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short story
1
:
匿名匿名希望
:2005/07/25(月) 18:33:20
短編集。
279
:
タオネムア
:2006/07/28(金) 21:22:35
血を混ぜあい、言葉と体で誓いあい
貴方と生きる事を決めた夜の空も
雲の上から見た朝焼けも
貴方の光る細い髪も
私は永遠に忘れないと思う。
「どうしたの?」
優しい声に、首を横に振って答える。
幸せを噛みしめてただけと言って
白い肌に頬を寄せた。
280
:
タオネムア
:2006/07/28(金) 21:22:58
永遠を生きる事は出来ないし
永遠を生きようとも思わない。
だから思う。
限られた命の限り、この人の側にいようと。
貴方が望むなら、空の彼方まで一緒に行くよ。
たとえその瞬間に燃え尽きようとも。
貴方となら、恐くないから。
「雨を浴びに行こうか」
少しだけ地上に近付いて
濡れた体のまま抱きしめあおう。
それからまた空に昇って、濡れた体を乾かして
少しだけ固めた雲に寝転がって眠ろうよ。
281
:
タオネムア
:2006/07/28(金) 21:23:32
相変わらず優しい笑顔を浮かべる貴方の誘いに
私は素直に頷いて、握りしめていた手を離して
その手を貴方の体に巻き付けた。
願わくば、この幸せがずっとずっと続きますように。
願わくば、貴方の望みがいつか叶いますように。
空の彼方が永遠の終わりだとしても
きっとそこからまた違う永遠が続くと思うんだ。
変わっていく空を貴方の腕の中で眺めながら
真っ白な雲の中で、少しだけ貴方の服の胸元を開いて唇を寄せた。
雨を浴びる前に、私達は雲の中でまた別の永遠をみた。
雲の下では、相変わらず海が光り輝いていた。
282
:
トビウオの砂
:2006/07/28(金) 21:24:07
乾ききった砂の大地で、私達は出会った。
砂荒らしの中に佇む貴方と
朦朧とする意識の中で、貴方を見つけた私。
心も体も乾ききっていた私に
冷たくて、綺麗な水をくれたのは貴方だった。
283
:
トビウオの砂
:2006/07/28(金) 21:24:25
+++ トビウオの砂 +++
284
:
トビウオの砂
:2006/07/28(金) 21:24:47
砂荒らしの中で佇んでいた貴方の姿を、一言で言うなら『水』だろう。
それも文字通りの水だ。
人のカタチをした水。喋れる水。触れれる水。
光りを浴びればキラキラ光るが、陽が沈んでしまえば姿も見えなくなってしまう。
相変わらずの砂荒らしの中で
私を庇うように佇む貴方に振り付く砂が
貴方のカタチを教えてくれた。
綺麗な人だと、そう思った。
285
:
トビウオの砂
:2006/07/28(金) 21:25:06
貴方はよく笑う人だった。
人を恐れ、独り砂漠で生きていた貴方の心は
なかなか開かなかったけど
独りと独りの私達は
いつしか砂荒らしの中で
寄り添うように昼夜を過ごすようになっていた。
服を着て、化粧をすればその姿は見れる。
サングラスをかけ、手に手袋をし、頭に帽子を被れば
貴方は街中にだって行く事が出来た。
それでも貴方は一度街に出たっきり
砂荒らしの続く砂漠から出ようとはしなかった。
286
:
トビウオの砂
:2006/07/28(金) 21:25:27
貴方はよく笑う。
そしてたまに悲しそうに呟く。
いつか貴方と私が離れる時が来ると。
貴方から聞く話の中に
その理由はちりばめられていたから
そんな事ないなんて言えなくて
私はその言葉を聞く度に
貴方に寄り添って、距離を縮め
何も言わずに目を閉じていた。
287
:
トビウオの砂
:2006/07/28(金) 21:25:47
もう何十年と降り続かない雨。
もうどれくらい自分が生きていたかも分らなくなっている貴方。
肉体を持っていた頃の最後の記憶は
熱い太陽と、右手に残っていた柔らかい手だという。
貴方は思い出し、水を揺らしながら涙を流す。
私が寝ていると思って、私に気付かれてないと思って。
雨が降らないのは貴方のせいなんかなじゃい。
きっと何処かに何か理由がある。
いつか私がそう言うと、貴方は笑いながら言った。
『あたしがこんな姿になってまで
生き続ける理由も、何処かにあるんだよ。』
そう言った。
288
:
トビウオの砂
:2006/07/28(金) 21:26:24
時は巡る。
貴方と私は、随分と長い間一緒にいた。
そして、もうすぐ私は貴方をまた独りにしてしまう。
けれどもそれは、永遠のさよならではない。
いつか言った貴方の言葉を今でも私は覚えてるから
それが永遠のさよならじゃないって、私はそう信じられる。
「雨が降らないのは、きっとあたしのせいなんだ」
いつか私が言った言葉を否定する言葉。
貴方は笑いながら、本当はあの頃から気付いてたんだと言った。
「世界は、そんなに美しくないと思う」
そう言って水は揺れた。
眩しそうに太陽を見つめ、自身を輝かせながら。
「だからあたしは、もう少しここにいようと思う」
289
:
トビウオの砂
:2006/07/28(金) 21:26:48
私は飛べないから、貴方の隣に立ち続ける事は出来ない。
だからいつか、いつか貴方が私の側に来てくれる時まで
私はこの砂荒らしの中で泳ぎ続けよう。
そしていつかその時が来たら
またその手を取って、一緒にいよう。
混ざりあった私と貴方の言葉を胸に秘め
出会った時と同じように、冷たくて
綺麗な水をくれた貴方の手を離した。
空はとても広くて、やっぱり私は飛べないと思った。
そんな事を思って、私は口元に笑みを浮かべた。
290
:
名無し(0´〜`)さん
:2007/05/26(土) 21:38:23
*
291
:
P c
:2007/05/26(土) 21:38:52
『こんな終わり方もあるんじゃない?』
こんな事を言ったら、きっとあいつは振り上げた右手を
あたしの頬に叩きつけるんだろうなぁ。
こういう事って、考えたことない?
あたしはあるよ。
一回きりじゃないくらい、あるよ。
292
:
P c
:2007/05/26(土) 21:39:19
+++ P c +++
293
:
P c
:2007/05/26(土) 21:39:48
車を降りて、大きく息を吐きながら
今日の疲れも一緒に吐き出す家の前。
いつもの日課を一人で済ませ視線を上げると
狭い我が家が久しぶりにあたしの帰りを待っていた。
残業もしたけど、そんな遅くなったか?と思い
腕時計に目をやるも、時計の針はいつもより一時間程進んでいるだけ。
それはつまり、あいつが珍しくあたしよりも早く来ているって事を意味している。
絶対に何かあったんだ。
嬉しいだとか、久しぶりだなと思うよりも先に
ずっしり重い鉛が胃の中に落ちていく。
面倒だとは言わないけれど、休みを目の前にした金曜夜に
これはあまり歓迎の出来る事ではなかった。
出来ることなら、このまま車に戻って走りだしたい。
けれども、一人で飲むつもりだった缶達や
疲れきった体や、気持ちがそれを抑える。
294
:
P c
:2007/05/26(土) 21:40:14
面倒な事は嫌いだ。
避けて通れるもんなら通りたい。
それもあいつ絡みなら尚のことだ。
けれども出来ないのがこの長年の付き合いってやつで
そうさせないのがあいつの存在だったりするから困ったもんだ。
まぁ結局なんだかんだ言ったって、あたしは家に戻るんだけど
素直に受け入れられないってことだけが言いたいだけ。
だから車に背を向け、玄関を開けて、靴を脱いだ。
『ただいま』なんて言葉は言わない。
あいつも『おかえり』なんて言葉は言わない。
喧嘩真っ最中の夫婦みたいな気まずい空気があるワケでもないけど
期待してるワケでもないけど、そんくらい言ってくれてもいーじゃんとか
そんなどうでもいい事を思う。
わざとらしくテレビに集中しようとしてる背中を通りこして
ちゃかちゃかその場で部屋着に着替え、
少しぬるくなったビールを冷蔵庫にしまい
あたしの存在を無視し続けるかのように黙りこくってる
あいつに視線を少し向け、そのままバスルームに入った。
295
:
P c
:2007/05/26(土) 21:40:34
熱いシャワーを浴びながら、きっとまた喧嘩でもしたか、
仕事で何かヘマでもしたんだろうと考えた。
まぁたぶん前者だと思うけど。
仕事でどうのこうのというのを、最近あいつはあたしに言ってこないからな。
一応気を使って早めに出てみると、あいつは十数分前と同じように
足を小さく降りたんだ体育座りで、部屋に一つしかない
あたし専用のビーズクッションを占領してテレビを見つめていた。
タオルで頭をガシガシと拭きながら
まだ冷え切っていないビールを二缶取り出し
未だにあたしの存在を無視し続けるあいつに渡す。
お互い無言でテレビを見ながらビールを飲む。
中途半端にぬるいから美味くない。
テレビも面白いワケじゃない。
楽しくない。
こういう時は寝るに限る。
っていうか、それしか出来ない。
髪なんて乾かさなくてもいいや。
別に風邪もひかないだろう。
296
:
P c
:2007/05/26(土) 21:40:58
そうと決めれば早いもんだ。
呑みかけのビールをシンクに流し、さっさか歯磨きを済まして
あたししかいないかのように電気を消す。
もぐりこんだベッドで足を伸ばして、目を閉じる。
疲れた体はとても正直にあたしを眠りに引きずり込もうとする。
すべてが順調に進んでいたところで、あいつがやっと口を開いた。
「ひとみちゃんは優しさ不足だ」
「優しくして欲しいなら別の人の所行きなよ」
「…分かってて言ってるでしょ」
あたしの考えはピンポンぴんぽん大正解。
正解者への御褒美は寂しがりやのウサギちゃん。
それもピンクの首輪つき。
ピンク嫌いなあたしにとって、その首輪はとっても目障りだ。
噛み切ってもいいなら喜んで噛み切ります。
っつーか、噛み切らせてくれないなら
どうかお外に勝手にお散歩でも行ってきてくださいだ。
「あたしは梨華ちゃんの優しい優しい王子様じゃないの」
知ってるくせに。
あたしの気持ち、こいつ知ってるくせに。
世界残酷物語に負けないくらいに残酷屋さんだろ?
それでも突き放せないあたしの弱さまで知ってんだろ?
だからあたしは思うんだ。
297
:
P c
:2007/05/26(土) 21:41:15
『こんな終わり方もあるんじゃない?』
こんな事を言って、振り上げた右手を
あたしの頬に叩きつけて欲しいって。
もうすっぱりさっぱり嫌いになって欲しいって。
自分からじゃ嫌えないから。
この酷く残酷のお姫様を嫌えないから。
298
:
P c
:2007/05/26(土) 21:41:45
またしても沈黙の檻の中に閉じこもってしまった梨華ちゃんに背を向け
壁を見つめながら目を開けていると、テレビの雑音に混じって
今まで聞いたことのなかった泣き声が聞こえてきた。
思わずギョッとして体を動かす。
小さな子供のように座り込んで泣きじゃくる梨華ちゃんが
すんげーすばやく視界に入る。
299
:
P c
:2007/05/26(土) 21:41:58
何度色んな事思ったって、こいつ本当酷いやつって思ったって
どうして嫌いになれないんだろう。
バカなあたしはいつでも隣にいてしまう。
残酷屋さんな寂しがりやのウサギさんの隣に。
ピンクの首輪を噛み切る勇気さえないのに
彼女を必要としてしまう。
本当なら、抱きしめたい。
だけどそれはしちゃいけない。
金曜夜に、それは危険過ぎる。
だって、あたしだって―――
300
:
P c
:2007/05/26(土) 21:42:14
彼女にとったら残酷屋さんだから。
301
:
P c
:2007/05/26(土) 21:42:37
王子様は昔、本当に梨華ちゃんの王子様だった。
だけど幼い王子様は、大切なお姫様を守りきる事が出来なかった。
つまらない世間体とか、そういうのに振り回されて
王子様は大切はお姫様を突き放した。
お姫様は大泣きした。
王子様はお姫様にバレないように大泣きした。
お姫様はしばらくして、違う王子様を見つけた。
お姫様の王子様はよく変わった。
初代の王子様は、何年かしたの後、お姫様にばったり出会った。
もうお酒だって呑める年で、お互いに仕事もしていて
路線だって違う所に住んでいたのにだ。
初代王子様は、ちょー偶然に再会した
泥酔お姫様に絡まれた。
大人になったお姫様に、しまいこもうとしていた心を
引きずり出された。
何気ないように話をしたつもりだった。
上手く出来たかはわからないけど。
しばらくして、もう何代目か分からない王子様が、お姫様をつれて帰った。
初代王子様は、家に帰ってからちょっと泣いた。
302
:
P c
:2007/05/26(土) 21:42:54
翌日、懐かしい名前が携帯に表示され
初代王子様は、長年変えていなかったアドレスを
もう一生変えるもんかと思った。
自分が酷いことしたくせに、なんて都合の良い王子様なんだろうね。
突き放しておいて、本当に残酷屋さんだ。
お姫様との交流がまた始まった。
それはとても残酷で、けれどもそれから逃げるなんてことは
自分がしちゃいけないことで、残酷とか思ってるくせに
交流が持てる事を喜んでしまう自分がいて、
あたしはお姫様が王子様を変える姿を、もう何ヶ月も見続けていた。
303
:
P c
:2007/05/26(土) 21:43:12
何回目かの王子様とさようならをした日。
多分きっと、それが今日なんだろう。
彼女がこれ程泣くのだから、きっと本当に好きだったのだろう。
だからあたしは彼女を抱きしめちゃいけない。
こんな気持ちを抱いたまま、彼女に触れちゃいけないんだ。
泣きじゃくる彼女に触れれないから
触れれない距離に自分を移動させ
ただ何も出来ずに彼女を見つめた。
304
:
P c
:2007/05/26(土) 21:43:30
梨華ちゃんは、小さな声で何度も謝っていた。
それは胸が締め付けられるって言葉がぴったりな出来事だった。
あたしはたまらくなって、右手を伸ばし、彼女の頭に手を置いた。
すると彼女はゆっくりと顔を上げ、へにゃっと顔を歪ませると
あたしの右手を抱きしめて泣き出した。
梨華ちゃんは、小さな声で謝りながら言っていた。
あたしへの気持ちを、言っていた。
305
:
P c
:2007/05/26(土) 21:43:46
あたしは卑怯だ。
そして、世界で一番残酷屋さんだ。
沢山の人を傷つけ、大切なお姫様をこんなにも苦しめ続け
挙句の果てにはお姫様の気持ちを言葉にさせてしまった。
306
:
P c
:2007/05/26(土) 21:44:02
もう、どうしていいのか分からなかった。
あたしはどうする事も出来ず、引き寄せられるままに
梨華ちゃんの胸に抱きしめられた。
何度も思った。
どうしてあの時、あたしを殴ってくれなかったのだろうと。
どうしてあの時、あたしは言えなかったんだろうって。
バカみたいに人を傷つけまくって歩き続けたあたし達。
二人が同じ気持ちだったのに、違う相手を見つけては
その人達を傷つけてきた。
世界で一位と二位の残酷屋さんなあたし達。
傷つけあっていた数年間に、どうしてもっと大人になれなかったんだろう。
金曜夜に、肌を重ねあうことなく微妙な暗闇で思う。
もうこのまま溶けてしまえと。
テレビの明るさが朝焼けに負けてしまう前に溶けてしまえと。
307
:
P c
:2007/05/26(土) 21:44:19
王子様は、卑怯なので泣きました。
お姫様は、しばらく泣き続けました。
朝焼けがカーテンの隙間から差し込む頃
二人は手を握り合ったまま、眠りにつきました。
王子様は夢を見ました。
それは酷く心地よく、そして酷く残酷な夢でした。
王子様は泣きました。
声をあげて、泣きました。
308
:
名無し管理人。
:2008/01/21(月) 23:30:57
いつかの続編。
309
:
たとえば朝の、夜への道
:2008/01/21(月) 23:31:41
AでOHなピンクな声が響くのは、吉澤ひとみの部屋である。
その部屋には仕事帰りの石川梨華もいる。
「ねぇー…」
「今ちょっと駄目」
つっけんどんな言い方は、ものすごい真面目に画面にくらいついているから。
画面から流れるのは、やっぱりAでOHな音声。
この家の主は、友人から貰ったこのDVDを教科書で先生だと褒め称え
よろしく中学生的な感性と考えを持った22歳は
今宵も真面目腐った顔で、小さなブラウン管から映し出される映像を
微動だにしないで見つめていた。
310
:
たとえば朝の、夜への道
:2008/01/21(月) 23:32:02
+++ たとえば朝の、夜への道 +++
311
:
たとえば朝の、夜への道
:2008/01/21(月) 23:32:37
最初は梨華だって驚いた。
ノックもなしに、合鍵で開けて入ったら
聞こえてくるのは外国人さん?って思うような声。
『あれ?ひょっとしてすんごいタイミングまずい?』って思って
こそりこっそり出ようとしたら
『どぅはーっ』っと変な声が聞こえてきた。
それは間違いなくひとみの声で
ついでについでに、聞いたことはないけれど
真っ白にもならないような絶頂で上げるような声でもなくて
梨華はあわてて靴を脱いだ。
ストッキングで滑りながら、フローリングの上を短距離走した。
「ひとみちゃん!」
大足広げて踏ん張ったおかげで
ピリッと聞こえた膝元の黒っぽい布と裏地なんて気にしない。
気にしない…
気に出来ない。
「すげー!これすげー!!」
ひとみは胡坐をかいた状態で、膝をパタパタさせていた。
312
:
たとえば朝の、夜への道
:2008/01/21(月) 23:33:13
変な声は、興奮と感動と驚きと笑いからきたものらしい。
ドサッと落ちた鞄の音で、ひとみがやっと梨華の存在に気づく。
黒めの顔を赤くして、梨華はなんともいえない表情で小さくぷるぷる震えていた。
目の前にはピンクな映像。
現在上映真っ最中。さらにいうなら御開帳。
さよならモザイクばいばいばいだ。
ひとみが一人で遊んでいなかったのがせめてもの救いだと思いたい。
いや、別にそんなの思いたいとかいいんだけど、やっぱりどっかで思いたい。
だってそこは梨華だもん。
幼馴染のそんな姿は見たくない。
いや、見てもいいんだけど…やっぱりイヤ。
まぁともかく最初は梨華だって驚いたって話だ。
今が慣れたなんて言ったら大嘘だけど
最初に比べたら免疫力は多少ついた。
幼馴染の斜め後ろでのんびりミルクを飲めるくらいに。
313
:
たとえば朝の、夜への道
:2008/01/21(月) 23:33:31
「まんねり化しない?」
「するけどいいの」
ひとみは結構な遊び人だ。
妙に真面目でズレている梨華とは
正反対の位置にいる。
それが気に入らないワケじゃないけど
気に入らないワケじゃないけど
乙女心は変に複雑なのだ。
314
:
たとえば朝の、夜への道
:2008/01/21(月) 23:33:55
だいたいハズレくじを引くのは梨華の方だと思われがちだが
結構それって違っていて、目立たない所で
こっそりごっそりハズレくじを引いてるのはひとみの方だった。
お互い風邪だと思っていたら、ひとみだけ胃腸炎とかインフルエンザだったり
一緒に旅行に行ってみたら、ひとみのお味噌汁にだけ具が少なかったりと
大きいことから小さいことまで、何だかんだでずっこけ太郎なのだ。
だから心配性の梨華は、あれこれ色々な事をしたがった。
色々な事が気になった。
風邪をひいたら一緒に病院に行き
元気だった梨華が風邪を貰って帰ってみたり
遊び人を心配してみたら、心配は自分の方に来てみたりとしたけれど
それでもやっぱりひとみの色々な事が気になった。したかった。
315
:
たとえば朝の、夜への道
:2008/01/21(月) 23:34:15
だけども出来ない事がやっぱりあった。
いつかの大晦日の約束は、未だに果たされていない。
遊び人の、遊び人による、遊び人らしい誘いに
ひょいっとジャンプをして乗れる程、梨華は器用でも不器用でも
真面目でも不真面目でもなかった。
だけどさ、だけどさ、だからといって―――
ピンクなモノを、自分のより先に見て欲しくなかった。
316
:
たとえば朝の、夜への道
:2008/01/21(月) 23:34:39
揺れるおかしな乙女心は不安定な天秤だ。
斜め前に映る背中を見つめながら
最近すっかりご無沙汰な唇を、ちろりとちょっと舐めてみた。
ぐじゃぐじゃで、ごちゃごちゃで
不安定で、安定が怖かった。
ふらりさらりと避けながら
よろしくベイベーな感じでヤッちゃえば
それはそれでよかったのかもとか思う時もある。
だけどもそうすると、もっともっと深みにハマッちゃうような気もしてしまう。
何だかんだでひとみの事が好き過ぎる石川梨華さんは
フラフラぴよぴよな吉澤ひとみさんの事が好きで
真面目な吉澤ひとみさんが好きなのだ。
ともかく吉澤ひとみさんが好きなのだ。
だけども安定が怖い石川梨華さんは
色々な事を考えて、何だかんだで壁が大きくて
さらりふらりと逃げていく。
そんな事を繰り返しているうちに
気づけば前よりも、ヤとうがヤらまいが
どっぷり深くハマッてしまっている。
317
:
たとえば朝の、夜への道
:2008/01/21(月) 23:34:59
梨華はなんだか悔しくなって、丸まった背中の右肩を
軽く蹴飛ばしてみた。
ひとみは動じる事なくブラウン管を見ている。
さらに悔しくなって、指先でえいえいと右肩をいじくる。
無視をされようが、どうされようが
えいえいえいと右肩をいじくる。
すると突然足をガシッと掴まれた。
完全に油断していた梨華は、驚きのあまり
両手で持っていたマグカップを落としそうになる。
「び、び―――」
『吃驚させないでよ』って言葉は
梨華の喉の奥に付き返された。
そして持っていたマグカップは
ドラマのように音をたててフローリングの床に転がった。
ぺろりと指先なんかを舐められちゃったから。
318
:
たとえば朝の、夜への道
:2008/01/21(月) 23:35:37
口がぱくぱくするってこは、本当にあったりする。
体の一部分がカーッと熱くなり、熱を帯びたようになることもあったりする。
そして真剣なようで、捨てられた犬のような目で見つめられ
どうしていいのか分かっているくせに、どうしていいのか分からなくなって
ただただ呆然とするしかなくて、相手の言葉を待ってしまう時が訪れたりする。
終わりを迎えようとするDVDのピンク音声が虚しく響き
そっと離された足が、ペタンと音を鳴らして着地をきめる。
いつものような空気はなくて
遊び人の誘いとも違くて
梨華の目はキョロキョロと左右に小さく揺れる。
複雑な目のまま、ひとみは体と同じ方向に顔を戻し
項垂れながら小さく言葉を呟いた。
ひとみの考えている事が大体分かってしまう石川梨華は
その背中をそっと抱きしめるか、いついものようにふざけてギュッと抱きしめるかを
未だに鼓動の激しさを抑える事の出来ないままで考えてみたりした。
319
:
たとえば朝の、夜への道
:2008/01/21(月) 23:35:58
へたれでチキンで臆病で
だけどもサッパリさばさばしていて
梨華にだけは、自分の気持ちをストレートに向けてくる。
このどうしようもない幼馴染を
梨華は愛おしくてたまらない。
だけども怖さはゼロにならない。
だから梨華は言葉を出してみた。
いつものように、普段と同じように
まるで今の足ぺろ事件なんてなかったかのように。
ひとみはちょっと間を空けてから
いつものように言葉を返してきた。
320
:
たとえば朝の、夜への道
:2008/01/21(月) 23:36:22
ほらね簡単元通り。
なーんて空気になっちゃいそう。
だけどなっちゃいそうでなりきらないのは
ひとみがいつもよりも何か違うから。
首を傾げながら頭をぽりぽりと掻いて
DVDをHDDに切り替えて、夜中に録っておいた音楽番組を再生する。
そんな背中に揺れる乙女心はガクンと揺れる。
321
:
たとえば朝の、夜への道
:2008/01/21(月) 23:36:53
背中を抱きしめ、首筋に鼻を埋めた。
梨華の大好きな香りを胸いっぱいに吸い込み
じゃれるように首筋に噛み付いてみた。
ひとみは一瞬ビクッと体を震わせたあと
自分の両腕を後ろに回し
不器用に梨華を抱きしめた。
「梨華ちゃんはやっぱし胸でけーな」
ひとみはいつものように淡々と言葉を発した。
ほらね簡単元通り。
だけども今夜は+αだ。
梨華は笑ってひとみを押し倒した。
322
:
たとえば朝の、夜への道
:2008/01/21(月) 23:37:13
楽しそうな梨華とは逆の驚き顔に、ぶちゅっぷちゅっと唇を落とし
パーカーからうっすら覗く鎖骨らへに舌を這わす。
真っ白な肌がピンクになるのなんてお構いなし。
へたれでチキンで臆病なひとみより
がっつり走って引っ張っていくのは
なんだかんだで梨華だったりするのは
小さい頃から変わっていないのだ。
「ねぇひとみちゃん」
「ん?」
「キスしよ?」
ひとみは笑った。
梨華も笑った。
「ミルク臭いからイヤだ」
323
:
たとえば朝の、夜への道
:2008/01/21(月) 23:37:42
きつくきつく抱きしめて
いつかの大晦日の約束は果たされる。
夜を越え、朝を向かえ、遊び人がヘトヘトになるくらいまで。
数え切れない時間を過ごし、これからも進む時間の中で
またのいつかの約束を口にしながら
無駄に体力溢れる梨華はくすくすと笑う。
変わらないようで変わった二人は
たまに狭いベッドの中で布団を奪い合って転がり落ちる。
太陽と月が同じ空に見える時間に
ひとみは教科書先生をポイッと捨てて
教科書以上に先生になった腕の中の人の髪の毛をぐしゃぐしゃにした。
「好きだぜべいべー!」
324
:
たとえば朝の、夜への道
:2008/01/21(月) 23:38:01
いつかの言葉はいつだって本物だ。
海外逃亡なんて言いだしたひとみの言葉に
梨華の計算はどんどん狂っていく。
そしてそれが楽しくて仕方ない。
春を迎える頃、夜から朝を迎えた時のように
朝から夜を一緒に迎えたりするようになった。
コロコロ転がる下り坂。
上り坂もあるけれど、そんなの頑張って越えちゃうもんね。
隣で眠る白い肌の大切な人の髪を手で梳きながら
梨華はそっと目を閉じた。
夜が深まる時間の中で
少し大きくなったベッドの中で
静かにそっと目を閉じた。
とっくに始まっていた春は
まだ始まったばかりだった。
325
:
匿名匿名希望
:2008/01/21(月) 23:40:02
すんごい久々に書いてみたよ。
一気に書き上げてみて、すぐにうpしたので
読み返してないのは内緒です。
私の頭の中のいしよしは、古いまんまのいしよしです。
326
:
名無し(0´〜`)さん
:2008/01/23(水) 15:17:41
うぉーキター
古いまんまのいしよしはそして新しいと思うのです。
更新ありがとうございました。
327
:
匿名匿名希望
:2008/01/24(木) 20:02:23
>>326
名無し(0´〜`)さん 様
読んで下さってる方がいたぁぁぁああぁぁぁぁ
ありがとうございます。
書いて良かったです。次も頑張れそうですw
328
:
名無し(0´〜`)さん
:2008/04/13(日) 01:09:35
なんか書かれてる〜♪
カワイイいしよしですね。
気長に待っているので、気が向いた時にまた書いて下さい!!
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