自分すらも。
「そうね……あなたにお任せしようかしら。」
「自由に選んで……でも、漫画原作の実写映画はあまり好きじゃないわ。洋画なら別に構わないけれど。」
「邦画のそれは好きになれないの。」
自由にと言った舌の根の乾かぬうちに不自由で相手を縛る。
自分勝手。マイペース。
それだけだった。
「一応言っておくけれど、あなたのあげてくれたジャンルはどれも嫌いじゃないわ。」
13
:
高天原 咲哉『ウィーピング・ウィロウ』
:2016/01/12(火) 00:25:33
>>12
「あー……まあ口じゃあ何とでも言えるからなぁ……」
その点について、信用を得るのは難しい話だ。
「まっ、少なくとも映画館みたいな公共の場所じゃあ何もできねーって」
プログラムには、アニメの実写化のようなタイトルはない。
演目も少なく、聞いたこともないようなマイナーな作品ばかりだ。
おそらく、個人が趣味で運営しているような映画館なのだろう。
「じゃあ、これ」
特に悩みもせず、ロマンスを選ぶ。
「あとタオルと、毛布と、ポップコーンとコーラを二つずつ」
14
:
小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』
:2016/01/12(火) 00:36:46
>>13
「そう。何も出来ない。その言葉、信じるわ。」
「映画を見ている間だけね。」
「裏切ったら、どうなるか分かるわよね?」
すっと人差し指が高天原の口元へとのびる。
白い肌は雨に濡れた冷たさからか血の気が引いたようにも見える。
死体のような、冷たく、硬い色。
「ありがとう。」
タオルなどを受け取りつつ、謝辞を述べる。
「あなた、ここにはよく来たり、よく映画を見たりするのかしら。」
「好きな映画とかあるの?」
「私はあれが好きよ。レ・ミゼラブル。元はミュージカルだけど。」
15
:
高天原 咲哉『ウィーピング・ウィロウ』
:2016/01/12(火) 00:50:49
>>14
「う、うっす…」
人差し指に、びっくりしたように固まる。
何かとんでもない約束を、結ばれてしまったような。
「映画……まあ、そうね。好きっちゃ好き、って感じ」
あまり熱のこもっていない声だ。
「ミュージカルは好きだぜ、見てて退屈しないし……
『天使にラブ・ソングを…』とか、破天荒で好きだな」
「それよりも、この映画館が好きなんだよ。
あったけーし、座り心地いいし、人も多くないし。
ちょっと時間潰したいときに、もってこいなんだよ。映画」
トレーに注文したものを受け取り、上映シアターへ。
16
:
小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』
:2016/01/12(火) 01:06:09
>>15
「好きっちゃ好き……そう。」
つまらなさそうに小鍛治は呟く。
すすめられるようなものがあるのなら試してみるのもいいかとも思ったが
そういうことなら仕方がない。
「『天使にラブ・ソングを…』……名作の一つね。」
「とっつきやすいモノだと思うわ。」
うんうんと頷く。
そしてちらりと横目で高天原の顔を見る。
別に何か気になったわけではないが、そういう気分であった。
「いいんじゃない?安心できる空間があるっていうのは。」
(私にはそういうのないものね。)
しかし別にうらやましいとは思わない。
小鍛治にとってはあまり重要ではない事項であった。
「どんな作品かしらね。」
そういってシアター内の席に着く。
17
:
高天原 咲哉『ウィーピング・ウィロウ』
:2016/01/12(火) 01:28:19
>>16
「まあ、あれだよ。いわゆる『みんな好きそうなやつ』が好きってやつ」
自信の嗜好について、そう評した。
「小鍛治さんは、………」
ビーーーーーーー……
その先は上演開始のブザーで紡がれた。
ナンパと言ったわりには、会話も出来ず、じっと座っているだけの場所。
始まったロマンスは、よくある一世代昔の悲恋だった。
身分違いの恋の苦悩だったり、すれちがいだったり、ありきたりな劇的展開が続く。
ポップコーンも飲み物も、不味くはないが、平凡だ。
館内は、暖かい。濡れていた髪や服は、そのうち乾くだろう。
そのままフィルムを眺めていれば、勝手に時間が流れてくれるだろう。
メタ的に言えば、何もしなければ次のレスにはスタッフロールということだ。
18
:
小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』
:2016/01/12(火) 01:45:05
>>17
「いるわね、そういう人。」
「没個性とは言わないけど、それが個性なのよね。」
「私は……」
> ビーーーーーーー……
「うふふ。まるでロミオとジュリエットね。」
冗談だ。
心からそんなことなど思ってもいない。
ただ他者の力で強制的に会話を切り上げさせられたこの状況を
そういう風に見立てただけ。
小鍛治の心は少し空虚であった。
(ああ―――面白くなくはないけど、退屈ね。)
(この箱の中の人たちは必死にこの世界を生きているのに……)
(まるで他人の人生を見ているようで。)
(自分のことじゃあない、自分の箱にないものはなんて退屈なのかしら。)
じぃっと映画を見ている。
身じろぎ一つしない。心も体もすこしも動かない。
(でもなんでしょうね。この予定調和が、このありきたりが安心できる。)
(何一つ、予想を超えるものがなくて、刺激はないけど、これはこれでいいわね。)
高天原のほうに手を伸ばす。
映画から目は逸らさない。
高天原の手の甲を白い指がなぞる。
『い ま い ち』
純粋な感想だった。
直にエンドロールだろう。
19
:
高天原 咲哉『ウィーピング・ウィロウ』
:2016/01/12(火) 02:00:17
>>18
つまるところ、『当時としては名作だった』。
そんなレッテルで片付けられる作品だ。
『い ま い ち』
「……、…」
無言のまま、気まずそうに苦笑を返す。
ビーーーーーーー……
「……まあ、こんなもんっしょ」
感想を濁す。
違う意味で、あっという間の二時間だった。
「主演の女優は、ちょっと美人だったかな」
「小鍛治さんの方が、だけど」
席を立つ。いやにあっさりしたデート(?)となってしまった。
20
:
小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』
:2016/01/12(火) 02:09:23
>>19
「……高天原君。」
「映画が終わってすぐに口説き文句なんて無粋じゃあなくて?」
「まぁ、その言葉はありがたく受け取っておくけれど。」
席を立ち、つかつかとシアターをでる。
長居をするような場所でもないし、したい場所でもない。
「あなた、何もしなかったわ。信じて正解といった感じね。」
「軽薄そうに振舞っているけれど、手を繋ごうとも思わない。」
そんなことをさせないように釘を刺したのは他でもない小鍛治自身だ。
「言いつけを守ったのね。あなた、ほんのちょっぴりだけど信用できる人だわ。」
「雨、止んできてるみたいね。」
不意に外を見つめてそういう。
確かに雨脚は弱くなっているようであった。
「……今日はありがとう。」
「暇は潰れたわ。」
21
:
高天原 咲哉『ウィーピング・ウィロウ』
:2016/01/12(火) 21:11:32
>>20
「うへぇ、手厳しい」
やや大げさに顔をしかめ、トレー片手に小鍛治の後に続く。
「何もしなかった……男としちゃあ誇っていいのか分かんない評価ッス」
小鍛治の称賛を素直に受けとめず、自嘲気味。
裏を返せば、『手を出す度胸もなかったチキン』だ。
良い人止まり。ナンパとしては当然、失敗になる。
それはまだいい、それよりも。
「でも、まだちょっと降ってるな」
外を見て、不満げに呟く。
自分では、『晴らす』には役不足だった。
刺激的な何かを提供できたわけでもなく、
雨脚を弱めるまでの時間稼ぎが関の山だった。
この分では、彼女はまた雨の中を行くことになる。
自己採点は、けっして高くない。
「……小鍛治さん」
なので。
「これ。貸すよ」
「次に会う時に返して」
せめて傘を渡す。
男物の、木製の柄と、青と黒の縞柄。
22
:
小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』
:2016/01/13(水) 00:14:29
>>21
「私、あなたみたいな人の方が好きよ。」
「好き勝手する人よりも全然、ね。」
小鍛治は高天原をそう評価した。
裏などない。
小鍛治にとっての正当な評価だ。
「降ってるわね。」
漫画や小説なら止んでいるシーンか、と思う。
だが現実は作り物とは違う、全てがそう上手くできてはいない。
先の展開が読めそうな映画の後には先の展開の読めない現実が待っていた。
「……傘?」
「私、傘差さない主義なのよ。」
「だから濡れていたのだし。」
つっけんどん。
傘を貸そうとしてくる高天原に言う。
傘は差さないと。
そしてそれが自分の流儀であると。
「まぁ、そうね……この傘が次はもっと楽しい出来事を呼んでくれるのなら、借りてもいいわ。」
23
:
高天原 咲哉『ウィーピング・ウィロウ』
:2016/01/13(水) 22:36:32
>>22
「うん、ありがとッス」
相手の評価は、純粋に嬉しく思う。
それがどんな心算で言われたものだとしても、だ。
低いのはあくまで、自己の評価の話。
「小鍛治さんの主義にケチつけるってワケじゃあねーんス。
俺が、女の子を雨の中に放り出すようなやつになりたくないってだけで」
「そんな男にしないで欲しいんだけど」
「つまりまあ、こっちの我侭だな。頼む、借りてくれ。
楽しませられるかは自信ないけど、次までにもうちょっと勉強しとくよ、映画」
そういうわけで、押し付けるように傘を手渡し、小雨の中を走って帰るのだ。
24
:
小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』
:2016/01/13(水) 23:15:35
>>23
「うふふ。」
「それはあなたの事情よ。」
走り去る高天原の背中を見つめる。
口元には笑みを目元には冷たさを携えて。
空を見上げる。
また雲に覆われ太陽の姿は見えない。
「濡れてこその雨で。」
「濡れてこその私なの。」
なにもかもが自分を表現する材料だ。
少なくとも小鍛治は、いま自分を変えようとは思わなかった。
(さぁ、帰りましょう。)
一歩一歩、踏みしめながら小鍛治は歩く。
傘を手に持っているが、それをさすことはない。
その顔はどこか満足そうで、誇らしげであった。
25
:
葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』
:2016/01/14(木) 23:35:59
新学期。晴れの日。
通学路を歩く、ぴかぴかのスクールバッグを持った少女。
彼女は、個性的だった。目立っていた。
「………………」
フン フン
無言から発される、妙な気合。
それはこの少女の――穂風の学園への意気込みだった。
(どうしよう、どうしよう。
私、『女子高生』なんだ。通学、してるんだ……)
トトト
トト
容姿も個性的だが……
それ以上に。憂鬱な朝において、その姿勢が個性的だった。
・・・・通学路を進む。
26
:
流星 越『バングルス』
:2016/01/15(金) 01:13:54
>>25
(……はて)
毎朝の通学路。
さして変わり映えのしない道。
秋映なんて生徒の入れ替わりもほとんど無いのだから、通学路で見かける顔もあまり変わらない。
(……はず、なのですが)
しかし、目の前で歩いているのは、見かけない少女。
見かけない赤い髪。そして、同種の存在をあまり見かけないと言う意味でも見かけない、妙なやる気。
「……ごきげんよう」
興味をそそられて、声をかける。
尾のような栗毛の三つ編みを揺らしながら、テトテトと早足で横に並んで、声をかけるのだ。
赤ブチの眼鏡越しに送られる冷たい視線。これは、生まれつきだ。
「というより、ゴキゲンそうですね。
なにかハッピーなことでもありましたか? 宝くじ一等賞?」
27
:
葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』
:2016/01/15(金) 01:30:53
>>26
サイドテールに結った赤い髪。大きな黒いリボン。
赤黒の丸い目に、特別な美人ではないが愛嬌ある顔立ち。
新品の学生服に包まれた細い体、ふくよかな胸。
間違いなく、秋映学園では、見かけない顔だろう。
・・・・逆に。
「あっ」
「ど、どうも。ええと。
あの、おはようございますっ。」
穂風も、初めて見る顔だった。
小さく頭を下げて、挨拶する。
(この人……『高等部』、なのかな……
どうしよう、もしかしたら同級生、かも……?
それとも、『先輩』かもしれない。どうしよう。)
「は、はい。ご機嫌……です。」
ニコ
穂風は笑顔を浮かべる。
隠す必要はどこにも、ない。
「えへ……あの、ええと。
この学校に、入れたから、それが。」
「嬉しくて……あの、
私、今日から秋映生なんです!」
冷たい目線は、それほど気にならない。
トト
ト ト
歩くペースを少し落とす。
だれかと一緒に登校するなんてのも、もちろんはじめてだ。
28
:
流星 越『バングルス』
:2016/01/15(金) 01:45:04
>>27
「はて」
「あ、それはそうと話のつかみのために『ごきげんよう』と言いましたが、やっぱり朝は『おはよう』ですね。
というわけで改めまして、こちらこそおはようございます」
歩きながら、軽く頭を下げる。
歩くペースは相手に合わせ、少しゆっくり。
着ている制服は高等部のものだ。お互いに。
改造制服の多い秋映では、むしろ珍しい部類と言えるかもしれない。
「おほん」
「……ともあれ、転入生の方ですか。
それはそれは、転入おめでとうございます。
この誉れも高き秋映学園高等部一年、流星越(ながれぼし・えつ)が僭越ながら歓迎の言葉を述べさせていただきましょう」
流暢に、ぺらぺらと。
冷たいまなざしのまま、にこりともせず言葉を紡ぐ。
「しかし学校に入れたから嬉しい、とは……なにか秋映に憧れる理由でも?
先祖代々秋映への入学を望むも毎度何らかの理由でその夢を阻まれ、泣く泣く土を持って帰った一族の末裔とか、そういう話でしょうか?」
29
:
葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』
:2016/01/15(金) 02:09:32
>>28
「…………」
(な、何だか、変な人……?)
コク
なんとなく頷く穂風。
「……あっ、は、はい。ありがとうございます。
流星、さん。あの、私……葉鳥穂風(はとり ほふり)っていいます。」
ペコ
「それで。私も、その。
一年生、なんですっ! あの、同学年、ですね。えへ。」
(機嫌……悪い、のかな。
でも、それなら話しかけてこないよね。)
一年生と一年生、同学年。
笑顔が浮かぶが、にこりともしない流星に、それは少し曇る。
ト ト
ト ト
「あ・・・・・ええと。」
「いろんなことが、楽しみ、で。
学校って、いろんなものがあるし、それで……」
「先祖とかは……関係ない、です。」
学校。穂風が知るのは断片的だが――それも楽しみだ。
これから、どんなことが待ち受けているのだろうか。
「……あの、流星さんって、部活とか、してるんですか?」
・・・・部活も楽しみの一つだ。
30
:
流星 越『バングルス』
:2016/01/15(金) 02:33:15
>>29
「おや、同学年でしたか。
同じクラスか、まではさておき、縁を感じます。
よしなにお願いしますね」
流星の背丈は穂風より少しばかり低い。
当然見上げる形になるし、威圧感もあまりない……が、やはり、眉ひとつ動かさない。
少なくとも言葉はかなりフレンドリーなのだが。
「ふむ」
ともあれ、穂風の回答はあいまいなものであった。
厳密に言えば、あいまいであると受け取らざるを得ないものであった。
まさか今までに学校に通ったことが無い、なんて予想だにしないのだから、仕方ないことだが。
疑問に小首を傾げつつも、まぁなにか事情があるのだろうと一人納得する。
「部活ですか?
はい、私は帰宅部に所属しております」
ところでそれは部活ではなかった。
「スコア自体はそう悪くないのですが、やはり先輩方には敵いませんね。
今年中に縮地と気配遮断の練度を高めて実践域にしておかねば。
全国に挑むのであれば、最低限身に着けなければいけない技能ですから」
「……と、そんな私の夢と汗と涙と友情でできた架空の青春はともかくとしまして。
穂風ちゃんは、なにか入りたい部活でも?」
31
:
葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』
:2016/01/15(金) 02:50:46
>>30
「縁……え、えへ、そうですね。
はいっ、こちらこそ……よろしく、お願いします。」
(悪い人じゃなさそう、だけど……
表情、ぜんぜん……変わらないな。)
穂風は色々な人に出会ってきた。
温かい人も冷たい人もいたが、こんなに動かない表情は、初めてかもしれない。
・・・・そして。
「き、きたく部……?」
「ですか?
え、ええと……」
それはどういう――
聞こうとすると、既に説明は始まっていた。
「スコア……しゅ、しゅくち?
気配遮断……あ、あの、なんだかすごい――」
「えっ、あ、か、架空……!?
う、ウソってこと……あ、あう……」
騙された穂風。
よく考えれば帰宅する部活などないのだ・・・・ともかく。
「……ええと。」
ややむくれつつ。
「まだ、どんな部活があるか、知らないので……
スポーツ系、とか、ちょっとやってみたい、けれど……」
「……とりあえず、いろいろ、見てみます。」
穂風は、そう返す。
実際部活とは何があるのやら――秋映は自由な校風だ。
部活も、公式から非公式まで、捕捉できないほど存在するとかなんとか。
・・・・穂風は、まだまだ何も知らない。
32
:
流星 越『バングルス』
:2016/01/15(金) 03:06:38
>>31
「はっはっは、まんまと騙されましたね穂風ちゃん」
平坦な声で笑う、というちょっと器用なことをした。
もちろん、顔は全く笑っていない。
「……もしかして今の本当に騙されてました?
すみません、場を和ませるためのちょっとしたジョークだったのですが……」
…………が、ちょっとだけ、しゅんとした表情を見せる。
流星なりに罪悪感というものはあるし……鉄面皮で何を考えているかわからない少女でも、考えていることはある。
「…………おほん。ともあれ」
「そうですね。ウチは部活が色々とありますし。
他の学校ではまるで見かけないような部活もあるようなので、色々見て回るといいでしょう」
「私の知る限りでも、一般的な部活の他に『カンフー部』のような変わり種や……
お金持ちのお嬢様の、その湯水のようにあふれ出て来るお金を使って部員で遊び倒す部活なんかもあるそうです」
「ちなみに残念ながらこれは本当です。ノットジョーク。狂ってますね」
33
:
葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』
:2016/01/15(金) 03:29:08
>>32
「……まんまと……」
ムス
ややむくれて、いたが。
「……え、あ。あの、騙されました、けど。
その……そんなに、怒ったり……してない、ので。」
フル
頭を横に振る穂風。
はじめてみた表情に、穂風も少しばかり、あわてる。
「え、ええと。」
「ええとっ。」
「は、はい。いろいろ。
一番、楽しそうなのに入りたいので。」
そう、部活の話題だ。
穂風はそちらに進路を切りなおすことにした。
「ええと、カンフー……って、格闘技、でしたっけ。
…………お、お嬢様……? そ、そんなのも、あるんだ。」
「……?」
お嬢様の金の部活――どこかで聞いたような。
まあ、それに入るつもりは、今のところ毛頭ないが。
ト ト
チラ
「……あ、この道……
そ、そろそろ、学校、見えてきます……ね。」
ゴクリ
「え、えへ。
緊張、してきちゃった。」
まだ朝のチャイムには早いが――
秋映の学び舎は、そろそろ見えてくるだろう。
ト トト
・・・・足の進みが、少し早まる穂風。
34
:
流星 越『バングルス』
:2016/01/15(金) 03:51:00
>>33
「ええ、穂風ちゃんも自分に合った部活を見つけて入るとよいでしょう。
そこでかつては強豪だったのに今は弱小に落ちぶれすっかり不良の巣窟となった部を立て直すため、
不利な条件で不良と対決して人望と支配権を獲得したり廃部を宣言する生徒会と対決したり、
全国でライバルと覇を競い合ったり水着回を挟んだり負けたり勝ったり恋とかあったりする青春を過ごせるといいですね」
「そんな濃密な青春過ごせるものなら私が過ごしたいぐらいですが。
まぁ私はバイトがありますので、部活には専念できそうにもありませんし」
また冗談。
しかし、善意からの言葉でもあった。
素敵な学校生活を送れたらいいですね、と……まぁ表情は相変わらずの無表情だったが。
「さて、そうですね。
そろそろ学校で、夢に胸を膨らませる穂風ちゃんとは対照的に私はちょっとユウウツです。
いえ対照的と言っても物理的な胸の膨らみを指しているわけではないのです。ちょっと友達が少ないだけです。
ふふ……貴様もじきに学生の暗黒面に堕ちるのだ……笑っていられるのも今の内よ……」
よくわからない思念波みたいなものを飛ばすポーズ。
余談だが、かく言う彼女の胸は慎ましやかだった。彼女に配慮した表現を使うならば。
「……みたいなことにならないことを僭越ながらお祈りさせていただきます。
お前は私のようになるな、みたいな感じでひとつ。
友達百人作って富士山の上でおにぎり食べられるといいですね」
そんなことを言っている内に……大きな校舎が見えて来る。
小・中・高・大一貫のマンモス高校――――秋映学園だ。
「初登校と言うことは、穂風ちゃんはまずは職員室でしょうか。
でしたら一度お別れですね。次に会うのがいつごろか、いやそもそもまた会うのかもわかりませんが」
35
:
葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』
:2016/01/15(金) 04:08:50
>>34
「……は、はい! えへ、流星さんって、楽しいです、ね。
きっと…ぜったい、いっぱい、『青春』っていうの、楽しみたいです。」
「部活とか」
「恋愛とか」
「友達、とか。」
流星の冗談にも、大分、慣れてきた。
その中のエールを穂風は感じ取る。
「友達は、たくさん、きっと。
えへ、100人……ほんとに、できたらいいな。
私、ずっと……笑っていたい、から。」
胸の膨らみに関しては触れないでおく。
そして――秋映学園の、校舎を、今、再び見上げる。
「……」
(帰って来たんだ。
また、ここに……今度は、ちゃんと。制服で。)
「はいっ、まずは職員室に来なさい、って……
そういう風に、聞いてます。だから、一旦、お別れです。」
「……それで。」
視線を、流星に戻す。
そして、少しだけ、ためらったあとに。
「……あの。ええと。
流星さんも、友達……なって、くれますか?」
モゴ
・・・・やや口ごもりつつ、そう聞いた。
36
:
流星 越『バングルス』
:2016/01/15(金) 04:42:33
>>35
「なんと。楽しい? 私が?
……ふふふ、いかにも私はとても楽しいお茶目な少女なのです」
少しだけ、嬉しそうな顔をする。
僅かな変化ではあったが、褒められて嬉しいらしい。
穂風の、『笑っていたい』という言葉……そこにある種の『重み』を感じつつも、口には出さず。
「はい、ではまた縁がありましたら――――?」
「………………?」
何か言いたげな穂風の姿に小首を傾げ、どうかしたのかと声をかけようとして……
>「……あの。ええと。
> 流星さんも、友達……なって、くれますか?」
「――――――――――――――――」
ぴたっ
…………固まった。
中途半端口を開けたまま、ピタリと動きを止めてしまった。
1秒、2秒……再起動。
「えっ」
「…………えっ、いやっ、待ちなさい落ち着きなさい流星越。
まず聞き間違えの可能性を考えましょう。でなければドッキリです。
そう、何者かが私を陥れ笑いものにするために仕掛けたドッキリ。
でなければこんないい子そうで純心そうで可愛らしい女の子が私と友達になってくれるはずなど。
そう角を曲がればカメラマンがいて私の反応を逐一観察しているのですおお神は死んだ。
こうして私の滑稽な姿が謎のテロップとかナレーションとかと共に全国に流れてしまうのですねおお神は死んだ。
神は二度死にましたがむしろ死ぬのは私の正気ですねおお神よ。いやさっき死んだ宣言しましたが」
よろよろと数歩あとずさり、ぶつぶつと呟きながら頭を抱えて焦点の合わない眼で虚空を見つめる。
足はガタガタと震え、顔面は蒼白だ。元々肌が白い方ではあるが。
「しかしドッキリと言うには少々手が込み過ぎでは?
というか穂風ちゃん役者過ぎでは? そして設定作り込み過ぎなのでは?
つまりドッキリではない? 現実? 夢ではなく? あるいは実は私がクスリを決めていたというオチ?
リアルな夢ですねちょっと頬をつねってみましょう痛い普通に痛いですこれつまりやはり夢ではない?
…………現実? 本当に? 私と? お友達に?
お友達とは? 宇宙……世界の理の深淵を垣間見たが如きこの不可解と高揚はいったい?
いずれにせよドッキリにせよ夢にせよ何かの間違いにせよなんにせよ、現実である可能性が存在する以上はそこに望みを託すべきで――――」
ゆっくりと、青白い顔を上げる。
決意を秘めたまなざし。死を覚悟した兵士はこんな表情をするのかというような壮絶な意志。
顔は一瞬で赤く染まった。表情らしい表情は、やはり見せなかったが。
「わ、わひゃっ、私、ん゛ん゛っ、す、すみません」
「……わ、私でよければ、喜んでっ」
流星越、16歳。
ロクに友達のいない少女の、一世一代の返答であった。
37
:
葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』
:2016/01/15(金) 09:25:29
>>36
(い、言っちゃった。いきなりすぎるかな。
……でも、お友達になりたいのは、ホントだし――)
マゴ
目を伏せて、まごまごした様子になる穂風。
固まったのを見て、ますます、失敗した気がしたけれど。
「…………!」
「え」
「えへ」
パァァ
赤らむ頬を見て。
笑みがこぼれて。
「流星さん、こそ……役者さん、みたい。」
すぐに晴れる、穂風の笑顔。
それこそ役者のようなリアクションには、少しばかり、苦笑しつつ。
「ほんと、です。
夢なんかじゃ、ない……全部! ほんとですっ。」
この瞬間も。
この光景も。
「流星さんっ……
あの、よろしく、お願いします。
あの、あの、それで。連絡先、交換しておきましょう。」
黒いスマホを出す。
連絡先を、交換――交換が無理なら、教えておこう。
ニコ
「……それでっ、また、会いましょう!
……いつかじゃなくて、またすぐにっ!」
学年は狭い。
その気になれば、すぐにでもまた会える。
「では。えへ……」
トト
――そして、穂風は、校門をくぐる。
これが、楽しい学園生活のはじまりであることを祈って。
38
:
流星 越『バングルス』
:2016/01/15(金) 23:21:34
>>37
「れ、連絡先……ッ!」
背景を撃つ稲妻。
再びたたらを踏んでよろよろと後ずさり、しかし今度はグッと力を入れて踏みとどまる。
「よ、喜んでっ!
ふ、ふふふ、私の電話帳についに家族以外の名がふふふへへへうふふふふ……」
スマホを取り出す手は早かった。
……その後の操作は少々、拙かったが。
それでもどうにか、交換。ほとんど初めて使う機能。ほとんど初めて刻まれる名前。
流星は珍しく笑っていた。ちょっと不気味な笑い方だったが、笑っていた。
「は、はい。こちらこそ、ふつつかものですがよろしくお願いします……
また……ええ、また、すぐにでも。少しの間だけ、お別れですね」
「ちょっとだけバイバイ、です」
手を振って、穂風を見送る。
その姿が見えなくなるまでそうして見送って……
「…………はふぅ」
すとん、と崩れ落ちた。
腰が抜けてしまったのだ。少し、刺激的過ぎた。
スマホを見る。葉鳥穂風という名前が、そこに刻まれている。
「………………夢じゃない」
「……ほんとのほんとに、友達なんだ……」
「えへ、へへへ、うふふふふふふ…………」
しばらく、他の生徒から怪訝な目を向けられながら、流星はそうしていた。
このうえなく上機嫌に、素敵に、素晴らしい日々が過ごせそうな、そんな朝だった。
39
:
青田『トライブ・コールド・クエスト』
:2016/11/11(金) 23:38:19
ふらふらと、厚着の男が歩いている。
幾ら閉じこもろうとしても、食物の消費期限はあるし、そも食わねばならぬ以上切り詰めようともこうしてレトルト買い出しに行く必要はある。
それでも極力見知った店員を狙うようにしてはいるが、こうした隙を狙われる、という事はあり得る。
……普段なら狙われるかも怪しいものだが、向こうの考えなど分からない。何時自分の所に刺客が来るか分かったモノではない以上、警戒は怠るべきではない。
そう思いながら、偏執狂のように周りを伺いながら歩く。
40
:
青田『トライブ・コールド・クエスト』
:2016/12/20(火) 22:56:12
ふらりと、居なくなった。
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