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【抑止の輪より】サーヴァント召喚シーン投下スレ【来たれ】

1名無しさん:2016/08/02(火) 21:36:02 ID:IzYCzDoE0
サーヴァントの召喚シーンを投下するスレです

2Premier Revolution   ◆8DhFXRguMA:2016/08/02(火) 22:42:09 ID:JZ00R4PI0
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」


ルーマニア、ミレニア城塞
ある日、この地でとある秘儀が行われた。


みたせ みたせ みたせ みたせ みたせ
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する」

王の間、その中央で床が光り輝いていた。
それを者たちは息を凝らし、瞬きを止めてそれに見入る。
玉座に座す男も、その輝きに見入っていた。
輝く床――否、これは魔方陣だ。
ここで行われるのは、神秘の儀式なのだ。

        セット
 「―――――Anfang」


 「――――――告げる」

魔方陣のそばには一人の青年。
この間にいるあらゆる者――魔術師たちのなかでも、最も若いかもしれない男。
祭壇には一挺の拳銃――しかし、古い。

「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
 
 汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――」

魔方陣の輝きに、王の間が呑まれる。
奇跡が、充ちる。
風が、吹き荒れる。
そして――― そこには―――――


『サーヴァント、ライダー。ここに参上した。
 貴様か?我を呼び出したマスターと言うのは―――――』


皇帝が、いた

3Premier Revolution   ◆8DhFXRguMA:2016/08/02(火) 22:42:22 ID:JZ00R4PI0
―――――

「私の命令に従えないというのかっ!ライダーッ!!」

日本、冬木
新都のビルの林の合間で、一つの喧騒が起きていた。

『ああ、我は第四の宝具を開放する気などはない。』

一人は、黒いコートを纏った西洋人の男だった。
もう一人も――西洋の男だ。
が、違う。あまりに違いすぎる。
その違いを表す適当な言葉は、風格。

「とっとと悪魔になって!その高いステータスでッ!押し切っていけば勝つのは簡単だと言ってるだろォ!?
 マスターの俺の方針に従えサーヴァントォッ!!」

コートの男――アンドレア・コッド・ユグドミレニアは顔を赤く染めて吼える。
もう一人の男、白い軍服の男はそれをどこ吹く風かと受け流す。
そして、アンドレアに冷たい眼差しを向ける。“見損なった”とでも言わんばかりの眼差しを。

「令呪を以て命ずるゥゥゥ!!『我が革命に、倒れよ』

軍服の男が、告げる。
革命は、成功したと。
アンドレアの右手が舞う。アンドレアの表情が驚愕に固定され―― そのまま永遠に固められた。
胸元には穴。軍服の男――英雄の手には、血に濡れた剣。
敗者はゆっくりと倒れ、英雄は振り返る。
そして、告げる。

『貴様――新たな我が主となれ』

4Premier Revolution   ◆8DhFXRguMA:2016/08/02(火) 22:42:44 ID:JZ00R4PI0
やっぱり、つまんない
アタシは深々と溜息。やっぱダメみたい。
毎日毎日変わんない。ちょっと髪染めてみたりはしたけど、やっぱりダメ。
このままだと、アタシ腐っちゃう。
なんかないのかなーオモシロいこと。


「あっ、これチョーイケてるじゃん☆」

学校帰り、いつものショッピングモールでちょっと寄り道。
カワイイ服みたりして、もりあがってるってカンジ?
なーんにもない毎日だけど、これはちょっと楽しい。
アタシ、真面目ちゃんよりもこっちの方が向いてたっぽい!

「―――あれ?今向こうの方に――ナンカ――?」

もりあがってるとき、向こうの方にナンカあるのが視えた。
アタシ、昔から視力がすっごくイイんだけど、ちょっとヘンなんだよね。
見えるはずがないものが見えるってゆーか☆
今日もそんなよくある幻覚の一つかなーって思ったんだけど、なんでだろ?なんか惹かれる。
アタシ、オカルトはムリなはずなんだけどなー
まっ、ちょっと見てみますか!どーせやることもないんだしね☆


ってノリでなんとなくそのナンカを見に来たんだけど…今メッチャ後悔。
マジギレしてるじゃん!あのひと!
マジヤバ…盗み見るんじゃなかった………
けど、なんか動いてもヤバそうだから動けない。
あのコスプレっぽい人…風格っていうかオーラっていうかもうとにかくマジヤバい!
にらまれたら死ぬって!コワすぎ!

けどこれ、マジなんなんだろ?
ケンカって思ったけどあのコスプレの人はずっと平然としてるし。
何より、ライダーとかホーグーとかイミわかんないんですけど。
だけど、なんか気になる…気づいたらムチューで聞いてる。アタシらしくないことに。
なんて思ってたけど――あのコスプレの人が持ってるのって、何?剣?

あ―――

コ、コートの人―――

し、死んでるよね―――?

声も、出せなかった。怖かった。
震えが止まらない。
逃げな――――


『貴様――新たな我が主となれ』


見られてる。逃げれ、ない。
言ってることはわかんない。怖い。怖すぎる――けど、なんだろう?
なんか――ドキドキしてる。
だからかな、声が、出たのは―――


「はっ、はいっ!だ、だから――殺さないでくださいっ!」



『フッ――――よかろう、契約成立だ』





―――――


ライダー陣営、契約完了

5『無限の国の狂ったアリス』 ◆lpRlWn7hoA:2016/08/04(木) 21:17:49 ID:9gQLm75Q0


─────”意味が、わからなかった”。


『っ……くゥゥうっ!!そろそろ、あたしの出番かと思ってたよ!!』『”オリジナル”ばかりじゃあ───つまらないでしょう?キャハハッ☆』


触媒に利用したのは空白の小説。故に訪れるのは”ノベル”だとか”フェアリーテイル”だとか、特にこれといった呼称のない”概念”の英霊であると確定していた。

何処か遥か彼方では”ナーサリーライム”と呼ばれる童話絵本の概念たる英霊が召喚されたらしく、聞くところによれば自らに従順で、自らの願望を投影すればそれそのものへと変化する使い勝手の良い英霊として現界したそうである。

───故に僕は聖杯戦争時にはそんな英霊を呼ぼうと決めていた筈だった。否、実際にその英霊は確実に召喚されたのである。

『───うっふふふ!!オマエがあたしを召喚したマスターさん??……初めまして!!』

───違う、違う違う!!僕はこんな死神の如き笑顔を浮かべながら血に塗れた少女なんて呼んだ覚えはひとっつもない!!!
明瞭で甲高い声が僕の耳へと届く。儀式を地下室で行っただけあって、その声は冷たく響き渡った。
その英霊は煙の奥からでも明らかに分かるほどの歪んだ笑いを提げて此方を見つめていた。

『あたしはキャスター!!名前は……そうねェ………”オルタナティブ・フィクション”とでも名乗るべきかしら?』


オルタナティブ……フィクション。訳せば”二次創作物”という訳になる。

でも、なんで。どうして。

確かに僕は”空白”の小説を媒体として利用した筈だ。明らかに”何か”に精鋭化したこんな英霊が現れたのでは、全く話にならない。全く、意味が理解できない。

そもそも、僕はなんで拘束具なんてつけているんだ………??
いや───待てよ。僕はこの少女と間違いなく何処かで、

『そう。───オマエはあたしを見たことがある筈だよ??
なら、あたしが”オルタナティブ・フィクション”として”ノベル”の代わりに出張って来たのかはわかるはず』

ああ─────そういうことか。
ナーサリーライムの様に単純明快な思考ならばまだしも、様々な作家の思惑が混じった”ノベル”なのであれば───ほんの少しでも邪念が存在すれば”オルタナティブ・フィクション”という二次創作物が出張ってくるのは当たり前。

そして────”オルタナティブ・フィクション”がこの様な姿をとっているのは間違いなく僕の”邪念”をそのままに投影したから。
……ああ、よく知っているし、憧れた、そして惚れた。文字で作られた世界であれど、その世界を殺してまで生き抜く”アリス”を知っている。

様々な作家によって捻じ曲げられた”アリス”の多くを僕は知っていたし、そして好んでいた。

それがどんな性質であるか───”理解していた”。


故に──────僕はもう一つ自分が投げかけた問いの答えに自分で辿り着いた。


辿り着いてしまっていた。

6『無限の国の狂ったアリス』 ◆lpRlWn7hoA:2016/08/04(木) 21:19:23 ID:9gQLm75Q0

少女の無邪気───いや、邪気に蝕まれすぎてもはや何の感情も感じないその声は依然として冷たい。


『そして───あたしはね??』


───やめてくれ。僕はその答えを知っている。
許して欲しい。僕は何よりも君とこの戦争を生き抜きたかったんだ。
だからこそ、君という存在が此処に存在しているんだ。

『なんとしてもこの世界を生き抜いて、勝ち残りたいんだ〜〜!ええっと─────だからね??』


ああ───知っている。僕の惚れた少女は盲目的に話も聞かず、ただ自分を生かすために総てを利用する自由奔放な少女であると。

『残念だけど、”オマエは必要ない”の!!』
『でも魔力なくなると困るからぁ、そのためだけに生きててね??』


───拘束具。
これが明らかに普通ではない事は理解できていた。微弱ながらも感じられる魔力、そしてその道具はゆっくりと僕の魔力を吸い上げている。
送られる先があるとすれば──間違いなくこの”アリス”だけであろう。

少女は僕の様子を舐め回す様に見てから、スキップしてドアの先にある光へと駆けた。
その先にある世界は────彼女にとって通い慣れた戦乱の国と映るか、それとも”経験したことのない”幸せな国と映るか、どうか。

『んじゃ☆ばいば〜〜〜〜〜〜い!!』

『ご飯の時には偶にきてあげるね!!一緒に食べよっ!』


ギィィ……バタン!!とドアが閉まり、僕は暗闇に閉ざされる。直後に響いた鍵の施錠音が、重い現実としてのしかかった。
いうなれば、僕は”アリス”の身代わりに。創作された世界へとずっと幽閉されていた彼女の生贄となったのか。

いや。

”あの少女はこんな暗闇に閉じ込められ続けた結果、あんな風に変容をしてしまったのか。”

最後に浮かべた狂気的なまでの彼女の笑みが頭から離れない。チェシャ猫が”チェシャ猫の様に笑う”のと同様に、その笑みは離れず、僕の脳内を埋め尽くしていく。

────やっと。今まで好き好んで読んできた”猟奇的なアリス”の悲しみを、僕が惚れた少女の悲しみを。
多少なりとも同じ立場に置かれて理解できた気がした。


ああ─────もう誰でもいい。僕を助けてくれ。
ああ、聖杯でも、何でも、誰でもいい……!

”無限”に作られる二次創作の国から、あの血に濡れた少女を、……僕を、………誰か────頼む───、


───────”解放してやってくれ”。



【キャスター:オルタナティブ・フィクション、”アリス”として現界】
【キャスター陣営、一方的に契約完了。】

7『どうでもいい』 ◆VB5lTdCAu.:2016/08/04(木) 23:45:04 ID:x.rajKGA0

「――――どうでもいい。」

一言そう呟けば、世界の全てが景色に見えた。

――――

歩く、歩く。淡々と階段を登るように、計算式を無心で解いていくように、僕は帰り道を歩いていた筈“だった”。
なぜ過去形なのかと問われれば、それが現在進行形で変化しているからだと答えよう。現実として、ここがどこだか僕にもよくわからない場所にいた。
もしかしたら足を踏み外したのかもしれない、と思ってしまえる程度には深くて暗い。明かりもなく、まるで泥の中に落ちたかのように体が重かった。

(泥の中に落ちたことなんて…………一回あったな。)

どうでもいい。声は出せなかったが、そう心のなかで呟けば幾分か落ち着いた。胸に手を当ててみる。呼吸のたびに上下する胸があった。どうやら死んではいないらしい。
奈落の底かと思っていたが、よく考えて見れば僕は奈落を知らない。ならばここはどこなんだろうと手を伸ばせば、真っ黒だった視界が急に鮮明になり、眼前に現れた景色が一つ。

鮮血の赤色。もちろん自身の物ではなく――痛みを感じないから当然だろう――他者のものである。誰のだろうか。目を向ければ答えは直ぐそこにある。一人の青年が倒れているのが分かった。
裸の上半身に刺青のようなものを入れており、下半身はズボンのようなものを履いている。赤色の布で申し訳程度に覆われた皮膚には確かにヤのつく人たちがつけそうなそれがあり、無意識のうちに一歩後ろへと下がってしまう。
ドン、という音と共に自身の体に何か硬いものがぶつかって情けない声が漏れた。予想外のことに驚いてしまい、上げてしまった声のせいで身じろぎをする青年。僕の声で起こしてしまったらしい。

「こういう場合、どうやって声をかければいいんだろう……?」

経験がないことには対処できない。もし仮に出来たとしても大惨事になることは請け合いで、本来ならば見過ごしてしまいたい。けれど、こちらが対応をする前に青年は起き上がって、こちらに手を差し出す。
面白いものを見つけたとでも言うような笑顔に、彼自身の体から溢れた血液を滴らせて

「よう“マスター”! 敗走確定だとは思うが、運が悪かったと思って付き合ってくれな?」

よくわからないが、そんなことは“どうだっていい”。
心のなかで一つ“呟いて”、僕は彼の差し出した手に取り敢えず応え、こう言うんだ。


「――――君、誰?」と

8開幕・魔鎌の兵 ◆FaqptSLluw:2016/08/05(金) 00:42:51 ID:bcAZ9TjM0
「それで───」

熱い緑茶の汲まれた湯呑みを卓袱台に置いて、アサシンは視線を向かいの女性に向けた。
女性はアサシンを見ていない───否、顔は確実にアサシンの顔を向いているのだが、その両目は優しく閉じられたまま開かずにいる。
湯気の上がる湯呑みに両手を添えたまま、女性は問い掛けの言葉を続けた。

「貴方のお名前をまだ聞いていませんでしたね」
「…………」

その問い掛けに、アサシンは沈黙を返し、暫し黙った後で静かに口を開く。

「…名も知らぬ者を部屋に上げ、飯を出したのか?」
「? えぇ、そうですが……」

「何か、悪かったかしら」と呟いた彼女を前に、アサシンは溜息を飲み込みながら頭をガックリと落とした。
何を考えていれば、どんな思考をしていれば(自分で言うのもなんだが)こんな怪しい男を家に入れられるのか理解出来ない。
そんな事を考えていたのを察したのか、彼女は続ける。

「だって、凄く困っているみたいだったもの、身寄りが無いのでしょう?」
「いや、身寄りというか……うむ、まあそうだが」
「ならいいじゃないですか、私だって誰でも部屋に入れる女ではありませんよ」

やりにくい女だ、とアサシンは口籠った、間を埋める為に緑茶を啜る。

「所で、お名前をまだ聞いていませんわ」
「……アサシン」
「麻氏さん?」
「違う……宍戸梅軒だ」

あぁもう全くやり難い、本来なら無関係の人間に真名を明かすのは御法度の筈なのに、つい真名を明かしてしまった。
これが敵の罠であるなら大した演技力だと感心する、どうやら流石にそうではないらしいが。

「シシド…宍戸さん、珍しい名前ですね、昔の人みたい」
「…うむ、まあ……そうだな」

9開幕・魔鎌の兵 ◆FaqptSLluw:2016/08/05(金) 00:43:26 ID:bcAZ9TjM0
どうしたものか、会話をした所で彼女が人の良い一般人である事以外がわからない。
無害である事は確かなようだが───それ故に、下手に干渉するのはお互いにとって害にしかならないだろう。

「……それでは、俺はこれで───」
「あの、宍戸さん。失礼ですがお仕事は?」
「───…………」

これ以上の長居は無用、そう思ったアサシンが立ち上がろうとした瞬間、測ったようなタイミングで問いかけられた彼女の言葉にアサシンは面食らい、固まってしまう。
思わず立ち上がりかけた膝を下ろして座ってしまった、英霊に職業を聞く人間なんて今までいただろうか?

「仕事、と言われてもな…」
「それでは、ご住所は?」
「いや、それは…」

答えようにも答えられない質問攻めに言葉を失ったアサシン、そんな彼に対して彼女は小さく溜息を吐いた。

「家も無い、仕事も無い、そんな事ではいけませんよ宍戸さん、明日のご飯はどうするつもりだったんですか?」
「いや…うむ、それはそうだが」
「これも何かの縁です、貴方が仕事を見つけて自立するまで、衣食住の面倒は私が見ます」
「はぁ」

突然何を言い出すのか、いやもういい、好きにしてくれ、アサシンは呆れた表情で、言い返す気もすっかりなくしていた。
盲目である癖にどうしてこうも世話焼きなのか理解に苦しむ、自分一人で生きるのも大変だろうに。

「狭い部屋ですけど、二つ布団を並べるくらいは出来ますから、それが嫌なら早く仕事を見つける事、いいですね?」
「……うむ」

一体、自分は彼女にどういう人間だと思われているのだろうか?予期せぬ形で、アサシンは拠点を手に入れた。


「───そうそう、忘れていました」
「私の名前は比奈 椿と言います、よろしくお願いしますね、宍戸さん」
「あぁ、よろしく頼む」

すっかりと温くなった緑茶を啜り、卓袱台に置くと、彼女と出会った街中とはまるで違った静寂が包む。
虫の声、遠くのエンジン音、電化製品の稼動音…人の暮らしを感じる静けさだ。

「いい静かさでしょう?」
「ああ、存外ここにいるのも悪く無いと思えて来た」

意図せず彼女と共にいる事になったが、彼女は魔術師ではない、魔力は感じるが非常に微弱で、英霊を人間と勘違いするくらいだ。
やはり、巻き込んではなら無い存在である、然し───

(……此の儘では余り永くは持つまい)

現在アサシンはマスターのいない状態、限界したその瞬間から、目の前にあったのは本来マスターとなるべきだったであろう人間の死体だった。
何者かに殺害されたか、それとも他の何か、どちらにせよ契約を結ぶ事の出来なかったアサシンは、魔力供給を受ける相手が居らず、霊其を保つのにも現界があった。
ならば───たった今目の前にいる彼女は、魔術師ではなくても魔力がある、背に腹は変えられないと考えるには十分なのではないか。

「…………」

矛盾、舌の根も乾かぬうちに彼女を巻き込もうと画作した自分を心の中で貶した。
元より大した願いも無い自分、このまま静かに消えるのも悪くは無いと、そう思ったが。

(一宿一飯の恩義は、返さなくてはならんな)

一方的に押し付けられても、自分が少しでも有難いと思ったのならそれは恩、女に借りっぱなしで座に帰るのは格好が付かない。
ならば、それはきっちりと清算して行くべきだ、そうでなくては男が廃る。

「……椿殿、一つ聞きたいのだが」
「はい、なんでしょう?」

「欲しい物、もしくはやりたい事等、つまり、願いというものはあるか?」
「いきなりなんですか?でも、そうですか、願い事ですねぇ───」

突然願い事なんかを聞き出したアサシンは可笑しかったのだろう、クスクスと笑いながら返した椿は、しかしただ一笑に付すのではなく、問い掛けに明確な答えを示した。
それを聞いたアサシンは静かに頷き、ゴツゴツした手で彼女の右手を優しく包むと、覚悟と共に言う。

「その願い、俺が何としても叶えよう」

全ては、恩義の為に。
椿の右手に赤い令呪が刻まれ、ここにアサシンのマスターが誕生した事を示した。

10はじめてのしょうかん ◆R7QnFcJZcI:2016/08/05(金) 01:32:09 ID:UnsCIJRQ0
―――――こういう物には血液を使うんだろうけれど、生憎そんな物騒な物を持って居る筈も無い。


実家の蔵を漁って一番高価そうなワインを持ち帰って来た理由は単純に魔方陣を描く液体を求めていたからに過ぎない。
傍らにワインを並々と溜めたバケツを置きながら、誰に教えて貰ったのかも覚えていない手に持った図解をなぞる様に大地へとブラシを降ろしてゆく。

幾らハンチク魔術師とは言え魔方陣を描いた事は初めてではない。
初めてでは無いが高位の魔方陣である“これ”を解析し、理解できるほど深い教養が在る筈もない。
だと言うのに。
他の誰かが居る訳でも無いのにまるで操られているか魅入られているかのように手だけが動く。資料に目を落とし、描き、そしてまた資料を見る。

どれ程時間がたっただろうか、頭頂から耳の裏を通り滑り落ちた汗で自分自身消耗している事に初めて気づいた。
完成に至るまで何かに憑かれている様な感覚であったが、眼下に描かれた紅い魔方陣を見ると僅かな高揚感と達成感がこみ上げてくる。
許されるこの感覚を保ったまま部屋に戻り、思い出として心の縁に残しておきたい所であった。

が。

「つっても、こっからが本番だからな。」

長く屈んで居たせいで痛む腰を片手で押さえ、上体を逸らすかのように大きく身体を伸ばした。
ふとその体勢のまま魔方陣の中心に置かれたそれに視線が合う。
青年の眼からすればそれは唯の骨董品にしか……いや骨董品にも見えず、こんな物が価値があると言われても正直理解に苦む。
それは唯のリベットで止められた痕のある大きめの欠片で、精々手の平の半分程度の大きさしかなかった。

だがこんな物でも『聖遺物』である事は疑いようが無い。
それこそどれだけの大金を積んだとしても手に入る様なものでは無く、そしてそんな物を有償とは言え貸してくれた人物は何者であるのか全く想像が付かなかった。

「さて、と……。」

手元にある資料に目を通す。二度眼を通して次が最終段階である事は疑いようもない事実であると確認した。
最後に記された手順に並び手にしていた資料を『聖遺物』の下に引き、そこに記されていた呪文を頭の中で何度も繰り返しながら魔方陣より離れる。

先程の高揚感は何処へ行ったのか、その胸中は不安で一杯だった。
何せここまで大規模な儀式を執り行った事はこれまでの人生に於いて一度も無い、そしてこれからの人生に於いても最後になるだろう。

心を落ち着かせる様に大きく息を吸い込み、また大きく息を吐いた。

そうして気付く。
何処までも静かだと言う事に。
人の喧騒も、虫の声も、風の音も聞こえない。

恐らく今から唱える呪文は木霊し、何処までも響き渡るだろう。
それが誰に届くのか青年は知る良しもない。だが願わくば、これが彼の人との再会の標にならん事を。

「やろう。」



素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。―――――――



この瞬間より青年の『壱屯飛成』の運命は決定した。
非凡な力を持ちながら平凡に生きた彼の人生はこの行いを機に大きく転じて行くことになる。




そして彼の第二の人生の始まりとなった者―――――
―――抑止の輪因り来たりて、彼の願いと詠唱に導かれし彼女は青年を前とする初めての邂逅にてこう呟く。




   ―――――“セイバー”。貴殿の召喚に馳せ参じた。―――――

11名無しさん:2016/08/05(金) 01:45:03 ID:IzYCzDoE0
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公」

フィンランド、オウル。コスケンニエミ家の本家にて、ミリヤ・"ザカリアス"・コスケンニエミは血で描かれた魔術陣を前にしていた。
中央に置かれるのは、この芬蘭からは遠い極東の地、日本で作られた銃――――――『火縄銃』だった。
実に場違いが過ぎる代物であったが、開催の地を考慮すれば最善とも言える選択肢であった。狙いは、戦国乱世最強の"魔王"。
『火縄銃』は、唯のそれでは無い。嘗て魔王が、当時最強の騎馬隊を打倒した『ナガシノの戦い』で使われた、という、確りとした曰くの付いたそれだ。
召喚に成功する事さえできれば――――――――――――聖杯戦争の勝利は、舞台である日本も相まって、確定的な物となる、とコスケンニエミ家は考えた。

「降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

家自体の大騒ぎに対して、ミリヤ・コスケンニエミは非常に冷め切っていた……否。最早、それに興奮する余裕も、或いは冷める余裕すらも無かった。
唯々空虚極まり無かった。空っぽになった心で、愛想笑いを浮かべながら聖杯戦争への参加を了承した。そうして、淡々と呪文を連ねていった。
全身の魔術回路が励起する。光り輝く陣は、輝かしくミリヤを照らしながら、然しその輝きは、決定的に届くことは無かった。

 みたせ みたせ みたせ みたせ みたせ
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ」

「繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

                  セット    
「―――――――――――Anfang」

「告げる」

全身の魔術回路が励起する。埋め込んだ『心臓』がぞわりと騒ぎ立てる。
本来ならば全身が激痛に苛まれるべきであったが、然しそれは体質がそうさせなかった。ミリヤは、未だに何を感じることも無く、その儀式を完遂せんとしていた。
或いは、それで崩壊してしまえばいい、とすら思っていた。だが、埋め込んだ心臓は残酷にもそれを補助し、完遂させるだけの力を湯水のように与えていた。

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ」


「天秤の守り手よ」

淡々と。小さな声で、か細い呪文を啼き終える。
眩いばかりの光に、然しその瞳を閉じることは無かった。座から複製された魂に、エーテルが形を作り出し――――――そして、召喚を完了する。
現われたのは、一人の男だった。東洋の甲冑に、東洋の剣、そして東洋の銃。だが――――――彼等の望んだそれらより、"大きく違えていた"。

『サーヴァント、アーチャー。召喚に応じ、参上仕った』

聞いた事も無い武将だった。然し……ミリヤは、決して失望する事も無ければ、然して歓喜する事も無かった。
嘗て持っていた人格の残滓が慣習的に笑顔を作り、それから小さな声で。


「……お名前は?」


ぼそぼそと、呟くような声であった。
然し、サーヴァントは。アーチャーは、決して笑う事も無く、確りとその声を聞き届けて。それから、その瞳を覗き込んだ。
そこにある絶望と、それに沈む願望を覗き込んだ。ぴくりとも表情は動かさなかった。そして、それでも尚――――――少女の前に、跪いた。


『――――――――――――――――――種子島、左近太夫久時』


「……よろしくね」


                                         アーチャー
契約は完了する。世界崩滅を望むそれと、戦闘の為の機械の如き薩摩隼人は、聖杯戦争へと足取り軽く歩み出す。


――――――――――――アーチャー、参戦。

12怪物との会遁 ◆06bARKsA0s:2016/08/06(土) 23:04:42 ID:jowl7WGA0

「大丈夫かな?もう全部揃ってるよね!ふぅ…よし!やるぞ!」

自分で建てたその建物に彼女はいた。忍成家5代当主の跡目忍成佳奈である。この一世一代の召喚儀式に彼女の胸は締め付けられるように緊張していた。これを進めればあとは殺し合いの世界になる…
覚悟はできていたがそれでも怖かった。
震えそうな声で彼女は言う

「素に銀と鉄…礎に石と契約の大公。」

遂に始まった…もう後戻りはできない。

「降り立つ風には壁を。
四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。」

「閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する」


魔法陣に置かれたのはある古い王冠。この世のものとは思えないおぞましさに溢れている

「―――――Anfang(セット)。」

「――――――――告げる。
――――告げる。」

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。」

「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。」

「汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

自信もない覚悟も足りない…小さな声で詠唱を終える。順当に行けばもうすぐに英霊が現れるはずだ。
眩い光思わず目を伏せる。膨大な魔力量今までに体感したこともない。伏せた目を開けてみると
そこに見たことのない異形の怪物が現れた。
2つの蛇を従えた普通の人には見えない英霊…

『サーヴァントモンスター…召喚に応じ馳せ参じた。其処の小娘…貴様が我の主か?』

「は…はい。わ、私が貴方のマスターです。も、モンスター?私そんなクラス聞いたことない…」

初めて会うモンスターに対し思わず敬語で喋ってしまう。そして聞いたこともないクラスに耳を疑い思わず聞いてしまう。

『ハッハッハ!随分と頼りない主を持ったものだ!しかし…面白みがありそうだ。モンスターというクラスはまぁアレだエクストラクラスってやつだ。』

『我を現せるクラスがそれしか無かったのだよ。それほど我は特別だということだ。』

「そ、そういうことなんですか…ちょっと知らなかった…こ、これがサーヴァントかぁ。」

かけていたメガネがずれてしまい恐ろしい魔力量に腰を抜かしてしまう。

「そ、それで…貴方の名前はなんですか?」

『我か…我の名はザッハーク…1000年の統治を成した邪龍の化身也』

「よ、よろしくお願いします!ザッハークさん!」

『む、サーヴァントのことはクラス名で呼ぶのが普通なんだが…どれだけ錯乱しているんだ?貴様。
あと主人と従者の関係だ。いくら俺が強かろうが凄かろうが対等に接するべきだ』

モンスター。特異なクラス…どんなサーヴァントかは戦ってみないとわからない。マスターは少し頼りないが1つの陣営が今生まれた。
一度世界を滅ぼしかねないところまで来た悪の大王はどう戦うのであろうか。

モンスター参戦。

13冬の日、運命の"獣" ◆urfQ7AEfjs:2016/08/08(月) 21:21:28 ID:k401n/oE0
それは正に「奇蹟」だった。
私の身体は今こうして動いている。心臓は絶えず脈動し、自分の荒い呼吸が聞こえる。生を全身で感じ、この五体はまだ動く。

あぁ、確かに私は"生きている"

顔を上げれば、そこには魔術師の姿は無かったが─────
かわりに、一人の少女が立っていた。
自分よりも年下くらいだろうか、身体を返り血に濡らし呆然と亡骸を見つめるその姿はどこか人間離れしているように感じた。
それもそのはず、この"少女"は人間ではないから当然なのだけれど文香にそれを知る術は今はない。
どこから現れたかは分からない、ただ命の恩人であることに変わりはない。何か、何か言わなければ。

「あの、ありが…『おい、貴様の"望み"はなんだ』

「望…み…?」

『そうだ、この私を呼び出すに値する望み、願い。私と共に歩むに相応しい"願望"を示せ』

「願望……そ、そんないきなり言われても…」

『ならばここで死すか、それもまた貴様の運命だ。何、貴様は数ある亡者の中から私を選んだ、それだけでも意味あることであり名誉だ。
私は意思を持たない、ただの人形として生きる者に興味は無い。それならばまだ道化の方が何倍もマシというものだ、そんな者に"付き従う"など愚行に他ならん』

何を───言っているんだ。
意味が分からない、この少女は一体何の話をしているんだ。状況が飲み込めない。頭が真っ白となり言葉が出ない。
運命?数ある亡者?付き従える?
少女が言う言葉の端々が脳内で反芻する。しかしそのほとんどが私には理解出来なかった────いや、理解しようとしなかったのだ。
私は助かったのではなく、ただ数秒生きている時間が延びただけ?ならば私は、この少女に殺─────

『………愚かな、更に重ねるか』

気付けば私は走り出していた。
逃げなければ、逃げなければ、逃げなければ。
一瞬でも止まれば殺される、そんなのは嫌だ。まだ死にたくない、こんなところで死んでられない。
私はまだ、何も成し得てないのだから─────

14冬の日、運命の"獣" ◆urfQ7AEfjs:2016/08/08(月) 21:21:38 ID:k401n/oE0
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


『どうやら無駄に終わったな。では心して逝くがいい、一瞬で済ませてやろう』

結局、私の逃亡劇はすぐに幕を閉じた。家を出て走ったが逃げ切ることは叶わず、家の外の通りを走っていたところをあっさりと追いつかれた。
もう逃げられない。私は死ぬ、この少女にあの魔術師と同じように八つ裂きにされて────

「…………や……」

「嫌だ……死にたく、ない…!私は、絶対に生きるっ…!!」

『ッ…!?』

何をやっているんだ私は。
足が勝手に動き出す。先には白銀の少女、向かう先には死が待っている。
だけど、このまま何もせずに死ぬなんてできない。せめてもの可能性、何もしなければ可能性は何も無い。だから、私は──────

『───合格だ、娘よ』

「………へ…?」

少女の殺気が私を突き刺すのを止めた瞬間私は、そのまま糸の切れた人形のように倒れた……なのに何故だか身体が妙な浮遊感に襲われる。
一体何が起きた、私は、何をされている?

『普通ならば、こんな時でも逃げることを選ぶのが道理であり常軌だ。だがしかし貴様は私に"向かってきた"、それも自棄ではない、"生きる為"に貴様は僅かであれ私を"打ち果たそう"としたのだ。
それを見たとき、貴様はほんの少しであるが私が"従う"に値する者と判断した。
貴様はこれから我が"主人"だ。人に付き従うというのも一興というものだろう』

やっと分かった。私は今いわゆる「お姫様抱っこ」というものをされているのだ。
誰にって?ここには私ともう一人しか居ない、そんなものすぐに分かるだろう。私が「お姫様抱っこ」を受けているのは──────

『私のことは"ビースト"と呼べ』

「ビースト……獣…?」

『あぁ、正に私の為にあるような"クラス"だ』
『主人よ、精々死ぬでないぞ?』

左手をふと見るとそこには不思議な紋様が刻まれていた。それがこれからの私を誘っているようで────

──────その日、少女は"運命"に出会う。

【サーヴァント:ビースト現界】
【沙霧文香:契約完了】

15使命 ◆uHIlZU.osM:2016/08/09(火) 12:24:38 ID:aQhm9wOk0
今は蒸し暑い、極東の日本。
其処に在る地方都市、"冬木"の外れの森の奥。隠された洋館が一棟、ぽつねんと建っている。
常なる人からは視えぬその館は今は────ある一人の、"魔術師"の拠点として使われていた。

そして今まさに。其のがらんとした、外とは打って変わり薄ら寒い広間にて、ある儀式が執り行われようとしていた。
床に描かれた、妖しき光を放つ魔方陣。その正面に立って神妙に見据えるは、美しい銀髪に碧眼を有する少女の容貌。
その者の名は────"エイヴィンド・ソルヘイム"。極北より来たる、ある使命を負った魔術師であった。

彼が態々そのような場所から、この極東まで赴くのは理由があった。
元よりその為に、彼はこの地へやって来たのだ。

凡ゆる願望器。全ての望みを叶える魔力の器たる"聖杯"─────其を奪い合う儀式たる"聖杯戦争"の開催地こそ、この冬木の地であった。
……「眉唾」と言ってしまえばそれまでだが、其を承知で彼がこの地に来たのは……そうまでしてでも、仮令己の命を懸けてでも、成し遂げねばならぬ使命が在ったからだ。
魔術師にとっての大望。"根源への到達"。その魔術の完成は、必ずやその道へ繋がると信じて。

故にこそ、彼は一歩を踏み出す。腕を翳し、中心へ置かれた聖遺物を正視する。
此より彼は、その戦争の"駒"を召喚する。何かによって包装された、筒状の聖遺物。恐らく近現代のそれに対し、彼はその碧眼を惑うことなく見据え。
やがて彼は、静かに目を閉じ、言葉を語る。少女の貌より発せられしその"声"は、しかし──────紛れもない、低い"男性"のそれであった。

「……素に銀と鉄。礎に石と契約の大公」

訥々と紡ぎ始めた言葉の裏で、彼の意識は明らかに鮮明となっていた。
己の体と、眼前の聖遺物。その間にパスを通す感覚で、魔力を送り込んでゆく。

「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で……王国へ至る三叉路は循環せよ」

彼が詠唱を続ける毎に、聖遺物と己とのつながりが強くなる。聖遺物の向こう側へメッセージを送るように、彼は詠唱を続ける。

   みたせ みたせ みたせ みたせ みたせ
「……閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。」
「満たされる都度に五度。……ただ、満たされる刻を破却する」

魔方陣の中心。"聖遺物"たるソレに向けて、彼はカッと目を見開く。
一節毎に魔方陣の光は増してゆく。彼は高まる魔力の奔流の中で、下からの光を感じつつ。滲み出る汗と共に、彼は紡ぐ語気さえ一層に強めた。

16使命 ◆uHIlZU.osM:2016/08/09(火) 12:25:51 ID:aQhm9wOk0
               セット
「─────────Början」
「─────────告げる」

「───────告げる。」
「汝の身は我が元に、我が命運は汝の剣に。
 聖杯の寄る辺に従い、この意……この理に従うならば応えよ……ッ」

いよいよ以って最高潮に達する光の中で、彼の体毛の全てが逆立つような感覚を覚える。
魔力の奔流の中に身を沈めるような、むしろ心地好い寒気を背中に感じつつ、彼は大詰めの詠唱に掛かる。

「誓いを、此処に!……
 我は常世全ての善と成る者、我は常世全ての悪を敷く者。」
「─────────然れど」

彼は此処に、詠唱を"一節"追加する。
それは、彼が喚び出す者の"クラス"を、初めから決定する行為であり─────

「……汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者─────」

聖遺物の向こう側へ。正しく"鎖を手繰り寄せる"ような感覚で、魔力を流してゆく。
そして彼はついに、最後の詠唱を完成させる。

「汝、三大の言霊を纏う七天。
 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──────!」

そして、その場の全てが最高潮に達した瞬間───────
その場には、凄まじい"爆音"が鳴り響いた。

17使命 ◆uHIlZU.osM:2016/08/09(火) 12:26:50 ID:aQhm9wOk0

「!?うおっ……!」

彼は突然の爆風に、なす術もなく吹き飛ばされる。
……何が起こったのだ?詠唱は完成させた筈だ。……まさか失敗したのか?

そのような不安と混乱が濁々と駆け巡る脳内の思考に反して、彼の瞳は確りと、ロビーの中心へと向けられていた。
突然の爆風と煙で、目が慣れなかったが─────やがて彼は、理解した。その向こうには、"何かが居る"と。

そしてその"何か"さえも、直ぐに理解した。
爆発は……"聖遺物"の起爆か。英霊たる存在を喚び出すトリガーの活性化……
そして今まさに、彼の前に立つ人物。それこそが、その聖遺物を"創りし者"だという事にも。

最強の爆弾。力の権現の製作者。近現代の技術へと、勲章を送りし者。
その者の名は───────嗚呼、やはり。
写真で見るのと、何一つ変わらない。

   私  は    ノベル 
『……Jäg……ar────"Nobel"』
 アルフレッド・バーナド・ノベル
『"Alfred Bernhard Nobel"』
 クラス    "ベルセルクル"
『Min……klass är……"Berserker".』

「………フッ……ハハハ……」

煙の向こうより出でた人影。その姿は紛れも無い、近代の偉人の姿に相違無い。……だが、少々様子がおかしいように感じられた。
目の焦点が合っておらず、語る言葉も歯切れが悪い。だが彼は、その状況を見て……"成功だ"とばかりの、安堵と虚脱の笑みを漏らしていた。

18使命 ◆uHIlZU.osM:2016/08/09(火) 12:27:11 ID:aQhm9wOk0
彼が此処に喚びしは、"バーサーカー"のクラス……"アルフレッド・バーンハド・ノーベル"。
嘗ての偉人を狂わせて、敢えて召喚した姿。……それこそが、眼前のサーヴァントの正体であり。
それが事前に分かっているという事は……彼の狙いはまさしく、当たったという事になるのだろう。

そして彼は立ち上がり、サーヴァントへと歩み寄る。

「ああ、"ノーベル"。皆が敬愛し、尊ぶ者よ────貴方には、少々"残酷"な事をして貰わねばならない……」

      嗚呼
『……────Ja.』
  理解 して いるとも
『……Jag är förståelse.』

     全て だ   全て 殺せば いい    そうだろう
『────Allt.Allt jag behöver göra är att döda dem alla.────ja?』

「─────その通りだ。……哀しき発明者よ。貴方には今一度、汚名を着て頂けねばならない……私のために」

『…………───────』

「……其処でだ。」

彼は徐ろに、右手に持っていた"礼装"────古びた"ガスマスク"を取り出してみせる。

「"顔"を隠したまえ。視えぬ者であれば……」
「貴方の心も、少々は和らぐだろう?」

そう言って彼が手渡すのは、消滅魔術を応用した細工を施した一種の"魔術礼装"。
装備させる事で、ある程度の情報を隠蔽する。……尤も、壊されてしまえば終わりだが。

だが、"対策"と言うものは常に練るものだ。
彼が手渡す装備を、サーヴァントは承知したように受け取る。

『………────』

「そうだ。其処の金具を……」

彼はサーヴァントの後頭部に周り、頭まで持って行ったそれの装着を手伝う。
そして全てを締めた時──────システムは完成した。

『……─────horrrrrroughhhhh………』

其処に居たのは。黒き正装を纏い、不気味な装備で顔を隠した───まさしき狂えるノーベルの姿こそ、其処にあった。

「……さあ。下準備は完了だ」
「では、征くとしようか。……我が使命のために」

『……Hooooggghhhh、Ooulaaahhhhhhh!!!!』

彼は踵を返し、迷いを見せる事なく、夜の冬木へ舞い込んでゆく。
続くサーヴァントも、鬨の声の如き叫びと共にそれに付き添い。

そして二人は次の瞬間、この世から姿を消し去った。
"霊体化"と"透明化"。彼らは人に気付かれること無きままに、彼らの使命を全うする。
例えそれが、計り知れぬ外道であったとしても。……彼らには、為さねばならぬ事が在るのだから。

一気にがらんとした洋館には、ただ一つ。聖遺物によって開けられた床の穴が、ぽつねんと残されていた。

19ランサー ◆H1dB00o9hc:2016/08/12(金) 00:58:35 ID:CN19Sb7A0


突然だが、「認知症」と呼ばれる病気を知っているだろうか?
一昔前であれば、「ボケ」とか「痴呆」とか呼ばれているあの病気だ。
この日本にも患者は凡そ462万人存在するとされており、今後も更に増える見通しだそうだ。
さて、魔術師というのも人の子、老いもするし病気にもなる。当然、この病気とは他人事ではいられないだろう。
この冬木の街にも、呆けてしまった魔術師が、1人......


「素に銀と鉄__________」


深夜にもかかわらず床に描かれた奇妙な図________所謂、魔法陣を前に呪文を唱えているこの老人、根岸鴈治郎は認知症を患って久しい。
服装や、調度品の質の良さや屋敷の広さが老人が只者ではなかったことを示すが、その服装のちぐはぐさが、同時に栄光が過去のものであることを示しているのが、何とも悲しい。
昼夜逆転生活というのもまた認知症の典型的症状の一つではあるが、問題はそこではない。

「_________礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

何故、この老人は聖杯戦争に足を踏み入れようとしているのか。

「閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する」

何か、叶えるべき願いを胸に抱えているのか......

「_________Anfang(セット)。」

それとも、認知症の症状の一つである徘徊行為の一環に過ぎないのか......

「告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。」

或いは、胸元のポケットに入ったお守りにより引き寄せられた、途轍もない幸運なのか......

「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ_______」

そんな疑問も何もかもを放置したまま、儀式は終わりを迎えようとする。
その皺だらけの右手には、聖杯戦争の参加者の証の令呪が刻まれる。

『......我が名はドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ。其方であろうか、新たな我が主人は』

暗闇の中に現れた、これまた老いた鎧騎士______ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ。
その仔細は、語るまでもないだろうが、あえて一言でいうとするならば、「世界で最も有名な狂人の内の1人」。
彼の伝承を知るものがいたならば、ボケ老人に呼び出されたのも道理であると笑うだろう。
そんな騎士の言葉に、根岸は静かに頷く。

これをもって、(そのきっかけはどうであれ)今ここに契約は成されたのだった。



その翌日。

『お早うございます、ご主人......』

「えー......どちら様ですかのう?」

『......は?』

この主従の明日は、どっちだ?


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