したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

【ミ】『いともたやすく行われる○○○ない行為』 その2

1ようこそ、名無しの世界へ…:2014/04/22(火) 01:21:25
『自由』に使ってもらって構わないんだってば!

前スレ:

【ミ】『いともたやすく行われる○○○ない行為』
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/netgame/9003/1379671017/

885葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/04/27(月) 00:40:57
>>884
質問です。

>                              ヒ ラ ヒ ラ ァ 〜〜〜

この擬音の元は確認できますか?
また、どちらのふくらはぎを狙われているかはわかりますか?

886『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/27(月) 00:48:15
>>885
>                              ヒ ラ ヒ ラ ァ 〜〜〜
>この擬音の元は確認できますか?
 →描写が曖昧で申し訳ない。
   正確には『擬態語』となり、メタ的には次レスにて判明する。
   PCとしては『視界の端に一瞬ひらひらとした何かが見えたような気がするが、
   メスへの対処になんら影響が出るものではない』形となる。

>また、どちらのふくらはぎを狙われているかはわかりますか?
 →投擲直後の咄嗟の判断なので『付近』としか分からなかった。

887『木陰のきみと宝もの』:2015/04/27(月) 01:33:50
>>884

    雨の夜。
    それは……穂風の世界だ。

      「……」

              ぴょーーん
             片足で跳ねる。


『傘』は前に構えて、メスを『受ける』。(スB)
前が見えなくなったりはしない。傘には従者の目がある。
そして布地を貫かれても、それは浅い傷にしかならない。


                  「全て」

             「『奪う』」  「『糧にする』」


                       シュ  ラ ァァーーー・・・・・・ 


左手で、仕込み傘の『刃』を抜き放つ(>>883メ欄『刀』)。傘の影で。
右手で、開いた傘を体の前に出し、盾にして突撃し――――


                     わ た し
        「それが……『ヴァンパイア・エヴリウェア』だ……!!」


布地越しに、敵の喉元に『刃』を突き立て、そのまま振り上げて、血を吸い上げながら切り裂く。(パスCB)
当然布地は大きく裂けるが……関係ない。

888『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/27(月) 01:38:09
>>887
質問。
仕込み傘の刀の『刃渡り』は何cmくらい?
使用するものの具体的なソースなどあれば提示頂けるとありがたい。

889葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/04/27(月) 02:03:14
>>888
ttp://busou2.sakura.ne.jp/20100428-03.html#0501

このページのは模造刀ですが、仕組みは同じです。
刀身は40cm。

890<ガオンッ>:<ガオンッ>
<ガオンッ>

891<ガオンッ>:<ガオンッ>
<ガオンッ>

892『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/27(月) 03:47:55
>>888-889

    パシュ パシュッ

一般サイズの『傘』の直径では直立した人間の身体全てはカバー出来ない。
『ドクター・ドレー』はだから、『頭』と『足元』という離れた地点を狙ってきたのだろう。

ただ、『穂風』は跳ねる事で、
結果的に身を屈めるような『低姿勢』で突っ込んだ。
それならば、『傘』は全てをカバーする―――!

しかし――『突っ込む』。
それはすなわち、『メスの勢い』と『突進の勢い』の
相乗効果を生み出すという事だ。

     ブズッッ!!
                   ブズゥゥッッ!!

普通に受けるよりも、『傘』は激しく傷つけられる。
(※メスは『通常物質』だが、ガードを破られるような形の為、スタンドにもダメージがあった)。

 結果、二本のうちの一本、『顔面部へのメス』が『傘』を貫通し、

                         『穂風』の顔を………ッ!

        パシュッ
                               たらァ〜〜ッ

『穂風』の右頬を切り裂き、『メス』は落ちた。
低く跳躍していた分、狙いはズれ、脳天に刺さらずに済んだ。
傷自体は大した事はないが、『少女』が顔を傷つけられるというのは、
人によってはショックかもしれない。


 しかしもう、そんな事では『蝙蝠』の突進は止まらない!
 『ドクター・ドレー』の眼前まで赴き、手にした『仕込み刀』の長さも適正。
  もっと長ければ抜くのに手間取ってしまっていただろう。

  シュ  ラ ァァーーー・・・・・・

                           シャキンッ!

 そして―――自らの『分身』を裂いてでも作りたかった
  『ドクター・ドレー』への『一閃』の機会、それが遂に訪れる。

 走り終えてからすぐの連続攻撃である事、
  更に傘の『骨』を避けながら斬らないといけなかった事から、
  正確に喉元は貫けなかった。
    しかし、『ドクター・ドレー』の『右肩』に深く、『吸血鬼の牙』は突き刺さる!
    そのまま上部に振り上げる事で『ドクター・ドレー』の肩は大きく切り裂かれるッ!

      『流血』はさせない。

                 ―――獲物の血を啜らない『吸血鬼』など居ないのだから。

   「ぐォッぉぉぉッ!!」

悲鳴。この距離なら『ドクター・ドレー』の叫び声が聞こえる。
後ずさる。必死に左手で懐を探り、取り出すのは………何本のものメス。

本当はそんな事をさせる『隙』は作らせたくなかったが………『穂風』だって無傷ではない。
『相棒』である『ヴァンパイア・エヴリウェア』は、敵、そして自らの攻撃によりズタズタになっている。
『穂風』は彼の『相棒』である証明として、その傷を共に分かち合わなければならないのだ。
幸い、『布』部分だけならば、いくら切られても『致命傷』ではない、ないが………。

        「よくも――ッ 逆らうなどと!
         『患者』は黙って『医師』に従っていればいいのだッ!!」

『ドクター・ドレー』の吐き捨てるような声が聞こえる。
もう右腕は動かないのだろうが、左手には『メス』が四本。
それを『指』と『指』の間に挟み、獣の爪のように掴んでいる。
ここでダメ押しの『診断』をしないのは、頭に血が上っているのか、
あるいは、彼が戦い慣れていない証拠か―――


       これだけ『雨』が降っているというのに
 場は冷え込まず、グツグツと燃え上がっているように感じられる。

                          ―――決着のときは、近い。

893葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/04/27(月) 03:52:26
>>892
       右手の傘は素早く上に上げる。
                       次の攻撃の邪魔になるからだ。
              
          ≪ぐぉぉぉォォォ……ッ!

                            ――――――お嬢様ッッ!!!!!≫



                「……ぁぁあああ」
            

                           「 ドクター・ドレー………!!」


                       「 お前の、全部……私に 」

                      もはや策を弄する時ではない。
                      信ずるのは己の速さ。精神の刃。

                            踏み込む。
                     そして雨とともに、 振り上げた牙を――――


                           「  よこせ……!  」

                     右斜め下に一閃し、返す刀で斬り上げる。
                        ちょうど、『V』の字を描くように。

894『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/27(月) 04:23:11
>>893
『穂風』は素早く『右』の傘は上に上げておく。
『傘』―――『ヴァンパイア・エヴリウェア』の身は、もう十分に活躍してもらった。
       今、必要なのは、彼の『牙』である『刃』だけだ。

    バァ ッ ッ ! !

『穂風』は全身を襲う『痛み』にも負けず、
    振り上げた『刃』を一気に右斜め下、
            『ドクター・ドレー』の頚部に向かって振り下ろうとするッ!


「『患者』の反逆など! 到底許される事ではないィィィ!!
  君は『患部』そのものだッ!!
               即刻、『手術』が必要だなァァァァッ!!!!」

                      シャキィィィンッッ!!

対する『ドクター・ドレー』は四本の『メス』を『爪』のようにして、
『穂風』と逆に『下』から『上』へ突き上げるように、その腕を振るう!
狙いは『穂風』の胴体、重要な臓器がたんまりと詰まった部位だッ!!

 双方のスピードは同等、それぞれ『痛み』に耐えての攻撃となる為、

    後は―――『精神力』の問題となる!

                              そして―――ッ!

         『 ズバァァァァッ ! ! ! ! 』

     『白』と『黒』が交わり、互いの『爪』と『牙』を剥き出しにする。
   その成果は『赤』―――『血』となり、周囲を今! 染め上げるッ!


                                 ・ ・ ・ ・ ・ ・
                    ―――いや………『染め上げない』。

   ……… ……… ……… ……… ………

            フ ウ ゥ ぅ ぅ

『穂風』は大きな息をついた。
ばさり、と倒れ込んだ『ドクター・ドレー』が眼前に横たわっている。

危なかった………。
『ドクター・ドレー』の『爪』は『穂風』の腹部に食い込んではいたのだ。
しかし、その『爪』を立てられる前、ほんの一瞬前に、
『穂風』の牙は『ドクター・ドレー』の首元に見事、食い込んだ―――

     『血』を流させないのが、『吸血鬼』の嗜みだ。

死んではいない、だろう。奇しくも先ほど『ドクター・ドレー』の言ったとおり、
『血』を流させて『意識を失わせる』、という方法となった。
『流血』を見るに『頚動脈』を切ったわけではないようだが、
『ヴァンパイア・エヴリウェア』の『吸血』が、彼を昏睡に追いやったようだ。

『ドクター・ドレー』………いや、『意識』をなくし、
そこに倒れているのは、『白衣の青年』だ。
長髪の痩せた無精ひげの男。
その顔に見覚えはないが、唯一つ、その『眼』だけには見覚えがあった。

 ここに来て『穂風』は、ようやく『答え合わせ』をする事が出来た。

           『門倉』と行った『推理』は、完全に『正解』だったのだ―――

895葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/04/27(月) 05:31:59
>>894   

倒れた青年をみやる。二度と悪さを出来ないよう、天誅でも下すべきか?
……それは穂風の決めることではない、気がした。

ふと、咲美に視線を向ける。
……すぐ、戻す。
                 
                    ≪今宵は――随分、血を吸いました。≫       

    「……ん。」

                      シュ キィー……  ン

裂き、乱れた『牙』を……納めた。
自分は人間だ。……吸血鬼の血脈であろうと。

         ふら

「あ…………?」

               ドチャ!

    「……う……」

               ≪お嬢様、早く、病院へ……≫

その場に崩れ落ちる。
痛み、疲労、いろいろなものがないまぜになって、重かった。

吸血鬼の力を解除して、もう、あとはなるがままにまかせる。



     ザ           ア
                               ア
               ア    
                      ザ 
                           ア              ア 
                   ア              ア
        ア                  ア 
                  ア                   ア


雨のリズムが、やけにはっきり聞こえた。

896『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/27(月) 22:22:11
>>895
『穂風』は倒れた『青年』を見やり、『咲美』を見やり、
そして、『ヴァンパイア・エヴリウェア』を見やった。
様々な感情がせわしない『来客』のように
『穂風』を刺激しては、また、去っていく。

    ふ
          ら
                 …
                    ……
                         ………


しかし、それらの感情を整理して何かを成そうにも、身体がついていかない。
身体のそこかしこに受けた『ダメージ』と、初めての戦闘での『精神的負担』。
『心身』ともに疲労困憊した『穂風』が、
その場に崩れ落ちてしまうのは、自然な成り行きといえた。

                           ドチャ!

『血液』が固まり、その『鮮やかさ』を潜め、『茶褐色』の染みとなるように、
『穂風』はその身の活動を一時的に止め、地に倒れ伏せる。

          雨のリズムが、やけにはっきり聞こえた。

それはまるで、心地よい『子守唄』のようで、
『穂風』がその意識を預けるのに相応しい『音色』だった―――

    あとはもう、なるがまま。なるがままに、まかせよう。

          …………………………

          …………………

          ……………

          ………

          …

897『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/27(月) 22:24:50

          …

          ………

          ……………

          …………………

          …………………………

次に『穂風』が眼を覚ましたとき、そこは『ベッド』の上だった。
『病院』? いや―――この雰囲気は、少し違うような。


                    「目覚めたかい?」

聞き覚えのある声に、ベッドから身体を起こす。
見ると、そこに立っていたのは………『門倉』だ。

全身がまだ痛い。痛いが、特に『酷い怪我』をした部位には
『応急処置』がなされているようだった。
肌に直接『ガーゼ』が当てられ、
その上から『包帯』が巻かれているのが分かる。

「………いや、いや、いや………『誤解』しないでくれよ。
 君の身体に『包帯』を巻いたのは、そこの、『咲美ちゃん』だ」

『門倉』が慌てたように言う。傍らを見ると、『咲美』が居て、ペコリと礼をする。

「そして『ドクター・ドレー』の携帯を使って俺に連絡して、
 自分たちの『居場所』を俺に教えてくれたのも、そこの『咲美ちゃん』だ。
 全く―――『名刺』は配っておくものだ、と改めて実感したね」

………『名刺』? そんなものを配っていたのか。一体、いつ?
     いや、『門倉』と『咲美』が『二人きり』になる機会が、あるにはあった。
     『ドクター・ドレー』が『穂風』に部屋の外で交渉していたあの時だ。
     『『同棲する時は、ご用命を!』などと適当な事を言って渡しておいたのだろう。

898葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/04/27(月) 23:13:19
>>807

          …

          ………

          ……………

          …………………

          …………………………

 
          「……う……?」

目を覚ました。知らない天井だ。安心する。夢ではなかったのだ。
……それにしても、どこだろう?

     「門倉、さ……ん?
           ここ、は……」 

                  ズキィッ……
      「いたっ……!」

 (あれ、これ……包帯、と……か……) 
               「……あ、咲美さん……が。
                あの、その……ありがとう、ございます……」

少しずつ、穂風は現状を理解していく。
……となると。

「……あ、の……」
「あいつ、は……」

                「……『Dr.DRE』……は?」

どうなったのだろうか。奴も、同じ場所に倒れていた。
門倉が、なにかしてくれたのだろうか。それとも……

899『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/27(月) 23:31:52
>>898
「ああ――― 彼ならそこに。

          『巻いた』よ。俺が丹精こめて」

事態を把握していく『穂風』。
『咲美』に礼を言いつつ、先程まで対峙していた
『ドクター・ドレー』の安否を確認する。

すると、『門倉』からは上記の返事。
『門倉』の視線の先、隅の床の方を見やると、
………居た。床に転がる『青年』。

彼の勝負服であったであろう『白衣』は引っぺがされていた。
こうして見ると、ただの陰気そうな男でしかない。
年の頃は20代前半………いや中盤か。
順風な『人生経験』を経ていないようなどこか、幼い印象を受ける。

そして、『巻いた』という『門倉』の言のとおり、
『青年』は、右肩を中心に『ミイラ男』のように包帯で『ぐるぐる巻き』にされていた。
その巻き方はいかにも雑で、治療というより工業製品の『梱包』のようにも見える。

『包帯』には『拘束』の意味も籠められているようだ。
『口元』には『猿轡』のように『包帯』が噛ませられている。
また、『使えるであろう左腕』は後ろに回され、近くの机に縛り付けてある。
『両足』もしっかり足首のところで巻かれている。
いずれも『包帯』をふんだんに使っており、
人間の力では、よほどふんばらないと引き千切るような真似は出来ないだろう。

「彼にはとりあえずやってもらわないといけない事があるからね。
 まともな『治療』を受けさせるのはその後だ」

そう言いながら、『門倉』は青年の『口元』の『猿轡包帯』を解いていく。

900葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/04/28(火) 00:01:36
>>899

 「…………ああ……
                 …… でした……か。」


傷ついた身体を少しだけ起こし、『Dr.DRE』――

       ……『だった』、男を見る。

(ふつう、の……人、だ。
 危ないとかじゃ……無くて……ふつう、の……)

穂風は……そう感じた。 
そして、だからこそ恐ろしいのかもしれない、と思った。

「やって、もらう……………?」

     「……あ……!」
                      「だ……め……!!」

猿轡を外そうとしていることに気づいて、声をあげる。
苦しめられた『能力』を……糧とした体験を、忘れはしない。

901『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/28(火) 00:41:50
>>900
『門倉』が猿轡をとろうとする。
『穂風』はあの戦いの『痛み』が蘇り、思わずそれを止める。

『青年』の―――『ドクター・ドレー』の『診断』。
かすり傷だったはずの『穂風』の傷を広げ、彼女を苦しめた『能力』。
あれを今、使われれば、また………。

そんな『穂風』の制止を意に介さないかのように、
『門倉』は『青年』の猿轡を外してしまう。

            「では、頼むよ――― 『ドクター』」

  『門倉』が『青年』に声をかけると、
  『青年』は動ける範囲でくるりと『穂風』の方に向き直る。
  そして、彼の身体が『白衣』に『纏われる』。
   それは―――ボロボロにはなっていたが、『ドクター・ドレー』のヴィジョンだ。
    その姿に、『穂風』は思わず、身構える。

                                      そして―――


「あああッ! すみません、『患者様』ァ―――ッ!
 今すぐ! 今すぐ『診断』致しますゥゥ―――!!

  あなたの『怪我』は、『大丈夫』です!
   全ては『かすり傷』―――痕だって残らないし、少し休めば全快しますッ!
    『医師』の私が『保障』します!

   『平気』ですゥ――全く問題ない『軽傷』ですゥ。
        痛みだってろくに感じませんッ!
           すぐに『完治』だ! バンザーイッ!!

    で……ですから、許して下さいィ!
    『怪物』を! 『蝙蝠』の悪魔をッ!
     『吸血鬼』をけしかけるのは『勘弁』して下さいィィィィ!!!」

     ………
           ………
                  ………
                         ………

 『ドクター・ドレー』の『診断』は延々と続いた。

 その様になんと言ってみようもなく、『穂風』が視線を彷徨わせていると、
     ふと、『門倉』が会う。彼の顔には微笑が浮かんでいる。

「俺が駆けつけた後、事情聴取のために、
  彼を『強引』に叩き起こしたらもうあんな感じだったよ。
  よくは分からないが―――ふふふ、
    余程、怖い『吸血鬼』に襲われたんじゃあないかな。

 まあ―――今は一種の『錯乱状態』で、
  完全に狂ってしまったわけじゃあないとは思うけど、
  『患者』というものに強烈なトラウマを与えているのは間違いないと思うよ。

   今後、妙な真似をしようとしたら………
    『吸血鬼』に襲われる『フラッシュバック』でも起こるんじゃあないかな。
                             とびきり可愛い女の子のね」

人が死に掛けていたというのに一体何がおかしいのか………。
『門倉』は『穂風』を見据えながらニヤニヤとそんな事を語る。
なんというか、この『門倉』、『自分にとって興味深い話』の前では
不謹慎でもつい楽しんでしまう『悪癖』があるようだ。

―――それはそれとして、『ドクター・ドレー』の
延々と繰り返される『診断』を聴いていると、
『穂風』の身体は少しずつ痛みが引いて来たような気がする。
この分なら、もう少しあれを聴き続けていれば、
本当に『ドクター・ドレー』の『診断どおり』の状態になるだろう、と思われた。

902葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/04/28(火) 01:06:38
>>901

     ………
           ………
                  ………
                         ………

        「……え?」

                  「あ……え……」

 「な……なに、を……
            どう……」
                    (コウモリ? 悪魔? キューケツキ?
                                  ……まさか……)

視線をさまよわせると門倉と目が合った。
そして訳を知った。
 
           「あ……う……」

穂風は困惑した。吸血鬼。自分は吸血鬼だと思われたのか。
いや、そんなことを従者も、自分も口走ったような……
倒したのはいいのだが、なんというかこう、勘違いを……

                  ≪お嬢様、お手柄に御座います。
                                従者ながら、鼻が高う御座います。≫

      「……」

なんだか複雑な気持ちだ。門倉はやけに楽しそうだ。従者も同じく。
とにかく今は、この男の診察を受け続けることにしよう……

903『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/28(火) 01:30:29
>>902

 ………

思うところはあったが、
 『穂風』は『ドクター・ドレー』の『診断』を受け続ける。

「ああ――― そうだ。
 『今谷君』は、君の隣のベッドに寝ているよ。
  『咲美ちゃん』に聞いたけど、彼は幼少から『心臓』に疾患があったようでね。
   あの時、『ドクター・ドレー』が、急に彼の『心臓病』が悪化しているという
    『診断』をし出してそれで、『今谷君』は倒れたらしい。

     まあ、『診断』し直させたから、今は大丈夫だろうが」

 そんな『門倉』の言葉に続けて、『咲美』が当時の状況を語り始める。

「あの時、マイ・ドクター、『ドクター・ドレー』が
 『駅』までの道の近道だと言い張るので、ついていったら、行き止まりで………
 それで、いきなりマイ・ドクターが『お兄ちゃん』に
 『心臓が悪くなっている』なんて言い出して。

 確かに『お兄ちゃん』は子供の頃から『心臓』があまり良くなくて………
 病気は完治していたわけじゃあないけど、
 でもお薬をきちんと飲んでいれば大丈夫だったはずなのに!

 ただ、その時はマイ・ドクターは優秀な『医師』だから
  お兄ちゃんの『心臓が悪く』なっているのに、
   気付いて、『診断』してくれたと思っていました」

『診断』に『病気』を擦り寄らせる能力。
これが『ドクター・ドレー』の能力の正体だろうが、
彼を信じる者にとっては、『ドクター・ドレー』に悪意があっても
それを汲み取れず、『診断が的確な名医』と思われる、というわけか。
この能力ならば、『咲美』にずっと『主治医』と信頼されていても、
おかしくはないのかもしれない。

「でも、おかしかったのはそこから。
 マイドクターはちっとも『お兄ちゃん』を助けようとしなくて。
  ずっと私が呼びかけていたら、『穂風さん』がいきなり降って来て。
   そこからはどうして争っているかもよく分からなくて、
    そうこうしているうちに二人とも倒れてしまって。

  それから、どうしたらいいのか分からなくて………
   初めは『警察』とか『救急車』に連絡しようとも考えたけど、
   上手く説明できるか全然自信がなくて………。

   そこでふと、『超能力』の事を知っている
     『門倉さん』の事を思い出して、電話したんです」

そうだ、『咲美』は『ドクター・ドレー』は自分の『スタンド』だと思っていたのだ。
『自分の超能力のヴィジョンと、空から降ってきた女の子が戦った』などという話は、
確かに、公の機関の者に語り辛かっただろう。


                          → TO BE CONTINUED
                            (続きはまた今夜………)

904葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/04/29(水) 00:57:30
>>903

隣のベッドに視線を向けつつ、顛末に耳を傾ける。

「あ……」

                        ゾク……

      「そう、だったん
             ……ですか。」

穂風は自分をヒーロー(ヒロインか?)などと思うつもりはない。
             ……が、もし。もし気づかなかったら?
                 ……もう少し遅れていたら、どうなっていた?
そう考えると、かなり背筋が寒くなった。

それと……

  「……あの、その。」

      「咲美……さん。この、人は……その。」

彼女がまだ、『マイドクター』という呼称を用いているのが穂風は気になる。

905『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/29(水) 01:18:19
>>904
『穂風』の言いたい事をなんとなく察した『咲美』はそれに応える。

「ええ………『門倉』さんがていねいに説明してくれました。
 でも………はっきり言って、私としては、いまだに信じられないんです。

  『私は、ただの人間を、超能力のヴィジョンだとずっと思わされて、ずっと監禁されていた』。

  確かにこれは本当なんでしょうし、それで無くしちゃった『三年間』、
  あとは心配してくれただろう『家族』や『友達』の事を考えると、すごく辛い気持ちになります。

 ただ………『ドクター・ドレー』は『主治医』として、しっかり私を支えてくれていた。
   私は三年間、ずっとドクターを頼って生きてきました。
  『門倉』さんに訊かれたような『変な』事は一切されていませんし、
   悪い印象は、正直言ってまるで、無いんです。今は」

これはいわゆる『つり橋効―――いや、違う。『ストックホルム症候群』か?
恐怖を与えてくる『犯人』に対し、『被害者』が逆に好意を抱くという、あの。

いや、『咲美』の話を信じるならば、『ドクター・ドレー』は
あくまで『医師』として彼女に接していたのかもしれない。
不幸中の幸いというべきか、『穂風』と『門倉』が想像したような
『おぞましい行為』はなく、それよりは、救いのある関係だったという事か―――


「そうだ―――『穂風ちゃん』にも聞いておこう。『ドクター・ドレー』のその後について。

 どういう意図があったにせよ、彼がやった事は『監禁』だ。それも三年間という長期にわたり。
  俺としては、彼を『警察に引き渡す』のが一番なんじゃあないかと思っている。
   『スタンドがらみ』とはいえ『司法』でも充分裁けるタイプの『犯罪』だからね」

      『門倉』はこう持論を述べる。それに対し、『咲美』は、

「………『監禁』ってすごく罪が重いみたいですね。
     もちろん、『ドクター・ドレー』がいけない事をしたんだというのは分かるんですけど、
    私としては、そこまでの罰を与える必要があるのかって考えてしまうんです。
    『穂風さん』がしっかり『お仕置き』してくれたので、
     『ドクター』は、もう悪い事が出来る感じではないみたいですし………」

こんな風に弁護している。
どちらの言い分も一理あるように思えるが―――

        『穂風』はどう思うか? 意見が問われているようだ。

906葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/04/29(水) 01:29:51
>>904

       「…………」

                    「わ……私、は……」


今となってみれば、『ドクター』の能力も判明した。
記憶や感情をどーこう出来るものでもなさそうだ。

                つまり咲美の話は真実なのだろう。
                監禁はした。間違いなく。
                しかし、あくまで『医者』と『患者』だった。


      「咲美さん、が……決めるべき、だと、思います。
       ……だけ、ど……。」


隣のベッドを見る。康太が眠っているのだろう。
眠らせたのは『ドクター』だ。

      「その、ええと。
            ……殺そう、と……したん、ですよね……
                           邪魔に、なる……からって。」

その深淵めいた『邪悪さ』は……はたして、ちょっと懲らしめたくらいで、治るのか?

907『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/29(水) 01:45:47
>>906
「あ―――」

  『穂風』の指摘に『咲美』は言葉を失う。

「―――今は彼がまだちょっと錯乱しているから、あまり詳しくは聞けなかったけどね。
     状況から見れば、その『可能性』は十分にある。
 ………すごく好意的に見れば、あくまで『気絶』だけさせて、
     その隙に『咲美ちゃん』をつれて『逃亡』するつもりだった、
     なんて事も考えられなくはないけれど………」

 『門倉』はそう述べる。

「やはり、『罪』は裁いてもらおう。
 ただまあ、『警察』が彼を捕えたままでいられるかは少し心配ではあるけどね」

確かに彼が『スタンド使い』の本領を発揮し、その本質が『邪悪』であるならば、
『一般警察』からの『逃走』はそう難しい事ではないのかもしれない。

ただ、何か、他の代替案がないのであれば………『門倉』は言ったとおりにつもりのようだ。
『穂風』が植え付けたのであろう『吸血鬼のトラウマ』の力を信じているのかもしれない。

908『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/29(水) 01:46:43
>>907
(誤)『門倉』は言ったとおりにつもりのようだ
→(正)『門倉』は言ったとおりにするつもりのようだ。

909葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/04/29(水) 02:04:10
>>907

       「…………
            ……すみ、ません。

         ……私は、その人を……信じ、られない、から……」

根腐れた『悪』は、裁かれなくてはならない。
それは、警察の仕事だろう。

              ≪脱走の可能性を懸念するなら――
                         野放しにするのは、より危険でしょう。任せましょう、法に。≫

「……」
 
              ≪闇を裁くのは、光であるべきです。
                        ……少なくとも、お嬢様ではなく。≫


代替案など、穂風は思いつけなかった。
自分や門倉が監視し続けるとして、それこそ脱走を許す可能性は高い。
                 
           ≪さ、門倉様。≫

従者が、門倉に警察を呼ぶよう促す。
あるいは引き連れていくのか。それなら同行はする。

910『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/29(水) 02:20:16
>>909
「ああ―――」

『門倉』は、自らの『携帯』を取り出し、なにやら操作を始める。
『咲美』は、黙ったまま。特に『門倉』の通報を止めようとする事もない。

そういえば―――そもそも、ここは『どこ』なのだろう。
『穂風』は改めて周囲を見回す。

一見、『病室』にも見えなくもないが、よく見ると、『体重計』や『身長計』が存在する。
そして、『扉』や『窓』の形状………そして、『穂風』は思い至る。
ここは、おそらく、『学校の保健室』だ。

しかし、なぜ、『保健室』? 近くに学校でもあったのだろうか。
そんな事を思っていると、

                         突然―――

            パァァ ァ ァ ァ ァ

            『景色』が一変する。

  「―――もう、『時間』か。
       まったく、大事な時間は、とても早く過ぎる」

まるで動じていない様子の『門倉』が、一人ごちる。

ここは、先程まで『穂風』が激戦を繰り広げていた『袋小路』だ。
周囲を見渡すと、『今谷』『咲美』『ドクター・ドレー』といった
他の面子も、手近なところに出現している。

そういえば、『門倉』の能力を訊いてはいなかったが、

彼の職業、先程まで居た『保健室』、『時間切れ』の発言と共に『袋小路』に戻された。

こんな事実を整理していけば、なんとなくは推測出来そうな気がした。

911葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/04/29(水) 02:33:52
>>910

 
    (ここ、は…………保健室……え、な……なんで?)

                    (不法侵入、なんじゃ……そもそも、学校、この辺……)


 などと、いろいろ考えていると・・・・・・

            パァァ ァ ァ ァ ァ

            「えっ……
                ……えっ、え……??」

  「こ……れ……」

                  「門倉、さんの……?」

   
         ≪『能力』……で、御座いますか。
                つまり、これは不動産屋ならではの……≫


スタンド能力は精神の力――――『らしい』。
不動産屋の門倉だからこそ、部屋の能力、なのだろう。きっとたぶん。

           「……」

穂風としてはなすすべもなく、ただなんとなく門倉を見ている。

912『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/29(水) 02:56:14
>>911
先ほどの『部屋』は、『門倉』の能力なのだと推測する『穂風』。
ただ、それを今知ってどうこうする、といった類の情報ではない。
あとは、待つばかり、だ。

ふと、『穂風』は、『袋小路』の隅に『白いシャツ』が落ちているのを発見する。
そういえば戦いの最中、何か『ひらひらしたもの(>>884)』が落ちてきていたような………。

もしかすると、『4m射程のスコール』を降らせたときに、
『三階建てビル』の屋上に『物干し台』でも置いてあって、
干してあった『シャツ』が雨の勢いにまみれ、落ちてきたという事かもしれない。
雨の予報をろくに確認せずに居た『うっかり者』が居たのだと推測される。

そうなると、『塀』から『民家』に移動し、そこから『三階建てビル』の
屋上にいけば、『物干し台』から『物干し竿』を入手したり、
様々な『洗濯物』を入手でき、それが何かの役に立ったのかもしれなかった。

まあ、今となっては、それも、特に必要のない情報だ。
そんなものを手にしなくても『穂風』は勝利をもぎ取った。
『勝利への道』は一つではない。
自分のスタイルで結果を出せるのなら、それが『最善』だ。

 ……… ……… ……… ……… ………

 「もしもし、『警察』ですか? 実は―――」

と、ここで、『警察』に電話が繋がったようだ。
話を聞いていると、とりあえず『パトカー』でここに来てもらうらしい。
『ドクター・ドレー』だけでなく、他二人も『事情聴取』の為に連行される事になるだろう。

「―――『穂風さん』たちに迷惑はかけたくないので………
 『お兄さん』が私の『監禁』に気付いて、助けにきてくれて、
 でも、ここに逃げ込んだところで捕まってしまった、という話にしたいと思います。
 『穂風さん』たちはたまたま通りかかっただけ………。

 『ドクター』の傷、については、私がやった事にします。
 『穂風さん』と同じくらいの背丈だし、『女の子の力』だし………」

『電話』が終わった後、『咲美』がそう述べる。
よく考えてみれば、確かに『ドクター・ドレー』に怪我を負わせたのが、
『穂風』だと分かれば、『穂風』も何らかの罪に問われる可能性はある。
もちろん『未成年』なので、『逮捕』という形にはならないだろうが―――
面倒な事になるのは間違いないだろう。

『咲美』の話は少し苦しい気がしないでもないが………
これ以上の上手い『ストーリー』がなければやむを得ないのかもしれない。

913葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/04/29(水) 03:23:22
>>912

「……あの、その……」

                      「……ばれないの、では……?」

        
       ≪……お嬢様?≫


穂風はそう、呟いた。
        ……これは、罪なのかもしれない。
        ……しかし、悪いことだとは思わない。
             誰も、罰されないべきなのだ。


「だって……凶器も、無い……し。」   解除したからだ。
「証拠も……無い、ですし……」     『Dr.DRE』の証言程度だろう。

                      「それ、に……まともに、調べない……んですよね?
                                      スタンドがらみの、事件って……」

穂風の血は、ことごとく豪雨に流されたはずだ。
よっぽど入念に調べてようやくわかるかどうか……だろう。

        この事件は、明らかに警察の怠慢捜査も原因だ。
        穂風はその尻拭いをしたようなものだ……


「……なぞの女が犯人で、逃げた……」
                                 「それじゃ、だめ……ですか?」

門倉と咲美の顔を見る。

914『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/29(水) 03:54:30
>>913

 ……… ……… ……… ……… ………

 何かおかしな事を言ってしまったのだろうか―――
  『穂風』が持論を展開した後、しばしの沈黙が流れる。

                           そして―――

  「『なぞの女』………
      『なぞの女』………
                 ふふふ、『なぞの女』ね。

      『 な ・ ぞ ・ の ・ お ・ ん ・ な 』

    いい! 実にいい! それがいい! そうしよう!」

 突然、『門倉』は笑いながら、『穂風』の言葉を反芻する。
  『なぞの女』―――その言葉の響きがツボに入ったのかもしれない。

「『なぞの女』は『吸血鬼』だったんだよ。闇夜に跳んでさ!
 『刀のような牙』で獲物を捕えてはねっとりと『血』を啜るんだ。
 でさ、ここが面白いところでね、悪いやつの『血』は
 とても不味いから本当は飲みたくないんだけど、
 彼女は定期的にそれを狩る。何故だか分かるかい?
 それは、『健康にいい』からだ。『闇』に生きる彼女の一族にとって、
 『悪人の血』は『ビタミンたっぷりの野菜ジュース』みたいなものなんだ!
 『良薬は口に苦し』とも言うしね。夜な夜な苦虫をつぶしたような顔で
 彼女は『悪人』を狩り、自らの『健康』を保つ。
 きっと、お肌にもいいんじゃないかな。飲めば飲むほど青白い、
 『吸血鬼顔』に近付いていくんだよ。それで………

   ………
        ………

          ………すまない。少し、『無駄話』をしてしまったな。

  とにかく、『警察の方々』が来たら、俺のほうから、
    彼らがうんざりするくらい念入りに話してあげよう。
     納得しなければ、『警察署』に押しかけて泊り込みで話してもいい」

最後に『門倉』はとってつけたように、『こういう風に常識外の話をする事で、
スタンドがらみの事件だと思わせ、彼らの追及を逃れようとしているんだよ』と述べた。
 『冗談』なのか『本気』なのか………
  とにかく、『門倉』は『穂風』の提案に賛成のようだ。

 「………いいんですか? そんなので」

『咲美』が呆れたような顔で『門倉』に問うが、彼は自身満々に頷く。

915葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/04/29(水) 04:23:53
>>914

 ……… ……… ……… ……… ………

                       「……あ、あの……」

                       ≪お嬢様、名案だとは思いますが――≫

                                          「ぅ……」


     「そ、その、すみま……」

 いたたまれなくなり、取り消そうとしたとき。
 ……門倉の声が部屋に響いた。

        「・・・・・・」

               「あ……あう……」

                           「その……あの……」

なんだか、とんでもないことになったかな?
と穂風は思ったが……しかし、門倉を頼るのが、正解だろうな、とも思った。

         「それ、で…………
                 ……お願い、します……門倉さん、ありがとう、ございます。」

頭を下げる。あきれるような策だが、そもそもあきれるような事件なのだ。
こんな解決法も、悪くはないのかもしれない。

916『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/29(水) 04:43:09
>>915
「もちろん。任せてくれて構わないよ」

どこから来るのか分からない自信を持って、『門倉』はそう宣言した。

 ……… ……… ……… ……… ………

ほどなくして『パトカー』がやってくる。
『門倉』は『警官』に、先ほどの『咲美の話』に
『なぞの女の話』を加えたストーリーを、流暢に語った。

『荒唐無稽』なその話に、『警官』は胡散臭そうな顔を浮かべていたが、
途中から、ふと、何かに気付いたかのように表情が変わり、
さしたる反論もせずに、それを受け入れた。
『警察はおかしな事件には及び腰になる』という話はどうやら事実なのかもしれなかった。

『パトカー』が連行するのは『犯人』である『ドクター・ドレー』。
そして『保護』の意味もあるのだろう、『今谷』と『咲美』。
『門倉』と『穂風』は『通りすがり』という事で、連絡先だけ訊かれ、『開放』される事となった。
(もしかすると『門倉』の長々とした話に辟易してしまっていたのかもしれないが)。

『穂風』は『パトカー』に乗り込む『今谷』『咲美』、
そして『ドクター・ドレー』であった『青年』を見やる。

『診断』を終えてからの『青年』は、それから何も喋っていない。
さしたる『抵抗』もせず、『魂』が抜けたかのように『警察』に従っている。
今、彼の心中は一体どうなっているのだろう。
少しは落ち着いたのか、それとも………。

『今谷』と『咲美』は、『穂風』と『門倉』に口々にお礼に言葉を述べる。
彼ら、特に『咲美』が、本当に『辛い』のはこれからだろう。
―――それを考えると、祈るような気持ちになる。

917葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/04/29(水) 05:26:28
>>916

         「…………はい……!」

      根拠の分からない自信でも、言い切られるとけっこう頼もしいものだ。

 ……… ……… ……… ……… ………

門倉に託してからの時間は、穂風の想像より早く流れていった。

      「……」

穂風は『ドクターだった男』や『咲美』『康太』を見送る。


      「……咲美、さん……」

      「…………康太、くん……」

                 「…………『また』……また、いつか。」


今谷兄妹とは、またどこかで会えるだろうか?
彼らは今後、どのように生きていくのだろう?

      《……そろそろ……参りましょう。お嬢様の住処へ。》

      「……ん。」

雨は……水の循環だ。

人も同じように――一度水溜りに落ちてしまっても、またかえれるのだろうか。

従者が門倉に目配せする。
…………穂風は、まだ、パトカーを眺めていた。

918『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/29(水) 05:43:12
>>917

「さて―――そろそろ、俺たちも行こうか。
 『オーナー代理』に事の顛末を上手い具合に報告して、
  あとは、『穂風ちゃん』、いよいよ、君の『契約』の時間だ」

『ヴァンパイア・エヴリウェア』の目配せを受け、
いつまでも『タクシー』を眺めている『穂風』に『門倉』は声をかける。

そうだ、『穂風』はそもそも『賃貸契約』しにやってきたのだ。
彼らが去った後、『穂風』が『201号室』に入るのを拒む要因はもはやない。

 「『契約』………『契約』―――
   ああ、そうだ。『穂風ちゃん』にひとつ、『問題』があったんだった。


    ズバリ―――

            『ドクター・ドレーとは誰だったのか?』
                         ・

        ああ、流石に質問が『抽象的』すぎたね。
          俺が聞きたいのは彼の『名前』だ。
      実は、彼が気絶している間に、彼の『免許証』を確認していてね。
         俺は『その答え』を知っているというわけだ」

  『名前』―――
   『穂風』の脳裏に、『ドクター・ドレー』の中身の
   『青年』の顔が浮かび上がる。
    対峙した時は『戦い』に夢中で、
     彼の名を悠長に聞いている余裕など無かった。
      その可能性は『門倉』にも予測できるはず。

    それなのに、こんな『質問』をしてくるという事は、
     直接、『ドクター・ドレー』に訊かなくても、
     それを答えられる『材料』をすでに『穂風』は持っている、という事なのだろう。

「おそらく、これが、この事件に関して
  俺が君に訊ねる『最後の問題』になると思う。


                              さあ、『穂風ちゃん』、
                         答えてもらって、いいかな?」


                          → TO BE CONTINUED
                            (続きはまた今夜………)

919葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/04/29(水) 16:25:55
>>918

          「……あっ、あ。
          ……………は、はいっ!」

小さく、しかし確かな喜びとともに頷く穂風。
……そして。

                         「……!」

門倉の、『最後の問い』を聞いた。
穂風の頭の中には、ひとつの名前が浮かんでいた。  穂風は当初、咲美の事を『そう』呼んでいた。

だが、今考えると……彼女は『咲美』だ。今谷咲美だ。
実際、咲美はその呼称を、一度たりとも『肯定』していない。

                             (……もっとも、否定もしていないが。)


        「――『山井』」

                           「『山井 岬』……ですか…………?」


山井岬とは『Dr.Dre』……つまり、あの男のことなのではないだろうか。


††  †††  †††  †††  †††  †††  †††  †††  †††
 『記憶』のない私が頼れるのは彼だけでしたので、  それを信じて、私はこの『阿武名荘』で療養する事にしたのです

††  †††  †††  †††  †††  †††  †††  †††  †††

なぜ『Dr.DRE』は『療養』に阿武名荘を選んだのか。
                 そうだ。咲美が選んだのではなく、彼が選んだのだ。

まず、仮に『山井岬』が咲美を指すとして――当時の、記憶喪失に陥っていた咲美に、家を借りられるだけの立場とか、能力ははたしてあるだろうか? 一概には言い切れないが、無いはずだ。
この点から、契約者である山井岬とは咲美ではなく、『Dr.DRE』の名義である可能性がうかがえる。

……とはいえ今まさに契約しようとしている穂風も人のコトは言えないので、これは証拠として弱い。

                   別の切り口から行こう。

『療養』――すなわち『咲美と二人になるため』の場所、監禁部屋として新たに部屋を借りるなら、大家や隣人の問題が想定できる『アパート』を、わざわざ選ぶだろうか? 三年も慎重に立ち回り続けた彼にしては、迂闊すぎやしないだろうか。
機密性よりコスト重視で、『家賃の取り立てが甘い』ことを見越して選んだ? ……それも違和感がある。そんなことは、住んでいるものでなくては知りえない情報だからだ。

もう一つ……いくら欲望に駆られようと、自分の今までの生活を総べて捨て去ってまで、三年間の監禁生活に挑もうと思うだろうか。
ありえないでもないが……そのために引っ越す(引っ越しには相当金がいるし時間もかかるはずだ)くらいなら、監禁場所は勝手知ったる自分の巣にするのではないだろうか?


                          つまり、恐らくだが……201号室は、彼の元からの住処なのだ。
                          ミサキ、という響きは女性的だが……男でもおかしくはない。
                          あるいは『読み違え』もありえる。岬は『コウ』とも読む。それなら中性的だ。



††  †††  †††  †††  †††  †††  †††  †††  †††
 「201………201号室は、ああ〜〜〜
 『山井岬(やまい みさき)』さんが契約している部屋ですぇ。

 ヒジョーに病弱な娘が、私が来る前から住んでましてね、

††  †††  †††  †††  †††  †††  †††  †††  †††      
                                             
正直、彼女についてはニガテなんであんまり会話してないでぅ………

††  †††  †††  †††  †††  †††  †††  †††  †††


この辺りの『逸香』の証言でも、山井=咲美(病弱な娘)である、とは一言も言っていない。
咲美は三年も前から監禁されていたのだから、逸香以前からでも何らおかしくはない。


  
             「………………」

             「合って……ます、か……? 門倉、さん。」


穂風はじっと門倉の顔を見る。
                  門倉には、強張った穂風の顔が見えるだろう……

920『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/29(水) 19:17:56
>>919

           『山井岬(やまい みさき)』

『穂風』は『阿武名荘』に来て最初に聞いた名前を口にする。

『山井岬』―――『少女』の呼称だと考えられていた『名前』。
          だが、『少女』自身が『山井』だと名乗った事は一度もなかった。
          それに、あれだけ大事な『ラヴレター』に、自分の名前を
          書いていなかったのも、今思えばおかしいのかもしれない。

 『穂風』が呼びかけた時に、『否定』をしなかったのは少し気になるが―――
  ………あえて解釈すれば、『記憶喪失』時の『少女』は
       妙なハイテンションだったので、適当に聞き流した、というところなのだろうか。

 他の根拠を探ってみよう。

『阿武名荘』を選択した者、それは『ドクター・ドレー』だ。
それはそうだろう。『咲美』も言及していたし、
『記憶障害』だった咲美に住処を調達してくる余裕があったとは思えない。
そうなれば『契約』は当然、『ドクター・ドレー』が行った、
あるいは行っていたと考えるのが然るべきだろう。

『記憶障害』『身分証明を持たない』『未成年』。
………後ろのほうは『穂風』も当てはまるので大きな声では主張出来ないが、
上記の特徴を持つ『少女』がスムーズに『契約』出来たとは考え辛いだろう。
そもそも、『ドクター・ドレー』は元から『阿武名荘』に住んでいた可能性もある。
それならば、『契約』は当然、彼が行っているだろう。
『やまい みさき』は女性的だが、男性での名でないとは言い切れない。

『オーナー代理』からの情報も、あくまで『契約者』の名が
『山井岬』であるという事と少女が『住んでいる』という事だけ。
『少女』が『山井である』とは一言も述べていない。

 すべては『状況証拠』ではあるが、これだけの事が
   『ドクター・ドレー』の『名前』を示唆しているのであれば―――



 "さきみ"が
   "だれ"かと言えば、


          それは、『患者』―――『201号室の少女』の事。

 では、
     "やまい”が
       ”だれ”かと言えば、

            それは、


         「『正解』だよ。流石は『穂風ちゃん』」


                『医師』―――『ドクター・ドレー』の事。

921<ガオンッ>:<ガオンッ>
<ガオンッ>

922葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/04/29(水) 23:37:39
>>920

「……そう、です……よね。

               ええと…………ありがとう、ございます。」


ここに来るときと同じように、もごもごと礼を言った。
それから俯きがちに
 
           「えへへ」

               ……と笑って、穂風は、顔を上げた。


……空を眺めると、雨はもうすっかり上がっていた。
                怪物みたいに分厚い雨雲は少しずつ、ゆっくりとその身を動かしていた。

    「…………」

俯いて、きれいだな、と穂風は思った。
雲の隙間から、差し込む月光が地面の水溜りに反射して、咲き乱れていた。

             「……いい天気、ですね。」


                       穂風は、もう一度小さく笑った。

923『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/30(木) 00:13:31
>>922
正解した『穂風』を『流石』と褒める『門倉』に対し、
『穂風』は感謝の言葉を告げた。

まだ辛うじて『日付』は変わっていないだろうか。

         思えば今日は怒涛の一日だった。

『駅前』で『門倉』の不動産屋に入ってから、『阿武名荘』へ移動。
『医師と患者』との出会い、『ラヴレター』を渡す為の下準備で『初めてのスーパー』。
やっと『ラヴレター』を渡したと思えば、『唐突な告白』。
そこから『兄と妹』の再会を経て、『医師の正体』に対する『推理』。

野望を抱き、去りゆく『医師』に追いついた後の『戦闘』、
その後訪れる、『医師』と『患者』と『その兄』との別れ―――
そして今、『医師の名』を見抜き、『穂風』はようやく、
念願の『賃貸契約』にありつく事が出来る、というわけだ。

         ―― 医師の正体 ――

今から思えば、それを『見抜く為』の『象徴的』な出来事が多かったようにも感じる。

直接の看破の契機になった着ぐるみの『こがねくろう(>>728)』だけではなく、
『門倉』が『咲美』に話していた謎のストーリー(>>759)も妙にヒントになっていた。
そして、何より『穂風自身』、絵の具を顔に塗りたくった際、
『ヴァンパイア・エヴリウェア』という『存在そのもの』になったような瞬間があった(>>770)。
あれもまた、『ドクター・ドレー』の正体を暗示していたのかもしれない。

すべては『偶然』………いや、『運命』と呼ぶべき何かが、
今日、この時に、『医師』の野望を食い止め、『咲美』を開放させるべく、
『穂風』達に力を貸してくれたのかもしれなかった。

   ……… ……… ……… ……… ………

 空を見上げると、『月明かり』が少しだけ洩れて、
   『雨』が作った『水溜り』にその光を落としている。
  それを『いい天気』と表現する『穂風』に、『門倉』は笑う。

   『月明かりをいい天気というのは、とても面白い表現だ』

             仕方がないだろう。

   『闇』と『雨』を糧とする『穂風』にとっては、
    これこそが、なにより『いい天気』なのだから―――


                        『やまいだれ、さきみだれ』→『了』

924『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/30(木) 00:17:39
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
  傍に立つその『意思を持った存在』は、本当にあなたの『精神』か?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

全身を覆う、白衣や医療器具をモチーフとした『纏うタイプ』のスタンド。

生物の『疾患』を見抜き、本体が伝えた『診断』に、
その『疾患の状態』を近づけるのが能力。

本体は、生物を診ただけでその生物が持つ『疾患』を把握可能。
そして、『疾患』を持つ生物が本体の『診断』を知覚する事で、
『疾患』が『診断』に近付いていく。

能力の『効き目』は、『回数』・『距離』・『信頼』の三要素によって増減する。
つまり、『診断』を知覚した『回数』が多いほど、
本体と生物の『距離』が近いほど、生物が本体を『信頼』しているほど、
『疾患』が『診断』に近付く『速度』と『割合』が増す。

このスタンドの『疾患』の定義は、『病院で治療対象となる症状全て』。
よって、『怪我』や『症候群』、『精神的な疾患』、『リハビリが必要な状態』などにも施行可能。
また、同一対象の複数の『疾患』にも同時に能力を施行する事が可能。

対象が『疾患』に全く罹っていなければ能力は施行出来ない。
また、この能力で行える『疾患の軽重操作』には『限界』があり、
対象がその疾患で即座に『死亡』するほど『重く』したり、
『完治』するほど『軽く』したりは出来ない。

あくまで『診断』に近づけるだけで症状が『固定』されるわけではない。
『診断』を受けた後も、適切な『処置』や『治療』、
あるいはただの『自然治癒』で、その病は平常どおり回復へと向かっていく。

『ドクター・ドレー』(Dr.Dre)
破壊力:C スピード:(手捌きのみ)B 射程距離:E
持続力:C 精密動作性:(手捌きのみ)A 成長性:D

925『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/30(木) 00:24:56
『山井岬(やまい みさき)』は、黄金町の近くにある
小さな村で『ひとり息子』として生まれた。
『村』の『有力議員』である両親は、彼を甘やかせるだけ甘やかし、
その分だけ、『山井』のプライドは肥大していった。

『山井』には『不思議な力』があった。他者の『病気』が直観的に分かり、
そして『山井』が言ったとおりにその『病気』の『症状』は推移する。
彼が持っていたのは、『病気を見抜き、その軽重を自らの診断に近づける』
能力だったのだが、周囲の人間はそれを『生まれながらの医師の才』と褒めそやした。

村は常に『医師不足』に悩まされており、
『医師』という職業は、村ではもっとも尊敬される職業の一つであった。
大人たちが『山井』に『医師』という職業を期待し、
それに応えるように彼自身も、
『自分が医師になるのは当然の事』だと思うようになっていった。

そんな彼が好むのは様々な『医療もの』。
『映画・ドラマ・漫画・小説・アニメ』………。
多種多様の医療に関する物語が、
彼の『医師になりたいという意志』を補強していった。

だが、高校を卒業する段となり、『山井』の受難が始まる。

『山井』は『努力』というものを極端に苦手としていた。
『村の有力者の子供』であり『不思議な力』を持つ彼は、
そんな事をしなくても周囲から持ち上げられ、
その『自尊心』が折れる機会はなかった。
中学も高校も村のもので、彼が何か出来なくても、
『村の有力者のひとり息子』をわざわざ叱るような教師は居なかった。

現代日本において『無免許医』は認められていない。
『医師』になるには『医学部』を卒業し、『試験』に合格するのが最低限必要である。
だから当然、『山井』も『医学部』を受験した。

しかし………彼の『学力』は、『医学部の合格ライン』にまるで届いていなかったのだ。

926『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/30(木) 00:26:16

『医学部受験』に失敗した『山井』は迷いなく『浪人生活』を始める。
『山井』は自分が『医師』になるのは当然だと思っていたし、周囲もそれを応援してくれていた。
村にはろくな『予備校』がなかった為、近隣の『黄金町』にて
『予備校寮』に入ると、そこから『予備校通い』を始めた。

『予備校』での収穫といえば、勉強が捗った事ではなく、
自分と同様の『超能力』を持つ者たちと知り合えた事だろう。
彼等との交流でこの能力が『スタンド』と呼ばれる事、
そしてその基本的な『ルール』について学ぶ事が出来た。
人が多い『町』にはこのような特異な能力者が何人も居るのだ、と感心したが、
よくよく聞いてみると、それはこの『黄金町』特有の現象のようだった。

結局のところ、『山井』は『医学部』に合格する事が出来ず、
『2浪』、『3浪』、『4浪』と、徒に年を重ねていった。
勉強に身が入らなかったのは、先述したように『努力嫌い』という事もあったし、
すでに、『病気を見抜き、癒す能力』を持っている『山井』が、
わざわざその術を一から勉強する『医学部』に入るという事に
『馬鹿らしさ』を感じていたという事もあった。

年を追うごとに彼の『精神』は磨り減っていき、
『予備校』に行かない事も増えていった。

『5浪目』を迎えた時、彼は日常的に『白衣』を着るようになり、
独自に用意した『医療器具』なども携帯するようになっていった。
この頃になると、『受験勉強』などはまるで行わず、
『医師』という存在について思索し続ける日々が続いた。

927『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/30(木) 00:27:28

    ―――その日。

『山井』はあてもなく愛車を走らせていた。
『浪人生』という身分だったが、『成人したら車を持つのが当たり前』という
田舎の親の考えに沿い、当然のように免許を取り、車を所有していた。
日々募る鬱憤した思いを晴らすかのようなスピードでの『ドライブ』を彼は好んだ。

雨が酷く降っており、見通しが悪かったのか災いした。
郊外の人気の無い道で、『山井』は一人の少女を―――『轢いた』。
慌てて車を飛び出した彼は、中学生にも満たないような彼女を発見し、駆け寄る。

      その時点では、『そんなつもり』ではなかったのだ。

駆け寄った『山井』は思わず息を呑む。
雨に濡れた『少女』は、まるで精巧な人形のように美しかった。

続いて、彼女の容態を自らの能力にて確認する。
彼女は『交通事故』の怪我のほかにも、その身に『病』を抱えていた。
それ自体は、ただの『風邪』ではあるようだが………

何より決定的だったのは、彼女の所持品のハンカチに
『いまや さきみ』という名前が書かれていた事。
―――何の因果か、それは自らの名である
『やまい みさき』のアナグラムとなっていた。

この少女は、自分と対となるべく産まれて来た存在だ。
『山井』はそう確信した。


 『山井』は常日頃より、考えていた。
  『医師になる』のに本当に必要なものは何か?
   どんな名医でもそれがないと『医師』として成り立たないもの。

   それは『医師免許』なんかではない。

       もっと根本的なもの、そう、それは、

                ペイシェント
                『患者』だ。

928『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/30(木) 00:29:04

 『少女』が目覚めた後、よく『診る』事で、
 彼女が『記憶障害』を起こしているのに気付いた時は身が震えた。
  全ての運命が『山井』に味方していると思った。
 あとは与えられた『チャンス』をしっかりと掴み取るだけ。

 『山井』は頭をフル回転させる。
  『少女』を完全なる『患者』に仕立てあげるには、
    一体どんな『物語』を提供すべきなのか。


 咄嗟に連想した『ストーリー』があった。
 それは少年期に読んだ『漫画』で、病にかかった『我侭なお嬢様』が、
 療養先で出会った『主治医』と、ドタバタなやりとりを
 繰り返すという『コメディもの』だった。

ほんの数話で『打ち切り』になってしまったので、
知っている者などほとんど居ないが、
『可憐なお嬢様に寄り添う主治医』という構図が
『山井』の琴線に触れ、ずっと印象に残っていた。

 「あァら〜〜〜↑↑ あなたが私の『ドクター』なのォ?
  小難しそうな顔して、なんだかイヤねェ〜〜〜!
  私ってば純情可憐、高貴なお嬢様だから、
  誠心誠意、カンッペキに私に尽くさなきゃダメよォ〜〜〜

   そうね、あなたは私の『奴隷』のようなもの。
    今日から『ドクター・ドレー』って呼んであげるわァ〜〜〜〜」

 これは、第一話での登場人物の『お嬢様』の台詞。

 医者を『奴隷』扱いするのはいかがなものかと思えるが………
 (打ち切りになった要因の一つなのかもしれない)。
 また、当時、『孤島で奮闘する医師の話』が流行っていたので、
  それをもじった『名付け方』だったのかもしれなかった。


もう一つ思い出したのは、『予備校』で出会った『自立型スタンド』の事だ。

 『本体』にまるで友人であるかのように接する『彼』。
 また、『本体』は女性だったのに対し、『スタンド』は男性めいた口調と声質。
  だが、『本体』は『スタンド』に一かけらの警戒心も抱いていない。

 いくら『人型』と言えど、異形ともとれる特異なデザインの『意思を持つ存在』。
 本来ならばいくら警戒してもし足りないこの『存在』を、
 『本体』は自らの『スタンド』だからという理由で全面的に『受け入れている』この事実。
  その奇妙な間柄を、『山井』は興味深い思いで眺めていた。

                この二つを組み合わせれば―――

929『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/30(木) 00:31:14

 事故と病によりひどく弱った『少女』に『山井』は告げる。

 自分は少女の『精神の具現化』、スタンドであり、『主治医』であるという事。
  少女には末永い『療養』の必要があるという事。

  そして、最後に自らの名を名乗る―――私の名は『ドクター・ドレー』と。
                                マイ・ドクター
 この時から、『山井』は『ドクター・ドレー』となり、『少女だけの医師』となったのだ。

       ……… ……… ……… ……… ………

 次に『山井』がした事は、新しい『住まい探し』だ。
 流石に『予備校寮』に『少女』を連れ込むのは危険すぎた。

 『阿武名荘』については、雑談の中で『予備校』のクラスメイトから聞いた事があった。
 『オーナー』が奇特な人間で、素性の怪しい者でもホイホイと入居させてくれる、と。
 事実その通りだったが、一応は『免許証』の提示を求められ、
  契約に偽名を使うわけにもいかなくなった。

   契約は拍子抜けするほどスムーズに行われ、
    その日のうちに『阿武名荘』に住める事になる。

          ドクター  ペイシェント
   そこから、『医師』と、『患者』の、歪んだ蜜月が始まった。

 まず、『山井』は『少女』の『記憶障害』を、このまま『定着』させようと考えた。
 事故のショックから来る『記憶障害』は一時的なものである事が多い。
 それが治ってしまっては全ては破綻してしまう。
 だから、『山井』は彼女の『記憶障害』の『診断』を毎朝、毎朝、日課のように囁いた。

 『あなたの記憶はここに来てからのものしかありません。
   それより前の事は一切思い出す事はありません』

 続いて、『不治の病』の『演出』。
 『少女』にいつまでも『患者』で居てもらうには、『治って』しまう病ではダメなのだ。
 幸いというべきか、出会った時に『少女』はすでに『風邪』をひいていた。
 だから、『山井』は彼女の『風邪』の『診断』を毎朝、毎朝、日課のように囁いた。

 『あなたの病は非常に重いもので、完全に治る事はありません。
  今日は特にセキの症状が酷いようです』

 『山井』は自らの能力によって、五輪の『聖火』を守るかのように、
  『少女』の『記憶障害』と『風邪』を『三年間』絶やさずに保持し続けた。
               マイ・ペイシェント
    彼女を完璧な、『山井だけの患者』に仕立て上げる為に。

930『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/30(木) 00:32:40

『山井』がもっとも恐れ、かつ、『覚悟』していた事は
彼の罪が発覚し、逮捕されてしまう事である。
10日ほどすると、『少女』が失踪したという記事が『地元紙』に載った。
しかし、一ヶ月経っても、二ヶ月経っても、
警察が『山井』の元を訪れる事はなかった。

幸運だったのは、『少女』が『家出』の常習犯だったらしいという事だ。
その為、『警察』には『非行少女』の身勝手な家出と看做され、
あまり捜索に力を入れられなかったのだ、と『山井』は推察していた。
(本当は黄金町警察の、『スタンド絡みの事件を追うと妨害を受ける』という
 特性があったからなのだが、『山井』がそれを知る術はなかった)

危うかったのはむしろ、引っ越して数日も経たないうちに、
突如、『オーナー』が部屋を訊ねて来た時だ。
飄々とした老人で、何を考えているかよく分からないこの人物に、
『少女』を見られた時は、どうしようか真剣に悩んだが、
『オーナー』は『若いカップルの同棲』と看做したようで、むしろ好意的に捉えてくれていた。
身の上を心配され、『家賃は要らない』などと言ってくれる『オーナー』。
『親からの仕送り』がある為、金にはさほど困ってはいなかったが、
金はないよりある方がいいので、その申出は喜んで『受け入れた』。

その経緯を知らない、後から来た『オーナー代理』が
『家賃を踏み倒している』などと吹聴しているらしい事は人づてに聞いたが、
その『オーナー代理』、どうやら人見知りのようで、
けして直接的にコンタクトをとってこようとしなかった。
このままでは誤解が解ける事などないのだが、実害もない為、放って置いた。

『金』については、『少女』には『役所から見舞金が出ているから大丈夫』だと伝えていた。
極めて稚拙なウソだったが、『少女』がそれを疑う様子はなかった。

今もなお『浪人』していると言い張る『山井』に
『両親』は何も言わず『仕送り』し続けてくれていた。
流石にこの『多浪』ぶりに『両親』だって思う事があっただろうが―――
常軌を逸した甘々ぶりだったのか、
あるいは『コンコルド開発』のように、途中で引き返せなくなっていたのか。

いずれにせよ、自分たちの『仕送り』が、
見知らぬ『少女』を『監禁』する為に使われているなどとは、
思いもしなかっただろう。

931『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/30(木) 00:38:27

『あの日』から、二年ほど経ってもまるで『発覚』する気配はなく、
『山井』と『少女』の関係は、山井の理想どおりの形で続いていた。

あの日の『風邪』を継続させられている『少女』は慢性的な倦怠感から、
出歩こうという気すら起こさず、また、『記憶』もない為、『山井』に頼りっきり。
記憶を失った『少女』は『名前』すら与えられていない。
『患者』はあくまで『患者』。『マイ・ペイシェント』というだけの存在。

『少女』をそんな状態に貶めている事で、『山井』の歪んだ『満足感』は満たされていた。

この頃になると『山井』の心に妙な余裕が出来ていた。
ある日、ふとした『遊び心』で、折角ならば、
より『ドクター・ドレー』に近付いてみようと思いついた。

すなわち、あの『漫画』の『再現』だ。

『山井』は『少女』にあの漫画の『お嬢様』の如くふるまう事を強要した。
当然、『少女』は戸惑ったが、すがるものは『山井』しか無い。
困惑があっても、結局は彼の言う事に従うしかなかった。

途中から『少女』の方も『お嬢様の演技』を
楽しんできているようだったのは幸いだった。
よくよく考えてみれば、何もやる事のない、『準寝たきり』の生活。
『演じる』という事にせめてもの、『生き甲斐』を見出すのは
自然な話だったのかもしれない。

数ヶ月が経った頃、『少女』の『お嬢様の演技』は完全なものになり、
常時、その『演技』を保てるまでになっていた。
それを確認した『山井』は、日々囁く『記憶障害』の『診断』の内容を少し変えた。
『完全なお嬢様の演技が出来る前』までの『記憶』を全て失わせたのだ。

それにより、『少女』は、自らが出自不明の『謎のお嬢様』だと信じ切るようになった。

932『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/30(木) 00:41:29

『誤算』だったのは、『お嬢様』と化した『少女』が『恋』をしてしまった事だ。
確かに『ドクター・ドレー』という漫画の『打ち切り間際』のエピソードにおいて、
『お嬢様』は、とある青年に恋をするのだが………
まさか、そこまで『模倣』するとは思わなかった。

『窓際』から見える爽やかそうな『高校生』。
彼について『調べて欲しい』と相談され、『山井』は彼の周辺を調べ始める。

『ドクター・ドレー』の白衣を脱ぎ、『山井岬』として『聞き込み』を行った事は、
それなりに気分転換にはなった。しかし、それにより判明した
『高校生』の正体に『山井』は眉を顰めざるを得なかった。

『今谷 康太』………『少女の実の兄』。
『遺伝子』の力は恐ろしい。いくら『記憶』を消しても、
本能的に『好ましい』と思ってしまうというのか。
『少女』が感じているのは、おそらくは『恋』とは違う、
血縁間の『親近感』のようなものなのだろうが、
『初恋』も知らぬ彼女がそれを勘違いしてしまうのは無理からぬ事だった。

それからというもの、『少女』は
『恋の妄想』を話したり、『ラヴレター』を書き始めたり、
ずっと『今谷』の事を考えているようだった。
ただ、それらの傾向について、『山井』は『問題視』していなかった。
それは『漫画のお嬢様』の行動そのものであり、
『記憶』を失う前の本来の『少女』ならば、
おそらくやらなかったであろう行為だったからだ。

このまま、『窓際』から『今谷』を眺めているだけの生活ならば『記憶』は戻らなさそうだ。
そもそも『少女』をこんな『お嬢様』に仕立てあげたのは、他ならぬ『山井』。
ならば、このまま、好きにさせておくのも悪くない、と『山井』はこの状態を許容した。
『少女の意思』を蔑ろにし、『記憶の改ざん』まで行った『山井』にしては、やけに穏便な判断だった。

『スタンフォード監獄実験』という心理実験がある。
被験者を『囚人役』と『看守役』に分かれさせ、
擬似的な『刑務所』にて過ごしてもらうと、被験者は次第に
その『役割』に忠実な性質を持ち始めるようになるという『実験』。

『山井』は『少女』を『お嬢様』に仕立て上げ悦に浸っていたが、
その実、彼自身も『ドクター・ドレー』という、
『お嬢様を見守る存在』に、強く引きずられつつあったのだ。

933『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/30(木) 00:46:01

見知らぬ者を応対する際には、『山井』は必ず初めから『スタンド』を着こんだ。
『黄金町』に『スタンド使い』が多い、という事は『予備校時代』に思い知らされている。
であるなら、未知の来訪者が『スタンド使い』である可能性も十分に考えれるからだ。

『少女』は『山井』の事を『自立型スタンド』だと信じ込んでいるのだから、
人前でも、その幻想を補完するような格好をした方が『整合性』がとれる。
また、可能性はもはや薄いだろうが、万が一、『警察』が自分を捕まえに来た場合に、
最初から『纏っていた』方が『応戦』しやすいという理由もあった。

  ……… ……… ……… ……… ……… ………

    その日、『201号室』に来たのは、世間知らずそうな『レインコート少女』と、
    いかにも軽薄そうな『モヒカン青年』の組み合わせだった。

    『少女』が『"本物"の自立型スタンド』を持っていたのには少し驚いたが、
    『山井』が『自立型スタンドである』という事についてはまるで疑っていないようだ。
    『オーナー代理』にそそのかされて来たのだろう、『家賃』をどうにかして欲しいとの申し出。

     本当は適当にいなして、さっさと帰ってもらいたかったが、
     『お嬢様』がいきなりあんな『依頼』をし始めたのは想定外だった。
     『お嬢様』の思いはそこまで強かったという事か。

     あの『ラヴレター』の内容で成功するはずはないと思うが、
     『お嬢様の兄』と『お嬢様』が接触する可能性はたとえ僅かでも摘んでおきたい。
     兄との接触を契機に『記憶障害』が一気に『完治』してしまったら、
     その時は『ドクター・ドレー』の能力が及ばなくなってしまうからだ。
      そうなれば、『お嬢様』の治療が続けられなくなってしまうし、
     『ドクター・ドレー』が、『お嬢様』の『主治医』でいられなくなってしまう。
      ………それだけは避けたかった。

     面倒な事だが、後であの『レインコート少女』を上手い具合に言い包めて、
     確実にそんな事態を起こさないようにする必要があるだろう。
     そもそも別に『家賃』など払っても構わないのだ―――


         ……… ……… ……… ……… ……… ………

      『お嬢様』が居る事で『ドクター・ドレー』は『医師』で居る事が出来る。
      『ドクター・ドレー』は『医師』であり続けなければならない存在なのだ。

               これまで、ずっと、そうだった。
               そして、これからも、ずっと。

934『やまいだれ、さきみだれ』:2015/04/30(木) 00:48:41

 後日、例の怪我もようやく『完治』した『穂風』の元に、
  例の『二通のスーパーの懸賞(>>742)』が両方当たったとの知らせが入るッ!
    それも二つとも最上級ゥぅッ! ぃヤッタァ―――ッ!!
      あの日相当頑張ったのが、『運命的』なものに評価されたのか!?

  当選したのは特賞の『ペア旅行券』と一等の『ロードバイク(自転車)』ッ!
 『金券ショップ』にて『旅行券』は『12万』、『リサイクルショップ』にて『ロードバイク』は『8万』、
   双方売れば計『20万』の『マネー』が手に入る!
     使うあてがなければ、売ってしまうのがいいかもしれないッ!

                      葉鳥穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』→『20万円相当GET!』
                                      (各々売らずに手元に残してもOK。
                                      その場合はもちろん金銭報酬はなし)


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板