原則学･痕跡学･運気学･帰霊学･ロリコン研究で真実解明

798：メシア・エステバン：2016/03/18(金) 03:50:56: きみが阿関の幼なじみの高坂録之助かい。私が阿関の夫の原田勇。よろしく。
手を差し出して握手しようとしたが、録之助の方は握手する習慣に慣れていないせいか手を差し出さなかった。

原田勇はばつが悪そうに手を引っ込めるとこう切り出した。
わたしはね、きみの事がうらやましいんだよ。
阿関はわたしの事を愛してくれている。それと同じくらいきみも愛されている事をわたしは知ってしまった。
客が話しかける会話を聞きながら人力車を走らせる癖がついたのか、録之助は相も変わらず無言のまま聞き役に徹している。

以前、わたしと阿関が口喧嘩したことがあってな。その時わたしは調子にのってついつい、
きみの事を小汚い男と言おうとした。そしたら妻の阿関が血相を変えて私の会話をさえぎりなんといったと思う？

録之助さんは小汚い男なんかじゃない。人の役に立つ立派な仕事をしています。
とわたしに向っていい放ったんだよ。わたしは羨ましかったよ。自分の妻にこう言わせる男がいた事が。
心底からきみが羨ましかった。わたしは興味をもったよ。きみがどんな人物なのかを。
だからこうして機会を作ってきみに会いにきたというわけさ。

録之助は黙って聞いていた。面と向って小汚い男と呼ばれても別に腹立たしくもなかった。
実際、阿関と出会う前、何もかもが嫌になってどん底まで落ちぶれていた時は、小汚い男そのものの生活をしていたくらいだから。
録之助が変わる事ができたのは阿関と出会い、立ち直ってほしいと心から励まされたからだった。
折れていた心が少しだけ元に戻りかけた。
その後も何度か阿関の方から会いに着てくれるようになると、会うたびに折れていた心が戻ってくる気がした。
今では、ほらこの通り。完全に立ち直った。

録之助はいままでの阿関に対する想いは何も語らず、むしろ感謝したいのはこちらの方だと一言、原田勇に言った。
そうか・・・原田勇も一言だけ言うと、十三夜の月に照らされた堀端の水面を黙ったまま見つめる二人。

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